灰色の獅子【完結】 続編連載中 (えのき)
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第1章【賢者の石】
プロローグ


“えのき”でございます。
いくつかお願いがあるのでお聞きください

①文章力は他の作者様と比べて劣ると自覚しております。その代わりと言ってはなんですが、一応は読み易さには気をつけているつもりです。文書の改善点や読み易さでの御指摘は是非ともお願いします。

②わたくし“えのき”は感想を欲する物乞いです。気軽に何連投でも、喜んで全てに返信させていただきます。

③矛盾点や誤字脱字などご気軽にご指摘ください。スピーディかつ迅速に対応できるといいなと思います

④原作か映画を既に見た方であるとありがたいです。ちなみに“えのき”は両方とも把握済みです



1991年 イギリス

 

 

 

“オリバンダーの店”

紀元前382年創業

 

オリバンダーの店、それはイギリスきっての高級杖メーカーである。

 

額に稲妻の刺青のような傷跡があることを除けば平凡な男の子は静かに興奮しておりそわそわと落ち着かない様子だった。

 

たった今、彼は選ばれたのだ、

不死鳥の羽を素材とした杖に……

 

「不思議じゃ、ポッターさん。儂は自分の売った杖は覚えておる。貴方の杖の不死鳥の羽根と同じ素材の杖がもう一本ある」

 

オリバンダーは少年の額についた傷跡を撫でながら言った。この傷をつけた魔法使いだと。

 

「ある意味では偉大なことをした。恐ろしかったが偉大には違いない。」

 

少年は身震いした。彼はオリバンダー老人を好きになれそうにないと感じた。それと同時にここから早く抜け出したいと思った。

 

少年はマグルである叔父と叔母の家で育ち、お世辞にも普通の生活を送ってこなかった。家主である2人にいびられ、同い年のいとことその取り巻きに虐められてばかりいた。

 

平たく言えば人間不信で人と話すのが少し苦手なのである。

 

自分を不思議な魔法の世界へ連れてきてくれたハグリッドの事は好きになっていたが、“マダムマルキンの洋服屋”で会った“色白で顎の尖った男の子”もオリバンダー同様に好きになれなかった。男の子はどこか気取って小馬鹿にしたような嫌な性格をしていたからだ。

 

魔法界には偏屈な人が多いのだろうか、それとも自分が人付き合いに慣れていないのか、

 

“生き残った男の子”ハリーポッターは憂鬱だ。

そしてそれ以上に慣れない土地で不安だった。

 

少し胸の奥がキュッと閉まるような感覚を覚えていた頃、店のドアの鈴の音が店内に響きわたる。

 

振り返るとハリーより少し歳上であろう男の子だった。黒くサラサラした髪は額の中心でわけており、大きな茶色の瞳に吸い込まれてしまうような魅力を感じた。とても綺麗な瞳に美しく色気のある容姿だ。肌の色は白くスベスベで背が高く、ハリーは見上げなければ目さえ合わないだろう。服装も高価である事はまちがいないようだ。

 

まるで王子様のような佇まいだ。

ハリーは思わず見とれてしまう。

 

 

「おぉ、これはウィリアム様」

 

オリバンダーは先ほどまでのハリーの接客とは違い、とても砕けた笑顔をしている。どうやら顔見知りのようだ。

 

「ごきげんよう、オリバンダーさん」

 

年齢の割には声が高く澄んでいるような印象がある。笑顔を見せるが外見とは似合わない、まるで少年のようにクシャッと笑った。

 

とてもクールな印象だったが彼はフランクな性格のようだ。

 

「今日はどういった御用ですかな?」

 

オリバンダーの問いかけに彼は前へ歩きながら黒いローブの中から黒い杖をスッと取り出した。ハリーは思わず道を避けて店の壁へ張り付く。彼は少しなにか言いたげな表情をしたが何も言わずにオリバンダーのいるテーブルの上に杖を置いた。

 

「まずこの杖を見ていただけませんか?」

 

オリバンダーは杖を天井に掲げてジックリと杖を見定める。口は少し開いており集中しているようだ。

 

「あぁドラゴンの心臓の琴線、ヤマナラシの木じゃな。29センチ、傲慢で頑固」

 

スラスラと杖の特徴を述べるオリバンダーにハリーはこれが魔法界の職人というものかと考える。靴職人や時計職人、マグルの世界にも多くの職人がいるがハリーが直接自分の目で見たのは初めてだ。

 

「この杖は貴方様の杖ではない。そうでしょう?」

「ええ、母の昔の杖です。家での自習用として使ってました」

 

(自習?やっぱり魔法界の子供達は魔法が使えたりするのかな)

 

2人の会話にハリーはまた一つ、ホグワーツでの生活に不安を覚えた。どう考えても自分が落ちこぼれる未来しか見えなかったのである。

 

「そこで新しい品をくれませんか?」

「あぁ、この杖はどうかの?」

 

オリバンダーはそばにあった杖を差し出し、ハリーと同じ時のようにウィリアムは杖を振る。すると天井のランプが爆発し、ガラスの破片が床へ散らばった。

 

その後、オリバンダーは割れたガラスの破片を避けるように奥へ進みながら新しい杖を取り出して2、3繰り返すがうまくいかない。

 

根本的に木材が合わぬようじゃ、と彼は呟くと姿が見えなくなるほど店の奥へ消えていった。その背中を見ながらハリーは完全に店を出るタイミングを見失ったと気がついた。机の上に料金をおけばいいと思ったが値段がわからないため断念する。

 

「ねぇキミ、もしかして並んでた?」

 

ウィリアムと呼ばれた男の子が自分に気を遣って声をかけてくれたのだとハリーはすぐにわかった。この人はとてもフレンドリーで優しそうな感じで友人になりたいと思った。

 

「いや、大丈夫だよ。もう杖は貰ったんだ」

「悪いね。帰るタイミングを失わせたみたいだ。君も新入生かい?」

「君も?同い年なの!?」

 

年上かと思っていたハリーは目を見開いてウィリアムを見る。自分と同い年であるなんて信じられなかった。身長や服装からして同年代には見えない。よく言われるよ、お前は老けてるってね。と彼は笑顔で言った。

 

先ほどの白い少年よりもだいぶ話しやすい、ハリーは彼ともっと話したいと思った。だがどう話題を広げたらいいのかがわからない。

 

「君は寮はどこに行きたいとかある?」

 

困っていたハリーに彼は話題を振った。

 

「確かスリザリンはヴォル……“例のあの人”がいた寮なんだよね?僕は多分ハッフルパフだよ。なんか劣等生が多いんだよね」

 

ハリーは先ほどの白い少年とハグリッドとの話から得た微かな知識を一生懸命に話した。するとウィリアムの周りの空気が少し凍り、冷たい冷気が漂った気がした。

 

「悪いね、僕はそういうの嫌いなんだ」

 

急に目を潜めてあからさまに不快そうな表情をしている。もしかしてヴォルデモートの名前を言いかけたからだろうか、それとも両親や兄弟がハッフルパフだったのか、ハリーはすぐに謝ろうと口を開こうとする。

 

「偏見だよ。全ての闇の魔法使いがスリザリンだの。劣等生がハッフルパフだの」

 

自分では思いもしない理由で彼の機嫌を損ねていたのだ。それはとても傲慢で愚直な考え方だ、と彼は続ける

 

「くだらないね。それならスリザリンの寮をアズカバンに、ハッフルパフは退学にでもした方がやりやすい」

「……」

 

ハリーはもう少し責められたら泣いてしまうようだった。自分の些細な一言がとても人間のできている彼にここまで言わせたのだ。返す言葉もない。アズカバンという意味はわからないが矯正施設か監獄のような場所だと想像できた。

 

「僕の価値観だから気にしないでくれ。自分が100%正しいことを言ってるとは思ってない。」

「ごめん……」

 

ウィリアムが会話を終わらせようとしたためハリーは早く謝った。自分が浅はかだったと素直に理解し、なおかつこの程度の事で彼と仲違いをしたくなかったからだ。

 

「なぜ謝るんだい?君にも意見があって、僕にも意見があったから言っただけだよ」

 

彼は意味がわからないと言いたげな表情を浮かべていた。ハリーはウィリアムのあまり怒ってない様子に少しだけ拍子抜けする。

 

「ただ忠告しておくよ。結論の一つに過ぎないことを常識のように考えて、人に押しつけるのは良くない。」

 

やっぱり魔法界の人は強烈だ。ハリーはそう思うと店の奥から物音が聞こえてくる。するとオリバンダーは古そうな細長い箱を持っており、それを開いた。

 

茶色に輝いているその杖を見てウィリアムは満足したような表情でその杖に触れる。すると周囲に金色の輝きを強く放ち、まもなく儚げに杖へ収まる。彼の妖艶な容姿と相まってとても優雅なひとときだった。

 

「ドラゴンの琴線、セコイアの木。28㎝、しなやかで強固な意志を秘める。」

 

「見事な杖ですね、力が伝ってくるような気がします。」

 

ウィリアムはご機嫌な様子で杖を眺める。それからグリップの握り心地も最高だと杖に語りかけている。

 

「これはわしの店ではあまり取り扱っておらぬのでな。ようやくまた一つ、埃にまみれた優れた杖が魔法使いを選んでくれた」

 

オリバンダーも笑みを浮かべて満足そうな表情を浮かべる。そして思い出したように料金を支払うために待っていたハリーを見る。

 

「お代は7ガリオン、あぁポッターさんも同じ額を」

 

2人は躊躇なく財布の中からガリオン金貨を取り出して支払った。お辞儀をしているオリバンダーに良い杖をありがとうとウィリアムは伝えドアを開けて2人は店の外へ出る。

 

 

「あ〜、そんなにオドオドしないでくれ。君は今までマグルの世界で生きてきて判断材料が少なかったのだろう。」

 

ウィリアムは少し申し訳なさそうにハリーへ声をかけた。

 

「すまないね、少し強めに言い過ぎた。こちらから事情を察するべきだった」

 

ハリーは焦りながらそんなことないとフォローをすると彼はオリバンダーに見せたような少年のようにあどけない笑顔を見せる。

 

「聞いただろうが自己紹介をさせてくれ。ウィリアムだ、次からはウィルでいい。」

 

またホグワーツで会えるといいね

ハリーポッター……

 

 

ウィリアム、いやウィルはそう言うと人混みの中へ消えて行った。傷の事も両親の事も何一つさえ聞くことすらなく。

 

 

 

ハリーは自分が有名である事は知っている。

 

“例のあの人”を倒した“生き残った男の子”

 

何故かは知らないがそう呼ばれていた。理由を知ってもなぜ生き残ったかはわからない。急に魔法界に来て、気がついたら周りから英雄のように讃えられていた。

 

だがウィルは初めて1人の人間として見てくれたことに気がついた。彼は生き残った男の子ではなく、ただのマグル出身の新入生のハリーポッターとして接してくれたのだ。

 

そしてまた一つ発見した。

魔法界に変わった人が多いということを。

 

彼ともっと仲良くなりたい。

ハリーはいつのまにかホグワーツや魔法界に対する不安がなくなっていた。

 




ハリポタについて語りたい方は是非ともの感想欄へどうぞ
“えのき”の推しはマクゴガナル先生とスネイプ先生です

主人公のモデルは小学生の頃からの友人です。いつかモデルの話も機会があればやりたいと思います


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惹かれるモノと素質

深夜テンション“えのき”、ストック全てを投入する暴挙に出る


数ヶ月後

 

 

 

〜キングスクロス駅と9と4分の3番線発〜

“ホグワーツ魔法魔術学校行きの列車”

 

 

 

 

列車の中はホグワーツに在学している生徒だらけで大変賑やかな様子だった。休暇中での思い出話をする者、履修する科目や試験についての話や新入生へ学校について語る者。

 

そして4人掛けのコンパートメントの中に座っていた新入生は一人で本を読んでいた。同席していた仲間達はこの列車に乗っているという有名な新入生の所へ行ったため、比較的静かに本と向き合う事ができた。

 

優雅な自然の上を進む列車の景色など興味も示さず、ただ本の中身に没頭している少年はウィリアムである。机の上には本屋で買ってきた4、5冊の本が積み重ねられており、その横には読破した2冊が無造作に置かれている。

 

ウィルが読書にふけっているとコンパートメントの扉が勢いよく開いた。その音に驚く事なく視線をやると栗色で無造作にボサボサの髪をしている女の子がいる。

 

ウィルは栞を挟むと本を閉じて軽く笑みを浮かべて声をかける。

 

「やぁ知らない子だね、何か用かな?」

「えぇネビルのカエルを見なかった?」

 

カエルを一切見かけてないウィルは知らないと答えると、念の為に机の下を覗いて潜んでいないか確認をする。

 

「ここにはいないようだね。」

 

ウィルは女の子に対してそう答える。

 

(あいつらがいなくてよかった。)

 

 

もし同じコンパートメントにいた仲間達が残っていれば確実に話がこじれていただろうと思った。

 

彼女は魔法界でのパーティで見かけた事がないし、魔法をかければ一発で済むのに髪がとかされてない。おそらくマグル出身の新入生だろうと考えられたからである。

 

魔法使いこそが至高であり、マグルは魔法界から追い出すべきという思想を“純血主義”と言う。その思想を持っている仲間がいればマグルを穢れた血だと囃し立てるに違いなかったからである。

 

「同じ新入生の探し物を手伝うくらい心に余裕がある。そういう子は好きだ。」

 

ウィルは素直に女の子を褒める。その子は言われ慣れていないのか好きと言われた事で頬を染めた。どのような反応をすればいいのかがわからず棒立ちをしている。

 

「ウィリアムだ、ウィルって呼んでくれ。」

 

手を差し出すウィルの様子を見て、ただのスキンシップだと気づいた彼女は握手に応じながら口を開く。

 

「貴方も新入生よね?ハーマイオニー・グレンジャーよ。」

「あぁ、よろしくな。」

 

ハーマイオニーはウィルの読んでいた本の題名を見る。

 

「“守護魔法基礎”、それは教科書にはなかったはずだけど?」

「教科書はもう読み飽きてしまってね、だから書店で買ってきたんだ。」

「奇遇ね、私も教科書は全部暗記したわ。」

 

それからハーマイオニーは自分が気になった教科書の文献や資料について語り、それから自分がマグル出身で知らないことばかりで面白いのだと話した。

 

ウィルは一方的な話を聞かされ、心の中で一歩引いたがまるで興味があるかのように相槌をうちながら落ち着いたときに質問を投げかける。そして隙を見て自分の考えを少しずつ述べて会話のキャッチボールを成り立たせる。

 

周りの人に配慮して教科書を読み飽きたと言ったが彼も実は暗記済み、そして足りない点や補足点を家の書斎や図書館で補った。

 

ウィルは常に本を流すように読む癖がある。それは時間短縮の為だ。もちろん中身が頭に入ってこないというようなことはない。1度本を読めばおおよその内容を把握し、2度読めば完全に理解し、3度読めば完璧に暗記してしまう。

 

だからこそ彼女の気持ちが痛くわかる。詰まる所、自己承認欲求である。努力家にありがちなタイプだ。結果を求め過ぎる性格で、その良い結果を周りに自慢し認められる事を糧として更なる結果を求めるのだ。

 

ウィルは目上の人でなければ気に入らないことや不快な事があればすぐに言う性格だ。だが自然と自慢をしてしまう彼女に対して何も言わなかった。自分も幼少期に両親に褒められたくて努力をした記憶があるからだ。

 

たが話していくうちにウィルは彼女の知性に惹かれていくのに気づき2人は会話にのめり込んでいった。

 

ひと段落つくと、話題は寮の話になった。ホグワーツには4つの寮に分けられ、それぞれが特色のある生徒を固めて集団生活をさせる。

 

「貴方はレイブンクローが似合うと思うわ。とても勤勉で賢いもの、それに話していて飽きないわ。」

 

レイブンクローは知性をモットーとしている寮だ。叡智を重んじるため価値観の合わぬ者や知性に欠ける者を見下す傾向がある。ホグワーツでは塔に位置し、360°景色を見回すことができる。

 

「それは嬉しいね。でも僕の家はレイブンクローの家柄ではないからわからない。」

「へぇ、そうなの。私はレイブンクローかグリフィンドールに入りたいの。だからもし同じ寮になったらよろしくね。」

 

グリフィンドール、騎士道精神にあふれ信念を持つ。だが自身の意思が強過ぎて価値観を押し付けてしまうこともある。

 

「さて余談が過ぎたな、ネビルのカエルを探してくるといい。」

「それもそうね、楽しい時間だったわ。」

 

ウィルはハーマイオニーとの会話を素直に楽しめていた。普段彼が人と接する時は自然と会話のレベルを下げていたが、彼女に対しては自然体で接する事ができていた。とても有意義な時間でもっと続けたかったが、仲間達と鉢合わせるのは面倒だ。それにネビルとやらのカエルも見つかっているかもしれない。

 

「よかったらこれを持っていくといい。」

 

ウィルは自分が読み終えた2冊の本を彼女へ手渡す。その2冊は理解を終えたため別にいらなかった。でも1番の理由は入学後に彼女ともっと関わるためである。元から読み終えた本は捨てるか人にあげるつもりだった。どうせなら彼女にも読んで欲しいと思ったからだ。

 

受け取ったハーマイオニーはお礼を言い、借りるわねと返事をした。

 

「僕も手伝うべきだが連れの荷物を見ていなければならない。」

「それもそうね、じゃホグワーツでまた話しましょう。」

 

 

ハーマイオニーがウィルの読み終えた本を持ってコンパートメントから出て行くと、ものの数秒で扉が開いた。

 

3人組だ。先頭には銀髪で顎の鋭い男の子、その後ろに護衛のように立っているガタイのいい2人だ。ドラコとクラッブ、ゴイルである。

 

ドラコはウィルの隣に当然のようにドカッと座る。そして怪訝そうな顔をして口をあける。

 

「なんだい、あの子は?」

「頭のいい子だった。逃げた友人のカエルを探していたようだ。」

 

ハーマイオニーがここから出ていくところを見られたのは失態だった。それより早く帰しておかなければドラコに目をつけられてしまうとわかっていたのに、つい会話に夢中になってしまった。

 

それにどうやらドラコは機嫌が悪そうだ。彼女に八つ当たりをしていたかもしれない。

 

「なにがあったんだ?」

「ふん、ハリーポッターめ、僕が話しかけてやったのに。」

 

ウィルは矛先をハーマイオニーから逸らすために、ご機嫌斜めな理由を尋ねる。するとハリーがドラコを拒んだようだ。おそらく仲良くなりたいのに照れ隠しで高圧的な態度をとったのだろう。

 

「気品がないぞ、ドラコ。ここは世間だ。」

「うるさいウィル、ここには僕らしかいないだろ。」

 

ウィルとドラコは貴族的な教えを受けて育った。だからこそ感情を出すべきでない。常に冷静に淡々と物事を進めなければならない。年相応にドラコはまだ精神面が成熟していないらしい。

 

「だとしてもだ。クラッブ、怪我してるじゃないか。」

 

お菓子を食うのに夢中で返事をしない彼にウィルは杖を取り出し、何かに噛まれて血が出ている指へ杖を振ると傷が癒え血を拭けば何事もなかったような状態に戻してやった。

 

 

 

 

***

 

 

 

「イッチ年生!イッチ年生はこっち!」

 

まるで巨木のような男が大声をあげて一年生を自分の元へ集まるように声をあげている。

 

「おい、ウィル。ハグリッドだ。父上が言ってた。一種の召使いで野蛮人らしいぞ。」

「あぁ彼がそうか、まぁ噂だけどな。」

 

ドラコはまたか、というような顔をする。

 

「たまには僕の言うことも信用しろよ。」

「なに、誰だろうと僕は自分の目で判断するさ。」

 

ハグリッドは一年生が集まり終えると自分についてくるように伝え、険しく細い小道を進み始める。途中からホグワーツが見えた。大小さまざまな塔が並び、窓はキラキラときらめき湖に鏡のように反射している。

 

それから湖に停めてあった4人ずつボートに乗るよう指示が出たので、ウィル達はいつものメンバー同士で乗り込む。

 

ドラコはホグワーツの景色を良く見るために動くたび、ウィルは本が読みにくいと不満を述べた。

 

 

 

湖を渡りきると皆は陸へあがり、城の扉の前へと歩いた。全員が到着したのを確認するとハグリッドはホグワーツの扉を3度叩いた。

 

扉が開くとそこにはエメラルド色のローブを着た背の高い黒髪の魔女が現れる。背筋はピンと張っており、厳格そうな顔に眼鏡をかけている。

 

「マクゴナガル、変身学の先生だ。」

 

マクゴナガルはハグリッドから一年生を預かると扉をあける。そこには数百人の生徒が既に長い机に座っていた。そして歓声をあげて歓迎をしている。

 

彼女は一年生を引き連れて中へ入り、そして壇上の前で待機させると一列に並ぶように指示を出した。そして自分が壇上にあがると挨拶を始める。

 

「ホグワーツ入学おめでとう。新入生の歓迎会が間も無く始まりますが、皆さんが入る寮を決めなくてはなりません。組み分けはとても大事な儀式です。」

 

側にいるドラコは聞き逃さないように真剣に聞いている他の生徒達をよそに余裕そうな表情をしている。自分達は事前に組分けの儀式について聞いてあった。

 

「ホグワーツにいる間、寮生が皆さんの家族のようなものになるわけですからね。寮は全部で4つあります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。」

 

すると壇上の中心にあった大きな椅子とそこに置かれている古びた帽子が歌い出した。内容は寮による特色についてだった。

 

グリフィンドールならば勇猛果敢で騎士道を重んじ、勇気ある者がいる寮

 

ハッフルパフならば忠実で忍耐強く苦労を苦労と思わない者のいる寮

 

レイブンクローならば意欲があれば機知と学びの友人を必ず得る寮

 

スリザリンならばどんな手段を使っても目的を遂げる狡猾さを持つ者の寮

 

 

 

 

帽子が歌い終えるとマクゴガナルはABCの順番で名前を呼ばれたら前へ1人ずつ出てくるように言った。帽子をかぶり椅子に座ることで組分けは進むと説明もする。

 

最初に呼ばれた子はハッフルパフに組分けされる。それからは次々と生徒が呼ばれ流れ作業のように組分けを進めていく。

 

ウィルは他人の寮などに興味はないので、自分の本の世界に入り込んでいた。聞き覚えのある名前を聞くまでは、

 

「グレンジャー・ハーマイオニー!」

 

その名を聞くとウィルは活字から目線を外し、壇上へと向ける。コンパートメントで会った女の子は走るように椅子に座ると、帽子は少し悩みつつ結論を出した。

 

「グリフィンドール!」

 

彼女は笑みを浮かべると帽子を脱ぎ、走ってグリフィンドールの生徒のいる机へ向かった。それからは自分の寮を待つ時間を有効に使うため本の世界へ戻った。

 

「マルフォイ・ドラコ!」

 

「じゃ、おさき。」

 

ウィルにそう囁くとドラコは名前を呼ばれると偉そうに前に進みでる。帽子は頭に触れるか触れない内に答えをだした。

 

「スリザリン!」

 

 

***

 

 

 

ハリーside

 

 

 

 

 

「マルフォイ・ドラコ!」

 

仕立屋とコンパートメントで会ったあの白い男の子だ。気取った話し方にロンに対して酷いことを言った。喧嘩になりそうだったけどロンのペットのネズミのスキャバーズが取り巻きの1人に噛み付いたおかげで大ごとにはならなかった。

 

「スリザリン!」

 

ハリーも納得したようだった。両親を殺し、自分の額に傷をつけたヴォルデモートを輩出したスリザリン。ロンも悪く言っていた。でも自分がそこへ選ばれたらどうしよう。

 

ハリーはスリザリンの生徒達をチラリと見る。他の寮に比べると、どうしても悪い人に見えてしまう。気のせいのように思いたい。

 

なぜか彼の言葉が心に刺さっていたからだ。

 

そういえば彼はまだ組み分けをみていない。それどころかオリバンダーの家で別れてから一度も見かけていない。ハリーは少し不安になってきた。ロンや顔見知りのハーマイオニーはとっくにグリフィンドールの机にいる。自分が知っている人はもう彼しかいないのに。

 

ハリーは心細かった。もしかしたら緊張し過ぎて見逃してしまったのかも。

 

「マルフォイ・ウィリアム!」

 

列の後ろの方から本をパンと勢いよく閉じる音が聞こえる。その音で騒がしかった広間が突然静寂に包まれる。そしてその姿を見た生徒や先生達は目を離せなくなった。

 

とても背が高くハンサムだからだ。右手には“上級守護魔法”の本がある。栞である黒いヒモを指でなぞりながら前へ進んでいる。

 

長い足でゆっくりと進み、後ろから見ると更にスタイルの良さが際立つ。ふわふわとした髪がなびく様子に目が離せなくなる。

 

我に帰った生徒達が次々と噂し始める。

 

 

「ねぇ呼ばれたわ、あの目立つ子。」

「なぁマルフォイって言ったよな?」

「双子か、似てないわね。」

「凄くセクシーだ。」

「あの子って留年でもしたのかしら、新入生には見えない。」

「“純血の王子様”か、どうせあの家の子はスリザリンだよ。」

 

 

 

ヒソヒソと陰口を叩かれることを気に止めず、壇上へあがると彼は微かに微笑んだ。ハリーは作り笑いだとすぐにわかった。彼はもっと無邪気に笑うと知ってる。だが周りはそうでもないみたいだ。さわやかな風が吹いたような、精神的なショックが心へ響いたようだった。それからはまた静かになった。

 

マクゴガナルは表情を1ミリも変えずにウィルの黒髪にそっと帽子をかぶせる。

 

 

 

***

 

 

 

ウィルside

 

 

 

 

(くだらない連中だ。)

 

ウィルはマルフォイという名前の意味を理解している。家は聖28一族という純血主義の名家である。その中でも有数の権力と地位を持つ家柄の長男なのだ。

 

教育という教育を捻じ込まれ、貴族のマナーとルールを叩き込まれた。ウィルはそれに応え、自慢の息子として有力者のパーティに出席したり、招待されたイベントなどでは父親の付き添いをさせられている。

 

それに対してドラコは長男でないため比較的自由に育てられている。正確には母親が溺愛しており危険な事やドラコの苦手なことを排除する傾向にある。不公平であるといえばそうだが、自分が家を継ぐ立場なのでやむを得ないと割り切っていた。

 

そんな彼は昔からマルフォイ家の御曹司として常に色眼鏡で見られていた。純血の名家の王子様、学業や魔法にも秀でている。容姿も良い彼には常に多くの見合いや名家同士での会食の申し出が絶えなかった。

 

また昔、父親が“例のあの人”の配下だった事から闇祓いからも警戒されている。街を出歩けば稀に監視の目があり、それに気がついてないふりをしなくてはならない。

 

だが彼はその環境に文句はない。なぜなら父親は自分を認めてくれていると確信しているからだ。厳しい教育を施すのは自分に期待しているからで、世間へ出してくれるのも失態を犯す子でないと考えているからだ。

 

むしろ彼にとって誇りのようなものだった。

 

 

 

だが彼にはしがらみが多過ぎる

だからこそ現実逃避もしたくなる

そして彼の唯一の楽しみが読書だった

 

本とは他人の人生をなぞること

想像の中で作者の人生を体験できる

ウィリアム・マルフォイでなく

ただの読者としてだ

 

自分の趣味がこうじてか

知識は同年代の誰よりも深くて広い

そして彼はそう遠くない未来に

世界へ問いかける

 

小さな身体に秘めた野望達は

世界に破滅か平穏かどちらをもたらす?

温め昇華するその日まで

彼は正しい選択を求め続ける

 

 

 

 

『ウィリアム・マルフォイ』

 

テレパシーのように組分け帽子はウィルへ語りかける。彼は驚きつつも脳内で、『ご機嫌よう、組み分けをお願いします』と返事をする。すると帽子は少し機嫌が良くなったようで饒舌に話し始める。

 

 

『“スリザリン”か“レイブンクロー”、キミの寮はこの2つのどちらかだ』

 

(そうですか、理由を伺っても?)

 

ウィルは興味が沸いたのか質問をする。自分の適正を見極めるのに良い機会だと考えたからである。

 

『まず最初に感じたのは知恵への探究心の高さ、そして結果を追い求める強い意志』

 

更に帽子は続ける。

 

 

『君は凡ゆる可能性に満ちている。スリザリンならば、その中の一つを完全に開花させるだろう。』

 

“君は偉大なる道を歩むことになる”

 

『また、君は凡ゆる知識を欲している。レイブンクローならば、その全てをおおよそ掌握するだろう。』

 

“君は数多の道を統べることになる”

 

 

 

 

 

 

『スリザリンかレイブンクロー、それが君の最適な道だ。』

 

少し腑に落ちない顔をするウィルに組分け帽子は選択を迫った。

 

『選びたまえ。“偉大なる道”か、“叡智への道”だ。』

 

ウィルは軽く溜息をつくとこう言い放った。

 

 

 

 

 

 

(僕はどちらでも構わない。)

 

 

帽子はその言葉を聞いて少し困った様子をする。2つの選択肢が選べないのではない。どちらも選ぶに値しない。つまり選択肢に魅力を感じていないのだ。名声を轟かせる事も万物の知恵も彼は望んでいないということだ。

 

『では質問をさせてくれ。まずはスリザリンだ、君は偉大になりたくないのかね?』

 

(偉大に……ね。あまり自分の力をひけらかすのは好きじゃない。)

 

帽子は2つの寮を深く掘り下げる事で適正を見極めようとする。

 

 

『謙虚な姿勢だ、ではレイブンクローは?全ての知識を得たいとは思わんかね?』

 

(僕は学びたいのではなく必要だからだ。興味ない事は遠慮したい。)

 

 

 

(僕はどこの寮でもいいさ、なんなら人数的に一番足りてないところでいい。)

 

ウィルは時間を取られていることに少し苛立ちを覚える。目立ちたくないし、早くこの本を読破したい。

 

 

『いやいや、そうはいかんよ。もう少し君を知るヒントをくれないか?なぜどこの寮でもいいのかね?』

 

(僕は僕だ、決して周りに流されることなく自分自身を保ってみせる。つまり僕にとって寮なんて、ただの寝床の場所だ。)

 

ウィルの言葉を聞いた組分け帽子はニヤリと笑い、結論を出すに至った。

 

『強き意志に強き信念、言葉の一つ一つには真実しか宿っていない。』

 

ウィルは深い意味なく生徒達を流すように眺めていた。前のめりになって自分の組み分けを待っているだけだ。

 

変わった子はいないかと探していると1人の生徒と目があった。栗色の髪の女の子である。

 

 

(ハーマイオニー・グレンジャー、寮に興味はないけど、彼女の知性には惹かれる。)

 

“もっと彼女と話してみたい”

 

 

『おぉ、それはちょうど良い。

若き魔法使いよ

ようこそ信念の道へ

君は君の進む道を貫くのだ。

ウィリアム・マルフォイ、君の寮は……』

 

 

 

 

「グリフィンドール!!!!」

 

帽子はそう叫ぶとグリフィンドールからは割れんばかりの歓声があがった。ウィルが自分の席へ向けて壇上から降りると、ハーマイオニーがウィンクをした。軽く笑みを浮かべ彼女の隣へ座った。その様子をドラコは複雑そうな視線を向け、スリザリンの寮監は鼻の筋をキュと摘んだ。

 



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父親からの指令

すまぬ、構成上短めになってしまった


〜ホグワーツ大広間〜

 

 

 

ウィルが組分けを終えた後、まもなくハリーもグリフィンドールに選ばれた。ダンブルドアの魔法により机には豪華なイギリス料理が並んでいる。

 

ハリーは周囲から質問攻めにあっている。それとは対照的にウィルは周囲から距離を置かれていた。純血主義の名家として名高いマルフォイ家の長男のため、様子見をされているようだ。ウィルは都合がいいとばかりにハーマイオニーと授業について話していた。

 

ウィルはチキンをナイフで丁寧に切り分けているが、周りの生徒達はかぶりつく様に食べている。マルフォイ家でのマナーの教育が厳しかったのだと初めて気がついた。気にはなるが、自分に損失はないので別に構わないと思った。味の方は家より落ちるが十分に期待を上回るおいしさだったので満足する。

 

腹を満たしたころ、監督生に連れられて談話室へ案内してくれた。入り口と合言葉を知らされ、部屋割りを案内される。

 

ウィルの4人組の部屋でハリーと同室になった。ハリーは喜んでウィルにこれからよろしくねと握手を求められたので笑顔でそれに応じる、そして彼の後ろで複雑そうな様子で見守っている少年がいる。

 

赤毛で背が高くそばかすの男の子だ。

 

「もしかして、ウィーズリー家の?」

 

赤毛の子はビクッとして目を見開いた。どうやら当たりのようだ。

 

「ウィリアムだ、ウィルでいい。」

「その・・・マルフォイ家の子だよね?」

おどおどしているロンにウィルは少し苛立ちを覚えるも、その様子を一切顔に出さなかった。

 

「あぁ」

「ドラコ・マルフォイとは従兄弟かい?」

「いや、弟だ。」

 

どうやらハリーと同じコンパートメントにいて、ドラコと揉めたのかと勘ぐる。それにウィーズリー家とは犬猿の仲だ。警戒するのも当然だろう

 

「ねぇロン!ウィルは違う。凄く良い人だ」

「まるで弟が悪者のような言い草だ」

 

その言葉にハリーはビクッとバツが悪い顔をする。その様子を見てウィルはニヤニヤと意地悪そうな顔をする

 

「冗談だよ、ドラコは照れ屋でね。それに少しプライドが高いんだ」

 

根に持つタイプだから気をつけて、ウィルが笑顔でそう言うと部屋の入り口から人の気配がする。みると少し肥満気味で鈍そうな男の子がいる。

 

「やぁ君が最後の一人かい?ウィリアムだ。ウィルでいい。」

「あぁ、ネビル・ロングボトム」

「もしかしてカエルを見失った子かい?」

 

握手を交わし終えるとベットの場所を決めるジャンケンをした。1番目に勝ったウィルは入り口に近いという理由で手前のベッドを選ぶとネビルがひどく動揺したため、2番目の所に変更した。

 

後日、手前のベッドを確保したネビルがこっそり教えてくれたのだがトイレが間に合うようにする為らしい。

 

 

 

***

 

 

 

〜ホグワーツ大広間〜

 

 

 

ウィル達は寝坊することなく朝食にありついた。そして全員が集まった頃に沢山のフクロウがやってくる。それぞれが贈り物や新聞などを次々と生徒達へ届ける。

 

マルフォイ家も送ってきてくれる側の人間らしく、ウィルの元へ沢山のお菓子と手紙が贈られてきた。

 

「ん・・・父上からだ。」

「お父様?ウィルのお父様ってどんな人?」

 

隣でホットケーキを食べているハーマイオニーが無自覚に質問をするが周囲の空気が凍りついた。ウィルもそれを察する。

 

「とても厳格で教育熱心な人だよ。ホグワーツの理事をしている。」

 

ウィルは自分の父親が純血主義の塊のような人だとは言わず、なおかつ嘘を使わないで答えてみせる。

 

「ウィルって育ちが良さそうな気がしてたけど、お父様のおかげかしら?」

「あぁとても感謝しているよ」

 

ウィルは両親に心の底から感謝している。自分への教育やそのための環境づくりは理想だと思っている。その期待に応えないのは無礼だとさえ考える。

 

すぐに中身を読もうとするが、名前の上に小さく“1()()()()()()()”と書かれている。組分けの際に興味がなかったが、昔、父親が自分と同じスリザリンに入る事を望んでいたのを思い出した。せめてレイブンクローに入ってくれと言っていた気がする。

 

ウィルの父親、ルシウスはホグワーツの理事をしている。ならば息子の入った寮など連絡しなくても耳に入るだろう。

 

 

ウィルは自分の好むお菓子だけとると、残りはハーマイオニーに渡す。食べきれないなら周りにあげてくれと伝えて自分の部屋へ戻った。

 

 

 

***

 

 

〜親愛なるウィリアムへ〜

 

 

お前の寮はドラコから聞いた。

最初は少し失望したが

ドラコが手紙で言っていた

寮は違ってもウィルはウィルだと

確かにその通り、

学業において寮は無関係だ。

首席を取ってこい。

 

 

P.S.ハリーポッターと深い信頼関係を結べ

 

 

〜ルシウス・マルフォイ〜

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ふぅ、ドラコには感謝だな。“インセンディオ(燃えろ)”」

 

手紙を燃やし尽くすとウィルはドラコに貸しを作ってしまったと思った。思いのほか父上は気にしていないようだし、首席を取れば満足するだろう。それはとても簡単な事だ。

 

ハリーと仲良くなれと書かれていたが、それ程度のミッションでいいのだろうか。

 

“なんなら学校全体を掌握してやろうか(・・・・・・・・・・・・・)

 

だが今年度は教師陣でいい、この世代は“ウィリアム・マルフォイの学年”と呼ばせてやる。

 

 

 

 

 

 



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はじめての学生生活

 

 

〜変身術の教室〜

 

 

 

「変身術は、ホグワーツで学ぶ魔法学の中で最も複雑で危険なものの一つです。いいかげんな態度で私の授業を受ける生徒は出て行ってもらいますし、二度とクラスには入れません。初めから警告しておきます」

 

変身術の担当のマクゴナガルは全員が着席し、出席を取り終わるとすぐさま警告をした。この先生だけは怒らせてはならない。皆の心は1つになる。

 

 

その様子を見たマクゴナガルは手始めに机へ向けて素早く杖を振ると一瞬で机は豚に変わった。生徒達が眼を見張るのを確認したマグゴナガルは再び振り元に戻す。

 

そして彼女の説明をノートに取り終わった後、一人一人にマッチ棒が配られ、それを針へと変身させるよう指示を出した。

 

変身させる事ができたのが自分とハーマイオニーだけであることに彼は驚いた。マグルの子はしょうがないとして、魔法家に生まれた子供たちはなにをしているのだろう。

 

その日、彼は昨日のテーブルマナーと同じく初めて普通の家の子は呪文を習わせないのだと知った。

 

それから受けたのはハッフルパフの寮監であるスプラウト先生の薬草学、そしてゴーストであるピンズ先生の魔法史、レイブンクローの寮監であるフリットウィックの呪文学などである。

 

 

 

 

そして今から受ける授業は ウィルが一番楽しみにしていた魔法薬学である。担当であるスネイプはスリザリンの寮監のためかグリフィンドールの先輩達からの評判は最悪だった。

 

彼は父の後輩であることから少しの親交がある。たしかに彼は気難しく皮肉屋な性格だ。

 

だがその知識は間違いなく本物である。ウィルが8歳の頃に彼の専攻である魔法薬についての問題を質問した時、決して資料と本だけを暗記したような内容でなく自分の目で確かめた知識だった。

 

彼の底知れない知恵に圧倒された時、どんなウスノロでも暗記ぐらいはできる。君はその程度の事で得意になっていたのかね?と皮肉を言われた。

 

そのスネイプはただ相手にしたくない子供を突き放そうとしたための態度だったが、逆にウィルはスネイプに懐いた。その日に父親に、尋ねた文献の材料を用意するよう頼み、自らの手で調合した。そしてレポートを作成してスネイプに提出したのである。

 

その態度にスネイプはホグワーツのノロマ共よりはマシな程度だと言いつつも文字数を指定して次のテーマをウィルに与えた。

 

それからはホグワーツの理事である父親がホグワーツへ行くたびにスネイプにレポートを提出し続けた。入学する少し前にはフクロウ便でやり取りをする間柄になっていた。

 

ウィルの父親であるルシウスは気にかけてくれている事を快く思い、スネイプと顔を合わせるたびにお礼と彼の好物の菓子を差し入れた。

 

 

 

 

 

 

魔法薬学の授業は地下牢で行われる。日の光が届かないためヒンヤリしており、ガラス瓶にアルコール漬けにされた動物達が並んでいる。生徒達は気味悪がる中、ウィルは珍しい生き物を見れて喜んでいた。

 

 

大きな鷲鼻で黒くねっとりとした髪をしている魔法薬学の担当のセブルス・スネイプは出席を取っていた。授業はスリザリンとの初めての合同授業だった。彼は出席を取り始める。顔なじみであるドラコとウィルも他の生徒と同様に読みあげ、そして名前のリストを読み終えるとスネイプは冷たい表情でポッターと叫んだ。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるかな?」

 

ハリーは質問の単語すら理解できず、横に座っていたロンへ助けを求めるが彼もわからないようだった。

 

「わかりません」

 

ハリーとロンの後ろの席にいたハーマイオニーは自分なら答えがわかると高く手を伸ばした。隣にいたウィルは彼女の手を降ろさせようとするが、聞き入れることはなかった。

 

スネイプはハーマイオニーを無視して質問を続ける。

 

「それではベゾアール石を見つけてこいと言われればどこを探す?」

 

ハーマイオニーは更に手を伸ばした。だがスネイプにはそれが見えないようだ。

 

「わかりません。」

「ではモンクスフードとウルフスベーンの違いは?」

 

ハーマイオニーは椅子から立ち上がり、スネイプの指名を待つ。ウィルは空気の読めない彼女を止めるのを諦め、静かに時が流れるのを待つことにした。

 

「わかりません。」

「有名なだけではなんの役にもたたん」

 

スリザリンの生徒達から笑い声が聞こえてくる。するとスネイプはハリーの態度が無礼だとしてグリフィンドールから減点した。

 

「ではドラコ・マルフォイ、最初の質問はわかるかね?」

「眠り薬です」

「あぁさよう。」

 

ドラコは少し戸惑いながらも答えを述べる。彼は入学前に家の屋敷でウィルと予習をしていたため答えることができた。

 

「では2問目は?」

「ヤギの胃袋です」

「スリザリンに5点やろう」

 

スリザリンの生徒達の歓声にドラコは勝ち誇ったような顔をして、ハリーの方を見る。

 

「では3問目だ、ウィリアム・マルフォイ。答えろ」

 

ウィルは自分を指名してくれない事が不満でそれが顔に出ていたようだ。それを汲んでくれた事を嬉しく思う。

 

「読み方の違いです。一般的に言えばトリカブト」

「その通り」

 

ウィルは少し嬉しそうな顔をする。その様子を隣のハーマイオニーは恨めしい態度だったが、先生の指示なので何も言わなかった。

 

ドラコとは違いグリフィンドールに得点はくれなかったが、ウィルは自分なら答えて当然の問題だと言われた気がした。

 

それからおできを治す簡単な薬を調合する事になった。スネイプは全員の作業になんらかの注意と叱責を加えたが、ウィルの大鍋には一瞥もくれなかった。

 

そして寮で同室のネビルが大鍋を爆発させ、グリフィンドールは更に減点をくらった。授業後にはグリフィンドールの生徒はスネイプの悪口を口々に言いふらしていた。

 

だがウィルは自分の寮の得点に興味がないため、どうでもいいと聞き流していた。別に寮が優勝するために得点を競うなど何が面白いのか、どう考えても自分の成績さえ気にしてればそれでいいのにと心の中で思った。

 



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飛行訓練

“ぷう助”さん、一つ一つご丁寧に文字修正をしていただき感謝です。



ウィリアムはとても困惑していた。自分の想像以上にマルフォイの名はグリフィンドールで嫌われているのだと知った。だが彼自身は魔法界からマグルを排するべきとは考えた事もない。

 

もちろん実家の長男として社交場で行動する時はそれなりの発言はする、だが断言はせずにうまく誤魔化している。

 

スネイプはおいておくとして、数回の授業のうちに先生達は自分の事を気にかけてくれるようになったとは思う。

 

純血主義のマルフォイ家からグリフィンドールに選ばれたのは純血思想がないからだろう。教師陣としては立場上、マグルの子を差別しないため自分のような存在は喜ばれる。だが子供達は簡単に割り切ることができない。そのためウィルはハーマイオニーとハリー、ネビル以外と親しい関係を築けていない。

 

周囲には理解されぬ優等生、家からの教育やマナーで浮いている可哀想な一年生。

 

(悲劇のヒロインなんて柄じゃない。)

 

ウィルは自分という存在を偽るのは好まない。自己評価は過大も過少もしない。自分が人より容姿や家柄に恵まれ、更に優秀で勤勉であると自負している。それは事実であると心の底から思っている。だが同時に自分の嫌いな人間は可能ならば排除しようとするし、蔑みもする。そんな黒い人間であるとも理解している。

 

 

(同寮の生徒に受け入れられるにはどうしようか、ポイント稼ぎに勤しむ?いや得意げになってると反感を買う。)

 

同じ授業を受けている子からは自分が優秀であると既に認識されている。既に打ち解けたハリーやネビルの宿題や課題は面倒を見てやるが、そのノートを見せてくれと自分ではなく2人に頼んでいるのを何度か見た事がある。

 

もちろん提出物は自分のレベルでなく教科書の範囲に留めている。

 

(騎士道ねぇ。ある意味、スリザリンより姑息じゃないか?)

 

固定観念を守る事には秀でるが、それを崩すのは面倒という事か。少なくとも早いうちに叩いてしまった方がいい。

 

 

 

 

***

 

 

 

クィディッチ場

 

 

 

 

 

グリフィンドールとスリザリンの合同で箒の飛行訓練が初めて行われる、コート場に集合して授業が始まるのを待っていた。生徒達は魔法界で一番人気のスポーツであるクィディッチの話で盛り上がっている。

 

その輪に入らないのはマグル出身の生徒とウィルくらいだ。ウィルは周りの子に箒の乗り方のコツを教えていた。

 

最初はハーマイオニーに尋ねられたのだが、気がついたら周りに箒が初心者の生徒とネビルに取り囲まれ質問攻めにあっている。多くはマグル生まれなのでマルフォイの名前の意味を知らなかったみたいだ。だがウィルと距離を置いている子もいるのは事実、おそらく魔法界生まれの子が忠告したのだろう。

 

ウィルはドラコと共に実家でクィディッチをした経験がある。2人は教育の息抜きにプレイしていた。むろん2人でやれる競技ではないので、同じ家柄の子を呼んだりする。しかしそれでも足りない時は近くの牧場の藁でゴーレムを形成し、意志を与えてCPUとして人数調整をした。

 

ドラコは花形であるシーカーを常にやりたがった。コート内を高速で動きまわる小さな黄金のボールであるスニッチを掴めば150点を加え試合を終了させることができる。

 

それに対してウィルはシーカー以外のポジションをランダムに選んでいた。理由はスニッチを探している間は自分の作った藁の対戦になるだ。同じレベルになるよう均等に力を与えているのでなにも楽しくない。

 

クアッフルと呼ばれるボールを3つの穴が開いている鉄の高く細長い棒の間に入れる事ができたら10点獲得するチェイサー。

 

そのゴールを守るキーパー

 

そしてブラッジャーと呼ばれる選手を妨害するボールを棍棒で相手チームへ撃ち込むビーター。

 

そのポジションばかりやっていた。だが藁人形相手に妨害するのも楽しいとは言えないので、チェイサーばかりしていた。

 

2人で対戦するときはドラコがスニッチを掴むまでの間に150点を取るのは難しいので、彼が2回スニッチを掴む間にウィルのチームが16回ゴールを決めたら勝ち、それより先にドラコが2回スニッチを掴んだら負けという特別ルールで勝負していた。

 

 

 

***

 

 

 

「さぁ私が笛を吹いたら強く地面を蹴ってください。」

 

時間となり授業が始まった。教師は鷹のように鋭い目をしているマダム・フーチである。

 

そしてフーチは1、2、とカウントする。それから笛を吹こうと息を思い切り吸った。そして音を鳴らそうと吐き出そうとするが、なぜかネビルが既に地面を蹴っておりゆっくりと上空へ登っていく。

 

どうやら皆に出遅れないように先走ってしまったようだ。彼はそのまま制御ができずどんどん高く昇っていく。

 

生徒達が慌て始めネビルの名を呼ぶ中、フーチは戻ってこいと怒鳴るばかりだった。青ざめるネビルに苛立ちを覚えたのか箒は左右に振られ彼を振り落とそうとする。

 

(先生はなにをしている?早く止めなければ……。)

 

ウィルは焦りと苛立ちを覚えながらフーチを見ると杖をネビルへ向けているものの照準を合わせるのに苦戦している。それに相変わらずネビルに戻ってこいと怒鳴っていて冷静でない。

 

(愚か者め。)

 

ウィルはフーチの対応を見て心の中で蔑むと自分の箒に乗って空へ飛びだした。一瞬でネビルの側へつく。

 

「ネビル!落ち着くんだ!僕の目を見ろ!」

 

青ざめているネビルは下を見ずになんとかウィルと目を合わせる。その時に両手で箒の柄を思い切り掴んでしまう。

 

まるで痛みを覚えたように箒はより激しく暴れ始める。ネビルは恐怖から箒から落ちないように柄を抱きしめて離さない。だがつい下を見てしまうと恐怖から気絶してしまう。

 

ネビルの箒は体重で安定はしているものの、いつ振り落とされてもおかしくない状況である。

 

とっさの判断で、ウィルはネビルの上へ飛ぶと隙をみて右腕を彼の腕の下へ通すように、回す。そして全身の力を右手に込めてネビルと箒を引き離すことに成功した。

 

よろけながらもウィルは気合いでウィルの箒の前にネビルを布団を干す時のように寝かせて乗せる。それから間髪いれずに杖を左手で抜こうとする。右手でネビルを押さえつけているため手間取ったが、冷静に反対側のポケットから素早く取りだす。

 

“インカーセラス”(縛れ)

 

ネビルと自分の箒を縄で縛りつけ強引に安定させるとそのまま下へ降りようとする。乗り手のいなくなった箒は混乱しているのかウィルの周囲を高速で飛び回っている。

 

それを見たウィルは安心して地上へ戻ろうとするとハーマイオニーは叫び声をあげる。

 

「ウィル!前よ!ネビルの箒が飛んでくるわ!」

 

ウィルはその声で前を向くと目の鼻の先にネビルの乗っていた箒が飛んできていた。躱す事ができないと判断したウィルは反射的にネビルの箒の柄を掴んだ。右の手のひらは摩擦で熱を感じる。一瞬で皮膚が火傷をしたようだ。

 

その事を感じるも、ウィルは引っ張られぬように自分の箒を軸にプロペラの様に身体を回転させる。その瞬間に右腕の関節と骨に痺れるような激痛が走るも決して手から離さなかった。

 

「ウォォォォォォォォォォ!!!!!」

 

ウィルは気合いで大声をあげながら、クィディッチ場の細く、とても長い鉄の棒の穴を目標に思い切り投げ飛ばした。

 

回転による遠心力とウィルの投げる力が合わさり、自分へ飛んできた以上の速度で加速された箒は真っ直ぐに進んだ。そして一寸の狂いもなく穴の中心をくぐり抜ける。そして箒は遥か彼方に消えて行った。

 

ウィルは回転の反動を利用して元の位置に戻るため、柄を掴もうとする。だが右手が言うことを聞かなかった。それと同時に全身へと痛みが伝うように流れる。

 

掴み損ねたウィルはもう半回転して逆さになると、そのまま足を滑らせ地面へと頭から落ちていく。

 

そしてウィルの乗っていた箒も操縦士を無くしたため、ネビルを縛りつけたまま地面へと落下していく。

 

「ハーマイオニー!!!“インペディメンタ(妨害せよ)”!」

 

ウィルは上空から落ちながら、左手に持った杖をネビルと繋がっている箒へ“妨害呪文”をかける。呪文が命中するとそれはスローモーションのような動きとなる。これなら地面に落ちても大した怪我にならないだろう。

 

「イ、“インペディメンタ(妨害せよ)”!!!!」

 

ハーマイオニーはウィルが使ったばかりの呪文をウィルに対して使う。スローモーションとまではいかないがかなり減速し始める。

 

しかしウィルと地上の距離はあまりにも近かった。およそ半分くらいの速度で背中から地面に叩きつけられる。

 

少しの土煙が周囲を立ちこめると、ウィルはふらふらと立ち上がった。右手はぶらんと垂れ下がっている、どうやら折れているようだ。落ちた衝撃で背中は打撲したが右手の傷に比べれば無傷に等しかった。

 

「あぁ!!!ごめんなさい!!!私がもっと上手にできていたら!!!!」

 

ハーマイオニーは泣き叫びながらウィルへ駆け寄ると左腕を肩で支えてくれる。

 

「いいや、ありがとう。本当に助かった。君ならできると信じていたよ。」

 

ウィルは笑顔でハーマイオニーに感謝を伝える。

 

「だってあの呪文は初めて使っただろう?君はそれなのに僕の命を救ってくれた。むしろ誇っていい事だ。」

 

ウィルはそう言うとハーマイオニーの額に優しくキスをした。泣きじゃくっていた彼女が少しだけ泣き止む。

 

「あぁよくぞ!よくぞ無事でいてくれました!とにかく医務室へ!」

 

グリフィンドールの生徒達が箒に縛り付けられたネビルを素手で引き離した。フーチは2人を医務室へ連れていくから大人しくしておくよう指示を出した。そして浮遊術でネビルを浮かせて医務室へと歩き始める。

 

 

医務室につくとウィルとネビルは違うベッドに寝かされる。フーチはハーマイオニーに先に戻るよう言い、彼女が出ていくのを見届けると口を開いた。

 

「素直に言葉が出てきません。その、とても自分が情けない……。」

 

「えぇ、そうでしょうね、だからネビルが無事で済みました。誇っていい事です。」

 

ウィルは軽く鼻で笑うと蔑んだ目で皮肉を言い放つ。小さく囁くようにつぶやいたがフーチの脳裏にはその言葉が焼きついた。そして頭の中が掻き乱されるような気がする。

 

“貴方では彼を救えなかったでしょう?”

 

まるで大きな波に打ちつけられたような衝撃を得たフーチは思い詰めたような表情で、医務室を出るとそのまま地面にへたり込んだ。

 

ウィルはフーチを皮肉ってもなお、怒りが収まらなかった。飛行訓練という事故が多いと予見できる授業の教師でありながら、あのお粗末な対応に素直にイライラした。あの女がスネイプやマクゴナガルと同じホグワーツの教師と呼ばれるのに嫌悪感を抱いた。

 

ウィルはホグワーツの教師陣の多くを尊敬している。もともと学問に対する意欲が高く、同世代の誰よりも知識を求めていた彼にはわかる。

 

1つの科目を極めるのは至難の技、才能と努力なくして到達できる領域ではないのだ。その域に自分が踏み入れるにはまだまだ年月がかかるとわかっていたからこその評価であり、素直に偉大だと思っている。

 

 

だからこそ、あの程度のアクシデントに対応できなかったフーチには失望と嫌悪がふつふつ湧き出てくる。普段のウィルならば自分には損がないと関心を示さないが、同室のネビルを下手すれば死なせていたという事実が彼をあそこまで怒らせるに至った。

 



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ミネルバ・マクゴナガル

 

 

ウィルは右腕の関節が折れていると診断されたため、飛行訓練以降の授業は免除となった。授業の空いている時間にハーマイオニーが持ってきてくれた本を片手で読んだため退屈せずにすんだ。ゴブレットに満タンに注がれた骨折を治す薬は苦いのか酸っぱいのかわからない味だったが、残す事なく気合いで全て飲み干した。

 

消灯の時間となり生徒の出入りを禁じる鐘が鳴った後、ウィルの元へ来訪者が現れた。

 

グリフィンドールの寮監のマクゴナガルである。業務を終えてそのまま見舞いに来てくれたようで飛行訓練の後にあった変身術の手書きのノートとお菓子を持ってきてくれた。

 

そしてネビルを助けた件と機転の良さを褒めてグリフィンドールに得点をくれた。その後、彼女はウィルに質問をした。

 

「Mr.マルフォイ、貴方はクィディッチの経験はありますか?」

「えぇもちろん。」

 

ウィルは素直に答える。

 

「単刀直入に聞きます、貴方は人よりクィディッチの腕に覚えがありますか?」

「あぁ、それはどうでしょう。身内でしかプレーした事ないので……。」

 

ウィルはクィディッチでの自分の力量など考えた事もなかった。確かに同年代の子達とプレーはしたことあるが、慣れている自分達が上手なのは当然だ。更にCPUとしての藁人形も自分達と同じレベルより少し劣る程度にしてある。

 

「そうですか、ではMr.ロングボトムの箒をゴールまで投げたのは故意ですか?」

「えぇ、ただ無意識です。無意識に目標を決めてそこに投げただけです」

 

マクゴナガルは質問を変えた。

 

「つまり、まぐれではないと?」

「えぇ、力加減は勘でしたが……。クアッフルの弾道なら慣れてますから。」

 

マクゴナガルが生徒達から聞いたのは箒の弾道が鋭く、そして正確にゴールを突き抜けたという事だ。それから投げたという地点からゴールまでの距離を測ってみると通常の学生レベルのロングシュートを狙う地点より遥かに離れていた。

 

つまり彼の投擲センスは異常に優れているという事、更に箒で回転しながらのシュートであり体幹とバランス能力も高いと思われる。それに箒のスピードと遠心力を力に変えるバネもある。

 

その後箒から落ちたのは事実だが左手で杖を持っていたこと、そして右手が使い物にならなかったと考えれば起こるべくして起きたと誰もが言う。

 

「それが本当なら誇るべき才能です。Mr.マルフォイ、貴方はクィディッチの代表選手になる気はありませんか?」

 

「あぁ、ないです。」

 

マクゴナガルはその返事にうんうんと頷くと得意げにこう続ける。

 

「もちろんですとも、ですが代表選手になるには厳しい選ば……。へ、ない?」

 

マクゴナガルは驚いた反動で少し眼鏡がズレてしまう。

 

「えぇ興味ないです。」

「興味がないのですか?」

「はい。」

 

彼女は眼鏡をキリッと直す。そしていつもの調子を取り戻そうとする。

 

「……そうですか。差し支えなければ理由を教えてくれませんか?」

「学業に関係がないからですよ。」

 

ウィルは当然のように答えた。

 

「成績にも加味されないし、練習もあるでしょう?それに怪我でもしたら大きな支障をきたします。」

 

ウィルにとってクィディッチなど気分転換の遊びに過ぎない。たまたまドラコがやりたがったから付き合っただけだ。もし彼の趣味が散歩だったらウィルは散歩マスターになっていた。

 

「そう言われれば返す言葉がありません。」

 

「おそらく貴方はクィディッチの才能があります。それは決して潰してはなりません。考えてはいただけませんか?いつか必ず貴方の糧となるでしょう。」

 

ウィルはその言葉に心の中で笑みを浮かべると口を開いた。

 

「では一つ、お願いがあります。」

「なんでしょう?」

「もし僕にクィディッチの才能があり、それを活かすとしたら……」

 

少しの沈黙とともにウィルは言った。

 

「図書館の禁書の棚を自由に閲覧できる権利をいただけませんか?」

 

ウィルは初めからこれが狙いだった。マクゴナガルがクィディッチについて質問をした時から交渉に持っていくつもりだった。

 

代表選手になりたいとは微塵も思わないが、確実に教師陣とグリフィンドール生の評判はあがる。仮に拒否されたとしても気が変わったと言うつもりだった。

 

「ッ…!なにを知りたいのですか?」

「特に…ただの学術的興味です。」

 

ウィルは滑らかに答えた。心の中では自分の狙い通りに彼女が動いている事を満足そうに笑った。彼女は知っている。かつてそう言って教師に取り入ることに長けた“生徒”を……。

 

「それは断じて許可できません。危険な闇の魔法や呪いが眠っているのですよ。」

 

その理由にウィルは少し不機嫌になる。

 

「それに上級生でなければ禁書の棚のゾーンには行けない規則です!」

 

「聞きましたよ、規則を曲げてポッターをクィディッチのシーカーにすると……。」

「……。」

 

原則としてホグワーツでのクィディッチは1年生を代表選手として選出できないことになっている。だがハリーをシーカーにする為にダンブルドアに規則の変更を求め、それを彼が受理したのだという。

 

見舞いに来てくれたハーマイオニーの話ではそうらしい。ハリーがシーカーの才能があると認められた理由は知らないが、少なくとも“教師であれば規則など曲げ易い”ということだ。

 

マクゴナガルが言い返さない理由が真実を物語っていた。

 

「それとは違う次元の話です。確かにクィディッチは危険です。しかし禁書の棚の書物とではレベルが違います!」

 

「では僕には立ち入りの権利を与えるだけ、それを閲覧できるかどうかは先生の許可次第…というのは?」

 

ウィルは折衷案としてマクゴナガルに提案する。最初からこの意見を通すつもりでふっかけた。厳格な彼女が規則を曲げてまでクィディッチにお熱ならば、生徒1人に立ち入りの許可を与えるくらいするだろうと判断したためだ。

 

「……いいでしょう、ただし条件が2つあります。」

 

「聞かせてください。」

 

「1つ目は閲覧は教師陣の監視の下でのみ許可します。もちろんそれを生徒に伝えることも禁止です。」

 

「つまりは先生方の空いているの時間のみ閲覧できるという事ですね。それはむしろありがたい条件です。」

 

わからない所があればすぐに尋ねる事ができるという事だ。それに先生ということは“マクゴナガルに限らない”ということ、他の先生の監視もあるという事を意味する。

 

つまり教師陣と深い関係を築ける機会があるということ、これは願ってもない条件だ。

 

「2つ目はグリフィンドールを優勝させるよう全力を尽くすことです。」

「クィディッチで結果を出せ、という事でしょうか?」

 

各寮同士でのクィディッチは優勝杯の得点に加点される。スニッチを掴んで大量得点をするのも大事だが総合得点を稼ぐ為にチェイサーの働きも必要不可欠となる。

 

「えぇ、それに学業もです。教師へのアピールは力を誇示することではありません。」

 

マクゴナガルはにこりと笑いながら言う。ウィルにとってそれは図星だった。だがそれと同時に気づいたとしても決して触れてはならない絶対の領域(・・・・・)だと彼女は知らなかった。

 

「先生、それは不愉快だ。実に不愉快だよ。」

 

ウィルはこめかみに筋を入れ、普段の大人しく礼儀正しくフレンドリーな優等生などそこにいなかった。

 

「えぇそうですとも、僕は手を抜いている(・・・・・・・)!事実です!分かる問題でも沈黙し、実習では優秀の範囲を超えないように!」

 

マクゴナガルはウィルの変貌に戸惑いを隠せなかった。彼は明らかに年相応に感情的に怒鳴り散らしている男の子だ。

 

「なぜかわかりますか?貴方はマルフォイの名を持つ事の意味を理解してない…。」

 

その言葉に彼女の心をキュと締めた。

 

「僕が飛び抜けて優秀だとマルフォイ家が闇祓いに狙われるんだ!」

 

ウィルは自身の思いを吐露する。

 

「父上が死喰い人である事は皆が知ってる!今でも“例のあの人”の復活に尽力するだろうって皆が噂してる!」

 

マクゴナガルは心が痛かった。確かにウィルの父親は死喰い人だった、“例のあの人”の最も有力な部下の一人だった。

 

多額の寄付で無罪を勝ち取り、のうのうと法の下で生きている。ダンブルドア率いる“不死鳥の騎士団”に属している彼女はルシウスとも敵対関係にあった。

 

多くの仲間と教え子たちは死んでいった。だからこそ憤っていた、自分の生徒を大切にしようとした。間違った道に踏み入れぬようにと誰よりも尽くした。

 

そんな時にルシウスの息子がホグワーツに入学した。今までも元死喰い人の息子達は何度か学び舎に受け入れてきた。だが子らは一人残らずスリザリンへと選ばれた。だからこそ同じ生徒のように接する事ができた。

 

だがウィリアム・マルフォイはどうだ?まさか自分の寮に選ばれるとは思わなかった。その想定外が彼女を苦悩させた。

 

それとは裏腹に優秀で素直な良い子だった。純血主義の家系であるのにマグル生まれのハーマイオニーと親交がある。でも授業はどこか退屈そうでそれが終われば貪り食うように本を読んでいる印象だ。

 

禁書の棚と聞いた時、真っ先に浮かんだのは強固な呪いや儀式を知る為だと邪推した。彼女は彼を“ウィリアム(生徒)”でなくマルフォイ(・・・・・)だと本能的に答えてしまったのである。

 

差別をしていたのは自分の方だ。

 

「なぜ父上が権力を求めるか?貴方は知っていますか?」

 

マクゴナガルは素直にウィルの想いを受け止める覚悟を決める

 

「魔法部に多額の額を寄付し、ホグワーツの理事をして、大臣の社交場によく顔を出す理由を貴方は知っていますか?」

 

ウィルは歯ぎしりをしながら感情的に吠えた

 

「家族を守る為だ!マルフォイ家は魔法界に損失と判断されれば、いつでも、いつでも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………消される(・・・・)んだ。」

 

最後の方のウィルの声はかすれるようだった。この小さな男の子は抱え込んでいた。家の存続という大人でさえあり余る重荷を、

 

「僕は家族を守りたい……。過激な純血主義だろうと、死喰い人だろうと、僕の家族なんです。」

 

ただマルフォイの名で生まれただけで、少年は誰よりも強く賢くなろうと決めたのだ。実力は魔法界にとって危険にならぬ程度に抑えつつ、礼儀や性格という学業以外のほぼ全て完璧にこなさなければならない。

 

ホグワーツという寮のある学び舎では決して緩めることができなかったはずだ。その蓋を自分がこじ開けてしまったことにマクゴガナルは気づいたのである。

 

彼女にできることは偽らないこと、そして全てを受け入れることだった。

 

「申し訳ありません、少しでも危険な闇の魔術を覚える為と邪推した私を許してください。なにが副校長ですか、私は生徒一人の気持ちすら軽くしてやれないなんて……。」

 

マクゴナガルはウィルを優しく抱きしめる。彼女には心の底からの謝罪以外に彼をなだめる方法を持ち合わせていなかった。

 

「貴方の気持ちを知ろうともせず、自分の感情でチームに誘うべきではなかった。とても浅はかです。ただの私情で貴方の美しい領域に土足で踏みこんでしまいました。」

 

「貴方は大人じゃありません。私の守るべき生徒です。貴方の想いは決して忘れません。そして貴方を傷つける者は私が絶対に許しません!」

 

「貴方はほんの子供なのです。今夜のことは決して他言しません!誓います、ですから私の事を信用していただけませんか?」

 

マクゴナガルは素直に自分の気持ちをウィルにぶつけた。この子はマルフォイである前に一人の子供であったのだ。そして自分の寮の大事な生徒の一人なのだ。

 

マクゴナガルは自分の左の肩が暖かくなるのを感じた。そして押し殺すような嗚咽と静かに早まっている吐息も…。

 

「違うんだ、こんなつもりじゃなかった。人前で泣くつもりなんて……。」

 

ウィルはボロボロと溢れる涙をこらえようとするが、決して抑えられる事ができない。他の子とは違って、初めての両親以外の人から貰う暖かい優しさだった。

 

マクゴナガルはウィルが落ち着くまで頭を撫でる。そして落ち着いてしばらくの沈黙が続いた後、彼がぽそりとつぶやいた。

 

「……先生、()やるよ、クィディッチ。」

 

その言葉に意外そうな表情を浮かべたマクゴガナルはウィルから少しだけ離れて顔色を見る。彼はとても無邪気な笑顔だった。

 

“ウィル”(・・・)、期待してますよ。貴方はとても素晴らしいチェイサーになるでしょう。」

 

マクゴナガルも笑顔で答えると、彼女はウィルを寝かせて布団をかけてやる。おやすみなさいと額にキスをする。そして医務室の扉を音を立てないようにゆっくりと開き、そしてゆっくりと閉じた。

 

 

 

 

 

彼がウィルと名乗る理由がストレスによる家への小さな反抗であると彼自身を含むこの世の誰よりも早く気がついたのはマクゴナガルだった。

 



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彼女との距離

 

〜医務室〜

 

 

 

 

 

 

ウィルが目を覚ますと全身が気だるく、少し後頭部が痛む。どうやら完全に寝過ごしてしまったらしい。揺れ動く意識を保つために起きあがらず、ジッと待っている。すると周囲に沢山のお菓子や食べ物、手紙や本などが置いてある。

 

「は…なんで?」

 

マルフォイ家からの差し入れかと思ったがあまりにも多過ぎる。それに見たことのないものばかりだ。その中でウィルの好物である蜂蜜味のフィナンシェがあった。自然と右手で取ろうとするが、いつもより重く感じるものの障害なく取ることができた。

 

まぁいいか。と袋を開ける。ウィルは笑顔でフィナンシェを食べていると、昨日の事を思い出した。突然耳の奥が真っ赤になり、マクゴナガルとどんな顔をして会えばいいのかわからなかった。

 

頭の中で自分の振る舞い方を考えた、やはり授業の態度は今までと同じようにするつもりだった。自分の見栄よりもマルフォイ家の方が大切であるからだ。

 

でもせめて、クィディッチだけは本気でプレーしようと決意した。

 

 

 

 

***

 

 

 

〜大広間〜

 

 

 

 

午前の授業が終わる鐘の音と同時にウィルは退院した。そして食事の為に大広間へ向かう。マクゴガナルに昨日の非礼を詫びようと席に座らず、前に座る教師陣の方へと進んでいくと突然沢山の生徒達に取り囲まれる。

 

ウィルは瞬時に身構えて杖を取りだす寸前の状態を取るが、その生徒達が一斉に拍手をした。すると取り囲んでいなかったグリフィンドールの生徒達はウィルの存在に気がつくと立ち上がって手を叩き始める。ウィルが困惑して周囲を見回すとハッフルパフやレイブンクローの生徒達も加わっている。

 

戸惑うウィルは皆が自分に対して賞賛の言葉をかけてくる事で初めて気がついた。自分の行動が認められたのだと。

 

決して褒められるために動いたのではない、ただネビルを助けたかっただけだ。彼は背中がむずむずするような感覚を覚える。

 

やがてネビルがこちらにやってきて握手と感謝の言葉をウィルへ述べると皆は解散して食事の時間を待った。そしてマクゴガナルの方をチラリと見ると彼女はにこりと笑った。

 

そしてすぐに食事の時間となったため、ウィルはマクゴガナルの元へ行くのを諦め食事を取ることにした。ハーマイオニーの隣に座り本についてのお礼と感想を伝えようとするが、今まで一度も会話してないはずの子達から飛行訓練での話やクィディッチの代表選手になるのかなどと聞かれる。

 

ウィルは少し不快に思ったが、そこまで悪い気はしなかった。その対応をしたためハーマイオニーは無言で食事を続ける。そしてすぐに終わらせて出て行った。ウィルはその事に気づいていたものの、周囲の人に捕まり追いかけることができなかった。

 

マクゴナガルはウィルが周りの生徒と打ち解けているのを見て微笑ましく思うと、そのまま立ちあがり、大広間から出ていく。

 

彼女の背中を見つけたウィルは自分を取り囲む人達から逃げるようにその場から離れる。そして扉を出た。

 

「マクゴナガル先生!」

 

ウィルはマクゴナガルを呼び止め、走って目の前までいく。

 

「どうしましたウィル?」

「えっと、その先日は失礼しました。」

 

ウィルはお辞儀をして謝罪をする。

 

「なんのことでしょう?あぁ昼休みの時間にクィディッチ場へ、詳しくはMr.ポッターに聞くといいでしょう。」

 

ウィルは感謝しますと伝え、お辞儀をすると自分の部屋へと戻った。そしてハリーの帰ってくるのを待ち、彼に尋ねる。すると昼休みの時間にグリフィンドールのクィディッチチームのキャプテンであるウッドにレクチャーをしてもらうとのこと。

 

話はマクゴナガルからハリーに伝えてあったらしく、2人で演習場へ向かった。

 

ウッドから軽くクィディッチによるレクチャーののち、ウィルはクアッフルをゴールに投げてみろと指示した。彼のポジションはキーパーであり、自分からゴールを奪ってみせろと言った。

 

 

 

***

 

 

 

 

〜数時間後〜

 

 

 

 

マクゴナガルが自室で雑誌を読んでいると激しくノックがされる。彼女は少し驚きはするものの、雑誌を机の引き出しにしまう。そしてどうぞと言うと、汗だらけのウッドだった。彼はとても興奮しており鼻息が凄く荒かった。

 

「いったい、どうしたのですか?」

 

「先生!あの2人は天才だよ!ハリーは生まれながらのセンス、それに磨けばもっと光るだろう!」

 

ウッドはまくしたてるようにマクゴガナルへ語り始める。彼女は満足そうにそうでしょうと言った。

 

「それよりも即戦力なのはウィリアムだ!」

 

 

チェイサーは3人いてキーパーは1人だ、どうみても自分の方が有利。全てセーブしてキャプテンとしての尊厳を得ようとした。

 

だがウィルは自分が思っている以上にチェイサーとしての力量があった。左右に揺さぶったり、回転をかけて変化を加えたりするのは序の口。

 

それから右利きなのに突然左手で投げたり、視線やフォームを変えてフェイントを織り交ぜて次々とゴールを決めた。

 

更には箒から跳躍してゴールを狙ったりさえもした。

 

誰からも指導されず、プロの試合も見ない彼は自分のやりたいようなプレーしかしない。つまり我流で癖が強いということだ。通常であれば非効率であるはずなのに、彼は効率的なフォームの誰よりもウッドからゴールを奪ってみせた。

 

ウィルの身体能力と運動神経の高さは飛び抜けている。だが致命的な弱点があるとウッドは語った。

 

彼には体力がなかった。

そしてウィルの練習メニューはランニングと腕立てが8割となった。

 

 

 

***

 

 

次の日

 

 

 

ウィルはウッドとの対戦後、すぐにクィディッチの代表メンバーに選ばれた。ハリーも同時にシーカーとしてスタメン入りしたが、常にウィルだけ取り囲まれていた。同級生はもちろん上級生も混じっていた。ウィルはいい加減うんざりしていたが、常に笑顔で対応をしていた。

 

そのせいかハーマイオニーと過ごす時間が減り、図書館で本を読む際もつきまとわれて迷惑していた。ウィルは一時的なもので、もうしばらくすれば落ち着くだろうと思っていた。

 

 

朝食の時間ですらウィルにばかり話しかけようとする生徒が後を絶たず、早めに待機してた子は自分の隣に座らせたがった。

 

 

「ウィルって彼女とかいたりするの?」

 

今日は年上の女子生徒に囲まれて質問攻めにあっていた。ウィルはホットケーキをナイフで上品に切りながら、どう答えるのが理想なんですかね?と笑顔で返事をする。

 

「いやいや、あのマルフォイ家よ?許嫁もいてもおかしくないわ。」

 

「婚約者なら募集中ですよ。僕は早く子供が欲しいんですよね。」

 

この言葉は嘘ではない。ウィルは意外と世話焼きな性格で、名門の家同士で行われるパーティで退屈そうな小さな子供の面倒を自ら進んでよく見る。そして無邪気な彼らで心の膿を流していた。

 

ウィルは朝食を終え上級生から解放されると、ハーマイオニーと合流する。なぜかいつもより少し不機嫌だった。そしてハリーとロンをジッと少しだけ睨んだ。

 

何かあったのかと尋ねても彼女は答えることがなかった。

 

 

 

 

ウィルは答えることを強要せず、フリットウィックの呪文学の授業に臨んだ。今回は浮遊呪文を学ぶらしい。先生が呪文とコツをレクチャーすると生徒一人一人に羽が与えられた

 

「“ウィンガーディアム・レヴィオーサ”」

 

ウィルは呪文を唱え、羽を宙へ浮かせる。フリットウィックはキーキーした声でウィルを褒め称えた。それから彼は教科書を退屈そうに読み進める。

 

「ん、んっ!“ウィンガーディアム・レヴィオサー”!」

 

ロンは威張ったように呪文を唱えるが、羽はピクリとも動かない。

 

「発音を間違えてるわ。いい…?『レヴィオーサ』よ。貴方のは『レヴィオサー』。」

「じゃあ君がやってみろよ。」

 

ハーマイオニーがロンの間違いを指摘すると彼は少し苛立ちを覚えて言い返す。

 

「“ウィンガーディアム・レヴィオーサ”」

 

すると羽はふわりと浮いた。フリットウイックは彼女も褒め讃える。するとロンは気に食わないという表情だった。

 

授業を終えて教室から出ていくとロンは大げさな仕草で真似る。

 

「いい?レヴィオーサ、貴方のはレヴィオーサーァ。だから友達がいないんだ。最近はウィリアムにも愛想つかされたみたいだし。」

 

するとロンの隣にいたハリーにぶつかって追い抜いていった。ハリーは本人に聞かれてしまったと焦った。ロンは少し気にした様子だったが、なんてことないと強がってみせる。

 

「おいウィーズリー。」

 

ロンは突然後ろから肩を掴まれる。その声の持ち主がウィルだと理解すると、少しバツが悪いような顔をする。

 

「恥を知れ。彼女に謝るまで許さねぇからな。」

 



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ハロウィンでの出来事

mahoyoさん、ゴンタさん、ハル-さん、誤字修正に感謝です。


ウィルはハーマイオニーがロンに悪口を言われ、走り出したのを見て追いかける。だが人混みにまみれて彼女を見失ってしまった。

 

彼女とルームメイトの女子生徒に部屋にいないかと尋ねても、知らないと言う。思い当たる限りの場所を探し回るがどこにもいない。

 

ウィルは諦めて図書館にこもる。だがいつものようにページが進まない。彼が寮へと戻ると先程聞いた女の子に彼女がトイレで泣いており一人にしてくれと言っているらしい。

 

女子トイレに突撃するほどウィルは愚かではないので、素直に授業に臨んだ。

 

その日は偶然にもハロウィンであり、その日の夕食は金色の皿にのったハロウィン料理が並んでいた。多くの生徒達が夢中でそれを食べ進める中、ハーマイオニーはいなかった。

 

そして突然、扉が開く音が大広間に響いた。生徒達の注目を浴びたのはクィレルである。彼はとても青ざめた表情で顔が引きつっている。

 

「トロールが、地下室に…。お知らせしなくてはと思って。」

 

クィレルはそのまま気を失い地面へ倒れてしまった。

 

 

 

***

 

 

 

 

女子トイレ

 

 

 

 

 

ウィルはハーマイオニーがいると聞いていた女子トイレの前にいた。周りを見て人の気配がしないのを確認すると中へ入る。

 

そして扉が閉まっているのが一室だけだと知ると軽く溜息をして口を開いた。

 

「ハーマイオニー・グレンジャー…。」

 

すると扉の奥からビクッとしたような物音が響く。

 

「ねぇ、ここは女子トイレよ!早く出て行って!」

 

ハーマイオニーは男子の声が聞こえたので、怒ったように命令する。その男の子は軽く謝罪をして、自分がウィルだと言った。彼女はそうだとしても早く出ていけと続けるがウィルは聞き入れなかった。

 

「あんな奴の事は気にするな。」

 

ウィルは喚く彼女を無視して口を開いた。だがそれは逆効果だった。

 

「貴方だってそう思ってるんでしょう?友達がいない奴だって!」

 

ウィルは少し悲しそうな顔をして彼女の言葉を待つ。

 

「人気者になった貴方に私の気持ちなんてわからないわ!1人にしてちょうだい!」

 

ウィルはその言葉を聞くと心を痛めた。最近は取り囲まれてばかりで直感では不快だと思いつつもその空気が嫌いではなかった。そしていつも一緒にいた彼女を放置してばかりだった。

 

「わかるよ、でも僕自身も戸惑ってる。」

 

ウィルは突然の環境の変化でそれに対応する事に精一杯だった。今でも慣れていない。

 

ハーマイオニーはウィルを自分達のグループに引き込もうとしているのだと伝えた。

 

マグルでの生活で群れたがる人間は優れた人気者を自分のグループに入れようと躍起になることを彼女は知っていた。だがウィルは名家生まれで人間関係など初心者である。

 

その話を聞いたウィルは自分がどこかに行ってしまって、彼女が一人ぼっちになるかもしれないと悩んでいたと初めて気がついた。

 

 

 

彼は自分の失態を痛感した上で素直な気持ちを伝える。

 

「君は優秀だ。決して才能でなく君は努力で手に入れた力…、だからこそ周りが怠惰に見える。」

 

「…。」

 

間違いないだろう?僕だってそうさ。ウィルはそう続けた。

 

「ただ君は人に干渉し過ぎている。」

 

「それが悪いこと?私は正しい事を教えてあげてるのに、」

 

「君の考え方は傲慢だ、でも今の僕も(・・・・)だ。」

 

その言葉にハーマイオニーは少しだけウィルの言った意味がわかった気がした。

 

「まぁ少し考えてみるといい、周りがどうのこうの、でなく君自身の答えを見つけるんだ。」

 

ウィルがそう言い終わると酷い匂いが鼻の奥にツンと通り抜けた。彼はトイレの出口を見た。そこには4メートルほどの大きさの緑色の巨人のような怪物がいる。巨大な棍棒を持っている。

 

(トロール(・・・・)?ハロウィンのイベントか?)

 

 

トロールはウィルの方へゆっくりと歩いてくる。彼はすばやく杖を抜き臨戦体制をとる。

 

 

「ハーマイオニー、目をつぶって耳を塞いでてくれ。」

「は?なんで?…なんか臭う。」

 

扉の向こうから返事をあとに、彼女はなにかを察したような声を出す。

 

「あっ、私はなにも嗅いでない…。」

「ん、おい待て!違うからな!漏らしてなんかないからな!」

「いいのよ、ウィル。恥ずかしい事じゃないわ。誰にでもミスはあるわ。」

「待てハーマイオニー!誤解だ!」

「…………。」

 

ハーマイオニーはとうとうなにも言わなくなった。ウィルの指示通りに目を閉じて耳を塞ぐ、そして鼻も忘れずに。

 

「…………はぁ。」

 

ウィルは大きな溜息をつく。そしてこめかみに筋を入れる。

 

「なんかこう、凄く八つ当たりしたい気分だよ。」

 

彼がそう言い放った瞬間に杖を振るう。

 

“レダクト”(粉々)!」

 

ウィルの呪文が棍棒を粉々に破壊する。トロールは自分の武器がなくなった事が理解できず、足元や周囲をキョロキョロ見回す。

 

(トロールは怪力で傷を与えても修復する、それに厄介なのは知能が低過ぎるが故に行動が読めない。)

 

ウィルはトロールを攻略する為の知識を脳の引き出しから取り出す。そして脳内で最小限の被害で済ませる策を練る。

 

すると外から誰かが走ってきているような物音がする。それはハリーとロンだった。

 

「トロールだ!!!」

 

ロンが叫ぶとハリーはすぐに杖を抜く。それに少し遅れてロンも取り出した。それから2人はトロールより奥にウィルがいる事に気がついた。

 

「ハリー、ウィーズリー、お前らは先生を呼んでこい!」

 

ウィルは2人が戦力に加わるより、先生達を呼んできてもらう方がありがたかった。だがハリーはおいていけないと反発して動く気配がなかった。

 

すると突然、トロールは棍棒がトイレの中にあると考えたのか仕切りの壁を腕をふるって剥がすように壊した。

 

木の破片が飛んできた事でハーマイオニーは目を開いた。すると目の前に醜い怪物がいたのである。彼女は思い切り悲鳴をあげ、助けてと叫んだ。

 

トロールはハーマイオニーを捕まえようと手を伸ばした。彼女は腰がひけて動けない様子だった。

 

“プロテゴ・マキシマ”(盾よ、守れ)!」

 

ウィルはハーマイオニーの前に盾の呪文を使い、トロールの太い手のひらを弾いた。

 

その反動でトロールはしりもちをつく。その反動でハリーとロンは転び、ウィルはバランスを崩して手をついた。

 

トロールはハーマイオニーより近くにいたウィルへ視線をやる。どうやらトロールにとっては蝶を捕まえるような感覚らしい。ただ目の前にいた、それだけの理由である。

 

トロールはさっきの青い盾が出てくるより早く捕まえなければと思ったのか、すばやく手を伸ばしてウィルを捕まえた。

 

トロールも潰さぬようにと加減はしているようだが、それでも全身の骨がミシミシと鳴るまで圧迫された。

 

ハリーとロンはトロールの頭上へめがけて片っ端から呪文を飛ばした。ダメージ、というよりは眩しかったのかウィルを手から離して自分の目を両手で覆う。

 

「クソが…。」

 

ウィルは脇腹を抑えながら悪態をついた。

 

“レデュシオ”(縮め)。」

 

呪文が命中すると、トロールの巨体がリス程度にまで小さくなった。

 

“インカーセラス”(縛れ)。」

 

ウィルは続けて小さくなったトロールを縄で縛りつけた。拘束されたトロールはもがき醜い声をあげる。ハリーとロン、そしてハーマイオニーはホッとした様子だ。

 

ウィルは蔑んだ目でトロールを見下しながら近づく。縄を引きちぎろうとするトロールを思い切り踏みつけた。彼が足をどかすと弱々しく鳴いた。

 

3人はウィルの突然の行動に絶句してピクリとも動かない。

 

それからウィルは無言でトロールをまた思い切り踏みつける。2発目で失神する。

 

それでもなおウィルは何度も何度もトロールを踏みつける。骨の砕ける音とピシャッと血が周囲に飛び散る。

 

「ウィル!もうやめて!」

 

ようやくハーマイオニーがウィルを止めようと声をあげる。だがまだ腰がひけて動けない。

 

ウィルは全く耳に入ってないのか、彼は何度も何度もトロールだった何かを踏み潰した。

 

「何事です!!!」

 

マクゴナガルら教師陣が騒ぎを聞きつけてトイレの様子を見て叫んだ。そして中へ入ってもなお状況を飲み込めない。

 

もはや顔の原型を留めておらず赤い血のみがトイレの床へ飛び散っていた。ウィルの靴は真っ赤に染まっている。

 

「ウィル!もう、おやめなさい!!!」

 

マクゴナガルが赤い何かがトロールだと気づき、止めに入ろうとする。だがそれに横入りするようにヌッとスネイプがウィルの上着を掴んで引き離した。

 

「マルフォイ、来るのだ。」

 

スネイプはなぜか足を引きずりながら、ウィルを強引にどこかへ連れていこうとする。

 

「セブルス、ウィルをどこへ連れて行くのですか?」

 

マクゴナガルがそれは自分の役目だと言わんばかりの表情をしている。

 

「吾輩の部屋です、なにか問題でも?」

 

「ウィルは私の生徒です。私が世話をします。」

 

スネイプは少し不快そうな顔をすると、抑揚のない声で言った。

 

「マルフォイと一番付き合いの長い教師は吾輩だ。奴の扱い方は心得ている。」

 

「ウィルは私の寮の生徒です。」

 

2人の間にバチバチと火花が散る。ウィルは2人の争いに興味がなさそうで、視線を斜め下へおろしている。

 

すると取り囲んでいた教師達が突然、左右に別れて道を開ける。すると奥からダンブルドアがやってきた。

 

「ミネルバ、ここはスネイプ先生に任せるがよい。」

「ですが、ダンブルドア先生!」

「スネイプがウィリアムを、マクゴナガル先生が3人から事情を聞くのじゃ。」

 

マクゴナガルはダンブルドアの言う事ならばと身を引いた。スネイプはウィルを掴んだまま引きずるように連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「愚か者め。」

 

スネイプの個室に着いてドアを閉めると同時に言われる。

 

「なにがあったかは聞かん。ただ熱りが冷めるまでは大人しくしておけ。」

 

スネイプは軽く溜息をついた。ウィルの父親であるルシウスは彼の先輩に当たる人物だ。そして学生時代から浮いていた自分を唯一評価してくれていた。

 

少し落ち着いたのか、ウィルは口を開く。

 

「先生、今の僕の中で一番高いレベルにあるのは守護魔法(・・・・)です。」

「そして、その反対は攻撃魔法(・・・・)であると?」

「えぇ…。」

 

ウィルは自分の行動が闇祓いに目をつけられぬように手を抜いていた。特に闇の魔術に対して最も距離をとり、更に最低限の攻撃魔法として失神呪文しか習得していない。

 

「今まではそれで良かった。ですが今回の件で悟りました。」

 

ウィルは少しの沈黙を保った。

 

「身を守る術だけでは耐えることはできても相手を倒すことができない。」

 

彼の防衛術はホグワーツの生徒の中でも飛び抜けている。彼はありとあらゆる難易度を問わず、本や文献を読みふけった。そしてそれに関する知識や技術は“闇の魔術に対する防衛術”の専門家ですら舌を巻く領域に達している。

 

だが裏を返せば、闇の魔術を一切知らぬという事だ。そして攻撃魔法は1つだけ、余りにも知識の偏りが大きい。

 

ウィルがトロールを踏みつけたのは皮膚の厚さから失神呪文が通じないと判断したためだ。そして自分の身に初めて訪れた殺し合いの場において自分の甘さを痛感した故の行動であり、万が一に備えてトロールを無力化させる為だった。

 

「信用できるのは貴方だけだ、僕に戦いの術を、闇の魔術を教えてください。」

 

脳裏にマクゴガナルの言葉がよぎった。ウィルはそれを押し込め、そしてスネイプに深々と頭をさげた。

 

スネイプは表情を何一つ変えない。

 

「ウィリアム、これから休日の夕食後、吾輩の部屋へ来い。お前の望む全てを授けてやろう。」

 

ほんの少しでさえ手を抜いていると判断できれば、即座にやめると宣言されるとウィルは部屋から出て行くよう言われた。



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クィディッチ

お待たせしてすみません。インターンやら選考やらでなかなか投稿できませんでした(土下座)

“名無しの権兵衛”さん、“しん宝島”さん、誤字のご指摘に感謝です!


ウィルとハーマイオニーが校舎を歩いていると目の前にハリーとロンがいるのを見つけ早歩きで2人に追いつく。

 

「やぁ、ハリー」

「あ、ウィル!それにハーマイオニー!」

「やぁ…。」

 

 

 

ハロウィンの事件後、ハーマイオニーとハリー、ロンは仲直りをしたらしい。彼女の性格も少し丸くなり、自分本位さが薄れた。

 

ダンブルドアはある生徒がトロールを制圧したと皆へ報告をした。ウィル達が関わったとは明言しなかったが、同室であるネビルが3人が部屋に戻らなかったのに気づき、監督生に報告し、やがてグリフィンドールの生徒達が探しまわったらしくバレてしまった。

 

取り囲まれ真相を尋ねられた際に隠す事ではないとウィルが事情の原因であるロンの軽口を伏せて話した。

 

寮内ではウィルだけでなくロンやハリーまでの評価も高まった。話を聞きたいと言ってくる上級生らに、ウィルは『これからハーマイオニーと図書館へ行くから』と断った。

 

だがロンだけは未だに懐疑的な様子でこちらを見ていた。

 

 

 

それはさておき、ウィルとハリーの2人は箒を持ってコートへと向かっていた。今日は2人のデビュー戦でもある。

 

表情の硬いハリーはいつもと変わらない様子のウィルをチラリと見る。

 

「緊張してる?」

「いや、全然。ただのお遊びって思えば楽になるさ。」

 

ウィルはさらりと言ってのけるとハリーはクスリと笑った。すると彼の両肩が少し重くなる。

 

「おっとマルフォイ家のボンボン様のおなりだ!」

「やっぱり言う事は違うぜ!」

 

赤毛で少しガタイのいい男の子が片方の肩に2人ずついる。まるで分裂したかのような感じだが双子である。

 

「やぁフレッド、ジョージ。俺は血を裏切る長男らしいぞ?」

 

ウィルは少し悪そうな顔を浮かべて自虐してみせる。そのまま『あまり期待しないでくれ。』と続ける。

 

双子は顔を見合わせ、同じタイミングでウィルを見る。2人はニヤニヤとした表情である。

 

「おやおや、弱気なのかい?」

「それともビビってる?」

 

「結果は出すさ、でも期待されてない方が相対的に僕の評価があがるだろ?」

 

煽ってきたのでウィルは軽く蹴散らした。すると双子はヒューと口笛を鳴らす。

 

「おっとウィリアム、お前には期待してるぞ。もちろんハリーもな。」

 

背後からグリフィンドールのキャプテンであるオリバー・ウッドが背後から追い抜いていった。

 

 

 

***

 

 

 

〜クィディッチ場〜

 

 

 

 

試合開始の宣言と共にクアッフルは宙へ投げられる。ウィルはウッドからの指示で即座にゴール前へ全速力で飛ばした。

 

クアッフルはグリフィンドールのアンジェリーナが掴み、ウィルへとロングパスをした。

 

パスの軌道のズレから箒を少し減速させ、移動してキャッチすると同時にクアッフルを思い切り対角線上の一番左側のゴールへと投げた。

 

スリザリンのキーパーはウィルの素早い動きに驚きつつも比較的、飛距離があったため指先で弾いてセーブをする。

 

グリフィンドール生のがっかりしたような声と反対にスリザリン生から盛大に歓声があがる。

 

 

 

 

スリザリンのキーパーはホッと安心した様子を見せた。だが目の端にクアッフルを掴んでいる人影を捉える。

 

それはウィルだった。彼は今度は正面から見て一番右のゴールへ向けて左手で投げ込んだ。キーパーは反応する間もなくクアッフルを見送ってしまう。

 

 

一瞬で歓声が収まって静けさが漂った。

 

『グ…グリフィンドールの得点!ウィリアム・マルフォイがやりました!!!』

 

そして実況がゴールと叫ぶと大歓声が沸き起こる。寮生は獅子の入った旗を勢いよく左右に振っている者やハイタッチをしている者もいる。

 

 

『先日のトロール制圧のニュース!これがグリフィンドールの期待の新人です!初戦から頭角を現しました!!!!』

 

 

実況のトークにグリフィンドールは更に盛り上がりをみせる。

 

だが教師陣の専用席でマクゴナガルは冷静にウィルのプレーを分析していた。

 

 

(あえてキーパーにボールを弾かせましたね。やはり天才でしたか…。)

 

 

 

ウィルは少しズレたパスの僅かな隙から確実にゴールを決められないと判断した。だからキーパーの指でかろうじて弾ける場所をついたのだ。

 

キーパーからすれば開幕での好セーブ、油断をしないわけがない。だがウィルからすれば弾かせる事が前提のプレー、それにクアッフルの位置はおおよそ予想できる。

 

 

 

それからもウィルはもう一度ゴールを決めたころ、スリザリンのキャプテンのマーカス・フリントがウィルをマークするよう指示を出した。

 

『あ〜っとクアッフルを掴んだウィリアムに2人がかりで挟み込んだ!』

 

 

同じ世代の中では体格に恵まれているウィルだが、成熟した上級生の左右からのタックルはかなり効く。それに腕を押さえつけるようにぴったりついているので、パスができない。

 

そして片方の選手が手を伸ばしてウィルから奪い取ろうとするのを目の端で確認すると、クアッフルを自分の目の前に軽くトスしてヘディングで前へ飛ばした。

 

パスを受け取ろうと前にいた自分のチームのチェイサーがボールを受け取り、ノーマークのままゴールを決めた。

 

 

試合はどんどん進み、マークを自分に引きつけ味方へパスをするプレーを貫き60対0の有利な状況だ。

 

スリザリンチームからクアッフルを奪ったウィルは自分の周囲にマークがいない事に気づいた。そしてそのままゴールへ向けて前進していると背後から何かが飛んでくるのを察知した。そしてビーターの棍棒を持って微笑を浮かべているフリントがいる。

 

だがウィルは想定内だと言わんばかりに急停止して、飛んでくるブラッジャーめがけてクアッフルを全力で投げつける。

 

ブラッジャーの端へ命中させると、軌道をズラして身を守る事に成功した。だがクアッフルは勢いよく弾かれる。ウィルはそれを取りにいくが間に合わず、コートの外へ出てしまう。最後に触れたのはウィルのため、スリザリンのボールとなる。

 

「チッ…。」

 

ウィルはイラついて舌打ちをするが、観客は拍手をしている。少し冷静に周囲を見るとハリーが左右に振り回されている。まるで人為的に落とそうとしている。

 

「審判!うちのシーカーが妨害を受けている!」

 

ウィルがそう叫んだ瞬間にスリザリンの観客席から大歓声が響いた。どうやらウィルのミスで得たチャンスでゴールを決められたようだ。熱狂している観客のほとんどはハリーへの妨害工作に気がついてない。

 

「はぁ、もう慣れたもんだ。」

 

ウィルがハリーの側へ移動して駆け寄っていると、ピタリと箒は大人しくなった。彼は安心した表情でいる。

 

「ハリー、早く試合を終わらせてくれよ?予習がまだ済んでないんだ。」

「任せて、今スニッチを見つけた!」

 

偶然、ウィルの背後に光り輝く黄金のスニッチがあった。

 

「そうか、行ってこい。」

 

ウィルは軽く手のひらをあげ、そしてハリーはそれを思い切りパーンとタッチしてスニッチを掴まえようと全力で加速をする。

 

 

そしてハリーはスニッチを掴み、2人の鮮烈なデビュー戦を飾った。

 

 

 

 

***

 

 

 

〜図書館〜

 

 

 

 

試合終わりにウィルは図書館での予習に勤しんでいた。だがいつもいるはずのハーマイオニーがいない。珍しい事もあるものだと1人で自習を進めていると、クィディッチの試合を観戦していたらしく興奮した様子の生徒達にヒソヒソと話のネタにされている。

 

噂にされるくらいで自習をやめる理由にはならないので、無視して続けていたが、やがて直接話しかけられるようになった。

 

彼は司書に追い出される前に荷物をまとめ、足早に寮へと戻る。部屋へ戻るとハリーとロンが少し大きな声でなにかを話していた。そしてウィルに気がつくと、ロンは何か言いたそうなハリーを止めるような仕草をする。

 

「安心するといい、何があったかは聞かないさ。」

 

ウィルはロンから信用されていないのだという確信を持った。こういう問題は時間が解決するだろうと考えたため、特になにもしなかった。

 



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憂鬱なクリスマス


お待ちいただいていた方々、遅くなり申し訳ありません。
ようやく就活を終えたので戻って参りました。
思っていたより非常に充実して楽しい時間だったと感じました。


 

 

 

 

ホグワーツ

 

 

 

小さな小粒の雪がパラパラと落ちている。地面は一面銀色の世界でそれを踏み荒すように無数の靴跡が刻まれている。

 

その日の朝から生徒達は授業ではなく、列車の中に乗り込む。

 

クリスマスの時期になると生徒のほとんどは帰路につきひと回り成長した姿を保護者に見せる。ポケットやバッグに多くの土産を詰め込み、各々の家のクリスマスのご馳走やプレゼントや思い出について語り合う。

 

 

 

このコンパートメントでも会話が産まれている。1人の女の子と2人の男の子だ。

 

「久しぶりの我が家ね、少し変な気持ちだわ。」

 

ハーマイオニーは初めての里帰りといった気分らしい、だが声色が少しそわそわしている事からクリスマスを楽しみにしているようだ。

 

「わかるよ、でも僕は少し憂鬱(・・)かな。」

「なぜかしら?」

 

ウィルはその様子に勘づいて少し笑みを浮かべながら答える。

 

「僕もだよ、ばあちゃんに小言を言われるって思うと怖くてしょうがない。」

 

ネビルはかなり冷や汗をかいており、厳しい祖母に恐れを抱いているようだ。

 

ハーマイオニーは軽く相槌を打ちつつ、ウィルの憂鬱という真意が気になった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

数時間後

 

 

〜マルフォイ家屋敷〜

 

 

 

 

 

マルフォイ家のクリスマスは毎年家族のみで行われる。日々の業務や名家同士の社交場の出席に追われるルシウスだが、この祝日ばかりは家族を最優先する。

 

 

 

暖炉からばちばちと火花が散っている。そんな暖かい部屋の前で“屋敷しもべ妖精”が用意した豪勢な料理に舌鼓をうつ。家族4人は音を立てず静かに上品に口へ運び続ける。

 

その静寂を破ったのはルシウスだった。

 

「色々と聞いているぞ、ウィリアム。」

 

ウィルは動きを止め、ルシウスの顔を見る

 

「優秀だと、お前をそう言う声ばかりだ。」

「ありがたい限りです、父上。」

 

少し安堵した様子でニコリと笑う。

 

「だがそれ以上に妙な噂(・・・)を聞いた。」

 

彼はそのまま矢継ぎ早に続ける

 

「“穢れた血”と交友関係にあると?」

 

無表情なルシウスとは打って変わり、妻であるナルシッサはヒステリックな表情を浮かべウィルを睨みつけた。マルフォイ家を含む純血主義思想を持つ者からすればマグルやその出身の魔法使いと親交を持つ事は禁忌に等しい行為である。

 

彼は彼女の表情を自分自身の反面教師とする事にした、自分自身も感情的になればこのような表情を浮かべるのだろう。

 

「・・・。」

 

ルシウスは手のひらをナルシッサに向けて、なにも言うなという示唆する。

 

「ウィリアム、お前は賢い子だ。わかっているな?これ以上は言わんぞ。」

 

「えぇご意見は真摯に受け止めましょう。」

 

ウィルがそう答えると重たい空気は終わりを迎えた。

 

「ドラコ、お前はどうだ?」

 

「聞いてよ、父上!ポッターが寮の代表選手に選ばれたんだ!」

 

先ほどの雰囲気を脱するためにドラコはあえて大げさに言った。ウィルは心の中で感謝する。

 

「それも聞いている、マクゴナガルが規則を曲げさせたようだ。」

「あいつは有名だからって皆が贔屓してるんだ!」

 

ウィルは少し気まずいような表情を浮かべドラコに視線を送る。自分から選手に選ばれたと報告するのは少し恥ずかしいからである。もしドラコが自分と同じ立場だったら意気揚々と両親に言うだろう。この時ばかりはウィルは素直なドラコの性格を羨ましく思う。

 

「あ、ウィルもチェイサーに選ばれた。」

 

ウィルの視線に気づいたドラコは空気を読む

 

「そうか、それは良い事だ。お前はもう少し息抜きを覚えた方がいい。だが・・・。」

 

ルシウスが一瞬だけ不快感を持った表情を浮かべている事をウィルは見逃さなかった。

 

なぜ私の耳に入ってきてない(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

先ほどまでとはいかないが再び重い空気が漂う。ウィルは脳内で最適解を探る。先ほどの会話から自分がクィディッチの代表に入った事は知らなかったらしい。だが規則を曲げた事を聞いていた事から、ハリーが代表に選ばれた事は把握していると推察される。

 

「実力不足ですね、私がポッターの名(・・・・・・)を超える戦果をあげていないからです。」

 

「そうか、これまで以上に励め。」

 

ルシウスはピシャリと言い放つ、どうやら答えはあっていたらしい。

 

「ルシウス!貴方はドラコがかわいそうじゃないの?」

 

ナルシッサは金切り声でルシウスに身を乗り出して抗議をする。

 

「仮にもドラコはウィリアムと同じコートでクィディッチをしてるのよ?それなのにこの子が選ばれないなんて!」

 

ナルシッサはドラコを溺愛している。それはあからさまで多少の親交がある者は皆が知っている。比較的近しい存在の大人達は彼女は自身に似ているウィルより自分の愛する夫のルシウスに似ているドラコの方に愛情がわくのだろうと思っている。

 

「ではどうしろというのだ?」

 

ルシウスは少し困ったようにナルシッサを見る。すると名案だと言わんばかりに満足気な表情を浮かべて口を開いた。

 

「セブルスに手紙を書けば済むでしょう?」

 

ルシウスは少し考えるような仕草をする。

 

「ふむ、だがセブルスはマクゴナガル以上に規則を尊ぶ、奴は当てつけに一年生は試合に出させないだろう。」

 

その言葉に不満そうな顔をしながらも渋々納得したように静かになった。

 

 

 

 

 

食事を終え自分の部屋に戻るとウィルはベットに寝っ転がる。見慣れた天井のシミを眺めながら彼は寂しそうな表情を浮かべる。

 

 

ウィルはずっと昔からナルシッサが愛しているのはルシウスとドラコだけであるということに気づいている。理由は多くある。今までに至る全ての経緯を踏まえ彼はあまり彼女の事が好きではない。だが少なくとも一般的な息子よりは尊敬と配慮はしているつもりだ。

 

 

 

ルシウスは基本的にウィルの行動や価値観を尊重してくれている。なぜなら彼は教育だけでなく全てにおいて完璧な環境を提供し、ウィルはそれに最大限に応え続けているからだ。

 

結果、責任ゆえの自由である。つまりそれは愛ではない。名家の次期当主として完璧な結果を残しているからだ。つまり裏を返せば完璧でない自分に価値はないという事だ。

 

 

 

ウィルはマルフォイ家に対して心苦しさを感じていた。環境に対して感謝もしている。だがなにかが足りないのだ。

少年は誰にも気づかれないまま心臓のあたりを手で優しくおさえた。



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賢者の石

お久しぶりです。この投稿から死の秘宝までのベース(流れセリフと戦いの全て)のメモを誤って消してしまい萎えに萎えて今までご無沙汰でした。

最近、死の秘宝のスネイプ先生の部分だけDVD鑑賞をし、モチベが少しアップしたので記憶を頼りにベースを雑にスマホにうち殴りました。

まだ勘が戻らないので以前と比べて違和感があったら教えてくださいな


 

 

クリスマスも終わりを迎えると、学年末のテストはすぐに訪れる。ほとんどの学生は寸前まで勉強せず、一夜漬けや優秀な友人に教えを乞う。数少ない例外であるウィルは時計台の中で1人、本を読んでいた。

 

理由は単純だ。人に教える時間がもったいないからである。彼は他者を学ばせるくらいなら自分の為に学ぶべき、そう考えていた。もちろん頼まれれば了承するが、極力は避けたい。だから人気のない場所を選んだ。読んでいる本はテスト範囲ではなく、自分が知りたいと思った魔力の性質付与の方法についての本だった。

 

彼は普段から勉学に励み、それらを記憶として定着させているのでテスト勉強をする必要がなかった。

 

事実、試験が始まるとウィルは一度も羽ペンを休めることなく、スラスラと問題を解き終えてしまった。そのまま用紙を裏返し、最近読んだ本の考察と得た知識の応用について脳内で思考した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数ヶ月後

 

 

 

少年少女は彼らしかいない狭い廊下で話し合いをしていた。

 

「今夜、石を守りに行くんだ。」

 

「ウィルにも話すのよ!」

 

「そうだ、手伝ってもらうべきだ。」

 

3人組のうち、2人はまくしたてるように意見を述べた。意見は一致したらしい。

 

「ダメだ。」

 

赤毛の少年は反対する。

 

「君たちはマルフォイ家について何も知らないんだ!」

 

2人はその言葉を聞いてまたかといったような表情を浮かべた。

 

「アイツの父親は“例のあの人”の最も有力な部下だったんだ!」

 

それは事実である。赤毛の少年は2人と違い魔法界で育っているため否が応でも噂は耳にする。

 

「ウィルはドラコ・マルフォイとは違う!」

 

眼鏡の少年は声を荒げて反論する。

 

「いや、それ以上だ!トロールを踏み潰した時のヤツの目を見たか!?」

 

その目には嫌悪ではなく恐れが映っている。

 

「ロン、これ以上彼の事を悪く言うのなら私は貴方を許さないわ。」

 

うんざりした様子で女の子はそう言った。少しイラついているようだ。

 

「・・・。」

 

赤毛の子は言葉に詰まった。そして少し不貞腐れたような表情を浮かべる。

 

「わかったよ。でも忠告はした!あと僕はアイツを信用してないからな?」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

数時間後

 

 

 

 

お昼の時間になり広場へ行こうとしたウィルはハリーらに呼び止められ、誰もいない寮のホールで彼らの話を聞いた。

 

 

“四階の禁じられた廊下”にある一室では賢者の石が隠されており、そこにはハグリッドの飼っている三頭犬が見張りをしているということを聞いた。

 

そして禁じられた森でユニコーンの血を吸うヴォルデモートを目撃した。さらに彼はスネイプを使って賢者の石を狙っているのではないかということだ

 

スネイプには足を何かに引っ掻かれたような傷があり、そしてクィディッチにてハリーを箒から落とそうと魔法をかけた。更にクィレルを脅すような発言をしたのを見たらしい。

 

 

 

 

 

(“賢者の石”ねぇ。)

 

ニコラス・フラメルによって作られた石だ。これによって生成される命の水は飲んだ者の寿命を伸ばす力を持つ。

 

身体を失ったヴォルデモートはその恩恵を受けて復活するのが目的というらしい。

 

「OK、把握したよ。」

 

ウィルは一度も口を挟まず淡々と話を聞いた

 

「まず僕は根拠に基づいた内容、そして自分の目で見た内容しか信用しない。」

 

それが全て正解だとして、彼はそういうと冷静な意見を述べ始めた。

 

「まず僕らが守る理由は?足手まといにしかならない。敵に捕まって人質になれば?」

 

彼はすらすらといった。

 

「もちろん一番の最適解は教師陣に伝える事だが・・・」

 

「それはやったよ。マクゴナガル先生に言ったら取り合ってくれなかった。」

 

ロンが遮るように結果を話した。

 

「だろうな。」

 

当然だというような顔だ。

 

「それにダンブルドアもいない。だから僕らが行くしかない。」

 

「だからウィルにもいっしょに来て欲しいの。」

 

 

 

 

(厄介な事を持ち込んできたな。)

 

ウィリアムは素早く頭の中で思考を練る。

 

もちろんヴォルデモートの復活は阻止したいが、失敗した場合は?ルシウスは死喰い人として動いていた為に、今の状況をみれば裏切り行為とみなされるかもしれない。

 

なにもしないのが無難ではあるが、それは今後の学生生活を考えれば避けなければならない。

 

 

(動いても動かなくても不利な状況だ。)

 

 

 

動くにしても・・・

 

(コイツらは邪魔だ。)

 

 

ウィリアムは瞬時に可能な限り最も正しい結論を導き出す。

 

「仮に敵がいて“賢者の石”を奪う際に君達でなければならない理由があるかい?」

 

その言葉に3人は口をあけた。使命感からかその発想がなかったらしい。

 

「未熟な、一年前まで呪文の1つも使えなかった子供達が教師陣が罠を張るほどの敵に勝てるとでも?」

 

なにも言えない3人に対してウィルは更に続ける。

 

「少なくともハリー、君は絶対に行くな。“例のあの人”からすれば真っ先に殺す。石を得て復活した事を世間に示すなら一番良い宣伝になるからだ。」

 

遠回しにお前達では何もできないということを伝える。

 

「じゃあどうすればいいんだよ。」

 

ロンは目を細めて言った。

 

「僕が行く。優秀な上級生と一緒にだ、マルフォイの名前は影響力があるんでね。」

 

ウィルはそう言うと寮の外へ出て行く。

そして3人はただ時間が過ぎるのを待つ事となった。彼らは歯がゆい思いをしながらも自分達よりウィルの方が適任だとわかっていたからだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

〜禁じられた四階の廊下〜

 

 

 

 

 

カツンカツンと1人分の足音が誰もいない暗い廊下に響く。そして部屋の前につくと魔法で鍵を開け、中へ入る。

 

そこには退屈そうに寝そべっていた頭が3つもある巨大な犬の怪物だった。瞬時に敵だと判断した怪物は威嚇をするように唸る。

 

 

「第一の関門、ケルベロス。」

 

 

ウィルはいつも通りの表情で足取りも普段となんら変わりない。

 

「弱点は音楽、そして・・・」

 

 

 

ポケットから3つの蜂蜜バターのマフィンの入った袋を取り出した。穴の奥を刺激するような香りが漂っている。

 

三頭犬は目を大きく開きつつも威嚇をし続けている。だが鼻はヒクヒクしており、強い香りをくんくんと嗅いでいる。

 

「なに、お前達の為に持ってきたんだ。」

 

ウィルは1つずつ手にとって黄ばんだ巨大な牙を持つ口に投げていく。3つの犬の頭は反射的にパクリと口にしていく。

 

モグモグと噛むと、すぐに呑み込んだ。すると突然4本の脚の力が抜けた。そして3つの犬はぐったりとした様子で顎を突き出してゴロンとしている。

 

「悪いね、筋弛緩剤が入れてある。」

 

ウィルは魔法薬学で得た知識で薬を調合し、蜂蜜バターのマフィンに仕込んでいた。可能な限り無臭になるよう努めたので、自信はあったがうまくいく保証はなかったので安心した様子だ。

 

「大丈夫、少し休めば効き目は取れるよ。次は何も入ってない大きなマフィンを焼いてきてやるよ。」

 

そういうと彼はケルベロスの足元の扉を開けて飛び降りた。



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闇の帝王

 

 

 

単身で乗り込んだウィルは困惑していた。

 

最悪の場合ここで詰む可能性があると判断したからだ。

 

彼にはゆらゆらとした太く巨大なツルが巻きついて離さない。いつ絞め殺されるかわからないような状況である。

 

これは“悪魔の罠”、暗闇と湿気を好む植物である。生き物を絞め殺す性質があり、魔法使いが餌食になることも少なくない。弱点は光と炎である。

 

ウィルはそれを知っていながらも即座に行動に移せなかった。それはあくまでもこの植物が罠ではなく、囮ではないかという事が考えられたからである。

 

光を探知すれば発動する罠や火によって爆発する薬物をツルに塗られている危険があると判断した。少なくともウィルならそうする。

 

とはいえこの植物の性質を知らなければこのまま絞め殺されるか拘束される。

 

まさしく“悪魔”

 

だが天性のセンスを持つウィルは罠を回避しつつ逃れられると確信していた。

 

「“ルーモス・マキシマ(強き光を)”」

 

巨大なツルは眩いほどの光を嫌いすぐさまウィルを解き放った。瞬間的に体制を整え重力に逆らわず落ちる彼はすぐさま自らをまるで球体のように360°覆う盾魔法を発動する。

 

 

だが青白い光の盾が攻撃を受けとめることはなく、スタンと地面に足がついた。

 

ただの深読みだったらしい。

 

ウィルは光探知によって的を絞らせない為に巨大な光を放ち、なおかつ攻撃を防げる盾魔法を使ったのである。

 

杞憂に終わったが彼は深く反省した。地面に降り立った瞬間に発動する罠や毒だまりなどを設置されていたら自分は詰んでいた。

 

 

 

「まだまだだ。」

 

 

そうつぶやくと彼は次の罠へと向かった。すると一本の箒と鍵のついた扉のある部屋だ。

 

空を見上げれば羽のついた鍵が無数に空を飛んでおり、目がチカチカする。一見全ての鍵は同じように見えるが鍵の形は様々である。

 

全ての鍵を捕らえて試すのは効率が悪いと判断して彼は鍵穴を覗いた。暗くてよく見えなかったのでよくわからない。

 

彼は鍵穴に入る程度の水を丁寧に放ち一気に凍らせた。試しに捻るも鍵は開かない。

 

「“レダクト(粉々)”」

 

ウィルはドアノブへ向けて放つと破片は周囲へ飛び散った。そして床に落ちている氷を手にとると鍵の型を見る。

 

「“レパロ(治れ)”」

 

そしてドアノブを治してしまった。すぐさま箒にまたがり、無数の金属の中からそれを見つけるとすぐさま掴んだ。

 

クィデッチで鍛えられた動体視力がこんなに早く役に立つとは彼は思わなかった。心の中でマクゴガナルに感謝すると鍵を開けて次の部屋へと向かった。

 

 

 

 

次の部屋は多種多様な石像が並んでいる。剣を持つ人の像、馬の形や塔のようなものまである。床を見れば均等に並ぶ升目だ。

 

 

 

「チェスねぇ。さっきから随分と簡単な試練だと思うのは気のせいかな?」

 

 

ウィルはそうつぶやくとゲームを開始した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

1時間後

 

 

 

 

 

 

あれからウィルはチェスを容易くクリアした。そして次の試練である巨大なトロールを軽く気絶させ、論理クイズを突破した。

 

最後の部屋と思われるところにつくとそこには巨大な鏡が佇んでいた。何の変哲も無い部屋だ。罠だろうと思いつつもウィルはその鏡に映る自分自身の姿を見た。

 

 

 

ウィルは思考力が完全に停止した。それだけの威力があったのだ。それは誰にも話した事がない自分自身の望みだった。

 

「なぜだ、貴方は僕が殺した(・・・・・)はずだ。」

 

ウィルは素早く背後を振り向いて杖を向ける。だがそこには誰もいなかった。

 

 

 

【みぞの鏡】

 

 

鏡にそう書いてある。つまりは“のぞみの鏡”、鏡を見たものは自分自身の望んだ姿を映すというわけだろう。

 

そこにウィリアムが望んだ何かが映っていた。それは彼を激しく動揺させる。

 

 

 

 

「まだ僕はひきずっているのか。」

 

ウィルは寂しそうに声を殺して囁いた。

その姿は小さな子供のようだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

2時間後

 

 

 

 

 

ウィルは相変わらず鏡の前で自分の姿を眺めていた。だが魅せられたわけではない。今日中まではこの部屋で待機するつもりだった

 

もちろんその時間を無駄にはしない。この殺意のない罠の理由を突き止めた。

 

 

 

この罠の目的はおそらく“侵入した者を閉じ込めること”である。

 

 

控えめな難易度は手軽に侵入できるようにする為だろう。攻略が難しければ下準備なくして突破は不可避、つまり敵を校内に野放しにするという事だ。

 

だからこそ侵入者に探し物はここだと知らせる為に都市伝説のように“禁じられた廊下”として規則に加えたのだろう。

 

悪ふざけで入った生徒を追い払う為に鎖に繋がれたケルベロスを設置したのだ。

 

またわざわざ見張りをつけず、校長は敢えて皆へここへは近寄るなと言ったのである。

 

全てはヴォルデモートの僕を奥へ奥へと誘導して閉じ込める為に・・・

 

 

 

 

 

 

「人の事は言えないが、迂闊とは思わなかったのか?」

 

 

限りなく気配を消した侵入者に対してウィルは静かに話しかけた。彼はゆっくりと振り向くとその人を目に捉えた。

 

 

 

一目で頭に巻かれたターバンが目に入る。

 

【闇の魔術に対する防衛術】のクィレルだ

 

 

 

 

 

 

 

「マ、マ、マルフォイ君?なぜここに。」

 

吃音症のようにクィレルは言葉をつっかえて話しかけた。ウィルは罠に侵入した自分を連れ戻しに来たのだと思った。

 

だがそれが違うという事を彼はすぐに思い知らされることとなる。

 

『マルフォイだと?』

 

まるで全身の毛が逆立つかのような錯覚を覚えるほどの恐ろしい声だった。反射的に身構え杖を強く握りしめる。

 

「えぇ我が君、ルシウスの息子です。」

 

クィレルは自分の方を向いていながらも目が合わない。誰に話しかけているのだろう。

 

「誰だ?どこに隠れている?」

 

クィレル、俺様直々に話をさせろ。』

 

クィレルは無言で自分のターバンを緩めて解き始めた。やがて全ての布が床へ落ちる。そしてゆっくりと背後を向くと後頭部に恐ろしい顔をした男の顔だった。

 

肌は青白く、鼻には切れ込みがあり赤く蛇のような鋭い瞳だ。

 

さすがのウィルも狼狽える。想定していたとはいえ、思っていたよりも遥かに恐ろしい姿だった。

 

 

「闇の帝王、なのですか?」

 

醜い姿だろう。」

 

その言葉にウィルは何も返せない。肯定も否定もすることができなかった。

 

「・・・証明することは?」

 

必要か?俺様のしもべの小倅ごときに?

 

言葉の1つ1つがウィルの身体へ重くそして深くのしかかる。これが史上最も強力な闇の魔法使いの威圧感・・・

 

 

(老いて、衰弱しきってこの魔力。)

 

 

 

 

己が才に恵まれた存在だからこそわかる

 

その領域に辿り着くまでの才能と時間そして労力を・・・

 

ウィルは今まで浴びてきた殺意が他愛のないものであると知り、そして初めて本物の殺意を感じた。

 

だが当人はそれを自分に向けてすらいない感覚だろう。身体に染み付いて離れないほどの殺気だ。備わっているのだ。ただ存在するだけでそう感じ取れるほどのオーラ。

 

 

 

 

 

 

(本物の怪物だ、勝てるわけがない)

 

 

 

ウィルは素直に杖を地面に置いた。そして両手をあげて可能な限り後ろへ下がった。

 

「降参です。」

 

 

(今は無理だ、クィレルが油断している時なら倒せる。)

 

 

ウィルは心の中でそう言った。

 

ほぅ、まだ勝機があるようだ。クィレル、杖を奪え。

 

 

ウィルは目を大きく見開いた。瞬時に自分の心が読まれた。“開心術”だ。

 

“開心術”、それは相手の心をこじ開けて思考や感情、そして過去までも見透かす事ができる魔法だ。

 

それに気づいたウィルは素早く心を読まれまいと強い意思を持つ。“閉心術”である。

 

 

ヴォルデモートはとても不気味ながらも愉快そうに笑った。

 

生意気なガキめ。俺様の開心術に抗いおったわ。

 

ヴォルデモートの魔法を拒みながらもウィルは絶望していた。

 

彼の衰えた魔力、更に杖を持たず、それどころか無言呪文でこの領域にあるということ

 

全盛期であればどれほどの力を有していたのであろうか・・・

 

 

 

だが見えたぞ、ウィリアム・マルフォイ。お前は愛に飢えている。

 

ウィルは自分の名前と心の奥底に秘めた感情を見抜かれていた。

 

それを知識を喰らう事で紛らわしておる。空気をいくら吸おうとも腹は満たされない。哀れな男だ。

 

完全に図星だった。家族でさえ見抜けなかったそれをこの男は一瞬で言い当てた。

 

愛など存在しない、それは幻想だ。力とは満たすのではない、解き放つのものなのだ。俺様がお前に意味と居場所を与えてやる。

 

底知れないほどのカリスマ性、彼にとって自分など捨て駒の1つに過ぎないのだろう。だが不思議と心が軽くなったような感覚を覚える。

 

我がしもべとなれウィリアム・マルフォイ。

 

彼は無言で左腕の裾をまくるとヴォルデモートに差し出す。

 

ヴォルデモートは愉快そうにニヤリと笑みを浮かべた。

 

俺様の復活の暁にはお前に紋章を授けてやろう。

 

 

ウィルはヴォルデモートの魔力と囁きに心を折られかけていた。だが突然膝が崩れそして地面に倒れてしまった。どうやら身体が無意識にウィルの意識を切断したらしい。

 

 

 

 



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分岐の日

ベンKさん、沢山の誤字脱字修正に感謝します。


 

 

目を覚ました時、そこは暗闇だった。

 

 

身体の感覚を辿れば闇の帝王と会ってから数時間しか経っていないようだ。まだ身体の疲労はしっかり残っている。

 

意味もなくぼんやりしていると段々と視界がクリアになる。

 

知っている天井だった。飛行訓練の後にここに来たことがある。白く塗装されながらも所々シミやヒビが入っている。医務室だ。

 

特有の薬の香りが鼻をくすぐるが、すぐに慣れた。

 

やがて彼はゆっくりと身体を起こす。そして記憶を辿っていく。それから恐る恐る左手の裾をめくる。布団の中にもぞもぞと手を突っ込み杖を取り出した。

 

軽く深呼吸をして気持ちを整えると呪文を唱えた。すると杖の先に小さな光を灯し、彼の腕を照らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには傷ひとつない綺麗な腕(・・・・・・・・・・)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがあのまま何も起きなかったはずはない

 

「どうなった?」

 

彼は居ても立っても居られず立ち上がるとそのまま扉へと向かった。確実に規則違反であるはずなのに彼はその発想すらなかった。

 

すると突然勝手に扉が開いた。中から現れたのは白くて長い髭をたくわえ、半月型の眼鏡をかけた高齢の魔法使いだ。

 

 

アルバス・ダンブルドア。この世で最も偉大とされる魔法使いだ。

 

かつてヴォルデモートが唯一恐れるほどの実力を持つ。

 

 

 

「ウィルよ、すっかり良くなったようでなによりじゃ。」

 

ダンブルドアはまるでウィルの行動を予測したかのように現れた。

 

「お腹も空いたろう、儂の部屋に来るといい。」

 

ダンブルドアは好々爺のように笑顔を浮かべ背を向けて歩き始める。ウィルは彼に素直に従って行く。

 

 

とある廊下のオブジェの前に来ると彼は校長室の合言葉を自然に唱えた。彼は儂の目を盗んで忍びこむでないぞと冗談を言う。

 

ウィルを中へ招き入れると暖かい紅茶と茶菓子を振る舞った。そしてダンブルドアは一休みすると本題に入る。

 

彼が気を失った後の話だ。一向に帰ってこないウィルを心配した3人組が“禁じられた廊下”の部屋へ侵入し、罠を突破したらしい。

 

そしてハリーが一人でヴォルデモートとクィレルに立ち向かい打ち破ったそうだ。

 

「そう・・・ですか。」

 

ウィルは心の奥深くからどす黒い感情が溢れて渦巻いていく。だが悪意ではないようだ。

 

彼が抱いたのは底知れないほどの自分への怒り(・・・・・・)だった。

 

物心ついた頃から自分は全てを尽くして努力してきた。敵から全てを守る力を持ち合わせている自信はあった。それなのにヴォルデモートと相対した瞬間に自分は立ち向かう気力すら残っていなかった。

 

それに対して自分より遥かに劣るはずのハリーポッターには立ち向かう勇気があった。それどころか彼らを退けてみせた。

 

自分はなんという無様な結果を晒してしまったのだろう。

 

もしかしたら彼は幸運だったのかもしれない。だが結果は結果だ。客観的に見れば、しくじった自分と偉業を成し遂げたハリー。

 

己の歯がギシギシ音がするほど食いしばり、身体中の血が沸騰するかのような感覚を覚えた。それ程にまで自分の行動に対して怒りを、底知れないほどの怒りを抱いていた。

 

ウィルは隠す気などさらさらなかった。正確に言えば隠すという事ですら忘れてしまう程の怒りを自分にぶつけていた。

 

ダンブルドアは真剣な眼差しでただ見つめ続ける。

 

長い間、沈黙が訪れる。5分なのか10分なのかわからない。

 

 

 

 

 

 

「なぜ君は賢者の石を求めたのかね?」

 

沈黙を破りダンブルドアはそうウィルに問いかけた。表情は固く返答次第ではどんな対応を取られるかはわからない。

 

 

「・・・、あの鏡の仕掛けですか?」

 

 

ウィルはダンブルドアの瞳をジッと見て口を開く。

 

あの【みぞの鏡】の仕掛けについてだ。おそらく“賢者の石”を望まない者にしか手に入れることができないように細工したのだろうと考えていた。

 

つまり自分は“賢者の石”を求めたという事だ

理由はわかる。

 

「明言はしたくないですね。 」

 

彼は少し冷めた表情で答えた。

 

「ならばヒントをくれんかね?今のわしの中でクイズがブームでのう。」

 

ダンブルドアは少し笑顔を浮かべて追及する。彼の“開心術”ではウィルの頭の中を見透かす事ができないからだ。

 

ウィルは少しだけ時間をとる。そしてすぐにヒントを伝えた。

 

「僕には生きる事において目的があります。それを前提としてのヒントです。」

 

「1つ目は本からの解放(・・・・・・)、そして2つ目は自分を知ること(・・・・・・・)。」

 

ウィルは正直に答えた。その賢者の石さえ手に入れて永遠の命を得ればそれらの解決は時間の問題となる。

 

するとダンブルドアは2度小さく頷き、そして真剣な表情で口を開く。

 

「ではわしが君に対して懸念であると、同時に安堵しているものはなんだと思う?」

 

「・・・。」

 

ウィルは少し困ったような表情を浮かべる、それにダンブルドアは言葉を濁し過ぎたと思ったらしい。

 

「わかりやすく言えば、望むと同時に望まないことは何かということじゃ。」

 

「どういうことですか?矛盾してる。」

 

 

ウィルは全くもって答えがわからなかった。

 

 

「そうじゃ、ではわしも2つだけヒントを・・・。」

 

ダンブルドアはピクリとも表情を崩さない

 

「1つ目は君が全ての人々を友として(・・・・)受け入れるかどうか。」

 

(それがどうして懸念になる?)

 

謎が更に深まった。

 

 

「2つ目は自分の力の全てを解き放つ(・・・・)かどうかじゃ。」

 

これには心当たりがあった。そして1つ目と2つ目が結びつくとすれば答えは1つしかない。

 

「わかるじゃろう?君はまだ揺れている。矛盾(・・)、それこそが君じゃ。」

 

ダンブルドアの瞳には確実に自分を見極めようとしているのだとウィルは気づく。そしてこの問いかけに対して偽る事は悪手だと考え嘘偽りなく答えると決めた。ダンブルドアもまた心の内を隠さず自分と向き合っているのだと感じた。

 

 

「僕が“闇の帝王”の部下になると?」

 

「そうじゃ、だが部下で済めば(・・・)まだよい。」

 

その言葉にウィルは戸惑いを覚えた。自分の想定を超えてきたからだ。あの時ヴォルデモートは自分を部下にしようとした、それよりも危険な場合があるのか。少なくとも自分には見えていない可能性をダンブルドアは見据えている。

 

「僕が彼の何になると?」

 

「最悪の場合、奴の隣に立つ(・・・・)可能性があると儂はみておる。」

 

ウィルは目を見開いた。今まで彼に警戒されていたのだと察した。つまりそれは疑うという事だ。教育者として最も破ってはいけない規律の1つに数えられるだろう。だからこそダンブルドアは自分に対して心の内を伝えたのだと思われた。

 

「だが君はヴォルデモートには(・・)ならぬ。君は愛を知っておる。誰かの為に生きる事ができる。」

 

「ならば懸念はないのでは?」

 

少し拍子抜けしたように言った。

 

「かつて奴と同じくらい危険な魔法使いがいたのじゃ。」

 

彼の瞳の奥には僅かに悲しみが帯びている。話すことに対して少し抵抗があるらしい。

 

「ヴォルデモートは恐怖で死喰い人(デスイーター)を従えた。だがその男は自らに従いたいと思わせる。」

 

「・・・グリンデルバルド(・・・・・・・・)?」

 

ウィルの答えにダンブルドアは間髪いれず言葉を入れる。

 

「さよう。儂は君に()を重ねてしまう。」

 

グリンデルバルド、ヴォルデモートより前の時代で最も凶悪とされた闇の魔法使いの名前である。ダンブルドアが決闘で彼を討ち破るまで各国で彼の信仰者が暴れていた。

 

 

「普段の君は機械に感情を吹き込んだような男だ。仕込まれた術を全て受け入れ吸収する、だがふとした瞬間に壊れてしまう。」

 

ウィルは心当たりがあった。怒りなどによって感情が湧き上がった際にそれを心の内に仕舞う事ができなくなる。

 

 

「君にその気がなくともヴォルデモートは君を欲しがる。初めて自分と同じ仲間(素質)に出会ったのだから。」

 

 

 

 

 

 

ウィルにとってこの日は、この世で最も強力な2人の魔法使いと初めて言葉を交した記念すべき日となる。

 

そしてこれが彼の運命を分岐する最初の出来事である。

 

 

やがてこの幼き少年もこの2人に匹敵する実力(・・・・・・)を自らの素質と血の滲むような努力でその領域に至るまで昇華させる。

 

だが今ではほんの小さな子供に過ぎない。

 

そして遠くない未来にこの3人は各々の勢力の首領として闘いの中に身を宿すこととなる

 

 

 

 

だがそれもまだ先の話だ。

今はまだ教え子と生徒の関係だった。

ダンブルドアのこの決断が彼をどう変えたのかは誰もしらない

 

 

 

 

 

 

 





他の文が雑で申し訳ないです。
後日、体内に修正しておきます。
なんか消してしまったのと比べて違和感がある、、、


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エピローグ

数日後

 

 

 

 

 

 

ハリーも医務室にいたようでウィルの次の日に退院したらしい。ハーマイオニーと再会した時、彼女にもの凄く怒られた。危険で思い上がりな行動だと、それについては反論の余地はなかったため素直に謝った。そして自分を助けに来てくれてありがとうと3人に礼を言った。

 

テストを終えてすぐに寮対抗の優勝杯は校長の粋な計らいもありグリフィンドールが獲得することとなった。

 

 

 

 

まもなく入学して最初の別れが訪れる。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

〜列車の中〜

 

 

 

 

 

 

学校からキングズクロス駅へ向かうのは初めてだ。帰りの風景は行きと同じではない。

 

この一年で生徒達は大きく成長した。大きくなれば見える景色も違う。

 

だがウィルの景色は来る前と変わらない。強いて言えば机に積み重ねられた本達が分厚くそして古臭くなったくらいだ。

 

1人でコンパートメントに座り、そして本の中身に深く没頭していた。眺めるのではなく全てを頭の中に叩き込むように。

 

そして鍵をかけ誰の侵入も許さない環境を作り上げていた。

 

すると1人の生徒が扉を開けようとガチャガチャする。杖を取り出して鍵をこじ開けた。

 

その音で初めてウィルは外にいる2人の生徒に気がついた。つい笑みがこぼれる。

 

「ここにいたのね、鍵まで閉めて。なにを読んでるの?」

 

ハーマイオニーだ。そして後ろにハリーもいる。ウィルは中へ迎え入れマルフォイ家から定期的に送られてくるお菓子を差し出す。

 

「えぇっと・・・【古代魔法陣】、【混沌の儀式】、【魔力の後ろめたい使用法】、【危険植物の培養と利用】。」

 

 

ハリーはタイトルを詠みあげる。その危険そうな香りに少し引きつつウィルの目を見る。彼は笑いながら口を開く

 

「“禁書の棚”の本だ。マグゴナガル先生に許可を得て貸し出してもらってね、もちろん闇の魔法に対抗するには知る必要があると思ってね」

 

これは見なかったことにしてくれとバツの悪そうな顔をする。それらの本を鞄の中へ丁寧にしまった。

 

ダンブルドアは先日の件からマグゴナガルに対してウィルに禁書の棚を自由に閲覧させるよう言った。

 

愛を知るウィルは闇に堕ちないと信じる事にしたのかもしれない。

 

 

それからは世間話や夏休みについての話をしていった。その中でロンは同じ寮生のトーマス・フィネガン達と一緒にいると聞いた。

 

 

 

列車が半分くらいに到達した頃沈黙が偶然訪れ、ウィルは重い口を開く。

 

「・・・ハリー、聞くべき事じゃないのはわかってる。」

 

ウィルはある答えを求めていた。ずっと引っかかっていた。自分にはないもので彼には備わっているもの、

 

「僕は“例のあの人”と会った時、一瞬で心を折られた。君はなぜ立ち向かえた?」

 

ひとえに勇気、勇敢と言っても簡単に身につくものではない。持ち合わせないからこそ彼に聞きたかった、惹かれた。

 

ウィルは現実主義、勝てぬ敵には挑まないし戦わない。力を蓄えたり、間接的に排除する方法を選択したりする。

 

今まで勝てない敵に挑むのは愚か者のする事だと蔑んでいた。

 

だからこそ知りたかった。運が良かったのかもしれない、もしかしたら運命なのかも

 

困難な敵に挑むことしかできない状況下にあればウィルは可能性を捨てて死を選ぶ。無駄に苦しむよりはよほどいいと知っている。生き残る為に戦うという選択肢を捨ててしまう

 

少なくともハリー達がいなければ自分はどんな目に遭っていたかわからない。

 

「・・・君がいたからだよウィル。」

 

ハリーは照れ臭そうに言った。それからハーマイオニーにロンもいたしねと早口で言う。

 

ハーマイオニーはハリーを見てニコリと笑うとウィルの方を向く。

 

「ハリーの言う通りよウィル。貴方の選択は愚かだったわ。」

 

その通りだと言うようにウィルは薄っすら笑顔を浮かべる。

 

「君には僕らがついてる。」

 

ハリーは満面の笑みで言った。

 

「・・・ッッッ!?」

 

その一言にウィルは瞬時に表情を硬ばらせる。そして戸惑った。自分の心にだ。

 

 

 

ウィルはその言葉で心が澄み渡ったような気がした。打算や駆け引きなど必要のないフェア(対等)な関係、本当の意味で友となれた。

 

 

(あぁ僕はきっと闇の帝王にはならないだろう。)

 

ウィルは静かに天を見上げた。

何かをこぼさぬように

 

 

 

一滴でもこぼしてしまえば

また感情が壊れてしまう気がした

僕は強くならなければ

彼らを護れるほどの強い力を

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜キングズクロス〜

 

 

 

 

 

汽車がキングズクロス駅に到着した。ハリーとハーマイオニーに手紙を書くよと伝え、そして名残惜しく別れた。

 

そしてウィルはドラコと事前に指定していた場所で待ち合わせた。彼からいけ好かないグレンジャーの話は父上にしてないとこっそり囁かれた。ウィルは弟に感謝と共に何か礼をせねばと考える。

 

事前に手紙で迎えにくると言っていた時間になるとルシウスが“姿現し”で現れた。瞬時に別の場所へ移動できる技術だ。年齢制限や試験などがあり2人にはできない。

 

「久しぶりだ。では早速帰ろうか。ここはマグル臭くて堪らん。」

 

そのまるで汚物でも見るかのような表情で周囲を見渡して吐き捨てるように言った。そして2人はルシウスの腕を掴んだ。

 

空間がねじれるようにうねり、そして内臓が震えるような感覚を覚えた。するとマルフォイ家の屋敷の前へと到着している。ドラコはえずいていて気持ち悪そうだ。

 

「ドラコ、お前はひとまず中で休め。ウィル、お前には大事な話がある。」

 

有無を言わせないような圧力が言葉に詰まっていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

〜マルフォイ家の一室〜

 

 

 

 

ルシウスは妻であるナルシッサに会わせる前にウィルを奥の部屋へと連れて行く。中で“しもべ妖精”が掃除をしていたがすぐに出て行けと命じる。そして出ていく背中に向けて盗み聞きなどするなとも言った。

 

 

 

 

「ウィリアム、闇の帝王に会ったというのは本当か?」

 

ルシウスはホグワーツの理事の一人だ。だからこそ学校の事はおおよそ知っている。

 

「えぇ会いました。」

「あの御方はなんと?」

 

かなり食い気味に質問する。ずっと気がかりだったのだろう

 

「私を“死喰い人”にしてくださると、あと父上の事は何もお触れになりませんでした。」

 

ルシウスは安堵したような、そして期待したような視線をウィルに向ける。後ろめたい行動が不問とされる可能性があると考えた。親の色目抜きにこの才能は素晴らしい。

 

今ここで“死喰い人”として更なる教育を施せば家を守れるだろうと考えた。

 

「お前には1つ壁を超えてもらう。」

 

ルシウスはそう言うと部屋を出た。そしてそれから2日間は元々あった予定を全てキャンセルし、行き先を告げず外出をした。

 

 

 

自室でホグワーツから借りてきた本をフクロウ便で送ろうと丁寧に包装しているとドアをノックされる音と共にルシウスが重く真剣な表情を浮かべて着いてこいと言った。

 

ウィルは直してあった杖を取りだし父親の背中を追った。

 

 

マルフォイ家には入ってはいけないとされる部屋が2つある。1つは倉庫、これは闇の魔術の品が多く存在するからだ。

 

そしてもう1つは地下にある。なぜなら地下牢だからである。今はほとんど使われていないが昔はマルフォイ家に逆らう者を攫ってきて監禁に拷問や、そして殺害をしていた。

 

そこの最深部でボロボロの服を着た老人がにこやかに座っていた。ボロ布でつぎはぎにされ所々虫食いにあっている。見るからに浮浪者のようだった。

 

伸び放題の白の髪と髭に黄ばんだ歯を見せてニカッと笑う。

 

彼は椅子に座らされて両手両足に手錠がはめられている。この状況を理解していない事から痴呆を患っているように思えた。

 

「コイツは奴隷商から買い取った、足がつく事はない。」

 

 

今の世でも人攫いは存在している。彼らは常に闇祓い達に追われているがそれらを掻い潜り悪事を働いている。ウィルはルシウスが夜の街(ノクターン)横丁で死んでもいい人間を捜していたのだと気づいた。

 

 

殺せ(・・)、呪文は知ってるだろう。」

 

ルシウスは吐き捨てるように言った。彼は心が激しく痛んでいた。元死喰い人の有力者の一人として暗躍していたが人を殺すには勇気と折れない心がいる。年端もいかない息子にできる限り背負わせたくなかったが家の為、そしてウィリアムも理解してくれると考えた

 

アバダ・ケタブラ(息絶えよ)。」

 

彼はなんの躊躇もなく呪文を放った。緑色の閃光は老人の頭を貫き、そして命を奪った。

 

ルシウスは表情を硬ばらせ動けなかった。

 

「満足ですか?僕がこれを唱えたのは2回目(・・・)だ。」

 

そういうとウィルは老人の亡骸に背を向けて自分の部屋へと戻って行く。あまりの躊躇のなさにルシウスは息子と目を合わせることすらできずただ立ち尽すしかなかった。

 




賢者の石編は終了です。
よろしければモチベ向上のため感想ください。



試しにやってみました、気が向いたらお願いします。



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賢者の石編の設定・振り返り・解説・伏線

*ほぼ連続投稿です。23話が最新話となります。



最新話(23話)のアンケートの結果を見てお試し投稿です。

設定と振り返りだけでは文字数が足りないので、主人公や3人組とのイメージも解説を追加します。

*勝手なイメージなのでご了承ください。自分とは違う!という人は感想欄で語り合いましょう






【注意】




最後のあとがきに伏線を挙げておきます。見たくないという人は途中で切り上げてください。





 

 

 

 

【ウィリアム・マルフォイ】

 

 

 

 

①容姿

 

・実年齢より上に見られる

 

・さらさらの中分けの黒髪、茶色の瞳に白い肌をしていて色気がある

 

・信頼していれば笑顔がくしゃりと少年のように笑う

 

 

②性格

 

・人に流されない強い意志

 

・他人の価値観を尊重する(人にとやかく言うのは傲慢と考える)

 

・一見優しく礼儀正しい

 

・才能に満ち溢れ勤勉で人格者でもある(当人は自分を天才と認めてない)

 

・腹黒く策略家でもある(彼自身も性格が悪いと自覚している。)

 

・落ち着きながらも年相応に怒りっぽい

 

・強さを誰よりも求めるからこそ強さに弱い

 

 

 

 

 

③話のおさらい(ウィルの主観)

 

 

・ハリーとオリバンダーの店で出会う

・汽車でハーマイオニーと出会う

・グリフィンドールへ

・授業で頭角を現す

・飛行訓練でネビルと交遊を深める

・マクゴナガルへの反発からの和解

・クィデッチの選手となり活躍

・ハロウィンでトロールを踏み潰す

・賢者の石を守りたい3人組から話を聞く

・1人で乗り込む

・試練を突破する

・ヴォルデモートとの出会い

・死喰い人にされかける

・ハリーがヴォルデモートを再び打ち破る

・ダンブルドアの懸念

・ホグワーツとの別れ

・ハリーの勇気を知る

・ハーマイオニー、ハリーとの友情

・2度目の死の呪い

 

 

 

④主人公の目的、野望

 

 

(1)マルフォイ家を守ること

(2)???

(3)???

(4)???

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

【作者の解説】

 

*字数が足りない為(あくまでも勝手なイメージ)

 

 

 

賢者の石編に限るウィルのイメージは簡単に言うと大人ぶる子供です。ロンが浮遊術でハーマイオニーに悪口を言った時に激昂したり、彼女を慰める時に自分が傲慢だとわかりつつも自分の価値観を与えている。更にマクゴナガルが手を抜いているから常に真剣に取り組めと注意した際にも事情を知らないで勝手に物を言われて感情をあらわにしている。

 

自身を襲う敵や闇祓いに自分のせいで家がマークされない為に攻撃魔法を覚えず、守護魔法のみ極めていた。ルシウスの言うことに従いマナーや振る舞い方を覚え隙を見せないようにしても、両親は子供らしいドラコを甘やかしている。愛に飢えているもルシウスは自分を次期当主と扱ってくれるのに誇りを感じている。

 

 

ドラコとの関係はとても良好で、家に帰ると必ずクィデッチを一緒にする仲。彼の良くない点は身内の甘さから止めれないものの呆れている。ただし彼の機転の良さに救われているのも事実。2人はグリフィンドールとスリザリンに分かれた為、互いのために距離を置くことを意識している。

 

 

学生生活を送る中で一番仲がいいのはハーマイオニー、ハリー、ネビルの順番です。

 

他にも会話をしたりする人達も沢山いますが友人とは呼べない。あくまでも向こうはそうなりたいけどそうなれない。

 

 

 

 

 

一番仲が悪いのはロン。理由は単純に正反対だからです。

 

ネタバレしない(原作の賢者の石)範囲内で彼のイメージは↓

 

 

 

①敵対した人へのアンチ

 

列車でのスリザリンについて、ハーマイオニーの浮遊術の件、マルフォイ家(これはマルフォイ家が悪い)

↑↑↑

ハーマイオニーの件などそれらを克服できるキャラクター

 

 

 

②『コンプレックス』

 

優秀な兄弟の中で平凡、大家族での切り詰めた家計、自分が特別で注目されたい(みぞの鏡でキャプテン)

↑↑↑

自分の中ではそれら全てを持つハリーには憧れ、それら全てを持ちながらも運命的でないウィルには少なからず嫉妬も含むという設定(これは作者の都合)

 

 

③3人組の中で唯一の魔法界育ち

 

魔法界の常識やマナーを知っているのが自分だけだから得意になっているような節がある(魔法族の家系、クィディッチ好き、カエルチョコなど)

↑↑↑

だからこそスリザリン(姑息で手段を選ばない)の一族の次期当主、特にマルフォイ家の主人公がグリフィンドールに入った事に不信感を抱いている。

 

 

④ウィルを警戒するという理由

 

彼が3人の中で一番優れているのは機転が利く事と人間臭さ、あと柔軟性だと思います。本当に意味はなく理由は勘に近いです。ハーマイオニーは知識とロジックで、ハリーは感情で動くようなイメージ。

 

一番人間臭さがないウィルとは正反対です。他にも、、、

 

・経済事情

・才能

・性格

・スター性

・家柄

 

などあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【注意】

 

 

まもなく伏線をまとめた、あとがきがやってきます。見たくない方はここで止まってください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





伏線らしき?というより伏線




・母親の昔の杖
・オリバンダーとの関係
・自己紹介
・ウィルの貰った杖の素材セコイアの木
・組み分け
・昔馴染みのスネイプ
・意外と高い身体能力
・マクゴガナルとクィデッチ、禁書の棚
・スネイプとの課外授業
・みぞの鏡(殺した経験?)
・杖を奪われてなおある勝気
・ダンブルドアの危険視、ウィルのヒント・矛盾
・2度目の死の呪文





アンケートを見てざっくり書いたので気がつき次第補足したり追加したりしていきます。需要に合ってるかわからないのですが、これでもいいですかね?




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第2章【秘密の部屋】
プロローグ


 

 

 

ウィルとドラコの長期休みも終わりが近づいている。2人は新学期に必要な教材と道具を買いにダイアゴン横丁へやってきた。

 

学年が変わると教科書も変わる。そのために本屋へと向かった。ルシウスは用事があるらしく先に向かっておくよう言われた。

 

通りを進んでいるとなにやら黄色い声援が聞こえてくる。よく見たら目的地である本屋だった。

 

「騒がしいな。」

 

ドラコがつぶやいた。

 

「イベントでもしてるのか?」

 

そんな事をいいながら中を覗くとブロンドの髪に青い瞳の男性だ。本棚に視線をやる。そこの売り場に置かれている本たちは彼の動く写真が表紙になっている。

 

ギルデロイ・ロックハート、小説家だ。

 

 

「なぁアイツは新しい防衛術の教科書を書いたやつじゃないか?」

 

2年生に必要な教科書としてロックハートが作者の本がリストアップされていた。

 

「あぁそうらしい、だが今は面倒だな。」

 

人ゴミを眺めてそう言った。

 

「僕は奥で気になる本を探しとく。ドラコはどうする?」

 

本屋の二階には誰もおらず、そこならルシウスの到着を待てると考えた。

 

「適当に暇をつぶすよ、君の邪魔したくはない。」

 

ありがとう、そうつぶやくと彼は自分の望む本を探しに行った。

 

やがて一冊の本に惹かれた。ホグワーツではお目にかかれないであろうそれに没頭するように夢中に読みふけった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数分後

 

 

 

 

 

まもなくルシウス・マルフォイが本屋へと到着した。すると息子のドラコ、そして兄弟と思われる子供達が目に入る。全員が赤毛でお下がりと思われるボロボロのローブ、近くを見渡すとやはりそうだ。

 

「アーサー・ウィーズリー。」

 

赤毛で青い目の中年男性は聞き覚えのある声の持ち主を見る。すると蔑んだような顔をする。どうやら犬猿の仲のらしい。

 

「ルシウス。」

 

ルシウスとアーサーは同じ純血の一族の当主である。

 

2人の距離を引き離したのは思想、ただそれだけで決定的な決別となった。マルフォイ家はマグルを魔法使いの血が流れていないとして【穢れた血】と蔑んだ。また魔法族がマグルに見つからないようにと隠れて生きているという事にも不満を覚えている者もいる。

 

これを【純血思想】と呼ぶ。

 

それに対してウィーズリー家はマグルとの平和の共存を強く望んでいた。特にアーサーはマグルの文化や品に関心を持っている。

 

時代の流れとしては純血思想は衰退しつつあり、アーサーに共感する者が増えている。

 

 

 

それらの背景があり、2人は顔を合わせるたびに嫌味や悪態をつきあう仲である。今日もまたいつも通りの流れとなる。

 

どちらかが先に粗をつつくとそれに応じてやり返す。2人は周囲の人達の目を気にすることもなく口論を始める。

 

「魔法使いの面汚しと言われてはねぇ。」

 

言葉の流れででルシウスはそう言い放つ。嫌味ったらしく蔑んだ顔である。

 

「どちらが面汚しとは意見が違うようだ。」

 

アーサーは強い表情で言い返す。ルシウスは少しイラつき、彼の末の娘の持つ鍋に入っているボロボロの教科書に視線をやる。それをサッと掴むとそれをじっくりと品定めするように見た。

 

「残業代は出ているのかい?どうやら出てないらしい。」

 

そして本を鍋の中へ滑り込ませた。

 

 

 

 

 

その頃、ウィルは相変わらず本に没頭していた。だが何かが本棚に強くぶつかる音を耳にして集中力が途絶えた。

 

本のページを抑えたまま彼は階段の下に目をやる。すると父親が誰かと取っ組み合いをしているではないか。後ろにはロンやその兄弟にハリーとハーマイオニーもいる。

 

ウィルは軽く溜息をつき本を閉じると、近くで二人の騒ぎをハラハラしながら見ている店員にこれを包むよう伝えた。そういうと彼は杖を取り出して階段の上から呪文を放つ。

 

ちょうど2人の間に透明な空気のクッションのような何かが現れた。取っ組み合いどころではなく彼らは衝撃でバランスを崩して後ろへのけぞる。

 

本屋にいる多くの人達は2人の喧嘩を眺めていたので店内は静寂に包まれる。そしてカツカツと階段を降りる音のみが響く。

 

「・・・、父上なにをなさっているのですか?」

 

階段の途中からウィリアムは父親を蔑むように見下している。なぜならルシウスが自分に叩き込んだ貴族らしい振る舞いを彼自ら汚しているからである。

 

周囲の人々は一斉に彼に目を奪われていた、整った美しい外見から鋭い言葉が飛び出したからである。そしてその矛先が自分でないということに安堵してしまうほどだった。

 

「ドラコ、お前もなぜ止めない?」

 

ウィリアムは対象を父親の側にいた弟へと切り替えた。去年の学校での振る舞いから彼もまた火種となったのだろうと考えたからだ。ドラコが下を向いている事から正しいようだ。

 

「世間の前で恥ずべき行為だ。」

 

彼はさっさと斬り捨てるとアーサーの方を向いた。アーサーは驚きを隠せない様子だ。年端もいかない子供があのルシウス・マルフォイを簡単に止めてしまったからである。

 

「理由は存じませんが、」

 

そしてその少年は杖をアーサーに向ける。ところどころ切り傷がついていた。少し身構えるが避けるにはあまりにも反応が遅すぎる。

 

「少し失礼、“エピスキー”癒えよ。」

 

そう唱えると杖の先に小さな輝きを纏わせた。痛みが生じないようにゆっくりと傷を修復させる。

 

「悪かった、私としたことが取り乱した。」

 

冷静になった事で周囲の視線に気づいたのか彼は店をサッサと出て行った。するとドラコも父親の背中についていく。

 

その様子を見てウィルは小さく溜息をついた、アーサーの傷が癒えると杖をおろしてローブにしまう。

 

謝罪と立ち去ることを伝えようと家族を一瞥すると末の女の子がおどおどしているように見えた。

 

すると彼は父親と同じように彼女の鍋に入っていた教科書に手を伸ばす。そしてパラパラとそれらをめくると教科書の所々に有益なメモや落書きやジョークなどが書かれている。

 

彼は彼女を見るとにっこり笑った。

 

「お兄さん達のメモが残っている。いい教科書だ。むしろ僕が欲しいくらいだよ。」

 

安心させるような優しい声でそういうと彼女に教科書を優しく手渡しで返した。

 

学業は道具なんかじゃない、ウィルはそういうとアーサーに軽く会釈をする。

 

「レディ、学校で会えるのを楽しみにしているよ。ロン、ハリーにハーマイオニー、君たちもまた汽車で会えるだろう。」

 

ウィルは笑顔を浮かべながら手を軽くあげて、そのまま出口へと向かった。

 

そして包装を終えた店員が待機しており、彼は商品を受け取るとガリオン金貨数枚を渡した。お代が多過ぎると返そうとするが迷惑料ですと言って受け取らなかった。

 

 

彼の背中をただジッとアーサーは見ていた。そして驚いたような表情を隠せないままそっと呟いた。

 

「ロン、今のがウィリアム・マルフォイか?」

 

純血思想の色濃い一族の次期当主にして歴代でも稀有な才能を持つと言う者も少なくない。ただし性格は温厚で礼儀正しいとも聞く。社交場では常に注目を浴びており、自分の娘を嫁がせようとする貴族も少なくないとか

 

「そうだよ。悪いやつじゃないけど、いけ好かない。」

 

ロンは吐き捨てるように答える

 

「そうか。」

 

そうつぶやくと店を出るぞと呟いた。

 



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謎と反発

 

〜汽車〜

 

 

 

 

 

あれからまもなくして新学期の始まる日が訪れた。キングズクロスの駅からホグワーツへの汽車の旅になる。ウィルはドラコ達と離れてハーマイオニー達を探して通路を彷徨った。まもなく彼女を見つけて中に入ったが、他の2人はいないらしい。

 

それからハリーの話題となった。ウィルはハリーに手紙を何通か送ったが返事が一向に帰ってこない事に僅かばかり不審に思っていた

 

どうやらドビーという名前の“屋敷しもべ妖精”によって手紙が届かないように細工されていたらしい。

 

理由はホグワーツに危険が迫っており、学校に戻らせないようにと思っての行動だとのこと

 

“屋敷しもべ妖精”とは特定の魔法使いに仕え、身の回りの世話や家事、雑用などを行う種族だ。彼らは人に無償無給で仕えるのが生きがいであり、隷属の証として枕カバーやキッチンのタオルを衣服として使用する。

 

マルフォイ家にもドビーという名の“屋敷しもべ妖精”がいる。最初は同じ名前なのだろうかとも考えたが、偶然にしては出来すぎている

 

ウチにいる彼がなぜハリーに学校へ来させないようにしていたのか疑問である

 

 

 

(父上が仕込んだ日記(・・・・・・)と関係あるのか?)

 

 

先日のダイアゴン横丁での一件のどさくさに紛れて、ロンの妹の鍋に黒い本を仕込んだのを彼は見逃さなかった。

 

それを回収して確認したところなにも書かれていない日記帳だった。特に必要もないので1人になった時に魔法で燃やそうとしたが、灰になることはなかった。

 

それからありとあらゆる魔法を放ったが特殊な魔法がかけられていたらしく、傷一つつくことがなかった。ほんの少しの悔しさよりも好奇心が勝った。

 

実に興味深い品だ。この護りを解析すると共に無効化する技術は身につけるべきと判断して、隠し持つ事にした。

 

またしても謎なのはこの日記帳を彼女に押し付けようとした理由である。

 

(ゴミを押し付けようとしたのか?)

 

 

ルシウスは【ボージンアンドバークス】という店に売りに行くものがあると言っていた。その店は闇の魔法の品々を取り扱う。

 

おそらくこの鉄壁の守りの日記を売りに行ったのだろう。だが護りが固いだけの本だと判断されて買い取られなかったのだと考えた。

 

 

結果として残る謎はドビーのみとなったが、考えてもわからないことは考える意味がないと思い、ハーマイオニーとの会話に集中した

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜ホグワーツ大広間〜

 

 

 

 

 

 

今年も去年も同じく組分けの儀式が行われ、新入生達はとても緊張していた。ロンの妹はジニーという名前らしい。その子はグリフィンドールに選ばれた。

 

それから歓迎会の食事となった。久し振りのホグワーツでの食事に生徒達は懐かしさを覚えながら口にした。新入生達も周りに気を使いながら食事を進めている。

 

 

だがウィルとハーマイオニーは相変わらずハリーとロンを見つけることができずにいた。

 

近くで食事をしていたネビルも2人がいないのはなぜかと聞いてきたが答えられなかった。

 

やがて噂が流れてきた。ハリーとロンが汽車に乗らず空飛ぶ車で“暴れ柳”に突っ込んでホグワーツにやってきたとの、そして今は教師陣に呼び出されて事情聴取をされているとのことらしい。

 

ウィルは笑いをこらえられずに少し笑ってしまう。去年と同じく色々な事件を巻きこまれるのだろうと察した。するとハーマイオニーから笑い事じゃないと叱られた。

 

そして他の所から大きな声が聞こえてきたので視線をやると、スリザリンの中机にいるドラコがポッターとウィーズリーは退学処分だろうと騒いでいるではないか。

 

ウィルはやれやれとした表情を浮かべどうしたものかと頭を抱えた。

 

父親から英雄視されているハリーと仲が悪いという事を周囲に見せつけるのは賢明でないと言われているはずなのにあの始末だ。

 

なにか言おうと考えたが、弟とはいえ他人の交遊関係に口を挟むべきでないと思い直す。

 

そうこうしているとロンの妹のジニーが近寄ってきて、先日のお礼と共に挨拶をしにきた。そして横にいたカメラを持つ小さな男の子もこちらをわくわくとした様子で見ている。

 

ハーマイオニーは後輩ができたとばかりに張り切って学校での過ごし方や教師陣とうまく付き合うノウハウを伝授していた。

 

ジニーはウィルをチラチラと見ながらハーマイオニーの話を聞いている。どうやら自分ともっと話がしたいらしい。ウィルはそれに気がつく。

 

「ハーマイオニーは僕より優秀だよ。」

 

その言葉に間違いはなかった。去年の今頃、ウィルは父親の指令で主席をとるつもりだった。

 

だが結果として主席をとったのはハーマイオニーである。

 

得点は互いに満点だった。それだけを見れば同点で2人が主席となる。

 

しかし首席に選ばれたのは彼女だった。その理由は寮への得点の貢献度に現れている。

 

授業においてウィルは指名されなければ発表しないのに対して彼女は積極的に答えていた。それらが平常点として加点がなされていたらしい。

 

ウィルは学業で首席を取れと指示されていたが、全部の科目が満点であるという事に満足していたので特になにも言わなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

次の日

 

 

 

 

ウィル達は二年次になって最初の【闇の魔術に対する防衛術】を受けた。その授業を終えると彼は激しく憤慨していたのである。

 

「受ける価値のない、なんて役立たたずな男だ。」

 

理由は簡単だった。新たな教師となったギルデロイ・ロックハートから学ぶべきことは何もないと断言したからだ。それどころか一人の人間として激しく嫌悪していた。

 

彼は最初の授業で小テストを行った。その内容はリストアップされた小説の中に散りばめられた彼自身の好きな色や夢などについての問題だった。

 

少し不安に思いつつも分かる内容のみ書き込んだ。彼は小説を1つだけしか読んでいなかったためである。彼はテストを回収し終えると点数の低さを叱責し、唯一満点だったハーマイオニーを褒め称えた

 

それはまだいい、イントロダクションを兼ねていたのだろうと思った。

問題は教科書が小説という点だ。闇の魔術に対抗するスペルなどはほとんど出てこない自分の著作(・・・・・)を教科書にした事だ。どう考えても職権濫用である。

 

教科書についてもまだ我慢できた。だが授業終わりに彼の神経を逆撫でる事が起きた。

 

授業終わりにウィルは彼の専門分野について幾つか質問をした。彼は意気揚々と答えてみせるがデタラメなことを繰り返し、それにこじつけて自分の小説の偉業を演説するかのように説明した。

 

ウィルが嫌うのは私利私欲にまみれた者、そして1番嫌いなのは自分の時間を奪う者である

 

彼はロックハートの武勇伝を途中で聞くのをやめて、この授業は教師が変わらない限り参加しない事を心に決めた。

 

 

彼はその足でマクゴナガルの元へ向かった。そして事情を説明した上で、授業を放棄するという事、そして【闇の防衛術】の期末テストで満点をとらなければ赤点でいいと一方的に宣言して立ち去った。

 

彼女は頭を抱えながらそれに対して否定も肯定もしなかった。それから彼は【闇の防衛術】の時間になるたび自習かスネイプの部屋に行き去年のハロウィンから続く手ほどきを受けるようになった。




【秘密の部屋編】がこの作品で後々に重要になる章の一つになります。そのためかなり無理も多いので、矛盾や分かりにくい点がありましたら感想欄でご指摘をお願い致します。


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穢れた血


昨日寝ぼけながら書いていたので誤字脱字が多いかもしれません。ミスがあったら教えてください。


ジニー・ウィーズリーは揺れていた。そして自分を責めていた。原因はハリー・ポッターとウィリアム・マルフォイである。

 

元々ジニーはハリーの大ファンだった。

“例のあの人”を撃ち破った男の子、沢山の本に名前が刻まれ周りの大人達も彼の偉業を褒め称えている。

 

それがなんの偶然か兄と同じ寮に入り、親友となったのだ。兄達が空飛ぶ車でハリーを家に連れてきたときは心臓が止まるかと思った

 

それから一家はハリーと共に本屋へと向かった。そこでマルフォイ家と出くわした。

 

 

元々ロンからマルフォイという兄弟の話を聞いていた。優秀だけどいけ好かない兄と自分達を目の敵にしている姑息で口だけは一丁前の弟、そして父親からはあの忌々しい一族だとよく耳にした。

 

周りの大人達もマルフォイ家は純血思想で末代まで腐りきっている。“例のあの人”の有力な部下だったとも聞いた。

 

正直なところ恐れていた。一目見てすぐに悪名高い親子だとすぐにわかった。

 

それからウィルと出会った。嫌味ったらしい親子に恥ずかしい思いをさせられたとき、彼が瞬時にその場を治めてみせた。それどころか兄達のおさがりをコンプレックスにしていた自分に対して優しく声をかけてくれた。

 

まるで白馬の王子様のようだった

 

 

 

周りの上級生達に話を聞いてみたら大半の人達は彼の事を褒め称えていた。ハーマイオニーと並ぶ優秀な生徒だと、クィディッチではハリーとダブルエースとして無敗の活躍で教師陣の信頼も厚い。人格もとても優れており宿題に追われている友人達にヒントや的確なアドバイスをしてくれるらしい。

 

またいつもは図書館で勉強をしているらしく、それ以外の移動や食事中はいつもハーマイオニーと2人で難解な話をしているために仲良くなりたくても壁を感じてしまうらしい。

 

マルフォイ家の次期当主でありながら純血思想を持たないと有名だった。念のために他の寮生に聞いてみたところ話はほとんど同じだった。

 

 

だがほんの一部だけ彼を危険視しているグリフィンドール生達がいた。自分の兄を筆頭にシェーマス・フィネガンやディーン・トーマスなどがいる。特別何かされたわけではないが、あまりにも人として出来すぎているという事、なにか隠しているのではないかと疑っている。

 

上級生にも何人かいるらしく、どうやら親の世代が【例のあの人】や“死喰い人”によって被害を受けた人達が多いようだ。

 

 

 

 

そして彼女はそれを同じくハリーとウィルと仲良くなりたいと考えているコリンに相談をしてみることにした。

 

自分が2人のことを気になっているということで自分の感情が知りたかった。

 

「ん〜それは多分好きっていうより憧れなんだよ。」

 

コリンは話を聞いてみてそう言った。

 

「ほら見て。」

 

廊下を歩いているウィルとハーマイオニーを指差した。箒を片手にグリフィンドールのユニフォームを身につけているウィルに対してハーマイオニーは制服だ。2人の会話を聞いてみると難解な魔法理論について語り合っていた。

 

そばにいた女子生徒はウィルの美しい横顔に見とれたり、ハーマイオニーの事をジッと睨んだりしている子もいた。

 

「本当にウィルと話がしたいなら自分も勉強したらいいんだ。それに彼女達は・・・」

 

そしてコリンはハーマイオニーに嫉妬している女子生徒を不快そうな顔で言った。そして彼の視線はグリフィンドールの選手達が列を組んで移動している。

 

絶対的なキャプテンのオリバーウッド、双子のビーターのウィーズリー兄弟にチェイサーのアンジョリーナ、そして制服のロンの隣にいるシーカーのハリーポッター

 

彼らが歩くと注目の的となる。すると女子生徒は自分の推しの選手を見つけて叫んだり、ひそひそと話し込んだりしている。

 

「ね?好きっていうより憧れだよ。」

 

コリンは少し誇らしげに胸を張る。ジニーは少しすっきりしたようだ。そして彼女とコリンは2人のファンとなった。

 

 

 

 

 

余談だがダンブルドアがウィリアムをグリンデルバルドの再来になる可能性があると判断したのはこのファンにするカリスマ性である。

 

まず前提としてウィルとハリーは2人とも多くのファンを抱えている。だがそれに至るまでの経緯が決定的に異なる。

 

ハリーが偉大だとされるのは過去の栄光で今の姿をもって至るわけではない。事実、魔法使いとしての才能は決して平凡ではないが飛び抜けてもいない。

 

しかしウィリアムは明らかに今の姿である。ダンブルドアから見て彼は明らかに天才であり、人格もまた優れている。驕らず、努力もできる素晴らしい心さえも持ち合わせている。

 

だが万が一にでも闇に堕ちたとき、かつてないほどの闇の魔法使いになり得る可能性がある。

 

当人にその気がないのに勝手にファンが大量にできるという現実。もし闇に堕ちた彼が手駒を用意する必要があると判断すれば、その才能を遺憾なく発揮するだろう。そしてそれらはファンではなく信仰者として彼の勢力となり、また世界が闇に包まれるだろう。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ダンブルドアや周りのファン達の気持ちをなんとなく察しつつ、となりの女の子と語り合っていたウィルは目の前から箒を持った緑色のユニフォームを身につけた集団を見つけた。どうやらこちらに向かっているらしい。

 

2人はなにやら不穏な気配を感じて足を止める。やがて後ろにいた仲間達も追いつく。すると測ったように緑色の集団と向かい合う。

 

すると双方のチームのキャプテンが口論をし始める。

 

どうやらグリフィンドールの選手団がコートを予約していたらしいが、コートはスリザリンの選手達が使うと主張した事が原因のようだ。彼ら曰くスネイプが新しいシーカーの教育の為にコートを使う許可を出したため使用するのは自分達だというのが根拠らしい

 

グリフィンドール側は新しいシーカーの存在を誰だと尋ねると、後ろから銀髪の少年が前の上級生達の間から出てくる。

 

もちろんそれはウィルの弟のドラコである。彼は父親に対してクリスマスプレゼントを犠牲にする代わりにある望みを叶えた。

 

「それはニンバス2001じゃないか!」

 

箒に詳しいロンは目ざとくスリザリンの選手達のそれに目をつけた。全員がキラキラと輝いている最新型のそれである。

 

ちなみにウィルの箒は家の中で眠っていたぼろぼろのそれである。

 

得意げに杖をきらきらさせながら、ドラコはロンの方を見て嫌らしくにやりと笑う。

 

「君の箒を競売にかけたら博物館が買い入れるだろうね。」

 

ドラコはウィーズリー家の箒がお下がりであるために旧式であると嘲笑った。言い返せない兄弟達を見てハーマイオニーが前へ出る。

 

「少なくともグリフィンドールの選手は誰一人としてお金で選ばれてないわ。」

 

「誰もお前に意見なんか聞いてない。【穢れた血】め!」

 

吐き捨てるように言ったその言葉にその場が凍りついた。にやにやとするスリザリンの生徒達に対してグリフィンドール側の生徒達は激怒したり、よくそんなことを言えたなと言ったりしている。

 

ロンは庇ってくれたハーマイオニーに対してそんな言葉を吐いた事に激怒して、ウィルの方をちらりと見て杖を構えた。

 

 

「なめくじくらえ!」

 

怪しい緑色の閃光が煌めくも逆噴射してロンは後ろへ吹き飛んだ。よく見るとテープでぐるぐる巻きにされている。どうやら杖が折れていて、それを無理に修復したらしい。

 

 

ロンは強い吐き気を覚えると、抑えきれずにその場に吐いた。するとナメクジが出てくる

 

爆笑しているスリザリンの生徒達に対して同じ寮の人達は心配するように取り囲むがどうにもできなかった。そしてハリーとハーマイオニーはハグリッドの所に連れて行こうと肩を組んで彼を連れて行く。

 

 

 

ハグリッドの小屋に着くと彼はロンを見るなり、止めるより出し切った方がいいとバケツを手渡した。そして経緯を聞くと彼も憤慨した様子だった。マグルで育ったハリーは先程から【穢れた血】の言葉の意味がわからず、ハグリッドとハーマイオニーから聞いた。

 

 

少し悲しんでいるハーマイオニーを見たハグリッドは血の濃さなど無意味で、彼女より頭のいい魔法使いがいるかと言った。そしてマルフォイ一族は骨の髄まで腐っていると声高々に言い放った。彼もまたかつて闇の帝王側の陣営と戦った一人であるためルシウスの事を毛嫌いしている。

 

「ウィルは違う!」

 

ハリーは自分の友人である彼まで貶されたと思って、ハグリッドに修正を求めた。ハーマイオニーもそれに同意するように続いた。

 

ハグリッドはたしかにそうだと思った。教師陣は全員が才能に満ちた努力家であり、人格も優れていると褒めた。

 

だがいつかどこかで似たような感覚を味わった気がして彼はウィルに対して自分から関わりを持とうとしなかった。

 

 

 

「本当にそうかい?」

 

吐き気を堪えたかのように掠れた声でロンは口を挟んだ。

 

「あの時、アイツの顔は普段通りだった。」

 



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理性と感情の狭間


神羅さん、誤字修正に感謝します。


 

 

 

 

 

数日後

 

 

 

 

 

〜とある廊下〜

 

 

 

 

 

ドラコは護衛のクラッブとゴイルを引き連れて廊下のど真ん中を我が物顔で歩いていた。周囲の生徒たちは疎ましく思いながらも腫れ物には触らぬよう避けていた。

 

だが一人の生徒が彼らの前に立ちふさがった。制服についた紋章は獅子、グリフィンドールの生徒だ。

 

「やぁ珍しいな。」

 

ドラコは立ち止まり笑顔を浮かべて自分の兄を見た。

 

「たまには息抜きも必要だと思ってな。」

 

ウィルは普段、ハーマイオニーと図書館で本を読み漁ったり宿題をしている。しかもウィルとドラコは違う寮生であるためにすれ違うことも少なかった。

 

「あぁそういえばクラッブ、ゴイル。今日友人から大量の菓子を貰ったのだが食べきれなくてな。お前達の部屋に送っておいた。」

 

ウィルは護衛の2人にそういった。すると食い意地の張る彼らは鼻息を荒くしてソワソワし始める。

 

「部屋に送ったんなら誰も盗らないだろ。まぁ先に行けよ。」

 

 

ドラコはめんどくさそうに言うと2人は早足でさっさと寮へ引き返す。

 

「今から図書館へ行くのか?」

「あぁ、マクゴナガルの課題がよくわからなくてね。」

 

ドラコはウィルと比べれば秀才でも勤勉でもない。しかしルシウスがホグワーツに入学する前から家庭教師をつけたおかげか意外と成績は悪くない。

 

「そうか、それなら近道を知ってるか?」

 

ドラコはそんなものがあるのかと食い気味に答えた。ホグワーツには一定時間ごとに移動する階段や隠し通路などが多く存在しており、教師陣ですら全て知るものは少ないだろう。

 

するとウィルはついてこいと彼を誘導する。そしてどんどん進む。明らかに回り道をしているような気がしてドラコは不安になる。辺りは暗くなり床にはホコリ臭く蜘蛛が壁を伝う。

 

「おいウィル!本当にこっちなのか?」

 

だがウィルは無言で先へ先へと進む。そして完全に人気のない細い廊下へとドラコを連れ込むと目にも留まらぬ速さで杖を抜いて彼の喉へ突きつけた。

 

「ドラコ、今から全て正直に吐き、そして全てに従え。」

 

ドラコは最初に冗談だと思ってニヤニヤしていた。だがウィルの冷めた瞳を見てそれが戯れだと到底思えなかった。

 

感情を全て捨て去ったような冷たい表情をしている。1つたりとも彼にほんの一つでさえも不利益を与えたら自分にどんな不利益をこうむるか想像できた。弟でさえ無事では済まないだろう。

 

だんだんと心細くなり、そして泣きそうになってしまう。兄からこんな事をされたのは初めてで、なおかつ護衛の2人がいない事と来たこともないこの気味の悪い廊下である。

 

「まずは先日の件についてだ。それは勝手にしろ。お前の価値観(・・・)だ。」

 

ウィルは吐き捨てるように言った。彼は価値観の多様性を認める事が大切だと知っている。

 

生まれや育った背景も違うのに1人の生涯で得た1つの価値観を頭ごなしに否定するのは良くないとしている。例えそれが友人や自分自身を傷つけることになっても彼はそれを害すべきでないと思っている。それは傲慢だ。

 

「だが僕の前で言うな。それは僕にとって不利益になる。」

 

ウィルは語尾を強めて言い放つ。価値観を否定するのは傲慢だと理解していながら、心の奥で湧きあがる怒りが少し漏れている。

 

「父上は僕の交友関係をどう言ってた?」

 

「えぇと、今まで目をつむるって。ただこれ以上は見逃せないとも言ってた。」

 

自身の感情に反してドラコは不思議とすらすらと答えた。

 

 

(そうだ、僕はこのウィルを知っている(・・・・・)。)

 

 

さらさらとした中分けの黒髪からは雪のように白く端整な顔が覗いている。氷河のように恐ろしい顔をしていながらも、美しいと思わせてしまう。

 

 

(僕は君を初めて(・・・)見たとき、美しいと思ったんだ。そしてそれを守りたいと。)

 

 

「そうか父上にはこう言え。ウィルはグレンジャーを利用しているのだと。」

 

「・・・」

 

ドラコは素直にそれを聞いた。一言一句間違えぬように真剣に聞いた。恐れからではない、単純に彼に協力したいという意志が彼をそうさせたのである。

 

「彼女といればマルフォイ家の純血思想というレッテルから逃れられ、周囲の信頼を勝ち取り結果として教師陣から特別扱いされる。とな。」

 

ウィルはその言葉の意味を淡々と言い放つ。ドラコは意味を理解すると抜かりなく父上に伝えると言った。

 

するとウィルは杖を下ろし、そのまま立ち去ろうと振り返る。ドラコは突然気が抜けたようにその場でへたり込んだ。そしてかすれた声で質問を投げかける。

 

「1つ聞かせてくれ。君は、君はいつからそうなった?」

 

ウィルは思いがけない言葉に少し気を緩める。ずっと気になっていた。ドラコは彼がこうなった原因を知らない。

 

「安心しろ、少なくとも僕は純血主義(・・・・)だ。今も昔もなにも変わらない。」

 

そして少し迷ったような間が空き彼は口を開いた。話したくないらしく言葉を濁す。

 

「俺は本当に選ばれた魔法使い(・・・・・・・・)こそが報われるべきだと考えている。」

 

ウィリアム・マルフォイは初めて己に隠された野望(・・)の礎となる言葉を誰かに話した。この言葉に嘘はない。

 

彼にはいくつかの目的が存在する。彼に言わせれば予定である。それらを確実に成せると確信しているからだ。

 

自身にとって価値のある存在を護れるほどの力は既にあり・・・

 

そして今は障害になり得る全てを破壊し尽くすほどの力を得ようとしている

 

その2つを完全に手に入れたとき、ウィリアム・マルフォイはこの世界に干渉を開始する予定である。

 

振り返る事なく立ち去る彼の瞳と表情には確固たる強い意志を感じさせられた

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

〜ハロウィン・とある廊下〜

 

 

 

 

 

 

 

『引き裂いてやる、殺してやるぞ。』

 

ハリーは校舎のどこかから恐ろしい声を追っていた。彼は空飛ぶ車で暴れ柳に突っ込んだ事でマクゴガナルから罰則を与えられた。

 

そして彼はロックハートのもとでそれを終えるとすぐさま謎の声を耳にした。

 

それを追ううちにハリーはロンとハーマイオニーと合流した。どうやらパーティに遅れている彼を探しに来たらしい。2人には聞こえなかったようだ。

 

そして彼らは壁に描かれた赤い文字を見つける。そしてその近くで固まり浮いている猫が目に入る。動かずただ石のように固まっているようだ。

 

 

 

【秘密の部屋は開かれたり

継承者の敵よ、気をつけよ】

 

 

 

血文字のようだ。先ほどの声の主がやったのだろうか、そう考えていると廊下から無数の足跡と騒がしい声が響いてくる。

 

ここにいるのはマズいと彼らは直感的に理解した。だが既に手遅れだった。

 

 

ハロウィンパーティの会場から出てきた生徒たちは3人組と血文字、そして死んだように固まっている猫を見つけた。女子生徒は悲鳴をあげ、男子生徒は唖然とした表情を浮かべている。

 

 

 

「継承者の敵よ、気をつけよ!次はお前達の番だ!」

 

ドラコは大声で叫んだ。そしてハーマイオニーの方を指差した。



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秘密の部屋


*原作通りの流れなのでぶっちゃけ読まなくても大丈夫です(一応、流れだけ前書きにて省略して書きます)








〜ネタバレ注意〜【下に省略あり】〜ネタバレ注意〜













①フィルチの猫さん石化←フィルチ激おこ←治せるよ
②秘密の部屋とは←マルフォイ家が怪しい←ポリジュースつくる
③ハリー、クィデッチ腕折れる←医務室行き
④ドビーが色々やったのがバレる←1人の生徒が石化により医務室



 

 

 

 

 

なんの騒ぎかとその場にやってきたホグワーツの管理人のフィルチは自身の猫と壁に描かれた血文字を見るなり金切り声をあげた。

 

「私の猫だ、お前だ!殺したのはお前だ!俺がお前を殺してやるッッッ!!!」

 

ハリーを見るなり犯人だと決めつけ、彼の首を絞めようと詰め寄る。怒り狂った彼を生徒たちは止められなかった。

 

「アーガス!!!」

 

その場が混乱状態となったとき大きな声が廊下へ響き渡る。校長の一声でその場は落ち着きを取り戻し、フィルチも手を緩めた。

 

ダンブルドアは教師陣を引き連れてフィルチと血文字を一瞥する。そして生徒たちにまっすぐ寮へと戻るよう指示した。それから3人組の事情を聞く。

 

自分達でないと釈明してもなおフィルチはハリー達が犯人だと叫ぶがダンブルドアは猫は死んでおらず石化しただけだと言ったりそれから植物学のスプラウトの持つマンドレイクから作られる回復薬で元気になると説明した

 

そしてハリー達が犯人である証拠はなにもなく、疑わしきは罰せずという事で解放された

 

 

 

 

***

 

 

 

 

その日から生徒たちは【秘密の部屋】の話で持ちきりだった。その記述がされてある“ホグワーツの歴史”という本が常に借りられている状況となったのである。

 

 

そして魔法史の授業になったとき、突然ハーマイオニーが手を挙げて【秘密の部屋】について質問をした。

 

先生は戸惑いながらも話すべきだと判断して語り出した。

 

 

 

かつてホグワーツは一千年以上も前に最も偉大な四人の魔法使い達によって創設された。彼らは城を築いて魔力を示した子供を探しては教育を施した。

 

やがて魔法教育は魔法族の家系のみに与えられるべきという信念を持ち、マグルの親を持つ生徒は学ぶべきでないと主張ししたスリザリンとそれに激しく反発したグリフィンドールが争い、スリザリンが学校を去った

 

そして【秘密の部屋】を学校のどこかに隠して学校に“真の継承者”が現れる時まで部屋を開けられないようにした。そして封印を解いて怪物を解き放ち、学校から魔法を学ぶのにふさしくない者を追放するという言い伝えがあると話した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

疑いをかけられたハリー達は真犯人が誰かを話し合っていた。するとロンは真っ先にドラコ、そしてウィルが怪しいと言った。マルフォイ家はウィルを除いた全てがスリザリン出身であり、スリザリンの末裔でもおかしくないと言った。何世紀も前から秘密の部屋の鍵を預かっていたのかもしれない。

 

2人はドラコならまだしもウィルはそんな事しないと反論した。

 

ロンも今までならそう思っていた、だがこの前の件でウィルも所詮はマルフォイ家なのだと思ったらしい。しかしその時のウィルを見たのはロンだけだったため2人は納得しない。

 

そこでハーマイオニーはウィルの疑いを晴らす為にも犯人を突き止める必要があると考え、それを調べるための策を思いついた。

 

 

 

そして彼女は自分以外の誰かに変身する事ができる“ポリジュース薬”が必要だと主張し、その製作のために動き出した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数日後

 

 

 

〜クィディッチ場〜

 

 

 

 

 

ついに今学年最初のクィディッチの試合が開催される事となった。ウィルとハリーが参戦してから無敗を誇るグリフィンドールだったが、今年からはわけが違う。

 

スリザリンが新しいシーカーを用意し、そしてチーム全員に最新鋭の箒である“ニンバス2001”を用意してあるからだ。

 

試合開始となるとチェイサーであるウィルはすかさずクアッフルを奪い、相手ゴールへ直進した。するとすぐに相手チームの2人にマークされる。彼は味方へ鋭いパスを繰り出すも突然現れた敵にボールを奪われる。

 

ウィルらグリフィンドールのチームは苦戦しつつも今は40対40の引き分けである。

 

「頼むぞハリー、どう考えても今日は150点差つけられない。」

 

味方の士気とコンディションを冷静に判断してウィルはハリーの方をちらりと見る。すると暴れ玉である“ブラッジャー”に襲われており、それを華麗な箒さばきで回避していた。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

ハリーside

 

 

 

 

 

ハリーは苛立ちを隠せずにいた。常にブラッジャーが自分を追いかけていたからだ。普通は棍棒を持つビーターがそれを敵選手に弾いて妨害する、だがこれは明らかに細工されており自分の後ろを張り付くように襲いかかってくる。

 

観客はスリザリンのキラキラ輝く箒に目を奪われており、味方は軽快な敵選手の対応に精一杯である。

 

すると煽るように近くに飛んできたのは彼の宿敵のドラコ・マルフォイだ。

 

「バレエの練習かい?」

 

彼はにやにやと笑顔を浮かべながらハリーを小馬鹿にする。ハリーは自分に迫り来るブラッジャーを警戒しながらもドラコの後ろで飛んでいるスニッチを見つけた。

 

 

そしてハリーは加速してドラコを抜き去るとスニッチを追いかけた。彼もハリーの視線の先にあるスニッチを目で捉える。

 

2人は加速してスニッチを追いかけた。だが背後からはブラッジャーが迫り来る。彼らはそれに気を配りながら一目散に飛ばした。ハリーは才能と技術を駆使するのに対してドラコは経験と道具で張り合う。

 

 

 

結果としてハリーはブラッジャーに片腕をへし折られた。だがドラコに対する対抗心とハーマイオニーをバカにされた怒りでスニッチを掴み、グリフィンドールが勝利した。

 

 

試合を終えるホイッスルが鳴ってもなおブラッジャーはハリーを攻撃しようと暴れまわる。だがそれをハーマイオニーが“レダクト”により破壊するのに成功した。

 

チームメイトや友人達が駆け寄り彼をすぐに医務室に連れて行こうとする。確実に骨が折れているようだった。

 

すると意気揚々と現れたロックハートが治してやろうと現れた。ハリー達を含め多くの生徒達は彼が無能だと気がついていたので止めようとするが、人の話を聞かない彼は杖をハリーの患部に向けた。

 

「“ブラティアム・エンメンドー”!」

 

ロックハートの杖から光が発せられるとハリーは腕の痛みが無くなった。だが同時に軽くなった気がした。

 

どうやら骨を抜かれたらしい。結果として彼は骨が折れた時より長く辛い治療を受ける羽目になった。

 

 

 

 

 

 

その夜、ハリーは休んでいると突然ドビーが現れた。彼はハリーを見るなりキーキーと叫び出す。

 

「ハリーポッターは学校に戻ってしまった、なぜ汽車に乗り遅れた時になぜ戻られなかったのですか?」

 

ドビーは真面目な顔でハリーに言った。彼は今学期が始まる前に警告をしにきたのだ。ホグワーツは安全ではないと告げた、しかしハリーはそれを拒んで学校へ戻ってきた。

 

「・・・どうして僕らが汽車に乗り遅れたのを君が知ってる?」

 

ドビーはハリーの指摘にギョッとした表情を浮かべる。彼は決して頭が悪くないとは言えなかった。

 

「あれは君がやったのか?」

「その通りでございます。」

 

ドビーはそれからなぜハリーを守ろうとするのかを語り始めた。ヴォルデモート(闇の帝王)が権力を握った時代では“しもべ妖精”は害虫のように扱われたのだ。

 

しかしハリーがヴォルデモートを打ち破ってから生活は良くなったらしい。それから彼は歴史が繰り返されようとしていると言った。

 

ハリーは秘密の部屋が開かれた事に勘付くとドビーは慌てふためきながらもその場から“姿くらまし”をして消えた。

 

ハリーは消えたドビーを探すように周囲を見回すが、どこにもいない。

 

すると突然彼は急いで布団の中に潜り込んだ。扉の向こうから何人かが早足で歩く音が聞こえてきたからだ。

医務室の扉が開くと同時に中へ光が差し込む。ハリーは背を向けて寝たふりをする。だが耳だけに意識を集中させる

 

声から察するに教師陣だ。正確には分からないがダンブルドアやマクゴガナルの声がする。他にも何人かいるようだ。

 

ダンブルドアが身元を確認するとマクゴガナルが自分の寮生のコリン・クリービーだと言った。ハリーは自分の感情がねじれるような感覚を覚えた、その生徒は自分やウィルを慕っている後輩だからだ。

 

どうやら彼はカメラを持っていたらしく、犯人を写している可能性を考え、フィルムを確認するとボンという破裂音と共に煙が吹き出していた。焼けたプラスチックのような香りが医務室に漂う。

 

「生徒達に危険が迫っておる、秘密の部屋が開かれたのじゃ。」



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ハグリッドの過去

 

 

 

 

 

生徒達は昼食の時間に大広間で食事を取っていた。ウィルはハーマイオニーだけでなく多くの生徒達に囲まれて食事をしている。普段はハーマイオニーと学問の話をしているが、ウィルは少し体調が優れないらしく会話を控えていた。

 

いつもは近くに座りながらも話しかけられない取り巻きだが、彼とお近づきになるチャンスと考えて話しかける。

 

その中の一つに今日の授業終わりにあるイベントの話を耳にした。

 

「決闘クラブ?」

 

「ほら最近は物騒じゃない?だからよ。」

 

同級生のラベンダー・ブラウンがウィルに熱い視線を向けながらそう言った。さらに近くにいた2学年上のリー・ジョーダンは少し迷ったように口を開ける。

 

彼はクィディッチの試合にて実況を担当しており、それでウィルのプレーに魅せられたようだ。普段はウィーズリーの双子と一緒にいるが今日は離れている。

 

「あ〜、君も来るだろ?」

 

体調が良くないのを察しているらしい。

「すみません、今は気分が優れないので次の機会にぜひ。」

 

ウィルは笑顔を浮かべながら断った。そしてゆっくり立ちあがると静かにハーマイオニーの方を向くと笑って口を開く。

 

「悪いが寮へ戻るよ。体調が優れなくてね。明日、その話を聞かせてくれ。」

 

ウィルは周りの生徒達が目の前の食事に夢中になる中、部屋に戻る。途中で色んな生徒に声をかけられながらも出口へまっすぐ戻る。

 

 

そして誰もいない自分の部屋に戻ると、人目を気にせず思い切りベットに寝そべり、天井をぼーっと眺める。そしてふと視線を横にやると鳥の羽根のようなものが落ちている。

 

「まだ残っていたのか」

 

彼は冷めた瞳でそれを掴むと杖ではらうようにふる。するとゆっくりと腐り果てる。

 

 

「さて、どうしたものかな。」

 

彼は黒い日記を見て嘆いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

数週間後

 

 

 

 

 

また1人、マグル出身者が襲われた。どうやらハッフルパフの生徒であるらしい。彼を襲った犯人はハリーである噂で持ちきりだった。

 

なぜなら彼は蛇語を話せる能力(パーセルタング)の持ち主であるからだ。蛇語を使う者は強力な闇の魔法使いの印とされており、偉大なる魔法使い“サラザール・スリザリン”もその能力を持っていたらしい。

 

話を聞いたところ決闘クラブの演習でハリーとドラコが戦った。その中でドラコが蛇を召喚してけしかけた。すると蛇語を使い意思の疎通をはかったとのこと。

 

 

大半の生徒達はハリーに怯えているもののウィルは所詮は迷信だとつっぱね、普段通りに接している。

 

 

 

***

 

 

 

 

クリスマス

 

 

 

雪が舞いあがる中、ホグワーツはとても静かに暗い雰囲気の中でどんよりしている。不謹慎であるとの事だった。スリザリンの生徒は襲われるのが“穢れた血”に限られている事からたかをくくっている様子だ。

 

ウィルとドラコはクリスマス休暇として一時帰宅した。

 

まもなく実家の扉の前に到着した。するとルシウスはウィルとドラコの方を見て口を開く

 

「学校はどうだ?」

 

「不穏な雰囲気です父上、それより頼んでいたもの(・・・・・・・)は届いていますか?」

 

その言葉を聞くとルシウスは不敵な笑みを浮かべる。彼はお前の部屋に届いていると言う

 

「かなり苦労したぞ。だがお前が物を欲しがるのは珍しいからな。」

 

ウィルは感謝の意を伝えると一目散に自分の部屋に向かう。広い部屋なのに物が少なく殺風景な部屋だ。羽根ペンとインクが置かれただけの机、棚には整理されたファイルが数多く並び、そしてその横には魔法薬の材料となるホルマリン漬けにされた標本や魔法植物の小瓶がずらりと陳列している。これらの一部は自分で採取したもので、大半はルシウスに調達してもらった。

 

彼は見慣れたそれらを一瞥すると机の前に置かれたはじめて目にする存在の前へ行った。

 

 

 

 

***

 

 

 

2週間後

 

 

 

 

ハリーにロン、そしてハーマイオニーは幽霊(ゴースト)がいるために誰もやってこない二階の女子トイレで集まっていた。

 

するとハーマイオニーはポケットの中から瓶を取り出して2人に見せつける。

 

「完成したわ、“ポリジュース薬”よ。」

 

そして彼女はそれから変身する人の一部が必要だと言った。そしてウィルとドラコ、どちらに【秘密の部屋】について聞くか、それは既にドラコと決まっていた。

 

それからクラッブとゴイルに眠り薬を仕込んだカップケーキを食べさせ、ハーマイオニーは決闘クラブの時にスリザリンのミリセント・ブルストロードの髪の毛を入手していたらしい。

 

 

ハリーとロンは護衛の2人に変身してドラコを問い詰めたが、彼曰くマルフォイ家の2人は継承者でないという事が判明した。

 

 

 

 

***

 

 

 

ほぼ同時刻

 

 

 

 

 

“禁じられた森”のすぐ側にある小さな木製の小屋だ。森番のハグリッドが住む家である。

 

その家の扉の前にウィルはやってきていた。そしてノックをする。すると中から野性味溢れる大男が現れる。

 

「俺になんのようだ?」

 

少し気が立っているようで不機嫌そうな顔をしている。もじゃもじゃの髪と髭を持つ彼はギロリとした瞳でウィルを見下ろした。

 

「あれ、ハリーから聞いてませんか?」

 

ウィルは困惑したような表情を浮かべている。するとハリーの名前を聞いたハグリッドはほんの少し警戒を緩めた。

 

彼はマルフォイ家を嫌悪しており、今まではウィルも同じように好きになれなかった。だが数ヶ月前にハリーとハーマイオニーからウィルは別でとてもいい人だと聞いていた為、少しだけ気が緩んでいたのだ。

 

「あ〜今日はウチのドラコに暴言を吐かれたハーマイオニーを元気づけていただいた件でお礼に参ったのです。」

 

ウィルはすらすらとハグリッドに説明をしてみせた。彼はぎこちないながらも笑顔を浮かべて自分の小屋へ招き入れる。

 

「ハリーからは聞いてないぞ。まぁ忘れちまってたんだろう。」

 

そういうとハグリッドは紅茶を沸かそうと彼に背を向ける。

 

「紅茶は結構です。ハグリッドさん、ご無礼を許してください。」

 

ウィルはハグリッドの背中に杖を突き立てている。ちょうど心臓がある部分だ。

 

「なんの真似だ?」

 

ハグリッドはあまり動じる事なく首だけ捻ってウィルを睨みつけている。

 

「50年前、【秘密の部屋】を開けたのは貴方ですね?」

 

ウィルの言葉にハグリッドは言葉を失った。そして口をパクパクさせながらもかろうじて言い返す。

 

「なんのことだ?」

 

「秘密の部屋が開けられた時代のホグワーツの名簿を調べました。」

 

ウィルは父親がホグワーツの理事をしているため学校に関する情報は容易く得ることができる。手紙でルシウスの名前を使ってコピーを取り寄せさせたのだ。

 

「その年での退学者は1人、貴方だけ。」

 

ウィルは名簿を片手にハグリッドに見せつけた。たしかに書類の退学者の欄に彼の名前が一つだけポツンと記載してある。

 

「そして死んだ生徒の名前はマートル。ホグワーツの二階女子トイレにいるゴースト、“嘆きのマートル”だ。」

 

ウィルは事件の情報を完全に掴んでいた。だが不自然な事があった。彼がその事件の犯人とされておきながら、なぜ監獄ではなくホグワーツにいるのか。それを知りたかった。

 

「それに貴方は杖を折られている事はハリーから聞いてる。」

 

「・・・。」

 

ハリーはオリバンダーの店で彼の杖が折られているという話を聞いていた。

 

ダンブルドアの計らいで杖を持っているが、本当は使うのを禁じられている。もちろんその事はウィルにも話してない。

 

「もう時間がないんだ。早く教えてください。扉を開けたのは貴方か?」

 

「俺じゃねぇッッッ!!!」

 

ハグリッドはウィルに自分の鼓膜が破りかねないと思わせるほど大きな声をあげた。

 

そして彼はぽつりぽつりと語り始めた。確かに自分は【秘密の部屋】を開けた犯人として退学処分とされたが、それは冤罪であると

 

学生だった頃、学校でアラゴグという名前の蜘蛛を飼っていたらしい。大きな蜘蛛で知能も高く言葉も交わせた。

 

だが人を殺せるような蜘蛛ではなかった。当時のスリザリンの監督生のトム・リドルがアラゴグを【秘密の部屋】に住む怪物だとして捕まえようとしたのだと、しかし無事に逃げ延びて今は禁じられた森で住んでいるらしい。

 

ダンブルドアは唯一ハグリッドが犯人でないと考えて、彼を森番として雇ったらしい。

 

 

「・・・辛いお話をさせてしまいました。この償いはいつか必ず。」

 

そういうとウィルは杖を下ろして頭を深々と下げた。そして扉を開けて外へ出ていった。

 

ハグリッドはただうなだれて壁の隅をぼんやり見つめていた。






原作にてポリジュースを使用するシーンはクリスマス休暇でしたが、流れの都合上ズラしました。ご了承ください。


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日記と影

すまぬ、テスト前なので更新の停滞かつ手抜きです


 

〜グリフィンドール寮〜

 

 

 

 

ホグワーツでの消灯時間、それは1つの校則によって守られている。【ベッドを抜け出してはならない】、ただそれだけだ。

 

どこの寮生も目を閉じて1日の疲れを癒している。そしてある部屋では3人がすやすやと寝息を立てている。だがこの部屋にはベッドが4つある。

 

 

真っ暗な部屋の端では小さな蝋燭がゆらゆらと揺れている。その光が美しい横顔を柔らかく照らしていた。

 

【トム、君は召喚術に関する知識はあるかい?】

 

ウィルは真っ白なノートに羽根ペンでそう書き込んだ。すると黒く塗りつぶされた部分が奥へ染み込むようにすっと消えた。

 

【僕も昔興味を持った事があるよ。】

 

滑らかで丁寧な字が浮かびあがる。これはトム・リドルの日記だ。

 

これはページに書き込むことで日記のトム・リドルと名乗る人物が返事を返してくれる。彼は学問に精通しているだけでなく、ユーモアのセンスもある。

 

ウィルはこの日記をとても魅力的に感じていた。それは自分の求める多くの知識を授けてくれている、自身が“禁書の棚”を含む本で学ぶ中で難解なテーマについてよく質問した。まるで彼はその全ての本達を読破し、答えを得たかのようにすらすらと答えてくれる。

 

トム自身も気づいてない点を指摘したり、見解の相違を議論しあったりとまるで友人のように夜通し語り合ったりしている。

 

 

【召喚術は非効率だ。魔力と供給とそれは割に合わない。それに杖で発動するには余りにも弱い生物しか呼び出せないからね】

 

召喚術は魔法族に杖が発明される前の古代の魔法の一種で、本当に優れた術師はドラゴンを召喚し、服従させていたらしい。

 

当時の方法は召喚獣と信頼関係を築いた上で契約を交わす事が前提である。そして魔法陣を地面に描き、そして呼び出すのである。

 

杖で魔法陣を描くのは可能ではあるものの時間と魔力が必要で、実戦においては不向きだ。呪文のように一瞬で召喚するには小型の下級生物しか呼び出せない。

 

【たしかに、非効率だね。】

 

ウィルはその条件を省略する方法がないかとトムに聞きたかったが、彼は召喚術を身につけるのを諦めたらしい。

 

 

【突然呼び出すのだから、召喚獣がもし用を足している時に召喚すると気まずいな。】

 

ウィルは後ろ足をあげた犬が路地にマーキングをしている時に突然呼び出され、戦場に駆り出されるのをイメージしてしまう。

 

思わず声をあげて笑いそうになるが、寝ている彼らがいるため口を押さえながら身体を震わせる。

 

【傑作だよトム】

 

落ち着いた頃に彼はそう返事を書いて日記を閉じる。

 

 

 

 

ウィルの瞳の下には大きなクマができていた。彼はここ最近体調がよろしくない。夜中に日記でトムと会話をしているからだろうとハリーやネビルは言う。だがそれ以上に普段の生活に支障をきたさない彼に2人は強く言うことができなかった。

 

「ふぅ・・・、この程度で折れてたまるか。」

 

ウィルは小さな声でつぶやいた。

 

そして彼はローブのポケットから小瓶を取り出す。中身は金色の液体が入っている。彼はそれを一気に飲み干した。酷い味だ。

 

腐った卵のような香りに甲虫の体液のような苦味が舌を纏わせる。ザラザラとした食感は喉をつたうように流れた。余韻でさえ苦しみを感じるほどの不快感だ。強烈な吐き気に襲われるもウィルは耐えてみせる。

 

そして杖を振るって香りを打ち消した。一息つく頃には全身の血流が活性化され、脳へ流れてゆくような感覚を覚える。気分的な問題かもしれないが目の下のクマが少し軽くなったようだ。

 

これはエナジードリンクのような薬品である。ウィル自ら調合したもので、脳内のアドレナリンを増幅させて眠気を無理矢理覚ます効果がある。

 

そして彼は自分のベッドに入ると目を開けたまま夜を明かした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

数日後

 

 

 

 

スリザリンの継承者にまた一人攫われた。5年生のレイブンクローの女子生徒だ。彼女もまた石となって動かなくなった。ホグワーツはより深く重い雰囲気を漂わせる事となる。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

〜同日夜〜

 

 

 

 

 

禁じられた森の近くでハグリッドの小屋に2人の客人がやってきていた。1人は校長のアルバス・ダンブルドア、そしてもう1人は背が低く、肥満体型の白人である。魔法界を治める魔法大臣のコーネリウス・ファッジだ。

 

2人はとても暗い表情を浮かべている。

 

「困ったことになった。」

 

彼は疲弊しきった表情でつぶやいた。どうやら日々の過酷な業務に加え、迅速な対策に求められているらしい。

 

「マグル出身者が3人も襲われた。魔法省もなんとかせねば・・・。」

 

「俺は何もしてねぇ、本当だ。」

 

ハグリッドはファッジにそう反論した。するとダンブルドアは彼を援護するように続く

 

「わしはハグリッドに全面の信頼をおいておる。」

 

ファッジはそれはわかっているというような表情を浮かべるも首を横にふる。

 

「だが不利な過去がある。彼を連行せねばならん。」

 

彼がそういうとハグリッドの表情が真っ青になる。

 

「まさかアズカバン?」

 

ファッジはなにも言わない。ハグリッドの家に沈黙が漂う。するとそれを壊すように勢いよく扉が開く。

 

銀色の長い髪にとても白い肌をした細身の中年の男性だ。

 

「ファッジ、もう来ていたのか。」

 

ホグワーツの理事の1人であるルシウス・マルフォイがやってきた。

 

「出てけ、俺の家だぞ。」

 

ハグリッドが声を荒げる、彼は純血思想を強く受け継ぐマルフォイ家を毛嫌いをしているからだ。

 

ルシウスもまたマグルに歩み寄ろうとするハグリッドに対して不愉快そうな表情を浮かべる。

 

「校長がここだと聞いて立ち寄っただけだ。」

 

そしてルシウスはここが家なのか?と嘲笑うような表情を浮かべる。そしてダンブルドアに目線を合わせると彼はローブの中からヒモで括られた書類を手渡す。ダンブルドアはそれを受け取るとヒモを解いて中身を読む。

 

 

「私を含む理事全員が貴方の退陣に賛成した。」

 

ホグワーツには12人の理事がおり、彼ら全員がダンブルドアの退陣を求めたのだ。これはどう考えてもまともではない、すぐさまそう理解したハグリッドはあっけにとられる。しかし当のダンブルドアは表情をピクリとも変えない。

 

「ダンブルドア先生を辞めさせてみろ!次は殺しが起きるぞ!」

 

ハグリッドはルシウスに抗議する。だがダンブルドアはそれを制止するように口を開く

 

「理事が求めるならそれに従い退陣しよう。だが、このホグワーツでは助けを求めれば如何なる時も必ず与えられる。」

 

ダンブルドアはルシウスの瞳の中を見透かすようにすっと見つめた。そしてハグリッドの小屋から出て行った。そしてルシウスは不敵な笑みを浮かべ、勢いよく扉を開けて暗闇に消えた。

 

 



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無意識と意識

 

 

脳の中で血管が脈打つ感覚を感じとれたり、まぶたが下へ下へと垂れるように重くのしかかり、全身の関節が軋む。まるで身体が悲鳴をあげているようだ。

 

一言で言えばウィルは睡魔に襲われていた。

 

ほんの一瞬でも気を抜けば深い眠りに落ちるだろう。椅子に座り前かがみになれば頭をカクンカクンと揺らし、机に突っ伏す。後ろに仰け反ると口をあげて大きないびきをかくだろう。

 

彼の背筋を伸ばせているのは気力、ただそれだけである。

 

 

 

青ざめた表情で目の下が黒ずんでいる。だが茶色の瞳の色は光を失ってはいない。

 

ここ最近の彼は暇さえあれば寝ているように見える。教師陣が課題を与え時間をとるとそれを一瞬で課題を済ませて仮眠をとっている。

 

教師陣の反応は授業態度はいただけないものの課題を終えた空き時間を自由に使っているので注意もしづらいといった感じだ。

 

他にも教室に早歩きで向かい、座席に座ると授業が始まるまで仮眠をとったり食事の場で最低限だけ口にすると友人達が部屋に戻るまで机に上半身を預けて眠る。

 

誰もが心配をして医務室に行くよう忠告しても聞く耳を持たなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、彼はついに瞳をあけた瞬間に見覚えのある天井と薬品の匂いを感じとった。遂に倒れて医務室に運ばれたらしい。

 

掛け布団を前へ投げるように思い切り身体を起こすと、瞼が少し軽くなり身体は少し重い感覚を覚えるが痛みはなくなったようだ。

 

 

頭の中がすっきりしている。何分なのか何時間なのか、何日なのかすらわからない。効率よく眠れたのか、非効率にダラダラ寝たのか。時計を見ればいいのだが、現実を知るのが少し怖い。

 

彼は医務室の壁にかかっている時計を見た、最後に残る自分の記憶を遡ると大広間で食事をしていたはずだ。口の中にはサンドイッチの具材のレタスの青臭い風味がかすかに残っている。

 

時計を見る限り13時45分を指している、およそ一時間半しか経っていない。どうやら物凄く熟睡していたようだ。段々と頭の中が冴えてくる。すると奥から早い間隔でカツカツカツと聞こえてくる、甲高い靴の音だ。

 

「マルフォイ!どこに行ってたのですか!?」

 

白い看護服を見に纏った老婆、ホグワーツ校医のマダム・ポンフリーだ。彼女はウィルを少し睨みつけるように見ている。どうやら少し自分はベッドから抜け出していたらしい。

 

「すみません、少しお手洗いに。」

 

彼は少し申し訳なさそうな表情を浮かべて息を吐くようにさらりを嘘をついた。彼には心当たりがあるからだ。実際彼は自分の知らない行動を取っていると知っている。

 

「次からは私に一言伝えてから行くこと、いいですね?」

 

ウィルは笑顔で肝に命じますと答えた。彼女はそれに満足したのか彼女の作業部屋へ帰っていった。

 

 

(まずいな、次は何が起きた?いや僕はなにをした(・・・・・・・)!?)

 

 

彼は悔しそうな表情を浮かべ毛布を思い切り握りしめた。後悔の念に苛まれる前に彼は突然医務室にマクゴナガルの声が聞こえてくる。その声には焦りと恐れが含んであるようだ。

 

 

【生徒は全員、それぞれの寮にすぐに戻りなさい。教師は全員、職員室に大至急、二階の廊下へ】

 

 

彼女の声は魔法により、まるでマイクのエコーのように反響している。彼は瞳を閉じ、そして決意の固まった表情を浮かべた。

 

 

そしてポンフリーが様子を確認する為に彼のベッドへ行った時、もぬけの殻だった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

〜図書館〜

 

 

 

 

 

 

 

ウィルはゆうゆうとベッドから抜け出して真っ先に図書館へと向かった。道中、生徒達は寄り道することなく寮へ戻り、そして教師陣は二階の廊下へと向かった。だから彼の行く手を阻む者など誰一人としていなかった。

 

 

彼は暗くなった図書館の中をルーモス(光よ)の呪文で杖先を照らしてある本を探していた。そして目当ての本を手にとるとパラパラとめくる

 

そしてあるページに差し掛かると何者かに意図的に破られた形跡があった。彼はそこのページに何が記述してあるかを既に知っている。

 

「秘密の部屋の怪物は【バジリスク】。」

 

彼はそう呟き小さく溜息をついた。そしてそのまま図書館の扉を出た。

 

それからある所に向かおうとして歩いていると、物音なく背後に迫りくる動物の気配(・・・・・)を感じとった。

 

 

 

 

 

彼は勢いよく振り向くと目にも留まらぬ速さで杖を抜き取り、その動物に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白いもふもふの羽根に鋭い眼、そして黄色いくちばし。梟である。

 

 

ウィルは彼女を知っている、ハリーの飼っているフクロウのヘドウィグだ。

 

そして彼は紙の切れ端を持っていることに気がついて中身を受け取った。ウィルはお礼を言ってヘドウィグを優しく撫でると居心地良さそうな表情を浮かべ、そのまま何処かへ飛んで行った。

 

ウィルはそれに視線をやる。

 

 

【至急、嘆きのマートルのトイレへ】

 

 

 

走り書きされたような文字だ。書かれた色合いから羽根ペンではないらしい。とても鋭くしっかりしつつも滑らかな色だ。

 

そう感心しつつも彼はその紙切れの指示に従い走って向かった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

〜3階女子トイレ〜

 

 

 

 

ゴーストの“嘆きのマートル”が潜んでいる女子トイレ、誰も気味悪がって立ち寄らない。ウィルは来たことはなかったが、場所だけは耳にした事があったため迷う事なく最短のルートで到着した。

 

彼の視線の先にはハリーとその相棒のロンがいる。そして2人から杖を突きつけられているロックハート教授だ。あいかわらず笑顔を浮かべているものの引きつっている。

 

 

「ウィル!何も聞かないで僕の話を聞いてくれ。」

 

ハリーはとても緊迫した表情を浮かべながらも少し安心したかの表情を浮かべている。ウィルとは相性が悪いロンも同様らしい。

 

「必要ない、“レジリメンス(開心せよ)”」

 

ウィルはそれを吐き捨てるように拒むとロックハートに向けて杖を向けた。そして彼の中の記憶を盗み見る。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

『スリザリンの継承者がまた伝言を残しました。』

 

ロックハートの視線の先にはマクゴガナルやスネイプ、フリットウイックなど全ての教師陣が集結し壁に描かれた血文字を見ている

 

 

 

【彼女の白骨は永遠に秘密の部屋に横たわるであろう。】

 

 

いくら類まれな才能に並々ならぬ鍛錬を重ねた教師達とはいえ、言葉を発する事ができない。ほぼ全ての先生が就任以来最も危険な事件に巻き込まれているのである。こんな時にダンブルドアさえいれば心強いのにと誰もが思った。

 

副校長であるマクゴガナルはただ1人現実を見ていた。そして情報を皆へ伝える。

 

『連れ去られた生徒の名前は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハーマイオニー・グレンジャー。』

 




僕の知る限り次の投稿から最終話までの展開はこのサイトに似た話は一つもないと勝手に思いこんでます。秘密の部屋編から作者の個性が色濃く出てきます。

日付も空いているし、テンポ重視で色々すっ飛ばしてるからわかりにくいと思うのでアンケートを取ります


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天才と天才①

 

 

 

 

 

女子トイレ前の手洗い場にハリーとロン、そして手ぶらで杖を突きつけられているロックハートは唖然としていた。彼が何をしたのかわからなかったからだ。

 

「事態は把握した、俺の失態(・・)だ。」

 

腑に落ちたような表情を浮かべたウィルはそう2人に伝えるとハリーとロンは顔を見合わせる。どんな魔法なのかは知らないが記憶を覗く魔法なのだろうと思った。だがそれはハーマイオニーを助けられなかった後悔なのだと考えた。

 

「下がっててくれ。」

 

ウィルは迷う事なく手洗い場の蛇口を覗き込んだ。そしてそこに蛇の彫刻が刻まれているのを確認すると口を小さく開けた。

 

「【開け】。」

 

シューシューとした声にロンとロックハートは何を言っているのか理解できなかった。しかしハリーにはそれが『開け』と発音したのだとわかった。

 

蛇語である。ウィルも蛇語を話せる(パーセルマウス)なのかとハリーは少しワクワクしたが、彼が話せるのはその単語だけだった。というより言えるのはそれだけだ。

 

すると突然大きなガタガタという音を立てて蛇の彫刻が書かれた手洗い場がまるで機械仕掛けのように床に沈み、そして暗くて深い穴が空いた。

 

「どうやったんだ!」

 

「あぁ既に調べてあった(・・・・・・)んだ。」

 

そして一瞬でウィルはロックハートの襟を思い切り掴むと、思い切りその穴へ叩き飛ばした。秘密の部屋の入り口の出現に呆気にとられていた彼は不意を突かれて抵抗するまもなく暗闇に消える。

 

ハリーとロンは口をあんぐり開けてウィルを見ていた。余りにも迷いがない様子に呆気にとられていた。おそらく下にいるロックハートも自分達と同じ気持ちだろう。

 

「囮役だろ?」

 

ウィルはさぞ当たり前の事をしたと言うような表情を浮かべた。すると中からロックハートの声を聴くとウィルは何の躊躇もなく穴へ飛び込んだ。

 

穴はまるで滑り台のように下へ下へと続いており、お尻と背中が熱を持ち痛みを感じる。20秒ほど地下へ下ると地面に足をつける。そしてすぐさまロックハートに杖を向けた。

 

足元には鼠の骨が転がっており、ジャリジャリと音が響く。酷い下水道の匂いだ。

 

少しの間をおいてハリーとロンが絶叫をあげながら勢いよく地面に落ちて転がった。

 

「ロックハート、先に行け。」

 

ウィルはそう指示すると彼は両手をあげて素直に囮役として先に進ませる。奥へ奥へと進んでいくと目の前にとても太くて長いが厚みのないパイプのような物体が落ちている。

 

よく見るとそれは蛇の抜け殻だ。20メートルはありそうな大きさだ。

 

ロックハートはそれを見ると気を失ったように地面に倒れた。ウィルはそれを気にしないように光で照らして蛇の大きさを測るため奥へ進む。ハリーもそれに続くがロンはロックハートを蔑むように見て使えないやつと捨て台詞を吐いた。

 

するとロックハートが一瞬で起きあがり、ロンの杖を奪い取った。そしてロンの背後に立って彼を盾にする。

 

そして芝居がかった表情を浮かべてウィルとハリーを見た。

 

「冒険は終わりだ。坊や達。」

 

彼はロンを人質にして余裕を持ったようだ。

 

「皆にはこう言おう、女の子を救うにはあまりにもおそ・・・はッ?」

 

彼は頭の中で自分に都合のいいシナリオを書きあげて、それを2人に伝えている最中に目の前に黄色の閃光が煌めいた。

 

そして彼の顔に命中して勢いを殺す事なく壁に激突した。とても鈍い音がした。

 

「遅くねぇよバカ。」

 

苛立ちを隠せないウィルは人質にひるむ事なく失神呪文をロックハートに放った。

 

建築以来、地下は老朽化していたのだろう。天井から土埃が落ちてくる。またもや呆気にとられている2人をおいてウィルはダッシュで前へ進んだ。

 

すると天井に一瞬でヒビが入り、なだれ落ちるように崩れ落ちた。そしてハリーの頭上に落ちてくる。彼は身体が固まって動けずにいた。余りにも展開が早過ぎる。そしてこんなにウィルが無茶苦茶な奴だとは思わなかった。

 

 

ウィルはハリーに呪文を放ってロンの側に吹き飛ばした。彼はバランスを崩して尻餅をついたが落石からは逃れる事ができた。

 

まるでウィルと2人を分断するかのように岩石のバリケードができた。

 

「無事か?」

 

岩の隙間からウィルの声が聞こえてると2人は大丈夫だと言った。

 

「俺は先に行く、お前らは岩を崩せ。」

 

彼はそういうと早歩きで先へ進んでいた。明らかに焦って本来の彼の姿が出ている。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

通路を進むと大きな広場のような所へ出た水場の間に大きな一本道があり、巨大な蛇の像が脇に並んでいる。そして道の奥にはひときわ大きな老人のような銅像が建てられている

 

そしてその銅像の前に女の子が横たわっている。ウィルはぴちゃぴちゃと靴で水を弾きながら走ってハーマイオニーの元へ急いだ。首に手を当てて脈を測ると鼓動を感じた。どうやら気絶をしているだけらしい。

 

そしてウィルは背後からやってくる一つの気配を感じた。

 

「なんだお前は?」

 

ウィルは杖を向けてゆっくりと振り返った。そこには黒い髪に白い肌をした青年がいる。とてもハンサムだが、身体の全体が薄っすらとぼやけている。

 

ホグワーツの制服を身につけており蛇の紋章が描かれている。スリザリンの生徒らしい。

 

「やぁ来ると思ったよ。眠らない(・・・・)事で抵抗するなんて考えてもみなかった。」

 

彼は少し残忍そうな笑顔を浮かべハーマイオニーから奪ったであろう杖を持っている。

 

「お前、日記か?それともトム・リドル?」

 

「どちらも僕さ、もう道化は終わりだ。君の身体を僕のものにする。」

 

「黙れ、俺は俺だ。そんな事よりハーマイオニーは返してもらう。」

 

2人は互いの様子を見て動かない。先にどちらが動くかをはかっている。そしてあるタイミングで彼らは同時に呪文を放って打ち消しあった。それから撃てる限りの術を放ちあう。2人の間ではさまざまな色の魔法が飛び交いぶつかって火花を散らした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

同時刻

 

 

 

 

 

〜ホグワーツ校長室〜

 

 

 

 

 

ダンブルドアのいない校長室でマクゴナガルは迅速な対応に追われていた。闇祓いへの連絡や今、行方不明となっている生徒達の保護者にフクロウ便を送った。

 

そして今、教師達は秘密の部屋の探索に出ているが一向に見つからない。彼女は魔法を介して連携を取る役としてここにいるが、自分の寮の4人の生徒を探しに行きたい衝動に駆られている。しかし自分の役目ではないと同僚を信じる事にした。

 

 

ノックすらされずに校長室の扉が勢いよく開くと中から長い銀色の髪を垂らした中年の男性が現れた。彼は疲弊しきった様子だが走ってマクゴナガルに詰め寄る。

 

「私の息子なんだ!」

 

ルシウス・マルフォイは感情をあらわにして大声をあげた。普段の嫌味ったらしい性格など微塵も感じない。彼も1人の子を持つ親という事だ。

 

「ダンブルドアは、ダンブルドアは今、どこにいる!?」

 

彼は己の行為を激しく後悔していた。ダンブルドアを毛嫌いするあまり他の理事達を脅して退職に追い込んだ。結果としてホグワーツに以前起きた忌まわしい出来事が再来し、学校に今世紀最強の魔法使いを失わせた。

 

そのせいで自分の大事な息子が危険な目にあっているかもしれないのだ。

 

「私の子を、どうか私の大切なウィルを救ってください。」

 

ルシウスは崩れ落ちてマクゴナガルの足元にすがり、泣きそうな声で嘆願した。

 

彼女は初めてルシウスに哀れみを感じた。

 

 

 

***

 

 

 

 

〜秘密の部屋〜

 

 

 

 

 

水場の上に茶色の杖がぷかぷかと浮いている。そして道の手前でウィルは地面に倒れていた。だが意識はあるようだ。ヴォルデモートと対面した時と同じ感情が湧き上がってくる。

 

 

(何かが飛び抜けているんじゃない。ただ基礎が僕の全てを上回っている。)

 

 

ウィルがトムと呪文を撃ち合ってからほんの20秒も持たなかった。

 

(投降すべきだ。)

 

 

ウィルはそう思った。それが最善策だと・・・。

 

 

だがそれ以上に去年と同じであることに激しいほどの嫌悪を覚えた。

 

自分は去年より確実に成長している。休暇中ですら1日たりとも鍛錬を怠った日はない。

 

敵を倒す呪文を覚え、敵を呪う術を学び、戦闘に使える策を蓄えた。

 

これ以上の成果は不可能だと断言できるほどに自分は努力した。

 

 

 

 

忠誠心(・・・)のない杖でこれか。」

 

魔法使いと杖には絆がある。杖には感情があり、自分が持ち主と選んだ存在でないと力を発揮しない。それが忠誠心だ。

 

もちろんそれに欠けていれば魔法の威力が軽減されたり、言う事を聞かなかったりする。

 

ハーマイオニーの杖を奪ったトムは確実に実力を発揮できてないはずだ。その上で思い知らされた実力差である。

 

ヴォルデモート以来の怪物だと思った。

 

杖を自分に向けてゆっくりと詰め寄るトムは油断している。

 

「素質はある、ただ若い。その身体を奪えば僕はもっと強くなれる。」

 

彼はそういうとウィルに手を伸ばした。丸腰の自分へ明らかに意識を向けていない。自分の身体を奪うというより、ようやく自分が復活できると言わんばかりの表情を浮かべている。

 

 

 

 

 

 

(今が最後の勝機だ。)

 

 

 

「“エスクペリアームス(武器よ・去れ)”ッ!!!」

 

ウィルの武装解除の呪文がトムの腹部へと命中した。彼は抵抗する事なく後ろへ吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。

 

そして彼はもう一度同じ呪文を杖へ向けて放つと、それを彼の手には届かない遠くへ飛ばした。

 

「なぜだッ!?」

 

確かに杖を手放して丸腰だったはずだ。視線をウィルに向けると杖を彼が持っているではないか。

 

しかしそれは黒い杖だ。明らかに水場に浮いている杖とは別の杖だ。ローブにもう一本、隠し持っていたのだろう。

 

 

「悪いね、これは母の杖だ。」

 

そういうと彼はトムへ向けて呪文を放ち、そしてその閃光は彼を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその閃光でトムを仕留められなかった。彼が放った失神呪文を受けてなお意識を保っている。そしてトムはゆっくりと立ち上がると彼に背中を向けた。

 

ウィルは驚きながらも休む間も無くありとあらゆる魔法を放った。戦闘用だけでなく呪いや爆発させる呪文も使用した。ウィルは相性のいい本来の自分の杖を引寄せ呪文で掴むと、そのまま持ち替えて魔法を放つ。だが何も変わらない。

 

トムは魔法自体によろめきはするものの魔法自体の効果は受け付けないようだ。

 

 

 

(なぜ効かない?練度が低い?こいつが異常なのか?)

 

 

ウィルは焦りを感じながらも追撃の手は緩めない。そしてトムが言っていた発言を思い出した。

 

 

【どちらも僕さ】

 

 

 

日記なのかトムリドルなのか尋ねたらこう答えた。つまり彼は日記の持つ守護魔法を持っているという事だ。すなわちそれを破壊も取り除く事もできなかったウィルではトムを倒せないということだ。

 

 

 

トムは床に落ちていたハーマイオニーの杖を悠々と拾うと、ウィルの放った魔法を軽く振って撃ち落とした。

 

 

 

その現実を直視した彼は心が一瞬だけ折れたのか身体の中に眠る疲労が突然ぶり返した。彼は今日を除けばこの数週間、ベッドで眠りにつかず薬品で誤魔化していたのだ。

 

 

「小細工はもう終わりかい?」

 

「ないよりマシだろ?」

 

 

ウィルは精一杯言い返した。彼には隠し持った母親の杖の他にもう一つだけ勝ち筋がある

 

 

(だがこのコンディションじゃ無理だ。)

 

 

それは体調が万全であっても敬遠してしまう行為だ。この体調では不可能に近い。命の危険さえあるだろう。

 

「いや、やるんだ。少なくともハリーならそうする。」

 

 

ウィルは去年の汽車でハリーの勇気を目の当たりにした。自分では敵わない敵に挑めるのは守りたい存在がいるから・・・

 

 

 

 

(そうだ、俺には友がいるッ!!!!)

 

 

 

ウィルは汽車でのハリーとハーマイオニーとの思い出を糧に再び心を持ち直してみせる。

 

 

(命くらい削ってやる、アイツらにはそれ以上の価値があるに決まってんだろうがッ!!!)

 

 

 

 

そしてウィルはトムを静かに見つめた。驚くほど冷静だった。だがそうでなくてはならない、これからやることは命の危険すら伴う

 

「トム・リドル、僕は今から本気を出す。君もそうだととても嬉しい。」

 

「なに?」

 

 

ウィルは目を閉じると身体をめぐる魔力を精密に感じとる。そして全ての魔力の供給を止め、大きく息を吸って止める。

 

そしてその空気を一気に吐くと同時に隠していた膨大な灰色の魔力を放出した。全身から勢いよく溢れるそれはまるで小さな台風のように彼の中心を渦巻き、吹き荒れた。

 

 

 

 

 

 

 

【天才】・・・、

 

 

 

それはウィリアム・マルフォイを語る上では欠かせない言葉だ。魔力の量は常人より遥かに超えている、間違いなくこの世でも数えるほどしかいない素質だ。

 

だがそれをウィルは隠していた。それは闇祓い達に警戒されないようにする為、ただそれだけである。身体に纏うのではなく常日頃から無理やり抑え込んでいる。

 

 

 

それを解き放ったのである。

 

 

 

 

 

一般的に魔法界の幼児はよく魔力を暴走させる。これは余りにも小さな器から溢れた魔力を発散しているに過ぎない。これより急激に器を広げていくのである。そしてその器が大きく成長した頃になると暴発は止む。

 

 

彼はその器を故意で小さくしているのだ。しかし魔力の供給量は変わらないのでいつ爆発してもおかしくない状況だった。

 

しかし彼はその全てを一気に放出した。自らの意思で魔力を解き放ち、そして暴走させる事なく自らの支配下に置く。

 

 

更には暴走しないように慎重に、そして大胆に魔力を魔法に変化して敵に当てなければならない。恐ろしいほどの精密なコントロールが必要なのである。

 

 

 

これは身体への負担が大き過ぎる。万全の状態であっても解放して暴走させる事なく支配下に置くには凄まじい体力がいる。

 

 

魔力とは魔法使いを覆っているエネルギーのような存在だ。もちろん多ければ多いほど強力に、そして多く放てる。むろん魔法使いの戦いにおいて魔力の多い方が勝つとは限らない。しかし歴史上で魔力の少ない魔法使いが大成した例はほとんどない。つまり一種の魔法使いの素質を測る存在として認識されている。

 

平凡な魔法使いの魔力は目を凝らして微かに見えるか見えないかくらいの存在感しかない。だが今のウィルの魔力は目ではっきりと見える。まるで小さな災害のように吹き荒れているようだ。

 

 

 

 

トムは呆気にとられていた

この自分が、自分より年下の魔力に気圧されているのだ。しかし彼の心にあるのは恐怖ではない。

 

トムは狂気的な笑顔で顔を歪めた。

 

かつてないほどの興味、そして期待である。そして彼のような存在をずっと待ち焦がれていたかのような感覚さえ覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

【自分と並ぶ存在】

 

 

トム・マールヴォロ・リドルは興奮していた。

初めて自分が本気を出してぶつかれる相手と相見えたのだから・・・

 

 

「認めてやるぞ!この僕に並ぶほどに偉大な魔法使いとなる素質を、君は充分に持っているッ!!!」

 

 

トムもまた己の魔力の全てを解放した。日頃から抑えてはいないものの遂に本気を出す

 

彼の身体から黒い蒸気のような魔力が勢いよく溢れ出した。

 

灰色のうねるような魔力と黒色のゆらめく魔力がぶつかり合う。

 

傍目から比べてもどちらに軍配があがるかは判断できない程の魔力の圧力を持つ。そして2人の若き天才は同時に魔法を放った。




今までで一番気合を入れて書きました。
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天才と天才②


本当は前話で少し引っ張ろうと思ったけど、自分がされるとムカつくから投稿します、


 

 

 

 

 

 

 

一撃一撃が途轍もなく重く、そして限りなく鋭い。それらは込められた魔力の多さと操作、更に術の練度により立てる領域だ。

 

呪文の衝突により風圧が生じる。全身に振動が伝わり、鼓膜が叩きつけられるように激しい痛みを感じる。

 

それをものともせずに2人の魔法使いは更なる魔法を放つ。

 

決闘に長けた魔法使い同士の決闘(それ)ですら子供のごっこ遊びに感じるほどの激しく、そして高度な魔法の応酬だ。2人は己のあらゆる魔法や呪いを行使し、それに対抗できる異なる魔法やそれを撃ち落とす反対呪文を使用する。

 

トムは歪めた笑顔を崩さずにいる。自分が全力を尽くしてもなお壊れない敵、ようやく現れたのだ。心の奥底で50年間待っていたであろう対等な存在に・・・

 

それに対してウィルは感情を失ったかのような冷たく、瞳には光を宿してない。それほどに今のトムに対して全てを注いでいる。しかし少しずつ、それも崩れて行った。彼の頬も緩んでいく。

 

 

 

ウィルは学び続け、そして鍛錬を重ねている。だが彼には明確な到達地点がなかった。

 

それはマルフォイ家を守る為、そして彼の夢や野望を叶えるためである。

 

それらはあくまでも未来の話、それに対する下積みを今行っているに過ぎない。

 

平凡な人物なら自身の成長を実感できるだろう。しかし彼は天才、初めから同世代どころか上の世代ですら誰一人として彼を超える存在はない。故に学び扱えようとも実力をぶつける相手がいない。

 

だが今、ここにいる。上級生とはいえ自分と同じ世代(ホグワーツの生徒)として張り合えている。自然と心から熱い感情が溢れ出す。

 

 

 

応酬のさなか、トムは目の前の年下の少年にこの上ないほどの称賛を送った。この自分を追い詰めるほどの強さを、自分より学ぶ機会と時間も少なくして自分と同じ土俵に立つ。

 

それに対してウィルもまた同じ気持ちだった。リドルという名は魔法家の一族の名前ではない。マグル出身の生徒だ。自分は入学前からマルフォイ家の当主として教育と鍛錬に耐えてきた。だから他の学生と比べればスタートが違う。つまりトムリドルは学生であるうちに己の実力をここまで伸ばしたのだ

 

 

 

 

 

2人の心には惜しみない賛美、そして尊敬の念がある。だが互いの心を最も埋め尽くしたのは対抗心である。

 

対抗心、相手に勝ちたいというより自尊心に近い。自分が最強で最も優れた天才であるという誇り、同世代の誰かに敗北するなどプライドが許すはずもない。

 

 

 

 

遂に決闘が始まってから5分がたった。圧されていたのはトム・リドルだった。

 

 

理由は明白、本気を出したとはいえ自分の持つ最強の呪文を使うのを控えていたからだ。

 

しかし彼は真剣になればなるほど、己を律する鎖が緩んでいった。自分の敗北が濃厚であると勘付いた時、彼はつい癖でその呪文を唱えてしまった。

 

 

 

 

 

 

【アバダ・ケタブラ】

 

 

 

杖から緑色の閃光が瞬いたその瞬間に彼は激しい後悔に苛まれる。この若き才能の芽を絶やさなければまだ遊べただろう。

 

“死の呪文”は防ぐ術のない呪文だ。“盾の魔法”であっても防ぐ事ができない防御不可避の一撃必殺である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その閃光を前に彼は小さく杖を振るった。まるでただゴミを払うかのようにその呪文の軌道を捻じ曲げて天へ飛ばした。

 

 

そしてウィルは追撃の魔法を放ち、トムの心臓を狙うも“盾の魔法”で弾かれる。

 

 

「いい、凄くいいぞ。」

 

彼は再び始まった魔法の応酬に身を投じる。そしてまもなく均衡が破れる時が来る。

 

 

 

 

もし魔力総数は互角、練度及び術ですら互角

ならば勝敗を分かつのはただ一つ

戦いにより真剣に挑んだ方が勝つ

 

 

トムは魔法の威力に押されて後ろにバランスを崩した。あとは杖を奪うだけ、無敵の防御を持ったとしても最強じゃない。

 

 

トムの猛攻の全てをさばき、そして彼に更なる猛攻を仕掛けたウィルの勝利は目前だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィル!!!!」

 

 

土まみれのハリーとロンが走ってこっちに向かっている。杖をトムに向けている。

 

これはまがうことのなき悪手だった。

半端な実力の持ち主の加勢は足を引っ張る事になる。トムの視線は2人に向き、ハリーの方へ向けて“死の呪文”を放った。

 

ウィルは強靭な動体視力で軌道を変化させハリーの命を守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間に彼は腹部に激しい熱を感じた。一気に力が抜けて彼は地面に倒れ、そのまま起き上がれなくなった。

 

 

それからすぐに喉に鉄の味が広がると口から激しく吐血した。やがて地面に血の水溜りができ、ようやく自分の傷の程度を把握した。

 

かろうじて両方の手のひらに力を込めて四つん這いになる。だがそれ以上は身体を立てる事ができなかった。

 

 

 

 

同じ実力の者が決闘をした時に勝利する方はより真剣(・・)に臨んだ方、だがイレギュラー(非常事態)において迅速に対応できるのはより余裕(・・)を持った方である。

 

 

彼が武装解除の呪文を放つ寸前に勝利を失った。あと5秒もあればトムの杖を彼は勝ち取っただろう。

 

だがこの勝負において勝利を勝ち取ったのはトムリドルであった。

 

「愚かだ、君も気づいてるはず。君の魔力が減った事で僕が君に注ぎ込んだ魔力の割合(・・・・・)が増えていることに。」

 

ウィルが日記に書き込むたびにトムは彼に魔力を注ぎ込んでいた。そしてやがては隙を見て自身の身体として支配するつもりだった。事実、彼の身体は自分の知らない所で操られていたのである。

 

それに勘付いたウィルは自分の意思がほとんどなくなる事がないよう眠る時間を最小限にすることにしたのである。

 

自分と魔力と強い意志によってトムの支配に抵抗していた。だがこの決闘の中で自分の魔力のほとんどを使い果たした。そのためトムが注ぎ込んだ魔力が身体に反映されるようになる。つまり全身をめぐる魔力がトムの魔力の影響を強く受けるようになったのだ。

 

「君ならそうすると思った、君の敗因は甘さ(・・)、ただそれだけだ。」

 

 

 

トムのその言葉にウィルは激しく動揺した。自分が命を削ってでも護ろうとした存在の為に戦い、そして命を守った事で自分は地面に沈んでいる。まるで自分自身が戦う矜持のせいで敗れた。

 

 

ハリーとロンが何かを叫んでいるようだが、彼は聞く耳を持たなかった。そんな余裕すらない。

 

 

だが彼には迷いはなかった。自分の取るべき選択はただ一つ。

 

 

 

 

 

彼は最後の力を振り絞り、自身の右の手のひらに全ての魔力を注ぎ込んだ。そして地面に微かに浸る血の混じった水に魔力を纏わせるように広げた。やがてそれは広がりを見せ、そして水場へと到達する。

 

 

その瞬間に彼はその場にいた誰もが呆気にとられるほどの雄叫びをあげる。普段の彼から想像などつくはずもない、まるで死にかけの獣の闘争本能ようだった。

 

すると水場にあった全ての水がまるで生きているかのように持ち上がる。天井が濡れるほどに大きな津波になった。

 

そしてそれをトムへ向けて放った。

 

 

 

「こんなの足止めにしかならないぞッ!!!」

 

トムは大声でその行動が最後の悪あがきだと言い放った。魔法ですらない津波は杖を前に突き出して彼は2つに叩き割ると、それはまるでトムを避けるように通り過ぎていった。

 

 

 

 

そして行き場をなくした津波はそのまま壁へぶつかり、地面に大きく広がるとぽかりと穴が空いた水場へじゃばじゃばと入っていく。天井からは小雨のようにポツポツと落ちているが、気にすることはなかった。

 

トムはただ、最後の足掻きの意味を理解したのだ。

 

「ウィル、君に甘いと言ったね。前言撤回するよ。」

 

トムは静かに瀕死のウィルを見た。片手で押さえた程度では腹からの出血は止められることなく、そして口元からはよだれのように血が滴っている。

 

「君は甘過ぎる(・・・・)。」

 

その言葉を聞き遂げるとそのままウィルは力尽きて地面に倒れた。まるで操り人形の糸が切れたかのように、なんの抵抗もなかった。

 

 

そして秘密の部屋の広場に残っていたのはトム、そして倒れた若き魔法使いだった。ハリーやロン、ハーマイオニーは姿を消していた。どうやら逃す時間を稼ぐためだった。

 

 

 

トムはゆっくりと倒れているウィルへ歩いていく。彼との戦いの中で何かが芽生えた。

 

そしてトムはウィルの前でしゃがみこんだ、その瞬間に地面が突然白く輝いた。丸い球体の縁に書かれた古代文字、そしてその中に描かれたのは六芒星だ。強い魔力を感じる。

 

 

これは魔法陣(・・・)である。

 

 

「ははは・・・トム。」

 

ウィルは顔をあげる事すらままならないものの囁くように言った。

 

 

トムの足元を覆う程度の大きさであり、発動条件が満たされた事で出現したようだ。

 

トムは急いでその呪文を消そうと思いつく限り除去魔法を片っ端から放つ。だがそれは無意味な結果に終わる。

 

 

 

「君の敗因は効率主義(・・・・)だ。」

 

 

魔法陣は杖のない古代の時代に存在した魔法だ。当時の魔法使いに杖という媒体を持っておらず、魔力を込めた指で描き描いた文字によって発動させていた。

 

月日が経ち、魔法使いが杖を有してからは発動に手間がかかるとして衰退したのだ。現代においては魔法陣を描く時間はどう考えても非効率とされる。

 

だがウィルはこの魔法陣を罠としてなら使えると判断して、習得した。

 

ウィルはトムと日記の中で語り合った中で彼の弱点を知った。同じ学び舎で成長したからこそ図書館にある攻撃魔法の多くを彼は手に入れている。だから有効ではない。

 

有効であるとすれば彼が見向きもしない分野、トムは在学中という短い期間であるからこそ厳選しなければならない。

 

それに対してウィルは長い年月をかけて成長できるからこそ一見後回しにすべき事ですら手中に収められる。

 

 

 

 

 

そして魔法陣はついに発動した。白く鋭い光が瞬いた。これは凡ゆる魔法を取りはらう。かつては除霊として浸透していたが、魔法や呪いにも有効であるとウィルは発見した。

 

 

光が消え、発動を終えたのを見届けるとウィルは最後の力を振り絞って杖をトムへ向け、そして彼を視認することなく呪文を唱える。

 

「“レダクト(粉々)”」

 

使い切った魔力の残り香を使い人一人(ひと ひとり)を仕留め得る呪文の中で最も消費魔力の少ない魔法を選択した。

 

 

爆音と共にトムは激しく吹き飛んだ。ウィルは何かが地面に叩きつけられた音を耳にすると静かに目を閉じ、完全に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決めたよ、君の身体は奪わない。」

 

そういうとトムはウィルの腹部を魔法で癒し、そして左手を優しく掴むと杖を突き立て“ある紋章(・・・・)”を彼に刻んだ。

 

 

 

 

 

 




2章でこのレベルなら最終章はもっとヤバいという現実に震える作者
あとテスト前にて暫し失踪します


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天才と天才③

 

 

 

 

 

 

 

ハリーは全速力でウィルの元へ走っていた。彼の魔法により水を吸って重くなった服は周囲に水を飛ばしている。

 

自分は救われたのだ。どこかで感じたことがある緑色の閃光を妨害してくれた。だがそのせいで隙だらけの彼は深手を負ってしまう。

 

 

しかしウィルはひるむ事なく通路の左右に溜まっていた水場の水を操って敵らしき生徒へぶつけた。

 

でもそれは陽動で、地面に倒れていたハーマイオニーを水がまるで巨大な手のひらの形になり彼女を包み込むと素早く出口の方へと意志を持つかのように向かった。

 

その巨人の手はハリーとロンをも掴むと2人を【秘密の部屋】の入り口の嘆きのマートルの住み着いたトイレへと戻した。

 

ロンにハーマイオニーを安全な場所に避難させるのと教師陣に加勢を頼む役目を任せてハリーはウィルを助けに再び入り口へ飛び込んだのである。

 

再び滑り落ちる中で無力な自分を呪った。自分に力があればウィルはまだ戦えたはずだ。しかし彼は冷静だった。結果は翻せない。だから今の自分になにができるかを考え、そして実行に移した。

 

 

 

ハリーが広場にたどり着いた時、彼の目に入ったのは赤い水溜りだった。それは床に少し浸っている水と混じって薄まり、そして広がっている。

 

その真ん中でピクリとも動かず横たわっているのは自分の友だ。そしてウィルの前に立ちハリーに背を向けている謎の生徒だ。

 

ハリーは叫びたくなる衝動を必死に抑えていた。通常であれば感情に任せて魔法を撃つ。しかし彼は冷静だった。ウィルですら簡単に倒せなかった相手だ、自分が奴の不意を突かずに勝機はないと悟った。

 

しかしその生徒はゆっくり立ち上がりハリーの方を見た。

 

「安心するといい、殺してない。」

 

卑怯だと言わない彼に自分は少し恥ずかしくなる。正々堂々と戦うべきだったと思いつつ、それ以上にホッとしていた。

 

そしてハリーはこの年上のスリザリン生が【秘密の部屋】の継承者なのだと確信した。

 

ハリーは口を紡いだまま警戒している。自分の行動次第ではいつウィルの命が奪われるかわからなかったからだ。

 

 

「ハリーポッター、会って話がしたかった。僕の名前はトム・マールヴォロ・リドル。」

 

スリザリンの紋章のついたローブだ。

 

「・・・。」

 

「いや、こういうべきか。かつて君が討ち破った最も偉大なる魔法使いだ。」

 

そうだ、思い浮かぶのは1年前にクィレルの後頭部に寄生していた闇の魔法使い。しかしどう見てもこのハンサムな生徒があの恐ろしいヴォルデモートと結びつかない。ふざけて自分を煽っているのだと考えた。

 

「ふざけてる時間はないんだ!君はまだ学生じゃないか!」

 

遂にハリーは声を荒げた。それを無視するかのようにトムはハーマイオニーから奪った杖をまるでペンで文字を書くように空中に刻む

 

 

 

【Tom Marvolo Riddle】

 

 

赤く描かれた文字は空中にとどまる。トムはそれに対して再び軽く文字を振るう。その文字達は羅列された自分の名前は並びを変える

 

 

【I am Lord Voldemort】

 

 

ハリーはそれを見ると脳の中で何かがぐるぐると駆け巡った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜ウィルの精神世界〜

 

 

 

 

 

彼は深くて暗い海の底にいた。魚の群れはなく、潮の満ち引きもない。ただ自分一人がゆっくりと海藻のように揺れているだけだ。

 

それが精神世界だとすぐにわかった。だから彼は自分に嘘をつかず自分が時間を無駄にしてもいいのだと思った。

 

 

(僕は孤独(一人)だ。)

 

 

彼には時間を共にする家族はいる。語り合う友はいる。尊敬する教師はいる。

 

だが彼は自分が孤独だと思っていた。

 

孤独でないと言うのなら家族、友や仲間に自分の隠された思いや後悔、暗い過去を話せるはずだ。そして彼は今まで会った誰にでもそれを語る事はできなかった。

 

だから唯一、自分にだけは自分の感情に嘘をつきたくはなかった。自分にだけは語りたかった。現実で誰にも話せないからこそ自分の中で現実を受け入れ未来を目指そうと考えた。

 

 

 

 

彼は身体が重かった。今まではただの錯覚に過ぎなかったのに、これは現実である。

 

まるで深い海の中にいたかのようにずっと息苦しくて、それに耐えれば耐えるほど強くなれたような気がしていた。

 

でも今日、初めてその重圧の中で、その中で初めて楽しいと思えた。今までの積み重ねが初めて無駄じゃないのだと知った。

 

 

空想に浸り逃げるのか、現実を選び苦しむのなら今の彼は迷わず現実の全てを喰らう。

 

知識や魔法の全てを喰らい尽くして強くなる。重圧も孤独も全てを独り占めしてデカくなる。今一度、そう決心がついた。

 

 

弱い自分との決別である。

 

 

(僕はこの生活でなければここまで辿り着けなかった。君と渡り合えなかった。)

 

 

だからどんな過去も否定しない、現実は全て受け入れ未来に繋げる。

 

 

(トム、君はどこで産まれ、どこで育った?僕は君の事をもっと知りたい。誰にも話したくない暗い過去があるならなにも聞かない。ただ君の価値観(生き様)を教えてくれ。)

 

 

生半可な過去や強靭な意志を持たずに自分と同じ領域に立てないはずだ。才能のみで立てる場所じゃない。

 

だから知りたい。もしかしたら自分は傷の舐め合いがしたいのかもしれない。ただウィルはトムと自分の価値観を共有したいと思ったのである。

 

 

(そうだ、僕はただそれを求める為だけに僕は立ち上がれるだろう)

 

 

彼の身体には再び弱々しくも暖かい魔力が宿り始めた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ヴォルデモートは僕の過去であり、未来であり、現在である。」

 

ヴォルデモートはハリーが赤子の時に放った“死の呪文”を跳ね返され討ち破られた。しかし彼は死ななかった、そして復活の機会をずっと待ち続けていたのである。

 

ヴォルデモートは不快感を露わにして続ける

 

「汚らわしいマグルの父親の名を名乗るわけないだろう?だから自分で名付けた。誰もが恐れる最も偉大な魔法使いの名前だ。」

 

「それはダンブルドア先生だ!」

 

ハリーはヴォルデモートはただの殺人鬼だと言い放ち、偉大だとされるのがダンブルドアであると叫んだ。

 

その瞬間に鳥の鳴き声が聞こえてきた。2人はその方向を向いた。するとその声の持ち主はすぐに姿を現す。

 

白鳥ほどの大きさの赤い鳥だ。孔雀のように長い金と赤の羽根を輝かせ飛んでいる。鋭い爪にはボロボロの布切れのようなものを持っており、それをハリーの方へ落とした。

 

「組分け帽子?」

 

ホグワーツに入学して最初に行う寮を決める儀式で使うあの帽子である。

 

トムは大声で笑い始めた。ダンブルドアがハリーに送ったのは鳥と古帽子に過ぎない。まだ箒や透明マントを送ってくれた方が役に立ったろう。

 

「ではハリー、サラザール・スリザリンの継承者のヴォルデモート卿とかの有名なハリーポッターとの対決だ。」

 

彼はそういうと後ろを振り返り、口を開く

 

スリザリンよ、ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我には話したまえ。』

 

その老人の銅像がサラザール・スリザリンのものであるとハリーは理解した。そしてその巨大な口が音を立てて広がると、奥からなにかがずるずると這い出てきた。

 

あいつを殺せ。』

 

ハリーは後ろを振り返って走り出した。

 

 

この怪物はバジリスクであると知っていた。ハーマイオニーが残してくれたメモのおかげだ。ハリーとロンは彼女が倒れた場所に向かって何か手掛かりがないか探した。元々3人は“秘密の部屋”の継承者を突き詰めようとしていたのである。彼女が石にされた時、手に握りしめていたであろうメモを地面に落ちていたのを発見した。

 

 

そこにあったのはバジリスク、鶏の卵から産まれヒキガエルの腹の下で孵化する怪物だ。バジリスクのひと睨みは致命的で、とらわれたものは即死する。蜘蛛が逃げ出すのはバジリスクが来る前の前触れである。唯一の弱点は雄鶏の鳴き声で逃げ出すという特性だ。

 

 

その恐ろしい怪物には正面からぶつかっても勝ち目はない。だから時間を稼いで少しでもいい策を考えようとした。

 

 

 

『待て!鳥に構うな。小僧は後ろだ!音でわかるはず、殺せ!』

 

ハリーはバジリスクの影を見た。

 

すると鳥が蛇の首回りを飛んで鋭い爪で両方の目を潰した。

 

 

ハリーはついに立ち向かった。そして鳥は組み分け帽子を掴むとハリーに放り投げた。

 

ハリーはその中身をちらりと見るとまばゆい銀色の光を放つ金属の何かがある。剣だ。

 

彼はそれを掴むと思い切り引き抜いた。

 

だがその瞬間にバジリスクの牙が見えた。2つの鋭く、そして黒い毒のような液体が流れている。ハリーはまるでそれがスローモーションのようにゆっくりと牙が迫ってくるのがわかった。

 

 

アレスト・モメンタム(動きよ、止まれ)。」

 

その呪文が聞こえた。ハリーは一気に安心する。ウィルが復活したのだ。

 

「ハリー!避けろ!そう長くは止められない。」

 

その理由は強力な怪物達がよく持っている魔法耐性(・・・・)だ。長年の進化の過程で魔法使いに対抗する為に得た能力である。これにより魔法の効果が弱まり、ウィルの才能を持ってしても動きを数秒止めるので精一杯だった。

 

ハリーはその言葉を聞くと素早く右に転がった。するとバジリスクの動きが一気に加速されたようにハリーのいた場所に飛びかかる。地面を思い切り噛み付くと地面は削られ破片が飛んだ。

 

バジリスクはハリーの居場所を見失い少し困惑している。

 

「なぜ立てる!?魔力はもうなかったはず。」

 

トムは困惑している。魔力はそんなに早く回復しない。あの状況を見て彼は少なくとも2日は目覚めないだろうと見ていた。

 

「“エクスペリアームズ”、簡単な事だよ。マンドレイク薬(・・・・・・・)の入ったカプセルを奥歯に仕込んでたのさ。」

 

無防備なトムに向けて武装解除の呪文を使用して杖を奪い取った。ウィルもまた不十分とはいえ少なからずバジリスクの対策をしていたのである。両方の瞳には魔法、そして呪い避けを施したコンタクトをはめている。

 

そして万が一に石化した場合に備えて“マンドレイク薬”を生成していた。材料となるマンドレイクを育てたのは植物学のスプラウト、ただし魔法薬を調合したのは魔法薬学を担当するスネイプである。去年のハロウィン以降、彼から師事を受けているウィルはそれの一部をくすねていた。

 

ウィルは石化の範囲はあくまでの肉体に限っていることに気がついた。根拠は服まで石化しないという点だ。だから彼はカプセルも同様に石化しないのだと結論付けた。仮に石化して“秘密の部屋”に放置されたとしても、いずれカプセルが老化して復活できる。通常であれば何年かかるかわからないので限りなく薄い仕様に魔法で調整した。そのおかげで意識を失った時に倒れた衝撃により口の中で破裂して体内に入ったのである。

 

 

そもそもマンドレイクは石化の解除の他に殆どの回復薬の材料として使用されている。ウィルはあくまでも石化した対策としてこれを用意したが、副産物として体力、そして魔力の回復に効果があったのである。

 

 

 

 

ウィルはバジリスクに対して呪文を放った。聴力を封じる呪いらしく、突然の無音の世界にバジリスクは戸惑っているのか目が見えないのに周囲をチラチラと見ている。

 

 

 

「認めよう、君も天才だ。僕と同じ偉大な魔法使いになれる。」

 

トムの表情はこれまでになく真剣な表情だ。そして彼は続ける。

 

「ウィル、君は僕と新たな世界をつくらないか!?魔法族のみが生きる世界だ!!!」

 

トムはまるで子供のような顔をしている。それが望ましい世界だと心の底から思っているらしい。

 

「トム。それは数ある正解の1つだと思うし、理解もできる。」

 

ウィルもまた真剣な顔で答える。ハリーは少し焦っているが、止めることができずにいたのだ。さらにトムは表情を高揚させる。

 

「だがな、俺は力もねぇのに()にのってる連中までも護ろうとは思わねえ。」

 

ウィルは突然不快感をあらわにして切り捨てた。ハリーはこれが本来のウィルの性格なのだと知った。礼儀正しく常に皆の注目を集める優等生じゃない。本当は血の気が多く傲慢で自分の意志を絶対に貫く魔法使いだ。

 

「だいたい語り合う時間もねぇのによく言えるな。まず友人から始めようぜ。でも友人歴ならハリーのが上だ、だから少し待ってろ。」

 

そういうとウィルはヴォルデモートの側から離れてハリーの横についた。

 

まるでヴォルデモートを友達のように雑に扱うウィルのお陰でハリーはとっくに緊張と恐れが無くなっていた。

 

「ハリー、その剣はなんだ?」

「ダンブルドアが僕に託してくれたんだ」

 

ウィルはハリーの持つ剣を見た。彼はすぐに思考を研ぎ澄ます。なぜ剣なのか?安全な魔法具はもっと他にあるだろう。ならばこの剣がただの剣ではないということだ。彼は刃先を見るとその理由に気がついた。

 

 

【ゴドリック・グリフィンドール】

 

 

ホグワーツを創設した四人の一人であるグリフィンドールの剣だ。自分達の寮の始祖のような人物でもある。

 

【グリフィンドールの剣】。その存在をウィルは知っていた。ゴブリンが造った伝説の剣であり、触れた存在の力を吸収(・・)するのだ。

 

つまりバジリスクに対しては、魔法耐性のある為に効果の薄い魔法よりも凡そ1000年間で得た能力を持ち合わせる剣の方が強いと思われる。

 

「ハリー、そいつをバジリスクに突き立てろ。たぶん一撃で殺せる。」

 

そして彼の肩に触れる。ハリーは自分の中の何かがウィルに吸い取られるような感覚を覚えた

 

 

「悪いが少し貰うぞ。」

 

ウィルはハリーの魔力を吸い取っていた。これは“禁書の棚”の本で得た技術の1つだ。魔力を盗む方法であり、もちろん魔力の窃盗として罪が成立する違法行為である。

 

「ハリー、サポートをしてやる。俺が機会は掴んでやる。だから絶対に決めろ。」

 

「当たり前だ!」

 

 

バジリスクは野生の勘を頼りにしたのか2人の方向を察知して向かい合った。

 

 

結末を見届けようとして動かないトムに警戒しつつウィルは突然、自分が知る最も強力な攻撃魔法を使用した。

 

 

 

悪霊の炎(フィエンド・ファイア)

 

 

 

ウィルの杖先から恐ろしいほどに強烈な黒い炎が溢れ出す。その豪炎はメラメラと舞い上がり、それは巨大な怪物への変化した。その姿はまるで腹の大きな二足歩行の巨大な象のようだ。バジリスクと比べても引けを取らない。とても荒々しく燃え滾り地響きのような咆哮をした。

 

「俺の悪霊は“ベヒーモス”か。」

 

ベヒーモス、それは草食の怪物または悪魔とされている。性格は温厚でありながらも日に千の山に生える草を食べ、大河の流れをひと息で飲み干す程の食欲を持つ。ただし性格は極めて温厚で全ての獣はベヒーモスを慕ったとされている。

 

 

 

これは“悪霊の炎”。闇の魔術であり、呪われている。その炎は魔法使いの個性に応じるように怪物の姿を変える。非常に高度な魔法で制御が難しい。術者自らが焼き殺される事故も多く敬遠されるもののウィルのセンスはそれを嘲笑うかのように1度目から完璧に手懐けてみせた。

 

 

 

ハリーはこの炎でバジリスク焼きはらうのだと思った。というよりこれがサポートなんて有り得ないだろう。

 

彼ははちらりとトムの様子を見た。意外にも彼は驚いているというより恐れているようだ。それはそうだろう。自分のペットが焼かれるなんて不幸だ。自分だってペットのヘドウィグが焼かれそうになったら同じ顔をするだろう。

 

だがウィルはその炎をバジリスクではなく通路の端にある水場に向けて放った。その怪物はプールに飛び込むように入る。すると一瞬で水は蒸発して一気に部屋の内部がサウナ状態になった。まるで朝から真夏に変化する熱帯雨林のように温度がぐんぐん上昇していく

 

 

蒸し焼きになるとハリーが叫ぶとウィルは一瞬で豪炎を解除して封じ込めた。彼の様子からかなりの労力が必要らしい。

 

そして休むことなく杖を振るう。

 

 

グレイシアス(氷河となれ)。」

 

 

彼の魔法により水蒸気は一気に冷やされる。一気に南極に訪れたかのようだ。肌についた水が霜に変わりハリーは震えた。だがバジリスクの動きが限りなく遅くなっているのに気がついた。

 

「そうか冬眠か!」

 

「それもあるが行ってこい(・・・・・)!」

 

ハリーは自分が宙を大きく飛んでいるのに気がついた。まるで跳躍するかのようにバジリスクに向かって飛んでいる。

 

もちろんウィルにより浮遊術がかけられているのだと気がついた。

 

 

 

彼の狙いは擬似的な冬眠を狙った。ただしそれはうまくいけばの話である。もし温度が足りない場合やそもそも冬眠しないかもしれない。

 

ウィルは蛇の特性にも精通していた。本来蛇は視覚能力がとても低い。その代わりに第三の眼と呼ばれるピット器官が備わっている。これは赤外線により熱を感知する力を持つ。

 

だからその器官を封じる必要があるとも考えていた。これらの呪文はあくまでも冬眠しなかった場合に備えた策だ。もしそうなれば再びベヒーモスを呼び出して撹乱するつもりだったのである。

 

 

 

宙に浮いたハリーは弧を描いて凍りついたバジリスクの顔の近くまで来ると両手で剣を握りしめて、勢いをつけて思い切り剣を突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣先はバジリスクに刺さることなく、大きな金属音を立てて思い切り弾いた。剣を持ったままハリーはゆっくりと地面に落ちていく。

 

 

ハリーは戸惑いを隠せずにいるものの、これは“盾の呪文”だとウィルは勘付いた。

 

「ウィル、悪いね。」

 

トムが薄ら笑いを浮かべている。彼はバジリスクが刺される寸前に杖を使わずに(・・・・・・)呪文を使ったのだ。通常、魔法使いは杖を使う事で魔法を効率よく使用する。もちろん杖を使わずに魔法を放つことは可能だが、一部の選ばれた魔法使いにしかできない芸当だ。

 

 

 

 

しかしトムの突然の行動にウィルは動じることなどなかった。

 

「ハリー!剣を投げろ!!!」

 

ハリーはその指示を聞いて思い切り前に投げる。もちろんそれはバジリスクにまっすぐ届くわけではない。ウィルが魔法を使って貫くつもりなのだ。彼は杖から魔法を送って剣を宙に浮かせた。そして勢いよくバジリスクに向けて放つ。

 

「無駄なことだ!君の魔力が切れるまで盾を張ればいい!」

 

トムは手を伸ばして“盾の呪文”を使って防ごうとする。ちょうどその頃、ハリーは硬いレンガの床に背中を思い切り叩きつけ鈍い痛みに悶えていた。

 

「“インカーセラス(縛れ)”」

 

トムは突然現れたロープによりぐるぐる巻きに縛られ、呪文を放つことができなかった。彼はウィルの方を見ると彼は拳をこちらに向けているではないか。

 

彼もまた杖を使わずに呪文を放ったのだ。

 

 

 

 

 

そしてグリフィンドールの剣は勢いよくバジリスクの頭を貫いた。患部からはどす黒い血が流れ、ゆっくりと地面に倒れたのである。

 

バジリスクはピクリとも動かない。どうやら死んだようだ。

 

 

 

ウィルはバジリスクの生死を確認することなくトムをみた。彼は縛られており動けない。

 

「トム、君に聞きたい。僕との日々はどうだった?」

「最高だったよ。一度たりとも退屈しなかったさ。だからこそ僕は君を欲したんだろうね。」

 

ウィルは無邪気な笑顔を浮かべる。

 

「そうか、僕もだ。君を友人として側にいて欲しいと心から思ってる。」

 

2人はまるで友のようににやりと笑う。

 

「わかるだろう?トム。僕は君を始末しなければならない。」

「でも殺せるのかい?僕を。」

 

トムには手帳と同じ鉄壁の防御魔法がかけられている。ウィルでは知り得ない程の強力過ぎる力の為に破壊も除去もできなかった。

 

「なぜ校長があの剣を寄越したのかわかった。あのひとはお前の事をお見通しだったんだ。」

 

ウィルはバジリスクから剣を引き抜いた。血が飛び散り彼の顔につく。剣の柄を握った感覚はあまり自分に馴染んでないようだ。

 

「気に入らないが、こっちの方が手っ取り早い。」

 

ウィルはポケットから日記を取り出して地面に落とした。

 

 

「トム。もう二度と会うことはない、生まれ変わったら友となろう。」

 

彼は思い切りその日記に剣を突き立てた。するとそれは血のように黒いインクが流れ出す。それに応じるようにトムも腹から白い光を放ち、そして破滅するように消えた。

 








個人的に戦闘が終わったと思わせて終わらない展開結構好きです。
テスト終わって少し暴れてきたので投稿再開します

これ書くのに3時間かかった・・・。
まぁ最終回の次にピークの章だから楽しかったけども


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エピローグ

トムを倒してからウィルとハリーはダンブルドアの寄越した不死鳥のフォークスに乗って“秘密の部屋”から脱出した。ロンを含めた3人は事件を解決に導いたとして【ホグワーツ特別功労賞】が授与された。そのままお祝いが行われる事となったが、ウィルはすぐさま医務室に運ばれた。マダムから抜け出したことをこっぴどく叱られ、私に罰則の権利があったら厳しいのを課すと言われた。優等生ゆえに罰則を受けたことがないウィルは少し残念に思った。

 

薬を貰いベッドに入るものの目が覚めて中々眠りにつけない。それもそうだ。先ほどまで人生で最も歓喜した瞬間であり、心の底から友になりたいと願ったトムを自らの手で殺したのだ。彼は複雑な気持ちだった。

 

 

すると医務室のドアが開き、中からダンブルドアが現れた。そして彼はウィルをジッと見つめ微笑む。

 

「やぁウィル、少しいいかの?」

「えぇもちろん。」

 

その言葉を聞いたダンブルドアはウィルの側に来ると椅子に腰かけた。そして杖を円を描くようにゆっくり振るう。すると透明なドームのような壁ができる、どうやら音を遮断する魔法のようだ。

 

「早速、本題に入ろう。互いに腹の探り合いは抜きじゃ。本心で語り合おうぞ。」

 

「・・・。」

 

今までウィルはダンブルドアに対して少しの不信感を抱いていた。元々彼は自分が疑われていると気付いている。そして今回に限ってそれが確信に変わった。

 

最初にトム・リドルと戦ったのは自分だ。当時の自分に決定打はなく、彼を拘束又は魔力切れするまで追い込むしかなかった。あの剣を初めから持っていれば苦労は少なかったはず、しかしダンブルドアは自分ではなくハリーに助けを与えた。この差はなんなのかと少し気に障った。

 

「いつからトム・リドルの日記に闇の魔法がかけてあると気がついた?」

 

ウィルはその言葉に目を細めた。ルシウスがジニーに押しつけようとしたのを見抜き、ウィルはそれを取り返した。それをダンブルドアは全てを見抜いていたのだと気がついた。

 

「想定という段階ならば最初からです。」

 

ウィルは立場上、この日記を持ち帰れず、そして捨てる事もできない。前者はルシウスに対して当てつけのようになるから、そして後者は彼がもし適当な場所にこの本を捨てれば、闇祓いに拾われて家宅捜索をされる可能性があった。

 

「それは闇を取り除いてから処分する筈だったが、その過程で有用性に気がついた。」

「えぇ。」

 

日記にインクで書けば返事がされるという事を発見し、知識や発想を多く得た。これはかなり使えると思った。だがすぐに異変が起きた。

 

「それから自らの意思なく行動している事があった。」

 

彼は覚えがないはずなのに服に赤いペンキや鶏の羽毛が付着している時があった。そこで彼は一計を案じた。

 

「えぇ、だから父上に【憂の篩】を用意してもらいました。」

 

“憂の篩”、それは銀色の液体の入った石でできた水盤のような魔法アイテムだ。これに頭から取り出した記憶を入れて覗くと再び再現される。操られていたとしても動いていたのは自分だ、つまり意思はなくとも身体は覚えている。

 

「そのおかげで秘密の部屋の場所と暗号を突き止めることに成功しました。」

 

だからこそウィルはハリー達に事前に調べてあると言ったのである。そして秘密の部屋に伝承通りに怪物がいることも知った。だがその姿がなんなのかはわからずただの巨大な蛇という認識だった。

 

「惹かれたのかね?トムに。」

「えぇ、互いに。少なくとも僕はそう思ってます。」

 

小さく息を吸って前に乗り出したダンブルドアは表情を強張らせて質問を続ける。

 

「君は鍛錬の成果をぶつける場が欲しいのかね?」

「えぇまぁ、成長の度合いを正確に知る必要があります。」

 

突然、ダンブルドアはトムから話をそらす。

 

「それはグレンジャー嬢ではよくないのかね?」

「彼女とは知識の面で共有していますが、マグル出身という生まれのせいで経験が浅い。」

 

ダンブルドアは沈黙を保つ。彼の真意を確かめる必要があると判断したからだ。

 

「もちろん素晴らしい才能です。いつか僕も知識においては負ける。少なくとも僕の方が産まれ育った環境に恵まれていた(・・・・・・)だけ。」

 

ウィルにとって知識とは必要だから身につけるもの、ただしハーマイオニーは知識とは知りたいから身につけるもの、そこに2人の間に決定的な差がある。

 

「それはいい。一番は実力です。少なくとも僕の実力は学生の領域は超えてます。」

 

「傲慢、又は自信か、ワシとて君と相対せば簡単にはいくまい。」

 

突然、ダンブルドアは笑みをこぼして口を挟む。

 

「ご謙遜を、ですが退屈はさせません。」

 

ウィルも取り繕った笑顔を浮かべる。するとすぐにダンブルドアは真剣な表情になる。

 

「だからトム・リドルを友として受け入れようとしたのかね?たとえ彼が悪しき思想を持ったとしても」

 

ダンブルドアの言葉にウィルは少し引っ掛かりを覚えた。根本的に彼と自分は考えが違うらしい。

 

「価値観とは植えつけられるもの、誰かの価値観の譲り受けです。だから悪人などいない。」

 

ウィルはさも当たり前のように言った。彼は心からそう思っていた。貴族の子とスラムの子は価値観や倫理観がまるで違うと知っているからだ。

 

「危険じゃが本来は模範的とも言える。それはヴォルデモートであったとしてもそうなのかね?」

 

ウィルは突然ヴォルデモートが出てきたことに疑問を覚える。

 

「なぜ闇の帝王を?」

「トム・リドルはヴォルデモート、奴の学生時代の姿じゃ。」

 

ダンブルドアは間髪入れずに続ける。

 

「だが奴は誰にも植えつけられておらぬ。自らの意思で闇に堕ちた。」

 

人より価値観の定まった彼であってもヴォルデモートの例は一概には当てはめる事が出来ずにいた。少しの沈黙とともにウィルは答えを導き出した。

 

「それが彼にとっての心の拠り所となったのならばやむを得ないかと。むろん彼の行動については非難されるべきという前提ですが。」

 

その言葉に少し苛立ちを覚えたのかダンブルドアはムッとしている。

 

「では、なぜ君はトムを倒した?」

 

「僕の大事な人に危害を加えたからです。彼を生かして倒す手段を僕が持っていれば、滅ぼす気はなかった。」

 

「つまりは優先度ということかの?トムよりハリー達を守った理由は?」

 

再びウィルは彼の言葉に引っかかる、聞くまでもない。

 

「なにが悪いんですか?愛とは差別(・・)でしょう。」

 

その言葉にダンブルドアは表情を強張らせて微かに目を見開いた。そして互いに察した。自分と目の前の相手は絶望的に価値観が合わないということに。

 

「愛さない存在より愛する存在を優先する。理想やモラルではなく、論理ではなく感情で優劣をつける。道徳的には違うはず。むろんそれは理想です。」

 

例えば一般的に恋人とは愛と愛が交わる時に成立する。だがそうなれない場合もある。他方の一方的な愛では成就しないだろう。それは受け取る側が愛を返さないからだ。つまりは愛とは無条件に与えるものではないという事だ。これを差別と言わずしてなんという?

 

だからウィルは愛の見返りを求めないように心がけている。彼からすれば無条件に求めるのは傲慢なのだという。

 

「しかし今回は差別を選ばざるを得なかった、ただそれだけです。」

「・・・。」

 

そういうとダンブルドアは少し間を開ける。どうこの若き生徒を導くべきか考える必要があると判断した。

 

「貴方の意見はいかがです?」

「・・・、少なくとも儂の価値観とは異なる、とだけは言っておこう。」

「えぇ、だからこそ社会が成り立つ。ただし我々の相性は最悪のようだ。」

 

ウィルはそれからダンブルドアの価値観を尊重すると共に尊敬もしていると伝えた。それは本心だった。

 

 

 

ダンブルドアは2人を覆う防音壁を取り払うと見舞いの言葉を述べて立ち去った。そしてまもなくして勢いよく扉が開いた。すると少しやつれた様子のルシウス・マルフォイだ。よそ行きの服を身につけている事から、外出中に知らせを聞いて飛んできたのだろう。

 

 

彼は息をゼエゼエ言わせながらすぐにウィルのベッドまでやってきた。そして安堵したように彼を抱きしめて無事を喜んだ。

 

しかしウィルの表情は暗かった。

 

「申し訳ありません。父上の顔に、マルフォイ家に泥を塗りました。」

 

その言葉を聞いたルシウスは一瞬で身体を強張らせる。そして抱きしめた腕を放してウィルの表情を見つめた。

 

「お前は、本気でそう思っているのか?」

 

ウィルはルシウスから叱られるのだと思った。だが父親の表情は怒りではなく悲しみだった。今まで見たことのない顔だ。ウィルは戸惑いを覚える。

 

 

「もういい、お前は十分にやってくれている。今まで常に期待以上だった。」

 

ルシウスも自分の感情に整理がつかないようだ。とても弱々しい声だ。

 

「家や家族の事はもういい。お前のだ。お前の1番守りたいものはなんだ?」

 

 

(僕の1番、護りたいもの?)

 

 

ウィルは困惑した。考えた事がなかった。家より自分を優先した事がないからだ。

 

そして一つの結論が出た。ずっと昔からそうすべきだった。だがそれに目を背けていた。

 

「父上、ありがとうございます。僕はまた一つ壁を越えられるでしょう。」

 

 

彼はそういうとベッドから立ちあがり、そしてスリッパを履いてすたすたと移動を始めた

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜ホグワーツ大広間〜

 

 

 

 

 

最後のお祝いは盛大に行われていた。ホグワーツから災いが去り平穏がもたらされた。石にされた者達はマンドレイク薬により元に戻り、秘密の部屋を開けたとしてアズカバンに収容されていたハグリッドは釈放された。

 

大広間に姿を現したウィルを見た生徒達は立ちあがって盛大な拍手を送った。まるで目の前で太鼓が叩かれているような衝撃を感じる。ただし彼はとても暗い表情だ。

 

そのまま前へ前へと歩くウィルに対して生徒達は取り囲むように肩や背中を叩いて讃える

 

そして彼がぴたりと動きを止める。目の前には照れくさそうな表情を浮かべているハーマイオニー・グレンジャーである。

 

彼女は自分の本当の気持ちに気がついた。命を救われたのがきっかけではない。ずっとどこかでムズムズしていた。最初にコンパートメントで出会った時からかもしれない。いつも一緒で切磋琢磨して学び、語り合ってきた。彼の無実を証明するために校則を何十も破った。普段の自分ならありえない行動だ。

 

 

自分はこの男の子に恋をしている(・・・・・・)のだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その彼は無表情でこちらに歩いてくる。どうやら疲れてるのか、とてもやつれているように見えた。ハーマイオニーは思い切り彼を抱きしめた。心からの感謝の言葉を彼に伝える。

 

 

彼は何一つ表情を変えずに彼女の耳元で小さく囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕にもう関わるな、○○○○め。」

 

今ウィルは一体、何を言ったのだろう。彼女にはよくわからなかった。彼はそういうと自分の腰に回した手を離して後ろを向く。そして彼は自分とどんどん離れていく。

 

今ここで彼を呼び止めなければ一生戻ってこないような気がした。でも彼女はどうすることもできなかった。

 

彼の口から発せられたそれが現実であると知ってしまったからだ。大好きな彼の声で1番聞きたくない言葉だった。

 

ハーマイオニーはその言葉を聞いて膝から崩れ落ちた。そしてしばらく立ち上がる事ができなかった。

 

大声で彼の名前を呼んだ、でもそれは誰の耳にも届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何かを得るには何かを捨てなければならない、僕はそれを知っていたはず。)

 

左の腕に刻まれた髑髏と蛇の刻印の意味をウィルは知っている。痛みがないはずなのに違和感を感じる。その腕から全身にかけて彼はまた深く重圧がのしかかっているのに気がついた。今まで彼女が隣にいたからこそ耐えられたのだろう。これまでの疲労がどっと顔にでてくる。顔はやつれ、髪が乱れようとも彼は歩みを止めない。茶色の瞳は鋭く強い意志を秘めていた。

 

 

(僕は君を守りたい(・・・・)。)

 

 

ウィリアム・マルフォイ。純血一族で最も由緒あるマルフォイ家の嫡男にして純血の界隈で最も期待された次世代の申し子である。

 

父親は闇の帝王の最も強力な(しもべ)だった、今は魔法界で地位を確立している。

 

そんな自分を取り巻く環境にハーマイオニーを巻き込むわけにはいかなかった。今までが恵まれていたのだと思えば我慢もできる。あとはこの罪悪感を忘れてしまうだけ。簡単な事だ。

 

 

彼はそのまま進む。周囲の歓声が遠くに聞こえる。全てがすり抜けていくようだ。

 

無意識に彼は側にあったサンドイッチをさっと掴み、口に入れて咀嚼する。慣れ親しんだ感覚だ。だがいつもとは何かが違う。

 

彼は突然足を止める

 

「サンドイッチってこんなに味がしなかった(・・・・・・・)か?」

 

 



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【秘密の部屋】編の時系列、及び解説

同日投稿です


ネタバレを含みますのでプロローグをご覧になってから見るのをお勧めします。


*ザッと書いたので不足分に気付き次第追加します。




 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜おさらい(時系列)〜

 

 

 

 

 

①本屋でルシウスがトムリドルの日記をジニーの鍋へ仕込む

 

②それをウィルが回収(強力な守護魔法なので興味を示す)←やがて書き込み精神を奪われる

 

③ドビーがハリー達の汽車の入り口を封じる(原作ではルシウスの企みを盗み聞いたと思われる)

(おそらく)当時のルシウスはアーサー・ウィーズリーらによる闇の品について取締りが厳しくなったのでボージンアンドバークに売りさばいた。ジニーを狙った理由はアーサーの身内から闇の品が出てくれば問題となると考えたから

 

④クィディッチにて弟のドラコの穢れた血という発言に対して顔色が変わらない(ロンが不信感を募らせる)

 

⑤後日、ドラコを誘い出して“自分の前”では穢れた血という発言をするなと忠告する。ただし自分は純血主義だと宣言した。またルシウスがハーマイオニーとの交友関係をよく思ってない

 

⑥ハロウィンで秘密の部屋が開かれる。フィルチの猫が石化する。(トムリドルに操られたウィルが赤インクで壁に文字を描く。後に汚れに気づいて魔法で消した)←この段階でウィルは自分が犯人と気づく

 

⑦3人組の中でマルフォイ家が怪しいと考えてポリジュース薬(ハーとハリーはウィルの無実を証明するため)

 

⑧ドビーの策略でハリーが医務室送り、ボロをだしてバレる。また1人石化する

 

⑨決闘クラブにウィルは不参加、寮でバジリスクの弱点となる雄鶏の羽根を見つける(ウィルが操られて殺した)

 

⑩クリスマスで実家に戻る。ウィルは父親に憂いの篩をねだって疑いを確信に変える。そこで秘密の部屋の場所と暗号を知る

 

⑪ポリジュースは完成したが、ドラコ曰く知らない。

 

⑫ウィルはハグリッドが犯人と生徒の名簿記録で突き止める(父親がホグワーツの理事なので入手は簡単)←ハグリッドは冤罪だと主張する

 

⑬日記との会話を続けながら魔法の知識を得る。意識を取られないように睡眠をとらない事で対抗する。自ら調合した薬を飲む。寝る時は短時間かつ人前でしか寝ないようにする

 

⑭広場で食事中に寝落ちる

 

⑮無意識にハーマイオニーを秘密の部屋にさらう(トムリドルがウィルの身体を奪うため)

 

⑯医務室を脱出して図書館でバジリスクの対処法の本を探すが破れてる。ウィルはトム(自分)が破ったと思った、実際はハーマイオニーが怪物の正体を見抜いて破ってた。

 

⑰ハーマイオニーが倒れた現場にハリーとロンが調査に向かい、彼女の落としたメモを見つける。すぐにヘドウィグでウィルに助けを求める

 

⑱ウィルがハリーと合流して奥へと進む。ロックハートのせいで分断され、トムリドルと戦う

 

⑲ウィルとトムの全力の戦いの中で対抗心と互いへの信頼関係が芽生える

 

⑳ウィルが破れ、ハリーとロン、ハーマイオニーを逃す。ハリーは戻り、ロンはハーマイオニーを連れて帰還する。

 

㉑ハリーが戻るとウィルは気絶しており、トムリドルの正体がヴォルデモートと知らされる。バジリスクを召喚され、ダンブルドアのペットである不死鳥のフォークスが“グリフィンドール”の剣を寄越す

 

㉒バジリスクの石化対策に用意していたマンドレイク薬の副作用により体力、魔力の回復してウィルは復活する

 

㉒バジリスクを剣で殺して、日記を破壊してトムを消滅させる

 

㉓去年、ダンブルドアが危惧した事態(ヴォルデモートと友になる)が起きる。そもそも2人の価値観が合わない

 

㉔家を守らなくていいといわれ、自分が守りたい存在であるハーマイオニーを穢れた血と呼んで拒絶する

 

 

 

 

 

***

 

 

 

原作との違い

 

 

・犯人がウィルだとハリー達は知らない、ハグリッドの冤罪やアラゴクとは会ってない。

・ドビーが解放されてない

 

 

 

***

 

 

 

 

 

作者の一部解説(文字が足りないので)

 

 

 

 

 

【秘密の部屋】のイメージは一言で言うと“子供から大人へ”って感じですね。

 

前章との大きな成長は家の優先度が落ちた点、ハーマイオニーとの別れを選んだ点、そしてダンブルドアへの反抗心(期)も芽生えた点などです。

 

 

また2章でのウィルとトムリドル(5年生)との純粋な戦闘力では普通にトムの方が上です。引き分けた理由はハーマイオニーの杖を使用した為、忠誠心の得られてない杖だからです。それに対してウィルは魔法薬で誤魔化した睡眠不足と体調を崩した状態です。

 

2人とも自分の杖を使って万全の体調であればトムが余裕で勝ちます。

 

 

 

また彼の悪霊の炎であるヘビーモスはイスラム神話でバハムートと同一視されてます。ヘビーモスとケルベロスのどっちを選ぼうかギリギリまで悩みました。魔法を食らう怪物か愛、中立、悪の3つの顔を持つ怪物か

 

ちなみに第一章においてクィレルに杖が奪われた上でも勝機があると思ったのは母親の杖を隠し持ってたからです

 

 

ハーマイオニーを拒絶した理由はヴォルデモートの復活やマルフォイ家等の純血一族によって危害を加えられる可能性があるから、またそれらから守れるほどの実力がないと判断したからです。ハーマイオニーに穢れた血と言ったのは素直に事情を話して説明したとしても彼女はそれを絶対に聞き入れないからです。それを簡単に予想できるほどウィルはハーマイオニーの事を大事に思ってたとも言えます。

 

またウィルはハーマイオニーに対して恋愛感情はないと思ってます。表現するとしたら良き理解者といった所です。でも彼は恋愛面において無経験なので自分の本当の気持ちに気づいていないという可能性もゼロではないです。




第3章ははっきり言って繋ぎなのですぐ終わります。ボガートや守護霊などを踏まえてウィルについて深く掘り下げる予定です。

目標は3章終わるまでにお気に入り登録が1000人いけたらいいな


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第3章【孵化と羽化(前編)】 *アズカバンの囚人
プロローグ


ホグワーツで2番目(・・・)に有名な生徒を知っているだろうか?1番目は語るまでもない、闇の魔法使いを討ち破った“奇跡の男の子”ハリーポッター。その次に有名な生徒だ。

 

彼もまたハリーポッターと同じグリフィンドールの生徒。去年は彼と共にバジリスクを退治した男の子だ。

 

今、彼はこう呼ばれている。

【セブルス・スネイプの後継者】と・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その彼は一人でホグワーツの廊下を早歩きで進んでいた。彼は決して群れず孤独に自分の道を歩む生徒だ。

 

去年まではこんな生徒ではなく人望が厚い生徒だった。なぜか今年に入ってから同寮の生徒だけでなく、かつて友人だったはずの人達ですら隣にくるのを拒むようになった。

 

今となっては彼が歩けば人は割れるように道を作る。まだ低学年に該当する3年生なのにどんな粗暴な上級生であっても彼が通ると道を譲る。それほどまでに恐れられ、一目置かれている。

 

一言で言えば才能の怪物だ。容姿は両眼の下の深くて黒いクマ、乱れるように無造作に伸びた髪だ。不潔と蔑まれるだろう。でも美しい容姿にそのマイナスポイントは色気として引き立たせることとなった。

 

 

 

彼の名前はウィリアム・マルフォイ

純血一族の名家の嫡男にして

誰よりも強欲に力を求める者だ

 

 

 

 

そんな彼に唯一、対等に振る舞う生徒がいる。正確にはウィルが自身の近くに寄るのを許しているといった感じだ。実際はその生徒の気分次第でウィルと隣にいる。それを見た周りの生徒たちは2人の関係を“怪物に懐いた野うさぎ”と呼んでいる。なぜ彼女には彼が足を止める理由は誰も知らない。

 

 

今日もブロンド髪の野うさぎはスキップをしながら早歩きの天才の周りをくるくる踊るように回る。レイブンクローの不思議ちゃん(はみ出し者)ルーナ・ラブグッドにより彼は足を止める。そしてなにを考えているのか読めない銀色の瞳は彼の眼をジッと捉えた。

 

「はぁーい、ウィル。“ラックスパート”って知ってる?」

「・・・、らっくすぱーと?」

 

彼は決闘の名手であるフリットウィックに技を伝授してもらえるよう相談をしに行くつもりだったが予定は変更、図書館に戻りラックスパートなるものを調べなければ気が済まない。深く興味があるわけではない。ただ他の生徒は知っているのに自分が全く知らない分野があるという事がなんか気に入らないだけだ。前にも聞いたヤドリギに寄生する“ナーグル”や“しわしわ角スノーカック”について成果が得られなかった。

 

「つまりルーナ、君は書物より最先端の知識を有しているということだな。」

 

ウィルは真剣な表情でそう答えた。本とはあくまでも知識人が皆にそれを広める(・・・)為に蔵書するものだ。つまり現実にも本としても広まっていない知識も存在する可能性があるということである。だから彼は本だけが全てではないと理解している。

 

 

ただしウィル以外の生徒は知っている。ルーナ・ラブグッドの言うラックスパート、ナーグル、しわしわ角スノーカックは彼女の空想の世界(・・・・・)だと言われていることを・・・。

 

彼女と彼女の父親の創刊している“クィブラー”以外で存在していると主張する人達はいないからだ。他にも奇妙な言動を取ることも多く、彼女の名前を弄って変人(ルーニー)と嘲笑う生徒も少なくない。

 

ただし周りに人を寄せつけないウィルはそれを知らなかった。だからこそ彼女の知っている知識が本物であると信じてやまなかった。

 

 

 

この2人の奇妙な関係の始まりは約2ヶ月前に遡る

 

 

 

 

***

 

 

 

2ヶ月前

 

 

 

 

 

 

魔法界は前代未聞の事態が起きていた。難攻不落の大監獄“アズカバン”にて初めて脱獄者が現れた。その囚人の名前はシリウス・ブラック、悪名高き“死喰い人”の1人にしてポッター夫妻がヴォルデモートに殺される原因となった男にしてマグル12名と魔法使い一名を呪い殺してみせた。

 

そんな男が野放しとなっている状況を重く見た魔法省はあらゆる対策を行ったが、未だブラックの居場所を突き止められずにいた

 

 

 

 

 

 

(汽車にブラックが潜んでいると考えての、これか?)

 

 

 

 

ホグワーツ魔法学校へと向かう汽車のコンパートメントの中でウィルはそう考えた。新たな本を読んでいると突然汽車が停止した。するとすぐに黒い布切れのような何かが汽車を取り囲み中へ侵入してきたのだ。

 

 

黒いフード、マントを身につけ腐敗したような肌を持つ怪物だ。

アズカバンの看守である吸魂鬼(ディンメンター)である。

 

魔法界で最も忌まわしく邪悪な存在とされている。理由は周囲の人々の幸福な気持ちを吸い取り絶望と憂鬱を与える存在であるからだ。彼らは生きているのか死んでいるのかすらわからない。

 

 

ウィルはコンパーメントの貸切状態で集中して本を読んでいたので、良い迷惑だった。まもなくして周囲が凍りつくような感覚を覚える。これは吸魂鬼が近くにいるという証拠でもある。

 

腐敗した細い指が彼のコンパーメントの扉を握ってゆっくりと開ける。もちろん貸切なのでブラックはいない。しかし吸魂鬼はジッとこちらを見ている。

 

珍しい人間だと思ったのだ。なぜかこの人間からは不思議と自分に対する恐怖を一切感じとることができなかったからだ。

 

 

「それはそうだろうね、僕は君達に恐怖ではなく憐れみを感じている。だが良い機会だ。」

 

吸魂鬼の戸惑いを察知した彼は本を閉じて机の上に置き、ローブの中の杖を掴む。

 

「“エクスペスト・パトローナム(守護霊、来たれ)”。」

 

彼は自分の杖を抜いて吸魂鬼に向けて“守護霊の呪文”を唱えた。これは吸魂鬼に対する唯一の対抗手段とされており、悪霊の炎と対になる高難度の魔法だ。

 

だがウィルの杖先からは何も出てこない。一筋の光すら灯す事はなかった。

 

「やはりか・・・。」

 

天才であるウィルが全力を出しても習得する事ができなかった魔法だ。2年前に挑んだが成功の兆しすら見えず断念した。今でも苦手意識が強く、後回しにしていた。

 

 

すると吸魂鬼はブラックがいない事を確認して満足したのか、そのまま隣のコンパーメントへと移動する。ウィルはふとトイレに行きたくなり、席を立ち上がった。

 

吸魂鬼とは反対方向にあるトイレへ向かうと鷲の紋章(レイブンクロー)の制服を身につけた2人組の女子生徒がやってくる。なにやらうすら笑顔を浮かべながら杖を見ている。ヒソヒソと話している声が段々と耳に入る

 

 

「流石にあのおバカさんも杖を失くしたら堪えるでしょ。」

 

ウィルはすれ違い様に聞こえた言葉を聞き逃さなかった。

 

「・・・待て。」

 

不愉快そうに顔を歪めたウィルは2人の方を振り返る。突然声をかけられた女子生徒は近寄りがたいオーラを放つ彼に恐怖しているようだ。返事をする気力もないらしい。

 

「俺の前でくだらない真似をするな。」

 

すると彼は手のひらを2人に差し出す。

 

「早く寄越せ。ここに落ちていたことにしてやる。」

 

どうしたらいいのかと戸惑う2人に対してウィルは苛立ちを隠せずにいる。

 

「わざわざお前達の名前を調べて教師に密告するとでも思うか?」

 

そう言われた2人は顔を見合わせてウィルに杖を渡すと、逃げるように足早に去って行った。ウィルは杖を見て傷が入ってないか確認する。無事らしいのでそれを持って教師の誰かに預けようと進んだ。

 

するとブロンドの髪をなびかせ、スキップをしている白人の女の子が見える。彼は特になにも考えず進む。

 

およそ3メートルくらいに近づくとウィルの持つ杖をジーッと見ている。なにを考えているか読めない瞳だ。

 

「君のだね?」

「ウン、どこに落ちてた?」

 

ウィルは彼女の名前は知らないが、個性的な生徒なので顔は知っていた。

 

「もう盗まれない(・・・・・)ようにしろ。」

 

ウィルは彼女が嫌がらせを受けているレイブンクローの生徒だと知っていた。今まで関わった事はなかったが忠告はしておく。

 

「それは違う、失くしてた(・・・・・)んだモン。」

 

彼女は能天気らしく盗まれたことを認めない。ウィルは彼女にすら少し苛立つ。

 

「なに?俺はお前を知ってるぞ。自分の荷物くらい・・・」

 

しっかり管理するよう言おうとしたが、彼女は口を挟んだ。

 

「私も知ってるよ、グリフィンドールの純血王子。」

 

「・・・。」

 

その言葉に対して否定も肯定もせずにいると彼女は無表情で首をかしげて続ける。

 

「ねぇ前から思ってたンだけど、なぜ生き急いでる(・・・・・・)の?」

 

「・・・え?」

 

ウィルはその言葉に軽いショックを受けた。自分が今までそう思った事はなかったが、今の自分ではそれを否定できない。“生き急いでいる”という発想がそもそも彼に存在しなかったのである。

 

自分ですら気がつかなかったのに彼女はそれを言い当てて見せた。ウィルは眼を大きく見開いて驚いていた、彼女の観察力は常人の比でないと感じた。

 

彼はなぜそう思ったかを聞こうとしたが、突然彼女は何かを思い出したような顔をする

 

「お腹すいた、カエルチョコ食べてくる。」

 

ウィルが質問をする間もなく、マイペースに彼女はスキップしながら何処かへ行った。

 

 

 

(どういう事だ?俺が“生き急いでいる”?)

 

ウィルがしばらくその場に留まり、少し物思いにふける。そして彼女が何処かに行ってから2、3分もしない内にスキップしながらウィルの元にやってきた。なにやら頭にサイの角のようなモノをかぶっている。彼女がスキップをするごとにそれは落ちそうになっていた

 

 

「ねぇ“しわしわ角スノーカック”って知ってる?」

「・・・なんだって?」

 

ウィルは聞きなれない動物の名前に戸惑う。すると彼女はあたかも当たり前の事を言ったと言わんばかりの表情をしている。

 

「“しわしわ角スノーカック”、その角よ。」

 

「・・・、それってサイの角じゃないのか?」

 

ウィルは近くで見てもサイの角にしか見えない。よくよく見ると角は本物だが被る部分は手作りらしい味が出てる。

 

「違うモン、“しわしわ角スノーカック”の角だよ。」

 

「それは、どういう生態なんだい?」

 

ウィルがそう尋ねると彼女は急にマシンガンを放つようにその動物がどこに生息していて、どんな生態なのかを説明する。意外と動物好きのウィルはそれを真剣に聞いて質問をしたりする。一通り説明すると彼女は満足したのか、笑顔を浮かべた。





ルーナの口調が難しい・・・、他の作者様で上手な方いらっしゃいませんか?いらっしゃるなら参考にしたいので教えてください(土下座)

少し前のアンケートの結果を見てヒロインを作ってきました。あんなにヒロインが必要派が多いとは思ってなかったので驚きました


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傲慢の殻


寝ぼけながら、区切りながら書いたので誤字あったら教えてください


 

 

 

 

 

 

 

〜ダイアゴン横丁〜

 

 

 

 

 

ハリーはダイアゴン横丁の漏れ鍋の中で軟禁されたもの同然だった。

 

自分の両親を侮辱された事により叔母のマージを膨らませた事によって家を出ざるを得なくなった。そこで彼はナイトバスを使ってここに辿り着いたのだった。

 

やがて訪れた魔法大臣のファッジが叔母の記憶を消したので問題ないと伝えにやってきて、シリウス・ブラックが逃亡中なので出歩かないようにと忠告した。

 

 

退屈だったハリーは窓をぼーっと眺めていたのである。すると街に見覚えのある魔法使いが現れた。どちらかと言えば見たくなかった人物である。黒いローブにねっとりとした黒髪、鷲鼻で目つきの悪い男性だ。

 

ホグワーツで教鞭をとるセブルス・スネイプだった。彼は人ごみを散らすように早歩きで進む、周りの人々は彼の異質な雰囲気に呑まれて自然と道を譲る。

 

彼との相性は最悪で自分を目の敵にしているように感じていた。彼が目を背けようとした瞬間にまた1人、知った顔がいた。

 

 

ウィルだ。

 

長く伸ばした黒髪、スネイプのそれとは違ってさらさらとなびいている。だが顔色は青ざめたようで、遠くから見ても体調が良くないらしい。スネイプの後ろを同じく早歩きでさっさと進んでいく。まるで2人が親子のように思われた。

 

 

ハリーは目を疑った。なぜスネイプとウィルが行動を共にしているのか。

 

長期休みに手紙を送ったが封がされたまま送り返された。ハーマイオニーにもその事を聞いたが、何も知らないとしか言われなかった

 

ウィルの手紙やハーマイオニーの態度を不審に思ったが、直接会って問いただそうと決めてこれ以上触れないようにした。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜ホグワーツ大広間〜

 

 

 

 

 

新学期が始まった。毎年恒例の組分け帽子の儀式を終えるとダンブルドアが注意事項を伝えた後、ブラックの侵入に備えて魔法省が吸魂鬼を警備として送った事を報告した。だから汽車の中にいたのだと皆は知った。

 

彼が話を終えると杖を振るった。歓迎の意を示して豪華な食事が並ぶ。皆が一斉にご馳走に群がるが、ハリーは前に座っているハーマイオニーの表情を見る、普段と変わらない様子だ。そして少し離れてウィルは座っている。こちらは無表情だ、休暇前に見た時より痩せているように感じる。

 

彼は自分の皿に料理を素早く盛った。それを終えるとプレートを持って立ちあがる。

 

料理を持ったまま立ち去ろうと早歩きで大広間を後にしようとする。ハリーは勢いよく立ちあがり、小走りでウィルを追いかける。

 

 

 

 

「や、やぁウィル。」

 

ハリーはなぜか緊張してしまう。友人のはずなのに振り向いた彼は自分に対して敵意を見せているように感じた。

 

「俺に関わるな、それの方が賢明だ。」

 

彼は敵に向ける残忍な表情を見せてそのまま立ち去ろうとする。どうやら自分と会話をする気がないらしい。ウィルはすぐに背中を見せて歩き出す。

 

「ちょっと待ってよ!」

 

ハリーは声を荒げてウィルを制止する。

 

「なんだ?」

 

背中越しで彼は心底めんどくさそうな声を出す。ハリーは戸惑いつつ質問をぶつける

 

「あ、あの・・・、ハーマイオニーと何かあったの?」

 

有無を言わせずウィルはそれを無視すると、そのまま何処かへ消えた。ハリーは呆気にとられてその場に立ち尽くす。

 

彼はひとまず食事をしようと振り向くと教師陣の中に一つだけ空席があるのに気がついた。去年まで座っていたはずなのにいないのはただ1人、スネイプだ。

 

ハリーは勘付いた。ウィルはスネイプのところに行ったのだと・・・

 

 

 

 

まもなくしてスネイプがウィルを弟子(・・)にしたらしいと風の噂が広がった。

 

彼は長期休暇の間は家に帰らずスネイプの元で過ごし、貴重な魔法薬の材料を提供又は入手を手伝う見返りに技の全てを叩き込んで貰ったとのこと。この噂に対して彼の弟のドラコはウィルとしばらく会っていなかったと発言したので、本当のようだ。

 

元々、闇の防衛術の教師に志願する程の実力と知識を持つものの、ダンブルドアからは採用されないという噂がある。だから彼はウィルを鍛えあげて実績を作りたいのだと、ロンは話していた。

 

魔法界に住む生徒たちの間では2人はダイアゴン横丁やノクターン横丁にて目撃されたので割と有名だったらしい。

 

 

 

***

 

 

 

 

数日後

 

 

 

〜大広間〜

 

 

 

 

 

数日経ってもハリーはウィルとの関係を相変わらず戻せずにいた。彼はずっと無表情で気難しい性格のままだ。相変わらずハーマイオニーもなにも変わらない。いや、彼女の場合は正確には意地を張っているのかもしれない。こうなった時、ハーマイオニーはテコでも動かないとハリーは知っている。

 

 

 

 

 

新学期が始まってからというもののウィルはクィディッチの練習に参加しなくなった。チームのメンバーははっきり言ってカンカンだったが、彼には才能も実績もある。最近の彼の姿を見て、誰も文句を言えずにいた。

 

キャプテンであるオリバー・ウッドでさえそうだった。彼はホグワーツにて最後の年だからどんな手段を使っても優勝したいと思っている。その為には選手として優秀なウィルを欠くことだけは避けたかったので動けない。

 

ウッドの対応に業を煮やしたアンジェリーナは彼に問い詰めた。だが自分より実力のない選手の忠告は聞かないと突っぱねられた。口喧嘩に発展したものの感情的な彼女に対して理性的なウィルは全て言い負かした。彼女が泣き出してしまったのを見て彼は退屈そうに一瞥するとどこかに消えたらしい。

 

 

 

 

 

 

「ウィル、少し来なさい。」

 

学校内でウィルを唯一と言ってもいいほど制御できる人物が彼を止める。彼の寮監であり、尊敬する対象でもあるマクゴナガルだ。

 

常に彼女は毅然とした態度で生徒に向き合う。そこに例外や贔屓はなかった。

 

「アンジェリーナを泣かせたそうですね。」

「えぇ。」

 

ウィルは彼女が勝手に泣いたとは口が裂けても言えなかった。だが彼は他の誰かに呼び止められたような面倒くさそうな表情はしていない。

 

人として尊敬すると同時にクィディッチを始めた理由が彼女でもあるからだ。

 

だが全力に打ち込むとは言ったが練習まで全力でするとは言ってない。

 

 

「貴方の事情は理解しているつもりです。しかし、もう少し周りを信用してはどうですか?」

 

マクゴナガルは自分の部屋に迎えいれてそう言った。事情というのは彼が去年と比べて性格が思い切り変化したからだ。その原因は知っている。

 

ウィルは自分の左手の裾を大きくめくった。黒いタトゥーが目に入る。髑髏の口から大蛇が顔が飛び出して揺れている。

 

“闇の印”、死喰い人である証明だ。

 

「これでも・・・、ですか?」

 

ウィルは力なく言った。あまりにも弱々しいかすれたような声だ。彼は心臓が握りしめられるような感覚を覚える。自身の家系とこのマークを誰かに見られた瞬間に何が起きるか、それを彼は知っていた。

 

マクゴナガルも子供のように小さく感じるウィルに深い同情と痛みを覚える。これを背負うにはあまりにも若すぎる。

 

「周りを信用してないわけじゃない。僕が周りを巻き込んでしまう。」

 

だが彼は小さく息を吐き何もない天井を見上げる。少しの沈黙と共に彼はマクゴナガルの目を見つける。まだ瞳には少し潤んでいる。

 

 

「これが最適解でしょう?では失礼。」

 

 

ウィルはそう言うと足早に部屋から出て行った。その背中を見て彼女は自分にできる事はないかと考える。そしてふと机の上の書類に目が入った。魔法省から届いた手紙だ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数日後

 

 

 

 

公式戦が開始するとアンジェリーナは並々ならぬ熱意で試合に臨んだ。今日の試合のゴールは全て自分が決めると意気込んでいた。

 

だが天才であるウィルはそれを嘲笑うかのように彼女を上回る活躍をしてみせた。意外だったのはウィルは他のメンバーと変わらずアンジェリーナにもパスを積極的に与えていたことだ。

 

これは彼の私情に流されず実力を発揮してチームに貢献するという姿勢をこれまで通り(・・・・・・)貫くという証明にもなった。

 

アンジェリーナは彼のプレーを見て選手としてだけでなく人として格が違うと見せつけられたような気がした。

 

だから彼を超えるべくこれまで以上に過酷な練習に打ち込むようになった。

 

ウィル曰く、練習は実力をつける為に行うもので既に備わっている自分には必要ないという事だ。つまりチームが他の寮のチームに敗北するか、他の誰かが自分よりプレーが上ならば練習に参加するという意味である。

 

アンジェリーナはその後者の座を奪うことに決めた。

 

そして彼女はその日から校舎ですれ違う度にウィルへ声をかけるようにした。

 

 

「ウィル、明日も練習よ。」

「そうか、断る。」

 

 

冷たく拒否するウィルにアンジェリーナは素直じゃないのねと笑って見送る。

 

彼女はこれまで通りウィルに練習に来るよう言い続ける。なぜなら彼女がいつまでも彼を待っていると宣言する為だ。

 

 





原作をサッと読み返したけど、よりルーナがわからなくなった。不思議ちゃんっぽくするセンスがないのかも・・・

原作に載ってるクィブラーの世界観が本当にわけわからない。さすがダンブルドアより偉大なローリング先生と感じた。

ルーナが庭小人とダンスバトルしてるくらいしか浮かばない


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幸福と恐怖①

同日投稿です。
お気をつけくださいな


 

 

 

ウィルは今日も食事を皿に盛るとスネイプの研究室へ向かった。軽くノックをする。

 

中から、入りたまえと冷たい声が聞こえる。扉を開けると数多くの珍しい標本や材料、機材が整理された部屋だ。

 

奥で横長いテーブルに座っているスネイプは1人分の紅茶を用意している。ウィルはそこに失礼しますと座り食事を始めると彼は今日のレッスンの内容の説明を始める。

 

毎回の夕食後ではこういうルーティンだ。限りなく時間を有効に使う為にとスネイプが提案した。ウィルが食事をしている間に説明とやり方を伝授する。そしてスネイプは日程によってはレッスンの前か後に食事を摂る。

 

 

 

「今日から“守護霊の呪文”を覚えさせる」

 

ウィルは課題を聞くと少し顔を歪めた。彼はここで食事中の返事はしてはならない決まりになっている。そして沈黙はYESとなる、つまり彼に拒否権はない。

 

「さよう、お前の弱点を克服する必要がある。もし習得できなければ我輩はお前を吸魂鬼の群れの中に放りこむ事も辞さない。」

 

スネイプは何一つ表情を変えずに淡々と言い放つ。まるで沼から沸々と言葉が湧き出るようだ。

 

「我輩の崇高な教えをもっても習得できぬノロマに相応しい最期となる。」

 

それからスネイプは淡々と守護霊についての説明や歴史、スペルや杖の振り方など何一つ欠かすことなく伝授した。

 

そして食事を終えるとすぐに彼は杖を抜けと命じる。ウィルは自分の幸福について考えた。ひとまずマルフォイ家の安寧を思い浮かべ、呪文を唱える。

 

 

「“エクスペクト・パトローナム(守護霊、来たれ)”。」

 

しかし杖先からは何もでない。スネイプはそれをジッと見て彼にアドバイスを送った。

 

 

 

 

***

 

 

 

数時間後

 

 

 

 

 

ウィルはスネイプのレッスンを終えてまっすぐ寮へ戻っていた。彼の部屋から消灯時間に間に合うように計算して終わったのだ。

 

色々と自分が幸せだと思う状況を思い描くも根本的に何かが違うのだ。

 

自分の野望や周りの人々全てを叶え護った世界を思い描いても少し銀色の光が見える程度にしか出現しなかった。

 

相変わらず自分の幸せがなんなのか分からず、それに悩みながら進む。そしてグリフィンドール寮の入り口付近にまで到着した。

 

 

「はぁーい、ウィル。」

 

階段を一段一段登り続けていると突然声をかけられる。

 

「あぁルーナ。どうした?」

 

ウィルはそう言うと足を思い切り止めて、勢いよく振り返る。するとそこにいたのは少し前に汽車で出会ったルーナだ。彼女は階段の手すりに腰掛けて逆さまにしたクィブラーを持って足をぶらぶらさせている。

 

ウィルは返事をした事に対して激しい後悔の念を感じた。できる限り人とは関わらないと決めたはずなのに、つい考え事をしていたので自然と返事をしてしまった。

 

 

 

「今年から占い学なんだよね?ウィルは取るの?」

 

ルーナは相変わらず何も読めない表情だ。

 

「占い学はとってない。」

 

ウィルは今更だとは思いつつも冷たく答えて去ろうとする。

 

するとルーナは杖を取り出してそれをクルクルと回すと突然ウィルの顔に向ける。

 

「“アグアメンティ(水よ)”。」

 

彼女の杖先からは水が放出される。ウィルはクィディッチで鍛えられた反射神経で身体をよじらせて回避する。

 

「おい!なにをするんだ!?」

 

そのまま水は壁の絵画にかかった。正確には絵ではなく、絵の中が濡れたようだ。テーブルを囲んでポーカーをしていたらしく、トランプがビシャビシャになった。中の1人が賭けを台無しにされたと激怒している。どうやら彼は勝てる手札だったらしく、ルーナに文句を言っている。周りの紳士は止めに入るがお前達は手札がブタだったんだ!と飛びかかって絵の中で喧嘩が始まった。

 

 

ウィルはその様子を見て少し困惑しつつ、彼はルーナの様子を見る。

 

「占いだよ。」

 

悪気は全くないらしい。そして彼女はそのまま続ける。

 

「結果はね、ウィルは反射神経がある人ってのがわかった。」

 

ルーナはさぞ当たり前のように当たり前の事を言った。するとウィルは顔を引きつらせながら口を開く。

 

「お前、それは誰から教わった?」

 

「同じ寮の子、私は反射神経ないみたい。」

 

ルーナは少ししょんぼりした表情だ。本当にそれが占いだと思っているらしい。ウィルは彼女を騙した生徒に苛つきを覚える。

 

「いや、それからかわれてるだけだろ。ってそれより・・・」

 

消灯時間を前にここで何をしているのかと彼女に尋ねる。

 

「ねぇ妖精とダンスパーティをする事になったらどう思う?」

 

「・・・は?」

 

どうやらウィルの言葉は耳を通って耳から出たようだ。

 

「とてもかけがえのない事だけど私、誰かと踊るダンス好きじゃないもン。」

 

そう言うと彼女はリズムを刻むように階段を降りていく。ウィルはただその背中を見送るしかなかった。

 

 

「何か伝えたいのか?また俺の気づかない何かに。」

 

ウィルは彼女は只者ではないと確信した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

次の朝

 

 

 

 

 

ウィル達を含むグリフィンドール生とスリザリン生は合同授業により、外へ出ていた。魔法生物飼育学の授業を受けるためだ。

 

ハグリッドが指定した教科書は生徒達に不評だった。まるで生き物のように暴れる本でページを開こうとすると噛みつくからだ。

 

ウィルは一度噛み付かれてからは“インカーセラス”を唱えて縛りあげた。そしてハグリッドは大半の生徒達がベルトやロープで縛ってあるのを見てがっかりしているようだ。

 

彼曰く背表紙を撫でれば大人しくなるらしい。それを聞いてもなお生徒達はベルトやロープを解く気にはならなかった。

 

 

 

そしてハグリッドは目的地に到着すると彼はニッカリ笑い、手を大きく広げる

 

「ジャッジャジャーン!!!」

 

大声をあげると、突然空から生き物が降りてくる。それは地面に着地すると小さく吠えた

 

「こいつの名前はバックビーク。ヒッポグリフだ。」

 

ヒッポグリフは馬の身体に羽根が生えたような姿だ、嘴は鷲のようで鋭い。

 

「すぐ怒るから侮辱すんじゃねぇ。」

 

ハグリッドは生徒達をジッと見つめ忠告した。プライドが高く人の言葉を理解できるらしい。そして彼は後ろを向いてバックビークを撫でる。

 

ハグリッドの『じゃ誰からやるか?』との言葉に一斉に生徒達は一歩だけ後ろに下がった。ヒッポグリフは獰猛であると思ったからだ。

 

「あ?」

 

先頭に立っていたウィル以外の他の生徒達が後ろに下がっている。まるで自分が前へ進んだようだ。すると少し離れてハリーも自分と同じ状況らしく戸惑っているらしい。

 

「では僕からお願いします。」

 

ハグリッドはウィルを歓迎するように向かい入れた。自分の授業に興味を持ってくれて素直に嬉しいらしい。

 

「先にお辞儀をしろ、それが礼儀ってもんだ。」

 

ハグリッドはウィルにそう言う。彼は堂々とバックビークへ進む。

 

「いい顔だ、傲慢で自分に誇りを持ってる。」

 

ウィルは無遠慮に近づくとバックビークはなにかを感じたのか威嚇するように吼えた。ハグリッドは下がれと指示をする。

 

だが彼は無視して進む。そして丁度いい距離を保つとバックビークの眼をジッと見た。まるで互いの腹の中を探るように見つめ合う時間ができた。

 

 

 

まもなくしてバックビークがゆっくりと頭を下げた。それを見たウィルは笑顔を浮かべ頭を下げ返す。そして彼の近くへ歩くと首元から頭へと優しく撫でる。それにバックビークは嬉しそうに小さく鳴いた。

 

元々動物好きの彼はとても満足した表情を浮かべている。生徒達には背中を向けていたので悟られはしなかったが、ハグリッドは満足そうにうなずいた。

 

 

するとバックビークは自分に乗れと言うように腰を下げた。ウィルはすぐに彼の意思を理解してハグリッドの方を向く。彼はにこやかに乗っていいぞと言った。

 

 

ウィルはバックビークの背中に乗ると一気に飛び立った。

 

森の上空からはあらゆる魔法生物が見え、それを超えると湖の上を滑るように飛ぶ。ウィルは勢いよく風を切る。箒とは違う臨場感を覚えた、彼は大声で叫び楽しむ。

 

そしてバックビークを褒め称えた。すると嬉しそうに大きく吠えて更にスピードをあげてみせる。

 

 

 

学校の敷地を軽く一周するとバックビークはハグリッド達の元へゆっくりと戻っていく。ウィルは頭を撫でながらふとある事を思いついた。だがバックビークには自分の生活があるのだと思って、それを心のうちに閉まった

 

 

 

彼が戻ると大きな歓声で迎え入れられる。最近の彼ではあり得ない状況だろう。少なくとも今の彼には人を拒絶する壁を忘れていたからだ。素直に楽しみ、短いひと時の中で己の重圧から逃れられたのだ。

 

 

ウィルはバックビークから降りてお礼を言って次の人に順番を譲った。

 

スリザリン生の中心でドラコはかなり不機嫌そうな顔を浮かべている。それは嫉妬だった。最近は弟の自分でさえもウィルは関わろうとさせないことに不満を抱いていた。

 

自分には久しく見せていないその笑顔をたかだか獣に向けているのが癇に障ったのだ。彼は自然とバックビークの前へ飛び出して侮辱の言葉をぶつけていた。

 

それに激昂したバックビークはドラコを蹴り飛ばした事で授業は中断され、そのまま終わった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数日後

 

 

 

 

 

 

あれからバックビークは息子に怪我をさせた事で激怒したルシウスによって裁判が行われる事となった。ウィルがそれを知った時にはすでに遅くどうすることもできない。それをやめるように手紙は送ったが怒りは収まらないらしい。

 

そしてホグワーツの付近でブラックが目撃されたとの一報が入った。だがウィルには関係のない事だ。仮に襲われたとしても返り討ちすればいいと思っていた。

 

 

今日はルーピンの“闇の魔術に対する魔法術”の授業である。

 

彼は全員を机ではなくその場に立たせる。そして皆の前にタンスがポツンとあった。だがそれは中で何かが暴れているように揺れていた。

 

するとルーピンは中にいるのがボガート(真似妖怪)であると皆に説明する。そして形態模写妖怪で相手の最も怖がる存在になる性質を持ち、呪文は“リディクラス(馬鹿馬鹿しい)”。ボガートを追い払うのに必要なのは笑いで、自分の怖い存在を滑稽な姿にする事がポイントだと言った。

 

 

ルーピンは生徒を一列に並ばせると先頭にいたネビルからやらせることにする。彼はタンスの鍵をあけると、ジャズ音楽をかけて皆を陽気な気分にさせる。

 

扉がゆっくり開くと中からスネイプが現れた。どう見ても本物にしか見えない彼に生徒達は驚き、息を飲んだ。

 

「“リディクラス(馬鹿馬鹿しい)”ッ!」

 

するとスネイプが彼のお婆さんのと思われるカーキのドレスを身につけていた。頭にのった禿鷹の剥製に生徒達は大爆笑だった。

 

 

それから次々と生徒に順番が回っていく。蜘蛛やコブラなどの姿に変える。全員がそれらを滑稽な姿に見事に変えていく。

 

 

そしてウィルの順番となった。ゆらゆらと揺れているピエロはすぐにぐるぐると渦巻くようにウィルの恐怖となり得る存在へと変身していく。

 

ボロボロなツギハギだらけの黄ばんだ麻の服を着ている人間だ。生気のない両方の眼はウィルをジッと捉える。彼は折れた黒い杖を持ちただ立っていた。

 

 

それが誰なのかはすぐにわかった。

ウィル(・・・)だ。彼の恐怖は実に意外だった

正確には杖の折れたボロボロの自分

 

 

 

「“リディクラス(馬鹿馬鹿しい)”。」

 

するとボロボロのウィルはレオタードを身につけた姿に変わり、地面から生えた鉄の棒を使ってポールダンスをしている。とても生き生きとしたキメ顔でキレキレのダンスをしている。股間はもっこりとしており生徒達は爆笑の渦に包まれた。中には腹を抱えて笑う人もいる。

 

そしてウィルはその場を離れるとハリーの順番となった。すると突然ルーピンは顔色を変えて割り込む。

 

するとそれは吸魂鬼の姿に変わる。だがルーピンが間に入った事でそれは満月のような姿に変わる。

 

彼はそれに呪文を唱えるとボガートは風船が破裂したかのように音を立てながら飛び交う。そしてそのままタンスに入ると彼は鍵を閉めて授業の終わりを告げた。

 

 



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幸福と恐怖②

ほぼ3連投稿です。この章は繋ぎで比較的退屈なのでサッサと行きます。なんなら流し読みでいいかも


 

 

 

数ヶ月後

 

 

 

ウィルはルーナを見つけても声をかけないが、ルーナはウィルを見つけた上で気が向いた時に声をかけるという奇妙な関係は続いていた。

 

相変わらず彼女の言う生物は知らないままで図書館でも成果はあげられない。だから諦めてルーナから教わることにした。しかし彼女は常にふわふわとしており会話はなかなか成立しなかった。

 

それを見かけた時、不満を抱いたのは2人だった。弟のドラコとかつての友人のハーマイオニーだ。

 

ドラコは単純に構って欲しいだけなのに対して、ハーマイオニーはルーナに小さな嫉妬とウィルへは意地をもってこちらからは歩み寄らないつもりだった。

 

彼女は目を背けようとしても目に入ってしまう。ウィルは容姿と雰囲気で目立ち、ルーナは奇行で目立つ。つまりそこにいれば自然と発見してしまう。

 

そしてそのイライラを処理するのはハリーとロンだった。ハリーは相変わらずどうしていいのか分からず、ロンは去年の出来事で少しは見直したつもりだったのにマルフォイ家として遂に本性を現したのだと思った。

 

 

正直言ってハリーとロン(男性陣)はただの機嫌取りで使い物にならない。だからロンの妹であるジニーに相談してみる。

 

くれぐれも内密にという理由で去年の終わりからウィルが急激に変化して今に至ると話した。彼がハーマイオニーへの侮辱を聞いた時は大層驚いた。それでもウィルの行動の意味は分からなかった。

 

しかしルーナがウィルになぜ構うのか、それはなんとなくわかっていた。実はジニーとルーナは友達だからだ。

 

たしかにルーナは変わっており会話は通じない。意味のわからない言動もする。でも彼女はとても優しく、そして観察眼がずば抜けて優れているのを知っている。誰からも理解されず孤独だった自分と今のウィルを重ねているのではないかと考えていた。もちろんそれが正しいかはわからない、それがルーナという不思議な女の子だ。

 

ジニーはそれを包み隠さずハーマイオニーに伝えた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそれ以降、しばらくは特になにも起きなかった。そして今日で今学期も終わりを告げようとした頃、とんでもないニュースが迷い込んできた。“シリウス・ブラック”が捕まったようだ。どうやら城のどこかに監禁されているらしい。ようやくホグワーツに安寧がもたらされ生徒たちの表情は明るい。

 

 

 

だが校庭を一人でゆっくり歩いているウィルの表情はとても重い。未だに彼は守護霊の習得に至らなかった。それを後回しにしてスネイプの元で次々と新たな魔法を得たが、守護霊においてはとにかく迷走していた。

 

そしてある日を境にだんだんとスネイプは苛立ちを隠せないようになった。彼はおそらく自分の不甲斐なさが原因だと考えたが他にあるらしい。

 

「形はできてる。あとはお前の問題だ。我輩はお前のカウンセラーではない。自分でなんとかしたまえ。」

 

今日は先生が忙しいのか、ただ一言で終わりを告げられる。ウィルは教えを乞う身なので特に不満もなく、ただ何も考えず散歩をする事にした。最終日くらい何も縛られずに過ごしてみたかったのだ。

 

彼が湖のほとりに着いた時、見慣れた顔が見えた。ルーナだ。途中から彼女を拒もうと何度も試したが、のらりくらりと躱された。彼女を思い通りに動かすのは無理だと判断して追い払うのを諦めた。

 

彼女はぼーっと水平線を眺めている。ウィルは珍しく自分から声をかけてみた。

 

 

 

「やぁルーナ。」

 

「はぁーい。」

 

ルーナは水平線から目を離す事なくウィルに返事を返す。ウィルは彼女に習ってただ無言で水平線を眺めることにした。

 

しばらくの沈黙の後に彼は他愛のない質問をしてみる。

 

「なぁルーナ、君にとって幸せってなんだと思う?」

 

ふと彼女に聞いてみたくなった。守護霊を出すためのヒントを得る為だ。

 

「ん、水平線から“ブリバリング・ハムディンガー”が来るのを待ってるの。 」

 

「今、やりたい事か。君は自由だな。」

 

ウィルは笑ってみせた。ここには2人しかいないということ、そしていつからか彼女とのお喋りが学校で唯一の安らぎのように感じていた。この一年間で友と言えるような関係を築いたのは彼女だけだ。あとはずっと魔法の事しか考えてない。

 

ウィルは近くの岩に腰をかけて大きく深呼吸をする。

 

「ルーナ、俺は幸福な感情がなにも浮かばないんだ。もう何が何だか、あまりにも護りたいものが多過ぎてね。」

 

ルーナは聞いているか、聞いてないのかわからない表情で水平線を眺めている。ウィルはどちらでもいいので彼女に自分の感情をただぶつけたくなった。

 

「たとえ全てを守ったとしても俺自身が満たされる保証はない。その上で自分のやりたい事もわからない。」

 

「やりたいことって?」

 

どうやら話は聞いてくれていたみたいだ。彼はすぐに答える。幸せについて考える過程で気持ちを整理する時間はあった。

 

「まぁ色々あるが、一番は魔法界をより良く(・・・・)したいと思ってる。」

 

建前としてこう言ったが、ウィルの秘められた野望にも通じる最大の原動力だ。それを成すには力がいる、誰よりも強い力だ。

 

「ウィルって窮屈だね。」

「君が自由過ぎるんだよ。」

 

やはりいつものように煙に巻かれたようだけだった。少し前までは振り回されるのに苛立ちや不満を抱いていたが、今ではそれが彼女の魅力なのだと思うようになった。

 

自由(・・)?・・・、そうか。」

 

自分とは一番かけ離れた言葉だ。その言葉はウィルの頭の中で一筋の光となった。それに照らされた複雑な道が一本に通じるのを彼は感じた。

 

ボガートの恐怖の対象が弱い自分だったということ、そして自分が本当に幸せだと思う事を理解したのだ。

 

「わかるわけがない、こんなの矛盾(・・)してる。ありがとう、ルーナ。」

 

 

ウィルはそういうと一目散に走りだした。彼の目的地はスネイプの部屋ではなくルーピンの部屋だった。

 

彼が到着して部屋を覗き込むと荷造りの最中のようだった。棚から机まで空っぽになっている。

 

「おっとウィルか。察したかも知れないが私は辞めるんだ。」

 

ウィルはその言葉に驚きを隠せない様子だった。そしてなぜか悔しそうな顔をする。理由を見抜いていたからだ。

 

「まぁ悪い事には慣れてる。」

「私は悪しき風習(・・・・・)だと思います。」

 

ウィルのその言葉にルーピンは驚いた様子だった。

 

「おっと君も気づいていたのかい?ところで何の用かな?」

 

自分の他にルーピンの正体を見抜いた人がいたのも気になりつつ、彼は早く正体を確かめたかった。

 

「“ボガート”に会わせてくれませんか?」

 

「悪いね、僕はもう先生じゃないから」

 

ルーピンはそう言って断るもニヤリと笑みを浮かべる。まるで子供のようだ。

 

「でもたまたま鍵が開いていて、中からボガートが出てくることもあるだろう。」

 

ルーピンは杖を振るって鍵を開けると、中から黒い杖の折れたボロボロの自分自身が現れる。ウィルはそれを見て急に笑い出した。ルーピンは彼が気でも狂ったのかと心配する。

 

その様子にボガートは激しく動揺し始めた。恐怖の対象となる存在に化けたのに目の前の若き魔法使いは笑いだしたのだ。まるでそれが幸福であるかのように。

 

「“エクスペクト・パトローナム”」

 

ウィルは杖を取り出してそう呟いた。すると杖の先に神秘的な銀色の光が灯り、そしてその光は実に美しい巨大な狼の姿となる。

 

さらさらとした立派な毛並みをもち、凛として堂々とした立ち振舞いからは王者の風格を思わせる。そしてその狼はウィルの指示に従ってボガートへ駆ける。恐怖を糧とするボガートは幸福のエネルギーに耐えることができず、タンスの中へ逃げ込んだ。

 

「驚いたよ。ずっと君の恐怖について気になってた。言いたくないのなら大丈夫だが、理由を教えてくれないか?」

 

ウィルはとても幸福な気持ちだった。人生において今まで越えることのできなかって壁を飛び越えた気分だ。頭の中からアドレナリンが大量に放出されているのがわかるくらい気持ちが高ぶっている。

 

「あの姿は過去の()です。正確に言えば違う並行世界の僕だ。」

 

「ほう、つまり?」

 

ルーピンは興味津々とした様子でウィルの解説を聞き始める。

 

「あ〜、僕は養子(・・)なんです。孤児院で育って親の顔も名前も知らない。その黒い杖は僕のではなく母の杖です。」

 

ウィルとドラコは双子のように思われているが、実は違う。今まで互いの事を兄、弟と言っていたが、双子とは言ってない。だからルシウスの妻であるナルシッサはウィルより実の息子のドラコを可愛がっている。

 

そしてボガートの持つ折れていた黒い杖はナルシッサのものではなく本当の母親のものだ。実際ウィルの杖は茶色のアカシアの木の素材でできてる。

 

「つまりマルフォイ氏と出会わなかった世界の君というわけだね?」

 

「えぇ僕は恵まれてた。彼は教育の機会を与えてくれたんです。だから今の僕がある。」

 

彼は次期当主として迎え入れてくれたルシウスに多大なる恩を感じている。教育という点に関して彼は実の息子のドラコと差別はしなかった。あくまでも自分は実子(ドラコ)代用品(スペア)に過ぎないと思っていたが、去年は愛を感じた。そしてマルフォイ家ではなく自分の守りたいものを守れと言ってくれた。

 

「さっき君は矛盾だと言ったね?もしかして守護霊を呼び出すための幸福は・・・。」

 

ルーピンは再び疑問をぶつける。

 

「えぇ、なにも持たない孤児院の僕。つまり自由、幸福の答えは()だ。なんのしがらみもない世界でただの凡人として死ぬ。」

 

折れた杖は魔法が使えないという事を暗示しており、つまりルシウスに拾われず教育を受けないという事と思われる。

 

「それが幸せです。」

 

ルーピンは少し迷ったような表情を浮かべつつも口を開く。

 

「君は数多くの重荷を背負うとマクゴガナル先生から伺ったが、その事かな?」

 

「えぇ、全てを放棄してしまえば楽にはなります。でも正解を知りながらそれを正さないのは傲慢(・・)ですから。」

 

彼がそういうとルーピンは満足したのか荷物をまとめ始めるとお別れの言葉を述べて出て行った。そしてウィルは小さく深呼吸すると部屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいないその部屋で再びタンスがゆっくりと音を立てながら開く。中から出てきたのは小太りの老婆(・・)だった。

 

 




孵化と羽化の“孵化編”は終了です(原作はアズカバン)。“羽化編”(ゴブレット)が終わり次第解説を投稿しますので暫しお待ちを。

ちなみに一章から出てますが、傲慢と矛盾。これは大事なことです
まだ不明点は多いですが、次の章で・・・


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第4章【孵化と羽化(後編)】 *炎のゴブレット
退屈と選出





前話のアンケートで想像内の人が思ってたより多くて驚きました。
ほぼ原作通りの手抜きです。流し読みでもどうぞ。


 

今年もキングズクロス駅からホグワーツにかけて汽車が走っている。右も左もわからぬ初々しくも興奮している一年生や久し振りに出会う仲間達に歓喜する上級生の声で大変賑やかだった。もちろん例外もいる。

 

 

 

長く手入れされた黒髪を窓ガラスに押し付けて実に退屈そうにしている男の子だ。澄んだような茶色の瞳と端正で美しい横顔が反射している。ただぼんやりと美しくも見慣れた外の景色を眺め、ただぼんやりと壁越しでも響く声に耳を傾ける。

 

 

 

寝むろうにも目が冴えてしまっている。退屈ゆえに溢れる欠伸も、ただ虚しいだけだ。

 

途中で購入した日刊預言者新聞へふと目を降ろす。少し前にクィディッチワールドカップの決勝戦が行われた場所に死喰い人が現れたのだ。彼らは空に“闇の印”を刻み自分達の存在を誇示した。

 

自分は行かなかったが、義父のルシウスと義弟のドラコが会場にいたはずだ。もしかしたらその一味の中にいたかもしれない。

 

彼は本で学ぶ事がもうないという事は余りにも退屈なのだと初めて知った。目新しい情報もなく、ただ読み返すのは更に退屈で無意味な事だ。

 

 

ウィリアム・マルフォイはただ時が流れるのを待つことにしている。彼は実家とホグワーツ内にあるありとあらゆる戦闘に関わる知識を習得してしまった。天才ゆえの悩みだ。

 

彼の成長を促せるのは実践のみだがこの場でやるわけにもいかない。少なくともホグワーツに到着してからだ。

 

 

 

すると突然、部屋にコンコンというノックが響く。彼はすぐに唯一の友人のルーナだろうと判断するも、違うと思った。彼女ならノックなどせずに入ってくる。

 

ウィルが視線をドアに寄越すと男子生徒だ。彼が杖を振るって鍵をあけるとその子は中へ入る。

 

「や、やぁウィル。元気だった?」

 

「あぁ、当然だ。」

 

ネビル・ロングボトム。同室の生徒でかつて友人だった人だ。彼はとても困惑している様子である。以前のようにおどおどはしていないように思われた。

 

彼もまた去年から起きたウィルの突然の変化に戸惑った一人だ。ハーマイオニーとハリーは冷たく一方的に拒絶されたが、意外にも自分は最低限の相手をしてくれる。思いつく理由はただ一つ、自分が“純血”であること。

 

しかしネビルはウィルと関わろうとはしなかった。正確にはハーマイオニーやハリーらとの板挟みにあっていた為に触れないようにするしかない。客観的に見て悪いのはウィルだと推測したからだ。

 

だがそれは臆病なことだと彼は思い直したのだった。そしてどうにかしてかつてのような友人関係へと戻そうと決意した。

 

 

久し振りに見た彼の顔色は以前のように戻っている。クマは消え荒れた髪は整えられているようだ。そして少し穏やかになったらしい

 

 

 

***

 

 

 

数時間後

 

 

 

 

毎年恒例の組分けの儀式の後にダンブルドアは三大魔法学校対抗試合を行うと宣言した。

 

これはホグワーツ、ボーバトンとダームストラングの1人の代表選手を選出して魔法使い、魔女が魔法の腕を競う催しらしい。どうやら17歳未満は参加資格を持たないとのこと。

 

そして10月にボーバトンとダームストラングの校長が代表選手の候補生を連れてやってくるらしい。

 

 

彼が話し終えると豪勢な食事がずらりと並んだ。彼は皿をゆっくりと取る。そしてウィルはナイフで料理を切り分けて口に含む

 

周囲の生徒達は驚いた。彼が皿を何処かへ持っていかず、しかもゆっくりと食べている。

 

 

 

***

 

 

 

次の日

 

 

 

 

 

「アラスター・ムーディ、元闇祓い。」

 

新たな闇の魔術に対する防衛術を担当する教師の名前だ。

 

「闇の魔術と戦うには実践教育が一番だ。戦う相手を知り、備えるべき。」

 

彼は戦いにより傷だらけの顔に左の義眼がせわしなくぐるぐると動く。時折彼は携帯用の酒瓶を手にとってグビグビと飲む。

 

「3つの許されざる呪文は何がある?答えろ。」

 

彼の義眼がウィルをジロリと捉える。

 

“許されざる呪文”。禁じられた魔法であり、それは人に対して使用すればアズカバンで終身刑に至る。

 

「お前の父親は呪文を知ってるはずだ。」

「えぇもちろん、“服従の呪文”。」

「そうだ。」

 

彼は瓶から蠍を取り出すと杖を向ける。

 

「“服従せよ(インペリオ)”。」

 

すると蠍がムーディの操るままに動き回る。生徒の顔に飛び移ったり、水の入ったバケツに入ろうともする。彼は蠍を近くの机に置くと説明を続ける。

 

「多くの魔法使い達がこの服従の呪文に支配された。誰が操られ、誰が操られていないのか。それを見抜くのは困難だ。」

 

ムーディは自身の経験則から語った。そして彼はウィルの耳元に口を近づける。

 

「マルフォイ家、闇の帝王の部下でありながらこそこそと逃げ回る。服従の呪文をかけられたと喚いてな、臆病者の一族だ。」

 

他の生徒には聞こえないほどの小さな声で囁くように言った。闇祓いは未だにマルフォイ家を疑い、尻尾を掴もうとしている。元とはいえ彼はマルフォイ家を毛嫌いしているようだ。だがウィルはニヤリと笑う。

 

「妄想癖だ。傷ついてるのは顔だけと思っていたが、中身の方も悲惨らしい。」

 

ウィルはルシウスに似た他人を嘲笑う笑顔を浮かべて囁くように言った。思いがけない反撃にムーディは怒りに震えているようだ。

 

「使いたそうですね。その右手の棒切れを。」

 

ウィルは更に煽ってみせる。しかしムーディには教師という立場がある。だから彼は嫌悪を隠さずに一瞥するとチョークを手に黒板に板書をする。

 

 

「臆病もの。」

 

ウィルは小さく囁いた。

 

それからムーディは“磔の呪文”、“死の呪文”について教え、その対抗策を学んだ。

 

 

 

 

 

 

月日は流れ、10月末になる。全てのホグワーツ生は大広間に集まっていた。ダンブルドアの言っていた“三大魔法学校対抗試合”の日程がやってきたのだ。

 

すると遠い空から巨大な黒い点がこちらに飛んでくるのが見えた。やがてそれが馬車だと理解する。巨大な天馬達によってひかれるそれはホグワーツのベランダへと着陸した。

 

中からハグリッドより大きな女性が現れた。ウィルは彼女を知っている。ボーバトン高校の校長であるマダム・マクシームだ。

 

すると彼女のあとに続くように次々と生徒達が出てくる。17.18歳くらいだろう、比較的女性が多いように思えた。彼女らが用意された席に座り終えるとタイミングを計ったように湖からブクブクとあぶく玉が現れる。

 

水面が乱れ渦巻いていく。すると長くて黒い竿のような何かが水中から現れる。船の帆柱のようだ。月光を浴びて船は水面にゆっくりと浮上する。まるで海底から難破船が引き揚げられたかのようだ。

 

やがてモコモコとした毛皮のマントを身にまとった屈強な男達が一糸乱れぬ動きで現れる。すると奥から校長らしき男が現れる。背が高く痩せた山羊髭の男である。彼もまた知っている。ダームストラング学校の校長であるイゴール・カルカロフ、彼は義父の元同士でもあった。

 

 

 

彼らも座り終えるとご紹介する。主催のバーテミウス・クラウチという男がルールを説明した。参加する三校から1名ずつ、課題の一つずつを巧みにこなすかどうかで採点される。最も総合点の大きな者が優勝杯を獲得する

 

代表選手をえらぶのは“炎のゴブレット”、羊皮紙に名前と所属校名を書いてゴブレットに入れると、ふさわしい選手が選ばれる。期限は24時間との事だ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

次の日

 

 

 

 

 

その場に居合わせた全ての者達は興奮していた。各々の学校の代表が選ばれ誰も見た事がない試合が行われるのだから。

 

「さてゴブレットは選び終えたようじゃ。」

 

待ちに待った瞬間だ。ダンブルドアが手をかざすと、ゴブレットの炎が赤く燃え盛る。そして火花が飛び散ると焦げた羊皮紙がゆらゆらと落ちていく。

 

ダンブルドアはそれを掴むと力強く叫ぶ。

 

「ダームストラング学校の代表はビクトール・クラム!」

 

大歓声と共にとても体格のいい青年が選ばれたちあがる。ウィルは彼を日刊予言者新聞の一面を飾っているのを見たことあった。彼はブルガリア最高のシーカーだと称されていた男だ。

 

「ボーバトン代表はフラー・デラクール!」

 

とても美しいブロンドの女性が立ち上がり歓声と共にたちあがる。

 

「ホグワーツ代表はセドリック・ディコリー!」

 

これまでより一番大きな歓声が沸き起こった。誰もが認める男だ。ハンサムで優しく監督生であるほど優秀な生徒である。

 

「さてこれで3人の代表選手が・・・」

 

ダンブルドアがそう言うとゴブレットが再び赤く燃え盛った。まるでゴブレットがまだ代表選手がいると主張するかのようだ。

 

火花と共に焦げた羊皮紙はひらひらと舞った。ダンブルドアはそれを反射的に掴む。彼はジッと見つめ、そして叫んだ。

 

「ハリー・ポッター!」

 

 






おそらく話数的に折返しくらいだと思います。


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ドラゴン

 

 

 

 

彼は“禁じられた森”へやってきていた。最近夜中に抜け出してある目的を持って訪れていた。ケンタウロスや人狼、ユニコーンなど凡ゆる怪物や生き物が生息していて危険な地域とされているが、彼には関係ない。彼は傲慢だ、どんな怪物であろうとも自分を超える怪物(存在)ではないと確信している。

 

 

だが今日も森の奥へ進む中でいつもより騒がしい事に気がついた。まるで地鳴りのような獣の声だ。彼は魔法により音と姿を消して、それに近づく。

 

すると森の開けた場所に沢山の魔法使いと強固に造られた四つの鉄の檻だ。時折檻の中から勢いよく炎が吹き出しているではないか。彼はそれをジッと見ると檻の中の正体が何なのか理解した。

 

(ドラゴン。実に興味深い。)

 

 

ウィルはドラゴンに目を奪われた。巨大な身体に鉄の鱗、爪を持つ。この世のありとあらゆる怪物の中でも最も強力な種族だ。こんなに魅力的な生物は他にはないと彼は思い、しばらく観察し続けた。

 

 

 

 

***

 

 

 

数日後

 

 

 

 

 

第一の課題はドラゴンが守る黄金の卵を盗むことだ。そして3人の代表選手は3人とも課題をクリアした。残りは最年少の選手の出番である。

 

ハリ・ーポッターがステージに現れると大歓声が湧き上がり激しい熱気に包まれる。ゴツゴツと岩場で足場は悪い。すると視線の先に黄金の卵が目に入る。それと同時に上空からドラゴンが現れ口を開いた。

 

するとハリーに巨大な火柱が襲いかかる。彼は反射的に岩場の陰に隠れて難を逃れた。杖を空に向けて呪文を放つ。

 

「“アクシオ(来い)”、ファイアボルト」

 

すると上空からハリーの箒が飛んでくる。彼はそれに飛び移ると一気に飛翔した。ドラゴンは自分の守る卵を奪おうとした生き物を追いかけようと空を飛ぶ。

 

ドラゴンは首を強力な鎖で繋いであったが、怒りで我を忘れた怪物を前に鎖など意味はなかった。それはいとも簡単に千切れ、会場から飛び出したハリーを追いかける。

 

 

観客席の端に一人でいたウィルはニヤリと笑い、さっと立ちあがり会場を後にした。

 

 

校舎を飛び出したハリーはドラゴンの吹く炎を回避して、前後左右に揺れて陽動する。

 

彼はホグワーツの石の橋に目をつけた。仕切りはとても細く、自分ならかろうじて通れる広さだろう。

 

彼は一気に加速して隙間を無傷で通り抜けてみせる。それに対してドラゴンはハリーを追うのに夢中に狭い事に気がつかず巨大な羽根を仕切りにぶつけて体制を崩すとそのまま底の見えない谷底へと落ちていった。

 

ハリーはそのまま会場へ戻ると黄金の卵を掴み、課題をクリアした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数分前

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴンが谷底に落ちる瞬間、箒の上でウィルは透明化した上で遥か上空にいた。石の橋の隙間を利用してハリーがドラゴンを巻くことに成功したのを見届け、彼はドラゴンが落ちた谷底に向けて急降下しながら彼は手早く杖を取り出した。

 

稲妻のように下へ下へと落ちていくと、すぐにドラゴンの姿を捉えた。どうやらドラゴンは羽根を支える骨が折れたのかバサバサと動かすもバランスを保てない。痛みに苦しんでいるようだ。

 

 

「“イモビラス(動くな)”」

 

ウィルがそう呪文を放つとドラゴンの動きは限りなくスローになる。彼は自分の透明化を解いて、ドラゴンの目の前に姿をあらわす。彼の患部を撫でるように触れる、するとその骨がガチガチという音を立てて元に戻っていく。

 

「ほら、もう反対も。」

 

しかしドラゴンは巨大な口を開き、無数の並んだ鋭い牙で彼を嚙み殺そうとする。

 

「“プロテゴ(守れ)”」

 

ウィルは片手でドラゴンの動きを止めたまま、空いた方の手で盾の魔法を発動して牙を容易く弾く。

 

「荒いな、だが気に入った。」

 

ドラゴンは息を吸って火柱を放つ。今度はその火を片手で分断してみせる。炎が途絶えるとウィルは口を開く。

 

「僕はウィリアム・マルフォイ、君は自由が欲しいか?」

 

その吸い込まれるような茶色の瞳を前に最も危険とされるドラゴン、“ハンガリー・ホンテール”は大人しくなった。この小さな生き物から計り知れないほどの強さを感じたからだ。そしてなぜかこの人間に魅力を感じていた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

数日後

 

 

 

 

 

〜グリフィンドール寮〜

 

 

 

 

 

 

 

 

寮室の中でマクゴガナルは生徒達を集めて大事な話を始めた。“三大魔法学校対抗試合”には伝統があり、クリスマスにはダンスパーティーが行われるために各々はパートナーを見つけるよう言った。

 

 

女子生徒たちの大半は浮き足立ったが、男子生徒たちの顔色は良くない。なぜならエスコートをすべきなのは男性だからだ。ウィルは無関心な様子だった。しかし彼の視線は他の女子生徒と同じように少しにこやかなハーマイオニーを捉えていた。彼女は周りの友人たちと談笑して盛り上がっていて自分の視線に気がつかない。

 

 

その時、初めてウィルは目が合わない辛さを知った。2年生のあの時から人と目を合わせないように心掛け、鍛錬に耐えてきた。彼は自分の進む先しか見てなかった。

 

彼女の視線は何度も感じており、それに気がつかないふりをしていた。そうでなくては意味がないからだ。

 

 

そのうち彼は他者の視線を自分の感覚から外す事にも慣れた。それと同時に彼女が自分自身を捉える事にも気がつかなくなった。ただの第三者として埋れてしまった。

 

(いつからだ?)

 

一体いつから彼女の瞳は自分を捉えなくなったのだろう

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

〜魔法薬学室〜

 

 

 

 

 

 

ウィルはスネイプから呪文について話し合いをしていた。どうすればより効率的に、そしてより強力に魔法を放てるか、又は新たな魔法を発明すると言った内容だ。

 

「“武装解除”は敵の杖を後方に弾く場合と、杖を掴み取る場合がある。そこに魔力差はない。しかし・・・

 

「・・・。」

 

スネイプはウィルの表情を見て口を止める。彼はうわの空で集中力がないように思えた。こんなウィルを見たのは初めてだ。

 

「今日は終わりだ。」

 

「ッ!?すみません。続けさせてください。」

 

ウィルはハッとした表情でスネイプの顔を窺う。そこには普段通りの彼である。しかし微かに自分を心配してくれているようだ。

 

「2度は言わせるな。我輩はお前の感情が鎮まるまで再開する気はない。」

 

スネイプは冷たく突き放すように拒否する。彼は下を俯く。

 

「先生・・・僕は昔からこう思ってました。」

 

少しの沈黙と共に彼はポツリポツリと語り出す。その表情は重く真剣だ。

 

「僕は先生の寮(スリザリン)に入るべきだった。」

スネイプはその言葉に揺れた。自分を含め誰もがそう思っていたからだ。彼はひいき目抜きにもし彼がスリザリンにくればもっと偉大な魔法使いになれる可能性が高まると確信していた。

 

「・・・さよう。我輩だけでなくお父上もそう感じておるだろう。」

 

「・・・。」

 

ウィルは四年前の組分けの時を思い出していた。もし自分がハーマイオニーともっと語り合いたいと思わなかったら、こんな気持ちにはならなかったはずだ。今の心に残るモヤモヤと組分け、彼女さえいなければただのスリザリン生に過ぎなかった。

 

「ポッター同様、お前は傲慢だ。しかし連中とは違う。お前は人生が不当なものだと知っている。」

 

ウィルはスネイプの目をジッと見た。彼が慰めの言葉を使うなんて信じられなかったからだ。

 

「・・・、お前はお前だ。」

 

「・・・。」

 

ウィルはその言葉に心が少し晴れた。そうだ、かつての自分の言葉だ。なぜ忘れていたのだろう。気が緩んでいるのかもしれない。

 

 

「だが迷いを祓うには不十分だろう。今日中に解決しろ。」

 

「・・・失礼します。」

 

ウィルは頭を深々と下げて部屋から出ていった。するとスネイプは椅子に勢いよく座り、自分の額に手を置く。彼はしばらく過去を振り返ると口を開いた。

 

「もう充分だ。お前はとうに我輩を超えておる。もはや生き急ぐ必要はない。」

 

そしてまた長い沈黙が続き、ぼそりと呟いた。彼が言ったのか、心の中でそう思ったのか、それはわからない。

 

「ウィル、お前は我輩(・・)のようにはなるな。」

 

スネイプの瞳は余りにも弱々しかった。

 

 

 



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パートナー

 

 

 

 

 

 

ウィルはスネイプの部屋を後にしてからフラフラと歩く。なぜか今は凄く見られている気がしてならない。いつもなら目を背けられ道を開けられるはずなのに。

 

 

彼は自分の部屋に戻る途中で後ろからリズムに乗った足音が聞こえてくる。ルーナだ。

 

「はぁーい、ウィル。誘わないの?」

 

「やぁルーナ。ダンスパーティーの事だな?俺はいい。」

 

ウィルは興味なさそうに返事をするがルーナはスキップをやめて静止する。そして少しの沈黙と共に口を開く。

 

「骨は拾ってあげるね。」

 

「ん、なぜ断られる前提なんだ?」

 

ルーナの言葉にウィルは首をかしげる。そしてすぐに自分の行動にも疑問を抱く。参加しないつもりだったのに、自分が断られる理由の方が気になった。

 

「だって彼女から見たウィルの良い部分って顔だけだから。」

 

ウィルはその言葉を聞いてようやく理解する。やはりこの子には素晴らしい才能があると思った。この1年、彼女の性格だけでなく能力にも助けられてきた。だがそろそろ自分一人で立つ時だろう。

 

「そうか、一つでもあるのならまだマシだな。」

 

いつもありがとう、彼はそういうとその場から立ち去った。行くべき場所はただ一つ。

 

 

ずっと避けていた場所であり、学内で最も過ごしたところだ。もう本に用はないと自分に言い聞かせていたが本当は違う。

 

彼女がいるからだ。

 

 

思い出の場所に彼女が目の前にいたら自分はすぐに声をかけてしまうだろう。だからそれだけはできなかった。

 

信頼してくれていた彼女を冷たく突き放した自分を彼女はどう思っているのだろう。いつしか気まずい友人から他人になった関係でもウィルは決して彼女の事を忘れなかった。だが向こうがそうとは限らない。

 

不安と興奮を胸に抱いて彼は進む、この自分の決断が自然とできたということはそういうことだろう。

 

 

 

 

もう今の自分はどんな障害からも彼女を護れる力を手に入れたということだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は図書館の入り口に入った。そして軽く全体を見回すように視線をやる。するとすぐに彼女を見つけ、わずかに心踊る。積み上げられた本に囲まれている。見覚えのある表紙を持っており、それが呪文集であると理解する

 

自然と足が彼女に向いてゆっくりと歩いていく。しかし近づけば近づくほど足に重りが課せられたように錯覚する。今日は疲れているから出直そうとも思った、でもこのままではダメだ。1日でも早く謝りたかった、そして昔のように知識を語り合いたい。その意思を強く持ち彼はようやく机を挟み、目の前につく

 

 

ハーマイオニー・グレンジャーに声をかけようとした時、彼は声が出てこない。喉の調子がおかしいのではない、どう話しかけたらいいのかがわからなかった。謝罪から入るべきか、世間話がいいのか、それとも何事もなかったように?

 

 

彼が呆然と立ち尽くしていると目の前の生徒は迷惑そうに溜息をついて口を開く。

 

 

マルフォイ(・・・・・)が私に何の用?」

 

まるで勉強の邪魔をしに来た他人を追い払うような口調だ。

 

「あ〜、その・・・」

 

想定した範囲内の反応だ。しかし傷ついていい立場にないのは重々承知しつつも思いのほか強い衝撃に彼はあたふたする。

 

彼は軽いパニックになった。頭の中に浮かんだプランが全て崩れていった。ウィルの揺れ動く視線が本を捉える。

 

「な、なに読んでるんだ?」

 

「本よ。」

 

「うん、間違いない。」

 

ウィルの新たなプランは失敗に終わった

 

「目障りよ。」

 

「そうだな。」

 

ハーマイオニーの言葉にウィルは肯定しかできなかった。しかし立ち尽くす彼に苛立ちを覚えたのか、彼女は本に杖を振るう。すると魔法で元々あった所へ本たちが浮いて戻っていく。

 

ハーマイオニーは自分の椅子をさっと引いてそのまま早歩きで立ち去る。あまりに素早く冷徹な様子に彼は何もできない。

 

そして彼女が扉から出ていった時にウィルは冷静になる。こんな無様な姿を晒すつもりはなかった。

 

彼は初めて図書館の中で走った。司書のマダム・ピンズの怒鳴り声が部屋中に響くも、彼の耳には響かない。

 

外へ出て止まり彼女の姿は見渡すも、姿はない。彼は寮の道とは反対に走り出す。彼女の考える事を可能な限り読んだからだ。聡明な彼女なら追いかけられるかもしれない寮へ逃げ帰る事より何処かに隠れて熱りが冷めるのを待って戻る事を選ぶと思った。

 

 

ウィルは走って角を曲がると遠くに見えるのは彼女の背中だ。

 

「待ってくれ!」

 

彼の声にハーマイオニーは無視して進む

 

「お願いだ!俺をどうか許してほしい!」

 

ウィルは走りながらそう叫んだ。それでもなお彼女は止まらない。もう彼に計画はなかった。どうしたら許してもらえるのかではなく、もっと早く何よりも最初に言うべき言葉だった

 

「ハーマイオニー!本当に申し訳なかった!」

 

 

ウィルのその言葉にハーマイオニーは遂に足を止めた。そして彼女は勢いよく振り返ると、これまで彼が見たことがないほど瞳に怒りを映している。そして走ってこちらに向かってくる。

 

ウィルは殴られるのだと思って身構え目を瞑る。しかしそれは殴られる以上の衝撃を全身に感じた。そしてすぐに自分の腰が両手でギュッと締めつけられる。

 

「ウィル、貴方は大馬鹿ものよ!なんでまた1人で背負おうとするのよ!」

 

ウィルを力強く抱きしめた彼女はまるで子供のようにわんわんと泣いた。

 

 

彼女は初めからウィルの事を許していた。彼の家の事情を察してそれが自分を守る為の行動であると気がついていた。

 

彼女は痛くなんかなかった、本当に辛いのはウィルの方だと知っていたからだ。だから許せなかった、勝手に背負って勝手に孤独になった彼を。ほんの少しでも自分に背負わせてくれれば彼と友達でい続けられただろう

 

ハーマイオニーが唯一欲しかったのはウィルの自分の行動が間違っていたという反省、ただそれだけだった。

 

 

 

彼はハーマイオニーの様子を前に段々と彼女との思い出が湧きあがる。そして顔を思い切り歪めた。そして彼の両方の瞳から大粒の涙が垂れて地面に落ちる。

 

2人は今までの辛さを吐き出すように泣き続けた。時間のことなんか気にかける余裕などない、ただ気がすむまで泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は泣きやんで鼻をすする音だけが廊下に響いていた時、ウィルは口を開いた。

 

「なぁハーマイオニー、僕とダンスパーティーに行ってくれないか?」

 

彼女は真っ赤に腫れた目を見開いて驚いている。そしてすぐに申し訳なさそうな顔をした

 

「あの・・・本当にごめんなさい。実はもう他の人に誘われて、イエスと返事をしてしまったの。」

 

ウィルはその言葉につい笑みがこぼれた、やっぱりルーナの言う通りになった。あの子には敵わないと思ったのだ。

 

 

しばらくしてハーマイオニーとウィルは一緒にグリフィンドールの寮へ戻った。今までずっと話したかった知識を語り合い、互いの見解を述べて議論を交わした。一年間も溜まっている、だが時間はまだ沢山あるから大丈夫だろう。

 

2人がグリフィンドール寮の入り口に近づくとルーナが階段の手すりに腰をかけて、いつものようにクィブラーを逆さまにして読んでいる。

 

「良かったね、2人は仲良しの方がいいモン」

 

表情一つ変えずルーナはそう言った。もはや預言者のようだとウィルは思った。しかし、どこまで見抜いているのか怖くもなる。

 

先に帰っててくれと、ウィルがハーマイオニーに頼んだ。

 

「そう、じゃまたね。」

 

その言葉にウィルは心がじんわりと温まるように感じた。彼女の背中を見送ると彼はルーナにお礼を言った。

 

 

「んんっ!」

 

「ん?」

 

ルーナは突然、かしこまったように咳払いをする。ルーナはまるでウィルをエスコートするというようにダンスのポーズをとる。手を伸ばしてもう一つの手を腰に回しているようなジェスチャーだ。

 

「ウィリアム・マルフォイ、私とダンスパーティーに・・・」

 

「ちょっと待ってくれ。それは違う。」

 

しかしウィルは口を挟む。彼女のいう骨は拾うという意味をようやく理解したからだ。

 

そして彼は無邪気に笑うとルーナの空気の腰に回した手を優しく掴み、ウィルは腰を下ろしてひざまづく。

 

「ルーナ・ラブグッド、僕と共にダンスパーティーへ行きませんか?」

 

「うん、いいよ。」

 

ルーナはスッと返事をする。あまりにも呆気なくウィルのパートナーが決まった。彼女はナーグル避けの衣装にしなきゃと言うとスキップでその場を去る。

 

 

ルーナの後ろを見ていたウィルは彼女のスキップがぎこちない事に触れないでおいた。なぜかそれがとても可愛らしく見えた。

 



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2人の羽化

シワ一つない黒いタキシードを身につけ壁にもたれかかる男がいた。中わけでまっすぐ伸びた黒髪を金色の髪止めでくくっており、艶のある隙間から白く透明できめ細やかな顔が覗く。美しい顔でパートナーを連れて通り過ぎる女子生徒は見惚れて前を向けない。

 

ウィルは早めに待ち合わせの場所でルーナを待っていた。次々とカップルが通り過ぎるのをぼーっと眺めている。時折パートナーの視線を奪われた男子生徒や誘いを断った女子生徒から睨まれるも彼は気にしない。

 

 

やがて人混みの奥からぴょこぴょことブロンドが見える。彼はルーナだろうと視線を上げ下げする。すると表情が段々とほぐれていった。

 

彼女はかぼちゃ色のドレスにティアラの代わりにコルクをヒモで繋げて作られた冠を載せている。どうみてもクリスマスの格好ではない、彼女の感性によって選ばれたドレスはどこで売っているのだろうと疑問が湧く。

 

「待った?」

 

「いや、全然。」

 

ウィルは笑いを堪えきれずにいる。通り過ぎる生徒達はルーナの格好を見てギョッと目を見開く、そしてウィルに同情するような視線を寄越す。先ほどとは大きな違いだ。

 

ウィルは腕を掴ませると会場へと向かう

 

 

 

 

***

 

 

 

大広間の壁はキラキラと銀色に輝き、星の瞬く黒い天井の下には何百というヤドリギや蔦の花が絡んでいる。各寮のテーブルの代わりに小さく丸いテーブルが無数に並んだ。

 

オーケストラがステージに立ち美しい音色を響かせる。まずは伝統に従って代表選手団が踊り出した。一通り終えるとダンブルドアとマクゴガナルが加わり、パートナーがその輪に次々と入っていく。

 

 

ウィルもまたルーナと共に踊り始める。彼女の独特なステップやリズムに合わせるのは苦労したが、一番激しく踊れただろう。そうかと思えば天井のヤドリギを見てナーグルがいると大声をあげる。ウィルは君にはナーグル避けのコルクがあるから大丈夫だよ、言った。

 

 

終始ルーナの予測できない行動と周りの生徒達の反応が面白くて笑いが止まらずにいた。

 

「はい、ウィルにルーナ。随分・・・個性的ね。」

 

とても体格のいいダームストラング生をパートナーにしているハーマイオニーが2人に気がついて声をかけた。よく見たらその生徒が代表選手のクラムだと気がつく。

 

「多分、ルーナは流行の最先端を行き過ぎたんだよ。」

 

ウィルは笑顔を浮かべながら返事をする。ルーナはそれを聞いたのか聞いてないのか皆の飲み物を取ってくると言って何処かへ行った。彼はその役目は僕のだろと言ったが彼女はスキップを始めていた。

 

「やぁウィリアム・マルフォイだ。君達の健闘を祈るよ。」

 

ウィルはそう言うとクラムに握手を求めた。彼はたどたどしい英語で礼を言ってそれに応じた。

 

「じゃ僕もルーナを追うよ。彼女の手は二本しかないからね。」

 

 

ウィルは魅力的な笑顔を浮かべてルーナの跡を早歩きで追いかけた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜監督生の風呂場〜

 

 

 

 

 

 

 

監督生のみが使用できる風呂場の扉に2人の生徒がやってきていた。そして彼らは合言葉を言う。

 

「“パイン・フレッシュ”」

 

そう言うと扉はゆっくりと開く、ウィルとハリーは中へ入る。

 

そこは蝋燭の灯った豪華なシャンデリアが天井から吊るされ、広い大理石の浴室を照らしている。無数の金の蛇口からはお湯が垂れ流しになっていた。

 

 

ハリーは第一の試練で得た黄金の卵を片手に持っている。なぜならセドリックが意味深にそう言ったからだ。謎が解けない為にウィルにも付き添いをお願いした。ハリーはウィルとハーマイオニーの2人が仲直りをしたから、すぐに彼の事情を察していた自分もそうした。

 

 

湯船の近くに来ると2人は服を脱ぎ始めた。少し照れながら脱ぐハリーとは対照的にウィルは堂々として素早く脱いだそれを畳む。その様子を見たハリーは自然とウィルの身体が目に入る。

 

意外と鍛えられた肉体をしているのに驚いた。だがすぐにそれもそうだろうと思い直す。彼はクィディッチで最も動き回るチェイサーの中でもとびきり優秀だ、並みの肉体ではないのは明らかだった。

 

ウィルは着痩せするタイプのようで、顔と同じように白く肌荒れ一つない綺麗な身体だ。筋肉と骨格をぼんやりとさせたら女の子といっても誰も疑わないだろう。

 

2人はとりあえずここで卵を開こうと話し合い、蓋をあける。すると耳の鼓膜を引き裂くような甲高い叫び声が部屋の中で共鳴する。ハリーはすぐに蓋を閉じて黙らせた。

 

 

 

「お湯につけるんじゃないのか?じゃないとここに来た意味がない。」

 

ウィルのその一言で黄金の卵をお湯に浸けて蓋を解放する。すると先ほどみたいな感高い声は何一つ聞こえない。2人は息を吸ってお湯の中に潜った。するととても美しい声が聞こえる。

 

 

探しおいで

声を頼りに

地上じゃ歌は歌えない

探す時間は1時間

取り返すべし

大切なもの

 

 

 

 

 

息が切れてお湯から勢いよく出る。そして2人の視線は自然と壁に飾ったブロンドのマーメイドの絵へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィルとハリーはその歌を覚えてハーマイオニーとロンの元へ行った、そして歩きながら一通り話して図書館へと向かう。

 

ウィルとロンは以前と同じく気まずい雰囲気だが、もう子供でもないし事情を聞いていたので特に互いに拒絶することもなかった。

 

図書館で使える本を探しているとこちらをジッと見ている男子生徒をウィルは見つけた。クラムだ。

 

ハーマイオニーはそれに気づいたのかウィルの耳元でそっと囁いた。

 

「私の横でずっと勉強を見てるのよ、彼って肉体派なのよ。」

 

「君、とてもいい顔してるよ。」

 

ウィルは笑顔でそう返した。友達の喜ぶ顔を見るのはとても心地よかった。

 

 

 

***

 

 

 

 

図書館に「ウィーズリーとグレンジャーはマクゴナガルに呼ばれている」とムーディがやってきて、ウィルとハリーの2人で対策を練った。

 

ウィルはハリーに水中でも息ができるように“あぶく玉呪文”を教えようとしたが上手くはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

いよいよ第2の課題が始まった。昨夜、盗み出された4人の代表選手の大切なものが湖の底に隠され、1時間以内にそれを見つけて持ち帰るという試練だった。

 

 

 

 

結果として一位はセドリック、二位はクラム、そして三位のハリー。そして水魔に妨害されたフラーは四位だった。

 

ただし、ハリーは一番早く人質の元へ到着したものの彼は全ての人質を助けようとした為に遅れたらしい。そしてその勇敢な行動を称えて、セドリックと同率首位となった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

〜クィディッチ場〜

 

 

 

 

 

各校の応援として観客席にびっしりと並び、コートに現れた4人の代表選手に溢れんばかりの歓声をぶつけていた。

 

「今朝、ムーディ先生が優勝杯を先生だけが知る迷路の奥深くに隠した!それを手にした者が優勝じゃ!」

 

杖をマイクのように構えたダンブルドアはそう皆に説明すると大砲の音と共にスタートが切って落とされる。今までの試練の成績に応じて選手達は次々と迷路の中へ入った。

 

 

 

そして全員が中に入るとそれぞれは迷宮の中の選手を応援しようと声をあげ続ける。ウィル達も観客席に座りハリーの無事を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

そして約1時間後、優勝者がグラウンドに姿を現した。ハリーとセドリックだ。ホグワーツの生徒達は大歓声をあげて興奮している。しかしハリーの様子がおかしくセドリックは人形のように動かない。そしてその理由に気がついた女子生徒は叫び声をあげた。

 

生徒たちは次第に熱を冷まして事態の異様さに目を向けた。ダンブルドアは素早く2人の元にいく、そして数多の教師がそれに続く

 

 

「あいつが!あいつが復活(・・)しました!」

 

 

【闇の帝王】ヴォルデモート卿が復活したのだと察しのいい人達は気がつく。

 

セドリックが死んでいるのだとその場にいた全員はようやく理解した。事態に混乱する生徒たちの中でただ1人、ウィルはそれを聞くとその場から颯爽と立ち去る。

 

セドリックの父親の泣き叫ぶ声が背中越しに聞こえる。しかしウィルは振り返ることなく足早に去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついてこい、わしが付いとる。」

 

泣き叫ぶハリーの肩を抱きムーディはその場から離れる。そして彼の部屋に入るとハリーを座らせて落ち着くのを待つ。

 

 

「優勝杯は移動キーで魔法がかかってた。」

 

ハリーはそうムーディに話した。

 

「どこだ?」

 

「夢の中に行ったかのような、」

 

すると突然、ムーディが苦しみだした。顔が歪んだようだった。彼は素早く部屋に置いてあった箱を開け無数の小瓶を取り出すが全て空のようだ。

 

「闇の帝王は?墓場には誰がいた?」

 

ムーディは焦ったように矢継ぎ早にハリーに尋ねる。

 

「あの、僕は墓場なんて・・・。」

 

ハリーがムーディの知るよしもない事実を知っていたことを不審に思った。すると彼は残酷に顔を歪め、語り始める。

 

ハリーの手助けをして優勝させ墓場に導くのが自分の役目だったと伝えた。そして彼はハリーに杖を向け命を奪おうとした。ハリーは次々と訪れる事実に衝撃を受けて杖を手に取れない。

 

すると扉が吹き飛ばされる。外からダンブルドアら教師が現れて一瞬でムーディを魔法で制圧する。そして真実薬を流し込んだ。これはほんの数滴で真実のみしか語れなく魔法薬である。

 

「本物のムーディは?」

 

するとムーディは頑丈そうな箱に視線をやる。ダンブルドアが中をあけると本物のムーディが疲弊した状態で監禁されていた。

 

そしてムーディの顔が激しく歪みだす。どうやら激しく痛むらしい。

 

段々と若い男に変化する。整った顔でありながらも残忍で冷酷そうな表情を隠すことができない。

 

 

ダンブルドアはすぐにアズカバンに引き渡すために連絡を寄越すよう伝えた。

 

そして次々と質問をする。どうやらヴォルデモートの指示でハリーを手引きしたこと、そしてポリジュース薬を使用してムーディに化けたのだと白状する。

 

「協力者は?仲間はいるのか?」

 

仲間(・・)?」

 

ダンブルドアがそう言うと若者はニヤリと愉快そうに笑った。

 

「危険な男がこの学校にいるはずだ。この魔眼を見るといい。」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜秘密の部屋〜

 

 

 

 

 

秘密の部屋の広場はここ2年間で大きく変化していた。

 

壁にはびっしりと魔法に関する理論や試行錯誤の結果がメモされてる。また様々な薬品やホルマリン漬けにされた小さな動物のものと思われる脳が綺麗に管理された棚、緑色の液体に浸された動物(ユニコーン)。そして地面には謎の魔法陣が描かれた紙や資料が床に散らばっている。水場には動物の白骨死体がぷかぷかと浮いている

 

「“フィエンド・ファイア”。」

 

ウィルは杖先から炎を出現させるとこの2年間の実験の成果を燃やし始めた。限りなく制限された炎でありながらも轟々と黒い煙をあげながら燃え続けている。

 

すると広場の出口の奥からカツンカツンという足音が響いてくる。ウィルが無表情で振り返ると己の師だと気がつき、にやりと残忍に笑う。まるで先ほど捕らえられた“死喰い人”のようだった。

 

ウィルの師匠であるスネイプは燃やされているそれを一目みてすぐに理解する。かつて自分も彼と同じ事をしていた、だがかつての己の過ちとは規模もレベルも桁違いだ。

 

「ウィリアム、杖を床におけ。」

 

スネイプはいつもより険しい表情でウィルを睨みつけている。彼はまさか己の弟子が“闇の魔術”に傾倒しているとは知らなかった。ここで刺し違えてでも弟子を止めなければならないと決心した。

 

しかしウィルは大きな欠伸をした

 

「やっとですか。思ってたより遅かった。お陰で退屈(・・)だった。」

 

 

 

 






タイトルの2人の羽化とはウィルと誰を指すのか・・・


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野望

「僕を止められますか?先生。」

 

ウィルはスネイプに言った。油断や傲慢ではなく自分の実力の方が上だと理解しているからだ。つまりこれは余裕だ。

 

「・・・止める(・・・)だけか?お前を封じる方法は。」

 

「殺す、閉じ込める、魔力や人格または意志を奪う。そして説得。」

 

ウィルはさらさらとそう述べる。彼の意見に同意したらしい。

 

「こんなものですか。」

 

「それを探るのがこの部屋というわけか。」

 

スネイプは燃え盛る実験場の僅かな痕跡を見逃さず、ウィルが何を求めていたのかを見抜いてみせた。

 

「えぇ、習得しました。あとは不老不死。しかしそれだけは兆しすら・・・」

 

ウィルは“禁じられた森”でユニコーンを攫って実験を行なっていた。その血は死にかけた存在であっても蘇ることができる。しかし“生きながらの死”という呪いにかかってしまう。だから彼は血液から呪いを取り除けばいいという発想をもって“不老不死”の可能性を探るつもりだった。

 

また彼は遠くからこちらに無数の足音が響いているのに気がついた。するとスネイプはにやりと笑う。

 

「おっと、それが狙いでしたか。」

 

スネイプの目的は時間稼ぎだった。彼は師である自分の言葉を無視してまで、この場を素早く切り抜けようとは思わないと考えた。

 

やがて広場に次々と教師陣がやってくる。ダンブルドア、マクゴナガル、フリットウィックなどだ。他にも闇祓いや魔法省の役人などもいる。彼らはウィルの背後で燃え盛るなにかに呆気にとられる。

 

「“フィニート(止まれ)”!」

 

闇祓いの一人がそう唱えたが炎は勢いを増すばかりだ。ダンブルドアはそれをジッと睨みつけ口を開く。

 

「ただの炎ではない、“闇の魔法”じゃ。」

 

マクゴナガルは一歩ウィルの前に踏み出す。手に杖を持つことはなく、普段通りの凛とした立ち振る舞いだ。

 

「ウィル、質問に答えなさい。これは貴方の仕業ですか?」

 

闇の魔術は必ず痕跡を残す。彼女は専門家ではないとはいえ、これらがなんなのかおおよそ理解できた。

 

「えぇもちろん。」

 

ウィルがそれを認めると呪文学のフリットウィックはキーキーと叫ぶように口を開く

 

「不可能だ、いつ君にそんな時間があった!?」

 

彼の言葉に笑みを浮かべると彼はポケットから金の装飾のされた小物を取り出して、見せつける。

 

それには金色の金具が繋げられネックレスのようで、中心には砂時計のようなデザインがされている。

 

これは“逆転時計(タイムターナー)”、時間を巻き戻す事ができるマジックアイテムだ。これはマクゴナガルが魔法省に数多くの書類を提出して、ようやく貸し出された危険な道具だ

 

「もうこれは必要ない。」

 

ウィルはそういうと背後の燃え盛る実験の成果と同様に燃やした。もはや彼は杖すら振るうことしなかった。

 

「人目につかない夜中に逆転時計を使用して“秘密の部屋”で実験を進めていたのかね?」

 

ダンブルドアは謎をすぐに解明した。逆転時計はあくまでも“時を戻す”だけ、過去の自分も存在している。だからそれを誰かに見られてたり、過去の人々と関わると未来が大きく変化してしまう可能性があった。

 

「えぇ、しかしもう充分だ。」

 

彼は素直に認める。

 

「もうホグワーツで学ぶ事はなに1つない。校長先生、貴方の教えくらいです。」

 

ウィルはこの2年間においてはスネイプの個人授業だけでなく、マクゴナガルやフリットウィック、スプラウトなどホグワーツで教鞭をとる程の賢者達の教えを受けていた。それも全て彼の重荷を少しでも軽くする為の手助けだった。

 

しかしこの若き天才は利用したのだ。長年の創意工夫と試行錯誤の手間を省き、最大限の成果だけを盗みとった。実に効率的だ。

 

 

「君はこれらを完成させてどうするつもりだった?」

 

ダンブルドアは冷静に彼の真意を探る

 

「使うべき時が来たら、ですね。ただ少なくとも今、その時ではありません。」

 

彼は言葉を濁す

 

「その時とはヴォルデモートが復活した時に備える為かね?」

 

ウィルはその言葉を耳にすると目を見開いた。そして少しの沈黙の後に己の真意を語り始める。長年隠し続けてきた目的だ。

 

「これは僕の野望のためです。」

 

「君の望みとは?」

 

「先生、大義ですよ。」

 

その言葉にウィルは再びニヤリと魅力的に笑う。心の底からそれが本当に正しい事だと信じてやまないという表情だ。

 

ただでさえ魅力的な彼が意気揚々としている様は見ていてなぜか心地よかった。だがそれが平穏なものではないと誰もが思い直す

 

 

「支配とは愚かなものじゃ。」

 

「僕は支配する気はありません、ただこの世は整える必要がある。」

 

【この世を整える】、それが彼の1番の野望だ。幼き頃からずっと抱き続けた大きな目標である。孤児という弱者で産まれ、貴族という強者で育った彼にしか見出せないだろう

 

「なぜそう思う?」

 

「貧困、不公平、制度など。整えるべき存在は幾つかありますが・・・」

 

ウィルはまるで演説のように語り始める。彼は自分の思う野望が正しいと信じてやまない、だから理解されない人々に語る事でわかりあえるだろうと考えた。

 

「一番必要なのは価値観です。例えば、魔法界が純血主義と共存主義で分断されていることです。」

 

ウィルはそう述べた。しかし価値観の侵害は彼にとって悪しき行動のはずだろう。

 

 

「それは傲慢じゃ。君の言葉を借りるなら」

 

「えぇ僕もそう思います。しかし誰かがやらなければ溝は深まるばかり、親が子へ、子が子へとどんどん根は深くなる。」

 

ウィルは自分の行動が己の嫌悪するものだとしても、それが正しい為になされるのならばやむを得ないと考えている。

 

もちろん自分だけは特別というわけではなく、自分は傲慢な性格だと思っている。だがそれを世のために正すべきではないという矛盾した思想を持つ。

 

「しかし僕にはどちらの思想がより正しいかまだ判断できない。」

 

ウィルはまだ魔法界の全てを知らない。より良い選択を選ぶ為ならば、世界を知る努力は惜しまないつもりだ。

 

「僕は過激な“純血主義”は悪しき思想だと思う。しかしそれは段階があり、僕を含めマグルを排他的にすべきとは思わない層もいるのです。」

 

己が純血主義であることをほのめかす。

 

「貴方に問いたい。なぜ我々はマグルとの共存を選びながら、マグルに我々との共存を選ばせようとしない?」

 

ウィルはそれが不公平だと指摘する。魔法界は干渉しないというルールで自分達を縛り、マグル達はそもそも共存するかしないかを選択する自由がない。

 

「このままでは魔法族は不公平に隠れたままだ。だがいつか“死喰い人”や不満を持つ誰かがマグルに正体を見せて暴れれば、そして戦争となるでしょう。」

 

自分が不満に思っているからこその発想だ。いつ“死喰い人”のように過激な組織が構築されるかはわからない。だから危険なのだと主張する。

 

「我々は負けます。それを避けるためには強いリーダーがいる。」

 

「それがヴォルデモートだと!?」

 

「えぇ。」

 

ウィルはそう答えた。その言葉に教師達だけでなく闇祓いや役人達は激しく反発する

 

「正気か!?奴の時代を知らないわけではあるまい!」

 

「悪しき道だが魔法族(我々)は生き残る。」

 

それが彼が必要と主張する“価値観の統一”の最大の理由である。ようは戦争の最中に身内で争う事だけは避けたいのだ。

 

純血主義にはヴォルデモートという指導者がいる。だから魔法界を純血主義に統一させるために数多くの魔法族の血が流れるとしても、彼は魔法族の存続する方に価値があると考える

 

 

「もちろん共存の道を見つけられたのなら互いにメリットを供給できる。マグルの手に余る環境問題を解決でき、我らは文明を享受できる。」

 

それが一番平和で望ましい道だと思う。しかしこれが難しい。魔法界の価値観が統一されていないからだ。どちらかと言えば勢力の多い共存主義は純血主義を毛嫌いしておきながらも、彼らを排斥しようとしない。それは大きな問題であり、戦争の火種となり得る。

 

「つまり何を優先するかであり、僕は常に最悪を想定してる。この世がこれからどう動くかそれはわからない。」

 

ウィルはダンブルドアのように全てを見通す眼はない。ハーマイオニーのように簡単により正しい答えを見つけるほど聡明ではない。自分にあるのは己が得た稀有な経験からくる可能性に対して貪欲に正しい選択肢に悩み続ける事だ。

 

「少なくとも力がなくては何もできない。」

 

「少なくともお主の行為は罪に問われる。」

 

ダンブルドアは杖を抜いてウィルに向ける。すると彼は愉快そうに笑った。

 

「縛れますか?この僕を。一度試してみたかった。僕の器が貴方を超えたのかどうかを」

 

ウィルはそう言うと全身から爆発的に吹き溢れるような魔力を解き放つ。思わず身構えて後ずさりしてしまうほどの圧力があった。比べるまでもなく彼が2年前に見せた本気の魔力より強力になっている。

 

ウィルの荒々しい魔力とは比べてダンブルドアはとても穏やかな魔力だ。思わず暖かくなるような優しい太陽のようである。

 

2人は自分の得意とする魔法を選ぶ。互いに自分の膨大な魔力の一部を凝縮し、杖を媒介させ、呪文にのせて放つ。

 

互いの威力はほぼ互角のようだ。相手を討ち取ろうとする閃光は互いを牽制しながらぶつかる。通常の魔法使いの決闘はバチバチと火花が飛び散る程度だが2人の攻防はまるで小さな雷鳴が無数に轟いているようだ。

 

そして閃光は互いを打ち消しあうと宙へ消えた。するとウィルは意外そうな顔をする。

 

「加減しているのですか?その甘さが命取りとなりますよ。」

 

彼は興が冷めたと言わんばかりの表情だ。せっかく偉大なる魔法使いと戦う機会なのに加減をされたのでは無意味だ。

 

その隙を見逃さず闇祓いの1人がウィルに対して“拘束呪文”を命中させる。全身にきつくロープが巻きつき動けなくなる。そして彼は不意をつかれたのか杖を落としてしまう。それを役人が“引き寄せ呪文”で杖を掴んだ。

 

「これは想定外かね?」

 

魔法省の職員で一番立場が上だと思われる男はそう言った。しかしウィルは余裕そうだ。

 

「やがて貴方達がそう思う時が来ますよ。」

 

ウィルは不敵な笑みを浮かべる。するとダンブルドアはウィルの眼を見て真剣な表情で口を開いた。

 

「ウィリアム・マルフォイ、お主を退学処分とする。そして魔法省へと引き渡す。」

 

マクゴナガルはただ下を俯いて頭を左右に振るしかなかった。

 

 

 





わかりにくいので、この章が終わり次第解説を投稿します。次でエピローグです


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エピローグ

 

 

〜校庭〜

 

 

 

 

 

 

真っ暗な校舎の校庭を少し大きな馬車を羽根の生えた黒い馬のような生き物、セストラルが2匹がかりでゆっくりと引いている。その車内では1人の犯罪者が強力な手錠で繋がれていた。

 

魔法を使用すればどこでどんな呪文を使用したか探知できる能力が秘められており、脱走したとしても一生涯魔法とは縁のない生活を送らなければならない。

 

ウィリアム・マルフォイは“闇の魔術”を許可なく得ようとしたとして、【魔法法執行部】での裁判を得てアズカバンの刑期を決める。

 

だかウィルの様子は普段通りだ。頭を窓にもたれかけ、退屈そうに窓を眺めている。まるでホグワーツの汽車に揺られているかのようである。

 

 

 

 

「マルフォイ家は終わりだ、忌々しい死喰い人の一族め。」

 

闇祓いの1人がそう言う。彼は手錠をされているウィルに杖を突きつけている、これは不審な行動をすれば攻撃するという警告を意味していた。

 

「貴方とは意見が違うらしい。」

 

ウィルはさらりと視線を変えることなく退屈そうに言ってみせる。

 

「最後のホグワーツだ、よく見ておけ。敷地から出たら飛ぶぞ。」

 

もう1人の上官らしき男の言葉通りに馬車がホグワーツの敷地を超えると、一斉にセストラルは地面を強く蹴って羽を広げる。そして車体は軽々と持ち上がりそのまま天高く昇る

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

20分後

 

 

 

 

 

ホグワーツを飛び立っておよそ20分が過ぎた。目的地のイギリスにはまだ遠く、外の景色は生い茂った山や森の上を飛んでいる。護送する犯罪者がここまで大人しいのは実に稀なケースだ。ウィルに杖を突き立てている闇祓いは、ほんの少しだけ気が緩んでいる。

 

 

突然、セストラルが騒ぎ出して車内が激しく揺れ始めた。闇祓いはウィルを解放しようとする者の襲撃なのではと思い、1人が扉から身を乗り出して覗くが天気は穏やかで襲われた形跡は一切ない。

 

「なにごとだ?」

 

「いや、少しセストラルが騒いでるだけだ。」

 

闇祓いの1人はセストラルに落ち着くよう諭すが彼らはどんどん声を荒げる。そして突然、暴れ始めた。一目散に逃げようとしているらしく、綱を引くのを拒否している。

 

「“ウィンガーディアム・レヴィオーサ”。」

 

外を覗いていた男が車体を浮かせて安定させようとする。揺れは少し落ち着いたものの未だに激しく揺れている。

 

「やむを得ん、手綱を切る。」

 

もう1人のウィルに杖を突きつけていた男は一瞬だけ矛先から外すも彼から目を離すことなく杖を軽く振る。するとセストラルを繋いだロープは切れて、彼らは何処かへ飛んで行った。

 

「どうしますか?」

 

車体を浮かしたまま2人は代わりの手段を見つけるために話し合おうとする。

 

「ひとまず降りて応援を呼ぼう。ありがたいことにコイツは大人し・・・」

 

すると遠くから何かが空を切るような音が聞こえてくる。まるで巨大な鳥の羽ばたく音だ。車内では不穏な空気が漂うと、男が恐る恐るまた外を覗いた。

 

「あの、何かがこっちに来ます。赤い波のような・・・」

 

呑気にそう言った。ほんの赤い点のような物体がこちらに近づいている。

 

「ばかやろう!早く盾を張れ!」

 

その怒声が車内に響いた時、彼は初めてそれが巨大な火柱であると気がついた。そしてすぐに杖をその炎に向ける。

 

「ッ!?“プロテゴ”」

 

車体の頭を覆うほどの巨大な盾を作りあげる。そしてすぐに豪炎が目の前にやってきて盾へ襲いかかった。

 

かろうじて青い盾を貼るのが間に合ったらしい、たが勢いの強さから完全には受け止めれず炎は二分(にぶん)してしまう。窓に真っ赤な閃光が反射すると急激に温度が跳ね上がる。

 

それを耐え凌ぐと男はその炎を吐いた正体を目の当たりにする事となった。巨大な黒い鱗と羽根を持ち、鋭い牙に棘の生えた尻尾を持つ怪物だ。

 

「ドラゴンです!」

 

男はそう叫んだ。

 

「一頭だけ行方をくらましたと聞いていたが・・・。」

 

男はすぐにそう思った。どうやらこのドラゴンが逃げ出した後、ここらを縄張りにしたのだと考える。ドラゴンからすれば得体の知れない飛行物体が土足で踏み込んできたようなものだと理解した。

 

「この場から離れるぞ!“姿くらまし”を・・・

 

男がそう部下に指示を出そうとした時、自分の膝の上に小さな生き物が現れた。大きな目に大きな耳をしており、とてもみすぼらしい格好をしている。

 

その生き物が手を振るうと魔法を放って男の意思を奪った。そして素早くもう1人の男も同じように倒してみせる。そしてウィルの方を見て口を開いた

 

「ウィル坊っちゃま!ドビーが助けに参りました!」

 

キーキーとした高い声で叫ぶように言う。“屋敷しもべ妖精”のドビーである。この生き物は特定の魔法使いの家で奉仕をする特性があり、隷属の証としてボロボロの服を見にまとうのだ。由緒正しきルシウス家にもこのドビーが仕えており、家の雑用や家事をこなしてくれている。

 

 

するとまたもや窓から赤い閃光が反射するように中に差し込んだ。ドビーはそれに驚き慌てふためいた。

 

「ありがとうドビー、でもひとまず避難しようか。」

 

ウィルは笑顔を浮かべてドビーの手をとる。すると彼は指をパチンと鳴らした。視界がぐにゃりと曲がり、前後左右が激しく揺れ動いたかのような感覚を覚える。

 

視界がハッキリとすると、ウィルとドビーはドラゴンの背中に乗っていた。

 

このドラゴンは数ヶ月前に行なわれた第1の試練でハリーと対決した個体である。ハンガリー・ホンテール、世界で最も凶暴なドラゴンとされている。

 

 

 

 

「ありがとう、君は律儀な子だね。」

 

ウィルは子供のように自然な笑顔を浮かべた。彼はこのドラゴンと取引をしたのだ。

 

そもそも未成年の魔法使いには“匂い”というものがつけられており、学校外で魔法を使用すればどこにいても居場所がわかるようにしてあった。だからウィルはその匂いをルシウスの根回しによって取ってもらっている。そのためこの実験や自宅での魔法の使用も今まで魔法省から追及をされなかった。

 

その匂いと似た方法でこのドラゴンにもマーキングがなされており、これからどこへ逃げたとしても追っ手が必ずやってくる。

 

ウィルはその匂いを取る方法を突き止めており、理論上は自分の手で取り除くのも可能だと認識していた。

 

そして彼はこの“匂い”を取り除く見返りとして自分と契約をするよう求めた。自分が召喚を要請すればそれに従い、そして協力すること。もちろんそう何度も呼びつけたりしないとも言った。

 

ドラゴンが同意したのを確認すると、容易に匂いを取り除いて自由の身にしてやった。それからドビーを呼び出して“付き添い姿くらまし”にて故郷であるハンガリーへ帰したのだ。

 

 

つまり彼はついに召喚術において最も大切な使い魔との契約を結び、新たな武器の一つとしたのである。

 

 

 

 

そして今回、彼は事前にドビーに召喚の術式を描いた紙を渡しており、魔力さえ込めれば呼び出せる状態にしておいた。そしてドビーがタイミングを見計らってドラゴンを呼び出したのである。

 

 

 

 

 

 

「ドビー、頼む。」

 

ウィルは自分の腕にかけられた手錠を見せた。ドビーはパチンと指を鳴らすとそれはいとも簡単に外れ、ウィルの膝に落ちる

 

誤解されがちだが屋敷しもべ妖精はそこらの魔法使いより遥かに実力を持っており、そもそも魔法使いの使う魔法とは質が違う。ゆえに人間の張った魔力探知の包囲網を軽々とすり抜けることができる。

 

「こちらがウィル坊っちゃまの杖でございます!」

 

ドビーは自分の洋服である使い古された枕カバーに刺していた杖を取り出して、ウィルに渡す。彼は嫌な顔一つせず口を開いた。

 

「ありがとうドビー、君のおかげだ。見返りにこれをあげよう。」

 

ウィルは自分の首元に手をかける。そしてスルスルと獅子の紋章のついたネクタイを外してドビーに手渡した。ドビーは感激している様子で言葉にならない。

 

「君は自由だよ。どこであっても我が家より心地よいはずだ。」

 

しもべ妖精に服を与えるという事は主従関係の解除を意味する。マルフォイ家に限らず多くの魔法使いに使えているしもべ妖精だが、彼らは過酷な環境でこき使われ、蔑まれている。ウィルはそれを疑問視していた。彼らが望んで世話や雑用をこなしたいのはいい、だがその特性につけこんで彼らに残酷な仕打ちを行うのは気に入らなかった。

 

事実、ルシウスやドラコはドビーにひどい仕打ちをしている。ウィルはその場面に出くわせば庇いはするものの立場上、強くは出れない。そして前々からドビーが自由を求めていたのを知っていたから服を与えた。

 

ドビーは何度も何度も頭を下げてお礼を言うと友のために生きると宣言した。

 

 

「ウィル坊っちゃまもドビーの友達です!」

 

とても生き生きとした笑顔で言った。

 

「ドビー、言うまでもないよ。」

 

彼もまた無邪気に笑って握手を交わすと、ドビーは姿くらましを使って何処かへ消えた。

 

 

(ドビー、僕は君達も輝ける世界をつくりたい。)

 

 

ウィルは心の中でそう思った。彼の【整える】という言葉には“不遇な者達の救済”という意味も含まれているのだった。

 

 

 

ウィルは大きく息を吸った。彼は自分の外れた手錠をドラゴンの背中から落とす。ちょうど湖の上を飛んでいたので、それは大きな水飛沫を上げて底へ沈んでいった。

 

「これで僕は犯罪者だからイギリスに戻れないという動機をつくれた。」

 

ウィルはにやりと不敵な笑みを浮かべた、全て自分の計画通り(手のひらの上)であるからだ。

 

そして彼は強く鋭い瞳を遠くの地平線に向けた。自分の野望を確実に叶えるためには2つ不可欠なものがある。

 

1つは自身の実力を完全にすること、そしてもう一つは自分の組織(同志)を創り上げることだ。その2つを得る最も確実な環境が彼には必要だった。だから彼は考えぬいて最も確率の高い場所を選択した

 

 

 

 

「さて、行き先は北欧・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダームストラング魔法魔術学校だ。」

 






自分の中で2つ、他の作品では出てこないであろう流れを創りました。1つ目はダームストラング、そしてもう1つは後々に出てきます


ダームストラング編も完成してるんですけどテンポが非常に悪くなるのでスピンオフとして後回しにします。念の為にアンケートを↓


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【孵化と羽化編】の時系列、解説など


この章を振り返ると少し反省しました。情報を小出しにするのではなく、もっと記述すべきでした。

解説がもの凄い複雑です。作者も文章にするのが難しかったので完結を迎えてから見直してもいいかもしれません。




 

 

 

 

 

【孵化と羽化(前編)】の時系列

 

 

 

 

①ブラックを追っている吸魂鬼と出会う、恐怖に値せず、守護霊も使用できない

 

②ルーナをイジメから庇ったら懐かれ、只者ではないと思いつつ拒む(ただし無意味)

 

③ハーマイオニーだけでなく数多くの非純血の生徒を拒み、スネイプの教えを受けていたために彼の後継者と呼ばれる。

 

④マクゴガナルが重荷を背負うウィルに対して協力が必要と考える

全教科の授業を履修する為にとハーマイオニーにも与えた“逆転時計”をウィルにも与える(逆転時計を使用して食事終わりに彼は様々な教師陣の特別レッスンを受ける)

 

⑤守護霊の呪文を覚えるよう言われる、ただし魔法の才能がありながらも唯一苦手

 

⑥ヒッポグリフのバックビークを気に入り、召喚の契約をかわそうとしたが断念する(理由は後述)

 

⑦ルーピンのボガート、ウィルの恐怖が孤児院で育ち魔法の使えない自分

 

⑧ルーナがウィルに構う理由は孤独だからだろうと思われる

 

⑨守護霊がうまくいかないとウィルにスネイプは苛立つ

憎いルーピンがハリーに守護霊を教えているから、対抗心が芽生えている

 

⑩ルーナからヒントを得て自分の幸せが自由だと気がつく

 

⑪彼の恐怖と幸福が同じであると気がつき、守護霊を呼び出す事ができた

孤児院で育った自分は【なんのしがらみもない自由】だから幸福である、ただしルシウスに引き取られなければ魔法を覚えられず目的を果たせないので恐怖ともなる

 

⑫ボガートが迷い、ウィルがボロボロの自分の次に恐怖する存在として老婆に変身した

 

 

 

 

 

 

 

<彼が養子だったという伏線>

 

 

 

 

 

 

〜賢者の石編〜

 

 

・ブロンド髪の一族なのに彼だけ黒髪

 

・ナルシッサが愛してるのはドラコだけなので、ウィルには杖を与えない(義母ではなくほ本当の母親の杖)

 

・他の生徒たちより大人なのは孤児院の出身で、たくましく育ったから

 

・食事マナーで気になるのは昔の自分も汚い食べ方をしてて矯正して貰ったから

 

・教育への感謝、マルフォイ家に尽くすため

 

・ドラコにシーカーを譲っていた理由は遠慮しているだけ

 

・早く子供が欲しい→こども好きであるが、それより後継として求めている

 

・ダンブルドアに自分が恵まれていると言った

孤児院ではまともな教育を受けられないのに自分だけはマルフォイ家に拾われたから

 

 

 

 

〜秘密の部屋〜

 

 

 

・彼の本来の口の悪さ、めちゃくちゃな性格はマルフォイ家で得たわけではない

教育とウィルは貴族の次期当主らしい振る舞い方をする必要があると考えたから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【孵化と羽化(後編)】の時系列

 

 

 

 

①退屈そうに汽車に乗り、食事はゆっくり楽しむ

本を読まないのは全て読み尽くして記憶したから、使える呪文は全て習得したためあとは練度をあげるだけなので体調を優先する

 

②ムーディの授業

↑中身は死喰い人のクラウチjrなので、ヴォルデモート復活に向けて何も動かないマルフォイ家に恨みを持っている

 

③ゴブレットでハリーを含む4選手が選ばれる

 

④実験体として使用する野生動物やユニコーンを攫う為に【禁じられた森】にやってくる。そしてドラゴンを目につける

彼はホグワーツにいるのは必要がなくなるのも時間の問題として、退学になった上で探知される事なく逃亡する手段を探していた(あとで詳しく書きます)

 

⑤ドラゴンがハリーを追いかけてコートから出て行く(映画設定を採用)

もしかしたらウィルがドラゴンを繋ぐ鎖に細工をしたかも(これは各々の想像に任せます)

 

⑥第1の試練にてハリーを追うドラゴンの羽根が折れて谷へ落ちる

 

⑦ウィルがドラゴンを救って召喚獣となる取引をする

 

⑧ダンスパーティの説明後、ハーマイオニーが気になる

もう実力を得たのではないかと思い始める

 

⑨鍛錬がどんどん退屈になる

魔法の質をあげるにも限界があり、ハーマイオニーとの仲直りがしたいという気持ち

 

⑩スネイプが自分と同じ轍を踏まないようにフォローする

 

⑪ルーナの忠告でハーマイオニーと仲直りするが、先約がいてパートナーを断られる

 

⑫ルーナをパーティに誘った。普段、性格や気持ちが全く読めないのに動揺しているのを見て可愛らしく思った

 

⑬パーティを終えて、仲直りしたハリーと第2の試練のヒントを探る

ウィルは戦闘で必要になる可能性を考えて筋力トレーニングをしている、ハリーはクィデッチの練習に参加しないのに結果を出し続けている理由を理解した

 

⑭第三の試練中にヴォルデモートの復活をハリーの口から聞く

自分の立場が危険なことを知る(後に詳しく書きます)

 

⑮本の知識では不十分と考えて闇の魔術について実験を行なっていたため、それの証拠隠滅を図るが失敗する

 

⑯野望を語るも迷いがある(あとで詳しく書きます)

 

⑰捕まり退学処分となる

逆転時計を燃やしたのはマクゴナガルにこれ以上迷惑をかけないため

 

⑱逃亡してダームストラングへ向かう

カルカロフとルシウスは元同士であり、元々はドラコをダームストラングに入れようとしていた背景(原作設定)があるため

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詳しい解説(規定の字数稼ぎ)

 

 

(1)ドラゴン(バックビークも)に目をつけていた理由

 

それは逃亡手段として魔力の痕跡を残さないようにするためです。原作では騎士団編にてセストラルを利用して神秘部に潜り込みました。

 

 

 

(2)野望の迷いについて

 

 

彼の野望は4つあります。

 

 

・マルフォイ家←育てて貰ったから

 

・世界(価値観)を整える←動機は未だ不明

 

・実力主義(差別をなくして不当な差別を受けた者の救済)←動機は未だ不明

 

・魔法族の存続←世のため、未来のために

 

 

 

 

この中で主人公にとって一番重要で、この作品の要となるのは【世界(価値観)を整える】ということ

 

一番大変で困難に近いもの、まず第一に必要なものは自分の実力と味方勢力を築くこと

 

これらは2つの手段で作れる事が可能で、1つは【既出の勢力に加担して自分の意見を世界に反映させる】こと、そしてもう1つが【自分と同じ志を持つ仲間を作る】こと

 

 

 

 

 

 

前者の特徴は覇権さえ握れば早急に目的を果たせるということ

↓↓↓

 

既出の勢力とは【騎士団】と【死喰い人】の2つです。

 

 

 

 

 

《死喰い人ルート》

 

 

ウィルが悪しき道と表現する【死喰い人】陣営に彼が加わったとすれば、強く自分の意思を世界に伝えられると思われる

・現体制を崩壊させて一から作り直す

・加入するのに充分な立場がある

・ヴォルデモートと価値観が近い(世代さえ同じならば最大の友になれただろう)

 

特に最後の点が非常に大きい。彼はマグルに対しては差別的だが虐げられている人狼や巨人族、吸魂鬼に対しては差別的でない

 

最悪の事態を想定するウィル曰く『マグルと戦争になれば魔法族は生き残る』という大きなメリットがある

 

これは魔法省や思想がバラバラの騎士団陣営にはない。現体制で戦争となれば魔法族は滅ぶだろうと想定している

 

 

 

もちろん【死喰い人】陣営は殺人や自分達に刃向かう者達へ粛清を行うが、価値観の統一という点においては効率がいい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《騎士団ルート》

 

 

 

騎士団に加わり、死喰い人を倒した場合に自分の意見を強く反映させられない

 

・魔法省の現体制に不満

・代表格のダンブルドアとは相性が悪い

・自分の立場とは正反対

・価値観が合わなければ話し合いなのでどれだけ正しかろうと価値観を統一する事ができない

 

 

 

もちろん人道的な勢力を選ぶのなら騎士団一択です。しかし自分の立場、理想からすれば程遠い。

 

 

 

 

 

 

つまりウィルは非人道的なのを承知の上で効率的に叶えるか、人道的にリスクなく緩やかに変える運動をするかの違いです

 

 

 

 

 

 

彼はまだ【死喰い人】か【騎士団】のどちらに着くかを選べない。

 

 

 

理由は彼は実はそこまで頭が良くないという点です。たしかに彼は天才です、ただしそれは魔法の才のみに限り、学業においてはただ記憶力がいいだけです。

 

要は記憶力テストは優れているけどIQや謎解きは平凡より少しマシな程度

 

ハーマイオニーと比べると頭の回転、理解力、謎解きにおいてウィルは歯が立ちません。ただし発想力や思考力は彼女の比ではないです。

 

 

ウィルの頭がそこまで良くない原因は孤児院で生まれ育ったからです。幼少期に誰からも知識や教育を与えられなかったので、自分で学ぶしかなかった。だから地頭ではなく吸収力が伸びたという設定です。

 

 

 

 

 

これらの理由で彼はまだ“より正解に近い選択”をできずにいます。

 

少なくとも彼はヴォルデモートと対抗できる手段が必要だと考えて、実験を行いました。ダンブルドアは彼の真意を問うことはなく、それがヴォルデモートの対抗手段を得る者だと見抜いたため黙認していた。(腹心のスネイプにもそれを伝えていた)

 

ただしクラウチjrのおかげで動かざるを得なかったので退学処分とした

 

 

 

 

 

 

(3)ヴォルデモート復活の際に自分の身が危険になった理由

 

 

前提として彼は学校での実験が見つかれば逃亡する気だった。

 

この実験が公になればマルフォイ家の嫡男てあり、闇の印を腕に刻まれたという立場から【死喰い人】陣営につかならざるを得ない。

 

それを悪しき道と理解しながらも上記の理由で簡単には騎士団側につけない。

 

 

 

実験について見つかることがなかったので彼は続けていたが、ヴォルデモートが復活したという知らせを受けて証拠を燃やした。

見つかればヴォルデモートに加担をせざるを得なくなる(【より正しい選択】とは限らないから)

 

 

結果として見つかってしまったので彼はヴォルデモートの息のかからないであろう何処かに身を隠す必要があると判断した。(もちろんホグワーツでこれ以上学ぶことがないという理由も)

 

元々ダームストラングに根回しをしていたので、そこへ逃げた。結果としてどちらに加担するにせよ、動機が必要です。(闇の魔術の実験により追われる身であるから敢えて捕まった)

 

 

またどちらにも加担しない道を選ぶときに備えて、ダームストラングで自分の勢力を伸ばそうと考えた

 

 

 

 

 

関係ないですが、実家で実験すればいいのに学校で行った理由はマルフォイ家を巻き込まないためです

 

・仮に家宅捜索をされても2年前に全て処分してあるので問題ない

ボージンアンドバーク

 

・あくまでも義理の息子が自分の知らないところで勝手にやったと主張しできるようにするため

 





ちなみに次から最終章です。タイトルは【天秤の行方】で、彼が野望を叶えるために3つのどの“より正解に近い選択肢”を選ぶかが鍵になります。


後々、足りない部分や難しい部分をわかりやすく修正すると思いますのでご了承ください。

参考にしたいのでアンケートにご協力ください↓


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最終章【天秤の行方part1】
プロローグ


 

 

雪が激しく大地へ降り注いでいる。地面は白く染まり、風は荒れてた。まるで頬へ叩きつけるように冷たく刺さる。

 

校舎から離れて凍りついた湖の岸辺を男女が歩いていた。1人は黒いローブに黒髪をなびかせ茶色の瞳は鷹のように鋭い。そばの子は栗毛でマフラーに顔の半分以上を埋めている。

 

前へ前へと雪を諸共せず進む青年と身体を小さくして震えている少女、立ち姿は対照的だ

 

「これは人に初めて話す事だ。僕は君に協力して欲しいと思ってる。」

 

ウィルは正面を向いたままそう呟いた。雪から身を守ることも、縮こまることもない。

 

「ハーマイオニー、僕には四つの夢があってね。一つ目を語るには前提がいる。」

 

彼は立ち止まり、ハーマイオニーの瞳をジッと捉える。白い息を吐きながら語り出した

 

「僕は戦争孤児だ。そしてルシウス・マルフォイに才能を見出されて救われた。」

 

ウィルはなんの躊躇もなく過去を話した。まるで自分の好物を話すかのように言った。あまりに自然だった為にハーマイオニーは気を使うことを忘れていた。

 

戦争とは“闇の帝王”の勢力が全盛期の時に騎士団陣営と起きた戦争だ。

 

「一つ目はマルフォイ家を守ることね。」

 

「そう、恩返しだよ。僕はあのままでは死んでただろうね。“ノクターン横丁”の孤児院でいて・・・」

 

彼は少し言葉に詰まり、口を小さく開けたまま時が止まる。

 

「いつも殺されかけてた(・・・・・・・)。親を知らない子供は“穢れた血(マグル)”扱いなんだ。」

 

彼の告白にハーマイオニーは唖然とする。あの天才ウィリアム・マルフォイが殺されかけてた過去があったなんて信じられなかった。少なくとも一度や二度ではないのだ。

 

信じられなかった。今の彼は傲岸不遜、自分の力で這い上がったからこその態度なのだと気がついた。自信家なのは当然だ。

 

そうでなければこんなに強い瞳で自分を見つめられない。

 

「2番目は?」

 

「これは簡単だ。魔法界の存続だよ、途絶えないようにする。」

 

ウィルは少し表情を柔らかくして言った。

 

「3番目は実力主義。不当な差別をなくしたい。生まれや育ち、種族ではなく各個人が評価されるようにしたいんだ。」

 

ウィルはそう言った。彼の過去が関係してるのだろう。どれほど計り知れない才能があろうと、それを伸ばす環境や示す機会がなければ存在しないも同然だ。

 

「同意ね、ただ・・・があるわ。」

 

ハーマイオニーは知っている。血統主義が少ないマグルの世界でも差別はある、有史以来から平等だった時代があるのだろうか。

 

ウィルは彼女の指摘にうなづいた。

 

「どこまで平等にするのかということ、そしてどこまで範囲を広げるのか、その基準を誰が決めるのか。」

 

「その通りよ。」

 

無論、ウィルは長年の思考の過程で答えにたどり着いている。そして彼はこれまでにないほど強い意志を秘めた瞳で言った。

 

「これが最後だ、君は反発するだろうな。僕は“世界を整えたい”。」

 

「どういう意味?」

 

「数多くのバラバラの存在を整えるんだ。つまり“価値観の統一”だ。」

 

彼は最後の野望を話し終えた。するとウィルはさらにハーマイオニーを驚かせる一言を言い放った。

 

「最悪の場合、僕は魔法界の支配も視野に入れてる。」

 

 

 

 

***

 

 

 

数ヶ月後

 

 

 

 

ハーマイオニー達は新学期が始まり汽車で揺られていた。もうこの汽車にウィルは乗っていない、誰も話題にしないようにしてる。それもそうだ、学校で一番才能ある生徒が指名手配されて未だに捕まっていないのだから

 

彼女はバッグから小さな手帳を取り出した。表紙の下の方に金の刺繍でハーマイオニー・グレンジャーと縫われている。

 

それをパラパラとめくるとカレンダーや日程などが描かれている。そして後ろの方にある真っ白なページにたどり着く。

 

 

羽ペンを取り出してサラサラと文書を書いた

 

 

 

 

 

《もうすぐホグワーツに着くわ。そっちはどう?前にビクトールには寒いところにあるって聞いたけど》

 

 

 

 

彼女がインクが乾く前に日記を閉じる。すると先ほどあったはずのハーマイオニー・グレンジャーという金の刺繍が消えてる。

 

 

 

そして少しの時が経つと、再び金の刺繍が現れている。彼女が先ほど書いたはずのページのインクが消えており、彼女のものでない滑らかな字だ。

 

 

 

 

《こっちはもう校舎の中だよ。場所は秘密でなければならないんだ。》

 

 

彼女がそれを読み終えるとサラッと消えた。そして彼女はすらすらと書く。

 

 

《友達はできた?》

 

《友達ね、まぁ・・・できたは、できた。》

 

 

そのまま2人は素早く交換ノートで会話をするかのように羽ペンを動かし続けた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

数時間後

 

 

 

 

《新しい先生がきたの。闇の防衛術はアンブリッジ先生よ。魔法省から来たわ、学校に干渉するかもしれない》

 

 

《こっちは・・・想像以上に荒れてた。だが実力主義であるのが有難いくらいだ。アンブリッジは魔法省の役人だな。悪いが父上の権力は頼れない。まぁ僕のせいだが》

 

 

 

 

***

 

 

 

 

次の日

 

 

 

 

《学校の様子はどうだ?》

 

 

 

《ハリーが何人かに距離を置かれてるわ。“例のあの人”が復活したのがハリーの嘘って新聞が書いてるのよ》

 

 

《印象操作だな、耐えるしかない。こっちは面倒な事態になった。》

 

 

 

***

 

 

 

1ヶ月後

 

 

 

《あの意地悪女!自分を守る方法を覚えさせないの!魔法省は学校を乗っ取る気よ!》

 

 

《今日は荒れてるな、監視と戦闘力の低下が狙いだな。》

 

 

《戦闘訓練をさせないの、ダンブルドアが軍を集めて反乱をするって思ってる。以前みたいに行方不明者が増えているのよ》

 

 

《君のことだ、自分達で学ぶのだろう?》

 

 

《もちろんよ!先生がいるわ、アンブリッジ以外の》

 

 

《スネイプ先生だな。》

 

 

《それは不可能よ、ハリーを中心とした組織をつくるの。校則破るのってワクワクするのね》

 

 

《場所の心当たりはあるか?》

 

 

《・・・これから探すわ。》

 

 

 

***

 

 

 

次の日

 

 

 

 

《“必要の部屋”が現れたの、“あったりなかったり部屋”。本当に必要としているときに現れるのよ》

 

 

《それは知らなかった》

 

 

《名前は“ダンブルドア・アーミー(DA)”よ。そっちの状況はどう?》

 

 

《そうか。あぁ、全員叩きのめした。》

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数週間後

 

 

 

 

 

《ハリーが夢を見たの、ロンのお父様が襲われている夢よ。まるでハリー自身が襲っているみたいで、2人の間に絆があるらしいの》

 

 

《Mr.ウィーズリーは無事なのか?絆か・・・、例の傷の痛みもその絆によるものか?》

 

 

《えぇ、アーサーさんは無事よ。ハリーはスネイプ先生に閉心術を教わるわ》

 

 

《あの人は素晴らしい才能がある、まぁ性格に少々難はあるが・・・》

 

 

 

***

 

 

 

数週間後

 

 

《アズカバンが襲撃されて“例のあの人”の部下が脱獄したわ》

 

 

《あぁこっちにも届いてる。彼が動き出したんだな。》

 

 

 

***

 

 

 

数週間後

 

 

 

 

 

《今日は守護霊を学んだの、私は出来たわ、ジニー、ルーナも》

 

 

《流石だね、たしかにルーナは得意そうだね。》

 

 

 

***

 

 

 

次の日

 

 

 

 

《DAが見つかったけど校長先生は逃げ延びたわ。アンブリッジが校長になったの。最悪よ、男女が20センチ近づいただけで違反なんて》

 

 

《そうか、だがあの人のことだ。君らの事は気にかけてくれるさ。》

 

 

 

***

 

 

 

 

《“例のあの人”にシリウスが捕まったわ、神秘部の中よ。途中でアンブリッジに捕まったけど、何とか逃げたわ。これから彼を助けに行かなくちゃ!》

 

 

《なに?》

 

 

《ねぇお願い!助けに来て欲しいの!どう考えても罠だわ!私達だけじゃ勝てない!》

 

 

《・・・すまない。》

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜ダームストラング魔法魔術学校〜

 

 

 

 

暗く澱んだ校舎は四階建てで一筋の光すら差し込まない。山に囲まれており外界とは関わりを持たないようだ。ホグワーツより広い校庭で屈強な男達がクディッチを楽しんでいる

 

 

そしてとても広い空き教室の中に数名の生徒がたむろしている。

 

暗く光の差さない室内でウィルはランプに火を灯していた。そして手帳をゆっくりと閉じると頭を抱え始める。彼の中で激しい葛藤が巡っていた。

 

彼はハリー達に加勢したい気持ちは充分にある。だが行くべきでないと判断した。

 

闇祓いから自分の身を守る為ではない。ハリーに加勢すればトムと敵対関係にあると示してしまうからだ。自分がここに逃げ込んだ意味がなくなるからである。

 

彼の顔色を察してか隣にいた女子生徒が顔色を窺うように口を開く。

 

「どうした?ボス(・・)

 

男勝りのような印象を受ける鋭い声だ。彼女は茶色の髪に鷹のように鋭い黒い瞳である。

 

「ボスはやめろ、エディ。」

 

それを制止するように青年が口を挟む。

 

「もういい、呼びたいように呼ばせろ。」

 

ウィルはあまり関心がなさそうに言った。そして彼は教室から出ていく。なんとなく外の空気が吸いたくなったのだ。

 

彼が廊下の真ん中を堂々と進む。するとすれ違う生徒達が笑顔で挨拶をする。ウィルはひとりひとりを邪険に扱う事なく笑顔で対応していく。そして人気のない庭に生えた大きな木にもたれかかるように座った。

 

 

「これが本当に正解か?」

 

 

ウィルは自分の理性と感情で揺れていた。すると遠くから何かがこちらに飛んできている。赤い鳥のような何かだ。

 

「・・・不死鳥?まさか。」

 

ウィルはその鳥の金と赤い模様をした羽根に目を奪われた。そしてホグワーツの2年生だった時にも見た事がある。ダンブルドアのペットである不死鳥だ。

 

その不死鳥、フォークスはウィルに近づくと羽根を閉じる。地面に着地するとかぎ爪を器用に使ってこっちにやってくる。

 

すると足に何か紙のようなモノが結び付けられているではないか、ウィルはそれを受け取ると中身を確認する

 

 

 

 

 

 

【魔法省、神秘部へ来るべし】

 

 

 

 

ウィルはそれがダンブルドアからのメッセージであると理解した。そして彼はそれを燃やすとその場から“姿くらまし”をして消えた

 

 




なんか唐突に【最強管理人(バーサーカー)・フィルチ】のアイデアが浮かびました。今更だけどなぜダンブルドアがスクイブのフィルチをホグワーツの管理人に指名したのか・・・。占い学のトレローニーのように秘められた力があるのでしょうか

スクイブだけど作中最強クラスのフィルチ(if)、ご期待ください
モチベがあればやります


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貧血さん、数多くの誤字修正に感謝いたします。


魔法省の神秘部、それは死後の世界、宇宙や愛など魔法使いやマグルなどが不思議だと思う分野について研究をする場所である。

 

そこにハリー率いるDAの主要メンバーがヴォルデモートに拷問されているシリウスを助ける為にやってきた。ロンとハーマイオニー、ネビル、そしてジニーにルーナは周囲を警戒しながら進んでいた。

 

シリウスとはハリーの名付け親であり彼にとって大事な人だった。だがハリーはヴォルデモートとの絆が見せる夢でそれを察知して駆けつけたのである。

 

 

 

ハリー達は大量の棚にびっしりと並ぶ青い不思議な球体のある部屋へと辿り着いた。ここがシリウスが拷問されていた場所だ。

 

「ここだ!ここのはずだ!」

 

ハリーは棚に刻まれていた数字を見てそう叫んだ。彼の夢ではっきりとみたはず、なのににはシリウスどころか彼のいた痕跡は一切見つからない。

 

「ハリー、君の名前が・・・。」

 

ハリーと共にきたネビルが棚に飾られている不思議な球体の下に名前が刻まれていることに気がついた。

 

ハリーはネビルの言う球を見ると、自分に何か囁いているのが聞こえた。そして彼はそれを掴み、手に取る。

 

 

【闇の帝王を破る者が現れる、両者は互角なれど他方が生きる限り他方は生きられぬ】

 

 

その球はハリーにそう語りかけた。これが何なのか彼には分からなかった。

 

 

するとふと自分達以外の気配を感じ取った。そしてその方向に視線と杖を向けると黒いローブに銀色の仮面を被った者がこちらに歩いてきてる。“死喰い人”だ。

 

 

「シリウスはどこだ!?」

 

ハリーはそう叫んだ。するとその魔法使いは杖を振るって銀色の仮面を外した。

 

「まだ区別付かんか、夢と現実との。」

 

鋭い顎に銀色の長い髪、冷たく人を嘲笑うような声色だ。ハリーはそれが誰かを知っている。自分の友人と宿敵の父親だ。

 

ルシウス・マルフォイである。

 

「闇の帝王が見せた夢だ、予言を渡せ。」

 

彼はその球を予言と呼び、自分に寄越すよう伝えた。だがハリー達は固まってルシウスに杖を向けている。

 

「近づいたら壊す。」

 

すると遠くから残忍な笑い声が響く。

 

「言うじゃない、ベイビー・ポッター。」

 

白い肌にボサボサの黒髪の魔女だ。その残忍な茶色の瞳でギョロりとハリーを蔑むように見ている。そして彼女は彼を煽る。

 

 

「ベラトリックス・レストレンジ。」

 

するとハリーの後ろにいたネビルが彼女の顔を見て前へ進みでた。

 

 

「あらネビルかい?ご両親は元気かい?」

 

残忍な表情を浮かべてにやにやと笑っている。その態度にネビルは怒りを秘めた瞳で彼女を睨みつけた。

 

「敵を取る。」

 

ネビルは自分の両親をベラトリックスらに拷問をされた過去がある。後遺症が残り未だに正気を保てず、彼を息子として認識できない

 

「まぁ待て、落ち着け。我々は予言さえ手に入れればいい。」

 

一時触発な状況を重くみたルシウスは口を挟んだ。

 

「予言を手にできるのは関わるもののみ。」

 

ルシウスはハリーにそう告げるとゆっくりハリーの前へ近づく。すると自分達を取り囲むように死喰い人達がいるのに気がついた。

 

「不思議ではないか?なぜお前と帝王の仇に絆があり、お前を殺せなかったのか?額の傷の謎は?」

 

「私に渡せば全てを教えてやろう。」

 

彼はその謎をハリーに話す代わりに予言を渡すよう詰め寄った。

 

「14年待った・・・。」

 

ハリーはそう言うと少しの間、沈黙が続く。

 

「だからまだ待てる!」

 

そう言うと一斉に自分達を取り囲んだ死喰い人達に失神呪文を放った。不意打ちであったとはいえ全員を仕留めることはできない。彼らは身体を黒い煙に変えて飛び、回避した。

 

 

そして神秘部の奥へ奥へと逃げていく。暗闇から襲いかかる死喰い人達を各々が交戦しながら逃れていく。

 

 

その中で謎のアーチのある部屋へとたどり着いた。それに見とれていると空から黒い煙が彼らを包み込んだ。

 

そして、それが晴れるとハリー以外の全員が捕まり、杖を突きつけられている。

 

 

「そこまで愚かだったとは、子供だけで我々には勝てると?」

 

ルシウスはハリーをジッと見つめた。そして彼は手のひらを差し出した。

 

「ほかに道はあるのか?予言を渡すのだ。さもなくば友は死ぬ。」

 

ハリーは少し迷い、そして予言をルシウスに渡してしまった。彼はそれを愛おしそうにジッと眺めていると、背後で白い光が瞬いた。

 

ルシウスは後ろを振り向くと、ハリー達が探していたシリウスだ。

 

「私の息子に手を出すな。」

 

彼はそう言い放つと思い切りルシウスを殴りつけた。反射的に予言を手放してしまい、地面に叩きつけられると割れて粉々になった。

 

 

それから次々と白い光が次々と人質をとっていた死喰い人達に襲いかかる。彼らは人質を手放して攻撃を回避する。

 

するとその光の中から騎士団のメンバーが次々と現れる。そして彼らは死喰い人達へ向けて攻撃を開始した。

 

 

 

 

***

 

 

 

同時刻

 

 

 

 

「騒がしいな。」

 

一年振りにイギリスへ若き天才が舞い戻った。彼の名はウィリアム・マルフォイ、闇の魔術の深淵を覗こうとした罪で追われている

 

 

一般的に魔法省の神秘部へ訪れるには暖炉の中で“フルーパウダー”を使うのが一般的だ。しかしそれは魔法省に監視されているため彼はドラゴンと姿現しを経由してやってきた。

 

 

そして彼はそのまま騒がしい方へ歩いて行った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

闘いが騎士団優位で収束していく中で1人の魔女がシリウスへ向けて禁断の呪文を使用する

 

アバダ・ケタブラ(息絶えよ)!」

 

その緑色の閃光はシリウスの心臓に命中した。そして一瞬で彼は息絶える。そして彼の遺体は謎のアーチの中へ消えた。

 

そばにいたハリーは叫んだ。そしてそれを見たベラトリックスは残忍に笑った。

 

「シリウスを殺してやった!」

 

ベラトリックスはハリーを煽るようにスキップをしながら、わざとらしく大袈裟に歌う。時折残忍に笑いながらその場から離れる。

 

彼女を追いかけて敵を取ろうとするハリーを騎士団のメンバーのルーピンが押さえつけた。しかし彼はそれをものともせず、激情に任せベラトリックスを追いかける。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「シリウスを殺してやった!」

 

 

遠くから残忍そうな女性の声が響いてくる。段々と大きくなるのでこちらにやってきているのだと理解した。

 

ウィルはその女性を目で捉えると杖を素早く向けた。だがなぜか知らないが杖を握る手の力が抜けてしまう。

 

その残忍な顔に目を奪われる。どこか懐かしく思えた。新聞で見たのかもしれない、だがそれとは違う。記憶に残っているわけじゃない。心の奥底で何かを感じたのだ。ほとんど直感に近い。

 

目の前の魔女はウィルに気がつく。邪魔な物体が立っている、というような視線だ。向こうは特に自分に対して何も感じないようだ。

 

「“クルーシオ(苦しめ)”ッ!」

 

突如、聞き覚えのある声が通路に響き渡る。赤い閃光が魔女に命中すると、彼女は倒れた。

 

「待て、ハリー。」

 

ウィルは自分の中のモヤを晴らしたかった。自分はこの魔女を知っている、ただ知っているだけではない。何か深い関係があるはずだと確信していた。

 

「どいてくれウィル!そいつはシリウスを殺したんだ!」

 

「黙れッッッ!!!!!」

 

ハリーは感情的に叫んだ。だがそれ以上にウィルは大声をあげてみせた。こんなに感情的な彼は見たことがない。あの理性的でクールな天才とは思えなかった。

 

「待てと言っているッ!」

 

ウィルはとても暗い表情を浮かべている。そしてハリーは気がついた。2人はよく似ている。黒髪に白い肌、茶色の瞳。雰囲気だけではない、魔力の質も似ている気がする。台風のように荒れた魔力だ。

 

アバダ・ケタブラ(息絶えよ)

 

ベラトリックスはウィルへ向けて死の呪文を放った。自分の進む道に転がっている邪魔な石ころを蹴り飛ばすような感覚だ。

 

ウィルはその閃光をいとも簡単に軌道を変えてみせる。ベラトリックスはそれを見て愉快そうに笑うと次から次へと死の呪文を連発してみせる。そしてそれらも軌道を変え続けた

 

 

ウィルは迫り来る数多くの緑の閃光を退けながら、この攻防が不毛だと考えた。それよりもっと早く制圧してこの感情の答えを知りたいと思った。

 

彼はローブから黒い(・・)杖を抜いて武装解除の呪文を放った。不意をつかれたベラトリックスは彼の攻撃を防ぐ呪文を使う余裕などなかった。

 

だが吹き飛ばされたのはウィルの方だった。彼は思い切り尻餅をついて倒れた。なぜか“武装解除の呪文”が逆噴射(・・・)したのである。

 

彼の黒い杖は宙をクルクルと舞い、ベラトリックスの手のひらに収まった。

 

 

(杖が言うことを聞かなかった。)

 

 

ベラトリックスはその杖を思い切り掴み、わなわなと震えている。

 

「コソ泥め。これは私の杖だ。お前、どこでこの杖を手に入れた!」

 

ウィルはようやく腑に落ちた。

 

「そうか、そういうことか。」

 

 

 

***

 

 

5年前

 

 

 

〜オリバンダーの店〜

 

 

 

 

「まずこの杖を見ていただけませんか?」

 

オリバンダーは黒い杖を天井に掲げてジックリと杖を見定める。口は少し開いており集中しているようだ。

 

「あぁドラゴンの心臓の琴線、ヤマナラシの木じゃな。29センチ、傲慢で頑固」

 

その杖の特徴を言い当てる。それもそうだ。これは一度見せたことがある。自分の認めた賢者だ。仮に見せてなかったとしても容易く見抜いただろう。

 

「この杖は貴方様の杖ではない。そうでしょう?」

「ええ、母の昔の杖です。家での自習用として使ってました」

 

 

***

 

 

 

 

ハリーはウィルと初めて出会った日のことを思い出した。頭が冴えてくる。確かに母親の杖だと言っていた。彼は一度たりとも自分とドラコが双子であるとは言ったことがない。彼はマルフォイ家の養子なのだと気がついた。

 

ウィルもまた、かつての記憶を辿る。会うのはとっくに諦めたはずだった。でもこんな形で出会えるとは思っても見なかった。

 

「ウィリアム・マルフォイ。それが()の僕の名前だ。」

 

彼はそういうとベラトリックスの瞳をジッと見つめた。同じ茶色(・・・・)の瞳が交わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです、母上(・・)。」

 

 




ちなみにこれはダームストラングへ向かう際にあとがきで書いた、他の作者さんでは見たことがないであろう流れではありません。


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望まれぬ子

 

 

 

「それで?」

 

あまりにも冷たい反応だ。それもそうだ。血も涙もないマダム・レストレンジ、死喰い人の有力な配下として暗躍してアズカバンに15年間幽閉されてた。魔法評議会の裁判にて鎖の繋がれた椅子にまるで玉座についているかのように堂々と座り、他の死喰い人とは異なりヴォルデモートの忠誠を叫んだ。

 

その強固な意志を持つ女がウィリアムの実の母親だ。杖がそう示したのである。しかし彼女はヴォルデモート以外に愛を示してないらしい。まるで自分の息子を今の今まで忘れていたかのようだった。

 

だがウィルも同様冷たい反応だった。もう自分に家族はいる。別に今更欲しいとは思わない。でも心のどこかでは期待をしていた。孤児院の部屋の片隅で気配を殺して座り、いつか自分を迎えに来てくれると信じていた。もしかしたら今でも変わらないのかもしれない。彼は父親と弟の愛を知っている、だが母親から与えられる愛は知らない。義母のナルシッサは自分に興味を持たず、ドラコに全ての愛を捧げている。

 

この時、ウィルは知らなかったが義母のナルシッサはベラトリックスの妹である。彼女は実の姉を恐れていた。ヴォルデモートに忠誠を尽くし、直接闇の魔術を教わるほど信頼されていたのである。その彼女は自分の意志を曲げず、無期懲役の罪を宣告された。それに対して彼女は夫のルシウスと共に“服従の呪い”によって操られていたのだと主張して罪から逃れたのである。

 

姉への罪悪感と恐怖から、姉と容姿がよく似ているウィルを遠ざけようとしたのだ。

 

 

 

ベラトリックスはにやにやと笑いながらこちらに歩いてくる。

 

「愛でも欲しいのかい?ウィリアム坊やはママが恋しい(こいちい)の?」

 

唇をすぼめて、まるで幼稚園児をあやすような声で煽る。もはや実の息子と言えど彼女からすれば他人に等しかった。

 

「別にどうという事はない。俺を産んでくれた、ただそれだけには感謝してる。」

 

ウィルは無表情でそういった。これは嘘ではない、本心だ。

 

「だが1つ頼みがある。抱きしめてくれないか?一度きりでいい。」

 

ウィルはそういうと杖を地面に落とした。ハリーはそれは悪手だと思った。ベラトリックスは嘲笑うように呪いを放つと考えた。だが彼女は不敵に笑う。そして目を大きく開いて女優のように手を開いてウィルを抱きしめた

 

 

そして彼女は自分と同じ黒髪を持つ息子を優しく撫でる。彼女は顎を優しくウィルの肩に乗せ、耳元に囁いた。

 

「お前に愛情なんか感じない、決して。」

 

ウィルは彼女がどんな表情をしているのか想像ついた。また彼もにやりと笑う。

 

「なら都合がいい。“オブリビエイト(忘れよ)”」

 

彼は手のひらをベラトリックスの後頭部にかざす。緑色の光が瞬く、そして彼女は息子の腕の中で記憶を失い、ゆっくりと倒れた。

 

 

ウィルは倒れた彼女を蔑むように見下す。そして大きくため息を吐いた。ハリーはウィルにどんな声をかけたらいいかわからない。

 

 

「ベラを倒したか?」

 

その通路に恐ろしく冷たい声が響き渡る。どこから聴こえてくるのかわからない。ハリーはすぐに奴だと理解する。

 

「トム、僕は今機嫌が悪いんだ。話なら後にしてくれ。」

 

ウィルはまるで友人のように姿の見えないヴォルデモートに声に応える。そしてヴォルデモートはハリーの背後に現れた。

 

ハリーはヴォルデモートに杖を向けるが、まるで眼中にないと言わんばかりに杖を持たない手で彼の杖を吹き飛ばした。

 

「弱い奴め」

 

ヴォルデモートがそう言い放つと同時に彼らの側の暖炉が緑色に激しく燃え盛った。すると中から老人が現れる。

 

灰色の長い髭を蓄えた偉大なる魔法使い、アルバス・ダンブルドアだ。

 

「愚かじゃな、まもなく闇祓いがやってくる。」

 

彼はハリーが未だかつて見たことのないほど頼もしく見えた。

 

「その前に俺様は去り、貴様は死んでおるわ。」

 

ヴォルデモートはダンブルドアを見て嘲笑うように吐き捨てる。

 

ハリーは今ここでヴォルデモートが倒されるのだと確信した。2人が決闘を行いダンブルドアが敗れる未来は見えない。更に自分の知る限り最も優れた才能を持つ青年がついてる

 

しかしハリーはウィルの顔色を覗きこむと背筋が凍りついた、あまりにも冷たい。そして彼の全てを射殺すように鋭い瞳はヴォルデモートではなくダンブルドアに注いでいた。

「ダンブルドア、これがお前の見せかった結末か?」

 





すみません、構成上短めです


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自分の価値

 

 

 

 

ウィルが激怒している理由は想像つく。彼は犯罪者としてイギリスの闇祓いに追われている。それなのに彼はやってきた。ハーマイオニーが助けを求めても現れなかったのにだ。つまり彼を呼び出したのはダンブルドアなのだと理解した。

 

2人の黒い魔法使いの圧力に流石のダンブルドアも気圧されているように見えた。先ほどの頼もしさとは打って変わり、ハリーはダンブルドアの加勢をしなければならないと思った。

 

「まぁいい。勝手に殺しあえ。」

 

ウィルはそういうと2人に背を向けて歩き始めた。ダンブルドアを恐れたわけではない、単純に他にすべき事があった。

 

ヴォルデモートはにやりと残忍に笑い、背中を向けたウィルに呪いを放った。それをウィルは振り返る事なく背中に盾の呪文を張ってバリアする。

 

「久しぶりの再会だ。少しは遊んでいけ。」

 

ヴォルデモートは恐ろしくも笑顔だ。自分が認めた小さな才能が数年の時を経てどれだけ成長したのか興味があった。

 

 

そう言う(・・・・)と思ったよ、だがトム。僕も気になってた。君とどれだけ差を縮められたのか。」

 

ウィルはそういうとゆっくり振り返って杖をダンブルドアとヴォルデモートの中間に向ける。どちらの攻撃にも対応できるようにだ。

 

3人はほぼ同時に魔法を放った。ほんの小手調べだったのだろう。三方向から放たれた閃光は一つにぶつかると激しく輝き、そして稲妻が目の前に落ちたかのような音と衝撃を放つ。地面は大きくえぐられたように削れ、レンガが周囲に弾け飛んだ。彼らの足元をゆうに超えてレンガは無くなった。

 

あまりの破壊力に土煙は激しく舞いあがる。3人の中心を覆い尽くすように灰色のカーテンが広がっていくようだ。そしてそれが晴れないうちにウィルは口を開く

 

 

「ダンブルドア、貴方に聞きたい。この世は多様性、マグルを認めよというのなら“闇の帝王の存在”も認めるべきだ。そしてマグルの方も我らを尊重するのがフェア(・・・)です。」

 

彼は対等を重んじる性格だから不当な差別や不公平を毛嫌いしている。だがかなり極端のようにも感じる。

 

「“穢れた血”からの尊重など不要だ。」

 

ヴォルデモートは言い捨てた。

 

「悲しきかな、我ら3人は思想は相容れぬようじゃ。」

 

ダンブルドアは真剣な表情で答えた。まるで悲しんでいるようではなく、ただ言葉にしただけのように思われる。

 

すると測り終えたように煙が晴れて互いの姿を確認できるようになる。

 

先手を打ったのはウィルだった、他の2人に比べて自分が劣っていると認識してるからこその先制だ。より強力な魔法を放つ為の布石として最も素早く2人へ攻撃する必要がある。

 

「“オパグノ(襲え)”!」

 

彼は地面に散らばった無数のレンガとその欠片へ魔法をかけた。そして2人へと襲いかかる。だが彼らはひるむ事なく防いだ。

 

2人のやり方は対照的だった。トムは迫り来るレンガの全てを撃ち落とし、ダンブルドアは盾の呪文で防ぎきる。

 

「“フィエンド・ファイア(悪霊の炎)”。」

 

ウィルの杖先から炎が溢れ出る。彼の最も強力な武器の1つだ。大きな腹を持つ巨大な二足歩行の象が吠えた。咆哮の衝撃は強く、離れていたハリーは後ずさりをしてしまう。かつて見た彼のそれより巨大になっている。

 

ヴォルデモートは小さく笑うとウィルと同じ炎を呼び出した。黒い炎の中からスルリと現れ、上からウィルのヘビーモスを見下ろす。ハリーは見た事がある、秘密の部屋で戦ったバジリスクだ。だが本物よりも荒々しく恐ろしいように思われる。

 

2つの怪物は主人の命令で距離を詰めて戦い始める。互いの急所を狙い絡み合う。バジリスクはヘビーモスの身体を締め付け、喉元へと噛み付こうとする。だが巨大な拳で殴られひるむ。すぐに立ち直ると腕へスルリと巻きついて締めあげた。

 

 

ダンブルドアは杖先に強力な魔力を込めて振るう。すると巨大な水が現れて2匹の怪物を覆い尽くす。そして消火されるようにサッと消えた。

 

 

2匹の怪物が去ると同時に地面が赤く輝いた。いつの間に床に空いた大きな穴が綺麗に治っているではないか。

 

ダンブルドアとヴォルデモートの足元の地面にのみ複数の魔法陣が並んでいる。ウィルはにやりと笑う。

 

 

彼はここにダンブルドアがやってきて戦闘になるだろうと想定していた。だから彼は事前に(・・・)あちこちに魔法陣を編んでいたのである。

 

ウィルは悪霊の炎を発動させ操っていた時、空いた手で地面に“レパロ(・・・)”の呪文を使った。人の視線が怪物の取っ組み合いに注がれるのを利用したのだ。

 

()ぜな。」

 

ウィルは指をパチンと鳴らすと地面から燃え盛るように激しく爆発する。再びレンガが勢いよく吹き飛ぶ。巨大な粉塵が広がり、3人の姿を隠す。

 

 

ハリーはようやくウィルの戦闘スタイルを理解した。これは時間稼ぎだ。

 

策という策を練り、そして入念な準備を得て戦闘に繋げる。より効果的に戦闘を進めるには自分の土俵に引き込む事が重要だ。

 

ただし必要なのは時間(・・)である。効率的な技を見つける時間、習得する時間、そしてそれを戦闘中に仕込む時間である。

 

だからこそ彼は策を生むための策がいる。先手を取って不意打ち、そして策に策を重ねて自分の得意な戦法に持ち込む。

 

 

 

 

 

2人の対応はやはり違う。ダンブルドアは発動する瞬間に杖を振るってみせた。これが呪文ではないからこそ“フィニート(終了呪文)”は効かない。だから魔法陣そのものを改造してみせた。不発するようにだ。

 

それもそうだ。ウィルの得た知識の多くはホグワーツで得た。そして図書館の蔵書を彼が見ていない保証などない。

 

 

しかしヴォルデモートは爆発に巻き込まれてしまう。その土煙はゆっくりとダンブルドア、そしてウィルも包み込む。

 

「流石じゃの。君の練られた無数の策は儂らの経験と並ぶ域に到達しておる。」

 

ダンブルドアは無傷で煙の向こうでウィルに語りかける。

 

「小賢しいだけよ。」

 

ヴォルデモートの声も響く。彼は自分の周りの魔力を暴発させて全てを弾き飛ばしたのである。2人へ一切のダメージはない。

 

「全ては陽動(・・)、これを仕込む為の布石(・・)。」

 

しばらくして煙が晴れるとハリーは目を疑った。地面に足をつけ立ち上がっているのはウィルだけだったのである。まるでダンブルドアとヴォルデモートがウィルにひざまずいているようだった。

 

「ありえない・・・。」

 

ハリーは唖然とした。ほんの自分と同じ年齢の魔法使いが、この世のありとあらゆる魔法使い、魔女達の頂点に立つであろう2人を制圧している。

 

そして2人は赤褐色の蔓のような植物に絡みつかれて身動きが取れないようだ。茎に長い棘が生えている。

 

 

「あれは“毒触手蔓”。」

 

ハリーはその植物を知っていた。ホグワーツでの植物学で習った。魔法植物で通りかかった者は背後から掴まれる事もある。

 

2人は棘から注入された毒で身体がビリビリと痺れでいくのを理解した。

 

「本来ならば、さほど強くない毒だ。だが少々品種改良して(いじくって)ある。」

 

ウィルは3、4年生の時にホグワーツの教師陣から手ほどきを受けていた。もちろん植物学のスプラウト、そして魔法薬学のスネイプからも知恵を授かっている。植物の品種改良など容易い。

 

効果的なのは魔法植物を戦闘の道具として使用する点だ。そもそも想定外であるということ、そして植物そのものに魔力が含まれていないために探知が難しい。

 

そしてローブの中から懐中時計をチラリと見て確認をする。ウィルは杖を振るって植物を灰のように燃やした。

 

「貴方方ではこの程度ではすぐに抜け出せるでしょう。」

 

2人はウィルの実力を過小評価していたのだと思わざるを得なかった。彼の牙は確実に自分に届きうると理解した。

 

「お遊びは終わりだ。」

 

ウィルはそういうとハリーの方を一瞥する。そして少し離れた場所に立つかつての自分がいた学舎で成長した生徒たちを見る。彼らは1人を除いて驚きを隠せないようだ。

 

自分の知る限り最も強力な魔法使い、そして最も恐ろしい魔法使いと渡り合える程の実力があるとは思わなかった。自分達が束になっても敵わない才能を持っていたのは知っている。この一年で彼との決定的な差を少しはマシにできたと思ってた。だが所詮は学生の集まり、ただの勉強会に過ぎない。彼がいる場所は溢れでる才能と血の滲む努力が合わさることで初めて立つことができる領域なのだと思わざるを得なかった。

 

ウィルは彼らに語り始める。

 

「戸惑っているのだろう。俺が変わったと・・・。だが違う。」

 

問題なのは目の前の彼が味方か敵なのかわからないという点だ。呆然として立っていることしかできなかった。

 

ウィルは彼らに近寄り視線を寄越す。そしてぼーっとした表情のルーナの頭をポンポンと優しく叩く。

 

「昔から何も変わってない、今の俺はホグワーツの時と何も変わらない。」

 

彼はそういうと姿現しでその場から消え去った。すると計算したかのように側の暖炉達が緑色に燃え盛り次々と闇祓いや魔法省の役人達が現れる。

 

そして魔法省の大臣であるファッジはヴォルデモートの姿を一眼見る。するとヴォルデモートは黒い煙となってその場から消える

 

「・・・復活か?」

 

ファッジはそう慄きながらつぶやいた

 

 

 

***

 

 

 

 

〜魔法省、神秘部〜

 

 

 

 

 

ウィルは“姿現し”で神秘部へ移動した。そこはハリー達と死喰い人の戦いの中で荒れ果てボロボロとなった預言と倒された棚だ。

 

 

「よぉ、価値は示せたか?」

 

暗い部屋でよく見えないが声と発言で自分の同志だと理解した。

 

「あぁ想像以上の収穫だ。」

 

彼がこの場に訪れる前はダンブルドアとだけ交戦するつもりだった。しかしやってきた瞬間に複数の魔法使いが交戦していると推察できた。つまり自分が加担する可能性のある組織、“騎士団”と“死喰い人”が戦っているのだろうと考えた。ならばリーダーである2人がいるのが自然である。

 

彼は自分の強さがまだ2人に届かないのを承知していた。だから向こうからすれば、自分達といつ敵対しても構わないと思われているだろう。その為に価値を示すのだ。

 

つまり彼の目的は“自分達を敵にまわせば厄介”だと知らしめることだ。

 

(どちらとも敵対せず、組織を生かしておく理由を作れた。)

 

 

2人は預言のある棚を進んでいく。そしてある預言の下に書かれた姓を見つけ、立ち止まる。

 

 

 

 

【****・マルフォイ】

 

 

 

ウィルは口を開く。少し懐かしんでいるようだった。すると再び歩き始める。

 

「ここには前に(・・)来た事がある。ここに俺の預言はなかった。」

 

当然といえば当然である。かつてルシウス・マルフォイに連れられてここに来た時、自分の書かれた預言を手にする事ができなかった。そして彼は今日、自分の本当の姓を知ったのである。

 

 

 

 

【ウィリアム・レストレンジ】

 

 

 

 

 

彼は自分の本当の名前が書かれた予言を見つけ、少しの間観察する。彼が青色の預言をゆっくりと優しく掴み、近くに寄せた。するとそれは霧の向こうからこちらに届くような声でウィリアム・レストレンジの預言をする

 

 

 

***

 

 

 

獅子と蛇で揺れる男

強欲の全ては満たされぬ

野望の1つが叶う時

正義の刃が心臓を貫くであろう

 

 

 

***

 

 

 

 

預言を聞き終えるとウィルはそれを地面に落として粉々にしてしまう。これで自分の預言を知る者がこの世で自分と隣の男だけとなった

 

 

「・・・君は死ぬのか。」

 

隣の男はそう言う。

 

「死を克服する必要があるな。」

 

「・・・。」

 

ウィルは無言で男の肩に手をのせるとその場から一瞬で消えた。

 

 






毒触手蔓は実際に原作ででてきます。ただし読み方はわかりません。前々から思ってたけど、ハリーの預言ってレパロで治らないんですかね?


ぶっちゃけ最終回は投稿する前から決めてて、変える気はないです。でもどれくらい予想できてる人がいるのでしょうね


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ドラコの記憶①

 

 

 

 

 

とても薄暗い閑静な住宅街に2人の女性が現れる。1人はブロンドで白い肌の女性だ。少しやつれているように見えた。それに対してもう1人の女性は茶色の瞳で黒髪である。

 

「シシー、およし。あいつは信用できない」

 

黒髪の女性はブロンドの女性を追いかけるように歩きながらそう言った。しかしシシーと呼ばれた女は聞く耳を持たず早歩きで進む

 

「あのお方は信じてる。」

 

「間違っておられるのだ!」

 

そして目的地へ到着するとノックをした。するとドアは開き、2人は中へ入る。

 

 

 

 

 

 

奥へ進むとねっとりとした黒髪で鷲鼻の男がいる。とても神経質そうな顔をしており、彼は2人の客人の方へ目をやる。

 

 

 

「アイツのせいです。昔から勘づいてた。この家に入れるべきじゃないって!」

 

ナルシッサ・マルフォイは声を荒げた。それほど彼女は追い詰められていたのである。夫のルシウスは神秘部の戦いで逮捕され、アズカバンに収容されてしまった。そして犯罪者として家名に泥を塗り、逃亡をし続けている義理の息子は“例のあの人”に敵対するような行動をとった。その反動である事を命じられてしまったのだと確信している。

 

「ただウィリアムならばダンブルドアに喰らいつく事はできたでしょうな。」

 

命じられたのは彼女の息子のドラコ・マルフォイがダンブルドアの首をとるというものだ。到底やり遂げられるとは思えない任務であり、ただの腹いせのようだった。

 

「その名は口にしないで!」

 

ナルシッサは金切り声をあげて抗議する

 

「安心しなシシー。私がいつかあの小僧にたっぷりとお返ししてやる!」

 

そばにいたベラトリックスもウィリアムには強い恨みを抱いているらしい。彼女の敬愛するヴォルデモートの前で倒され気絶するという姿を晒してしまったのだ。

 

「もういいだろう?誇りに思うべきだ、ドラコも。」

 

ベラトリックスとナルシッサの考えは違うようだ、彼女いわくヴォルデモートから選んでもらえた事を喜ぶべきだと主張する。

 

「まだ子供なのに・・・。」

 

ナルシッサは病んだ様子で息子に課せられた重荷を嘆いた。

 

「吾輩が見守ろう。」

 

スネイプはそう言った。彼はドラコの父親のルシウスには学生時代によく世話になった過去がある。そして自分の受け持つ寮の生徒である以上、そう言う選択肢しかない。

 

「では誓え、“破れぬ誓い”を立てろ。」

 

ベラトリックスはスネイプに向けてそう言い放つとナルシッサと彼に手を握らせる。“破れぬ誓い”、それは2人で行う誓いのようなものだ。もちろんただの誓いではなく、それを違えれば死が訪れる。文字通り破ることのできない誓いなのだ。

 

「汝、セブルス・スネイプはドラコ・マルフォイが闇の帝王の望みを果たすのを見守ると誓うか?」

 

「誓おう」

 

ベラトリックスはそうスネイプに問いかけ、彼は同意した。

 

「そして全力で彼を守ると誓うか?」

 

「誓おう。」

 

「そしてドラコがしくじれば、お前自身が身代わりとなり、闇の帝王の望みを叶えると誓うか?」

 

「誓おう。」

 

 

スネイプが全てを受け入れると、ナルシッサの両方の瞳から涙が溢れた。

 

 

 

***

 

 

 

 

同時刻

 

 

 

 

〜マルフォイ家屋敷〜

 

 

 

 

空気は重く人の気配はなかった。屋敷しもべ妖精は1人もおらず、寂れた屋敷であると言わざるを得ない。そしてその家に住む息子は重く思いつめた表情である部屋のドアを開ける

 

 

ここはドラコ・マルフォイの兄の部屋である。空っぽの部屋で人が生活している気配はない。整理整頓された瓶の隙間に蜘蛛の糸が張り、並べられた本は埃をかぶっている

 

 

そして彼は部屋の奥にある小さな篩へ進んだ。神秘的な青い水の張られており、彼はそこに顔をつける。青い視界は素早く霧のように渦巻き、そして彼の記憶を再び呼び覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

広い子供部屋で箒に乗ったクィディッチ選手のフィギュアを手に持ち、縦横無尽に飛ばして遊んでいるブロンドの子供だ。とても幼く6歳から7歳の時のドラコ自身である。

 

 

すると彼の方へ足音が聞こえる。ドラコは自分の父親が来たのだと思って振り返ると少し驚いた。そこには父親と見たことのない黒髪の男の子がいる。彼は鋭く冷めた瞳だ。髪はぼさぼさで荒れているもののとても美しい顔をしていた。

 

ドラコは思った。絵本に出てくる登場人物のようだ。爽やかな王子というより、魔界を支配する魔王のようだ。彼は少年の顔に今まで出会った誰よりも美しいと感じ、視線を釘付けにされてしまう。

 

 

「 ドラコ、今日からお前の兄弟になる。ウィリアムだ。」

 

ドラコはパァッと笑顔になる。一人ぼっちで遊ぶ事はもうなくなるのだ。そして彼と友達になれるかもしれない。

 

「うん!」

 

「・・・。」

 

自分の様子とは異なり彼は相変わらず冷たいままだった。ルシウスは2人きりにしようとその部屋から立ち去ると彼は椅子にもたれかかるように我が物顔で座る。

 

 

「ねぇウィリアム!君どこから」

 

ドラコは人形を床に置くと立ち上がり詰め寄る。そして満面の笑みで兄弟となる男の子に話しかける。

 

「“インセンディオ(燃えろ)”。」

 

だが彼はポケットに隠し持っていた黒い杖を素早く抜き、ドラコに向けて半円を描くように杖を振るった。先端には小さな炎が灯され、ドラコは尻餅をつく。

 

「おいお前、ボンボンだがなんだがしらねぇが。俺に舐めた態度をとるな。」

 

ウィリアムは吐き捨てるようにそう言い放つ。そしてローブの奥に杖をしまった。

 

「いいか?この杖の事は黙っとけ。」

 

彼はそういった。青年になった今からすればただ悪ぶった子供が背伸びをして脅してるように見える。でも当時は本当に恐ろしかったのを今でも覚えている。魔王が自分の平穏な生活を乱しにやってきたのだと思った。

 

 

 



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ドラコの記憶②

同日投稿です、お気をつけてください


 

 

再び視界は激しくうねるように変わった。ドラコとウィルとルシウスは同じ部屋にいる。これはさっきの次の日の出来事だ。ドラコがたまにルシウスから受ける魔法の手ほどきである。彼はまだうまく魔法を覚えられず、苦痛だった。

 

「ドラコ、前回やった拘束呪文だ。“インカーセラス(縛れ)”。」

 

ルシウスはそう杖を振るった。すると用意された大きな人型の人形をロープで拘束するように絡みつく。前回、自分がやった時は小さな糸が人形に掛かるくらいしかできなかった

 

拘束された人形へ向けてルシウスが杖を振るうとロープは消え去った。

 

「ウィリアム、お前には私の杖を貸してやろう。」

 

ルシウスはそういうと自分の杖をウィリアムに渡した。ドラコは昨日の彼の発言が腑に落ちた、彼は父上に自分が杖を持っている事を隠しているのだ。

 

父親に言いたくなる気持ちをグッと抑えた。恐怖からではなく、彼に嫌われたくはなかったのである。

 

彼は杖を軽く振るった。

 

「“インカーセラス(縛れ)”。」

 

ドラコは目を疑った。自分が何度やっても習得できなかった魔法が、ウィリアムの口から唱えられるとたった一度で綺麗に発動したのだから。彼は前にこの呪文を習ったことがあるのだと思った。

 

「前にやったことがあるのか?」

 

そして自分とルシウスもまた同じ気持ちだったようだ。

 

「いや、初めてだ。」

 

その言葉を聞くとルシウスは口元を手のひらで覆う。そして隠しきれぬほど大きくにやりと笑みを浮かべた。

 

「素晴らしい、たった一度みせただけで。」

 

少しの間をおいてルシウスはウィリアムを褒めてみせる。

 

「こんなのできて当然だろ。同じ魔力量を込めて同じように振るだけ。」

 

しかし彼は吐き捨てるように言った。褒められて見栄を張ったのではなく、心からそう思っているらしい。

 

「私はその言葉遣いも直して当然だと思うのだがね?」

 

ルシウスは嫌味のように言った。だがウィリアムは怯まない。

 

「染み付いてんだよ、雑草育ちだからな。」

 

強く言い返す。この時からドラコはウィリアムに勝てないと思い知らされた。あの巨大な父親に口答えするなど、自分には到底できない。呪文にしてもそうだ。自分の不得手な事をさらりとやってのける。

 

「ドラコ、お前はどうだ?」

 

父親の視線が自分に注いだ。次は自分の番である。

 

「“イ、インカァーセラス”。」

 

出来栄えは前回より酷かった。糸すら現れなかったのである。目の前で出来の差を見せつけられ、プレッシャーを感じたのだ。

 

「違う、“インカーセラス”。杖の振り方も甘い。コツはイメージ、魔法は創造力だ。」

 

ウィリアムはドラコに教えた。またもや今見たら早く次の魔法を知りたくてうずうずしているだけだろう。でも当時の自分はそれが救いの手だと思った。初めて見た時はあんなに怖く見えたのに、その時はとても輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

再び場面が切り替わる。そして自分とウィルが小さな机に本を並べ、羊皮紙が散らばっている。

 

あれから2年が経った。ドラコが毎日ウィリアムに声をかけていたおかげか、彼の性格が落ち着いてきた。相変わらず才能の差は感じるが、仲良くなったのは全部が全部いい方に転がるとは限らなかった。

 

「違うドラコ、ベゾアール石はヤギの胃の中でできるんだ。」

 

ウィルの手ほどきである。彼は家にあった書物を全て記憶してしまった。そして比べる対象がない為、自分が優れていると気がつかない彼は出来の悪い弟の面倒を見るようになった。

 

「まだホグワーツまであと一年あるんだぞ!」

 

ドラコは抗議の声をあげる。しかしウィルはジッと彼の目を見る。

 

「お前、ずっと前からだ。ホグワーツまで2年、3年って。やらない奴はいつまでもやらないんだ。」

 

反論を瞬殺されると彼は必死にウィルの授業を受けざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

再び場面は変化する。賑やかな市場だ。ダイアゴン横丁である。外行きの豪華な服装に身を包み、ドラコとウィルは父親の背中に着いて行く。すると彼は急に立ち止まる。どうやら知り合いらしい。

 

「おぉアメリア、息子達と会うのは初めてだな。」

 

父親の背中でドラコはウィルの耳元で囁く

 

(おい、ウィル。知ってるか?)

 

(魔法法執行部の副部長だ。)

 

 

それを聞くと同時にルシウスは2人の肩を優しく掴み、自分の前に立たせる。

 

「ボーンズさん。父上からよくお話を伺ってます。長男のウィリアムです。どうぞお見知り置きを。」

 

ウィルはにこにこと魅力的な笑顔を浮かべて挨拶をする。その姿は孤児院の雑草などではなく一流の教育を受けた男の子だ。

 

「弟のドラコです。」

 

ドラコもまたウィルの後に続く。いつも空気を作ってくれる兄のおかげで自分の役目はこれだけでいい。役割分担だ。形式ばった場所では兄が動き、柔軟に動くべき場所では自分が動く。まるで互いの弱点をカバーしあう本当の兄弟のようだ。

 

「まぁまぁ、確か私の娘と同じ年よね?スーザンも今年からホグワーツなの。」

 

彼女は感心するようにうなづく。そして側にいた娘へと視線をよこす。

 

「やぁスーザン、ホグワーツではよろしく頼むよ。」

 

ウィルはスーザンに握手を求め、優しく握ると笑顔を浮かべる。また1人、彼に魅了された。誰もが魅了されるほどのまばゆい笑顔である。整った美しい容姿に爽やかなスマイルを合わせれば無敵だ。

 

この時の彼はとても丸くなった。でも違う。これは彼の本当の笑顔じゃない。ドラコはその笑顔が仮面のように思えてならなかった。

 

 

 

再び場面は変わる。キングズクロスからホグワーツへと向かう汽車の中だ。ドラコは子分のクラッブとゴイルを引き連れて歩いていた。確かこの時はハリー・ポッターと友達になりたくて声をかけたんだ。でも彼は自分を拒否して赤毛のウィーズリーを選んだ。

 

少しイライラしてた。すると自分達のいたコンパートメントから知らない栗毛の女の子が出てきた。彼はどうせウィルに魅了されただけなんだと思った、バカな奴め。ウィルはどうせお前のことなんか興味ない。

 

ドラコは扉をあけるとウィルは本を読んでいなかった。

 

「なんだい、あの子は?」

 

ドラコは苛立ちを隠せなかった。あの女の子はウィルの邪魔をしにきただけなんだと気がついた。

 

無神経さに少し怒りを覚えたのだ。実際、ドラコは一度たりともウィルが読書をしているときに邪魔をしたことがない。

 

養子であり、家に恩を返すために生きてる彼にとって読書が唯一の至福の時であると知っていたからだ。

 

「頭のいい子だった。逃げた友人のカエルを探していたようだ。」

 

ウィルはそう答える。その時、ドラコはとても驚いた、なぜなら彼が初めて家族以外の人間に興味を示したからだ。

 

そしてそれ以上に嫉妬が芽生え、少し不機嫌になる。だがいい、どうせ僕とウィルは栄光あるスリザリンに入るのだから・・・

 

 

 

 

 

 

 

そして今度は組分けの儀式に変わる。ウィルとドラコは隣に座り順番を待つ。彼は本に夢中になっているのに対して自分は少し興奮してた。

 

 

「グレンジャー・ハーマイオニー!」

 

その名を聞くとウィルは活字から目線を外し、壇上へと向ける。

 

それを見てドラコは機嫌が悪くなる。グレンジャーの名前は魔法族の名前じゃない。なら大丈夫だ。崇高なるスリザリンに選ばれることはない。

 

その子は走るように椅子に座ると、帽子は少し悩みつつ結論を出した。

 

「グリフィンドール!」

 

グリフィンドールなら大丈夫だ。僕達が入るのはスリザリン。ウィルと奴が関わることはないだろう。

 

そして何人かの組分けを終える。

 

「マルフォイ・ドラコ!」

 

マクゴガナルの呼び声を受けてドラコはウィルの方をちらりと見る。

 

「じゃ、おさき。」

 

ウィルにそう囁くとドラコは名前を呼ばれると偉そうに前に進みでる。帽子は頭に触れるか触れない内に答えをだした。

 

「スリザリン!」

 

僕でも選ばれたんだ。僕より優れた魔法使いのウィルがスリザリン以外に選ばれるなんてありえない。

 

 

「マルフォイ・ウィリアム!」

 

ウィルは本を閉じて前へ進む。ただ前へ歩くというだけで注目を集める。これが僕の兄だ、ドラコは誇らしくなる。

 

あとはスリザリンと呼ぶのを待つだけだ。でもあまりにも遅い。帽子をかぶって数分が過ぎてる。あのウィルの事だ。おそらく適性のある寮が多過ぎて困ってるんだ

 

 

 

「グリフィンドール!」

 

その帽子の叫ぶ声にドラコは激しく動揺していた。彼がスリザリンじゃないなんてありえない。でも帽子がそう選んだのなら本当に適性があるんだ、寮は違ってもウィルはウィルだ。なぜかアイツとだけは関わらないで欲しいと思ってしまう。

 

ウィルの隣を取られてしまうかのような気がしていたのだ

 

 

 

 

 

場面は再び変わる。クラッブとゴイルを引き連れて廊下を歩いているとウィルの姿が見える。声をかけようと思ったがすぐに足が止まってしまう。ウィルの横に栗色の髪の女の子が目に入ったからだ。

 

 

 

 

再び場面は変わる。スリザリンのクィディッチの選手の一員として歩いていた。そしてすぐにグリフィンドールの選手団と鉢合わせ険悪な空気となる。

 

「君の箒を競売にかけたら博物館が買い入れるだろうね。」

 

ドラコはロンを煽って箒を自慢した。僕達のチームの全員は一流の箒を持ち、一流の家系のメンバーだ。

 

君にボロボロの箒なんかふさわしくない。君の周りの連中は傲慢なクズばかりだ。

 

 

「少なくともグリフィンドールの選手は誰一人としてお金で選ばれてないわ。」

 

また忌々しい栗毛だ。お前はウィルの隣にふさわしくない

 

「誰もお前に意見なんか聞いてない。【穢れた血】め!」

 

 

 

 

今度は誰もいない、人気のない廊下だ。ドラコはウィルに杖を突きつけられ、動けずにいた。あまりにも冷たい表情は彼と初めて出会った日のことを思い出す。

 

ウィルはあのグレンジャーを守る為に父上が自分に対してどう思っているかを探った。そしてよく思っていない事を聞いた彼はルシウスにこう説明しろと伝える。

 

「彼女といればマルフォイ家の純血思想というレッテルから逃れられ、周囲の信頼を勝ち取り結果として教師陣から特別扱いされる。とな。」

 

 

それは建前だとドラコにはわかった。そしてずっと気になっていた質問をウィルに投げかける

 

 

「1つ聞かせてくれ。君は、君はいつからそうなった?」

 

 

いつから君の仮面の下にその冷たい表情を隠すようになったんだ!?

 

 

 

 

 

 

過去の記憶が終わり、ドラコは水盤から顔をあげた。水が滴り落ちるのを気にもかけない

 

 

 

「殻を破った君は今、どこでなにをしてるんだい?」

 

ドラコは自分しかいない屋敷で呟いた。彼は不安に駆られ、腕を震わせていた。

 

「僕がやるしかないんだ。ダンブルドアを殺さないと僕達は殺される。」

 

ドラコの瞳には強い恐怖、そしてその中にほんの少しだけ覚悟が宿っていた。

 





記憶の部分は描写不足なので、前に投稿した部分を読み返していただけるとわかりやすいかもです。


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分霊箱

前半はほとんど原作通りの繋ぎなので手抜きです、ご了承ください



 

 

ハーマイオニーはホグワーツの汽車の中で書き物をしている。去年から愛用している手帳に羽根ペンでさらさらと書き込みをしていた。これはウィルがハーマイオニーに預けていた魔法アイテムだ。彼がトム・リドルの日記を参考にしてつくりあげた。これにより痕跡を残さずにやり取りができる。

 

 

 

 

《ホグワーツは危険だって言われてる、ダンブルドアも歳を取ったってことも》

 

《それは当然だ、誰もが老いる。》

 

《その・・・、貴方に聞くべきでないってわかってるけど、ハリーはドラコが死喰い人になったんじゃないかって》

 

《それはありえない。》

 

《もちろん確証はないわ。でもボージンアンドバークで熱心そうに何か見てた。》

 

《少なくとも“闇の帝王”がドラコを使うとは思えない。》

 

《せいぜい情報収集くらいだろう。》

 

 

 

***

 

 

 

数日後

 

 

 

 

 

《校長先生が旅に出て、新学期まで戻らないらしいの。》

 

《味方の勢力拡大だろう。巨人族あたりではないか?》

 

ダンブルドアは去年、ハグリッドに命じて巨人族がこちらを味方するよう説得させた。だがその場に死喰い人がいたらしく難航した

 

 

***

 

 

 

数ヶ月後

 

 

 

 

 

《ハリーが聞いたんだけど、スネイプとドラコが破れぬ誓いをたてたらしいの》

 

《間違いないのか?》

 

 

 

***

 

 

 

数日後

 

 

 

ハリーはダンブルドアからある事を命じられた。それはある教授からトム・リドルの秘密を聞き出すことだ。その教授の名前はスラグホーン、新しく魔法薬学の座についた。

 

《昔、例のあの人が学生時代に禁書の棚で得た知識について知りたいの。》

 

ハーマイオニーはウィルがマクゴナガルとの契約により禁書の棚を読む事を許されているのを知っているからだ。

 

《どんなのだ?》

 

《わからない、魔法薬学のスラグホーンになにかを聞いてた。今まで読んだ内容を書き起こしてくれないかしら?》

 

《流石にそこまでの余裕はない。》

 

 

 

***

 

 

 

数日後

 

 

 

 

《トム・リドルの秘密がわかったわ。》

 

《“ホークラックス”、闇の魔法よ。》

 

《不死身となる。分霊箱は魂をいれる箱だ。分裂させて一部を箱にしまう事で身体が滅びても守られる。》

 

 

《さすがね。その通りよ。殺人によって完成するの。“例のあの人”は魂を7つに分けた。》

 

《箱自体はなんでもありうる。》

 

《えぇ、今わかっているのは2つ。貴方が破壊したトム・リドルの日記、そして彼の母の指輪よ。》

 

彼の日記は四年前に秘密の部屋でウィルがグリフィンドールの剣を用いて破壊した。

 

 

***

 

 

数日後

 

 

 

 

《ダンブルドアが死んだ。》

 

《誰にやられた?》

 

《スネイプよ》

 

《そうか。》

 

 

 

《分霊箱の1つのスリザリンのロケットを手に入れたわ。でも偽物だった。》

 

《RABって知ってる?本物のロケットを持っている人の名前よ。》

 

《わからない》

 

 

《分霊箱を破壊するにはどうしたらいいか知ってる?》

 

《知っているだろうがグリフィンドールの剣、そしてもう1つあるが、君達は使うべきじゃない。》

 

《“悪霊の炎”だ。発動自体は難しくないが制御は困難。》

 

ウィルは秘密の部屋でトム・リドルと対決をしていた際に“悪霊の炎”に彼が怯んだのを見逃さなかった。剣を使用したのはより手軽だから、ただそれだけだ。

 

そして今学期も終了した。

 

 

***

 

 

 

 

学校の休暇の最中にもウィルとハーマイオニーの連絡は続いていた。だが不穏な空気を感じ取っているらしく、子供を学校に行かせない親もいるとのことだ。

 

 

《ハリーを逃がす為にある作戦を練ったわ。マッドアイが死んで、フレッドが傷を負ったわ》

 

《そうか。》

 

 

***

 

 

数ヶ月後

 

 

 

《RABを突き止めたわ。色々あって、奴の分霊箱を手に入れたわ。》

 

RABとはレギュラス・アークタルス・ブラック、ハリーの名付け親であるシリウスの弟だった。彼はすでに死んでおり、自分の家に使える“屋敷しもべ妖精”のクリーチャーに破壊するよう命じた。しかしクリーチャーはそれを成し得ることができなかったのだ。

 

そしてシリウスが死んで盗人が入り、ロケットの価値を知らず持っていった。許可を得ずに売っていた盗人を取り締まったアンブリッジはそのロケットを受け取り見逃した。

 

《魔法省に乗り込んだらしいな。》

 

ウィルは新聞でそれを知っていた。

 

 

 

***

 

 

数日後

 

 

 

 

 

《手がかりを求めてゴドリックの谷に行ってきたの。でも罠だった。》

 

《剣は手に入れたわ。なぜか現れたの。》

 

《ダンブルドアが仕込んだのかもな。》

 

《そしてスリザリンのロケットを破壊した》

 

《そうか。》

 

 

 

***

 

 

数日後

 

 

 

 

《ルーナが死喰い人に捕まったらしいわ》

 

ハリー達はダンブルドアの遺産である本に描かれた謎のマークを調べるべく、ルーナの父親であるゼノフィリウスの所へ行った。

 

すると彼はルーナを守る為にハリー達が来たと死喰い人へ通報した。

 

《おい!ルーナはどうなった!》

 

ウィルはそれを見て素早くペンを書きなぐった。だが少し時間を置くも返事がない。

 

それからどれほど待ってもその返事が返ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

〜ダームストラング魔法魔術学校〜

 

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

誰もいない暗い部屋で、ウィルは自分ではどうする事もできないと嘆いていた。

 

死喰い人と騎士団、どちらに付くべきか。またはどちらとも敵にまわすべきか。未だに自分は迷い続けている。

 

その答えが出る前に軽はずみにルーナを救いに行くわけにはいかない。理性ではそうわかっている。だが今すぐ行きたい衝動に駆られていた。

 

「冷静になれ!だいたい、どこにいるかもわからない!」

 

ウィルは自分にそう言い聞かせるように叫んだ。するとその瞬間に何者かが目の前に現れたのである。

 

赤いグリフィンドールのネクタイが印象的な“屋敷しもべ妖精”だ。

 

「お久しぶりです!ウィリアム様!」

 

かつてマルフォイ家に仕えていたドビーだ。彼と会うのはウィルがホグワーツから逃亡する時に手助けをして貰って以来だった。

 

 

「どうした?」

 

ウィルはいつもの調子を取り戻して尋ねる。

 

「ハリー・ポッターと友人達が捕まりました。」

 

「そうか・・・。」

 

突然連絡が途絶えた理由がわかった。死喰い人に捕まったのだ。ルーナ同様に激しく助けに向かいたい気持ちが湧き上がる。だが行ってはならない。

 

「今はマルフォイ家の地下牢に監禁されております。」

 

ウィルはその言葉を聞くとにやりと笑い、ドビーの手を握ると“姿くらまし”を行った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜マルフォイ家屋敷〜

 

 

 

 

ウィルは3年ぶりに実家に帰宅した。庭に生えた草木は荒れるように伸びており、不穏な空気を漂わせている。

 

彼は魔法で鍵を開ける。そして慣れたように扉を開けて中に入る。実家に帰ってきただけ、ノックなど必要ない。

 

 

 

 

 

リビングに入ると中に懐かしき家族の姿だ。3人ともだいぶやつれたように見える。特にルシウスの様子は酷かった。すごく精神を病んでおり、自分の知る姿とはかけ離れている。

 

そして彼らはウィルの姿を見ると激しく驚いた。

 

「なにを驚く必要がありますか?」

 

ウィルは笑顔を浮かべて歩み寄る。随分と物々しい空気だ。彼は気配を感じて地面を見るとハーマイオニーが生気のない瞳でこちらを見ている。腕がまくられ《穢れた血》と刻まれていた。

 

「よく私の前に顔を出せたな!」

 

右手に血のついたナイフを持っている女が叫んだ。黒髪に白く美しい肌、鋭い茶色の目には敵意が宿っている。

 

ベラトリックス・レストレンジだ。かつてウィルの母だった女、一瞬だけウィルは冷たい表情を彼女に向ける。そして彼は笑顔を浮かべた。

 

「ただ僕は里帰りをしにきただけですよ。叔母上。」

 

ウィルはにやにやと笑ってベラトリックスを煽るような表情だ。

 

彼女がウィルに杖を向けると、それに準じるようにナルシッサとドラコは杖を抜く。しかしドラコは杖の照準を合わせることができない。ルシウスはただ唖然とした様子で立ち尽くしているだけだ。

 

「父上、杖はどうされた?」

 

ウィルはルシウスの様子を見て言った。彼が自分に杖を向けなければ困る。あくまでも今は敵、ヴォルデモートの元に馳せ参じないということは彼に逆らうのと同義だからだ。

 

しかしウィルはヴォルデモートに気に入られてるため無礼な態度は許されるだろう、しかしマルフォイ家は違う。死喰い人としてそれ相応の態度を取らなければならない。

 

「闇の帝王に捧げたのさ、名誉なことだ。」

 

ベラトリックスはルシウスの代わりに答える

 

「僕を目の敵にしているようだ。だがここでは互いに全力を尽くせない。」

 

ウィルは一刻も早くベラトリックスをハーマイオニーから引き離すことを最優先に考えた。心の折れているルシウスは拷問をするような様子ではないし、ドラコはウィルの逆鱗に触れるようなことはしない。そもそもナルシッサは姉なしでは拷問の1つもできない。

 

ベラトリックスは思考を巡らせる。ハーマイオニーを拷問していた理由は自分の金庫にあるはずのグリフィンドールの剣を持っていたからだ。剣はまだいい、その同じ金庫に入っているはずの“分霊箱”の無事を確認したかったのである。

 

しかし自分に大恥をかかせた男が現れた。それだけではない、彼女の寵愛するご主人はその男の才能に注目している。自分が奴を討ち取れば己の方が優れていると証明できる

 

そして、そもそも自分が拷問する必要はない。ルシウス達に任せればいいのだ。他の連中は地下牢に閉じ込めてある。

 

「良い場所を知ってる。腕を取りな。」

 

 




流石に手抜きしすぎましたが、完結したら修正して参ります。
もちろんこれからが一番凄いです


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母親と息子①

30分ほど前に投稿したのですが、ミスに気づいたので削除しました。
後半を追加しただけの再投稿です。すみません。

最近忙しくてモチベーションが落ちてました。同じくすみません。


 

とても暗い何処かに2人は姿をあらわす。物音1つしない。ウィルにはここがどこか見当もつかなかった。

 

ベラトリックスは杖先に光を灯すと天井に飛ばす。すると電球のようにそれは周囲を照らした。

 

洞窟のように思えた。2人の立つ地面を取り囲むように暗い湖がある。まるで孤島だ。

 

 

「ここはどこだ?」

 

ウィルはそう尋ねる

 

「どこでもいいだろうよッ」

 

ベラトリックスはウィルに呪いを放った。だがウィルはそれをなんの戸惑いも、躊躇もなく防ぐと魔法を放ちベラトリックスを吹き飛ばした。

 

彼女は驚きながらもすぐに立ち上がるとより強力な呪いを使う。しかしそれをウィルはそれを軽々と捻り潰すと、再び彼女を吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

彼女は悟った。自分ではこの若者に勝てない。格が違うのだ。

 

トンビが鷹を産んだのではない

鷹が怪物(・・)を産んだのだ

 

 

 

それもそうだろう。去年、魔法部の神秘部にて戦った時はウィルは無数にある仕留め方の中で最も魔力の消費の少ない方法を選んだだけだ。なぜならダンブルドア、そしてヴォルデモートと戦う可能性があった為である。

 

彼女はヴォルデモートの興味が自分よりウィルに多く向いているのが気に入らないようだった。解決方法は1つ、この若者より自分の方が強いということを証明すればいい。

 

だがこの結末だ。こればかりは彼女の想定の範囲外だった。

 

だがそれは自然なことだ。ヴォルデモートは己の傲慢さゆえに嘘をつかない、最強の魔法使いである為に実力や才能を正確に見抜ける

 

つまりヴォルデモートは2人が戦えば、この結末を迎えると確信していた。

 

 

 

 

 

地面に倒れていたベラトリックスはふと周りの湖が揺れたような気がした。魚でもいたのだろうか、しかしそれはすぐに誤りだと気がついた。彼女は素早く立ち上がる。

 

 

どうやら水中の中で無数にゆらゆらと動くなにかがこちらに向かっている。

 

亡者(・・)か、なぜここに。」

 

そしてそれらは地上に姿をあらわす。まるで地面を這うようにこちらに向かってくる。小さく痩せ細った醜い怪物たちだ。

 

20、30、それ以上いるかもしれない。まるで虫がわくようにぞろぞろと現れる。自分達の立つ場所を取り囲んでいく。

 

 

「・・・。」

 

ベラトリックスはその数に圧倒されている。続々と水面から姿を見せる事から、数を数えることすらできない。

 

「なぁマダム、休戦しないか?」

 

ウィルはベラトリックスにそう提案する。2人にとって亡者の群れなど簡単に追い払えるだろう。しかし今は戦闘中だ。隙を見せる大きな呪文を使えば背中から“死の呪い”を撃たれる。

 

 

ウィルの申出を聞いたベラトリックスは彼に杖を向け呪文を放つ。

 

しかし呪文はウィルではなく、彼の目の前にいた亡者を切り裂いた。ウィルはにやりと笑うと視線をベラトリックスから目の前の亡者に向ける。

 

肝心なのは魔力をどれだけ消費せずに亡者をさばき、そして相手の警戒を怠らないかだ。

 

 

2人は次から次へとくる亡者を簡単に発動できる呪文を使って退ける。

 

何度も何度もそれを繰り返していくと突然、ウィルの首筋に水滴が垂れた。一瞬だけ気が緩むと、突然視界が激しく揺れる。

 

そして地面に思い切り叩きつけられた。背中に重く鈍い痛みを感じる。亡者が彼の背中にしがみついているではないか。どうやら天井から地上のウィルに向けて飛び降りたようだ

 

 

(壁を伝ったのか、迂闊だった。)

 

ウィルは亡者を振りほどいて立ち上がろうとするが、まるで稲妻のように鋭い痛みが全身にほとばしる。

 

どうやら身体のあちこちの骨が折れているらしい

 

頬に砂利が付着した彼は視線を前にやると絶好の機会とばかりに亡者達は一斉に自分に飛びかかろうとしている。

 

 

すると突然、目の前が激しく爆発した。ウィルは反射的に眼を瞑ってしまう。砂と風が前方から飛んでくるのを感じた。

 

そしてウィルが眼を開くと目の前は真っ黒に焼き焦げた亡者達の姿だ。大半は動かず水中に浮かんでおり、辛うじて生き残った個体は火傷を負い苦しんでいる。

 

「・・・ッッ!?」

 

彼が驚いていると背中に乗っていた亡者の悲鳴が聞こえると、同時に背中が軽くなる。

 

ウィルが素早く視線を後ろにやるとベラトリックスがすぐ後ろにいた。

 

彼は自分を信じられなかった。爆発呪文もウィルの背中に張り付いた亡者も蹴り飛ばしたのも彼女なのだ。

 

あの残忍なベラトリックス・レストレンジがまるで自分を庇うように動いた。彼女の表情を見ると戸惑っているようだ。

 

「・・・なぜ?」

 

ウィルはそうつぶやくと彼女は突然、悲鳴をあげて崩れ落ちた。彼女の脚に亡者が力の限り噛み付いていたのだ。

 

「“リクタスサンプラ(笑い続けよ)”」

 

噛み付いた亡者は突然笑い出し、ベラトリックスの脚から外れた。そしてウィルは彼女の背後で群れている亡者達へ杖を向ける

 

「“グライシアス(氷河よ)”」

 

一斉に亡者達は氷のように固まり動かなくなる。そしてその亡者達の脚を伝って地面も凍り始める。そしてそれが伝うように広がっていくと次々に生き残った亡者を氷結させる。

 

そしてそれは湖一面を凍らせてしまった。しかし水中までは浸透せず、中に潜んでいた亡者達は氷を砕こうとあちこちで殴り始める。氷が薄いためにすぐにひび割れ亡者達は再び這い出る。

 

ウィルはかろうじて立ち上がるとベラトリックスの表情を窺う。あの行動の真意を問いたかった。

 

しかし彼女は冷たく無表情でウィルの肩に優しく手を置いた。すると2人はその場から一瞬で消え去る。

 

 

 

 

 

 

そして2人はとても暗い墓地に姿を現した。丘の上で、薄暗く数多くの墓石が並んでいる。

 

ベラトリックスは素早く自分の杖先をウィルの首筋に突き立てた。

休戦は終わったのだ。亡者の手から逃れるための約束であり、連中が居なくなれば戦闘は再開される。

 

その瞬間、彼は自分の死を悟ると同時に目にも留まらぬ速さで自分の取るべき最適解の行動を導き、そして実行した。

 

自分の杖をベラトリックスの腹へ思い切り突き立てた。そしてウィルはそれをゆっくりと引き抜く。彼女はウィルの肩に血を吐くと、まるで力が抜けたかのように杖を下ろした。

 

そして彼女はゆっくりと倒れた。まるで墓石を背もたれにするかのようにベラトリックスは座った。

 

そして少しの沈黙と共にウィルは口を開く

 

「なぜだ・・・、なぜ敗北を選んだ?」

 

 

とうに痛みなど感じていなかった。彼女はウィルの首筋に杖を突き立てた時、勝負は決まっていた。彼が反撃をする間などなかったはずだ

 

彼女は呪文を撃つ気などなかった

ウィルが彼女の真意を問いかけてもなお、ベラトリックスは俯き、そして口から血を流すだけだった。

 

 

ウィルはふと彼女が背もたれにしている墓石に刻まれた名前が目にはいる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ウィリアム 〜ここに眠る〜】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィルはベラトリックス越しに自分の名前が墓石に刻まれているのを理解した。そして重い口を開いた。

 

「・・・あんた、覚えてるんだろ。」

 

ウィルはこの戦闘中、ずっと引っかかっていた。そしてこの墓を見てそれが確信に変わったのだ。

 

ベラトリックスと最初に神秘部で出会った時、“死の呪い”を連発したのだ。

 

だが彼女と洞窟で再戦した時、一度たりともそれを使わなかった。

 

そして一番不自然なのは自分が襲われた時、いち早く庇うように動いたことだ。

 

 

 

まるで母親(・・)のようだった。

 

 

 

「なんのことだい?」

 

しかしベラトリックスはその質問には答えないというような様子だ。

 

「・・・強力な魔法使いは“忘却術”を無効化することができる。」

 

ウィルはそうつぶやいた。ベラトリックスはヴォルデモートの腹心として数多くの手ほどきを受けている。間違いなく その強力な魔法使いの一人に数えられるだろう。

 

 

「さあね、これから話すのはただのひとり言さ。」

 

ベラトリックスはウィルの顔ではなく薄暗い空に視線を向け口を開く。

 

 

「昔、腹の中に子供がいてね。だが当時の私はあのお方の為に満足に働けず、いつも苛立っていた。」

 

ウィルは黙って彼女の言うことに耳を傾けた。どう考えても彼女が自分を息子だと認めているようにしか聞こえなかった。

 

「でもいつからか、気持ちがおかしくなっていった。こう・・・、研ぎ澄ました牙が丸くなるような感覚さ。」

 

ウィルは静かにつぶやいた。その答えを彼は知っている。

 

「・・・愛だ。」

 

 

ベラトリックスは軽くそれを鼻で笑った。しかし表情から見るに気持ちは複雑らしい。

 

そしてベラトリックスとウィルは長い沈黙が訪れる。彼女は出血を抑える様子もない。その場はただ冷たい風だけが漂っているだけだ

 

 

「一つだけ頼みがある、近くで顔を見せてくれないか?」

 

彼は小さく頷くとゆっくりと跪いた。するとベラトリックスは手のひらを前に伸ばす。だがウィルの頬には届かない。

 

彼は少し戸惑う。今まで優しく頬を触られた事がないからだった。

 

ウィルはゆっくりと顔を近づけると彼女の手に頬を置いた。彼女は力なく触れると、とても優しく微笑んだ。

 

「ウィリアム、良い名前だ。」

 

ベラトリックスはそう言うと腕の力は抜け、地面へ落ちた。

 

彼はしばらく彼女の生気のない顔を眺める。するとウィルの頬から銀色の雫がゆっくりと垂れる。

 

 

 

彼は何が何だかわからなかった

 

あの悪名高いベラトリックスが自分の母親で、自分には必要ないからと忘却術で切り捨てた。でも実はそれが効いておらず、彼女は自ら死を選んだのだ。

 

はっきり言って訳がわからない。短い期間で激しく状況が変わり過ぎたのだ。自分の今の感情に整理がつかない。なぜ自分が泣いているのか、なぜ彼女が死を受け入れたのか。その意味をまだ彼は理解できなかった。

 

でも、少なくとも1つだけわかった事がある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女が最後に見せた笑顔はとても美しかった

 




最終章の2部が終わり次第、解説を投稿します


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母親と息子②

 

 

〜ダームストラング魔法魔術学校〜

 

 

 

 

 

この2年間、校舎のある一室では毎日のように実戦訓練が行われている。これはリーダー格とされる生徒の働きかけにより開催された。悪名あるダームストラングの危険な生徒達をものの数ヶ月で制圧し、自分の支配下に置くほどの実力を持つ。そして恐怖による支配ではなく崇拝に近いほどの信頼により彼は頭目の座についた。

 

彼の訓練は知識や備えの為でなく、実戦を想定したものである。

 

 

家柄、性別、年齢、才能、人柄は問わず

参加資格はただ一つ

彼の思想に共感する者

 

 

 

生徒達は突如現れたカリスマ的な青年に激しく心酔したのだ。彼を知らぬ者はグリンデルバルドの再来だと主張する。だが闇の魔法使いとは違う。その気になれば絶対的な君主にもなれた。だが彼はそれを嫌う。

 

なぜなら彼の望みは別にあるからである。【この世を整える】、ただそれだけだ。

 

この世のありとあらゆる不公平や不条理を可能な限り整えるという思想、つまり限りなく実力主義の世界にすること。

 

もちろんそれはどこまで整えるのか、誰が判断するのかという問題点はある。彼はそれを自分が担うつもりだ。もちろんそれは己の傲慢だという自覚はあり、実力主義においてこの競争で敗れた者が貧しくなるという懸念もある。つまり弱者の救済を優先するのではなく、実力があるのに立場などにより正しく評価されないのが良くないと考えている。

 

 

彼の理想のもとには日に日に信仰者が集うようになる。学生だけでなく普通の魔法使い、犯罪者、魔法生物に至るまで彼に魅了される。いつか来るであろう戦争に備えてるのだ

 

その組織の名は“地平線への扉(ホライズン・ゲート)

リーダーや構成員、召使いに至るまで全ての者は限りなく地平線のように平等(水平)であり、メンバーでない人達の為に自分たちが平等な入口となる事を誓う。

 

 

 

 

その青年の名はウィリアム・マルフォイ

 

類まれな才能を持ち、驕ることなく己の意思を貫く者。彼の進む道が覇道となり信仰者が後に続く

 

 

 

 

 

 

 

そしてその彼は今、4人の魔法使いに取り囲まれ一斉に魔法を放たれる。模擬練習や演舞ではない、いつもの事だ。

 

現状、この国に彼に匹敵する者は誰もいないのではないかと囁かれている。よって彼に並ぶ才能がないのであれば非凡な才が束となるしかないのである。

 

 

彼の信仰者達は本気でウィリアムを倒すつもりで呪文を放つ。しかし誰も彼が敗れるとは思わない。

 

「“ステューピファイ(麻痺せよ)”!」

「“コンフリンゴ(爆発せよ)”!」

「“エクスペリアームズ(武器よ、去れ)”!」

「“ディフェンド(裂けよ)”」

 

様々な種類の閃光が四方からウィリアムに迫り来る。しかし彼は軽く杖を振ってとても滑らかな軌道を描く。

 

「“エクスペクト・パトローナム(守護霊、来たれ)”」

 

眩くも優しい銀色の光がまるで煙のようにウィルを覆い尽くす。その閃光を容易く受け止める。ほんの一つでさえ彼の肉体へ迫る事はない。

 

ウィルを覆う銀色の煙は纏まりをみせ、一つの巨大な守護霊となる。誇り高き狼だ。背丈は主人より大きく、全長も5mはあるだろう。

 

その狼は主人を守るように側に立ち、大きく吠えてみせる。彼はその実体化した守護霊を残したまま杖を振るう。

 

「“デパルソ(退け)”」

 

まるで剣で円を描くように振るうと取り囲んだ4人は一斉に遠くへ吹き飛ばされる。彼らは強く背中を打ち、痛みに悶える。

 

「次・・・。」

 

ウィルは周りで順番を待つ者達にそうつぶやいた。

 

その演習から完全に離れた場所で男女が壁にもたれかかりウィルを眺めていた。

 

「荒れてる。」

 

茶色のショートヘアに鋭い瞳をした女子生徒はそうつぶやいた。周りからはエディと呼ばれウィルの側近として認識されている。

 

「荒れてるな。」

 

そして同じく側近であり、彼女の隣に立つ男は同意する。

 

「まぁ無理もない。」

 

「どうすべきだ?私にはわからん。」

 

男は少しだけ考え、そして答えを出す。

 

「おそらく、自分探しの旅をする。そしてウィルのとるべき選択は面接(・・)だ。」

 

「は?面接?」

 

エディは言ってる意味がわからないというような表情を浮かべている。

 

「答えは必ずしも与えるべきじゃない。間違いがあるからこそ多くの選択肢を見つけ、葛藤するから成長できる。」

 

「・・・まぁその通りだろうな。」

 

エディは彼の言っている意味が腑に落ちなかったが、めんどくさかったので考えることをやめて同意しておいた。

 

彼女は左手にイギリスで発行されている日刊預言者新聞を持っている。かなり前に発行されたものだが、家に無理を言って入手した。

 

 

 

 

***

 

 

11月14日

 

ベラトリックス・レストレンジ、闇の帝王の失脚後に主人の居場所を探すために夫と弟、そしてバーテミウス・クラウチ・ジュニアと共にロングボトム夫妻に“磔の呪文”を用いて拷問し、廃人にした。やがてアズカバンに収容されたが脱獄に成功。恐らく従兄弟のシリウス・ブラックの手引きによるものと思われる。

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィルは相変わらず前に立つ生徒達を次から次へと仕留めていく中、考え事をしていた。

 

 

(どう探るべきか・・・。)

 

 

再び一斉に放たれた呪文を易々といなして杖を振るう。

 

「“ウィンガーディアム・レビオーサ”」

 

4人の杖を宙へ浮かせ、そして衝撃波を放って吹き飛ばす。

 

 

ウィルは次の相手を見つけるのではなく、その場から移動を始める。そして訓練を眺めていた2人の元へやってきた。

 

彼はエディの前で立ち止まると手のひらを差し出す。

 

「エディ、髪を一本くれ。」

 

「む?なぜだ。」

 

彼女は困惑した様子だ。それを見たとなりの男が口を挟む。

 

「ポリジュース薬だよ。」

 

「・・・?」

 

彼女は答えを出してもらってもなお意味がわからないらしい。男はすばやくエディの髪を抜きウィルに手渡した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜夜の闇横丁〜

 

 

 

 

 

 

ノクターン横丁、それはダイアゴン横丁の隣にある危険な商業地域だ。危険な人物や危険な商品が売られており、治安が悪さでも有名である。

 

そんな危険区域を若い魔女が一人で歩いていた。高価そうな黒い貴族服に身を包み、なんの迷いもなく進んでいる。

 

 

その彼女を見てノクターン横丁の住人は物珍しさにジロジロを視線をやり、ひそひそと話す。一部の住人は彼女が何者なのか知っているからだ。

 

すると二人組の男が彼女を見てせせら笑っていた。

 

「おい、見ろよ。あの家だ、あのイカれた(・・・・)一族。」

 

エディは一瞬にこめかみに筋を入れ、鷹のように鋭い目で貫く。そして獲物を狩るように目にも留まらぬ速さで杖を抜いて攻撃した。

 

一人を即座に倒すと、もう一人の男に詰め寄り喉元に杖を突きつける。

 

「おいおい待てよ・・・、悪かったって」

 

彼は慌てながら両手をあげる。その様子を見て彼女はニヤリと笑う。

 

「話が早くて助かるよ、だがその侮辱は聞き流せん。」

 

静かに怒りを秘めた表情を浮かべ口を開く

 

「1つ聞かせろ。14年前にはあったレストレンジ家の場所を知りたい。」

 

「知らねぇ、本当だ。」

 

「では知っている者は?」

 

男は覚えがあるようでうなずく。そして彼は自分が案内すると言った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数分後

 

 

 

 

 

 

男の案内に着いて行くとボロボロの酒屋にたどり着いた。中に入ると数人の客しかいない

 

 

男は店のカウンターで酒を嗜んでいる男の背中を指差した。店の客を見比べると綺麗な服を身に纏っているように見える。

 

「あの方なら確実に知ってる。」

 

「誰だ?」

 

彼女の言葉に彼は口を開く。

 

「ロドルファス・レストレンジ、あの女の旦那だ。」

 

 



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息子と母親③



完結までちょっと巻いていくので手抜きですみません
解説と後日修正します


 

 

ロドルファス・レストレンジ・・・

 

その名前を彼女は知っている。ベラトリックス・レストレンジの夫だった男だ。つまりウィルの父親(・・)ということになる。

 

バーのカウンターへ迷わず進む。そして彼女はロドルファスの背後に立つと声をかける。

 

「御仁、少々話がある。」

 

彼女はなんの躊躇もなく声をかける。しかし彼は振り返ることなく返事をする。

 

「おい嬢ちゃん。ここらは一人で出歩くものじゃないぜ。」

 

声から若い女だと知った彼はそう言う

 

「ここらで私より強い奴などいない。」

 

傲慢な彼女の態度を不審に思い振り返ると彼はとても驚いた様子だ。

 

「お前を知ってるぞ、エディアナ(・・・・・)・マクミラン。」

 

エディは顔色ひとつ変えることない

 

「ダームストラングの暴君、だがマルフォイ家の長男に叩きのめされたと聞いたぞ。」

 

彼は本人を前にしても淡々と言い放つ。

 

「今日はマルフォイ家ではなく、レストレンジ家の嫡男について話がある。」

 

その言葉を聞いた瞬間にロドルファスは素早く杖をエディに向ける。しかし彼女は表情ひとつ崩さず立ち続けている。

 

それを見た他の客は酒と荷物を置いてその場から一斉に逃げ出した。死喰い人の一人がいきなり杖を抜いたからだ。流れ弾に巻き込まれる可能性やロドルファスが返り討ちにあった場合に自分達が殺されるかもしれない。

 

 

しばらくの沈黙ののちに彼は杖を下ろして先ほどまで座っていた椅子に腰を下ろす。

 

「いい客払いになった、まぁ座れや。」

 

彼はバーのマスターをちらりと見て、こいつはダチだから問題ないと言った。

 

「お前、そいつのなんだ?」

 

ロドルファスは机の上にあった飲みかけのバーボンを一飲みするとそう聞いた。彼女は彼の隣に座ると、突然杖を抜いた。

 

「俺だよ。本来、ウィリアム・レストレンジとなるはずの男だ。」

 

エディが杖を振るうと一瞬でウィルの顔に変化する。まるでポリジュース薬が霧状になって空を舞う。

 

「そうか。」

 

彼はなんの迷いもなく平然と呟いた。まるで他人からどうでもいい事を報告をされたかのような反応だ。

 

ウィルはあまりの呆気ない反応に戸惑いすら覚えた。

 

「疑わないのか?」

 

「ベラによく似てる。」

 

ウィルはたしかにそう思った。ただでさえ似た系統の顔をしていて更に彼は今、女物の服を着ている。だが初めて会ったロドルファスは自分と似てないように感じる

 

「俺は貴方の妻を殺した。」

 

「アイツが選んだのならそれでいい。」

 

彼はなにも変わらない。

 

「俺達は知ってた。ウチの息子が生きてるってのはな。」

 

「・・・。」

 

ウィルはその言葉を聞いて言葉を失う。別れてから再会した事がないのに両親のその根拠はどこから得たのだろうと思った。

 

「俺たちは純血の一族。愛なんてないのさ。後継が産まれればそれでいい。」

 

ロドルファスは淡々とそう言い放った。ウィルはその言葉に少し衝撃を感じる。マルフォイ家の状況とはあまりに違うからだ。血筋を守るための政略的な婚約とはいえ、ルシウスとナルシッサの間にはたしかに愛がある。

 

「つまり、お前は俺の子とは限らねえってことだ。」

 

「・・・そうか。」

 

もし自分の父親が目の前のロドルファスでないとするならば彼はなんとなく正しいであろう答えを出していた。自分のこの才能がどこからやってきたのか、ベラトリックスはたしかに素晴らしい才能の魔女だ。しかし自分と比べたら見劣りする。なぜ“闇の帝王”が何度も、己の思い通りにならない、敵対する恐れのある自分を見逃していたのか・・・

 

だが確証も証拠もない。あくまでもほんの小さな可能性に過ぎない、調べなければ何も知らずに済む。ロドルファスもそういう考えらしい。

 

「いいか?立場をはっきりするぞ。俺はあの御方の目をかけてるマルフォイ家の長男と話してるだけだ。」

 

あくまでも自分は親子ではなく、互いの立場を尊重すると言った。

 

「それで俺に何の用だ?」

 

「・・・14年前のロングボトム家の事件について教えてくれ。」

 

ウィルは彼にそう聞いた。ロドルファスが親子として語ることはないと宣言したために直接聞くことはできない。ならばせめて手がかりとなる場所を聞くまでだ。

 

「いいだろう。ただし死喰い人になれ。」

 

「断る。」

 

「じゃナシだ。」

 

2人の会話は終わりを告げた。ウィルはロドルファスしかレストレンジ家の場所を知らないわけではないので、早々に立ち上がって酒場を後にしようとする。

 

そして酒場の扉に近づこうとした時、後ろからロドルファスの声が聞こえてきた。

 

「俺の昔の家は燃えちまってな、それを知ってるのは俺とあと1匹だけだ。」

 

彼はこちらに視線をやることなくそう言い放つ。ウィルは自分に興味がない様子だったロドルファスから、彼なりの優しさを感じた。

 

 

「そうか、災難だったな。」

 

少し笑みを浮かべたウィルはポケットの中に忍ばせていた小瓶の中の薬品を飲む。するとまたエディの顔に変身して扉から外へ出た

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜夜の闇横丁〜

 

 

 

 

 

 

 

彼女、いや彼はノクターン横丁をとても懐かしみながら歩いていた。マルフォイ家に迎え入れてもらうまで彼は自由にこの街を散策していたのだ。知っている店に覚えのある傷、シミに至るまで記憶してあった。時折かつてとは異なる部分を見つけては彼は微笑む。

 

 

そして彼は、彼の生まれ育った孤児院へたどり着いた。傷だらけでいつ崩壊するかもしれぬ壁に手入れのされなくて雑草が生い茂る花壇、真っ黒な扉だけはなぜか気品がある。

 

ウィルは扉を開けて中に入ると小汚い廊下が目に入る。ゴミや泥汚れ、食べカスなどを掃除しなかった為に床にこびりついている。独特な匂いは鼻を歪ませるもすぐに慣れる。壁に刻まれた落書きは以前より増えており、もう書く場所がない。

 

やる気のない職員は退屈そうな視線をやるだけでウィルに声をかけない。ここの子供が何人減ろうとも別に気にはしない、むしろ減らしてくれた方が部屋は広くなり仕事も減る。

 

そして広間に入ると沢山の子供達が大暴れしている。遊んでいる子が多いもののウィルの姿を見た瞬間に遊びをぴたりとやめる。そして彼らは恐ろしいほどに冷たく鋭く睨みつけた、ウィルは心が苦しくなる。

 

精一杯の抵抗である。ここの孤児院では稀に大人の魔法使いがやってきて引き取るのだ。だが多くの場合はそこに輝かしい未来などない。虐待などはむしろ幸せなくらいだ。呪いや薬の実験台にされたり、魔法薬を精製する上で必要な材料にされたりする。

 

だから自分達を引き取るべきでないと主張する為に彼らは精一杯威嚇して睨みつけるのだ

 

そしてホグワーツを卒業するまで引き取り手が現れなければ職につき、これまでの学費や教材費として借りた金を返さなければならなくなる。

 

それもまた恵まれている、一番不遇なのはホグワーツから魔法の才を認められなかった場合だ。ここは孤児院、18歳になれば強制的に追い出される。そこで待っているのは憂さ晴らしの日々である。

 

孤児院は子供のヒエラルキーが存在する。一番上は両親が純血の一族であるもの、次はホグワーツで学ぶもの、そして血筋のわからないもの、最底辺に位置するのがスクイブ。

 

最下層の彼らは戸籍上の理由からマグル扱いで職につけず、スクイブとして肉体労働に従事するしかない。

 

だが肉体労働の大半は屋敷しもべ妖精が請け負う為に需要は少ない。

 

彼らが取るべき最も賢い選択肢は自分の手足を切り落とすのだ。つまり人々の同情を引き、路上で物乞いをするしかない。

 

 

 

(やはり・・・なにも変わらないのか)

 

 

ウィルはこの孤児院には懐かしさの一つも感じない。不愉快なだけだった。この孤児院、そして無関心な者、己が恵まれていると知らずに無駄に過ごす者

 

 

(気に入らん)

 

 

ウィルは杖を抜き床に向けると呪文を唱えた

 

「“スコージファイ(清めよ)”」

 

ウィルの魔法がかかり床はちりひとつどころか長年こびりついた汚れをも取り除く

 

 

そして彼は床に落ちていた人形を見つける。この人形をマグルに見たてて踏みつけて遊ぶのだ。ウィルもした覚えがある。

 

 

彼はその人形に変身術をかけて長机にしてみせる。そして杖を振るうと一瞬で豪華な食事が並ぶ。

 

子供達は恐る恐るウィルの様子を窺いながら机に近づき、そして慎重に食べ物を口に入れる。無事なことを確認すると彼らはそれを奪い合うように勢いよく食べ始める。

 

 

(いつも俺は食いっぱぐれてたな。)

 

 

数少ない食料は奪い合う。腐りかけやレストランやパプで出た客の残飯や余り物が食卓ではなく床に並ぶ。それらは全員を満足させるだけの量はなく奪い合いなのだ。

 

 

端っこで気配を殺すように座っている女の子に気がついた。肌が黒く汚れ、服もボロボロで継ぎ接ぎだらけだ。

 

ウィルはかつての自分の姿と重ねると魔法でそれらを肌を清めてやる。しかし服はそのままだ。なぜなら綺麗になれば奪われて金に換えられてしまうからだ。

 

彼はポケットから好物のフィナンシェを取り出して女の子にこっそりと渡す。彼女は笑顔になりウィルを抱きしめる。彼は優しく頭を撫でてやるが女の子はウィルをぎゅっと離さない。自分をここから連れ出して欲しいと思ってるらしい。

 

だが彼にそれを優しく拒んだ。彼女は言葉を発せずに悲しそうな表情だけ浮かべる

 

ウィルは心を激しく痛めた。子供の時に見た景色と今見る景色は同じなはずなのに感じ方が全く違う。

 

「君だけ(・・)を特別扱いにはできない。」

 

ウィルは彼女を助け出してしまうと他の子供達も助けなければならない義務が生じる。そしてもちろん全員を救うことはできない。

 

「だが待っててくれ。いつか必ず俺は君達の暮らしを明るくしてみせる。」

 

彼は自分の理想を果たすと、より一層心に誓った。限りなく恵まれた自分が恵まれない子供達を救う義務があると決めていた。

 

 

ウィルはその子をなだめ、職員の元へ向かう

 

「17年前にここに来たウィリアムの記録が見たい。」

 

彼の言葉に職員は怠そうな顔をして小さな机の引き出しに視線をやる。そしてそれを開けるとバインダーがあり、それを一枚ずつめくっていく。そしてようやくたどりつく

 

 

 

***

 

 

1980年11月15日

 

 

生後数ヶ月と思われる男の子が玄関先に置かれていた。焦げ臭い匂いのする毛布に包まれており、中に黒い杖、そしてウィリアムと書かれた紙のみが入っていた。

 

 

***

 



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揺れる心

3月中に終わらせたかったのにできなかった
更新頻度は下がるとは思いますが簡潔だけは絶対にさせます
繋ぎなので退屈ですが最終回までお付き合いください
おそらく大半の人の想像を超える結末だと
作者は勝手に思ってます


***

 

 

 

1980年11月15日

 

 

生後数ヶ月と思われる男の子が玄関先に置かれていた。焦げ臭い匂いのする毛布に包まれており、中に黒い杖、そしてウィリアムと書かれた紙のみが入っていた。

 

***

 

 

 

 

まずは疑問だ。

“誰の手でここへ来た”のか

“なぜ自分の存在を消せた”のか

 

 

日付から自分の両親が捕まってからここに来たのがわかる。つまり協力者がいたのだ。

 

単純に考えれば死喰い人だろう。ノクターン横丁の孤児院は犯罪者や浮浪者などの子供が多い。

 

だがそれは違う。

 

自分の記録の中の“焦げ臭い”という単語、そしてロドルファスの燃えたという発言が重なる。しかし彼の言葉は不自然だった。

 

燃えたという原因を知るのは自分とあと“1匹”、つまり人間ではない生き物だ。

 

ベラトリックス家はマルフォイ家と同じ聖28族の一つに数えられる名家の一つだ。マルフォイ家の持つものはだいたい持ち合わせている。その中で生き物といえば一種しかない

 

“屋敷しもべ妖精”だ

 

 

 

 

 

 

ウィルは小さく口を開く

 

「ドビー。」

 

彼がそう言ったほんの数秒で目の前の空間が歪み、元へ戻るとドビーが現れた。

 

彼は赤と黄色のネクタイを首に締めており、ヘンテコな靴も履いている。

 

「お呼びですかウィル」

 

ドビーはキーキーと甲高い声で叫ぶように言った。ウィルは笑顔でお礼を述べて頼みごとをする。

 

「隠れ家に移動してくれ。」

 

 

ドビーはウィルの手を掴むとそのまま妖精版“姿くらまし”を使ってその場から消え去る

 

彼はドビー、かつてマルフォイ家に仕えていた“屋敷しもべ妖精”である。家では劣悪な環境で働かさせられてたがウィルの手により解放され、友人となったのだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜貝殻の家 〜

 

 

 

 

 

 

 

海沿いの崖の上の家だ。どこまでも美しい浜辺が続き、波風は玄関に並べられた魔除けの貝殻を揺らす。

 

ここはロンの兄であるビル・ウィーズリー、そしてその妻のフラー・デラクールが住んでいる家だ。

 

「こちらです!」

 

ドビーはウィルを扉に誘導する。そして彼が家の中に入るとその場に居合わせた人達は驚きを隠せない様子だ。

 

家主であるビルは杖を抜いてウィルへ向ける

 

「お前、ウィリアムだな?」

 

彼はウィルの起こした行動や立場、マルフォイ家の嫡男である事を知っている。彼の真意を聞くまでもなく、ここで仕留めておくべきだと考えた。絶好の機会だ。まだ奴は杖を抜いていない。

 

 

しかしそれは敵わなかった。ひとりの女性がまるで稲妻のように間に入ったからだ。彼女はまるで食らいつくように激しく抱きしめる

 

ウィルは魅力的な笑顔を浮かべて彼女の頭を優しく撫でてやる。

 

「やぁ、無事で良かった。」

 

彼女は離れウィルにお礼を言った。そして今度はハリーが口を開く。

 

「その、どうなった?」

 

彼が知るのはウィルとその母親であるベラトリックスが姿現しで消えたことだけだ。ハリーは2年前の神秘部の戦いにおいて2人の関係を知っている。

 

「殺したよ。」

 

ウィルはなんとも言えない、寂しそうな顔で答える。

 

「そうか・・・。」

 

ハリーはどう答えたらいいのかわからずにつぶやいた。

 

「その、僕達はベラトリックスの金庫に入りたいんだ。だから助けてくれないか?」

 

ハリーはウィルに本題を伝える。そして話を聞いてみると、彼らは分霊箱を探す旅に出た時になぜかグリフィンドールの剣が自分達の前に現れたのだ。それは分霊箱を破壊することのできるもので、彼らはそれとあと1つしか知らない。

 

そしてグリフィンドールの剣はベラトリックスの金庫の中に仕舞われていた。しかしそれは偽物であると、同じく捕まっていたゴブリンから聞いた。なのでハリー達がグリフィンドールの剣を持っていたのを見て慌てて拷問にかかったらしい。その様子から見て分霊箱の1つがベラトリックスの金庫にあると考えたのだ。

 

 

「勘違いするな、俺を味方だとは思わないほうがいい。俺はあくまでも中立だ。」

 

ウィルは案の定、拒否をする。あくまでも自分はどちらの肩を持つつもりはない。たまたま実家に里帰りをしたらベラトリックスに絡まれて殺しただけだ。

 

「おい!アイツを放っておけば多くの人が死ぬんだぞ!」

 

ロンは感情的にウィルに食ってかかる。それもそうだ。2人よりずっと長く魔法界で育った彼にはどれほど家名や血筋についてよく知ってる。

 

「価値観の相違だ。違えば友じゃないのか?」

 

昔からお互いに折り合いが悪く、よく小競り合いを起こしてきた。もちろん互いの事を憎んでいるわけではない、ただ互いの家を背負う者として得た価値観が異なるだけだ。

 

「まだどちらにも干渉するつもりはない。」

 

ウィルは本心でそう言っている。まだ彼は正しい選択肢を選べない。生きれば生きるほど守りたいものは増え、探れば探るほどに彼は双方の境界線の上に立つ。

 

「彼とは適度な距離を保つのが一番よ。」

 

ハーマイオニーはそう言った。彼とは1番の友人で理解者である。意志を貫く彼を説得することなどできない。お互いにお互いのコントロールはできないし、するつもりもない。互いが対等な立場であるためだ。

 

でも彼女はウィルと過ごした日々を信じている。いつか必ず自分達を助けてくれる。自分の知るウィルはそういう男だ。

 

だが最近の彼は少し違う。歳を重ねるごとにだんだんと変わったのだ。これが成長なのかもしれない。昔から大人びていた彼が本当の大人になったのだろう。

 

「1つ言っておこう。俺には“闇の帝王”とダンブルドア、どちらにも勝算がある。」

 

2人の実力には追いついていないと自覚しながらもウィルは本気でそう信じている。彼の戦闘スタイルは狡猾に思考を練り、無数に広げた策を用いること。同じ才能でも実力は違う、それを補うための戦い方だ。

 

ダンブルドアは決着をつける前に死んだが、トムとはまだ手をとるか拒むかは決まっていない。より正しい答えだと確信するほどのきっかけがないのだ。

 

「俺は条件さえ揃えば2人を殺して俺がこの世の王になれる。」

 

ウィルはそういうと窓から外を見る、すると砂浜でぼんやり海を眺めている女の子に目をやる。

 

よく知ってるブロンドの変わった子だ。

 

 

 

 

ウィルはすぐに外へ出て砂浜へ降りる

 

「やぁ。」

 

「久しぶりだね、元気だった?」

 

ウィルは状況に流されないマイペースなルーナに自然と笑顔が溢れる。

 

「また迷ってる。」

 

ルーナは抑揚なくウィルに言う。やはり彼女に隠し事はできない。

 

「俺は養子でね。マルフォイ家とは縁もゆかりもない。」

 

「・・・。」

 

相変わらずルーナは聞いてるのか聞いてないのかわからない。

 

「本当の母親に会った。彼女は悪人でね。数多くの人を殺してる。それは俺には関係ない。母の罪だ。でも俺の友人の・・・

 

ウィルはそう言いかけると口を紡いでしまう。喉でつかえて言葉が出てこないのだ。両方の心の奥から熱いものがこみあげる。

 

自分はいい。問題はその友人の方だ。もし自分の母がベラトリックスだと知ったら彼はどう思うだろう。ずっと両親を廃人にした女の息子と知らずに仲良くしてたのだ。

 

誰も悪くない、だからこそ痛む。責任を取れないから償う事ができない。行き場のない想いをどうすればいいのだろう。

 

「言いたくないなら言わなくていいよ。無理に聞くのが友達じゃないから。話したくなるまで待ってあげる。」

 

ウィルはその言葉に胸を打たれた。昔からだ。なぜか自分は彼女には勝てないなにかがある。

 

 

 

久しぶりに会ったからだろうか、それとも矢継ぎ早に事件が起きるからか。いずれにせよ、心が緩んでしまっている。ずっと複雑にぐるぐると巡って心の中に収まらない。

 

「・・・がとう。」

 

ウィルは声にならずルーナにつぶやく

 




最近の投稿を読み返して自分でもワクワクしないのでエッセーの真似事です。品がないので興味ない方はここで止めてください























今月で学生が終わるのでウィルのモデル(プロローグの人、イケメン)と呑みに行きました。その時に最後だからって聞きたいことなんでも聞いていいよって言われました。彼は秘密主義なので容赦なく色々聞きました。


今、彼は彼女持ちでありながら彼女“公認”の○○○が5人いるらしいです。僕がどうやったらできるのかと聞いたところ少し考えてこう言いました。

『カブトムシって一本の木のミツを皆で吸うよね?喧嘩もしないで吸いたくなれば吸って、飽きたらどっかに行く。それと同じだよ。たまたま木(友人)のヌシ(彼女)が許してるからできるんだけど』


たしかに衝撃と共に確かにそうだと思いました。(ちなみに彼は自分がクズだと自覚してます。)

彼は自分とは住む世界が違うくらいの人間です。コミュ力お化けで恐ろしいくらい友達がいます。

同世代はさることながら、大人に混じって将棋や麻雀したり、近所の子供と公園でサッカーしてるような奴です。誰にでも親切で漢気溢れるような性格です。

正直、そこらへんの男の6人分以上の価値はあります。なんだったらもっといてもいいんじゃね?って思いました。

でもふと作者は思いました。彼という木の横に生えてる僕という木にはカブトムシどころかハエの1匹も止まってません。つまり彼が悪いのではなく、彼の6分の1以下の価値しかない僕が悪いのだと思わざるを得ませんでした。


以上、美しい木の横に生えてる雑草がお送りしました



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ルーツ


遅くなって申し訳ないです。
少しずつ書き貯めて投稿しました
文章が雑なのは大目にみてください

いずれ修正します


 

 

数日後

 

 

 

 

 

 

 

「君の前の主人はどこの家だい?」

 

ウィルは椅子に座り、あらかじめ提出された書類に目を通す。彼は笑顔で受験生を見つめている。

 

その受験生は“屋敷しもべ妖精”、魔法使いの家で魔法使いに仕える事が至高であるという本能がある。そして彼らはより由緒正しき家で働く事を望む。

 

「エリューはコナー家という混血の家で仕えてました!」

 

「そうかい、君の得意なことはなにかな?」

 

「お料理でございます!」

 

そのまま温和な空気で面接は続く、そして彼は最後にとある質問をする。

 

「昔、レストレンジ家にいた“屋敷しもべ妖精”を探していてね。知らないかい?」

 

 

「エリューは知りません。」

 

そう聞かれたしもべ妖精は正直に答える。彼はその答えを聞き終えると面接は終わりだと言い放った。

 

 

 

 

「マリックは存じません。」

 

「エミーは知りません!」

 

「シモンは聞いた事がないです!」

 

「マリーニは・・・。」

 

「カインズは・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

あれから何人も選考を続けるが彼の望む答えはなに1つ得られない。

 

それもそうだ。まるで何もない暗い洞窟の中から小さな糸を掴むようなもののである。しかも彼はここに糸があるとも知らずに探すしかなかった。

 

だが彼はその答えに辿り着くこととなる。

 

 

「知っておりますよ!あの変わり者でございますね!」

 

 

ウィルは一瞬だけにやりと笑う。ようやく自分のルーツを探る手掛かりを得た。

 

 

「その妖精の名前は?」

 

「セッケにございます。」

 

「今はどこに?」

 

「では手を掴んでくださいませ。」

 

彼はその手を掴むとその場から消え去った。

 

 

そして彼らはとても静かな暗い森にたどり着いた。ほんの少し木漏れ日の指す木製の家だ。まるで小人が住んでいるかのような大きさである。壁には赤や青のキノコ、苔が生えており怪しい雰囲気を醸し出している。

 

 

ウィルは今までに感じたことがないほど心が踊っている。この中にかつての自分を知るかもしれない者がいるのだ。

 

しかしウィルは冷静に優しい笑顔を浮かべ小さな案内人に視線をやる。

 

「これは試験なんだよ。もちろん主人の秘密を守るのも仕事だ。あとはわかるね?」

 

彼に目の前の部外者の同行を許す気はないらしい。

 

「はい、一切口外しません!」

 

「よろしい、結果は手紙で送るよ。」

 

ウィルは笑顔を浮かべて別れを告げる。すると案内人は小さく返事をしてその場から消え去った。結果はやる前から全員同じ不採用である。

 

 

 

そしてウィルは小さな一人ぼっちになる。目の前の小さな小屋を前に彼は大きく深呼吸をする。そして小人の住んでいるかのような扉の前に腰をかがめてノックをしようとした瞬間、それは自然と開いた

 

 

 

 

 

 

丸眼鏡をかけ、ぼろぼろの黒いスカーフを身につけた小太りの白い屋敷しもべ妖精だ。彼は持っていた棍棒を地面に落とす。鈍い音が2人の空間を響かせる。

 

とても静かだ。木々を間を風が通り抜ける音のみが聞こえる

 

 

 

 

「おぉ・・・なんと」

 

その風変わりな しもべ妖精は身体を静かに震わせ、そして2つの大きな瞳から水滴が溢れ出す。

 

 

「間違いない、あのお方(・・・・)の子だ。」

 

彼が腕を振るうと家は一瞬で肥大する。普通の人間の家のようなサイズとなった。

 

 

「さぁ此方へ、ウィリアム様。」

 

彼は涙を綺麗なハンカチで拭き、そして中へ招き入れる。

 

中は整頓されたあまりにも普通の家だ。風変わりな外観は人を寄せ付けぬ為のカモフラージュなのだと理解する。

 

「私はセッケ、老いぼれに御座います。」

 

2人は椅子に腰掛ける。そして彼はすぐに本題に入る。

 

「そうか、セッケ。聞かせてくれ。」

 

そしてウィルはずっと知りたかった過去を彼に問いかける。

 

 

「俺は母に、ベラトリックス・レストレンジに愛されていたのか?」

 

彼はずっと知りたかった。そして腑に落ちなかったのだ。

 

小さい頃、孤児院でずっと夢見ていた。いつか本当の両親が迎えに来て幸せに過ごせる。

 

だがいつからかそれは幻想だと思い至る。そして彼はマルフォイ家に引き取られ家族、そして友の愛を得た。

 

完全に本当の両親など忘れていたころ、自分に必要などなくなった時にふらりと現れた。

 

しかもその親は残忍で冷酷な殺人鬼だった。闇の帝王の配下として暗躍し、殺戮や拷問の限りを尽くして投獄されていたのだ

 

そして主人の復活と共に、脱獄を経てこの世に舞い戻った。

 

彼らは一見、自分の事を愛していないようだった。だが深く、そして深く知るたびにわからなくなった。

 

その真実を知るのはただ2人、そしてウィルは目の前の彼からしか得られぬ事だ。

 

 

「・・・とても複雑にございます。」

 

セッケは沈黙と共にそう答えた。

 

「俺は両親に捨てられ、忘れられていた。そして母には殺されかけた。」

 

セッケはただ静かに聞いていた

 

「さようでございますか、しかし確実に言えることは1つ・・・。いえ、それよりもお見せした方がよろしいな。」

 

セッケは自分の側頭部を指で触れると、くるくると青い記憶を引き出した。

 

「あれは秋の半ばの暗い夜でしたかな。貴方の全てをご覧に入れましょう。」

 

青い光を指に纏わせるとセッケはウィルの頭へ優しく触れる。しかしそれとは裏腹に一瞬だけ鋭い痛みが襲いかかった。彼は苦悶の表情を浮かべるも、叫び声は漏らすことはない

 

 

脳内が何かがぐるりとめぐるようだった

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜18年前〜

 

 

 

 

 

 

 

彼はとても広い豪華な部屋の中にいた。価値のありそうな歴史ある家具、シミひとつない絨毯やカーテン、一目で富裕層の屋敷の一室だとわかる。

 

 

「厄介なのがいるぞ、ムーディだ。」

 

数日前に出会ったロドルファス・レストレンジだ。以前より若々しく力強いように見える。若い時を見ても自分とはあまり似ていないように感じる

 

「ふん!奴の命日にするだけさ。」

 

一目見て彼は驚いた。あまりにも美しい女性だと思ったからだ。艶のある黒髪に雪のように白く美しい肌をしている。

 

ただ茶色の鋭い瞳だけは彼の知るのと同じように感じる。アズカバンに送られる前は血気盛んだったようだ。そして彼女はアズカバンでの15年間で老いて、病んで、やつれたことで美しさを失ったように見える。

 

彼は視線をふと床に向けると日刊預言者新聞のタイトルが目に入る。

 

 

《ロングボトム夫婦、廃人にされる》

 

 

この夫婦は彼の友人であるネビル・ロングボトムの両親の事だ。現在でも聖マンゴ魔法疾患障害病院で植物状態となって過ごしている。治る見込みもなく、自分達のただ一人の息子の事を認識する事すらできない。

 

そうさせたのは他ならぬウィルの両親のベラトリックスとロドルファス達であった。

 

 

“闇の帝王”がハリー・ポッターによって打ち破られ姿を消した為、配下の者達は主人の行方を捜し続けていた。ベラトリックスらは情報を集めるために敵対組織である不死鳥の騎士団に所属するロングボトム夫妻を拷問にかけたのである。

 

 

 

そしてその罪を犯した事、死喰い人である事から現在彼らは闇祓いに屋敷を囲まれているのであった。

 

 

 

 

「お嬢様・・・」

 

18年前のセッケである。今の風変わりな服装ではなく、ボロボロのシーツを身にまとっている。彼の手には高級なシルクに身を包まれた赤子がいる。

 

ベラトリックスは膝を曲げて腰を落とすと、とても魅力的な笑顔をみせてウィルの頬に優しく手を添える。そして名残惜しそうな表情を浮かべながらゆっくりと立ち上がる。

 

 

 

「セッケ、お前に仕事を与える。ウィルを安全な場所へ。」

 

そして彼女は身につけていた自由に黒いスカーフを渡した。

 

「そしてお前にこれを貸す。任務を果たしたらお前に与える。」

 

つまりは任務を終えればセッケを自由にするということを意味している。彼女はそう言うと屋敷に火を放った。息子がいた痕跡を消すためだ。

 

放たれた炎は激しく燃え盛る。そして高価な家具は焼き焦げて煙が充満していく。

 

するとその瞬間に壁が爆発するように砕ける。破片が飛び散る寸前にセッケはウィルを抱えてベッドの下に素早く隠れた。この狭い部屋で魔法を使えば魔力の痕跡を残して自分達がここに潜んでいると侵入者に悟られてしまうからだ。

 

 

「おやおや、ノックもしないのかい?」

 

煙の中から5.6名の人影が現れる。しかしベラトリックスは現在と同じように不敵に妖艶にニヤニヤと笑いながら闇祓い達をあざ笑う

 

「燃えたドアじゃノックもできん。」

 

地面から肋ほどの長さのある杖を持つ男がそう言い返す。まだ鼻と片目は欠けていない普通の容姿だ、マッド・アイ・ムーディ。闇の魔法使いを数多く捕らえて、アズカバンに収監された囚人の半分を埋めたという伝説がある

 

 

 

ベラトリックスは先手を打ち、素早く呪文を放つと闇祓いの一人を仕留めてみせる。その様子をベッドの下で見ていたウィルは母の奮闘を見てキャッキャとご機嫌になる。

 

だが攻撃の瞬間だけは隙が出て来る。ベラトリックスはムーディに武装解除を打たれて杖を弾かれる。

 

その黒い杖はコロコロと床を転がる。そして2人のいるベッドの下へとやってきてウィルの目の前で止まった。

 

妻が杖を奪われたのを見てカバーしようとムーディを狙ったロドルファスだったが、闇祓いの一人の武装解除によって杖を奪われてしまう。

 

「悪名高いレストレンジと言えども数には勝てん。“インカーセラス(縛れ)”。」

 

2人は丸腰の状態でロープにより拘束されて動けなくなる。彼らにできることはただ侵入者を睨みつけることだけだった。

 

連行される2人にウィルは表情を歪めて泣き出しそうになる。しかしそれを察したセッケはウィルの口を塞いだ。声にならない音がベッドの下から微かに漏れる。しかし周囲が焼き落ちる音にかき消されて闇祓い達には届かない。

 

(耐えるのですよ、おぼっちゃま。このセッケめも耐えております。)

 

セッケはただ小さな口をせき止めて涙を堪えるしかなかった。そして闇祓い達が2人を連れ去るのを確認したセッケはウィルの口を黒いスカーフで覆って闇祓いに開けられた壁の反対側への出口へと走り出す。火の手の来ない方へとセッケは進み続けた。

 

「ウィルぼっちゃま!貴方様は愛されております。世間がどうお2人を思われようともその事実は変わりませぬ!」

 

セッケとウィルは煙を肺に入れてむせながらも何とか外へと辿り着いた。

 

そしてセッケは赤く染まる屋敷を横目に路地へと走る。そして人気のない脇道へ滑り込むと“姿くらまし”を使ってその場から去った。

 

 

 

 

***

 

 

 

ウィルは一瞬でその事実をまるで自分の思い出のように知った。これは過去の自分のではなくセッケの記憶であると推察した。

 

自分の知らないルーツを知ったウィルはあまり感情的にはならなかった。ここ最近の揺れていた彼ではないようだった。

 

「あれから君は僕を孤児院へ匿名で託したんだね?」

 

「さようです。」

 

セッケはそう答える

 

「・・・ですがあの日々は貴方様にとって地獄だったでしょう?申し訳ございません。私が現れればレストレンジ家との関係が勘付かれてしまうと思いまして。」

 

「いや、そのお陰で今の僕がある。」

 

ウィルは迷うことなくそう答える。どんな苦しい過去も、明るい記憶も今の彼にとっては必要不可欠な出来事だった。

 

「あの魔女(・・)の元で過ごされていた貴方様は輝いておりました。このセッケはそれを見て役目を、任務を終えたのだと理解したのであります。」

 

ウィルは脳裏にある魔女の姿がボンヤリと浮かぶ。だが今は関係ないと思い直す

 

「そうか、セッケ。ありがとう。」

 

「その感謝は私のみに対して、ですかな?」

 

セッケはウィルの言葉のニュアンスを正確に捉えてみせる。彼の瞳には今までとは別人のように鋭くウィルの母親譲りの茶色の瞳を見つめる。

 

ウィルはその瞳からつい目をそらして理由もなく床をぼんやり眺める

 

「じゃあ・・・なぜ俺を迎えに来なかった?」

 

ウィルは素直に疑問をぶつけた。彼女達は脱獄してから一度たりとも自分を会いに来なかった。セッケを見つけさえすればすぐに自分へ辿り着いただろう。

 

「ウィルぼっちゃまを忘れていた(・・・・・)からです」

 

セッケは無慈悲にその事実を告げた。そのあまりにも残酷な一言にウィルは溜め込んでいた感情の全てを露わに吐き出した。

 

「ほらみろ!両親は!俺に!愛なんて!ないだろうッッ!!!!」

 

ウィルの人生の中で出した1番の大声に部屋は微かに揺れて埃が落ちる。

 

「違うのです!少なくともお嬢様は坊っちゃまを愛しておりました!」

 

セッケは慌ててそう説明する

 

「アズカバンの獄卒の“吸魂鬼”は幸せを吸い取る(・・・・・・・)のです。貴方様の事を忘れてて“例のあの人”の事を覚えていたのでしたら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方様が“例のあの人”より幸福(大切)な存在だったという事を示しています。」

 

ウィルはそれを聞き終えると足の力が抜けて、地面にへたり込んでしまう。そしてまるで小さな子供のように顔をぐしゃぐしゃにして泣き出してしまう。

 

そしてすぐにセッケの瞳にも大きな雫が溢れ出す。

 

「今宵は大いに泣きましょう、あの日の分まで。」

 

 

 



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嵐の前の静けさ

 

 

 

 

 

 

 

夜の闇(ノクターン)横丁・とある墓地〜

 

 

 

 

 

 

 

 

とても薄暗くどんよりした墓地の中にウィルはひとりぼっちだった。カラスの鳴き声が不気味に響き渡るも彼は何も感じていない。なぜなら今の彼は心がスッキリとしているからだろう。

 

敷地は余裕があるはずなのに墓の間隔はあまりにも狭く密集している。ここは身寄りのない魔法使いが埋葬されているからだ。“夜の闇横町”は犯罪者や複雑な事情のある者が隠れるように生きている。だから身寄りや信頼関係は薄く。埋葬は実に乱雑で、供養ではなく人として最低限のモラルを保つ為だけの作業として並べられているのである。

 

事実、数多く並ぶ墓の前に供え物は何一つない。墓石はひび割れていたり、一部が欠けていたり、そして雑に名前が刻まれている。

 

 

ウィルはある墓の後ろにもたれかかり、黒い手帳を膝にのせて何か書き込んでいる。側に年季の入った酒の瓶が並んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

《やぁ君達と話がしたくなった。

今、どこにいる?》

 

 

ウィルはそう書いて手帳を閉じる。そして彼はぼーっと空を見上げていた。数年前なら考えられない事だ。だがウィルは時間を無駄にするという行動を楽しめるようになった。

 

すると彼はふと手帳に目を落とすと、再びページを開く。

 

 

《それは言えないわ。だってまだ貴方の口からどちらの味方をするか聞いてないもの》

 

 

彼は一度ページを閉じて、すぐにまた文章を書き込んだ。

 

 

《実はまだわからない。だが自分の迷い(モヤ)は消えたように思うよ。あとは清算するだけ。》

 

 

彼は自分のルーツを知った。ずっとまとわりついて離れない霧のようだった。害はないが目の前の道を突き進むには得体の知れぬ不安が付き纏う。

 

 

《そう、なら一度会うのも悪くないかもね。

私達は今、ホグワーツにいるわ。》

 

 

ウィルはその文章を眺めると目を見開いて驚く。そして彼はゆっくりとホグワーツのある方角を向く。

 

「・・・戻るか。」

 

ウィルはつぶやくようにそう言った。そして彼は立ち上がり酒瓶を指で掴む。

 

「僕の口にはまだ合いませんね。それではまた来ます。」

 

彼は背中にもたれかかっていた墓の正面に回る。そして彼は綺麗に整えられた墓石の上から瓶の中身を流した。

 

 

 

 

 

 

 

《ジェニス・マクミラン》

 

 

墓地にはそう刻まれていた

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜ホグワーツ魔法魔術学校〜

 

 

 

 

 

 

かつて、アルバス・ダンブルドアが生きていた頃は校内が活気溢れていた。だが彼が死に、月日が流れてから不気味でどんよりとした雰囲気が漂う。

 

「なぜこんな時間に呼ばれたのか、不思議に思うものもいよう。」

 

ねっとりとした声が大広間に響き渡る。新たに校長に就任した死喰い人だ。

 

まるで軍隊のように整列させられた大半の生徒たちは下を向いている。

 

「聞くところによるとさきほど、ポッターがホグズミードに現れた。」

 

“ポッター”の名を聞いて生徒たちはざわざわと騒がしくなる。しかし校長はそれを上からかぶせるように続ける。

 

「もしそこで生徒でも教員でもポッターを助けようとすれば、その者は罪の重さに応じて相応の罰を与える。」

 

校長はそう言い放つ。だがその瞬間に1人の生徒が列からはみ出た。

 

ボサボサの黒髪に丸メガネ、そしてレンズから覗くのは母親譲りの瞳をした青年だ。

 

「ここは徹底的に警備を固めてますが、警備に穴があるようですね。」

 

かつての“生き残った男の子”ではなく、“選ばれし者”ハリー・ポッターは校長であるセブルス・スネイプを睨みつける。

 

彼の宣言と共に勢いよく大広間の扉が開いた、それは不死鳥の騎士団のメンバー達だ。彼らは杖先をスネイプへ向けている。

 

「よくものうのうと校長の座に!あの夜、お前はなにをしたッ!?」

 

ハリーは激昂する。

 

「お前を信じていた先生を裏切りそして殺したんだッ!!!」

 

スネイプは何を考えているのか読めない表情を浮かべると、少しして素早く杖をハリーに向けた。巻き添えになるのを恐れた生徒達はさっと離れて避難する。

 

そして間髪入れずにマクゴナガルが割って入りスネイプに杖を向ける。

 

その様子を見たスネイプは杖を向けるのを一瞬だけ躊躇するものの、すぐに戦闘態勢に入った。

 

マクゴナガルは素早く数発の炎をスネイプに向けて放つ。それに対して彼は防ぐことしかできない。

 

後ずさりしながらスネイプはマクゴナガルの炎を凌ぎ続ける。盾の呪文で弾く弾みにスネイプの背後にいた死喰い人へ命中する。

 

すると突然スネイプは黒い煙となり、背後にあったガラスを割って姿を眩ませた。

 

 

「臆病者ォォッッ!!!!」

 

彼女はそう叫ぶ。それに応じるように抑圧されていた生徒達は歓声をあげる。

 

彼女は暗い大広間に炎を灯す。暗いホグワーツが終わりだということを示したのだろう。

 

 

 

 

 

だがすぐに校舎全体に戦慄が走る。一瞬で希望が絶望へ変わってしまった。これが“闇の帝王”の影響なのだと理解せざるを得なかった。

 

 

『戦いたがっている者が大勢いるな。戦うのが賢いと考えているものもいよう。愚かなことだ。』

 

静まり返った室内で血の気のない声が響き渡る。慈悲や容赦のない声だ。誰一人として顔色の良いものはいない。

 

『ポッターを差し出せ、そうすれば危害は加えぬ。』

 

彼は冷徹に要求を突きつける。

 

『ポッターを差し出せばホグワーツには手を出さぬ。ポッターを差し出せばお前達は報われる。1時間だけ待ってやろう。』

 

 

そう言い終えると冷気は消え去り、微かに温もりを感じる。部屋が暖かくなったのではないのは明白だった。

 

「なにをグズグズしているの!アイツを捕まえて。」

 

スリザリンの上級生がハリーを指差してそう叫んだ。しかし彼を庇うように次々と生徒達が立ちふさがる。その行動はそのスリザリン生を静かにさせるには充分だったらしい。

 

 

マクゴナガルはフィルチに命じてスリザリンの生徒を連れ出して地下牢へ閉じ込めておくよう言いつける。それは彼らにとって実に好都合だった。彼らの中には親が死喰い人に属する者がいる、後々にヴォルデモートにより自分達に反抗したという意思がないと見なされれば困るからだ。

 

フィルチによりスリザリン生が連れられているのを横目にハリーは恩師であるマクゴナガルに駆け寄る。

 

「戻ったのは訳があるはずです。なにが必要ですか?」

 

マクゴナガルは状況を素早く理解すると共に最も重要となる質問を選択する。

 

「時間です。できるだけ長く」

 

「為すべきことをなさい、城は私が守ります。」

 

マクゴナガルの瞳にはダンブルドアから受け継いだ強い意志が秘められている。ハリーが頼もしいと思って、彼女に背を向けて立ち去ろうとした時、呼び止められる。

 

「ポッター、会えてよかった。」

 

「僕もです。先生。」

 

2人はにやりと笑みを浮かべた

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜マルフォイ家屋敷〜

 

 

 

 

 

 

 

魔法界でも有数の名家に姿をくらましていた御曹司が現れる。だが迎えの者は誰一人としてなく、かつて豪華で上品だったはずの庭は人の手が加わることがなく無造作に生い茂っている。室内の明かりは全て消され人気のない。まるでお伽話に出てくる呪われた屋敷のようだ。自分がこの家を離れてから転落の一途を辿っているのだと彼は理解する。

 

 

 

 

ウィリアム・マルフォイはかつて自分が青春時代を過ごした屋敷の扉の前に来ていた。彼はなんの躊躇もなく自然に扉をこじ開ける。限りなく施された防衛策を軽々と突破して中に入ると、彼が戻るのを待っていたかのように壁一面に均等に並ぶ蝋燭に火が灯る。

 

 

「誰もいないとはな・・・、ここは死喰い人のアジトとなったはずだが。」

 

ウィルは不穏な空気を感じつつも、かつての自分の部屋へと向かっていた。

 

彼が部屋に入るとカビ臭いが鼻を突き刺す。しかし動じる事なく見回す。自分やルシウスに頼んで入手した魔法薬や材料、そして彼の本棚に並ぶことを許された重要な書物。

 

それらは、まるで化石のように誰の手にも触れられることなく静かに眠っていた。ウィルは軽く一瞥して懐かしむ。

 

だが彼の机の上になにやら見覚えのない小さな箱が置いてある。黒くてコインケース程の大きさだ。魔力を感じる。ウィルは奇妙に思えた。これらの理由からではない。

 

その箱の上には“カラスの羽”がのせられている。すぐに誰から送られたものかウィルは理解した。

 

「自分探しの旅はお仕舞い。落としたものは全て辿った。あとはこの記憶だけだ。」

 

ウィルはそう呟くと杖で己の頭から記憶を引き出して自分の部屋に置いてある“憂いの篩”の中へ落とした。

 

 

 

 

これは彼が一生の中で最も苦痛で最も幸福だった時の記憶だ。

彼がまだマルフォイの名前をもらう以前のこと・・・

彼が自分の成すべき事だと確信した頃だ

 







次回から最終章の最終パートとなります。
過去編と戦争にて完結です。


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最終章【天秤の行方part2】
予言と開戦


長らくお待たせしました
必ず完結させるという僕の宣言を
僕は忘れていなかったようです


 

 

 

〜およそ80年前〜

 

 

 

 

あるイギリスの小さな村にひっそりと建てられた煉瓦造りの屋敷、黒色で統一された外装は上品で気品を感じる。

 

その村とは場違いな家の前にある魔女が現れる。青いローブを身につけた小綺麗な若い女性だ。利き手でない左手には大きめの葡萄酒の酒瓶を携えている。長い赤毛はポニーテールで整えられ細い背中からなびく。鋭い瞳は気の強さを感じさせ、たとえどれほど無鉄砲な男だろうと蛇に睨まれた蛙のようにすくむだろう。

 

 

彼女は大きな扉に立ちふさがるとひとりでに鈍い金属音を奏でて開く。まるで家が勝手に入ってこいと彼女にそう言ったかのようだ

 

 

 

太い廊下を突き進むと狭い部屋に辿り着いた。端っこは蝋燭がズラリと並べられて、その間にたてに細長い机が見える。

 

「やっと来たのかい。来るのは見えてたのさ。」

 

その机の奥にニタニタと笑う老婆の姿がある。胡散臭い装飾品を身につけており占い師や予言者の格好をしたペテン師のようだ。しかし彼女はホンモノである。

 

「いくら名高い予言者とはいえ、正確な日付まで見抜けないようだな。」

 

「そうでなきゃ予言じゃなくて、予定になっちまうだろう?」

 

老婆は年の功か、若い魔女の挑発を軽くいなしてみせる。

 

カッサンドラ・トレローニ

偉大なる予言者だ。

 

およそ60年後にその子孫にあたるシビル・トレローニはホグワーツで占い学の教鞭を取ることとなる。

 

 

「御託はいい。早く占ってくれ。」

 

つまらなそうな表情を浮かべて傲慢にズカリと座った。

 

「アンタの占いは既に済ませてある。心して聞きな。」

 

スゥと感情や邪念の一切を断ち切るとまるで複数の声が絡み合い、うねるように周囲へ響かせる。それはただの老婆の声色ではなく地獄からの死者がこちらに語りかけてくるような感じに似ている。

 

 

『呪われた家の忌子(・・)はより強力な怪物を産み出すであろう。進む道、そして選択の果てにこの世に破滅か安寧を与える。』

 

そう言い終えると彼女は元の老婆に戻った。荒れた息を整えるとにやりと笑う。

 

「ジェニス・マクミラン。アンタはその結末を目の当たりにするのさ。」

 

「そーかい。」

 

若い女、ジェニスはまるで興味なさそうに聞き流した。

 

「気をつけるんだよ、お前の選択で功か罪は決まるのだよ。」

 

占い師の忠告を聞くとジェニスは鼻で笑ってみせる。そして身を取り出して言い放つ。

 

「私は変わらないさ。変わるのは周りの勝手。運命なんて存在しない。」

 

彼女の気迫から魔力が吹き出てくる。まるでめらめらと燃え盛る巨大な焚き火のような勢いのある魔力だ。

 

「傲慢だねぇ、しかし本物の怪物だよ。」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜ホグワーツ〜

 

 

 

 

 

 

 

世界一の学校だと卒業生が口々に評価する学校がある。そこでは自然に囲まれ、魔法で守られ、知恵を授かるような学校だ。澄んだ空にどこまでも続く美しい海に幻想的でありながらも危険な森、どの学校よりも集められた書物は不足する分野などないだろう。数名の数世代でもずば抜けた才能と実力を持つ選ばれた賢者達が教鞭をとる。

 

 

しかしホグワーツはたった1人の邪悪すぎる魔法使いによって変えられた。“闇の帝王”ヴォルデモートはかつて恐れていたダンブルドア無き学び舎を支配しようと動き出した。彼に屈辱を与えた唯一の青年を捉えるためにだ。

 

 

 

 

 

 

 

「“例のあの人”をいつまでも止めることはできませんぞ。」

 

呪文学のフリットウィックは扉の前でそう忠告した。これから彼ら、教師たちと不死鳥の騎士団の残党はハリー・ポッターの微かな希望を頼りにヴォルデモートと戦わなければならないのだ。

 

「ですが時間を稼ぐことはできます。それと彼の名前はヴォルデモート。貴方もそうお呼びなさい。」

 

マクゴナガルは普段通り冷静に物事を見極めてフリットウィックをたしなめる。その風格はまさしくダンブルドアから受け継いだものだ。彼亡き今、この城を守るのは自分の使命だと確信しているからだ。

 

「どう呼ぼうと殺しにくるのですから。」

 

彼女は冷酷な現実を突きつける

 

 

 

 

そしてスラグホーンは密かに貴重な液体の入った小瓶を手にかけて、素早く飲み干すと階段を降りて城の外へと向かう。

 

 

 

 

「“全ての石よ、動け(ピエルトータム・ロコモーター)”」

 

マクゴナガルは扉を背に室内へ向けて声を響かせるように呪文を唱えた。

 

すると城の中が小さく鈍くゆっくりと触れ始める。そして何かが隊列を為して同じ歩幅と音を響かせてこちらへ向かって来る。

 

石像だ。ホグワーツに存在するありとあらゆる石像は各々の武器を持ち精密な軍隊のように行進をしているようだ。

 

「ホグワーツは脅かされています、盾となり護りなさい。学校への務めを果たすのです」

 

マクゴナガルは石像たちに鼓舞をして戦場の最前列へと固めて待機させる。

 

 

「この呪文、一度使ってみたかったんですよ。」

 

マクゴナガルは はにかんで隣にいた魔女、モリー・ウィーズリーに声をかけた。周りの緊張をやわらげるつもりだったのだろうが、彼女はギョッとした視線を返すだけだった。

 

 

そして数名の選ばれた魔法使い達は校庭へ出て天へと杖を向ける。そして次々と呪文を唱えて光を放つとそれらはじわじわと広がり固まり始める。

 

盾よ、守れ(プロテゴ・マキシマ)

敵よ、避けよ(レベロ・イミニカム)

フィアント・デューイ(強固なれ)

 

僅か数人の魔法使いが考えうる最も強い防御呪文を施す。打ち合わせなどする必要もない。それぞれがこの3つの呪文が最強だと知っているからだ。そして青白く輝くドーム状の防御壁が出来上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禁じられた森にてヴォルデモート率いる“死喰い人”陣営は待機していた。そこからでも見えるほどの青い防御壁を見て彼はせせら笑うように呟いた。

 

「懲りない奴らだ、哀れな。」

 

心からの本心だ。生まれながらのエゴイスト、それが彼の強さである。自分のなすべきことが絶対的に正しいと思い、他者の反発の全てを愚かで哀れだと吐き捨てる。

 

「かかれ。」

 

彼は背後に立つ数百名の部下達にそう支持する。彼らは一斉に防御壁へ向けて、まるで流星のように呪文が放った。

 

それらが放物線を描いて防御壁へぶつかる。まるで花火のようにバチバチと破裂し続けると、破壊には至らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから少し離れた湖に小さなボートが一隻だけ浮いていた。

 

水面には大小さまざまな塔が並び、窓は青白く美しい光が鏡のように反射している。

 

7年前、彼がまだ幼い新入生の頃にホグワーツで学べるという希望を抱いてやってきたようにウィリアム・マルフォイは心に微かな希望を抱いている。迷い続けた選択の答えを見つけることができるのだろうと思っているからだ。

 

「遅かったか。」

 

3年ぶりにホグワーツを見たウィリアム・マルフォイはそう呟いた。彼はかつて退学となった時とは大きく様変わりしている事に驚いた。まさかこんなにタイミングをはかったように戦いの中に戻るとは思わなかったのだ。

 

自分の想定より早く選択を迫られているのだと理解した。

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

〜必要の部屋〜

 

 

 

 

 

“あったりなかったり部屋”、そう呼ばれている。訪れる者の目的が変わるごとに内装や中身が変わる不思議な部屋だ。

 

今、その部屋の中身は《ものを隠す部屋》

 

今までこの部屋を突き止めた生徒達や教師によって、隠された品が数多く眠っている。呪いの品や酒瓶、部屋には仕舞えない大きな道具など部屋一面に重なるように散らばっている。

 

そしてそう望んだのはハリー・ポッターとロン、ハーマイオニーだ。彼らはヴォルデモートを倒す鍵となる“分霊箱”の1つがここに隠されていると知り、やってきていた。

 

 

ハリーは目を閉じて集中する。彼は魔力を感じて居場所を探っているのだ。一般的に闇の魔法は痕跡を残す。

 

分霊箱も強力な闇の魔法であり、痕跡を残すのだが、なぜかハリーはヴォルデモートの分霊箱のみ強く感じる。

 

そしてハリーは隠された多くの荷物から古い箱を手に取った。それを開くと黄金のティアラが現れる。なんの変哲のない装飾がなされているが、ただ一つ特徴的な鷲の紋章が刻まらている。

 

鷲の紋章、それはレイブンクローを示すものであり、由緒正しい貴重な品という証拠にもなる。

 

ハリーはそれをまじまじと眺めていると突然人の気配を感じた。

 

「なにしにきたポッター?」

 

その声の持ち主は青白く顎の鋭い青年だ。初めて顔と合わせた時から自分とはうまくやれないと確信していた。

 

「君の方こそ。」

 

「僕の杖を持ってるな?返してもらおう。」

 

ドラコはハリーに杖を盗まれていたのだ。少し前に彼らがマルフォイ家の屋敷に捕まっていた時にウィルとドビーの手により解放された時、どさくさに紛れて杖を奪ったのだ。

 

「今のじゃ不満か?」

 

ハリーは冷たく皮肉をぶつける。

 

「これは母上のだ。力はあるが違う。僕の事を理解していない。」

 

ドラコは憎しみのこもった瞳でそう言い返す

 

「やっちまえドラコ。グズグズするな。」

 

かつて腰巾着だったはずのゴイルはまるでドラコに命令するかのように言った。しかし彼はなにも言い返せない。

 

「“エクスペリアームズ”っ!」

 

その隙を逃さずハーマイオニーはドラコ達に向けて武装解除の呪文を放った。すると呪文の応酬が始まった。

 

「“アバダ・ケダブラ”!」

 

「“ステューピファイ”!」

 

呪文がドラコは自分の顔をかすめると情けない声をあげて走って逃げ出した。戦力が1人減った事で不利だと感じてゴイル達は引き返す

 

ロンは勇ましく彼らの後を追う。しかしすぐに情けない声をあげて戻ってくる。

 

 

「逃げろ!ゴイルのやつが火をつけた!」

 

その場の空気の中を熱を伝っていくように感じ、彼の言う事が嘘じゃないと理解する。彼らの目には怪物達が荒れ狂う黒い豪炎が迫り来るのが映る

 

ハリー達はそれを見て一目散に逃げ出した。ときおり炎に襲われながらも防ぎながら炎の手から逃れようと走る。

 

 

 

 

 

すると彼らの前方に一つの人影が目に入る。黒いローブを身にまとった男性のように見えた。

 

「おい!危ないぞ!早く逃げるんだ!」

 

ロンは声を荒げてそう忠告する。だがその男は足取りを止める事なく進み続けた。

 

「お前、焼け死にたいのか!」

 

更なる忠告にすら彼は聞こうとしない。

 

「む?焼ける?・・・。“悪霊の炎”だな」

 

その男は合点がいったというような表情を浮かべる。そして彼は囁くように呪文を唱えた

 

 

 

フィニート(終われ)

 

その一言でその男から魔力による小さな風圧がかかる。まるで草原の丘の上へ流れる風のようだった。

 

それは炎に触れた瞬間にまるでろうそくの火を吹き消すようにゆっくりと鎮火していく。その黒い豪炎の手をなんなく食い止めてそのまま完全に消化してしまった。

 

「やぁ会いたかった。友よ。」

 

 

その時、彼らは確信した。

天才だったウィルは怪物になったのだと

 

 

 

 

 




最近、昔消したと思っていた構想案が出てきました
いくつか書くべきだった描写や伏線が抜けていて絶望しました
完結したら付け加えようかと思います


ちなみにこの予言が“賢者の石編”の分岐の意味です。
破滅か安寧か
厨二病にはたまらんですな(主に僕)


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友への笑顔


正直、今は話に勢いがないですね
これから少し頑張って進めましょうかね・・・




 

 

 

 

 

 

 

「やぁ会いたかった、友よ。」

 

ウィルは心から再会を喜んでいた。ハリー達とは2年前の神秘部以来である。マルフォイ家の屋敷においてはハーマイオニーと会ったと言っていいだろう。

 

「ウィル・・・。」

 

ハリーは安心したかのような表情を見せる。彼がここにいるという事は実質的にヴォルデモートに組するのではなく、自分達の仲間になると思ったからだ。

 

しかしハーマイオニーはハリーを制止するように口を開く。

 

「ねえ待って・・・、どうして貴方がここにいるの?あり得ないわ。」

 

彼女は目の前にいるウィルに対して不信感があった。それもそうだ。

 

ここはハリーの持つ“忍びの地図”でさえこの部屋は示されないのだ。

 

そして今、自分達がここにいることを知るのは自分達の他に、ここがレイブンクローの髪飾りが隠されていると教えてくれた“灰色のレディ”のみだ。

 

他にもこの防衛壁を彼はどうやって侵入したのかという疑問もある。つまり彼は敵がつくった幻覚、または変身した姿である可能性がある。

 

「ウィル、私達の初めての出会いは?」

「ホグワーツでの汽車内、俺が読んでいたのは“守護魔法基礎”。」

 

ハーマイオニーは少し脱力する。彼が本物だと確信したからだ。

 

「ハーマイオニー、君との“交換日記”。アレには居場所をある程度探知できるよう魔法がかかっていてね。急に消えたからここだろうと思い至ったわけだ。」

 

ウィルはただ互いの状況を知らせあう為に日記を渡したのではない。可能であれば彼女やハリー達を守りたいと思っていたからだ。

 

「・・・探し物はあったらしいな。」

 

ハリーの手に握られている髪飾りを見てウィルはそう言った。彼は未だにどちらに組するか決め切れていない。だから破壊に協力する気もない。ただ自然とそうなったのだとただ流れに身を任せただけだ。

 

「顔を見ただけで安心できた、じゃあな。」

 

彼はそう言うとそのまま彼らの間を通り過ぎて行った。

 

 

 

ハリー達はかつての同期であり、友人である若者の背中を見る。

 

計り知れないほどの才能、そして努力を得た天才の背中はとても巨大に見える。自分達より強大なダンブルドアやヴォルデモートでさえも彼は横に並ぶだろう。

ハリーはそう思った。

 

「ウィル、君の目的を聞かせてくれ。」

 

いや、“だろう(・・・)”などではない。もはや確信にすら近い。自分達の知るウィリアム・マルフォイはそういう男だ。

 

 

ウィルは立ち止まると顔だけをこちらに向いて魅力的に子供のような笑顔を浮かべて言った。

 

「君と同じさ、ハリー。

君と僕はよりよき世界の為に動く。」

 

 

ハリーはウィルと初めて出会った時の笑顔を思い出した。魔法界のまの字も知らぬ彼がダイアゴン横丁にやってきて、最初に向かったオリバンダーの店で彼と偶然出会った。事前に何らかの交流があった店主のオリバンダーと会話をした後にウィルは子供のように無邪気に笑っていた。

 

その時の笑顔と何ら変わらない。本当に自然と溢れるように彼は笑うのだ。そういえば彼は神秘部の戦いでこう言っていた。

 

『昔から何も変わってない、今の俺はホグワーツの時と何も変わらない。』

 

 

そうだ、ウィルはウィルだ。

ただ彼を信じるとしよう。

僕たちの知るウィリアム・マルフォイを・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィルは気づかさせられた。彼はハリー達と会って正しい答えが見つかると思っていた。

 

 

だがそれは誤りだ。

友人達と敵となる前に一目だけ

友として受け入れて欲しかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィルはそのまま進み続ける。

すると昔馴染みの懐かしい顔ぶれが揃っていた。

 

3人いる。一人銀髪の青年だ。腰が抜けて地面に座り込んでおり、その彼を挟むように体格のいい男が二人いる。ウィルがマルフォイ家の御曹司として生きていた時代の顔だ。

 

彼ら3人は驚きの表情を隠せずにいる。その様子を見たウィルは少し気まずそうな顔を浮かべて頬を指で軽く掻いた。

 

「・・・やぁ。ドラコ、クラッブ、ゴイル。」

 

彼がホグワーツに入学するまで、正確にはグリフィンドールにウィルが選ばれる前にずっと一緒にいた彼らを成長と共に自分は見捨てたような感覚が心の何処かにあったからだ。

 

「正直・・・今、俺はどんな顔をしてお前達と向き合えばいいのかわからないが。」

 

そう複雑そうに表情を浮かべながらも彼は続ける

 

「無事でよかった。これからもそうであることを祈るよ。」

 

まるで子供のように無邪気に、そして大人のように爽やかにくしゃりとした笑顔でそう言った。むろん彼の心からの笑顔だった。

 

 

 

 

 

それをみたドラコは小さく震えだした。

 

そして彼はまぶたから大きな涙をぼろぼろと流して、まるで嬉しさを押し殺すように絞り出した声だ。

 

「・・・やっとだ。やっと君は僕にそう笑いかけてくれた。」

 

 

ウィルが人を魅了させるのは決して才能だけではない、理想的に貼り付けられたような笑顔だ。後天的に身につけたものだが、美しい容姿をもつ彼の魅力的な笑顔を前にして偽りだと見抜く者はいない。

 

そしてドラコは昔から共にいたからこそわかる。彼の本当の笑顔を彼は知っている。

 

ただしそれを自分に対して向けられない事がずっと彼の中でコンプレックスだったのだ。だからグリフィンドールに彼が選ばれた時、自分より先にその笑顔を自分以外の誰かに見せるのが怖かったのだ。だからドラコは焦りと嫉妬からハリーやハーマイオニー、ネビルに対して冷たい態度をとってしまったのだ。

 

その想定外の反応にウィルは驚きつつ、彼は尻餅をついているドラコに手を差し伸べ掴ませる。そして引き揚げて彼は弟を優しく抱きしめた。

 

 

「ドラコ、よくやった。君は家族の元へ。」

 

ウィルはそう彼の耳元で囁くように言った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

数分後

 

 

 

 

 

 

 

ハリー達はウィルと別れた後に分霊箱を破壊する手段として“バジリスクの牙”を秘密の部屋で入手していた。これはハリーが2年生の時に分霊箱の一つであった“トム・リドルの日記”を破壊できた事から、分霊箱に対して有効であると知っていたためだ。

 

 

 

そして彼らは秘密の部屋で分霊箱の一つである“レイブンクローの髪飾り”を破壊した。そして残る分霊箱はあと2つ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜禁じられた森〜

 

 

 

 

 

 

ヴォルデモートは突然、自分の魂が引き裂かれるような痛みを感じた。彼はその意味を知っている。自分の分霊箱の1つが破壊されたのだと理解する。彼は心の底からの激情に身を委ねて杖を構える。

 

そして己の感情に任せて、この世で最強だと呼ばれる杖で呪文を放った。ホグワーツに施された防御壁は彼の呪文に耐えることができず、散り散りと花びらのように散らばった。

 

 

配下の“死喰い人”とホグワーツの中で最前線にいた“不死鳥の騎士団”と教師達は激しく身震いする。

 

 

今まで自分の数百の部下達に破壊させて難航していた防御壁を、たった一人で、たった一つの呪文を使う事で無力化させてしまったからだ。

 

“規格外”、それが彼の強さである。

 

 

 

ホグワーツの防御壁を破壊した事で溜飲が下がって冷静になったのか、彼は側にいた蛇を呼び寄せる。

 

 

《ナギニ、お前を安全な所へ。》

 

彼はそのまま蛇と共に姿をくらました

 





今は退屈な原作のレールの上です。
急にくる怒涛の展開を用意してあります。
確実にありきたりではない結末を楽しみにしてください。


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最後の迷い

ここ最近、ずっと隙間さえあれば書き進めてきました・・・
ざっくりしか下書きしてなかったので時間がかかりますね
ただここから先は下書きしてあるので比較的早く更新できますよ


***

 

 

 

 

〜叫びの屋敷〜

 

 

 

 

 

イギリスで最も恐ろしい呪われた屋敷にその闇の魔法使いがいた。側には自分が唯一愛を与えている存在、ナギニが地を這う。

 

 

 

彼には七つの分霊箱があった。あくまでも最強である為ではなく無敵となる為だ。

 

“闇の帝王”ヴォルデモート卿は己がじわじわと追い詰められていくのを感じていた。

 

今となっては七つから二つしかなく、切り離した魂が散り散りとなった為に己の力が弱まっているのをひしひしと痛感させられる

 

 

 

 

 

 

 

「我が君、一度軍を退かれて小僧をお探しになった方が・・・。その方が賢明ではございませんか?」

 

彼がハリー・ポッターに破れて世間から身を隠すまで、最も強力な部下の一人だった男だ。

 

ルシウス・マルフォイ、魔法界でも有数の血筋、影響力、財産を持っていた貴族の当主。

 

だが今では様変わりしたようだ。使い回しで襟のよれた服に艶のない銀髪、やつれた肌には生気がない。

 

「ルシウス、よくも俺様の前でそのような醜態をさらせるな。」

 

ヴォルデモートは忠臣としては見限っているらしく、冷たく言い放つ。

 

「わからんのか!?あの小僧は向こうから俺様の前にやってくる!」

 

主人の苛立ちが自分に向いている事に勘付いたルシウスは恐れから目を背けてしまう。

 

「俺様を見ろ。」

 

彼は冷たく言い放ち、そしてある命令を下す

 

「セブルスを呼べ」

 

ルシウスは命令されると逃げ出すようにその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

その情けない背中を見ていたのはヴォルデモートだけではなかった。

 

「あまり部下を恫喝すべきじゃない。」

 

その声を聞くと不機嫌だったヴォルデモートは少しだけ表情を和らげる。しかし彼の怒りを完全に治めるには到底及ばない。

 

「部下と果たして呼べるのか?ただ恐れのみで俺様に従う哀れな男よ。」

 

ヴォルデモートはルシウスを全くと言っていい程に信用していない。彼には何度も失望させられているためだ。

 

「従うのならまだいいじゃないか。」

 

ウィルは負け惜しみのように返す事しかできなかった。仮にも元義父の悪態を聞くのは気分が良くない。

 

「ウィリアム・・・。俺様はお前を過大評価していたようだ。もう少し賢い男だと思っていた。」

 

ヴォルデモートはルシウスの事などはっきり言ってどうでも良かった。いれば駒が一つ多くなり、いなければ駒が一つ減るだけだ。

 

それよりも自分が目をかけている天才の方の選択の方が気がかりだ。しかしあまりにも優柔不断なので苛立ちすら覚えていた。

 

「もはや待つ気はない。」

 

ウィルは目を細めて真剣な表情を浮かべる。今この場で戦闘を覚悟する必要があると考えた為だ。

 

「俺様の手をとり偉大なる道を切り開くか。それとも愚かにも歯向い死ぬか。」

 

「悪いが、まだ決めかねてる。」

 

ウィルはやはり選択の答えを出す気にはなれなかった。まだ己に影響を与えた全ての人達に再会していないからである。

 

 

「ウィル、お前が悩む理由はただ一つ。お前は理想を求めているからだ。」

 

「・・・。」

 

ウィルは否定する事ができない。彼に直接伝えたことはないが、間違いなく自分は理想の為に動いているつもりだ。

 

「そして、なぜお前は理想を求めるのか。」

 

彼は心臓の鼓動が大きくなるのを感じた。ヴォルデモートに確信を突かれるような気がしたからだ。

 

「簡単なことだ。お前にはお前の欲望(・・)がない。正確に言えばお前自身の望みだ。そして・・・、お前は命の価値(・・・・)を決める事ができない。」

 

ヴォルデモートは正確にウィルの心理を見抜いていた。そして彼は何も言い返せない。全身が重くなるような錯覚を覚えた。決して闇の帝王を恐れたのではない、己の心の内のもっと深い部分をえぐられるような気がしたからだ。

 

「そしてもう一つ、お前は価値観(・・・)というのを大事にしてる。なぜか教えてやろう。」

 

ウィルの焦りをヴォルデモートは察しつつ、己の追撃の手を緩める気はなかった。

 

「お前は常に中立を選ぼうとする。答えは明確、人に嫌われたくない(・・・・・・・)からだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前は選択から逃げている(・・・・・)

 

 

「・・・。」

 

ウィルは何一つ言い返せない。薄々自分でも勘付いていた。

 

「返す言葉がない。その通りだ。あと少し、今夜までに答えを出す。」

 

ウィルはただゆらゆらとその場から立ち去った、足取りは不思議と軽い。気分がすっきりしたわけではない。核心をつく言葉を受けて

唖然としているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

そして彼がただ前へ進んでいると恐ろしい声が響き渡る。さっき聞いたばかりの声だ。

 

 

『お前達は勇敢に戦った。だが無駄だ。』

 

空気が一瞬で凍りつく。しかしウィルはもはや、その冷徹な声に恐怖を覚えなかった。己が成長したからだろうか、もしくは彼ですら己の脅威でないという確信からであろうか

 

『このようなことはのぞまぬ。

魔法族の血が流れるのは損失だ。

我が勢力に一時撤退を命じよう。

その間に死者を尊厳を持って弔うといい』

 

その言葉を聞いた死喰い人達は杖を下ろして彼らの陣地へと戻っていく。一気に静まり返りホグワーツは不気味な静けさが増す。

 

『ハリーポッター、今お前に直接話す。お前は今夜、自ら俺様に立ち向かわず友人達を犠牲にした。禁じられた森に来い。自分の運命と向き合え。お前が来なければ皆を殺す。男も女も子供もだ。』

 

 

そう言い終えると校内に不気味な声が届かなくなった。不思議とトムの声が己をすり抜けていくようだった。

 

「あと少しか。俺のタイムリミットも。」

 

彼はそうつぶやいた。

 

 

 

 

地面は荒らされて、外壁は崩されて散らばっている。顔馴染みや見知らぬ生徒達と死喰い人の亡骸がちらほらと横たわっている。所々で地面が赤く染まっており、激しい戦闘が行われたのだと感じざるを得なかった。

 

 

荒れ果てた学校を見てウィルは心に深い悲しみを感じた。そして校舎を歩くと彼の耳に冷たい罵声がぶつけられる。

 

 

 

「おい、あいつ。」

「俺たちを笑いに来たのか。」

「今さら何しに来たの。」

 

 

 

目の前で友を失った男子生徒は怒りに身体を震わせて吐き捨てる。見知らぬハッフルパフの生徒だ。おそらく同級生だろう。そして治療の道具を抱えている女子生徒、この子は見覚えがある。新入生の時に自分の近くにいた取り巻きの一人だ。今では憧れなど微塵もなく憎しみだけが宿る。

 

 

彼は自分がその言葉を受け止める以外の行動は許されないのだと理解していた。その言葉をただ聞こえないフリをして早歩きでその場を去る事だけしかできずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜校長室〜

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです。」

 

ウィルは合言葉すら容易く無効化して部屋の中に土足で上がり込んだ。

 

「これは意外な客人じゃの。」

 

その額縁の中から懐かしい声が聞こえてくる。今は亡きアルバス・ダンブルドアの肖像画である。魔法界では写真が動くように描かれた肖像画が額縁の中でまるで本人の生き写しのように動き、そして語る。

 

描かれたダンブルドアは拒むことなく彼を迎え入れる。合言葉はあくまでも生徒の不必要な侵入を防ぐために設置されてるのであって、生徒でないウィルを阻む理由はないと考えたからだ。

 

「一つ、尋ねたくて・・・。」

 

彼と敵対していたとはいえ、ウィルはダンブルドアに対して敬意の念がある。未だに真正面から彼と向き合えば勝てるビジョンは見えない。ダンブルドアを前にすればウィルの才能と知識でさえ狭く、そして浅く見える。

 

「どちらも正しい2つの選択があるとして、どう選びますか?」

 

それは彼がダンブルドア側か、それともヴォルデモートにつくのかという事である。彼がどちらの陣営に組するかですぐに勝敗はつく。未だに彼は迷っている。どちらも一長一短であり、より正しい世界を目指す彼にとって片方に組するかどちらも敵対するか決めかねてる。

 

「難しい質問じゃ。」

 

彼はほんの少し間を空け思考を整えると口を開ける。

 

「まずわしは君のことを知らねばならぬ。君がなぜ2つの選択肢が正しいと感じ、なぜより正しい選択を取らねばならぬと思うのか」

 

ウィリアム・レストレンジにはダンブルドアの知らぬ過去(・・)がある。

 

「そして君の過去の話を聞かねばならぬ。レストレンジ家で産まれ(・・・)、マルフォイ家で育つ(・・)までの空白の時間、何が君をそう成長させたのか話してくれんか?」

 

ウィルは己の過去を明かさない。それが自分の弱みになると知っており、そして当時は魔法族の中でも一握りの影響力を持つルシウスの手により彼に関する過去の出来事が消されているからだ。幾らダンブルドアでさえ数多くいた孤児の、僅か一人の痕跡を、更にあらゆる手で抹消された記録を辿るのは困難を極めた。

 

「えぇ、では開心術を・・・。」

 

しかしダンブルドアは首を左右に振る。

 

「君の言葉で聞きたいのじゃよ。それにわしでは君の閉心術を破れぬ。」

 

ウィルは軽くにやりと笑う。警戒心が緩み油断をしているのかもしれない。

 

「1時間、学校の退屈な授業では永久の時であり、語り合うには余りにも短い。」

 

再びウィルは頬を緩ませる。

 

「えぇでは早速、僕はある魔女の弟子でした。そして僕が最初に殺した人です。」

 

彼は何のためらいもなく殺人を告白する。それもまだマルフォイ家へ招かれる前の出来事だ。年齢にして七つ、彼は人としての道を踏み外したのだ。

 

「隠さずとも良い。ジェニス・マクミランは儂も知る所にある。傲慢不遜ではあるが偉大で強力な魔女だった。」

 

“ジェニス・マクミラン”、それはダンブルドアも知る名である。自分より1つ上の世代で自分に匹敵するかもしれない才能と叡智を持った女性だった。しかし彼女はある事がキッカケに世間から完全に姿を消した。

 

 

 

 

マグルのある小国の軍隊を一人で壊滅させ当時の王と側近を皆殺しにした大事件を引き起こしたからだ。当時のイギリスの魔法省はこの出来事を重く見て“闇祓い”を数多く差し向けたが無駄に終わった。

 

なぜなら全員が返り討ちに遭い“錯乱の呪文”がかけられた事で魔法省を荒らさせた挙句に現存していた資料の全てを焼失させた。

 

「では予言も?」

 

ジェニスにはある予言がなされていた。

 

彼女がとる弟子は彼女より強力な魔法使いとなり、そして世界に破滅か平穏を与えるという予言だ。かの偉大なカッサンドラ・トレローニがそう言ったのだ。外れる予言ではない

 

「むろん。破滅か安寧、それこそが君の矛盾(・・)であり、そして迷いとなる。」

 

「なら話が早い。では語りましょう。」

 

彼は要点をまとめて語り始める。

 

 

 

***

 

 

 

20分後

 

 

 

 

 

 

「本当は決めておるのだろう?ウィル。」

 

「・・・。」

 

沈黙こそが答えである。彼の意にそぐわぬ選択肢、つまり彼は・・・

 

 

その間にダンブルドアは全てを察した。彼には深い傷がある。その傷を癒せるのは無傷の自分ではなく、同じ傷を持つ彼だけなのだと理解した。

 

「君の選択がどうであれ、わしから言えるのはただ一つ、君は偉大な魔法使いとなる。」

 

ウィルは深々と頭を下げて何も言わず校長室から出て行った。

 

彼は全てを話った。かつて己が敵として認識したほどの賢者に対して弱みを晒した。敬意を評し、尊敬している。それと同時に警戒し殺す為の策を練り牙を研いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新入生のウィリアムに感じたアルバス・ダンブルドアの懸念は正しかった。

 

 

 

 

彼の選択は破滅への道を

闇の帝王の手をとり世界を

強固に支配するであろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィルは校長室から出て行った。ダンブルドアに見せる背中が、彼への答えだった。彼の表情にもはや迷いはない。覚悟を決めた男の顔だ。これまで通り、彼らしい強い意志を秘めた瞳だ。鋭くそして強くウィルは己の進むべき道を歩み始めたのだ。

 

そして彼は誰もいない廊下をゆっくりと進む。すると正面から弱々しい足音が聞こえてくる。自分とはまるで正反対の、不安に満ちて深い沼にはまっているかのような。

 

 

「やぁハリー・・・。」

 

ウィルは目の前の友人にそう声をかけた。複雑そうな表情で囁くように言った。しかしハリーは虚ろな表情だ。右手には青い光を持つ小瓶がある、おそらく誰かの記憶だろう。彼もまた迷いから答えをしろうとしている。

 

「友よ、俺はお前を尊敬する。」

 

そして彼は自分の死を受け入れようとしているのだ。

 

「君を見て知った。恐れと勇気は対になるのではないのだと・・・。最期を見届けさせてくれ。」

 

ハリーは弱々しく怯えている。自分の命を紡いだ人達の死が無駄になってしまうという事すら理解した上で彼は自分が死を選ぶのが正しい選択だと理解している。

 

 

「ウィル・・・、あの日。」

 

ウィルは脳裏によぎる。かつて大人しく新しい世界に怯えていた小さな男の子ではない。小さな身体に刻まれた傷は大きくもない。もう2人とも立派な大人になっていた。

 

「僕と君がはじめて出会った時から君に憧れていたのかもしれない。君からそう言われて僕は少し死ぬのが惜しくなった。」

 

ハリーの身体の震えをウィルは見ていないふりをする。そして優しく肩に手をのせた。震えを止めたかったのだろう。

 

「だが行かねばならない。ハリー、お前はそう決めたのだろう?」

 

ハリーの視線に映るウィルの表情はとても儚く、そして優しかった。

 

「・・・ウィル。お願いがある。」

「・・・。」

 

ウィルは彼の瞳をジッと見つめて彼の肩から手をおろす。

 

 

「校長室に、俺の答えが示してある。それを見れば答えがわかるだろう。」

 

彼はそう言い放つとウィルは優しく彼を抱きしめ、そして彼から離れるとそのまま立ち去った。昔、ホグワーツで見かけた時のように彼は道のど真ん中を大きな歩幅で堂々と早歩きで去っていく。

 

ハリーはその懐かしい背中を見ると彼は自分の目的の為に校長室へ向かうと、彼は“憂の篩”にてある真実を知り、決意を固めたのだった。

 

 

 

 

 

そして校長室の黒いテーブルの上に謎の魔力を発する“カップ”がのっているのをハリーは気がついた。まるでそれは、かつてその椅子に座っていた人への向けてのメッセージのようだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

ウィルは人並みを進む。傷だらけの生徒達から目を背けることなく自分の決意を固めた。彼らに希望はない、自分にできるのはトムに加担する意思を示して降伏を促すこと。ただそれだけである。

 

 

実行に移そうと杖をマイクのように自分の口元へ向けようとする。しかしその途中でボロボロの生徒が目に入った。頭からは血を流し片足を引きずるように歩いている。

 

「ネビル。」

 

「やぁウィル、元気だった?」

 

懐かしき友人の姿だ。初めて出会った日の事を思い出す。最初に彼の名前を知ったのは一年生のホグワーツの汽車だ。初めてハーマイオニーと会った日、彼のヒキガエルを探すのを手伝った時だ。そしてすぐに同じ部屋に割り振られ出会った。

 

「よぉネビル。お前に話しておかなくちゃいけない事がある。」

 

ネビルは少し目を見開いてこちらの様子を見ている。

 

「できれば2人だけがいいんだが、時間もない。」

 

ウィルは自分に言い聞かせるように早口で喋る。そして彼は少し大きく息を吸う。

 

「本当の名前をお前に教える。俺の姓はレストレンジ。」

 

ウィルの唐突な告白にネビルは激しく戸惑った。悪い冗談なのだと引きつった笑顔を浮かべるが彼の表情は暗い。

 

「俺はウィリアム・レストレンジだ。俺はお前の両親を傷つけた息子なんだよ。」

 

彼の本当の親のベラトリックス、そしてロドルファスはネビルの両親を拷問して再起不能にするという事件を引き落とした。やがて闇祓いに捕らえられアズカバンに収監された。未だにネビルの両親は彼の事を息子として認知する事ができない程で、彼は祖母に厳しく育てられた。

 

その事件をウィルが仄めかした事でネビルの表情は激しく憎しみを抱いた。彼の告白が冗談の類いではなく、真実であると確信した為だ。彼はウィルと同じく本当の両親からの愛を受けずに育ったのである。

 

ネビルの両方の瞳には激しい憎悪の念が芽生え無意識にウィルの胸ぐらを掴む。しかしすぐに冷静さを取り戻してごめんと謝る。

 

「俺はなぜ君に伝えたかわからない。話すメリットなんてないのに・・・。」

 

 

ウィルは自分の行動を理解できず、逃げるように彼と目を合わせず立ち去った。

 

 

 

 

 

彼はそれから校舎を抜けて“禁じられた森”を歩いていた。トムに自分が手をとるという意思を伝える為である。しかしネビルやハリーと会ってまた心が緩みかけた。より自分を律する必要があると思い直した頃にまた一人、懐かしい顔が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァーイ、ウィル。」

 

「やぁルーナ。」

 

目の前に金髪の、目の焦点の合わない美少女がそこにいた。

 



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答えと再開

 

 

 

〜禁じられた森〜

 

 

 

 

 

 

 

「ハァーイ、ウィル。」

 

「やぁルーナ。」

 

目の前に金髪の、目の焦点の合わない美少女がそこにいた。

 

2人はまるで毎日会っているみたいに平凡でありきたりな挨拶をする。そしてウィルは相変わらず不思議そうな表情を浮かべて口を開く。

 

「なぜここにいるんだい?そして君だけはなぜ無傷なんだ?」

 

ここは非常に危険な森だ。ホグワーツの校則で禁止されているほどであり、ケンタウロスや吸血鬼、狼人間まで生息しているらしい。

 

だからおかしい。すぐ側で戦争があっていたのに無傷で、そしてそもそもなぜこの森にいるのかすらわからない。

 

 

 

ウィルの質問をまるで聞こえてないかのようにルーナは突然、ウィルの頭をヨシヨシと撫でる。もちろん身長差があるので彼女は思い切り背伸びをしている。限りなくつま先を立てているので体制がおぼつかず、プルプルしている。

 

「なぁ・・・なにをしてる?」

 

ウィルは戸惑い、彼女に対して抱いていた疑問など何処かへ吹き飛んだ。そしてただルーナにされるがままに大人しく頭を撫でられる。まるで3.4才の少女がサモエドのような大型犬を撫でるかのようだ。

 

ほんの30秒ほどそのままでいるとルーナはなんの脈絡もなく口を開く。

 

「・・・よく頑張ったね。」

 

ウィルは彼女の言葉に大きな戸惑いを覚えた。自分の空っぽの心に何か暖かい液体が注がれるかのようだ。じんわりと心臓から全身へと、血液が全身の血管を通るように暖かい感情が巡っていく。

 

誰かが言っていた。もし誰かの深い傷を知った時は『辛かったね、酷いね』ではなく、“よく頑張ったね”と今のその人を肯定する事が大切なのだと。

 

 

「迷ってるんだよね。」

 

「・・・。」

 

やはり彼女には敵わない。もう今となっては勝てるとはほんの僅かでさえも感じないが、再認識させられる。ウィルにとって彼女は唯一、自分の思う通りに動かない存在だった。どんなに彼が先を読もうと、誘導しようとも彼女はウィルの想定の範囲外へ行く。

 

だからこそ彼女は自分の知らない発想や答えを持つのだとウィルは考えている。そして今回も自分の思いもよらぬ答えを教えてくれるのだろうと心の奥で微かに期待する。

 

「違うよ。ウィルは決められないんじゃなくて選べない(・・・・)んだよ。」

 

今まで誰からもかけられた事のない言葉にウィルは少し戸惑いを覚える。しかし彼はすぐに真剣な表情を浮かべて彼女の答えに耳を傾ける。

 

答え(・・)なんてないんだよ。大切なんでしょ?“例のあの人”も。」

 

 

ウィルはルーナの言葉が自分の中で最も腑に落ちたような気がした。ダンブルドアやトムとの対話を経ても自分の中の答えだと感心する事はなかった。しかし彼女のほんの2、3言で彼の心に芯が入ったように感じる。

 

 

(あぁ、君はどれほど僕を理解してくれているのかな?)

 

 

「すごいなぁ、、、君は。」

 

 

ウィルはそうつぶやくように言った。彼はそこである事に気がついた。

 

今まで自分の人生で自分に好意を向けてくれる人達はウィルの純潔一族の名家の嫡男、そして財力。または彼自身の整った容姿に品行方正で優しい性格、神童と称えられる程の才能のいずれかに惹かれているに過ぎないのだと。

 

そしてただのウィルとして自分自身を見てくれている人が限りなく少ないのだと思った。彼と彼のしがらみを同一としててはなく、ただ一人の人間として向き合ってくれる人だ。まさしくルーナは自分の魅力のみに目を奪われているのではなく、今のウィルを見てくれている。

 

「理性だけじゃ窮屈、だから心に従えばいいんだよ。どうせ間違うならその方が後悔しないと思うよ。」

 

ウィルは彼女の言葉が心に馴染むようだった。迷う必要などなかった。ただ、最初にルーナと話すだけでよかった。

 

 

 

“正解を追い続ける必要なんてない”

 

自分はずっと誰かにそう言って欲しかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・いや(・・)

 

 

ウィルは心の中の声がそのまま出てくる。そして彼はまるで愛おしい存在を優しく見るように儚く笑う。

 

 

(俺はただ()にそう言われたかったんだろうな。)

 

 

 

「ルーナ・・・。俺は永遠に生きるか、それとも今日死ぬかもわからない身だ。でも俺は今の心に従いたい。」

 

ウィルはなぜか身体が自然とある決意が固まった。全く考えてすらいなかった事だ。あまりにも自然に、ただそうしたいと心の奥底から思っただけだ。

 

彼は赤面するどころか緊張すらしなかった。迷う事なくルーナの前でひざまづき、そして口をゆっくりと開いた。

 

「マルフォイでも、レストレンジでもなく、僕の・・・

 

ウィルは本題の前置きを述べた後、突然口をつぐんだ。急に焦りを覚えたのか、それとも躊躇してしまったのかはわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、なんか違う(・・)な。」

 

しかし彼の口から出てきたのは拍子抜けする一言だった。

 

 

そうだ。ウィルは自分の言葉のニュアンスが違うと思ったのだ。“僕の”、これが違う。ルーナ・ラブグッドは僕の所有物にはならない(・・・・)。常に自由で、思考回路や行動原理すら不明だ。そんな彼女をウィルは制御なんてできるはずもない。なんなら制御できないから彼女は魅力的なのだ。

 

ウィルは立ち上がるとルーナの目をジッと見つめて口をあける。

 

「僕と共に歩む妻になって欲しい。」

 

「うん、いいよ。」

 

ルーナ・ラブグッドはウィルの求婚のように躊躇いや迷いもなく、彼の申し出を受け入れたのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

〜ホグワーツ〜

 

 

 

 

 

 

ちょうどその頃、休戦中のホグワーツでは一人の若者が瓦礫の中から焼き焦げた黒い何かを掴んだ。組分け帽子である。

 

ネビルの脳裏には自分の組分けの時を思い出した。ホグワーツからの入学書が自分に届いても、未だにひよっ子魔法使いか、スクイブの2択で揺れていた。厳しい祖母からはロングボトムの名を汚さぬよう、誇り高き両親に恥じぬようにと徹底した教育が施された。しかし彼には才能も自信もなかった。

 

 

 

当時、彼がキングクロス駅から汽車に乗った時は友達と呼べる存在は誰一人としておらず、劣等感からか孤独だった。しかしグレンジャーというマグル産まれの女の子だけは自分を助けてくれた。しかしペットのトレバーを探すのを手伝ってくれたのは友情ではなく、ただのお情けだと思った。彼女はただ困っている劣等生を助けただけだ。そして彼女の口からある新入生の話を聞いた。自分とは正反対の秀才だ。教科書の全てを暗記しているだけではなく、容姿が整っており、会話には知性が溢れているのだと言っていた。

 

自分とは正反対ではないか。多分自分はその人からはゴミのように扱われるだろう。そしていずれ目の前のグレンジャーは自分を見捨てて彼の所に行くのだと、ネビルは自分を卑下した。

 

そして組分けが始まった頃、ネビルは恐怖を覚えていた。自分が行きたいのはグリフィンドールだ。しかしハッフルパフに選ばれさえすればマシだと思っていた。組分け帽子が才能がないから『スクイブを連れてきたのはどいつだ!?追い返せッ!!!』と叫ぶのではないか不安だった。

 

マグル産まれのグレンジャーはグリフィンドールに選ばれて何人か進むと、自分の番が来た。全生徒の視線が自分へと向く中でネビルは震えあがった。彼がグリフィンドールへ行きたいと念じ続けていると、組分け帽子は“グリフィンドール”と叫んでくれた。つい彼は安堵から帽子を被ったまま走り出した。

 

安心してグリフィンドールの席へ着くと彼らは自分を歓迎してくれた。そして次に名前を呼ばれたのは“マルフォイ”、純血主義の闇の魔法使いの家柄だ。顔を見てみると青白く、意地の悪そうな顔をしている。彼がスリザリンと叫ばれると少し安心した。しかし次に呼ばれたのも“マルフォイ”だった。

 

とっくにグレンジャーの言っていた生徒など忘れていた。しかし彼が壇上へあがり振り向いた瞬間に、頭の中で完全に一致した。見ただけでわかる。彼があの生徒だと。

 

 

 

整った容姿から多くの生徒たちは“マルフォイ”に注目する。彼の目には教師陣ですら彼の組分けの結果を心待ちにしているように見えた。そして組分けの葛藤の後に彼もグリフィンドールに選ばれた。自分の時とは比べものにならない程の歓声が先輩達からあがった。そしてグレンジャーも無表情ながらも少し嬉しそうに感じた。

 

まもなくしてハリー・ポッターもグリフィンドールに選ばれた。自分の世代で1番2番で目立っていた2人が自分と同じ寮になった。とても誇らしく思うと同時に彼は焦った。自分は彼らを前に埋もれてしまったからだ。

 

それからは2人と友人になり、できないなりに努力をするも結果は芳しくない。しかし彼は2人と比べて遥かにゆっくりと地道に成長していった。

 

 

 

 

 

 

 

そして今では彼はホグワーツ側の戦力の1つに数えられる程になった。しかし“死喰い人”を前に命をとられないのが精一杯だった。守りたかった学校も生徒達も奪われていく。かれは自分の無力さを嘆いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてネビルは絶望感を突きつけられた。休戦中であるはずの“死喰い人”達が隊列をなしてこちらへやってきているからだ。先頭には恐ろしい病的に白い男が歩いている。“ヴォルデモート”だ。彼は震えあがった。

 

 

 

 

 

ヴォルデモートはにやにやと集まった生徒や騎士団を眺める。そして捕らえられたハグリッドに担がせている亡骸を皆へ見せつける

 

その亡骸が誰かを皆が理解するのを確認するとヴォルデモートは煽るように声をあげる

 

「ハリー・ポッターは死んだッ!!!!」

 

その無慈悲な一言で彼らは心を一瞬で折られた。皆の希望のハリーが死んだのだ。一気に沈み込み闘争心のカケラも残っていない。

 

「今日、この日よりおれ様に忠誠を捧げよ。今こそ我が元に下るがいい。」

 

ヴォルデモートは恐ろしい笑みを浮かべながら言った。

 

「さもなくば死ね。」

 

そして冷たく吐き捨てるように言った。しかし誰も前へ進みでない。ただ皆は下を俯いているだけだった。

 

 

 

 

 

「ドラコ、さぁ来い。」

 

死喰い人の陣営からルシウス・マルフォイが息子のドラコを呼んだ。そして彼は初めて前へ進みでる。

 

「よくやったドラコ。」

 

その様子をみたヴォルデモートは軽く笑みを浮かべる。宿敵のダンブルドアを生徒という立場を利用して追い詰めたのは彼の功績だとヴォルデモートは評価している。しかしそれが彼の忠誠心や実力を認めたわけではない。自分の言うことを聞く生徒であれば誰でも良かった。

 

 

そして彼は両親の側へ迎え入れられると、無事を保証された。

 

 

 

意外なことにドラコのあとに続いたのはネビルだった。ヴォルデモートはその様子を愉快そうにみて彼へ質問を与える。

 

「お前、名はなんだ?若者よ。」

 

ヴォルデモートは純血主義であり、地を尊ぶ。故に彼は姓を重視する。

 

「ネビル・ロングボトム」

 

“ロングボトム”の名前に死喰い人は一斉に笑い出した。その名前は知っている。強力な“闇祓いの夫婦”の名前だ。自分たちの仲間の手により廃人にされた。誇り高く秘密を守り死んだのに、当の息子は恐れで命乞いをしているからである。

 

「一言言いたい。」

 

しかし彼の表情に不思議と服従した様子はない。むしろ此方へ敵意を向けている。

 

「よかろう、聞かせてもらおうではないか。」

 

ヴォルデモートは愉快そうに笑う。彼の行動の真意を理解した上で興味を抱いたのだ。

 

「ハリーだけじゃない。毎日人が死んでる。」

 

ネビルはそう静かに言った。彼や目の前のヴォルデモートではなく、自分の背中にいる人達へ向けて語りかけているのだ。

 

 

「友達や家族が。今夜、僕たちはハリーを失った。でもずっとここにいる。みんなの死は無駄じゃない。だがお前の死は違うッ!!!」

 

ネビルはヴォルデモートへ向けて言い放った。そして背後の生徒や騎士団、教師達を鼓舞するように叫んだ。

 

「ハリーは僕らの為に戦ったッ!!!まだ戦いは終わってないッッッ!!!!!!」

 

ネビルは組分け帽子を手にとると、そこに手を突っ込んで何かを思い切り引き抜いた。

 

かつて彼らの寮の始祖、ゴドリック・グリフィンドールが使っていた伝説の剣だ。

 

銀色の剣がまばゆく輝き、ゴブリンの手によって鍛えられた為に腐敗や風化などの一切を受け付けず、剣にとって価値のある能力のみを吸収するという特徴があるとされる。

 

真のグリフィンドール生のみが組分け帽子から引き抜けるという伝説があり、それゆえにヴォルデモートはホグワーツの4人の始祖の中でこの宝だけは手にする事ができなかった

 

 

 

 

ネビルはグリフィンドールの剣を握りしめてヴォルデモートへ向かって走り出した。彼の勇気に応えるように背後の仲間達は雄叫びをあげて死喰い人へ攻撃を仕掛けた。再びホグワーツは戦場へと化した。

 

 



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2人の教え子

 

 

 

 

 

ウィルとルーナはホグワーツの時計台の上で腰掛けていた。冷たい風が肌に突き刺さって行くのを感じる。しかしその事を気にすることなどなかった。彼らはただ無言で静かに戦いの行く末をただ見守る事にしたのだ。

 

 

「なぁルーナ、君はなぜ俺にそう優しくしてくれる?」

 

「君が誰にでも優しい(・・・)からだよ。」

 

当たり前のようにルーナはそう言うと、ウィルの方に頭をちょこんと置いた。彼女の言うことの全てが腑に落ちる感覚はない。だが自分の人生を振り返ってみても、ルーナの優しさには及ばないような気がする。

 

 

考えるのをやめて視線を下にやるとネビルの大声と共にホグワーツの生徒と不死鳥の騎士団の残党は現実から目を背け、ただ1つの意地のみで無謀な戦いに傷だらけの身を投じた。

 

 

「ハリーの死は無駄だったようだな。」

 

ぼそりとウィルは嘆いた。このまま折れていたら、降伏さえ選んでいれば最低限の命は助かったことだろう。次から次へと人が死んでいく。まだ大人ですらない未来ある若者が死んでいく。命の喪失に彼はまるで自分の心に穴が空いていくように感じる。

 

そしてかつて自分の学び舎が破壊されていくたびにまるでウィルの心がじわりじわりと削られていくのを感じる。

 

 

戦いが激化するとヴォルデモートを3人がかりで抑え込んでいるのが見えた。マクゴナガル、闇祓いのキングズリー、そして自分とは面識のない魔法薬学のスラグホーンだ。

 

未だホグワーツの教師が3人で囲んでいるのに決定打を与えられずにいる。それらをヴォルデモートはいなし続け、一瞬の隙を見てマクゴナガルへ向けて杖が向いた。

 

 

緑色の閃光が杖に宿った。そしてマクゴナガルは自分の視界に死の光が瞬いた瞬間にほんの一瞬だけ死への恐怖が訪れた。なぜならその死の呪文に“反対呪文”はない。盾の呪文ですら凌ぐことはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクゴナガルの頭の中に走馬灯が訪れる。組分けの儀式の際に彼女はグリフィンドールとレイブンクローの2択で5分悩んだ。“ハット・ストール”、偉大な魔法使いになる素質を持つ生徒に稀に起きる現象だ。

 

学生時代、彼女は飛び抜けて優秀だった。その才能をダンブルドアに見いだされてホグワーツの教員になった。その中で彼女は数多くの生徒達を見てきた。良い生徒ばかりではない、目の前の怪物が育つのを見逃してしまった。激しく後悔した。

 

スリザリンでありながら生徒を区別せず、魅力的で、圧倒的な才能を持っていた。

 

 

 

そしてもう一人、自分の元に彼に匹敵する怪物が現れた。

 

グリフィンドールでありながらスリザリンを嫌悪せず、魅力的で、天才で努力を忘れぬ生徒だった。

 

 

 

ダンブルドアの目には2人がよく似ていると早い段階で見抜いていた。トム・リドルより彼は同じ人種だと、しかし自分は目をそらしていた。心のどこかでわかっていたはずなのに、自分に言い聞かせていた。

 

 

 

***

 

 

 

まだほんの小さな新入生は自分の肩に頭を押し付けていた。暖かくじんわりと濡らす顔はあまりにも小さかった。自分の身体で覆い尽くせるほどのちっぽけな身体だった。

 

 

「……先生、俺やるよ。クィディッチ。」

 

その時の彼はとても無邪気な笑顔だった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

それからほんの数年、小さな少年は青年へと変わっていた。誰よりも才能とセンスを遥かに高めるべく努力を重ねていた。彼を信じ認めて“逆転時計(タイムターナー)”を与えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし彼女の期待は裏切られた。

 

 

 

 

***

 

 

 

「先生、大義ですよ。」

 

その言葉に彼は妖艶に魅力的に笑う。カリスマが心の底からそれが本当に正しい事だと信じた姿はどんな人でも価値観が揺らぐだろう。自分も彼が教え子でなければ傾倒しただろう。

 

 

 

 

 

彼女はまた“悪のカリスマ”を産んでしまった

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつての教え子の緑色の閃光が放たれた瞬間にある名前を口ずさんだ。

 

 

ダンブルドアは同じだと言った。だが彼女の目にはそう映らなかった。確かにマクゴナガルはその生徒に愛を与えていた。

 

 

 

(ウィル・・・)

 

 

 

 

そう心で念じた瞬間に緑色の閃光が花火のように弾け飛んだ。

 

 

(助かった・・・、のでしょうか。しかし・・・。)

 

 

不合理なことだ。“死の呪文”に反対呪文や防ぐ手段はない。なのに目の前で“闇の帝王”の死の呪文を無力化されたのだ。

 

 

「何者だ!?」

 

かつての教え子、トム・リドルは遠い過去の時代の天才。今はヴォルデモートとして彼女の前で叫んでいる。

 

 

(戻ってきたの・・・ですね。)

 

 

マクゴナガルは小さく笑った。“死の呪文”を防ぐ、それも“闇の帝王”のそれを相殺できるのはただ一人・・・

 

ヴォルデモートに匹敵(・・)する“死の呪文”を放てる魔法使いのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ウィル。」

 

マクゴナガルの背後に早歩きでコツンコツンとこちらに向かう足音が響いてくる。彼女の学び舎で何度も聞いた。

 

聞き間違えるわけなどなかった。

 

 

 

 

 

 

「マクゴガナルさん。お久しぶりです。ここはお任せを。」

 

大人びた低い声の若者がそこにいた。完全に成長して大人になっている。しかしマクゴナガルの目には少年にも、青年の姿にも映っている。

 

「立派になりましたね。ウィル。」

 

マクゴナガルはそう自然と言った。ずっと彼の中の意志が折れず大人になっていたのだと、見ただけでわかった。

 

 

「怪物を相手取るのは貴方の仕事じゃない。」

 

ウィルはかつての自分の先生にそう言った

 

「えぇ、わかりました。」

 

マクゴガナルは当然かのようにヴォルデモートに背を向けた。その様子にスラグホーンとキングズリーは激しく驚いた。

 

 

 

 

 

 

ウィルは目の前の化け物と対峙することに少しだけ緊張と焦りを覚えていた。突発的に自然と身体が動いてしまったのだ。正直、彼と戦うにはあまりにも準備不足だと理解しているからである。

 

 

 

 

 

 

 

「ウィル、あとで(・・・)貴方に罰則を与えます。」

 

微笑むマクゴガナルはまるで家出した自分の息子を見るかのような優しい目をしていた。ウィルはつい笑顔が溢れてしまう。

 

「ハハッ、ズルいなぁ。あとで罰則なんて。」

 

ウィルは鷹のように鋭い瞳でヴォルデモートを見ていた。悪意や敵意の類いは一切なく、ただ海の波を眺めるかのように安らかに見ていたのだ。もはや緊張や不安などなかった。

 

「待たせたねトム、戦おうか。」

 

ウィルはとても澄んだ気持ちで闇の帝王とたった一人で立ち向かった

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

〜時計台の上〜

 

 

 

 

 

 

「わかってた、ウィル。君は優しいもんね。」

 

ルーナはさっきまで隣にいたはずの婚約者を笑顔で見ていた。

 

 



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怪物と怪物 ①

 

 

 

理論ではなく感情を選択する

自分でもこの選択は読めなかった

 

 

これまでの価値観からは出てこない感情だ

でも迷いはない

頭が冴えたわけでも

モヤが消えたわけでもない

でもなぜか確信している

この選択が正しいのだと思った

 

 

 

 

 

 

「あぁそうか・・・。」

 

ウィルはつぶやいた。また一つ彼の中で正しいであろう答えに辿り着いたのだ。

 

「俺はより世界を正すためにって考えてた。でもその世界に笑ってる俺はいない。」

 

まるで自分に言い聞かせるように言った。ヴォルデモートは眉をひそめて不愉快そうな顔をしている。ウィルがなにを言っているのか理解できないからだろう。

 

 

(僕は君と笑っていられる世界を作りたくなった。)

 

 

自分の心の中には常にルーナがいるのだと気がついた。何度も何度も選択は揺らいだ。二転三転する自分に嫌気がさすことはない。

 

 

「愚かな、お前(・・)もか。」

 

呆れているのか、悲しんでいるのか、喜んでいるのかはわからなかった。目の前の闇の帝王は複雑そうな顔をしていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「あの子が勝てるわけがない!」

 

スラグホーンはそう叫んだ。ヴォルデモートとウィルから離れるマクゴナガルの様子を見て行くべきか行くべきでないか決めかねている様子だ。それに対してキングズリーは2人の様子を冷静に伺っている。

 

3人ががりで仕留める兆しすらなかった闇の帝王を自分らより遥かに経験の浅い魔法使い1人で置き去りにするのはあまりにも酷だ

 

 

 

だがマクゴナガルは確信している。彼なら安心して任せられると・・・

 

「ウィルは大丈夫です。かつてダンブルドアは言いました。自分の受け持った2人の黒い天才(・・・・)の話です。」

 

その2人が誰を指すのか、スラグホーンとキングズリーはすぐにわかった。

 

「一人は深く闇を支配し、そしてもう一人は闇を受け入れた。」

 

2人はマクゴナガルの凛とした様子に圧倒され、彼女に従うようにその場から離れた。マクゴナガルの信頼する彼を信じる事にしたのだろう、彼らは教師として大人として生徒を守るべく行動を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

トムはウィルの一皮向けた様子を見て口を開いて尋ねる。

 

「なぜ貴様()愚かな選択肢を選ぶ?」

 

彼は心からそう思った。理解ができないのである。

 

「確かに、愚かな選択だろう。まだ(・・)僕は君には勝てない。」

 

ウィルは彼の言っている事が正論だと理解した上でこの選択を取った。

 

「ではなぜだ?」

 

「この学校が壊れゆく姿を見たくない、ただそう思った。ここは僕と皆の繋がりなんだ。そして君も(・・)だよ。」

 

ウィルは自分が孤独だと感じていた。親を知らず孤児院で生まれ、マルフォイ家で幼少期を育った。彼もホグワーツで自分の野望の為に常に精進を重ねたわけではない。同世代で等しく学び、食べ、同じ屋根の下で眠った。

 

そのありきたりな共同生活に彼はなんとも思わなかったわけではない。

 

「つまりトム、君にはもう何1つとして壊させやしないってことだよ。」

 

ウィルの恐れや嘘のない言葉にヴォルデモートは少し怯む。

 

「・・・なにが言いたい?」

 

彼の中に迷いが生まれたらしい。ヴォルデモートはウィルを高く評価している。まだ若く成長期にある彼を認めていた。だから彼はウィルの言葉を受け止める事を許したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィルーーーッッッ!!!!」

 

聞き覚えのある声が2人だけの空間を遮る。その声に彼らは激しく動揺した。死んだはずの友、そして敵の声だ。

 

彼らは同時にある若者を自然に捉えた。ボサボサの黒髪に黒い眼鏡、そして綺麗な青色の瞳の男だ。

 

「ハリー・・・。」

 

「ハリー・ポッターッッッ!!!!」

 

驚きつつもウィルは微かに笑みを浮かべているのに対してヴォルデモートは感情に身を任せて叫んだ。既に彼の目にはウィルを映しておらず、ハリーへむけて杖を向け、再び死の呪文を放った。

 

だが緑色の閃光を視界の端で捉え、ウィルは易々と相殺してみせる。

 

 

「ハリーーーッッ!!!」

 

ウィルは力の限り叫んだ。

 

「分霊箱はお前に任せる!!!だからトムは俺に任せろ!!!」

 

ウィルの声にハリーは返事をすることなく2人から走って離れていった。ウィルに対する信頼と自分が彼の足を引っ張ってしまうと理解した為の行動である。そしてハリーはウィルが微かに自分を対等な存在たと認めてくれたのだと嬉しくなった。

 

 

「なぜ生きている?ポッター。」

 

ヴォルデモートは更に動揺したらしい。彼と禁じられた森で対面した時、たしかに死の呪文を命中させた。更に配下のルシウスの妻であるナルシッサに死んでいるか確認までさせた。その上でハリー・ポッターは生きている。何もかもが自分の思い通りにならない。怒りを通り越して疑問を抱いたらしい。

 

「トム、どこを見てる?」

 

ウィルのその一言でヴォルデモートは現実に引き戻される。そして彼の鋭い瞳に目を奪われた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

〜校長室〜

 

 

 

 

 

戦争の騒がしさは校内にまで響いていた。絵画の中の住人は慌てふためき逃げ出そうとするが額縁の外へは出られない。

 

「ウィル、君と儂は相容れぬ。」

 

校長室の絵画の一つに先代校長のアルバス・ダンブルドアはそうつぶやいた。彼は最も未来を予測できる洞察力を持った魔法使いだった。偉大なる魔法使いであっても絵の中ではなにもできない。今はただ言葉を口から垂れ流すだけだ。

 

「なぜなら儂がトムを見捨てたからだ。」

 

ウィルは自分が幸運だと確信している。なぜなら道を外して苦悩した時、常に誰かが自分に救いの手を差し伸べてくれた。数えきれないほどの恩人達がいる。だからこそウィルは今の自分があると言える。

 

その背景があるからこそ彼は道を外したトムを愚かだと言い放ち、見捨てたダンブルドアに対して不快感を覚えた。

 

「その通りじゃ。だから儂を嫌悪しておる。だが君は儂と同じ点がある。君は友を見捨てることができない。」

 

ダンブルドアは続ける。

 

「君はヴォルデモートを、トム・リドルを友として受け入れる。ここまでは見えておった。」

 

これがダンブルドアの最も危惧した結末である。しかし彼の懸念は現実に変わった。

 

「だがこれより先は見えぬ。選択の果てに、君は何を見る?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「トム、どこを見てる?」

 

ウィルのその鋭い瞳に映しているのは目の前のただ一人のみだった

 

「俺は君を見てる(・・・・・)ぞ。」

 

彼がそう言い終えると同時に彼の背後から次々と50前後の灰色の煙の筋が空から降ってくる。それらは地面へ着地すると散るように分散すると中から魔法使い達が姿を現わす。

 

男女、年齢問わない魔法使い達は彼の信仰者及び同士である。彼らはウィルがダームストラングで集まった集団だ。理由はただ一つ、ウィリアム・マルフォイに魅了された。

 

神に選ばれた才能を持ちながら、狂信的な野望を秘めながらも支配や束縛を嫌い、誰一人として強制させることはない。彼の高貴な振る舞いに惹かれ、そして彼の大きな背中に着いてきた者達だ。

 

 

 

「実に愚かだ。お前の行動は魔法界の損失となるだろう。そしてお前は俺様に勝てぬ。」

 

ヴォルデモートは冷酷に言い放った。彼らを完全に敵として認識したらしい。

 

「だろうな、俺は君に勝てない。だが少し考えてた。強さは何かと思考を巡らせた。」

 

ウィルは杖を握る指に力を込める。そしてそれを身体の前に持ち上げるとジッと感慨深そうに見つめた。意味深な若者の言葉に彼は興味を抱く。

 

ウィルはゆっくりとヴォルデモートへ歩いていく。

 

「トム、君は鍛錬の果てに夜が明けたことは?」

 

「・・・は?」

 

ヴォルデモートは予想外の言葉に戸惑いを覚えた。それと同様にウィルの言葉に共感することができなかったのだ。

 

「己を強くしてくれた者に感謝の意を示したことは?」

 

「自分以外の誰かへ敬意を表したことは?」

 

ウィルは矢継ぎ早に淡々と質問する。しかしトムはなにも答えない。ウィルの進んできた道は決して一人では来れなかった。そうだ。自分の為に長年磨き続けていた叡智を見返りを求めることなく差し出してくれた。

 

「ないよなぁ?」

 

ウィルの視線は鋭くヴォルデモートを貫く。それが自分と彼の違いだとわかっていた。

 

「だからよ、俺は・・・

 

 

 

 

 

 

誰の想いも背負っちゃいねぇお前に

負けるわけにゃぁいかねぇんだよ。」

 

なぜ自分にそうしてくれたか。全ては想いだ。誰にでも与えるわけではない。自分に期待して信じてくれたからだ。だからこそとてもかけがえのない事なのだと心に刻まなくてはならない。

 

そして自分が折れる事は彼らへの冒涜だ。ウィルは心の底からそう思っている。

 

 

 

「だとしてもだ、お前は万全か?愚かにも思いつきの行動で。」

 

ウィルの感情的な姿に少し驚きつつも、冷静に彼を問い詰める。

 

「・・・それが1番の問題だ。たしかに準備不足だな。でもまぁやるしか・・・。」

 

 

 

 

「ねぇかッッッ!!!」

 

ウィルはローブから左手で素早く取り出して、なにか小さな緑色の何かを投げた。ヴォルデモートはごく僅かに怯んだ。杖ばかり警戒しており、まさか先手が投擲とは思わなかった。

 

「“肥大せよ(エンゴージオ)”」

 

投げられた何かはバケツほどの大きさに戻ってヴォルデモートへ迫る。それはサボテンのような灰色の植物のように思える。針の代わりにおできのようなものが無数に存在する。

 

醜い植物にヴォルデモートは反射的に“粉々魔法”を使用して破壊する。しかしその植物はまるで爆発するように暗緑色の液体を四方八方へ噴出した。

 

その汚い液体はヴォルデモートに覆いかぶさるようにまとわりついた。

 

「クッサっっっッッッ!!!」

 

ヴォルデモートは鼻をすぼめながら叫んだ。腐った堆肥のような匂いが彼を包み込んだからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“ミンビュラス・ミンブルトニア”

 

ウィルがホグワーツ時代に同じ部屋にいたネビル・ロングボトムが育てていた魔法植物である。その種をウィルは譲り受けていた。

 

 

 

ウィリアム・マルフォイ

この世で最も魔法に愛された天才の1人

そして戦いの手段を選ばぬ者

 

そして誰よりもよりよき世界(選択)を求める者

 

 

 

 

 



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怪物と怪物②

 

 

 

汚物にまみれたヴォルデモートはこの上ないほど自分が侮辱されたかのように感じた。しかしそれはすぐに誤りだと気がつく。ウィリアム・マルフォイという男の戦い方を考えれば一目瞭然だ。

 

彼の戦い方は対策を実行する為に小細工で先手を取ることで少しずつ大きな策へと繋げる。

 

つまりこれはただ“先手”を取るための小細工に過ぎず、己のペースに自分を持ち込む事で少しでも優位に立つ為だ。

 

 

 

ヴォルデモートは冷静に自分に降りかかった汚物を取り払う。しかし既にウィルはその場から姿を消していた。

 

 

(また先手を取られた。実に厄介だが・・・)

 

 

しかしヴォルデモートはうすら笑みを浮かべている。なぜならウィルの戦闘スタイルが2年前と変わっていない事が愉快(・・)だったからだ。

 

彼が真正面から自分と戦わないのは、まだ実力がヴォルデモートに及んでいないという証明になる。つまり冷静に策を暴いていけば勝てるという事だ。

 

 

先ほどと違う何かを探る為に神経を集中させる。僅かばかりの違和感や微かな魔力の痕跡すら見逃す気はなかった。

 

そして彼はすぐに正解であろうものを視界に入れる。すぐ側の瓦礫に異物が混じっているのを見抜いた。

 

「あれは石像の手だ。」

 

それはマクゴガナルの手によって命を吹き込まれた石像の成れの果てだ。何者かに破壊されたのだろう。

 

 

(だが俺様は一体も石像を破壊しておらぬ。)

 

それもそうだ。ヴォルデモートはここでずっとマクゴガナルらの3人と戦っていた。自分の知る限りこんなに近くで石像は壊されてなどいない。

 

つまりそれは“変身術”だ。ウィルが石像の手に化けているのだ。悪戯坊主のような挑発をして逃げたかのように見せかけて背後から襲う気だったのだろう。

 

「発想は悪くないが、実に浅はかな男よ。」

 

ヴォルデモートはこの世で最も強力な“ニワトコの杖”を石像の手に向け、“レダクト”を放って粉々に破壊する。

 

しかし飛び散ったのはウィルの血や肉ではなく、ただの瓦礫だった。

 

「違う!あれはただ岩を変身させただけか!」

 

ヴォルデモートがそう叫ぶと同時に背中にブスリと針が刺さったような痛みを感じた。

 

彼が身体を捻って視線を背後にやると不敵な笑みを浮かべたウィルが注射器で何かを注入しているのが見えた。

 

ヴォルデモートは杖を振るって軽く吹き飛ばすが、彼は盾の呪文を限りなく薄く貼る事で勢いを借りて距離をとった。

 

 

すかさず2人は次々と呪文を放ち合う。呪いや隙を作る呪文、そして反対呪文や相殺する魔法などまるで高速でチェスをするかのようだった。

 

周りから見て圧されているのは明らかにヴォルデモートだった。明らかに分のある正面からの決闘であるのにも関わらず、彼はウィルを殺せずにいた。理由は先手を取られた事、そして自分の読みが外れた事、また何かしらの液体を自分の体内に注入された事が原因だ。

 

更に付け加えれば、自分と真正面から戦うのを嫌がったはずなのに今は姿を現している。彼の真意がわからないのだ。思考を巡らせながら魔法をチェスのように戦術を組み立てるのはヴォルデモートであっても困難だった。

 

 

 

「動揺しているね?君に打ったのは毒だよ。」

 

ウィルはヴォルデモートの焦りを見抜き、そしてそれを煽るように言った。しかしヴォルデモートは会話に割く労力が無駄と考えて返事をしない。

 

 

「“フィニート”は効かない。なぜなら魔法じゃないからね。もちろんこの毒を解毒する呪文はある。」

 

これはウィルが調合した魔法薬である。原材料から器具まで何一つ、魔法は介入していない。だから発動している魔法を無効化する“終了呪文”は通用しない。

 

だが解毒魔法なら別だ。

 

「魔法とはイメージが大事だ。でも成分もわからないだろう?それに僕が調合した。」

 

そもそも解毒とは、現在体内にある毒を相殺する毒を注入する事だ。毒を読み違えれば逆効果となり得る。

 

「解毒を間違えたら詰む、仮に消せたにせよ、僕はその隙を逃さない。」

 

ウィルがそう言い放った瞬間にトムは素早く、杖を振るって解毒を試みる。彼はほんのわずかに怯んだ。なぜならその解毒が・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完璧だったからだ。

 

(香りと色は誤魔化した。なぜわかる?)

 

ウィルは素早く脳内を巡らせて答えを辿る。

 

(勘、いや身体に現れた微かな症状で見抜いた?これも違う。)

 

ウィルは微かに動揺しつつも次の一手を繰り出して魔法を放つ。それはトムの心臓をまるでクッキーの型抜きでくり抜くかのように吹き飛ばしてみせた。

 

(“ホグワーツにいて手に入り”、“学校の書物”にあり、尚且つ校内で“密かに精製できる”であろう条件で絞った。それしか考えられない。)

 

答えは“アクロマンチュラ”を基礎とした神経毒である。アクロマンチュラの毒は大変貴重であり、半リットルで100ガリオンの価値があるとされている。彼は貴重であればあるほど特定しにくいと考えたが、誤りだった。トム・リドルの学生生活にもっと深く考えを割くべきだった。彼はマグルの孤児院で産まれた。つまり身寄りはなく、金銭に大きな余裕はないだろう。故にホグワーツの図書館の書物を頼ったはずだ。才能ゆえの退屈さから“禁じられた森”の中で非日常感を楽しんだだろう

 

 

「流石だね、トム。たとえ君を殺せなくても、封じる手段は多くある。」

 

ウィルはそう言った。彼はその研究の為にリスクを背負い秘密の部屋で実験を行ったのである。世界を制する為ではなくトム・リドルと渡り合える為の策を練る為だ。

 

彼の分霊箱について、あまりにも謎が多過ぎる。特に半永久的な寿命の詳細が不明だった。単純に“不老”なのか、それとも不死なのか?

 

むろんそのカテゴライズですら断定はできない。どちらか見抜いたにせよ。

 

その所以は単に

身体の老いを停止させるのか

細胞の劣化を食い止めるのか

常に若い細胞が活性化し続けるのか

そもそも体内に血液すら通っているのか

 

ホグワーツの書物ではそこまで知りようがなかった。だから彼は毒を撃ち込んだ。単に致命症を与える為でなく、知る為だ。ヴォルデモートの対応次第で最も有効と思われる策は変わる。

 

毒を嫌ったということは体内に血液が巡っているという事だ。つまり細胞自体は生きているのだと推察できる。また強力な“再生力”はないとおもわれる。

 

そこでウィルはより確実に彼を封じる為に血液を循環させる心臓を、トムの身体から失わせた。

 

毒に破れた細胞が再生しないという事は心臓を抜きとっても再生はしないということに他ならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トムを封じたというウィルの淡い期待を抱きつつ、彼は未だに杖に込める力は緩めてない。この程度であの怪物を攻略できるわけなどないと理解していたからだ。

 

「ウィリアム・マルフォイ。お前は自分の弱点をそのままにしておくか?」

 

案の定、ヴォルデモートは自分の吹き飛んだ心臓を見てせせら笑う。未だに鼓動を続けており、彼の体内では血が巡っているようだ。

「この俺様がなんの対策も講じてないと思ったのか?」

 

トムの様子を見たウィルは素早く指を鳴らした。すると彼の足元に赤い魔法陣がくっきりと浮かびあがる。そしてそれはすぐに激しく爆発する。

 

 

ホグワーツはウィルのかつてのホームグラウンドである。彼は自分が闇祓いに追われる可能性が限りなく高いと考え、あちこちに保険をかけておいた。この校舎内に沢山、仕掛けてある。自分自身の刻んだ魔力と場所を彼は決して間違えない。

 

 

煙が激しく舞いあがり、ウィルは飛び散った砂塵が目に入らぬように腕で庇う。そしてそれらが空気中に散布され、視界が開けると、ヴォルデモートは己の杖を地面に突き立てている。彼はジロリとウィルを睨みつけ口を開く

 

「俺様に2度は通じぬ。」

 

魔法陣を反対呪文で打ち消した。つまりこれは一瞬で相反する魔法陣を上から書き換えたという事だ。やはりヴォルデモートの方がウィルの才能を上回る。

 

「“インカーセラス(縛れ)”」

 

ウィルは間髪入れず鋭く強靭なロープをヴォルデモートに放った。浅はかだとせせら笑いながら彼はそれを容易に“フィニート”する。

 

しかし笑っていたのはウィルも同じだ。

 

「僕は運がいい。」

「なに?」

 

怪訝そうにヴォルデモートはウィルの言葉を待つ。

 

「僕の記憶じゃ、その魔法陣は特別(・・)だ。」

 

トムの搔き消した魔法陣を別の何かが更に上書きされる。分厚い鉛の鎖がヴォルデモートをがんじがらめに縛り付ける。身動きを取る暇すらなく彼は静止する。

 

 

 

 

“二重に張り巡らされた魔法陣”

 

 

 

側から観ると、偶然にも2人の決闘となった場所に魔法陣が組み込まれていたようにしか見えない。

 

しかしこれはウィルの魔法による必然であった。ウィルがヴォルデモートに“臭い植物”ミンビュラス・ミンブルトニアを投げて、怯ませた時、近くに仕込んでいた魔法陣をトムの足元に転移させたのである。

 

「戦いにおいて大事なのは切り札を隠すこと、でも最善は切り札を使っておきながら使った事を悟られないこと」

 

ウィルは意味深な言葉をトムに投げかける。

 

「トム、最近君は魔力の衰えを感じないかい?」

 

その言葉にヴォルデモートは自覚があった。ここ最近、自分の力が思うように魔法に現れない感覚を覚えていたのだ。

 

「原因はコイツだ。」

 

ウィルは蓋がされた中が灰色に液体の入ったフラスコを取り出してみせる。それをトムの足元へ投げた。それはクルクルと回りながらトムの足元で割れて液体は一瞬で気化して霧のようにふわりと散った

 

「これは魔力を分散させる効果がある。“霧散薬”と名付けた。」

 

ウィルはトムをジッと見据えながら続ける

 

「聞きたい事はわかる。この魔法薬を“神秘部”の時に仕掛けた。」

 

彼は事前に神秘部のレンガの中に穴を開けて“霧散薬”をごく僅かに仕込んでいた。それを今回と同様に魔法陣で破裂させて散布したのである。

 

「あぁトム、2度(・・)通じたねぇ。」

 

ウィルは彼を煽るようにつぶやく。その言葉を耳にしたヴォルデモートは激しい怒りに身を任せた。自分が認めたとはいえ格下の若造に軽口を叩かれて見過ごす事はできなかった

 

「俺様は違う。お前などより遥かに優れている。選ばれた血なのだ。」

 

ヴォルデモートはウィルの選ばれたマルフォイ家の血筋ですら自分には及ばないと吐き捨てる。なぜから彼はホグワーツ四強で最も偉大な力を持つ者の血をひく。

 

「全てが、()が違う。」

 

「たしかに、貴方は最強ではあるが、無敵ではない。」

 

彼は自分の感情に任せて魔力を暴発させた。まるで風船の中に強引に蓄えていた水を一気に解き放ったかのようだ。それは全方位へと自分以外の全てを吹き飛ばすかのような魔力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“プロテゴ・マキシマ(強固な盾よ)”」

 

ウィルは冷静に盾の呪文を唱えた。

 

強大な魔力、それがトム・リドルをヴォルデモートと成した所以である。ウィルはそれが最も自分に分が悪い部分だと自覚していた。つまり彼により多くの魔力を消費させる事こそが勝利への鍵となると考えていた。

 

ヴォルデモートには自信と過信がある。だから彼は後先考えず魔力を使う。それが無駄遣いであるとしても自分とウィルとの格の違いを示したがる。

 

だからウィルは魔力をできる限り最小限にとどめ、魔力の必要としない戦闘手段を選択して実行した。それが“ミンビュラス・ミンブルトニア”、“アクロマンチュラの神経毒”と“霧散薬”、そして事前に魔力を込める事ができる“魔法陣”だ。変身術や拘束魔法に至るまで彼は最低限の魔力しか込めてない。

 

 

そして今回の盾の魔法が最も大きな魔力を込めた。しかしウィルの身を守る(・・・・)ではない。

 

 

 

その盾はウィルの前には発動せず、ヴォルデモートをドーム状に覆い尽くした。なぜなら魔力を盾の中で爆発させる事で、トム自身の魔力で彼を傷つける為だ。むろん挑発も全て計算の内である。彼の心を揺さぶり冷静をなくす為だ。

 

 

 

 

激しい爆音と共に地面には勢いよく亀裂が走り、ヴォルデモートは地中へと落ちた。なぜならウィルの貼った盾はドーム状、つまり地面を守っていない。

 

つまり衝撃は全て地中へと向かったため、とてと深い穴が自然とできた。その下でヴォルデモートは激しく呼吸をしていたのである。

 

 

 

 

(貴方は傲慢、故に劣れば力で押し通す)

 

 

「“アクアメンティ(水よ)”。」

 

ウィルは比較的大きく魔力を使用してまるで滝のように巨大な水柱を穴の中へ放った。水の蛇はトムを覆い尽くして、形を整えると液体の牢屋を創り上げる。それを空高く持ちあげ、再び呪文を放った。

 

「“グライシアス(氷河よ)”」

 

ウィルはそれをヴォルデモートごと一瞬で凍らせると素早く周囲の砂を操り覆い尽くした。そして周囲にある瓦礫を集めた。ホグワーツの煉瓦や壁、そして石像の破片など硬い無機物をまるで隕石の様にくっつけて、宇宙の星のような鉄壁な独房を創り上げた。あとはこれを世界のどこかの深海などに沈めればいい。

 

 

(どのみち、君やダンブルドアと戦う必要などなかった。僕にあるアドバンテージは“若さ”だ。だから弱るのを待てばよかった。)

 

“神秘部の戦い”で霧散薬を仕込んでいた。つまり年を重ねる毎に2人は弱り、そして自分は更に牙を磨く。戦いなど逆転してから、又は勝手に死ぬのを待てば良かった。

 

 

 

 

ウィルとヴォルデモートとの戦いを戦場にいた多くの者は見届けた。

 

“闇の帝王”は封じられたのだ。この世で最も恐ろしい魔法使いは再び去った。“生き残った男の子”と報道された時のように、不死鳥の騎士団のメンバーや教師陣、生徒達、ウィルの同志らは大きな歓声をあげた。

 

再び闇の時代は終焉を迎えたのである。これからは明るい未来が訪れるのだと死喰い人を除く誰もが確信した。主人をなくした死喰い人らは士気を失い、次々と身体を黒い霧で覆い逃げ出す。それらへ向けて次々と魔法が放たれて撃ち落とされる。

 

多くは逃げ延びたものの、彼ら深追いすることはなかった。ホグワーツの戦いは終わりを迎えたのだから。彼らは歓喜の表情を浮かべている。そして一斉にウィルの名を叫び続ける。偉大なる英雄を称えているのだ。

 

しかしウィルの表情は硬いままで観客の賛美の声には応えない。彼を封じ込めたとはいえ、心の中の何かが失われたような感覚を抱いていたからだ。

 

ホグワーツの敷地にいる者は希望に満ち溢れていた。もう2度と闇の勢力を暗躍させてはなるものかと心に深く、深く刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢は見れたか?

 

その一言で、ただその短い一文でホグワーツの雰囲気は希望から絶望に変わった。闇の時代はそう簡単には潰えない。

 

 



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怪物と怪物③



*後半過激な描写あります

苦手な方は一つ目の***で止めてください。本編とは必ずしも大きな関わりはありません。


 

 

 

 

 

 

 

 

ヴォルデモート特有の発せられた瞬間に背筋が凍るような声が聞こえた。ウィルはその声の主が自分の背後にいると察知して、勢いよく振り返るも遅い。強大な風が吹いて彼は吹き飛ばされる。受け身を取り追撃を警戒するも、彼は体制を崩している。

 

 

地面に倒れていながらもウィルは素早く視界を声の持ち主へ向ける。頭から赤黒い血を滴り落ちて固まっている女子生徒だ。見覚えはないがレイブンクローの紋章が付いている。生気を感じないが、目線だけは鋭く赤い。

 

「流石にこれじゃ無理か。」

 

ウィルは立ちあがるまでの極僅かな時間でトムの乗り移った死体は本来の肉体が閉じ込められた牢屋を一瞬で破壊してみせる。

 

すると魂が宿っていないのか、ただの抜け殻のように彼の肉体はどさりと落ちる。そしてヴォルデモートはゆっくりと立ち上がった。

 

精神のみを移動させたのだとウィルは理解した。まだ彼にはできぬ芸当で、呪文はわからないがトムは死体の中に自分の魂を乗り移る事で彼の牢獄から逃れたのだ。

 

ヴォルデモートは周囲を見渡すと周りに自分の部下が誰1人としていないことに気がついた

 

「やはりそんなものか。」

 

18年前、ハリーに“死の呪い”を跳ね返された時と何一つ自分が変わっていないのだとわかった。自分の周りにいたのが理解者ではなく手駒なのだと再び思い知らされた。

 

そしてなぜ自分の同類のウィルの周りには人がいるのか?彼にあって自分にないものがあるのだろうか?

 

しかしヴォルデモートはそれを認めるわけにはいかなかった。なぜならそうであれば自分がウィルより劣っていると認めることになる。だから心を折りたくなった。

 

「最後だ。俺様とお前は対等ではない。」

 

ヴォルデモートは杖を天高く向ける。まるで天に住む神へ向けて攻撃を仕掛けるようだ。そして彼は杖を微かに強く握る。

 

 

 

彼の恐ろしい霧のような魔力が彼の杖にギュッと込められた。

 

ヴォルデモートのその言葉に誤りはない。それはこの世の事実であり、当然の言葉だった。それを示す為の魔法なのだとウィルは瞬時に勘付いた。

 

「“悪霊の炎(フィエンド・ファイア)”。」

 

杖先から黒く怨念が凝縮された火柱が天へ舞いあがる。竜巻のようにうねり轟く。ただの火柱の風圧で大半の者を怯ませる。只の発動の気配のみでホグワーツにいた全ての人々に力の差を見せつけたのである。

 

それらは天へねじれながら少しずつ形を整えて産み出された。天へ聳え立つはスリザリンの象徴、蛇の王“バジリスク”だ。

 

これは闇の帝王が自分の血筋への誇り、スリザリンの後継者たる証だと考える。その強大さ、神々しさは留まるところを知らず、更に更に大きく猛る。

 

「おいおいおい・・・、本気じゃなかったのかよ。」

 

ウィルは一度、彼の“悪霊の炎”を見ている。しかしそれはほんのお遊戯、ヴォルデモートからすればそんなものだったのだろう。本気で命がけで臨んだのが一方的だったのだと気付かされる。

 

 

 

ホグワーツどころか天を覆い尽くす

深い闇の炎は天候さえも歪め

悪霊の域を超え

まるで冥界の悪魔が

人間への罰を下したかのようだ

 

 

 

 

 

「こんなの、この世の誰も勝てねえだろ。」

 

ウィルは冷や汗を流す。炎がかすったわけでもないのに喉が空気に焼かれ、頬に皮膚が火傷していくような感覚を覚える。喉は乾きつくした。足元はすくみ、彼の純粋な悪意を目の当たりにさせられた。

 

 

 

 

 

格が違う、というより次元が違う。さすれば傲慢に油断もするだろう。なぜならまともに戦えば、闇祓いだろうと幼児だろうと一瞬で片がつく。手を抜かなければただ雑草を引き抜いていくかのような退屈な作業になってしまう。

 

 

 

ダンブルドアの本気を見たことはない。だがこの冥界の業火を見て思わざるを得ない。ヴォルデモートの実力にはこの世の誰であっても及ぶことはないだろう。

 

少し考えればわかった。ダンブルドアはあくまでも今世紀で最強と呼ばれる魔法使い。だがヴォルデモートは?

 

 

“魔法界史上最も強力な闇の魔法使い”

 

 

 

 

 

 

 

かつて無敵のアンドロスと呼ばれた偉大な魔法使いは巨人サイズの守護霊の魔法を出せたという逸話がある。

 

だが今、目の前に聳え立つ真紅の蛇は、ヴォルデモートの悪霊の炎は巨人なんてもんじゃない。一言で表すならば“神”だ。

 

天へと昇るほどの蛇はまるで神のようだった。荒々しく燃え盛り、傲慢で浅はかな人間に身の程を教えてやると言いたげだ。

 

 

人々は恐れおののいた。なぜ彼が闇の帝王と呼ばれるか、“悪意”である。“悪霊の炎”は己に秘めた邪悪さが大きければ大きいほど威力は増す。つまりこれが彼の“悪意”の規模(スケール)だという事だ。

 

「無尽蔵の悪意、どれほど・・・、」

 

恐怖に包まれる味方とは異なりウィルはただ1人、とても意外な感情が心を埋めていた。それは“このうえないほどの同情”であった。

 

 

 

ウィルはかつて自分の忌むべき日々が脳裏に浮かんでいく。

 

 

 

 

あの時は孤独で、ただ目に入る全てを憎んでいた

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

およそ13年前(ウィリアム5歳)

 

 

 

 

 

 

 

〜夜の闇横丁・孤児院〜

 

 

 

 

 

 

現在より遥かに薄暗く不気味な商店は闇の帝王の残党が潜んでいたからだろう。光の下で生まれ育つ子供がいるように、影の中で蠢く子供もいる。

 

 

ひび割れた煤だらけの壁、卑猥な落書きだらけの外装、食べカスでカピカピになった床など一目でここが劣悪な環境だとわかる。人によっては刑務所と勘違いするだろう。

 

実際、ここは闇の魔法使いや出自を隠す為に捨てられた赤子が多く集まる“孤児院”だ。

 

ここでの強者は2種類に区別される。

 

1つは純血の魔法使いの血筋、そしてもう1つは杖を持つ者だ。

 

そしてどの世界にも頂点に立つ存在がいる。この孤児院も例外ではない。加えて頂点がいるというならば底辺もいる。出自が不明、杖もなく、そして周りに馴染まぬ子だ。

 

『『『穢れた血!穢れた血!穢れた血!』』』

 

子供達は無邪気に笑いながら大きな人形に向けてボロボロの杖で火花を飛ばす。魔力は拙く、呪文は知らない。ただ杖を振っているだけだが服は焦げ煙が舞い上がる。その火花が飛び散る度にその人形は悲鳴をあげた。

 

あまりにも細い手足と身体から事情を知らぬ者は人形だと信じて疑わないだろう。しかしそれは事実、ただガリガリの幼児が子供に嬲られていた。全身に小さな火傷とアザが見える。支給され服はボロボロの麻のようで、まるで屋敷しもべ妖精のような外見だ。

 

フケだらけで白の混じるパサパサの黒髪、肋骨は浮き出て手足は触れればポキリと折れそうだ。彼には自分の姓も杖もない。

 

ここで過ごして5年目になる男の子、“ウィリアム”だ。

 

ウィリアムは他の孤児たちとは明らかに一線を越えていた。生気のない瞳で他者から自分の感情を読ませることはなかった。既に己が特別だと気付いており、周りと馴れ合おうとしなかった。その態度が悪目立ちした結果、年上の子供達から憂さ晴らしのターゲットにされたのだ。彼らは特にウィリアムには興味がなかった、単に最底辺で気に入らないから、ただそれだけだ。

 

(覚えてろカス共。いつかお前ら全員を必ず皆殺しにしてやる。)

 

だがウィリアムは彼らに興味を抱いていた。個人個人の思想や性格が気になるのではなく、どうすれば最も効果的に仕返し(・・・)ができるか、ただそれだけを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜数週間後〜

 

 

 

 

 

 

 

夜の闇横丁で彼は1人だった。流れ着いた悪人、浮浪者、犯罪者が入り混じる中でさえウィリアムは異質だった。周りの半分の丈もなく痩せ細った彼は目立つ。ただ意味もなく歩いているわけではない、それは現状を変える為のキッカケを得る為だ。また地面に落ちている道具を拾って換金したり、飢えをしのぐ為に露店で食料を盗む為だ。

 

彼は即座にいつもと違うなにかを感じた。退屈で苦痛な普段と違う“何か”である。魔力なのか、波長なのか、勘なのかわからない。なぜか物凄く惹かれる何かがあると確信した。

 

感性を鋭くさせ、街全体へと広げる。そして彼はすぐさま食料品が多く売られているエリアへ向かう。

 

ウィリアムは目を閉じて全ての神経を耳に集中させる。ここで感じた“なにか”を決して逃してはならないと思った。栄えている客や露店の全てを探るには視覚では不十分だと思ったからだ。試したことはないがなぜかこうするのが正しいと確信した。

 

彼は全てを探知しようとする。連れ通しの会話、客引きの問答だけではない。

 

魚屋が大魚の皮をひく音、骨を断ち切る肉屋のまな板がぶつかる音、林檎はいるかと叫ぶ野菜屋、香辛料を指で摘んで落ちるサラサラとする音など、そこで響き渡る全てを探っていた。

 

まだ幼い彼にはまだわからなかったが、ウィルは聴覚によるものだけではなく、魔力を探知しようとしていたのだ。自分と同じ異質な存在と出会いたかった。

 

 

そして彼は巡り合った。ジャガイモを目利きしている老婆だ。長い白髪で鼻の高い魔女である。小太りで長い杖をつき、ツギハギの黒いローブを身にまとっている。

 

「なんのようだい?おチビさん。」

 

その魔女は背後のウィリアムに振り返ることはなく、言い放った。まるで自分をウィリアムが探していたのがわかっていたかのようだ。しかし幼き孤児の彼にはどうでもいい事であった。

 

「・・・。」

 

だがウィリアムはただ老婆をじっと見つめる事しか出来なかった。なぜならどう話せばいいかわからなかったからである。

 

その老婆はゆっくりと振り返ると神経質そうな鋭い眼をしている。とても老人には見えぬ荒々しい顔に彼は怯む。

 

「悪いが私は弟子はもうとらないと決めてる。だからいつか勝手に覚えな。」

 

なぜがその老婆はウィリアムの望みを見抜いていた。

 

無意識にその力強い瞳が怖くなり、ウィリアムは老婆の首元から垂れている丸いペンダントに視線を合わせる。そして彼は何も言わずに立ち去った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

あれからウィリアムは原っぱに来ていた。自分を攻撃する子供達が寝静まるのを待って孤児院へ帰る為だ。そして誰よりも早く目覚めて外へでる。そしてたまに捕まって玩具にされる。それが彼の人生だった。

 

 

 

 

ウィリアムはパサパサのパンのカケラを片手にウサギの巣穴を探していた。昨日、見つけたが餌を持っていなかったので出直してきたのだ。

 

そして彼は巣穴の前でただ待った。中に木の棒を突っ込むのでも、餌で誘き寄せるのでもなくただウサギが出てくるのを待った。

 

すると子ウサギがウィリアムに興味を示したのか巣穴から出てきた。鼻をひくひくさせて彼の様子を伺っている。

 

 

「おいで、怖くないよ。」

 

ウィリアムは静かにそういった表情を一切変える事なく、淡々とそう言った。そしてパンを千切って巣穴の手前へ置いた

 

「ほら、パンだよ。カサカサだけど、君のために持ってきたんだ。」

 

子ウサギはゆっくりと警戒しながらも近づく。しかしウィリアムが地面に置いたパンを夢中になってかじり始める。

 

ウィリアムはそっと手を持ちあげて子ウサギへゆっくりと近づける。そして彼がそれを下ろそうとした瞬間に何者かに手首を掴まれた

 

 

「おいクソガキ。なにやってんだい?」

 

先ほどの老婆だった。彼女は声を震わせており、ウィリアムの様子を見て恐怖を覚えているかのようだ。先ほどの関係とは真逆だった。

 

なぜならウィリアムの小さな右手に収まりきらない程の()が握られていたからだ。この石で何をしようとしていたのか想像つく。

 

「別に。」

 

ウィリアムはゆっくりと視線を老婆に向ける。恐ろしく深く黒い目だ。微かに吸い込まれるような幻想を感じた。先ほどの助けを求める弱々しい瞳ではなく、印象的な茶色の瞳の奥に怪物の姿を見た。

 

 

「その歳で 、人の道を踏み外してるじゃないか。」

 

「・・・。」

 

ウィリアムは黙ったままだ。

 

「なぜやろうとした?」

 

彼の真意を問い詰める。そして彼はボソリと呟いた。

 

「・・・練習(・・)

 

予想外の言葉に老婆は眉をすぼめる。

 

「答えな、なんのだい?」

 

「仕返し、僕より劣るカス共に思い知らせてやる為だ。」

 

ウィリアムの瞳が更に暗く淀み、そして恐れさせた。背筋が凍りつくかのような錯覚さえ覚える。今の戦闘力ではなく、ただ潜在能力だけで自分を気圧してみせたのだ。

 

(このガキ、化け物だねぇ・・・。)

 

この老婆は目の前の死にかけの孤児が禍々しい怪物の雛なのだと思った。そして彼女は確信を持つ為に彼の心を覗き込む。

 

(末恐ろしい、純粋だ。ただ純粋な悪意。どういう環境がこの子を産んだんだい?)

 

開心術、それは相手の心の中を覗き見る魔法である。そして彼女はその幼子の本質を確かめようとしたのだ。

 

 

(ここで始末すべきか?いや、私が手を下さなくても野垂れ死ぬだろうねぇ。)

 

 

老婆は少しの間をあけて大きく溜息をつく。そして少年の目線にかがんで口を開く。

 

「私はジェニス・マクミラン、この世の誰よりも強かった魔女だ。」

 

老婆は名を名乗る。そして彼女は少年に名乗るよう言った。

 

「ウィリアム、姓はない。ただのウィリアムだ。」

 

老婆は彼が孤独なのだと推察する。孤児であり姓が無いという事は親を知らないということだ。そしてウィリアムという名前を彼が大事にしているのだと悟った。それが顔を知らぬ親から与えられた唯一の宝なのだから。

 

「クソガキ、お前にゃ見どころがある。だから力を授けてやる。着いてくるかい?」

 

だからこそ(・・・・・)奪わなければならない。この世界が空っぽで、その中にただ一つウィリアムがあるのではない。彼はただ知らぬだけだ。だから全てを教える必要がある。

 

老婆の真意を知らずウィリアムはウサギに対して興味を失った。このジェニス・マクミランに着いていけば自分の求めている力が手に入る、そう思ったからだ。

 

 

しかしジェニスは激しく後悔していた。なぜなら彼女には預言があるからだ。70年前、偉大なる預言者にそう言われた。

 

 

『呪われた家の忌子はより強力な怪物を産み出すであろう。進む道、そして選択の果てにこの世に破滅か安寧を与える。』

 

 

 

彼女は若い時からその預言と向き合って生きてきた。世界の行方を左右しかねない自分の運命を呪ったのだ。かつて彼女は一つの大きな過ちを犯した。世界にとっては幸運で、彼女にとっては不幸だった。だからこそ誓った。もう2度と弟子は取らず、そして世間から離れて生きる事を選んだ

 

 

(あの子が預言の子じゃないってのは想定外。 また出会っちまったか、この子にとって私が出会ったのは世界にとって幸運か否か)

 

 

少なくともウィリアムにとっては幸運なのだろう。持て余した悪意を力に変える方法がわかるかもしれないからだ。ジェニスにとっては茨の道だ。この悪意の申し子のような子供を弟子として迎え入れるのだから。はっきりいって殺してしまう方が賢い。しかし彼女にはそれができなかった。

 

(私ァ、テメェのルール守る為に歪んだガキを見捨てる事ァできねぇ。)

 

理由はただそれだけだった。

 







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怪物と怪物④

 

 

 

 

「満足したか?ほんの一瞬でも俺様を倒せると思えて。」

 

ヴォルデモートはウィルを煽るように言った。

 

「俺様に小細工など無駄な事だが、あえて言おう。ウィルよ。」

 

「もう終わりか?」

 

ウィルはただ燃え盛る空を唖然として眺め、杖を完全に下ろしていた。

 

元々、今の自分の実力では敵わないと思っていた。その上でトムの実力はウィルの想定を遥か超えている。ゆえにウィルは勝利するのを諦めていた。

 

しかし格の違いを見せられてなお、トムの言葉にウィルは揺さぶられなかった。なぜなら同情と同時に彼の心にはもう一つの感情が湧きあがっていたからだ。

 

 

 

 

 

 

彼の心にあるのは“放棄”ではない。彼はとても愉快そうに笑っていた。

 

 

(すげぇな。)

 

ただの敬意の念であった。

彼は全身に冷や汗があふれていた。その汗すら熱ですぐに蒸発していく。これ程までに凄まじい実力を持つ彼の全力を受けとめてみたくなったのだ。好奇心に近い。どこまで彼に通用するのか、自分の歩んできた道が間違っていなかったのだと証明するためだ。

 

 

「トム、僕達はよく似ている。」

 

ウィルはつぶやくように言った。そして彼は一つの核心に近い真実を思い描く。

 

 

(おそらく僕は君の(・・)・・・。)

 

彼は自分の血筋を、なんとなく察していた。だがもうどうでもいい事だ。そしてそれは調べなければ答えは出ない。曖昧がいいのだ。

 

 

(君は本当に退屈なんだろうな、僕の比ではないほどに)

 

ウィルもかつて退屈だった。己の天賦の才を自覚した頃、教わる度に吸収してしまう事を嘆いた。呪文は唱えれば発動し、書物は使い捨ての紙切れだ。実際、彼にとって本棚はゴミ箱に過ぎない。

 

これまでは魔法の奥深さゆえに飽きることはなかった。しかしあと10年あれば既存の存在を知り尽くすだろう。それからは自分で切り開くしかない。そしてトムは彼にとって全てを解き明かしたのだろう。

 

(せめて、この時(・・・)くらいは)

 

 

ウィルでさえも魔法の才能、実力は遠く及ばない。つまり同じ戦い方では差は明白である。工夫を凝らさねばならない。工夫とは彼の得意な“策”だ。ただし準備したわけではない。今ここで編み出さなければならない。

 

 

そしてウィルは意外にも真っ先に最適解に辿り着いた。なぜなら彼にとってこの呪文が非常に特別な存在であったからだ。

 

 

 

 

ウィルは自分の胸に手を置く。目を閉じるとホグワーツでの思い出を巡らせる。

 

ホグワーツから手紙が届いた。柄にもなく心を躍らせた。どんな魔法や知識に出会えるのか、がんじがらめのマルフォイ家から解放されるのだろう。

 

オリバンダーの店で友人のハリーに出会った。学校に必要なものは全て揃えた。新品の装いでキングクロスへ、そこで1番の理解者のハーマイオニーとも知り合った。

 

 

 

一年目、グリフィンドールで信用を勝ち取る中で見せた僅かな綻びをマグゴナガルは受け入れてくれた。そして暴走した自分をスネイプが庇い、そして戦闘の師となった。

 

 

二年目、秘密の部屋の騒動の中で自分が継承者だと怪しんだ。あらゆる対策を施して地下へ潜った。黒幕であった若き日のヴォルデモートと戦う。そしてハーマイオニーとの決別

 

 

三年目、彼は牙を研いだ。この時が最大の成長期だった。その中で自分を形成する強さの本質を知った。そして恐怖と幸福も。そしてルーナと出会い、彼女が特別な存在なのだと理解した。

 

 

四年目、ハーマイオニーと仲直りができた。霧が晴れて更に大きくなった。しかし闇の魔術を探り過ぎた。ホグワーツを退学となる。

 

 

それから彼はダームストラング魔法魔術学校で同志を募った。そして今に至る。

 

 

 

 

 

(俺に無駄な時間なんて何一つなかった。)

 

ウィルは目をゆっくりとあけて、ヴォルデモートの姿をしっかり捉える。今の彼から汗は完全にひき、ただヴォルデモートを見ていた。

 

 

「なぁトム。強さとはなんだと思う?それは糸を紡ぐ事に似てる。いかに長く、そしていかに太くすることができるか。」

 

突然のウィルの問い掛けにヴォルデモートは眉をひそめた。

 

「君に俺は敵わない。君はどの魔法使いより強大だろう。間違いなく偉大な魔法使いだ。」

 

「ならばなぜ挑む?」

 

「俺は貴方に勝てない。誰が見てもわかる。」

 

ウィルは自分の弱さを受け入れている。

 

「俺は1人じゃないからだ。俺には共に紡いでくれた人達がいる。」

 

彼には数多くの師がいる。ただ自分の知らぬ力を授けてくれた人を指すのではない。新たな価値観や発想をくれた人も含まれる。その点でいうとヴォルデモートでさえも彼の師となる。

 

ヴォルデモート(・・・・・・・)!俺はお前とは違う。」

 

ウィルはこの場で初めてトムをヴォルデモートと呼んだ。彼にとってトム・リドルの悪意こそヴォルデモートと考えているのだ。

 

 

(僕と君の違いはただの“運”だ。)

 

たまたま自分の周りに人がいて、トムの周りには誰もいなかった。ただそれだけだ。

 

 

 

***

 

 

 

7年前

 

 

 

〜オリバンダーの店〜

 

 

 

 

 

 

 

オリバンダーは古そうな細長い箱を店の奥から持ってくる。それを開くと周りへ埃が散った。茶色に輝いているその杖を見てウィルは自分がこの杖に選ばれたのだとわかった。

 

彼は満足したような表情でその杖に触れる。すると自分を纏うように金色の輝きを強く放ち、そして儚げに線香花火のように消えゆくと杖へ収まる。

 

「ドラゴンの琴線、セコイアの木。28㎝、しなやかで強固な意志を秘める。」

 

オリバンダーは彼にこの“セコイア”の木の杖を売った。そして余談だがこの材質の杖は幸運(・・)を呼ぶ杖と呼ばれ、その人気から供給不足となっている。しかし真実は違う。杖が幸運を持ち主にもたらすのではなく、強運で苦境や逆境を乗り越え、正しい選択を判断できる魔法使いを杖が選ぶ(・・・・)のである。

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「俺はなんて幸せものなんだろう。」

 

ウィルは心の底からそう思っていた。彼は自分が幸運である事が幸せだと思った。心はとても穏やかで落ち着いていた。

 

そして彼は燃え盛る悪意の業火に杖を向ける。再び彼は自分に何度も訪れる“逆境”を乗り越えようと呪文を唱えた。

 

悪意を糧にする“悪霊の炎”と対になる魔法である。

 

「“エクスペクト・パトローナム”ッッ!!!」

 

ウィルの心はもう満たされている。彼の嘘のない心から発せられる幸福の感情は巨大で威厳のある狼へと具現化され、蛇王へ空を駆け上がる。

 

かつて最も苦手だった魔法が、今にここで最も得意な魔法となった。

 

大狼の青白い癒しのオーラはホグワーツを優しく包み込んでみせる。心を折られた仲間や同志の心を癒した。彼らは再び立ち上がる。

 

 

2匹の怪物がぶつかり合う。悪意を包み込もうとする大狼と、全てを燃やし尽くす蛇王。仮に双方の力が互角だとしても使役者には明確な格の違いがある。

 

じわりじわりと大狼は後ずさりをしていく。纏うオーラを少しずつ塵にされる。

 

やはりヴォルデモートの悪意には及ばない。再びホグワーツと騎士団の陣営の心が折られかけた時、霧の向こうから届くような声が聞こえてくる。

 

「“エクスペクト・パトローナム”ッ」

 

こんな時に2人の間に割って入れるのは周りの空気を読まないルーナ(変人)くらいだ。彼女の白い兎の守護霊がウィルの狼の背中を追う。

 

「“エクスペクト・パトローナム”!」

 

教え子の姿を見たマクゴガナルは遅れてはならないと守護霊の呪文を放つ。幸福のオーラは猫の姿と形を変えて天へ登る。

 

マクゴガナルの行動を見て遅れをとるわけにはいかないと、教師陣や実力のある魔法使いは各々の守護霊を放った。

 

 

ウィルは守護霊を扱える魔法使いの中に学生達、ウィルの同級生のみならず後輩達まで扱えるのに驚いた。

 

なぜなら守護霊はハリーがかつて率いたダンブルドア軍団(Dumbledore’s Army)で学んだ魔法だからだ。つまりこれはダンブルドアの遺産とも言える。

 

守護霊を扱うのは案外、容易い。簡単な事だ。ただ思い出を振り返るだけでいい。

 

学校はみなの幸せの象徴なのだから。

 

 

 

 

 

 

ウィルの大狼や周りに続く守護霊達は次々と燃やされていく。また一体、また一体と業火に焼かれ消されていく。援護を受けてなお彼の悪意に及ばない。

 

 

 

「たとえ全魔力を使い切ったとしても、俺は、俺はッッ!!!」

 

もはやそこに正常な思考はなく、ただの対抗心しかなかった。

 

「君の悪意を受け止めてみせるッッッ!!!」

 

無意識に身体に封じていた魔力を解き放った。荒々しいハリケーンのように魔力は吹き出してウィルを纏う。凄まじい風圧に周りの瓦礫は吹き飛ぶ。

 

さらなる魔力を込めた守護霊の勢いは増して、より一層青く輝いた。

 

 

(だがこのままじゃ全部、燃やされちまう)

 

ウィルは自分達が消し炭にされる未来を想像する。しかし手を止める事は彼を拒んだ事になってしまう。

 

そんな時、ウィルの立っている地面が突然、白く輝いた。“魔法陣”である。

 

 

(・・・俺の仕込んだ魔法陣が暴発したのか!?)

 

その白いエネルギーが広がると一瞬でウィルを包み込んだ。

 

「仕組みはなんとなくわかったぞ、ボス。」

 

茶色の髪の若い女はウィルをボスと呼んだ。鷹のような鋭い瞳で、黒の高級な貴族服を身に纏っている。

 

「魔力は守護霊を出せぬ凡骨どもから奪えばよい。」

 

彼女は傲慢そうにそう言い捨てた。しかし側にいた男が口を挟む。

 

「お前も出せねぇだろ。」

 

 

若い女の名前は“エディアナ・マクミラン(・・・・・)”、ウィルがダームストラングに転校するまでの間、学校を支配下に置いていた魔女だ。彼女もまた天才と呼ばれる1人であり、最も優れる部分は“勘”。魔法の配合や加減においてウィルより優れたセンスを持つ。

 

彼女はウィルの仕込んだ魔法陣を、彼が行ったように移動させた。そして元々書き込んであった術を書き換え、更にホグワーツのあちこちに仕掛けられた魔法陣を更に書き換えた。

 

「散りばめられた魔法陣と、我々の魔力を貴方に捧げよう。」

 

エディアナはそう言うとホグワーツに散らばった魔法陣は周囲の人々の魔力を無理やり吸い取る。そしてその吸い取った魔力の全てをウィルの足元にある魔法陣へ転送、更に彼の魔力の糧とする。

 

 

 

魔力を回復させたウィルは更に杖により多くの魔力を込めた。それは砂漠を照らす月夜の輝きのように優しく広がった。ヴォルデモートの炎と同様に女神のような光である。

 

 

やがて赤と青は交じり合い、それが1つになる事で悪意も幸福もこの世から消え去った。

 

 

 

 

 

 

「なんだ?・・・」

 

ヴォルデモートは自分の炎が消え去った事が信じられなかった。

 

「この気持ちはなんだ?」

 

それと同時に彼の心には芽生えた事のない感情が現れた。

 

(俺様の周りには誰もおらぬ、それが俺様とおまえの違いなのか?)

 

自分と同種であるはずのウィルの背中には多くの人があり、それに対して自分は1人だ。

 

「お前を知りたくなった、我が友よ。」

 

ヴォルデモートは知りたくなったのだ。何が彼のとの違いなのか。怒りより興味が上回ったのである。

 

 

「“開心せよ(レジリメンス)”」

 

 






今まで用意してた伏線をこの一話で多く回収できたので満足してます。これからウィルの過去編です。

彼の理想のルーツ、なぜ彼がマルフォイ家に引き取られたのか
全て明らかになります。


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ウィリアム①

 

 

 

 

 

『鳥は卵の中から抜け出そうと戦う

卵は世界に等しい

産まれようと欲する者は

1つの世界を破壊しなければならない』

 

 

 

 

あるマグルの本でそれを読んだ。私も例にもれず争って、抗って、踠いて大きくなった。殻を割って世界に出たとしても、また巣という世界に囚われる。

 

そして偶然か必然か自分の前に現れた雛は自分の小さな殻と巣が悪意に満ち溢れていた。飛び立つ世界が輝かしいのだと彼に教えなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜夜の闇横丁〜

 

 

 

 

 

 

 

 

治安の悪い底辺の街の1つ、丘の下に立つ幽霊屋敷のような家だ。不気味で誰も近寄ろうとはしない雰囲気を醸し出す。

 

「クソガキ、私は最速で最高の結果をもたらす。だからお前は勝手についてこい。」

 

整理整頓された書物に怪しい薬品や魔法具には無駄がなく、最小限かつ最効率に置かれているようだ。

 

「おいババア、俺はウィリアム(・・・・・)だ。」

 

ウィリアムはギロリとジェニスを睨む。彼にとっての財産は2つしかない。自分の名前と親から受け継いだ黒い杖だけだ。だから彼はその2つに絶対的な想いを抱いている。

 

その事をジェニスは見抜いた上でその2つを踏みにじる事が、この小さな悪魔を人間に戻すのに最も近いと考えた。彼の自尊心と傲慢さを叩き折らなければならない。

 

 

 

「ふん、クソガキで十分さ。私の認識を覆したきゃ結果で示せ。」

 

まずは“ウィリアム”という名前を奪う。彼女はあえて彼を煽るように言った。いくら彼の潜在能力が自分を上回るとはいえ、実力はまだ及ばせない。どんな命令であれ自分から術と力を得る為にこの小さな怪物は従わざるを得ない。

 

「じゃ、早く一人前にさせろ。」

 

ウィリアムの不愉快そうな表情を見てジェニスはにやりと笑う。次に彼から奪うのは親譲りの杖、つまり才能が使い物にならないと信じ込ませる為だ。

 

彼には底知れないほど深い魔力がある。そもそも魔力は年齢と共に成長して、年齢と共に老いていく。いくらジェニスが老いたとはいえ彼女もまたイギリスでも指折りの実力を持っている。前線を退いた今も闇祓いや死喰い人に遅れをとる気は微塵もない。

 

一般的に若い魔法使いは魔力にモノを言わせて威力を発揮するのに対して、年老いた魔法使いは老獪で精密な術を使う。

 

一重に若さが経験を上回るとは決して限らない。最低限で最適な術を選択する。彼らの武器は知識と技術である。

 

そして今の2人はまさしくその関係だ。まず彼の自尊心を叩き折る為にあえて精密な技術(コントロール)から教えるべきだと考えた。

 

 

「まぁいいさ、じゃこの羽根ペンを浮かせてみな。」

 

子供でもできる低級魔法とはいえ込める魔力を間違えれば暴発する。そっと小さく添えるだけでいい。非常に簡単な魔法ではある。

 

しかしこれは幼きウィリアムにとっては最も難しい魔法になり得る。なぜなら10から1を搾り出すのと、100から1を搾り出すのは大きな差がある。

 

そもそも彼は魔力の操作、使い方を知らない。それだけでなく全身からうねるように溢れ出る強大な魔力からほんの少しだけ、小さな羽根ペンのみを浮かせるのは不可能と考えた。

 

そしてジェニスはこの家が吹き飛ばされるだろうと考えて身構えていた。そして彼女はその呪文のスペル、『ウィンガーディアム・レビオーサ”』、そして杖の振り方を教えようと口を開いた瞬間、ウィリアムは当たり前のように慣れた手つきで杖を滑らかに振った。

 

すると羽根ペンはふわりと浮いた。その光景を見たジェニスは彼がこの呪文を既に習得していたのだと知った。

 

「ハッ、使い慣れた魔法ができるからっていい気になるんじゃないよ!ちゃんとスペルを詠唱する!魔法は基本が大事なのさ!」

 

詠唱をしなかった事から彼女は自分への当てつけであると考えて叱った。しかし当のウィリアムはキョトンとしている。

 

「なに言ってる。やったのは初めてだ。それに、これにスペルなんてあるのか?」

 

その嘘のない言葉にジェニスは身震いをした。なぜなら彼女の思考がそれが本当であると結論づけてしまったからだ。彼はその魔法をただ見ただけだ。おそらく“夜の闇横丁”を徘徊していた時、店員の誰かが使ったのを見逃さなかった。

 

そしてそれから杖の動きと効果を記憶した上で、真似てみせた。スペルを知らないのも推察できる。そもそも低級魔法である浮遊呪文は大人であれば詠唱など唱える必要はない。

 

 

 

 

 

再びジェニスは警戒心を強めた。

 

この雛に攻撃魔法を断じて教えてはならない。ましてや“禁じられた魔法”などどんな手段を使ってでもみせてはならない。

 

一度でさえも目撃すれば完璧に吸い取って真似てみせるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

ジェニスはこの底知れない才能に自分が魅せられていることに恐怖を覚えていた。

 

 

更に厄介なことにウィリアムは自分が“選ばれた人間”と確信している。彼は戦い方さえ手に入れれば誰もが自分より劣る存在だと見下している。

 

しかしそれは事実だ。どれほど強力な魔力と資質を持っていようとも発揮される場面と引き出せる環境がなければ凡人になる。だからウィリアムは彼の悲惨な現状を耐えるしかなかった。そしてキッカケを経て復讐する為だけに生きていたのである。悪の道に進んでいる彼を確実に引き止めなければならない。

 

彼はヴォルデモートやグリンデルバルドになり得る資質を持っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし彼女の頬は確かに緩んでいた。

“この才能を自分が独り占めしている”

 

 

その優越感は確実に

彼を怪物にする余地を見せていた

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

半年後

 

 

 

 

 

 

「なんでだよ・・・。」

 

 

孤児院というちっぽけな世界の王は目の前の光景が信じられなかった。そこには自分の取り巻き達が傷だらけで床に打ちひしがれている。何人か過呼吸を起こしているのか激しく胸を上下させているのが見えた。

 

彼は真ん中でただ一人、幽霊のようにゆらりと立つ子供から目が離せない。ウィリアムとかいう“穢れた血”だ。かつてそう呼んで痛ぶっていた玩具が急に牙を剥いて自分達に抵抗したのだ。息をつく間も無く次々と味方は叩きのめされていく光景が信じられなかった。持っていたはずの杖を振るう事ができなかったのだ。それを使おうと使わまいと自分の結末は同じなのだと子供ながらに悟ったからである。

 

 

 

この半年の間、ウィリアムはただジェニスという魔法使いの元で学んだだけだ。

 

ただそれだけで彼は彼の小さな世界(孤児院)破壊して(変えて)しまった。自分を痛ぶった連中を全て叩きのめしたのだ。

 

「おい、穢れた血!」

 

そう叫べたのは自分の誇りを守りたかったからだろう。自分の聞き慣れた蔑称にウィリアムは冷ややかな反応だ。

 

「俺の中で君は恐ろしかった。ずっと復讐してやろうと思ってた。でも今はなんとも思わない。」

 

まるでもう君に興味がないと言いたげな表情を浮かべている。

 

「多分、君をもう敵と思ってないんだ。野兎と同じ弱者だ。」

 

そう自分が見下してた“穢れた血”に蔑まされた事が彼の心を大きく逆撫でた。それがトリガーとなり、少年に秘めた魔力の片鱗がじわりじわりと心のそこから溢れ出していく。魔力がまるで豪炎のように燃え盛るようだ。

 

 

「俺を見下すな、“穢れた血”。」

 

 

孤児院の支配者、ベンジャミン・ロジェールはその言葉に深く傷つけられられた。

 

その少年は己の殻を破ろうとしていた。自分の世界を脅かした存在に対抗する為だ。孤児院は彼にとって城だ。親から譲り受けた選ばれた姓、そして杖を持った少年は王だ。自分の庭に落ちている玩具ごときに全てが壊されるなど耐えられるわけはなかった。

 

「“ステューピファイ”!」

 

彼の知る呪文の中で最も強力な攻撃魔法である。それを彼の魔力の全てを込めて放った。全身全霊の一撃だった。そこらの魔法使いより強力にみえる。曲がりなりにも純血、名門の魔法使いの血を引く彼もまた天才と呼ばれる類いだった。そしてその第一歩を踏み出したのである。

 

やがて彼は才能を開花し、ホグワーツの入学証が届きスリザリンへ。在学中に幾たびの逸話を残し、優秀な闇祓いとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はず(・・)だった。

 

「“プロテゴ”。」

 

その一言で彼の輝かしい未来へ到達する事がなくなった。彼の敗因はただ一つ。

 

ただ相手が悪かった・・・

 

少年の攻撃は青い盾によって簡単に弾かれてただの塵となる。

 

 

 

目の前の少年は“穢れた血”などではない。秀才、天才ともてはやされようともウィリアムの前では等しく凡人と成り下がる。

 

 

「それいいな。」

 

彼の渾身の一撃はただウィリアムに新たな知恵を1つ、授けたに過ぎなかった。そして試しに放った一撃が2人の間の空を切ると、少年の心臓を貫き、勢いのまま吹き飛んだ。

 

 



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ウィリアム②

遅くなり申し訳ないです。
少し自分の生活にゆとりがなくなってきたので遅くはなりますが、必ず完結までは進めます。


 

 

 

ウィリアム、それは心を捨てたのではなく産まれながらに心が空っぽなのだ。

 

彼は産まれてから1度も愛情を知らない。ずさんに統計され、ただ死なせない為だけに寝食を与えられる。それは周りの子供も同じであった。

 

彼らは自分達が哀れむべき境遇であると知っていた。なぜなら孤児院を出て“夜の闇横丁(ノクターン)”を出れば“ダイアゴン横丁”がすぐだ。現実を忘れる為に出てきても更なる現実を突きつけられる。

 

新作の箒の性能を語る少年、ホグワーツに連れて行く猫の種類を相談する少女。いずれも今の自分が幸福であるという実感はない。さぞ当たり前のように繋がれている両手を握り締めている。

 

彼らは周囲の蔑んだ視線に気がつかないフリをしながら、ぶらさがった手を一人で握りしめる事でしか誤魔化すことができない

 

 

 

 

 

何もない彼らはただ誤魔化すしかなかった。自分が弱く不憫な存在でないと実感する為に上下関係を作りたがる。彼がいたぶられたのもそういう事だ。

 

 

しかし当のウィリアムが蔑んでいたのはこの世の全てであった。自分に害をなす彼らは眼中になかった。自分が不遇な存在であると認識したのならば“改善”すべきだ。何もせずただ無意味に過ごすのは無駄である。

 

故に彼は外を歩いた。大人が魔法を使う瞬間を見て呪文と効果を記憶する。会話を盗み聞き知識を得る。その積み重ねがいつか自分を救うことになると考えた。

 

 

 

 

 

 

今、彼は再びリンチにあっていた。何度も“磔の呪文”を浴びた。

 

 

ことの発端は先日のロジェール達へ“しかえし”をしたことだ。彼からすれば与えられた屈辱を返しただけのこと、だが周囲の反応は違ったらしい。普段は生気のない職員が血相を変えて彼だけを病院へ連れて行き、ふくろう便を飛ばしていた。

 

どうやら彼は名家の隠し子であったらしい。何か事情があり孤児院に一時的に預けられていただけにすぎなかった。そしてその父親が報復として追手を差し向けたのだ。

 

自分のロジェールという血を引く息子がとこの生まれかも知らぬ、穢れた血に倒されたなどあってはならない。

 

危険を察知したウィリアムはノクターン横丁に身を隠した。彼はジェニスの家から盗んだポリジュース薬を飲み、落ちていたローブで身を隠していた。しかしすぐに捕らえられ路地裏に拉致される。しかし彼は他人の居場所を暴く魔法があると知れたのは収穫だと笑みを浮かべていた。

 

 

 

ウィリアムはこうなる事に飽きているかのように穏やかに地面にねっ転がっている。口の中には鉄の香りがする。痛みで熱を持ち、全身の血が激しく巡るのを感じる。

 

 

 

 

 

 

 

だが彼の顔は不敵に笑っていた。

 

 

彼は今、自分より劣る存在に傷つけられている。自尊心を大いに汚された。だが彼の心にあるのは苦痛ではなく歓喜であった。なぜなら自分の身をもって新たな呪文を得られるからだ。

 

彼等の使用する“磔の呪文”、全身の血管が破裂するかのような痛みが全身を襲いかかる。なんども苦痛で叫ぶ。しかし束の間の不幸に過ぎない。

 

手下どもにウィリアムを痛めつけさせていたロジェールの当主は彼の異様さにいち早く気がつき、そして彼はウィリアムの足元へ膝をおろした。

 

「小僧、1つ聞かせろ。お前はなぜ笑ってる?死ぬほどの苦痛を浴びながら。」

 

単純な好奇心だった。自分が命を握っている異質な少年へ沸いた疑問である。その気になればいつでも摘める命だ。

 

「想像してみろ。いつでも殺せるって思ってた子供が明日には自分を遥かに超えてる。」

 

その瞬間に彼は自分の好奇心に感謝した。軽い気持ちで問いかけた事で自分は、いや自分達の命を救ったのだと気づかされた。

 

目の前の小さな少年はロジェールの目を突き抜けるような視線で見つめていた。周囲にいた大人達はつい後ずさりしてしまうほどの負の威圧感を感じた。まるで黒い霧のような、越えようのない逆境と救いのない環境で生き抜いてきた人間のみが背負える不気味なオーラだ。

 

「少年、名を聞かせてくれ。」

 

彼は自然とそう言っていた。

 

「ウィリアム。」

 

彼の名前を頭の中で復唱すると彼はウィリアムの目を見つめ返した。

 

「命を握っていたのはこの私ではなく、ウィリアム。君だったというわけだ。

 

目の前のボロボロの小さな少年の才能はすぐに自分の実力に越えるだろうと直感した。

 

「猶予なのだな、わかるさ。君ならできる。どこかヴォルテモート卿(あの偉大なるお方)を彷彿とさせる風格。」

 

産まれてくる時と場所が悪かった、ただそれだけで自分は優位に立っているに過ぎない。ならばロジェールのとるべき行動は一つに絞られる。

 

「実に惜しいが摘むべき才能だ。明日にはまた一つ化ける。」

 

ロジェールは自分のローブから素早く杖を抜き取るとウィリアムに向けた。

 

「さらばウィリアム、闇の帝王の生まれ変わりよ。」

 

つるつるでピカピカに磨かれた杖は彼の命を刈り取る準備を終えた。

 

アバダ・ケタブラ(生き絶えよ)。」

 

ロジェールの杖先に緑色の光が溢れだす様子をウィリアムは見逃さなかった。というより見えた、それだけだ。自分の生命の危機を感じて彼の周りの時間が限りなく遅く感じた。

 

その中で彼は思い出した。

 

昔、孤児院で誰かが自慢げに話していた。“磔の呪文”を含む〈禁じられた呪い〉には命を奪う“死の呪文”があると。

 

 

彼等はただ報復のために集まった。自分を生かして返す保証などなかった。彼は自分の想定の甘さを後悔した。その後悔と共にウィリアムはその死を受け入れた。

 

よくよく考えたら、自分が生きていようが生きていまいがどうでもいい。もうなにも考えなくていい。彼は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(本当に“無意味(・・・)な人生”だった)

 

彼が己の死を受け入れた瞬間、再び世界が動き出した。その瞬間目の前の緑色の閃光がまるで花火のように飛び散った。

 

 

とても儚く幻想的で魅力的だった。

死を前にしても美しいとさえ思った。

だがそう思えたのは

生きていた(・・・・・)からだと気づいた

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、おい、おい、おい。だらしがないねぇ。その程度で死ぬタマかい?」

 

呆れたような表情でこちらに杖をつきながら歩いてくる。ロジェールの取り巻きがなにかを叫んでいたが、ウィリアムにはなにも聞こえなかった。彼はそっと胸を撫で下ろした。そしてその瞬間に彼の中の感情はメチャクチャになる。再び負のオーラは捻るようなうねった。

 

 

(安心しちまったッ!生きててよかったと思っちまったッ!)

 

ウィリアムは叫んだ。彼の中にあるのはこの上ないほどの屈辱である。ジェニスにただ利用する為だけに近づいたのに、彼女は自分を救ったのだ。

 

自分の失態を晒しただけでも苦痛であるのに、命を捨てる覚悟を決めたのに命を救われた瞬間に安堵させられた。いかに自分という人間が脆く、そして愚かであるかを見せつけられた。

 

「元気そうでなにより。」

 

ジェニスは余裕そうな表情を浮かべながら、こちらを見ている。

 

望み通り(・・・・)か?」

 

ウィリアムはジェニスの狙いをおおよそ見抜いていた。自分を矯正させるために心を折ろうとしている、ということだ。

 

「あぁ、この世は私の都合のいいようにできている。」

 

ジェニスは傲慢そうに、それが本当にそうであると疑っていない。なぜなら老いたはずの彼女の目が若く、そして荒々しく燃えていたからだ。

 

 

 



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ウィリアム ③

遅くなり申し訳ないです。
少しずつ進めて参ります。


 

「あぁ、この世は私の都合のいいようにできている。」

 

 

天上天下、唯我独尊、それを疑わないこと。それがジェニス・マクミランという女の生き様である。決して自分に妥協せず、たとえ運命に敗れたとしても彼女は折れない。

 

なぜなら彼女がジェニス・マクミランであるからだ。この世で誰よりも強い魔女だと自負している。その為の才能、知識、努力は凡人の人生に満ち溢れるほど持っている。

 

 

「傲慢な方だ、そろそろ私の方を向いていただけないかな?」

 

ロジェールは彼女が何者か知らない。確かに彼女は最強である、今となってはそうであったのかもしれない。

 

なぜなら現在、ジェニスは表舞台に現れない。世間が彼女を最強であるとは知らない。しかし彼女は知っている。

 

当のジェニスも自分が最強であればいいだけだ。名誉も称賛も尊敬も不要だと考えていた。余計なしがらみは腕を鈍らせる。彼女にとって最強とは自分が参戦する戦い、及び全ての勝負に勝利すること、ただそれだけに過ぎない。

 

「口をつぐみな小僧。」

 

急に低く響くように声がジェニスから広がる。その声色には間違いなく威圧の意図が込められていた。そして彼女の表情が般若のように歪んでいた。

 

その威圧感にウィリアムは震えあがった。もちろん彼だけではなく、ロジェール以外の大人達も縮みあがっている。

 

「発端は知らねえ。でも誰が正しいか、そんなモンに価値あるのかい?人の数だけ存在する曖昧な答えを探るより目の前の大切な存在を守ればいいのさ。」

 

彼女は静かに燃えるように怒っていた。年端もいかぬ子供をリンチした事に対してではない。その子供が自分にとって守るべき存在であるから激怒していた。

 

ボロボロの弟子にどんな憎まれ口を叩き叩かれようとも、彼女はウィリアムを愛していた。

 

「さぁクソガキ、門限だよ。」

 

ニヤニヤと普段の笑みを浮かべてウィリアム見つめた。心の奥がむずむずと痒くなった。温かい何かが心臓から全身へ巡っていく。それが彼が生まれて初めて感じた愛であった。

 

「素直に帰すとお思いかな?年老いた貴方になにができる?」

 

ロジェールはジェニスを前にしても撤退する気はなかった。

 

貴族としてのプライドが許さなかったのではない。彼もまた自分の息子を愛していた。勝てる勝てないが問題ではなく、立ち向かうことにこそ意味があるのだ。

 

「なにを抜かしてんだい?強いも弱いも男も女もガキもババアも全部違うんだ。」

 

「・・・。」

 

お互いに自分の護りたい存在の為に立ち向かっているとわかっていた。

 

「スタートもゴールも違う。教えてやるよ、ウィリアム。この不平等な世界でフェアなのはたった2つだけ。時間と使い方さ。」

 

ジェニスはウィリアムと同じようにこの世が歪み、不平等であると知っている。くしくも2人は似ていた。不平等であるならば、自分の身を守るためにはどうすればいいか?答えは明白だった。

 

“強くなる”こと、ただそれだけだ。

 

「だから無駄にせず、理想を貫かなくちゃいかねえ。覚えときなクソガキ。それを意思というんだ。」

 

ジェニスの強さ、それは強靭な意志。この世に自分のエゴを押し通し、周りに都合を強要するには実力。ただそれだけが重要だ。

 

 

そう彼女はウィリアムに伝えると、杖を素早く振るった。そこからはほとんど一瞬であった。ロジェールの取り巻きが吹き飛んで遠くの彼方へ消えた。まるで埃を箒で掃くようであった。

 

その隙にロジェールはウィリアムに“死の呪文”を放った。しかしウィリアムの前の大地が壁になるかのように盛りあがり、死の呪文を弾いた。壁が崩れ地面に散らばった。

 

“死の呪文”には相殺、防御できる呪文は存在しない。しかし対抗する手段なら複数ある。

 

ジェニスは砕けた壁の破片をロジェールへ飛ばした。彼は盾の呪文を貼り防いでみせる。破片は砂塵となり舞いあがった。

 

しかしジェニスはにやりと笑って杖を振るう。すると今度は砂塵がロープのようにまとまり、ロジェールの全身を縛りあげ拘束する。

 

「いいかい?ただ私が生きている内は使うんじゃない。もし敵が殺さなきゃ止まらないような奴ならば私が殺してやる。お前にはこの壁は超えさせない。」

 

ジェニスはそういうとロジェールに杖を向け、死の呪文を放った。その閃光を浴びたロジェールはまるで人形から魂が抜けたかのようにぐったりとする。そして砂のロープが解けると地面に叩きつけられた。

 

「コツは心の底から相手を殺したいと思うこと。」

 

これでウィリアムは“死の呪文”をマスターするだろう。それが彼女の取るべき行動の最適解であった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

〜ジェニス宅〜

 

 

 

 

 

ジェニスはウィリアムを連れて自宅に戻っていた。帰るなりすぐに彼へ椅子に座るように命じた。先ほどの出来事をほじくり返す事はなく、ただキッチンで何かを作っている。その背中をジッと見ていたウィリアムは沈黙に耐えきれず、口を開く。

 

「なぜ助けてくれた?見捨てれば良かったのに・・・。」

 

ウィリアムはジェニスが自分に恐怖している事を知っていた。彼女は彼に背を向けたまま口を開く。

 

「正直、そう思ったよ。私もねぇ。でも私はお前を助けたいと思ってしまった。」

 

彼女はまれに彼の異常な吸収力と悪意に恐怖する事があった。何度、ウィリアムをこの手で殺した方がいいのではないかと思った。彼が寝静まっている隙に杖を向けた事もあった。

 

「不合理だろう?これが感情ってやつだ。」

 

彼女は照れ臭そうに言った。そして彼女はオーブンを開けて鉄板を取り出した。甘くて優しい香りが鼻の奥をくすぐる。

 

ウィリアムにはそれがわからなかった。

 

「まぁ食べな。フィナンシェってやつさ。」

 

彼は今れるがままに熱々のフィナンシェを口にする。蒸気と熱でむせながらも空気を含み冷ましながら咀嚼する。今まで感じたことがないとても優しい味がした。

 

今まで甘いものは数えるくらいだが食べたことがあった。ダイアゴン横丁で露店から盗んだ甘味とは違う何かがフィナンシェなるものにこもっていた。

 

心の芯から熱が広がっていくような気がする。彼の瞼から暖かい雫が溢れ出した。とうの昔に押し殺した感情の一つだ。

 

戸惑い、すぐに拭おうとする。でも涙が溢れ出していった。何度も何度も目をこすっても流れ続ける。今まで押し殺していた涙の全てを一度に溢れたのか、凍りついていた心が熱々のフィナンシェで溶かされたのか。

 

どちらでもよかった。いつからかウィリアムはその涙が心地よいと思えるようになった。

 

ジェニスはウィリアムの変化に微笑ましそうに笑った。たくさん食べなというと紅茶をカップへ注ぐ。

 

 

 

 

どれくらいの時間が経ったのだろう。ウィリアムは落ち着きを取り戻した。冷めて色褪せていた瞳は潤いを含み輝いている。

 

「・・・師匠。」

 

ウィリアムはジェニスをどう呼べばいいか悩み、選択した。

 

「ババアでいい。」

 

意外そうな顔をしつつも、そう呼ばれるのを嫌がるように言った。

 

「あなたは間違った判断をした。」

 

「だろうねぇ。ま、それが人間ってやつだ。」

 

彼女は照れ臭そうに笑った。

ウィリアムはそのままジェニスの元で師事を続けた。より強力で危険で魔法を学んだ。

 

 

 

 

ウィリアムはこの生活が永遠に続くのだと思い込んでいた。しかし運命がそれを許すことはなかった。



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兄弟子


お久しぶりです。
1年ぶりくらいですね。
お待たせした人がいたら本当にすみません。
投稿する余裕が本当にありませんでした。
でも必ず完結させます。



かなり人によっては閲覧注意な描写があります。
自分にとっては大事な話ですが、本編とは関係ある最重要な話ではないので、苦手な方はスルーお願いします。




 

 

 

 

 

 

「ジェニス、アンタ、もう限界だねぇ。」

 

頬のこけた老婆は淡々と言い放つ。ボロボロのローブからは清潔感などなく、どこを見渡しても汚れや解れが目に入る。

 

ジェニスは昔ながらの知り合いだが、この街において彼女に勝る医者はいないと確信している。この裏の世界で信用できる数少ない魔法使いである。

 

「あと私はどれくらいもつ?」

 

彼女はそう質問する。まるでその日の夕食を尋ねるかのように淡々とした態度に老婆はニタニタと笑った。

 

「もって数週間ってとこかね。」

 

笑みを浮かべ老婆は嘘偽りなく答えた。そう答えると大抵の人間は取り乱すか、絶句するはずだがジェニスは普通ではない。

 

「困ったね、まだやり残した事がある。」

 

彼女の心の中にかつての記憶が蘇る。若い頃、自分に勝る魔法使いなしと風をきって闊歩していた。傲慢不遜で運命など自分の都合が良い方へ捻じ曲げる気概だった。

 

『呪われた家の忌子はより強力な怪物を産み出すであろう。進む道、そして選択の果てにこの世に破滅か安寧を与える。』

高名な占い師に告げされた預言である。

死ぬ間際であってもまだジェニスを縛り付けている。

 

「例の弟子かい?あの問題児。」

 

ケタケタと笑いながら老婆は言った。有望な芽を見聞きするのは彼女の数少ない楽しみだった。老婆もまた老い先短い、未来がどう転ぼうが彼女にはどうでもいい。ただ今を楽しむ、それだけだ。

 

「昔、もう一人いたねぇ。怪物の弟子。」

 

これまでで一番彼女はニタリを笑う。好意的なそれではなく、少しばかりも悪意が包み隠されてない。

 

「なに、昔の話さ。弟子はもうとらないとあの時決めてたんだがねぇ。まぁ成り行きってやつさ。そうすべきじゃなくてもそうなってしまう。運命ってやつなのかねぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜40年前〜

 

 

 

 

 

 

<アフリカ>

 

 

 

 

 

その時期は何故か数年の間、気温が記録的な低さが続いていた。その寒さの影響かアフリカ大陸は暗い影を落としていた。

 

独裁者による国民の無差別虐殺、浅はかで思いつきの政策で民を苦しめた。その国の背後にいたのは邪悪な魔法使いであった。

 

 

 

シルヴィ(・・・・)、お前だったか。」

 

中年の荒々しい魔女が並み居るマグルの護衛、側近の魔法使いを薙ぎ払ってここまでやってきた。王室の奥まで侵入し、玉座に座る若者を睨みつける。かつて自分が手塩にかけて育てた弟子である。

 

妖しく輝く褐色の肌、額の中心で分けられた銀色の髪は艶やかに、紅く吸血鬼のような赤い目に生気は宿っておらず、静かにかつて師と仰いだ魔女を見据えた。

 

ゆらゆらとゆっくりと長く細い指でローブから杖を掴んだ。

 

茶色の杖、材料はクルミの木にヴィーラの髪。

 

 

 

その杖はジェニスが与えたこの世で最も強力な代物(しろもの)である。

 

クルミの木は革新的で多様な魔法を繰り出せるだけでなく、一度所有者に服従すると意のままに魔法を繰り出せる。故に闇の魔法使いが手中に収めてしまうと最強の最悪の杖になる。

 

ヴィーラ、シルバーブロンドの髪、月のような美しい肌を持ち男性を誘惑する魔法生物。そして怒りや自制心を失うと獰猛な怪物へ変身する。これはシルヴィの実の母親の髪である。故に我が子を護る為により強力な魔力を杖へ宿すこととなった。

 

 

「国民の大量虐殺、そして次の狙いはマグルの多国籍軍をこの国に呼び寄せる事。」

 

一歩ずつ我が物顔でシルヴィへ近づきながら語る。

 

「兵士に服従の呪文で洗脳をかけ国へ返し、情報工作、また各国で化学兵器の暴発を誘導。混乱を招き攻め込むつもりだね。」

 

シルヴィの策はジェニスの言う通りである。独裁国を掌握。民へ虐殺する事で各国の軍隊を呼び寄せ、兵士を拉致の後に服従の呪文をかけて帰国させる。スパイとして世界へ放ち情報だけではなく兵器を暴発させる。

 

核戦争を起こすのは簡単だ。アメリカの大統領に“服従の呪文”を使い、核兵器のスイッチを押すだけである。

 

 

 

 

シルヴィは気だるそうに立ち上がった。そして側のテーブルに置いてあるパンを掴んだ。その様子を見てジェニスは眉をひそめた。

 

「綺麗なパンだ、ここじゃ誰もが欲しがる。」

 

彼の瞳にはジェニスを映していない。その先の遠くを見据えているようだ。彼の意図の読めない言動は昔からである。

 

彼は躊躇なくパンから手を離した。それは重力に逆らわず地面へ落ちる。

 

「ジェニス、このパンはこの世の縮図です。」

 

彼は屈んで自ら落としたパンを鷲掴みにする。

 

「相変わらず回りくどい男だ。」

 

何一つ変わらない姿に懐かしさを覚える。何を考えているかわからない男の子だった。産まれながら閉心術の使い手、意識や無意識という段階ではない。どんな魔法使いでも彼の真意を理解する事はかなわなかった。

 

ヴィーラのハーフだからなのか、心を探らせないのか、はたまた何も考えていないのか。誰もわからない。

 

わかるのはただ一つ、シルヴィは怪物である。ただそれだけだ。

 

霧の中の男、ジェニスはそう表した。

 

 

 

彼は無言呪文で掴んだパンの底を切り裂いた。

 

「こうやって汚れた部分を切り捨てれば綺麗な状態だ。」

 

彼はパンをかじり咀嚼を始める。ジェニスはそれを気にすることなく質問を投げかける。

 

「これが世界だとでも?」

 

「・・・。」

 

彼は無言で咀嚼を続ける。食べ終えるまで答える気はないらしい。

 

 

彼はテーブルの上に置いてあった鉄のグラスを呼び寄せると一気に飲み干した。中身は好物のココアだろう、猫舌なので冷ましてあるのだろうとジェニスは考えた。

 

「えぇ、この世は汚れた部分を切り捨てて平和だの、平等だの言います。だがこの汚いパンですら命がけで奪い合う者達がいる。」

 

やり方はどうであれ、シルヴィなりの正義なのだろう。この魔法使いが預言の子であるとジェニスは確信していた。そして間違いなく彼の存在は世界を破滅に導くであろう。

 

だから彼女は誰よりも早くここへきた。まだ疑惑の段階から強引に攻め込んだ。まだシルヴィという魔法使いが全盛期を迎える前に命を摘む。今の外見と幼い頃の姿を照らし合わせればなんとなく年齢がわかる。彼はまだ20才を迎えていない。

 

 

彼はいきなり激しく切り落としたパンの破片を踏み潰した。土煙が小さく舞った。そして焦点の合わないぼんやりした瞳が、突如として鋭く、まるで視線だけで相手を切り裂くかのように睨みつけた。

 

「この世は歪です。だから一度壊し、私が選別する。」

 

スイッチが入った。ジェニスに敗れた側近は主人の様子を見て畏怖した。自分達では太刀打ちできない魔法使いが以前、攻めてきたことがある。しかし当時のシルヴィは敵へ視線をやる事すらなく、蝿を殺すかのようにたった一撃の魔法で斬り裂いた。

 

その時ですら配下一同は震えあがった。ついにシルヴィが本気で戦うのだと理解した。

 

 

「それでいい。」

 

突如、ニヤリとジェニスは笑った。彼女は己の道は自分の実力で切り開くものと考える。彼の気概が自分の教えからきているのだと思わせられる。

 

「だが私が思うに、この世を汚しているのはお前だ。杖を構えろ・・・、さぁ殺しあうよ。」

 

命を持って止めなければお互いは止まらないだろう。エゴとエゴのぶつかり合い、決着は相手より強者であること。ただそれで決まる。

 

「相変わらず話の通じない人だ。」

 

シルヴィは手に持った鉄のグラスを真上へ軽く投げた。その刹那、ジェニスの心の中にはかつての思い出が蘇る。

 

 

(今更ながら思い出したよ、私とあんたは相性最悪だったねぇ。)

 

金属音が部屋に響き渡った瞬間に2人は同時に“アバダ・ケタブラ(同じ呪文)”を放った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

30分後

 

 

 

 

 

激しい土煙の後に決着はついた。舞台は室内であったはずなのに外へむき出しとなった。壁や家具の破片は塵となり、大地は無数の大きな切り傷、無数の隕石が降り注いだかのようにクレーターができている。

 

 

「もしお前がイギリスで生まれたのなら私を超える魔法使いになっていたはずだ。」

 

全身の服と皮膚をボロボロに切り裂かれ血が流れて続けている。肋骨も折れているようで左手で庇うように抑えている。

 

「いいえ、ジェニス。」

 

地面へ打ちひしがれている美青年は右腕が吹き飛ばされている。腹の肉がえぐられ口からも血が滴り落ちていた。

 

「もし私があの時、貴方に出会わなければ死傷者の1人にしか過ぎなかった。私もまた歪な世界に選別されていたのだ。だから私が・・・」

 

シルヴィの脳裏に出会った頃を思い出した。彼がようやく言葉を話せるようになった頃、飢えていた。彼の住む街は誰もがそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

親に捨てられ孤児として生きていた。醜い大人に捕まり物乞いとして生活する日々を繰り返していた。だが誰もが飢えている。同じような子供はたくさんいた。仮に食料や金銭を得たとしても大人へ搾取される。

 

幼きシルヴィは限界が訪れていた。最後にいつ食べ物を口にしたか覚えていない。地面に横たわり自分の灯火が消えるのを待っているかのようだ。伝染病を媒介する蝿が自分にとまろうともエネルギーの消費を防ぐ為にそのまま受け入れていた。

 

そんな時、青白く美しい光が街を照らした。まるで全てを浄化するかのようだった。その光を見た瞬間にシルヴィは自分と同じ存在を初めて認識した。

 

『おい、生きてるか?』

 

そこには燃えるような美しい天使が立っていた。右手には大量のパンが入った袋、左手には細い木のステッキらしきものを持っている。

 

シルヴィはかすれゆく意識の中で人差し指を彼女へ向けた。初めてこの世に自分以外の普通じゃない、特別な存在がいるという事を知った彼は幸福から無意識に指先へ先ほどと同じ青白い光を灯した。

 

彼女は驚き手に持っていた袋を落としてしまう。中からパンが一つ、偶然のにシルヴィの目の前にぽとりと落ちた。

 

砂利にまみれたパンだったが彼は一心不乱にかぶりついた。枯れたはずの涙がボロボロと流れていく。久し振りに動かした為に顎に痛みが走る、口の中に砂が混じるも気にせず喰らい続けた。

 

『おい!待て待て!綺麗なパンをやるから!な?だから食べるのをやめろ!』

 

若き全盛期を迎えていたジェニスは慌てふためくもシルヴィは何度も何度もありがとうと言い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後悔しています・・・。あと5年は必要でした。そうすれば世界を浄化できた。」

 

もはやシルヴィの瞳にはなにも映していない。あの時来ていたはずの死神を受け入れるだけだ。彼に死への恐怖はなかった。あの時、飢えて死にゆく誰かの分のパンを自分は食べた。その経験が彼に命の尊さと軽さを植えつけた。

 

「先生、ありがとうございます。」

 

彼は自分が踏みつけて砂利にまみれたパンの破片にそっと触れると息を引き取った。

 

世界を平穏をもたらすはずだった偉大なる魔法使いの命がはかなく散った。この世でジェニスにだけわかっていた。この弟子に必要な5年という年月より目の前の命の方が重かったのだろうと・・・

 





ここに来て新キャラです。
シルヴィは完結後に2部として
ウィルのダームストラング編、未来編として
関わってくるキャラクターです。

まずは今の1部を可能限り早く終わらせます。


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シルヴィのプロフィール、あらすじ



新キャラのシルヴィのプロフィールをまとめました。
完結後に二部として更新する予定なので
省略してます。


あらすじ も現在進行中なので完結後に解説を纏めます。


 

 

 

 

 

 

《シルヴィ》

 

 

 

 

おそらく二十歳になる前に死去

ヴィーラとマグルの混血の魔法使い

得意な魔法 自然に由来する魔法

趣味 変な形の雲を探す

好物 パンと冷めたココア

苦手 脂っこいもの せっかちな人

性格はミステリアス、マイペース

血液型AB-

 

 

 

 

 

《人物像》

 

 

 

 

 

ジェニスと出会って数年後に赤子の時の記憶を“憂いの篩”に垂らして魔法生物ヴィーラとのハーフと知る。

 

容姿はこの世のものとは思えぬ美しさ、妖しく輝く褐色の肌。シルバーブロンドをなびかせゆらゆらしている。

 

ヴォルデモートに匹敵する才能を持つが、異質。彼は模倣するのではなく独特にアレンジする。杖の振り方や呪文を教われば一度そのまま真似て、二度目から自分流にアレンジし完璧にモノにする。

 

 

ウィルより優れた知能、才能を持つが上昇傾向が低いため現在(最新話)の彼と戦えばシルヴィが敗北する。

 

もしお互いが全盛期の状態で決闘をすればシルヴィが勝利する。ただウィルが策を練り準備をした上で戦えば彼が圧勝する。

 

 

 

性格に難はあるが、義理堅く優しい性格

 

出身は不明だがマグルとヴィーラのハーフ。

アフリカで孤児として物乞いをして生き残る。4歳頃に飢えて死を待つだけの日々を送る中でジェニスに出会い命を救われる。

 

ジェニスはシルヴィこそが預言の子だと確信して自身の全てを授けた。また彼に名前を与えたのはジェニスであり、彼に食事を与え小綺麗にしたところ美しさから女児と勘違いして女性の名前をつけた。

 

 

ジェニスと共に弟子として世界中を旅しながら魔法を覚えた。彼女の師事を終えた後に母国へ帰り幼年期と何一つ変わらない現状に絶望する。

 

世界を見た彼は先進国と母国の貧富の差を感じ、資産を無駄遣いする恵まれた人々が醜いと思った。その醜い人々の中には見て見ぬ振りをした自分も含まれる。

 

当初は母国へ食料の配布や病人、怪我人の治療を魔法で行なったが何一つ現状は変わらない事に気づく。彼のしている事はマイナスをゼロにする事でその場しのぎ、発展には繋がらない。

 

目の前の人々を救うのではなく世界から醜さを消す事が本質的な解決だと考え、行動に移す。

 

自身の力を研ぐ時間が必要と考えた。だが目の前の消えゆく命を放ってはおけなかった。彼はリスクを承知で挑んだ。

 

彼は世界中でテロ行為を行い、各国へ使いを送り冷戦状態を引き起こそうとした。最小限の戦力で最大限の成果を得ることが重要であると考えた。

 

その為に彼の行動は母国への虐殺であった。当時独裁者として君臨した男を服従の呪文で自分の操り人形にし、軍隊を使って民への殺戮を繰り返した。

 

そしてその情報を国外へ流した。多くの多国籍軍を誘発し、その兵士らを捉えて“服従の呪文”をかけ帰国させる。

 

その兵士らを使って機密情報、化学兵器の暴発を行うことで世界をコントロールするつもりだった。

 

しかし彼の計画は虐殺をし始めた段階である魔女を呼び寄せる事となる。ジェニスである。

 

彼女は預言があったからこそ、この殺戮が愛弟子の仕業である可能性を感じて最速でシルヴィの元へ乗り込んだ。

 

結果として彼女の行動は間違っていなかった。シルヴィのマグルの軍隊は既に彼の手で服従の呪文をかけられ、兵士は既に感情のない殺戮兵器だった。彼女はやむを得ず交戦し、軍隊だけでなく彼の側近の魔法使いを制圧した。

 

ジェニスとシルヴィの一対一の決闘で彼の野望は潰え、彼は死去した。

 

 

 

 

彼の人柄、意図を知る者は喜んで死を選んだ。どうせ失う命、未来の為に死ねるのならと涙を流して散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談

 

 

 

ジェニスは不器用ながら心の優しい弟子の罪を公表することはなかった。そして彼女は一国の軍隊を破滅させた罪を背負った。

 

当時のイギリスの魔法省はこの出来事を重く見て“闇祓い”を数多く差し向けたが無駄に終わった。

 

なぜなら全員が返り討ちに遭い“錯乱の呪文”がかけられた事で魔法省を内部から荒らさせた挙句に現存していたジェニスに関する資料の全てを焼失させてしまう事態に発展した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《最終章 天秤の行方》 あらすじ

 

 

 

 

 

『不死鳥の騎士団』編

 

 

①自分のルーツや望み、恐れを知った彼はホグワーツで危険な魔法実験をしていた。そして発覚したため退学処分となる。

 

②闇の魔術に傾倒した事でアズカバンへ収監する為に護送されるが、脱走しダームストラング魔法魔術学校へ編入する。

 

③闇の魔術だけでなく牙を磨き、己の勢力を拡大する。

 

④ダームストラングでの生活を送る中でダンブルドアから魔法部の神秘部へ来るように手紙がくる。

原作の不死鳥の騎士団での神秘部の戦い

 

⑤ベラトリックス・レストレンジがウィルの実の母親であるとわかる。しかしウィルに対して一切の愛を見せなかった。

 

⑥ウィルはベラトリックスに忘却術を使い、自分の記憶を消した。

 

⑦自分の名が『ウィリアム・マルフォイ』ではなく『ウィリアム・レストレンジ』であると知り、神秘部で自分の預言を奪う。

 

 

 

 

 

 

 

 

『謎のプリンス、死の秘宝 前編』

 

 

①ウィルが2年生の時に父親へねだった“憂いの篩”で、義弟のドラコが彼との幼い頃の記憶を見ている。

 

②ダームストラングで過ごす中でハーマイオニーから友人のルーナが“死喰い人”に捕らえられたと聞いて動揺する。

 

③以前マルフォイ家に仕えていた友人の“屋敷しもべ妖精”ドビーが現れる。そしてハリー達が“マルフォイ家の屋敷に捕まったと聞く。

 

④マルフォイ家の屋敷でベラトリックスと再会し、決闘をする。

 

⑤ウィルを庇ってベラトリックスが死ぬ。

 

⑥ベラトリックスの真意を知る為に旦那で彼の父にあたるロドルファス・レストレンジと接触する。

 

⑦かつて自分がいた孤児院、多くの屋敷しもべ妖精と接触して情報を集める。

 

⑧昔レストレンジ家に仕えていた“屋敷しもべ妖精”のセッケに出会い、ベラトリックスがヴォルデモートよりウィルを愛していたと知る。

 

⑨ホグワーツでの最後の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

『死の秘宝 後編』

 

 

 

①停戦中に校長室で肖像画のダンブルドア会い、ウィルは自分の過去を語る。

 

②ルーナと再会し、彼は自分の心を整理する事ができた。そしてウィルはルーナにプロポーズを行い2人は結ばれた。

 

③ハリーは死を受け入れ、ヴォルデモートから死の呪文を受ける。

 

④ネビルの鼓舞により戦いが再開する。

 

⑤かつての学友が死に、学び舎が破壊されていく様子を見てウィルの心が揺れる。

 

⑥ヴォルデモートの死の呪いが自分の信頼しているマクゴガナルへ放たれた瞬間にウィルはそれを防ぐ。

 

⑦ウィルとヴォルデモートは1対1の決闘が始まり、死んだと思われたハリーが生きていた。彼に分霊箱に任せる。

 

⑧数多くの策、手段でヴォルデモートを翻弄するが魔法の実力のみで全てを防がれる。そして彼の全力の“悪霊の炎”を見て圧倒される。

 

⑨ウィルは彼が世界で最強の魔法使いだと確信する。しかし怯まず“守護霊の呪文”で挑んだ。彼の姿を見て不死鳥の騎士団、かつての学友が加勢する。

 

⑩彼の悪意の全てと、ウィル達の学校を護りたいという想う心が相殺する。

 

⑪ヴォルデモートは自分と似た存在であるはずのウィルに興味を抱いた。なぜ彼の周りには数多くな人がいるのか、それを知る為に“開心術”をかける。

 

⑫ウィルの過去編

現在に至る(完結したらまとめます。)

 

 

 



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巣立ち

 

数ヶ月後

 

 

 

 

 

ウィリアムはジェニスの家のすぐそばにある丘の上にいた。

 

涼しい風に髪をなびかせながら、彼は薬草学の本をめくる。時折冷めた紅茶と好物のフィナンシェを口に運ばせていた。

 

 

彼はふと視線を感じた。目をやると白い猫がこちらへ見ている。大きな瞳はじっとウィリアムを見ていた。

 

彼に興味が湧いたのか、白猫は尻尾を天高くピンと伸ばして近づく。そしてウィリアムの側へちょこんと座った。だがその猫は別に彼に興味がない素振りを見せ、自分の毛づくろいを始める。

 

 

ウィリアムは慣れた手つきで首をかりかりと撫でた。その猫はゴロゴロと喉を鳴らして甘えてみせる。ウィリアムはくしゃりと年相応の少年らしい笑顔を浮かべていた。

 

少年と猫の微笑ましいシーンをジェニスはジッと見ていた。彼女はウンウンと頷いた。

 

“彼には心がある”

 

ジェニスの心の中に安心感が芽生えた。そして椅子へゆっくりと腰を下ろした。

 

その小さな綻びが彼女の足を引っ張った。身体の奥から何かが一気に溢れ出るような感覚を覚えた。彼女は激しくむせた。気管が悲鳴をあげているのがわかった。そして口の中に鉄の風味が広がる。

 

自分の口を抑えた手のひらに赤いものがべっとりついたのを見て、彼女は溜息をついた。

 

「気が緩んじまったねぇ。これじゃダメだ。まだ私は死ねない。」

 

(アイツに教えなきゃならない事がある。)

 

 

 

 

***

 

 

 

 

1ヶ月後

 

 

 

 

 

「アンタ、また背が伸びたんじゃないか?」

 

ジェニスは弟子の成長を喜んだ。最近、彼の身長がどんどん伸びていくのを感じていた。

 

「そうか?自分じゃわからない。」

 

ウィリアムは嘘をついた。ほんの数ヶ月で身長など急激には伸びない。聡い彼は答えに気がついていたのである。

 

(違う。俺にはアンタが小さくなったように見える。)

 

日に日にジェニスが痩せていくのをウィリアムは感じていた。体調が良くないのは前々から知っている。しかし当の本人が隠そうとしているのに気がついていたので、見て見ぬ振りをしていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

2週間後

 

 

 

 

 

 

 

老婆の虚栄も既に限界が来ていた。ベットの上で常に寝たきりだった。むせるたびに吐血するのを隠すので精一杯だった。肌は乾燥し黒くくすみ、そして身体は骨と皮のみで形成されているようだった。

 

ウィリアムの看病なしでジェニスはもはや命を灯す事ができないだろう。

 

 

 

 

そんな、ある日ジェニスは弱々しくウィルを側へ呼び寄せた。少しの静寂を待って彼女は口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そばにいるかい?」

 

 

「あぁ。」

 

 

「・・・私はもう死ぬ。」

 

 

「・・・だろうな。」

 

 

「だから我儘を1ついいか?」

 

 

「なんだ?」

 

 

「私を殺してくれ。」

 

 

「・・・は?」

 

 

突拍子のない頼みにウィルは困惑した。己の師が死を迎えようとしているのは察していたが、彼女の発言に衝撃を受けた。

 

「殺されたくなきゃ殺すしかない。私はそうやって生きてきた。」

 

「・・・。」

 

ウィルはなにも言えなかった。その様子を霞んだ瞳で察したジェニスは口を開く。

 

「お荷物になるのはごめんさ。呪文は知ってるはず。ここで壁を1つ超えるんだ。」

 

しわがれた声でゆっくりと彼女は語る。命を削りながら自分に最後の教えを説こうとしているのだと理解した。

 

「“死の呪文”、簡単だ。唱えるだけさ。」

 

「あぁ。」

 

ウィルは自分の杖を取り出してジェニスへ向けた。呪文は知っている。昔、何度も耳にした。自分が狙われた事もあった。

 

彼は感情を殺した。かつてジェニスの前で見せた深く黒く吸い込まれるような瞳を見せる。抑え込んでいた能力を少しずつ開いていく。煙のように広がっていた魔力はやがてうねり小さな竜巻のように螺旋する。

 

幼くともその魔力は大人の魔法使いをゆうに超えていた。かつて潜在能力だけでジェニスを怯ませた少年の力は本物である。

 

「“生き絶えよ(アバダ・ケタブラ)”」

 

ウィリアムの握られた杖は妖しく緑色の光が灯る。彼の冷たい瞳が緑色に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の光が杖から離れようとした瞬間に霧のようにフワッと消えてしまう。ウィルが初めて呪文を失敗してしまった。

 

(なにやってんだい…。)

 

ジェニスはかすんだ目ではなく、肌で魔力を感じとった。ウィルはそのまま気を失ってしまい地面に倒れる。

 

(どんな難しい呪文だって使いこなしといて、そりゃないだろうよ)

 

彼の杖に一片の憎しみすら宿っていなかった

ただそれだけだ。

 

 

ウィリアムはジェニスを殺せなかった

闇の魔術は“憎しみ”を込めること

それが肝心だ。

どんな魔法でさえ完璧にこなした

ウィルは彼女の事を愛していた。

 

 

その事を知ったジェニスは緩んだ

常に張り続けた精神と生命力が

全て解けてしまったかのようだ

その瞬間にもっと早く来るべきだった

その時が今訪れようとしていた

 

 

 

彼女は近くに落ちていた羊皮紙にそっと触れる。ゆっくりとそれはインクが生き物のように動き出し文字として滲んだ。

 

 

ジェニス・マクミランは

ウィルの為に魔法をかけた

呪文ではなく言葉で

ウィリアムの奥深くへ刻み込むためだ

 

 

 

 

 

 

 

 

約30分後

 

 

 

 

 

 

ウィルは目覚めた。すぐさま身体を起こしてジェニスを見る。ベッドの上で安らかに横たわっている老婆がそこにあった。呼吸はせず心臓は動いていない。まるで人形のように横たわっていた。

 

「・・・。」

 

ウィルは自分の手のひらと杖をジッと見た。初めて人を殺してしまった。心の底が掻き毟られるような感情が芽生える。全身から冷たい汗が噴き出していた。

 

「なんだこれ・・・。」

 

小さなウィルの手は激しく震えていた。

胃が熱くなり内臓が蠢き

一気に嘔吐して地面に撒き散らす

 

 

 

 

 

ジェニスは彼に呪縛を与えた。

彼から死を遠ざけるという呪いだ。

 

 

 

 

 

 

 

2日後

 

 

 

 

 

 

 

ジェニスの埋葬を終えた後、ウィルは抜け殻になったかのように座っていた。ただぼんやりと外を眺める日々だ。彼はただ彼女との思い出を何度も何度も頭の中で繰り返している。この2日間杖を握れなくなった。

 

 

 

 

 

 

そんな時、部屋の角の床から懐かしい魔力を感じ取った。荒々しいが心の芯まで暖かくなる優しい魔力である。彼の知る限りそのような魔力は彼女しかない。

 

彼が急いでその魔力の元へ向かうとその正体は便箋であった。それは命が吹き込まれたかのようにふわふわと浮きあがると、便箋が人の口のように変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よぉクソガキ。私は死んだんだろう?最期の言葉ってやつさ。まぁ聞いとくれよ。』

 

まるで生前のジェニスの肉声がその便箋から発せられた。ウィルの様子は静かで一音たりとも聞き逃さないと表情が物語っていた。

 

 

『私には後悔がある。

この力を世界に活かせなかった。

自分の為にしか振るえなかった。

それだけが心残りだ。だってそうだろう?

有り余る知恵と力を持ちながら

凡人のように生き絶える。

私は何も成せてない。

世界から逃げたのさ。

意味のない人生だと思いしらされた。』

 

 

生前語られる事のなかった傲慢で自信過剰なジェニスが言っているとは思えなかった。ウィルはずっと触れなくなっていた杖を瞬時に握り、その便箋へ向けて振るった。

 

それはバラバラに引き裂かれ、ただの紙吹雪のように宙を舞った。

 

 

「違え!何言ってんだ!あのババアッ!?てめぇの人生が無意味だったみてぇに言いやがって!!!」

 

ウィルは激怒した。身体中からオーラが噴き出して周囲の荷物や家具が激しく揺れた。

 

 

「俺の生き方で証明してやるッッ!!!

アンタの才能と力を受け継いだ俺がッ!!

世界に答えさせてやる!!!

アンタはすげぇ魔女だったってな!!!

そう思わせた世界が間違ってる

俺が世界を正してやるッッッ!!!」

 

ウィルはその後、一人で鍛錬を重ねた。彼女の遺品の本を読み漁り、裏社会の悪人達へ喧嘩を売って決闘を行う日々を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月後

 

 

 

 

 

あれからウィルは荒れた。何名も賞金首や無法者を狩っていた。傷つき乱れようとも構わなかった、最速で強くなるには実戦が一番だと彼は知っていたからだ。

 

彼がジェニスと過ごした家へ戻ろうとしていると強い魔力を感じた。滑らかで冷たい魔力、警戒心が強い人間だとウィルは察知した。

 

「お前か?ここらで暴れている子供は?」

 

この掃き溜めとは不似合いな貴族服の男だ。高貴な雰囲気、シルバーブロンドの髪をなびかせ蛇の柄をはめた杖をウィルへ向けた。

 

彼は何も言わずに隠し持っていた杖を素早く男へ向けた。

 

「待て、話をしようではないか。私はルシウス・マルフォイ。」

 

「話すことはない。」

 

ウィルは冷たくルシウスへ言い返した。彼の目的がわからなかったからだ。

 

「知りたくはないか?ジェニス・マクミラン程の魔女がこんな所で余生を迎えたのか?」

 

「なぜ知ってる?」

 

彼は眉間にピクリと揺れた。その様子をルシウスは見逃さなかったからだ。

 

「私にはその力がある。だからお前を助けられる。」

 

「助けなどいらない。」

 

手負いの獣のような鋭い視線にルシウスは冷や汗をかいた。

 

「お前は彼女の罪を知らない。そして資料はもうこの世にないぞ?」

 

「・・・。」

 

遠くから何名かこちらへ近づいてくるのを2人は察した。

 

「ひとまずこの場を離れようではないか?君の家へ。」

 

「・・・。」

 

 

ルシウスは杖をおろしウィルへ手を差し伸べた。ウィルは迷わず彼の手のひらへ触れた瞬間に2人はその場から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

2人はジェニスの家の中に移動した。ルシウスは彼女の部屋の中を興味深そうに見る。そして彼は真っ先にバラバラに引き裂かれた紙の破片が気になった。

 

「これは“吠えメール”?いや、少し違う。」

 

「ジェニスの遺言だ。」

 

「まだ魔力が残っているということは終わる前に切り裂いたな?」

 

「直しても?」

 

「・・・。」

 

ルシウスは杖を振るった。すると魔力を宿っていた切れ端は綺麗に元へ戻った。1つに戻った手紙は命を吹き返した。

 

するとルシウスはそのまま扉をあけて外へ出る。その場で立ち会う資格が自分にはないと思ったのであろう。彼なりの優しさとジェニス、ウィルへの尊敬から来た行動である。

 

 

 

 

『〜〜〜だからアンタは存分に才能に溺れて驕りなさい。』

 

再びジェニスの手紙は語り出した。ずっとウィルは彼女から逃げていた。いつか聞かなければならないと思っていたが、彼はまだジェニスを殺したという現実を受け入れる事ができていなかった。

 

『ただテメェを不幸だなんて思うな。

この世は不平等のみが

全てのものに平等に与えられている。

不幸ってのは剥がせない。

嘆くのも、恨むのも当然。

でも慰めにしかならない

心が安定するだけ

今が不幸な時に先へ進むためには

生きる意味を探すのさ。』

 

ウィルは一人で静かに聞いていた。

 

『そしてその不幸を乗り越えられたら

今度は自分が産まれてきた意味を見つける。

その意味ってのは人それぞれ

だからこそ厄介で難しい。

それを見つけるには人の意味を見ること

人の意味とは価値観さ。

他者の考えは尊重しなさい。

決して決めつけてはならない

他者の意味を決めつけること

それは傲慢だ。

人の生きてきた道を否定してはならない

いいかい?より多くの価値観を得るように

人の言葉に耳を傾けなさい

それがいつか貴方の最善になるかもしれない

そして貴方は貴方の道を行きなさい。

ウィル、貴方は偉大な魔法使いになるよ。』

 

そう言い終えるとその便箋はゆっくりと美しい光を発して燃えていった。

 

「話が長えよババア。」

 

ウィルは大粒の涙を流した。

 

 







過去編終わりです。
次から現実へ戻ります。


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灰色の獅子①

 

 

 

いつからだろう・・・

ジェニスに呪文を教わったとき

簡単な1つ1つを覚えるたびに

興奮して、明日はどんな魔法を覚えれるのか

全く眠れなかったし

次の日が寝足りない時なんてなかった

 

でもいつからだろうな、

強くなる事に慣れて作業になった

どうすれば早く、効率的に偉大になれるか

 

そこに目標がなければ虚無だ

この世で一番偉大なのは“切り開いた者”

虚無に光を与えて道を作った者

 

 

 

 

 

 

 

「感謝するよトム、僕は君を目標に強くなれた。」

ウィルはヴォルデモートへ杖を向ける。その2人の瞳には敵意ではなく、優しさすら映している。彼らは時の旅を終えて最後の戦いを迎えようとしていた。

 

闇の帝王は目の前、この世で自分に唯一匹敵する魔法使いに興味がずっと湧いていた。初めて出会ったのはウィルが1年生、クィレルを操って賢者の石を求めた時だ。自分と同じ匂いを感じとった。

 

ヴォルデモートだけではない。ダンブルドアやマグゴナガルですら、学生時代のトム・リドルと似た何かを感じていた。

 

彼はマルフォイ家に養子として引き取られホグワーツで牙を磨いた所までは知っている。

 

しかしマルフォイ家に入る前、価値観を形成される幼少期や物心がついた頃のウィリアムを彼は知らなかった。

 

 

闇の帝王は初めてウィルと出会った時から確信に近いものを感じていた。だからウィルに何度もチャンスを与えたのだろう。

 

 

 

 

かつてヴォルデモートは自分の最も強力な(しもべ)に跡継ぎを、偉大なる祖先サラザール・スリザリンの意志を継ぐ子を欲した。そこに愛はなかったが彼にとっては必要な事だと考えていた。

 

18年前“闇の帝王”が赤ん坊のハリー・ポッターに敗れたあの時、彼にも赤子がいた。同じ7月に産まれた男の子だ。

 

「俺様は名付けた。偉大なるサラザール・スリザリンの意志を、俺様の意志を受け継ぐ男の子“William(ウィリアム)”。」

 

willia(意志)の子、マグルを魔法界から排斥する思想“純血主義”。ホグワーツ四強で最も強力な魔法使い“サラザール・スリザリン”の意志を受け継ぐ男の子。ヴォルデモートは杖を降ろして口を開いた。

 

「本当の名を名乗れ。我が息子よ。」

 

闇の帝王とベラトリックス・レストレンジとの間で産まれた男。

 

彼の本当の姓はマルフォイ、レストレンジでもない。幾重にも運命に隠され続けた。彼の本当の名前は・・・

 

「ウィリアム・ゴーント。」

 

スリザリンの直系の血を引く純血の一族、ゴーント家。滅んだはずの一族の血は確かにヴォルデモート、ウィリアムへと受け継がれていた。

 

「実に愚かだ。だがそれがお前の選んだ道には違わない。血を裏切る者よ。」

 

魔法界史上最大の親子喧嘩、いや戦争がホグワーツで行われようとしていた。辺りは土埃と血の匂いが漂っている。双方ともに数多くの魔法使いの血が流れ、命を失った。

 

「・・・一度だけ呼びます。」

 

ウィリアムは大きく息を吸って吐いた。この一呼吸の間に今までの人生を振り返った。

 

「お父さん・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー貴方の時代は終わりだ。」

 

 



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灰色の獅子②

 

 

 

 

 

 

互いに呪文を放った。2つの色の異なる稲妻が衝突し、火花のように周囲へ弾け飛んだ。周囲の瓦礫を細かく破壊し土煙をあげる。不思議と互いの力は互角であった。

 

「いいぞ!ここに来て、まだ伸びるか。もっとだ!もっと引き出せ!」

 

ヴォルデモートはウィルの秘められた潜在能力がまだ彼の強さを引き出した。闇の帝王はまだ全力ではない。彼の実力に合わせて加減をしている。しかし少しずつの力を強めていった。父親として手ほどきをしているのだろう。

 

2人は同時に魔法を切り離すと何度も何度も呪文や呪いを放った。力と力のぶつかり合いというより技の練度を競っているようだ。

 

呪いには呪い返し、呪文には反対呪文という高度な魔法に彼ら以外が介入する余地などなかった。周りの人達はただ2人の邪魔をせぬようにただ見守るだけだった。

 

「やはり俺様の子だ!俺様の側に来い。お前は神に選ばれた魔法使いだ。」

 

ヴォルデモートは機嫌がよくウィルを勧誘する。彼は心の底から楽しんでいた。死んだと思っていた我が子が生きていて、そして図らずもホグワーツで敵として彼の成長を手助けしていたのだと理解した。最後の関門だ。

 

もう加減なんか必要ない。自身の息子は嵐のような魔力だ。ずっと荒々しくねじれ、渦巻いている。勢いが衰える様子はまるでない。彼は魔力を高い状態で維持し続ける事ができるようだ。

 

ヴォルデモートより総力、出力が低くとも持久戦に持ち込めば十分に戦い続けられる。ウィルは幼少期から無意識に魔力を封じ込めていた。今まではその魔力を彼は戦闘時に解き放っていた。

 

しかし彼にはまだ奥に力を隠し持っていたようだ。偶然にも先ほどの守護霊を繰り出す際に他者の魔力を譲渡してもらった。それがトリガーとなり、更なる高みへとウィルを導いた。

 

ウィルは不思議と冷静だった。しかし今が自分の全盛期だと確信してやまなかった。傲慢にもウィルはこの世で最も自分が強いと過信してしまいそうになる。

 

しかしそう言えて、誰もが納得する実力が彼にはあった。

 

「楽しそうだな、トム。」

 

隙を見つけたウィルはすかさず地面へ杖を突き立てた。一瞬で大地がまるでマグマのように変化する。ブクブクと液体状の炎が沸騰しながら燃えあがる。硫黄の匂いが鼻を貫き、そして肺を焼いた。

 

自分の周りだけを安全圏にしたウィルはまるで指揮者の様に杖をくるんと渦巻きのように包み混んで前へ押し出すと、マグマがまるで竜巻の様に盛りあがる。地面や瓦礫を巻き込みながら業火のハリケーンはヴォルデモートへ襲いかかる。

 

 

ホグワーツでのウィル達の1番最初の授業。マグゴナガルは変身術を“ホグワーツで最も複雑で危険”と言った。なぜならその気になれば気軽に人の命を奪いうる。変身術はその外見だけでなく性質をも変化させる。だからこのマグマは本物と言っても遜色はなに1つない。

 

ヴォルデモートは杖を振るうとそのマグマの大波を砂にかえてしまう。砂は重力に敗れて地面へ落ちそうになる。地面へ圧縮して巨大な手に変える。

 

その砂の手は命が吹き込まれたかのようにウィルを捕まえようとする。ウィルは盾の呪文を放ち、それを受け流すとヴォルデモートの方へ走っていく。

 

「血迷ったか?小僧!」

 

間合いを詰めるウィルへヴォルデモートは嘲笑うかのように杖を向ける。ウィルの背後からはUターンした砂の巨大な手が迫る。

 

「“息絶えよ(アバダ・ケタブラ)”!」

 

緑色の閃光が放たれた瞬間、ウィルは身体をひねって避けた。すると彼の背後に迫っていた砂の手を貫いた。生命はないとはいえ、強力な呪文で砂は跡形もなく弾け飛んだ。

 

ウィルはニヤリと笑う。砂の破片達へ向けて体をねじり杖を円を描くように振るう。

 

それらの一つ一つが針に変化してヴォルデモートへ襲いかかった。数千本ほどの針が一斉に彼へ迫る。より鋭く、より軽く、そして素早く。

 

1年生の最初の授業は恩師のマグゴナガル、授業内容はマッチ棒を針に変化させること。当時の世代で一度で成功したのはウィルとハーマイオニーだけであった。

 

あれから7年経っている。少年が青年となり大人になる年月だ。ウィルにとって無数の散らばった砂達を針に変えて、“襲え(オパグノ)”を使用して敵へ攻撃することなど容易かった。

 

 

ヴォルデモートは杖を地面に突き刺した。すると地中から木の根の様なものが現れる。ホグワーツに生えていた何処かの木の根だろう。それを操作して自分をドーム状へ覆わせた。

 

襲いかかる針の群れの全てを木の幹で防ぎきった。針達で少しずつ破壊、剥がされていくものの大樹は再生を繰り返しヴォルデモートを護った。

 

針の群れが攻撃を終えるとヴォルデモートは木の根を吹き飛ばした。視界が開けた瞬間に彼は黄色の荒々しい閃光を認識すると同時に全身が鈍い痛みと痙攣するのを感じた。

 

 

ヴォルデモート卿の判断ミス

ウィルはそれを狙っていた。

無条件で一対一で戦った場合

彼に勝る要素はただ一つ

“戦術の幅”の広さ

 

ヴォルデモートとウィルが戦えば一瞬の隙が命取りとなる。常に最善の手段を取らなければならない。だから彼は直接的ではない間接的で複雑な戦い方を選び、相手の悪手を狙った。

 

 

ヴォルデモートは数メートル後方へ吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。彼は全身が痺れて動けなくなってしまった。

 

彼は分霊箱により不死身ではある。つまり命を奪う事はできない。

 

しかし彼に毒は効いた。つまり彼自身の身体は“性質”は無効化できない。だから彼に“麻痺の呪文(ステューピファイ)”は有効である。

 

 

「トム、僕の考えを聞いてくれ。僕は“開心術”なんて使わない。」

 

ウィルは実の父親の側で座り込んだ。

そして彼は呟いた。

 

「なぜ君が寛容的(・・・)なのか。今度は僕が君を見透かしてやる。」

 

 

 

 






もしよろしければ感想お待ちしてます。


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灰色の獅子③

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィルは思い切り腰を下ろしてヴォルデモートに語りかける。息子が父親に話すというより友へ向けての言葉のようだった。

 

互いに親子としての絆ではなく、自分と同じ唯一無二の存在として考えている。己の分身であり、口には出さずとも無意識のうちに特別な存在であると心の底から思う。

 

ウィルはヴォルデモートに開心術で自身の心の内を全て見透かされた。

 

親を知らず心のない神童(怪物)がスラムで育ち、ジェニスとの出会いで成長し、マルフォイ家で育ち、ホグワーツで学んだ。

 

いつしか彼は青年になり、自分自身の産まれを知った。ベラトリックスという死喰い人の息子、純血というだけで結婚した愛のない夫との子供だ。その夫婦は世継ぎさえ生まれればそれでよかった。

 

愛なきウィリアム、彼の父親はロドルファスではなかった。正確には推測の域を出ないのだが、間違いないだろう。

 

 

彼の父親は“闇の帝王”ヴォルデモート卿

 

証拠は何一つとして存在しない。

だが2人は間違いなく血の絆を感じていた

偉大なるダンブルドアもそう考え

若き魔法使いを警戒して導こうとした

だがウィルとはそりが合うことはなかった

そして現在に至る

 

 

 

 

 

 

 

運命に導かれウィルは父親と相対していた。才能と実力の差は友人達との絆で埋め、ヴォルデモートと互角以上に渡り合いつつある。

 

 

「君は機会を与えたがる。許しを与えようとする。なぜだろうな?」

 

ウィルは“麻痺の呪文”で痺れて動けないヴォルデモートへそう語りかけた。数分前に彼の開心術で自分の心の内を覗かれた分のお返しである。彼なりのトム・リドルの人間性を見抜こうとしているのだ。

 

彼の言う機会とはこの戦争において、ただ殺戮するというのではなく死者を弔う時間やハリーを差し出せば命は助けるという点だ。更にずっと特別視していたウィルに対して何度も見逃して自分の配下に入れようとした。

 

「君は無意識に愛を求めている。しかし君は恐れられるが故に愛から遠のく。だから君は許しを与えて愛を受けようとする。」

 

ウィルは淡々と言った。彼もまた先程のダンブルドアとの対話で知った。彼とのトム・リドルとの初めての出会いだ。

 

彼もウィルと同じく親を知らず愛の知らない孤児だった。類まれな魔法の才能から自分自身に向けられる他の子供達の悪意を跳ね除けていた。

 

「魔法族の血を守ろうとする。それが本当に大切か?反乱因子を許して生かす事が?闇の帝王ならば殺す方が自然に思える。」

 

ウィルはヴォルデモートの眉がわずかに動くのを見逃さなかった。

「期待しているのさ、思想の固まった配下ではなく未来ある若者達から自分に愛を与えてくれる存在を。」

 

この彼の読みが的中しているかどうかはわからない。動揺か苛立ちのどちらかだ。少なくともヴォルデモートの感情を揺さぶることはできている。

 

「そうだ、君はただ示したかったんだ。自分がここにいると。僕にはわかる。孤児院での生活で、ホグワーツでは才能ゆえに、そしてスリザリンで純血ではない君は常に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー孤独(・・)だった。」

 

トム・リドルは孤独ゆえに闇の帝王になったのだとウィルは語った。そう言い終えると周囲は静寂に包まれた。2人だけにしか聞こえない空間である。

 

「わかるよ、トム。君の悪意の源は孤独だ。昔の僕と同じだった。」

 

その表情には慈愛すら感じられる。しかしすぐに恐怖で体が震え、彼はすぐに立ちあがり杖をヴォルデモートへ向けた。

 

一瞬で心臓がねじ切れそうなほどの錯覚を感じた。ごく僅かに限りなく濃く、そして暗いオーラを感じ取った。すぐにそれは静かに霧のように広がり、ウィルを包みこんでしまう。

 

「黙れ、不愉快だ。」

 

ヴォルデモート卿はゆっくりと立ちあがり、恐ろしい声で威圧する。かかっていた麻痺の効果はもう既に消え去っていた。

 

彼が魔力の出力を出し惜しまなかった。ただ自然に全力で敵を屠る為に意識を向けただけのことだ。つまり出し惜しみのない本気の殺意であった。

 

「・・・こりゃ、やべぇな。」

 

ウィルの頬からは冷や汗が流れていく。世界で最も強力な魔法使いの本気の魔力、それを至近距離で味わったのだ。瞬間的に命の危険を感じ後ずさりさせるには十分だった。

 

しかし彼は薄く笑みを浮かべていた。

 

 

(やっと魔力に底が見えた。)

 

 

ウィルは真剣な表情を見せ、ヴォルデモートと向かい合う。戦いの決着はそう遠くないと確信した。今の魔力でさえ自分がいなくなればこの城の魔法使い全てを殺せる実力が彼にはあるだろう。

 

だがウィルもまた負けていない。格上との戦いや味方の魔力が身体の奥底で眠っていた魔力を引き出している。魔力を持続できるよう常に必要最小限に留めていた。

 

2人の残りの魔力の総量は互角

出力で勝るヴォルデモートに対して持久力で勝るウィル。

 

「黙らねぇよ。俺ァお前をッッ!!!」

 

ウィルは自分の杖をギュッと握りしめた。すると以前と彼は体を纏う魔力を強めた。ウィルの風のような魔力は勢いを落とすことはなくずっと荒々しさを保っている。

 

「一人にはしねぇぞ!!!俺を見ろトム・リドルッッッ!!!」

 

彼は素早く“武装解除の呪文”を放った。ヴォルデモートは盾の呪文で防いでみせるが、ウィルの放つ呪文に勢いを感じる。最強の“ニワトコの杖”から防いだ時の反動で手が痺れた。

 

 

魔法の応酬である。

 

ヴォルデモートは少し冷や汗をかいていた。自身が敗北する可能性がごく僅かにでもあると感じてしまったからだ。最期の分霊箱がまだ破壊されていないために自分が死ぬ事はないだろう。しかし魔法使いとして敗れる事はあり得なくはない。

 

彼はウィルの勢いに圧倒されていた。実力や才能、経験で勝る自分が目の前の若者に敗北するかのような錯覚を覚えた。上回る何かがウィルにあった。

 

時折、ウィルの身体がヴォルデモートの呪文で傷つき、肉がえぐれようとも彼は怯まない。死を厭わぬ猛攻であった。

 

 

彼は周りに散らばっている瓦礫を集め、それを固めてヴォルデモートへ放った。瓦礫は槍の様に鋭くなり龍のように波打ちながら襲いかかる。

 

ヴォルデモートは“悪霊の炎”でバジリスクを放ち、瓦礫の槍を燃やし尽くしてしまう。

 

すると彼の視界に青白い神聖な魔力を持つ光に視界を奪われた。青色の大狼がバジリスクに噛み付き、まるで光で包み込んで浄化するかのように消し去ってしまった。

 

ほんの数秒、視界を奪われたヴォルデモートは目を覆った。その瞬間に腹部に鈍い痛みを感じる。それから何者かに手首を掴まれると身体が円を描くように回転して視界が180°変わった。地面に背中を叩きつけられるとじんわりと全身に痛みが走った。

 

ウィルが守護霊の呪文を目眩しに使って、素早くヴォルデモートへ接近して彼の腹部を蹴り飛ばし、背負い投げをしたのである。

 

 

ウィルはゼエゼエと息切れをしながらヴォルデモートの首筋に杖を突きつけた。彼はそれを見てせせら笑う。

 

「俺様を、お前が殺せるのか?」

 

煽るように言った。今のウィルは分霊箱で不死身のヴォルデモートを殺すことができない。現状彼を封じる手段はない。

 

「己の生死を他人に委ねるなど愚かだ。お前は王の器ではない。」

 

ウィルは左腕に激しい痛みを感じた。真っ赤な鉄を押し付けられたかのような焼けるような感覚を覚えた。ウィルは叫んでヴォルデモートへ込めていた力を緩めてしまう。

 

左腕に刻まれた“死喰い人”の紋章が真っ赤に染まっていた。

 

彼は突き飛ばされて転がった。熱は消えたが痛みはまだジンジンと広がっている。ヴォルデモートは再び立ちあがり笑っている。

 

「息子よ、お前は俺様からは逃げられない。死んで悔い改めろ。」

 

そう彼が言い放った瞬間にウィルの左手が自分の首を思い切り締めた。“死喰い人”の紋章がそうさせたのだろうか。闇の力の強制力か明らかに人の力ではない。

 

ウィルは呼吸をする事が出来ず右手で振りほどこうとするが、操られた左手は更にキツくウィルの首を握り締めて離さない。

 

「実に滑稽だ。」

 

邪悪な笑みを浮かべていたヴォルデモートはウィルの行動に衝撃を受ける事となる。なぜなら彼の周りに激しく血飛沫が舞ったからだ。

 

「・・・まさかこのガキ。」

 

くるくると肉の塊が血を撒き散らしながら地面に落ちた。蛇と骸骨のタトゥーが刻まれた“左腕”である。

 

「自分の腕を・・・。」

 

ヴォルデモートは言葉を失った。そのままであれば死は免れないであろう。しかしウィルは自分の左腕を自分で切り落とした。なんの躊躇もなかった。

 

激しい痛みで激しく歯軋りをしているウィルの暗く淀んだ瞳には死への恐怖はない。彼にとっては最善の行動を最速で求めただけに過ぎない。彼の性格でなければ勝負は決していたであろう。

 

「“燃えろ(インセンディオ)”」

 

ウィルは自分の失った左肩の傷口を素早く燃やして止血をする。流石に彼は怯んで地面に膝をついてしまう。汗が地面へポタポタと滴り落ちた。

 

 

その隙にウィルは自分の杖を吹き飛ばされてしまった。そして間髪入れずヴォルデモートはウィルを吹き飛ばしてしまう。

 

地面に叩きつけられた彼は腹部に鈍い痛みを感じると、口から血を吐き出した。彼は嗚咽を繰り返して息を整える。

 

 

「もう終わりだ。さらばだ、我が息子よ。」

 

ヴォルデモートは杖を向けた。彼の命を奪うことが礼儀であると感じた。それが自分にできる最大の敬意であると確信していた。

 

 

杖を向けられた瞬間、ウィルは己の死がまもなく訪れると理解した。限りなく自分の時間のみがスローモーションのように変わった。自分の死を受け入れるつもりなどない。

 

ここで死ぬ為に生きてきたわけではない。かっこ悪くても、醜くても、情けなくても構わない。勝利や対抗心ではなかった。

 

彼のその変わらない意志が死という運命から逃れ、手負いで杖のない若い魔法使いが世界の運命を大きく変える事になる。

 

 

彼は放たれた緑色の閃光を身体をひねって回避した。それを見たヴォルデモートはもう一度“死の呪文”を放った。だがそれをも躱してみせる。

 

彼には全てが視えていた。未来予知などではない。単純に反射神経が優れているだけだった。彼を救ったのは学生時代にプレーしていたクィディッチであった。

 

トレーニングでの身体能力の強化、ボールの役割を持つクワッフルを視線で追う為に備わった動体視力、そしてそれを維持するためのスタミナである。

 

取るに足らない学生時代のスポーツがウィルの命を繋いだ。

 

『いつか貴方の糧になる』

 

彼が一年生の時にマグゴナガルは確かにそう言った。こんな形で重要な役割を担うことになるとは誰も想像できなかった。

 

 

ウィルはヴォルデモートの死の呪文をまるで手負いの獣のように鋭い瞳で捉えて、躱し続けた。もはやウィルに残された策、いや選択肢は何一つとしてない。

 

 

ヴォルデモートの“魔力切れ”

杖を失い、左腕を失い

死と隣り合わせであるためか

彼の集中力が途切れる事はなかった

 

 

 

だが限りなく薄い勝ち筋、何発躱したかはわからない。やがてウィルは瓦礫に足をとられて転んでしまう。右手のみで身体を支えるが身体が起こせない。奥底から疲労が溢れ出て、そして精神的な負担が身体を蝕んだ。彼の行動は無謀だったのだろうか・・・

 

 

 

「“息耐えよ(アバダ・ケタブラ)”。」

 

ヴォルデモートはゆっくりと杖の照準をウィルに合わせて放った。もはや防ぎようのない呪文は彼へ迫り、その緑色の閃光がウィルの視界を照らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死の光は彼へ届く前に地面に落ちた。まるで墜落したかのようだった。ヴォルデモートが失敗したわけでも、情けをかけたわけでもない。第三者による呪文を捻って操作する。

 

 

 

ウィルはそんな芸当をできるのは自分を除けば1人しか知らない。彼へその技を授けた魔法使いである。

 

 

黒いローブがウィルの前を遮った。自分の知る小さな背中ではない。ウィルにはとても大きくたくましく見えた。

 

 

「よもや、お前が俺様の前に立ち塞がるとはな。」

 

ヴォルデモートは意外そうな表情を浮かべて目の前の魔法使いを睨んだ。

 

「ルシウス」

 

自分の配下の死喰い人の名を呼んだ。ウィルを育てた義父のルシウス・マルフォイである。主人の信頼を失い色あせた貴族服、土で汚れた靴、血のついた杖を握りめていた。弱々しかった姿など片鱗も感じさせなかった。

 

「ヴォルデモート、私の息子に手を出すなッッ!!! 」

 

彼はそう大声で息子の敵へ杖を向けた。

 






完結まであと2話です。
他の作品では出てきたことがない(自分の知る限り)
僕がずっと書きたかった結末をお届けします。



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【最終話】 灰色の獅子④






 

 

 

 

 

 

“ルシウス・マルフォイ”。純血の由緒ある魔法使いの聖28一族のマルフォイ家の家長にして、かつて闇の帝王に最も信用されていた“死喰い人”の一人であった。

 

18年前に赤ん坊のハリー・ポッターにヴォルデモートが敗れ姿を消した際に、一族を家族を守る為に“服従の呪文”を使われて操られていたのだと主張した。魔法界に多額の資金を援助する事で生き延びた。

 

ヴォルデモートの復活後に再び“死喰い人”として傘下に加わるが、数度の失態を犯して信用と立場を失った。

 

ウィルの助けで息子のドラコは両親を連れて戦場となるホグワーツから逃げていたはずだった。しかしルシウスは戻ってきて闇の帝王の正面に現れた。

 

「父上!なぜあのまま逃げなかったのですか!?」

 

ウィルは激昂して叫んだ。彼らは孤独な自分に居場所を与えてくれた。住居だけではなく教育やマナーを教えられた。ウィルはマルフォイ家に感謝している。だから可能な限り家を守る為に行動してきた。

 

「マルフォイ家の家長として汚名を背負ってもなお逃げるべきだった。」

 

ルシウスはそう言った。

 

「ドラコが泣いていたよ。情けない子だ。もう(・・)18なのに。」

 

彼はぽつりとそう言った。ウィルの義弟であるドラコの名を口に出した。彼は必要の部屋で最後に交わした言葉を思い出す。死ぬのであればもっと気の利いた事を言うべきだったと思い直す。

 

「しかしお前は大人だ。まだ(・・)18なのに。私がお前に恩を着せてそうさせたんだ。これは私の責任だ。意味などないのかもしれない。だが・・・」

 

ルシウスはまだ幼い頃のウィルを思い出していた。今よりもっと世界に敵意を剥き出しにしていた。最初は荒々しい小さな獣を手懐けるような感覚だった。しかし違った。

 

「私のせいでお前を・・・私の愛する息子をたった一人で戦わせるなどッッッ!!!」

 

ルシウスは叫んだ。

 

「ウィル・・・、私はお前を愛している。」

 

ウィルを息子と呼べても、父親と名乗る程の自信が自分にはなかった。

 

 

(あの子に私は父親らしい事をしてやれなかった。境遇に漬け込んで利用しただけではないか?父親ではない、だから・・・)

 

ルシウスは自分の息子が貴族の家長へなるべく育てる為に兄弟という存在を欲した。優秀で息子と歳が近く、そして自分達に少し似ている人種。

 

それに当てはまったのがウィルだった。スラム街で犯罪者を狩って生活していた少年、偉大な魔女の元で育った怪物。彼が求めるのは環境、不自由ない衣食住と教育だと知っていた。

 

やがて彼はドラコの兄として、マルフォイ家の跡取りとして世間的に完璧な振舞いをしてくれた。彼なりの恩義なのか自分の頼み事は全て聞いてくれた。

 

妻のナルシッサは何かを感じて、ウィルを毛嫌いして近づけさせなかった。女性ならでは、妹ならではの直感だったのだろう。

 

ウィルはベラトリックス・レストレンジの息子だった、ナルシッサの姉である。つまりドラコとは実の従兄弟だった。

 

運命なのだと思った。

 

 

ウィルはマルフォイ家を救う為に現れた。

ルシウスはそう思ってしまった

 

 

自分達はそれに甘んじた

一方的に利用して、恩を着せて

ウィルの苦悩に対して

見て見ぬ振りをしていた

 

果たしてそれが許されるのだろうか

ウィル自身がどう思っているかは

どうでもいい・・・

ただルシウスはこの状況で

自分達のために犠牲になり続けた

彼を見捨てることなどできようか

 

 

 

(ーーー、勝手にケジメ(責任)を取らせてくれ。)

 

 

 

 

 

「ヴォルデモート、私が相手だッッっ!!!」

 

ルシウスは主人へ向けて“死の呪文”を放った。殺すつもりで放ったのではない。反逆を示すために最もわかりやすい呪文だからだ。主人が自分へ手解きをしたこの呪文、それをもって意思を見せつけるためだ。

 

 

ヴォルデモートはルシウスの放った呪文を容易く弾いてしまう。当たり前のように虫を払うように自然にやってみせる。こんな技術は闇祓いですら難しい。

 

「愚かな、お前ごときの呪文が俺様に届くはずもなかろう。」

 

ヴォルデモートは呆れるように言い放った。自分の役に立たない、失態ばかりで地位を失った部下。もはや彼に対して興味は何一つなかった。

 

しかしルシウスの瞳には激しい炎が灯っている。ヴォルデモートの言葉など聞いていない。確実に彼を殺すために攻撃する姿勢を見せている。

 

次々と呪文や呪い、捕縛呪文や炎など多彩な攻撃をみせる。一つ一つは平凡な力ではあるが間髪いれずの猛攻にヴォルデモートは素早くさばき続ける。

 

技量も才能も到底及ばない。

ただの勢いだけだ。

般若のような凄まじい殺意だ

貴族とは感情を出さず

冷静に戦えと指導して実践していた

彼からは想像つかない戦い方だった

彼はマルフォイ家の当主ではなく

息子を護るために戦っているのだ

 

 

 

ヴォルデモートは次第にルシウスの勢いに呑まれつつある。これほど殺気を込めて自分に正面から向かってくる魔法使いなどいなかった。

 

 

(あの子は天才だ。だから何かがある。

時間を稼ぎさえすれば生き延びるはずだ

私にウィルにしてやれることはこのくらいだ)

 

 

ルシウス・マルフォイにとって唯一幸運だったのは彼が怯んだこと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして不幸だったのは闇の帝王は冷静(・・)だったことだ。

 

ヴォルデモートは素早くルシウスの杖を弾き飛ばしてしまう。彼の杖が地面に転がり軽い木特有の高い音を響かせる。ころころと転がり、そして動きを止めた。

 

 

「ルシウス、愚か者め。目をそらすな。これがお前の果てだ。」

 

ヴォルデモートは薄ら笑いを浮かべて杖をルシウスの心臓へ向ける。

 

 

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉーーーッ!!!!」

 

ウィルは大声で叫んだ。自分でもこんなに大きな声が出せるのか驚いた。更にこう叫んだところでヴォルデモートが自身の行動を止めるとは思わなかった。不思議とウィルは冷静になっていた。

 

 

「“アバダ・ケタブラ(息絶えよ)”。」

 

ウィルの瞳に緑色の閃光が瞬き、そしてルシウスを包み込んだ。ゆっくりと重力に逆らわず、地面との距離を縮めていく。生気のない瞳から涙が零れ落ちて地面へ散っていくのをを彼は見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィルの耳に誰かの叫び声が聞こえた

誰かが地面を蹴る音も

飛び散った砂利の粒ですら

彼の耳は聞き逃さなかった

 

だが目の前の男は口を大きく開けている

大笑っているようだったが

彼には何も聞こえなかった。

 

そして一滴の雫が地面へ落ちた

彼の世界は音を取り戻した

恐ろしい甲高い声をかき消すように

叫んでいたのは俺だった

 

 

 

あぁそうか。俺は息子だったんだ

怯えてた、覇気なんてなかった

俺の父親は勇敢だったんだ

 

 

 

走ってヴォルデモートへ迫るウィルに対して杖を向けた。また一つ命を刈り取る為である。荒々しい手負いの獣にとどめを刺すかのように彼は言い慣れている呪文(スペル)を唱える為に口を開く。

 

 

 

しかし彼の動きが止まった。何か自分の中でぞわっとした不穏な空気を感じた。それはウィルではない胸騒ぎに近い何かだ。

 

ヴォルデモートの内部に衝撃が大きな走った。ここ数年で度々感じている痛みだ。彼はその事実を突きつけられた。

 

「・・・ナギニ。」

 

ヴォルデモートの愛する大蛇、そして彼の残り最期の分霊箱。

 

ヴォルデモートは胸に手を当てて正常に鼓動しているか確かめる。もう自分が不死身ではないのだと知った。

 

 

 

「お帰りトム、これが人の世界だ。」

 

ウィルはヴォルデモートの頬を思い切り殴り飛ばした。彼は鈍い痛みを感じて吹き飛ばされてしまう。

 

地面に転がった彼は追撃を警戒して杖を向けるがウィルはその場で呆然と立ち尽くしている。ヴォルデモートはその意味のない行動を理解できずにいるとウィルは口を開いた。

 

 

「・・・震えてなんかいなかった。」

 

「なんだと?」

 

予想外の言葉に彼は驚いた。

 

「足だよ、ルシウス・マルフォイのだ。土と泥で汚れている。それに杖は見たかい?君が奪い取ったからそこらの死体から盗んだんだ。血と泥がついてる。」

 

貴族としての誇りを持つ人が他人の穢れや盗っ人みたいな真似はできないはずだ。しかしそうした理由はただ一つ、ウィルを護るためなのだとわかっている。

 

 

「意味がわかるか?トム。たった一人だ、僕にとってたった一人の父親だった。姑息で嫌味ったらしくて臆病な人だったよ。褒められた人間じゃない。」

 

父親は嫌われている。ヴォルデモートが頭角を表し始めた時は“死喰い人”として、彼がハリーに敗れた際には“服従の呪文”をかけられたという証言と多額の金銭によって無実を手に入れた。やがて権力を持ち、自分の都合のいいように暗躍した。かつての主人が復活すると誰よりも早く馳せ参じた。

 

「でもな・・・、僕に愛を与えてくれた。僕に機会を与えてくれた。」

 

ウィルはそう自分に言い聞かせるように言った。

 

「今、君に対してこれまでの人生にないほど怒りを覚えている。どうかなりそうだ。」

 

ウィルは冷静に努めようとするが難しいようだ。激しく歯軋りをして右手の拳をギュッと握りしめている。

 

ヴォルデモートとウィルの間に空白の時間が流れた。風の音すら聞こえた。

 

 

 

「ウィルーーーーーッッッ!!!!」

 

その2人だけの空気を打ち破るように1人の青年の声が割り込むように聞こえた。

 

2人がその声の主へ視線を向けた。ネビルである。そして黒い布製の何かがウィルの方へ飛んでくる。ネビルがそれを投げたのだろう。それを彼は掴むと驚いた。帽子だ。

 

しかしただの帽子ではない。“組分け帽子”である。ホグワーツへ入学した生徒は1人残らず組分け帽子の選別を受けて四つ寮へ組分けされる。2人もまた例外ではない。

 

 

 

 

「“アバダ・ケタブラ(息絶えよ)”」

 

ヴォルデモートはその意味を理解していた。ウィルは右手に掴んだ帽子を地面に落とすと、その帽子の中へ手を突っ込んだ。

 

緑色の閃光がウィルの元へ迫る中、彼は帽子の中に金属の棒の様な物がある。それを勢いよく引き抜き、振り抜いた。

 

ヴォルデモートの放った緑色の閃光は花火の様に散り散りになって分散した。ウィルは引き抜いたものを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ホグワーツでは助けを求める者に与えられるのではない。助けはふさわしき者に与えられる】

 

 

 

 

 

 

 

“グリフィンドールの剣”

 

 

真のグリフィンドール生にのみが手にする事ができるとされる伝説の剣。ゴドリック・グリフィンドールが愛用したその代物は剣にとって不利益な効果は受けつけず、その剣で斬り裂いた物が自身を強める存在であった場合その性質を吸収するという性質がある。

 

「始祖よ、ようやく俺を認めたのか。」

 

ウィルは右手のみで剣を握っていた。片手で振るうには重いが左腕、そして杖を失った彼には大した問題ではなかった。

 

不思議と彼の手によく馴染んだ。振るったことがないのになぜか扱い方がわかった。彼が6年前に秘密の部屋で触れた時とは違った。

 

 

 

真のグリフィンドールの生徒

たとえ闇に堕ちたとしても自分を貫く獅子

聖人(ホワイト)悪人(ブラック)

そのどちらでもないだろう

ゆえに“灰色の獅子

 

 

 

 

 

 

ヴォルデモートは慄いた。

本能的に察する。

この剣は危険だ。

 

 

ウィルはヴォルデモートの命を刈り取るべく間合いを詰めて、剣を振るった。

 

 

ヴォルデモートは盾の呪文で勢いを殺して剣をいなしてみせる。剣は地面に突き刺さりウィルはバランスを崩してしまう。しかし彼は身体を回転させて勢いをつけ剣を振るって反撃する。青い盾は剣によって破壊されて散り散りになる。

 

盾を失ったヴォルデモートに対してウィルは剣を振るった。しかし彼は地面が盛りあがらせて障害物にしてみせる。ウィルは構わず土の壁へ剣を斬り裂いた。紙のようにスパッと切れて弾き飛ばした。しかしその向こうにはヴォルデモートが見えなかった。

 

その瞬間にウィルは腹部へ鋭い痛みが走った。土の壁にヒビがミシミシと入るとそれはバラバラに砕け落ちてしまう。

 

そこに腰をおろして屈んでいるヴォルデモートであった。剣の一撃をしゃがんで躱した後にウィルの死角から呪文を放ったのである。

 

その呪文を皮切りにウィルは動きを止めた。とうに限界を超えていたのだ。お腹から血が流れ落ちていく。

 

ヴォルデモートは武装解除の呪文を放ってグリフィンドールの剣を弾き飛ばした。その剣はホグワーツの校舎の壁に突き刺さった。

 

 

 

 

ウィルは力が抜けて倒れそうになった。しかしヴォルデモートは彼の右肩を掴んだ。

 

 

ヴォルデモートは愉快そうに笑った。なぜなら自分へ殺しにくる奴を返り討ちにして無様な姿をみるのは滑稽に映るからだ。

 

「どんな気分だ?殺したいほど憎い男に生死を握られるのは?」

 

ウィルはなにかをつぶやいた。声にならないほどの小さな声だ。

 

ヴォルデモートは意地悪く笑ってウィルを優しく抱きしめた。慣れていないのかとてもぎこちなかった。

 

「我が息子よ、もう一度言ってみろ。」

 

ヴォルデモートはウィルの耳元で囁くように言いはなった。左腕を失い、杖を失い、最後の頼みの綱である剣を失った。魔力の消費だけでなく身体的かつ精神的な疲労、さらに大量の出血により彼は身体は限界だった。

 

もう自分に対してなにもできないとヴォルデモートは高を括った。ウィルは口をゆっくりと開けた。

 

「・・・僕はそれでも君を許そう」

 

ヴォルデモートはその意図を理解できず、彼の瞳をジッと見た。“開心術”である。ウィルの心の内を覗いた。

 

 

 

 

(君は僕と同じだ。育つ環境がほんの少しでも違えば、君はその才能で世界を良く成せた。)

 

ウィルの意外な言葉に彼は言葉を失った。更に心を覗いた。

 

 

 

 

(トム、もし君と僕が同じ時に産まれ同じ学び舎で育ったのなら・・・

 

 

 

ーーー、僕らは親友になっただろう。)

 

 

更なる言葉にヴォルデモートはなにを言えばいいのかわからなかった。

 

「世迷いごとだ。だが命乞いにしては奇妙だ。」

 

ヴォルデモートは戸惑いを覚えていた。今までそんな言葉を言われた事がない。彼は何故か杖を降ろしてしまっていた。ウィルの真意を理解するべく考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

(でも終わりだ。僕達はそうならなかった。

これもまた運命か・・・。)

 

ウィルはそう心の中でつぶやいた。自分の命を散らす決意を決めた。そう長い時間はかからなかった。むしろほんの一瞬である。

 

ウィルは右腕をヴォルデモートの身体へ回してギュッと力を込めた。

 

 

「“アクシオ(来い)”、グリフィンドールの剣。」

 

 

ウィルはそうつぶやいた。ホグワーツの校舎に突き刺さっている剣が小さく震えているのが見えた。だがもう手遅れだった。ヴォルデモートがウィルを引き剥がさなければならないと理解した時、2人はグリフィンドールの剣に身体を貫かれた。

 

2人の身体に剣が突き刺さり彼らは口から大きく黒い血を吐き出した。もう身体に力が入らないウィルとは違い、ヴォルデモートは最後の力を振り絞った。

 

「俺様はヴォルデモート卿ッ!!!

この世で最も偉大な魔法使いだ!!!!」

 

ヴォルデモートはそう叫んで杖をギュッと握りしめ、顔を恐ろしく歪めてウィルへ突きつけた。しかし彼はすぐに込めた力を緩めてしまう。なぜならウィルの手のひらが彼の頬を優しく包んだからだ。

 

「トム、もういいんだ。君も疲れただろう。」

 

ウィルはそう優しく言うとゆっくりと目を閉じた。彼の心には味わった事のない何かが巡っていく。

 

 

 

(なんだ、この痛み(・・)は・・・。)

 

剣の痛みではない。心の奥底に響くような鈍い痛みだ。ぽっかりと穴が空いたかのような感覚だ。

 

 

そうだ、自分はこの現象を知っている。

忘れていたずっと昔の思い出である。

 

 

 

ある日、トム・リドルは顔が霧がかって見えない両親に挟まれて、2人の手を繋いで商店街を歩いていた。どこにでもいる普通の平凡な家庭である。

 

彼がお父さん、お母さんと2人は呼びかけると『愛してるよ、トム。』と言ってくれた。幼い彼は子供のように嬉しそうに笑った。

 

 

朝目覚めてそれが夢だったと知った時、幼い彼は現実に叩きのめされた。心がとても痛かった。一人で布団をかぶって泣いていた。

 

 

 

 

 

 

大切な存在を失った時の痛み

ヴォルデモートの中でウィルという存在が

決して小さなものではなかったのだろう。

ずっと彼は軽蔑していた言葉だ。

 

「そうか、か・・・。」

 

ヴォルデモートの顔が緩むと同時に地面へ倒れる。また彼に身体を預けていたウィルも一緒に倒れ、心臓は次第に鼓動を弱めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トム、僕は心ってのは誰かに少しずつ貰うものなんだって思うんだ。

 

親と子の違いがわかるかい?

心を与える人と貰う人だ。

僕と君は実の両親からは貰えなかった。

だから周りから奪おうとしたのが君で

周りから与えられたのが僕だった。

 

僕らの運命に違いなんてない。

ただ一歩違うだけで

僕らの選択は逆だったんだ

 

だから僕はーーー、

僕と出会った全ての人に感謝するよ

何もなかった心をみんなが埋めてくれた

僕はこんなにも恵まれたのだから

僕は幸せだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー、果たしてそれだけでいいのだろうか?

ただ貰うだけだった、僕は貰うばっかりじゃないか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーまだ死にたくねぇな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親友または父親となるはずだった男の手の中で、若き天才は静かに息を引き取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【獅子と蛇で揺れる男

強欲の全ては満たされぬ

野望の1つが叶う時

正義の刃が心臓を貫くであろう】

 

 

 








最終話です。

あとエピローグのみですが
それが投稿し終わるまで
申し訳ありませんが感想欄は見ません。
しかし必ず返信します。

よろしければ感想お願いします。




*最後の預言は“自分の価値”の最後に出てきた神秘部でのものです。


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エピローグ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

 

とても青白い世界だ。ふわふわとした空間のように感じた。不思議と居心地は悪くないようだった。身体は軽く、そしてこの世の世界ではないのだと理解した。

 

「やはり俺は死んだんだな。」

 

走馬灯のように思い出が駆け回った。しかしそれは意味がないことだと思った。そして彼は歩き始めた。ここにいる意味を探るためである。この音のみが響く世界を彼は進む。

 

すると目の前に西洋風の建造物らしき物が見えた。それが遠いのか近いのかそれはわからない。近づくにつれて彼にその建物は教会のようだと理解した。

 

 

大きな扉の前にやってくると、それはゆっくりと開いた。彼自身が扉に触れたわけではない。それは彼が開けたいと思ったからだ。

 

 

 

「よぉ小僧。」

 

小太りの老婆だ。彼女は葡萄酒の瓶を片手に教壇で胡座をかいている。彼の知る人物の姿がそこにあった。

 

「・・・お久しぶりです、ジェニスさん。」

 

偉大なる魔女、ジェニス・マクミラン。彼女は既に死んだはずである。

 

「ウィル・・・、でかくなったねぇ。」

 

ジェニスはかつての弟子のウィルの姿を見た。懐かしむように彼女はそう呟いた。ずっと見守ってくれていたのだと彼は考えた。

 

「ここはどこですか?」

 

ここがあの世、つまり地獄であると考えた。

 

「どこだっていい。ここはリンボ(・・・)と呼ぶのが近いだろうねぇ。つまり現実世界と死後の世界の中間だ。」

 

その言葉にウィルは納得した。彼女も自分も死んでいる。しかし疑問は彼女だけここにいることでだった。

 

「そうですか、あとなぜここに?」

 

「悪いが時間がない、よく聞くんだ。」

 

彼女はそう遮るように口を挟んだ。

 

「罪を償う為さ。どうやったかというと、私は死ぬ前にお前の魂へ私自身を刻んだのさ。」

 

彼女は寿命が尽きる前にウィルに魂を注ぎ込んだ。そして彼の寿命を迎えるまでリンボで待ち続けることにした。自分の育てた弟子がどう育ったかずっとここで見守っていたのである。

 

「私はお前に道を示した。つまり人の道を踏み外さぬように洗脳したんだ。お前という個を殺すように仕向けた。」

 

自分を虐めた連中へ復讐をする練習として野うさぎを岩で殺そうとしていたあの少年、ウィリアムの自我を奪って普通の人間にする為に強制したのである。

 

そのせいでウィルに彼自身にとって不利益な結果をもたらしてしまったと続ける。

 

「お前は自分の命を軽視(・・)している。」

 

その言葉にウィルは表情を曇らせる。そして彼は反論する。

 

「そんな事はありません。僕は自分の為に大切な人達の為に生きたいと思ってる。」

 

「では、なぜ分霊箱を作らなかった?死ぬべき存在だと思ってたからだ。ヴォルデモートと戦うのであればそれは必須、お前もわかっていたはずだ。」

 

図星であった。彼もわかっている。事実、彼が分霊箱を作成してヴォルデモートのように隠していれば彼が死ぬ事はなかった。それはルーナやハリー、ハーマイオニー達のように大切な人々を守るという意思がなかった。実際に彼はヴォルデモートと共に死ぬことを選んだのである。

 

「かつて僕は賢者の石を得ようとした。永遠の命を求めた。」

 

ウィルは彼女の突きつけた現実を受け入れたくはなかった。正論であるからだ。人の土俵に立たない強敵に対して、それも格上の相手に対して、限りなく負けない方法を知っていながらも行わなかった。

 

「違うよ。あれはお前自身の為じゃない。お前は私を生き返らせようとしたのさ。」

 

「・・・。」

 

少し嬉しそうな表情を浮かべていた。彼がホグワーツで入学したばかり、1年生の時にハリー達から永遠の命を得るという“賢者の石”がホグワーツに隠されていると知った。そしてそれをヴォルデモートが手に入れて復活しようとしていると聞いた。

 

当時の彼はそれを横取りする事を目論み、そしてハリー達を残して自分一人で隠し場所へ向かった。それは自分を真っ当な人間にしてくれたジェニスを蘇らせる事ができるかもしれないと思ったからだ。

 

「お前は命をナメてんだ。」

 

ジェニスは冷たく言い放った。現実から目を背けるなという意図を含めた言い方であった。その一言でウィルは黙るしかなかった。

 

彼の幼年期、スラムの孤児院で育った。親、故郷、家柄全て知らない。知っているのは自分のウィリアムという名前。誰が何のために自分を産んだのか、自身の存在の意味を知らなかった。穢れた血と蔑まれ、常に死と隣り合わせの生活だった。数少ない食事は自分に届く事はなく、スラムの街で調達した。生きる術を復讐の為に見出して育った。最も軽んじられるのは弱い命だ。それを知っていた。

 

「僕の選択は正しかったのでしょうか?」

 

彼は世界についての選択を迫られていた。ジェニスの与えられていた預言、偉大なるカッサンドーラ・トレローニの彼の選択次第で世界は“破滅”か“安寧”をもたらす事になる。

 

だからジェニスはその選択を遅らせるように育てた。より正しい結果を導く為である。周りの意見を聞き入れる。一方的な意見は傲慢だと躾けた。そして良からぬ他者から影響されないように自分自身を保つ事ができるようにした。

 

「言うまでもないよ。正しい選択かは誰にだってわかりゃしねぇよ。未来を見届けるんだ。お前自身の目で、それが大事だ。」

 

「僕は戻れるのですか?」

 

ウィルは彼女の言葉を聞いた上でそう尋ねる。自分は死んだのだ。その言葉に意味のない事だと言いたかった。

 

「お前がそう望むのならね。だが半端な気持ちで行くんじゃないよ。」

 

「・・・。」

 

ジェニスの言葉の意味がわからなかった。戻れるならばなぜ彼女は戻ってこなかったのだろうか。だが彼女は嘘をつかない。信じてすがるほかに彼に選択肢はなかった。

 

「僕は貴方が偉大な魔女だと世界に知らしめる為に、世界を正しく導こうとした。」

 

彼の最初の生きる意味はそれだった。やがてマルフォイ家、そしてルーナやホグワーツを守るため彼は行動した。

 

「そうだ。だがお前は死んだ。だから次は私の為なんかじゃない。お前の為に生きるんだ。」

 

ジェニスは初めから彼の気持ちは分かっていた。彼自身の背中を押すために欲しい言葉を的確に与えた。

 

「さぁ行きな。」

 

彼女はあっさりとそう言った。

 

「ありがとうございました。僕は貴方のお陰で大切な人達に会えた。感謝以外の気持ちは何一つとしてありません。」

 

ウィルはジェニスへの気持ちを伝えた。彼女がいなければ野垂れ死んでいたと知っているのだ。

 

そう言い終えるとウィルの姿は少しずつ消えかかっているように見えた。リンボの世界から抜けようとしているのだろう。

 

「ウィル、私はお前を誇りに思う。」

 

彼女の言葉をウィルは聞終えるとスッとその場から消えた。この世界に取り残されたのはジェニスだけとなった。

 

「こんなに早く来やがって、まだ酒が残ってるじゃないか。不出来な弟子だよ。」

 

嬉しそうに悪態をつき、残っている酒瓶を回して中身を揺らしてみせる。そしてそれを一気にあおった。それを無理に飲み干して見せると天を仰ぎ息を吐いた。

 

「幸せになんな・・・。」

 

彼女はそう言うと身体に異変が起きた。いきなり頬から灰のようなものが待っている。まるでジェニスは呪いを受けたかのように身体が錆びていく。それはゆっくりと全身にひろがっていった。

 

「あいつの子供の顔見たかったねぇ。」

 

静かにそう呟いた。彼女はその場から跡形もなく消えた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと目を開いた。まだ彼の意識は薄っすらとしている。知っている天井だ。懐かしくて心が温まっていくようだった。心臓の鼓動と前進の血の流れを感じ、自分が生きているのだと認識した。

 

師匠の言った通りだった。自分は生き返っているようだ。あるはずの身体の感覚に違和感を感じた。彼は自分の左腕を斬り落としたことを思い出した。そして自分のベッドの周りに何人かの人の気配を感じた。誰もが無言で葬式のような空気が漂っている。

 

 

彼はゆっくりと身体を起こした。すると隣に見えたのはブロンドの髪の少女だ。大きな2つの瞳はウィルを見ており、大粒の涙をボロボロと零した。

 

異変に気付いた人達は一斉にウィルの方向を見た。彼らは目を見開いていく。ルーナ、ハーマイオニー、ハリー、ネビル、そして椅子に座って居眠りをしているドラコだった。

 

「あ〜・・・ただいま。」

 

ウィルがそう言うと友人達が一斉に声をあげて抱き締めようと飛び込んだ。彼は締め付けられ苦しかったが、その痛みですら愛おしく感じた。一気に騒がしくなりドラコがびくっと反応して起きあがった。そして自分がウィルを抱きしめるのに出遅れたのだと理解する。ドラコは自分も加わりたいがハリー達と気まずいのか挙動が不審だった。

 

「ドラコ、お前も来いよ。」

 

ウィルは笑いながらそう言った。するとドラコは恐る恐るウィルを抱きしめた。ハーマイオニーやルーナの顔が自分に近づき、彼はそわそわしている。

 

「およしなさい。ウィルを殺す気ですか?」

 

聞き慣れた声で彼らは大人しくなった。ゆっくりとみんなはウィルから離れていく。

 

「先生、お待たせしました。」

 

そこにはウィルの恩師、マグゴナガルがうっすらと瞳に涙を浮かべて笑っていた。

 

「ウィル、私も信じていましたよ。」

 

 

 

***

 

 

 

 

2日後

 

 

 

 

あれから時間が経った。遠い昔のようにも感じた。それもそうだ。破壊された学び舎はホグワーツを愛した卒業生や生徒達がレパロを使って全て修復した。味方であろうと死喰い人であろうと一人ずつ死者に尊厳をもって埋葬した。少しずつではあるが皆が負った傷は治っていくのだろう。

 

 

ウィルはマグゴナガルから誘われて校長室でお茶を飲んでいた。ここでの話が終われば彼は学校を出るつもりであった。

 

茶菓子はフィナンシェをマグゴナガルに頼んで取り寄せてもらった。やはり彼はこれが一番の好物だった。

 

 

「我々一同、貴方がなぜ生き返ったのか?それが疑問でした。」

 

マグゴナガルはウィルへそう切り出した。

 

「私の目にも貴方の体に剣が貫かれ、出血をしたのを見ました。しかしポンフリーは貴方からは傷跡も、血を失った形跡がないと言っていました。」

 

不可解な出来事が起きていた。ウィルが蘇生したのもおかしいが、傷や痕跡が残っていないのはありえない。

 

「おそらく、分霊箱(・・・)。そうですね?」

 

ウィルはそう言った。ヴォルデモートが行なった不死になる為の闇の魔術。

 

「えぇ、その通りです。」

 

「分霊箱の発動条件は“殺人”、そして自分の魂を納める“器”。」

 

もちろんウィルは分霊箱の発動方法を知っている。マグゴナガルもまた同様である。

 

「殺人はヴォルデモートで満たした。ですが問題は器です。魂を仕舞う為に複雑な手順があるはずです。」

 

ウィルはその正解に辿り着いていた。その答えを彼は語った。

 

「器はグリフィンドールの剣。手順は踏まなくてもいいでしょう。」

 

ウィルとヴォルデモートの死因となった剣である。その剣が分霊箱になったのだろうと彼は結論付けた。

 

「グリフィンドールの剣は斬った存在の力を吸収する。」

 

グリフィンドールの剣は自分自身を強化する存在を切った場合はその性質を持つ。もし分霊箱を剣が斬っていれば、剣は分霊箱となるのだ。

 

実際はおそらく分霊箱としてではなく、それにかけられていた保護魔法を吸い取ろうとした。その際に分霊箱の性質を一緒に吸収してしまった。あとは魂さえ注ぎ込めば分霊箱が完成する。

 

問題は剣が分霊箱を斬ったがどうかであるが答えは出ている。

 

「貴方やポッター達は分霊箱を剣で破壊しました。この時に分霊箱の性質を吸収した。あとは発動条件の殺人を待つ状態となった」

 

殺人という行為に及べば魂は斬り裂かれる。そしてウィルは死ぬ間際に生きたいと願った。彼自身の魂の一部が分霊箱の器となり得る剣へ入り込んだのである。

 

2人の間に長い沈黙が訪れる。彼自身の意図せぬところで彼は不死の呪いを受けた。しかし彼からは闇の呪いの匂いを感じなかった。

 

それはジェニスのおかげなのだろうとウィルは思った。なぜなら彼は突然フィナンシェが恋しくなったからだ。

 

 

 

 

 

 

「・・・トムは人として死ぬことができたんですね。」

 

少しの間ののちにウィルは呟いた。

 

「将来の進路はどうするつもりですか?」

 

いきなり就職活動前の学生のような話題となった。ウィルは拍子抜けをしてしまう。自分は働かなければならないと思った。戦争の前にルーナと婚約をした。だからお金を稼ぐ必要がある。

 

「どうするかはこれから決めます。あの少しダンブルドア校長先生とお話ししててもいいですか?」

 

「えぇもちろん。」

 

ウィルはそう聞くと立ちあがった。そして彼は歴代の校長の肖像画が並んでいる部屋へ移動する。ダンブルドアの次の校長はスネイプだったが、彼の絵はない。

 

ウィルが目覚めた後、スネイプが実は味方でスパイをしていたのだと聞いた。そしてヴォルデモートに殺されたとも、彼は勇敢な魔法使いだった。

 

その事実を聞いた時は激しく胸を痛めた。だが結果は覆せない。彼はないはずの自分の左腕撫でた。スネイプから教わった呪文で斬り落とした。断面に触れるだけで不思議と思い出が蘇るようだった。

 

 

 

 

 

 

「先生。」

 

青い瞳、長い白い髭を蓄えた人物。前校長のアルバス・ダンブルドアである。死ぬ前とわからない姿で肖像画となって生きている。

 

「儂の記憶では君が儂を先生と呼んだのは初めてじゃろう。」

 

ダンブルドアは笑みを浮かべてそう言った。

 

「人が悪い。それより先生はここまで見えていたのですか?」

 

彼は自分より遥かに賢人である。だから全てダンブルドアの手のひらだったのではないかと思い質問した。

 

「いいや、全くじゃ。」

 

ウィルにはその答えが嘘か本当かわからなかった。

 

「まさか君がトムを友として、そして心中するとは恐れ入った。見事な男じゃ。」

 

ダンブルドアはそう言った。彼がトム・リドルに教える事ができなかった愛を、ウィルが自分の命をかけて与えたのだ。

 

「史上最悪の闇の魔法使いですら見捨てず手を差し伸べた。君は誰よりも優しい男だ。」

 

少しの間を置いてダンブルドアは含みのある言い方をする。

 

「向いておるじゃろうな。」

 

「なににですか?」

 

言葉の真意を読めず、ウィルはそう聞く。

 

「なに年寄りは遠回りな事を好むだけじゃ。」

 

しかしダンブルドアは秘密主義である。やはり答えは教えてくれない。ウィルはそう察してロープから杖を取り出した。

 

「これを・・・、ハリーと話して先生の意見を聞くべきだと。」

 

ヴォルデモートとの決着の末に得た世界最強の“ニワトコの杖”、この杖はウィルが所有していたヴォルデモートから勝ち取った代物である。だが元を正せばダンブルドアの物だ。

 

「儂にはもうそれに触れる事すらできぬ。君が持ってくれるとありがたいの。君に勝る警備はないじゃろう。」

 

「しかし・・・。」

 

ウィルへダンブルドアはそう言った。彼もまたかつてグリンデルバルドとの決闘の末に勝ち取ったのだ。だから持っていたとはいえ永遠に自分の物ではないのだと言いたいのだろう。

 

「ならば悪用されぬよう君が守ってくれ。」

 

「わかりました、では失礼します。」

 

ウィルはそう言うと彼はその場から立ち去ろうとする。扉から出ようとした時だったり

 

「ウィル、礼を言う。君のおかげで世界は救われた。」

 

その言葉を聞いてウィルは振り返る。彼の表情からそれは心からの言葉なのだと容易に読み取れた。彼は会釈をしてその場から離れた。

 

 

 

 

そしてマグゴナガルの元へ戻ると、ウィルはお別れの言葉を伝えて校長室から立ち去ろうとした。

 

「ウィル、お待ちなさい。貴方にまだ罰則を与えてません。」

 

彼女は意地が悪そうにそう言った。笑みを浮かべながらお茶目に言った。

 

「お忘れでなかったのですね。」

 

ウィルも笑みを浮かべてそう言った。すると彼女は普段通りの真剣な表情に変わる。

 

「貴方を・・・。」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

その後、ウィルはホグワーツの高台に登り時計台の上へやってきた。ここからの景色を眺めたくなったのである。

 

かつてこの場所で一人で勉強していた。他の生徒達に邪魔をされるのを嫌ったからである。だが今は一人じゃない。

 

 

 

「ハーイ、ここにいたの?ウィル。」

 

ウィルの背後からそう聞こえた。まもなく妻となる女性に対して彼は優しそうな笑みを浮かべていた。今日、ウィルは退院してホグワーツを出る予定だった。迎えとして彼らがやってきたのである。

 

婚約者のルーナ、義理の弟のドラコ、友人であるハーマイオニー、ハリー、ロン、ネビルがそこにはいた。

 

「寂しくなったわね。」

 

ハーマイオニーはそう言った。校舎は元どおりになったのはいえ、死人までは帰ってこない。その言葉にハリーが口を開いた。

 

「あぁ、でも僕達は一人じゃない。」

 

 

 

不思議と静かだった。ウィル達はぼんやりと空を見る。戦争によって日常を失った学び舎とは正反対の何一つ変わらぬ空だ。

 

世界から見ればちっぽけな損失で、人類から見ればちっぽけな命で、歴史から見ればちっぽけな変化なのだろう。

 

失ったといえばごく僅かなのかもしれない。そうだとしても、いやそうなのだろう。今日も何も変わらぬ空を見ている人達はいる。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

〜19年後〜

 

 

 

 

【ホグワーツ魔法魔術学校】

 

 

 

 

 

今年もまた新学期が始まる事となった。新入生の組分けの儀式を終えて最初の大広間での食事となった。初々しい新入生達を歓迎するように各寮の先輩達が自己紹介やホグワーツの説明をしていく。

 

有名なハリー・ポッターの息子であるアルバス・ポッターもまたその輪の中にいた。スリザリンに選ばれた彼は複雑な気持ちでその席に座っていた。偶然にも汽車の中でできたスコーピウスという友人が同じ寮だったので少し安堵もしていた。

 

 

「おい、蛇姫(へびひめ)!こっち来いよ。」

 

アルバスとスコーピウスの近くにいた高学年の上級生がそう言った。その監督生は女の人だった。長いブロンドの髪で茶色の瞳だ。とても綺麗な女子生徒でアルバスは彼女に見惚れてしまう。

 

「あ、新入生達。この馬鹿の話は聞かなくていいからね?私はジェニス、スリザリンの監督生よ。」

 

蛇姫と呼ばれた彼女のローブには監督生のバッチが輝いている。とても綺麗で優しい声をしていた。でも案外口が悪い。

 

「やぁジェニス。」

 

「久しぶりね、スコーピウス。」

 

2人は知り合いのようだ。話を聞いてみるとどうやら従兄弟の関係らしい。そしてスコーピウス、アルバス、そして隣にいた名前を知らない新入生にも握手を交わす。

 

アルバスは有名な父親の話をしない彼女に驚いた。どこへ行っても偉大なるハリー・ポッターの話ばかり聞かれてきた。正直ウンザリしていた。彼女は特別扱いせず自分をただのアルバスとして接してくれていると嬉しくなった。

 

 

 

アルバスはマグゴナガル校長の隣の席が空いている事に気がついた。教師陣は横並びで食事をとるはずだ。入学前からの知り合いである薬草学のネビル先生もそこにいる。

 

「あのあそこは?」

 

アルバスはジェニスにそう尋ねた。

 

「あ〜、いつも空席なのよ。まぁいずれわかる(・・・・・・・・)わ。」

 

彼女は気まづそうに言葉を濁すと、すぐに話をそらしてしまった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

同時刻

 

 

 

〜ある教室〜

 

 

 

 

 

ホグワーツにある広い教室で魔法使いがそこにいた。1人しかいないはずなのに誰かと会話しているようだった、

 

「いつまで続ける気だ?」

 

ねっとりとした声だ。神経質そうな声でそう言った。テーブルの上に写真立てが置かれており、そこに小さな肖像画が差し込まれている。その人物はまるで生きているようだった。

 

「先生、僕は今で満足してます。」

 

その魔法使いはそう言った。しかし肖像画の男は不服そうだった。

 

「あの小娘の支援ではなく、お前が魔法大臣になるべきではないか?」

 

その言葉に魔法使いは笑った。

 

「先生、もう小娘じゃないです。娘が今年入学しましたよ。それにハリーの子も。」

 

彼がそう言うと男は複雑そうな顔をして口を紡いだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

次の日の朝

 

 

 

 

アルバス達はグリフィンドールとの合同授業である教室に来ていた。初めての授業で彼らはそわそわしているとハンサムな若い男の人が教室に入ってきた。

 

年齢的に見ると最上級生のように見えた。助手なのではないかと近くの生徒が言っている。なぜか寮を示すローブを身につけていない。動き易そうなシャツを身にまとっていた。

 

入るや否や杖をくるくると振るって窓のカーテンを閉めたり、照明を調整したりする。また床に落ちていたゴミが塵となって消えたり、出しっ放しになっている貸出用の教科書がスッと本来の場所へ戻っていく。

 

新入生は素早い呪文捌きに目を奪われて歓声をあげる。彼はそれを意に返さずに教卓の前に着いた。

 

「あの!ウィリアム先生はいらっしゃらないのですか?」

 

いきなり手を挙げて立ち上がって1人の女の子がそう声をあげた。グリフィンドールに組分けされたアルバスの知っている子だ。

 

ローズ・グレンジャー、アルバスの父親の親友の娘である。

 

「ん?あぁそうか。とりあえず座りなさいミス・グレンジャー。」

 

その彼は彼女の名前を知っていた。知り合いなのかと思ったが、ローズはなぜ自分の名前を知っているのだろうという顔をしていた。

 

「よく覚えておきなさい。闇の魔術にかけられた品は見た目だけでは判断できない。この僕が身をもって証明している。」

 

とても真剣な表情で彼はそう言った。今気がついたが彼には普通の人にはあるはずの左腕がなかった。そのせいで一気に教室が静まり返った。

 

まぁいずれわかる(・・・・・・・・)よ。」

 

重い空気を察知した彼は取り繕うようにそう言った。アルバスは同じ台詞を昨日聞いたばかりだ。ジェニスの言っていた意味がわかった気がした。今、気がついた彼女と同じ茶色の瞳をしている。

 

やがて彼は名簿にある名前を読みあげて点呼を始める。生徒達は先生の声に耳を傾けて自分の名前を呼ばれたら返事をする。やがてアルバス・ポッターの名を呼ばれ彼は返事をする。

 

ざわざわと騒がしくなるが彼は静かにと一度言うと、何1つ変わらず次の子の名前を呼んだ。彼はハリーポッターの息子ではなく、アルバス・ポッターとして接してくれるらしい。それが嬉しかった。

 

 

やがて全員の名前を呼び終えると彼は名簿を閉じて引き出しにしまった。

 

 

 

 

 

 

 

この世に悪人はいない

あるのは不公平だけ

僕は今もこう言うだろう

だから等しくすべきだと

それは今も変わらない

 

正しい選択を選ぶのは難しい

選択ってのはいつでも決められる

大いに道草を楽しむものだ

道を歩めばその道が

正しいか正しくないか

自然とわかる

間違えたら引き返せばいい

 

 

答えは今でもわからない

だけど1つだけ平等な世界を見つけたんだ

ずっと近くにあったのに気がつかなかった

機会も試練も同じように与えられる場所を

 

僕の求める世界はここなんだと思った

【魔法魔術学校ホグワーツ】

環境は違えど、学び舎では皆が同じ平等だ

だからそれを支えるのはやりがいがある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ自己紹介がまだだったね。」

 

隻腕の魔法使いは思い出したかのような表情を浮かべる。

 

「僕が【闇の魔術に対する防衛術】を担当するウィリアム・マルフォイだ。」

 

その言葉に生徒達はどよめいた。ホグワーツで最も有名な教師だ。その正体がとても若い魔法使いなのだと思ったからだ。

 

ホグワーツで副校長を務めている彼はかつて闇の魔法使いを倒した功績でマーリン勲章一等を授与されたのを皮切りに、ホグワーツに教師として就任。それから19年間教鞭をとり続け画期的な論文を多くの分野で発表して高い評価をうけていると有名だ。

 

またメディアでの露出を嫌っている。外出する際は顔を常に魔法で変装しており、例外として家族の前、またホグワーツでのみ素顔を見せているがその姿も変身なのではないかと噂されている。

 

だがアルバスには分かっていた。この先生の素顔は本物で、あの蛇姫と呼ばれた生徒が娘なのだと思った。昨日、彼女が家名名乗らなかったのはそう言うことだろう。そうであれば全ての辻褄があうのだ。

 

そうアルバスが一人で考察を終えて笑みを浮かべているとウィリアム先生と目があった気がした。とても優しい目をしている。

 

 

 

「それでは授業を始めようか。教科書は4ページだよ。」

 

ウィルは優しい顔で、くしゃりとした少年のような笑顔で笑った。

 

 








“灰色の獅子”完結しました。
ここまで読んでいただき
本当にありがとうございます。
心から感謝しています。

これが自分の描きたかった結末です。
3年前に投稿を始めてから
やっと完結させる事ができました。
今は達成感があると同時に
寂しい気待ちがあります笑



ぜひ感想や評価お願いします。

まだ書き残している部分があります。
最終章の解説を書いた後に
ダームストラング編、2部という名のスピンオフを
書けたらいいなと思っています。
書き切ると約束はできませんが
モチベーション次第で進めます。


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時系列と解説 *作者認識の強さランキングも



お久しぶりです。
燃え尽き症候群的なのでした。
時系列がわかりにくくなっているので
ウィルに関する年表をまとめました。

また二部の未来編をゆっくりと進めていきます。


 

 

 

 

時系列

 

 

 

 

 

 

 

【1915年】

 

 

①ジェニス・マクミランが預言を得る。

 

『呪われた家の忌子はより強力な怪物を産み出すであろう。進む道、そして選択の果てにこの世に破滅か安寧を与える。』

弟子が世界の運命を左右する預言。ダンブルドアも内容を知っている。

 

 

 

 

【1946年】

 

 

①アフリカで暗躍していたかつての弟子シルヴィを殺害する。彼の意図を尊重して犯罪者の汚名をかぶる。

夜の闇横丁で隠居生活を過ごす。追手は返討ちにして、錯乱の呪文をかけて魔法省に現存する彼女の資料を消炭にした

 

 

 

 

1980年 ウィル0歳

 

 

①ヴォルデモートとベラトリックスの間で産まれた隠し子として誕生する。

誕生日はハリーと同じ7月31日だが、ウィルは自分の誕生日は知らない。

 

②ヴォルデモートが赤ん坊のハリーに敗北して行方不明になる。そしてベラトリックスらがロングボトム夫妻に“磔の呪文”をかける

 

③闇祓いの手によりベラトリックスらが逮捕され、アズカバンへ収監される。

ベラトリックスが幸福を吸いとる吸魂鬼により最も幸せな記憶(ウィルの存在)を失う。

 

④レストレンジ家の屋敷しもべ妖精のセッケにより、逃げ延びて赤ん坊のウィルと杖を孤児院へ預ける。

 

 

 

 

 

1985年 ウィル5歳

 

 

 

①家柄、両親を知らないウィルは孤児院でイジメを受けて常に死にかけている。

 

②仕返しをする為に街へ出てキッカケを探していた。呪文のスペルや知識を吸収する。

 

③命を奪う練習をする為にウサギを殺そうとしていると、ジェニスと出会う。

 

④彼女の元で育つ、フィナンシェが好物となる。

 

 

【1986年】 ウィル6歳

 

 

①ジェニスの元で魔法を覚えていく。

 

②ジェニスが寿命を迎える。死を迎える前にウィルに死という存在を教えようとする。

命を軽く見るウィルに命を奪わせる事でトラウマを植え付けようとした。

 

③ウィルは死の呪文をジェニスに放つが彼女に対して憎しみがなかった為失敗する。そしてその重圧に耐えかねて気を失う。

 

④ジェニスはウィルに自分の魂を刻み込み、彼の選択を見守る決意をする。

 

⑤遺言を残して寿命を迎える。

遺言はウィルに最後の決断を遅らせる事になるように仕組んだ。他者を尊重して考えに理解を示す事は“傲慢”、そして誰かに惑わされないように自分を保つように誘導した。

 

⑥力試しを兼ねて犯罪者を狩ることで生計を立てる。

 

⑦評判を聞きつけたルシウスがウィルの元へ現れる。マルフォイ家の安泰を図る為に若い人材を探していたルシウスと出会う。

 

⑧マルフォイ家でドラコと共に育つ。

 

 

 

 

【1991年】 ウィル11歳

 

 

 

①ホグワーツに入学する。ハリー達と出会う。

 

②学校にトロールに現れ、友人であるハーマイオニーを殺そうとした為にトロールを残忍に命を奪う。

ジェニスの死というトラウマが蘇ったため

 

③マクゴガナルの誘いによりクィディッチの選手となる。

クィディッチの練習により彼の身体能力、動体視力が向上する。

 

④ハリー達から永遠の命を与えるという賢者の石をヴォルデモートが求めており、それをホグワーツに隠されてあると知る。

ウィルはジェニスを生き返らせようとする

 

⑤賢者の石を独占する為に一人でクィレルに寄生したヴォルデモートと出会い、気を失う。

 

⑥ダンブルドアと初めて会話をする

 

 

 

 

【1992年】 ウィル12歳

 

 

 

①長期休みの間にマルフォイ家でダイアゴン横丁の本屋でウィーズリー家の一家と出会い、ルシウスがジニーに仕込んだ日記をウィルが回収する。

 

②ロックハートの授業に怒りを覚え、ホグワーツ在学中はスネイプに夕食後、毎日戦闘訓練を受ける。

魔法薬の知識、呪文(セクタム・センプラはヴォルデモートに操られた彼の左腕を切り落とした際に使用する)

 

③“秘密の部屋”が開かれ、憂いの篩から自分が犯人だと知る

 

④自分を操っている存在を突き止める為にハリー達と秘密の部屋へ乗り込んだ

 

⑤秘密の部屋でトム・リドルと戦い敗北する。そして気に入られた彼に死の紋章を刻まれる。

 

⑥秘密の部屋に住むバジリスクの石化対策の為に仕込んだマンドレイク薬で復活し、ハリーと共にバジリスク、トム・リドルを倒す。

 

⑦リドルを倒す際に日記(分霊箱)をグリフィンドールの剣で破壊する。

この時に剣に分霊箱の器としての性質を吸収する

 

⑧ハーマイオニーを守る為に彼女を拒絶する

 

⑨“秘密の部屋”でヴォルデモート、ダンブルドアに対抗する為に密かに危険な実験を行う。

 

 

 

 

【1993年】 ウィル13歳

 

 

 

①マクゴガナルから逆転時計をハーマイオニーと共に貰う。

 

②ルーナと出会う

 

③ルーピンの授業でボガートと立ち向かう

 

④ウィルの恐怖がボロボロの自分の姿、折れた杖を持ち、目が死んでいる。

スラムでジェニスと出会わず育った自分の姿

 

⑤守護霊の呪文の習得に苦戦する。なぜなら幸福な思い出を糧にする術のためである。

ウィルが唯一使えなかった守護魔法

 

⑥幸せとは、なにかと考えるうちにルーナから“自由”というヒントを得る。

 

⑦彼の幸せは無力な魔法を持たない自分、つまり一切のしがらみがない世界の自分。背負う物のない自由な自分

 

⑧そしてそれは幸福であると同時に恐怖でもある。力がなければなにもできない。

 

⑨ウィルの知らない所でボガードが次に変身したのはジェニス

無力な自分という恐怖を理解したウィルが次に恐怖する存在はジェニス、なぜならルーナと出会った事で自分の意志が少し揺ぐ事を恐れたため

 

 

 

【1994年 ウィル14歳】

 

 

①“三大魔法学校対抗試合”がホグワーツで開催され、第一の課題でドラゴンを見る。

 

②ハリーとの戦いで傷ついて逃亡しているドラゴンを治癒する。

 

③ハーマイオニーと仲直りをする。

 

④ヴォルデモートが復活する。

 

⑤危険を察知したウィルは“秘密の部屋”で行なっていた実験の全てを燃やす

 

⑥教師陣に追い詰められ、彼は闇祓いに捕らえられる。

 

⑦アズカバンへ護送する最中にドラゴンとドビーによって脱出する。

 

⑧新たな組織を創りあげる為にダームストラング魔法魔術学校へ転向する。

 

 

 

 

【1995年】 ウィル15歳

 

 

 

①ダームストラングで全員ぶちのめす。

 

 

 

 

【1996年】 ウィル16歳

 

 

 

①ダンブルドアのペットの不死鳥フォークスから伝言が届く。

内容は『魔法省、神秘部へ来るべし』

 

②神秘部で預言を巡って不死鳥の騎士団、ハリー達と死喰い人が戦う。

 

③ウィルが向かった時にベラトリックスと出会う。

 

④母から受け継いだ杖が言う事を聞かず、逆噴射する。

ウィルが持っていた母親の杖がベラトリックスのもので、杖の忠誠心は彼女にあったから

 

⑤ベラトリックスに忘却術をかけて自身の記憶を消す。

 

⑥ヴォルデモートと再会する。そしてダンブルドアも現れる。ウィルは軽々しくデリケートな秘密に触れたダンブルドアに激怒する。

 

⑦三つ巴の戦いとなる。

 

⑧神秘部へ戻り、自分の預言を回収する。

自分の本当の姓がレストレンジと知った為である。なぜなら以前訪れた時はウィリアム・マルフォイの名前は見当たらなかったから

 

 

*預言

 

獅子と蛇で揺れる男

強欲の全ては満たされぬ

野望の1つが叶う時

正義の刃が心臓を貫くであろう

 

 

 

 

【1997年】 ウィル17歳

 

 

①ダームストラングへ帰還したウィルはハーマイオニーと連絡を取り合う

 

②ハーマイオニーから死喰い人によりルーナが捕らえられたと聞く。

 

③ドビーからルーナとハリー達がマルフォイ家に監禁されていると情報を得る。

 

④マルフォイ家屋敷でルシウス達、ベラトリックスと再会する

 

⑤ベラトリックスがウィルと決着をつける為に姿くらましで移動する

 

⑥そこはヴォルデモートが分霊箱を隠した洞窟であった。戦う内に亡者の群れに襲われる

 

⑦亡者を2人で追い払う内にベラトリックスに庇われる。

 

⑧お互いをカバーしながら亡者と戦う。やがて隙を見てベラトリックスと“姿くらまし”で逃亡する

 

⑨移動した先でベラトリックスの腹を杖で貫き、彼女に忘却術が効いていないと見抜く

 

⑩ウィルの墓前の前であった。

ベラトリックスがアズカバンを脱獄した際に墓を建てた。

 

⑪自身のルーツを知り、イギリスへ戻る

 

 

 

 

【1998年】18歳

 

 

 

 

①ホグワーツで死喰い人との戦いが始まる

 

②必要の部屋でハリー達も再会する

 

③ヴォルデモートが1時間の猶予を与えて休戦する。

 

④ヴォルデモートがスネイプを殺す。ハリーは彼の涙を回収する。

ウィルはそれを知らない。

 

⑤ウィルはヴォルデモート、ダンブルドアと話してどちらの味方をするか決断しようとする。

 

⑥ネビルと再会して、自分の実の母親がネビルの両親を傷つけたのだと告白する。

 

⑦ルーナと再会し、ウィルがプロポーズすると彼女は受け入れた。

 

⑧ハリーはヴォルデモートに殺される事を選び、皆を救おうとする。

 

⑨ハリーの死を侮辱したヴォルデモートにネビルが立ちあがり、戦争が再開される。

 

⑩彼らの命と崩れていくホグワーツに心を痛めていく、そしてヴォルデモートの死の呪いが恩師のマクゴガナルに命中しそうになった時にウィルはヴォルデモートへ立ちふさがる

 

⑪ハリーは生きており、ウィルはヴォルデモートの分霊箱をハリーに任せる。彼の足止めを自分が引き受けた。

 

⑫ヴォルデモートがウィルに対して開心術を使用して過去の全てを見た。

自身の消息不明の息子であると確信する

 

⑬ウィルもまた自身の父親がロドルファスではなく、ヴォルデモートであると理解した。

 

⑭2人の決闘が再開すると彼の左腕がヴォルデモートに操られ、自分の首を絞めた。それをウィルはセクタムセンプラで斬り落としてみせる。

死喰い人の紋章が刻まれた左腕を斬り落とす事で自分の意思を示した。

 

⑮その隙に杖を弾かれたウィルはネビルから組分け帽子を投げられ、それからグリフィンドールの剣を引き抜いた。

5年前の秘密の部屋での時とは違い、真のグリフィンドール生として認められる。

 

⑯ヴォルデモートと自分の身体にグリフィンドールの剣を貫かせ、心中を図る。

 

⑰分霊箱を斬り、分霊箱の性質を持ったグリフィンドールの剣はヴォルデモートの命を持って完成してしまう。

 

⑱この世とあの世の中間であるリンボにてウィルの師匠であるジェニスと再会する。彼女はウィルの行動を見守っており、彼の選択を見届けようとしていた。

 

⑲ジェニスはウィルの意図を理解した上で決意を揺るがせない為に檄を飛ばす。そして分霊箱の呪いのみを引き受けてあの世へ飛び立った。

 

⑳分霊箱の性質のみを得たウィルは不死の存在となり復活すると、マグゴナガルの罰則によりホグワーツの闇の魔術に対する防衛術の教授に就任する。

闇の魔術に対する防衛術の教授の役職はヴォルデモートの呪いによって、1年以上就任できないようになっていた。それをヴォルデモートを倒したウィルが長年このポストにつく。

 







僕の頭の中のハリーポッターシリーズの強さランキングです。
この認識で灰色の獅子を書き終えました、

あくまでも勝手に判断して並べています。
異論は出ると思うので感想欄でぜひ語り合いましょう
強さは全盛期というイメージです。
学生陣は死の秘宝の時点で並べてます。


SSS ヴォルデモート、ダンブルドア

SS グリンデルバルド、ジェニス(師匠)

S ウィル、シルヴィア(兄弟子)、デルフィーニ(呪いの子より)

A アバーフォース、マグゴナガル、スネイプ、ベラトリックス、キングズリー、ムーディ、クラウチjr、フリットウィック、ドロホフ、ルーピン、リリー、ドビー、スクリムジョール、ネビルのばあちゃん

Bジェームズ、シリウス、ルシウス、トンクス、ハーマイオニー、ハリー、モリー、ピーター



*ヴォルデモートよりダンブルドアの方が強いと思われる方、僕も原作と映画を見てダンブルドアの方が強いだろうと思っていました。しかし作者がツイッターで歴代最強の魔法使い4人を聞かれた際にヴォルデモート、グリフィンドール、無敵のアンドロス(カエルチョコの人)、未登場(unknown)。


*ドロホフはベラトリックスとの死喰い人2強だと思ってます。ルーピンを殺した人

*スクリムジョールは闇祓い局長で魔法大臣になった人です。ダンブルドアから『行動派で人生の大半を闇の魔法使いと戦ってきた』と言われる男、最後はヴォルデモートに拷問されるもハリー達の情報を漏らさず殺害される。

僕、この人結構好き

*モリーはベラトリックスに勝利したが火事場の馬鹿力とベラトリックスが油断していたため実力はBランクです。もし平穏な日々の中でハリーと決闘した場合、モリーが勝つビジョンは見えないです。でもアーサーよりは強そう。

*ネビルのばあちゃんは一線を退いた身でありながら、襲ってきた現役の闇祓いを返り討ちにする。この闇祓いはドーリッシュという名前で“不死鳥の騎士団”でファッジがダンブルドアを捕まえようとした際にキングズリーの横にいた闇祓いです。しかもファッジは2人にダンブルドアを拘束する様に命じたセリフはドーリッシュから呼んでいたので彼が上司か先輩にあたるのではないかと思います。


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1章 悪の申し子
プロローグ




二部が始まります!
長らくお待たせして申し訳ないです。
また少しずつ進めていきますね


 

 

 

 

 

 

森の中で巨大な岩の隙間から男の声が響き渡る。その声は震えており緊迫した様子だ。年齢はそれなりに重ねており、しわがれた声で誰かに訴えかけているようだ。

 

「待ってくれ、お願いだ。」

 

男は岩から見える微かな隙間から手を伸ばして誰かに懇願すると彼は急に大声をあげる。

 

「なぜそんなに酷いことをするんだ!私はお前に全てを授けた。私の叡智をお前に!」

 

男は叫んだ。そして地面へ強く爪を突き立てた。地面は男から放たれた魔力によって砂利は揺れ動くが、弱々しいものだった。

 

「汚い女め、お前達を呪ってやる、呪ってやるぞ!」

 

男の魔力は本来の力ではないようだった。自身の両の手のひらを見つめながらそう言った。自身の力が思うように発揮できないことに苛立ちを覚えた。

 

「ヴィヴィアン!!!」

 

そしてわなわなと怒りに震え、そして激しく歯ぎしりをする。

 

 

 

***

 

 

 

 

およそ1000年後

 

 

 

 

 

 

 

闇の帝王が彼の息子に当たるウィリアム・マルフォイに破れてから12年の月日が経った。その後は平凡なで特に大きな出来事は起きなかった。しかし魔法界の政治改革は目覚しいものだった。今の魔法大臣の尽力によりマグル生まれの魔法使いに関する不利な法律は次々と破棄され、闇祓い局の局長のハリー・ポッターによって闇の勢力の残党は壊滅させられる。教育分野ではホグワーツの校長であるマクゴナガルが時代に合わせた方針を示している。

 

そんな中、長期の休暇を終えてホグワーツ魔法魔術学校は再開する。またこの時期は多くの新入生が学び舎に入学する。そして彼らはキングズクロス駅の9と4/3線の蒸気機関車でホグワーツへ向かっていた。

 

懐かしい汽笛と線路と車輪の擦れる音はこれから学校生活が始まるのだという実感を生徒達に与えた。生徒達は休暇中での出来事やこれからの生活の話で盛り上がっていた。

 

 

 

そんな賑やかな汽車内とは打って変わりあるコンパートメントに1人の少女が本を読みながらチェスを嗜んでいた。彼女は盤面をろくに見る事などなくオートの魔法がかけられた敵の駒が動くたびに盤面をちらりと見て、動かす駒と移動先の盤面を指示する。

 

するといきなり彼女のコンパートメントの扉が勢いよく開いた。ノックされる事が無かったことに苛立ちを覚え、彼女は現れた人を睨みつける。

 

「やぁ、いきなり悪いね。」

 

そこには自分と同年代の男の子がいた。彼はにやにやと薄ら笑いを浮かべながら彼女の許可もなく座席へ座った。

 

「君に挨拶をと思ってね。僕は・・・」

 

そう彼は切り出そうとすると少女がそれを遮るように口を開いた。

 

「はじめまして、ジェニスよ。“騎士(ナイト)”はHの3(・・・)へ。」

 

彼女の様子は冷めているらしく、彼と目を合わせる事はなかった。そして彼女は自分の駒を動かす事の方が大事だと思っているらしい。

 

その様子に面食らったようでその男の子は目をパチパチさせている。するとジェニスと名乗った女の子は茶色の瞳を一度だけ彼へ向けた。とても美しい瞳で男の子は魅了され、そして自分自身が吸い込まれるかのような感覚を覚えた。

 

ただでさえ年齢にしては大人びた美しい容姿だった。手入れされているであろう清らかなブロンドの髪に大きく吸い込まれるような茶色の瞳、そして白く輝いている肌。ほんの少しも隠されていない妖しい色気に惑わされそうになってしまう。

 

「貴方はルドルフ・バーグね、さぁ早く出ていきなさい。」

 

なぜか男の子の名前を当ててみせた。名乗ってなどいないし、今日初めて会った。彼もマルフォイ家と同じくそれなりの名家ではあるが他人に名前を知られている事など一度もなかった。

 

「なぜ僕の名を知ってるんだ?」

 

ルドルフは身体を震わせる。そして彼女の異質さに恐怖と好奇心を抱いていた。それが彼にとってはとても魅力的に映った。

 

「開心術も知らないなんて、仮にも純血の名家の新入生なのにこの程度?」

 

ジェニスは苛立ちを覚えているようだ。彼が自己紹介に訪れただけなら目的を果たしてあげた。自分は早く本とチェスの続きをしなければならない。

 

「【早く去れ】」

 

突如、彼女はシューシューという謎の言語を発した。まるで蛇の言葉、パーセルタングなのだとルドルフは理解した。

 

通常であれば子供も大人も怯むだろう。パーセルタング使いは闇の魔法使いの証拠という迷信があり、ヴォルデモートもその使い手だった。だから邪魔な人間を追い払いたい時にジェニスはあえて使っていた。

 

「凄い!ジェニス、君は天才だよ!さすが英雄の娘だね!」

 

ルドルフは目をキラキラさせて心からの憧れをジェニスへ送った。だが彼女は恐ろしく自分を軽蔑しているかのような表情を浮かべている。彼女が彼を手で払うような仕草をすると、その瞬間に彼は大きな空気の塊のようなものに吹き飛ばされた。そして開かれた扉は勢いよく閉まった。

 

 

父は英雄と呼ばれ、現魔法界で最強の魔法使いとされている。だが同時に彼女の祖父はこう呼ばれている“魔法界史上最も強力な闇の魔法使い”。ジェニス・マルフォイは祖父から才能と野心を色濃く受け継いでいた。

 

 

私は世界最強の魔法使いになってみせる。

これは夢や野望ではなく通過点に過ぎない。

私の人生にとって数多くある

決定事項の1つに過ぎないのだから

 

 



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蛇姫

 

 

 

 

「マルフォイ・ジェニス!!!」

 

その少女は名を呼ばれると素早く立ちあがり、周りの生徒たちを蹴散らすように早足で前へ進む。側にいた新入生達は恐れをなして道を開ける。まるで王の凱旋のようである。

 

彼女は母譲りの長く艶やかなブロンドの髪をなびかせる。最上級のシルクのような美しさ、不純物のないさらさらの髪質。そして父譲りの美しい顔だ。大きく茶色の鋭い瞳、ニキビやそばかすとは無縁の白い肌。更にその容姿を引き立たせる妖しい雰囲気だ。そのオーラと魔力、人格は祖父から受け継いだ。

 

 

彼女の家系は複雑だ。最悪の魔法使いヴォルデモート、そして英雄のウィリアム・マルフォイの血を引く唯一の存在。世間はそれを周知した上で彼女に好奇の目を向けた。悪人か善人か、偉大か凡庸か、その浅い好奇心を前に彼女は言い放つ。

 

 

【私はジェニス、世界最強の魔女になる】

 

 

ジェニスは無駄な言葉を交わさない、なぜなら彼女の野望に彼等は必要ないから。世間に偉大さを認めさせるには言葉は不要、必要なのは実績だと彼女は知っている。そして今、彼女の知る最強はひとり。誰よりも近く、そして遠い血を分けた父親。

 

“英雄”ウィリアム・マルフォイ。現最強の魔法使いと誰もが認める。マーリン勲章一等をはじめとして数多くの称号を持ち、世界最強の杖、“死の秘宝”の1つに数えられるニワトコの杖の所有者。彼はこのホグワーツで副校長にして“闇の魔術に対する防衛術”の教鞭をとりながら、多種多様の分野で論文を発表し続け各学会に多大な影響を与えている。

 

そんな父親から産まれた一人娘、彼女は冷たく教壇の上に座っている男性を睨みつける。その瞳には敵対心と嫌悪を滲ませていた。彼は軽く笑みを浮かべている、余計に彼女は苛立ちを募らせる。

 

彼女は壇上にあがり、中心にぽつんと置かれた椅子に座る。そしてグリフィンドールの寮監、薬草学を担当しているネビル・ロングボトムから古ぼけた黒い帽子を被らされる。

 

 

壇上の椅子に我が物顔で座るジェニスは自分の組分けの結果をそわそわとした様子で待ちわびる生徒達の視線を見て鼻で笑う。彼女にとって寮、組分けは過程に過ぎない。どこであっても自分が最強である未来は揺るがない。

 

『おぉウィルとルーナの子か。異質の両親から産まれた君の適正は意外にもシンプル、会話を楽しみたかったが君の適正は1つ。』

 

組分け帽子が穏やかな声で語りかける。彼女は不機嫌そうに鋭くなる。

 

『1つしかないってこと?気に入らないわね。この程度で私を測ろうとしないで。』

 

吐き捨てるように頭の中で言い放つ。その言葉に嘘がないことを組分け帽子は見抜いた。

 

『違う、全ての才能がズバ抜けている。それらを踏まえた上で君には一つの強い意志がある。』

 

帽子は言葉の意味を訂正する。

 

『野心だ、やがて自分が世界最強になるという確信、そしてそうなるべく意識を持っている。』

 

祖父から受け継いだ野心、そして父から受け継いだ意志、更に自分の負けず嫌いな性格から彼女の人間性が形成されている。

 

『一番強く“闇の帝王”と同じ魂を感じる。危険な香り、しかしそこが魅力的だ。』

 

ジェニスはその言葉を聞いて意味深に微かに笑みを浮かべた。自分の入る寮がわかったからだ。彼女は適正としてどの寮でも構わなかった。しかし希望の寮があった。父親への当てつけには持ってこいの寮がある。

 

『進みたまえ、君は最強への道へ。近道ではなく覇道を歩むがいい・・・。

ーーー、君の寮は決定した。』

 

 

「スリザリンッッッっっ!!!」

 

組分け帽子は息を大きく吸い込み叫んだ。

 

 







〜プロフィール①〜


【ウィリアム・マルフォイ】



年齢→37歳
戦闘力→SSS(73話、作者の考える戦闘ランクと同じ基準)
職業→ホグワーツの副校長、ホグワーツの“闇の魔術に対する防衛術”教授、闇祓い、魔法薬剤士、医療術師、忘却術師、開心術師、閉心術師
家族構成→妻ルーナ・マルフォイ(ラブグッド)、娘ジェニス・マルフォイ
趣味→魔法の鍛錬、学問全般の研究
最近の悩み→娘の反抗期、妻のクイズに答えられない



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世界最強

 

 

 

 

 

 

 

 

宴を終えた後にジェニス達はスリザリンの監督生に連れられて彼らは地下牢へ連れて行かれる。合言葉を教えられ唱えると扉が開いた。寮の大広間へ向かうと存在感の薄い中年の男性がソファーにもたれかかるようにだらしなく座っていた。

 

黒のだぼだぼのローブ、上級生が側にいたジェニスにこっそり耳打ちをする。彼によるといつもこの格好らしい。流石に毎日着まわしているのではなく、同じメーカーの同じ製品を何着か持っていると信じたい。

 

肌は青白く、顎の鋭い中年の男だ。くしゃくしゃの茶色の髪に青い瞳だ。神経質そうな銀のフレーム、細いレンズの眼鏡をかけている。なにやら魔力を感じる。

 

「俺はグレオン、スリザリンの寮監だ。元々ダームストラング出身だから別に思い入れはねぇが、任されてる以上、職務は全うする。」

 

やる気のなさそうに頭を無造作に伸びた茶色の髪をボリボリ掻いた。その様子を見たスリザリンの生徒達は不安そうな顔、怒りを覚えている者もいる。

 

ジェニスはグレオンに対して真剣な表情を向けていた。彼の事は知っている。この魔法界で特異な存在である事も・・・

 

「担当は魔法薬学、夕食後のクラブで杖を使わない戦闘術を教えている。護身に興味があれば参加するといい。」

 

彼は気怠げにそういうと新入生達をひと通り眺めていく。

 

「俺の事が気にいらねぇやつはいるだろうが、文句は俺に参ったと言わせてからにしろ。挑戦はいつでも受けるし、罰則はめんどくせぇからナシだ。」

 

グレオンはそう淡々と語る。不思議と彼に挑もうとする気概を持つ生徒はいなかった。威圧されたわけでもない。敵意を向けていた生徒達も不思議と大人しくなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

一人を除いてである。彼女が隙を見つけて行動を起こそうと考えた瞬間にグレオンは表情1つ変えずに言い放つ。

 

「おい、ジェニス。杖を抜くにゃまだ早ぇぞ。話は最後まで聞け。」

 

彼の指摘にジェニスは驚きを隠せない。行動を読まれた。これは開心術ではない、それだけは確かだ。敵意や殺意は出していない。

 

「気持ちはわかるが、生き急ぐな。答えを見失っちまう。」

 

彼女をたしなめるように語った。それから彼は寮の特色や詳しいルールやマナーについて新入生へ伝えた。

 

「・・・ま、こんなもんか。授業は明日の10時から、お前たちの最初の授業は【闇の魔術に対する防衛術】、マルフォイ先生だな。」

 

その名を聞いて新入生達は浮足立つ。彼らはあの有名なウィリアム・マルフォイの教鞭する科目が彼らにとってホグワーツで受ける記念すべき最初の授業だからだ。ジェニスは涼しい顔をしている、すると隣にいた男子が彼女へ声をかける。

 

「やぁ君のお父様の授業を受けられるなんて光栄だよ。ぜひ一緒に受けよう。」

 

汽車で出会った男の子である。ルドルフ・バーグ、彼もまたスリザリンに選ばれた。あの時、ジェニスは彼を追い払ったつもりだったが無駄だったらしい。むしろ興味を持たれたらしく、しつこく声をかけてくる。

 

大広間での夕食の時間に自分が名家の隠し子であり、遠い親戚がホグワーツに推薦した事で入学が決まったらしい。両親は既に亡くなっているが顔も知らないし、孤児院で育ったとのことだった。

 

ジェニスは無視を貫いたが彼は怯まなかった。目障りになり自分に付きまとう理由を尋ねたが、才能に惚れたとの事だ。

 

彼は孤児院や親戚に引き取られてからずっと魔法に触れ、多少は扱える。自分が今年の新入生の中で一番魔法を知っていると確信していたが、汽車での出来事を受けて才覚を感じたと語った。ルドルフの率直な言葉にジェニスは少し気を良くして警戒心を緩めてしまう。彼女はルドルフが便利だからと理由で側に置くことを許そうと思った。しかしそれは建前であった事に彼女は気がついていなかった。

 

 

 

***

 

 

 

次の日

 

 

 

 

〜“闇の魔術に対する防衛術”教室〜

 

 

 

 

 

 

 

ウィルは初々しい新入生達の前にして自然と笑みを浮かべる。外見はヴォルデモートとの決着がついた日から変わっていない。なぜなら分霊箱が運命の導きで完成した為、不死身の存在となったからだ。しかし肉体は若さを保つも精神は年相応に年齢を重ねている。

 

愛するルーナとの間に娘であるジェニス、恩人から名前を貰った。幼い頃は仕事で忙しくたまにしか会えなかったが、とても懐いてくれていた。しかしいつのまにか娘が激しい反抗期を迎えていた。彼の心情は嬉しさと寂しさが共存している。そんな年頃の娘がホグワーツへ入学した。せっかくなら自分か愛妻と同じ寮へ選ばれて欲しかったが、どこであれ娘は娘だとすぐに感じた。

 

 

自己紹介と名簿を読みあげを終えたウィルは彼らへ忠告を行うべく口を開いた。

 

「僕が守って欲しいことは3点。」

ウィルは彼らへ向けて言う。その際に娘のジェニスと目があった。彼は娘とはいえ他の生徒達と扱いは同じにすると決めていた。それが教育者として当然の事であると考えている。

 

「1つ、ホグワーツでの授業はまじめに受けること。」

 

ウィルの言葉に生徒達は大袈裟にうなづいた。みんな最初の授業だから一言も聞き逃さまいとしている。

 

「2つ、どんな事でも危険を感じたら報告すること。学校でも休暇中でも構わない。相談なら夕食後、僕の部屋へおいで。学業や将来の事でも構わないよ。」

 

出張でいない時も多いけど、とウィルは続けて言う。副校長として迷える生徒達を導こうとする意思を感じさせる。

 

「最後に3つ目、若者よ。どんな答えでもいつか見つかる。大いに道草を楽しめ!」

 

ウィルはくしゃりと少年のような笑顔を生徒達へ向けた。そして最初の授業を始めていく。

 

 

 

 

***

 

 

 

数時間後

 

 

 

 

ホグワーツでの夕食を終えた頃、ウィルの部屋をせっかちにノックする音が聞こえた。彼は入るように言う。今日も生徒が相談にやってきたのだろう。

 

その生徒が中に入ると彼は意外そうな表情を浮かべた。

 

「君が最初にくるとは思わなかったよ。ジェニス。」

 

反抗期真っ最中の愛娘の姿だった。相談に来る生徒は多くいるが、一番乗りにくる生徒が新入生の娘だとは思わなかった。

 

「なに、それがわざわざ出向いた娘に対する言葉なの?」

 

不機嫌そうにジェニスはウィルへ言い放つ。彼女は目ざとく彼の机を一瞥する。整理整頓された机の上に食べ終えた食器が置かれている。そして向かい合うように写真立てが2つ並ぶように置かれている。

 

1つは昔のマルフォイ家一族の家族写真。ジェニスとその両親と叔父であるドラコと妻のアステリアと小さな従兄弟であるスコーピオスが写っている。

 

もう1枚は父親の恩人の写真だ。ウィルがいつも夕食時に大広間にいないのは死んだ恩人の写真と語り合いながら食事をとる為だ。昔からの習慣が抜けないのと約束だからと彼は周囲の人達に伝えている。

 

「ここじゃ君は生徒だ。親子だからといって特別扱いするわけにはいけない。」

 

ウィルはジェニスへ諭すように語りかける。

 

「チッ・・・、まぁ単刀直入に言わせてもらうわ。」

 

ジェニスは舌打ちを聞こえるようにするとウィルへ命令するように言い放つ。

 

「あんたの力を私に授けなさい。」

 

「構わないよ、だが口の利き方も一緒に教えてないといけないね。」

 

ウィルはさらりと答える。片方しかない手で軽く振るうと食器は“姿くらまし”のようにその場から姿を消した。

 

「着いておいで。」

 

ウィルはジェニスを部屋の外へ連れ出す。そして鍵と結界をかけると、【外出中】というプラカードをドアに貼る。

 

それから彼女を城の7階へ連れて行く。ある壁の前で立ち止まる。ジェニスは不審な表情を浮かべてウィルを一瞥する。

 

すると音を立てて壁から大きな扉が現れるとそれはゆっくり開いた。彼女はこの存在を知っている。“あったりなかったり部屋”、正式名称は【必要の部屋】である。

 

中へ入ると部屋の中は決闘場となっており、部屋の端に黒い普通の人間と同じくらいの大きさの人形がポツンと立っている。

 

「ここは僕の修練場でね、普段は強力な仮想の敵と戦っているんだが・・・。」

 

ウィルは部屋を進み杖を抜いた。茶色の杖、長年のウィルの相棒であるセコイアの木にドラゴンの琴線を使用した杖である。

 

「あの杖を抜けよ、あの世界最強の杖。」

 

ジェニスはウィルに対して“死の秘宝”の1つであるニワトコの杖を使うように言った。

 

“死”が創った宿命の杖と呼ばれる世界最強の杖。かつて名だたる魔法使いがこの杖を所有した。最近で言えばグリンデルバルド、ダンブルドア、ヴォルデモートへと受け継いだ。そしてヴォルデモートから杖を勝ち取った魔法使いがウィルである。ニワトコの杖はウィルに対して忠誠を誓っており、彼が世界最強の魔法使いであるという証明になっている。

 

「そう僕に啖呵をきれる魔法使いはこの世で何人いるかな?」

 

ウィルは余裕そうに笑う。その隙にジェニスは一瞬で杖を突き出して魔法を放った。

 

初めから杖を握りしめ、ずっとローブの中で隠し持っていた。その上で意図を読まれないように閉心術を使用していたのだ。更に“武装解除の呪文”を無言呪文で放つ事でウィルの意表を突いたのである。

 

当然のように決着は一瞬でついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ親父、意味わかんねぇ。」

 

地面に倒れているのはジェニスであった。幾重に重ねた策を一瞬で打ち破られた。格どころが次元が違う。その上でニワトコの杖は使用していないという現実にジェニスは狼狽えていた。

 

「これから朝食前に一度だけ相手をしよう。手段を選ばない戦い方は褒めておくよ。」

 

そう言うとウィルはその場から背を向けて歩いていくと、その部屋から出て行った。取り残されたジェニスは激しく歯を食いしばり、自身の弱さを呪った。そして情けをかけられていることに対して屈辱を覚えた。彼は同じ武装解除の呪文、そしてダメージを与えないように加減したのだと今になってようやく理解した。

 

彼女は自分の野望を叶える為にウィルは手助けをしようとしているのだと感じた。そしてその期待に応えるべくジェニスは毎日この必要の部屋で鍛錬を重ねていくこととなる。

 

 






グレオン

年齢→36歳(ウィルの1つ下の代)
出身→ダームストラング魔法魔術学校
職業→ホグワーツ魔法薬学の教授
趣味→格闘技、武術クラブ
悩み→特異体質、昔の出来事を生徒に聞かれること、
戦闘力→X(相手、状況によって変動するため)


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クィディッチ

 

 

 

 

 

 

 

〜“魔法史”教室〜

 

 

 

 

魔法界での歴史を伝える授業だ。教師はカスパート・ビンズ、ゴーストである。ある日死んだ彼は自分が死んだ事に気がつかず、幽霊となって教壇に立って授業をしたという逸話がある。

 

新入生たちにとっては彼による初めての魔法史の授業を受けていた。1人の生徒がピンズの質問をする。“最強の魔法使い”は誰か?

 

ジェニスは眉をピクリと反応させる。ちらりと横を見るとルドルフもほんの僅かだが目をギラギラさせている。2人は血の気が多いらしい。

 

 

「最強の魔法使い、そうですね・・・」

 

その教室にいた新入生達は先生の言葉に注目をする。彼らが思う最強を各自、思い浮かべているからだ。

 

「ホグワーツ四強、無敵と謳われたアンドロス、ダンブルドア校長、いやホグワーツの前代校長。それにジェニス・マクミラン、シルヴィアの師弟も捨てがたい。」

 

次々と最強と名高い有名な魔法使いの名前をピンズは挙げていく。その中に自分の父親の師匠であり、名前を貰った魔女の名前も出た。しかし彼女の考える最強の名前は出てこない。

 

「しかし間違いなく今、生存している魔法使いでと言うのであればウィリアム・マルフォイ。彼の一強です。これは間違いない。数ある伝説も当然だと頷ける。」

 

その言葉に生徒達はざわざわと騒がしくなる。それらに気にすることなくピンズは下をうつむいた。言おうか言うまいか悩んでいる様子だった。

 

「しかし見て見ぬ振りはできまい。少なくとも半世紀前にも怪物がいた。」

 

彼らは闇の時代を知る世代ではない。しかし確実に後世に伝えなければならない黒い歴史である。彼らには刺激が強いかもしれない。

 

彼の言葉にジェニスはにやりと笑った。そうだ、最強は彼しかいない。圧倒的な個の強さ、その時代を知る人達から聞いた。思想と行動は悪の化身そのものだが、当時の魔法使い達が束になっても敵わなかった。父のウィリアムですら周りの助けがなければ死んでいただろう。

 

「言うべきではないが、魔法史は書物の繋ぎ合わせ。当然中には誇張や創作も混じる。過去の全ての出来事が正しいとは限らない。」

 

彼は淡々と言い放つ。

 

「少なくとも私が生き証人として知る最強はいる。今のウィリアム先生とぶつかればわからないが最強は“例のあの人”。」

 

その通称、彼の名前を呼ぶ事ですら恐ろしいという理由でそう呼ばれた。それほどまでに強力な存在だったのである。

 

「ほんの数年前だ。ウィリアム先生は今、一対一で戦っても勝てないだろうと言っていた。これは過大ではない。」

 

ウィルは未だにヴォルデモートを越える事ができないと考えている。現実主義として有名な彼がそう言うのであれば間違いない。

 

「“闇の帝王”こそが最強だ。」

 

ピンズの言葉にジェニスはさも当然であるという反応をする。そうだ、自分はその祖父ですら超えてやる。後世に誰が最強の魔法使いかと聞かれた時、他の候補など挙げさせない。即座にジェニス・マルフォイの名を轟かせてやる。他の追随を許さぬ存在に自分がなるのだと決意をしている。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

〜クィディッチ場〜

 

 

 

 

 

 

 

魔法界での最も人気のあるスポーツ、それらクィディッチである。ルールはもはや説明するまでもない。

 

このホグワーツでも四つの寮での対抗試合が行われており、試合中はお祭り騒ぎになるほどだ。マグゴナガルが新しく校長に就任してから飛行訓練の授業に各寮より代表に選ばれたチームのキャプテンは各学年の飛行訓練を見学してもよいというルールができた。もちろんその時間帯に授業がなければの話である。

 

「やぁジェニス、君には期待しているよ。」

 

歯をセミラック加工したのか真っ白な歯を見せつけるようにキラリと笑う。スリザリンのクィディッチチームのキャプテンである。

 

「貴方は知ってる。」

 

ジェニスの瞳には微かに炎が灯っていた。

 

「ねぇ誰?この人。」

 

彼が只者ではない気がした。ローブごしでも分かる鍛え上げられた肉体、鷹のような鋭い瞳、そして爽やかな青年。彼は近くにいた新入生に話を聞く。

 

「知らないのかよ!ミヒャエル・フリント。ホグワーツ史上最強のシーカー、そして既に卒業したらプロ入り確定してる。」

 

一年生でチェイサーとして代表選手に選ばれて、後に彼が3年生の時からシーカーとして出場した試合は未だに無敗の男。ホグワーツで“皇帝”と呼ばれ、現役世代では一番有名な学生だ。

 

「貴方は昔からシーカーだったの?」

 

ジェニスはそうミヒャエルに尋ねる。

 

「あぁ、その当時は僕より優れた先輩がいたからね。彼が卒業してからは僕がシーカーになったよ。」

 

彼は白い歯を輝かせて笑いながら言った。しかしそれをジェニスは冷めた目で見ている。

 

「良かったわね、私がいるからホグワーツでシーカーとして負けることはないわ。」

 

彼女はそう彼へ淡々と言い放つ。その言葉の真意を確かめる為に彼は口を開く。

 

「なに?」

 

「私が同じ寮にいたことを感謝することね。貴方はチェイサーとか似合ってると思うわ。」

 

その言葉はあまりにも思いがけない言葉で周りの新入生達は冷や汗をかく。ジェニスはプロ入りするホグワーツ最強のシーカーより自分の方が上だと言い放った。まだ飛行訓練の授業すら始まっていないのに。

 

彼は一瞬引きつった笑顔を浮かべるが、すぐに苦笑いをしてみせる。

 

「昼休みに身の程を教えてあげるよ。誰が一番のシーカーなのか教えてやる。」

 

彼はそういうとローブをひるがえしてその場から去ろうとする。

 

「同じ言葉を返すわ。でも少し違う。」

 

背中越しに聞いていたミヒャエルはこめかみに激しく筋を入れて激昂している。それを彼女は理解した上で逆撫でする。

 

「私が最強って教えてあげる。」

 

彼はガチガチと白い歯を歯軋りさせて早歩きでその場から立ち去った。

 

 

 

***

 

 

 

〜昼休み〜

 

 

 

 

 

ミヒャエルとジェニスがシーカーをかけて模擬試合をするという噂が学校中で広まっていた為か大勢の生徒達がクィディッチ場へ集う。当然、ミヒャエルのホームである。ジェニスには罵声はないにせよ、冷ややかな視線が向けられている。

 

しかし彼女は意に返さない。有象無象の反応などどうでもいい。自分に被害さえなければそれでいいのだ。

 

クィディッチ場へジェニスが到着するとユニフォームに着替えたスリザリン生とレイブンクロー生が整列している。それに対して彼女はローブ、着替えてすらいない。

 

 

「今日はレイブンクローのチームとの合同練習だったんだ。だからハンデを渡す。」

 

彼はジェニスにそう語りかける。

 

「僕がレイブンクローのシーカーをする。君はスリザリンのチームのシーカーでいい。」

 

彼女は同意の旨を伝える。

 

「いいか?君達も手抜きはするな。僕を対戦相手と思ってプレーしろ。」

 

ミヒャエルは自身のチームへそう指示を出すと、すぐに試合開始のホイッスルが鳴り響き模擬試合が開始される。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おたくの娘さんは派手にやってるね。誰に似たんだろうね。」

 

ホグワーツのある一室でクィディッチ場の様子を水晶に投影して教師の2人は彼らを監視していた。中年の方の教師、ホグワーツの薬草学の教諭、ネビル・ロングボトム。

 

ウィルの同期、同僚でホグワーツの戦いで戦果を挙げた男。

 

闇祓い局長のハリーポッターや現魔法大臣であるハーマイオニー・グレンジャー。そして世界最強の魔法使いのウィリアム・マルフォイが属する【伝説の獅子世代】の一人だ。

 

彼ら4人が同じ年にグリフィンドールへ選ばれ、同じ寮で眠り、同じ授業を受けた。後にその7年間は伝説の獅子の世代と謳われた。

 

「そう言うなネビル。僕とルーナの悪い所が似てしまった。」

 

同じくウィルも嘆くようにつぶやいた。

 

「確かに、結果のみを求める君と自由主義なルーナ。僕は見てて面白いけどこれは流石にマズくない?止めにいこうよ」

 

ウィルの周囲を意に返さず成果を求める点と、同じく周囲を意に返さず己のやりたい事をやる点を色濃くジェニスは受け継いだ。まだ彼女が入学してから一週間も経っていない。それなのに既に全生徒の注目の的だ。

 

傲慢な態度だが授業を受ける必要がないほどの知識と実力を彼女は備えていた。幼少期からウィルの書斎で本を読み、自衛の為に叔父のドラコから魔法の手ほどきを受けている。

 

ホグワーツのカリキュラムを受ける意味はない。だが彼女は教師陣の知恵と書物の為だけにホグワーツへ入学した。あくまでも学校は最強になる為の道具にしか思っていない。

 

 

 

ネビルはジェニスが敗北して今後の彼女の学校生活が荒れたものになると考えた。

 

「なにもしなくていい。それが一番上手く。一度鼻を折らないと。将来のためだ。」

 

 

 

 

 

 

 

30分後

 

 

 

 

 

 

(・・・ありえねぇだろッッッ!!!)

 

彼は少しずつ自尊心がごがりがりと削られていく感覚を覚えた。理由は簡単だ。目の前の新入生の少女に翻弄され続けているからである。しかし経験から冷静に分析する。

 

(飛行速度は俺の方が速い。だが全て後手に回ってる。反射神経と動体視力が比じゃない。)

 

ジェニスは自分より早くスニッチを捕捉し、そして一瞬で目標へ向けて飛行する。今回もミヒャエルより先にスニッチを見つけ、自分の一瞬の隙をついてスタートする。

 

少し遅れて彼もジェニスを追いかける。彼女の先には僅かに金色に光るスニッチを見つける。彼女との距離を少しずつ詰めていく。飛行速度は彼の方が上回る。しかし彼女には敵わない。理由は一つ。

 

(スニッチの居場所を自分の姿で隠して見失わせる。)

 

ジェニスがミヒャエルの視線を自分の背中で隠して見失わせる。更に追い越すことを完璧にブロックしてみせる。

 

 

結果としてミヒャエルはジェニスの背中を追い続けることしかできない。すると彼女は突然、降下して速度をあげる。

 

(スパートをかけた。なら僕の方が早い。)

 

彼の妨害を最優先にしていたジェニスがスニッチを掴む事に専念したのだ。これが自分の勝機だと彼は見抜いた。

 

彼女は地面にすれすれに近づくと、いきなり急上昇して地面に沿って進む。ブレーキはかけずに流れに任せてスピードを保ったまま彼女は前進する。

 

しかしミヒャエルは不意の出来事に動揺を隠せない。これは自我を持つ箒に対しても良くない事だった。

 

(しまった!!!ウロンスキー・フェイント)

 

スニッチを見つけたふりをして急降下する事で、敵のシーカーを自分に引きつける。そして地面へ急降下して相手を叩きつける技術である。

 

ミヒャエルは間一髪で地面に叩きつけられるのを回避するが、その間にジェニスは余裕を持ってスニッチを掴む。

 

「もう一戦します?先輩。」

 

これで4度目の敗北。“井の中の蛙大海を知らず”という言葉がある。まさしく自分のことなのだと彼は思い知らされた。格の違いを見せつけられているのにもかかわらず不思議と不快な感情はなかった。彼女と同じシーカーとして戦うことが楽しいと思えるのだ。

 

「もちろん、もう一戦だ!」

 

そのまま試合が再び行われる。しかし2人以外の他のチームメイトは疲労を感じさせない。なぜなら彼女が試合開始数分でスニッチを掴み、試合を終わらせてしまうからだ、

 

ジェニスは反射神経が異常に優れており、スニッチを素早く見つけてしまう。しかしブラッジャーを放ち、妨害を行うビーターが彼女を捉えるどころか足どめにすらならない。

 

だが今回の試合は5度目にして初めてミヒャエルはジェニスより早くスニッチを発見し、箒を加速させる。

 

(飛行速度は僕の方が早い。これはもらった。)

 

彼は勝利を確信しつつも油断せず、スニッチを捕まえようと飛ぶ。しかし彼は突然、稲妻のように早い気配を感じた。

 

ジェニスはミヒャエルからまるで よこどりをするように真横からスニッチを掴んでしまったのである。

 

「完敗だ、何一つ及ばない。」

 

彼は不思議と晴れやかな気持ちだった。そうつぶやくとゆっくりと着地して地面に足をつける。そして同じタイミングで箒から降りたジェニスの方へ歩く。

 

彼女の手に掴まれたスニッチを一瞥すると自然に笑みがこぼれた。

 

「敗北してほんの少しでさえ悔しいと思えなかった。むしろ君ともっとプレーをしたいと思ってしまったんだ。」

 

少しの間をおいて彼は口を開く。

 

「君にチームの全てを託す。僕と共に戦ってくれないか?」

 

その言葉はスリザリン、レイブンクローの選手を驚愕させる。しかしその彼と同じ気持ちであった。彼女はシーカーの天才だ。

 

「まずは私の非礼は詫びさせてください。貴方は素晴らしい。貴方のプレーと努力に敬意を払います。」

 

ジェニスは軽く頭を下げて自分の非を認める。敬意を払うべき相手である事には変わりがない。

 

「そして約束します。スリザリンは私がホグワーツにいる限り無敗よ。」

 

その言葉にスリザリンチームと周りにいた群衆の中にいたスリザリン生は大歓声をあげる。そしてそれ以外の寮生は絶望したような表情をするが、彼女のプレーと態度に応援を込めた拍手をした。

 

 

 

 

 

 

「これでミヒャエルはプロでも上手くやれるだろう。」

 

誰から見てミヒャエルには無敗という絶対的な自信がある。しかしプロの世界ではそうはいかない。挫折も味わう。その時に彼を支えるのが自信だけでは選手生命は長くはない。だから彼にオリジン、クィディッチを楽しむという初心を忘れて欲しくなかった。

 

「こうなるってわかってたのかい?」

 

ウィルの言葉を聞いてネビルは不思議そうに質問する。色々と疑問はある。この結末にはいくつかの条件がある。ジェニスの勝利、ミヒャエルの勧誘、そして周りの同意である。

 

「どうだろうね、少なくともウチの子は負けないよ。」

 

ウィルはイタズラっぽく笑みを浮かべる。その姿にかつての校長、ダンブルドアの面影を見た。問題に対して人の性格と行動を読み、結論を導かせ、更にヒントは与えず自分達に行動させる。

 

「それにジェニスはなぜか人に好かれるんだ。どんなことをしても最終的には丸くおさまるんだよ。」

 

そういう才能なんだろうね、ウィルは優しそうに水晶玉に映るジェニスを見て笑った。

 

 



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例の品

 

 

 

 

〜【闇の魔術に対する防衛術】教室〜

 

 

 

 

 

新入生達は数週間経ち、学生生活に慣れきたようで教師陣の性格や授業の進め方を把握してきた頃だ。

 

【闇の魔術の防衛術】も闇の生物に対する生態や対抗手段を教えている。ウィリアム先生の授業は細かく丁寧でありながらも時折ジョークを織り混ぜる。集中力の途切れた生徒は目ざとく見つけて質問や雑談を振る。眠気に襲われたり、私語をする生徒には鼻を豚鼻に変えてふごふごさせるので皆醜態を晒さない為にも真面目に授業を受けている。

 

今日もスムーズに滑らかに授業を進めていく中で扉をゴンゴンと叩く音が響く。急な来客のようだ。ウィルはどうぞと扉を叩くものへ返事をする。ゆっくりと鈍い鉄の音が響く。

 

そこには腰まであるストレートで長い白髪と同じく胸まで伸びた白い髭。爬虫類のような乾いた瞳にしわしわの頬。ジェニスが初めて見る老人だ。

 

「あれはエムリスさん、エム爺って呼ばれてる。ホグワーツの管理人だよ。」

 

ルドルフがジェニスへそっと耳打ちをする。彼女はやはりこの男は便利だと思った。

 

「授業中、失礼します。ウィリアム先生。」

 

低いクジラのような声だ。背筋をぴんと伸ばし、すたすたと早歩きで闊歩する。灰色のローブから覗く腕は老人にしてはかなり筋肉質である。

 

「昔は相当な魔法使いだった。かなり・・・。」

 

彼はジェニスへそう耳打ちをする。彼女は歴史に興味などない。だから解説はもう充分だと思って話をもう半分しか聞いてない。

 

エムリスはウィルの耳元で何かを囁いている。生徒達には聞かれてはいけない事情があるらしく、彼は口を手で覆っている。

 

「なにを話してるの?」

 

ジェニスはふと疑問が浮かぶ。内容が気になってしまったのだ。あとで一日一度の決闘の後に本人に尋ねるのもアリだが、実父であるために少し気まずいのだ。

 

「サーペンソーティア。」

 

ルドルフは杖を手のひらの上に突きつけ、小さくそう唱えると小さなミミズほどの蛇が現れる。手のひらの上に現れた蛇はチョロチョロと舌を出しており、彼の顔を見る。

 

そしてルドルフはジェニスをちらりと見る。

 

「先生の側へ行けって命じて。」

 

「オーケー、【前の男の近くへ行け】。」

 

ジェニスはルドルフの指示に従って蛇語でシューシューと話す。すると小蛇は任せてと言うとルドルフは地面に手のひらを降ろす。蛇はにょろにょろと蛇行しながらウィルの元へ向かう。

 

そして彼は耳を手のひらで覆って何かをつぶやいた。すると小さな蛇の背中に耳が生える。ルドルフの耳だ。

 

「どこで覚えたの?」

 

ジェニスはルドルフが器用に呪文を使いこなす様子を見て不審に覚える。実用的でも戦闘用ではないのに彼がそれを知っている事が不自然に見えたからだ。

 

「家系が古くてね。ちょっとだけ詳しい。」

 

ルドルフはウィルの足元で待機する小蛇から2人の会話が聞こえ始め、ジェニスへ静かにと言う。頭がキレる男だと彼女は彼を高く評価しているからか、ジェニスは素直に静かに待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「“例の品”がまた(・・)見つかりました。」

 

エムリスは含みのある言い方でウィルへそう報告している。彼の顔が歪んだのを生徒達は見逃さなかった。

 

「場所はどこです?」

 

ウィルはすぐさま彼へ尋ねる。

 

「ある家柄の倉庫に放置され、その者がボージンアンドバークへ売りに出したようで。」

 

彼はそう聞くとすぐに口を開く。

 

「緊急を要しますか?」

 

「えぇ、魔法省から速やかに要請が・・・。」

 

ウィルは溜息を小さく吐く。だが不思議と小さく笑みを浮かべていた。彼は古い友人達を思い出しているからである。

 

「2人とも人使いが荒いな。」

 

「それでマグゴナガル先生に私が自習を監督する様に指示を。」

 

「わかりました、ではお任せします。」

 

マクゴガナルとエムリスの手際の良さを感じつつ、ウィルは彼から少し離れて距離を取り口を開く。

 

「すまないが、今から出張になった。各自で自習をするように。私語は厳禁。わかったね?」

 

ウィルは杖を振るうと中年の男性の顔へ変わる。何処にでもいるおじさんの姿だ。気難しそうで神経質な銀行員といった所だろう。金属の縁の眼鏡がきらりと光る。

 

一瞬の変装に生徒達は驚きの声をあげる。ウィリアム先生の外の姿なのだろう。彼はすぐに“姿くらまし”でその場から消え去った。

 

「前から気になってたんだけど“フィニート(終了呪文)”でバレない?」

 

ジェニスはルドルフへ尋ねる。頭の良さと自分より知識があることも認めている。自分が興味をあまりそそられない分野を彼はカバーできると考えている。

 

「それは防御魔法である程度は防げる、おすすめは“レベリオ(現れよ)”。それすら防ぐのが七変化ってのがある。」

 

外見上の特徴を自在に変化させることができる能力、特異体質のようなものだ。

 

「へぇ、それは習得できるもの?」

 

「いいや、生まれつきの才能だ。後天的には習得できない。」

 

その後、ひとまずは自主の時間を終えてから彼らは大広間での夕食の時間となった。その時にルドルフは周りの目を気にしながらジェニスへ盗み聞いた内容を語る。

 

全てを知った彼女はその“例の品”について興味を抱いた。ウィルへ要請が来たという事は魔法省の手に負えないという事だ。そうルドルフへ告げる。

 

「手に負えない代物かウィリアム先生に思い入れがある品。彼でなければならない理由があるのかもしれないよ。」

 

ルドルフの言葉にジェニスはにやりと笑みを浮かべた。娘としての勘だ。思い入れがある品、そしてその人物は1人しかいない。

 

「もしかして私の“祖父”?」

 

「僕もそう思った。闇の帝王に関する品じゃないかって。“例のあの人”の品。つまり“例の品”。」

 

ルドルフは意気揚々とそうジェニスへ伝える。彼らの推測が正しければ全てが腑に落ちる。しかしそれが正しいかどうか確かめる術が自分達にはない、ジェニスはそう言った。

 

「いいや、ツテがある。“ボージンアンドバーク”。休暇中に聞きに行くんだ。」

 

「部外者にそんな秘密を教えるわけない。他の方法を探すべきよ。」

 

「いいや、僕は部外者じゃないんだ。」

 

「まさか・・・。ボージン&バーグ(・・・)。」

 

にやりとルドルフは笑った。彼の家名はバーグ。ボージンアンドバークの店名の由来は創業者の2人の家名だ。彼はその数少ない遠い親戚なのだと彼は言った。そして2人はクリスマスの休暇に店を尋ねて“例の品”が何か尋ねると決めた。

 

 

 

 

 

 






ジェニス・マルフォイ


年齢→11歳
戦闘力→Bランク
趣味→修行、お菓子作り
特技→蛇語、閉心術
得意科目→全部
苦手なもの→母の気まぐれ、父の存在


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血の龍

 

 

 

 

〜夜の闇横丁〜

 

 

 

 

薄暗く浮浪者のような魔法使い達が住む暗黒街。以前と比べれば犯罪件数は減少傾向にあり、治安も徐々に良くなっている。かつてウィルが育った街であり、彼は慣れたように行き来している。

 

「これが例の?」

 

店の奥の部屋で魔法で宙に浮いている黒い羽根ペンを闇祓い達が取り囲むように見ている。その中心に2人の魔法使いが立っている。白髪の混じるオールバック、額には稲妻の傷跡、黒い丸眼鏡の中年の男性。闇祓い局局長のハリー・ポッター。その隣に立つ神経質そうな細身の中年の男性。変身術で他人に化けたウィリアム・マルフォイ。ホグワーツの“闇の魔術に対する防衛術”教授だ。

 

「あぁ、ただの羽根ペンにしか見えないだろうが・・・。」

 

「感じるよ、奴の魔力(・・)。」

 

ウィルは目を鋭くさせて突き刺さるような魔力を全身で感じ取る。今まで何件も同じ事案に関わってきた。今更間違える事はない。

 

「任せてもいいか?」

 

「あぁ。」

 

彼の専門分野である闇の魔術、更に彼の実父の負の遺産である。彼は羽根ペンへ手をかざしてゆっくりと横へ振るう。すると黒い魔力が空気に気化するように舞い上がる。そしてすぐにウィルの手のひらから彼の体内へ吸い込まれていった。

 

「まだ痕跡がこの世に残ってるとは凄まじい力だ。流石に敬服せざるを得ない。」

 

彼は小さく溜息をついて闇の魔力を祓う。これはハリー達の闇祓いの専門分野であるが、危険性を鑑みて魔法大臣から直々の要請を受けてウィルは向かった。

 

仕事を終えてハリーは新人の部下に報告書を魔法省へあげるように指示を出し、2人で店から出て行く。

 

「ウィル。気になることがある。」

 

ハリーの神妙な面持ちに彼はすぐに察して口を開く。

 

「“血の龍(・・・)”の件か?」

 

「あぁ、また事件が起きた。」

 

“血の龍”、ここ数年で数ヶ月おきに起こる無差別テロの犯人を暗喩する言葉だ。犯人は未だに捕まっておらず、魔法省は早急な解決へ向けて尽力しているが成果は得られてない。

 

犯人は犯行後、殺害した魔法使いの血を用いて壁や床に龍の紋章を残す。

 

「明日公表されるがファッジが殺された。」

 

「なに、元魔法大臣が?」

 

ウィルは驚いた表情を浮かべる。彼らが学生の時に魔法大臣だった男だ。会話を数度交わしたことがある程度だが、人当たりが良く2人の中で魔法大臣として強く印象に残っている。

 

「そうだ。昨年の聖マンゴ病院(・・・・・・)の無差別襲撃、また過去数件の暗殺、殺人から一つの共通点が・・・。」

 

ハリーはそう語るが、ウィルが遮るように口を挟む。

 

「あぁ。そう遠くない未来に。僕と君が奴の襲撃を受ける事になるだろう。」

 

ウィルは世間話のように言った。彼にとって襲撃は危険視していない。

 

「闇払い局では一人、容疑者が浮上している。証拠はないが動機がある。それにずっと行方知れずだ。」

 

ハリーは少し言いにくそうに言うが、ウィルは誰が容疑者なのか察したようだ。

 

「あぁ、だが当てはまらない点がある。奴なら単独犯だ。それならホグワーツにいるはずの内通者がいない可能性がある。」

 

ウィルの表情は少し強張っている。彼らはホグワーツに“血の龍”の内通者(・・・)がいると考えている。教員、ゴースト、はたまた生徒。彼でさえまだ尻尾を掴めていない。

 

「いや、いるさ。協力者と疑われる男が。昔の縁は忘れろ。ひとまずお互いの役割を決めよう。」

 

「・・・。」

 

昔の縁という言葉にウィルは口をつむぐ。彼の昔結成していた組織の事だ。ヴォルデモートやダンブルドアに対抗するために集まった一団で彼がリーダーだった。しかしホグワーツの戦いの後に解散した。

 

「僕達、闇払い局は最優先でエディアナ・マクミランの行方を追う。君はグレオンを監視するんだ。」

 

彼の組織の両翼だった男女である。魔力に愛されたエディアナと魔力に拒まれたグレオン、たしかに2人はいいコンビだった。

 

「いいだろう。だが今は推測だけで証拠はない。」

 

ウィルは痕跡が残されていない事から決めつるのは早合点が過ぎると言いたいのだ。

 

「僕は君も疑っている。」

 

「なんだと?本気で言ってるのか?」

 

ウィルは少し苛立ちを覚えたらしく、ハリーをキリッと睨みつける。

 

「過去数件のテロ行為を痕跡を残さずやり遂げる魔法使いがこの国に何人いる?」

 

「僕かエディアナくらいだと言うのか?」

 

ウィルは呆れたように声をあげる。そしてすぐに口を開く。

 

「ハリー、変わったな。昔ならそんな事は言わなかった。」

 

昔のハリーならハーマイオニーと同じくどんな状況であってもウィルの事を信じてくれたはずだ。

 

「いつまで昔の事を引きずっている?昔のままなのは君だけだ。僕らはもう大人なんだ。」

 

ハリーは口調を強めて言い放つ。ウィルは静かに怒りを心のうちに封じめようとする。

 

「僕の分霊箱(呪い)が気に入らないのならはっきりそう言え。」

 

ウィルは分霊箱によって永遠の命を得ている。容姿が18歳の時で止まっている事をハリーに貶められたのだ。それを察している彼は冷静に冷たく言い返す。

 

「闇の魔術だ。ヴォルデモートと同じ呪いだ。」

 

ハリーは嫌悪するようにウィルへ言った。

 

「僕の使命だ。予言はまだ終わってないのかもしれない。」

 

彼の予言、カッサンドラ・トレローニによるウィルの選択次第で世界が破滅か安寧が訪れるか決まるという予言だ。

 

「巨悪はヴォルデモートで、それはもう終わった予言だ。」

 

ハリーはウィルの予言の破滅がヴォルデモートに彼が加担した時に訪れる未来だと考えている。実際ウィルもそう考えているが予言に答え合わせなどできない。

 

「俺は世界を破滅させる可能性がある。決めつけるな、お前は頭が硬くなってる。」

 

「少なくとも僕の目の黒い内はそうはさせない。君はヴォルデモートの息子だ。」

 

その言葉にウィルは激昂してしまう。なにがハリーをそう変えてしまったのかわからないが、ウィルからみてそれは異常な執着だ。

 

理由はわかる。ヴォルデモートの昔の呪いの品に対して自分達だけで解決したいのだろう。リスクを回避するためとはいえ、毎回本職ではないウィルを呼び出して解決させる。これはハリー率いる闇祓い局の意向ではなく、魔法大臣の意向だ。だからプライドが許さないのだろう。

 

「名声が欲しいか?ポッター。昔が恋しいのだろう?ローブの棒切れを握れ。」

 

ウィルは怒りに身を任せてハリーを煽り始める。彼の心をより傷つける言葉を選択して侮辱をする。

 

「杖を取るんだ。」

 

ハリーは顔を真っ赤にして怒る。年齢的にも更年期に入る。自分の怒りの感情を思うようにコントロールしづらくなっている。ハリーは杖をいつでも抜ける体制を取っている。

 

「“生き残った男の子”、偉大なのは君じゃない。君の母親だ。」

 

ウィルは更に続ける。お互いに学生時代の関係の面影はない。

 

「君の父親は偉大とは正反対のクズだ。偉大な両親を無残に殺した。」

 

ハリーはウィルに対して悪態を吐く。

 

「口をつぐめ、さもないと頭ごと無くなるぞ。」

 

ウィルは語気を強めて言い放つ。

 

「こっちのセリフだ。」

 

「先に侮辱したのは君だ。昔みたいに叩きのめしてやる。」

 

その言葉にハリーが杖を引き抜いてウィルへ向ける前に吹き飛ばされてしまう。相対するウィルは杖を手にしてない。無言呪文である。

 

「君は危険だ。不死、更にニワトコの杖まで所有している。」

 

地面に叩きつけられたハリーは尻餅をついて鈍い痛みを覚える。

 

「お互いに頭を冷やそう。杖の件も何度も話し合っただろう?前線に出る君に杖の所有権を渡す方が危険だ。」

 

ウィルは自分の行動が褒められたものでないと思い、柔らかい口調でハリーへ言う。

 

「ひとまず僕らの立場をはっきりさせよう。目的は同じはずだ。」

 

互いに魔法界をより良い世界にしようとしているはずだ。2人が争うメリットがないとウィルは主張する。

 

 

ひとりの魔法使い早歩きでウィルとハリーの元へやってくる。ストレスからか薄くなった赤毛の髪の魔法省の役人だ。2人の学生時代の知り合いである。

 

「ウィル、大臣が君をお呼びだ。・・・この状況は?決闘したんだな?法律違反だ。」

 

彼もまた頭が硬く法律違反だと主張して2人を睨みつける。

 

「パーシー、違うよ。少し派手に転んだだけさ。なぁウィル。」

 

パーシー・ウィーズリー、ハリーらの友人のロンの兄である。学生時代に監督生を務めたほど真面目で優秀な彼だ。魔法省でも役人として上手にやっているようだ。

 

「あぁ。すぐに魔法省へ向かおう。」

 

2人は店に戻り店主に暖炉を借りて飛行煙突粉(フルーパウダー)で魔法省へ向かった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

〜魔法省〜

 

 

 

 

 

とても質素で整理整頓された魔法大臣の部屋にウィルは訪れていた。大臣は栗毛の女性で彼女は書類を整理している。

 

「魔法界に危険が迫ってる。」

 

ウィルは手を止めずに作業を続ける“魔法大臣”ハーマイオニーに忠告を行う。

 

「大丈夫でしょ?貴方がいるもの。」

 

速度を落とさず素早く書類を捌きながら彼女は言い放つ。相変わらず器用だとは思いつつウィルは少しだけ口調を強めて返事をする。

 

「僕ばかり頼られても困る、本業は教師だ。ハリーに一任してくれ。」

 

ウィルはハーマイオニーに苦言を呈した。今ではダンブルドアの気持ちもわかる。教師をしながら敵に対抗するには神経を使う。

 

「政治は結果が全て。つまり確実じゃなきゃいけないのよ。だから貴方に頼んでる。」

 

ハーマイオニーは冷たく表情を変えずに言い放つ。その際にウィルの方を一瞥すらしなかったためウィルは苛立つ。

 

「随分と心が冷たくなったな。」

 

ハーマイオニーは一瞬手を止めて意外そうな視線をウィルへ向けるが、すぐ作業を再開する。

 

「魔法大臣ですから。」

 

ある種の信頼なのだろうとウィルは考えている。逆の立場でもそうするだろう。もちろん彼女以外が自分の前にいたら作業は中断する。

 

「まぁそうなるしかないよな。お互い忙しい身だ。今じゃ落ち着いて2人で食事すらできない。互いの肩書きは10分だけ忘れよう。」

 

ウィルは理解を示しつつお願いするかのように彼女へ言った。

 

「いいわよ、それで要件は?」

 

彼女はようやく手を止めてウィルの顔をまじまじと見つける。彼は自分にかかっている変身術を解いて本来の姿に戻る。相変わらず大人びた18歳の好青年のままだ。彼女はホグワーツの戦いがついこの間の出来事のように思わされる。

 

「家族との時間を大事にしたい。特にジェニスの事だ。」

 

ウィルは懇願するようにハーマイオニーへ語りかける。彼女にもまだ小さいが娘がいる。彼の気持ちはわかるだろう。

 

「あの子かわいいものね。少しくらい生意気な方がちょうどいいでしょ。」

 

「それは言えてる。」

 

まるで学生時代の関係に戻ったかのようだ。しかしウィルはすぐに瞳を鋭くさせる。

 

「だが危険だ。アイツはヴォルデモートを超える器と才能がある。まだ若過ぎる。奴の信仰者が近づいて影響しないとは言い切れない。」

 

死喰い人の多くは既に死んだかアズカバンに収監されている。しかし未だにマグル出身のハーマイオニーを良く思わず、ヴォルデモートを支持する団体や魔法使いは多い。

 

「かつてのあなたのようね。でも違うのはあの子は自分を持ってる。それも周りを意に返さない程強く。」

 

ハーマイオニーはジェニスの性格や学校生活の情報が耳に入っているのか話はスムーズだ。

 

「もしジェニスがホグワーツに通わず僕が時間の全てを彼女に捧げたら、間違いなく成人する前に僕を超える。」

 

今の世界最強の魔法使いにそこまで言わせるジェニスの才能にハーマイオニーは少し驚いた。少し興奮すると同時に恐ろしくなる。

 

「だからホグワーツに通わせ無意識に距離を取ってる。何者にも恐怖しないあなたが娘の潜在能力に怯えてる。」

 

ハーマイオニーは冷静に彼の心理を見抜いてしまう、だから娘との関係が上手くいっておらず学校であのような態度を取るのだろうと彼女は考えた。

 

「そうだ。あの子は若い。精神が幼いうちに力を得れば簡単に心を壊され暴走する。」

 

ウィルは彼女に対する懸念を示した。どれほど実力があろうとも狡猾な大人の手によって自由に操られないとは言い切れない。

 

「わかるわ、心配する気持ち。貴方が支えるべきというのも理解できるし、尊重させたい。」

 

ホグワーツで未来を支える仕事、そして闇祓いや様々な学問の研究で彼は何処にでもある家庭での安らぎを享受できてない。当然、過剰なストレスを感じておりそれを他者に当たる性格ではない彼は自分で自分の機嫌をとらなければならない。そのウィルが自分とハリーの板挟みになっているのだとハーマイオニーは理解した。

 

「でも私達は道は違えどお互いに指導者。子供達の未来を導かないとだめ。」

 

理解した上でハーマイオニーはウィルへ苦言を呈する。それは間違いなく正論である。

 

「可能性や個人的な親心で目の前の問題を見て見ぬ振りはできない。」

 

これが彼女の結論である。立場さえなければウィルに寄り添えただろう。しかしそうはいかないのだ。自分の行動ひとつで国が揺るぎかねない、そういう意識が国を守るという結果に繋がるのである。

 

「その通りだ。だが僕はそこまで割り切ることができない。最近、少し心が不安定なんだ。妙な胸騒ぎがする。」

 

ウィルは珍しく精神的に弱っているようだ。ハーマイオニーはこんな姿を見た事がない。最強の魔法使いの才能と知識、不死という稀有な存在であるにもかかわらず、弱点はあるのだ。それは彼の心なのだと気がついた。

 

精神と体力を削る激務、更に預言を正しく導くために常に自分を追い込む鍛錬、娘や家庭での時間を犠牲にしている負い目が彼を追い詰めているのだ。しかし彼以外にはこなすことができない。だから彼は未来の為に普通を捨てる義務がある。

 

「分霊箱の影響?」

 

ハーマイオニーはそう尋ねた。遠い昔にハリーとロンで分霊箱を探して破壊する旅へ出た事がある。その時に分霊箱を持った人の心が蝕まれることがあった。その影響が持ち主に受けないとは言い切れない。ヴォルデモートの精神が暴走したのも分霊箱の影響なのではないかと推察した。

 

「いや、それは師匠が呪いを取り払ってくれた。それは違う。遠くない未来にヴォルデモートを超える敵が現れる。僕はそれがジェニスなのではないかと思ってしまう。」

 







*呪いの子を読んでない方はハリーに違和感を覚えるかもです。



ハリー・ポッター


年齢→37歳
戦闘力→A(上位クラス)
職業→闇祓い局局長
悩み→職場と家庭の板挟み



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