『風見幽香』な私。 (毎日健康黒酢生活)
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全てのハジマリ

灼眼のシャナの二次もっと流行れ!
でも、原作が完璧すぎるんだよなぁ。


初めまして。

私は風見幽香。

正確には、「風見幽香」の肉体を使っている者、と言った方が適切だろうか。

今居る世界が、「東方project」と呼ばれる幻想として語られる別世の記憶が。

前世、とでも言えば良いのか、私に付随していた記憶は完全なものではなかった。

記憶にある当時の私が幾つで、性別はどちらで、職柄はなんだったかなどは、綺麗さっぱり存在しない。

どんな人生だったかも定かではない朧気な持ち主自身の情報の替わりに詰め込まれていたのは、それ以外のもの。

エピソード記憶はなく、意味記憶のみを持ってこの世界に存在していた。

その知識に現在の私の姿「風見幽香」はいた。

東方projectに出てくるキャラの一人で、二つ名は四季のフラワーマスター。

純粋な妖力と身体能力で大妖怪とまで言われた存在。それが私。

 

 

 

荒涼とした大地に不自然にできた向日葵畑で寝ていたのが私の最初の記憶。

傍らには寄り添うようにして日傘が置いてあった。

その不思議な状況に茫然としていると青白い蛙に似た独特の容貌をした人型の生物、いわゆる半魚人やカエル人間のようなものが群れを成して近づいてきた。

 

「よぉー、ねぇーちゃん。これアンタの自在法か?」

 

「分からないわ。けど、雑魚が群れているのは見ていて気分が悪いわね。(自在法?何ですかそれは?)」

 

と、同時に体が動き出してその日傘を半魚人さん達へと向ける。

その日傘の先に「何らかの力」が流れていくのが分かる。

その力が形を成して鸚緑色のバスケットボールぐらいの大きさに固まる。

すると、その力は鸚緑の極光となって弾けた。

土煙が晴れると日傘の先にいた半魚人さん達の姿はきれいさっぱりなくなっており、代わりに私が放った極光の跡がくっきりと大地へと刻み込まれていた。

その傷跡から私へ「何らかの力」が流れ込んでくる。

 

(えぇー!「分からないです。」って答えようとしただけなのに!)

 

風に靡く黄緑色がかったウェーブのかかった髪の毛、白のブラウス、襟元には黄色いリボン、赤いチェックの上着とスカート。

日傘に先ほどの極光。

私の知識の中にその情報があった。

「東方project」の「風見幽香」そのものである。

なぜ「風見幽香」の身体でこの世界に誕生したのか、いや、それとも憑依したのか? どれだけ考えた所で行き着く先は結局――わからなかった。

だが、数多の異形(多分妖怪だと思われる)の犠牲のもと、私の意識はあるものの行動や言論の決定権は私にはないということが分かった。

この向日葵畑に近づいてくる妖怪と対話をしようとするたびに、先ほどもあったように行動や言論が「風見幽香」のように変化してしまい、外界とのコミュニケーションが全く取れない。

中には、極光を凌いだ妖怪もいたのだが拳や日傘による殴打により私の糧(妖力?)となってしまう。

最早、重度のコミュ症である。

そんなことを考えていると、体が勝手に動き出し鸚緑の極光をあらぬ方向へと放った。

 

『ほぅ、私に傷を負わせることができるのか。』

 

遠雷の轟くような声が響く。

視線の先には強大な四肢と強靱な肉体と見る物を畏怖させる角、夜空のごとく黒き皮膜の翼と灼眼を持つ巨人の姿をとった、漆黒を奥に秘めた灼熱の紅蓮の焔が佇んでいた。

 

(明らかに今までの雑魚とフォルムが違い過ぎるー!)

 

『私は「天罰神」天壌の劫火アラストールだ。貴様を裁きに来た。貴様は大した理由もなく多くの紅世の徒を殺めたな?』

 

「群れてるから虐めただけよ。(なんかいっぱい来るから体が勝手に動いただけですー!)」

 

『その言葉(まこと)だな。貴様が生きる事はそれだけで罪だ。』

 

「…」

 

『このまま生き続けてもろくな事にならない』

 

「さっきから黙って聞いていれば巫山戯たことばかり。自分は虐められないと高を括っているのかしら?(違います!私は悪くないです!悪いのは勝手に動くこの身体なんです!)」

 

『紅世の広さを知らないと見える。私が罰してやろう。』

 

その言葉と共にその口から灼熱の炎が放たれる。

私の身体は日傘を広げその攻撃を防ぐ。

私には火傷1つ負わせることのできなかった炎だが、後方の向日葵畑は無事では済まず全てが燃え尽き消されてしまった。

 

『私の攻撃を受けてもビクともしないのか。頑丈だな。』

 

「えぇ、この日傘は『世界で唯一枯れない花』だもの。(あぁー!後ろの向日葵畑がぁー!)」

 

『むむむ』

 

「落とし前付けてもらうわよ。(絶対許さない!)」

 

この炎の魔神との戦いは周囲の地形を変えながら体感で何十年と長い間続いたが決着は付かなかったため、特赦という形で落ち着くこととなった。

この戦いの中で、彼は『審判』と『断罪』の権能を持った神だということを知った。(東方の世界なんだからそこらへんに神様がいるのは当たり前だよね。神との勝負でも決着が付かないこの身体マジでハイスペック!)

彼の『断罪』に耐えたものなどこれまでおらず、それ故の特赦であるとのこと。その力は他の神をも消滅させうる力らしい。

 

 

私が妖力だと認識していた力は存在の力と呼ばれており、その力を使った特殊な力を自在法というのだという。

この戦闘の後、自在法なるものを使おうとしてみると、私の周囲に向日葵畑が生まれた。

原作通り私の能力は「花を操る程度の能力」みたいだ。

他のことに存在の力を使おうとしても、鸚緑の極光が現れるか、空中を移動する程度の大雑把な使い方しかできなかった。

そうやって力の使い方に慣れていきながら、向日葵の世話をしたり、時折現れる異形を鸚緑の極光で葬って過ごしていた。

 

そんな日々を過ごしているある日、体が勝手に動き出し鸚緑の極光をあらぬ方向へと放った。(デジャブ)

 

煙が晴れた先には巨大な黒い蛇が私の向日葵畑へと向かってきていた。

鸚緑の極光をほぼ無傷で耐える者はアラストール以来かもしれない。

この身体の加虐嗜好(バトルジャンキー)が反応して黒い蛇へ次なる一手を放とうと体を鳴らすと黒い蛇から声がかかる。

 

『「裁きたがり」から聞いていたが我らに仇なせるような力を持つ者が本当にいたとは。』

 

「へぇ、今度こそ『神殺し』してやろうじゃない。(あっ!炎の魔神の知り合いか!?また向日葵畑を荒らすようなら消してやる!)」

 

『なに、余は争いに来たわけではない。汝ら同朋達の願いを叶えるべく神という概念を創り、自ら神となった。汝も我らが同朋だ。故に汝の願いを聞き届けに来た。』

 

「私に神への祈りは無いわ。…あるとすればこの世界からの脱却よ。(そうですねー。願いと言われましても…あっ!私の能力でも向日葵しか出せないので他のお花も見たいです!)」

 

『ほぅ。この世界のほかに世界があると?』

 

「…あるわ。そこに私の求めているものがあるわ。(えっ!?世界?そんなの知らないですけど向日葵以外にも私の知識には沢山お花はありますよ?)」

 

『はっはっは!愉快だ!余もあずかり知らぬ世界を汝は知るのか!良かろう!神なる余がその希求を言祝(ことほ)ごう!』

 

「期待しないでおくわ。(なんでもいいけど向日葵以外のお花のお世話ができるならそれでいいです。)」

 

はっはっは!と心底愉快そうな声で黒い蛇はこの向日葵畑を後にする。

彼?は結局何がしたかったんだろう?

だが、私の花を操る程度の能力をもってしても咲かせることのできなかった向日葵以外のお花をこの荒野に咲かせることが出来たなら黒い蛇を益虫として置いてやってもよいか。

 

 

 

 




お疲れ様です。
バンドリで「緋色の空」が配信されたため懐かしさで書いてしまいました。
『灼眼のシャナ』は作者の唯一最終巻まで買った物語なので思い出深い一作です。
未読の方はご推奨できますし、アニメのみ視聴なされた方も原作を読んでみると三期のストーリー展開がよく分かるので是非ご一読して頂きたいです。
作者はDグレといいシャナといい『愛ゆえの対立』をテーマにした物語にめっぽう弱いんですよね。


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招かれざる客人たち

 

『―――   ―――』

 

『―――あぁ、愛しき紅世の徒よ―――』

 

どこか喜色を含む重厚なその声はいきなり私の頭の中に響いた。

低く威厳のあるその声から先日知り合いになった黒い蛇のことを連想する。

その声と同時にその彼?が3人の人型の僕と共に向日葵畑の前へと転移してきた。

黒い鎧を着た男性。

白い巫女装束のようなものを着た青髪の少女。

灰色のドレスを着た額の瞳が特徴的な三眼の女性。

その3名がこちらを訝しげに見る。

 

「…なによ。やろうっての?(いきなり何なんですかー!?)」

 

挑発をするようにして黒い蛇へと日傘の先を向けると黒い鎧の男が黒い蛇をかばう様にして立ちふさがる。

 

「暴れるなら我らの盟主の宣告を聞いてから暴れてくれ。『血染花』」

 

「へぇ、いいじゃない。つまらない話だったらぶち壊してあげる。(黒い蛇さんの部下ですか?お話ぐらいだったらいくらでも聞きますよー。)」

 

ただし、この身体は勝手に動くけどね。

 

だが、いくらこの身体でも空気を読んだらしい。黒い蛇へ掲げる様に上げていた日傘を下ろす。

長年この風見幽香ボディに付き合ってきたがこのボディが攻撃を中断するなんて初めての出来事である。

この世界に誕生して以来の驚きだ。

ついにこのボディとも信頼関係を築けてきたのか!と思っていると、再び黒い蛇の宣告を聞かされる。

 

『―――全ては余の朋友の願いから始まった―――』

 

『―――曰く、「紅世(この世)ではない現世(うつしよ)()()()()()()()()にある」―――』

 

『―――彼の地に朋友の大願はある―――』

 

『―――故に、余は彼の現世(うつしよ)への天梯(てんてい)を創造する―――』

 

『―――愛しき紅世の徒よ―――』

 

『―――新世界に思いを馳せよ―――』

 

『―――思うが侭にその欲望を抱け―――』

 

『―――余がその新しき理を創造しよう―――』

 

天梯(てんてい)よ。在れ。」

 

白い巫女装束のようなものを着た青髪の少女が錫杖を掲げ宣告した後その姿は黒い炎に包まれる。と見えたそれは爆縮して、少女のいた場所には凄まじい密度を持った黒い球体として収束する。

その様子を黒い蛇は淡々と、黒い鎧の男は悲し気に、灰色のドレスの女は喜色を孕んで見つめる。

私は体の制御も出来ずその様子をただ見つめる。

やがてその珠は黒い渦を伴い、上空へと昇っていく。

その渦はやがて凪と消えていき、上空へは黒い環に覆われる。

まるでその環の中だけ夜天が永劫続いているかのような漆黒だった。

同時に黒い蛇の声が頭に響く。

 

 

『―――成った―――』

 

 

黒い蛇がどこか喜悦を含むその声を私へと視線を注ぎながら宣告する。

その様子はまるで友人へと秘密のプレゼントが成功して喜んでいるようだった。

 

『―――我が朋友よ―――』

 

「風見幽香よ。名前ぐらい聞きなさいよ。(あれ?朋友って私の事でいいんですよね?)」

 

『―――「風見幽香」よ―――』

 

『―――汝の願い聞き届けたぞ―――』

 

『―――彼の地への出立の一番乗り―――』

 

『―――どうか引き受けてはくれぬか?―――』

 

その声色からは私の反応を窺うようなそんな困ったような言い出しにくかったことが伝えられる。

 

「はぁー、私は誰の下にも付くつもりは無いわ。(この魔界?っぽいとことから出れるんですね!もちろん行きます!)」

 

「だけど」

 

「あんな夢物語を馬鹿真面目に叶えてくれたから、その願いだけは聞いてあげるわ。(よっしゃ!行くぞー!)」

 

「その前にあんたの名前は?(おっとっと、その前にお礼を言わなきゃ。)」

 

『余の真名は祭礼の蛇』

 

「そっ、()()()()()。蛇さん♪(ありがとうございます!蛇さん!)」

 

そう返事を返すとマイボディは上昇していき漆黒の夜天へと吸い込まれていく。

大きな()()()をしたまま。

 

 

(よっしゃー!ついに魔界?から出れるぞー!)

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

ねつ造設定、ご都合主義ですがいかがでしたでしょうか?
この話は主に原作前を描いていくつもりなので、オリジナルストーリーてんこ盛りになると思いますがお付き合いいただけると嬉しいです。
ゆうかりんの紅世での通称は『血染花』です。(物語が進むにつれ通称も増えてく予定)
正田卿からお借りいただきました。

原作には恐れ多くて手を加えるのを悩んでおります。
(紅世の神二柱を若干キャラ崩壊させといて偉そうなことを言えませんが。)

今後も拙作をよろしくお願いします。


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楽園から追放される神

side カムシン・ネブハーウ

 

あぁ、最古の大戦についてですか。

あれは酷い戦だった。

いや、彼らからしたら始まりはフレイムヘイズが吹っ掛けてきたものだと言うでしょう。

ですが、そもそもが土足でこちらの世界に踏み入り、住人から存在の力を奪う強盗同然の身ながら、さらに自分たちの都合の良い場所を創造しようとするなど、人間を馬鹿にするにもほどがある。

『稲妻の剣士と紫電の軍師』

『虫愛づる姫君と生命の竜巻』

『金環頂く乙女と青き棺の天使』

『手綱打つ少女と風巻き奔る龍馬』

『闇撒く歌い手と弾け踊る大太鼓』

『大地の心臓の神官と天空を制す黄金』

数々の強力な討ち手がこのくだらない行いを潰すために彼の地に集結しました。

同時に数々の有名な紅世の王も招待されていました。

『鎧の竜王』

『黒金の大百足』

そして…

諸悪の根源である『血染花』

『風見幽香』

彼女については契約している紅世の王からも話を聞くことは多いでしょう。

曰く『原初の紅世の王(オリジン)』、彼女が願いさえしなければ紅世の徒はこちらの世界に渡り来ることは無かった。それでいて、現在まで討滅されることなく生存が確認されている最も古い紅世の王。

彼女も『創造神』の()()()()()招待されていました。

 

天を開いた祭祀場に、とぐろを巻く蛇身と華のように綺麗な女性。

彼女は三柱臣(トリニティ)を差し置いて創造神のそばに控えていました。まるで自身が神とも並びうる存在であるとでも言うように。

まぁ、彼女からしたらそんなことは考えてないんでしょうね。

もしかしたら友人に招かれたから談笑している。そんな軽い気持ちだったかもしれませんね。

そして、祈りをささげる巫女と、蚩尤、三眼の女怪。

その祭祀場には人間、紅世の王、フレイムヘイズとこの世に存在するありとあらゆる種族が集まっていました。

 

『これから成すことは誰にとっても素晴らしき行いである。《《我(・)ら(・)》》は無駄な争いをせずとも良いのだ。共に喜ぼうではないか。共に祝おうではないか。』

 

なんという聊爾(りょうじ)な台詞。

なんという驕傲(きょうごう)な態度。

この神はその邪悪を自覚せずに善意で請い願われたことを叶えているだけなのだ。

私たちフレイムヘイズは憎悪に満ちた悪魔的とも言えるかも知れない挑んだ表情でこの宣告を受け止めました。

()()の創造が始まると同時に私たちは行動に出ました。

標的は諸悪の根源たる異界の神。

そして、風見幽香。

創造に際して発生する世界の揺らぎを確認し、創造を妨害する。

フレイムヘイズ数人が自決し、揺らぎにこの世から“紅世”への方向性を与えました。

周囲の徒と交戦し、力を行使させて揺らぎを加速度的に大きくします。

この世から引きずり出された『祭礼の蛇』の共振を遮断する。

揺らぎは多くなりこの世の欠片を巻き込んで異界の神を両界の狭間へと放逐しました。

ここに『久遠の陥穽』という神殺しの秘法が成りました。

しかし、英雄的な見栄えのいい話にはなりませんでした。

『風見幽香』は『久遠の陥穽』から取り逃がしてしまいましたし、逆上した三柱臣(トリニティ)や招かれていた紅世の王そして、『風見幽香』によって多くのフレイムヘイズが命を落としました。

生きて帰って来れたのは私と『大地の心臓の神官』、『金環頂く乙女』のみでした。

 

あぁ、何が言いたいかと言いますとね。

神殺しと言えば聞こえはいいですが、その実あの戦いは両者共に大きな痛手を受けたということですよ。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

side 風見幽香

 

念願の人里に来たら超古代だった件について。

 

ようやく魔界?から出れたと思ったらまだ人類は文明が興り始めた時期だった。

私の原作知識によると『幻想郷』こと『博麗大結界』が張られるのは日本の明治時代だったはずだ。

ふむ。

原作(東方project)開始までの無聊(ぶりょう)(かこ)つ時間はお花のお世話をして過ごすとしましょうか。

一応、ホームとなる向日葵畑もあるのだが、マイボディの(さが)なのかもしれないが一年中何処かしら花が咲いているところへと放浪して生活している。

これといった目的意識もなく春は春の花、夏には夏の花、秋には秋の花、冬には少ないながらも冬の花を、一年中花が咲いているところを目指して移動する。

時には聖母のように若木の成長を見守り、時には老婆のように知己となった大樹の死を見送る。

そんな放浪に放浪を重ねる生活をしている私なのだが何故か(あやかし)として畏れを示していないのに陰陽師だか退魔師だか分からない人間が私を親の仇のように狙ってくるのだ。

もちろん口下手なマイボディはすぐに実力行使という名の対話に走る。

まともに会話できるのは黒い蛇さんとその配下の3人しかいない。(なお、ゆうかりん語訳あり)

 

丁度季節は夏。

私のホームとなる向日葵畑に戻り向日葵たちのお世話をしていた時のことである。

黒い蛇さんの配下の三目の麗しい女性が転移してきた。

 

「相も変わらず過ごしているようだな。風見殿」

 

「あら、珍しいお客さんね。最近は虐めがいのない相手ばかりだったからそっちの生意気なガキ貸しなさいよ。(お久しぶりですー。他の皆さんもお元気ですか?)」

 

「申し訳ございませんが彼は我らが盟主と巫女の守護の任がありますので欠けてもらっては困ります。」

 

「つまらないわね。何の用があってきたの?(お変わりないようですねー。今日の御用時はなんですか?)」

 

「はっ、我らが盟主がこの度、この現世(うつしよ)に百二十九の城邑と四の平原から成る楽園の創造の儀を行います。風見殿におかれましてはこの儀に()()()()()()()()としてご参列していただきたくこうして参りました。」

 

「…楽園ね。そんな物()()早いのに。(『博麗大結界』のようなものですかね?まだ時期じゃないと思っていたんですが。)」

 

「…()()ですか?」

 

「いいわ。その宴行ってあげるわ。(まぁ、要は似たナニカかもしれないし、行ってみましょうか。)」

 

「ありがとうございます。」

 

「…上手くいくといいわね。(はしゃぎすぎてマイボディが暴走してしまったらすいません。)」

 

「はっ、討滅の道具達も盟主は招いていますが盟主のご意向です。邪魔されようとも共に喜び、祝うとのことです。」

 

「蛇さんらしいわね。生やさしすぎる。(まぁ、蛇さんなら多少の粗相は許してくれますよね!お優しいですもん!)」

 

こうして黒い蛇さんのホームパーティーに出席することとなりました。

せっかくなんでこの綺麗な向日葵の花を花束にして贈りましょう。

すいませんー。と内心で謝りながら何本か見栄えの良い向日葵の花を手折ります。

 

会場に着くとありとあらゆる民族の王様であろう人たちや、多くの(あやかし)が入り乱れていました。

多くの配下を従えているのでここにいる王様たちは本当にVIPなんだろうなと考えながら歩いていると黒い蛇さんの一際大きな声が会場に響きます。

 

『おぉ!我が朋友よ。来てくれたか!こっちへ来てくれ、共にこの喜びを分かち合おう!』

 

「うるさいわね。言われなくても行くわ。(あっ、こんにちわー。人混みが大変なんでそっちに行きますねー。)」

 

すると、周囲の目が一斉に私に注がれる。

主賓から直接招かれたためかすごく目立っている。

賑やかだった喧噪も黒い蛇さんの一言から酷く重く静まり返ってしまった。

(えっ!?めっちゃ目立ってる!みんなお喋りしてていいよ!)

しかし、このマイボディ。

そんなことも気にせず石畳の上をかつかつと小気味のいい音を立てて歩く。

 

「お人好しも行き過ぎると目障りよ。(今回はお招きいただきありがとうございます。)」

 

『はっはっは!そう言うな。それが余の在り様故にな。』

 

「…そう、これあげるわ。(あっ!向日葵の花束です!他の贈り物と比べたら地味ですけどどうぞ。)」

 

『なんと!?幽香から献上品が出るとは!おぉ!此れこそ至上の宝ぞ!永劫に保管せねば!』

 

「やめて頂戴。花は枯れるから美しいのよ。(暖かいところに置いてくださいねー。その子達寒くなるとすぐ枯れちゃうので。)」

 

『ふむ。それも道理よな。…また拝受できるか?』

 

「そうね。あなたには百合なんかがピッタリじゃない?(いいですよ!この季節だと他には百合がおススメですかね!)」

 

『この度の儀。その後の楽しみが増えたな。朋友も参ったことだ。それでは儀を始めるとしよう。これから成すことは誰にとっても素晴らしき行いである。()()は無駄な争いをせずとも良いのだ。共に喜ぼうではないか。共に祝おうではないか。』

 

そう言って黒い蛇さんはなんかの儀式を始めました。

青い巫女さんがひたすらに黒い蛇さんに祈る。

そろそろ終わらないかなーと思ったその時、黒い蛇さんに向けて何人かの集団が突撃してきました。

それと同時に陰陽師か対魔師かわからない人たちが周囲の(あやかし)へと攻撃を仕掛けます。

咄嗟の出来事にもマイボディは無反応を示し、黒い蛇さんの上に乗ります。

やがて黒い蛇さんはその自重で泥砂に沈んでいくようにゆっくりとこの世界から消えていきます。

 

『何故だ。何故邪魔をするフレイムヘイズ!』

 

「…言ったじゃない。あなた優しすぎるのよ。(えぇー!どうしよう蛇さんが封印される!)」

 

『…朋友よ。(のち)の事は頼んだ。』

 

「嫌よ。私は誰とも群れないわ。…久遠の先で()()()()()。(えぇっと、封印とか分かりませんけど幻想郷に行くことになっても絶対解いてあげますから待っててください!)」

 

『はっはっは!()()()()()!風見幽香よ!』

 

消える寸前に黒い蛇さんから飛び、封印の範囲から出る。

豪笑と共に黒い蛇さんは消えていった。

残った私は日傘を天に掲げ鸚緑の極光を天に向かって放つ。

周囲で戦っていた者たちの視線が私に注がれる。

 

「気分が悪いわ。全員纏めて彼への手向けにしてあげるわ。(私怒りましたからね!プンプンですよ!)」

 

そこからは一方的な虐殺劇だった。

人型の者は彼の配下を除き全て攻撃した。

彼の配下の3人やドラゴンや大百足などいかにも(あやかし)のような者たちも加勢してくれて気が付いたら死体の山が出来ていた。

私の身体は返り血でいっぱいの赤に染まっている。

(こんな乱戦でも傷一つないマイボディ本当にハイスペック!)

その死体の山の上に立ち、笑みを添えて彼を送ってあげる。

 

「彼岸花なんてどうかしら?

 いや、蛇さんに合いそうな花を想像していたの。

(怒りに任せて暴れたけど虚しさがハンパないです。復讐は何も生まないって本当ですね。おうち帰りたい。)」

 

「おぉ、これが音に聞く『血染花』か。正しくその名の通り美しい華だ。」

 

ドラゴンが私のことを褒め称える。

 

「自在法も無しにただ己が存在の力のみでここまで圧倒するとは。」

 

大百足も続いて私のことを褒める。

 

「自在法?なによ?それは?なぜそんなに小賢しいの。弱い、つまらない、せせこましい、狡からいわ。それであなたたち、卵を立てたような気にでもなっているのかしら。能力の相性?馬鹿臭い。自在法?あなたたちっておばかさぁん? 質量の桁が違えば相性などに意味ないわ。やりよう次第で、弱者であっても強者(わたし)を斃せるとでも言うのかしら。嘆かわしい。くだらない。なんと女々しい。王道とは程遠い。絶望が足りない。怒りが足りない。強さにかける想いが純粋に雑魚なのよ。これが私。私に特殊な能力なんて必要ないわ。(えぇーっと、いつもマイボディが勝手に動いてくれてるんで特に何にもしてないんですよー。) 」

 

「風見殿。此度の助力感謝いたします。討滅の道具共はほぼ殲滅しました。」

 

「そう、じゃあ私は帰るわね。()()()()()()()()()()()()()()()。(もうお手伝いすることもなさそうなんで帰った方がいいですよね?)」

 

「はっ!三柱臣(トリニティ)一同一刻も早くその日が訪れるよう尽力します。」

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

大縛鎖編です。
勘違いが加速していくー!
ベルペオル視点の風見幽香がやばいことになってる。
とりあえずの書き貯めはここまでです。
中世の大戦やオリジナルストーリーなど色々描きたいところがあるので気が向いたら更新していきます。

ゆうかりんのありがたい御言葉に感銘を受けてイルヤンカはシンプルイズベストな自在法を極めるようになったとか。

ところどころ原作ゆうかりんの台詞を使ってるのでネタが分かると面白いかも。(天罰神のところとか)


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庭師の如雨露

届かなくてもいい。

あなたを愛してる。

そんなお話。




彼女を見た瞬間まるで華のような女性だと思いました。

 

今思えばあれが私の初恋にして終身の愛でした。

 

彼女に初めて会ったのは私が庭師として領主様の下で働き始めて数年が経ち師の許しも得て、初めて一人の庭師としての仕事を任された時のことです。

その仕事というのが荒唐無稽で領主様曰く「イングランド1の庭園を造れ」とのことでした。

領主様のお庭には既に一年中、その時々の一番美しい花や世界中の国々から持って来た花が咲いていました。

とりわけ領主様のお気に入りの花は、薔薇の花です。

ですから薔薇の花ならば、リンゴのにおいのする緑色の野薔薇から、イングランドの一番美しい薔薇の花まで、ありとあらゆる種類の薔薇の花を持っていました。

それらの薔薇はお城の壁をはいあがり、柱や窓わくにからみつき、廊下から天井伝いに広間という広間の中までのびて行きました。

最初はその大雑把な無理難題に頭を抱えていましたが、ある日の朝、その女性に会って全ては変わりました。

 

朝日が昇り始めもろもろの陰は深い瑠璃色にもろもろの明るみはうっとりした琥珀色の二つに分断された光景の中に私が師から初めて世話を任されていた薔薇の花を愛でるようにして彼女は立っていた。

 

―――美しい。

 

この世の全ての讃嘆(さんたん)の言葉をもってしても語れない。

いや、そのような言葉が無粋になるほど、ただただ美しい。

呆然と立ち尽くす私に緑色のくせ毛に金色の瞳をした彼女が私に気が付き声をかける。

 

「この薔薇はお前が世話をしているの?」

 

「えぇ。はい!そうでございます。」

 

一瞬呆けてしまったが、すぐに返事を返す。

身なりや態度からして身分が上のご令嬢であろう。

 

「そう。…彼女喜んでるわ。」

 

「そう仰っていただけると嬉しいです。」

 

「ふーん。()()来年来るわ。」

 

そう言って立ち去る彼女の後姿を見送る。

この出会いから私の人生は大きく色づき始める。

難航していた領主様の仕事も再び彼女から称賛の言葉を貰うために熟考に熟考を重ね、『巨大な薔薇園の迷宮』を作るというものになった。

 

 

その植生を始めて1年が経とうとしたある日の朝。

再び彼女が朝日と共に私の薔薇を愛でてくれていた。

 

「ちゃんと世話は続けているみたいね。」

 

「はい。この1年この日を待ちわびていました。」

 

すると彼女は私の方に近寄り私の手を取った。

薔薇の棘によって出来た傷やあかぎれとヒビと霜やけで海老の甲羅のような痛ましい私の手を彼女の透き通るようなしなやかな掌がなぞる。

 

「綺麗な手ね。」

 

「いえ、傷だらけで武骨なだけです。」

 

「私の称賛は素直に受け取りなさい。」

 

彼女から有無を言わせぬ殺気ともいえるような濃密な負の視線を受けたじろく。

 

「それと庭園に植え始めた子供たち。水を与え過ぎよ。優しくするだけが親の仕事ではないでしょ?」

 

そう言い彼女は1年前と同じように去っていこうとする。

その後ろ姿に物寂しさを感じ背中に語り掛ける。

 

()()!…来てくれますか?」

 

彼女は立ち止まり、少し考えるようにして一言だけ返してくれた。

 

「そうね。()()()()()()()()()()()()()()。」

 

そう言い残し彼女は去っていく。

 

 

 

 

こうして年に一度の逢瀬を重ねること数年。

私の胸にともる恋情の炎はひた隠し、年に一度のその瞬間を待ちわびる。

言葉にした瞬間あの花の妖精のような彼女は霞のように消え去ってしまうのではないかと思ったから言葉には出さずそのひと時を楽しむ。

 

 

 

 

そして遂に『巨大な薔薇園の迷宮』が完成し、満開に咲き誇り領主様が褒美の宴を開いてくれた翌朝のこと。

その朝は何故だか彼女が来る予感がしていた。

朝日が昇り始めもろもろの陰は深い瑠璃色にもろもろの明るみはうっとりした琥珀色の二つに分断された光景の中初めて会った瞬間を繰り返すかのように。

未だ枯れないが老成してきたその薔薇の花を愛でるようにして彼女はいた。

 

「彼女は本当にいい表情をするわね。」

 

「ありがとうございます。()()()()()あの薔薇園はご覧になりましたか?」

 

「えぇ。あの子たちの表情を見ればよく手入れがされているのが分かるわ。」

 

「えぇ!そうでしょう!」

 

彼女からの称賛の声に胸を躍らせ答える。

 

「あの薔薇園は様々な種類の薔薇を植え付けて一年中花咲く迷宮なのです!それから―――」

 

私の熱心な説明を遮る様にして、彼女の冷たい眼光が刺さる。

その表情はあまりの愚者を見て落胆をしているかのようだった。

そして私に背を向け立ち去りながら言葉を残す。

 

「はぁー。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「待ってください!!!」

 

彼女は立ち止まることもなく、こちらを一瞥もせずに立ち去ってゆく。

 

 

 


 

 

 

そこからの人生はまるで抜け殻のようだった。

どれほど立派な庭園を作り上げ領主様に称賛されようとも、数々の弟子ができ敬慕されても、伽藍洞(がらんどう)になってしまったこの心には響くことがない。

私はあの瞬間どう受け答えすればよかったのだろう?

彼女は何を求めていたのだろう?

何故訪れなくなってしまったのだろう?

『愛』とは何なのだ?

それだけを考え続け薔薇の世話をする日々。

やがて齢が60を超え枯れ木のようになり黒く濁った瞳は瑪瑙のように確固として腐ったまま固定されたかのようだ。

あの瞬間から私の人生は腐り果ててしまった。

消えてなくなってしまいたいのに、彼女のことを想い迫り来る死期を感じながら無感動で平坦な終わりを迎えようとしていた。

 

いつもと同じように()()()()()()()()()()人生の大半を共に過ごした薔薇の世話をしに朝日を浴び外へと向かう。

如雨露を片手に扉を出て、あと数メートルもしたら薔薇にたどり着く。

そんな時に胸に今まで感じたことのない激しい痛みを感じる。

その痛みに耐えきれず膝をつき地面に這いつくばる。

痛みの果てに人生の様々な記憶が思い起こされる。

しかし、その中でも最も輝いていたのは時間にすれば1時間にもならない彼女との逢瀬だ。

思い起こされる彼女の容貌。

言祝がれたその言葉。

 

 

「彼女喜んでるわ。」

 

()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「彼女は本当にいい表情をするわね。」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

あぁ、彼女はいつも()()を見に来ていたのか。

私なんて眼中にもなかった。

ただのついでに話しかけていたに過ぎなかった。

全身が火に焼かれたように痛いが、如雨露を持ち直して()()へと向かう。

 

この50年程()()()()()()()()()()()()()()()()()へと向かう。

 

季節外れの元気がない彼女に向かって、這いつくばりながら如雨露で水をやり語り掛ける。

 

「…ごめんな。俺は彼女が好きなんだ。」

 

瞬間、()()の蕾が膨らみ花が咲いた。

 

『………』

 

()()の声にならない声が聞こえた気がする。

私はだんだんと重くなっていく瞼を必死にこらえて()()の咲いてる姿を見る。

その姿に万感の想いを込めて言葉にする。

 

 

 

「…あぁ、泣き顔も綺麗じゃないか。」

 

 

 

暗くなっていく視界の中最後の一瞬だけ花の妖精のような彼女が見えた気がした。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

一面の向日葵畑。

 

 

そこには向日葵を愛でる女性がいた。

 

 

向日葵と踊る様に、歌うように薔薇の模様が施された金色の如雨露を片手に向日葵の世話をする。

 

 

「ふふふ、水の枯れることのない如雨露って便利だわー。」

 

 

1人の男と人間に恋をしてしまった薔薇の愛の形(宝具)を手にして。

 

 




最後で読んでいただきありがとうございます。

薔薇の寿命は20年程と言われているそうです。
お城のモチーフはリーズ城。
時系列は大体中世盛期頃かな。
如雨露にもモチーフがございますので分かった方は感想などで言っていただけると嬉しいです。

ゆうかりんという存在が『最強の自在法』に対するアンチテーゼだけど、そのストーリーもあるので追々詰めていこうと思います。

今後も拙作をよろしくお願いします。


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天威無双


当代最強のフレイムヘイズ。

最強の紅世の王に挑む。

そんなお話。




通常、討滅の道具たるフレイムヘイズは徒への憎悪をもってしてこの世に誕生する。

すなわち怨敵となる徒を討滅してしまったフレイムヘイズは充足感の後に枯れ木のように立ち消えていくか、更なる憎悪、使命感など様々な理由を見つけ討滅の道具としての日々を繰り返すかの二択を選ぶこととなる。

『天威の鬼神』と呼ばれるフレイムヘイズが契約主たる『紫電の軍師』と共に、怨敵となる強大な紅世の王『八束脛(やつかはぎ)』を討滅したことから物語は始まる。

 

紅世の王『八束脛(やつかはぎ)』は極東の島国を拠点とする紅世の王で、疫病を引き起こし自在法の妨害を図る自在法『禰宜野(ねぎの)打猴(うちさる)』を用いて数々のフレイムヘイズを討滅してきた、今でいう古墳時代から平安時代にかけて極東の島国の都『京』を荒らしまわり名を馳せた紅世の王である。自在法『禰宜野(ねぎの)打猴(うちさる)』を用いフレイムヘイズや自在師の自在法を阻害し、己の武器たる糸を使い奇襲を仕掛けたり、己の身を戦いに置いたり、戦いに貪欲で狡猾でもある紅世の王でもあった。

その『八束脛(やつかはぎ)』を討ち果たさんと『天威の鬼神』は極東の島国を渡り歩きついに本拠地:葛城山にて怨敵を見つけたところ、数多の大型の蜘蛛の燐子(りんね)と共に現れた手下である身長7尺(約2.1メートル)の怪僧をその鬼神と称される豪槍をもって討ち果たし、遂に都を荒らす(あやかし)の首魁である『八束脛(やつかはぎ)』と邂逅することとなった。

天を衝くような筋骨隆々とした巨躯、般若の面のような顔に伸び放題になった赤い髪、6本の腕を持つ異形の紅世の王と相対することになった。

 

『俺ぁ八束脛(やつかはぎ)頸猴(うなさる)を殺ってここまで来れたってことはお前は強い奴か?』

 

「都を荒らす(あやかし)よ。我が武威を以てしてその悪行の清算とする。」

 

「まっ、要は君を討滅するって感じだよね。」

 

傲慢な口調の男と取り澄ました口調の男の声が八束脛(やつかはぎ)に答える。

『天威の鬼神』は身長7尺(約2.1メートル)程度のがっちりとした如何にも武将といった真紅の鎧を身に着け、頭に赤く長い翎子(りんず)と呼ばれる飾りをつけており触角のようにも見える。

そして、神器たる『方天画戟』を構えると紫電を纏い八束脛(やつかはぎ)へと吠える。

 

「『払の雷剣』の契約者『天威の鬼神』が武威を貴様に示す!」

 

『おもしれぇ!そのケンカ受けて立つぜ!』

 

ここに後の世にも語り継がれる天下のフレイムヘイズと紅世の王の喧嘩狂い(バトルジャンキー)同士の殺し合い(ケンカ)の火ぶたが切られた。

言葉と共に八束脛(やつかはぎ)は口から蜘蛛の糸を吐き出してリングのような結界を構築し戦闘が始まる。

その戦闘は熾烈を極め、八束脛(やつかはぎ)の奥の手たる自在法『百鬼夜行破壊』により強力な戦闘能力及び再生能力の向上が付与され、脳天から腰までの広範囲を真っ二つに切り裂かれても討滅されずに戦闘を続けた。八束脛(やつかはぎ)と『天威の鬼神』の戦闘は三日三晩にも及び、四度目の朝日が現れるとともに八束脛(やつかはぎ)の討滅で戦闘は終わった。

 

「ハァッハァ、今回は本気で死ぬかと思った。」

 

「ふむ、君は無事に仇の討滅を成功したことになるね。どうする?今の君にはその気持ちのまま穏やかに消え去るという選択肢もあるよ。」

 

「…まだこの身体の火照りが収まらない。魂が我が武威を天下に示せと言っている。」

 

「…」

 

その『天威の鬼神』の独白を『紫電の軍師』と呼ばれる紅世の王タケミカヅチは黙って受け止める。

己が契約者の渇望を聞き届けるために。

 

「俺ぁ『最強』になりたい。現世(うつしよ)に渡り来た紅世の王で『最強』なのは誰だ?」

 

「…ふむ。その無謀とも言える願い長年連れ添ってきた我が身としては辛いよ。考え直す気はないのだね?」

 

「無い。」

 

その意思のこもった渇望の流出にタケミカヅチも思案を重ね、真実を教えることにした。

一種の独白、決意や諦観のこもったような声色で契約者に語り掛ける。

 

「『千変』シュドナイ。『棺の織手』アシズ。『甲鉄竜』イルヤンカ。『虹の翼』メリヒム。『皁彦士』オオナムチなど強力な紅世の王はたくさんいる。」

 

「そのオオナムチって奴はこの前追い払ったじゃねぇか。」

 

「話は最後まで聞きなさい。だが…最強となると『彼女』しかいない。」

 

「…」

 

「『血染花』風見幽香。」

 

「…カザミ…ユウカ。」

 

「そう。『四季のフラワーマスター』『原初の紅世の王(オリジン)』『神と並び立つ者』と彼女を指す言葉は沢山ある。確か、契約したての頃に君にも伝えたはずだよ。」

 

「そんな昔の事憶えてねぇよ。『風見幽香』か。よし!じゃあ次はそいつだ。そいつを倒したらその次に強い奴を倒して倒して討滅しつくして俺が『最強』になってやる。」

 

「相、分かった。歴代契約者で最強の君だからこそ共に私も『彼女』へ挑む決意を固めよう。個人的な怨恨も彼女にはあることだしね。」

 

「おう!それで、怨恨てなんだ?」

 

「君の先々代の契約者が『彼女』に討ち果たされたのだよ。」

 

「…ってことはそいつが使う自在法や戦い方は分かるんだな。」

 

「あぁ、だが何の参考にもならんよ。これまで幾百、幾千の紅世の王やフレイムヘイズが『彼女』に挑み散っていったが『彼女』は()()()()()()()使()()()()。あえて言うなら先ほど討滅した八束脛(やつかはぎ)に似ているかな。彼は自在法『禰宜野(ねぎの)打猴(うちさる)』を使って自在法を妨害していたが、『()()()()()()()()()()()()()()。ただただ強いんだ。」

 

「…まさしく『最強』だな。あぁー!魂が滾ってきたぜ!」

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

何処かにある向日葵畑にて

 

 

 

「貴様が最強の紅世の王『風見幽香』か?」

 

「気安く呼ばないで頂戴。雑魚が私の名前を口に出すのは不愉快だわ。(あっ、こんにちはー。私であってますよ、なにか御用が?)」

 

「我こそは『払の雷剣』の契約者『天威の鬼神』!当代最強のフレイムヘイズにして全ての『最強』を目指す男だ!」

 

「…ただの阿呆か。蠅ごときがブンブンとうるさいわね。(いきなり大声出さないでくださいよ!ビックリするじゃないですか!)」

 

その言葉と共に鸚緑の極光が爆ぜる。

しかし、その土煙が晴れた先には傷こそ付いているものの五体満足で紫電を身に纏う『天威の鬼神』の姿があった。

神器の『方天画戟』をしっかりと握り彼女に不敵な笑みを浮かべ相対する。

 

「へぇ、やるじゃない。少し()()()()()()()()()。(うわー!耐えきった!久しぶりに見たぞ!マイボディ頑張るんだ!)」

 

その笑みにより凶悪な笑みで返事をして、『天威の鬼神』の間合いに無遠慮に歩み入る。

 

攻撃のターン(スペル)はお互い1回。先攻はあんたに譲ってあげるわ。(マイボディは物理にて最強です!)」

 

そう言い戦闘は接近格闘術になる。

『風見幽香』は1,2,3と秒数を数えながら『天威の鬼神』の攻撃を棒立ちで受け止め、大ぶりのテレフォンパンチやヤクザキックなど予備動作が大きいが一度当たってしまえば命が吹き飛んでしまう一撃を繰り出す。

その攻撃を事実、本当に当代最強のフレイムヘイズである『天威の鬼神』は受け止めることは無く、往なし躱しながら並の紅世の王では一撃でも当たれば討滅できる攻撃を棒立ちの『風見幽香』へ向けて何度も何度も繰り返す。

そして幽香が100を数えた瞬間に今までとは速さが段違いに早くなった()()()()()が『天威の鬼神』の腹部に当たる。

直撃を受けた真紅の鎧は粉々になり、攻撃の余波で『天威の鬼神』は飛ばされ嘔吐く。

 

「スペルブレイクね。(あっ!ようやく反撃ですよー!)」

 

「カハッ!貴様手加減していたのか!?」

 

『風見幽香』の攻勢、一瞬垣間見えた本気、棒立ちですべての攻撃を受け止められたこと、その結果傷1つ付けられないこと。

その全てに怒りを覚え、煮えたぎるマグマのような憤怒に任せ血相を変えて怒りをぶちまける。

 

「言ったじゃない。()()()()()()()()()って。(今度は私のターンですよ!)」

 

 

幻想「花鳥風月、嘯風弄月」

 

 

そのスペル宣言と共に大小様々な存在の力の弾幕と共に、花を模した弾幕、鸚緑の極光が『天威の鬼神』以外にも全方位に向けて放たれる。

小さな弾幕でさえ並の徒なら粉々になってしまうほどの弾幕を受け止め、致命傷となりうる花を模した弾幕、鸚緑の極光の回避にのみ専念する。

その間にも『風見幽香』は弾幕の中心で1,2,3と秒数を数える。

 

「クッソ!舐めやがって!」

 

必死の一撃を躱しながら『風見幽香』へ一歩も近づけずにいることへの苛立ちを露にする『天威の鬼神』。

そんな彼の()()は『風見幽香』とその攻撃に注視しすぎたことだろう。

突如、背後から鸚緑の極光が彼の下半身を飲み込んだ。

咄嗟に振り返り見ると()()()()()()()()()()()

 

「くっ、そ……―――」

 

最後に一太刀でも成果を上げようと神器『方天画戟』を弾幕の中心にいる『風見幽香』へ投げる。

今際の際に『天威の鬼神』が見たのは3()()()()()()()』が日傘を彼に向けているのと、その鸚緑の極光に彼の神器『方天画戟』が飲み込まれていく姿だった。

 

 

 

「恋符トリプルスパーク。なんてね。(怖かったー。)」

 

 

 

「害虫退治も終わったし向日葵のお世話をしなきゃ。(お花のお世話に戻りますか!)」

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
拙作がルーキーランキングに載った影響か『灼眼のシャナ』タグの作品のUAが伸びてる。『灼眼のシャナ』はいいぞ〜もっと流行れ!
未視聴の方は是非この連休でご覧あれ!
最高の一作だと確信を込めてオススメできます。

『震威の結い手』は中世ヨーロッパにはいたけど、この話は平安時代だから話は崩壊していないハズ。
『天威の鬼神』、『八束脛(やつかはぎ)』共にモチーフあり。
『天威の鬼神』は元ネタ通りまさに当代最強。
大筋は「平家物語」「土蜘蛛草紙」を参照。

今後も拙作をよろしくお願いします。


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愛の形

 
失った愛を成す者。

愛を知らぬ者に会う。

そんなお話。



アラビア半島南部。

 

紅海の沿岸部にて赤道付近特有の強い日差しを受けながら2~5mの様々な大きさの樹木に木の葉の一枚一枚が宝玉の一断面のように輝き、その葉に隠れるようにして熟した濃い紫色の果実が花咲かせていた。

聖母のようにその一つ一つを慈しみ、愛でる女性がいた。

そして、その女性に声をかける影が1つ。

優雅な6枚の翼と細くも逞しい体躯を持ち棺を抱えた仮面を付ける青い天使の姿が。

彼はかつて契約者の『棺の織手』ティスと共に最古のフレイムヘイズとして最古の大戦に参加し、自在法『清なる棺』をもって彼女と相対したことがある。

過去の怨恨も無しに声を発する。

 

「何を見ているんだ?」

 

「花よ。一面満開よ。(こんにちはー。お花ですよ。)」

 

「私にはいちじくの木とその果実にしか見えない。」

 

「あら、見える物だけが真実ではなくてよ。(ふっふっふー。知らないようなので教えてあげましょう!)」

 

女性は青い天使に振り返り、その微笑をもって答える。

 

「この子たちはね。ひっそりと己が内にだけ花を咲かせて、その愛を他者に託して伝えていくの。(いちじくはパァッと花開くことは無くて、この実だと思われてるところの中に花が咲くんですよ!そして花の中にいる蜂に受粉を頼むんです。)」

 

濃い紫色の果実を愛おし気にその指先でなでる。

背後にいる青い天使のことを歯牙にもかけず、まるで母が内気な我が子を紹介するように語る。

 

「賢しらに見せびらかせないで愛を紡ぐ。これがこの子たちの愛。古来からずっと変わることのない物。(どうですかー?目立つ花は咲きませんが素敵だと思いませんか?)」

 

「…子を成す。それも一つの愛の形か。」

 

「そうね。寄り添うだけじゃなくて、その愛を次に伝えるのも愛よ。(そうです!樹木としては寿命は短いのですがその分一生懸命な子達なんですよ!)」

 

「…寄り添うだけでは無い…か。」

 

(ふっふっふー、最近はマイボディとのシンクロ率も上がってきて私の言いたいことが伝えられるようになってきましたね!※なお、ゆうかりん語訳で言葉の大筋は合ってるが様々に勘違いをされていることは知らない模様。)

などと、彼女が考えていることもつゆ知らず。

青い天使は失った過去に思いを馳せる。

 

(「アシズ様。とても不遜な夢を見てしまったのです。」)

 

幾千年が過ぎた今でも明瞭に思い出せるその光景。

 

愛しい娘。

 

彼女が生き返れば。

 

と、願っていた。

 

だが、『彼女』の願いは。

 

(「あなた様の子を授かり、ともに穏やかに暮らす、そんな夢です。」)

 

あぁ、その言葉に答えてやれず一笑に付した過去の己が愚かしい。

 

死者の蘇生は行き詰まっていた。

 

ならば、彼女の望みを叶えよう。

 

我が大願は―――!

 

「ふっはっは!『血染花』よ。礼を言わせてくれ。」

 

『彼女』を失って以来色を失ったように見えた空が己が炎の色、涙ぐましい鮮やかな淡青に見える。

翼を広げ飛び、その棺を大事そうに抱えながら己が炎を思うまま己の中に滾らせる。

想い人が最後の瞬間まで願っていたこと。

大切な思いを思い出させてくれた彼女に大願の宣誓と共に名乗りを上げる。

 

「我が名は『棺の織手』アシズ!

 我が大願は『彼女』と我の子。

 ―――『両界の嗣子』を生み出そう!」

 

そして、その掌を彼女に向けて差し出す。

 

「我が壮挙に手を貸してくれぬか?『血染花』よ。」

 

「…私は私だけでいい。上にも下にも、誰1人として要らないわ。(すいません。マイボディがテンション上がってぶち壊しにしてしまうかもしれないのでご遠慮します。)」

 

その返答にアシズは少し悲しそうな表情を見せて返事をする。

 

「…そうか。そなたの花たちに向けるその愛を誰かに捧げられる日が来るのを祈ろう。」

 

「余計なお世話よ。(えぇー!ぼっちじゃないです!お友達はお花と…蛇さんがいます!)」

 

その言葉と共に日傘を掲げ上空のアシズ目掛けて鸚緑の極光が弾ける。

極光を自在法『清なる棺』で防ぎ翼をはためかせて射程範囲から逃がれる。

そして、晴れ晴れしく快活に別れを告げる。

 

「因果の交差路でまた会おう!『血染花』よ!」

 

 

 

 

「…私は『私』よ。(ぼっちじゃないもん。)」

 

 

 

 

内心で泣いている風見幽香を残して。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

「お祭りは楽しむものだし、鉄は熱いうちに打て」ってばっちゃが言ってた。

原作「灼眼のシャナ」はとても素晴らしい作品なので拙作がそれを汚していると感じてしまった方は申し訳ありませんでした。
二次創作としても不完全かもしれない拙作ですが楽しんでいただけると嬉しいです。
皆さんの反響で「灼眼のシャナ」はまだまだ根強い人気があると思ったので作者が原作のX巻すごい好きなので映画化しないかなーなんて思ってます。

いちじくの花言葉は「子孫繁栄」、「実りある恋」。
花の話は豆知識にでも。
時系列は中世。
転換期に彼女は現れる。

「愛」って何なのでしょうね。

今後も拙作をよろしくお願いします。


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高嶺の花

 
私は『私』。

咲く場所は自分で決める。

そんなお話。
 


ヒマラヤ山脈。

 

世界の屋根ともいわれるその場所。森林限界という言葉がある。その意味は通常の高木は条件により様々だが標高3000mでその厳しい環境により生育出来なくなり、条件が良ければ3800mまでは生育出来る。

そんな植物の限界を超えた標高4000mを超えたところに、その極限環境に対応して生育している草丈1.5mほどの植物が鮮やかに黄色く色づいていた。

優しくその植物を撫でる女性が1人。

その姿はまるで近所にお出かけに行くかのように軽装で、風が吹きすさぶ標高4000mの世界では酷く違和感しかなかった。

そして、その女性の背後からまたしても軽装な灰色のドレスを着た隻眼の麗しい女性が話しかける。

 

「…風見殿。ご健勝そうでなによりです。あなたの様々な武勇は天下に轟いています。」

 

「あら、久しぶりね。(お久しぶりですー。)」

 

しかし、その柔らかな言葉とは裏腹にその手は日傘を構えベルペオルへと向けられる。

苛立たし気なその表情からは明らかな不機嫌さが分かる。

 

「あなた、アタシが言ったことを違える気なの?(えっ!?ちょっとマイボディ暴走しないで!蛇さんの部下ですよ!)」

 

「図らずともその様になってしまったことは申し訳ありません。しかし、どうしても風見殿へ進言したくこの場に来ました。」

 

「知らないわ。」

 

その言葉と共に花の形を模した弾幕が1つベルペオルへと向かう。

宝具『タルタロス』を用いてその弾幕を防御し、膝をつき乞う。

 

「どうか、お聞き届けください。」

 

「…その一発で許してあげるわ。(やっとマイボディが止まってくれたー。)」

 

「はっ、感謝いたします。」

 

そして、ベルペオルは彼女へと恭しく進言する。

 

「風見殿の武勇は数知れずと言えど、その中でも一際輝く物は『天罰神』との数十年に及ぶ()()()()であると思います。」

 

「…私の汚点よ。(嫌な思い出です。マイボディが加虐嗜好(バトルジャンキー)だって分かった最初の思い出です。)」

 

「現在、『天罰神』は人間と契約し、討滅の道具として契約者『炎髪灼眼の討ち手』と共に現世へと降り立っています。」

 

その言葉にマイボディは反応し、一瞬だけ表情を愉悦、新しいおもちゃを見つけた子供のように綻ばせたがすぐさま不機嫌なものに変えた。

 

「所詮、()()()じゃない。興味ないわ。(私は断固として会いたくないです。)」

 

「私も討滅の道具を風見殿にご紹介しに来たわけではありません。『紅世の神』はその眷属を介して『神威召喚』を行えます。この度、欧州では徒の軍勢と討滅の道具が激しい戦争を繰り広げています。」

 

「…その先に『()()()』が来るかもしれないのね。(やめてくださいー。そんな話したらマイボディがー。)」

 

「はっ、それ故に、風見殿におかれましてはこの度の大戦を我らの守護の下ご観覧を、と思いまして進言します。」

 

はぁ、と小さくため息をついて、マイボディは花を愛でるのに戻った。

この花はまさに高嶺の花。

この子たちの紹介をしたくなって蛇さんの部下に話しかける。

 

「この子達は何でこんな極限環境で花を咲かせていると思う?(厳しい環境なのになんでここで咲いてると思いますか?)」

 

「…外敵が少ないからでは?」

 

「違うわ。この子達はここが自分たちの居場所だからいるのよ。(ここがいいって言ってたんですよ。)」

 

「はぁ。」

 

「ふふふ、ある人間がこの美しさに感動して下界に持ち帰ったそうだけど、程なくしてその子は枯れたそうよ。」

 

「…。」

 

「私の咲く場所は『私』が決めるわ。(つまりですね。私は行きたくないんです。)」

 

「はっ、ご随意に。『タルタロス』の欠片を置きますので、咲く時期になったらお使いください。」

 

その言葉と共にベルペオルは立ち去る。

残されたのは荒涼とした山肌に輝く黄色い植物と対照的に色鮮やかな鸚緑と赤の女性のみであった。

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

この作品の投稿を始めて約1週間。
ご新規の読者様が増えて作者も予想外の出来事に歓喜しています。
別作品「英雄と敵の二重生活」の方がメインでございますので、ご一読いただけると嬉しいです。こちらはこの作品とは違いダークだけど、熱くなる展開をご用意しています。

今回登場した花は「チュラマ」。
標高4000mに咲く「天国に咲く花」ともいわれる花です。
話のモチーフはブラック・ジャックにあったお話。
時系列は中世の大戦中。

今後も拙作をよろしくお願いします。


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神話の再戦

 
強き者。

過去の汚名を雪ぐ。

そんなお話。
 


神威召喚

 

それは紅世における『神』の降臨を要請する儀式。

代償を支払い神威を召喚された『神』は通常より強大な、己の権能に沿った力を振るうことができる。

中世ヨーロッパ。

ブロッケン山に築かれた要塞。

そこでその奇蹟の御業は執り行われた。

『天罰神』が最愛の人を犠牲にして顕現する。

その瞬間、世界はその存在を受け止めるために軋みをあげた。

 

ここに『天破壌砕』が成った。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

我の顕現と共に世界が揺らぐ。

最愛の人(マティルダ)の祈りにより、その存在を紅世よりも己が権能を強大に感じる。

怨敵である『棺の織手』アシズは討滅し、己が号砲が虚しく戦場に響くのみとなった。

しかして、その強大な力は行き場を失い己が内に激しい感情と共に荒れ狂う。

 

だが、その力をかき消すように鸚緑の極光が弾ける。

 

最愛の人(マティルダ)の祝詞により強化された我が身には傷1つ付かない。

 

だが、()()()()()()()()()()()()()()()

 

発生源へと目を向けると。

 

あの時と変わらずに獰猛なその顔に笑みを携えて我を睨み付けていた。

 

『風見幽香よ。久しいな。』

 

「えぇ、たとえこの世界に渡り来たとしても()()()のことは忘れたことが無いわ。」

 

要塞1つを容易く踏み砕く我が大きさに対比するかのようにあの日から変わらずに人型のまま矮小な姿を取る彼女に訊ねる。

 

『我らが再び争うことに何の意味がある。』

 

「意味?そんなもの無いわ。アンタがあの時、特赦なんて中途半端なマネをしてくれたせいで()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが気にくわない。」

 

『そなたの(さが)は変わらぬようだな。』

 

「ねぇ?アンタも今燻ってるんでしょ?

 その力を、嘆きを、絶望を。

 激しく渦巻く感情をどこかにぶつけないとやり切れない。

 この期に及んで賢しらに振る舞うのなんてやめなさいよ。

 ()()()()()()

 好きなように。好きなだけ。

 気が赴くままに振るいなさいよ。

 私がソレを捻り潰してあげるわ。

 いいじゃない、あの時の再戦よ。」

 

『………。』

 

「それとも何かしら?

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()?」

 

その言葉に我は『棺の織手』を討滅した紅蓮の炎弾を幾度も放つ。

()()()()()()()

我が最愛の人(マティルダ)を侮辱した。

怒りに任せ、その力を、神の権能たる『断罪』を繰り出す。

しかし、その先には依然としてあの女が日傘を盾にし、屹立していた。

 

「言ったじゃない。この日傘は『世界で唯一枯れない花』よ。」

 

しかし、以前とは違い、その日傘に一筋の傷が走っていた。

我が権能が強化されたとはいえ明らかにおかしい。

あの女は嘗て数十年切り結んでも傷1つ付かなかったのに。

そして、ありえない()()()()()にたどり着く。

 

『…!』

 

「あら、もう気づいたの?

 そうよ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 人を喰らう?

 なぜそんなことをしなければいけないの。

 ただでさえ殺した有象無象が付き纏ってうるさいのに。

 私は『私』だけでいい。

 アナタが強化されてるから?

 私が弱体化しているから?

 だから、なによ。

 

 ()()()()()()()()

 

 私の力が多少減ったところで。

 

 アナタが多少強化された程度で。

 

 『私』が負けるとでも思うの?」

 

挑発的な笑みを浮かべながら、その顔を歓喜に染め、畳んだ日傘を上下に動かし挑発してくる。

その好戦的な表情や強気な態度が失ったばかりの最愛の人(マティルダ)に重なる。

 

 

 

 

()()()()()()()()。」

 

 

 

 

その言葉と共にその姿が7つに分かれ、それぞれが鸚緑の極光を解き放つ。

その力の奔流を更なる力で抑え込むため我が腕を振るう。

大気が爆ぜる。

煙が晴れたときには7つの姿はそれぞれ散開しており、大小様々な存在の力の弾幕と共に、花を模した弾幕が我を包むようにして展開される。

人型ならまだしも、顕現した我には避けようのない弾幕を受ける。

その一つ一つが僅かにだが、確実に我の体表の炎を削っていく。

このままではじわじわとだが詰みに持っていかれてしまう。

その全てを打ち払うように体から熱波を放出する。

山野を巻き込みながら灼熱の炎は弾幕をかき消す。

 

しかし、その際に出来た小さな隙を縫うようにしてその身を我が灼熱で焦がしながら、7人の『風見幽香』が目の前に現れその傘に先に鸚緑色の存在の力が溜まる。

 

今までの物と比べてもその一つ一つが強大で濃い密度の物だった。

 

7人の『風見幽香』がフッと微笑み、7つの口で揃えるようにその自在法を発する。

 

 

 

 

魔砲「ファイナルスパーク」

 

 

 

 

がっあああああ!』

 

 

全身が鸚緑に染められる。

 

紅蓮の魔神の巨大な総身が削れていく。

 

己の存在が無くなっていくのを感じる。

 

そんな中、頭に浮かんだのは最愛の人(マティルダ)の姿。

 

―――そうだ。

 

最愛の人(マティルダ)の為に我は生きねば。

 

一面に散らばる灼熱の炎の紙吹雪。

 

舞咲く花弁のように見える無数の火の粉の中に隠れるようにして、紅蓮の炎がゆっくりと下に、下に降りていく。

 

尾羽打ち枯らす様に。

 

空に浮かぶ『天道宮』へ。

 

その内にある、宝具『カイナ』へと。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

その光景を見ていた徒が。

 

フレイムヘイズが。

 

その場にいた全員が紅蓮の魔神が鸚緑の極光に包まれ立ち消えて逝くのを見る。

 

しばしの静寂の後、誰がともなく言葉を溢す。

 

「おお」

 

言葉ではなく、ただ感嘆の声だけを漏らして、一人。

 

「は、ははっ。」

 

でなければ、おずおずとした笑みがあり。

 

隣にいる者と顔を見合わせ。

 

徒の声にならぬ歓声が弾ける。

 

 

『『『……―――ッッッ!!!』』』

 

 

彼らは今。

 

神話の誕生の瞬間に立ち会ったのだ。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

全ての力を使い果たし、7つの身体は1つに戻り、その身体は力を失い重力に従い落ちていく。

 

それすら気にかけず彼女は笑う。

 

「あぁ!最ッ高の気分よ!」

 

その美しい顔には『亀裂』が走っており存在の定型すら危うい。

 

だが、気にもせず()()()()に酔う。

 

―――勝者は『私』だ。

 

思うが儘に自分が狩り取った獲物を貪る。

 

灼熱の炎の紙吹雪が彼女の下に集い、紅蓮の花が咲くようにして彼女を包み込む。

 

そして、花開くように傷1つ無い『風見幽香』が現れる。

 

「空気が旨い」

 

「身体が軽い」

 

「素晴らしい!これが、勝利の味というものかッ!」

 

並び立つ者は無く。

 

挑むということは無く。

 

ただ、生まれながらにして強者だった。

 

しかし、初めて挑戦し打ち勝った。

 

全てを噛み締め、空を舞う。

 

その充足感と共に。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

作者がゆうかりんファンになったのはとある東方projectの二次創作が原因なのですが、その作者様が評価や意見などは要らないというので、こうやってぼやかしてお伝えさせていただきます。
今でも時折見返すのですが鳥肌が止まりません。
その作品は至高の作品だと作者は考えています。
皆さんがあの作品に出会ってれば嬉しいものです。

完全捏造ストーリー。
しかして、物語の大筋は変わらず。
得たものは『彼女』の勝利。

今朝日刊ランキングを見たら8位と10位の同時ランクインをしておりました。
ダブルランクイン、24時間UA100オーバーという作者史上初めての快挙。
これもみなさんのご声援のお陰です。
色々と甘いところが多い作者ですがこれからも応援いただけると嬉しいです。
今後も拙作をよろしくお願いします。


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眠り姫は己が喪失に気づき。

群衆は神話に酔う。

そんなお話。



 

深夜、月夜に照らされる花々を眺める。

 

私は咲き誇る花々の脇を流れる小川の石に腰かけている。

 

「ふふふっ。」

 

薄暗く姿が反射しない川の水面に自分の姿が映るのを想像して笑いがこぼれる。

 

月下美人とは正しくマイボディのことを言うのだろう。

 

最近はマイボディとのシンクロ率も上がってきて、第三者が居なければ花に話しかけるのは口調自体はマイボディ語訳があるが、大体、私の意思に近い言葉になってきている。

 

数千年に及ぶマイボディとの親交を実感していると。

 

突如、()()()()()()

 

その瞬間、マイボディは表情を大きく歪め、蛇さんの部下が置いていった鎖の断片を握りつぶした。

 

同時にこの身体が光に包まれ、()()()()()()()()

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

―――ッ!

 

目が覚めたら立派なお部屋に寝ている件について。

 

うむ。理解が追い付かない。周囲を確認すると天蓋付きの大きくやわらかなベッドに寝かされていた。

 

トントンと扉が叩かれる。

 

「いいわよ。(どうぞー。)」

 

すると、白い覆面と装束に身を包む女性が入ってきた。

 

「失礼します。『()()()()』様。お目覚めになりましたか。急ぎ、三柱臣(トリニティ)のお方達をお呼びしてきます。」

 

……ん?

 

「待ちなさい。もう一度『私』の名前を言いなさい。(えっ!? もう一回呼んでもらっていいですか?)」

 

「はい。『()()()()』様。」

 

「……いいわ。行きなさい。(……大丈夫です。もう行っていいですよ。)」

 

礼をして、白い覆面と装束の女性は立ち去る。

おかしい。

おかしすぎる。

何千年も連れ添った仲だ。

マイボディの心の琴線ぐらい分かる。

 

彼女は『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

マイボディは何より『()()()()』と他人に呼ばれるのを嫌っている。

許しているのは、蛇さん、その部下ぐらいだ。

あんな知らない女性に言われたらいつもなら勝手に体が動くはずなのに()()()()()()

おかしい。

試しに両手を顔に持ってきて頬っぺたを引っ張ってみる。

僅かな痛みと共に頬が延びる。

 

……えっ?

 

ありえない。

いつもなら第三者が居なくても()()()()()は取れない。

そして、握る力が私のイメージより強かった。

 

なんなら、さっきのやり取りもおかしかった。

マイボディは加虐嗜好(ドS)だ。

人の神経を逆撫でする行動が好きで、弱い者いじめも大好きだ。

いつもだったら皮肉の一言はあっただろう。

しかし、先ほどのやり取り心なしか口調が穏やか(私寄り)になっていた。

 

 

 

なんぞこれは?

これは歴史的な和解をいつの間にかしていたのか?

幾千年の時を経て遂に、遂に私に心を開いてくれたのか?

信じていいんだよね?

これで実は嘘でしたー!っていうマイボディの新しい虐めとかじゃないよね?

 

ベッドから立ち上がり、鏡台の前に立ち様々な表情をしてみる。

一人百面相をしていたら、トントンと扉が叩かれる。

その音に反応し、マイボディの表情は元に戻ってしまう。

とりあえず、()()()()()は追々検証するとしてノックに答える。

 

「いいわよ。(どうぞー。)」

 

白い覆面と装束に身を包む女性が扉を開け横に控える。

入ってきたのは三人。蛇さんの部下たちだ。

黒い鎧を着た男性。

白い巫女装束のようなものを着た青髪の少女。

灰色のドレスを着た額の瞳が特徴的な三眼の女性。

代表するようにしてドレスの女性が話しかけてくる。

 

「失礼します。此度の神話の再現、いや、新たな神話の誕生お見事でした。」

 

ん?何のことだ?

まさか、マイボディ!

私が意識ないのに勝手に何かやらかしたのか!?

とりあえず、蛇さんの部下呼びじゃ可愛そうなのでお名前を聞いて状況を説明してもらいましょう。

 

「アンタ、名前は?」

 

「…はっ!『逆理の裁者』ベルペオルです。」

 

「そう、ベルペオル。状況は?」

 

「御身が『天壌の劫火』を退けた後、その勝利の気勢のまま討滅の道具達に一当てして『とむらいの鐘』の残党を保護しました。しかし、名のあるものは最後の『九垓天秤』『巌凱(がんがい)』ウルリクムミとその副官のみです。その他は有象無象と言ってもいいでしょう。」

 

『天壌の劫火』って魔界?で向日葵畑を燃やしたから何十年も戦ったあの炎の魔神さんじゃないですか!

こっち来てたの?

っていうか、マイボディは私の意識がない内に暴れまわっていたのか!

相手の方はどうなったんでしょうか?

 

「…『天壌の劫火』は?」

 

「御身の鸚緑に染め上げられ、恐らくは紅世に戻ったと思われます。」

 

「そう。」

 

あっ!マイボディが勝手に表情を動かして嗤った。

何なんだろうこの感じ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

「此度の祝宴を開こうと思ってるのですが如何ですか?」

 

…よし!

試してみよう。

私はこう言おうと思い喋る。

 

(私の為にお祝いですか!ありがとうございます!)

  ↓

「雑魚共が私を褒め称える様はいいけれど、それで自分が強くなった気にでもなったのかしら。気分が悪いわね。潰そうかしら?」

 

いつもなら、このように変換され口に出てくるのだ。

よしっ!

意を決して試してみる。

 

「あら。それはいいけれど、招く相手は選びなさいよ。」

 

おおぉぉぉー!

 

マイボディが!

 

()()()()()()

 

私が意識を失ってる間に改心したのか?

あっ、あの魔神『天罰神』とか言ってたし説教されてマイボディは大人しくなったのか?

いや、その程度であの加虐嗜好(ドS)は治らないだろう。

 

謎が謎を呼び私が考えている間に話は進んだようで、蛇さんの部下3人の他には6人来ることになったようだ。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

会場は部屋の外の庭で行われた。

庭と言っても大きく、山一個分くらいはある広さだ。

そこには様々な料理が並べられ、華美ではないが豪華な食事と高価そうなお酒が並べられていた。

 

そして、一番の上座。

所謂お誕生日席へとベルペオルさんに連れられた。

 

「ここにどうぞお座りください。他の者たちは祝杯をあげた後あいさつに回らせます。」

 

「分かったわ。くれぐれも分かってるわよね。」

 

マイルドになったとはいえマイボディは不機嫌なことされると勝手に動き出すからね。と念押ししとく。

 

「はっ!」

 

そして、私の右側の列の席に座り、盃を掲げ音頭を取る。

 

「此度の戦。誠にご苦労だった。

 

 とむらいの鐘は残念だったが、新しく加入した面々も今日は気を遣わずに祝おうではないか!

 

 今宵、この場にいることこそが後の世に語られる誉れだ。

 

 現世(うつしよ)にて新たに刻まれた神話の立会人として!

 

 『血染花』に!」

 

 『『『乾杯!』』』

 

 

こうして宴は始められた。

 

 

まずはベルペオルさんが白い巫女装束のようなものを着た青髪の少女と冴えない中年とハットとマントが浮かんだ不思議な生き物を連れてきた。

 

「此度の風見殿の活躍の―――。」

 

ベルペオルさんがお祝いの言葉を言ってくれてるが長くなりそうなので遮ってご紹介だけにしてもらおう。

 

「聞き飽きたわ。紹介だけして頂戴。」

 

あっ!ほら!

口調はきついがだいぶマイルドになった。

マイボディの一言一言に、幾千年の時をかけて進歩したことを実感し感動していると紹介が始まる。

 

「では、『(いただき)(くら)』ヘカテー、『嵐蹄(らんてい)』フェコルー 、『千征令(せんせいれい)』オルゴンになります。」

 

「蛇さんの部下以外興味ないわね。次。(青色の髪の子は蛇さんの部下ですよね。他の方も覚えました!)」

 

次は黒い鎧を着た男性が同じく黒色の服を着た男性と、燕尾服を身に纏った壮年の紳士の男性陣がきた。

黒い鎧を着た男性が代表して挨拶するようだ。

 

千変(せんぺん)シュドナイです。他の者は『獰暴(どうぼう)(くら)』オロバス 、『翠翔(すいしょう)』ストラス です。」

 

()()()は憶えてるわ。二回、こっちに来た時と蛇さんが封印されたときに会ってたわね。(えーっと。二回目に蛇さんと会った時と前のパーティーで会いましたよね。)」

 

「はっ、憶えていただいていたとは思いませんでした。」

 

「えぇ、だって()()()()()()()()()()()()()()()()。今度、遊んであげようかしら?(あっ!ヤバい。マイボディが!勝手にー!)」

 

「いえ、この身は盟主と我が巫女を守るためにあります。ご容赦を。」

 

「冗談よ。祝いの席でそんなことはしないわ。(嘘です嘘です!)」

 

そんなマイボディの冗談?で一瞬焦ったが鸚緑の極光ぶっぱも無く無事にあいさつを終えて席へと戻ってきました。

さぁ、残るは二人。

しかし、その二人に私とマイボディは激しく反応しているのだ。

ずっと気にしないようにしていたが、まるで小さな山のように大きな頭部のない胴体部分に白い染料で描かれた双頭の鳥鉄が描かれた巨人の姿とそれに寄り添う、花弁の真ん中に女性の顔がある妖花の番になった。

そう、この子お花なんだ。

ヤバい。

欲しい。

これが私とマイボディの総意見だった。

頭部のない鉄の巨人が代表して挨拶する。

 

『『血染花』殿おおぉぉー!

 此度の武功、誠にお見事であるううぅぅ。

 討滅された我が主『棺の織手』の仇討ちぃぃー!

 感謝するううぅぅ。

 我は『巌凱(がんがい)』ウルリクムミぃぃー。

 こ奴は副官のおおぉぉー!

 『架綻(かたん)(ひら)』アルラウネぇぇー。

 この宴にお招きいただくのはああぁぁー!

 終生の名誉であるぅぅー。』

 

ウルリクムミがとてつもない大声で紹介する。

正直、うるさ過ぎるがマイボディは違うことに気を取られているので上空に飛ぶ。

そして、鉄の巨人に寄り添うように、その胸元にいるアルラウネに向き直り、その花弁を優しくなでる。

 

「私を如何様に?」

 

「別に。私は花が好きなのよ。

 ベルペオル!」

 

マイボディと私の意識がシンクロしベルペオルさんに我儘を言う。

 

「はっ!何なりと。」

 

 

「この二人貰ってくわ。」

 

 

「ご随意に。」

 

 

そうして、2人の部下をGETし宴はお開きになった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

多くのご反響いただき作者は驚愕しております。
メインは『英雄と敵の二重生活』のスタンスで執筆をしておりますので、この作品を通じて作者のことが気になった方は見ていただけると嬉しいです。
そちらは多くの秘密、伏線を抱えながら物語が進んでいくので読み進めていくうちに話がドンドン加速していく様は少しばかりの自信があります。
本日同時更新なので是非。

前話の言葉の意味、空中で何が行われたか速攻で回収していくスタイル。
しばらくはマイルドゆうかりんとその部下や、お花にまつわるエピソード(4.6.7話の様な)の予定。

時系列は前話の翌日。
喪ったものに気づき。
個で完結していた『私』は他者を受け入れる(容認する)話。

今後も拙作をよろしくお願いします。


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花咲く城郭

 
妖花は咲き。

夜天の要塞に花開く。

そんなお話。



夜天に星空が煌めかんばかりに咲く『星黎殿』では、ここ最近新たな客人を迎えて普段とは違った喧噪を醸し出している。

『とむらいの鐘』の敗残兵を収容した区画では、ある者は猛り、ある者は嘆き悲しみ、ある者は現実を受け止めきれずに放心していた。皆、今は亡き主『棺の織手』アシズとの夢想に狂奔していた思い出をしまい込み、抱えている。

 

逸る者には『仮装舞踏会』の『巡回士(ヴァンデラー)』、いわゆる戦闘員が交流と称しその悪血を抜いていた。その場では無名だった象ほどの巨体を持つ三本角の甲虫の徒が大活躍して、見事に場を収め『将軍』の目に留まったとか……。

 

それはともかくとして、敗軍の将たる『とむらいの鐘』最後の『九垓天秤』ウルリクムミとその副官アルラウネはというと……。

 

城郭の広場で二人っきりの特訓(デート)をしていた。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

『うおぉぉぉー!!!

 何たる恥曝しだぁぁぁ!

 この我があぁぁぁ!

 人化の術すらまともにできなんだとわあぁぁ!』

 

「お静かに。擬態は繊細な自在法です。」

 

『分かっておるわあぁぁぁー!』

 

山のように大きな門の姿をした白い染料で描かれた双頭の鳥鉄が描かれた巨人は、胸元で咲く妖花に向かって自身の不出来の苛立ちを口にする。

そう、ウルリクムミは人化の自在法に苦戦していた。

そもそもの事の発端は、新たな身元引受人となっている風見幽香がなんとなしに宴の終わりに言った一言が原因である。

 

「巨人さん、アナタ大きすぎて邪魔よ。人型くらいの大きさになりなさい。」

 

命の恩人のこの発言である。

当の本人は忘れて、『星黎殿』の庭いじりをしているというのに、義に篤い彼は真摯に受け止め苦手な細かい自在法を習得しようとしていた。そこに目を付けた自在師たる妖花アルラウネが二人きりになり自在法の手ほどきをしていた。

 

人化の自在法は術者によって向き不向きのある自在法ではある。自分の本質からやや離れた姿を維持するのは基本的に難しく、無理にその不自然を通せば、それ相応の存在の力を消費してしまう。ウルリクムミの本質は鉄の巨人であり、得意とする自在法『ネサの鉄槌』は鉄の竜巻を操るという繊細とはかけ離れた大味な自在法な為、本質から遠く離れた人の形を真似るのに悪戦苦闘している。

 

そもそもがこの時代、中世の徒の間では人化の自在法はまだまだ認知されておらず、人間好きな極一部の徒を除いて大多数が本性をそのまま表現した姿で顕現していた。

龍種のような姿、天使や悪魔のような姿、爬虫類とも魚類とも取れる姿、不定形で粘着質な流体の姿など千差万別、各々が思い思いの姿を象っている。

その中では比較的人型に近かったアルラウネは容易に人型になれたが、顕現したありのままの姿が山と見間違えるほどの巨体であるウルリクムミが、普段の大出力の自在法と勝手が違う繊細な人化の自在法に手間取るのはある種当たり前だと言える。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

閑話休題

 

妖花は期せずしてお目当ての二人っきりの特訓(デート)に臨んでいる。

彼女としては彼のそのおおらかさに、不器用さに感謝していた。

不器用な彼が人化の自在法を習得するのにはあと数か月ほどは必要だろう。

 

そしてそもそもの原因の『彼女』はというと、()()()()をしていた。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

「このお城、()()()()()。」

 

蛇さんの部下、もといベルペオルさんたちの住んでいるこのお城は要塞のようで、防衛機能と居住空間しか無くてどこまでも機能的な遊びの一切ない実戦的で合理的であるが故の()()()()()()()()が夜天に広がるのみであった。

このお城の設計者たちの職人魂が見ているだけでも感じ取れる。

 

しかし、このお城には決定的に足りないものがある。

 

そう、花だ。

 

手始めに一番偉いだろうベルペオルさんに許可を貰って、このお城の雰囲気に合わせて城壁に絡むようにクライミングローズを植えてみた。その下には四季折々の花が咲くように工夫してヒヤシンス、ハイビスカス、サフラン、アネモネなど様々にお互いがケンカをしないように私だからこそわかる絶妙なバランスで彼女たちを配置した。

 

幸い、このガーデニングの期間を利用して急遽私が預かることになった2人が人に紛れる特訓をするということなので時間は目一杯ある。徐々に徐々に庭園の区画を広げていって時間の許す限り庭いじりに精を出す。

 

一定の秩序を以て魔法のように動く体とは別に思考は()について考え始める。

 

これまではこの『風見幽香』の身体、通称マイボディは私の意思を汲み取りつつも、私のイメージや意味記憶に残されていた加虐嗜好(ドS)で人の神経を逆撫でするのが好きで群れることは全くせず孤高で唯一花にのみ笑顔を見せるような『風見幽香』の立ち振る舞いに変換されて行動をしてきた。時には全く私の意思とは逆に『風見幽香』ならば()()()()()()()()()()()()()を無理やりにしてきたこともある。

 

これは幾千年もマイボディと過ごしてきたから自ずと琴線も分かる。どんな行動が私の意思を汲み取ってくれて、どんな行動をされると意識とは別に勝手に動き出すのか。前者は主に他愛もない雑談や、お花の世話などが挙げられる。後者は主に挑発的な態度を取られたときや、花を無碍に扱った輩の制裁などが挙げられる。

 

このお城に来る前から多少の語調の変化はあるものの概ね私の伝えたい意思を言葉に出来ている。これも幾千年もの間のうちに出来たマイボディと私の絆だと思う。この変化はこのお城に来てからより顕著になっている。

ただ、あまりにも無様な様相を晒そうとするとブレーキがかかったかのようにストップが入る。

 

うん……待てよ?

 

今まであまりにも自然に考えすぎていたが前提条件がそもそもおかしいぞ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そもそもが人間の身体は脳からの電気信号によって体を動かす。その電気信号こそが『意思』と呼ばれるものでそこに意識外の他者からの介入の余地はないはずだ。

もっとも、『妖怪』であるマイボディに人間と同じような身体構造があるのかは甚だ疑問ではあるが。

 

そうだ。

 

考えてみると可笑しい。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()

 

私の記憶では妖怪というものは、他の妖怪を喰らって妖力を奪ったり、人々からの恐怖を信仰のようにして畏れとして力にしていた。

幾ら妖怪と言えど突発的にこれほどまでに強大な妖力を持った存在が何の過程も経ずに出現するのだろうか。

生物や妖怪も紆余曲折を経てその存在を定型していくものである。

 

私の意識が覚醒するまでマイボディをマイボディたらしめたのは誰だ?

 

私はずっと勘違いをしていたのかもしれない。

 

私は『私』だけじゃ……。

 

だとしたら、私は……。

 

 

 

「あの!!!」

 

 

 

グルグルとした思考を押しとどめるように大きな声によって考え事から意識が離れる。

声の元へと視線を投げるとそこには悪魔のような翼を生やした冴えない中年がおずおずとした様子でこちらを窺っていた。

 

「なによ?」

 

思考が中断されたことにより思わず不機嫌な声がもれてしまう。

冴えない中年はそれでも退くことなく、言葉を続ける。

 

「私は先の宴でもご紹介に与りました『嵐蹄(らんてい)』フェコルーと申します。この星黎殿の守護を任されているものです。要塞の管理なども兼任しているので、この度の『血染花』殿の美化作業で私めも何かお手伝いできることは無いでしょうか?」

 

恐る恐る言葉をつなげる彼、フェコルーの言葉からは善意しか感じない。

 

しかし、これは幸いだ。

 

花たちも協力してくれていたが一人での作業に限界を感じていたところだ。

ゆくゆくは何区画かに分かれた砦の内、一つ位は花で埋められればなと計画していたのだ。

妖怪という睡眠を必要としない一日働かせても大丈夫な人手が一つ増えるだけで大分現実的な計画になるだろう。

手始めに私が拾った2人が特訓をしている周辺の砦を花で一杯にしよう。

 

考え事を止めて楽しい計画を考え始める。

あぁ、その前に彼に一つだけ言っておこう。

 

 

 

「あら?私、お花に関しては厳しいわよ?」

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

数か月後、風見幽香は薄桃色のドレスを纏った妖艶な女性と黒い燕尾服に身を包みひげを蓄えた熟年の執事姿の紳士を引き連れ、星黎殿を去ろうとしていた。

 

その見送りに三柱臣(トリニティ)やフェコルーが姿を現す。

 

いつものようにベルペオルが言葉を切り出す。

 

「風見殿に城一面に花を添えて頂ければと思っていたのに、まったくもってままならぬものです。して、お次はどちらにまいられるので?」

 

あからさまに落胆の言葉を並べるベルペオルに風見幽香がそっと蠱惑的な笑みを持って答える。

 

「そうね。極東に拠点を置こうと考えているわ。ここでお花の世話をして思ったのよ。季節折々の花を訪ねるのもいいけれど、自分で思うように花を植えて会話していくのも楽しいものだってね。」

 

「わざわざ、極東ですか?」

 

「近く、大きな動きがあるわ。そのついでに蛇さんのことも探してあげるわ。(そろそろ、博麗結界ができるので幻想郷に行かなきゃいけません。そこで蛇さんの封印についても調べてきます!)」

 

それだけ言い残すと風見幽香はふわりと空へ浮かび夜天に向かい日傘を伸ばして鸚緑の極光を夜天に向かって放つ。

極光が過ぎ去った先では夜天が円形に崩れそこからは明るい陽射しがさんさんと夜の城郭に降り注ぐ。

そして、その日の光へと向かって風見幽香が飛んでいくのに追従して侍従の2人も付き従っていく。

 

夜天と陽射の狭間で突然、3人が止まったかと思うと薄桃色の球体が見送りに来ていた4人に向かって飛んできて4人が受け取ったのを確認した後、今度こそ風見幽香一行は飛び去って行った。

薄桃色の球体を受け止めたフェコルーが伺いを立てるように三柱臣(トリニティ)へと質問する。

 

「大きな動きとは何でしょうね?それと、この球体も。」

 

「そうさね。私にもさっぱりだよ。大きな力を持つ方たちの思考はさっぱり読めん。まったくもってままならぬものだねぇ。」

 

皮肉交じりに返事をするベルペオルの言葉が終わると同時に薄桃色の球体から音声が流れだす。

 

『あぁ、言い忘れてたわ。()()()()()。お城の子たちの世話は任せたわよ。次にここに来たときは()()()()()()()。』

 

それだけ伝え終えると薄桃色の球体はポンッと軽い音を立てて弾け飛び、妖花を連想させる薄桃色のアマリリスの花弁が周囲へとふわふわと弾ける。

その様子にベルペオルが堪えきれなくなり笑い声をもらす。

 

「くっくっく。期待してるだとさ。これはとんだ重責だねぇ?」

 

「多大なる責務、全うしてみせます。」

 

揶揄うようなベルペオルの言葉に、先ほどまでとは打って変わり整然とした態度でフェコルーは1人の庭師として答える。

 

 

 

この日より、星黎殿ではどんなに凶暴な巡回士(ヴァンデラー)でも決して暴れることの無い区画が出来た。

 

 

 

一面の花々を、守護者たる中年が世話をしているその区画を。

 

 

 

仮装舞踏会(バル・マスケ)では畏怖と敬意を持って。

 

 

 

()()が立てた看板に従いこう呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

『ゆうかりんランド』と。

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

久しぶりの投稿になって申し訳ございません。
GW中の時間を使って描いていた拙作なのですが、メインと同じくらいのご評価をいただいて感謝しかございません。

不器用な巨人さん。
巨人さんが大好きな妖花。
『彼女』は何に気づいたのでしょう。

今後も拙作をよろしくお願いします。




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13枚目のひまわり

 
失意の底で見つけたパライソ。

その輝きに魅入る。

そんなお話。
 


 

燃えるような夕焼け

 

草木を揺らす風の音

 

一面の黄金(こがね)

 

そこに佇む女性

 

幾度もその理想を目指したが

 

その光景を超える一枚を描くことはできなかった。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

私の人生は挫折ばかりの人生でした。

 

私は1853年オランダ北部のズンデル村に牧師の子として生を受けました。しかし、寄宿学校を中退後、画商や教師など職を転々とするなかで、社会下層の人々を救おうと親がしていた牧師の道を目指しましたが私の生来の気質と合わずに結局挫折しました。

 

失意の中、27歳になった時に故郷の風景や貧しい農民の生活を描くことで絵画を取り扱う富裕層に社会下層の農民や町人を救済させようと試みました。

 

その為に、画商をしている弟テオを頼り芸術の都パリへと向かいます。

パリにいた時はパリで一世を風靡していた印象派の画家たちや、ジャポンの浮世絵に多大な影響を受け意欲的にそれらを私の作風に取り入れ様々な作品の制作に邁進します。しかしここでも生来の気性が災いし、周囲との確執を生み心身を病んでしまい、アルコールに依存して暴れ、弟のテオに半ば追い出されるような形で療養のため南仏アルルへ移住することを決意しました。

 

アルルは美しかった。目眩を感じるほどに。

 

一面のオリーブ畑にブドウ畑、ラベンダー畑にアイリスの花といったのどかな風景が広がる美しいアルピーユ山脈。水が美しいエメラルドと豊かな青の広がりを生み出していました。ここ南フランスは私にとって本当に天国のような場所でした。パリに居た時にジャポンの浮世絵で見たような世界そのものだったのです。

 

私はこの美しさをパリで知り合った画家仲間たちに共有しようと勇み手紙をしたため、芸術家のコロニーを作ることを夢見ました。

 

しかし、このコロニー「黄色い家」へ実際に来てくれたのはポールだけだった。そのポールとも事あるごとに衝突を起こしてしまい、思わず喧嘩別れをするかのように絵具を一式持って家を飛び出て、陽の照らされる街中をその喧騒から流れるようにして様々な自然が彩る畑の中を夢遊病者のようにさ迷う。

 

ブドウ畑では熟れ始めた収穫時期が早いものを農夫たちがいそいそと腰に下げている籠に納めて行くのが見える。土や草木のありのままの匂いが香ばしく私の五感を刺激する。何か絵の題材になるようなものはないかなとブドウ畑を臨みながらあぜ道を当てもなく歩き続ける。

 

家を飛び出してすぐに戻るのはバツが悪い。またポールに嫌味を言われるのも嫌なのでお互いの苛立ちが落ち着くまで、日暮れごろに帰ろうと思っていると、視界は急に薄暗く色を無くしていき、はたと気づいた時には滝にでも打たれたか、氷嚢でも打ち破ったかと思われるような狂的な夕立に遭った。

 

この時期の天候は変わりやすいもので、教師をしていた時期も子供達を急いで校舎に入れたものだなと物思いにふけりながらあぜ道を外れ、画材が濡れないようにブドウの木の下で雨宿りをする。

 

幸いにして、この雨は通り雨のようですぐに止み、あぜ道に大きな水溜りを残して、不吉な色をした薄暗い雨雲は町の方へ行ってしまった。遠くでその音がしている。ポールも今頃苦労をしているだろう。彼が雨雲に気づき洗濯物をしまいこんでいることを祈るのみだ。

 

遠くに見える雨雲を尻目に、その過ぎ去った跡ではまだ明るい夕日に大きな七色のアーチが優しく輝いていた。

 

そういえば、小さな頃母が「虹の下には信じられないお宝が眠っているのよ。」と冗談交じりに教えてくれた。この歳になってそんなことはあり得ないと知りつつもその優しいウソを信じてみようと不思議に思いながらも足取りは軽く、春に浮かれる蝶のように虹へと惹かれていった。

 

 

 


 

 

 

まず、目に付いたのは一面を照らす黄金の輝きだった。

 

その美しさは瞼を閉じても感じる存在感を私の網膜へと焼き付けて止みませんでした。

 

惚ける様にその光景を眺めていたら、いつのまにか視界には身なりのしゃんとした二人の侍従を連れた、一際見た目麗しい令嬢がその黄金の輝き、向日葵畑にある一輪を愛でていました。

 

 

夕立の後の燃える様な夕焼け。

 

女性の姿を際立たせる向日葵。

 

この光景を祝福するかの様な草木の声。

 

嫋やかに向日葵に差し出される女性の掌。

 

 

その全てが私の視覚を、聴覚を、意識を、離してくれませんでした。

思わず、画材を引っさげて3人組へと声をかけました。

 

「…あのっ!!!」

 

上ずった声帯が裏返ったような自分でも不審に思う声が向日葵畑に虚しく響き、二人の侍従が私からご令嬢を守るかの様に私の方に進もうとしてきましたが、ご令嬢がその動きを手で制して私へと視線を向けなおしました。

 

近くで見るご令嬢の容貌はこの向日葵にも似た雰囲気を持ち、植物の様に色鮮やかな緑のくせ毛を、切れ長の大きな紅い瞳が変わらずに私を見竦めていました。

 

上気した私の気持ちは逸るばかりで、なんの挨拶も無しに不躾に、己が欲望を言葉にぶちまけていました。

 

「貴方の絵を描かせて貰ってもよろしいでしょうか?」

 

段々と尻すぼみに勢いを無くしていく私の声をご令嬢は面白く思ったのか、眉尻を少し下げてクスリと笑いその表情のままゆっくりと冗談交じりに返答してくれました。

 

「あら?ちゃんと綺麗に描かなきゃ首を刎ねるわよ?」

 

挑発をする様な言葉とその笑みに一瞬だけ見惚れてしまいましたが、日は少しずつ傾きこの景色を変えていくものですから返事もしたか分からぬほどに足早に画材を広げ、私はもういなくなったかのように意識を外してゆっくりと花を愛でている彼女の姿と後ろに控える侍従、一面に広がる向日葵畑と辺りを照らす夕焼けをスケッチしていきます。

 

幸か不幸か、私は筆が早い方で、日が陰り始めた頃には大体のモチーフのスケッチが終わり、残りは油絵具を使い色をつけていくのみとなった。そこで私は筆を一旦置き、ご令嬢と侍従へと声をかけます。

 

「ありがとうございました。私も満足のいく絵が描けそうです。辺りを見れば、もう日が沈みます。夜道は危ないのでもうお帰りになって下さい。」

 

そう私が心配の声をかけると、少しご令嬢は考え込む様子を見せて指をパチリと鳴らして私に視線を向けます。

 

「今、全部描いて頂戴。暗いと言うのならばアルラウネが照らすわ。」

 

そう言うのと同時に侍従の一人、女性の方がランプを取り出したのか辺りが一気に炎に包まれたかの様に薄い白桃の様な色で照らされたのです。そして、ご令嬢は顎で私に続きを描く様に促します。

 

私の腕は神が宿ったかの様に意識が追いついていかぬままに描いたスケッチに命を吹き込むかの様に色を、焼け付く様な夕焼け色を、鮮やかな向日葵の色を、そして、その中に一際輝く女性の姿を絵具を厚く塗り重ねて生み出していくのです。

 

全ての工程が終わり、冷静になって周囲を見回すと夜の帳はすっかり下りており、特有の蒼く冷えた甘い空気が照らされた私たちの周りを包み込んでいました。

 

しかし、初めて見た時から変わらずに向日葵を愛でているご令嬢と二人の侍従は私の視界にいました。そして、私が顔を上げたのに気づいたのかご令嬢が歩み寄って、私の背後に回り、品定めするかの様に私の描いたものを見ます。ご令嬢が背後に回った時、まるでナイフを背中に突き立てられたかの様な妙な圧迫感がありましたが、その時の私はすっかりご令嬢の次の一言だけが気になっていて気が気でありませんでした。

 

暫しの静寂の後、私の肩にゆっくりとした重みが伝わりました。視界の隅では絹の様に滑らかな白い指が私の肩へと置かれていることが見えます。

 

 

 

「いいじゃない。この絵頂いていくわ。」

 

 

 


 

 

 

次に気がついた時には、ちょうど雨宿りをしていたブドウ畑の木の下で横になっていました。画材はしっかりと持っており、どこにも荒らされた形跡もありません。

 

あの情景、出来事は私の夢だったのでしょうか。

 

それを確かめるすべはありません。

 

しかし、()()()()()()()()()()を見てご令嬢があの絵を持っていることを信じるのみです。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

南向き傾斜のすり鉢状の草原。

 

そこにある一面の向日葵畑。

 

小高い丘の上にコテージの様な小さな家がポツリと建っている。

 

家の中では、小さな茶会が開かれている様だ。

 

机の上には様々な洋菓子。

 

香りの高い紅茶。

 

それらを嗜む女性の視線の先。

 

そこには壁に掛けられた夕焼けに染まる向日葵畑に佇む自身と侍従の姿が描かれた絵画が飾ってあった。

 

 

 

「ふふふ。家の中にも向日葵が咲いているのは気持ちいいわね。」

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

ひまわりと言えば『彼』。
『彼』は活動時期と作品数から1日1枚以上のペースで作品を書き続けたという話もあるそうです。

時系列は19世紀。
モチーフは向日葵。
季節を関係なく咲く向日葵畑。

今後も拙作をよろしくお願いします。


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誤解、曲解、理解。


禁忌の知識は謬りを生み。

愚者は世界を知り、向き合う。

そんなお話。


時は明治。

 

日いずる国、日本が文明開化を成し長い近代化の道程へと進み始めた時代。上流階級の華族や一部士族がハイカラを好み始め、古い日本家屋と西洋の新しい風を受け入れた物珍しい建物が入り乱れ、運河に沿って、石造りの倉庫群や歴史的建造物などが点在し夕暮れ時にはガス燈の火が灯りはじめて、空にあわく夕陽が残っている光景は、なんともいえない趣があり、ロマンチックな雰囲気をかもしだしている。

 

いそいそと入り乱れる町人たちの動きのように時代は急変を迎え、先の内乱の傷痕を埋めるかのように地図は入れ替わっていく。

その激動の休止期間かのようにここ1、2年は先までの混乱が嘘のように平穏が街並みを包み込んでいる。

 

そんな折、一般人にはあずかり知らぬ、紅世に関わる者たちにも新たな風が流れようとしていた。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

「……おかしいわね。」

 

芝生に咲く花々のお世話をしながらこの不測の事態にどうしたものかと思わず声がもれてしまう。

私が移住を決めた花に囲まれた小高い丘の上にポツリと建っているコテージの様な小さな家の周りでは芝生の花壇で尾籠なほど生の色の赤い花、黄の花、紺の花、赭の花が花弁を犬の口のように開いて、戯れ、噛み合っている。

私のつぶやきに一緒にお花の世話をしていたアルラウネが疑問を投げかける。

 

「如何に?」

 

彼女はいつも独特な短い文言を疑問形で語りかけてくる。時々、会話が通じていないのか分からなくなる時があるが、彼女は意外と空気を読むことが上手なのでマイボディが不機嫌にならないよう気を使って言い直してくれる。

 

それはともかく、私が感じているこの疑問は私の知識によるものなのでうまく伝えられない。

 

博麗大結界の成立は明治の中ほどとされていたことを記憶していた。しかし、極東こと日本に移住してきて早二百年、いくら探してもその結界の発生を感じられず、結界の綻びや入口といったものが日本で見つけられないのである。信州を中心に結界の予兆を掴みに行ったり、日本各地の怪談で知られる名所を巡って所謂「東方project」の原作キャラたちに接触しようとしても誰にも遭遇したことが無かったのである。

幻想郷へ行き、蛇さんの封印を解くよう名だたる妖怪たちに助力を得ようとしていた私の完璧な計画が見事に出ばなでくじかれてしまっている。

 

そんな私の懸念をよそにアルラウネはまだ私を窺っているのでぼやーっと概要だけ伝えることにした。

 

「いやね。なにか予感を感じて極東まで移住したはいいものの何の便りもないからどうしたものかと思っててね。」

 

「焦燥ですか?」

 

「そんなものじゃないわ。蛇さんの封印を解くための手がかりは気長に探しているもの。何かが起こるはずだったんだけどねぇ。」

 

「諦観?」

 

「それに近いわね。当てが外れてザンネンってとこかしら。」

 

そんな雑談をアルラウネとしていると

 

 

 

突如、()()()()()()

 

 

 

『―――   ―――』

 

 

 

この現象に3度目のデジャヴを感じて思わず身構えるも、先のように急に意識が途絶えることは無く、代わりに脳内に直接響くような回避のできない声が聞こえる。

 

嘯飛吟声(しょうひぎんせい)

 

それは、声の気配。

唆し誑かす言葉だけで物事の本質さえ変えうるため多くの徒に忌み嫌われる紅世の導きの神『(かく)嘨吟(しょうぎん)』シャヘルの神威召喚が世界の何処かで行われていた。

その権能は新たなるものを見つけたときに、それを全ての徒に(強制的に)知らせるものである。祭礼の蛇、曰く「珍しがり」だそうだ。

例にもれず、『風見幽香』にもその女性のような柔らかで厳かな声が響き渡る。

その声は波紋のようにゆっくりと世界へと伝播する。

 

『―――新たな術が成就した―――』

 

『―――それ、偉大なりし―――』

 

『―――世を変えうる 新たなる理―――』

 

『―――導きの神『(かく)嘨吟(しょうぎん)』の名において之を伝える―――』

 

『―――成したるは 螺旋(らせん)風琴(ふうきん)―――』

 

『―――持ちうるその叡智により―――』

 

『―――因果を世界の流れから切り離し―――』

 

『―――因果を繋げ その術により補綴(ほてい)する―――』

 

『―――その名を『封絶』―――』

 

『―――()てよ―――』

 

『―――新たな術を ()てよ―――』

 

世界中の紅世の徒、並びにフレイムヘイズへと向けられた新たな神託を自ら思いのままに言うだけ言って、導きの神はその言葉の波が水面のように落ち着くと同時に世界から姿を消した。

 

 

 

しばしの傍観を経てアルラウネが幽香へと尋ねる。

 

「予感はこれで?」

 

「いや、違うかも知れないし、そうかも知れないわ。」

 

そう、あの声の内容は簡単にまとめると新しい術が生まれたからみんな使ってねという物であった。これが博麗大結界の先触れなのかどうなのかは分からない。この術を使って八雲紫が博麗大結界を生み出すのかもしれないし、はたまた彼女独自の術で成し遂げるのかも私には分からないのだ。

 

うん、一人で考えても分からないから情報通そうな()()を頼ろう。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

アルラウネとウルリクムミを伴って彼女から貰った鉄の輪っかを腕力に任せて握りつぶすとドーム状の空間に出た。粗く削られた岩塊に擂鉢状の階段があり、中心には大竈があってそこには目的の人物と庭園仲間がいた。

 

「おや?お早い再会で。ご用件は此度の神託の事ですか?」

 

「話が早いわね。」

 

大竈の方へと歩みを進めてその淵に座り、聞きの態勢に入る。アルラウネとウルリクムミは動かず立ったままで聞くようだ。

そして、ベルペオルさんは指をパチンと鳴らして世界を金色のドームで囲まれたものに変化させた。

 

「体験しながら説明させていただきましょう。」

 

「先の導きの神の神託で述べられた『封絶』という物は簡単な自在法です。」

 

「存在の力を注いでドーム状に壁を張って因果を外部と断絶し、壁の内部は外部の人間の意識からも「なかったこと」になり、内部を観察したり進入したりすることはおろか、思い出したり、存在に気付くことさえもできなくなるのです。」

 

「さらに、内部で破壊や変化が生じた場合は、外部の因果と繋げるようにして封絶の影響下にあった物体を生物も含めて修復することができます。」

 

「修復されたある程度の存在の力を持った生物はやがて存在の力が消えると共にこの世から消失します。」

 

「例えば、封絶を張った状態でこの床を破壊します。そして、封絶を解くと同時にほんの少しの存在の力を与えると何事もなかったかのように修復されるのです。」

 

そう言いながら、ベルペオルさんは鎖を床に打ち付けて破壊すると共に『封絶』を解く。すると、金色のドームが無くなったと同時に、破壊されたはずの床が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

その様子に思わず呆けて言葉がこぼれてしまう。

 

「あら、魔法みたいね。」

 

私の言葉がツボに入ったらしくベルぺオルさんがくっくっくと小さく笑う。

 

「これはこれは御身でも、異なことを仰るのですね。魔法などこの世にはありません。これは自在法ですよ。」

 

「……アナタ達が使う「存在の力」は妖力、魔力、神力……巫力などと呼ばれるものではないの?」

 

私の知識、「東方project」では妖怪が扱う力を妖力、魔法使いが使う力を魔力、神や神仏が使う力を神力、神力を卸す巫女の力を巫力と言っていたはずだ。私はこの摩訶不思議な力たちを広義で妖たちが「存在の力」と呼んでいるのだと思っていた。

少し考えて、ベルペオルさんは口元に手を当てながら言葉を絞り出す。

 

「ふむ、それらは人間から見た我ら、紅世の徒やフレイムヘイズの扱う力の総称ですね。」

 

雲行きが怪しい。

私はもしかしたら思い違いをしていたのかもしれない。

この世界には()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()

おもわず、頭に手を当ててベルペオルさんに再度確認を取るように聞く。

 

「……なら、この世界にいる妖は紅世の徒で、魔法使いや退魔師、巫女はフレイムヘイズだと言うの?」

 

「えぇ。そのはずですが……、例外的にミステスという宝具を宿した人間もいますが大概はその二種に分けられると思われます。」

 

勝手も分からない白痴の老人でも見たかのように狼狽を見せる私の姿を不審な目で見つつもベルペオルさんは私の確認をなぞる。その当たり前かのような言葉に私はこの世界が「東方project」とは関係のない世界であることを確信してしまった。

私の狼狽ぶりにアルラウネとウルリクムミ、フェコルーまでもが私を心配そうに見てくる。

 

しかし、私の心はそれどころではない。

 

ここが「東方project」でなければ

 

幻想郷が無ければ

 

私が蛇さんを助ける手立てが無くなってしまった。

 

自責と羞恥から頭に血が上っていくのが分かる。

これ以上この姿を見られたくはないと考えて思わず鸚緑の極光を天井に向かって放ち、眩く輝く夜天に飛び込んで庭園の花畑を目指す。

 

周囲のことなんて気にしてられるか!

 

こちとら、うん千年もの間、勝手に勘違いしてたんだからな!

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

風見幽香が飛び去っていった未だ石つぶてが崩れ落ちてくる天井を4人は見上げたまま、誰ともなく笑い出した。ひとしきり笑ったところでベルペオルが堪らず話題を切り出す。

 

「どうやら、かの『神殺し』にも思い違いはあるようだ。」

 

言い切った途端にまた笑いがこみ上げてきたのか声高に「はぁーはっは」と声を荒げる。その様子にフェコルーがすぐさまフォローを入れる。

 

「とはいえ、まるでサンタがいないことを知った子供のような様子でしたからね。私には少し気の毒に見えました。」

 

「なぁ、巌凱(がんがい)架綻(かたん)(ひら)?アンタたちはこんな愉快な姿をいつも見てるのかい?」

 

興味本位に普段の風見幽香の生活を問うベルペオルにウルリクムミは周囲に響く声色で断言する。

 

『我々もおぉぉぉー!

 あのようなお姿を見るのははじめてだあぁぁぁー!』

 

「箝口令を?」

 

「そうさね。あの様子では下手に揶揄すると討滅されかねん。私も大命成就前に果てたくはないからな。この4人だけの秘密といこうじゃないか?」

 

 

 

 

 

この後、しばらくは風見幽香はベルペオルのことを眼帯、フェコルーを加齢臭、ウルリクムミを山彦、アルラウネを七分咲きと呼んでまともに会話をしようとしなかったとか。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

時系列は明治。
大きな勘違いは恥を呼び。
暴君は拗ねました。

次話で原作へ突入します。
拙作は原作「灼眼のシャナ」の巻数にあやかり22話にて完結させていただきます。
どうかそれまでお付き合いいただけると嬉しいです。

今後も拙作をよろしくお願いします。


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彩飄と


失った愛を取り戻す者。

思い出の地で何に想いを馳せるか。

そんなお話。




天穹(てんきゅう)(まる)さを実感出来るほど遠く広がる青空の下、波を(ひだ)ほどに立てる静かな湖を挟んで、彼方に雲影を落とす低い山々、此方に白い岩肌を方々のぞかせた緑の丘が、在る。

柔らかな野風が周囲を包み、水と土と草の香りが、体中を満たしていくようだった。

そよぐ野風に乗って踊るのは草の端か辺り一面に咲き誇るチューリップの花弁か。

 

不思議なことに、空は白が欠片もない青一色だというのに、そよぐ野風に乗って一粒の水の雫が伝い落ちて緩やかな緑の斜面にゆっくりと染み込んでいく。

伝い落ちた先を見てみると、黄緑色の長髪と瞳をし、所々に布を巻いた、ツナギのような服を着ている華奢な美女が一人で緑の斜面に背を預けてポツリと座り込んでいた。

 

彼女は絶望のどん底にいた。

忌まわしき敵の姦計により、最愛の人と離れ離れになり、唯一の手がかりも無作為転移の時間を稼ぐために自らが敵と共に転移してしまったために行方知れずのままだ。

今、この瞬間も自在法『風の転輪』にて世界中を捜索しているが、それでも逸る気持ちや離れ離れになる悲しさは最愛の人以外何者にも拭うことができない。

 

周囲の美しい景色も、『彼』と訪れたあの瞬間には遠く及ばない。

『彼』と初めて飛んでやってきた場所。なのに、どうしてこんなにも色褪せて見えてしまうのだろう。

次の瞬間にでも、この滲む視界を『彼』が拭ってくれる気さえしてしまう。

 

しかし、現実には自分一人で嘆き悲しむばかりである。

 

「あら?こんなにもいい景色なのに水を差さないでもらえるかしら?」

 

無愛想というか、言葉が足りない泣いている人物にかけるにふさわしくない言葉が聞こえる。

自在法『風の転輪』によって周囲の空間を完全に把握していた彩飄(さいひょう)フィレスは全くあり得ない、まるで今この瞬間に現れた『彼女』の姿を見てさらに驚きを重ねるばかりだった。

 

『彼女』は自身の髪の色と似た緑色のくせ毛に、切れ長の赤い瞳、白のブラウス、襟元には黄色いリボン、赤いチェックの上着とスカート。

紅世に関わる者ならば知らぬ者がいないほどの超危険人物。

『血染花』風見幽香がゆったりと植物のように佇んでいた。

 

「……血染花。どうやって私の警戒を抜けた?」

 

「風に乗ってかしら?ほら、私って花が咲いているところを渡り歩いているから。」

 

冗談めかして笑うその姿にフィレスはわずかな苛立ちを感じて語気が強くなる。

 

「最強の紅世の王が何か用かしら?『殺し屋』の次は『無くし屋』に会うとはツイてないわね。」

 

その諦観の言葉とは裏腹に逃走用の自在法『ミストラル』の発動の準備をする。膨大な風が自身を包むように吹き荒れるが、それを一蹴、『風見幽香』はその日傘をただ純粋に腕力のみを以って振りぬいただけで、フィレスの存在の力が交じった風をかき消してしまったのだ。あまりのでたらめさに思わず悪態がもれる。

 

「…――ッ!?ッざっけんな!!!私はヨーハンに会うまでは!!!」

 

『風見幽香』は暴力的なまでのその脚力で地面を蹴り、一瞬姿が消えたかと思うと、次の瞬間にはズイっと顔と顔が触れ合うほどまでにフィレスに接近する。

そして、腕をゆっくりと顔の高さまで上げる。フィレスはその動作に死の予兆を感じ、思わず胴体を守る。

 

しかし、その手は嫋やかにフィレスの目尻から目がしらをゆっくりとなぞった。予想外の行動にフィレスが茫然としていると逆の瞳にも同じような動作で()()()()()()()

 

「そう、アナタはそれで泣いていたのね。」

 

まるでそこにフィレスの意識など関係ないと言わんばかりに『風見幽香』はただポツリポツリと言葉を続ける。

 

「チューリップが私を呼んだの。」

 

「『私たちはこんなにも楽しいのに一人だけ泣いている奴がいるんだ』ってね。」

 

「めんどくさいから適当に虐めて終わりにしようと思ってたけど、『彼女たち』がアナタに伝えたいんだって。」

 

そう言って、『風見幽香』は地面に降り立ち、暴風に耐えたチューリップ達から、赤色のソレと紫色のソレを一本ずつ手折りフィレスへと受け渡す。

 

「そういえば昔、()()()()()()()()()()()()使()()()がいたわ。」

 

「彼はダメだったみたいだけど、()()()()はどうかしらね?」

 

その言葉の意味をかみ砕くためにしばし茫然としていると、『風見幽香』は言いたいことだけ言って花に紛れて消えてしまった。

フィレスは彼女が言った『青い天使』のことを思い出す。フィレスも古くからの紅世の王である。史上最大の蛮行と言われる今なお語り継がれる中世の強大な王のことは知っている。

彼の王は莫大な存在の力を使い『両界の嗣子』を生み出そうとして、フレイムヘイズに討滅された哀れな王である。

 

 

 

その愚王と自分たちの共通点は………

 

 

 

緑の丘には先程と同じように女性が1人佇むばかりだが、顔色は打って変わって晴れ晴れとしたものに変わっており、その両手にはそれぞれ赤と紫のチューリップが添えられていた。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

物語も折り返しを迎えました。
原作突入するといいましたが、主人公陣営と接触するとは言っていない()。

それぞれのチューリップの花言葉は?
『彼女』は花を渡り歩きます。


今後も拙作をよろしくお願いします。


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治外法権の極東

侍女の説法。

物語の主役は敵を見据える。

そんなお話。
 
 


秋になると空気が澄み渡り、夜天には星が幾つも流れて行く。

 

夜の12時も近い坂井家を、いつのもの様に封絶が覆う。

桜色の炎をときに過らせる陽炎の中心で三人の人物が輪になっていた。

様子を見てみると、侍女の格好をした女性がまだ幼さの残る少年少女二人に対して講義を行っているようだった。

 

「坂井悠二、『炎髪灼眼の討ち手』。アナタたちはこの町が『闘争の渦』である可能性、並びに『零時迷子』を狙う()()()()()()()について再確認するべきであります。」

 

「危険周知。」

 

「『闘争の渦』?」

 

少年、坂井悠二が繰り返すように新たな単語にレスポンスを返す。

それを補足するように、『炎髪灼眼の討ち手』シャナが『闘争の渦』について説明する。

 

「御崎市ではフレイムヘイズと紅世の徒の衝突が短期間のうちに連続して起きている。かつての『大戦』でも似たようなことが起きてたってヴィルヘルミナが言ってた。」

 

「正解であります。御崎市は過去の『大戦』の前兆を見ているかのようであります。」

 

「異常頻度。」

 

そう言って、ヴィルヘルミナはかつて多々あった悲劇を思い眉を下げる。皆が不幸にならないようそれぞれが足掻くほどに運命の糸は複雑に絡み合い、その苦労を全く斟酌せずに嘲笑うかのような結果に終わったかつての『大戦』がまさに御崎市でも繰り返されようかとしていた。数を勘定するかのように白いリボンで作った人形を並べていく。

 

フレイムズヘイズ殺しにして、近代でも五指に入る強大な紅世の王『狩人(かりうど)』フリアグネ。

 

紅世の真正の神と契約したフレイムヘイズ『炎髪灼眼(えんぱつしゃくがん)()()』シャナ。

 

トーチ喰らいにして、最高峰の自在師『屍拾(しかばねひろ)い』ラミー。

 

フレイムヘイズきっての殺し屋『弔詞(ちょうし)()()』マージョリー・ドー。

 

己が享楽に狂った『愛染兄妹(あいぜんきょうだい)』ソラト、ティリエル。

 

兄妹に雇われ現れた『千変(せんぺん)』シュドナイ。

 

最古のフレイムヘイズの1人にして壊し屋で調律師な『儀装(ぎそう)()()』カムシン。

 

極めつけの変人、教授こと、『耽々求極(たんたんきゅうきゅう)』ダンタリオン。

 

そして、自身『万条(ばんじょう)仕手(して)』ヴィルヘルミナ・カルメル。

 

計10体の人形と()()()()()()()5()()場に出した。

この半年は劇的に過ぎていたが改めて列挙するとそうそうたる顔ぶれである。誰もが世に知られる強者、札付き、厄介者、兎も角滅茶苦茶な面子ばかりがずらずらと並び、最早ただの偶然で済ませることはできないことが明白である。

 

そして、今現在御崎市に残っていない者たちフリアグネ、ラミー、ソラト、ティリエル、シュドナイ、カムシン、ダンタリオンを指先で一つ一つ倒していく。

 

「半年にこれだけのフレイムヘイズと徒が極限られた地域で騒動を起こすのはあり得ないのであります。騒動の中心にはいつも『零時迷子』つまり坂井悠二というミステスが関わっているのであります。そして、この御崎市には現状3人ものフレイムヘイズがオマエの護衛にいるのであります。そして、昨晩の『()』の件もあります。」

 

「要警護者。」

 

黒塗りの人形のうちの1つがだんだんと坂井悠二の人形へと姿を変えていく。

そして、おずおずと自らも認めたくない事実を発する。

 

「理屈ではない流れ、波乱の因果が荒れ、激突に収束する恐るべき『時』の勢いがこの御崎市を中心に起こっているのであります。」

 

「可能性大。」

 

ティアマトーの冷静な言の葉の端にもありえない偶然の数々が避けられない激突を引き寄せる、そんな悪寒の色が見え隠れしていた。

そして、警戒を促すヴィルヘルミナにシャナが残りの黒塗りになった4体の人形を指さし、疑問を口にしていく。

 

「うん。ヴィルヘルミナが言いたいことも分かった。悠二や御崎市が中心になって更なる混乱、紅世の徒がやってくる危険性があるんだね。それで、残っている4体の人形はどういう意味なの?」

 

「あくまで、可能性の話でありますが、『零時迷子』、並びにこの()()という特異な地点で警戒しなければならない者たちであります。」

 

「警戒対象。」

 

黒塗りの人形の一つが黄緑色の長髪と瞳をし、所々に布を巻いた、ツナギのような服を着ている華奢な女性へと変わる。

報告書で確認した、今なお『零時迷子』を求めて世界中を自在法で探し回っている旧友、風が立ち巻くように現れるかもしれない彼女。

愛するヨーハンを求めて、何も知らぬまま、この『闘争の渦』に引き込まれるかもしれない彼女。

2年にもならない旅の同行者を警戒対象として告げる。

 

「『彩飄(さいひょう)』フィレス。約束の二人(エンゲージ・リンク)の片割れ。つまり、オマエの持っている宝具『零時迷子』の前任者のパートナーであった紅世の王であります。彼女は自在師で無いにもかかわらず、多数の自在法を操りかつては他の徒同様、存在の力を喰らいながらこの世で放埒を尽くしていた者であります。外界宿(アウトロー)からの報告で彼女の自在法『風の転輪』によるものと思われる探査が世界中で確認されているのであります。」

 

「目標捜索中。」

 

「つまり、また僕の『零時迷子』を求めてフリアグネのような強力な敵が現れるってことですね。」

 

「うん。それは私も危惧していた。失った形見を求めて約束の二人(エンゲージ・リンク)が悠二を襲いに来るかも知れないことも。でも、残りの3体の人形は何なの?ヴィルヘルミナ。」

 

迫り来る可能性が高い脅威を確認した後、シャナが残りの3つの人形について尋ねる。

シャナの疑問と共に人形が姿を変えていく。

1つは黄緑色がかったウェーブのかかった髪の毛、白のブラウス、襟元には黄色いリボン、赤いチェックの上着とスカートの女性に。

1つは鉄でできた扉のような頭部のない人型に。

1つは可憐な花の真ん中に女性の顔がはめ込まれたものに。

それぞれが変形していく。そして、その1つに覚えがあったのかシャナはわずかに眉間にしわを寄せ女性の姿を模った人形を睨む。

一層、張り詰めた空気を感じた坂井悠二がありのままの疑問を投げかける。

 

「この3体の人形は?」

 

「これはとある強大な紅世の王の3人組であります。ここ、極東が紅世の徒とフレイムヘイズにとってある種の治外法権になっているのはこの一派が極東を縄張りにしているからであります。」

 

「例外的措置。」

 

「悠二。私もヴィルヘルミナから教えてもらってたから『狩人(かりうど)』フリアグネがこの極東で自由に出来ていたことがずっと疑問だったの。ここ、極東は()()()()()()()。」

 

「えっ?『彼女』?」

 

そう言って坂井悠二は3つの人形で唯一人型を取っている女性を指さす。

それに対してティアマトーが短く返答をする。

 

「肯定。」

 

「であります。名を『血染花』風見幽香、曰く『原初の紅世の王(オリジン)』。その二つ名は数多くあり、『四季のフラワーマスター』、『神殺し』など多くの名が冠されており、古くからの紅世の王には当たり前の知識でありますが、彼女が願いさえしなければ紅世の徒はこちらの世界に渡り来ることは無かったとされているのであります。それでいて、現在まで討滅されることなく生存が確認されている最も古い紅世の王と言われております。」

 

「つまり、私たちフレイムヘイズの不倶戴天の仇ってこと。」

 

「えぇ?そんなに昔から暴れまわっているなら普通ならもう討滅されているはずじゃ?」

 

シャナやヴィルヘルミナに言われたことをそのままに受け止めて当たり前の疑問を口にする坂井悠二に対して、長く口を噤んでいたアラストールがようやく重い口を開いた。

 

『坂井悠二。お前はフリアグネの宝具に撃たれて我が顕現した時のことを憶えているか?』

 

「うん。熱くて、大きい、全てを包んで燃やしてしまう恐ろしさがあった。『火除けの結界』アズュールが無かったら僕なんて容易くこの世から消されてしまってたんだろうと思った。」

 

『ふむ、だが()()()()()()()()()()()()()。宝具で無理やりに顕現した我ではなく、正しく祝詞と供物をもってして顕現したお前が感じた脅威の数倍の我に対等に渡り合い、討ち滅ぼして見せたのだ。』

 

「えっ!?あの状態のアラストールに!?」

 

「…であります。さらに古来から数々の腕に憶えのある徒、フレイムヘイズから命を狙われ、そのことごとくを討ち果たしてきたのであります。」

 

「天下無双。」

 

「だから、そんな奴が拠点を置いている極東にはどんなフレイムヘイズも紅世の王も近寄らないって訳。分かった?」

 

「いや!でも、紅世の王なんでしょ?この国に住む僕たちはそいつらが食うための生贄だって言うのかよ!」

 

短期間で数々の放埓の限りを尽くしてきた紅世の王を目の当たりにしてきた坂井悠二が義憤から吠えるが、シャナがそれに対して冷静に答える。

 

「大丈夫。『血染花』の一派は食わず嫌いで有名なの。強大な力を持ちながら人を食べないから私たちフレイムヘイズも特例中の特例としてこの極東の支配権を許しているの。」

 

「付添人は判明しているだけでも2名『巌凱(がんがい)』ウルリクムミに『架綻(かたん)(ひら)』アルラウネ。どちらもかつての『大戦』を生き延びた将帥クラスの猛者であります。『血染花』には劣りますがいずれもフリアグネクラス以上であることは確実であります。」

 

「油断大敵。」

 

『だが、鸚緑色の炎を見たら是が非でも逃げろ。あやつは現世の者たちの手には余る。』

 

アラストールの断言にこの場にいる皆が一様に固まる。

そして、さらに重要なことをヴィルヘルミナがまとめる。

 

「更に、この御崎市に訪れた紅世の徒には『風見幽香』にも関わる共通項を持った者が2人ばかり交じっているのであります。」

 

「依然、仮説段階。」

 

そう言って『千変(せんぺん)』シュドナイ、『探耽求究(たんたんきゅうきゅう)』ダンタリオンの人形を風見幽香一派の3体に寄り添うように作り直す。

 

 

 

 

「坂井悠二。アナタの持つ宝具『零時迷子』はこの世にある最大級の紅世の徒の組織『仮装舞踏会(バルマスケ)』に狙われている可能性があるのであります。」

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

時系列は御崎高校清秋祭前。
フレイムヘイズ視点の極東情勢。
ヴィルヘルミナは優秀、ハッキリわかんだね。


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容れ物と中身。

旧友との再会。

『私』のすべきことは決まった。

少しだけ待ってて『■■■■』。

そんなお話。
 



世の空に人知れず浮かぶ『仮装舞踏会(バル・マスケ)』の本拠地、移動要塞『星黎殿』がとある地に数日停泊していた。泡状の隠匿の宝具『秘匿の聖室』によって内部に在る物、内部の人物の気配が隠匿されているとはいえ、これは世界中を飛び回り成員や徒を運んでいる『星黎殿』では常ならばあり得ない長さであった。

 

その『星黎殿』は常の回遊コースを離れ極東の島国に在った。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

極東の何処(いずこ)か。

 

南向き傾斜のすり鉢状の草原。

 

夏には満開の向日葵が咲き誇るそこ。

 

小高い丘の上にコテージの様な小さな家がポツリと建っている。

 

その家に訪れる影が1つ。

 

ドアを軽くノックするその人物は普段の様子からは考えられないほどに緊張しているのが見えた。

 

しかしながら、同時に誕生日にヒミツのプレゼントを用意して驚かせる子供のような気持ちが見て取れる。

 

ドアの奥からはこちらに向かってくる足音が聞こえる。

 

後、数瞬したら……。

 

待ち人はかつての様に笑いかけてくれるのか。

 

それ以前に、以前と全く違う容れ物の姿に気が付いてくれるのか。

 

かの神は初めての期待と不安に戸惑いを見せながらもその足は真っすぐドアへと向く。

 

カチャリ。

 

ドアノブの金属音が静かに響く。

 

ドアの先には()()があの時から変わらずに在った。

 

切れ長の赤い瞳に変わらない美しい笑みで。

 

 

 

「あら、蛇さんじゃない?」

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

移動要塞『星黎殿』の城塞部にある一室。大竈型宝具『ゲーヒンノム』の淵に腰かけるようにしている『参謀』ベルペオル、その周囲を囲む壁に背持たれるようにしている『将軍』シュドナイ。他にも数種の異形の徒たちの姿が見えるが気にもせず作戦経過の報告と()()について語る。

 

「上海外界宿総本部は殲滅完了だ。これで当面の間フレイムヘイズ達のアジア方面での軍隊規模での作戦行動は無いとみていいだろう。」

 

「そうさね。しかし、盟主が謁見の式典の後に迎えに行く『炎髪灼眼(えんぱつしゃくがん)()()』やその周囲の『万条(ばんじょう)仕手(して)』、『弔詞(ちょうし)()()』には依然警戒が必要だろうさ。」

 

「戦果を挙げてきた俺のお出迎えはババアだけか。ヘカテーは?」

 

「おあいにく、『星辰楼』さ。教授と共に神体の座標の最終調整だとさ。」

 

「で?当の盟主様は何処にお出かけで?」

 

現世に意思総体のみで帰還した後もしきりに何かを考えこんでいた様子の見えた自らの盟主の姿が『星黎殿』に見えないことを不思議に思い尋ねるが返答は予想通りの簡単な物だった。

 

 

 

「なぁに、やっと顔を見せにお出かけになったところだよ。」

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

静かな室内にコトコトと湯が沸き始めた音だけが響く。

無言で小さな一人前ずつのティーポットが二つ、少し大きめのポットに熱いお湯を入れて、砂糖の入ったガラス瓶、二人前のティーカップとスプーンを少し大きめなお盆にのせて、館の主『風見幽香』が台所から出てくる。

少し様子を窺うような少年のことも気にせずテーブルに手慣れた様子でティータイムの準備を進める。

ひとしきり準備が終わったようで、静かに少年の対面の椅子へと腰掛ける。

 

お互いがお互いの瞳を見つめ合う悠久にも似た一瞬の時をティーポットから香り始めた匂いが現実へと戻す。

 

少年が急いで陶器でできたポットからティーカップへと紅茶を注ごうとするとこれまで最初の邂逅から一言も無かった2人の間に言葉が生まれる。

 

「待ちなさい。後、1分てとこかしら。時間が来たらティースプーンでポットの中をひと混ぜしてからゆっくりと注いで頂戴。あぁ、砂糖は必要かしら?」

 

「あぁ!すいません。砂糖は大丈夫です。」

 

咄嗟の即答は()()()()()

()()()()()()()()()()()()()の声は未だに出てこない。

しかし、『風見幽香』は表情を変えずに少年にも旧知の友人にも変わらない態度で接する。

 

「そう。……ねぇ、蛇さん。面白いおめかしね。もしかして、()()()()()()()()()()?」

 

「ブフッ!!!」

 

揶揄い交じりの挑発的な態度に、ある種の扇情的な表情に、不意を突かれた恋愛偏差値の低い少年が戸惑い驚き声が漏れる。

その様子を幽香はニヤニヤと意地が悪い笑みを浮かべながら反応を楽しんでいた。

 

「冗談よ。…()()()()()。」

 

『あぁ、()()()()()。風見幽香よ。』

 

今度こそ、自身の言葉で。

『祭礼の蛇』本人の言葉で挨拶を交わす。

あの時と変わらぬ調子で、まるで昨日会った友人に再会したように軽い調子で話が進んでいく。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今の時期は()()にしか咲いてないわよ。」

 

幽香が指差した先には厚塗りの油絵の具で一面の黄金(こがね)色のなかに幽香の姿と二人ほどの侍従と思われる男女の姿が描いてあった。

その特徴的な画風に少年が美術の授業で見たことがあった同じ花が題材の絵画群を思い出して声を漏らす。

 

「えっ!?これゴッ…。」

 

『良き絵だ。絵師の魂が見て取れる。()()()。』

 

かつて、様々な国の王や徒たちから供物として豪奢な貢物達を見てきた『蛇』の心からの賛嘆の声がポツリと零れる。

その様子に満足したのか、幽香はティーカップに目をやり視線と言葉で飲むように促す。

 

「時間になったわ。最後の一滴まで入れるのよ。」

 

『ふむ、坂井悠二よ。しばし、体を借りるぞ。』

 

「うん、わかったよ。」

 

ティーカップに紅茶を注ぎながら、幼さの残った少年の顔つきが一瞬にして険しい老成したものに変わる。

そして、少年の眉尻が下がり、表情が緩やかなものへと変わってく。

 

『挨拶が遅れてすまない。』

 

「いいわ。私の方も東奔西走してみたけどアテが外れてたところよ。自力で帰って来れたみたいで良かったわ。」

 

『はっはっは!幽香が我を探してくれていたのか!容姿は幾千年の年を経ようとも変わりが見えなかったが、その内面は随分と変わりが見えたようで愉快だ!』

 

「私にも色々とあったのよ。『弱さ』を知ったことで弱くなったけど、代わりに『最強』になれた。あなたが寝ている間に『裁きたがり』を()()()()()()()。」

 

ふふふっと、心底愉快そうに妖しく幽香は笑う。

つられて『蛇』も豪快に笑いだす。

 

『そうかそうか。我が朋友は何と剛毅なことよ!』

 

「それで?蛇さん()面白い状況みたいじゃない。どうしたのよ、その容れ物は?」

 

『ふむ、それについてだが少し説明が長くなる。『星黎殿』で説明をしたい。どうか我に付き従ってくれぬか?』

 

そう言い、『蛇』は真摯な表情で幽香に向かって手を伸ばす。

しかし、その手には怪訝な視線が突き刺さるのみで、『蛇』がダメ押しの一言を紡ぐ。

 

 

 

『我は汝らを友人だと思ってる。』

 

 

『どうか、我を信じてくれ。』

 

 

 

その言葉に呆れ交じりのため息が1つ零れ落ちる。

そして、ポツリポツリと言葉が文になっていく。

 

「はぁー。……アナタ()()()()()。付き従いはしないわ。()()()が勝手にアナタに着いて行くだけ。……今度はコンテニューできないわよ?」

 

 

 

差し出された掌を『風見幽香』はゆっくりと取った。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

移動要塞『星黎殿』の城塞部。

普段は閉ざされている大扉を3つほど抜けた先に広がる空間。両脇に二列ずつの太い円柱を並べる、五廊式の大伽藍。

石造りの天井が見える壮麗な石造りのトンネルにも見える。

 

見上げれば天井にはフレスコ画で宗教的な絵画ではない。ただ一つ大きく、そして小さく無数に、添えるように花弁が一つ。

中央を大きく貫きのたうつ黒い蛇と、それを背に広がり奔る紅世の徒、寄り添う向日葵の花。

ただ、蛇を中心にどこまでも広がり満ちていく『仮装舞踏会(バル・マスケ)』の在り方だった。

 

その下にはフラスコ画を理解しているものも、理解しておらぬ者も一様に熱気を帯び、中央に敷かれる絨毯から数歩引いた位置で詰めかけ犇めき合っている。

姑息なフレイムヘイズ達の姦計により、長きにわたり、空座だった彼らの盟主が遂に帰還を果たした。

 

その謁見の儀と、大命の令達が行われていた。

 

事前に少々の()()もあったが、全てが順調に進み、ベルペオルから布達された大命の全貌に、この場にいる徒の多くがその胸中に極限の驚嘆と感動を宿した。

 

その興奮も冷めやらぬままに、大命の布達を終えたベルペオルが次の言葉を発する。

 

「最後に、盟主の朋友であられる『血染花』風見幽香殿からのお言葉で今回の儀を終えさせていただく。それでは風見殿。」

 

ベルペオルの言葉にまるで当然かの様に壇上に立ちその姿を衆目に晒す。『黄緑色がかったウェーブのかかった髪の毛、白のブラウス、襟元には黄色いリボン、赤いチェックの上着とスカート』。紅世の徒の間でも神話の様に語り継がれる容姿通りの、真性の『最強』がそこには在った。

 

「……大変重大なお知らせがあるわ。」

 

ゴクリと誰からともなく緊張の空気が伝わる。

()()『最強』が一体何を思い何を語るのか、一語一句逃さぬよう大命の宣布と同じような緊張感が張り詰める。

短く間をおいて、その口が動き出す。

 

 

 

 

 

「なんと、ゆうかりんランドのパンジーの花が咲きましたぁー♪」

 

 

 

 

『いやっほーーーーーーーぅ!!!!!』

『イヤッッッッフゥーーーーーーーーーェイ!!!!!!』

『キャッホォーーイ!さすがだぜ!』

『よっしゃきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

『ひゃっほほおおおおおおおーーーーいいいっ!!!』

 

 

 

 

 

再び、興奮の渦が『仮装舞踏会(バル・マスケ)』を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

ゆうかりんランドで良いことがあった場合は、「いやっほーーーーーーーぅ!!!!!」と喜ぶのがバル・マスケの義務である。

突然のシリアスブレイクすまん。

時系列は1月。
遂に原作入り。
長らくお待たせしました。

今後も拙作をよろしくお願いします。


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棘のない薔薇

血湧き肉躍る日々なんて要らない。

ねぇ、貴方達は『私』のヒミツを信じてくれる?

そんなお話。

 


『星黎殿』の居住区の一角、城壁の壁面には蔦が丹念に這い繁って所々に色とりどりの薔薇が花咲かせている。その下を見てみれば几帳面に整地された庭園には丁度季節の花、椿や水仙、シクラメンにパンジーといった冬の物が色とりどりに咲き誇っていた。その色彩や生育のバランスはここ『ゆうかりんランド』を日頃から手入れしている庭師のこだわりや生真面目な性格が見て取れる。

 

風見幽香がフェコルーに庭の手入れを任せて早5世紀ほど、2世紀ほど前にも一度彼女がここを訪れた時よりもその区画は着実に広がっており、それでいて花たちは生き生きと葉を繁らせていた。花たちと会話するように、くるくるとあたりを踊るように、彼女はお気に入りの薔薇の模様が施された金色の如雨露を片手に水やりをしていた。

 

その様子を少し離れたところから見守る影が3つ。『祭礼の蛇』坂井悠二がゆっくりと目を閉じる。

 

『……あぁ、()()。』

 

夜にあふれる光の下、喜びの声を溢す。自身の大命の予感と共にこの日常を噛み締めて身の奥底で力を充溢させていく。

 

『流石、幽香だ。各々の植物の長所を生かしつつ、それでいて全体で見れば調和がとれている。』

 

「あら、誉め言葉は私じゃなくて長年ここのお手入れをしてきたフェコルーに言ってちょうだいな。」

 

幽香は控えていた侍従の1人、アルラウネから柔らかそうな真っ白のタオルを受け取りその身についていた泥や水気を拭っていく。

 

『この地が我に見せたかったものなのか?』

 

『祭礼の蛇』坂井悠二の首元にかけられた首飾り、炎髪灼眼(えんぱつしゃくがん)()()の神器“コキュートス”から、『天壌の劫火』アラストールが詰問する。

少年は思わず苦笑し、神として律儀に答えた。

 

『是とも否ともいえるな。なに、我の大命の行く末と我らの共通の紅世からの友人をお前に見せたくてな。』

 

『これが貴様らの愚行の行く末だと?』

 

アラストールの二言目でようやく幽香が彼の存在に気が付く。

 

「蛇さんの首元いいネックレスね、センスが無いわ。」

 

チクリと素直な悪口と共に一言。幽香はかつての因縁など露も感じさせぬほど快活に意地悪く笑う。

 

『久しいな。風見幽香よ。お前の悪癖は変わらずのようだな。お前がここにいるということは()()()()()の保険か?再び我との再戦を望むのか?』

 

もしもの時。それはつまるところ大命の致命的な、最悪の期に『炎髪灼眼(えんぱつしゃくがん)()()』を生贄とし、『神威召喚』を試み天罰神を顕現させた時。その対抗手段として紅世の神をして一敗一引き分けの戦績に落ち着かせた彼女が用心棒でこの城塞に呼ばれているのだとかの魔神は邪推するが、『祭礼の蛇』と『風見幽香』は的外れなその言葉にはじめは軽く笑い、次第に堪えきれなくなって声を出して笑いだす。

 

()()()()()気にしてるのはアナタだけよ。自惚れないで頂戴。アナタと私の格付けはもう済んだのよ。私はもうアナタに興味なんて無いわ。」

 

『我もそんな小賢しい真似は選ばぬ。もっとも、我が軍師ならばお前を顕現させるなどという愚行はさせぬよ。』

 

返答はどちらも明確な否定。その笑いに釣られるようにして2人の侍従もクスクスと笑い始める。

 

『……ならば、お前らの目的は何だ?』

 

「そうね。蛇さんの目的はいつもと変わらずのお人好しよ。私のは、、、自己満足かしら。」

 

煙に巻く幽香と祭礼の蛇の返答にアラストールは裏を読もうと思考に耽る。アラストールが手玉に取られている様子を見た坂井悠二は珍し気に“コキュートス”を見るばかりで祭礼の蛇はこれ以上の問答をする気が無いようで黙っている。幽香は少しばかり土の色が付いたタオルをウルリクムミへと返すと、3人に背を向けて自室に戻ろうとする。

 

しかし、去り際に一言、自らの侍従に言づける。

 

 

 

「アルラウネとウルリクムミ、大事な話があるからあとで私の部屋に来て頂戴。」

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

天蓋付きの大きくやわらかなベッド、華美ではないがきっちりとされた調度品、大きな鏡台、一見すると高級ホテルのスイートルームのように広く機能美にあふれた室内では3人分のポットと軽食がのせられた3段のケーキスタンドを机の上に、しばしば『太陽の畑』でも見られるようなアフタヌーンティーが開かれていた。

 

このお茶会は誰がやろうと言っているわけではないが毎月一度は必ず開かれている。

そもそも、幽香は世界中を絶え間なく季節の花を巡っており、この極東の拠点には月の半分もおらず、侍従の2人も基本的には『太陽の畑』の花たちの世話、無謀に挑んでくるフレイムヘイズや徒の撃退をする以外は特にやることが無いので人に紛れて過ごしている。

 

だが、常のお茶会と違うのはその雰囲気である。3人の間に流れる空気もピリピリとした緊張感を匂わせるものがあり、室内は薄い白桃色の炎がドーム状に形成されて、第三者が外部からの介入が全くできないようになっていた。

 

しかし、3人はいつもと変わらぬペースでお茶を飲み、談笑し、いつものお茶会と変わらない様子を演じながら()()()()()()()()()

 

侍従2人は主を気遣い。

 

主は己の心の内で葛藤し、機を探る。

 

そして、幽香が空になったティーカップをソーサーに置くと同時にポツリポツリと独白していく。

 

「アルラウネ、ウルリクムミ。貴方達を拾ったのは気紛れだったけど、この四、五百年を共に暮らして楽しかったわ。私と共にいてくれて()()()()()。」

 

主の口から初めての感謝の言葉が

 

「もう、貴方達が感じていた恩義に釣り合うナニカを私は受け取ったわ。」

 

しかし、その言葉は何処か終わりを孕んでいて

 

「そろそろ私なんかに構わず2人で生きる道に進んでもいいんじゃないかしら?」

 

それは贖罪の言葉に似ていた。

 

 

 

「今日で私達の関係を終わりにしましょう。」

 

 

 

 


 

 

 

「私、みんなに嘘をついていたの。」

 

 

 

「主として命令を一つ。」

 

 

 

「友人として『()()()』を一つ。」

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

総合評価5,000pt到達記念に投稿させていただきました。
完結まで残り6話です。
大筋は描き終わっているので推敲して月末までには上げて完結とさせていただきます。

13話目に風見幽香とフィレスを絡ませた理由は、フィレスが吉田に託した宝具『ヒラルダ』が和訳すると『風見』になるからっていう裏設定を明かします( ̄▽ ̄)

『私』は罪の告白をする。
終わりに向けて『私』の物語は加速していく。

今後も拙作をよろしくお願いします。


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狭間へと、狭間から

友人を取り返しに行く。

それを阻む影が二つ。

そんなお話。

 


赤絨毯が敷かれた階段を風見幽香は1人歩く。傍らにはいつも侍っていた侍従の姿はなく、楽しく語らっていた友人の姿もない。しかし、彼女は友人の本体を取り戻すために、自ら決めたことの為に、独りでも歩み続ける。

 

孤独に階段を登り切った先では冷たい夜風が彼女の髪を撫でる。

 

歩み出た先は、高所に設けられた、広い半円形のテラス。

 

見上げれば、すぐそこの空に満天の星空を塞いで黒い鏡面を縁取る『神門』が浮かんでいた。

 

その影が落ちるテラスの中ほどには三つの人影が並んでいた。

 

豪槍『神鉄如意』を担ぐ、『千変(せんぺん)』シュドナイ

 

錫杖『トライゴン』を携える、『(いただき)(くら)』ヘカテー

 

拘鎖『タルタロス』を飾る、『逆理(ぎゃくり)裁者(さいしゃ)』ベルペオル

 

友人の蛇を護る眷属『三柱臣(トリニティ)』がそれぞれ大命遂行時にしか持たない神器を片手に盟主の登場を待っていた。

 

「おや?風見殿の侍従は何処に?」

 

「あの子達には暇を出したわ。私達の主従ゴッコは終わりにしたの。あぁ、でも、あの二人はあなた達の大命に協力すると言ってたわ。ウルリクムミは戦場、アルラウネは自在式の補助に回りたいと言っていたからそのようにして頂戴。」

 

「……ご随意に。」

 

その言葉通りにすぐさまベルペオルは直方体の塊、フェコルーへと希望通りに風見幽香の元・侍従の配属先を伝える。

風見幽香と両者の関係は良好のようにも見えていたのに、この局面での関係の破綻にシュドナイが素直な疑問を訊ねる。

 

「2人に何か問題があったんで?」

 

「別に無いわ。あの子たちはよくやってくれた。だけど、……丁度、節目かなと思ったのよ。私達の関係が始まったこの場所で関係を終わらせることが一つのケジメよ。」

 

「そりゃあ、まぁ、後腐れが無いようならば俺たちは気にしませんがね。盟主殿も容れ物のミステスを気に入ってフレイムヘイズとの馴れ合いも許しているようですし、大命遂行時になって貴方達お二人は呑気なもんですね。」

 

「そのために貴方達がいるんでしょう?」

 

少しの不満が混じった皮肉を言うシュドナイに、幽香も軽口で挑発混じりの笑みを返す。

一見、一触即発のようなじゃれ合いをよそに、徒たちが静かに熱気を隠している空間にコツリコツリと2()()()の足音が小気味良く周囲に響き渡る。

 

開けっ放しの大扉の先からゆっくりと『祭礼の蛇』坂井悠二が『炎髪灼眼(えんぱつしゃくがん)()()』シャナを連れ立って歩いてくる。『三柱臣(トリニティ)』と風見幽香が道を譲り、盟主としての面が強く表れた少年がシャナの手を引いて半円形のテラスの先、謁見のために設けられたらしい、細く短く張り出した突端部へと進む。

 

やがて、盟主は眼下に見える闇の底、紅世の徒の大軍勢へと向けて喜悦の弁舌を始める。

 

それを受けた徒たちは軒昂の意気を咆哮に変え、心中の狂熱をそのままにどこまでも盟主を称え、叫び続ける。

歓声の中、最初に盟主が、三柱臣(トリニティ)、教授とドミノ、サブラク、ロフォカレ、最後に幽香がゆっくりと宙に浮きあがり、黒い『神門』へと吸い込まれるように消えていった。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

『両界の狭間』

 

『神門』をくぐったその先、そこにはあまりにも常軌を逸したものが在った。

目線の先の霞んでも見える場所でさえも大地。全てが大地という、天のない世界がそこには広がっていた。

足元には、大地が在る。

頭上にも、大地が在る。

左右にも、大地が在る。

前方にも、大地が在る。

『両界の狭間』に無理やりに作られた彼方に眠る神の本体へと続く道。曲がりくねり、内にも外にも大地で構成された道。『(いただき)(くら)』ヘカテーが『星辰楼』にて観測し、教授が座標を割り出し、盟主たる神がその権能を以てして作り上げた、『大命』へと至る細く、小さく、脆い道。それがこの『詣道(けいどう)』だった。

 

道に見えるこれはあくまで仮初の物であり、神が権能を使い無理やりに『道』として実態を作り出したあまりにか細い神体へと繋がる細い糸だ。

一度、方向を見失い巫女が指し示す『旗標』から逸れてしまったらこの『無』の大地に呑み込まれてしまうだろう。

 

そんな世界をゆっくりと確実に歩んで神体へと近づく一行だった。

 

巫女は一同を先導し、教授はせわしなく周囲を観測して回り、将軍や傭兵は黙ってその後を付いていき、中ほどに盟主と軍師、幽香が雑談交じりに散歩のように歩き、最後尾ではロフォカレがリュートを爪弾きながら高らかに歌い、フラフラと付いていた。

 

何処までも生命の気が無い世界を歩く。

 

 

 

そんな一同に突如、白色の極光と青色の弾幕群が襲い掛かる。

 

 

 

全くの予期しない攻撃だったが、歴戦の猛者であるシュドナイが豪槍を振るい青色の弾幕群を薙ぎ払い、傭兵が地面に潜り迎撃の準備をし、風見幽香が鸚緑の極光を白色の極光にぶつけて相殺する。

辺りを凄まじい衝撃と粉塵が駆け抜ける。

 

舞い上がった粉塵の煙が晴れた先には金髪金眼の幼さが見える少女が2人鏡合わせに現れた。

少女たちは一行を一瞥もせずに()()()()()を注視し、声をかける。

 

 

 

「やっほー、()()。久しぶり♪」

「本当に()()?日傘は変えちゃったの?」

 

 

 

あまりにもこの場に不釣り合いな突如として現れた、天使のような少女とエプロンの前掛けが前方で2枚重なる特徴的な青いメイド服の少女の2人組が気さくに『風見幽香』に話し掛ける。

対する、幽香も一行を顎で道の先に促し、一人で残ることを一行に伝える。

 

「私のお客さんみたいね。蛇さんには悪いけれど、先に行ってて。」

 

『あぁ、()()()。我が玉体を取り戻したら迎えに来る。』

 

『祭礼の蛇』は信頼を持ってそれに答え、一行は先へと進んでいく。

 

残されたのは3名。

 

各々が顔に笑顔を張り付け、微笑み合う。

 

片方は怪訝な表情を隠す笑みを、もう片方は懐かしい顔に偶然会ったかのような気さくな笑みを浮かべて。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

12話でも述べましたが、この世界に『幻想郷』はありません。
この2人組は一体誰なんだ?(白目)

明日も更新させていただきます。
次話のタイトル
『すばらしい君に静かな瞑りを ~ Puckish Angels~』

今後も拙作をよろしくお願いします。


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すばらしい君に静かな瞑りを ~ Puckish Angels~

記憶に無い旧知。

『私』は自分の内に『彼女』の存在を感じた。

そんなお話。




『両界の狭間』

 

“紅世”とこの世の二つの世界の外、二つの世界の境界に位置する概念部。 ここでは二つの世界どちらとも異なる法則によって成り立ち、ある意味、これも一つの異世界と言える。

 

この世界では時代の関係なく現世の建物を見ることができて、上下左右の感覚でさえも正しいものであるかさえ分からない。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

金髪金眼の幼さが見える少女が2人鏡合わせに手を繋ぐようにして私の進路を塞いでくる。天使のような少女とエプロンの前掛けが前方で2枚重なる特徴的な青いメイド服の少女の2人組。

 

おもむろに天使のような少女がクスクスと笑いながらまるで旧知の友人と偶然にも邂逅したかのように気さくに喋りかけてくる。

 

「ほら、やっぱり()()じゃない!私の攻撃に耐えられるなんて他にいないわよ!夢月ったらおバカさんね!」

 

「うぐ〜、()()()()()()()()()()()()()()。幻月の言う通りだったかー。久しぶり〜、()()。外の感覚だと、一万年ぶりくらい??」

 

私を蚊帳の外に2人の話は盛り上がりを見せる。しかし、私は彼女たちを知らない。紅世の世界でも、ましてや「東方project」の世界のキャラクターとしても全然心当たりがない。しかし、マイボディが攻撃を受けたにも関わらず()()()()()ということが初めてだ。とりあえず、向こうはこちらを知っているようなので改めて自己紹介をする。

 

「あら、違う誰かと見間違えてるのではなくて?私は()()幽香よ。」

 

私が名乗った瞬間、極く微妙な、神経的な不調和が、だんだん形づくる様に、笑顔だった少女たちの表情が一転して無機質で大層つまらないモノを見るかの様に変わる。

 

「ねぇ、夢月。私たちの予感はどっちも正解で、どっちもハズレだったみたいね。」

 

「うん。幽香ったら変わっちゃったみたい。()()だなんて初めて聞いたわ。それに何かしら、新しい日傘を持っちゃってバカみたい。」

 

そのバカにする様な一言にマイボディが勝手に動き出して鸚緑の極光を2人に対してぶっぱする。ここまで耐えてきたマイボディもついに堪忍袋の緒が切れた様だ。日傘をくいくいと上下に揺らしながらいまだに煙が立ち込める2人がいた後に向かって挑発の言葉がスラスラと出てくる。

 

「ごちゃごちゃうるさいわね。()()()()()()()()()。」

 

一閃、煙の奥が青く光ったと思ったら辺り一面に青い小さな弾幕が卍の模様を描く様に逃げ道を塞ぐ様に広がり、私に向かって扇型の黄色いレーザーの様な存在の力の塊が放たれる。その全てを日傘を開いてその陰に隠れる様にして耐える。

 

さっきと逆転するかの様な立ち位置になって2人はふわふわと宙に浮かんでぐるぐる回っており、その様子は2人で鏡合わせのダンスを踊ってるかの様だった。

 

そして、どちらともなく一語一句同じ言葉を私に侮蔑を込めて言う。

 

 

 

「「私たちは2人で1人前。おまえは1人で1.5人前ね。」」

 

「「遊んであげるわニセ幽香。」」

 

 

 

青いメイド服の少女が青小弾に青大弾を挟むような高速の弾幕がランダムに全方位に向かって放ったかと思うとその直後、扇型レーザー時に撃ってきた針状弾と青小弾を交差するようにぐるぐる回してくる。

 

天使のような少女も私がよく使う極光を放ちながら、格子状に固定された弾幕を一帯に立体的に直方体になるように広げ、上下左右の動きを制限しつつ、その陰から私を追尾してくる小さな弾幕を放ってくる。

 

一見すると、ただ飲み込まれるしかない弾幕に見えるが、彼女たちが『お遊び』と言っていた通りに必ず抜ける隙間はある。

最初はなくとも、弾の動きに合わせてわずかにだが隙間が出来る。

その間をすり抜ける。

抜けた瞬間に、背後でその隙間が再び閉じる。

もし、一瞬でも判断が遅れていたら、見出した活路は眼前で再び閉ざされることだろう。

 

この弾幕は文字通り『お遊び』ではあるが相手に弾を当てれば勝ちという「弾幕ごっこ」などではない。制限時間も無ければ、弾の威力も並の紅世の王であれば討滅されてしまう威力で放たれている。

 

避けている実感でわかる。

この弾幕はどんな敵でさえも傷つけることのできなかったマイボディを傷つけることが可能だ。そう冷静に分析すると今まで感じたこともなかった言いようもない死の恐怖に思考が霞んでいく。周囲は膨大な量の光弾がうねるように飛び回り、まるで閉鎖空間に閉じ込められているような錯覚さえ抱かせる。

 

――こんなところで『私』は!

 

動きを止めずに、内心で独り言ちた。

苛烈な弾幕群の中で、余分な思考は挟めない。

『私』は私の目的の為に。

『■■■■』の為に。

この強敵との戦いから生き残る道だけを考えて宙を舞う。

 

飲み込まれそうなほどの弾幕の雨。

濃密な死の気配に包まれようとも独り飛ぶことに、恐れはない。

 

 

 

――『私』は…………。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

弾幕がはたと止み、幽香は息も絶え絶えに少女たちを見る。

 

 

 

その先には、光の壁があった。

 

 

 

弾幕という名の光の雨が、この無限に広がりを見せる『両界の狭間』の何処にいても視界に入るような、未だかつてない規模と物量の白色と青色の弾幕が津波のように幽香に押し寄せる。

今度は避ける隙間が微塵も見つからない、ただ呑み込まれるしかない、絶望ともいえる壁が幽香を押し潰すために迫り来る。

壁のように見える弾幕もその中では白色と青色の弾幕がお互いににぶつかり合うことなく交差し、弾幕群を遮る地面を、構造物を磨り潰している。

 

幽香は日傘の先から射出される鸚緑の極光を以て対抗してみせたが、均衡は一瞬しか持たなかった。鸚緑の極光は表面の弾幕を削りきるだけで後続の弾幕が極光を削りながら、ゆっくりと確実に幽香との距離を縮める。

 

やがて、弾幕群は()()()()へと触れた。

 

どのような敵も、神でさえ討滅して見せた必殺の技が単純な物量差に負けてかき消されてしまった。

幽香は一瞬の逡巡を見せた後に、日傘を振り抜き、胴体に直撃するような弾幕をその柄で叩き壊していく。

しかし、打ち洩らした弾幕が幽香の身体の末端を少しずつ掠り、着実に幽香の身を削る。

 

『グレイズ』

東方projectの世界ではギリギリで弾を避けるというテクニックだが、天使のような見た目の悪魔2人組、幻月と夢月の力で射出される弾幕は()()()()()ではなく、着実に命を削りきる威力を持っていた。並の紅世の王でも成す術無く、当たれば確実に討滅される弾幕を幽香は掠りながらクルクルと弾幕を射出し続ける幻月と夢月に近づく。しかし、掠っていく弾幕は神でさえも傷つけることのできなかった『風見幽香』の身体に傷を付けていた。

 

無限にも思えた両者の距離は幽香の身体を削りながら着実に縮まっていく。

両者の距離が10m程に縮まったのを見て、幻月と夢月は口笛を鳴らし囃し立てながら弾幕の射出を止める。

 

弾幕が晴れた先には、未だかつて『風見幽香』が見せたことが無いほどに無様な様相をさらしていた。その身は弾幕が掠った部分がごっそりと削られて、持っていた日傘は弾幕を叩き壊していたからか小間がボロボロに穴が開き、軸が折れ曲がり最早傘の体を成すのが難しく見える。息も荒く、肩は激しく上下に運動し、いつもは笑みを携えるその顔には余裕が欠片もなく、カミソリのような鋭利な視線を2人に投げつける。

 

天使のような見た目の悪魔2人組はパチパチと小気味良く拍手を幽香に送る。

 

「すごいね!贋作なのにこんなに遊べるなんて!」

 

「うん。でもね、夢月、私ちょっと飽きてきちゃったなー。」

 

「もう!幻月ったら飽き性なんだから!お片づけはちゃんとしましょう。」

 

「はーい!もうこんなおもちゃはいーらない!」

 

遊びは終わりだとでも言うのか、彼女たちは鏡合わせに幽香へと手を開き、掌から膨大な力の塊を幽香に向けて弾きだす。

白色と青色が混ざり合った極光が幽香に向けて放たれ、周囲には逃げ場を塞ぐように狂気を纏った弾幕が扇状に弾きだされる。

 

満身創痍な幽香は為す術も無く、その極光と弾幕の津波に呑み込まれてしまった。

 

 

 


 

 

 

あぁ、懐かしい顔がいるじゃない。

 

 

 

弾幕が晴れた先、土煙に覆われたそこには傷1つ付いていない、人一人分ほどの大きさの()()()()()が周囲の光景から浮きながら存在していた。

それを不思議そうに眺める2人組へと脈打つ血流のように、死ネ、死ネ、死ネ、死ネ、と意識の残響がこだまする濃密な殺気が鸚緑色の蕾から向けられる。

 

天使のような見た目の悪魔2人組はその爆発的に増した殺気に()()()()を感じ、その顔にパァッと喜色を浮かべる。

思わず、興奮気味に天使のような少女が青いメイド服の少女の肩を揺さぶる。

 

「夢月!今度こそ()()だよ!」

 

「そうだね~、本当にお寝坊さんなんだから。」

 

呆れがちな青いメイド服の少女の言葉に反応するように鸚緑色の蕾が花開く。

 

太陽のように鮮やかな黄色の花弁と夕日色に染まった筒状花の向日葵が咲いていた。

 

筒状花の中心には夕日色の中、黄緑色がかったウェーブのかかった髪の毛、白のブラウス、襟元には黄色いリボン、赤いチェックの上着とスカートの()()の『風見幽香』が立っていた。

対比するように日傘はボロボロのままだったが、風見幽香はそれを愛おしそうに、慰めるかのようにゆっくりと撫でる。

 

『久しぶりね。幻月、夢月。』

 

「やっほー!」

 

「久しぶり、()()♪」

 

挨拶もほどほどに、風見幽香は日傘に『存在の力』()()()()()修復する。鸚緑色の炎を纏った日傘は一瞬にして元に戻る。

 

『この子はね。外の世界では宝具って呼ばれてる物よ。名前は『世界で唯一枯れない花』。私が力を与え続ける限り壊れることの無い可愛い子。』

 

『私の物を―――』

 

よくも虐めてくれたわね。』

 

重厚な氷のような殺気が走る。

しかし、天使のような見た目の悪魔2人組はそれに陽だまりのような居心地の良さを感じて更に機嫌を良くする。

 

「お寝坊さんな、幽香が悪いんだよ?」

 

「そうよ。()()()()()()()()。」

 

逆に、悪びれる様子もなく風見幽香を糾弾してみせる。

 

「むしろ、()()()が悪いのよ。幽香のフリなんてしちゃって!」

 

「そうよ。なんであんな半人前に自由にさせてるの?」

 

お互いに指を顎先に当てて疑問を口にする。

その疑問に風見幽香は上下左右に見える大地が震動するほどの感情の昂りを隠さずに苛立たし気に、今は存在の力の激減により眠ってしまっている人物に同情を込めながら、ポツリポツリと漏らす。

 

『そんなに寄ってたかって虐めないであげてよ。アイツだってそれなりに悩んで『私』のフリをしているのだから。』

 

『それにね。アイツもようやく信頼のおける仲間が出来て、自分の秘密を打ち明けて、無い頭で相談して、全てが報われるお涙頂戴の感動ストーリーの途中なんだから、ぽっと出のアンタ達みたいなバグキャラが台無しにするなんて面白くないわ。』

 

 

 

すっかり綺麗になった日傘を2人に掲げて吐き捨てるように宣言する。

 

 

 

『アンタ達は2人で1人前かも知れないけど、こっちは一人前(『私』)半人前(アイツ)1.5人前(風見幽香)よ。』

 

 

 

瞬間、日傘の先に鸚緑色の存在の力が()()()()()とは比べ物にならないほど、周囲の光景が歪んでしまうほどに濃密に圧縮され球体に纏まる。

 

『目障りよ。私の目の前から消えなさい。』

 

 

 

魔砲マスタースパーク

 

 

 

鸚緑の極光が弾け日傘の先端から先、上も下も、左右でさえも切り取られたかのように、周囲の時空を歪めながら無限にも近い『両界の狭間』を鸚緑色が染め上げる。

天使のような見た目の悪魔2人組もその波に呑まれるようにして姿が見えなくなる。

 

『『クスクスクス』』

 

しかし、嗤い声は鳴りやまない。それどころか次第にその音は反響して勢いを増していく。

 

『『()()。貴方はいつかきっと私たちの元に帰ってくる。夢幻館で待ってるわ。』』

 

風見幽香が存在の力を込めるのを止め、鸚緑の極光が晴れた先には……。

 

()()()()()()

 

先程までいた、2人組もまるで夢幻のように消え失せ、周囲の大地も断面をハッキリとしながら無辺の領域へと姿を変えていた。

 

 

 

2人組の悪魔は去った。呪詛のような言葉を残して。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

そして暫くすると、風見幽香のはるか後方より、強大な黒い蛇身が辿ってきた『詣道(けいどう)』を遡り、『風見幽香』へと迫る。

 

その背面にて、フレイムヘイズ達と徒の争いは勢いを増していたが風見幽香の下方を勢いよく『神門』に向けて蛇身は進む。やがて、風見幽香は背面の後方にて色付く影たちに守勢を強いられているベルペオルの一団を見つけそこに降り立つ。

 

「おや?風見殿のお客はどうされましたか?」

 

「帰ったわ。それより、ベルぺオル。」

 

短いが有無を言わせない強い言葉と気勢に、最近の『風見幽香』とは違う、出会ったばかりの殺気しかない『風見幽香』の姿を幻視する。そして、その言葉と共に色付く影たち『太古のフレイムヘイズ』を日傘で一閃し、薙ぎ払い、追撃の弾幕で討滅させてから、ベルペオルに向けて手を伸ばせば届きそうなほど近くまで歩み寄りフッと笑いかける。

 

「私はしばらく寝るわ。()()()()()()()()。」

 

そう言って、風見幽香はベルペオルの身体に倒れこむようにして意識を手放した。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

物語の核心部。
『私』の意識が覚醒した1話のあの瞬間は宝具『世界で唯一枯れない花』の形成された瞬間でした。

これが作者が「灼眼のシャナ」の世界観で人間と紅世の徒が共に望むときに生まれる「宝具」という設定を転生・憑依と絡めて描きたかったのが拙作です。
作中、違和感のある描写や入れ替わりなどはこれが理由でした。
マイボディとのシンクロ率と作中で表記していたアレは『私』と風見幽香の信頼度の証です。
また、アラストール戦で日傘にひびが入ってたのは風見幽香が『私』に存在の力を渡す余裕すらない程に戦いに力を注いでいたからです。

作中でこの二重性に気が付いていたのは『祭礼の蛇』と近くにいた……たちのみです。

完結まで片手の指で足りるほどの話数になってまいりましたが、ご感想や評価などいただけると作者のモチベーションにも繋がります。

今後も拙作をよろしくお願いします。


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其の義は忠となり、主人は友となり…

執事とかつての主人。

関係が終わって何を想うか。

そんなお話。
 



私達の主人(彼女)は優しい人だ。

 

世間で知られるような過激な側面も確かにあるが、基本的には世界中の季節の花々を巡る、人畜無害な様相を見せることが多い。

 

初めは『義理』から始まった主従関係だった。

 

年月を経るほど、彼女の本質を知るに従い、『義』はやがて『忠』へと変化していった。

 

しかし、そんな関係もあの日、突然に終わりをつげられた。

 

新たな我らの()(よう)へ変わるために。

 

『彼女』の『()()()』のために、我と彼女はこの戦争を利用する。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

『星黎殿』の一隅、休憩所(けん)集会所たる酒保(しゅほ)がある。

今そこでは、久方ぶりに弔いの宴が開かれていた。

 

久方ぶり、というのは、およそ4.500年前に中世の一大勢力『とむらいの鐘』の敗残兵を収容した際にも、このような大人数での宴が開かれていたため。弔い、というのは、『星黎殿』の絶対守護者『嵐蹄(らんてい)』フェコルー 、『淼渺吏(びょうびょうり)』デカラビアをはじめとする紅世の徒たちのことである。

 

誰からともなく始まったその宴は自然と徒が集まり『大命宣布』の時にも並ぶ数の徒たちが所狭しと杯を酌み交わし、ある者は大声で先日のフレイムヘイズとの戦いの功績を誇らしげに語り、ある者は死に逝った者たちとの思い出を語り、ある者はこれから起こりうる世界の変化に身を任せて酔いに興じていた。

 

そんな通り道すらない喧噪で、ひどく不自然に孤立して、明らかに一歩引かれている卓があった。

そのテーブルには錚々たる面子がゆっくりと酒を酌み交わしていた。

 

暗い色のスーツに身を包む『千変(せんぺん)』シュドナイ

 

燕尾服を着た壮年の紳士『巌凱(がんがい)』ウルリクムミ

 

物憂げにショットグラスを見つめる『血染花(けっせんか)』風見幽香

 

徒たちは薄暗い照明の下、各々が好き放題に色とりどりの炎を灯し、年代や様式もバラバラの椅子やテーブルで一つの許容の下に弾けて溢れていた。

即ち、『そのテーブルに座る面子の機嫌を損なわない限りは』である。

 

当の幽香はチェイサーの水を飲み干し、ペースを変えることなくアルコール度数の高い琥珀色の蒸留酒を口に運ぶ。

そして、おもむろに卓上にあったキャンディーをボリボリと噛み砕く。

 

「…いい葡萄ね。…樽もいい。安物のキャンディーがコニャックによく合う。」

 

「飴玉を口にする風見幽香。とんだお宝映像を見せてもらった。」

 

『そう揶揄うなあぁぁー、千変(せんぺん)殿。

 こう見えて彼女は大の甘党故にいぃぃー!』

 

軽口を叩くシュドナイに若干頬に赤みを差したウルリクムミがフォローを入れるがペシャリと幽香にその頭をはたかれる。

両者の間に流れる空気は軽く、つい此間に主従関係を解消したなどという問題は無かったかのようにすら見える。

思わずといった様子でシュドナイも疑問を口にしてしまう。

 

「しかし、オタクらの関係は解消したと聞いていたんですがね?」

 

「あら?その通りよ?」

 

『然り!!!

 我らと『風見幽香』との主従関係は今や白紙いぃぃ。』

 

「まぁ、本人たちがそれでいいならこっちもいいんですがね。全く、盟主殿と言い振り回すだけ振り回して、振り回されるこっちの身にもなってくれ。」

 

呆れ気味にシュドナイは無色の酒をショットグラスで口に運んで鬱屈を酒で飲みこむ。

その様子にすっかり上気しているウルリクムミがジョッキで麦酒を呷りながら笑う。

 

「そうそう、ウルリクムミ。『()()()』の方はどう?」

 

『問題無しぃぃ!!!

 アルラウネが自在法の入手に努めており、後は時を待つのみぃぃー!!!』

 

「なら良かった。『()()()』はついででいいから、『命令』だけはちゃんと守りなさい。」

 

『御意!!!』

 

「……『()()()』??」

 

計略などを用いずにただ其処に在るだけで世をかき乱していた『風見幽香』らしくない企みの気配に、訝し気にシュドナイが問い詰める。

しかし、幽香は少し微笑むのみで言葉を返さない。

酒気が回りすっかり機嫌のよくなったウルリクムミが代わりに答える。

 

『ご安心を千変(せんぺん)殿。

 何もそちらの『大命』の支障にはなりませぬ。』

 

「えぇ。安心して頂戴。ウルリクムミとアルラウネの『壮挙』の予行演習をするだけよ。」

 

「……『壮挙』ですか。随分と懐かしい言葉だ。お前らもソカルも魅せられた中世の動乱が昨日のことのように思い出せるぜ。」

 

シュドナイの懐古の言葉にウルリクムミがかつての同僚たちの最期を思い出し、涙と共に大声で泣きわめく。

 

『うおぉぉー!!!

 ソカルぅぅぅー!

 陰険悪辣の嫌な奴だったが、その仇を討てずじまいな我を許せぇぇー!!!』

 

「うおっ!急に泣き出すなよ。ソカルの仇『極光の射手』は俺が大戦で討ったから仇は俺がとってるぞ。」

 

壮年の紳士の背中をゆっくりと撫でて慰める中年の前に薄桃色のドレスを纏った妖艶な女性が現れる。

そして、幽香に向けて不思議そうにこの状況を確認する。

 

「この痴態は何故?」

 

「ただの呑んだくれよ。煩くなってきたから部屋に運んで頂戴な。」

 

「承知。それと……、螺旋(らせん)風琴(ふうきん)の協力もあり、『()()()』の方は間に合うかと。」

 

「そう、ありがとう。」

 

短く、それだけのやり取りをしたのちに、酔っ払いのウルリクムミを机から引きはがし、「千変(せんぺん)殿、失礼します。」と挨拶をしたアルラウネはウルリクムミを連れ立って酒保(しゅほ)を後にする。

すっかり、静かになったテーブルでは機を窺っていたシュドナイがようやく話を切り出す。

 

「……『詣道(けいどう)』では何があったんですかい?」

 

そう、つい今朝まで『風見幽香』が寝たきりで意識を失っていたことに対して心配の情と、将として不測の事態に備えての情報収集の気持ちを半々くらいに質問を切り出す。

 

「それになんですかい?さっきのは?秘密の企みなんてアナタらしくもない。俺たちにぐらい話してくれよ。これでも現世での最大の徒の集団だ。助力くらいはできるはずでさぁ?ババアも盟主もそれを望んでいる。」

 

らしくもなく、捲くし立てるように言葉を並べていくシュドナイに幽香は少し困った様子を見せながらもポツリポツリと1つ1つ疑問に丁寧に答えていく。

 

「『詣道(けいどう)』では懐かしい私を知っている知己に会ったのよ。あの子たちは何処にでもいるし、どこにもいない存在だけど、ポッと涌いてきて貴方達の『大命』を潰すマネはしないから安心して。」

 

「『()()()』については()()()の問題だから私が解決するわ。助けは要らない。」

 

()があの子たちに最後にした命令だけ教えてあげるわ。」

 

 

 

()()()。この戦いを生き残れ。」

 

 

 

それっきり、幽香はもう話すことは無いと言外に席を立ち、シュドナイを残して酒保(しゅほ)を後にした。残されたシュドナイは煙に巻かれたことへの憤りを、ショットグラスを呷り、その酒精とともに飲み込んだ。

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

最終話に向けて、整理、確認、前日譚。
そんなお話でした。

今月中に完結予定でしたが納得のいく描写が出来ていないのでもうしばらくお待ちください。

今後も拙作をよろしくお願いします。


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ゆりかごに花は咲いて

侍女とかつての主人。

私たちを救ってくれたあなたの力になりたい。

そんなお話。

 


私達の主人(彼女)は優しい人だ。

 

とりわけ、その優しさは植物に向くことが多い。

 

植物を愛でる慈愛の視線はとても絵になる。

 

彼女は何と言うか分からないが、私たちが彼女に引き取られたのも私の容姿が花を模っていたということが大きいだろう。

 

そして、何よりも自由だ。

 

強者特有の我を通せる力強さというのか。

 

彼女は何者にも左右されることはなかった。

 

植物の声を聞き、時には世界中の季節の花々を巡り長く咲きたいと叫ぶ花には存在の力を分け与え、時には大樹の最期を看取り限界まで存在の力を捕食することでその存在を己が内に留める。

 

彼女が現世に渡り来てから幾千年も変わらない営みだ。

 

存在の力の授受を繰り返し、長い月日を経て多くの現世の植物は微かにだが彼女の因子が感じられる。

 

閑話休題(それはさておき)

 

そんな強大な力を持つ彼女が恐らくかの神にさえも見せたことの無い『弱み』を私と彼だけに見せてくれた。

 

優しい『彼女』だからこそ。

 

仮装舞踏会(バル・マスケ)』には悪いが……。

 

我と彼女は『彼女』の『()()()』のために。

 

この戦争を利用する。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

『星黎殿』の石塔と反対側、巨大な移動要塞の下部を占める岩塊部深奥の秘匿区画に、5人の影がある。

5人が囲んでいるのは立体的に浮かび上がった自在式。木の根のように複雑怪奇に絡まり合い暗がりに銀色の光をあぶりだす自在式がある。

中でも2人の天才が活発に議論を交わしている。

教授こと、『耽々求極(たんたんきゅうきゅう)』ダンタリオンと最高峰の自在師『屍拾(しかばねひろ)い』ラミーの両名である。

片方はせわしなく興奮した様子で空中に表示された自在式をパソコンのキーボードのようなもので調整しながら、もう片方は対照的に落ち着いた様子で手に持っている杖の先を使い自在式を慎重に調整している。

2人の天才が正反対としか見えない本質と嗜好を持ちながら、お互いの在り様を尊重して『仮装舞踏会(バル・マスケ)』の悲願、大命の調整を行っていた。

 

少し離れて『教授』の言うがままに彼の燐子である『我学の結晶エクセレント28-カンターテ・ドミノ』、通称『お助けドミノ』がガシャガシャと機械音をたてながらあたりを走り回るのをしり目に、まるでプラネタリウムのように暗がりに広がった自在式を2人の女性が眺めていた。1人は現場の指揮監督として事態の確認のため、1人は手元の白桃色の樹のように広がった自在式を弄りながらも自在師として『大命』の要となる自在式を2人の天才が育む様子を見て己が糧とするため、この至高の芸術品と言っても過言ではない自在式を眺めていた。

 

「なぁ、架綻(かたん)(ひら)。お前さんは手を出さないのかい?」

 

「えぇ、あの2人は天才。私は非才。余計な手出しは式の根腐れを誘うのでは?」

 

疑問に要領を得ない疑問で返してくるアルラウネにベルペオルは察するものが在るのか不自然なく会話が続く。

 

「あぁ、己の分を弁えるのは大事さね。ここには最高峰の自在師が揃ってる。精々、学んで力にするがいいさ。…ところで、風見殿から暇を出されたのだろ?中世の大戦での縁もある、お前さんの旦那と共にこの『大命遂行』の間だけでも『仮装舞踏会(バル・マスケ)』に力を貸してはくれんかね?」

 

その言葉の端には『大命』宣布時に散った彼女の右腕と似た、攻守において秀でた自在法『ネサの鉄槌』を操るウルリクムミと『教授』や『屍拾(しかばねひろ)い』には劣るがそれでもなお不測の事態に対応できる万能型の秀才自在師のアルラウネを自陣に引き入れ新世界の創造に際して幾多もの予防線を張ろうとしているベルペオルの意図が見て取れた。

 

紅世の徒の最大の組織の実質的な頭である『三柱臣(トリニティ)』の直々のスカウトということもあり常であっても並の徒であれば首を縦に振るであろうこと間違いないこの提案にアルラウネはゆっくりと首を横に振る。

 

「過分な御評価ありがたいです。しかし、私と彼はこの動乱では遊軍として自由に動かさせてもらいます。当然、『仮装舞踏会(バル・マスケ)』の『大命』の邪魔立てや討滅の道具との争いに手を貸さぬ訳ではございませんのでどうかご容赦を?」

 

アルラウネは誠実に彼女にしては珍しい長文で相手に誤解を生ませないように丁寧に断りの返事をする。

普段の彼女の言葉数を知っているのか、それとも最初からいい返事を期待していなかったのかは分からないがベルペオルはあっさりと身を引き、別の話題に切り替える。

 

「そうかい、そうかい。それは残念だ。では、ここにいる時間を有意義に使ってくれ。あの2人から学ぶことは沢山あるだろうに。」

 

そう言ってベルペオルが視線を向けた先ではアルラウネが自在式を紐解き、まるで樹のようにおおもとの自在式を根とし、式を幹や枝葉のように広げているのが見て取れた。その自在式に身に覚えがあったのかベルペオルは続けて聞く。

 

「おや?見てみればお前さんが開いている自在式は教授が作った『(ごう)立像(りつぞう)』の自在式かい?」

 

「然様で。不都合でもおありで?」

 

「いや、無いさ。それは紅世でしか生まれ得ない徒をこの世で生み出すという名目で盟主の代行体を生み出そうとしたが、結局、盟主はあのミステスを気に入りお蔵入りになった最早、無用の長物の自在法だよ。発動するにしても膨大な量の存在の力が必要だが、そんなもの見て面白いのかい?」

 

「えぇ、非才故にこのような自在式は練れないですが自在法を弄るのは植物の世話に似ていて好きです。根腐れをしないように式を整え、無駄を剪定して望んだ結果を引き出す式に書き換えるのは楽しいです。」

 

そう言いながらアルラウネの指先は小さな樹の枝葉をトントンと軽く叩く、そうするとまるで剪定されたかのように枝が切り落とされ自在式から分断されたその一遍は空気中に溶けるように消えてしまった。

 

「ほぉ、今は何をしてるんだい?」

 

「この自在法は少々余計なものが見られるので削る作業と容れ物の外見を板金鎧の姿から中に入る意思総体の望む姿になる様に式の調整を?」

 

「なるほど、それはいいさね。教授はいいものを作るのだが、いかんせん余計な物を趣味で付け加える悪癖があるからな。」

 

女傑二人の会話の中に己への非難を見た教授が激しく訂正をする。

 

「んんー、なぁーんとぅおー?私のェエーキセントリックかつファーンタスッティックな発明は改造機能追加し放題!いぃーざという時のためのこぉーんなこともあろうかという機構を詰め込んだちょーーーうハイスペックな術式だというのに、理解できないとは……嘆かわしぃーい限りです!」

 

「まぁ、半分くらいは使わないことが多いんですけどね。」

 

「ドォーミノォー!」

 

ひはははは(いだだだだ)ふひまへん、ひょうじゅ(すいません、教授)!」

 

ドミノが教授のマジックハンドで抓られている騒ぎをよそにベルペオルは会話を静観して作業に打ち込んでいるラミーを指さす。

 

「細かい調整なら教授よりこっちに相談すると良い。教授は不備なく動けば細かい誤差には目を瞑る技術屋だが、こやつは芸術家肌だから小さな不調和にも目敏く気付くだろうさ。」

 

「おや、これはこれはあずかり知らぬ間に仕事が増えてしまったようだね。」

 

そう言いながらラミーは帽子の鍔を触り目深に被り直し視線をベルペオルとアルラウネに向ける。

 

「手間だと思うが、次の大命はどうなるか分からん。使える手札はいくらあっても困らないさ。」

 

「精査お願いします?」

 

「やれやれ、まぁ式の調整くらいは訳ないがこちらも仕事に集中したい。これ以上は御免被らせてもらうよ。」

 

呆れ交じりの言葉とは裏腹に、その帽子の鍔の下からは鋭い視線がアルラウネの手元にある調整中の自在式に向けられる。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

石造りの薄暗い回廊にピンヒールの足音だけが響く。反響しゆっくりと石畳に吸収される音はこの回廊の人気のなさを如実に表している。

白桃色のドレスを纏ったアルラウネは番いを迎えに酒保へと思案をしながら歩みを進める。

 

紅世から現世に渡り来た五十年。

それから彼に出会った百年。

彼と共に主の『壮挙』に夢を馳せた百年。

そして、彼女と出会って彼と共に三人で生活した数百年。

大仕事の前の緊張感からだろうか様々な出来事が走馬灯のように思い起こされる。

 

必要な手札は揃えた。

かつての主が手に入れ、『壮挙』の要として据えられ、破滅を迎える一因となった『大命詩篇』の一篇。

それに『(ごう)立像(りつぞう)』の自在式も手に入れた。

式の調整も螺旋(らせん)風琴(ふうきん)の協力もあり間に合いそうだ。

あとは、これらを問題なく稼働させるための膨大な量の存在の力さえあれば……。

 

考え事をしているうちにいつの間にやら周囲は静寂から賑やかな喧噪へと変わっていた。

空気も清廉としたものから僅かに酒気を孕んだ匂いになっており、酒精に呑まれ地べたで寝ているものも見受けられる。

 

目的の人を探すために立ち止まり、辺りをぐるっと見渡す。

いた。

彼らは一番奥の卓で飲んでいる。

お目当ての人は奥の卓で盛大に泣いていてその背中を将軍にさすられていた。

まったく、あの人は昔からお酒を飲むと普段以上に気持ちが大きく揺れ動きやすくなる。そういうところもいいのだが。

 

連れ立って帰るために将軍の前に歩み寄って彼女に分かりきった確認をすると呆れ交じりに掌を外に何度も返しながら帰るように促される。

 

「この痴態は何故?」

 

「ただの呑んだくれよ。煩くなってきたから部屋に運んで頂戴な。」

 

予想通りの返事を聞くと同時に彼を机から引きはがしにかかる。そのついでにそれとなく彼女の『()()()』の経過報告も進める。

 

螺旋(らせん)風琴(ふうきん)の協力もあり、『()()()』の方は間に合うかと。」

 

「そう、ありがとう。」

 

短くそれだけを返した彼女の表情は少し緩んでいるように見えた。

これが酒精によるものか、私の進捗によるものかは分からないがそれでもその表情は柔らかく、この先の未来に一抹の不安も抱いていないように思える。

 

彼をやっとのことで机から引きはがし、挨拶もそこそこに卓を後にする。

 

『彼女』はあの時からもう覚悟を決めている。

 

私たちのやるべきことも決まっている。

 

あとは、その機を待つだけ……。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

私の勝手なイメージですが自在師たちはそれぞれ自在式に対する考え方も個性があると思うんですよね。
教授はプログラミングコード。
ラミーは絵画。
ピルソインは香り。
アルラウネは植物。
みたいな感じで。まぁ、作者の勝手なイメージですが。

残り二話です。
今後も拙作をよろしくお願いします。


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