魔法少女オレガ☆ヤンノ!? (かずwax)
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番外編の俺
番外編 もしも神原優依が魔法少女になる前の佐倉杏子に出会ったら


まどかマギカポータブル杏子ルート参照


自分の脚色が入ってますので多少違ってるかもしれませんが苦情は一切受け付けません!

動画見てて無性に書きたくなっちゃいました!


ガラガラ

 

 

パンパン

 

 

「神様ああああああああ!!お願いですから俺を生存の道へとお導き下さあああああい!佐倉杏子に会わせないで下さあああああああい!ついでに俺を食パン地獄から解放して下さあああああああああい!!」

 

休日の昼前、俺は近所の神社で魂からの願いを叫ぶ。

 

もはや、なりふりなんて構っていられない!何としても生き残らなくては!!

 

 

 

 

 

俺、神原優依は前世「男」の今世「女」な転生者である。

どっかの少年の振りした邪神のせいで前の世界で死亡しこの世界に転生した。

 

あの「魔法少女まどか☆マギカ」の世界にである。

 

どうして分かったかというと急遽するはめになった引っ越し先があの鬱アニメに出てくる街の名前だったからだ。

 

引っ越した街の名前は「風見野」

幸いなのは破滅の中心街「見滝原」じゃなかった事だ。

・・まあ家を出て数分歩けば地獄が待ち受けている「見滝原」に到達するわけで言い方を変えれば見滝原郊外、もしくはギリ風見野といった方が良いかもしれない。学校は風見野だけど買い物は見滝原なので生と死を往復している毎日です。

 

 

 

それはまだいい。用がなければ見滝原には行く用事はないからある程度死亡フラグは回避出来てると思う。

 

問題は別にある。

 

引っ越し先に初めて向かう時、「それ」を目にして俺は気を失ってしまった。

 

俺の家からは視界圏内で、ある建物が見える。普通に暮らしてればだいたい人生でそこに入る事もないが、人生最大の行事の一つでもある結婚式の時、神様の前で永遠の愛を誓う場所、そう教会である!

 

しかもただの教会ではない!とても前世で見覚えのあるこの教会はあの「魔法少女まどか☆マギカ」に登場するツンデレ魔法少女「佐倉杏子」が住んでいる教会!将来、一家心中という心霊スポットにしかならない惨劇が巻き起こる超曰く付きの建物なのだ!

 

そんなホラー物件が見える厄介なこの土地に引っ越してしまったと悟った時は本気で神を呪った。幸いまだ心中が起こっていない上に信者が集まっていないところを見るとまだ佐倉杏子は契約していないと判断できる。今の所関わりあいも無いし、知り合いでもないのでほっとしていてこのまま赤の他人でありたいと願っている。

 

だが油断出来ない!死亡フラグとは常に油断している時に襲いかかってくるものなのだ!気を引き締めなければ!

 

 

 

ていうか見掛けるんですよ!杏子パパを!

ゲームで見たときと同じ容姿で一生懸命演説されてるもの!!道行く人達から思いっきり無視されてるか冷たくあしらわれてるけどね!見てるこっちが痛々しいわ!

 

それも悪いが更に悪いのは一生懸命説法してるおっさんを心配そうに見つめる赤いポニーテールの方が問題だチクショウ!

 

だいたい遠目で見掛けるんだけど、見掛ける頻度は笑えない!

最近は一日に二、三回は視界に赤毛ポニーテールがチラつくし、至近距離ですれ違うことも多くなった。その場合は即Uターンか遠回りで撤退している。しかも気のせいか段々見掛ける距離範囲が近づいて行ってる気がする。

気のせいだと思いたい!

 

まだお互い面識はないし向こうも俺の事に気付いていないが時間の問題だ!

その内バッタリなんて事になりかねない。

 

死亡フラグとランデブーな佐倉杏子と知り合いになんてなりたくない!

 

でも死亡フラグとは俺がどんなに細心の注意を払ってもスキップのように軽やかにやって来る。

俺にはどうしようもない。

 

 

 

 

もうこれは神頼みしかない!

そう考えた俺は今日、家の近所にある神社にお参りしにきた次第である。

 

神様は大嫌いだが背に腹はかえられない!それにこの神社は導きの神様らしいので是非とも俺を生存へと導いてもらわなければ!

 

 

嘆きに近い願い事をした俺は一礼して神社を去る。

 

魂からのお願いをしたから佐倉杏子については大丈夫だろう。

次はあともう一つの問題をどうするかである。

 

 

 

俺は手に持っているバスケットを一瞥しため息を吐いた。

 

 

 

正直もう食べるどころか見たくも考えたくもないです「食パン」。

 

 

母さんの知り合いが何故か大量の食パンをくれたので、

我が家は現在「神原家地獄の食パン祭り」が開催されている。ここ最近朝昼晩全ての食事のどこかに食パンが登場するので今や食パン拒絶症が出てきてしまっている。食に無頓着な母さんでさえ「もう食パンは見たくない」と言わしめた程の大群だ。痛まないように冷凍保存するも既に冷凍庫は食パン軍に占拠されそれ以上の侵入を許さない極限状態。万事休すとはまさにこの事。

 

今日は休日なので学校は休みだ。俺は出掛けるついでにカツサンドを作って外で食べようかと思ったが奴がカツを挟んでいると考えるとどうも食欲が失せるためまだ一口も食べていない。

 

「どうしたものか・・」

 

色々と問題が多いが考えても仕方がない。気を取り直して俺はひとまず歩くことにした。

 

今日は何か良いことないかなー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でアタシ達がこんな目にあわなくちゃいけないんだ!?」

 

 

 

「お願いだ・・誰でもいい・・誰か父さんを救って・・」

 

 

 

「こんな現実は嘘だと言って・・!」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

とんでもねえ場面に出くわしちまったあああああああああああああああああああああああ!!!

 

俺の目の前でうずくまって現実を嘆いてる赤毛のポニーテールはどう見ても純度100%・一分の一スケール「佐倉杏子」じゃねえかあああああああああああああ!!

 

コイツに出会わないように路地裏をチョイスして移動してたのにまさかの杏子の方からやって来た!?

 

鼻歌歌いながら歩いてる時にいきなり杏子が俺の目の前に走って来た。その後追いかけてきたらしいおっさんに捕まって殴られてた。最初は突然の出来事に混乱したけど思い出した。

 

これゲームで見た杏子がキュゥべえと契約する前の出来事だ!

確か杏子が空腹のあまりリンゴを盗んじゃって追いかけてきた店員に捕まって殴られるんだっけ?リンゴは回収されて現実に嘆いてた時に悪魔の囁きの如くキュゥべえが契約をもちかけるんだったよな?追いつめられてた杏子はついに契約するという流れだったような気がする。

 

流石白い悪魔!見事なまでの契約タイミングだ!

俺の中で「絶対近づきたくない奴第一位」に今君臨したよ!

 

 

 

 

ていうか、神様あああああああああ!?

願った直後に来るのはなしだろうが!!向こうからやってきたぞおい!

 

・・・あ、そういえば・・・

あの神社に祀られてる神様って確か少年の姿してるって説明書きがあったような・・?

 

えええええええええええ!!?

まさかの邪神だったりするうううううううううう!?

ひょっとして俺破滅に導かれたああああああああああああ!!?

 

 

 

「・・・・・・っ」

 

脳内で邪神疑惑の奴を罵倒してる最中に地べたに座り込んでた杏子が俺に気付いたらしく気まずそうに顔を俯かせている。

 

 

そりゃ未遂に終わったとはいえ窃盗やらかして殴られた現場を目撃されたら誰だって気まずいわな。

しかしどうすればいいんだこの状況?

立ち去った方がいいのか、声掛けた方がいいのか分かんねええええ!!

ぶっちゃけ俺は前者を選びたい!

 

 

 

ぐうう~~~

 

「//////」

 

迷っている間にマヌケな音が耳に届き音がした方に顔を向けると杏子が顔を真っ赤にしてお腹を押さえている。むしろその動作が空腹な自分アピールになっているのに気付いていないのだろうか?

 

そういえばこの時ロクに食べてないらしいな。ゲーム内では水をスープに見立てて口にしてた程らしいしね。

涙出そう・・。

 

 

 

目頭を押さえていた俺に突如天啓が降りた。

 

 

 

! そうだ!良い事思いついた!

今俺が持っているカツサンドを杏子に押し付ければいいんだ!

 

そしたら杏子はお腹を満たせるし、俺は奴を口にしなくて済む!

一石二鳥じゃん!俺冴えてる!

 

そうと決まれば早速杏子に話しかけよう!!

 

「あの!」

 

「! ・・・何?」

 

視線を合わせるように俺は杏子の近くに腰を下ろし彼女の前に持っていたバスケットを差し出す。

 

 

「良かったら食べてください!」

 

「え・・・?」

 

戸惑う杏子を安心させるようににっこり笑う。

 

安心してください!毒は入っていませんよ!

中身はカツサンドですから!

ただ廃棄寸前の食パンを使用してるだけですから!

 

「・・・・・・」

 

なかなか受け取ろうとしないので、仕方なくバスケットから取り出して杏子に持たせる。作ってからそれ程時間が経っていないのでまだ暖かくカツの油の匂いとソースの香りが漂ってきて杏子がごくりと唾を飲んだ。あと一押しのようだ。

 

「私(食パン拒絶反応出てるから)お腹空いてなくて食べれないからどうしようって思ってたの。だから貴女が食べてくれると助かるんだ」

 

嘘は言ってない。

 

杏子がしばらくじっと考えていたけどやがて俺のほうを振り向いた。

 

「いいの?」

 

「うん、いいよ(むしろ助かる)」

 

「・・いただきます」

 

最初は恐る恐るの一口といった感じだったが、余程お腹が空いてたのかすぐにがっつき始めた。ほとんど丸呑みに近い勢いだ。しばらくその様子を観察しようとしたがあっという間に完食してしまった。恐るべし早食い。

 

「ごちそうさま!」

 

 

嬉しそうな顔だ。

 

「お粗末様・・ん?」

 

「え?・・あ?」

 

何故か杏子の目にポロリと涙が!?

 

 

「う・・うう・・」

 

最初は止めようとしていたようだが止まらないらしくとうとう本格的に泣き出してしまった。

 

 

「ええ!?どうしたの!?ひょっとしてまずかったとか!?だったらごめんね!」

 

突然の事態にオロオロしてしまう。

 

女の子の涙にどう対応していいのか分からない。

そもそも何で泣いてるのかさえ分からない。

 

思い当たる事といえばさっきのカツサンドくらいか?

一応自信作なのに・・ひょっとして廃棄寸前の食パンを使用した事バレた!?

 

俺はヒヤヒヤしながら謝るも杏子は泣きながら首を横に振っている。

 

 

「違うよ・・凄く美味しかった」

 

「え?じゃあなんで泣いてんの?」

 

「こんなに優しくされたの家族以外で初めてだったから・・」

 

「・・・・・・」

 

 

どうしよう・・?目合わせられない!罪悪感すごい!

杏子は優しさで食べ物恵んでくれたと思っているみたいだけど現実は俺の都合で残飯に近い物を押し付けたようなもんだから!

 

「ありがとう!こんな美味しい物初めて食べたよ!」

 

やめて!そんなキラキラした表情で俺を見ないで!

実際はそんな聖人君子を見るような目で見つめてもらえる事やってないから!

 

「そんな・・大したことないよ・・」

 

痛む胸を押さえつつどうにか笑顔で言えた。危なかった。

 

それにしても過去の杏子って素直にお礼を言える天使みたいな子だったんだな。

原作ではヤンキーとヤクザを足して二で割ったみたいな性格してるのに・・。

よっぽど一家心中に傷ついたんだね。

目の前の杏子見てると原作杏子って相当荒んでるように見えるし。

 

ん?

 

「ふぇ///」

 

「ここ赤くなっちゃってるね」

 

杏子の顔を何となく眺めてたら頬が赤くなっている事に気付き少し触ってみる。

 

良かった!赤くなってるけど腫れてない。これなら冷やしたらすぐ治りそうだ!

 

それにしても、

 

おのれええええええええええええ!!

あの店員がああああああああああああああ!

窃盗したとはいえ美少女の顔を殴るとはどういう了見じゃあああああああああああああ!?

万死に値するわボケ!!

 

 

 

「//////」

 

「あ!ごめん!痛かったよね!?触ってごめん!!」

 

「・・えっと、大丈夫だから」

 

あの店員を心の中で罵倒しまくってて忘れてたけどそういや杏子の頬に触れっぱなしだった。

 

ヤバい!杏子の顔真っ赤!俺が思ってたよりも痛いやつだった!?

ごめんよ杏子!殴られて痛いのに触れるなんて傷口に塩塗るみたいな事してええええええ!!

 

俺はしばらく両手で顔を隠す杏子にひたすら謝る。そこでふと思い出した。

 

 

そういえば杏子がここに来てしばらく経つのにキュゥべえが現れる気配が無い。

 

 

今日じゃないのか?

もしくは俺がいるから出られないとか?

 

疑問に思って杏子が耳まで真っ赤にして顔を隠してる間に辺りを見渡す。どこにも奴の姿が見えない。

 

 

 

どうやら思い過ごしのようだ・・・!?

 

 

 

 

ぎゃあああああああああああああああああ!!

QBいたああああああああああああああ!?

 

 

 

ふと何気なく顔を上に向けたらいるじゃないですか!?白い悪魔が!!

俺達からみると横にある建物の屋上からこちらを見下ろす格好でスタンバイしてる!!

薄暗いからか赤く光ってる目がこっちを見つめていて超こええええええええええええ!!

 

やっぱり契約直前だったんだ!?

俺がいなくなったらいつでも契約出来るようにスタンバってんの!?

勘弁してくれよ!

もう知らない間じゃないし俺が去った後に即・契・約☆とか笑えない!後味悪いわ!

 

 

 

 

こうなったら今回は契約阻止するしかない!この後は知った事じゃないけど今は絶対やらせない!

取りあえずここから離れよう!最悪俺も契約とか迫られたら嫌だし!

インキュベーターの顔なんて見たくもないわ!!

 

俺はそう決意し絶賛待機中のQBから目を離して未だに顔を隠している杏子に向き直る。

 

「ねえ良かったら家に来ない?顔冷やした方がいいし。今誰もいないから遊びにおいでよ」

 

「え?ちょっと、え!?」

 

杏子の手を取って無理やり路地裏から連れ出す。後ろを振り返るも奴は追ってこない。

どうやらQB難は去ったようだ。

 

 

 

 

 

 

「はい、これで冷やしてね」

 

「うん、ありがとう」

 

俺の家に杏子を招きリビングのソファに座らせタオルでくるんだ氷袋を渡す。

 

本音は家に死亡フラグキャラを入れたくなかったけど他に連れ出す案が思い浮かばなかった事とふと思いついたことを実行するため思い切って家に入れた。

 

他人の家が珍しいのかキョロキョロしてて可愛い。俺からすれば教会が自宅という方が超珍しいんだけどさ。

 

「ちょっと待っててね」

 

俺はそれだけ告げて雛鳥みたいに動き回る杏子をほったらかしてキッチンに向かう。冷蔵庫にあった牛乳と卵、そして冷凍庫から食パンを取り出し調理にかかる。

 

そう!俺は我が家にある食パン軍を杏子に一掃してもらおうと考えて連れてきたのだ!

赤いダイソンと呼ばれる奴の胃袋は無尽蔵!

杏子の胃袋に詰め込めるだけ詰め込んで一刻も早くこの食パン地獄から抜け出させていただこう!

 

「はい、召し上がれ」

 

「うわあ美味しそう・・」

 

出来上がったフレンチトーストを待ってろって言ったはずなのに何故か俺の後ろについて回ってた杏子の前に差し出す。座らせてフォークとナイフを出してやるもまた杏子は手つかずでじっと見てた。

 

「・・・・・・」

 

何?食べる前にガン見するの癖なのか?

 

「どうしたの?ひょっとしてお腹一杯で食べられないとか?」

 

まあカツサンドの後にフレンチトーストって、並みの女の子なら遠慮したい重さだよな。だとしたら失敗した。杏子だからいけるだろうと思ってたんだけど。

 

 

しばらく杏子はじっと見てたがやがて何かを決心したような表情で俺を見上げた。

 

「・・・あのさ」

 

「うん?」

 

「これ持って帰っちゃだめかな?」

 

「え!?」

 

まさかのお持ち帰り!?

フレンチトーストってお持ち帰り出来たっけ!?

 

「無理言って悪いって思ってる。・・でもこれ妹に食べさせてやりたいんだ。ここ最近アタシらまともに食べてなかったからさ」

 

凄く辛そうな表情で俯き涙を誘う。

 

いやそれよりも・・お姉ちゃん力パネエ!!

自分だってお腹空いてた筈なのに妹を優先するとはやはり天使だ!!

そういやゲームの過去編でリンゴ窃盗した時も妹にあげるつもりだったらしいしな!

 

「・・だめかな?」

 

懇願する程のもんじゃないのに、何で一生のお願いみたいな表情で俺を見てんのか謎だ。

 

さて、どうしたもんか・・。身の上話をちょろっと聞いてしまったからなー。

同情はするけど我が家に飢えた一家を満腹にする程の食料は・・あるじゃん!!

 

この家に蠢く無数の食パン軍団が!

限界まで杏子に食べさせようかと思ってたけど予定変更!

一家総出で食パン制圧に協力していただこう!これで完全に我が家は解放される!

 

ありがとう佐倉一家!!

君たちのおかげでようやく希望が見えてきたよ!

 

 

不安そうにみつめる杏子に俺は邪な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「だめじゃないけど出来立てが一番美味しいからそれは貴女が食べて?妹さんには今からサンドイッチ作るからそっちを食べさせてあげてよ」

 

「え!?アタシはアンタに随分食べさせてもらってんのに!?その上まだ用意してくれるのかよ!?」

 

「もちろん!いいよ♪いいよ♪」

 

物凄く驚かれたがこっちは上機嫌で準備にとりかかる。

 

 

 

「・・何で?」

 

「?」

 

ぼそりと何か聞こえたので振り向くと座っている杏子は俯いてて表情が見えずちゃんと耳をすまさないと聞こえない程のか細い声で何か呟いてる。

 

「何でここまでしてくれるんだ?アンタとはさっき会ったばかりなのに・・」

 

 

 

「・・困ったときはお互い様だよ?神様はきちんと良い行いをした人を助けてくれる。貴女は妹想いな優しいお姉ちゃんなんだね。だから神様は貴女を助けるために私と会わせたんじゃない?」

 

 

「・・・・!」

 

やってみたかったウインクをしてキメ顔で言ってみる。

 

ぶっちゃけ成り行きと俺の心の平穏と食パン地獄からの解放が理由なんだけどね?そんな事は言えないので適当に誤魔化しておく。杏子が教会の娘なので神様関連に結び付けておいた。誤魔化す理由が見つからなかったからだけど。

 

あと言いたいんだけどさ杏子さん、この世に神様はいるけど容赦ないぞ?

俺を絶望させたくて君と鉢合わせさせるような性悪邪神なら絶対いるから。

 

 

「・・そっか・・ありがとう」

 

泣きそうな顔でお礼を言われるがむしろこっちがお礼を言いたい!

 

「どういたしまして!だからあったかいうちに食べてね?その間に作るから!」

 

「・・うん!」

 

俺はウキウキで冷凍庫の食パンを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなにたくさん・・ホントにいいの?」

 

「もちろん!良かったら家族で食べてね!」

 

「ありがとう・・・!」

 

 

玄関先にて片方ずつ大きめのバスケットを持っている杏子は何度目か分からない泣きそうな顔で感謝の言葉を口にする。

 

はっきり言ってお礼なんて必要ない!

むしろこっちが言わなければ!

 

ありがとう!お陰様で我が家はようやく底なし沼から抜け出せたよ!

ついでにサンドイッチのレパートリーも増えた!

感謝してもしきれない!ホントにありがとう!

 

 

「なあ」

 

「何?」

 

上機嫌でニコニコする俺に杏子が決意を固めた表情で見つめてくる。

 

「アタシ佐倉杏子。・・アンタの名前聞いていい?」

 

「え・・!?」

 

まさかの爆弾だった。

 

嫌だああああああああああああああああ!!

教えたくねえええええええええええ!!

これから先死亡フラグに突っ走る人と絶対仲良くなりたくない!!

今日限りの縁にする前提で助けたんだから名乗る必要ないじゃん!

 

「な、名乗る程じゃないよ・・?」

 

「だめだ!それじゃ意味ないんだよ!アタシにとってアンタの名前は大事なんだ!」

 

「ひい!」

 

「お願い教えて!アタシ、アンタの名前知りたいんだ!!」

 

何でここまで鬼気迫る表情で俺に詰め寄ってくんのか分からないがこの並々ならぬ気迫から何が何でも聞きだすつもりなのは分かる。

 

教えなきゃ帰ってくれなさそうだな・・。

仕方ない。

 

「優依・・」

 

「優依?」

 

「神原優依です」

 

「優依って言うんだ。アンタにお似合いの可愛い名前だな。優依か・・えへへ」

 

俺の名前を教えただけで何でそこまで嬉しそうに笑うのか分からない。

食べ物くれる人認定されてないよね?

やだよ?もう会う気ないし。

 

「優依ホントにありがとな!ちゃんと家族で味わって食べるよ!また会おうな!」

 

「(二度と会いたくないから)早く帰ってあげた方がいいよ?さよなら!」

 

上機嫌に俺に手を振る杏子を見送り家の中に入った。

 

取り敢えず玄関先に死亡フラグの厄払いで塩でも振っておいた方がいいだろうか・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子side

 

「お腹空いた・・何でもいい・・誰か食べさせて・・せめて妹だけにでも」

 

空腹のままふらふらした足取りで街を歩く。ここ最近まともに食べてない。

 

アタシの父さんは教会で経典の文言を教える仕事をしていた。

だけど苦しむ人々を救うには経典の教えはもう古いと考えた父さんはある日教会に集まった信者の方々に自分の考えを説いた。

 

父さんは間違った事を言ってない。正しい事を言っていたはずなのに信者の人は話を聞いてくれず離れていった。教会の本部からも破門された。寄付してくれる人もいなくなってアタシ達一家は食べる事に困ってしまった。皆がアタシ達を見殺しにしようとしてるみたいだ。

 

なんで・・?なんでなの?

父さんは正しい事を言ってるのに!

何でアタシ達がこんな目にあわなくちゃいけないんだ!?

この世に・・神様はいないの?

 

視界が涙で滲む。

 

ここ最近ふと思い出す事がある。

キュゥべえと名乗る白いマスコットに願いを叶えてあげると言われたあの日。あの時はアイツの人の弱みに付け入るようなやり方に怒って拒絶したけど今は少し後悔している。

 

 

 

 

あの時契約してれば・・

 

 

 

 

「あ・・」

 

考え事をしていたがふと視界に赤いものがうつった。

 

「リンゴ・・」

 

商品棚に置かれているリンゴ。今は近くに誰もいない。

 

「あれさえあれば・・」

 

ごくりと喉を鳴らす。いけない事だって分かってる。

でもお腹を空かせてる妹に持っていってあげれば・・!

 

 

 

「あ!このガキ!」

 

アタシは覚悟を決めてリンゴを手に取り一目散に駆け出した。

 

 

 

 

「うあああ!離せ!これはアタシんだ!」

 

「ふざけやがってクソガキ!」

 

まともに食べてないから体力もなくて路地裏に逃げ込んだところを捕まってしまった。

 

「っ!」

 

暴れていたが頬に衝撃を受けて地面に倒れこむ。じんじん痛む頬でようやくアタシは殴られたんだと分かった。

 

「返せ・・妹に持ってってやるんだ・・!」

 

アタシの言葉は無視されリンゴを取り返した店員はさっさと来た道を戻っていく。その背中を見て再び涙で視界がぼやけた。

 

 

くそ・・くそ・・くそ・・くそ!!

 

「何でアタシ達がこんな目にあわなくちゃいけないんだ!?」

 

 

父さんからは絶望に負けちゃいけないって教わったのに嘆きが止まらない

 

 

 

「お願いだ・・誰でもいい・・誰か父さんを救って・・」

 

優しすぎるあの人をこれ以上苦しめないで!

 

 

 

「こんな現実は嘘だと言って・・!」

 

誰か助けて・・・!

 

叶わない願いだと分かっていても願わずにはいられない。

 

ふと視線を感じ顔を上げたら女の子と目があった。とっても綺麗な女の子で最初は女神様かと思った程だ。

 

 

「・・・・・・っ」

 

見とれていて忘れてたけどさっきのやり取りは見られてたに違いない。気まずさに顔を俯かせる。

 

ぐうう~~~

 

「//////」

 

気まずい沈黙を壊すようにアタシのお腹が鳴った。慌ててお腹を押さえたが顔に熱を帯びるのが分かる。

 

空腹だから鳴っても仕方ないけどこんな時に鳴らなくても!

 

 

「あの!」

 

「! ・・・何?」

 

綺麗な声が間近に聞こえて顔を上げる。女の子がアタシの目の前にいた。

 

 

やっぱり綺麗な顔だな・・

 

ぼーっとその子の顔を見てたら女の子がアタシの前にバスケット差し出してたのに気付かなかった。

 

「良かったら食べてください!」

 

「え・・・?」

 

花が綻んだような可愛い笑顔を見せて胸が少し高鳴った。そして同時に戸惑う。

 

 

・・どうすればいいんだろう?

 

困惑したまま動かないでいると痺れを切らしたのかその娘が中身を取り出してアタシに持たせた。

どうやらカツサンドみたい。すごくいい匂いで思わず唾を飲み込む。

 

それでも動かないアタシに女の子が「今お腹空いてないから食べて欲しい」とアタシが遠慮しないように優しい嘘までついてくれた。

 

ここまでされて遠慮するなんて悪いし何よりお腹空いてる。アタシはもう一度確認し、許可をもらってから一口かじった。出来立てのようで衣はサクサクでソースが香ばしい。気づけば夢中で頬張ってた。凄く美味しくてあっという間に完食してしまった。

 

こんなに美味しい物食べたの久しぶりだった。

こんなに誰かに優しくされたの・・初めてだった・・

 

「う・・うう・・」

 

いつの間にか涙が出てきて止めようとしたけど止まらなかった。女の子は不味かったのかと心配してオロオロしてたけどそんな事ない。何とか嗚咽気味に誤解を解いた。

 

「ありがとう!こんな美味しい物初めて食べたよ!」

 

涙が止まり精一杯の感謝を込めて女の子にお礼を伝える事が出来た。

 

 

「そんな・・大したことないよ・・」

 

目を逸らして呟くように謙遜してた。

可愛いけど随分謙虚な奴だなあ

 

 

 

この後その娘がじっとアタシを見てたかと思うと突然手を伸ばしてきた。

 

「ふぇ///」

 

「ここ赤くなっちゃてるね」

 

最初何されたのか分からなかった。頬に感触を感じたからアタシはようやくさっき伸ばした手で触れられてると分かった。顔が熱くなってる。

 

 

心配そうな表情も可愛いな・・

今アタシだけを見ていてくれてるんだ

ずっと見て欲しい

ずっとアタシだけを見ていて欲しい・・!

 

恥ずかしい事考えてて顔が更に熱をもったのだろう。それに女の子が気づき慌てて手を放してアタシに謝ってきた。誤解なのだが今のアタシに訂正する余裕はない。

 

アタシ何考えてんだ!?

同じ女子に触れられてドキドキするなんて変態じゃん!

触れるのやめられてすごくガッカリしてやめないで欲しかったなんて考えてるし・・!

あああああ!どうしよう!?

心臓がうるさい!恥ずかしくて顔見せられない!

 

両手で顔隠しているが熱が凄いのか物凄く熱かった。

 

少しの時間はそのままだったけど女の子はまだアタシの傍にいてくれて慰めてくれてるみたいだった。

 

 

 

「ねえ良かったら家に来ない?顔冷やした方がいいし。今誰もいないから遊びにおいでよ」

 

「え?ちょっと、え!?」

 

一方的に捲し立てられアタシが何か言う前に手を掴まれ立ち上がらせて引っ張られる形で走った。

 

 

 

 

連れてこられたのは大きな家。たぶん女の子の家だ。テレビでしか見た事ないオシャレなリビングに案内され頬を冷やすようにとタオルでくるんだ氷袋をくれた。

 

ひんやりして気持ちいい。けど自分が場違い過ぎて落ち着かない。ソワソワしてあちこち見渡してしまう。

 

その娘がアタシに待ってるように言い残してリビングを出ていくが少しでも一緒にいたくて後ろをついて回った。何かを作ってるみたいでその後ろ姿を一心に見つめた。

 

飽きないし退屈なんてしない。

ずっと見ていたい

 

しばらく経ってアタシの前にフレンチトーストを出してくれた。どうやらこれを作ってたみたい。

 

食べていいの?・・でも

 

しばらく目の前に出されたものを見て悩んでいたが決心がついて目の前で不思議そうな表情をしている女の子を見た。

 

 

 

「・・・あのさ」

 

「うん?」

 

「これ持って帰っちゃだめかな?」

 

「え!?」

 

とても驚かれてしまった。

まあ確かに今食べるために用意してくれたのものを持って帰りたいって言ってるしな

・・気を悪くさせちゃったかな?

 

 

「無理言って悪いって思ってる。・・でもこれ妹に食べさせてやりたいんだ。ここ最近アタシらまともに食べてなかったからさ」

 

今こうしてる間にもモモはお腹空かせて泣いてるかもしれない。アタシはさっき食べさせてもらった。だからこれは妹にあげたい。

 

 

「・・だめかな?」

 

不安になって見つめる。その娘は少し考えてから女神様みたいな慈愛に満ちた笑顔になって口を開いた。

 

「だめじゃないけど出来立てが一番美味しいからそれは貴女が食べて?妹さんには今からサンドイッチ作るからそっちを食べさせてあげてよ」

 

 

 

驚いたと同時に訳が分からなった。アタシを助けてくれるだけじゃなくて妹まで。目の前にいるコイツは何を考えてるのか分からない。

 

 

 

「・・何で?」

 

 

言うつもりはなかったのに勝手に口が動いてた。

 

 

「何でここまでしてくれるんだ?アンタとはさっき会ったばかりなのに・・」

 

 

 

神様も信者の人も本部の人も誰もアタシ達を助けてくれなかった。

だから何で今日会ったばかりの子がアタシを助けてくれるのか分からない。

 

 

 

「・・困ったときはお互い様だよ?神様はきちんと良い行いをした人を助けてくれる。貴女は妹想いな優しいお姉ちゃんなんだね。だから神様は貴女を助けるために私と会わせたんじゃない?」

 

ウインクまで決めて悪戯っぽく笑いながらアタシを諭すような優しい口調だった。

 

「・・・・!」

 

そうだ・・。神様はちゃんと見ていてくれてたんだ。

だからアタシはこの娘と出会えた!凄く嬉しかった。

絶望しちゃダメって父さんは言ってたじゃないか!

希望を見失っちゃいけないって!

アタシはもうちょっとで希望を失う所だった。

でもそのおかげでアタシは神様に出会えた!

アタシは凄く幸せ者だ・・

 

涙ながらにお礼を言うが女の子は気にせず冷めないうちに食べろと告げただけでウキウキでサンドイッチを作り始めた。

 

何でそこまで嬉しそうなのか分からないけど人を助ける事に喜びを感じる聖女様だからかも。

アタシも見習わなくちゃ

楽しそうにサンドイッチ作ってるその娘の背中を見ながらフレンチトーストを食べた。

甘くて柔らかくて優しい味だった。

 

 

 

帰るときその娘はアタシに大き目なバスケットを二つ持たせてくれた。中身はギュウギュウまで詰め込まれたサンドイッチ。凄く重くて持ち帰るのは大変だけど嬉しかった。

 

これなら家族全員お腹一杯食べられる・・!

 

改めてお礼を言ったけど女の子は「家族と一緒に食べてね」とただ繰りかえした。

 

どこまで優しいのか分からないなコイツ。

ホントに聖女様みたいだ。

 

 

 

 

「なあ」

 

「何?」

 

帰る間際に大事な事を思い出し、声を掛ける。

 

 

 

「アタシ佐倉杏子。・・アンタの名前聞いていい?」

 

「え・・!?」

 

名乗るなら自分から。どうしてもその娘の名前が知りたくなったから聞いてみただけなのに何で驚かれてるんだろう?

 

 

 

 

「な、名乗る程じゃないよ・・?」

 

「だめだ!それじゃ意味ないんだよ!アタシにとってアンタの名前は大事なんだ!」

 

名乗る気はなかったのか教えてくれなくて焦って詰め寄ってしまう。重い物を両手に持ってるはずなのに重さが全然分からなくなる程アタシは慌ててた。勢いに任せて詰め寄ったからか女の子は怯えてたけどそれを気にしてる余裕はない。

 

ここでお別れなんて嫌だ!

また会いたい!

名前も知らない赤の他人なんて耐えられない!

アンタにもっと近づきたい!傍にいたい!

 

 

「お願い教えて!アタシ、アンタの名前知りたいんだ!!」

 

懇願の形になってるのを自覚していたがなりふり構っていられなかった。

 

教えてくれるまで帰らない!

何時間でも粘ってやる!

 

 

 

「優依・・」

 

しばらく硬直状態が続いたけどやがて諦めた表情でため息を吐いてぼそりと女の子は呟いた。

 

「優依?」

 

「神原優依です」

 

「優依って言うんだ。アンタにお似合いの可愛い名前だな。優依か・・えへへ」

 

思わずにやけてしまう。

なんだか優依と距離が縮まった気がして嬉しくなった。

心の中で何度も優依の名を呼ぶ。

呼ぶ度に胸が高鳴るのが分かった。

 

「優依ホントにありがとな!ちゃんと家族で味わって食べるよ!また会おうな!」

 

早速教えてくれた名前を呼んでお礼と今度会う事を告げて手を振った。

 

「早く帰ってあげた方がいいよ?さよなら!」

 

最後までアタシの名前を呼んでくれなかったけど優依も手を振ってくれた。最後まで可愛い笑顔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏子・・このサンドイッチは一体どうしたんだ?ウチにはそんなお金はないぞ?まさか盗んだんじゃ・・?」

 

「違うよ父さん!これは今日友達になった子がくれたんだ。良かったら家族で食べてって」

 

「・・そうか。ありがたい事だ。優しい友達が出来たんだね」

 

「うん!女神様みたいに優しくて可愛い女の子なんだよ!」

 

「今度何かその娘にお礼をしなくてはいけないね。ただウチにはお金が・・」

 

「父さん大丈夫だよ。今度会ったらアタシが何かお礼するから」

 

「そうか、すまない。では遠慮無く頂くとしよう。杏子、母さんとモモを呼んできてくれないか?」

 

「はーい」

 

 

 

教会に帰ってアタシが大きなバスケットを持ってる事に父さんは驚いた。中身は色取り取りのサンドイッチが入っていて、最初はアタシが盗んだと思ってたみたい。

 

まあウチにはお金がないからそう思うのは当然か。ちゃんと説明したら父さん分かってくれて良かった。久しぶりに父さんが嬉しそうな顔してるからアタシまで嬉しくなっちゃう。

 

今日はお腹いっぱい食べられるからモモは喜ぶだろうな。そう思うと笑顔になる。

 

人生で最低の日かと思ってたけどそんな事はなかった。

今日は人生で最高の日。

 

だってアタシの、アタシだけの神様に会えたんだ!

優しくて可愛いアタシを救ってくれた神様!

 

今までの辛い毎日は神様に会うために必要な事だったんだって今なら思える。

 

待っててね優依!アタシまた会いにいくからさ!

アンタの為ならどんな事だって耐えてみせる

アンタが望むならどんな事でもする

 

だからずっとアタシといてね?

 

 

そんな事を考えつつアタシは軽やかな足取りで母さんとモモを呼びにいった。




IF番外編でした!

過去の杏子ちゃんが凄い切ないのでせめて二次創作だけでも救われてほしいという願いをこめて優依ちゃんぶっこみましたがどうしてこうなった?

既に病みの片鱗が出ちゃってます!
出会い編はこんな感じですかね?
このシリーズ続けようか悩み中です

他にも番外編考えてますのでちょいちょい増えていきますよ!
IFシリーズ、イベントなどを投稿する予定です!

はよ本編に杏子ちゃん出したい・・


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原作前の俺の悪あがき
プロローグ~絶望からスタート~


初投稿よかったら読んでください!


俺は今絶望している。

人生のうちに何回か死にたくなるような絶望感を味わった事があるが、今回はその比ではない。

というか俺は一度死んでいる。

 

俺はもともとしがないリーマンだった。それがある日突然死んでしまった。

原因は「ごめん。つい殺しちゃった☆」と全く反省の色がない自称[神]の少年の仕業だ。

「お詫びに転生させてあげるよ。あと特典もあげるね☆」と勝手に決められ、追い出される形で俺は転生した。・・・・・・・・・・・・女に。

 

ただでさえ、自分が一度死んだ事にショックだったのに、ましてや女になってる。しかも美少女。

立ち直るのにすんごい時間がかかったが、十三年も女として生きてると案外順応するものらしい。まあ未だに、口調(素の部分)とか男女の接し方とかに戸惑ってしまうけど、何とかなっている。

これからも、まあ何とかなるだろうとのほほんと思っていたんだ。さっきまでは。

 

原因は今日のとある時間に今世の俺の母親(超美人)が俺に言ったことだ。

「1か月後、仕事の都合で見滝原市という町に引っ越す。学校は見滝原中学校という所に通うことになった。今日から引っ越しの準備を始めるぞ。」

 

俺に超特大の爆弾を残して、さっさと自分は引っ越しの準備を始めてしまった。

 

俺はその言葉を聞いてしばらく動けなかった。どうやって自分の部屋に戻ってきたのかさえ思い出せない。俺は頭を抱える。てっきり、ただ女として転生しただけかと思ってた。現実はそんなに甘くなかった。

どうやらこの世界は夢と希望の魔法少女が絶望と破滅に向かう鬱アニメ「魔法少女まどか☆マギカ」の世界のようだ。

・・・うん。俺死ぬな。二度目の人生わずか十数年で死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法少女まどか☆マギカ」

名前から想像できないが、うら若き乙女たちが救いのない戦いに身を捧げ無情に散っていくとんでもない鬱アニメである(俺の偏見)。

一歩間違えれば地球規模で破滅一直線を辿るストーリー。おかげさまでこのアニメを観たときの俺のメンタルHPは即底をついた。しばらく立ち直れなかった程の威力だ。ただでさえ俺のトラウマTOP3に入っているのに、それがまさか自分がその世界に転生していようとは・・・・・。

しかも・・物語の中心地「見滝原市」に引っ越すことになるなんて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故だ!?神よ!俺が嫌いなのか!?

俺はお前が嫌いじゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!

 

        

 




とまあこんな感じで進んでいく予定です。


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1話 さまよう(状態:現実逃避)

母親からの衝撃の引っ越し宣言をされ、俺は抵抗しまくった。だが、理由はろくに説明出来ず、苦し紛れに

 

「第六感が囁いてる!!」

 

とか言ってみたら、無視され、あれよあれよという間に引っ越しが完了し見滝原市に来てしまった。せめてもの悪あがきで、

幼馴染兼オタクな親友トモっち(男)に引っ越したくない!と泣きついてみたが、

 

「離れてもズットモだぜ!!」

 

と親指を立て無駄に良い笑顔で何のあてにもならない励ましのみもらった。

 

幸い俺は今中学一年生だ。原作前であるため、まだ死なないと思う。でも明日からとうとうあの見滝原中学校に通うはめになる。胃が痛い。

今日が最後の晩餐だ。現実逃避したくてあてもなく彷徨っている。ぶっちゃけ今どこかわかっていないがそんな事はどうでもいい。それよりこれからどうするか考えるのが先だ!

 

あの中学校に通うということは、嫌でも「まどマギ」の重要人物達と出会うことになる可能性が高い。そもそも何の因果かこの世界に転生し、ましてや中心地に引っ越すはめになるなんて狙ってされてるようなもんだ。

 

どうする?関わる?

絶対嫌です!俺はへタレだし、豆腐メンタルならぬカバーガラスメンタルだからあんな殺伐とした戦いに正気でいられる自信がない。魔法少女になるなんて論外!破滅まっしぐらだ。

 

彼女たちに悪いが俺はどうする事も出来ない。元男の現女モブAに何が出来るよ?せいぜい盾くらいしか出来ないよ?ペーパーくらいの強度の。

この世界が原作通りならば、魔法少女に関わらない限り普通の生活は大丈夫だろう。たぶん。

まど神様がなんとかしてくれる!頼みますよホント!

 

 

決めた!俺は無関係でいよう!

 

 

そう決意して周りをみれば

 

 

「どこですか?ここ?」

 

な世界に立っていた。いや街並みじゃなくて、世界観が違う。まさかのファンタジー世界にご招待された!?

て、違う!ここは「まどマギ」だ!という事はこれ魔女の結界ですか!?

 

うおおおお、ロクでもない考え事してたからバチあたった?とにかく何とか脱出するしかない!

急いで周囲を見渡す。幸い周りに魔女や使い魔はいないようだ。それならば、気づかれない内に脱出する。出口どこ!?そもそも出口あんの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、はあ」

運動神経一般人以下だから走るのきつい。現代もやしっこには走るのもぎりぎりだわ。

出口を求めてがむしゃらに走りまわる。だってそれしか選択肢ないもの!

 

「!?げっ・・。」

どうやら俺は最深部に来てしまったようだ。原作ではみたことないグロテスクな魔女が鎮座してる。

 

最悪だああああ!よりにもよって魔女様のいる所に来てしまったあああ!

 

「!」

魔女が俺に気づいて、一瞬の間に距離をつめられ、大きな口を開けて俺に覆いかぶさろうとしている。

時間がゆっくり動いている錯覚を覚える。ああ、走馬灯って本当にあるんだ・・。前世の男だった俺が死んで、転生したら女になって、色んなことがあった。様々な記憶が瞬時に巡り、視界が涙で歪む。

 

 

 

こんな死に方って・・原作すら始まってないのに・・あっけないな・・ホントにあっけないんだけどおおおおおお!!

これで死んだらあの邪神いっぺんしめてやるうううううう!!

 

 

ーギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!-

 

「うえ!?」

心の中で罵っていると魔女が突然悲鳴をあげ、身体がバラバラに引き裂かれる。

ひいいいいい!肉片が・・肉片がグロいいいいい!

 

舞い散る肉片にグロ耐性のない俺は失神しそうになる。

ドン引きしてる間に周りの景色が歪み、俺が歩いていたであろう街並みになっていた。

 

 

「え?どゆこと?」

 

訳が分からずキョロキョロ周りを見渡していると後ろから声がした。

 

 

 

 

「アンタさ、命拾いしたね。」

 

 

 

慌てて後ろを振り返ってみると、長い赤髪をポニーテールにし、勝ち気な赤い瞳にチャームポイントの八重歯をみせながら笑っている

「まどマギ」重要人物ツンデレ魔法少女「佐倉杏子」がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?なんでいんの?ここ風見野?

 

 

 

 

 




記念すべきトップバッターは杏子ちゃんです!杏子ちゃん大好きなんで!


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2話 赤い魔法少女のお早い登場

杏子ちゃんとの出会いです!


「アンタ悪運強いのかもね。よく生きてたもんさ。」

 

感心した風に俺を見ている佐倉杏子。うん、やっぱり美少女。実物は違うね。へそだしスタイルにパーカー、そしてミニズボン。活発な彼女によく似合っている。というか俺より背高いんかい。はっ!いかんいかん!また現実逃避してた。とりあえず何か話さないと!何か聞け俺!

 

「あの・・・。」

「あん?」

 

「さっきのなんですか?あれ?」

関わっちゃいけないのに、なんで自分から深堀りしようとしてんのおれええええええ!!テンパってアホなチョイスした!

 

「あー世の中知らねえ方がいいもんもあるぞ。さっきのはまさにそう。まあ、今回のは滅多に出来ない貴重な経験って事にしとけ。せっかく無事だったんだからさ。」

 

俺のポンコツな質問に対して一般人を巻き込まない、そしてさりげないフォロー付きというパーフェクトな回答をしてくれた杏子さん。

マジかっこいい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子side

魔女を倒したついでに助けた奴。世間では美少女って言われそうなくらいかわいい女の子だった。瞳に涙を浮かべ、なんていうか守ってあげたくなる雰囲気がある。そいつは見た目通りのかわいい声でさっきのこと聞いてきたが、適当にはぐらかした。

 

そしたら急に泣き出すからビビった。おそらくさっきの恐怖がよみがえってきたんだろう。無理もない。顔を伏せて涙を見せないようにしている。

その姿に妹の面影と重なってアタシは思わず抱きしめた。ついでに頭を撫でた。

 

「泣くんじゃねえ。アンタは生きてんだから喜べよ。」

 

自分の家族のことを思うと本当にそうだ。アタシはしばらくコイツを抱きしめてた。

 

なんでだろう?初めて会ったのにコイツには泣いて欲しくないって思っちゃうのは・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えーと・・これはどういう事ですか?

目にゴミが入って、痛みのあまり思わず涙が出てきてしまい、慌てて顔伏せてたら、なぜか佐倉杏子に抱きしめられてた。

訳が分からず、良い香りだなーとか胸意外とあるなーとか邪な考えをしてると

 

 

「泣くんじゃねえ。アンタは生きてんだから喜べよ。」

 

と頭撫でられながら言われた。

 

どうやら俺が恐怖で泣いていると勘違いして慰めてくれてたようだ。全然違うけど。

 

・・思わぬラッキーだが、申し訳ないことしたな。

 

 

「すみません!もう大丈夫です!ありがとうございます!」

 

杏子から離れ、頭を下げ、色々な意味を含めた(勘違い等)謝罪をする。腰の角度は九十度がミソ。

 

「気にすんな。生きてりゃ儲けもんだよ。」

杏子がさも気にしてない風に言ってるんだが、壮絶な過去を持つ貴女が言うと重みが違うのは気のせいではないだろう。

 

「ん?」

よく見りゃ杏子さん手を怪我してるじゃないですか!これはいかんと持っていたバッグからハンカチを取り出して手に巻きつけつる。

 

「お、おい!何すんだよ!?いいって!すぐ治るから!」

知ってます。そんなこと。君が嫌がって外そうとするが許しません。すぐ治るとはいえ、女の子が怪我をするのは実にいただけない!問答無用!

 

 

「はい!手当終わりましたよ!ハンカチは返さなくて大丈夫です!(会いたくないから)それで聞きたいことがあるんですけどいいですか!?」

 

有無を言わせない勢いで手当を終え、一気に捲し立てる。今一番大事な事を聞かなければならない!

 

 

「な、なんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここどこですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

「はあ?」

 

 

 

杏子は何言ってんだコイツ?みたいな顔してるが、そんなの気にしない!聞いてる相手が関わりたくないキャラでも気にしない!

 

迷子にそんな事を気にしてる余裕はありません!

 

 

 

 




へタレだけど図々しいそれがこの主人公!



おきにいり登録してくれた皆様!ありがとうございます!


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3話 赤い魔法少女と迷子

杏子ちゃん編続きます!


「ほら着いたよ。ここが風見野駅。」

 

結局俺は、面倒臭がる杏子を頼み倒し、風見野駅まで連れてきてもらった。それにしても俺って意外と体力あるんだな。徒歩で隣町まで来たぐらいだし。・・・運動神経皆無なのに。

 

 

「たく、何でアタシがこんな事してんだか。時間の無駄だったな。助けなきゃよかった。」

 

だるそうに悪態ついてる割には杏子さん。貴女結構楽しそうに「あそこのラーメン屋旨いんだぜ!」と風見野のグルメ情報教えてくれてたじゃないですか。なんだかんだでこの娘、本当は優しい娘なんだよね。普段の態度悪いけど。

 

 

「ありがとうございます!おかげで助かりました!貴女みたいな親切な人に出会えて私すごく嬉しいです!」

 

 

ふふふ、十三年間女子として生きてきたからな。これくらいの口調は余裕だ!

 

 

「は、はあ?ただの気まぐれに決まってんじゃん!」

顔真っ赤にして否定しても信じませんよ?ツンデレめ。

 

 

 

「はい!それでもありがとうございます!些細なお礼しか出来ませんが、これ受け取ってください。」

 

俺は今日の晩、ヤケ食いしようと思って買っていた板チョコ(箱買い)を杏子に渡す。

 

「へえ、まあ、食いもんはもらうけど一つ忠告しとく。アンタあんまり見ず知らずの奴に付いて行かない方が良いぜ。抜けてそうだし、危なっかしいから見てらんないぜ。」

 

「・・・・・・・・返す言葉もございません。」

 

魔女に喰われそうになったり、原作キャラだからって安心してついていった手前、ぐうの音も出ない。

 

「ま、次からは気を付けな。アタシはもう帰るから。」

そう言い残すと颯爽と帰っていく杏子さん。ほんとかっこいい。

 

 

「うん!ありがとう!さよなら!」

助けてもらった事の感謝ともう二度と会いませんようにという願いを込めて満面の笑みで俺は手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子side

何なんだ?コイツは?見た目か弱い美少女のくせに、怪我してるとか言って無理やりハンカチ巻きつけてくるし、ここどこだ?っておかしな事聞いてくるし、挙句の果てには、このアタシに駅まで案内しろなんて厚かましい。あまりにも必死で頼んでくるから、仕方なく案内した。

 

・・・久しぶりに年の近い子と話すから、結構楽しかった。ついつい余計なおしゃべりをしちまうくらい。

恥ずかしくなって悪態ついても気にしてる様子もなく、お礼と言って板チョコ渡してきた。盗まなくても手に入るなら、たまには親切にするもんだな。それにしてもコイツ。迷子とはいえ、知らない人間にほいほい付いていくか?心配になるな。・・・かわいいしさ。

 

一応忠告したが、分かってんのかホントに?

 

「ま、次からは気をつけな。アタシはもう帰るから。」

そう告げてアタシは早足に離れる。何かコイツといると調子狂うから。

 

「うん!ありがとう!さよなら!」

ちらりと横目でアイツを見ると満面の笑みでアタシに手を振ってた。何でそんなに笑顔なんだか。ホント調子狂う。あんな奴初めて会った。

 

・・・もう会う事もないだろうし、名前だけでも聞いとけば良かったかな?

 

はやる鼓動を抑えつつ、アタシはひたすら早足で駅を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかのエンカウントかよ・・。」

 

なんとかバスで帰ってきたが、今になって恐怖が噴き出してきた。

 

 

あああああああああ!!!もうううううううううう!!!

ピンポイントで魔女に出くわすし、「佐倉杏子」に出会ってしまうし、今日でこれって明日からの中学校がますます不安だ。

 

出来る限り関わらない!!これは決定事項!!じゃないと命がいくつあっても足りません!

 

 

決意を新たにベッドに入る。

 

明日の不安と魔女の恐怖と佐倉杏子に出会った戸惑いと嬉しさ、そして一枚くらい板チョコをとっておいた方が良かったというどうでもいい後悔の中、俺は眠りについた。

 

 

 




杏子ちゃん編これで終了です!

次は見滝原中学校へ行きます!主人公の名前もでてきますよ!


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4話 いざ!見滝原中学校という名の死地へ!!

連続投稿です!


ついに・・ついにやって来てしまった!教室がプライバシー無視の全面ガラス張りな刑務所学校「見滝原中学校」!!

 

俺は校舎の前に立っている。今の気分は魔王城に向かう勇者!!

それぐらいの心持ちでいかないと、この先やってられない!!

 

 

「すう、はあ。」

深呼吸で調子を整え、俺は意を決して中へ入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目玉焼きはソース派ですか?醤油派ですか?はい!中沢君!」

 

このどうでもいいやり取り毎日やってんのか?という事は毎日何かしら男関連でイザコザあるのか・・お疲れ様!中沢君!

 

このセリフで察すると思うが、俺の担任、あの「早乙女先生」。職員室で紹介された時は気絶しそうになった。

で、少し待っててくれっていうから、待機してたらこのやり取り。

 

忘れられてんのか、お約束なのか知らないけど・・・帰っていいかな?

 

 

 

「そうそう。今日は転校生を紹介します。神原(かんばら)さん!入ってきて!」

「!!」

 

唐突だな!あのくだらないやり取りで忘れてたけど俺転校生だった!き、緊張してきた・・。

 

 

よし俺!なんでもない振りをするんだ!緊張してないみたいに振る舞え!

 

 

さも緊張していない風に醸し出し教室に入る。

 

 

 

「神原優依です。隣の県から引っ越してきました。仲良くしてくれると嬉しいです。」

 

よ、良かった・・噛まずに言えた。よろしくお願いしますと頭を下げると拍手喝采が起こった。主に男子から。

 

 

うん、わかる。自分で言うのもなんだが、俺美少女だもんね。ゆるふわの茶髪ロングヘアーに瞳パッチリの顔整ってるしね。スタイルもまあ良い方だし。男子が喜ぶ訳です。正直だな。まあ、俺もこいつ等の立場なら喜んでただろうな。しかし・・・・どうせなら美少年が良かったな・・うん。

 

ちなみに今世の俺の名前「神原優依」。名づけられた時は自分の名前と思えないし、違和感ありまくりだったが、人間の順応力ハンパない。すぐに慣れましたよ・・はは・・。遠い目をしてはしゃぐ男子たちを見てふとぼんやり思った。

 

 

 

 

だが、油断してた俺に早乙女先生が信じられない爆弾ぶっこんできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、席は・・鹿目さんの後ろね。」

 

 

 

 

「!!??」

 

 

早乙女先生が指差すその先に空席がある。その前に座っているのは現実じゃありえないピンク髪をツインテールにした、選択肢次第で神にも魔王にもなる歩く災害こと「魔法少女まどか☆マギカ」の主人公「鹿目まどか」さんじゃないですか!?それだけじゃない!

 

俺の席(暫定)の後ろの席に座っている女子生徒は空前絶後の間の悪さで破滅し、悪堕ちする薄幸青髪少女「美樹さやか」さんじゃないですか!?

 

まさに前門の虎!後門の狼!

 

更に悪いことに俺のお隣さん。爆発しろリア充が!!と殴りたいあの「上条恭介」君じゃないですか!?

 

なんだこの包囲網!?完全に俺追いつめるために用意されたとしか思えねえよおおおお!

担任が早乙女先生だった時点でもしやと思ってたけど、予想より更に悪いわ!

 

 

「じゃあ神原さん。席について。」

 

・・・正気ですか先生?俺にあの完全包囲網の中に行けと?

 

・・・ただのモブ女子生徒Aに選択肢なんてないし、どうする事も出来ない。しぶしぶ席に向かう。

 

 

 

「よろしくね。」

 

「よろしくー転校生。」

 

「ア、ハイ。ヨロシクオネガイシマス・・・。」

 

 

 

 

席に着くと早速関わりたくない二人に声をかけられる。俺はぎこちない笑顔で返すしかなかった。

 

 

 

正直俺はよろしくしたくないです・・・。

 

 

 

 

 




逃げられない主人公!完全に包囲されてます!

この主人公の名前は「神原優依」ちゃんです!以後お見知りおきを!


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5話 転校生と黄色いぼっち ついでにピンクとブルー

GW投稿!!皆さん楽しんでますか?


休み時間になると早速クラスメイト達に囲まれ、質問をぶつけてきた。

まあだいたい前はどんな学校にいたの?とか趣味は?とか定番のやつだ。

なかには彼氏いるの?と聞いてくるやつもいたな(もちろん男子共)。

 

・・ただこういう積極的にくる奴は九割スクールカースト上位陣、クラスの中心人物だ。コミュ障のメガほむちゃんじゃなくてもビビる。実際俺も怖いです。ヘタレにはキツイ。

 

結局俺は休み時間の度に逃げ回る派目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。それは学生にとってお楽しみな食事の時間。

友達と交流を深める時間。そしてぼっちには苦痛な時間である。

 

質問しまくるスクールジャーナリスト共を振り切り、俺は屋上に避難し、そこで昼食をする予定だ。まあ、半分は行ってみたかったのがある。前世の学校は屋上に行けなかったから。

 

 

ワクワクしながら、屋上に来てみると先客がいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中学生ではありえないプロポーションにして、最強の戦闘力と最弱の豆腐メンタルを持つ、魔法少女界のぼっち代表「巴マミ」さんが。

 

 

 

 

こ、ここにおったんかいいいいいいいいいいい!!!

 

 

学年が違うから油断してたああ!

昨日に引き続いていい加減にしてほしい!

俺この二日間で重要人物ほとんどあってる!もうお腹いっぱいです!

 

俺の中に吹き荒れる嵐を押さえつけながら、マミさんがいる所とは斜めの位置に座る。引き返すという選択肢はない。校舎に戻ったら情報に飢えたハイエナ共に捕まるだけだ。

 

 

「・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・。」

 

 

全神経集中して食べる。それ以外は見えないように。

だってさっきからマミさんがこちらをチラチラ見てるんですよ!?

 

あれはおそらく「この人も一人なのかな?だったら声掛けてもいいかな?友達になってくれるかしら?一人は寂しいし。」とか思ってそうな期待のこもった目なんですよ!?

 

これはまずい。原作キャラと関わりたくない俺としては実にまずい。

下手に仲良くなって死亡フラグが成立するとか笑えない。

 

最悪マミさんのほうに死亡フラグ立つかもしれないし。

ほら、「もう何も怖くない」とか言ってさあ。

 

俺は食べ終わった弁当箱を素早く片付け、屋上を出る。

後ろから「あの・・・。」という声が聞こえた気がするが気のせいだ。

 

 

 

 

 

マミside

 

 

今日も一人でお弁当を食べる。町のパトロールが忙しくて、友達と疎遠になってしまったから仕方ない事とはいえ、寂しい。同級生は今頃楽しくおしゃべりしながらお弁当を食べているんだろうなと思うと、涙が出そうになる。

 

 

いけない!しっかりしなくちゃ!

正義の魔法少女がこんなことで弱音を吐いてはいけない!

 

 

「ん?」

 

 

自分に喝を入れていると、屋上に誰か来た。視線を向けると、とびっきりかわいい女の子が入ってきた。

 

見たことない子だから、ひょっとしたら転校生かしら?

女の子は私のいる所の斜めに腰を下ろし、凄い速さでお弁当を食べ始める。

見たところ一人みたい。

 

 

・・この人も一人なのかな?

だったらだったら声掛けてもいいかな?

友達になってくれるかしら?一人は寂しいし・・。

 

 

女の子をチラチラ様子を見ながら考える。

食べ終わったのか光速で弁当箱を片付け、屋上を去ろうとする。

 

 

「あの・・・。」

 

 

意を決して声をかけるも余程急いでいたのか、そのまま屋内に入っていく。一人残された私は沈んだ気分で、お弁当をまた食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと終わった・・。」

 

 

放課後とは何て素敵な時間なんだろうか。

結局屋上を出た後に包囲され、質問責めを食らってしまった。

そのため疲れがピークに達している。俺は机に突っ伏したまま、今日はこのまますぐ帰ることを決意する。決めたら早いが帰る準備に取り掛かり教科書を入れ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー転校生。今から空いてる?良かったらこのさやかちゃん達が街を案内してあげようか?」

 

 

 

「・・・はあ。」

 

 

ま、まだ終わってなかったああああああああああ!

解放されたと思っていたのに!

天国から地獄に突き落とすとはどういう事だ!?

 

しかもよりにもよって美樹さやか、君なんですか!?

 

 

「さ、さやかちゃん。いきなり過ぎるよ。神原さん困ってるし。」

 

「えーだって、まどかが言い出したんでしょー?転校生がまだこの街のこと分からなくて困ってるんじゃないかって。」

 

 

言い出しっぺアンタかい!!鹿目まどか恐るべし!!

 

 

「あ、あのもし良かったらでいいんだけど、この辺りを案内しようかと思って・・・今日一日おしゃべり出来なったから・・・その・・仲良くなりたくて・・ダメかな?」

 

 

そんな子犬みたいな目で見ないでください鹿目さん。罪悪感で潰れそうになるから。

 

 

「・・・ウン・・ダイジョウブダヨ。」

 

この時の俺は目が死んでたと思う。これ断れる奴いるんだろうか?是非見てみたい。

 

 

俺からOKが出たので、パアアと顔が明るい笑顔になる天使もとい鹿目まどか。うん、かわいい。

 

 

 

「じゃ、決まり!行こっか。あ、これから転校生のこと優依って呼ぶから。あたしもさやかでいいよ。」

 

「困った事があったら遠慮なく聞いてね優依ちゃん!わたしのことはまどかって呼んでね。」

 

・・お二人の間では既に名前で呼ぶの決定事項なんですね・・。

 

結局さんざん連れまわされたので、俺がベッドに直行したのは言うまでもない。最近の中学生はタフなんだね・・・。

 

 

 

 

 

 

 

まどかside

 

 

今日わたしのクラスに転校生がやってきました。名前は「神原優依」ちゃん。おとぎ話のお姫様が来たのかと思うくらいすごく可愛い女の子。

 

「うわーすげー美少女じゃん。」

 

さやかちゃんも思わずつぶやくくらい。仲良くなれるかな?

 

「じゃあ、席は・・鹿目さんの後ろね。」

 

わたしの後ろの席!?やった!これなら話しかけれる!

 

わくわくした気持ちで神原さんのほうを見ると、わたしのほうを見ていて、何故か顔が強張ってた。

 

神原さんが席につくと早速話しかけてみた。

 

「よろしくね。」

 

「よろしくー転校生。」

 

さやかちゃんは神原さんの後ろの席だから話しかけたみたい。

 

 

「ア、ハイ。ヨロシクオネガイシマス。」

 

笑顔がぎこちなかった気がするけど、緊張してるのかな?今日転校してきたばっかりだもんね。

 

それから休憩時間になって話しかけようにもクラスメイトのみんなが神原さんの周りに集まっていて全然話せなかった。お昼休みに一緒に食べようと誘おうとしたけど見つからなかった。そうしてる内に放課後になってしまった。

 

 

 

「まどかーそろそろ帰ろうー。」

 

さやかちゃんがそう言ってきたが、今、神原さんの周りに誰もいない。疲れているのか机に突っ伏している。話しかけるのは今しかない。

 

「ごめんねさやかちゃん。神原さん転校してきたばっかりでお店とか分からないだろうから案内しようと誘ってみるつもりなの。先に帰ってて。」

 

「ほほう積極的だねーまどか。結局今日ちゃんとしゃべってないもんね。いいよ!あたしも一緒に行く!・・・やっほー転校生。今から空いてる?良かったらこのさやかちゃん達が街を案内してあげようか?」

 

言うが早いが、早速さやかちゃんは神原さんに声をかけている。

 

 

まさかお誘いOKしてくれて、そのうえ優依ちゃんって呼べるようになるなんて思わなった。色んな所を案内して優依ちゃんとたくさんおしゃべりした。今日一日とっても楽しかったなあ。

 

 

でも優依ちゃん。ずっと遠い目してたけど、どうしたんだろう?初めてだから疲れてたのかな?はやく馴染んでもらえるようにこれからもっと仲良くなろう!

 

 




まどか、さやか、マミさん絡み回です!(マミさん絡んでないけど)


そしてまどかさん。さらに優依ちゃんを追い詰めるみたいです・・。


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6話 会いたくないと思っても、だいたい次も顔を合わせるもの

GW書けるうちに書いてこうと思います!


俺は頭を抱えていた。原因は手に持っている紙だ。見滝原中学校に転校し、何とか戦場を生き抜いた。しかも頑張った俺へ天からのご褒美かスイーツバイキングの無料招待券が二枚手に入ったのだ!天はまだ俺を見捨てていないと無料招待券が手に入った時は飛び上がって喜んだものである。ただ誘う相手がぶっちゃけ見滝原でいないため、ダメ元で我が親友トモっちを誘ったらOKをもらい、スイーツバイキングがある風見野で待ち合わせしていたんだが、まさかのトモっちからドタキャンをくらった。なんか急用が出来たと言っていた。

 

 

 

・・だが俺は知っている。今日アイツが推しているアイドルが引退ライブを急遽開催されるから奴はそれにいっている。なぜ知っているかだと?奴のバカッターが逐一掲載されてるからだ!なんか「神に会えた・・俺はもう死んでもいい!」とあったので、殺そうと思う・・。

 

 

 

 

は!いかんいかん!頭を振って危険な考えを無理やり追い出す。とまあそんな事情で今俺は一人で風見野駅にいるのである。行かないという選択肢はない。前世から甘いもの大好きだからな!たとえぼっちでも意地でスイーツを食べる!とはいえまだ時間があるため寄り道しようと思う。時間をつぶすため俺はぶらぶらする事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・うるさい。

やっぱりゲーセンはいつ来ても大音量だ。時間つぶしにゲームが最適かと思ってゲームセンターに来てみたが、耳が遠くなりそうだ。とはいえ、やはりこの雰囲気。居るだけで気分が楽しくなる。来て正解だった。特に遊ぶことなく店内を歩く。UFOキャッチャー、メダルゲーム、プリクラなど様々なゲーム機があり、どれも楽しそうだ。あちこちに目がいく。だから赤髪のポニーテールが背中向けてダンスゲームしてようが知らない。見てない。そんな人いない。別のゲーム機をみながら後ろを通り過ぎる。・・やっぱりうるさいかな?出るか。しかし俺はとあるゲーム機に目が止まった。

 

 

 

こ、これは・・俺が愛してやまないガンシューティング”ゾンビシリーズ”の最新版!

 

 

やらないという選択肢は存在しない。人間一度会ったぐらいじゃ顔も分からんだろう。気づく可能性は低い!俺は早速銃を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子side

いつものようにダンスゲームをやる。世間では今日休日なのかアタシと同い年くらいの連中を結構見かける。・・まあ、関係ないが。しばらくゲームをしていると、ふと後ろのほうに気配を感じる。横目で見ると前にアタシが助けたあの女の子だった。気づいていないのかそのままアタシの後ろを通り過ぎる。

 

・・んだよ。アタシは後ろにいても、すぐ気づいたのに・・・。

 

イライラして調子が出ず、パーフェクトにならなかった。

 

「チッ、アイツ。」

 

イライラの原因は絶対アイツのせいだ!アタシに気づかないなんて良い度胸だ。文句をいってやる!・・・ついでにハンカチも返すか。そう考え小走りでアイツを探す。見つけた時にはガンシューティングやってた。可憐な美少女がゾンビ撃ちまくってるのは凄いシュールな光景だ。

 

 

「やべー今回のゾンビ、ハンパないな。」

 

アイツ前と口調違わないか?猫かぶってやがったな。・・・ムカつく。

またイライラしながら、しばらくアイツを眺めてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画面にゲームクリアの文字が浮かび、俺はほっと息をつく。

 

「ふう、こんなもんか。」

 

「へえ、アンタ結構上手いじゃん。」

 

 

 

「!!!ぎゃあああああああああああああああ!!」

気を抜いた時に声を掛けるのは反則だ!色気のない悲鳴とともに猫のごとく飛び上がる。

 

 

 

「んだよ。ビビり過ぎじゃねえか?」

不満そうな赤いポニーテールもとい佐倉杏子が腰に手を当ててあきれた目で俺をみていた。何でここにいんのおおおおおおおお!?

 

「いきなり声掛けるのはナシです!というかいつから見てたんですか!?」

バクバク鳴ってる心臓を押さえつつ聞いてみる。

 

 

 

「いつからって『やべー今回のゾンビ、ハンパないな。』って言ってるあたりから?」

 

「ほぼ最初からじゃないですか!?」

つまり、俺の恥ずかしい黒歴史の一部始終見てたって事ですね!?うわあ穴があったら入りたい!

 

「ところでアンタ。何でこんな所にいるんだ?まさかまた迷子じゃねえだろうな?」

 

 

その問いで恥で震える俺は風見野に来た本来の目的を思い出した。俺は杏子の両手を掴み、驚く彼女に向って

 

「あの!今から時間空いてませんか!?」

 

そう叫んでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんーうまーい!あまーい!」

んんーかわいいー!てんしー!

 

 

 

 

 

幸せそうにケーキを頬張る杏子。既に二十個超えてる。俺はそんな杏子を見て癒されてる。思い切って誘って良かった。杏子が快諾してくれて良かった。やっぱりぼっちで行くのキツイわ。

 

「ホント助かりましたー。一緒に行くはずだった友達が急遽これなくなっちゃって困ってた所なんです。彼、急に用事があるとか言っちゃって。」

俺は杏子に愚痴を聞いてもらっていたが、杏子が突然ビクリと固まってしまった。

 

「?・・どうしました?」

 

「彼って・・アンタの彼氏?」

 

 

「え!?違いますよ!ただの(オタクな)幼馴染ですよ!そもそも私彼氏いません!」

 

 

それを聞いて何故か杏子がホッと胸を撫で下ろしている。質問の意味がよくわからない。あれか?『アタシはこんな生活してるのにリア充共が』的な妬みだろうか?まあ俺は彼氏作る予定はないし。というか無理。いくら女として転生したとはいえ元男の俺が野郎と付き合うなんて考えただけで寒気が・・。

 

 

 

 

 

「・・・佐倉杏子。」

 

「ん?」

 

 

寒気で腕をさすっていたため、杏子がポツリと呟いたのを聞き逃した。俺が聞いていなかったのに気づいたのだろう。今度はハッキリと口にしてきた。

 

「アタシの名前、佐倉杏子。アンタの名前は?」

 

「えーと・・神原優依・・です。」

 

 

有無を言わせない口調に思わず、タジタジで答えてしまった。ヘタレですみません。

 

 

「ふーん、じゃあこれからは優依って呼ぶから。」

 

「あ、はい。佐倉さん。」

 

「杏子。」

 

「え?」

 

「杏子。」

 

「・・・・杏子。」

 

「ん。ちゃんと呼べよな優依。苗字で呼んだら承知しねえから。」

 

 

満足そうに笑い、再びケーキを頬張る杏子様。何がしたかったんだろうか?ただ分かるのは目がマジだった事だけだ。俺のビビりセンサーに直通するくらい怖かった。気を取り直してケーキを食べる事にした。だが、これで終わったわけじゃなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そーいえばさ優依。アンタ、ゲームやってた時と口調全然違うじゃん。あっちが素だろ?」

 

 

「!?」

 

その言葉に今度は俺が固まった。

 

 

ゲームの事といい、口調の事といい、俺はひょっとしてとんでもないアホなのかもしれない・・。

 

 




杏子ちゃんアゲイン!優依ちゃんの素を知っちゃいました!


優依ちゃんはアホではありません。マヌケなだけです!


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7話 恐喝。ダメ、絶対。

タイピング速く打てるようになりたい・・・


「やはり世間は女性らしさを求めてると思うんです。いくら自分の素が女性像と離れていようとも、男女平等と言われていても、いつだって女性というのは型にはめられてしまうんです。特に日本は大和撫子なんていうふざけた女性像がある訳でして。実は現代までの女性の在り方というのは明治時代に入ってから出来たものでして、江戸時代の時は・・・。」

 

「あーハイハイ。要するに素はゲームやってる時ので普段は猫かぶってるわけだろ。」

 

俺の現代の女性理論をバッサリ切り捨て、さっさと要点だけ綺麗にまとめられた。だって仕方ないじゃん!俺焦ってんだよ!?普段は悪ぶってる杏子の事だ。この弱味を武器に恐喝してこないか物凄く心配だ。

 

怯える目付きで杏子を恐る恐る見ているとさっきから思案顔だったのに、突然にやりと笑いだし

 

「ふーん。じゃあこの事アタシしか知らないんだ?」

凄く嬉しそうな(意地悪そうな)顔で言い出した。

 

「杏子だけじゃないぞ?母さんと今日来なかったドタキャン野郎も俺の素を知ってるぞ?」

 

ここだけは訂正しておく。ばれた以上開き直って本来の口調でしゃべる事にした。

 

「うるさい!それより優依!この事ばらされたくないんだろ?だったら・・・。」

 

「だ、だったら?」

わざとらしく間を空けてくる赤い悪魔。君ホントに教会の娘なのかい?ごくりと俺は唾を呑み込み、要求を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これから先アタシに会いに来ること!」

 

 

 

「おわっ!」

 

俺はずっこけた。てっきり金寄越せとか食いもん寄越せとか言ってくると思ってたから拍子抜けだ。

 

「なんだよ?アタシが金寄越せとか食いもん寄越せとか言うと思ったのか?」

 

「うん。思ってました。」

 

人間時に正直に言うのはまずいんですね。現に今、青筋浮かべたおっかない赤鬼が、

 

「テメエ・・・。」

 

こっち睨んでます。そのため俺は最終兵器を投入する事にする。

 

「それより杏子。このケーキ美味しいぞ?食べるよね?」

目の前に俺絶賛チョコレートケーキを差し出す。杏子はしばらくケーキと俺を交互に見ていたが、

 

「・・・食う。」

 

ケーキをもぎ取り食べ始める。実にチョロいものである。俺も全制覇を目指すため、食べかけのケーキを食べる事に集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー食った食った!当分ケーキはいらないぜ!」

お腹をポンポンと叩きながら満足そうな笑顔。実に男らしい。気づけばもう夕暮れ。そろそろ良い子は帰る時間だ。

 

「もうこんな時間か。俺そろそろ帰るわ!じゃあな杏子!付き合ってくれてありがとう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい。ちょっと待て。」

 

「ぐええ!」

無防備な俺の首に衝撃が!どうやら杏子が俺の襟首を掴んでいるようだ。

 

「逃げるんじゃねえ。」

 

「ナンノコトデスカ?」

咄嗟に目をそらす。くそ!このまま流れで上手くはぐらかせると思ったのに!

 

「決まってんだろ。アタシとの約束忘れてないよな?」

 

「・・・・・。」

 

正直何か寄越せの方が良かった。誤解がないように言っとくけど、何も杏子と仲良くするのが嫌なわけじゃない。杏子と仲良しな死亡フラグと関わりたくないだけです!彼女と仲良くなるという事は必然的に死亡フラグと仲良くなるという事なので・・そんなの命がいくつあっても足りません!

 

「・・・嫌か?」

 

「え?」

 

どう断ろうか考えていたが、その俺の態度が拒絶に写ったようで、杏子が悲しそうな顔をして聞いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子side

今アタシの目の前で優依が困ったような顔をしている。そりゃそうだ人の弱み握って、脅してるようなもんなんだから。ゲーセンでコイツを見つけてまさか一緒にケーキを食べに行くことになるなんて思わなかった。凄く嬉しかった。ただ優依が本来一緒に行くはずだったのが男だと知った時は焦った。幼馴染と知って安心したけど、そういえばアタシは名前すら知らない仲だと自覚させられて思わず自己紹介して名前も聞き出した。

 

「神原優依」ってコイツにお似合いのかわいい名前だった。しかし、なんで優依はあんなにビビってたんだ?アタシ何かしたか?まあアタシを苗字で呼ぼうとしたときはいらっときたけど。名前で呼んでくれた時は嬉しかった。

 

調子に乗ってゲームをしてた時の優依の口調をつついてやったら、思いの外コイツの弱みだった。焦る優依をみてこれはアタシしか知らないんだと思ったのに、まさかの幼馴染も知ってるらしい。どうやら相当仲が良いみたいだ。それにムカついて弱みに漬け込んでアタシに会いに来るように仕向けたけど、優依は困った顔をしてる。そんなにアタシに会いたくないのか?

 

「・・・嫌か?」

 

思ったよりも弱々しい声がでた。

 

「危険な目にあわせたりしない。毎週来いだなんて言わない・・・たまにでいい。アタシに会いに来てくれないか?」

 

自分でも情けない提案してる自覚はある。でも、今逃したら次また会える保証なんてどこにもない。また会いたい。アタシはすがるような目で優依をみた。

 

「・・・・。」

 

しばらく考えこんでいたが、やがて決心したようでアタシの方をみて、手を差し出してきた。

 

「うん。俺も杏子と仲良くしたいと思ってたんだ。だから友達になろう!」

 

はっきりそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子さんが捨てられた子犬みたいな顔で見てくる件について。そんなに寂しかったんだ・・。そうだよねー君、マミさんより、ぶっちぎりで真性のぼっちだもんね!俺みたいな不審者と交流を持とうとするくらいだもん。よっぽどですね。さて、どうしたものか。

 

そこで俺はふとある考えが浮かぶ。そうだこういう魔法少女ものや戦隊ものは一般人は巻き込みまくるが友達はなるべく巻き込まないように配慮してくれるじゃないか!おお!そうだ!無関係より友達ポジの方が俺生存率上がるかも!?杏子も危険な目にあわせたりしないって言ってるし!我ながら打算まみれの最低な考えだが、最優先は命です!命、絶対、大事。

 

 

そうと決まれば、仲良くなりましょう杏子さん!

 

「うん。俺も杏子と(魔法少女無関係なら)仲良くしたいと思ってたんだ。だから(ただの)友達になろう!」

 

俺は杏子の方に手を差し出す。もちろん握手するため。

 

「・・・ハン。最初からそう言えばいいんだよ!ちゃんと会いに来いよ?じゃないとアタシがアンタの家に押し掛けるからな?」

 

最初は呆けていたが、すぐ、はっとなって憎まれ口を叩く杏子。そして差し出している俺の手にガムを握らせ不吉な言葉とともに去っていく。照れ隠しだと思うんだけど本気で実行されそうで笑えない。

 

その晩、俺は杏子からもらったガムを食べながら考える。友達ポジで安全確保するのはアリだな!俺がヒーローだったら友達巻き込みたくないもの。いけるぞこれは!今後は積極的に(死亡フラグが立たない程度に)交流を図ろう!じゃないと向こうから関わってきそうだしな。よし!俺の生存の未来は明るいぞ!浮かれた気分のなか俺はベッドに転がった。

 

 

余談だが、推しアイドルが引退した後、トモっちはしばらく廃人だったらしいが、俺に関係ないので放置する。

 




優依ちゃんは無関係から友達にチェンジすることで生存率をあげる作戦です!


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8話 仲良くしましょう(特にぼっちさん)

祝!新元号!皆さんにとって素敵な時代になりますように!


「おはよう!さやか!まどか!」

 

「!?おはよう・・・?」

 

「おはよう優依ちゃん。まさか名前で呼んでくれるなんて、急にどうしたの?」

 

休日の杏子の一件で生存率向上のため、積極的に交流を図ろうとする俺に対して失礼な態度をとるピンクとブルー。

 

「どうって。やっぱり(魔法少女無関係でいるために)友達は名前で呼ぶのが一番だなあと思う出来事があってね」

 

「ほうほう。あれだけあたし達の名前を呼ぶのを拒んでたあんたが急に名前で呼び出すなんて一体何があったのさ?このさやかちゃんに言ってみなさい!」

 

興味津々といった具合のさやか。その下世話な感じ、マスメディアブルーって呼ぶぞ?やはり露骨過ぎたか?以前は関わりたくないから苗字呼びだったしな。

 

「さやかちゃん。理由なんていいじゃない。優依ちゃんせっかく名前で呼んでくれたんだし」

 

「それもそうね。ふふん、あんた、まどかに感謝しなよ?何があったか聞かないでおいてあげるからさ!」

 

大天使まどかの救いで止まるマスメディアブルー。ドヤ顔やめろ。ムカつくから。大した理由じゃないんだけどな。死亡フラグ回避のためにちょっと距離を近づけようと思っただけだから。名前呼びがきっかけで更に俺に絡むようになったまどさや。あれ?俺ひょっとして失敗した?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すう・・・よし!」

俺は気合いを入れ、屋上に向かう。目的は黄色いぼっちじゃなくて巴マミの接触だ。原作の彼女は仲間が欲しいために一般人のまどかとさやかを死亡フラグ満載の魔法少女の世界に誘い、それに成功しそうになるも、それの浮かれからか彼女達の目の前で魔女に頭を食いちぎられるというどうみてもトラウマエンドを迎えてしまう(アニメ第三話マミさんマミった事件参照)ちなみにどっかの時間軸のお話ではマミさん仲間出来ない場合はマミらないで魔女撃退に成功するという何それ笑えない展開もあるらしい。

 

それを参考にして俺は考えたのだ!マミさんが仲間を欲しがるのは友達がいないからだ!もし俺が友達になればマミらない可能性あり!原作に介入する気は全くないが、希望的観測つまり俺の精神衛生にも予防線がはれるというもの!俺冴えてる!マミさんがそれで満足してくれる豆腐メンタルであることを信じてる!せめて木綿並の強度があると信じてる!

 

・・というより、マミさんと出くわす度に彼女ぼっちなんですよ?友達になりたそうにこっちみるんですよ?声かけようと口ごもってるんですよ!?ほんと痛々しくて見てられません!俺はこれまでの事を振り返り、出そうになる涙をこらえ屋上を見渡す。今は昼休み。学年の違う彼女に会うにはこの時間しかない。周りに目をやってみると・・

 

いた!黄色のクルクルが!巴マミだ!間違いない!やっぱりぼっち弁当!心なしか彼女の周りだけ景色がモノクロに見えるのは気のせいだよね?あそこだけ酷くどんよりしてるのは気のせいだよね?ツカツカと巴マミに近づく。向こうも俺に気付いたのか食べているお弁当から顔をあげる。

 

「えっと・・何かしら?」

 

怪訝な顔ながら多少の期待をもってこちらを見上げてくる。

 

 

 

今こそ爆発しろ!俺のコミュ力よ!真価を発揮する時だ!

「あの、良かったら友達になりませんか!?」

 

「え・・・?」

 

 

どうした俺のコミュ力よ!?いきなり過ぎるだろ!?マミさん戸惑ってるし!急いで弁解せねば!

 

「いや、えっとお・・私転校してきたばっかりで友達あんまりいなくて、屋上でご飯食べてたんだけど、そしたら貴女を見つけて。素敵だなー友達になりたいなーって。それで思い切って声かけてみたんです!それで・・もし良かったらなんですけど・・友達になってくれませんか?てか、なって下さい!お願いします!」

 

最終的に頭下げて頼みこんでいる。俺は一体何やってるんだろうか・・・?

 

 

 

 

「本当に・・・友達になってくれるの・・・?」

 

涙声が聞こえたので顔を上げてみるとマミさん泣いてました。この時俺は確信した。

 

違う!マミさんのメンタルの豆腐は木綿じゃない!絹だ!しかも崩れかけの!うおおお、結構危なかったんだ!マジでギリギリだったんだ!原作待たずにリタイアもありえたかも・・友達になって欲しいと言われて泣くって相当きてますね・・・。これが原因でそのままマミらないか物凄く心配なんですけどおおおお!

 

「はい!私で良ければ是非友達になって下さい!(そして俺を魔法少女に巻き込まないで下さい!」

 

俺は半ばヤケクソでマミさんの手を掴み力一杯断言する。頭にセクハラという単語がよぎるが無視する。

 

マミさんは急に手を捕まれて驚いていたが、照れたように笑顔になった。

 

「うん、ありがとう。こちらこそ仲良くしてね。私、巴マミ。二年生よ。貴方は?」

 

「私は神原優依。一年生。優依って呼んでね?マミちゃん!」

 

何故名前呼びかというと、友達に年齢は関係ない。俺はそう断言する!だから友達は名前呼びが基本だろうという考えが一割。マミちゃんと呼んでみたかったが一割。いつも苗字呼びなマミさんに名前で呼んでもらいたいという邪な考えが八割。要するにほぼ下心である。

 

「一年生なの?でも友達に学年は関係ないわね。じゃあ優依ちゃんって呼ばせてもらうわ」

 

きたあああああ!みなさん聞きました!?あのマミさんが名前で呼んでくれましたよ!?第一関門突破!マミさんが幸せそうに微笑んでいるので、今日頑張った甲斐があるというもの!

 

「マミちゃん!これから(魔法少女無関係の)友達としてよろしくね!」

 

俺は笑顔でいった。このあとアドレス交換をする事にしたが、マミちゃんがあまりにも手間取っていた姿がとても不憫で涙を流してしまったのは内緒。

 

 

 

 

マミside

今日も一人でお弁当を食べる。前に見かけたあのかわいい女の子を何度か見かけたけど、話しかけようにも中々機会に恵まれずに話しかけずじまい。おそらく向こうは、私の事を気付いてもいないでしょうね。それも仕方ない。一人ため息をつく。

 

「・・あら?」

 

足音が聞こえたから目を向けるとあの女の子が屋上にやってきた。え?こっちに来てる?その子は私の前までやって来て見下ろす形になっていた。

 

「えっと・・何かしら?」

 

まさか向こうからやって来るとは思わなかった。一体何の用なのか?不審に思うも多少期待してしまう。

 

「あの、良かったら友達になりませんか!?」

 

「え・・・?」

 

最初女の子の言ってることが理解出来なかった。そのあとも女の子が何か言ってたけど私は呆然として聞き逃した。

 

「・・・友達になってくれませんか?てか、なって下さい!お願いします!」

 

最後のこの部分だけは、はっきり聞こえて何故か女の子は頭を下げてた。ただ、この子は私と友達になりたいって事は理解出来た。私と・・友達に・・?じわりと目に涙が浮かぶ。

 

「本当に・・・友達になってくれるの・・・?」

 

涙声で聞いてしまう。

 

「はい!私で良ければ是非友達になって下さい!」

 

女の子は満面の笑みで私の手を握った。名前は「神原優依」ちゃん。とっても素敵な名前。私の事、マミちゃんって呼んでくれて嬉しかった。純粋そうな優依ちゃんが嬉しそうに、笑うからこちらも嬉しくなる。でも、どうして優依ちゃん、私とアドレス交換するとき泣いてたのかしら?友達とアドレス交換したことないのかもしれない。分かるわ、その気持ち。私達仲良くなれるわね!

 

「~♪」

 

気分が良い。こんな気持ち久しぶり。友達が出来たんだもの!私怖くないわ!

 




マミさん絡み回でした!死亡フラグたってますけど、多分大丈夫です!

そしてお気に入り150人突破!皆様本当にありがとうございます!


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9話 ヴァイオリン一択な少年

学校編続きます!


マミちゃんと友達になって数日。頻繁に休み時間に会ったり、お昼を一緒に食べたり、メールのやり取りをしている。友達になった当初冗談抜きで「何も怖くない」とか言ってマミらないか物凄く心配だったが、今のところ頭と胴体が繋がっているのでホッとしてる。俺という友達が出来たからか最近彼女は楽しそうだ。

 

 

・・ただね、マミちゃん。連絡来ないからといって、不安で間もあけずに着信やメールをするの止めてくださいませんか・・?携帯あけたら数十件不在着信ありの表示は怖すぎます。重い女認定されるよ?

 

まあ、そんな悩みは死亡フラグよりはマシなので、付かず離れずの適度の距離を保てというトモっちのアドバイスを参考にしつつ、現在に至る。今は放課後。マミちゃんは放課後パトロールに出掛けるので捕まる心配はなし。まどかは委員会の仕事。さやかはあの仁美お嬢様と寄り道してる。つまり今の俺は自由!

 

「ふーんふーんふーん♪」

 

何のしがらみもなくのびのび出来るのは実に気分が良いもんだ。鼻歌混じりに公園に寄り道してると、どこからかヴァイオリンの調べが聞こえてくる。普通は誰の?と思うが俺の脳内では九割隣の席のヴァイオリン野郎だと確信している。音の聞こえる方に向かってみると案の定奴が。

 

健気で一途な幼馴染の想いに気付かず、別の女性と結ばれやがった人魚姫のムカつく王子様の転生体にして鬼畜外道ヴァイオリン馬鹿「上条恭介」!

 

ほぼこいつのせいで魔女化免れられないんだよなーさやかは。そう思うと怒りの炎が沸き上がる。決してかわいい女の子二人に好意を寄せられて羨ましいなチクショウとか思ってない!ただ俺は魔法少女に変身出来ないし、変身したくもないが、今なら「リア充爆発サセルマン」に変身できそうだ!俺の怒気に気付いたのか、上条が演奏を止め、こちらに振り向く。

 

「やあ、神原さん。こんな所で会うなんて奇遇だね。どうしたの?」

お前こそどうしたの?と聞きたい。普通外で演奏なんてするか?公園だぞここ。まさか僕の演奏は凄いだろうってアピールしてるとかないよね?

 

「ヴァイオリンの音がしたから見にきただけ。まさか上条君だとは思わなかったよ(ほぼお前だと思ってたけど)」

 

当たり障りのない事を告げ、本音はのみこむ。席は隣なんだけど、殆ど喋る事はない。まあ、俺が避けてるからなんだけど。下手に話すと誤解されるからね。青髪あたりに。それなら何でわざわざ見に行ったんだというと、あわよくば、さやかとくっついていただければ幸いと下心を持って話し掛けました。「さやかちゃんを応援し隊」隊員募集中。ちなみに「マミちゃんを救い隊」と「杏子ちゃんを幸せにし隊」もあります。隊員は俺しかいないけど。

 

俺の当たり障りのない返答を鵜呑みにしてる上条君。考え事してる俺に向かって口を開いた。

 

「そっか。良いフレーズが浮かんだから、ここで演奏してたんだ。神原さん。今時間良いかな?良かったら感想を聞かせて欲しい。率直な意見が欲しいんだ」

 

うわー凄いな君。ヴァイオリンの為なら殆ど喋らない知人以下でも感想が欲しいってか?まあ、断らないけど。これも死亡フラグもといさやかの恋愛成就のために!俺はOKを出し、上条の奏でるヴァイオリンの音に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

「それでね、この人は本当に凄いんだ!力強い演奏だけでなく繊細なフレーズだってお手のもので・・・」

 

「へ、へえ・・そうなんだ・・」

 

どうしたものか。何を思ったのか上条は俺を同士と認識したらしくマシンガントークが止まらない。好きなものを語るのは誰だって好きだが、心なしかオタクのトモっちと似てる気がするよ上条君?

 

「そろそろ帰らないとレッスンがあるからこの辺にするよ。今日は楽しかったよ神原さん。付き合ってくれてありがとう。また明日ね」

 

と一方的に告げられ、俺が一言も発しない内にさっさと帰っていった。この後もレッスンがあるとか彼のヴァイオリン愛は予想以上に凄まじい。あれだな。彼女に「あたしとヴァイオリン、どっちが大切なのよ!?」って聞かれたら迷わず「ヴァイオリン!」って即答しそうだな。青髪と緑髪よ。上条で良いのか?もっと他にも良い男がいるぞ?まあ、それはともかくあれほど大好きなヴァイオリンが出来なくなるって言われたら、そりゃ自棄になるわなあー。ホント面倒な奴好きになったなお二人は。別に羨ましくないですよーケッ!さて、とりあえず明日から誤解されないようにしなきゃな。さやかとかさやかとかさやかとかさやかとか。すっかり夕暮れも暮れた中、俺は帰るのであった。

 

 

 

 

 

さやかside

最近あたしのクラスに転校生が来た。名前は「神原優依」。これがもうどこのモデルよ!ってな感じの美少女でさあ。ホント世の中不公平って思ったわ。でも、中身は面白い奴でさ、からかったら予想より面白い反応してくれるから、ついやり過ぎちゃうんだよねー。そこは反省かな?ただ困った事に、優依の席の隣がさ幼馴染の恭介なんだ・・・。あたしは優依の後ろの席。だから二人が隣同士で嫌でも目に入る。お互い殆ど喋らないけどさ、優依はあんだけの美人だし、恭介だって、実はどう思ってるのか分かんない。そしてとうとう恐れていた事が起こった。今日になって急に二人が仲良くしゃべってるんだよ・・しかも恭介から話かけてるみたいだし・・ひょっとして付き合ってるのかな?そうだよね・・優依はあんなに美人だもの・・。

 

「やっほー優依!恭介と仲良いね!?昨日まで全然喋ってなかったのにさー。ひょっとして付き合ってんの?どっちから告白したのさ?」

 

気になって席に座ってる優依に惚けたふりして聞いてみた。いつもの調子に言えてるか、いつもと同じように笑えてるか分からない。もし付き合ってるなんて言われたら、あたしどうすればいいんだろう・・?

 

 

すると突然優依が立ちあがり片方の手をあたしの肩においた。もう片方の手は親指を立てて、全てを包み込むような慈愛に満ちた笑顔で口を開いた。

 

「さやかちゃんを応援したい」

 

「!?」

 

「ふぐ!」

 

想いがばれていた事と勘違いしてた事の恥ずかしさであたしは無意識に優依を殴っていた。

 

どうやら二人は付き合ってないらしい。それを息が絶え絶えの優依から聞いた。あたしはそれを聞けて安心しちゃった。とりあえず、ごめん優依。何か奢るわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァイオリン野郎の接触の次の日、やっぱり俺に話し掛ける上条君。そのせいでやっぱり誤解してくるさやかに俺は肩に手をおき、親指を立てて、

 

「さやかちゃんを応援し隊」

 

とキメ顔で言ったら、真っ赤な顔で殴られた。ひどい。まあ、誤解は解けたようなので、良しとするか・・・。

 




上条君絡み回でした!何か上条君オタクの匂いがするんですけど、自分の気のせいですかね?


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10話 お弁当お待ち!!

最近暑くなりましたねー皆さん熱中症には気を付けて下さいね!


主要人物たちと交流を深めた一週間の休日、俺はバスに揺られている。

行先は風見野。勿論、佐倉杏子に会うためである。

 

理由は前回の会いに行くという約束を果たすため、家に押し掛けるのを阻止するため、そして今膝に抱えている俺の手作り弁当を届けるためである。

 

実は俺、家では家事全般してます。勿論料理もします。

前世は料理どころか包丁すら家庭科の授業でしか握ったことなかったのに、人間変わるものだ。

 

というもの俺の今世の母親、家事壊滅的。

特に料理なんて某人気漫画の人間をかけたメガネの姉上が作る暗黒物質のようなものを作り出す才能の持ち主なんです。

母さんに任せていると俺の行き着く先は餓死か中毒死の二択しかないので、必死で料理を覚えた。じゃないと俺は生きられません。

 

料理は長年やっているからそこそこ自信がある。

マミちゃんからも好評だったので、問題ない。

そもそも食の守護神である杏子は仮に不味くても食べないという選択肢はないだろうしね。アニメ観る限り、杏子はお菓子やジャンクフードばっかり食べている。

 

彼女の栄養面がとても心配だ。

成長期の女の子にとって非常にそれはいただけない。

会いに行く約束ついでに栄養をあるものを食べていただこうかとこうして手作り弁当持参で来ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・いないんですけど」

 

 

風見野に着いた俺は早速杏子を探しに彼女がいそうな場所を中心に探すが、見つからない。今はベンチで休憩中。

 

逃げたら追いかけてくる、追いかけたら逃げられる。

典型的なツンデレですねありがとうございます。

 

それにしてもいい加減にしてほしい。

 

腕が疲れてきた。だって持ってきたの重箱だから。

しょうがないじゃないですか。あの暴食娘ですよ?

通常の弁当箱の量じゃ少ないって文句言われそうだし。

そしてこの重箱の中には俺の分も入っているのだ。見つからずに作り損とか嫌だ。

 

ポツンと俺一人もくもくと重箱をつつく未来とか笑えない。

 

こうなったら意地でも見つけてやる!

 

その思いが疲れた体に鞭を打ち、俺は再び歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・やっぱりいないんですけど」

 

 

俺は再びベンチに座っている。あれから更に歩き回ったが見つからない。

 

こんな時いかに携帯が便利なものか痛感させられる。

でも杏子絶対持ってないだろうし、そもそもちゃんと日時と場所決めとけばよかったと何を今更感が胸を駆け巡る。

 

何だかなあ・・

 

もういい加減に諦めて帰ろうかとやさぐれている俺の目に赤いポニーテールが歩いているのがうつる。

 

 

間違いない!杏子だ!

諦めようとした時に現れるとは何というツンデレだろうか!

 

 

見つけるがはやいが俺は杏子に声を掛けようと後を追っていくといきなり杏子が魔法少女に変身し、空高く飛び上がった。

 

すげーなーパンツ見えそうだなーという俺のアホな感想を尻目に杏子があるものを一点に見つめ、槍を構える。

 

 

「!まさか!?」

 

 

杏子の見つめる先には国民の友ATM。

 

ということはリアルで犯罪に鉢合わせしちゃったってことですか!?

 

確信するやいなや俺の行動は素早かった。

出来るだけ駆け出し、重い重箱を両手で上に掲げ力の限り叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏子さああああああああああああああん!!お弁当お持ちしましたああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

目の前でATM破壊はやめてください・・。

 

 

 

 

 

 

 

杏子side

 

 

「はい!実は今日お弁当作ってみたんだ。味は保証するから食べてみてよ!」

 

 

優依はさっきの出来事なんてなかったかのようにアタシに手作りらしいお弁当を突き出している。どう反応していいのかわからない。

 

無言で優依の方をみる。

 

そろそろ金が尽きそうだから調達しようと思ってたまたま目に入ったATMを破壊することにした。

 

首尾よくいってた筈なのにいきなりアタシを大声で呼ぶ声がして振り返ったら優依がこっちに走って来ていて、何故か重そうな箱を上に掲げていた。

 

結局未遂に終わってしまったが、問題は優依に見られたことだ。

 

 

どうしよう?よりにもよって一番見せたくない奴に見られてしまった。

未遂とはいえ簡単に想像がつくだろう。

 

時間帯を確認すればよかった。

日付を確認すればよかった。

 

 

そうすれば・・いや見られてしまった以上はどうしようもない。

 

 

 

・・嫌われちゃったかな?幻滅した?

せっかく会えるようになったのに・・もう会えない?

 

 

そんな考えが頭の中でぐるぐると渦巻く。

 

 

アンタはどう思ってる?

 

 

「アンタさ・・」

 

 

唇が震えてる。体の方も震えてるみたいだ。でも聞かなきゃ。

 

 

「アタシが何しようとしたか分かってんのか?」

 

 

怖い。もし二度と会いたくないなんて言われたら、立ち直れるかわからない。

 

 

アタシは優依が何と答えるかただひたすら待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子さんが悪いことしてお巡りさんに補導された子供みたいな顔してる件について。

 

何とかATM破壊は阻止に成功し、俺が座っていたベンチに連行し、我ながら高評価な自然体な振る舞いができたと自負していたのだが、渡そうとしたお弁当に手を付けず、じっとこっちをガン見してるんですよ・・怖い。

 

 

「・・・・・」

 

 

さっきから無言なんですよ!キツイのなんの・・。

しかもなんか怯えた顔で震えてるんですよ!?

その気にならんでも俺をどうにか出来んのに何でこんなに怯えられてんですか!?

俺はお巡りさんじゃないのに・・。

 

 

「アンタさ・・」

 

 

杏子がポツリと口を動かした。

 

おお!やっとしゃべってくれたか!沈黙はきつかったよマジで!

 

 

「アタシが何しようとしたか分かってんのか?」

 

「・・・・・」

 

 

正直いうと開き直ってくれた方がよかった。

 

せっかく俺がなんでもない風に接したのに、何故に自分から自白しようとしてんの!?俺は神父さんじゃないから懺悔されても困るんですけどおおおおおお!?

 

 

「何のこと?何も起こってないじゃんか」

 

 

苦肉の策として惚けることにした。

実際未遂で何も起こってないし。

 

 

「ふざけんな!見てただろ!?アタシが何やろうとしてたかを!」

 

 

ばっちり見てました!

更に君の事情もばっちり知ってました!

 

杏子は喰ってかかったが、ぶっちゃけ巻き込まれたくない俺は宥めにかかる。

 

 

「訳があるんだろ?(知ってるけど)」

 

「・・・・」

 

「そうしなきゃいけない訳があるんだよな?(知ってるけど)」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

杏子は答えない。

 

うん!それが狙いでした!言えないよね!

 

自分は魔法少女で天涯孤独だから盗み働いて生きてるって言えないと思う。

 

むしろ言わないで欲しい!

 

言われたら最後、俺魔法少女に関わる羽目になるし、何より君の壮絶な過去を聞くメンタルは持ち合わせていないので絶対に言わないでね!

ただの友達ポジでお願いします!

 

「まあ、理由は(聞きたくないから)聞かないけど、ちゃんと(魔法少女関連以外は)言ってくれる時まで待ってるからさ。ただ覚えていてほしい。俺は杏子が理由もなく悪さする子じゃないと思ってる。本当に悪い奴だったらさ俺の事助けてくれなかったし、こうして律儀に付き合ってくれないよ?」

 

 

俺は杏子の目を見たふりして鼻の方に視線を向ける。

いやだって単純に巻き込まれたくないだけで良いこといっても中身スカスカなので目線合わせられません。

 

相手に威圧感与えたくない方は鼻を見るのがおすすめです。

目を合わせてるように見えるそうです。杏子は泣きそうな顔でしばらく俯いていたが、やがて、

 

 

「はっ・・変な奴」

 

「変な奴で結構!さ、食べよ?まさか食べないとか言わないよね?」

 

「アタシが食いもんを粗末にするか!そんなに勧めて不味かったらタダじゃおかねえからな!」

 

 

さっきまでの泣きそうな様子から一変、物凄い速さで重箱にがっついてるんですけど。まじか?

俺のあのスカスカな言葉で立ち直ったの?

凄いな杏子。とりあえず俺は自分の分が無くなる前に急いで食べる事にし、慌てて箸をとった。




杏子ちゃんてかなり荒んだ生活送ってそうですよね・・


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11話 予防策は大事です

杏子ちゃん続きます!


「料理うまいんだな!久しぶりに手作りの飯食ったよ!」

 

「そうですか・・・」

 

結局殆ど食べられなかった。理由は隣で満足そうにお腹をさすってる暴食娘で察してくれ。すごいよこの娘。正直作りすぎたと思ってたのに、掃除機の如くおかずを吸い込んていくんだよ。その姿は圧巻だった。というよりさっきのシリアスモードどうした?完全にギャグにシフトチェンジしてるぞ。

 

「・・誰かと一緒に飯食ったの久しぶりだな・・うまかったよ・・アリガト」

 

「え?う、うん」

あ、シリアスモードに戻った。そしてデレた!?お礼言われたよー。写真撮りたい!その赤らめた顔に目を逸らした様子、撮っていいですかね!?ツンデレ最高です!

 

「そーいやーアンタってどっから来てんの?初めて会ったとき迷子だったじゃん」

 

わざと話題逸らしたのか知らないけどのっておこうか。杏子顔まだ赤いしさ。

 

「隣の見滝原市。ちょっと前にそこに引っ越したんだよね」

 

 

「・・ふーん・・・見滝原市・・・ね」

何ですか?その意味深な言い方は?そんなにマミちゃんが気になるのか?師匠だしね。コンビ組んでたしね。

 

「あーあ、厄介な奴がいるからなー。アンタの家に遊びに行ってやろうかと思ったけど難しいなー」

そう言って俺の肩にもたれかかってくる杏子。体重かけてんな?重いぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ていうか、え!?来る気だったの!?もし見滝原以外に住んでたら俺の家に来る気だったの!?危ねええええええええ!!マミちゃんありがとう!君のおかげで杏子が俺の家に襲撃する目論見は潰えたよ!!

 

「俺が会いに行くんじゃなかったのか?」

すっかり安心した俺は意地悪な質問をぶつける事にした。きっと今の俺の顔はムカつくだろうな。

 

「いた!」

 

そんな俺がお気に召さなかったのか杏子がむっとした表情になり、太ももつねってきました。まさかの暴力ですよ。しかも俺今日スカートだからダイレクトに痛みが来る。スカート履いたっていいんです。俺今女だし、美少女だし。ただ、次に杏子にあう時はズボンだな。毎回やられたらたまんない。

 

「・・いきなり何すんの?」

つねられた所をさすりながら聞いてみる。結構痛いんですけど・・。

 

「ふん。アタシに生意気言ったおしおきをしただけだ。確かにアタシに会いに来いって言ったけどさ、毎回優依に来てもらうのもなんかさ・・その・・悪いじゃん?住んでる場所知ってたら・・会いに行けるしよ・・」

 

天使がいる。顔を赤らめモジモジしてる赤い天使がいる!俺は無言で頭を撫でた。本当は抱きしめたかったがセクハラになるので我慢する。それにしてもかわいい!何だこのかわいい生き物!?デレた女の子は最高です!

 

 

「な、なんだよ!?なんなんだよ!?」

顔を更に赤くしてアタフタしている。俺をかわいいの暴力で殺す気だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく頭を撫でていたが、夕暮れで帰る時間が迫ってきたので名残惜しいが撫でるのを止める。意外にも杏子は大人しく頭を撫でられてた。しかも途中から目つぶって体寄せてきてた。申し訳ないが俺は猫を連想してしまった。

 

「そろそろ帰るわ。今日は付き合ってくれてありがとうな」

俺はおもむろに立ち上がり杏子を見下ろす。こう見ると結構かわいい顔立ちしてるな。

 

「もう帰んのかよ・・まだいいじゃねえか。明日も休みなんだろ?」

俺の服を引っ張り子供のように駄々をこねてくる。そういえば杏子って年齢いくつなんだろうか?甘えたか?

 

「そろそろ帰らないとバス無くなるんだよ。それとも杏子一緒に来る?」

 

「・・・・やめとく」

ですよねー。マミちゃんと顔合わせる可能性あるもんね!分かってて言ったんだけど!

 

 

「あ!それとこれ、ほい」

俺はあることを思い出し、バッグから封筒を取り出す。そしてそれを杏子の手に握らせた。

 

 

「?・・なんだよこれ?」

 

「無駄遣いしなかったらそれで数日過ごせる分はあるぞ」

手渡したのはお金。もちろん俺の貯金から出してきたものだ。

 

「はあ?何でそこまで?」

杏子が怪訝な顔で聞いてくる。

 

「えーだってさ杏子、前会った時から思ってたけど訳アリだろ?事情は知らないけど、これからもお金必要だよな?前に助けてくれたお礼と、友達が困ってるみたいだし助けたいと思ったからだよ。複雑だと思うけど今回は恩返しだと思って甘んじて受けてくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

というのは建前でぶっちゃけこれからも友達としてやっていく杏子が犯罪してるという事実から俺の精神衛生を守るためにやってるだけです。まあ、自己満足です。いいじゃないですか!俺のなけなしの貯金で一人の女の子が生活できるんですから!またの名を買収という。生存権を金で買えるのは安いものさ!

 

 

「・・・分かった。遠慮なく使わせてもらう。今回だけだからな」

 

俺の本心は分かってないだろうが、納得してくれてよかった。心配すんな!多分また渡すから!百パーセント俺の生存のために!

 

「そっか、受け取ってくれて良かったよ。じゃあ俺は帰るから。またな杏子!」

 

珍しく俺から別れを告げて駅に向かう。

 

「ああ、またな」

杏子が短く告げて俺とは正反対の方角へ歩き出す。今日の任務達成!

 

 

 

逞しく生きろよ杏子!少なくとも「ワルプルギスの夜」と戦うまでは生き残ってくれると嬉しいです!見滝原に来ても問題なし!さやか説得のために喜んで軍資金を渡しますので遠慮しないでね!すべては俺の死亡フラグの回避のために!

 

何となく生存の道しるべが見えてきたので、俺は軽快な足取りで駅に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子side

「~♪」

アタシは駅に向かう優依をつけてる。観察する限り、何故かご機嫌に見える。しかも鼻歌まで歌ってるし。つけてる理由はお礼を言い忘れたこと、次いつ会えるか聞きたかったからだ。本当はすぐ声を掛けるつもりだったが、優依の様子を観察してみたかったのと、どのバスで帰るのか調べるために尾行してる。優依の住所を聞き出したかったが、何故かはぐらかされてしまった。アタシに来てほしくないってか?ムカつく。

 

 

今日はいろんなことがあった。優依がアタシに会いに来てくれて、しかも手作りのお弁当まで食べさせてくれた。・・すごくおいしかった。アタシがATM破壊の未遂を起こしたときは止めたくせに何も聞かないでくれた。その上アタシの目を見てちゃんと理由を話してくれるまで待ってる、アタシの事信用してるようなことを言ってた。本当に泣きそうになった。その後に何故かアタシの頭を撫でてきて驚いた。あんまりにも気持ちよかったから、そのまま身を預けてた。優依が帰るときは凄く嫌だった。もう子供じゃないのに駄々こねてしまった。本当に優依と会ってアタシはどうかしてる。変わってるよアイツは。

 

アタシを止めたと思ったらお金を渡してくるし、アタシの実情気づかれてたんだと分かった。情けないと思ったよ。でも、アタシを助けようとしてくれてうれしかった。アイツ実は天使の生まれ変わりだったりしてな?意外としっくりくるな。

 

「・・・おっと」

 

今日の事を振り返ってたら優依がバスに乗り込んでた。ふーん、あのバスで帰るのか。いっその事、家まで尾行すんのもアリだな。マミに会う可能性はあるが、魔女に近づかなければいいだけの話。そうしよう。家を知ってればアタシから会いに行けるし。

 

「・・・・チッ」

決心した途端、ソウルジェムに反応がある。この反応は魔女か。なんてタイミングだ。迷ったが、仕方なく今回は魔女の方に向かう。尾行は次優依が来たときにするか。それに危険な目にあわせないって約束もしてるしな。アタシは来た道を引き返す。八つ当たりを含めて魔女を叩きのめす事を考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねえ優依。次はいつ会える?

 

 

 

 

 

 




大丈夫ですよね杏子ちゃん?なんか怖くなってますけど・・
とりあえず魔女様グッジョブ!このあと杏子ちゃんに八つ裂きにされるだろうけど!


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12話 死亡フラグin見滝原

GWも残すこと一日!有意義に過ごせましたか?


一回死にそうな目にあったらさ、もう当分やって来ないであろう死亡フラグ。パワーアップして戻って来たら皆はどうする?少なくとも俺は逃げる。

 

という訳で俺は現在進行形で逃げてる!学校が終わった放課後、漫画の立ち読みしようと思ったのが運の尽き。いきなり空間が歪み、ファンタジー世界にご招待!じゃなく死亡フラグにご招待の魔女の結界だった。寄り道なんてするもんじゃないな・・・。しかも魔女に見覚えがある。なんかフランスとかにありそうな門が突っ立っている。しかも周りの景色が何かの絵画みたいな結界だし。あれだ「芸術家の魔女」だ。記憶あやふやだけど。原作ではマミちゃんとまどかがあっさり倒してたけど、一般人の俺には無理!逆にあっさり殺されるわ!現在使い魔であろうゾンビっぽい奴らが俺を追いかけてくるから超怖い!捕まったら俺死ぬから!

 

「うおおおおお!」

 

幸い使い魔達は足が遅いらしく運動神経皆無の俺でも振り切れたが体力の限界が来ていて捕まるのは時間の問題だ。既に足がふらついてるし、次走れるかさえ怪しい。疲労困憊の身体の代わりに頭をフル回転させて生還方法を考える。

 

出口を探す?分かんない!そもそも前回見つからなかったし!魔法少女が来るのを待つ?それが一番安全で確実だが、いつ来るか分からない。最悪来ないか俺が死んだあとにやって来ることもありえる。それにここは見滝原だ。マミちゃんの縄張りであるため来るなら彼女だ。そうなったらもう無関係ではいられない。なんせあの絹豆腐メンタルだ。マミちゃんは俺を引き込もうとするかもしれない。前回の杏子のようにはいかないだろう。死ぬか魔法少女の関係者になるか。何だその二択?どっちも破滅じゃね?

 

「ん?」

 

そこで俺は思い出す。確か「芸術家の魔女」は自分の芸術に自信があるんだっけ?パクり疑惑あるらしいけど。なんか批評が効くとかそんな事書いてあった気がする!批評したら隙が出来て結界から追い出されるかもしれない!・・殺される可能性もあるけど。やる価値はある。このままじゃ俺は破滅一択だ。こんな所で死にたくない!そう決心し、震える足でおぼつかないが、フランス塔(仮)の前に立つ。ちらりと横目で見るとゾンビの使い魔はこちらを見ているがその場から動かない。実に好都合。

 

 

 

今こそ光るのだ!俺の芸術的センスよ!芸術のなんたるかを奴に教えてやれ!

 

「アナタの芸術は素晴らしいですね!実に前衛的だ!特にアナタに刻まれている模様なんて最高だ!」

 

精一杯の賛辞を送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Q:自分を瞬殺出来る相手に批評って出来ますか?

A:俺には出来ません。無理です。怖いです。

 

そんな勇猛な性格してない!そもそもあの魔女に効果あるのは「著名な批評家」の批評だけだから!ずぶの素人の俺がもし批判なんてしたら・・・考えたくない。さあ、反応は!?

 

 

 

 

 

 

 

・・お気に召さなかったようです・・。いつの間にか俺の周りは使い魔のゾンビに囲まれてる。しかも追いかけてきたときより倍の数になってる。しかも魔女さんはミサイル的なものを装備しだした。狙いはもちろん俺である。

 

 

何故だ!?俺の賛辞はそんなに気に入らなかったのか!?それともお前みたいな奴に評価されたくないってか!?何それひどくない?俺死ぬの?今度こそ終わり?魔女史上襲った中で一番マヌケな人間なんじゃない?

 

逃げ場がない。周りはゾンビに囲まれ、上からはミサイルにロックオンされている。絶対絶命のピンチ!しかしどうやらヒーローというのは遅れてやって来るのが現実でも常識なようだ。

 

 

 

ギュルルと何かを縛る音と黄色の光がよぎったと思ったら、魔女がゾンビもろとも黄色いリボンに縛られてた。・・という事は・・

 

「大丈夫、優依ちゃん?怪我はない?」

クラシックな服装に黄色のソウルジェムが輝くベレー帽をかぶり、ご自慢のマスケット銃を片手に「魔法少女の巴マミ」が俺を守るようにして立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

マミside

日課のパトロールで街を巡回してる時にソウルジェムに反応があった。この反応は魔女のよう。しかもここから近い。私は急いで反応があった場所に向かう。魔法少女に変身し、魔女の結界に飛び込んだときは驚いた。魔女が人を襲う寸前だったからだ。しかも襲われているのは最近友達になったばかりの「神原優依」ちゃんだった。私は急いで使い魔もろとも魔女をリボンで拘束する。一瞬でも遅れていたら彼女は死んでいただろう。危なかった。それにしても何故この魔女は一般人であろう優依ちゃんに総攻撃でもしかけるような事をしていたのだろうか?一般人でも手を抜かない魔女なのかもしれない。本当に危なかった。

 

「大丈夫、優依ちゃん?怪我はない?」

 

私は優依ちゃんを守るように魔女の前に立ち、彼女の安否を確認する。

 

「あ・・はい。大丈夫・・です」

 

恐怖からしどろもどろになっているが、怪我はないようだ。大事な友達が無事で良かった。間に合って本当に良かった。

 

「そう、無事で良かったわ!もう大丈夫よ!さてと、説明は後でいいかしら。今はこの魔女を倒す事が先決だもの。私に任せてね!」

 

私は魔女を倒すべく、地面を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うげえええええええええええええええ!!マミちゃん来ちゃったあああああああああ!!それ自体は俺の命が助かって非常に喜ばしいが、あわよくば、俺に気付かずあの魔女を倒して去ってくれないかなという淡い願いは木っ端微塵に消えた。バッチリ俺の前に立ってたもの!バッチリ俺の事見てたもの!バッチリ俺の名前呼んでたもの!そしてハッキリと「説明は後で」って言ってたもの!絶対魔法少女のこと打ち明ける気だ!最悪だああああああ!!

 

荒ぶる俺の心など知らないだろうマミちゃんは地面を蹴り一気に魔女との距離をつめると同時に巨大バズーカー(仮)を出現させる。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

厨二あふれる技名を叫び、とんでもない超火力が「芸術家の魔女」を呑み込む。・・気の毒だ。リボンで跡形もなく吹き飛ぶって洒落にならない威力だな。原作より凄くないか?俺という友達がいる手前気合い入りまくってんだろな・・ホント気の毒に。俺は心のなかで合掌しておいた。それと同時に悟った。

 

 

 

俺はこの「魔法少女まどか☆マギカ」という死亡フラグに片足どころか全身つっこまれてたんだ。転生した時点で逃げられない。二度も魔女に遭遇してしまった。原作主要人物達と縁が出来てしまった。認めたくはないが、原作に介入するはめになるようだ。拒んでたら本当に近い内に死んでしまうだろう。それは嫌だ!こうなったら原作に介入しまくって鬱なストーリーを変えてやるよ!バッドエンドじゃなくハッピーエンドにしてやるよちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

半ばやけくそな決意を胸に、戦いが終わり、こちらに近づいてきて嬉しそうに手を差し出すマミちゃんの手を俺は掴んだ。




優依ちゃんとうとう原作に介入する決心がつきました!
九割やけくそですけど!


そしてお気に入り200件突破!
皆様ありがとうございます!これからも楽しんでいただけるような投稿を続けていく所存です!


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13話 ようこそ魔法少女の部屋へ

ついに奴の登場です!


「さ、どうぞ中へ入って」

 

「お邪魔します・・・」

 

先程の魔女騒動の後、俺はマミちゃんに自宅に招待され、お邪魔する事になった。

 

「私一人暮らしだから遠慮しないで」

そうですね。部屋が一人暮らし用にカスタマイズされてますもの。雑誌に出てきそうな素敵インテリアですもの。それよりも君の一人暮らし発言と実用性ゼロのインテリアを見ていると涙が出てくるのは何故だろうか?目頭を押さえているとマミちゃんが紅茶とケーキを用意してくれていた。

 

「ろくにおもてなしも出来ないんだけど、ごめんね?」

マミちゃんがすまなそうに謝ってくる。

 

遠慮して言ってるようだけどねマミちゃん。紅茶とケーキ本格的なんですけど?君、訪ねてくる人いないのにどうしてこんな大層なものが家にあるんだい?その理由を考えるとまた目頭が熱くなるので、やめておく。

 

「ありがとうマミちゃん!遠慮なくいただきます!」

さっきまでの気分を振りきるようにケーキを一口頬張る。

 

「!?」

こ、これは!?ふわふわな食感に甘過ぎないスッキリとした味わい。そして口に入れた時の香ばしい香り。紅茶との相性も抜群だ。凄く美味しい!

 

「美味しい!すっごく美味しいよこれ!」

思わず叫んでしまう。それだけの物だ。一体どこで売っていたんだろうか?今度買ってみよう!

 

「良かった。手作りなんだけど、口にあってたみたいね・・・え!?優依ちゃん!?どうして泣いてるの!?大丈夫?怖かったよね?もう危険はないから安心して?ね?」

 

マミちゃんが慌ててハンカチで俺の目を押さえてくる。お願い、それ以上言わないで。余計泣きそうになるから。・・そっか・・手作りなんだ・・一人で食べてんのかな?どうやら俺がさっきの魔女の恐怖で泣き出したと思ってるようだ。全然ちゃうわい。そんなやり取りですっかり気が緩んでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、マミ。魔女退治ご苦労様」

 

 

 

!?まさか・・・

 

「あら、キュゥべえ。帰ってたの?」

声がする方に目を向けてみると、そこには全人類(特に女子)の敵にして悪徳営業マンな鬼畜外道宇宙人「インキュベーター」こと「キュゥべえ」が窓から入ってきた。

 

出たあああああああああああああああ!!白い悪魔!こいつを一匹見たら三十匹はいると思えが鉄則だ!マミちゃんの家に行く以上出会う可能性はあったが、来た当初はいなかったので、安心してたよ!油断してる時に来んな!白いGが!!!

 

俺の心のなかので罵倒しまくってるのを知らず、白いマスコットもどきはこちらに近づいてくる。くっ!見た目だけはかわいいのに!見た目だけは!中身クサレ外道だからな。正直こっち来んな。どっかいけ。念じるのとは裏腹にどんどん近づいてくる淫獣。そして、俺達がいる近くに立ち止まると見つめてくる・・・・・俺を。

 

「やあ、神原優依だね?はじめまして、僕はキュゥべえ。魔法の使者さ」

 

「・・はあ」

嫌な予感がする。何でこいつ俺に自己紹介してんの?何で俺の名前知ってんの?そもそも何で俺はこいつが見えてんの?答えなんて知りたくない。だが、現実は残酷だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕と契約して魔法少女になってよ!」

白い悪魔は残酷に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

NOooooooooooooooooooooooooooooo!!!あの悪魔の契約をよりにもよって俺に迫ってきた!?ホント節操ないな!

 

「だが断る!」

条件反射で答えてしまった。悔いはない!この世界に女として転生した時点で魔法少女の契約が出来る可能性はあるかもしれないとは思ってた。そんな可能性はゼロだったら良かったのに・・。

 

「・・え?待って?ホントに待って?まだ説明もしてないよ?」

 

「知りません。待ちません。説明しなくて大丈夫です」

 

俺の即答の拒否が予想外だったのだろうか?感情のないはずのインキュベーターが慌てている。いい気味だ。誰が契約なんてするか。そもそもメリットだけで肝心の都合の悪い部分(ソウルジェムの秘密と魔女化)は説明しないだろうが!やるだけ無駄だぞ。仮に知らなくても絶対やらない。命懸けのバトルとか却下!俺のチキンぶりを嘗めないでいただきたい!

 

 

「落ち着いてキュゥべえ。優依ちゃんも話だけでも聞いてくれないかしら?キュゥべえに選ばれた上に魔女に襲われたんじゃもう無関係じゃないでしょうから」

 

無関係です。たまたま変な白い生物が見えて、たまたま危ない目にあっただけの一般人です。ただの女子中学生です。さっきまでは原作介入しようと決心したけど、いざ現実になると猛烈に逃げ出したくなるな。俺はうざく付きまとってくるキュゥべえを振り払いながら、あわよくば・・と思っていそうなマミちゃんの魔法少女の説明を聞くはめになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そしてこれがソウルジェム。魔力の源なのよ」

違います。それ貴女の魂です。取り扱い間違えると洒落にならないので、丁重に扱って下さい。

 

 

「希望を振り撒くのが魔法少女。そして絶望を振り撒くのが魔女なの」

表裏一体ですよ。絶望したら、貴女も魔女コース確定です。彼女達は敵じゃない?QB被害者達だ!

 

 

「願いを一つだけ叶えてもらうかわりに、魔法少女として戦うことを課せられるの」

なんだその悪魔の契約?何も知らなくても手出したらアカンやつだから。クーリングオフ利かないんだし。かわいい見た目に騙されてはいけません。

 

 

 

 

マミちゃんの説明に裏事情を知ってる俺は心の中でいちいちツッコミを入れる。口には出しません。目の前で自殺されそうだから。俺の精神衛生上で一生傷が残ります。その前に自殺を止める力がない。下手すりゃそれに、乗っかって悪徳営業マンが契約持ちかけそうだし。「巴マミを救いたくはないかい?」とか。何それ笑えない。

 

 

 

 

「という訳で優依ちゃんも契約するんだったら、願いはしっかり考えておくのよ?後悔しないようにね」

 

「いや、契約しませんて」

 

マミちゃんがさも当然のように俺が契約する上での注意事項述べてるけど、貴女の中では既に契約する前提になっているのは何故でしょうか?やっぱり仲間欲しいのか?

 

俺が呆れてどう断ろうか考えていると、またしてもあのキュゥべえがとんでもない事を口にしだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてそう拒むんだい?君にはとてつもない素質がある。君が生み出すソウルジェムは僕でさえも把握しきれないんだよ?」

 

 

 

「・・・・・は?」

 

俺は咄嗟に反応出来なかった。この白い悪魔何て言った?幻聴?




キュゥべえ登場回でした!
そしてやっぱり勧誘された!即効で断ってましたが。

優依ちゃんの受難は更に続きますよー


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14話 衝撃の事実からの

前回の続きです!はたして無事に契約を拒否出来るのか!?


「ここまでの素質を秘めた子は今まで見た事がない。間違いなく最強の魔法少女になれるよ」

さっきの衝撃発言でも信じがたいのに、念を押すが如くキュゥべえが俺に告げる。

 

「人違いです」

絶対そうだろ。現にそのセリフ、ピンクのツインテールの主人公さんに言うだろうが。断固契約阻止するけど。

 

「違うよ。君の素質さ。僕の見立ては間違いないよ」

儚い希望は脆くも崩れ去った。嘘だけつかないコイツが言うんだ。本当の事なんだろうな・・嘘だったらどんだけ良かった事か・・。

 

 

 

それにしても何で?何で俺がそんな事になってんの?えーと魔法少女の素質ってたしか因果律で決まるんだっけ?まどかじゃあるまいし、ほむらは関係ない、というかまだ来てないし。なら転生が原因か?あれ?そういえば・・転生する前に少年の皮かぶった邪神野郎が何か言ってたような?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お詫びに転生させてあげるよ。あと特典もあげるね☆』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・これか!!!?特典ってこれ!?でえええええええええええええええええええええええ!!!こんな所で伏線回収!?どーりで色々試しても何も起きなかった訳だ!チート能力を期待した俺のピュアな心を返せ!!しかもよりにもよって一番知られちゃいけない奴の手によって発覚してしまった・・・。最悪だ!絶対目付けられた!絶対逃がす気ないぞこの宇宙人ども!こんな事なら特典ない方がまだマシだった。殺された事といい、女に転生した事といい、あの自称神は俺を嫌ってるを通り越して俺で遊んでるようにしか思えねええええ!!ふざけんなよ!人権って言葉知らないのか!?

 

 

 

「これ程の素質を開花させないなんて宝の持ち腐れだよ。君は魔法少女になるべきだ」

衝撃の事実に頭を抱えうなだれている俺に追い打ちをかけてくる白い悪魔。要するにさっさと魔女化して手っ取り早くエネルギーを回収させろって事ですね?わかります。

 

「そうよ優依ちゃん。魔法少女の素質があるなら、契約する事も考えた方がいいわ」

事情を知らないマミちゃんはよりにもよってキュゥべえの援護射撃をしてくる。どんだけ仲間欲しいんだ?

 

 

 

 

 

 

 

一人と一匹はあの手この手で俺に契約を考えるように持ちかけてくる。俺は静かにそれを聞いていた。やがてひと段落ついたのか話す事をやめ、俺の反応を伺っている。永遠に続くと思われた沈黙の中、それを打破すべく俺は机に肘をつき、顔の前で手を組む。そして重い口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「却下」

勿論断ります。NOと言える日本人。貴重じゃないですか?

 

 

「ど、どうして?」

「君は何故そこまで契約したくないんだい?」

戸惑いの雰囲気を感じる。そりゃあれだけ必死に勧誘したのにバッサリ断ったら驚くわな。通常あれだけ勧められてその上願い事を叶えてくれて魔法少女の素質ありなんて言われたら多少は考えるかもしれない。だが俺はなびかない。全く心が動かない。熱心に勧誘すればするほど逆に冷めていく。俺は反撃を開始するため再び口を開く。今度はこっちのターンだ。

 

 

「君たちの言い分は分かるよ?願い事を叶えてくれるし、突出した素質があるならさ、それを活かさないのは勿体無い」

 

「だったら・・」

 

「でもそれに何の意味があんの?」

 

「え?」

ぽかーんとする一人と一匹。それに構わず俺は続ける。

 

 

「そもそも願い事はさ、そんなに簡単に叶えちゃっていいの?欲しい物とか叶えたい夢とかあっさり手に入れるより苦労して手に入った時の方が嬉しいし大事にするでしょ?望めばすぐ手に入るなんてすぐ飽きるよ?楽して手に入れてるから大した価値もないし大事にしようと思わないから」

頭の中には前世で深夜から並んで買ったゲームの数々が浮かぶ。あれらは本当に苦労して手に入れたから嬉しかったし大事に扱ったな。

 

「優依ちゃん、確かにそれは・・」

何かを言おうとするマミちゃんを手で制し、俺はじっと彼女を見つめ問いかける。

 

「マミちゃんは今幸せ?辛くないって言える?」

 

「え・・・?」

彼女は答えない。胸張ってNOとは言えないだろうしね。

 

「俺の知る限りじゃさ、マミちゃん毎日パトロールしてて友達と遊んだり、買い物したりとか中学生らしい事出来てないよね?魔女から街の皆を守るためだから仕方ない?でも他の人には魔女なんて見えないし、そんな非現実な事信じない。頭がおかしいと思われるだけだ。マミちゃんは誰にも理解されない孤独な正義の味方って訳」

 

「・・・それは・・」

 

「魔法少女の契約ってさつまり、一つの願いのために全てを犠牲にするって事だよね?そんなの簡単に契約しようとは思えないよ」

 

「・・・」

マミちゃんは俯いてしまった。キツイ言い方だが事実なので否定できないだろう。彼女はもう俺を勧誘することはないだろう。たぶん。

 

 

 

 

 

 

「君の言い分は分かった。でも僕なら望めばどんな奇跡も起こしてあげられるよ?君は不可能を可能にする事だって出来るんだ。そのチャンスを君は見逃すのかい?」

空気読めやコラア!せっかく契約無しの方向でいってたのに!俺はマミちゃんからキュゥべえに視線を向ける。こいつにも言いたいことがあるからだ。

 

「この世界に生まれて今生きてる事が十分奇跡だよ。生きてりゃそれだけで儲けもんさ」

これは俺の本心から思う持論だ。

突然神と名乗る奴に殺されて前世は中途半端に終わってしまった。その時まではあんまり生きるのにも執着が無かったし、まあいつか死ぬんだろうなとぼんやり思ってた。でも突然人生を終了させられて思ったことはもっと生きて色んなことをしたみたかったことだ。人間死ぬときに後悔する事は挑戦しなかった事だと聞いたことがあるが本当だった。死亡フラグ満載の世界に女として転生したけど今度はしっかり生きようと思った。俺が過剰に死亡フラグを恐れるのはそのためだ。もう一度生きるチャンスがあるんだ。中途半端に終わらせない!だから、

 

「俺は契約なんてしない」

キュゥべえの赤い目を見てはっきり言った。まどかと同等なのか知らないけど俺が最強の魔法少女になるなら、待ってる結末は最悪の魔女になることだ。どんな願いをするかによるがそれは変わらないだろう。しばらくお互い見つめあっていたが、キュゥべえがため息を吐いた。

 

「やれやれ契約は難しそうだ。僕も無理強いは出来ない。今回は諦めるよ」

 

「そっか」

どうやら俺が勝ったようだ。ん?待って?「今回は」って言わなかった?諦めてないじゃんコイツ!!喜べねえええええ!前途多難な未来が想像でき落ち込んでいるとキュゥべえが顔を覗き込んできた。

 

「君はそこまで契約したくないのかい?」

 

「うん、やだ。契約したくない。戦うなんていう覚悟も度胸もないから。はっきり言って心はカバーガラスのハートだから。ちょっと力加えるとすぐ砕け散るから。ついでに言うと今マミちゃんがいなかったら魔女の恐怖で発狂して暴れる自信あるから!その前に死にたくないです!戦いたくないんです!」

さっきの持論も勿論本心なんだけどこっちは本心中の本心です!というかヘタレな俺が魔法少女になんてなったら即絶望して魔女化一択だ。デメリットデカ過ぎるし、戦う恐怖で負けてバッドエンド一直線。俺が世界滅亡させる破壊神になっちゃうんですよ?「まどかにかわっておしおきよ」しちゃうんですよ?世界に対して。ネタとしては笑えるけど俺は笑えない。実際ありえるから。

 

 

「さっきまで良いこと言ってたのに、今凄く情けないこと叫んだね。全く訳が分からないよ」

物凄く呆れた声色のインキュベーター。心なしか表情ないのに蔑んだ目を向けられてる気がする。気のせいだよね?

 

「はっきり言うな。だが本心なので否定しない!」

 

「何で開きなおるのさ!?」

キュゥべえが叫んだとこ初めて見た。ノリの良い個体もいるもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そうよね。無理に契約する事じゃないわよね・・」

 

「あ」

いけね!マミちゃん忘れてた!明らかに落ち込んでる!そんなに仲間が欲しかったのね・・。だが心配ご無用!前の俺ならこのままさよならだが、原作に介入すると決めた俺は一味違うぞ!マミちゃんの両手を掴みぐっと顔を寄せる。

 

「確かに魔法少女にはならない!だが俺は感動した!マミちゃんはヘタレな俺と違って世のため人のため日夜人知れず戦っていたんだね!すごいよ!本物のヒーローだよ!俺、そんなマミちゃんを支えたい!戦えないけどマミちゃんの役に立ちたいんだ!」

 

「え?え?どういう事?そういえば優依ちゃん、口調変わってない?」

早口で捲し立てる俺にマミちゃんは混乱しているようだが、それは想定内だ。

 

 

 

 

「今ここに俺はマネージャー宣言をする!一流や偉人と呼ばれる者たちには必ずといっていい程、縁の下の力持ちが存在する。サポートは任せてくれ!」

マミちゃんと共に立ち上がり、繋いでいる手を高らかに上げる。どうせ原作から逃げられないなら、裏方に徹する。異論は認めない。これが精一杯です。勿論戦いたくないというのが本音だが、裏方の方が何かと動きやすいだろうという理由もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・一緒にいてくれるの?本当に支えてくれるの?」

しばらく顔を伏せていたマミちゃんだったが、突然目をうるうるさせて俺を見つめてくる。保身が過分に入っている俺にとってはグサグサ刺さるが、サポートするのは本当なので力強くうなずく。

 

「もちろんだ!これから一緒に見滝原を守っていこう!今日はもう遅い!魔女って夜に出現しやすいんだよね?怖くて帰れないから泊まらせて下さい!お願いします!」

頭に犯罪という単語が浮かぶが無視する。

 

「ええ!こちらこそ喜んで!これからもよろしくね優依ちゃん。じゃあ今日のご飯は腕によりをかけて作るから楽しみにしててね」

目の前で照れたように笑うマミちゃん。マジ天使。

 

 

 

 

 

 

「全く・・何でこんなへタレがとてつもない素質を持っているのか理解出来ないよ」

 

白い生命体がぽつりと呟いていたが、関係ない。親睦を深めるという目的もあるから。決して怖くて帰れないだけが理由じゃないから。この晩マミちゃんと話が盛り上がって気づけば明け方。俺達二人は寝不足で学校へ行くはめになった。




何とか契約は回避!そしてマミちゃんのマネージャーになりました!
まあ・・キュゥべえは諦めてないでしょうが・・・

ちょっとシリアス回です!優依ちゃんにシリアスは似合いませんがね。
彼女が必死で死亡フラグを回避しようとする理由を察して頂けたら幸いです!


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15話 不法侵入は犯罪行為です

時間ある内に投稿しまーす!


見滝原での魔女騒動後

 

マミちゃんから魔法少女の事を打ち明けられ、更にあのキュゥべえから悪魔の契約を持ちかけられ、ダメ押しで衝撃の特典事情を思い知らされ絶対絶命のピンチだったが、なんとか機転を利かせ俺の持論を披露することで事なきを得た。

 

マミちゃんのマネージャーになる事で裏方に徹し、キュゥべえとの契約回避が出来たのだ!よく頑張ったぞ俺!

 

そんな激動の日から一日過ぎ気づけば夜、俺は風呂上りで気分よく自分の部屋のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ神原優依。風呂上りかい?お邪魔させてもらっているよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「NOooooooooooooo!!白い悪魔でたあああああああああああああ!!」

 

 

俺のベッドの上に白い悪魔ことインキュベーターがくつろいでいた。

 

そうだよねえええええ!

コイツがあんな程度で諦めるわけないわなああああああ!

というかどっから入ってきたんだこの白いGは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部屋に戻って来ていきなり乱暴じゃないかい?僕は泥棒じゃないよ?」

 

 

 

「黙らっしゃい!うら若き乙女の部屋に無断で侵入してくる奴はたとえかわいいマスコットの姿をしていても、宇宙救済する宇宙人でも立派な犯罪者です!」

 

 

俺は不法侵入したキュゥべえを捕獲し、天井から縄で宙づりにしてその前に仁王立ちをする。第三者から見れば、小動物をいじめる女の子の図だがコイツは似非マスコットなので問題ない。

 

「だいたい何しに来たんだ?俺ははっきり契約しないって言ったよな?」

 

「説明不足だと思ってね。前回は願い事と魔法少女の素質の話に着目していたけど、魔女の脅威についてはあまり話していなかったんだ」

 

 

淡々としているが俺を魔法少女にさせようと虎視眈々にみえるんですけど。

とんでもない執念なんですけど。まさに営業マンの鏡だな。

 

 

 

「戦いたくないって言ったよな?俺そんなメンタルしてないって言わなかったっけ?へタレ嘗めんなよ?運動音痴嘗めんなよ?瞬殺されちゃうよ俺?」

 

「魔女は人に害をもたらす存在だ。襲われた君ならよくわかるだろう?とても危険なんだ。君の素質ならどんなに強い魔女でも倒す事が出来る。君は魔女の脅威から人を守る事が可能なんだよ?そして君ならどんな願いだって叶えられる。望めば万能の神にだってなれるのさ。それでもこのチャンスを棒に振る気かい?」

 

 

今度は脅した上に餌で釣る気か・・ムカつく奴だな。あっ待てよこの手があった!

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、じゃあ『全ての魔女を消し去りたい』って言っても叶うんだ?」

 

「!?・・それは・・」

 

キュゥべえが驚いてる。

無表情だが、声に動揺が出てる。

 

おーやっぱこれ言ったら普段ポーカーフェイスのコイツでも驚くんだな。

 

GJまどか!!

 

俺は心の中でまどかに親指を立てる。

 

 

勿論そんな事願いません!

 

永遠に終わりがないとか自分の存在消えるとかまさに俺にとって絶望的な状況だ。

絶対嫌です!神様になんてなりたくない。

 

そもそも俺は神様嫌いです!

特に少年の姿してる神様は世の中で一番嫌いです!!

 

それはともかくあのムカつくキュゥべえに一泡吹かせるのは気分が良い。

 

よし!ちょっと意地悪してみるか!

 

 

俺はにやつく顔を抑えながら口を開く。

 

 

「別に本気で叶えようなんて思ってないよ。デメリットも凄そうだし?ていうかそもそも胡散臭いんだよお前。嘘は言ってないんだろうけど、本当の事も言ってないよね?俺が万能の神?面白い冗談だ。誰が信じるかそんな事。お前ホント営業の神になれるよ?割とマジで」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

・・怒ってる?なんかプルプルしてない?

 

え?インキュベーターって怒れんの?感情あんの?

 

まあ、うん。ムカつくと思う。

自分でやっておいてこれは無いだろうって思ってました。

 

調子に乗りやすい俺の悪い癖です!ごめんなさい!

お願い!何かしゃべってくれ!怖いから!

無言の圧力に耐えられるメンタルしてないから!

 

くそ、こうなったら俺が話すしかない!!

 

 

「あ、ごめーん、怒っちゃった?悪気はないんだよねー許してよ。というかさ魔女って何?そもそも魔法少女の契約って何だよ?」

 

まだ続ける気か俺は!?ほんと俺何やってんのおおおおおお!?

もう引くに引けないところまでいっちゃってるよ!

お願い、はぐらかして?何の事だって言って?

 

じゃないと引っ込みつかないんで!

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・君はエントロピーという言葉を知ってるかい?」

 

 

 

しばらくの沈黙の後、キュゥべえは恐ろしく冷淡な声で話し出した。え?待って?ほんとに待って?この話ってまさか!?

 

「ちょ、ちょっと待って!いきなり核心にせまる感じ!?いいです!聞きたくないです!意地悪してごめんなさい!謝りますんで勘弁して下さい!!」

 

 

 

必死で謝る俺を無視し、キュゥべえは語りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キュゥべえside

 

 

僕は目の前にいる「神原優依」に語る。

 

僕たちの正体

 

魔法少女と魔女のシステム

 

宇宙救済のためにエネルギーの回収でこの地球に来ていること全てを語った。

 

極めつけに人類とインキュベーターの歴史の記録を彼女に見せた。

 

 

何故か彼女は悲鳴をあげて床に倒れたけど。こうでもしないと駄目だ。

 

 

僕たちの目的のため、どうしても彼女に魔女化してもらう必要がある。

彼女だけでエネルギー回収のノルマを達成出来るのだ。

このチャンスを活かさない手はない。

 

それなのにマミの部屋で初めて出会った時、説明もしてないのに即答で断られてしまった。

 

最初は理解できなかった。

 

 

他の女の子達は即答で契約を了承するし、説明を聞いた後に考えて契約する子もいる。

 

なのに「神原優依」は願いが叶うといっても、膨大な素質があるといっても、首を縦に振らなかった。そればかりか生きてる事が奇跡だと言い出して契約を拒否した。

 

彼女なりの考えがあるんだと納得して引き下がったんだけど、この後に情けないことを叫んでいたので、僕の彼女に対しての評価は一気に下がった。

 

そして今回再び、彼女と対峙した。

 

今まで部屋に侵入しても驚かれはしたが、怒る子はいなかった。

それなのに今僕は縄で吊るされている。本当に訳が分からない。

 

彼女の正義感に訴えかけてみたけど効果なし。

それどころか全ての魔女を消し去りたいという願いはどうかなんて言い出した。

混乱してしまったよ。まさかそんなことを言い出すなんて。

 

でもそれは僕をからかう為の冗談だった。

 

 

僕の反応をみて彼女は面白がったのか意地悪な笑顔で馬鹿にしてきた。

 

 

納得できない

 

 

僕は宇宙のために活動してるんだ。それなのに彼女はそれを知らずに僕を馬鹿にする。

 

なら理解させてやる

 

 

僕はそう判断し、彼女に語った。

 

 

そしてすべてを語り終えた。これでもう僕に馬鹿にすることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

さあ君はどう思う?神原優依。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キュゥべえに全部暴露されました。予想外です。

 

しかもまどかに見せたであろうR-18指定がつきそうなショッキング映像も見せられました。グロ耐性ないためグロッキーな状態で現在床に倒れてます。

 

 

何が人類と共に歩んだんだ?

人類に首輪かけて引きずり回した歴史だよこれ?

 

 

「という訳さ。分かってくれたかい?」

 

「・・・十分に」

 

 

説明し終えたキュゥべえの晴れやかに聞こえる声は気のせいじゃないだろう。

 

 

俺に仕返しするためだけにあんな手間かけたのか?なんて陰湿で腹黒いんだ!?

 

何とかダメージから回復した俺は床から立ち上がり再びキュゥべえと対峙する。

 

 

 

 

「宇宙のために死んでくれるというなら言ってくれ。大歓迎さ」

 

 

 

嬉しそうな声だったぞこれ。

 

 

 

 

「・・・・だがあえて異議あり!!」

 

「何で!?」

 

 

俺が待ったの叫びをすると即反応してツッコミを入れてくるキュゥべえ。

 

コイツひょっとしてマミちゃんとこにいた個体か?

 

俺は取りあえず奴に反撃するため、口を開く。

 

 

 

ここから俺のターンだぜ!

 

 

「お前達の理屈は分かった。一応話に筋が通っている。・・・だが一つ致命的なミスを犯している。・・・・・そうそれは感情を侮っている事だ!」

 

キュゥべえに指を突き付け断言する。

 

 

決まった!と思っていたのは俺だけで、キュゥべえは意味が分かっていないのか首を傾げている。

 

 

動作だけは可愛いんだけどな・・・動作だけは。

 

 

 

「どういう事だい?僕たちが感情を侮っているって?確かに僕たちには感情が無い。だからといって分析せずに利用する事はしないよ」

 

「それだ!その認識こそが甘いんだ!!」

 

 

俺は握りこぶしを作り力説する。

 

 

「人間の感情というのは時に予想外の事をしでかす。どんなに間違ってる場合でも合理的じゃなくても自分の思うままに突き進む!それは理屈じゃないんだ!それこそが感情を持つ人間だ!!それはいくら技術を持った奴らでも制御出来るシロモノじゃない!」

 

 

 

俺の頭の中で悪魔化する暴走紫の姿が思い浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

「訳が分からないよ」

 

「そう!訳が分からないのさ!ちなみに俺も何で自分がこんなハイテンションなのか訳が分からないんだけどね!!」

 

「君が馬鹿だからじゃないの?」

 

 

淡々としたキュゥべえの物言いが俺の心を深く抉る。結構毒舌だなコイツ。

 

 

 

 

 

 

 

「それで本当に感情は制御出来ないと思うのかい?」

 

「ああ、もちろんだ!例えば・・・」

 

 

 

俺達はこの後、熱く語り合った。

 

 

時には生命とは何か?宇宙とは何か?などという哲学的なテーマにまで及んだ。

 

 

 

そして気づけば夜が明けてた。日の光が窓に差し込む部屋には

 

 

 

 

「君との会話はとても有意義で実に興味深かったよ。ただ僕は君に契約してもらうのを諦めないよ!」

 

 

満足したような声色で尻尾を振るキュゥべえと

 

 

 

「はあ・・・・」

 

 

 

目の下に隈を作ってやつれた俺がいた。

 

 

 

 

 

俺は本当に何をしているのだろうか・・・・?




スイッチが入ると謎のハイテンションと語りをする優依ちゃん!
その性質はオタク達を引き寄せる!!
キュゥべえも例外ではありません!



10000UA達成しました!!ありがとうございます!!さっき気づいて記念すべき瞬間見逃しましたが・・・


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16話 マネージャーって何だっけ?

お気に入り300件突破!
まだ原作前ですが皆さんに楽しんで頂けて嬉しいです!


原作介入すると決心し、マミちゃんの専属マネージャー宣言の日と悪魔の使者キュゥべえの不法侵入の事件を経て勝手に人の部屋に住み着かれた日からある程度日数が過ぎたとある日の事。俺は何故か魔女の結界の中にいた。

 

「うおおおおおお!怖い!逃げたい!帰りたい!死にたくない!」

 

「うるさいよ。静かに見れないのかい?」

 

 

 

現在俺はキュゥべえと一緒に魔女の結界の隅で縮こまっている。似非マスコットは戦闘に慣れない悲鳴をあげる一般人の俺に容赦ない言葉を浴びせてくる。俺はマネージャーであって、魔法少女じゃないのに、どうしてここにいるのかというと・・・それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

 

 

俺の視線の先にいる本日も元気に厨二あふれるネーミングセンスの技名を叫び、魔女という名の被害者にオーバーキルな超火力を浴びせてる黄色のクルクルな魔法少女さんが原因です。

 

魔法少女の事を打ち明けられたあの日、不本意ながら俺にも魔法少女の素質があると知ったマミちゃんはあろうことか契約を勧誘してきた。その時は俺が彼女自身の問いかけと魔法少女の実態を諭したことで諦めてくれたんだけど、マネージャー宣言した次の日あたりから魔女退治の同行をお願いされた。納得したふりして全然諦めてねえじゃねえかあああああ!!最初は断ってたんだけどあまりにもしつこかったので、一度だけならと折れたのが運の尽き。以来事あるごとに魔女退治の同行に連れ回されるはめになった・・・。やっぱり押しに弱いわ俺。

 

 

そのため毎回死亡フラグが成立しないか怯えている。あとマミちゃんがマミらないかも。幸い、マミちゃんは今のところ負けなしだし、俺にリボンバリアーを張ってくれて安全対策してくれるけど、ぶっちゃけ足手まといにしかならないし、俺の心身がもたないので家で待機したいのが本音。

 

 

 

 

 

 

 

「わひゃああああああああああ!!」

 

さっきの衝撃で使い魔が俺達がいる方向に吹っ飛ばされてきた。リボンバリアーに遮られ肉が食い込んだ状態になっており、どこのスプラッターな映画だと問い詰めたい光景が今俺の前に広がっている。当然叫ばずにはいられない!

 

 

 

「これくらいの事でいちいち叫ばないでくれるかい?全く少しはマミを見習って欲しいよ。どうして君みたいなヘタレに凄まじい魔法少女の素質があるのか理解出来ないよ。いっそのこと願い事はヘタレ治してくださいで良いんじゃないかい?そしたら君はヘタレ治るし、僕らも待ってればその内エネルギーを回収出来る。一石二鳥じゃないか。今からそれで契約するかい?」

 

俺は青筋を浮かべて隣の奴を睨む。人の感情を理解出来ない似非マスコット野郎は恐怖に耐える俺に容赦ない言葉のナイフを突き刺してくる。真っ白な身体の癖に真っ黒な毒舌を吐いてくるな。思えばコイツと初対面の時から毒吐かれた気がする。最近は特に顕著だ。どうやら少し、おしおきが必要みたいだ。俺はマミちゃんに向かって声を張り上げる。

 

 

 

 

 

「マミちゃん!キュゥべえが囮になってくれるって!ヘタレな俺と違って勇敢に身体張ってくれるってさ!!」

 

 

「ちょ!?本気じゃないよね!?マミ!さっきのは冗談だよ!本気にしないでね!」

 

 

俺の言葉にキュゥべえが慌てて否定してる。何でそんなに必死で叫ぶの?別にいいじゃん。代わりいっぱいいるんだから。そしてさっきから尻尾で俺を叩くんじゃない!痛いわ!仕返しとばかりにコイツの長い耳を引っ張ってみる。そんな俺達の幼稚なやり取りが見てられないのかマミちゃんがこちらを振り向き

 

「二人共。あともう少しで終わるから大人しく待っててね?」

 

「「ハイ」」

 

注意してきました。勿論従います。その時は俺もキュゥべえも心は一つになってたと思う。注意してきた時のマミちゃんに逆らってはいけない。これ暗黙の了解。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マミside

今私は魔女と戦っている。前の私だったら戦うのが怖くて独りになったらいつも泣いてばかりいた。けど今は違う。優依ちゃんがいてくれるもの。とても心強い。優依ちゃんが魔女に襲われて助けたあの日、彼女にも魔法少女の素質があると知った時は嬉しかった。私の友達である優依ちゃんが魔法少女になってくれればもう何も怖くない!そう思って期待したのに、まさかの即答の拒否。どんなに説明も説得もしてみたけど優依ちゃんは頑なに拒否した。

 

それどころか私の目を見て、今幸せか?辛くないか?と質問してきた。私は咄嗟に答える事が出来なかった。今の私の現状は幸せとは程遠いものだから。魔法少女は誰からも理解されない孤独なもの、優依ちゃんはそれを理解してた。だから契約しないと言っていた。その通りなので私は何も言えなかった。佐倉さんが去ってしまってから、私はひとりぼっち。また新しい仲間が出来ると思っていたので、とても落ち込んだわ。

 

でも、優依ちゃんは私の手をとって、はっきり宣言してくれた。私の力になりたいって!私を支えたいって!涙が出るくらい嬉しかった。魔法少女になってくれないのは残念だけどそれは仕方ない。優依ちゃんが決める事。少しでも一緒に居たくて危険を承知で彼女を魔女退治のお供に来てほしいと頼んだ。最初は断られたけど諦めずにお願いしていたら、渋々了承してくれた。優依ちゃんが近くにいてくれるのが幸せでつい何度も付いてきてもらってる。だって彼女は私の大事な友達で私だけのマネージャーですもの!私とっても幸せ者ね!

 

 

今までの事を振り返りながら魔女と戦っていると、何やら優依ちゃんとキュゥべえが私に向かって叫んでいる。よく聞こえなかったけど、応援でもしてくれているのかしら?嬉しいけど、大声を出すと魔女がそっちに狙いをつけてしまうと危ないから注意しておかなくちゃ。

 

「二人共。あともう少しで終わるから大人しく待っててね?」

 

「「ハイ」」

 

何故かこれはハッキリと聞こえた。

 

あまりの息ピッタリに苦笑いをしてしまう。案外二人は仲が良いのかもしれないわね。・・さてと、そろそろ魔女には退場してもらいましょうか。気持ちを切り替え、私は大量のマスケット銃を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様ー」

 

可哀想になってくるくらい魔女を大量のマスケット銃で蜂の巣にし完勝したマミちゃん。俺は取り敢えず労いの言葉をかける。ちなみに口調の事はマミちゃんに通達済み。彼女はあっさり受け入れてくれて男の子の口調の優依ちゃんかわいいと褒めてくれた。見習え赤いの。

 

 

 

「ええ、どうだった?優依ちゃんにも出来そうじゃないかしら?」

 

「嫌です。怖いです」

 

どさくさに紛れて勧誘すんな!どこぞの宇宙人じゃあるまいし!そういうのは居候の毒舌ぬいぐるみで間に合ってるんで!即答で却下だ!

 

 

 

「あらそう?でも慣れてくるわ。それまで頑張りましょう」

 

「慣れるまで付き合わせる気か!?嫌です!お断りです!」

 

とんでもねえ事言い出した!マジで付き合わせる気だ!その割にはマミちゃん、あんまり残念そうにしてないし、結構あっさり退くな。何でだ?

 

 

「マミ、優依のヘタレ具合は筋金入りだ。戦いに連れ出したらますます萎縮する真性のチキンハートさ。だったらまだ戦いの必要性を説く方が余程建設的・・・て、優依、僕の首を締めるのを止めてくれるかい?」

 

俺は無言で無礼な宇宙人を締め上げる。いい加減コイツを侮辱罪で訴えてもいいかもしれない。

 

 

「もう二人共やめなさい。緊張感を持たないとダメよ?今日はもう遅いから私の家で反省会しましょう」

 

「反省会は俺とキュゥべえが役立たずという事だけだから。それより俺の家、今日は親いないんで泊まってかない?新作料理の感想を聞きたいし」

 

「嬉しいわ。じゃあ遠慮なくお邪魔させてもらおうかしら?」

 

嬉しそうな笑顔で俺の手を握るマミちゃん。しかも恋人繋ぎ。別に良いし嬉しいけど、俺歩くペース遅いし、よくこけるからリード頼みますよ?

 

 

「性格馬鹿でヘタレな癖に料理は出来るんだね?意外過ぎる才能だよ。・・・優依、僕の尻尾引っ張るのやめてくれないかい?」

 

 

 

 

俺達はわいわい喋りながら家に向かう。こういうのも悪くないな。・・・・魔女退治の同行は勘弁して欲しいけど。




とある日のマネージャー業!
二日に一回くらいはマミさんに連れ去られてます!
だいたい二人と一匹はいつもこんなやり取りしてます!


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17話 幽霊は赤い?

久しぶりのあの人の登場です!


最悪だ。今日何故かさやかが怪談話しようとふざけた提案したせいでプチ百物語をするはめになった。ホラー系が大の苦手な俺にはダメージが凄まじい。ビビる俺を見つめるさやかのにやついた顔が腹立つ。ちなみにまさかのダークホースがまどかだった。一番怖がるかと思ってたのに、臨場感たっぷりに語るその様子はマジで怖かった。恐怖のあまり、さやかと二人抱きあいっこしてしまった程だ。終わった後は「ただの作り話だよー」と笑うまどかを見て、俺の中で彼女にS疑惑が浮上した。

 

こういう怖い事を思い出すのは決まって夜、特に眠る時間帯である。恥を承知でキュゥべえに一緒に寝てくれと頼んだら

 

「何で僕がそんなくだらない理由で君の抱き枕にならなきゃいけないのさ?」

 

と冷たい言葉を残し、マミちゃんの所へ行ってしまった。薄情な宇宙人め。・・・は!そうか!マミちゃんだ!珍しく俺に天啓が訪れる。

 

この際プライドなんか関係ない!というか俺に守るべきプライドなんてない!頼み込んで泊めてもらおう!キュゥべえに馬鹿にされようが関係ない。俺の快眠がかかっているのだ!幸いまだ中学生が出歩いても問題ない時間帯だ。よし、急いでマミちゃんの所に行こう!俺は明るい気分になり、泊まる準備をするため自室に軽やかな足取りで向かう。

 

「お化けなんてないさ♪怖くなんてないさ♪っ!?ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」

 

気分よく自室に入り、明かりをつけると丁度俺の位置から正面になる窓に赤毛の女の子が立ってる!?こっ怖いいいいいいいいいいいいいいいい!!!

 

 

 

 

 

「どうした優依!?何の悲鳴だ!?」

 

俺の悲鳴を聞き、駆けつけたらしいスーツ姿の母さん。どうやら今から出掛ける所だったようだ。

 

「窓の外に女の子が・・・あれ?いない?」

 

指差す窓には女の子は立ってなかった。恐る恐る窓の外を確認するも誰もいない。幻覚だったのだろうか?

 

「疲れているのかもしれないな。今日は早く寝た方がいい。私は明日まで帰らないからな」

 

「明日だっけ?対決」

 

「ああ、今から最終の打ち合わせだ」

 

ひょっとしたらこのやり取りで分かるかもしれないが、俺の母さん弁護士です。スーパーならぬハイパーな。そのため超多忙。こうして夜に出かける事も少なくない。

 

「うん、わかった。夜だから気をつけて。頑張ってね」

 

「ああ、検事共に一泡ふかせてやる」

 

そう力強く断言する母さんの後ろ姿は魔王を倒しに行く勇者の背中だった。

 

 

 

 

 

 

母さんを見送り、俺は自分の部屋に戻る。考えるのはさっき窓に立ってた女の子だ。冷静に考えると物凄く見覚えがある気がする。女の子は赤毛だった。俺の知り合いの中で赤毛の女の子は一人しか思い浮かばない。・・・まさか・・

 

 

 

 

 

 

「いきなり悲鳴ってさ、酷くない?」

 

声がした方に振り返ってみると赤い幽霊こと佐倉杏子が窓の外に立っていた。Why?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・何でいるんですかね?」

 

杏子を部屋の中に入れてやり、最も気になる事を質問する事にした。

 

「はあ?アタシ言ったよな?会いに来なかったら優依の家に押し掛けるって。ここ最近ずっと来なかったじゃねえか」

 

なんかとても責められてるような気がする。

 

「・・・そーでしたねー」

 

マジで杏子俺の家に来ちゃったあああああああああ!!そういやそんな事言ってたね!まさか実行するとは思わなかったよ!見滝原に来るなんて想定外!マミちゃんに会うリスクそっちのけかよ!?確かに全く君に会いに行ってないもんね!お弁当届けた時以降行ってないもんね!その後俺いろいろあったから行けなかっただけだから!ていうかそもそも

 

「何で俺の家分かったの?」

 

人のベッドを我が物顔で寝転ぶ赤い不法侵入者にドン引きしながら聞いてみる。

 

「知りたいか?」

 

「やっぱりいいです。やめときます」

 

杏子がニヤリと邪悪な笑みをしてるので、知らないほうが良さそうだ。引きつった顔の俺をよそに杏子が横目で俺を睨んでくる。なんか怒ってらっしゃる?

 

「何?」

 

「・・アンタは何とも思ってねえのかよ?全然アタシに会いにこなかったくせに」

 

まるで拗ねてるみたいだな。いや、拗ねてんなこれ。

 

「ひょっとして俺に会えなくて寂しかったとか?」

 

「んなわけねえだろ!アタシとの約束すっぽかしたのを怒ってんだよ!今日はそれのおしおきに来たのさ!勘違いすんな馬鹿!!」

 

わざわざ起き上がって真っ赤な顔で否定しても全然説得力ないなー。ツンデレ最高。・・そっかー寂しかったんだー。

 

「寂しい思いさせてごめんな。最近ちょっと忙しくて会いに行けなかったんだ」

 

「だから違うっつってんだろ!!」

 

必死でかわいいなー。忙しかったのは本当だよ・・・主に魔法少女関連で。うん、杏子とのやりとり癒されるわ。もう少しこのままの関係でいよう。魔法少女の事の打ち明けはしばらく先にするか。俺がそんな事を考えてる間に杏子が不貞腐れて再びベッドに倒れ込む。

 

「チッ、ったく。わざわざ来てやったのに、へらへらしやがって」

 

不機嫌そうに持参してきたであろう菓子をつまんでいる。俺の目の前で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。こいつリアルホームレス中学生。主食お菓子とジャンクフード。我が家の台所を預かる俺の前で堂々と菓子を食っている。喧嘩を売ってるとしか思えない。

 

 

「食うかい?」

 

俺の視線に気づいたのであろう。杏子が菓子を差し出してくるが、それを無視し腕を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏子・・・お風呂入ろうか」

 

「はあ!?」

 

そう言うが早いが、杏子をお風呂場まで引っ張っていき、風呂入るまで出てくんなと言い残す。そして、杏子の着ていた服を洗濯する。替えの服は・・・まあ俺の服でサイズ大丈夫だろう。洗面所に置いておく。セクハラだろと言われそうだが、この娘ホームレス。しかも性格ガサツな所があるので、一日二日風呂と洗濯しない可能性が高い。そんなの俺が許しません!そもそも今俺も女です!性別上は!

 

とにかく人の部屋に押し掛けた以上は俺の洗礼を受けてもらう!杏子が風呂入っている間に夜食を作ることにした。晩御飯だったが明日の朝食用に残しておいた豚汁を温め直し、卵焼きとおにぎりを作る。夜食の準備が終わる頃、杏子がリビングにやって来た。淡いピンクのフリルキャミソールに黒のキュロットの姿だ。俺のチョイスGJ!

 

 

「おい、これでいいだろ?」

 

杏子がブスッとした物言いで言ってきた。いいわけあるか!髪乾かしてないじゃん!この娘ホントガサツだな!

 

「ちょっとそこ座って。髪乾かすから」

 

杏子を無理矢理座らせ、後ろからドライヤーで乾かす。

 

 

 

「・・・何でここまですんだよ?」

 

不機嫌そうな声で聞いてきた。

 

「思春期の女の子がそんなガサツでいいの?却下。俺が許しません。杏子かわいいんだから、もう少し意識しようよ?」

 

「かわ!?」

 

「あー大人しくしてくれよ?乾かせないから」

 

誉められるの慣れてないな。耳まで真っ赤なんですけど。髪と同色になってる。そもそも事実なんだからそんな騒ぐことじゃないのに。杏子は言われた通り大人しくしていた。だが何故か俺の太ももの上にうつ伏せで寝転がってきた。太ももに杏子の胸が当たってるんですけどおおおおおお!?意外とボリュームありますね・・それより俺の貧弱な太ももが杏子の体重に耐えられない!

 

「杏子!足痺れるからどいて!」

 

「んー」

 

生返事で退く気ゼロ!動こうともしませんよ!く!こうなったら暗示だ!神原優依!お前は今しているのはでかい猫の手入れだ!お前はトリマーなんだ!決して人間の女の子の髪を乾かしてるんじゃない!そう錯覚してるだけだ!みろこの猫を!気持ちよさそうに喉を鳴らしてるじゃないか!やっぱり猫じゃないか!その調子だ!

 

俺はひたすら自分に暗示をかけ、無心で杏子の髪を乾かした。結構髪の量ありますね・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ優依の作った飯は旨いよなーいくらでも食えるぜ」

 

「・・・うん」

 

何とかドライヤー地獄から解放されたはいいが、俺の作った夜食を完食しちゃった杏子ちゃん今とっても素敵な笑顔。まさか全部食べるとは・・。明日の朝食用に残してた豚汁が一滴も残ってない。弁当の時で学習してろよ俺!

 

 

 

 

 

「・・・それで?ここまで至れり尽くせりの理由は何だ?まさか会いに来なかったお詫びだけじゃねえだろ?」

 

杏子がさっきまでの笑顔が嘘だったように真顔になる。何かあるのかと思ってるんだろうか?アタリだけど。ここまで世話したのは約束を反古したお詫びと杏子の私生活を心配したからという理由だけじゃない。もうひとつ理由がある。最も大事な事だ。俺は杏子の両肩に手を置いて真剣な表情で彼女を見つめる。杏子もただならぬ俺の雰囲気を感じて少し身構える。心なしか怯えてるように見えるのは何故だろうか?しばらくの沈黙のあと俺はゆっくり口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日ウチに泊まってくれませんか?」

 

 

 

 

「・・・・・・・・はあ!!!?」

 

杏子が意味が理解出来なかったのか無言だったがしばらくして大声を出す。いや俺にとっては大事な事だから。死活問題だから。それにしても今日一番の声量だったねさっきの。




まさかの杏子ちゃん襲来でした!
まあ優依ちゃんに振り回されてましたが!

ほとんど登場しませんが、まどかとさやかはよく一緒にいます!マミさんがいない場合はこの二人といることが多いです!

自分の中ではまどかちゃんは絶対Sだと思ってます!


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18話 お泊り♪

お気に入り500件突破!!
本当にありがとうございます!
正直ここまで読んでもらえるなんて思ってなかったので驚いてます!
今後も優依ちゃん共々よろしくお願いします!


「・・という訳なんです」

 

「つまり放課後やってた怪談話を思い出して怖くて眠れないから一緒に寝てくれって事か?」

 

「はい、そうです」

 

「・・・はあ」

 

ため息つかんでください。俺にとっては最重要な事なんで。よく考えればマミちゃんの家に行くにしても今、夜だよ?お外真っ暗。お化けとエンカウントしちゃうかもしれないんだよ?魔女とエンカウントしちゃうかもしれないんだよ?アカンやん!行けないよ!そんな中でまさかの杏子来襲というハプニング&ラッキーなふってわいた出来事。これを活かさない事はない!何が何でも泊まってもらうぞ佐倉杏子!俺の快眠のために!!

 

 

「アタシはてっきり・・・」

 

何か呟いてますけどね杏子さん、それ以上に大事な事今ありませんから。

 

「という訳で!是非泊まっていって下さいね杏子さん!泊まるしかないよね?服洗濯中で着るもんないもんねー。一泊していくだけでいいから!」

 

さり気なく逃げ道を無くす性質の悪い俺。それだけ俺にとっては幽霊が怖いという事を理解して頂きたい。杏子がしばらく呆れた表情で俺を見ていたが諦めたように目を閉じ、ため息を吐いた。

 

 

「・・・まあいいけどさ。ここまでしてもらったし、アタシも今夜寝るとこ確保できるから一緒に寝るくらい構わねえよ」

 

「やったー!杏子ありがとう!実はもう布団用意してるんだよね!もう遅いし寝よっか!」

 

「はあ・・・」

 

俺は杏子の腕を引っ張り自室に連れて行く。それにしても杏子さん、何でそんな悟ったような目でため息ついてんですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏子寝た?」

 

「寝た」

 

現在真夜中。布団に入ったはいいがさっぱり眠れずこうして杏子に話しかけてみるが杏子からばっさり拒否された。

 

「嘘つけ。はっきり喋ってるじゃん。ちょっと話さないか?寝られないんだよねー」

 

「・・・寝られるようにしてやろうか?」

 

ポキポキと不吉な音がしたので慌てて口を閉ざし布団に潜る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

しばらく目を瞑ってみたが全く眠気が来ない。ていうか怖い。しんと暗い中、時計の針の音が妙に響く。それがまた怖い!そして怖い妄想もしてしまう!部屋の隅に髪の長い女の人が立ってそう・・怖いいいいい!

 

「あの・・杏子」

 

「・・・・・・・・」

 

怖くなって再度杏子に声をかける。返事はないので寝てしまったのだろうか?

 

「杏子さーん・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・だああああああ!うっせえな!!」

 

もう一度杏子に呼びかけてみると今度はいきなりキレられ怒鳴られた。そのあと杏子が突然ガバッと布団から起き上がりそのまま俺のベッドに・・・俺のベッドに入ってきたんですけどおおおおおお!?更に驚いてる俺を抱き寄せ、頭を撫でてきた。え?どゆこと?

 

 

「きょ、きょうこさん!?」

 

「うるさい黙れ。怖いんだろ?・・寝れるまでこうして一緒にいてやるから安心しろ」

 

「・・はい」

 

有無を言わせない感じはなくむしろぐずる妹を寝かしつけるお姉ちゃんみたいな優しい言い方だった。多分妹さんの時もこうやってあやしてたんだろうな。凄いお姉ちゃん力だ・・・あれ俺妹扱い?そんなに幼く見える俺?・・ん?俺は杏子に抱きしめられてるので必然的に距離が近いというかゼロだ。すぐ目の前に杏子がいるのでもちろん石鹸の良い香りするし、女の子の肌柔らかいっす。・・・・それはともかく一番気になる事があるので杏子に聞いてみる事にする。

 

 

「杏子・・なんか鼓動早くない?凄いバクバクって音するんだけど?」

 

「永眠してえのか?」

 

「おやすみなさい!!」

 

ドスの利いた声がしたので即目をつぶる。杏子はその間ずっと俺を抱きしめて頭を撫でてくれていた。それに安心したのか俺はすぐに眠気に襲われ夢の中。今日はぐっすり眠れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子side

 

「・・すう・・すう・・」

 

寝息が聞こえる。どうやら優依は眠ったようだ。ホント世話のかかる奴だな。こんな展開になるならグダグダ考えずにさっさと会いにいけば良かった。優依を抱きしめたままここに来るまでの事を振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優依が来ない。前に来た日はしっかり覚えていてその日から日時を確認し数えてる。アタシは土日になれば街の中を歩き回り優依を探すのが日課になってた。でも見つからなかった。どこですれ違いになってるかもしれないし、用事があって今回は来ていないのかもしれない。お互い連絡する手段もないし、来る日なんて決めてない。全て優依次第だ。今日は日曜日。アタシはまた優依がいそうな場所を主に探し回った。風見野駅、ゲームセンター、前に一緒に座ったベンチがある公園などとにかく思い当たりそうな場所を何度も探した。・・・でもアイツの姿はどこにもなくて気づけば夜になってた。これだけ会えないと悪い考えが頭に浮かぶ。

 

 

 

ひょっとして優依はもうアタシに会いに来ないつもりなんじゃないのか?思いあたる節はある。前会いに来てくれた時にアタシは未遂とはいえATMを破壊するところを目撃されてしまった。その時アイツはアタシを責めずに自然に接してくれたけど心の中では軽蔑してて二度と会わないでおこうと考えてたのかもしれない。思い返せば、家はどこかはぐらかされたし、お金渡したのもひょっとして手切れ金だったかも?何より次はいつ会うかなんて一言も言わなかった・・・。つまりアタシを嫌ってもう会う気はないという意思表示だった?悪い考えがどんどん出てきて止まらない。

 

 

「チッ」

 

思わず舌打ちしてしまう。こんなのアタシじゃない!こんなにウジウジすんのなんてありえない!アイツが悪いんだ!嫌ならはっきり口にだして言えばいいのにアタシに期待させて落ち込ませて無視するのかよ!許せねえ!

 

 

怒りが沸々と出てくる。

 

 

アイツが来ねえならアタシが行ってやる!そういう約束だしな!アイツの家に押しかけてアイツに会って返しそびれたハンカチ叩きつけてやる!

 

 

そう決めてバス停に向かう。考え事してて気づかなかったが既に空は太陽が昇り始めてた。前回優依が乗っていたバスに始発で乗り、久しぶりに見滝原に向かった。見滝原はやっぱり賑やかでマミとコンビ組んでた時の記憶がよぎるが頭を振って無理やり追い出す。着いたはいいが優依がどこに住んでるのわからないから探しようがない。幸い今日は平日、中学生のアイツなら学校に登校するはずだ。アタシみたいに行ってないとかならどうしようもないが。この辺りだとやっぱり見滝原中学校だろうか?直接向かうのはまずい。マミに見つかってしまう。それは避けたい。考えた末にアタシは展望台から探す事にした。魔法で改造した望遠鏡で学校に登校する学生の中から優依を探す。

 

 

 

 

「・・あ!」

 

思わず声を上げてしまう。レンズの中に見慣れた後ろ姿が映る。間違いない優依だ!やっぱり見滝原中学校に通ってたんだ!久しぶりに優依の姿が見れてすごく嬉しいと思う反面今まで何やってたんだ?何で会いに来てくれないんだ?という怒りが同時に出てきて複雑な気分になった。アイツの姿を確認したあと、ついでにマミの姿を探した。どれだけ探しても見つからなかったから今日は休んでる事が分かった。マミがいないなら都合がいい。アタシは迷わず優依がいる中学校の方向に駈け出した。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

見滝原中学校から向かい側にあるビルからアタシは優依を見てたが正直気分の良い光景じゃなかった。・・・アイツがアタシといる時よりもずっと楽しそうだから。かわいい笑顔を向けるのもきれいな瞳をうつすのも澄んだ声を掛けるのも全部全部アタシじゃない奴ら。アタシにはあんまりそんな顔しないのに・・・。アイツがアタシに向けるのは目を逸らしたり、はぐらかしたり、怯えた表情・・・。アタシの普段の行動は褒められたものじゃないし優依を無理やり会いに来るように仕向けたから仕方ないと思ってたけど実際ここまで違いをはっきり見せつけられるとこんなに腹立だしくて悲しくて・・・寂しいんだな・・・。

 

アタシは優依から視線を逸らし、アイツが笑いかけてる奴らを睨み付ける。どうやら仲が良いのは優依の前後の席の女子のようだ。前はピンクのツインテールで後ろが青髪のショートの奴。隣の席の坊やは何やら熱心に優依に話しかけてる。全然話が終わらねえし。何だ?アイツ優依が好きなのか?ムカつく。・・・アタシが優依を待ってる間ずっとアンタはアイツらといたのか・・・?思わずきつく拳を握る。

 

 

今は放課後、さっさと他の奴らは帰っていったのに、優依を含めた三人はまだ教室に残って何か話し込んでた。途中で優依と青髪が悲鳴をあげて抱き合いっこしてた。アタシはその光景に思わず持っていた菓子を握り潰してしまう。頭に血が昇りそうな時に見たピンクの奴の物凄く楽しそうな笑顔が印象的だった。ようやく帰る時も優依と青髪は手を取り合ってて、その前を行くピンクの奴は何故か輝かんばかりの笑顔だった。ようやく優依が他の二人と別れ一人になって周りをキョロキョロしながら怯えたように歩いてる。アタシはその後ろをこっそり付いて行って家に入るのを確認する。どうやら今目の前にある家がアイツの家のようだ。結構でかい家だな。親は金持ちなのか?今はまだ夕方だ、怪しまれるから夜にアイツの部屋の窓に立ってみるか。気づくかアイツ?

 

 

 

 

アタシの予想ななめ下の反応だった。優依は歌いながら部屋に入ってきて明かりをつけたと同時に両手をあげて悲鳴をあげた。・・コイツはアタシを見たら一々叫ばないと気がすまないのか?誰か来る気配がしたので屋根に上って様子を見る。少し時間が経って優依の母親らしき人が出掛け、優依が部屋に戻ってくる気配を感じたので、再び窓のところに立ってみた。外からはアイツがこっちに背中向けてなにやら考えこんでた。・・怖い。会いたくなかったのにとか来ないで欲しかったなんて言われたらどうしよう?でも気づいてもらえなかったら始まらない。アタシは震える口で優依に声を掛けた。

 

「いきなり悲鳴ってさ、酷くない?」

 

そう口に出してた。

 

 

 

 

 

 

訳が分からない!部屋に入れてもらえたけど呆れた様子で嫌がってそうな様子じゃなかったのは安心した。けど、アタシをからかってくるし挙句の果てには風呂入れって洗面所に引っ張られて強制的に風呂入れられた。混乱して優依のなすがままだったのが情けない。なんか今日着てた服も洗濯されてるみたいだし、何がやりたいんだよアイツ!?言われるがまま着替えて不機嫌にリビングまでいったら今度はドライヤーで髪乾かされた。何でこんな事すんのか聞いたらまさかのアタシがかわいい発言!?驚いたが悪い気はしなかったな。優依にかわいいって言われて嬉しくて思わず優依の太ももに寝転がって甘えてた。何か言ってたけど聞き逃したので適当に返事しておく。だってそうだろ?今優依が見ているのはアタシで話してる相手はアタシ。触れてんのもアタシ。学校で楽しそうに話してたアイツらじゃない。その事実が嬉しくてしょうがない!優依は夜食まで用意してくれていた。ここまでされると流石におかしいと思ってくる。約束を破ったお詫びだけじゃすまないだろう。まさか・・。だから優依に聞いた。何かあるのか?って。そしたら優依がアタシの両肩に手を置いて真剣な顔で見つめてきた。あまりに真剣だったからアタシが優依から聞きたくないことを今から言われるんだと思って珍しく怯えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日ウチに泊まってくれませんか?」

 

 

 

「・・・・・・・・はあ!!!?」

 

 

しばらく無言の後こんな事言われた。最初言ってる事理解出来なかったし。何で無駄にシリアスな雰囲気出したんだよアイツは!?で、あいつは色々言ってたけど、簡単にいえば怖くて眠れないから一緒に寝てくれって事だった。凄い脱力した。それだけのためにここまでやるか?

 

「アタシはてっきり・・・」

 

 

 

思わず呟いてしまう。てっきり「もう会うのやめよう」って言われるのかと思ってた。身構えてた分安心したけどさ。そうだよなコイツはこういう奴だった。真面目な様子でアホな事口にするシリアスキラーだった。私は思わずため息を吐いた。優依に連れられて用意してくれた布団に入ったはいいが、緊張して寝付けなかった。アイツが近くにいる。手が届く距離にいる。そう考えるだけで、心臓がやけにうるさく鳴った。そんな事アイツは気にも留めずにアタシの名を呼ぶから余計に意識してしまう。一度は指鳴らして黙らせたけど、少し間を空けてからまたアタシの名を呼んできた。我慢できなくなって衝動的に優依のベッドにもぐりこんで抱き寄せる。昔妹と同じようにあやす感じで頭を撫でてたら優依は眠ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人の気も知らないで幸せそうに眠りやがって・・」

 

眠る優依の頬を撫でながら愚痴る。部屋に入れてくれて良かった。アタシを受け入れてくれて良かった。嫌われたわけじゃないとわかって安心した。優依が忙しくて来れなかっただけと聞けてほっとした。思い切って家に押しかけて正解だった。これからはアタシが優依に会いに行けるから。もう待つのは嫌だ。待ってるだけなんてアタシには出来ないし。何より無防備に眠る優依を独占出来るのは気分が良い。普段会えない分、独り占め出来るのだ。文句は言わせない。

 

 

 

「とりあえず明日は帰って魔女でも狩るか・・その前に優依に朝飯作らせよう」

 

 

 

アタシは優依を抱きしめていない手でポケットをまさぐる。目当てのものを取り出し、それを上に掲げて見つめながら明日の予定を立てる。変身もしていないし、ほとんど魔力を使っていないのに手の中にあるソウルジェムは何故か半分近く黒く濁ってた。アタシはそれを握りしめたまま目を閉じ、眠りに就いた。

 

 




・・言い訳させて下さい・・
下書き段階の杏子ちゃんは原作通りにかっこ可愛い人物で優依ちゃんとの仲もコメディタッチなライトなものだったんです!それが何故かこんな泥沼なダークなものになってました!病んだ杏子ちゃんが見てみたいと思っておりまして、色々探したんですがあんまり見つからない。病んだ杏子ちゃんが見たいなら自分で書くしかないじゃない!!って思ってたらこんな事に・・・。


正直超楽しかったです!!反省はしてますが後悔してません!ただやっちまった感があるのでどっかで軌道修正します!出来たらですけど!



余談ですが杏子ちゃんハンカチ返してません!理由は優依ちゃんに会う口実を作るためです!その必要が無くなったときに返却されるでしょうね!ヤンデレ杏子ちゃん増えろ!!


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19話 巴マミアイドル化計画

凄い勢いでお気に入りの件数が増えていく事に戸惑いを感じる今日のこの頃・・
自分は楽しんで頂けるものを書けているのか!?
ぶっちゃけ自分の願望(欲望)しか書いていないものなので心配です!


「はい、ホットチョコレートよ。今日は寒いからとっても温まるわよ」

 

俺が見滝原に引っ越してから迎える初めての冬(人生最後の冬になりませんように)。いつものようにマミちゃんの魔女退治同行に付き合わされた日の夜。俺はすっかり見慣れたマミちゃんのモデルルームに招待されていた。今日はとても寒いためマミちゃんがホットチョコレートを作ってくれたが、俺は一切手を付けず腕を組んで考え事をしていた。気分は考える人である。

 

 

 

「・・優依ちゃんどうしたの?全く口付けてないようだけど、体調でも悪いの?」

 

「マミ、気にする事ないよ。どうせ優依はしょうもない事を考えているか馬鹿なのに風邪引いたかのどっちかだから。あ、馬鹿は風邪引かないというのは迷信と聞いているから本当に風邪ひいてるのかもしれないね」

 

純粋に俺を気遣って心配そうな顔で聞いてくるマミちゃんと氷のように冷たい言葉をぶつけてくるソファのぬいぐるみと化した白い生物の対比が凄まじいな。だが俺はそんな事を気にしない。なぜならこれから超ド級の素晴らしいアイディアを提案するからだ!

 

俺は立ち上がる。最近思ったんだが、俺は何かを提案したり、宣言する時は立ち上がって叫ぶのがクセなようだ。今回も例に漏れずそれを行う。

 

「優依ちゃん?」

 

突然立ち上がった俺をマミちゃんが不思議そうに見上げている。俺はビシッとカッコつけて彼女を指差し叫ぶ。

 

「巴マミ!」

 

「え?は、はい!」

 

マミちゃんはいきなり名前で呼ばれ戸惑っているが条件反射で返事してしまったようだ。構わず続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と契約してアイドルになってよ!」

 

 

 

「・・・・え?」

 

 

マミちゃんに手を差し伸べてキュゥべえ風に言ってみた。なかなか様になってるな俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前から思ってたんだけどマミちゃんはこうキラッと輝くものがあると思うんだよね。それを活かせないかなーと考えてたんだけど、ある時思いついたんだ!そうだ!マミちゃんをアイドルにしよう!と。だってマミちゃんかわいいし、スタイル良いし、エレガントなオーラがあって声も綺麗。アイドルとして絶対うまくいくと思うんだ!」

 

「・・・そうかしら?」

 

俺の熱論に半信半疑だが満更でもなさそうな顔のマミちゃん。

 

でもこれ俺の提案半分も理解出来てないな。混乱してるみたいだし。まあ俺が突然変な事言い出したせいなんだけど。何で俺がこんな事を言いだしたかはきちんと理由がある。そもそもマミちゃんは魔法少女に熱を人一倍入れ過ぎてると思う。正義の魔法少女として誇りにすら思ってるほどだ。その分魔法少女の真相を知った時の絶望も人一倍。錯乱して巻き込まれたら超迷惑な無理心中しようとするので超怖い。そこで俺は考えたのだ!

 

だったら魔法少女以外に熱を入れるものを作ればいいじゃない!という訳で彼女にはアイドルの道に進んでもらおうと思う。何故かって?なんかのゲームの中でマミちゃんアイドルやってた動画見たことあるから。他に俺、女の子をプロデュースしてみたかったんです!そういうゲーム前世でもよくやってました!幸いこの世界のアイドル事情にも精通している(情報ソース:トモっち)。マミちゃんは俺の目から見て原石だ。光り輝くものを持っている。そのまま放置するなど罪である!決して俺の願望だけが理由ではないことを理解して欲しい。

 

 

 

 

「・・また君は突拍子もない事を言い出すね?僕の中の『神原優依』のデータがことごとく変質しているよ。今じゃ変人を通り越してサイコパスさ」

 

ソファから降りてきた似非ぬいぐるみがまたしても聞き捨てならない事を吐いてくる。ホント失礼な奴だな。他人事だと思いやがって。

 

 

 

「何だそのデータは?キュゥべえとはもう一度話し合いが必要か?あと俺は神原優依じゃない。プロデューサーと呼べ!QBカメラマン!」

 

「QBカメラマン!?」

 

「何をそんなに驚いてんだ?キュゥべえもやるんだよ?という訳でマミちゃん!早速やってみよっか!大丈夫、動画撮るだけだから!」

 

「え?え?」

 

「きゅぷ」

 

未だ混乱するマミちゃんの手とキュゥべえの首根っこを掴み、俺は持ってきた資材を準備する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・動画撮るだけなんだよね?カメラ一つで十分の筈なのになんでこんな本格的な機材がいるのさ?君の本気の凄まじさに正直ドン引きだよ」

 

「いや・・これ友達から借りただけなんだけど・・正直俺もドン引きだわ」

 

俺達の前にはテレビのスタジオでしか見た事ないような機材が置かれている。しかもアイドルが着るような衣装に小道具、メイク道具まである。俺が深夜のテンションでアイドルにしたい女の子がいると半分悪ふざけで伝えたら送られてきたものである(提供先:トモっち)。あいつ何者?

 

 

「よし!じゃあ先に衣装でも着て顔隠しながら自己紹介の動画でも撮ってみる?歌は後にしよう」

 

素朴な疑問を振り払い気分を入れ替えるため手を叩いて提案してみる。俺の提案に疑問があったのかキュゥべえが首を傾げてる。

 

「どうして顔を隠すんだい?アイドルなんだから顔が売りなんじゃ?」

 

「甘いな!人間というものはミステリアスなものに惹かれるもんさ!画面に映るマミちゃんのスタイル・雰囲気・声どれも一級品だから申し分ない。それで評価され人気が出るだろう。だが肝心の顔が見れない!現状に満足していても更に欲が出るのが人間だ!顔が見たい!どうしたら顔が見れるのか?そんな欲求が高まってくる。そんな時にライブだ!動画で焦がれてた本人が生で見れる!しかも顔が見れて超かわいい!その時の高揚感と満足感はけっして忘れない!彼らはマミちゃんの虜になる・・それが狙いさ!」

 

俺の壮大な計画の全貌を熱く語ったのに、聞いていたキュゥべえはどこまでも呆れ、そして冷めていた。

 

「ライブする前提なのかい?君一度脳の検査行った方がいいよ。そしたら少しはマシな妄想するだろうから」

 

「うっさい!夢はでっかくだ!それよりキュゥべえ!ちゃんと撮れよ?動画はカメラマンが重要なんだから。こんな複雑そうな機器、俺じゃ扱えないし」

 

「まあ、やるからには徹底的にやるよ。僕の神レベルな超絶アングル捌きを見てひれ伏すがいいさ。・・・という訳でマミ、準備はいいかい?」

 

俺とキュゥべえは同時に振り向く。さっきから全く喋っていなかったマミちゃんは顔を真っ赤にしながらプルプル震えている。

 

 

 

「私やるなんて一言も言ってないわよ!!」

 

部屋全体に響く大声で叫んでた。ごもっとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーいいよいいよマミちゃん。その衣装似合ってるよー」

 

「マミ、その動きをもう一度お願い。今度はこっちのカメラで撮るから」

 

「えへへ・・上手く出来てるかしら?」

 

 

ノリノリのマミちゃんの動画撮影が終了し、俺はキュゥべえと合同で編集してからアイドルオタクのトモっちに送った。

 

「こ、これは百年に一度の逸材だ!是非応援させてくれ!!」

 

という返事が届いたので宣伝はコイツに任せる。ちなみにアイドルネームは「Ribbon」と名付けてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マミside

今優依ちゃんが私を見てる。とっても嬉しい。最初優依ちゃんがアイドルやってみないかと言われた時は戸惑った。そのまま強引に動画を撮るはめになるなんて・・。しかもキュゥべえもなんだかノリノリだもの。勢いに押されちゃった。アイドルに憧れがなかったわけじゃない。でも、いざやってみようと言われると戸惑いの方が強かった。まあ、中学生のやる事で動画を撮るだけみたいだし、顔を隠しての撮影だから了承したのに・・。

 

何なの!?この本格的な機器は!?しかも衣装まで本格的・・おまけにキュゥべえはどこのプロのカメラマンよと言いたいほどアングルにこだわりだす始末。もう最初は自棄だったわ。でもだんだん楽しくなってきてこういうのも悪くないなって思えた。

 

何より優依ちゃんが私を見てくれるもの!私のために衣装を選んだり、私のために演出を考えてくれる。うまくいったら手放しで喜んでくれる。それが何より嬉しくてついつい調子に乗ってしまう。アイドルみたいに輝いてたら優依ちゃんずっと私を見てくれるかしら?私だけを見ていて欲しいもの!

 

 

「優依ちゃんこれはどうかしら?」

 

「うん似合ってるよ!」

 

優依ちゃんが私をアイドルにしたいなら喜んでついていくわ。そうしたら貴女は私を見てくれるでしょう?

 




一回やってみたいですよねーアイドルをプロデュース・・

最後はともかく悪ふざけ回でした!


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20話 人生生きてりゃ間が悪い事はよくあるもの

お気に入り700件突破!
UA20000突破!

皆さん本当にありがとうございます!
原作前なのに長い話になってますが、読んで頂いて感謝感激です!

何とかあと数話で原作入る予定ですので、どうかお付き合いください!


年明けました。見滝原に引っ越したのが随分前の事のように思う。通常ならここでハッピーニューイヤーと言いたい所だが、今年は一歩間違えたら地球が滅亡するアンハッピーデスイヤーになりかねないので自重しておく。

 

前世の俺は年が明けるとよく抱負を決めていた。彼女作るとか、出世するとかありがちなことを目標にしていた。どれも達成されなかったが。ちなみに今生のこの年の抱負は《五体満足、人間として無事生存し次の年を迎える》というかなり切実な内容になっている。

 

それはともかく、今は休日の雪の降る夜、俺は親友のトモっちとパソコンでメールのやり取りを行っている。内容はもっぱら人気急上昇中の謎の動画アイドル「Ribbon」の事が多い。

 

よくトモっちと連絡を取り合っているが、ちょっと前に奴が俺の今の交友関係を聞いてきた。なので、俺は「ちょっとヤンキーなツンデレ少女」「依存体質な頼れる一つ上のお姉さん」「S疑惑のゆるふわ女子」「青春中のサバサバガール」と友達になったと伝えたら、何を思ったのか奴は後日俺の家に荷物を送ってきた。中身を見ると百合関連のアニメDVD、漫画、ゲームなどがぎっしり。

 

実はトモっちはBL・GLが好物のオールマイティーな真性の変態オタク。どうやら俺を百合の世界へ引きずり落としたいらしい。おい!変態嗜好を俺に押し付けるな!親友の俺を何だと思ってんだアイツは!?

 

ともかく奴が送ってきた変態嗜好品は現在段ボールに入ったまま俺の机の下に隠してある。近々処分予定だ。それまでは絶対母さんあたりに見つからないようにしようと思う。

 

そんな事を考えながらメールの返事を送信した後パソコンから目を離し、軽く伸びをする。

 

「ふう・・」

 

今日はいつも通り母さんは仕事でおらず、キュゥべえも撮影に熱が入っているのか頻繁にマミちゃんの所に出向いていて、今も撮影でいない。ノリノリだなアイツ。

 

「お腹空いたな・・適当に何か作るか・・!?ひゃあああああああああああああああああ!!!」

 

ぽけーっとしていた俺の首になにか冷たいものが当たってるううううううううううう!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははははは!優依ホントびびりだよな!からかった時の反応マジで面白いわ!」

 

 

 

後ろから声がしたので振り向くと杏子が立っていて、外の冷気によって冷えきった手を俺の首にあててた。

 

 

 

 

 

 

俺の家に襲撃した日から定期的に(マミちゃんの目を盗んで)杏子は俺に会いに来るようになった。来る度に戸惑ったけど最近はあ、来たんだくらいにしか思わない。慣れってホント怖い。ただ、窓の鍵開けとくのやめようかな?初めて来たときみたいに幽霊の如く立ってる姿が超怖かったので、それを阻止するため鍵閉めないで出入り自由にしたんだけど、今回みたいな事されたら身が持たんわ。

 

 

「はーやっぱ優依の部屋あったけえなー。外は死ぬほど寒くて手が氷みたいになっちまったし」

 

赤い犯人は悪びれもせずにそのままふてぶてしく俺のベッドに寝転ぶ。こいつは遠慮ってものを知らないのか?そういえばクリスマスの時も何故かサンタの格好でやってくるし、お正月も「初詣行こうぜ!」と連れ出されるし。マミちゃんと鉢合わせしないかヒヤヒヤした。

 

「何か言うことないの?」

 

引きつった顔でベッドを陣取るでかい赤猫に聞いてみた。さっきのはマジでびびったので謝罪して欲しいんですけど。

 

 

「優依ー腹へったー」

 

こちらに顔向けて謝るかと思ったらご飯の要求!?なんて食欲に忠実なんだ君は!?人の家を定食屋かなにかと勘違いしてないよな?

 

 

「あーうん。晩御飯まだだし、ついでに作ってくるわ。部屋で大人しくしててくれよ」

 

「分かってるっての」

 

杏子にそう指示し部屋を後にする。もはや諦めの境地である。・・・そういえば何か忘れていたような気もするが何だったっけ?思い出せないのでまあいいか。俺はそのままキッチンに向かった。

 

 

 

 

 

 

「・・よし!出来た」

 

自信作の豆乳リゾット(食べたくなったから)が完成し、杏子を呼びに部屋に向かう。

 

 

 

 

 

 

「杏子、ご飯出来た・・・ぞ・・・」

 

部屋に入って杏子に呼び掛けるも途中で途切れてしまった。部屋にいた杏子は人のベッドで胡座をかいて本を読んでいた。・・・あの変態から送られてきた百合漫画を。

 

わ、忘れてたあああああああああああああああ!!杏子の予想外のドッキリで完全に忘れてたよ!頭のすみからも消滅してた!そうだよ!今どうしても隠さなきゃいけない爆弾があったんだった!油断してた!俺の家に遊びに来る人そんなにいないし、母さんも俺の部屋物色しないから気緩んでたよ!

 

しかもバレたのがよりにもよって杏子!また恐喝してくる可能性大!え!?何で!?机の下に隠してたのに・・待ってるあいだ暇だから物色したなこいつ!?最悪だああああああああああ!!

 

「・・優依テメーなんつーモン読んでんだよ・・」

 

杏子のその一言でパニック状態の俺は現実に戻される。杏子の方を見ると顔を赤らめワナワナ震えていらっしゃる。どうやら完全に誤解してる様子。何だろうね?後ろめたいこと何も無いのに友達にエロ本見つかった時のような気まずさと同じものを感じるよ・・。

 

「あの・・杏子さん・・」

 

「!?・・来るな!」

 

誤解を解こうと近づくも後退りされて拒絶の言葉も叫ばれた。何故?しかも身を守るように自分を抱き締めてる。酷くね?

 

「お前!こういう趣味があったのかよ!?まさかアタシの事もこんな目で見てたんじゃないだろうな!?」

 

「違うわ!全くの誤解です!それ俺の幼馴染の趣味!無理矢理送ってきたから後で処分する予定だったから!!本当なんで恐ろしい事言わないでえええええええ!!」

 

読んでいた百合漫画を指差し恐ろしい誤解を叫ぶ杏子さんに反射的に否定する俺。ホント勘弁してください・・。

 

「・・嘘じゃないんだな?」

 

「これで嘘ついてどうすんの?俺の尊厳がかかってんのに」

 

疑わしそうに聞いてくるが、取り敢えず誤解はとけたようだ。でもね杏子さん?何でまだ俺と距離とってんですかね?実は・・とか思ってないよね?それはともかくトモっちシバく。

 

「まあ、アタシも少し取り乱し過ぎちまったかねー?人の趣味にとやかく言うこともないし」

 

「だから趣味じゃないって!杏子の事仲の良い友達だって思ってるよ!そもそも俺は杏子に恋愛感情持ってないし、そういう目で見てないから!」

 

「!!・・・・・・ふーん」

 

まだ人の趣味と勘違いしてたようなので、即否定した上で杏子の事は無害の友達認定と伝えたのに肝心の杏子は何故か不機嫌になってしまった。何故!?俺まずい事言った!?

 

「杏子、怒ってる?」

 

「別に怒ってねえよ」

 

そう言いながらも眉間に皺寄せて顔をそらしてるのは何でですか?まずい!本格的に機嫌が悪そうだ。どうにかせねば!

 

 

 

 

「アンタはさ・・・」

 

「ん?」

 

どう宥めようか考えてる俺に弱々しい声がかかる。見てみると杏子が膝を抱え顔を埋めていた。表情は分からないがさっきの声は明らかに落ち込んでるようだ。どうした?今日はなんだか情緒不安定じゃないか?しばらく沈黙が続いたがやがて杏子がぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女同士・・好きになるのは駄目だと思ってるのか?」

 

「・・え?」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えええええええええええええええ!!!?まさかの貴女が興味あるパターン!?マジで!?相手誰!?さやか?マミちゃん?ほむら?・・あれ?でも今は原作前だよね?どうなってんの!?

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ああああああああ!やめて!そんな悲しそうな顔で俺を見ないで!!なんか俺が悪い事したみたいに思えてくるから!取り敢えずなんか言わなきゃ!無難な回答しとけ俺!

 

「あー駄目とは思ってないよ?世の中いろんな恋愛の形があるし。女同士も一つの愛の形だよ」

 

「・・・・・・そっか」

 

杏子は俺の無難な回答に少し安心したような顔をしている。良かった。ひとまず安心だ。ホッと胸を撫で下ろす。それにしても・・うん。杏子はGLだったのか・・?喜ぶ人は喜ぶな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい優依・・さっきのは忘れろ!」

 

「はあ!?」

 

「わ・す・れ・ろ!!」

 

安心してた所に杏子がいきなり俺の胸倉つかんで真っ赤な顔で凄んでくる。んな無茶な!どうやら少し冷静になって自分が爆弾発言したのを自覚して恥ずかしく思ってると推測してみる。気持ちは分かるけど、とんでもないインパクトがあったので、早々忘れないよこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピロン♪

 

 

どうしたもんかと思っていると場違いな電子音がなり救いの手が差しのべられた。どうやらパソコンにメールが届いたようだ。

 

「杏子、ちょっとメールを確認したいから後にしてくれないか?」

 

「・・・チッ」

 

これ幸いとメールをダシにしてパソコンに向かう。杏子も舌打ちしながら渋々離してくれた。ありがたやー。

 

メールの送り主はトモっちで「是非友達と見てくれ!」と書かれていて、動画が添付されている。何のこっちゃと思うが丁度今は杏子がいるしあけてみるか。

 

「杏子、トモっちが動画を送ってきたんだけど、是非友達と見てほしいって書いてあるから一緒に見てくれないか?」

 

「トモっちって・・ああ・・アンタの幼馴染の・・」

 

提案しただけなのに、何故か杏子はトモっちの名前を出した途端、眉間に皺寄せて不機嫌オーラを出し始めた。怖すぎるんですけど!?

 

「あ、あの一緒に見ていただけますか?」

 

「・・・まあ、いいけど」

 

なんとか了承を得られ、隣でとんでもない威圧感を放っている杏子と一緒に添付された動画を再生する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュッ

 

 

 

「「・・・・・・・・・・・」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

送られてきた動画はアニメだった。ただし、俺らと同年代であろう女子中学生同士が恋人つなぎしたり、軽いキスしたりしてる百合もの。

 

トモっちいいいいいいいいいいいいいいいい!!何なんだお前は!?そんなに俺を百合の世界へ突き落としたいのか!?友達と見ろと言ってる時点で確信犯じゃねえかあああああ!それにしてもこんな初々しい百合アニメは状況によっては時にドエロな動画より恥ずかしくて目のやり場に困るものになるんですね!?知りたくなかったよ・・。

 

は!そういえば杏子は!?俺は慌てて隣にいる彼女の様子を見てみる。

 

「杏子!」

 

「・・・・・・っ」

 

杏子は頭を抱えていた。顔は真っ赤でしかも涙目。よく見ると体震えてる。独り言で「そんな・・」と呟いてるのが聞こえた。尋常じゃない様子に不安を覚える。

 

「・・杏子さん?」

 

「!・・・・」

 

恐る恐る呼んでみるとようやく杏子が俺の方を向いた。涙目でウルウルさせながら目を合わせてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏子・・・?」

 

 

 

「~~~~~っ!ーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

「え!?杏子!?」

 

 

 

 

しばらくお互い無言で目を合わせていたが、突然杏子が声にならない悲鳴をあげて人のベッドに潜り込んでしまった!俺のベッドが!!

 

「何してんの杏子!?」

 

布団をめくろうとしても凄い力で押さえつけていてびくともしない!パニックを起こしているのか「嘘だろ!?」「アタシが!?」とか叫んでる。

 

 

 

 

そこで俺は唐突に自分の過ちを悟ってしまった。

 

俺はなんてことをしてしまったんだ・・!杏子は悪ぶってても絶対純粋だ。純情ガールだ。そんな娘に邪な思惑の入ったものを見せてしまった。そもそもあの変態から送られてきたものだった時点で警戒すべきだったんだ。完全に俺の失態。ピュアな杏子を変態の毒牙の被害者にしてしまった・・!取り返しがつかない!

 

 

「ごめん杏子!ほんとにごめん!」

 

「いやああああああああ!」

 

未だにパニック中の杏子に謝る俺。これキャパオーバー起こしてね!?謝ってすむ問題じゃなさそうだぞこれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

宣誓!俺はこの世から変態を抹殺する事を誓います!手始めに変態アイドルオタクを八つ裂きにすることを誓います!

 

 

俺は心に固く誓った。最優先は未だ混乱中の布団青虫と化した杏子に謝ることだ!

 




トモっちこんなアホで変態ですけどイケメンなんですよ?お互いに恋愛感情はありませんが仲のよさから前の学校では美男美女カップルと思われてました!

杏子ちゃんが知ったら荒れそうですねw

このアホ回まだ続きます!


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21話 人生何がきっかけになるか分からないもの

最近暑くなってきましたねーアイス食べたい


「ホントすみませんでした!!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「必ずやあの変態を八つ裂きにしますんで!!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

現在俺は布団の塊に身を包む杏子に土下座中である。杏子はあの変態が送ってきた動画でパニックになっていたが今は何とかそれを脱し布団から顔を出して上体を起こしてくれたものの無言無表情でベッドの上から俺を見下ろす姿は非常に恐ろしい。せめて何か喋ってください。全く反応が無いから魂でも抜けてんじゃないのかと思う。あっ既に魂、身体から抜けてるわこの娘。

 

 

「・・・・優依」

 

ようやく反応があったと思ったが、何ていうか生気のない声。相変わらず無表情継続中だし。嵐の前の静けさのようで超びびる俺は杏子の言葉を待つ。

 

「あの言葉は嘘じゃないんだよな?」

 

「え?」

 

「責任取ってくれるんだよな?」

 

「・・・それは俺も八つ裂きという事でしょうか?」

 

杏子に八つ裂きにされるという自分の末路を想像し涙目で震える。しかし予想外に杏子は首を横に振っていた。

 

「違う。責任は別の事で取れ。今回の事は罪が重い。・・アンタの一生かけて償ってもらう」

 

「そんなにいいいいいいいいいいいいいいいい!!!?」

 

マジで何てことしてくれたんだよあの変態があああああああ!!杏子の様子から察するに相当怒ってるぞ!?一生償うって何?パシリ!?サンドバック!?俺お先真っ暗じゃん!

 

 

 

 

 

「まあそれについてはまた今度にしてやるよ。それより飯!いい加減腹減って死にそうだ!」

 

床に手をついて打ちひしがれている俺に杏子はさっきまでの無表情が嘘のような明るい笑顔でご飯を要求してきた。その笑顔に何故かうすら寒いものを感じるのは気のせいだよね?

 

「ほら行こうぜ!」

 

「え!?ちょっと」

 

ベッドから降りたかと思うと俺の手を引っ張って部屋を出る。一体何なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの・・杏子さん」

 

「うん?」

 

「ガン見されると食べ辛いんですけど・・」

 

「気にすんな」

 

「いや気にするよ」

 

リビングにて食事中、杏子がずっとニコニコしながら俺をガン見してる。やめるように言っても聞かずにずっとガン見してる。気まずい!自信作の豆乳リゾットの味が全然しねえ!

 

は!実はまだ怒ってる!?もしくは恐喝出来る最高のカモが出来たとかで喜んでる!?うわああああああ!ありえる!だって杏子だし!

 

 

 

 

 

「なあ優依」

 

内心絶望してる俺に杏子が話しかけてきた。皿から顔を上げると杏子が頬杖ついて相変わらずニコニコしながら俺を見てる。

 

「・・・・何?」

 

恐る恐る聞いてみる。笑顔が怖いと思う時は本当にあるんですね?さっきから膝震えてるんですけど。

 

「アタシが女同士好きになるのは駄目かって聞いた時、アンタは駄目じゃないって言ったよな?アレは本心か?」

 

どうやら百合漫画事件のあとの杏子の爆弾発言についての事みたいだ。忘れろって言ったくせに自分から蒸し返すんかい。

 

「え・・まあ(他人事で俺関係ないなら)本心だけど・・」

 

やっぱり相手の望む無難な回答が一番安全だよな。我ながら冴えてるぞ。

 

「優依の考えは女同士好きになっても良いって事だよな?それも一つの愛の形だって言ったもんな?」

 

「うん、言った。俺の(当たり障りない)本心だよ」

 

多少の説明は省く。相手の望まない回答なんてしたら死亡フラグ回避されないからなー大変だ俺。今の杏子は何となく不穏だ。なるべく穏便にしとこ。命。マジ、大事。

 

「そっか分かった。一応確認したかっただけだから気にしないでくれ。それよりもう遅いし、さっさと食って寝ようぜ」

 

「おい!いきなりがっつくな!俺の分無くなるじゃん!」

 

言いたいことだけ言ってリゾットを掻き込む杏子。ホントにどうしたのこの娘は!?あの変態のせいでおかしくなったのか!?この償いは奴の残りの人生全てで償ってもらうぞ!

 

その後は特に問題もなくお互い布団に入った。寝れるかなと心配したが数秒後には夢の中に沈んでた。誰かが笑ってる夢を見た気がする。夢の中でも俺は馬鹿にされてんのかちくしょううううううううううううう!!!夢の中くらい穏やかな内容でも良くない!?そんなこんなで次の日、朝起きたら杏子が人のベッドに侵入し俺を抱き枕にして寝てた。驚いて思わず「うひゃあああああ!!」と変な叫び声をあげてしまった。しかも杏子め、寝ぼけてたのか俺を食べ物と勘違いして噛み付いたようで俺の首に噛み跡が残ってた。取りあえず力加減間違えて噛み千切られなくて良かった!生きてるって素晴らしい!!それにしても昨日から散々な目にあった。今度からもっと慎重に行動しよう。

 

 

 

後日俺はトモっちの顔面に杏子が読んでいた百合漫画を叩きつけ、男の急所を蹴り上げたが後悔していない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子side

寒い冬の夜、アタシは優依の家へ向かうべく夜道を歩く。習慣になってしまうくらいアイツの部屋に泊った。今じゃどこに何があるのか勝手が分かるほどだ。アイツは嫌な顔しないし、一緒にいるのは居心地が良いからさ、つい甘えてしまう。いつものように窓から侵入し優依の様子をみる。どうやらパソコンをしているようでアタシには気づいていない。・・ここはイタズラでもしてやるか。背後から冷たくなった手を優依の首筋にあて、案の定物凄く驚いてる様子に笑ってしまう。文句言いたそうにしてたけど、ベッドに寝転んで食い物の要求をしてみる。

 

優依は呆れた表情だったが、作ってくれるようでアタシを部屋に残し出て行った。

 

・・甘やかすからアタシみたいなのに付け入られるのにな。無防備すぎて心配になる。

 

 

 

優依が飯作ってる間暇だ。何かねえかな?

 

「ん?」

 

何気なくパソコンが置いてある机に目を向けると机の下に段ボールがあった。気になってベッドから身を起こし中を見てみる。中身はアニメDVDやゲーム、漫画が入ってあった。女の子のイラストばかりなのは何故だろうか?その中の漫画を手に取って開いてみる。暇つぶしには丁度良さそうだ。

 

 

「・・・・・え!?」

 

内容は女の子同士の恋愛ものだった。告白したり、キ、キスしたりしてたりして両想いになってた。

 

顔に熱を帯びるのを自覚する。混乱しながらも読み進める。

 

優依の部屋にあるって事はこれアイツの趣味ってことか!?アイツひょっとして女が好きなのか!?まさかアタシの事・・!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏子、ご飯出来た・・・ぞ・・・」

 

しばらく読んでたら優依が部屋にやってきた。どういう事か聞きださねえと!

 

「・・優依テメーなんつーモン読んでんだよ・・」

 

自分の顔が熱い。漫画持ってる手が震えてる。優依はドアを開けたまま固まっててヤベェって感じの顔してる。

 

「あの・・杏子さん・・」

 

「!?・・・来るな!」

 

優依が近づいてきたが、恥ずかしくて漫画を放り出し自分の身を守りながら後ずさる。

 

「お前!こういう趣味があったのかよ!?まさかアタシの事もこんな目で見てたんじゃないだろうな!?」

 

思わず漫画を指差し叫んでしまう。優依はアタシよりでかい音量の魂から叫んでそうな声で必死に否定していた。いまいち信用出来ないがこれはこれで面白いのでついからかってしまう。・・でも

 

「杏子の事仲の良い友達だって思ってるよ!そもそも俺は杏子に恋愛感情持ってないし、そういう目で見てないから!」

 

「!!・・・・・・ふーん」

 

からかわれてムキになったのか優依が叫んでる。それ自体はいつも事だ。その反応が楽しいから。・・だけど叫んだ内容に思考が止まってしまった。・・・何で?何でこんなに腸煮えくりかえりそうになってるんだ?

 

 

 

「杏子、怒ってる?」

 

アタシの様子に優依が不安そうに顔覗き込んでくる。

 

「別に怒ってねえよ」

 

嘘だ。ホントは怒ってる。押さえつけなきゃアタシの中にある激情が溢れ出しそうだ。優依から目を背けるように眉間に皺を寄せて顔を横に向ける。

 

 

 

アタシは何に怒ってるんだ?優依はアタシの事友達だと言っただけだろ?・・アタシに恋愛感情なんて持ってなくて。・・・・アタシをそういう目で見てないって言っただけ・・・・。アタシと優依は・・・・・・・ただの女友達・・・・・・・好きになる事はない。結ばれる事はないんだ。だって女同士好きになるのは駄目な事だから・・・か?

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタはさ・・・」

 

膝に顔を伏せて気づけば口に出してた。今顔を上げたら泣いてしまいそうだ。

 

「女同士・・好きになるのは駄目だと思ってるのか?」

 

「・・え?」

 

優依が戸惑った顔してる。でも聞かなきゃ。どう思ってるのかを。優依はしばらく無言で何の反応も無かった。アタシはじっと顔を見る。

 

 

 

 

 

 

ねえ早く答えてよ・・・じゃないとアタシ・・・

 

 

 

 

「あー駄目とは思ってないよ?世の中いろんな恋愛の形があるし。女同士も一つの愛の形だよ」

 

「・・・・・・そっか」

 

戸惑いながらも優依が答えてくれた。アタシの望む事を言ってくれて良かった。安心した。優依は女同士でも大丈夫なんだ。嬉しいな。

 

 

 

 

・・・何でアタシが嬉しいなんて思うんだ?おかしいだろ?それより、さっきはまずい質問してしまった!アタシが女に興味あると思われるじゃねえか!急いでアイツに口封じしねえと!そもそも何でアタシはあんな事聞いてんだよ!?

 

優依の胸倉を掴んで凄む。

 

 

 

 

 

 

 

ピロン♪

 

凄んでる最中にマヌケな電子音がなり、優依にはこれ幸いと逃げられてしまった。一体誰からだよ?こんなタイミングでメール送ってくるやつ。

 

 

「杏子、トモっちが動画を送ってきたんだけど、是非友達と見てほしいって書いてあるから一緒に見てくれないか?」

 

パソコンを確認していた優依がこちらを振り返って不愉快な名前を口に出し思わず眉間に皺が寄る。

 

 

 

 

「トモっちって・・ああ・・アンタの幼馴染の・・」

 

 

 

本当に仲が良いんだな。わざわざパソコンでメールのやり取りまでしてるのか。優依と話してると必ずどこかで幼馴染の名前が出てくる。その度にアタシは機嫌が悪くなる。何で不機嫌になるか分からない。会った事すらないのに。

 

イライラしたが優依が怯えながらも見て欲しそうに聞いてくるので仕方なく一緒に見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・・・・・・・・・」」

 

 

 

再生した動画はアニメだった。アタシが読んでいた漫画と同じの女の子同士イチャイチャしてるやつ。どうやらあの漫画も幼馴染が送ってきたのは本当のようだ。それにしてもいくら仲良くても幼馴染の女の子にこんなもの送るか普通?とんでもねえ変態だな。・・羨ましいし、アタシも優依とこんな風になれたらなあって思うけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・え?

今アタシなんて考えた?目の前で再生されてるアニメの女の子達が羨ましいって考えなかった?

 

 

 

「・・・・・・っ」

 

絶句する。

 

何でそんな事考えたんだ!?恋したいなんていうガキみたいな甘い願望でもあったのか!?いや違う。アタシはこの女の子達と重ねて見てた。・・・アタシと優依を。女の子達がやってたみたいにキスするのを妄想したりして・・・・・

 

 

 

 

「そんな・・」

 

頭を抱える。体も震えているようだ。

 

アタシってそっちが趣味だったのか!?じゃあさっきした妄想はアタシの願望!?じゃあアタシって女が好きなのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・杏子さん?」

 

「!・・・・」

 

混乱するアタシに優依が声を掛けてくる。顔を上げると優依が心配そうにこっちを見てる。アタシはその目をじっと見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏子・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

・・・違う。女が好きなんじゃない。アタシは優依の事が・・・・・好き・・・・・なのか?

 

 

 

 

 

「~~~~~っ!-------!!!」

 

「え!?杏子!?」

 

その可能性を考えた途端、猛烈に恥ずかしくなり衝動的に悲鳴を上げベッドに潜りこむ。

 

「何してんの杏子!?」

 

優依が布団を剥がそうとするがこんな状態で顔なんて合わせられるか!引き剥がされないように必死で布団を抑え込む。

 

「嘘だろ!?」

優依を好きだと思ってたのか!?

 

「アタシが!?」

女同士だぞ!?

 

 

!?そういえばアタシが今いるベッドって優依のじゃん!?毎日これで寝起きしてるんだよな・・!?。

 

「いやああああああああ!」

 

優依がここで寝てるのを妄想して興奮してる自分に悲鳴をあげる。

 

これじゃアタシとんでもない変態じゃねえか!優依が何か言ってるけどそれどころじゃねえ!どうしよう!?どうしよう!!?どうしよう!!!?女の子同士の恋愛に興味があったのはアタシの方で実は優依が好きかもしれないなんてあまりの事に頭の中がぐちゃぐちゃだ!!・・ホントにどうしよう?百歩譲ってアタシが優依の事が好きだとしてそれを伝えるか?気持ち悪がられるだけじゃん!そもそもまだ好きだなんて決まってねえ!どうせアイツだって中身男っぽくても見た目美少女だからその内彼氏でも作って!・・・・彼氏でも作って・・・・?・・・・そうだアイツはその内好きな男でも出来て恋人になるんだろうな。隣に好きな男がいて、かわいい笑顔をそいつだけに向けて、好きっていう感情もそいつにだけ向けるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!嫌だ!!誰にも取られたくない!!優依はアタシのものだ!!絶対渡さない!!!・・もし優依を誰かに取られたらアタシはどうなるんだ?ひょっとしたらそいつを・・・殺してしまうかもしれない・・・。

 

湧き上がる激情に身を任せていたが頭は妙に冷えていてそのまま布団から顔を出しベッドの上に座り込んでじっと優依の方を見つめる。優依は何故か土下座してた。その様子を見つめながら考える。

 

コイツに百合疑惑があった時、ひょっとしたらアタシの事そういう目で見てるかもしれないと考えたとき満更でもないむしろ嬉しいって思ったアタシが確かにいた。だから誤解だった時安心したというよりがっかりした。優依から友達だと言われた時ひどく腹が立って落ち込んだ。誰もいなかったら泣いていたかもしれない。その時におかしな質問してしまったが、聞いて良かったって思う。だって優依はアタシにはっきり言ったんだ。『女同士も一つの愛の形』だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・優依」

 

名前を呼ぶと土下座してる優依が顔上げた。怯えてんのかな?

 

 

 

 

 

「あの言葉は嘘じゃないんだよな?」

 

アタシを傷つけないように当たり障りのない言葉だったとしても、もう遅い。

 

 

 

「責任取ってくれるんだよな?」

 

アタシは優依の事が好きだ。

 

 

 

 

「アンタの一生かけて償ってもらう」

 

きっかけを作ったのはお前だ。自覚しなかったらこんな思いはしなかったのにな。だから覚悟しろよ?

 

知らない内に笑顔になってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優依・・」

 

夜遅く優依が寝たことを確認して、アタシは優依のベッドに腰掛けてコイツの綺麗な髪を撫でながらじっとかわいい顔を見つめる。遅めの晩飯を食べてる時も見つめてしまい優依が気まずそうにしてた。その時もあの言葉が本心か念のために確認した。まあ仮に嘘でも手遅れだけど。

 

 

『世の中いろんな恋愛の形があるし。女同士も一つの愛の形だよ』

 

この言葉が何度も頭の中で木霊する。

 

 

 

 

 

 

「フフフ・・・アハハ・・・アハハハハハ・・・アハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 

笑うのを堪えられず声を出して笑ってしまう。

 

 

受け入れてしまえば、認めてしまえば楽なものだ。優依の言う事に一喜一憂したことも、優依の周りにいる奴らを殺したいほど憎いと思ったことも、アタシが優依の全部独り占めしたいと思う事も全て優依が好きだったからだ。思えば初めて会った日から惹かれてたんだろうな。今なら分かる。

 

ひとしきり笑い終えたアタシは優依の首筋に顔を近づけて甘噛みする。アタシのモノだっていうシルシ。それを見てまた笑い出しそうになる。

 

 

 

「優依が悪いんだぞ?アタシと出会うから、アタシに優しくするから、アタシに都合の良い事ばかり言うから、欲しくなっちまったんだ。・・・・だから絶対逃がさねえ」

 

 

机に置いてある鏡にアタシがうつる。月明かりに照らされて妖しく笑ってた。




やっちまった・・・!!
やっちまいました!!杏子ちゃん大暴走しました!!軌道修正しようとしたけど無理でした・・。

まあ全部優依ちゃんとトモっちが悪いんですけどねー
ヤンデレフラグ完成しちゃったんで杏子ちゃんはこれからますます病んでいきそうで怖い・・

まさかのアホ回からのダークな回でした!
たぶんその内タグにヤンデレが追加されてます!

絶対杏子ちゃんとトモっち会わせられない!ド修羅場になりますもん!


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22話 QBだよ!全員集合!!

お気に入り800件突破!
UAアクセス30000突破!

皆さんありがとうございます!!
いつ原作始まるのか謎ですがこれからも投稿させていただきます!


もう春です。学校からの帰り道、季節の変わり目を感じる今日のこの頃。気温が暖かくなりポカポカしてきたのに比例して俺の胃もストレスでボカボカ殴られている状態です。もうすぐ原作始まる。もうすぐ暁美ほむらがやってくる(かもしれないと思いたい)。結局何の対策も出来ずに時間だけが過ぎてしまった。

 

うわああああああああ!どうしよう!発狂しそう!

 

俺は帰り道のど真ん中で一人頭を抱える。

 

この破滅コースいらっしゃいな世界で俺一人立ち向かうとか無理!心が壊れる!仲間が欲しい!でもマミちゃんも杏子もさやかも下手すりゃ途中でリタイヤだし、ほむらはどうすんのか分かんない!最悪イレギュラーである俺を警戒してKILLする可能性すらある!まどかは論外!間違っても魔法少女(=破壊神)にしてはいけないから協力を頼めない!!

 

味方いねえええええええ!!原作始まってもいないのに心折れる!全力で仲間募集したい!!誰かいないのか!?誰でもいいから助けてくれええええ!!

 

ここ最近ずっとこんな事考えてる他力本願な俺。いやマジで心が死にそうです。

 

「・・・はあ」

 

絶望の未来を想像し家の中に入る。取りあえず今日はもう寝て明日考えよう。そう決めて自分の部屋に向かう。やっぱり自分の部屋が一番落ち着くわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は・・・・だよ。悪いけど・・・・」

 

「そんな!待ってくれ!どうして僕が・・・」

 

何やら俺の部屋から声が聞こえる。察するにキュゥべえの声だ。誰かと会話しているようで複数の声が聞こえる。なに人の部屋を談話室にしてやがるんだ?ここ最近居候のくせにやたら生意気だからお灸を据えてやるか。俺は居候の宇宙人に説教すべく扉を勢いよく開ける。

 

 

「こらぁ!人の部屋で何してんだ?って何じゃこりゃあああああああああああああああああああああ!!?」

 

 

注意するはずだったが俺は思わず叫んでしまった。なぜなら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「やあ、お帰り。神原優依」」」」」」」」」」

 

「優依!良い所に!」

 

 

 

 

 

 

 

俺の部屋に白いGが大量発生してるうううううう!?見渡す限り白、白、白!マスコット天国ならぬキュゥべえ地獄だ!よく見ると真ん中にいるキュウべえを取り囲むようにして群がっている。真ん中にいる奴はおそらく俺の部屋で居候中のキュゥべえだろうか?何でこんな事になってんの!?

 

それにしてもこんなに大量にいるとたとえ見た目だけ可愛くても気持ち悪!!誰かQBホイホイ持ってきてええええええええええええええええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?これは一体どういう事だ?」

 

湧き出た白いGをベッドから追い出し、なんとか座る場所を確保した俺は大量発生したキュゥべえと対面する形で向き合っている。ちなみに取り囲まれてたキュゥべえは現在俺の背中に隠れチラチラ様子を伺っている。おいこら顔出せ。

 

 

「「「「「「「「「「僕たちは彼に用があって来たんだよ」」」」」」」」」」

 

「・・あの、すみません。代表して一匹だけで喋ってくれませんか?エコー凄くて聞き取りづらいんで」

 

「僕たちは彼に用があるんだ」

 

早速俺の要望が通ったのか一番前にいた奴が話し始めて俺の後ろにいるキュゥべえの方を見る。おいこら!ビクッとして俺の背中に隠れんな!俺だって怖いんだけど!?

 

 

後ろの奴が頼りにならないので仕方なく俺が質問してみる。

 

「何で?同じキュゥべえじゃん。わざわざ会いに来る必要無いよな?しかもこんなに引き連れて。人の部屋で同窓会でもする気かよ?」

 

呆れた視線で大量にいるキュゥべえを見渡す。物壊したら弁償させてやるからな。

 

「突然大勢で来た事は謝るよ。ただ今回ここに来たのは僕たちにとって想定外の事態が起こったからなんだ。君の後ろに隠れている彼が精神疾患に罹ってしまってね。どうやら感情があるようなんだ。もう僕たちとは違う。感染しないようにリンクから切り離してしまっていてコンタクトが取れないんだ。だからこうして直接赴いたんだ。彼は危険だ。この事態を最小限の被害に抑えるために彼をこちらに渡してくれるかい?」

 

淡々とした口調で語るインキュベーター。そういやコイツらはこんな感じだった。俺の所にいるキュゥべえが目の前の機械みたいな奴らと全然違ったからすっかり忘れてた。なるほどコイツ精神疾患なのか。言われてみれば納得。感情がないと公言してる宇宙人にとっては見過ごせない事か。

 

「渡してどうすんのさ?」

 

気になったので聞いてみる。記憶消去とかすんのかな?

 

「これは僕たちの問題だからね。君には関係無い事だよ」

 

処分する気じゃん!

 

俺の第六感が叫ぶ!

 

おっかねえええええええええ!!やっぱりこいつら白い悪魔だよ!ぼかして言ってる辺りが凄い生々しいんですけどおおおおおおおお!?関わりたくねえええええええ!!

 

 

 

 

俺は考え込む。一瞬引き渡してお帰りいただこうかと思ったがすぐに思い留まる。俺の背中に引き渡されないよう必死にしがみついてるキュゥべえが気になったからだ。

 

確かにこいつは本当にあの外道なインキュベーターか?って思うほど感情豊かだ。毒舌だけどノリ良いしツッコミ属性。最近なんて魔法少女の契約の営業ほったらかして「Ribbon」の撮影やら俺との喧嘩や人の手作り料理のつまみ食いしかしてなかったもんな。ただの合理的な考えの奴ならそんな無駄な事しないもんね。そりゃ感情のないインキュベーターからしてみれば感情のあるこいつは危険と判断されるわけだ。ていうか役立たず認定されてそうだな。

 

 

 

 

・・・・うん。駄目だ。こいつらにキュゥべえを渡すことは出来ない。ムカつく奴だし、何度心を抉られてきたか分からん程毒吐かれたけど、何だかんだで一緒にいるのは楽しいし、腐れ縁みたいなもんだと思ってる。見捨てた日には一生後悔するだろうと確信できる。ここはいっちょ助けてやるか!

 

 

でもどうやってこのG共を追い出せばいいんだ?この場は何とかなっても俺の知らない所で必ず狙ってくる。今後も手を出さないように先手を打たなくちゃいけない。・・待てよ?あれなら・・

 

 

 

 

「別に渡してもいいよ」

 

「!?」

 

「本当かい?」

 

俺の言葉に目の前のインキュベーターは捕獲するために一斉に立ち上がろうとし俺の後ろにいたキュゥべえはショックを受けた様子だ。

 

痛い!背中殴るのやめなさい!まだ続きあるから!

 

「た・だ・し!」

 

俺は急いで待ったをかける。それを合図に皆動きを止めた。それを確認して続ける。

 

 

 

 

「そうなったら俺が魔法少女になる可能性ゼロになるよ?」

 

「どういう事だい?」

 

 

 

うわー食いついてきた。俺を魔法少女にするのまだ諦めてないんだな。知ってたけど。場を仕切るため咳払いをしてから口を開く。

 

「あー最初から魔法少女になる気なんてさらさら無いけど、もし万が一数億歩譲って契約する時が来たら俺は背中に隠れてるコイツと契約する。お前らとは絶対契約しない。そこで俺から選択肢を二つ出す。お前らの諸事情で特大の感情エネルギーを得られる可能性を放棄するか?宇宙救済のために些細な問題は見逃してビッグチャンスの可能性を残しておくか?自称感情のない合理主義のインキュベーターはどっちを選ぶ?」

 

自分でもとんでもなく意地悪な笑顔になってると確信する。

 

まあ未来永劫契約の可能性ゼロなんですけどね☆

これぐらい言っておかないとこいつら絶対退かなさそうだしさ。まあリップサービスって事にしておこう!さあどうする?白い悪魔諸君!

 

しばらく部屋の中は静かだったが、やがて先頭にいるインキュベーターが俺を見上げて結論を告げた。

 

「・・分かったよ。僕らは彼から手を退くよ。あくまで目的は宇宙救済のためのエネルギーを回収する事だからね」

 

うおっしゃあああああ!勝ったあああああ!

 

俺は心の中でガッツポーズをする。これでこいつらはキュゥべえに手を出さないだろう。今日の俺って策士だな!意外と頭脳キャラいけるかも!?

 

 

 

 

 

 

「それにしても驚きだね」

 

「ん?」

 

一人悦に入っていた俺に水を差す声が聞こえた。声の主は俺の前にいるインキュベーターだった。心なしか嬉しそうに聞こえたんですけど?

 

「あれだけ頑なに契約を拒んでいた君が自ら可能性を示してくるなんてさ。これは良い傾向だ」

 

「あの・・え?・・ちょっと」

 

おかしい。話が不穏な方向に進んでない!?こんな展開聞いてないよ!?

 

「是非君が自分から望んで契約してくれるように僕らはこれから様々な対応をさせてもらうよ!インキュベーターの威信にかけて!」

 

「遠慮してもらえませんか!?俺契約する気ないよ!?」

 

「それじゃ失礼するよ。ばいばい」

 

「話聞いてえええええええええええええええ!!」

 

俺の叫びはスルーされ白いG共は窓が壊れるんじゃないかと思うくらいぎゅうぎゅう詰めになりながら出て行った。

 

 

とんでもねえ事口にしてしまったああああああああ!!あいつら自分では感情無いって言ってたくせに目の色変えてて声が上機嫌だったぞ!?うわああああああ!これから原作始まるって時に何で更に厄介な事になるように仕向けてんだ俺はあああああ!?難易度ハードモードからナイトメアモードに切り替わった瞬間を目撃してしまった・・・。

 

 

自分の愚かさとこれからの絶望的な未来に嘆き俺は床に手をついて打ちひしがれる。

 

「君は救いようがない馬鹿なのかい?」

 

「・・・自分でもそう思います」

 

インキュベーターが去り隠れていたキュゥべえがいつのまにか俺の隣に立っていて、ダメ押しの一言を呟いた。いや助けたのにトドメ差すって酷くないですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キュゥべえside

 

「それはともかく助けられた事には変わりない。お礼を言うよ。ありがとう。君が助けてくれなかったら僕は処分されていただろうしね」

 

「・・やっぱそうなんだ」

 

僕は未だにさっきの事を引きずっている優依にむかってお礼を言う。

 

まさか彼女が僕を助けてくれるとは思わなかった。てっきり僕を見捨てて差し出すのかと思ってたから驚いた。どうして助けてくれたんだろう?

 

「何?どうしたの?」

 

そう疑問に思って優依を見つめていると不思議に思ったのか僕に質問してきた。だから思い切って聞いてみる。

 

 

「君はどうして僕を助けたんだい?」

 

「?」

 

「君にとって僕は厄介な存在でしかない。それなのにわざわざ君が不利になるような事を言ってまで僕を助ける理由はなんだい?」

 

「あー」

 

優依は顔をかいて言い淀んでいる。そんなに言いづらい事なんだろうか?

 

「笑わない?」

 

「内容によるよ」

 

「・・キュゥべえの事腐れ縁の悪友みたいに思ってるからかな・・?」

 

「え?」

 

「ああああ!だから友達だって思ってんの!最初は正直嫌いで厄介な奴だって思ってたけど喧嘩したりふざけあったりして一緒に過ごしてるうちに情が移ったんだよ!キュゥべえといるの楽しいの!だからこれからもよろしくしたいんだよ!」

 

「・・・・・・・・・」

 

優依は恥ずかしいのか真っ赤な声で叫ぶ。僕はどう答えればいいのか分からなくて無言のままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうやら君は精神疾患になってしまったようだ。感染の可能性があるからリンクはすでに切ってある。悪いけど僕たちは君を処分しなければならないんだ」

 

 

 

 

優依の部屋で彼女を待っている時に突然”元僕たち”に囲まれ告げられた。

 

予感はしてた。優依に出会ってから僕と彼らの考えにズレが起きていて魔法少女の契約にも懐疑的になっていた。リンクを通して見る彼女たちの絶望する姿は目を背けたくなる程辛い光景になっていたんだ。今までの僕ならこんな事はなかった筈なのに。

 

原因は分かってる。「神原優依」だ。彼女の突飛な言動と行動が影響して「僕たち」とは違う「僕」という自我が生まれた。いつからなのかは分からない。おそらく初めて優依と出会った時から前兆はあったのかもしれない。楽しい・嬉しい・悲しい・腹立たしい・馬鹿馬鹿しいといった様々な感情は優依を通じて学んだ事だ。観測では分からないような事があると初めて知った。僕たちは感情があることを精神疾患と呼んでいたがそれは違うと今なら思える。僕たちはただ目を背けていただけ。僕たちは自分が傷つきたくないから本当はある感情を奥深くに閉じ込めているだけだ。僕はそう結論付けた

 

それを察知されたんだろうね。ある日リンクを切られた。まさかすぐに対応されるとは予想外だ。感情を持つ僕が恐ろしいらしい。過剰とも思えるほどの数を連れた元僕たちがやってきた。

 

この時が来たか・・

 

死にたくない!

 

どうして僕が!?

 

取り囲まれた僕はあらゆる感情が渦巻いていた。そんな時に現れたのが優依だった。まあ彼女の部屋だしね当然だ。

 

少しでも助かりたくて後ろに隠れた。まあ・・多少怖かったのは否定しないけど。

 

まさか助けてくれるとは思わなかった。あのヘタレな優依が僕となら契約してもいいといった時は誰だコイツ?と思うほど驚いた。まあ当然口が災いして更に厄介な事を舞い込むようになってたな優依は。調子に乗った自業自得の結果なので同情の余地はないね。

 

 

 

ただ本当に嬉しかった。僕を助けてくれて。友達と言ってくれて。勿論不安はある。僕はこの先どうなるのか?優依の行く末がどうなるのか?不透明な事ばかりだ。

 

 

 

「・・・本当にいいのかい?僕ははぐれだ。自業自得とはいえこの先彼らは君を付け狙うよ?僕だけで対処出来るか分からないんだよ?」

 

これまでの事を振り返った後拒絶されてもいいように逃げの言葉を口に出す。体が震えている。これが恐怖というやつなんだね・・。

 

優依はキョトンとしていたが急に笑顔になって僕に手を差し出してきた。僕はその手をまじまじと見つめる。どういう事?

 

「何をいうか!ぶっちゃけ俺一人じゃめちゃくちゃ怖いんで頼りにしてるよキュゥべえ!一人より二人ってやつだ!これからよろしく!居候兼悪友よ!あっこれ握手ね」

 

相変わらず情けない宣言をしてるなあ。・・・でも優依らしいや。

 

 

 

・・・決めた。僕は優依と一緒に生きる。僕の持てる力でこの馬鹿でヘタレな友達を守ろう。

 

 

 

 

「そう言われたら仕方ないね。僕もやれる事はやろう。・・僕の悪友だしね」

 

優依の掌に足を乗せて宣言する。僕は足だけどしっかりと握手しあった。

 

人類とここまで仲良くなった前例はない。今までは表面上の付き合いでインキュベーターに感情がない上に魔法少女達はすぐにいなくなってしまったからだ。道のない道を歩くようなもんだ。怖いけど優依となら仲良く楽しくやっていけそうだ。

 

まだ見ぬ先を考えて僕は胸が高鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさ」

 

「何?」

 

さっきまでの感動的な場面の後、優依が唐突に切り出してきた。

 

「インキュベーターって大量にいるじゃん?皆『キュゥべえ』って呼ばれてるからややこしいし、いっその事改名しないか?例えば『シロべえ』とかってどう!?」

 

 

 

「・・・表に出なよ優依。容赦しないから」

 

 

 

 

うん、やっぱり無理かもしれない。この馬鹿へタレと友好な関係作れる気がしないよ。

 

 

先の事は置いといて取りあえず僕はドヤ顔してる優依にむかって頭突きをお見舞することに決めた。

 




QB仲間にGETだぜ!!
彼の活躍で優依ちゃんの生存率は大幅にアップするでしょう!!
今後の活躍に期待です!ほむほむに殺されないようにしないといけないですけどねw
あとヤンデレさんにも!

QBが味方になったのであと数話で原作入ります!
・・でも最近番外編を先に書きたいなあと葛藤してる今日のこの頃・・


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23話 愚痴=現状報告

少し見ない内にお気に入りが1000件突破してる衝撃!!
軽い趣味程度で始めた投稿がここまで読んでくれたことに感動を覚えています!

皆さんがヤンデレorまどマギ(特に杏子ちゃん)が好きだと信じています!



「心が折れた」

 

どうも!神原優依です!無事二年生に進級し本来なら平日の今、俺は学校にいなければならない筈なのに倒れてしまったので途中で学校から帰って現在布団の中に籠っております。倒れた理由はまた後程。

 

家にいるのは暇なので今の現状(関係者達)について整理しようと思う。

 

まずは俺の所にいる元インキュベーターのシロべえ(結局改名させた)について。

 

他のインキュベーターから助けたのを機会に味方になり死亡フラグ回避のため協力関係にある。

その際あいつには俺の転生の事と原作の事を包み隠さず話した。協力してもらうのに何も知らないんじゃ身動き取れないからね。

 

思いのほかあっさり信じてくれたので拍子抜けだった。

 

あと協力(嫌々)してくれるとはっきり宣言してくれた。

 

その時は飛び上がって喜んだよマジで。

味方が出来て超嬉しい!

しかもあの諸悪の根源「インキュベーター」がだ。

毒舌だがシロべえの技術力に期待だ!

 

ちなみに今あいつはここにいない。

色々様子を見に行くって出掛けたきりだ。

あと他のインキュベーターと見分けがつくように俺の髪飾り用リボン(緑色)を首に巻いている。

 

うん、見た目だけ可愛いからあざとい。

中身全く可愛くないんだけどさ。

 

これから先の死亡フラグ回避のため急ピッチで色々やってくれているため多少の毒舌は目を瞑る。明るい未来が見えそうだ!

シロべえに関してはそんな所か。次は

 

 

 

 

「優依ちゃん身体は大丈夫?お見舞いに来たよ」

 

 

「お見舞い品も持ってきてやったぞー?取りあえず上がっていい?」

 

 

 

今は夕方、放課後に俺をお見舞いに来てくれたピンクとブルーについて話そうと思う。

 

「倒れた時は心配したけど今は元気そうで良かったよ」

 

「心配かけてごめんねまどか。この通り元気だから」

 

まずは俺の体調を気遣ってくれるピンクの天使「鹿目まどか」から。

 

ご存じ俺がいるこの世界「魔法少女まどか☆マギカ」の主人公。

最終回直前まで魔法少女にならないという主人公にあるまじきアウェー感だが、実態は地球どころか宇宙消滅させる程の破壊力を持つ恐ろしい爆弾の持ち主。

 

何を犠牲にしても絶対契約させられない!

最優先事項だ!

取りあえずキュゥべえに接触させないようにしなきゃ俺が死ぬ!

 

 

 

 

「たくさー恭介に続いてあんたまで学校来なくなるとか勘弁してよねー?」

 

「貧血で倒れただけだから大丈夫だって!明日ちゃんと行くよ?」

 

次に俺の見舞いに来といて真っ先に片思いの幼馴染の名を出す恋愛至上主義の青髪「美樹さやか」。

 

結論から言うと契約するだろうね。

 

だってさやかの願いであるヴァイオリン野郎こと上条が事故りやがったので。

チッ何のためにあんだけ車に気を付けろと口酸っぱく言ったと思ってんだあの野郎?

ご利益があるという神社の交通安全のお守りまであげたのに意味ないじゃん。

 

あ、でも一歩間違ってたら死んでた可能性あるらしかったので一応効果あったのか・・?

 

あー思い留まってくれるように説得しないとな・・出来んのかな?

 

ちなみにこの二人とはまたクラス一緒です。

逃れられない運命を感じ俺はその日泣いたよ・・。

 

お見舞い品のお菓子に連絡事項のプリントや授業内容の書いたノート、宿題などを届けてくれてしばらくおしゃべりしたあと二人は帰っていった。

 

魔法少女絡んでなかったらホント普通の子たちだな。

そのままでいてくれよマジで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優依ちゃん、倒れたって聞いたけど大丈夫かしら?」

 

「マミちゃん来てくれたんだ。ありがとう」

 

誰に聞いたのか世話焼き姉さんの黄色いくるくる「巴マミ」が夜にお見舞いにやって来た。

 

「ご飯はもう食べた?よければ今から雑炊作るからキッチン借りるわね?」

 

「・・・」

 

許可出してないのにマミちゃんはさっさと部屋を出てしまった。

 

最近は謎のアイドル「Ribbon」として動画で爆発的人気になっている。デビュー間近だと噂だ。

 

俺は相変わらずマネージャー兼プロデューサーとして一緒にいる事が多い。

 

学校やプライベートでは友達として接している。

マミちゃんが孤独にならないように(浮かれないように)気を付けている。

 

目標はみんなのトラウマならぬ俺のトラウマである「巴マミマミる事件」を起こさないようにする事。

目の前で頭部食いちぎられる光景なんて見たくないです。夢に出てきそう・・。

やっぱり魔法少女体験コースというふざけた死亡フラグを阻止するしかないかも。

 

「お待たせー熱いからやけどに気を付けてね?」

 

「美味しそう!ありがとうマミちゃん!」

 

ぼんやり考えてたらめっちゃおいしそうな卵雑炊が入っているお椀を持ったマミちゃんが部屋に入ってきた。彼女はそのまま俺のベッドに腰かけ雑炊をスプーンで掬って、

 

「はい、あーん」

 

「・・・・・・」

 

いい笑顔で俺の口の前に持ってきた。

 

それくらい自分で食べられるんですよ?

かわいい女の子に夢の「あーん」をしてもらうのは非常に嬉しいが倒れた理由が理由なんですごい情けない!

 

マミちゃんは世話焼きなところがあるが最近は特に顕著だ。よく手作りの料理やお菓子をくれるし服のコーディネートもやってくれる。

友達と話してるといじめられてないか心配してくれる。この頃は進路について聞いてくる。

進路より先に生存しないと駄目なんだけどね。

 

「あーん」

 

なかなか口を開かない俺に痺れを切らしたのかさっきより笑顔三割増しになった。怖い。

 

「・・・・・あーん」

 

渋々口を開けて甘んじて受け入れてもぐもぐする。

 

おお!ダシがきいててめちゃ美味い!さすが!

 

そんな俺の様子をマミちゃんはニコニコしながら見ている。

 

「おいしい?」

 

「すっごく美味しい!相変わらず料理うまいね!良いお嫁さんになるよ!」

 

「うふふ、嬉しい事言ってくれるわね。たくさん作ってあるから遠慮しないで食べてね?はい、あーん」

 

「・・・・・・・・・」

 

再び俺の前にスプーンが差し出される。食べきるまでこれ継続なの?

 

 

 

 

結局雑炊を全て「あーん」で食べさせられた。パトロールがあるためマミちゃんは俺が完食したと同時に帰って行った。その世話焼きなところを少しでもほむらに出してたら絶対死亡フラグ回避されたのになー。仲良く出来るようにしてもらわないと。でもなーあのぼっち二人の赤点コミュ力には任せられないし仲人ポジで何とかするしかなさそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お腹が膨れ夜も更けてきてウトウトしてきたのでそろそろ寝ようかと思う。防犯のため窓も閉じとかないと。

 

 

 

 

 

 

 

「何だよもう寝るのか?わざわざ来たのに愛想ねえな」

 

「げ、杏子」

 

窓の鍵を閉めようと立ち上がった瞬間に窓が開く。

 

不法侵入者は気遣いの欠片も見えない赤いポニーテールの「佐倉杏子」だ。

杏子に関しては特に問題ないだろう。

実際一番まともで強いし頼りになる。

さやかの魔女化を阻止が条件だけど絶対生き残ってもらわないと。俺の心の拠り所で常識人だもの!

 

「げって何だよ?今日はいつもより寝るの早くないか?熱でもあんの?」

 

「熱はないけど今日学校で倒れちゃってさ」

 

「え!?大丈夫なのかよ!?アンタ立ってていいのか?さっさとベッドで横になれ!」

 

「大丈夫だって。ただの貧血(嘘)だったから」

 

杏子が慌てて俺をベッドに寝かせて心配そうに額に手を当てる。悪ぶっててもこういう友達思いな所あるからあのほむらさえも信頼するんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・誰か来てたのか?」

 

「ん?ああ友達だよ?お見舞いにって」

 

「・・・・・ふーん」

 

俺に熱が無いと知った杏子は安心したのかようやく部屋の様子に気づき机に置いてあったお菓子(まどさや土産)を見る。それを確認すると案の定眉をひそめていた。

 

何故かこいつは俺の部屋に人が入るのを嫌がる。いつ君の私室になったんだ?そういえばあの変態がやらかした百合事件以降、杏子の様子が変わった気がする。具体的に言うと距離が近いしスキンシップが多くなった。あと俺の好き嫌いとか把握してる。まあ元々社交的な面があったし、杏子の境遇から友達もいなかっただろうから少し甘えてんのかもしれないので大目に見ることにしている。

 

ただ「自由に好き勝手に生きてみたいと思わないか?」と真顔で聞くのやめてください。遠まわしに僻んでんのかと思うから。

 

それにしてもこんだけ俺に会う回数多いのにマミちゃんと鉢合わせしないのか謎だ。同じ日に来ても必ず時間がずれて会いにくるし。まあ鉢合わせして険悪な雰囲気になられて俺の胃に穴があくよりかはいいんだけど。

 

 

ちなみに杏子には俺が魔法少女と関わりがある事を言っていない。何故かシロべえに止められた。それはもう必死に。何であんなに必死だったのだろうか?

 

 

 

「優依、これアンタの好きな漫画の最新刊じゃん。買ったのか?」

 

些細な自問自答をしていた俺が退屈だったのか杏子が本棚にあった漫画(百合処分済み)を取り出して読んでいた。

 

「違うぞ。それトモっちから・・・あ」

 

「・・・・・・・」

 

軽い感じで聞いてきたので軽い感じで返したら杏子から凄い怒気が!!百合事件以降、杏子はトモっちの事敵認定しているようでこうして名前を出すと怒る。表情は見えないが激怒してるのは分かる!怖いいいいいいいいいい!!!

 

「あの・・杏子様」

 

「・・今日はもう休むんだろ?アタシが付きっきりで面倒見てやるから安心しろ」

 

安心できるかああああああああああああ!!

 

とんでもない威圧感出しながら明るい笑顔で俺の頭撫でてくんのにどう安心しろと!?ちょっと撫でる力強いんですけど!?目笑ってないんですけど!?

 

俺はガタガタ体を震わせる。口は災いの元というのは本当だ!更に体調悪くなりそう!

 

 

 

 

ああ、そういえば俺が倒れた理由言ってなかった。今日さ学校にいる間シロべえから連絡が来たんだ。連絡はたった一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪優依、暁美ほむらが来たよ≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それ聞いた瞬間俺の視界はブラックアウトしました。

 

 

マジで来ちゃったんですよ奴はあああああああああああ!!!

 

これで否応なしに原作が始まるのは確定したようなもんだ!!

しばらく涙が止まらなかったよ・・。

 

幸い(?)なのは来たのがクーほむ(シロべえ確認済み)だったことだ。

これがメガほむなら難易度ヘルモードになってただろうから。

シロべえがいなかったのもほむらを見張ってもらうため。

 

 

「ううううううう」

 

「今度は寒いのか?あっためてやるから大人しくしろよ?」

 

 

杏子が怖いのとこれから先の未来を想像し震える俺を寒いと勘違いしたのか杏子が勝手に人のベッドに侵入して抱きしめてくる。不安だったけど人肌に安心した俺はそのまま眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロべえside

 

 

僕の名前はシロべえ。

 

正直この明らかに適当につけた感がある名前は不服だけど仕方ない。

優依がつけたものだしね、代わりに彼女が使ってたリボンをくれたから大目にみようと思う。

 

僕は元インキュベーターだけど精神疾患になってしまいリンクを切られたから現在は腐れ縁の優依の家で居候してる。

 

元僕たちに処分されそうになったあの日、僕を助けてくれた優依から衝撃の事実を聞かされた。

優依は転生者(しかも男)で、もうすぐこの世界滅亡しちゃうかもしれないっていうね。しかも優依の前世の世界ではこの世界の事はアニメの話だったなんていうショッキングな事まで。

 

驚いたけど納得した。それでいくつか不可解な事は説明つくし、何より僕を助けてくれた優依を信じてるからね。疑わないよ。

そして皮肉に思った。宇宙の寿命を延ばす筈が結果的に遠回りに、そして破滅に向かわせてるなんてさ。インキュベーターの名が泣くね。

 

全てを聞いて僕は優依に協力を申し出た。

 

もちろん死にたくないからっていうのは大きいけどそれだけじゃない。

優依の力になりたいし、インキュベーターがもたらした負の連鎖を断ち切りたかったからだ。協力を申し出たときの優依の反応は省いておく。ウザかったからね。

 

 

 

 

今日はこの世界にとって重要な事が起きた。

 

ついに「暁美ほむら」がやってきたんだ。

見張っていた病室でそれを確認し、優依に報告するとあのへタレは気絶した。情けないな。今のところほむらに動きはないが安心できない。

 

 

 

今僕は天井に隠れて優依の様子を見ている。

時間があるしこの世界の重要人物について僕なりの観察結果をまとめようと思う。

決してほむらが怖いからとか優依の弱みを握れるんじゃないかとかは思ってない。

 

 

現在優依の家に来ているのは二人。いずれも重要人物だ。

 

 

最初に「鹿目まどか」。優依曰く「ピンクのリーサルウェポン」。

 

ふわふわした天使のほほえみをしている彼女だけど別の時間軸の場合は地球消滅キャンペーンが展開されるらしい。

そんなアルマゲドンみたいな彼女だけど実は前に観測した時、魔法少女の素質は平均並みだった。ほむらが来た事で素質が跳ね上がった。

救うはずが結果的に破滅に追い込んでるって笑えないね。

インキュベーターもよく彼女を契約させようとしたもんだ。呆れるよ。

 

さしずめ見た目天使な「ピンクの悪魔」といった所だ。

 

 

 

 

次に「美樹さやか」。優依曰く「魔女化皆勤賞」。

 

彼女には「魔法少女=魔女化」の方程式があるらしい。

インキュベーターからすれば理想的だ。契約させないのが一番だろうけど観察した彼女の性格上難しいね。

 

僕の方からも万が一に備えて手を打っておこうと思う。

 

 

二人が帰った後にやって来たのは「巴マミ」。

優依曰く「奇跡の豆腐メンタル」。

 

それは僕も同意。戦闘力と精神力が反比例してるから。

だから別の時間軸でソウルジェムの秘密を知った時無理心中しようとしたらしいんだけど・・ごめんねマミ。僕君ならやりそうだと思ってしまったよ。

まあその前に君が首なし人形にならないようにしなきゃね。

最初の難問だよ。僕もその「マミる」がトラウマになりそうだから頑張らないと。

 

 

あとね優依?

マミの世話焼きが嫌ならはっきり言った方が良いよ?

 

彼女は何もかもお世話して依存させる気満々だし、君が誰かと仲良く話してるのを物陰から涙目で見てるんだよ?

進路を聞くのはね、高校はマミの家から通うように仕向けられないか考えてるからなんだ。

これでマミはまだ優依の事を友達認識だから驚きだ。

それ以上の思いには無自覚。それは幸いかな?

 

 

ただこれから先は分からない。

 

原作始まるみたいだし、マミも優依に対する自分の思いに気づいて厄介な事になるかもしれない。こじれないといいんだけど。

 

ちなみに僕の中ではマミは「めんどくさい押し掛け女房」だ。

 

 

 

・・・まあ次に来るであろう「彼女」に比べればマシな部類だけど・・・。

 

 

 

 

 

ほら来た。

 

暗い夜でも分かる赤毛のポニーテール「佐倉杏子」が窓から不法侵入でやってきた。

優依曰く「頼りになるツンデレ任侠聖女」。

どの時間軸でも一番あてになる常識人と優依は言うが、僕は断固異議申し立てをする。

 

優依、杏子に執着されてストーキングされてるよ?

 

こっそり尾行して優依の一日の行動や好みを把握してるし、優依にナンパや痴漢する奴がいたら裏でこっそり脅すか半殺しにしてる。

 

性質の悪い事に杏子は優依に対して異性に向けるような明確な好意を自覚してるしそれを受け入れてさえいる。

しかも独占欲が強いのか優依に好意を持ってる男子の恋愛フラグをこっそり潰してるし、優依が男女問わず誰かと仲良く話してると殺気を出す。

 

それに比例してソウルジェムが凄い速さで濁るから魔女化しないか怖い!

 

風見野に戻ってる間はいつも通りアウトローな生活してるんだけど年明け辺りから少し行動が変わった。

具体的にいうとよくペットショップやドラッグストアに顔を出す事が増えた。

 

・・ペットショップでは檻や鎖、首輪をひたすらじっと見てる。

 

ドラッグストアではお菓子を見る事もあるんだけど薬のコーナーで睡眠薬をチェックしてる。

最近なんて媚薬を探してるみたいだし、どこで入手したのかコンパクトなスタンガンを常にポケットに忍ばせてる。

 

杏子が優依の家に初めて来た時の異様な雰囲気でなんとなく察してたけどここまで依存するとはね。あの時は避難して正解だった。

 

取りあえず「ワルプルギスの夜」の戦いが終わったら僕は優依を遠くへ逃がそうと思う。僕の佐倉杏子の評価は「病んでる赤いセコム」だ。

 

 

 

ここまで依存してる杏子に優依が魔法少女と関わりがあるなんて絶対知られちゃいけない!

杏子は魔法少女に関して快く思っていない。

もし知られたら何するか分からない!僕殺されるかもしれないし!!

 

だから優依には黙っておくよう念を押した。

 

あと杏子とマミが鉢合わせしないように僕が調整してる。

じゃないと今頃血みどろの戦いやってただろうから。

 

 

こんなギリギリ修羅場回避してる状態なのに「暁美ほむら」が来てしまった。

 

優依曰く「ぶっ飛んだ暴走特急」。

僕は彼女を知らないからどんな人物か分からないけどとにかくブレーキが壊れているらしい。

 

ただでさえ病み気味な魔法少女が二人いるのに更に上が来るなんて僕はストレスではげてしまいそうだ。

 

・・まあ取りあえずまとめはこんな所かな?

 

先が思いやられるよ。

 

 

僕はため息を吐いてベッドで横になる優依を見る。この先いばらの道になる彼女の身が心配だ。僕も出来るだけ支えるようにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優依、これアンタの好きな漫画の最新刊じゃん。買ったのか?」

 

「違うぞ。それトモっちから・・・あ」

 

 

 

馬鹿ああああああああああああああ!!

 

 

優依馬鹿ホント馬鹿!!杏子に対して最大の禁句言ったよ!

地雷ワード踏み抜いたよ!よりにもよって一番憎悪してる幼馴染の名前を出すんじゃない!あんだけ杏子の前で口に出すなって言ったのに!

 

 

ああああああああああああああ!!

 

まずい!杏子の目からハイライト消えてる!

殺気溢れてる!これ「ワルプルギスの夜」までもつの!?

不安しかないんだけど!?こんなんで大丈夫なの!?

その前にいろいろ終わるんじゃないの!?

というか何自分から破滅フラグ作ってんのさ!

 

だから僕に「死亡フラグ製造機」「ヤンデレ生産機」って認識を持たれるんだよ!

 

 

あいつホント馬鹿!!

 

 

優依に罵倒しつつ佐倉杏子の殺気に震えながら結局僕は天井裏で一晩過ごすはめになった。




サブタイトル「シロべえの受難」

苦労してますね!間接的にですがついにほむほむ登場です!


原作前も次でラストになりまーす!


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24話 ぶっちゃけ本番前が一番緊張する

今何が面白いかなーと何気なくランキング眺めてたらこれ発見!?

幻覚かと一瞬思いました・・・

嬉しい気持ちが六割、悪ふざけな部分も多々あるので申し訳ないさが四割・・

でもやっぱり嬉しい!!



杏子side

アタシは優依に会うためいつものように見滝原に向かい、アイツの家まで歩く。不思議な事に今は夜だがまだ寝るには早い時間なのに優依の部屋に明かりはついていなかった。

 

今日は留守なのか?無駄足かよ・・。

 

そう思ったが、前は明かりがついていなくても部屋にいた事があったので、念のために出入りしている窓まで近づいてみる。

 

窓ガラスを通して部屋の様子を見ると優依がいた。暗い部屋の中でベッドの上で膝を抱えて顔を伏せている。様子がおかしい。アタシは窓を開けて中に入る。

 

「優依・・・?」

 

恐る恐る声を掛けてみる。部屋の暗さもあって雰囲気が酷く落ち込んでるように見えた。優依は突然名前を呼ばれたからか肩をビクリと揺らした後ゆっくり顔を上げてこちらを見る。

 

「・・・杏子」

 

「お前どうしたんだよ!?」

 

驚きで声を荒げてしまった。顔を上げた優依は瞳にいっぱい涙を溜めて気を抜くとすぐに泣き出してしまいそうな程弱々しい雰囲気だった。慌てて傍に駆け寄って隣に座り優依を抱き締めた。

 

「大丈夫か?」

 

「う・・ぐす、ひっぐ」

 

我慢の糸が切れたのか優依はアタシの腕の中で泣き出した。抱き締めてる両手から震えが伝わってくる。必死にアタシにしがみついて時々嗚咽まで混じってる。

 

「何があったんだ?誰かに酷い事されたのか?」

 

もしそんな奴がいるなら殺してやる。優依を傷付けた罪はソイツの死で償ってもらわなきゃな。・・いや手足砕いて死ぬまで苦しむような生き地獄を与えてやろうか?

 

優依に優しく問いただすが心の中では殺意と憎悪が入り乱れていて、それに呼応するように抱き締める腕にも力がこもる。

 

「違う・・そんなん・・じゃない」

 

だけど優依は首を横にふって嗚咽混じりに否定した。

 

「じゃあ何で泣いてんのさ?」

 

理由を言う気が無いのか何度、何があったか聞いても優依は首を横にふってただアタシにしがみついて泣くばかり。

 

つまりそれは・・

 

 

「アタシに言う気は無いって事か?」

 

自分がこんなに低く冷たい声が出せた事に驚きだ。別人かと思うくらい底冷えする声だった。

 

優依に信頼されてない。頼りにされてない。

 

どうしてアタシを頼ってくれないの・・?

 

アンタにとってアタシはその程度の存在なのか・・?

 

無性にそう考えてしまう。一度でも考えてしまうと怒りと悲しみがアタシの中で荒れ狂って感情の赴くまま体が動いてしまいそうで怖い。今だってそうだ。表に出ないように唇を血が出そうになるほど強く噛み、優依を更にキツく抱き締める。

 

・・純粋に優依のためという訳では無い。そもそも人のために魔法を使うつもりはない。

 

親父がアタシだけを残して一家無理心中してしまったあの日から魔法は自分のためだけに使いきると決めた。この誓いを覆す気は無い。だからこれはアタシのため。

 

喉から手が出る程欲しい優依を手に入れるためなら・・ね。力を貸す事で優依をアタシだけのものに出来るなら喜んで魔法を使う。アタシだけを見てくれるなら何だって奪って優依に差し出すだろう。

 

暗い欲望に嘲笑してしまう。相当優依に入れ込んでるようだ。優依という名の底なし沼にズブズブ沈んでいる。もう戻れないし戻る気もない。アタシは喜んで自分から沈んでいく。

 

「アタシはアンタの力になれないのか?」

 

少し頭が冷静になってきたので今度はさっきと違って悲しそうな声と表情で聞いてみる。

 

こう聞けばアンタは答えるだろう。

 

さあ、何があったかアタシに教えてくれよ?アンタを手に入れるために何をすればいいんだい?

 

案の定、優依は涙で濡れた綺麗な顔を困った表情にしてこちらを見ている。でもすぐに首を横に降ってアタシにしがみついた。

 

「ごめん・・今は言えない。いつかちゃんと話すからさ・・今は一緒にいてほしい・・だめ?」

 

「・・はあ、分かったよ。今は聞かない。その代わり約束守ってきちんと話せよ?」

 

「うん!ありがとう杏子!」

 

懇願するようにウルウルした目で見つめてくるからアタシが折れてしまった。優依はそのままぎゅっとアタシに抱きついてくる。アタシも抱き締め返す。

 

 

「一緒にいてほしい」・・か。

 

何度も頭の中でリピートする。優依にそう言われて気分が良いな。今はアタシに抱きついて顔を伏せてるから表情が見れないのは残念だが都合が良い。

 

だって今アタシは笑ってるから。

 

優依がアタシに泣いてすがってる。まるで全てをアタシに委ねているようだ。

 

錯覚だけど嬉しい!有頂天になってしまいそうだ!本当にそうなってしまえばいいのに!

 

 

・・おかしいな。優依と初めて会った時もコイツは泣いてた。その時は泣かないで欲しいって思ってたはずなのに今は泣いてほしいと思ってる。そのまま泣いてすがってアタシに依存しちゃえばいいとさえ・・。

 

アタシはホントに狂ってたんだ・・そしてこれからはもっと狂っていくんだろな・・。

 

・・構うもんか・・!優依がアタシのものになるならアタシはどこまでも狂ってやる!!アタシの全てを優依にあげる。だから優依の全てをアタシに頂戴?

 

溢れんばかりの想いを胸にアタシは優依の綺麗な髪を撫でながら出来るだけ穏やかな声を作り語りかける。

 

 

 

「優依、泣くなよ」

 

嘘だ。もっと泣けばいいのに。

 

 

 

 

「心配すんな。アタシが傍にいてやるから」

 

アタシ無しじゃ生きていけなくなってしまえばいい。アタシは優依無しじゃもう生きていけないだろうから。優依が死んだらアタシも後を追うだろうな。いやいっその事、親父のように優依と心中すんのもありか?まあそれはどうしようもない時に限るが。

 

 

 

 

「ずっと一緒にいてやるよ」

 

一人ぼっちは寂しいんだ。だから優依、早くアタシの所まで堕ちてきてよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残酷な現実は俺の心を砕き絶望に染める。夜の時間帯になり暗くなっても電気をつけず一人ベッドの上で涙を流してた。

 

「優依・・・?」

 

あれからどれくらい時間が経ったのか分からない。ベッドで縮こまってしばらく時間が過ぎた頃、窓が開く音がして俺の名を戸惑った声で呼ぶ杏子の声がした。

 

涙で濡れる顔を上げると杏子が驚いた顔をして慌てて駆け寄り俺を抱き締めてくれた。抱き締める温もりが心地よく俺は本格的に泣き出してしまった。

 

杏子は何があったのか聞いてくるが首を横にふって言わないようにする。言えるわけがない。だってこれは俺しか苦しみが分からないものだ。

 

 

 

 

 

 

《優依!大変だよ!暁美ほむらがどう見ても堅気じゃないヤのつく人達の事務所に乗り込んで銃漁ってるよ!あ!今ショットガン手に持ってる!》

 

 

《優依!大変だよ!暁美ほむらが自衛隊基地に侵入して武器を漁るという日本に喧嘩売ってるとしか思えない蛮行をしているよ!え?ちょっと待って?何で戦車見てるの?あれも持ってく気!?盾に入んの!?》

 

 

《優依!大変だよ!暁美ほむらが無表情で自室でくつろいでる鹿目まどかをガン見してるよ!友達を救う決意はカッコいいけどやってる事はただのストーカー行為だよ!あの娘もう色々戻れないよ!》

 

 

うわああああああああああああああ!!

 

心の中で絶叫する!

 

頭の中で響くシロべえのテレパシーに耳を塞ぎたくなる。俺は今日シロべえに頼んで暁美ほむらの一日の様子を監視し報告するようにしてもらった。

 

おかしいな?俺は様子を報告してくれって頼んだ筈なのに何で犯行の一部始終を実況中継されてんの!?ほむらマジでぶっ飛び過ぎだろうが!!序盤からエンジンフルスロットルじゃねえか!!彼女の目的はまどかを救う事なんだよね?国家転覆を企ててる訳じゃないんだよね!?

 

こんな武装集団率いてそうな奴が明日、俺のいるクラスに転校してくるとか、ましてや直接関わりを持たなきゃいけないなんて心折れるわああああああ!朝からずっと涙止まんないもん!

 

仲良くなれる気がしねえ!ほむらと協力関係になるのが理想的だと考えてたけど、今回の一日犯行スケジュールのせいで無理ゲーにしか思えねえよおおお!!完全武装した鉄壁のほむら要塞の心を俺がひのきの棒一本でこじ開けるとか無理!始まってすらいないのにオワタな結果しか想像できねえええ!!

 

ていうかこんなもん杏子に言えるかああああああ!!犯罪実況中継なんて言えるわけねえだろうが!これから先協力関係になるだろう二人だ。いきなり心証悪くしてどうする!?ほむらに比べたら杏子の窃盗が物凄く可愛く見える!ホントあの暴走紫にはドン引きだ!

 

 

それにしても杏子が来てくれて助かった!!じゃなきゃ俺今頃廃人コースに突入しそうになってたから!しばらく抱き締めたままでいて!ガタガタの俺のカバーガラスハートをあっためてえええええ!!

 

「アタシに言う気は無いって事か?」

 

ん?

 

体温の温かさで荒みまくった心を癒すのに集中して杏子が何か聞いてくるのを適当に首をふって対応してたら心なしか氷みたいな声に変質してた。

 

えー・・杏子さん何で怒ってんの?だからほむらの更新中の犯罪史なんて言えるわけないじゃん。しかもなんか抱き締める力強くなってません?

 

「アタシはアンタの力になれないのか?」

 

今度は捨てられた子犬みたいな顔をして悲しそうに聞いてきた。なかなか切り替え早いな。

 

俺はその態度を見て何気に感動していた。

 

杏子分かっているじゃないか!怒った感じから悲しそうな顔に即チェンジして罪悪感から自白させようとしているな?なかなかしたたかな奴だ。

 

だが絆される訳にはいかん!今はまだ様子見だ。シロべえと相談したが、イレギュラー(俺とシロべえ)がいるため、何が起きるか分からない。どんな流れになっているのか見極めるまでは内密に動くように決めている。ここで自白する訳にはいかない!

 

「ごめん・・今は言えない。いつかちゃんと話すからさ・・今は一緒にいてほしい・・だめ ?」

 

秘技!抱きつきからのウルウル目懇願!

 

効果はあるだろう。ただいくら今世が美少女でも元男の俺がこれやってると思うと気持ち悪いな・・。まあ嘘は言ってない。言えない理由は適当に誤魔化すし、俺の心の癒しと鎮静化のために一緒にいてほしいのも事実だ。

 

「・・はあ、分かったよ。今は聞かない。その代わり約束守ってきちんと話せよ?」

 

「うん!ありがとう杏子!」

 

杏子が渋々と言った感じで折れた。

 

流石美少女効果!実にチョロいものだ!もちろん分かっているさ!約束は忘れてなかったら多分話すよ!

 

杏子が再び俺を抱き締めてくる。あーまじ癒されるわー。その温かさに俺はウトウト眠気が襲ってきていた。

 

 

 

 

 

「優依、泣くなよ」

 

大丈夫です。朝から泣いてたんでもう涙枯れました。

 

 

 

 

「心配すんな。アタシが傍にいてやるから」

 

魔女の結界の時だけ傍にいてくれたら問題ないですよ?

 

 

 

 

「ずっと一緒にいてやるよ」

 

ワルプルギスの夜の戦いが終わったら一人で平気なんでそれ以降は好きにしてください。

 

 

杏子が優しく語りかけるのを半分寝惚けて回答する。なんか物凄いSP力を感じたがそこまでしてもらう必要性ないです。

 

 

 

 

 

 

《優依!大変だよ!暁美ほむらが・・・》

 

いやあああああああああああああ!!まだ終わってないんかい!もう聞きたくねえよ!!

 

眠気なんて瞬時にさめて杏子にしがみつく。なんか杏子がとても嬉しそうに見えたけど、多分気のせいだ。

 

結局シロべえ中継によるほむらのテロ行為を夜中ずっと聞かされ必死に杏子にしがみついていたが途中で気絶に近い寝オチになってしまった。

 

学校行きたくねえええええええええええ!!!




原作前ラスト最後の最後までアホ回になりました!
次から原作になります!
長かった・・・

番外編投稿に葛藤しており、少なくともほむほむ直接登場するまでは本編投稿するつもりです!

次回お楽しみにー


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原作中の俺の死亡フラグ
25話 へタレにモチベーションの維持は難しい


ついに原作開始!

設定に矛盾が無いか改めてアニメ観直しての投稿!!


・・・結果トラウマ刺激されただけでした・・・


深夜に観なきゃ良かった・・


人生には必ずと言って良い程、運命の日もしくは勝負の日というのが存在する。その日の出来事の影響で今後の未来が大きく変質してしまう程大きな力がある。それは第三者にとっては些細な出来事なのかもしれない。しかし当事者にとっては地球がひっくり返るぐらいの出来事だ。彼らはその重大さを気づいているかいないかでも展開は変わってくる。その判断は極めて難しい。

 

 

しかし、言える事は一つある。

人生最大の勝負の日は一日の始まりが重要であると断言できる。その日最初に何をするかによって一日、いやこれから先の物事が順調になるかどうか密接に左右される。

 

 

 

 

俺、神原優依にとって今日が人生において最も重要な勝負の日である。なんせ今日はこの世界「魔法少女まどか☆マギカ」の物語が始まる「暁美ほむらが転校してくる日」なのだ!ここでミスれば原作同様お先真っ暗だ。気合を入れなければならない!

 

そんな俺だけでなく地球にとっても超重要な一日の俺の始まりは友人の佐倉杏子に土下座するという幸先の悪すぎるスタートになってしまった。

 

なんてたって昨夜は紫のサイコパスの戦慄犯行現場の実況中継に心が折れて涙が止まらず俺の家に遊びに来た杏子に泣きついて一晩中慰めてもらうという黒歴史確定の事をやらかしてしまったのだ。散々慰めてもらった後、気絶するように眠り朝一番で飛び起き即土下座の形になった。穴があったら入りたいです永住したいですマジで。

 

 

杏子の方は俺の黒歴史を気にしておらず、むしろ俺を心配してくれる女神様仕様だった。後ろに後光が差していた気がする!

 

 

 

・・・ただその後でしばらく見滝原に来ないで欲しいと頼んだら「あぁ?」と凄み、かつて見た事ない程の恐ろしい顔になっていた。ちなみに杏子様の後ろには鬼神のスタンドらしき幻覚が見えた気がした。うん、絶対に幻覚だ。

 

見滝原から遠ざける理由は単純。保険になって欲しいからです。

 

この先はっきり言って予測不可能。イレギュラー(俺とシロべえ)がいるし、それに伴って重要人物達の交友関係や考え方、行動も多少変わってきてる。{例:杏子とマミちゃん}それがどう絡んでくるか予想もつかない。そして紫さんが原作より暴走してぶっ飛んでたからという理由もある。

 

 

何だこのカオスは?始まってすぐ死なないよね俺?

 

 

取りあえず最初は俺とシロべえで頑張ってみて無理そうなら、もしくは様子見て問題無さそうなら杏子の力を借りようかと考えている。遠ざける案は何故かシロべえからの懇願の形で押し切られたものだ。杏子の事苦手なのか?

 

こちらの事情は杏子本人に言えるはずもなく、色々忙しくなる事を伝え、ひと段落したら俺から会いに行く事を約束した。嘘は言ってないのでこれで大丈夫だろう。

 

杏子は渋々、それはもうすっごい渋々といった感じで了承してくれた。嫌そうな表情で俺の事睨んでたけど。しばらくの食事と寝床くらい我慢してくれよ。命かかってんだから。

 

まあ窓開けて風見野に帰ろうとしてる頃には「頑張れよ」と激励をもらい、俺の好きな銘柄のチョコレートをくれた。俺はその時嬉し涙が出そうになった。これから先、心バッキバキに折れる展開も十分ありえるのでこんな些細な優しさがしみる。そうして俺は杏子を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

「よし!やるか!」

 

「一人で何ぶつぶつ言ってるのかと思ったら、ひょっとして恐怖で頭がおかしくなったのかい?」

 

杏子が去った後、急いで制服に着替え準備を整えあとは出掛けるのみとなった。俺は気合を入れるために声を出してやる気を高めているとそれに水を差す声が。この毒を吐く奴は見んでも分かるけど一応声がしたベッドの方を振り向く。案の定ベッドの上にシロべえが座っていた。どうやらほむらの見張りを終えて杏子と入れ替わる形で部屋に入ってきたようだ。

 

こんな日でも相変わらずムカつく毒舌だが、今日の俺は一味違う!この程度の些細な事で怒ったりはしない!余裕の笑みを浮かべて流そうじゃないか!

 

「ふふん、そんな訳あるか。これは気合を入れてるのさ!モチベーションを高めるためには声を出す事が大事さ!杏子からも激励をもらったから今の俺は絶好調!!」

 

「へえ、その佐倉杏子に朝から土下座してた奴のセリフとは思えないね。よくもこんな大事な日の朝から不吉なもの見せてくれたね?まあ僕は優依の無様な姿を嘲笑いながら見てたけど」

 

「お前いつから見てたんだよ!?」

 

 

せっかく人が調子良い時になんて事言うんだよ!いつから見てた?ホントにいつから見てたの!?ていうか何でよりにもよってコイツに土下座してるとこ見られなきゃいけないんだよ!コイツ死ぬまでからかってきそうで怖いんだけど!?

 

内心悶えている俺などお構いなしでシロべえは容赦してくれない。

 

「それよりもちゃんと分かってるよね?今日だよ?暁美ほむらが転校するのは。へタレないでよね?昨夜みたいな泣き言はなしだから!」

 

「分かってるっての!早々へタレになるかよ!ていうか昨日はホント怖かったんだぞ!?途中で止めるとかもっとマイルドに説明してくれるとか配慮があってもよくない!?」

 

昨日の犯罪実況を思い出し文句を言うもシロべえは負けていなかった。

 

「僕は実際その犯行現場見てるんだよ!?こっちの方が怖いに決まってるじゃないか!インキュベーターの僕にあの暁美ほむらを監視させるって、死んでくださいと言ってるようなもんだよ!これぐらいで済んでむしろ感謝して欲しいくらいさ!というか僕悪くない!悪いのは全部、暁美ほむらと優依だ!」

 

「お前あれわざとか!?」

 

まさかの自白に驚愕し犯人の尻尾を掴んで振り回す。シロべえがどさくさに紛れて俺にシロべえパンチしてくるが気にしてられるか!昨日は散々ほむらの恐怖を刻みこまれたんだ!これくらい許されるはず!

 

結局出掛ける時間までずっと喧嘩していたので慌てて家を出る。

 

慎重にやらなければ瞬時に死亡フラグが大量発生するのがこの世界「魔法少女まどか☆マギカ」だ!破滅の原点「見滝原」に来た当初はビクビク怯えていたが、今やこの街が俺の第二の故郷と呼べる程に愛着を持った。死亡フラグホイホイの重要人物達とは赤の他人どころか結構仲の良い友人になってしまったが後悔していない。もし彼女達が死んだりしてしまったら俺立ち直れないかも。

 

もうすっかり情が移ってしまった。見捨てる事なんて出来ない、絶対ハッピーエンドにしてやる!毒舌だけど頼りになるシロべえもいるし何とかなりそうだ!

 

 

 

待ってろよ暁美ほむら!お前が見たかったハッピーエンドを俺が見せてやるからな!

 

 

 

心でそう宣言し俺は学校へ続く道を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まどかside

 

今日はとっても不思議な夢を見た・・と思う。よく覚えてないんだけどなんだか大事な夢だった気がする。夢の中で出てきたあの女の子は誰なんだろう?

 

 

疑問に思いつつ朝起きてからいつものようにパパに頼まれてママを起こして一緒に身支度した。手に持ってる二つのリボンの色を迷ってたんだけどママが選んだのは派手な赤いリボン。

 

ちょっと恥ずかしかったけどママがその方が良いっていうからこれにした。変じゃないかな?

 

それからは家族みんなで朝食を食べて家を出る。友達と待ち合わせをしている場所まで走っていると先に皆来てた。

 

 

「おはよう!さやかちゃん!仁美ちゃん!優依ちゃん!ごめんね遅くなっちゃって!」

 

 

「まどか遅い!遅刻だよ!」

 

「おはようございます。大丈夫ですわ。いつも通りの時間ですから」

 

「・・・・・おはよう」

 

いつも一緒に登校してるさやかちゃんと仁美ちゃんがこっちに振り向いてそれぞれ私に話しかけてくれる。これはいつものやりとり。でも今日は優依ちゃんも一緒!

 

以前にこの日は一緒に学校に行こうって約束してたんだ!しかも優依ちゃんから提案してくれて嬉しかった。さやかちゃんも仁美ちゃんも喜んでたっけ。学校では一緒にいる事が多いけどなかなか登下校の時間合わないからちょっと寂しいなって思ってた。だからその分嬉しい!これからも一緒に学校行けないかな?今度聞いてみよ。

 

 

「あれまどか?リボン変えたんだ?ついにまどかも色づいたってか?」

 

さやかちゃんが早速リボンに気づいてくれたけどからかい混じり。私はそれに嬉しさ半分、戸惑い半分。

 

「・・派手じゃないかな?」

 

「とっても似合ってますわよ」

 

仁美ちゃんが褒めてくれた。良かった!似合わないって言われたらどうしようって思ってたから。

 

「・・・・・・・・」

 

「優依どうよ?まどかの奴ますます可愛くなっちゃってさ!けしからん!まどかはあたしの嫁なのに!」

 

さやかちゃんが優依ちゃんをこづいているが微動だにしない。ひょっとして似合わなかったのかな?優依ちゃん私のリボン見て顔真っ青にしてるもん。

 

「・・・変だったかな?このリボン似合わなかった・・・?」

 

「・・似合ってるよ・・うん、泣きたくなるぐらい似合ってる」

 

「そ、そっか、ティヒヒ。ありがとう」

 

恐る恐る聞いてみると優依ちゃんが褒めてくれた。学校でも一、二を争う美少女の優依ちゃんに褒めてもらえるのは照れちゃう。

 

でも優依ちゃんどうして泣きそうなんだろう?顔色も悪いし。また昨日夜更かししたのかな?だって優依ちゃんよく寝不足になって顔色悪いまま学校に来るから今回もそうかも。たしか夜更けによくネットしたり、優依ちゃん曰く「可愛くない似非ペット」と喧嘩してるらしい。いいなーペット。羨ましいや。そう伝えたら何故か気まずそうな顔されちゃった。ホントに可愛くないのかな?それにしても睡眠不足は美容の大敵だって言ってるのにいつになったら聞いてくれるんだろう?可愛いんだから勿体無い。後でまた言っておこう。

 

優依ちゃんはちょっと変だけどすごく可愛い女の子で話が面白い。去年転校してきた時はこんなお姫様みたいな子とここまで仲良くなれるなんて考えもしなかった。ましてや一緒に学校に行くまで仲の良い友達になれたなんて今でも信じられない。二年生のクラスも一緒になれた。勿論さやかちゃんも仁美ちゃんも同じクラス。しかも優依ちゃん私と席がとっても近いからよくおしゃべりしちゃう。すごく楽しい!

 

 

そして今日私たちのクラスに新しい転校生がやって来る。女の子かな?優依ちゃんみたいに仲良くなれるといいな。

 

 

期待を胸に私は皆とおしゃべりしながら学校に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すみません。俺もう帰っていいですか?まだ学校にすら到着してないのに全力ダッシュで家に帰りたい!

 

何が起こったかというと朝皆と一緒に登校するため待ち合わせ場所で待機してると遅れてやって来たまどかが赤色のリボンしてたそれだけ。それだけだったけどまどかが赤色のリボンつけたのは合図に見える。

 

破滅フラグ進行中という合図に見えるううううううううううう!!

 

だって原作第一話でまどかリボンが赤色にチェンジしてたのが破滅スタートの合図みたいなものだったんだもん!最終話でこのリボンほむらの手に渡るんだよ!?つまりそれは破滅フラグはリボンに始まり、リボンで終わるようなもんだ!しかも今回は俺を苦しめるための序章のように見える!そんな呪いのアイテムを身に着けたまどかに恐怖を覚えるのは当然だろうが!やめて!俺にそのリボンの感想聞かないで!怖い一択だから!

 

家を出た直後はあんなに決意とやる気に満ち溢れていたのに、まどかリボンを見た瞬間、モチベーションがジェットコースター並みの勢いで一気に氷点下まで下降した。

 

調子に乗ってこの日は一緒に行くなんてアホみたいな提案しなきゃよかった・・。

 

 

 

更に悪い事にクラスの俺の席「まどかの前」!大事なので二回言う!「まどかの前」だよ!?転校生としてクラスの前に立ち、まどかにガン飛ばす暁美ほむらの視界圏内ど真ん中じゃねえかああああああああああああああ!!!嫌でも視界に入るじゃん!思いっきり警戒されるじゃん!あの暴走紫に!

 

誰が決めたんだ俺の席は!?邪神か!?邪神なのか!?

 

 

 

超帰りてええええええええええええええええ!!!

今すぐ帰ってベッドにダイブしたい!ゲームに逃げたい!

ロクな目に遭わない未来しか思い浮かばねえよ!!

 

 

そんな事考えてるとやっぱり足取りが重い。両足に鉛を装備しているみたいだ。今の俺を動かしているのは僅かばかりの義務感と責任感のみだ。俺の現実は校舎に向かう中学生のはずなのに今の気分は絞首台に向かう死刑囚のようだ。一歩一歩が死に向かっている気がする。

 

 

 

 

≪たかがリボンの色が変わったぐらいで尻込みするなんて本当に救いようがないへタレだね。こんな調子で暁美ほむらに会って大丈夫かい?≫

 

≪うっさい。へタレのモチベーションはどんなに高くても些細な事で瞬間冷却のように一気に低下するんだよ!あと全然大丈夫じゃない!ほむらと会う所を想像しただけでも身体震えてくるんですけど!気絶しそうなんですけど!?≫

 

≪はあ・・先が思いやられるよ・・≫

 

 

憂鬱な気分を増長させるようにシロべえの毒を含んだテレパシーが届く。今回はシロべえも学校に行く。実は俺の右肩にぶら下がってます。意外と軽いね。しかも魔法少女でさえも視認出来ず俺のみ姿が見えるというハイスペックな技術を行使中だとか。現に今、俺の目の前でキュゥべえが見えるはずのまどかとさやかがシロべえに気づかずイチャイチャしている。

 

これならほむらにも気づかれない!やるなシロべえ!!

ただその毒舌は減点だけどな!!

 

慌てて作ったらしいんだけどシロべえのとんでもないハイスペックぶりに生存の未来が輝いてる!シロべえのおかげでさっきまでの陰鬱な気分から再びやる気に満ち溢れ気分が高揚してきた!いける!俺達の未来は明るい!!

 

 

≪なんにせよこの世界の命運は俺達にかかってる!俺達がやらなければならないんだ!!失敗は許されない!必ず皆を救うんだ!!大丈夫!俺達なら出来るさ!!≫

 

俺は力強くシロべえに伝える。

 

コイツのおかげで何とかやっていけそうだからな。これから先、何があってもお互い手を取り合って助けていこうと思ってる。正直俺はシロべえの事・・相棒だと思ってるし。

 

賛同してくれる事を期待してシロべえがいる方に顔を向ける。

 

 

 

 

 

≪え?何その主人公みたいなセリフ?似合わないし恥ずかしいよ。しかも本気のドヤ顔とか超ウケるんだけどー≫

 

対してシロべえは心底馬鹿にした声で過去最高の毒を吐き、嘲笑うように尻尾で俺の後頭部をバシバシ叩いてる。

 

 

 

取りあえず地面に叩き付けてやろうかな?その後顔を踏んづけてやるのもいいかもしれない。大丈夫だろ?誰も見てないし俺しかシロべえ見えないもん。完全犯罪可能だもの。

 

確かに自分でも恥ずかしい事言ってる自覚はあったよ!でもいいじゃん!こんな時くらい!俺だってカッコつけてみたいんだよ!それなのに肩に乗ってるコイツはその願望を理解していない!精神疾患といえどまだまだ未熟だな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい!なにボーっとしてんの優依!おいてくよー?」

 

「ごめん!今いく!」

 

俺を呼ぶさやかの声で現実に戻され今は登校中という事を思い出す。はるか前方には女子トリオが立ち止まって俺を見ていたので慌てて返事をして三人がいる方へ走り出す。

 

≪やっぱり行くしかないか≫

 

≪それ以外選択肢あるのかい?≫

 

学校はもうすぐそこ。暁美ほむらに会えるのもすぐだ。

不安しかないが原作に関わらないと死亡フラグ一択だ。俺は恐怖を振り切るようにしっかりした足取りで地面を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪やっぱり怖いいいいいいいいいいいいいい!!今日休んじゃ駄目ですか!?≫

 

≪はよ校舎に入れへタレ≫

 

・・・・泣きたい。




原作第一話です!

しかし相変わらず優依ちゃんのこのグダグダ感!
覚悟決めてもすぐウジウジ悩んでます!!

何故まどか達と仲が良いのに登下校がバラバラかというとどっかのクルクルさんに捕まるからです(特に放課後)

杏子ちゃんは序盤は参戦しません!
・・これが裏目に出ないと良いのですが・・理由バレたらガチギレされそうですw

次回は暴走紫こと暁美ほむら登場回です!
優依ちゃんの胃がもつのか見物です!


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26話 中学生とは思えない眼光の美少女転校生

ついにほむほむ登場です!


「いいですか女子の皆さん!卵の焼き加減にケチつけるような男とは交際しないように!!そして男子はくれぐれもそういう大人にならないように!!」

 

朝のSHR、憂鬱な気分で早乙女先生の失恋の愚痴を聞いている。

普段なら中学生にグチんな、職務怠慢だぞゴラァと文句を言いたい所だが今日だけは歓迎です。なんなら一日オールで付き合える自信さえある。

 

 

「あちゃー今回も駄目だったかー」

 

「だね」

 

後ろのピンクとブルー、それ間違っても先生の耳に入らないようにしろよ。こういう何気ない会話でめっちゃ傷ついたりするから。傷口に塩塗りこんでるから。

 

「・・はあ」

 

他の事で気を逸らそうとしても駄目だった。どうしても落ち着かない。既に心臓バクバクで止まらないし。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、それと転校生を紹介しまーす」

 

「!!」

 

「暁美さーん!入ってきてー!」

 

き、きたああああああああああああああ!!

ついにきちゃったよこの時が!!

 

俺は前のめりで身構えて教室の外をガン見する。

 

ガラスの向こう側には優雅に歩くロング黒髪の女子がいた。

 

奴だ!間違いない!!

 

何気に年齢不詳のエンドレス中学生にして

「魔法少女まどか☆マギカ」九割九分九厘主人公!!

「暁美ほむら」だ!!!

 

「うわ、優依並みのすげー美人じゃん」

 

さやかがこっちに向かって話しかけてるみたいだがそれどころじゃない!

 

暴れるように動く心臓を抑えつけパニックにならないように密かに深呼吸を繰り返す。

 

油断するな俺!ほむらはクールに見えて実態は制御不能の暴走特急だ!その手腕はまどかの為なら世界を敵に回し悪魔になってしまうというカオス展開を披露する程だ!!

 

汗が流れるのを感じながらほむらが教室に入ってくるのを確認する。

 

 

 

「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

 

 

教壇の前までやってきて自分を紹介する気ゼロの自己紹介をした後、案の定まどかを見るほむら。なんて分かりやすいんだ。

 

「・・・・・・」

 

「・・・え!?」

 

何故かこっちを見るほむらにまどかが戸惑いの声を出してるのを後ろから聞こえた。

 

何にも知らないまどかから見れば何で睨まれてんだろうと疑問に思っているだろう。

 

大方「今度こそまどか、貴女を救ってみせる」なんて思ってんだろうなほむらは。決意するのはいいけどガン見すんのは逆効果だぞ?後ろで「わたし何かしちゃったのかな優依ちゃん?」と俺に聞いてくるんですけど。

 

それにしても原作知ってる側だからほむらを見れば同情するかもと思ってたんだけど昨日の犯罪オンパレードのせいで全くそんな感情湧いてこない。むしろあんな事やっといて澄まし顔で堂々としてるその姿に戦慄すら覚える・・!顔面の皮どんだけ厚いんだ?と問い質したい。口が裂けてもしないけど。

 

 

 

そもそも今の俺は空気!

「神原優依」なんて奴はこのクラスには存在しないのだ!!

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「優依ちゃん凄く睨まれてる気がするけど知り合いなの?」

 

「・・気のせいじゃないですかね?」

 

まどかが後ろからこっそり聞いてくるがまともに返事出来ただろうか?

 

だって現在進行形でほむらが俺の事を睨んでるんだもん。蛙を睨む蛇みたいな鋭さですよ?おかげさまで俺は涙目で震えてる。

 

 

おかしいぞ!?心なしかまどかの時より倍くらいの眼光になってる気がする!?

 

何故だ!?何故俺を睨むんだ!?まどかを見るのに邪魔にならないように机に伏せて目立たないように教科書を頭にのせていたというのに!存在を空気にしていたのに!

 

 

イレギュラーの俺を警戒してんのか?

 

やめてください!貴女が巡ってきた時間軸には俺いなかっただろうけど、貴女にとっては警戒すべき事態だろうけど、俺はただのヘタレな一般人だから!何の脅威もないモブだから!ホントに睨むの勘弁して下さい!

 

 

 

≪会ってすぐ警戒されるなんて幸先悪いね。この状態で会話なんて出来るのかい?君の滲み出る不審者オーラに感服するよ≫

 

追い打ちをかける真の悪魔の辛口コメントを聞きながら、ほむらの睨み付ける攻撃に耐えるはめになった。

 

初対面がこれって心折れるわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ暁美さん。前はどこの学校だったの?」

 

「髪すごく綺麗だねー」

 

現在、暁美ほむらはスクールカースト上位陣の女子共に包囲されている。その光景を見てると去年の事を思い出し涙が出てくるな。・・・そろそろ来るか?

 

 

「ごめんなさい。ちょっと緊張しちゃったみたいで気分悪くて・・保健室に行かせてもらえるかしら?」

 

嘘つけ!昨日は元気に窃盗とストーカーやってただろうが!さも気分悪いみたいな表情しやがって!俺の方が昨日から気分悪いわ!!ほむらのせいで!

 

 

 

「鹿目まどかさん。あなたがこのクラスの保健委員よね?連れてってもらえる?保健室」

 

「へ!?」

 

上手い事女子共から逃れたほむらはまどかの所へ行き、頼みとは名ばかりの強制連行の申し出をしていた。当然まどかは驚いてる(怖がってる)。

 

有名なシーン再現くる!!大丈夫だぞまどか!ほむらは校舎裏に呼び出すわけじゃないから!!ていうかこれほむらと話すチャンスじゃん!この機会を逃すわけにはいかない!!

 

 

 

「あ、まどか!私も体調悪いから保健室一緒に行って・・・すみません!ごめんなさい!たった今元気になりましたので保健室行かなくて大丈夫です!お邪魔してすみませんでした!!」

 

俺も体調悪い事にして付いて行こうとしたが、ほむらに睨まれた。なんていうか目が「邪魔すんな殺すぞ」と語っていた気がするので即効で頭下げて平謝りで退散する方向になってしまった。中学生であんな殺し屋みたいな目をしてるってよっぽど荒んだ生活してたんだろうな。まあ武器窃盗してる時点で予想はつくが。

 

 

 

 

≪清々しい程の変わり身の速さだね。やる気あるの?いい加減にしろよドへタレが≫

 

≪ごめんなさい!!≫

 

隣にいたシロべえがドスの効いた声で語りかけてきたので思わず謝罪する。結局俺は暴走紫に連行される涙目まどかをハンカチ振りながら見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむらside

 

これが何度目か分からなくなる程時間を繰り返した。時間遡行をすると決まっていつもの同じ病室の同じベッドから始まる。

 

また失敗してしまった。一体私は何度繰り返せばいいんだろう?

 

思わずため息が出てしまう。

 

落ち込んでいる暇はない。今度こそこの時間軸でまどかを救ってみせる!

 

決意を新たに行動を開始する。

 

 

学校に行く日よりも前に武器の調達はなんとか終わった。まどかの存在も確認した。どうやらこの時間軸のまどかはまだ契約していないみたい。契約を阻止するためにもインキュベーターと接触させないようにしなければ。

 

 

 

そして再び始まる転校生としての生活。まどかとの出会い。何度も見てきた校舎、教室、クラスメイト達。何もかも同じもの。違うのは私だけ。時間がどんどんずれていく。

 

 

 

「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

 

感傷的な考えを振り払い自己紹介をして頭を下げる。

 

「・・・え!?」

 

今度こそまどか、貴女を救ってみせる

 

 

戸惑うあの子を見つめながら心に誓った。これからまた孤独な戦いが始まる。

 

 

 

 

 

・・ん?

 

 

決意を改めて行った後に視線を戻そうとすると奇妙なものが目に入った。

 

 

 

まどかの前に座ってる子は何やってるのかしら?

 

 

 

何故机に伏せて教科書を頭から被ってるの?ここからだとかえって目立って見えるのに。

 

じっとその子を見ていると後ろの席のまどかが何か話しかけている。仲が良いみたい。ようやく少し顔を上げたので顔を確認すると驚いた。同性である私でさえ可愛いと思うくらい整った顔の女の子だった。

 

彼女は今までの時間軸で見た事が無い。おそらくイレギュラーで間違いないだろう。他の時間軸でもイレギュラーは存在していたから、そこまで警戒していないけど彼女は一体何者なの?

 

疑問が尽きずしばらくその子を見ていると何故か涙目で震え始めた。怯えてるのかしら?ただ疑問に思って見ていただけなのに・・。

 

 

 

 

まどかと二人きりになるため保健委員のあの子を体調が悪い事を理由に連れ出そうとしたとき、あのイレギュラーの女の子が話に入ってきたかと思うと急に謝罪して逃げてしまった。私としても話がしたかったし好都合だと思って彼女を見ていたのだけどいなくなってしまっては仕方ない。彼女の事はまどかに聞けばいいし、忠告を優先しなければ。

 

 

「・・あの暁美さん」

 

「ほむらでいいわ」

 

「ほむら・・ちゃん、ええと」

 

保健室に向かう廊下で私の後ろを歩くまどかが何か話そうとしどろもどろになっている。今聞いておいた方が良さそうね。

 

 

「さっき割り込んできた子と友達なの?」

 

「割り込んできた?・・ひょっとして優依ちゃん?」

 

「優依っていうの?」

 

「うん、神原優依ちゃんって言うんだ。可愛くてとっても面白いんだよ!ほむらちゃんと同じで転校生なんだ。一年生の時に転校してきたの」

 

「・・・そう」

 

『神原優依』、私と同じ転校生。

 

イレギュラーであるため気に留めておく必要はあるけどとても臆病そうだったからそこまで警戒する必要はないわね。

 

神原優依に関してはそう結論づける。

 

 

話のきっかけを掴んだのかまどかが色々話しかけてくるが今回連れ出したのは契約しないように忠告するため。私は意を決して彼女の方を振り向く。

 

 

「鹿目まどか」

 

「は、はい!」

 

「貴女は自分の人生が尊いと思う?自分の家族や友達のこと大切にしてる?」

 

「・・・え?」

 

「どうなの?」

 

「・・もちろん大切だと思ってるよ?家族も友達もみんな大好きだもん!」

 

「本当に?」

 

「ほんとだよ!」

 

初めは質問の意図が分からず戸惑っていたまどかだが、やがて胸を張って笑顔できっぱりと断言した。

 

やっぱりまどかはまどかなのね・・

 

「・・そう、もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうだなんて絶対思わない事ね。さもなければ全てを失う事になる」

 

「え?」

 

「貴女は鹿目まどかのままでいればいい。今まで通りこれからも」

 

泣きそうになる顔を隠すように背を向けて再び歩き出す。

 

「ほむらちゃん・・?」

 

背後からまどかの戸惑った声が聞こえたが振り向かない。振り向いてはいけない。そのまま泣いてしまいそうだから。

 

今度こそ、今度こそまどかを救う。

 

私はそう自分に強く言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、分からんて」

 

先ほどの有名廊下シーンのやり取りを見た感想がこれ。屋上でシロべえと一緒にシロべえクオリティ「どこでも中継テレビ」なるストーカーが愛用しそうなもので一部始終覗き見してました。犯罪じゃないです断じて。必要な事なんですよ。

 

 

それにしてもプライバシーかなぐり捨ててるガラス張りの廊下でよくあんな会話出来るな。噂ではこの学校ってどっかの刑務所モデルにしてるそうじゃないですか?俺達は囚人なのか?

 

「事情を知っていれば言ってる事を理解できるけど鹿目まどかの立場なら難しいだろうね」

 

「俺だったら何言ってんだコイツ?と思って病院紹介するかもしれない。それにしてもまどか堂々と大好きって言い切るなんてマジ天使だわ」

 

「確かにね。性能は悪魔だけどそれに目を瞑れば天使だよ。・・・優依、わざとほむらが自分を話題に出したことに触れるの避けてるね?良かったんじゃないのかい?へタレのせいで初接触失敗したけど向こうは少なからず君に興味があるみたいだ。ほむらの最優先であるまどかも君の事褒めていたし今のところは悪い印象じゃなさそうだ」

 

「・・分かってるけど怖いんですよ」

 

テレビを見ながら各々の意見を言い合う。今屋上は俺達以外誰もいないし、仮に誰か来てもシロべえは見えないので見つかる心配はない。

 

 

 

 

今までの観察結果でほむらについて分かっている事は少ない。現段階で彼女について分かっているのは欠陥コミュニケーション能力と陥没した語彙力の持ち主という事、そして時空をまたいでのぼっちという事だけだ。

 

・・・ベテランになると皆共通してぼっちになるのか?

 

昨日の犯罪も考慮するとガチの地雷案件だよなーほむらは。

 

 

・・・どうしよう・・・?

ほむらを魔法少女として見れない!

まどかという帝を奉り、夷敵インキュベーターを根絶やしするため暗躍する過激派尊王攘夷浪士にしか見えない!!

 

こんな奴にどうやって接触すればいいんだ!?

 

頭を抱えてうなだれてしまう。

 

 

 

「ツンデレ装ったヤンデレストーカーな魔法少女とか性質が悪い。まどかも大変だよなー。マジで同情するわ。知らぬが仏って本当だった」

 

「・・・・・」

 

思わず愚痴が出てきてしまう。シロべえは無言だったが聞いて欲しいだけなので構わず続ける。

 

「ほむらも少し杏子を見習ってくんないかな?だってアイツ正統派ツンデレだし。ただ一方的に執着して知らない間に病んでいくなんて怖すぎる。俺そういうとこ無関係で良かった。まあ病んでんのはほむらだけで他はまともなのが幸いかな?ヤンデレって一人でも厄介なのにこれ以上増えたらどうしようもないもん」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「シロべえ?」

 

さっきから俯いてるシロべえにさすがの俺も心配になってきて声を掛けるが無反応。どうしたんだ一体?

 

 

 

 

 

「優依」

 

「・・・なんですか?」

 

しばらく無言のままだったが何かを決心したような声を出し、ゆっくり顔をこちらに向ける。その様子には並々ならぬ決意を感じたためたじろいでしまう。

 

 

「世の中には知らない方が良い事もあるんだよ。・・・負けないでね」

 

「何が!?」

 

何故か励まされてしまった。どういう事!?

 

 

 

しかしこれだけでは終わらない。シロべえの話は続く。

 

 

 

「もういっその事、開きなおって赤と黄色みたいに紫も攻略するのはどうだい?」

 

「はあ!?」

 

最初から理解出来ないが更に何を言ってるのか理解できない。こいつ頭おかしくなったのか!?

 

「君なら成功する可能性が高い。上手くいけば生存率は上がるし彼女たちは君の言いなりだ。血生臭いバトルロワイヤルが勃発するデメリットはあるけどそれはさっさとトンズラすれば良いだけの話さ。地の果てまで追っかけてくるだろうけど逃げ切る勝算はあるから問題ない」

 

「だから何の話してんの!?」

 

訳が分からないマシンガントークだが一つだけ分かる事がある。コイツ今腹黒い事言ってるのは間違いなさそうだ。なんか道徳的にやっちゃいけない事提案してないか?

 

「理解できないなら仕方ないけど覚えておいてね?危険があるけどこれは僕たちにとって一番確実で生存率が高い提案だと思うよ。まあ君の事だから指示なんてしなくても無意識でやらかしてるだろうから後はどう手綱を握るかが課題だね」

 

 

「・・・・・」

 

インキュベーターの怖い部分を見た気がする。この事に関してはもう触れないでおいた方がいいかも。

 

「何にせよ暁美ほむらと接触出来なければ意味がない。学校にいる内に話しておこう。次はちゃんとやってよね?」

 

「・・頑張りまーす」

 

「うん、頑張ってね優依。僕の生存のために」

 

「・・・・・・」

 

 

他人事だなこの野郎

 

取りあえず早いとこほむらと話しなきゃな。・・ちゃんと話せるだろうか?

 

 

 

不安な胸中で俺は澄み渡った青空を見上げた。




ほむほむついに登場しました!
ホントに登場しただけですけどね・・
優依ちゃんがへタレ全開で会話してません

今のところほむほむは優依ちゃんにそこまでの悪い印象は持ってないです!
ここからどうなるかは優依ちゃん次第!

そしてシロべえの不気味な計画も始動する・・かもしれません!
まあ彼も生きるのに必死という事ですw



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27話 知らない宇宙人に声かけられてもついていってはいけません

お気に入り1600件ありがとうございます!
気に入ってもらえて嬉しいです!

最近はひょっとして2000件も夢じゃないと馬鹿な妄想してる自分がいます!


「あははははははは!まどか、なにそれマジで!?」

 

「酷いよさやかちゃん!笑うなんて!仁美ちゃんまで!」

 

「ふふふふ、ごめんなさい」

 

「・・・・・・・・はあ」

 

現在俺はまどか達とショッピングモール内のフードコートで駄弁り中。内容はもちろん今日転校してきた暁美ほむらのこと。まどかがほむらと夢の中で会ったことがあると言ったところさやかと仁美お嬢様がツボってしまったらしい。

 

正直俺は笑えない。因果関係もあるんだろうがほむらのまどかに対する執念のストーカーぶりが時空を超えて発揮されたとしか思えない。女の想念って怖いね。寒気してきたよ?

 

ていうか、さやか超うるさい。少しは隣で上品に笑ってる緑のお嬢様を見習え。爪の垢煎じて飲ませてもらえ。

 

 

 

・・・何で俺はここにいるんだろうか?

・・まあ、ほぼ自分のせいなんだんけどさ・・

 

 

 

屋上でのシロべえとのやり取りの後再度ほむらと接触しようとしたんだけど失敗しました。理由は周りの野次馬衆が原因です。転校生ってだけで目立つのに成績優秀、スポーツ万能の美少女とあっちゃ周りは放っておかない。休み時間の度にほむらの回りには俺を邪魔するが如く鉄壁の布陣が出来上がっており一瞬の隙もなかった。

 

くそ!何で俺はまどか強制連行の時に一緒に行かなかったんだよ!?

あの時が最初で最後にして最大のチャンスだったんじゃないのか!?

何でよりにもよってそんな時にヘタレ発動してんだよ俺は!!

シロべえにも散々なじられるし心はぼろぼろだ・・・

 

そんなこんなで気づけば放課後になっていて仕方ないのでほむら接触は諦めてかわりにまどか達のショッピングモール行きを阻止する事に変更した。しかし何故か俺は四人で今ショッピングモールど真ん中にいる。

 

いやだってしょうがないじゃないですか?押しに弱い俺が現役押せ押せ女子中学生三人を止められる訳ないじゃん。一瞬で押しに負けて、しかも俺まで一緒に行くはめになってしまった。・・・泣きたい。

 

く!こうなったらせめてまどかがキュゥべえと接触しないようにしなければ!

 

 

 

「あら、もうこんな時間。ごめんなさい、お先に失礼しますわ」

 

 

 

一人脳内で決意表明していた俺はその一言で現実に戻された。どうやらお開きのようである。お茶のお稽古があるとかで仁美お嬢様は先に帰っていった。か弱そうに見えて実は護身術使えるパワフル緑を見送った後、俺はさやかがCDショップに行きたいとほざく前に先手必勝でそのまま帰宅の流れにこじつけるため素早く口を開く。

 

 

「じゃ、私たちもそろそろ(キュゥべえと会わないうちに)帰ろっか」

 

「あ、あたしCD買いたいんだ。二人とも一緒に来てくれない?」

 

「うん、いいよ。上条君にだよね?優衣ちゃん行こっか」

 

「え?ちょっと!」

 

まどかが俺の腕を引っ張りそのままCDショップがある方角に歩きだした。

 

 

 

えええええええええええええええ!?

 

俺の意見はガン無視されて強制連行!?別に今日じゃなくても良くない!?

そっちには死亡フラグがタイムセールしてるから行きたくないんだよ!!

 

いやだあああああああああ!!行きたくないいいいいいいいいい!!

でも逃げられない!!まどかが天使の微笑みで俺の腕ガチガチに掴んでるから!!

どこからそんな力出てんの!?全然振りほどけないんだけど!?

ヤバイ!まどかが悪魔に見える!

天使のふりした悪魔に見えるううううううううう!!

 

こうして俺はピンクの悪魔によって馬鹿さやか提案のCDショップへ連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪・・・助けて≫

 

 

「え・・誰?」

 

あ、来た。

 

CDショップにて俺はシロべえクオリティ「テレパシー盗聴器」でまどかが聞こえてるであろうキュゥべえの罠であるピンクホイホイのヘルプテレパシーを盗聴している。CDショップでイヤホン付けてても違和感ないのは助かるな。

 

≪助けて・・まどか・・!!≫

 

「誰!?誰なの!?」

 

俺の目の前では一般人が見れば病院案件ものの挙動不審なまどかが周りをキョロキョロしている。

 

 

 

頭に響いた声が気になるんだろうな。まあ誰だって名指しで助け求められれば嫌でも気になるわ。

 

うむ、流石黒幕と名高いインキュベーター。今日も元気に外道してるね!

だが、残念ながら今回は俺がいる!まどかを誘い込みたいようだけどそうはいきません!

 

俺はまどかが動き出す前に素早く彼女の前に立ちふさがる。

 

「まどか!私CDどれを買うか迷ってるんだ!一緒に選んでくれない!?」

 

「優衣ちゃん!さっきの声聞こえなかった?助けてって誰かが言ってた。助けを求めてるみたい。一緒に探しに行こう!」

 

「え!?まどか!?」

 

まどかが俺の話を再びガン無視しそのまま人の腕掴んで走りだそうとする。

 

人の話全然聞いてねえじゃねえかああああああああああ!!

やめて!そいつは全く助け必要としていない奴だから!!君おびき寄せるための罠だから!

むしろ今俺が助けてほしいよ!誰かいないのか!?

 

! そうだ!いるじゃん!さやかが!俺がだめでもさやかならこの猪ピンク止められる!!幸いさやかはキュゥべえのテレパシー届いてないし、まどかがおかしいと思って俺と二人がかりで止めてくれるはず!頼りにしてるぞさやか!!

 

「さやか助けて!まどかを止めて!」

 

俺は期待をこめてさやかの方に振り向き彼女に助けを求めた。

 

 

 

 

 

「~~~~♪」

 

頼みのさやかは俺達の様子も俺の助けを呼ぶ声にも気づかず暢気にヘッドフォンで音楽を楽しんでた。

 

 

さやかああああああああああああああああ!!!

お願い気づいて!!せめてこっち見て!!

君の親友がまさに今破滅の道に足を踏み入れようとしてるよ!?こんな時に助けなくてどうすんだよおい!?暢気に自分の世界に浸ってんじゃねえええええええ!!

 

 

結局さやかは最後まで気づかず、俺はまどかに引きずられる形であの修羅場に向かうはめになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「声が近くなってきたね。どこにいるんだろう?」

 

「それより早くここから出ませんかまどかさん?」

 

「立ち入り禁止」って書いてあるのにこの娘どんどん中に入っていくんですけど。肝据わりすぎじゃね?俺なんてこの薄暗い空間にびびりまくってんのに。普段はおどおどしてるけどやっぱりあのかっこいいまどかママの娘さんだなあと再認識させられるわ。

 

少し奥の方に進んでいくとホラーのように天井からずり落ちてきたキュゥべえがボロボロ(笑)で現れた!

 

「大丈夫!?貴方が私を呼んだの?」

 

「まどか・・」

 

「・・・・・うわぁ」

 

まどかが慌ててキュゥべえを抱き怪我の具合を心配している。ちなみに俺はキュゥべえの狡猾さにドン引きしている。ほむらに襲われるというピンチをまどか接触というチャンスに変え、ついでにほむらを可愛いマスコットを攻撃する悪い奴認定までさせるという計算高さ。

 

転んでもタダでは起き上がらない。それがこのインキュベーター!!

君たちのその定評ある腹黒さはもはや軽蔑を通り越して尊敬すら俺は抱き始めているよ!!

 

 

 

ガシャン!!

 

 

「あ」

 

鎖が落ちる音がしたので顔をあげるとほむらいました。

 

おお!魔法少女姿!感動するなー。

そういやまともに魔法少女の衣装見んのマミちゃんくらいだったからちょっぴり嬉しい!でもタイミングが嬉しくない!やっぱり来たか!

 

おいほむら、あの白い悪魔さっさと根絶やしにしといてくれよ。職務怠慢だぞ。

つうかとんでもないタイミングで出てきたな。完全に悪役ポジの登場シーンだったぞ。

 

「そいつから離れて」

 

一瞬だけほむらが俺の方を見たがすぐにまどかと瀕死(笑)のインキュベーターに視線を戻しゆっくり近づいていく。

 

「だって・・この子怪我してる!駄目だよ!酷いことしないで!」

 

「貴女達には関係ない」

 

白い死体もどきをかばうまどかと淡々と悪役演技中のほむら。重い空気が流れている。

 

 

 

・・正直俺は帰りたいです。こんなドシリアスな雰囲気の上に完全空気扱いだから尚更。

 

いや・・むしろこれはチャンスじゃないか!?

今ならほむらと話ができる!まどかも誤解が解ける!インキュベーターの悪質さも理解してもらえる!!おお!一石二鳥どころか一石三鳥じゃないか!!

 

よし!さっそく話しかけてみよう!

 

「あの・・」

 

ほむらに近づき話しかけるも一瞬で視界が真っ白になってしまった。

 

「優衣こっち!逃げるよ!!」

 

「さやか!?」

 

さっきまで暢気に音楽聴いていたさやかが今は俺の腕を掴み走っている。どうやらさっきの白いのは消火器の煙だったようだ。・・いやそれよりも

 

さやかあああああああああああああ!!

君ホント間が悪いよ!!助け求めた肝心な時はガン無視したくせに邪魔しないでほしい時は助けに入りやがって!!

何なんだ君は!?邪魔しに来たの!?

間の悪さって伝染するものなのか!?

ていうか、ほむらは!?

 

 

慌てて後ろを振り向いてみるとほむらは使い魔と交戦中。

 

ヤバイ!結界こっちに広がってきてる!

ほむら!早く切り上げて追ってきて下さい!!マミちゃんよりも早く!!

 

 

「何なんだよあいつ!今度はコスプレ通り魔かよ!?」

 

隣で青がギャーギャー騒いでるがそれどころじゃねええええええええええええええええええ!!!

 

まずい!結界に囲まれた!逃げ切れなかった!!

 

ほむら!!Hurry up!!!

君の大事なお友達のまどかがピンチだ!早く助けに来い!あとついでに俺とさやかも助けてくれ!

 

「あ、あれ出口は?どこよここ!?」

 

「道が変わってる!?」

 

ようやく周りの景色がおかしい事に気付いたらしい二人。幸せだね。俺なんて最初から知ってるから怖くて涙止まらないんですけど・・。

 

「大丈夫だって優依!ちょっと迷子になっちゃっただけだって!」

 

「泣かないで優依ちゃん。ちゃんと帰れるから」

 

「うん・・。(生きて)帰れるよね?」

 

女の子に慰められる俺って情けない。

でも涙が溢れてくるんですよ!

 

「何これ!?」

 

さやかが叫んだので周りを見てみると、綿菓子に髭が生えた連中が俺達を囲んでた。

 

「薔薇園の魔女」の使い魔だ!

名前知らねえ!名前なんてったっけ?

くそ!こんな危険な時にインスピレーションが働いて俺の脳内ではこいつらを「コットン100」と勝手に命名してしまってる!

 

なにやってんの俺!?

 

「冗談だよね?あたし悪い夢でも見てるんだよね!?」

 

さやかが俺とまどかを抱き締めながら現実逃避してる!俺も現実逃避したいわ!

 

このさいほむらじゃなくてもいい!

マミちゃあああああああん!助けてええええええええ!!

 

俺の心の叫びと同時に周りにいた使い魔が消し飛んだ。

 

「あ、あれ?」

 

「これは?」

 

「・・・まさか」

 

 

 

「危なかったわね。でももう大丈夫」

 

「マミちゃん!」

 

優雅な動作でソウルジェム片手にこちらに歩いてくる。

 

やっぱりマミちゃん来たああああああ!!

 

ほむらテメエ何やってんだ!普段からあんだけまどか救うって言ってる癖に少しは有言実行しろよ!こんな時ぐらい間に合え!これじゃ白いGの思うツボだろうが!

 

「あら・・優依ちゃんどうしてここにいるの?今日は用事があるから行けないって私と買い物に行くの断ったでしょ?ひょっとしてお友達と遊びに行くために断ったのかしら?優依ちゃんにとって私は友達より軽い存在なの?」

 

「えーと・・」

 

笑顔のはずなのに凄い迫力があるのは何ででしょうか?冷や汗が止まらない。言葉も刺々しいし。

 

何か怒ってません!?

 

いや確かにマミちゃんから今日は一緒に買い物行こうと誘われたけどまどか達のキュゥべえ接触を阻止しなければならないから断った。

 

さもなければ地球規模の破滅が待ってるからな!マミちゃんと会ってしまったら契約待ったなしになるから阻止したかったのに!

 

・・・あれ?マミちゃん足止めすれば良かったんじゃね?そうすればあのふざけた魔法少女体験コースなんて実現しなかったかもしれない。うわっ選択ミスした!

 

それにしてもえらい怒ってるなーマミちゃん。空気がピリピリしてる。だがこの怒りは何となく分かる!

 

例えるなら彼女に別の女とデートしてたの咎められてるような感じの怒り方なんですけど!?何で!?

 

「キュゥべえを助けてくれたみたいね。ありがとう。その子は私の友達なの。優依ちゃんのお友達だから二年生?」

 

「はい・・あの私この子に呼ばれて・・」

 

俺がしどろもどろになってる間にマミちゃんが視線をキュゥべえに移し、まどかに話しかける。

 

実はシロべえのリンクが切られてからマミちゃんの家には別のキュウべえがいる。俺とシロべえがマミちゃん宅に行くと入れ違いでいなくなるが。

 

別人が知り合いに成り済ましてるというホラー展開が身近な所で起こってるのでヒヤッとする毎日です。

 

「あの・・貴女は?」

 

「そうそう自己紹介しないとね。後は優依ちゃんから納得のいく説明もしてもらわないと・・でもその前にちょっと一仕事片付けちゃっていいかしら!」

 

俺の尋問が何気に確定宣言された後、マミちゃんは魔法少女に変身し、空高く舞い上がり大量のマスケット銃を召喚させる。

 

リボン銃の火花の嵐が降り注がれ被害者のコットン100達に命中する。きっと名前通り燃えやすいだろう。

 

それにしても観客が三人いるせいかマミちゃんやる気も火力も三倍仕様になっているようだ。あと俺にハブられた腹いせとか・・ないよね?

 

「すごい・・」

 

そりゃすごいですよまどかさん。いつもよりド派手なんですから。

 

使い魔がいなくなって空間が歪み元の場所に戻る。

 

それと同時に大遅刻しやがったほむらが荷物の上に舞い降りた。

 

何やってたんだ!完全に手遅れなんですけど!?マミちゃんがいなかったら俺達死んでたんですけど!?

 

 

「魔女は逃げたわ。仕留めたいならすぐ追いかけなさい。今回は貴女に譲ってあげる」

 

俺達を守るようにマミちゃんが前に立つ。

 

「私が用があるのは・・」

 

そう告げてほむらはキュゥべえを見る。

 

おい!完全に誤解しか生まないからやめなさい!ただでさえ君は壊滅したコミュニケーション能力なのに!

 

「飲み込みが悪いわね。見逃してあげるって言ってるの」

 

ほらあ!キュゥべえを友達だと思ってるマミちゃんが殺気立つじゃんか!何してんの君は!?

 

「・・・・・・」

 

「お互い余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」

 

マミちゃんがトラブルを呼び寄せそうな喧嘩腰で挑発する。

 

「・・・・・・・」

 

いや、マミちゃんあんた穏便に済ませたいのか喧嘩売ってんのかどっちなんだよ!?

 

介入しようかと思ったけど無理!こんな一触即発の殺伐とした雰囲気に入り込むなんて自殺行為!ましてや相手は二人とも百戦錬磨のベテラン魔法少女。割り込んだら最後、一瞬で俺が塵と化すわ!

 

しばらくの沈黙のあとほむらは悔しそうな顔を少しだけ見せ、背中向けて去ってしまった。

もう少し粘れや。マジでキュゥべえの思うツボじゃん!

 

「「はあ」」

 

まどかとさやかが安堵の表情で息を吐いてる。

 

あーこのあとマミちゃんの家で魔法少女の説明かあ。ほむらってその間どうしてるんだろう?

 

 

 

は!そうだ!ほむらだ!

この時なら周りに誰もいないし話せるチャンスじゃん!

 

マミちゃん宅に行ったってどうせあのキュゥべえに上手いこと言いくるめられるだろうから今の内にほむらと協力関係になっておこう!別に俺がこの我の強い三人の説得とか無理って思ってない!ないったらない!

 

そうと決まれば善は急げだ!ほむらを探さなくては!

 

 

「ごめんマミちゃん!ちょっと用事思い出したから行くわ!後で家によるからまどかとさやかよろしくね!」

 

「え!?待って優依ちゃん!」

 

「優依ちゃんどうしたの!?」

 

「ちょっと訳分かんないんだけどー!」

 

まどかとさやかの事はマミちゃんに押し付け、クルクルさんの制止を振り切り俺はほむらが去った方向へ走り出す。

 

暴走紫さんとちゃんと話せますように!




優依ちゃんやる事全てことごとく失敗!
まあ予想はついてるでしょうけども!

次回こそほむほむと本当の接触になります!
果たして上手くいくでしょうか!?


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28話 紫さん♪お話しましょ♪

誘惑に負けて現在番外編を執筆中!

近日投稿予定!

ちなみに内容は一切本編と関わりありません!


ほむらside

 

私は苛立たしげに立ち入り禁止区域を歩く。思い出すのは先ほどの事だ。

 

 

 

しくじってしまった。

インキュベーターがまどかと接触しないように先回りして奴らを始末したのが裏目に出た。

襲撃を逆手に取られてまどかに助けを求めて呼び寄せてしまうなんて。

しかも私がか弱い小動物を襲っているように印象づけられてしまった。

これであの娘の中では私は悪者認定。

 

相変わらず卑怯な連中ね・・

 

 

思わず舌打ちしてしまう。

苛立ちが消えずに立ち止まり思わず握りこぶしを作る。

 

一緒にいた美樹さやかにも警戒されてしまっている。

これではまどかと容易に話すどころか近づけない。

まどかだけならともかく美樹さやかがいる以上私が近づけば邪魔してくるだろう。

 

 

更に悪い事に突如現れた魔女の結界で足止めを食らってる間に巴マミとも接触させてしまった。

孤独を恐れる彼女は間違いなくまどかを魔法少女に勧誘するだろう。

 

結局私は巴マミに追い払われる形でまどかが抱くインキュベーターを始末出来ないまま退散するはめになった。

 

あいつらの思惑通りに事が進んでしまっている

 

美樹さやかは恐らく契約する。そしてほぼ確実に魔女化する。

今までの時間軸でも例外が無かったからこの時間軸でも同じだろう。

親友のそんな姿をあの娘に見せたくはないが私一人で対応出来るかどうか・・

まどかが契約してしまえばお終いだ。これだけは何としても阻止しなければ。

 

 

そしてキュゥべえを友達だと思っている巴マミは奴らを攻撃していた私を許さない。

もはや話も聞いてもらえないだろう。

 

おそらくこの時間軸でも巴マミと美樹さやかはワルプルギスの夜が来る前に死んでしまう。

戦力が欲しい私としては手痛いが仕方がない。

最優先はまどかだ。

 

・・やはりこの時間軸でも佐倉杏子に協力を求めるしかなさそうね。

 

どの時間軸の彼女も粗暴で利己的だが利害が一致すれば共闘出来る。よほどのイレギュラーが発生しない限りは大丈夫なはず。

 

「・・はあ」

 

ため息が出てしまう。

 

 

 

転校初日でここまで上手くいかない時間軸は初めてだ。なにもかも上手くいかない。

 

 

「それでも私は必ずまどかを救う」

 

たとえ一人でワルプルギスの夜と戦う事になっても

 

周りが全て敵になっても

 

 

不安になる考えを押しこめ再び歩き出す。そしてふと思い出す。

 

 

 

 

・・・そういえば「神原優依」はどうなのだろう?

 

この世界のイレギュラー。とても臆病そうな性格で脅威にはならないだろうけど、まどかの友達で美樹さやかとも親しい様子だ。彼女にもインキュベーターが見えていた。魔法少女の素質があるのは間違いないがどう考えているのだろう。

 

やはり契約するのだろうか?

 

しかし少し観察した時の様子に疑問がある。

 

学校にいる間、私に話しかけようとしていた。周りに人だかりが出来て一言話すどころか近づくことすら出来ていなかったけど。

 

さっきのインキュベーターを襲うというどう見ても私に悪い印象しか抱かない場面でも彼女は私に話しかけようとしていた。結局それは美樹さやかのせいで邪魔されてしまったが。

 

 

どうやら私に話があるみたい。それはこちらとしても好都合だ。

もし私が彼女を通して魔法少女の真実をまどかに伝える事が出来れば契約を考えないかもしれない。友達の話なら聞く可能性が高い。どこまで私の話を信じてもらえるか分からないがそれは彼女次第。

 

ひょっとしたら「神原優依」は私の協力者になるかもしれない。

直接会って話してみる価値はある。

 

 

 

「おーい!暁美さーん!」

 

考えがまとまると同時に誰かが私を呼ぶ声がする。声のする方へ振り向くと丁度考えていた「神原優依」がこちらに走ってきているのが視界に入った。わざわざあの後で私を探して呼び止めるにはそれなりの理由があるはず。内容にもよるがここで話し合って協力関係を築ければ御の字だ。

 

「・・・何の用かしら?」

 

神原優依が私の元にたどり着いたので彼女が口を開くのを待つ。

 

こんな言い方しか出来ない自分に憤りを感じる。彼女の事だから怖がってないといいけど。

 

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

神原優依は何も喋らず顔を俯かせて私を見ないようにしている。よく見ると身体が震えているようだ。おそらく先程の恐怖が蘇ってきたのだろう。

 

・・いえ、ひょっとしたら私の事が怖いのかもしれない。

 

 

だったら何故追ってきたの?

怖がるぐらいなら追ってこないで

私を勝手に期待させないで欲しかったのに・・

 

理不尽な怒りを感じながら神原優依を睨む。こんな状態では話なんて出来ないだろう。

・・・仕方がない。諦めた方がよさそうね・・・

 

 

「用がないなら私は行くわよ」

 

少し胸が痛むのを感じながら彼女にそう告げ背中を向けて歩き出す。

 

馬鹿ね私は。

 

ひょっとしたら・・なんて無駄に期待するなんて

 

内心で自嘲し、今後はなにも期待しないように戒めながら出口に向かった。

 

 

 

 

 

「ああああ!もう!行っちゃうじゃないか!君はホントにどうしようもないね!こんな時までポンコツなんて!待ってくれ暁美ほむら!僕らは君と話がしたいんだ!少しだけ話を聞いてくれないかな!?」

 

「!?」

 

 

この声を忘れる訳がない・・

間違えるはずがない・・これは憎いインキュベーターの声!

何故私を呼んだの?どうして?どこから聞こえた?

・・私の後ろから聞こえなかった?

 

 

慌てて後ろを振り返ると神原優依の肩に憎たらしい白い生命体がのっていた。

 

 

 

 

どうして神原優依といるの!?彼女は魔法少女だったの!?

 

ッ!混乱してる場合じゃない!時間を停止させて少し冷静に様子を見なければ!

 

 

カチリ

 

急いで時間停止の魔法を発動させ全ての時間を止めた。

これで少しは・・

 

 

 

「え・・・?」

 

自分の目を疑った。確かに私は時間停止をしたはず!

 

 

なのにどうして神原優依は動けるの?

どうして彼女の時間は止まらないの?

分からない・・何もかも分からない・・

 

 

彼女は一体何者なの・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・はあ・・死ぬ」

 

マミちゃん達と別れた後、暁美ほむらを追ってひたすら走る俺。はっきり言って瀕死に近いです。運動神経皆無な上にこんなに長い時間走る事もなかったので息が絶え絶えで足がコンパス棒のようだ。

 

まさか既に去った後じゃないよね?

勘弁してくれよ!?無駄骨とか俺泣くぞ!?

 

 

「あ」

 

はるか前方に逆V字のロング黒髪を発見!

間違いない!暁美ほむらだ!魔法少女のままでおっかないが仕方ない!

 

 

「おーい!暁美さーん!」

 

全ての体力を使い、声を張り上げてほむらを呼ぶ。

 

 

 

「げほ!」

 

息を詰まらせ咳が出てきて顔を伏せる。

 

う!きっつ!息出来ねえ!叫ぶんじゃなかったよ・・でもこうでもせんと俺に気づかずじまいだろうしな。

 

ていうかさっきの声届いたか?

 

若干ぼやけた視界で顔を上げるとほむらが俺に気づいたのかこちらに振り向き立ち止まっている。

 

おお!やったぞ俺!ほむらに届いてた!後はたどり着くのみ!

頑張れ俺!ゴールはもうすぐだ!

 

何とかほむらの前にたどり着くも既に体力の限界で顔を上げる気力すらない。身体を酷使したからか震えて痙攣してるっぽい。

 

「・・・何の用かしら?」

 

「ヒューヒュー」

 

あの・・用件を聞かれるのはもっともですが既に俺色々限界来てて声出すどころか呼吸音すら怪しいんでちょっと待っててもらえませんか?

やっぱり無茶するもんじゃないな。ほむらを追って捕まえるも話せないんじゃ本末転倒にも程がある。

 

 

「用がないなら私は行くわよ」

 

体力が戻らない内にほむらが痺れを切らしたのかスパッと断言され背中を向けて再び歩き出してた。

 

 

 

ちょっと待ってえええええええええええええ!!

あともう少し!あともう少しで体力戻るから!ちょっと待って下さい!

せめて声が出るまでお待ち下さい!!

 

俺の心の叫びは無視され、ほむらとの距離は無情にも遠くなっていく。

 

 

 

「ああああ!もう!行っちゃうじゃないか!君はホントにどうしようもないね!こんな時までポンコツなんて!待ってくれ暁美ほむら!僕らは君と話がしたいんだ!少しだけ話を聞いてくれないかな!?」

 

醜態さらす俺を見るのに限界が来たのだろう。今まで空気と化してたシロべえがほむらに向かって叫んだ。

インキュベーターと魔女が怖くて存在消してた奴が何言ってんだか。

 

代わりに声を掛けてくれるのは正直ありがたいんだけど相手が悪すぎる!

よりにもよってあの「暁美ほむら」さんにお前が声かけるか!?

QBクリーナーと名高い人ですよ!?分かってんですか!?

 

 

「!?」

 

案の定こちらを振り向き、俺の肩にのっているシロべえを確認したほむらは警戒し、即座にお得意の時間停止を発動させた。予想範囲だ。

 

カチリ

 

 

「え・・・?」

 

時間が止まり周りの景色は時を止めたが俺たちの時間はそのまま動いている。

それが信じられないのかほむらは呆然と俺達を見つめ、そして俺達はそんなほむらの様子を見て成功を確信した。

 

 

「やったぞシロべえ!成功だ!やれば出来るじゃないか!よ!天才!」

 

「ふふふ、君に注文を受けた時は滅茶苦茶だと思ったけど僕にかかればこんなものさ!もっと褒めてくれていいんだよ?」

 

ガチャリ

 

「「嫌あああああああああ!!」」

 

 

 

 

 

今何が起こったかというと

 

 

 

ほむら時間停止発動させる

    ↓

俺とシロべえの時間が停止せず、ほむら驚く

    ↓

ほむらの様子を見て俺とシロべえ手を取り合って喜ぶ

    ↓

ほむら銃を突きつける

    ↓

俺とシロべえ悲鳴をあげて抱き合う←今ココ

 

 

 

こんな流れになっている。俺ピンチ!!

 

 

「答えなさい!どうして動けるのよ!?貴女は魔法少女なの!?」

 

混乱しているのかクールな仮面が剥がれ声を荒げて問い詰めてくる。

 

顔超おっかない!これ一歩間違ったら撃たれそうなんですけど!?

駄目だ!焦るな俺!ここで俺まで混乱したら収集つかなくなるぞ!

思い出せ!パニックになった相手との交渉の基本は冷静に対応する事だ!

やるんだ!ほむらを落ち着かせなければ!

 

 

 

俺は両手を上げてほむらに話かける。

 

「おおおおお落ち着いて話合おう!まずおれ・・私は一般人です!魔法少女じゃないです!どうして動けるかは私の肩にのっている白い宇宙人さんが知っているので彼に聞いて下さい!」

 

「!? 裏切ったね優依!薄情者!違うんだよ暁美ほむら!確かに君の時間停止を僕らには無効になるようにしたけどそのアイディアはコイツが出したから!僕は作っただけだから!黒幕は優依だよ!」

 

 

 

ほむらの前でお互い相手をなすり合いの殴り合いを始めたが裏では

 

 

≪おいシロべえ!結界とか盾とか何でもいいから身を守るもの無いのかよ!?このままじゃ殺されちゃうよ俺ら!≫

 

≪無いよ!ほむらの時間停止対策にほとんど費やしてからそこまで気が回らなかったの!≫

 

≪何で気が回らないんだよ!?一番大事な事じゃん!確かにほむらに時間停止されてその間に攻撃されたり逃げられたりするから厄介だけど発動させないようにすれば良かったんじゃないのか?何で俺らが時間停止の中で動けるようにするなんてややこしい事したんだよ!?≫

 

≪そこが僕のこだわりのポイントさ!いかに暁美ほむらと同様時間が停止してる中、自由に動けるように調整するのは大変だった!だけど苦労した分上手くいったよ!≫

 

≪そんな妙な事にこだわってるから身を守るっていう一番大事な事が抜けるんだろうが!≫

 

 

こんなやり取りがテレパシーで行われていた。

 

 

シロべえの変なこだわりのせいで生命の危機に瀕してるなんて・・すごく嫌だ。

こんなキャラじゃなかったのに・・ひょっとして俺のポンコツ移ったのか!?

 

 

 

「うるさい!!」

 

「「ひいいいいいいいいいいいいい!!」」

 

俺達のくだらないやり取りもほむらの一喝で止まった。

だってさっきはハンドガンだったのに今はマシンガンに切り替えて突き付けてくれば誰だって止まる思う。

下手すりゃ蜂の巣ですもん!

 

 

「どういう事よ?」

 

「どういう事と申されましても・・」

 

単純に時間停止厄介だなー、何とかなんねえかなーと冗談半分でシロべえに対策をお願いしただけだ。ほむらが考えてそうな大それた理由なんてない。シロべえは文句言ってたけど成功してるあたり優秀だと思う。まあ予想の斜め下の効果で攻撃対策は何もしていないという欠陥付きだが。

 

コイツもポンコツになってきたな・・

 

心で毒づいたのに気づいたのかシロべえがほむらの見えない位置からパンチしてきて痛い。

 

 

 

て、そんな馬鹿な事考えてる場合じゃない!一刻も早くほむらの警戒を解かなければヤバい!俺達の命が!!

 

 

 

「あの暁美さん・・私達は怪しくないですよ?」

 

「時間停止が効かず自由に動いてる上にインキュベーターを連れた怪しさ満点の人が怪しくないと言っても貴女は信用出来るの?」

 

「ですよねー・・」

 

うん、怪しすぎるよね俺ら。逆の立場だったら絶対信用しないもん。

 

 

 

「・・どうしてインキュベーターを連れているの?」

 

「ひいい!」

 

ほむらがシロべえを睨みながら質問してくる。

Wow!凄い眼力!シロべえビビりまくってるよ!俺も怖い!

流石「インキュベーターが嫌いな魔法少女第一位」!すごい憎みっぷり!

 

 

・・冗談はともかくどうしよう?

シロべえの話は長くなるしいっその事俺について話す?

でもこんな状況で絶対信じてくれなさそうだ。

それよりも俺達は生きて帰れるかどうかさえ怪しいぞ・・

 

 

 

「・・答えられないの?」

 

どう答えるか頭を捻っているとほむらには黙秘と思われたらしく、とても苛立った様子の声で聞いてくる。

ほむらの奴とても不穏で物騒な雰囲気だ。本気でヤバいかもしれない!

 

 

「言いたくないなら構わないわ。力ずくで言わせればいいだけだもの。・・貴方達が何者でどういう目的でここにいるのか全て話してもらうわよ!」

 

 

ジャキっと不吉な音を出してほむらは俺の額に黒光りしてるマシンガンを向け、引き金を引こうとしている。

 

冗談だと思いたい!でもほむらの奴本気だ!

だって目がマジだもの!

何が何でも吐いてもらうって書いてあるんだもの!

ヤベえ!やっぱりコイツ暴走紫だ!

 

 

 

≪優依!早く逃げないと!≫

 

 

 

シロべえが叫ぶが今更逃げられない!動いたところで撃たれるし、何より足が竦んで動いてくれない!

 

≪優依危ない!≫

 

俺は覚悟を決めて目をギュッと瞑り来るであろう痛みに備える。

だが聞こえたのは発砲音ではなく代わりにガシャンと何かが壊れる音だったので驚いて目を開ける。

 

 

視界に映ったのは驚きの表情で固まった暁美ほむらと彼女の前に持っていたであろうマシンガンが真っ二つになって地面に落ちてた光景。どうやらさっきの音はマシンガンが落ちた音みたいだ。

 

 

「・・・何をしたの?」

 

「・・何が?」

 

「ふざけないで!!」

 

俺も何が起こったのか分かってないから答えようがないのにほむらは怒る怒る。それはもう目くじら立てまくる程。

 

 

 

「・・・チッ。訳が分からないから一先ず退散させてもらうわ。またどこから攻撃されるか分からないし。今度私に接触しようとしたら容赦しない。そしてまどかに危害を加えるようなら私は貴女を殺すわ。それだけは覚えておきなさい」

 

「はあ・・」

 

キャラブレブレな舌打ちからのブレないまどか至上主義宣言をされ、曖昧な返事をしてしまう。

脅しじゃなくて本気で実行してくるのがほむらの恐ろしいところだ。今後はもっと慎重にしないと!

 

 

「・・・・」

 

背を向けて去ろうとするほむらが一度だけ悲しそうな表情で俺の方を見て姿を消す。

喋んなくていいからせめて壊れたマシンガンは回収してくださいよ!どうすんのよこれ!?

 

 

 

ほむらがいなくなった後、俺達はマシンガンの残骸に近づいて様子を見る。

 

「シロべえ、さっき何があったか見た?」

 

「分からない。優依の後ろに隠れてたからちゃんと見えなかったけど何かが横切ったと思ったら暁美ほむらが持っていた銃が壊れてたんだ。早すぎて見えなかったよ」

 

さり気なく俺を盾にした発言かますシロべえにも分からないようだ。

 

「まあ助かったから良かったんだけどなんだったんだろう一体?俺怖くて目つぶってから見てないし、故障じゃなさそうだな」

 

「この見事なまでに真っ二つな破損状態を見ると明らかに人為的だから事故でも無さそうだ。ベテランの魔法少女である暁美ほむらが対応できないなんて余程の事だよ。今の所考えられるのは他の魔法少女の仕業かな?心当たりはあるけど今は見滝原にいないはずだし、仮にいたとしても僕なら分かる。それに彼女の性格を考慮するとこんな隠密行動を起こさず、姿を見せるはずなんだけど・・理解できない。んー訳が分からないなー」

 

シロべえは冷静に分析しているが正直付いていけないので別の話題に変える。

 

 

「・・俺は最初から訳が分からないんですけど。何でほむらに声掛けたのさ?絶対警戒されるの分かってたのに」

 

「ああでもしなきゃ止まってくれなかったでしょ!君のエンスト寸前の体力のせいでまたほむらと話すチャンスを逃すところだったんだから!悪手だけどこれで向こうは嫌でも僕らを意識したはず!危険度は跳ね上がったけどまだ何とかなるよ!優依!早く紫を籠絡してよね!じゃないと僕殺されちゃうから!」

 

「何言ってんだお前は!おかげでさっきは撃たれそうになったんだぞ!?ほぼお前のせいで!次会ったら今度こそKILLされちゃうよ俺は!!」

 

「それを何とかするのが君の仕事でしょ!?」

 

 

しばらくこんな不毛な喧嘩が続いたが事実は変わらない。

俺達は暁美ほむらとの初接触を失敗で終わらせてしまった。

 

そもそもまともに話してないのに印象最悪なんですけど・・

 

 

 

「!」

 

「どうしたの優依?」

 

突然俺に天啓が降りてきた。まだ希望がある!

 

「そうだ!今からマミちゃんの所に行って説得すればいいんだ!ひょっとしたらまだ挽回できるかも!?ちょっと行ってくる!」

 

「待って優依!」

 

シロべえの静止を振り切り俺はマミちゃんの家に走る。

 

間に合ってくれよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあはあはあ・・」

 

ピンポーン

 

チャイムを鳴らし扉が開くのを待つ。

幸いまだ夕方だ。まどか達はまだ部屋にいるかも

 

 

ガチャ

 

 

「はーい!あ!優依ちゃんいらっしゃい!待ってたのよ?用事は終わったの?」

 

扉が開いてマミちゃんが出てきた。俺の姿を確認すると嬉しそうな笑顔になる。

 

 

「うん、ついさっき終わった。まどか達いる?」

 

マミちゃんの身体で遮られた部屋にピンクとブルーがいないか目で動かして探すがこちらからは確認出来ない。

 

頼む!まだいると言ってくれ!じゃないとここまで走った意味が!

 

祈るようにマミちゃんを見る。見つめられたマミちゃんはとっても嬉しそうな表情で口を開き運命を告げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鹿目さんと美樹さんならとっくに帰ったわよ?それより聞いて!明日あの娘達を連れて魔法少女体験コースをする事にしたの!優依ちゃんもせっかくだから一緒に参加しましょうね!」

 

 

運命は残酷だった

 

 

・・・あれ?おかしいな?目から液体流れてる・・・?

・・・しょっぱいな・・・これ・・・

 

 




大半の方のご想像通り失敗しました!

しかもほむらから敵視されるおまけ付き!


初日で早くも心折れた優依ちゃんは果たして精神が持つのでしょうか!?

次回は気分によって本編か番外編かどちらかを投稿する予定です!


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29話 好奇心は精神を攻撃する

先に本編を投稿しなさいというお告げがあったので番外編はまた後程!


爽やかな朝、柔らかい太陽の光が俺を暖かく照らしてくれる。しかし俺の心は冷ややかな暴風が吹き荒れ暗くどんよりな気分から抜け出せない。

 

昨日は散々だった。まどか達をインキュベーターに接触させてしまうし、ほむら接触は失敗しおまけに警戒されあやうく撃たれそうになった。とどめに魔法少女体験コース開催決定が告知され俺も強制参加を言い渡された。

 

しかもその後マミちゃんには散々尋問された。内容は「何故俺はマミちゃんの誘いを断ったのか?」「用事とは一体なんだったのか?」「ほむらとは接触していないか」などの三点を中心に聞いてきた。何とかはぐらかす事は出来たがまだ疑っているのは間違いない。

 

執念と思える程しつこく聞いてきたからな!超怖かったよ!

 

ようやく解放してくれた時は既にお空は真っ暗。マミちゃんは泊まっていけと言ったがあんな迫力ある笑顔の人がいる所で寝れるわけないのでお断りした。

 

そういえば、ほむらに銃突き付けられた時の謎の出来事。シロべえが回収して調べてくれたんだけどやっぱり人為的な何かに真っ二つにされてんだって。しかも切り口からして相当の手練れらしい。何それ怖い。いつ自分の首もああなるか分からないんですけど・・

 

「はあ・・」

 

初日でお腹いっぱいです。二、三回は心折れた気がする。

一日でここまで追いつめられるなんて、さすが絶望の代名詞

「魔法少女まどか☆マギカ」だ!!

 

既に俺はギブアップ寸前です!

 

 

 

 

今日は魔法少女体験コースの日。考え事がしたいので今回は一人で登校しているが物凄く足取りが重い。

今の所、特に死亡フラグは無いんだろうけど油断できない。このままいけば黄色さんはマミっちゃうのでどうにかせねば。問題はそれだけではなく山積みで立ちはだかっているので頭だけじゃなく胃も含めて全身が痛い。目下の問題は

 

「ほむらとどうやって接触すればいいんだ・・?」

 

昨日の出来事でめっちゃ警戒され、次接触したら容赦しないと殺害宣言に近い事言われてるので接触しづらい。

 

オワタとしか思えない!まさに絶望!

 

 

 

 

 

 

「禁断の恋なんていけませんわああああああ!」

 

 

「?」

 

憂鬱な考え事を遮断するように後ろから変な叫び声が聞こえて振り返るも既にそれは俺の横を通過した後でそれによって発生した風で髪をかき上げられた状態だった。あまりの速さに何が起こったか分からない。

 

 

「???」

 

前を見てみるも既に何も無くただ土煙が舞っていた。

 

 

何だったんだ一体?

 

 

 

「待ってー仁美ちゃん!」

 

「おーい仁美!鞄忘れてるぞー!ん?あれ・・優依?」

 

「え?ホントだ!優依ちゃんおはよう!」

 

「おーす優依!昨日はどうしたのさ?」

 

朝から元気爆発してる声が後ろから聞こえてきたが見んでも分かる。件のカラフルな連中だ。

 

という事はさっき俺の横を音速で駆け抜けたのは仁美お嬢様だな。護身術の事といい実は素の身体能力はトップクラスだったりすんじゃないのか?もし魔法少女になったら案外格闘系だったりしてな・・?

 

 

くだらない推測は取りあえず置いといてこちらに近づいてきている問題児二人に挨拶するため振り返る。

 

「おはよう!二人とも!?」

 

悪夢の光景に思わず挨拶が途中で止まる。

 

ピンクの悪魔が白い悪魔肩にのっけて笑顔で手振って俺に近づいてきてるうううううううううう!!?

 

おいまどか!肩に寄生してる奴捨てろ!

そいつろくでもないもんだから!

拾った場所に捨ててきなさい!

ほむらに見つかる前に!!

 

叫びは無情にも届かず二人は俺の目の前で立ち止まった。二人してとっても可愛い笑顔のはずなのに今は悪魔の笑顔にしか見えない!

 

「昨日は突然帰っちゃって驚いたんだからね?マミさんから聞いたんだけどあんた随分前から魔法少女の事知ってたんだって?水臭いわーそういうのはさっさとあたしに教えてくれれば良かったのに!」

 

「ごめんね・・危ないから巻き込みたくなくてさ」

 

「それが水臭いっていうの!」

 

「優依ちゃんはマミさんと知り合いだったんだね?魔法少女じゃないんだよね?」

 

「魔法少女じゃないよ?契約する気ないし。去年マミちゃんに助けてもらってそこから仲良くなったの」

 

 

 

三人でこんな会話をしていたが俺の目線はずっとまどかの肩に寄生してる白いマフラーもどきに固定されてる。

 

だって奴が俺の事ガン見してんだぞ!?

なんだよ!?「首尾よくまどかを契約させられそうだから君もどうだい?」とかそんな目線やめてくれよ!

無論、俺は「却下だ!絶対却下!あとまどかも却下!」と目線で返してるけどな!

 

え?シロべえ?奴は調べる事があるから今日学校には来ないんだとよ!

本音はインキュベーターとほむらが怖いからだろうなー?けっ!

 

多勢に無勢。味方がいない今、下手に事を起こすのは得策では無そうだ。・・一人じゃ対処出来ないしさ。

 

俺はこっそりため息を吐いた。

 

 

教室に入り、まどかとさやかはオリンピック金メダル候補の緑に謝罪してる。俺はひたすら後ろにいる人目なんてクソくらえと堂々と机に居座る白い悪魔の無言のプレッシャーに耐えながら自分の席に座った。謝罪が終わったまどか達が自分の席に座りマミちゃんとテレパシーで会話しているが参加する気はないので聞き流す。

 

 

 

「あ」

 

長い黒髪を揺らして暁美ほむらが教室に入ってきた。途端にまどかとさやかが身構える。

 

「・・・・」

 

ほむらが後ろを振り向いてまどか、正確にはまどかが抱いてるキュゥべえを睨む。

やめてくれまどか!

ほむらの前でそいつ抱きしめるのマジでやめて!

煽ってるとしか思えねえから!

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

「うぅ・・」

 

視線を移動させ今度は俺を睨んでくる。もちろん怖くて涙目になってますよ今。

 

おかしいな?

昨日に比べて五倍くらいの眼力ですよ!?

そんなに昨日の事を警戒してるんですか!?

やめてください!警戒させるつもりじゃなかったんですううううううううううう!!

 

 

≪優依ちゃん大丈夫?≫

 

「ふぇ?」

 

俺の頭に直接響いてるくる声。どうやらマミちゃんが俺を心配してくれているようだ。

 

≪あの娘に何もされてない?≫

 

≪大丈夫だよ!今の所何もされてないよ!≫

 

現在進行形で俺の事睨んでますが特に何かしてくる訳じゃないからノーカウントだ。出来れば協力関係になっていただきたいので心証を悪くしそうなものは言わない方が良さそう。

 

・・既に心証最悪かもしれないが

 

 

 

 

≪マミさん!今アイツが優依の事睨んでます!≫

 

 

さやかあああああああああああああああ!!!

 

てめえ余計な事言いやがって!

何がしたいんだよお前は!?

破滅したいのか!?破滅願望でもあんのか!?

 

 

≪・・駄目じゃない。そういう事はきちんと言わなくちゃ≫

 

≪ごめん・・でも睨んでるだけだし・・≫

 

≪人目の付くところでは何もしないでしょうけど、今日は出来るだけ鹿目さん達と一緒にいるようにするのよ?もしあの娘が近づいてきたら私を呼んで?すぐに駆けつけるわ!≫

 

≪うん・・ありがとう≫

 

マミちゃんさ・・ほむらの事警戒し過ぎじゃないのかい?

 

テレパシー会話に夢中だったのでほむらが既に顔を前に戻してるのに気付かなかった。授業の間、白いGが自由気ままに動くものだからいつほむらの堪忍袋がぷっつんして教室で機関銃撃ちまくらないかひやひやしてたから全然集中出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ねーまどか、願い事考えた?」

 

「ううん、さやかちゃんは?」

 

「あたしも全然だわー。叶えたい願いは沢山あるけど命がけの戦いってところに引っかかってさー。優依はそれが嫌で契約してないんでしょ?」

 

「もちろん!戦いたくない!死にたくない!怖い!」

 

「うわ・・躊躇いが無い」

 

昼休み、俺は問題児二人+白い元凶と一緒に屋上でご飯を食べている。会話内容はもちろん願い事の事。

 

「意外だなー。大抵の子は二つ返事なんだけど。・・まあ中には説明もしてないのに即答で断る子もいるけどさ」

 

「・・・・・」

 

何故みんな俺を見る?

 

いきなり断ったの根に持ってんのか?

 

しょうがないんですよ?戦いたくないのは本音だけど他にもあるし。

まあ、最近分かったことなんだけどさ。ある日ふと興味が湧いてシロべえに聞いてみたんだ。俺とまどかの魔法少女の素質って比べたらどんな感じ?と。

 

 

 

結果:

 

まどか<<<<<<<<<<<俺

 

 

シロべえは躊躇いがちに教えてくれましたよ・・

 

 

 

 

実は俺の方が破壊神だったっていうオチな!!!

 

 

ちょっとした好奇心なんかで聞かなきゃ良かったあああああああああああああああああああ!!

 

聞いた瞬間発狂しそうになったわ!

 

あの邪神野郎!俺で遊ぶ事に関してどこまで徹底してんだよ!!

何でここまですんのか理解出来るか!!

 

そういう訳で俺は絶対契約出来ない!

したら冗談抜きで宇宙の終わりなんで!

 

 

「・・・・ねえ。何であたしの頭撫でてんの?しかも何で泣きそうになってんの?」

 

「気にしないで」

 

知りたくなかった事実に再度落ち込んでるから無駄に元気なさやかからちょっと元気を分けてもらいたいのでやってるだけです。特に意味はない。ホントはまどかが良かったけど触って俺の因果が移ったりまどかの因果をもらったりしたら笑えないのでやめておく。

 

 

「///・・恥ずかしいじゃん!」

 

「さやかちゃん顔真っ赤だね。・・ちょっと羨ましいかも」

 

「・・・///」

 

少し膨れっ面のまどかに指摘されてもさやかは止める素振りがないのでしばらく撫でさせてもらう。

 

いやー可愛いですなー。まさに女の子って感じ。

・・精神崩壊が生々しかったのでさやか可愛いと思った事がなかったけどこうしてると結構可愛いもんだ!

契約しない方が君は幸せだからマジでやめてね!

 

 

 

 

「・・あいつ!」

 

「? ・・あ」

 

さっきまでデレ全開で頭撫でられてたさやかが鋭い目で前を見ている。同じ方向を見てみると黒い髪をなびかせてほむらが屋上にやってきた。

 

「・・・っ」

 

さやかは警戒してるのかほむらを睨んで構えている。お前は喧嘩上等の猫か!?

 

まどかなんてキュゥべえを守るために抱き寄せている。でも正直ほむらを煽ってるようにしか見えない!

やめて!火に油を注がないで!

 

 

 

≪大丈夫。ちゃんと見張ってるから≫

 

マミちゃんがいてくれるのは分かっていたのでまどか達と違って目線は逸らさずほむらを見る。

 

ほむらよ。やっぱりまどかが心配なのか。一途だねえ。

・・それが転じてどうしてあんなクレイジーなストーカーになるのか不思議だ。

 

ここでほむらの誤解が解ければ万々歳だな。キュゥべえがいるのは厄介だが全員いるしマミちゃんとほむらのタッグが実現出来るかもしれない!マミちゃんだって好んでほむらと戦いたくはないだろうしな!

 

 

 

 

≪大丈夫よ優依ちゃん!私が付いてるから安心してね?たとえあの娘が今何か仕掛けてきても対応出来るわ!≫

 

・・・?

 

なんかやたら気合のこもったマミちゃんの声がテレパシーで届いた。

 

「・・!?」

 

疑問に思ってマミちゃんがいる建物に視線を向けて絶句。

 

マミちゃんは確かにそこにいた。だが何故か大量のマスケット銃をスタンバイさせた魔法少女姿で銃を構えている。狙いはオールでほむら。

 

 

≪マミちゃあああああああん!?何してんの!?向こう完全無防備だよ!?何でこっちは完全フル武装で待機してんの!?≫

 

≪相手はどんな魔法を使うか分からないわ。手札が分からない以上、警戒しておくに越したことはないのよ?優依ちゃんに危害を加える可能性を少しでも潰しておかなくちゃ≫

 

≪いやだからってやり過ぎ・・!≫

 

≪守りながら戦うのは難しいのよ?人数もあるしこれぐらいは許してちょうだい≫

 

いやあんた劇場版で平然と守りながら有利に戦ってたじゃん!ほむら相手に!

 

これ以上は聞いてくれなさそうなので仕方なくほむらに向き直る。大量のマスケット銃に狙われてんのに顔色一つ変えずこちらに近づいた。

 

 

「・・・何の用?昨日の続きでもする気かよ?」

 

さやかが警戒心バリバリでほむらを睨んでる。

 

「いいえ、そのつもりはないわ。そいつが鹿目まどかと接触する前にケリを付けたかったけどもう手遅れみたいだし」

 

そう答えながらインキュベーターを睨むという誤解しか生まない愚行をするほむら。いいぞ、もっとやれ!

 

「で、どうするの?魔法少女になるの?」

 

「あんたに関係ないじゃん」

 

これってほぼさやかとほむらの喧嘩だよね?俺とまどかは蚊帳の外だしさ。空気がピリピリしてて怖いんですけど・・

 

「昨日の話、覚えてる?」

 

さやかが割り込んで埒があかないと判断したようで今度はまどかの方を見て問いかけている。

 

「・・・うん」

 

「ならいいわ。忠告が無駄にならないように祈ってる」

 

一方的に告げてほむらは背を向ける。

 

「あ、あのほむらちゃん!」

 

まどかが意を決して呼び止めほむらが歩くのを止めた。

 

まずい!急いで止めなくては!

 

「あのまどか?それは・・」

 

「ほむらちゃんはどんな願い事を叶えてもらって魔法少女になったの?」

 

まどかあああああああああああああああ!!

やめてあげて!君がそれ聞くのだけはやめてあげて!

すごい残酷だから!

 

 

「・・・・っ」

 

あああああああああああ!!

どうしよう!?ほむら泣きそうになってる!!

こうなったら話題を変えるためにも俺が話しかけるしかない!

幸いマミちゃんがいるし攻撃される事もないから今ならまともな会話が出来るかもしれない!

 

 

「あの暁美さん!!」

 

 

 

「・・何?・・!?」

 

俺の呼び止めでほむらが振り向きしばらく経って返事をしてくれたが途中で顔を前に戻してそのまま屋上を出て行ってしまった。

 

 

 

え?反応してからの無視は結構堪えるんですけど・・?

何したかったの?俺をいじめたかったの?

 

「何なのあいつ?」

 

「さあ・・?」

 

後ろの二人が不思議そうにしているが俺も問いたいわ。

 

≪優依ちゃん、あの娘に何にもされてない?無事?≫

 

ほむらのいじめに傷つきつつ出口を呆然と見つめていたら、マミちゃんから気遣うようなテレパシーが送られてきた。なんとか正気に戻り彼女の方に振り向き返事をする。

 

≪大丈夫。ありがとうマミちゃ・・!?≫

 

正直見なきゃ良かった・・。いつの間にかティロ・フィナーレまでスタンバイさせてマミちゃんがこちらを心配そうに見つめている。

 

こっちが心配になるわ!

何でそんなに過剰に警戒してんの!?

マミちゃん、ほむらの事そんなに嫌ってたっけ!?

いいじゃん!あの白いGはすぐ復活するんだから!数匹くらい殺したって!

 

≪マミさんありがとう!おかげであいつ帰っていきましたよ!≫

 

≪一緒にお昼食べませんかマミさん!≫

 

≪ありがとう!今からそっちに行くわね≫

 

・・・その光景に誰もツッコミ入れないんだ

 

とりあえず今日分かった事:

マミちゃんがほむらをめっちゃ敵視してる事

まどかはS疑惑じゃなくてS確定だった事

 

こんな些細な出来事でも先が思いやられるわ。

 

 

 

「やれやれ訳が分からないよ」

 

お前がしめるんかい!

 

白い元凶がさっきの出来事を一言でしめ、こうして波乱の昼休みは過ぎていった

 

 

 

 

 

ほむらside

 

昨日は裏をかかれてまどかをインキュベーターと接触させてしまいその上、巴マミとも接触させてしまった。既にまどかは魔法少女の事を知ってしまっているだろう。

 

教室に入り視界にうつるのはインキュベーターを抱きしめ私を警戒するまどかの姿。

 

「・・・・」

 

痛む胸を悟られないようにポーカーフェイスを装い席に着いて憎たらしいあいつを睨む。

 

「・・・・・・・・・・」

 

その後にあの娘の前に座る神原優依と目が合った。案の定私を怖がって涙目。それに罪悪感を覚える。

 

昨日は彼女に悪いことをしてしまったと少し後悔している。インキュベーターが突如現れ時間停止が効かない混乱で冷静じゃなかったとはいえ怖い思いをさせてしまった。脅しのつもりで撃つつもりはなかったが何かの介入で銃が壊されてしまったため退散を余儀なくされた。

 

あれは一体何だったのだろうか?

 

神原優依には護衛でもいるのかもしれない。

 

不可解な事ばかりだが後から冷静になってみると分かることもある。

神原優依は魔法少女ではない。もし魔法少女ならあのいつ攻撃されるか分からない状況下で変身しないはずがない。さっさと逃げるなり反撃するなり出来たはずだ。

 

傍らにインキュベーターがいた事からもしかしたら奴らの甘言に騙された被害者の可能性が高い。契約は時間の問題かもしれない。

 

厄介な事になる前に神原優依の傍にいる個体を始末しておく必要がありそうね。一番良いのは誰の邪魔も入らず二人っきりの時に私の話を聞いてくれる事だけど昨日の出来事じゃ無理そう。ため息を吐いて視線を前に戻す。

 

 

授業中インキュベーターの存在が鬱陶しくて何度時間停止を発動させて始末しようかと考えたか分からない。よく耐えた自分を誉めてあげたい。

 

 

 

 

昼休み、再度まどかに忠告するため屋上にいるであろうあの娘の所に向かう。案の定そこに彼女はおり、美樹さやか、インキュベーター、そして神原優依がいた。

 

何故か神原優依に頭を撫でられ緩んだ顔をしていた美樹さやかが私の姿を見つけると即座に警戒し睨みつけてくる。その様子から他の面子も私に気付き身構える。それを気にせず私はそのまま彼女達に近づく。

 

「!」

 

殺気を感じ横目で確認すると巴マミが魔法少女に変身しており大量の銃で私を狙っている。

 

・・ここまで警戒される理由が分からない。

そこまであのインキュベーターを大事にしてるの?

 

巴マミに警戒されているのでこちらもいつでも変身出来るように構えつつ再度まどかに忠告した。

 

・・殆ど美樹さやかが答えていたけど仕方ない。

彼女にも出来れば契約してもらいたくないのは本当だ。

 

 

 

 

 

「ほむらちゃんはどんな願い事を叶えてもらって魔法少女になったの?」

 

「・・・・っ」

 

忠告が終わり校舎に戻る間際まどかから聞かれた。

 

・・・言える訳ないじゃない!

貴女を救うためなんて・・・!

 

 

「あの暁美さん!!」

 

歯を食い縛り涙が出てくるのを抑え早足で出ていこうとする私を呼び止める声が聞こえたので後ろを振り向く。

 

神原優依だ。

 

心配そうな表情で私に近づいてくる。

 

・・私の事心配してくれるの?

あんな怖い目にあわせたのに・・?

 

戸惑いと嬉しさが同時に出てきた。そのまま周囲をざっと見渡し彼女が連れていたインキュベーターがいないのを確認した。今なら少しだけ話せる可能性がある。

 

これはチャンスかもしれない!

彼女と二人きりで話せれば・・・!

 

私は彼女の呼び掛けに答えることにした。

 

「・・何?・・!?」

 

突如先程とは比べ物にならない程の殺気を飛ばされる。凄まじい殺気だ。

 

方角からして巴マミね。何故?

私が神原優依に危害を加えると思っているの?

・・まずいわね。ここで私が口を開いて彼女と会話なんてしたら躊躇わずに撃ちそう。それほどの不穏な雰囲気を巴マミから感じる。

 

・・・仕方ない。

今回は身を引いた方が良さそうね。

巴マミがいる前では神原優依と会話出来ないみたい。

 

私は彼女から目をそらし屋上を去る。

 

まどかを救うためにも不確定要素は排除しておきたい。そのためにも神原優依の事について知る必要がある。

 

さっきの巴マミの反応からして彼女とはかなり親しいみたいだし仲介してもらえる可能性がある。そうすれば彼女は死を回避出来てワルプルギスの夜との戦力になってくれるだろう。

 

もしかしたら神原優依はまどかの契約阻止に貢献してくれるかもしれない。

 

そのためにはどうやって彼女と接触するか考えなくては

 

私は接触方法を考えつつ早足で教室に戻った。




実はほむほむ積極的に優依ちゃんと接触を考えてます!

まあ、それにはマミさんという障害はありますしシロべえは始末する前提にされてますがw

次は番外編・・になるかもしれません!


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30話 準備はOK?

杏子ちゃんの番外編が好評だったのでシリーズ化しようと思ってます!

ただ他の番外編もやりたいのでいつの投稿になるかは分かりませんが!


「さて、魔法少女体験コース第一弾いってみましょうか。準備はいい?」

 

「ばっちこーい!」

 

「はい!」

 

「・・・・・」

 

「ちょっと優依!いつまで不機嫌なのさ?いい加減機嫌直しなよ!」

 

お前が言うなさやか。

 

よくも逃げようとする俺の首根っこ掴んで連行してくれたな?

 

この恨みは一生忘れん!

 

放課後、さやかのせいで逃げそびれ魔法少女体験コースという名のリアルヘル逝き体験コースに参加させられるはめになった俺。現在打ち合わせのためショッピングモールのフードコートで駄弁っていて、俺は逃走防止のため拘束されているので不貞腐れてジュースをストローですすっている。

 

リボンぐるぐる巻きで足を椅子に固定されて動けないんだよ!

 

くそおおおおおおおおおおお!

さやかだけなら頑張って逃げられたかもしれないのにすぐにマミちゃんが助っ人に現れるとは予想外だ!

素敵な笑顔でがっしり俺の腕を掴んできたときは逃げられないと悟ったよ・・。

 

 

俺の向かい側にはさやかが座り、俺の隣にはマミちゃんが座っている鉄壁の布陣のため諦めの境地に至った。

 

今の俺に出来るのは少しでも足掻いて逃げる算段をつける事だ。

 

というかさやかの隣に座るまどかよ。

この光景見て何か一言くらいあってもよくない?

助けてくれるのが一番嬉しいんだけどそれが無理ならせめてツッコミくらいして欲しいです。

 

 

 

 

 

「まあ、ご機嫌斜めな優依はほっといて、役に立つか分からないけど体育館から拝借してきました!」

 

空気を変えるためかさやかがドヤ顔で力強く宣言した後、一歩間違えば暴行容疑で補導されかねないのにこんな人だかりの多い店内で堂々とバットを取り出し、高らかに掲げていた。

 

さやかが持ってるとどこかへ殴り込みに行くような雰囲気がある。今からやる事を考えるとあながち間違ってないけど。

 

こら!テンションアゲアゲでバットを振り回すんじゃない!

まどかに当たるでしょうか!

マジで補導されたいのか!?

あ、でもまどかが抱いてる白い奴なら遠慮なく殴っていいよ?むしろ殴れ!!

 

「ええ・・まあ、意気込みは大事よね」

 

マミちゃんにドン引きされてるけど大丈夫かなこの青髪?

 

俺もさやかに言いたい事があるので話しかける事にする。

 

「さやか」

 

「ん?何?」

 

「一万円は用意しとくんだよ?」

 

「え?何で?」

 

さやかがキョトンとしているが理由なんて単純だ。

 

だってこの後その振り回してるバットはマミちゃんによって原型留めないくらい魔改造されるからそれの弁償代必要じゃないか。仮に元に戻っても使い魔殴ったバットなんて誰が使いたいんだよ?それのお詫びも必要じゃん。

 

まあ理由は口に出せないけど助言するのは俺のせめてもの優しさだ。

 

 

 

「何でだんまり?・・まどかは何か用意した?」

 

「え?私?」

 

何も喋らない俺にさやかが痺れを切らしたのか今度はまどかの方に話を振っていた。まどかは突然話を振られた事に驚きつつも鞄を漁っている。

 

 

・・出すのか?あの伝説のノートを・・!

 

 

「えっと、私はこんなの考えてきました!」

 

意外と力強く言い切ってまどかは黒歴史確定の自分の魔法少女姿のイメージ(妄想)が落書きしてあるノートを堂々と皆の目の前で広げた。

 

出たああああああああああああ!!!

伝説の黒歴史ノート!!

自分の記憶どころか存在すら抹消したくなる程の恥が詰まったノートだ!!

 

確かまどかの声優さんが描いたんだっけ?上手いな。

 

 

 

「「・・・・・」」

 

「?」

 

「・・プッ!アハハハハハハ!!まどか!あんた最高だわ!」

 

「フフフ、まあやる気は十分みたいね」

 

「え!?どうして笑うの!?」

 

 

少しの沈黙の後、案の定、さやかとマミちゃんは我慢できなかったのか噴き出してしまった。まどかは笑われてる事が理解出来なくて混乱しているがやがて自分の行いが恥ずかしくなったのか顔を俯かせてしまった。

 

まどか・・むしろ何であそこまで自信満々に披露出来たのかこっちが知りたいです・・

君は中学二年生なんだよね?厨二じゃないんだよね?

 

 

「うう・・」

 

未だに笑いが止まらない二人(特にさやか)のせいでまどかがますます萎縮してしまった。俺は同情をこめてまどかに食べていたポテトフライを全部あげる事にした。

 

 

気持ちは分かるぞ!誰だって憧れのヒーローやヒロインを妄想したりするもんな!そこで笑い転げてる二人(特にマミちゃん)だって絶対やった事はあると思う!俺も前世の学生時に同じく自分の妄想したヒーローをノートに書いた事あるからな!クラスメイトにバレて教室で大爆笑された時は不登校になりかけたけど!

 

まあ、前世の話だし永久に封印したい記憶だ。まどかも大人になったらそのノートと記憶を永久に封印するだろうな。

 

・・・俺達は大人になれるんだよね?

 

未来はちゃんとあるよね・・・?

 

 

 

 

「優依ちゃんは何か用意したの!?」

 

「ん?」

 

はやく自分の黒歴史から逃れたいのかまどかが俺に話を振ってきた。

 

そんなに解放されたいのね・・・

 

しかし、よくぞ言ってくれました!!

 

 

 

「マミちゃん!」

 

「何かしら?」

 

ようやく笑い終えたのか涙を浮かべながらもしっかり俺の方を向いている。俺は鞄からあるものを取り出す。

 

いつかこれを渡す時が来るかもしれないと思っていたがこんなに早く渡す事になるとは・・

 

 

「これをマミちゃんに」

 

「?」

 

俺はマミちゃんの前にとある一枚の紙を差し出し、彼女に向かって頭を下げた。

 

「今までお世話になりました」

 

そして感謝の言葉を述べる。

 

「えっと・・これは?」

 

 

 

マミちゃんに渡した紙、それは「退職願」!

仕事を辞める時、必ず出さなければならない必須書類だ!

 

「神原優依は本日をもってマミちゃんのマネージャーを辞めさせていただきます!」

 

俺は声高らかに宣言する。

 

 

だって付き合ってられません!

ただでさえこれから死亡フラグに突入するのに、マミちゃんめ、あわよくば俺も魔法少女にする事まだ諦めて無さそうなんだよ!向かい側にいるピンクとブルーが契約したら是非優依ちゃんもという野望が透けてみえる!

 

冗談じゃない!!俺は逃げる!!!

黒子的なポジでマミちゃんのマミる阻止頑張るからここら辺でイエロー関連の死亡フラグカーニバルからは解放してもらうぞ!

 

 

安心しろ!「退職願」は書きなれてんだよ!

部長にどやされた日は必ず泣きながら書いてたからな!

何度これを書いてあのバーコード頭に叩き付けてやろうと思った事か!

 

まあ・・前世の事は置いといて

昨日のマミちゃんの尋問から解放された後から一晩かけて考え、丹精込めて書いたものだ。

 

 

 

さあマミちゃん!受け取ってください!!

 

 

 

 

「じゃあそろそろ行きましょうか」

 

「うむ!どんと来い!」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「うわ!ちょっと!」

 

マミちゃんは一晩かけて書いた「退職願」を一瞬で紙屑にし、俺の手を引いて席を立つ。まどかとさやかも何事も無かったかのように席を立った。

 

嫌だあああああああああああ!!

帰りたいよおおおおおおおおおおおお!!!

 

俺の心の叫びは届かない。

 

「・・・・・きゅぷ」

 

どこか馬鹿にされてるようなゲップを出したインキュベーターにガン見されながら、魔法少女体験コースは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マミside

 

最近、優依ちゃんの様子がおかしい。

 

落ち着きが無いっていうかソワソワした感じになる事が多い気がする。

 

原因は分からない。昨日なんて特におかしかった。

 

 

 

 

「優依ちゃん」

 

「マミちゃんどうしたの?」

 

 

久しぶりに一緒に買い物したくて学校で優依ちゃんを見掛けたから声を掛けた。

 

 

「今日は放課後空いてるかしら?一緒に買い物でもどう?」

 

「あーごめん・・。今日はどうしても外せない用事があるから行けないや」

 

「そう・・。それなら仕方ないわね。また今度にしましょう」

 

「うん、ごめんねマミちゃん」

 

いつも誘ったらOKが出ることが多いのに今回は違った。優依ちゃんが申し訳なさそうに謝ってたから本当に用事があるんだって思ってた。だから私は引き下がっていつものようにパトロールに出かけたのに、ショッピングモールの立入禁止区域で魔女の気配とキュゥべえのSOSのテレパシーが届いたからそこに向かったら優依ちゃんがいた。

 

・・お友達らしき二人の女の子と一緒に。

 

 

ふーん・・用事って言うのはお友達と買い物に行く事だったのね。

・・私の誘いを断ってまで行きたかったのかしら?

 

八つ当たり気味に優依ちゃんに聞いてみると慌ててた。

 

その姿に少し溜飲が下がり、キュゥべえを助けてくれたらしき優依ちゃんのお友達がいた事、そして周りが魔女の結界に覆われていたので私は魔法少女に変身し、使い魔を薙ぎ払う。魔女が逃げたのと同時にキュゥべえを攻撃したらしい黒髪の魔法少女が姿を現した。

 

私の友達を傷つけるなんて許さない。

 

戦闘も辞さない態度で追い返して一件落着だと思ってたのに、

 

 

 

「ごめんマミちゃん!ちょっと用事を思い出したから行くわ!後で家によるからまどかとさやかよろしくね!」

 

「え!?待って優依ちゃん!」

 

 

 

優依ちゃんは一方的に告げて私の制止なんて聞かずに行ってしまった。

・・・あの黒髪の魔法少女が去った方角と同じ方へ

 

 

どうして私を置いていくの?

あの娘に会いに行ったの?

貴女は私の友達なのに・・!?

 

 

鹿目さんと美樹さんを家に招待してからもずっとそれが頭の中をぐるぐる回ってた。

 

二人とも魔法少女になる事には積極的でそれならと私の魔女退治に同行してみてはどうかと提案したら乗り気だったから、私もようやく気分が晴れた。二人が帰ってからしばらく経った後、優依ちゃんがやってきて、二人がとっくに帰った事と魔法少女体験コースをするから参加するように告げると何故か泣かれてしまった。

 

 

泣きたいのは私の方なのに・・

 

 

「用事って何だったの?」

 

「えっと・・」

 

「まさかキュゥべえを襲った娘に会ってたんじゃないでしょうね?」

 

「・・・・・・」

 

感情の赴くまま私は優依ちゃんに問い質してしまった。優依ちゃんが答えるはぐらかした内容に納得出来なかった。

 

 

あの魔法少女に会ってたのは間違いなさそう

 

 

どんなに聞いても優依ちゃんは答えてくれなくて辛かった・・

まるでその娘を庇っているように思えたから・・

 

結局優依ちゃんから何も聞き出せず彼女は帰ってしまった。

 

 

そして今朝、美樹さんから優依ちゃんが転校生の魔法少女に睨まれてるという連絡をもらって核心に変わる。

 

やっぱり昨日会ってたのね・・!

ひょっとして何か怒らせてしまったから、あの魔法少女は優依ちゃんを睨んでるのかしら?

もしかしたらあの娘に危害を加えるかもしれない!

 

近いうちに接触してくるだろうと思って、昼休み屋上でランチをとる三人を眺めていると予想通り転校生の魔法少女「暁美ほむら」さんがやって来る。姿を見せた瞬間、即対応できるようにと魔法少女に変身し大量のマスケット銃で彼女を狙いけん制する。

 

優依ちゃんがやり過ぎだと言ってたけどこれぐらいやらなければ駄目!

キュゥべえを襲ったんだもの。

いつ優依ちゃんが狙われるか分かったものじゃない!

 

私の牽制が効いたかは分からないけど暁美さんは忠告めいたものを一方的に告げただけで三人に背中を向けた。

 

途中で鹿目さんが何か言って暁美さんが泣きそうになっていたけど何を言ったらあんな悲しい表情になるのかしら?取りあえず今回は何もなさそうね。

 

「え・・?」

 

安心していた私の目に信じられないものがうつった。

 

優依ちゃんが暁美さんに話しかけてる・・?

どうして?やめて!

それ以上彼女に近づかないで!!

 

無意識の内にティロ・フィナーレを暁美さんに向けていた。

 

どうしてよ!?

どうして貴女が縋るような目で優依ちゃんを見るの!?

 

思わず魔女にぶつけるような殺気を飛ばしてしまった。暁美さんはそれに気づいたのか優依ちゃんに話しかけるような事はせず去っていく。私は可能な限りずっとあの娘が去った方を睨んでた。

 

 

 

 

そして放課後の今、後輩になるであろう三人を連れて魔法少女体験コースをするためフードコートで打ち合わせをしていた。優依ちゃんは乗り気じゃないみたいでずっと機嫌が悪い。

 

もし今日何もなかったら暁美さんの所にでも行ってたのかしら?

彼女も優依ちゃんの事を気にしていたし・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・だめよ?

 

 

 

優依ちゃんは私の大事なお友達なの

 

 

 

私と一緒にいてくれる

 

私を支えてくれる

 

私の事を理解してくれる

 

 

 

かけがえのない存在なのよ?

 

だから私から優依ちゃんを奪うつもりなら容赦しないわ

 

例えそれが同じ魔法少女でも・・

 

 

 

優依ちゃんから渡された悪ふざけの紙を二度と視界に入らないように握り潰し、絶句している状態のあの娘の手を引いて席を立つ。

 

 

 

 

今から魔法少女体験コースが始まる。

 

未来の後輩たちにカッコイイとこ見せなきゃね!

 

 

 

 

そしたらもう他の魔法少女に目移りなんてしないでしょう?

 

 

 

 

・・・・・・ねえ優依ちゃん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見てこのソウルジェム。光ってるのが分かるでしょう?」

 

「はい」

 

「昨日ここにいた魔女の魔力に反応しているの。基本はこの反応を頼りに魔女を追うのよ」

 

「わー・・結構地味」

 

魔女を探して街中を歩きながらマミちゃんが魔女についてまどか達にレクチャーしており、二人はマミちゃんの後ろを歩いている。俺は更に彼女達と離れた距離を歩き三人の様子を虚ろな目で見ていた。

 

今なら逃げられると思うだろう?でも逃げられない!

 

だって俺の首に黄色いリボンが括り付けられているからな!

飼い犬の首輪の如くつけられ、マミちゃんがその先端を引っ張りリードしている。

飼い犬は飼い主の進む方向にしか進む事が出来ないって事ですか・・・。

俺の手綱を握る飼い主のマミちゃんは片手にソウルジェムで魔女の捜索をしながらまどか達と平然と会話している!

 

いくら他の人からこのリボン見えてないといってもこの仕打ちあんまりだ!

とんでもねえ羞恥プレイを中学生がすんな!

まどか!さやか!この光景について何で何も言わないんだよ!?

俺も放置するのが一番だと思うけど友達にそれって冷たいわ!

 

もしくはこれが本場のエスコートだと思ってんのか?

違う!これは一部の世界のマミアックな方々のみが本場としている「Sコート」だ!

間違ってもそっちの世界に行くんじゃないぞ!

特にまどか!

 

 

「! 近いわ!」

 

「ぐえ!」

 

マミちゃんが突然走り出しまどかとさやかも走り出す。俺も頑張って走る。

 

だって俺に巻きついてるリボンの先端持ってんのマミちゃんだからな!

マジで走んないと俺に待ってる未来は絞殺しかないもの!

 

 

「ぜえ・・ぜえ・・」

 

必死で走っているとやがて見た事ある廃墟にたどり着く。

 

「あれ!」

 

まどかが指差す方には今にも飛び降りそうな女性がいた。

 

「きゃあああああ!!」

 

「う!」

 

女性が飛び降りたと同時にマミちゃんが魔法少女に変身し落下する付近まで一気に駆け出した。そして俺はマミちゃんが解除し忘れてたせいでそのまま首に巻かれたリボンに引っ張られ急速に首が締まる。

 

意識とびそう・・!

死ぬ!マミちゃんのせいで!

 

ヘル逝き確定の紐なしバンジーしてる女性より正義の魔法少女のうっかりミスな絞殺で俺が先に死ぬわ!!

 

 

 

「魔女の口づけね」

 

リボンで女性を助けた後、マミちゃんは魔女の口づけがないか女性の首筋を見て確認する。俺もどうにかあの世に逝くのを免れた事を首筋を触って確認する。

 

結構危なかったな・・

 

 

女性を楽な姿勢で寝かせ俺達は建物の中に入る。そこにはとっても見たくない地獄の門が鎮座していた。

 

「あれが魔女の結界の入り口よ。準備はいい?」

 

「水を差すようで悪いけどこの拘束外してよ。さっきホントにヤバかったんだよ?」

 

「ごめんなさい・・うっかりしてたわ」

 

うっかりで殺されてたまるか!!

 

マミちゃんは申し訳なさそうにしながら俺の首に巻かれた拘束リボンを解除してくれた。

やっと解放された・・跡残りそうだなこれ・・。

 

 

 

 

「そういえば・・」

 

「うわ!なんだこれ!?」

 

「これでよし!気休め程度だけど身を守れるはずよ」

 

 

思い出したようにマミちゃんはさやかが持っていたバットに触れて何とも言えないセンスの物体に加工した。当然さやかは驚いてる。

 

さやか・・マジで弁償だぞこれ・・

 

「それじゃ行くわよ!」

 

「おう!」

 

マミちゃんとさやかが気合十分に魔女の結界に飛び込んでいくのをしっかり見届けてから俺はまどかに向き合った。

 

 

 

 

今がチャンスだ!!

 

 

どうせ今回は無事に帰ってくるんだから、そんな危ない所へわざわざ向かう必要なんてない!

俺は残る!死亡フラグなんてごめんだ!

さっきの出来事で実は味方にうっかり殺される可能性すら出てきたから尚更行きたくない!

適当に理由作って俺だけ待機させてもらおう!!

 

 

 

「まどか!今ちょっと体調悪いから私ここで待機してるね!」

 

「優依ちゃん!二人とも向こうで待ってるから早く行こうよ!!」

 

「え?話聞いてた!?ぐは!!!」

 

 

ゴキィ

 

 

まどかはお約束で全く人の話を聞いておらず、俺の背中を押して結界に飛び込んだ。ただまどかは今両手でキュゥべえを抱えている。つまり手で押せないから自分の身体を使って押すしかない。しかし興奮していたからか急いでいたからかは分からないがラグビー選手並みのパワフルなタックルを俺の背骨付近に直撃させた。

 

恐らくまどかの前世はラグビー選手かアメフト選手だったに違いない。

 

こうして俺は魔女の結界に入る事になってしまった。

ていうか、

 

 

すごい音したけど俺の背骨大丈夫だよね!?




優依ちゃん踏んだり蹴ったりです!
原作始まってから彼女の心労は絶えません!

マミさんもかなり病んできているのでちょっとの刺激で杏子ちゃんと同等の病みを極めそうで怖いです!


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31話 ただいま戦闘中

UA100000突破ありがとうございます!

そしてお気に入り1800件突破!幸せです!!


「うぅ・・・」

 

「優依ちゃん急いで!」

 

 

まどかのアメフト選手顔負けのタックルのせいで痛む背中をおさえつつ、どうにかマミちゃん達と合流した。幸い背骨は折れてないがズキズキと物凄く痛い。しかし弱音を吐いてる場合じゃない。今は死亡フラグオンパレードの魔女の結界の中だ。休んでいる暇はない。

 

不法侵入者である俺達を撃退しようと使い魔の「コットン100」とひげ面のおっさんみたいな蝶:命名「ムッシュモスラ」(蝶だけど)が襲いかかって来る。

 

それらに対してマミちゃんと(全くの戦力外な)さやかが応戦してる。ちなみに俺は現状で最も安全だと思われるまどかの近くで身を縮こまらせている。

 

だってマミちゃんの近くに行くと戦いの邪魔になるし、さやかに至っては

 

「うわ!こっちくんな!」

 

魔改造バットをめちゃくちゃに振り回している。あいつの近くにいるとついうっかり撲殺されそうなので間違っても近づく気はない!

 

 

 

「怖い?」

 

「超怖い!」

 

「・・・二人とも怖い?」

 

使い魔を片付け、結界の最深部に向かっている途中でマミちゃんが質問してきたので即答で返したのに無視され、まどかとさやかに視線を移し再度聞いている。

 

 

・・・・ひどい

 

 

「どうって事ねえって!・・・優依はちょっとビビり過ぎなんじゃないの?」

 

「人間時に正直に答える事も大事さ!強がりはいけないよさやか!」

 

「あんたは正直過ぎんのよ!」

 

 

俺とさやかがそんな事を言い合ってる間にマミちゃんはまどかを襲おうとしたムッシュモスラを倒してた。

 

その時のまどかの顔は憧れのヒーローを見る顔だった。

今ので間違いなく魔法少女になる決意高まった気がするわ。

 

 

「ぜえぜえ・・キツイ」

 

その後も順調に進んでいるがいかんせん俺の体力の無さはどうにもならない。

 

魔女の結界ってすごく広いのね・・

今までマミちゃんに引っ張られる形だったからそんなに分からなかったけどマジで広いわ!

ていうかマミちゃんはともかく同級生二人よ。

あんだけ走ったのにほとんど息切れてないなんて体力お化けなのかい?

 

 

「頑張って!もうすぐ結界の最深部だ!」

 

「お前も走れよおおおおおおおおおおお!!何のんきにまどかに抱かれてのんきな事言ってんだよ!他人事だと思いやがってえええええええええええええ!!!」

 

「優依ちゃん!?キャラ変わってるよ!?」

 

 

まどかが抱いてる白い物体が他人事な激励をしてきたので思わずまどか達の前で出してるキャラを忘れプッツンして八つ当たりする。

 

こんな極限状態の中、奴に励まされると怒りしか出てこないな!

 

 

些細なイザコザがあったがマミちゃんの無限銃弾が大活躍しついに結界の最深部にたどり着いた。

 

 

「見て。あれが『魔女』よ」

 

「うわあ・・グロイ」

 

「あんなのと戦うんですか?」

 

マミちゃんが指差す方に薔薇と蝶が合体したアートチックな「薔薇園の魔女」がいた。

まどかとさやかは初めて見る魔女を怖がっているが俺はアニメで奴を見た事あるしマミちゃんの連れまわしのせいで何度も魔女を見ているので冷静にあだ名をつける余裕すらある。

 

 

よし!こいつのあだ名は「油絵アート」だ!

 

 

「大丈夫。負けたりなんてしないわ」

 

マミちゃんはウインクしながら心強い宣言をした後、俺にとっては毎度おなじみリボンバリアーを俺を含めた見学組三人に施し、自身は魔女の元へ舞い降りた。

 

油絵アートを挑発した後、スカートの裾をつまみ挨拶をする格好でその中からマスケット銃が出てくるという物議をかもしそうな事をやらかし魔女に狙いを定める。椅子をぶん投げる魔女の攻撃とは思えない物理攻撃を銃で防ぎ、曲芸まがいの方法でマスケット銃を取り出して次々に狙撃していく。

 

ぎゃああああああああああああ!!

油絵アートがグロイ見た目をずるずるさせながら壁をはってるううううううううう!!

怖い!気持ち悪い!!

アニメでも怖かったけど、実物は更に怖い!

今ならホラー映画で幽霊が壁をつたってくる演出が好まれる理由がよく分かる!

実際これやられたらトラウマになりそうなくらい怖いもん!!

 

 

 

「マミさん!?」

 

マミちゃんが蔓に捕まり壁に叩き付けられ呻いているのが目に入り、まどかは悲鳴をあげる。

 

何も知らなければとんでもない大ピンチに見えるが、原作知ってる俺は安心して見ていられる。宙ぶらりんで逆さに吊るされているマミちゃんを見て、そろそろ戦闘が終わる事を確信し、安心&解放感が胸を駆け巡った。

 

盛り上がりは最高潮だぞマミちゃん!

一気に決めちゃってください!!

 

俺は前のめりの態勢でフィニッシュが決まる瞬間を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~♪♪♪♪♪♪♪♪~~

 

 

 

 

「?」

 

「何これ?」

 

「え?どっかで聞いたことあるような・・?」

 

 

 

 

 

クライマックスで鳴り響く電子音。

可愛さと不気味さがミキサーで合わさったような音。

突然の場違いな音にまどかとさやかが顔を見合わせている。

 

・・・俺はこの音を知っている。

昔見たトラウマ級ホラー映画で死の予告電話が来る時に鳴り響くあの着信メロディだ!

 

 

 

何故!?何で!?どっから!?

 

 

 

音の発信先を耳を澄まして探っていくが、かなり近い。

 

 

というか俺から鳴ってないですか?・・・まさか

 

 

 

俺はおそるおそるポケットに入れていた自分の携帯を取り出した。

 

「!?」

 

震える手で取った携帯は音を遮る障害が無くなったからか伸び伸びとあの死のメロディを奏でていて結界の中で木霊する。

 

 

 

俺の携帯に未来の自分から死の予告電話が来たあああああああああああああああああああ!!?

じゃあこれ電話に出たら自分の断末魔が聞こえんの!?

俺死んじゃうの!?

死んだら口に赤い飴玉入ってんの!?

 

 

「優依ちゃんそれって・・まさか」

 

「あんた・・マジなの?」

 

「そそそそそんな馬鹿な!?だってあれフィクションでしょ!?」

 

 

 

未だに鳴り響く死のメロディにようやく何のメロディか気づいた二人は怯えた目で俺を見ている。まどかに至っては涙目だ。

 

 

 

「駄目だよ!優依ちゃん死んじゃ駄目!!」

 

「さっさとそれ壊した方がいいんじゃない!?それ貸して!あたしがぶっ壊すから!!」

 

まどかが俺を抱きしめ、さやかが魔改造バットを持って振り上げている。

 

 

 

心配はありがたいけどそもそも訳が分からない!

俺はこんなおどろおどろしい着信メロディに設定した覚えはないぞ!?

今日母さんから来た着信もいつも通りの機械的な電子音だったしどうなってんのこれ!?

 

 

 

 

「優依ちゃん危ない!!」

 

 

 

 

「え?うわ!!」

 

 

 

 

「きゃああああああああ!!」

 

「優依!!」

 

 

 

マミちゃんの鋭い声をまどか達と話をしてて気づくのに遅れ、気づけば俺は結界内の天井近くに浮いてた。正確には油絵アートの蔓がぐるぐるに巻かれ持ち上げられてた。

 

 

「降ろしてえええええええええええええ!!あ、やっぱり降ろさないでえええええええええええええええええ!!!」

 

 

 

今蔓解除されたら俺は地面に叩き付けられて脳天かち割れる!

何で俺こんな事になってんの!?

・・いやこれではっきりしてしまった。

 

 

本物だあああああああああああああああああああああ!!

あの死の予告電話は本物だったあああああああああああああ!!

魔女に殺されるのも呪いの範囲に入るのか!?

呪い超強力じゃねえかあああああああ!!

 

 

 

「優依!」

 

「さやかちゃん危ないよ!!」

 

「だって優依が!!」

 

俺の名前を呼ぶ声がする方に目を向けるとさやかがこちらに来ようとするのをまどかが必死に止めている。リボンバリアーは油絵アートが俺を捕まえる時に壊したのか消えていた。

 

 

「優依ちゃん!すぐ助けるからね!」

 

マミちゃんが俺を助けようと必死で蔓を解いているがそれよりも先に油絵アートが俺に向かってドデカい椅子をぶん投げてきた。助けは間に合わないだろう。

 

 

 

だめだ!死ぬ!今度こそ死ぬ!

訳のわからない呪いのせいで死ぬ!!

 

俺はぎゅっと目を瞑った。

 

 

 

 

 

バキィィィィィィ

 

 

 

「え!?」

 

何かが割れる音が目の前でした後すぐさっきまで感じていた締め付けが無くなった。解放感を感じる暇もなく制服の背中の部分を何かに掴まれそのまま放り投げられる。

 

 

 

「えええええええええええええ!!?」

 

俺至上未だ感じた事のない空気抵抗を一瞬受けた後すぐにポフッと柔らかいものが顔にあたった。

 

 

「優依ちゃん大丈夫!?怪我はない!?」

 

頭上からマミちゃんの声が聞こえる。

という事は俺が顔を埋めている場所はマミちゃんのむ・・!?

 

 

「すみませんでしたあああああああああああああ!!!」

 

結論が出るよりも先に俺はマミちゃんから離れ九十度の角度で頭を下げる!

 

 

怖くてマミちゃんの顔見れない・・!

 

「そんな・・謝る必要はないわ。間に合わなかったんだから逆に私が謝らなきゃ。ごめんなさい。怖い思いさせて。優依ちゃんが無事で本当に良かったわ。あの時何があったの?椅子が砕けたと思ったら優依ちゃんがこっちめがけて飛んできたんですもの。一瞬、人影らしきものが見えたんだけど誰かいたの?」

 

「・・え?」

 

「・・見てないの?」

 

思わず顔を上げ、戸惑い気味のマミちゃんと目が合う。

 

あの時俺を助けてくれた人いんの?

じゃあ、さっき制服掴んでたのってその人?

誰?前にほむらの銃壊した人と同一人物?

それとも可能性は低いけど今どこかで見張ってるであろうほむら?

 

 

・・分からん!

 

くっそー目瞑らきゃ良かった!

 

 

 

 

 

ギィィィィィィィィィィィィィ!!!

 

 

 

 

 

「あ」

 

「・・話は後よ!まずはこの魔女を倒すわ!!」

 

さっきの出来事で完全に存在を忘れていた油絵アートが失った存在感を取り戻そうと形態を変え鋏で攻撃しアピールしてきた。

 

すごくかませっぽいタイミングだ!

 

 

「これで決めるわ!優依ちゃんに怖い思いさせた罪はその命で償ってもらうわよ!!」

 

微妙に怖いセリフを力いっぱい叫び、毎度おなじみマミ印のアームストロング砲を出現させる。

 

 

 

「ティロ・フィナーレ!!!」

 

通常でも威力は凄いが今回はいつもより破壊力が凄かった。魔女はもちろんの事、使い魔も綺麗に消し飛び、そして結界すらティロ・フィナーレくらった部分は綺麗に消し飛んでた。そのあまりの威力に俺は思わずメテオを連想し、しばらく固まっていたがそんな事など気にせずマミちゃんは俺の隣でどこから持ち込んでたのか紅茶を優雅に啜っていた。

 

 

「す、すごい・・」

 

「うわあ・・・・」

 

 

近くまで来ていたまどかとさやかも呆然としている。そんな二人をマミちゃんは余裕の笑みで見つめていた。

 

 

「あの・・・」

 

「どうしたの優依ちゃん?」

 

 

俺は慎重に隣に立っているマミちゃんに声を掛ける。

 

 

「・・・ひょっとして物凄く怒ってます?」

 

「ふふ、そんな事ないわよ?」

 

 

マミちゃんは穏やかに否定するが絶対嘘だ!!

だってさっきの火力いつもより五倍はあったよ!?

攻撃で結界が消えるなんて初めて見たんですけど!?

 

それに・・・

 

 

「あら?さっきの戦闘で割れちゃったのかしら?」

 

 

ティーカップが割れ、残念そうな表情をしているマミちゃん。

 

だが俺は見てしまった。

マミちゃんが紅茶を飲みだした時はヒビなんて入ってなかった事を。

なのにマミちゃんが触れている部分から徐々にヒビが入り受け皿まで木端微塵に割れてしまった事を。

 

どう見てもマミちゃんが力んで割ってしまったとしか思えない!!

 

 

「ふふふ、次回は気を付けないとね」

 

 

笑顔なのに超怖ええええええええええええ!!!

 

 

 

 

「優依!あんた呪い大丈夫なの!?」

 

「優依ちゃああああん!!良かったあああああ!!無事でホントに良かったよおおおおおおお!!!」

 

「うお!?」

 

突然肩を掴まれ何かにタックルされたと思ったら、さやかが俺の肩を掴んで安否を確認し、まどかが俺の腹に抱きついて泣きじゃくってた。どうやら二人に相当心配されたらしい。

 

 

「うん!この通り無事生きてたよ!心配してくれてありがとね!!」

 

「「/////」」

 

 

心配してくれた二人の頭をわしゃわしゃ撫でると二人して顔を真っ赤にして俯いてた。何故?

 

いやそれよりも、今回の事に懲りてもう魔法少女体験コースなんて馬鹿な真似はしないだろう。友達が危ない目にあって怖い思いしたから戦いがどういうもんか理解したに違いない。

危ない目に遭ったがこれはこれで結果オーライだ!

 

俺は密かにほくそ笑んだ。

 

「あ・・」

 

魔女がいなくなったので結界は崩壊し空間を歪め、やがて元の廃墟ビルの屋内に戻った。

 

 

 

「鹿目さんと美樹さんは大丈夫?怪我はないかしら?」

 

制服姿に戻ったマミちゃんは落ちてたグリーフシードを拾った後、俺達の方へ近づいてきた。

 

 

 

 

「はい!大丈夫です!怪我はありません!」

 

「ごめんなさいね?私の不注意で怖い思いさせてしまって」

 

「いえ・・そんな」

 

 

 

三人とも顔を俯かせてしまっている。

 

よっしゃ良い流れだ!このまま中止に話を持っていこう!!

 

 

 

 

「まあ、これで危ないって分かったから今度から中止に・・」

 

「でもマミさんとてもかっこ良かったです!!」

 

「・・え?」

 

 

俺の言葉を遮るようにまどかが勢いよく顔をあげてマミちゃんを力強く褒める。

 

 

 

 

嫌な予感・・・・

 

 

 

「あの・・」

 

「本当・・?」

 

「・・おーい」

 

「ホントですよ!マミさんすごくかっこ良かったー!!ちょっと危ない所もあったけど結果的に無事だったんだし、諺にもありますよ!『終わりよければ全て良し』って!!戦いなんだから危ない目に遭うのも当然っしょ!むしろ今回の事で緊張感が出て気が引き締まったっす!」

 

「・・そう言ってくれるなら嬉しいわ」

 

「はい!だからこれからも魔女退治に同行していいですか?今回の事できちんと願い事を考える必要があるって分かりましたから!」

 

「! ええ喜んで!今度は極力危険な目に遭わせないようにするから!これからもよろしくね!」

 

「「はい!」」

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

・・・俺は何を聞いてるんだ?

宇宙人の会話聞いてんの?

あーだから会話を理解出来ないんだー

 

 

ずるずる体に力が抜けて地面に座り込む。さっきまで命の危機が迫ってたのでそれの緊張も解けたようだ。あの脳内フローラルな三人の説得の気力が残ってないどころか立ってる気力すらない。そのまま頭を抱える。

 

 

嘘だああああああああ・・・

こいつら正気かよおおおおおお

実はあの三人全員幻覚でも見えてんじゃねえの?

 

・・それにしてもここまで来るともうこの三人の意思とかじゃなくて物語の強制力すらあるんじゃないのかと疑いたくなってくるな。ホントにあったりして?

まさか邪神関わってないよね?

・・考えないようにしよう・・

 

あああああああああああああああ!!!

このままじゃマジで原作通りに進んでしまう!

それは絶対嫌です!でもどうしよう?

この三人の説得マジで無理そうなのに!

何言っても都合の良い超ポジティブシンキングに変換されそうで怖いわ!

 

俺はマミちゃんがどう見てもグリーフシードが手に突き刺さってる構図でソウルジェムの浄化をまどかとさやかに説明してる様子を見ながらネガティブ思考をしまくる。

 

 

 

 

 

 

「・・あと一回くらい使えそうだし、このグリーフシードは貴女にあげるわ。・・暁美ほむらさん」

 

「ほむらちゃん!?」

 

「あんた・・!」

 

「あ」

 

唐突にマミちゃんが説明を終えるといきなりグリーフシードを暗い室内に投げ込む。それをキャッチし中からまどかを絶賛ストーキング中だったほむらが出てきた。

 

ほむら忘れてたあああああああああああああああ!!

そうだ!まだほむらがいた!

クレイジーな暴走紫だけど魔法少女の危険性について一番理解している!!

まだ希望があったよ!!

この紫は絶望の闇に近い存在だけど希望の光はまだあった!

ほむらと協力出来さえすればまだ未来はある!

 

ありがとう紫さん!君のおかげでまた俺は立てそうだ!

 

 

急に力が漲ってきたので俺は立ち上がる。そんな俺をほむらが横目で見ていた気がする。

 

 

 

「・・それとも人と分け合うのは癪かしら?まるごと自分の物にしたかった?」

 

「いらないわ。それは貴女の物よ。貴女だけの物にすればいい」

 

 

 

お互いトゲ含ませた言葉を添えてトゲの投げ合いをしている。

 

 

 

やめて!身も心も傷つくから物理でも言葉でもトゲ投げるのをやめなさい!

まどかもさやかも引いてるよ!?

 

しばらく続いたベテランぼっちのコミュ力の低いキャッチボールが終わった後、ほむらが一瞬だけ俺を見て暗闇の中に消えていった。俺達はそんなほむらの背中を見送った。

 

 

「何しに来たのあいつ?」

 

「さやか・・それこっちが聞きたい」

 

「仲良く出来たらいいのに・・」

 

「・・お互いにそう思えればね・・」

 

 

嘘つけ絶対思ってないだろうが!!

さも物わかりの良い大人な感じだしてるけどほむらに殺気バリバリ向けてたし、明らかに喧嘩売ってるとしか思えない言い方だったじゃん!!

 

何でそんなにほむらが嫌いなの!?

 

そんなにキュゥべえ攻撃されたの根に持ってんの!?

 

やっぱり魔法少女の中でこの人を一番怒らせちゃいけない!!

 

 

俺は夕暮れの廃墟の中でマミちゃんを怒らせないようにすると一人心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに後で分かる事だが、あの時突然鳴りだした死の着信メロディ

発信先トモっちだった。あのメロディに設定したのも奴。

少し前に会った時、携帯に入れて欲しいゲームのアプリをダウンロードしてもらってる間にこっそりアイツの着信で鳴るように設定したそう。

 

今回電話したのはそれのドッキリと、とある報告のためだとか。

 

確か内容が

 

『祝!Ribbon様ファンイベント開催決定!!』

 

 

 

・・・俺はこの変態のせいで死にかけたのか。

 

 

 

 

俺は慈悲深い心で奴の男の急所を潰し、男としての人生を終了させてやるだけで許してあげることに決めた。




ホントに優依ちゃんの周りはトラブルメーカーばかりですw

まともな人は・・・

人じゃないけどシロべえでしょうねw

あとトモっちSです!
そして遠く離れていても場を引っ掻き回すトリックスターの才能の持ち主です!


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32話 交渉人”神原優依”

ほむほむ転校から魔法少女体験コースまでのチュートリアル終了!

ここからオリジナル展開になっていくかもしれません!


「”江戸城無血開城”をご存知ですか?慶応四年(一八六八年)に行われた江戸幕府の幕臣”勝海舟”と新政府軍の総大将”西郷隆盛”による江戸城を新政府への引き渡しおよびそれに至る交渉の事です。新政府軍が江戸に侵攻する際の混乱を防ぎ、戦火があがれば失っていたであろう多くの尊き命が明日を紡ぎ、一滴の血も流さずに双方共に納得いく形で穏便に戦いを回避させた偉業です。これは日本だけでなく世界でも類を見ない出来事であり、武力に訴えずに話し合いだけで物事を解決出来るという日本が誇るべき好例です。ですから暁美さんもそれに倣って話し合いをしてみませんか?無抵抗の人間に銃を向けるというのは野蛮な行為です。銃を下ろしませんか?いや、それが無理でもせめて無言で睨むのはやめて下さい!お願いします!!」

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

あの波乱の魔法少女体験コースの後、俺はマミちゃん達と別れ、消えたほむらを探しにいった。途中待ち合わせしていたシロべえと合流し、後を追う。人気のない公園でほむらの後ろ姿を発見したので声を掛けたはいいが、後ろを振り向き俺達(正確にはシロべえ)を視界に入れた瞬間、魔法少女に変身し、銃を突き付けてきた。

 

相変わらずのQB拒絶症で何よりだ。

 

これでは話なんて無理なのでほむらに対して話し合いで解決する素晴らしさを偉大な歴史に基づいて語ってみたがまるで効果なし。無言で睨み、銃を突き付けたまま。

 

「暁美ほむら、君は少し頑な過ぎじゃないかい?会う人全てを敵だと思い込んでたら身動き取れなくなるよ?ここは危険を承知で流れに乗っかってみるのも一つの手さ。案外なんとかなるものだよ」

 

良い事言ってんだけどさシロべえさん。

俺の後ろに隠れて弾除けしながら言うセリフじゃないよね?

張っ倒されたいの?

 

「インキュベーターのお前に言われたくない!また私を騙すつもりなの!?」

 

「ひい!」

 

ごもっともです。

ほむらからすればシロべえの言う事全部信用出来ないわなー。

火に油注いでるようなもんだ。

 

 

 

「落ち着いて暁美さん。決めつけはよくないって。そんなメガネのフレームよりも狭い視野じゃ見えるものも見えないよ?」

 

「・・貴女は喧嘩を売りに来たの?」

 

「違うよ?暁美さんに会いに来たんだ」

 

「・・信じられないわね。前に会った時も同じように銃をつきつけてるのにどうして今回は怯えていないの?前回はとても怯えていたじゃない。それに私は巴マミ達から嫌われている。私と会って大丈夫なの?貴女、彼女達の友達でしょう?」

 

友達じゃねえよあんな宇宙人ども!!

だってコミュニケーション取れねえんだもん!

俺マジであいつらと友達やめてやるよ!

一緒にいるだけで命がいくつあっても足んねえからな!

 

あと怯えてない訳がない!

ほむらが気付いてないだけで内心めちゃくちゃビビってんだよ!!

足ガクガク震えてるわ!

 

でも、もう後がねえ!

このままいけばイエロー星人がパックンチョされるんだよ!

そしたらその後、この世界もパックンチョされるから逃げ場がない!

最後の希望であるほむらを頼るしか生きる選択肢がない所まで来てるから、もうこれはなりふりなんて構っていられない!

 

俺にあのお花畑な三人の説得は無理だ!

さっきでよーく分かった。何言っても無駄だわ。

 

ここで何が何でもほむらと協力関係になっておかなければマジでデッドエンドまっしぐらだ。

 

今の俺を動かしているのはヤケクソ以外の何物でもない!

 

俺を深呼吸をして心を落ち着かせる。

焦っては駄目だ。

俺の一字一句が命運を分けるんだから慎重にいかないと。

 

「暁美さんも分かっているでしょう?このまま魔法少女体験コースを続ければ、私みたいに危ない目に遭うかもしれない。今回は運よく助かったけど次はどうなるか分からない。最悪死ぬ可能性すらある。何とか止めたいんだけど、私の力だけじゃ無理。だから協力してもらえないかな?貴女は危険だって分かってるから私達を見守ってくれてたんでしょう?」

 

こいつの場合はまどかのストーキングだけしてたんだろうけどな。

 

「・・・・・・」

 

「暁美さんが一体何の目的で行動してるのか知らないけど(知ってるけど)、お互い利害が一致してるだろうし協力出来るんじゃないかな?」

 

銃を突きつけたままだがほむらは考え込んでいる。

 

 

悪い条件ではないはずだ。

お互い考えてるのは魔法少女体験コースをやめさせたいって事だ。

 

でもほむらはマミちゃん達に警戒されていて近づけない。

俺は彼女達と親しいが止める術がない。

しかしお互い協力出来れば止められるかもしれないのだ!

 

 

 

 

しばらく待った後、ようやくほむらは結論が出たようで俺の方を向く。

 

 

「・・協力するにしろしないにしろまずは貴女の傍にいるインキュベーターを始末する必要があるわ。こいつに知られたら邪魔をされそうだもの。そこをどいて。そいつを始末出来ないから」

 

「えええええ!?どうしてそんな結論になったの!?」

 

ほむらは予想の斜め下な結論を述べた上で標的をシロべえに変更する。それから逃れるようにシロべえは俺にしがみつき、俺はほむらからシロべえを守るように大の字ポーズになる。

 

あくまで最優先は夷敵インキュベーターの抹殺!

流石攘夷浪士の鏡!

 

 

「ちょちょちょちょちょっと!シロべえは他の白い悪魔と一緒にしないで!コイツは普通のキュゥべえとは違うんだから!!」

 

「その見た目に騙されてるだけよ。コイツに感情なんて無いわ」

 

「いや、だから・・」

 

 

 

「黙りなさい!」

 

「!?」

 

説明しようとするも聞く耳なんてどっかに捨てたらしいほむらに一蹴されてしまった。

 

 

「そいつを庇うなら貴女は私の敵よ。インキュベーターと一緒にいる貴女を信用できない」

 

「ええー・・・・」

 

・・どうしよう?

ほむらがめんどくさい宣言してしまった。

こんな頑なじゃ協力なんて無理じゃね?

 

 

 

「優依・・!」

 

「?」

 

 

カチャリ

 

「!?」

 

 

 

内心めんどくさいなーとぼんやり考え事してたらシロべえに名を呼ばれ返事をする前に額に何か固い物があたる。顔を上げるとほむらが至近距離に接近しており、お互いの顔がとても近い。ほむらの紫の瞳と目が合う。

 

いや・・そんな事はどうでもいい。

本当は美少女と顔が近い事に喜ぶべきだがそれどころじゃない・・!

 

 

お、俺の額にゼロ距離で銃が突き付けられてるううううううううう!?

 

うおおおおおおおい!マジか!?

仮にも同級生だぞ!?

何考えてんだよこの暴走紫!?

 

まずい!これじゃ逃げられない!

 

 

 

 

「貴女は何者なの?」

 

「え?ええっと・・?」

 

ほむら式尋問をされ、どう答えようか考えあぐねいてしまう。

 

「今まで貴女を見た事が無いわ。本当に人間なの?魔法少女・・ではないみたいだし、ひょっとしてインキュベーターのお仲間かしら?」

 

「人間ですよ!魔法少女でもましてやあの大嫌いな白いGと仲間じゃない!シロべえは例外だけど・・」

 

ホントにキュゥべえ嫌いなのね。

知ってたけどさ。

それにしてもやっぱり他の時間軸で俺は存在しないんだな。

 

こうなったら真相でも話すか?

それは構わないけど(嫌だけど)どこにインキュベーターがいるか分からないこんな場所で打ち明けられるか!

最悪あいつらそれに興味湧いて実験のためとかで俺の前世の世界に乗り込まれたりなんてしたら笑えない!

 

 

 

 

「・・・まあ、いいわ。貴女は話す気がないみたいだし」

 

ため息を吐いて額に突き付けていた銃を下げた。

 

「え・・・?」

 

「結論は協力出来ない。おそらく貴女と話すのはこれが最後でしょうね。もうこれ以上魔法少女に関わらない方が身の為よ」

 

 

 

ほむらは身を翻して歩き出した。

 

まずい!今逃したらマジで死亡フラグ完成する!

 

 

「待って!」

 

「しつこいわよ。協力出来ないと言ったでしょう?」

 

「でも・・!」

 

 

 

「いい加減にしなさい!!」

 

「!!」

 

背中を追いかける俺に苛立ったのか再び額に銃を向けられる。目に怒りの炎が宿っているようだ。

 

「協力しないと言ってるのが分からないの!?」

 

「・・・・・・・」

 

あまりの気迫に何も言い返せない。

 

 

「そもそも仮に協力するとして私に何のメリットがあるの!?貴女に何が出来るのよ!?」

 

 

 

怖えええええええええええええええ!!

 

 

 

ほむらカンカンじゃないですか!?

ヤバい!一歩間違えたらズドンだ!

 

 

 

しかしこれはチャンス!

 

ここでアピールして俺と協力した方がいいとほむらに思わせられれば考え直してくれるかもしれない!

 

 

 

よし!俺の出来る事を考えるんだ!

人間一つや二つはあるはずだ!

 

考えるんだ俺!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

えっと・・いざ考えてみると中々出てこないな・・

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

思いつかない・・。だ、大丈夫だ!

今の俺は冷静じゃないんだ!

何てったって額にゼロ距離で銃突き付けられてるからな!

一歩間違えば撃たれるかもしれないから焦ってるだけだ!

 

よーし、落ち着け俺。

冷静になれば一つくらい出てくるはずさ!

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

待って?ホントに待って?

全く出てこないんだけど!?

 

 

は!そもそも出来る事って魔法少女関連の事を言ってんじゃないのか!?

その中で俺が出来る事なんていくら考えても出てこなくて当然だ!

 

じゃあどうしよう?

 

あ!そうだ!

俺の長所をほむらにアピールすれば良いんだ!

 

うん、そうしよう!その方がいいや!

 

えーと・・・・・。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・ウソだろ?

 

 

人間長所くらい一つや二つあるはずなのに、考えても俺の長所らしい長所が全く思い浮かばないんだけど!?

 

 

 

逆に短所なら

 

 

〇へタレ

 

〇打たれ弱い

 

〇カバーガラスハート

 

〇ポンコツ

 

〇間が悪い

 

〇お調子乗り

 

〇その場しのぎの言葉

 

〇友達=トラブルメーカー

 

〇気絶体質

 

〇超ビビり

 

 

ちょっと考えただけでこんなにポンポン出てくるよ?

 

 

・・・うん。

自分の事改めて振り返ったら結論が出た。

 

 

 

 

 

俺ただの役立たずじゃん!!!

 

 

 

 

Noooooooooooooooooooooooooooo!!

 

知りたくなかったよこんな事実!!

 

駄目だ!!

 

考えれば考える程ほむらが俺と協力するメリットがないどころかデメリットしか思い浮かばねええええええええええええ!!

 

 

しかも邪神のせいでまどか以上の魔法少女(破壊神)の素質を押しこめられてんのよ?

 

足手まといな上に存在が害悪じゃん!

 

 

涙出そう・・・

 

 

 

 

≪優依何やってるの!?さっさと答えるなり命乞いするなりしないとこのままじゃ殺されちゃうよ!?≫

 

 

 

 

全く動かない俺に痺れを切らしたのかシロべえがテレパシーを送ってきた。

 

 

≪・・・シロべえ≫

 

≪何!?≫

 

≪俺に何が出来るかな?もしくは長所って何かな?さっきから考えてるんだけど全然思いつかないんだよねー。シロべえは何か思いつく?≫

 

≪・・え!?≫

 

良いタイミングで連絡してきたので俺はシロべえに希望を託す事にした。

こいつは相棒みたいなもんだから俺の長所の一つや二つは出せるだろう。

 

シロべえの回答を期待して待ってみる。

 

 

 

 

≪・・・・・・・・・・・・・・・・・・えーと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お、囮くらいは出来るんじゃないかな?・・長所は・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん、何も思いつかないや・・・≫

 

 

希望が絶望に変わった瞬間、俺の中で何かが壊れる音がした。

 

 

 

 

 

 

「何も答えられないの?それで私に協力しろなんて呆れたわ。・・私はもう行くわよ」

 

何も答えない俺を見てほむらが心底うんざりした様子で銃を下ろす。

 

 

 

「・・・・暁美さん」

 

「しつこいわよ・・・・!?」

 

 

 

逃げないようにがっしりとほむらの両肩を掴む。

そして今最も聞きたい事を驚いてる彼女に聞いてみる。

 

 

 

 

「俺って役立たずなのかな!?」

 

「は!?」

 

 

勢いよく顔を上げた俺は泣きべそをかいている。そんな俺の様子と突然の質問に若干混乱気味のほむらは普段のキャラとは思えない素っ頓狂な声をあげた。

 

しかし今の俺にそんな事気にしている余裕はない!

たとえそれが銃を持ってる相手でも気にしてられるかあああああああああああ!!

 

「考えたんだ!俺の出来る事は何かって!さっき質問された時からずっと!でも何も思いつかなかった!それどころか自分の長所すら一つも出てこないんだよ!?ヤバいよね!?これヤバいよね!?」

 

「ちょ・・ちょっと・・!」

 

 

感情のままにほむらを揺さぶりながら俺の嘆きは止まる事を知らない。

 

 

「ただでさえ足手まといなのに俺の魔法少女の素質って破壊神と同等なんだよ!?もう生きてるだけで罪じゃん!存在そのものが大罪みたいなもんじゃん!!」

 

「何言って・・?」

 

「もうこれ死んだ方がいいかな!?俺、死んで詫びた方がいいかな!!?今すぐ銃で頭撃ち抜いてもらった方がいいかな!!!?」

 

「!? 何するつもり!?銃に触れちゃだめよ!!」

 

銃を奪おうとするもほむらが咄嗟に力を込めて阻止、力の差は歴然なので失敗に終わる。

 

 

 

「まどかあああああああああああああああ!!自分に取り柄なんて何も無いって言ってたけどそんなの錯覚だあああああああああ!君の長所は沢山あるよ!俺なんて取り柄が無いどころか存在自体アウトだからああああああああ!!!」

 

 

「・・いい加減にしなさい!!いつまでやってるの!!さっきの質問だけでどうしてそこまで思い詰めてるのよ!!?」

 

暴走を続ける俺はついにほむらの裁きを受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむらside

 

「少しは落ち着いたかしら?」

 

「・・はい、すみません。・・ご迷惑をお掛けしました」

 

突然錯乱した神原優依をどうにか鎮め、落ち着かせるために近くのベンチに腰を下ろして彼女の背中をさすってやる。泣きじゃくるこの娘を見て罪悪感が胸をよぎった。

 

「・・ごめんなさい。いきなり銃を突き付けてまた怖い思いをさせてしまったわね。本当はこんな事するつもりじゃなかったのに。・・どうもアイツを視界に入れると感情的になりやすくなってしまうみたい」

 

謝罪のつもりが言い訳がましい事を言ってしまっていて内心自嘲する。弾は入っていなかったとはいえ銃を向けたのはやはりまずかった。

 

まさか奪おうとするなんて。

一歩間違えれば大惨事になってた可能性もある。

何もなくて本当に良かった。

 

 

 

二人で話がしたかったため神原優依と一緒にいたインキュベーターは追い払ったが、まだ近くにいるだろうから警戒は必要だ。

 

 

 

「シロべえは他のキュゥべえと違うよ?精神疾患だから、リンク外されちゃってね。今は私の所に居候してるの」

 

 

 

周りを警戒している私に神原優依が口を開いた。

 

 

 

「・・・随分キュウべえに詳しいのね?」

 

「うん。だから魔法少女の事も色々聞いてるから契約には反対なの。・・友達の契約も阻止したいんだけどさ」

 

そう言って俯いてしまった。

 

彼女を含めて四人を監視していたけど一貫して目の前にいるこの娘は魔法少女に否定的だった。臆病だからという理由もあるだろうがはぐれらしいインキュベーターから魔法少女の実態を教えらえれていたのなら納得できる。どこまで知っているかは分からないけどある程度の危険性は理解してるようだ。

 

「・・そう、貴女も苦労してるのね」

 

「・・・・・!」

 

「とても痛そうねそれ」

 

巴マミにリボンで拘束され跡が残ってしまった彼女の首筋を触る。労りの思いと巴マミの身勝手さに怒りを覚えた。何とか阻止しようと足掻いていたのに全て空回っているこの娘につい同情の言葉が出る。

 

 

私も似たようなものだから。

 

 

 

うすうす感じていたけど目の前にいるこの娘と私はとても似ている。

僅かな回数でしか会った事はないのにだ。

 

弱虫で何も出来ないくせに必死に足掻いてその結果傷つき苦しんでいる。

 

まだ魔法少女になる前の私を見ているようだ。

 

過去の自分を見ているようで腹ただしいと思う事は多いが神原優依から目が離せない。放っておけない。

 

 

「・・そういえば」

 

「何かしら?」

 

 

 

考え事をしていた私に神原優依が思い出したように声を掛けた。

 

 

 

「さっき魔女に襲われたとき私を助けてくれたのって暁美さん?」

 

 

 

さっきとは「薔薇園の魔女」に捕まった事かしら?

 

 

「いいえ違うわ。私はあの時隠れて見ていただけで動いていないわ」

 

本当は助けるつもりだったが私が身を乗り出す前に全てが片付いていた。

 

神原優依を助けたのは一体誰だったのか?

私が確認出来たのは何か鎖のような物だけ。

・・・まさか

 

「そっか・・暁美さんじゃないんだ」

 

「ええ・・違うわ」

 

思考を中断させるように話を振られ、少し焦ったが返事を返す事が出来た。

 

・・推測はこれで終わりにしましょう。

考えても真相は分からずじまいだし。

 

それにしてもあれは本当に気の毒だと思う。

行きたくもないのに無理やり連れて行かれ、そして危険な目に遭った。

 

本来なら怒って絶交してもおかしくない程の仕打ちだ。

 

 

それなのにこの娘は友達を助けようと自分なりに動いている。

臆病だけど優しくてとても勇気がある。

最初の時間軸にいたまどかを思い出させる。

 

どうやら私は神原優依を見誤ってしまっていたらしい。

 

 

ベンチからおもむろに立ち上がる。

 

 

 

「・・協力の話は一旦保留にしましょう」

 

「え?」

 

私が言った事が信じられなかったみたい。

神原優依が立ち上がった私を信じられない様子で見上げていた。

 

 

「まずは貴女がまだ隠してある秘密を話してもらう必要がある。例えばさっき錯乱してた時の男口調の事とかね。何か理由があるんでしょう?」

 

「・・・・!」

 

 

カマをかけてみたがどうやら図星だったようね。

まだ重大な事を隠しているみたい。

もしまどかに関わりがある事なら意地でも聞き出しておかないと。

 

「貴女の秘密を全て話してくれたその時に協力するか判断するわ。でも今はやめておきましょう。どこでアイツらが見張っているか分からないし、貴女もここで打ち明けるつもりはないんでしょう?」

 

「・・・うん」

 

この反応からどうやら秘密は魔法少女関連だと予想がつく。

ひょっとしたら私も知らない事をこの娘は知っているかもしれない。

だったら尚更話してもらわないと。

本音は既に協力する事を考えているがあえて口には出さないでおく。

 

「・・巴マミは数日後に死ぬわ」

 

「!」

 

「落ち着いて。まだ時間はある。それまでに決意が固まったら私の所に来なさい」

 

 

メモ書きした紙切れを神原優依に握らせる。巴マミの事を出したのは卑怯だけどこうでもしなければこの娘は私を訪ねてこないだろう。

 

 

「・・・・ありがとう。でもどうして?さっきまで協力しないって言ってたのに」

 

不思議そうに私に尋ねてくる。

 

当然ね、さっきまでは協力しないと言ったばかりなんだから。

 

一瞬考えたが結局答えはこれしかない。

 

「そうね・・貴女が私と似ているから・・かしら?」

 

「!?」

 

とても驚いた表情をしている。その様子にばれないようにクスリと笑ってしまった。もちろん、秘密を話して欲しいからというのもあるが根本的にはこれが理由。

 

どうしても放っておけないから。

 

 

 

「私はもう帰るわ。貴女も魔女に捕まらない内に帰りなさい」

 

「う、うん!ありがとう!またね!」

 

「ええ、さよなら」

 

気恥ずかしさもあったので逃げるようにお別れを告げて私は彼女に背を向けて歩き出す。気になって後ろの様子を確認するとあの娘は手を振っていた。再び笑みをもらす。前に会った時と違って今回はとても晴れやかな気持ちだ。あの娘が私のもとにやって来る時を待ち遠しくすら思っている。そんな自分に驚きつつも私は笑顔で歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何で俺はこんな事になってるんだろうか?

 

何なのこの状況?

 

何で俺はさっきまで銃向けられてた人に慰められてんの?

 

 

 

自分のあまりの役立たずぶりに絶望して発狂してたら、ほむらに頭はたかれベンチに強制連行された。ちなみにシロべえは慰められてる最中ほむらによって「失せなさい」とヤクザばりのドスの効いた声で追い払われてしまったが丁度いいので俺はある事をテレパシーで頼んでおいた。

 

さっきの発狂が功をなしたのかほむらは俺に対して警戒しなくなったみたいだ。具体例をあげると銃をしまってくれて、しかも変身を解除して元の制服に戻ってくれた。

 

 

あれ・・?

これ怖がる子供に何もしないよー、怖がらせてごめんねーってしてる大人みたいな対応じゃね?

 

更にあのほむらから怖がらせてしまった事を詫びる言葉が出てきた!?

完全に俺子供扱いじゃん!

 

単純に俺がパニックになってほむらに泣きついただけなのに!

むしろ謝罪は俺がしなきゃいけない立場だよ!?

 

ちなみに慰めてもらってる間でも周囲を警戒しているらしく、しょっちゅう目を動かしていた。

 

ホントにインキュベーターが嫌いなのね。

 

流石にシロべえを殺されるのは勘弁して欲しいので、あいつが精神疾患でリンク外されてることは説明しておいた。

 

 

 

「・・・随分キュウべえに詳しいのね?」

 

「うん。だから魔法少女の事も色々聞いてるから契約には反対なの。・・友達の契約も阻止したいんだけどさ」

 

 

 

 

案の定、怪しんできたので適当に誤魔化しておく。ついでに俺が契約反対派である事と愚痴を伝えておいた。

 

嘘は言ってない。

 

 

「・・そう、貴女も苦労してるのね」

 

「・・・・・!」

 

「とても痛そうねそれ」

 

 

そしたら何故か同情され、どっかの黄色さんの殺人未遂の絞め跡が残る俺の首に触れてきた。

ちなみにその時のほむらの表情は慈愛と憤怒が織り交ざったような複雑さだったと言っておく。

 

触れられてる手がひんやりしてて何故かこっちが恥ずかしくなって気まずい!!

 

話をそらさなければ!

 

 

「・・そういえば」

 

「何かしら?」

 

「さっき魔女に襲われたとき私を助けてくれたのって暁美さん?」

 

そういやすっかり忘れていたがほむらに聞きたいと思っていたのでこの場で聞くことにした。

まどかを守るため絶対どっかで見ていたことは確かだろうしなこいつの場合。

多分こいつが助けてくれたんじゃないんだろうとは予想はつく。

もし助けてくれたのなら俺の中でほむらの株はうなぎ昇りで上昇するんだけどなー。

 

 

「いいえ違うわ。私はあの時隠れて見ていただけで動いていないわ」

 

予想通りかいいいいいいい!

お前が助けんのまどかオンリーだって分かってたけどさ!

こうもはっきり見てただけって言われるとすげえ腹立つな!

 

「そっか・・暁美さんじゃないんだ」

 

「ええ・・違うわ」

 

 

何とか怒りを抑えつつ会話出来た俺に賞賛の拍手を送りたい。

 

 

 

 

 

「・・協力の話は一旦保留にしましょう」

 

「え?」

 

突然ほむらが立ち上がってこんな事言い出すので俺はとうとう熱を出したのかと思った。

だってさっき協力しないって高らかに宣言してたのに一体何があったんだ?

時間遡行の疲れがここで出てきたのか?

 

 

「まずは貴女がまだ隠してある秘密を話してもらう必要がある。例えばさっき錯乱してた時の男口調の事とかね。何か理由があるんでしょう?」

 

え?・・マジで!?

俺さっき素の口調に戻ってた!?

そんな事気にする余裕なんてなかったから分からない!

俺の口調だけでまだ何かあるって分かったのか!?

ほむら鋭いな!

 

 

「貴女の秘密を全て話してくれたその時に協力するか判断するわ。でも今はやめておきましょう。どこでアイツらが見張っているか分からないし、貴女もここで打ち明けるつもりはないんでしょう?」

 

「・・・うん」

 

うん、やだ。絶対やだ。

どこでインキュベーターいるかマジで分かんないし。

 

 

 

「・・巴マミは数日後に死ぬわ」

 

「!」

 

いきなり何言い出すんだよこいつ!?

 

「落ち着いて。まだ時間はある。それまでに決意が固まったら私の所に来なさい」

 

完全に誘導尋問じゃねえかああああああああああああ!!

マミちゃん人質にして俺に白状させる気か!?

 

 

 

「・・・・ありがとう。でもどうして?さっきまで協力しないって言ってたのに」

 

ほむらがどうして俺に優しくなったのか単純に疑問に思ったので好奇心で質問してみる。

 

 

 

「そうね・・貴女が私と似ているから・・かしら?」

 

「!?」

 

 

 

優しく微笑んで答えてくれたがその理由は俺にとって到底受け入れられるものじゃなかった。

 

嫌だあああああああああああああああああああ!!

俺がこのクレイジーサイコパスと似てるだとおおおおおおお!!?

どこ!?教えて!?

一つずつ直していくから!!

 

 

「私はもう帰るわ。貴女も魔女に捕まらない内に帰りなさい」

 

俺の願いは届かずほむらはすぐさま帰宅宣言し、踵を返す。

 

 

 

「う、うん!ありがとう!またね!」

 

「ええ、さよなら」

 

本当はいろいろ(俺とほむらが似てるとこ)を問い詰めたかったが機嫌を損ねられて振り出しに戻ったら意味はないのでそのまま見送る事にする。

 

 

 

「・・・・・・」

 

ほむらを見送った後、俺は握らされた紙を見て思った。

 

何で携帯電話じゃなくて家の住所?

この個人情報に厳しいご時世になんてもん俺に渡してんだよ。

ひょっとしてぼっちだから携帯番号教える発想なかったりして?・・なんてな。

 

 

 

 

 

「・・・終わったみたいだね」

 

いつの間にか俺の隣にシロべえがいた。

 

「まあね。そっちはどうだった?」

 

「君の予想通り彼女たちは何らかの精神操作がされてあったみたいだ」

 

俺がほむらに慰めてもらってる間、シロべえに頼んであったのはまどか達を調べてもらう事。

 

だっておかしいじゃん?

さやかやマミちゃんはともかくまどかがあんだけ強引なんてキャラ崩壊にも程がある。

 

これもう何かが介入してるとしか思えなかったのでシロべえに調べてもらった。

結果はビンゴのようだ。

 

「やっぱり?道理で変だと思ったよ。まあ、素じゃなくて良かったけどさ。それで解除できそう?どうせ腹黒いインキュベーターがやったんでしょ?」

 

「・・・それが既に解除されてるんだ。君がほむらと話してる時にね。彼女たちは今は元の状態に戻ってる。ちなみに精神介入があったのは君の同級生の二人だけでマミはあれ、素だよ。あとインキュベーターの仕業じゃないねこれは」

 

「え!?」

 

シロべえからの思わぬ報告に身を乗り出し、顔を近づけて真意をはかる。

 

・・嘘は言ってなさそうだ。

 

「嘘じゃないよ。これはインキュベーターの仕業じゃない。感情に無理解なアイツらがここまでごく自然に精神に介入出来るとはどうも思えない。あそこまで違和感なく介入できるなんてそれこそ神のみだろうね」

 

「・・・・・・」

 

「心当たりありそうかい?」

 

「そうだねーあるねー心当たりー。語尾に☆つけてそうな奴がさー」

 

「・・・そっか」

 

「「・・・・・・・」」

 

暗い沈黙が俺達の間に漂う。

 

 

 

「まあ、それは置いといて優依GJだよ!君の駄目っぷりがあの暁美ほむらの要塞みたいな心を開かせたんだ!これを偉業と呼ばずしてなんて呼ぶんだい!?あと一押しで攻略出来そうだね!よし!今度は僕も協力するよ!」

 

暗い空気を紛らわすように明るく振る舞っているみたいだが今の俺には怒りを煽ってるとしか思えない発言だ。

 

「何がGJだ!どう見ても同情されただけじゃねえか!お前ふざけんなよ!友達の俺の長所の一つくらい出てこないのかよ!あるだろ何かは!?」

 

「・・まあ、あの時は焦っていたからね仕方ないよ。君にとっては同情に見えるだろうけど警戒されるよりはマシなんじゃないのかい?前進したじゃないか。あとは君が秘密を打ち明けるかどうかだね。暁美ほむらにとっては受け入れがたい事実だから拒絶されないといいけど」

 

「そうなんだよな・・」

 

ベンチに寝そべって今日の疲れを癒やそうと努めてみたが効果なし。

 

今日は本当に酷い目に遭った。

連行されるし、殺されかけるし、銃突き付けられるしだ。

 

まあ、ほむらと少しは打ち解けられたのは一歩前進かな?

やっぱりほむらにちゃんと俺の事話した方がいいかな?

・・話すとしていつ話そうか?




優依ちゃんの駄目っぷりが活躍しました!

ほむほむの心がちょっぴり開かれた!


希望が見えてきました!


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33話 癒してえええええええ!あんこちゃあああああああん!!

寝溜めなんてするもんじゃないと思い知った日曜日
雨だから一日パジャマでいようと思ったのが運の尽き
そのせいで投稿が遅れるという不始末

取り敢えず一日パジャマはやめようと思います!

それは置いといて唐突な杏子ちゃん回!


杏子side

 

優依は今何してるんだろう?

 

最近そんな事ばかり考えてる。

 

数日前にアイツに会いにいった時、どういう訳か泣きじゃくっててアタシに泣きついてきた。最初は戸惑ったけど内心では優依がアタシにすがっているのを喜びながら慰めた。それを夜中ずっと優依が眠るまで続いた。

 

何で泣いてたのか結局教えてくれなくてもどかしい。

 

朝になると優依は飛び起きアタシに向かって土下座していた。

 

それはいい。誰にだって泣きたい事はあるし、何より優依がアタシに弱みを見せてくれて嬉しかったから。

 

でもその後言った言葉は許せなかった。

 

「ごめん杏子!しばらく見滝原に来ないでくれないか?」

 

 

「あぁ?」

 

受け入れがたい頼みに思わず凄んでしまう。優依は怯えた顔をしていたがそれを気にする余裕がない。

 

何故だ?

アタシに会いたくないからか?

アタシは毎日でも優依に会いたいのに・・・

 

黒くてドロドロしたものが胸の中で広がるのを阻止するように拳をきつく握る。

 

「・・理由はなんだ?」

 

「え、えーと今日からとても忙しくなるんだ!何でかは今話せないけど帰らない日もあるからせっかく来てくれても俺いないかもしれないから悪いじゃん?迷惑かけたくないんだ」

 

「・・そんなの気にしないのに。優依の事で迷惑なんて思ったことない」

 

「俺が気にするの。終わったら俺から会いにいくからさ、それまで我慢してくれないか?」

 

「・・・来なかったら承知しないぞ?」

 

「もちろん!杏子いつもゲーセンにいるんだよな?そこを待ち合わせにしようか!」

 

「ああ」

 

ずっと会えない訳じゃない。

ほんの少し我慢すればいいことだ。

そしたら今度は優依から会いに来てくれる。

何より真剣な頼みをしている優依に嫌だと拒否して嫌われたくない。

 

迷ったがアタシは優依の頼みを聞くことにした。

その朝に別れて以来優依に会っていない。

 

 

イライラする。

 

まだ二日しか経っていないのに。

 

どこにいるんだ?

今誰といる?

アタシの事考えてくれたりしないのか?

 

アタシはずっと優依の事ばかり考えてる。

ホントは迷惑がかかっても良かったんだ。

会えない事に比べれば。

 

辛い、苦しい、寂しい

 

憂さ晴らしに魔女を狩りまくっても心が晴れない。そこまで魔力を消費してる訳じゃないのに、ソウルジェムが濁りやすい。実は優依はアタシが嫌いでわざと遠ざけたんじゃないかって考える事が多い。

 

ホントにイライラする!

 

「チッ」

 

今アタシはゲーセンにいる。ダンスゲームは気分じゃないからプレイせず店内をうろうろしてる。平日だから優依はいないって分かっててもつい探してしまう。

 

「・・・これ」

 

目に止まったのは一台のクレーンゲーム。

景品は優依が好きな種類の板チョコのビックサイズ。

 

アイツに持ってってやろうかな?

 

流石に我慢の限界は近い。

そもそも我慢する事が性に合わない。

 

優依に会いに行こう

 

そう決めてふらふらした足取りで近づき景品を手に入れるため硬貨を入れてプレイする。中盤まで順調だったのに景品出口直前で落としてしまった。

 

「チッ、ムカつく!たかが板チョコのくせになんだよ!」

 

悪態をついて八つ当たりしてしまう。

最近ずっとこんな調子だ。

 

「・・・・・はあ」

 

少し冷静になって顔をあげると見覚えのある後ろ姿が目に入って驚く。

 

幻覚か?

いや、アタシがアイツの姿を見間違うはずがない!

 

あの後ろ姿は優依だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はバスに揺られている。今日は平日なので俺以外のバスに乗っている人達は日本の三大義務を果たすべく乗車している。周りはスーツと制服がほとんとだ。そのため私服の俺はとても浮いているだろう。

 

 

学校?知るか!

 

魔法少女体験コース?知るか!!

 

巴マミ?知るかあああああああああああああああああ!!!

 

昨日の魔法少女体験コースとほむらとの会合(二回目)の後、俺はマミちゃん、まどか、さやかに電話して魔法少女体験コースに参加しない旨を伝えた。

 

まどかとさやかは「無理矢理連れていってごめん」と謝罪の言葉と共に了承を得たが

 

マミちゃんはすぐさま俺の家に押し掛けてきて

 

「どうして!?」

 

「私の事が嫌いになっちゃったの!?」

 

「ひょっとして暁美さんに何か言われたの!?」

 

「彼女に会ってたの!?」

 

「あの娘に乗り換える気なの!?」

 

と涙ながらに騒ぎ立てられ宥めるのに深夜までかかってしまった。とりあえず危険な目にあって怖いからやだと説明したら負い目もあるからかしぶしぶ納得してくれた。

 

パトロールサボって来たからか慌てて帰ってくれたがその際、

 

「まだ聞きたいことがあるわ。暁美さんの事よ。彼女とどういう関係なのか明日きっちり説明してもらうわよ」

 

と笑顔で恐ろしい死刑宣告をされたので、朝一番で逃げ出した。

 

ほむらとの仲が少し前進したと思ったらこれだ。

厄介な事にしかならない気がする。

これから先、死亡フラグ回避のためほむらとの協力は必須だ。

 

でも協力の条件は俺の秘密の開示。

どうするか悩んでる時にマミちゃんの押し掛け。

あの様子じゃほむらとの接触妨害されそう・・・

一難去ってまた一難とはまさにこの事。

いや、軽く二、三難はやって来てるんだけどさ。

 

 

 

マジで疲れた・・・。

まだ原作始まって二日しか経ってないのに人生二周分の苦労はしてる気がする。

 

休みが欲しい!見滝原にいたくない!

 

という訳で今日はお休みにした。

 

今日金曜日だし、学校と母さんには今日休むって伝えてある。マミちゃんが死ぬのは数日後の平日だ。今日じゃない。

 

だからいいじゃん!一日くらい休んだって!

どうせこれからノンストップなんだから!

今のうちに休んでおかなくては!

 

ちなみにこのバスの行き先は風見野。

そう!俺は杏子に会いに来たのだ!

 

今のところ杏子とだけは魔法少女関係なしの友人。

俺にとってはまさに救いだ!

 

まさかのシロべえも許可してくれた!

 

「いいんじゃないかい?この二日間大変だったし、気晴らしするのは賛成だ。佐倉杏子に会いに行くんだよね?ちゃんと彼女を調教して無事に帰ってくれば問題ないよ」

 

と不吉な言葉と共に護身用のシロべえクオリティグッズをいくつか渡してくれた。

 

本当は杏子を見滝原に連れていこうと提案したんだけど

 

「こんなややこしい時期にあの杏子を連れてきたらそれこそ更にややこしい事になるよ。君は魔法少女のリアルなバトル・ロワイアルを見たいのかい?せめてマミかほむらがちゃんと君の協力者になってからじゃないと駄目だよ」

 

と却下された。

 

今シロべえは調べたい事があるからと見滝原に残ってくれている。ただ表向きはそう言っているが本音は杏子に会いたくないからだと思う。

 

だって一緒に行こうと言ったら身体むちゃくちゃ震えてたし。

ホントに杏子が怖いんだな・・・。

 

 

 

まあ、それはともかく今の俺には心身ともに癒しが必要だ!

 

頼むぞ杏子!

俺に元気を分けてくれえええええええええええ!!

 

 

 

「チッ、ムカつく!たかが板チョコのくせになんだよ!」

 

「・・・・・・」

 

風見野に着いた俺は早速杏子を探すことにした。

杏子と言えばゲーセン。待ち合わせ場所もそこにしているので向かってみればすぐ見つかった。

 

それは良かったんだけど、現在クレーンゲームの前で地団駄踏んでます。俺はそれを隠れて見ている。

 

そんなにあの板チョコ取れなくて悔しいのだろうか?

 

今とても不機嫌そうなので日を改めて会いに行こうと思う。なんかとても見てはいけないものを見てしまった気がするから。

 

俺はこっそり杏子に背を向けこの場を離れた。

 

 

 

「おい、優依」

 

「ひゃあああああああああ!?」

 

だいたいこういうパターンは見つかるのがセオリーだ。それは分かってる。

 

だが耳元に息を吹きかけるのはなしだ!

何がしたいんだ君は!?

俺を叫ばせたいのか!?

生暖かい風が耳に入ってきて思わず変な声あげたぞ!?

 

息を吹きかけられた耳を両手で押さえ涙目で犯人を睨む。案の定、犯人はさっきまで子供みたいに地面に八つ当たりしてた佐倉杏子だった。

 

呆れた目でこっちを見てる。

いつぞやのゲーセンで遭遇した日を思い出すな!

 

「お前ホントビビりだよな。これぐらいのイタズラで叫んでんじゃねえよ」

 

「いきなり耳に息吹きかける奴が悪い!俺悪くない!園児のイタズラじゃあるまいし誰だって驚くわ!!」

 

興奮ぎみに叫んでしまう。

まだ心臓バクバクいってるわ!

 

杏子め、めっちゃ楽しそうに笑いやがって!

 

「それよりさ優依」

 

「何・・?」

 

 

 

「お前アタシに気づいてたくせに無視したよな?アタシを無視するなんていい度胸だな?」

 

「いえ!お取り込み中だったみたいなので後日改めて伺うつもりでした!本当です!ごめんなさい!」

 

顔は笑顔なのに膨れ上がる杏子の怒りのボルテージに俺は慌てて頭を下げて言い訳する。

 

あんな触れる者皆傷付けそうな殺気に満ちた状態の人に話し掛けるなんて無理!

俺は勇者じゃない!

 

 

「・・ふーん、まあいいや。そういう事にしといてやるよ。それより優依がここにいるって事はもう忙しいのは終わってアタシに会いに来たって事だろ?」

 

「え、えっと・・」

 

どうしよう?

ニコニコしてる杏子になんて答えよう?

全然終わってないどころかまだ序盤だし、むしろ更にこれから忙しくなる。しかも想定外の問題は山積み。

 

半ば現実逃避に近い形で厄介事ほっぽり出して逃げてきましたなんて口が裂けても言えない・・・!

 

「お前ちゃんとやる事片付けてきたのか?」

 

言い淀む俺を怪しんで杏子が笑顔を引っ込む。

 

「えーと・・まだ終わってなくて、その」

 

「はあ?だったらお前何でこんな所にいるんだ?今日は平日だろ?学校サボってきたのかよ?」

 

さすがの杏子も呆れ顔。

 

そーだよねー。元々の約束は「俺の用事が終わったら会いに行く」だったもんなー。終わってないのに来たら怪しむわな。つうか杏子め今日が平日だって知ってたのか。普段アウトローな生活してるから日時なんて無頓着だと思ってたから超意外。

 

・・・誤魔化せると思ったけどしょうがない。

正直に話すしかないか。

 

「実は今、問題(原作開始)が起こってさ、解決出来るように色々やってるんだけど上手くいかなくて(例:魔法少女体験コース)。ようやく一つ目の問題(ほむら)が解決しそうって時に別の問題(マミちゃん)がやってきたんだよ。おまけに想定外の問題(容疑者:邪神)まで出てきて、てんてこまい。少し(かなり)疲れちゃったんだ。そんな時に無性に(ただの友人関係の)杏子に会いたくなってさ、(癒しを求めて)会いに来たんだ。情けないと思う。でも、仕切り直しには・・・杏子聞いてる?」

 

「・・・・・・・」

 

多少の説明は省いているが正直に打ち明けてる俺を無視するなんて酷くないか?

 

「杏子?」

 

「ア、アタシに会いたくなって・・・・?へへ、わざわざ学校休んでまでアタシに会いに来た?えへへへへ」

 

何かぶつぶつ呟いてる。超怖い。

 

どうしたの?やっぱり情緒不安定?

クレーンゲームの時も凄まじく不機嫌だったしな。

 

うん!これは帰った方が良いな!

俺の精神衛生上のためにも!

 

「やっぱり情けないわな!俺もう一度頑張ってみるよ!杏子も(いろいろ)忙しそうだし、じゃ、帰るわ!邪魔してごめんな!」

 

逃げるように告げて俺は杏子に背を向けた。

 

「待て」

 

「ぐえ!!」

 

Uターンした瞬間俺の首に何かが巻き付いてそのまま後ろに引っ張られた。

 

「そういう事なら仕方ねえな!よっぽどアタシに会いたかったんだろ?そんなら無下には出来ねえよ。学校サボったって事は今日一日空いてんだろ?だったらアタシに付き合え!」

 

「杏子さん・・?」

 

俺を足止めした犯人は杏子。どうやら首に腕を回してガッチリホールドしてるみたいだ。顔が至近距離にあってお互いの息遣いが分かるほど。俺は今マヌケな顔してると思うが顔を真っ赤にして嬉しそうな笑顔の杏子は気にしていないようだ。

 

「ほら行くぞ優依。取り敢えずゲームしようぜ♪」

 

「え!?今日の予定決定!?」

 

そのまま引きずられる形で連行される。

 

えらく上機嫌だな。何故だ?

弱音吐いてんじゃねえ!って一喝されて追い返される事も覚悟してたので予想外だ。

 

・・まさか、俺財布がわりにされてないよね?

金づる来たと思われてない?

だとしたらヤバい!俺の今月の小遣いピンチ!

 

誰か俺の財布を守ってくれえええええええええええ!!

 

俺の叫びは誰にも聞こえることはなかった。

やっぱり面倒事は放り投げるもんじゃないな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・はあ・・はあ」

 

「・・運動出来ないって言ってたけど予想より出来ないんだな」

 

「・・笑ってくれていいよ?」

 

「流石に笑えねえよ・・ごめん」

 

俺は今ダンスゲームのステージ上で座り込んでいる。杏子にちょっとやってみろよと強引に勧められ押しの弱い俺は渋々踊るはめになった。

 

結果は散々だった。俺はダンスゲームはやった事ないし運動神経の悪さも相まって酷い有様。こういうゲームってプレイしてると目立つから周りに人だかりが出来てて公開処刑状態で精神も疲弊した。何とか一曲踊りきった時にはヘロヘロで座り込んでしまった程だ。ダンスゲームって心身ともに消耗するのね・・鮮やかに踊る人を尊敬するよ。

 

ちなみに杏子曰く俺の叩き出したスコアは見たことがないくらい淋しい得点だったとか。

 

・・知ってた。むしろ一曲踊れただけ俺にしてはよくやってたと思うよ?

せめて笑ってくれた方がまだ救いがあったのに。

 

 

「よし!何か食いに行くか!」

 

気まずさを紛らわせてるとしか思えない明るい声を出す杏子。

 

どんだけ気遣われてんの?

どんだけ同情されてんの?

がめついコイツに慰められるなんてより惨めだ。

 

「ほら行くぞ優依。早く立てよ」

 

「うお!?」

 

無理矢理立たされそのまま腕を引っ張られて歩き出す。

ひょっとして今日一日こんな感じなのか?

 

 

 

 

「奢るって言ったのに・・。何でアタシが奢られてんだよ?」

 

「杏子さん、貴女の資金はどこから手に入れてるか大声で叫んでごらん?」

 

「・・・・・・」

 

杏子は不貞腐れて黙ってしまう。

まあ、ATM破壊の常習犯だしなコイツ。

犯罪から得た金など恐ろしくて使えるか!

使ったその日は俺に精神崩壊起こしそうだ。

 

「お待たせしました、パンケーキです」

 

「おいしそう!」

 

「・・・ふん」

 

店員さんが運んできてくれたパンケーキに目を輝かせる。遅めのお昼として美味しいと話題のパンケーキ専門店(俺リサーチ)にやって来た。

 

俺昼飯はスイーツあり派だ!

 

「杏子は・・!?」

 

「お待たせしました、スペシャルタワーパンケーキです」

 

店員さんが杏子の目の前にパンケーキの数もクリームもフルーツの量もとても一人で食べるものとは思えないスペシャルなタワーを置く。

 

奢られるの不満な割にはがっつり食う気じゃねえかああああああああああああ!!

もしくは腹いせまぎれか!?

 

「うまーい!」

 

さっきまで不機嫌だったくせに口に入れた瞬間、嘘のように上機嫌になった。

 

やっぱり杏子は食べ物で釣るのが一番だな。

 

呆れつつも俺も自分のパンケーキを一口サイズにして口に入れた。

 

「美味しい!」

 

何という甘さと柔らかさ!人気なのも頷ける!

日頃の苦労が消えていくようだ・・・。

 

 

「なあ優依、それ一口くれよ」

 

俺があまりにも幸せそうに食べるからか杏子が俺のパンケーキに興味が出たようだ。女子の定番「美味しそう!一口ちょうだい?」を要求している。

 

「え?でも杏子のそれ・・え?」

 

「ん?あとちょっとで食い終わるぞ?」

 

がめつく俺のパンケーキを要求してきたがあの量を一人で食べるのには限界がある。欲張りはいかんと注意しようと杏子のパンケーキを見るも既に三分の二が消えてた。早くね?

 

「なんかこれじゃもの足りねえからさ、優依のちょっと食べていいか?」

 

「・・・いいよ、はい」

 

諦めと呆れの境地で皿を杏子の方に寄せた。

 

「・・・・・・・」

 

差し出したパンケーキに手をつけず何故か不満そうに俺を見てる。何で?

 

「どうした?食べないのか?」

 

「食べさせてくんねえのかよ?」

 

「・・食べたかったら自分でどうぞ。俺はしないからな」

 

どうやら女の子同士の食べさせあいをしたかった様子。杏子ぐらいの子はしたがるもんな。杏子の友達は今のところ俺くらいしかいないし、そういうもんに憧れがあるのかもしれない。

 

でもごめん。俺無理。

いくら今生は女でも中身男のまんまの俺には自分の口にしたフォークを可愛い女の子の口に入れるなんて、そんな変態行為出来ない!間違いなく犯罪としか思えない!

杏子には悪いが別の女の子とやってくれ!マミちゃんならやってくれそうだから!

 

「はあ?良いだろ?別に食べさせるくらい!」

 

「良くない。俺にそんな趣味(変態行為)ないし」

 

納得がいってない不機嫌な杏子はこの際放置して再び自分のパンケーキをフォークでさして口に運ぶ。

 

「?」

 

口に入れる瞬間、フォークを持ってる手が何かに握られ引っ張られた。何事かと思って顔を腕が引っ張られた方に向けると杏子の口の中に俺の使っていたフォークが・・・!?

 

「!?」

 

「んー!こっちもいけるな!」

 

美味しそうに俺のフォークを口に入れたまま咀嚼する杏子。

 

「・・・・・」

 

「ん?どうした優依?」

 

「ごめんなさい!」

 

「は!?どうしたんだよ優依!?」

 

俺は机に両手をついて杏子に頭を下げた。

 

なんてことだあああああああああああああ!!

とうとう俺も犯罪者だああああああ!!

変態の仲間入りしちまったよ!!

地獄にいる杏子パパが夢枕に立ちそうで怖い!

不可抗力です!俺は反対だったんです!

 

 

 

 

 

「・・優依アンタさ・・」

 

「・・!?」

 

泣きそうな声が頭上から聞こえたので顔をあげると表情も泣きそうな杏子と目が合った。俺の謝りかたが悪かったのか杏子がしてしまった過ちを悔いているのか知らないがこれは非常にまずい!

 

 

「杏子、何で泣きそうになってんの!?」

 

「アタシが口つけたの嫌だからそんな事するのか!?」

 

「え!?」

 

杏子が突然立ちあがり俺に詰め寄ってくる。

 

「アタシの事嫌いだから遠回しに謝ってんのか!?だったらはっきり嫌いだって言えば良かっただろ!?」

 

「きょ、杏子さん?」

 

「ひょっとして見滝原に来んなって言ったのもアタシと会いたくなかったからじゃないのか!?」

 

「ちょ!皆見てるぞ!?」

 

「そんなの関係ない!答えろよ優依!」

 

関係あるわ!俺が困る!

さっきから他の客がこっち見てて居たたまれないんだよ!

「修羅場?」「痴話喧嘩?」などの囁き声が聞こえるぞ!?

 

それにしても杏子はどうしたんだ?

マジで情緒不安定じゃん。何をどうなったら俺が杏子の事嫌いって結論になるんだ?こんなキャラだったっけ?思考がほむら並にぶっ飛んでないか?

 

「はやく答えろよ優依!!」

 

まずい!

感情が高ぶってるのか声がヒステリックになってきてる!

目なんて今にも涙がこぼれそうになってるじゃん!

ホントにどうしちゃったんだコイツは!?

何とか宥めなきゃ!!

 

「嫌いとかそんなんじゃないから!ただ俺が口にしたフォーク使って大丈夫かなって思っただけだ!杏子は平気なのか?」

 

「・・別に嫌じゃねえよ。むしろ・・」

 

「?」

 

「///・・・優依こそアタシが口つけた奴が嫌なんじゃねえの?」

 

「あー平気だよ」

 

心臓には悪いけどな。でも、もう二度とこんな体験しないだろうから安心だ。

 

 

「・・・じゃあ、ほら口開けろ」

 

「!?」

 

杏子は自分のフォークで食べていたパンケーキを突き刺し、俺の前に持ってくる。

 

これは「あーん」ですか!?

マミちゃんの時の看病verと違って今度はガチの百合っぽいんですけど!?

 

待って!!

シチュエーションは最高だけど場所は最悪!

公衆の面前で何させようとしてんだ!?

社会的に抹殺する気か!?

お前は失うものは何もないけど俺は大事な何かを失ってしまいそうだよ!?

 

「あの・・人もいますし」

 

「く・ち・あ・け・ろ!」

 

「はい・・はむ!」

 

断ろうとしても威圧感で即完敗し、観念して口を開けるとそのままパンケーキを押し込まれた。

 

シチュエーションは甘いのに、やり取りの雰囲気は全く甘くない。周りの視線が俺をガン見しているので味わう余裕なんてない。

 

「旨いだろ?」

 

「・・ウン、オイシイネ」

 

「アタシが選んだんだから当然だ。じゃあ優依、アンタもアタシに食べさせてくれよ。今度はちゃんとしろよな?」

 

「え!?一回で終わりじゃないんですか!?」

 

「んなわけねーだろ。早く食べさせろ」

 

鋭く睨んできたので渋々杏子に食べさせた。

俺的には猫を餌付けしてる気分で微妙だった。

 

「うまーい!!」

 

何でそんなに幸せそうに食べれるか謎だ。

こんな公開処刑みたいなやり取りに何の得があるんだ?

 

 

 

 

拷問のような昼食後、俺達は近くの公園を散歩する事にした。

 

「ふう、食った食った。腹八分目ってところか?」

 

杏子がお腹を擦りながら独り言を言っている。

 

あんだけ食べておいてまだ入るのかよ!?

お前のスペシャルタワーパンケーキ、値段もスペシャルだったんだぞ!?

 

あれ?そういえば?

 

「あっ」

 

「どうした?」

 

唐突に思い出した。シロべえに頼まれていた事があったんだった。俺は杏子の方に顔を向ける。

 

「杏子」

 

「ん?」

 

「俺が見滝原に来ないでくれって言った日から今日までどこにいた?何してたんだ?」

 

そう、これがシロべえに頼まれてた事である。俺がほむらに撃たれそうになった時と魔女に襲われそうになった時、誰かに助けられた。シロべえはそれは杏子だと考えてるみたい。実は俺も、もしかしてと思ってる。今のところ俺を助けてくれそうなのって杏子ぐらいしか思い浮かばないから。

 

俺は期待を込めて杏子を見る。

 

対して杏子本人は質問の意味がよく分からないのか困惑した表情をしている。

 

・・・あれ?ひょっとして杏子じゃない?

 

「何でそんな事聞くんだ?」

 

訳が分からないといった様子だ。

 

「えっと・・。見滝原で杏子に似た人を見た気がするから気になって聞いてみただけ・・?」

 

「はあ?なんだそりゃ?ドッペルゲンガーって奴か?それかそっくりさん?そいつが誰か知らないがアタシはずっと風見野にいてゲームしたり、魔女を狩ってたんだ。だいたい見滝原に来るなって言ったのはお前だろ?まさかアタシが約束破ったと思ってんのか?」

 

「ごめん、そうだよな!俺の見間違いだな絶対!」

 

怒り気味で説明してくれる杏子にタジタジで応答する。

 

しかし、残念だ。杏子だと思ってたのに。

もし、杏子ならそのまま協力してもらえるかもと思ったのに、振り出しに戻ってしまった。

 

思わずガックリと頭を下げる。

 

 

 

 

「まあ、我慢出来なくなったら見滝原に行くさ。でもアンタは今アタシの目の前にいる。帰さないっていうのもアリだな」

 

 

だから杏子が何か呟いているのに気づかなかった。

 

 

 

 

「はあ・・」

 

他に何を聞こうか考えるも思い付かない。

取り敢えず何か喋らないと。

 

「杏子」

 

 

 

 

 

「!?チッ優依!」

 

「え!?うわ!?」

 

いつの間にか俺は杏子に抱き抱えられて空中を飛んでた。

 

「こんな時に・・!」

 

杏子が憎々しげに吐き捨てる。よく見ると魔法少女に変身しており、赤いドレスが目にはいった。

 

「くそ!逃がさねえつもりかよ!」

 

周りの景色が歪む。何度も見た光景だ。

これは魔女の結界。

 

 

ええええええええええええええ!?

杏子との初めての魔女遭遇!?

俺の休暇はどこいった!?

 

俺を嘲笑うようにすんなりと魔女の結界は完成した。




本日の解釈
優依ちゃん→リフレッシュ休暇
杏子ちゃん→デート
シロべえ→真相解明&優依ちゃんによる杏子ちゃん調教日

杏子ちゃんは風見野にいたと言ってますが真相はいかに?


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34話 赤の守護者

夢だったお気に入り2000件突破しました!!
皆様ありがとうございます!!
夢オチとかドッキリじゃないですよね!?


「くそ!まさかこんな事になるなんて・・。何でだよ?何で?よりにもよって優依がいる時に・・!」

 

壁に向かって拳を振りおろし悔しそうに唸っている現・俺の命綱である杏子。

 

突然現れた魔女の結界に結局俺達は逃げ切る事が出来ず、取り込まれてしまった。それはいい。だって一緒にいるのは杏子だ。抜群の安心感。闘争心に波があるマミちゃんと違って、杏子は常に冷静だ。無理やり一般人を巻き込むような真似はしない。そのおかげか本来なら魔女の結界に入り込んでしまった恐怖で震えているはずなのに、今は一部を除いて心中穏やかだ。杏子セコム凄い。

 

それなのに肝心の杏子は情緒不安定だ。さっきから壁に向かって

「コイツにだけは見られたくなかったのに」「巻き込まないって約束したのに」「何やってんだアタシは」とひたすらぶつぶつ言ってて不安になってくる。

 

今の俺の生命線は杏子に託されているのでさっさと魔女を倒して欲しいのが本音なのだがここまで落ち込んでいるようでは難しい。励ます事が出来れば最適なのだがそもそも何で落ち込んでいるのか分からないので何と言っていいのか分からない。ていうか俺に気の利いた言葉なんて言えない。

 

仕方ないので俺が今言いたい事を口にするしかないようだ。

 

「杏子」

 

「! ・・・何だ?」

 

名前を呼んだだけなのに肩をビクッとさせて恐る恐るこちらを向く杏子。怒られるのを怖がる子供のような表情をしている。そんな杏子の顔をまっすぐ見ながら俺は口を開いた。

 

 

 

 

 

「その恰好似合ってるね!」

 

「・・・・は?」

 

 

杏子はぽかーんと口を開けているが構わず続ける。

 

 

「杏子ってやっぱり赤がすごく似合うよ!スカート履いてるとこ初めて見た!めちゃくちゃ可愛い!!」

 

「え?・・は?何言って?」

 

「空いた胸元がセクシーだし、そこについてる宝石綺麗だね!」

 

「っ! 馬鹿!見るな!」

 

「ノースリーブってやつ?活発な杏子に合ってる!ニーハイソックスがまた女の子らしさを演出してるし絶妙なバランスが取れてて素敵だよ!」

 

「分かった!もういい!分かったから!!」

 

胸元とスカートを手で隠しながら俺に褒め殺しをやめるように叫んでいるがやめるつもりはない。

 

俺、魔法少女の衣装の中で杏子のは一、二を争うくらい好きなんだ!これから先見れるかどうかも分からないので今の内にしっかり心に刻みつけて賞賛しておかなくてはならない!せっかく目の前にいるのだから!

 

今の俺のテンションは最高潮に達している!

 

ちなみに俺の好みで杏子の衣装と争ってるのはさやかの衣装。そっちは本物を見る機会がないというより見てはいけないので余計に杏子の衣装をしっかり見ておかなければ!

 

「可愛さとカッコ良さを兼ね備えた完璧な衣装!最高だ杏子!」

 

「あう///」

 

褒めのトドメをさされた杏子が妙に可愛い声を出して顔を真っ赤にしている。その様子に満足した俺の心は晴れ晴れだ。今の心情と同じな青空を見上げる。

 

「あ」

 

忘れていたがここは魔女の結界。視界に広がるのは薄暗い建物の光景。当然青空なんて見えるはずがない。

 

 

 

 

 

「///たく、人が本気で悩んでる時にコイツは何を言い出すんだ?悩んでたアタシが馬鹿みたいじゃないか」

 

俺の背中で杏子は何か呟いている。後ろを振り返ってみると顔は赤いままだがさっきまでの暗い雰囲気はなくなっていた。

 

「優依」

 

「何?」

 

「今見た事、今から起こる事は全部忘れろ。アンタは何も見てないし、何も覚えてない。それでいいな?」

 

「う、うん?」

 

訳が分からず頷く。

 

杏子は何が言いたいのだろうか?取りあえず俺は杏子の魔法少女衣装だけは絶対忘れないと決めた。

 

「優依の事は絶対に守る。傷一つつけさせたりしない。アンタは一般人だ。今も。これからもだ」

 

「杏子様・・!」

 

何という事だ!杏子が俺に気を使って魔法少女の事から遠ざけてくれるつもりだ。既に俺はバリバリ当事者なのだがその心遣いがとてつもなく嬉しい!どっかの黄色も見習ってほしいものだ。

 

やばい、感動で涙出てきた。

 

「傍を離れるんじゃねえぞ?」

 

「はい!もちろん!」

 

 

「!? わあああああ!馬鹿!抱きつくな!これじゃ動けねえだろうが!」

 

俺は感動のあまり正面から杏子の首に抱きついてしまった。

 

杏子は予想外の行動に慌てているがそんな事気にしていられない!

照れ屋さんの心臓がバクバクいってるみたいだけどそんなの気にしないよ!

 

 

 

君はホントに魔法少女の鏡だ!

 

 

 

「はやく離れろ!!」

 

「はーい」

 

怒鳴られてしまったので渋々離れる。怒っているように見えるが顔は真っ赤なので照れているだけだと判断できる。ツンデレは相変わらずのようだ。

 

 

「///心臓に悪い。・・どうやら近くに結界の出口はねえようだな。やっぱり魔女を倒すしかねえか」

 

「・・・・・」

 

「悪いが少し付き合ってくれ。大丈夫だ。アンタを危険な目に遭わせないし、ましてや死なせたりしねえよ」

 

「杏子・・!」

 

 

力強いお言葉に俺は再び感動の涙を流しそうだ。

 

 

「優依はアタシと一緒に死ぬんだから殺させてたまるか」

 

「・・ん?」

 

不穏な事を真顔で言われた気がするが気にしていられない。今はこの結界から抜け出す事の方が重要だ。杏子の言う通りなら魔女を倒さない限り出られないらしい。

 

杏子がいてくれて良かった!

俺一人なら間違いなく詰んでた!

 

「行くぞ」

 

「うん」

 

いつの間にか出した槍を肩に担いだ杏子に手を引っ張られ、奥へと進んでいく。頼りになるセコムがいるので冷静なままだ。周りを見る余裕すらある。牢屋が目に入った。壁は石で出来てるみたいだ。昔の刑務所にいるみたい。俺達が歩いているのは通路のようだが薄暗く両方の壁に牢屋があるのではっきり言って怖い。何か出てきそうだ。

 

「わっ!」

 

「っと、大丈夫か?」

 

「ありがとう」

 

「気を付けろよ?薄暗いし周りはガラクタだらけで歩きにくいからな」

 

何かにひっかかって転びそうになった俺をわざわざこちらに振り向いてくれた杏子が支えてくれる。紳士だ(女だけど)。

 

それにしても歩きにくい。薄暗いし牢屋に目が入ってたから足元見てなかったけど床がガラクタだらけだ。

 

割れた皿に針が止まってる時計、腕のちぎれた女の子の人形など軽くホラーだ。

 

今すぐにでも帰りてえええええええ!!

杏子がいるから死の恐怖はないけどそれとこれとは別!!

何でリアルお化け屋敷に俺はいるんだ!?

! そうだ俺!目を瞑るんだ!そしたらこんな怖い物を見なくて済む!

大丈夫!赤いお姉さんが手を引いて誘導してくれるから迷子にはならないぞ!向かってる先は死亡フラグの魔女だけど!

 

しばらくそうして目を瞑って歩いていたが足元が見えないので何度もこけてその都度杏子に助けてもらうはめになった。

 

 

 

「・・・ここが最深部だな」

 

「・・・・うわあ」

 

杏子が立ち止まり一言呟いたので目を開いて辺りを見渡す。

沢山の牢屋があちこちにある大広間。ここが最深部らしい。つまり魔女がいる所。緊張でゴクリと唾を飲み込む。

 

 

 

少しの間お互い辺りを見渡していたが、何も現れない。脱力しそうになったときに杏子が槍を正面に構えて鋭い声で叫んだ。

 

「下がってろ!来るぞ!!」

 

「マジで!?」

 

杏子が構える方向に一際大きな牢屋があった。そこからズルズルと何かが這っている音が聞こえた。

 

「ひいいいいい!!怖い!何あれ!?」

 

「落ち着け優依!」

 

牢屋の隙間から無数の人間の手がこちらに向かって伸ばしている。

ホラーが3Dから飛び出したようにしか見えない!

 

やがて重さに耐えられなかったのか牢屋が外れてしまいガタンと音を立てて倒れてしまった。

 

牢屋の中から現れたのは全体が黒い髪に覆われた毛むくじゃらの何か。あちこちに手が生えていてそれで身体を支えているようだ。こちらに向かってゆっくり這っている。

 

俺の記憶の中であんな魔女は見た事ない。俺が覚えていないだけか、もしくはアニメ以外で登場した魔女か分からない。そもそもあれは魔女なのかすら怪しい。結界があるって事は多分魔女なんだろうけど。

 

”ウガアアアアアアアアアアアアアアア!!”

 

「!?」

 

突如奇声を発して先程の鈍足からは想像出来ない素早い動きでこちらに走ってくる。しかし俺の視界は突如現れた赤によって遮られてしまう。

 

「優依!そこから動くなよ!!」

 

「杏子!?」

 

俺の目の前に赤い楔型の結界が施され、その前を杏子が迎え撃つ形で構えている。

 

「速攻で決めてやる!」

 

杏子が真正面から突撃してくる魔女に槍を突き刺す。

 

ほとんど目視出来ない程の速さで攻撃するも魔女はそれを上回る素早さで回避しそのまま杏子に体当たりをお見舞する。

 

「な・・!?うあ!」

 

杏子は吹っ飛び壁に叩き付けられクレーターが出来上がりそのまま地面に倒れこむ。

 

「・・くっ」

 

「杏子!?」

 

ダメージが大きいのか槍で身体を支えておりすぐに動き出す気配がない。

 

 

 

 

 

「げ!?」

 

杏子がしばらく動けないと判断したのか魔女は(全身髪の毛なので分からないけど)顔をこちらに向け(多分)俺を見てた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・。

 

 

Girl meets MojaWitch

 

 

 

”ガアアアアアアアアアアアアア!!”

 

「ぎゃああああああああああああ!!」

 

しばらく見つめ合いをしてる最中俺の頭の中で変な英文が浮かんだ直後、魔女は俺に向かって飛びかかってきた。

 

 

「!?」

 

「チッ 外したか」

 

結界が魔女の突進で壊れ今にも俺に飛びつこうとしていた黒い毛玉が消え、代わりに赤い槍の先端が目の前で光っていた。どうやら俺は囮にされ、襲いかかってる魔女を背後から攻撃した模様。作戦としては悪くないけど魔女にかわされ失敗したようだ。だから俺に槍が・・。

 

「杏子さあああああああああああん!?当たらなかったから良かったものの一歩間違えたら俺貴女の槍に刺されて死んでたよおおおおおおおおおおおおお!?」

 

「ああ?アタシがそんなヘマするか!むしろアタシが攻撃しなかったらお前殺されてたぞ?」

 

うっかりな殺人未遂起こしかけた赤い奴に文句を言うも犯人は悪びれもせずしれっとしていた。

 

うう・・先端恐怖症になりそうだ。

 

 

 

「思ったよりすばしっこい奴だな」

 

「大丈夫?思いっきりぶっ飛ばされてたけど?」

 

「ふん!これくらいどうって事ねえよ!」

 

「なら、良かったよ」

 

 

ホラーみたいに天井に張り付いてる魔女を見上げながら話す。横目で杏子の様子を伺うも傷はほとんど消えていて強がりで言ってはいないようだ。

 

「これならどうだ!」

 

再び俺の前に結界を張り巡らせた杏子は祈りを捧げるように両手を握る。ゴゴゴゴと地響きと共に地面から巨大な槍が複数出現し魔女に向かって一斉に攻撃する。素人目でも攻撃するタイミングを巧みにずらして回避しづらい高度な攻撃だと分かるのに魔女は嘲笑うように紙一重でそれをかわし、あっという間に杏子の目の前まで近づいた。

 

「? う!!」

 

「うわ!杏子!?」

 

攻撃する直前だった杏子が何かに驚いたようで一瞬動きを止めた。魔女はその隙を見逃さず杏子を押し倒し馬乗りで首を絞めている。杏子は苦悶の表情で必死に抵抗している。

 

杏子がやばい!この魔女強すぎないか!?

いや、杏子が弱くなってる?ひょっとして俺のせいか!?

杏子って見るからに攻撃タイプで防御苦手そうだもんな!

ひょっとして俺を守りながら戦ってるから本来の戦い方出来ないんじゃないか!?

確か人魚の魔女戦でもまどかを守りながら戦ってたから致命傷喰らってたし!

マジでヤバい!このままじゃ杏子が負ける!どうしよう!?

 

俺は結界の前でオロオロしながら杏子の様子を見る。

 

 

「ぐ・・離れろ!!」

 

持っていた槍を魔女めがけて振り上げ、魔女がかわすために杏子から離れた。

 

「げほっげほっ・・がは!!」

 

酸素を求めて咳込んで隙をみせてる杏子に対して魔女は甘くなかった。残像しか見えない速さで動き回り、あらゆる方面から杏子に体当たりをする。ダメージと疲労からか魔女の速度に対応出来ずされるがまま。次第に杏子の身体に傷が増えていく。

 

「う!・・くそ・・!」

 

背中から突撃され前のめりで倒れる杏子。既に息も絶え絶えだ。

 

その様子を結界越しで見つめる俺。しかし、魔力が切れたのか俺を守っていた結界は木端微塵に消えてなくなってしまった。今の俺は魔女にとっては無防備な獲物だ。

 

 

 

まずい!このままじゃ殺される!それより先に杏子が殺される!

 

どうする俺!?俺に出来る事は!?

 

杏子を助けにいく?死にます!

そもそも俺が盾になっても紙みたいな防御力じゃ何の役にも立たねえし、この鈍足な足じゃ魔女が攻撃する前に杏子のところに辿り着くなんてとてもじゃないけど出来ない!

 

だったら白い悪魔と契約して魔法少女として杏子の助太刀する?論外!

魔法少女になりたてのヒヨッコじゃ役に立たないし、ベテランの杏子が苦戦する相手に俺が対応できるわけない!というか俺、契約してすぐ絶望するから魔女になりそうだし、そうなったらまどかを超える最悪の魔女の誕生だ。ここにいる杏子はもちろん世界中の生命を皆殺し間違いなし!何よりあの白い悪魔の思い通りになんて動きたくない!

 

やっぱり杏子に勝ってもらうしかないだろう。

しかし杏子は今瀕死寸前だし、俺の出来ることなんてない。

 

まさに絶望的!

 

 

 

「やば!杏子!魔女が!!」

 

「・・・くそ!」

 

魔女が杏子にトドメをさそうと態勢を低くしている。攻撃するのも時間の問題だ。

 

 

 

 

く!こうなったらもう【応援】しかない!!

 

 

 

 

何もしないよりましだ!今の俺に出来る事はこれしかない!!

 

古来より応援の力はあらゆる絶望的な状況でも奇跡をもたらしてきた!頼むぞ!ここでも奇跡を起こしてくれ!!

 

 

俺は精一杯息を吸って杏子に向かって腹から出した大声で叫ぶ。

 

 

 

「杏子!あんな化け物に負けないで!カッコイイ所俺に見せて勝って!!」

 

「・・優依」

 

 

 

杏子が弱々しい表情で俺を見ていた。

 

やめてくんない!?明らかにそれ敗者の表情だからやめてくんない!?

 

こんな弱気じゃマジで死ぬぞ!何とか激励しなければ!!

 

 

「死なないで杏子!俺にとって杏子は大切な(命綱の)人なんだ!!」

 

「!?」

 

驚いたように目を見開いてる杏子。嘘は言ってない。

 

「生きて欲しい!俺、杏子と(ワルプルギスの夜を倒す時まで)一緒にいたいよ!だから勝ってくれ!(じゃないと俺殺される!)」

 

「・・・・・」

 

俺自身パニックになってて支離滅裂な言葉だったが言いたい事は言えたと思う。俺の応援を聞いた杏子は上体を起こして顔を俯かせている。表情は見えない。

 

一体どうしたのだろうか?

 

「! 杏子後ろ!!」

 

杏子の背後でついに魔女がトドメをさすためとびかかってきた。なのに杏子は未だに顔を俯かせて動かないまま。

 

 

 

この瞬間杏子の運命は決定した。

 

 

 

 

「っ!」

 

 

 

”ギャアアアアアアア!!”

 

 

 

「・・・え?」

 

 

目を瞑って惨劇を見ないようにしていたが悲鳴が聞こえたので恐る恐る目を開いて戦いの決着を確認する。信じられない光景が俺の視界にうつった。

 

魔女が時が止まったように空中で静止している。振り下ろそうとしていた拳はぶつける直前で止まっていた。正確には殴ろうとしていた腕を杏子に掴まれていて殴れないようだ。凄まじい力で掴まれているのだろう。掴まれている腕は青黒く変色していてミシミシという嫌な音が聞こえる。

 

”ギャア!”

 

空中停止していた状態から地面に叩き付けられ魔女の周りに一回り大きなクレーターが出来上がった。掴まれていた腕はありえない方向に曲がっている。その様子を無表情で見下ろしていた杏子は今度は魔女の全身を覆う黒い髪を鷲掴みにし片手で持ち上げブオンブオンという音を立てながら振り回す。

 

「え?えっとこれは・・?」

 

その残虐ファイトぶりに俺は内心ドン引きしていた。

 

さっきの劣勢はなんだったのだろうか?

俺の応援が効いた?それなら良いけど。

いや良くない!魔女がかわいそうになってきた!

無表情で痛めつける杏子超怖い!!

 

しばらく魔女を振り回していたが、魔女がぐったりしたのを見計らって壁の方に放り投げて叩きつけた。

 

”ギャア!”

 

叩きつけられた魔女は小さく悲鳴をあげるがダメージが大きいのかピクピク小刻みに震えるだけで動こうとしない。それを待ってる程この魔法少女は甘くない。既にトドメをさすために、空中で身を翻し、構えた槍を魔女めがけて振りかざしていた。

 

魔女が態勢を持ち直すよりも先に杏子の槍が魔女の身体ごと地面を抉り木端微塵にした。攻撃の余波で爆風が立ち込める。あまりの衝撃に目を開いてるのもやっとだったが、薄目で空間が歪んでいる事を見つけ、杏子の勝利を確信した。

 

「終わった・・?」

 

「ああ、終わったさ」

 

結界が完全に消滅し、俺達がいた元の公園に戻っていた。杏子は変身を解いた後、何かを拾おうとしてかがんでいる。おそらくグリーフシードだろう。

 

という事はやっぱりあれは魔女だったのか。

よく分からないが取り敢えず応援の力は偉大だという事を再認識出来て良かった。これは使えそうだ。

 

「・・う」

 

「あっ杏子!」

 

拾い物をパーカーのポケットに入れた直後、杏子は小さく呻いてよろけたので慌てて倒れないように支える。

 

無理もないか。結構手痛くやられてたもんな。

 

「大丈夫か?」

 

「・・大丈夫だ」

 

大丈夫なのは知っているけど一応知らないふりで聞いてみるが杏子がさっきとうって変わって再び弱々しい態度に戻っていて心配になる。

 

「ホントに大丈夫か!?今すぐ病院にいく!?」

 

「すぐ治るから必要ない。それより今は少し休みたい。悪いけどそこのベンチまで支えてくれない?」

 

「いいよ」

 

肩を貸してベンチまで杏子を運び座らせた後、俺も隣に腰かけた。

 

「・・サンキュ」

 

よほど疲れているのかそのまま俺の肩に寄りかかってきた。しばらくお互い無言で座っていた。

 

「優依」

 

「ん?」

 

どのくらい時間が経ったか分からないがしばらくの沈黙の後、杏子が俺の名を呼んだ。

 

 

「・・・アタシが怖い?」

 

「・・・・」

 

「あんな場面見せちまったんだ怖くて当然だよな?・・ごめん。巻き込まないって危険な目に遭わせないって約束したのに。約束破った上に怖い思いさせちゃったね」

 

上目遣いで俺を見ながら杏子は懺悔するような形で俺に謝っている。

 

むしろ俺の方が謝りたい。

 

ごめんなさい!そんな約束してたの忘れてました!杏子に言われるまで存在すら覚えてなかったよ!

 

それにしても杏子は優しいな。ホントに俺を巻き込まないようにしてくれてんだな!マジで見習ってほしいぞどこぞの黄色よ!

 

あー見滝原に連れて帰りたい!

杏子がいたら絶対解決するって!

それなのに何でシロべえは反対するんだ?

まあ、頭だけは良いアイツの事だから何か考えがあるんだと思うけどはっきりいって杏子に協力してもらう方が心強いんだけどなー。

 

「アタシの事怖いか・・・?」

 

頭のなかで杏子連れて帰りてえとずっと叫んで会話を忘れていたら当の本人は泣きそうな顔で俺を見上げてた。

 

え?何があった?

何でこんな悲しそうで殊勝な態度になってんの?

いや待て。今なら・・・

 

「怖いよ。杏子の事が怖い」

 

「っ!」

 

俺は真顔で杏子を見る。杏子は次第に顔を強ばらせて分かりやすいぐらい震えていた。

 

そんな彼女の様子を見ながら俺は口を開いた。

 

「だって杏子って怒らせたらおっかないし、空腹時なんて餓えた獣みたいで不機嫌で凶暴になるし、睨まれると蛇に睨まれた蛙みたいに動けなくなるし」

 

「ちょ、ちょっとまて!お前何言ってんだ!?怖いってそっちかよ!?ていうかそんな事思ってたのか!?さっきのは!?さっきはあの化け物を一方的になぶり殺しにしたんだぞ!?」

 

俺の話の内容が納得出来なかったのかさっきまでの弱々しさが消えガバッと起き上がって俺を見ている杏子。

 

失礼だな。今までの貴様の所業マジで怖いんだぞ?やめさせたかったけど怖くて言えなかったんだ。いまとても俺に対して殊勝な態度を取っているのでこの好機に改善を要求しただけなのに。

 

まあ杏子が気にする理由は何となく理解出きるので答えてやるか。

 

「いや全然怖くない。さっきまでいた化け物の方が怖いし、杏子が倒してくれなかったら俺今頃死んでたよ?むしろ俺は杏子のかわいい衣装が見れて眼福だった!」

 

「・・・」

 

グッと親指を呆れ顔の杏子の前に立ててみる。

もちろん全て本音だが最後の方は特に強い本音です!

 

「助けてくれてありがとう!」

 

「・・はあ、気にしていたアタシが馬鹿みたいだ。ったく、こっちはヒヤヒヤしてたんだぞ?」

 

「そうなの?って何してんの?」

 

安堵の表情を見せた杏子は何故か俺の太ももに頭を乗せて寝そべっている。何事?

 

「しばらく寝る。起こすんじゃねえぞ?」

 

杏子はそう告げて目を閉じた。

 

「杏子」

 

「ん?」

 

俺は目を閉じたままの杏子に声をかける。

 

 

「お疲れ様」

 

「・・・ん」

 

しばらくして杏子から寝息が聞こえた。俺は労りを込めて杏子の髪を撫でてやった。くすぐったそうに身をよじってたけどな。

 

いやーマジでお疲れ様杏子!




オリジナル魔女です!
この魔女が何なのか話が進めば分かるでしょう!
戦闘描写難しい・・・

七夕には戦闘描写上手くなりますようにしないと!
いや、タイピング速く打てるようになりたいも捨てがたい!


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35話 贈り物を貴女に

どうも!
別の新しい番外編を思いついたので夢中で執筆してたら最新話更新すんの忘れてた馬鹿です!

遅くなってすみません!
またそのうち番外編の方も投稿する予定ですのでよろしくお願いします!

投稿するのが杏子ちゃんシリーズの続きか新しい番外編かは気分次第!
ちなみに新たな番外編もIFのお話になります!


「ん・・・」

 

「あ、起きた?よく寝てたな」

 

「・・・うーん」

 

人の膝枕でグースカ寝てた杏子が目を覚ましたのでようやく俺はこの拷問に近い羞恥プレイから解放される。

今日だけで三回目(一回目ダンスゲーム、二回目人前で女同士のあーん)だ。勘弁してほしい。

 

「んん・・」

 

なのにコイツは俺の太ももで寝返りを打って再び目を閉じやがった。

 

ふざけんな!いつまで寝てんだよ!!

俺にこんな公共の場でまだ羞恥プレイさせる気か!?

 

 

「杏子、そろそろ起きてくれ。いい加減足が感覚ないよ。人の膝枕で爆睡しだしてから夕方までずっとやってたんだぞ?頑張ったよ俺、正直今立てるかどうかも怪しいよ?」

 

怒りをなるべく抑えて穏やかな声で毒と愚痴を惰眠きめこむ奴につきつける。

 

 

 

「・・夕方?・・・・・・・・はあ!!?もう夕方なのかよ!!?何で起こさなかったんだよ!!?」

 

「いや、起こすなって言ったじゃんか君・・」

 

杏子は最初寝ぼけていたが辺りが夕焼けに染まっている事に気付き、勢いよく起き上がって俺に抗議してくる。

 

起こすなって言ったくせに何で起こさなかったんだって怒られるのは理不尽だ。

まあ、あんなバトル繰り広げて疲れてただろうから起こすのも何か悪いと思ったのもあるが。

 

 

「はあ・・・」

 

さっきまでの勢いが嘘のように杏子が両手で顔を覆って項垂れている。

何をそんなに落ち込んでいるのだろうか?

 

下を向いているのでどうしても視界に杏子の燃えるような赤い髪が目に入る。長時間俺の膝枕にさらされていたくせに寝癖がほとんどない不思議仕様だ。そういえば原作で髪おろしたシーンも跡がついてなかったし俺の家に泊りに来た時もほぼ寝癖ついてなかったわ。どんな髪質してんだか。

 

それにしても、

 

「髪、綺麗だな」

 

「!?」

 

思わず手にとって触れてみる。

 

ふむ、思ったよりも柔らかい。

色は奇抜だけどこの髪質はウィッグにしたら高く売れそうだ。

髪切る時、譲ってもらえるように頼んでみよっかな?

 

 

 

「・・お前は何でそう・・///」

 

「?」

 

ぼそりと呟き、視線を髪から杏子に移すと顔を両手で隠してるのはさっき通りだが、夕日のせいにすら出来ないほど杏子の顔は耳まで真っ赤になっていた。

 

 

 

 

「あ・・・髪といえば」

 

「何?」

 

「・・・・・・//」

 

「???」

 

 

 

杏子が何かを思い出したようですぐさまパーカーのポケットを確認したのち、チラチラと俺を見てる。心なしか身体の動きもモジモジしてる気がする。

 

俺なんかしました?

 

「さっきから人の顔見てるけど何?俺になんかついてる?」

 

流石に杏子の行動が気になったので思い切って聞いてみる。

分かりやすいくらい挙動不審だしな。全然目合わせないもん。

 

「うえ!?そ、そんな事ないけど・・」

 

「じゃあ何?」

 

このままじゃ埒があかないので語尾を強めに問い質す。

 

一体なんだってんだ?

 

 

 

「・・・・・・・・・あのさ」

 

「うん」

 

しばらく杏子は黙っていたがやがて決心したのか深呼吸してからこちらに身体を向ける。

恥ずかしいのか頬染めて目を合わせず俯いている。

 

「これ・・・優依に・・・」

 

少し躊躇いがちにパーカーに突っ込んだままだった手を取り出し、中から取り出した何かをこちらに差し出した。

 

 

 

「これって・・?」

 

差し出している手にあるのは黒い大きなリボンと小さな十字架がついた赤がベースのバンスクリップだった。

 

オシャレなデザインだが俺的にはこれを見てると目の前の人物を連想するデザインにしか見えない。

杏子はこれを俺に差し出して何がしたいんだろうか?

そもそもこれは一体どこで入手したのかすごく気になる。

 

「どうしたのこれ?買ったの?」

 

目の前にあるバンスクリップをじっくり観察しながら思わず疑問を口に出す。

 

「・・・違う」

 

躊躇いがちに杏子が否定する。その態度に最悪の想像をしてしまう。

 

 

 

「・・・・まさか盗んだんじゃないよね?」

 

「違う!!」

 

震える唇で聞いてみるも怒気を含んだ力強い否定が返ってきたので安堵した。

しかし疑問が残る。買ったのでも盗んだものでもないならこれは一体どうやって手に入れたんだろうか?

 

 

 

 

「・・・・だよ・・・・」

 

 

 

「ん?何て?」

 

疑問が顔に出ていたのかもしれない。怪しむ俺に杏子がむっとしたのち、顔を伏せてぼそぼそと話す。全然聞こえなかったのでもう一度言ってもらおうと耳を傾けると杏子は身体をフルフル震わせてヤケクソ気味に叫ぶ。

 

 

「・・これはアタシが作ったんだよ!!この前この公園で無料のアクセサリー作り体験があったからそこで!!~~~~////ああもう!!何でそんな事気にすんだよ!!?何もやましい事してねえよ!」

 

「へ?」

 

思わずマヌケな表情で杏子を見つめる。

 

杏子は真っ赤な顔で荒い息をしていたが叫んで吹っ切れたのか続けて叫んだ。

 

「たまには優依にお礼をしようと思っただけだ!いつも世話になってるしさ!でもアンタはアタシが買ったものは受け取らないだろうから仕方なく作ったんだよ!!」

 

叫んで疲れたのか肩を大きく揺らしてゼエゼエいっている。

 

しばらく辺りに沈黙が流れた。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「おい・・優依?」

 

 

 

 

その沈黙の中俺は顔を俯かせ、ただひたすらじっと耐えていた。その様子に杏子が心配そうに顔を覗かせてくる。

 

 

駄目だ。それ以上は駄目だ!

近づくんじゃない杏子!

 

 

じゃないと俺は・・・

 

 

 

「優依?・・うわ!?」

 

 

 

無理。限界だ!

 

 

 

 

 

 

「超可愛いいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

 

 

俺は興奮し顔を覗き込んでくる杏子を思いっきり抱きしめたのち叫ぶ。

 

だってそうだろう!?

あの男勝りでがめつい杏子がお礼と称して俺に贈り物をしてくれたんだよ!?

しかも真心こもった手作りアクセサリーときた!!

これを可愛いと言わずにいられるか!!

思わず抱きしめてしまったぜ!!

今日くらい良いだろうが!!

 

セクハラ上等!!

 

こんな可愛いの権化を愛でないなど万死に値する!!

 

 

 

「離せ!!優依離せってば!!」

 

杏子が俺の腕の中でもがいているが知ったこっちゃない!!

 

構わず杏子を抱きしめる。俺の胸に杏子の顔があり頭を撫でるには丁度良い位置なのでそのまま撫でまくる。

 

ありがとう杏子!

君のおかげで俺のボロボロだったメンタルHPが満タンになったよ!

ついでにHP上限も上がった気がする!

それほどの効果だ。

杏子に会いに来てホントに良かったよ!!

 

 

「~~///さっさと離せ!!!」

 

「ちぇ」

 

力の差があるのであっという間に抜け出されてしまった。顔を真っ赤にさせて深呼吸を繰り返している。

 

ひょっとして窒息寸前だったのかもしれない。

俺の胸に顔埋もれちゃってたもんね。

悪い事したな。

 

 

「ごめん杏子。嬉しくてつい・・」

 

「はあ、はあ、・・良いよ。それにしてもアンタって意外と・・」

 

「ん?」

 

「何でもねえよ!//」

 

「?」

 

しおらしく謝ったからか杏子は許してくれた。

それはいい。その後何か言おうとしていたのに途中ではぐらかされて顔を真っ赤にして首を振っていたのが気になる。

 

 

 

「それより!これもらってくれるよな!?」

 

話題を変えるためか杏子が食い気味で俺の方に身を乗り出してきた。

 

「えーと、いいの?」

 

「優依にあげるために作ったんだからいいに決まってんだろ?なあ、今からアンタに付けていいか?」

 

キラキラした目で俺の髪を見つめている。

ここで駄目だって言ってみたい気もするが後が怖いので好きにさせるか。

 

「・・いいよ」

 

「よし!じゃあ少しじっとしてろよ?」

 

「うん」

 

杏子が嬉しそうに笑っておずおずと髪に触れた。

その触れる感触がくすぐったいが今は我慢だ。

 

バンスクリップの装着に四苦八苦してる杏子を横目に見ながら俺はとある妄想する。

 

アクセサリーを作るため机に向かってうんうん唸ってる杏子が浮かぶ。

不器用そうだから絶対苦労しただろうな。

実はほとんど先生につくってもらったりしてな。

そうだとしてもコイツがわざわざ俺のために作ってくれた!

 

ぐああああああああああ!!

見たかったよその場面!

タイムマシーンとかあったらその場面見れるのに!

 

あ!いるじゃん!

生きたタイムマシーンが!

 

あ・・だめだ。あの紫が行けるのは並行世界であって過去じゃないわ。使えねえ!

 

 

 

「・・・もういいぞ。見てみろよ」

 

「どれどれ?」

 

馬鹿な妄想してたらすぐ時間が経ったようで杏子が満足そうに手を頭から離す。俺はバッグに入れてあるコンパクトミラーで確認した。俺の髪色にこのバンスクリップはよく映えている。杏子は意外とセンスが良いようだ。やっぱり女の子だと再認識した。

 

「よく似合ってるじゃん!・・優依はどう思う?」

 

主観で自画自賛していたが俺の評価が気になるのか不安そうに杏子が感想を聞いてくる。

 

 

「うん!ありがとう!気に入った!俺髪飾りあんまり持ってないから嬉しいよ!」

 

顔を鏡から杏子に向けて満面の笑みでお礼を言う。

 

俺はあまり髪をいじらないから髪型をかえる事はほぼないし、ましてやオシャレのためのヘアアクセサリーなんて持ってない。興味もなかったしね。でもこれは素直に嬉しい!

だってあの杏子だよ?友達だって思ってくれてんだなーと感じてマジ嬉しい!

 

「・・・・・」

 

「杏子?」

 

「・・へ?あ、ああ・・このアタシがわざわざ作ってやったんだから大事にしろよな?」

 

呆けていた杏子はハッと我に返って頬を染めながらツンデレ発言。相変わらずのようだ。

 

「そっか、そっか。ありがとなー杏子。偉いぞー」

 

「だから何で頭撫でるんだよ!?」

 

杏子の頭を撫でながら俺は幸せに浸る。

 

やっぱりコイツはマジで癒やしの天使だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子side

 

 

「杏子に会いたくなってさ、会いに来たんだ」

 

 

 

優依がそう言って風見野にやってきた。アタシはその言葉が嬉しく嬉しくて自分でもおかしなテンションになってたと思う。普段なら絶対しないような事までやった。

 

今思えば人前であーんするなんて恥ずかしい。

 

最初は悪ふざけのつもりだったのに優依があっさり拒んだ。それにムッとしたアタシは優依がパンケーキを食べようとしたフォークを腕ごと強引に引き寄せて食べてやった。イタズラに成功して満足だったのに優依が突然真剣な様子で謝罪してきて戸惑ってしまった。

 

その様子はまるでアタシを拒んでるみたいで辛くて泣きそうになってしまったから激情のまま優依に問い詰めたんだ。

結局、誤解だったから良かったものの罰として食べさせあいを強要。

優依と間接キス出来てドキドキした。

 

 

 

 

 

だからだろうな。

 

アタシが浮かれてたから、優依を魔女の結界に巻き込む羽目になったのは。

直前で気付いて何とか回避しようとするも間に合わず優依と一緒に結界に閉じ込められた。

 

 

 

 

「くそ!まさかこんな事になるなんて・・。何でだよ?何で?よりにもよって優依がいる時に・・!」

 

完成した魔女の結界の壁に思わず八つ当たりする。

 

危険な目にあわせないって優依との約束を破ってしまった。

しかも魔法少女の姿まで見せてしまって最悪だ!

 

 

「コイツにだけは見られたくなかったのに」

 

「巻き込まないって約束したのに」

 

「何やってんだアタシは」

 

 

 

後悔してももう遅い。

今更優依になんて言えばいい?

 

 

考えても考えても答えは出てこない。

 

 

 

このままじゃアタシを怖がって二度と会ってくれなくなる。

優依が離れていってしまう・・・!

 

怖くて後ろを振り向けない。

 

 

「杏子」

 

「! ・・・何だ?」

 

背後から優依がアタシの名前を呼ぶ。心なしか声が冷たい感じがする。

 

恐る恐る後ろを振り向くと優依の表情は真剣そのものでアタシをまっすぐ見てた。

 

 

優依はこれから何を話す?アタシを拒絶する言葉?

もしそうだったらアタシは・・・

 

死刑宣告される心境で言葉を待つ。

 

 

 

 

 

「その恰好似合ってるね!」

 

 

「・・・・は?」

 

 

優依から出てきた言葉は予想外。最初は何言ってるのか理解できなかった。

でも優依が口を動かしてるうちにコイツがアタシの衣装をべた褒めしてるのを理解して恥ずかしくなった。やめるように言っても止まらずアタシを徹底的に褒めちぎって居たたまれない。

 

「可愛さとカッコ良さを兼ね備えた完璧な衣装!最高だ杏子!」

 

「あう///」

 

トドメをさされて頭がショート寸前になる。優依はアタシの様子に満足したのか青空なんて見えない天井を眺めてた。

 

 

 

 

「///たく、人が本気で悩んでる時にコイツは何を言い出すんだ?悩んでたアタシが馬鹿みたいじゃないか」

 

アタシは一人ぼそりと愚痴った。

 

ホントに馬鹿馬鹿しくなってくる。

 

・・そうか、優依ってこういうの好みなんだ。

じゃあ好きなだけ見せようかな?

 

って違う!こんな時に何考えてんだアタシは!?

優依の能天気が移ったのか!?

 

その能天気な優依はアタシの独り言が聞こえたのかキョトンとした表情でこっちを見てた。その顔を見ながらこれからどうするか考える。

 

 

そうだ、優依は厄介ごとや危険な事に巻き込まれるのが嫌う。

この先も厄介な事には関わりたくないはず。

だったら優依を無関係な一般人と断言して何もなかった事にしてしまおう。

アタシが優依をちゃんと守る事が出来れば危険はないと判断してくれるかもしれない。

 

打算も込めた無理やりな結論づけをし、優依は無関係だと宣言する。何故か優依は感動した様子だったから多少の罪悪感はあったがコイツがアタシから離れていくのは耐えられない。

痛む胸を押さえつけて表情にはださないようにしないと。

 

 

 

「傍を離れるんじゃねえぞ?」

 

「はい!もちろん!」

 

 

平静を装ってたら優依が突然アタシの首に腕を回して抱きついてきた。

 

 

「!? わあああああ!馬鹿!抱きつくな!これじゃ動けねえだろうか!」

 

あまりの事に頭がまっ白になって叫び魔女と対峙する冷静さを忘れて慌てふためく。

 

密着した優依は柔らかくてあったかくて、それになんだか良い匂いがする・・。 !?

 

 

「はやく離れろ!!」

 

 

「はーい」

 

変態じみた考えを振り払うように大声で叫び優依を引きはがす。バクバクうるさい心臓をどうにか落ち着けすぐさま思考を切り替え辺りを見渡した。

 

この牢獄みたいなのが結界のようだ。近くに結界の出口はない。出来れば脱出しようと考えていたが無理みたいだ。反応からして魔女。どうやらアタシ達を逃がさない気だ。

 

それを優依に説明して少し付き合ってもらうように頼んだ。もちろん安全は保証すると宣言して。

 

アタシの持てる力を全て使って優依は必ず守る。

 

可愛い優依を危険にさらす気はない。

綺麗な肌に傷なんてつけさせやしない。

 

ましてや

 

「優依はアタシと一緒に死ぬんだから殺させてたまるか」

 

思わず声に出してしまい慌てて口を閉じた。優依は聞き取れなかったみたいで首を傾げていたが素知らぬ顔でスルーする。

 

「行くぞ」

 

「うん」

 

アタシは槍を担いで空いた手で優依の手を握った。心臓がうるさかったが優依が何度も転んでその度にアタシが助け起こしたので緊張なんてすぐに消え去り呆れるばかりだった。

 

いくら足元がガラクタだらけでも限度ってもんがあるのにコイツは何でこんなに転ぶんだ?

目を離したらすぐこれだ。危なっかしいたらありゃしねえ。

そのうちアタシの知らない所で危ない目に遭わないか心配だな。

もし優依がアタシのいない内に魔女に殺されでもしたら間違いなく発狂するだろう。

それだけは避けたい。

 

 

だったらいっその事、

 

 

 

「うわ!」

 

「・・お前これで何度目だよ?」

 

「ごめん・・」

 

 

 

・・優依を閉じ込めるか?

 

 

また転んだ優依を助け起こしてぼんやりそんな事を考える。

 

 

 

しばらく歩くと開けた空間に着いたのでここが結界の最深部だと悟る。辺りを見渡していたが、正面の大きな牢屋に気配を感じすぐさま構える。

 

 

「下がってろ!来るぞ!!」

 

牢屋の中から出てきたのは無数の手が生えた髪の毛の塊だった。

見た目がホラーなため優依は悲鳴をあげる。それを落ち着くように諭し魔女を観察する。

 

コイツは一体何なんだ?

見た目は鈍足そうに見えるが優依を守らないといけないから油断は大敵だ。

 

”ウガアアアアアアアアアアアアアアア!!”

 

人の悲鳴のような叫び声を発して目で追うのも難しいほどのスピードでこちらに向かってくる。

 

どうやら思ったより大物のようだ

コイツから優依を守らなければ!

 

 

「優依!そこから動くなよ!!」

 

優依の前に立って結界を作りだし、槍を構えて魔女を迎え撃つ。

長期戦になるとこちらが不利になる。優依が狙われるとまずい。

早急に倒す必要がある。

 

「速攻で決めてやる!」

 

馬鹿正直にまっすぐアタシに向かってくる魔女に槍を突き刺す。

 

 

「な・・!?うあ!」

 

槍で刺したと思ったのに気付けばアタシは壁に叩き付けられてた。

 

アタシの槍をかわして逆に攻撃したのか・・?

 

「・・くっ」

 

思ったよりもダメージを食らったようだ。思うように身体が動かず槍で重心を支える。

次に来るであろう攻撃にそなえて防御の体制をとるも何も来ない。

 

・・おかしい。今がトドメをさす絶好のチャンスなのに何で攻撃してこない?

 

!? 優依は・・?

 

慌てて優依のいる方向に顔を上げると魔女が優依に向かって飛びかかってた。

 

「優依!!」

 

まだ動かない身体に魔力を流し込んで修復し全速力で追い付いて魔女の背後に槍を突き刺す。どうやって察知したのか分からないが天井に逃げることでかわされ優依に槍をつきたてる羽目になってしまった。案の定、優依は悲鳴をあげて文句を言うが適当にあしらう。

 

 

 

冷や汗が止まらない。

 

うっかり優依を刺さなくて良かった。

助けるはずが殺してたなんて目も当てられないからな。

 

顔に焦りが出てないよな?

 

 

 

少しだけ会話をして再び優依の前に結界を作り出し地面から槍を出現させて魔女を狙う。狙うタイミングがずれるように調整して回避をしづらくしているのにこの魔女は難なくかわし確実にアタシに近づいてくる。

 

上等だ!同じ手はくらうか!返り討ちにしてやるよ!

 

そう意気こんで今度はカウンターを決めるため魔女がギリギリまで接近するのを待つ。

 

「? う!」

 

目の前まで近づいた魔女が信じられない事をしでかしてアタシはそれに気をとられてしまった。その一瞬の隙を見逃さず無数に生えてる手をアタシの首に伸ばし締め付けてくる。勢いそのままに押し倒され馬乗りで身体を押さえつけられ自由に動けない。

 

 

なんて力だ!このままじゃ・・一か八か!

 

 

 

持っていた槍を魔女めがけて振り下ろしあたらなかったがアタシの上からどかす事には成功する。酸素を求めて咳き込む暇もほとんどなく、だめ押しとばかりに何度も何度も突進をくらう。背後から攻撃をくらいアタシはそのまま前のめりで倒れてしまった。

 

 

「やば!杏子!魔女が!!」

 

「・・・くそ!」

 

後ろの気配で魔女がトドメをさそうと構えているのが分かる。でも今の自分の身体はボロボロ。あのスピードに対応出来るか分からない。

 

更に悪いことにアタシが弱ったからか優依を守っていた結界が壊れ跡形もなく消えてしまった。

 

このままじゃやられる!

優依が殺されてしまう!

 

でもアタシが魔女を殺すところを見た優依はどう思う?

 

結界に閉じ込められてからずっとある不安。

殺さなきゃ殺されてしまうのは分かっているのに躊躇ってしまう。

それが原因で積極的に攻撃出来ない。

 

映画でも暴力や殺戮が苦手な優依だ。

現実でアタシが魔女を殺害したら怖がられてしまう!

最悪親父のようにアタシを罵るかもしれない・・

 

怖い・・それだけは嫌だ・・!

 

一体どうすれば・・?

 

視界が涙で滲み、噛んだ唇から血の味がした。

 

 

 

 

 

 

「杏子!あんな化け物に負けないで!カッコイイ所俺に見せて勝って!!」

 

「・・優依」

 

その時優依が大声でアタシを激励した。それなのに顔をあげたアタシは弱気な表情でアイツを見るしか出来ない。優依の表情は真剣そのものだった。

 

情けないなアタシは・・。

こんな無様な所を優依に見せるなんてさ。

 

心のなかで自嘲ばかり出てくる。

 

 

 

「死なないで杏子!俺にとって杏子は大切な人なんだ!!」

 

「!?」

 

 

 

優依の言葉に驚いて目を見開く。耳を疑った。

 

え・・・・?

アタシは優依にとって大切な存在なのか・・?

誰よりもアタシを大切だと思ってくれてる?

 

本当に?アタシの事を・・?

 

 

 

 

 

「生きて欲しい!俺、杏子と一緒にいたいよ!だから勝ってくれ!」

 

!?

 

今度こそ幻聴かと思ったが必死な表情の優依を見て嘘を言ってないと悟った。

 

傷だらけの上体を起こして顔を伏せ考える。

 

 

間違いない。優依にとってアタシは特別な存在なんだ!

優依はそう思ってくれてたんだ!

 

嬉しい・・!

嬉しすぎてどうにかなってしまいそうだ・・!!

 

今すぐ優依に触れたい!

抱きしめたい!アタシだけのものにしてしまいたい!

 

 

 

・・でもそれにはあの毛玉が邪魔。

さっさと殺してしまおう。目障りだ。

優依にその場面を見せるのは心苦しいがアタシの事が大切で一緒にいたいんなら見せても嫌ったりしないだろう。

 

 

 

だからもう・・遠慮はいらないよね?

 

 

 

そこからは躊躇なくあの毛玉を痛めつけて槍で木っ端微塵にしてやった。

 

 

 

でも魔女を倒した後、盗み見た優依の顔がひきつった表情をしていたのでようやく我に返って後悔する羽目に。

 

どうしよう・・!?

張り切り過ぎて優依の目の前であんな惨い殺害をしてしまった!

怖がられてるじゃん!!アタシの馬鹿!!

 

結界が消滅し内心慌てながら変身を解除する。グリーフシードを拾いながらこの後どう言い訳するか必死に考える。

 

でも、無茶な戦いをしたのがたたったのかよろめいてしまい、優依に支えてもらって近くのベンチまで運んでもらう情けない事態になってしまった。

 

優依の肩に寄りかかり、お互い無言で座る。

ソウルジェムは半分くらいの濁りだったのであとで浄化する事に決めて優依になんて言おうか考えた。

 

でもどう考えても優依を怖がらせてしまったのには変わらない。言い訳なんて出来ない。

 

優依は今アタシをどう思ってるんだろう?

怖いって思ってるんだろうか?

 

 

 

 

「優依」

 

「ん?」

 

「・・・アタシが怖い?」

 

どうしても気になったアタシは肩にもたれかかったままで優依を見て聞くことにした。

 

「あんな場面見せちまったんだ怖くて当然だよな?・・ごめん。巻き込まないって危険な目に遭わせないって約束破った上に怖い思いさせちゃったね」

 

優依に懺悔するつもりで謝罪の言葉を口にする。でも優依は何かに耐えるように難しい顔をして何も答えてくれなかった。

 

ひょっとして怒ってる・・?

いくら相手が魔女といえどあんな殺し方すれば誰だって気分が良いわけない。

ひょっとして答えてくれないのは口もききたくないからとかじゃないよな?

もしそうなら泣いてしまいそうだ。

 

 

「アタシが怖いか・・・?」

 

最悪の想像をして目から涙が出そうになるのを堪えながら震える声でもう一度聞く。アタシのそんな様子に優依は驚いた表情だった。優依は少し考えた様子だったがゆっくり口を開いて結論を告げる。

 

 

「怖いよ。杏子の事が怖い」

 

「っ!」

 

息が止まる。呼吸の仕方が分からない。身体が勝手に震えだして止まらない。

 

どうしようどうしようどうしよう!!?

優依がアタシを怖がってる!!

このままじゃ優依はアタシから離れていく!!

嫌だ!!絶対嫌だ!!!

 

このまま会えなくなるくらいならアタシは優依を・・

 

 

「だって杏子って怒らせたらおっかないし、空腹時なんて餓えた獣みたいで不機嫌で凶暴になるし、睨まれると蛇に睨まれた蛙みたいに動けなくなるし」

 

 

コイツの言う怖いがアタシの予想斜め下な回答だった。それが原因でさっきまで考えていたことが綺麗さっぱり吹き飛んだ。

 

 

「ちょ、ちょっとまて!お前何言ってんだ!?怖いってそっちかよ!?ていうかそんな事思ってたのか!?さっきのは!?さっきはあの化け物を一方的になぶり殺しにしたんだぞ!?」

 

 

思わずズッコケそうになるがどうしても魔女との戦闘が気になったので自分から聞いてしまった。

 

そしたら優依はキョトンとして全く怖くないと答えた上に魔法少女の衣装が見れて眼福なんて言いやがってアタシの前で嬉しそうな顔で親指立ててた。なんか最後の衣装の感想がやたら熱意こもってた気がする。

 

「助けてくれてありがとう!」

 

その一言を聞いてどっと力が抜けた。きっと戦闘の疲れもあるからだろう。

だからアタシはそのまま甘える形で優依の膝枕に寝そべって爆睡してしまった。

 

ぐっすり寝たおかげで疲れは取れたけど夕方まで寝過ごしてしまい優依と過ごす時間が終わってしまって項垂れる。

 

それなのにアイツはアタシの髪を手にとって綺麗だなんて褒めるからまた顔が赤くなってしまった。

 

 

優依は天然タラシなのか?

魔女の結界にいた時もそうだがよくあんな恥ずかしい事出来るな!

アタシ限定?だったら嬉しいけどさ。

・・まさか他の奴にもやってないだろうな・・?

心配になってくる。

 

優依が髪を触ってるのを見てふと手作りの髪飾りを思い出した。いつ渡せても良いようにポケットに入れてたんだった。

 

 

渡すの恥ずかしくてモジモジしてただけなのに何を思ったのかコイツは盗んだと思いやがって失礼な奴だな!

まあ受けとってくれて良かった。

思いっきり抱きしめられて頭撫でられたけど。

恥ずかしくてすぐに抜け出したけど勿体無いことしたな。

・・少し分かった事は優依は着やせするタイプって事だ。

 

 

あげた髪飾りはコイツによく似合ってる。

喜んでくれて良かった。

ホントに苦労した甲斐があった。

 

 

 

ある時、たまたまこの公園をぶらぶらしてた時イベントをやってたみたいでスタッフがアタシに声掛けてきた。無料でアクセサリーを作ってみないかって。イベントの会場を見てみるとアタシと同い年くらいの女の子達がたくさんいて一生懸命作業してた。

 

特に興味が惹かれなかったからそのまま立ち去ろうとするも作業中だった女の子の話し声が耳に入った。

 

 

『ねえ知ってる?このイベントのアクセサリー作り体験で作ったものを好きな人にあげると両想いになれるらしいよ?』

 

『へえ、ありがちじゃん。どうせデマでしょ?』

 

『それがね、実際成功したらしいのよ。ある女の子が片想いの女の子に告白されて両想いになったんだって!』

 

『え!?両想いって同性でもいけんの!?』

 

 

その会話が終わらない内にアタシは作ると決めてそのまま参加した。

 

もともと不器用だから苦労したがなんとか完成し、その日の内に渡そうと思って優依の所に向かったが丁度その時が泣きじゃくってた日。だから結局渡せなくて今に至る。

 

 

「うん!ありがとう!気に入った!俺髪飾りあんまり持ってないから嬉しいよ!」

 

アタシの作った髪飾りをつけて嬉しそうに笑う優依を見て満足する。

 

 

 

色々あったが何とか渡せて良かった。

これでアタシと優依は両想いになれるよな?

 

いや、既に両想いか?

だって優依にとってアタシは一緒にいたい大切な人だもんな?

アタシも同じ気持ちだから。

だったらこれはもう両想いじゃん!

 

 

「杏子?」

 

「・・へ?あ、ああ・・このアタシがわざわざ作ってやったんだから大事にしろよな?」

 

 

優依が名前呼ぶまでそんな事考えててぼーとしてたから慌てて返事をする。優依はまたアタシの頭を撫でてきた。

 

 

 

アタシは文句を言いながらも甘んじてそれを受ける。

 

穏やかな時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

それにしても今日は一体何なんだ?

良い日なのか悪い日なのか分からない。

 

可愛い優依とデート出来てラッキーだったけどまさか一緒に魔女に遭遇するなんてさ。

魔法少女としての戦いを見られて最悪だった。

まあ結果的に優依の告白に近いものを聞けて役得だったけど。

 

それでも変な魔女だったな。

今まであった他の魔女よりも強かったし、何より魔女の癖にありえない事してた。

それに一瞬気を取られて危なかった。

 

 

 

 

だって魔女が喋ったんだ。

 

 

 

『ズットイッショダヨ __ 』って

 

 

女の子の声だった気がする。

最後はおそらく名前を呼んでたんだろう。

女の子っぽい名前だった。

 

喋る魔女もいるんだな。次回から気をつけるか。

いや、むしろそんな魔女がまた出たら積極的に狩るか。

 

グリーフシード二個落としてたし集める手間が省けそうだ。

 

 

 

「あ・・」

 

気付くと辺りはかなり暗くなってた。親がいる優依はそろそろ帰る時間だ。名残惜しいが仕方ない。コイツにだって家族はいるんだし親を心配させるわけにはいかないだろう。

 

 

「もうかなり暗いな。そろそろ帰るんだろ?」

 

優依の方を向いて確認する。ホントは帰したくないが無理に引き留めて嫌われるのはごめんだ。

 

「・・・・・・・」

 

「優依・・・?」

 

優依が顔を俯かせている。辺りは暗くなってるから表情が分からない。

 

「・・・ない」

 

「何だよ?はっきり言えよ」

 

ぼそぼそと呟くからはっきり聞き取れない。そう文句を言うと優依は少し考える素振りを見せた後、今度は俯かせていた顔をあげてアタシを見る。その目には決意が宿ってた。それに圧倒されて思わずたじろぎそうになる。

 

 

 

「帰らない。杏子と一緒にいる」

 

「!!!?」

 

 

 

はっきりそうアタシに告げた。

 

 

 

優依はなんて言った?

帰らない?アタシと一緒にいたい?

え?これからずっと傍にいてくれるって事・・?

それって・・・・まさか。

 

今日何度目になるか分からないほど熱を帯びた顔が再び熱くなり心臓が暴れだす。

あまりの事にアタシは混乱して声が出ない。

 

優依はどう意味で言ったんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子からまさかの贈り物でテンションMAXだったが時間が経つにつれて俺のテンションは下がっていく。

帰りたくないなあ・・。

 

原因は分かっている。

杏子が寝ている間暇なので電源を切ってた携帯を起動させて表示されたものが原因だ。

それを目にして俺は小さな悲鳴をあげてしまった。

 

携帯・メール共に数十件の受信あり。

名前表示はすべて「巴マミ」だった。

俺は震える手でメールと留守電メッセージを表示させてみた。

 

 

 

「今日は学校お休みしたの?」

 

「お見舞いに来たんだけど家にいないのかしら?今どこにいるの?」

 

「ねえ、どうして連絡くれないの!?今何してるの!?」

 

「ひょっとして私と会いたくないから今日は学校休んだの!?暁美さんにそう言われたの!?」

 

「お願い連絡をちょうだい!!じゃないと私おかしくなっちゃいそうよ・・」

 

 

 

表示させなきゃ良かったと後悔した。

 

メッセージに至っては涙声でほとんど叫んでいてホラーだった。

 

 

 

怖いいいいいいいいいいいい!!

絶対これ俺の家の前でスタンバってるやつじゃん!

うおおおおおお!帰れねえええええええ!

 

でも時間は残酷だ。刻一刻と帰る時間が近づいてくる。

 

「もうかなり暗いな。そろそろ帰るんだろ?」

 

辺りはすっかり暗闇で街灯までついてた。いつもこれぐらいの時間帯に帰るのを杏子は知っているので親切に確認してくれた。

 

お願い杏子さん!今それ言わないでえええええええええ!!

今の俺にとっては処刑宣告に近いから!!

 

憂鬱な気分で頭を抱える。

 

 

 

「優依・・・?」

 

俺の様子が気になったのか杏子が顔を覗き込んでくる。

 

「帰りたくない・・」

 

思わず本音がぽつりと出てくる。

 

 

マジで帰りたくねえな・・

絶対マミちゃん待機してるし。

会ったら最後何されるか分かったもんじゃない。

 

 

「何だよ?はっきり言えよ」

 

曖昧な態度の俺に苛立ったのか杏子の声が少し低くなる。

 

怖っ!何か言わなきゃ!

でもどうしようか?

このまま帰ってもマミちゃんに捕まるだけだ。

それは避けたい。ていうか今、夜だし魔女出るじゃん。

俺の事だから二ラウンド目とかありえそうで怖い。

しかもそれにあわせてマミちゃんもパトロールしてるから下手すりゃ鉢合わせしてしまう!

じゃあどうする?

 

 

その時本日初めての天啓が俺に舞い降りた。

 

 

! そうだ!今夜は風見野で過ごせばいいんだ!!

それで明日の朝一で帰ればマミちゃんに捕まらない!!

よし!そうしよう!今夜は杏子と一緒にいよう!

俺が帰らないって言ったってコイツは深く追求してこないだろうから安心だ。

しかも魔法少女だから守ってもらえる!

一石二鳥とはこの事だ!俺天才!

 

 

そうと決まれば早速杏子に風見野に泊まること伝えるか!

 

 

俺は上機嫌で顔をあげ杏子を見る。既に暗いため表情は分からないが驚いてるみたいだ。

 

「(今日は)帰らない。(俺の安全のために)杏子と一緒にいる」

 

「!!!?」

 

俺は決意を込めてはっきり告げた。

 

今日は一日リフレッシュ休暇だ!

どうせ明日休みなんだから問題ない。

 

さてと泊まるって言ったし、どっか安いビジネスホテルでも探すか。

それと晩飯どこで食べよっかな?杏子の分の支払いもあるし安いところにしないとな。

あ、母さんにも連絡しないと。

 

取りあえずそろそろ移動しよう。

 

俺はベンチから立ち上がり座っていた解放感から軽くストレッチをする。

今とても開放的な気分だ。

 

 

「・・・・・・」

 

「?」

 

それなのに杏子は無反応。微動だにせず座ったままだ。

息すら止めてるんじゃないかと錯覚するほど全く動かない。

試しに顔の前で手を振ってみても反応がなかった。

 

 

何してんの?何で固まってんのコイツは?




お分かりの人もいるかと思いますが杏子ちゃんの弱点優依ちゃんからのアクションです!

優依ちゃんから積極的に行動されるとめちゃ弱い!
慌てふためきます!

杏子ちゃん目線だとこんな感じです!
魔女の謎が増えただけでしたw
今後も何かと関わってくるでしょうね!


次回は初夜(嘘)回です!


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36話 二人きりの夜

誰かああああああ!タイピング速くなる方法教えてくださああああああい!!


「久しぶりだなービジネスホテル!」

 

前世のサラリーマン時代の記憶が蘇り懐かしさもあって俺はホテルの廊下をルンルン気分で歩く。

 

俺が今日泊まっていくと言ったら杏子が何故か金縛りになりようやく解放されるとめちゃくちゃご機嫌だった。でもそのあと明日朝一で帰るって言った時は一気に不機嫌になってしまって大変だった。晩飯の牛丼六杯くらいヤケ食いしてたし。何であんなに不機嫌になったのだろうか?

 

今日家に帰らないので母さんには今日友達の家に泊ると連絡してあるから問題ない。あながち嘘ではないし。

マミちゃんには・・メールで連絡しておいた。連絡遅くなった事と用事で学校休んで休日も忙しいと伝えておいた。ついでにシロべえにも連絡してマミちゃんを見張ってもらってる。彼女は大丈夫だろう。多分。

 

しかしシロべえの奴、俺が風見野に泊まるって言ったら絶句してたな。

最後に「気を付けてね」って意味深な事言ってたし。

まあ・・・気にしないようにしよう。

 

 

晩飯の牛丼食べた後は泊まるホテル探し。風見野駅近くのビジネスホテルが運よく部屋が空いていてそこにチェックインする。

 

こんなとこもあろうかと風見野駅のロッカーにお泊りセットが入ったバッグを預けておいたのだ!

死亡フラグ満載の原作が始まりいつでも逃げられるようにと用意したものだ。

念のために持ってきて良かった!

日用品は入れてあるのでコンビニとかで買わなくてすんだ!

俺冴えてんぞ!

 

まあ・・結局、夜食は必要ってんでコンビニに入る羽目になったんだけどさ・・。

 

 

 

 

今日はいろいろあったし疲れてる。明日は始発で帰る予定なので早めに寝よう。

 

今夜の予定を頭の中でおさらいしながらスキップする。

 

「アンタこんなホテルに泊まった事あんのか?」

 

「え!?えっと前に・・」

 

「ふーん。意外だな」

 

隣で不思議そうな顔してる杏子に慌てて取り繕う。

 

ヤベ・・懐かしさで思わず口に出てたか・・。

うっかりヤバい事喋らないように次から気をつけよう・・。

 

「あ、ここだな」

 

フロントで渡されたキーの番号を確認しながら俺達が泊まる部屋の鍵を解除してドアを開け中に入る。

 

「おお、どこのビジネスホテルも一緒なん・・って、あれえええええええええええええええええ!!?」

 

「どうした優依!?」

 

突然の悲鳴に後ろにいた杏子が駆け寄ってきた。

俺は驚きで床に尻餅をつき悲鳴の元凶を震える手で指差した。

 

「? ベッドがどうした?」

 

「何で?・・何でベッドがダブルなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

 

そうなのだ。俺達が入った部屋で一番存在感がある大きめのベッドが中央でドンと居座っている。

 

おかしい・・。俺は確かにフロントでツインベッドがある部屋にして下さいと言ったはずなのに!

あのフロントのおっさんだってツインですねって確認してたじゃん!

・・まさかホテル運営してんのにダブルとツインの違いが分からないとかじゃないだろうな?

 

冗談じゃない!俺の家ならいざ知らずホテルで杏子と二人きりな上に一緒のベッドで寝るなんて精神的にアウト!

 

今すぐクレームつけてツインの部屋に変えてもうおう!

 

 

 

「優依?」

 

スクッと立ち上がった俺を杏子は不思議そうに見上げている。

 

「ちょっとフロント行って部屋変えてもらってくる!」

 

そのままダッシュで扉を開けようとするも取っ手に触れた手に何かが覆いかぶさる。

 

「!?」

 

「いいじゃねえかよ。アンタの部屋でも同じベッドで寝てんじゃん。気にする事もないだろ?」

 

俺の手と重なるように置かれたのは杏子の手。背後に気配を感じ振り返って見ると目の前に楽しそうに笑う杏子と目が合った。個人的にその目が獲物を見てるような獰猛さがあるような気がする。

 

「明日早いんだろ?さっさとシャワー浴びて寝た方が優依のためだぜ?」

 

「げ!」

 

そのまま鍵をかけ、俺は担がれる形で部屋の中に連行され扉との距離は遠のいていく。

 

 

いやああああああああああああああ!!

いいわけないだろうが!

同じベッドで寝てんのはお前が勝手に侵入してくるからだろうが!

寝る時は別々なのに朝起きたら俺のベッドの中に杏子がいるんだもん!

しかも相変わらず人を抱き枕にしてるし、寝ぼけてやってんのか身体のあちこちに噛み跡出来てるんだよ!

 

幸い今は無事だが近い将来圧死か絞殺、噛み傷からの出血死とか嫌だ!

「死因;佐倉杏子」とか笑えない!

 

 

 

「そんなに気にする事ないじゃん。アンタ枕変えたら寝られないタイプでもないだろ?布団入ったらすぐ寝ちまうくせに」

 

ダダこねる子供を諭す親みたいな態度の杏子は俺をベッドの上に下ろす。そんな赤親をキッと睨む。

 

「気にするよ!快眠出来るかどうかがかかってんのに!」

 

「何が快眠だよ。幸せな夢でも見てんのかいつもマヌケな笑顔で爆睡してんだぞ?アンタは」

 

「そうなの!?」

 

思わぬ暴露に立ち上がってしまう。

 

「まあな。何なら証拠に写真撮ってやろうか?」

 

「いや・・いいです」

 

なんだか馬鹿馬鹿しくなって力なく再びベッドに座り込む。

 

「? たかがベッドくらいで何をそんなに落ち込んでんだか?・・動く気ないなら先にシャワー行くからな」

 

「え!?話これで終わり!?このままダブル確定!?」

 

話は終わりとばかりに杏子がさっさとシャワー室に入ってしまった。少し経ってからシャワーの音が聞こえる。どうやら本当にシャワー浴びてるみたいだ。この時間なら俺は自由!チャンスだ!

こっそり部屋を出るなら今しかない。杏子がいるシャワー室に細心の注意を払いながら音を立てないように忍び足で扉に近づき取っ手に手をかけた。

 

ガチャガチャ

 

「・・・・あれ?」

 

鍵は外したはずなのに何故か扉は開かない。不思議に思って扉を見ると赤い鎖がびっしり巻きつけられてた。こんな事出来る奴なんて一人しかいない。

 

やられた!杏子のほうが一枚上手だった!

 

「何がしたいんだよチクショウ!!」

 

悔しさのあまり扉の前で思わず叫んでしまう。

 

 

 

 

 

「はあ・・」

 

あれから何度も開けようとしたが魔法で作られた鎖は頑丈でとても壊せそうにない。八つ当たりまがいにベッドに正面からダイブしうつ伏せのままグチグチ文句をたれる。目を離してる隙に部屋交換しようとすんの見越していたようだ。付き合い長くなったから俺の考えそうなことをある程度予想されてるみたい。

 

俺自身もある程度杏子の考えてる事は予想出来るが今回は全然分からん。

お手上げ状態。マジで何がしたいんだ?

そこまでダブルの部屋が良いのか?

 

「うー」

 

分からない事だらけなので唸ってしまう。最近の杏子は予想外の行動ばかりだ。

 

 

 

 

 

~~~♪

 

うんうん唸っていたらどこからともかく未来から人型の殺人ロボットがやってきそうなメロディが聞こえた。

迷わず上体を起こしバックから携帯を取り耳にあてる。

 

「もしもしトモっち、何か用か?」

 

そうです。この着信メロディはトモっち専用です。昨日設定しました。どっかの死の着信メロディは即削除。代わりに今から厄介事がやってきそうなこのメロディになりました。

 

杏子がシャワー浴びてて部屋からも出られない。退屈なので思わぬ救いだ。近くに杏子がいるのは怖いが鬼が居ぬ間になんとやら。聞かれてなければ問題ない。

 

 

 

「・・・え?マジで!?もちろん!大歓迎だわ!分かった!早めに予定考えといてよ!楽しみにしてる!」

 

 

トモっちからの思わぬ話にテンションMAXになり思わず上体を起こした。

 

電話の内容は夏休みに見滝原に遊びに行っていいかという事だった。

「ワルプルギスの夜」を倒した後はトモっちに会いに行こうと思っていたからこれは嬉しい話だ。今から夏休みがとても楽しみになってくる。

 

・・俺に夏休みはもちろんこの先未来があるか不確定だけどさ・・。

 

 

 

「ははは、じゃあまたな」

 

不安はあるが希望を持っていようと思うので来る前提で話は進め、日時は後日決めるとして他にも少し駄弁り電話を切った。

 

昨日も電話(死の着信メロディの怒りの苦情)をしたがやはり気心知れた奴と話すのは心が安らぐものだ。今度は電話じゃなくて直接会えるようにしたい。その願いが今の俺の希望になっている。

 

絶対俺はこの先、生き残って笑顔で親友に会えるようにするんだ!

よし!頑張るぞ!

 

一人決意を新たに意気込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふう」

 

 

 

 

 

 

 

「随分楽しそうに電話してたな?」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

しんと静まり返った部屋でため息を吐くと背後から底冷えしそうな声が聞こえた。その声が聞こえた直後全身の毛穴が逆立った気がする。悪い事したわけでもないのに後ろめたさを感じながらゆっくり後ろを振り向いた。

 

「杏子・・これは・・え?ええええええええええええええええええええええ!!?」

 

後ろにいるであろう杏子にどう言い訳しようか考えながら振り向くも飛び込んできた光景に目を見開き声をあげる。

 

「叫ぶんじゃねえよ。今度は何で驚いてんだ?」

 

「いや!だって!・・杏子!・・それは・・!」

 

あまりの事に語彙力は低下して思うように言葉が出てこない。当の杏子は呆れた視線でこっちを見ていて腰に手をあてて立っていた。

 

 

 

 

 

「だから何だよ?」

 

「何で・・?」

 

ふるふると唇が震えながらも一生懸命言葉を絞りだす。

 

 

くそ!耐えていたが限界だ・・!

 

 

 

覚悟を決めて息を吸い込む。

 

 

 

 

 

 

「何で下着姿なんですか!!!?」

 

 

 

 

 

 

俺は真っ赤な顔で部屋中響き渡る大声で叫んだ。

 

杏子の今の恰好はブラジャーとパンティーのみという男が喜びそうな肌面積を誇り上下ともセクシーな黒でフリルまでついてる仕様。シャワーを浴びたからか肌はみずみずしく頬がほんのり赤い。

普段はポニーテールに纏めている赤い髪も今は下ろしており全体的に中学生とは思えない色気だ。

 

 

「何でって・・暑いにからに決まってんじゃん。寝間着用意すんの面倒だし。優依の部屋に泊まる時は服借りてるけど普段はずっとこの格好で寝てるぞ?楽なんだよ。・・おい、何で後ずさるんだよ?」

 

「そんなの簡単さ!杏子が近づいてくるからだよ!後、恥ずかしいから!」

 

理由は不明だが俺にじりじりと近づいてくる笑顔の杏子に対して俺はぎこちないながらも後ろに後ずさる。

今の杏子は目の毒だ。なるべく視界に入れないようにしないと。

 

「へえ、恥ずかしいんだ?女同士なのに?結構ウブだなアンタ。・・良い事聞いたな」

 

「え?」

 

ぼそぼそと口にされ、恥ずかしさと余裕のなさもあり最後の方は上手く聞き取れない。

 

 

「それより優依」

 

「・・・!」

 

さっきまでのからかう様子の笑顔は一瞬で無くなり代わりに冷たい雰囲気を纏っている真顔の杏子を見て息をのむ。テンパってて思うように身体を動かせず気づけば距離を詰められ息がかかりそうな程顔を近づけられている。

 

「な、なんですか?」

 

勇気を振り絞って口を開く。射抜くような鋭い目に怯えながら返事を待った。

 

 

 

「さっき電話してたの優依の幼馴染だよな?」

 

形ばかりの疑問形で俺に聞いてくる。幼馴染の単語を口にした瞬間、部屋の空気が重くなった気がしないでもない。

 

 

「・・・・・えっと」

 

「何の話してた?」

 

「・・・・・・」

 

「言えないのか?」

 

「た、ただの雑談・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

恐ろしいほどの沈黙が部屋中を支配している。杏子を中心に全体の気温が下がっているみたいだ。この空気を作り出している張本人は無表情で俺をじっと見てて怖すぎる。

 

さすがにこの空気は気まずい!何か話さなければ!

じゃないと俺が耐えられない!

 

 

「杏・・「優衣」な、何?」

 

何か話そうと口を開くも遮られてしまった。さっきまでの無表情が嘘のように今度はニッコリといっていいほどの笑顔を浮かべてる。その笑顔に何だかゾクッと感じ無意識に身体が震える。

 

「話す気がないのは分かった。だったら素直に話したくなるようにしないとな?」

 

「・・へ?」

 

肩を押されそのまま後ろに倒れこみ目の前には俺を見下ろす杏子がいて背後には天井が見えた。

 

何で?どうなってんの?

落ち着け。冷静に状況を見ろ。

 

えーと俺が倒れてるのはベッド。

俺の上に覆い被さってるのは杏子。

 

えっと・・?

 

・・・・・・・・・・・・え?

 

えええええええええええええええ!!?

 

俺ひょっとして杏子に押し倒されてるううううううう!!?

何故!?どうして!?こいつに何があった!?

 

「あははは!驚いてる!アタシの格好見て顔赤くしてたから、もしかしてこういうのも初めてかもと思ってたけど予想通りだな!」

 

俺の百面相を見ながら楽しそうに笑ってる犯人。言いたいことは沢山あるけど頭がパニックになって思うように言葉が出ず口をパクパクするしか出来ない。

 

 

 

「・・さっきの電話以外でまだ聞きたいことがある。お前さ今何やってるんだ?アタシに隠してることあるだろ?」

 

ひとしきり笑った後杏子はふっと顔を笑顔からさっきの無表情に変え声をひと回り低くして聞いてくる。核心を突いてきたことと押し倒されたパニックもあって目が泳ぎまくる。

 

「今日昼飯食った後、アタシに妙な事聞いてきたよな?あれどういう意味だ?それと・・・」

 

俺を押さえつけていた手が首に移動して今日巻いていたショールを取り払われた。

 

「これ何だ?」

 

「・・・っ」

 

杏子の手が俺の首を労わるようになぞっている。

ヤバイ!見られてた!

昨日の魔法少女体験コースの時マミちゃんのうっかりミスでつけられたリボンの締め跡!

結局くっきり残ってしまって見られないようにショール巻いてきたのに!

 

「・・ゲーセンの時さ、優依の首に腕回しただろ?その時に見えたんだよ。その内、話してくれるだろうってそっとしておいたけど隠してばかりだから流石に限界だっつーの。・・・誰にやられた?」

 

あの時か!

くそ!もっと警戒しておくんだった!

ていうか杏子怖っ!

最後のなんて地を這うような声だったよ!?

 

「いや!これはついうっかりこけてそれで縄にひっかかって・・」

 

「嘘だね。こんなに丁寧に巻かれた跡があるのについうっかりなんてありえると思ってんのかい?正直に言えよ。そしたらアタシがソイツをぶっ潰してやるからさ」

 

余計言えるか!!これやった犯人オメーの師匠だよ!!

冗談だと思いたいがもし杏子が本気ならマミちゃんが危ない!

見滝原に血の雨が降りそうだ。

あれ?よく見ると目が据わってる・・ガチだ!

絶対言っちゃだめなやつだこれ!

シロべえの言う通りじゃん。事情がややこしい時期に杏子が来たら更にややこしくなる未来しか見えない!

 

何とかして誤魔化さないと!

 

必死に考えを巡らせようとするも既に頭がキャパオーバーを起こしていて思うように思考できない。部屋はしんと静まりかえっていて杏子の息遣いしか聞こえない。焦りばかり募っていき無情に時間だけが過ぎていく。

 

「・・・だんまりか」

 

どれだけ時間が経ったか分からない。結局何も言えないまま杏子が口を開いた。顔を横に逸らして俺からはどんな表情なのか見えないがその声は何かに耐えているような震える感じのものだった。

 

「杏子・・その・・っ」

 

何か言い訳しようと声をかけるも途中で止まってしまう。再びこっちを見た杏子の表情は陰がある笑みだったからだ。不似合いのその暗さに思わず息が止まりそうになる。

 

「なら仕方ねえよな?話す気がないなら直接身体に聞くしかないじゃん。・・・優依が悪いんだからな?アタシに何も話してくれないから・・・」

 

「え?・・ちょ、ちょっと!?」

 

杏子の顔がゆっくり俺に近づいてきてる。止めさせようにも両手をがっしり押さえつけられ馬乗り状態だから身動き取れない。顔に熱が集まってくる。頭がオーバーヒートだ。

 

はわわわわわ!どうしよう!?杏子はどうしたんだよ!?

酔ってる?それとも今になって魔女の戦いの後遺症とか出た?

きっとそれだ!そうとしか思えない!今日様子がおかしかったもん!

魔女の口づけとか喰らってんのか?

見た限りは分からないがとにかく目を覚まさせないと!

どうすれば・・・?

 

「っ!」

 

考えに集中していて気づけば触れられそうな距離に杏子の顔がある。迷っている時間はなさそうだ。

 

・・どうやら頭を使うしかなさそうだ。

 

覚悟を決めて杏子を見据える。

 

 

今こそ発揮せよ!俺の石頭よ!杏子の目を覚まさせるのだ!

 

「どりゃあ!!」

 

杏子の額めがけて頭突きをするため頭を勢いよく上げた。

 

「う!?」

 

ゴツンという音が響き見事額にお見舞いすることに成功し痛みに呻く杏子は額を押さえて仰け反りながらベッドに倒れこんだ。その隙に俺はベッドから離れシャワー室に駆け込む。

 

「ごめん杏子!俺がシャワー浴びてるうちに正気に戻ってくれ!」

 

 

 

そう叫んで扉を閉める。シャワーの間、俺はひたすら般若心経を唱え続けた。

 

 

 

 

一〇八回読経が終わり、聖人になったのでシャワー室から出てベッドを見るとどっかで見たことある布団の塊が出来上がってた。

 

 

「・・杏子、大丈夫?」

 

「うるさいうるさいうるさいうるさい!!」

 

一応声をかけてみると思いのほか元気な返事が返ってきた。

 

冷静になって自分のやったことを振り返り身悶えているとみた。どうやら正気に戻ってくれたようだ。安堵の息を吐く。ベッド端に座り布団の塊を観察する。

 

・・心なしか震えてませんか?

 

あ・・これ痛がってない?

それって俺のせいじゃん!ヤバい!泣いてる!?

まずは頭突きしたことを謝らなくては!

 

俺は床に座って土下座した。

 

「杏子ごめんよ!俺パニクってたんだ!血迷って頭突きをしちゃって・・その」

 

「・・・・・」

 

杏子が頭だけ出してくれた。その顔は俺を睨んでいたが真っ赤で涙目だ。額は頭突きしたせいか赤くなっていた。赤くなった部分を見て顔を青くする。

 

俺は血迷ってなんてことやらかしてしまったんだあああああああああああ!!

女の子に頭突きなんて最低だああああああ!!

 

「本当にごめんなさい!何でもする・・のは無理だけどお詫びはするから!!」

 

「・・・だったら話してくれる?」

 

「それは無理です!」

 

やっと喋ってくれたと思ったら許す条件が悪い!ひとまず土下座は継続させるしかなさそうだ!

 

 

「・・・何でだよ?」

 

「それは・・・」

 

「何でだよ!?」

 

「!?」

 

言い澱んでいるといきなり大声だされてビクッと身体を固くする。震えながら顔を上げると俺の前に杏子が立っていた。涙目で俺を睨んでいる。俺はさっと顔をそらした。

 

いやだってまだ下着姿なんですよ!?

服来てくれないとまともに見れないから!

 

「なんで何も話してくれないんだよ!?アタシに言いたくないからか?アタシは信用出来ないからか?」

 

「・・・・」

 

改めて見るとその顔は怒り一色だった。あまりの迫力に声が出ない。今まで何度か杏子が怒ったところは見たことあるがここまで本気で怒った表情は初めて見た。

 

「あの時だってそうだ!あんなに泣いてたくせに何があったか一言も話さなかったじゃん!人を心配させといて勝手なもんだ!」

 

あの時ってひょっとしてほむら犯罪中継の事か?

言えるか!あんなヤバい事件!

 

「大丈夫だって!杏子に言えないのは迷惑になるからだってば」

 

何とか落ち着けようと宥めにかかるもそれが火に油を注いでしまったようで杏子の怒りが更にヒートアップする。

 

「前にもアンタは大丈夫だって言うから信じてた!・・でも今は信じられない!何も話してくれないから・・。事情を話さない奴をどうやって信用すんのさ?信じろっていう方が難しいに決まってるだろ!」

 

「・・・」

 

「相手を説得したいなら、まずは自分から腹割って話さないと意味ねえんだよ!何が怖いのか知らねえけど都合悪いこと伏せてるだろ!?知られたくないこともあるだろうけど時には伝えることも必要なんだぞ!説明不足で納得すると思ってんのか!?」

 

「!」

 

杏子の言葉を聞いて雷が打たれたような錯覚を覚える。

 

「何も分からないから身動き取れないのは辛いんだぞ?一人で泣いてる優依を見たくない。少しはアタシの事で困ればいいって思った。だからさっきからかってやったのさ!アタシの気持ちを思い知ればいいって!」

 

「・・・・杏子」

 

「なんだよ!?今アタシが話して・・・ひゃう!?」

 

「ありがとおおおおおおおおおおおお!!」

 

俺は土下座から杏子に飛びかかって抱きしめた。勢い余ってバランスを崩しそのまま二人してベッドに倒れ込む。

 

「そうだよな!やっぱり信用を得るには腹割って話すのが一番だよな!分かっていても勇気がなくて中々前に進めなかったんだ!でも杏子の話を聞いて決心ついたよ!」

 

「にゃ、にゃにしてんだ!?//」

 

興奮して倒れこんだまま杏子を抱き締める。格好だけみたら俺が押し倒してるみたいだ。

 

「今まで悩んでたんだけど杏子のおかげで決断出来そうだ!ありがとう!君は俺の救世主だ!!」

 

「~~~~~っ///やめろ!頬擦りするな!!」

 

解決の糸口が見つかった喜びに思わず杏子の頬をすりすり。

 

やっぱり頼りになるわ!

厳しい中にもきちんと俺にアドバイスしてくれる優しさは尊敬に値する!

さっきの押し倒しも俺を激励するためだったんだな!

 

「杏子大好きだ!!」

 

感謝と親愛の意を込めて満面の笑顔ではっきり告げる。トモっち以外で初めて親友と呼ぶべき相手かもしれない。いや、俺は杏子を親友だとはっきり言いきれる!

 

前世を含めて初の女の子の親友だ!

自分が嫌われるかもしれないのにここまでして俺のために動いてくれる人はそうはいないだろう!

俺は幸せものだ!

 

 

俺は笑顔で新たに親友の顔を見る。

 

「・・・・キュゥ////」

 

「え?杏子?杏子おおおおおおおおおおおお!?」

 

親友は顔を真っ赤にして目を回していた。

ひょっとして俺、杏子を窒息させてた!?

 

俺は慌てて胸の動きを見て杏子の生存確認を行った。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か?」

 

「・・・なんとかな」

 

あのあと意識を取り戻した杏子はベッドに転がったまま全く俺を見ようとしない。結構寂しいもんだ。

 

その会話のあとお互い沈黙になる。

俺も杏子を窒息死させそうになったので言いにくい。

 

「・・・なあ」

 

「うん?」

 

杏子はそっぽ向いたままだが沈黙を破って俺に話しかけてくれた。

 

「さっきの言ったこと・・本当か?」

 

「さっき?」

 

「アタシの事・・大好きって・・」

 

どうやら照れてるらしい。背中向けてるのに耳が真っ赤だからな。

 

その姿が微笑ましく思わず笑顔を浮かべる。

 

「本当だって!俺、杏子のこと大好きだぞ!」

 

はっきりと杏子に告げる。

愛してるぜ親友よ!今後も頼りにさせてもらうからな!

 

「そっか・・アタシも優依のこと大好きだ」

 

俺のいる方向に寝返りをうってはっきり言ってくれた。頬を染めて幸せそうに微笑んでる。

 

うおおおおおおおおおお!!

嬉しい!自分が観てたアニメキャラとこういった友情関係になれるなんて夢みたいだ!

俺はさやかじゃないから役不足だけど心意気だけは頑張るよ!

 

 

「ありがとう。俺の一方通行かと思ってたから嬉しいよ」

 

 

心中の叫びは悟られないように平静を装いながらお礼を言う。俺の言葉に杏子はまた嬉しそうに笑った。

 

夢じゃない!杏子も俺を親友と思ってくれてるみたいだ!今にも天に舞い上がりそうだ!

 

 

「・・・告白に免じて今は何も聞かないでおいてやるよ。いつかちゃんと話してくれればいいから」

 

「え・・?」

 

一人舞い上がっていたので最初の部分を聞き逃した。言ってる内容はどうやら杏子は引いてくれるみたいだ。

さっきの態度と一八〇度違くね?

 

「やれるとこまでとことんやればいい。それで無理だったらアタシを頼りな。助けてやるからさ」

 

「杏子・・・!」

 

慈愛に満ちた笑顔できっぱり言いきってくれた。

 

何でこんなに優しいんだ!?

俺泣きそうだよ!?

 

「ありがとう!杏子だけが頼りなんだ!うん!助けが必要になったらよろしくね!」

 

俺の尻拭い頼みますよマジで!

 

 

 

「可愛いなお前。あ、そうだ・・・ほら」

 

「?」

 

幸せそうな笑顔の杏子が上体を起こして両手を広げている。

 

「アタシに飛び込んでこい。話さないのは許してやるけど頭突きしたことは許してねえからな。優依からギュッてしてくれたらチャラにしてやるよ」

 

「え・・でも」

 

「なんだよ?嫌なのか?」

 

「せめて服着てください!」

 

そうなのだ。依然として杏子は下着姿のまま。

さっきはテンションがおかしかったから抱きつけたが素に戻った状態でほぼ裸同然の杏子に抱きつけると思っているのか?

 

「だめだ。アンタを感じたいからこのままがいい。そもそもさっきアタシに抱きついたくせに何で今は出来ないんだよ?」

 

「いや、あれは」

 

痛いとこをついてくる。

つうか、何でそんなに下着にこだわってんの?

嫌だ!何としても拒否りたい!

 

 

「はやく来ねえとまた押し倒すぞ?」

 

「失礼します!」

 

ドスのきいた声にマジな気配を感じ躊躇わず杏子に抱きついた。

 

うう、肌が柔らかい。石鹸の良い香りする。

 

「最初から素直になれば良いんだよ」

 

杏子は嬉しそうに話かけ俺の頭を撫でながら背中に手を回し、そのままベッドに寝転がった。

 

「今日は疲れたろ?このまま寝るぞ」

 

「え!?」

 

反論するより先に電気を消された。杏子の手と足がガッチリ俺の身体を固定してるので身動きが取れない。このまま寝るしかなさそうだ。

 

 

 

抱き締められた肌の柔らかさと体温が心地良い上に頭を撫でられているのですぐにまぶたが重くなる。頭がぼーっとしてきた。

 

 

 

今まで散々迷っていたが杏子のおかげで迷いは晴れた。

俺も腹を括る時が来たのかもしれない。

 

 

 

 

暁美ほむらに俺の秘密を打ち明けよう

 

 

 

 

どんな反応されるか分からないが協力を得るにはそれしかない。本人もそれを望んでるし。正直言ってかなり怖いがやるしかない。

 

上手くいくよう祈るのみだ。

 

・・とりあえず今日はもう寝てしまおう。

段取りは明日決めればいい。

 

そう結論づけてまぶたを閉じる。

 

「おやすみ優依」

 

杏子がそう言ったあと俺は意識を手放した。




またやっちまった!
R18じゃないのにやっちまった!

そしてヤバい方の勘違いも炸裂!
杏子ちゃんこれ見滝原来たらマジで暴れそうで怖すぎる!


とりあえず杏子ちゃんのお話も次でおしまいです!
作中で優依ちゃんはほむほむに秘密を打ち明けるつもりみたいですけど上手くいくでしょうかね?


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37話 ターゲットロックオン

誰か時間を止めてわたくしめに執筆する時間をお与えください!!


杏子side

 

「ダブルの部屋に変更ですね?かしこまりました」

 

優依は電話してくると言ってここにいない。

ホテルのフロントにアタシ一人だから都合がいい。

今の内にフロントでツインからダブルに変更しておく。

 

何が「帰らない。杏子と一緒にいる」だ。

紛らわしい言い方しやがって。

勘違いして舞い上がっちまっただろうが!

上げて落とすなんて酷い奴だな。

 

これはせめてもの仕返しだ。

 

アタシはダブルの部屋のキーを受け取り優依を待っていた。

 

 

「ごめん!電話長引いちゃって、待った?」

 

「別に待ってねえよ。ほら、部屋の鍵だ」

 

「ありがとう。じゃあ行くか」

 

何食わぬ顔で優依に鍵を渡す。何も知らないコイツはそのまま鍵を受け取り上機嫌でスキップしながら部屋に向かっていく。その様子に内心ほくそ笑みながらその後を追った。

 

 

どんな反応するか楽しみだ。

 

 

 

わくわくしながら扉の前で待機してると優依が部屋に入った直後に叫び声が聞こえた。最初は何かあったのかと思って駆け寄ったが単純にダブルベッドに驚いていたみたいだ。まさかここまで驚くとは思わなかったがイタズラが成功した事にこっそり笑ってしまい、誤魔化すのに一苦労だ。

 

 

「優依?」

 

すると突然優依がスクッと立ち上がったが一体どうしたんだ?

 

「ちょっとフロント行って部屋変えてもらってくる!」

 

 

逃がさねえぞ?

 

 

ふざけた宣言してそのまま扉にダッシュしやがったのですぐ追いかけて取っ手にかけている優依の手をアタシの手で覆うように握って阻止。

 

 

「いいじゃねえかよ。アンタの部屋でも同じベッドで寝てんじゃん。気にする事もないだろ?」

 

 

今のアタシはすごく楽しそうな顔してると思う。

振り返った優依が怯えた顔してたからな。きっと獲物を追いつめる目をしてるんだろう。

 

怯えてる隙に鍵をかけ、優依を担いでベッドに運ぶ。逃げ出そうと抵抗していたが魔法少女のアタシに一般人の優依がかなうはずもなく特に苦労せずベッドの上に下ろす。

 

キッとアタシを睨んでいたが上目遣いが可愛いだけで全く怖くない。むしろ煽っているようにしか見えないので逆効果だ。快眠がどうのとか文句言っていたが寝顔を毎回見てるが幸せそうに寝てる奴がそんな事言っても説得力がない。

 

優依の部屋に泊まりにいった日は必ずといっていい程ベッドに侵入して寝てるから間違いない。その時にすやすや眠る優依の寝顔を眺めるのはアタシの特権だ。確かにこれは幸せなんだが満足しない。だからつい我慢できなくてアタシのモノだという証の甘噛みをしてしまう。特に嫉妬や独占欲が抑えきれない時なんかは何度も甘噛みを繰り返す。優依がやめるように言ってくるが直す気のない悪い癖だ。

 

そのまま朝を迎えると最初に目に入るのはアタシの腕の中で眠る優依。この瞬間が最も満たされていて最高なんだ。

 

 

優依を近くで感じたいんだ。

たとえお互い違うベッドで寝ていても眠ったところを見計らって潜りこむつもりだが、今回はアタシを振り回したお詫びに最初から一緒に寝てもらう。

 

 

力なくベッドに座り込む優依を放置してアタシはシャワー室に向かう。その途中で扉に魔法で作った鎖をかけてアタシがいない内に部屋の変更や逃亡の防止対策をしておいた。背後で優依が何か叫んでいるが無視。

 

今日はこのままアタシと一緒にいてもらうから覚悟しろ。

 

 

 

 

シャワーを浴びながら魔力で聴覚を強化し聞き耳を立てる。案の定優依はアタシがいない内に部屋から出ようとしていたようで扉を開けようと必死だ。予想通りで笑えてくる。しばらく優依は扉をどうにか開けようとガチャガチャと音を立てて奮闘していたがやがて諦めたようでボフンとベッドにダイブする音が聞こえた。悔しいのか「うー」と可愛らしく唸っていて微笑ましい。

 

「怒ってるな。さすがに可哀そうだから後で甘やかしてやるか。ホント世話が焼ける奴だ」

 

誰に聞いてもらうわけでもなく愚痴が出てくる。

小さい子供を相手にするようで呆れるがそれを嬉しいと思う自分も確かに存在する。

 

アタシ無しじゃ生きていけないようにドロドロに甘やかしたい。

 

そんな事考えててさっきからニヤつく自分の口を押さえつけられるのが大変だ。

 

 

 

 

「・・・ん?」

 

耳が何かのメロディを拾う。少し耳を澄まして聞いているとサングラスした奴がアイルビーバックしそうなイメージのある曲だった。

 

携帯の着メロか?

何で優依はこれに設定したんだ?

 

頭の中で疑問符が大量に発生する。

 

 

 

「もしもしトモっち、何か用か?」

 

「!?」

 

優依の口から最も聞きたくない奴の名前が飛び出し条件反射で顔を声がする方に向ける。楽しそうな声が聞こえてきて目つきが鋭くなる。

 

 

せっかく優依と二人きりなのに何で邪魔するんだよ・・・!?

 

 

さっきまで感じていた穏やかな気持ちは一瞬で消え去り代わりに冷たい怒りと爆発しそうな殺意が胸を支配した。ここにはいない奴を睨み付けながら聴力を更に強化し一字一句聞き漏らすまいと神経を集中させ、通話内容の盗み聞きに専念する。

 

どうやらあの憎たらしい幼馴染は夏休みに優依に会いに行くようだ。

 

頭に血が昇りそうになる。

 

冗談じゃねえ!来るな!!

アタシと過ごす時間が減るだろうが!

何より優依と一緒にいるところなんて見たくない!!

さっさと断れよ!!

 

 

 

「・・・え?マジで!?もちろん!大歓迎だわ!分かった!早めに予定考えといてよ!楽しみにしてる!」

 

 

「・・・・・・・っ」

 

嬉しそうな優依の声が嫌でも耳に入って言葉に詰まる。物音がしたから嬉しくて身体を動かしてるのが簡単に想像ついた。せわしなく物音が聞こえる。あちこち身体を動かしているのだろう。余程嬉しいらしい。

 

 

 

「・・へえ?幼馴染が会いに来るのそんなに嬉しいんだ?アタシと一緒にいるより嬉しそうだな?今アタシがいるの忘れてるんじゃないの?」

 

震える声で優依に向かって呟いた。

 

グツグツ煮えたぎる怒りを紛らわそうとシャワーをひたすら浴びるも怒りは募るばかり。その間も優依の楽しそうな声が耳に入ってくる。

 

 

「チッ」

 

流石に限界が来てシャワー室から出て扉を乱暴に開けた。その音で気づいてくれるかもと淡い期待をしたが話に夢中の優依は背を向けて話し込んでいる。その姿に更に苛立ちが募っていく。慌てて出てきたから今下着しかつけてないが普段はこの格好で寝るから気にする必要もない。そのまま背後に立ってみるも全く気付く気配がないため腹立たしい。

 

 

 

そんなに幼馴染が好きなのか?・・アタシよりも?

 

 

 

「早くトモっちに会いたいなあ」

 

 

ブチッ

 

 

恋い焦がれるような優依の声を聞いた瞬間、アタシの中で何かが切れる音がした。

 

 

・・・・・・いいよ。

 

 

アンタの幼馴染が来るんなら歓迎する。

今まで優依が世話になったお礼をしないといけないからね。

一生忘れられない日にしてやるよ。

 

 

 

獰猛な笑みを浮かべてアタシはソウルジェムの指輪をなぞった。

 

 

 

でも、その前に、

 

 

 

「ははは、じゃあまたな」

 

 

目の前にいるコイツをおしおきしないとな?

 

 

 

スッと目を細め、電話を切って一息をついた優依に声をかける。

 

 

 

「随分楽しそうに電話してたな?」

 

我ながらかなり冷えた声が出た。かなりイラついてるから仕方ない部分もあるが優依がかなり怯えているようで小刻みに震えだす。どう言い訳するのか楽しみにしながら待っていると振り向いた優依が突然叫んだ。ベッドの時よりも慌てていて顔を真っ赤にしてアタシから目を逸らす。

 

「何で下着姿なんですか!!!?」

 

真っ赤な顔そのままで優依が叫んだ。その様子が可愛くて微笑ましいものを見る表情で近づくも後ずさりされる。

 

アタシのこの格好が恥ずかしいらしい。

しどろもどろで説明する優依が物凄く可愛い。

 

良い情報が手に入った。今度新しいの探しに行こう。

って、違う!そんな事考えてる場合じゃねえ!

 

恥ずかしがる優依の様子に和んでいたがふと目的を思い出し再び怒りが湧いてくる。今度は絶対問い詰めるつもりで顔を至近距離まで近づけて優依の顔をじっと見る。はぐらかしを許さない心持ちで正面から見据えて口を開く。

 

 

 

 

「さっき電話してたの優依の幼馴染だよな?」

 

 

 

幼馴染の単語を口にする時、無意識に憎しみがこもってしまい、それに合わせて優依を睨む。抑えきれない殺気が身体から溢れ出てるみたいで部屋全体の空気が重くなった。

 

 

 

「何の話してた?」

 

「た、ただの雑談・・・・」

 

優依はあくまで誤魔化してくる。

 

ふーん?言う気が無いって事か。

正直に話せば許してやろうかと考えてたけどとぼける気なら容赦しない。

どうやらこいつには少し躾が必要みたいだ。

 

 

「優依」

 

何か言っていた優依を遮り、怒りを込めた笑顔を向ける。アタシの笑顔を見て失礼な優依は顔を青ざめ震えだした。その隙に肩を掴みベッドに押し倒し、そのまま上に覆いかぶさる。抵抗しないようにガッチリ腕を押さえてある。優依は最初訳が分かっていなかったみたいだが次第に状況が分かって来たのか顔が百面相のようにせわしなく動かしていてその様子に声を出して笑ってしまった。

 

笑い終わったあと、アタシは優依を問い詰めた。

さっきの電話の事と魔女が原因であやふやになったおかしな質問。

 

何で事情聴取みたいにアタシの行動聞いてきたのかずっと気になってた。

 

アタシの問いに心当たりがあるのか優依はひたすら目を泳がしていた。確証がなかったがこれで何か隠してるのは確定だ。

 

 

核心を得て他にも気になっていた事を確認してみることにした。ゲーセンにいた時偶然見てしまったものだ。

 

優依が巻いていたショールを剥がし剥き出しになった首を見て目を見開いた。

 

 

 

 

「これ何だ?」

 

 

 

 

そこには痛々しい絞め跡があった。改めてみると余程強く締め付けられたのかくっきりと赤い線が何本も優依の首にあった。それを撫でてながら優依を問い詰める。誤魔化してきたがバッサリ切り捨てた。

 

コイツに何があった?

誰にやられたんだ?

その白い肌にこんな痛々しいもん残しやがった奴が憎い!

必ず見つけ出して首をズタズタに裂いてやる!

 

憎しみを募らせながら優依の答えを待つ。部屋はしんと静まり返っていて聞こえるのはお互いの呼吸だけ。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・だんまりか」

 

 

どれだけ待っても優依は話してくれなかった。悲しむ表情を見られないように顔を横に逸らす。

 

・・そっか。

アタシってそんなに信用出来ないんだ・・。

きっとあの幼馴染に聞かれたら優依は素直に答えるんだろうな。

優依にとってアタシは所詮、ただの友人。それだけだ。

 

 

胸を抉るような痛みが襲う。目の前が真っ赤になり頭が沸騰しそうだ。

 

 

もう・・どうでもいいや

 

何もかもどうでもいい

 

 

今まで必死に抑えていた激情に身を任せながら自然と出た笑みを浮かべて優依を見る。

 

 

「なら仕方ねえよな?話す気がないなら直接身体に聞くしかないじゃん。・・・優依が悪いんだからな?アタシに何も話してくれないから・・・」

 

全部優依が悪いんだ。

アタシにこんな思いさせる優依が・・・

 

 

戸惑う優依にゆっくり顔を近づける。躊躇いなんてない。両手を固定されているコイツは身動きはとれない。アタシの思うがままだ。

 

 

 

このままアタシのモノにしてしまおう

 

アタシの事しか考えられないようにしてしまえばいい

 

 

 

 

唇が触れる瞬間、額に衝撃が走り痛みのあまり思わず呻きながらベッドに倒れこんでしまった。

 

 

 

「ごめん杏子!俺がシャワー浴びてるうちに正気に戻ってくれ!」

 

 

額を押さえてる間に遠くで優依の声が聞こえ、この激痛の犯人がアイツだと悟る。

 

 

「・・・・・」

 

少し経ってシャワーが流れる音が聞こえてくる。それ以外何の音も聞こえない。痛みがようやく引いてぼーっとそのままベッドに倒れこんでいたが虚しくなってきて布団にくるまった。

 

「・・・ぐす」

 

布団の中で優依に勢いで迫ってしまった自己嫌悪と拒絶された悲しみがごちゃ混ぜになり自然と涙が出てきた。

この後どんな顔して優依に会えばいいか分からないが確実に嫌われただろう。

想像しただけで身体が震えてきた。しばらく経って優依がシャワー室から出てきて話しかけてきたが色々悪い事を考えすぎて情緒不安定だったアタシは癇癪を起こした子供みたいに喚いてしまった。すると突然ドサッという物音が聞こえて優依がアタシに謝罪してきた

 

 

「杏子ごめんよ!俺パニクってたんだ!血迷って頭突きしちゃって・・その」

 

 

テメエ!アタシに頭突きしやがったのか!?

めちゃくちゃ痛かったんだぞ!!

 

文句を言うため顔だけ出したら優依はいつかの百合を思い出すような土下座していた。アタシと目があった途端顔を青くしている。

 

 

「本当にごめんなさい!何でもする・・のは無理だけどお詫びはするから!!」

 

「・・・だったら話してくれる?」

 

「それは無理です!!」

 

 

再び拒絶の言葉を吐かれついに我慢の限界がやってきた。

 

 

「・・・何でだよ?」

 

「それは・・・」

 

言いよどむ優依の様子が更に怒りを煽って制御が効かない。

 

 

「何でだよ!?」

 

驚く優依の前に立ち感情のままに叫んだ。優依は少しだけアタシを見た後すぐに目を逸らされてしまう。そんな些細な事でも怒りが湧いてくる。

 

「なんで何も話してくれないんだよ!?アタシに言いたくないからか?アタシは信用できないからか?」

 

一度口に出してしまうと止まらない。感情が溢れでてきて今まで言えなかった事を一気に吐き出した。宥めようとする優依を押しのけヒートアップしする。

 

 

「・・・・杏子」

 

 

 

なのに突然優依は叫び、土下座の体制からアタシに飛びついて来てそのまま押し倒された。あまりの事に頭が混乱して身体を動かせない。その間に優依はアタシの上に乗ってお礼を言ってたり、頬擦りしたりして頭が沸騰しそうになる。

 

 

 

そしてパニックになっていたアタシを見下ろしながら優依はにっこり笑っていた。

 

 

 

 

「杏子大好きだ!!」

 

 

!?

 

優依は何て言った?

大好き?誰を?アタシを?

 

え・・・・・?

 

 

えええええええええええええええ!!?

 

 

その後の事は覚えていない。気づけばアタシはベッドで寝ていて、傍には心配そうにアタシを見つめる優依が座っていた。気を失う寸前、告白された記憶がある。恥ずかしさのあまり寝返りを打って顔を見られないようにした。あの告白が夢なのか現実なのかどうしても確認したいが決心がつかずうじうじ悩む。その間お互い口をきかずとても静かだった。

 

あああああ!悩んでるなんてアタシらしくない!

思い切って聞こう!

 

沈黙に耐えられなかったからついに確認する事を決心し優依の名前を呼んだ。すぐに返事が返って来てバクバクする心臓を抑えながら震える唇を開く。

 

 

「さっき言ったこと・・本当か?」

 

「さっき?」

 

「アタシの事・・大好きって・・」

 

 

言ってて顔が赤くなる。もし気のせいだなんて言われたら二度と優依の顔見れない。一生穴に入って暮らそうと思う。

 

 

「本当だって!俺、杏子のこと大好きだぞ!」

 

 

これは現実か・・?

 

普段消極的なのに優依の方から告白してくれるなんて。

 

幻でもいい!アタシもきちんと気持ちを伝えなきゃだめだ!

 

 

「アタシも優依のこと大好きだ」

 

優依の方を振り向き自分の想いを口にする。頬が火照っていて目に熱がこもったおかしな表情だったけど、一世一代の告白する時ぐらい好きな奴の顔を見て言いたかった。アタシの告白に優依は嬉しそうに笑っていて、ありがとうって言ってくれた。

 

 

アタシの気持ちようやく言えた。

 

優依と両想いになれたんだ!

 

夢みたい!・・夢じゃないよね?

 

幸せ過ぎておかしくなりそう・・

 

 

「・・・告白に免じて今は何も聞かないでおいてやるよ。いつかちゃんと話してくれればいいから」

 

 

気付けばそう口にしていた。

 

とても気分が良い。さっきまであんなに苦しかったのに今は穏やかだ。

 

「やれるとこまでとことんやればいい。それで無理だったらアタシを頼りな。助けてやるからさ」

 

魔法は全て自分のために使い切ると誓っていたが可愛い優依の為なら構わない。必要ならどんな事だってしてやる。障害があるなら叩き潰してやるし、傷つけようとする奴がいたら排除する。

 

アタシの優依が望むなら何でも叶えてあげなきゃな?

 

この後は優依を抱きしめながら一緒に寝た。下着のままだったから肌に直接、優依の感触が伝わる。想いが通じ合ったからか噛みつきたい衝動が起きず、ひたすら優依を撫でてたらいつの間にか眠りについてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・帰るのか?」

 

「うん!杏子のおかげで解決出来そうなんだ!急いで帰って終わらせてくるよ」

 

今アタシ達は風見野駅で優依の帰りのバスの前にいる。朝起きてさっそく優依は帰る支度をしていて寂しさを覚えた。今までも別れる時は寂しかったが今回は過去の比じゃない。

 

 

 

せっかく両想いになれたのに、何で離れなくちゃいけないんだ・・?

 

 

 

引きとめたかったがやる気に満ち溢れ覚悟を決めた優依の様子を見て思い留まる。優依の服を掴むだけの抵抗にしておいた。

 

「あ、もうすぐバスが来そうだ」

 

優依が向いている方向に目を向けると遠くに見滝原行きのバスが来ていた。別れが近い事を確信してしまい、更に力を込めて服をギュッと掴む。アタシを安心させるように優依はにっこり笑ってた。

 

「昨日から付き合ってくれてありがとう!とっても楽しかった!杏子に会いに来て良かったよ。俺やれるとこまでやってみるけど、もし助けが必要になったら・・頼っていい?」

 

不安そうな顔でアタシに上目遣いする優依が可愛くて無意識に頭を撫でる。

 

 

「構わねえよ。アタシはいつでもアンタの味方だからな。いつでも頼れ。それと・・これ大事にしろよ?せっかく作ってやったんだから」

 

頭を撫でていた手で優依の髪につけている髪飾りを触る。優依はきょとんとしていたがすぐに笑顔になって頷いた。

 

「もちろん!大事にするさ!本当にありがとう!また会おうな!」

 

「・・ああ、またな」

 

丁度来たバスに乗り込み、優依はアタシに手を振った。それと同時に扉が閉まり、バスは出発する。アタシはバスが走り去った方向に顔を向けた。

 

 

見滝原にはマミがいるから優依が魔女や使い魔に襲われる確率は低いがそれでも心配だ。

 

もし、マミの奴が取り逃がした魔女や使い魔が優依を襲ったら?

 

考えただけで震えてくる。

 

それに優依の首を絞めた奴もおそらく見滝原にいる。

今度はもっと酷い目にあうかもしれない。

最悪殺されてしまう。

しかも優依はあんなに可愛いし狙ってる奴らも沢山いるだろう。

 

 

優依に想いが通じて舞い上がりそうな程喜んだけどそれと同時に失う怖さも生まれてしまった。

 

 

守るために一緒に行きたいと告げたかったが先に釘を刺されてしまった。むっとしたけど優依にお願いされてしまい渋々了承したまでだ。

 

苦しい

 

寂しい

 

怖い

 

・・前よりずっと

 

痛みを抑えるようにギュッと胸の部分の服を握ってみるけど何の効果もなかった。このまま頭を抱えてうずくまってしまいたい気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

・・・そうだ。

 

 

優依を閉じ込めればいいんだ!

 

 

 

そしたらアタシは優依を守る事が出来るし、ずっと一緒にいる事が出来てもう不安や嫉妬に苦しむ事なんてない!

そうしよう!優依だって嫌じゃないはずだ!

だってアタシのこと大好きだって言ってた。

優依にとってアタシは大切な人で一緒にいたいって言ったんだ。

だったら問題ないじゃん。

 

アタシ達は両想いなんだから

 

 

「なるべく早く来いよ優依。そしたらずっと一緒だから」

 

 

見滝原に続く道を見ながらアタシは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り。無事に帰ってきて一安心だよ」

 

「ただいま。心配し過ぎだって。杏子がいるから大丈夫だって言ったろ?」

 

「佐倉杏子だから心配なんだけど・・」

 

 

風見野から戻った俺は早速シロべえと連絡を取り公園で合流した。現在はベンチに座りお互いの情報を報告している。

 

「マミちゃんの見張りご苦労様。どうだった?あの娘の様子は?不安定になってない?」

 

「特に問題はないよ」

 

「それなら良かった」

 

 

シロべえからの報告に一安心し、ほっと息を吐く。様子がおかしかったから心配だったけど杞憂で終わったようだ。

 

 

「いつも通り情緒不安定だったから特に問題ないよ」

 

「え・・?」

 

「昨夜はマミお手製の優依そっくりなデフォルメ人形を抱きしめて一晩中『優依ちゃん、優依ちゃん』ってうわ言を呟きながら泣いてただけさ」

 

「ちょっと待てえええええええええええええ!!とんでもねえ大問題じゃねえかあああああああああああああ!!」

 

淡々としながらとんでもない報告をやらかすシロべえに俺は待ったをかけるためベンチから立ち上がり叫んだ。ツッコミどころ満載な気がするが気のせいか?

 

「別に騒ぎ立てる程の問題じゃないよ。マミはいつも君の人形を抱きしめているからね。まあ昨日は特に不安定だったみたいで片時も離さなかったけど」

 

「え?何その情報?知りたくなかったよそんな裏話!つうか何でお前そんな平然としてんの!?」

 

マミちゃんの知られざる裏話のせいで身震いが止まらず、震えを抑えるために自分を抱きしめる。

 

「僕の自我が生まれる前から見てるから何とも思わないよ。それはともかく無事な君の姿を見れてホントに良かった。佐倉杏子に会いに行くって言った時は心配したんだからね?彼女の様子はどうだった?」

 

「・・何か引っかかる事言われたようなだけど?・・元気だったよ。あっ、それより聞いてくれよシロべえ!杏子が困った事があったらいつでも助けてくれるって言ってくれたんだ!あの杏子がだよ!?」

 

「え・・・!?」

 

「・・・え?」

 

杏子の助力が得られそうだと自慢げに報告したのに何故かシロべえは固まってしまった。ピキーンと石にでもなったのかと思うくらい唐突だった。

 

 

「シロべえ?」

 

 

全く動く気配がしないのでほっぺをつついてみたり、ゆすったりしてもビクともしない。

 

 

「・・・それって魔法少女の事話したの?」

 

「え?違うぞ?話してないけど・・あの、シロべえさん?何でそんなに震えてるんですか!?」

 

 

ようやく口を開いたシロべえにありのままを話すと何故か奴は白いくせに顔を青ざめ心配になってくるぐらい震えだした。

 

 

「優依!杏子に何やらかしたのさ!?ただでさえ色々まずい事してるのに自信満々に報告してくるからかなりヤバい事やらかしたね!?」

 

「失礼な!俺の思った事をありのまま伝えただけさ!それ以外してないよ!」

 

「それが問題なの!少しは自重してよ!ああ、どうしよう!本番前なのに取り返しのつかない問題が発覚してしまった!!デスバトル確定だよ!!」

 

シロべえはこの世の終わりみたいなオーバーな表現で念仏唱えている。俺はそんな奴ほっといて今日の予定を頭の中でシミュレーションする。

 

 

思い立ったら即吉日。

決意が鈍らない内に行動してしまおう!

 

 

「シロべえ準備はOK?」

 

「・・OKだよ。今ならマミは来ないから今の内に行った方がいい。僕も出来るだけフォローはするよ」

 

半ばヤケクソ気味だがシロべえの頼もしいサポート宣言が背中を押してくれた。そう俺は今回ある目的のために早朝からシロべえを呼び出し、こうして情報交換も兼ねて作戦会議をしていたのだ。

 

「ありがとう。心強いよ。じゃあ、行くか」

 

ベンチから立ち上がり目的地まで歩く。道中マミちゃんに出くわさないか内心ビクビクしていたけどシロべえが手を打ってくれたのか会う事はなかった。無事目的の建物にたどり着きネームプレートを確認してインターホンを押す。

 

 

扉を開けた人物は目を見開いてた。

 

 

 

「おはよう、暁美ほむらさん。朝からごめんね?今日は話があって来たんだ」

 

 

「・・・・そう」

 

 

 

俺の前に立つほむらが息を呑んだのが分かる。緊張しているようだ。正直俺も緊張してて足が震えている。

 

俺がここまで来た理由はほむらに秘密を打ち明け協力関係を結ぶため。

 

ぶっつけ本番。失敗は許されない。

 

 

「ここでする話じゃないのでしょう?・・入ってちょうだい」

 

「うん、お邪魔します」

 

どうやら部屋に入れてくれるみたいで良かった。第一関門突破!

 

さて、ここからが本番だ。




魔性の女 優依ちゃんの次なるターゲットは暁美ほむら!
果たしてほむほむはその毒牙から逃れられるか!?






と盛大に予告してますが次は番外編いきます!
杏子ちゃんの続編投稿予定です!


本編の杏子ちゃん病みが極まってしまいました!
次会ったら優依ちゃん終わりますねw


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38話 突撃☆ほむホーム

土日返上して番外編を執筆してたのに終わる気がしない!
なので先に本編を投稿します!

番外編は完成しだい投稿しますので全ては自分のタイピング次第!


「・・・それで?貴女は一体私に何の話があって来たの?」

 

「・・・あ」

 

いけね!忘れてた!

 

 

ほむらの部屋に入ったはいいがふと目に入った大量のカップ麺を見て、コイツの食生活を悟った俺はぶち切れ、勝手に台所借りて冷蔵庫にあった食材でオムライス作ったんだった!

そのまま問答無用でほむらとかなり早い昼食をとって言われるまで今の今まで本来の目的を忘れてた!

 

 

ちなみに今あの謎が多いSFみたいな部屋でほむらと向かい合ってマミちゃん直伝の紅茶を淹れてティータイム中。

 

 

 

「いやー、個人的にはまずこの部屋の構造が一体どうなってるのか凄く気になるので教えてくれると嬉しいんですが・・」

 

改めて辺りを見るがホントにどうなってんのこの部屋?アニメで観た時から疑問だったんだけど。実物見ると余計に疑問が湧いてくる。案外この部屋の構造が一番の謎だったりしない?

 

 

「・・・そんな事はどうでもいいわ。話があるというから入れたのよ。話す気がないなら帰りなさい」

 

「冗談です!今から話しますんで追い出さないでええええええええええええ!!」

 

 

ほむらが俺の首根っこ掴んでガチで追い出そうとしていたので慌てて訂正した。冗談が通じない奴は怖いわ。

 

それにしても気まずい。

決心してもいざ本番だと言われれば尻込みしてしまう。

だってへタレだもの。

 

 

「なら、さっさと話しなさい」

 

 

俺の首から手を放したほむらは再び俺と対峙する形で座る。その目は今度ふざけたら叩き出すと書いてあったので冷や汗が出てきた。空気がピリピリしておりシリアス展開確実なようだ。

 

 

 

 

ついにこの時が来た!勇気を振り絞れ俺!

ここで失敗したらもう後がないぞ!

 

一呼吸置いてからほむらを見た。

 

 

 

「実は俺元は男で今は女な転生者です!!」

 

「・・・・・・・」

 

 

何かを言うにも先は結論から述べた方が良いと聞いたことがあるので思い切って俺の正体から打ち明けてみた。

 

 

それに対してほむらは無反応。表情すら崩さずただひたすら俺を白けた目で見ていた。そんな態度に内心焦りながらも説明を続けるしかない。

 

「俺には前世の記憶があるんだ!前世は邪・・ちょっとした事故のせいで死んじゃって何故か今世は女の子として生まれ変わったんだ」

 

さすがに邪神のついうっかりで殺されたなんて言いたくない。ただでさえ突拍子もない話をしているのにそこに神まで出てきたら胡散臭さMAXだ。ていうか俺も未だに信じられないし。

 

相変わらずほむらは無反応だが、ちゃんと聞いてくれてきたようで俺の全身をくまなく目で追って情報を引き出そうと躍起になっている。

 

それはともかく次が肝心だ。蛇が出るか、鬼が出るか。

どのみち地雷になるのは変わりない。

 

 

再び深呼吸を繰り返し乾いてきた唇を舐めて口を開く。

 

 

 

「・・それで、ここからが本題なんだけど・・その前世でね、あるアニメを観た事があるんだ。タイトルは『魔法少女まどか☆マギカ』っていうんだ」

 

「!?」

 

 

流石にまどかの名前が出てきたから反応するか、驚いているのは表情で分かるが内心どう思っているのかは全然分からない。頭おかしいと思われる前に先手を打つか。

 

 

「登場人物は鹿目まどか、美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子、そして暁美ほむら。みんな魔法少女なんだよ」

 

「・・貴女の妄想なんじゃないの?ここが貴女が前世で見たアニメの世界だとでも言いたいの?」

 

「そうだよ。君からしたらおかしな話だけど俺からしたらこれが真実なんだ」

 

 

ようやく口を開いてくれたと思ったら随分と辛辣なお言葉だこと。雰囲気もおかしな奴を相手にしてるような警戒した感じだ。こうなったら証拠を見せるか。

 

「暁美ほむら、鹿目まどかを救うため並行世界を行き来する時間遡行者」

 

「・・・っ」

 

ほむらが絶句している。ここに来て初めてポーカーフェイスの仮面が崩れてきてる。そりゃ誰にも打ち明けていない秘密を知ってたら誰だって驚くだろう。

 

反応は上々だ。このままいけ俺!

 

「アニメの内容はこうだ。主人公である中学二年生のまどかのクラスに転校生である暁美ほむらがやってくる。そこから不思議な生物キュゥべえに出会い、魔法少女になってほしいと頼まれる。ここまでなら君は何度も見てるから知ってるよね?」

 

「・・・・ええ」

 

「ただしこのアニメとんでもない鬱展開でさ。一緒にコンビ組むはずだった巴マミは目の前で魔女に頭部を食いちぎられて死亡し、その後釜に魔法少女になった親友の美樹さやかは魔女化して佐倉杏子はそのさやかの魔女と共に爆死。ワルプルギスの夜は君ひとりで戦う事になる」

 

「・・それで最後はどうなったの・・?まどかは・・?」

 

何かを恐れるように身体を抱きしめながら続きを俺に促している。残酷だけど放っておいたら確実に来るであろう未来を阻止するためにも事実を告げた方がいい。ひるむ心に鞭を打ち俺はほむらに未来を伝えるため口を開く。

 

「君はワルプルギスの夜に勝てず結局まどかが契約して魔法少女になるんだ。願い事は『全ての魔女を消し去りたい』だ。その代償は永遠に魔女を消し去る概念になる事。世界はまどかによって改変され魔女はいなくなるけど鹿目まどかという人間の存在もいなくなった。彼女の事は誰も覚えていない。・・暁美さんを除いてね。ここまではOK?」

 

「・・・・・・・」

 

言った。言い切った。

淡々と説明した風に思われてるかもしれないが正直心臓がうるさいし、膝が震えてる。手にはかつてない量の汗が噴き出している。話してる間は怖くてほむらの方を見れなかったけど、言い終わった今なら大丈夫だろう。

 

ちらっと様子を伺うも肝心の紫さんは拳をきつく握って俯いている。今しがたの衝撃な事実に打ちのめされているようだ。無理はない。このままじゃ詰みは確定してると理解出来たはずだ。今なら協力を得られるかもしれない。

 

 

 

「暁美さ「嘘よ」・・へ?」

 

協力を申し出ようと声をかけるも途中で遮られた。

 

 

 

 

「嘘・・こんなの嘘よ・・!」

 

 

 

ひたすら嘘、嘘とうわ言を呟きながら身体をふるふる震わせている。急いで宥めないと感情が爆発してしまいそうな予感がする。

 

 

 

「あ、暁美さん!受け入れがたいけどこれはいずれ訪れる未来の話なんだ!阻止するためにも協力し合わないか!?」

 

 

 

俺はほむらが何か言う前に本題を口早に伝えた。

 

 

 

「黙りなさい!これ以上聞きたくないわ!!」

 

「!?」

 

いきなりほむらが立ち上がって怒鳴り散らしてきたので思わず恐縮してしまう。

前にもほむらを怒らせたことがあるがこれはどう見てもマジ怒りですありがとうございます!

全身から溢れ出る殺気が俺にグサグサ刺さっていて居たたまれない。

 

どうしよう?色々飛躍した話だけど時間遡行してるコイツなら信じてくれると思ってたのに!

やっぱりほむらも中学生ってことか?少しぐらい考えてくれてもいいのに頭ごなしに否定されたよ!

つうかお前が話せって言うから腹くくって話したのに少しは信じてくれても良くない!?

 

それにしてもほむら怖いいいいいいいいいいいいいいいい!!

ホントにコイツ中学生か!?

 

 

「・・これ以上貴女のデタラメな妄想に付き合ってる暇はないわ!」

 

「落ち着いて・・暁美さん」

 

 

ほむらは無表情でゆっくりと近づいてくる。本能的に恐怖を感じた俺は無意識に後ろに下がる。下手に刺激するのはまずいと感じるくらい今のほむらの雰囲気は危険だ。

 

 

「もうそんな馬鹿な妄想は話せないようにしてあげる」

 

「!」

 

ほむらの手にしたものを見て身を固くする。

紫色のソウルジェムが握られていて今にも変身して俺に襲いかかってくる未来が簡単に予想できてしまい全身ガクブルだ。

急いで脱出を考えるも出口はほむらの後ろにあるからコイツを振り切る必要がある。

魔法少女と一般人のスペックの差を考えれば無理ゲーなのに更に悪い事にほむらは時間停止が出来る。

逃げられる可能性なんてゼロじゃねえか。

 

万事休すだ!

 

俺終わった!!

 

ついに壁際まで追い詰められ本当に逃げ場がなくなってしまい涙目になる。

 

「神原優依。随分とふざけ過ぎたわね。貴女がまどかと一緒にいたら危害を加えるかもしれないわ。それにあの娘以上の素質があるようだからもし契約して魔女になったら危険よ。この世界は間違いなく滅ぶ。そうならないように今ここで息の根を止めてあげるわ。ごめんなさい。全てはまどかの為なのよ」

 

ホントにまどか優先だなおい!

まじかよ!コイツどこまで暴走紫なんだよ!ここまでヤバい奴なんてショックだ!

そもそも俺は魔法少女にならないってお前に言っただろうが!!

 

撤回したかったが恐怖で唇が震え上手い事声が出なかった。

 

 

そしてついにほむらのソウルジェムが光りだす。俺は覚悟を決めてギュッと自分の身体を抱きしめて自分の死ぬ時を待つ。

 

 

 

 

 

「・・?」

 

「どういう事よ・・?」

 

 

 

いつまで経っても何も起こらないのを不審に思い顔を上げてほむらを見るも肝心のコイツは俺を見ずに自分のソウルジェムを戸惑いながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

「どうして・・?何故変身出来ないの・・!?」

 

「・・ふう、間に合ったね」

 

「!?」

 

「待ってましたああああああああああああああ!シロべえさああああああああああああああん!!」

 

「うるさいよ優依。僕が一生懸命作業してる時によくものんきにご飯食べてたね?最初は様子を見てたけど君のポンコツな説明じゃ駄目だね。ここは僕がやるよ。君はそのまま指をくわえて僕の活躍を見ていればいいさ」

 

 

声のする方に視線を向けるとインキュベーター盗聴防止に尽力してくれていたシロべえがイスにちょこんと座っていた。

 

自分だけ作業させてたのを怒ってるみたいだけど絶体絶命だったピンチに助けに来てくれるなんて君はマジヒーロー!!

大丈夫!後で好きなもの作ってやるから!!ほむらを何とかして!!

 

 

「インキュベーター・・お前の仕業ね!?一体何をしたの!?」

 

 

ほむらが憤怒の表情でシロべえを睨み付けている。ただでさえ訳が分からなくて混乱しているのにその上、怨敵のインキュベーターが出てきたとあっちゃほむらの怒りも爆発するのは当然だ。しかし肝心のシロべえはそんな怒りのほむらに対してどこ吹く風なすまし顔、それどころか余裕を見せるかのように毛づくろいしだした。

 

キャラ違くね?以前はほむらにあんなに怯えていたのに何でだ?

 

 

「さっさと答えなさいインキュベーター!どうして変身できないのよ!?」

 

 

痺れを切らしたのかほむらが普段のポーカーフェイスを脱ぎ捨てて怒りのままに叫んでいる。気持ちは分かる。今のシロべえどことなくムカつくもん。

 

 

「・・やれやれ、こんな事ですぐ怒るなんて随分と短気だね。それに視野も狭い。優依が君に危害を加えられるかもしれないのにわざわざ一人で来たなんて本当に思ってたのかい?」

 

 

めんどくさそうな声でイスから降り、こちらに近づいてくる。その様子にゾクッとした。シロべえの雰囲気がいつものノリの良い毒舌と違って、今はインキュベーターのおっかない感じとよく似ていたからだ。

 

「他のインキュベーターが盗み聞きしないように盗聴防止を施すと同時にこの部屋でソウルジェムを使えなくしたんだよ。真相を知った君が自棄を起こして優依を傷つける可能性があったからね。今の君はただの女の子の身体能力しかない。念には念を入れておいたけどまさか本当に実行するとは呆れたね」

 

「・・・チッ」

 

「あ、ここから逃げようだなんて思わない事だね。ここには結界がはってあるから僕が解除しない限り君はここから出られないよ。君の命は僕が握ってるんだ。これぐらいは分かるよね?」

 

「・・・・っ。分かったわ」

 

ほむらが悔しそうに唇を噛みしめている。俺もシロべえがここまで強気な態度に出られた理由がよく分かった。俺の相棒は本当に頼りになる。

 

 

「話が逸れちゃったね。本題に戻るよ。暁美ほむら、優依が言った事は嘘じゃない。全て本当の事だよ」

 

「何を根拠に!?お前がでっちあげる事だって出来るでしょう!?」

 

「残念ながら僕は何も関与していないよ。優依は初めから知っていた。まだ説明もしていなかったのに彼女は僕たちインキュベーターの存在と魔法少女のシステムについて口にしていたからね。彼女の素質についてはおそらく前世の事と繋がりがあるからだろう。全くのデタラメとは言い切れないよ」

 

「・・・本当なの?」

 

「はい!本当です!」

 

 

ほむらがこっちを向いて真相を確認している。目が怖かった事と事実なので高速で首を縦に振っておいた。

大方シロべえの言う通りだ。素質に関していえば、ほぼ邪神のせいだと思うが。

 

「・・そう、一応納得出来たわ」

 

 

ほむらは半信半疑だがある程度納得したようで身構えるのを止めてくれた。

結構危なかった。シロべえがいなかったら今頃俺は死んでただろう。

 

「・・ふう」

 

ほむらに気付かれないように息を吐いた。

 

一先ずこれで安心だろう。シロべえに任せればほむらと協力出来そうだ。

俺はこのまま見守っていた方が良いな。

 

静観の姿勢で二人の事の成り行きを見守る。

 

 

 

「それとね、ここからが君にとって大事な話になるんだ」

 

「?」

 

 

≪シロべえ何してんの?≫

 

 

何故かシロべえはいきなり絶対零度を感じさせる声でほむらに語りかけている。その様子に嫌な予感を覚えたのでテレパシーで語りかけても無視された。

 

 

「優依は君に気を使って話さなかったけど、友達を傷つけようとした人に容赦しない。敢えて僕からはっきり言わせてもらうよ。・・暁美ほむら」

 

「・・何よ?」

 

「ねえ、君が時間を繰り返すたびに鹿目まどかは強力な魔法少女になっていったんじゃないかい?」

 

「・・!!」

 

 

 

≪シロべえ!それはやめとけよ!!≫

 

≪まあまあ、任せてよ≫

 

 

 

ほむらにとっては禁断の秘密を明かそうとするシロべえに苦言を呈するも何か策があるのか俺に待機するように指示してくる。物凄く頭の良いアイツの事だ。何か策があるのかと信じたいが・・どうだろうか?

 

 

 

 

 

「結論を言えばね暁美ほむら、原因は君にあるんだ」

 

「!? どういう事よ・・?」

 

 

ほむらの顔が強張って小刻みに震えている。

 

 

「君が時間を巻き戻す理由は『まどかを救う』ことだったね。同じ理由と同じ目的で何度も時間を遡る内に彼女の存在を中心軸に幾つもの並行世界を螺旋状に束ねてしまったんだ。その結果、絡まるはずのない並行世界の因果線が全て今の時間軸のまどかに繋がってしまったとすれば・・彼女の途方もない魔力係数にも納得がいく」

 

「そんな・・!」

 

「君が繰り返してきた時間その中で循環した因果の全てが巡り巡って今の鹿目まどかに繋がってしまったのさ」

 

「嘘よ!そんなデタラメ・・私を騙そうとしているのでしょう!?」

 

「嘘じゃないよ。現に君が来る前に鹿目まどかの魔力を測定したけど平均的なものだったよ。・・君がこの時間軸にやって来た時さ。彼女の素質が爆発的に上がったのは」

 

「いや、やめて・・」

 

「君が鹿目まどかを最強の魔法少女に育ててしまったんだよ」

 

「・・・・・・っ」

 

ほむらは耐えるように自分の腕をぎゅっと掴んでいる。ずるずると力なくその場にへたり込んでしまい、その表情は苦悶に満ちていた。

 

あの盛り上がってるとこ悪いんですが、すみません正直俺は帰りたいです!

こんなシリアスな雰囲気耐えられない!

一刻も早くここから逃げ出してえええええええええ!!

 

シリアスな雰囲気をぶち壊さないように真面目な顔で二人を見るも内心はひたすら帰りたいと念じまくっている俺である。

 

 

 

「それとね」

 

 

 

まだ続けるのかよ!?

 

 

 

シロべえに抗議の視線を投げてよこすも無視され、打ちひしがれるほむらに近づいて悪魔の囁きをする。

 

 

 

「正確には君は時間を巻き戻してはいない。ただ並行世界を渡っていただけさ」

 

「・・・?」

 

「シロべえ!!」

 

 

 

俺はシロべえを抱えこれ以上口を開かせないように塞ぐも、そもそも普段口を開いて喋らないコイツには効果なし。そのまま訳の分かっていないほむらに向かって残酷な真実を打ち明けた。

 

 

「君が今まで渡って来た世界はね、君が元々いた世界の過去じゃないんだよ。限りなくそっくりだけど全く別の世界。君が救おうとしていたまどか達も君が初めて友達になったまどかに限りなくそっくりな別人さ」

 

 

「何を・・言っているの・・?」

 

 

呆然とするほむらはシロべえが何を言っているのか理解出来てないようだ。いや理解したくないのかも。その表情は理解するのを拒んでいるようだ。

 

 

「本当は君も理解しているはずだよ。でも君は理解するのを拒んだ。仕方ないことだけどね。並行世界のまどか達を全て同一の君の友達だった『まどか』と認識していないと終わりの見えない時間のループに耐えられないもんね。失敗してもまた次があると思えば何とか気力はもつわけだし」

 

「あ・・ああ・・私は・・!」

 

「・・暁美さん?」

 

 

頭を抱え尋常じゃないくらい震えだしてる。ヒューヒューと呼吸音がおかしい。

 

ひょっとしたら過呼吸の可能性がある。そんな見るも哀れな女の子に一切の慈悲も与えず悪魔と呼ぶにふさわしい元インキュベーターはトドメをさすべくほむらに語りかける。

 

 

「はっきり言ってあげないと駄目みたいだね。つまりね暁美ほむら、君が今までやってきた事は全て無駄だったって事。それだけじゃない。君のせいで鹿目まどかはこれからもインキュベーターに狙われ続け、より悲惨な最期を迎えるはめになるんだよ」

 

「うぅ・・」

 

「全部君の身勝手な願いが引き起こしたことさ」

 

「うぅ・・あぁ・・うあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

部屋全体にほむらの悲鳴が木霊する。そのまま頭を横にふり何度も何度も叫び続けて終わりが見えない。

 

 

 

「・・・・・・」

 

そんな光景を目の前にして俺はシロべえを抱いて立っている。

 

 

エグイいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!

 

俺の腕の中にいる白い奴超怖ええええええええええええ!!

いくら感情がある精神疾患でもやっぱりコイツもインキュベーター!白い悪魔の名に恥じぬ外道っぷりだ!

 

どうすんだこの状況!? 

下手すりゃほむら魔女化一直線じゃん!!

 

絶望の叫びがBGMになってるよ!!

 

 

≪どうやら僕の言葉は相当効いたようだね≫

 

≪何が効いただ!あれどう見ても精神崩壊起こしてない!?ヤバいよ何とかしなくちゃ!≫

 

 

寝ぼけた事をテレパシーで言ってきたので、すかさず文句で返した。俺達の前には現在進行形で泣き叫ぶほむらがいる。それを見ながら緊急会議が開かれた。

 

≪言い過ぎだぞシロべえ!いくら本当の事でもほむらはまだ中学生なんだぞ!?何であんな事言ったんだよ!?≫

 

≪はっきり言って全て暁美ほむらの自業自得だよ。中学生と言えど殺人を企てたんだ。同情の余地はないね。むしろまだ優しい言い方だよ?本当はまだまだ言い足りないくらいさ≫

 

 

え?あれでまだ加減してたの?

怖っ!絶対シロべえを敵に回さないようにしよう!

 

腕に抱いてる白い悪魔に戦慄しながら心の中でこっそり誓った。そんな事よりほむらを何とかしないと!

 

 

 

≪じゃあ優依、後は頼んだよ≫

 

≪はあ!?≫

 

 

シロべえが突然俺に全部丸投げする発言をかましやがったので素っ頓狂な声を上げる。

 

 

≪だってむしろここからが君の本領発揮でしょ?さっさと泣き止ませてきてよ、あの紫を≫

 

≪いや、無理だから!だってあれ世の中に絶望しきってる雰囲気だよ!?≫

 

 

シロべえから顔を上げてほむらを見るも今にも自殺しそうな救いのないオーラ出まくってんですけど!?ほむらの周りだけ空気が黒いのは気のせいじゃない!

 

 

 

「ん?  ひい!?」

 

どうしようかとほむらをじろじろ見ていると床に転がっているほむらのソウルジェムに気付く。

それが急速に黒くなっており魔女化まで待ったなし!

今すぐ止めないと俺らが危ない!

何とかこっちに注意を引かないと!!

 

抱いていたシロべえを降ろし、ほむらの元に駆け寄った。

 

「ああああああああああああああああ!!」

 

「暁美さん!!」

 

「っ!?」

 

そしてテンパっていた俺は何故かほむらを抱きしめていた。幸いほむらは驚いてくれたので一先ず泣き叫ぶのは止まった。そのままほむらを抱きしめ背中をポンポンと優しく叩く。

 

 

人肌作戦開始!

確か人肌に触れていると人は安心するとどっかのテレビでやっていたので実行するしかない!

 

 

「離して・・離してよぉ・・!」

 

弱々しい力で俺から離れようとするもソウルジェムが使えないとほむらはまさかの俺より身体能力が劣るらしく引き剥がせない。

 

俺以下の運動音痴がこの世に存在する事にちょっとした幸福感が湧いたがそんなのんきな事考えてる場合じゃないので俺は表面上真面目な顔つきでほむらを見る。

 

 

「離さない!絶対離さないから!」

 

「・・・・・・!」

 

力強く俺に言い切り、抱きしめる腕に力を込めた。

 

意地でも離さないからな俺の生存キーパーソン!

俺の生存は君にかかっているんだから逃がすわけないだろうが!!

 

絶対逃がさない意思表示を込めてギューッとほむらを抱きしめる。

 

 

「・・して?」

 

「?」

 

「どうして・・?私なんて生きてる意味無いのに・・どうしてこんなに優しくするの?」

 

 

かなり弱っているのか元来の性格のメガほむちゃんみたいなおどおどした口調に戻っている。そういや普段はあんなおっかないが素は弱気で臆病で自信がないんだったわこの娘。

 

 

「どうしてって俺には暁美さんが必要だからだよ」

 

「必要・・?私が?」

 

「うん」

 

ほむらはキョトンとした顔で俺を見ている。

 

嘘はついてないよ!

 

だって俺の死亡フラグ回避には絶対ほむらの協力必要ですから!

 

あと他に例を挙げると

 

・マミる防止

・さやか魔女化阻止(もとい魔法少女阻止)

・杏子の見滝原でのお世話(俺やりたくないし)

・打倒ワルプルギスの夜  etc

 

うん、ほかにもまどかの契約阻止やインキュベーター撲滅もあったわ。改めて考えるとマジでここでほむらにリタイアしてもらっては困る。大至急立ち直っていただく必要がある!

 

よし!「褒め殺し」だ!!

 

どんな人間でも褒められることには滅法弱い!

褒めて伸びる事は科学的にも証明されている。

孤軍奮闘だったほむらは誰にも褒められず孤独な日々だったんだ!

通常の人より効果はてきめんなはず!

褒めて褒めて褒めまくってほむらを立ち直らせるのだ!

 

 

「暁美さんって今までずっとまどかのために頑張って来たんだよね?それって本当に凄いことだよ!」

 

「!」

 

おっ、反応した!これは良いスタートを切れたようだ!

 

 

「シロべえは無駄って言ったけどたった一人の友達のためにここまで尽くせるってそうそう出来る事じゃない。暁美さんはとっても優しくて友達思いなんだね!その思いは絶対無駄なんかじゃないよ!!」

 

「そ、そんな事は・・」

 

ほむらがアワアワしていて可愛い!

まさかクーほむでメガほむみたいなキャラを見れるとは!

 

まあ、思いが強すぎて正直ドン引きするレベルだけどな。最初のまどかと出会うまで絶対友達いなかったと断言できる。その分余計まどかに執着したんだろうなぁ。

 

「暁美さんって優しいだけじゃない。頭は良くて運動神経(元は違うけど)良くてしかも可愛い!」

 

「・・・・・////」

 

顔を赤らめて俯いている。あと一息のようだ。

 

「俺、暁美さんに出会えて良かった。まどかが羨ましいよ。こんな(見た目だけ)素敵で可愛い(そして性格がぶっ飛んだ)友達がいるなんてさ」

 

第三者の友人関係に限る。

俺がまどかだったら正直ほむらと友達になるの御免被るわ。今は褒め殺しなので口を塞ぐ。

 

 

「・・うぅ・・」

 

「今は泣こう。辛い事も悲しい事も全部涙に流そうよ」

 

 

瞳にいっぱい涙を貯めて今にもダムが崩壊しそうになっている。俺はそんな彼女の肩を優しく手を置いた。

そろそろ限界のようだ。

 

 

「・・ぐすん」

 

「今までホントによく頑張ったね暁美さん」

 

「うわあああああああああああああああああああん!!」

 

「え!?何で!?」

 

 

本来の予定では泣き崩れるほむらを俺が背中を撫でて慰めるつもりだったのに、ほむらは何を思ったのか俺に抱きついて来て胸に顔を埋めて泣きじゃくっている。

 

 

うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?

冷たい!苦しい!どういう状況これ!?

服が濡れるから離れてくれ!!

 

引き剥がそうにもほむらがガッチリ腰をホールドしているのでビクともしない。

 

 

≪お見事、やっぱり優依は才能の持ち主だよ。これでほむらは大丈夫だろうね。後は泣き止むのを待つだけだ≫

 

≪てめええええええええ!何のんきにくつろいでんだあああああああああああ!?≫

 

 

そういえばシロべえはどこだとほむらと格闘しながら辺りを見渡しているとテレパシーが聞こえた。なんかのんきな内容だなとなんとなく首を後ろに向けるとシロべえはイスに寝そべりながら俺が持ってきたお菓子を頬張りながらくつろいでた。その姿にどことなく殺意が湧いてくる。

 

 

「わあああああああああああああああん!!」

 

「・・・・そろそろ泣き止んでくれ」

 

 

俺に泣きつくほむらとお菓子食べながらこっちを傍観しているシロべえ。

 

 

なんだこのカオスな空間は?

 

全く離してくれないほむらをあやしながら俺は途方にくれて天井を仰いだ。




シロべえの(エグイ)ファインプレーが光りました!
とりあえずGJです!

ほむほむ、これ・・やられましたねw


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39話 ほむらちゃんの心情は分からない

シロべえと優依ちゃんの外道交渉の行方は?


「暁美さん少し顔洗ってきたらどうかな?」

 

「・・・・・・・」

 

 

俺の言葉は届いているのだろうか?

 

ほむらが泣き出して数時間後ようやく涙が枯れたのか泣き疲れたのかは分からないが何とか泣き止んでくれたけど未だにこの紫は俺の服にしがみついて離そうとしない。

 

いい加減ずっと同じ体勢で抱きつかれるのはキツイのとほむらが人の服に顔埋めて泣いたから胸のあたりビチョビチョで着替えたい。しぼったらすごい量の水分が出てきそうだ。

 

 

「ほら、泣き腫らしたらせっかくの美人さんが台無しだよ。少し顔洗ってすっきりした方がいいよ」

 

「・・・・・・」

 

 

おい、こら。

なるべく優しく諭すように言ったのに何で更に力込めてしがみついてんだ?

 

マジで離れろ!ホント離れて下さい!

俺が泣きそうですから。

 

 

「さっきまで自分が殺そうとした相手に慰められる気分はどうだい?少しはまともに考えられるようになってくれるとありがたいんだけど」

 

 

こらあああああああああああああああ!!

 

やめろ!ほむらはお前のせいで今精神不安定なんだよ!!

傷口に塩塗る行為すんじゃんねえ!

魔女化したらどうすんの!?

 

 

キッとシロべえを睨み付け、これ以上何も言わないように牽制する。そんな俺を気にも止めず奴はカップ麺を啜っていた。

 

ん?ちょっと待って?何でお前カップ麺啜ってんの?

それほむらのじゃない?

なに堂々と盗み食いしてんだ!?

 

ほむら怒っていいぞ!

お前の食料盗み食いしてんだから!

 

 

 

「ごめんなさい・・」

 

「え?」

 

ギっとシロべえを睨んでいると、下の方でか細い声で謝罪が聞こえてきた。視線を向けるとほむらが涙目で俺を見上げている。あれだけ激しく泣いたのに何でまだ涙が出てくるのか不思議で仕方ない。

 

 

「えっと・・何が?」

 

慎重に聞いてみる。今のほむらはちょっとでも地雷踏むとまたすぐに泣き出してしまいそうなくらい情緒不安定だから。

 

 

「今まで怖い思いさせてごめんなさい。厳しい態度で接してごめんなさい。銃を向けてごめんなさい。貴女の話を信じないで頭ごなしに否定してごめんなさい。事実を受け止めきれなくて八つ当たりしてごめんなさい。・・貴女を殺そうとしてごめんなさい・・・!!」

 

「あ、うん!大丈夫!大丈夫だから!!確かに怖い思いしたけど実害があった訳じゃないし、ね!?ともかく今はちゃんと話が出来るみたいで結果オーライだから!終わり良ければ全て良しだよ!だからお願い!それ以上泣かないでえええええええええええええええええええ!!」

 

 

再び目がうるうるして涙が溢れ出しそうになりながら謝罪のエンドレスを繰り返す姿に内心ビビりつつ気にしてない事を慌てて伝えた。

 

 

いや何としても伝えなければならない!だってさっきチラリと見えたソウルジェム、めちゃくちゃ黒いんですよ!?ちょっとの刺激で速攻で魔女に変身されそうなのでまさに命がけ!

 

 

「一度この暗い雰囲気から抜け出そう!これからの話もしたいしね!ほら、早くソウルジェムの穢れとって顔洗ってきなよ!その方が絶対良いから!!」

 

 

このままじゃ俺が死ぬからせめてソウルジェムの浄化だけでもして下さい!

 

 

 

「・・・・・」

 

「暁美さん?」

 

 

ほむらが何か考え込んでいる。取りあえず泣き出すのは阻止できたようでなによりだ。

 

 

「・・私が顔洗ってる間ここで待っててくれる?」

 

不安そうな顔で俺を見上げている。

 

目を離した隙にいなくなると思ってるのだろうか?本音はそうしたいけど死亡フラグになりそうなので間違ってもしないよ?

 

 

 

安心させるようににっこり笑ってほむらを見る。

 

「もちろん!待ってるから」

 

「・・そう、なら顔洗ってくるわ。少し待っててちょうだい」

 

 

小さく俺に微笑み返しソウルジェムを持って洗面所に向かっていく。俺はその間に急いで服を着替えた。ついでにさっきまで来てた服を試しにしぼってみたらとなかなかの水分が出てきて泣きそうになった。

 

 

着替え終えてシロべえと向き合う形で座る。相変わらず食いしん坊のコイツはまだ麺を啜ってた。

 

「めちゃくちゃ泣かせたなシロべえ。もう少しでほむら危なかったぞ?ぶっ飛んでるけど女の子なんだからちょっとは優しくしてあげてよ。てか、どんだけ食べてんの?」

 

「重火器を平然と拝借して何食わぬ顔で使う奴は女の子って言わないよ。そういうのは過激派攘夷浪士って言うんだよ。あ、ちなみにこれでカップ麺三つ目ね」

 

食べ過ぎだろ。

そもそもそんな四足歩行でどうやって食べてんだ?

見た所ひたすら啜ってるけど・・

 

 

 

 

「待たせたわね」

 

 

 

「あ、おかえり暁美さん。顔スッキリしたね。ソウルジェムの穢れはとった?」

 

 

シロべえとくだらない会話を繰り広げているとまだ目が少し赤くなっているが吹っ切れた顔のほむらが戻ってきた。その姿を確認した俺の第一声は最重要問題の確認だった。なんせ命かかってるからな!

 

 

「もう大丈夫よ。不安にさせてごめんなさい。さっきの話の続きをしましょう」

 

「良かった。じゃあ今から・・あの、何で隣に座ってんですか?」

 

「何か問題でも?」

 

 

問題しかありませんが?

何でそんな俺の言ってる事がおかしそうな表情してんですか?

 

俺の中ではだいたい話って当事者同士向かい合って対話する形式だったと記憶してるんだけど?

今の状況は俺の隣にほむらがさも当然のように座っている。しかも触れられそうな距離感だ。

 

 

謎のSF部屋で俺とほむらがシロべえと向かい合う形で座っている。何だこれ?

 

 

「まあ優依、いいじゃないか。ともかくこれで話せる環境になったわけだ。さてと・・すまないね暁美ほむら。君にとって残酷な事実を打ち明ける事になってしまって申し訳ない。僕にとっても不本意だったけど優依の身が危険だったから心を鬼にしてこうするしかなかったんだ。酷い事してしまったけど僕たちはいつでも君の味方だよ。それで答えは出たのかい?」

 

 

嘘つけえええええええええええええええ!!!

 

なにしれっと嘘ついてんだ!!

 

情け容赦ない攻めだったろうが!鬼どころか外道そのものの言い方だったろうが!

絶対心にも思ってない!絶対形ばかりの謝罪だろ!

 

 

俺の目の前で悪徳営業マンの名にふさわしい外道なセールストークが繰り広げられており戦慄を覚える。

 

 

「いいえ貴方が正しいわ。私がいけなかったのよ。優依の話に耳を貸さず頭ごなしに否定してその上・・殺そうとするなんて・・!こんなどうしようもない私を救ってくれた優しい娘を・・」

 

「あの!もうそれはいいんで早く話を続けようよ!いやその前に離れてくれると嬉しいな!」

 

 

 

ほむらがまたまた涙目になって俺の腕にガッシリしがみついてきたので引き剥がそうと力を込めるも全然離れない。どうやら諦めるしかなさそうだ。ていうか、さり気なく俺を呼び捨てにしてんのコイツは?

 

そもそも嫌いなインキュベーターのシロべえにきちんと会話してるけど大丈夫か?

精神壊れたからじゃないよね?不安しかないぞ!

 

 

「ごめんなさい。もう少しこのままで」

 

 

それだけ言ってほむらは更にギュッと腕に纏わりついてきた。ひょっとしてシロべえが怖いから俺んとこに避難してんのかな?

 

コイツホントにほむらだよね?明らかにキャラ変わってんじゃん!

心折れちゃって幼児退行起こしてんじゃねえの!?

 

それにしてもどうしよう!?

密着してしがみつかれてんのに胴体にほとんど柔らかい感触がない!

思った以上の絶壁ぶりだ!

マミちゃんなんてちょっと腕にしがみついてきただけでもマシュマロ触感があるのに!

今の段階でこれじゃほむらの将来の成長が心配だ!

 

 

 

「で?どうすんの?」

 

 

なかなか返事に答えないほむらに苛立ったのか低い声でシロべえが聞いてくる。俺的には麺ズルズル食べてる奴の方がイラっとくるんだけどな。

 

 

「その前に教えて欲しいわ。私に協力して欲しいと言うけど貴方達の目的は何?」

 

 

流石ベテランなだけあって切り替えが早い。さっきまでキャラ崩壊まっしぐらの甘えたな態度だったのに一瞬で表情どころか雰囲気まで真剣さを纏ってシロべえを見ている。・・俺の腕をしっかり抱いたままだが。

 

 

「最優先はワルプルギスの夜を倒す事。後は鹿目まどかの契約阻止さ。この二つは世界の危機がかかっているから絶対に失敗は許されない」

 

「ええ勿論よ。・・そういえば優依に聞いたのだけど貴方は感情があるんですってね?精神疾患で他のインキュベーターとはリンクが切れてると聞いたわ。本当なの?」

 

「本当だよ。あのアンドロイド共にそのせいで切り捨てられたけど結果的に優依と友達になれたんだ。感謝しているよ。じゃなきゃ今頃どうなっていたか分からないし。僕にとって優依はかけがえのない存在なんだ。君にとってその存在がまどかのようにね」

 

 

はっきりと告げたシロべえの言葉に泣きそうになる。まさかそこまで思っていてくれてたとは。

 

 

「・・本当にごめんなさい。もうあんな馬鹿な事はしないわ」

 

「その言葉信じるよ。またトチ狂って優依を殺そうなんてしたら今度は死んだ方がマシだと思うような生き地獄を味あわせてやるからね」

 

怖いいいいいいいいいいいいいいい!

冗談だと思いたいがシロべえの声がガチトーンだったので嫌でも本気で実行する気だと悟り鳥肌がたつ。

俺はぶるぶる震えているのにほむらは平然としてる。今まで孤独な時間遡行に耐えてきただけの事はあるようだ。

 

 

「肝に銘じておくわ。リンクを切られたならインキュベーターの技術力は使えないと思ってたけどさっきみたいに変身出来ないようにする事は可能にするぐらいの腕前はあるみたいね。多少期待しているわ」

 

「僕を見くびってもらっちゃ困るよ。確かに一個体で行う技術力は限度があるけど僕個人としての技術は優秀だと自負してる。喜んで君の挑発に乗ってあげようじゃないか。今から君が僕に謝る姿が目に浮かぶね!」

 

「あら、楽しみにしてるわ。せいぜい私の期待に応えられるように頑張ることね」

 

 

火花がバチバチとほむらとシロべえの間に散っている!

何がしたいんだよこいつら!?もうやだこの宿敵同士!

帰りたい!ほむらが腕を掴んでなけりゃ今すぐにでも逃げ出すのに!

 

 

 

 

「それとポンコt・・優依ね」

 

 

「は・・?」

 

 

逃げる事しか考えてなかったので突然シロべえから俺の名前が出てきたことに耳を疑う。

最初の方、俺の悪口言わなかった?

 

 

「彼女がどうしたの?魔法少女じゃないんでしょう?」

 

「そうだぞシロべえ。俺がなんだって言うんだ?」

 

 

ほむらと顔を見合わせてから訝しげにシロべえを見る。一体どういう事だ?

 

 

「確かに優依は魔法少女じゃないし運動神経一般人以下の役立たずだけど存在自体は利用価値がある。一つは魔法少女の素質は宇宙終焉レベルだ。インキュベーターの目をまどかからこちらに向けさせる囮に使える。優依が少しでも契約する可能性を口にすればすぐに飛んでくるよ。あいつら虎視眈々と優依を狙ってるからね。君が契約する機会をさ」

 

「うわー聞きたくない事実聞いた。俺は白いGをおびき寄せる餌ですか?嘘でも契約するなんて言いたくないんだけど?強引に契約迫られそうだし」

 

 

俺の事を友達だと言ってた奴がまさかの囮発言するか普通?

 

 

うんざりした顔でシロべえを見るも隣にいるほむらは顎に手をあてて納得顔だった。

 

 

「確かにそれならアイツらの意識をまどかから逸らせる事が出来るわね」

 

「でしょ?僕もこれはなかなか良い考えだと思ってたんだ!」

 

「お前ら鬼か!?」

 

 

二人して頷くな!

実は仲良いだろお前ら!!

 

 

 

「それともう一つ、優依を使えば戦力集め出来るんじゃないかな?」

 

「はあ?それってマミちゃんと杏子の事言ってる?二人とも友達だけどさ協力してくれんの?」

 

「貴女、巴マミだけでなく佐倉杏子とも知り合いだったの?」

 

「うん、杏子はここに引っ越した最初の頃に出会ったんだ。迷子だった俺を魔女から守ってくれて駅まで案内してくれてさ。それから何だかんだで仲良くなった」

 

「・・引っ越し早々何してるの貴女は?」

 

 

俺はシロべえを訝しげに見たが、ほむらは俺の発言に驚いてこっちを見ていたから簡潔に説明したんだけど途中で呆れ顔された。何故だ?

 

 

「本当に君は命拾いしたんだよほむら。もしあの時優依を殺していれば杏子もマミも君を許さないだろう。一緒にワルプルギスの夜を倒そうと言っても応じないよ。それどころか佐倉杏子に至っては復讐目的でどこに逃げても君を追い回し八つ裂きにするだろうね」

 

「そ、そうなの・・?」

 

「マジで・・?」

 

シロべえの冗談みたいな脅しに二人して顔が引きつる。

杏子ってそこまで友達思いなのか?気持ちは嬉しいが復讐とか勘弁してほしい。成仏出来なくなるから。

 

 

「本当だよ。優依が今つけている髪飾りを見てごらん。それは佐倉杏子が優依のために作ったものだから。並行世界とはいえ数多くの佐倉杏子と接してきたほむらならこれの意味がよく分かるでしょ?」

 

「・・・そう・・・・・その髪飾りは佐倉杏子からなの・・・」

 

「あの・・もう少し優しい目で見てくれませんか・・?」

 

 

ほむらの鋭い視線が至近距離で俺の頭部、正確には杏子からもらった髪飾りに突き刺さっていて居たたまれない。なんか殺気もあたってる気がしないでもないし。

 

 

「巴マミも同様さ。君を敵視するのはインキュベーターを襲ったからだけじゃない。優依がほむらを気にかけていて話をしようとしていたからさ」

 

「え!?そうなの!?」

 

 

まさかの理由に驚きの声が出てきた。何でマミちゃんあんだけほむらを敵視してたのか謎だったけど友達取られると思ったからなのか・・。

 

 

「・・だから他の時間軸でも類を見ないくらい殺気を飛ばしていたのね」

 

「幼稚園児じゃあるまいし、もう少し先輩らしい対応してほしいわ・・」

 

「・・気づいてないの?」

 

「何が?」

 

 

ほむらが不思議そうに俺を見てるがそんな表情する理由が分からん。

 

 

 

「ほむら、このポンコツはいつもこんな感じだから気にしないでいいよ」

 

「そうみたいね、今のでよく分かったわ」

 

「おいこらそこの二人!なんだその態度は!?それはいいけどどうやって俺がマミちゃんと杏子を勧誘するんだよ?マミちゃんはともかく杏子は義理堅いけどただで動くタイプじゃないじゃん!」

 

 

超失礼な白と紫に注意した後、ふと思った疑問をついでに口にするもシロべえはその問題も想定済みで解決方法を考えてるようでうんうんと余裕な表情だ。どうやら自信があるようで頼もしい。

 

 

「そんなのあっさり成功するよ。君が彼女を口説くなり誘惑するなりすればあっさり承諾する。見返りを求められたらまあ・・身体くらい差し出しなよ。大丈夫。死ななければ問題ないから」

 

 

提案したのが悪魔そのものみたいな解決策だったけどな!

 

 

「何言ってんだお前!?悪魔か!?問題ありまくりじゃん!それだったらまだライフライン提供する方が成功率あるわ!!」

 

「きゅぷ!」

 

 

当然俺は激怒してシロべえに突っかかり奴の首を掴んで揺さぶりながら噛み付くように抗議しまくる。そんなガチギレ状態の俺を鎮めるように横から凛とした声が聞こえた。

 

 

「やめなさい優依。そのインキュベーターが言ってる事は正しいわ。私でも貴女にそれをされたら抗うのは難しいのよ?少しは自分を客観的に見てみたらどうかしら?」

 

「暁美さん・・頭大丈夫?」

 

 

真顔でとんでもない事ほざいているほむらに本気で不安を覚え思わずシロべえを落とす。ほむらが言う「それ」はライフライン提供の事だよね?

 

 

「まあ、そういう事さ。戦力面でも優依は足手まといだけどマミと杏子を勧誘するなら優依の存在自体は思ったより役に立つよ。君も気を付けないとあっという間に飲み込まれるから注意した方がいい。・・既に手遅れみたいだけどね」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

褒めてんのか貶してんのか分からないシロべえの意味深な言葉にほむらは黙りこくっている。

 

 

 

というかほむらまで役立たず認定は否定しないんかい!

役に立つのは存在だけかよ!

くそ!俺だってたまには役に立つんだよ!

それを証明してやる!

 

 

「あのな俺だって役に立つの!俺にだって出来ることはあるんだよ!」

 

 

あまりに役立たず呼ばわりされたので腹が立って俺は気づけばこう叫んでた。

 

 

「へえ?優依がかい?何が出来るのさ?」

 

「ふふん、聞いて驚くなよ。昨日発見したんだけどこれが意外と役に立ったんだ!」

 

「だからそれは何だい?」

 

 

シロべえが馬鹿にした口調で挑発してくるため後に退けない。

ほむらも俺の方を何事かと不思議そうに見ているし。

その態度に少し怯むも何とか踏みとどまる事が出来た。

 

 

やっと見つけた俺が出来る事、絶対これは役に立つ!

 

自信を持つんだ俺!

 

 

 

覚悟を決めて俺は精一杯息を吸い込んで大きく口を開いた。

 

 

 

「俺が出来る事、それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             【応援】だ!!!!!」

 

 

 

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

 

部屋の空気が白けたのは気のせいじゃない。予想以上の白けぶりに慌てて次の言葉を繋ぐ。

 

 

「あの、馬鹿にした空気だしてますけど応援は馬鹿に出来ないよ!?スポーツでも試験でも応援をするだけで凄まじい効果を発揮するんだから!昨日も杏子を応援したらあっさり魔女を倒してくれたんだ!やっぱり応援の力は偉大だね!!」

 

馬鹿にした二つの視線に冷や汗を流しながら必死に説明するも効果は薄そう。そればかりか呆れも加わってしまったようにさえ感じる。

 

 

「・・君に言いたいことは沢山ある。一つは何くだらない事言ってんのかという理解不能な事。二つ目は応援と評して佐倉杏子に余計な事言ったのが分かった事。三つ目は魔女と遭遇したなんて初耳だった事」

 

「・・シロべえさん怒ってる?」

 

 

俯いてて分からないけど声のトーンがむちゃくちゃ低いのは確かだ。そういえばほむらに秘密を打ち明ける事に頭が一杯で必要最低限の事しか言ってなかった。忘れてたとも言っていいかも。

 

 

「うん、怒ってるよ、正確にいうなら激怒してるかな?」

 

 

「!? ホントだああああああああああああああああああああああ!!シロべえ怒ってるううううううううううううううううううううううううううううううう!!!」

 

 

頭を上げたシロべえは顔中に青筋が浮かんでいて恐怖で悲鳴をあげる。普段の顔が可愛いからシュールで怖い!!

 

 

「うるさいよ優依。取りあえずどういう事か説明してくれるよね?嘘偽りなくさ」

 

 

このままではまずい!

シロべえの地獄の追及と言葉による精神攻撃が決行される!

そうなったら俺の心はズタボロだ!!

なんとか話題を変えなければ!!

 

 

「?」

 

「あ」

 

周りを見渡しているとほむらと目が合った。チャンス!流れをほむらに持っていこう!!

 

 

 

「暁美さん!」

 

「!? はわわ・・!」

 

 

俺は暁美さんの手を握ってずいっと顔を近づける。突然の行動にほむらは戸惑っているようで素のメガほむみたいになってた。

 

 

「こんな俺だけど暁美さんの事応援してるよ!」

 

「え?」

 

「暁美さんだからこそ応援したいんだ!この時間軸で必ずまどかを救おう!絶対出来るさ!シロべえがいるし頼りにならないけど俺もいる。暁美さんはもう一人じゃないよ!」

 

「・・・っ」

 

 

ニコッとほむらを安心させるように笑う。

止まるわけにはいかない!俺の後ろには怒りのオーラを纏った奴が待ち構えているからな!!

 

 

「君は友達思いの最高の魔法少女だよ!俺が保証する。他の奴がなんと言おうと胸を張って言い切れる!だからまどかを救うために一緒に協力し合わない?」

 

 

「・・・・・」

 

「俺、暁美さんに興味がある。君の事(いつ襲われても対策出来るように)もっと色々知りたいし(魔法少女関連対策の重要人物だから)支えたい。駄目かな?」

 

冷や汗を流しながらほむらを見る。

一瞬でも止まったらシロべえの追及は確実だからマシンガントークになってしまった。

正直自分でも何言ってんのか分かんないや。

 

しばらく手を握って返事を待っている間ほむらは考えていたのかひたすら俯いていた。俺は後ろの白い奴がいつ牙を向いてこないか冷や汗流してひたすら背中を意識していた。

 

 

 

「・・・その事に関してだけど一つお願いがあるの」

 

 

ようやく口を開いたほむらは真っ直ぐ俺を見て口を開いた。表情からはどういう意図があるのか読み取れない。

 

 

 

「うんいいよ。何?」

 

 

軽い感じでOKし、続きを促す。

どうせまどかとの仲を取り持って欲しいとかマミちゃんを仲介してほしいとかそんなとこだろう。

 

 

 

そのまま頼みを口にするのを待っていると、少し躊躇いながらほむらが俺に頼みごとを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今から私の魔女狩りに同行して欲しいの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめん、何て?




という訳で何故か魔女退治の同行をお願いされました!

ほむほむの考えは次回の彼女の視点で分かると思います!
それにしてもシロべえってその気になったらどこまでも外道そのものですね・・・



番外編全然書き終わらなくて辛い・・


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40話 魔女狩りwith俺

まさかのほむほむからの魔女退治同行!
果たして優依ちゃんはどうする!?


「ここね」

 

強い光を放つソウルジェムを見ながらほむらは告げた。

 

現在とある建設現場内。

剥き出しの鋼鉄の柱が高く組み立てられているだけなので殺風景な印象だ。時間帯は夜だから暗さもあってより寒々しい。心許ない街灯だけが今の俺の心の安定剤だ。

 

 

「魔法少女ならともかくただの一般人の俺が何で二日連続で魔女に会わなきゃいけないんだ?」

 

「まあまあ落ち込まないで優依。ほむらの頼みなんだからしょうがないよ。これが終わったら協力してくれるって話なんだからここは腹を括ってやるしかないさ」

 

 

げっそり顔の俺をシロべえが慰めてくれるが正直気分が重い。

 

 

 

突然ほむらに魔女退治の同行をお願いされた時は反射的に断った。しかし、奴はそれにめげず俺に頼み込み一緒に来てくれるなら協力するとまで言い出した。

 

それを聞いたシロべえは傍観の立場から速攻で俺を裏切ってほむらの擁護に回り押される形で現在に至る。

 

はっきり言って嫌だ!

 

魔女の結界に入るだけでも嫌なのにましてや一緒に行くのがほむら!これがマミちゃんや杏子なら会話に困らないがコミュ力が破損してるほむらと何を話せばいいか分からない。かなり気まずい空気になる予感がする。

 

ましてやついさっきまで俺を殺そうとした奴だ。謝罪を受けたとはいえ油断は出来ない。下手すりゃ不意討ちで暗殺しに来たり結界内で俺をわざと置き去りにして使い魔に襲わせたりする可能性もある。結界内で死ねば死体は残らないし証拠隠滅にはもってこいだ。

 

 

うん。今すぐ帰りたい。

 

 

「準備はいいかしら?」

 

 

魔法少女に変身したほむらがこちらを振り向いてる。

 

準備出来てると思ってんのか?

こっちは今すぐにでも逃げ出したいのに!

 

 

「いつでも大丈夫だよ」

 

 

内心イラついてる俺の代わりにシロべえが応えた。

 

本音は断って欲しかったが仕方ない。

シロべえがいるんだしこの小さな相棒は優秀だから何とかなるだろう。何より傍にいてくれるだけで心強い。

 

 

「俺も大丈夫だ。早く終らせて帰ろう」

 

 

シロべえを見て安心感を得た後、ほむらに視線を向け結界内に突入するように促す。こういう嫌な事はさっさと終らせてしまうに限るからな。

 

 

「ええ。今から突入しましょう。大丈夫。この魔女はそれほど強くないから怖がる必要なんてないわ」

 

 

そういうのをフラグって言うんですよ?分かって言ってんですか?

 

不吉な事を言うほむらに不安を感じながらも彼女の後に続く。

 

 

 

「シロべえ行くぞ」

 

俺は相棒に声を掛けた。

 

 

 

「あ、僕はここで待機しとくよ」

 

「・・・は?」

 

 

ふざけた発言が背後から聞こえたので振り向くとシロべえがリラックスした体勢で俺を見てたので即Uターンして奴がいるところまで駆け寄り無表情で見下ろす。コイツは地面に根をおろしたように寝そべっておりどうやらそこから一歩も動く気がないようだ。

 

 

「え?俺の聞き間違い?待機するって聞こえたんだけど?」

 

「聞き間違いじゃないよ。僕はここで待ってるから」

 

「何で!?」

 

「だって僕見た目マスコットでしょ?マスコットは基本戦わないし安全な場所で待機するのがセオリーじゃないか。僕もそれに則ってここで待機しようという訳さ」

 

「ふざけんな!今時のマスコットは戦うのが主流なんだよ!電気鼠しかり!トナカイの船医しかり!猫の妖怪しかり!わたあめみたいなただの白い犬だって劇場版では戦ってるぞ!そもそもお前マスコットじゃねえよ!黒幕だろうが!!」

 

 

あんまりな展開に涙が出そうになる。

 

シロべえも一緒に行くと思ってたから魔女退治同行を承諾したのに待機なんて・・・。

しかも待機理由最悪だし!何だ!?マスコットだからって!

 

俺一人でほむらと魔女の結界に入るなんてハードル高過ぎる!

 

 

「まあ、落ち着いて」

 

「これが落ち着けるか!!」

 

 

思わず噛み付いた言い方になってしまったが元々はシロべえが悪い。

仕方ない、引き摺ってでも連れて行くしかないようだ!俺の安全のために!

 

 

「ほむらは君に同行を頼んだんだよ?僕じゃない」

 

「・・・・」

 

 

シロべえの言葉に思わず奴に伸ばしかけた手が止まる。

 

 

「ええ、そうよ。私は優依に同行を頼んだの。貴方じゃないわインキュベーター」

 

「!?」

 

 

いきなり肩を捕まれたので驚いて振り向くとほむらがいた。がっしりと俺の肩を掴んでいて振りほどけそうにない。え?こいつらグル?俺に味方いないの?

 

 

「そういう事。どうやらほむらは優依に話があるようだからね。僕がいてもお邪魔虫になってしまうからここで待機って訳さ。分かったかい?」

 

 

理屈は分かったがシロべえの声がかなり上擦っているように思う。大方物騒なほむらと物騒な魔女の所に行くのを回避出来て喜んでいるんだろうな。コイツの保身は手に取るように分かるから腹立たしい。

 

 

《優依!これは紫を完全攻略出来るチャンスだよ!魔女がいる危険地帯だけど二人きりになれる!君の自重しない言動と溢れでる魅力でほむらの心を捕らえるんだ!大丈夫!君なら出来るさ!》

 

《何頭沸いた事言ってんだ!テメエは良いよね!そこで寝そべってるだけで良いもんね!俺は最悪死ぬのに!》

 

《僕が作った道具持ってるでしょ?最悪それで身を守れるから大丈夫、大丈夫》

 

 

テレパシーで狂ったことを言っていたがシロべえは本気らしい。声がガチトーンだったから。そしてどことなく他人事な感じがムカつく。

 

 

 

「いつまでもたついているの?早く行くわよ」

 

 

動かない俺に痺れを切らしたのかほむらはそのまま腕を掴んで結界の入り口まで連行していく。

 

 

「暁美さん!俺に出来ることなんて何もないよ!役立たずが一緒に行っても足手まといになるだけだから俺もここで待機するよ!」

 

「応援は出来るんでしょう?」

 

「・・・・・・」

 

 

俺の一時的なノリ発言をしっかり覚えていたらしい。出来れば忘れていて欲しかった。

 

 

「さあ、行くわよ」

 

「行ってらっしゃい♪」

 

「やだああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

こうして俺はほむらと二人きりで魔女の結界に突入するはめになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「暗い・・怖い・・暁美さんどこ?」

 

 

「ここよ。貴女の傍にいるわ」

 

「わ!銃をこっちに向けないでえええええ!!」

 

「仕方ないじゃない。これしか明かりがないんだもの」

 

 

仕方なくてもいきなり銃を向けられた俺の心情をくみ取って欲しい。早速暗殺実行されるかと思ったわ!

 

 

結界内はかなり暗くほむらの持ってるマシンガンの明かりだけが頼りな状態だ。

その明かりで見える範囲で周りを見渡してみると申し訳程度に光る街灯と床や周囲にジャングルジムらしきものが確認出来た。

 

 

 

さながら夜の公園といった感じだ。(ホラー的な)

 

 

 

「はぐれては駄目よ。きちんと私の後ろをついてきて。貴女はそれだけでいいわ」

 

「だったら俺いる意味ないじゃん。マミちゃんみたいに魔法少女体験コースするつもりなの?」

 

「そんな訳ないじゃない。歩かないなら置いていくわよ」

 

「うわ!待って!置いていかないでください!!」

 

 

さっさと俺に背中を向けて歩くほむらを慌てて追いかけて彼女の数歩後ろを歩く。

 

 

 

「「・・・・・・・・」」

 

 

暗い結界の中、銃の明かりを頼りに二人だけの空間。今の所、使い魔の気配は感じられないが周りを常に警戒しながら慎重にほむらの背中を見ながら歩いている。会話はなし。

 

 

き、気まずい・・・!!

 

ただでさえ暗い空間の中、恐怖でおかしくなりそうなのにここは魔女の結界。精神が崩壊しそうだ。

 

恐怖を紛らわせるために何か会話をしたいが今ここにいるのは会話力皆無なほむら。少し前に話し掛けてみたが「ええ」とか「そう」しか返ってこなった。

 

話しかけ過ぎるとうるさいとか言って銃向けられそうだしあまり声を掛けられない。今、聞こえるのはお互いの靴音だけ。

 

 

辛い!!こうなったら何でもいい!

 

 

使い魔よ!頼むから出てきてくれ!!

この気まずい空気を一蹴するために戦闘に持ち込んでくれ!!

こんな重苦しい空気耐えられない!

頭がおかしくなりそうだ!!

 

 

 

 

「・・・ここへ貴女を連れて来たのは二人で話したかったからよ」

 

「え?」

 

「そうじゃないとあのインキュベーターが割り込んでくるでしょう?」

 

 

俺の願いは叶ったのかまさかのほむらの方から話し掛けてくれた。背中を向けられてるから表情が見えないけどこれはラッキー!

 

そうかほむらは俺と話したくてここに連れてきたんだな。・・・ん?ちょっと待って?

 

 

「いや、あのそれシロべえに頼めば席外してくれたと思うよ?わざわざ危険を犯してまで魔女の結界内で話さなきゃいけない理由ってあんの?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

この様子だと特に理由もなく連れ込んだな!?勘弁してくれよ!

ちょっと軽い密談するためだけにこんな危険な魔女の結界に一般人連れてくるなんて思考ぶっ飛び過ぎだろうが!!

 

 

心の中で罵倒していると突然ほむらが立ち止まる。

 

 

「暁美さん?」

 

 

不思議に思ってほむらを観察してみると小刻みに身体が震えている。風邪か?

 

 

「大丈夫?寒い?」

 

「・・ホントはまだ気持ちの整理がついていないの」

 

「?」

 

 

ぽつりと絞り出すような声で呟いたほむらは震えを抑えるように自分を抱きしめている。その拍子に銃を落としてしまいガシャンという音が辺りに響いた。

 

 

「優依が言った事もあのインキュベーターが言ったことも全て事実よね?頭では理解してるのにどうしても信じられない、信じたくないの。ごめんなさい。貴女には随分慰めてもらったのに・・」

 

「い。いいよ!気にしなくていいよ!無理しないで!」

 

 

慌ててほむらに近寄りしどろもどろになりながらも慰める。

危険地帯の魔女の領域で泣かれでもしたらまずい!ただでさえ大きな音出しちゃったからいつその音を聞き付けて襲ってくるかもしれないんだからしっかりしてくれよ!

 

 

「そもそもついさっき事実を聞かされた訳だし、シロべえの言い方も辛辣だったからね。そう簡単に受け入れられなくて当然だよ!暁美さんは悪くないから!!」

 

「そう言ってくれるだけでありがたいわ。・・少し私の話を聞いてくれる?」

 

「え?う、うん?」

 

縋るような目を俺に向けたので思わず了承してしまった。

 

 

「ありがとう。少し長いけどちゃんと聞いてちょうだい」

 

 

唐突なほむらのお願いに戸惑いながらも聞き耳を立てる。心なしか顔色の悪い彼女は目を瞑りながらゆっくり口を開く。

 

 

「・・私ね昔は自信がなくていつも人に迷惑ばかりかけてたの」

 

「そうなんだ」

 

 

今も大して変わってねえじゃんというツッコミが出そうになるがすぐに口を塞ぐ。

そもそも武器を盗んでくるあたり更に酷くなってると個人的に思うが。

まあ、今のほむらの口調がメガほむちゃんみたいな感じになっているからおそらく本心から喋っているのは予想がつく。

 

 

「そんなどうしようもない私を救ってくれたのがまどか。本来の時間軸にいた最初の『まどか』だったの。たった一人の友達だった。でもあの娘はワルプルギスの夜から街を守るために命がけで戦って死んでしまった。死んじゃうって分かってたのにね。私は息を引き取ったまどかの前で泣きながら後悔した。もう一度出会いをやり直したい、まどかを守れる私になりたいって思ったの。そしてそれをキュゥべえに願って契約した。それから私は何度も時間を繰り返している。・・・貴女が知っているようにね?」

 

「うん」

 

 

ほむらがこっちを見たので肯定のために首を縦に振った。大方アニメで観た通りの内容だ。

 

 

「・・・」

 

 

その様子を見たほむらは何とも言えない表情だったが再び顔を俯かせて口を開いた。

 

 

「時間を繰り返す内に魔法少女の真相とインキュベーターの目的が判明したの。みんなに伝えなきゃと事実を話したけど信じてもらえなかった。ようやく皆が事実だと悟ると今度はその事に絶望して魔女化したり自棄を起こして自殺しようする人が出てきたの」

 

「あー・・」

 

名前出してないけど誰か分かる!大方黄色とか青あたりだよね!?

 

 

「いつしか私はまどかを守れればそれでいいと考えるようになったの。始めは今まで一緒に戦ってきた皆を救いたいと思ってたけど上手くいかないのならまどかだけを守れればいいと。・・・でもそれはただ逃げただけ。私には力がなかった。まどかさえ満足に守れないから彼女たちを切り捨てるしかなかったの」

 

「・・・・・・・」

 

「今まで多くの人を踏みにじってきた。彼女たちはもちろん、魔女の正体を知りつつも多くの魔女を殺してきた。罪悪感で死にそうになった。まどかを救うのを何度も諦めそうになった。でも私は止まるわけにはいかない。あの娘を救うその日まで」

 

「えっと何でそこまで・・?」

 

本当は知ってるんだけど一応話を振っておく。だってほむらが凄く話したそうにこっちを見てるんだもの!流石に空気読めるわ!

 

 

「ある時間軸のまどかと約束したの。『必ず貴女を救う』って。今の私を支えてるのはその約束があるからよ。でも本当は心のどこかで分かってた・・。何度時間を繰り返したってそこにいるまどかは友達だった『まどか』や救うと約束した『まどか』じゃない。別人だって・・!インキュベーターの言う通りよ。失敗してもまた次があるからと自分に言い聞かせて何度もあの娘を見殺しにしてしまった!まどかだけじゃない!巴マミも美樹さやかも佐倉杏子も見殺しにした!ずっと見ない振りしてた。今日その事を指摘されるまでずっと・・!私は・・」

 

「暁美さん!」

 

「! どうして貴女はそこまで・・?私は酷い事いっぱいしてきたのに?私のせいでまどかは苦しむ事になってしまったのに!?私なんていない方が良かったのに・・!?」

 

 

膝から崩れ落ちるほむらを包み込むように抱きしめると彼女は信じられないものを見る目で俺を見ていた。

 

 

「暁美さんが心配だったからだよ。そこまで自分を追い詰めないで」

 

 

ほむらが今にも壊れてしまいそうだったから安心させるために抱きしめたのは間違いない。

このままいけばずっと自分を責め続けるだろうしそうなったら魔女化してしまうかもしれないからそれを阻止するために敢えて抱きついて意識を俺に向けさせた。

 

 

 

 

でも大部分の理由はさっきから俺の耳に届いている

 

 

 

 

カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ

 

 

 

 

という音が超怖いのでこれ幸いと恐怖を紛らわせるためにほむらに抱きついたのが本音です。

 

 

 

 

うおおおおおおおおおおおおお!!怖えええええええええええええ!!

 

 

周りに何かいるのは間違いない!

音はGっぽいのが這いずり回る感じだがここは魔女の結界なので魔女か使い魔なのは間違いなし!

 

ほむらお願い!後で土下座するから今は抱きつかせて!じゃないとこの暗い空間の中でも恐怖なのにモンスターが潜んでると思うと人肌感じて安心しない限り発狂しそうなんです!

 

 

ていうかさっさと魔女倒せほむら!

泣いてる場合じゃねえんだよおおおおおおおおおおおおおおお!

今すぐ復活してくれ!

 

 

「うう・・ぐす・・」

 

おいいいいいいいいいいいいい!

本格的に泣き出しそう!?周りは本格的に戦闘態勢に入りだしてんのに!?

さっきよりカサカサ音デカくなってるんだよ!?

 

 

 

くそ・・こうなったら意地でも戦ってもらうために【慰めオンパレード】を決行するしかない!

 

 

第一弾投入!

 

 

「俺思ったんだけど『まどか』が過去の自分を助けて欲しいって言ったのは暁美さんを助けるためについた嘘なんじゃないかな?」

 

「え・・?」

 

 

ほむらが泣くのを止めてこっちを見ている。

いや、俺じゃなくて周りを見て欲しいんだけど!既に囲まれてませんかこれ?

しかし相変わらずほむらのまどか反応は凄い!名前出しただけですぐ反応したぞ!

よし!まどか押しで攻めるか!まどかとの約束には俺も思う所もあるし。

 

 

「だっていくら並行世界といえどあのまどかだよ?暁美さんひょっとしてその時死ぬつもりだったんじゃないの?それを阻止するためにその時間軸のまどかはわざと自分を助けてほしいって言ったんじゃない?そう言えば君は生きようとしてくれるかもしれないからさ」

 

「・・貴女はそう考えてるの?」

 

 

 

いや多分アニメ観てた大多数の視聴者は考えてると思うよ?まどかの性格からして素で自分を助けて欲しいとか言わなさそうだし。まあ、ここは俺の考えという事にしておくか。

 

 

 

「うん、実際まどかの思惑通り暁美さんはここにいるでしょ?辛くてもその約束があるから自殺せずに頑張って生きてるんでしょ?」

 

「・・・・・・・」

 

「まどかと出会って一年足らずの俺でさえまどかは優しすぎる性格だと理解してるんだ。並行世界とはいえ何人ものまどかを見てきた暁美さんならまどかの性格分かるでしょ?」

 

 

見滝原中学校に転校してホントまどかの天使みたいな性格に癒やされたわ。時々S発言や黒発言するけどそれはご愛嬌だ。・・リーサルウェポンの性能さえなければな・・・。

 

 

「・・そうね。あの娘は誰よりも優しい。そんなあの娘だからこそ私は救われた」

 

 

口元を押さえてポロポロ涙を流し始めてしまったほむら。まさかの号泣駄目押しだった!?

情緒不安定にも程があるわ!

このままではまずい!第二弾投入!ほむらを軸に攻める!

 

 

「・・・優依?」

 

 

内心焦りながら地面に座り込んでるほむらを立たせグッと顔を寄せたからか涙でぬれた紫の瞳が間近に見える。

 

 

「暁美さん実は今でもあまり自信ないんでしょ?俺から言わせれば暁美さんはもっと自信を持つべきだと思うんだけどなぁ」

 

「え?」

 

「俺を見てみ?基本他人に迷惑かけまくりだけどどこからやって来るのか基本自信満々だよ!」

 

「見てれば分かるわ。可哀そうになってくるくらい」

 

「・・・・・・・」

 

ほむらがしれっと突き刺さる言葉を浴びせてきて心抉れそうになるが何とか踏みとどまる事に成功した。

 

ここで負けては駄目だ俺!

ほむらを立ち直らせるんだ!じゃないと死ぬ!

 

ほむらを安心させるように優しく微笑みながら口を開く。

 

 

「暁美さんは可愛くてカッコいいだけじゃない。たった一人の友達のために突き進む姿に感動してるんだ!そんな暁美さんだからこそ俺、自分の秘密を打ち明けたんだ。シロべえ以外に話すの初めてで緊張したよ」

 

「・・・・え?秘密を話したのは私だけなの?貴女が仲の良い巴マミや佐倉杏子も知らないの?あのインキュベーターを除いて私だけ?」

 

「え?うん・・」

 

 

何故か俺の秘密を知っているのがシロべえとほむらだけという事に食いついてきた。俺の肩に食い込むくらい手に力込めてるし何があった?

 

 

「・・・そう、魔法少女では私だけ・・・ふふ」

 

「・・暁美さん?」

 

ほむらが嬉しさをかみ殺すようなしぐさで笑うから内心ドン引き中。マジで精神壊れてんじゃないの?

 

 

ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ

 

 

! 音がかなり近い。もう悠長に時間を使ってる暇はないだろう。ここらでほむらにやる気を出してもらわねば!

 

 

 

 

俺は再びほむらの両手を握る。

 

 

「残念だけどこの時間軸には暁美さんが助けたい『まどか』はいない」

 

「・・・・・・・・」

 

 

真剣な表情で俺を見ているほむら。どうやらさっきまでの落ち込みからは立ち直ったようだ。よし!一気に畳み掛けよう!

 

 

「この時間軸の『まどか』だって本当に優しいんだ!だって転校して不安な俺に声掛けてくれたんだ。そして友達になってくれて凄く嬉しかった!俺、友達を助けたい!」

 

「!」

 

「失ってしまったものはもう二度と戻らないけどやり直す事は出来るんだ!だからここから始めないか?まどかと友達になるのも、暁美さんの人生も、もう一度始めよう!大丈夫!何とかなるさ!だって俺もう暁美さんと友達だから!友達第二号ってね!」

 

「・・友達?」

 

 

 

我ながら上手い事言えたと思ったのにほむらが何故か眉をひそめ不機嫌そうにしている。怖っ!?

 

そんな怖い顔しないでもいいのに。友達はまどかで十分だってか?俺失敗した?

 

だが安心してください!ワルプルギスの夜を倒したら多分縁は薄れると思うのでそうなったらまどかを愛でるなり好きにすればいいよ!俺は遠目から眺めてるから!

 

 

「それを実行するにはまずこの結界の主である魔女を倒して無事に元の世界に帰らなくちゃいけない!暁美さん!一緒にここから帰ろう!」

 

 

ほむらの目をしっかり見ながら「はよ魔女退治しろ」と促す。早く退治してくれ!マジで周り騒がしいから!

 

 

「・・・それもそうね。ここでのんびりしている暇はなさそうだわ。まどかを救う。その願いは変わらない。必ずあの娘を救うわ!!」

 

 

顔に生気が戻ったほむらは床に落としていた銃を拾って構えなおしている。それを見て内心ガッツポーズ。

 

うおっしゃああああああああああああああああああ!!

ほむら復活なったぞおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 

 

 

 

 

 

「・・一つ約束してちょうだい」

 

「何?」

 

 

 

心の中で飛び上がっているとほむらが銃を構えながら俺を真剣な表情で見ていたので一気に冷静に戻った。

 

 

 

 

「この先貴女の秘密を魔法少女、いいえ他の誰にも話しちゃだめよ?約束できる?」

 

 

ほむらはそう言って人差し指を口に当てて妖艶に微笑んでいる。何でそんな事を約束するのか不思議だがこれくらい構わない。断ってこんな所で不機嫌になられる方がまずいからな。俺の命かかってるし。

 

 

「いいよ。元々誰にも言うもりなかったんだ。言ったって信じてくれないし信じたとしても面倒事になるだろうからね。暁美さんに協力してもらうには話す必要があったから打ち明けただけだ。暁美さんとシロべえ以外誰にも話さないよ」

 

 

特に考えるまでもなく首を縦に振る。別に話さなくても困る事じゃないしね。

 

 

「それがいいわ。話したって信じてもらえると思えないもの。優依の秘密は私だけが知っていればいいわ」

 

「いやシロべえもだけど・・」

 

嬉しそうに笑っているほむらにツッコミを入れてみるも華麗にスルーされてしまった。

 

 

 

ガシャン!!

 

 

「!?」

 

大きな音が響きわたり思わず身構える。ほむらも笑顔から真剣な表情になり周囲を警戒し周りを見ていた。

 

 

 

「どうやら魔女も出てきたようだしこれ以上進む必要もないみたいね」

 

「え!?マジで?どこ?」

 

「あそこよ」

 

「・・・・あれ?」

 

「あれよ」

 

 

あれ?あれなの?

 

 

ほむらが指差す先に結界のジャングルジムにへばりついている物体がいた。金平糖に手足くっつけただけの凄い手抜き感のある見た目だ。俺ですらもっとマシなイラストを描けそうなくらい適当だな。

 

命名「園児の落書き」にしよう!

 

それにしてもめっちゃ弱そうに見える魔女だな。確かにほむらがそこまで強くないと言い切っただけはありそうな見た目だ。だが俺達の周囲は囲まれている。おそらくあの魔女の使い魔だ。特定の形状がないのか身体のあちこちをくねらせたりハンマーや刃物に変形させてじりじりと近寄ってくる。

 

 

「暁美さんどうする?」

 

「簡単よ。魔女は狩るだけ」

 

「えっと具体的にどうす・・あの聞いてますか?」

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

 

 

 

「ぎゃああああああああああああああああ!!」

 

 

マシンガンを構えたと思ったらいきなり周囲に向かって乱射し始めた。突然の事に俺は悲鳴をあげつつも銃弾に当たらないように頭を地面に伏せる。

 

 

せめて何か言ってくれ!さがってなさいとか邪魔よとかでもいいからさ!

いきなり戦闘開始はやめて!俺一般人よ!?対応できないから!

 

 

実はほむらご乱心!?

 

やっぱりほむら怖い!少しは仲良くなれたと思ったけど気のせいだった!!

 

シロべえ助けてくれえええええええええええええええええ!!

この暴走紫を止めてくれえええええええええええええええ!!

 

 

結界の外で怠けてるであろう相棒に思いを馳せ俺は躊躇なく周囲に銃をぶっ放すほむらを怯えながら見つめるしかなかった。




優依ちゃんの受難は続くwほむほむに振り回され可愛そうにw
ほぼ自業自得ですけどね!

この魔女戦まだ続きます!
次回こそほむほむ視点入れます!
文字数多くて結局入れられなかったのでw


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41話 迷子の少女

最近の悩み

白の魔法少女Oさんや
黒の魔法少女Kさんが登場する番外編を作ろうかな・・?


でも杏子ちゃんの番外編まだ投稿してないし、他に作った番外編も先に投稿したいし・・


どうすっかな・・?


ドドドドドドドドドドドドドドド

 

 

 

 

こちら現場の魔女の結界内です!実況は俺、神原優依がお送りさせてもらいます!

 

ただ今現場では激しい戦闘が行われています!

 

片方は暴走に定評がある黒髪魔法少女「暁美ほむら」!

もう片方は雑すぎるイラストが具現化された魔女「園児の落書き」!

激しい攻防です!

 

暁美ほむらは周囲の使い魔に向かってマシンガンをぶっ放しておりその姿はまるで自棄を起こした少女が銃乱射してるようにしか見えません!しかし彼女は眉一つ動かさず無表情。しかも結界内は薄暗くマシンガンの火花で浮かび上がる暁美ほむらの無表情はホラー顔負けの迫力です!

 

この世で一番怖いのは何を考えてるか分からない奴だとおっしゃられた方がいますがまさしくその通り!現在俺は暁美ほむらの顔を見て恐怖で震えています!

 

巻き込まれないように戦場からかなり離れた街灯の後ろに隠れてますがいつこっちを標的にしないかビクビクです!

 

対して魔女「園児の落書き」は微動だにせず、使い魔がほむらと応戦しています!

この使い魔たち、色はモノクロですがあらゆる物に変身できるようで動物に変身したりほむらを捕えるためか鎖や檻に変身したり多種多様!俺なら一瞬で終わります!しかし暁美ほむらにとっては想定内だったらしく華麗に避けたと同時に手榴弾をお見舞するなど手慣れた様子!両者一向に譲らない展開です!

 

 

 

 

・・・とまあ、ふざけるのはこのくらいにしてそろそろ真面目にほむらの戦いを見た方が良いだろう。

あまりに暇過ぎて頭の中で実況やりだしたけど疲れるだけだった。スポーツで実況してる人を素直に尊敬したくなるな。試合見ながら口動かすとか俺には出来ないし。

 

ドカンという爆発音が聞こえたので思考の海から浮上してほむらを見る。

随分と慣れた様子で戦っているから時間遡行で何回もあの魔女と戦った事があるんだろうな。

 

倒し方を知ってるから俺を連れてきても問題ないと?

だからって連れてこないで欲しかったわ!

魔女の結界自体入りたくないし!

 

ポケーっとほむらの戦闘を見ながら不満をタラタラ流すも少し引っかかる事がある。

 

これさっきから使い魔に攻撃してるけどダメージ通ってるか?

銃弾も手榴弾も当たってるのに平気そうな様子だけどほむら大丈夫か?

それと・・・・

 

チラッと「園児の落書き」を盗み見る。奴は相変わらず動く素振りを見せずジャングルジムにへばり付いていた。

 

俺はこの魔女に見覚えがある。

 

見たのはおそらく前世。でもアイツはアニメに出てこなかったと思う。

じゃあどこで?どこかで見たはず・・!

確か名前と見た目の差が激しかった気がするが思い出せない・・・!

 

くそ・・ここまで出かかってんのに・・!

 

俺はもやもやを解消すべく魔女の正体を必死に思い出そうと眉間に皺を寄せて考え込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむらside

 

 

襲いかかってくる使い魔を別の時間軸で戦った経験から推測して最小限の動きで軽くあしらう。

 

それにしても攻撃のパターンは同じなのにここまで強かったかしら?もっと簡単に倒せた気がする。

 

少し不思議に思って首を傾げていると視界に優依が入った。

ほとんど明かりがついていない街灯の後ろに隠れている。周りにいた使い魔は攻撃対象を私に決めたようだからあの娘の周囲は誰もいない。今は傍に行かない方が良さそうね。

 

 

「・・・・・」

 

よく見ると優依は何やら考え込んでいるみたいで眉間に皺を寄せている。その可愛らしい姿に戦闘中だというのに笑みがこぼれそうになる。

 

 

 

本当にあの娘に出会えて良かった。心からそう思う。

 

 

 

 

 

 

 

朝、いきなり神原優依が私の家にやって来た時は驚いた。

 

真剣な表情だったから何の用か悟った私は彼女を中へ招き入れ話を聞こうと決めた。

何故かこの娘はオムライスを作ったり紅茶を淹れだしたりして(美味しかった)時間がかかったけど神原優依の秘密を聞き出すことに成功した。

 

 

でもそれは私にとって歓迎出来ないものだった。

 

 

神原優依は前世の記憶(男)を持った転生者という事

 

この世界は前世の優依が見たアニメの世界だという事

 

そして、まどかの最後は死ぬよりも酷い結末が待っているという事だった。

 

 

目の前が真っ暗になるというのは本当にあるんだとその時初めて思い知る事になる。

 

 

 

 

 

「嘘よ」

 

気付けば勝手に私の口が動いてた。

 

 

信じられない

 

でも神原優依は私が時間遡行者だと言い当てたからこれも本当じゃ・・?

 

 

 

「嘘・・こんなの嘘よ・・!」

 

 

そうよ!絶対嘘よ!

 

彼女はインキュベーターと一緒にいたんだからアイツらから私の正体の憶測を聞いたに過ぎない!

 

私を絶望させるために仕組まれた嘘。

 

だってそうじゃない!

まどかは全ての魔法少女のために概念になってしまって永遠に独りぼっちで苦しむ事になるなんて!

皆がまどかを忘れてしまうなんてそんなのあんまりじゃない!

 

 

・・神原優依は危険ね。

 

インキュベーターの協力者な上に彼女自身まどか以上の素質を秘めている。

生かしておいては危険だわ。今ここで始末しないと・・・!

 

 

 

 

 

事実を受け入れられなかった私はゆらりと立ち上がり怯える神原優依の目の前でソウルジェムを掲げた。

 

 

でも殺す事は出来なかった。今ではそれで良かったと思う。

 

 

神原優依が連れていたインキュベーターが私のソウルジェムを使えなくさせてしまったから。

姿を現したソイツはいつもの憎たらしい無表情でそう説明し、おまけに結界を張って逃げられない事をわざわざ付け足した。

私の命は目の前で寛いでいるこのインキュベーターが握っており脅しているのが嫌でも分かった。逃げ場がないため大人しく従うしかない。

 

 

渋々話を聞く羽目になった私にインキュベータ-は神原優依が言った事は本当の事だと説明した。嘘だけはつかないこいつ等が言うのだから納得するしかない。

 

 

 

 

 

 

 

なら、まどかは・・・。

 

 

やはり何としてもまどかを魔法少女にしてはいけないようね。

最悪何度繰り返してもこれだけは阻止しなければ。

 

 

 

「それとね、ここからが君にとって大事な話になるんだ」

 

 

今後の方針を考えていた私に突如インキュベーターが氷のように冷たい声で話掛けてきた。

 

無機質に見えるその目はまるで私を睨んでいるみたい。感情の無いコイツが怒っているの?

いえ、確か前に神原優依は精神疾患になったインキュベーターだと言っていた。

 

 

 

まさか本当に怒ってる?

 

 

 

「ねえ、君は時間を繰り返すたびに鹿目まどかは強力な魔法少女になっていったんじゃないかい?」

 

 

「・・!!」

 

何を言うかと待ってみればまさかのまどかの事で身を固くする。まどかの素質の事で何か知ってるの?

 

 

「結論を言えばね暁美ほむら、原因は君にあるんだ」

 

 

「!? どういう事よ・・?」

 

じっと私を見ているインキュベーターに動揺を悟られないように振る舞ったつもりだけど上手くいかず勝手に身体が震えてくる。

 

でも聞かなければ!今まで謎だったまどかの素質の真相なのだから!

 

震える私を気にも留めずインキュベーターは淡々と説明する。

私が繰り返してきた時間の因果全てが今のまどかに繋がってしまっていると。

現に私が来る前のまどかの素質は平均並みで私が来た後に爆発的に跳ね上がったと・・・・・。

 

それはつまり

 

 

「君が鹿目まどかを最強の魔法少女に育ててしまったんだよ」

 

 

まどかの素質は私のせいだった。その事実が私の心臓を貫く。

 

神原優依が心配そうに私を見ているが同情してほしくない。おそらく彼女もこの事を知っていた。

知っていて私に遠慮して隠していた。今はそんな優しささえも私の心を抉る。

 

 

 

「それとね」

 

 

知りたくなかった真相に震えている私などお構いなしでインキュベーターは容赦がなかった。

 

 

「正確には君は時間を巻き戻してはいない。ただ並行世界を渡っていただけさ」

 

 

え・・?何を言っているの・・?

 

 

「シロべえ!!」

 

呆然とする私を尻目に神原優依は慌ててインキュベーターに駆け寄って口を塞ぐも本来口を動かして話さないこいつ等には意味がない。彼女に抱かれる格好で無機質な目は私をじっと見ていた。

 

 

「君が今まで渡って来た世界はね、君が元々いた世界の過去じゃないんだよ。限りなくそっくりだけど全く別の世界。君が救おうとしていたまどか達も君が初めて友達になったまどかに限りなくそっくりな別人さ」

 

「何を・・言っているの・・?」

 

理解出来ない。理解したくない。

今まで私が渡った世界は過去じゃない?

友達だった「まどか」じゃない?ただのそっくりさん?

 

そんなはずない!だって私は・・・!

 

 

「本当は君も理解しているはずだよ」

 

 

違う!そんな事ない!

今までの世界は全部過去で今まで出会ったまどかは同一人物で・・!

 

どんなに理屈を述べていても頭のどこかで「ああ、やっぱり」と納得している私がいる。

何度振り払ってももう一人の私の声がインキュベーターの言ってる事は本当だと告げている。

 

 

「君が今までやってきた事は全て無駄だってって事」

 

 

インキュベーターの言った事が呪詛のように頭の中に響く。

 

 

呼吸がおかしい。どうやって息を吸うのか分からない。ひたすら酸素を求めて浅い呼吸を繰り返す。

 

 

「全部君の身勝手な願いが引き起こした事さ」

 

 

全部私のせいなの・・・?

 

私のせいでまどかは・・?

 

 

パキっと何かが割れる音が聞こえた気がする。

 

その直後の記憶は覚えていない。何をしていたのか何を言ったのかさえ思い出せない。

 

 

 

「暁美さん!!」

 

「っ!?」

 

意識がはっきりしたのは温かい何かに包まれた後。見ると神原優依が私を抱きしめて背中を優しくさすってくれていた。この時初めて自分の目に涙が溢れていた事に気付いて泣いていた事が分かった。喉が痛い。大声を出して泣いていた?

 

あったかい・・。

ずっとこのまま抱きしめて欲しい。

 

でも私にはそんな事をしてもらう権利はない

 

無理やり離れようとするも魔力の使えない私の身体能力はひ弱そのもの。

神原優依の腕から逃れる事は出来なかった。

 

 

「離さない!絶対離さないから!」

 

神原優依ははっきりそう言って更に私を強く抱きしめた。

 

 

どうして?

 

 

 

どうして私に優しくするの?

 

 

訳が分からなかった。今まで私は神原優依に対して怖い思いばかりさせてきた。さっきなんて殺そうとしていたのに。

 

 

それを涙ながらに目の前の彼女に伝えると少しキョトンとした後

 

 

 

「俺には暁美さんが必要だからだよ」

 

そう言って綺麗な笑顔で微笑んでいた。その笑顔に思わず見惚れてしまう。

 

さっき言った言葉が頭の中で響いている。

 

 

-俺には暁美さんが必要だからだよ-

 

 

私を必要としてくれるの?こんな私を?

取り返しのつかない事をしてしまったのに貴女は私を必要としてくれるの?本当に?

 

 

 

「暁美さんって今までずっとまどかのために頑張って来たんだよね?それって本当に凄いことだよ!」

 

 

 

「シロべえは無駄って言ったけどたった一人の友達のためにここまで尽くせるってそうそう出来る事じゃない。暁美さんはとっても優しくて友達思いなんだね!その思いは絶対無駄なんかじゃないよ!!」

 

躊躇っていた私に神原優依、いいえ優依は優しい言葉をかけてくれた。

その一つ一つの言葉が私の胸に染み込んで涙が出てくる。

けど今度はさっきまでの絶望の涙じゃない。今まで流すのを我慢してきた分の涙だ。

 

 

「今は泣こう。辛い事も悲しい事も全部涙に流そうよ」

 

許しの言葉を聞いてそろそろ限界が近い。引っ込めようとしても次々に涙が出てくる。

 

「今までホントによく頑張ったね暁美さん」

 

労りの言葉を聞いて今までため込んでいたもの全部吐き出すように大声で泣いて優依にしがみついた。泣く私に戸惑いながらも優依は優しく抱きしめてくれた。

 

 

 

ようやく泣き止んだのはそれから数時間後の事だった。

今ある温もりから離れたくなくて優依にしがみついてたけど彼女に促され私は顔を洗う事にした。その顔は泣き腫らして酷いものだった。

 

 

その後に部屋へ戻って優依の温もりを感じたくて隣に座りながらインキュベーターの話を聞いた。大方私の目的と同じ。そして目の前にいるインキュベーターは本当に感情を持っている事も分かった。少なくとも優依に対する思いは本物だと感じる。それ程この生命体の声に迫力があったから。

 

気は合わなさそうだけれど向こうもそれは一緒みたい。お互いひたすら牽制のしあいをしていたから。

 

 

 

 

その後色々話していると優依が突然私の手を取って綺麗な顔をずいっと寄せてきた。

その整った顔が間近にあって恥ずかしい。これで前世が男だなんて信じられない!

 

 

-暁美さんの事応援してるよ!-

 

-もう一人じゃないよ!-

 

-君は友達思いの最高の魔法少女だよ!俺が保証する。他の奴らがなんと言おうと胸を張って言い切れる!だからまどかを救うために一緒に協力しあわない?-

 

-俺、暁美さんに興味がある。君の事もっと色々知りたいし、支えたい。駄目かな?-

 

 

優依は私が欲しかった言葉を綺麗な声で次々と言ってくれた。

 

 

どうして今、私を口説いてるの?

凄くドキドキするからやめて欲しい・・!

 

 

でも、もっと言ってほしいとも思う・・

優依から褒めてくれるのは凄く嬉しいの。舞い上がりそうになるくらい。

 

もっと私を褒めて

もっと私を見て

もっと私に興味を持って

もっと私を知って

 

もっと私を好きになって?

 

 

「一つお願いがあるの」

 

気付けば私はそう口にしてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ここへ貴女を連れてきたのは二人で話がしたかったからよ」

 

「え?」

 

「そうじゃないとあのインキュベーターが割り込んでくるでしょう?」

 

 

魔女の結界の中、どうにか渋る優依を説得し一緒に来てもらっている。

あのインキュベーターは私の考えている事を見越していたのが癪だけど都合がいい。二人っきりになりたかったのは本当だもの。

 

 

 

でもそれだけじゃない。

 

 

 

「・・ホントはまだ気持ちの整理がついてないの」

 

全ての真実を知った今、この暗い気持ちのまま一人で魔女を狩る事が出来るのか分からない。

 

何かに縋りたかった。

 

 

そしてもう一度自分を振り返りたくなってしまった。

 

 

だから私は包み隠さず全て優依に打ち明ける事に決めた。

 

 

 

「・・私ね昔は自信がなくていつも人に迷惑ばかりかけてたの」

 

昔の自分を語るのはとても辛い。思い出したくもないほど。

 

おそらく優依は知っているだろうけどどうしても自分の口から彼女に伝えたい。

 

今までの事を、全て。

 

まどかのように優しい優依に懺悔するように。

 

でも口に出せば出すほど自分の身勝手さが嫌でも分かる。自己嫌悪で吐き出しそう。

結局私は自分の我儘で多くの人の人生を踏みにじってしまったんだ。

 

こんな私醜い!

 

優依の綺麗な瞳には醜い私が映っているに違いない・・!

 

 

 

「暁美さん!」

 

 

! どうして・・?貴女は・・私を?

 

 

「暁美さんが心配だったからだよ。そこまで自分を追い詰めないで」

 

優依は再び私を抱きしめてくれた。この娘に抱きしめれられると安心してしまって枯れたと思っていた涙がまた出そうになる。

 

 

どうして貴女はこんなに優しいの?これ以上優しくされてしまったら私もう戻れない!

 

 

「俺思ったんだけど『まどか』が過去の自分を助けて欲しいって言ったのは暁美さんを助けるためについた嘘なんじゃないかな?」

 

 

最初何を言われたのか分からなかった。

 

優依は私に分かるように説明してくれた。まどかの優しい性格の事。この時間軸のまどかの優しさの事も。

 

 

『キュゥべえに騙される前の馬鹿な私を助けてあげてくれないかな・・?』

 

まどかにこうお願いされて私は必ず助けると約束した。

 

『良かった・・・』

 

だからあの時のまどかのどこか安心したような表情は過去を変えれば自分が助かるからだと思ってたのに実は私が生きる事を選択した事に安心したから?

 

 

・・確かにまどかならありえる。

そんな優しいあの娘だからこそ私は救うと決めたの・・!

 

 

友達になってくれた「まどか」はもういないけど、まどかを救う。

 

私にその事を気づかせてくれた優依の為にもね。

そしたら優依は私を抱きしめて褒めてくれるかもしれないから・・ね。

 

 

新たに決意を固めた私の手を取って優依は語りかけてくれる。

また恥ずかしくなるくらい私を褒めていたけど最後に言った言葉は耳を疑った。

 

 

「暁美さんだからこそ俺、自分の秘密を打ち明けたんだ。シロべえ以外に話すの初めてで緊張したよ」

 

!?

 

それを聞いた瞬間、私は瞬時に優依の肩を掴む。

 

この秘密は私しか知らないの?そう優依に聞けば彼女は戸惑いながらも首を縦に振った。

 

 

「・・・そう、魔法少女では私だけ・・ふふ」

 

思わず笑みがこぼれてしまう。

 

だってそうでしょう?

インキュベーターの話は佐倉杏子と巴マミは優依に対してかなり重い愛情を向けているように聞こえたもの。

あの佐倉杏子が誰かに自分の手作りの贈り物を渡すなんて聞いたことが無い。

余程優依を自分のものだと主張したいみたいね。

 

さっきまでは埋められない過ごした時間の差にやきもきしていたけど心配する必要はないみたい。

一緒にいた時間よりどれだけ仲を深められたかにかかっている。

そういう意味では私は彼女達よりリードしている。

私に彼女達でも知らない秘密を打ち明けてくれた事が何よりの証拠でしょう?

 

 

優依がまた私に優しい言葉をかけている間もずっと一人優越感に浸っていた。

 

友達呼ばわりした時は眉をひそめたけど許してあげる。

今は時間があまりないから出来ないけど「ワルプルギスの夜」を倒した後はじっくり堕としてあげるわ。

私だけを見るようにね?

 

 

 

しばらく話し込んでいると周りが騒がしくなってきたから優依との甘い時間はこれでお終い。

魔女狩りを始めないといけない。

億劫になりながらも銃を構える。

 

 

 

・・そうだわ。今の内に口止めしておかなくちゃ。

 

「・・一つ約束してちょうだい」

 

そう言うと優依は不思議そうに私を見ている。そのあどけない姿は本当に可愛らしい。

 

 

 

 

『君も気を付けないとあっという間に飲み込まれるから注意した方がいい。・・既に手遅れみたいだけどね』

 

ええ、手遅れよ。私は優依が欲しい。

 

佐倉杏子にも巴マミにも渡しはしない。

秘密を知ってる私こそが優依の特別なのだから。

 

 

 

「この先貴女の秘密を魔法少女、いいえ他の誰にも話しちゃだめよ?約束出来る?」

 

 

 

優依の秘密は私だけのもの

 

私とあの娘を結ぶ大切なものだもの

 

私が優依の一番の理解者

 

 

他の魔法少女に教えてやるわけにはいかないわ

 

 

 

一指し指を口に当てて微笑んだ。絶対に守ってちょうだいね?

 

 

 

『一緒にここから帰ろう!』

 

そうね、一緒に帰りましょう。ようやく私は迷子から抜け出せたんだもの。

 

私の帰る場所は優依の傍。いつまでも貴女の傍にいるわ。

 

気付かれないように優依を見ながらうっとりと微笑んで銃を使い魔に向けて撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから時間はかなり経った。

 

 

 

「・・・おかしい」

 

戦闘中だというのに思わず口に出してしまう。それだけ今の状況は異常だ。使い魔にあれだけ銃弾を浴びせたのに全くダメージが通った気がしない。

 

この魔女他の時間軸ではあまり強くなかったはずなのに一体なぜ?

 

 

 

「!? しまっ」

 

 

 

想定外の事態に焦った隙に使い魔が変化させた鎖で私を雁字搦めにして捕える。

 

 

「くっ」

 

 

身動きが取れない・・!何て力なの!?

 

 

抜け出そうとするも鎖はビクともせずそればかりか更に私をきつく縛り上げた。

 

それまで静観していた魔女がゆっくりと私の前まで降りてくる。勝ったと確信したのだろう。

 

油断した訳じゃないのにどうして?

何故この魔女はこんなに強くなっているの?

これもこの時間軸のせい?私は無意識に前と同じ世界だと誤認していた?

 

 

何馬鹿な事を!!

ここで死んでしまったらまどかを助けるどころか優依まで死んでしまう!

 

何とか抜け出さなければ!

 

もがいている間に魔女の傍に控えていた使い魔が剣に変身して狙いを私に定めて放ち全てがスローモーションに見える。もうすぐあの剣は私の心臓に突き刺さるでしょう。覚悟を決めて瞼を閉じる。

 

 

ごめんなさい優依。私ここまでみたいね。

どうか今の内に逃げて。

外にはあのインキュベーターがいるからなんとかなるでしょう。

巻き込んでしまってごめんなさい。

もっと貴女と一緒にいたかった。

 

救えなくてごめんなさい・・まどか

 

 

 

ドスッと何かが突き刺さる音がした。

 

「?」

 

なのに何の痛みもない。どういう状況なのか知るために再び瞼を開けて視界に入った光景に目を大きく見開く。

 

 

 

「そん・・な・・どう、して・・?」

 

 

今見ている光景が信じられない。信じたくない・・!

 

 

「いや・・いやよ・・・」

 

 

私の前に優依が背中を向けて立っていた。

 

 

 

「優依・・いやあああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

私を貫くはずだった使い魔の剣は優依の背中から見えるくらい彼女を深々と突き刺していた。




優依ちゃん死す!?
あのへタレが何を思ってこんな事をしたのかは次回の話で分かります!
でもこれほむほむトラウマになりそうですねw
過保護になりそうw


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42話 少女の答え

前回の話の感想を見てて誰も優依ちゃんの安否心配してなくてめちゃくちゃ笑いましたw

むしろ自己犠牲なんて優依ちゃんのキャラじゃない!と彼女の行動を不思議がってる方までいる始末w

まあ自己犠牲キャラじゃないですしね優依ちゃんはw


ほむらside

 

 

「優依・・!いやぁ・・どうして、こんな・・・!?」

 

 

私の目の前には使い魔が変化した剣で心臓を貫かれた優依が力なく倒れている。動く気配はなくその代わりに彼女の周りには血の水たまりが出来上がっていた。

 

「っ!離しなさい!離してよ!離せ!!」

 

急いで優依の傍に向かおうとするも私を拘束する鎖を振りほどけずただガシャンガシャンと音を立てていてビクともしない。

 

「優依!私の声が聞こえる!?お願い返事して!!」

 

鎖を引きちぎろうともがきながら優依に呼びかけてみるも返事がない。最悪の事態が脳裏によぎって涙が出てきた。

 

 

「優依・・お願い・・私を独りぼっちにしないで・・置いていかないで!」

 

 

涙声で倒れているあの娘に懇願しても返事はなかった。頬に涙が伝うのが分かる。ギッと怨敵の魔女を睨むも今の私にはあの魔女を倒すどころか触れる事すら出来ない。

 

「っ!」

 

再び使い魔が剣に変化して私に狙いを定めている。今度は優依を貫いた剣よりも大きくかなりの数がある。それらが全て私に切っ先を向けて迫って来た。

 

ガシャンガシャン

 

急いで振りほどこうにもさっきよりキツく拘束されてしまって身動きとれない。

 

「く!」

 

鎖から目を上げれば既に目の前に剣が迫っている。どうやらここまでのようだ。

 

優依・・私もそっちに行くから待っててちょうだい。

 

覚悟を決め今度は目を閉じずしっかり剣を見る。

 

 

「ッ!? 何!?」

 

 

剣が私に触れる瞬間、視界が真っ白に塗りつぶされて何も見えなくなった。

 

「う・・!」

 

いや違う!真っ白に見える程のとてつもなく強い光がこの結界内全体に広がっている。あまりの眩しさに目を開けるのもやっとなくらいだ。

 

「・・え?」

 

私を拘束していた鎖がみるみる内に解けていく。それどころ逃げるように後退している。

 

ひょっとしてこの魔女は光に弱いのかしら?

 

確かに今までの時間軸で戦った事があるあの魔女は暗闇を好んでいた。周りが暗闇になればなるほど強くなる性質かもしれない。なら光を浴びれば弱くなるのも当然ね。

 

それにしてもこの光は一体・・?

 

! そんな事気にしてる場合じゃない!

急いで優依を探し出して治療しなくては!魔法を使えばまだ間にあうはず!

 

優依を見つけるためあたりを見渡そうにも結界全体が光で覆われているので薄目しか開けられず視界は悪く方向感覚も曖昧になっている。何度も時間停止して優依を探すも見つからない。

 

 

「優依!どこ!?すぐ治療するからもう少しだけ待ってなさい!」

 

「$※*%@!」

 

「!? 邪魔しないで!!」

 

 

手探りで優依を探すも立ちはだかるように魔女が私の前に姿を現した。光を浴びて苦しいのか、がむしゃらに暴れまわってあちこち身体を叩き付けている。近くに優依がいるはずだから巻き込まれてしまったらひとたまりもない。

 

先に魔女を倒さなくては。

 

盾の中からショットガンを取り出して魔女に向けて数発発砲する。

 

 

 

「--------------!!」

 

「・・効いてる」

 

さっきまでどれだけ銃弾を浴びせてもダメージがなかったのに今は嘘のように魔女の身体に貫通しており、魔女は痛みのあまり絶叫している。トドメは今の内にした方が良さそうね。

 

ガチリと盾が音を立てて時間を止めその間に出しておいた手榴弾を数個魔女に向けて投げた。まだ時間停止解除まで時間はある。

 

「優依!」

 

全ての時間が止まる中、光の中の結界を走り回るも優依の姿が一向に見つからない。視界はほぼ白一色で何も見えず焦りばかり募っていく。

 

 

「まずい!時間が・・!」

 

背中で爆発音が聞こえて時間停止が解除された事を知る。それと同時に空間の揺らぎが出てきてもうすぐ結界が消える事を悟った。

 

 

「待って!まだ優依が・・・・え?いない・・?」

 

謎の光も次第に弱まってきたのですぐに地面を見るもどこにも優依は倒れていなかった。

 

 

「どこにいったの・・・?」

 

完全に光が消えてかなり揺らぎ始めた結界を見渡すも優依はいない。呆然とする中、結界は完全に消滅し私一人が元の場所に戻っていた。

 

 

「優依・・」

 

ズルズルと地面に座り込んで愕然となる。

 

『魔女の結界内で死ぬと死体は残らない』そう頭の中で反芻している。

 

 

 

「あ・・ああ・・あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

地面に何度も拳を叩き付ける。血が出ようと関係ない。

 

やり場のない怒りが今の私を支配し暴れまわっている。

 

 

分かってた。分かってたはずなのに!

 

『結界内で死ねば死体は戻ってこない』

そんな事嫌という程知っているのに!

 

そもそも魔女の結界は一般人が入るような場所じゃない!

 

それなのに私の我儘で優依を無理やり結界内に引っ張り込んだ。それ程強くない魔女と油断したが故に力量を見誤って拘束されてトドメをさされそうになって、そしてあの娘が私を守ってくれた。自分の命と引き換えに。

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 

無意識に盾に手をかけるもすぐ思い留まる。時間遡行してもたどり着くのは並行世界。過去に行くわけじゃない。そしてどの時間軸にも優依はいない。この時間軸にしか存在しない。

 

どこにもいない。あの娘はもういない。

 

「優依・・・」

 

 

ポタポタと地面が濡れる。雨かと思ったけどそれは私の涙だった。

 

「うぅ・・うぅぅ」

 

涙だと気付くと堰を切ったようにとめどなく目から溢れてきて抑えられない。

 

 

優依と出会えて私はようやく終わりの見えない迷路から抜け出せた。

これからずっと彼女の傍にいて色んな思い出を作るんだと思ってた。

気持ちを自覚したばかりなのに。

 

ずっと一緒にいたかった

私を見ていて欲しかった

もっと私を抱きしめて欲しかった

 

「貴女の事が好きなのに・・・!私なんて庇わないで欲しかった!傍にいてくれるだけで良かったのに・・」

 

 

言えなかった私の気持ち

 

 

どんなに泣いても優依はもういない

私のせいだ

私が殺したようなものだもの

 

「優依・・・」

 

返事があるはずもないのに名前を呼んでしまう。夜遅いため周りは暗くとても静かでそんな場所で私は一人座り込んで顔を俯かせていた。

 

 

 

 

 

『----------だよ!』

 

 

「え・・・?」

 

遠くから誰かが話す声がかすかに聞こえる。聞き覚えのある声にわずかな期待感を込めて聴覚を強化して聞き耳を立てる。

 

 

『---------それ俺の------じゃねえか!!』

 

「・・・ウソ・・・」

 

拾った声は聴きたくて堪らなかった優依の声だった。気付いたら私は無意識に声のする方に走っていた。

 

幻でもいい!もう一度優依に会えるなら!

 

その想いだけで無我夢中に走る。

 

 

「ふざけんなよ!」

 

「!  優依」

 

ようやく声がした場所にたどり着くと目を見開いた。優依がいる。怒っているようで彼女が連れていたインキュベーターの首根っこを掴んで揺すっていた。

 

 

その元気な姿に安堵と同時に激しい怒りが湧いてくる。ドスドス音を立てて一悶着中の優依に近寄った。

 

「優依!」

 

「あ、暁美さん!無事でなにより・・ !?」

 

足音で私に気付いたらしい優依がこちらに振り返り微笑んでいるのを無視して肩に指が食い込むくらい強く握りしめる。

 

怒りが抑えられない。

 

「どうしてあんな事したの!?」

 

「え?だってあのままだと暁美さんやられてたし・・」

 

「だからってあんな馬鹿な事しなくていいじゃない!」

 

「すみません!」

 

涙目で私に謝っている。その間に優依の胸の部分を見てみるも貫かれた傷跡どころか血も出てないし服も破けていない。優依は私の目の前で心臓に剣が突き刺さり血も流れていたはずなのに・・?不可解な事に首を傾げる。

 

「どういう事?さっきのは一体?」

 

独り言で疑問を口に出してみるとそれを聞いたらしい優依が納得した顔で笑っていた。

 

 

「あ、ひょっとしてさっき俺が貫かれた時の話?あれはシロべえが・・ふぐ!」

 

 

その言葉を聞いて一つの可能性が思い浮かんでしまい優依の胸倉を掴む。

 

 

 

「貴女・・まさか契約したの!?なんて馬鹿な事を!魔法少女の末路を知っているのにどうして!?」

 

私を助ける前後のどちらかで契約してたとしたらこの奇跡のような復活劇に説明がつく。

 

この娘はまどかのように優しいから「私を助けたい」などと願って契約したのだろう。リスクを承知で契約した優依と予想できなかった自分に腹が立つ。

 

そしてインキュベーター。優依を友達だと言っていたくせに何故止めなかった?

 

横目で近くにいるインキュベーターを睨む。私の凄みに奴は「ひっ」と軽く悲鳴をあげていた。

 

 

「ち、違うよおおお・・契約してないから!あの時はああするしかなかったんだ!シロべえのおかげで今生きてるようなもんだよ!!」

 

息も絶え絶えで契約していない事を優依は弁明していた。その言葉を聞いて事情を悟った私はそっと優依を降ろす。酸素を求めて咳込むこの娘を見つめながら顔を俯かせて下唇を噛んだ。

 

優依はどうやら私を庇って負った傷をこのインキュベーターに治してもらったようね。謎の光もコイツの仕業に違いない。

アイツらの技術力ならそれくらいたやすいはず。

余程信頼しているみたい。だって一歩間違えたら死んでいたかもしれないのに。

 

場違いなのは分かっているけど嫉妬せずにはいられない。

 

簡単に命を投げ打てるくらい優依はこのインキュベーターを信頼しきっている。魔法少女では私が優依の特別になれるかもしれないけど到底アイツには勝てない。

 

 

インキュベーターに対する殺意を抑えようと耐えていると突如、甘い香りを放つ暖かい何かに包まれた。

 

「優依?」

 

優依が私を優しく抱きしめて頭を優しく撫でている。何故こんな事するのか分からなくて混乱してきた。

 

 

 

「暁美さんが無事で本当に良かった!」

 

「え?」

 

「助けられて良かった!生きててくれて本当にありがとう!」

 

「うぅ・・」

 

慈愛に満ちた表情で私に微笑んでいる。その瞬間全てを悟った私の目から涙が溢れてきた。

 

 

優依にとって私は命をかけてでも助けたい大切な存在なんだ。

 

だってあれだけ私に銃を向けられて怯えていたこの娘が死んでしまうかもしれない程危険な事をするのはそれだけ私が大切だという事でしょう?

 

今まで沢山の時間軸を巡って来たけど私を必死に庇って助けようとしてくれたのは優依が初めて。

まどかでさえ守ってもらった事があるけどそれはあの娘が魔法少女だった場合だ。

でも優依は魔法少女じゃない。ただの一般人なのに私を助けようとしてくれた。

 

その事実が今まで感じた事がないくらいの幸福感で私の心を満たしていく。

 

 

「暁美さん?」

 

優依の背中に手を回して抱き寄せる。

 

 

 

「ほむらって呼んで?」

 

いつまでも苗字呼びに不満があったからこの機会に私の名前を呼んでほしい。

 

「えっと・・ほむら?」

 

「何?」

 

「いや・・その大丈夫?」

 

「大丈夫よ。今はこうさせて?」

 

「いいけど・・」

 

生きている優依を少しでも感じようと心臓近くに顔を寄せる。ドクンドクンと鼓動が聞こえ、確かにこの娘が生きている殊に歓喜している自分がいた。

 

 

優依が好き。・・これじゃ駄目ね。

「好き」じゃ全く足りない。

 

まどかが幸せなら私はどうなっても構わないと思ってた。今もそれは変わらない。

でも優依が勝手に幸せになるのは嫌。私の傍で幸せになってほしい。

 

我儘ね私、でもこんな風にしたのは優依。責任とってもらわないと。

 

優依のためにこの身を捧げるからどうか私から離れないで。

 

 

「貴女が無事で本当に良かった」

 

 

優依、貴女を愛してるわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

 

さっきまでの曇り空のような脳内に突如日の光がさした。もしこれがアニメなら頭に豆電球がついてるだろう。あ、この世界アニメだったわ。ではなくてようやく思い出した。「園児の落書き」ことあの魔女の名前を。

 

 

確か「暗闇の魔女」だ!

 

そうだ!そんな名前だった!

名前だけならラスボス級の強さのイメージだが実際の見た目は金平糖に手足くっつけた凄い弱そうな感じでその外見と名前のギャップのインパクトが印象に残ってたんだ!

 

 

魔女図鑑にもそんなに脅威じゃないとか書いてあったな。なるほど!これなら俺も安心だ!無事に帰れるだろう!胸のつっかえも取れたし気分が良い。

 

そういや思い出すのに必死で見てなかったけどほむらはどうしてるんだ?

発砲音も爆発音も聞こえないしどうなった?

 

「そんなに強くないってほむら本人も言ってたし大丈夫だろうって・・え?え!?あれええええええええええええええええ!?」

 

ルンルン気分で顔を上げて戦況を確認するとほむらが鎖で雁字搦めにされて今にもトドメをさされそうな状況だった。思わず二度見するも幻覚ではないようだ。

 

おいマジかよ!!

あの魔女って弱いんじゃないのかよ!?もしくはほむらが弱いのか!?

暗闇じゃなきゃあの魔女はそれほど強くないって・・あれ?

そういえば結界に入る前周り物凄く暗かったような?

街灯今にも停電しちゃいそうだったしな・・ヤバいじゃん!!

 

 

結界内の街灯に隠れながら必死に頭をフル回転させる。

 

 

俺が助けに行くのは・・・無理です!嫌です。死にたくない。

でもこのままじゃほむらが死ぬ!そして俺も死ぬ!何とかしなくては!

 

応援は無理だ。

ほむら今身動き取れないし、何よりアイツ攻撃力皆無に等しいから自力で抜け出すの無理そう。

 

くそ・・こんな時にシロべえがいれば。  

 

! そうだシロべえだ!!

 

俺は必死にポケットの中を探る。確か昨日俺が風見野に出かける時にシロべえが作ったアイテムをいくつか持たせてくれたんだった。護身用にって。すっかり忘れてた。

 

「もっと早くに思い出してたら杏子の時も楽に魔女退治出来てたかもな・・おっと」

 

くれたアイテムはかなりコンパクトな物なので探すのに苦労したがようやく一つ取りだせた。

 

「・・なにこれ?」

 

俺の手に握っているのはキーホルダー並みの大きさの人形だった。胸にある赤いボタン以外何の特徴もないその人形に紙切れがついてある。どうやら説明書のようだ。

 

 

 

 

 

『身代わり君』

胸についてある赤いボタンを押せば押した本人とそっくりに変身する。大きさ・種族問わずに変身可能。服装からホクロやシミまで完璧に模倣します!命令通り動いてくれるけど一つの指示しか受け付けないので注意。使い捨て。

≪使用例≫

貴女を監禁しようと企てる病んだ魔法少女に襲われた時、囮として使用する。魔法少女が囮に気を取られている隙に逃げ出そう!

 

 

 

 

何だこの使用例?どんな特殊な例だよこれ?どんな場面だ一体?

 

 

シロべえは何を思ってこんな説明文にしたのか謎だがこれは使える。すぐに胸にある赤いボタンを押すとあっという間にその身代わり君は俺(美少女)の姿に早変わり。服装まで完璧に再現している。

 

「おお、すげー・・。それにしてもこの道具、どこぞの小学生ヒーローを沸とうさせるな・・・!?」

 

あまりの完成度に状況を忘れて感心してるとシャキンと金属音が耳に入った。音のする方に視線を向ければ剣に変身した使い魔が今にもほむらをその鋭い刃で貫こうとしている。

 

 

「や、ヤバい!行け俺!ほむらを助けるんだ!!」

 

 

ほむらの絶対絶命のピンチにテンパった俺は俺(身代わり君)に無茶な命令を下してしまった。俺(身代わり君)は無表情に頷いて信じられない速さでほむらの元に走っていきそしてほむらを庇うようにして貫かれた。

 

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああ!!」

 

「いやあああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

俺の目に心臓に剣がぶっ刺さった俺(身代わり君)がうつる。あまりの衝撃に俺とほむらの悲鳴が飛び交った。

 

 

トラウマになる!一生もののトラウマになるううううううう!!

何で自分が殺される姿を客観的に見なきゃいけねえんだ!!

他にほむら助ける方法なかったの!?

 

使い魔の剣を引き抜かれた俺(身代わり君)はそのまま地面に倒れ込みドクドクと周りを血の海にしていた。

 

 

そんな所まで再現せんでいいわ!シロべえの奴、無駄にこりやがって!!

 

 

ほむらが俺(身代わり君)に向かって何か叫んでいるがそれ本人じゃないです。本人街灯の後ろに隠れてます。

 

 

ほむらが喚いてくれるおかげでこっちはすぐに冷静になる事が出来た。再度ポケットを探る。さっきの攻撃は防げてもまた次があるのは目に見えている。対抗手段になりそうなアイテムを使わなければ。

 

 

「暗闇の魔女」は光が苦手だったはず。何か明かりを灯すアイテムはないだろうか?

 

 

「よし、あった」

 

出てきたのはさっきのキーホルダーより小さい懐中電灯だった。急いで説明書に目を通す。

 

 

 

『ぴかりんライト』

明るい所を照らすのに便利な超コンパクトな小型ライト。光の調節は可能で最大にすると大きな部屋もこれ一つでめっちゃ明るい。嫌いな相手の目潰しにも使えるよ!(光調節最大の場合サングラス着用推奨)

≪使用例≫

貴女に発情した病んだ魔法少女に襲われた時、相手に向かってこのライトの光を向けると目潰しとして使える。魔法少女が眩しさで怯んだ隙に逃げ出そう!

 

 

 

だから何なんだこの使用例!?あるか!こんなありえない使用例!何で魔法少女に襲われる前提なんだよ!?

・・・ふざけた説明書はともかくこれさえあればあの魔女を弱体化できるかもしれない!

 

 

すぐさま光を最大に調節して説明書の付属でついていたサングラスを装着後、ライトのスイッチを入れる。

 

 

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!目があああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

突然目に衝撃が来てライトを放り投げてしまいそのまま目を押さえて地面をのたうち回る。あまりの痛みに目が焼けただれそうだ。

 

何が『ぴかりんライト』だ!

微笑ましいネーミングの割には発光量エグイわ!!目が物凄く痛い!!

これサングラス推奨じゃない!必須だ!!そもそもサングラス意味ないくらい目痛いんですけど!?てかつけてたサングラスどこいった!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぎゃああああああああああああああああああ!!」

 

 

「・・・・・何やってんの君?」

 

 

「・・・・え!?シロべえ!?何で!?あれいつの間に結界出てたの俺!?」

 

 

 

どのくらい時間が過ぎたか分からないがのたうち回ってたら横から氷みたいな冷たい声が聞こえた。塞いでいた手をどかせると俺のすぐ近くでシロべえが寛いでた。心なしか俺を見る無機質な目がごみを見る目つきに見える。

 

 

「何やったら地面のたうち回りながら結界から出てくるのさ?ほむらはどうしたんだい?」

 

「いや、あれはお前のアイテム使ったからで・・ほむらどこだろ?」

 

 

辺りをキョロキョロ見渡してみてもほむらの姿が見えない。まさか死んでたとか?

 

 

 

『あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』

 

 

 

「ひい!?」

 

「どうやら彼女も無事なようだね」

 

遠くで女性の絶叫が聞こえたので悲鳴をあげるもよく聞くとほむらの声だった。無事で何よりだが今近づいたらヤバそう。触らぬほむらに祟りなしだ。

 

 

「つうかシロべえ、俺に持たせたアイテムは一体何だ?どういった意図で作ったんだよ?」

 

「おや?僕の作ったアイテムを使ったのかい?あれらは全て君にとって必要になると思ってね。どうだった?なかなか役に立つだろう?」

 

「そうだね。軽く一生のトラウマが出来たくらいすごかったよ」

 

「君はすぐにトラウマが出来るでしょ?全くこれだからへタレは」

 

「お前あの光景見てないからそんな事が言えるんだよ!!」

 

 

 

思い返すのは自分の姿した奴が剣で貫かれて血がドバドバ出ている光景。思い出しただけで震えてくる。

 

 

 

「やれやれ心外だね。かなり拘って作った自信作なのにそんな言い方されるなんて傷つくよ」

 

「やかましい!また妙な所に拘りやがって!お前が寛いでる間こっちはピンチだったんだぞ!そもそもお前何でまた食べてんだ!?それ俺のポテチだろ!?隠しておいた期間限定の塩胡麻油味じゃねえか!!」

 

 

シロべえの前には封を開けたポテチ袋が転がっている。食べたいと思ってスーパーをはしごした苦労が水の泡だ。

 

 

「上手に隠さない優依が悪いんだよ。優依の食べ物は基本僕の物、僕の食べ物は絶対僕の物さ」

 

「お前ふざけんなよ!」

 

「きゅぷ!」

 

 

 

ギャーギャーくだらないやり取りをしているとタタタと誰かがこちらにかけてくる音が聞こえてくる。おそらくほむらだろうが今はそんな事関係ない。

 

 

 

「優依!」

 

「あ、暁美さん!無事でなにより・・ !?」

 

そのままムカつくシロべえの首根っこ掴んで凄んでいると血相を変えたほむらがやって来て俺の肩に指が食い込むくらい掴んできてめっさ痛い。

 

 

 

「どうしてあんな事したの!?」

 

 

いつものクールさが嘘のような般若みたいな顔していて怖い。あの化け物級の発光の事だろうか?正直あれはすまんかった。俺も想定外。でもあれのおかげで多分勝てたようなもんだしそんなに怒らんで欲しい。

 

 

「え?だってあのままだと暁美さんやられてたし・・」

 

「だからってあんな馬鹿な事しなくていいじゃない!」

 

「すみません!」

 

 

何とか言い訳して逃れようとするも一喝されて涙目で平謝りする。そんな俺をほむらはじろじろと見ていたがやがて首を傾げていた。

 

 

「どういう事?さっきのは一体?」

 

ほむらのこの一言で俺は勘違いに気付いた。

 

どうやらコイツは俺が庇って重傷を負ったと思い込んでいるらしい。だから無傷の俺が不思議に見えるのだろう。思い込みが激しいところはあると思っていたがなかなか厄介だ。

 

 

ここは一つ、誤解を解いた方が良さそうだ。

 

 

「あ、ひょっとしてさっき俺が貫かれた時の話?あれはシロべえが・・ふぐ!」

 

「貴女・・まさか契約したの!?なんて馬鹿な事を!魔法少女の末路を知っているのにどうして!?」

 

 

 

俺の胸倉を掴み宙ぶらりんに持ち上げてくるので首が締まって息が出来ない!死ぬ!

 

どうしよう!?全然人の話を聞いてない!

さやかはその筆頭だけどほむらも大概だ!

実は似たもの同士なんじゃないのこの二人!?

 

まずい!意識が飛ぶ!

 

しかもほむらの奴、シロべえを殺しそうな勢いで睨んでるし、今にも発砲しそう!

何がどう転んだら俺が契約した流れになるんだ!?

思い込みもほどほどにしろ!

せめて契約の誤解だけは解かないと!

 

 

「ち、違うよおおお・・契約してないから!あの時はああするしかなかったんだ!シロべえ(のアイテム)のおかげで(俺ら)今生きてるようなもんだよ!!」

 

 

息も絶え絶えで俺とシロべえの潔白を証明し、ようやく解放された。不足した酸素を求めて深呼吸を繰り返すが顔を俯かせて沈黙するほむらが怖過ぎて上手く呼吸できない。よく見るとぷるぷる震えてるし爆発寸前に見えなくもない。

 

ほむら怒ってる?何に?

 

怒っている原因は分からないがこのまま爆発させるのはまずい。早急に意識変革を行う必要がある!

 

俺はほむらを抱きしめて頭を撫でた。突然の事態にほむらは混乱気味に「優依?」と呟いている。

 

作戦成功!

人間想定外の出来事に出くわすと身動き取れないというからね!

 

よし!

このままほむらを宥めてなあなあにしてしまおう!

 

 

「暁美さんが無事で本当に良かった!」

 

「え?」

 

「助けられて良かった!生きててくれて本当にありがとう!」

 

にっこり笑ってほむらを見た。

 

もちろん本心から言っている。

だってここでほむら死んでたらこの先どうやって生き残ればいいか分からんもん。

 

マジ長生きしてください!

そして無事ワルプルギスの夜を倒して俺に平穏をお与えください!

 

「うぅ・・」

 

俺の顔を不思議そうに見ていたほむらは本日急速に目に涙を溜めて一気に頬に流し、そのまま俺の背中に手を回してぎゅっと抱きついた。

 

え?何がやりたいのこの娘?

 

 

「暁美さん?」

 

「ほむらって呼んで?」

 

誰だコイツ?

本当にあの「暁美ほむら」なのか?

 

「やだ」と言いたかったがほむらが懇願するように俺を見つめているので心折れて仕方なく名前で呼んでみる。

 

 

「えっと・・ほむら?」

 

「何?」

 

「いや・・その大丈夫?」

 

「大丈夫よ。今はこうさせて?」

 

「いいけど・・」

 

大丈夫じゃなさそうだ。キャラ崩壊にも程がある。

 

 

「貴女が無事で本当に良かった」

 

そう言って更に俺をキツく抱きしめてくる。あまりのキャラの変わりように鳥肌がたってきた。

 

一瞬偽者かと思ったが俺に当たっているまな板みたいな胴体が嫌でもコイツをほむらだと断言してしまっている。

 

≪ミッションコンプリート!暁美ほむらGETだぜ!!≫

 

隣にいる白い奴にSOSの視線を送るも素かわざとか分からないがスルーされ代わりにふざけたテレパシーが送られてきた。

 

 

まあ、元はアニメと言えどここが俺の生きる世界だし想定外な事もあるだろう。

 

どうやらこの世界のほむらは少し(かなり)甘えたでキャラ崩壊しているがそれも個性だ。

色々あったがこれから先、一緒に頑張って生き残らなくちゃいけないから内面を知れて良かったと思う。

 

あとさっきの怒りもなあなあに出来たし仕方ないか。

 

俺はそっと溜め息を吐いて苦笑いしながらほむらの頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば」

 

「何?」

 

「携帯番号教えてよ。この前住所教えてくれたけどこっちは教えてくれなかったじゃん」

 

抱きついてくるほむらから離れるための良い理由になるのと今後テレパシー以外の連絡手段も必要になるだろうと思うので今のうちにほむらから番号を聞き出そうと思い話を振ってみた。

 

携帯電話を取り出しほむらに向けて促す。なのにほむらはキョトンとしてこっちを見るばかり。まさか・・。

 

「・・・ほむら?」

 

「それはどう使うのかしら?」

 

「!?」

 

ほむらの事で分かった事がもう一つある。携帯電話の扱いはマミちゃん以下という事だ。




優依ちゃん庇うどころか動いてません!
強いて言えば目が痛くてのたうち回ってたくらいです!

でも紫は完成しました!
何がとは言いませんが完成しました!
これで優依ちゃんの平穏はまた遠のいていきました!

次は番外編出来るかな?
・・・・・・・・番外編投稿出来るかな?


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番外編 もしも神原優依が魔法少女になる前の佐倉杏子に出会ったら②

多忙を極め感想の返事を返せなくてごめんなさい!
近いうちに返事はしますので!

なお、投稿だけは死守する所存なのでご安心を!


杏子ちゃんIFシリーズ続きです!
忘れた人、知らない人は番外編の章にある一話を読んであげて下さい!
その内これも番外編の章に移動します!


どうする?どうすんの俺?

 

俺は今究極の選択を迫られている。

 

ここは破滅都市「見滝原」の繁華街にあるとあるスーパー。

主婦たちが安い食材を求めしのぎを削る戦場だ。我が家の台所を任されている俺もここで品を見極める目を養い群がるハイエナ達から割引のシールが貼ってある獲物を勝ち取る術を得た。今では猛者たちにも引けを取らないと自負している。

 

しかしそんな百戦錬磨の俺でも手を出せない大物は存在する。

 

そしてそれは今俺の目の前に立ちはだかっている。打つ手がなく立ち往生するしかない。

 

 

「くそ・・!まさか特産米三十㎏が超特売セールしていようとは・・!何故俺はこの情報を掴めなかったんだ!?」

 

 

そう、俺の目の前の棚には『超特売セール』の札が大々的に掲載された米がデンと鎮座していた。

 

A級品質でこの値段はありえない!

是非とも買っておきたい!

でも無理!三十㎏はキツイ!持って帰れない!

 

いくら俺の家がここから数分といえど運動神経皆無な女子の身体がこの重さを背負っていけるわけがない!途中でペシャンコに潰される未来しか見えねえ!

 

 

「ここは一旦引いて母さんが帰ってくるのを待つか?そしたら車があるし・・いやでもそれまで売り切れる可能性が高いし・・」

 

 

改めて件の米を見るも数は残りわずか。横目で確認するとたくましい主婦たちがヒイヒイ言いながら戦利品を持って帰っている。このままでは売り切れになるのも時間の問題だろう。母さんを待っている余裕はない。

 

「どうしたものか・・」

 

特売米の前で俺は一人頭を悩ませながら立ち往生するしかないのか?

 

 

 

 

「アンタ・・優依か?」

 

「!!?」

 

 

うんうん悩んでいた俺の背後にすごく聞きたくない声が聞こえた。その声に戦慄を感じ背中に汗が流れるのが分かる。

 

幻聴だよね?

だって最近の俺疲れてたし・・。

 

 

「やっぱり優依だ・・!優依!良かった・・やっと会えた・・!」

 

 

喜びを抑えきれないのか興奮気味な声をしているが語尾の方はなんだか泣きそうな感じだった。

 

駄目だ俺!振り向いたらアウトだ!

あくまで他人のふりをするんだ!

 

 

「後ろ姿に見覚えあったから、ひょっとしてと思ったんだ!あれから全然会えなかったから会えてすごく嬉しい!」

 

 

全部スルーしているのに後ろにいる奴はお構いなしに語りかけてくる。

 

冗談じゃない!俺は会いたくないんだよ!

貴様との縁は一週間前に切れたはずだ!

インターホンのモニターに赤い髪が映れば居留守使ったし街に出かける時は変装もしてた。

 

クソ!もう会わないだろうと油断してた時に来るなんて最悪だ!

 

 

「・・ねえ優依、何でこっちを振り向いてくれないの・・?何でなにも言ってくれないのさ?」

 

 

俺の脳が奴の正体を断定するのを放棄している。

 

嫌だ!どっか行ってくれ!人違いだ!

俺は優依なんて名前じゃない!

通行人Yです!

 

「・・・優依、アタシの事忘れちゃったの・・?」

 

今にも泣き出しそうな声に罪悪感で押しつぶされそうになるが、俺の命がかかっているのでこのまま諦めて去ってくれるまで無視を決め込むしかない。

 

諦めてさっさと帰ってくれ!

 

「!?」

 

しばらく膠着状態だったが突然背中に衝撃が走る。何事かと思って振り向くと先ほどから俺が無視を決め込んでいた奴、赤いポニーテールこと「佐倉杏子」が俺の背中にしがみついてた。

 

やられた!これでは嫌でもスルーする事なんて出来ない!声を掛けるしかねえじゃんチクショウ!

 

 

「・・何してるのかな?」

 

「優依!ようやく振り向いてくれた!何で返事してくれなかったの?」

 

 

顔が引きつる俺に対して満面の笑みを浮かべている杏子。こうなったら適当に相手してさっさとさよならした方がよさそうだ。

 

 

「ごめん。考え事してて、佐倉さ「杏子」・・杏子が話しかけてたの気づかなかった」

 

 

ただの知り合い程度だから苗字呼びしようとしたら鋭い目力で睨んできたので結局名前呼びになった。どうやらこの頃から原作の荒々しい気性の片鱗はあるらしい。

 

 

「そっか、考え事してたら仕方ないよね。良かった、てっきりわざと無視されたのかと思ってたからさ」

 

 

わざと無視してたんですけどね。

コイツと関わったら命がいくつあっても足りないし。

多分杏子は既に契約して魔法少女になってるだろうから関わりたくなかったんだけど。

 

 

しかしここで俺はとある事を思いついたのでにっこりと杏子に微笑む。

 

 

「ごめんね。私も杏子と会えて嬉しいよ」

 

「ホント!?」

 

 

嬉しそうに笑う杏子の肩をがっしり掴む。本当に会えて嬉しい。ベストタイミングだ!

 

 

 

荷物持ち発見☆

 

 

 

こうなったら魔法少女の身体能力を有効活用してやろうじゃないか!

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・大丈夫?水飲む?」

 

「はあ、はあ、だ、大丈夫・・はあ、はあ・・・・ぷは!」

 

 

俺んちのソファでぐったりしている杏子に水を差し出す。受け取った杏子は一気にそれを飲み干した。

 

さすがにお米三十㎏担がせて歩かせるのはまずかったか?いやでも魔法少女ならこれぐらい余裕のはず。実際原作の杏子は片手でさやかを持ち上げてたしどうなってんだ?

 

 

・・ひょっとしてコイツ契約してないのか?

 

 

「そういや優依、あの時はありがとう。アンタが作ってくれたサンドイッチとっても美味しかったよ。家族のみんなもすごく喜んでた」

 

 

先ほどの疲れがもう吹き飛んだのか乱れた呼吸をしなくなった杏子がにこっと笑って感謝の言葉を述べている。

 

 

「どういたしまして。・・あれから何かあった?」

 

 

俺は先ほどから思っている疑問を解消すべく遠まわしだが杏子に尋ねた。

 

 

「あれから・・?特に何も・・。ああ、アンタのおかげで父さん元気になってくれてさ、もう一度頑張ってみる!って立ち上がってくれてたんだ!・・成果はでてないんだけどね」

 

「え?ひょっとして・・またお腹空いてる?」

 

「うん・・アンタからもらったサンドイッチ以来あまり食べてないかな?」

 

 

そう言ってシュンと項垂れてしまった。

 

 

この杏子の様子といい、話の内容といい、まだ魔法少女の契約してないみたいだ。

よく見ると指輪もしてないしな。

 

これで決定的。杏子は人間のままだ。

 

何で?俺が阻止しちゃったからか?それで未来が変わったとか?

でもあのキュゥべえがそう簡単に諦めるとは思えない。

これからどうなんの杏子の未来?

 

ていうかどうなんのこの時間軸!?

原作始まってないのに早くも想定外だぞ!?

お先真っ暗じゃん!!

 

うわあああああああああ!!

メンドクセエエエエエエエエエエエ!!

契約阻止したのは悪かったけど先が見えない死亡フラグの奴なんかと関わりたくない!

とばっちりくらう前にご飯与えてさっさとお帰り願おう!

 

 

「ねえ、もうすぐお昼の時間だから一緒に食べようよ」

 

「え・・?でも・・」

 

「遠慮しないで?お腹空いてるんでしょ?すぐ作るから待っててね(食べたらすぐ帰れ)」

 

「・・・うん、ありがとう!」

 

嬉しそうな杏子を尻目に俺は一刻も早くコイツと縁を切るために大急ぎで調理を開始した。

 

 

 

 

「ご馳走様!優依はホントに料理が上手だね。とっても美味しかった!」

 

「どういたしまして(はよ帰れ)」

 

 

昼食後お互い向かい合って座りお茶を飲んでいる。

 

昼ごはん、杏子には

 

・鮭とレタスのチャーハン

・中華スープ

・牛乳プリン

※いずれも冷蔵庫にあった残り物の食材使用

 

を食べさせた。別にいいだろ?コイツは食い物を粗末にしない主義なんだから。

 

ちなみに俺は照りマヨ丼(高級地鶏使用)を食べた。超美味しかった。

 

 

「優依の手料理がまた食べられるなんてホント嬉しい!それに優依にまた会えるなんて神様には感謝しなくちゃね!!」

 

俺は邪神を恨むわ!

あんだけ杏子と会わないようにしてたのにひょっこり出くわすんだもん!

絶対アイツが絡んでるに決まってる!

 

それにしても目の前にいる杏子はよく笑うなあ。一週間前に会った時はあんなにおどおどしていたのに。

 

まあ、そんな事はどうでもいい。

早く杏子を追い払わないと最悪俺が食事提供する人認識されてこれからも関係が続くかもしれない!

それは絶対阻止!

 

「ねえ、そろそろ帰らなくて大丈夫?お父さんとお母さん心配してない?」

 

最終手段、親を持ち出す!

家族を大事にしている杏子なら必ず効果があるはずだ!

 

 

「・・・・・」

 

「杏子?」

 

 

さっきまであんなに笑顔だったのに一瞬で悲痛な表情に切り替えて俯いてしまった。何かまずい事言ってしまったのだろうか?とても気まずい空気が流れている。

 

 

「優依」

 

「何?・・うわ!?」

 

「アンタにはとても世話になったのにこんな事頼むのは図々しいと思ってる!恥を承知で頼みがあるんだ!」

 

「な、何かな・・?」

 

 

杏子がずいっと俺に顔を近づけてきてたじろいでしまう。

 

嫌な予感がする・・・。

頼みって何だ?これからしばらく食べ物恵んでくれとかか?

やだ。絶対断ろう!

 

即決断して次の言葉を待っているとしばらく躊躇っていたが意を決した杏子が口を恐る恐る開いた。

 

 

 

 

「アタシの父さんの話を聞いてくれないかな?」

 

 

予想より嫌な頼みだった。

 

 

ホントに図々しいお願いなんだけどおおおおおおおおおおおお!?

 

何が悲しくてあんな脳内お花畑なおっさんの話を聞かにゃならんのだ!

厄介事の匂いしかしねええええええええええええええ!

コイツは(見た目)子供の俺に何させようとしてたんだ!?

俺を巻き込まないでくれ!!

 

「あのね、アタシは教会に住んでて・・」

 

超ド級の厄介な頼みごとを聞いた後、概ね知ってる杏子一家の境遇を悲壮感たっぷりに説明してくれたが罵詈雑言の嵐が脳内で吹き荒れる俺にとってはほぼ聞く気がなかったので半分スルー。

 

 

結論だけ言わせてもらえばお前の親父の自業自得としか言いようがないわ!

 

 

「すっごく苦しくて辛かったけど、優依と出会ってアタシ救われたんだ」

 

 

やめてくれない?そんな救世主を見るみたいな目で俺を見るの。

 

 

「嬉しかったんだ。みんなアタシ達を無視して冷たくするのに優依は初対面のアタシに優しくしてくれた」

 

 

杏子が俺をベタ褒めするたびに俺の罪悪感が募っていく。

 

真相は優しくしたんじゃなくて食べきれない食パンを押し付けただけだ。

あと俺もそのみんなと同じでアンタらと関わりたくないです。死亡フラグなくても面倒な地雷案件だもの君ら一家は。

 

「そんな優依だから父さんの話を聞いてほしいの。父さんは間違った事を言ってない。ただ人と違うことを言ってるだけなんだ。お願い。今からアタシと一緒にウチに来てほしいの。そこで父さんの話を聞いてあげてくれないかな?」

 

断る!

 

誰が好き好んで休日返上で厄介事に関わらなくちゃいけないんだ!

断ろう!速攻で断ろう!これ以上杏子と関わりたくない!

 

 

「えっと・・話は聞きたいのは山々なんだけどウチ無宗教なんだ。母さんに至っては無神論者(嘘)でさ。そういう宗教関係と関わっちゃいけないって言われてるの」

 

 

ごめんよ母さん!貴女をダシに使って!でもあながち嘘じゃないじゃん!

神がいようがいまいがどっちでもいいって言ってた無関神論者なんだから今回は許して!

娘の死亡フラグ回避に役立たせるから!

 

 

「そっか・・そうだよね。こんだけ世話になっといてアタシ何してるんだろう?図々しかった・・ごめん」

 

 

拒否の言葉を聴いて杏子は俯いて泣きそうな声で謝ってくる。

いや、ひょっとして泣いてるかもしれない。心が抉れそうになるがこれも俺の生存のために心を鬼にするしかない。

 

「大丈夫だよ。根気よく頑張れば必ず誰か聞いてくれるよ!」

 

 

さすがに申し訳ないので根拠のない慰めをしながら震える杏子の背中をそっと撫でてやった。

 

 

「・・もう駄目かもしれないんだ」

 

「え?」

 

「父さん、相当追い詰められてる。このままじゃ本当に駄目になっちゃうかもしれない!絶望に負けちゃうかもしれないんだ!」

 

「・・・・!」

 

 

勢いよく顔をあげた杏子の目に涙が溢れていて今にも頬を流れてしまいそうだ。

 

 

「ねえ優衣どうしよう!?アタシどうしたらいい!?苦しむ父さんを見るのは辛いよ!父さんを助けたいよ!!」

 

「わ!ちょっと!!」

 

我慢の限界がきたのかついに杏子は泣き出し何故か俺に抱きついてきてテンパってしまう。

 

 

俺に聞かれても困るわ!お前は俺に一体何を求めてんだ!?

子供の俺には何も出来ないぞ!

つうかお前の親父の問題って大人に聞いても困る案件だろうが!

 

どうやら彼女自身相当追い詰められてるのは間違いなさそうだ。とりあえず今は感情的になっているから泣き止むまで待つしかない。俺は杏子が落ち着くまで抱きしめながら頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「うん・・・ねえ優依」

 

「ん?」

 

 

ようやく泣くのも落ち着いて口を開いたから顔を下に向けて俺の胸の辺りで顔を埋めている(何故か離れてくれない)杏子を見た。

 

 

「どんな願いでも一つだけ叶うチャンスがあるって言われたらどうする?」

 

「は・・?」

 

待って?ひょっとしなくてもそれって・・?

 

 

「・・・やっぱり魔法少女になるしかないのかな・・?」

 

「!?」

 

 

独り言みたいだが俺の耳にはしっかり「魔法少女」と聞こえた。

 

やめてえええええええええええええええ!!

それ破滅フラグだから!

 

何で俺の前でその禁断ワードを言っちゃうんだよ!?

何?実は俺を精神崩壊に導こうとしてんの?

 

まずい!このままの流れだと

 

 

杏子が俺の家から帰宅途中にQBと遭遇し契約

     ↓

願いが叶い信者大量GET

     ↓

カラクリがばれて杏子パパ激怒のち精神崩壊

     ↓

一家心中し杏子が自棄になる

     ↓

原作通りに進んでいく

     ↓

俺デッドエンド

 

 

うわああああああああああああああ!!

 

今考えた未来が来そうで怖い!

ひょっとして今って俺の生存がかかった重要な出来事なんじゃね!?

ここでどうするかで俺の未来が変わる!

 

その瞬間俺の迷いは消えた。

 

よし!杏子の父親の話を聞こう!

それで少しでも俺の死亡フラグが減るなら休日返上しても構わない!

必要事項と割り切ろう!俺の命の為に!!

 

 

「ぐす・・」

 

「杏子」

 

「?」

 

 

未だ俺にしがみついて泣いてる杏子の背中を優しく撫でながら声を掛ける。

 

 

「貴女の気持ちは痛い程分かった。いいよ。私(めんどくさいけど)話を聞くよ」

 

「・・・え?いいの?でも、どうして急に?」

 

 

杏子が驚いて俺の顔をまじまじと見ている。よほど驚いたのかさっきまで溢れんばかりに流していた涙が止まっている。

 

 

「杏子の姿に胸を打たれちゃってね。こんなに一生懸命お父さんのために何かしようとする杏子を放っておけないよ。父親思いの優しい杏子だもん。きっとお父さんも優しくて素敵な人だよね。私会ってお話聞いてみたいな」

 

 

実際はコイツが魔法少女なんて口走るから俺の死亡フラグ回避の先手と契約を止められなかった時の自責の念の予防のためなんだけどな。一家心中だなんて耳に入れたくないし。

 

だいたいお前の父親は食べ盛りの子供がいる家庭もってんのに働かない脳内お花畑な駄目親父だぞ?悩んでる暇あったら取りあえず働けよコラと殴りたい。

 

でも大丈夫!俺、君のお父さんの事好きじゃない(むしろ嫌いだ)けど一日くらい我慢するさ。

これも全て俺の平穏のためだ!

 

取りあえず半分くらい聞き流して適当に感想言えば大丈夫だろう!

 

 

「ありがとう優依・・本当にありがとう!!」

 

 

俺のそんな保身まみれの考えなど知らない杏子はまた抱きついてきてお礼を言っている。その天使の微笑みは俺の心を押しつぶしそうだ。

 

 

「じゃあ今から行こう!案内するよ!」

 

「あ、待って!もうしばらく後でいい?」

 

 

うきうきした表情で手を引っ張る杏子を引きとめる。俺のその行動に杏子はキョトンとしていた。

 

 

 

「え?何で?用事?」

 

「手ぶらで行くのは失礼でしょ?今からおにぎり作るからそれ持っていっていい?杏子の話じゃまたほとんどご飯食べてないんでしょ?」

 

「・・うん」

 

「じゃあもうすぐご飯炊けるからおにぎり作って持っていこうよ。そしたら今日の晩ご飯は大丈夫だよね?」

 

「いいの!?ありがとう!アタシも手伝う!」

 

「うん、お願い!」

 

 

尻尾があれば左右に振ってそうな程上機嫌な杏子を宥めつつ準備に取り掛かる。

 

何でわざわざおにぎり作ってあげるかって?

さっきヤバい事に気付いたんだ。今日買って封を切ったお米がウチの米びつに入りきらない事に。

 

このままでは食パンの二の舞なので早急に消費する必要がある。

都合の良い事に今からバキューム一家がいる教会に行くので今回も協力してもらおう!

 

 

大量に作ったおにぎりを重箱に入れ、荷物を全て杏子に持たせて俺は家を出た。

 

 

 

あの世間知らずなおっさんに会うの嫌だなあ・・とっとと終わらせてストレス発散のゲーム三昧しよう!

 

 

出来るだけ早く帰れますように!

 

俺は心中でそう願った。

 

 

 

 

 

 

杏子side

 

「何故だ?何故、誰も私の話を聞いてくれないんだ・・・?」

 

「・・・父さん」

 

アタシは項垂れている父さんを物陰から見つめていた。苦しむ父さんを見るのは辛い。

 

一週間前にアタシが優依に出会って食べ物をくれた事に凄く感激した父さんはもう一度立ち上がってくれたんだけど結果は散々で誰も相手にしてくれなかったから前より更に落ち込んでる。

 

どうすればいいんだろう?

優依、アタシはどうすればいいの?会いたいよ・・。

 

この一週間、優依に会いたくて何度も家を訪ねたり、街をぶらぶらしてたけど会えなかった。

 

 

「私は一体どうすれば・・」

 

「父さん!」

 

「杏子?」

 

 

今にも絶望しそうな父さんを見ていられなくて傍に駆け寄った。このままじゃ父さんが駄目になっちゃう!

 

 

「父さん諦めないで!希望を見失っちゃったら駄目だよ!」

 

「杏子・・」

 

「ちょっと出かけてくる!アタシが何とかするから待ってて!」

 

「杏子!待ちなさい!」

 

 

父さんの静止する声を振り切ってアタシは教会を飛び出した。

 

目的はただ一つ優依に会う事。

優しい優依なら父さんの話を聞いてくれる!

父さんが正しい事を言ってるってちゃんと理解してくれるはずだ!

 

 

 

早速優依の家に行ってインターホンを押すもいつも通り反応はない。

 

 

「どうしていつも優依はいないの・・?」

 

泣きそうになりながら玄関先で待ってみるも帰ってくる様子はない。

 

いつもなら諦めて帰るけど今回はそうはいかない。

このままじゃ父さんが絶望に負けちゃう!何とか優依を見つけて父さんの話をきいてもらわなくちゃ!

でも出かけてるならどこにいるんだろう?優依はどこにいる?

 

この一週間何度も街中を歩いて優依を探したけど見つからなかった。会ったのは一度きりだからどこに行くのか見当もつかない。

 

「あ・・!」

 

そこでアタシはある事を思い出した。

 

初めて会った時、優依はアタシに料理を振る舞ってくれた!

ひょっとして買い出しも自分でやってるかもしれない!だったら今スーパーにいるかも!

可能性は低いけど闇雲に探し回るよりはいいかもしれない!

 

「神様お願いします。優依に会わせてください」

 

口に出して神様に祈りを捧げながらアタシはこの近くのスーパーに向かって駆け出した。

 

 

 

走ると数分でスーパーにたどり着いて自動ドアをくぐる。

 

「うわあ・・」

 

あんまり縁がないからほとんど入った事ないけどスーパーってこんなに広いんだ。

 

物珍しさでキョロキョロしていると米が置かれているコーナーにたどり着いて目を見開いた。絹みたいな色素の薄い綺麗な髪がアタシの視界に入ったからだ。

 

 

 

「アンタ・・優依か?」

 

 

思わず口に出す。人違いかもしれないからじっくり後ろ姿を見るも前に会った時にあの娘を食い入るように見ていたからアタシが間違えるはずがない。

 

この後ろ姿は間違いなくアタシが会いたかった女の子のもの!

 

 

「やっぱり優依だ・・!優依!良かった・・やっと会えた・・!」

 

どうしよう!やっと優依に会えて喜びを抑えきれない!

今すぐにでもその華奢な背中に抱きつきたい!

ああもう!嬉しすぎて涙まで出てきちゃった・・。

 

神様ありがとうございます!アタシはようやくアタシの女神様と再会出来ました!

 

 

心の中で神様に感謝を捧げつつ興奮気味に優依に話しかけるも返事は返ってこない。

 

 

「・・ねえ優依、何でこっち振り向いてくれないの・・?何でなにも言ってくれないのさ?」

 

流石におかしいと思ったアタシは恐る恐る優依に聞いてみるも返事はなかった。

人違い?でも隅々まで見たから優依だって断言できる。わざと無視してるの?何で?

 

もしかして

 

「・・・優依、アタシの事忘れちゃったの・・?」

 

その可能性はある。会ったのは一週間前だしほんの数時間程度。

アタシにとってはかけがえのない時間だったけど優依にとっては日常のちょっとした出来事かもしれない。初対面のアタシにあれだけ優しくしてくれたから優依は普段の日常で見ず知らずの人達に親切にしてるのかも。

 

 

ここでお別れなの?

アタシは優依と知り合いにさえなれない赤の他人?

 

そんなの嫌だ!

アタシは優依ともっと仲良くなりたい!

優依の特別になりたい!

 

だったら何とか振り向いてもらうしかない。会話できなきゃ何も始まらないじゃん!

 

どうやったら優依の意識をアタシに向けられる?

 

 

! そうだ!

 

アタシは思い切って優依の背中にしがみついた。こうすれば嫌でも気づくはず。

密着してると優依の柔らかい綺麗な髪がアタシを包み込んでなんだかくすぐったい。

それにすっごく良い匂いがする。花の匂いだ。香水でもふってるのかな?

 

 

「・・何してるのかな?」

 

少しの間だけ優依に包まれてるようで幸せな気分に浸っているとようやくアタシに気付いたらしくぎこちない顔だったけどこっちに振り向いてくれた。その事実にアタシは嬉しくて思わず笑顔になる。

 

 

 

「優依!ようやく振り向いてくれた!何で返事してくれなかったの?」

 

「ごめん。考え事してて、佐倉さ「杏子」・・杏子が話しかけてたの気づかなかった」

 

 

アタシの事覚えててくれたのは嬉しいけど思わず睨んでしまった。

だって苗字呼びなんて他人みたいでやだ。

アタシは優依に名前で呼んでもらいたい。

前は一度もアタシの事名前で呼んでくれなかったから。

 

でも優依に「杏子」って呼んでもらえて凄く幸せ。なんだかくすぐったいや。

 

話を聞けば優依は考え事してたみたいでアタシに気付かなかったみたい。それを聞けて良かった。もしわざと無視されてたら人目なんて気にせず大泣きしてたかもしれない。

 

 

そんな内心不安だったアタシを慰めるように優依は可愛い笑顔をしている。その笑顔を見てると心臓がドキドキしてうるさいけど。

 

「私も杏子と会えて嬉しいよ」

 

「ホント!?」

 

夢みたい!アタシに会えて嬉しいって!

ああ駄目だ!顔がだらしなく緩んじゃう!

 

顔を真っ赤にして浮かれるアタシを優依はひたすらニコニコ笑っていてそのままがっしりと肩を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「優依の手料理がまた食べられるなんてホント嬉しい!」

 

優依の家に再び招待され一緒にご飯を食べて凄く幸せ!

こうして向かい合って座っていると・・一緒に暮らしているみたいでなんだか緊張する。

 

 

優依と奇跡的に再開出来た後は大変だった。

 

突然優依が酷く困ったような表情をして「お米買いたいけど重くて持ち運べないの・・」と落ち込んでいたからすぐに「アタシが運ぶから大丈夫!」と答えた。

 

優依は嬉しそうに笑って「これお願い」とかなり重そうな米袋を指差した時は正直顔が引きつっちゃった。

運動神経には自信があるけどこれは運べるか分からなかったから。

でも優依に頼られるのは嬉しいしお願いされてしまったからお米を担いで優依の家まで気合で運んだ。

 

一週間分の体力は使ったと思う。到着した時はしばらく動けなかったけど優依が喜んでくれて良かった。その後優依がこの一週間何してたのか聞かれてサンドイッチのお礼を改めて言ったんだけど優依は首を傾げてたのは何でだろう?

 

で、話を聞いた優依はどうやらアタシがまた空腹だと悟ったらしく昼ご飯を作ってくれたんだ!

 

チャーハンと中華スープ、しかもデザートのプリン付きとまた贅沢!

すっごく美味しかった!

優依は丼ぶり食べてたけどあれだけで良かったのかな?

ひょっとしてアタシがお昼のご飯食べちゃったから仕方なくそれにしたのかもしれない。

相変わらず優依は優しいけど悪い事しちゃったな。

 

久しぶりの優依との会話に浮かれちゃってアタシは締まりのない顔で優依にひたすら会話をふる。

 

あーやっぱり優依は可愛い!

たわいのない話をしてるだけなのに凄く幸せだと思う。

ずっとこの時間が続けばいいのに!

 

 

「ねえ、そろそろ帰らなくて大丈夫?お父さんとお母さん心配してない?」

 

 

そう言われて優依に会いに来た理由をやっと思い出した。

 

まずい!優依に会えた事が嬉しくて父さんの事すっかり忘れてた!

 

 

 

「優依」

 

アタシはずいっと優依に顔を近づける。アタシの突然の行動に優依は驚いた顔してるけどそんな表情さえ可愛くて胸が高鳴ってしまう。何とかそれを振り切りようやくアタシは本題を切り出す。

 

 

「アタシの父さんの話を聞いてくれないかな?」

 

 

その時の優依は何とも言えない表情をしていた。

 

アタシはすかさず我が家の境遇を伝える。

 

・ウチが教会という事

・父さんが文言を破って新しい教えを説いたから本部から破門された事

・寄付がなくなってアタシ達の生活は成りたたなくなった事まで全て伝えた

 

 

「すっごく苦しくて辛かったけど、優依と出会ってアタシ救われたんだ」

 

アタシはそう言って優依を見る。

 

あの日世の中に絶望しそうになってたアタシを救ってくれた優依はアタシにとって神様みたいな存在だ。

凄く眩しくて暖かいアタシの聖女様。

アンタがいてくれたからアタシは今まで頑張れたんだ。

アタシを導いてくれる光そのものだから。

 

 

「そんな優依だから父さんの話を聞いてほしいの。父さんは間違った事を言ってない。ただ人と違うことを言ってるだけなんだ。お願い。今からアタシと一緒に協会に来てほしい。そこで父さんの話を聞いてあげて」

 

疲れた様子の父さんを思い浮かべながら優依に懇願するも断られてしまった。

優依の家の事情だからどうする事も出来ないんだって。

アタシは愕然としてしまった。そんなアタシの様子に同情したのか慰めてくれたけど今のアタシには響かない。

 

出掛ける直後に見た父さんの疲れ切った顔。

優依が父さんの話を聞けば何とかなるかもしれないなんて確証もない中途半端な希望を持たせて更に絶望させてしまう事になる。

 

優依はアタシにとっての最後の希望だったのに!

それなのに父さんの話すら聞いてもらえないなんて・・!

 

 

我慢していた涙がついに限界が来てとうとう頬を濡らす。

 

 

「ねえ優衣どうしよう!?アタシどうしたらいい!?苦しむ父さんを見るのは辛いよ!父さんを助けたいよ!!」

 

「わ!ちょっと!!」

 

戸惑う優依を気にせずアタシはしがみつく。今はこの温もりに縋っていないとアタシまで絶望してしまいそうだったから。最初は戸惑っていた優依だったけど今は黙ってアタシをあやしてくるからそれに甘えてひらすら泣いた。

 

 

 

「どんな願いでも一つだけ叶うチャンスがあるって言われたらどうする?」

 

 

ようやく落ち着いてきた頃、一つの考えが浮かんだきたから優依に聞いてみた。

優依を頼れない以上ひょっとしたらこれしか方法がないのかもしれないから。

 

 

 

「・・・やっぱり魔法少女になるしかないのかな・・?」

 

本当は契約したくないんだけど。

 

この一週間キュゥべえは何度も「契約して願いを叶える気はないかい?」とアタシに付きまとった。相変わらず弱った所に付け入るようなやり方で気にくわないから断ってたけど。

 

前のアタシならきっと心折れて契約してたかもしれないけど優依に救われた事で辛くても希望は捨てないと改めて決めたんだ。

 

優依との思い出を振り返った後、すぐにキュゥべえの姿を頭から振り払う。

 

・・うん、駄目だ。楽な方法で願いを叶えるなんて駄目!

仮に契約する日が来るとしたらそれはきっと家族や優依を守らなきゃいけない時だけ!

 

これ以上馬鹿な事言って優依を困らせるのはやめなきゃ!

 

そう考え直し今のは忘れてくれと言おうとしたんだけどその前に優依がアタシの背中を撫でて「杏子」って先越されちゃった。何だろうって続きを待ってると

 

 

「貴女の気持ちは痛い程分かった。いいよ。私話を聞くよ」

 

そう言ってほほ笑んでて思考が止まる。

 

 

え?まさかのOK?何で?

 

あまりの驚きに流していた涙がピタッと止まっている。そんなアタシがおかしいのか優依は苦笑いしながら口を開く。

 

「杏子の姿に胸を打たれちゃってね。こんなに一生懸命お父さんのために何かしようとする杏子を放っておけないよ。父親思いの優しい杏子だもん。きっとお父さんも優しくて素敵な人だよね。私会ってお話聞いてみたいな」

 

 

その言葉でまた涙が出そうになる。

 

 

「ありがとう優依・・本当にありがとう!!」

 

アタシは感激して優依に思いっきり抱きついた。

 

 

本当に優依はアタシの女神様だ!

 

 

 

感謝してもしきれない!アタシは優依に恩を返せる日が来るのかな?

ずっと一緒にいるためにはどうすればいい?

心優しい優依にアタシは何が出来るんだろう?

 

そこでふっとある考えが浮かんだ。

 

 

・・魔法少女になるのもありかもしれない。

 

 

願いを叶えるためじゃなくて優依を守るために。

そしたらずっと一緒にいられるかも!

 

まあ、それは後で考えればいいや。今は早く優依を連れて帰らなきゃ!

 

一刻も早く教会に案内しようと興奮気味に優依の手を取ったんだけどストップをかけられキョトンとしてしまう。

 

 

「手ぶらで行くのは失礼でしょ?今からおにぎり作るからそれ持っていっていい?杏子の話じゃまたほとんどご飯食べてないんでしょ?」

 

「・・うん」

 

 

何だろうと見ていると優依は呆れた表情でアタシに諭す。

 

 

「じゃあもうすぐご飯炊けるからおにぎり作って持っていこうよ。そしたら今日の晩ご飯は大丈夫だよね?」

 

「いいの!?ありがとう!アタシも手伝う!」

 

共同作業で出来上がったおにぎりが入った重箱をアタシが持って父さんがいる教会に向かう。

かなり疲れるけどさすがにこんな重い物を優依に持たせたくないし「持ってほしい」と頼まれてしまったからつい笑顔で引き受けちゃった。

 

だってこんなに可愛い優依に頼られたら嬉しいもん。

 

 

我が家に連れて行くのドキドキするなぁ。

優依は教会に行くの初めてだって言うし気に入ってくれるといいな。

もし気に入ってくれたら将来一緒に暮らs・・じゃなくて!

 

すぐに父さんの話を聞いてもらおう!

 

優依が父さんの話を聞いてくれるならもう大丈夫なはず!

優しい女神様みたいな性格だからきっと父さんの言う事も分かってくれるよね!

 

父さん元気になってくれてまた立ち上がってくれる!

 

 

そしたら優依はすぐ帰っちゃうしまたお別れなの?

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

やっぱり嫌だ、寂しい。少しでも優依と一緒にいたい!

 

 

 

今日はウチに泊まってくれないかな・・・?

 

 

 

 

隣で歩く優依をぼんやり見ながらアタシはそんな事を願ってた。




思ったより長くなりそうな予感がします・・
ぶっちゃけエンディングどうするか悩んでるんですよねー

その内ハッピーエンドかバッドエンドにするかのアンケート取ろうかと考えておりますのでよろしくお願いします!

次回は本編行きます!


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43話 ほむらの休日①

九連休の人超羨ましいですチクショウ!


「優依ちゃん!ずっと一緒だよ!」

 

ピンクのツインテールの女の子が俺に笑いかけている。

 

 

「優依、ねえ、どこにも行かないって誓って」

 

青色が基調の騎士の衣装を纏った女の子が俺の手を握っている。

 

 

「優依ちゃん、二人きりになれる場所に行きましょう」

 

黄色のリボンを持った女の子が俺を見て泣いている。

 

 

「優依、貴女を誰にも渡さないわ」

 

紫に輝く宝石を持った女の子が俺に手を伸ばしている。

 

 

「優依・・・逃がさねえぞ」

 

赤い槍を握っている女の子が笑いながらそれを俺に向かって振り下ろしてきて・・

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!・・あれ?ここって?」

 

 

勢いのまま飛び起きる。恐怖で汗が止まらず呼吸が荒くハア、ハアと繰り返している。

視界に映るのは見覚えのない部屋だった。少なくとも俺の部屋はリフォームした覚えはない。

 

「・・あ!ここってほむらの部屋じゃん!」

 

じっと部屋全体を見渡してようやくここがどこか思い出した。

 

昨日色々あったが何とかほむらを仲間に出来たのは良かったのだけど魔女退治が終わったその晩、何故かほむらは泊まっていけと猛プッシュしてきた。

 

正直、連日激動だったのでゆっくり休みたかった俺は日用品や服の替えがない事を理由に断ったが諦めが悪い事に定評のあるほむらは折れずそのまま俺を担いで人の家に不法侵入し服や下着を鞄に詰め込むように強要した。

 

逆らったら後が怖いので渋々従ったがほむらは更に暴走して俺の制服と学生鞄を盾にしまいこんでしまった。

 

曰く「明後日の学校はこれで心配ないでしょう?」との事だ。

 

まさかの連泊する羽目になった俺は泣く泣く母さんに友達の家に泊まる事になったのを連絡する始末。駄目だって言ってほしかったけど母さんは「楽しんでこい」としか言わなくて泣いた。

 

シロべえの奴も「マミが心配だから様子を見てくるね」と逃げられるし、就寝時、同じベッドの中に入りほむらに抱きしめらるという恐怖の一夜を過ごしたものだ。よく暗殺されなかったな俺。

 

 

ん?つまり・・?

 

 

「じゃあさっき見たのはゆm・・駄目だ!これ以上言ったら正夢フラグになってしまう!あんな恐怖体験はもう思い出さなくていい!忘れてしまおう!」

 

さっきのは夢だと分かった。何か凄いヤバい内容だった気がするけど今はあまり思い出せない。知ってる人が出てきた気もするけど今となってはそれも分からず仕舞いだ。

 

 

「悲鳴が聞こえたから来てみれば・・さっきから一人で何ぶつぶつ言ってるのかしら?」

 

「!? あ、ほむら」

 

俺一人しかいない部屋で凛とした声がして身を固めるが声の正体がこの部屋の主だった事にほっと息をつく。

 

「・・うなされていたの?顔色が悪いわよ?」

 

俺の顔色を確認したほむらが心配そうな表情で近寄って顔を覗き込んでいる。こいつがまどか以外の他人を心配出来ることに驚くも本来は気弱で心優しい女の子だった事を思い出して納得。

 

「あーちょっと怖い夢見ちゃってさ、心配しないで!ただの夢だから」

 

心配かけたくなくて安心させるようにニコッと笑った。

 

そういや夢でほむらに似た女の子が出てきた気がするが気のせいか・・?

 

「そう、大丈夫だと言うならその言葉を信じるわ。体調に変化があったらすぐに言いなさい」

 

「うん、ありがとう。そうするよ」

 

ほむらってこんなに過保護な奴だったっけ?

まどか限定じゃね?何で俺に発揮してんの?

 

「食欲があるなら朝食を作ってあるかr「え!?」・・何よその反応は?私がご飯を作ったらいけないの?」

 

ムッとした表情のほむらだが俺はそれどころではない。

 

ほむらって料理出来んの!?

てっきり出来ないと思ってた!

 

だって長い病院生活を経てその後は無限ループの時間の旅と犯罪行為だ。とてもじゃないけど料理してる暇はないし出来ないと思い込んでた。だって初めてほむらの家に来た時も大量のカップ麺見たし。

 

これは超意外!

 

俺の思っていた事が顔に出ていたのだろう。ほむらが不機嫌そうに俺を睨んでいておっかない。銃を向けられない内に謝った方がいいかもしれない。

 

 

「ごめんなさい!俺てっきりほむらは料理出来ないと思ってました!」

 

「失礼ね、私だってこれくらい出来るわよ。・・と言っても貴女の料理の腕前には負けるわよ?それに一人暮らしだと作るのが面倒でいつもは簡単に済ませてたから・・その・・」

 

「あー・・俺お腹空いてるし朝食食べるよ。顔洗ってくるから」

 

「え?ええ、分かったわ。いってらっしゃい・・」

 

恥じらいか分からないけどもじもじしてるほむらを見てるのが何だが居たたまれなくなったので逃げるように俺は寝室から出た。

 

ほむらマジでキャラ崩壊凄まじくない?

なにこれ?世界滅ぶ前触れ?

 

不安を振り払うように顔に思いっきり水を叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

「・・・思ったよりまともな食事だな」

 

「文句があるなら食べなくていいのよ?」

 

「いただきます!」

 

顔を洗い、身支度を整えた後、魔改造されたSF部屋に行くと机の上にはトースト、目玉焼きにサラダ、コーヒーとドラマでしか見たことないような割と豪勢な朝の食事が用意されている。

 

てっきり黒い物体が出てくるのかと構えていたから安心したけど余計に疑問が出てくる。

 

何だこの好待遇?

昨日ここに来た時と態度が一八〇度違うと逆に怖くなってるくるな。毒入ってないよね?

 

震える手でトースト掴み恐る恐る口に入れてみる。

 

「・・うま」

 

口に広がるのは毒の刺激ではなくバターの香ばしい風味。

 

「当然でしょう?まさか毒が入ってるとか思ってたんじゃないんでしょうね?」

 

「ハハハ!まっさかー!」

 

疑いの眼差しで俺を睨んでくるので冷や汗流しながらなんとか誤魔化す。幸いほむらはそれ以上追及してこなかったので内心息をつく。

 

気を取り直してもう一度ほむらが作った朝食を口にしてみるもやっぱり毒なんて入ってなくて普通に美味しい。

特に目玉焼きが絶品だ。ここまでの半熟加減を出すなんてほむらはひょっとして料理が上手いのか?

 

疑ってごめんよほむら!

俺二度と君に料理関係の偏見を持たないから!

 

「ふふ」

 

「?」

 

罪悪感もあり夢中になって食べ進めていたら笑い声が聞こえてきたので顔を上げるとほむらがニコニコしながら俺を見てた。その表情に思わず鳥肌が立ちそうになったのは内緒。

 

 

「随分と急いで食べるのね?」

 

「うん、だっておいしいから(+贖罪も込めて)」

 

「そう、気に入ってくれて良かったわ」

 

 

ほむらは頬を染めて綺麗に笑っているが俺は気が気じゃない。

やはり女の姿で男みたいにガツガツするのはまずかっただろうか?

 

しかし俺がこうも急いで食べるのには想像以上に美味しかったからもあるがその他に早く食べておかなきゃいけない理由がある。

 

それは、

 

「おはよう。よくも僕抜きで朝食を満喫してくれたね?随分と美味しそうな食事じゃないか」

 

シロべえが来ない内に食べ終わりたかったからである。

 

なんせこいつはかなり食い意地が張っている。

何度奴に俺のご飯や隠しておいたお菓子を食べられたことか!

 

くそ!匂いにつられてやってきたのか!?

マミちゃんはどうした!?

 

 

「おはよう。巴マミの様子はどうだったかしら?」

 

シロべえの登場でほむらはさっきの少女らしい笑顔は引っ込み代わりにいつもの仏頂面に戻ってしまったがその様子を見て安堵してしまった。

 

今までがあまりにもキャラが違い過ぎたので心配していたところだったから。

 

良かった!ほむらの奴いつも通りに戻ってくれた!

これなら精神科に行かなくても大丈夫だろう!

 

 

「その前に僕に労いの言葉があってもいいと思うけど?朝食はないの?」

 

「さっさと答えなさい。巴マミは今どうしているの?」

 

 

相変わらずバチバチと二人の間に火花が飛んでいて凄く気まずい。

 

この二人の仲の悪さは元々の因縁差し引いても悪い。

おそらく性格が合わないんだろうな。

 

だいたいはほむらが突っかかってきてシロべえが適当に流してる感じだ。シロべえと他のインキュベーターは違うって言ってんのに忘れたのだろうか?

 

ここは俺が諫める場面なんだろうけどほむらと同じくマミちゃんの様子が気になるので何も言わずにシロべえが答えるのを待つとしよう。

 

マミちゃんとは魔法少女体験コースがあった日の夜以降、顔を合わせていないし電話もしていない上に簡潔なメールでしか返事返してないもんなあ。

 

だってマミちゃん病んだ女の子みたいに泣きわめいたり大量の着信とメールしてくるんだもん!

怖すぎる!マミちゃんに何があったんだ?

次会った時俺刺されないよね!?

 

ここで彼女は大丈夫だと言ってくれればかなり救われるんだけどなぁ。

 

祈りを込めてシロべえを見る。ほむらと二人して固唾をのんで口を開くのを待つ。

 

 

「マミかい?様子はどうだと言われてもヤバいとしか言いようがないよ?かなり思い詰めてるね。優依、今マミと会わない方が良い。君を見たマミが何するか分からないから。もし会うとしても人の目がある所で会うんだよ。間違っても二人で会っちゃダメ。人の目がある学校で会うのをお勧めするね」

 

俺の願いはいつだって裏切られてばかりだ。

 

マジかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?

マミちゃん!君に一体何があったんだ!?

俺のせいじゃないよね!?

俺何もしてないし関係ないよね!?

お願い!誰か俺は悪くないって言ってくれ!

 

 

「随分と巴マミは優依にご執心みたい。私と一緒にいる所なんて見てしまったら発砲してきそうね」

 

「間違いなく攻撃してくるだろうから気を付ける事だね。まあ、休日は夜の魔女退治以外ずっと引きこもっているみたいだから今外出しても大丈夫だよ」

 

「あまり必要ない情報ね。それにしても今でそんな心理状態じゃ協力を求めるのは難しそうね」

 

「そうだね、かなり難しいだろう。優依の口から君の名前が出てきただけでも激昂しそうなくらいマミは不安定になってるから」

 

「・・はあ、頭が痛いわね。全く愛に溺れて我を見失うなんて勘弁して欲しいわ」

 

「君も大してマミと変わらないじゃないか。今君が独りぼっちで優依がマミと一緒にいると知ったら狂っちゃうでしょ?」

 

「黙りなさい!はぐれの分際で!」

 

 

内心焦る俺をガン無視して目の前にいる一人と一匹が更に火花を散らしている。

ほむらなんて今にも魔法少女に変身して・・・あ、魔法少女に変身した!何で!?

 

 

「何勝手に食べてるの?それは優依に用意した朝食よ。貴女のじゃないわ!」

 

「いいでしょ別に、優依は僕が来てから一口も食べてないじゃないか」

 

「貴女が来たからでしょう?今すぐ食べるのをやめて巴マミを見張ってきなさい!」

 

「大丈夫だよ。これ以上マミのソウルジェムが濁らないように応急処置はしてきたから今日一日くらい放置しても問題ないさ」

 

「そういう問題じゃないわよ!」

 

 

むしゃむしゃと俺の朝食にかぶりつくシロべえとそんな盗み食い中の白い奴に銃を向けてるほむら。

 

何だこの展開は?正直俺は食欲失せたから食べてくれても構わないんだけど。何でほむらはこんなに怒ってんの?

 

ただでさえマミちゃんの事で胃が痛くなっているのにシロべえとほむらのいがみ合いまで勃発したら胃に穴が出来そうだ。

 

どうすれば・・?いや、待て!

 

こんなにピリピリしているのはきっとこの雰囲気がいけないんだ! 

だからこんなにも俺は息苦しいと感じている!

 

よし!ぶち壊そう!

だってまだ今日は休日だもの!休みは楽しまなくては!

マミちゃんについて考えるのは平日からでも大丈夫だろう!多分!

 

取り合えずシロべえとほむらを仲良くとはいかなくとも険悪な関係から脱却させなきゃ!さもないとこれから先、協力して生き残るなんて不可能だ!

 

俺は今にも虐殺が始めそうなほむらをしっかりと見据える。

 

「ほむら!今日は気分転換に一緒に出掛けないか!?」

 

「え!?」

 

ダメ元でほむらから先に振ってみる。

 

シロべえはノリが良いから多分応じてくれるけど空気読めない紫はどんな反応をするのかと思ったけど今は固まって俺を凝視している。

 

おや?てっきり「まどかを救う気があるならふざけないで」とか言って怒るかと思ってたから意外だ。

 

これはひょっとして脈ありですか?

 

「協力関係にあるんだから連携をとるためにも交流を深めておきたいんだ。ほむらは前までは休みという休みを過ごした事がほとんどないだろ?何事も最高のパフォーマンスをするためには気分転換は必要だよ」

 

「まあ、理にかなってるんだけど、君が言うと単にこの空気が嫌だから紛らわそうとしてるとしか思えないよ」

 

「・・・そんな事ないよ」

 

最もらしい事並べてみたけど流石シロべえ。俺の思考をよく分かっていらっしゃる。そうです、この空気に耐えられないんです!

 

まあ、本心はともかく言ったこともあながち嘘ではない。ほむらには気分転換が必要だと思う。

 

心に余裕のない人間は視野が狭くなるから大事な事を見落としがちだ。ほむらがまさにその典型例。

 

それを解消するためにもまどか以外の事に目を向けさせる事が必要だ。俺の考えてることは間違っていないはず!

 

「まあ、とにかくほむら!まどかじゃないのは申し訳ないけど俺と一緒に出掛けないか?」

 

隣で訝しげに俺を見てるシロべえの視線から逃れるようにほむらに話を振る。当の本人は俺に話しかけられてようやくハッと我に返り顔を赤らめてもじもじしている。

 

え?なにその仕草?かわいいんだけど。

 

 

「そ、それは・・デートって事なのね?私と優依がデートするって事なのね!?」

 

「え?いや、単純に遊びに行くだけだけど?シロべえも一緒に行くし。そもそも中身男でも身体は女だからデートって言わなくない?」

 

あまりにぶっ飛んだ発言に顔がひきつりそうになる。

 

何がどうなったらデートっていう結論が出てくるんだ?あ、ひょっとしてこれまどかとのデートの予行練習か?

 

しかし俺の言ったことに対して何故かほむらはすっと冷たい表情になりさっきまでの乙女の恥じらいっぷりが嘘のように消え去っていた。その変貌ぶりに「ひっ」と小さく悲鳴が口から出る。

 

「そうね、貴女ってそういう娘よね。よく分かったわ。一緒に出掛けても構わない。一日くらい大丈夫よ。ただし私の貴重な時間を使うのだからちゃんと楽しませなさい。もし退屈だったら承知しないわよ?」

 

「え?怖っ・・何で?」

 

全身から凄まじいプレッシャーを放ちながら俺を脅してくるので涙目になり身体は本能的に震えてる。

 

何でこんなに怒ってんの!?

 

「準備してくるから玄関で待ってなさい。その間にちゃんとしたデートプランを練っておくことね」

 

「え!?待って!」

 

俺の制止は無視されほむらは朝食の皿を下げてそそくさと部屋を出ていってしまった。俺とシロべえだけが主のいない部屋に残される。

 

 

「あーあ、怒らせちゃった。紫をGETしたとはいえまだまだ扱いはなれていないね。機嫌直しにちゃんとエスコートしないと後が怖いよこれは」

 

「軽い感じで出掛けようと言っただけなのに何でこんな事になってんの?ほむらの気分転換からまさかの俺の生命危機一髪に早変りしてるよ?どうしよう!?何も考えてないよ!そもそもシロべえ!お前がほむらに喧嘩売るから!」

 

「知らないよ、さっきのは君の自業自得だね。それに僕は至って紳士的に振る舞ってるつもりだよ。ほむらは色々やらかしてくれたのに多少の意地悪で許してあげてるんだからむしろ感謝して欲しいくらいさ」

 

頭を抱える俺を冷たく突き放しシロべえは寝転がって寛いでいる。無関係だからって呑気なもんだ。

 

 

「出掛ける事は決まっちゃったけどシロべえはそれでいいのか?」

 

そういえばこうもすんなり決まってしまって拍子抜けだ。一緒に来てくれるだろうが嫌味の一つ二つは覚悟してたんだけどな。

 

 

「僕は構わない。優依の意思を尊重するよ」

 

「え?何でまた?」

 

 

今日はやけに素直だから何かありそうで怖い。いつもならここらで心抉れる事吐いてくるのに。

 

 

「だって明日は学校でしょ?」

 

「うん」

 

「マミに会うじゃない?」

 

「まあ、同じ学校だしな。それがどうした?」

 

「そう考えるとさ、優依にとって今日一日が最後の晩餐みたいなものになるかもしれないんだよ?」

 

「え?」

 

 

俺の聞き間違いか?最後の晩餐って聞こえたけど?

 

 

「今のところほむらがいるからマミと対抗出来るし僕も最善を尽くすけど何事にも想定外は起きるものだ。だから今は出来る限り優依のやりたい事をさせてあげたいと思うのが相棒の優しさってものじゃないかい?」

 

「不吉な事言うな!そんなもん本人に言った時点で優しさでも何でもないわ!ていうか何?シロべえの話だとマミちゃん=死に聞こえるんだけど?マジであの娘どうなってんの!?」

 

「んー、一言で言うなら極めてしまったね」

 

「何が!?」

 

「日の光を浴びたいならあの状態のマミと二人きりで会っちゃ駄目だからね?分かった?」

 

「だから何が!?」

 

 

凄く不吉で意味深な事を謂うのでかなり気になり散々シロべえを問い詰めるも奴はひたすら「知らない方が良い」と黙秘を貫いて何も答えてくれなかった。

 

 

 

 

 

「待たせたわね」

 

「いや、そんなに待ってないよ」

 

玄関でほむらを待ってる間にもシロべえを詰問したが効果はなく、プイッとそっぽを向かれている間にほむらは来てしまった。どうやら追及するのはここらで潮時のようだ。

 

 

「・・・どうかしら?」

 

「え?どうって?・・お」

 

 

シロべえからほむらに視線を向けると真っ先に白いワンピースが目に入った。肩が少し露出するデザインらしく女の子らしさを際立たせており、胸元はピンクのリボンがついている。春の妖精みたいでとてもかわいい服だ。

 

「うん、似合ってるよ」

 

素直にそう思う。服のセンスはあるようだ。

 

しかし、中身男とはいえ一応女の俺と出掛けるのにここまで気合いの入った格好するものなのだろうか?ひょっとしたら今時の女の子は友達と出掛ける時はこれくらい気合いを入れるのかもしれない。

 

最初はそのワンピースから感じる気合いの入れように少し引いたがよく考えればほむらって元々ぼっちだから誰かと一緒に出掛けるのも初めてかもしれないから浮かれている可能性はある。ならば仕方ないだろう。

 

俺は一人そう納得して改めてほむらを見る。

 

そういえばほむらの私服って初めて見たな。

アニメのほむらはずっと制服だった。まあ、杏子を除いた他のメンバーもほぼ制服オンリーだったけど。

 

興味本意でワンピースをじろじろ見ていたがほむらは何故か不満顔で俺を睨んでいる。何故だ?一応本心から褒めたのに?

 

 

「それだけ?他に言うことはないのかしら?」

 

「まだ言っていいの?」

 

「ええ、たったの一言よりは良いわ」

 

 

どうやら俺の感想が一言だけだった事にご不満のようだ。ほむら面倒臭いなと思ったが、本人から許可をもらった事だし遠慮しなくていっか。

 

長話になるため思いっきり息を吸い込んで口を開く。

 

「そもそもほむらって凄い美人だから何着ても似合うじゃんか?」

 

「!?」

 

ボンと顔を真っ赤にしているが俺の語りはまだ始まったばかりだ。このくらい序の口だから耐えなさい。

 

 

「普段はクールな美少女というイメージだけど今着ているような女の子らしいワンピースもとても可愛くて似合ってる!春の妖精といった感じでふわふわしたほむらの新しい魅力を引き出している!」

 

「ふえ?ちょっと!」

 

「見滝原中学の制服は可愛いデザインだけどほむらが着るとカッコ良さと可愛さが絶妙な加減で合わさって最高なんだ。君はスレンダーな体型だから制服を着るとスラッとしたミステリアスな魅力まで併せ持つ素晴らしい性能まで発揮する!」

 

「ふぇぇぇ・・もうやめて」

 

「俺的にはその路線で行った方が良いと思うんだ!キリッと決めたクールな服装も確かに似合うが女の子らしさをふんだんに詰め込んだ格好の方がより、んぐ!」

 

「分かったわ!もう十分よ!それ以上言わないでちょうだい!」

 

 

ほむらが真っ赤な顔の涙目で俺の口を両手で必死に押さえている。

 

俺の女の子の可愛い理論を語り出すと止まらないから一言で済ませたのに俺の優しさに気付かず「それだけ?」なんて不満そうにしたほむらが悪い。

 

俺は悪くない!チクショウ!もっと語りたかったのに!

 

 

「////時間がもったいないから早く行きましょう!ぐずぐずしないで!」

 

「うお!?」

 

頬を染めたほむらに手を引っ張られそのまま引きずられる形で外に出る。

 

 

《やれやれ、初っぱなからこれじゃ先が思いやられるよ。優依、ほむらをあまり口撃しない方が良い。ただでさえマミの問題もあるのにこれ以上厄介な事増やさないでよ?》

 

《攻撃した覚えはないぞ!?ただほむら可愛い理論を熱く語っただけだ!それに今日は休みなんだ!マミちゃんもほむらも知ったことか!全力で満喫するのみ!明日を生き抜くために!》

 

《はあ・・》

 

後ろから付いてくる白い奴の謎の忠告は置いといて俺はほむらと手を繋いだまま道を歩いた。

 

 

 

 

 

 

「・・・どうですか?」

 

「似合ってるじゃない。次はこれを着なさい」

 

「これまだ続くの?」

 

「当然よ。今日一日私に付き合ってくれるのでしょう?」

 

「そんな事言った覚えないけど」

 

「細かい事は気にしないの。早くこれを着なさい」

 

 

現在、俺たちは繁華街にあるショップの中にいる。

 

ホントはショッピングモールに行きたかったんだけどマミちゃんと鉢合わせする可能性があるから止めておいた。

 

で、今何してるかというとほむらが着せ替え人形のように服を試着させて俺で遊んでいる。かれこれ二十回は服を着替えた気がする。

 

俺で遊んで何が楽しいのか分からないがほむらはかなり上機嫌だ。ずっと口角上がりっぱなしだし。

 

それにしても持ってくる服の系統はバラバラなのに何で色はほとんど黒か紫のものばかりなんだ?

こいつは俺をホムラーにしたいのだろうか?

 

 

《はは!遊ばれてるね優依!》

 

《うるさい!他人事だと思いやがって!》

 

傍観を決め込んでるシロべえからの冷やかしに殺意を覚えるもほむらが俺を離してくれないので手出し出来ない。目の前にいるのにかなり歯痒い。

 

 

「さ、次はこれよ」

 

「もう勘弁して下さい!」

 

まだまだ序盤。早くも軽はずみな言動した事を後悔する俺であった。




ほむほむとのデート回です!
まだ続きますので学校編(マミる編)はもう少しお待ち下さい!


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44話 ほむらの休日②

ついに200000UA達成しました!ありがとうございます!



「・・結構おいしいわねこれ」

 

「でしょー?俺のスイーツリサーチ力は中々のもんなんだよ」

 

 

俺リサーチによる美味しいと評判のクレープを食べながらほむらと二人繁華街の道を歩く。

俺はチョコケーキが入ったクレープでほむらがイチゴとホイップがたっぷりなクレープだ。(意外と可愛いチョイスだな)

 

ちなみにシロべえはいない。「マミの様子が心配だから」と言って途中で別れたから。まあ本当の理由はきっと俺らがアイツを怒らせたからだと思う。

 

レディース店でほむらにさんざん着せ替え人形にされた後、俺達は書店に入り本を漁っていた。(ちなみに試着したいくつかの服を買わされた挙句、「着なかったらただじゃおかないわよ」と脅されてしまった)

 

その時ほむらがある本を持ってきたんだ。男の子二人が頬染めて上半身裸で抱き合ってる表紙のBL漫画を。

最初はほむらの趣味かと思ってドン引きしたがどうやら違うようで、

 

 

「これを持った上条恭介を見たら美樹さやかの百年の恋は冷めるかしら?」

 

 

と、とんでもない事を真顔で言ってきたのである。

シロべえは止めていたけどリア充に恨みを持つ俺は半分冗談で、

 

 

「どうせならそんな緩いBL漫画じゃなくてガチホモなエロ本の方が良いんじゃない?」

 

 

と殺る気満々で言った所「妬むのも大概にしろ!」ってマジギレされ結局この案は破棄されてしまった。

その後はぷりぷり怒りながらマミちゃんの所に行ってしまい俺とほむらの二人が残された。

 

 

「これで邪魔者はいなくなったわね」

 

 

シロべえのマジギレ具合に恐怖する俺と違ってほむらはいけしゃあしゃあとそんな事をほざいてあっさりBL本を戻し私用で購入するつもりだったらしい本二冊を持ってレジに行ってしまった。会計を済ませたほむらはポカーンとする俺を引っ張って書店を後にし今に至る。

 

 

ちなみにほむらが何の本を購入をしたのか気になったので聞いてみたけど答えてくれなかった。

でも実は俺は見てしまったのだ。ほむらの購入した本を。

 

見た所、漫画と本だった。

 

確か漫画はトモっちお気に入りの百合漫画の表紙だった気がする。

(ちなみにストーリーは魔法少女と一般人の少女の恋愛ものだったと記憶している)

 

もう一つの本は何かのハウツーだ。タイトルは

『高嶺のあの娘を射止めよう!女性の口説き方全集』だった気がする。

 

買った本がこれじゃあ絶対に言わないわな。

俺なら口が裂けても言わないしその秘密を墓場まで持っていくだろう。

物凄く気になるが長生きするためにはこれ以上追及しない方が身のためだ。

 

取りあえず言えることはただ一つ。頑張れまどか!

 

 

それにしても気分転換のために出かけたはずなのにどうしてこんなおかしな状況になってんだ?

 

 

「ふふ」

 

「どうしたの?」

 

さっかまでの出来事を思い出して憂鬱になっている俺の隣でほむらが何故か笑っている。いきなり精神崩壊したのかと思ったけどどうやら違うようだ。俺の頬を指差して笑っている。

 

 

「クリーム、ほっぺについてるわよ?子供みたいね」

 

 

まさかの俺の醜態に笑っていたらしい。嘘だと言ってくれ。穴があったら是非入りたい。

 

 

「え・・・?ホント?」

 

「ええ」

 

「どこ?」

 

 

急いで拭こうとしてもどこについてるのか分からないからあちこち顔を拭いてみるも取れた気がしない。

 

 

「ここよ」

 

 

そう言ってほむらが俺の頬に触ってクリームを取る。指には白いホイップがついていた。

 

マジで俺年下扱いじゃんか。

マミちゃんといい杏子といい何で俺を小さい子扱いすんの?

実質俺が精神年齢一番年上のはずなのに。

 

 

「え!?」

 

 

ハンカチで拭くのかと思って見ていたらほむらは何をトチ狂ったのかそのままホイップがついた指を口に含んでいる。

 

 

「ごちそうさま」

 

 

指を舐めて妖艶に笑うほむらに一瞬、劇場版の悪魔がダブって見えた。とんでもない錯覚に急いで頭を振って追い出すも寒気が止まらない。

 

 

何やってんだコイツは?

それ彼氏にやるやつじゃね?やる相手間違ってんじゃないの?

まさかこれが数多くの時間軸を渡って来た経験というやつか!?

だとしたらとんでもない猛者だ!もうへタレ紫なんて呼べないな!

 

感心しながらほむらをじっと見ているとだんだん顔が真っ赤になってついに両手で隠してしまった。・・・もしや?

 

 

「////////」

 

「・・恥ずかしくなるくらいなら初めからしなきゃ良かったのに」

 

「うるさいわね。貴女はこれくらいしなきゃ意識しないと思ったからしたのに何で素面でいられるのよ!?」

 

 

涙目になって俺を睨んでいるも、どう回答すればいいか分からないから困ってしまう。平気なんじゃなくてぶっちゃけ状況整理に頭が追い付いてないから反応出来ないといった方が正解かもしれない。訳分かってないもん。

 

 

「いや混乱してるだけだし・・それにしてもほむらって中々大胆なんだね。その後自分のした事を思い返して悶えるなんてツボを押さえている。グッドだよ!」

 

 

ギャップ萌えのあまりの完成度に思わず親指を立ててほむらを褒め称える。どうやらコイツは萌えを分かっているようなのでほむらに対する俺の好感度がちょっぴりアップだ。

 

 

「貴女って娘は・・。 ! 優依、あそこのお店に入りましょう。ほら早く!」

 

「わ!ちょっとほむら待って!まだ食べかけ・・」

 

「いいから早く!」

 

 

血相を変えたほむらにほぼ押し込まれる形で店内に入る。中の様子を見るとどうやらここは雑貨屋さんのようだ。

なかなかオシャレな小物やアクセサリーがたくさん置かれていて人気店なのか俺達と歳が近い女の子達で賑わっている。

 

 

「いきなり何なんだよほむら。俺をこの店に連れ込んでどうしたんだ?」

 

「別に。ただこのお店が気になっただけよ」

 

 

何かあったのは明白なのにしれっと嘘吐いてくるなコイツ。そのポーカーフェイスが憎たらしい。

 

 

「ほむら、こういうの興味あったんだ・・超意外」

 

 

強引な上にしらばっくれる気満々みたいなので皮肉を込めてみたがほむらには通用せず鼻で笑われてしまった。

 

 

「貴女は本当に失礼ね。まあ、いいわ。しばらく店内を回ってやり過ごしましょう」

 

「ごめん、何からやり過ごすの?」

 

「さあ、行くわよ」

 

「あ!待って!」

 

 

俺の問いは無視され、さっさと店内を歩くほむらを追うためクレープを口に押し込んで慌てて駆け出す。

 

店内は女の子が喜びそうなデザインのものばかりで正直興味がない。

一人だったら絶対来ないけどよくピンクや青もしくは黄色に引っ張られてこういう雑貨を扱う店には顔を出すから今どういった物が流行っているかは一応心得ている。

 

というかめっちゃ勧めてくるからな。

主に青が「あんたは可愛いんだから少しはこういうのに興味を持ちなさいよね」って言ったり

あと黄色が「私、お揃いに憧れてるの」とキラキラした目で俺を見てきたりとか。

 

どちらも丁重に断ってる。

そういうのは別の娘とやってほしい。面倒だから俺はやりたくないんだ!

 

 

 

「優依はあまり興味なさそうね」

 

「ん?まあね。はっきり言って興味ないや」

 

 

俺が雑貨に興味がない事に気付いたらしいほむらは事も無げに聞いてくるから俺も軽い感じで答えておいた。可愛いとは思うんだけど欲しいとは思わないし興味も引かない。

 

 

「こういう髪飾りも興味ないの?貴女綺麗な髪してるんだからアレンジするのもありだと思うのだけど」

 

 

ほむらがそう言って近くにあった髪飾りが置いてある棚からシュシュを手に取っている。すみません、興味ないって言ったんですけどね?聞こえてないの?

 

 

「あーごめん、興味ない。髪弄るのも面倒だし」

 

「その割には佐倉杏子からもらったそれはしっかりつけてるのね?」

 

 

視線が俺の髪、いや杏子がくれた髪飾りに向いている。

 

ほむらはこういうタイプの髪飾りに恨みでもあるのだろうか?睨む目に憎しみが込められててさっき言った事も妙に刺々しい気がする。

 

 

「あー・・まあ杏子がわざわざ作ってくれたものだし、無下には出来ないからね。これは例外でつけてるだけだよ」

 

一先ず当たり障りのない事を言っておく。もちろん本心ではあるがそれよりもつけてないと知った時の杏子の反応が怖いというのもあるからだ。

「テメェ!アタシがせっかく作ってやったのに何でしてねえんだよ!?」とか怒鳴り散らして胸倉掴まれそうだからな。それはやだ、怖い!そうなるくらいなら本来はしない髪飾りも喜んでやるさ!

 

 

「ふーん・・・・そう、随分と佐倉杏子を特別扱いしてるのね?」

 

「いや、そういう訳じゃないって・・」

 

「本音はどうかしら?」

 

 

何故かほむらはムッとした表情になってぷいっと顔を逸らされてしまった。全身から滲み出る不機嫌オーラで怒っているのは分かったが理由が分からない。取りあえず分かるのはほむら超面倒くさい!

 

 

「はあ・・・。 お?」

 

むくれるほむらをどう対処すっかなーと何気なく辺りを見渡しているとある物が目に入りそれを手に取ってみる。

 

 

うん、これはいける!

 

 

「ほむら、これしてみてくれないか?」

 

「何よ?・・・これを?」

 

 

さっきまで不機嫌だったほむらの顔が困惑に変わっている。俺の差し出した物をどう対処したらいいか分からないらしい。そんな難しいものじゃないのに何を迷うんだろうか?

 

 

俺が今ほむらに差し出しているのはカチューシャだ。

それも赤が基調の側面に一羽の蝶がついた中々派手なデザインの物だ。

つける人を選ぶが誰が見ても美人だと太鼓判を押すほむらなら似合うはずだろうと自負している。

 

 

「俺の見立てでは絶対ほむらに似合うと思うんだ!ね、すぐ外してくれていいからこれつけてくれない?」

 

「ち、近いわよ!分かったから少し離れなさい!」

 

 

似合うと思ったのは当然だがとある思惑ありありで興奮気味に詰め寄ってみたらほむらは折れて渋々カチューシャを受け取った。おずおずとリボンかカチューシャか分からない謎の自分の髪飾りを外している。

 

「・・・変じゃない?」

 

不安そうな目で見上げるほむらの頭には俺が選んだカチューシャが乗ってある。うむ、実際つけてるところを見るとアニメ最終話の「リボほむ」を連想するな。これはカチューシャだから「カチュほむ」か?

 

 

「せめて何か言いなさいよ!何も言わないって事はやっぱり変って事でしょう!?」

 

「ふご!?」

 

 

俺が何も言わないからほむらは顔を真っ赤にして首を凄い力で締め付けてくるから一瞬昇天しそうになる。このままじゃ俺は絞殺されてしまう!

 

 

「ぐえ!そんな事ないよ!凄く似合ってる!思わず見惚れてたからつい感想言うの忘れてただけだよ!」

 

「見惚っ・・!?」

 

「隙あり!」

 

「! 待ちなさい!」

 

 

ほむらが怯んだ隙を見逃さずそのまま絞殺から逃れ、ついでにカチューシャを取り上げて逃げる。

慌てて俺を追いかけてくるけどもう遅い!いくらお前が早くてもゴールは俺の方が近いのだから!

 

 

「すみません!これください!」

 

「!」

 

 

俺が一足先にたどり着いた場所はレジ。素早くカチューシャの会計を済まし、驚きの表情で立ち止まっているほむらの元に行き買ったばかりのそれを差しだした。

 

 

「はい、これあげる。俺からのプレゼント。気が向いたらつけてね」

 

「え・・?」

 

 

戸惑ったまま動かないほむらがじれったいのでだらんとぶら下げている手を取って無理やりカチューシャを握らせる。

 

 

「・・・・・・・」

 

 

眉間に皺を寄せた表情のほむらは一言も発さずただ握らされたカチューシャを見つめている。何かに迷ってるのか?ここは無理にでも押した方が良いかもしれないな。

 

 

「お金なら気にしないで思ったよりも安かったからさ」

 

「・・何故私に?」

 

 

何故にお金?他にもっと言う事なかったのかと俺は自己嫌悪したがほむらは気にしておらず不思議そうにこちらを見つめている。

 

 

「んー強いて言うなら俺からのプレゼントかな?これからよろしくっていう意味も込めて」

 

「・・・・・・・」

 

 

ほむらがじっと俺とカチューシャを交互に見つめていてだんだん不安になってくる。

 

やっぱり急過ぎただろうか?あげる理由は俺の思惑しか入ってないから不審に思われたかも。

もしくはセンスない物渡されて対応に困ってるとか?ありえる!

だって俺、女の子にプレゼントした事ないし、ほむらの好み全く知らない!

 

どうしよう?余計なお世話だったみたいだ!自ら墓穴を掘ってしまった!

今すぐ返品して無かったことにしてしまおう!

 

 

「ほむらごめんね!いきなりこれ押し付けちゃって!迷惑だったよね!?俺、女の子にプレゼントなんてした事なくて勝手が分からないん・・ひい!」

 

この後「返品してくる」と伝えるつもりだったがほむらがカチューシャから目線を外しクワっと顔を振り上げて睨み付けてきたので思わず悲鳴を上げる。目が血走った幽霊に見えるけど幻であってほしい。

 

 

「今まで誰かにプレゼントした事ないの?つまりそれは私が初めてって事?」

 

「え?えっと・・家族とかにはした事あるけど女の子はほむらが初めてだよ?」

 

 

そのまま鬼気迫る様子で俺に詰め寄ってきたのでタジタジになりながらも何とか答える事が出来た。俺の回答に満足したらしいほむらはそわそわしてどこか落ち着かない様子だ。

 

 

「ふふ、そういう事だったのね。初めてプレゼントしたものを返すのは失礼だもの。仕方ないからもらってあげるわ」

 

「いや、そんな気使わなくて大丈夫ですよ?買ったばかりだし返品出来るからしてくるよ」

 

「駄目よ。これはもう私の物なんだから、どうするかは私が決めるわ」

 

 

生意気な発言をされ再びプイッと顔を逸らされてしまった。

 

チクショウ!これをやったのが杏子なら俺は萌えるのにほむらがやると凄いムカつくな!

お仕置きにカチューシャを取り上げようとしたけど、ご丁寧に抱え込んでしまったので奪うのを諦めるしかない。

 

それにしてもほむらの奴、何であんなに大事そうに抱え込んでんだ?

あ、ひょっとして友達いなかっただろうからプレゼントされた事もおそらく皆無なのだろう。それなら仕方がない。

 

渡したものはともかく喜んでくれて何よりだ。

だって上がりそうになってる口角を必死に抑えようとしていて少しおかしな表情になってるもん。

 

 

「ふふ、優依の”初めて”は私がもらったわ」

 

「すみません誤解を招きそうな言い方やめてくれませんか?てか、今つけなくてもいいのに」

 

「別にいいでしょう?私の勝手なんだから」

 

 

相変わらずの爆弾発言したからそれを咎めるも無視され、頭につけたカチューシャをあらゆる方向から鏡でチェックしている。そんな様子に俺は苦笑いを浮かべるしかない。

 

気に入ってくれて何よりだがまさかここまでとは流石に予想外だ。

これで少しは厄除けになればいいんだが。

 

 

そう、俺は何もこれからよろしくという友好の証としてこれを送ったのではない!

ほむらが赤いリボンをつけないように予防策を張ったまでだ!

 

だってほむらが赤いリボンをつけるという事は不吉の象徴!

その先の未来には混沌とした悪魔の叛逆しか待っていない!

そんなロクでもない未来を示唆する赤いリボンをほむらの頭に見た日には俺はうつ病になってしまいそうだ・・・。

というより既に悪魔の片鱗を見てしまったので結構ヤバいかも?

 

そんな展開は御免被るのでこうして予防をしておいた訳だ。

九割くらいその場しのぎと軽いノリだっただけにこのほむらの喜びようは嬉しい誤算だ。俺も二千円を犠牲にしただけはある。

 

出来ればずっとそれをつけてて下さい!

間違っても赤いリボンはつけないで!俺の明るい未来のために!

 

未だに鏡にかじり付いているほむらを見ながら俺はこっそりほくそ笑む。上手くいったようで何よりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ帰ろっか」

 

「ええ、そうね。明日は学校だもの」

 

 

あれからあちこち回っていたが日が暮れて来たのでスーパーで買い物した後、ほむらと二人パンパンになったレジ袋を持って街中を歩く。

 

 

「何を作るつもりなの?」

 

「俺特製ハンバーグ!自信作なんだよね!」

 

「・・ハンバーグってこんなに材料必要だったかしら?」

 

 

ほむらは訝しげにパンパンのレジ袋を見ている。・・まあこれは全部ほむらの財布から出ているから無駄遣いしたんじゃないかと思われても仕方ないけど絶対に必要なので譲る気はない!

 

 

「ハンバーグじゃないけど絶対必要なの!色々作って冷凍するから次の晩御飯にでも食べてよ。どうせ俺が帰った後、カップ麺生活に戻るんだろ?」

 

「まあ、そうね。料理してる時間があるなら他の事に時間を使いたいもの。でも貴女が作り置きしてくれるなら嬉しいわ。ゆっくり味わって食べるから」

 

「おうよ!任せんしゃい!とびきり美味しい物を作ってやるさ!」

 

 

料理には自信があるから高らかに腕を掲げて宣言する。荷物が重くてあんまり上がらなかったけど。

 

 

「・・・ふふ、これじゃまるで遠方からきた彼女みたいよ優依」

 

「そ、そうか・・?」

 

ほむらが可笑しそうに笑っているが正直理解に苦しむ。どっちかっていうと俺がやってる事って遠くに住んでる娘を心配したオカンみたいは対応だと思うけどな。

 

 

「・・・・・・・」

 

「どうした?」

 

 

反抗期っぽい娘なほむらを想像していたらいつの間にか俺一人しか歩いていなかった。後ろを振り返るとほむらが立ち止まっていて周囲を見渡している。繁華街から抜けてほむらの家に続く街中だがここも結構賑わっているので人通りはかなり多いのにどうしたのだろうか?まさか魔女でも出たのか?

 

俺の不安な予想とは裏腹にほむらは周囲を見渡した後、特に気にする様子もなくそのまま歩き出していた。突然の行動が気になった俺はポーカーフェイスのままのほむらの隣に並んで歩く。

 

 

「ホントにどうしたんだほむら?『ほむレーダー』になんか反応あったのか?」

 

「何でもないわ。それにしても何よ『ほむレーダー』って?私はロボットじゃないわよ」

 

「何言ってんの?君は未来からやって来た『ほーむネーター』じゃないか。もしくは『ほむドロイド』か?いっ!?」

 

「馬鹿な事言ってないで早く帰るわよ優依」

 

「いてて・・あ!待ってほむら!」

 

俺の足を踏んでさっさと先を歩いてしまうほむらを慌てて追いかける。ようやく追いついて二人並んで歩いているとほむらが再び立ち止まってこっちを見ている。

 

 

「優依」

 

「何?」

 

「今日は楽しかったわ。ありがとう」

 

「!」

 

ほむらが綺麗に微笑んで俺を見ているので思わず息を呑みそして下唇を噛んだ。くそ!写メ撮るの忘れた!今のはレアな現象だったのに!

 

 

「また一緒に出掛けましょう」

 

いや、それはもういいです。結構です。貴女といると命がいくつあっても足りないので遠慮します。

 

などと口が裂けても言えないので曖昧に笑いながら帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、そんな事があったのかい?道理でほむらが上機嫌だった訳だ。僕の顔を見ても殺気すら飛ばさなかったくらいだし」

 

「へー、珍しい。ほむらが?どんだけ機嫌良かったんだよ」

 

「そりゃ、あの暁美ほむらが鼻歌歌ってたくらいだからね」

 

「え!?」

 

 

現在夜遅くの『ほむホーム』。

 

この部屋の家主であるほむらは「魔女狩りに行ってくるわ」と言って出かけており、俺は作り置き用の惣菜を調理しながらマミちゃんの所から帰ってきたシロべえに晩飯で作っておいたハンバーグを出してやった。

文字通りシロべえはがっついている。

 

 

「僕がいない間に一体何があったのさ?と聞いてみたけど絶対またやらかしたんだろうなぁ。だって優依だし」

 

「失礼だな!俺は特に何もやってないよ!」

 

「うっそだぁ!君が何もしていない訳ないじゃないか!」

 

 

俺が原因だと決めつけてくる超無礼者はどんなに否定しても全く意に介さずひたすらハンバーグにがっついてる。その皿取り上げてやろうかな?

 

 

「じゃあ、ほむらが出掛ける時つけてた派手なカチューシャは何だい?」

 

「うぐ!?」

 

 

皿を取り上げようとする手がピタリと止まる。

 

 

「大方君があげたんでしょ?少し様子を見てたけど、ほむらが隙あらば鏡を見てたしカチューシャをよく触ってたよ。絶対優依絡みだと思ってたら案の定君が原因だったから笑えるよ」

 

「いやー・・だってね?これからお世話になるじゃん?色々頑張ってもらうじゃん?友好の証って必要でしょ?」

 

「そんなに赤いリボンつけたほむらが見たくないのかい?」

 

「・・・・・・・・・・・はい」

 

 

無理です!コイツを騙せる日が見えてこないぞ!?

 

項垂れた俺を見て図星だと察したらしいシロべえは「ハア・・」とため息吐いてやがる。俺がため息つきてえよ!お前勝手にいなくなったくせに!

 

 

「ほむらの意図を汲んで二人っきりにしてあげたけど良い結果と悪い結果が同時に出てくるなんて思わなかったよ。また勘違いさせたね優依。君がいれば魔法少女の共同戦線も可能かと思ってたけど逆に不可能にしてしまってて泣けてくるよ」

 

「俺のせいみたいに言うな!そもそもお前に涙腺なんてあんのか!?てか、シロべえは上条恭介(社会的)抹殺計画に怒ってたからいなくなったんじゃないのかよ!?」

 

俺の九割本気な態度を見てシロべえが激怒してたと思ってたのに!

 

 

「もちろん君のリア充への憎しみに呆れてたのは事実だよ?でも君もある意味リア充じゃないか」

 

「え!?ホント!?どの辺が!?」

 

 

まさかの俺リア充発言!?どの辺が?どの辺が!?

 

 

「バッドエンド直行の特殊なリア充さ。僕なら絶対遠慮するよ」

 

「はあ!?」

 

 

やっぱりコイツの言う事に期待なんてするもんじゃないな。俺はいつになったら学習するんだろうか?

 

 

「あ、その一部のマミは昼間留守にしてたみたいでさ。まさか鉢合わせしてないよね?」

 

「え・・?してないけど?」

 

 

何かを思い出したようだがその意図が分からず困惑する。シロべえは何が言いたいんだ?

 

 

「なら良かった。マミは夕暮れの終わり近くに帰って来たんだけど食料やら日用品やら一人暮らしにしては多すぎる量を買い込んでいたからね。その時のマミはやたら機嫌が良かったから心配だったけど何もなくて良かったよ」

 

「・・・・・・・・」

 

何それ?マミちゃんは何がしたいのかな?

大量の買い物の品を誰もいない部屋に運んでいるマミちゃんの姿を想像したら泣けてきそうだよ?

 

 

「ほむらとマミを会わせて大丈夫なのかい?」

 

「その事なんだけど俺に考えがある!」

 

 

シロべえは心配そうだが俺は待ってましたとばかりに答える。

 

 

「そっか。どうせロクでもない考えなんだろうな」

 

「やかましいわ!今日ほむらと接してみて思ったんだけど意外とアイツ社交性があったみたいでさ」

 

 

一日ほむらと一緒にいたが案外ノリ良いし会話も慣れればすぐには途切れる事はない。案外ほむらは交友関係広められるんじゃないの?

 

 

「ホントに?優依が相手だからじゃないの?」

 

「まあ意外だっただけで不器用な上にコミュ障なのは間違いないんだけど・・。そこは俺達がフォローすれば良いんじゃない?」

 

 

実際これで何とかなりそうだと俺は思ってるし、少なくともまどか辺りとは仲良くなれると自負している。敵対したり孤立するよりははるかにリスクは低いだろう。

 

 

「それは火に油注ぎそうな考えだね・・。僕は反対だよ」

 

「え!?何で!?」

 

まさかのシロべえの反対に思わず叫んでしまう。賛同してくれるとは思わなかったが反対までされるとは想定外だ。

 

 

「だってそれはほむらと一緒にいるって事だよね?間違いなく学校に血が舞いそうだしロクな結果にならないだろうね」

 

「不吉な事言うな!何で流血沙汰の展開なんだよ!?」

 

「それくらい考えなよ。じゃ僕はマミの所に行ってくるから」

 

「シロべえ待ってえええええええええええええええええええ!!せめて不穏な空気は拭い去ってから行ってくれええええええええええええええええええ!!!」

 

 

ご飯を食べ終えたシロべえはそのまま俺の制止をフルで無視して夜の闇に消えて行きこうして何だかんだで夜も更けていった。

 

明日は学校だ。シロべえはああ言っていたがやれる事やらないとマジで死ぬ!

死なないためにもやれるだけの事をやるしかない!

明日ほむらにも協力してもらおう!

うん、そうしよう!頑張れ俺!

 

一人寂しく気合を入れ、ほむらを待たずにそのままベッドに入った。




ほむほむとのデート回その二でした!
次回はそのほむほむの視点と学校編を少し入れようと思います!
ほむほむ編も次回で終わりです!そろそろマミさんの出番ですな・・。


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45話 ほむらの休日③

最近思う事;一話の文字数多過ぎね?



ほむらside

 

「やっぱり優依が作った料理は美味しいわね」

 

「そんな大げさな!もっと褒めてくれてもいいんですよほむらさん!」

 

 

締まりのない笑顔でデレデレしている優依は面白い。

 

本当に美味しいからもう少し褒めてあげようかと思ったけどこの娘の性格を考えるとすぐ調子に乗りそうだから止めておいた方が良いでしょうね。

 

・・いつも独りだったから分からなかったけど誰かと一緒にご飯を食べるのはこんなにも幸せな事なのね。

 

 

今日はとても楽しかった。私の一生の思い出。

この日をずっと忘れない。

 

 

『ほむら、今日は気分転換に一緒に出掛けないか?』

 

 

突然優依にそう言われた時、私に衝撃が走ってしばらく動けなくなってしまった。

 

デートに誘われたんだと思ったから。

 

でも実際は違った。単純に遊びに行こうって話でその時の私の落胆ぶりと怒りは今思い出しても腹立たしいものだ。

 

きっと優依はこうやって無自覚に人を誑し込んでるに違いない。少しだけ巴マミと佐倉杏子に同情するわ。

 

案の定デートではなかった(しかも白い物体のオマケ付き)けど少しでも意識してもらおうと精一杯おしゃれしたら優依に褒めてもらえて嬉しかった。少し褒め過ぎで狼狽えたけど。

 

それからは優依の服をコーディネートしたり、書店で(半分)冗談を言い合ったり、クレープを食べながらのんびり歩いたりした。この娘と一緒に出掛けるのとても楽しくて久しぶりに心の底から笑えてたと今なら思う。

 

一緒にいられるのは嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。

 

 

 

中でも一番嬉しかったのは、とある理由で私が無理やり優依を連れ込んだ雑貨店での出来事。

 

 

「はい、これあげる。俺からのプレゼント。気が向いたらつけてね」

 

「え・・?」

 

 

そう言って優依が差し出してきたのは赤い蝶のカチューシャ。

 

 

最初は突然のことに困惑したけど優依はそんな事構わず私にそのカチューシャを握らせてきた。

 

あまりの手際のよさとセンスの良さだったから他の女にも同じことしてるんじゃないかって疑って思わず眉間に皺が寄ったけど優依が「女の子にプレゼントするのは初めて」と言ってそんな疑いは瞬時に消えた。

 

思わずガン見してしまい優依を驚かしてしまうもそんな事に気が回らない。それよりも本当か確認しなくては。

 

 

「今まで誰かにプレゼントした事ないの?つまりそれは私が初めてって事?」

 

 

凝視しながら確認するとぎこちないながらも優依は首を縦に振っていて「初めて」なのが事実だと悟り、珍しく気分は有頂天になりソワソワしてしまい抑えられなかった。

 

そうと分かればこれは絶対私のもの。

いくら優依でも渡さない。

 

優依は私のおかしな態度を見て気に入らなかったと勘違いしてたみたい。

返品するためにカチューシャを渡すように言ってたけど絶対に嫌。盗られないように抱え込んで結局優依が折れた。

 

その様子を確認して私はドキドキしながら鏡を見てカチューシャをつけた。

 

鏡にうつる自分はいつも通りだけどこの赤いカチューシャは黒髪によく映えている。カチューシャについている赤い蝶は頭にとまっているみたい。

 

私は案外こういう髪飾りが似合うらしい。

優依のセンスに舌を巻きそうになる。

デザインは少し派手だけど悪くない。

これから毎日つけていこう。

 

鏡の自分に笑って自画自賛しつつそんな事考えてた。

 

このだらしない笑顔を引っ込めることは出来ない。佐倉杏子からもらった髪飾りが憎らしいと思っていたのに、単純ね。

 

 

「ふふ、優依の”初めて”は私がもらったわ」

 

 

顔を綻ばせながら冗談めいて言ってみるも「誤解されそうだからやめてくれ」と優依にげんなりした顔で言われてしまった。大方浮かれる私を見て呆れているのかもしれない。

 

でもね優依、それは誤解じゃないわよ?

 

 

優依が”初めて”秘密を打ち明けた人は私。

優依が”初めて”贈り物をした少女は私。

 

他の娘との対応が明らかに違う。

だって私は優依の特別だもの。浮かれるに決まってる。

 

もちろん、貴女が想像してる”初めて”も私がもらうわ。

さっきのは宣言よ。

 

 

 

優依は誰にも渡さない。巴マミにも、佐倉杏子にも、ね。

 

 

 

 

 

 

デートの事を振り返りつつ私は食事に夢中な優依の様子を目を細めて見ていた。無性に愛しさが込み上げてくる。

 

 

「なんだか私たち一緒に暮らしてるみたいね」

 

「え?そう見える?」

 

 

何気なく呟いてみると優依はキョトンとした表情で私を見つめていてその様子がおかしくてまたクスリと笑ってしまう。

 

そんなに意外そうな顔しなくてもいいのに。

 

 

「ええ、ルームメイトみたい」

 

「ふーん」

 

 

別段興味なさそうな表情ね。それは仕方ない。

しかしこれは良い流れね。前から考えていた事をここで優依に提案するのは悪くないかもしれない。

 

 

「ねえ、優依さえ良ければの話なのだけど・・」

 

「ん?」

 

 

間を空けて優依の様子を見る。私のそんな態度が気になったのか優依は食事を止め顔をあげて私を見た。それを合図に話を切り出す。

 

 

「『ワルプルギスの夜』を倒したらここで一緒に暮らさない?私は一人暮らしだからいくらでも部屋は余ってるわよ」

 

「え?」

 

「別に良いでしょ?すぐにとは言わないし、将来家を出るかもしれないなら私の所に住めば良いわ」

 

「あー・・考えとく」

 

「しっかり考えてちょうだい。良い返事を期待してるわ」

 

 

困り顔の優依に念を押しておく。押しに弱いから強引に迫ればいけるかもしれないから。

 

でもその前に「ワルプルギスの夜」を倒して・・、そしてその後は優依を狙う魔法少女達と白い保護者を蹴散らさなきゃいけないのは厄介ね。敵が多いわ。

 

今のうちに対策でも練ろうかしら?

まあ、私には優依を連れて逃げ切る手段があるわけだしあまり真剣に考え過ぎない方が良さそうかもしれないけど。

 

 

自分の中指にはめている指輪を見てこれからの事に思いを馳せる。

私にはまだまだやるべき事がある。今はやる事は一つ。

 

私は急いで食事を終わらせて席を立った。

 

 

「どうしたほむら?」

 

 

急に立ち上がった私を優依が不思議そうに見つめている。こんな時でも茶碗から手を離さないのね。

 

 

「今から魔女狩りに行ってくるわ。遅くなるから先に寝てて構わないわよ」

 

「あ、そっか分かった。行ってらっしゃい。気を付けてね」

 

「ええ、行ってくるわ」

 

 

何も知らない優依はのんきに手を振って私を見送ってくれる。それだけで幸せ。もう少し堪能していたいけど私の望みを叶えるためには一つでも多くのグリーフシードが必要。集めるだけ集めておかなくちゃ。

 

 

 

 

「あ」

 

外に出て少し経った後、何気なく見つめたガラスに自分が映ってる。その頭には優依からもらったカチューシャがある。

 

 

「ふふ・・」

 

「あれ?ほむらこんな所で何してるんだい?今から魔女狩りかい?」

 

 

ついガラスに向かってほほ笑んでしまった。

だってこれを見ると私は優依の特別なんだって証明してくれるから。

 

 

「今は行かない方がいいよ?彼女に出くわす可能性が高いし。ていうかそのカチューシャどうしたの?」

 

 

改めて見ると本当にこのカチューシャは可愛い。

優依から貰ったんだもの大事にしなくちゃ。

 

そっとカチューシャに触れて位置がずれていないかガラス越しに確認する。

 

 

「え?ちょっとまさかの無視?聞いてる?罵倒されるより無視される方がはるかに傷つくんだけど」

 

 

ああ、そうだったわ。私はグリーフシードを集めるために今から魔女狩りに行くんだった。こんな事してる場合じゃないわね。

 

ガラスから視線を外して少し早歩きで街を目指す。

 

 

「ちょっとほむら!話聞いてよ!今行っちゃダメだって!ねえ!」

 

 

? そういえば誰かに声を掛けられた?

何か白いものが見えた気がしたけどきっと気のせいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「反応がある。近い」

 

 

片手にソウルジェムを持って心霊スポットになりそうな廃墟を歩く。ソウルジェムの光が強くなってきているから魔女は近いかもしれない。

 

 

でもその前にさっきから私を見張ってる誰かさんを何とかした方が良さそうね。

 

 

ため息を吐いて立ち止まる。尾行してるのを全く隠す気がないなんて呆れるわ。

 

 

 

 

 

「一体何の用かしら?      

 

 

 

                

 

 

 

 

              

 

 

 

 

              巴マミ」

 

 

 

 

 

真っ暗な空間の中、相手に届くように少し声を張り上げる。

 

 

「あら、気づいていたの?」

 

 

私の背後に気配がする。

 

ジャリっと地面を踏む音が聞こえて横目で見ると魔法少女に変身した巴マミが立っていた。

 

表情は微笑んでいるのに全身から溢れる殺気で表面上の笑顔だとすぐ分かった。一応笑顔なのに似つかわしくない程凄まじい迫力がある。

 

 

「隠す気がないのに白々しいわね。ずっと私に殺気をぶつけていたでしょう?もしかしてずっと見張っていたの?」

 

 

隙を見せないように淡々とした表情で質問する。

その間にこちらも魔法少女に変身していつでも対応できるように銃を忍ばせておいた。

 

 

優依と出掛けていた時に感じた殺気。あれはやはり巴マミで間違いなさそう。

佐倉杏子の事も疑ったけど彼女の性格なら見張る事はせずそのまま目の前に現れるだろうからすぐにその線は消えた。

 

あの時は優依と一緒にいたから店に入ってやり過ごしたり見逃したけど私一人なら話は別。

 

魔女を探して街を歩いてた途中から見張られてる気配がしたからカマをかけてみたけど思いの外すぐに姿を見せるとは驚いた。

 

 

「見張ってたとは失礼ね。私は優依ちゃんを見守るためにしていたのよ。いつ貴女に襲われないか気が気じゃなくて。貴女を撃たないように抑えるのは大変だったわ」

 

 

ゆっくり巴マミの方に振り向くと彼女は私を真っ直ぐ見てすっと目を細めている。

どうやら私の事を殺したいと思っているみたい。今にも銃を構えてきそうなくらい殺気を向けてるもの。

 

 

「物は言いようね。そんなに私が嫌いならどうして私を攻撃せずつけてきたのかしら?」

 

「貴女にお願いがあるの」

 

「お願い?」

 

「単刀直入に言うわ。優依ちゃんを解放して。さもなければ容赦しないわ」

 

「・・・・・」

 

 

お願いにしては物騒な物言いになってるの気づいてないの?

お願いというより脅しに近いわね。どうしたものかしら?

ここで私が嫌だと言えば躊躇なく攻撃してくるはず。現に巴マミの周辺に魔力が集まっている。

 

ベテランである巴マミとの戦闘ははっきり言って分が悪い。

いつか戦う日が来るとしてもそれは今じゃない。

出来るだけ戦闘は避けたいから刺激するのは厳禁。ここは慎重に答えないと。

 

必死に頭を回転させ相手を刺激させないように慎重に言葉を選ぶ。

 

 

「私は何もしていないわ。あの娘自ら私に会いに来たのよ」

 

「嘘よ。優依ちゃんが貴女に会いに?冗談はやめてほしいわ」

 

 

私に向けられてる殺気が更に上がった。何とか弁論しようとしたが逆効果だったみたい。だったら巴マミの弱点を突いて動揺させた方が良い。躊躇ってる時間はない。

 

 

「貴女、自分が何したか忘れたの?どうしてわざわざ優依が貴女と険悪な私の所まで来たと思ってるの?」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「貴女が嫌がる優依を無理やり魔女の所まで連れていった挙げ句かなり危ない目に遭わせたでしょう?荒事に慣れてない一般人であるあの娘は怖い思いをしたのよ?それに懲りずにまたそんな所へ連れて行こうとする人を避けるのは当然でしょう?」

 

「っ!」

 

「まともに優依の話に耳を貸さなかったんだから避けられてもおかしくないわ。実際、貴女の魔女狩りに同行した後にやってきたあの娘は少し自棄になってたわよ」

 

 

事実は自分の役立たずぶりに絶望してただけだったけどあながち嘘じゃない。魔女狩りに一般人を巻き込むなんて正気の沙汰じゃないわ。

 

といっても私も優依に頼み込んで魔女狩りに同行してもらったから言えた義理じゃないけどあれ一回きり。何度もそこに連れて行こうとする巴マミよりはマシよ。

彼女には悪いけど優依は渡さない。

魔法少女の真相を知った途端心が壊れて自棄を起こすような人には任せておけない。

 

 

「・・そうね・・確かに後輩が出来るって浮かれてた私は優依ちゃんの言葉に耳を貸さずに無理やり連行して危ない目に遭わせた。その結果あの娘は私から離れていった」

 

「・・・?」

 

 

自嘲するように言い捨てる様子に違和感を覚える。顔を俯かせているからどんな表情をしているのか分からない。

 

 

「全て私のせいよ。離れていって当然。会ってもくれないし連絡も素っ気なくて辛かったわ」

 

「・・・・・」

 

「でも、だからこそ気付いたの」

 

「?」

 

「私には優依ちゃんが必要だって事。一緒にいてくれないとおかしくなっちゃいそうなの」

 

「! 貴女、様子が・・・」

 

 

顔を上げた巴マミはうっとりした様子で微笑んでいて目の焦点が合っていない。その姿は夜の廃墟と相まって不気味さが際立っている。無意識に後ずさりしてしまいそう。

 

 

「私が優依ちゃんを守るの!魔女からも貴女からも!危険な物全てから守れば優依ちゃんはずっと私と一緒にいてくれるでしょう?」

 

 

舞台女優のように両手を広げて廃墟全体に響くくらいの声で狂った事を叫ぶ。

私に問いかけるように聞こえるけど実際はそんなつもりで言っているようには思えない。

 

巴マミに一体何があったのかは分からないけどこれだけは言える。

絶対に優依を今の彼女と接触させてはいけない!

 

 

「何をするつもり?」

 

 

今は情報が欲しい。相手を刺激しないようにしつつ情報を聞き出さなきゃ。

 

 

「さあ?貴女には関係ないわ暁美さん。私と優依ちゃんの問題だもの」

 

「あの娘の嫌がる事をするつもりなの?」

 

「私が優依ちゃんの嫌がる事なんて絶対しないわ。・・私知ってるのよ?優依ちゃんが貴女の家に泊まってる事。どおりで何度もあの娘の家に行っても留守だった訳だわ。羨ましいわね。私がしたかった事を貴女がやってるんだもの」

 

「っ!」

 

 

緩んでいた殺気が再び波のように私に押し寄せてくる。さっきまであんなに楽しそうにしていたのに今は憎悪を隠しきれない表情で私を睨んでいて、怯みそうになるもすまし顔を維持しつつ睨み返す。

 

過去の時間軸の巴マミとは比べ物にならないくらい落差が激しい。

この様子だと協力なんて不可能だわ。彼女は諦めるしかなさそうね。

それにしても一体どこから情報が洩れてるの?

 

尾行してた?でも気配で分かるはず。一体どうして?

 

 

「私の家にいるなんてどうして思うの?」

 

「私の友達が教えてくれたのよ」

 

 

まさかあのインキュベーターが?

 

一瞬あの口の悪い白が頭をよぎるのもすぐにかき消す。あの個体なら優依を危険に晒すような真似はしないはず。

 

 

「誰よ?」

 

「ふふ、内緒。明日の学校が楽しみね。やっと優依ちゃんに会えるんだもの」

 

 

私の質問に答える様子もなく巴マミは妖艶に笑って背中を向ける。まさかこのまま帰る気!?

 

 

「待ちなさい!まだ聞きたいことがあるわ!」

 

 

ジャキっと銃を向けて制止するように呼びかける。

こうなったら武力行使しかない。実力は及ばないがどんな場面でもやりようはあるはず!

 

だけどそんな私の様子を巴マミは冷ややかに見ていた。

 

 

「私にはないわ。機会があれば懲らしめてあげようかと思ったけど気が変わったの。今は一刻でも早く貴女から離れたい。顔も見たくないわ」

 

「随分な言いようね。言いたい放題言って帰るなんて子供みたいよ」

 

「おそらくちゃんと話すのもこれで終わり。次会ったら戦いは避けられないわよ」

 

 

徐々に言い方が辛辣なものに変わっていいる。

これ以上引きとめたら戦闘は避けられない。ここが潮時のようね。

 

深呼吸した後、銃を降ろした。

 

 

「・・なるべく努力するわ。私も貴女と会っていたら理性が抑えられそうにないもの。もちろん優依にも会わせないわ。今の壊れた貴女は危険だもの」

 

「それはどうかしら?・・優依ちゃんの隣は私のものよ!貴女じゃない!!」

 

 

最後に皮肉を込めてみると今まで堪えていたのか涙声で吐き捨てて廃墟の暗闇に向かって駆けて行った。すぐに闇に溶けてどこにも巴マミの姿は見えなくなった。

 

 

 

 

 

「優依・・!」

 

 

 

廃墟に一人取り残された私は不安に駆られその足でそのまま自宅に走り優依を探す。

 

名前を呼んでも返答がなかったから悪い想像をしてしまったが寝室のドアを開けるとベッドにくるまった優依が寝息をたてて熟睡している。

 

 

「優依、良かった・・・」

 

 

さっきまで緊迫していた巴マミとの会合の後とは思えないほど能天気な寝顔をしている優依を見て安堵と呆れでずるずると床に座り込んでしまう。

 

 

「全くこの娘は」

 

 

そのままベッドに近づいて優依の頬に触れる。柔らかくてスベスベした肌で羨ましいわ。

 

 

『私が優依ちゃんを守るの!魔女からも貴女からも!危険な物全てから守れば優依ちゃんはずっと私と一緒にいてくれるでしょう?』

 

 

先程の巴マミの不穏な発言は気になる。学校で何かする気なのか?私一人で彼女を対処できるのか分からない。

相手は屈指の実力を持つベテラン魔法少女。どうしようもない不安が胸を過る。

 

私は優依を守れるのかしら?

 

 

「んー・・ほむ、ら・・」

 

「優依?」

 

 

一瞬起きたのかと思って身構えたけど、再び寝息が聞こえてきたからさっきのは寝言のようだ。

 

 

「私の夢でも見てるのかしら?夢の中でも優依を独占出来て嬉しいわ」

 

 

あどけない寝顔を見てクスリと笑う。

 

何を悩んでいたのかしら。巴マミが何か仕掛けようが関係ない。私は優依を守る。

 

そうなれば巴マミ、おそらく佐倉杏子とも戦う事になるかもしれない。

最悪一人で「ワルプルギスの夜」と戦うはめになるかもしれない。

 

それでも構わない。優依は渡さないわ!

 

 

『優依ちゃんの隣は私のものよ!貴女じゃない!!』

 

 

いいえ、巴マミ。貴女のものじゃない、私のものよ。永遠に。

 

 

「愛してるわ優依。巴マミや佐倉杏子よりもずっとね」

 

 

眠る優依の頬に軽く口づけを落とした後ベッドに潜りこんで彼女を抱きしめ目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友達何人出来るかな?」

 

「は?」

 

「という訳で本日『お友達大作戦』を決行する!」

 

「・・いきなり立ち上がって何を言ってるのよ貴女は?」

 

 

ほむらが絶対零度の眼で俺を見ているがそんな事は気にしない!ほむらの通常運転だから。

 

爽やかな朝が今から学校に向かう俺達を優しく照らしてくれるはずがこの無骨なSF部屋は日の光を一切遮断してしまっているので情緒もへったくれもない。この部屋はほむらの空気読まない性格がよく表現されてると思う。

 

今はお互いに制服。学校への準備はバッチリだ!

後は学校でまどか達と会ったらどうするかというミーティングのみ!

 

そこで俺は打ち合わせと称して昨日から考えていた作戦を打ち明けたという流れだ。

なのにこのKY紫は俺の素晴らしいアイデアを胡散臭そうに見ている。

 

 

「何か失礼な事考えなかった?」

 

「いえ、何も。それよりも今は『お友達大作戦』の方が重要だ!話を続けよう!」

 

「だからその作戦が何なのかさっぱり分からないんだけど」

 

「簡単だ!お友達作戦は言うなればお友達を作ろうという作戦だ!」

 

「そのままじゃない。・・・何故急に?」

 

「いくら理詰めで対策しても一人で対処するのには限界がある。やはり仲間が必要だ!人数が増えればそれだけ出来る事が増える!」

 

「本音は?」

 

マミちゃんの所から朝一でやって来たシロべえは的確に俺の本音を追及してくる。恐ろしい奴だ。取りあえずここは本音で語ろうと思う。

 

 

「気まずい空気は無理です!!」

 

 

俺の本心を部屋全体に届くように叫ぶ。

だって現・俺の味方であるほむらはぶっちゃけ他の魔法少女(&候補)と仲が悪い。顔合わせたらいがみ合いが始まるのは目に見える。

 

そんな状態にはさまれたら俺が辛い!

状況を打破できるなら喜んで協力しよう!

そのための「お友達大作戦」です!

 

 

「でしょうね」

 

「そんな所だと思ったよ」

 

「そんなはっきり言わんでも!」

 

 

そんな俺の浅い考えが読まれていたのか特に反応しない二人は淡々としている。

俺をいじめる時は息ピッタリだなこいつ等!

 

 

「これは大真面目に提案してるんだぞ!特にほむらに!」

 

「どの辺が真面目なのかしら?」

 

 

胡散臭そうな表情で見つめてくるほむらに怖気つきながらも俺は懸命に説明を開始する。

 

 

「まあ、聞いてくれ!君は数多くの挫折を経験して誰にも頼らないと決めたみたいだけどそんなもん驕りだ!現にそれで成功したか?むしろ誰かと協力した方が上手くいきそうだったんじゃないのか?」

 

「・・・それは、そうだったけど。今の私には貴女がいるじゃない」

 

「おーい、シロべえが抜けてるよ。今は一人じゃないけど俺もシロべえも戦力外じゃん。戦闘では役に立たないぞ?ほむらは戦闘力高い訳じゃないし、チートな時間停止も対策されたら一気に弱体化する。それにその時間停止も期限があるし」

 

「ぐ・・・」

 

 

悔しそうに唇を噛んでいる。

 

超怖いが俺の言葉は聞いているようで良かった。

それなら早速俺の作戦のプレゼンを開始させていただこう!

 

 

「そこで俺は考えたのだ!それならばほむらが他の魔法少女と深い絆で結ばれればいいじゃない!と。そうすればオールOK!」

 

「意味が分からないわ」

 

「何を言ってるんだほむら!深い絆があれば魔法少女のヤバい真相だって『ワルプルギスの夜』だって乗り越えられる!それは結果的にまどかを救う事に繋がるんだ!まどかの性格上自分だけ助かっても喜ばないけど、みんながいれば喜んでくれるよ!」

 

「そう上手くいくかしら?」

 

「ほむらは思ったよりコミュ力があるから何とかなるんじゃない?誠実な所を見せれば信頼はGET出来るよ!大丈夫!俺も協力するから!」

 

 

思ったより疑い深いな。それは性格上仕方ないか。

 

そもそもこの作戦、昨日のほむらとのお出かけで思ったよりもコイツはコミュ力があった事が判明したから思い付いただけだ。だいたいほむらが失敗した理由って、ぶっちゃけ他の魔法少女と上手く信頼関係築けてなかったのが原因だと俺は考えてる。もともと内気で人見知り激しい不器用な娘だったみたいだしな。そりゃ難しいわ。

 

ならば俺が協力すれば良いだけの話!

ほむらがつまずきそうになった時に俺が上手くフォローすれば順調に仲良くなれるんじゃない?

 

そんな単純だけど試してみる価値があるのがこの作戦だ。

 

 

「貴女が絡むと余計に拗れそうなのだけれど?そもそも今日は学校休みなさいって私言わなかったかしら?何があるか分からないのよ?」

 

 

朝、俺を抱きしめたまま起きたほむらの第一声が「今日は学校休みなさい」だった。理由は答えてくれないので不明。理由が分からないのに休めとだけ言われて納得できるか。不安な気分で家に閉じこもってたら鬱になるわ。

 

しかも夢までほむらが出て来たし悪い夢だ。(出てきたのは悪魔ほむらだったし)

 

 

「無茶言うな。先週の金曜日休んじゃったし、これから先の事態によっては学校休む必要があるかもしれないから今日は行くよ。それに急がないともうすぐマミるんでしょ?幸いそれが起こるのは今日じゃないなら今の内に手を打っておこう!」

 

「でも・・」

 

 

ほむらがあまりにも渋るんでいい加減、ムカついてきた。

お前それでも魔法少女か!?悪魔なラスボスか!?

 

 

「ほむらが守ってくれるんでしょ!」

 

「!」

 

「なら安心じゃん!」

 

 

暴論だがぶっちゃけ今の俺を物理的に守ってくれそうなのはほむらなので自信はつけてもらわないと。

 

 

「・・そうね!そうだったわね!大丈夫よ優依。必ず私が貴女を守ってみせるわ!」

 

「え?うん・・・」

 

 

さっきまで不安そうな表情だったのに今は凄いやる気に満ち溢れた顔を俺に近づけて手を握っている。まあ、納得してくれて何よりだ。これで俺は気軽に学校に行けそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、あっさり陥落しちゃったねほむら。優依を引きとめてくれるかと思ったけどチョロ過ぎ」

 

「何ですって?」

 

 

余計なひと言にカチンときたほむらが鋭い視線をシロべえに向けている。

やば・・。ほむらの全身から怒気が溢れてるよ・・。

何でシロべえ余計な事言ったんだ?

 

 

怒りのボルテージが急上昇してるほむらを無視してシロべえは俺の方を向いている。何?俺にも毒舌あんの?

 

 

「優依、僕言ったよね?君の考えた事を実行したらロクでもない結果になるって。昨日言った事なのにもう忘れちゃったのかい?」

 

「いや、でも・・」

 

 

シロべえの淡々と諭すような物言いにタジタジになってしまう。確かに昨日もそんな事言われた気もするが俺的には良い案だと思うんだよな。

 

 

「君は大人しくしてインキュベーターと魔法少女をおびき寄せる餌をしてればいいんだよ」

 

「ほお・・?」

 

 

反論しようと思ったけどやっぱりやめた。シロべえ最近言いたい放題だからお仕置きした方が良いだろう。決してさっきの発言がムカついた訳じゃない。

 

怒りに震えるほむらの方を向いて彼女に声をかける。

 

 

「・・ほむら、俺、今面白い遊びを思い付いたんだ。モグラ叩きならぬシロべえ叩き。ストレス発散になりそうじゃないか?」

 

「・・それは面白そうね。是非やりたいわ。少し待ってて、確か向こうにトンカチがあったはずだからそれを持ってくるわ」

 

 

俺の意図を察したほむらが訳知り顔で頷いている。

心なしか目がキラキラしてるけど見逃してあげよう。同士がいてくれて良かった、

 

 

「あ、待って。俺も手伝うよ」

 

「ちょっと待って!冗談だよね!?さっきのは言い過ぎた!ごめん謝るから!本気でトンカチ探すのやめて二人とも!」

 

 

いそいそと部屋を出る俺達の背中にシロべえが慌てた声で謝罪しているがもう遅い!

口は災いの元と思い知れ!毒舌宇宙人が!

 

 

何はともあれほむらは学校にいるピンク、青、黄色と仲良くなる必要がある。

もし上手くいけば万事解決は間違いない。

俺の作戦が成功することを願うだけだ。

 

 

 

 

「待ちなさい!インキュベーター!」

 

「やめてえええええええええええええええええええ!!トンカチ振り下ろさないでええええええええええええええええええええええええ!!!」

 

 

 

さて、もうすぐ学校だ。




今言いたいこと

マミさんお久しぶりです!軽く一か月出番が無かったけど元気そうで何よりです!

優依ちゃん!君のその作戦間違いなく失敗するよ!


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46話 お友達大作戦

お気に入り2500件以上登録してくれている!
きゃほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
ありがとうございます!!!


「本当にやるの?」

 

「もちろん!今日逃したら後がないからな!」

 

 

ほむらと一緒に学校へ向かっている途中、こいつは何度も俺に念押しで本当に『お友達大作戦』を決行するのか確認してくる。この期に及んでまだ俺の悪ふざけだと思ってるのだろうか?失礼な奴だ。

 

 

「・・・分かったわ。優依の好きにすればいい。それで私は何をすればいいの?」

 

「お!理解が早い!じゃあまずは・・って何でそんなに不安そうな顔してんの?緊張する事もないのに」

 

「・・貴女は幸せね」

 

 

ため息ついて意味深な事言ってるけど友達作るのってそんなに緊張するもんなのか?確かに緊張するけど何もそんな今から戦場に行くみたいな緊迫した表情せんでもよくない?

 

 

「大丈夫だって!俺頑張ってフォローするから!シロべえだって・・まあ、いる事だし」

 

「それまで生きてればね」

 

 

実はシロべえも一緒にいるんだが今は仮死状態。

理由は家を出る前のほむらのすっきりした表情でお察しください。

・・やり過ぎたとは思ってるよ。

 

 

今は学生鞄とは別に持ってきているバッグの中に遺棄、じゃなくて待機してもらってる。いざとなったら生き返って何とかしてくれるさ。多分。

 

 

「・・ところでほむら、それ気に入ってくれたのは嬉しいけどわざわざ学校までしていかなくていいんだぞ?」

 

 

遠慮がちにほむらの頭に目を向ける。

そこには学校にしていくには少々派手なカチューシャがあった。俺が昨日あげた赤い蝶のやつだ。

学校までしてくるなんて実はコイツ目立ちたがり屋なのだろうか?

 

 

「これをつけていくのは私の勝手でしょう?いくら貴女でも文句は言わせないわよ」

 

「はーい・・」

 

 

有無を言わせない迫力に渋々頷くしかないようだ。

ここまでほむらを駆り立てる何かがこのカチューシャにあるのだろうか?

聞いてみたいが今はほかにやる事があるからスルーするか。

 

 

「よし!気を取り直して最初のターゲットから初めてみるか!序盤だから気楽な所から行こう!」

 

「待ちなさい!手を引っ張らないで!」

 

 

気分を入れ替えるために明るい声を出してほむらの真っ白な手を握り通学路を走る。

後ろから抗議の声が聞こえるがそんなの気にしない!

 

いざ決戦の学び舎へ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・彼女からいくの?」

 

「そう、あいつからいくの」

 

 

今俺達は遠目から教室にいるターゲットを観察している。

 

外から丸見えのガラス張りの教室ってこういう時は役に立つな。

さてさて中には何人かのクラスメイト達がいるようだが、どうやらターゲットも既に教室にいるみたいだ。

 

 

俺たちの最初の狙いは青髪のあいつ。

 

 

「手始めに『美樹さやか』から始めようと思います!」

 

「何故彼女なの?」

 

「ぶっちゃけほむらと一番仲悪いのさやかじゃん?もし失敗してもダメージ少なそうだし」

 

「へタレな理由ね」

 

「いきなり本命よりは良くない?」

 

 

ターゲットその一「美樹さやか」!!

 

ご存じ「魔女化皆勤賞」な青!ほむらとは原作でも別の時間軸でも仲が悪い。

ほむら曰く友達だった時期もあるそうなのだが全く想像がつかない。仲が良かった時間軸があるなんてある意味奇跡だと思う。

和解できそうだった劇場版でも結局最後は決裂してしまう二人だ。かなり手ごわい。

 

個人的にはこの二人って似たもの同士だと思うんだけどなー。いがみ合うのも同族嫌悪ってやつじゃないの?

 

さやかはかなり厄介だけど(ほむらにとって)本命のまどかやハードル高そうなマミちゃんよりは難易度低いと思う。仮に失敗してもそこまで落ち込まないだろうし。

 

 

「それじゃほむら。いってくるよ!」

 

「いってらっしゃい。大して期待してないから気楽にやりなさい」

 

 

微妙な応援をもらって俺は一人で教室まで歩く。まず俺がさやかと話して大丈夫そうならほむらを呼ぶ作戦だ。それまでは廊下で待機してもらってる。

 

ほむらに敵対心持ってるさやかがいきなり本人と会うと噛み付かんばかりの勢いになるのは目に見えてるからな。まずは様子見だ。

 

少し緊張しながら教室に入って一目散にさやかを見ると一人携帯をいじりながら席に座っていた。どうやら今日はまどかや緑お嬢様と一緒に登校しなかったらしい。

 

これはチャンス!早速話しかけてみよう!

席も近いから話しやすいし。

 

 

「おはようさやか、ひ!」

 

 

俺が自分の席に着いてさやかに挨拶したらいきなり奴は顔を勢いよく上げてこっちを向くから小さく悲鳴をあげてしまった。

 

どうしたっていうんだ?

俺が挨拶するのがそんなに珍しいって言いたいのか?

いつもなら気楽に挨拶返してくれんのにどうした?

 

 

「優依!あんた大丈夫!?」

 

「何が?」

 

 

血相変えたさやかが俺の挨拶無視して放った第一声がそれか?

何があったんだよ?

 

 

「魔法少女体験コースの次の日の学校休んだでしょ!?優依が学校休んだのってひょっとしてあたし達のせいじゃないかってまどかと話してたんだ!だってあんたは参加すんの嫌がってたし危ない目に遭ったからそれであたし達に腹が立って休んだのかもって話し合ってたんだよ!そういやその夜に魔法少女体験コースに行かないって電話来た時の優依の声、なんだか元気なかったしさ。ホントにごめん!もう絶対あんな事しないから絶交しないで!あたしもまどかも優依を困らせたかった訳じゃないんだ!魔法少女を体験出来るって浮かれてておかしなテンションになっちゃっててそれで・・」

 

「え?あ、うん。大丈夫、気にしてないから!学校休んだのも(マミちゃんに会いたくなかったからで)さやか達のせいじゃないよ!」

 

 

まさか挨拶しただけでこんなマシンガン謝罪が来ると思わなかった。

美樹さやか恐るべし。

そっか、俺が杏子の所に行ってる間にそんな事があったのか。

正直に言うと俺の知らない所で勝手にやってろっていうのが本音で、不参加の電話した時点でもう終わった話だからそんな深刻そうな顔せんでもいいのに。

 

さやかがこれじゃあ、優しすぎるまどかはこの比じゃないかも。

うわ・・めんどくs、大変だな。

 

 

近い将来起こるであろう謝罪の嵐に軽く憂鬱になりそうだ。

 

 

 

「怒ってない・・・?」

 

 

不安そうに俺を見てるさやかを安心せるためめんどくさいけどニコッと微笑んでおく。

 

 

「怒ってないよ。むしろ心配してくれてありがとう」

 

「! そう言ってくれるなんて優依ってさホント優しいね!しかも超美人だし同じ女のあたしでも惚れちゃいそうだもん!いっその事あたしの嫁になる?」

 

 

それは冗談でも勘弁してください。

お前の嫁とか苦労しかしなさそうだし。

てか、やめてくんない?冗談めかして言ってるのに目がマジっぽく見えるんですけど?

 

まどかはどうした?嫁じゃないのか?

いやむしろお前、杏子の嫁じゃん。

 

 

「冗談は程ほどにしときなよ?さやかはヴァ、上条君のお嫁さんになるんでしょ?」

 

「ちょ!?やめてよ優依!誰が聞いてるか分かんないじゃん!!」

 

 

話題逸らしのために上条の名前出したけどついうっかりいつもの癖でヴァイオリン馬鹿と言ってしまいそうになって危なかった。顔を真っ赤にして必死に俺の口を塞いでいるさやかは聞いてないみたいで助かったわ。

 

そんなに慌てなくても皆知ってるのに。青春だなあ。

 

 

「あ、そうだ」

 

「ん?」

 

 

何かを思い出したのかさやかは俺の口を塞ぐのを止めて鞄の中を漁っている。取り出したのは一冊のノートでそれを俺に突き出してる。

 

 

「はいこれ。あんたが休んでた時の授業内容のノート。まどかと一緒に作ったんだ。ホントは休みの時に渡そうかと思って家に行ったけど留守だったから」

 

 

まじか!?よっしゃ!

休んでた時の授業内容のノート誰かから借りなきゃと思ってたけどこれは思わぬラッキーだ!

 

 

「いいの?ありがとう!助かるよ!」

 

「いいのいいの!これくらいさやかちゃんにとっては朝飯前なんだから!・・ほとんどまどかがやったんだけどね」

 

「その気遣いが嬉しいの!ホントにありがとね!」

 

「そ、そっか・・」

 

 

受け取ったノートを胸に抱えて満面の笑みでお礼を言うも何故かさやかに目を逸らされてしまった。

熱でもあんのか?顔あおいでるし。

 

 

さやかは欠点ばかり目につきやすいけどちゃんと良い所もある。

こういう友達思いな所はさやかの長所だ。

どうしてか今は凄く機嫌が良いみたいだからひょっとしたらこれはすんなり成功するかも?

 

よし!試してみるか!

 

 

「さやか、相談があるんだけど」

 

「ん?何の相談?恋の相談ならこのさやかちゃんが喜んで聞いてあげるよ!」

 

 

ノリノリで調子良い事言ってるが君の場合、相談される側じゃなくて相談する側だよ。はよ成就させろや。

 

 

「恋の相談じゃないよ。えっと・・ほむらの事なんだけど?」

 

「ほむら?誰それ?・・まさか転校生の事言ってる?」

 

「そ、そうそう!転校生の事なんだけど!」

 

 

怖っ!さっきまで人懐っこい笑顔だったのに今じゃ能面みたいに表情が消えてる!

心なしかプレッシャーも感じるよ!

さやかさん貴女そんな顔出来たんですね!知りたくなかったよ!

 

 

「あいつに何かされたの?」

 

「違うよ!えっと、その相談ってのはね」

 

「ひょっとして優依が学校休んでたのってあいつのせいなの!?だってあの時あいつが去った後、優依すぐに『用事がある』って言ってあいつが去った方角と同じ方に走って行ったじゃん!脅されたんでしょ!?」

 

 

バンッと机を叩いて立ち上がるさやかは声を荒げている。

もしここにほむらがいれば間違いなく喧嘩吹っ掛けてたかもしれない程の荒々しさだ。幸いクラスメイト達はこっちを気にしていないけど時間の問題かも。

 

何とかさやかを落ち着かせなきゃヤバい!

 

 

「だから違うって!あれは」

 

「やっぱり転校生は悪い魔法少女なんだ!キュゥべえを襲ったし危険な奴だし!優依!もうあんな奴に近づいちゃ駄目だからね!」

 

「お願いさやか!話を聞いて!」

 

「この事マミさんに相談しなきゃ!じゃないとあいつ今度はもっと悪い事するかもしれない!」

 

「おいこら人の話聞けや!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・はあ」

 

 

昼休み、俺は屋上の景色を一人黄昏ながら見ている。

 

あの後は大変だった。

 

ヒートアップしたさやかは「転校生にガツンと言ってやる!」と鼻息荒くして他人のふりして席に座ってるほむらに抗議しようとするから止めるのに必死で話すどころじゃなかった。途中で教室に入って来たまどかと緑お嬢様が暴走する青を宥めてくれたから事なきを得たけど凄く疲れた。

 

あの様子じゃ何言っても聞かなさそうだ。さやかは諦めた方が良いのかもしれない。分かっていたけど凹むな。

 

俺達の様子を傍観していたほむらの表情はやっぱりねと書いてあった。落ち込む俺に彼女が励ましのつもりで

 

『どの時間軸の美樹さやかも思い込みが激しくて頑固よ。一度思い込んだらそのまま真っ直ぐ突き進んで止まる事を知らない厄介な性格なの』

 

と、さやかの辛口コメントを言ってたけど正直超特大ブーメランにしかなってないと思うのは俺だけか?

 

 

そんな似た者同士疑惑のほむらはここにはいない。

 

一緒にお弁当食べるつもりだったけど先生に呼ばれたとかで先に屋上に行っててと言われたから俺一人だ。本当はまどか達と合流したかったけどさやかが暴走するからやめておいた。

 

意気揚々と『お友達大作戦』を実行してみたが序盤から出鼻を挫かれてからずっと意気消沈を抜け出せていない。さやかの様子からいけそうだと思っていたから余計にダメージを受けてる。

 

 

こんなんでこの先、大丈夫なのだろうか・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優依ちゃん」

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

背後から俺の呼ぶ声が聞こえて振り向いたら今日いるはずのない人物が立っていて目を見開いた。

 

 

「マ、マミちゃん?どうしてここにいんの?今日は学校休んでるって聞いたんだけど・・?」

 

 

そうなのだ。『お友達大作戦』を実行するにあたって当然マミちゃんもターゲットに含まれてるから接触する必要がある。

 

長い話になりそうだから昼休みか放課後に時間取れないかマミちゃん本人に確認しようと三年生の教室に行ったんだけど「巴さん今日は休んでるよ」と言われてしまったのだ。

 

休んでるなら仕方ない。放課後にお見舞いがてら会いに行こうと思ってたんだが、何で休んでるはずのマミちゃんは制服着てここにいるのだろうか?

 

あのクラスメイトが嘘ついたのか?多分それは無いと思うけど。

だって「巴さんにも友達がいたのね」と少し涙ぐまれたから。

その様子に逆に俺が泣きそうになったわ。

 

不審に思いながらマミちゃんを見ると彼女は俺を安心させるように優しく微笑んでる。

 

 

「ええ、今日はお休みなんだけど優依ちゃんに会いたくなって来ちゃったの。貴女が一人になるこの時を待ってたわ」

 

「へ、へえ、そうなんだ・・」

 

 

どうしてだろうか?マミちゃんの笑顔にゾクッとする。

 

昼休みだというのに屋上には俺とマミちゃん以外の生徒はおらず助けを求められない。校舎の中に逃げたくても出入り口を遮るようにマミちゃんが立っているから逃げ込めない。

 

ここにいるのは俺とマミちゃんの二人だけ。

 

いや、俺は屋上にバッグを持って来てる。

中にはシロべえ(死体)が入ってるから一応一人じゃないが、どうしたものか?

アイツは動けないだろうし、万事休すだ。

 

それにしてもどうしてマミちゃんは俺に会いに来たんだ?

 

・・・ひょっとして怒ってるのだろうか?思い当たる節は沢山ある。

俺が魔法少女体験コースを断ったり、無断で学校休んだり、最低限の連絡しかしなかった事しな。

 

でもそれには理由がある。

 

だってマミちゃんがむっちゃ怖かったんだもん!

最後に会った時なんて泣き叫ばれたからな!

最後に連絡とった時なんて狂気に満ちたホラーなメールと留守電だったもの!

 

 

俺の新たなトラウマとして刻まれるのは当然じゃないか!

 

 

マミちゃんを目の前にしてトラウマ再発してる今の俺には彼女と一対一で会話するなんて無理!

誰か挟まないとまともに受け答え出来ない!でもシロべえは瀕死。

 

となると希望が残ってるのはほむらだ。

もうすぐここに着くとテレパシーがあったからすぐ来てくれるだろう。

元々『お友達大作戦』の一環で二人でマミちゃんの所に行くつもりだったから都合が良いかもれしない(ほむらは会うの反対だったけど)。

 

 

頼むほむら!早く来てくれ!

具体的に言うと一秒でも早く来てくれると嬉しいです!

じゃないと俺は恐怖で発狂しそうです!

 

 

 

 

「優依ちゃん会いたかったわ・・」

 

「わー・・たった数日会ってなかっただけなのに大袈裟だよマミちゃん」

 

 

ゆっくり近づいてくるマミちゃんがとっても怖いので後ろに後ずさる。触れられる距離まで近づかれたらOUTな気がするんですけど。

 

何でやっと再会出来た人みたいな嬉しさをかみ殺した声色してんだよ?怖いわ!

 

 

 

「大袈裟じゃないわ。優依ちゃんに会えない日が続いたでしょ?寂しくて寂しくておかしくなりそうだったのよ?」

 

「あれ?俺のいない間もまどかとさやか連れて魔法少女体験コースしてたんでしょ?だったら寂しくないじゃん」

 

「してないわ」

 

「え?」

 

 

耳を疑うもダメ押しのようにマミちゃんは首を横に振っている。

どうやらさっきのは俺の幻聴ではないらしい。

 

つまり・・?

 

 

「優依ちゃんから電話があった後、二人からも連絡があってしばらく参加は保留にして欲しいと言われたの。きっと貴女の事で何か思う所があったんでしょうね。私も負い目があったから了承したわ」

 

「・・・そうなんだ」

 

 

まどか、さやか成長したな。

これなら俺も危機に瀕した甲斐があるというものだ。

出来る事なら魔法少女体験コースに参加する前に成長して欲しかったけど。

 

と言う事は二人から相手にされなくなったマミちゃんは再びぼっちを拗らせていると?

 

 

うわあ・・そういう事か。

まどさやの魔法少女の問題が解決した途端、別の問題が発生してしまった!?

 

 

「・・でもね、その事は別に良いの」

 

「ん?」

 

 

急に暗いトーンで話すマミちゃんに違和感を覚える。

マジでどうしちゃったんだ?顔も陰がある表情してるしさ。

 

 

「魔法少女体験コースをしなくたって二人は仲良くしましょうって言ってくれたわ。実際、優依ちゃんがいなかった日は昼休みにお弁当を一緒に食べたり、電話したりしたもの」

 

「へ?楽しく過ごしたように聞こえるのに何で?」

 

 

そんな病んでるっぽい状態になってんですか?

 

 

さすがにそこまで言えなかったから心の中で聞いてみる。

答えてくれないだろうけど。

 

何故だ?君にとって最大の悩みであるぼっちは解放されたのに嬉しくなさそうに見えるぞ?

 

どうやらシロべえから聞いた以上にマミちゃんの様子がおかしいように見える。

例えるなら薬でもやってんのかと疑いたくなるくらい病んでそう。

・・病んでないよね?

 

 

「!」

 

 

さっきから後ろに後退してるとふいに背中に固いものが当たった。横目で見るとそれはフェンスだった。

 

まずい!もう本当に逃げ場がない!

 

 

「ふふふ、これでもう私から逃げられないわね」

 

「っ」

 

 

嬉しそうに笑っているマミちゃんが不気味に見えて仕方ない!

まだですかほむらさん!?何故か俺ピンチです!

味方であるはずのマミちゃんに襲われそうになってます!

 

縋るような目でマミちゃんの後ろにある校舎の出入り口を見るもほむらどころか誰も来ない。

 

 

「ねえ優依ちゃん」

 

「な、なに・・?」

 

 

名前を呼ばれたので恐る恐る出入り口から視線を外しマミちゃんを見る。

俺から一定の距離を保ってマミちゃんは立ち止まっていた。

それ以上は近づいてくるつもりはないのかそこから一歩も動く様子がない。

 

 

「私ね優依ちゃんの事・・大好き」

 

 

なぜにここでそんな事言う!?

やめて!そんなうっとりした表情で俺を見ないで!

告白みたいで恥ずかしいし何より怖いわ!

 

 

「優依ちゃんは私の事どう思ってる?好き?嫌い?」

 

 

不安そうに俺を見るがどう答えろと?

分からない。どう答えれば正解だ?

 

 

焦りながらも必死に頭をふる回転させる。

 

 

(嘘でも)嫌いだなんて言ったら間違いなく魔女化する!

逆に好きだなんて言ったら言ったで面倒そう・・。

 

だってあの豆腐メンタルな黄色だしな・・。

 

 

 

何だこのすごく難しい選択。究極の選択じゃん!

 

 

 

「・・・答えてくれないの?」

 

 

ああああああああああああああああ!!

まずい!本格的にマミちゃんが泣きだしそう!

つべこべ悩んでる場合じゃないぞ俺!

一刻も早く何か言わなきゃ魔女化待ったなし!!

 

 

ならばここは第三の選択肢だ!

 

 

 

「俺はマミちゃんの事(友達として)愛してる!」

 

 

 

ヤケクソになって屋上のど真ん中で愛を叫ぶ俺。

・・テンパってヤバい事叫んじゃったかもしれない。

 

 

「・・本当?」

 

「うん、本当だよ!」

 

 

少しの沈黙の後、マミちゃんは恐る恐る確かめるように聞いてくる。俺はそれに冷や汗をダラダラ流しながら首を縦に振る。

 

嘘は言ってない。友達としては大事に思ってるから。

 

 

 

「嬉しい!だって優依ちゃんが私のこと愛してるって言ってくれたんだもん!」

 

 

俺の言った事が本当だと分かったのかマミちゃんは両手をそろえて無邪気に喜んでいる。一先ず一難は去ったようだ。

 

 

「それって暁美さんや佐倉さんよりも私のことが大事って事だもの!」

 

「!」

 

 

マミちゃんの口から意外な人物の名が出てきて目を見開く。

気を抜いてたから心臓がそのまま口から出てきそうなくらい暴れている。

 

 

「何でそこに杏子が出てくるのかな・・?」

 

 

俺が杏子と知り合いって事知ってたのか?いつの間に?

じわりじわりと背中に汗が流れだす。

 

 

「・・優依ちゃんが学校を休んだ日にね風見野行きのバスに乗り込む貴女を見たって聞いたの。ひょっとして佐倉さんの事知ってるかもって思ってカマかけてみたけどその様子だと知り合いみたいね?」

 

「・・っ。誰がそんな事言ったの?」

 

「誰だっていいじゃない。ねえ、お見舞いに家に行ったら留守だったのも何度も連絡したのに返事がなかったのも全部佐倉さんに会ってたからなの?」

 

「そ、それは・・」

 

 

事実なんで思わず口ごもってしまう。

 

それにしてもまるで俺を責めてるみたいな棘のある言い方だ。

いや、実際俺の事責めてるのだろう。

俺を見るマミちゃんの目つきは厳しい。空気もピリピリしているし怒っているのは明白だ。

 

 

なんて答えればいいんだ?

 

 

「その髪飾り、まるで佐倉さんを思い出させるわね。彼女からもらったの?」

 

「!」

 

 

答えかねてる俺にマミちゃんは容赦してくれない。

鋭い視線が俺の頭に向けられたので無意識に手で遮る。

意外と使い勝手の良い杏子からもらった髪飾りは今日もしてて、何も考えてなかった。まさかマミちゃんに追及されるとは思わなかったわ。

 

 

「酷いわ・・。私も優依ちゃんに髪飾りをプレゼントしようと思ってたのに断ったじゃない。それなのに佐倉さんのは受け取ったの?」

 

「いや、その・・」

 

 

そういや前にそんな事あったな。

マミちゃんが俺にお揃いの髪飾りプレゼントしたいって。

はっきり言っていらなかったから断ったけど今更蒸し返されるとは。

女って執念深いっていうけどマジだわこれ。

 

 

「いつの間にか暁美さんとも仲良くなってるのね?魔法少女体験コースの後、彼女と会ってたんでしょ?暁美さんから聞いてるわ」

 

「ほむらと会ったの!?」

 

「”ほむら”?もう呼び捨てで呼び合う仲になってるなんて随分と仲が良いわね。彼女の家に泊まってるみたいだし、今日もそこから一緒に登校してたものね?」

 

「えっと・・」

 

 

俺が”ほむら”の名を口にした瞬間、マミちゃんの目が鋭くなった。

どうやら俺の知らない所でひと悶着あったらしい。

道理でほむらはマミちゃんに会うの反対するわけだ。

しかしどうして俺が泊ってる事から一緒に登校した事まで知ってるんだ?まさか見てたんじゃないよね?

 

 

 

「どうしてよ!?」

 

「!?」

 

 

マミちゃんの質問に何も答えないでいると突然大声で叫ばれて思わずビクッと身体を震わせてしまった。驚いてマミちゃんを見ると瞳に涙をいっぱい溜め込んでギッと俺を睨んでいる。

 

 

「私のこと愛してるって言うならどうしてあの二人と会ったの!?どうして私を放って仲良くするの!?」

 

「お、落ち着いて!」

 

 

冷静になるように声を張り上げて呼びかけてみるも今のマミちゃんに効果はなくそれどころかますますヒステリック気味になっていく。

 

 

「私を見て!ずっと傍にいて!他の娘たちと仲良くしないで!私だけを愛して!そうじゃないとおかしくなりそうよ・・」

 

「何言ってんの・・?」

 

 

何だろう?こんな緊迫した雰囲気なのに、俺の頭の中では彼女に浮気を言及されてる彼氏みたいな構図しか思いつかないんだけど?やばいな俺。

 

 

「優依ちゃんさえいれば他に何もいらないわ!貴方さえいれば私は幸せなの!そのためならどんな敵からも貴女を守ってみせる!一生大事にお世話してあげる!」

 

 

狂ったようにひたすら喋りまくって止まらない。

 

 

 

ほむらああああああああああああああああああああああ!!

マジで早く来て!

俺じゃマミちゃんを抑えられそうにないよ!

 

すっごい情緒不安定だもの!

さっきまで喜んでたのに今は涙を流しながら叫んでる!

 

とてもじゃないが一般人の俺が対処できるものじゃない!

マミちゃんよ!おかしくなりそうじゃなくて既におかしくなってるように見えるぞ!?

 

 

 

 

「・・・だから」

 

 

「?」

 

 

必死に目を瞑って心の中でほむらに助ける俺のすぐ近くでマミちゃんの声がする。

震えながら目を開けると至近距離にマミちゃんの顔が見えた。優し気な印象だったその瞳は暗く濁っていてとても同一人物とは思えない。

 

その目を見て今すぐ逃げなきゃと本能が囁いてるが足が震えて動かない。

 

 

 

 

 

 

ほむら様助けてえええええええええええええええええ!!

マミちゃんが怖いよおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからはずっと一緒よ優依ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

マミちゃんが見惚れるほど綺麗に笑った後、俺の視界は黄色一色に覆われて何も見えなくなった。




優依ちゃんピーンチ!!
このままマミさんに捕まってしまうのか!?

どうなったかは次回をお楽しみに!


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47話 紫vs黄色

感想読んで思ったこと

優依ちゃんに恨みでもあるんですか?


「?」

 

 

襲ってくる衝撃に備えて目を瞑っていたが何も起こらず、代わりに何かに支えられてるような感触が俺の身体(特に背中)に感じた。

 

 

「大丈夫?怪我はないかしら?」

 

 

訳が分からない俺の頭上に凛とした声が聞こえる。

 

 

 

「! ほむら来てくれたんだ!ありがとう!マジ助かった!!」

 

「!? ちょっと!離れなさい優依!」

 

 

目を開けるとほむらの心配そうな顔がドアップであって、感動のあまり思わずこいつの首に抱き着いてしまった。耳元で奴の慌てた声がしたがそんなの気にしてられない!

 

マジで怖かったあああああああああああああああ!

ほむらが助けてくれなかったら今頃俺はどうなっていた事か!

 

 

「///・・・遅くなってしまってごめんなさい。今日一日一緒にいたのに少し油断した所を狙われるなんて、私とした事が」

 

「いや、いいよ。今日マミちゃん休みってほむらも隣で聞いてたしね、少しくらい大丈夫だと思うって」

 

「そう言ってくれるのなら助かるわ。魔力を感じたから急いで来たけど正解だったわね。間に合って良かった」

 

 

そうなのだ。ほむらは今日の昼休み先生に呼ばれるまでずっと俺の傍にいた。

別れたのはついさっきだったから今ココにいるって事は、その用事をかなり早めに終わらせてきたみたいで俺一人になったのはほんの数分だった事になる。なのにまさかそのタイミングでマミちゃんが現れるなんて誰が想像出来るんだ?

 

 

こんな狙ったタイミングで現れるなんてまさかマミちゃんずっと俺の事見張ってたんじゃないよね?

 

 

そっとマミちゃんがいる方向を見るとにっこりと笑ったまま動かない。彼女の周囲には無数の黄色いリボンが波のように群がっており、元々俺がいたであろう位置に隙間なく降りかかろうとする寸前だったようでそのまま停止している。

 

さっき視界全体を覆った黄色はリボンだったのか。これが俺に向かってきてたのかと思うと身震いしそうだ。

 

どうやらほむらの時間停止が発動してるみたい。

改めてほむらを見ると魔法少女に変身しており、そして俺をお姫様抱っこしながらマミちゃんからかなり離れた位置に立っている。

 

客観的に見るとコスプレした華奢な美少女にお姫様抱っこされる俺。

はっきり言ってすごく情けない。

 

 

「あの・・降ろしてくれるとありがたいんだけどって、どこに行くの?」

 

 

流石にこんな羞恥プレイを継続されるのは辛いので降ろしてもらおうと声を掛けるも無視され、そのまま俺を抱っこしたままほむらは歩き出した。更にマミちゃんから遠ざかっており足取りに迷いはないように思うがどうしたんだ?

 

 

「決まってるでしょう?私の家よ」

 

「何で?」

 

「優依を守るために私の家で匿うのよ。巴マミは貴女の家を知ってるでしょう?彼女の事を考えるともう帰れないだろうからこれから先ずっと私の所で暮らせばいいわ」

 

「はあ!?」

 

 

平然と爆弾発言をした迷いのないほむらは俺を抱えたままフェンスの上に飛び乗り家がある方向に顔を向けて学校を去ろうとする。

 

 

「待って待ってほむら!マミちゃんはどうするの!?今何とかしなきゃマミっちゃうし、何より俺怖くて学校どころか外歩けないよ!」

 

「やめなさい、危ないから暴れちゃだめでしょう」

 

 

このままお持ち帰りは嫌なのでじたばた暴れて抗議するも、あんまり強く抵抗するとフェンスから落ちそうなので大した抵抗が出来ないのが辛いな。しかもそんな俺に対して言う事聞かない子供をあやすようなほむらの宥め方がめっさ腹立つ。

 

 

「大丈夫。一生外に出られなくても問題ないわ。不自由がないようにするから」

 

「何言ってんの君?」

 

 

真顔で何とんでもない事言ってるのだろうか?頓珍漢な回答にも程があるわ。

苦労させないって言ってるように聞こえるけど既に俺はほむらと会話するだけでかなり苦労してるんだけど?

 

 

「もうすぐ時間が元に戻る。巴マミに見つかると厄介だから今の内に距離を稼いでおきましょう」

 

「おい!マジで聞けって!このままほっといてマミちゃんが死んだらまた同じ事の繰り返しだぞ!?そうなったら終わりのないループの時間が続く事になる!お前この時間軸のまどかを救うんじゃなかったのかよ!?」

 

「それはまた後で考えるわ。今は貴女を匿う事が最優先よ。最悪巴マミが死んでも仕方ないと思ってるわ」

 

「はあ!!?」

 

 

ほむらの並々ならぬ言い方から本気だと悟り今度は渾身の限り暴れた。

その成果が出たのかほむらはフェンスから降りて屋上に着地し俺に向かってため息を吐いている。こっちが吐きたいが今はほむらを説得する方が優先だ。

 

 

 

「まどかが悲しむぞ!」

 

「そうね。でもこれは不可抗力よ。優依の代わりはどの時間軸にもいないじゃない。だから貴女を優先するわ」

 

 

うおおおおおおおおおおい!伝家の宝刀「まどか」が通用しないだと!?

馬鹿な!?まどかが通じないほむらなんてホットドッグにウインナー入ってないくらい違和感があるぞ!

どうしよう!?まどかの名を出せば何とかなると思ったのに!

他にほむらを説得する材料は?まどか以外思い付かないけど考えなきゃ!

 

 

「俺、マミちゃんいなくなるの凄く嫌!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

考えた末に俺は自分の正直な気持ちを告げる事にした。

ぶっちゃけこれ以外思い付かない。これでほむら説得できなかったらどうしよう?

上手くいく未来が見えない。だって目の前のほむら凄く不機嫌そうに眉間に皺寄ってるもん、怖いわ!

 

 

 

 

「もし、いなくなったら俺一生マミちゃんの事後悔しながら思い出して泣いてるかもしれない」

 

「・・・・・・・分かったわ。私が彼女を説得するから貴女はそこに隠れてなさい。いいわね?」

 

「良かった。ありがとうほむら!」

 

 

マジか!?よっしゃ!!

正直上手くいくとは思わなかったけどほむらは了承してくれて良かった!

だって嫌じゃん?友達が頭齧られた姿とか一生のトラウマになりそうだし、そんな場面見たら夢に出てきそうだぞ!

 

 

重いため息を吐いたほむらは渋々、それはもうかなり渋った態度で俺を降ろし、マミちゃんの方に歩いて行く。俺は急いでシロべえが入ったバッグを回収して建物の物陰に隠れ成り行きを見守る事にした。

 

それにしてもほむらがとってもやる気なさそうに見えるのは俺だけか?

歩くペースはかなり遅いし心なしか背中は気だるげな雰囲気が出てる。

何故だ?ワルプルギスの夜を倒すにはマミちゃん程の火力が必須だというのにここでやる気出さないでどうするんだ?

 

 

ひょっとしてほむらはマミちゃんを仲間に引き入れるのを諦めてんのか?

 

 

「?」

 

 

ほむらが盾に手を突っ込んで何かを取り出している。俺からは背中しか見えないから取り出したものが見えない。ようやくマミちゃんの所にたどり着いたほむらは空中で静止してるリボンを一瞥しながらマミちゃんの真横に立ち止まる。

 

 

そして手に持っていた黒い何かをマミちゃんのこめかみにあてたと同時に時間が動き出した。ゴウッと渦巻いた音を立てながらリボンは俺がいた場所を飲み込んだ後、地面に落ちて水のように広がっていた。

 

 

「動かないで」

 

「!?  ・・・暁美さん?」

 

 

違和感に気付いたマミちゃんは訝しげにリボンを見たがそれも一瞬で横に立つほむらに驚愕の表情をし、やがて鋭い視線で睨みつけていた。

 

目を凝らして見てみるとほむらが手に持っているものそれは黒光りに輝いている銃であった。

それをマミちゃんのこめかみに当てている。

 

 

ほむらさああああああああああああああああああああん!!?

説得はどうした!?完全に脅してますけど!?

 

 

「驚いたわ。もう気づいてしまうなんて。優依ちゃんをどこへやったの?」

 

「貴女には関係ないわ。随分と悪質な事してくれたわね」

 

 

マミちゃんは一瞬驚いた顔をしていたけどすぐに不敵な笑顔を浮かべて横目でほむらを見ている。銃を突きつけられてるのに全く動揺せずに腕まで組んで余裕そう。流石ベテラン。

 

 

「・・そう、先に優依ちゃんを救出しなきゃと思ってたけど、どうやら貴女から対処しないといけないようね。上手くいきそうだったのによくも邪魔をして・・!」

 

「八つ当たり?犯罪を止めたのだからむしろ感謝して欲しいくらいだわ」

 

「私言わなかったかしら?二度と貴女に会いたくないって。次は戦いになるわよって。そんなに私と戦いたいなら容赦しないわ」

 

 

俺の捕縛用に放たれたリボンはそのまま地面に落ちていたが、再び命が与えられたように動きだし、今度はほむらに向かって一斉に襲いかかる。

 

しかしほむらもそれを予想していたらしくすぐさま時間停止を発動させてリボンの動きを止めマミちゃんの真横から真正面に移動していた。

 

何も知らなきゃ時間停止かっこいいと思うが、裏側ってかなりシュールな光景なんだな。

あの暴走紫を止めようとさっきからテレパシーを送っているが無視されてしまっている。

 

何を考えてるんだあの紫は?あの最強格のベテランと戦いたいとか考えてんのか?

 

 

 

 

 

「不思議な光景ね。私と貴女以外の全てが時間が止まったように動かない」

 

 

「な!?」

 

 

「え!?」

 

 

全ての時間(ほむらと俺以外)が止まる中、何故かマミちゃんの時間は止まっていないようでそのまま顔を動かして真正面に移動したほむらを見据えている。予想外の出来事に俺もほむらも目を見開いて驚いてしまった。

 

 

「ひょっとして貴女の魔法は時間停止なのかしら?」

 

「・・・・!」

 

 

初見殺しのほむらの時間停止を見破られた!?

これにはポーカーフェイスのほむらも焦りを隠せないようだ。見るからに動揺していて少し後ずさりもしてる事から多少弱気になってるかもしれない。

 

 

「もし私の予想が正しければとても厄介ね。でも弱点もあるみたい。貴女に触れていれば時間停止は効かないようね」

 

「いつの間に・・!?」

 

 

すっとマミちゃんが手を翳すとほむらの右足に巻かれたリボンが姿を現した。そのリボンの端はマミちゃんの腕に巻かれている。どうやらそれで時間停止を逃れたようだ。末恐ろしい。

 

 

「貴女と会話していた時にこっそり仕込んでおいたの。だっておかしいでしょ?一瞬で優依ちゃんがいなくなって代わりに貴女が私に気付かれることなく接近するなんて何かあると思うわ。どういう仕組みか調べるつもりで試しに施したんだけど予想以上に効果はあったようね」

 

「く・・」

 

 

マジか!?マミちゃんすげえな!

たった一回でそこまで冷静に対処出来るなんて今まで生き残ってきた実力者は違うって訳か。

やっぱり頼りになるから仲間に引き入れたい!

 

 

・・でも、そんなに冷静に対処出来るならさっき俺にしたトチ狂った行為は一体何だったのかと問い詰めたいな。

 

 

「どうする?ここで退散するなら見逃してあげるわ。ただし二度と優依ちゃんに近づかないって約束してもらうけどね」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

現状は圧倒的にマミちゃんが有利だ。その事は本人も分かっているのだろう。

かなり高圧的な口調でほむらに語りかけている。

それに対してほむらはじっと視線をリボンが巻かれた自分の足に向けていた。

 

ただでさえ戦闘力はマミちゃんの方が上なのに絶対的なアドバンテージであった時間停止も通用しないとなるとほむらが勝てる確率はほぼない。ここは素直に引き下がった方が賢明だろう。

 

 

 

それは俺も分かってる。でもそれはやめて!

 

 

 

今ここでほむらに去られると俺どうなるか分からない!

今度こそマミちゃんに捕まってゲームオーバーだ。もうお天道様を見られるかどうか。

しかも二度と俺に近づくなと約束させれそうになってるから助けてもらえる可能性もゼロ!

 

このままじゃ俺お先真っ暗!

 

 

お願いしますほむら様!

俺を見捨てないでえええええええええええええええええええええ!!!

 

 

 

祈るようにギュッと手を握って物陰から涙目でほむらを見るもほむらの方も俺を見てる?

 

 

「・・・・・・」

 

 

間違いない。絶対俺の方を見てる。

マミちゃんに気付かれないように流し目だからガン見してるとは言い難いけど視線はずっと俺の方を向いている。最初の方は不安そうな表情だったのに次第に決意を固めたようなキリッした表情に変わっていき最後の方は小さく俺に笑っていた。

 

すみません。何かメッセージがあると思うんですが俺は怖いです。

ほむらさん貴女の頭の中で一体何が起きてるんですか?

 

 

 

 

 

「断るわ」

 

 

 

 

俺に笑った後、ほむらは勢いよく身体を動かしてマミちゃんの眉間に標準を合わせて持っていた銃の引き金を引いた。

バンッと乾いた音を立てて弾は眉間を狙うもマミちゃんはすんなり避けた。特に焦った様子もなく腕を組んだままだ。

 

ほむらも避けられると予想していたらしい。撃ったと同時にマミちゃんから距離をとってリボンを解こうとするも特殊なものらしく銃を撃ったが解除できないみたいだ。仕方ない様子でマミちゃんの方を向いて銃を構える。

 

 

「残念ね。あのまま素直に引き下がってくれれば無事で済んだのに」

 

 

底冷えしそうな冷たい目でほむらを見ている。本当にあのマミちゃんかと思うくらい冷めた表情だ。

 

 

「その油断が命取りになるわ。時間停止が使えなくても戦い方はいくらでもあるから逃げはしない。私はただ貴女という脅威から優依を守るだけよ。あの娘に危害を加えようとした貴女を許さない」

 

 

マミちゃんのその冷たい視線に全く怯まずほむらは堂々と受けている。

俺を守ってくれるその意思は大変ありがたいが俺はマミちゃんを説得してほしいと頼んだんだ。

誰が宣戦布告して来いと言った?

 

ほむらの喧嘩を売るような言い方にマミちゃんはピクリと眉を顰めてかなり不機嫌そうに見える。

 

 

「心外ね。・・それじゃまるで私が優依ちゃんにとって危険人物と言ってるみたいよ」

 

「違うのかしら?」

 

「違うわ!私はただ優依ちゃんと一緒にいたいだけよ!!それを邪魔するなら許さない!!」

 

 

煽りには定評があるほむらの挑発に乗ったマミちゃんは激高した後すぐさま魔法少女に変身し大量のマスケット銃を出現させてほむらに先制攻撃を仕掛けた。それを迎え撃つためほむらもマシンガンを取り出して発砲している。

 

 

「ひい!」

 

 

銃弾がぶつかり合って空中ビリヤードのようにあらゆる方向にはじき飛んでいくので急いで地面に頭を伏せる。どっちも威力は申し分ないので当たったら即死は免れないだろう。だって弾が当たった場所が深く抉られてるんですもん。

 

 

「ちょこまかとうっとうしい」

 

「これが私の戦い方よ。貴女も自分の魔法を発動させればいいじゃない」

 

「未だに足にリボンを巻きつけておいてよく言うわ」

 

 

リボンを使って屋上内を人間離れしたアクロバティックな動きで飛び回るマミちゃんを撃ち落とそうとほむらがマシンガンやショットガン、マグナムなどあらゆる銃を撃ちまくっている。

 

さながら劇場版の二人の戦闘が再現されてるみたいでファンにはたまらないが俺としては勘弁して欲しい。巻き込まれて死にそうだから!

 

 

「なっ!?それは卑怯よ!」

 

「これが私の戦い方よ。貴女も自分の戦い方をしてるじゃない」

 

「だからってこれはナシよ!」

 

「つべこべ言ってないで避けるのに専念しないと当たっちゃうわよ」

 

 

 

 

「熱っ!」

 

 

俺の目の前が火の海になっている。

何言ってるかと思うが文字通り火の海だ。めっさ熱い。

 

 

なんとほむらは盾から火炎放射器を取り出して屋上を火あぶりにしやがった!

可憐な美少女が無表情で周りを火の海にする光景はさながら新たな地獄絵図と言えるに違いない。

 

トラウマ案件だけどマミちゃんの行動範囲が狭まったのは確かだ。

現に足場に困って炎が回っていない場所で立ち往生している。

 

ちなみに俺の周囲は火が回っていない(それでもかなりの高温で熱いが)。

ほむらが気を使ってくれたようだがそんな冷静さを残しながら周囲を火の海にするコイツの容赦のなさに戦慄を覚えたよ。

 

 

「これならどう? ティロ・フィナーレ!!」

 

「チッ!」

 

 

ほむらが立っている真上から毎度おなじみ厨二あふれるティロ・フィナーレ砲(通常サイズよりも二倍でかい気がする)をぶっ放し、屋上にドデカい穴が空いた。ほむらはすぐに横に逸れて躱したが火炎放射器は今の攻撃で大破してしまい火の海も凄まじい衝撃波で消火されてしまって真っ黒い焼け跡が残った。

 

 

「危ないわね。私を殺す気?」

 

「それはお互い様でしょう?こっちは危うく焼き殺される所だったのよ」

 

 

少しの会話をした後、体勢を整えて再びほむらとマミちゃんは銃撃戦を始めた。

 

 

 

 

 

 

激戦が繰り広げらている中で俺は一つ言いたいことがある。

 

 

 

 

「ここ学校なんですけどおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

 

 

 

 

 

目の前で超次元な銃撃戦が繰り広げられているので目を奪われそうになるが忘れてはいけない。

 

ここは学校なのだ。彼女たちが戦っているのはその屋上。

 

当然校舎内には数多くの生徒並びに教師がいる。

こんな銃声の大音量が響きまくっているので誤魔化しようがないわ!

かなりの騒音なので俺の制止する声なんて二人には届かず戦闘に夢中になっているせいかテレパシーも通じない。

 

誰か来て巻き添えになったらどうするつもりだ!?

こんなもんどう言い訳するつもりだよ!?

 

アイツら絶対ここが学校だって事忘れてんだろ!!

 

無数の銃弾を食らった屋上はもはや原型を留めておらず以前の面影すらない。間違いなく弁償案件だぞこれ。

 

 

つうか、さっきから戦い見てると二人が本気で殺し合いしてるようにしか見えない!

火炎放射とかティロ・フィナーレとかどう見ても魔女にしか使っちゃいけないものまで出しやがって!

特にほむら!お前どっから拝借してきたんだ!?

 

 

 

 

「あれ・・・?」

 

 

どれくらい時間が経過したか分からないがかなり戦いが長引いてるはずだ。

 

 

おかしい。これだけ馬鹿騒ぎ起こしているのにここへ誰かがやって来る様子も悲鳴も聞こえない。

まるでここには俺達しかいないみたいだ。どうなってんだ?

 

 

 

 

「な・・なんとか間に合った・・」

 

「! シロべえ!?」

 

 

 

首を傾げていると近くに置いてあったバッグがもぞもぞと動いて中からゾンビのように這っているボロボロのシロべえが出てきた。どうやら意識を取り戻したようだ。

 

 

「・・大丈夫か?」

 

「誰のせいだと思ってるのさ?あともう少しで僕は昇天してしまう所だったんだよ!かなり痛めつけられたから意識を取り戻すの遅くなっちゃったんだから酷いよ!」

 

「いやーごめんね。ほむらの殺る気が凄まじくて止めるのに苦労したんだ」

 

「今度やったらキレるからね!」

 

 

見た目はボロボロだが開口一番きゃんきゃん元気よく吠えるシロべえの様子は見た目より大丈夫そうだ。

 

 

 

「それはともかく俺たちが以外人がいないみたいだけどシロべえ何かしたか?」

 

「ご明察!マミが現れた時くらいから目を覚ましてたから何かしら対処しようとしたんだ。だけどほむらが急いでこっちに向かってくる気配を感じたから咄嗟に用意してた僕謹製『仮想バトルフィールド』を発動させたんだ」

 

「何それ?ここ学校じゃないの?」

 

「うん、違うよ。ここは僕が作り出した空間さ。外界から切り離されているからどれだけここを破壊しても現実に影響はないよ。優依が学校に行くからには戦闘は避けられないかもと思って一応用意したけど正解だったみたいだね。後こっちに被害が来ないように結界も張ってあるよ」

 

「流石シロべえ!マジで頼りになる!それなら安心だ!ついでにあの二人の戦いも止めてくれると嬉しいです!」

 

 

相変わらずな優秀さに舌を巻いて絶賛すると同時にこの訳の分からない戦闘もついでに止めてもらえないかお願いしてみる。おそらくシロべえなら簡単に解決出来るはずだ。

 

 

 

 

 

 

俺の指差す方向は未だ激しい戦闘が繰り広げられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきから搦め手ばかりな気がするわね。流石私から優依ちゃんを掠め取った泥棒猫の事はあるわ。とても卑怯だもの。今までそうやって生きてきたのかしら?」

 

「人聞きの悪い事言わないで。そんな真似はしていないわ。あ、でもそんな卑怯な私でも優依との関係は貴女よりも深いと言えるかしら?」

 

「寝ぼけてるの?私は暁美さんなんかよりもずっと優依ちゃんと一緒にいたのよ?出会って一週間しか経ってない貴女なんて足元にも及ばないわ!」

 

「本当にそう言い切れるかしら?例えば、ほら・・」

 

 

そう言ってほむらは自分の頭についてる赤いカチューシャに触れた。まるでマミちゃんを挑発するように見せびらかしているみたいだ。

 

 

「付き合いの長い貴女は優依にプレゼントしてもらった事あるの?」

 

「! うるさいわよ!」

 

 

ほむらの意図を察したマミちゃんは悔しそうに顔を歪ませてカチューシャを撃ち落そうするもほむらによってそれを阻まれる。

 

このままでは勝機がないと判断したほむらはどうやらマミちゃんを怒らせて隙を作る作戦に切り替えようだ。

とてもおっかない。心なしかとても楽しそうに見えるのは俺の気のせいだと思いたい。

 

今は上手くいってるけど果たしてまずい方向にならないか心配だ。

 

 

「貴女さえいなければ・・!」

 

 

怨念のこもった声と目は一直線にほむらに向かって注がれている。

 

 

今のマミちゃんは原作でも見たことが無いほど迫力満点だ。

ここまでマミちゃんに恨まれてるなんてほむらは一体何をやらかしたんだ?

 

 

「いなければ何?優依は貴女の傍にいてくれるとでも?それはないわ。仮に私がいなかったとしても佐倉杏子がいるもの。あっという間に取られちゃうでしょうね。身近にいたが故に慢心していた貴女が悪いのよ!」

 

 

熱くなっていくマミちゃんと比較してほむらはどこまでもクールだ。

王者の貫録すら出ているかもしれない。

 

 

「ぽっと出の泥棒猫のくせに言ってくれるじゃない・・!」

 

 

ほむらのその余裕な表情にマミちゃんはますます激昂していくばかり。

 

 

「なら今の貴女は負け犬の遠吠えね」

 

「そう言ってられるのも今のうちよ?貴女も佐倉さんも無事では済ませないわ!最後に勝つのは私よ!」

 

 

そう叫んで無数のマスケット銃をほむらに向かって一斉射撃をお見舞いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、とっても修羅場ってるね☆」

 

「言ってる場合か!何とかしなきゃ!」

 

 

俺達の前で尚も続く激しい銃撃戦。

弾は空中で止まっていることから時間停止が発動されているようだ。

解除された時の銃弾の嵐が非常に怖い。この建物崩れるんじゃないだろうか?

 

それにしてもシロべえさん。

さっきの感想だとこの戦い楽しんでるようにしか聞こえない甲高い声だったぞ?

 

 

「俺はこの無意味は戦いを止めてほしいんだけど!」

 

「無理。あんな修羅場の間に入るなんて自殺行為だよ。ここはどちらが勝つまでやり過ごす方が賢明だね。それに僕は君たちのせいでこんなにボロボロで、しばらく動きたくないくらい身体が痛いんだ。僕は少し休ませてもらうよ」

 

「嘘つけ!お前今この戦い撮影してるよな!だって両目が『●REC』って表示されてるぞ!そんな暇あるなら止める方法一緒に考えてよ!!」

 

 

リラックスした姿勢で戦いを傍観もとい観戦しようとするシロべえの顔を引き寄せて目をじっと見る。

案の定、無機質な目には『●REC』と表示されていた。撮影中のためかいつもより目が赤く光ってる気がする。

 

 

「ちょっと揺らさないでよ。手ブレならぬ顔ブレしちゃうじゃないか」

 

「やかましい!お前それ何に使うつもりなんだよ!?それ所じゃないって言ってんだろうが!!」

 

 

派手な爆発音が響く中、魔法少女同士の激しい戦闘を尻目にマヌケな戦いがひっそりと開催されていた。




お知らせ

番外編でマギレコのみなさんを登場させようと思っています!
ストーリーはまだちゃんと考えてませんが
優依ちゃんが神浜市に遊びに行くという話にしようと考えてます!
短編なのであしからず!それぞれの魔法少女の話を一話か二話程度の短編です!

まだ誰を出そうか考えてないのですが今のところ登場予定なのが

『アリナ・グレイ』さん

『八雲みたま』さんです!

しかしこの二人の話は本編の話がかなり進んだ後に投稿する予定になるので先にマギレコレギュラー陣を投稿させる予定です!

誰の話を投稿するかアンケートするのでよかったら回答お願いします!
投票が多かった人をトップバッターに執筆するつもりです!

残りの人達は自分のモチベーションが続けば投稿します!


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48話 紫vs黄色 決着

アンケート絶賛受付中!
結果発表は次回の投稿時にお知らせするのでよろしくお願いします!


ドドドドドドドドドドドドドドドド

 

バキィ ドガン グシャ

 

 

「いつまで続くんだこれ?」

 

 

何故かいきなり勃発した紫と黄色の激戦を物陰に隠れて見学しつつ今更ながらに思う。

 

そもそもの発端は一体何だっけ?俺がマミちゃんに襲われた事?

ほむらがマミちゃんに銃向けて発砲した事?よく分からん。

 

 

 

シロべえは知ってるみたいだけどこの戦闘の撮影(結局根負けした)に夢中で何も答えてくれない。

さっきから俺一人でこの無駄な戦闘を止める方法を考えてるんだが何も思い浮かばない。というかただの一般人が超人ハ〇ク的な魔法少女の戦闘を止めるなんて無謀にも程がある。

 

 

「待ちなさい!」

 

「こっちよ」

 

 

今は追いかけっこをしてるらしい。ほむらが逃げてマミちゃんが追いかけてる。

時間停止が発動してるのにマミちゃんがほむらを狙って発砲するものだから空中に停止する弾数が増えていく。もうすぐ解除されて銃弾の嵐が発生するからこれ以上弾数を増やさないで欲しい。

 

というかマミちゃんよ。なぜそこまで執拗にほむらの顔を狙ってるんだい?

妬みでもあるんですか?君も十分美人さんでしょうが。

 

 

「ほむらの暴走は通常運転だから別にいいとして、マミちゃんは一体何を考えてんだ?俺の事『大好き』と言っておきながら襲ってくるなんて理解出来ないぞ?」

 

「おや?意外とクールな反応だね?君の事だから好意を伝えられた途端デレデレになると思ってたけど?」

 

 

俺がポツリと呟いた事に興味を持ったのかシロべえがこちらを振り返っている。

そんなにおかしな事を言っただろうか?さっきまで何を話しかけても無視してた奴が妙な所で食いつくな。

 

 

「意外って、この年頃の女の子は友達に好意を伝えたりするもんじゃないのか?実際前に通ってた学校で仲良かった女の子達とよく『大好き』って言い合ってたし」

 

「え?初耳なんだけど?君にそんな事言った女の子ってどんな子たちだったの?」

 

 

俊敏に反応したシロべえに少し引いてしまう。今重要な事かそれ?

 

 

「どんなって普通に可愛い娘達だったぞ?皆気遣い出来て優しい娘が多かったな」

 

「他に共通点はないの?実は魔法少女だったりしない?」

 

 

さっきよりも更に食い気味に赤い目で俺の顔をじっと見てくるから何かおかしな事言ってしまったのだろうか?てか、何で魔法少女?

 

 

「いや・・指輪はしてなかったから多分違う。ああ、でも共通点と言えば皆それぞれ事情抱えてたな。家庭崩壊してたり虐められてたり、両親が他界してたり」

 

 

共通点と言えば全員性格良くて可愛かった事とそれぞれ何かしら不幸で訳ありだった事くらいしか思い浮かばない。

 

 

「・・・あ、うん、なるほど」

 

「何がなるほどなんだ?」

 

 

疑問が解決したとばかりにうんうん頷いている。曖昧な事を口にしただけなのに何故かシロべえはそれで納得してた。

 

 

「取り合えず優依はどこにいても優依だって事はよく分かったよ。今だけじゃなくて昔からやらかしてたんだね。君の友達も可哀想に」

 

「なんだよそれ?」

 

「さあ?自分で考えなよ」

 

 

とても失礼な事を言ってる気がするのでどういう事かと聞こうとしたけどそれっきりはぐらかされて撮影に戻ってしまい会話は終了してしまった。つれない奴だ。

 

 

それにしても懐かしい。今でも連絡は取り合ってるが今頃あの娘達はどうしてるだろうか?

俺が転校するって知った時なんて大号泣してくれたし、「絶対また会おうね」って言ってくれた優しい娘たちだ。

 

何故か親友のトモっちの事は毛嫌いしてたけどな。

まあ、あの変態ぶりだから一部の女子に嫌われてたけど俺と一緒にいるときは凄い噛み付いてきたな。

トモっちの方は俺と彼女たちを見比べながらよく気持ち悪い笑顔してたっけ。

 

引っ越してかなり経つのに今でも俺の事心配してくれている。

電話で話す内容はもっぱら質問攻めが多い気がするし特に俺の交友関係を知りたいみたいだ。

彼氏出来たの?とか、どういう娘と友達になったの?とか心配性だなあ。

 

未だに『いつでも帰ってきていいんだよ。ずっと待ってるからね』と言ってくれる。

ホント俺を大事に思ってくれるなんてありがたい事だ。

 

 

元気にしてるといいな。

 

 

そんな優しい女友達と一緒に過ごしていた中でよく彼女たちから「大好き」って言われる事が多かった気がする。そんな自分の経験から同性の思春期って気軽に好意を伝えるものだと思ってたからマミちゃんに「大好き」って言われた時も前の娘達と同じ、この年頃にありがちだと認識したんだが違うのか?

 

だってこの前、杏子も俺の事「大好き」って言ってくれたし、どこでもそれがノーマルだと思ったんだけど。

 

 

 

 

「そろそろね」

 

 

ボーっと思い出を振り返りながら目の前で繰り広げられている鬼ごっこを見ていたんだが、ほむらがふいに立ち止まってマミちゃんと対峙している。じっと動かないで様子を見てるからどうやら時間切れのようだ。

 

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

 

 

「ひええええええええええええええええええええ!!」

 

 

ついに時間が動きだし、空中に静止していた無数の銃弾が一斉に動き出し縦横無尽に飛び回っている。

魔法少女の戦闘のせいで廃墟と化して原型を留めていない学校は更に削られていき、鼓膜が破れそうな大音量に耳を塞ぎながら地面に丸まった。緊急事態のためさっきまでの思考はすぐに吹き飛んで身を守る事を最優先に切り替える。

 

 

≪シロべえ!ホントにこれ大丈夫なんだろうな!?≫

 

 

俺の目の前で無駄なプロ根性で未だに撮影を続けているシロべえにテレパシーを送る。真横スレスレに銃弾被弾したのにまだ続けるって呆れを通り越して尊敬の念すら湧いてきそうだ。

 

 

≪うるさい、今撮影中だよ!結界張ってあるから大丈夫だって言ったでしょ?≫

 

≪そうだけども!やっぱり怖いじゃん!ホントに結界機能してるか心配だよ!≫

 

≪これだからへタレは・・・。あっ・・・≫

 

≪どうした?何かあったのか?≫

 

 

俺の不安な様子に根負けしたのかイライラした声で俺たちがいる空間をじっと見てたシロべえが素っ頓狂な声を出していて、その様子にとっても嫌な予感がする。

 

人間こういう時の嫌な予感って当たるんだよね。頼むから外れていて欲しい。

 

 

 

 

 

 

≪・・・結界のバッテリー切れてる≫

 

 

 

 

≪はあ!?≫

 

 

マジで嫌な予感って当たるんだね!

 

 

 

今この瞬間俺らにとって最悪な展開かもしれない。

 

つうか何でバッテリーで動いてんだよ!?そもそも何のバッテリーで動いてんだこれ!?

嘘だよね?お願い嘘だと言って!!

 

どれだけ願っても嘘ではないらしく奴の漂白された身体の全身からダラダラ大量の汗を流している。

 

 

≪あーくそ!そろそろ単三電池の入れ替え時期だった事忘れてたよ!≫

 

≪単三電池!?そんなので動いてたの!?≫

 

 

結界に関しての俺のファンタジックなイメージが急速に崩壊していく。

何でよりにもよって単三電池?せめて太陽光とか風力とかの方がまだ良かった。

 

 

≪しょうがないでしょ。だって結界って結構エネルギーがいるんだよね。確かに自然エネルギーでも作れるけど効率悪いからすぐに補給できる単三電池を重宝してたんだ。コスパも良いし≫

 

 

知りたくなかった裏事情がつらつらと吐き出されていく。

もうこれ以上イメージ崩壊しようがないくらいの衝撃だよ。

宇宙救済掲げたスケールのでかい宇宙人から「コスパ」って言葉聞きたく無かったわ。

 

 

≪でもデメリットもある。簡単に補充出来るけどあっという間に消費して短期間で取り換えが必要なのが欠点なんだ。電池が切れてる間は結界が消えるからとても無防備になる≫

 

≪つまり今の俺らは無防備な状態で戦場にいるって事か?≫

 

≪そうなるね☆≫

 

 

いたずらっ子が失敗を誤魔化すように舌を出しておちゃらけているがそれ所ではない。

 

 

≪ヤバいじゃん!急いで単三電池取り替えないと!≫

 

≪いやー・・それがね、替えの電池忘れてきちゃって☆≫

 

 

シロべえ的には精一杯可愛く言ったつもりらしいが今の俺にとっては殺意しか湧いてこない。手を出さないだけかなり理性的だと思う。

 

 

≪張っ倒されたいのかお前は!?だったら尚更すぐにあの二人を止めなきゃ!!≫

 

≪やだ!巻き込まれて死にたくないし何よりせっかく撮影してるんだから最後まで見届けたいよ!≫

 

≪あほか!こんな所でプロ意識出してる場合じゃないだろ!撮影終了する前に死ぬぞ俺ら!≫

 

 

意地でも動かないつもりらしいシロべえは床に噛り付いていて引き剥がせない。どんな場面で執念見せてんだコイツ!?

 

 

「どうやら決着つかなかったみたいだね」

 

「は?・・うわ・・」

 

 

くだらないやり取りしてたらいつの間にか銃弾の大雨は静まっていて、全体が蜂の巣のように穴だらけになっている。土煙が収まって視界が開けてきたので様子を見ると、ほむらとマミちゃんは無傷で銃を構えながらお互いを睨んでいる。

 

冗談抜きでいつまで続けるつもりだろうか?

こんな惨状になってもまだ気が済まないとかどうなってんの?

 

 

 

「いい加減うっとうしいわね!これで終わりにするわ!」

 

 

どうやら次で最終局面を迎えるようで空気が緊張感に包まれピリピリしている。言っちゃ悪いが「やっとかい」とほっとしてしまいそうだ。

 

 

これが最後と決めたらしいほむらは盾からロケットランチャーを取り出し更に戦争映画に出てきそうな無数のミサイル弾まで取り出していた。

 

あの紫はマミちゃんを殺す気なのか?

「ワルプルギスの夜」はどうした?

 

 

「貴女こそ!私と優依ちゃんの前からさっさと消えて!」

 

 

マミちゃんもほむらの攻撃を真正面から受けて立つようでさっきと比べ物にならない程の大きさのティロ・フィナーレ砲を上空で生成して下にいるほむらに狙いを定める。

 

コイツもコイツでほむらを消しとばすつもりだろうか?

自称「正義の魔法少女」はどこいった?

 

 

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

 

 

 

 

 

「ふぐううううううううううううう!」

 

 

 

同時に放たれた強大な二つの力がぶつかり合ってこの戦闘で一番の衝撃波を放っている。

凄まじい熱量と風圧で何かにしがみつかないと吹き飛ばされてしまいそうだ。

 

 

「ううう」

 

 

身体を後方に吹き飛ばされないように廃墟の岩に抱きつくような形でしがみつく。

少しでも気を抜いたらアウトだ。すぐにでも身体を持って行かれそうだ!

 

 

 

 

「あ」

 

 

 

「え?あっ、シロべええええええええええええええええええ!!」

 

 

 

 

なのにシロべえの馬鹿は一瞬油断してしまったのか衝撃の余波でそのままはるか後方に吹き飛ばされてしまった。慌てて手を伸ばすも既に姿が見えない所まで行ってしまっている。

 

 

欲張って良いアングルで撮ろうと近づくからそうなるんだろうが!!

実際、俺が必死にしがみついてる最中でも床に這いつくばってたからそりゃ当然の結果になるわな!

 

助けに行きたいが今尚、衝撃の風圧は続いており立ち上げる所か必死に壁にしがみつかないと俺まで吹き飛ばされてしまいそうだ。

 

 

「!」

 

 

爆発の衝撃からか建物の残骸が俺のいる所めがけて飛んできている。まるで俺に対してホーミング機能でもついてるのかと疑いたくなるくらい真っ直ぐこちらに曲線を描いて飛んでいる。

 

 

 

まずい!

避けたくても今も続く風圧が邪魔して思うように動けない!

 

助けを求めたくてもシロべえは自業自得でここにいない!

マミちゃんとほむらは今の攻撃に集中してるからこっちには気づかない!

 

打つ手なし!絶望的だ!

 

 

 

「っ!」

 

 

もうすぐ当たりそうなくらい瓦礫が近づいていて息を呑む。

 

 

せめて痛くない死の方が良かったのに・・・!

 

 

少しでも痛みが和らぐように目を瞑り歯をくいしばって痛みに備える。

 

 

 

 

 

――――――――――――!!

 

 

 

 

 

「いっ・・・!」

 

 

 

俺の間近で耳の鼓膜が破れてしまいそうな爆発音が鳴り響く。耳を塞ぎたかったが爆発音の後すぐにさっきよりも凄まじい風を正面から受けてしまったため慌てて吹き飛ばされないようにしがみつくしかなかった。

 

 

「?」

 

 

あれ?風が少し和らいだ?

でも間接的に受ける風はまだまだ強烈。何かが風を遮ってる?

 

 

 

「!? ひっ!?」

 

 

考え事してたからか一瞬気を緩めてしまい、俺もそのまま後ろに飛ばされそうになるも腕を何かに捕まれた。

 

 

「え?え?」

 

 

そのまま引っ張られて俺の身体をすっぽり何かに覆われてしまった。

 

 

怖い・・・!

風圧のせいで目をまともに開けられないから俺を包んでるものの正体が全く分からない!

分かるのは触れてる何かは暖かくて柔らかい。あとそれが正面にあるから風圧がかなり抑えられている事くらいか。

 

ていうかこの感覚って・・俺抱きしめられてないか?

腰に回されてるの腕みたいな感触だし。

 

 

 

 

この訳のわからない時間は永遠に続きそうなくらい長く感じたがそれもすぐさま終わり謎の爆発の衝撃もおさまったようでそれに伴い風も止んだみたいだ。

 

もう目を開けてもいいかな?

 

 

 

「あれ・・?」

 

 

 

「きゃっ!」

 

「うっ!」

 

 

 

「え?何!?何なんだよ!?」

 

 

目を開けようとした瞬間、俺を包んでいた温もりは煙のように消え去って代わりにマミちゃんとほむらの悲鳴が聞こえた。ダメージを負ってるのか「うぅ・・」と呻き声のようなものまで聞こえてくる。

 

え?一体何があった!?てか、これ目を開けたらアカンやつじゃね!?

どういう状況かすごく知りたいけどこういう場合で目を開けたら目の前にヤバいヤツがいるパターンな気がする!

 

 

 

よし!絶対目を開けない!開けたら死ぬ!!

 

 

 

――――――ジャリ

 

 

「!」

 

 

こっちに向かって歩いてくる足音がして肩がビクリと動いた。逃げたくても身体が震えて座り込んだまま動かない。

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

目の前に気配を感じる。誰かいるの!?

 

ほら来た!怖えええええええええええええええ!!

お願い!どっか行ってください!

俺を殺したって何の得にもなりませんから!

 

 

「っ!?・・うぅ」

 

 

恐怖でガタガタ震える俺の頭に何か置かれている。

 

 

「?」

 

 

 

ひょっとして頭撫でられてる?俺を安心させるようなゆっくりとした優しい手つきで困惑する。

どういう事だ?俺を殺すんじゃないのか?

 

 

俺の頭を撫でてるの誰?何がしたいんだコイツ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう大丈夫だ。目を開けていいぜ優依」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇ?」

 

 

 

 

耳元で声がしたから驚いてつい目を開けるも正面には誰もいない。

 

 

「・・・?」

 

 

周囲を見渡してみるもやっぱりいるのは俺一人。

おかしいな?さっきまで誰かは俺の側にいた気がしたのに。

 

 

「一体何が・・?ひい!?」

 

 

少しでも状況を整理しようと暴走魔法少女どもが戦っていた場所を恐る恐る覗くも見なきゃ良かったとすぐ後悔した。

 

俺がいる所より少し前方からマミちゃんとほむらが向かい合っている場所まで大きく床が抉れている。

もしかしてさっきの謎の存在と関係があるのだろうか?今の状況では何とも言えない。

 

 

「いた・・」

 

「う・・」

 

 

更に二人は現在戦っておらず地べたに座り込んでいる。

いや、戦えないから座り込んでいると言っていいかもしれない。

 

マミちゃんとほむらの両手足が真っ赤に染まっていて腕や足、そして地面に赤い液体が流れている。

 

どう見てもあれは血です!新たなトラウマをありがとうございます!!

何で!?いつの間に!?

ひょっとしてさっきの悲鳴ってこれ!?

 

状況が全く分からないが一つ分かることがある。今のままじゃ戦闘の継続は無理だ。

 

二人の負った傷はかなり深いものらしく血が止めどなく流れ続けている。普通の人間なら放っといたら死ぬがあいつらは魔法少女。これくらいじゃ死なないだろうがすぐに戦闘を再開するのは無理そうだ。

 

かなり乱暴だけどこれなら戦わなくて済みそうだ。でも、どうしてこんな展開になってんだ?

 

 

 

「やれやれ酷い目にあった」

 

 

「シロべえ!無事だったか!」

 

 

じっと二人の様子と謎のクレーターを見ていると背後から吹き飛ばされたシロべえが戻ってきた。

更にボロボロになっている気がしないでもないがそれは自己責任だと思う。その点に関しては同情する余地は全くない。

 

しかしシロべえが戻ってきたって事は少しは何か分かるのかもしれない。

 

 

「何とかね。僕が目を離した隙に何があったんだい?」

 

「分からない。気づいたらこうなってたんだ」

 

「ふむ・・僕が測定したあの二人とは違う力が働いたみたいだ。それも重火器のオンパレードや威力マシマシの厨二技すら相殺させるほどの。ついでに深手も負わせたみたいだね。二人のベテラン魔法少女の四肢を切り裂き、しかも全て急所を突いている。誰がやったか知らないけどかなりの腕前のようだ」

 

 

シロべえは最初キョトンとした声でこの急展開に疑問を覚えていたようだがすぐさまインキュベーターの本領を発揮させて分析を始めていた。実際見てないのにある程度状況を理解するなんて流石だわ。

 

 

「それにしても二人の傷を見てるとその深さから心なしか凄まじい怒りを感じるんだけど・・優依はその場面を見たかい?」

 

「見てない。怖くてずっと目を閉じてたから。あ、でも助けられた気がするんだ。俺の所に飛んで来た残骸は無くなってるし、吹き飛ばされそうになったのを助けてくれたみたいだし」

 

「そりゃ、彼女は君に危害をくわえないだろうさ・・」

 

「?」

 

 

意味深な事を口にするシロべえを不思議に思うも今はそれ所じゃない。

問題はマミちゃんとほむら。いくら負傷しても魔力ですぐ回復するから戦闘続行は可能だ。

謎の横やりで少しでも頭冷やしてくれるとありがたいんだけど・・どうだろうか。

 

 

不安になりながらもシロべえと共にそっと様子を見守ってみる。二人は相変わらず座り込んだままだ。

 

 

 

 

 

「一体何が起きたの・・?」

 

「さあ?でもここが潮時みたいよ」

 

 

「・・・・・・・・」

 

「お互い少し冷静になった方が良いみたいだからこの戦いは一旦保留にしましょう」

 

 

暴走する事で有名なほむらでも引き際は心得てるらしくこの状況では戦えないと判断を下して今でも訳が分かっていないマミちゃんに休戦を呼びかけている。

 

良かった!ほむらは冷静になってくれた!

マミちゃんも引き際を知ってるからこれで一旦戦いは収束するはず!

 

この二人を負傷させた誰かさんありがとう!

さすがに四肢を血まみれにするような攻撃はやり過ぎだと思うけどそれを差し引いても今回のMVPは間違いなしだ!

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

「巴マミ・・?」

 

 

 

俺の期待とは裏腹にマミちゃんは何も答えずただ顔を俯かせている。不審に思ったほむらが話しかけてみるも返事はない。どうしたのだろうか?

 

 

「まだよ・・」

 

「え?」

 

 

ぽつりとつぶやいたマミちゃんは目をギラつかせながらほむらを見据えている。血まみれの両手足を無理やり動かせそうともがくがそのままうつ伏せで倒れてしまった。

 

 

「まだ、終わってないわ!まだ・・!貴女を倒すまで終わってない!」

 

「な!?」

 

 

完全に頭に血が昇っているらしいマミちゃんは休戦の申し入れを聞き入れず、激高した挙句リボンで無防備なほむらを拘束してしまい空中につるし上げた。

 

 

「これで私の勝ちね!!」

 

 

再びマスケット銃を大量に出現させて、あるゆる角度からほむらに標準を合わせている。

 

そうだった!マミちゃんは身体を動かせなくてもリボンや銃を操るだけなら特に問題なかったわ!

 

 

 

「く・・!いい加減にしなさい・・!」

 

 

ほむらは深手を負った傷のせいで思うように身体を動かせないままリボンで宙づりにされ、触れられているから時間停止も使えないしかなりピンチな状態になっている。

 

 

このままじゃほむらがやられるのも時間の問題じゃん!

 

 

 

「うおおおおお!マミちゃんが暴走したせいでほむらがまたピンチだ!シロべえどうしよう!?」

 

「よし!こうなったら出番だよ優依!」

 

「へ?」

 

 

(ほむらの)絶対絶命な危機を何とかしてくれそうなのはシロべえだけだ。

助けを乞うため話しかけたのに何故かシロべえは俺の方を向いてグッと拳らしきものを前足で作っている。

 

 

「行ってこい!」

 

 

シロべえにそう言われた直後、地面が光りだし俺を囲むように覆った。

 

 

「ちょっ!?」

 

 

その後は光に包まれて何も見えず気づけば開けた場所に立っていた。

地面を見るとさっきまで見てた残骸があるのでここは学校(廃墟)だというのは分かるが一体どうなってんだ?

 

 

 

「優依ちゃん・・?」

 

 

「な!?どうして出てきたの!?」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・え?」

 

 

 

 

俺の正面と背後から声が聞こえて正面の方を先に顔をあげると、

 

 

 

「どうして・・?どうしてなの優依ちゃん!?」

 

 

無数のマスケット銃を携え、ショックを受けたような表情で俺を見下ろすマミちゃんがいた。

 

 

 

 

「馬鹿!どうして隠れてなかったの!?」

 

 

今度は後ろを振り返ると俺を罵倒しつつも瞳をうるうるさせて何かに感激したような嬉しさをかみ殺した表情をしたほむらがいた。

 

 

「マジか・・」

 

 

この瞬間、嫌でも理解してしまった。

 

どうやら俺はシロべえによって二人の間に飛ばされてしまったようだ。

しかも二人のど真ん中というわけではなくほむらがいる位置に近い所に飛ばされたらしい。

 

 

ほむらに背中を向けてマミちゃんの正面に立っている俺。

当事者ふたりもしくは第三者から見ればこう見れなくはない。

 

 

 

 

俺がほむらをマミちゃんから守るために身を挺して庇っていると見えなくもない・・!

 

 

 

そうだった場合この二人の反応も説明がつく。

出来ればこんな馬鹿な予想は外れていてほしい・・!

 

 

 

 

「優依ちゃん嘘よね?私の事愛してるって言ってくれたでしょ?貴女が暁美さんを庇ってるように見えるのは私の気のせいよね?ねえ、何とか言ってちょうだい!!」

 

「優依!貴女が私を大事に想ってくれてるのは凄く嬉しいけどこんな事しないでちょうだい!この前みたいな思いはもう沢山よ!」

 

 

前後から色々言われていてどうやら俺の予想通りの勘違いをしているらしいが正直どうすればいいか分からない。逃げたくてもここは学校ですらないからどこにも逃げ場がないわけで途方に暮れる。

 

 

 

シロべえてめえええええええええええええええええええええええええ!!

なんつう所に飛ばしてくれたんだよおおおおおおおおおおおおおおお!!

最悪だ!これ完全に俺も巻き込まれる展開じゃん!

 

 

 

怒りと懇願を込めてシロべえが隠れているはずの場所を睨むも奴はどこからか取り出したスケッチノートに何かを書いている。

 

ひょっとして何かアドバイスをくれるのか?それだったら大歓迎だ!

是非ともこの殺伐とした流れを変えてくれる助言が欲しい!

 

 

 

書き終わったらしいそれを掲げたので期待を込めてじっと目をこらして書かれた文字を凝視する。

 

 

 

 

 

 

『ガンバ!!』

 

 

 

 

 

スケッチノートにはその一言がデカデカと書かれているだけだった。

希望が絶望に変わった瞬間を実感する。

 

 

 

いや、人を戦地に放り出しておいて放置かいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!

 

しかもテメエ、目がまた赤く光ってんぞ!

傍観決め込んで撮影してんじゃねえよ!!

ふざけんなこらあああああああああああああああああ!!




という訳で優依ちゃん戦地に放りこまれましたw
この戦いは謎の存在の勝ちです!一体誰でしょうね?

優依ちゃんが鈍感な理由も少しご理解いただけたかと思います!
ああいう理由ですw
まあ、自業自得というものでw


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49話 命がけというのは嫌なもの

アンケート結果発表!

沢山の回答ありがとうございます!
自分が予想していた数よりも集まったので驚きと同時に感謝感激です!


集計結果から
マギレコverの番外編トップバッターは


「環いろは」ちゃんに決定しました!



投票数ダントツでしたw流石主人公!


後は「深月フェリシア」ちゃんが二位という結果!これは意外!
やちよさんかと思ってましたw

いろはちゃん、巷ではえろはちゃんと呼ばれてたりしますが優依ちゃんとはどういう絡みになるのか今から考えるのが楽しみです!(だいたいストーリーは出来上がってますけど)

完成次第、投稿するのでお楽しみに!


「どうして!?」

 

「ひい!」

 

 

今にも涙が零れ落ちてきそうな瞳を俺に向けてマミちゃんは叫んでいる。

 

どうしてだって?

逆に俺がここにいる全員に「どうして」と聞きたいんですけど!?

 

 

「んーんー!」

 

 

後ろの奴は見ない。どうせ縛られて何も出来ないだろうし。随分騒いでくれたから、うるさいって口塞がれてるもん。

 

 

トラブルメーカーしかいない最悪な現状と終息が見えない混沌でそのまま発狂して叫びだしたいよまったく。

 

 

「どうして暁美さんを庇うの!?彼女は優依ちゃんを誑かす悪い魔法少女なのよ!?」

 

 

俺が登場した事と降り立った所が誤解を生み出しかねない場所であった事もあってマミちゃんの癇癪はヒートアップ。言ってる内容は敵を庇う味方への詰問なのに雰囲気が浮気を問い詰める彼女の感じがする。

 

ひとまずここは誤解を解いた方が良いだろう。

 

 

「マミちゃんそれは誤解だよ!ほむらとはただの友達でそんな事実は一切ないから安心し・・ っ!」

 

 

おかしいな?ほむらの事を「ただの友達」って言った直後に背後から鋭い殺気を感じたぞ?

誤解を解こうと弁解しただけなのに更に悪い展開になってそうな気配がする。

今は後ろを振り向かない方が良いだろう。俺の精神安定のために。

 

 

「と、とにかくほむらを離してやってくれ。いつまでもあのままだったら可哀そうだよ」

 

「嫌よ!彼女はここで仕留めなくちゃだめ!もう奪われるのはごめんよ!!」

 

 

何とか取り繕いながらもほむらを開放してもらえないかダメ元で頼んでみるも予想通り即却下されてしまった。精神的には未熟な部分はあってもある程度は冷静だと思ってたのにこれは意外。今なんて幼児退行してるみたいにひたすら嫌々と首を横に振っている。駄々っ子か。

 

 

「いいからそこをどいて優依ちゃん!そんな所にいたら貴女も巻き込んでしまうわ」

 

「はあ」

 

 

そもそもどこにどけろというんだ?

俺とほむらを囲むように360度銃で囲まれているというのに!

 

改めて周辺を見渡すと空中で静止している無数のマスケット銃が隙間なくこちらに銃口を向けているからマジびびる。狙いは全てほむらだが巻き込まれるのは確実だ。

 

俺がいるからか発砲する気配はないが、今離れたら間違いなくほむらは殺される。

そうなったら遠くない未来、俺は死ぬかもしれない。だったら尚更ここをどく訳にはいかない。

 

ほむらを殺すのは駄目だ!絶対だめ!

俺の生命線は絶対生きてもらわなければ!!

 

 

決意を胸に改めてマミちゃんを見ると血まみれな状態で座り込んでいる。興奮状態で呼吸が荒く肩が大きく上下しているからまずは落ち着けることが先決だ。

 

ひとまず彼女の話を聞いた方が良いかもしれない。ちょっと聞いてみるか。

 

 

「マミちゃん、どうしてそんなに怒ってるの?理由を聞かせて欲しいな。ひょっとして俺が悪いの?」

 

 

人間しおらしくされると弱いものだ。

マミちゃんが罪悪感で苛まれるように少し俯きがちで声をワントーンくらい下げて上目遣いで彼女を見上げる。

 

罪悪感を感じさせればこっちのものだ。少なくとも大人しくしてくるだろう。

 

我ながら打算に満ちた最低な考えだと思うが俺とほむらの命がかかっているので背に腹は変えられない。

 

 

「え!?そ、そんな事ないわ!優依ちゃんは何も悪くないの!嫌がる優依ちゃんを無理やり魔女がいる結界に連れて行ってしまった私が悪いの。怒って当然よ。ごめんなさい!」

 

 

案の定、罪悪感が出て来たらしいマミちゃんはオロオロし出して俺を慰めようとしている。

 

俺はそのまま表面上では眉を下げて申し訳なさそうな顔をしながら頭を下げておいた。

内心その事によっしゃ上手くいった!とほくそ笑んだが顔には出さないようにしないと。

 

 

「俺こそごめんね。心の整理をつけたかったから連絡を絶ってたんだ」

 

 

当たらずも遠からず。

 

心の整理という名の現実逃避も、もちろん嘘ではないが本当は病み溢れる貴女が怖くて避けてましたというのは絶対禁句だ。まあ結局、休日の時間は杏子とほむらに振り回されて心の整理どころか更に荒んでしまう結果になってしまったがな。

 

 

「そうだったの・・?本当にごめんなさい」

 

 

遠い目をしていた俺を不憫に思ったのか随分としおらしい態度だ。

 

 

「謝罪はもういいよ。マミちゃんに分かってもらえて嬉しいよ」

 

 

 

お?ひょっとしてこれは思ったよりも上手く説得出来るんじゃないの?

俺至上一番上手く成功しそうなんじゃないか!?

 

 

「そう言ってくれてありがとう。これで全て分かったわ」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

何が分かったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「悪いのは全て優依ちゃんを誑かす暁美さんと佐倉さんだって事よ」

 

 

 

 

・・・・What?

 

 

 

 

 

ごめん、何て言った?話の展開が読めないよ?

何で二人が悪い事になってんの?ほむらはともかく杏子は全くの無関係なのに。

 

 

さっきまで上手くいきそうだったのに急降下で雲行きが怪しくなったぞ!?

 

 

「私に冷たくなったのは全て二人のせいでしょう?だから優依ちゃんを誑かす悪い魔法少女は私がやっつけなくちゃね」

 

 

混乱する俺にマミちゃんは慈愛に満ちた穏やかな笑顔を向けている。

 

 

 

ええええええええええええええええええ!?

 

 

何その超絶理論!?ほむら並みのぶっ飛んだ思考だぞ!?

 

うわ、全然話通じない!通じない以前の問題じゃないのこれ?

一体どうすればマミちゃんは止まってくれるんだ?

 

 

考えても分からない!俺はどうする事も出来ない!

 

 

 

助けてシロえもおおおおおおおおおおおおおん!

 

 

 

 

縋る目でシロべえが隠れている瓦礫に視線を向けると奴は何かを掲げていた。

 

それは『ガンバ!!』とふざけた事が書かれていたあのスケッチボードだった。

よく見るとさっきの内容より文字数が多かったので新たに書いたものだと分かる。そのため目を凝らして文字を追う。

 

 

 

え?何々?

 

『次の言葉を大声で叫ぶんだ!』だって?

 

 

 

どうやらアドバイスをくれるらしい。これはまたとない助け!

賢いシロべえの事だ。きっともうこの解決方法を編み出しているに違いない!

 

期待を込めてゆっくりめくられるページに目をこらした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺のために争わないで!』

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにはたった一言その文字が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叫ぶかぼけええええええええええええええええええええ!!

 

 

 

 

俺はどこの頭の悪いヒロインだ!!

こんな緊迫した状況下で遊んでんじゃねえよ!他人事だと思いやがって!

そういやシロべえたまにポンコツになるの忘れてた!期待して損した!

 

 

「優依ちゃん早くどいてちょうだい。ずっとそこに立ってたら怪我しちゃうわよ?」

 

 

ひたすらシロべえに恨みがましい目を向ける俺をマミちゃんは待ってくれないみたいだ。

 

くそ!シロべえは役に立たない!

やっぱり俺一人でなんとかするしかないみたいだ!

 

 

考えろ!考えるんだ!

 

 

今の切羽つまった様子じゃいつもマミちゃんを窘める時みたいに穏やかに諭しても駄目みたいだ。

これは俺にも責任がある。甘えてくるマミちゃんが可愛くてつい甘やかしてたツケがこんな所で払わせることになるなんて。叱らない教育のデメリットがこんな所に!

 

それにさっきの罪悪感を煽るのも駄目だ!

また予想斜めな反応されそうだ。

 

どうすれば?  あ!

 

 

そこで俺はピンと閃きが舞い降りる。

 

 

そうだ!ここは少し厳しめに諭してみよう!

そしたら少しはマミちゃんも落ち着いてくれるかもしれない!

 

やる価値はある!何もしないよりはマシだ!

 

 

なるべくマミちゃんを見る表情を険しくして声を出来るだけ低くする事に意識を向けてみるか。

どうなるか分からないがいつもと違う俺の態度に何かしらの反応はあるはずだ。

 

 

 

手始めにめんどくさそうに「はあ」とため息をついてみる。

 

 

「・・・っ」

 

 

俺のその突然な態度にマミちゃんはビクッとしているのを確認出来る。

 

 

おお!これは思ったよりも効果がある!なら話すなら今だ!

 

そう思った俺は重く見せかけた口を開く。

 

 

「全方位銃に囲まれてたら怪我で済まないよこれ。マミちゃんこそ銃を降ろして。ほむらは俺の(生命線として)大事な人だからいくらマミちゃんでもそれは許さない。もし傷つけようとするなら(俺の命かかってるし)怒るよ?」

 

「!」

 

 

何故か正面にいる黄色じゃなくて後ろにいる紫が反応した。

 

背中に突き刺さる視線がうっとうしいし、どうやらせわしなく動いているみたいでゴソゴソと煩い。何やってんだほむらは?

 

チラッと見てすぐに正面に向き直る。無視したほうが良いなあれ。なんかめっちゃ頬染めてソワソワしてるし。まさか緊縛プレイに目覚めたとかやめて?。

 

 

「嘘よ・・暁美さんが優依ちゃんの・・?」

 

「マミちゃん?」

 

 

一方マミちゃんの方も反応はあったが想像していたものと違って目から涙が溢れガタガタと身体を震わせており尋常ではない様子だ。どうやら少なからずショックを受けてるみたいだ。

 

 

・・・あれ?俺もしかしなくても失敗した?

 

 

 

「じゃあ私は用済みって事?優依ちゃんにとって大事なのは暁美さんだけって事なの?」

 

「え!?違うよ!俺はマミちゃんの事も大事に思ってるよ!」

 

 

震える声で見上げるマミちゃんに作戦が失敗した事を悟った俺は慌てて弁解するも耳を塞がれて聞いてくれない。涙は止まる事を知らず、ただひたすら荒廃した屋上にポタポタ水滴が落ちる。

 

 

「嘘よ!だったらどうして私に酷い事言うの!?暁美さんにはあんなに優しいのに!」

 

「いや、それは誤解が・・」

 

 

ぶっちゃけ成り行きと死亡フラグの回避が重なっただけでほむらに優しくした覚えはほぼない。むしろ甘やかすという意味ではマミちゃんがぶっちぎりだったと思う。だって甘えてくるの可愛いし、その点、無愛想なほむらや図々しい杏子は甘やかしたの皆無に近い。

 

いいだろ別に。紫と赤はピンクと青に甘やかしてもらえば。

黄色はそこでもボッチだからフォローが必要なのよ。じゃないとあっという間に死ぬからな。

相手候補のチーズガールはこの時間軸に生存どころか存在してるかも怪しいし。

 

 

・・・早めにフォローしとこう。

 

 

「優依ちゃんがふらふらどこかへ行ってしまっても、私以外の誰かと仲良くしていても、最後は私の所に帰ってきてくれるって信じてたから我慢してたのよ!なのにこんなのあんまりよ!!」

 

「マミちゃn !?」

 

 

フォローするため近づこうとしたがそれは出来なかった。何かが俺の身体をきつく縛りあげて痛みのあまり最後まで名前も言えなかった。

下を向くと黄色のリボンがギチギチと音を立てそうなくらい強い力で俺の身体を拘束している。

どう見てもマミちゃんの仕業なのは明白。

 

 

「ぐす・・ひっぐ・・」

 

 

どういう事か説明してもらおうと顔を上げるもマミちゃんはふらふらとおぼつかない血まみれの足で立ち上がりながら泣いている。嗚咽が治まるどころか更に悪化しているらしく徐々に声が大きくなっている。

 

 

マミちゃんの手が黄色の光を放ち、そこから出てきたのはいつものリボン銃だった。

 

 

 

「え・・?」

 

 

 

 

それを俺に向けて構えている。

 

 

 

まさかの展開に一気に緊張感が俺の身体を駆け巡り強張る。

 

 

「マミちゃん?何してんの・・?」

 

 

「決まってるでしょ?これで優依ちゃんを撃つのよ」

 

 

「何で!?」

 

 

訳が分からない!どうして俺が殺さなきゃいけないんだ!?

 

 

 

暗い虚ろな表情とほの暗い声はまるで嵐の前の静けさだ。今にも爆発してしまいそうな緊張感がある。

 

 

 

 

 

「優依ちゃんが暁美さんを選ぶって言うなら、私から離れていくなら・・もう、一緒に死ぬしかないじゃない・・!」

 

 

 

 

 

 

 

我慢できず叫んだためか大粒の涙がポロポロと頬をつたっている。

 

表情は悲壮感一色で銃を向けられているのに今ある感情は恐怖よりも哀れが勝るほどだ。ガタガタ震える手であってもしっかり俺に標準を合わせている。

 

 

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!?

 

マミちゃん貴女は一体どこの時間軸を再現してんですか!?

よりにもよってそこを再現しちゃいます!?

 

やめて!俺まだ死にたくない!

 

何とか逃げ出そうと力を込めてみるもビクともしない。それどころか更にキツく締め付けられ身体に流れる血が止まってしまいそうだ。銃殺よりも先に絞殺かなんかで死にそうなんですけど・・。

 

 

「大丈夫よ優依ちゃん。痛いのは一瞬だし、すぐに私も後を追うから待っててちょうだい」

 

 

そういう問題じゃねえよ!俺は死にたくないんだってば!

痛々しい表情で微笑むな!見てて哀れだから!

 

 

無理心中ほど迷惑極まりないものはない!考え直してくれ!

 

 

 

「二人きりの世界へ行きましょう?」

 

 

 

うっとりするような笑顔を向けて引き金をゆっくり引く。

 

 

 

 

「ま、待って! !?」

 

 

しかし引き金を引くよりも先に突風が吹いた。

 

 

 

 

「!? きゃぁぁ!」

 

 

気付けば赤い粒のようなものが無数に宙を舞っていてそれがマミちゃんの血だと理解するのに数十秒かかった。よく見るとさっきよりも深い切り傷がマミちゃんの両腕に出来ている。あともう少し深ければ腕が千切れてしまいそうなほどの深手だ。持っていたマスケット銃はバラバラに解体されている。

あまりにショッキングな光景が目の前に広がっているのでそのまま力が抜けて地面に座り込んだ。

 

ん?俺座り込んでる?リボンは?

 

 

「あれ?」

 

 

身体に巻きついていたリボンがいつの間にかなくなってる?

どういう事だ?さっきの突風と何か関係があるのか?

 

 

「・・こんな傷くらい・・ !」

 

 

「マミちゃんいい加減に・・! え?」

 

 

ダラダラと血を流しながらも銃を取ろうとするマミちゃんの腕がピタリと止まる。

 

 

 

「動かないで巴マミ。貴女の負けよ」

 

 

 

ほむらがマミちゃんの眉間に銃を突き付けているからだ。

 

どうやらさっきの謎の突風はほむらの拘束も解いたらしい。

傷もようやく治り拘束から解放された今のほむらを縛るものは何もない。

 

 

「よくも縛ってくれたわね?跡が残りそうじゃない、どうしてくれるの?」

 

「・・どうやって抜け出したの?特別に細工したリボンまで切れてるじゃない」

 

「気付いた時にはもうなくなってたの。それよりもさっさと観念してちょうだい」

 

「く・・」

 

 

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

 

マミちゃんとほむらがお互い睨みあい、重い沈黙がこの空間を支配している。

 

 

 

 

「そんな・・・!」

 

 

 

しばらくにらみ合いの硬直状態が続いたがやがてマミちゃんが衝撃を受けたような声を漏らし自分を抱きしめながら静かに泣き出してしまった。ずっと血が流れ続けているせいでマミちゃんの上品な魔法少女衣装は血で真っ赤に染まった狂気あふれるホラー衣装と化してしまっているから迫力倍増だ。

 

 

 

「い、いやよ、こんな、こんな・・!」

 

 

 

何かを拒絶するようにひたすら頭を振ってヘナヘナと座り込んでしまった。一体どうしたのだろうか?

 

 

「ほむら、マミちゃんどうしたの?」

 

 

流石にこの状態のマミちゃんに話しかけづらいので比較的まだまともな状態のほむらに聞いてみる。

 

 

「知らないわ。大方自分の敗北を思い知ったんでしょう?」

 

 

ファサッ髪をなびかせてマミちゃんを淡々と見下ろしている。

 

その姿に勝利をものにした悪魔のような邪悪さがあるのは俺の幻覚だろうか?

実は睨んでたんじゃなくて俺にばれない様にテレパシーで何か話してた?

 

 

 

 

「ん?げ・・!」

 

 

これからどうしたものかと何気なくマミちゃんの様子を見ていると頭に装飾している黄色の宝石がドンドン黒く濁っている。

 

 

ぎゃああああああああああああああああ!?

 

 

現在進行形で絶望中!魔女化まで一直線!

このままだとマミる以前の問題が大量発生する!どうにかせねば!

 

 

「マミちゃん!」

 

「あ、優依!」

 

 

ほむらの制止を無視してマミちゃんの所へ駆け寄る。今、何とかしないと手遅れになりそうだ!

 

 

 

「優依ちゃん・・?」

 

 

戸惑うマミちゃんの腕を急いで止血する。

魔法少女だから出血死で死ぬことはないだろうけどグロ耐性ない俺は血を見てかなりグロッキーな状態だ。至急視界に入らないようにする必要がある。速効で腕を包帯でぐるぐる巻きにした。よし!これでOK!

 

何で包帯があるのかだって?さっきの俺の近くに

『シロべえ謹製”救急セット”』と書かれた小さな医療バッグが落ちてたからだ。

いつの間にと思うがホント知らない間に落ちてた。

効能は問題ないだろう。だってアイツの発明品だし。

 

 

 

「どうして私の治療をするの?暁美さんの方が大事なんでしょ?」

 

「確かに、ほむらは(命綱として)大事だよ?でも、それと同じくらいマミちゃんも(戦力面で)大事なんだ」

 

「!」

 

 

俺が無事にこれから先エンジョイライフを送れるか二人にかかっているからな!

もちろん、二人の事を大切な友達だと思ってるからというの多少ある。

 

 

「ほら、そんなに泣いちゃせっかくの可愛い顔が台無しだよ?」

 

「あ」

 

 

少しキザッぽいセリフを吐いてマミちゃんの髪に触れる。

 

 

「//////」

 

 

そしてそのまま頭に触るふりしてソウルジェムに隠し持っていたグリーフシードを近づけて穢れを吸い取った。

ほむらから「念のために持っておきなさい」と渡されたものだ。GJ!

 

 

 

よし!元の綺麗な黄色に戻った!これで大丈夫だ!

 

マミちゃんの顔がとっても赤いけど問題なし!

事の全てが見えている位置に立っているほむらが背後で鼻で笑ってるけど問題なしだ!

 

 

 

 

「・・やっぱり優依ちゃんは優しいのね」

 

「いや、まあそれほどでも・・」

 

 

俺の手に頭を預けながらマミちゃんは頬を色づけている。

 

正直これは自己保身以外の何物でもないから俺としては正直居たたまれないんですが。とはいえこれでもうマミちゃんとほむらが戦う事はもうないだろう。一先ず安心だ。

 

さっきの無理心中はおそらく急展開が重なったことの錯乱とソウルジェムの濁りからくる精神の消耗が原因だろう。

 

それがなくなった今、度重なるアクシデントによってすっかり忘れていた本題の「お友達作戦」の方を開始した方が・・

 

 

「そうよね・・。優依ちゃんだもの」

 

「ん?」

 

 

不穏なものを感じて思わずマミちゃんを見る。

 

 

 

 

 

「今ので確信したわ!やっぱり優依ちゃんは脅されてるんだって!」

 

 

 

「・・・は?」

 

 

何故か急に元気になったマミちゃんはガッと俺の手を握る。いきなりどうしたこの娘?

どうてもいいけど血まみれのまま触らないでくれ。制服に血がついたらどうする気だ!

 

 

「優依ちゃんはとっても優しいけど気が弱い所もあるでしょ?それに普通の女の子だから魔法少女に脅されたら従うしかないものね?」

 

「え?え??」

 

「大丈夫よ!必ず貴女を暁美さんや佐倉さんの呪縛から救ってみせるわ」

 

「すみません。全然話が見えません」

 

 

マシンガントークに付いて行けず素で戸惑ってしまう。どう解釈したら俺を救うって結論になるんだ?

何が何でも紫と赤を始末しないと気が済まないのか!?

 

ヤバい!この娘度重なる戦闘の疲れでおかしくなってる!?

 

 

「今回は準備不足が祟ってしまったみたいで失敗してしまったけど次は必ず助けるわ!だから少しの間我慢してね?救い出した後は優依ちゃんが受けた心の傷が治るようにしっかりお世話するわ」

 

 

「すみませーん、もしもーし。聞こえてますかー?」

 

 

「次は覚悟してもらうわよ暁美さん。いつまでもそんな横暴が続くと思わないことね。優依ちゃんを脅した罪は重いわよ。佐倉さん共々成敗させてもらうわ」

 

 

俺の話を全く聞かない黄色宇宙人は親の仇を見るような目でほむらに宣戦布告している。それに対してほむらは眉一つ動かさず流し目でマミちゃんを見ていた。

 

 

「好きなように解釈すればいいわ。次も返り討ちにするから」

 

 

何故か勝ち誇った笑顔を見せるほむらは余裕綽々だ。

お前この勝負どう見ても負けてただろうが。次なんてあったら今度こそやられるぞ?

 

 

「またね優依ちゃん!」

 

 

「え!?マミちゃんちょっと待って!」

 

 

 

慌てて追い掛けようとするも屋上から飛び降りてすぐに見えなくなる。

そういえばここは異空間の中じゃ?

 

 

 

 

 

≪優依≫

 

≪シロべえどうした?≫

 

 

突然頭の中にシロべえの声が響く。シロべえが隠れている場所を見るも姿がない。

 

 

≪僕はマミの後を追って気休め程度だけどフォローしておくよ。君はほむらの方をお願い≫

 

≪え?でも・・≫

 

≪僕の事は大丈夫!マミの事も心配いらないさ!≫

 

≪シロべえ・・ありがとう!≫

 

 

やっぱり俺の相棒は本当に頼りになる。

ここ最近の活躍ぶりは目を見張るものだ。多少粗相があっても目はつぶらないといけないな。

 

 

 

≪どういたしまして。お礼なら君の隠してあった超有名パティシエ監修『生キャラメルチョコ』で手を打ってあげるから≫

 

≪へ・・?≫

 

≪もう代金はもらってるよ。マミと二人で食べながら話でもしてみるよ≫

 

≪ちょ!待って!≫

 

≪じゃあね!あ、それともうすぐこの空間が解除されて元の屋上に戻るからよろしくー≫

 

 

そう一方的に告げられて連絡を切られてしまった。何度呼びかけても返事はない。

 

めっちゃ楽しみにしてたチョコを取られた!

俺が朝早くから並んでようやく買えたのに!

そのパティシエさん引退するらしいからもう食べられないんだぞ!

なのに!その苦労と苦しみを知らずあの白い奴・・・!!

 

許せん!食い物の恨みは恐ろしい事を思い知らせてやる!!

 

 

 

いや、その前に、まずは暴動の張本人から折檻しないと!

 

 

「ほむら ぐ!?」

 

 

後ろを振り返り戦闘の元凶を睨み付けようとするもほむらがいきなり俺を押し倒す勢いで飛びかかってきて実現しなかった。

 

 

「嬉しいわ優依!私をそんなに大切に思ってくれてるなんて!」

 

「ぐふ・・!苦しいほむら!」

 

「巴マミが貴女を襲っていた時は彼女を蜂の巣にしてしまおうかと思ってたの!貴女も貴女で巴マミにむかって『愛してる』って叫んでるのが聞こえたし、ついカッとなってしまって・・」

 

「だからって、いきなり銃を突き付けたり発砲するなんてやり過ぎ・・!」

 

「ええ、私が馬鹿だったわ。巴マミには悪い事したわね。でもそのおかげで嬉しい事も分かった。貴女が私をそこまで特別で大事に思ってくれてる事にね。そもそも私は争う必要すらなかったのね。ふふ」

 

「え?えーと、じゃあこれからはマミちゃんといがみ合わないって約束してくれる?」

 

「ええ、約束するわ!」

 

 

ギュウギュウと俺の首を絞めつけながら上機嫌に語るほむらはとても珍しい。

コイツを何をそこまで上機嫌にさせるのか分からないがともかくこれで言質は取った。

 

割とすんなりだな?もっとゴネるかと思ってたがまあ良い。

終わりよければ全て良しだ。

あんまり良くない結果だけどな・・。

もうマミるまであまり時間がないっていうのに和解出来ずに対立してるし。

 

 

 

「優依、これからはなるべく穏便にするから怒らないで私の傍にいてちょうだい」

 

 

懇願するようにほむらが俺のじっと見つめている。

正直今は答える気力もなくて無視したいところだが拗らせると厄介なので答えておいたほうが良いだろう。

 

 

「今、傍にいるじゃん。大丈夫だって(俺の死亡フラグが無くなるまで)ずっと傍にいるから」

 

「! ええ、約束よ」

 

 

 

嬉しそうに俺に身を預けるほむらにため息が出そうだ。

 

ほむら超めんどくさい。まどかには悪いが全部終わったら押し付けよう。うん、そうしよう。

 

 

気付けば元の屋上に戻っていた。

昼休みが終わるチャイムが鳴り響く中、ほむらが俺に未だに抱きついて離さないから動けない。

 

それよりもほむらの血が制服にべっとりついてしまった事にショックを受ける。時間が経っているからか赤ではなくて少し黒ずんだ色だ。

 

 

血は洗えば落ちるのか?これじゃ教室に入れない・・。

 

 

 

そもそもマミちゃんの件どうしよう?

 

 

 

すっごく泣きたい気分だ。




という訳でマミさんが暴走してしまったので失敗!
どうして彼女がここまでおかしくなってしまったのかは次回のマミさん視点で分かるかもしれません!

徐々に狂っていくんでしょうねきっとw


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50話 黄色の慟哭

今更ですけどマギレコの杏子ちゃん水着ver最高じゃないですか!?


マミside

 

 

「優依ちゃん・・どうして・・?」

 

 

夕暮れになりつつある休日の時間、私は自分のベッドにくるまってただひたすらポロポロと流れる涙を拭う。

 

 

もうすぐ魔女が活発に動きだす夜の時間が来るというのに身体を動かす気力が湧いてこない。

魔女退治だけじゃない。何をする気にもなれず一日ずっと部屋に籠って泣いていた。

 

 

 

理由は分かってる。優依ちゃんの事。

 

 

 

 

昨日の夜、優依ちゃんから連絡があって「魔法少女体験コースに参加しない」と言われてしまった。納得できなかった私は家に押しかけて問い詰めたけどあの娘はずっと「怖い目に遭ったから嫌だ」と繰り返しすだけだった。実際に危険な目に遭わせた負い目もあるから渋々承諾したけど、他にも聞きたい事があった。

 

それは暁美さんの事。

 

暁美さんと対峙した後、優依ちゃんは用事が出来たと告げて制止するのを聞かずに走り去ってしまった。暁美さんが去った方角と同じ方へ・・。

それについてずっと引っ掛かりを覚えてて時間も遅いし聞き出したら長くなりそうだから次の日の学校で問い詰めようと思った。・・・でも、

 

 

 

 

「え?優依ちゃんお休みなの?」

 

 

優依ちゃんは学校に来なかった。

 

 

「そうなんです・・」

 

「電話した時はそんな事言ってなかったんですけど・・」

 

 

クラスメイトの鹿目さんと美樹さんも知らなかったみたい。

二人は自分たちのせいで学校を休んでいると思ってるみたいだけどおそらく違う。本当は私と会わないようにするためでしょうねきっと。

 

 

「あの・・マミさん?」

 

「何?」

 

「大丈夫ですか?顔色悪いですよ?」

 

 

その時の私は随分と酷い表情をしてたみたいで心配されてしまった。

 

二人からもしばらくの間は魔法少女体験コースに参加しないと言われてしまったけど正直それでも構わない。今の私にはそんな事を気にする余裕はなかったから。

 

 

ずっと頭の中では優依ちゃんの事をひたすら考えてたもの。

 

 

 

放課後、お見舞いのため優依ちゃんの家に行ったけど留守だった。

ピンポーンとインターフォンが鳴るだけで誰かの足音やドアが開く素振りは一切ない。

欠席を知った時からずっと電話やメールをしてるんだけど返事はない。試しにもう一度連絡を入れてみたけどやっぱり応答してくれなかった。

虚しくて悲しくて視界が涙で滲んでしまい優依ちゃんの家の輪郭がぼんやりになる。

 

 

 

どうして拒否するの?

どうして学校を休んだの?

どうして家にいないの?

どうして連絡をくれないの?

どうして私の傍にいてくれないの?

 

 

 

 

どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?

 

 

 

 

 

「ぐすん・・優依ちゃん、優依ちゃん、会いたい・・貴女がいないと寂しくておかしくなりそう」

 

 

あれからどうやって帰って来たのか覚えていない。気づいたらベッドの中で泣いていた。

狂ったように何度も電話やメールを送ったけど返ってきた返事は

「用事で学校休んでるから返事遅くなったごめんね。あと忙しいから休日も連絡出来ないよ」

 

という素っ気ないメール一通のみだからますます涙が止まらない。

 

 

 

「優依ちゃん優依ちゃん優依ちゃん優依ちゃん・・」

 

「マミ、そんなに優依の名前を呼んでも意味ないよ。それに返事がない内にまた連絡を入れると相手はうんざりすると聞いた事があるから控えた方が良い。あと聞きたいんだけどそのぬいぐるみは何だい?優依にそっくりだけど君が作ったのかい?」

 

 

ベッドにくるまる私が心配なのかキュゥべえはそっと私に寄り添ってくれている。その視線は今、私の胸に抱いているぬいぐるみに向いていた。

 

 

「ええ、私が作ったの。とっても可愛いでしょ?こうやってギュッとすれば優依ちゃんを抱きしめているみたいで落ち着くの」

 

 

キュゥべえの予想通りこのぬいぐるみのモデルは優依ちゃん。

あの娘と友達になってすぐに作ったもの。

夜は必ずこれを抱いていないと眠れないし優依ちゃんに会えない日は日中でも必ず抱きしめている。

 

名前はもちろん「優依」ちゃん。

 

 

「ふーん、君の裁縫の腕は賞賛に値するよ。それに君がそこまで優依の事を大事な友達だと思ってくれている事もね。その調子で鹿目まどかや美樹さやかとも仲良くなればいいんじゃないかい?二人とも優依とは友達なんだし上手くやっていけると思うよ?そうなったら孤独から解放されるし優依に執着する必要もなくなる。未来の事を考えたらそっちの方が君にとっては良い選択にならないかい?」

 

「え・・?」

 

 

最初キュゥべえの言っている事がよく分からなかった。時間が経つにつれて意味が理解できる。

 

つまり優依ちゃんの事を諦めて鹿目さんや美樹さんと仲良くすればいい。

未来の後輩になるかもしれないからその方が良いだろうって言いたいんでしょうね?

 

 

嫌よ!

 

 

真っ先に出てきたのは拒絶。

 

 

 

そんな考えは受け入れられない!受け入れたくない!

優依ちゃんが離れていくなんて考えられない!

 

 

 

私にとって優依ちゃんは大事な友達なのよ!

 

 

 

 

 

”本当に?”

 

 

 

 

そう頭の中で言い切ったのにもう一人の私が嘲笑いながら囁く。

 

 

その言葉が頭の中で響いて慌てて耳を塞ぐ。

「マミ?」とキュゥべえが心配そうに声を掛けてくれるけど返事をする余裕すらない。

 

 

冷酷な私の声が更に響いてくる。

 

 

”本当に優依ちゃんを友達だと思ってるの?”

 

ええそうよ!大事な友達よ!

 

 

”自分の気持ちを偽ってるだけじゃない。ただ見て見ぬフリをしてるだけ”

 

そんな事ないわ!私は自分の気持ちくらい分かってるもの!

 

 

”じゃあどうして貴女は今そんなに苦しんでるの?優依ちゃんがいなくなっても鹿目さんと美樹さんがいるのにどうして満足しないの?あの娘達は優依ちゃんと違って未来の後輩になるかもしれないのよ?優依ちゃんより大切な存在でしょう?”

 

それは・・・。

 

 

強気に反論していたけど次第に答えづらくなって言いよどんでしまう。

そんな私に容赦する事なく声は更に語りかけてくる。

 

 

”別にいいでしょう?優依ちゃんが他の誰かと仲良くしてても関係ないのだから。嫌われたって構わないはず。だって可愛い後輩が出来るんだもの。さっさとあの娘の事忘れてしまいましょう?”

 

 

そう言われて咄嗟に思い出したのが何故か魔法少女体験コースの前に渡された退職願。

あの時は浮かれていたから軽く冗談で流してたけど本当は傷ついてた。

だって私と縁を切るって言ってるようなものですもの。

 

 

あれが優依ちゃんの本心だったら・・?

そのまま私を捨てて暁美さんと仲良くしたら・・?

 

 

いや!それだけはいや!

 

 

 

二人が仲良く話をしている姿を想像してしまって心が激しくかき乱されていく。

 

 

優依ちゃんが私以外の誰かと仲良くするなんて嫌!

私の事忘れちゃうなんて嫌!!

そんなの耐えられない・・・・!!

 

 

 

”なら、いい加減に認めてしまいなさい。本当はあの娘をどう思ってるの?”

 

・・・・・・・・。

 

 

 

「・・・・違うわキュゥべえ」

 

 

 

気付けば私はそう口に出してた。さっきまで霞んでいた視界がはっきりしてくるのが分かる。

 

 

「? 何がだい?」

 

 

不思議そうに聞いてくるキュゥべえに薄く笑いかける。

私のその表情を見たこのコは何故か後ずさりしていたけど何故かしら?

 

 

「優依ちゃんじゃなきゃダメなの。たとえ鹿目さんや美樹さんが私の傍にいてくれても優依ちゃんがいなきゃ辛いの」

 

「そ、そうなんだ・・」

 

「そうよ!優依ちゃんさえいればいいの!この先ずっと一人ぼっちで戦う事になっても構わない!魔法少女仲間が出来なくても良い!あの娘がずっと私の傍にいてくれるなら正義の味方なんてやめてしまっても構わないわ!!」

 

 

優依ちゃんの事を思い浮かべながら両手を結んで天井を見上げる。

心なしか部屋が明るくなった気がする。世界はこんなに明るいなんて今まで知らなかった。

 

私はようやく本当の気持ちを受け入れる事が出来た。

 

 

優依ちゃん貴女が好き。大好きよ。

 

 

友達として好きじゃない。

これは異性に向けるような・・そう「恋」だわ!やっと分かった!

今まで優依ちゃんが他の人と仲良くする事に嫉妬していた事も私だけ見て欲しいと思った事もそれは全部優依ちゃんを愛していたから!

 

 

やっと気づいた私の気持ち。

本当は最初から惹かれていたはずなのに女の子同士だからって気づかないふりをしてただけ。でも、もう誤魔化さない。

 

 

 

私の願いは優依ちゃんと一緒にいる事!

あの娘さえいれば他に何もいらないわ!

たとえ誇りに思っていた正義の魔法少女に戻れなくても!

 

 

 

 

「ヤバ、失敗しちゃった・・」

 

 

ふと、そんな声が聞こえた気がするけど想いを自覚して気分が高揚した私にはどうでもよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

次の日もキュゥべえは私の様子を見にきてくれた。

 

でも首に優依ちゃんから貰ったリボンをしていないのね。朝出掛けた時はしていたのに。

 

 

ここ最近ちょくちょく来てくれる。

朝出て行ったけどまたすぐ戻って来てくれて嬉しいわ。

そんなに心配するくらい私はおかしいのかしら?本当の気持ちに気付いたからもう大丈夫なのに。

 

キュゥべえは私に会いに来るたびにリボンをしていたりしていなかったりする。

そういう気分があるかもしれないけど一日に何度もそういう事あるものなの?

 

 

 

 

「そういえば神原優依を見かけたよ?」

 

 

 

「え!?一体どこで!?」

 

 

 

キュゥべえから恋い焦がれていた優依ちゃんの事が出て思わず頭が真っ白になる。

さっきまで考えていた事が一瞬で吹き飛んでしまった。思わず寝転がっていた身体を勢いよく起こして次の言葉を待った。

 

 

「彼女が休んでいた日にバス停で見たよ。乗り込む直前だった。確かバスの行先は風見野と表示されていた気がするよ」

 

「え・・・?」

 

 

興奮した私にキュゥべえは驚きもせずただ淡々と答えるけど予想外の情報に思わず固まってしまう。

 

 

風見野に行ってた?優依ちゃんが?まさか・・・?

 

 

「彼女は魔法少女の事を知っている。ひょっとしたら佐倉杏子に会いに行ったのかもしれないね」

 

 

キュゥべえのその言葉に何も答える事が出来なかった。私もそう考えていたから。

彼が去った後もしばらくずっとその事を考える。

 

 

 

佐倉さん。昔は苦楽を共にした大切な仲間だった女の子。

 

 

 

意見の違いから喧嘩別れに近い形でコンビを解消してしまった。

その後彼女は見滝原を出て行ってしまったけど今頃どうしてるのかしら?

 

・・いいえ。そんな事、今はどうでもいいわ。問題は優依ちゃんよ。

 

佐倉さんと知り合いだなんてあの娘から聞いていない。

私に隠していた?どうして?佐倉さんから口止めされていたの?

 

 

今も佐倉さんと会ってるの?だから素っ気なかった?

私は優依ちゃんに会いたくてこんなに苦しいのに!

 

 

 

・・あぁ駄目だわ。こんなに怒っちゃ。

 

前みたいにカリカリしてたら優依ちゃんがまた怖がって離れていっちゃう。

うんと優しくしなくちゃ。佐倉さんの事なんか忘れてしまうくらい。

 

 

 

そういえば優依ちゃんは私の作ったお菓子が大好きだって言ってたわね?

 

 

「ふふふふふ・・」

 

 

ベッドから起きてキッチンの方におぼつかない足取りで向かう。

 

 

 

 

「やあマミ遅くにすまな「ねえキュゥべえ?」・・何だい?」

 

 

虚ろな表情で笑っていた所に丁度リボンをつけたキュゥべえがやってきてそのまま話しかける。何か話しかけていたけど気のせいね。

 

 

「優依ちゃんは甘いもの大好きでしょ?ケーキやクッキー、プリンもそうね。私が作ったお菓子はどれも美味しいって言ってくれたけど今度は何を作ろうかしら?種類はどうしましょう?チョコにホイップ、カスタード、一体どれが良いと思う?」

 

「マミ・・一体何の話をしてるんだい?」

 

 

珍しく戸惑った声を出すのねキュゥべえ?そんなに私はおかしい事言ったかしら?

 

 

「何って、もちろん優依ちゃんがウチに来た時に振る舞うお菓子を考えてるの。美味しければ美味しい程、ここにいてくれるでしょう?そしたら他のものに見向きもしないわよね?」

 

「・・・・・・・・・マミ、少し気分転換しよう?動画はどうだい?最近撮ってないよね?久しぶりにやるかい?」

 

 

何か不穏なものを感じたらしいキュゥべえが提案してくるけど今はそれ所じゃない。

 

 

「ごめんなさい。今は優依ちゃんのためのお菓子を作りたいからそんな気分じゃないのよ。また今度にしましょう?」

 

「そうかい・・。まあ、君がそれで満足するなら構わないよ」

 

「ふふ、ありがとう。うんと美味しいお菓子を作らないとね。あぁそうだわ。出来立てが一番美味しいから直接届けてあげた方が良いわね」

 

「え!?えっと、さっき家に寄ってきたんだけど優依は今いないみたい!また後日にした方が良いよ!」

 

「あら?それなら仕方ないわね。また明日にしようかしら?」

 

 

 

 

「えー・・多分明日もいないんじゃないかな・・?」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「繁華街の方に行くといい。運が良ければ神原優依と会えるかもしれないよ」

 

「本当!?キュゥべえ、それは本当なの!?」

 

 

今日もキュゥべえは私に会いに来てくれた。もうリボンの事に気が回らない。

昨夜は日付が変わってもひたすらお菓子作りをしていたから寝不足。

でもそんな私を一瞬で目を覚まさせる情報をキュゥべえが持って来た。

 

優依ちゃんに会えるかもしれない・・!

 

 

 

「少ししか姿を確認出来なかったけどあの膨大な素質の彼女を僕が間違えるはずがないよ」

 

「そう、ありがとう!優依ちゃんに会いに行ってくるわ!」

 

「気をつけた方が良いよ。彼女は一人じゃない。暁美ほむらと一緒のはずだから」

 

 

急いで支度をしようとする私を止めるように告げられたキュゥべえの言葉にピタリと動きがとまった。

 

 

「暁美さん・・?」

 

 

出てきた名前に思わず眉を顰めてしまう。

 

どういう事?どうして優依ちゃんが暁美さんと一緒にいるの?

 

 

「マミには黙ってたんだけどこの前見たんだ。暁美ほむらが神原優依に銃を突きつけてるところをね。ひょっとしたら優依は脅されてるのかもしれないよ」

 

「・・繁華街に今、優依ちゃんがいるのね?」

 

 

確認のために声を出しただけ。それなのに自分の声が驚く程低いものになっている。

優依ちゃんなら怖がるだろうけどキュゥべえは特に反応を示さなかった。

 

 

「そうだよ。暁美ほむらとね」

 

「・・・・・とにかく行ってくるわ」

 

 

急いで着替えて繁華街に向かって駆け出した。

優依ちゃんに会える。優依ちゃんを救いださせなきゃ。ただそれだけを考えながら。

 

 

 

 

 

 

なのに・・・!

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、優依の”初めて”は私がもらったわ」

 

 

はにかんだ笑顔を優依ちゃんに向けている暁美さんの表情はとても幸せそうだった。

赤い蝶がついたカチューシャはとっても似合ってる。

 

繁華街についてすぐ魔法少女の魔力を追っていると辿りついたのはとある雑貨屋さん。

ようやく二人を見つけた時に視界に入ったのが優依ちゃんと暁美さんが楽しそうに話し込んでいる姿だった。まるでデートみたい。

 

 

二人だけの世界が出来上がっていて私が入り込む余地はないと思えるほどそこは甘い空間に支配されていた。

 

 

今すぐ暁美さんの頭を撃ち抜きたかったけど優依ちゃんの目の前でそんな事できない。だってあの娘は血が嫌いだもの。これ以上怖い目に遭わせるわけにはいかない。

 

正直暁美さんを殺してしまいたい!

私の可愛い優依ちゃんがあんな泥棒猫と一緒にいるなんて耐えられないもの!

 

・・でもまだダメ。絶対ダメ。

 

チャンスを待たなきゃ!

 

 

内側から出てくる衝動を抑えながら二人を尾行していたけど結局二人はその後離れる事なかった。仲睦まじく一緒の方向に帰っていく姿を見届けたあと私は家とは反対方向のスーパーに向かって歩き出していた。

 

 

「おかえり、マミ出かけてたの?それにその大荷物は何だい?一人暮らしの君はこんなにいらないだろう?」

 

 

大量に詰め込まれた食料と日用品の袋を上機嫌でウチまで運んでいると私を待っていたらしいキュゥべえがちょこんと座って待機していた。リボンはつけてるみたいね。

 

 

「これからいるのよ。二人ならこれくらいの量すぐになくなっちゃうかもしれないでしょ?」

 

 

そんな彼ににっこり笑って答えてあげる。だって私は今とても気分が良いもの!

 

 

「二人・・?」

 

「そう、二人。二人っきりよ」

 

 

意味が分からなかったのかキョトンと首を傾げているけどこれ以上は話すつもりない。

 

 

あの二人を尾行してる時、私はある事を考えてた。

 

 

 

それは優依ちゃんをこの部屋で”お世話”する事。

 

 

 

だってそうすれば優依ちゃんは私を見るしかないもの。

もう誰かに嫉妬する事もない。優依ちゃんに会えなくて苦しむ事もない。

 

抗いがたい程の魅力があるから躊躇いなんてない。

 

優依ちゃんを守るためには必要な事だもの仕方いないわ。

でもこれから先あの娘の自由を代償にしてもらうんだから心を込めてお世話しないとね?

 

 

 

ふと視線をキュゥべえに移すと首元のリボンがあった。

 

 

「そのリボン似合ってるわね」

 

 

キュゥべえの首に巻いてある緑色のリボンを見る。

優依ちゃんのお古だというそれは汚れ一つ無い所を見ると文句を言ってても何だかんだで大事にしているらしい。

 

 

「これかい?優依が昔つけていたらしいからお古だけどね。気に入ってるから別にいいけど」

 

「ふふ、とっても羨ましいわ。私も用意しておかなくちゃ」

 

「用意・・?」

 

「さ、忙しくなるんだから準備だけして早めに寝ないとね」

 

 

追及してくるキュゥべえをかわして準備に取り掛かる。この部屋で快適に暮らしてもらうためには色々とやっておきたい事もあるし。

 

あと黄色いリボンを用意しておかないと。

 

優依ちゃんならどんな色でも似合うだろうけど個人的には黄色が一番似合うと思ってる。

首に巻くから痛くないようなものにしなくちゃ。

この前みたいに間違って跡が残っちゃったら可哀そうだもの。

私の優依ちゃんという証明になればいいのだからキツく縛りつける必要はない。

 

 

「ふふふ・・」

 

「マミ?」

 

「何でもないわ。明日がとっても楽しみだって思っただけだから」

 

 

リボンを首に巻いた優依ちゃんを想像してつい笑いが押さえられなかったみたい。

それは仕方ないわ。だってすごく可愛いもの。

 

早く明日にならないかしら?

 

今すぐにでも優依ちゃんに会いたいわ。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「はあはあ、はあ・・はあはあ・・」

 

 

部屋に帰った私は血で汚れたままノートを開く。シャワーはその後。

一刻でも早く邪魔は消したいもの。

 

 

「佐倉さんはまず反撃も逃亡も出来ないように足を狙って・・それから両手を吹き飛ばして、最後は頭。まずは彼女の行動パターンを知っておかなくちゃ。近いうちに風見野に行って尾行したほうが良いわね。その次は暁美さん。下手に反撃されないように学校で襲った方が良いかしら?でも、向こうも私を警戒してるはずだから隙はないかも。かといって魔女退治に出かけてる間は余計に警戒してるだろうし・・」

 

 

優依ちゃんを連れてくる事は失敗してしまった。暁美さんの妨害と謎の攻撃によって。

そのせいでボロボロになってしまったけど気分が良いから気にしない。

 

だって優依ちゃんの本心を知れたんだもの!こんなに嬉しい事はないわ!

 

 

「優依ちゃん・・」

 

 

優依ちゃんが巻いてくれた包帯を愛しさを込めて見つめながらそっと触れる。

 

暁美さんの事が大事だと言った時は絶望して無理心中を図ったけど未遂に終わって良かった。あやうく私はとんでもない間違いをするところだったわ。

 

 

優依ちゃんは私の事を大事に想ってくれてる。

でもそれだけじゃない。あの娘は私に言ってくれたんだもの。

「愛してる」って。私とっても愛されてたのね。なのに早とちりしちゃって。

・・そこは反省しなきゃ。

 

優依ちゃんの想いを知れて良かった。

 

だからこそ私から優依ちゃんを奪う存在が許せない!

相手が自己中心的な悪い魔法少女なら尚更。

 

私がこの手で引導を渡してあげるわ!

それがたとえ苦楽を共にした大切な仲間でも関係ない!

手癖の悪い泥棒猫は生かしておけないもの。

 

 

それに私はもう正義の魔法少女じゃないもの。躊躇いはないわ。

 

 

ある程度書き終えたノートから視線を外しベッドに置いてあった「優依」ちゃんを手に取ってそのまま抱きしめる。

 

 

 

「もう少し待ってちょうだいね優依ちゃん。邪魔がなくなったらまた二人きりでお茶でもしましょう?ふふ・・ウフフフフフフフ・・」

 

 

 

誰もいない部屋で私は声をかみ殺してひたすら笑い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああああ!どうすんだよ!?これじゃ『お友達大作戦』どころじゃないぞ!」

 

「その作戦は美樹さやかをトップバッターにした時点で破綻していたんだからしょうがないでしょう?私は初めから上手くいくとは思ってなかったけど」

 

「え?・・じゃあなんで付き合ってくれたのさ?」

 

「やる気に満ち溢れた貴女に水をさすのは悪いと思ったからよ」

 

「マジかよ。ほむらって意外と気配り出来るんだな。マミちゃんの時はやらかしてくれたけど」

 

「うるさいわね」

 

 

放課後、俺はほむらと二人並んで並木道を歩く。

 

俺がこの先の展開に絶望して半分八つ当たりを込めて訴えるも全く取り合ってくれない。

マミちゃんとの意味不明な戦いの後、結局俺達は昼休み後の授業を一限休む羽目になってしまった。理由はアクシデントによる心労とほむらによってつけられてしまった血の汚れのせいである。ちなみにほむらは戦闘からの消耗だ。

 

まあ、制服に関して言えば問題ない。

シロべえクオリティ「きれいきれいクリーナー」を使ったらみるみる内に血の汚れはなくなって残りの授業はきちんと受ける事が出来たのだ。

 

その功労者のシロべえだが先程連絡があって、今日はマミちゃんに会わない方が良いというお達しが来た。理由は不明。納得がいかなかったがほむらもシロべえに賛成しており、まさかの三日連続で俺のほむホームお泊りを勝手に決められてしまった。

 

そろそろ家に帰りたかったが危険だと強く訴えられたので仕方がない。

ここは折れるしかないようだ。

 

 

・・・俺はいつになったら自分の家の玄関を開けられるのだろうか?

 

 

 

「で?どうすんのよ?マミちゃんと意識的に敵対しちゃって。このまま険悪な関係が続けば「ワルプルギスの夜」攻略は難しいし、それどころか下手すりゃ世界滅んじゃうよ?どう立て直すつもり?」

 

 

ほぼヤケクソ気味になりながらもほむらに聞いてみる。

これで何も考えてないなんて言ったら三つ編みメガネの刑にしてやる。

 

 

 

「そうね。その時は貴女を連れて・・」

 

「? 何?」

 

「何でもないわ」

 

 

意味深に笑いながらじっと俺を見るほむらの意図がわからないので首を傾げる。

ほむらもそれ以上喋るつもりが無いのかただ笑っているだけだ。

 

 

「・・変なほむら。略して変ほむ。 う!?」

 

 

仕方ないのでからかってみたが失敗だったようだ。

鞄が俺のお腹にお見舞されてしまいパァンと結構良い音が響いた。

 

 

「かなり痛いぞほむら様・・!」

 

「ごめんなさい。優依の様子が変だったから正気に戻す必要があったの。もう一度した方が良いかしら?」

 

「いえ大丈夫です!この通り正気に戻りましたので!」

 

「ならいいわ」

 

 

全く悪びれてないなコイツ。

 

最近日常になりつつあるほむらの暴力に耐えながら二人一緒にほむホームに向かって歩く。

 

どうやら今日はここまでのようだ。

あんなに張り切ってたのに『お友達大作戦』失敗に終わったな・・。

本命のピンクさんは多分今日はもう会えないだろうしさ・・。

 

・・・もとよりそんな気力もうないです。

 

 

 

 

「はあ・・・」

 

 

 

 

 

「優依ちゃん!ほむらちゃん!」

 

 

 

 

「?」

 

 

 

誰かが俺達を呼んでいる?後ろからか?でもだるい。

 

 

 

疲れ果てた状態だから後ろを振り向く気力もない。

そのまま無視して歩こうとするもほむらが立ち止まって後ろを見ている。

 

 

「ほむらどうした?」

 

 

 

 

 

「・・まどか?」

 

 

 

 

 

「え!?」

 

 

ほむらがありえない名前を呟いているので急いで後ろを振り返るとこっちに向かって走ってくるピンクのツインテールが目に入った。

 

間違いない。ほむらの言う通り、まどかだ。

でも何で?一体何のようだ?

 

 

疑問に思いつつそのまま待っているとやがて俺達の所までたどり着いたまどかは息を切らしながらも沈痛な面持ちでこちらを見つめている。急な展開に俺とほむらはどうすればいいのか困り果てて顔を見合わせた。

 

まさかの真打登場は超ラッキーだけど今日の失敗があるので素直に喜べないわこれ。

 

 

「えっと・・まどか?一体何の用かな?」

 

 

中々口を開かないまどかに痺れを切れたので俺の方から振る事にした。

さもないとほむらの余計なツンデレが発動して事態を悪化させるのは目に見えているからな。

 

 

「あの・・・・」

 

「うん・?」

 

 

しばらくモジモジしていたまどかだがやがて意を決したのか真剣な表情で俺を見ている。

 

 

 

「・・っ。ごめんなさい!!」

 

 

 

「え!?まどかさん!?」

 

 

まどかが突然大きな声で謝りながら勢いよく頭を下げている。

それも腰の角度が直角になる程の深さだ。

予想外の行動にどう対応していいのか分からない。慌てふためくしかない。

 

 

 

全く訳が分からないよ・・・。




補足
マミさんが想いを自覚した日
     ↓
優依ちゃん、杏子ちゃんの所へハプニングお泊りデート


マミさんが優依ちゃんと杏子ちゃんの関係を軽くチクられた日
     ↓
優依ちゃん、命がけのほむホーム突撃&魔女狩り同行



マミさんが優依ちゃんをストーキング&監禁の企てた日
     ↓
優依ちゃん、ほむほむと恐怖のデート


マミさんが血まみれで暗殺計画を考えた日
     ↓
優依ちゃん、『お友達大作戦』決行日&紫vs黄色



シロべえとキュゥべえの見分け方

シロべえは首に緑色のリボンをしています!
お忘れかもしれませんが随分前にそういった描写はありますので暇つぶしに探してください!





不穏な気配満点ですが次はとうとう本来の主人公である
まどかちゃんの話になります!頑張れ優依ちゃん!


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51話 ピンクの奴はだいたい天使

三連休無計画で過ごしたらあっという間に時間が過ぎて投稿出来ないんだなと思い知りました!


「いやぁ!まさかまどかの方から話しかけてくれるなんて思わなかったよ!」

 

「えっと・・時間とらせてごめんね?それにいきなり謝ってごめんなさい。冷静に考えたら人目がつく場所で頭下げたら目立っちゃうよね?そこまで気が回らなくてごめんなさい」

 

「いや、まどかさん。開口一番でどんだけ謝ってんですか?」

 

 

ピンクの後頭部をうんざりした気分で見つめる。

ほむらと二人下校中だった時、まどかが現れていきなり頭を下げて謝ってくるものだから驚いた。

 

流石に多くの学生が行きかう場所で頭を下げられては悪目立ちしまくりなので慌ててまどかを連行し今に至る。

ちなみに今いる場所はショッピングモールのフードコートだ。俺とほむらは隣同士に座り、まどかが俺と向かい合う形で座っている。

 

 

「あの、ほむらちゃんもごめんね・・?」

 

「・・・」

 

「おいほむら、何か言うことないの?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

まどかが気まずそうにしていたからフォローのつもりで小声で話しかけてみるも返事はなし。

会話に加わる気がないのか静かにコーヒーを飲んでいる。ただコーヒーカップを持っている手が震えているので緊張しているのは丸分かりだがまどかは気づかないだろう。

 

何だかほむらのことを怖がってるみたいで幸先が悪いぞ。

 

 

ていうかせっかく目の前に本命がいるのにずっとこのままなのかほむらよ。

一日中無口キャラ貫く気か?冗談抜きでやめてほしい。

喧嘩売る様な発言されるのは嫌だけど置物になられるのも気まずく嫌なんだけど!?

 

 

「二人とも、今日はさやかちゃんがごめんね?」

 

「え?今日の事はまどか関係ないよね?」

 

 

ほむらと会話することを諦めたのか再び俺の方を向いて申し訳なさそうに謝ってくる。

まどかが頭を下げて謝る理由が分からない。ぶっちゃけ何もしてないじゃん。

 

 

「まどかは悪くないよ。むしろ暴走してるさやかを止めてくれたし感謝の念しかないよ?」

 

「ううん、感謝される事なんて何もしてないよ。全部わたしが悪いんだから」

 

「へ?」

 

 

深刻な暗い表情だったから少しでも空気が軽くなればと思って発言したんだけど効果はなかったみたいだ。少しの沈黙の後、重々しい空気の中まどかはようやく口を開く。

 

 

「元々嫌がる優依ちゃんを無理やり魔法少女体験コースに連れて行ったのはわたしだもん。一歩間違えれば死んでたかもしれないのに。それをどこか他人事みたいに思ってて何とか無事で済んだのにまだ続けようって話を勝手に進めちゃった。怖い思いした優依ちゃんの事を考えないで・・わたし・・最低だよ・・」

 

「いやいやいや!そこまで自分を責めんでも!何をどうなったらそこまで自分を追い詰める思考になるの!?」

 

「だって・・!優依ちゃんその後の電話なんだか元気なかったし、次の日の学校もお休みしちゃうんだもん!マミさんはとっても寂しそうにしてたし、さやかちゃんも落ち込んじゃって・・どう考えてもわたしが優依ちゃんを無理やり魔女の結界に押し込めたせいだよ!」

 

「あーあーストップ!その辺にしておこう!これじゃいつまでも不毛なやり取りが続きそうだから!」

 

 

大罪でも犯したかのような懺悔を口から出まくっている。

止めないとひたすら自分責めが終わらなそうだったので遮る形で割り込んだが、もしこのまま放っといたら最悪自殺でもされそうで怖い。それだけ今のまどかは弱っているように見える。

 

 

「まどかは悪くないよ。気遣ってくれてありがとう。もう怒ってないから」

 

 

言った通りホントにまどかは何も悪くない。

やった事なんてラグビー選手顔負けのタックルかまされて魔女の結界に放り込まれたくらいだ。

むしろ俺を巻き込んだのは、逃げようとする俺を捕獲したさやかとペットみたいに首にリボン括り付けて処刑台に連行しようとしたマミちゃんの方だ。この二人に比べるとまどかのした事なんて可愛く見える。

 

 

しかもマミちゃんに至ってはあわや俺を絞殺しそうになったからな。罪は重い。

 

 

どう考えてもまどかは無実なのにどうして全部自分が悪いみたいな事言ってひたすら謝るんだろうか?

 

 

「もうその事は忘れてさ、前みたいに仲良くしよう?」

 

「でも・・」

 

「むしろずっとそれを気にして疎遠になる方が俺にとってはそっちの方が許せないんだけど?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

俯きがちでおどおどしているまどかには申し訳ないがいつまでも罪悪感を持ち続けるのは都合が悪い。

いつあの白い悪魔が隙をついて狙ってくるか分かんないのにそれは困る!

目を離したすきに”契約しちゃった♪”とか笑えねえ!

 

 

「ほら、仲直りの握手。これでまた友達だから」

 

 

早く仲直りして!俺にとっては過去の死にそうな体験より未来の死亡フラグの方がよっぽど怖いから!

 

 

 

「うん・・・!わたしも優依ちゃんと仲直りしたかったから・・」

 

 

俺の念が通じたのかまどかが泣きそうな表情で俺の差し出した片手を両手でキツく握り返してくる。正直めちゃくちゃ痛いがこれでもう大丈夫だろう。

 

 

「よしこれで仲直り出来た!もうその事で謝っちゃだめだからな?」

 

「・・うん!」

 

 

はじけるような笑顔で頷いてくれた。可愛い。

 

良かった。あのウジウジモードが思いのほか面倒くさくて厄介だったから安心だ。

仲直り出来たし、まどかの機嫌も戻ったから今の内に聞きたい事でも聞いておくか。

 

 

「ところでまどか、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「いいけど・・何かな?」

 

 

 

「これまでの事を振り返って今も魔法少女になりたいって思う?」

 

 

 

「! えっと・・」

 

 

じっとまどかを見て聞きたかったことを思い切って聞く。

 

まどかに会えたから聞いておきたいなあって思っていたけどこれは思わぬチャンスだ。

傍にほむらもいることだし今のうちにまどかの心境を知っておくのも悪くない。

今後の対応の参考になるかもしれないから。何より俺とほむらのモチベーションに密に関わってくる。

 

ただしそれ相応のリスクがある。

「魔法少女になりたい」なんて言った瞬間ほむらの顔が般若になってしまうリスクだ。

そうなった場合、鬼を止めるのは不可能なのでまどかには悪いが八つ当たりが来る前に逃げる。説教されるなり、罵倒されるなりして犠牲になってください。自業自得だから。

 

あと俺のやる気もごっそり持って行かれそうだ。そうなったらもう立ち上がれる気がしない。

 

地雷になるであろうほむらは興味がないふりをしているが横目でまどかを見てしっかり聞き耳を立てている。どうやらさっきから話を聞いていたらしい。コーヒーの量が全く減っていないことから飲んだふりしていたみたいだ。

 

そんな演技下手な紫を横目で観察しつつドキドキしながら運命の瞬間をひたすら待った。

 

 

 

 

「・・今は考えてないかな」

 

 

 

 

長い沈黙の後、まどかは絞りだすようなひっそりした声で運命の答えを口にする。

それは俺にとって願っていたものだった。

 

ジャッジはなされた!俺の死亡フラグが著しく低下する!

ありがとうまどか様!貴女様のその英断によって世界が生存の道を歩み始めたぞひゃっほおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 

「・・今は?」

 

 

心の中で生存を祝うフャンファーレが鳴り響く俺に代わってほむらが気になる点を指摘している。ちなみに今のが何気に初めての発言だ。無表情だから何を考えているのか分からない。

 

 

ほむらが口を開いた事に驚くまどかだったがおずおずとコックリ首を縦に振っている。という事はやっぱり前はなろうとしてらしい。

 

 

「うん、前はね。でも今はあんまり魔法少女になりたいって思わないんだ。現実はアニメと違って本当に死ぬかもしれないでしょ?優依ちゃんが危ない目に遭ったのを見たから怖くなっちゃったの。・・こんなわたしってやっぱり臆病で卑怯者だよね・・」

 

「そんなことないよ!ちゃんと理解してくれて良かった!それなら安心だ!戦いをちゃんと理解していないままなのが一番危ないからね!いやぁよかったよかった!」

 

すぐさま卑屈モードに爆走するまどかに慌てて否定を入れる。

 

人間誰でも恐怖に怖気づくこともある(俺なんて特に)。何よりまどかは普通に生きてきた中学生。

ただコイツは世界滅ぼすリーサルウェポン的なピンクの悪魔だ。

そう考えると臆病である事にスタンディングオベーションな拍手を是非とも送らなくては。

 

 

「え?優依ちゃん?」

 

 

さすがにそれは出来ないが喜びのあまりつい彼女の手を握って上下に振り回す。

 

最大の死亡フラグが発生する懸念は限りなくなくなったのだ!

これを喜ばないで何を喜ぶっていうんだ!?今の俺は喜びを何かの形で表現しなければ気がすまない!

 

 

「優依ちゃん・・人が見てるよ?」

 

「構うもんか!俺は今、全身で喜びを表現しなくちゃいけないんだ!それの何が悪い!」

 

「うぅぅ・・恥ずかしいよ///」

 

 

その割には満更でもなさそうに手を握っているのはどこのどいつですかね?

照れ笑いしているまどかテラ可愛い!

 

 

「~♪」

 

 

「・・まどか少しは学んだようね」

 

 

 

「ほむら?」

 

「ほむらちゃん・・?」

 

 

浮かれた気分に水を差すようにほむらが口を開く。

 

紫の瞳がまどかの姿を捕えている。

俺は多少の付き合いがあるからほむらの事を理解できてるのでそれがただ見つめているだけだと分かっているがまどかの方は付き合いが短いので睨まれてると思ったのか縮こまってしまっている。

 

せっかくのお祝いムードが一気に緊張感がある空間に変化してしまった。ほむら恐るべし。

 

 

「魔法少女にならないのは賢明だわ。出来ればずっとその考えを貫いてほしいものだけど」

 

「う、うん。なるべくそうするよ・・」

 

「なるべくじゃなくて絶対そうしてちょうだい。コロコロ考えを変えられたらめんどうよ」

 

「・・・うぅ」

 

 

ほむらの非常にキッツイ物言いのせいでまどかが完全に縮こまってしまっている。

 

何でそんな言い方してたんだこの馬鹿は?

紫の蛇がピンクの蛙を睨んでいるとしか思えない!

どうしよう?このまま放っておいたらまどかが更にほむらを事を怖がりかねないぞ?

 

 

 

「魔法少女になる気がないなら巴マミとは縁を切りなさい。彼女といてもロクな事にはならないわよ」

 

 

 

何言ってんだてめえええええええええええええええ!!?

せっかく上手くいきそうだったのに何自分からぶっ壊してくれてんだこのアホ!?

マジで何考えてんだこの暴走紫!?

まさかとは思うけどマミちゃんに関しては今日の戦いの私怨混じってないよね?

 

 

 

 

「そ、そんな言い方あんまりだよ・・!」

 

 

まどかがムッとした表情で怯えながらもほむらに言い返している。

グッと上体を前のめりになっていることからも分かるがかなり怒っているらしい。

 

ほむらの言った事はまどかを思っての発言なのだがいかんせん著しく説明が欠如してるので「見捨てろ」ともとれる冷酷なもので命令口調。

 

誰だってそんなもの聞くはずないし反発するのにどうしてほむらはそれが分からないんだ?

お前逆にそれやられたら間違いなく銃つきつけるだろうが!

だいたい心身全てが優しさで構成されたまどかがそんな事聞くはずないだろうが!!

 

 

「忠告はしたわ。それでもまだ魔法少女と関わるようなら私は容赦しない」

 

「ッ! ・・・・・・・」

 

「ほむら!」

 

 

脅迫めいた発言の上に殺気まで放たれたらまどかは敵わない。

小刻みに震えだして怯えたような表情でほむらを見つめている。これ以上はやり過ぎなので口を塞いででもほむらを止めるはめになりそうだ。

 

 

「・・空気を悪くしてしまったわね。そんなつもりじゃなかったんだけどごめんなさい。私はこれで失礼するわ」

 

 

まどかの怯えた様子に自業自得のくせに傷ついたのか眉を少しだけ下げながらほむらは席を立つ。机にお金を置き、そのまま俺達に背中を向けて去ってしまった。

 

 

その際、俺にテレパシーで、

 

 

≪魔女の反応があったからこのままグリーフシード集めに行ってくるわ。まどかをお願いね。遅くならない内に帰ってくるのよ?≫

 

 

と保護者みたいな伝言を残していった。

 

 

ぶれないな紫。いつからお前は俺の母さんになったんだ?

 

今まで渡り歩いてきた時間軸でもあんな風に突き放してたなこれは。

それはさぞ誤解と衝突のオンパレードだったんだろうなー。

ほむらがまどか救済成功しなかった原因の半分はほむら本人のせいだろうなー。

 

 

結局あいつ何しに来たの?

 

 

 

 

「・・ほむらちゃんはわたしなんかと話したくないのかな?」

 

 

「? まどか・・!?」

 

 

呆れた視線でほむらが去っていったほうを見ていたら震える声が耳に入った。

 

顔を戻し視界に入ったものにギョッとする。

まどかが瞳をうるうるさせて今にも泣いてしまいそうになっているからだ

 

どうやらほむらの態度に酷く傷ついたようだ。

 

何も知らない人から見ればほむらの態度は拒絶にしか見えない。

本人も人を寄せ付けない雰囲気(またはぼっちオーラとも言う)を纏っているし。

 

 

だが俺は知っている。あの紫はただ緊張してテンパっていただけだと。

 

だって俺がまどかと会話してる間ずっとソワソワして落ち着かないし、持っていたカップが手の震えに合わせてコーヒーが揺れまくってたからな。人の制服に零さないか心配だったわ。

 

 

しかし今はそんな事どうでもいい。問題なのは今どうするかだ。

状況ははっきり言って最悪と言って良いに違いない。

 

 

あああああああああああああああああ!

どうしよう?どうしよう!?どうしよう!!?

あの暴走紫あるだけの手榴弾放り投げて戦場を放置したまま逃げやがったぞ!

 

なんて傍迷惑なやつなんだ!

 

 

「・・・・・・・」

 

 

まどかは俯いたまま一言も喋らない。

さっき言われた事がよほど心に突き刺さったらしい。

まどかのほむらに対する好感度が下がっていく一方だ。本人のせいだから更に腹立つ。

 

 

このままだと好感度は氷点下になってしまいそうだ。それはまずい!

肝心の本命に避けられてしまっては俺が困る!

 

 

く!こうなったら強引にでもまどかの中のほむらの印象を変えるしかない!

 

 

幸いまどかとほむらはお互いにほとんど接点がないから印象操作は容易なはずだ!

迷っている暇なんて俺にはない!

 

 

 

「まどか!」

 

 

「? 優依ちゃん?」

 

 

泣きに入りそうなまどかの肩を掴んで無理やり意識をこちらに向けさせる。突然の出来事にまどかはポカンとして俺を見ている。

 

よし意識をこっちに向けるのは上手くいった。問題はこの後だ。

 

 

 

正直相手がまどかだから気が引けるんだけど迷ってたらだめだ!

 

 

やれ!やるんだ俺!このままだと死亡フラグ一直線だぞ!

失敗続きで失うものがない俺には怖いものなど存在しない!

 

 

 

「実はほむらは”ツンデレ”なんだ!」

 

 

 

「・・ツンデレ?」

 

 

ポカンとして首を傾げているまどかとこれから被害を受けてるであろうほむら(こっちは自業自得だから構わないけど)には悪いが背に腹はかえられない。

 

いっその事このままほむらを「ツンデレ」キャラに仕立ててしまおう!

 

 

「そう!奴は典型的なツンデレ魔法少女だ!あんな風にクールに澄ましているが、その実態は超不器用で気弱なシャイガールなのだ!」

 

「本当に?それ優依ちゃんのイメージじゃないの?」

 

 

疑っているようだが自棄になっている俺にはそんなもの通用しない。勢いで推し進めるのみ!

 

 

「その認識は甘いぞ!ほむらのツンを侮っちゃいけない!言ってる事と考えてる事が真逆になる呪われた性質なんだ!」

 

「・・そうなの?」

 

「そうなんだ!実はほむらは前の学校でもツンを発揮してしまい周囲に理解されず助けを求める事が出来なくて”もう誰にも頼らない”って心に決めてしまったみたいなんだ。転校したのもそれが原因なんだ!」

 

「ほむらちゃん・・辛い目に遭ってたんだね」

 

 

ほむらに同情したのかまどかは違う意味で泣きそうになっている。

事実を多少使っているがほぼ嘘なのでまどかの涙が心に突き刺さる。

 

 

「そう、辛い目にあったんだ。それをまた繰り返そうとしている!このままではほむらは孤立したままでますます心を閉ざしたままだ!むしろ孤独が強まって心が病んでしまうかもしれない。それはいかん!俺的にはほむらはそろそろツン期卒業してデレ期に進学してほしいんだよね!」

 

痛む胸を抑えつつ何とか最後まで言い切った俺に労いの言葉をかけたい!

 

あとデレる時は病みなしのデレでお願いします!さもないと俺の心が死んじゃうから!

 

 

 

 

「だからまどか!ほむらを怖がらないであげて欲しいんだけど出来そう?」

 

 

同情させつつまどかを誘導。人間辛い過去があったと知った時、嫌いな人でも同情してしまうものだからな。特にまどかはそれが顕著だ。利用する形で悪いがこっちもこれが精一杯だ。

 

 

「・・でもわたしに出来るかな?ほむらちゃんと会うだけでもビクビクしちゃうんだよ?」

 

 

 

自信なさげなまどかはいつもの事で想定通りだが今回はそれであっては困る!

 

だから俺はこんな時のために用意しておいた作戦を実行する事にする。

 

今こそお披露目だ!俺考案自信回復マニュアル

「優依ブートキャンプ」始動!

 

 

まどかの自信のなさは登場人物の中でも屈指だ。

魔法少女になりたい理由も自信のなさが原因になっているし積極的に動けない理由もそれが起因していると思われる。それが更なる悲劇(特にさやか絡み)を生み出しているから洒落にならん。

 

まどかが動いてくれれば確実に良い方に進む展開が絶対ある!

積極的に動いてもらうには自信を持ってもらうしかない!

 

そこで出番なのが俺が発案した心を鍛えて自信を取り戻す

「優依ブートキャンプ」なのだ!

 

 

ちなみに内容は俺が普段やってるような褒めまくりがメインです!

作戦なんてありません!名前あった方が俺のモチベーションがあがるからつけただけです!

 

 

さっそく始めていこう「優依ブートキャンプ」!

 

 

「まどかの良い所、俺沢山知ってるぞ!むしろ長所しか言えないと言っても過言ではない!」

 

「それはないよ!わたしって何やっても平均並みだし自慢できるような特技なんてないもの!良いところなんて思い浮かばないや・・」

 

 

勢いよく手を振って否定するな。謙遜じゃなくて本気で思っているっぽいから手強い。

 

だがこんな所で諦める俺ではない!

これ以降チャンスがあるのか分からない。背水の陣で挑む覚悟だからこれくらいで終わってたまるか!

 

 

「それは視野が狭すぎるぞ?まあ、それもしょうがないか。人間意外と自分の長所なんて分からないものだしな」

 

「そういうものなの・・?」

 

「そういうものなの。じゃあこれから俺がまどかの言いところを挙げていくから心して聞くように」

 

「うん・・・」

 

 

 

 

「まず、まどかはとっても気が利いて心優しい女の子です!」

 

 

 

 

 

「え!?そんな事ないよ!」

 

 

否定から入って来るな!まどか意外と頑固だな!?

 

 

「いいや、そんな事ある!だってまどか俺が転校したばっかりで心細かった時に声掛けてくれて街を案内してくれたじゃん。その後もずっと仲良くしてくれた」

 

「それは普通じゃないの?」

 

「ところがどっこい、普通じゃないんだなー。大抵の人は内心では誰かに優しくしたくてもそれを実行するのは難しいもんだ。特に俺みたいに転校してきて何かと目立つ相手じゃ尻込みしちゃう」

 

「そうなの?」

 

「そうなの。俺あの時(君がまどかじゃなければ)嬉しかったよ。心細かったし不安だったから」

 

 

実際不安だったので嬉しかったのは事実だ。一番の死亡フラグだから素直に喜べないけど。

 

本当に目の前にいるまどかが何の変哲もない普通の女の子だったらなーと何度思ったことか!

これでこの主人公じゃなかったら言う事なかったのに・・。

そしたら俺がひたすら愛でまくれたものを!

 

 

「そんな・・大した事じゃないよ?わたしも優依ちゃんとお話したかったから」

 

「それでも本当に嬉しかったんだ。今もこうして俺と真剣に向き合ってくれる。忘れないで?それは本当に優しい人じゃないと出来ないんだよ!分かった?」

 

「えーと・・まだ何となくだけど、分かったよ」

 

 

いまいち納得していないっぽいがこれは仕方ない。すぐに自信がつくなんて思ってないし。

 

ならこれはどうは?

 

 

 

「まどかは可愛いです!」

 

「ふぁ!?」

 

 

ボンッと音が出ていそうなくらい一瞬で顔を赤らめたのでわかりやすいなあ。

おっ!これは良い反応かも。

 

 

「ふわふわした天使のような可愛さと小動物的な可愛さを併せ持った究極のハイブリッドだ。この可愛さはもはや殺人級と言っても過言ではない!」

 

「それは勘違いだよ!だって優依ちゃんの方がはるかに可愛いよ!わたしなんて・・・」

 

「何を言う!可愛いは多種多様あらゆる分野を網羅しているのだ!それを比べるなんておこがましい!」

 

「ふぇ・・」

 

 

思いのほか気分が乗ってきて語る俺にまどかは待ったをかけるもそんな事では止まらない!

俺の可愛い女の子理論を否定する奴は誰であろうと許さん!

たとえそれが将来神様になるかもしれない女の子でも例外じゃない!

 

 

 

「君が何と言おうと可愛い女の子である事は間違いない!それは俺が保証する!」

 

 

「や、やめてよぉぉ・・。そんな真顔で言われたらどうすれば良いか分からなくなっちゃう・・」

 

 

両手で顔を覆ってしまい表情が見えないがこれで良い。

今までにもまどかを可愛いと褒める奴(例:さやか)はいたが大概おふざけついでだ。

だから軽く流していたし冗談だとおもっていただろうから真面目に言われた時の耐性なんてないはず。

 

 

俺の目論見通りだ。効果は抜群!

 

これで少しは自信をもってくれたらいいんだけどそれは高望みし過ぎか。

 

 

「結論:鹿目まどかは優しくて可愛い俺の自慢の友達です!!」

 

「うぅ・・照れくさいけど・・ありがとう・・。そう言ってくれて」

 

 

力強く断言するとまどかは恐る恐る顔を覆っていた手を退けて真っ赤な顔で俺を見ている。

瞳に涙を浮かべながら小さくお礼を言っている。その涙はさっきまでの悲しみのものではなく感動の涙らしくキラキラしていてとっても綺麗だ。

 

 

思ったよりも効果があったみたいだ!よし今がチャンス!

 

 

「そこでまどかにお願いがあるんだ!」

 

「え!?えっとわたしに出来る事でなら大丈夫だけど・・・」

 

 

グッと顔の距離をつめた俺にまどかは驚いているがここからが本題なのだからそんな細かい事を気にする余裕がない。構わず先を続けることにする。

 

 

「何をそんなに弱気になってんの!?むしろこれはまどかにしか頼めない事なんだよ!?」

 

「わ、わたしにしか出来ない事・・?」

 

 

思ったよりも反応が良い?これなら引き受けてくれそうだ!

 

 

 

 

「うん!・・ほむらと仲良くしてやってくんない?」

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

「このままだとほむらツン期留年確定して色々拗らせちゃうんだよね。下手すればそのまま病み期に突入しちゃうくらい」

 

 

俺の脳内では色々拗らせまくった末、まどかのためなら世界改変までやっちゃうヤンデレが高笑いしてる姿が再生されている。これは絶対阻止。

 

あれって暴論だけどお互い(特にほむら)のコミュニケーション不足から来る思い込みから生じてしまうからね。

 

 

「お願い!まどかだけが頼りなんだ!」

 

 

グッとまどかの手を握って切羽詰まった表情で見つめる。正直死活問題なので表情を取り繕えませんでした。

 

 

「わたしだけが頼り・・・?・・・・・。うん、分かった。わたしもほむらちゃんとお友達になりたいし、思い切って話しかけてみるね」

 

 

にっこり笑って心強く宣言するまどかがとても眩しく見える。

普段する控えめな笑顔じゃないからこれは期待大だ。

 

 

まどかはやれば出来る娘だもの!必ずやり遂げてくれる!

 

 

うおっしゃあああああああああああああああああああ!!

『お友達大作戦』成功じゃああああああああああああああああああ!!

 

終わりよければ全てよし!これで今までの苦労が報われる!

 

ありがとうまどかさん!これからあの暴走紫をよろしくね!

 

 

そして悪いなほむら!今日からまどかの中の君の評価は多分、

”人類史上類を見ない超絶不器用&シャイなツンデレガール”に変更されてしまったかもしれないよ!

この先、苦労するかもしれないけどコミュニケーションサボった代価だと思って耐えたまえ!

 

 

取りあえず良かったねほむら!

この先まどかをどれだけ冷たく突き放しても食いついてくるだろうから孤立無援じゃなくなるよ!

 

仲を取り持ってあげたんだから「まどかに何て事吹き込んだのよ!」とか言って俺を攻撃しないでね?

必要な犠牲だったのさ!

 

さて、俺の出番はここまでだ。後は若い二人に丸投げさせてもらおう!とばっちり食らいたくないし。

 

頑張って二人とも!俺は傍観させてもらうよ!

 

 

 

 

 

「それにしても」

 

 

 

「何?」

 

 

脳内で勝利の歓声に酔いしれる俺をまどかはにこにこ微笑みながら見つめている。

ここに来た時のオドオドした様子が嘘みたいな楽しそうな雰囲気だ。

 

 

 

「優依ちゃんってとっても男の子っぽい話し方するんだね!」

 

「!?」

 

 

まどかの発言に身体の動きが止まる。

 

 

しまった!焦るあまりつい素の口調になってた!?

ヤバい!まどかの前ではずっと女の子の話し方してたもん!

 

 

「これがギャップ萌えって言うのかな?今まで一緒にいたけど全然知らなかったよ!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

「素はそっちなんだね!」

 

 

俺の目の前に天使のように笑うピンクの悪魔が出現した。




まどかちゃんのターンに切り替わります!

良かったねほむほむ!
まどかちゃんに勘違いされたみたいだけど仲良くしてくれそうだよ!


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52話 ピンクの奴はほぼ悪魔

ここ最近サボリがちなので今週は頑張ってあと二話分くらい投稿しようと思います!


※と、宣言しましたが本気にしないでください


「男の子みたいな口調の優依ちゃんってとっても可愛いね」

 

「・・・・はぁ・・」

 

「素がそれならひょっとしてわたしの前では猫被ってたの?」

 

「いえ、そんな事は!あの・・まどかさん。その辺で止めていただけると大変ありがたいのですが・・」

 

「え?どうして?今まで仲が良い友達だと思ってた優依ちゃんの大事な秘密なんだもん。しっかり触れておかなくちゃ!」

 

 

ものすごく良い笑顔で俺に語り掛けてくるまどかさんがめっちゃ怖い!

楽しそうに見えるんだけど俺的にはなぜか怒ってるようにも見えるんだよね!ほんとに何故か!?

にぎやかなフードコートが一瞬で尋問部屋と化している!

 

 

「今まで全然気づかなかったよ。優依ちゃんそんな素振り全く見せてくれなかったんだもん。わたし、優依ちゃんと仲良いと思ってたんだけど気のせいだったのかな・・?」

 

 

シュンと悲しそうなまどかの素振りに罪悪感が募っていく。

間違いねえ!これは怒ってる!どうしてかわからないけど激怒してそうだ!

俺に罪悪感を募らせるためのお仕置きをしてるとしか思えねえ!

 

 

「・・まどかさん」

 

「・・なあに優依ちゃん?」

 

 

あんまりにも気まずいんでまどかに話しかけてみるも傷ついたような表情を見せてくるのでとうとう俺の罪悪感はMAXに到達してしまった。

 

耐えられなくなった俺は両手を机につけて勢いよく頭を下げる。

 

 

「今まで隠しててごめんなさい!そして出来ればこのことは他の人に内緒にしてください!」

 

 

公衆の面前がどうとか言ってられない。

罪悪感があるってのもそうだがまどかをこのまま悲しそうな表情にさせておくと紫のセコムに背後から襲われてしまいそうだからというのもある。それはやだ。怖い。

 

 

いいなぁセコム。頼りになるなぁセコム。

誰か俺のセコムやってくれないかな?せめてこの一か月だけでもいいから。

 

てか今の立場逆転してない?なんで俺謝ってんだっけ?

 

 

 

「・・さやかちゃんには?」

 

「え?」

 

「さやかちゃんには打ち明けないの?」

 

 

謝罪後ようやく口を開いたまどかの第一声は自分の親友のことだった。相変わらずお優しいことで。

真剣な表情で俺を見ているからここは真面目になった方が良いみたいだ。

 

 

「・・今のところ打ち明けるつもりないよ。元々(例外はあるけど)誰にも打ち明けるつもりはなかったし。まどかの場合は俺のミスでバレちゃったから」

 

 

とか言っちゃったけど絶対さやかにもバレる!断言できるぞ俺は!

 

 

※俺の素を知ってる人達

 

〇元々知ってる人  :母さん、トモっち、

〇俺から打ち明けた人:シロべえ、ほむら

〇うっかりバレた人:杏子、マミちゃん、まどか(NEW!)

 

 

まとめるとこんな感じか。

 

 

どうせマミる後のさやかの契約で関わるだろうしその合間に話すだろうから先に話しておくのも悪くないかも。さやかの性格上からかってくるだろうけどすんなり受け入れてくれそうだし。

 

それにしても改めて振り返ると俺の素を知ってる人ってほぼ主要キャラで占められてるな。

・・とっても不吉だ。

 

 

「じゃあ、さやかちゃんには伝えないの?」

 

 

再度確認するようにまどかは念押しで聞いてくる。どうやらさやかが知る事が余程大事らしい。

 

 

「うーん、さやかは受け入れてくれそうだし、機会があれば(絶対あるだろうから)話そうかなって。ほら、やっぱりこういう口調って女子の間じゃ悪目立ちしちゃうから慎重にならないと」

 

「そっか・・あ、ほむらちゃんは知ってるんだよね?優依ちゃんの事・・」

 

「うん、あとマミちゃんも知ってるよ?(ついでに杏子も)」

 

「・・・・二人と仲良いんだね?」

 

「ま、まあ・・あの二人(+一人)は魔法少女っていう特殊事情があるからね」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

なんだこの空気?なんでこんなに重苦しいの?

まどか何も言わないで俯いて黙っちゃうし怖っ!

 

しかも「仲良いんだね?」って凄い刺々しい言い方だったよ!?

おかしいな!?まどかの謝罪から始まり俺の口調尋問に移り最後は浮気を問い詰められた後の気まずい雰囲気にもつれ込んでいる!?

 

 

 

なんだこれの流れ!?

 

 

 

いやだめだ神原優依!こんな事している場合ではない!

お前は立ち止まっている場合じゃないんだ!

 

今ここで立ち往生してたらそれこそ紫のセコムの標的になってしまうぞ!

 

 

そもそもまだ「優依ブートキャンプ」は始まったばかりじゃないか!

実行を継続するべきだ!決してこの重たい空気をぶち壊したいとかそんなんではない!

 

やるんだ俺!

 

 

「そうそうまどか、このあと時間ある?」

 

 

方針が決まったのなら即実行する。それが俺の死亡フラグ回避ポリシーだ。

 

 

「あるけど・・どうしたの?」

 

「じゃあ一緒に行こう!」

 

「えぇ!?優依ちゃん!?どこに行くの!?」

 

 

驚くまどかの手を引っ張って俺はフードコートを離れ、とある場所を目指して駆け出した。

 

 

俺が今出来る事は「優依ブートキャンプ」を実行する事だけだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まどかside

 

 

 

「鹿目さん、私を気遣ってくれてありがとう。でもやっぱり優依ちゃんがいないと・・」

 

 

 

どうしよう?どうしてこんな事になっちゃったんだろう?

 

 

・・・わたしのせい?

 

 

もし魔法少女体験コースをしていたあの時、わたしが優依ちゃんを無理やり魔女の結界に押し込んでなかったらこんな事にはならなかったかも・・。

 

そしたらマミさんだってあんなに寂しそうな顔しなかった。

 

 

どうしよう!?絶対わたしのせいだ!

 

 

 

はやく優依ちゃんに謝らなきゃ!

 

 

 

 

 

 

 

「絶対優依は転校生に脅されてるんだよ!」

 

 

 

 

優依ちゃんが今日学校に来てくれてよかった。

 

よかったんだけど教室に着いて最初に目にしたのが優依ちゃんがさやかちゃんを必死に取り押さえている場面だった。よく分からないけどさやかちゃん、ほむらちゃんに怒ってるみたいで今にも殴りかかりそうなくらいカンカンだった。

 

だから急いでさやかちゃんを宥めたんだけどずっとほむらちゃんは優依ちゃんを脅してるって言い続けてた。宥めるのに必死で結局時間が過ぎちゃって謝れなかった。

 

仕方ないからお昼に謝ろうと思って探したんだけど優依ちゃんはどこにもいなくてお昼休みが終わっても戻ってこなかった。そういえばほむらちゃんも戻ってこなかった。

 

ようやく戻ってきてもさやかちゃんがほむらちゃんを睨んでて今にも爆発しそうな感じでずっと不機嫌だったから話せなかった。

 

 

 

・・やっぱりわたしのせいだよね?

 

 

 

そしたらさやかちゃんだってほむらちゃんのことであんなに怒ったりしなかったかもしれないし、何より優依ちゃんが危ない目に遭う事もなかった。

 

 

全部全部わたしのせい!謝らなきゃ!

 

 

 

わたしを許してくれなくても構わない!

せめてマミさんとさやかちゃんとは仲直りしてもらおう!

 

 

 

 

そう思ってたのに、

 

 

 

 

 

「おぉ!まどか可愛い!」

 

 

 

・・・何でこんな事になってるんだろう?

 

 

 

 

放課後、帰宅途中の優依ちゃんを見つけて勢いのままに謝ったんだけど、何故か今わたしはコスプレさせられてる。これで十着目で今は天使の恰好だからとっても恥ずかしい。それなのに優依ちゃんはそんなわたしを見てすごく嬉しそうな笑顔を浮かべながら「可愛い」を連呼してる。

 

こういうのは絶対優依ちゃんの方が似合ってて可愛いのに・・。

 

それにしてもずっとこの街に住んでるけどゲームセンターのプリクラコーナーでコスプレ出来るなんて知らなかったな。優依ちゃんその情報どこで知ったんだろう?

 

 

「はあー・・まどかはやっぱり可愛いな!次は何着てもらおうかな!?」

 

 

うっとりした表情でわたしを見てる優依ちゃんは携帯で写メした後すぐにうきうきした様子で再び衣装を探している。

 

わたしって何してるんだろう・・?

 

えーと・・ほむらちゃんと二人で歩いてた優依ちゃんに急いで謝ってそこから連れてこられたフードコートでちゃんと謝った。

 

拍子抜けするくらいあっさり許してもらったけどほむらちゃんからはマミさんと縁を切れって言われてそれに怒ったらほむらちゃん帰っちゃった。落ち込むわたしを優依ちゃんが慰めてくれたついでに何故かわたしの良い所を褒めだしてくれた。そのおかげで心が落ち着いてきて優依ちゃんの口調がいつもと違う事に気付いて・・

 

隠されていたのが悲しかった事と、ほむらちゃんやマミさんが知っていた事にムッとしちゃって優依ちゃんに意地悪しちゃった。

 

 

・・・本当にわたしは何してるんだろう?

困ってる優依ちゃんが可愛いと思うなんて最低だよ・・。

 

 

 

「まどかは小悪魔の衣装も案外似合うかもなー」

 

 

 

自己嫌悪中のわたしの耳に届く優依ちゃんの楽しそうな声。

衣装を選んでるからわたしに背中を向けてるけど本当に楽しいみたいで声が弾んでる。

 

どうしてそんなに楽しそうなんだろう?

その理由がわたしと一緒にいるから楽しいって思ってくれてるからなら嬉しいな・・って何考えてるのわたし!?

 

 

 

「~♬」

 

 

一人慌てふためくわたしに気付かず優依ちゃんは服選びに夢中になってる。

 

 

ふふ、今度は鼻歌まで歌いだしちゃったみたい。可愛いなぁ。

子供みたいにはしゃぐ優依ちゃんがとっても可愛くてクスリと笑っちゃう。気づかれてないよね?

 

 

「次はこれかなー?」

 

 

そう言って新しい衣装を見せるためわたしの方に振り向いた。

そんな何気ない動作もとっても洗練されてて綺麗・・。

 

 

 

 

 

そういえば優依ちゃんと二人っきりなのって初めてかも。

優依ちゃんがいる時はいつもはさやかちゃんや仁美ちゃんが一緒にいるもん。

 

 

今は二人きり・・・。

 

 

 

「////」

 

 

 

 

「? まどか大丈夫か?」

 

「う、うん!大丈夫だよ!何でもないから!」

 

 

一度でもそんな事考えると変に意識しちゃって顔に熱が籠る。

それを体調が悪いと勘違いしたらしい優依ちゃんがこっちに向かってくるから慌てて何でもないと取り繕っちゃった。

 

 

うぅ・・心臓の音、優依ちゃんに聞こえてないといいんだけど。

 

 

 

「そういえばまどかと二人は初めてだね?」

 

「え!?う、うん!そうだね!」

 

 

今気付いたらしい優依ちゃんは何でもない風にそんな事を口にしてる。

 

わたしと同じことを思ってたみたいで嬉しいけど意識してる事をズバリ指摘されちゃって思わず声が上ずってしまう。心臓が更に早く動いてて鼓動がうるさいよぉ・・。ホントに聞こえてないよね?

 

 

うぅ・・こんなにドキドキしたの優依ちゃんが転校した時以来かな?

 

 

お姫様みたいに可愛い優依ちゃんとどうしても仲良くなりたかったから引っ込み思案なのにわたしは声かけようとしてた。今思い出してもよく話しかけようと考えてたなんて驚き。

結局それはさやかちゃんが先に優依ちゃんに声かけちゃったからできなかったんだけど。

 

 

それでもよかったと思う。だってこうして優依ちゃんと仲良くなれたんだもん!

 

 

「あ、言い忘れてたけど俺の素の口調で話すのなんて魔法少女を除いたらまどかが初めてだったわ」

 

「え!?本当!?」

 

「わ!?」

 

 

またまた何でもない風に爆弾を口にしてる優依ちゃんに思わず顔を近づけて聞いてしまう。

 

 

 

だってそれって・・、

 

 

「優依ちゃん!それ本当なの!?わたしがその・・優依ちゃんにとっての初めての・・」

 

 

秘密を知った友達って事になるよね?

 

 

「え?うん、まあそうだよ・・」

 

 

わたしの勢いにたじろぎながらも優依ちゃんは肯定してくれた。自然と顔に笑顔が広がっていくのが分かる。

 

すごく嬉しい!優依ちゃんにとってわたしはただの友達じゃないって事になるんだよね?

 

 

・・・でも、

 

 

「わたしなんかで良いのかな・・?」

 

 

さっきまでのウキウキした気分はすぐになくなってしまった。

 

当然だよね?だってわたしは鈍臭いし取り柄なんて何もない。

そんなわたしが優依ちゃんの大切な秘密を知ってるなんて何だかおこがましく思えてくる。

 

自分で言っておいてますます落ち込んでしまう。泣いちゃいそうだよ・・。

 

 

「え?何でそんなに落ち込んでるの?良いに決まってるじゃん」

 

「え?」

 

 

訳が分からないと言った感じの優依ちゃんがキョトンとした表情でわたしを見てる。わたしの訳が分からなくてキョトンしてしまう。

 

 

「何度も言うけどまどかは優しくて可愛い俺の自慢の友達だよ」

 

「! ・・うん」

 

 

素敵な笑顔でそうはっきり言ってくれて思わず涙が出そうになるも慌てて顔を伏せる。

 

本当はありがとうって言いたかったけどそれ以上言葉が出てこなかった。

 

今日は優依ちゃんに謝って良かった。ううん、優依ちゃんと友達になれて良かった。

わたしとお話してくれるし笑いかけてくれるのが何より嬉しい。

それはわたしにとって幸せな事でまるで夢を見てるみたい。

 

 

・・・夢なのかな?

 

 

 

「いたっ」

 

「どうしたのまどか?」

 

「うぅ・・ううん、何でもない」

 

 

試しに頬を抓ってみたけどとっても痛いや。これは夢じゃなくて現実なんだ。

 

つまりわたしは優依ちゃんにとって特別な友達になったのは現実だって事だよね?

 

 

そう考えると思わず頬が緩んでしまいそう。

 

 

「・・ねえ優依ちゃん」

 

 

気付けばわたしは名前を呼んでた。

 

 

「何?」

 

 

呼ばれた優依ちゃんは?の表情でこっちを見てる。

 

 

 

「優依ちゃんもコスプレしよ?」

 

 

 

にっこり笑って優依ちゃんの手をがっしり掴む。

運動は普通だけど優依ちゃんより力があるみたいだから多分わたしの拘束からは抜けだせないと思う。

 

 

「え!?いや俺は・・」

 

 

案の定慌てている優依ちゃんは何とか逃げ出そうともがいているけど掴んでる手を引き剥がせないみたい。か弱いお姫様みたいですごく可愛い。

 

 

「優依ちゃんこういうの着たら絶対に可愛いよ!わたしなんかの保証じゃ心配かもしれないけど信じて!大丈夫!頑張って似合う衣装選んでくるから!」

 

「着る前提!?だから俺は着ないって!」

 

「わたしは優依ちゃんに頼まれてもう十着は着てるよ?」

 

「う・・」

 

「それなのに優依ちゃんだけ着ないなんて不公平だよね?」

 

「・・はい、そうですね・・」

 

 

さっきよりもっとにっこり笑ってそう言えば優依ちゃんは観念したみたいで項垂れてしまった。

そんな様子を見てますます笑顔になって優依ちゃんの手を引っ張った。

 

 

今日からわたしは優依ちゃんにとって特別になれたと思う。

貴女の大切な秘密を知ってるんだもの。今までと同じ関係じゃだめ。もっと深い関係になりたい!

 

 

取りあえず優依ちゃんにもコスプレしてもらおう!

色んな衣装を着た優依ちゃんを見てみたいし何より少しは気晴らしになると思うから。

 

 

ここ最近優依ちゃんは何かに悩んでるみたいでよく困った表情をするもん。何も言わないけどきっとそれは魔法少女の事だと思う。

 

何も話してくれないのは、きっとわたしがまだ頼りないから。

だからわたしは今のわたしが出来る範囲で優依ちゃんを支えていこうと思う。

 

 

取りあえず今は気分転換のコスプレ着せ替えしなきゃ!

大丈夫ちゃんと携帯で撮影して大事に保存するから安心して!

 

 

 

今はこんな事しか出来ないけどいつか必ず貴女の友達にふさわしいわたしになるからね!

ほむらちゃんとの事も頑張ってみる!

 

だってわたしは優依ちゃんにとって

『優しくて可愛い優依ちゃんの自慢の友達』だもん!

 

それに見合うようにそして、わたしにしか出来ないって言ってくれた優依ちゃんの期待は裏切らないようにしなきゃ!

 

やれるところまでやってみる!

 

だからこれからもずっとわたしと仲良くしてくれると嬉しいな優依ちゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神原優依、説明してもらえるかしら?」

 

 

 

 

深夜遅くのほむホームにて俺は突然ほむらに後ろから銃を突きつけられ絶体絶命のピンチに陥っている。部屋が暗いうえに背中を向けているからほむらの表情は分からないが声からして怒っているのは明白だ。それも激怒に近い。

 

下手に刺激してしまえば身体に穴が空いてしまう。ここは慎重に対応しなければならない。

 

頬に汗が伝うのを感じながらほむらに交渉を試みた。

 

 

「俺が何をしたっていうんだ?今日は俺よりもほむらの方が色々やらかしてたじゃん。むしろ俺のほうが今のこの状況を説明してほしいくらいなんだけど?」

 

「とぼけないで!私がいない間にまどかに一体何をしたの!?様子がおかしかったのよ!?」

 

「? まどかに会ったのか?」

 

 

どうやらまどか関連の事みたいだ。道理でいつもよりカッカしてると思った。

 

 

「いいえ、会ってないわ」

 

「はあ?じゃあ何を根拠にそんな事言ってんのお前?」

 

「なんで・・」

 

「?」

 

 

突き付けている銃がカタカタ音を立てている。ひょっとしてほむらは震えているのか?何で?

 

 

 

 

「なんで私の携帯番号知ってるの!?」

 

 

 

 

部屋全体に響き渡る大音量に思わず耳を塞ぐ。

顔を見なくても今のほむらは真っ赤なリンゴ状態なのが目に見える見える。

 

 

 

 

「さっきまどかから電話掛かってきたのよ!?どういう事!?」

 

「あー・・・」

 

「私の番号を知ってるのは優依だけよ!絶対貴女が教えたんでしょ!?」

 

「うん、まあ教えたけど?それが何か?」

 

「それだけじゃないわ!私がどれだけ突き放す言葉を言っても、

『ほむらちゃんは本当にシャイなツンデレさんなんだね』って全く取り合わないのよ!?貴女まどかに何を吹き込んだのよ!?」

 

「何って?ありのままのほむらの話しかしていませんが?」

 

「何をどう話したらあんなポジティブシンキングになるのよ!?」

 

「やかましい!元をたどればお前が厄介な爆弾放り投げるからややこしい事になったんだろうが!むしろ俺はそれを回避し、しかも交友の機会を作った功労者だ!賞賛は受けても批判を受ける謂れはない!」

 

「う・・・」

 

「まどか自ら話しかけてくれるチャンスをみすみす逃すんじゃない!今こそ好機だ!はやくツン期から飛び立ってデレ期に羽ばたいて幸せを掴むのよ『ほむデレラ』!!」

 

「誰が『ほむデレラ』よ!!」

 

 

本日二回目の怒声が部屋全体に響く。

今日一日色々あったのにほむらは意外と体力があるみたいだ。

取りあえずいつものほむらのシャイ加減に安堵して力が抜けるわ。

 

 

ようやくほむらの顔を拝めてみると案の定顔を真っ赤にして肩で息をしていて笑える。

 

 

どうやらまどかは俺の頼みを実行してくれたみたいだ。

まさか自分から電話するとは。てっきり明日学校でほむらに話しかけるとばかり思ってたからこれは意外。良い傾向だ。念のためにほむらの携帯番号教えておいた甲斐があるというものだ。

 

しかしほむらに電話するという積極性だけでなく言葉の刃を無効にしてしまうスルー力まで披露するとはまどかに一体何があったんだ?あんなにほむらにビクビクしていたのに。

 

 

もしかしてこれが本物の主人公力というものだろうか?

まどか恐ろしい娘。

 

 

「優依ブートキャンプ」が功を奏したみたいで良かった。

自信回復させるためにまずは容姿から誉めてみようとまどかをプリクラコーナーのコスプレエリア(情報提供トモっち)で着せ替えしてたんだけど思いの外まどかはコスプレが似合う事が分かり元々可愛いのもあって本来の目的そっちのけで楽しんでしまった。

 

小悪魔の恰好も似合ってたな。うん。

 

最初まどかは戸惑い気味だったけど途中からめっちゃノリノリで逆に俺をコスプレさせてくる勢いになって驚いた。しかもまどかの倍近く着替えさせられた気がする。

ちなみにまどか曰く俺に似合っていたのは妖精の恰好だったとか。ありえねえ。

 

まどかは何であんなに元気になったんだ?

えーと、たしか・・俺が

「素の口調で話すのなんて魔法少女を除いたらまどかが初めて」とか言ったあたりだっけ?

 

うん確かに本当の事だ。見滝原では初めての女の子。

だって前の学校の女の子達は何故か俺の素の口調を知ってたし。

 

おかしいな?トモっちと母さんくらいにしかそういう話し方してなかったし彼女たちの前では控えてたのに?

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「わ!?・・ほむら?」

 

 

考え事していたからさっきまで騒いでたのに急に静かになったほむらに気づかなかった。いきなりベッドに押し倒されて、ようやく意識が戻るも訳が分からない。押し倒した張本人はそこから何かする訳ではなくただ俺の胸に顔を埋めている。心なしかその身体は震えているように感じた。

 

 

振り解きたかったがガッチリ拘束されているのでどうすることも出来ずほむらの好きにさせておくしかない。俺はそのまま押しつぶされた状態でほむらが話すのを静かに待った。

 

 

 

 

「久しぶりだわ・・まどかの楽しそうな声を聞いたの」

 

「・・そっか」

 

 

ようやく話し始めたほむら。俺の胸に顔を埋めてるから声がくぐもっているが内容ははっきりと聞こえた。

 

 

「ええ、やり方は少し強引で色々おかしい所があるけど優依には感謝しかないわ。本当にありがとう」

 

「どういたしまして。だから降りてくれると嬉しいな」

 

 

そう言った直後にギュッと俺の服を掴んできたんですけどこの紫は今反抗期なのか?

 

 

「嫌。このままでいさせて?この幸せを噛み締めていたいの」

 

 

今日のほむらは甘えたいらしい。どことなく不貞腐れた子供みたいに感じる。

 

 

「・・どうせ、どいてって言ってもこのままなんだろ?」

 

「そうね。私をこんな風にした責任を取って今夜はずっとこのままよ」

 

「えー・・・」

 

「諦める事ね。・・今日はとっても疲れたの。治療も兼ねて頭を撫でてちょうだい」

 

「拒否権は?」

 

「ないわ」

 

「・・はいはい」

 

 

諦めの気持ちで我儘ほむらの頭を撫でてやる。見た目通りのうっとりするような触り心地だ。

俺はクセっ毛だからサラッサラストレートが羨ましい。

 

 

「ん・・」

 

 

気持ちよさそうに目を細めるほむらはそのまま俺に身を委ねている。

是非ともこのアングルで撮影したいものだが手元に携帯がないから諦めるしかない。非常に残念だ。

 

 

 

「・・もうすぐだね」

 

「ええ・・」

 

 

 

もうすぐマミる日が来る。

 

正直不安でたまらないし、マミちゃんとほむらの仲を良好に出来なかったのは痛い。

ていうか原作よりも更に悪い超険悪な関係にまで拗れているから最悪だ。

 

マミちゃんが終わったあともさやかの契約や杏子の襲来もあるかもしれないし頭が痛い。

 

 

「頑張ろうなほむら」

 

「・・・・・・・・」

 

「ほむら?」

 

「すぅ・・すぅ・・」

 

「げ・・寝てる・・」

 

 

返事がないし耳を澄ましていると胸の辺りから寝息が聞こえるからどう見てもこの紫、十中八九寝てやがる。

俺はベッドか?ベッドなのか?人が足りない頭で今後の事を真剣に考えてる時に!

 

シリアスな空気が一瞬で消えたぞおい!

 

 

 

「はぁ・・ま、いっか」

 

 

 

一先ずまどかとほむらがまずまずな関係になれた事は今回の救いだ。

 

この調子で良い流れに持っていこう!

 

 

「ねむ・・」

 

 

これ以上考えても仕方ないし俺も寝るか。

 

 

「おやすみーほむら」

 

 

思考を放棄した俺はほむらを布団代わりにして目を閉じた。




まどかちゃん編でしたー!
ギリギリ病んでませんのでご安心を!
次は分かりませんがねw


では次回からマミる編になっていきまーす!
ここまで来るの長かった・・・


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53話 予想外DEATH

宣言した通り今週はちょっと頑張って多めに投稿してます!




ちなみにこの話からマミる編です!


分かっていた。分かっていたんだ。

 

こんな事になる事くらい!

 

ほむらの様子を見てこれは無理だろうなと薄々感づいていた。アイツ自身も、

「前の私はこれを使う機会がほとんどなかったからちゃんと出来るか分からないの。だから優依が察して欲しいわ」と言っていた。それに対して俺は了承した。

 

その結果、先程奴から届いたメールがこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

From:ほむほむ

本文:まどか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分かるか!!!!!これで俺に何を察しろって言うんだ!?

まどかの名前だけで内容理解出来るのはお前くらいだろうが!

 

携帯の操作不慣れっていうレベルじゃねえぞこれ!

こんなもんただの嫌がらせじゃん!必死に指導してる俺の心が折れるわ!

 

 

いや、うん。ほむらの携帯の操作はこの際、置いといて一応内容は分かるよ?多分。

 

 

何て言ったって今日は運命のマミちゃんが「マミる日」だ。

おそらくほむらが伝えたかったのはその事に関してだと思う。多分。

 

 

どうしてこんなメールが来たのかそれの経緯を説明しておきたい。

 

 

 

 

 

マミる=マミちゃんの死

 

それを回避するために主要な人物であるターゲット三人の動きをこちらでコントロールする必要があった。

ほむらとシロべえで相談した結果、以下の事を実行する事にしたのだ。

 

一番重要な人物であるマミちゃんは今日も休んでいるから放置するしかない。

彼女に関してはシロべえに押さえてもらえば大丈夫だろう。

 

残りはまどかとさやか。これに関しては問題なかった。

戦いの舞台である病院はさやかが上条の野郎をお見舞いするために行ったのだ。

要はそれを阻止すればいいだけの事。

だから俺はまどかに頼んで今日はさやかを病院に行かせないようにして欲しいと頼んだのだ。

 

まどかにちゃんとした説明はしてなかったが、

当の本人から「分かった。さやかちゃんを病院から遠ざければいいんだね?」と非常に理解ある返事がいただけたからこれもクリア。

 

 

これで主要人物は病院に行く未来はなくなった。

 

 

あとはほむらがお菓子の魔女もとい「俺のトラウマ」を倒せば万事OK!

そのために俺はほむらに代わって今日の日誌当番を引き受けた。

俺は日誌を書きながらほむらの連絡を待つだけで済む。

 

これでマミる未来は来ない!

 

 

そう思っていた。

 

計画は完璧だったはずなのにどこで狂った?

 

 

 

 

狂い始めたのはまどかから電話が来た時だ。

 

 

 

何でもまどかはさやかを病院から遠ざけるために買い物に誘ってショッピングモールに行ってたらしいんだけど道中キュゥべえの野郎がわざわざやって来て、

ご丁寧に「病院に今にも魔女に孵化しそうなグリーフシードがある」と告げ口しやがったそうな。

 

 

それを聞いたさやかはまどかの制止を振り切って病院に向かってしまい、

黒幕キュゥべえの下種野郎は「マミを連れてくるからさやかを追って!」と言い逃げされてしまったらしい。

 

 

慌てたまどかはすぐほむらに電話するも(何かあったら連絡するようにと言っておいた)繋がらず困り果ててしまい次に俺に連絡してきたからどういう状況か分かった次第だ。

 

 

まどかGJ!いやそれよりも、

 

 

 

 

何してくれてんだあの白い悪魔がああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 

せっかく上手くいったと思ったのに!!パアじゃねえか馬鹿野郎おおおおおおおおおお!!

 

 

 

 

まどかには待機するようにと言おうとしたが言うよりも早く、

「さやかちゃんが心配だから追いかけるね!」と言われて電話を切られ、仕方なく俺からほむらに電話してみるもまどかの言う通り繋がらなかった。マジで何してんだあの紫?

 

 

居ても立ってもいられず急いで学校を出て、せめてほむらが魔女を倒すまでマミちゃんを足止めしようと家に向かうも途中でシロべえとまさかのバッタリ。奴曰くどうやら目を離した隙にマミちゃんはキュゥべえに連れ出されたらしい。最悪だ!!

 

 

 

そんな時に来たのが最初に見せたほむらからの謎メールだ。

全然分かんないけど今日の出来事の流れから見るにおそらく「まどかをお願い」と言いたいんだろう。多分。

 

 

理由は知らんけどほむらが今動けない以上、こうなったら俺が病院に先回りしてマミちゃんを止めなければ!とシロべえと話し合いでそう決めてそのまま病院に向かったんだ。

 

 

 

 

 

・・・・向かったんだけど・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!怖いいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 

 

何故か俺は現在進行形でロープにしがみ付いている。

 

 

どうしてこんな事になってるかというとシロべえと一緒に病院に向かっている最中、突然空間が歪み気づけば俺達は晴れ渡る青空が広がる空間の中にいた。

 

 

三百六十度見渡す限り広がる青空

無数のロープが張り巡らされ、そこには洗濯物のように吊るされはためくセーラー服

 

 

そしてこの空間の主であろう蜘蛛のような六本の腕でロープにしがみ付いてるセーラー服を着た存在

こちらに向いたスカートは絶対領域な鉄壁ぶりのおかげで中が見えていない

 

 

間違いなくあれは「委員長の魔女」!!

命名「セーラー蜘蛛戦士」!

 

 

こんな時に最悪だあああああああああああああああああああああ!!

 

 

こんな急いでる時に魔女!何より近くに魔法少女がいない時に限って現れやがって!

 

何だこの狙ってやったようなタイミングは!?

まさかこれあの外道宇宙人共の仕業じゃないよね!?

 

 

くそ!急いでるのによりにもよってこの魔女かよ!

 

 

チラッと自分がしがみついてるロープを見る。

ある程度太さはあるが空中にあるからか少しの振動でよく揺れる。足場は最悪と言っていい。

 

床面積がこんなロープのみじゃ走るどころか歩く事すら出来ない。

だって俺だもの。間違いなくバランス崩して青空に向かって真っ逆さまだ。

 

これじゃ逃げることすら出来ない。笑えねえ!

 

 

 

今なら必死にロープにしがみ付いて怖がってたほむらの気持ちがよく分かる!

 

 

 

大丈夫だよメガほむちゃん!君はおかしくない!

おかしいのはこんな足場不安定なロープの上を平然と走ってたまどかとマミちゃんの方だから!

よくこんな所を走りながら攻撃出来たなあいつら!

 

 

「!? わわわわわわ!揺らすな!落ちるだろうが!」

 

「好きで揺らしてる訳ないでしょ!僕だって落ちたら死ぬんだから必死にしがみ付いてるだけだよ!!」

 

 

シロべえも一緒に結界に巻き込まれたから落ちないようにロープにしがみ付いている。こっちも落ちないようにしがみつくのに必死で動けそうにないみたいだ。もちろん俺が動くのなんて論外だ。ほぼ間違いなく地獄逝き確定のスカイダイビングをするはめになるだろう。

 

 

しかしタイムリミットが迫っている。

いつまでもこんな所で立ち往生してる場合でない!

 

幸いあの魔女は攻撃どころか動く気配もない。今の内に脱出方法を探さなくては!

 

 

「シロべえ!ここから出る方法はないのか?急いでるんだけど!」

 

「僕だって必死に探してるよ!でも動けない現状どうしようもない!今のところあの魔女を倒す以外方法はないよ!」

 

「マジかよ!倒すにしても武器とかあんの!?」

 

「ないね!僕が作ってるのは基本、便利な日用品くらいなものさ!」

 

「つまり倒すの絶望的って事じゃん!魔女と出くわす事もありえるのに何で作らなかったの!?」

 

「それは僕のポリシーに反するからね!相手を傷つけるための道具に何の意味があるのさ!?最後はお互い消耗して自滅するだけ!自我を得てからその無意味さを思い知って武器は作らないと決めてるんだ!僕が目指すのは皆を幸せにする某猫型ロボットの便利道具さ!」

 

「そのどうでもいいポリシーのせいで今俺らピンチなんですけど!?」

 

 

シロべえの妙なこだわり論を聞き流しつつ他に手がないか必死に頭を回転させる。ああなったらシロべえは止まらない。一体誰に似てしまったんだろうか?

 

 

現状で一番良いのは魔法少女が倒してくれる事だがはっきり言ってそれも期待できない。今この街にいる魔法少女のほむらとマミちゃんは病院に向かっており助けには来ないだろう。

 

ていうか相手が相手だから下手すりゃここよりも向こうの方が危ないわ。うん。

 

 

やっぱり俺の頭では良い案が浮かんでこない。

でも頼りになるシロべえも手だてがないようだし・・。

 

今まだ希望はある。シロべえの道具だ。

これまでの傾向から思いがけない効果を発揮するかもしれない。

本来の用途とは違うだろうが現状を打破する一手になる可能性もある。

 

他に手段がない以上やるしかない!

 

 

「こうなったら二人であの魔女をどうにか退けないといけないみたいだな。こうなったら何でもいい。今持ってる道具を確認して使えそうな奴を片っ端から使ってみよう!シロべえ頼む!」

 

 

未だにじっとして動かない魔女を注意深く観察しながら近くにいるシロべえに道具を受けとろうと手を伸ばす。やるんなら今しかないだろう。倒せなくても怯ませるくらいなら出来るかもしれない!

 

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

伸ばした手に何か乗せられて感触はない。返事すらなかった。

 

 

「シロべえ? ! この野郎・・!」

 

 

あまりに静かだから不審に思った俺は「セーラー蜘蛛戦士」からシロべえに視線を移したが奴の様子に思わず青筋を浮かべてしまった。

 

奴は俺のすぐ傍にいた。

しかし微動だにしないお座り状態で片足をちょこんと上げてもう片方の足はどこから出したのか小判を持っている。俗にいう招き猫のポーズだ。

 

 

・・招き猫のふりしてこの場をやり過ごそうとしているのだろうか?

 

 

「何やってんだお前はああああああああああああ!?一人だけずるいぞ!片足上げて何招こうとしてんだ!?今んとこ死亡フラグしか招いてねえぞ!!」

 

怒りの絶叫を叫ぶ。

 

魔女が襲ってこようが知ったことかああああああああああああああああ!!

コイツ実質俺を見捨てて自分だけ助かろうとしてるってことだろうがああああああああああああああああ!!

通常運転の無表情がこの時ばかりは普段の数百倍ムカつく!!

 

あらん限りの力を込めて首を揺さぶってみるも奴は動こうとしない。

あくまで招き猫を貫くつもりらしい。その無表情をぶん殴ってやりたい!

 

 

 

 

”!”

 

 

「?」

 

 

そんなくだらないやり取りが続いてる最中、何かを感じ取ったのか動く気配のなかったセーラー蜘蛛戦士がしきりにそわそわ動き始めた。何だ?何かあったのか?

 

 

 

「え?うわぁ!?」

 

 

 

澄み渡る青空なのに俺達の頭上には雨が降っている。

 

 

何を思ったのかこの蜘蛛子さん絶対領域で支配されたスカートの中から机やらイスやらが絶え間なく発射している。標的は俺達らしく広範囲に土砂降りレベルで落ちてくる。

 

 

 

ついに恐れていた魔女の攻撃が始まってしまった。

あれに当たったら一発OUTは間違いない。転落死の意味でも撲殺の意味でも!

 

 

 

 

「く!シロべえガード!!」

 

 

「優依のばかああああああああああああああ!!」

 

 

俺は咄嗟の判断で掴んでいた招き猫を頭上に掲げて降り注ぐ落下物から身を守る。

 

何やら盾にしてる招き猫が喋ったり動いたりしてる気がするがきっと気のせいだ。

物が動くはずがないから別に問題ないはず。

だってずる賢く自分だけ結界張ってるらしいありがたい招き猫だもの。

きっと災いから俺を守ってくれるさ!

 

 

 

 

 

「!? ひゃぁああ!」

 

 

しばらくそうしてやり過ごしていたからか中々落ちない俺達に痺れを切らしたらしいセーラー蜘蛛戦士は次に俺達がいるロープを揺すってくる。それもバランスを保つために残してあるスカートの手以外の全ての手を駆使して力いっぱいに揺らしまくるガチぶりだ。

 

どうやら向こうは本気で俺達を殺したいらしい。

 

 

しかし何故だ?「セーラー蜘蛛戦士」よ。

さっきまであんなに大人しかったのに一体何が貴女をそこまでする程に駆り立てているんですか?

 

 

「ぅおっと!」

 

「きゅぴぃ!」

 

 

尽きない疑問で気を緩めてしまったのか危うく落ちそうになったので反射的に掲げていた手をロープに戻す。しかしその弾みで招き猫よろしくやってたシロべえをロープに叩きつけてしまったので下から変な音が聞こえてきた気がする。

 

 

「うぅぅぅぅぅ」

 

 

揺れが左右だけに限らず上下も含めて滅茶苦茶に揺れているので落ちないように必死にしがみついているが動きが激しいので酔いそうだ。

 

 

「わひゃ!」

 

「うお!」

 

 

俺よりもシロべえが揺れで激しく身体も揺れているので今にも落ちそうだ。さっきなんてマジでヤバかった。慌ててそれを阻止するためにシロべえを俺の下に手繰り寄せて身体が揺れるのをせき止める。シロべえはこれで大丈夫だろう。

 

でもこのままじゃ落ちるのも時間の問題な気がする。一体どうすれば?

 

 

 

 

「っ!?」

 

「優依!」

 

 

 

 

ついにバランスを崩してしまい前のめりで落ちかけるも何とかロープに捕まる事に成功した。身体を宙ぶらりんにさせながらも必死にしがみついているから何とか生きながらえている。ただしロープに食いついた俺の手がいつまでもつのかの話だが。

 

 

「ふぐううう・・・!」

 

「頑張って優依!ここが正念場だよ!今こそ君の潜在能力を発揮する時だ!火事場の馬鹿力とやらを行使するんだ!」

 

「うるさい!出来たらもうやってるから!そんな事より早く引き上げてええええええええええええ!!」

 

「何言ってるの!?それが出来たら苦労しないよ馬鹿!!」

 

 

俺の裾を引っ張って引き上げようとしてくれてるけどシロべえ自身も力がないからあまり効果がない。てか制服伸びそう。その間にもセーラー蜘蛛戦士が容赦なくロープを揺らしてくるので落ちないように耐えるのだけで精一杯だ。

 

 

うぅぅぅぅ!落ちる落ちる落ちるぅぅぅぅ!

 

どうした俺の潜在能力!?今ここで発揮しないでいつ発揮するんだ!?

発揮できなきゃ俺死んじゃう!早く出てきてくれ!

 

 

・・・・・・・・・・・。

 

 

・・あれ?普段の俺ならすぐに落ちそうなのに意外と耐えてる?

これが火事場の馬鹿力ってやつなんだろうか?うん・・そうみたい。

 

何故だ!?それならせめて身体を引き上げるくらいの力があってもよくない!?

俺の潜在能力の発揮の方向性がおかしい!

 

 

「ぐ・・・・!」

 

 

とはいえずっとこの調子だから流石に腕が疲れてきた。というよりもう感覚がない。

さっきまで掴んでるロープが指に食い込んで痛かったはずなのに。腕もプルプル震えてきた。限界が近い。

 

 

 

「優依!ちゃんと掴んで!」

 

「うぅ、もうダメ・・」

 

 

シロべえの頑張りも虚しく俺の身体に限界が来てしまった。

 

握っていた手を徐々に緩め、今は指にロープを引っかけているだけの状態だ。

 

 

・・・落下まであと何秒?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、見てらんねえな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え・・?」

 

 

何が起こったのか分からなかった。俺の目がおかしくなってしまったのか?

 

 

激しい風の音が聞こえて何だろうと思い、音がした方に顔を向けて思わず目を見開く。

 

 

「セーラー蜘蛛戦士」が縦に真っ二つに割れている。

比喩でもなんでもなく文字通りそのまま。

 

 

「優依!呆けてる場合じゃないよ!しっかり手を握ってるんだよ!」

 

「う、うん!  うわっ!?」

 

 

シロべえの一喝により正気に戻った俺は慌ててロープを掴んでる手に集中する。

その直後に魔女の身体が凄まじい音を奏でる爆発に包み込まれる。激しい爆風が周囲に広がり魔女から遠くにいる宙ぶらりん状態の俺がいる所にも激しい勢いでやって来た。

 

 

「うぅ、あっ・・!」

 

「優依!」

 

 

爆風に耐えられなかった俺はロープから手を放してしまい、そのまま爆風に流されあっという間にシロべえがいる場所から遠ざかり見えなくなってしまった。

 

 

やがて爆風が止んだのでそのまま俺は重力に従い頭を下に向けて真っ逆様。

 

 

 

「ひゃああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

こんな生命の危機でもスカートを押さえる俺はかなり女子力が身についたかもしれないと頭の片隅でぼんやりと思う。死の直前までこんな事考えてるなんて俺はアホなのか!?

 

 

勇気を振り絞って下を見るも一向に地面が見えず青空が広がっている。

 

この青空の空間には地面があるのか知らないがこのまま落ちるのは勘弁だ!

何でか分かんないけど魔女が倒されたんなら早く結果解除してほしい!

 

あ、だめだ。今解除されたら俺そのまま頭かち割れる!どうしよう!?

 

 

「誰か助けてえええええええええええ!!うゅ!?」

 

 

 

絶望の死が近いため、なりふり構わず助けを求めるための叫びをあげるも途中で遮られてしまう。何かが俺の身体に巻きついて引っ張っているからだ。

 

 

うぅぅ・・目が回る・・。

 

 

その衝撃で三半規管をやられた俺は何の抵抗も出来ずに成すがままに流れに身を預けるしかなかった。耳にはどこからかジャラリと鎖のような音が聞こえてくるが正直気にする余裕は今の俺にはない。

目を開けていられないほどのスピードが出ているため俺に何が起こっているて今どういう状況か分からない。

 

 

__ポスンッ

 

 

「・・・?」

 

 

やがて柔らかい何かにぶつかりそのまま俺の身体は拘束された。

落ちてる時の空気抵抗と浮遊感がなくなってほっとするも恐怖から解放されて冷静になってくるとこの異様な状況にじわじわと恐怖を覚えてくる。

 

 

俺を拘束してるのは何だ?考えられるのはシロべえか?

いやでも途中で遠くに飛ばされて見失ったし何より触れてる感触がシロべえと全く違う。

 

じゃあ何だ?俺の腰に回してるのって腕っぽいから人か?

そういや前もこんな事あったような気がする。でも誰?

一番ありえそうなのはあの魔女だ。だって人型だったし。

 

実はあの時、死んでなかったりして・・?

 

 

「う、うわ!?」

 

 

恐怖に駆られた俺は拘束から逃れようともがくも相手の方が力が強いのか俺の貧弱な抵抗は通用せず逆にあっさり抑え込まれる。その圧倒的な力の差にますます恐怖が出てきたため今度は両足をバタバタさせて出来る限り暴れた。

 

 

こんな所で捕まって食べられるなんてやだ!

それならまだ落ちた方がマシだ!

今からマミるもあるのに死んだら悔いが残る!

 

 

いや、なによりまだ死にたくねえええええええええええええええええええ!!

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああ!離せ!離せぇ!!」

 

 

 

 

 

 

「おい暴れんな。また落下してえのか?」

 

 

 

「・・・え?」

 

 

 

聞き覚えのある声が耳元で聞こえてピタリと動きを止める。今なんて言った?

 

喋れるって事は魔女じゃない?てか、この声って・・いやまさか・・ね?

だってアイツは今風見野にいるはずじゃ?

 

俺を拘束してるのって・・?

 

 

恐怖よりも好奇心が勝ったため、そっと目を開けると視界に鮮やかな赤が広がっている。

試しに目をこすってもその赤色は色あせる事はなかった。

 

 

 

俺の知る限りでは赤を身に纏っている人物は一人しかいない。

 

 

 

まさか・・まさか・・!?

 

 

 

ギギィと動きの悪いロボットのようなぎこちない動きで顔を上に向け、そして呆然としてしまった。

 

 

「・・・・・・へ?」

 

 

見上げた先にいた人物に思わずマヌケな声が漏れる。

人間予想外の出来事が起こると声を失うらしい。嘘かと思っていたが本当のようだ。

 

 

 

 

 

「何だよ?驚きすぎて今度は声が出ないのか?」

 

 

 

 

「え?えぇ!?」

 

 

 

今の状況が徐々に分かってくると同時に今度は頭がこんがらがってきて先程の恐怖とはまた違ったパニックに陥る。何とか冷静になろうとしてみるも混乱は収まらず次第に目もグルグル回りだす。

 

 

そんな俺の様子をソイツはとっても微笑ましそうに見つめていて落ち着かせようと頭まで撫でてくる。そのせいでますます混乱を極めそうだ。

 

 

 

何で?え?どういう事なの!?

 

 

 

 

 

俺が驚くのは無理ないと思う。だって、

 

 

 

 

 

 

「驚いた顔も可愛いな優依」

 

 

 

 

「杏子ぉ!?」

 

 

 

 

 

 

ここにはいるはずのない”佐倉杏子”が微笑みながら俺を抱きしめていたから。

 

 

 

何でここにいるのおおおおおおおおおおおおおおおお!?




マミる編なのにマミちゃん出てこず何故か杏子ちゃんが出てきましたw
カオス展開まっしぐら!どうなる事やらw




ちらほら聞くマギレコの番外編ですが、現在いろはちゃんのお話作ってます!

早くてマミる編終了後、遅くてさやか契約騒動編終了後に投稿する予定になってます!
思ったよりいろはちゃんの話が長くなりそうで憂鬱です。流石主人公・・。


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54話 赤はミステリアスじゃない!・・はず

投稿する前に惰眠はやっぱりだめだと思い知りました


「え、えーと杏子さん何でここに・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「あの・・・」

 

 

ひたすら俺の顔をじっと見続ける杏子が気まずくて話しかけてみるも無視。

 

助けてもらっておいてこんな事言いたくないんだけど早く離れて欲しい。

いつまで俺を抱きしめてるんだ?もう結界は消えて元の河原に戻ってるぞ?

こんな光景、誰かに見られたらどうする気だ?

 

 

間違いなく俺は引きこもっちゃうよ?

 

 

 

「あのさ杏子、うわ!?」

 

 

いい加減離してもらおうと再度口を開きかけるもそれを知ってか知らずか杏子は元々近かった顔の距離を更に詰めてお互いの唇が触れられそうな距離までずいっと寄せる。杏子の息が顔にかかってくすぐったい。

 

 

「どうしたの・・?」

 

 

「やっぱり優依は可愛いなぁ!」

 

 

「うわ!ちょっと!?」

 

 

そのまま俺に覆いかぶさってきて内心パニックになる。

俺のそんな様子を気づいていないのか杏子は上機嫌で頭を撫でたり頬擦りしてきたりとやりたい放題。

 

その行為に比例して俺の中の杏子のキャラが一気に崩壊していく。

 

 

やめさせたいけど助けてもらったことの負い目もあるし、杏子との力の差が歴然なので成すがままになるしかない。この世は無情だ。

 

 

「怪我はなかったか?それかどこか痛い所は?」

 

「え?ないけど・・てか離れてくれ」

 

 

杏子は一通り俺で遊んでいたがふと思い出したようにそんなことを確認してくる。

怪我がないかを見るためなのか全身を見渡したりペタペタ触ってくるのだが正直それを言い訳にして俺にセクハラしているようにしか思えない。

 

 

別に触り方はやらしい物でなく本当に俺を気遣っている優しい手つきだからこそ余計に居たたまれない。

 

 

「どうやら怪我してないみたいだな。それなら良かった。たく、お前ここ最近ずっと危ない目に遭ってたろ?少しは自重しろよ?可愛いお前に傷がついたら大変だ」

 

「え!?」

 

 

心配そうな表情でどんでもない爆弾発言してきた。

 

マジでどうした!?

杏子がこんな事言うなんて頭でも打ったのか!?

やめて!なんか口説いてるようにしか見えないよ!?

 

普通の女の子なら赤面するであろう場面だが俺は杏子のあまりの変貌ぶりにドン引きして鳥肌が止まらないよ。

 

おかしいぞコイツ!

風見野で会ったときはいつも通りのツンデレ不良だったのに!

目の前にいる奴は砂糖成分過多のデレしか発揮されていないから胸焼けして吐きそうだ。

 

 

「それ・・」

 

「へ・・?うぉ!?」

 

「言った通りちゃんと付けてくれてるんだ。嬉しいぞ!」

 

「髪乱れるから頭触んなって!」

 

 

今度は杏子からもらった髪飾りに触れている。

嬉しそうに声を弾ませてまるで子供のようだ。

 

 

危ねえええええええ・・・!

 

今日も付けてきてよかった。

朝はめんどくさくてしないでおこうかと思ったけど俺の勘が「していけ!」と囁いていたからな。命拾いしたな俺。やはり自分の直感を信じることも必要だと再確認できた。今度も素直に従っておこう。

 

 

てか、俺何やってたんだっけ?

! そうだ今から「マミる」じゃん!こんな事してる場合じゃねえわ!!

 

 

「杏子!俺急いでるんだ!離してくれない!?」

 

 

予想外の杏子の登場ですっかり忘れていたがマミるをようやく思い出し、再び病院へ向かおうとするも今も杏子が俺を抱きしめていて動けない。離すように頼んでみるもとっても楽しそうな杏子の様子に不安が募る。

 

俺の言葉は彼女の耳に届いてるのだろうか・・?

 

 

ここで立ち往生している時間がもったいないので何とか抜け出そうとするも魔法少女の中でもパワーに定評がある杏子はビクともしない。もがけばもがくほど時間が過ぎていき徐々に焦りも出てくる。

 

急がないとマミちゃんが危ないって言うのに!

 

 

「慌てる姿も結構良いな。ホントにお前は可愛いよ優依」

 

「まだ言うか!?風見野で別れた後、一体君に何があったんだ!?」

 

 

全然人の話聞いてねえよコイツ!!

 

目の前にいる杏子は可愛いものを愛でたくてたまらないといった表情を俺に見せて更にギュゥと抱きしめてくる。肺を圧迫され呼吸しづらくてめっちゃ苦しい。

 

マミちゃんの頭がマミる前に変なテンションの杏子によって俺の命がマミられそうだ。

 

 

 

 

 

「優依!大丈夫かい!?」

 

 

 

 

「シロべえ・・?」

 

 

 

 

少し意識が遠のきかけた所で救世主の声が俺の耳にしっかり届いた。

 

助かった・・・!

シロべえが来たから杏子も多少は冷静になって俺を解放してくれるはず!

 

そうだ!シロべえと一緒にマミちゃんを助けてほしいと説得すればマミる回避率が更に上昇する!

しかもそのまま杏子と協力関係になればマミちゃんとの仲も解消できるかもしれないし、さやかとの衝突もなくなるかもしれない。

 

そしたら杏子が死ぬ未来もなくなるはずだ!

 

 

おぉ!まさかの棚ぼたってやつ!?

これは思わぬチャンスだ!早速杏子を説得しよう!

 

 

 

「杏子あの、」

 

「・・・・」

 

 

話しかけてみたが無視されてしまった。何だろうと様子を見ると杏子がこっちに駆けてくるシロべえを見ている。

 

・・いやあれは睨んでる?それも多少の怒ってるとかそんな優しいものじゃない。

明確な殺意が宿った憎悪の目だ!

 

 

「? 杏子? ッ!?」

 

 

俺が何か話しかける前に杏子は俺を離し、シロべえがいる方角に向き直る。

 

 

 

そして自身の武器である赤い槍を取り出し、

 

 

 

「ひっ!」

 

 

 

 

それをシロべえに向かって投げた。

 

 

 

 

「チッ、外したか」

 

 

シロべえが慌てて急ブレーキをかけて立ち止ったから槍は当たらずギリギリ目の前の地面に刺さる。

もしあとわずかに止まるのが遅れていたら串刺しになっていただろう。

 

 

あまりの展開に茫然と立ち尽くす。

 

杏子はどうしてあんな事したんだ・・・?

 

 

 

「テメエ・・随分とナメた事してくれんじゃねえか?あぁ?」

 

「な、何の事だい・・・?」

 

 

ドスの効いた声でシロべえに話しかけている。

 

何やら杏子はシロべえに対して怒っているらしいのは分かる。

対してシロべえはそんな杏子に怯えているが火に油を注ぐつもりなのかシラを切っている。

 

物凄く震えてるけどそんなに怖いなら誤魔化さなきゃいいのに。

 

 

 

「とぼけるんじゃねえ!アタシをおびき寄せるために優依を餌にしやがって!精神疾患つっても所詮本性はインキュベーターなんだな!やり方が気に入らねえ!!」

 

 

シロべえがあくまでとぼけた事が気に入らなかったのか激怒した杏子が声を荒げている。

その凄まじい気迫に俺は思わずたじろいでしまった。

 

 

・・・ん?杏子さっき何て言った?

 

 

「し、仕方なかったんだよ!現に結界から出る方法は限られてたんだから」

 

 

俺だけでなくシロべえも激怒する杏子を怖がっているのか小刻みに震えながらも必死に弁解している。

 

そりゃ必死になるわな。

だって杏子の奴、また槍を取り出していつでもシロべえを攻撃出来るように構えてるし。正直に答えないと後が怖いもん。

 

 

「まだ惚ける気かい?ホントはあったろ脱出する方法。何で使わなかった?」

 

「え・・?」

 

 

今なんて言った?脱出方法あったの?

でもシロべえはさっきないって・・・。

 

 

「あるにはあったさ!でもそれは最終手段だったからね。タイミングを図っていたのさ。そしてもう一つは君の存在を確認しようと思ったんだ」

 

「そんなくだらねえ理由のために優依を囮にしたのか?」

 

「くだらなくなんかないよ!たださえイレギュラーな事態が起きてるんだから今後のためにもなるべく不安要素は排除しておきたかったのさ!」

 

 

・・・・・・・・・。

 

二人の会話を聞いてなんとなく状況が掴めてきた。

 

 

つまり俺は杏子をおびき寄せるためにシロべえに囮にされたって事?

あの死にそうになった事はそもそも経験しなくても良かったって事?

 

 

「てめえええええええええええええええええ!!ふざけてんじゃねえぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「きゅぷ!!」

 

 

気づけば俺は怒りのままにシロべえを首根っこを掴んで力の限り締めていた。

 

俺は悪くない!

こんな暴力的なことをしても許されるくらいシロべえはえげつない事やらかしたんだから誰も文句は言えないはずだ!

 

 

≪優依やめて!必要な事だったんだよ!≫

 

≪やかましい!人を死にそうな目に遭わせといて必要な事だっただと?どの口が言うんだ?そもそもお前口動いてねえだろ!!≫

 

≪それは言わないお約束だよ!て、そうじゃない!君の尊い囮のおかげで僕の予想通り杏子がいる事が分かったんだ。お手柄じゃないか!それに彼女の様子を見るに君もまどかと一緒でセコムがいる事も分かった事だし良いことずくめさ!上手くいけば君は無傷でこの一か月を乗り込えられるよ!≫

 

≪さっきから何言ってんだお前は!?セコムって杏子の事か!?杏子が来てくれたから良かったものの一歩間違えれば俺死んでたんだけど!?その辺どう言い訳するつもりだ!?あぁん?≫

 

≪完全にキャラ変わってるよ優依!その場合は僕が用意してた緊急脱出装置を起動させるつもりだった!本当だよ信じて!僕は君を見殺しになんて絶対しないから!どうしても今まで謎だった君を助ける存在を確かめたかったんだよ!それと杏子が現れたことで興味深いことも発見したんだから!!お願いだから首絞めるのやめて!≫

 

 

テレパシーによるシロべえの言い訳がとっても見苦しい。

どこまで本当の事か疑わしいったらありゃしないな。

コイツのお仕置きどうしてくれようか?

 

 

「あー・・・その様子じゃアタシは何もしない方が良いみたいだな。優依、その辺でやめとけ。シロべえだっけ?ソイツにはまだまだ働いてもらわなきゃいけねえんだから」

 

 

俺のあまりの激昂ぶりを見てさすがにまずいと思ったのか杏子が止めるように忠告している。

そんな事言ってるけどお前さっきシロべえ殺そうとしてなかったっけ?

 

まあ、確かにシロべえにはこれからも働いてもらわないといけないけど何をしてもいいかとは話が違ってくる訳で・・。

 

 

・・・・・・・え?

 

 

「杏子・・シロべえの名前知ってたっけ?」

 

 

ふと感じた違和感に気づいて杏子に聞いた。

 

シロべえと杏子はお互い面識がないはずだ。少なくとも杏子の方にはない。

それなのにどうして杏子は名前を知ってるんだ?

 

それにさっきスルーしちゃったけどシロべえの事「インキュベーター」って言わなかった?

杏子はキュゥべえの正体を知らないはず。少なくとも今までは知らなかったはずだ。

 

 

俺の中からどんどん出てくる疑問と同時に自然と身体が警戒してしまい身を固くしている。俺のそんな様子にやれやれといった表情を見せる杏子は地面に何かあるのに気付いたのか視線を下に向けている。

 

 

「ほらよ」

 

「わ!え?これって・・?」

 

 

地面に落ちていたものを拾いそのまま俺に向かって投げた。

 

杏子が投げてよこしたものを慌てて受け取る。

 

咄嗟の事だったからシロべえを離してしまい下から「きゅぴぃ!」という悲鳴が聞こえた気がするが空耳だろう。

手を開いてみるとそれはグリーフシードだった。どうやらさっきのセーラー蜘蛛戦士のものみたいだ。

 

 

「それやるよ。今からマミを助けにいくんだろ?アイツの事だからどうせ必要になると思うしさ」

 

「・・・・・・え!?」

 

 

杏子の言うことに耳を疑う。

 

だってグリーフシード欲しさに使い魔見逃すあの杏子が俺にそのグリーフシードをくれるって言ってんだよ!?

どうなってんだ一体!?

 

 

 

「あの・・」

 

「ん?どうした優依?」

 

 

 

「・・・貴女は誰ですか!?」

 

 

ついに耐えきれなかった俺は大声で愚かなことを叫んでしまった。

 

だっておかしいもん!

目の前にいる杏子は普段なら絶対しないであろう事をしまくってるから!

別人としか思えない!既に俺は思考はキャパオーバーを起こしてしまっている!

 

佐倉杏子ってこんなキャラだっけ?

 

 

「はあ?何言ってんだお前?佐倉杏子だよ」

 

「嘘だ!あの杏子がこんなに優しい訳ない!だって俺の知ってる杏子は乱暴でガサツで怒らせたら超おっかないんだもん!」

 

「お前・・アタシを何だと思ってるんだ?」

 

「ツンデレな食の守護神」

 

「・・・・・・・」

 

 

怒らないように耐えているのか眉間に皺を寄せて難しい顔で目を瞑っている。

もうこの時点で俺の知ってる杏子とは程遠い気がする。

 

だって杏子ってかなり短気だからあんな事言ったら間違いなくすぐ怒るはずなのに。

 

いや待て。案外、油断させてからの爆発とかありそうだな。

それだったらヤバい!

すぐ謝ったほうが良いかもしれない!

 

 

 

 

「僕も是非知りたいね。君の正体」

 

 

謝ろとした直後、火に油を注ぐつもりなのかシロべえはダメ押しでそんな事言い出したので全身の毛穴から汗が大量に吹き出す。

 

 

やめてシロべえ!これ以上杏子を怒らせないで!

じゃないと俺らの命ないぞ!

 

 

「・・何度も言ってるだろ?佐倉杏子だって」

 

「本当にそう言い切れるのかい?」

 

 

尚も煽り続けるシロべえに本気で泣きそうになる。口を押えてみるも虚しい結果に終わりそうだ。

だって口で発声していないから全く効果がない。あれ?前もこんな事なかったか?

 

 

「・・何が言いたい?」

 

 

シロべえのその態度が気に入らないのか杏子は眉間に皺を寄せて睨んでいる。

 

 

 

「君は僕らの知ってる佐倉杏子じゃない」

 

「八ッ!何を根拠に?」

 

 

「僕は優依を人知れず守っているのが君だと最初から疑っていてね。でもそれなら説明できない事もあるんだ。そこで試しに風見野にいる佐倉杏子に優依を通して発信機を付けることにしたんだ。こちらの事情も含めて彼女の居場所が分かればどうとでもなるからね」

 

「・・・・・・」

 

 

 

「え?何してんのシロべえ?」

 

 

まさかの暴露に頬が引き攣りそうになる。

 

そうか、だからあの時、風見野に行くの反対しなかったって訳か。

杏子に発信機をつけるために。いつの間にそんなことを。

てか俺何気に犯罪の片棒担がされてない?

 

 

やっぱりインキュベーターって怖い!

 

 

そして杏子も怖い!

さっきからシロべえを殺しそうな目で睨んでるもの!

 

 

「でもそれならおかしいんだ」

 

 

まだあるんかい!

 

 

 

涙目になりながら成り行きを見守る。

 

正直逃げ出したいけどこの緊迫した雰囲気がそれを許してくれそうにないから。

早く終わってほしい!切実にそう思う!

 

 

 

 

「僕が発信機を付けた杏子は

 

 

 

 

今も”風見野”に反応があるんだよ」

 

 

 

「え・・・?」

 

 

シロべえ何て言った?杏子は今も風見野にいる?

え?それなら目の前にいる杏子って一体・・?

 

 

「ッ!」

 

 

思わず杏子(?)から距離を取る。

急に目の前にいる彼女が得体の知れない存在に見えてしまい恐怖を感じる。

 

 

確かに言われてみれば彼女はおおよそいつもの杏子に似つかわしくない言動や行動が目立った。

でも見た目は何回も見ても杏子にしか見えない。

 

 

幽霊?ドッペルゲンガー?

 

 

「僕が作った発信機はそうそう取れるものじゃない。それに杏子の魔力にしか反応しないように仕組んである。という事は佐倉杏子は今も風見野にいる。なら今僕らの目の前にいる”佐倉杏子”と名乗る君は一体何者なんだい?」

 

「・・・・・・・」

 

「僕は今まで優依を守っていたのは風見野にいる佐倉杏子ではなく目の前にいる自称”佐倉杏子”の君だって考えてる。そうだよね?」

 

「・・あぁ、そうだよ。もうそこまで断言されたら隠してもしょうがないしね。ほむらの銃を壊したのも、魔女の攻撃から守ったのも、あの馬鹿二人の喧嘩を止めたのも全部アタシだよ」

 

「え?マジで?」

 

 

まさかの真相に思わず恐怖を忘れて杏子(?)をまじまじと見る。

 

俺を守ってくれた謎の存在って杏子(?)だったのか!?

マジで!?ひょっとして前から俺のセコムやってくれてたとか!?

 

それなら大歓迎です!

たとえ貴女が杏子の偽物だとしても関係ありません!

喜んで迎え入れますんで!

 

 

 

「・・何が目的だい?」

 

 

俺の心情とは裏腹にシロべえは警戒心むき出しで杏子(?)と向き合っている。

警戒するのは当然か。訳の分からない存在だし俺を守る理由も判明していないからな。

 

一体何の目的でこんな事してるんだ?

 

 

少しでも情報を得るため奴の表情をじっと観察する。

 

 

「別に?ただアタシの可愛い優依が危ない目に遭わないように守ってるだけさ」

 

 

かなり警戒されてるというのにこの杏子(?)は何の躊躇いもなくそうきっぱり言い切った。

表情も「それ以外何がある?」と不思議そうな様子だ。ある意味凄い。

 

 

「本当かい・・?」

 

「ふん、そんな詮索してる暇あるのかよ?早くしないとマミの奴、頭から丸かじりにされるぞ?」

 

「え?何でその事・・?」

 

「さあな?説明する義務はあるのかい?」

 

「あるさ。出来れば君も一緒に来て協力してほしいからね」

 

「! そうだよ杏子・・さん?一緒に来てよ!君がいれば百人力間違いなしだ!」

 

 

シロべえに便乗して俺も杏子(?)の勧誘に乗り出した。

 

頼む!いいと言ってくれ!大事な師匠の命がかかってるんだぞ!?

 

 

「・・・・・」

 

しかし杏子(?)の肝心の反応はいまいちで俺たちを冷めた目で見ている。

 

 

 

「やだ」

 

「え!?何で!?」

 

 

ぷいっと顔を逸らされて却下されてしまった。

 

何でダメなんだ?まさか本当に見捨てるつもりかよ!?

 

 

「悪いな。アタシは行けないんだ。個人的にマミの勝手な振る舞いにもムカついてるしさ」

 

「そんな個人的な理由で助けないの?」

 

「まあ、それもあるが一番の理由は違う。ていうか正直言うとあんな危険な場所に優依が行くのを阻止したいんだけどな?」

 

「!」

 

 

それだけ告げてチラッと俺の方を見る杏子(?)に反射的に身を固くしてしまう。結構ガチトーンで言ってたから本気にしか思えない。

 

 

 

「はあ、そんなに警戒しなくてもしないからそう怖がるな。アタシはマミを助けるのに協力できない。・・もういいだろ?アタシは行くからな」

 

「大丈夫だよ。協力は得られなかったけどある程度情報は得られたからね」

 

「・・そうかい。ただ二度目はねえぞ?今度優依を囮になんてしたら首と胴体繋がってないと思え。分かったな?」

 

「分かってる。肝に銘じておくよ」

 

 

シロべえに向かって脅しに近い低い声でそれだけ告げて杏子(?)は背中を向けて歩き出そうとしていた。

 

このままだとすぐいなくなるだろう。

 

 

 

「あ!待って!」

 

 

「優依!彼女に近づいたら危険かもしれないよ!」

 

 

シロべえが厳しい声で警告するも俺はそんな事には構っていられない。

 

俺のセコムしてたっていうのが本当ならこれからも続けてもらわなくちゃ困る!絶対に困る!

この先どんな危険があるか分からないのに今回の事でへそを曲げられて守ってもらえなくなったら洒落にならん!

 

さっきから何だか杏子(?)の機嫌が悪かったからここで直していってもうらわないとまずい!

 

 

「杏子!」

 

「ひゃ!?・・・優依?」

 

 

そのまま去ろうとする杏子(?)を逃がさないため彼女の背中に思いっきり抱き付く。

なんか女の子らしい声が出てきた気がするんだけど今は気にしていられない。

 

 

「杏子!今回もそうだけど今までの事もお礼が言えてなかったね?ありがとう!杏子のおかげで今もこうして生きてるよ!魔女はとっても怖いけど杏子がずっと守ってくれたって知れて本当に心強いよ!おかげでこれからも頑張れる気がする!」

 

 

暗に”これからも守ってくれ”と伝えつつ背中に抱き付いたまま満面の笑顔でお礼を言っておいた。

 

人間感謝されればそれだけで機嫌が直るというものだ。

これからも彼女には頑張ってもらわねばならないからな!俺の生存のために!

そのためならこれくらい安い安い!

 

 

「・・優依は本当に可愛いな」

 

 

眩しそうに目を細めて俺を見る杏子(?)はこちらに向き直り俺の右手を取って持ち上げる。

 

 

「え?・・え!?えええええええええええええええええ!?」

 

 

俺は思わず声をあげてしまった。

 

 

だって・・だって・・!

 

 

杏子(?)が俺の手の甲にキスしてるんですけどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?

 

 

え?なにこれどういう事!?

お前いつから騎士みたいな事するようになったんだ!?

 

 

「いつもとは言えねえけど危なくなったらこれからも助けてやるからな」

 

「な・・ななな・・・な」

 

 

俺の手の甲から唇を離した杏子(?)は慈愛に満ちた表情で俺を見つめてそうはっきりと告げる。

 

 

混乱してて声が出ないけど言ってる事は理解できた。

どうやら杏子(?)はこれからも俺を守ってくれるつもりらしい。

 

それはとっても嬉しいが出来ればさっきの行為の意味を説明してください!

 

 

「ほら時間もないから早く行け。マミを救うんだろ?」

 

「きゅぷ!?」

 

「わ!ちょっと背中押さないでって・・あれ?杏子?」

 

 

いつの間にか近づいてたシロべえは蹴っ飛ばされ、そして俺は背中を押されて倒れそうになるも辛うじて踏みとどまる。

 

 

文句を言おうと振り返るもそこには杏子(?)の姿はなかった。

 

 

あたりを見渡してみるも人影らしき姿もない。まるで幻が消えたみたいに痕跡はなくなっていた。

これが幻じゃないという証拠は俺の手の中にあるグリーフシードだけだ。

 

 

「消えた・・・?何だったんだ一体?」

 

「さあね。分かるのは彼女は優依の知ってる佐倉杏子じゃないという事と随分と君にご執心らしいという事かな?」

 

「それとこっちの情報もある程度知ってるみたいだったな」

 

「それもあるね。とにかく今後も接触するかもしれない。用心に越した事はないね。彼女は何だか不気味だ」

 

「そうか?違和感を感じたけど杏子に思えるぞ?」

 

 

さっきの杏子(?)の正体をシロべえと考えてみるも情報が少なすぎてさっぱり分からない。

 

シロべえはあの杏子(?)の事をかなり警戒しているみたいだ。まあ怖い目に遭ったから当然か。

だけど俺はあまり警戒していない。俺の事を守ってくれてたみたいだし敵じゃなさそうだ。

 

これからも頼りにしています!杏子(?)セコムさん!

「ワルプルギスの夜」を倒すまで警護お願いしますね!

それから先はプライバシーの問題で遠慮しますけど!

 

 

「! こうしちゃいられない!早く病院に行かなくちゃ!」

 

「そうだね急がなくちゃ!」

 

 

色々と謎が深まったがそれは後回しだ。今はマミちゃんの事に集中しなくちゃ!

 

 

俺達はその場を後にし急いで病院に向かって駆け出した。

 

そして俺は今夜のシロべえのご飯はなしと心に決めた。




今まで優依ちゃんを守っていたのが杏子ちゃんだと判明しましたが更に謎も深まりました!

この杏子ちゃんは一体何者なんでしょうかねー?


いつか分かると思いますよ?


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55話 出動!マミちゃんを救い隊!!

このssを投稿していたバイ夫がストライキを起こしやがったので次の慣れてないバイ男でカタカタしておりました!

遅くなってすみませんでした!


ほむらside

 

 

「くっ、出遅れた!」

 

 

ようやく病院に辿りついた私は急いで魔女の反応がする場所へと向かう。

 

まさかこんな事になるなんて誰が想像出来たって言うの?

 

優依達と考えた作戦でまどか達を病院から遠ざけ私が魔女を倒す手筈だったのにその道中でまさか別の魔女に出くわすなんて予想外だわ。

 

しかも今までこの見滝原で見た事ない魔女だった。

 

「ワルプルギスの夜」には遠く及ばないけどそれでも今まで戦ってきたどの魔女よりも強くて倒すのにかなり苦労してしまった。今思い出しても勝てた事が奇跡に近いと思う。本当に危なかった。

 

強い上にどの時間軸でも見たことがない。

ひょっとしたらたまたま出くわさなかっただけかもしれないが、「ワルプルギスの夜」を倒すためにグリーフシード集めをしていたから見逃していたとは到底思えない。

 

 

それに不可思議なことにあの魔女は喋っていた。

 

 

ちゃんと聞き取れた訳じゃないけど確か、

 

 

”ダイスキ”

 

”ハナサナイ”

 

”モウニガサナイ”

 

 

そう言っていた気がする。

 

 

魔女が喋るなんて・・まさか自我が残っているの?

 

誰に向けて語りかけているのか分からないけどかなりその相手に執着しているみたい。

 

絶命する間際に、

 

 

”ワタシカラコノコヲトリアゲナイデ!”

 

 

と叫んでいた。

 

最初は意味が理解出来なかったけど出てきたグリーフシードを見て何となく悟った。

 

 

 

グリーフシードが二つある。

 

 

 

グリーフシードは元々魔法少女のソウルジェムから生まれたもの。

 

それが一体の魔女から二つ出てきたという事は魔女同士合体した?

でも魔女になったら元の人格を失われるはずなのにどうして?

 

・・一体どうなってるの?

 

そこである悪い考えが思い浮かんでしまった。

 

 

まさか・・魔法少女同士が合体した魔女だというの?

 

それなら多少説明はつくはずだけどどうも腑におちない所が多い。

 

 

分からない。この時間軸は他とは違う。

 

 

明らかに異常だ。

 

 

 

とても気になるがあの魔女の事を考えている暇はない。今は巴マミの事だ。

今回の魔女の事はそれが終わった後に考えればいい。また戦う可能性もあるし何よりこれは一人で背負える問題じゃなさそう。

 

 

余計な考えを振り払うように頭を振って思考を切り替える。

 

 

目の前にはお菓子の魔女の結界の入り口がある。

ここから気配を探ってみると既にまどか達は結界内に入っていることが分かった。

 

巴マミの魔力を感じるからどうやらシロべえ(そう呼んであげてと優依に言われた)の方は彼女を抑えるのに失敗したらしい。使えないわね。

 

このまま彼女たちを放っておけば巴マミは死に、戦える者がいなくなってしまうからインキュベーターに唆されたまどかが魔法少女になるかもしれない。すぐに追いつける距離だしこのまま突入しようかと思ったけど思いとどまる。

 

 

優依は一体何をしているの?

 

 

出来ることならあの娘と合流してからにしたいけど今尚、音沙汰がない状態が続いている。

 

 

今回の事についておそらくシロべえかまどかから聞いているとは思うけど今はどこにいるのかしら?

 

私は魔女に遭遇したから優依の方も何かあったとみた方がいい。

少し心配だけどあの娘ならきっと大丈夫でしょう。

あのうっとしいシロべえのおかしな道具を護身用に持っている事だし何より彼と合流してる可能性が高い。

 

今は無事だと信じるしかない。

 

 

 

 

私がまどかと優依の二人から連絡が入っている事に気づいたのは魔女を倒したあとだ。

 

 

まどかからのメッセージで今何が起きているのか理解できた。

どうやら美樹さやかがインキュベーターに唆されたらしい。まさかあいつ等が露骨に干渉してくるなんて。

 

まどかが協力的でありがたい。

 

留守電を確認した後もう一度こちらから連絡を取ってみても留守電に切り替わってしまった。

あの娘の事だ。おそらく美樹さやかを心配して病院に向かったのだろう。

 

本当に優しい娘。だからこそ私は救おうと決めたんだった。

それと同時にインキュベーターの罠に引っかかる迂闊さに腹が立つ。

 

少し考えれば罠だとわかるはずなのに!

 

まどかの優しさを利用するなんて相変わらず汚いやり口ね!

 

 

病院に向かう間、先を急ぎながらも優依にも連絡を入れておく。

移動しながら電話をするのは私にはまだ難しいからメールを打っておいた。

書きかけ途中で送信するけど優依なら「まどか」の名前で察することができるはず!

 

 

意味は”まどかを足止めして”

 

 

きっと優依なら分かる!

 

そう信じてメールを送信した。あの娘はそれを見て察してくれたらいいんだけど。

 

 

 

「遅い・・。もうこれ以上は」

 

 

私が結界の入り口にたどり着いてもう数分が経つ。一刻を争う時間。今から急げばまだ間に合う!

 

 

・・優依を待ってる時間はもうない。ここは私一人で何とかするしかなさそうね・・

 

 

一度だけ優依がやってくるだろう方向を一瞥して結界に中に足を踏み入れる。

 

ここからは私一人でやるしかない。

 

 

 

覚悟を決めて結界に突入し、すぐさま気配を探る。

 

魔女を刺激しないように変身しないままほとんど走っている状態で後を追う。

 

 

何としてまどかを助けなくちゃ!

 

 

 

”ほむらちゃんおはよう”

 

 

今日、私にそう笑顔で話しかけてくれたまどかの笑顔が脳裏に過る。

 

ほとんどの時間軸でまどかを避けて突き放してきたからいつも怯えられていた。あんな風に笑いかけてくれるのは本来の時間軸か時間遡行をし始めた時の最初頃の時間軸くらいのもの。

 

私は魔法少女。

だから私と関わっていたら、まどかはいずれ魔法少女になってしまう。

 

だからずっと避けていた。今回もそうするつもりで冷たくしていた。

 

それなのに、

 

 

「こんばんは、ほむらちゃん。いきなり電話してごめんね」

 

「!?」

 

 

いきなり電話が来たときは驚いた。

 

どこか見覚えのある電話番号だったから不審に思いながらも試しに電話に出てみたらまさかのまどかからで変な声が出てたと思う。

 

優依と二人帰っていた放課後、まどかがやってきていきなり謝りだした日の夜の事だった。

フードコートで冷たく突き放し、二人を残して先に帰ってしまった。

もうこれでまどかは私に話しかける事はないと思っていたのに、どうなっているの?

 

それよりどうして私の携帯番号を知っているの?教えていないのに?

 

 

いえ・・まどかに私の携帯番号を教えた人物に心当たりがある。

 

絶対優依が絡んでいる!

 

 

勝手な事をした優依に怒りを覚えつつも、もう一度冷たくしたのにこの時のまどかには全く通用しなかった。どんなに辛辣な事を述べても「そうなんだ」でスルーされ、挙句の果てには私をツンデレ扱いする始末。

 

高確率で優依が何かを吹き込んでる。

 

 

怒りと呆れを感じながらも楽しそうなまどかの声と会話しながら少しだけ泣いてしまった。

 

 

優依には感謝しかない。

それを上手く表現できる程、私は素直じゃないから照れ隠しに銃を突き付けてしまったけどちゃんとお礼は言えたと思う。

 

 

 

だから巴マミを助けてほしいという優依の願いは極力叶えるつもりだが私の力じゃ難しい。

それに彼女とはかなり険悪な関係になってしまっている。

 

優依に危害を加えた巴マミを私は許せないし彼女に嫌われたままでも構わない。最悪死んでも仕方ないとさえ思ってる。

巴マミが屋上で優依にしようとしていたことを思い出すだけで今でも頭に血がのぼりそうになる。

 

ここで死んでくれたら邪魔は減るからこちらとしたら好都合なところもあるし・・・

 

 

! だめよ!こんな考えしてたら優依に嫌われてしまう!

 

巴マミと戦った後に優依にかなり怒られてしまったのを忘れてはいけない!

 

立ち止まり思案に更けていた頭を慌てて振って馬鹿げた考えを追い出そうとする。

 

 

優依を疑ってたわけじゃないけど、学校の屋上で巴マミに向かって「愛してる」と叫ぶ声が屋上に向かう階段越しに聞こえていたから嫉妬していた。それもあったから彼女を先制攻撃して戦闘にもつれ込ませて挑発したり、戦いが終わった後に少し意地悪な事を言ってしまった。

 

大人げなかったと思う。でも抑えきれなかった。

 

 

優依が私を置いて巴マミの所へ行ってしまうんじゃないかって。

 

 

あの娘が彼女と会うと言った時からずっと不安でしょうがなかった。でもそれは私の思い過ごしだったみたい。

 

だって優依は私の前に立って私を殺そうとしていた巴マミに向かって命がけで守ってくれたんだもの!涙が出るくらい嬉しかった。

 

それに私の事を「大事だ」ってはっきりそう言ってくれた!

 

 

今でもその事をはっきりと思い出せる。

 

 

私が愚かだったの!優依の愛を疑うなんて!

だってそうでしょう?魔女狩りの時だってあの娘は私を守ってくれた!

二度も命を懸けて私を守ってくれたのよ?

 

愛されてるのは疑いようがないわ!

 

だから優依の願いに応えなくてはいけない!今度は絶対に失敗は許されない!

 

 

巴マミを死なせない!何としても!

何としても優依の愛に応えなくては・・!

 

 

今度こそ迷いを振り切って再び結界内を駆け出した。

 

駆け出してから少し経って目線を遠くの方に集中させると人影が見える。

 

 

 

いた!巴マミとまどか!

 

 

私は咄嗟に物陰に隠れて二人の様子を伺う。

 

何か話しているらしく会話に夢中でこちらには気づいていないみたい。それなら都合が良い。

 

巴マミを説得するのはおそらく不可能。

私の言葉には聞く耳を持ち合わせていないでしょうし。

 

 

まどかをここから連れ出せば、まどかを追って巴マミも連れ出せるかもしれない。

 

 

一か八かの賭けだがやるしかない!

 

二人ともこちらに気づいていない今の内に・・!

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

身体を起こそうとした直後、気づけば私は身動きが取れず宙に浮いていた。

 

 

「やっぱりいたのね」

 

 

そんな私を巴マミが侮蔑を含んだ表情で見上げている。特に驚いた様子もなく落ち着いている。

 

まさか気づいていた・・?

 

 

「ほむらちゃん!?え!?どうして!?」

 

 

状況を理解出来ていないらしいまどかは混乱しながらも私と巴マミを交互に見比べて理解しようと努めているみたい。

 

 

「く・・・」

 

 

下の視線を向けると赤いリボンが私の身体をぐるぐる巻きにして拘束している。

 

 

何とか振りほどこうとするも相変わらず巴マミのリボンは縛ることに関して優秀らしい。ビクともせずむしろもがけばもがくほど縛りつけて身動きが取れなくなっていく。

 

 

「御覧なさい鹿目さん。暁美さんったら背後から貴女を襲おうとしていたみたいよ」

 

「・・!」

 

「またその忌々しいカチューシャをつけてるのね?嫌味かしら?」

 

 

リボンを解くのに集中していたから何を言ってるのか分からないが巴マミが向ける視線が全てを物語っている。まどかを巻き込んで私を挑発しているのは明白だ。一瞬、巴マミを見捨ててしまおうかと思ったが、優依の頼みを思い出し、ぐっと怒りを飲み込む。

 

 

「今回の魔女は貴女とは相性が悪い!だからここは譲ってちょうだい!最深部にいる美樹さやかの安全は保障するわ!」

 

「信用するわけないでしょう?貴女みたいな泥棒猫の言葉に耳は貸さないわ」

 

 

何とか交渉出来ないかと試しに提案してみるも巴マミはただ冷たい瞳で私を睨み、にべもなく拒否した。まるで私の言葉なんて聞きたくないみたい。

 

 

「こんなことやってる場合じゃないでしょう!?」

 

「優依ちゃんはどうしたの?また貴女の家にいるかしら?」

 

 

諦めず尚も説得しようと試みるも私の話を聞いていないのかさっさと話題を変えてくる。さっきから目線はずっと動いたままだからおそらく優依を探しているのかもしれない。

 

 

「ほむらちゃんはマミさんと喧嘩でもしたの?」

 

「・・まどか」

 

 

まどかが心配そうな顔で私に近づこうとしている。ひょっとしてまどかを説得すれば・・?

 

 

「近づいてはだめよ鹿目さん。彼女はとっても危険なのよ」

 

「え?でも・・」

 

 

当てつけなのかまどかの肩を掴んで私と距離を取らせようとしている。その目論見は成功したようでどんどん私と距離が離されていく。

 

 

「マミさん、その・・ほむらちゃんに乱暴しないであげて・・」

 

「・・えぇ、分かってるわ」

 

 

何を言っていたのか聞き逃したが二人が会話を終えた後、巴マミが冷え切った目を私に向けてくる。

 

 

「本当なら今ここで貴女をどうにかしておきたいのだけど今回は鹿目さんに免じて拘束だけにしといてあげるわ」

 

 

それだけ告げてさっさと私に背を向け歩き出す。

 

 

「行きましょう鹿目さん」

 

「でも・・・」

 

 

まどかが私を方を伺っている。暗に”このまま置いていくのか?”と訴えているのだろう。

 

 

「大丈夫よ。さっきも言った通り、戦いが終わったら暁美さんを拘束しているリボンは解除するわ」

 

「本当ですか?」

 

 

このまま行かせるのはまずい!なりふりなんて構っていらない!

 

 

「待ってまどか!お願い巴マミを止めて!このままじゃ彼女は死んでしまう!」

 

「え?えっと・・」

 

 

私の言葉が届いたのか巴マミに続こうとしていたまどかがピタリと立ち止まってこちらに振り向く。その表情は戸惑っているみたいだけど聞く耳はありそう。

 

これなら何とかなるかもしれない!

 

 

 

「ん!?」

 

 

そう思った直後、リボンが覆いかぶさってきて口を塞がれてしまった。これでは話す事が出来ない!

 

 

 

「何してるの鹿目さん?」

 

 

私の口を塞いだであろう巴マミが何事もなくまどかに話しかけている。ゾッとするくらい表情が抜け落ちていて巴マミの偽物かと思うくらい違和感と恐怖を感じる。

 

 

「あの・・ほむらちゃんが」

 

「彼女の言葉に耳を傾けてはだめ。それに急がないと美樹さんが危ないわよ?」

 

「! は、はい!」

 

 

自分の親友の名前を出されたからかさっきまで迷っていた素振りだったのに力強く返事をしている。

 

 

まどか待って!

 

 

「ほむらちゃんごめんね。さやかちゃんが心配だから急がなきゃ。後でマミさんにリボンを解いてもらえるようにわたしから頼んでみるね」

 

 

 

まどかはそれだけ告げて先を行く巴マミの跡を追って駆け出してしまった。

 

 

 

 

まどか!

 

 

 

呼び止めたかったが口を塞がれていて声を出すことが出来ない。

どれだけ力を込めて拘束を抜け出すことが出来ない。

 

 

結局私は何も出来ないまま二人の背中を見ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・来ちゃったね」

 

「・・・・・来ちゃったな」

 

 

色々想定外の事に見舞われたがようやく目的地の病院に着いた俺たちはお菓子の魔女もとい命名「俺のトラウマ」の結界の前で立ち往生している。

 

 

理由は簡単、超怖いからです!!

 

だって相手は「みんなのトラウマ」認定受けてる、あの「似非サン○オなマスコットもどき」の「お菓子の魔女」ですよ!?ここから一気にダークな展開一直線になっていくのでどうしても尻込みしてしまう。

 

あんだけ阻止しようと意気込んでいたがいざとなったらマミちゃんがマミる場面が俺の脳内でフラッシュバックされるのでとっても恐ろしい。出来ることなら今すぐにでも逃げ出したい気分だ。

 

 

 

 

「・・・僕、帰りたい」

 

 

俺よりも早く音を上げたのがまさかのシロべえだった。

 

コイツにはしては珍しい。

いつもは大体俺がヘタレてシロべえが一喝するのが通常の流れだというのに。

余程今回の事を深刻に受け止めているらしい。

 

 

「帰ってお風呂入りたい」

 

「え?何でお風呂?」

 

 

まさかの風呂発言。そこは恐怖に駆られた定番らしく布団とかベッドではないのだろうか?

 

 

「だって見てよ優依!僕の背中を!!」

 

 

そう叫んでずいっと俺の足元に寄って来て背中を見せてくる。

 

シロべえの背中にはくっきりと足跡が残っていた。どうやらさっきの杏子(?)に蹴られたものらしい。

 

 

「僕の自慢の毛並みが!優依のリンスとコンディショナーを毎日塗りたくって保っていた僕の毛艶が!自称杏子のせいでこんなボサボサに傷んでしまってる!一刻も早く毛を整えたいよ!!」

 

 

憤怒と悲哀が混じった声でそう叫ぶシロべえ。

確かに最近毛並みが整ってきたなと思ってたがそういう事か。

 

今丁度俺の足元の良い位置にいるから取り敢えずシロべえの背中を踏んでも良いだろうか?

それもグリグリと押し付けるように!

 

通りで俺の髪用メンテナンスの減りが早いと思ったらコイツのせいだったのか!!許せん!!

 

 

「自業自得じゃん!あの杏子(?)に無防備に近づいたりするから!」

 

「失礼な!名誉の負傷と言って欲しいね!あわよくば彼女にも発信機を付けようと思ってたんだけどバレちゃったみたいで怒りの気持ち強めに蹴られちゃったよ!酷くない!?」

 

 

成程。つまりそれで蹴られたのか。

可哀そうかと思ってたけど同情する価値もないな。誰だって発信機つけられそうになったら怒るわ!

 

 

「知るか!酷いのはお前だろうが!全く懲りてないな!殺されなかっただけマシじゃん!!」

 

 

不気味な空間に繋がる入口の前でそう叫んでいた。

 

 

「て、こんなバカな事してる場合じゃない!今は目の前に集中しなきゃ!」

 

 

ここに来た理由を唐突に思い出し、マヌケな気持ちを切り替えるためにパァンと頬を叩く。

真剣味を帯びた声で口を開く。

 

 

「シロべえ、結界の中に誰がいるか分かるか?」

 

「ちょっと待って。えーと、この魔力の反応はマミ。やっぱり来てしまったんだね。もう一つはほむら。移動していない所を見るにひょっとしたらマミに拘束されて動けないのかもしれないね。後は一般人の気配が二人。これはおそらく鹿目まどかと美樹さやかと見て良いだろう」

 

「うわー・・奇しくも原作通りのメンバーになってしまったって訳ね・・」

 

 

どうしよう?マジで帰りたくなってきた!

これマミるんじゃね?強制力でも働いてそのままマミりそうで怖いわ!

 

 

「配置も君から聞いた筋書き通りみたいだよ。幸いなのはマミ達はまだ結界の最深部にたどり着いていない事だね」

 

「それはラッキーじゃん!・・よし!まずはほむらと合流しよう!どうしてあんなメールしたのか問い詰める必要もあるしな!」

 

 

まだマミちゃんが魔女と戦ってないなら今から結界に突入すればひょっとしたら間に合うかもしれない!

 

そう思い再び結界を見る。

 

 

「・・・・・っ」

 

 

そう分かっていてもやっぱり怖いいいいいいいいいいいいいい!!

 

やべ!足めっちゃ震えてきた!!

一歩間違えればマミってしまうしそれを目撃するかもしれない。

そしたらどんなに頑張ってもあの暗い原作と同じ展開になっていくかもしれない。

 

それはいやあああああああああ!!

 

 

悪いことを考えだすと次から次へと更に悪い考えが出てきて止まらなくなりそうだ。慌てて頭を左右に振る。

 

 

 

ダメダメダメダメダメダメ!!

 

しっかりしろ俺!マミるを回避するんだろ!?

だったら立ち往生してる場合じゃないはずだ!

 

何より今まで(ほぼ一方的な気もするが)仲良くしてきたマミちゃんが死にそうになってるのに、ここで度胸見せなきゃいつ俺はヘタレを卒業出来るって言うんだ!!

 

今こそ勇者になれ俺!!

 

 

必死に自身を鼓舞し、無理やり突入する覚悟を決める。

 

 

「・・・よし行くぞシロべえ!!」

 

「ちょ、まって!まだ作戦が、きゅぷ!!」

 

 

 

シロべえの首根っこを掴むと変な声が聞こえた。そんなの気にしてられない。勢いでいかないとまた尻込みしてしまいそうだから。

 

女は度胸だ神原優依!いざ行かん!!

 

 

俺はシロべえを掴んだまま結界の中に飛び込んだ。




とある方(名前は後日公開)からイラストを頂いたので近いうちにのせるつもりです!

すごいですよ!何と「神原優依」ちゃんを描いてくれました!
とっても可愛いです!

ただあの可愛い顔でいつもゲスイ自己保身しか考えてないヘタレかと思うと・・・。うん。


イラストはあらすじに表示しますのでまた見てください!
※ただしバイ男なので時間はかかるかも


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56話 彼女は怒りのままに

台風など外に出られない日は執筆祭りじゃあああああああああああああ!!


「おー・・これがホントの拘束プレイ」

 

≪撃つわよ≫

 

「じょ、冗談だよ!」

 

 

頭の中に響く恐ろしい言葉に手を挙げて降参ポーズをしておく。

 

 

結界内に突入した俺たちは運よく使い魔に遭遇する事なく無事ほむらがいるところまで辿りつく事が出来た。

見つけた時のほむらは予想通り、いや予想以上に見事な拘束されっぷりだったので思わず感想がもれてしまい、鋭い視線で睨まれてしまった。

 

 

だって美少女が全身リボンでグルグル巻きにされ身動きとれない格好なんてどこの十八禁な光景なんだもん。

 

しかもほむらちゃんは思春期な中学生。一歩間違えれば危ない世界まっしぐらだ。

 

 

「それよりほむら!マミちゃんたちは!?」

 

 

話を逸らす目的半分、ここに来た目的を今思い出した焦り半分の気持ちで最も重要な事を聞いておく。

 

 

《巴マミはまどかを連れて美樹さやかがいる結界の最深部に向かってしまったわ》

 

「まじかよ・・原作通りじゃん」

 

 

すっごく現実逃避したい。実はほむらが嘘をついてるって。

拘束も自作自演だったとかだったら良かったのに。

しかし残念ながらほむらが嘘をつく理由はない。

逃げ出したくなる事実が俺に容赦なく突き刺さる。

 

これまじで強制力とか働いてないよね?

主に邪神のせいとかでさぁ・・。

 

 

《それよりいつまで私をこのままにしておくつもりなの?早く降ろしてちょうだい!》

 

「あ、そうだった!シロべえこれ解除出来そうか?」

 

「うん大丈夫。マミの魔法の構成は把握してるから問題なく解除できるよ」

 

 

さっきまで存在が空気と化していたシロべえがリボンに触れた途端、そこから広がっていくようにバラバラと砕け散ってほむらは十八禁な拘束から解放された。

 

優雅に地面に足をつけて髪をファサァと払っている。

 

カッコつけてるみたいだけどさっきのあの拘束プレイ見てるからその動作は逆に悲哀を感じてしまうのは俺だけだろうか?

 

まあ、途中でほむらを解放出来たからこれで原作と違う展開になったはず。後は・・ん?

 

 

ほむらはしおらしい雰囲気を纏いながら何故かこっちに向かってきている。何あれ怖い。

 

 

「どんなもんだい!僕の技術は少しは見直したかい?」

 

 

自慢気に喋るシロべえを一切見ずほむらは俺の方を向いている。

 

 

「・・・ごめんなさい」

 

「え?」

 

 

何故かほむらは俺に向かって頭を下げて謝っているがぶっちゃけ訳が分からない。

 

 

「別の魔女と交戦しててここに辿り着くの遅れてしまって、しかも巴マミを説得出来ずに挙句の果てに拘束されてしまったわ。全て私の失態よ。優依の期待を裏切ってしまった。ごめんなさい」

 

「え!?いや、えっと気にしないで!俺だって魔女に襲われてて遅くなったんだよ!ほむらは悪くない!」

 

「ちょっとほむら!感謝とかないの!?君を助けたのは僕だよ!?」

 

「魔女に襲われたですって!?怪我はないの!?」

 

 

血相を変えて俺の肩を掴んできてめっさ痛い。

怪我の心配してくれるのはありがたいが正直ほむらのせいでたった今怪我しそうなんだけど。

 

 

「だ、大丈夫だよ!何とかなったし・・」

 

「何とかって何よ?」

 

「あー・・何ていうか、ねえ?」

 

「随分と煮え切らない態度ね?」

 

 

訝しげに睨んでくるが正直に話すのかは迷う。

 

シロべえと急遽話し合った結果、先ほどの杏子(?)の件はマミる事件が終わるまで伏せておくことになった。

理由はあの杏子(?)が本物かどうかも怪しいし余計な混乱を招きたくないからと今はそれどころではないという状況だからだ。

 

 

「とにかくほむら!今からマミちゃんを追って先に魔女を倒してきてよ!君なら出来るって俺信じてるから!」

 

 

取り敢えず誤魔化す&激励を込めてほむらの手を握っておく

 

 

「! 分かったわ優依。今度こそ貴女の期待に応えてみせる!」

 

 

そうしたら何故かやる気に満ち溢れたほむらは魔法少女に変身した。時間停止を発動するようだ。

 

 

「え?ちょっと待って?いきなり?・・いない」

 

 

気づけばほむらの姿はそこになかった。

 

 

「あれ?シロべえ、ほむらは?」

 

「え?あーどうやら時間停止を使って先に行ったみたいだよ?」

 

「え!?じゃあ何で俺らはそれに気づかないんだ?確かほむらの時間停止を無効化にする装置があったはずじゃ?」

 

「あれかい?今メンテナンス中なんだ」

 

「メンテナンス中!?」

 

 

まさかの単語に驚きを隠せない。

 

こんな重要な時に何やってんだコイツ?

何でメンテナンス終わってないの?

 

 

「優依たちと別れてからマミの家にいる間ぶっちゃけ暇でね。彼女ひらすら君のぬいぐるみを抱いて泣くか狂ったように笑いながら何かをノートに熱心に書いてるかのどちらかだったんだ」

 

「で?」

 

「仕方ないから暇つぶしに今ある発明品を改良しようと思いついたんだ!これが意外と面白くてね!ついつい夢中になってしまったよ!特に時間停止中の汎用性を更に広げられる可能性に気付いてね!昨夜からずっと弄っていたけど全く飽きないんだ!」

 

「なるほど。つまりお前がそんな事に現を抜かしてる間にインキュベーターに出し抜かれたってわけね」

 

 

夢中になってる間に連れ出されたんだろうなぁ・・。

うわぁ目に浮かぶ。

 

 

「そうともいうね。慌てて気づいて追ってきたから弄ってた最中だから発動しないんだ」

 

「じゃあ、今の俺らって無防備なんじゃ?」

 

「そうだね」

 

「何他人事みたいに言ってんだ!?俺ら今結界の中なんだぞ!?狙ってくださいって言ってるようなもんじゃん!」

 

 

まじかよ!?

結界に入ったのだって、ほむらに守ってもらう算段だったからだよ!?

じゃなきゃ入る訳ないじゃん!こんなおっかない場所!

 

 

「ほむらあああああああああああああああああああ!!

カムバアアアアアアアアアアッッッッッック!!」

 

 

俺の魂の叫びは空しく結界内に響くだけだった。

 

 

え?マジで置き去りですかこれ?

 

 

「大丈夫だよ優依!ほむらの拘束姿はしっかり写真に撮ったから!」

 

「そういう問題じゃねえよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

マミside

 

 

許さない

 

 

絶対に許さない!!

 

今更なんだって言うの?私から優依ちゃんを奪っておいて信じるわけないでしょう!

 

 

さっきの出来事を思い出し、余計にムカムカしながら歩を進める。

今、私は魔女の結界の中にいて鹿目さんと二人、最深部にいる美樹さんを助けに向かっている。

その途中で憎たらしい暁美さんを拘束したから、今彼女は身動きが取れないはず。

本当ならあのまま殺してしまいたかったけど鹿目さんがいる手前、そんな事出来ない。

 

今回は我慢するしかないみたい。もしくは気づかれない内に始末するのもアリね。

彼女には悪いけど私はもう正義の味方はやめたんだもの。

 

 

それに暁美さんは私にとって一番大切な優依ちゃんを奪った憎い恋敵だもの。

 

 

今思い出しても怒りが湧いてくる!

 

あの日、優依ちゃんを暁美さんの魔の手から救おうとした日の事。

結局目論見は失敗に終わっちゃって途中でやってきた暁美さんと戦う羽目になった。

結果横やりが入ってお互いに血が噴き出すくらい負傷してしまったけど諦めきれなかった私は無防備な暁美さんを拘束してトドメをさそうとした。でもそれも失敗に終わった。

 

優依ちゃんが暁美さんを庇うから!

 

暁美さんの拘束が解除された後、負傷して動けない私に彼女にこっそりテレパシーで言われた事は今思い出しても腹立たしい!

 

暁美さんは血まみれでボロボロな私の前を見下すように立って言ったんだもの。

 

 

≪いい加減、現実を見なさい。さっきの優依の行動を見ればあの娘にとって誰が一番大事なのか分ったでしょう?≫

 

 

その言葉に私は何の反論も出来なかった。

 

 

≪優依にとって大事なのは私なの。愛されてるのも私。貴女じゃないわ巴マミ≫

 

 

気づけば涙が溢れ出し、悔しくて唇を噛んでいた。

 

優依ちゃんは私から暁美さんを守るように現れた。

それだけでなく優依ちゃんは暁美さんの事が大事だとはっきり言った。彼女に手を出すと許さないと。

 

勝ち誇ったように笑う暁美さんの顔が脳裏にこびり付いてる。

 

あの時の恨みは絶対に忘れない!

 

 

「あの・・マミさん」

 

 

だから暁美さんは必ず私の手で殺して優依ちゃんを奪い返す!

あの娘が私の元に帰ってくるためならどんな事でもやる。正義の味方だってやめてしまっても構わない!

 

そう心に決めたんだもの!

 

それなのにさっきの暁美さんは一体何なの?

随分と必死な様子だったけど、どうせグリーフシードが欲しくてあんなでまかせ言ったんでしょうね。不愉快だわ。

 

むこうだって前は本気で私を殺そうとしていたのに今回はまるで私を助けようとしているみたいだった。

おかしな事もあるものね。彼女に一体何があったのかしら?不可思議だわ。

 

 

・・そういえばもう一つ不可思議な事があったような気がする。

 

それは優依ちゃんが暁美さんを私から庇っていた時、

 

 

----取られるくらいならいっその事・・・!----

 

 

暁美さんに優依ちゃんを取られて絶望した私は彼女を巻き込んで心中しようと銃を向けた。

だけど突然突風が吹いて気づけばまた腕を深く抉られていた。

 

魔法少女である私が視認できないほどの素早い攻撃をされた事よりも、その際に耳元で聞こえた声の方に驚いた。

 

 

”いい加減にしろマミ”

 

そう言われた気がする。懐かしい声だった。

 

 

あの声はまるで・・・・

 

 

「マミさん!!」

 

「!」

 

 

大声で名前を呼ばれてハッと我に返る。

どうやら深く考え事をしていたせいか呼ばれていたことに気づかなかったらしい。

 

 

「どうしたんですか?さっきから呼んでも返事がなくて心配してたんですよ?」

 

「ごめんなさい。ちょっと考え事してて・・」

 

 

急いで謝罪して何とか取り繕う。

 

不審に思われたかしら?でももう今更そんな事どうでもいいわね。

 

 

「わたしこそごめんなさい。急に大声出しちゃって」

 

 

鹿目さんが申しわけなさそうに目を伏せている。

考え事をしていて無視してしまった私が悪いのだからそんな顔しなくていいのに。

 

 

「構わないわ。それでどうかしたの?」

 

「えっと・・マミさんはほむらちゃんの事、悪い魔法少女だって思ってるんですか?」

 

「えぇ、思ってるわ。暁美さんは自分の事しか考えてない。鹿目さんも見たでしょう?」

 

 

わざわざ魔女の結界内で私の名前を大声で呼んでまで聞いてきたのが暁美さんの事。

 

さっきの事もあるからどうしても眉間に皺が寄ってしまう。

 

暁美さんが悪い魔法少女だと思ってるかですって?

そんなのYES以外ない。だって優依ちゃんを奪った泥棒猫だもの!

 

 

「・・そうですか」

 

「鹿目さんは違うって思ってるの?」

 

 

どうやら鹿目さんは暁美さんに対して悪い印象は持っていないらしい。

何故?一緒に行動した限りじゃ暁美さんの事を怖がっていたのに。

 

 

「最初はほむらちゃんの事、何だか怖い感じの人なのかなって思ってたんですけど優依ちゃんがほむらちゃんの事『ツンデレで超絶シャイ』だって聞いてそれで実際ちゃんと話してみるとほむらちゃんの厳しい言葉や冷たい態度は実は照れ隠しなんだって分かったんです!」

 

「そう。・・優依ちゃんと話したの」

 

「はい!本当は謝るために会ったんですけど、いつの間にかそういう話になってて・・」

 

 

無邪気に笑う鹿目さんを見るのが辛い。私は鹿目さんにまで嫉妬しているのだから。

 

 

だって優依ちゃんとまともに話せなかったのに鹿目さんはあの娘と楽しそうに話してるんだもの。

 

 

どうして優依ちゃんが会話したのが私じゃないの!?

 

鹿目さんの笑顔と自分の醜い嫉妬から目を背けるように、そしてこんな浅ましい事を考えてる私を悟られないように背中を向けて早足で歩く。

 

鹿目さんはきっと嫉妬とは無縁なんでしょうね。

優依ちゃんから特別に目をかけられてるみたいだもの。羨ましい限りだわ。

 

 

「・・・ごめんなさい」

 

「え?」

 

 

気づけば私は謝罪の言葉を口に出していた。

 

突然謝罪された鹿目さんはキョトンとしてのが背中越しでも分かる。

 

 

「私ね、もう正義の魔法少女はやめたの」

 

 

ポツリと呟くように話し始める。何故か身体が震えだしてきた。

 

 

「どういう事ですか・・?」

 

「ここにいるのはね、暁美さんと同じ身勝手な魔法少女なの」

 

 

自嘲気味な笑顔が漏れる。これじゃまるで鹿目さんに懺悔してるみたい。

私の懺悔に口をはさまず鹿目さんはただ静かに耳を傾けている。

 

 

「キュゥべえから鹿目さんと美樹さんが危ないって知らせが来た時、正直私は行くつもりはなかったの」

 

「え?でもマミさんはここにいるじゃないですか?」

 

「それはね、ここに暁美さんが来るって分かったから来ただけなの。嫌がらせをするためにね。どうやら彼女はここにいる魔女を倒す事を重要だと考えてるみたいなの。だから先回りして倒しちゃおうって思って来ただけ」

 

「そうだったんですか・・」

 

「そして近くにいると予想がついてた鹿目さんを利用して暁美さんを挑発しようと思いついたの。どうやら彼女は貴女に執着してるみたいだったから。本来なら結界の外で待機させなくちゃいけないのに連れてきたのはそのためよ」

 

 

一度白状すると次から次へと言葉に乗って外に出ていく。全て出し切るまで止まらない。

 

 

「さっき貴女を暁美さんから引き剥がしたのはね、彼女への嫌がらせのためなのよ」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

鹿目さんは何も答えずただ黙って私の醜い罪状を聞いている。

今、彼女はどんな表情をしているのか気になるけど怖くて見れない。

 

 

「私、最低よね?嫉妬のまま意地悪して、人としてやってはいけない事までやってるんだもの。こんな私じゃもう、正義の魔法少女だなんて言えないわ。頼れる先輩なんてとてもじゃないけどなれない」

 

 

 

瞳に涙が溜まっている。それを悟らせないように顔を俯かせた。

 

 

 

「それでもわたしはマミさんの事、立派な先輩だって思ってますよ」

 

 

「え?」

 

 

まさかの言葉につい振り返ってしまった。鹿目さんはしっかり私を見て笑ってる。

 

 

どうして?何で笑っていられるの?私は貴女を利用したのに。

 

 

「だってマミさんはちゃんと話して謝ってくれたじゃないですか」

 

「でも、それは悪いことをしたからで」

 

「ママが言ってましたけど、本当に立派な人は間違った事をしたら、ちゃんと反省して謝る事が出来るんだって。だからマミさんはとっても立派な人です」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「わたしなんかの言葉じゃマミさんの心に届かないかもしれないけど、それでも言い切れると思うんです」

 

「鹿目さん」

 

「それに理由はどうあれ、実際にこうしてさやかちゃんを助けに来てくれてますし、今もわたしを守ってくれてるじゃないですか!」

 

「!」

 

「だからマミさんは最低なんかじゃないですし、わたしにとっては今も正義の魔法少女です!それじゃだめですか?」

 

「ありがとう・・鹿目さん」

 

 

ギュッと私の手を握ってくれている。鹿目さんの手は少し小さいけれどとっても暖かい。

 

まるで優依ちゃんが握ってくれているみたいで安心する。

 

手を握ってくれてるのが優依ちゃんだったらよかったのにと考えてる私はやっぱり最低だと思うけど鹿目さんのおかげで少し気分が晴れた。

 

今なら優依ちゃんが鹿目さんを目にかける理由が少し分かった気がする。

 

こんな私に優しい言葉をかけてくれるもの。

それでも私は・・・。

 

 

「優依ちゃん、マミさんの事すごく心配してましたよ?だからすぐに仲直り出来ますよ!」

 

「本当に・・?」

 

 

鹿目さんの言った事を最初は理解出来なかった。

 

 

優依ちゃんが私を心配してる?嘘?

 

いいえ嘘でもいい!

 

一瞬でも優依ちゃんが私の事を考えてくれたのならそれだけでとっても幸せだもの!

 

 

「はい!本当ですよ!だからその・・出来ればで良いんですけど・・」

 

「どうしたの?」

 

「ほむらちゃんとも仲良くしてほしいなぁって・・」

 

 

遠慮がちな声で大胆な事をお願いしてくる鹿目さんに流石の私も頬が引き攣るのを止める事が出来そうにない。

 

 

「それは・・いくらなんでも難しいわ鹿目さん」

 

「はい!分かってます!けど、マミさんもほむらちゃんもわたしにとっては大事な人ですから仲良くしてもらいたいんです!」

 

「気持ちは分かるけど私は・・」

 

「きっとお互い誤解してるところがあると思うんです!話し合ったら仲良く出来るかもしれないし、私も協力しますから、一度ほむらちゃんと話してみませんか!?」

 

 

かなり強く主張してくるから少しだけ考えてみる。

 

試しに私と暁美さんが仲良くお茶してる姿を想像してみた。

 

 

 

 

「・・・ごめんなさい。やっぱりそれは・・」

 

 

 

 

考えてみたけど、どうしても暁美さんを許せそうにない。そもそも同じ空間にいたくない。

顔を合わせたら殺し合いに発展しそう。

 

 

「そうですか・・」

 

「ごめんなさいね?」

 

 

シュンと落ち込んでしまった鹿目さんに罪悪感が湧くがこればかりは無理。

暁美さんと和解するなんて夢のまた夢だわ。

 

 

「賛成してくれたら可愛い衣装でコスプレした優依ちゃんの写真をいくつかあげようかと思ってたんですけど・・」

 

「! それは本当なの・・?」

 

 

聞き捨てならないことをボソッと鹿目さんは呟いた。

 

すっとどこからか取り出した携帯を顔の近くに持ってきて私に見せびらかしている。

単純な事に私はまんまと引っかかって携帯を凝視してしまう。

 

 

優依ちゃんのコスプレ写真。喉から手が出るほど欲しい!

 

だって優依ちゃん着ぐるみとかはノリでやってくれるんだけどお姫様ドレスみたいなコスプレは全くやってくれないんだもの!

 

 

「この前、優依ちゃんに頼んでコスプレしてもらったものを携帯で撮影したんです。とっても可愛かったですよ!良かったら後で送りましょうか?だからほむらちゃんの事、お願いしたいなー、なんて・・」

 

「分かったわ鹿目さん!気は進まないけど暁美さんと話してみるわ!」

 

「やったー!ありがとうございますマミさん!」

 

 

誘惑に屈してしまい二つ返事で了承してしまった。

 

すぐに後悔に襲われるも優依ちゃんのコスプレ写真というお宝と飛び上がるくらい喜んでいる鹿目さんの姿を見ては断れない。

 

きっとこれで良かったと自分に言い聞かせるしかなさそう・・。

 

 

≪マミ!≫

 

≪どうしたのキュゥべえ!≫

 

≪グリーフシードが孵化しかかってる!急いで!≫

 

≪分かったわ!急いで行くから動かないで!≫

 

 

慌てるようなキュゥべえのテレパシーが終わり鹿目さんと向き直る。

 

 

「もうコソコソする必要もないみたい。一気に二人の所に向かうわよ!」

 

「はい!」

 

「それと鹿目さん!さっきの話は本当よね!?」

 

「もちろんです!魔女を倒した後に送りますね!」

 

「約束よ?絶対送ってね!?」

 

「はいマミさん!」

 

 

鹿目さんの返事を合図に変身する。

 

私の魔力に反応した使い魔達が襲い掛かってくるけど今の絶好調な私にとっては相手にすらならない。

生成したマスケット銃を連射し、どんどん奥に進んでいく。

 

 

「あ!マミさん、まどかおそーい!」

 

「良かった!間に合った!」

 

 

ようやく最深部にたどり着いて美樹さんとキュゥべえの二人と合流出来た。

二人に怪我がないみたいで良かった。

 

 

「気をつけて!出てくるよ!」

 

 

キュゥべえの鋭い声の後すぐに魔女が出てくる。

 

とっても可愛らしいぬいぐるみみたいな魔女。でも油断は禁物。

気を緩めていなくても不意を突かれる事だってあるんだから。

 

前に腕を裂かれたみたいにね。

 

 

! そうだわ!油断しないようにあの魔女を暁美さんだと思って戦った方がいいわね!

そしたら容赦なく殺せるし油断なんてしないだろうから。

 

 

ここにいるのは暁美さん!魔女じゃないわ!

 

 

そう自分に暗示をかけて魔女の前に立つ。

 

そこからは怒涛の銃弾の嵐だった。

動かない人形のような魔女に向けてマスケット銃の雨を大量に浴びせ続ける。

 

避ける隙も反撃する隙も一切与えない!

 

 

「うわー・・マミさんえげつない・・」

 

 

遠くでそんな呟きが聞こえた気がするが気にしていられない。

 

これは暁美さんを殺すデモンストレーション。気を抜くわけにはいかない。

 

 

「!?」

 

「! マミさん!?」

 

 

魔女の口から黒い大きな芋虫みたいなものが私の真正面まで一気に距離を詰める。

鋭い牙が生えそろった口を開いて私に噛みついた。

 

 

「マミさん!? あれ?」

 

 

「それは偽物よ」

 

 

魔女が食べているのはリボンで作った偽物の私。念のために用意しておいて良かった。

想定外の攻撃の囮に使うつもりだったけど上手くいったみたい。

 

 

“!?”

 

 

食いちぎられた偽物の私から大量のリボンが飛び出して魔女の大きな黒い身体に巻き付いていく。

驚いてる間に拘束は完了し、魔女はもがいているが身動きが取れない。だけど私は油断しない。

 

拘束してるリボンがミシミシいってるから抜け出されるのは時間の問題。早めにトドメをさす必要がある。

 

 

「これで終わりよ!」

 

 

すぐさまティロ・フィナーレを作り出し魔女に標準を合わせた。

 

 

これで決める!

 

 

「ティロ・フィナー、・・・え?」

 

 

必殺技を叫んだけど途中で途切れてしまった。今自分が目にしているものが信じられない。

 

 

「優依ちゃん・・・?」

 

 

優依ちゃんが私に背を向けて魔女の方に歩いている?どうしてここに?

 

それよりもあそこにいては危ない!すぐに引き離さなくちゃ!

 

 

「だめよ優依ちゃん!そっちは危ないわ!」

 

 

大声で叫んでみたけど聞こえていないのかそのまま歩みは止まらず、どんどん魔女の方に向かっている。

 

 

「離れて!」

 

 

リボンを使って魔女から引き離そうとするも何故か優依ちゃんに触れる前にリボンが消えてしまう。

 

 

“!”

 

 

まずい!魔女が優依ちゃんに気付いた!

 

もうなりふりなんて構っていられない!一刻も早く優依ちゃんを助けなくちゃ!

 

思うよりも先に身体が動いていた。

ありったけの魔力を身体に込めて駆け出し一気に距離を詰めた。そのまま優依ちゃんの肩に手を伸ばす。

 

 

「え・・?」

 

 

優依ちゃんに触れたはずなのに感触がない。

目の前からあの娘は煙のように消え去っていて代わりに私の手の中には人形が握られている。

 

 

これは一体何?優依ちゃんはどこに行ったの?

 

 

「マミさん危ない!!」

 

 

「!」

 

 

いつの間にか拘束を抜け出していた魔女の大きな口が目の前に迫ってる。

 

 

どうしよう!?今からじゃ避けられない!

 

 

 

 

全てがスローモーションに動いてるように見える。

 

 

 

 

 

 

ゆっくりな動作でとっても大きくて鋭い牙が私に・・・!




マミさんまさかのピンチ!
ついでに優依ちゃんも何気にピンチ!

そしてまどかちゃん頼もしいw


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57話 それぞれの奔走

投稿が遅れた理由

いろはちゃんストーリーの下書きを完成させて満足してしまっていたから


反省はしても後悔はしていない!


ちなみに今回の話は珍しく優依ちゃん視点がありませんのであしからず!


まどかside

 

 

「お願いまどか!今日はさやかを病院に行かないように手を打ってくれないか!?」

 

 

今日、優依ちゃんに突然こんな事を頼まれて戸惑った。

どうしてそんな事をわたしに頼むのか理由を知りたかったけど曖昧に濁すだけで答えてくれなかった。

 

最初はどうしようかと迷っちゃったけど悩んだ末に結局引き受けることにした。

 

だって優依ちゃんなんだか切羽詰ったような表情でわたしに頼んでくるからひょっとしたら只事じゃないかもしれない。

 

 

何よりわたしが優依ちゃんの力になれるなら喜んで!

 

 

二つ返事で頷くと優依ちゃんはパアッと輝いた笑顔で喜んでくれてわたしも嬉しくなる。

 

そういえば最近優依ちゃんの笑顔を見ると顔が熱くなる事が多い気がする。

ひょっとして病気なのかな?・・怖いから気にしないようにしなきゃ。

 

 

放課後、今日も上条君のお見舞いに行こうとするさやかちゃんを引き留めるため、

「買い物に付き合って欲しい」と真剣な雰囲気を醸し出してお願いしてみたら二つ返事で了承してもらえた。

 

念のため途中で気が変わってお見舞いに行くなんて言わないように病院とは反対方向にあるショッピングモールまで連れ行った。

 

さやかちゃんは何の疑いもなくわたしと一緒に歩いてる。

 

騙すような感じでさやかちゃんには悪いけど優依ちゃんの頼みだからごめんね?

 

 

わたしにはしては珍しく上手くいったみたい?

良かったぁ。これで優依ちゃんの役に立てたなら嬉しいな。

 

 

・・でもやっぱり申し訳ないから後でさやかちゃんに何か奢ろう。

 

 

内心そんな葛藤を繰り返しつつショッピングモールをぶらぶらして、さやかちゃんもお見舞いは明日するっていう言質もとれたから成功したと確信を得れた。

 

 

頼まれてた事なんとか上手くいきそう。

これなら優依ちゃんわたしの事、褒めてくれるかな?

 

「まどか偉いぞー」って頭撫でてくれたりして?

 

ティヒヒ、なんてね?

 

 

 

 

 

・・そんな風に考えてた時がわたしにもあったっけ。

 

 

 

 

 

「・・・うぅ」

 

 

今、わたしはマミさんと一緒に病院に出来た魔女の結界の中にいる。

理由は簡単。この結界の最深部にいるさやかちゃんを助けるため。

 

 

順調にさやかちゃんを病院から遠ざけてそろそろ家に帰ろうと思った矢先、

ふいに現れたキュゥべえから、

 

 

「大変だよ二人とも!いつもさやかが行く病院に孵化しかかったグリーフシードがある!魔女が出てきたら大変だよ!」

 

 

と言われちゃって、それを聞いたさやかちゃんは、

 

 

「まどか!あたし先に病院に行くからあんたはマミさんを呼んできて!」

 

 

と一方的に告げてわたしの言葉を待たずに走り出してあっという間に見えなくなっちゃった。

凄いスピードだったから静止する暇もなかったよ。

 

その後、仕方なくキュゥべえの方に振り返ったらすでにいなくなっていて、

 

 

≪僕はマミを呼んでくるからまどかはさやかを追って!≫

 

 

とテレパシーで聞こえてきた。

 

 

逃げられたってこういう事を言うのかなって何となく頭の片隅で思っちゃった。

 

 

わたしじゃどうしようもないよ・・!

 

 

予想外の出来事にこれからどうしようかアタフタしたけど、そういえば優依ちゃんからこういう緊急時の対策も言われてたんだっけ?

 

 

・・・・あ!

そういえば何かあったらほむらちゃんに連絡するように言われてた!

 

 

「ふぇぇ・・繋がらないよぉ」

 

 

急いで連絡したけど繋がらず、半泣きになりつつもなんとか留守電にメッセージを残しておいた。

 

 

ほむらちゃんと繋がらなかったしどうしよう?

 

! そうだ!優依ちゃんにも電話しなきゃ!

緊急事態なんだもん!別に電話しても良いよね?

 

ちょっと心細いし・・。

 

 

自分にそう言い訳して今度は優依ちゃんに電話をかける。

 

 

「もしもし、どうしたまどか?」

 

 

いつも通りの優依ちゃんの声で安心したのかとうとう本格的に泣きそうになったけど何とか起こった事を説明する。

 

途中で気が緩んじゃって何度も泣きそうになりその度に心配されてしまった。優依ちゃんはわたしが不安がって泣きそうになってると思ってるみたいだけどその逆で安心して泣きそうになってるだけ。

 

だって優依ちゃんの声を聞くと安心するだもん。

欲を言えば傍にいて欲しいけどそんな事言えないし顔を見たら本当に泣いちゃいそう。

 

状況を把握したけどわたしの内心を知りもしない優依ちゃんはすぐに病院に向かうと聞いてふっとさやかちゃんの事を思い出して心配で居ても立ってもいられなくなったからすぐに電話を切って病院に駈け出した。

 

 

最後に優依ちゃん何か言おうとしてた気がするけど気のせいだったのかな?

 

 

その途中でマミさんと結界の前で合流して「私が守るから着いてきて」と言われそのまま一緒に結界に入った。

 

最初は和気藹々って感じでお話してたのに今は・・・、

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

うぅ・・気まずい。

 

少し進んで後、いきなり背後からほむらちゃんがリボンで拘束された姿で現れた時は驚いた。

 

さやかちゃんが危ないしこのまま争ってる時間はないとマミさんは判断して結局ほむらちゃんをそのまま置いてきちゃったけどこれで良かったのかな?

 

 

ほむらちゃん、マミさんが危ないって必死に叫んでて嘘を言ってるようには見えなかった。

 

 

一緒に来ることは出来なかったのかな?

 

 

マミさんはほむらちゃんと会った後、不機嫌になっちゃってさっきからずっと無言で歩いてる。

背中から発する「私怒ってますオーラ」がわたしにまで伝わってきて居たたまれない。

 

さっきのやりとりを見てるとマミさんとほむらちゃんってすごく仲が悪いみたい。

 

前の魔法少女体験コースから薄々感じてたけどここまでじゃなかった気がする。

わたしが知らない間に何かあったのかも?

 

 

 

・・・でも、

 

 

「あの・・マミさん」

 

 

出来れば二人には仲良くして欲しい。

 

 

そう思ってマミさんに声を掛ける。

試しにほむらちゃんは悪い魔法少女だと思ってるか聞いてみたらほぼ即答でYESと返ってきてたじろぎそうになるも何とか踏み止まる。

 

 

そんなにほむらちゃんの事嫌いなのかな・・・?

 

 

わたしからほむらちゃんは悪い人じゃないって言って納得してくるか分からないけど言ってみよう!

優依ちゃんだって二人には仲良くして欲しいって言ってたんだもん!

 

 

試しにほむらちゃんの事を話してみたけどマミさんは納得していない顔。

それ所か優依ちゃんの名前を出した途端、一気に不機嫌そうに顔をゆがめていたからひょっとしたら怒らせちゃったかも。

 

うぅ・・怖い。もしかして怒らせちゃった?

 

 

「・・・ごめんなさい」

 

「え?」

 

 

怒られるかもって身構えてたのにマミさんから出てきた言葉は謝罪だった。

 

 

「私ね、もう正義の魔法少女はやめちゃったの」

 

 

そこからマミさんは罪を告白するように今までやってきた事を話してくれた。

さっきわたしをほむらちゃんから引き離したのもわざとみたい。

 

・・何となくそんな感じがしてた。少しわざとらしさを感じてたから。

 

でもおかげでほっとしっちゃった。

 

マミさんがほむらちゃんに意地悪したのってきっとヤキモチ焼いてたから!

 

 

最近、優依ちゃんはほむらちゃんと一緒にいるからきっとそれが原因だと思う。

その気持ちすごく分かるかも。

 

 

わたしも・・・寂しかった。

 

優依ちゃんをほむらちゃんに取られちゃったと心のどこかで思ってたから。

 

 

 

でも良かった。そういう理由で意地悪しちゃったならマミさんは悪い人じゃない!

 

むしろ謝るマミさんの背中が何だか優依ちゃんに謝ってる時のわたしと重なってちょっと微笑ましくなるくらい。

 

だからこそ誤解が解ければほむらちゃんとも仲良くなれるはず!

 

 

短い時間でしかもお話する機会もほとんどなかったけどほむらちゃんは悪い魔法少女じゃないと思う。

 

優依ちゃんからほむらちゃんの事を頼まれた時、思い切って電話してみたけどほむらちゃん最初は素っ頓狂な声あげて驚いて何とか取り繕うとしてた。

でもほとんど声が上擦ってたし、少しどもってたからわたしにはバレバレで逆におかしくて笑っちゃうくらい!

 

 

ひょっとして緊張してたのかな?

優依ちゃんの言った通りほむらちゃんはとっても照れ屋さんで可愛い!

 

 

 

「電話してこないで」

 

「貴女と話す事は何もないわ」

 

「二度と連絡しないでちょうだい。良い迷惑よ」

 

 

以前のわたしなら泣きそうな事を電話で言われても何とも思わなかった。

 

むしろツンデレさんて凄いなー、本当にこんな事言うんだーって感心しちゃったくらいだよ!

今日だって学校で挨拶したら、ほむらちゃん真っ赤な顔して「おはよう・・」って小さく挨拶してくれたんだもん!

 

優依ちゃんの言った通りだね!凄いよ!

 

そんな照れ屋なほむらちゃんが悪い魔法少女だなんてどうしても思えない。

 

きっとマミさんはほむらちゃんの事を誤解してるかもしれないからちゃんと話し合えば分り合えるかもしれない。だったらそのきっかけをわたしが作ろう!

 

 

 

わたしなんかじゃ上手くいかないかもしれないけど優依ちゃんの期待に応えたい!

 

 

 

と思ってマミさんにほむらちゃんと話し合ってみませんかと提案してみたんだけど・・

うーん、イマイチ反応は良くない。

 

 

 

・・やっぱりわたしなんかじゃだめなのかな?

 

 

 

 

ううん、弱気になってちゃだめ!

優依ちゃんからほむらちゃんの事頼まれてるんだもん!

 

 

だったら今のわたしに出来る方法は?

優依ちゃんならこういう時どうするんだろう?

 

何気なくポケットに入れた手で携帯に触れる。

 

 

! これなら!

 

・・本当はこんな事したくなかったんだけどこれならマミさんを説得出来る!

 

 

最終兵器を使うことに決めてすっと隠し持っていた携帯電話をマミさんの顔の前まで持っていく。

 

最終兵器。

それはコスプレした優依ちゃんの画像!

前に優依ちゃんにコスプレしてもらった時に撮ったもの。

 

コスプレした優依ちゃんがあまりにも可愛くてつい携帯のカメラで撮ったけど後悔していない。

優依ちゃんには画像は消したと言ったけどそれは嘘。こんなに可愛いのに消すなんて勿体ないよ!

 

画像は全てお気に入りに保存してこっそりランダムに待ち受けにしてる。

優依ちゃんには絶対内緒にしなきゃ。

 

マミさんは優依ちゃんの事とても好きみたいだからきっと食いついてくれるはず!

前に部屋にお邪魔させてもらった時に魔法少女の話そっちのけでひたすら優依ちゃんの話(出会いから今に至る)をしていたからきっと大丈夫!

 

餌で釣るなんて卑怯だし優依ちゃんは絶対こんな事しないだろうけど今のわたしじゃこれが精一杯みたい。

 

 

案の定マミさんは食いついてくれた。目がじっと携帯電話に固定されてるもん。

よっぽど欲しかったんだね。

 

本当はわたしだけの大事なものだったんだけど仕方ないよね。

 

 

でもわたしのお気に入りの優依ちゃん(妖精ver)は大事に取っておくつもり。

いくらマミさんでもこれだけは渡せない。

 

何度も念を押して約束してくるマミさんは目が血走ってて怖かったけどほむらちゃんと話し合ってくれる約束をしてくれたから良かった!

 

その直後キュゥべえから連絡を受けて変身したマミさんは心なしかとってもやる気に満ち溢れていて、地面にひしめくくらい沢山いた使い魔をあっという間に倒して速攻でさやかちゃん達がいる最新部まで辿り着いちゃった。

 

 

さやかちゃんが無事でほっとしたのも束の間、グリーフシードが孵化しちゃってぬいぐるみみたいに可愛い魔女が出てきた。

 

見た目はとっても可愛いから倒すの可哀想かなぁ・・。

 

 

そう思ってたんだけどマミさんは何とも思っていないのか、銃を連射して蜂の巣にしたり銃をバット代わりにして魔女をボコボコにしてる。

 

 

マミさんあの魔女に恨みでもあるのかな?

 

ストレス発散のためにサンドバック代わりにしてるみたいでちょっと怖い。

 

 

「まどか」

 

「どうしたのさやかちゃん?」

 

「マミさん、あの魔女になんか恨みでもあんの?親の仇かってくらい容赦なく攻撃してるけど・・」

 

 

さやかちゃんも同じ事考えてたらしい。

 

目の前に広がってる光景に引いてるのか顔が引き攣っている。

 

 

「! マミさん!」

 

魔女の口から黒い大きな芋虫みたいなものが出てきた。

咄嗟のことだから一瞬放心しちゃってたけどマミさんに向かって鋭い歯が生えそろった大きな口を開けて攻撃しているの見て慌てて隠れていたところから身を乗り出して声を掛ける。

 

 

わたしの言葉は間に合わなかったのかマミさんはそのまま魔女に食べられてしまった・・。

 

 

「マミさん! ・・あれ?」

 

「それは偽物よ」

 

 

魔女に食べられたと思っていたマミさんはリボンが作った偽物でそのまま魔女をグルグル巻きにして拘束してしまった。身動きが取れなくなった所で本物のマミさんが出てきてほっと肩の力が抜ける。

 

 

 

「これで終わりよ!」

 

 

次で決めるつもりなのかマミさんはいつものティロ・フィナーレを取り出して拘束されて動けない魔女に標準を合わせている。

 

無事に魔女を倒せそう。

ほむらちゃんの言ってた事が外れて良かった。

 

 

「ティロ・フィナー、・・・え?」

 

 

マミさんの必殺技が繰り出す直前、いつのものように技の名前を叫んでたけど途中でやめてしまう。一体どうしたんだろう?

 

 

「だめよ優依ちゃん!そっちは危ないわ!」

 

 

優依ちゃん・・?ここに優依ちゃんがいるの?

 

見つからないように大きなドーナッツの物陰に隠れてるからそれが死角になってここからじゃマミさんが見ている方向が見えない。

 

なんどか優依ちゃんと呼び掛けてる内に痺れを切らしたのかマミさんは準備していたティロ・フィナーレを消して魔女に向かって走っていく。

 

いつの間にか拘束から抜け出していた魔女はその様子をじっと見ていて表情豊かなその顔でニヤリと笑った後、大きな口を開けてマミさんに向かっている。

 

 

「マミさん危ない!」

 

 

わたしがそう叫んだ時、既に魔女はマミさんの目の前にいて口を開いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ひっ」

 

 

 

 

 

わたしの目に映るマミさんは今、魔女に頭を齧られた状態で宙に浮いている。

 

魔女から解放されたマミさんは重力に従ってそのまま地面に落下した。

落下途中で見えたマミさんは首から上が無くなっててそこから血のような赤いものが出ていた気がする。

 

地面に叩き付けられたマミさんを追って魔女が再び近づいて口を忙しくなく動かしてる。

魔女の近くからバリ、ボキィと何かが砕ける嫌な音が響いている。

 

そんな光景をただ息を呑んで見つめていた。

 

 

今食べられてるマミさんは本物・・・?

 

 

「まどかぁ・・!」

 

 

さやかちゃんが涙目でわたしに抱き着いてくるけど反応出来ない。

呆然とただその光景を見つめるだけ。

次第に身体が恐怖を感じたのか震えが止まらなくなってくる。

 

 

「二人とも!早く願い事を決めるんだ!」

 

 

キュゥべえが叫んでるのをどこか遠くから聞こえてくる気がする。

でもわたしもさやかちゃんも何も答えずただ手を握り合って震えるだけ。

 

 

「!」

 

 

マミさんを食べ終わったのか魔女がこっちを見つめてる。

 

次はわたし達の番みたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむらside

 

 

間に合わなかった・・・。

 

時間を止めながら急いで結界の最深部に向かったけど着いた時に見たのがおびただしい量の血痕が広がる光景で瞬時に何があったのか悟る。

 

また優依の期待を裏切ってしまった・・。

失敗を繰り返してばかりの私を信頼してくれたっていうのに!

 

私は・・・!

 

失意のまま膝をつきそうになるも何とかこらえて前を見据える。

 

まだ終わっていない。

せめて魔女を倒してまどかをここから脱出させなければ!

 

 

「まどか!さやか!願い事を決めるんだ!」

 

 

この機の逃さずインキュベーターが契約を迫る声がここまで届く。

 

忌々しい!お前達の思い通りになんてさせないわ!

 

 

「その必要はないわ」

 

 

全員の意識をこっちに向けさせるために口を開く。

その後に勢いをつけて最深部に飛び込み魔女の前に立つ。

 

 

「こいつを倒すのは私」

 

 

そう宣言して時間を止めた。

 

この魔女の倒し方は今まで時間軸で戦ったことがあるから分かっている。

今立ってる場所に盾から取り出した時限式の爆弾を置いて別のテーブルに移動する。

時間停止が解除され、さっき私がいた場所に魔女が大きく開いた口でテーブルごと飲み込んだ。

 

 

“?”

 

 

「こっちよ」

 

 

食べた感触がしないからか不思議がっている魔女に声をかけてもう一度時間停止を発動させ同じ動作を何度も繰り返す。

 

時間を止めては爆弾を設置して移動する。

解除されれば私がいた場所を魔女が食べていく。

 

それの繰り返し。

 

 

・・・そろそろね。

 

 

“!?”

 

 

魔女の体内に入った爆弾が時間通りに爆発する。

爆発が起こる度に魔女は口から脱皮を繰り返しているがやがてそれが切れたのか脱皮せずに身体が爆風に飲まれていった。

 

ティーカップに突き刺さるグリーフシードを見て魔女が死んだ事を確認する。

 

 

これでこの魔女は倒せた。けど・・・。

 

 

ちらりとまどか達がいる方向を見る。

 

二人は遠くからでも分かるくらい震えながら抱きしめ合ってこちらを見ている。

 

この反応は仕方がない。

目の前で人を、ましてや自分たちの先輩が食い殺されたのだから。

 

もうそれに対してあまり感情が動かない私はきっとおかしいのかもしれない。

 

自嘲気味な考えを浮かべながら二人の方へ向かって歩き出す。

ついでにその途中で変身を解除すると同時に結界の空間が歪み、元の病院に戻った。

 

念のために周囲をざっと確認する。

どこかに巴マミが生きていないかと期待しながら

 

 

だけど巴マミの姿を確認出来ず、彼女が死んでしまった事を再確認出来ただけだった。

 

 

「危なかったわね貴女達」

 

 

おそらく怪我はないだろうけど確認のために全身を見渡しながら二人に声をかける。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

二人からは何の返事もない。心ここにあらずのよう。

 

 

「何で・・」

 

「?」

 

「何でマミさんを見殺しにしたんだよ!?」

 

 

 

美樹さやかがキッと私を睨みがら胸倉を掴んでくる。

 

全くの誤解だが私がやってきたタイミングを考えれば仕方ないのかもしれない。

前の私ならここで突き放す言葉を言っていただろうけど、

「さやかと仲良くしてほしい」と優依に言われている。

 

思い込みの激しい美樹さやかは信じてくれるか分からないけどここは正直に否定しておきましょう。

 

 

「・・間に合わなかっただけよ。見殺しになんてしてないわ」

 

「嘘だ!!」

 

 

全く取り合おうとしない美樹さやかに思わずため息が出そうになる。

もうこの際、力づくで納得させるしかないかもれしれない。

 

 

「・・やめて・・さやかちゃん」

 

「まどか?」

 

 

私の制服を掴んでる美樹さやかの手をまどかが抱き込むようにギュッと掴んでいる。

瞳に沢山の涙を溜めて震えながらも懸命に腕にしがみついている。

 

 

「ほむらちゃんの言った事は本当だよ・・。だからもうやめて・・」

 

「! ・・うぅ、マミさん・・」

 

 

まどかの言葉を聞き入れたのか美樹さやかは制服から手を放した。

だけど巴マミが死んだという残酷な現実に耐え切れなかったのかとうとう膝をガクッと地面に落として泣き出してしまった。

それにつられてまどかも膝を落として泣き崩れている。

 

時間遡行する度に何度も見た光景だけど慣れない。

慰めの言葉なんて知らないし私がかけてもきっと慰めにすらならないだろう。

 

優依、私はどうすればいいの・・?

だめ、私が優依に助けを求める権利なんてない。

・・・でも辛い。優依はどこにいるの?

 

 

 

 

「マミちゃん!?」

 

 

 

「! ・・っ」

 

 

背中越しに優依の声が聞こえて息を呑む。

どうやら無事に結界から出れたみたいで安心したけど巴マミが死んでしまったこの状況を思い出しサッと顔を青ざめる。次第に身体が震えてきた。

 

優依はこの光景を見たらどう思う?

巴マミを助けられなかった現実をどう受け止める?

 

きっと私を責めるでしょう。

もしくは辛いはずなのに私を安心させようと笑顔を向けるだけでそれ以上は何も言わずに人知れず泣くかもれしない。

 

どのみち私にとっては最悪な結果だ。

巴マミを死なせてしまった。

なにより私を信じて託してくれた優依の信頼を裏切ってしまった。

 

背中から私を呼ぶ優依の声が何度も聞こえるけど怖くて後ろを振り向けない。




マミった!?マミちゃった!?

次は優依ちゃん視点に戻ります!
皆がそれぞれ頑張ってる間彼女は何やってたんでしょうね?


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58話 その頃の俺は①

連続の投稿です!

明日は出勤・登校という人が多いはず・・・。
皆これ読んで寝不足になってしまええええええええええええええええええええ!!


「あ、今僕の勘が囁いた」

 

「は?」

 

「優依もマミを助けにいけと囁いてるよ!」

 

「寝ぼけてんのか?ほむらが助けに行ってるから大丈夫だろ。そもそもマミちゃんを助けに行くよりも先に俺たちを助けてもらわないと生きて帰れないぞこれ」

 

 

ほむらに置いてけぼりにされた俺とシロべえは使い魔に見つからないように現在壁に立てかけてある大きなクッキーの物陰に隠れている。

 

ここで待っていればその内ほむらが魔女を倒してマミちゃんを助けてくれるだろう。

それまで俺たちは何もせずここで待機するのが得策だ。安全最優先。

 

それなのにシロべえが急に正気とは思えない事をほざいてくるから勘弁してほしい。

いつも通りの突拍子のない言動だが知らず知らずの内にため息がもれてしまった。

 

 

「優依太君、いつもそんな考えだから君はヘタレでダメな人間なんだ。そんなんじゃほむ杉君にマミかちゃんを取られてしまうよ。ここは腹を括って男を見せるんだ!(ダミ声)」

 

「いや俺、中身はともかく生物学上は女だから。てか、何で一般人の俺がベテラン魔法少女のマミちゃんを助けにいかなきゃなんないんだよ?ここはもう一人のベテランであるほむらの出番だろ。そもそも今からマミちゃんの所に向かったって間に合うわけないじゃん。道中使い魔に襲われて死ぬ未来しか見えないぞ!」

 

「大丈夫だよ優依太君。この僕に任せて!必ずや君をマミかちゃんの所まで導いてみせるよ!(ダミ声)」

 

「黙れ似非えもん。ふざけてる暇あったらここから無事生還出来る方法を考えろ」

 

 

無表情なのにドヤ顔に見える似非えもんに殺意に覚える。

ふとその顔を潰してしまえという俺の心の囁きが聞こえたが今は我慢だ。

 

・・何だか嫌な予感がする。

シロべえがふざける時は大概ロクな事にならないから。

 

それを予感させるように突然シロべえの背中にある卵みたいな模様の部分がパカッと蓋のように開く。

 

 

「気持ち悪!」

 

「失礼な!(ダミ声)」

 

 

そのあまりにも不気味な光景に思わず声に出してしまって怒られた。

だってマジで気持ち悪いんだぞ!?

 

身体に穴があるだけでも気持ち悪いのにシロべえの奴そこに尻尾を突っ込んでガサゴソ中身を弄ってて物凄く気持ち悪い!

 

四次元空間がそこに繋がってるのか?なんか嫌だな。

 

あそこから様々な(微妙な)秘密道具が出てくると思うと使う気が失せる。

あれ?そういえば背中の空間って確かグリーフシードを回収するところじゃなかったっけ?

 

・・マジでどうなってんのあの身体?

 

 

「『ご指定テレポーテーション』と『タイムストップウォッチ』~(ダミ声)」

 

 

シロべえの謎の身体構造に憶測が飛ぶ中、奴は背中の穴から取り出したであろうシールっぽいものと腕時計を上に掲げている。

 

どこからともなく某猫型ロボットが秘密道具を取り出す時のBGMが流れている気がするがそれは俺の幻聴だと思いたい。

 

それにしてもさっきからシロべえは某猫型ロボットのモノマネをしている。

 

理想だとは言ってたけどひょっとして便利な秘密道具の性能の方じゃなくてあの青タヌキのキャラを理想としているのだろうか?

 

 

「・・・・・・・」

 

 

シロえもんが道具を取り出したままじっと俺の方を見ている。

おそらく「何それ?」とか聞いてくるのを待ってるんだろうなぁ・・。やめろ。こっち見んな。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

正直取り出した道具の説明なんて聞きたくもないがシロべえは説明したいのかさっきからウズウズしてるし気持ち強めでガン見してきてうっとうしい。

 

・・仕方ないので聞いておくか。

どうせ今は隠れてるだけでやる事もないし。

 

 

「・・・・何それ?」

 

「おや?分からないのかい?それなら仕方ないな~。面倒だけど説明してあげよう!(ダミ声)」

 

 

前言撤回。やめておけば良かった。

発言がすこぶるウザくて蕁麻疹出そう。

 

今からでも却下出来るかな?

 

 

「じゃあまず『ご指定テレポーテーション』から説明するね!(ダミ声)」

 

 

俺が口を開くよりも先にシロべえが滑り込むように説明を始めた。

例のシールを俺が見やすいように頭の上に乗せている。

 

 

「このシールを身体に貼って行きたい場所を想像しつつ声に出して言えばテレポート出来る優れ物!これさえあればほむ杉君よりも先にマミかちゃんの所に辿りつける!(ダミ声)」

 

 

意気揚々と説明し、どさくさに紛れて俺にシールをペタッと貼ってくる。結構ベタつくなこれ。

 

 

「へー、じゃあそれで脱出しようか」

 

「言っとくけどこれは僕の使用許可がないと発動しないから逃げようとしても無駄だよ!(ダミ声)」

 

 

間髪入れずに俺のヘタレな考えを封殺される。

 

チッ。てっきりここから脱出するためのものかと思ったのにダメか。

 

 

「次に『タイムストップウォッチ』の説明するね!」

 

 

気を取り直したシロえもんが次に腕時計みたいなものを俺の腕に装着させる。

シロべえの顔そのものがデザインされた悪趣味なデザインだ。

よっぽど自己主張したいらしい。シロべえの性格がモロに出て速攻で廃棄したくなってくるなこれ。

 

 

「これはほむらの時間停止の魔法を模倣し僕が改良したものなんだ。これは僕の自慢の一つでね。意識だけ時間停止させることも可能なんだ!(ダミ声)」

 

「? どういう事だ?」

 

「ほむらの場合、時間停止してる前、もしくは発動最中に彼女に触れれば止まっていた時間は解除され、ほむらに触れられてる間だけなら動く事が出来る。便利な反面、弱点にもなる。これは君も知ってるよね?(ダミ声)」

 

「うん」

 

 

肯定するために首を縦に振る。

実際それでほむらがピンチになった事もあるしな。原作でもこの時間軸でも。

 

 

「だけどこの『タイムストップウォッチ』はそこを改良している。生物に触れれば時間停止は解除されるのは一緒だけどそれは身体だけで意識は時間停止したままさ(ダミ声)」

 

「・・・また妙な所に拘ったな・・」

 

「これなら時間停止の弱点でもある触れれば大丈夫の法則は崩れ去る!とても難しかったけど我ながら良い仕事が出来たと自負しているよ!(ダミ声)」

 

 

ハイテンションで説明するシロべえに呆れの視線を向ける。

 

そういえばマミちゃんから目を離した時は時間停止の装置を弄ってたって言ってたな。

まさかこれ作ってたんじゃないだろうか?

シロべえの妙な拘りはもはや災厄レベルになりつつある気がする。

 

 

「ただしこれはまだ試作品でね。急ピッチで作ったこともあってどこに欠陥があるか分からないんだ。例えば時間停止を発動してる途中で一部の対象が時間停止解除されちゃうとか(ダミ声)」

 

「いや何で俺の生死が関わってるのにそんな一か八かの物使うんだよ?ふざけんな!」

 

 

まさかの恐ろしい発言に待ったをかける。

 

この道具使うの聞いてる限りじゃかなりのリスキーじゃ?絶対やだ!

ていうか何だその嫌な例え!?そういうのをフラグって言うんだろうが!!

 

 

「仕方ないよ。君がマミかちゃんを救う手段なんて限られててこれくらいしか思いつかなかったんだもん(ダミ声)」

 

 

俺の内心なんてお構いなしなのかシロえもんは全く悪びれる様子がない。

 

 

「僕の考えた作戦はこうだ。まず優依太君が結界の最深部にテレポートをして、その直後に時間停止を発動させる。その間に君がマミかちゃんを魔女から遠ざけるんだ。後はほむ杉君が魔女を倒せば完了さ!(ダミ声)」

 

 

勝手に俺が行く前提で作戦内容を伝えてくる似非えもん。

もはや俺の意見なんて奴にはどうでもいい事らしく無視された。

 

作戦内容はそれらしいもので別に危なくなさそうだし構わないけど。

 

 

・・・ん?ちょっと待って?

 

 

「え?俺がマミちゃんを運ぶの?一人じゃ絶対無理だと思うだけど?」

 

 

思わず待ったを掛ける。

なんか聞いてる限りじゃ俺一人の作戦に聞こえるんですけど?

 

 

「この時間停止の中で活動出来るのは優依太君だけだ。だって君の因果が時間停止の対象外に設定しているからね。もし君以外に最初から時間停止が効いてない対象がいるとしたらそれは君の因果を持ってるはずさ。まあ、そんな奴いないだろうけどね!(ダミ声)」

 

「・・つまりそれって孤立無援って事ですか?」

 

「本当なら近くにいるだろうまどミとさや夫君の協力が得られればいいんだけどね。時間停止中は動けない。同じ時間停止の魔法が使えるほむ杉君ならもしかしたら動けるかもしれないけどそれはリスクの高い博打で期待しない方が良い。・・もう一人可能性があるとすればさっき現れた正体不明のジャイ杏だけど行動が読めない上にいるかどうかも分からないから除外だね(ダミ声)」

 

「・・・・・・」

 

「これは優依太君一人でやるしかない。貧弱な君の身体じゃマミかちゃんを運べるか心配だけど制限時間の十五分もあれば大丈夫だろう!(ダミ声)」

 

「いやいやいや!マジで触れても意識の時間停止解除出来ないの!?何でそんなややこしい事にしたんだよ!?」

 

「いつか君に絶対必要になると思ってね。これがあればストーカーに羽交い絞めにされても抜け出せるし、強姦魔に襲われても背後から反撃や拘束、逃亡することだって出来るんだ!(ダミ声)」

 

「そんな“いつか”は絶対来ないから安心しろ!ていうか、それは一体誰を想定して作られてんの!?」

 

「・・さあ?」

 

 

すっと目を逸らして地面を見つめている。

 

え?何?ひょっとして俺が想像してるよりも結構ヤバい奴なの?

 

 

「優依太君、君がマミかちゃんを救うんだ!(ダミ声)」

 

 

俺の疑惑を誤魔化すようにシロえもんが叫ぶ。

そう叫んだと同時に俺の身体に無許可で貼ったシールが熱を帯びて光り出した。

 

 

「え?ちょっと?俺行くなんて一言も言ってないんだけど!?」

 

「君が行くしかない!だってそのシール一人用だし、時間停止は僕にも有効なんだから!(ダミ声)」

 

「そこは普通、自分を除外するだろうが!?」

 

 

何で時間停止シロべえまで有効にしてんだよ!?

もうコイツの凝り性怖い!もはやマッドサイエンティストじゃねえか!

 

 

くそ!こうなったら腹を括るしかない!

パッと行ってマミちゃんを回収してパッと戻ってくればいいんだ!

 

覚悟を決めて脳内で救出のシュミレーションを行う。

 

 

「あ、言い忘れてたけどそのシール一回使用の使い捨てだから戻って来れないよ。危険だからマミを助けたらどこかに隠れるんだよ」

 

 

「それを早く言えええええええええええええええ!!」

 

 

腹から出た声は結界内で響き渡り、近くにいた使い魔が「ピィ!」と驚いて逃げてしまったがそんな事気にならない。

 

一番肝心な事を今更言われた絶望感がヤバい。

 

という事は俺はあの死のトラウマスポットに放り出されるって事!?

あのお菓子な空間であのニヤリと笑ったトラウマともしかしたらエンカウントするって事か!?ふざけんな!死ぬわ!

 

さてはシロべえ先にこの事言ったら俺が行かないと踏んで黙ってやがったな!?

 

お前の予想通りだよ!知ってたら絶対行かないよ!!

しかも何でそこだけ元のトーンで言ったんだ!?

どうせなら最後までキャラ貫けよ!

 

 

「くそ!」

 

 

すぐさま逃げ出したかったがあっという間に身体が光に包まれていき逃げられない事を悟る。

せめてシロべえを一発殴ろうと拳を振るも空を切ってしまった。もう光が眩しくて目を開けていられない。

 

 

「向こうに着いたらすぐに時間停止が発動されるからその間にマミかちゃんを安全な場所まで運ぶんだ!大丈夫!君なら出来る!幸運を祈るよ優依太君!(ダミ声)」

 

 

やかましいわアホ!

 

 

身体を引っ張られる感覚に腹いせ紛れに抵抗するも虚しい努力で終わってしまいそのまま引っ張られていく。

 

抵抗をやめ、そのまま身を任ているとまばゆい光が徐々に消えていく。

ようやくきちんと目を開けられるようになったので開けてみるとそこには正直見たくもなかったお菓子で彩られた世界が広がっていた。

 

認めたくないがここは最深部で間違いない。だとすればどこかにマミちゃんがいるはず!

 

 

 

 

! マミちゃんいた!探さなくてもすぐそこに!

 

!? ひいいいいいいいいいいいいいいい!

トラウマさんもしっかりいるじゃないですか!!

 

 

 

結界の中央部にマミちゃんはいたので探す必要すらない。

しかしすぐそばにあの「俺のトラウマ」もいらっしゃったため慌てて近くのお菓子の物陰に隠れる。少し経って様子を伺うも動く様子がない。

 

周りの様子を気にしつつ腕に付けてある悪趣味な時計を見てみる。

起動中と表示されておりしっかり時間停止が発動してるのか俺以外の全てはピクリとも動かない。

 

悪趣味シロべえ腕時計の口の中に数字がカウントダウン式で徐々に減りつつある。

これが時間停止の発動目安らしい。おそらくゼロになったら解除されるだろう。

 

 

腕時計の仕組みをしっかり確認した後、そっと隠れていたお菓子の物陰から出て様子を見るとマミちゃんは魔法少女に変身しており、「俺のトラウマ」さんもマジなトラウマの黒い第二形態を出している。

 

※ややこしいし「元なぎさちゃん」とでも呼んでおこう。

 

 

マミちゃんと元なぎさちゃんの距離が近い。ていうかほぼ距離ゼロと言ってもいい。

光景から察するにどうやらマミる一歩手前だったようだ。

 

 

うおおおおおおおおおおおおお!

危ねえええええええええええええええええ!!

 

 

シロべえの勘って侮れないな!この距離だとほむらが間に合うとは思えないし。

 

だって元なぎさちゃん大きな口開けてるし、マミちゃんだってその大きな口に向かって駆けてるみたいで・・。

 

え・・・・・・?

 

ていうか・・・え・・・?マミちゃん何してんの?

何で自分からマミりに行ってんの!?

 

 

俺の目に映る光景は今にも元なぎさちゃんにマミられそうになっているマミちゃん。

 

何故かマミちゃんは武器であるマスケット銃を持っていないどころか自分から元なぎさちゃんに近づいたように見える。

 

それはまるで自分からマミって下さい・・・と。

 

今の光景は原作通り不意を突かれてマミられそうになってるようには思えない。

 

ひょっとしてマミちゃん人生が辛くなって自らマミられに行ったのか?

最近何だか様子がおかしかったし・・・。

 

 

・・・・・・・・・・。

 

 

えええええええええええええええええええ!?

 

 

嘘だろマミちゃん!?とうとう人生が嫌になったのか!?

豆腐メンタルだと思ってたけどこれはいよいよヤバくなってきたな!

ここから脱出したらカウンセリングに連れて行こう!

とてもじゃないけど俺の手には負えない!

 

 

と、ともかく今はマミちゃんを連れて隠れなきゃ!

 

時間制限もあるし考えてる暇もない。

ちらっと腕時計を確認して慎重にマミちゃんの方に近づくも違和感に気づく。

 

 

ん?マミちゃん手に何か握ってる?

 

 

彼女が伸ばした手にあるそれは無機質な人型の人形でなんだか見覚えがある。どこで見たんだ?

必死に思い出そうと頭を捻っているとあることを思い出した。

 

 

! あ!これ「身代わり君」だ!あの時はお世話になりました!

 

 

そうマミちゃんが握っているのはほむらのピンチの時に使ったあの「身代わり君」だった。懐かしい。

 

 

・・何でマミちゃんがそんなもの持ってんの?

 

 

マジマジとマミちゃんの持っている身代わり君を見るも前に見た時と違って胸のボタンがあった所に穴が空いてあった。

 

 

うわぁ・・胸の穴を見るといつぞやの俺(身代わり君)串刺し事件を思いだすな。

 

あれはマジでトラウマになってしまって今でもたまに夢で見る程だ。

そういえば結局あの俺(身代わり君)は串刺しになったあとどうなったのだろうか?

魔女の結界と一緒に消えたと思うが実は今マミちゃんが握ってるそれと同一のものだったりして・・?

 

・・・なんてな。

 

は!こんなくだらない事考えてる場合じゃない!!

早くマミちゃんをここから連れ出して隠れなきゃ!!

 

 

慌ててマミちゃんの肩に触れると時間停止が解除されたのかダラリと力なく俺の方に倒れこんできた。

 

 

「うぉ!?お、おも・・!?」

 

 

予想以上の重量だったため支えきれずマミちゃん共々地面に倒れこむ。

天国のような柔らかさと地獄のような圧が俺に襲い掛かってくるが命からがら這いつくばって身体をそこから抜け出すことに成功する。

 

 

「はあはあ・・死ぬかと思った・・!」

 

 

倒れ込んで息を整える。

チラッと横目を向けると俺の傍には倒れたまま動かないマミちゃんがいる。

 

ホント何で意識だけ時間を停止させちゃうんだよ!?

ほむらの魔法と同じく触れれば元に戻るようにすれば良かったじゃん!

 

 

グチグチ不満を垂れるも発動してしまった以上は仕方がない。

息が整ったので渋々マミちゃんの腹回りに腕を回して近くのお菓子の物陰までずるずると引きずりながら運んでいく。

 

回した腹の感触は思ったよりもプ二プ二していたがこれは本人に言わない方が良いだろう。

じゃないと俺の頬に真っ赤な紅葉が咲きそうだ。

 

 

「はあ・・はあ・・よいしょ・・う!ちょっと休憩!」

 

 

呼吸がかなり荒くなってきて体力の限界が近い事を悟ったのですぐに立ち止まって体力の回復を待つ。

後どれくらい時間が残っているのか確認するため腕時計を見ると表示された数字は後、九分になっていた。

 

これは少し急いだほうが良いだろう。

 

再び腕をマミちゃんに回して引きずっていく。

よし!もうすぐ物陰に到着しそうだ!

 

 

 

 

 

「それにしても元なぎさちゃん思ったより大きいな。・・・・ん?」

 

 

運んでる最中に何気なく見上げた第二形態の元なぎさちゃんをに違和感を感じる。

 

 

何ていうか・・さっき、まばたきしなかった?

気のせい・・気のせいだよね?

 

 

恐る恐るもう一度見上げると目が俺たちのいる方向に顔を向けた気がする。

 

 

いやいやいやいやいやいやいや!

気のせい!絶対気のせい!!

今感じている恐怖が俺にそんな幻覚を見せているだけなんだ!

 

 

「そうだ幻覚だ。シロべえが作った道具なんだから欠陥なんてあるわけ・・」

 

 

最後にもう一度確認するため見上げる。

 

 

“!”

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

元なぎさちゃんがグッと俺の方に身体を向けてニンマリ笑いながら舌なめずりをしていた。

 

 

 

シロえもおおおおおおおおおおおおん!!

 

 

 

 

欠陥品です!

これとんでもない欠陥品ですうううううううううううううううう!!

 

途中で時間停止解除されるかもとか言ってたと思うけどよりにもよって元なぎさちゃんの時間が動いちゃってますよおおおおおおおおおおお!?

 

あわわわわわわわわわ!どうしよう!?

 

慌てて腕時計を見ると時間停止の解除まであと七分ある。

 

その間俺はマミちゃんを抱えたまま元なぎさちゃんから逃げなければならない。

しかも時間が止まってるから誰も動かないし俺が触れても意識は止まったままだから助けも期待出来ない。

 

動けるのは俺と元なぎさちゃんだけ。

ひょっとしたら途中で誰かの時間が戻るかもしれないが期待出来ない。

 

つまり今ここは逃げ場のない元なぎさちゃんのやりたい放題な狩り場という訳だ。

 

何というクソゲー!!なんだこの鬼畜な難易度は!?

こちとらマミちゃん抱えたままだというのに!

 

 

最悪だああああああああああああああああああああああああ!!

 

 

「!」

 

 

げ!もう目の前まで来てる!逃げる事すら出来なかった!

 

 

至近距離でニヤリと笑う元なぎさちゃんの大きな目に俺が映った。

元なぎさちゃんが大きく口を開いてそのまま俺たちに覆いかぶさろうとしている。

 

 

いやああああああああああああああああああ!!

マミらないでええええええええええええええ!!




優依ちゃん(シロえもんのせいで)大ピンチ!
ホントロクでもないものばかり作りますね彼w


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59話 その頃の俺は②

前回までのあらすじ

シロえもんの力を借りてマミかちゃんの所にたどり着いた優依太君。
しかしそこには恐ろしい敵が待ちかまえており絶体絶命のピンチ!
果たして優依太君はマミかちゃんを救う事が出来るのか!?



「え・・?」

 

 

目の前で大きな口を開けていてマミろうとしていた元なぎさちゃんが何故か遠く離れた壁に激突している。

 

 

「間に合った!」

 

 

何が起こったのか皆目見当つかなかったが俺の隣でカツンと何か金属を叩き付けたような音が響く。

 

 

「うわ!?」

 

 

何だろうと顔を横に向けるよりも先に腕を引っ張られる。

その際にマミちゃんを離してしまい時間停止が発動して地面に倒れる寸前で停止した状態で固まっている。

抵抗虚しく何かにすっぽり俺の身体を覆われる。感触は柔らかい・・?

正体を確かめようと顔を上げようとするも頭を押さえつけられているから視界が真っ黒で何も見えない。

 

 

「???」

 

「無事で良かった。優依、もう大丈夫だぞ」

 

「・・へ? ぐえ!」

 

 

とっても聞き覚えのある声にポケーっと呆けるも徐々にギューとキツく身体を圧迫されて呼吸が苦しくなり生命の危機を感じ始める。

 

苦しい!酸素!酸素!

 

 

「ぷは!死ぬかと思った!・・ん?」

 

 

なんとか酸素を求めて顔だけ拘束から抜け出し俺を窒息死寸前まで追い詰めた犯人の正体を見るため目を開けた。

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

とっても見覚えのあるその顔と至近距離で目が合う。

相変わらず赤い瞳がよくお似合いで。

 

距離が近いから息がかかってくすぐったい。

もう少し離れてくれないと一歩間違えればマウストゥマウスしそうだ。

 

 

そう、俺を助けてくれた者の名は・・・・!

 

 

 

 

「ジャイ杏!」

 

 

 

「あぁ?」

 

 

 

鋭い目で睨まれてしまった。超おっかない。

 

 

そんなんだから俺やシロえもんに「ジャイ杏」って呼ばれるんだろうが。

 

凄まじい眼力を至近距離でモロに受けてしまい怖くて逃げだしたいけどジャイ杏こと佐倉杏子はガッチリ俺を抱きしめていて全く離れる素振りがない。

 

何でだ?マジで怒ってる?

ていうか、前に助けてくれた時もこうして抱きしめられた気がするけど俺の気のせいか?

取りあえず今は怒りを鎮めなくては!そのためには怖いけど話しかけるしかない!

現に今も凄いプレッシャーを感じるし!頑張れ俺!

 

 

「杏、子?えっと・・さっき助けてくれた方の・・?」

 

 

目の前にいるのが俺の知ってる杏子かドッペルゲンガー的な存在の杏子(?)か知りたかったので聞いてみる。俺の勘は後者だと囁いているけど果たしてどっちだ。

 

 

「そうだよ。・・たく、また危ない目に遭いやがって」

 

 

この反応から目の前にいるのはさっき「セーラー蜘蛛戦士」から俺の助けてくれた杏子(?)だというのは理解出来たけどやっぱり俺の知ってる普段の彼女に似つかわしくない我慢強さに違和感を覚える。

 

 

「はぁ・・こんな事ならあの時ロープで括りつけておけば良かったか?今度からそうしてやろうか?」

 

「いや、それは勘弁!」

 

 

やれやれといった様子でとんでもない事を仰られるので激しく両手を振って全力で拒否の意思を表現しておく。

だって目が本気と書いてマジだもの!

 

 

「だったら次はもっと気を付けろ。これでもアタシなりに譲歩してるんだから。・・本当は目の届く場所にアンタを閉じ込めておきたいけどそんな事出来ないしさ」

 

 

そんなガチトーンで不穏な事言わないで欲しい。

心配してくれてるのは正直ありがたいが本気で実行されたらたまったもんじゃないから。

 

ていうか、

 

 

「・・何で動けんの?一応まだ時間停止は起動中なのに・・」

 

 

この不穏な雰囲気から話題を逸らすために振ってみたが改めて考えてみると結構大事な事に今更気づいた。

 

念のために最悪のデザインセンスな腕時計を確認するも起動中と表示されており、まだ解除まで五分はある。

つまり俺以外は時間停止されてるはずなのに杏子(?)は平然と動いている。何故だ?

 

少し考えてひょっとして俺が触れてるから時間が動いてるのかもと思い、試しに彼女から離れてみるも平然と俺を眺めながら腰に手を当てている。

 

さっき杏子(?)に引っ張られて、手を離してしまったマミちゃんは地面に倒れる寸前の構図で空中で静止しているというのにこれはどういう事だ?

 

! ひょっとして奇跡のポンコツ具合で杏子(?)には効かなかったとか?

元なぎさちゃんみたいに?

 

だとしたらありがたい!

 

これで俺のマミる可能性はなくなったに等しいというものだ!

良かった!天(邪神除く)は俺を見捨てていなかったんだな!

 

ありがとう感謝します!

 

 

「アタシにそれは通用しないよ」

 

「え?」

 

 

ひたすら天に感謝の祈りを捧げていたから最初杏子(?)が言っている意味が分からなくて聞き返すも、視線がぶっちゃけ見て欲しくない黒歴史な腕時計に注がれているので「それ」を指しているのものが嫌でも理解出来た。

 

 

「理由は話せないけどそのダサい腕時計の時間停止は全くアタシには効かないのさ」

 

「そ、そっか」

 

 

戸惑いながらも頷いておく。

 

何でこの目の前にいる杏子(?)に時間停止は通用しないのか全然分からない。

 

一つだけ分かる事はやっぱり第三者から見てもこの腕時計はセンスないという事だけだ。

早急に外したくなってきたなぁ。

 

 

 

 

あれ・・・?

 

 

 

そういえばこの腕時計、シロべえが言ってたけど確か時間停止の対象外は俺の因果だと言っていた。俺以外に効かない奴がいるとしたらそいつは俺の因果を持ってるって・・。

 

 

 

その理屈で言えば時間停止が通用しないこの杏子(?)は俺の因果を持ってるって事になるんじゃ・・?

 

 

 

 

「貴女は本当に誰ですか!?」

 

 

 

 

たまらず俺は叫んでしまったが膨らんだ恐怖を押し戻すことが出来ない。

 

 

人間、得体の知れない存在に出会うと恐怖を覚えるって本当なんだね!

今日一番の恐怖体験だ!まさかあのなぎさちゃんを超えるなんて!

 

 

「急になんだ?佐倉杏子だっつんてんだろ。何回言わせんだよ」

 

 

「またか」という呆れの視線が突き刺さるもますます得体の知れない存在と化していく疑惑の杏子(?)からすぐに後ずさって距離を取る。

 

マジでこの杏子(?)何者!?

もはや魔法少女すら越えてる気がするぞ!実は宇宙人だったりしない!?

 

 

「はあ。・・まあ勝手に怖がってくれても良いけど今は時間がないからそろそろ行くぞ」

 

「! うわ!?」

 

 

距離を離したはずなのに目の前に赤色が過り視界が反転して身体が宙に浮く感覚がする。

 

 

「え?ええ?」

 

「口閉じないと舌噛むぞ?」

 

 

よく見ると俺、杏子(?)にお姫様抱っこされてるうううううううううう!?

 

驚く俺を安心させるように優しく微笑んでくれるがぶっちゃけ脳内パニックを起こしてる俺にとっては全く安心出来ない。むしろ恐怖が倍増するだけだ。

 

混乱してる間に景色が少しずつ変わっていく。いや、俺を抱えた杏子(?)が移動してる。どんどん出口に向かっている気がする。

 

 

「ちょ、杏子どこ行くの!?」

 

「どこって、優依をここから避難させるんだよ。危ないからな」

 

 

しれっとそう言い切ってスタスタ歩いている。その足取りに迷いは一切感じさせない。

 

 

「あの!それはありがたいけどせっかく時間も止まってる事だし魔女(元なぎさちゃんには悪いけど)倒してよ!そうじゃないとすぐにでも襲い掛かってくるよ!」

 

 

慌てて周囲の様子を見る。

 

すっかり忘れてたけどここはお菓子の魔女もとい元なぎさちゃんの結界の中だ。

まさかの時間停止が解除され動き出すなんて洒落にならん!マジでシロえもん殺す!

そういえばマミられそうになった直前、真横に吹っ飛んでた気がするけど杏子(?)がやったのだろうか?

 

 

「・・て、あれ?動かない・・?」

 

 

探さなくても簡単に元なぎさちゃんは見つかった。

 

吹っ飛んだ方向にいるにはいたが壁に激突したままで元なぎさちゃんはピクピクと黒い大きな身体を小刻みに動かしているだけで起き上がる様子がない。余程強い衝撃を受けたみたいだ。

 

 

「さっきの攻撃で気絶させた。あの程度の魔女ならアタシの敵じゃないし」

 

 

何ともない風に言ってのける頭上の杏子(?)に畏怖の念を込めて見上げる。

本当に何とも思っていないのか涼しい表情だ。

 

 

「だったら今の内に倒しとこうよ!絶好のチャンスじゃん!!」

 

「悪いけどアタシが優先するのは優依の安否だ。いくらアンタの頼みとはいえ魔女を倒すなんて二の次さ。どうせこの後すぐやって来るほむらが倒すだろ?勝つって分かってるのに戦うなんて面倒なだけだし、他の連中、特にインキュベーターに姿を見られるのはちょっとまずいんだよね。目の前で魔女を倒したりなんてしたら怪しまれそうだし」

 

「そ、そうかもしれないけど!常識人枠の君までまどか最優先のほむらみたいな発言しないでくれ!魔女を倒さなくてもいいからせめてマミちゃんをどこかに避難させよう!このままじゃマミっちゃうし!」

 

「大丈夫だろ。不意を突かれなきゃマミは強いし、仮にもアタシの師匠だ」

 

「今は不意突かれてマミられそうになってるから!お願い杏子!せめてマミちゃんを避難させるの手伝って!」

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

「・・ダメ?」

 

 

 

「うっ・・」

 

 

半ば本気で目をうるうるしながら見上げていると頬を赤く染めてたじろぐ杏子(?)の顔が見えた。お、これはイケるか?

 

 

「はあ・・・しょうがねえな。今回だけだぞ」

 

「やった!杏子ありがとう!」

 

 

諦めた表情で折れてくれた杏子(?)の首にギュッと抱き着いて全身で感謝を表現。

 

 

「どういたしまして」

 

「!?」

 

 

これが俺の知ってる杏子なら慌てふためくはずなのに目の前のコイツは更に俺を抱き寄せて密着度を上げてきた。

ついでに俺の頭頂部付近で奴の吐息を間近に感じるんだけど何やってんのコイツ?

 

 

「・・優依、マミを連れてくるから一旦離してくれるかい?」

 

 

「え?うん」

 

 

首から手を離すと地面に優しく降ろしてくれた。

そのままマミちゃんがいる所に駆けていく。

 

 

「ふぅ・・」

 

 

安心して一気に脱力感に襲われ目線を下に向けるもこれで一安心だ。

 

良かった。これでマミちゃんマミらなくて済みそうだ。

 

 

 

 

-ガンッ-

 

 

 

 

「!? マミちゃん!?」

 

 

何か金属をぶつけた音がして慌てて顔を上げる。

 

ダランと動かないマミちゃんを杏子(?)は背中の服を掴んでずるずる引きずりながらこっちに向かっているのが見える。

肩にかけているいつの間にか取り出していた槍の柄が心なしか赤い液体がついてる気がするのは俺の幻覚?

何度も目を擦ってる内に俺の所まで運ばれたマミちゃんはよく見ると頭部には柄と同じ赤い液体が付着していた・・・。

 

 

「連れてきたぞ優依」

 

「・・・・・・・」

 

「優依?」

 

 

 

「人殺しいいいいいいいいいいいいいいいい!完全に人殺しだよお前!!」

 

 

 

「あん?気絶させただけだ。マミに見つかると色々面倒だしさ。そもそもアタシら魔法少女はソウルジェムさえ無事なら死なないし」

 

 

全く悪びれた様子のない態度でマミちゃんを首根っこを掴んでいる。

 

完全に物扱いですよ!仮にでも君の師匠なのに!

 

 

「それ自白したようなもんだよ!?俺の想像通りでいいの!?君が槍の柄でマミちゃんの頭を殴ったって事でいいの!?凄い音したけど何か恨みでもあんの!?」

 

 

音と怪我の状態から渾身の一撃をお見舞いしたように思えるけどそこまでやる必要あるか?

私怨が混じってたとしか思えないぞ。

 

 

「まあ、このマミは優依を危ない目に遭わせてたしな。それのお仕置きも少しあるが・・。で、どうするんだ?マミがいなくなってからほむらが来るまでの時間、まどかとさやかが危ないぞ?」

 

「それもあるけど・・げ!」

 

 

さり気なく話題を変えられた事に突っ込もうとしたけど、ズズッと何かが這いずる音がしたと思ったら元なぎさちゃん復活してて俺たちを見下ろしている。

 

相変わらずにっこり笑って舌なめずりをしていらっしゃった。

 

 

 

「いやああああああああああああああ!トラウマ復活したああああああああああああああああ!・・ひえ!?」

 

 

 

叫んでて見過ごしたけどいつの間にかなぎさちゃんが地面に叩き付けられてる。

 

杏子(?)の周囲に槍が鎖を纏って宙に浮いている事から察するにどうやらまた目で追いつけない程の速さで攻撃したらしい。そんなに強いならそのまま倒してくれても良くないか?

 

 

「もうすぐ時間が元に戻る。優依!仕方ねえからお前が持ってる身代わり人形を出せ!囮に使うぞ!」

 

「え!? はい!」

 

 

この際、杏子(?)がどうして身代わり君の事を知っているかなんてツッコまない。

すぐに隠し持っていた新しい身代わり君を取り出して何を思ったのかマミちゃんの指でボタンを押させた。

あっという間に身代わり君はマミちゃん(魔法少女ver)に姿を変える。

 

 

「ごめん!マミちゃん(身代わり君)!マミちゃんの代わりにマミられて!」

 

 

テンパってる俺って本当に何するか分からない。

 

何気にえげつない事を命令してしまい後悔に苛まれるもマミちゃん(身代わり君)はコクンと頷いて元なぎさちゃんの方に走り出してしまった。元なぎさちゃんの方もマミちゃん(身代わり君)に狙いを定めたのか大きく口を開いて向かっている。

 

グロイ場面なんて見たくない俺は慌てて引き留めようとするも腰に何かが巻き付いてそのまま後ろに引っ張れ宙を舞う。

 

 

 

 

「よし、ここに隠れてやり過ごすぞ。仮に襲ってきても守ってやるけど大人しくしとけよ優依」

 

 

 

「はーい・・・」

 

 

杏子(?)に連行され気づけば隅っこにあったお菓子の物陰に座っていた。

傍には本物のマミちゃん(仮死状態)がうつ伏せで倒れている。

気を失っているとはいえ、ピクリとも動かないのは心配だ。

さっきの一撃が致命傷になってなきゃいいけど。まさか死んでないよね・・?

 

 

「・・・・・」

 

 

それにしても杏子(?)さん。

隠れるのは大賛成だけどスペース充分あるんだからこんなに密着しなくてもよくないですか?

お互いの距離ゼロよ?しかもご丁寧に人の肩に手を回して更に密着度増してるし。

 

 

「解除まであとどれくらいだ?」

 

「んー・・あと一分かな?もうすぐ解除されるよ」

 

「そうか」

 

 

腕につけてある時計は六十秒を切ってカウントダウンが始まっている。

こんな緊迫した雰囲気の中でなんて嫌な仕掛けなんだ。プレッシャーに弱い俺にとってはテンパる要因にしかならないというのに。

 

ふむ・・まだ解除まで時間があるのか。

 

 

「・・あのさ」

 

「ん?何だ?」

 

 

杏子(?)が俺の方に顔を向けてきた。近い近い。

まだ時間もあるし聞きたいことがあったからこの際聞いてみようと思ったけどやりづらいな。

 

 

「さっきは行けないって言ってたけど結局ここに来て俺を助けてくれたじゃん。それなら先回りして魔女を倒す事も出来たんじゃないの?さっきの実力も圧倒的だったし。もう相変わらずツンデレさんだなぁ杏ちゃんは!」

 

 

そうなのだ。俺が思った疑問。

この杏子(?)はどうして今更現れた?

 

これだけ強くて前の会話からマミる未来の事も知ってる素振りを見せていた。

それなら先に結界に侵入して魔女を倒す事だって出来たはず。

どうしてそれをしなかったのか不思議で仕方がない。

 

 

俺の質問が気に入らなかったのかフンと鼻を鳴らして不機嫌そうな顔をしている。やべ、怒らせた?

 

 

「誰が杏ちゃんだ。勘違いすんな。そもそもここに来たのは優依が危ない目に遭ってたからで本当に来るつもりじゃなかったんだ。お前がいなきゃ誰が行くかよこんな場所」

 

「えー・・・・」

 

「あと今後のために言っとくけどアタシは優依が近くにいないとこっちに来れねえ上に長時間留まれない。状況によっては助けたくても助けられないかもしれないんだ。今回だって結構無理して来たんだからな」

 

「え?そうなの?」

 

 

意外な事実に目を丸くする。

 

どうしてそんなややこしいハンデがあるのか知らないけど先回りしなかった理由は分かった。

それとピンチになったら杏子(?)セコムに頼ればいいやと思っていた俺の浅はかさも。

 

つまり絶対助けにきてくれるわけじゃないって事か。

助けを求めながら死ぬとかやだ!今度は気をつけよう。

てか、危ない目に遭わないようにしよう!

 

て、そんな事考えてる場合じゃない!

少しでも情報を入手しておかないと!

最悪コイツが敵か味方かくらいはハッキリさせておこう!

 

 

「あのさ・・来れない理由を聞いてもいい?というより杏ちゃんってぶっちゃけ敵?味方?何者?」

 

 

何だこの質問?俺のバカ!

もっとマシな質問の仕方があっただろうが!

どんだけテンパってんの!?

 

 

怒らせたかもと思い恐る恐る杏子(?)を見るが意外にも怒っておらず申し訳なさそうにしてた。

 

 

「悪いけどそれは言えない。事実を話したらどういう影響が出るか分かったもんじゃないからな。ごめん。ただ一つ言えるのはアタシは優依だけの味方だ。お前を悲しませる奴はみんな許さないし傷つける奴は全部叩き潰してやる」

 

「いえ!それだけ聞ければ充分です!むしろそれ以上の情報はこちらから願い下げです!ありがとうございました!」

 

 

マジな目と真剣な声色、洒落にならないオーラを感じて慌てて頭を下げておく。

 

これ以上触れたら駄目な領域だ!

奥まで踏み込んだら戻らなくなりそうな気がするぞ!

 

頭の片隅で好奇心は猫を殺すという諺が浮かぶ。

 

頭を下げている間にガチリという機械音が腕時計から響き、

 

 

ついに長いようで短かった時間停止が解除された。

 

 

皆の時間はこれで動き出し、決着の時が訪れる。

 

 

囮にマミちゃん(身代わり君)がいるしマミる予定は・・・。

 

 

 

 

 

 

げ!ちょっと待って!

本人じゃないけどこのまま行けばどのみちマミる現場が出来上がるんじゃ・・?

 

 

 

 

 

 

「ひ!」

 

 

 

「二人とも!願い事を決めるんだ!」

 

 

 

やっぱりいいいいいいいいいいいいいいい!!

 

 

背後からまどかかさやかの小さな悲鳴とキュゥべえの営業トークが聞こえてくる。

そして何かが何かををグチャグチャと咀嚼する音。

 

どう考えても絶賛マミる(身代わり君)進行中のようだ。

 

 

うぅ・・怖い。でも怖いもの見たさもあるし覗いてみようかな・・?

 

 

学習しない俺は好奇心に負けて恐る恐る現在進行形で続いているであろうマミる光景を見ようとするも、

 

 

 

「あれ?・・杏ちゃん?」

 

 

 

≪ほら、これで大丈夫だろ?≫

 

 

何も聞こえない。何も見えない・・?

 

 

俺の耳にそっと何かで塞がれて一切音がしなくなり、そのまま引き寄せられて何か柔らかいものに顔をダイブさせられた。

 

 

杏子(?)の声が頭に響いて来たから、奴の仕業なのは間違いない。

大方手で耳をふさいでいるのだろう。

 

ならば、視界いっぱいに広がる赤と顔に当たっている柔らかい膨らみを察するに・・・これは!

 

 

「~~~~~~////!!」

 

≪暴れんな。大人しくしてねえと見つかっちまうだろ≫

 

 

俺の今の状況を察して何とか抜け出そうともがくもガッチリ顔を掴まれ膨らみに押さえつけられている。

 

逃げられない!どうしよう!?

幸せだけど俺セクハラで訴えられないよね!?

 

 

≪しばらくこうしててやるから安心しろ≫

 

 

何をどう安心すればいいのか分からない。

取りあえず早く離してくれ!てか俺、実はマミる見たいんですけど!

 

 

「どうやら終わったみたいだな」

 

「・・へ?」

 

 

バッと離され、訳が分からずぐいっと顔を向けられた先には真っ赤な液体が地面に広がっていた。

どうやらマミる(身代わり君)は終わったらしい。

 

 

「・・・・・・・」

 

「良かった。偽物とはいえお前の綺麗な目にあんな光景を見せるわけにはいかないからな」

 

 

茫然とする俺の頭を優しく撫でる杏子(?)の手が何故かグサッと来る。

 

どうせ見たって後悔したんだろうけどさ・・うん。

 

 

過保護だねこの人・・・。

 

 

マミちゃん(身代わり君)を捕食したらしい元なぎさちゃんは今度はまどかとさやかがいる方を見ている。

二人は抱き合って震えており、その隙をついて鬼畜営業マンが尚も営業を続けている。

 

 

これはヤバいか・・?ほむらはまだ?

 

 

「その必要はないわ」

 

 

 

「あ、来た」

 

 

一際響く声で結界全体に広がり全員が最深部にある一つの穴を注視している。

 

 

「こいつを倒すのは私」

 

 

出てきたのは予想通りやっと到着したほむら。

宙に一回転して着地する姿は満点をあげたい。

 

 

シロべえの言っていた事は正しかったようだ。

ほむらはマミちゃん救出に間に合わなかった。もしあいつが俺をここに強制的にテレポートさせなかったらと思うと恐ろしい。

 

この後は原作通り、ほむらは時間停止の魔法を発動させて元なぎさちゃんを翻弄。

まんまと罠に引っかかった元なぎさちゃんは爆弾を食べている。

 

 

 

「終わったな」

 

「うん、終わったね」

 

 

元なぎさちゃんの口の中で黒い煙が立ち込める。

この後、連続で爆発して倒されるのも時間の問題だろう。

 

ごめんよなぎさちゃん!

俺は君を助ける事が出来なかったけどいつか君を救ってくれる女神様が現れるから希望は捨てちゃ駄目だよ!

だから間違っても夢枕に立って恨み言とか言わないでね!

 

 

「それじゃアタシは帰るよ」

 

「え・・帰るの?」

 

「あぁ、決着はもう着いたし」

 

 

杏子(?)が立ち上がって俺の頭を撫でている。

人を子供かなんかと勘違いしてるんじゃないだろうか?俺によく触ってくるし、なんか過保護だし。

 

 

「あ、それとここから出たらシロべえの馬鹿に伝えとけ。ぶっ殺すってな」

 

「はい!」

 

 

怨念のこもった声に思わず高速で首を縦に振る。

よっぽどシロべえに怒っているらしいのか顔が恐ろしい事になっている。いいぞ、もっとやれ。

 

あ、また助けてもらえるようにお礼言っておかないと!

 

 

「また助けてくれてありがとう!これからも頼りにしてるよ!」

 

 

にっこり営業スマイル!これくらいお手のものだ。

 

 

「あんまり頼りにすんなよ?いつでも助けにいけるとは限らねえんだから」

 

「分かってるよ!それでも杏ちゃんが来てくれると嬉しいよ!(守ってくれるから)」

 

「~~~ああもう!可愛すぎんだよお前は!」

 

「?」

 

顔を真っ赤にした杏子(?)が俺の肩を掴みグイッと自分側に俺の引き寄せる。至近距離に杏子(?)の顔がある。

 

 

「ひゃあ!?」

 

 

直後に頬に柔らかいものが当たり、慌てて杏子(?)を見ると悪戯が成功したみたいな笑顔を浮かべていた。

 

 

「本当はこっちにやりたかったんだけどな」

 

「????」

 

 

混乱する俺の唇に親指を這わせている。

何度も爆発音が聞こえたいたはずなのに今は全くそんな事が気にならない。

てか、聞こえない。周りに音が存在しないみたいだ。

 

 

「あんまり可愛い事すると歯止めが効かないから自重しろよ?」

 

 

耳元でそう囁かれたと同時に空間が歪み元の病院に戻っていたが杏子(?)の姿は消えていた。

いるのは俺と気を失ったマミちゃんだけ。また杏子(?)は煙のようにいなくなっている。

 

 

 

「・・・修羅場ってんな」

 

 

考えても仕方ない。

 

状況整理とまどか達の居場所を探すため周囲を見渡していたが遠くでさやかの怒声が聞こえたので俺がいる木々の先を覗いてみると丁度三人を発見した。

 

さやかがほむらの襟元を掴んで泣きながら叫んでいるという中々修羅場っぷりだ。

どうやら向こうからはこちらが死角になっているらしく俺たちに気づいていない。

 

ここは俺が声を掛けた方が良いだろう。

 

 

 

 

 

「優依ちゃん・・?」

 

 

 

 

 

そう思って足を踏み出した矢先、下から俺を呼ぶ声が聞こえて顔をそちらに向ける。

 

 

「あ、マミちゃん気づいた?良かったー。マジで死んだかと、はむ!?」

 

「本当に優依ちゃんなのね?」

 

 

死の疑惑があったマミちゃんが目を覚ましたのは良かったけど突然俺の頬をサンドしてムニムニと挟みながら触れている。

今の俺の顔はマヌケな表情でとても見れたものじゃないだろう。

 

俺はどうしてこんな事に?

マミちゃん頭殴られておかしくなったのか?

 

 

「優依ちゃぁん・・大丈夫?怪我はない・・?」

 

「マミちゃん!?ぐは!?」

 

 

ポロポロと目から涙を落とし、力の限り俺を抱きしめる。

尋常ない力に背骨がミシミシいっている。これはさっきの杏子(?)の比じゃない!

 

 

「大丈夫!大丈夫だから!でも急いで離してくれないと大丈夫じゃないかも!もしくは抱きしめる力を緩めるのでも可!」

 

「嫌よ!こうやって優依ちゃんを抱きしめるのなんて久しぶりだもの!ずっとこうしていたいわ・・!」

 

「せめてもう少し力を抜いて!俺死んじゃう!」

 

 

非常に柔らかい質量に挟まれ心地よいが拘束力が笑えない。

 

 

マミちゃんは俺を殺す気かもしれない!

本人の説得は不可能みたいだ!自身が死ぬかもしれない状況下にあったからか錯乱状態だ。

 

 

く・・!こうなったら!

 

 

意識が若干薄れて来るが最後の希望を込めて後ろを向いている黒髪に向かって叫ぶ。

 

 

「ほむら助けて!こっち向いて!俺をマミちゃんという名の天国みたいな地獄の拘束から解放してくれ!」

 

 

マミちゃんに対抗出来るのはほむらしかいない!

奴が来てくれたら俺は解放される!

 

そう思って助けを求めるもほむらは背中を向けたままで反応してくれない。

 

 

「おいほむら!無視してんじゃねえぞこらあああああああああああ!」

 

 

あいつ心なしか身体震えてない?俺の醜態を笑ってんのかコラァ。

 

 

「ちょっとほむら!ほんと助けて!今洒落にならないくらい死にそうだから!」

 

 

俺が必死に叫ぶ間もマミちゃんはどんどん抱きしめる力を上げていく。

 

やば・・意識が遠のく。

マミるが解決したのに俺が死にそうって何それ・・面白くないわ・・。

 

 

「マミさん!?」

 

「え?ホントだマミさんだ!」

 

「! 巴マミ!優依を離しなさい!顔が真っ青よ!!」

 

「!? 優依ちゃん大丈夫!?しっかりして!!」

 

 

意識が朦朧とする中、こちらに気付いたらしい皆の声が遠くから聞こえてきた。

こっちに向かって走る足音が複数聞こえる気がする。

 

 

出来れば・・もう少、し・・早く気付いて欲しかった・・・よ・・




結局全部おいしい所は杏子(?)ちゃんに持っていかれましたw
少しだけ彼女の事も判明しましたがまだまだ謎は多い!

あんまり出番なかったけどマミちゃん編はまだ続きます!


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60話 魔法少女たちの会合

300,000UA達成しましたー!
ありがとうございます!


「なぎさは激おこなのです!」

 

「え?」

 

 

俺の目の前にウェーブがかかった白い髪の女の子が頬を膨らませて俺を睨んでいる。

プンプンという形容詞がつきそうな雰囲気で怒っているのは明らかだがいかんせん見た目のせいで全く怖くない。むしろ可愛いくらいだ。

 

 

「誰?」

 

 

知っているような気がするがどうしても思い出せないので怒っている所、失礼だが名前を尋ねてみる。

 

 

「お詫びに毎日なぎさにチーズを献上するのです!」

 

 

俺の質問は無視され、まさかの慰謝料要求された。何故にチーズ?

てか、俺この娘になんかしたっけ?全く身に覚えがないんだけど。

 

 

「もし、チーズをくれないなら・・」

 

「え?どうしたの?」

 

 

一旦言葉を切って女の子は両手で顔を隠している。

ひょっとして泣いてるのかもしれない。

 

 

「えっと・・大丈夫?」

 

 

心配になったので女の子にそっと近づいて肩に手を置き慰める。

 

 

「頭を丸かじりなのです!」

 

「!」

 

 

両手をどけた女の子の顔が変化している。

真っ白な顔に何処かおどけた目がコロコロと動いておりギザギザになった口が俺飛び掛かって・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああ!!・・・あれ?」

 

 

 

 

 

 

勢いのまま身体を起こし、荒い呼吸を繰り返しながら周囲を見ると見慣れた部屋。

相変わらず生活感のない素敵インテリアだ。

 

 

「ここマミちゃんの部屋・・?」

 

「あら、ようやく起きたのね」

 

「え・・?ほむら・・?」

 

 

俺のすぐ傍でほむらが優雅に紅茶を飲んでいる。

どうやら俺はソファで寝ていたらしい。

 

それにしてもここはどう見てもマミちゃんの部屋なのにどうしてほむらがいるのだろう?

てか、マミる回避した後どうなった?どういう状況これ?

 

説明を求めてじっとほむらを見るもさっきのセリフ以外口を開かず目を閉じてひたすら紅茶を飲んでいる。

 

 

「優依、怪我はないかい?」

 

「シロべえ・・」

 

 

下から声がしたので目線を下げるとシロべえが俺のすぐ傍で尻尾を振って座っている。

俺はその様子にふっと笑って奴の頭を撫でる。

 

 

「見たところ大丈夫そうだね。良かっ、きゅぷうううううううう!」

 

 

そしてそのまま思いっきり奴の頭を鷲掴みにして床にめり込ませる。

 

 

「てめえよくも欠陥品持たせてくれたな!?あとちょっとで死ぬとこだったんだぞ!今度という今度は許さねえからな!!」

 

≪整備不良が出てしまったんだね!それは謝るよ!僕も結界の中で優依の事を心配していたんだ!≫

 

「結界が消えた後、口回りがクリームでべっとりしていたけどね」

 

≪ほむら!それは内緒だって、きゅぴい!≫

 

「人がピンチの時になにスイーツ満喫してんだ!俺だって満喫したかったわ!」

 

 

両手を使ってグッとシロべえの頭を押さえる。

床と一体化させるまでやめない!今日こそは絶対に許さん!

 

 

俺がそんな事してる間に遠くからドタドタと何かが走ってくる音が段々近づいてきていた。

 

 

「優依ちゃん身体は大丈夫!?悲鳴が聞こえてきたけど・・?」

 

「マミちゃん!うお!?」

 

 

やって来たのはこの部屋の主のマミちゃん。

泣きそうな表情で俺に抱き着いてくる。

 

 

「目が覚めて良かった!暁美さんとキュゥべえから聞いたわ!貴女が私を助けてくれたんですってね?本当にありがとう!それなのに私は貴女に酷い事を・・。ごめんなさい!」

 

「うん!別に構わないけど全然学習してないね!また気を失いそうなくらい苦しいんですけど!何でもいいから離れて!」

 

 

さっきよりもミシミシと俺を締め付けてくる。

おかしい!美少女に横から抱き着かれて最高なはずなのに生命の危機しか感じないぞ!?

あと誤解があるみたいだけど実質君を助けたの杏子(?)さんで俺は特に何もやってないから!

 

 

「! ごめんなさい!また私ったら!これで苦しくない?」

 

「うん、大丈夫。苦しくないけど贅沢言うなら離れてほしい」

 

 

前回と違って少しは冷静だったのが幸いしてすぐに力を緩めてくれたけど離れる素振りが全くない。それどころか膝に俺の頭をのせて膝枕に移行している!?

 

 

「ごめんなさい。優依ちゃんに触れていたいから今はこうさせてちょうだい」

 

「えっと・・」

 

 

うるうると涙目で見てくるマミちゃんに速攻でYESと言いそうになるもグッと堪える。

 

何故なら

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

マミちゃんに抱き着かれた辺りからほむらが尋常じゃない殺気を隠す気ゼロで醸し出しこっちを睨んでいるからだ!

おっかねえ!

今にでも銃を取り出してきそうな雰囲気だ!俺の考え過ぎだと信じたい!

 

 

「そ、それより、ほむらがここにいるって事はマミちゃんが招き入れたって事だよね!?」

 

 

この危険な空気から逃れるため咄嗟に思いついた事を振ってみる。

上手くいったのかマミちゃんが肯定のために首を縦に振った。

 

 

「えぇ、彼女が魔女を倒して鹿目さんと美樹さんを助けてくれたみたいだから」

 

「良かった。ここに連れてきたって事は話し合いしてくれるの?」

 

「そのつもりよ。鹿目さんともそう約束してるの。暁美さんと話し合ってみるって」

 

「まどかが!?」

 

 

驚きを隠さず表情に出た。

ほむらの方も意外な人物の名に目を見開いてマミちゃんを見ている。

 

まさかのまどかの暗躍!?マジで!?

暴走特急になりつつあったマミちゃんをどうやって説得したんだ!?

流石主人公だ!どうやったか参考がてらに聞いてみよう!

俺の中のまどかの好感度がウナギ昇り!

 

 

キョロキョロと周りを見渡す。

しかしいるのは黄色のひっつき虫と無愛想な紫。ついでにお菓子つまみ食いしてる白いのしかいない。

ピンクのツインテールどころか青色のショートヘアーもいないぞ?

 

 

「鹿目さんと美樹さんなら今日は帰ったわ。暁美さんが魔法少女同士で話したいっていうから」

 

 

俺の疑問に答えてくれたのはマミちゃん。

苦笑い気味で答えているから大方ほむらが無理やり帰らせたんだろうなぁ。

絶対さやかあたりが反発して結局まどかに連れられて帰る姿が目に浮かぶ。

 

 

「・・さて、役者も揃った事だし、そろそろ話し合いでも始めましょう」

 

 

ティーカップを置く時のカチャリという音を合図に全員がほむらの方に注目する。

 

 

「巴さん、まず貴女に話しておきたい事があるの」

 

「・・・何かしら?」

 

 

ほむらの視線を受けたマミちゃんは少し身構えていて警戒の色が強いのが抱きしめられてる俺には分かる。流石に最近まで殺し合いしてた者同士だから警戒するのは当然かもしれない。

むしろ話し合いの席に着く自体かなりの進歩だ。

 

この際、ピリピリした空気は甘んじて受けるしかなさそうだ。

 

それにしてもほむらは一体何を話すつもりなんだろう?

 

 

緊張の面持ちでじっとほむらを見つめる。

 

 

「話をする前にまず優依を離しなさい。目障りよ」

 

 

・・・・は?

 

 

第一声がまさかのことで目が点になる。

重々しい空気で何言ってんだこいつ!?

 

 

「嫌よ。暁美さんが邪魔をするからしばらく優依ちゃんに触れられなかったのよ。少しくらい良いじゃない」

 

 

それに対して何故かマミちゃんは反発してギュッと俺をほむらから隠すように身体をずらして更にキツく抱きしめてくる。

それを見てほむらの冷たい目はますます氷を纏ったように冷えていき俺を震えさせるには十分だった。

 

 

「だめよ。優依が嫌がってるわ。こんなに震えてるじゃない。可哀想にこんなに震えて・・。よっぽどさっき貴女に窒息させれそうになった記憶が怖いのね。そうでしょう優依?」

 

「それは違うわ。暁美さんがそんなに睨むから優依ちゃんが怖がってるだけよ。ね?優依ちゃん」

 

 

すみません。こっち向かないで下さい。俺に振らないで下さい。

正直どうでもいいし関わりたくない。どっちを選んでも地獄を見そうだ。

 

よし!目を閉じて寝たふりしよう!

 

 

「あ、優依ちゃん・・」

 

 

ギュッと目を瞑って視界を完全にシャットダウン。

演技じゃなくてマジで疲れてるからあながち嘘じゃない。

ここ最近は激動だったしさ。

 

 

≪逃げたね優依≫

 

 

傍観に徹してる白い奴がからかい気味でうっとうしいがそれさえも無視しよう。

 

 

 

「・・まあいいわ。話を戻しましょう」

 

 

ここ数日間ですっかり俺の扱いになれたほむらが諦めたのか仕切り直している。

それはいいけど≪後で覚えておきなさい≫とわざわざテレパシーで伝えないで欲しいんです。

 

 

「もうすぐ見滝原に『ワルプルギスの夜』がやって来る」

 

「それは本当なの!?」

 

 

疲れからかもしくは最初の懸念(マミる)が過ぎ去って安心したのか本格的に眠くなってきた。

二人の声が遠くでこだましているようだ・・・。

 

 

「ええ、本当よ。私一人じゃ勝てないから巴さんにも協力して欲しい」

 

「・・・嘘じゃないのね?それを示す根拠があるの?」

 

「私は未来・・正確には別の平行世界から来たの。まどかを救うために」

 

「鹿目さん?」

 

 

二人が何か話してる声をBGMに俺はまどろみつつ今後のことをぼんやりと考えていた。

 

マミるは終わった。次はさやかの契約を阻止することが目的だ。

正直助ければ何とかなるマミちゃんと違ってあの青猪は勝手に自滅していくからなー。

性格は思い込み激しいし、どこか潔癖症な面があるし。精神的に脆い所がある。

 

さやか超厄介過ぎる。

 

 

「そこで魔法少女の秘密を知った。ソウルジェムが私達の魂そのものだという事もその時知ったの」

 

「!? ただでさえ別の世界から来たという話だけでも信じられないのにソウルジェムが魔法少女の魂そのもですって!?デタラメ言わないで!」

 

「嘘じゃないわ。現にソウルジェムが砕けてしまえば私たちは死ぬ。そして肉体から100m離れると魂とのリンクが切れて肉体が活動しなくなってしまうの」

 

「そんな事信じるわけないでしょう!!」

 

 

なんか盛り上がってんなー・・。

マミちゃん死にそうになってたけど元気そうでなによりだ。

 

ホントさやかどうすっかなー?色々タイミングも悪いしさ。

 

まさかの三角関係だし、爆発してしまえ上条。

いっその事、上条に恥かかせて社会的に抹殺してしまえば全部解決じゃね?

 

 

 

 

 

「・・なら証明するまでよ。優依、起きなさい!」

 

 

 

「え!? はい!」

 

 

 

 

鋭い声に思わず飛び起きた。

ほむらが真剣な表情で俺を見て、いや睨んでいて怖い!

眠気なんて一瞬で吹き飛ぶくらいには目力がある。

 

 

俺なんかしましたっけ・・・?

 

 

「これを持って外に出なさい。合図するまでここから離れるのよ」

 

 

「え?え?」

 

 

訳が分からず何か小さいものを握らされ無理やり立たされる。

ちょっと背中押さないで。こけちゃうから。

 

 

「それは大事に持ちなさい。ほら、早く行って」

 

「あの、どういう事?」

 

「早く行きなさい!」

 

「はい!行ってきます!!」

 

 

有無を言わさない命令に大慌てで扉を開けて外に出る。

 

ヤクザほむらに逆らって何一つ良い事はないので言われた通りにしておこう。

大事に持てというので手の中にある物は両手を重ねて丁重に包むように持ちそのままマミちゃんの部屋から遠ざかっていく。

 

 

 

 

 

 

部屋から出て少し経つも一向に合図がない。

 

 

 

 

 

結構距離が離れたがいつまで歩けばいいのだろうか?

もうすぐマンションから出そうなんだけど。

てか、合図するって言ってたけど何の合図か聞いてないよ?戻っていいかな?

 

 

 

 

≪優依、その辺で大丈夫だから戻ってきて≫

 

 

≪シロべえ?≫

 

 

戻ろうとした矢先に何故かほむらじゃなくシロべえからテレパシーが送られてきた。

 

 

≪優依ちゃん!≫

 

≪あ、マミちゃんどうしたの?≫

 

 

そしてマミちゃんまで俺にテレパシーをしてくる始末。ほむらからの連絡はなし。

マジ何やってんだあいつ?人をこき使っておいて。

 

 

≪大変なの!暁美さんが急に倒れて息をしてない!≫

 

 

え・・・?どういう事?

 

 

≪優依ちゃんが外に出てから少し経った後、暁美さんが突然倒れたの!キュゥべえは大丈夫だって言ってるけど、とてもそうは見えないの!どうなってるの!?≫

 

 

焦ったようなマミちゃんの声はとても嘘をついてるように見えない。

 

すぐに戻ると告げて慌ててマミちゃんの部屋を目指す。

走りながらさっきのテレパシーの内容を整理する。

 

魔法少女はよっぽどの事がない限り死なない。

魔法少女が死ぬ時は何らかの要因でソウルジェムが砕けるか絶望して魔女化してしまうかだが、どのみちソウルジェムが関与してる。それは当然か。だって魔法少女の魂そのものだし。

 

 

それにしてもさっき聞いたほむらの症状、いつかの原作のさやかを思い出すな。

ソウルジェムが肉体から離された時は糸が切れたみたいに生命活動停止しちゃうもんねー。ホントそっくりだ!

 

 

 

・・・・・・・・・・。

 

マジでそっくりなんですけど?

 

 

まさか・・ほむらが俺に渡したものって・・・。

 

 

じっと両手で包んでいるものに視線が向ける。

 

ほむらから手渡されたものを確認するため震える手を恐る恐るゆっくりとどけていく。

 

 

 

「・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の掌には紫に輝く宝石が置かれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あひゃああああああああああああああああああ!?

 

これほむらのソウルジェムじゃねえかああああああああああああああ!!

 

俺、今文字通りほむらの命握ってるようなもんじゃねえかああああああああああああ!!

 

 

 

 

そこからは無だった。

 

さっとほむらのソウルジェムを掌で包みひたすらマミちゃんの部屋まで駆ける。

体力はないはずなのに不思議と息が切れずただ一目散に走る。

 

 

 

 

どうにか無事に部屋に戻ると力なく倒れているほむらとその傍でオロオロしているマミちゃん。

そして、起こった出来事に興味を示さずお菓子をムシャムシャ食べている白い生命体が一匹。

 

カオス過ぎる光景がそこにはあった。

 

 

「あ、お帰り。思ったより早く帰ってきたね。顔が無表情になってるけど大丈夫かい?」

 

「早くこれをほむらに!」

 

 

お菓子泥棒は無視し、急いでほむらに駆け寄ってソウルジェムを近づけた。

 

 

「ん・・」

 

 

ソウルジャムをほむらの掌に乗せてから少し経つと意識を取り戻しゆっくりと上体を起こすのを見てようやく安堵の息が出た。このまま意識戻らないとかならなくてよかった。

 

 

「良かった!意識が戻った!」

 

 

「えぇ、無事に帰ってきてくれて良かったわ」

 

 

ほむらが嬉しそうに半泣きの俺を見つめているが正直俺は笑えない。

安心と同時に怒りが沸々で湧いてくる。

 

 

「ていうか何お小遣い渡す軽さで命そのもののソウルジェム渡してんの!?俺がうっかり手をすべらせて割っちゃったらお前死んでたんだぞ!?」

 

「説明だけじゃ納得してくれないなら実際に証明するしかないでしょう?」

 

「そうなんだけど!」

 

 

しれっと言っているが実際やってる事は他人に自分の命を預けるという事だ。

理屈は分かるが何も知らされず命を預けられた方はたまったもんじゃない。

 

 

「それに優依に殺されるなら構わないわ。一生私の事忘れられないでしょうから」

 

「死ぬ間際まで忘れられねえよ!毎日夢で魘されるわ!思い詰めて自殺しそうだよ!」

 

「その時は迎えに行くわ。一緒に地獄に堕ちましょう」

 

「堕ちるか!堕ちるなら一人で勝手に堕ちろ!」

 

 

何気に恐ろしい事を言ってくるほむらに突っ込みを入れるも俺の悪態など華麗にスルーされ戸惑い気味に俺たちを眺めていたマミちゃんに向き直る。

 

 

「これで証明出来たかしら?」

 

 

無表情なのにドヤ顔に見えるほむらはそう告げる。

 

説明ってソウルジェムの説明してたの!?

嘘だろ!?俺はてっきり「ワルプルギスの夜」が来るから共闘の話かと思ってたのに!

 

何で伏せた方が良いはずの残酷な事実突きつけてんの!?

フォロー出来んのこれ!?

 

 

こいつに任せてたらヤバそうだ!

ちゃんと起きて話聞いた方がいいかもしれない!

 

 

「・・どうしてキュゥべえはこんな大事な事を黙ってたの・・?」

 

 

ほむらの質問に答える代わりに泣きそうな表情でマミちゃんはポツリと呟く。

目には既に涙が溜まっていてすぐにでも流れてしまいそうだ。

 

 

「聞かれなくても別に不都合じゃないからね。どうして人間は魂の在り処なんて理解出来ないのにそんな事に拘るんだい?昔の僕も含めてあいつ等はそう答えるよ。今の僕なら理解出来るけど人間の価値観は合理性重視のインキュベーターには理解出来ないんだ」

 

 

まさかのシロべえが答えた。

マミちゃんのフォローする気全くないらしいが元インキュベーターだけあって説得力は絶大だ。

 

 

「それともう一つ。魔法少女の最後の秘密がある」

 

「!」

 

 

ここまでくれば流石の俺でもほむらが言いたいのか分かる。

 

こいつ!魔女化の事言うつもりだ!

さすがにそれは阻止しないと!

 

 

≪ほむら!それは流石にまずいって!!それ知ったらマミちゃん自殺するか魔女になっちゃうって!!≫

 

 

マミちゃんに気付かれないようにそっとテレパシーで伝えるも、ほむらがこっちを向いて頷いている。

≪大丈夫。分かっているわ≫と返ってきたのでそれを信じて押し黙る。

 

ほむらは何をするつもりだ?

 

 

「このソウルジェムが黒く濁りきった時、私達は魔女になる」

 

 

いや、全然分かってねえわこいつ!俺の忠告速攻で忘れやがった!!

 

ギッと睨むも澄まし顔で顔を背けられた。確信犯か!

 

 

 

 

「・・・え?」

 

 

 

何を言ってるのか理解出来なかったのかマミちゃんはポカンとした表情を浮かべている。

これはチャンス!今ならなかったことに出来る!ほむらの口さえ塞げば!

 

グッと身体を傾けてほむらに近づくためそっと移動を開始する。

 

 

「ほむっ!?」

 

「今まで魔女の存在は疑問に思わなかったのかいマミ?」

 

 

ほむらの口を塞ぐ前にシロべえが俺の口を塞いで何も言えない。

しかも何か罠を張っているのか身体が思うように動いてくれないし最悪だ!

野郎、器用に俺の肩に飛び乗って尻尾を覆うんじゃない!地面に叩きつけるぞ!

 

 

「それもそうか。普通は殺す相手の事なんて考えないもんね。希望の魔法少女である君たちがやがて絶望して魔女になる。これほどふさわしい名前はないよ」

 

 

まるでマミちゃんを絶望させるために敢えて悪意のある言い方をしてるみたいだ。

いつぞやのほむらを絶望させた時と雰囲気がそっくりに思える。

 

俺が動けないのを良い事に好きにしやがって!

 

 

「希望が絶望に変わるその瞬間、ソウルジェムはグリーフシードとなり、その際、発生する感情エネルギーを回収するのがインキュベーターの目的よ」

 

 

シロべえの補足のつもりなのか余計な情報をほむらが説明している。

打合せでもやったみたいに息ピッタリだ。

 

 

マミちゃんがみるみる内に顔が青ざめていき可哀そうになってくるぐらい震えている。

このままじゃまずい!冗談抜きでここで魔女化してしまいそうだ!

 

この外道共は一体何やってるんだ!?

 

 

 

 

「・・つまり魔女は・・私が今まで殺してきたのは・・」

 

 

 

マミちゃん聞いちゃだめだって!

 

 

 

 

「魔法少女たちの成れの果てよ」

 

 

 

 

 

無慈悲にもほむらの口から残酷な真実が告げられる。

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 

マミちゃんは何も言わなかった。部屋に重たい沈黙が流れる。

俺の拘束はいつの間にか解けており急いでマミちゃんの傍に行った。

 

 

「マミちゃん!」

 

「・・・・・・」

 

 

 

マミちゃんは何も答えない。

むごんのままぶるぶると震える手で自身のソウルジェムを机に置いている。

 

 

「マミちゃん・・?」

 

 

 

 

そしてお馴染みの銃を取り出し

 

 

 

 

それをソウルジェムに向けた。

 

 

 

ガキィン!

 

 

「マミちゃん!?」

 

 

放たれた弾はマミちゃんのソウルジェムをまっすぐ狙うも当たる直前で弾き返された。

 

 

「? あ!マミちゃん!残酷だけど今は取りあえず落ち着いて!」

 

 

どうして弾かれたのか分からない。だけどこれはラッキーだ!

 

慌てて俺はマミちゃんを羽交い絞めにして自殺阻止を試みる。

 

 

「離して!離してよ!!」

 

 

 

ズガァン! ガキィン!

ズガァン! ガキィン!

 

 

 

正直非力な一般人の俺がベテラン魔法少女であるマミちゃんを力づくで抑えるのは不可能な話で必死に押さえつけてるけど泣きながら余裕で発砲し、その度にソウルジェムは球を弾き返している。

どうしてはじき返されているのか分からないがいつまでももたないかもしれない。

 

止めるのは俺一人じゃだめだ!

ここはほむらとシロべえにも協力してもらおう!三人ならマミちゃんを止められるはず!

 

俺はマミちゃんを押さえつつ協力要請のために二人がいる方向に顔を上げた。

 

 

 

「二人とも!マミちゃんを押さえるの手伝っ・・?」

 

 

 

 

 

 

 

「凄いだろう?僕が作った遮断装置は!これにソウルジェムを包めばあらゆる攻撃を弾き返す!これなら不意打ちの攻撃でソウルジェムが砕けることはないよ!」

 

「ええ、凄いわね。試作段階でこれなら今後は更に期待出来るわ」

 

「ただこれは少し欠点があってね。簡単な魔法は使用出来るんだけど肝心の変身が出来なくなってしまうのがデメリットなんだ」

 

「今回はそれが良い方に作用してるんだから構わないわ。これなら巴マミが血迷って死ぬ事もないでしょう」

 

 

 

 

 

「何やってんだてめえらああああああああああああ!目の前で自殺しようとしてる人がいるのに呑気に駄弁りながらティータイム洒落こんでんのおおおおおおおおおお!?」

 

 

 

 

俺が必死にマミちゃんを取りさえようと努めているのにコイツら紅茶とお菓子を嗜みながら楽しそうに話しこんでやがる!

ヤバい!すっごく殴りたい!

 

 

「おいほむら!いつまでも紅茶飲んでないで手伝ってよ!」

 

「その遮断装置がある限り巴マミは死ぬ事はないわ。気が済むまで勝手にやらせておけばいいのよ」

 

「鬼かお前は!?気が済む前に絶望して魔女化する可能性大なんですけど!?いいから止めてよ!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「止めてくれないとほむらの事嫌いになりそうなんだけど!」

 

「! ・・・仕方ないわね」

 

 

半ばやけくそで叫んでいるとようやく止めてくれる気になったのか立ち上がろうとしている。

 

怠そうに身体を動かすほむらにイラッと来たが今はコイツしか頼れる人はいない。

シロべえなんて動く気がないのか寝転んで目を閉じてやがるから論外だし。

 

ほむらは変身し盾に手を突っ込んでいる。

 

そして出てきた黒光りの物を天井に掲げ、

 

 

――ドォン――

 

 

「!?」

 

「動かないで巴マミ。貴女は今、私達の話を聞く事以外許されていないわ」

 

 

取り出した銃を天井に向けて一発発砲。そしてマミちゃんの脳天に突き付けている。

完全なヤクザのやり方に俺もマミちゃんも閉口するしかない。

 

 

「あの・・近所迷惑です・・」

 

「それは大丈夫!僕がしっかり防音対策をしているからね!どんな音も閉じ込めてしまうよ!」

 

 

せめてもの抵抗で言った抗議がいつの間にか近くにいたシロべえによって完封されてしまう。

 

 

「そういう事。どうせ壊す事も不可能だし貴女の気が済むまで撃ち続けてくれて構わないわ。ただし弾かれた弾が間違って優依に当ててしまってもいいのならね。その時は許さないけど」

 

「・・・!」

 

 

今度は俺を人質にしている。

完全にヤクザですねありがとうございます。

 

マミちゃんは悔しそうに顔を歪めたがゆっくりと銃を降ろして静かに泣き出した。

 

 

えげつねええええええええええええええ!

 

こいつらタッグ組んだら大規模な犯罪なんて軽くやってのけそうだ。

どう見ても悪役にしか見えない!

 

なんかマミちゃんがとっても可哀想になってきた!

外道ばっかりのこの空間で今の俺の心の拠り所なのに!

 

てか、この後はどうすんだよ!

これよっぽど上手くフォローしないと速攻で魔女化だぞ!

 

 

 

≪優依、あとは頼むわ≫

 

≪え?何を?≫

 

 

内心オロオロ中の俺にほむらがテレパシーで話かけてくる。

 

 

≪巴マミを説得して自殺を思い留めるように仕向けてちょうだい≫

 

 

冷静な様子でトチ狂った事をほざいてきた。

 

こいつ・・・!

後は全部俺に丸投げするつもりだ!

ふざけんな!お前がやった事だろうが!!

 

 

≪無茶言うな!なんだその無理難題!≫

 

≪巴マミを説得するのは貴女にしか出来ない。・・今日だけは見逃してあげるから思いっきり口説くのよ。そうすれば全て上手くいくはず≫

 

≪そうだよ優依!君なら出来る!弱った女の子を慰めるのは君の十八番じゃないか!≫

 

≪えぇ、期待しているわ≫

 

≪張り倒すぞお前ら!おい聞けよ!無視すんな!!≫

 

 

自分の役割は終わったとばかりにくつろぎ始めた外道共に殺意を覚えるも今は最優先しなきゃいけない事がある。

 

 

 

「うぅ・・ひっぐ・・ぐすん」

 

 

ほむらの時みたいに発狂はしておらずただ静かに泣いているが油断出来ない。

 

だって机に置かれたソウルジェムが既に真っ黒に濁っているのだ。

 

魔女化まで時間はもうない!

 

 

焦りながらもどうするか必死に考える。

 

ただ慰めるだけじゃだめだ!

何か心の支えになるものがないと・・。

 

 

・・・仕方ないか。

 

 

こうなったらもう奥の手を使うしかない!




優依ちゃんの奥の手とは一体?
もうすぐマミさん編も終わりに近づいています!

さやかちゃん編に入る前に番外編出来るかな・・?


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61話 出でよ集大成!

連載は書き溜めが大事だと思うんです
休日はそれに費やしていたんです


だから最新話の投稿をすっぽかしても許されると思うんです



マミside

 

 

ここ数日何度も泣いたけど今日は比べ物にならないほど沢山の涙が溢れてくる。

 

暁美さんから告げられた魔法少女の残酷な真実

 

 

ソウルジェムは私の魂で身体はただの抜け殻

 

ソウルジェムが壊れてしまうと私も死んでしまう事

 

魔女は魔法少女の成れの果て

 

絶望してソウルジェムが濁りきればグリーフシードに変貌してしまう事

 

キュゥべえの本当の目的は魔法少女が魔女になる際、発生させるエネルギーの回収で私はいわゆる消耗品扱い

 

 

 

とてもじゃないけど受け入れられない。

 

 

 

でも心は拒否していても頭は冷静に事実だと告げている。

 

 

それはそうでしょうね。だって目の前で証明されてしまったんだもの。

 

 

ついさっき暁美さんは優依ちゃんにソウルジェムを持たせてここから離れるように言っていた。

実際、ソウルジェムと距離が離れた暁美さんは糸が切れたように動かなくなり息もしておらず心臓の音も聞こえなかった。

 

優依ちゃんが戻ってきてソウルジェムが手元に戻ると何事もなかったように息を吹き返した。

 

 

説明だけじゃ納得しなかったでしょうけど証拠を出されてしまってはぐうの音も出ない。

 

 

 

ソウルジェムの事は何とか受け入れられるかもしれない。

 

 

だけど魔女化の事はどうしても拒んでしまう。

 

 

だって私は、

 

 

今まで多くの魔女を殺してしまったんだもの!

 

 

 

魔女を殺した私は人殺し?

 

もうやめてしまったけど正義の味方に酔っていただけ?

 

この宝石が私の魂なら私の身体は死んでるの?

 

生きたいと願ったけどこれは生きていると言い切れる?

 

私の人生って一体何だったの?私のしてきた事って意味があったの?

 

 

 

 

分からない。もう何も分からない。

 

 

 

 

涙で濡れてぼんやりした視界でも分かるくらい目の前に置いた私のソウルジェムは黒く濁っている。

 

このままじゃ私は魔女になる

そして人を襲って最後は名も知らない魔法少女に退治されるだけ

待ってるのはそんな結末

 

 

正義の魔法少女はとっくにやめてしまったとはいえショックを隠せない。

 

 

そんなの嫌!そうなる前に終わらせなきゃ!

ソウルジェムが私の魂ならそれさえ砕けば・・!

 

 

そう思ったのに現実は残酷で何度もソウルジェムを砕こうとしたけど出来なかった。

 

 

自殺する事すら許してくれない

 

 

私は一体どうすればいいの・・・?

 

いずれ魔女になるなら私はもう死ぬしかないって言うのに・・!

 

 

 

 

 

「マミちゃん!」

 

 

 

「優依ちゃん・・?」

 

 

 

徐々に暗くなっていく自分の世界に光が照らされたような優しい声が掛かる。

 

顔を上げると優依ちゃんが微笑んでいる。

その笑顔は今の私の恐怖を和らげてくれた。

 

 

「マミちゃんは独りぼっちじゃないよ!見てこれ!」

 

 

優依ちゃんは自分の携帯を私に差し出している。

どういう意図なのか分からないけどそのまま受け取って画面を何気なく眺めた。

 

 

「! これ・・」

 

 

画面に表示されていたのは何かの掲示板。

よく見るとそれは全て激励メッセージ。

 

 

 

なんだか見覚えがあると思ったらこれは優依ちゃんがいつの間にか作っていた「Ribbon」のファンサイトだと気付く。

 

 

送られてくるメッセージは「Ribbon」に向けて、つまり全て私に向けて送られたもの。

 

 

優依ちゃんの提案で「Ribbon」という名前で私が歌っている動画をアップしていたけどこれが結構楽しくて知らない間に再生回数もかなり増えてきていた。

 

ファンだと言ってくれる人も出てきてくれてやりがいを感じていたけどここ最近は全く活動していない。

優依ちゃんのクラスに暁美さんが来てからそれ所じゃなくて心の余裕もなかったしそんな気分でもなくてすっかり忘れていた。

 

そんな状態がしばらく続いていたのにファンだと言ってくれる人達はずっと私を応援しててくれてたみたい。

 

特に最近なんて暁美さんと佐倉さんを闇討ちしようと暗殺計画まで立てていて歌なんて二の次にしていたはずなのに、みんな待ってくれていた。

 

 

誰かに応援してもらえるなんて優依ちゃん以外でいなかったし凄く嬉しい。

でも、どうしてこんなタイミングで?

 

 

 

「マミちゃんが落ち込んでるって試しに知らせてみたらこんなに激励メッセージをくれたんだ」

 

 

私の疑問が顔に出ていたのか優依ちゃんが嬉しそうに答えてくれる。

 

 

その言葉を聞いて察した。

 

何でもない風に優依ちゃんは言ってくれてるけどそれはきっと大勢の人に声を掛けて私を励まそうとしれくれている。

 

今だけでもメッセージが多く届いている。

これだけメッセージを集めるのにきっと物凄く時間と手間がかかって大変だったでしょうにどうしてそこまで?

 

 

 

ひょっとして全部私のために・・?

 

 

「少し見ても良いかしら?」

 

 

今、優依ちゃんの顔を見たらきっと大泣きしてしまいそうだから顔は画面に向いて聞いた。

 

 

優依ちゃんの頑張りを無題にしたくない

 

 

あっさりOKが出たので続々と送られてくるメッセージを眺めていく。

続々と送られてきて最初のメッセージまで中々辿り着かないくらい大量にメッセージが届く。

 

こんなにたくさん・・。

優依ちゃんはとても大勢の人に声をかけてくれたみたい。

 

 

優依ちゃんの優しさに胸が熱くなっていき涙が込み上げてくる。

さっきと違ってこっちは嬉し涙。とても暖かい。

 

 

優依ちゃんだけじゃない。みんな私のためにここまで。

 

 

・・でも私はいずれ魔女になる運命を背負っている。

 

 

 

そして魔法少女として人を殺すなんて最低な事まで考えてた。

こんな呪われた私に優しくする価値なんてあるとは思えない。

 

 

さっきまで暖かい思いに包まれていたのにすぐに気分が重くなってくる。

それだけ私の仕出かした事と運命は無慈悲なものだから。

 

 

 

 

「あ・・・」

 

 

 

 

暗い気分のまま目で追っている内に最初に送られてきたメッセージに辿りついた。

 

一目見て釘付けになる。

 

それには今の私の心に刺さる言葉が並べられている。

 

 

このメッセージを送った人の名前は、

「TOMOTOMO」と表示されている。

 

 

「TOMOTOMO」さんのメッセージはとてもシンプルだけど熱意を感じる。

 

 

『貴女の大ファンです!

落ち込んでると聞いて居ても立ってもいられなくてメッセージを送りました!

何に落ち込んでるのか俺には分かりませんが自分の心に正直になるのが一番です!

悩んだ時は建前とか常識とかそんなものより自分はどうしたいのか自分の心に聞いてあげてください!

周りが何と言おうと俺は貴女が大好きです!!』

 

 

何度も読み返して頭の中でも繰り返す。

自分の心に正直に・・。

建前とか常識とかそんなものより私がどうしたいのか・・?

 

 

 

私はどうしたいんだろう?

 

 

死にたい?生きたい?

 

 

 

 

「マミちゃん」

 

 

 

 

自分の本心は何なのか考えていると横から優依ちゃんに声を掛けられた。

 

とても優しい表情で私の事を見つめていて照れてしまいそう。

 

 

私がメッセージを読むために気を遣って黙ってくれていたみたい。

そんな小さな優しささえ今の私には感動してしまう。

 

 

「みんなマミちゃんを必要としてくれてるんだ。魔女化の運命から逃げたいのは分かるけどそれは死にたいのか死ななきゃならないのかどっち?マミちゃんはどうしたい?」

 

 

優しい口調でそう諭してくれる。

今でも跡が絶たないスピードでメッセージをくれるファンのみんなは私を必要としてくれるのはよく分かった。

それはとてもありがたい。涙が出るくらい幸せな事。

 

 

だけど、

 

 

「優依ちゃんは?」

 

 

気づけば優依ちゃんにそう聞いていた。ほぼ無意識の内に口から出ていて私も驚いた。

優依ちゃんも予想外だったのか「へ?」と口をポカンと開けている。

 

今なら取り消す事だって出来る。でもそれはしたくない。

 

 

あぁ、そっか。私はただ・・。

 

 

 

携帯を机にそっと置いて優依ちゃんの方に向き直って彼女を見つめながらもう一度口を開く。

 

 

「優依ちゃんは私を必要としてくれる?」

 

 

今度は無意識じゃない。私の本心から聞きたい事だから優依ちゃんに質問する。

 

さっき気づいた事だけどいつの間にか私が戦う理由は魔法少女として見滝原を守る事じゃなくて優依ちゃんを守る事になっていた。

私の存在意義はこの娘そのものだと言っても過言ではないかもしれない。

 

 

だから優依ちゃんが必要としてくれるなら私は・・!

 

 

緊張の面持ちで優依ちゃんの返事を待つ。

長いようで短い時間が経った後、優依ちゃんはにっこり笑っていた。

 

 

「もちろん!俺にとってマミちゃんは絶対必要な人さ!」

 

 

私の両手をスッポリと被さるように握ってはっきりそう言い切る。

 

 

「ホントに・・・?ホントにホント?」

 

「本当だよ!こんな時に嘘なんて言わないよ!」

 

 

言ったことが本心なのか確かめるために何度も真意を確かめるけど優依ちゃんが屈託のない笑顔で何度も本当だと頷いてくれる。

 

 

「これからもずっと私を愛してくれる・・?」

 

 

 

語尾が次第に涙声になってちゃんと言えたか分からないけど優依ちゃんは照れているのか目を逸らしながら小さく頷いてくれた。

 

・・それだけ聞ければもう十分よ

 

それ以上の言葉は私には必要ない。

言葉だけでなく行動でも証明してくれたもの。

 

優依ちゃんは命がけで私を魔女から救ってくれた。

きっと物凄く危険な状態だったと思う。

 

あんなに怖がりだった優依ちゃんが私のために命をかけてくれた。

 

 

 

・・・ようやく分かったわ。

 

 

 

私はソウルジェムが自分の本体で今の身体はゾンビだろうともいずれ魔女化してしまう運命だろうともそんな事はどうでも良い。

 

 

優依ちゃんが私を必要としてくれてずっと愛してくれるなら他の事なんてどうでも良いの!

例え貴女が他の人に浮気したってちゃんと私の事を愛してくるなら構わないわ!

暁美さんの事も許してあげる!

 

 

でもあまり浮気にのめり込み過ぎちゃ嫌よ?

 

 

それと優依ちゃんを独り占めにするのは許さないわ。

ちゃんと平等に。・・いいえ。

 

 

 

 

私を沢山愛してくれないと許さないんだから

 

 

 

 

自然な流れで優依ちゃんに倒れ込んで胸に耳を当てて彼女の鼓動を確かめる。

 

 

少し心臓の音が早いから緊張しているみたいでクスッと笑っちゃう。

優依ちゃんは戸惑った様子だけど無理に引き剥がすつもりはないのかそのまま私の好きにしてくれている。

 

 

「あら・・?」

 

 

チラッと見た私のソウルジェムが知らない間に元の綺麗な色に戻っている。

 

 

どういう事?さっきはあんなに真っ黒だったのに。

確かソウルジェムの濁りは精神の状態に左右されるのよね?

 

 

今の私の心の状態は幸福そのもの

 

 

・・ひょっとして愛の力で浄化されたのかしら?

ふふ、子供っぽいけどなんだかロマンティックね

 

 

本当にそんな奇跡が起きたのかもしれない。

 

 

 

「・・・愛してるわ」

 

 

聞こえるか聞こえない程度で呟いて静かに目を閉じる。

その拍子に涙が頬を流れるけど気にならなかった。

 

 

 

優依ちゃん、貴女さえいれば私はもう何も怖くない・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつか知る魔法少女の真実に落ち込むであろうマミちゃん。

 

 

 

 

 

一歩間違えば絶望し魔女化。

少し冷静なら周りを巻き込んで無理心中と傍迷惑な事をやらかす彼女。

戦闘力が高い分、暴れられたら厄介過ぎる。

 

 

あらゆる時間軸(この時間軸も)でマミちゃんは例外なく魔法少女である事に誇りを持っている。

自分が魔女の脅威からみんなを守っているという自負があるのだろう。

なんせ自分の生活中心を魔女退治に費やしてるしな。

 

 

その分、魔法少女の真実に失望するのもまた人一倍だ。

誇りに思っていた分、ダメージも大きい。

本人からしたら裏切られた気分だろう。

 

 

どっちにしろ魔法少女に熱を上げすぎている。

これは非常にまずい!

 

 

そこで俺が考えたのが魔法少女以外に生きがいを見つけようという事だった。

 

 

目を付けたのは「アイドル」だった。

 

マミちゃんは美人だしさびしがり屋だ。

彼女ほどアイドルに向いた人物はいないと自負している!

 

俺の趣味とシロべえの悪ノリで半ば強引にマミちゃんをネットアイドル「Ribbon」に仕立て上げた。

新たな生きがいと認識させ、寂しがり屋な彼女に熱烈なファンが出来るなどの盛況ぶり。

 

マミちゃん本人も満更でも無さそう、というかノリノリだったので好調だと思っている。

 

 

もしもの時はここのファンたちが落ち込んだマミちゃんを応援してくれると踏んでいる。

 

 

今こそ集大成!

 

ここで俺が考えた作戦の真価が発揮される時!

魔法少女として価値がないのならネットアイドルの価値があるじゃない!

 

そう思ってとある事を実行してみたんだけど、

 

 

 

いやー・・「Ribbon」すげぇわ。

 

 

俺が管理してる「Ribbon」のファンサイト(製作者シロべえ)の掲示板に、

 

 

『「Ribbon」さんが現在落ち込んでます!激励メッセージを求む!』

 

 

って数分前投稿してみたら気づけばメッセージが軽く三桁越えてる。

 

 

ちょっとでもマミちゃんの慰めになればいいなぁと軽い気持ちで発信したんだけど現在進行形で急激に増え続けていて凄まじいスピードだ。

 

 

まあまあ人気だとは思ってたけどまさかここまでとは。

 

 

これはプロデューサーとして鼻が高い!

 

 

 

 

「マミちゃん!」

 

 

 

 

思わぬ収穫にほくほく顔で絶賛絶望中のマミちゃんに声を掛ける。

 

 

「優依ちゃん・・?」

 

 

絶望が進行しているマミちゃんはまるで死人のような顔で俺を見上げている。

普段の俺ならビビる所だろうが今の上機嫌な俺にとってはノーダメージ!

 

 

「マミちゃんは独りぼっちじゃないよ!見てこれ!」

 

 

そう興奮気味に叫んでマミちゃんに自分の携帯を差し出す。

 

 

見よマミちゃん!

俺たちの頑張りが報われたと今ここに証明されたんだ!

 

 

ほとんどドヤ顔に近い表情に戸惑っているのかマミちゃんは遠慮がちに俺から携帯を受け取って画面を見ている。感動しているのか時々嗚咽をもらしていて、俺までもらい泣きしそうになる。

 

 

頑張ったもんな俺たち!

徹夜で撮影したり休日返上で編集したりと汗と涙の日々だったもんな!

 

 

おっと、そんな事考えてる場合じゃない。

今の内にソウルジェムを浄化しておかなくちゃ!

 

 

マミちゃんが目を離している隙に杏子(?)からもらったグリーフシードでこっそり浄化を完了させる。

みるみる内に元の綺麗な黄色に戻ったのでこれですぐにでも魔女化する心配はないだろう。

 

良かった。これで一安心。

 

 

一息つきながらマミちゃんの方を見ると、俺の視線には気づかず画面を見つめているがどこかおかしい。

さっきから指を動かしていない。

熱心にある一つのメッセージに目を凝らしているみたいだ。

 

 

まさか中傷とかかもしれない。

 

そうなったらせっかくの作戦が台無しなので確認のためにマミちゃんの後ろからそっと画面を覗き込む。

気配を隠すなんて離れ業は出来ないのに俺が背後にいる事にも気づかずひたすら同じメッセージを目で追っている。

 

随分と熱心に読んでいるようだ。

 

 

 

一体どんなメッセージ・・? !?

 

 

 

 

 

マミちゃんが熱心に見ているメッセージ。

 

 

ユーザー名「TOMOTOMO」に口を引くつかせる。

 

 

 

 

 

 

おいトモっち、お前何してんだ?

 

 

 

今日は忙しいから連絡出来ないとかほざいてたくせに何で一番最初にメッセージ送ってんだ!?

忙しいって言ったの嘘か!?

 

 

怒りのあまり思わず青筋に血管が浮き出てきそうだ。

 

どうして分かったかというと、トモっちはなんらかの拘りがあるらしく

ネット上で使う名前は全て「TOMOTOMO」に統一しているから疑いようがない。

 

ネットアイドル「Ribbon」の一番のファンと自称してるアイツの事だ。

追っかけが落ち込んでいると知っても居ても立ってもいられなかったのだろう。

自分の用事何て二の次のはずだ。

 

 

無理やりそう結論付けて何とか怒りを鎮める。

 

アイツの事だから変な事は書いてないだろうが一応確認しておこう。

 

マミちゃんの背中越しに目を凝らして文章を目で追う。

 

 

 

えーと何々?

 

『自分の心に正直に』か。中々良い事言うじゃん!

見直したぞトモっち!!

お前の事だから多分勢いだけで書いたんだと思うけど今回はGJだ!

 

 

「マミちゃん」

 

 

今のマミちゃんの様子を見るため声をかける。

 

顔を上げた彼女はさっきよりも生気を取り戻したらしく血色が良くなっている気がする。

どうやら激励メッセージは少なからず効果があったらしい。

 

 

おぉこれは好機!今こそ叩き込む時だ!

 

 

「みんなマミちゃんを必要としてくれてるんだ。魔女化の運命から逃げたいのは分かるけどそれは死にたいのか死ななきゃならないのかどっち?マミちゃんはどうしたい?」

 

 

みんな必要としてるんだから自殺なんてトチ狂ったこと考えんなと遠回しに伝えてみる。

 

こんだけ大勢の人が応援してくれるんだ。少しくらい自殺衝動は和らいでるはず!

 

 

 

 

 

「優依ちゃんは?」

 

 

 

 

「へ?」

 

 

 

 

「優依ちゃんは私を必要としてくれる?」

 

 

 

 

まさかの質問返しされた!?

 

いやこんだけ大勢の人に必要とされてるなら俺はいいじゃん!

実は結構欲張りさんなのか!?

 

 

うわー・・はっきり言って答えたくない。

 

 

 

 

だって、

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

こっちをじっと見てる黒髪さんのプレッシャーが半端ない!

 

 

 

 

怖い!物凄く怖い!

ほむらが睨んでいるのはマミちゃんだけどいかんせん目力半端ない!

あれ瞳孔開いてんじゃないの?何であんなに怒ってんだ?

 

 

おかしい!

 

今日は見逃す的な事言ってた気がするけど俺の聞き間違いか!?

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

うるうるさせた上目使いで見てくるマミちゃんもほむらと違う別のプレッシャーを放っている。

 

 

どうしよう?なんて答えればいいんだ!?

 

 

くそ!こうなりゃ自棄だ!

 

 

 

「もちろん!俺にとってマミちゃんは(戦力として)絶対必要な人さ!」

 

 

 

ヤケクソになった俺はマミちゃんの手を握ってそう叫んだ。

 

 

 

怒ってる理由は知らないけど許せほむら!

対「ワルプルギスの夜」にはどれだけ戦力があっても足りないから!

マミちゃんの火力は絶対必要なの!

 

 

パアと顔をマミちゃんが顔を輝かせている。

対してほむらは俺を殺しそうな目でにらんでいるけどな!

 

 

喜んでいる割には俺の回答を疑っているのかマミちゃんが何度も「ホント!?」と聞いてくるが全部で笑顔で受け流す。

人間笑ってれば何事も受け流せると信じている!

 

 

 

 

 

「これからもずっと私を愛してくれる・・?」

 

 

 

「へ!?」

 

 

さらなる爆弾発言がマミちゃんの口から飛び出してくる。

 

 

何言ってんのこの人!?大丈夫!?

ヤバい!マミちゃんが本格的に愛情に飢えている!?

これはマジで精神科に診察に行かなきゃならないかもれしれない!

 

 

勘弁してください!これ答えなきゃだめなのか!?

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

きゃあああああああああああああああ!!

 

 

 

 

ふと視線を感じ気になって横目で見たほむら様の顔が見れたものじゃない!

 

 

 

どうすればいい!?

 

 

ここで「はい」と言えばマミちゃんは喜ぶがほむらを(何故か)怒らせる事になる。

ついでにマミちゃんに依存されそうで怖い。

だって目がすごく病んでるように見えるもん。

 

きっと魔法少女の真相で傷心してしまっているから根本にあった愛情の飢えが噴出してしまってるのだろう。

同性の俺にそれを求めるくらいには。

 

 

かと言って「いいえ」なんて言ったらほむらは怒らないだろうけどマミちゃんはまたソウルジェムを濁らせてしまう。魔女化一直線。

 

 

 

 

最悪の二択だな!他に選択肢はないのか!?

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・うん」

 

 

 

 

悩んだ末に俺はYESと首を縦に振る。

 

 

 

なるべくほむらを見ないように、そしてマミちゃんには顔を逸らしてギリギリ聞こえる程度の声で小さく返事を返してだが。

 

 

 

ごめんなさいほむら様。

何で怒ってるのか知らないけど後で土下座するから許してください。

 

 

 

まあ、マミちゃんの事も「ワルプルギスの夜」の戦いが終わるまでの話。

そこからはきっと魔法少女の仲間達が君の孤独を埋めてくれると思うのでそれまで辛抱だ。

 

とにかくこれでマミちゃんは魔女化も自殺もしないだろう!

 

 

 

そう信じよう。じゃないとやってられない!

 

 

 

 

求める答えが得られたからかマミちゃんは満足そうに微笑みそのまま俺に身体を預けるように倒れ込んでくる。

今の様子からもう絶望して魔女化する気配も自殺する気配も感じない。おそらくこれで大丈夫だろう。

 

よく頑張った俺!

そしてありがとう!「Ribbon」のファンたちよ!

君たちのおかげで一人の魔法少女が救われたぞ!

 

 

 

マミちゃんは疲れてるのか起き上がる様子はない。

本人にとっても衝撃的な事実を突きつけられた訳だし仕方ないのかもしれない。

 

マミちゃんの好きにさせておこうか。

 

 

 

 

 

「いやー、一時はどうなるかと思ったけど何とかなったねー。さすが天然タラシ」

 

「・・・えぇ、そうね。正直見ていて良い気分じゃないわ。終わったのならさっさと離れればいいのに。無理やり引き剥がしてやろうかしら?」

 

「とても機嫌が悪いみたいだね。だけどそれは無粋だよ。マミの精神安定のためにも今日くらい我慢したらどうだい?」

 

「・・・・・・・・分かったわ」

 

「ところでほむら」

 

「何?」

 

「マミお手製ぬいぐるみの優依を盾に仕舞い込もうとするのやめないかい?せっかく和解出来そうなのにまた争うつもり?」

 

「そういう貴方はいつの間に高そうなクッキーの箱を開けてるの?勝手に巴マミのキッチンを漁ったんでしょう?」

 

 

 

 

 

 

・・・・アイツら黙ってくんないかな?

 

 

 

 

 

お互い相手の犯罪言及してるけど、どっちもどっちだ。

マミちゃんは今、俺に身体を預けて幸せそうに眼を瞑ってるけど話聞いてたらどうすんの?

怒っても文句言えないぞ?

 

いや、いっその事撃たれてしまえ!

 

 

 

「・・・愛してるわ」

 

 

 

・・なんか俺の胸元から凄い場違いな言葉を聞いた気がするがきっと空耳だろう。

空耳という事にしておこう。

 

 

 

これで良かったんだよね?




トモっちまさかの活躍でマミさんの危機を救いました!
病みが深まりましたがこれで大丈夫でしょう!
(※優依ちゃんは危なくなりましたが)

マミさん編は次で終わりになります!


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62話 一途と狂気は紙一重

マミさんのお話はこれで最後になります!


「ケーキの味はどうかしら?少し優依ちゃんの好みにアレンジしてみたんだけど」

 

「うん。美味しいよ・・」

 

 

午後の一幕、というかもうすぐ夕方。

 

 

俺はマミちゃんと二人彼女の部屋でティータイムと洒落込んでいる。

ケーキの味は俺好みにしてくれているらしく本当に美味しい。

 

美味しいんだけど・・。

 

 

「ほむらたち、まだかな・・?」

 

「あ、また暁美さんの名前出したわね?だめよ?私と二人の時はほかの人の名前を出さないでって言ったのに」

 

「・・ごめんなさい」

 

「もう、今回は無意識みたいだし仕方ないけど次は許さないわよ?」

 

「・・・はあ」

 

 

昨日からずっとマミちゃんはこんな調子で正直疲れる。

 

 

少しでも他の人の名前を出そうものならすぐに不機嫌になってしまい機嫌を直すのに時間がかかる。

 

 

 

どうしてこうなったんだ?

 

 

 

昨日は最初の懸念だった「マミる」日。

 

 

俺たちの頑張り一割、思わぬ助け九割で見事「マミる」回避に成功した。

 

 

 

まさに歴史的偉業ともいえるだろう!

希望はあると思えたほどだ!

 

俺の未来は明るいぜ!

 

 

 

・・まあ、俺の個人的な感想はともかくマミる回避で済めば良かったんだけどほむら&シロべえの外道コンビが魔法少女の真相をマミちゃんにバラしやがった。

そのせいでマミちゃん精神が不安定になってしまい一歩間違えてたら魔女化&自殺コンボが発動と紙一重の所まで追い詰められた。

 

俺の咄嗟の機転で「Ribbon」を愛する同士たちの熱すぎる激励メッセージがマミちゃんに届き、何とか彼女を立ち直らせて最悪の結末を食い止める事に成功。

チームプレーとはまさにこの事。

おかげでマミちゃんは生きる希望を見い出してくれた。

 

 

 

更になんとほむらと一緒に「ワルプルギスの夜」と戦うとまで約束してくれたのだ!

そのため今後はほむらとともに魔女退治をするそうだ!

 

まさに奇跡の共同戦線!

 

 

全てが上手くいっている!俺にしては珍しい!

 

 

・・しかし順調だったのはそこまで。

 

 

色々話していると気づけば夜になり無事円満に終わった。

様子を見るにマミちゃんの精神の容体も落ち着いていたので今日は家に帰れると意気揚々と部屋を出ようとしたが、

 

 

「寂しいから今日は一緒に寝て!」

 

 

とマミちゃんが俺の腰に抱き着いてきて動けない。

 

 

それを目撃したほむらがブチ切れ銃を突き付けてきたのであわや速攻で協力関係が破綻しそうになる大惨事。

一時は二人とも魔法少女に変身して再び殺し合いに発展までしそうになって俺涙目。

 

 

このままではまずいと危険を承知で二人の間に入ってどうにか落ち着かせる事に成功したがあの時は本気で死を覚悟したものだ。

(ちなみにこの時シロべえは別の部屋に避難してやがったので後で殴っておいた)

 

 

殺し合いはどうにか収まるも涙目で泊まって欲しいと何度も懇願するマミちゃんにさすがに困り果てたが真相を知ったばかりで放置するのはまずいと判断。

 

 

泣く泣く俺のお泊りが決定した。

 

 

諦めの心境で俺がマミちゃんの所に泊まると宣言したらマミちゃんはパァと顔を輝かせ、ほむらは般若顔でマジ怖かった。

しかも何故かほむらまでここに泊まると言い張ってマミちゃんに追い出されそうになるも無理やり居座り深夜、二人に挟まれ間近に聞こえるネチネチした口論をBGMに夢現状態だったのが遠い昔のようだ。

 

 

 

 

 

・・・俺はいつになったら自分のベッドで寝れるんだろう?

 

 

これが昨日の話。

 

 

 

 

続いて今日の話をするとマミちゃんは昨日のことで心身ともに疲労してるので学校を休んでる。

ここ最近休みがちだった気がするけど彼女は三年生だ。

受験は大丈夫なのかな?

 

 

ちなみに俺も今日学校を休んでる。

 

 

本当は俺もほむらとともに学校へ行くつもりだったのだが、今朝出かける直前に「行かないで」とマミちゃんに背中にしがみつかれました。

 

ほむらはキレていたけど「一緒にいてちょうだい」とマミちゃんに泣かれてしまい渋々折れた俺です。

 

 

あの時のほむらの表情が忘れられない・・!

 

 

一人学校へ向かうため扉を開けた時に振り返り朝の見送りをする俺に「すぐ帰ってくるわ」と能面のような表情で一言告げて出て行った。

あの表情は夢に出てきそうだ。それも悪夢の方な気がする。

 

 

ほむらが帰ってくるのは怖いが今は出来るだけ早く帰ってきて欲しい。

 

 

だって今のマミちゃんと二人きりなのは結構キツイから!

 

 

邪魔者(ほむら)がいなくなったからかマミちゃんはどこから取り出してきた可愛らしい服で俺を着せ替え人形にして遊んだり、ぬいぐるみを愛でるように俺をギュッと抱きしめて全然離してくれなかったり、俺をリボンでぐるぐる巻きの緊縛プレイもどきとやりたい放題。

 

 

断りたかったがマミちゃんは絶賛傷心中。

強く断って下手に刺激してはいけない。魔女化の可能性大だから。

 

 

限度を越さない程度に好きにさせてやるしかどうしようもなさそうだ。

何より俺で遊んでる時、マミちゃんの顔は最高に幸せそうで何も言えない。

 

今だってマミちゃんに着てほしいと言われた服を着てるし。

 

 

 

「優依ちゃんおかわりは?」

 

「いや、大丈夫・・」

 

 

今は俺の好きなチョコレートケーキを食べられるのが救いだ。

この甘さが荒んだ俺の心を癒してくれる。

食べさせられることに目を瞑れば癒しの時間だ。

 

 

やっぱり「あーん」はきついよ・・。

 

 

自力でご飯を食べる事も服を着替える事も許されず、俺の身の回り全てはマミちゃんが世話している。

どんなプレイだこれ?もはや一種の介護状態に近いかもしれない。

 

 

マミちゃんの過剰な世話焼きは俺にとって心身共に来る拷問のような時間だ。

 

救いを求めるように俺はSOSメールを作り順次送信している。

 

こうしてまだ正気でいられるのはこれをしているおかげだ。

SOSメールが今の俺の心の安定を保っていると言っても過言ではない!

 

 

ちなみにさっき送ったのがこれ。

 

 

『至急救助求む!

巴マミさんが現在進行形で精神をマミらせていて大変危険な状態!

最優先で巴マミさんの元へ来られたし!』

 

 

これをほむら、まどか、さやかに送った。

 

ちなみにさやかには通算数十通の送信に及び、もはや迷惑メールと化している。

だってそうでもしなきゃアイツ上条の所に行っちゃいそうなんだもん。

 

ほむらの話によれば今日あたりに契約する可能性大だって言うし。ほぼ上条のせいで。

原作でも確かマミちゃんがマミった後の次の日あたりに契約していた気がする。

 

そうなったら魔女化一択の未来しか見えない!

 

今回みんなにマミちゃんの家に集まってもらおうと連絡したのは、さやかの契約を阻止する事とほむらを交えてちゃんと話し合おうという趣旨で放課後ここに来てもらる予定だ。

 

 

話す内容はズバリ「魔法少女の真実」!

 

 

これさえ話せばいくらあの猪でも契約なんて考えないだろう!

 

最初は信じてもらえないかもしれないがほむらだけじゃなくマミちゃんもいる。

さやかはマミちゃんに憧れているから彼女がいう事なら嘘だとは思わないはずだ。

 

 

上手くいけばさやかの契約、ひいてはまどかの阻止出来るし、ほむらとの仲も良好に出来る。

 

 

そうなれば巡り巡ってさやかと杏子の対立も死亡もなくなるはずだ!

何よりこれから俺に降りかかる死亡フラグが減る!これ大事!

 

 

 

そのためにはここに来てもらう必要があるのだが今のところ、ほむらとまどかからは放課後向かうと連絡があったが肝心のさやかから連絡はなし。

まあ、送ったのほぼ迷惑メールだったから返したくないわな・・。

 

仕方ない。ピンクあたりに連行してきてもらうおうか。

 

 

 

これ完璧なはず!ふふふ、意外と俺って策士じゃね?

 

 

 

 

 

 

 

「優依ちゃんこれ見て」

 

 

「?」

 

 

一人悦になっていた俺にマミちゃんがニコニコ嬉しそうな様子で膝に乗せた物を見せてくる。

 

 

「えっと、これは?」

 

 

マミちゃんの膝に乗っているのはぬいぐるみ。

それも女の子の形をしたぬいぐるみなんて珍しい。

全体的にデフォルメ化されていて普通に売ってそうな完成度だ。

 

 

 

「これ私が作ったの。可愛いでしょう?」

 

「・・・・・そうだね」

 

 

少し口ごもりながら肯定する。

 

確かに可愛い。可愛いよ・・・。

 

 

「・・・・・・」

 

 

じっとそのぬいぐるみを眺めるも疑惑が拭えない。

 

 

すみません。なんかこれ心なしか俺に似てませんか?

てか、俺じゃね?

 

だって見た目俺そっくりだし来てる服も見滝原中学校の制服だし。

他人の空似とは到底思えない。

 

 

そういや前にマミちゃんは俺にそっくりなぬいぐるみを持ってるってシロべえが言ってた気がする。あの時は冗談だと思ってたけど実物あるしマジな話だった。

 

照れ笑いしながら俺そっくりなぬいぐるみを抱きしめるマミちゃん。

 

うん。可愛さ余って怖さ百倍だ。

 

 

ぬいぐるみだけじゃない。

さっきだって悪寒が走った。

 

マミちゃんが紅茶の準備で席を外していた時に見つけた謎のノート。

所々に赤黒い絵の具の塊のような何かがこびりついておりオシャレなマミちゃんには似つかわしくない程ボロボロだった。

 

悪いと思いつつ好奇心で中を開いてみると乱雑に文字が並べられていてよっぽど焦りながら書いたと思われるほどの走り書きで埋めつくされていた。

 

何を書いているのか分からなかったが所々に「標的H」「標的K」と記されており、ゲームをしている背後が無防備とかガラス張りだから学校の方が狙いやすいとか不穏な事が記されていた。

 

 

結局俺は最後までそのノートを読まずそっと元の位置に戻しておいた。

 

 

その後SOSメールラッシュ(主にさやかに)をしたのは言うまでもない。

 

 

うぅ・・思い出したら怖くなってきた。

 

 

誰か早く来てくれえええええええええええええ!!

 

 

 

 

 

「やあ、盛り上がってるみたいだね」

 

 

思わぬ所で救いの手が!

 

 

俺はにこにこ笑いながらすり寄ってくるマミちゃんから速攻で離れて救世主の所までダッシュを決める。

 

 

「お待ちしておりましたシロべえさん!!」

 

 

窓から入ってきたのはシロべえ。

 

コイツに少しお使いを頼んであったのでさっきまでいなかったのだ。

お使いを頼んだ事は後悔していないがタイミングは悪かったかもしれない。

今思えばここにほむらたちが来てからでも遅くなかったかも・・。

 

 

「お帰りなさいキュゥべえ。早かったわね」

 

「マミ、何度も言うけど僕はシロべえだよ。あいつ等とは違うんだから!」

 

「ごめんなさい。次からは気をつけるわシロべえ」

 

 

ちょっとムッとした声のシロべえにマミちゃんが申し訳なさそうに謝っている。

 

昨日の内にマミちゃんには出来るだけ情報を開示している。シロべえの事もその一つだ。

魔法少女の真相を知った以上は隠す事なんてあまりないからな。

 

ただし俺の秘密の事は話していない。

ほむらとそう約束したし、何より話したらまた拗れそうで面倒だからが一番の理由だ。

この事はマミちゃんが知らなくても別に困る事じゃない。

ついでに話したのがほむらにバレたら後が怖そうなのもあるし。

 

 

「優依、頼まれた物を持ってきたよ」

 

「ん?あぁ、ありがとうシロべえ」

 

 

怒れるバーサーカー状態のほむらを想像していたらいつの間にか俺を見上げていたシロべえに気づかなかった。

慌てて家から持ってきてもらったものを受け取り状態を確認する。

 

本当にこれで良いのだろうか?

 

 

「マミちゃん・・あの、これなんだけど本当にこれで良かったの・・?」

 

 

恐る恐るシロべえから受け取ったものをマミちゃんに差し出す。

俺の手の中にあるものを見たマミちゃんは笑顔をはじけさせて目をキラキラしている。

 

 

「ええ、これよ!これが欲しかったの!」

 

 

俺から受け取ったマミちゃんは嬉しそうにそれを眺めている。

 

マミちゃんが手に持っているものそれは、

 

俺が今も使っている銀色の花のフレームがついたヘアゴムだ。

 

今日マミちゃんと話している中で突如話題になったほむらのカチューシャ(ちなみにほむらは今日も飽きずに学校に着けていった)。

 

 

あれは俺がプレゼントしたと暁美さんから聞いたけど本当か?

と真顔で問い詰められ怖かった俺は正直にそうだと答えた。

 

 

それを聞いたマミちゃんは暁美さんだけズルい!私も欲しい!と半泣きで強請られてしまった。

 

今度買いに行こうと宥める俺の言葉を聞き入れず、嫌々と首を振られて途方に暮れる。

 

 

 

 

以下、会話はこんな感じ。

 

 

 

 

「買ってもらうんじゃ暁美さんの二の次じゃない!そんなの嫌!」

 

「えー・・じゃあどうしろと?」

 

「! そうだわ!そう言えば優依ちゃんは今も大事に使っているヘアゴムがあるって言ってたじゃない?あれが欲しいわ!」

 

「え?でも・・」

 

「ダメなの?私も証が欲しいわ。暁美さんとはまた違った証が優依ちゃんからの証が欲しいの。それをくれるなら暁美さんにプレゼントした事、許してあげる」

 

「はあ・・・」

 

 

 

 

 

ガチな表情でそう言ってきたのでこれは本気と悟り、渋々近くで寝ていたシロべえを叩き起こして家までそのヘアゴムを取ってきてもらえるように頼んだのだ。

(本当は家に帰りたかったから俺が行こうとしたんだけどマミちゃんにダメと言われてしまった)

 

昼寝の邪魔されてぶつくさ文句を言っていたシロべえだがちゃんと持ってきてくれたみたいだ。

だから俺が隠していたチョコ菓子をまた無断拝借して現在進行形で食べてるけど許してあげよう。

 

 

 

ふぅ、世辞辛いぜ・・・。

 

 

 

「優依ちゃん、似合うかしら?」

 

 

早くね?受け取ってまだほんの数分しか経ってないのに。

てか、あんなクルクル髪なのにどうやってヘアゴム通すんだ?

 

 

「・・・・・」

 

 

マミちゃんの方に顔を向けるといつもの髪飾りから俺愛用の銀のヘアゴムが装着されていた。

似合うかって言われたら普通に似合う。ただし可もなく不可もなくが正直なところだが。

 

似合うかどうかよりも俺的にはどうやってこのクルクルを維持しながら髪を維持するのかとても知りたいんだが。

 

 

「どう・・?」

 

俺が何の反応もしないからかマミちゃんが再度聞いてくる。

今度はさっきの照れたような感じではなく不安そうな表情だ。

 

手に入ったアクセサリーをつけて感想を求めるのはどの年代の女の子と変わらないみたい。

ここは機嫌を直してもらうために褒めた方が良いだろう。

 

 

「うん、素敵だよー。似合う似合う」

 

「・・本当に?」

 

 

あまりの棒読みだったからか疑わしそうに俺を見ている。

これはまずい。急いで軌道修正しなければ!

 

 

「本当だよ!この世でこんなに似合う人がいるなんて初めて見た!マミちゃんって本当に何でも似合うね!」

 

「そ、そうかしら?似合ってるなら良かった・・」

 

 

大袈裟に褒めると顔を赤らめて俯いている。どうやら誤魔化せたようだ。

実にチョロいものである。

 

でもごめんマミちゃん。チョロ過ぎて逆に君の将来心配になってきた。

悪い虫に引っかかりそうで俺怖いよ。

 

 

ちなみに何でほとんど髪飾りをしない俺がマミちゃんにあげたヘアゴムを大事にしていたからかというと俺にしては数少ない戦利品だからです。

 

勝負事には滅法弱い俺は勝利した記憶がほぼない。

このヘアゴムはそんな弱小な俺が珍しく勝利した時に手に入ったものだ。

 

ちなみに何の勝負かと言えば腕相撲勝負(最下位決定戦)

前の学校のイベントで幼稚園児と触れあう機会があってそのさい催されたものだ。

 

運動神経皆無の俺は全敗。

俺なら余裕で勝てると思ったのか生意気な園児のガキが俺に勝負を挑んできて僅差で勝利した時に景品として手に入れたのだ。

あの時の悔しそうな園児(五歳児)の顔は忘れない!

 

このヘアゴムを見るために俺でも出来るという慰めになるから大事にしていた。

 

 

まあ、まさかそれが別の女子、しかも年上の女の子の髪にくっつく日が来ると思わなかったよ。

優越感よりも命優先だから渋々あげたけどオシャレ女子代表のマミちゃんはこれで良かったのだろうか・・?

 

 

「ふふ・・」

 

 

やめて!鏡をじっと見つめながらうっとり微笑まないで!

 

何であんなに嬉しそうにしてんの!?

 

 

≪これが本当のマーキングだね優依≫

 

≪お前は黙ってろ≫

 

 

白い悪魔が横やりしてくるが切り捨てる。

 

 

本当にこれで良かったのだろうか?

黄色さんが悦に入って相手しなくていいのは楽だけどさ。

 

楽しそうに鏡を眺めるマミちゃんを見るのは複雑な気分だ。

 

 

 

 

 

 

―ピンポーン―

 

 

 

! 来た!?

 

 

 

「! はーい」

 

 

部屋に響くチャイムの音に手首の髪紐を見てニコニコしていたマミちゃんが慌てて玄関に向かってすぐに扉を開ける音がした。

 

 

 

「あら鹿目さん!・・と暁美さん。いらっしゃい待ってたわ」

 

「マミさんこんにちは!お邪魔します!」

 

 

 

耳に響くこの声。これは・・・まどかの声だ!

 

ついに、ついに来てくれた!!

 

 

「いらっしゃーい!待ってたよ!!」

 

 

ドタドタ足音を鳴らしてすぐに玄関まで駆けつけ、やって来た救世主たちを半泣きで出迎える。

 

 

ようこそお越しくださいました!

首を長くして待っていましたよ!

これで俺はマミちゃんとのワンツーマンを終わらせることが出来る!

 

俺は、自由だ!!

 

 

「あ、優依ちゃん!その服とっても可愛いね!」

 

 

まどかの満面の笑みで俺の今の現実を思い出す。

 

 

・・・忘れてた。

俺の今の恰好はマミちゃんに無理やり着せられたフリフリ服だった。

 

後で制服に着替えよう!これ絶対!

 

 

 

「ただいま優依。巴マミに何かされなかった?」

 

「・・・うん、何もなかったよ・・」

 

 

ほむらの何気ない詰問にさっと目を逸らしながら問題ないと嘘の報告をしておく。

昨日の一件でほむらとマミちゃんは些細なことですぐに殺し合いに発展する危険性を身を以て理解した。

元々仲が悪いからかもしれないが勘弁してほしい。

 

なるべく穏便に済ませるようにしなくてはいけない。

嘘も方便。どこに地雷があるか分からないから何もなかった事にしておいた方が良いだろう。

取り敢えず今日の事は念のために伏せておこう。

 

 

「ただ普通に(抱き付かれながら)お話して普通に(あーんされながら)ケーキ食べただけだから」

 

「・・本当に?」

 

 

すっごく疑わしそうな目で睨んでくる。

嘘は言ってないのでコクンと頷くと一応それで納得してくれた。

あくまで一応らしくジロッとまどかと話すマミちゃん、次に俺と交互に見ているけど。

 

 

ん?ほむら何見て・・?俺が着てる服?

 

見比べるのも飽きたのかじーっと真剣に俺の方を凝視している。

目線は若干下を向いているから服だと予想がつく。なんか「イマイチね」と辛口な事言ってるし。

 

 

「そんな服じゃ優依の魅力が半減するだけ。巴さんのセンスのなさが浮き彫りになるわね」

 

「あら、失礼ね。それなら暁美さんは優依ちゃんにどんな服が似合うと思うの?」

 

 

ほむらの物言いにカチンときたらしく今朝の続きでVS状態なのかバチバチと音を立ててにらみ合いが横行している。

 

無視だ無視。こんな厄介な修羅場は無視に限る。

 

 

・・・それにしてもさっきから妙に静かに感じる。

いつもならアイツが騒がしくしているというのに。

 

目当ての人物を見るため視線をキョロキョロ動かして周りを見る。

 

 

 

 

・・・・・ん?

 

 

 

くまなく目を動かしてもいる見つからないぞ?

 

 

「あれまどか?・・さやかは?」

 

 

殺気を纏っている二人を除いて玄関にいるのはまどかと俺だけでどこにも青髪ショートヘアーの姿が見当たらない。

 

 

・・・まさかアイツ!

 

 

「さやかちゃんならここにいないの。優依がヤバい!!って焦って飛び出しちゃった」

 

「ん?」

 

 

俺の視線の意味に気付いたらしいまどかが教えてくれるも引っかかる言い方だ。

 

ここにはいないとはどういう事だ?後で来るのか?

俺がヤバいってどういう事?

 

 

「優依ちゃん、今日メールくれたでしょ?特にさやかちゃんにはたくさん送ってたよね?私もちょっと見せてもらったけど一体どうしたの?」

 

「・・・・・」

 

 

きっとそれは呪いのノートを見つけた時に送ったやつだろう。

恐怖のあまり精神がおかしくなったのは認める。

 

 

「さやかちゃん、優依ちゃんのメール見て心が病んじゃってるかもって思っちゃったみたいなの。だから病院にカウンセリング相談あるか調べてくるって、ついでに上条君の所にお見舞いもしてくるって逃げられちゃった。一緒に行かないの?って言っても後でマミさんの所に向かうから先に行っててって・・・」

 

「!?」

 

 

まどかから段々不安になってくる内容を聞かされる。そこまではいい。

まどかじゃ暴走したさやかを抑えられないのは分かっている。

 

そのためにほむらに頼んであったはずなのに!

ほむらがいて何でさやかを捕まえられなかったんだ?

 

 

目線でそう訴えるとまどかがおどおどしながら答えてくれた。

 

 

「とにかくわたしじゃ追いつけないからほむらちゃんにどうにかしてもらおうと思って頼んだんだけどほむらちゃんに『既に見失ってしまったのだから仕方ないわ。それより優依のSOSの方が心配だから巴さんの所に行く方が優先よ!』て断られちゃったの」

 

 

俺のせい!?

まさかの俺のせいなの!?

ほむら優先してくれるのはありがたいけど今回は優先順位間違えてるぞ!!

 

 

 

 

職務放棄しやがった紫は俺の隣で黄色と今も口論している。

 

 

 

“どう暁美さん?これ優依ちゃんからもらったの”

 

“それがどうしたって言うの?見たところそれは新品じゃないみたいよ?”

 

“ふふ、見る目がないわね。これは優依ちゃんが大事に使っていたヘアゴムよ”

 

“!? 何ですって?”

 

“そんな思い入れのある大事なものを私にくれたのよ?ただの新品のカチューシャをもらった暁美さんと違ってね”

 

“く!”

 

 

 

聞こえてくる内容は耳に入れても頭が理解を拒んでいる。

きっと俺の精神衛生には良くないものだろう。

 

 

いやそれよりも!

 

 

「ま、まどかは・・?まどかにも頼んだよね?君が言えばほむらは言う事聞いてくれるはずだよ・・?」

 

 

そう、ほむらだけじゃ心許ないからと俺はまどかにも協力してくれと頼んでいたはずだが一体どうしてこんな事に?

 

 

「えっとわたしも優依ちゃんが心配だったからそれ以上強く言えなくて・・・。だって優依ちゃんとっても切羽詰まったメールだったでしょ?すごく心配したんだよ!?」

 

 

涙目で俺を見つめるまどかに罪悪感の嵐が巻き起こり、これ以上追及出来ない。

 

まどかさんも俺のトチ狂ったSOSメールを見て心配してくれてたんですね?

めっちゃええ娘や・・。

 

 

「ごめんなさい・・」

 

 

罪悪感に耐えられなくなった俺は蚊の鳴くような声で謝罪の言葉を口にする。

 

つまり簡単に言えばさやかはここには来ず病院に向かってしまったと?

しかも原因が俺の送ったメールにあると・・?

 

 

 

・・・・・・・・ガッデム!!

 

 

 

俺は人目も憚らず頭を抱えてうずくまる。

 

 

頭上から「優依ちゃん!?」と焦った声が聞こえてくるも返事をする余裕はない。

 

 

ここに来てまさかのSOSメールが思わぬ方向に!

こんな事なら最初からSOSなんて送らずに普通にマミちゃんの家に集合って言っとけば良かったよチクショウ!

 

 

何で俺はこうも墓穴を掘ってしまうんだ!?

これも邪神のせいじゃないだろうな!?

 

 

 

まどか達がここにいるって事はさやかは既に病院にいるだろう。

 

 

まずい!このままじゃ契約しちゃう!

そしたら魔女化まっしぐらじゃん!

ああもう!急いで病院に向かってさやかが魔法少女にならないように説得しなきゃ!

 

 

 

俺のせいだけど手間かけさせやがって!!

 

 

 

走り出したら止まらない!

 

本当にアイツはぶれないな!!




一難去ってまた一難!
優依ちゃんの受難はまだまだ続く!

次からさやかちゃんのお話になりますがここら辺で本編を少し休んで番外編投稿しようと思います!


次の話はマギレコ番外編トップバッター
「環いろは」ちゃんの登場です!


全部で三話構成の予定でメインストーリー第一部を基準にしています!

先に番外編を全部投稿し終わってから本編に戻るつもりですのでさやかちゃんはもう少し先になりますので少々お待ちください!

マギレコがアニメ化しようがメインストーリー第二部が始まろうが知った事じゃありません!

いろはちゃんカモーン!!


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番外編 もしも神原優依がマギレコの世界に転生していたら 環いろはの場合①

今回からマギレコ番外編!

環いろはちゃんの登場です!

優依ちゃんの設定は大体本編と同様ですが一部変更&補足で、

・優依ちゃんは見滝原に引っ越しておらず前の住所のまま
・マギレコは未プレイ
(これは本編も同様。理由は作中にて)

となっております!

時系列はメインストーリー第一部第一章です!


「やべ、迷った」

 

 

 

夕暮れ時の閑静な住宅街の中、俺、神原優依は呆然と立ち尽くしかなかった。

 

 

 

俺には前世の記憶がある。それも男としての記憶だ。

 

 

森羅万象全ての悪意を寄せ集めたような邪神的な少年のせいで死んでしまい、お詫び(笑)にとこの世界で女(超美少女)として生を受けた。

 

転生系であるようなアニメやファンタジーな世界ではないのはちょっと残念だが命の危機がない分、平穏に生きていけるのはありがたいものだ(性転換は除く)。

 

前世は不運だった分、今世は頑張って長生きしようと思う。

 

 

 

そんなこんなで十四年の月日が経ち俺は今とある街に遊びに来ている。

 

 

 

新興都市「神浜市」。俺が今いる街の名前だ。

 

 

最近都市開発が進んでいるらしくテレビや雑誌でもよく取り上げられている。

何でか知らないが「神浜市」の名前に既視感を覚えて気になっていたのだ。

 

俺の住んでいる街からはそこまで遠くないし、せっかくだから行ってみようと思い立ったのが今日。

そのため放課後、家に帰らず電車を乗り継いできたのだ。

 

 

 

いざ神浜に足を踏み入れてみると目を見張った。

 

 

 

テレビで見るよりもずっと都市開発が進んでいてまさに近代的といった街並みに大興奮。

 

 

その浮かれた気分でふらふら歩いて気づけば右も左も分からない住宅街に絶望。

こんな時はスマホの地図アプリだと自身のスマホを取り出すもまさかの電池切れで絶望。

慌てて周囲を見渡すも周りには人っ子一人いないから道も聞くことすら出来ない。

 

 

まさに絶望!

 

 

 

誕生して十四年、俺は今世で初めて迷子になってしまったのだ・・。

 

 

 

ポツンと佇む俺を夕焼けが優しく照らしてくれるが哀愁が増していく。

 

 

 

 

 

 

うがああああああああああああああああああ!!

 

 

 

どうしよう!?このままじゃマジで帰れねえ!

誰かいないのか?誰でもいい!誰か助けてくれ!

 

 

「・・・あっ!」

 

 

 

ほとんど涙目になりつつもう一度周囲を見渡すとはるか前方に人影を発見!

 

神(邪神以外)は俺を見捨てていなかった!

 

 

 

見つけた瞬間、俺は駈け出していた。

 

ここで逃がせば次はいつ人に出会えるか分からない!

何としても捕まえて道を聞かねば!!

恥とかそんなもんどうでもいい!

 

迷子から抜け出すことが最優先!

 

 

 

 

 

 

 

「おーい!そこの人―!!」

 

 

 

 

「え!?」

 

 

 

 

 

 

追いつく前に見失うのを阻止するため大声で前方にいる人を呼び止める。

俺の声に気付いたのかその人はビクッと肩を上げて俺の方を見ている。

 

 

 

最初は遠くて分からなかったけど、近づくにつれ姿がはっきりしてくる。

 

 

どうやら俺が見つけたのは女の子らしい。

制服を着てる事からも学生なのは明らかだ。

 

 

中学生か分からないけど女の子なら聞きやすい。

しかもここの学生ならここら辺の地理もお手のものだ!

 

これはツイてるぞ俺!

 

 

女の子はオロオロしながら俺が来るのを不安そうに待っている。

その際、手に持っているピンクに光る何かをサッと隠したけどそれは気にしないでおこう。

 

俺には関係ない事だ。

 

 

てか、それ所じゃない!やば・・しんどぃ・・!

息が続かない・・!

 

 

 

「はあ、はあ、良かった。追いついた・・」

 

 

どうにか無事女の子の所に辿り着き彼女の前で前かがみで息を整える。

やっぱり走ったらダメだ俺。体力ないもんな俺。

 

 

 

「あの・・大丈夫ですか?」

 

「はあ、はあ、うん、大丈夫。・・ちょっといいかな?」

 

 

頭上から心配そうな声が聞こえてくる。

ようやく息が整ってきたので心配かけないように顔を上げた。

 

 

「えっと・・何ですか? っ」

 

 

女の子が途中で口ごもってじっと俺の顔を見ているがどうしたのだろうか?

俺の顔に何かついてる?

 

 

近くで見ると女の子は歳が近そうだ。

素朴で可愛らしい顔立ちで真面目そうな雰囲気で俺としては好印象。

 

 

 

・・・ピンクの髪さえ除けばだが。

 

 

 

ぶっちゃけその髪色はやめてほしい。

どこぞのダーク魔法少女アニメのツインテール主人公を思い出すから!

 

不吉としか思えないその派手な色の髪はとても長くて腰まで届き一つに束ねている。

 

 

 

 

・・・あれ?この娘どっかで見たことあるような・・?

 

 

 

記憶のどこかで引っかかる気がするが思い出せない。

どうせどこかですれ違ったとかそんなもんだろう。

 

 

それよりさっきから黙って俺を見てる女の子の方が心配だ。

もう一度声かけてみよう。

 

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「あ!ごめんなさい!とっても綺麗な人だなぁと思って・・っ、ごめんなさい!変な事言って!」

 

「いえ、大丈夫ですけど」

 

 

何も聞いてないのに勝手に顔赤くさせて自爆してる。

 

可愛いなこの娘。きっと嘘つけないんだろうな。

今世の俺の姿は美人だと自負しているが可愛い女の子に褒められると満更でもないもんだ。

 

 

・・・でもどうせならイケメンの男に転生して褒められたかったな・・

 

 

 

「え、えっとそれで、私に何か用ですか?」

 

 

オロオロしながら女の子は俺が声をかけた要件を聞いてくる。

 

話を逸らすためなのがバレバレだったがそれでハッとして声かけた理由を思い出し慌てて口を開く。

 

 

「あの!実は神浜に来るの初めてでお恥ずかしながら迷子になっちゃって・・それで良かったら道を教えてくれませんか?」

 

 

凄く取り繕った感じだと思うが何とか無事迷子脱却出来るだろう。

この女の子は誠実そうな印象だからきちんと答えてくれると期待出来るし。

 

 

しかし俺の期待とは裏腹に女の子は申し訳なさそうな顔でシュンとしていた。

 

 

「・・・ごめんなさい。私、神浜の事あまり詳しくなくて、その、ここがどこなのかも分かってないんです」

 

「え!?」

 

 

女の子もまさかの迷子だった。

 

そういえば見つけた時やたら周りをキョロキョロしていたし、立ち止まってた気がする。

 

 

 

マ、マジかよおおおおおおおおおお・・・。

 

これただの無駄足じゃん!希望を持っていた分絶望感半端ない!

はあ・・どうしよう。ここら辺詳しくないなら道を教えてもらうの期待出来ない。

 

また人を探すしかないがこの閑静な場所で新しく人を見つけられるだろうか?

 

 

首をガックリ落として落ち込む俺に女の子が遠慮がちに「あの、」と話しかけてくるので顔を上げると女の子が優しく微笑んでいる。

 

 

「良かったら、その、一緒に近くの駅まで行きませんか?私、スマホの地図の読み方分からないけど闇雲に歩き回るよりはいいと思うんです」

 

「え?良いんですか!?」

 

 

暗闇に一筋の光が射し込んだような感覚が俺の中に起こる。

 

 

視界が開けるとはまさにこの事!

迷子でも二人一緒なら怖くない!

 

 

俺の期待を裏付けるように女の子は安心させるように優しく微笑んでいる。

 

 

「はい、大丈夫です。あまり頼りにならないかもしれないけど困った時はお互い様ですよ」

 

「! ありがとうございます!」

 

 

良い子だ!この娘めっちゃ良い子だ!

一瞬だけピンク髪だから不良かもとか思っちゃってごめんね!

 

今時ここまで親切な人なんてそうはいないぞ!

さながら現代に蘇ったマザーテレサ並みの慈悲深さだ!

 

ありがとう神様(邪神除く)!

俺は今日この娘に会えた事を感謝します!

 

現代の若者よ!この娘を見習え!

世界中がこんな優しい娘なら戦争なんてなくなるぞ!

 

 

 

「あ、そういえば貴女は中学生ですか?」

 

「? そうですけど」

 

「だったら敬語なんていらないよ。何だか変な感じだし」

 

「え?う、うん。分かった」

 

 

ピンクさんは戸惑いながらも素直に頷いている。

 

こんな親切な娘が中学生だなんて思えない。

俺のイメージする女子中学生は小生意気なマセマセガールだ。

 

実際、俺が通ってる中学生の女子はそんな感じだからこの娘の方が珍しいのかもしれない。

 

少しだけ上を見上げて空の様子を確認すると既に日が傾き始めている。

 

もうすぐ夕暮れが終わるだろう。

無駄な事考えてる暇があったらさっさと帰るに限る。

 

思わぬハプニングがあったが概ね観光出来たしそろそろ帰ろう。

 

 

「私、地図見れるから貸してもらえる?私のスマホ今電池切れてて使えないんだ」

 

「本当?良かった。私まだスマホの使い方あんまり分からなくて困ってたの。じゃあ日が暮れない内に行こう」

 

 

ピンクさんからスマホを受け取って地図アプリを起動する。

お。ここから駅近い。ラッキー!

 

そのまま二人して地図に沿って歩きだす。

 

 

あ、そういやこの女の子の名前聞いてない。

今のうちに聞いてみようかな?

 

 

「そういや名前聞いてなかったね」

 

「あ、そうだね。えっと私は・・。! ごめんね!」

 

「へ?わ!?」

 

 

いきなり血相を変えた女の子に腕を引っ張られいきなり走らされてつまずきそうになる。

訳が分からず立ち止まろうとするも俺の腕を引っ張る女の子の力が信じられないくらい強くそのまま引っ張れる。

 

 

こんな細腕のどこにこんな力が?

ひょっとしてこの娘の前世キ○グコングなのか!?

 

 

引っ張られながら馬鹿な妄想してて気づかなかったがようやく周りに異変が起きている事に気付く。

 

空間が歪んで住宅街が消え、代わりにファンタジーな光景に変わりつつあった。女の子はまだ空間が歪んでいない場所を目指して走っているみたいだ。

 

 

「お願い間に合って!」

 

 

しかし結局俺たちがいる場所は砂場が広がる異様な空間になってしまい女の子は悲痛な表情を浮かべて走るのをやめた。

 

 

「どうしよう・・間に合わなかった」

 

 

俺の腕を握りしめたまま女の子は困ったようにそう呟く。

その様子から察するにこの娘はこの状況がどういう事なのか理解しているようだ。

 

突然ファンタジーな世界に巻き込まれるという異常事態が起きてるのにパニックにならず落ち着いている。

ならばここはこの女の子に説明してもらうのが妥当だろう。

 

 

正直俺はパニック通り越して頭に?がいっぱい飛んで思考放棄中だから。

 

 

「あの、この砂場は何?」

 

「え?」

 

 

さっそく質問したら女の子が驚いたように目を見開いてこっちを見ている。

 

何で?俺はそんな驚くような事を聞いたっけ?

単純に「ここどこだ?」としか聞いてないんだけど。

 

 

「魔女の結界が見えてる?ひょっとして貴女は魔法少女なの・・?」

 

「???」

 

 

言ってることがよく分からない。

 

「魔女の結界」?「魔法少女」?

 

 

まだ頭が混乱してて理解が追い付かないがなんかとても不吉なワードを言われた気がする。

 

てか、俺は何て答えればいいんだこれ?

 

 

「U▽☆※◎◇#ポー!」

 

 

考えあぐねいてる内に俺たちの会話を遮るように機関車みたいな音が耳に届く。

 

 

「げ!?」

 

「! もう見つかっちゃった!」

 

 

音が聞こえた方を見るとカラフルな球が寄り集まった蟻もどきがいる。

 

見た目は可愛いが複数体いるし心なしか殺気立っている気がするから友好的じゃないのは明白だ。

これは逃げた方が良いかもしれない。

 

 

「とにかくここから出ないと!着いてきてくれる?」

 

「う、うん」

 

 

再び女の子に腕を引っ張られて走る。

チラッと背後を見ると蟻モドキたちはゆっくりだがこっちに向かっているみたいだ。

 

女の子は遊具らしきものに向かって走っている。

体力が持つかどうか心配だったが息切れする寸前に辿り着いて遊具の後ろに押し込められる。

 

 

「ここに隠れてて!ここは私が何とかするから」

 

「へ?え?ちょ、ちょっとどこ行くの!?危ないよ!」

 

「大丈夫だよ!私戦えるから!」

 

 

それだけ言って女の子は俺が止めるのも聞かずに蟻モドキの方に走って行った。

 

 

連れ戻さなきゃあの娘殺される!

 

でも悲しいかな!

 

ヘタレな俺の足は全く動かないんです!

それに仮に今から助けに行っても絶対間に合わない!

 

ごめんねピンクさん!

ヘタレな俺は君を助けられそうにない!

 

 

一人そう言い訳しつつじっと遊具の物陰から女の子の様子を見守る。

 

 

 

蟻モドキに正面から対峙する女の子はいつの間にかピンクの宝石を手に持っている。

 

 

 

 

・・・・・・・・・あれ?え?ちょっと待って?

 

 

 

 

あの宝石みたいなの心なしか「ソウルジェム」に似てないか?

 

じゃあここ、実は「まどマギ」の世界?

 

 

いやいやいや!アニメ観てたけどあんな娘見たことないぞ!?

 

見間違いじゃないのか?

そう!きっと俺の見間違いさ!

 

あれがソウルジェムな訳ない!

 

なんかどんどんあの女の子の顔に見覚えある気がしてきたけどきっとそれは俺の気のせいさ!

 

 

そうでしょ!?気のせいでしょ!?

 

お願いそうだって言って!!

 

 

 

とんでもない疑惑の渦から解放されるため再び女の子を見る。

 

 

宝石から出た光に包まれて彼女の服装はいつの間にか変わっていた。

 

全身を覆う程の白いケープを羽織り、黒インナーをまとった露出度半端ない衣装を身に纏っている。

真面目そうな見た目と性格の割にかなり大胆だ。

 

 

うわぁ・・すっごいエロ衣装だなぁ。

 

これを見たプレイヤーはのちに彼女の事を「えろは」ちゃんだと・・・え?

 

 

 

 

彼女をもう一度まじまじと見る。

そして再度記憶を辿っていく。

 

 

どこかで見た事あるあの女の子の顔。

見たのは今世じゃない。

きっと前世だ。それもスマホの画面で。

 

 

「・・・・。っ」

 

 

! 思い出した!

 

 

 

あの娘の名前は「環いろは」だ!

 

 

 

確か「魔法少女まどか☆マギカ」の外伝にあたる「マギアレコード」の主人公!

 

 

 

え!?という事はここは「マギレコ」の世界なのか!?

 

 

だって目の前には魔女の使い魔らしき奴がいるし、そいつ等と魔法少女「環いろは」が戦っているし・・?

 

 

 

 

だとしたら最悪だあああああああああああああああああああああ!!

 

 

 

どうしよう!?知らない!

 

「マギレコ」のストーリーなんて知らない!話の頭くらいしか知らない!

 

 

冗談抜きで顔と名前一致するの「環いろは」くらいだぞ!?

レギュラー陣で知ってるのぶっちゃけあと「七海やちよ」くらいだ!

 

だって「マギレコ」プレイする前に俺死んじゃったんだもん!

ゲームアプリインストールする直前で邪神に殺されたからな!

そこから十四年も経ってるしゲームプレイもしてないからほとんど覚えてない!

 

 

まさかの突発的な死亡フラグ!

 

あ、そういえば・・・。

 

「マギレコ」の舞台は「神浜市」だった気がする!

道理で聞いたことある名前だと思ったわチクショウ!

 

 

 

どういうストーリーかは知らないけどあの「まどマギ」の外伝だから絶対ロクでもない展開が待っているのは予想がつく。

 

 

くそ!せめてストーリーを知ってれば死亡フラグを避ける事は簡単に出来るのに!

あの邪神、なんて性質の悪い事してくれたんだ!

 

 

 

「やあ!」

 

 

俺が脳内で邪神を罵倒する怨嗟の声を上げてる間に環いろはの方は使い魔らしき蟻モドキ達に腕に装着しているクロスボウ的なもので攻撃している。どうやら彼女も鹿目まどかと同じく遠距離タイプらしい。

 

 

「△○☆ポー・・・」

 

 

環いろはの攻撃が効いたのか動きが明らかに鈍くなっている。

 

そのままトドメを刺すのかと思いきや、何故かこちらに向かって走ってきて・・え?

 

 

何でこっちに来てんの!?

 

 

 

「今の内にここから出よう!」

 

 

 

「え?ちょ!?」

 

 

 

呆けてる間に俺に「環いろは」はすぐ近くまで来ておりそのまま腕をグイッと引っ張られ再び走りだす。

 

訳も分からず走っている内に空間が歪み、元の住宅街に戻っていた。

どう無事結界から抜け出せたらしい。

 

 

「はあ・・何とか無事に出られて良かった・・」

 

 

ポカンと周りの景色を見ている俺の横でほっとしたような声が聞こえる。

振り向くと「環いろは」はいつの間にか元の制服に戻って一息ついていた。

 

 

「あ、いきなりの事で驚いちゃったのよね?実は私、魔法少女なんだ。さっきのは魔女の使い魔で人を襲う危険な存在なの。魔法少女はそういう魔女や使い魔と戦ってるの」

 

 

俺の視線に気づいた「環いろは」は聞いてもいないのに勝手に説明を始めている。

それは俺の信じたくない現実を裏付けするものなので勘弁してほしい。

 

 

こんなに短い説明で絶望感を感じる事ってあるんだね。初めて知ったよ・・。

 

 

「それでね魔法少女っていうのは・・」

 

「あ!これ以上は大丈夫!無理に話さなくて良いよ!!」

 

「え!?あ、えーと、その・・ごめんなさい・・」

 

 

これ以上話を聞いていたくなくて話を中断させてもらったが何を勘違いしたのか申し訳なさそうに頭を下げている。

 

ただでさえ自分のいる世界が死亡フラグだらけな事にショックなのに今はその主人公と一緒にいる。

俺の精神ダメージは瀕死レベルのものだと言ってもいいかもれしれない。

 

 

「あ!そういえばまだ自己紹介してなかったね」

 

 

ペコペコ謝っていたが使い魔に遭遇する前のやり取りを思い出したようだ。

「環いろは」疑惑の人が勢いよく頭を上げる。

 

 

いいです!知りたくないです!

知っちゃったらあと戻り出来ないから!

 

いや待て!

実は他人空似でここは「マギレコ」の世界じゃなくてそういうパラレル的な世界なのかもれしれない!

 

 

希望は捨てちゃだめだ俺!

 

 

「私は『環いろは』です。よろしくね」

 

 

 

主人公はとってもはにかんだ笑顔で今の俺にとって絶望の代名詞を告げる。

 

 

 

 

 

Noooooooooooooooooooooooooooooo!!

 

 

 

 

 

やっぱりそうか!

同姓同名とかそんなんじゃなくてモノホンの方なんですね!?

 

これで決定的!

俺が転生した世界は間違いなく「マギレコ」の世界だ!

 

 

 

チクショウ!呪ってやるぞ邪神があああああああああああああああああ!!

 

 

ニコニコ笑う「環いろは」の前で本日二回目の怨嗟の声が俺の脳内で響く。

 

 

どうしよう!?

 

「よろしく」って言ってたけどすっごくよろしくしたくない!

俺は今この瞬間「環いろは」に出会った事を物凄く後悔してます!

 

 

 

 

「えっと、貴女の名前聞いてもいいかな?」

 

 

「!?」

 

 

「環いろは」がダメ押しとばかりに追撃してくる。

 

 

相手が名乗ったら自分も名乗り返す。それは常識でありマナーだ。

 

 

それは俺も分かっている。分かっているが・・。

教えなきゃだめ?死亡フラグに俺の名前教えなきゃだめ?

 

 

・・・教えないとダメだよなぁ。助けてもらったし・・はあ。

 

 

 

 

「・・・神原優依です。よろしくね『環さん』」

 

 

 

渋々教えるも死亡フラグであろう人物と仲良くなるつもりはないという意味を込めて苗字呼び。

当然だろ?下手に仲良くなって死亡フラグに巻き込まれたらたまったもんじゃない!

 

 

「・・うん・・よろしくね、神原さん・・」

 

 

「環さん」と言った直後に何故か落ち込んでる「環いろは」の事はこの際置いておこう。

名前で呼びたかったとかそんな事で落ち込んでるとか俺の思い上がりだきっと。

 

 

「あ、そう言えば、駅に向かう途中だったよね?そろそろ行こう」

 

「!?」

 

 

冗談じゃない!誰が死亡フラグなんかと一緒に歩くかよ!

 

 

「いいよ!大丈夫だよ!環さんは魔法少女なんでしょ!?きっと物凄く忙しいはずだよ!そんな人に甘える訳にはいかないから!」

 

反射的に拒否した俺に拍手を送りたい。

主人公と一緒にいたら嫌でも巻き込まれるのは確定してるようなものだ。

 

 

魔女のオンパレードなんて御免被る!

こいつから離れるに限る!

迷子とかそんなん二の次!

 

 

この後一人で彷徨う事になっても死ぬ事はないだろう。

幸いさっきの駅までの地図は覚えてる。

あの距離ならすぐに辿り着けるはずだ!

 

 

 

とにかく今すぐに環いろはと別れなきゃ!

 

 

「スマホ返すね!じゃあ私は帰るよ!さっきは助けてくれてありがとうね環さん!」

 

「え?一人で帰っちゃうの?それは危ないよ。この辺りだけでも結構な数の魔女の反応が「一緒に帰りましょう!お願いします!」あ、うん。じゃあ巻き込まれない内に行こっか」

 

 

速攻で掌返して頭下げる俺を蔑んでくれても構わない。

 

 

 

 

危険を承知で生存率が高い方を選ぶに限るから!

 

 

非力な俺には選択肢なんてないんですね・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうなんだ。神原さんは神浜に観光に来てたんだね」

 

「うん、よくメディアに取り上げられてて前から気になってたんだ」

 

 

駅に向かう間は暇なので仕方なく環さんとの会話に花を咲かせるしかない。

 

 

そこで分かったのが環さんは実は俺より一つ年上で出身は神浜ではないらしく俺と一緒で別の街から来たらしい。

 

何で主人公が舞台になる街の事知らないんだよとさっき思ったが納得。

別の地域出身なら知らなくて当然だ。

 

 

じゃあこれからこの娘はここに通うのだろうか?

もしくは後に引っ越すのか?

まあ、それは俺が気にすることではない。

 

それよりも何でこの娘「神浜」に来たのか気になる。話を聞いてる限り観光じゃなさそうだ。

 

 

「環さんはどうしてここに?」

 

 

ちょっとした好奇心で聞いてみるも環さんは少し眉を下げて真剣な表情になる。え?結構深刻な話?

 

 

「私・・神浜に来てから胸がざわめくようになって不思議な女の子の夢を見るようになったの」

 

 

ごめん。何の話それ?なんで神浜に来たかの理由聞いてんのにいきなりホラーな身の上話かい。

怪談話なら俺お断りよ?

 

 

「何だか大切な事を忘れてる気がするの。それを見つけなきゃいけない。神浜に来てから不思議な事が起こるようになったからきっと手掛かりはここにあると思うの。だから来たの」

 

「・・・・。大切な事って何?」

 

「さあ・・。それが何なのか分からないの」

 

「そっか」

 

 

どうやら環いろはさんは迷子のようだ。

それも人生という道に迷った出口が見えないヤバい方の迷子。

 

冗談はともかくどうやらその大切なものが「マギレコ」のキーパーソンになりそうだ。

なんか深みにはまった気がする。好奇心で聞かなきゃ良かった。

 

 

これ以上その話が広がらないように逸らした方が良さそうだ。

 

 

「そういえば神原さんは小さいキュゥべえを見たことある?」

 

 

俺が話を振る前に環さんが先に口を開いた。内容は広げたくない方の話だが。

 

よりにもよってキュゥべえ!一番聞きたく名前出しやがって!

 

 

なんだよ小さいキュゥべえって!?ん?

 

 

「小さいキュゥべえ?」

 

 

気になって思わず口に出す。

 

キュゥべえってみんな小さい気がするがそれよりも小さいのが存在するのか?

 

 

俺の疑問が通じたのか環さんは頷いている。

 

 

「うん、えっとキュゥべえって言うのはね白い猫みたいというかマスコットみたいな可愛い姿してるんだ。小さいキュゥべえはそれより更に小さいし可愛い感じかな。魔女が見えるならキュゥべえも見えると思うんだけど・・どう?」

 

 

覗き込むような動作で俺を見てくる。結構かわいいね。

 

 

可愛い女の子の質問には例え嫌な事でも喜んで答えよう。

 

 

でもその前にキュゥべえの説明に関して一つ訂正させてほしい。

 

 

あいつら可愛いのは見た目だけで性格は可愛さの欠片もないから!

しかも本性を知れば知るほど見た目すら可愛くなくなっていくから!

 

 

よし言えた!心の中でだけど。

それじゃあ質問に答えないと。

 

 

「んー・・見た事ないな」

 

 

記憶を辿ってみるも出会った覚えはない。

ていうか出会ってたら絶対忘れねえよ!

白いGが目の前に現れた日には殺虫剤と厄払いの塩をばらまいてるわ!

 

 

「そっか・・」

 

 

俺の正直な答えに環さんは落胆を隠せないようだ。

 

何でそのキュゥべえなんて探してるんだ?

会ってもロクでもない目にしか遭わないのに。

 

 

ズーンと顔が地面に向かって下がっている。

めっちゃ落ち込んでるみたいだけど大丈夫か?

 

 

「あー・・参考までに聞くけどあそこにいるみたいな感じ?」

 

 

あまりにも環さんが気落ちするので気を紛らわせるつもりで環さんの背後の塀でちょこんと座っているデフォルメキュゥべえの方を指さす。

 

魔女の結界から抜け出した瞬間から塀にいる事に気づいていたが意図的に無視していた。

 

無視した理由?関わりたくないからですが?

 

 

「え・・?うん、そうだよ。あんな感じの小さいキュゥべえで・・って、え!?小さいキュゥべえ!?」

 

 

俺の何気ない指摘に環さんも何気ない感じで頷いたと思ったのにいきなりギョッとして食い入るようにデフォルメキュゥべえを見て叫ぶ。

 

 

「え?あの子なの?」

 

「あの子だよ!」

 

 

まさかのお尋ね宇宙人が目の前に現れたみたいだ。これはツイてる!

いやツイてない?

これひょっとして俺、ストーリーに巻き込まれてるんじゃないの!?

 

ここはどうすれば正解だ!?

キュゥべえを逃がす?捕獲を手伝う?

 

 

俺が悩んでる隙に環さんは忍び足で小さいキュゥべえに近づいている。

幸い奴はこちらに気づいていないみたいだ。

 

 

「モキュ?」

 

 

環さんがもう少しで触れられそうな距離で突然小さいキュゥべえが環さんに気づく。

すぐ逃げられると思ったが小さいキュゥべえはじっと環さんを見てその後に俺の方を見る。おい、こっち見んな。

 

 

「プイ!」

 

「あ、待って!」

 

 

抱き込もうとした瞬間、小さいキュゥべえは環さんの腕をすり抜けて華麗に地面に着地する。

 

お見事!十点!

 

 

「止まって!」

 

 

慌てて地面に身体を傾けさせて捕まえようとする環さんを難なく躱し、小さいキュゥべえはそのまま駆けていく。

 

 

 

・・・俺の方に。

 

 

 

「モキュ!」

 

 

 

そしてそのまま勢いよく飛び掛かって俺のバッグにしがみつく。

 

 

 

「ぎゃああああああああああああああああああ!!触んなああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

俺のバッグにしがみ付いてる白い悪魔を振り払うべくがむしゃらにバッグを振り回す。

 

なりふりなんて構っていられない!

一刻も早くコイツを引き剥がさなくては!

関わってたら命がいくつあっても足りねえ!!

 

 

「神原さん落ち着いて!もうキュゥべえはくっついてないよ!」

 

 

暴れる俺を落ち着かせるように環さんが腕にしがみついて大声を張り上げる。

それで我に返ってバッグを見ると白い物体がくっついておらず、少し離れた場所で奴は背中を向けていた。

 

良かった。何にもなかったみたい。

しかし結局はあいつは何がしたかったんだ?

 

 

・・いやそれよりも腕に感じる柔らかい触感をどうにかしないと。

 

 

「・・ごめん環さん。落ち着いたからもう離しても大丈夫だよ?」

 

 

未だに俺の腕にしがみついている環さんを見下ろしながら遠慮がちに告げる。早く引き剥がさないと色々まずい。

 

 

「え!?ごめんね!止めるのに必死になっちゃって!」

 

 

慌てて俺から離れた環さんは真っ赤な顔でアワアワしながら弁解しているが可愛いので無罪確定。

 

 

「え、えっともうすぐ駅だから安心して?それまでちゃんと守るから」

 

「? キュゥべえは?探してたんじゃないの?」

 

 

環さんは探していたらしい小さいキュゥべえに一瞥しただけで再び駅までの道を歩きだそうとしている。

目の前にはお目当ての奴がいるというのに華麗にスルーを決めているのは何故だ?

 

疑問を投げかけると環さんは立ち止まった。

 

 

「これは私個人の問題だもん。後でまた探すから大丈夫だよ。今は神原さんを無事に駅まで送り届ける方が大事だから。私もちゃんと駅までの道覚えておかなくちゃだめだからね」

 

「た、環さん・・!」

 

 

くるりと振り返った環さんは慈悲深い笑顔で俺に惜しみなく向けている。

心なしか彼女から後光が差している気がする!

 

 

 

良い子!「環いろは」マジで天使レベルの良い子!

 

自分の目的よりも俺の安全を優先してくるなんて!

 

 

ありがとう!

俺の前世含めて生きた時間の中で優しい人ランキング上位に食い込んでくるレベルだ!

俺は一生君の事忘れない!この先辛いことがあっても君のような優しい人間がいる事を心に留めておくよ!

 

 

 

ヤバい。感動で泣きそう・・。

 

 

 

 

 

「モキュキュ!」

 

 

 

じーんと感動しつつ歩き出そうとした途端、俺の前に小さいキュゥべえが立ち塞がる。

 

 

「げっ、一体何だよ?」

 

 

小さいキュゥべえは顔を上げて俺を見る。

その小さい口には夕日の光を反射させている長方形のガラスのようなものを咥えていた。

 

 

「モキュ!」

 

「! 待てええええええええええええええ!!」

 

 

それを目にした瞬間、俺は走りだした。

それに合わせてキュゥべえは俺から逃げるためか全速力で走る。

 

 

「神原さん!?」

 

 

背後で環さんの驚く声が聞こえるが構っていられない。

 

 

 

 

取り返さなければならない!だって、奴は・・!

 

 

 

 

「俺のスマホ返せええええええええええええええええええええ!!」

 

 

 

 

 

路地裏に逃げ込んだキュゥべえに俺の絶叫が響く。

 

 

 

そう、小さいキュゥべえが咥えているのは俺のスマホ。

おそらくしがみつかれた時にくすねたのだろう。

 

 

普段であればキュゥべえと関わりたくないからスマホは諦めるだろうが今回はだめだ!

 

 

なんてたって今スマホのデータの中には俺の幼馴染トモっちから無理やり送られてきた百合データ(十八禁)が大量に入っているのだから!

速攻で消したかったがデータ量が多すぎて消去に時間かかるから後にするかと放置したのがまずかったらしい。

 

 

中のデータを見られたら俺は社会的に死ぬ!

 

 

 

あの悪魔の事だ!誰かに見せびらかすなんてそれくらいの事、平然とやらかしてもおかしくない!

 

 

 

 

「逃がすかこの悪魔があああああああああああああああああ!!」

 

 

 

「待って神原さん!はぐれたら危ないよ!」

 

 

 

後ろで環さんの声が聞こえたと同時にタタタと足音が聞こえる。

どうやら俺を後ろから追いかけてきているようだ。

 

こうしてスマホを奪った白い悪魔VS俺&「マギレコ」主人公「環いろは」による謎の追いかけっこが始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しょせん俺なんて役立たずのゴミなんだよ」

 

 

「そんな事ないよ。元気だして神原さん」

 

 

 

打ちひしがれた今の俺には慰めですら落ち込む要素だ。

 

 

あれからずっと小さいキュゥべえを追ってはみたが追跡はかなり難航しており、一向に捕まらない。

 

奴がすばしっこいってのもあるが一番は魔女や使い魔との遭遇だ。

因縁をつけられたのかあのカラフルな蟻に何度も見かける。

それもキュゥべえを捕まえられそうだったり追い詰めたりした時に限って結界に取り囲まれその度に環さんが戦ってくれた。

 

結局結界から抜けだして逃げるけど追いかけっこの間だけで既に二桁は使い魔と戦ってると思う。

戦闘が重なるにつれ、環さんは疲労感が拭えないのか顔色が悪くなっていった。

 

おそらく戦闘で魔力を酷使しソウルジェムを濁らせているためと思われる。

魔女化の恐れはあるが流石に主人公がこんな時に死なないだろうと謎の自信があるためそんなにビビっていない。

 

 

で、さっきようやくキュゥべえを捕まえられる寸前までいったのに俺が足を滑らせて環さんを巻き込んでこけてしまい結局逃げられた。

 

その事に落ち込んだ俺を見かねて休憩という形で今は公園のベンチに座っている。

 

休憩は今回だけじゃなく追いかけっこの最中、俺が何度もバテるのでその度に休憩のため何度も寄り道してもらっている。

 

 

・・・足手まといとかそういう比じゃねえぞ俺。

正直環さんだけだったらすぐ捕まえられてたかも・・。

 

 

「俺ってホント役立たずだぁ!!」

 

「そんな事ないよ!今回たまたま運が悪かっただけだよ!」

 

「え、でも俺のせいで・・」

 

「失敗は誰にでもあるからそんなに自分を責めちゃだめだよ。少し休んだらまた探しにいこう?」

 

「環さん・・・!」

 

 

ぐわああああああああああああ!

 

良い子過ぎる!

俺のあまりの役立たずぶりで上手くいかないのに怒ってないし気を遣ってくれてる!

主人公じゃなければ一生友達でいたかった!

いやむしろ拝みたい!いろは神として拝みたい!

 

 

「ありがたやーありがたやー」

 

 

俺は涙を流しながらこの慈悲深い女神さまの手を取ってひたすら拝みまくった。

 

ちなみに環さんの前で素が出てるのはキュゥべえを追っかけてる最中に素で喋ってしまったから。

最初は焦ったけどどうせもう会うこともないし別にいいやと開き直ったともいえる。

 

 

「え、えっと・・あれ神原さん、指怪我してるみたいだよ?」

 

「え?あれ?本当だ」

 

 

環さんが向ける視線の先に目を向けると彼女の手を覆う俺の小指に小さな切り傷が出来ており血が滲んでいる。

大方どこかでひっかけたのだろう。全く気付かなかった。

 

 

「ちょっと良いかな?」

 

 

俺は返事をするよりも前に環さんは怪我をしてる方の手に触れる。

環さんの掌から淡いピンクの光が輝きだす。すると俺の怪我はみるみる内に治っていきやがて跡形もなく消えた。

 

 

「はい、これで大丈夫だよ」

 

「ありがとう環さん」

 

「ううん、私の魔法が役に立てて良かった」

 

 

照れたように笑っている。

 

なんちゅう面倒見の良さだろうか。

今まで培われてきた環境というやつなのか?

 

これは下に弟か妹がいるとみた!

 

 

「思ったんだけど環さんって面倒見良いね。お姉ちゃんみたい。弟か妹でもいるの?」

 

 

興味がないがちょっとした疑問が湧いたため聞いてみることにした。

もし俺が元の男だったら不審者と疑われるが今は女。別に家族構成聞いても不思議に思われないしね。

 

 

「え?私は一人っ子だよ?そんなにお姉ちゃんに見えた?」

 

 

「違うの?」

 

 

キョトンとする環さんに俺もキョトンとしてしまう。

 

 

てっきりいると思ったのに俺の思い過ごしか?

 

 

 

思えばキュゥべえと追いかけっこしてる間、環さんの面倒見の良さはかなり際立っていた。

 

 

例えば喉が渇いた俺に飲み物を買ってきてくれたり、息が上がり過呼吸気味の俺の背中を擦ってくれたり、またある時は結界に閉じ込められて怖がる俺を慰めてくれたりしてくれた。

 

これがバブみを感じておぎゃるという奴だろうか?

凄まじいほどのお姉ちゃん力を痛感した。

 

それに比べて俺の情けなさが浮き彫りになるのはこの際、忘れよう。

しかし一人っ子でここまで世話焼きというのは本来の性格なのだろう。

 

さすが「まどマギ」外伝。

本家と同様、主人公の性格が大変よろしいようだ。

 

 

「じゃあ元々の性格かな?俺も一人っ子だからこんなお姉ちゃん欲しかったな。いっその事俺、環さんの妹に立候補してもいい?」

 

「え!?」

 

いたずら心で意地の悪い笑顔を浮かべてそう言うと信じられないくらい顔を真っ赤にして驚く環さん。これはとてもからかい甲斐がありそうだ。俺の隠れたS心に火が付きそう。

 

 

「冗談だよ。本気にした?」

 

「もう、あんまりからかわないでよ・・」

 

 

からかわれたと気づいたのか環さんは少しむっとしているが未だに照れてるのか顔が赤い。その表情を見るとニヤニヤが止まらない。

 

まあ、少しだけこんな(俺より年下だけど)お姉ちゃんがいればなぁとは思ったけどいかんせんこの娘は死亡フラグな主人公。お断り案件です!

 

 

 

 

ちなみに環さんの反応が面白いのは少し前から分かってたので実はほかにもやらかしている。

 

 

 

例えばキュゥべえ捜索中、休憩がてら寄り道したゲームセンターでの事。

 

何故か環さんはゲーセンを怖いとか言ってたので友達と行った事はないのかもしれない。

俺の中で環いろはにぼっち疑惑が浮上した瞬間だった。

 

 

 

 

ゲーセンで何をしてたかというとプリクラを撮りました!

 

 

 

どうせ神浜で別れたらもう会う事もないので今の内に主人公と出会えた記念を残しておかなければと思い提案。

 

最初は「恥ずかしいよ」とかほざいていた環さんだが、

 

『あんな「えろは」な魔法少女の恰好で戦っておいて今更恥もクソもあるか!』

 

と一喝し、無理やりプリクラに連れ込んだ。

 

 

無理に抵抗しない様子を見るとどうやら本人も自分の魔法少女姿がかなり際どい自覚はあるらしい。

 

 

プリクラは初めてなのか環さんは撮影中はずっと緊張しっぱなしで顔真っ赤にしてた。俺としては激レアだと思っている。

 

もちろん撮ったプリクラはもちろん半分こ。

多分環さんは捨てるだろうが俺は大事に持っておくつもりだ。

 

 

他にもエピソードがあるが今回はこれで終わらせておく。

 

 

 

 

「もう夕日が沈むね。遅くなりそうだから今日はご飯作るのやめとこう」

 

「神原さんは料理するの?」

 

 

ほとんど傾いている夕日を眺めながらそんな事呟くと環さんが食いついてきて内心驚く。

おれを見る目が少しキラキラしてるからひょっとしたら料理作るの好きなのかもれしれない。

 

 

「まあね。母さんは料理できないからね。いつも俺が作ってる。環さんも料理するの?」

 

「うん、私も料理するよ。趣味だから。得意なのは豆腐ハンバーグ」

 

「へぇ、食べたことないから興味あるなー」

 

「え?そうなの?美味しいよ」

 

 

料理が趣味なのは本当らしく少し早口になりながら答えている。

 

それにしても豆腐ハンバーグとはまたヘルシーな。

わざわざ豆腐をハンバーグにするなんて凝り性っぽい。絶対料理作るの上手いだろ。

俺は作ったことないけどどんな味がするんだろう。今度作ってみようかな?

 

 

 

 

・・・いや、豆腐でハンバーグするくらいなら普通にひき肉で食べたいわ

 

 

 

 

 

 

「・・あの、神原さん」

 

「ん?何?」

 

 

どうでもいい考え事していたら環さんに声をかけられた。

何か恥ずかしがってるのか顔を赤らめてモジモジしている。

 

 

 

「その、良かったら今度「モキュ!」キュ、キュゥべえ!?」

 

 

「テメエエエエエエエエエエエエエエエ!!見つけたぞコラアアアアアアアアアアアア!」

 

 

「モキュ!?」

 

 

俺たちが座る間にいつの間にかキュゥべえが座っていたのですぐに奴の背中をバッグで押さえつけ逃げないように体重をかける。

 

 

「モギュゥゥゥゥゥ!」

 

「何が『モギュゥゥゥゥゥ!』だ!こっちはお前の首をムギュゥゥゥゥゥ!したいんだよ!よくも人のスマホ盗みやがって!」

 

 

ジタバタと暴れる白い悪魔を体重をかけて押しつぶし咥えていたスマホを引きはがす。

 

よし無事戻ってきた!あとは盗人に制裁するだけ!

 

 

しばらく押しつぶしていたが我に返ったらしい環さんが慌てて俺の腕を握って止めようとしてきて思うように制裁が進まない。

 

 

「何してるの!?神原さんはスマホを取り戻す事が目的だったんだよね?キュゥべえを苦しめる事じゃないよ!目的を忘れちゃったの!?」

 

 

何言ってんだこいつ!?

 

お前さっき「あ、忘れてた・・」ってキュゥべえの存在すら忘れてたっぽい事、呟いたの聞き逃さなかったぞ俺は!

 

意外と抜けてる環さんはスルーしつつ再度白い悪魔を潰す事に専念する。

こいつのせいで今日は散々な目に遭ったのだ!この報いは死で償ってもらう!

 

 

「やめて!この子死んじゃうよ!」

 

「大丈夫!俺の勘がコイツは殺しても死なないと言ってるから!(嘘)」

 

 

咎める環さんに適当に言い訳して続行。

どうせ見た目多少違ってもこのキュゥべえも性能は一緒だろ!

 

 

 

「だめだよ神原さん!」

 

「あ!」

 

 

俺の行動を見かねた環さんは押しつぶす俺の横からとうとうキュゥべえを救出してしまった。

 

取り返したいが相手は魔法少女。おそらく不可能だろう。

キュゥべえを俺から隠す庇うようにギュッと胸の位置で抱きしめている。

 

 

「もういいでしょ?この子だってきっと悪気があってした訳じゃないだろうから許してあげて!」

 

「悪気がなくてやらかすのはこの世で最も性質の悪い事だと思うぞ俺は」

 

「でも・・っ!?」

 

「え?環さん?」

 

 

突然環さんが小さく呻いてそのまま俺の方に倒れ込んできた。

咄嗟の事で反応できず一緒に倒れ込んでしまう。

 

 

「いててて・・いったい何が?」

 

 

鈍い痛みを感じつつ起き上がろうとするが環さんが邪魔で身体を起こせない。

 

 

「ちょ、環さん!?」

 

どいてもらうように声をかけるも気を失っているのか環さんは目を閉じたまま。

何度も揺すってみるも反応はなかった。

 

「モキュ!」

 

「!」

 

 

いつの間にか環さんの腕から抜け出したらしい白いが悪魔がちょこんと座ってじっと俺を見上げていた。今も環さんは俺の上で気を失っている。

 

 

えええ!?なにこの展開!?

 

 

俺どうすればいいのおおおおおおおおおお!?




いろはちゃん第一話でした!
いきなりゲームと内容違いますがご了承ください!

ちなみに本来登場するはずだったかえでちゃんは別のところで魔女と遭遇してももこさんに救助されました。

やちよさんは急遽モデルの仕事が入っていろはちゃんを見張ってません!

いるのは優依ちゃんといろはちゃんだけ
果たしてこの後どうなるのかお楽しみに!


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番外編 もしも神原優依がマギレコの世界に転生していたら 環いろはの場合②

いろはちゃん番外編、本編二話分の文字数軽く超えてる・・。
それに比例して投稿までの作業も軽く二倍超えてる・・。

正直、今週はもう投稿無理だと本気で思ってましたが何とかなりましたw


「・・・うぅ」

 

 

小さく呻く声が聞こえてくる。

試しに俺の目線より下にいる目に優しいピンクさんの方に顔を向けると予想通り「環いろは」が目を覚ましたらしくうっすら目を開いている。

 

 

「起きた?」

 

「モキュ!」

 

 

突然気を失ってしまった環さんの容体を確かめるため顔を覗き込む俺とチビべえ(=小さいキュゥべえ)。

 

気絶した理由は分からないがチビべえを抱きしめた瞬間にいきなり環さんが倒れてしまったのでひょっとしたら単なる貧血とかじゃなくてマジでこの白い悪魔が何かやらかしらのだと思ってビビった。

 

気を失ってすぐ容体を確認してみると呼吸ははっきりしていたからおそらく大丈夫だろうと思い目を覚ますまでベンチで寝かせ待機していた。

 

俺の本音としてはそのまま放置して帰りたかったが流石にかなり暗い人通りの少ない公園の中に意識のない女子中学生を放置出来ないし、神浜での死亡フラグ遭遇率を考えると一人で歩くのは危険過ぎると判断したので渋々留まっていたのだ。

 

 

気づけばもう辺りは夕暮れなんてとっくに終わって真っ暗です。泣きたい。

 

 

環さんが目を覚ますまでぶっちゃけ暇なので彼女の様子を見つつそこら辺に生えていたねこじゃらし草を引っこ抜いてチビキュゥべえと戯れていた。

 

環さんが気絶してから何故かコイツは逃げる事はせずそのままここにいる。

最初は姿は多少違えどあのインキュベータ―な訳だし警戒していたがしばらく一緒に過ごす内に少し打ち解けた。

言葉も話せないようで「モキュ」しか言わないし見た目通り可愛いので今の所無害だ。

 

そのため勝手に命名。

「チビべえ」と名付けておいた。

 

無害だがあくまで今のところなだけだ。決して油断はしない。

なんせ劇場版で奴らはただのマスコットのフリをしていた前科があるし、今回も油断させる作戦なのかもしれない!

油断した時に背後から・・なんて冗談抜きでありえそうで怖い!

絶対にコイツに隙を見せないようにしないと!

 

 

 

まあ、それも環さんが目を覚ますまでの辛抱で今は彼女も目を覚ましたしこれで絡む事もないだろう。

 

 

思考を切り替え、寝起きだからかボーっとしてる環さんに近づく。

しかし彼女は心ここにあらずといった感じで俺の接近に気づいていないのか顔を上げない。

 

 

「気分はどう?いきなり倒れてビックリしたよ」

 

 

仕方ないので直接顔を覗き込んで体調を聞いてみる。

律儀な環さんならちゃんと答えてくれるだろう。

 

 

「・・・・・」

 

 

え?無視?無視なの?

 

 

どれだけ待っても全く返事をしてくれない。

 

 

無視された事にショックを受けつつ様子を見ると俺の言葉どころか存在すら無視していそうな環さんはどこか思い詰めたような表情で俯いてる。

落ち込んでいるのは明らかだがいかんせん何か反応してくれないと流石に対応の仕様がない。

 

 

これはどうしたものか・・。

 

 

「・・・うい」

 

 

ようやく口から出た言葉は俺の予想外の言葉で反応に困る。

 

うい?え?独り言?

言葉を発したのは良いが何それ?新しい返事なのだろうか?

 

 

「何でこんな大事な事忘れてたんだろう・・?」

 

「環さん?」

 

 

か細い声でそう告げた環さんは自分を抱きしめて小刻みに震えだす。

そのまま顔を下に向けているから表情が見えなくてどう対応していいのか分からずオロオロするしかない俺って一体・・。

 

 

「・・・・ぐす」

 

 

突然聞こえる何かをすする音。

環さんの顔から落ちる小さな液体の一粒。

 

それらを総合して考えるとある一つの仮説が成り立つ。

 

 

彼女はまさか・・泣いている!?何故!?

 

え?俺なんかした!?寝てる間になんかしたっけ!?

ねこじゃらし草振り回してだけなのに!

まさかそれが原因なのか!?

 

考えても考えても今日会ったばかりの人だし思いあたる節はない。

俺が頭を捻っている間も環さんは静かに泣き続けている。

 

 

慰めたいのは山々だ。しかし俺の勘が囁いている。

 

 

 

主人公が泣いてるという事は大体厄介事が絡んでいると!

 

 

これに関してはほぼ間違いないと踏んでいる!

だって主人公がいきなり倒れて目が覚めたら泣き出すんだもん!

絶対厄介ごとに違いない!

 

関わらないのが吉!うん、そうしよう!

よし!環さんは今お取込み中みたいだし第三者が口を挟んで邪魔しちゃ悪いから今の内にトンズr、退散してしまおう!

 

俺が一人でいる時に魔女と出くわさないか賭けだが目の前で見るからに厄介事ですよーと言わんばかりのシチュエーションが転がっている事に比べればマシなはずだ!

 

 

ごめんね環さん!何かお困りみたいだけど俺は力になれそうにないよ!

てか、俺関係ないし!一般人Bだからマギレコ主人公とは何の関わりもない!

相談ならこれから会うかもしれないレギュラー陣にしてくれ!

 

俺は(ヤバそうな)相談なんてお断りだ!

 

 

そろっと立ち上がるも環さんは嗚咽を交えながら本格的に泣き出しているためか俺に気付いていない。これは絶好のチャンスだろう。

 

 

逃げるなら今だ!

 

 

「何かお取込み中みたいだから俺はこの辺で、「モキュ!」げ!離せ!」

 

 

聞いていないであろう別れの挨拶をしつつそそくさ逃げようとする俺を阻止するためかチビべえが足にしがみついてきた。

すぐに引き剥がそうとしても全く離れない。なんて力だ!

 

 

「マジかよコイツ!力強っ!?」

 

「モッキュ!」

 

「うい・・今まで忘れててごめんね」

 

 

俺がチビべえと格闘してる中、環さんは泣きながら誰かに向かって謝っている。

事情は分からないが深刻そうだ。誰か優しい人がこの光景を見たらきっと手を差し伸べるだろう。

 

だが俺は違う。聖人君子でもなんでもない。

ただの性転換した一般人だ。

 

 

はっきり言おう!俺はもう一ミリも関わりたくないんだ!

一刻も早く環いろはから離れたい!

神浜から脱出したい!もううんざりなんだよ!

死亡フラグに怯えるなんざ二度と味わいたくない!

 

 

その思いを力にこめて必死にチビべえを引き剥がそうとするも一ミリも動かない。

 

 

「モギュゥゥゥゥゥ!!」

 

「痛てててててててて!」

 

 

それどころか奴の締め付けが徐々に強くなっていく。まるで底なしのようだ。

血が止まりそうなくらいの圧迫感を感じる。チビべえがしがみついている所を中心に血の気がなくなっていく。

 

 

このままじゃマジで血が止まりそう!

 

何をそこまでコイツを駆り立てるのか分からないがきっと環さんが関係していると思う。だってたまに心配そうに彼女の方を向いてるから。その間も込められた力が一切緩まない謎仕様なのはなぜなのか教えてください。

 

 

い!掴まれてる足がミシミシいい始めた。

血が止まるよりも先に足捥がれそうなんですけど!?

 

 

く!やむを得ない!

 

 

「分かった!分かったよ!話を聞くぐらいしか出来ないけど環さん慰めてみる!それでいいか!?」

 

「モキュ!」

 

ついにギブアップした俺はそう口走ってしまってすぐに後悔の念に襲われる。

 

しかしそれが正解だったらしく分かればよろしいという雰囲気を醸し出してるチビべえは俺から離れた。

ただしピッタリ俺の足にいつでもしがみつけるように近くで待機している。

おそらく俺がきちんと環さんの相手がするか見張るためだろう。

ついでに逃走防止のためな気がする。

 

 

信用ないのね俺って・・。自覚はあるけど。

 

 

ため息を吐きつつ気を取り直して環さんの方を見ると今も静かに涙を流していて非常に声をかけづらい。出来ればそっとしておきたかったけど足元にいるチビべえが早よ声掛けんかいと言わんばかりに尻尾を叩きつけてくるため

一応声だけ掛けてみるしかない。

 

 

 

駄目そうならそれまでだ。

 

その時はどうしようもない!

だって相手してくれないなら慰める事なんて不可能だからな!

俺にはどうしようもないからチビべえがしがみつこうが堂々と胸を張って帰れるというもんだ!

 

 

よし!元気出てきた!

取り敢えずダメ元で話かけてみるか!

 

 

「あ、あの環さん!俺で良かったら相談のるよ?」

 

 

なるべくかるーい感じで環さんの隣に座って自然を装った態度で聞いてみる。

どうせコイツは聞いちゃいないだろう。それはそれで大歓迎だ。

 

 

「ひっぐ、・・え・・?いいの・・?」

 

 

「へ?」

 

 

さっきまで泣いていた環さんが泣き止んで予想外に俺の方に顔を向けている。

瞳に大粒の涙が溜まっておりすぐにでも頬を伝ってしまいそうだ。

 

まさかの上々な反応が返ってきて口が引き攣るのを隠せない。

ここは普通返事せずに泣くのがセオリーじゃないのか?

 

無視してくれればどれだけありがたかった事か・・!

 

 

不安そうに見つめてくる環さんに思わずため息が漏れそうになるがここは何とか我慢して言葉を続ける。

 

 

「うん!全然構わないよ!あ、でも気が向かないなら別に話さなくても良いからね!」

 

 

予想外の反応にたじろぎつつも無理やり笑顔を作ってヤケっぱちで首を縦に振る。

気が変わって話したくないという時のために無理に話さなくていいからねーと保険もつけておく。

 

話してほしい?否!全くそんな事思ってない!

むしろ話さないでほしい!これ以上関わりたくない!

 

俺は平凡でいたいんだ!!

 

 

 

 

 

 

「・・私ね、妹がいるの」

 

 

 

 

 

俺の願いは届かなかった。

 

 

 

環さんは俯きながら呟くように話し出す様子で俺は軽く絶望する。

 

 

うわー・・この娘話しだしちゃったよ・・。

遠回しに聞きたくないって言ったのに

てか、いきなり妹の話なんかしてどうしたんだよ?

 

何で妹?・・ん?

 

 

「あれ?さっきは一人っ子だって・・」

 

 

確か俺が環さんはお姉ちゃんみたいって言ったら自分は一人っ子だと言っていたような・・?

 

 

「私もさっきまで自分は一人っ子だって思ってた。ううん、思い込んでた」

 

 

俺の疑問に思ったことが分かったのか環さんは答えてくれた。

しかしこの答えだけでは全く全容が掴めない。

というかこの説明だけじゃ下手すりゃ寝ぼけてるか妄想としか思えないぞ。

 

 

「妹・・『環うい』って言うの」

 

「へえ」

 

 

今は環さんの語る事に耳を傾けた方が良さそうだ。

正直あまり聞きたくない話な気がするが人は悩みを誰かに話すだけで心が軽くなるっていうしセラピー感覚で聞くしかない。

 

なにより俺の足もとに「モキュ」と鳴く白い生命体の存在がいるので真面目に聞いた方が身のためだ。

 

 

「ういは病気で身体が弱くて病院に入院していて・・それで」

 

 

言葉を切って環さんは少し考える素振り。

ようやく決心がついたのか俺の方に泣きそうな表情を見せて重々しく口を開いた。

 

 

「やっと思い出した。私が魔法少女になったのはういの病気を治すため・・」

 

 

どうやら環いろはの願い事は「妹の病気を治してほしい」だったらしい。

 

なるほど、それなら治癒魔法が得意なのは納得だ。

さやかも同じような願いで契約したから同じように癒しが得意だったし。

似たような願い事は似たような魔法傾向になるんだ。へえ、知らなかった。

 

 

「明るくて優しい私の自慢の妹。でも一体どうして忘れてたのか分からないの」

 

 

この前にもさり気なく妹自慢をしていたから軽くシスコン疑惑を抱いていたがようやく本題に入ったみたいだ。俺の手に余りまくる全く歓迎できない話で頭痛を覚えてこめかみを軽くおさえる。

 

 

「行方不明なの?」

 

「もっと複雑みたい。まるで最初から存在していないみたいにういが消えてるの。一緒の部屋で寝ていて半分はういのスペースになってるはずなのにあの娘の私物は全部消えてて、お父さんもお母さんも、ういの事忘れてるみたい」

 

「それはまた・・」

 

 

環いろはから語られる話は俺の予想以上に厄介な話だった。

 

 

勘弁してくれえええええええええええええええええ!!

いやこれどう見ても一般人に話す内容じゃないよ!?

魔法少女に話して初めて対処できる案件ですよこれ!?

 

ああああああああああああああ!

 

聞かなきゃ良かった!

いくら小さい白のボディビルダーが邪魔をしてもさっさと帰るべきだった!

 

トラブルしか起きない気がするぞこれ!

事態はとても複雑みたいで胃が重い!

どうにかして巻き込まれないようにしなきゃ!

 

 

 

 

「やっぱりおかしいかな?」

 

 

この厄介ごとをどう回避しようか計算中のさなか環さんは自嘲めいた笑顔で俺を見ていた。

この様子から自分でもおかしな事を言ってる自覚はあるらしいが微妙な反応をする俺の態度に若干傷ついてもいるみたいで瞳が大きく揺れている。

 

ひょっとしてまた泣きそう・・?

 

 

 

「こんな突拍子のない話信じられないよね?私の記憶の中だけの話だから妄想だって言われても言い返せないし。ごめんね?急にこんな事話してもう忘れ「信じるよ」・・え?」

 

 

慌てて取り繕う環さんを遮るように少し大きな声で割り込んだ。

環さんは言われた事が理解できないのかポカンと口を開けて俺を見ているだけで何の反応もしないので今度はちゃんと理解出来るようにゆっくりはっきりと言う。

 

 

「環さんを信じる」

 

 

「・・どうして信じるの?ういの事知ってるのは私の記憶だけかもしれないんだよ?」

 

 

俺の反応が信じられないのか再度念を押してくる。

 

自分で言っておきながらそんな寂しそうな顔しないでほしいんですけど?

まあ、それも仕方ないか。妹の事を思いだせたはいいけど、聞く限りじゃ妹ちゃんがいたというちゃんとした証拠がなくて頼りになるのは自分の記憶だけで不安になっているのは想像に難くない。

今は肯定の言葉が欲しいのかもしれない。

 

 

「環さんが言ってる事本当だと思う。だって今、俺の目の前に空想だと思ってた本物の魔法少女がいるんだ。魔法なんてとっても非現実的だ。ありえない事だ!それなら人が初めから存在しなかったように消える事もありえない事はない!」

 

「・・・・・・・」

 

「俺は環さんを信じるよ」

 

 

 

 

にっこり笑ってそう言い切る。

俺にはある可能性が思い浮かんでいるからすんなり環さんを信じられる。

 

 

 

「・・ありがとう神原さん・・」

 

 

俺の気持ちが伝わったのか泣きそうな表情になりながらもなんとか取り繕って笑顔を浮かべるなんて健気だ。

どうやら落ち着いてくれて何よりだ。また泣かないか結構ヒヤヒヤしたが。

 

 

まあ、俺が信じる根拠なんて単純に目の前にいるピンクが主人公だからだ。これに尽きる。

 

 

だって外伝とはいえあの「まどマギ」ですよ?

 

 

ただの記憶捏造とか妄想とかで済む話で終わるとは到底思えない。

絶対それ以上にヤバい展開が待ってそうだ。

 

環さんの妄想で済めばどれだけ良い事か・・。

 

 

 

後は・・既にそういった事例を知ってるからってのもある。

 

具体的に言えばピンクの先輩にあたるツインテールさんが神様にワープ進化して最終的に存在が消えてしまう事案だ。

結果紫さんを除く全ての人がピンクさんを覚えていないのだ。

前例が既にあるからまるで人が初めからいなかったように消える事はありえる。

 

 

 

あれ?そこから考えるとコイツの妹は神様なのか?

 

 

まあ、詳しい事は分からないが上記の理由から妹さんはおそらく実在すると俺は踏んでいる。

推測するにおそらく妹を探すのがストーリーの要になりそうだ。知らんけど。

 

 

絶対巻き込まれないようにしよう!

 

 

 

 

「ごめんね?いきなりおかしな話したのに聞いてくれて」

 

「別に大したこと言ってないよ。はい、ハンカチ」

 

「え?」

 

「涙拭った方がいいよ」

 

 

カバンから取り出したハンカチを環さんに差し出す。

俺に気遣いが出来るまでに冷静さを取り戻したらしくさっきよりも顔色が明るくなっている。

これでもう大丈夫そうだ。良かった良かった。

 

無事に解決できるならハンカチの一枚や二枚犠牲になったって構やしない!

 

 

「え!?いいよ!ハンカチ汚れちゃうし!」

 

「だーめ。これ使って。環さんって泣くより笑ってた方が可愛いんだから」

 

「えぇ!?」

 

 

ボンという幻聴が聞こえた気がする。

 

何ださっきの音?てか何で固まってんのこいつ?

俺は本当の事を言ったまでなのに・・。

 

 

「ほら早く!」

 

「あ、ありがとう・・」

 

 

中々受け取ろうとしないのでしびれを切らし頬にハンカチを押し付ける。

流石に涙でぬれたハンカチを返すわけにはいかずおずおずと受け取って目を押さえている。

 

心なしか顔が赤い気がするけどきっと泣きすぎたせいだろうから触れないでおこう。

 

 

ハンカチで目を押さえてる環さんの横でボーっと空を眺める。

もうすっかり夜になってしまって星が爛々と輝いている。星が綺麗だ。

 

 

 

・・こんなはずじゃなかったのにな・・。

 

 

 

ちなみにチビべえは人の膝でリラックス中だ。

環さんが立ち直った際によくやったと言わんばかりに尻尾でバシバシ叩いてめっちゃ痛かった。

 

 

 

 

「遅くなっちゃってごめんね?そろそろ帰ろう。ハンカチは洗って返すから」

 

 

 

少しまだ目は赤いが泣き止んだらしい環さんはスクッとベンチから立ち上がって俺を見下ろしている。その顔はどこかスッキリしていて晴れやかだ。

 

 

「帰るの?」

 

「うん、ういを探さなくちゃいけないけどそれはまた今度。もうすっかり遅くなっちゃったし早く帰らないとお母さんに怒られちゃう」

 

「あ、それもそっか」

 

 

そういえば忘れてたけど環さんは中学生でしかも制服。

夜にふらふら歩けるような年齢じゃないし親は許さないだろう。納得。

 

 

 

「神原さんをちゃんと無事に駅まで連れて行くって約束したから守らないと」

 

「た、環さん・・!」

 

 

良い子!この子果てしなく良い子!!

話を聞いてる限り結構深刻な状況だというのに俺の安全を最優先に考えてくれてるなんて!

 

大丈夫!きっと良いことあるよ!

だってこんな親切な娘が不幸になんてなったらそれこそこの世界救いようないから!

 

環さんといると俺の汚い心が洗われていくようだ!

リアル天使に出会えた事に感謝しなくては!

 

 

 

「あとね・・」

 

 

「?」

 

 

じーんと一人感動する俺の目の前にいる環さんとっても挙動不審

で動作がどことなくモジモジしてる。

 

 

「もう少し神原さんとお話したいの」

 

「・・・・・」

 

 

前言撤回。

俺はもう少しも君と関わりたくないです。

なんか嫌な予感するし。

 

照れた感じではにかみながらそんな事言われたら普段ならキュンと来るが今はただその笑顔に恐怖を感じる。具体的にいうと何かが起こりそうな(不吉な)予兆めいたものを。

 

それはともかくこれでやっと帰れる!

もうこんな物騒な街とはおさらばだ!

駅まで行けば環さんともおさらば!

そうすれば俺は完全に死亡フラグから解放される!

 

今日は厄日だが無事に乗り切れて良かった!

 

平和万歳!

 

 

「!」

 

「神原さん!?」

 

 

しかし浮かれた気分のせいだったのか突如、足場が不安定になってそのままバランスを崩し尻餅をついてしまう。

 

この年になって人がいる前で尻餅つくなんて恥ずかしい。

穴があったら超入りてえ!!

 

 

「大丈夫?立てる?」

 

「いててて・・。ありがとう。たく一体何なんだよ・・」

 

 

環さんに手を貸してもらって何とか起き上がれたがホント情けない。

仕返し上等で俺が尻餅ついた原因を探るため下に視線をおろすも見たものが理解できなかった。

 

 

「え・・?」

 

 

思わず口から声が漏れる。

何度も何度も目を擦って見るもそこにあるものは変わらない。

 

俺の足は少し砂に埋もれていた。公園の地面はタイル張りだったはず。

一瞬、俺の足元だけかと思ったが少し視線を上げると環さんが立っている場所も砂に変わっている。

慌てて周囲を見るとさっきまでいた公園がいつの間にか今日何度も見た砂場の光景になっていた。

 

これってもしかしなくてもあの蟻どもか!?

これだけ遭遇するって事はやっぱり因縁つけられてるとしか思えない!

勘弁してくれよ!やっと帰れる寸前だったのに!

 

 

「魔女の結界・・」

 

 

だが事態は俺の予想よりもはるかに悪いらしく顔を青ざめてる環さんを見て俺まで不安に駆られてくる。

 

 

「と、とにかく急いでここから、きゃあ!」

 

「U▽☆※@◆#!」

 

 

環さんの声が途切れる。そりゃそうだ。

パーマがかかった女の子の人形らしきものが目の前に現れたんだから!

何だあれ?新手の使い魔か?

 

 

「! 魔女・・」

 

「マジで!?」

 

 

環さんがポツリとつぶやいたのを俺は聞き逃さなかった。

嘘だって思いたかったけど何気なく見た環さんの顔が青を通り越して白になりつつあるので嫌でも真実なのが分かる。

 

つまり今、目の前にいるのは彼女は今日俺たちが神浜で初めてお目にかかった魔女らしい。

 

 

 

最悪だあああああああああああああああああああああ!!

 

 

やっと帰れると思った矢先に立ち塞がるように魔女が現れた!?

なんなんだ今日は!?厄日か!?

環いろはに出会った時点で厄日なのは確定みたいなもんだけどさ!

もうちょっとイージーモードでも良くない!?

 

クリア寸前で油断しきってた時に裏ボスお出ましとか俺ならそんなゲームぶん投げる。

 

 

「ポー!」

 

「!」

 

 

後ろから滅茶苦茶聞き覚えのある声が聞こえたのでビビりながら後ろを見ると俺たちを囲むようにカラフルな使い魔蟻たちが包囲している。

 

 

あわわわわわ!どうしよう!?

こいつらは環さん曰はく「使い魔なのにとっても強い」らしく対峙しても牽制だけであとは逃げるばっかりだった。

それなのにその使い魔共の親玉の魔女が出てくるなんて!

 

 

万事休す!俺終わった!?

 

 

 

 

「神原さん!私が隙を作るからその間に逃げて!」

 

 

いつの間にか変身した環さんが魔女から庇うように俺の前に立っている。逃げるという選択肢は大変ありがたいがそんな顔しないでほしい。なんか今から特攻しにいきそうな悲壮感みたいなものを感じるから胃が痛くなる。

 

 

「えっと俺が逃げるのはいいとして環さんはどうするの!」

 

「私は魔法少女だよ?そう簡単にやられないし、魔女が悪さをする前に倒さなきゃ」

 

 

絶賛大ピンチだというのに環さんは責任感の強い性格からか逃げる素振りは一切見せない。

正義の魔法少女の鑑とは彼女の事を言うのかもしれない。

でもやっぱりどことなく悲壮感が漂ってる気がするのは俺の気のせいか?

 

これがテンプレなら「環さん一人置いていけないよ」とか言えばいいんだが、ぶっちゃけ俺はただの足手まといにしかならないのでここは素直に従っておこう。

 

俺に出来る事なんて何もないです。

だってただのヘタレな一般人だもん。

 

 

「向こうに出口があるから私が合図したら走ってね!」

 

 

環さんが視線を向けた先に目を向けるとそこに空間の歪みがあった。

うねりがあるからぼんやりにしかわからないが歪みの先には俺らがいたであろう公園の景色が見える。

ここからそんなに距離は遠くない。

 

 

あそこまでなら襲われずに行けるかもしれない!

 

 

「キュゥべえをお願い!ここにいたら危ないし私も後で合流するから!」

 

 

実は傍にいたキュゥべえを俺に押し付けた後、環さんはそっと視線を魔女の方に戻す。

その後すぐに装備しているクロスボウに光が集まりだしてやがて矢の形になり、それをそのまま魔女に向かって放つ。

 

 

「○△※!?」

 

 

かなり魔力を込めたのだろうか?

放たれた矢は魔女の身体を貫通し、周囲に声にならない絶叫が響き渡っている。

 

 

「今だよ!」

 

 

「うん分かった!環さん気を付けて!」

 

 

魔女が怯んだと同時に環さんは鋭い声で俺に向かって合図してくれたのでそのままチビべえを抱えて出口まで駆けだす。

幸いなのは魔女が怯んだことで使い魔の統率にも乱れが出ているらしく走る俺に目もくれず蟻どもはオロオロするばかりで動こうとしない。

 

 

おっし!これなら逃げられそうだ!

 

 

ありがとう環さん!君のおかげで俺は無事脱出することが出来そうだ!

せめてもの支援で脱出出来たら安全な所で君の無事を祈る事にするよ!

 

 

「ひゃっふううううううう!・・て、あれ?環さん?」

 

 

ハイテンションながら後ろの様子が気になるためチラッと振り返ると何故か環さんはじっと動かずそれどころか魔女の目の前で座り込んでいる。

 

環さんはどうしたんだろうか?まさか休憩!?

実はさっきので魔力使い切っちゃったとか?そんなまさか!

 

きっと大丈夫だ!何てたって環さんはこの世界の主人公。

主人公補正があるだろうからこんな所では死なないはず!

 

 

絶対そうだ!今はまずここから脱出する事だけを考えないと!

頑張れ俺!出口までもう少しだ!

 

 

「モギュゥゥゥゥゥ!」

 

「おい!」

 

 

自分を鼓舞しなんとか無事空間の歪みの目の前まで辿り着いた直前いきなりチビべえが暴れ出したので力を込めて拘束を強める。

正直言うとチビべえはきっと死なないだろうし連れて行くメリットは皆無だと思うが逃がしてくれた環さんの頼みである手前なんとかしてコイツも脱出させなければならない!

 

 

「こら暴れんな!あ!?」

 

 

俺の頑張りは虚しくあっさり腕の拘束から抜け出された。

捕まえる暇もなくチビべえはさっさと環さんの所に向かっていく。

 

一瞬追うか迷ったがやめておく。そこまでする必要はないと判断したからだ。

いくら環さんの頼みといえどチビべえ本人は嫌がってたし頑張り虚しく逃げられてしまったのだ。

 

義務は果たした。ならば俺一人で脱出するまで!

 

 

俺はそのまま脱出するために出口の方に足を踏み出そうとした。

 

 

「モキュ!」

 

「・・・? !」

 

 

だけど出来なかった。

チビべえが一際大きな声で鳴いて俺の方に顔を向けて立ち止まっている。

そして俺は見てしまったのだ。奴が咥えているものを。

 

 

 

「てめえええええええええええええ!!」

 

 

 

それを目にした瞬間、俺は再び走っていた。

 

 

使い魔?関係ない!命の危機?それも大事だけどアレも大事!

今は一刻でも早く取り返さなくては!

 

 

 

「俺の財布返せこらああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

結界内で俺の声が盛大に響く。

俺の声に驚いたのか使い魔たちはビクッと反応し密かに後ずさっているが気にしてられるか!

 

 

 

チビべえ本日二度目の窃盗「財布」

 

 

 

あれがないと俺帰れない!それだけじゃない!

身分証明するものもそうだし今日に限って家のキーもそこに入っている!

重要なものが全てあそこに集約されているのだ!

 

 

チクショオオオオオオ!!

 

 

スマホといい財布といい何で取られたらヤバいものばっか盗んでいくんだアイツは!?

 

くそ!逃げたくても逃げられない!分かってやってんのか!?

やっぱり見た目は変わっても奴はインキュベータ―!

 

 

 

悪魔そのものじゃねえかああああああああああああああああ!!

 

 

 

チビべえを追いかける内にどんどん出口から遠ざかっていく。

 

チラッと後ろを見ると出口の周りには既に使い魔が立ち塞がっており、もう出口に向かうのは不可能だろう。俺の鬼気迫るオーラのせいか奴らは様子を見るだけで襲ってはこない。だけど出口は完全封鎖確定。

 

 

 

くっそおおおおおおおお!こうなったら環さんの所に戻るしかない!

その方が今一番生存率が高そうだ!

せっかく逃げる手配してくれたところ申し訳ないけど命かかってるから背に腹は代えられない!

 

 

 

うん、そうしよう!

魔法少女は一般人を守る義務があると思うんだ!

 

 

 

どうやら盗人チビべえも環さんの元へ向かっているみたいで走りに迷いがなく彼女に向かってまっしぐら。幸い俺の周りに使い魔はいないからなんとか環さんの元へ辿り着けるだろう。

 

 

しかし気になることがある。

 

 

環さんは一体どうしたんだ?

何で目の前に魔女がいるのに座り込んで動かないんだろう?

 

じっと確認するも現に今尚さっき見た光景のままだ。

砂の上に座り込んだままで動く気配がない。俯いているから表情はよく見えない。

 

 

近づいてみれば分かる。今はそれを気にしている余裕はない。

環さんの近くには魔女がいるとっても近づきたくないが後ろからカサカサと砂を踏む音が複数聞こえる。

見なくても分かる。使い魔が俺を追いかけてるんだ。

どうやら吹っ切れたらしい。足音になんの迷いもなさそうだもん。

 

 

うおおおおおおおおおおおおおお!

怖ええええええええええええええ!

 

助かるためにも急いで環さんの所に向かわなきゃ!!

そしたら彼女がなんとかしてくれるさ!

 

 

今は走る事に集中しよう!止まったら死ぬ!

! そうだ!足の速い友人が言ってたけど早く走るコツはゴールだけを見る事らしい。他は見ないんだと。

 

ならば俺は環さんの事だけ見よう!

うん!そうしよう!生き残るために!

 

 

全力で走る中ただひたすら環さんを見る。それ以外何も見ない。

 

 

見えるのはゴール(=環さん)のみ!

 

 

走れ優依!

 

 

 

 

・・それが災いしたのだろう

 

 

 

 

 

「環さん!いっ!?」

 

 

環さんの元へ辿り着く直前、俺は足元に出来た窪みに気付かずにそのまま足を取られてしまった。

全速力しかもブレーキの事なんて考えずに走っていたから身体は前のめりの体勢でバランスを取ることが出来ずそのまま宙に浮いて前方にダイブ。

 

俺の前にいるのは環さん。このままいくとぶつかるのも環さん。

分かっているのにどうすることも出来ずスローな感覚で徐々に環さんの元へ飛んでいく。

 

 

環さんが気づいたのはぶつかる直前。

 

頭上を見上げていた環さんはようやく横の異変に気づいて俺の方を見たが時すでに遅し。

その時には彼女のピンクの瞳と至近距離で目が合っていた。

 

 

「神原さん・・?きゃあ!?」

 

「ぐへら!?」

 

 

偶然出来た渾身のすてみタックルは環さんの無防備な横腹にクリーンヒット。

タックルの威力のままに俺は彼女を押し倒すもそれでも勢いは止まらずズザザザァと痛そうな音を立てて砂を滑っていく。

 

 

「いったぁ・・」

 

 

ようやく止まったので顔を上げ自分の身体に怪我はないか確かめるも奇跡的に俺は無傷。

 

 

「うぅ・・」

 

「!?」

 

 

その代わり環さんは俺の下で苦しそうに唸っている。

どうやら俺の身代わりに全てのダメージを受けたらしく身体を起こす素振りが全くなく目はギュッと固く閉じられていた。その様子を見て俺は一つの可能性に至る。

 

 

 

 

え?俺ひょっとして・・主人公殺っちゃった・・?

 

 

 

ああああああああああああああああああ!!

 

 

 

すぐさま環さんから飛び退き身体を抱き起すもダメージが大きいのか呼吸が荒いままだ。どうにかしようと思うも頭真っ白で何も思い浮かばずただバカみたいに声を掛ける事しか出来ない。

 

 

 

「っ!環さん!?しっかりして!死なないで!お願いだから返事してええええええええええええええええええ!!」

 

「モキュ!」

 

「お前に聞いてねえよ!てか、何で人の頭の上に乗ってんだ!?」

 

 

上から元気な返事が聞こえてくる。声からしてチビべえ。

道理で頭が重いと思ったらいつの間に!?

 

速攻で引きずり降ろしたかったがそれよりも環さんの安否の方が心配だ!

頭の上に乗ってる白い悪魔も背後から聞こえるドスンという鈍い音も今は気にしている場合じゃない!

 

 

 

「環さん!俺の声分かる!?」

 

 

 

“魔法少女殺し”“原作崩壊”というワードが脳裏に過り半泣きになりながらも環さんを呼び続けているとそれが功をなしたのか彼女はうっすらと目を開けた。

 

 

「・・神原・・さん?」

 

「環さん!?良かった!生きてた!」

 

 

主人公をうっかり殺していなかった事に安堵した俺はついポロリと目から出た液体を零してしまいそれが環さんの頬に落ちる。

最初状況を理解出来なかったのか環さんはキョトンとしていたがやがて弱々しいながらも口を開く。

 

 

「どう・・し、て・・?」

 

 

か細い声でようやく出てきたのは何故か疑問だった。

 

 

「え?」

 

「どうして・・私・・」

 

 

途切れ途切れに呟く環さんに逆にこっちがどうして?と聞きたい。

彼女は何故「どうして」と呟いている?

 

そこで俺はピンときた!

 

彼女は言いたいのはつまり“どうして私を攻撃したの?”だ!

きっとこれで間違いない!

 

 

すみません!違うんです!わざとじゃないんです!

不可抗力なんですううううううううう!

 

どうしよう!言えない!

環さんガン見してたら足元お留守で足引っかけてこけてしまったら前方に貴女がいてそのままぶつかってしまったんです!!なんて言えない!

 

 

でもそんな事口が裂けても言えない。

だって環さんの目が「せっかく逃がしたのに戻ってきた挙句攻撃するなんて!」と非難めいたものを感じる!

下手な言い訳するといくら温厚そうな環さんでも怒りそう。

 

 

 

く!こうなっったら、なあなあにして誤魔化せ俺!

 

 

「よかった!環さん生きてて本当に良かった!」

 

「!」

 

 

すぐさま環さんを抱きしめて非難めいた目をシャットアウト。

俺の作戦はこうだ。取り敢えず今は緊迫した状況だしそれっぱい空気出せばなあなあになるんじゃない?

 

そんな保身に満ちた今回の作戦。

 

突拍子のない行動だから環さんは対応できないはず!

 

実際抱きしめられた環さんは固まってる。上々な反応だ。

緊迫した雰囲気も多分それっぽく出来てるはずだから後は機嫌を直してもらうのみ!

 

 

「俺、環さんに(さっさと魔女を倒してもらわないと困るから)死んで欲しくない」

 

「!?」

 

「俺、環さんと一緒じゃなきゃ嫌だよ(その方が生存率高そうだし)」

 

「神原さん・・・」

 

 

泣きそうな声でつぶやく環さん。

これはお怒りを鎮めるの成功か?

 

 

 

「はあ、はあ・・」

 

「!? うおい!しっかりして!?」

 

 

突如、環さんはさっきよりも更に体調が悪化したみたいで呼吸が荒く汗が滲んでいる。

それなのに身体は体温を奪われていくように徐々に冷たくなっていってる。

 

これまずいんじゃない?

病院に連れて行ったほうがいいかも。

じゃないと冗談抜きで死にそうだよこの娘。

ここら辺って近くに病院あったっけ・・?

 

 

すっかり忘れてたけど、それよりも先に魔女をどうにかしないとヤバ・・!?

 

 

「げ!?」

 

 

様子を見るため顔を上げると俺たちを逃がさないようにみっちり包囲している使い魔たちがズラリ。

 

 

「▽○@%$!!」

 

 

更には横から声がするのでギギギと壊れた機械のように首を向けると背後には魔女がスタンバイ。いつの間にか最強の布陣が出来上がっていた。

 

 

 

終わったあああああああああああああああああ!!

 

 

完全に終わったよこれ!!

脱出どころか逃げ場なんてどこにもない!

 

俺死んじゃうの?こんな所で死んじゃうの!?

 

何より「マギレコ」主人公ってこんな所で死んじゃうわけ!?

予想外にもほどがある!

 

何より俺は今世でたった十四年しか生きてないんだ!

まだ死にたくないいいいいいいいいいいいいいい!

 

 

 

 

「・・ふぇ?」

 

 

 

迫りくる死を前に涙目な俺の手に何か温かいものが触れている。

下を向くとそれは環さんの手だった。俺の手と重ねるように触れている。

 

 

 

「大丈夫だよ神原さん。・・貴女の事は必ず私が守るから」

 

 

「いろは様・・!」

 

 

俺を安心させるためか環さんは笑っている。

容体からしてものすごく辛いはずなのに笑顔を無理して作ってくれる環さん。

 

 

良い子!もはや女神の域にまで到達しそうなレベルの良い子!!

その慈しみの籠った微笑みは女神様そのものだ!

 

 

感極まってとうとう涙出てきたよ俺!

 

 

環いろは様は文句なしの主人公!

明らかにツインテールの先輩より主人公してるううううううううう!

 

 

 

「う・・!」

 

 

俺に笑顔を見せた直後、明らかに苦しみだした環さん。

本格的な苦痛なのか苦しそうに表情を歪めている。

 

 

「環さんしっか、い゛!?」

 

 

それに呼応するように添えられている手にも力が籠る。

もちろん環さんが握っているのは俺の手だ。手には尋常じゃないレベルのダイレクト圧力がかかっている。

 

 

「う・・うぅ!うああ!」

 

「いてててててて!ちょっ、環さん!?ストップ!リアルにストップ!手が潰れそう!」

 

 

苦しみ方が尋常じゃない!

それに呼応するように俺に伝わる痛みも洒落にならん!

 

 

うぐぅぅぅ!力が強くて離せない!

 

 

く!こうなったらせめて別の事でも考えて気を紛らわせるしかない!

取りあえず環さんは何で苦しんでるかについて考えよう!

 

 

 

えーと?ついさっきまでは元気だったのにいきなり苦しんでいる。

魔法少女って基本みんなQBの魔改造で身体は頑丈になっているはずだ。

 

よく考えれば知ってた事じゃん!何で忘れてたんだ俺!?

 

 

魔法少女がこんなに苦しむ時はあるか?

それこそ攻撃を喰らった時くらいだろう。

 

 

 

他に苦しむ理由なんて・・。

 

 

 

 

! いや待って?

 

 

確か「まどマギ」でこんな苦しみ方してる子がいなかった・・?

 

 

 

 

そうだ!主人公のまどかだ!

 

 

 

 

えーと、確かメガほむちゃんの初めてのループ時のワルプルギス戦の後、急に苦しみだしたまどか。

原因は真っ黒になったソウルジェム。

結局それはグリーフシードに変化してしまい、まどかは魔女に・・。

 

 

 

 

 

 

魔女に・・・? ! まさか!

 

 

 

 

 

 

思考のダイブからすぐに環さんに視線を戻す。

バサッという音がして彼女がかぶっていたフードが外れピンクの髪が露わになる。

 

 

 

「!」

 

 

そのまま環さんのピンクの髪がうねうねと動きだし重力に逆らって上に上に伸びていく。

まさかのホラーな光景に小さく「ひっ!」と声が漏れたが不可抗力だ。

だって俺の目の前では現在進行形で環さんの髪が生き物のようにうごめいて一つに固まっていく。

それは徐々に形を成していき、とある姿に変化した。

 

 

 

 

「鳥・・・?」

 

 

 

 

大きな鳥がいる。

 

 

 

一言で表すならそれが適当だ。あれが一体何なのか分からない。

だが少なくとも普通の鳥じゃないのは俺で分かる。

 

 

一見鳥のように見えるそれはピンクの布で全身を覆い、黒くて長いくちばしを生やしている。

何よりおかしいのがその鳥が環さんの髪と連結されてるみたいなのだ。

 

 

・・・可哀想に環さん。

謎のでかい鳥と髪がドッキングしているから引っ張られる形で宙づりになっていて頭皮がとても痛そうだ。

 

 

「え?え?何これ?どういう事!?」

 

 

当の本人は自分にくっついている鳥を驚きの表情でひたすら凝視している。

 

どうやら環さん自身も分かっていないみたいだ。

俺は少し顔を上に上げて環さん&ピンクデカ鳥の様子をチビべえを胸に抱きつつ見守る事にする。

決して巻き込まれたくないからとかそんな理由じゃない。

 

 

「きゃあ!?」

 

 

鳥は空高く舞い上がっていたが一気に急降下しそれにつられて環さんも急降下。

それと同時にデカ鳥の背中に背負っている白い布が伸びて大量に落下してくる!?

 

これはまずい!

落ちてくる場所にいたら潰されて死ぬか運よく助かっても窒息して死ぬかの二択しかない!

 

避難しなきゃ!

 

しかし悲しいかな。

俺の周りには魔女&使い魔に包囲されてるからどこに逃げ場なんてない。

 

 

「うわ!」

 

 

仕方なくその場でうつ伏せになり来たるべき布流星群に備える。

逃げ場がないならせめて生存率をあげそうな行動をとらなければ!

 

 

「プイ」

 

「! てめえ!」

 

 

チビべえの奴!俺の下に潜り込んでガードしてやがる!

一匹だけズルいぞチクショウ!

 

 

そんな事考えてるうちに布流星群がやってきたのですぐに頭を下げて衝撃を待った。

 

 

 

 

「・・・・あれ?」

 

 

 

しかし一向に待てども何の衝撃もないから恐る恐る顔を上げる。

 

 

「○★@$!?」

 

 

「わ!」

 

 

俺には振ってこない代わりに俺の周囲にいた魔女や使い魔が布に覆われ押し潰されていく。

どんどん上から布が落ちてくるからあっという間に姿が見えなくなった。

 

 

 

ピンクデカ鳥強い!すげえな何だあれ!?

 

 

 

そこで俺はピンときた。

 

 

 

 

おそらくあれはス○ンドだ!!間違いない!

 

 

 

さながら魔法少女verのス○ンドと言ったところか!

すごい!これが主人公補正というやつか!?

 

 

あくまで想像の域を超えないがそれでも俺は興奮しまくり食い入るようにス○ンド(仮)を見上げる。もちろん俺の心のアルバムに刻むためだ。

 

 

ありがとう環さん!まさかブラックな世界観の中、俺の目にス○ンドを見せてくれるなんて!

きっと君は前世でジョ○ョ的な感じの奇妙な冒険をしていたんだね!

出し惜しみなく見せてくれるなんて君はどこまで良い人なんだ!

 

 

一人キャーキャーしてる間に魔女は倒されたらしく空間が歪みいつの間にか俺たちは元の公園に立っていた。ここにいるのは俺と俺に抱きしめられてるキュゥべえ。そして茫然としている本日のMVP環さん。

 

 

「・・勝ったの?この子が倒した?」

 

「環さん!」

 

「ひゃう!?」

 

 

生ス○ンドを見れた興奮が冷めずハイテンションのまま環さんに抱き着いた。

突然の俺の行動に環さんは驚いてたみたいだけど無理に引き剥がそうとせずそのままにしてくれる。

 

 

ちなみに環さんに引っ付いていたス○ンドはいつの間にやら消えていて髪も元の状態に戻っている。

 

 

「すごいよ環さん!まさか君がス○ンド使いだったなんて!」

 

「え?ス○ンド?」

 

 

心なしか心臓の音がうるさいがひょっとしてこの娘も興奮しているのかもしれない!

ス○ンドを知らないのにはちょっと引っかかったが気にしないでおこう!

 

 

興奮中の俺から解放された環さんは困惑したままでふと自分の手を見つめていたがやがて驚いたのか目を見開いている。

 

 

「あれ・・?おかしいな、さっきまであんなに濁ってたのに・・?」

 

 

「え?何が?」

 

 

手元を俺が覗き込んだので見えやすいように位置を変えてくれた環さんの手のひらにはある物が置いてあった。

 

 

手の中にはピンク色の宝石。

 

 

どう見てもソウルジェムじゃん・・・。

 

 

 

「これ、ソウルジェムって言うの。今は元の色に戻ってるけどさっきは面影がないくらい黒く濁ってたの」

 

「! なぬ!?」

 

 

思わぬ暴露に顔が引き攣る。

 

 

 

つまりさっきまで魔女化寸前だったって事ですか!?

 

 

あっぶねえええええええええええ!!

 

 

ひょっとして俺知らない間に危ない橋渡ってた!?

 

しかし今は綺麗なピンク色。

どこにも濁っているか

 

まさかこれもス○ンドの効果か!?すごいな!

まさかのソウルジェムの浄化まで出来るなんてオールマイティーじゃないか!

 

 

「一体どうなってるの?それにさっきの鳥みたいなの何・・?頭が混乱して訳が分からない・・」

 

 

偉大なス○ンドの能力に感激する俺と違い環さんの表情は強張っている。

 

無理もない。立て続けに得体の知れない事が身の回り(というか自分自身)に起きていて気味が悪いのだろう。

身体は震えておりそれを抑えるように自身を抱きしめてる。

 

 

「何だか私、自分が怖いよ・・」

 

「そうかな?俺は全然怖くなかったよ」

 

「え・・?」

 

「訳が分からなくても俺を助けてくれたのは間違いないじゃん!おかげで俺、こうして生きてるよ!」

 

「・・・・」

 

 

ス○ンドがあるとはいえソウルジェムを濁らせるのは非常にまずいので気休め程度に慰めておこう。ついでにニコッと笑って安心感を増量しておかないと。

 

 

だから取り敢えずやめて?そんな感動したような表情で俺見るの!

別に大した事言ってないから!

 

 

「と、ともかく俺を助けてくれて(そしてス○ンドを見せてくれて)ありがとう環さん!君なら絶対大丈夫だって信じてたよ!」

 

「そんなお礼なんて!むしろ私がお礼言わなきゃいけないのに!」

 

「え?」

 

「お礼を言うだけじゃ貴女にしてもらった事のお返しは出来ないけど言わせて?ありがとう神原さん!」

 

「は、はあ・・?」

 

 

 

俺、何かしたっけ?全然心当たりないんですけど?

 

 

した事と言えば環さんの足を引っ張った事とすてみタックルお見舞いした事くらいだ。

ぶっちゃけ今日一日俺はロクな事やってない。

 

 

それなのに目の前にいる女の子はどうしてにこにこ笑いながら俺にお礼を言っているのだろうか?

 

 

実は隠れMなのか・・?

 

 

 

「じゃあ今度こそ本当に帰ろ・・あれ?」

 

 

馬鹿な事考えてる間に環さんは元の制服に戻っている。

そこまではいい。しかし何故またふらついているんだい!?

 

俺もう支えるのやだよ!

倒れるならベンチの傍か木の近くにしてください!

 

 

「あ・・・」

 

「また!?」

 

 

再びふらついた環さんは何故かまた俺の方に倒れ込んできたので巻き添えをくらわないように重心を整えて必死に支える。

重い!全く力が入っていないのか環さんの体重全てが俺に負荷をかけてきている!

 

 

「ごめんね・・ちょっと力が入らないや・・」

 

 

とかなんとか言いつつさり気なく俺の背中に腕を回しているのは何故でしょうか?

ていうか俺に身体を預けたまま動く気ないだろ!?更に重みが増したもん!

 

 

 

 

「神原さん」

 

 

 

「な、なに・・?」

 

 

 

必死に倒れないように支える俺に環さんの呑気な声がかかる。

 

 

 

「あれが一体なんなのか私には分からないけど・・」

 

 

 

「?」

 

 

 

「貴女を守れて本当に良かった・・」

 

 

 

 

ポツリとそう呟いて環さんは目を閉じた。

 

 

お願い目を開けて!俺をこのままにしないで!

しかし悲しいかな。環さんからすぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてきて俺は涙を流す。

 

 

「く・・!もう少し・・!」

 

「モッキュ」

 

「お前は良いよね!見てるだけだから!」

 

 

ホントにただ見てるだけのチビべえ(財布は取り戻した)に文句を垂れつつ爆睡中の環さん近くのベンチまで引きずっていく。

 

 

頑張れ俺の筋肉!

少なくともこのピンクをベンチに運ぶまでもってくれ!




いろはちゃんのドッペル登場は第三章からですがここは端折って第一章に登場してもらいました!

いつの時期から神浜でドッペルを出せるか詳細は不明ですが多分この頃から発動可能だったんじゃないかなーと。

文句は受け付けません!


個人的にはドッペルとス○ンド似てると思うんですけど皆さんはどう思います?


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番外編 もしも神原優依がマギレコの世界に転生していたら 環いろはの場合➂

いろはちゃん番外編これで最後になります!


スタートはいろはちゃん視点から!


いろはside

 

 

見つけなきゃ

 

 

探さなきゃ

 

 

この胸のざわつきの正体を

 

夢に出てくる女の子の正体を

 

 

 

神浜に行けばきっと見つかるはず!

 

 

 

「おーい!そこの人―!」

 

 

 

「え!?」

 

 

 

これが私と優依ちゃんの出会い

 

 

 

 

 

胸がざわついて落ち着かない。

何か大事な事を忘れてる気がして仕方がない。

 

特に最近はそれが更に強まった気がして耐えられなくなった私「環いろは」は迷いながらもついに決心して、この不思議な気持ちは一体何なのかはっきりさせるため放課後、電車を乗り継いで「神浜市」に向かった。

 

どうして神浜なのかというと前に一度訪れてから不思議な女の子の夢や胸のざわつきを覚えるようになったから手がかりはきっとそこにあると思う。

 

 

「うぅ・・建物が沢山・・」

 

 

無事神浜に着いたのは良かったんだけど何を探せばいいのか何を手がかりにすればいいのかも分からない。

 

 

 

魔女を探せばどうにかなると思ったんだけど魔女の反応が多すぎて混乱しそう。

反応が示すままにしばらく歩いていたら気づけば見知らぬ住宅街の中にいた。

 

 

周囲を見渡しても私以外誰もいない。

 

 

かなり歩いたけど結局何の手がかりもなくて今日はもう諦めて帰ろうかなと思った矢先に私に声を掛けてきたのが優依ちゃんだった。

 

私は元々人見知りで初対面の人と話すのは緊張するのに、優依ちゃんは近くで見ると声を失っちゃうくらい可愛い顔してたからいつもより焦っちゃって支離滅裂な事をかなり言ったと思う。

 

きっと優依ちゃんから見た私はすごく慌てふためいた情けない姿だったかも。

 

 

彼女が私に声を掛けたのは道を聞くためだったらしい。

 

 

神浜は初めてで迷子になったって言ってたから出来ることなら力になりたかったけど私も神浜に住んでないし何よりここがどこなのかも分かってない。

 

 

それ謝りながら伝えたら優依ちゃんがとっても落ち込んじゃって思わず「あの、」って口を開いていた。

 

 

困ってる人を見過ごせない。何とか力になってあげたい。

 

 

その思いで自分は方向音痴なのに一緒に駅まで行こうと言ってしまったけどこれで良かったと思う。

だって優依ちゃんとっても嬉しそうに笑っていたから。

 

今思い出しても一緒に行く選択をして良かったって心からそう思う。

 

 

 

 

優依ちゃんとの出会いは波乱に満ちていて時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

 

 

まさか駅に行こうとした直後に使い魔に遭遇していきなり魔法少女だって事がバレるとは思わなかったし、探していた小さいキュゥべえはあっさり目の前に現れてそこから何故か追いかけっこになったりとよく分からない展開になってしまって慌ただしかった。

 

小さいキュゥべえは中々捕まらない上に足を引っ張ったと落ち込む優依ちゃんを慰めつつ本音は少しこの状況が楽しいって思ってた。

 

 

だってこうやって歳の近い子と一緒に行動するのは初めてだったから。

 

 

必死に追いかけるのもそうだし休憩のついでにお店に寄って沢山おしゃべりしたりと前の私が見たらきっとビックリするくらい充実した時間を送っていたと思う。

 

優依ちゃんには申し訳ないけどこの状況がまだまだ続いてほしいとすら願っている自分に驚いちゃった。

 

 

・・でもそうは言っていられない。

 

 

優依ちゃんに気付かれない程度に何度も観察する。

ネガティブの化身のように優依ちゃんは肩を落としているから全く気付いていないけど油断は禁物。

 

 

「・・・・・・はぁ」

 

 

私のソウルジェム、ピンク色だったのに今はかなり黒く濁ってる・・。

 

 

思わずため息が出てしまう。

 

 

小さいキュゥべえを追いかけている内に何度も使い魔に遭遇した。

その度に変身して戦っていたけど相手は最初に遭遇した使い魔みたい。

どうやらあの時、標的にされたみたいでずっと追いかけてくる気配がしてて注意してたけど完全に目を付けられたみたい。

 

親の魔女を倒せば使い魔も一緒に消えてくれるけど、その使い魔でさえちゃんと倒せないくらい強くて逃げるので精一杯。

 

魔女は使い魔よりももっと強いから私じゃどうにもならないのは予想がつく。

 

 

それに間が悪い事に今はグリーフシードを持ってないからソウルジェムを浄化する事が出来ない。

 

 

今は何とかなってるけどこのままだと戦えなくなってしまうのも時間の問題。

そうなったら魔女の餌食になるのを待つだけ。

 

 

それまでに何としてもスマホを取り返さなきゃ!

 

 

そう思って何とか優依ちゃんを立ち直らせる事がなんとかできた。

 

休憩の最中、少しからかわれたり料理の話をしていたら思いのほか楽しい。

クラスメイトの皆と話すのと違って変に気を遣うこともない。

気持ちがとても楽で優依ちゃんとなら何でも話せる気がする。

 

 

優依ちゃんとおしゃべりするのが本当に楽しくて実は小さいキュゥべえの事すっかり忘れてた。

 

その小さいキュゥべえは忘れた頃のタイミングでやって来てすごい騒ぎに発展しちゃったけどその際、ぼそっと呟いた忘れてた発言の独り言は多分優依ちゃんに聞こえてないはず。

 

 

あまりの急展開に呆然としてる間に優依ちゃんが持っていたバッグでキュゥべえを叩きつぶす勢いで押さえてたから慌てて救助のためキュゥべえを抱きしめた途端、何かが私の中に入ってきてそのまま気を失ってしまった。

 

 

 

目が覚めるまでの間、私はずっと夢を見ていた。

 

 

 

 

『――ちゃん』

 

 

 

それはいつもの女の子の夢。

 

 

でも、いつもと違う。

 

前は声が聞こえなかったのに今はちゃんと聞こえる。

 

 

 

『お姉ちゃん!』

 

 

 

不思議な夢に出てきた女の子が私に笑いながらそう呼びかける。

 

 

お姉ちゃん・・?誰?

 

 

私に向かって女の子は『お姉ちゃん』と呼びかけて楽しそうに色んな話をしている。

疑問に思いながらもその笑顔を見ると何故か私まで嬉しくなってうんうんと相槌を打ちながら聞いていた。

 

 

 

だけど場面が変わって突然、女の子が苦しみはじめ不安そうに私を見上げている。

 

 

『お姉ちゃん・・私、本当に退院出来るのかな・・?』

 

 

泣きそうな表情でそう聞いてくる。

 

 

とっても苦しそう・・。

 

さっきまであんなに楽しそうだったのに!

 

 

 

『出来るようい!』

 

 

 

耐えられなくなった私は気づけばそう叫んでハッとする。

 

 

うい・・?

 

誰の名前?この知らない女の子の名前?

 

 

! 違う!知らない女の子じゃない!

 

 

この娘の名前は「環うい」たった一人の大事な妹。

 

 

病気で入院していてあまり外に出られないけどいつも楽しそうに笑って周りを明るくしていた優しい子。

 

 

 

そこから更に場面が変わって私は自室でキュゥべえと対峙している。

 

 

『お願い!妹の病気を治して!そのためなら私何でもするから!』

 

 

泣きながらキュゥべえにそう叫んでいる私が映る。

 

 

・・そうだ・・。

私はういの病気を治すために魔法少女になったんだ!

 

 

何でこんな大事な事今まで忘れてたんだろう・・?

 

 

ごめんね・・うい・・。

 

 

夢から目を覚ました時、私の目元は濡れていた。気を失っている間に泣いていたのかもしれない。

私はベンチで横になっていた上半身を起こして足元を見つめる。考えるのはもちろんさっきの事。

 

 

 

「・・・うい」

 

 

 

たった一人の大事な妹の名前を呟いたら自然と涙が零れてくる。

 

 

「うい・・今まで忘れててごめんね」

 

 

謝っても謝りきれない。

 

 

「うい」が今ここにいない寂しさ

 

「うい」の存在を忘れて今までのほほんと生活していた自分への怒り

 

このまま「うい」に会えないんじゃないかという不安

 

 

 

それらが一気に私に押し寄せてきて胸が押しつぶされてしまいそう。

それに合わせて涙もどんどん溢れて止まらなくなっていく。次第に身体が震えてきてそれを抑えるように自分を抱きしめるけど全く震えはおさまらない。

 

 

私は一体どうすればいいんだろう・・?

 

 

誰でもいい。お願い、助けて・・!

 

 

 

 

「あ、あの環さん!俺で良かったら相談のるよ?」

 

 

 

 

頭上から少し緊張した声をかけられて顔を上げると優依ちゃんが優しい笑顔で私の顔を覗き込んでいた。

 

そこで私はようやく今は独りじゃない事を思い出す。

話そうか迷っていると優依ちゃんはそれを察していたみたいで「無理に話さなくていい」と私を気遣ってくれて嬉しかった。

 

 

私は全部話そうと決めた。

 

 

 

それから私はさっきの夢で思い出した事を全て話した。

優依ちゃんは私が話し始めた時は驚いた様子で表情が引き攣っていた気がするけどそれはきっと気のせい。優依ちゃんは時々質問しつつも静かに聞いてくれた。

 

 

誰かに話すと気持ちが整理されるって本当みたいで話している内にさっきまであんなに胸を押しつぶしそうだった暗い気持ちが少しずつ晴れていってやらなければいけない事が見えてくる。

 

 

「やっぱりおかしいかな?こんな突拍子のない話信じられないよね。私の記憶の中だけの話だから妄想だって言われても言い返せないし」

 

 

頭の中で今起きている事を冷静に纏めていくにつれてだんだんこの話が現実味のない空想のように思えてくる。私の思い出した記憶がはっきり現実だと告げているけど他の人が聞けば突拍子のない話できっと信じてもらえない。

 

 

いくら優しい優依ちゃんでも・・。

 

 

 

 

そう思ってたのに優依ちゃんはただ一言「信じる」と言ってくれた。

 

 

私がどうして?と聞けば私が魔法少女だからって答えた。

確かに常識的に考えれば魔法少女なんてありえないと思う。私自身が証拠なんだ!

 

 

 

「俺は環さんを信じるよ」

 

 

そう微笑んでくれた時私はとっても泣きそうなりながら優依ちゃんにお礼を言った。

いや実際は泣いていてただ「ありがとう」って言うのが精一杯。

 

 

本当はもっと伝えたい。

 

 

もう今はほとんど夜になってる。

 

今気づいたけど私が気を失っている間、優依ちゃんはずっと私に付き添ってくれていたみたい。

本当に優しくて可愛い女の子。

 

 

 

だからこそ優依ちゃんを無事に送り届けなきゃ!

 

 

でも、それは叶わなかった。

 

 

 

気づけば私たちは再び見覚えのある結界に取り込まれていたから。

 

 

優依ちゃんがバランスを崩して尻餅ついちゃって手を貸したその時にようやく気付いた。

そしてこの結界の中には使い魔とは比べものにならない強い魔力を感じる。

 

 

・・・・まさか!

 

 

「U▽☆※@◆#!」

 

 

不安は的中して私たちの前に女の子の人形みたいな魔女が現れる。

 

 

どうしよう?使い魔でさえ倒せないのにそれより強い魔女が現れるなんて!

 

 

チラッと見た私のソウルジェムはもう元の色を残さない程黒く濁っていて焦りが募っていく。

きっと一度でも魔力を使うと完全に真っ黒になってしまって魔法が使えなくなるかもしれない。

 

これじゃ戦うどころか逃げる事すら出来ない。打つ手がない。

魔力もそうだけど何故か身体がダるくて思うように動かない。

 

 

 

ならせめて、この娘だけでも逃がさないと・・!

 

 

「神原さん!私が隙を作るからその間に逃げて!」

 

 

ほとんど気力で変身するもその反動からかふらついて倒れそうになる。

不安そうな表情の神原さんに余計な心配はかけたくないから何とか踏ん張って攻撃のための魔力をかき集めた。

 

 

「キュゥべえをお願い!ここにいたら危ないし私も後で合流するから!」

 

 

きっともう私はここから出られない。

 

薄々そんな事は分かっていたけど不安にさせないためにここはそう言った方が良い。

 

 

この攻撃に魔力の全てを込める!

おそらく私の魔力はこれでなくなってしまうだろうけど構わない!

 

 

「やあ!」

 

 

気合を入れるために声を上げて魔女に矢を放つ。

 

 

「○△※!?」

 

 

今注げるだけの魔力を込めた矢が魔女に当たり目に見えるダメージはないけど怯んでいるから今なら脱出出来るはず!

 

 

「今だよ!」

 

 

急いで優依ちゃんの方を振り向いて急かす。

私の合図で優依ちゃんは小さいキュゥべえを抱えてで口まで走っていく。

その際、「環さん気を付けて!」と言ってくれてその気遣いが嬉しかった。

 

 

 

良かった・・。神原さん何とか無事脱出出来そう・・。

 

 

 

結界の出口に走っていく優依ちゃんを見届けて私は崩れるように砂の上に座り込んでしまった。

さっきの攻撃で殆どの魔力を使ってしまったから当然の結果。

 

 

せめて優依ちゃんが逃げられる時まで・・!

 

 

それだけの思いで動いていたからそれを果たした今、もう私は戦うための魔力がなくて魔女が目の前にいるのにもう立ち上がる気力さえない。

 

 

「うぅ・・」

 

 

それだけじゃない。

 

キュゥべえを追いかけていた時から感じていた不調。

それは結界に囲まれて戦う度に増していた気がするけどここにきて一気に悪化した気がする。

 

身体の底から冷えていく感じ。

頭がボーっとしてもうちゃんと考える事も難しい。

そう感じてる間にもどんどん体温が奪われていってこのまま凍りつきそう・・。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・。

 

 

 

どれくらい時間が経ったんだろう?

 

 

「――――!」

 

 

遠くで叫び声が聞こえるけど首を動かして見る事すら叶わない。

今は意識を失わないようにするだけで精いっぱい。

 

 

 

「○★@%!」

 

 

頭上から声にならない声が聞こえる。

ふらふらする頭を何とか上げると魔女が目の前にいた。

 

 

さっきの攻撃が思ったよりダメージがあったみたいだからきっと怒ってるんだ。

 

 

 

魔女が腕を振り上げる。

 

 

 

その腕の下にいるのは私だからもしかしなくてもそのまま腕を振り下ろしてペシャンコにするつもりみたい。

 

避けなきゃ潰れちゃう。

そんな事は分かってるのに身体は言う事を聞いてくれない。

もう視界もぼんやりしてきて魔女の姿もぼやけて見えるけどとうとう腕を振り下ろす。

 

 

私は動けず痛みに耐えるように顔を下に向けた。

 

 

 

うい・・ごめんね

 

お姉ちゃんここまでみたい

 

やっとういの事、思い出せたのに見つけてあげれなくて本当にごめん

 

 

 

 

 

「環さん!」

 

 

 

 

 

その時、かなり近くで私を呼ぶ声が聞こえてハッと我に返った。

 

 

声がした方に向かってゆっくり首を動かすと優依ちゃんが目の前にいた。

それも至近距離といってもいいくらい顔が近い。

 

 

 

 

「神原さん・・?きゃあ!?」

 

 

 

 

そのまま身体全体に衝撃が走って私は背中越しに後ろに吹っ飛んでしまってスザザァという砂に引きずられる音が耳元に聞こえた。

 

 

 

「うぅ・・」

 

 

痛い。全身が痛いけど特に背中が痛くて涙が出てきそう・・。

 

突き飛ばされた衝撃と体調不良のせいで上体を起こせないし、何より私の上に何かのってる・・?

 

 

 

「環さん!俺の声分かる!?」

 

 

近くで優依ちゃんの声が聞こえたかと思うと私の上にかかっていた圧が取り除かれ代わりに身体を抱き起された。

「環さん」と何度も私を呼ぶ声にうっすらと目を開ける。

 

 

「・・神原・・さん?」

 

 

見ると優依ちゃんが泣きそうな表情で私の顔を覗き込んでる。

ううん、完全に泣いてて瞳に溜まっていた涙が私の頬に落ちてきて何故か暖かった。

 

 

それよりも聞かなきゃ・・!

 

 

「どう・・し、て・・?」

 

 

優依ちゃんに向かって言葉を発しようとするも、もう声すら満足に出せないみたいでかすれてちゃんと喋れない。

 

 

 

でもこれはちゃんと聞いておかなくちゃ。

 

 

もう一度口をどうにか動かして優依ちゃんに問いかける。

 

 

「どうして・・私・・」

 

 

でもやっぱり声が掠れて最後まで言えなかった。

 

 

 

“どうして私を助けてくれたの?”

 

 

 

これを聞きたかった。

 

だって優依ちゃんが私を突き飛ばしてくれなかったら私は今頃魔女に潰されてペシャンコになっていから。

実際、私がさっきまでいた場所は振り下ろされた魔女の腕で地面が凹んでいる。

 

 

優依ちゃんのおかげで助かった。でも何で?

何でこの結界から抜け出せるチャンスを捨てて戻ってきたの?

 

 

最悪優依ちゃんも魔女の攻撃に巻き込まれて潰れちゃう可能性もあったのにどうして身を挺して助けてくれたの?

 

 

ちらっと横目で確認した結界の出口は使い魔が立ちはだかっていて出る事は不可能。

 

 

私自身も魔力がなくなった上に具合が凄く悪くて戦う事は不可能なのにどうすればいいんだろう?

 

 

もう結界から脱出する手段がないよ・・!

 

 

「良かった!環さんが無事で本当に良かった!」

 

 

「!」

 

 

八方ふさがりになって泣きそうになっている私を優依ちゃんが嬉しそうに抱きしめてくれた。

 

優依ちゃんの体温が冷たくなっていく私の身体を温めてくれてとっても暖かい・・。

 

 

 

「俺、環さんに死んで欲しくない」

 

「!?」

 

「俺、環さんと一緒じゃなきゃ嫌だよ」

 

「神原さん・・・」

 

 

 

すごく安心したみたいな表情をして抱きしめてくれる。

 

 

 

何となく優依ちゃんが助けに来てくれた理由は分かったかも。

 

ひょっとして私がピンチだったから何も考えず身体が動いちゃったのかもしれない。

危険なのはきっと覚悟の上だったはず。

 

 

そう考えるとなんだか体の内から暖かくなってきて不思議。

身体以上に心が軽い。

 

 

私をここまで思ってくれる人なんてきっとこれから先そういないと思う。

 

 

 

「!」

 

 

気づくと私たちの周りは使い魔で囲まれていてその後ろに魔女が控えている。

かなりピンチの状況を察してか優依ちゃんはギュッと私を抱きしめる力が強くなっていたけどそれもごく僅か。

 

微かに震える腕が心境を語っている。

 

 

危険を承知で助けてくれたんだもの!私が諦めちゃダメ!

絶対優依ちゃんを守らないと!

 

 

私の大切な人なんだもん!

 

 

 

気づけば私は震える優依ちゃんの手を握っていた。

 

 

 

 

「大丈夫だよ神原さん。・・貴女の事は必ず私が守るから」

 

 

 

 

不安で押しつぶされそうな私に優依ちゃんを安心させるためちゃんと出来てるか分からない笑顔を浮かべる。

優依ちゃんは泣きそうな顔で私を見ているけどもう手は震えていなかった。

 

 

「う・・!」

 

 

その直後だった。

 

 

さっきと比べものにならないくらいの苦痛が襲ってきてそれをただひたすら耐える。

苦しい。そのまま意識が真っ暗な闇に消えてしまいそう。

気を緩めてしまったら一巻の終わりな気がする・・!

 

 

 

・・私はこのまま消えてしまうの?

 

 

 

 

「環さん!」

 

 

 

 

! 遠くで優依ちゃんの声が聞こえる。

 

そうだ・・私今は独りじゃないんだ・・。弱気になってる場合じゃない!

 

 

 

絶対優依を守るんだ!

 

 

 

そう決意した直後の事はあまり覚えていない。

 

 

まるで幻のようにアッという間に過ぎ去って私自身どうなったか理解出来ない。

 

 

かぶっているフードが脱げて私の髪が生きてるみたいに集まったかと思うと気づけば浮いてるんだもの。

パニックになりながら私を宙に引っ張ってる原因を見ると私の髪と繋がってる大きな鳥みたいなものがいた。

それに驚いてる間に鳥が急降下しだして髪が鳥と繋がっている私も当然それに引きずられて一緒に急降下。

 

 

 

このままじゃ魔女にぶつかっちゃう!

 

 

でも、そうなる前に大量の白い布が魔女や使い魔に覆いかぶさって姿が見えなくなった。

 

布に覆われてよく分からなかったけど魔女は倒せたみたい。空間が歪んで元の公園に戻っていたから。

私の髪と繋がっていた鳥も一緒に消えていて元の髪に戻っていた。

 

 

あれは一体何?

 

 

「環さん!」

 

 

訳が分からなくて頭が混乱してる時にいきなり優依ちゃんに抱き着かれて頭が真っ白になりそうだった。

優依ちゃんは何故か興奮しててあの鳥の事を「ス○ンド」って言ってたけどそういう名前なのかはよく分からない。

 

 

 

・・ただ分かるのはあの大きな鳥は私から出てきた事

 

そしてあんなに濁っていたソウルジェムが元のピンク色に戻っていた事

 

 

 

 

許容範囲をはるかに超える出来事が続いて頭がパンクしそう・・。

 

 

 

「何だか私、自分が怖いよ・・」

 

 

その恐怖が全身に広がっていて気づけば私は自分を抱きしめていた。

 

 

だって・・・!

 

 

 

あの鳥まるで「魔女」に見えた

 

 

 

どうして?私は魔法少女のはずなのに・・?

 

私は魔法少女?魔女?

 

分からない。もし自分が魔女だって思うと怖い。

 

 

一度悪い事を考え出すとどんどん深みに嵌って悪い事ばかり考えてしまう。

 

でも優依ちゃんは怖がる私にとっても優しかった。

 

 

 

「俺は全然怖くなかったよ」

 

 

怖がる私と違ってあっけらかんとそう言い切って思わず「え・・?」と止まってしまった。

 

 

不思議がる私に優依ちゃんは何度も励ましの言葉を言ってくれる。

 

 

「環さんのおかげで俺こうして生きてるよ!」

 

 

 

笑顔でお礼を言われてしまったときは我に返った。

 

お礼言うのはこっちの方。

だって優依ちゃんは何度も私を励ましてくれて身体を張って助けてくれた。

感謝してもしきれない!

 

でも私も笑ってありがとうと言うと優依ちゃんはポカンとしてたけど何でだろう?

 

そんなことを疑問に思う暇もなく突然、力が抜けちゃって優依ちゃんに倒れ込んでしまってそれどころじゃなかった。

 

ごめんなさい。全く力が入らないなんて恥ずかしいよ。でも、

 

 

「貴女を守れて本当に良かった・・」

 

 

あの時守れなかったらきっとこの温もりも感じる事が出来なかった。

 

もう少しこうしていたい。優依ちゃんを感じていたい。

 

 

そう思いながら私は優依ちゃんの背中に腕を回した。

 

 

 

 

 

 

 

そういえばどうして優依ちゃんって呼んでるかについても触れておかないと。

 

 

 

神浜を出る時には随分暗くなっていた。

 

 

魔女を倒した後、何故か身体がとても怠くて優依ちゃんに支えてもらわないとちゃんと歩けないくらい程だった。

話を聞くと優依ちゃんが住んでる町は私の最寄駅を通るみたいだから夜遅い事もあるし家に泊まるように誘ったの。

 

最初は優依ちゃん遠慮してるみたいだったけど諦めずに誘ったらOKしてくれて良かった。

 

家に着くとお母さんは私が友達を連れてきた事に驚いてた。

今まで家に友達連れてきたことなかったから当然だと思う。

 

予定よりかなり遅い帰宅になったし無断で連れてきたから怒られるかもと思ったけどそんな事なくてむしろお母さんは凄く喜んでて優依ちゃんに挨拶してこっちが驚いちゃった。

 

 

何であんなに喜んでたんだろう?優依ちゃんをモデルか何かと勘違いしてるのかな?

 

ひょっとして優依ちゃんってモデルさん!?

確かに可愛いしありえるかも!?

 

 

ちなみに小さいキュゥべえは神浜にいる。

 

本当は連れて帰りたかったけどどうやら神浜の外には出られないらしくて動こうとしなかった。

魔女に襲われないか心配だったけど優依ちゃんは大丈夫でしょとあまり心配していなくてキュゥべえの方も「大丈夫!」と言っていたから渋々置いてきちゃったけど少し心配。

 

 

 

優依ちゃんは「チビべえ」って呼んでたけど私もそう呼んだ方が良いのかな?

 

 

 

 

 

 

話は戻るけど優依ちゃんを家に連れてきたのは夜遅いから泊まってもらおうと思ったからだけどあと二つ理由がある。

 

一つは私の手料理を食べてもらう事。

 

優依ちゃんと料理の話になった時、豆腐ハンバーグ食べた事ないけど興味あるって言ってたから誘ってみた。

 

本当はその時誘うつもりだったんだけどキュゥべえが突然現れてその後もそれ所じゃなくなったけど、上手く誘えて良かった。

 

作ったのはもちろん豆腐ハンバーグ。ういの好きな料理。

モデルさん(?)に自分の手料理を食べてもらうのは凄く緊張したけど美味しいって言ってもらえて良かった。

 

 

そしてもう一つは私の決意を聞いて欲しかったから。

 

神浜に行ったその日はすっごく慌ただしくて訳が分からない事ばっかり起きて不安になったり怖いと思ったりした事もあったけどそれをひっくるめて良い日だって自信を持って今なら言える。

 

 

 

だって優依ちゃんに会えたんだもん!

 

 

だからそれも含めてういを探す決意を優依ちゃんに聞いてほしかった。

 

 

 

一緒に過ごした思い出は一日しかなくてひょっとしたら夢かもって思っちゃう日もあるけど私には確かな証がある。

 

 

 

それは優依ちゃんと一緒に撮ったプリクラ。

 

 

一応プリクラの事は知ってるけど撮った事がなくてどういう表情すればいいのか分からなかったから映っている私の表情は固いし見れたものじゃないけどこれは私にとって大事な宝物。

 

 

優依ちゃんと過ごした過ごした大事な思い出だから一生大事にするつもり。

 

 

 

 

 

 

うい。お姉ちゃんね今日初めて友達が出来たよ。

 

 

名前は優依ちゃん。モデルさんみたいに綺麗でとっても優しい女の子。

 

会ったら絶対驚くよ!すっごく美人だもん。

 

私の大切な友達だからいつかういに紹介するね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着信『えろは』

 

 

 

 

 

「・・・もしもし」

 

『もしもし優依ちゃん?いろはです。今大丈夫かな?』

 

 

環いろはからの電話に俺は今日も死んだような表情でスマホを耳に当てて彼女の声を聞く。

 

早く終わってくれと願うがいろはの電話はぶっちゃけ長いから今日も軽く一時間は超えるだろう。

怒涛の神浜脱出劇を終えてこれでもう大手を振って過ごせると思ってた俺は救いようのない愚か者だと思う。

 

 

神浜に行ったあの日。

 

 

ス○ンド発動し魔女を倒した環いろはもといス○ンド使いは使用した代償からか疲労感でしばらくまともに歩けない状態だった。

 

休憩挟みーの、徒歩の付き添いやりーので夜はどんどん更けていって気づけば補導されかねない時間帯になっていて俺涙目。

 

 

でもそれだけならまだ良かった。

 

 

まさかの帰宅電車が同じだったため一緒に乗車していると環いろはから「今日は泊まっていかない?」という死刑宣告が下って俺発狂寸前。

 

全力で断ったが実は意外と頑固らしい彼女はめげず最終的に押しに弱い俺が折れて環家という名の処刑場に連行されていった。

 

 

その時出会ったいろはママがすっごいインパクトがあって今でも鮮明に思い出せる。

 

 

だって俺の顔を見るなりいきなり手を掴んで、

 

 

「いろはが友達を連れてきた!しかもこんなに可愛い子を!」

 

 

とハイテンションで喜んでいたから。

 

この様子から察するにどうやらいろはさんは一度も家に友達を連れてきたことはないらしい。

俺の中で環いろはぼっち説はほぼ確定した瞬間であった。

 

 

ちなみにチビべえは一緒に来ていない。

 

 

いろはの奴は連れて行くつもりだったが何故かチビべえは神浜から出たがらなかった。

 

仕方なく置いてきたがいろはの奴は心配しているみたいだ。

まあ、あいつならきっと(というか絶対)大丈夫だろう。

中々の強かさと逃げ足の速さがあるから危険に遭う事もほぼないと俺は確信している。

 

 

話は戻るが俺が環家で何をしたかというといろはがご飯作ってくれました!

 

 

豆腐ハンバーグ美味しかったっす。

 

全体的に薄味で健康志向が凄まじい気がするけど。

いろは曰く「妹が食べれるように作ってたから」らしい。

 

まあ、薄味だったけど可愛い女の子の手料理を食べられるというのは至福と言える。

前世では決して味わえなかった経験と言っていい。

こういう時つくづく性転換して良かったと思う。手放しで喜べはしないけど。

 

 

 

 

 

「ここが私とういの部屋だよ」

 

 

 

食事後は部屋にいろは&妹ちゃんの部屋を見せてもらった。

話に聞いた通り部屋の半分が物が置かれてなくて不自然に殺風景な光景。

 

本当に半分だけ消えちゃったような感じでこれはいよいよいろはの言ってる事に信憑性がでてくる。

 

何もない部屋半分は確かに気になるが俺個人として気になるのはいろはのベッドにもたれかかっている意外とでかいウサギのぬいぐるみの方だ。

 

 

何だあの存在感は?

 

 

この部屋で一番気になると言っても過言ではないくらいプレッシャーを放ってるぞ!?

 

 

あ、ちなみに何で俺が「環さん」呼びから「いろは」と名前呼びに切り替わっているかというと、このお部屋拝見時の会話が原因です。

 

 

 

↓以下のその会話

 

 

「神原さん」

 

「何?」

 

「私、これからも神浜に通ってういを探しに行くよ」

 

「そっか、見つかるといいね妹さん」

 

「うん、ありがとう。それで・・神原さんにお願いがあるんだけど、いいかな?」

 

「何?」

 

「ういが見つかったら神原さんの事、ういに紹介していいかな?・・私の友達として」

 

「え!?」

 

「や、やっぱりだめ?そうだよね・・いきなりこんな事言われても困るよね?」

 

「あああああ!いや!そんな事ないよ!友達代表として恥をかかないように努めますのでよろしくお願いします!」

 

「え?じゃあ私たち友達?」

 

「うんそうだね!友達だ!」

 

「! ありがとう!あ、だったらもう一つお願いがあるんだけどいいかな?」

 

「・・何でしょうか?」

 

「神原さんの事これから『優依ちゃん』って呼んでいい?」

 

「ふぁ!?」

 

「・・・だめ?」

 

「問題ありません!」

 

「ありがとう!じゃあ優依ちゃんって呼ぶね。私の事も名前で呼んでくれると嬉しいな」

 

「うん分かったよ!いろは!」

 

「あ、それと携帯番号交換しよう?」

 

「!!?」

 

 

会話終了

 

 

色々きつかった・・。

 

 

控えめなフリしてグイグイくるピンク。

 

遠慮がちに頼んでくるくせに断る雰囲気でさえ見せようものなら今にも泣きそうな表情を浮かべてじっと見てくるから断れない!しかも一個OK出したら更に要求が増えてくる。しかも折れる気配なし。

 

最終的に携帯番号も頑固一徹な評価が下りつつあるいろはに押し負けて渋々交換してしまった。環いろは恐るべし。

 

夜も環家に友達が来た事ないから当然来客用布団なんてない。

 

何が悲しくて死亡フラグ主人公と一緒に寝ないかんのだ!?

 

 

まあ、お別れしてしまえば距離がある事もあって疎遠になるはずだ!

 

 

 

 

 

・・そう思っていた時期がありましたよ俺に。

 

 

 

 

 

『それでやちよさんが・・』

 

 

ピンクから二日に一回ペースで電話がかかってくるのはこれ如何に?

マジで地元に友達いないのかというくらいのハイペースで電話がかかってくるんですがどうなってんの?

 

嫌なら拒否すればいいじゃんと思うかもしれないがそうはいかない。

主人公の話は大体ストーリー展開を掴むために必要なものだ。

 

 

彼女は今も妹探しのために神浜に通っているらしく、よく話題になる。

 

 

例えば、

 

チビべえは元気にしてるとか、

別の魔法少女に追い出されそうになったとか、

魔法少女の調整屋さんに出会ったとか、

噂が現実になるとか、

 

 

まさに情報の宝庫だ。(聞きたくない方の)

 

 

今は仲良くなったらしい「七海やちよ」の名前がしきりに出ている。

 

以前は神浜から追い出されそうになったらしいのによく仲良く出来るな。俺だったら無理だ。

きっとあのピンクの頑固が発揮されたんだろうなとこは簡単に想像がつく。

やちよさんご愁傷さま。

 

「七海やちよ」について分かっている事は現役大学生モデルにして俺が知ってる中でも魔法少女最年長。

つまりギリ未成年という事だ。

 

容姿はインタビュー特集をやっている雑誌を見たことあるので知っている。クール美人といった感じだった。

俺が最も苦手とするタイプ。是非とも縁などないように願いたいものだ。

 

 

 

といってもどうせもうこれから先あの魔窟のような神浜に行くことはない。

 

 

てか絶対行くか!!命がいくつあっても足りないわ!

 

 

「神浜行き論外」と結論付け、楽しそうないろはの声を半分聞き逃しながら俺はやさぐれ気分で電話を続けた。




いろはちゃん番外編でした!

長かった・・・。
次マギレコキャラ書くとすると誰だろう・・?
やっぱフェリシアちゃんかな・・?



まあ、それはともかく次は本編に戻ります!
さやかちゃんのお話です!


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63話 Mission「美樹さやかの契約を阻止せよ!」①

最近Twitter始めました!

始めたのはいいんですけどひっそり呟いてたらひっそりとしか人が来てくれなくて寂しいので思い切って報告しました!

プロフ画面にも載せてます!

「かずwax」の名前でアカウント作ってるので検索したらきっとhitしますw

呟きはだいたいこのSSについて呟いてます!
寂しいんで覗きに来てください!(あんまりツイートしてませんけど!)


本編さやかちゃん編いきます!


「あああああああああ!チクショウ!結局こうなるのね!俺の今日の苦労は一体何だったんだよホント!」

 

「ただの苦労で済めばいいけど君の場合、無駄を通り越して余計な事やらかしてるから自業自得としか言いようがないね」

 

「結果はともかく俺だってやれるだけの事はやったんだからもう少し優しい言葉をかけてくれてもいいんじゃない!?」

 

 

 

病院までの道を俺はシロべえと二人ひたすら走っている。

目的はもちろんさやかの契約を阻止するため。

 

 

 

まどかからさやかが病院に向かったと聞いて(制服に着替えた後)慌てて飛び出したのだ。

 

 

あれ?昨日テレポートしてたじゃん?何で使わないんだよと思うかもしれない。

 

 

実際、俺も時間短縮のため使おうと提案した。

 

 

しかし開発者シロべえ曰く「作るの大変」な上に、一枚しかなかったテレポートシールを昨日の「マミる」時に使ってしまったので在庫がないそうだ。

 

 

つまり楽する事は許されず親からもらった足で頑張るしかない。

 

 

第三者から見たら必死に頑張ってる感が出てカッコいいかもしれないがぶっちゃけ俺、体力が園児以下なので無事病院まで辿りつけるかどうかとても心配だ。

 

 

ちなみに今病院に向かっているのは俺とシロべえだけ。

残りのメンバーは待機だ。

 

 

どうして向かっているのが俺ら二人だけなのかと言うと理由は一応あるが深い考えではない。

単純にあの待機してるメンバーじゃさやかの説得は難しいと判断したからだ。

 

 

契約に限らずあの青猪を止めるのは難易度高すぎて笑えない。

 

 

強いていうなら一番有力候補なのはまどかだ。

ただし高確率でさやかに押し切られる可能性が否めない。

 

更に自棄を起こした上条のために契約しようと気が立ってる青の逆鱗にふれる可能性も否めない。

そうなったら今後の関係にヒビが入りそうだし長い間一緒に過ごした俺としてもそれは避けたい。

まどかはその慈悲深き心で気にもしないだろうが意外と繊細なさやかはめっちゃ気にしてまどかを避けるのが目に浮かぶ。

 

何より止めようとするまどかは魔法少女じゃない。

そんな娘が契約するデメリットを伝えてもさやかに響かない可能性が高いだろう。

 

 

 

ならば魔法少女であるマミちゃんとほむらはどうか?

 

この二人は現役だし生々しい魔法少女の実像の数々を教える事が出来るだろう。

 

 

 

ただ・・問題なのはこの二人がとんでもない曲者だという事だ。

 

 

 

 

前から崩れかかってた絹豆腐メンタルが現在進行形で絶賛崩壊中のマミちゃんに説得を頼むか

 

 

交渉事の成功率が毛根死滅した人に毛が生える奇跡と同じ勝率しかないほむらに説得を頼むか

 

 

 

Q:貴方はどっちを選んだら説得成功すると思いますか?

A(俺の答え):どっちも無理です。

 

まどかと比べるまでもない。

どちらも限りなく成功率は低いだろう。

 

 

 

だったら魔法少女二人とも連れて行くという選択肢もあるじゃないかと言うかもしれない。

しかし俺は昨夜から二人の仲の悪さは嫌という程思い知らされているので二人を連れていったらどう考えても更に悪くなる未来にしかたどり着かないだろう。

 

特にほむらはさやかに敵認定されてる。

顔を合わせたら色々ヒートアップするのはほぼ確定してるから洒落にならん。

 

 

なら一緒にまどかも連れていけばいいじゃない?と思うだろう?

ところがこれはこれで上手くいかない。

 

 

実はさっきマミホームでいがみ合ってたマミちゃんとほむらをまどかと一緒に宥めてたが一向に収まらなかった。しかも俺が宥めると奴らは更にキレる始末。放置しようにも放っておいたらまた殺し合いでもはじめそうな雰囲気だからスルーも出来ない。

 

時間がないのにどうしようかと頭を抱えたがまどかが「わたしに任せて!」と珍しく頼もしい事を言ってくれた。

それに甘える形でまどかに奴らを任せて(押し付けて)何とか脱出出来たところなのだ。

 

もし三人を無理に連れて来ても紫と黄色は喧嘩をおっぱじめ、ストッパーになってくれるだろうまどかは二人のイザコザに巻き込まれて説得の暇もないだろう。そしてその間にさやかは契約してる未来しか見えない。

 

 

なんだこの詰んだ未来は?

俺には(まどかを除いて)足の引っ張り合いしかしない奴しかいないのか?

 

あ、だめだ、これ以上考えたら泣きそう。

 

 

ちなみに三人が来ないもう一つの理由を挙げるとすれば、現在二人は魔女退治してるからというのもある。

 

俺がマミちゃんのマンションから出ると近くに魔女の気配が複数あったらしい(シロべえ談)。

シロべえの口添えもあってマミちゃんとほむらはそれらの退治に駆り出されている。

まどかは二人の見張りと安全のためにお留守番という側面もあるのだ。

 

 

 

だから(本当はめちゃくちゃ嫌だけど)俺が行くしかないんだ!

 

 

あのメンバーの中では最も適任だと思う!

 

なぜならさやかと俺の仲は(ほむらが転校してくるまでは)良好といっても過言ではないからだ!

 

俺はさやかにとって上条この野郎に関する恋の相談相手でもある。

さやかからの相談の大半は惚気と愚痴ばかりだが伊達に一年の時から相談(ノロケモドキ)に乗ってるから一応信頼はされてるはず!

 

それにあいつは魔法少女体験コースに俺を無理やり巻き込んだ事を負い目に感じているようだったし、俺の姿を見れば現在熱々になっているであろう頭を多少冷やしてくれるかもしれない!

 

頭が冷えればいくらあの猪でも多少聞く耳があるなら何とかなるはずだ!

 

そう信じたい!よし希望が見えてきた!

 

 

 

微かに胸に躍る希望が俺に活力を与え本来なら既に足が棒のようになっているのに今はどんどん加速している気がする。うん、気のせいだった。ランドセル背負ったぽっちゃり小学生に今追い抜かれたわ。

 

 

さり気なく凹みつつも思考を切り替え、走りながらさやかをどうするか考える。

 

 

 

・・・たらればで言えばもしここに杏子がいれば展開は全く違ったかもしれない。

 

 

 

二人が先に出会っていて仲が良好なら、さやかが一時の気の迷いで契約しそうになっても杏子が全力で阻止してくれただろう。似た者同士だから絶大な説得力があるに違いない。

 

 

ついでに杏子も弱点ともいえる自身の過去にきちんと向き合えて吹っ切る事が出来るはずだから一石二鳥!

 

 

あー・・そう考えればやっぱり二人を先に会わせておいた方が良かったかも・・。

 

 

 

今更ながらに胸に後悔が過る。

 

 

こんな事を考えても仕方がない。

気持ちを切り替えて契約阻止に尽力するしかない!

 

 

その後の事はまたその時に考えればいい!

 

 

よし決めた!

 

 

さやかの契約を阻止出来たら杏子に紹介しよう!

 

 

 

すぐに意気投合するだろうし、あわよくばリアル百合を見れるかもしれない!

 

 

そうなったらトモっちに自慢しまくらなければ!

 

 

いやー、今から期待が膨らむね!

 

 

 

 

 

 

「ニヤニヤして気持ち悪いよ。何考えてんの?」

 

 

 

 

走る俺の足元近くに相変わらず毒を吐く白い物体が一つ。

ちょうど良い位置にいるので憂さ晴らしも兼ねて蹴っ飛ばしてやるのもありかもしれない。

 

 

ニヤニヤではない!ニコニコと言え!

 

 

普段ならカチンとくるが今の俺は気分が良い。

 

 

なんていったって素晴らしい作戦を思いついたからな!

いつも通りの毒舌宇宙人の挑発に乗ってやるものか!

 

 

「何とでも言え!こんな状況だからこそ明るい未来を想像してるのさ!」

 

 

シロべえの無機質な(=冷ややかな)目がハイテンションな俺を映す。

そこには過分に蔑みの念が含まれてる気がしないでもないが気にしないようにしよう。

 

 

だって今の俺はそんなもので怖気づくほどビビりではないからな!

 

 

 

「はいはい。で?一体どんな明るい未来を想像してたのさ?どうせ下らないんだろうなー・・」

 

 

「やかましい!・・ゴホン。・・なあ、シロべえ」

 

 

危ない危ない。危うく奴のペースに嵌る所だった。

何とか咳払いして仕切り直したらシロべえから「何?」と返ってきた。

下らないと言いつつも一応話だけは聞くらしい。

 

そこはインキュベータ―と言ったところか。

精神疾患の状態でも使えそうなものがないか常にアンテナを張っているようだ。恐るべし。

 

ならば俺も全力それに答えなくては!

 

 

「思ったんだけどいっその事さやかを杏子の友、いや嫁にしちゃうのはどうだろうか!?」

 

 

思った以上に興奮していたのか俺はズイッと足元を走るシロべえに顔を近づけて早口でまくし立てる。

 

 

 

『さやかを杏子の嫁にしちゃおう作戦』

 

 

 

咄嗟に思いついた事だが我ながらナイスアイデアではないだろうか!?

 

 

リアル杏さや

 

ファンにはたまらない展開だ!

 

 

この作戦さえ成功すれば、さやかと杏子の確執が解決しめでたくゴールインを迎える。

その様を俺がニヤニヤしながら観察する。

 

 

これぞ誰も傷つかないまさに平和なハッピーエンドではないか!

 

 

 

これが昨夜は黄色と紫のせいで寝不足気味な頭が導きだした俺の答えだ!

 

 

 

若干ドヤ顔しつつ自信満々に走りながら杏さやの尊さをシロべえに語る俺。

 

しかしその肝心のシロべえはというと、絶対的自信のある俺の杏さや計画に懐疑的らしくさっきからずっと首を捻っている。

 

おかしい。どうしてシロべえは納得しない?

 

これは犠牲者もなく円満解決できる作戦のはずなのに!

 

 

・・俺の説明のどこかに綻びがあったのだろうか?

 

 

 

 

「それで?絶対上手くいかないだろうけど具体的にどうするのさ?」

 

 

 

ひとしきり俺からの説明が終わった後、シロべえは半ば投げやりっぽい言い方でそう質問してきた。

 

 

どうやら奴はこの作戦失敗すると踏んでいるらしい。何故だ?

 

 

しかしここで諦めてはいけない!

困難な状況ほど人は燃え上がるというものだ!

 

特にご褒美があるなら尚更だ!

全国の杏さやファンがこの展開を待っているんだ!

 

 

 

「えっと、そうだなー。まずは杏子とさやかを引き合わせようと思うんだ。お互い初対面な訳だし俺が仲介人として仲良くね?とそういう雰囲気を出せばきっと上手くいくさ!元々気の合う二人だし」

 

 

俺は頭を捻ってまだ全容を考えていない杏さやプランを口にする。

 

この作戦はさやかと杏子を会わせない事には始まらない。

出会うシチュエーションも考えておいた方がいいかもしれない。

 

 

しかしシロべえから「待った」がかかった。

 

 

「そもそも会う気がないって言ったらどうするのさ?」

 

 

「え?なら興味を持ってもらえるように俺が相手の長所を褒めまくるとかどうだ?例えば杏子の場合、本人の前でさやかの事をとっても明るく可愛いんだよーとか、俺が男なら嫁になって欲しい女の子だよーって言ってみるのもいいかも」

 

「うん、それ絶対やめた方がいいよ。佐倉杏子にそんな事言った次の日あたりに河原で美樹さやかの惨殺死体が発見されそうだから」

 

「え!?」

 

 

平和的解決策のはずなのにシロべえはとんでもなく物騒な事を吐いてきて思わず仰天しながら足元にいる白い奴を見る。

 

 

杏子の前でさやかを褒めると何でそんなおっかない展開になるんだ!?

ただ単に俺のバカバカしい計画に反対なだけなんじゃねえのこいつ!?

 

 

「不満そうな顔してるけどこれは僕が真面目に考えて導き出した確実に起こりうる最悪な未来の結末さ。というかちょっと考えれば誰でも分かることだから」

 

 

不満たらたらな俺の表情は背中からでも分かったらしくうんざりした声でそう告げられてしまった。

 

簡単に言いやがって!

まどマギファン達がどれだけ二次創作で杏さやIF展開を作ってきたと思ってんだこいつは!

つうかシロべえは忠告してんのかダメ出ししてんのかどっちなんだよ!?

 

 

「はあ!?何でそんな事になんの!?出会い方が違えばあの二人は絶対仲良くなれるはずだ!アニメ観てた俺が言うんだから絶対そうに違いない!」

 

 

絶対そうだ!そうに決まってる!

さやかと杏子はこの時間軸でも仲良くなれるはず!・・きっと

 

 

 

 

 

「優依」

 

 

 

 

その時だった。不意に名前を呼ばれたのは。

 

 

 

 

不貞腐れながら「何?」と下を見るとシロべえが立ち止って俺を見上げている。表情は無表情なのに雰囲気はとても真剣に思えた。

 

 

 

 

「ちゃんと向き合わないとだめだよ」

 

 

 

 

シロべえは静かにそう言った。

そんなに大きな声で言ったわけじゃないのにやけにはっきり聞こえた気がする。

 

 

 

どれくらい時間が経ったのか分からない。

長いような短い時間お互いの顔を見ていた気がする。

 

 

 

 

「・・まあ、向き合ったら向き合ったで優依はただ絶望するだけだしなー。ホント詰みゲー」

 

 

 

急にいつもの雰囲気に戻ってシレっと気になる事を呟いていた。

 

 

 

 

「え?シロべえそれって? おい!急に走るな!置いてかないでよ!」

 

 

 

どういう意味か問いただす前にシロべえはすぐに前を走り出したので慌てて後を追う。

何度もさっきの意味を聞いてみるもシロべえは「自分で気づかなきゃだめだよ」と返すばかりで何も答えてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇぜぇ・・つ、着いた」

 

 

 

病院に到着する頃には虫の息だった。

走りながら喋っていたから当然の結果だ。

 

 

たまたま用がある人物が病院にいるから会いに来ただけなのに一歩間違えればこの場所の本来の用途通り俺は病院に担ぎ込まれそうな状態だ。

さっきなんて人の顔色を見た通りすがりの医師が俺を担架で運ぼうとしていたからな。かなり具合悪そうに見えてるらしい。

 

 

 

≪ほら、さっさと行くよポンコツ。休んでる暇ないから≫

 

≪分かってるよ!≫

 

 

今尚ゼエゼエいってる俺に対してシロべえは全く息が切れていない。

 

そりゃそうだろう!

途中で疲れたとかぬかしてどこからか取り出した風船みたいなものに乗り込んで俺にしがみ付いてたからな!

 

 

浮いてるからか重さは全く感じなくて疲れはしなかったけど精神的な苛立ちと殺意で凄く疲れを感じた。こんな事なら風船を割るか遠くに放り投げるかすれば良かった!

 

 

今は怒る時間もないため、あまり体力が戻っていないまま気力を振り絞りヴァイオリン馬鹿のいる病室まで走・・れないので小走りで目指す。

 

 

奴の病室はさやかの付き添いで何度かお見舞いには来ているため場所は知ってる。

エレベーターに乗り込み上条アンチクショウが入院してる階までついて部屋プレートに書かれている名前を目で追う。

 

 

えーと、あった!

 

「上条」と書いてある。ここだ。

 

 

 

扉を開けようと取っ手に触れる瞬間、勢いよく扉がガラッと音を立てて自動で開く。

 

 

 

「わ!」

 

 

「優依!?」

 

 

目の前にいるのは目的の人物さやか。

取っ手を持っていることからどうやら彼女が扉を開けたらしい。

 

 

「・・・っ」

 

 

咄嗟の事でお互いどういう反応をすればいいか分からず少しの間、固まっているとさやかの方から先に気まずそうに「ごめん」と目を逸らされ逃げるように廊下を走っていく。

 

 

 

「あ、さやか待って!廊下は走っちゃだめだよ!」

 

 

 

咄嗟に出たセリフがこれって情けない。もっと他になかったのだろうか?

 

 

一瞬こんなセリフでも止まってくれないかな?と思ったがそんな事は一切なかった。

さやかは「廊下は走っちゃダメでしょ!」と怒鳴る看護師さんの声を無視してひたすら駆けて行く。

 

 

急いでる感じといい、さっきの態度といい、間違いない!

 

 

 

 

さやかは今から契約する気だ!!

 

 

 

 

急いで追いかけて契約を思いとどまるように説得しなきゃ!!

 

 

 

「神原さん・・何しにきたの?」

 

 

 

ダッシュを決める直前、病室の中から色ボケ野郎が不機嫌さを隠さない声で話しかけてる気がする。

スタートダッシュを邪魔された上にこの事態を招いた奴の声を聞いた俺の怒りのボルテージは上がっていく。

 

 

 

 

「うるさい!爆発しろリア充がぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

「え!?」

 

 

 

 

 

リア充野郎に渾身の捨て台詞を吐いて反応を確認しないまま、さやかを追うため俺は足に力を込めてダッシュを決める。

 

 

だがそれは失敗に終わった。

 

さっきさやかに注意してた看護師さん(オバちゃん)に首根っこを掴まれ説教を受ける羽目になった俺は大幅な時間ロスをくらうという痛恨のミス。

 

 

 

世の中理不尽だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかside

 

 

 

 

 

「もう聴きたくないんだよ!自分で弾けもしない曲なんて!」

 

 

ガシャンとガラスが割れる音が夕暮れの病室に響く。

恭介の手はCDプレイヤーを叩き壊した際の傷で血が流れている。

 

あたしは呆気にとられてしばらくは声を掛けることも動く事も出来なかった。

 

 

 

放課後、異様なメールを送った優依が心配になったあたしは病院でカウンセリングの先生に相談して今度その友達を連れてきて言われてそこで別れた。

 

その後、ついでと言っちゃなんだけど恭介の探してはCDが見つかったしお見舞いに行ったんだけど、どこか様子がおかしかった。あたしに向かって「いじめてるの?」って聞いてきたから。

 

そしたら突然、叫んでCDプレイヤーを叩き壊した。

 

 

一体恭介に何が起きたのか分からないあたしはただ茫然とするしかなかった。

 

 

 

 

 

「こんな腕・・!」

 

 

「や、やめて!」

 

 

 

恭介が再び腕を振り下ろそうとするからようやく我に返り急いで身を乗り出して腕にしがみつく。無理にでも止めないと今の恭介ならずっと手を傷つける事をやめないかもしれない。それくらい荒れてるように感じる。

 

 

「大丈夫だよ!きっと治るよ!諦めなければきっといつか・・!」

 

 

腕に必死にしがみつきながら何とか励ましてみるも効果があると思えない。

けどそれでもないもしないよりはマシよ!

 

 

 

「・・・んだ」

 

 

腕を抑えるのに必死なのと恭介の声が小さかったから何を言ってるのか理解できなかった。

だけど酷く沈んだ恭介の声はやけにあたしの耳に響いた。

 

 

 

「諦めろって言われたんだ」

 

 

 

恭介が涙声で今度はそうはっきり言った。

 

 

 

「え・・・?」

 

 

 

諦めろって・・何を?

 

 

 

あたしが何も答えられないでいると涙ながらに恭介は語った。

 

今の医学では恭介の腕は治らない事。

ヴァイオリンは諦めろと医者に言われた事。

今も手から血が流れてるのにその痛みすら感じないらしい。

 

 

「そんな・・」

 

 

残酷な現実にあたしは恭介の腕にしがみついたままで口を開くことが出来なかった。

 

 

 

「奇跡か魔法でもない限り・・」

 

 

”この腕は治らないんだ・・!”

 

 

 

苦しそうに呟く恭介の声が病室に響く。

 

 

 

これ以上苦しむ恭介の声を聞きたくない・・!

 

 

 

 

「あるよ!」

 

 

 

気が付いたらあたしはそう叫んでた。

 

 

 

「奇跡も魔法もあるんだよ!」

 

 

恭介をじっと見つめながらそう口にしたのに声の響きはまるで自分に言い聞かてるみたいに思う。

 

 

 

そっと視線を窓に移す。

 

 

風でなびくカーテンの先に映る影をとらえた。

そこにはいつからいたのかキュゥべえがいて、赤く光る目があたしを見ている。

 

窓の外にいるキュゥべえはテレパシーであたしに話しかけてきた。

 

 

≪願い事を決めたみたいだね?≫

 

≪うん、決めたよ!あたし魔法少女になる!≫

 

≪分かった。ここは人目につくから屋上で契約しよう。待ってるからね≫

 

 

 

それだけ告げてキュゥべえは瞬きする間に消えていた。

 

 

 

「さやか・・?外に何かあるの?」

 

「え?ううん、何でもないよ!」

 

 

 

窓をじっと見ていたあたしを恭介は不思議そうに見上げているから苦笑いをして曖昧に誤魔化す。

 

 

「あたし用事を思い出しから今日は帰るね!またお見舞いに来るよ!」

 

 

早口でまくしたてて急いで病室の扉を開ける。

 

 

 

急いで屋上にいって契約しなくちゃ!

 

 

 

でもそれはすぐに出鼻をくじかれる。

 

 

 

 

 

「優依!?・・・っ」

 

 

 

 

 

勢いのまま扉を開けた先に優依が立っていて一瞬動けなかったから。

優依の方も驚いてたみたいで大きく目を見開いている。

 

そのままお互いどういう反応をすればいいのか分からず立ち尽くす。

 

 

あたしはじっと優依を見ながら昨日の出来事が鮮明に思い出していた。

 

マミさんが魔女に頭を齧られてる光景

地面に叩き付けられる瞬間に見えた頭部がない身体

魔女から聞こえる生々しい咀嚼の音

 

 

あれは偽物でマミさん本人は無事だったけどあたしが恐怖を覚えるには十分で今思い出しても身体が震えてきそう。

 

 

 

”この腕は治らないんだ・・!”

 

 

頭の中で苦しげに叫ぶ恭介の声が響く。

 

 

 

 

死にそうな目に遭うから何だっていうの?命を懸けてまで叶えたい願いが見つかったんだ!

 

 

 

あたしが契約して恭介の腕を治す!

 

 

 

マミさんはきちんと考えてから願いごとを決めないとダメって言ってけど、あたしはこの願いに後悔はない!

 

 

 

でもそれは絶対優依に知られちゃいけない。

 

優依は最初から魔法少女に懐疑的だった。

 

今からあたしが契約するなんて言ったら絶対反対するに決まってる。

それに優依の顔見てたら決意が揺らいじゃうかもしれない。

 

だから直接顔を見ないように視線を逸らしてあたしは廊下を走る。

背後から「さやか!」とあたしを呼ぶ優依の声が響いて立ち止まりそうになったけど構わず走った。

 

 

次第に優依の声は遠ざかっていく事に何故か寂しさを覚えたけど何でだろう?

 

 

 

 

 

「何でエレベーター動かないの!?」

 

 

 

 

優依を振り切ったのはいいけど屋上に行くためのエレベーターが一向にくる気配がない。

動いていないのか何度もボタンを押してもだめ。

 

まさかよりにもよってこんな時に故障!?

恭介がまたヤケを起こさない内に契約しなきゃいけない!

こんな所で無駄な時間を過ごしてる暇なんてないのに!

 

「ああもう!」

 

 

痺れを切らしたあたしはエレベーターを後にして階段に向かった。

恭介の病室がある階から屋上まではそこまで距離は離れていないけど階段でとなると少し負担が大きい。

 

 

「はあ、はあ」

 

 

息を切らしながらも優依が追ってくるかもしれないから休んでなんていられない。

 

それに早く恭介の腕治したい!

 

 

踊り場に到着し残す階段で最後。

 

 

あと少し、あと少しで屋上まで辿り着く!

そしたらキュゥべえと契約して恭介の腕を治してもらおう!

 

 

一気に階段を駆け上がる。

 

 

はやる気持ちを押さえつつ屋上の出入り口を見た。

 

 

「っ!」

 

 

息が止まりそうになる。

それにつられて足も止まってしまい屋上に到達する寸前であたしは立ち往生している。

 

 

 

え?どうして?何でこんな所に?

 

 

 

頭が混乱してどうしようか迷っているのに向こうはそんなあたしを見てにっこり微笑んでる。

どういう表情をすればいいのか分からない。ただ戸惑うだけ。

 

 

 

「さやか」

 

 

 

「優依・・」

 

 

 

 

さっき恭介の病室前で偶然鉢合わせした優依が屋上を背景に階段に座ってあたしを見下ろしてる。




さやかちゃん編始まりました!
優依ちゃんは契約を阻止できるのか!?


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64話 Mission「美樹さやかの契約を阻止せよ!」②

いきなり波乱なさやかちゃん編!
優依ちゃんは彼女を説得できるか!?



Twitterフォローしてくれた皆様ありがとうございます!
この場を借りてお礼を申し上げます!


さやかside

 

 

階段に座る優依はじっとあたしを見下ろしている。

 

ただ座ってるだけだっていうのにやたら顔が整ってるせいか見下ろす様は心なしか迫力がある。

出入り口から漏れる夕日に背中を照らされた優依は何だかとっても幻想的だ。

 

 

「そんなに急いでどこに行くんださやか?」

 

 

静かにそう告げた優依は優しく微笑んでる。

夕日の効果もあって笑顔が儚く見える。

 

その様子が絵になってるからあたしとした事が少し間見惚れちゃってて「さやか?」って呼ばれてようやく我に返るほど。ホント美人は役得で羨ましいよ。

 

 

「優依こそ何でここにいんのよ?」

 

 

屋上に急いでるあたしはとても苛立っていてついつい語尾が強くなる。

しかも優依は何だかのんびりした雰囲気だから余計に苛立ちが募っていくし悪循環。

 

どうしてよりにもよってこんな時に優依がいるの!?

まさかあたしを邪魔しにきたの!?

 

 

「俺がここにいる理由か?さやかに会いたくなってここに来たんだ」

 

「・・はあ!?」

 

 

まさかの爆弾発言。

 

内心どころか表面にまで驚きを隠せなくて頭がパニックなりそう。イライラした気持ちなんてどこかに吹き飛んでしまっていた。

 

からかってるのかと一瞬思ったけど優依の表情からはそんな様子は感じないし、まさか本気で・・?

 

 

「~~~///」

 

 

今絶対顔が赤い!でも幸いな事に今は夕暮れだからそれを指摘されても誤魔化せるはず!

 

て、そうじゃない!ここで焦ってちゃ優依の思い通りになる!

ここは何とか平静を装わないと!

 

 

「へ、へえ、そうなんだ。あ、ところでさ、あんた自分の事「俺」って言ってんの?初めて聞いたんだけど」

 

 

噛みそうになりながらもなんとか平静を装えたと思う。

 

 

勘違いさせそうな事言った仕返しついでにさっき気になった普段とは違う優依の口調にも突っ込んでおこう。

さっきあたしをからかった罰。思い知らせてやるんだから!

 

場違いだけど悪戯心で様子を見るも慌てると思ったあたしの予想とは裏腹に優依は特に反応しない。

首を傾げていると向こうは淡々とした様子で口を開いた。

 

 

「あぁ、これが俺の素の口調だよ。もう隠す必要もないと思ってね」

 

「! ふーん・・じゃあ今までの態度って全部演技って事?つまりあたしは素を出すほどあんたに信用されてなかったんだ」

 

 

普段より低い声が出てあたし自身が驚いてる。

どうやら自分が思うよりも傷ついてるみたいで胸がズキリと痛い。

 

 

だってしょうがないでしょ?

 

 

仲良いと思ってた友達は実は仮面の表情しか見せてなくて今まで一緒に過ごした時間は何だったの?って叫びたくなる。

 

 

優依は・・マミさんには素を見せてたのかな?それか転校生・・?

 

 

何故か涙がこみ上げてくるあたしとは対照的に優依はどこまでも冷静で少しため息を吐いている。その面倒くさそうな態度にカチンと来るも涙を堪えるのに必死で何も言えない。

 

 

「さやか、それは随分勝手な思い込みだ」

 

「え・・?」

 

 

思わず顔を上げると優依は困ったような笑顔であたしを見下ろしてた。

 

 

「こうは思えないの?今まで一緒に過ごして信用できると思ったからこうやって素の口調で話してるんだって」

 

 

苦笑いしながらそう説明する優依。

その穏やかな表情に内心ほっとする。

 

 

良かった

 

 

あたしの事ちゃんと友達だって思ってくれてるんだ

 

 

 

 

「・・・あっそ」

 

 

でも内心とは別に出てきたのはこんな素っ気ない言葉。

こんな事しか言えない自分に嫌気がさすけど素の感情を出すのは苦手だからいつもこうやって誤魔化してしまう。

 

 

優依の事責める資格なんてあたしにはないのに・・。

 

 

 

 

あたしのバカ!何で素直になれないの!?

 

 

 

て、違う!今はそんな事言ってる場合じゃない!

 

 

あたしは早く屋上に向かわないといけないのに!

 

 

 

ふいに当初の目的を思い出して止まっていた足を動かしていく。

 

 

「優依そこどいてよ。あたし屋上に用があんの。話なら後で聞くから今はやめて」

 

 

無理やり押し通るために優依の横を駆け抜けようとするけど途中で足が止まる。腕が何かに引っ張られてる?

驚きながら引っ張られてる腕を見ると手があたしの腕を掴んでる。その先には優依がいる。

 

 

「ちょっと離してよ!」

 

「そんなに急いでまで屋上に何の用?夕日でも見に行くの?」

 

「そんな訳ないでしょ!いいからどいてよ!大事な用事があるんだから!」

 

 

ここで時間を過ごしてたらあっという間に優依のペースに巻き込まれる。

 

そうなる前にこの手を振りほどかなくちゃ!

 

 

 

 

「ふーん、それひょっとして上条の腕を治すために今からキュゥべえと契約するとか?」

 

 

「!」

 

 

 

図星を刺されピタッと身体の動きが止まった。

 

 

「何でその事・・?」

 

「あ、やっぱりそうなんだ。さやか分かりやすいからな」

 

「だったら何よ!?悪い!?叶えたい願いが出来たんだから別にいいじゃない!」

 

 

あたしの考えが読まれている事とからかうような優依の態度に逆上してしまってつい大声で怒鳴る。思ったよりも大きな声をだしてしまったから周囲にあたしの声が遠くまで響いた。

 

 

あたしが頭に血がのぼる毎に優依の視線が段々冷たくなっていくみたい。

向けられた目は今まで見た中で最も冷たい感じがしてまるで氷みたいに冷え切ってる。

 

 

「あのさ、勘違いしてない?これは上条の問題であってさやかがどうにかしようとする問題じゃないよ」

 

 

これ見よがしにため息を吐いた優依はまるで小さい子供に言い聞かせるような丁寧な口調であたしにそう告げる。

 

 

 

分かってる。そんな事。

 

分かってるわよ!!

 

 

反抗的なあたしの視線に気づいたのかもしれない。

優依は階段から立ち上がってあたしをまっすぐ見てる。

その視線は鋭くて思わず怯みそうになるくらい迫力があった。

 

美人は睨むと迫力あるって本当なんだ。

 

 

怯えを顔に出さないように努めながら頭の中ではぼんやりそんな事を思った。

 

 

 

「さやか、これは上条が自分で乗り越えなきゃだめだ。誰かが出しゃばる事じゃない。今ここで腐るようならあいつは負け犬人生決定だよ」

 

 

「っ!」

 

 

あまりの言いように絶句して言葉を失ってしまう。

 

 

優依の言い方はあまりにも冷たくて目の前にいるのは本当に優依本人なのかと疑いたくなるほど冷酷な言葉で何の感情も抜け落ちた能面のような表情。

 

 

理解が追いつかない。

目の前にいるのは本当に優依?分からない。

 

 

でも言ってる事は何となく分かる。

 

 

 

優依が言いたい事ってつまり、

 

 

 

 

「・・このまま苦しむ恭介を黙って見てろって言うの!?」

 

 

 

 

あたしと優依を除いたら周りには誰もいない人気のない階段。

その場所であたしの怒鳴り声がさっきよりも全体に響いている。

 

大声を出したから息が切れたけど今ある感情は怒りのみ。

優依に対して向けた怒りは全身に回り身体が震えてる。

 

 

頭に血が上って今にも優依に掴みかかりそうになるのを堪えるのに必死で手に力が籠る。

 

 

 

恭介を助ける邪魔するなら許せない!

たとえそれが優依でも!

 

 

 

 

「あー・・何か勘違いしてるみたいだけど違う、違う。そうじゃなくてもっと発想を柔軟にしろって言ってんの」

 

 

「は?どういう事?」

 

 

怒りが爆発する直前、気の抜けた優依の声に一瞬ポカンとする。

顔の前でヒラヒラと手を振る様は何となくマヌケな印象だ。

 

気まずそうに頬をかく優依は言葉を選んでるのか「あー・・」と言葉にならない声を出していたがやがて口を開いた。

 

 

「えっと・・さやかはさ、キュゥべえと契約したらどうなるかホントに分かってんの?最悪昨日みたいな事になるんだよ?」

 

「・・・っ」

 

 

優依の言う「昨日」の事なんて一つしかない。

 

マミさんが魔女に食べられてる光景が鮮明に思い浮かぶ。

あの時の恐怖が蘇ってきて身震いしそうになる。

 

だけど無理やり恐怖を押さえつけてキッと優依を睨みつけた。

 

 

「そんなの覚悟の上よ!あたしは・・!」

 

 

言い終わる前に優依が「どーどー」と変な言葉を述べて遮ってきた。

 

 

「別にさやかが契約しなくても良くない?」

 

「え?何言って・・?」

 

 

遮るように先に優依がケロッとした表情でそう言うから混乱してきた。

あたしが契約してなくもいい?訳が分からない。

恭介の腕は魔法でもない限り治らないって言われてるのに!

 

 

「一体何が言いたい訳?あたしが契約しないで誰が恭介の腕を治せるのよ!?」

 

「だったら先にマミちゃんに頼んで魔法で上条の腕治してもらえば良いじゃん」

 

「!」

 

 

え?

 

目をパチクリさせて優依をまじまじと見るとあいつは悪戯を思いついたような笑顔でにこりと返した。

 

 

「ほら、初めてキュゥべえに会った日ボロボロだったアイツをマミちゃんが治したじゃん?その要領でいけば上条の腕も治せるんじゃない?」

 

「そ、それはそうだけど・・何だかそれじゃマミさんに悪いし・・」

 

 

ごにょごにょと言い訳するように口ごもって目線を下に向ける。

 

いくらの人の良いマミさんでもそんな個人的な頼みをするわけにはいかないし・・。

 

 

言い訳ばかり頭を掠めて何の反応もしないでいたからか乗り気じゃないのは分かったみたいで優依は更に畳み掛けてくる。

 

 

「そこは気にしなくても良いと思うぞ?さやかは忘れたのか?マミちゃんは正義の味方だぞ。困ってる人を見捨てないのはさやかだって知ってるじゃん」

 

 

ハッとして再び優依の顔を見る。

 

 

そうだマミさんは正義の味方。あたしが憧れる魔法少女なんだ。

それに魔法少女の魔法なら恭介の腕を治せるかもしれない。

分かってはいるんだけど・・。

 

 

「それに俺には『シロえもん』という超優秀な発明家もいるんだからなんとかなるって!大丈夫さ!ねえ『さや夫』君!」

 

あたしの暗い気持ちとは対照的に優依は底抜けに明るい声でそう捲し立ててくる。肩に手をおいて少し馴れ馴れしい態度にさっきの神秘的な雰囲気とは180度違うから混乱しそう。

 

 

「は?さや夫って誰?あたしの事?そもそもシロえもんって何?」

 

 

何故か口に出たのがさや夫君の件だったけど優依は恍けたような表情をしつつ何も答えてくれない。

というかシロえもんって結局何なの?

 

 

それにどこからか「やあ、初めまして。僕、シロえもん(ダミ声)」と変な声が聞こえた気がするけど幻覚?

 

 

「・・ただ、シロえもんに関して言えば妙なこだわりさえなければなぁ・・」

 

「優依?」

 

 

何故か疲れたような目をあたしの足元に向けて呟く優依は不思議と哀愁が漂わせていてその理由は分からず首を傾げる。

夕暮れ時に感じる寂しさもあいまって優依の姿が一層儚い幻想に見える。

 

 

「・・それはともかくマミちゃんに言われなかったか?」

 

「何を?」

 

「自分の願いを履き違えたままじゃ後悔するって。今契約しても後悔するだけだぞ」

 

「そんな事、分かって・・」

 

「はい深呼吸して、一旦冷静になろう」

 

 

優依が至近距離まで顔を近づけて覗き込んでくる。

真剣な目であたしをじっと見つめてきて驚いたからか心臓がバクバクうるさい。何だか顔に熱があるみたいでさっきから熱いけどそれはきっと夕日の熱のせいだ。

 

 

「結論を言えば上条の腕を治すのは別の方法があるから契約を急ぐ必要はないって事だよ。分かった?」

 

「でも・・」

 

「もしマミちゃんの魔法でもシロえもんの技術でも治らないその時は契約すればいいさ。今は取りあえずやれるだけの事はやろう。契約は最終手段って事にしとこうよ」

 

「・・・・」

 

 

優依に言われたことを頭の中で振り返る。

 

 

シロえもんが何なのか知らないけどおそらくマミさんならきっと恭介の腕治すことだってきっと出来るはず。たった一つの奇跡。これから先何があるか分からないから願いを叶えられる機会はとっておきたい。

 

 

・・・うん、決めた。

 

 

優依たちを信じてみよう!

それにここまで来てくれた優依の頑張りを無駄にしたくないし。

 

 

どうしても無理ならあたしが契約すればいいだけだし!

 

 

 

 

「そうだね。契約はまた今度にするよ」

 

「よっしゃ!」

 

「? 優依?」

 

 

何故か夕日に向かってガッツポーズで喜ぶ優依に首を傾げると慌てたように取り繕いながらあたしに向き直った。

 

 

「あ、いや何でもない!えっと、じゃあ今から一緒にマミちゃんに頼みにいこうか」

 

「うん!」

 

 

優しい微笑みを浮かべながら優依はあたしに手を差し伸べてくるからあたしも笑顔を浮かべてその手を掴むため腕を伸ばす。

 

 

大丈夫。きっと何とかなるよ。

 

 

 

 

 

≪本当にそう思うかい?≫

 

 

 

 

!?

 

 

 

優依の手を掴む直前、頭の中に声が響いて思わず手が止まった。

 

 

この声まさか・・!

 

屋上で待っているキュゥべえがあたしに話しかけてるんだ!

 

 

 

「? どうしたさやか?」

 

 

不思議そうにあたしを見下ろす優依はどうやら聞こえてないみたい。どう説明しようか迷っている間にキュゥべえの声が再び聞こえてくる。

 

 

 

≪さやか、今ここで契約しないで君は後悔しないと言い切れるのかい?≫

 

≪分かんない!で、でもちゃんと冷静になって願い事を決めなきゃ!これから先、魔女と戦う運命ならなおさら・・!≫

 

 

そう、別に契約をしないわけじゃない。

他に選択肢もあるんだから契約に固執する必要はないんだ。

 

 

 

≪つまり君は逃げたんだね≫

 

 

 

淡々とした口調ではっきりそう言われて息が止まる。

そんなんじゃないと告げても心の中ではあたしは逃げたと納得してしまってる自分がいるのを否定できない。

 

 

 

≪実際はそうだよ。ついさっきまでは契約する気だったのに急に気が変わっちゃうんだもん。都合の良い言い訳を見つけたから逃げちゃったんだよね。所詮君の覚悟なんてその程度って事だ≫

 

≪違う!あたしはちゃんと覚悟できてるよ!でも他に恭介の腕を治す方法があるならそこからでも遅くはないでしょ!?≫

 

 

 

 

≪それまで上条恭介の心の均衡が崩れなければね≫

 

 

 

≪え・・・?≫

 

 

 

≪君がこんな事してる間に彼はもしかすると人生に絶望して自らその生を終わらせるかもしれないよ?≫

 

≪え?それって・・まさか!?≫

 

 

脳裏に浮かぶのはさっきの恭介の自暴自棄に陥った姿。

 

あの様子だと勢いで自殺してしまいそう・・・!

自分の人生に絶望してそのまま身投げなんてまさか・・?

 

 

≪君に契約する気がないのは分かった。だったら僕は他に契約が必要な娘の元へ行くだけさ。もう君の前に姿を見せる事もないかもね≫

 

 

キュゥべえが行ってしまう?

このままだと恭介が・・・!

 

 

≪そんな・・待って!すぐ行くから!≫

 

 

 

気づいたらあたしはそう叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

「さやか?」

 

「ごめん優依!あたしやっぱり契約する!」

 

「え?ちょっと待って・・!」

 

 

一気に足を踏み出して階段を駆け上る。

足元から「きゅぴい!」という声がして踏んだ感触が階段にしては柔らかかった気がするけど気にしていられない。

優依が驚いて固まっていたけどすぐに我に返って手を伸ばしてくる。

 

 

でもその手を今度は紙一重でかわしてそのまま屋上まで目指す。

 

 

後ろから「さやか!」ってあたしを呼ぶ優依の声が響いてその声に思わず立ち止まって後ろを振り返って出入り口を見る。

 

優依に悪い事したと思ってる。

わざわざ駆けつけてくれてあたしが危ない目に遭わないように説得してくれて、恭介の腕の治療をマミさんに頼んでくれるって言ってくれたのにあたし何やってんだろう?

 

 

優依を裏切ってしまった・・?

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

屋上で立ち止ったまま出入り口をじっと見つめる。

 

 

 

 

 

もう少しだけ・・もう少しだけ待ってみよう。

 

 

これは最後の賭け。

 

 

もし優依が来たら勝手な話だけど契約は踏み止まろう。

またキュゥべえを探せばいいだけだし、魔法少女のマミさんの近くならきっといるはずだから。

 

 

 

もう少し、もう少しだけ。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・・優依」

 

 

 

しばらく待ってみても優依は屋上にやって来る気配はなかった。

それが悲しくて寂しくてじわっと何かがこみ上げてくる。

 

 

どうして優依はあたしを追ってきてくれないの・・?

・・あたし嫌われちゃった?

 

 

あたしは契約するしかないんだね・・。

 

 

涙が溢れてくるのを袖で拭ってキュゥべえの方に向かって歩き出す。

やがて中央に佇む小さくて白い生き物と対峙するため立ち止る。

 

 

「本当にどんな願いでも叶うんだね?」

 

 

屋上庭園の中央にちょこんと座っているキュゥべえに確認するようにもう一度聞く。

 

 

「大丈夫、君の願いは間違いなく遂げられる」

 

「・・そう」

 

 

覚悟を決めたはずなのに未練がましく出入り口の方を見るも誰も来ない。

 

 

 

 

「じゃあ、いくよ」

 

 

キュゥべえが長い耳を伸ばしてあたしに触れる。

 

 

「うん・・うぅ!」

 

 

急に胸のあたりが苦しくなって呻いていると心臓のあたりから青い光が灯り宙に舞った後あたしに向かって落ちてきた。

 

 

「さあ受け取るといい。それが君の運命だ」

 

 

 

光を受け止めたあたしの手の中には青い宝石が光ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、キッツイ・・」

 

 

 

階段をひたすら昇っていたが足がガクガク腰ヘロヘロのお年寄り顔負けの瀕死ぶりで泣きそうだ。

死にそうな思いをしつつ俺は今屋上に向かっている。

 

 

理由は簡単、さやかの契約を阻止するため。

 

 

そのためには屋上にいるであろう白い悪魔の駆除とその内やって来るであろう猪突猛進な青を説得する必要がある。

 

ちなみに何でエレベーターじゃなくて階段で向かっているかというと現在シロべえがエレベーターをハッキングして使用出来なくしているから。

さやかが屋上へ向かうまでの時間稼ぎという訳だ。

だから今エレベーターは誰も使用出来ない。(緊急患者がいる場合は可能にするとかなんとか)

 

 

 

・・・・・・あれ?

 

 

今思えば俺が使った後にエレベーター停止させれば良かったんじゃないか?

 

 

 

 

一瞬思った事を振り払いひたすら階段を上る。

 

 

少しでも休もうとすればすぐにでもそこから動かなくなってしまいそうだ。

 

 

 

 

「はあ、はあ、ちょっと休憩・・」

 

 

 

 

屋上に辿り着く直前、さすがに体力の限界が来た俺は階段に座り込んでしまいそのまま動かなくなる。体力の回復を待って座りながらぼんやりと考え事に努めた。

 

うん、分かっていたけどやっぱり上条の階から屋上まではそこまで遠くないが階段で昇る距離ではない。断じてない!

 

だがこの距離なら階段昇るのにも時間がかかるだろうしシロべえの足止めもあるからさやかはすぐにはこないだろう。

 

 

今の内にインキュベータ―を屋上から追い出しておこう!

よし!頑張れ俺!

 

 

大雑把なポジティブ思考で奮起した俺は立ち上がろうとする。しかし、

 

 

「・・・優依」

 

 

「!? さやか・・?」

 

 

 

その寸前階段を上ってきたらしい少し息が切れてるさやかとばっちり目が合った。両者の間に気まずい沈黙が流れる。

 

 

 

ちょっと待ってえええええええええええええええ!?

 

 

 

早くない!?さやかさん来るの早過ぎません!?

俺が階段を上り始めてからそんなに経ってないのにもう昇ってきたの!?

運動神経良いと思ってたけどこれじゃ化け物級の体力してるよ君!?

 

どうしよう!?これじゃもう屋上にいるキュゥべえを追い払えない!

しかもばっちり俺が休憩中の所見られた!もう今更立っても意味ねえよこれ!

 

 

くそ!こうなったらここでさやかを説得するしかない!

この階段に座っている姿勢でさやかを待っていた風にするんだ俺!

 

 

自滅に近い形で追い詰められた俺は無理やり取り繕った笑顔を向けてさやかに話しかける。

 

 

「そんなに急いでどこに行くんださやか?」

 

「優依こそ・・何でここにいんのよ?」

 

 

誤魔化せた・・?すっごく取り繕った感があるけど誤魔化せた?

 

 

てか、めっちゃ夕日が眩しいし背中が熱いんだけど?今ここ動けない。だって動いたらそのままここを突破されそうなんだもん。

 

 

それはともかくさやかは出鼻くじかれて苛立ってるからかめっちゃ睨んできて怖い。

 

 

 

「俺がここにいる理由か(休憩してただけだけど)?(後々厄介だから契約を阻止をするため)さやかに会いたくなってここに来たんだ」

 

 

本当は来たくなかったけどね!

 

 

咄嗟に出た言葉に反応したさやかは夕日のせいか顔が真っ赤だ。

分かるここ熱いもんね。俺も背中火傷しそなくらい日射浴びてるもん。

 

 

あと君こんな時にどうでもいい俺の口調に突っ込んでくるな。

またうっかり出してしまっただけです俺の素の口調。

今更感があるけどバレてしまった以上はどうしようもない。

 

交渉というのは感情を相手に悟らせたら負けだ。

だから冷静にというか夕日による暑さに耐えるためにほとんど表情が抜け落ちてる。

内心では超ビビりながらも何とか青を宥めて話を聞くと案の定こいつは契約する気みたいだ。

 

 

予想通り過ぎて笑えてきた。ブレない青に半泣きで笑ってたらキレられたのは何故?

さっきから噛みつく勢いの態度にマジでビビりまくっている。

 

 

あー・・怖いけど今どうにかしないと契約するなコイツ

 

 

それだけでもうんざりなのに邪魔されて気が立ってから俺の睨む眼力半端ない!今すぐにでも逃げ出してえ!

 

 

 

それもこれも全部、上条のせいだ!

 

 

あいつがいい歳こいてみっともなく幼馴染の女の子に八つ当たりするから!

 

 

そのため「ほっとけば?」と恨みと妬みを合成した言葉を放つとさやかは更にキレられて墓穴を掘ってしまった俺はマジでアホだ。

 

 

チクショウ!やっぱり爆発させたい!いっその事俺の手で!

そした万事解決だろ!

 

 

・・待て?その上条の腕をどうにかすれば・・?

 

 

 

そうだ!その手があるじゃん!

突如舞い降りた閃きは俺に現状の打破に通じる道を導いてくれる!

 

そう、別にさやかが契約して治す必要なんてない!

すでに魔法少女になっている人にお願いして治してもらえばいいじゃん!

さしあたっては候補者はマミちゃんか?

おお!いけるじゃんこれ!きっと無償でやってくれるに違いない!

 

 

ビバ!マミちゃん!

 

 

いやほむらもあり!

その場合さやかもほむらを見直すはず!

むしろその方が一石二鳥じゃね!?

 

こんな事思いつく俺天才じゃん!

 

 

そう思ってホクホク顔で目線を上げるとさやかガチギレ寸前だったので慌ててさっき思いついた事をさやかに述べた。

 

 

ようは契約なんてやめてマミちゃんにお願いしちゃおうぜ!

 

 

って、事を馬鹿丁寧にさやかに熱く語っていると迷ってはいるが満更でもなさそうな表情をしていたので後一押し!

 

 

そう思ってふと下を見るとさやかの足元に白いぬいぐるみがいる。

 

 

あれ?何でシロべえここにいんの?

エレベーターはどうした?

 

 

さやかは気づいてないけどまたシロえもんキャラやってるし・・何がしたいんだコイツ?

 

ん?待てよ?シロべえの技術をもってすれば上条あんにゃろうの腕なんて簡単に治せるんじゃ・・?

 

おお!希望に満ち溢れている!

これは是非とも取り込んでおかなければ!

 

 

 

そこから俺は頑張った。

俺の持てるスキル全てを出したと過言ではないくらい熱く語りまくり契約しないメリットを吐きまくる。

さやかみたいな猪突猛進な性格の奴は真っ向から否定したら余計反発する。

 

「契約するな」なんて言えば反発して契約するのは目に見えている。

 

だから保険という形で契約を残すという選択肢を伝授したのだ。

それならさやかだって納得するはず!

 

実際それを聞いてからの奴の表情は納得した感じでしきりに頷いていた。

 

それに手ごたえを感じ俺は更なる説得を試みた。

時にマミちゃんの名前をだし、時に至近距離に顔を近寄らせて思考停止させるなどとにかく何でもやった。

 

 

 

 

そしてついに・・・!

 

 

 

「そうだね。契約はまた今度にするよ」

 

「よっしゃ!」

 

 

人前でガッツポーズをしてしまったけど悔いはない!

それだけの偉業を俺はやり遂げたんだから!

 

 

良かったー!これならさやかは契約しないだろう!

後はマミちゃんの治癒魔法次第だけどシロべえもいるし何とかなるだろう。

これで次の懸念材料が減った!

 

 

首を傾げて「優依?」と俺を見つめてくるさやかに慌てて向き直った。

 

 

 

予想外のトラブルがあったが昨日に引き続いて上手くいっている!

これなら後は何の問題もないだろう。

ホクホク顔でさやかに手を伸ばして帰宅を促すと向こうも頷いて俺に向かって手を伸ばした。

 

 

 

 

伸ばしたはずなのに・・・。

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

 

「さやか?」

 

 

伸ばした腕は何故か途中で不自然にピタッととまり所在なさげに宙を掴んでいる。さっきから何度も呼びかけているのに一向に返事がなく俯いたままだ。

 

 

 

 

「ごめん優依!あたしやっぱり契約する!」

 

 

 

 

勢いよく顔を上げたさやかは何故か泣きそうな顔をしてて、そのまま俺の横を通り過ぎていく。その際、未だに足元にいたシロべえは思いっきりさやかに踏まれ「きゅぴい!」と可哀想な悲鳴を上げていた。

 

 

「え?ちょっと待って・・!」

 

 

突然の事に呆然とする俺だったがすぐ我に返り腕を掴もうとするも間一髪避けられてしまいそのまま屋上に向かった。

 

 

 

ヤバい!このままじゃ契約する!

 

 

 

 

俺はさやかの後を追いかけた。

 

 

 

否、追いかけようとした。

 

 

 

 

長い階段で疲労困憊な上に運動音痴な俺の身体は指示通り動くわけなく、駆け上がろうとした際、足を踏み外すと同時に勢いよく前のめりで倒れ込んでしまう。

 

その際、とある部分を階段でぶつけてしまった。

ぶつけたそこはとある人は歴史上の人物に例えてこう言う。

 

 

 

 

 

”弁慶の泣き所”と。

 

 

 

 

 

 

「しゃあああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ぶつけた所を手で押さえ苦悶の悲鳴を上げる。

 

 

この世の痛みとは思えない!これは弁慶泣くわ!実際俺も今泣いてるもん!

 

 

階段でぶつけた「すね」の激痛は留まる事を知らない。

俺は痛みが治まるまでしばらく動けなかった。

 

 

 

 

 

「なんとか着いた。・・げ!いない!」

 

 

ようやく動けるくらいには痛みがひいてきて壁伝いながらもなんとか屋上に辿り着くが当然というかそこは無人だった。

 

 

辺りを見渡すもさやかもインキュベータ―もどこにもいない。

 

 

 

・・・・どうしよう?

 

さやかの説得に成功したかと思いきや急に奴が「やっぱり契約する!」と振り切られて後を追おうとしたら階段ですね打って悶絶してる間に契約されて逃げられましたなんて事ほむらに知られたら俺は殺される・・!

 

 

身震いする俺の身体を慰めるかのようにそっと優しく風が吹いていた。

 

 

 

 

 

 

 

くそ!くそ!くそ!何でこんな事に!?

 

 

 

俺は苛立ちながら廊下を歩く。

右手にはシロべえだったもの、左手には本を持っている。

もし音をつけるとするならばドスドスという足音が相応しい。それだけ苛立っている。

 

 

そして目的の場所、「上条」と書かれたネームプレートのある病室の扉を勢いよく開ける。

 

 

そして大声で叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「リア充なんて皆滅んでしまえばいいんだあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

持っていた本を投げつけた。

俺にしては奇跡的な命中率で見事この病室の主の顔面にクリーンヒットさせる事に成功する。

 

「ぶっ!」と声が聞こえると同時に俺はすぐさま駆け出し病院を後にする。

 

 

目的なもちろんあのバカさやかを探す事。

 

聞き分けの悪い青には折檻が必要だ。

その前に俺が紫に折檻されそうだけど何とか回避しなくては!

 

 

ホント状況を掻き乱してくれるなさやかは!




大部分の皆様が予想していたかもしれませんがさやかちゃん契約しちゃいました!

魔女化まで待ったなし!
どうする優依ちゃん!?


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65話 知り合いにバッタリ出会う 人はそれをフラグと呼ぶ

何故だ?

何故Twitterのリンクが上手く張れないんだああああああああああああ!?


「まずいぞ!さやかが全然見つからない!マジでどこ行ったんだよあいつ!?」

 

 

夜の闇に輝くネオンの光が眩しい繁華街。

俺はその煌びやかな街中でひたすら突撃馬鹿な青を見つけるため奔走していた。

しかし病院を出てからずっと探しているのに肝心のさやかが見つからない。

 

おそらく契約したであろう青は俺に出くわさないように隠れているとしか思えない。そう思う程、さやかの足取りを追う手がかりが全くなかった。

 

 

「うわあ・・ほむらに見つかる前にさやかに会いたかったけどもう粗方探したからなぁ。もう心当たりないぞ」

 

 

夜、半泣きで繁華街をウロウロする女子中学生がいる。まあそれは俺なんだが。

 

これからどうしよう?帰れないよマジで俺。

 

 

 

 

「うぅ・・」

 

 

 

「あ、シロべえ!大丈夫か!?」

 

 

うめき声が聞こえたので俺の肩に乗っている白いマフラーっぽいものに視線をうつす。

さやかの全体重がかかった足で踏まれ仮死状態だったシロべえがようやく意識を取り戻したらしくしきりと呻いている。

 

こいつは口を開くとうるさいが内心これからどうすれば・・と心細かったので復活してくれるのはありがたい。

奴の知恵を借りれば打開策(=ほむらによる折檻回避)が思いつくかもしれない!

 

 

「喋れそうか?」

 

「何とかね。酷い目に遭った・・。滅茶苦茶だよ美樹さやか。よくも僕のキューティクルな背中を思いっきり踏んづけてくれたね。危うく中身が潰れる所だったよ・・」

 

 

シロべえの背中にはくっきりと足跡が残っている。

前回杏子(?)に蹴られた時以上にくっきり。よほど思い切り良く踏まれたらしい。

踏まれた時は俺から見ても凄まじい身体の凹み具合だったのにむしろ死んでない方が驚きだ。

 

インキュベーターって身体自体はひ弱なイメージだけど精神疾患は例外で頑丈なのか?

 

 

「足元でふざけるからだろ。それにあのさやかが自分の足元見る訳ないじゃん。だから足元掬われるんだろうなぁ。あ、俺上手い事言った」

 

 

我ながら中々うまい事言えたとほくそ笑んでると八つ当たりの如く後頭部を尻尾でバシバシ叩いてくるので結構痛い。

 

 

「うっざいなぁ。全然上手くないよそれ。まあ、僕はまだ良いよ。自分に非があるわけじゃないし、ただミステリアスキャラを披露しようとしてただけだから。・・むしろ優依の方だよね?非があるの」

 

「な、何の事ですか・・?」

 

 

シロべえの指摘に一瞬ビクッとなった。

尋問じみた話し方のせいで額に一筋を汗が流れ落ちる。

 

 

まさか・・奴は見ていたのか俺の失態を?

 

てかミステリアスキャラって何だ?お前それと真逆の立場なコミカルキャラだろ!

そもそも気絶していたはずじゃ・・?

 

 

だがそんな俺の甘い期待など大昔から大勢の少女たちを絶望させてきた悪魔には通用しなかった。

テンパる俺の顔を奴の赤い瞳の中でマヌケに映しながらゆっくり語りかける。

 

 

 

「・・君が階段ですっ転んで悶絶してる姿ばっちり撮ってるよ?ほむらに見せようか?」

 

「やめて!!」

 

 

 

賑わう繁華街の街に俺の泣きそうな声が響き渡る。

周りにはいた人は俺を奇異な目で見ているがそんな事は気にならないくらい低頭平謝り。

 

シロべえが目を覚ましたのはありがたいと言ったのは撤回しよう。

二度と目覚めなきゃ良かった。

やっぱり悪魔はどんな時でも悪魔なんだと思い知らされたよ・・。

 

 

「で?優依は今何をしてるの?」

 

 

俺の謝罪をしばらく堪能したシロべえは俺の今の行動を意味を聞いてきた。

ぶっちゃけ答えなくないけど完全に俺の負け。

軍配は向こうに上がっているからどうしようもない。

シロべえに聞かれるまま俺は素直質問に答えるしか生存の道はないのだろうか。世辞辛い。

 

 

「えっと、契約したであろう美樹さやかさんを追ってます」

 

「はあ?さやかはもう契約しちゃったのなら探す必要はないんじゃないの?」

 

「いやー・・それは」

 

「・・・ふーん」

 

 

口ごもる俺にシロべえは何か察したようで一人納得顔。

そしてそのまま冷ややかな声で俺に話しかけてくる。

 

 

「まさか・・ほむらに報告するのが怖いからさやかを探すふりして逃げ回ってるんじゃ?」

 

「そ、そんな事ないよ!」

 

 

 

 

やっべえ、バレてる!

 

 

相変わらず鋭い奴だ。はい、シロべえの言う通りです。

 

 

実は俺、真剣にさやかの事を探していない。

だって見つけたところであいつは既に契約済みだから手遅れだろう。

 

 

さやかを探している理由は所詮時間稼ぎだ。

 

何のと言われればそれはもちろんほむらにどう言い訳しようかと考えていたとしか言いようがない。今の所、まともな案はないが。

 

連絡なんてしようものならさやかが契約した事が速攻でバレるから未だにほむらとマミちゃんには伝えていない。

実質放置状態が続いている。

 

 

「あのさ、いずれバレるんだから早いとこ素直に謝ったらどう?その方が傷は浅いよ?」

 

「い、いや!まだ希望はある!だって俺が見たのはもぬけの殻の屋上でこの目でさやかが契約してる所を見たわけじゃない!ひょっとしたら俺の思い込みなのかも!」

 

 

そう!人間というのは見たことを勝手に解釈して事実を捻じ曲げる事が多々ある!

俺が見たのは誰もいない屋上!さやかじゃない!

つまりさやかが契約していない可能性もなきにしもあらず!

 

おお!咄嗟の言い訳だったけど何だか希望が湧いてきた!うかうかしていられない!

シロべえはもう俺が逃げ回ってるって確信してるみたいだけどそんな事関係ない!

俺が間違ってないと証明するためにもさやかを見つけなくちゃ!

 

 

「よし!他場所も探してみよう!」

 

「・・別にいいけどさ。もう、遅いよ?明日も学校なのに大丈夫かい?」

 

 

ハイテンションで走り出そうとする俺にシロべえが呆れの声で話しかけてきて出鼻を挫かれる。

試しに携帯の画面を見ると時刻は中学生はとっくにお帰りの時間帯になっていた。

 

正直もう帰りたいが今帰ったら確実にほむらに捕まるからだめだ!

避難する意味も込めてもう少し時間を稼がなくちゃ!

 

 

「大丈夫だ。まだ帰らない。とにかくほむら・・じゃなくてさやかを見つけるまでは!て、あれ?」

 

 

もう一度スタートダッシュを決めようとした俺の目にあるものが視界に入り足を止める。

俺の目線の先、遥か前方にある噴水の近くでとても見たことがある人物がトボトボ歩いている。

よく目を凝らしてじっと観察すると次第にそれが誰なのか理解出来た。

 

 

俺の見間違いじゃなければ前方を歩いているのは奴だ!

 

 

「よっしゃ!帰るか!」

 

 

速攻で帰宅を決定した俺は来た道を回れ右して再び走る。

その速度はさっき走ってた時よりも遥かにスピードアップしている。

そしてまだまだ加速段階に入っているといっても過言ではないかもしれない。

 

 

一刻でも奴から離れなければ!

 

 

「優依どうしたの?誰かいたのかい?」

 

「別に誰も!とにかく今日はもう帰った方が良さそうだ!」

 

 

どうやらシロべえは後ろに誰がいるのか気づいていないようだ。

それは好都合。ないと思うがコイツから絡んでいったら厄介な事になるし今の内に避難しておこう!

 

さやかを探していた時など比にならない程、俺は渾身の力を足に込めてコンクリートの道に叩き付ける。

一定の距離を走ってチラッと後ろを盗み見みたが追ってくるどろこか気づいている気配はない。

 

 

よし!この調子なら逃げられそうだ!

 

フハハハハハ!俺は無事死亡フラグから脱出したぞ!

 

無事フラグ回避出来た事に人目も憚らず高笑いしそうだ!

いっその事してしまうのもありか?ありだな!

 

 

 

 

「優依」

 

 

 

 

いざ高笑い!と思った矢先、俺の肩に乗っている白い奴が邪魔をしてきた。

コイツ本当にタイミング悪すぎだろうが!

 

 

 

 

「・・何かなシロべえ?」

 

 

 

「誰かが君の事追いかけて来てるみたいだよ?」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

「――ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

シロべえの言った通り走る俺の背後から誰かの声が聞こえる。

 

一瞬ヒヤッとしたが微かに聞こえる程度だから気にしないでおこう。

きっとここにいる人たちの話し声だ。シロべえは過敏になり過ぎてるだけさ!

決して彼女の声ではない!

 

 

 

 

 

「優依ちゃん!」

 

 

 

「! ひぃ!」

 

 

 

 

き、気のせいじゃない!明らかに聞き覚えのある声が俺の名前を呼んでいる!

この声、俺がここから逃げる理由になった奴の声じゃん!

しかもさっきよりもはっきり声が聞こえるんですけど!?

 

 

 

 

 

 

まさか・・?

 

 

 

 

恐る恐る背後を確認する。

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

すぐさま顔を元に戻し全力疾走を開始!

 

 

 

 

ヤバいヤバいヤバいヤバい!!

 

奴が笑顔で手を振りながら俺を追いかけてきている!

何故追いかけてくるんだ!?何故俺の存在に気付いた!?

 

 

 

 

 

「優依ちゃん待って!」

 

 

 

 

来るなああああああああああああああ!!

 

 

 

 

「ねえ優依、あの声って・・」

 

「言うな!」

 

 

シロべえを黙らせた後は最早喋る余裕なんてなかった。

 

 

走る事だけに集中しなくてはならない!なんとかして奴をまかなければ!

うおおおおお!思ったよりもアイツ足早い!

 

 

怖ええええええええええええええええええええ!!

 

 

 

段々足音が大きくなってくる。近づいてきてるのは明白だ!

確か運動は普通だって言ってたくせに追いつくの早くないか!?

 

 

 

まずいこのままじゃ・・!

 

 

 

 

「止まって!」

 

 

 

「っ!」

 

 

グッ腕を掴まれ足がそれ以上前に進まない。

振りほどこうとしてもガッチリ掴まれていて脱出不可能。

 

 

どうやら俺はここまでのようだ・・・。

 

 

絶望が心を支配しガックリと頭を項垂れる。

 

 

「はあ、はあ・・良かった。追いつけた・・」

 

 

俺を捕まえた鬼は息を切らしながら安堵の表情を浮かべている。

どうやら全力疾走で走ってきたらしい。

それは分かるが盗み見した時は手を振って楽しそうな笑顔だったからかなり余裕そうに見えたのは気のせいか?

 

渋々頭を上げて俺を捕まえた鬼を死んだ目で見つめる。

 

 

 

「優依ちゃん」

 

 

「・・まどか」

 

 

鬼もとい鹿目まどかはにっこり笑って俺を見上げていた。

 

そうです。俺が見つけたのはまどか。

前方を横切るように歩いていたのを確認し関わりたくなかったので回れ右して逃げようとしたのだ。無残な結果に終わったがな。

 

 

「うん、わたしだよ。驚かせちゃってごめんね。優依ちゃん声かけても全然気づいてくれなかったからこうするしかなかったの」

 

「そ、そうなんだ。ランニングしてて気づかなかったなー。こちらこそごめんねー」

 

 

どこの世界に制服でランニングする女子中学生がいるんだと思うがこうなったら誤魔化すしかないのでこのまま押し通そう!

 

 

「ホントだよ。全然気づいてくれないから一瞬無視されたのかと思って泣きそうになったけどわたしの気のせいで良かった!」

 

「そうだよー。まどかのき、気のせいだよー、ははは・・」

 

 

すみません気のせいじゃないです!

君の仰る通りわざと無視しようとしましたごめんなさい!

 

 

周囲に俺の乾いた笑顔が響く。

誤魔化してきれてる気がしなくて背中の汗はダラダラと流れている。

 

一瞬まどかがマジで泣きそうな顔していたから余計バレるわけにはいかない!

この事がもしほむらにバレたら“私のまどかを無視するなんて!”とか難癖つけられて俺は殺される!

何としてでも誤魔化すんだ!

 

 

それにしてもまさかここでまどかと出会うとは思わなかった。

てっきりあのまま家に帰ったかもしくはほむらと一緒かと思ったんだけどどうなってんだ?

 

それも気になるが今はまどかと話をするの気まずい!

さやかの契約阻止の後ろめたさもあるからどんな顔していいか分からない!

 

 

そしてまずいぞ!

 

 

ここにまどかが現れたという事は状況は原作通りに進んでいるという事だ。

もし俺の推測が当たっているならばこの流れは、

 

 

 

さやかが契約する

   ↓

まどかが繁華街を歩く

   ↓

魔女の口づけをくらった夢遊病な緑に遭遇

   ↓

集団自殺の現場に突撃

   ↓

あ、野生の魔女が飛び出してきた!

 

 

 

ていう展開が待っている。冗談じゃない!

 

 

 

いくら今回は誰も死なない展開だったとしてもわざわざ危険な目に遭うなんて馬鹿げてる!

というか邪神に目を付けられてる俺が関わればどんなヤバい展開が待っているか考えただけでも恐ろしい!

 

どうせ魔女はさやかがやっつけるだろうし。もしくはマミちゃんかほむらが来るはずだ。

現に二人にはさやかが契約した後どうなるか伝えてある。まどかが危ない目に遭うのも勿論伝え済み。

まどかだって二人の携帯番号知ってるし助けを呼ぶくらい造作もないはず。

 

 

俺は関係ない!一刻も早くまどかから離れたい!

よし帰ろう!最近帰れていない愛しきマイホームに!

ここんとこずっと寝不足気味だから今日はぐっすり眠ろう!

 

 

「ごめんね!俺ちょっと急いでるんだ!すぐに行かなきゃいけないからもう行っていいかな!?」

 

「あ・・」

 

 

バっとまどかが掴んでる腕を引き剥がすとすぐに踵を返す。

 

 

じゃあ頑張れよまどか!

俺は巻き込まれない内に逃げるから!

 

 

そのまま駆け出して徐々にまどかから離れていく。

 

 

 

しかし逃げるなんて選択肢は俺には用意されていなかったみたいだ。

 

 

 

 

「優依ちゃん、さやかちゃんは?」

 

 

 

まどかが禁断の一言を発してしまい俺はピタリと止まりただ立ち尽くす。

ギギギと油を差し忘れた機械のような鈍い動きでまどかの方に振り向いた。

その時見たまどかの表情はとても泣きそうに見えたのはきっと気のせいではない。

 

 

「えっと・・」

 

 

思わず口ごもる。

 

どう言い訳しよう?

ちゃんと現場を見た訳ではないがさやかが契約したのはほぼ確実だ。

俺を信じて任せてくれたまどかに失敗しましたなんてどの口が言えるんだ?

 

ほむらより難易度高いんですけど。

 

 

「さやかちゃん一緒じゃないの?」

 

「・・・・はい」

 

 

最後聞いてくるまどかに観念して正直に答えるしかないので素直にうなずく。

 

 

「どうして一緒じゃないの?」

 

「う・・」

 

 

「やあ、初めまして鹿目まどか。僕がシロべえさ」

 

 

口ごもっていると思わぬ所で助けが来た。

 

いきなり俺の顔の前にぬっと白い何かが現れまさかの自己紹介。

突然の出来事にまどかは驚いていてシロべえをまじまじと見ている。どうやら今存在に気付いたらしい。

 

 

「え?えっと初めましてシロべえ・・だよね?わたし鹿目まどか。ほむらちゃん達から話は聞いてるけどキュゥべえのはぐれなんだよね?」

 

「その言い方はあまり歓迎しないな。どうせなら他のアンドロイドキュゥべえたちなんかよりもよっぽど上位な存在だと言って欲しいね!明らかに僕の方が優れてるんだから!」

 

 

明らかに他のキュゥべえたちよりもポンコツなシロべえがきっぱりそう言い切ってしまってまどかは少し困り顔になっているが場の空気は多少良くなったみたいだ。

でもまどかが可哀想なのでここは助け船を出した方が良さそうだ。

そもないとシロべえの僕凄いんだよ自慢が止まらくなるだろう。

 

 

「まどか、話しかけてきたって事は何か用があったんだよね?」

 

 

話題逸らしのために俺はまどかに話しかける。逃げる俺をわざわざ捕まえた理由が気になるし。

その際耳元で「ちょっと!無視しないでよ!」と聞こえた気がするが無視だ。

 

 

「うん・・優依ちゃん、ちょっといいかな?」

 

 

しゅんと元気がなさそうな、というか落ち込んだ様子でまどかは若干俯きながら俺を見ている。

 

 

どう見てもちょっとどころではなさそうだ。

 

そういえばまどかを見つけた時その足取りはとても重く表情もどこか浮かない感じだった。

これは絶対何かあったな?うん、絶対関わりたくない。

 

うわぁ・・どうしよう。

早くも話振ったことを後悔してるんですけど。

今からでも断った方がいいかもれしない!

 

 

 

「・・・ほむらちゃんとマミさんから聞いたの」

 

 

一言もいいよなんて言ってないのにまどかは勝手に話し始めた。

 

 

 

「えっと・・何を?」

 

 

今更いやだなんて言えるわけがないので仕方なく話を聞く事にし、まどかに先を話すように促す。

少し迷った素振りを見せていたがようやく決心がついたのかまどかは躊躇いながらもそう口を開いた。

 

 

 

「魔法少女の真相とキュゥべえの正体」

 

 

 

「!? そ、そうなんだ・・」

 

 

どうやら俺がさやかを止めにいってる間、二人は超重要な秘密をまどかに話したらしい。

まあ、当初の予定ではさやかも交えて話すつもりだったからそこまで驚きはしない。

俺が驚いてるのはあの二人が殺し合いもとい喧嘩をやめてまともに説明出来た事だ。

 

 

「あれだけいがみ合ってた二人だから説明は無理かもと思ってたけどちゃんと出来たんだ。ひょっとしてまどかが仲裁してくれたの?」

 

「うん、何とか二人の喧嘩を止める事が出来たんだ。本当はわたしもさやかちゃんの所に行くつもりだったけど、ほむらちゃんに話があるって言われたからマミさんの部屋で話を聞いてたの」

 

 

まどかはたどたどしく当時の説明をしていく。

その時の事を思い出しているのか表情はとても固く顔色もとても悪い。

 

まだ魔法少女ではないとはいえ憧れてたものの正体に多少なりともショックを受けてるようだ。

 

 

「本当なんだよね?魔女は魔法少女だったって。今まで現れた魔女って全部・・?」

 

「間違いないよ。君の目の前に現れた魔女は全員魔法少女たちの成れの果てさ。それを証明するのは出来ないけどね。どうしても納得出来ないなら知り合いの魔法少女を絶望させてしまえば証明出来るよ?」

 

「・・わたしたちは消耗品なの?」

 

「はっきり言ってしまえばそうなるね」

 

「そんな・・!あんまりだよ!酷過ぎるよ!」

 

 

シロべえは自慢大会をするのを諦めたらしくいつの間にか俺たちの会話に参加してきた。

 

 

別にそれはいい。

ただもう少し言い方ってもんがあるでしょうが!

傷心中の女の子に言うセリフじゃないぞそれ!

 

まどか泣きそうになってんじゃん!

 

 

「優依ちゃん」

 

「ん?」

 

「・・さやかちゃんひょっとして契約しちゃったの?」

 

「うん、情けない事にこのポンコツがすねぶつけて悶絶してる間にしてやられたよ」

 

 

しれっとシロべえの告げ口でまどかは驚きとショックで目を見開き、俺は裏切りと羞恥で目を見開いた。

 

 

「な!?お前だってさやかに踏まれて瀕死だっただろうが!というか俺本当は説得成功してたんだよ!それなのにあいつが急に契約するって言い出したのが悪いんだろうが!」

 

「・・・・そうなんだ」

 

「! すみませんでしたあああああああああ!!俺のポンコツが招いた結果がこれです!どうぞ煮るなり焼くなり・・はやめて欲しいですけど怒るのは当然なので罰は受けます!」

 

 

静かに言葉を発するまどか言いようのない迫力を感じ、すぐさま腰を直角に曲げ頭を下げる。

 

俺の中でまどかは「怒らちゃいけない女子№1」だ!その逆鱗には触れたくない!

ちなみに2位はマミちゃんだったりします。残りのメンバーは大体いつも怒ってる気がするので省略。

 

 

「ううん、謝る必要なんてないよ。わたし何もしてないから。大事な友達が大変な時にわたし・・何も出来なかった」

 

 

怒らせたら絶対怖いだろうけど普段は神の如く優しいまどかは罪深き俺を許してくれてほっとするが心なしか後半になるにつれ声の調子が下がってる気がする。

 

 

言葉では許すとか言ってるけど内心怒ってたりして・・?

 

 

「ほんとにわたしは何にも知らなかったんだね・・情けないよ」

 

「? まどか?」

 

 

震える声が頭上から聞こえ不審に思った俺は顔を上げる。

すると暗い表情のまどかが視界に入った。

 

 

「ほむらちゃんの話を聞いてわたし怖いって思っちゃった。話を聞いてて契約しなくて良かったって思ったの。契約する前に知れて良かったって・・」

 

 

震えは次第に声から身体全体に伝わっていき小刻みに震えだしてやがて大きくなっていく。

それでもまどかの独白は終わらない。

 

 

「さやかちゃんは何も知らないまま魔法少女になっちゃったのに、魔女になっちゃうかもしれないのにわたし自分の事しか考えてない・・!」

 

 

ああああああああああ!まずい!

まどかの目に急速に涙が溜まっていく!

 

 

「ごめんなさい・・わたし弱い子で・・」

 

 

口に手をあててポロポロと涙を流すまどか。

嗚咽も交じっているので完全に泣きモードに突入してしまったらしい。

 

 

ヤバい!こんな場面紫にでも目撃されてみろ!殺されるわ!

だって端から見たらこれどう見ても俺がまどかを泣かせたようにしか見えないもん!

 

 

「やーい優依が泣かせたー」

 

「違うわ!俺何もやってないぞ!お前のせいだろうが!」

 

 

いじめっこの白いのはこの際無視するとしてとにかくまどかを今すぐにでも泣き止ませなきゃ!

具体的に言うとほむらに見つかる前に!

 

 

 

「大丈夫だよまどか」

 

 

「ふえ・・?」

 

 

咄嗟に思い着いたのがこれ。

 

伝家の宝刀「頭なでなで」

他にも「ハグ」という案も思いついたけど紫に見られたら俺の命の保障がないので却下。

 

 

突然の俺の行動に驚いたのかまどかはぽかーんとして表情で俺を見上げている。どうやらその拍子に涙も止まったみたいだ。

 

 

それにしてもまどかの頭の撫で心地めっちゃいいな。

 

俺よりも背が低いし見た目と雰囲気が小動物感あるからとても撫でたくなってしまう。

例えるならハムスターかウサギと言った感じだ。

これが愛され主人公というやつか。ほむらが守りたくなるわけだ。

 

守りたいこの癒し。

 

 

あ、撫でるのに夢中で慰めるの忘れてた!

 

 

「まどかが気にする事じゃないよ」

 

 

とってつけたような感じで申し訳ないが慰めにかかる。

 

 

「そんな!だってわたし自分の事しか・・!」

 

「むしろそうやってさやかの事や罪悪感で泣くなんてとっても優しいと思うぞ?」

 

「・・・」

 

「本当に自分の事しか考えてない人は泣いたりなんてしないよ。むしろ関係ないしって思ってる。それに比べてまどかは思いやりがあって良い子だ。俺が保障するよ」

 

「優依ちゃん・・」

 

 

自分の事しか考えていない。つまり俺の事なんですけどね!

いやー我ながらホント最低だと思うわ。

 

だからまどか、そんなキラキラした表情で俺を見るのやめてくれないかな!?

俺はそんな目で見つめてもらえるような立派な人間じゃないから!

 

 

 

「ほ、ほらそんなに泣いてたらせっかくの可愛い顔が台無しになるよ?」

 

 

耐えきれなくなった俺はまどかの目じりに指を持っていき涙を拭うついでにキラキラ視線を中断させる。これ以上の視線攻撃は毒だ。

 

 

「優依ちゃん・・!」

 

「わぁ!?」

 

 

何故かまどかが俺にガバっと抱き着いてきて危うくバランスを崩しそうになってしまう。見た目の割には意外と力があるから抱きついた時の腹の衝撃は一瞬内臓が心配になるレベルだった。

 

 

「ありがとう優依ちゃん」

 

「ど・・どういたしまして」

 

 

結構な力で締め付けてくるので実はこれ抱き付いてるんじゃなくてベアハッグしてる気がする。

 

 

いやそれよりも今の様子をほむらに見られたら洒落にならん!

間違いなく狙撃されるわ。見ていませんように!というかここに来ませんように!

 

 

あとシロべえ、お前さっきから何言ってんだ?

「これは決まったね」って何のことよ?

 

 

 

 

「あの、優依ちゃんこんな時に言う事じゃないんだけど・・」

 

 

 

いつの間にか泣き止んだまどかはケロッとした表情で聞いてくる。

抱き着いたままだから必然的に上目使いになっていて庇護欲がくすぐられる。

 

 

「この後、時間あいてる?」

 

「・・へ?」

 

「良かったらウチに寄って行かない?パパの料理すっごく美味しいんだよ!・・だめかな?」

 

「え・・!?」

 

 

勘弁してくれよ!

これで解放されると思ったら第二ラウンド突入!?

ホントに今の状況で言う事じゃないだろ!何考えてんだ!?

 

 

速攻で断ろうとした俺だがここでふとある考え浮かぶ。

 

 

いや・・待てよ?

ここで俺がまどかの注意を引けば徘徊中の仁美お嬢様を声を掛ける事もましてや見つける事も無くなるんじゃないだろうか?

 

それならまどかは危険な目に遭わなくてすむし何より俺がピンクの傍にいれば紫は迂闊に手が出せない!

おお!一石二鳥!

 

 

「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな?」

 

「ホントに!?やったー!」

 

 

中学生にもなって跳び上がって喜びを表現するなんてガキっぽいと思うがまどかのその可憐な容姿ですると中々サマになってる。あざとい。

 

 

「じゃあ、(緑を見かける前に)行こっか」

 

「うん、あのね・・手繋いでもいい・・かな?」

 

「・・・え!?」

 

 

ホントに何言ってんのこの娘!?

 

魔法少女の真実知って幼児退行?

それとも俺をほむらに暗殺させるための遠回しな工作?

 

取り敢えず却下しよう。

 

 

「あ、だめだよね!ごめんね!変な事言ってその・・」

 

「あああああああ!大丈夫!手汗大丈夫か気になっただけだから!嫌とかじゃないから!さあ手を繋ごう!」

 

「え・・?うん!」

 

 

再び泣きそうな表情になったので慌てて手をとってみたがこれで良かったのだろうか?

 

繋いだまどかの手は予想通りとても小さくて力加減を間違えたら握り潰してしまいそうなくらい柔らかくて女の子だなと何となく思った。

 

 

 

ほむらにだけは見つかりませんように!

 

 

 

俺の不安をよそにまどかは照れたように「優依ちゃんの手ってあったかいんだね」と呑気な感想を述べているが気にしない。

 

俺は保護者、俺は保護者。

迷える幼いピンクを家に導くために付き添うただの保護者だ。

 

 

「彼女」が来る前に一刻も早くここから離れなくては!

 

 

 

 

 

 

 

「あら鹿目さん、神原さん。ご機嫌よう」

 

 

 

「!」

 

 

まどかと手を繋ぎ一刻も早くここから離れよう歩き出した俺の背後に再び聞き覚えのある声がする。

今度は少しのんびりとした調子の可憐な声だ。その声に戦慄を覚える。

 

 

 

「・・・・っ!」

 

 

恐る恐る振り返った先には「彼女」がいました。

 

 

な、何で話しかけてくんのおおおおおおおおおおおおおおお!!?




保身に走るほど優依ちゃんはピンチに陥っていく

これこそが世の理である


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66話 どんな人間にも大事なものは存在する

さむーい・・
手がかじかんでパソコン打ちづらいのが辛い・・。


「まあ、お二人とも街中で堂々と手を繋ぐなんてとても仲がよろしいんですね」

 

 

内心パニックになりつつ「彼女」の姿を見て更にパニックを起こして冷や汗を流す。

 

普段ならともかく今日だけは会いたくなかったなぁ・・。

 

 

「仁美ちゃんどうしたの?今日はお稽古じゃないの?」

 

 

まどかは不思議そうに声を掛けてきた人物、緑もとい「仁美お嬢様」を見つめている。

 

見た感じは普段と変わらないが様子が明らかにおかしい。

おかしいっつーか首元に魔女の口づけがあるからそれが原因なんだけどさ。

 

普段お稽古で慌ただしくお嬢様に生まれなくて良かったと思うレベルの忙しさだ。

まどかの疑問は全うなものであるはず。

 

それなのに肝心の仁美お嬢様はその質問が気に入らなかったのかトロンとしていた目をクワっと見開きまるで怒ってるかのように顔を歪めた。

 

 

「・・稽古?稽古どころではありません!」

 

「!?」

 

 

怒鳴りつけるように言い放つ。かなりの声量でそう叫ばれたのでビクッと肩が震えた。

 

普段の温厚な様子を見ているので彼女の今の変貌ぶりは偽物かと疑いたくなる程だ。魔女の口づけ恐るべし。

 

 

「あら、失礼いたしました。大声を出すなんてはしたなかったですわ」

 

「あ、いえ・・」

 

「ですが今からここよりも素晴らしい場所に向かうのですからお稽古なんてしていられませんの!」

 

 

うっとりしたような表情で天を仰ぐ緑。随分な落差の喜怒哀楽だ。

事情が知らない人がこれを見たら危ない薬でもやってるのかと疑いたくなるくらいにはっちゃけている。

 

 

出来る事なら関わりたくなかったのに何で話しかけてきやがったチクショゥ!

 

 

「そうですわ!鹿目さんも神原さんもどうです?一緒に素晴らしい場所へ向かいませんか?」

 

 

名案だと言わんばかりにパンと両手を叩いて微笑んでいる。

 

焦点の合ってない目を俺たちに向ける仁美お嬢様に戦慄を覚えた。

 

 

貴女の言う「素晴らしい世界」というのは「あの世」の事ですよね?

 

今からみんなでLET’S HEAVEN!なんて勘弁して欲しい。

君たちのやろうとしている事はどう考えてもそれHELL逝きだから!

 

いや・・まさかそっちが素晴らしい世界とか言わないよね?

 

 

「・・・っ」

 

 

まどかさん、怖いのは分かる。

とってもよく分かる。俺だって怖いんだ。

 

だから人の制服にしがみついて背中に隠れるのはやめなさい!一人だけずるいぞ!

 

シロべえに至っては緑からは見えてないくせにぬいぐるみの振りしやがってこの野郎!

 

 

この場を切り抜けるのに頼れる奴が誰もいないから俺が対処するしかない!

一体どうすれば・・?

 

 

「さあ、参りましょう」

 

 

どう答えようか考えあぐねいてる間に進行方向に大きく手を掲げた緑さんはそのまま街灯の少ない道に向かってスタスタ歩き出した。フラフラしているが足取りは思ったよりもしっかりしていてどんどん先に進んでいく。この様子じゃすぐさま見失いそうだ。

 

 

「どうしよう優依ちゃん・・。仁美ちゃんの首に魔女の口づけがあったよ。このままじゃ危ないよ・・」

 

「うん、危ないね。取り敢えずそろそろ離してくれないかまどか」

 

「あ、ごめんなさい・・」

 

 

シュンと落ち込んだまどかは名残惜しそうに俺の制服から手を放す。あんまりにも寂しそうにするものだから罪悪感が湧いてきそうだ。俺悪くないのに。

 

 

「・・そういえばこんな時の魔法少女さん達はどうしてるの?」

 

 

この空気から逃れるためにも話題を変えたんだけど思いのほか的を得ている話だ。ナイス俺。

 

こんな時こそ魔法少女にお任せだろう。

彼女たちは対魔女のプロフェッショナルなんだから。

 

二人そろってまどかに説明出来たっていう超難易度高い事やってのけたんだから本職の魔女退治なんてお手のものだろう。

 

ところが俺ってとことんタイミングが悪いらしい。

まどかはキョトンとして全く嬉しくない情報をもたらしてくれた。

 

 

「え?えっと、マミさんとほむらちゃんならわたしに魔法少女の事を話した後、仲良く魔女退治に出かけたよ。確か『どっちが多くの魔女を狩れるか勝負しましょう』って火花散らしてた。ライバル関係みたいなものかな?仲直り出来てよかったよー」

 

「・・・・・」

 

 

無邪気に笑うまどかはとても可愛いけど今はとても虚しいだけだ。

 

 

すみません。それ仲良くなってないです。

堂々と喧嘩しに行ったようなもんですよそれ。

 

あいつら結局まどかの目を盗んで喧嘩しに行っただけじゃねえか!!

今日はまどかが危ないって言ったのに!

 

おいほむら!お前の大事なまどかそっちのけで何やってんだ馬鹿野郎!

 

 

「・・とにかく二人に連絡を取ろう!まどかはほむらに電話して!俺はマミちゃんに電話するから!」

 

「うん、分かった!」

 

 

爆発しそうになるのを何とか抑え、半ギレ気味にまどかにそう指示を飛ばし俺自身も携帯を耳に当てる。

 

 

prrr prrr

 

 

青筋浮かべながら待つこと何コール目。呼び出し音が無くなった。

 

 

「あ、マミちゃん?俺優依だけど。今大丈夫!?」

 

 

 

『お掛けになった電話番号は現在使われていないか電波の届かない場所にいるか・・』

 

「嘘だろ!?何で出ないんだよ!?」

 

 

まさかの留守電サービスに切り替わってしまった。

まどかも同様だったらしくほむらと繋がらないと首を力なく横に振っている。

愛しのまどかの電話を無視するとはいい度胸だなほむら。

 

 

「あ!どうしよう優依ちゃん!仁美ちゃんどんどん先に行っちゃうよ!」

 

「え!?」

 

 

まどかが指さす先にいる緑はほぼ点にしか見えないと言っていいくらい遠くまで歩いてしまっている。

このままでは見失うのも時間の問題だろうがどうしたものか。

 

 

 

 

「優依ちゃん!わたし仁美ちゃんが心配だから後を追うよ!」

 

 

 

「・・え? あ!待てぃ!」

 

 

 

 

まさかの自ら危険を冒す宣言してきたまどかに言葉を失いそうになるもハッと我に返り慌てて走り出そうとする暴走ピンクを止める。

 

 

「離して優依ちゃん!」

 

「危ないよまどか!行っちゃだめだ!」

 

 

マジで行かないでまどか!

 

ここで引き留めず危ない目に遭わせたなんて紫に知られたら俺は後ろから刺されるから!

サバイバルナイフ的なものでブッスリやられちゃうから!

 

 

「友達の様子がおかしいのに放っておけないよ!危なくなったらすぐ逃げるから心配しないで!」

 

「そう言われてもね・・」

 

「優依ちゃんはどうする?」

 

「ん?」

 

「一緒に来てくれる・・?」

 

「・・・は?」

 

 

コイツ今なんて言った?

この俺にわざわざ危ない目に遭えと言わなかったか?

 

 

「・・・・・来てくれないの?」

 

 

「・・うっ」

 

 

見ないで!

そんなうるうるとした目で俺を見ないでええええ!!

 

その上目づかいは一瞬「うん」と首を縦に振りそうになる威力はあったが何とか思い留まった俺は大きく深呼吸して体勢を整える。

 

 

「・・行かないよ。足手まとい確定だからね」

 

 

尤もらしい事言って残る宣言。

 

実際は面倒事に巻き込まれたくないからというのが本音なのだがこれは言う必要はない。

 

卑怯だとか臆病者とか何とでも言え。

命最優先ですが何か?

 

 

「そっか。・・・・・」

 

 

泣きそうな表情で俯くまどかに罪悪感の流星群が俺に炸裂する。

 

 

だめだ!負けるな俺!

ここで負けたらこれから先も押し切られる運命しか待っていないぞ!

 

 

「まどか、俺らが行っても足手まといだからここは大人しく・・」

 

「後で携帯で連絡するから優依ちゃんはマミさんとほむらちゃんを連れてきてお願い!」

 

 

「わ!え!?」

 

 

真剣な顔で俺にバッグを押し付けてくる。

猪並みの勢いのせいでバッグを受け取ってしまい俺が何か言う前にまどかは仁美お嬢様の後を追うべく駈け出してしまった。

 

あっという間にピンクの後ろ姿は見えなくなったのでマジで追いかけて行ってしまったようだ。

 

残されたのは茫然とする俺と首に巻かれた白い毛皮のマフラーだけだった。

 

 

 

「行かないの?」

 

 

白い毛皮のマフラー改めシロべえがそう聞いてくる。

 

 

「冗談じゃない。向こう見てみ?いつの間にか夢遊病患者が群れをなして歩いてるぞ」

 

 

まどかが走って行った方向に向かって夢遊病患者もといゾンビ共がふらふらした足取りで歩いている。目指すはどこかの廃れた工場だろう。

 

あんな連中と一緒に歩くだけでも嫌なのに行き着く先は神聖な儀式という名の集団自殺の場所。絶対行きたくない!

 

 

「何があっても俺は絶対行かないからな・・まあ何があるか分からないしもう一度マミちゃん達に連絡しておくか・・あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「何でここにまどかの携帯が?」

 

 

預かったカバンのポケットにどこか見覚えのある携帯。それはまどかの携帯だった。

どうやら携帯を忘れてしまったらしい。

テンパっていたとはいえおっちょこちょいだなまどかは。可愛いけど。

 

 

苦笑いをしつつ再度電話をかけようと携帯を見ると俺はある事に気づく。

慌ててポケットやカバンの中を見るも見つかる素振りはない。

 

 

「ない!」

 

「何が?」

 

 

もしやどこかに落としたのかもしれないと思い、地面を見るも何も落ちていない。

 

 

「ない!」

 

「だから何が!」

 

「俺の愛しきサン〇オキャラ『ぐで〇ま』のストラップがない!」

 

 

俺の悲痛な絶叫が街中で木霊する。

 

何故だ!?どこで落とした俺のぐで〇まちゃん!

携帯にしっかり結んでいたのに!

さっきまでは確かにあのプリティなプリケツがいたはずなのに!

 

 

「はあ?ストラップなんて今はどうでもいいでしょ?というかまだあの死んだ目をした卵なんか集めてるの?」

 

「よくねえよ!あれ手に入れるのどれだけ大変だったと思ってんだ!死んだ目をした卵でも可愛いものは可愛いんだよ!」

 

 

ふと気になる事を思い出したので会話を中断しさっきの出来事を脳内で再生する。

 

 

まどかがバッグを俺に押し付けた時、微かだがブチッと何かが千切れる音がした。そしてその後、まどかの手は何かを掴んでいるかのように握りしめたままだった。

 

 

 

・・・・・まさか!

 

 

まどかが走って行った方を見る。

 

 

あのピンク何てことを!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?どうするの?後をつけてきたはいいけど次のプランは?」

 

「・・・・・・・・」

 

「何も考えてないんだね」

 

「うっさいなぁ!とにかく場所は分かっただけでも良しとしようぜ!」

 

 

場所はとある廃れた工場の近く、俺とシロべえは物陰に隠れて中の様子を慎重に伺う。

 

 

ええそうですよ!結局俺も来ちゃいましたよ!

だっていくら探してもぐで〇まがいないもん!

 

わざとかどうかは知らないけどまどかが持っていったに違いない!

 

何としても取り返さなければ!

あのストラップめっちゃ欲しくてわざわざ遠方まで足運んだ上に買うのにどれだけ並んだと思ってんだ!

 

あ、もちろんまどかの事を心配してますよ?本当ですよ?

 

 

待っててね!俺の愛するぐで〇まちゃn、じゃなくてまどか!

今すぐ助けに行くからね!

 

 

 

目的の工場の外観は分かっているが肝心の場所がどこなのか分からないので、嫌々ながらこっそりゾンビ共を尾行で何とか突き止めた。

 

徘徊する生ける屍は徐々にその数が増えていき冗談抜きでゾンビだと錯覚しそうで恐怖で気絶しそうになったが工場には無事たどり着いた。

 

随分廃れた工場だ。アニメと外観は一緒だろう。

きっと経営が破綻して廃業してしまったんだろうな。

元社会人として胸が痛い。

 

 

ここに集まったという事だ今からあの中で仁美お嬢様曰く神聖な儀式(集団自殺)が始まるのだろう。ぐで〇ま(+まどか)もあの中にいるのはきっと間違いない。

 

急いで助けなくては!

 

 

 

「・・・・・・怖い」

 

 

だが流石に工場の中に入る勇気は俺にはない。

というか俺が入る前にシャッターを閉められてしまったから入れないというのが実情だ。

 

初めから入る気なんてなかったけど。

 

念のために工場の周辺をぐるりと回って他に扉らしいものがないか確認してみるもシャッターの閉まった所以外出入り出来る所はなさそうだ。万事休すだ。

 

こうなったら仕方がない。

俺に出来る事はこの場所をほむらとマミちゃんに伝える事だ。

 

 

 

 

『お掛けになった電話番号は現在・・』

 

 

 

「何でまだ連絡がつかねえんだよ!?」

 

 

まどかの携帯を勝手に拝借して発信履歴が一番最初のほむらにもう一度電話をかけるも繋がらない。試しにマミちゃんの方にも電話をしてみるもやっぱり同じく留守電に切り替わった。

 

 

あいつらマジで何やってんの!?

 

 

思わず携帯を地面に叩き付けそうになるがこれは俺のじゃないと思いだし何とか思い留まる。

 

 

「連絡が取れないなら仕方ない。この場所を撮影してメールを送るのはどうだい?」

 

 

事の様子を静かに見守っていたシロべえは超珍しく俺の頭を撫でながら慰めの提案をくれる。

心なしか上からの目線な気がするが今は気にしないでおこう。

 

 

「・・そうするしかないか」

 

 

電話に出ないんじゃ仕方ない。

シロべえの案で俺の電話は充電が切れて使えないので、まどかの携帯で工場の写真を撮影して送信。無事送信された事を確認して携帯を閉じる。

 

 

ついでにさっき撮影した写真のデータを探すためまどかの携帯のフォルダを弄っていたら何故か俺の少女時代の秘蔵写真が保存されていたので躊躇なく消去しておいた。

 

 

まどか・・前に見たいってねだられたから見せた俺の幼少期のアルバム写真をいつの間に撮影してたんだよ・・

 

 

 

油断も隙もないピンクに思わずため息が出そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ガシャァァァン――

 

 

 

 

「!? ビックリした!」

 

 

 

 

ガラスが砕ける音が辺りに響きその後カランカランと何かが転がる音が聞こえる。

 

 

「ガラスの割れる音がしたね。かなり近いよ。ちょっと行ってみようか?」

 

「え!?やだよ怖い!」

 

 

シロべえの提案に条件反射で即拒否反応が出た。

 

 

好奇心旺盛は時にロクでもない事を言ってくるものだ。

 

ほら言うじゃないか?好奇心は猫をなんとかって。

今の状況は絶対それだ。意地でも行かないぞ!

 

 

 

「ほむらに殺されるよりはマシだと思うよ?」

 

「行きましょう!」

 

 

シロべえの半ば脅しに近い言葉に屈した俺は急いで音がした方に忍び足で向かう。

 

 

 

十中八九まどかがヤバい液体が入ったバケツを投げ捨てた時に割れた窓ガラスの音だと思う。

 

 

俺の予想は当たっていた。

 

 

音が聞こえた場所に忍び足で向かってみると案の定地面にバケツが転がっている。

周囲にガラスの破片が散らばっていることから割れた窓の破片だろう。

辺りを見渡してみると少し遠くに割れた窓ガラスがある。

 

どうやら中では本格的に集団自s、神聖な儀式が行われていたらしい。

それがまどかが食い止めたと。まさに原作通りだ。

 

 

いやそれよりも驚きなのはまどかの筋力だ。

 

窓からかなり距離が離れているのにここまで液体の入ったバケツを放り投げたそのパワフルさに舌を巻くしかない。将来ハンマー投げ選手にでもなれるんじゃないの?

 

 

 

 

「きゃあ!」

 

 

割れた窓から女の子の声が聞こえた。

 

 

「!? 悲鳴?まどか!」

 

 

声に聞き覚えがあるというか状況からしてまどかしかいないので疑いようがない。

窓からは「やめて!」とか「来ないで!」というパニック状態のまどかの悲鳴じみた声と複数の足音が聞こえる。

 

 

 

まどかが危ない!

 

 

気づけば俺はまどかを助けるべく窓の方に駆け寄り、そして直前で立ち止まった。

 

 

「・・・・・・」

 

「どうしたの優依?」

 

「ここで突入なんてしたらあのゾンビもどきたちとエンカウントしちゃうんじゃないの?」

 

「そりゃ敵の本拠地な訳だし突入の仕方を間違えるとあっという間に囲まれるだろうね」

 

 

あっけらかんとした声でとても物騒な事を吐くシロべえのせいでますます足が竦んでしまう。

 

 

行くか?行かないか?

行かない方に傾きまくってるけど、どうすれば?

 

 

 

 

「誰だ!?」

 

「!」

 

 

割れた窓の前でうじうじと立ち往生していたら中から男の殺気立った声が突き刺さりドタドタと複数の音が聞こえてくる。

 

 

「やっべ!こっちに気付いた!?」

 

「足音がこっちに近づいている!優依、急いでここから離れて!」

 

 

言われるよりも早く俺は割れた窓から離れ工場裏に向かって走って行く。

 

捕まってしまったら殺されてもおかしくない。

早く逃げなくては!

 

 

 

「何チンタラ走ってるの!?もっと早く走ってよ!」

 

 

「うるさい!自分で走れよ!重量オーバーだ!」

 

 

さやかの踏みつけのダメージが未だに効いてるのかシロべえは俺の肩にしがみついたままだ。乗せてやってるのにこの言い草とは何事?

振り落したくなったがそう考えている間にも遠くで怒声が聞こえてくるのでそんな余裕はない。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ・・脇腹痛い」

 

 

 

 

 

工場の裏側に回った俺は脇腹をおさえつつ誰か追いかけてこないか周囲を警戒する。

 

運よく逃げ切れたのは良かったが今日一日走りっぱなしのガタが来たのかもう走る体力も気力も俺には残っていない。見つかったらジ・エンドだ。

 

 

「・・・大丈夫だよね?まどか大丈夫だよね?」

 

「僕に聞かれても知らないよ。それよりこのままじゃ僕らも危険だよ。一刻も早くマミ達と合流出来たらいいんだけど」

 

「うん、そうだね。・・ところでシロべえ」

 

「何?」

 

「お前もう動けるの?」

 

 

ゼエゼエ喘ぐ俺の前で自称重症なシロべえがウロウロ歩き回っているのが気になる。ダメージ大丈夫なのか?

 

 

 

 

「うん、もう治った」

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

ケロッとした表情で普通に歩きまわりながら俺を見るシロべえに殺意が湧いてくる。

 

 

走れるなら走らんかい!

 

 

ぶっちゃけお前軽いから何とも思わないけど耳元で毒吐かれながら走るのってキツいんだぞ!?

もう一回俺が踏んでやろうか!?

 

ギリギリ奥歯を噛みながら怒りを燃やすもそれはあと回し。

今はまどか救出と脱出する方法を探るためにもシロべえを沈めるわけにはいなかい。

 

 

チクショウ!ちょうど足元に毒舌白がいるのに何も出来ないなんて!

こんなのあんまりだよ!

 

 

 

「ところで優依」

 

 

俺の胸中の怒りなんて知らないだろうシロべえが呑気に尻尾を振っている。

そんな事でさえ今は怒りを覚えそうだ。

 

 

「・・なんだよ?」

 

「君の頭上に窓があるけど覗いてみる気はないかい?」

 

「え?」

 

 

唐突な事を言われたので試しに視線を上に向けるとシロべえの言う通りさっきの割れたのとは違う別の「窓」があった。

 

俺の身長だけなら届かない高さだが都合が良い事に近くにゴミ箱があるのでそれの上に乗れば窓を覗く事は可能だろう。

 

 

 

だがしかし、

 

 

「やだ」

 

 

シロべえに視線を戻した俺は速攻で却下申請を突きつける。

絶対ロクな事にならない。覗いた瞬間にゾンビに襲われたら俺は逃げる暇もなく終わるだろう。

 

てかその覗いた窓の部屋にゾンビいたらどうすんの?

 

 

「覗いてみないの?中の状況が分かるかもしれないよ」

 

「冗談じゃねえよ。ここにまどかがいたら話は違うけどさ」

 

「そのまどかがピンチの時に君は何もしなかったってほむらが知ったらどうなるんだろうね?」

 

「・・様子を見るためにも一応覗いてみるよ」

 

 

却下申請をシロべえに破棄された俺は渋々ゴミ箱を窓近くに引き寄せその上に乗る。

思ったよりも足場が安定しない。何があるか分かんないしさっと見てさっと降りよう。

 

 

「まあ、ここにまどかがいるわけ、いたよ!まさかの!」

 

 

恐る恐る窓を覗くとそこにはとっても見覚えのあるピンクツインテールが震えながら俺に背中向けて扉を見つめていた。

 

 

間違いない!まどかだ!ここに逃げ込んだんだ!

 

 

ひょっとしてこれはチャンスか?

 

 

ここでまどかを救出すれば魔女エンカウント回避出来るんじゃね?

よし!すぐ助けよう!

 

 

俺は早速窓をコンコンと叩いて注意を引く。

 

音に気付いたまどかはビクッと肩を震わせてゆっくり振り向いた。

音の正体が俺だと分かると強張った表情がパアッと花が咲いたような笑顔に変わってこっちに駈け寄ってきた。お前は飼い主を見つけた子犬か。

 

 

窓を開けてもらいまどかと対面。

 

 

 

「まどか大丈夫!?」

 

「優依ちゃんひょっとして助けにきてくれたの!?」

 

「え・・?うん、まあそんなとこ・・」

 

 

本当の理由は別にあるのでその嬉しそうな笑顔をまともに見れない。

目を逸らしながら曖昧に応えるしかなかった。

 

 

「本当に?ありがとう、嬉しい。とっても怖かったから・・」

 

 

本当に怖い思いをしたらしく俺の顔を見て涙ぐんでいる。

決して俺の顔が怖いから泣いてるとかではないと信じたいが真相はどうだろうか。

 

て、こんな事やってる場合じゃない!

 

 

「話はあと。ほむら達にここの場所知らせたからその内来るはず。俺たちはとにかくここから離れよう。ほら手を貸すから掴まって!」

 

「うん!ありがとう優依ちゃん!」

 

 

差し出した手を嬉しそうに掴むまどか。

 

それは別にいいけど何で照れたようにはにかんで躊躇いがちに掴むんだ?

恥らってる場合じゃないだろうが!

 

 

現に今も扉の方からドンドンと叩く音がひっきりなしに聞こえてくる。

すぐには破られないだろうが魔女の事もあるし時間の問題だ。

 

 

急いで引っ張り上げるしかない。

 

 

腕力幼児並の俺に人ひとりを引っ張り上げる事が出来るのか心配だが時間がない。

とにかく早くここから出ないと!

 

 

「引っ張るぞまどか」

 

「うん、お願い」

 

「よいしょ!・・え!?」

 

 

軽っ!まどか軽い!まるで天使の羽が生えてるような軽さだ。

これなら俺でも順調に引っ張り上げられそうだ。

 

 

 

 

「優依気を付けて!魔女の気配だ!」

 

 

 

「・・え?」

 

 

本当に俺は邪神に嫌われてるらしい。

あともう少し。まどかが窓に足を引っかける直前、シロべえの鋭い声がした。

それに気を取られてる間にグッと凄い力で腕を引っ張られる。

 

 

「うお!」

 

「きゃああ!やだ!」

 

 

慌てて顔を向けるとまどかの周りに青いもやみたいなものが絡みついていてそれが彼女の身体を部屋の奥に引っ張っている。

 

 

どうやら「ハコの魔女」がおいでなさったらしい。

まどかに狙いを定めたようで結界内に引っ張りこむつもりみたいだ。

 

まどかを危険な目に遭わせでもしたら紫のセコムが黙っていないというのに恐れ多い奴。

 

 

「く!」

 

 

どんどん部屋の奥にまどかの身体が引きずられていく。

必然的に彼女と手を繋いでいる俺も引っ張られる。

 

 

このままじゃ結界の中に連れ込まれる!それは嫌だ!

 

 

何とか踏ん張ってまどかを引っ張るも当然ながら力は魔女の方が勝り気づけば俺の上半身は部屋に入り込んでいた。

 

 

「やばい!」

 

 

これはもう無理!引っ張り出すの不可能!

 

シロべえが俺の足を掴んでくれてるけど素の身体能力は意外と貧弱だから焼け石に水にもならない。

 

 

「きゃあ!優依ちゃん!」

 

「ぐ!ちょ?え?まどかさん!?」

 

 

魔女に捕まったまどかはこれでもかという程ありったけの握力を使って俺の手を潰しにかかってくる。

これまでの力とは比べものにならない程の本気度な気がする。

 

 

いたああああああああああああい!!まどかお願い!

 

 

俺の手が潰れそうだから離してえええええええええええええええ!!

 

 

俺の手の配慮など皆無に近いまどかは手を離す素振りなど見せずそのまま俺を掴んだまま魔女に引きずられていく。

 

道連れ!?俺を道連れにする気なの!?

まどかって無理心中するタイプだったの!?

 

 

 

そういうのはほむらとやってくれ!喜んで付き合ってくれると思うから!

 

 

 

「優依ちゃん!わたしの事はいいから手を離して!」

 

 

何寝ぼけた事言ってんだ!?

お前が俺の手を離さないから一緒に引きずられてるんだろうが!

血が止まりそうなくらいガチガチに俺の手を掴んでるのが見えねえのか!?

 

 

「早く手を離して優依ちゃん!」

 

 

だったら早く手を離してくれまどか!

言ってる事とやってる事が真逆になってんぞ!

 

 

 

「あ・・!」

 

 

とうとう足が宙に浮いてしまいそのまま窓の中に落ちていく。

 

 

 

 

「いやあああああああああああああああああああ!」

 

 

 

 

「優依!」

 

 

シロべえの慌てた声が後ろで聞こえたが時すでに遅く俺はまどかの道連れで魔女の結界に取り込まれてしまった。




人というのはパニックになると自分を客観視出来ないのものです。
今回のまどかちゃんが良い例。


ちなみに優依ちゃんは「ぐで〇ま」の大ファン!
どれくらい好きかと言えばシロべえにドン引きされるレベル!


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67話 フィルターって怖い

今日から12月!
あっという間に新年ですね!


今年中に杏子ちゃんを登場させたい・・。


まどかside

 

 

「ソウルジェムは私たち魔法少女の魂よ」

 

 

「・・え?」

 

 

開口一番に言われた事を理解出来なくてポカンと口を開ける。

 

喧嘩がひと段落して、ほむらちゃんが話があると言われてマミさんの部屋にもう一度お邪魔させてもらった直後の事。

いきなり紫に輝くソウルジェムをわたしの目の前に差し出されそう告げられた。

 

 

 

「ごめん・・今なんて言ったの?」

 

 

「・・キュゥべえとの契約時に私たちの魂は取り出されて形をなす。それがソウルジェム。貴女が考えているようなただの変身アイテムではないの。魔法少女の命そのものよ。だから身体をいくら傷つけられても治す事が出来るけどこれを砕かれると私たちは死ぬわ」

 

 

ほむらちゃんがわたしが理解出来るように噛み砕いて説明してくれる。

そのおかげで内容は理解出来たけど受け入れられるかは話は全く別。心は理解するのを拒否してる。

 

最初は嘘かと思ったけど対面する形で座ってわたしを真っ直ぐ見つめる瞳は真剣のそのもの。

ほむらちゃんは本当の事を言っているのが嫌でも分かった。

 

そんなわたしたちの様子を少し離れた場所で座るマミさんはとても心配そうな表情で見つめている。

でも今のところ話に入る気はないみたいで口を噤んだまま。

 

この部屋にいるのはわたしたち三人だけ。

優依ちゃんはここにはいない。さやかちゃんが心配だからと病院に向かってるから。

 

 

こうして三人で話してるなんて信じられない。さっきまでの喧嘩が嘘みたい。

優依ちゃんがさやかちゃんの所へ向かった後、更に激しく喧嘩していたのに。

 

 

 

あの時は本当にどうしようかと思ったけど・・やっぱり優依ちゃんは凄いね。

その場にいなくても二人の喧嘩をあっさり鎮めちゃうんだもん。

 

 

マミさんとほむらちゃんを仲裁するために使った優依ちゃんの写真は効果があったみたい。

 

優依ちゃんの幼少期の写真。

以前優依ちゃんの家にさやかちゃんと遊びに行ったときに見せてもらったもの。

優依ちゃんが目を離した隙にさやかちゃんが勝手に携帯で撮影してたみたいで「優依には内緒だよ」ってこっそり送ってきた。

 

幼少期の優依ちゃんはふわふわの髪を今のわたしみたいにツインテールにしてて無邪気に笑うその姿は天使みたいでとっても可愛かった。

さやかちゃんが無理やり送ってきたものだから、すぐ消そうと思ったんだけどすごく勿体なくて今の今までこっそり取っておいた。まさか使う日が来ると思わなかったよ。

 

 

わたしがどれだけ止めても喧嘩は止まらなかったからダメ元で二人に「優依ちゃんの子ども時の写真欲しい?」と小声で言ったら一瞬で喧嘩が止まった。

 

その後は凄い勢いで頂戴と二人にせがまれて怖かった。

よっぽど欲しかったんだね。

 

確かにそれくらい小さい優依ちゃんは可愛かったもん。

喧嘩なんてやってる場合じゃないよね!

 

 

 

「・・・まどか?」

 

 

「へ?あ、ごめん!ボーっとしてた!」

 

 

反応のないわたしをほむらちゃんは心配そうな表情で声を掛けてくる。

それでハッと我に返り慌てて手を振って何でもない事を伝えた。

 

 

あまりのショックにいつの間にか現実逃避してたみたい。

ダメダメ!今は大事な話をしてるんだからちゃんと聞かなくちゃ!

 

 

「ごめんね!えっと、それでソウルジェムは魔法少女の魂なんだよね・・?何とか飲み込めたよ。それがわたしに伝えたかった事?」

 

「それだけじゃないわ」

 

「え?・・まだあるの?」

 

「・・まどか、貴女は魔法少女は最後どうなると思う?魔女はどこから来ると思う?」

 

「え?え?そんなの普通の少女に戻るんじゃ・・?魔女ってどこか別の世界からやってきたとかじゃないの・・?」

 

 

ほむらちゃんの急な質問にしどろもどろになりながらも回答したけどかなり恥ずかしい事言ってしまったと思う。

 

きっと呆れられる、そう思って恥ずかしい気持ちで俯きがちで二人を見た。

だけど肝心のほむらちゃんとマミさんは呆れるどころか顔を見合わせて悲しそうな表情をしていた。

 

 

・・嫌な予感がする。

 

 

 

「まどか落ち着いて聞いてちょうだい」

 

 

「・・うん」

 

 

ほむらちゃんが少し辛そうに顔を歪めて口を開いたから少し身構えながら頷いた。

この様子からきっと言おうとしているのはソウルジェムの秘密と同じくらい衝撃的な事実なんだとなんとなく察しがつく。

 

 

「魔法少女が絶望してソウルジェムが黒く濁ってしまえばグリーフシードとなり私たちは魔女に生まれ変わる」

 

「え?魔女・・?」

 

「魔法少女はいずれ魔女となる運命なのよ」

 

「・・・え?」

 

 

部屋はしんと静まりかえる。

 

ほむらちゃんは少し顔を歪めてわたしから目を逸らす。

マミさんは辛そうに顔を俯かせている。

 

 

魔女は魔法少女?

じゃあ今まで出会った魔女は全部、魔法少女?

 

 

それが本当ならほむらちゃんとマミさんはいつか・・。

 

 

「っそんな!?嘘だよね!?じゃあほむらちゃんもマミさんもいつか魔女になっちゃうって事!?」

 

 

結論が出るよりも先にわたしは叫んでた。

 

 

嘘だって言ってほしい。冗談だって笑ってほしい。

これが現実だなんて思いたくない!

 

 

縋るような気持ちでほむらちゃんを見るもただ首を横に振られるばかり。

 

 

「ええ、そうよ。私たちはいずれ魔女になる」

 

「・・・!」

 

 

きっぱりとそう言い切られて何も言えなくなってしまった。

 

呆然とするわたしにほむらちゃんはその後も淡々と説明を続けていく。

 

 

キュゥべえの正体は宇宙人で宇宙の寿命を延ばすために魔法少女の感情を利用エネルギーを集めていること

 

魔法少女が魔女になるときに発生する希望と絶望の相転移の感情エネルギーを欲していること

 

魔法少女として凄まじい素質を持つわたしは魔女になれば信じられないくらいのエネルギーが手に入るからキュゥべえはわたしを魔法少女にしようと狙っていること

 

 

どれも今のわたしを追い討ちするような話ばかり。

 

 

 

「貴女の憧れていたものの正体がこれよ。間違っても魔法少女になるなんて言わないで」

 

 

「・・・・・・」

 

 

なるも何も初めからなるつもりなんてなかった。

優依ちゃんと約束したもん。魔法少女にはならないって。

 

 

でも、そっか。やっぱり危険な事なんだ。良かった、契約しなくて。

魔法少女になる前に知れて本当に良かった。

 

 

 

・・・・え?

 

 

咄嗟に思った自分本位な考えにぞっとする。

 

 

 

わたし何考えてるんだろう?

 

ほむらちゃん達が辛そうな表情で真相を話してくれたのに自分は無事で良かったってそんな最低な事考えたの?

 

 

 

さやかちゃんは魔法少女の秘密を知らない。

何も知らないから契約しちゃうかもしれないのに、わたし何やってるんだろう?

どうしてさやかちゃんにこの事を話しにいこうとせずにただ黙って座ってるだけなの?

 

 

動こうとしない自分の身体に不甲斐なさと苛立ちで涙が出そうになる。

 

どこまでも情けない自分に吐き気を覚えそう。

 

 

「・・?」

 

 

自己嫌悪にまみれるわたしの背中に暖かい何かがふれている?

それは労わるように背中を優しく撫でてくれている。

 

 

「鹿目さん」

 

「マミさん・・」

 

 

わたしの背中をそっと撫でてくれたのはマミさんだった。

背中に触れた手は制服越しなのに暖かった。

 

 

「辛いけど暁美さんの言った事は本当よ。魔女になるのはともかくソウルジェムは魔法少女の魂だという証拠はこの目ではっきり見たの」

 

「マミさんとっても落ち着いてるように見えますけどその事実を受け入れたんですか?とっても酷い事なのに?」

 

 

気づくとマミさんにそう言っていた。

 

見た感じマミさんは傷ついた表情をしてるけど冷静さも感じられる。

ただの一般人のわたしはともかく当事者のマミさんにとっては残酷な真実のはず。

 

とてもじゃないけどすぐに立ち直れるようなものじゃないなのにどうして?

 

 

じっと答えを待っているとマミさんはキョトンとしていたけどやがて穏やかに微笑んで口を開いた。

 

 

「そうね、本音を言えばまだショックを引きずってるけど私は大丈夫よ。もちろん最初にこの話を聞いたときは受け入れられなかった。これでも正義の魔法少女だったんですもの。自殺しようと考えた程よ」

 

「え?」

 

「でもね、そこまで絶望していたわたしを優依ちゃんが慰めてくれたの」

 

「!」

 

 

マミさんの口から優依ちゃんの名前が出てきたからピクッと反応してしまった。

恥ずかしいと思ったけどどうしても気になるからそのまま耳を澄ます。

 

 

「自分の存在意義を見失っていた私に優依ちゃんは『マミちゃんが必要だ』ってはっきり言ってくれて抱きしめてくれた。一人で不安にならないようにずっと寄り添ってくれたの」

 

 

その時の事を思い出しているのかマミさんは頬を染めてうっとりとした表情をしててとても幸せそう。

 

 

「・・・・・・」

 

「ひっ」

 

 

何だか威圧感を感じてそれがする方向に顔を向けるとほむらちゃんから凄い圧力を放っていた。マミさんを見る目がとても冷たい。

 

色々あったからすぐに仲良くとかまではいかなくてもそんなに憎々しげに睨まなくてもいいと思うのに。

 

 

・・でも、その気持ち少し分かるかも。

 

 

まるで優依ちゃんと一番仲良いのは自分だって言ってるみたいで何だかやだなぁ。

胸がモヤモヤする。わたしの方が優依ちゃんとクラスも一緒で仲良しだと思うのに。

 

 

そんな事をここで競い合っても肝心の優依ちゃんはここにはいない。

 

 

きっと今はさやかちゃんと会ってるはず。どんな話をしてるんだろう?

まさかさやかちゃん、もう契約しちゃったのかな?

 

優依ちゃん、出来ればここに・・傍にいて欲しかったな・・。

行かないでって言えばここにいてくれたのかな・・?

 

 

「だから私は正義の魔法少女としてはなく優依ちゃんのために生きるつもりなの。だって私を必要としてくれるあの娘を悲しませるなんてそんな事出来ないわ」

 

 

嬉しそうに話すマミさん。迷いはないみたい。それはこの会話だけでも十分に分かる。

きっとこれからもマミさんは戦い続けるんだろうな。

 

 

・・・・優依ちゃんがマミさんの傍で支える限り。

 

 

「そうですか・・」

 

 

幸せそうに声を弾ませてハキハキと言い切るマミさんにモヤモヤして気持ちを抱いているのを悟られないように俯きながら言うのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・」

 

 

ため息を吐きつつゆっくり歩を進める。

もう空はかなり暗くなっているけど街の中はとても明るい。

わたしの気分は夜と同じようにとっても重くて暗い。

 

ほむらちゃんとマミさんは魔女退治があるからとわたしを残して出かけてしまった。

今日は泊まっていきなさいとマミさんは言ってくれたけど今はどうしてもそんな気分にはなれなくて書き置きを残して部屋を出て当てもなくぶらぶら街を歩く。

 

 

家に帰るのも何だか気が重い。とにかく今は一人になりたかった。

 

 

魔法少女の真実がショックだったのはもちろんある。だけどそれだけじゃ説明つかない。

何故か魔法少女の真実以上に辛かったのが優依ちゃんの事を楽しそうに話すマミさんを見る事だった。

 

 

 

どうしてなのかは自分でもよく分からない。

 

 

 

 

 

「さやかちゃん大丈夫かな・・・?」

 

 

 

 

色々不安はあるけど今は一番心配なのはさやかちゃんだ。

 

 

試しに電話したけど繋がらない。

 

 

これからどうしようと思い足取りで街中を歩きながら胸に感じるのは自己嫌悪と罪悪感

 

 

マミさんやほむらちゃんが目の前にいるのにわたしは魔法少女にならなくて良かったなんて思った。

そして嬉しそうに優依ちゃんの事を話すマミさんにムッとするなんて・・わたしどうかしてる。

 

歩いてれば少しは気が晴れるかなって思ったけど全然そんな事なくて、むしろ歩けば歩くほど気が重くなっていくばかり。

 

 

「はあ・・。あれ、優依ちゃん・・?」

 

 

再度ため息を吐いて何気なく周囲を見渡したら見覚えのある長い髪が遠くで揺れているのが見えた。何か急いでるみたいで必死に手足を動かして走っている感じ。

 

 

優依ちゃんだよね?ううん、絶対優依ちゃんだ!

今追いかけて行ったら追いつけるかも・・?

 

 

「優依ちゃん!」

 

 

気づいたらわたしは走っていた。

 

 

優依ちゃんと話したい。まさか偶然会えるなんて!

 

 

何度も呼びかけても向こうは気づいていないのか立ち止まる様子も振り向く様子もない。

 

 

そんなの関係ない!とにかく今は優依ちゃんの顔が見たい!

 

 

それだけの思いで必死に足を動かしていたら何とか追いつく事が出来た。

肩を掴んで見えた顔は案の定、優依ちゃんだった。

嬉しくて嬉しくて息が途切れがちだったけどつい笑顔になってしまう。

 

 

 

「まどか」

 

 

優依ちゃんがわたしの名前を呼んでくれるだけで心が軽くなる。

わたしを見てくれるだけでさっきまで落ち込んでいた気持ちが嘘みたいに消えていく。

 

 

でもその優依ちゃんからさやかちゃんが契約したという話を聞いた時はまた心が重くなった。

 

 

それだけじゃない。

今度はさっきまで感じていた罪悪感とは比べ物にならない程わたしの心に重くのしかかる。

 

 

「優依ちゃん、ちょっといいかな?」

 

 

気づけばわたしはそう口に出していた。

 

ほむらちゃんとの会話を話していると知らず知らずの内に涙が溢れてくる。

話すたびに自分の嫌な部分が目に見えるようで苦しい。

 

 

一番辛いのは魔法少女の皆のはずなのにわたしに泣く権利があるの・・?

 

 

「ごめんなさい、わたし弱い子で・・」

 

 

我慢出来なくなって頬に涙が流れていく。

 

 

こんなはずじゃなかったのに。

とにかく優依ちゃんに話を聞いて欲しかっただけで困らせるつもりはなかった。

 

無理に話を聞いてもらったのに泣くなんて困らせるだけなのに・・。

 

 

 

「・・・ ?」

 

 

自己嫌悪で涙が止まらないわたしの頭にそっと何かが置かれる。

それはとても暖かくて思いがけず涙がピタリと止まって顔を上げる。

 

 

「大丈夫だよまどか」

 

 

上を見上げると優依ちゃんがわたしの頭を優しく撫でてくれていた。

マミさんとはまた違うぎこちない手つきだったけどそんなの関係ない。

 

 

わたしを安心せるような優しい笑みで胸が高鳴っていく。

その優しい笑顔で優依ちゃんはわたしの事を優しいと言ってくれた。

それを言葉で否定しても心は求めていたみたいでストンと胸に入ってくる。

 

また泣きそうになった。

今度はさっきと違って辛い涙じゃない。

 

 

「ほらほらそんなに泣いてたらせっかくの可愛い顔が台無しになるよ?」

 

 

そう言ってわたしの目尻の涙を拭う優依ちゃんはまるで王子様みたいに格好良かった。

 

おかしいかな?優依ちゃんはどっちかっていうと容姿はお姫様みたいなのにね?

でもおかげで心が軽くなっていく。全て上手くいきそうな感じがする。

 

魔法少女のことだってきっと何とかなるかも。

わたしの素質が本当に凄いなら願いでどうにかなるかもしれない。

 

 

 

・・・もしわたしが魔法少女になったら、優依ちゃんはわたしの事支えてくれるかな?

 

 

 

 

そんな事を考えつつ、つい優依ちゃんにギュッと抱き着いちゃったけど後悔してない。

 

 

 

この時のわたしは出来るだけ優依ちゃんと傍にいたいとしか考えてなくて魔法少女の事もさやかちゃんの事もすっかり忘れてた。

 

 

だからそれの罰がきっとあたったんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ・・どうしよう」

 

 

優依ちゃんを家に招待しようと手を繋いだ直後、魔女の口づけをされた仁美ちゃんに出会った。

少しだけ会話したけどどこか虚ろな様子が心配になって付いていったら途中で同じ魔女の口づけがされた人たちと合流して人気がない廃れた工場に辿り着いた。

 

これから何が起こるか分からない。

ただ不安が募っていくばかり。

 

 

 

 

「・・優依ちゃん」

 

 

心細くなって名前を呟いてみるも優依ちゃんはここにはいない。

仁美ちゃんを追おうとするわたしを優依ちゃんが止めたけどそのまま振り払ってきてしまったから。

 

 

ううん、違う。

 

 

本当は優依ちゃんも一緒に来てくれる事を期待してた。

でも優依ちゃんは行かないとはっきり言われてしまってそれが悲しくてわたしは逃げるように仁美ちゃんについていったんだ。

 

 

感情だけで動いてしまった自分の浅はかさで優依ちゃんの警告を無視してしまった事に今更ながら後悔が募る。

 

 

「・・あれ?」

 

 

ぼーっとしてる間に動きあったみたい。

集まった人の中央に置かれたバケツに何か注ぎ込もうとしてる?

 

 

目を凝らしてみるとそれは塩素系の漂白剤だった。

それを量を気にせず流し込んでいる。

 

その後に今度はさっきと違う漂白剤を持った人がやって来て、それを同じバケツに入れようとしている。

 

わたしはそれをぼんやり眺めていた。

 

 

あれ?前にママが何か言ってたような・・?

あ!別の漂白剤と混ぜると危ないって!

 

 

じゃあこれってまさか・・!

 

 

「だめ!」

 

「いけません鹿目さん!これは神聖な儀式なのです!」

 

「!?」

 

 

今から何が起きるか悟ったわたしは急いで止めようとしたけど近くにいた仁美ちゃんに腕を掴まれてしまう。

 

 

「邪魔をしてはいけません。私たちはこれから素晴らしい世界へ旅に出ますの。それがどんなに素晴らしい事か鹿目さんもすぐに分かりますわ」

 

仁美ちゃんの演説に周囲に人は拍手喝采を送っていてゾッとする。

 

 

 

このままじゃわたし・・。怖い・・!

どうしよう優依ちゃん。わたしどうすればいいの?・・助けて!

 

「あ・・・」

 

恐怖でぎゅっと手を握ると何か固いものを握りしめていたらしくチクリと痛む。

手を開いて確認すると、それは優依ちゃんが好きなぐで○まのストラップだった。

 

どうしてここにあるの?

 

カバンを渡した時に引きちぎっちゃった?

それとも優依ちゃんがわたしに持たせてくれたの?

 

 

手の中にある理由は分からない。

でもこれを見た瞬間感じていた恐怖は和らいでいた。

 

 

だって優依ちゃんが傍にいるような感じがするもん。

 

 

後でどうしてわたしがぐで〇まを持っているのか聞かなきゃ。

そのためにはまずこの状況を何とかしないと!

 

 

ギュっとぐで〇まを握りしめて祈る。

 

 

 

 

お願い優依ちゃん!力を貸して!

 

 

 

 

「離して!」

 

「!」

 

 

自分に気合を入れて、わたしを拘束する仁美ちゃんを突き飛ばす勢いで振り払い一目散にバケツに向かって駆け出し、あっとういう間に辿り着く。

突然の出来事だからか仁美ちゃんだけじゃなく工場の中にいる人は誰も動かないでわたしのようすをただ見ていた。

 

 

今の内に!

 

 

掴んだバケツを近くの窓めがけて放り投げる。

ガシャアアアンとガラスが割れる音が響きバケツは外に向かって飛んで行ったのを確認する。

 

 

「はあ、はあ・・これで大丈夫・・じゃない!」

 

 

一息つく暇もなく後ろから大勢の足音が聞こえたから慌てて振り返ると工場の中にいる人たちがわたしを囲むようにゆっくり近づいてくる。

邪魔されて怒っているのか殺気立った様子でうめきながらわたしとの距離を縮めていく。

 

 

「やめて!」

 

 

怖くて思わず後ずさるけどそれに反応するように向こうもゆっくり近づいてきてる。

 

 

「来ないで!」

 

 

恐怖で固まる身体に喝を入れてたまたま目についたドアを目指して一直線に走った。

後ろからバタバタと足音が聞こえるから追ってきてるのが嫌でも分かる。

 

部屋に入り、追いつかれる前に何とか扉を閉じる事が出来たけどその後どうするか全く思いつかない。

 

 

「どうしよう?どうしようどうしようどうしよう?」

 

 

ドンドンと扉を叩く複数の音が聞こえる。

すぐには入って来れないだろうけどいつまでもつか分からない。

 

恐怖と不安で胸がいっぱいになってじわっと今日何度目かになる涙が浮かんできた。

 

 

助けなんて来るはずもないし、わたしこれからどうすればいいの・・?

 

 

トントン

 

 

「ひっ!」

 

 

後ろから叩く音が聞こえて小さく悲鳴をあげた。

 

 

まさか回りこまれた・・?

 

 

最悪の展開に想像して中々思うように首が動かせなかったけどいつまでもこうしてる訳にはいかない。勇気を振り絞って顔を音のする方に向けた。

 

 

「! あ・・!優依ちゃん・・?」

 

 

振りむいた先にいたのは優依ちゃんだった。

わたしの頭二つ分の高さはある窓から覗き込む形でガラスを叩いている。

 

え?どうして?さっきは行かないって言ってたのに優依ちゃんはここにいるの?

もしかして・・・わたしを助けにきてくれた?

 

 

胸に感じる嬉しさと安堵で笑ってるのか泣いてるのか今のわたしの顔がどうなってるか分からない。

今はそんな事よりも優依ちゃんの声が聞きたい。

 

すぐに近くにあった台を引き寄せて優依ちゃんがいる窓を開ける。

 

 

「まどか大丈夫!?」

 

「優依ちゃんひょっとして助けにきてくれたの!?」

 

「話はあと。ほむら達にここの場所知らせたからその内来るはず。俺たちはとにかくここから離れよう。ほら手を貸すから」

 

 

「!」

 

何でだろう?優依ちゃんは物語から飛び出したお姫様のような見た目。

そのはずなのに、今はとっても王子様に見える。

差し出された手は女の子の手なのにドキドキしてしょうがない。

 

 

「うん!ありがとう優依ちゃん!」

 

 

照れながらも優依ちゃんの腕に掴まるとすぐさまひっぱり上げられる。意外と力持ちみたいで身体はすぐに窓を抜け出してあっという間に足を引き上げれば良い状態になった。

 

 

 

 

「!?」

 

 

それなのにいきなりグッと後ろに引き戻されてしまう。

 

 

よく見ると何か煙のようなものがわたしに絡みついて後ろに引っ張ってくる。

きっとこの煙は魔女。部屋の奥の空間が歪んでいる。

 

わたしを結界に引きずり込もうとしてるんだ!

このままじゃ優依ちゃんも!

 

 

「優依ちゃん!わたしの事はいいから手を離して!」

 

 

でも優依ちゃんはわたしの手を離す事なく一緒に引きずられていくようにずるずる身体が引きこまれていく。わたしを絶対離さない。そんな事を語っているような苦悶の表情だ。

 

 

「早く手を離して優依ちゃん!」

 

 

もうほとんど優依ちゃんの身体は部屋の中に入ってしまっている。

周りの景色も魔女の結果になりつつあるのか部屋の原型がほとんどない。

 

 

「あ・・!」

 

 

ついに地面から足が離れてしまったのか優依ちゃんの身体はわたしに向かって倒れこんでくる。

その際、わたしを守るように身体を抱きしめてくれてこんな状況なのに心臓がうるさい。

 

 

 

 

どうしてわたしのためにここまでするの?

 

 

 

優依ちゃん死んじゃうかもしれないのに・・嬉しいだなんて・・やっぱりわたし少しおかしいよ・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユラユラ揺れる俺の身体。まるで水の中で漂っているようだ。

俺の周囲はメリーゴーランドがぐるぐる回っており場違いファンシーさを醸し出している。

 

どう見てもこれ「ハコの魔女」の結界ですね?ありがとうございますチクショウ!

 

ちなみに俺を結界内に引っ張り込んだ張本人であるまどかは絶賛気絶中。

魔女の結界に突入しそうになる際、うっかり抱き着いてしまったのでセクハラで訴えられないか非常に心配だ。

意識がないはずなのに俺の制服をこれでもかとしがみつきクリーニング確定なシワを生産している。

 

 

その俺たちの周囲に蠢く人形のような使い魔が複数いる。

名前は「エンジェルヤッ君」

 

だってコイツの見た目って某鼻毛真拳主人公のハジけた金平糖な相棒が持ってた人形とそっくりじゃん。

それに羽が生えてるから天使っぽいし。

 

そのエンジェルヤッ君が何やらコンピューター画面のようなものをこっちに向かって運んでいる?

 

 

 

「! 貞子さん!」

 

 

それを目にした俺は愕然とする。

 

 

まずい!エンジェルヤッ君に誘導されて「貞子さん」まで出てきた!

 

「ハコの魔女」もといニックネーム「貞子さん」

初見で見たとき本気で「貞子の魔女」かと思ってしまったからニックネームもそれに基づいたものだ。

 

 

ん?俺たちの周囲に何やらアカシックレコードのようなものが漂ってる?貞子さんに気を取られて気づかなかった。

あ!これはあれだ!相手の精神を攻撃するために見たくない過去を映し出すんだっけ?

 

原作まどかに見せたのは「マミる」。

でもこの時間軸では「マミる」は回避されたからどうなるんだ?

俺を揺さぶるものなんてあるのだろうか?

 

首を傾げている間にアカシックレコード的なものが映像を映すためか砂あらしが起こりやがてとある映像が映った。

 

 

 

「! こ、これは・・!」

 

 

 

 

映し出された映像は俺が熱心にゾンビシューティングしてる所を杏子がバッチリ目撃する場面の映像が流れている。

 

 

それだけじゃない!

 

 

トモっちが送りつけてきた百合漫画が杏子に見つかり土下座している俺

自棄になってほむらに泣きつく俺。

そしてまどかが輝かんばかりの笑顔を向けられる中、憔悴しきった表情でコスプレする俺。

 

 

 

 

全部俺の黒歴史じゃねえかああああああああああああああああああ!!

 

 

 

 

やられた!まさかこんな形の精神攻撃があるなんて!

 

 

すぐさま映像を止めたかったがユラユラ揺れる身体は思うように進まず手が届かない。

 

あくまで俺を集中砲火で精神攻撃するつもりらしい。

画面がまた砂あらしになり新しい映像が映る。それも勿論俺の黒歴史映像だ。

 

 

いやああああああああああああ!!

これ以上見せないで俺の黒歴史いいいいいいいいいいい!!




まどかちゃんフィルター:身体を張って助けにきてくるなんて優依ちゃんは王子様みたい!

現実:まどかちゃんに道連れにされた優依ちゃん


結論:フィルターって怖い!


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68話 女の子の騎士って萌えるよね

熊には冬眠があります。暖かい春に備えるためです。

冬が大嫌いな冷え性の人間にも冬眠は必要だと自分は思います!


「いやあああああああああああああ!!」

 

 

メリーゴーランドが漂う幻想的な景色の中、俺の羞恥な絶叫が木霊する。

ハコの魔女こと「貞子」さんに見せられてる黒歴史映像のせいでそろそろ俺の精神は崩壊しそうだ。

 

 

今なんて俺に吠えまくる犬を通りすがりの幼稚園児に追い払ってもらった映像で情けなさMAX。

 

 

こう振り返ると俺の今世って黒歴史ばっかな気がするのは気のせいじゃないな。

前世よりある意味悲惨だもん。こんなの絶対誰かに見せれらない。

 

幸いなのは隣にいるまどかが気を失っていてこの黒歴史映像を見ていない事だ。

もし見られていたら俺は確実に引きこもって二度とお日様の光を浴びる日が来ない自信がある。

そう考えればまだ救いだ。

 

ただまどかよ、気絶しているはずなのに人の制服をこれでもかというほどガッチリ掴んでるのは何故ですか?

既にシワシワ状態ですよ。君の握力マジでどうなってんの?

 

クリーニング確定で俺は涙目だよ。

 

 

「! ヤバ!」

 

 

黒歴史映像(&制服のシワ)に気を取られて気づかなかった。

いつの間にか俺たちの周りを「エンジェルヤッ君」たちが取り囲んでいる。

 

 

伸ばすつもりですね!?

 

 

原作まどかのように身体を引きちぎれるくらい俺をゴムのように伸ばすつもりですね!?

やめてください!子供ギャン泣きのグロ映像にしかならないから!

 

 

ゴム伸ばしならぬ俺伸ばしのために使い魔どもが俺の四肢めがけてゆっくり近づいてくる。

このままじゃ頭の中に浮かぶR-18指定のグロ展開待ったなし。

 

 

それは絶対嫌だ!どうにかしてここから逃げなくては!

頼む俺の運動神経よ!こんな時ぐらい奇跡を起こしてくれ!

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 

まどかを近くに抱き寄せつつ泳ぐ要領で必死に手足をバタつかせてみるも一ミリも進まない。

 

・・俺の火事場の馬鹿力はそう簡単に発揮してくれないようだ。

 

 

「ちょっ!?ヤバいヤバい!」

 

 

既にエンジェルヤッ君たちは俺に触れられそうな距離まで近づいている。このままでは伸ばされるのも時間の問題だ。

 

 

半泣きになりながら必死に手足を漕ぎまくるも前に進む所か後退すらしてるからガチ泣きしそう。

 

 

きっと第三者がこの光景を見たら相当マヌケは光景だろう。

 

 

・・ホントに泣きそうだ。

 

 

 

 

「!」

 

 

あ!目の前にエンジェルヤッ君が!

 

いやあああああああああああああああ!!

伸ばされるうううううううううう!!

 

 

「エンジェルヤッ君」が俺に触れる寸前、せめて自分の無残に伸びる手足を見たくなくてギュッと目を瞑る。

 

 

 

―――――!

 

 

 

 

突如突風が吹く。

 

 

その後すぐにガシャンと何かが壊れる音が聞こえた。

 

 

「? ・・あれ?」

 

 

痛みも伸ばされる感覚も何も感じない。

 

 

恐る恐る目を開けてみると近くにいた「エンジェルヤッ君」らしき残骸がぷかぷか浮いている。

何かに叩き壊されたように真っ二つだ。

 

 

「・・?」

 

 

再びガシャンガシャンと何かが壊れる音があちこちに聞こえたのですぐさま周囲に目を向けると似たような残骸があちこちに浮いている。

この謎の現象の正体が知りたくてもズバンと何かを切り裂く音とガシャンと壊れる音だけで姿が見えない。

 

 

 

一体これは何だ?

 

誰か助けに来てくれたのか?

マミちゃん?ほむら?

 

 

 

 

・・・・・・・まさか。

 

 

 

 

 

不吉な予感がしたが俺の心の安定のためにその考えを一先ず頭から追い払う。

 

それはともかくこの謎の現象は使い魔を倒しているのはラッキーだ。

ここは無暗に動き回らないでゆっくりメリーゴーランドを楽しみながら魔女を倒してくれるのを待っておこう。

それは一番安全そうだ。

 

 

軽い現実逃避と錯乱状態のせいでロクに頭が働かずガシャンガシャンと使い魔が倒されていく中、俺は景色を堪能していた。

 

 

 

うん、やっぱり景色だけは幻想的だ。

 

 

 

 

 

「・・ん?げ!」

 

 

結界内のメリーゴーランドに感心していたら生き残っていたらしい使い魔と目が合う。

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

一瞬の静寂の後、何を思ったのか使い魔は俺の元へ猛スピードで近づいてきた。

早い!逃げられない!もともと逃げられないけど!

 

 

「ちょ!来ないで!誰か助けてええええええええええ!!」

 

 

結界内に木霊する俺の絶叫。

 

 

普段なら軽く無視されるがどうやら今回は珍しく俺のSOSは叶ったらしい。

 

 

―ガシャン―

 

 

目を塞いで使い魔の攻撃に備えていたが再び壊れる音がする。

 

 

「・・・あ」

 

 

 

不思議に思ってゆっくり目を開けると俺の目の前に何かが立っていた。

その周辺には使い魔の残骸らしきものがぷかぷかと浮いている。

 

 

その何かは形からして人のようだ。

そいつは俺を守るように背中を向けて立っている。

 

 

 

白いマントをなびかせたその姿はさながら西洋の騎士と言った方が相応しい。

 

 

「・・・・・」

 

 

少しだけこちらを振り返ったその騎士は女の子の割に短い青色の髪にフォティッシモの髪飾りがついていた。

 

俺はそいつにとっても見覚えがある。

てか、病院で会ったし現時点での最大の懸念もとい重要人物。

 

 

 

その名も・・!

 

 

 

 

 

「『美樹さやか』だあああああああああああ!!」

 

 

 

 

この時発した声は本日一番の声量をしていたに違いない。

その証拠に結界全体に揺れを感じた。だが今の俺にとってはそんなの些細なことだ。

 

 

どう見てもあれ魔法少女なさやかちゃんじゃないですかああああああああああああああ!!

 

 

あやうく再び叫びそうになったがすんでで止める。

しかし俺の心の中は絶叫の嵐が発生中だ。

 

 

最悪だ!やっぱり契約していたのね!これほぼ魔女化確定じゃないか!

ひょっとしたら契約してないかもという俺の儚い希望は潰えた!

マジでほむらになんて言い訳しよう!

 

 

今後の事で顔を青ざめる俺を魔女に襲われた恐怖で青ざめていると勘違いしたらしいさやかは安心させるためにニコッと笑っている。

 

その笑顔は今の俺にとっては死神の笑顔に見えた。

 

 

「はああああああ!」

 

 

死を呼びそうな笑顔で笑ったさやかはすぐさま真剣な表情に戻って魔女の方に突撃していく。

それに対して魔女はさやかに俺にしたような精神攻撃をしようとするもそれより先に背後に回りこまれそのまま一太刀くらう。

 

壁に叩き付けられた「貞子さん」はめげずにもう一度何らかの映像を映し出そうとするもその前に再びさやかの剣をお見舞いされる。

それが何度か続き次第に魔女が可哀想になってくるほど一方的な虐殺に変わっていく。

 

 

俺はそんな哀れな光景をまどかを抱きしめつつ呆然と見つめていた。

 

 

うわあ・・こうして見るとさやかって案外強い。

あ、そういえばあの「貞子さん」の倒し方って何も考えずに攻撃する事だっけ?

 

 

さすが魔法少女一の脳筋!

 

 

頭を空っぽにするのはかなり得意なようだ。

そう考えればこの魔女との相性は非常によろしい。

 

 

ついでにプライベートの方も頭空っぽになってくれると非常に助かるのだが。

 

 

ガチでそんな事考えてる間に戦いの方は終盤に入ったらしい。

 

 

 

「これでトドメだぁ!」

 

 

 

そう叫んで繰り出された一撃は頭上から「貞子」さんの頭をかち割り地面に叩き付け大きな土煙が起こる。

 

その直後ベチャッという何か不吉な音がしたが俺はそんな事知らないし聞いてない。

女の子の頭的な何かが落ちたなんて見てない。絶対気のせいだ。

 

 

ほぼ一方的な攻撃での勝利。

そういえば原作のさやかって魔女との戦闘時、一方的な攻撃で叩きのめして勝利してたな。

あまりに苛烈な攻撃で魔女が可哀想になるほどだった気がする。くわばらくわばら。

 

 

魔女を倒したので幻想的な光景だった空間が歪み、俺が呆然とする間に元の工場に戻っていた。

この部屋どこか見覚えがある。

 

 

そうだ、ここはどうやらまどかが逃げ込んだ部屋だ。

という事は扉の向こう側にゾンビ共が・・!?

 

魔女を倒したからさすがにもう襲ってこないよね・・?

 

 

周囲を見渡してみるとこの部屋にいるのは俺と魔法少女のさやか、そして気絶したまどか。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

何ていうか気まずい。まどかは気を失ってるから実質さやかと二人きりみたいなものだ。

しかもそのさやかは恐れていた魔法少女の姿。

 

最後に俺とさやかが会ったのは病院の屋上近くの階段。

しかも契約するしないで押し問答していたのだ。

 

最終的にさやかに押し切られる形で契約されたんだ。

契約する、しないで揉めた上に必死で行った説得が上手くいったと思った途端まさかのどんでん返しの展開でまんまと契約されてしまったのだ。

 

俺にとっては裏切りに近い。ショックはまだ引きずっている。

さやかの方も負い目があるのか目が泳ぎまくってる。

 

 

・・お互いどんな顔して話せばいいんだ?

 

 

 

「や、やー、間一髪だったねー。遅くなっちゃってごめんごめん」

 

 

先手はさやか。どうやらこの空気に耐えられなかったらしい。

軽く頬をかきながらおちゃらけた雰囲気でこの微妙な空気を壊しにかかっている。

 

 

「・・・・・・・」

 

 

だが俺はそれに答える気は更々ない。

 

 

そうそう許せるはずがないというのもあるが、ある衝動が俺の中に渦巻いている。

油断すればそれはすぐさま爆発するから危険な状態だ。

 

 

ゆえに無視。

 

 

今の俺の感情は怒り3、とある衝動7の構成になっている。

会話なんてすれば爆発する可能性が極めて高い。

 

さやかには悪いが無視を決め込むしかない。

 

 

 

「まあ、心境の変化と言いますか、何ていうかその・・」

 

「・・・・・・・」

 

 

 

「・・ごめん優依」

 

 

しおらしく謝るさやかをそれでも無視する俺。

 

 

悲しそうに目を伏せているさやかに罪悪感はあるが自重のためにもだんまりを貫く。

今のさやかが何かリアクションを起こせば起こすほど俺は危険だ。

出来る事なら構わないでほしいがさやかの性格上無理だろうな。

 

 

・・結構キツイ。まどか気絶してないでさっさと目を覚ましてくれ!

 

 

 

 

 

 

「! ・・貴女は・・!」

 

 

「え?・・美樹さん・・?」

 

 

 

 

 

俺にも一応天の助けはあるらしい。

 

 

「ほむら!マミちゃん!」

 

 

絶妙なタイミングでやって来たのは制服姿のほむらとマミちゃん。

普段なら遅いわボケとキレる所だが今回はこのタイミングの登場のおかげで気まずい流れが遮断されたから見逃してあげよう。

 

電話に出なかったのは許さんけど。

 

 

「「・・・・」」

 

 

その遅刻二人はさやかの姿を見て状況を察したらしい。

みるみる内に険しい表情になってジッと睨んでくるから居心地悪そうにさやかは身をよじっている。

 

 

これからどうなる?

一応さやかに助けられたからフォローに回った方が良いのか?

 

 

そんな事を考えている内に事態は動いた。

 

 

ほむらがひとしきりさやかを睨んだ後、ゆっくり俺の方に近づいてくる。

 

 

あれ・・?ひょっとして俺からお叱りですか?

ヤバい!何の言い訳も考えてないぞ俺!

 

 

 

 

「神原優依どういう事?」

 

 

「すみませんでしたほむら様!これでも頑張って止めたんですけどさやかが勝手に契約しちゃいました!」

 

 

氷のような視線と声に耐えられなかった俺は速攻で思いついた言い訳を多分に含んだ謝罪を述べる。その際、気絶しているまどかを対ほむらの用の盾にして防御の姿勢だ。

 

 

卑怯とか最低とか勝手に言えばいい!俺は命が惜しいんだ!

 

さあ、まどかの前では貴様はどう攻撃に出る!?

来るならかかってこい!

 

 

しかし身構える俺の予想とは違い、ほむらの怒りは別にあるようで首を横に振っている。

 

 

「そんな事はどうでもいいのよ」

 

「え?どうでもいい・・?え?」

 

 

いやあんた、さやか本人が目の前にいるのにどうてもいいって・・。

 

 

だがそんな事言う余裕は俺にはない。

何故ならほむらは今まで感じた事ないくらい凄まじいオーラを発しているのだから。

 

どうやらマジギレという奴らしい。

何故だ?他に怒る事なんてやらかしたのか?

心当たりならいくつかあるけど・・どれだ?

 

 

! ひょっとしてまどかを盾にしてるの怒ってるとか?

ありえる!急いでピンクをほむらに渡さないと!

 

 

「すみませんでした!魔女に襲われて流れでこんな感じになってしまいましたがこの通りまどか様は無事ですので貴女様にお返しいたします!」

 

「まどかが無事ならそれでいいわ。それよりどうして貴女は巴さんにだけ連絡して私にはしなかったのかしら?私が怒ってるのはそれよ」

 

「え?・・はあ!?怒ってんのそこ!?お前にはまどかが連絡してたろ!緊迫した状況で同時に連絡したら二度手間じゃん!」

 

 

「そうよ暁美さん、優依ちゃんは悪くないわ」

 

 

思わぬ所から援護が来た。

ほむらから俺を守るようにマミちゃんがすっと前に立ってくれる。

 

マミちゃんが庇ってくれるからおかげでほむらの責めるような視線に晒されなくなったのは良いが、仲が良いとは言い難いこの二人が再び火花を散らしてしまい空気が非常に悪い。

 

 

「何が言いたいの巴さん?」

 

「簡単な事よ。まさかのピンチに慌てていた優依ちゃんは心の中で真っ先に思いついた人に連絡した。それが私だっただけじゃない」

 

「・・それはつまり優依は無意識に頼ったのが貴女だって言いたいのかしら?」

 

「あら、そんなつもりで言ったんじゃないわ。まあ、強いて言えばこれこそが積み重ねてきた信頼というものよ。それほど付き合いのない暁美さんと違ってね」

 

「・・・・・・・っ」

 

 

勝ち誇ったマミちゃんの笑みはとても綺麗だがどう見てもほむらに挑発してるとしか思えない。

その笑顔を第三者として見るのはいい。

しかしそれを向けられた当事者は屈辱以外の何物でもないだろう。

現にほむらは耐えるように拳を震わせて俯いている。

 

 

「それより今は美樹さんの事よ」

 

 

余裕綽々といった様子でさやかの方に向き直るマミちゃん。

ほむらはこのまま放置するつもりらしい。恐ろしい事だ。

 

置いてけぼり感があったさやかはボーっとしていたが、いきなり自分に振ってくるとは思わなかったのだろう。ビクッと肩を揺らして挙動不審な様子で目が泳がせている。

 

 

「な、何ですか・・?」

 

 

「美樹さやか、貴女自分が何をしたのか分かっているの?」

 

 

何故かマミちゃんの前に躍り出たほむらがキツイ口調でさやかに問い詰めた。

それはきっとまどかを心配させるさやかが許せないほむらなりの(まどかに向けた)愛情なのかもしれない。

 

しかし個人的にはさっきのマミちゃんの口喧嘩の腹いせにさやかに八つ当たりしてるようにしか見えない。

だって凄くイライラしてるの肌で感じるもん。

 

短慮にも程がある。ほむらはもう少し冷静だと思ったけどとんでもない。

暴走紫の汚名は当分返上出来なさそうだ。

 

 

それにしてもこれはまずい事になった。

 

だって八つ当たりしてるのがよりにもよってあのさやかだぞ?

反応しないはずがない。

 

 

「はあ?転校生のあんたにとやかく言われる筋合いはないわよ!」

 

 

案の定、ほむらに対して印象最悪なさやかは食ってかかってくる。

 

 

マミちゃんが穏やかに話を進めようとしたのにこれじゃぶち壊しだ。

どうしてくれるんだ紫このヤロウ。

 

 

「落ち着いて美樹さん。もう分かってると思うけど魔法少女になるという事は命がけなのよ?昨日の事だって優依ちゃんに助けられなかったら私は死んでいたわ。命を落とすリスクの事は考えてたの?」

 

「マミさんまで・・。これでもちゃんと決めて考えたんです。だからその・・」

 

「どうせ勢いで契約したのでしょう?」

 

「勝手に決めつけないで!あんたに何が分かんのよ!」

 

 

何がしたいんだほむらよ。

これじゃ会話もとい罵り合いが激化していく一方じゃないか。

 

唯一あの中で冷静なマミちゃんなのだがほむらの方に怪訝な表情を見せているだけで諌めるつもりはないらしく何も言わない。

 

 

まあ、そうだよね。

魔法少女の真相を知ってしまったから後輩が出来た事を素直に喜べないしほむらの気持ちも理解できる。

 

ある程度他の時間軸の話も聞いていて、その中にはさやかの魔女化も含まれている。

むしろ懸念が出来てしまったと思ってるのかもしれない。

 

 

なんせあの魔女化皆勤賞のさやかだ。

魔法少女を注文すればアンハッピーセットの魔女化がついてくるという全くいらないおまけ付き。

 

 

青だけ返品できないかな?

 

 

 

 

 

 

「優依!大丈夫かい!?」

 

 

 

 

三人の口論が響く中、まさかのタイミングでシロべえがやって来る。

 

 

このタイミングは空気読めと言われる瞬間だが俺としてはベストタイミングだ。

この重苦しい空気から脱する絶好の機会と言える。

だから俺が結界に引きずり込まれた際、手を離しやがった事は許してあげよう!

 

 

「シロべえ!ナイスタイミング!」

 

 

タタタと俺の元に走ってくる白い相棒にグッと親指を前に突き出す。

 

 

「はあ?何言ってんの?頭はともかく身体は怪我なさそうで良かったよ」

 

 

人の小馬鹿にしてんのか心配してんのかよく分からない返事が返ってきたが気にしないでおこう。

今日の俺は心が広いんだ。どんな事が起きても流せるぞ。そうじゃないとやってられないから。

 

 

「それで今はどういう状況なんだい?」

 

 

 

「ほら、あれ見て、あれ」

 

 

説明するより実際見た方が手っ取り早い。そう思った俺は顔を向ける。

それにつられてシロべえも同じ方向に視線を向けた。

 

 

目線を向けた先には今尚壮絶な女の戦いが続いている。

 

 

 

「あんたなんかに口出しされるいわれはないから引っ込んでてよ!」

 

「そうはいかないわ。貴女は魔法少女として絶望的に向いてない。もってせいぜい二週間と言ったところね」

 

「! 言わせておけば!」

 

「やめなさい二人とも!」

 

 

今尚続くドロドロした女同士の喧嘩。

まあ、喧嘩といっても主に青と紫の罵り合いといった感じだ。

そしてそれを黄色さんが仲裁しようと間に入っているが罵り合いが止まる気配は一切ない。

 

 

「うわ、女の戦いだね」

 

「まさしく」

 

 

シロべえと一緒に地面に座って修羅場を見学する。気分は昼ドラを観ている時のそれだ。

ただしお互い見ているものは絶対違うだろう。

 

 

シロべえは全体を見ている感じだが俺はひたすらじっとさやかを見つめている。

それはもう瞬きすら忘れてしまうくらい一心不乱といった感じにだ。

 

一瞬でも目を離してないけない。

謎の義務感にかられた俺はただひたすらさやかを見つめ続けた。

 

 

「やっぱりあの時に美樹さやかは契約してしまったんだね」

 

「うん」

 

「これはとんでもない失態だ。最優先はやっぱり彼女の魔女化回避かな?」

 

「うん」

 

 

 

「・・優依、駄目だからね。こんな時に空気読めない事しないでよね」

 

 

「・・・・うん」

 

 

 

どうやらシロべえは俺の考えてる事を察しているらしい。

珍しく釘をさすその声は酷く低い感じだった。

 

 

釘を刺されてしまったので迂闊な事は出来ないが流石の俺もそこまで空気を読めないわけではない。

こっちに絡んでこないのであれば全く問題ない。

 

しばらくは好きなように罵り合いをさせてあげた方がいいだろう。

じゃないと下手に止めて思わぬ飛び火がこっちに来るかもしれないから。

 

 

 

「優依!」

 

 

「!」

 

 

だというのに先ほどまで言い争いをしていたさやかが何故か泣きそうな顔でこっちに走ってきて俺の肩をグッと掴む。余裕がないのか加減なしのマジモードな力で掴んでくるので思わず顔を歪める。

 

 

「ごめん優依!これでも悪かったって思ってるんだ!あんたはあたしを危ない目に遭わせないように止めてくれたんだよね?あんたは他にも恭介の腕を治す希望があるって言ってくれたのに・・あたし・・」

 

 

いたたたたたた!痛い!マジで痛い!

 

 

激痛が肩に走り、さやかの謝罪がほとんど耳に入らない。

なんかしおらしい事言ってるっぽいが握力はしおらしさの欠片もない!

 

謝罪の前に離してくれないと許す以前の問題だからこれ!

 

 

「ねえ、お願いだからこっち向いて?」

 

 

向けるか!そんな余裕ないわ!

ほぼ握り潰されてると言っても過言ではない俺の肩の方が心配だ!

 

殊勝な顔してるけど肩にかかる握力半端ない!ギリギリいってるぞ!

 

 

「さやか離してくれ!」

 

「離さない!・・ねえ、どうしたら許してくれる?」

 

 

まずは離して!話はそこからだから!

 

 

あまりの痛みに声すら出なくなっているのを俺がわざと無視してると勘違いしたらしいさやか。

とっても傷ついたような表情で瞳がゆらゆら揺らいでいる。俺の方が泣きそうなのに勘弁してほしい。

 

 

 

「あたし、優依に嫌われちゃったの・・?」

 

 

 

すっと俺から手を離したさやかは泣きそうな顔で項垂れている。

万力のような力から解放された俺はようやくさやかの姿を間近に見る事が出来た。

 

いや見えてしまったのだ。

俺の中に蠢く衝動を抑えるためにあえてさやかに近づかなかったのにこれでは意味がない。

 

 

「・・・っ」

 

 

俺の目の前で泣くのを必死に我慢するさやかをまじまじと見る。

やはり遠距離と至近距離では見えるものが全く違う。

 

 

 

くそ!遠くだから何とか自制が出来たのにこんな至近距離に耐えられるわけがない!

 

何とか耐えるように拳をギュっと握ってみるも力をこめ過ぎたのか手が白くなるだけだ。

 

 

は!さやかがペタンと女の子座りして本格的に泣きそうになっている!

 

 

く!駄目だ!もう限界・・!

 

 

 

俺はとうとう自分の中にある衝動が溢れ出してきた。

 

 

 

 

「優依・・?」

 

 

 

俺はすっとさやかの前に立ち、大きく息を吸い今まで溜め込んでいたものを外に出すように大きく口を開き、そして叫ぶ。

 

 

 

「可愛い!最高だあああああああああああああああ!!」

 

 

本日何度目になるか分からない叫び声をあげながら俺はさやかに抱き着いた。

 

今の俺のテンションは最高潮だ!

 

 

 

「え?ひゃあ!?ゆ、優依!?」

 

 

さやかが何か言っているがそんな事気にしてられない!

 

なんてたって諦めていた肉眼でさやか(魔法少女ver)が見るという夢が叶ったんだからな!

不謹慎だけど幸せだ!魔女化コース一択だけど眼福だ!

 

 

「何!?え?え!?」

 

 

混乱するさやかなどお構いなしで俺はとくとさやかの衣装を観察する。

 

 

うむ!やはり可愛い!流石俺の中で好きな魔法少女衣装二大巨頭の一つ!

(※もう一つは杏子の衣装)

 

 

さっきまで感じていた衝動は可愛い魔法少女衣装に身を包んださやかを愛でまくりたくて感じていたものだ。

流石にシリアスな展開で空気読まない事はしたくないので遠巻きに見て満足しようと努めていた。

 

話なんてしたら速攻で衣装褒めちぎりに移行しそうなので自重の意味も込めて黙っていたのだ。

 

 

全てはさやかが悪いんだ!俺はこんなに我慢していたのに!

我慢していた分、存分に堪能しまくらなければいけない!

 

 

後ろで白い奴が「あーあ、やっちゃった。僕は知らないからね」とか言ってるけど俺の方が知るか!

 

 

今はこの素晴らしい衣装を存分に絶賛しなければ!

 

 

 

「さやかマジ最高!」

 

 

テンションが最高潮に達した俺は人目なんて気にせず魔法少女さやかを愛でまくる!

 

 

キャッホオオオオオオオオオオ!!




優依ちゃんの好きな魔法少女衣装は杏子ちゃんとさやかちゃんのもの。
彼女がその衣装をまとった二人を見るとハイテンションになりますw


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69話 長生きしたけりゃ軽率な事はするな

冷え性だから指がかじかんでパソコンしづらい・・。


さやかside

 

 

恭介の腕を治すためにあたしは魔法少女になった。

この気持ちに嘘はないし後悔なんてあるわけない。

 

 

そう思ってたのに・・。

 

 

「美樹さん・・どうして早まったの?」

 

「美樹さやか、貴女は何てことを・・!」

 

 

何で二人ともあたしを責めるような目で見るの?

 

 

 

 

魔法少女の契約をした後、気まずさもあってあたしは優依から逃げ回ってた。

そしたら魔女の反応がして急いでそこに向かったらまさかの優依と結界の中で鉢合わせ。

 

しかも何故かまどかまでいたし一体どうなってんの?

 

気になるけどそれは後回し。

このままだと二人は危ない。あたしにとっては魔法少女のデビュー戦。絶対に負けられない。

不安だったけど特に苦戦する事もなく魔女を倒す事が出来て初めてにしては上出来だったと思う。

 

でもその後が大変だった。

 

魔女の結界が消えて部屋にいたのはあたし達三人だけ。

おまけにまどかは気絶してるし実質優依と一対一の状態。

 

気まずい空気の中、色々話しかけたんだけど優依は勝手に契約したのを怒ってるのかあたしの話を全然聞いてくれない。謝っても顔を逸らして目も合わせてくれなかった。

 

 

しかもそのタイミングでマミさんと転校生がやって来る始末。

 

 

それは別に構わなかったんだけど転校生がいきなり喧嘩を売ってくるから売り言葉に買い言葉で口論に発展してしまった。

一応マミさんが間に入って止めてくれたけどあたしを見る表情はどこか険しかった。

言葉にはしないけどマミさんもあたしが契約した事を歓迎していないのは何となく分かる。

 

悲しいけどそんなの関係ない。

二人に何を言われても恭介の腕を治すために契約した事を誇りに思ってるから。

 

 

・・でも二人がある事を言い出して、あたしの心は揺らぎ始めてた。

 

 

「優依は貴女を止めに行くと言って大慌てで飛び出していったわ。体力がないのにあんなに慌てて・・でも結果はこのザマ。きっとあの娘は辛い思いをしてるでしょうね」

 

「美樹さん、優依ちゃんと会わなかったの?それともあの娘の言葉は貴女には届かなかったのかしら?」

 

「可哀想に。貴女の身勝手さのせいで優依は責任を感じてるみたいよ。現に私に連絡せずにずっと貴女を探してたんじゃないかしら?」

 

「優依ちゃんを見てごらんなさい。今も苦しそうな表情をしているわ。美樹さんの魔法少女の姿を見てからずっとよ。貴女の契約を阻止出来なかった事を後悔しているのかもしれないわね」

 

 

マミさんと転校生は優依を方を見ながら口々にあたしを責め立てる。

しかもさっきよりも声のトーンが下がってる気がする。

 

 

何だかあたしが契約したというよりかは優依の思いを無駄にした事を怒ってるみたいだ。

二人につられて同じ方を盗み見るとそこには優依がいた。

 

 

「・・・・」

 

 

いつの間にか現れたキュゥべえと何か話してるみたい。

でもその表情は何かに耐えるようにとても辛そうで俯かせている。

 

何で?何で目を合わせてくれないの?

優依が辛そうにしてるのってあたしのせいなの・・?

あたしが止める優依を振り切って契約しちゃったから・・?

 

 

じっと優依の顔を見ていると視線を感じたからか一瞬目が合ったけどすぐ逸らされてしまった。

顔を下に向けてあたしと目を合わさないようにしてる。

些細な事なのにとても傷ついてるみたいでさっきから胸が痛い。

 

 

謝らなきゃ・・!

 

許してくれなくてもいい!あたしが出来るのはこれだけなんだ!

 

ずっとこのままじゃ嫌!

 

 

 

 

 

「優依!」

 

 

 

 

はやる気持ちで優依に近づいて肩を掴む。

驚いた優依は顔を上げてあたしと目が合った。

 

そのままあたしは今言える精一杯の謝罪をするも優依は顔を歪めるだけで肩を掴んでるあたしの手をどけようと必死に抵抗してる。

 

 

「ねえ、お願いだからこっち向いて?」

 

「さやか離してくれ!」

 

「離さない!・・ねえ、どうしたら許してくれる?」

 

 

拒絶の言葉と裏腹に絶対離れないようにもっと力を込めて優依にしがみついた。

それが嫌だったのか分からないけど隠そうともしないあからさまな嫌悪の表情であたしを見下ろす姿はとても怖い。思わず怯んでしまったけど何とか優依に許してもらわないと。

 

 

そんな押し問答の後、無言であたしを引き剥がそうとする優依の様子に嫌でも拒絶されている事が分かる。

その事実が胸を抉られてるような痛みを感じて頭が真っ白になる。

 

遠くで誰かが手遅れだよと囁いてるみたい。焦点がきちんと定まらなくなってそのまま膝から崩れ落ちる。

 

 

目の前が真っ黒になるってこういう事なんだね。

 

 

 

「あたし、優依に嫌われちゃったの・・?」

 

 

 

口に出して言うと優依に嫌われた悲しみが徐々に実感させられて目頭が熱くなってきた。

 

 

うぅ・・涙が出てきた。あたしの馬鹿!

こんな所で泣いたら優依に面倒臭い女だって思われちゃうじゃん。

 

 

でも・・涙が止まらないよ・・。

 

 

涙を見られないように俯くも優依は気づいてないのか無視してるのか声を掛けてはくれなかった。

 

きっと優依は面倒くさい女だって思ってるかも。

ほら、今だって泣くなうっとうしいって怒ってるのか優依の身体が怒りで小刻みに震えてるもん。

 

 

どうしよう、これじゃ完全に嫌われちゃう・・。

ちゃんと謝らなきゃいけないって分かってるのに軽い嗚咽のせいで思うように言葉を言えない。

 

 

救いようないよあたし・・。

 

 

 

「可愛い!最高だあああああああああああああああ!!」

 

「え?ひゃあ!?ゆ、優依!?」

 

 

プルプル震えていた優依は突然そう叫んであたしに抱き着いてきた。

咄嗟の事であたしはされるがままギュウギュウ身体を締め付けられる。苦しくはなかったけど頭が追いつかない。

 

 

「いやぁその衣装すっごく似合ってるねさやか!全体像が騎士らしく凛々しさがあるのに女の子らしさを忘れていない!素肌にマントってツボついてるわー。それにアシンメトリーなスカートが男らしさと女の子らしさの絶妙なバランスを整えていてさやかの魅力を存分に発揮してるね!」

 

「・・・え?」

 

「ああああああああ!何その表情可愛い!どうしよう!?テンション上がってきた!眼福です!ありがとうございます!」

 

 

テンション高めな早口で捲し立てたかと思うと今度はいきなり頭を下げている。

次の行動が全く予想できなくて困る。

 

 

そもそも一体何が起こってんのこれ?

ひょっとして優依は魔女の口づけでも受けてんの?

それとも魔女に襲われた恐怖でおかしくなった?

 

どれだけ考えても今の優依の心理状態がどうなってるのか見当もつかない。

 

 

「・・ねえ優依」

 

「どうしたのさやか!?」

 

 

ボソッと名前を呟いたのから聞いてないと思ったのに、優依は聞き逃さなかったらしくガバッと頭を上げてあたしを見ている。何が嬉しいのかずっとニコニコしてるし目なんてキラキラ輝いてる。

 

見るからに上機嫌って感じ。

ホントに優依に何があったの?頭とか打ったりしてない?

 

 

「あんた怒ってたんじゃないの?」

 

 

素朴な疑問を聞いてみる。

 

さっきまではムスッとした表情であたしを無視してたから今の優依が信じられない。

それだけ今の優依とのテンションは落差がありすぎてどれが本当の優依なのか皆目見当がつかないわ。

 

 

自分でも失礼かなって思う事を言ったのだけど優依は嫌な顔一つせずニコリと笑っている。

 

 

「もちろん最初は怒ってたよ!でもそんな事どうでもいいと思えるくらい魅力的な衣装が目の前に現れてしまったんだ!怒りなんてどこかに吹き飛ぶよ!あ、助けてくれてありがとう!」

 

「え?あ、うん。そ、そっか。てっきりあたし嫌われたのかと思ったけど・・」

 

「そんな訳ないじゃん!無視してごめんね!さやかの魅力溢れるその衣装を堪能したい衝動を我慢していたんだ!」

 

「そ、そうなんだ・・」

 

 

じっとあたしの衣装に熱い視線を送ってきて思わずたじろいでしまう。

 

どうやらあたしのこの衣装がお気に入りらしい。

自分でも中々似合ってるとは思ったけど人から褒められるのは嬉しい。

嬉しいけど褒めちぎってくるのは勘弁してほしいんだけど。

 

そんなあたしの気持ちなんてお構いなしにその後も優依はひたすらあたしの衣装をベタ褒めしてきて正直恥ずかしさですごく居たたまれなかった。

 

 

「可愛いよさやか!」

 

「・・う!///」

 

 

極めつけはこれ。

 

 

真顔でそうきっぱり言い切った優依をまともに見れなくて、反射的に顔を横に逸らす。

 

 

よくあんな恥ずかしい事を真顔で言えるよね!

言った本人よりもあたしの方が恥ずかしいじゃん!

 

 

さっきまでの重い空気はとっくにどこかに吹き飛んでしまったと思う。

というよりそんな事気にしてられない。ああもう!顔が熱い!

 

 

 

 

 

 

「・・聞き捨てならないわね。優依は私の魔法少女の衣装を見た事があるはずなのに褒められるどころか何の反応もなかった気がするのだけど?」

 

 

 

「あら暁美さん、貴女はまだいいじゃない。私なんて随分前から優依ちゃんに見せてるはずなのに何も言ってくれなかったのよ?美樹さんの衣装は褒めて私には一言もなし。・・どういう事かしら優依ちゃん?」

 

 

「・・・っ!」

 

 

 

氷のように冷たい二つの声がどこからともなく聞こえてきた。

 

その声はそこまで大きくないのに部屋全体に届くような迫力があった。

心なしか部屋の気温も二、三度下がった気がする。おかげであたしの顔の熱もすぐに冷めた。

 

いつの間にか優依の背後に回っていたマミさんと転校生はそのままガッチリ華奢な肩を掴んでいる。

優依は「ひ・・!」と情けない声を上げて顔を青ざめていた。

 

そのままズルズルと壁際まで連行していく。完全にあたしの事を忘れてるのかそのままスルーだ。

 

 

死にそうな顔でこっちを見た優依が不憫に思えたから助けに行こうと足を踏み出した瞬間、下の方から「ん・・」と小さなうめき声が聞こえる。

 

 

この声は・・まどか?

 

 

急いでまどかの元に近寄って様子を確かめると意識を取り戻したのか薄っすら目を開けている。どうやら目を覚ましたようだ。

 

 

「まどか起きた?」

 

「・・さやかちゃん・・?」

 

 

まどかがトロンとした目を擦りながら状上体を起こしている。

魔女に襲われたみたいだからこのまま目を覚まさないかもって一瞬心配しちゃったけど大丈夫そうだ。

 

 

 

まあ、近くであれだけ騒いでれば嫌でも起きちゃうか。

 

 

 

 

 

 

「美樹さやかの衣装は絶賛しておいて私には何も言わないという事は遠まわしに似合ってないと言いたいのかしら?」

 

「いやそんな事は一切ございません!ただ好みの関係でして・・」

 

「それって私の衣装は好きじゃないって言いたいの?実は美樹さんの事が好きだからとか?ああいう活発な娘がタイプ?」

 

「何の話!?今それ所じゃないだろうが!」

 

 

騒がしい方に顔を向けると優依はいつの間にか変身していたマミさんと転校生に挟まれて必死に弁解してる。

ここからだと半泣きの優依の表情は見えるけど魔法少女二人は背中を向けてるからどんな顔してるのか分からない。

ただ纏うオーラは近寄りたくないほど威圧的だから怒ってるのは確かだ。

出来る事なら近寄りたくないかも・・。

 

 

 

「あれ・・?わたし一体どうして?確か優依ちゃんと・・え!?魔女は!?さやかちゃんどうしてここに!?それにその恰好どうしたの!?もしかして・・」

 

 

ようやくここにいる理由を思い出したみたいでアワアワしながらまどかは周囲を見渡している。

その様子に苦笑いを浮かべながら魔女はあたしが倒した事を説明してようやく落ち着きを取り戻したがすぐにシュンとした様子になる。

 

 

「まどかどうしたの?」

 

「さやかちゃん魔法少女になっちゃったんだね・・」

 

 

悲しそうにあたしを見上げるまどか。今にも泣きだしてしまいそうな表情だ。

どうしてそんなに辛そうなのかあたしには分からないけどきっと優しいまどかの事だ。

あたしを心配してくれてるのかもしれない。

 

 

「こらまどか、何であんたがそんな泣きそうな顔してんのよ?」

 

「だって・・」

 

 

まどかに視線を合わせるように膝を立てて人差し指を立てて眉間に触れる。

まどかはそれがくすぐったいのか少しだけ身をよじらせていたがそこまで嫌じゃないらしくされるだまま。

 

 

「あたしは大丈夫だよ。願いを叶えたんだから後悔してない。それにあとちょっと遅かったら大事な友達三人も失ってたかもしれないし」

 

「・・・・」

 

 

あたしが結界に突入した時、優依は殺される寸前だった。

 

 

もう少し遅かったら手遅れだったのかもしれない。

これから先、魔女を倒さないといけない運命が決まってるけど今この瞬間は魔法少女になって良かったって心から思う。

 

 

「だからそんな顔しない!まどかがそんな顔するとあたしまで悲しくなっちゃうから」

 

「・・・・うん」

 

 

涙を見られないように膝を抱えて顔を隠すまどかが少し心配で頭を撫でてやりながら隣に腰かけた。顔を上げない所を見ると本当に泣いてるのかも。

 

よっぽどあたしが魔法少女になったのがショックみたい。

それもそっか。昨日のマミさんの時みたいになるかもしれないもんね。

 

もちろんあたしだって死ぬのは怖い。

でも契約する時に覚悟はしてるから大丈夫。

 

 

正義の魔法少女として魔女と戦ってやるんだから!

 

 

 

 

 

「どうなの!?」

 

 

 

「はっきりしなさい!」

 

 

 

「ひい!誰か助けてええええええ!!」

 

 

 

 

 

マミさんと転校生に凄まれとうとう本格的に泣き出した優依がSOSを大声を叫んでいる。

 

 

正直自業自得な気がするけどしょうがない。

無理に契約した事を許してくれたみたいだしあたしの衣装可愛いって褒めてくれたんだもん。

 

 

サクッと助けてあげますか。

 

 

苦笑いを浮かべながらあたしは立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・怖かった」

 

「自業自得だよ。ああなるって分かってたから止めたんだよ」

 

 

あの恐怖の包囲網を抜けた俺はシロべえと一緒に暗い夜道を慎重に歩く。

 

さっきはどうなるかと思った。さやかの衣装を褒めちぎっていた俺の背後より阿修羅と化したマミちゃんとほむらが何故か胸倉を掴まんばかりの怒り具合で詰め寄ってきた。

 

カンカンになりながら魔法少女に変身してこの衣装を褒めろとか言いだした時は困った。その上挟み撃ちにされたもんだからあの時ほど死を覚悟したのはないかもしれない。

 

結局俺を助けに来たさやかが次のスケープゴートにされ二人に連行されていったのでその隙に逃げだしたのだ。

 

あ、まどかはさやかが心配だって三人についていったみたいなのでご心配なく。

怪我もなかったみたいで何よりだ。俺はぐで〇まストラップ消失という痛手を負ったのに。

 

 

取り敢えず連行されていったさやかよ。すまん。

君の尊い犠牲は決して忘れないから。

 

 

 

 

「本当にここであってるのかい?」

 

 

「多分・・」

 

 

目的の場所に到着した俺とシロべえは顔を上に上げながら会話を続ける。決して夜空を眺めているのではない。

俺たちが見上げいてるのはとある鉄塔。しかしただの鉄塔ではないのだ。

 

 

ここはあの杏子が命綱なしでクレープを食べるという無謀な離れ業をやってのけたあの鉄塔だ。

 

俺たちは杏子を探しに例の鉄塔に来たのだ。

ここで杏子が見つかれば即捕獲の協力要請する予定でもし見つからなければ作戦の練り直しをするまで。

 

 

え?以前会った謎の杏子(?)さんはどうするって?放置!

 

だって正体が分からない以上は放置するしかない。

シロべえの見解は別人らしいからほっといても問題ないだろう、

 

 

それはともかく時系列的にはさやかの初魔女退治後でいるのなら今の時間帯のはず。しかし、

 

 

 

「・・いないね」

 

 

「・・いないな」

 

 

シロべえ発明「千里眼双眼鏡」を使って鉄塔をくまなく観察するも所々に錆が見えるだけで杏子の姿もましてやらあんな高い場所でクレープを食べてる人の姿なんてどこにも見当たらなかった。

 

 

何故いないのだろうか?考えらえるのは二つ。

 

一つはタイミングが悪かった。

実はもう既に食べ終わった後かそれとも俺が帰った後でやってくるのかもしれない。

 

 

 

もしくは杏子は見滝原に来ていない・・?

 

 

考えてみれば当然かもしれない。

だって杏子が見滝原にやって来るのはマミちゃんがマミった後だ。

 

空席のテリトリーを狙ってやって来るんだからマミちゃんが生存してるこの時間軸は原作通りにはいかないのかもしれない。

そう考えたのは俺だけではないみたいでシロべえもここには杏子がいないと判断したらしい。

 

 

「今の所、佐倉杏子どころか人影すら見当たらない。というか忘れてたけど彼女には発信機をつけてるんだから別に探す必要もないしただの無駄足じゃないか。今日はもう遅いし早く帰ろう。僕はもう眠いよ」

 

 

眠そうに俺の肩で小舟漕いでるシロべえ。

そのせいか後半はほぼ投げやりな感じだった気がするが気にしないでおこう。

 

 

そういや前にこいつが杏子に発信機つけてたって言ってたのすっかり忘れてた俺の落ち度もあるし。

 

 

・・・完全に無駄足だったな。

 

 

なら帰ろう。ひとまず帰ろう。バカバカしくなってきた。

 

 

「・・悪い。うっかりしてた。取り敢えず杏子の事は明日考えるとして今日は帰ろうか」

 

「賛成。はあ、とんだ無駄足だったね。全く優依は・・・ん?」

 

「どうしたシロべえ?」

 

 

いつもの毒舌が来るなと身構えてたのに何故かシロべえは途中でやめてじっと俺たちが歩いてきた道をじっと見つめている。

 

 

「向こう側でインキュベータ―が一瞬姿を見せた。これは何かあるのは明白だから確かめておいた方が良いね。優依、先に帰ってて。すぐ追いつくから」

 

「え・・?」

 

 

一方的にそう告げてシロべえはさっさと肩から降りた。

 

どうやら眠気よりも警戒心または好奇心が勝ったらしい。その足取りに一切の迷いが見られない。

 

 

「え!?こんな所で一人置いてけぼり!?怖すぎるんですけど!ちょっと!」

 

 

俺の声などシロべえにとって聞くに値しないらしく、そのまま無視され闇の中に消えていく。

辺りはすぐにシンと静まりかえり俺のシロべえを呼ぶ声も闇に溶け込んでしまった。

 

 

この人どころか街灯すらほぼない暗い夜道にポツンと一人立っている俺。

 

 

怖えええええええええええええ!物凄く怖い!

如何にも「ゆ」が頭文字の何かが出てきそうな雰囲気だ!

 

 

こんな所にずっといたらそれこそ発狂してしまいそう!

 

帰ろう!体力の続く限りダッシュで自宅に帰ろう!

ここからじゃ俺の家の方が近い!

 

ほむらとマミちゃんは今日もどちらかの家に泊まれと言っていたがそんな事知った事じゃない!

小言くらい後で甘んじて受けよう。

 

 

とにかくこの恐怖の夜道から今すぐにでも脱出しなきゃ!

 

 

ランナーよろしく俺はグッと足に力を入れて地面を強く踏む。

 

よーいドンだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優依」

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

スタートダッシュを決めようと足を踏み出した瞬間、背後から名前を呼ばれて思わず動きが止まる。

全神経を声のした俺の背中に集中させると背後に誰か立っているような気配を感じた。

 

 

だ、だ、だ、誰だ?・・おかしいな?

さっきまで人の気配なんて全くしなかったしいるのも俺一人だったはずなのに。

 

 

変質者?不審者?

もしくはゆ・・・?駄目だ怖い!これ以上考えるな俺!

 

 

「やっと見つけた。アンタを迎えにきたのに中々見つからなくて探したんだぞ。・・あと聞きたいんだけどさ、さっき優依が抱き着いてた青髪の女は誰なんだ?まさか浮気相手じゃねえだろうな?」

 

 

すみません、何か言ってるみたいだけどほとんど聞こえません。

恐怖のあまり心臓が激しくお仕事しているみたいで鼓動が耳にダイレクトに伝わってくるのであなたの言ってる事が聞き取れません。

 

てか、後ろの奴、少しでも動けば触れられそうな距離に立ってないか?

耳元近くで呼吸音聞こえるし。マジで変質者か?

 

どういう奴か分からないが一つだけ分かる事がある。

 

 

めっちゃ怒ってる!

どういう訳か知らないけど滅茶苦茶怒ってるのだけは分かる!

 

だって空気がピリピリしてて不機嫌なオーラが後ろからダイレクトに伝わってくるんだもん!

 

 

俺何かしましたか!?

 

 

く!振り向きたい!直接この目で正体を確認したい!

 

でも無理、怖い!

振り向いたら最後襲ってくるというのがホラーのお決まりだ。

それは絶対避けたい。俺は長生きしたいんだ。

 

 

しかし正体が分からない以上対応策がないしどうすればいいんだ?

シロべえがすぐ戻ってくる可能性は低いだろう。気になった事はとことん追求する性分だから。

 

 

・・詰んでね俺?

 

 

 

どうしようかと内心オロオロしてる間に後ろから「ハア・・」と呆れの混じった声が聞こえてくる。

その声のせいで俺の焦りは倍増に恐怖が到達点に届きそうだ。

 

簡単に言えばパニック寸前とも言える。

 

 

「だんまりかよ・・まあいいや。話なら後でゆっくりすれば良いだけだしな。今はお前を連れていく方が大事だ。ほら、一緒に行こうぜ」

 

「!」

 

 

聞いた!?こいつ今「逝こうぜ」って言ったよ!?

連れていくってどこに!?それはあの世にという事ですか!?

 

道連れ的な感じのもんですか!?

 

 

「! ひっ!?」

 

 

肩に重みを感じてつい小さく悲鳴をあげる。

 

肩に何かが乗っている?

それは滑るようにゆっくり首元を這ってくきてとても気持ち悪い。

まるで蛇が獲物に絡みつこうとしているような粘着質さを感じるのは俺の気のせいであってほしい。

 

 

震える俺にお構いなしにその感触はゆっくりながらも確実に身体を覆うように広がっていく。

 

 

ひいいいいいいいいいいい・・!

こわいよおおおおおおおお・・!

 

 

 

 

「これからはずっと一緒だ」

 

 

 

「ひゃっ!?」

 

 

 

俺の首元に冷たい何かがあたる。

勇気を振り絞ってぎこちないながらも目線を下げてそれが何なのか確認する。

 

 

 

手だ。

 

 

それもただの手じゃない。線の細い白い女の手。

 

 

 

その手がゆっくり俺の首を抱き込むようにまわしてくる。

 

 

 

こ、これは間違いない!

コイツ、いえこの方はゆ、ゆうれい・・様・・!

 

 

 

 

「ぎゃああああああああああああああああああ!!」

 

 

「!?」

 

 

 

正体に気付いた瞬間、恐怖がピークに達し腹の底から絶叫を押し出していく。

 

 

俺史上かつてない程の声量に驚いたのか首に回していた手が驚いたように弾かれた。

その隙をついて俺は幽霊の手をがむしゃらに振りほどき一目散に走る。

 

 

 

 

「おい待て! なっ・・!?」

 

 

 

 

幽霊が遠くで何か叫んでいたが無視してひたすら走った。

 

 

後ろの方で金属音や爆発音みたいなものが聞こえるが気にしていられない。

 

 

誰が後ろなんて振り向くか!怖すぎる!

走れ!追いかけられたら一巻の終わりだ!

 

 

無我夢中で走っててついさっき気づいたが足音が聞こえない。試しにそっと後ろを振り返ってみるも誰もいない。

どうやら追ってきていないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ・・はあ・・良かった。助かった」

 

 

「あら優依?」

 

 

「! ・・げっ」

 

 

安心していたら途中でまさかのほむらにバッタリ遭遇してしまい愕然とする。

 

何でここにいるか聞いてみるとほむらはあの後、さやかに案の定辛口コメントをお見舞いしてキレられたらしく追い出されたとか。ホント何やってんだよ紫。

 

ちなみに俺はこの後ほむらに捕まっ・・保護されてほむホームに強制連行。

そこで一晩過ごす羽目になってしまったが恐怖の夜を一人で過ごす事に比べたらマシなので甘んじて受け入れるしかなかった。




皆さんも人気のない夜道には気をつけてくださいね!
じゃないと幽霊に連れ去られちゃうかもしれませんよ?


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70話 日頃の行いが裏目に出る事もある

あと半月で今年も終わり・・。
あと何話更新出来るのだろうか・・?


「はあ・・昨日は散々な目に遭ったわ」

 

「軽く二時間は拘束されてマミさんから魔法少女の心得を叩き込まれたもんね」

 

「うわぁ・・ご愁傷様」

 

 

翌日の昼休み、俺はまどかとさやかの二人とランチタイムをエンジョイしていた。

 

ちなみに今談笑してる内容は昨夜のさやかがマミちゃんとほむらに連行された時の出来事についてだ。

ほむらからも聞いていた通り、マミちゃんによるスパルタ魔法少女指導が決行されていたようだ。

 

 

しかも徹夜。可哀想に。

 

 

え、俺?俺は昨夜の幽霊騒動の恐怖のせいでほとんど眠れず恐れ多くもほむらにあやしてもらうという別の意味で恐怖の一夜だった。

また新たな黒歴史の量産に気が滅入りそうだ。

 

 

「マミさんはともかくあの転校生よ。あたしが契約したのが分かった途端、難癖つけてきちゃってさ!何様のつもり!?」

 

 

昨日のほむらの失言を思い出したのか、さやかは拳をふるふる震わせて憤慨している。

 

よっぽど腹が立っているらしい。

だって、持ってた紙パックのジュースが原型留めないくらい潰れてるもん。

中身が零れてさやかの手がジュースまみれ。ポタポタ雫を落としてるのに気にする様子もない。

 

まあ、確かにあれは最初から喧嘩ふっかけたほむらが悪い。

 

どこの世界にいきなり喧嘩ふっかける奴があるか。

おかげで更にほむらに対するさやかの印象が下がって今や急降下。フォローする俺の立場を考えてほしいものだ。

 

 

ちなみに渦中のほむらとマミちゃんはここにはいない。

 

 

マミちゃんは職員室に用があると言ってそのままだし、ほむらも用事があるとかぬかしてバックレ。

協調性のない魔法少女ばっかでこの先物凄く不安でしかないよ俺?

 

 

ここは俺がしっかりフォローしないとダメなのは分かってるがぶっちゃけもう放置したい。ゴールに向かってるはずがいつの間にかどんどん谷底に落ちていってる気がするもん。

 

 

「今度言いがかりつけてきたら物理的に黙らせてやるんだから!」

 

「さやかちゃん・・」

 

「! まどかその・・」

 

 

さやかの憤慨にほむらと良好な関係を築きつつあるまどかはとても悲しそうに目を伏せている。

 

そのまどかの様子にさやかはハッとして我に返りバタバタ手を横に振って何とか弁解しようと必死だ。

 

 

「いや、えっとね。転校生にあまり良い印象を持ってないのは本当なんだ。正義の魔法少女って感じじゃないし。契約した事に文句言ってくるし。でもね、まどかには昨日も言ったけどあたしは後悔してないの!恭介の腕を治す事も出来たし何よりあんた達を助けられて本当に良かったって思ってる!」

 

「・・・うん」

 

「だからこれからはこの魔法少女さやかちゃんがマミさんと一緒に見滝原の平和を守っちゃいますよー!」

 

 

拳を突き上げて高らかに宣言しているさやか。

 

魔法少女の真相とこれから先さやかが辿るであろう未来を知る立場としては痛々しい強がりにしか思えない。

五人の中で一番救いようのない末路を考えると悲壮感もプラスされてそうだ。

 

ていうか見滝原の平和守る中にほむらは入ってないけどあくまで敵認定なんですね?

 

 

「・・・・」

 

 

まどかお願い。複雑な表情でこっちに顔を向けないで!

どうしようって戸惑った目で俺を見ないで!

 

俺だって対応に困ってるから!

 

 

でもさやかをこのまま放っておくのはまずい!何もしなければ暴走は不可避!

 

 

ここで何とかしなければ!

 

 

 

くっ!こうなったら自棄だ!

 

 

「うわ!ちょっと優依!?」

 

 

さやかがバランスを崩したらしく俺の方に倒れ込んでくる。

俺がさやかの手を引っ張ったのが原因だから当然だ。

体格の良いさやかの体重+重力は俺の身体に深刻なダメージを与えたが今はそれ所じゃない。

 

 

「そっかー。さやかもついに正義の魔法少女デビューか!偉い偉い!そんな偉い子にはこうだ!」

 

 

痛みに歯を食いしばりながら倒れ込んできたさやかを抱き寄せて頭を撫でる。

 

秘技「甘やかし倒し」!

 

 

何故これなのかというとちゃんとした理由はもちろん存在する。

 

 

ふざけているように見えるがこれは魔女化防止の歴とした作戦だ。

 

さやかはガサツなムードメーカーに見えて実態は繊細な完璧主義者な面がある。

実際そのせいか原作では魔法少女の理想と現実に思い悩んでソウルジェムを濁らせていたほどだ。

 

誰かに相談すれば良かったのに肝心な時に助けを求められない甘え下手が災いして魔女化なんていう最悪の結末を迎えてしまう。それだけは阻止したい。

 

 

 

そこで俺は考えた。

 

魔女化を阻止するためにさやかを甘えさせればいいじゃない!と。

 

今からそういった環境を作っておけば追いつめられたさやかの心の拠り所となりストレス激減でソウルジェムの濁りも減るかもしれない!

 

人間誰でもストレスの捌き口は必要だ。

 

なれるかどうか分からない。

ぶっちゃけなりたくもないけど俺がさやかの癒しの拠り所になろうと決めたのだ!

 

超嫌だがやるしかない!どうせあと二週間程度の辛抱だ!

 

全てはハッピーエンドのために!

何より俺のバッドエンド回避のために!

 

 

そのためにはまず目の前にいる青を思いっきり甘やかすのだ!

 

 

「優依ちょっと・・いきなり何・・?」

 

「さやかは正義感が強くて友達思いなの知ってるからさ、きっと魔法少女としてこの街を(ワルプルギスの夜から)守ってくれるって信じてる。俺(死亡フラグなくなるまで)応援するよ」

 

「え・・?」

 

「辛くなったらいつでも俺を頼ってね?(俺の死亡フラグが消えるその時まで)めちゃくちゃ甘やかしてあげよう」

 

 

保身を丹念に練り込んだ極上の笑顔でさやかに笑いかける。

その中にはもちろん面倒事を起こすなよこのヤロウというメッセージも含めてある。

 

俺のこの笑顔をどう受け取ったのかさやかは何故か頬を染めて頷いた。

 

 

「え、えっと・・うん、じゃあ今から甘えさせてもらうね」

 

「え?」

 

 

頭が理解する前に事件は起こった。

さやかがいきなり俺の肩に頭を乗せてもたれかかっている。

そのまま「えへへ」と照れ笑いを浮かべながら目を閉じている。

 

 

おいおい、案外さやかが可愛いぞチクショウ!

 

意外だ。コイツの事だからきっと遠慮するだろうと思っていたんだが魔法少女になった事は内心不安なのかもしれない。

 

 

さやか、中身はともかく見た目は可愛いんだからヴァイオリン野郎の前でも普段から今みたいな甘えを見せればイチコロなんじゃないの?

 

 

 

と、半分冗談はともかく今のさやかの甘えモードならあれもいけんじゃね?

 

 

そう思った俺はさやかを引き剥がし地面に向けて身体を伸ばす。

引きはがした時のさやかはとても寂しそうな表情をしているように見えたがきっと気のせいだ。

 

 

「さやか良かったらから揚げ食べる?自信作なんだ」

 

「へ?」

 

 

すっと自分のお弁当箱に入っていたから揚げを箸につまんでさやかの方に差し出す。

ちなみに持っている箸はこんな事もあろうかと用意しておいた割り箸なので間接キスのご心配はありません。

 

 

「・・・・・」

 

「あ、ひょっとしていらなかった・・?」

 

「え!?ううん!もらう!いただきます!」

 

 

最初は無言でから揚げを見ているだけだったがそこはノリの良いさやか。

すぐさま笑顔になってそのままあーんの体勢でから揚げにパクついた。

 

 

「んー美味しい!」

 

 

嬉しそうにモグモグしてる姿は結構可愛い。

 

味付けもさやかの口に合ってたみたいで良かった。

ほむらに感謝しろよ?だって紫がリクエストして朝から揚げてきたんだからな。

 

 

「やっぱ優依って料理上手いわ!このままあたしの嫁にならない?」

 

「はあ?浮気は良くないよさやか。君にはまどかという嫁がいるじゃないか」

 

 

ついでに君は杏子の嫁じゃないか。

浮気したら殺されるぞ君。あんまり調子に乗らない方が良いんじゃないの?

 

 

熱心に嫁になれと迫るさやかと冷めた目の俺。

そんな俺達をまどかは寂しそうな目で眺めている。

 

 

「さやかちゃんいいなー・・。 ! そうだ!」

 

「? どうしたのまどか?」

 

 

何かを思い出したのかまどかは突然パチンと手を叩いて屋上に持参していたバッグをゴソゴソと弄っている。

やがて目当てのものが見つかったのか布に包まれた小さい箱を取り出した。

 

 

「えっとね、優依ちゃん」

 

「うん?」

 

 

両手で抱えている小さな箱と俺を交互に見ながらもじもじしているまどか。

少しだけ待っていると意を決したのか持っていた箱をズイッと俺に差し出してくる。

 

 

「これ食べて!」

 

「へ?」

 

「中に野菜サンドが入ってるの。パパと一緒に作ったから味は保証するよ」

 

 

早口でそう捲し立ててパカッと蓋を開けて俺に中身を見せてくる。

 

彩り鮮やかな瑞々しい野菜がパンに挟まれていてとても美味しいそうだ。

改めて、まどかパパの主夫力の高さを思い知る。今度ご教示いただこうかな?

 

 

てか、急にどうしたんだまどかは?

 

 

「えっと何で俺に?」

 

「昨日わたしの事危険を顧みずに助けようとしてくれたでしょ?そのお礼にと思って」

 

「あ、そうなんだ」

 

 

思ったよりまともな理由だ。

 

良かった。てっきり俺、毒見させられるものとばかり思ってたよ。

でもごめんね。まどか勘違いしてるよ?

俺昨日何もしてないから。ただの厄日だっただけだから。

 

あった事と言えば、さやかの契約と魔女の遭遇とぐで〇まストラップ消失と幽霊に恐怖体験ぐらいなロクでもない日だっただけだから。

 

 

「ほっほーまどか。女子力アピールですかぁ?さては優依の嫁になるつもり?許せん!まどかも優依もあたしの嫁でしょー!」

 

 

ここで黙っていないのがさやかだ。

俺の腕から逃れてここぞとばかり下卑た笑顔で下世話な事を口に出してくる。

 

何で俺まで嫁認定?

マジで勘弁してくれ。俺が杏子に殺されるわ。

 

 

「さてはまどか!お礼とか言ってるけど本当はそれにこじつけて優依にアタックするつもりでしょ!?」

 

「そ、そんな事!・・えっと・・」

 

「え?ちょっとまどか?そこは『そんな事ないよ』って言う所でしょ?何で口ごもってんの?あんたまさか・・!」

 

「ふえぇ・・」

 

「あー・・さやかその辺にしてあげて。まどかをからかうとあとが怖いぞ」

 

「うひゃあ!?」

 

 

放っておくといつまでもからかいまくりそうなさやかを再び抱き込んで黙らせる。

これ以上やったらまどかが可哀想だ。だって顔真っ赤にしてプルプル震えてるもん。

その内泣き出して紫のセコム飛んできそうだから洒落にならんわ。

 

 

「まどか大丈夫か?」

 

「え?あ、うん!大丈夫だよ!それより野菜サンドどうぞ!優依ちゃん今は手が塞がってるみたいだからわたしが食べさせてあげるね!はい、あーん!」

 

「え・・?」

 

 

照れ笑いを浮かべつつ野菜サンドを俺の口元に持ってくるまどかさんは紛れもなくドSの笑顔だ。

さやかが目の前にいるのに何してんだこのピンク!?青が驚いたまま固まってんじゃん!

 

 

てか、こんな場面ほむらに見られてみろ。

間違いなく八つ裂きにされる!絶対食べられるか!

 

 

「あ・・ごめんね。野菜サンド嫌だったかな?それともわたしに食べさせてもらうのが嫌だった?」

 

「そんな事ないです!謹んで頂きます!」

 

 

どうしようか悩んでいたら再び泣き出しそうな顔。

これはもう腹を括って食べるしかない!

 

ほむらが見ていない事を祈りつつ俺は勢いよくかぶりついた。

 

 

「どうかな・・?」

 

「・・・・うん、美味しいよ」

 

「本当!?良かった―!」

 

 

天使のような微笑みで笑うまどかはマジ癒しだ。

喜んでるとこ申し訳ないが緊張のあまり味なんて全く分からなかったんだけどな!

 

 

これマジで悪魔に見られてないよね!?

 

 

 

 

 

 

 

「―--!?」

 

 

 

 

 

 

その時、どこからか背筋が凍りそうな殺気のようなものを感じ無意識に鳥肌が立つ。

慌てて周囲を見渡してみるも屋上には俺たち以外誰もいない。

 

 

殺気のような鋭い視線的なものを感じたけどひょっとしてほむらか?どこかで見張ってる?

だとしたらヤバい。間違いなく俺殺される。

 

だ、大丈夫だよね?

こっちには新米とはいえ魔法少女がいるんだし、きっと神経が過敏になり過ぎただけさ。

その証拠にさやかは何も感じてないみたいだ。きっと気のせい気のせい。

 

念のために周りを警戒しつつお弁当を食べる。

 

 

・・それにしてもおかしい。

さっきのヤバい気配がほむらなら時間を止めるなりなんなりして俺を牽制もしくは殺害してきてもおかしくないはずなのに何もしてこない。

 

あれはほむらじゃないのか・・?

 

 

「どうしたの優依ちゃん?」

 

「いや何でもない気のせいだったみたい」

 

「あんたは臆病だからね。敏感になり過ぎてんじゃないの?」

 

「はは・・そうかも」

 

 

挙動不審なのをなんとか誤魔化したがその間もずっと何となく誰かに見られているような錯覚を拭えなかった。

 

 

一応何度か横目で周りを伺ってたけど人っ子一人見つからない。

得体の知れない不気味さを感じ、結局その後二人の話はほとんど頭に入ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全っ然!見つからないんですけど!」

 

 

公園のベンチに座りながら俺は夕日を見て黄昏れていた。

 

理由は簡単だ。放課後からずっと続いている杏子捜索が難航して俺はとっても疲弊していたからだ。

それと言うのも昼休みの終わりくらいに突如としてやって来たシロべえの言った事が原因だ。

 

 

『優依大変だよ。まずい事が起きた!』

 

『?』

 

『佐倉杏子の反応が消えた!』

 

『はあ!?』

 

『彼女につけていた発信機が電源でも切れたように反応しなくなっちゃったんだよ!』

 

『き、緊急会議!』

 

 

シロべえからの連絡を受けた後、俺はマミちゃんとほむらをすぐさま呼び出して井戸端緊急会議を開くことになった。結論を言うと手分けして杏子を捜索する事が決定した。

 

マミちゃんはさやかの指導についてもらうので実質俺とほむらの二人が杏子捜索担当だ。

 

放課後からずっとお互い手分けして杏子を探す。

魔法少女ではない俺は一人では危険なので(役に立つかどうかはともかく)シロべえがお供についている。

 

 

「はあ・・シロべえがもっとシャンとしてればなぁ・・」

 

「失礼な事言わないでよ。これでも僕は昨夜から張り込みの必須アイテムあんぱんと牛乳を片手にインキュベーターを見張りながらも佐倉杏子の足取りを観察していたんだよ!・・寝落ちするまでは」

 

「つまり昨日は俺にインキュベーターを見張るとか言ってあんなホラーな夜道に放置したくせに寝落ちしていたって事か」

 

「しょ、しょうがないでしょ!昨日は美樹さやかの事もあって疲れてたんだから!」

 

「俺の方が疲れてるわ!」

 

 

必死の言い訳に軽く反論したらどっと疲れが出てきたのでベンチに沈み込む。

今はこんなアホな言い争いしてる場合じゃない。他に大事な話題を話さないと。

 

 

「ところでさ杏子を探すのはいいけど、どうやって協力を頼むんだ?無償でやってくれるようなタマじゃないだろあいつ」

 

「それだったら問題ないよ!僕に秘策があるからね!」

 

「・・・・」

 

 

 

自信満々なシロべえの声に嫌な予感を覚える。

 

これはきっとデジャブという奴だ!

 

 

シロべえは基本優秀だが時々ポンコツな作戦を打ち出してくる。

それで何度ひどい目に遭ったか数えるのも億劫になるほどだが・・。

 

 

 

「・・・取りあえず聞くだけ聞こうか」

 

 

正直無視したいがこれまでシロべえの奇策は危機を乗り越えてきた実績があるので無下にする事も出来ない。

採用するかはともかく耳に入れておいた方が良いだろう。

 

 

「今回は自信があるよ!まずは目薬を用意するでしょ?」

 

「は?」

 

 

目薬?何故に目薬?

 

 

「・・それで?」

 

「佐倉杏子に会う直前に君が目薬をさすんだ。そして彼女に向かって目薬入りの上目使いでこうお願いするんだ!『杏子お願いがあるんだ。杏子しか頼る人がいないから俺の一生のお願い聞いてくれる?』と泣きつけばいい!まずこれでノックアウトだね!」

 

「・・・・・・・・」

 

「そしてそのまま杏子の首に腕を回して耳元で囁いてやるのさ『お願い聞いてくれたら俺を好きにしていいよ』って、そうすれば一発OKさ!」

 

「・・シロべえ、今からお前を地面に叩き付けて顔を踏み潰していいかな?いいよね?」

 

「え?ちょ・・いたたたた!優依ストップ!ホントにストップ!顔潰れそうだから!」

 

 

俺の手元付近に都合よく座っているシロべえ。

丁度良いので俺はそのままシロべえの顔を鷲掴みして宙に持ち上げる。

イメージはリンゴを握りつぶすプロレスラーだ。

そのイメージのおかげか奴の白い顔にミシミシと俺の指圧が強まってシワを作っていく。

 

 

何がOKだ!何一つOKだせねえから!

ドヤ顔で何て事ほざいてやがんだこいつは!

 

 

渾身の力で地面に叩き付けようと腕を大きく振り上げながら立ち上がる。

 

そのまま地面に還ってしまえ!

 

 

「待って!ごめん!ごめんなさい!謝るから!今のは悪ふざけが過ぎたよ!もうこんな事しないから取りあえず離して!」

 

 

叩き付ける直前、シロべえからガチな謝罪が飛び出したので腕の動きを止める。

 

最初はマジで叩き付けてやろうかと思ったけど冷静になってみれば一応今は緊急事態だ。

コイツが気絶するのは大変よろしくないと思い改め「二度とすんな」と念を押して俺の慈悲深き心で解放してやる。

 

 

「ふう・・全く冗談が通じないんだから。・・まあ確かにこの作戦はリスクがあるからね。実行した後、君は杏子にホテルか路地裏に高確率で連れ込まれるだろうし」

 

「何が冗談だ!半分本気だっただろうが!てか何それ!?俺サンドバックにされんの!?実は杏子に恨まれてた!?」

 

「大丈夫、死にはしないよ。ただ大人の階段をのぼるだけさ。その時大切な何かをなくすかもしれないけど、死ななければ基本OKだよ!」

 

「何が!?」

 

 

全くあてにならないシロべえの慰めが妙に腹立たしい。

 

もう杏子の話題はやめよう。なんか不毛な気がするし疲れる。

もう一つの問題に話題を変えていこう。うん、そうしよう。

 

 

「とにかく杏子は大丈夫じゃないか?何だかんだで協力してくれそうだし。・・問題はさやかだな。どうやって魔女化を回避させればいいんだ?やっぱりあの上条とくっつけさせるしかないか?」

 

 

ほぼ投げやりな気持ちで話題を変えたがぶっちゃけ杏子よりこっちの方が深刻だ。

さやかの魔女化で滅びの運命が決まると言っても過言ではないかもしれない。

 

ここは上条を脅してでもさやかとくっつけさせるか?

 

 

「その考えもありだけど可能性低いんじゃないかな?だってあのヴァイオリン君は恋人はヴァイオリン!って感じでどう見ても仕事人間て感じだよ」

 

「そうなんだよな・・」

 

見事くっついてもその先にも問題があるのが上条恭介という男。

原作でも劇場版でも上条って基本ヴァイオリン関係しか出てこない。

仁美お嬢様の時もそうだったけど最優先はヴァイオリン。典型的な仕事人間だ。

 

そんな奴とさやかが仮に付き合ったとしても果たしてさやかは幸せになれるのだろうか?

上条恭介、どこまでも厄介で腹立たしい男だ。

 

 

「まあ、僕の方で美樹さやかの魔女化回避について既に手は打ってあるよ」

 

「え!?そうなの!?」

 

 

まさかの吉報に思わず顔が面白いくらいパアと輝いていく。

 

 

「さすがシロべえ!一体何をしたんだ?」

 

「悪いけどこれは伏せさせてもらうよ。出来れば使いたくないものだしね」

 

「あ、そっか。なら仕方ないや」

 

 

シロべえが何か手を打ってくれているなら安心だ。

内容が分からないのは多少不安だがこいつの言う事なら悪いようにはならないだろう。

 

 

「僕個人としては最も確実で簡単な魔女化回避方法があるんだけどなー」

 

「え?何?」

 

 

さっきまでの調子と打って変わって楽しそうな声で俺の近くに寄ってきた。

なんかその様子にまたまたデジャヴを感じる。

 

正直もう聞きたくない。

しかしふざけた事例は多々あるがたまに名案を思い付くのでそこが憎たらしい。

 

ひとまず聞いといてあげよう。もう悪ふざけはしないだろうし。

話の続きを促して俺は再びベンチに座る。

 

 

「で?その確実で簡単なさやかの魔女化回避方法は何なんだよ?」

 

「簡単さ!優依が美樹さやかを堕とせばいいんだよ!」

 

「は!?俺がさやかを落とす!?お前ひょっとしてさやかが魔女化する前に息の根を止めろって言ってんのか!?マジ外道じゃねえか!」

 

 

速攻で立ち上がって目の前の白い悪魔に抗議を入れる。

 

コイツ俺に殺人を犯せって言ってきた!

ここは常識ある人間として断固反対しなければならない!

 

 

「まあ、話は最後まで聞いてよ。美樹さやかはその内、精神崩壊起こす程追いつめられるんでしょ?」

 

「苦しみから解放させるために介錯しろってか!?」

 

「だから最後まで話を聞いてって!その精神崩壊を起こしてる最中に君が依存性の高い甘い毒を誑し込んであげるんだ。そうすればあっという間に毒が全身に広がって中毒症状を起こすよ。そうなればもう安心だ。後は適当に構ってあげれば魔女化しなくなるし戦力の駒が増えるから一石二鳥だよ」

 

 

俺は一体何の説明を聞いてるんだ?

さやかを薬漬けにして廃人にしろって聞こえるんだけど?

 

抹殺より酷くないか?

 

 

「どうせ末期の中毒者三人と重度に進行しつつある軽度中毒者が一人いるんだ。今更もう一人増えようが問題ないよ」

 

 

不満そうな俺の表情に気付いたのか更なる説明がされたが全く理解不能。

コイツは何語を喋ってるんだ?え?日本語?頭が理解を拒んでるんだけど。

 

 

「僕が最高のタイミングを見計らって合図するから躊躇わずに実行するんだよ!いいね?」

 

「何が“いいね?”だ!ふざけんな!やっぱりお前の考えなんて聞かなきゃ良かった!」

 

「いだだだだだだ!本日二回目だよそれ!」

 

 

本日二回目の顔の鷲掴みを決行する。

今度は一回目よりも握力強め、工場で物を潰す機械的なイメージだ。

 

ペシャンコになってしまえ!

 

 

「ごめんよ優依!僕が悪かったよ!」

 

「やかましい!上辺だけの謝罪など聞き飽きたわ!」

 

 

コイツ全く反省してない。

 

だって口では謝罪の言葉を述べてるけど現在進行形で頭には、

 

 

≪目指せ!百合ハーレム!≫

 

 

なんてアホなテレパシー送ってきてるんだもん!

 

謝罪なんて信じられるか!

 

 

くそ!こんな事言いだすなんて絶対トモっちの影響だろう。

 

だってシロべえの奴、「社会勉強だ」とかほざいてトモっちから送られてくる百合漫画、百合アニメを一通り目を通してる。

 

女の子がイチャイチャしてる映像を見るインキュベーター、傍から見たらシュール以外の何物でもない。

 

やっぱりあれは危険だ。もっと早くに規制をかけるべきだったな。

これからは廃止にしないと。

注意したって止めないだろうしどこかに隠しておこう。

 

 

 

 

 

「優依」

 

 

 

「!? ビックリした!ほむら何でこんな所に!?」

 

 

 

シロべえの顔を握りつぶす俺の背後にほむらが音もなく立っているのでベンチから飛び跳ねる。

 

悲鳴をあげなかっただけマシだ。

人気がないとはいえまだ夕方。誰か来ては大変だ。

 

それにしてもほむらよ、長年のまどかストーキングのせいで隠密行動うますぎだろ!?

さっきの気配消して背後に立つなんてプロの殺し屋みたいだったよ!?

 

 

「私がどこにいようとそんな事はどうでもいいわ。それより大変なの。佐倉杏子が現れた」

 

「え・・!?」

 

「どうやら使い魔を倒そうとした美樹さやかを背後から襲ったみたいなの。一方的に攻撃してるみたいだからひょっとしたら美樹さやかを嬲り殺しにするつもりかもしれないわ」

 

「は・・!?」

 

 

ほむらからの報告に俺の口は引き攣っていく。

 

 

何それ!?どういう状況だよ!?

なんか原作より酷い展開になってませんか!?




次回から杏子ちゃんの登場です!


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71話 青 vs 赤

やったー!
今年中に杏子ちゃんを登場させられたぞおおおおおおおお!!


「佐倉杏子は現在進行形で美樹さやかを攻撃しているわ。このままだとまどかにも危険が及ぶ。場所はここからそこまで遠くない建物の路地裏だからすぐに向かいましょう」

 

「え?」

 

 

ほむらが俺の腕を掴みベンチから立ちあがらせる。

訳が分かっていない俺はそのまま掴まれた腕に引っ張られる形でほむらの後を歩かされ、ようやく状況が理解出来た。

 

 

「向かいましょうって、え?俺も行くの?そもそもその情報ってマジなの?」

 

「本当よ。まさか私を疑っているの?」

 

「いや・・だってほむらがまどかをスト、見守っている最中に連絡来たら信じたけど俺の目の前にいるから何でそんな事分かるのかなぁと思いまして・・てか、さやかにはマミちゃんが付いてるんじゃ?」

 

 

遠慮がちながら率直な事を述べる。途中ストーキングと言わなかった俺を褒めたい。

 

疑問をぶつけられたほむらはピタリと立ち止まり俺の方に振り向いた。

一瞬怒らせてしまったかと冷や汗をかくが無表情で俺を見つめる様子からは感情を読み取れない。

 

 

「私がここにいるのがそんなにおかしいのかしら?」

 

「まあね。まどかに関する情報をどうやって手に入れたのかとちょっと疑問に思っただけだから」

 

「簡単な事よ。まどかを安全を守るためにあの娘に仕込んだ盗聴器とGPSがそう教えてくれたわ」

 

「・・・・・」

 

 

 

 

お巡りさあああああああああああん!

 

 

犯罪者がいます!

ここに犯罪者がいますううううううううう!

 

 

それも重度のストーカーな上に自衛隊基地不法侵入及び武器窃盗の重罪人です!

今すぐ逮捕してください!いろんな意味で俺が危ない!

 

 

おかしいな!

 

いつものムカつくすまし顔のはずなのに今はとんでもない狂気な表情に見えるのは絶対気のせいじゃないはず。

 

 

何思いっくそヤバい犯罪暴露してくれてんの!?何その自信に満ち溢れた表情!?

ちゃんとまどかを守っていると誇りに思ってんのか!?全くの見当違いだからね!

逆にお前がまどかを危険な目に遭わせてるようなもんだからね!

 

 

非難めいた目をほむらに向けていると俺の耳元にこちらも自信満々な声が聞こえてくる。

 

 

「大丈夫さ!ほむらがまどかに使用している盗聴器とGPSは僕が作ったんだ!魔女の結界の中でもきちんと起動するように設計してあるよ!」

 

「お前が共犯か!!」

 

 

まさかのシロべえがストーカーの共犯!

 

 

俺の首元にいる白いマフラーに抗議の視線を向ける。

目が合った白い顔は腹の立つドヤ顔で踏みつぶしたくなってくる。

 

 

何でよりによってほむらのストーキング行為に協力しちゃってんだよ!?

お前が協力したせいで紫の犯罪がより高度なものに発展しちゃってんじゃん!

 

 

俺の心を読んだかのようにシロべえは絶妙なタイミングで説明が始まった。

 

 

「実際問題、まどかを見張っとかないとまずいよ。どこにインキュベータ―の罠にあるか分からないからね。いつも見張るわけにはいかないしこの方がプライバシーは守れて安全だよ。でも大丈夫!まどかに仕込んだ盗聴器とGPSは一か月間しか使えないから期間が過ぎると機能は停止して保存したデータも消滅する☆三つの安心設計さ!」

 

「安心できるか!まどかのプライバシーのへったくれもないじゃん!それでいいのか!?」

 

「これも必要な事よ。全てはまどかを守るため。我慢してちょうだい」

 

「いや我慢するのは俺じゃなくてまどかの方だから。ついでにお前の言ってる事どう聞いてもストーカーの理論にしか聞こえないんだけど」

 

 

我慢ならなかった俺はとうとう禁断ワード「ストーカー」を口に出すもほむらは全く動揺せずうるさいとばかりに髪をバサァッと払われてしまった。

 

少しは思い直してくれればと俺の淡い期待はすぐに消える。

やはりほむらはほむら。さやかとは違った厄介な一途さだ。

 

 

「勘弁してくれよストーカー。その内泣いちゃうよ俺?」

 

「あらそう。貴女が泣きたいなら勝手に泣けばいいわ。時間がないからとにかく行くわよ。慰めは後よ」

 

 

人の話を聞かない奴はどこまでも聞かないものらしい。

 

俺の勇気を振り絞った抗議は華麗にスルーされてそのままほむらに引きずられていく。

さすが魔法少女。変身していなくても意外と力あるな。

抵抗しても全く意に介してないもん。

 

 

「待って!まだ質問に答えてもらってない!マミちゃんはどうしたの!?」

 

「知らないわ。途中までは美樹さやかと一緒にいたみたいだけど、はぐれたのか今は連絡がとれないの」

 

「えー・・」

 

 

まさかのマミちゃん行方不明事件。

おい勘弁しろよ。さやかの指導と護衛を頼んだのに何で放棄してんだあのクルクル!

止める人いないから原作通りに赤と青が仲良く喧嘩しちゃうわけだよ!

 

 

「・・あ、そういえばほむらさんはどうやって俺を見つけたの?」

 

 

ただ引きずられるのも癪だし、この質問は答えてもらってない事を思い出したので聞いてみる。

 

お互い杏子を探すため二手に分かれたのだ。

大雑把にどこを探すかは事前に打ち合わせしていがお互いの場所まで把握していない。

 

大方盗聴器でまどかの所に杏子の乱入があったのを知って急いで俺を探しにきたとかそんな所だろうな。

 

 

「簡単な事よ」

 

「?」

 

 

今度の質問で立ち止まる事はなかったが答える気はあるらしく、ほむらは少しだけ俺の方に顔を向けて口を開いた。

 

 

 

「佐倉杏子を見つけるなら闇雲に探し回るより餌を用意して待つ方が効率的だと思ったからよ」

 

「??」

 

 

ほむらはじっと俺を見てなんてことない風に答えているが全然理解できない。

 

 

こちらを見るその視線に何故か鳥肌が立つのは俺だけだろうか?

 

 

取り敢えず分かるのはほむらは、杏子を闇雲に探すんじゃなくて罠を張って待機していたという事だ。

なるほど、それなら納得だ。

 

 

だから俺の所に。・・・ん?ていうかちょっと待って?

俺の所にいるって事はまさか俺を餌にしてたんじゃないよね?

 

 

杏子をおびき寄せる囮にされてたんじゃないよね?違うよね?

 

 

 

「・・まずい」

 

 

「へ?」

 

 

不穏な想像をしていた俺はほむらが何か呟いたのを聞き逃してしまったので何を言ったのか聞こうと顔を向けたらほむらは魔法少女に変身してました。

 

その表情は緊急事態でも起きているのか険しい。

 

 

ガチリと腕の盾から音が聞こえた途端、喧騒にまみれていた周りが一瞬で静寂に包まれる。

 

時間停止を発動させたようだ。どうやらマジで事態は事を窮するらしい。

 

 

「急ぎましょう。ぐずぐずしていたらまどかが危ないわ」

 

「え?いってらっしゃい」

 

「何言ってるの?優依も行くのよ!」

 

「は?ひゃあああああああああああああ!?ふぐぅ!」

 

 

そのまま俺を無視してまどかの元へ一気に走り出すのかと思いきや何故か俺を担いで一気に建物まで飛び跳ねる。建物との間を飛び移り、気分は怪盗になった気分だ。

 

下を見ると地面がとても遠く感じ人が蟻のように見える。

 

 

ちなみにシロべえ!

 

 

振り落されないようにしがみつくのは構わないけど俺の首を絞めるのはやめて!窒息死するから!

 

 

「ちょ、マジで行くの!?俺行く意味ある!?」

 

「決まってるでしょ?貴女が行かないでどうするのよ。期待してるわよ」

 

「・・へ?」

 

 

にっこりと不吉な笑顔を見せるほむらに戦慄を覚える。どうやら俺に拒否権はないらしい。

抵抗したら落下して死ぬので、そのままほむらにお姫様抱っこされつつ建物を飛び移っていくのを他人事のように眺めていた。

 

 

あの超絶近接バトルの中、俺に一体何を期待するというのだろうか?

出来る事なんて何一つないと思うんで勘弁してください・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかside

 

 

 

「ふーん、思ったよりしぶといんだ、アンタ」

 

「く・・!一体何なのよ!?何であたしを襲ったわけ!?」

 

 

傷だらけの身体を魔法で治しつつ、あたしの前で不敵に笑う赤い魔法少女を睨む。

 

 

何でこんな事に?

 

 

恭介の腕が治ったお祝いを病院でした後、マミさんとまどかと合流して一緒に街をパトロールしてたはず。

でも途中でマミさんとはぐれちゃったみたいで連絡もつかずに途方に暮れながらもまどかと一緒にパトロールしてた。

 

そしたら近くの路地裏で反応がして、駆けつけると周りが結界に覆われて奥には落書きみたいな使い魔がいた。

 

こっちは魔法少女になりたてだから練習相手には丁度良い。

 

 

そう思ったからすぐさま変身して使い魔を攻撃したんだけど、そしたらいきなり背後に衝撃を受けて壁に叩き付けられた。

 

 

最初は何が起こったか分からなかった。

 

頭がこんがらがっててどういう状況か理解出来ない。

 

唯一分かるのは背中の焼けるような痛みだけ。

 

 

「チッ、浅かったか」

 

 

使い魔の攻撃?と考えてたあたしの背後から声がして振り返ったらこの赤い奴がいたんだ。

その言葉からコイツがあたしを攻撃してきたと察して頭に沸騰しそうになる。

 

 

訳わかんない!あたしとあいつは初対面のはず。

少なくともあたしは見覚えがない。

 

なのにどうしてあたしを攻撃してきたの?

 

 

たい焼きを頬張りながらあたしを見下ろしてくるから余計にムカつく!

 

 

「そこをどいてよ!使い魔が逃げちゃうじゃん!」

 

「あ?グリーフシードを孕まない使い魔殺してどうすんだよ?魔力の無駄遣いじゃん。ちゃんと魔女に成長するまで待てっての。そうしたらグリーフシードが手に入るんだからさ」

 

「使い魔を見逃したら人が殺されるのよ!?それを見逃せって言うの?」

 

「人の心配してる場合かよ。自分が殺されそうになってんのにさ」

 

「・・は? ッ!」

 

 

地面に倒れてるあたしに向かって槍の先端を向けてくる。

ちょっとでも動けば当たってしまいそうな距離だ。あたしを見下ろすその目はとても冷たくて鋭かった。

 

 

どうして?どうしてあんなに憎々しげにあたしを睨んでくるの?

 

あたしが何したって言うのよ!?

 

 

「あたしに恨みでもあるの!?」

 

 

気づけばそう叫んで槍を剣で弾いた。

その拍子に赤い奴が後ろに飛んであたしと距離をとっている。

 

 

訳が分からないまま攻撃された理不尽に腹を立てていたから必然的に声もトゲが出てしまったけど気にしない。むしろ怒ってた方が身体に力が入る。

 

攻撃された傷はもう治ったからいつでも戦える。

グッと剣を地面に突き立てて立ち上がって前を睨む。

 

あたしが睨む先には赤い奴が意地の悪い笑顔でこっちを見ていた。

それなのにあたしを見るその眼だけは怒っているのか激しい炎でも宿しているような揺らぎを感じる。

 

 

「あたし、あんたと初対面のはずだけどいきなり何?憎まれるような事した覚えないけど」

 

「・・殺したいって思うぐらい憎いよ。まあ、アンタだけじゃないけどね。他の魔法少女もそうさ。全員ぶっ潰すつもりだけど手始めに一番弱そうなアンタから潰そうと思っただけさ」

 

「はあ!?あたしが何したって言うのよ!?」

 

「目障りなんだよ!」

 

「!?」

 

 

いきなりの声量にたじろいでしまう。

 

 

さっきまで張り付けてたムカつく笑顔が一瞬で消えて、代わりに瞳と同じような激しい炎をまとった怒りの形相であたしを睨んでくる。

 

何であんなに怒ってんの?

あたし知らない間にあいつを怒らせるような事した?

 

考えても全く思い当たる節がない。

 

今日だっていつも通りの日常を過ごしてた。

変わった事と言えば恭介のお祝いと優依に甘えたくらいだ。

それが原因とは思えない。だめ、やっぱり分からない。

 

 

「さやかちゃん!」

 

「! まどか!?」

 

 

様子を見守っていたまどかがこっちに向かって走ってくる。

 

 

「来ちゃだめ!あいつが・・!」

 

「おっと、動くなよ」

 

「!?」

 

「まどか!?」

 

 

あたしの傍に駆けよろうとするまどかの前に突然赤い楔の鎖がびっしりと張り巡らされて道を塞いでいる。赤い奴の仕業だ。

通せんぼをくらったまどかはオロオロしながら立ち往生してあたしと赤い奴を交互に見つめている。

 

 

「アンタにも用があるんだ。コイツを潰したら後で少し顔貸してもらうぜ。それまではそこで大人しくしてな」

 

「え・・?」

 

 

戸惑うまどかの方を苛立たしげに見ながら赤い奴ははっきりそう言った。

 

槍を向けてるって事はひょっとしてまどかにも恨みがあるの?

でもあの娘の性格上、誰かに恨まれるなんてありえない。きっと逆恨みだ。

 

あたしとまどかがあいつから恨まれてる理由って一体何?

 

 

「何で戦うの?さやかちゃんとわたしは貴女に何かしちゃったの?」

 

 

まどかが震えながらも果敢に赤い奴に話しかける。

身体の震えから相当怖がっているのは分かるのに、それでもしっかりした目で赤い奴の方を見ている。

 

そんな肝の据わったまどかをあいつは冷めた目で見返してた。

 

 

「・・・・ふん。それに答える必要があるかい?」

 

「あるよ!だって知らない間に貴女を怒らせるような事しちゃったのなら謝るから・・!だからこんな事もうやめて!」

 

「・・謝らなくていい。アタシはアンタらを見るだけでイライラするんだよ。謝るくらいならさっさとアタシの前から消えろ」

 

「・・・そんな」

 

 

勇気を振り絞った説得は無下にされまどかは意気消沈してるのか涙目だ。

 

それ以上話すつもりはないのか赤い奴はまどかから背を向けあたしの方に向き直ってる。

 

 

何でか分からないけどあいつは凄く苛立ってる。

今は下手に動いて刺激したら危険だからむしろこの方が都合が良いのかもしれない。

 

 

幸いまどかはあの妙な赤い鎖のおかげで動けない。

 

ここは大人しくしてもらおう!

 

 

「まどか動いちゃダメ!あたしは大丈夫だから、あぐっ!」

 

「よそ見してる場合かよ!」

 

 

言い終わる前に脇腹に衝撃が走ってまた壁に叩き付けられる。

 

すぐさま魔法を施してダメージを受けた身体を治すけど、すぐさま連続で攻撃してくる。

あいつの攻撃一つ一つが身体が動けなくなるほどの致命傷になる威力だからすぐには反撃できず防御するのが精一杯。

 

繰り出される攻撃全てに手加減なんて一切感じない。

 

 

本気であたしを殺すつもりだ!

反撃しないとこっちがやられる!

 

 

「あんたに恨まれるような事した覚えないわよ!」

 

 

剣を振り上げて赤い奴の頭上をめがけて斬りかかる。

 

 

「!」

 

 

でもあたしの攻撃は見切られてたみたいで、赤い奴が持っている槍で難なく防がれてしまいガキィンと金属がぶつかる音と火花が辺りに飛び散った。

 

 

「く・・!」

 

 

赤い奴は槍に片手を添えてるだけなのにどれだけ力を込めてもビクとも動かない。

涼しい顔の無表情であたしの剣を受け止めてるのに対して、あたしは歯を食いしばって必死の表情。

焦るあたしの頬に疲労と焦りの汗が流れている。

 

 

「この程度かよ」

 

「・・・っ」

 

「この程度の実力しかないのに何でアイツはこんな弱い奴に構うんだよ・・!」

 

「? うぁ!」

 

 

均衡状態だったぶつかり合いは赤い奴が薙ぎ払いであっけなく終わった。

薙ぎ払いの衝撃はモロに受けてしまい剣もろとも弾かれてしまって無防備だ。

 

 

あいつはその隙を見逃さなかった。

 

 

「ごほ・・う!」

 

 

無防備だったお腹を蹴られ勢いよく地面に叩き付けられる。

思った以上の衝撃で回復する事すら忘れてそのままうつ伏せで咳き込む。

遠くでまどかが「さやかちゃん!」と叫ぶのがうっすら聞こえた気がする。

 

苦しい!早く回復させなきゃ・・!

でないと・・!

 

 

「その回復は厄介だな」

 

「!」

 

 

咳き込みながら倒れるあたしを見下すそいつはとても愉快そうに笑っている。

 

夕日に照らされながら笑うその姿は何となくぞっとした。

本当に笑ってるのかと疑いたくなるほど暗くてどこか痛々しいとすら思えてくるほど壊れた笑顔だったから。

 

 

ここまで恨まれるなんてあたしは本当に何をしてしまったの?

分からない。必死に思い出そうとしても覚えがないから何も出てこない。

 

それよりも先に立ち上がらなきゃ!

 

 

「おいおい、そのまま地面にへばってろよ」

 

「うぐっ!」

 

 

立ち上がろうとするあたしの身体を赤い奴が足で押し付けてきて地面に叩きつけられる。

それでも何とか立ち上がろうとしたけど、あいつの力の方が上みたいでそのまま地面に押さえつけられ徐々に足に込められる力が強くなっていく。

 

 

「う・・!」

 

「ホントに厄介だなその回復力。まあでも、所詮魔力で治してるから限度ってもんがあるだろ?ずっと痛めつけてたらその内魔力がきれるから、ご自慢の回復も出来なくなるじゃん!だったらどこまでもつか試してみるのも面白そうだな?アハハハ!」

 

「・・っ!」

 

 

頭上で楽しそうに笑うあいつの声が聞こえてくる。

何でそんなに楽しい声が出せるのか分からないけどまともじゃないのは何となく分かる。

 

得体の知れない恐怖に思わず涙が滲んで視界がぼやけてくる。

 

 

悔しい!何でこんな目に遭わなきゃいけないのよ!?

ホントにあたしが何したっていうの!?

 

 

 

 

「・・まずは手から潰してやるか」

 

 

「!」

 

 

必死に足をどかそうと動かしていた手に赤い槍の矛先が向けられている。

その距離はほとんど触れいていると言える近さ。先端が肌に当たっていてそこから赤い血が流れていた。

 

それを見た瞬間、あたしの視界は真っ赤になった。

 

 

 

「ふざけるな!」

 

 

 

あまりの理不尽さに怒りが爆発して掴んでいた剣を赤い奴めがけて突き刺す。

 

殺すつもりでいかないとこっちが殺される!

なりふりなんて構っていられない!

 

やられる前にやらなきゃ!

 

 

咄嗟の攻撃だったけど切っ先はあいつの眉間をめがけて振り上げる。あともう少しで・・!

 

 

「ふん、遅いっての」

 

 

あたしの不意打ちに近い攻撃も赤い奴にとっては大した驚きもないらしい。

少しだけ顔を横にずらして難なく躱してしまった。

 

逆転のチャンスは一瞬で消え去ってしまった。

 

 

「!」

 

 

落ち込む暇もない内にあいつが槍を大きく振りかぶってる。

 

 

位置からして狙いはあたしの頭だ!

 

このままじゃマズイ!

 

 

「! 離せ!」

 

 

渾身の力を足にこめて地面を蹴る。

あたしを押さえつけてた足は槍を振りかざすのに力を割いているのか簡単に振り払えた。

そのまま勢いに任せて赤い奴から飛びのいた。

 

 

「く・・うぅ」

 

 

無理やり身体を動かしたからまともに受け身を取れずズザァァと派手な音を立てて地面に転がり込んだ。

背後でドゴォと何かが割れる音が聞こえた気がするけど一体何?

 

 

「・・・!」

 

 

痛む身体に魔法をかけつつ後ろを振り返るとあたしがいた場所に槍が突き刺さった地面は遠目からでも分かるくらい深く抉れている。

 

もし抜け出せていなかったらあたしがああなってたと思うと身震いしそう。

本当に危なかったんだ。ギリギリセーフだったけど何とか回避出来てよかった・・!

 

 

少し遠くで赤い魔法少女が抉れた地面に槍を突き刺して立っている。

取り逃がした事に腹を立てているのかあいつはあたしの方を睨みながら「チッ」と舌打ちをしていた。

 

 

「残念でした!あんたの攻撃外れちゃったね!次もかわして・・っ!?」

 

 

精一杯の虚勢は最後まで言えなかった。

呼吸がしづらくなるような息苦しい空気が辺りを支配している。

 

あいつだ。あの赤い奴の全身から威圧に似た殺気があふれ出てるんだ。

それがこの重苦しい空気の正体。さっきまでの激しい怒りが子供みたいに思えるほどの重圧。

 

 

「気が変わった。徹底的に痛めつけてやろうかと思ったけどやめだ。さっさと死ね」

 

 

抑揚のない冷たい声が響く。

さっきまでの取り繕った笑顔すら今は完全に消え失せてしまって何の感情も映さない無表情であたしを見ていた。

 

来る!

 

殺気が全てあたしに向けられているのを全身で感じ取ってたからすぐにでも攻撃してくる。

 

近距離は危険だから少しでも距離を離さなきゃ・・!

 

 

「え・・?」

 

 

耳元にジャラッと鎖の音が聞こえた途端、下に引っ張られるような感覚が起きていきなり視界が反転してガクッと地面に膝をつく。

 

慌てて身体を向けるといつの間にかあたしの身体に巻き付いてる赤い鎖。

 

いつの間に?これじゃ動けない・・!

 

 

 

「終わりだよ」

 

 

 

そんなに大きな声じゃなかったのにあいつの声が不気味なくらいはっきり聞こえる。

夕日が当たって表情は影で見えないのに鋭く光る赤い目が印象的だ。

 

 

「じゃあな!!」

 

 

赤い魔法少女が地面を蹴って空中で身を翻す。

そしてそのまま体制を整えて槍をこちらにむけながら向かってくる。

 

 

赤い槍の先端はあたしを真っ直ぐ捉えていた。

 

 

やられる!

 

 

さっきから拘束から抜け出そうとしてるけどジャラジャラ音を立てるだけで壊れる様子はない。

足も固定されているからこれじゃ逃げる事すら・・!

 

 

「!」

 

 

槍の先端があたしの目の前までスローモーションで迫っていている。

あと少ししたら槍で貫かれる。

 

 

 

あたし死ぬの?

恭介の腕を治すために魔法少女になってまだ一日しか経ってないのに・・。

 

ここで終わり?

 

 

 

 

「さやかちゃん!!」

 

 

 

ごめんねまどか。あたしここまでみたい。

 

 

 

ごめんなさいマミさん。あたしはダメな後輩でした。

 

 

 

ごめんね・・・優依。

 

 

 

 

 

 

 

「え・・?」

 

 

 

 

 

気づくと何故かあたしの視界は真っ暗になっていた。何も分からない。

分かるのは身体が何か包まれている事と、少し離れた場所からドゴォォンと何かが破壊される音が聞こえるだけ。

 

 

 

「一体何?」

 

 

何も見えない。目はちゃんと開いているのに真っ暗だ。

 

何かで目を塞がれている?敵?でも敵とは思えない。

だってあたしを包んでいるものは温かくてこんな状況なのにほっとしてしまいそうな安心感を感じるんだもん。

 

これは一体何?

何だか前もこうやって抱きしめられような・・?

 

 

「な、なんで・・?」

 

「?」

 

 

少し遠くで震える声が聞こえる。

 

 

この声はあいつだ。

何に向かってしゃべってるんだろう・・?

 

 

「何でだよ・・!?」

 

 

泣きそうな声を出す赤い魔法少女は誰かに向かって叫んでいる。

その声はあたしのいる方向に向かって叫んでいるのが何となく分かった。

 

 

じゃあ、あたしを包んでるのって人なの?

あいつの知り合い?あたしの知ってる人?

 

誰なんだろう?

 

 

 

 

 

「何でソイツを庇うんだよ優依!?」

 

 

 

「!」

 

 

 

本当に泣いてるんじゃないかと疑いたくなるほどの悲痛な叫びが届く。

 

それよりも今なんて言った?

 

 

「優依」って言わなかった?

 

 

え?まさか・・!?

 

 

すぐさま身体をよじって顔だけ外に抜け出した。

 

 

最初に目に入ったのは怒りと悲しみが入り混じった複雑な表情をしてる赤い魔法少女で何かを一心に見つめていてあたしには見向きもしない。

 

あいつが見つめている先に興味を惹かれ顔を向けると驚きのあまり目を見開いた。

視線の先には何度見てもムカつくくらい整った顔があってそれを支える身体があたしを抱きしめてる。

 

 

「優依・・?」

 

 

優依があたしを抱きしめながら赤い奴を睨んでいる・・?

 

 

訳が分からないからとにかく誰かに説明してほしいんだけど誰も口を開こうとしない。

 

 

赤い奴が信じられないといった表情で優依を呆然と見つめているし、その優依は黙って赤い奴を睨んでいる。

 

 

 

二人が知り合いなのは何となく分かったけど、一体どういう関係なんだろう?




次回 シュ・ラ・バ♪
杏子ちゃん絶対カンカンでしょうねーw


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72話 青 vs 赤 間に挟まれる俺

杏子ちゃんが現れたら修羅場は間違いなし!


「何でソイツを庇うんだよ優依!?」

 

 

何でだって?そんなもん、

 

 

俺が聞きたいわああああああああああああああ!!

 

 

何で!?何でこんな事になってんの!?

 

何で俺はさやかを抱きしめながら杏子と対峙してんの!?

 

何で杏子はあんなに殺気立って俺を睨んでるの!?

全然分からない!何がどうなってんのこれ?

 

 

「「「・・・・・・」」」

 

「・・・ひぃ!」

 

 

赤と青(+ピンク)の視線が一心に混乱状態の俺に注がれている。

視線がチクチクと俺の全身を突き刺し、ボロボロな精神を徹底的に痛めつけてくる。

 

 

ちょっとやめて!妙な視線を俺に向けるの!

俺が一番戸惑ってるから!

 

特に杏子!何なんだその目は!?

まるで彼氏の浮気を発見した彼女みたいな怒りと悲しみが入り混じった超複雑な目になってるぞ!

 

違うんだ!これには訳が!

決して君のさやかちゃんに不埒な事をするつもりはなかってんです!

 

 

俺がこんな事になったのはほむらとシロべえの仕業だ!

そうに違いない!それはきっとあの時に!

 

 

 

 

 

「うわー・・バトッてんなー・・」

 

 

ほむらによって拉致に近い形で連行された俺は杏子たちがいる路地裏の建物の屋上から赤と青の戦いを見下ろしてた。

 

到着した時には遠目からでも分かるほど激しい戦いが勃発していたのだ。いやこれは戦いじゃないな。

 

 

どう見てもさやかが嬲られてると言ったほうが正解だろう。

それだけこの戦いは杏子が圧倒していた。

 

 

さやかは赤の攻撃を受ける度に地面や壁に叩き付けられてる。

その度に得意の回復を施し、杏子に立ち向かっていってまた返り討ちに遭う、それの繰り返しだ。

 

さやかが勝利するのはほぼ不可能だろう。経験と実力が違い過ぎる。

杏子にトドメをさされるのも時間の問題だろう。

 

 

「遅せえよ!」

 

「きゃあ!」

 

 

それにしても杏子は一体何がしたいんだ?

 

本来ならさやかを一撃で倒せるはずなのにわざと手加減して痛めつけているようだ。

その様子はさながらナチュナル拷問と呼ぶべきものだろう。怖い。

 

 

痛めつけているのは分かるが理由が分からない。

 

原作では杏子がさやかに喧嘩をふっかける理由は忌まわしい過去の自分にそっくりだからだ。

その過去をさやかを倒す事で清算しようとしていたらしいが今はどうだ?

 

杏子がさやかを倒して過去の自分を断ち切りたいというよりさやかを痛めつける事自体が目的にも見える。

それほど杏子の戦いに本気を感じない。遊んでいるとさえ思えるほどだ。

 

俺が杏子の立場だったら自分の忌々しい過去なんて見たくもないからさっさと潰すなりなんなりすると思うんだけど・・ひょっとして好きな子は虐めたくなるタイプか?

 

杏子ってそんな感じがするけど趣味が悪いとしか言いようがないな。

そんなんじゃますます嫌われるぞ杏子よ。

 

 

まあどんな理由があるにせよ、絡まれるさやかはたまったもんじゃないだろうな。ホント気の毒に。

 

 

 

「終わりだよ」

 

 

 

とどうでも良い妄想してて戦いを見逃していたら杏子の奴、何故かブチ切れていた。

ここまで分かるくらい凄まじい殺気をさやかに向けていて身体が勝手に震えてくる。

 

 

さやかよ、一体何をやらかしたら杏子はあそこまで切れるんだ?

 

 

キレた杏子は行動が早かった。すぐさま空中で身を翻して槍を構える。狙いはもちろんさやかだ。

かわさないとやられる事が分かっているが鎖でぐるぐる巻きにされたさやかは身動きがとれない。

 

このままじゃまずい!トドメをさす気だ!

 

 

「危ない! ・・あれ?」

 

 

少し身を乗り出して注意を引こうとしたが、何故か時でも止まったかのように誰もピクリとも動かない。

てか、杏子に至っては空中に縫い付けられてるのかと思うくらいピタリと静止している。

 

 

こんな芸当出来る奴は一人しかいない。

てか、さっき何気に隣でガチリって音したし。

 

 

「グッジョブ!」

 

 

この不思議な現象の仕掛け人であろう隣にいるほむらに向けて親指を突き立てた。

 

 

今回は良い仕事したぞほむら!

普段これくらい良い仕事してくれたら助かるんだけどな!

 

 

「馬鹿な事してる場合じゃないわ。この場をどうにかしないとまずい。手短にこれからどうするか言うからちゃんと聞いておくのよ」

 

 

俺の賞賛はポーカーフェイスを保ったほむらにあっさりスルーされ内心傷つくも表情には出さない。

今はそんな事やってる場合じゃないのは俺にも分かってる。

 

ともかく今はほむらの作戦に耳を貸すのが優先だろう。

 

俺は無言で頷いて続きを促す。

 

 

決して「無視?」と文句を言わないようにしているとかそんなんじゃない。

 

 

「まず私が佐倉杏子の攻撃の軌道をずらすわ」

 

「なるほど。その後にほむらが二人の間に入るんだね」

 

 

ほむらの作戦に納得した俺はふむふむと頷く。

 

ここは原作通りほむらが介入するのか。

まあ、何故かマミちゃんがいない今、あのケンカップルを止められるのはほむらだけだろう。

 

俺もそれに異存はない。

 

ただあの暴走娘どもがそれで素直に止まるとは思えないが。特にさやかが。

 

 

俺の考えは合っているらしくほむらはゆっくり頷いて先を続ける。

 

 

「えぇ、その通りよ。ただし彼女たちの間に入るのは私じゃなくて優依よ」

 

「え?」

 

 

ほむらの口から出てきた言葉は俺の耳は受け付けてくれたが頭が受け付けてくれなくてもう一度聞き返す。

 

なんか俺があの犬猫の激しい喧嘩の間に入るって聞こえたんだけど?

 

 

今の俺の目はきっと目が点になっている事だろう。

 

 

理解が追いつかない。いや追いつきたくない。

 

 

「ごめん、もう一度言って?なんか恐れ多くもあのケンカップルの間にお邪魔するって聞こえたんだけど?」

 

「その通りよ。何の為に貴女を連れてきたと思ってるの?行くわよ」

 

「ちょ、うひゃああああああああああああああ!?」

 

 

必死に理解しようと努める俺に対してほむらはどこまでも冷たかった。

 

 

いきなりほむらに担ぎ上げられてそのまま建物から紐なしバンジーの要領で飛び降りる。突然降りかかった浮遊感に一瞬意識が飛んだ。

 

すぐに浮遊感がなくなるも何故か周りにお花畑が広がっている。目の前には川が流れていた。

 

 

「さあ優依、準備して」

 

 

 

あれ?川の向こう側で誰か手を振ってる?

 

誰?男の子?ん?ちょっと待って?あれ邪神じゃね!?

 

 

 

「起きなさい優依!」

 

 

「! え!?ここどこ!?」

 

 

思いっきり肩を揺さぶられてようやく意識を取り戻した。

どうやら俺は気を失っていたようで白昼夢を見ていたようだ。

 

 

・・なんか不吉な夢を見ていた気がする・・。

 

 

「ほら、さっさと準備して」

 

「え?いや、ちょっと待って!俺やるなんて一言も言ってないよ!てか、あんな犬も食わないような夫婦喧嘩の中に入ったら一秒足らずで俺死んじゃうよ!」

 

 

俺の首根っこを掴んでさやかがいる現場(時間停止中)まで引きずっていこうとするから精一杯抵抗するも力及ばずズルズル引きずられていく。

 

 

「それについては心配いらないよ!ほむらが攻撃を逸らしてくれるし、僕だって簡単な結界を施してあげるから安全だよ!」

 

「いや例え攻撃を回避出来たとしてもすぐまた攻撃してくるじゃん!そうなったら俺死ぬわ!」

 

「それも心配ないよ!佐倉杏子が君を攻撃するなんてありえないからね!例え頭に血が上っていても君が目の前に現れればすぐさま攻撃をやめるさ!」

 

「何だそのめちゃくちゃな理論は!?どこにそんな根拠があるんだよ!?」

 

「大丈夫さ優依!君ならやり遂げられると隠れて見守っているからね!」

 

「他人事だなおい!嫌だって言ってんだろ!」

 

 

引きずられる俺の傍を悠然と歩く白い物体。

ムカつくので道連れにしてやろうと手を伸ばすもそれを見越してか微妙に届かない距離まで離れているので更にムカつく。

 

そうこうしてる内にさやかがいるすぐ近くまで来てしまった。

上を見上げれば今にも赤い槍を突き刺してきそうな奴もいるからめっさ怖い。

 

 

「つべこべ言わずにやりなさい。佐倉杏子を止められる可能性があるのは優依だけよ」

 

「出来ないから!俺にはあの赤い悪魔を止めるなんてそんな聖女的要素持ってないから!てか、どうやって止めんの!?」

 

「頼んだわよ」

 

「待っ・・」

 

 

そこで会話が唐突に途切れる。そして気づけば、

 

 

 

 

――ドゴオオオオオオン――

 

 

 

 

ひいいいいいいいいいいい!

 

 

 

気づけば目の前でアルマゲドン的な爆発が起きていて、ビビった俺は近くにあったものに抱き着いたのだ。

そして恐ろしい事に抱き着いたのがものじゃなくてたまたま近くにいた青い魔法少女だった。

 

俺の腕の中でもごもごと動くから何だろうなーと横目で見たら驚いたように目を見開くさやかの姿があって表情には出なかったが俺も驚いた。

 

まさかのナチュナルセクハラ!

訴えられてもこの体勢じゃ文句言えないぞ俺!

 

 

てか、ほむらとシロべえはどこいった!?

 

キョロキョロ周りを高速で動かして奴らを血眼で探すも見えるのは、

 

槍がぶっ刺さって出来たであろう抉れた地面

威圧感半端ない仁王立ちの杏子

さやかに抱き着くというセクハラ加害者の俺

俺に抱き着かれるというセクハラ被害で呆然とするさやか

心配そうに様子を見守るまどか

 

犯人共がいない上に何ですかこのカオスは?

あいつらどこ行きやがった!?

 

混乱を極めると表情って消えるんだね!初めて知ったよ!

 

今の俺の心の中はパニックと怒りと焦りでグッチャグチャ。しかし表情は能面のように無というアンバランスさだ。見た目では分からないがこの中で誰が一番驚いてるかで言えば間違いなく俺だと自信をもって言えるだろう。

 

 

 

 

「何でソイツを抱きしめてんだ!?」

 

「! ・・ひぇっ」

 

 

これからどうしようかとせわしなく目を動かしているとドスのきいた声が頭上から降ってくる。

 

 

弾かれたように顔を上げれば、いつの間にかすぐ近くまで接近していた杏子が怒りに燃える目で俺を見下ろしている。あまりの怒りっぷりのせいで身体が震えていらっしゃり握りしめた手は力を込めすぎて白くなっている。

 

そして俺の腕の中には杏子に対して警戒心剥き出しで身体が強張っているさやか。

 

 

俺の好きな魔法少女衣装二大巨頭が揃っている。

まさにパラダイスだというのに素直に喜べない。

 

本来なら二人の衣装を存分に堪能したい所だったが杏子の纏う触れたら全部傷つけそうな超おっかない雰囲気のせいでそんな邪な事が出来るほど俺は挑戦者じゃない。

 

 

「おい、聞いてんのか!?」

 

「!」

 

「何でこんな女を庇うんだ!?こんな弱い奴、庇う価値もないじゃん!」

 

「え、えっと」

 

 

何とか弁解しようとするも慌てて声を出すも、怒鳴り声のせいですぐ口ごもる。

 

 

どう説明すればいいんだこれ?

 

庇ったんじゃなくて、爆発に驚いてたまたま近くにあったものに抱き着いたら、それは実はさやかちゃんでしたなんてそんなアホみたいな言い訳通用する空気かこれ?

 

絶対通用しないだろうな。

 

 

それに今の杏子は危険だ。何故かかなり苛立ってる。

少しの刺激で爆発してしまう不発弾のような雰囲気だから一瞬でも気が抜けない。

 

 

「さっさと離せよ!今からソイツにトドメをさすんだ!巻き込まれて怪我してえのか!?」

 

「ひえ・・」

 

 

これが本当のヘビに睨まれたカエル。

前世含めて俺の生涯一番の目力で睨まれている気がする。

 

杏子の全身からあふれ出る殺気にあてられ、恐怖で身体がガタガタ震えてしまい言葉が思うように出てくれない。

しかも発言が思いのほか物騒なのも相まって恐怖が倍増だ。マジ怖い。

 

 

杏子様はまさか自分の未来の嫁であるさやかをぶっ殺すとおっしゃられているのでしょうか?

 

 

俺の中の杏さやの計画がガラガラと音を立てて崩壊していく。

今のままの二人をくっつけさせるとか無理!それ以前の問題だよ。

 

 

・・この杏子は本物か?

物騒過ぎるしこいつも偽物だったりして?しかし悲しいかな。

 

俺の勘が本物の杏子だと告げてしまっている。泣きそうだ。

 

 

 

「早く離れろ!!」

 

 

さやかに触れそうなくらい赤い槍を近づけてくる!

 

こんなバーサーカー状態の杏子をどうやって止めるんだよ!?

 

せめて指示くらい出してくれよほむら!

渦中に放り込んでおいて後は放置とか一番やっちゃいけないやつだからね!

 

 

く!モタモタしていたらさやかが危ない!急いで何か喋らなきゃ!

 

 

「い、いやー、杏子さんなんだか(ドッペルゲンガーっぽいのには会ってるけど)久しぶりに会う気がするね。会ったのほんの数日前だと思うんだけど・・」

 

 

咄嗟に思い浮かんだのはただの世間話だった。

「こんな争いやめて!」とか「さやかを傷つけないで!」とか他に言う事あったろと思うが修羅場慣れしてない俺にはこれが限界でした。

 

 

あははと愛想笑いを浮かべながら杏子の反応を伺うも、さっきと打って変わって非常に冷たい目で睨まれているのは何故ですか?

 

 

「アンタにとってはたった数日でもアタシにとってはその数日は永遠と思えるくらいとても長かった。どれだけ待ってたと思ってるんだ、あぁ?」

 

「ひい!」

 

 

ちょっとでも空気が和らげればなぁと軽い気持ちでさやかに倣い多少茶目っ気を含めて喋ってみるも、まさかの地雷だったらしい。

 

赤い鬼は怒りに震える声だったし、語尾の方なんてほとんど脅しに聞こえたから思わず口から小さな悲鳴が出てしまったぞ!

 

 

当てられた怒気&殺気で俺の身体はガタガタと震えだす。

 

 

うう・・杏子怖い・・。

 

 

「待ってたのに・・何でこんな女なんかと・・!」

 

 

ってそれ誰に向かって言ってんの?

 

まさか「こんな女」って俺の事じゃないよね!?

それに呼応するかのようにギリッと音を立てて槍をキツく握りしめてるしマジで怒っていらっしゃる!

 

 

だがここでビビってる場合じゃない!

死亡フラグ回避のためにも何とかここで杏子を宥めつつ戦いを止めなくては!

 

そしてあわよくば今ここで協力要請までいきたい!

 

頑張るんだ俺!

 

 

「杏子あの「・・なあ優依」え?あ、はい、何でしょう・・?」

 

 

俺の言葉を遮るように杏子が口を開いたので先に話すように促す。

だって無視して機嫌損ねると超おっかないんですもんこの人。

 

 

「アンタにとってコイツは何だ?」

 

「え?」

 

 

杏子の目線はさやかに向いている。その視線は刃物のように冷たく鋭い。

そしてさやかの後に俺を映す瞳もどこか責めてるような怒った感じがするのは錯覚か?

 

 

錯覚であってほしい!

だって俺、杏子を怒らせるような事してないもん!

 

 

「早く答えろ!アンタにとってこの女は何なんだって聞いてんだよ!?」

 

「へぁ!?」

 

 

怒鳴り声にビビり思わず肩がビクッと震えて声が出ないが赤い目がさっさと答えろと訴えてくるのでちゃんと答えなくては。

 

 

すみません、何故か傍にいる青の方も期待を込めたキラキラした目でこっち見ているのは何故ですか?

 

 

えっと俺にとって、さやかは何?

なにそれ難しい!考えろ!考えるんだ!

 

 

「と、友達・・」

 

 

震える声でそう呟いたがシーンと静まり返っていた。

 

 

考えてみたけどこれしかなくね?

逆に他は何があんの?

 

 

重苦しい沈黙がしばらく続いた後、ようやく杏子が口を開いた。

 

 

「ふーん、友達・・ね」

 

「はい・・」

 

「嘘つくな!!」

 

「!」

 

 

まさかの怒りのボルテージ急上昇にビビり更にギュっとさやかに抱き着く。

その様子を間近に見た杏子はますます目が吊り上がっている。

 

 

「目の前でイチャイチャしといてただの友達ぃ?アタシをおちょくってんのかテメエは!?」

 

「そ、そんな訳ないよ!」

 

「じゃあ何でさっきよりも強くソイツに抱き付いてんだよ!見せつけてんのか!?」

 

 

赤い槍がさやかの身体にしっかり抱きついてる俺の手に向けられている。

一歩間違えたらブスリといかれそうな距離感だ。

 

それが怖くてさやかに抱き付いてるのが分からねえかのか!?

 

 

「誤解だよ杏子!」

 

「誤解なわけねえだろ!ソイツと随分と仲良さそうじゃん?・・デキてんのか?」

 

 

まあ、確かにこのまどマギキャラで誰と仲良いですかと聞かれれば真っ先に挙がりそうなのはさやかだ。

もちろん他の娘達とも仲良いとは思うけど、一番気が合うと思うのは青。

簡単に言えば可愛い乙女心を持った男友達といった感じだ。

 

一緒にいて一番楽なんです。ノリ良いし話も合う。

だからと言って何でデキてるっていう発想になるのか全く分からん。

 

 

あのー・・さやかさん何でそこで「・・友達か・・」とボソッと呟いてるんですか?

 

俺、君の友達じゃなかったの?さすがに傷つくよ?

 

 

それにしても俺はどうして杏子に責められているんだ?

俺とさやかはただの友達なのに。

 

・・まさか俺が未来の嫁であるさやかに手を出したと思ってるんじゃ?

 

 

「えっと俺とさやかの関係がどうしたの?さやかを襲った事と何か関係が?」

 

「あるに決まってんだろ!」

 

「はい?」

 

「・・優依が悪いんだぞ?」

 

「・・・は?」

 

 

突然杏子は顔を俯かせて彼女にしては珍しいボソボソと呟くような声で呟いた。

 

 

俺が悪い?何で!?俺は悪い事した覚えないぞ!

 

 

泣きそうな顔でぼそりと呟く赤。

そんなシュンとした表情してるのに。すっと音もなくさやかに槍を向けるという物騒な事をやらかしている。

 

 

「コイツに思わせぶりな事するから調子に乗るし、アタシも勘違いしちまうだろ」

 

「?」

 

「はあ!?何よそれ!?」

 

「お前は黙ってろ!」

 

 

突然のこき下ろしに抗議を入れたさやかの首筋に赤い槍の先端が向けられている。

 

杏子はさやかと会話する気はないらしく殺気全開だ。

向けられた殺気と徐々に近づく槍に流石にさやかは押し黙る。ただし目はギロッと杏子を睨んでいるが。

 

 

俺はそんな光景を間近に見て恐怖で精神が崩壊しそうなんですけど。

 

 

「冗談抜きで杏子は一体何やってんの?いじめ?カツアゲ?リンチ?」

 

「何言ってんだお前?どれも違うに決まってんだろ。アタシはただ綺麗な花に群がる虫を退治してるだけだ」

 

「ごめん、全く意味分からない」

 

 

比喩なんていらないから具体的に説明してくれ。

そうじゃないとちっとも理解出来そうにないから。

 

何で理由聞いたらいきなり花とか虫が出てくるんだよ?

そもそも花って何の例え?グリーフシードの事か?虫ってさやかの事ですか?

勘弁しろよ。君の未来の嫁を虫呼ばわりなんてして良いのかオイ。

 

 

ああもう!こいつの相手すんのなんか面倒臭くなってきた!

さっさと話をつけてお引き取り願おう!この調子じゃあ説得なんて絶対無理だ!

 

 

「あのー、杏子さん?どうしたら戦いやめてくれますか?」

 

 

本音は「とっとと帰れ」と言いたいんだけどな。

内心をそのまま出したら炎上間違いなしなので表面は出来るだけソフトに話しかける。

 

俺の手持ちのグリーフシード渡したら帰ってくれるかな?

杏子はかなり現金なところがあるし案外この手でイケるかもしれない。

 

 

「・・優依がこっちに来てくれるなら・・」

 

「・・ごめん。何て言った?」

 

「優依がこっちに来てアタシを抱きしめてくれるならやめてもいいよ」

 

「・・・・はあ」

 

 

スッと俺の方に両手を広げている杏子。え?俺が抱きつくのこれ?何で?

 

 

「優依!こんな奴の話を聞いちゃだめだよ!」

 

「お前は黙ってろって言ってんだろ!」

 

 

槍の先端がさやかの首に少しだけ当たっているから血が流れだしている。

 

 

「っ!」

 

「優依こっちに来い。そしたら全部許してやるよ。魔法少女の事も、アタシに会いに来なかった事も、他の女に手を出した事も、全部。もちろんそのヒヨッコ魔法少女にも今後一切手を出さないようにするぞ?悪くない条件だろ?」

 

 

幼い子供に言い聞かせるように優しく微笑んでいる杏子。

しかしコイツの内面は今噴火状態とみていいだろう。だって殺気隠しきれてないし目が据わってるもの!

 

怖すぎるわ!無理!

 

 

「ほら、モタモタしてねえでこっちに来いって」

 

「え!?」

 

 

拒否する暇もなく俺の腕を掴んだ杏子が自分の方へ引っ張って俺を手繰り寄せる。

 

俺から行くんじゃなかったんかい!もはや杏子の傍に行くの確定!?

 

慌てて抵抗するも力で惨敗している俺は成すがまま引っ張られていく。

遠慮のない力で腕を掴んでいるからかなりの痛みを感じ顔はしかめっ面だ。

 

それに引き換え杏子はうっとりしたような表情で俺を抱えようとしてくる。

小声で「やっと捕まえた」って言ってるけど、どういう意味っすか!?

 

 

やめて!力の限り俺を抱きしめるの!

子供がお気に入りのおもちゃを取られないようにしてるように見えるけどお前がやるとその馬鹿力で死ぬから洒落にならん!

 

 

とにかくこのまま杏子の好きにさせるわけにはいかない!

何とかして話を出来る状態にしないと・・!

 

 

「ちょ、杏子!やめろって! !?」

 

 

 

「優依から離れろ!」

 

 

 

文句を言おうとする俺の真横を通り過ぎるように一筋の光が過った。

それと同時に後ろに引っ張られ杏子から引き離され何かが俺の身体をグッと抱きしめる。

 

顔を上げると凛々しい顔のさやかの横顔が見えた。

どうやら俺はさやかに抱きしめられているようだ。

 

 

「!」

 

 

杏子の方を見ると腕に一筋の赤い線が出来ておりそこから真っ赤な血がポタポタと流れ落ちている。

おそらくさやかの剣が杏子の腕を斬りつけたのだろう。

 

正直助かったがいよいよヤバい展開になりそうだ。

 

 

「テメエ・・!」

 

 

痛みからか怒りなのか分からないがさやかを見る杏子の顔はみるみる内に歪んでいく。

漏れ出す殺気はもはやこの空間全体を包んでいて息が苦しくなる程だ。

 

 

「あんたに優依を渡さない!あたしが必ず守るんだから!」

 

 

俺を引き寄せて剣を杏子に突きつけるさやか。やだかっこいい!

 

もし俺が純粋に女の子だったらキュンと来ていた事だろう。だが悲しいかな。

中身男の俺はキュンと来ないがこれが女の子なら惚れているかもしれないな。

 

て、そんな呑気な事考えてる場合じゃないわ!

 

 

「ハッ!お姫様を守るナイト気取りってか?弱いくせに出しゃばるんじゃねえよ!」

 

 

杏子の怒りのボルテージが上がっていく!

 

 

それに比例するかのように目を吊り上げて俺たちを睨んでいて恐怖のあまり気絶しそう。

両手に槍を構えてこちらにむき直っている。

 

 

 

何て事してくれたんださやか!

杏子がカンカンじゃないですか!これもうどうしようもないよ!

 

 

「殺してやる!二度と回復出来ないようにバラバラに引き裂いてやる!」

 

「やってみなさいよ!返り討ちにしてやるんだから!」

 

 

赤が槍を構えて青が剣を構えている。両者からは溢れんばかりの殺気が放たれている。

どうやらお互い完全に殺し合いモードに移行してしまったようだ。

もはや割り込む余地はないだろう。

 

・・泣きたい。逃げたい。

でも出来ない。何故ならまずい事に気づいてしまったのだ。

 

 

俺、どうやら最初の爆発の時に腰が抜けたらしく、身体に全く力が入らないという事に・・。

 

 

うわああああああああああああああ!

逃げられないよおおおおおおおおおおお!!

 

 

 

「二度と魔法少女に変身できなくしてやるよ!」

 

「望むところよ!」

 

「ひい!」

 

 

お互い武器を構えて怒鳴り合う赤と青に囲まれ、逃げられない俺の目は涙目だった事は言うまでもない。

 

誰か助けてえええええええええええええええ!!




案の定優依ちゃんは役に立ちませんでしたw
むしろ二人の殺意をヒートアップさせるという火に油を注ぐ愚行やらかしてます!


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73話 早よ来いや!

それぞれの認識

優依ちゃん:何で俺がケンカップルのイザコザに巻き込まれなきゃいけないんだ!?
杏子ちゃん:浮気しやがって!絶対許さねえ!
さやかちゃん:悪い魔法少女から優依を守らなきゃ!
まどかちゃん:(表)これからどうなっちゃうんだろう・・?
       (裏)凄い!何だか昼ドラ観てるみたい!


「優依!あたしの後ろに隠れてて!すぐにこいつをやっつけるから!」

 

 

殺る気満々で剣を構えている青い騎士。

 

 

「その減らず口から削いでやるよ。二度とウザい事言えないようにな!」

 

 

もはや怒りのオーラがラスボスレベルに到達しそうな赤い槍使い。

 

 

「二人ともー・・お願いだから冷静になってー・・」

 

 

そして腰が抜けたせいでこの場から逃げられず半泣きで青い騎士にしがみつく俺。

 

 

「ど、どうしよう・・?」

 

 

ついでに蚊帳の外でオロオロしているピンク。

 

 

カオス過ぎてこの状況の行く末が全く分からない。

 

 

もはや何でもいい。この状況を打破する何かよ!今すぐ起きてくれ!

それが魔女でもインキュベータ―でも可!

 

とにかくこの空気をぶち壊してくれえええええええええええ!!

 

 

 

 

「えっと・・優依?」

 

「へ・・?」

 

 

俺の頭上から控えめな声が降ってきたので半泣きのまま顔を上げるとさやかが申し訳なさそうな表情で見下ろしている。

 

 

「あのさ、取りあえず離してくれない?これじゃ戦えないよ」

 

 

遠慮がちにそう告げると青い目は自身の細い腰にしがみつく俺の腕を見つめている。

 

なんて事はない。俺がしがみついる状態じゃ戦えないのだろう。

強引に引き剥がさない辺り、さやかなりの優しさを感じる。

ますます離したくなくなってくる程だ。

 

きっとさやかの目に映る俺はさながらどこかへ出かけようとする母親にしがみつく子供といった感じなのだろう。だってさっきから生暖かい視線を感じるもの。

 

 

「おい優依。さっさとそのザコ離せ。さもないとお前も痛い目に遭うぞ?」

 

 

それに引き替え、杏子の乱暴さときたら!さやかを見習え!

 

ムッと杏子の方を睨むと笑っているけど不機嫌さMAXオーラを漂わせている赤い魔人が目に入る。

 

大方俺が邪魔するせいで戦えない事に腹を立てているのだろうが、無理に攻撃してこないだけ優しいのかもしれない。多分。

 

杏子も優しいのは知ってるけどなんせ物凄く分かりくいしやり方が不器用だ。多分。

普段の意地悪ささえなくせば絶対好印象になるし、さやかも見直すはずなのに勿体ない事だ。多分。

 

心優しいのは確かだけど意地悪な性分もまた杏子の性格だからなぁ・・。

 

 

ていうか、お前のその意地悪で俺がどれだけ被害に遭ったか分かってんのコラ!

 

 

思い返せば楽しみにとっておいたチョコレートを食べられ、俺の愛用するぐで〇ま抱き枕をサンドバッグにし、トモッちの名を出せばガチギレ。ロクな思い出がない。

 

 

・・・なんか腹立ってきたな。よし、仕返ししよう!

これはまたとない機会だからちょっとくらい溜飲を下げてもきっと問題ないはず。

 

 

日頃の恨みを晴らすのも兼ねて杏子に見せつけるかのように更にギュッと強くさやかに抱き着いてみせるとたちまち鋭くなる赤の目つきマジ怖い。

 

 

しかしどんなに睨もうが凄もうが知ったことか!

今ここでさやかを離すわけにはいかないんだ!

 

大きく息を吸い込み全員に聞こえるような大きな声で叫ぶ。

 

 

「やだ!絶対さやかから離れない!今俺が手を離したら二人は戦うでしょ!?俺、さやかに傷づいてほしくないよ!(訳:どうせ杏子の圧勝は確定だろうし、そのせいでさやかが暴走、そのまま魔女化なんてされたら洒落にならんからやめてよね)」

 

 

ギッと杏子を睨みつつ本音部分は伏せて建前だけはっきり言ってやる。

 

察しは良いからこれで少しは杏子にさやかを傷つけるのはまずいと伝われば良いんだけどどうだろうか・・?

ついでに言うと俺の腰が情けない事に抜けてて動けないのでさやかにしがみついてないと倒れちゃからというのもあります。

 

さあ反応はいかに?

 

 

「・・っ!」

 

「え!?」

 

 

・・あれ?俺の想像していた反応と全然違うんですけど?

何でか知らんけど杏子は絶句してすぐ俯いちゃったし、さやかは顔を真っ赤にして目を見開いている。

 

・・どういう事?

 

 

「えっと・・そうなんだ。そんなにあたしの事・・」

 

「??」

 

 

しかも何故か杏子よりもさやかの方に反応があった。

 

顔を少し俯かせて手をモジモジしながら何かをごにょごにょ呟いている。

その素振りは普通に可愛いが剣を持っている事とすぐ傍に俺がいる事を忘れないでほしい。

うっかりぶっささって死ぬなんてかなり嫌だぞ。

 

 

「あれ・・?」

 

 

呆れた目で未だにソワソワしてるさやかを見上げているとふとおかしい事に気づく。

 

 

 

 

 

おかしいな?何か急にあたりが寒くなった気がする・・?

 

 

 

 

「! 優依!」

 

 

 

「え?」

 

 

 

さやかに名前を呼ばれた直後、気づけば視界が反転していた。

そんな中、少し遠くでブォォンという何かを振り回したような音が耳に届き、顔に強い向かい風があたる。

 

そして視界に広がる青。

ようやく焦点が定まった目で青を見るとそれはさやかだった。

 

 

ん?ちょっと待って?さやかに抱きかかえられてる!?何で!?

 

 

 

 

 

「・・チッ。外したか」

 

 

 

 

 

杏子の声が遠くに聞こえるもその声はひどく冷たい声だ。

聞いていると背筋が凍りそうな低い声。

 

 

「優依大丈夫?怪我はない?」

 

 

茫然とする俺を抱き起し心配そうに見つめるさやか。

そしてさやかの背後には壁に槍を突き刺したままこっちに顔を向けてる赤い鬼の姿。

その表情は夕日の陰に覆われて見えなかったが何故か目が赤く光っておりその目がこちらを捉えている。

 

混乱と恐怖で頭はパンク寸前だったが何とか口を動かして「大丈夫・・」と告げる事は出来た。

そんな俺の様子に顔を緩ませて「良かった・・」と言ってくれるさやかさんマジ天使。

 

 

「優依が無事で良かった。・・・ちょっとあんた何すんのよ!?優依に当たったらどうするつもりだったの!?」

 

 

俺の返事にほっと安堵の表情を見せていたさやかだったがすぐに噛みつく勢いで杏子に向かって大声で怒鳴っている。一体どういう事だ?

 

 

いきなり抱きついてきたさやか

壁に槍を突き刺している杏子

そんな杏子を怒鳴るさやか

 

 

・・・まさか、杏子が攻撃した・・?

さやかの傍に俺がいるというのに・・?

 

 

嘘だと思いたかったが状況証拠が事実だと告げている。

 

信じられないものを見る目でそのまま杏子の方を見ると当の本人は悪びれもせず笑っていた。

ゾッとするような獰猛な笑みだ。夕日に照らされて迫力が増している。

 

その笑顔がどういう訳か俺に向けられているような気がしてならなかった。

 

 

「杏子、一歩間違ったら俺は大怪我、最悪死んでたかもしれないぞ?・・もしかして俺が怪我しても良いとか思ってません?」

 

「アタシが優依に怪我させるわけないだろ?狙ったのはコイツの方だ」

 

 

顎をしゃくってさやかの方をギロリと睨む杏子。

もはやその赤い瞳は抑えきられない殺意のせいで酷く濁っていた。

杏子はそのまま「まあでも」と言葉をつづける。

 

 

「この女の血で優依を汚しちまったらある意味傷物になっちまうか。その時は責任をきっちりとるさ」

 

「はあ!?あんた何言ってんのよ!?」

 

「俺もさやかに同意見だ。何言ってんの?」

 

 

頓珍漢な物の言い回しで全く答えになってない。

大至急俺でも分かるように訳してほしいのだがそれは無理そうだ。

 

だって杏子はそれ以上喋るつもりはないのか笑みをひっこめ無言で槍を構えてさやかの方を睨んでいるから。

言葉はなくても全身に纏う殺気的なもので杏子がこれから何をしようとしているのか分かる。

 

 

 

 

あいつ本気でさやかを殺すつもりだ!

 

 

 

目が据わった状態でさやかを見据えている姿は非常に恐ろしい。

 

何やったらあんな目で睨まれるんださやかよ。

杏子をここまで怒らせるなんてある意味レアだぞ。

 

 

「・・っ!あんたみたいな魔法少女認めない!」

 

 

さやかの方も殺気を感じ取ったらしく下げていた剣を再び両手に持ち直して杏子と対峙している。もちろん俺という腰巾着付きで。

 

 

「もう絶対許さないんだから!優依!いいから離れて!」

 

「え!?待って!ホントに待って!」

 

 

さやかも殺気立っているらしく今度は無理やり俺を引き剥がそうとしてくるので持てる力の限り腰にしがみつく。

 

やめて!今の君じゃどうやったって杏子に勝てないから!

ズタボロ、いや殺される未来しか待ってないからマジでやめて!

そして君から引き剥がされると俺は支えを失ってこの殺伐とした戦場の中、動けず倒れるだけだから!

 

 

「絶対離せないから!」

 

 

殺し合い阻止とさやかの死亡フラグ回避そして保身をかけて必死にしがみついて意地でも離れない俺。

 

 

「は、離れてよぉ優依・・」

 

「・・・殺す」

 

 

ギュウギュウ抱きしめる俺に比例するかのように、さやかの殺気は徐々にしぼんでいき、逆に杏子の殺気は猛スピードで膨らんでいく。その勢いはそのまま天まで昇っていきそうだ。

 

 

ジャリと砂を踏む音が鳴る。

杏子が腰を低くしてこちらに狙いを定めている。

 

 

そして踏み出そうとした瞬間・・!

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでよ」

 

 

 

 

「「「「!」」」」

 

 

 

熱々の怒りが充満しているこの空気に水を差すような凛とした声が響いた。

 

 

突如聞こえた声に赤と青が反応し謎のこの正体を探ろうと目を動かしながら警戒している。

ちなみに俺は速攻でこの声の正体に気付いたので二人とは違う感情で声の発生源を探る。

 

 

 

 

「こっちよ」

 

 

 

 

「「「!」」」

 

 

 

声のした方はまどかがいる方向だった。

三人ともすぐさま、まどかの方に顔を向ける。

 

 

「!? 誰だ!?」

 

「転校生・・!」

 

「ほむらテメエエエエエエエエエエエエエエエ!」

 

 

三者三様の反応だった。

 

声の正体は俺の予想通りほむら。

ふてぶてしい表情で腕を組みながらまどかを守るように彼女の前に立っている。

 

 

 

何ちゃっかりまどかの近くで待機してんだよ!

 

 

おいまどか!

 

「来てくれたんだねほむらちゃん!」

 

って嬉しそうに声をあげてるけど騙されるなよ!

 

 

コイツ俺を置き去りにした挙句、命の危機だって時に傍観決め込んでた冷血な奴だからな!

出てくるの遅すぎるわチクショウ!

 

 

「何であんたがここにいんのよ!?」

 

 

唐突なほむらの登場に怒っていたのは俺だけでなくさやかもだったらしい。

 

キッと目を吊り上げてほむらに噛みついている。

戦いを邪魔された事に怒っているのは何となく分かるがそこまで怒らんでも。

 

しかしそんなさやかを前にしてもほむらはクールな澄まし顔。

そればかりではなく五月蠅そうに顔をしかめて髪を払っている。

 

これは俺の予想だが、おそらくほむらは今までの時間軸でもさやかを怒らせた事があったのだろう。

その様はやけに手慣れたスルースキルを感じさせる態度だったから。

 

絶対何回かは怒らせた事あるなあれは。

 

 

「本当は出るつもりはなかったんだけど優依が思った以上に役に立たなかったから仕方なく出てきたのよ」

 

 

開口一番でまさかの俺役立たず認定。

 

仕方ねえだろ!訳も分からずこんな殺伐とした戦場に放り出されたんだから!

咄嗟に対応出来る奴なんて勇者か馬鹿くらいだよこんなもん!

 

 

色々言いたい事は沢山あったがガツンと辺りに響き渡る鈍い音によってかき消されてしまった。

それは赤い槍を地面に叩き付けた音だったようで先端はほむらに向けられている。

 

 

「ふーん、その様子じゃテメエも優依と仲良いみたいだな?・・手加減しねえ!」

 

 

静かに事の成り行きを見守っていた杏子だったが、いきなり殺気全開でほむらに向かって槍を振りかざす。

しかしそこはほむら。

 

「落ち着きなさい佐倉杏子」

 

「な!?」

 

 

攻撃してくる事は見越しており時間停止による回避で難なく槍を躱して杏子の背後に立っている。

瞬間移動でもしたかのように一瞬で背後に立たれている事と自分の名前を知っている事に驚きを隠せないのか杏子は目を見開きつつ慌てて体勢を立て直してほむらと向き直る。

 

 

それにしてもほむらが瞬間移動したように見えたって事は今の俺って時間停止バリバリ通用するのね。

という事は気づいたら戦場に乱入していたのもおそらくその間に時間停止されたからだろう。

 

 

ほぼ間違いなくシロべえが時間停止無効解除しやがったな!

あのドクサレ宇宙人が見つけ次第八つ裂きに・・!

 

・・あれ?そういえばシロべえは?

 

 

一緒にいたであろう、ほむらの方を見てもそれ以外の場所をくまなく見渡してもどこにもあのムカつく白いボディを見つけられなかった。つまり考えられる事は一つだけ・

 

 

あのヤロウ!散々引っ掻き回した挙句、この場から逃げやがったな!?

そんなに杏子に会いたくなかったのか!?

俺は絶賛ピンチだというのに薄情な奴めええええええええええ!!

 

 

 

「なんでアタシの名前・・どこかで会ったか?」

 

「それは秘密よ」

 

 

俺が密かに怒りを滾らせている間にほむらと杏子の話は続く。

さすがにベテランというだけあって突然の事態にもすぐさま杏子は冷静さを取り戻しほむらと会話している。

出来ればさやかの時もこれくらい冷静だったらどれだけ良かったことか。

 

ホント何であんなに怒ってたんだ杏子は?

そんなにさやかは怒りの琴線に触れるのか?謎だ。

 

 

「・・そうか、アンタがイレギュラーって奴かい?優依を銃で脅した事があるらしいな?」

 

「誰情報かしらそれ?」

 

 

と思ったのも束の間、杏子が殺る気全開でほむらに向けて槍を構えた。

 

さすがほむらだ。俺が会話を聞き逃した間に安定の煽りスキルを駆使して出会って数分の杏子を戦闘態勢にもつれこませるとは!

何してくれてんだチクショウ!

 

グッと槍を構える杏子といつでも時間停止を発動させられるように盾に触れるほむら。

一触即発の気配。どちらが先に動くか緊張の瞬間。

 

 

「・・邪魔しないでよ転校生!」

 

 

しかしここで空気を読めないのがさやかだ。

KY気味に剣を振りかざし、ほむらに向かって突撃していく。

 

 

「待ってさやか!」

 

「きゃあ!ちょっと優依!?」

 

 

そんな猪突猛進な行動の予測がついていた俺はアメフトタックルを参考に全体重をかけてさやかに飛び掛かる。

思いのほか上手くいったようでさやかの背後に抱き付く事に成功し、俺のタックルと咄嗟の事に反応出来ず前のめり気味だったさやかの体重が合わさりそのまま二人して地面に倒れ込んだ。

 

 

「うぅ・・いった・・」

 

ガタンとかなり大きな音が響き俺の下敷きとなったさやかは痛みからかしきりに呻いている。

ちなみに俺はさやかがクッションになってくれたのでほぼノーダメ―ジ。

 

形はどうあれこれでさやかは動けないはず。

これならほむらに呆気なく気絶させられる事もないだろう。俺GJ!

 

 

「!? ひゃあ・・!ちょっと、どこ触ってんの!?早くどいてよ!」

 

「え・・? !?」

 

 

一人ほくそ笑んでいたら、さやかが何かに気づきすぐさま身体を捻らせながら真っ赤な顔で俺を見上げてくる。しきりに「早くどいて!」と真っ赤な顔で叫んでいるがどうしたのだろうか?

 

まさか公衆の面前で無様な姿を晒したのが恥ずかしがったとか?

まあ人前で転ぶなんてかなり恥ずかしいわな。俺はしょっちゅうやらかしてるけど。

 

 

「大丈夫ださやか。転んだくらいなんだ。人生は転んだら立ち上がればいいだけなんだから」

 

「何言ってんの!?そっちじゃないわよ!いいから早く胸触ってる手どけてよ!」

 

「!!??」

 

 

更に真っ赤な顔になり路地裏全体に届きそうな声で恥ずかしい事を叫ばれて俺は固まった。

なんか柔らかいなーと呑気に思っていた手に感じる柔らかい膨らみ。

 

 

恐る恐るさやかの身体にしがみつく手を覗き込むと丁度触れている位置がさやか様のむn・・。

 

 

 

 

 

「すみませんでしたあああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

全てを悟った俺は高速でさやかに頭を下げつつ手をどかそうとするも微塵も動かない。

 

そりゃそうだ。だって何だかんだで俺の手はさやかの体重と俺の体重のセットの下にのしかかっている。

それだけでも動かすの困難なのに、今の俺は腰が抜けて思うように身体を起こせない。

 

手の甲は地面に直であたっている。動かすと物凄く痛い。

手の平はマシュマロ天国、手の甲は摩擦地獄という何ともまあ紙一重な状況だ。

 

手が傷だらけになろうと構わず強引に引き抜こうとするが全然抜けない。・・泣きそうだ。

 

 

「・・さやかさーん・・手が動かないですぅ・・」

 

「ええ!?嘘でしょ!?皆見てるんだけど!?」

 

 

自分の不甲斐なさと手の甲の痛み、そして公衆の面前でセクハラをやらかしてる罪の大きさに泣きべそかきながら報告するとさやかは勘弁してくれといった表情で俺を見上げている。

 

俺の表情を見てそれが嘘じゃない事は伝わったらしく半泣きだ。

 

 

「・・・うぅ、こんな事されちゃって・・あたしもうお嫁にいけない・・」

 

 

青が真っ赤な顔を覆って項垂れているが俺の方が絶望的だ。

訴えられたら勝ち目なんてない。示談で済めばいいがこれは・・。

 

あれ・・?別に俺が動かなくても今のさやかの力なら楽に俺ごと立ち上がれるんじゃ・・?

 

その事に気づいた俺はさやかの顔を覗き込むようにして声をかける。

 

 

「さや、・・ひぃ!」

 

 

しかしそれは途中で途切れた。突如として背筋に走る悪寒。

その悪寒の正体は修羅と化した赤い悪魔から発生している殺気だった。

このまま放っておけば魔女に変身しそうなドス黒いオーラが赤を包んでいる。

 

 

こ、こえええええええええええええええ!!

魔法少女うんぬんのレベルはとっくに越えてるよ!?

むしろ魔女と言った方がしっくりくるくらい禍々しいんですけど!?

 

 

「どうやら本格的にお仕置きが必要みたいだなぁ?その手癖の悪さ・・きっちり矯正してやるよ!」

 

 

地獄の底から発していそうなドスのきいた声が周囲に響く。

ジャラジャラと不穏な音を立てて杏子の周囲を舞う鎖たち。

 

それが俺めがけて・・、え!?

俺めがけてくるううううううううううう!?

 

 

「ひゃあ! ・・あれ?」

 

「やめなさい。無駄な争いをする馬鹿は嫌いよ。貴女はどっちなの佐倉杏子?」

 

 

ほむらが再び時間停止を発動させ、俺に向けて放たれた鎖は俺がいる位置から真逆の方向の壁に叩きつけられている。

 

そして再び杏子の背後に回り込み、今度は後頭部に銃をつきつけている。

こうなっては動けない。杏子もそう判断したのか「チッ」と舌打ちして動きを止めた。

 

 

ほむら、君はやれば出来る娘だって信じてた!

ありがとう!おかげで俺は生きてるよ!

 

まどかがいる手前かっこつけなきゃいけなかっただろうが大成功だ!

お礼に後でまどかへのアプローチ手伝うよ!

 

 

「手の内がまるで見えねえ。何の魔法だそれ?」

 

「・・・・」

 

 

二度も背後に回られた事が気に入らないのか杏子はかなりイラついた様子でほむらを睨み槍を構えている。

 

 

「答える気はねえって事かい?対策の仕様がないんじゃ仕方ねえ・・今回は引き上げさせてもらうよ」

 

「賢明な判断ね」

 

 

槍を肩に担いで戦闘態勢を解いた杏子に安堵の息が漏れる。

 

 

どうなるかと思ったが今回はほむらの活躍で保留になりそうだ。

 

 

・・・マジで俺出る必要なかったんじゃね?ほむらがいれば一発で解決じゃん。何で駆り出されたんだ?

 

 

いやそれより!ほむらがいる今なら杏子ともまともに話せるかもしれない!

幸い今のアイツなら冷静さを取り戻してるだろうし!

 

よし!話しかけてみよう!

 

 

 

「杏子・・ひえ!」

 

 

声をかけて速攻で後悔しました。

 

 

 

杏子がこっちを睨んでるうううううううううううううう!

 

 

 

いや睨むなんて生易しいもんじゃない!

怨念の籠った淀んだ赤い瞳が俺たちの姿を映しているといっても過言ではない!

 

 

ん?よく見ると赤の目線が俺よりも下に向いている気がするけど・・?

 

 

「命拾いしたなヒヨッコ。今度はこうはいかねえからよ。ズタズタにしてやるから覚悟しとけ」

 

 

地の底から出したような低い声でさらっと次も襲うぞ宣言してきた杏子超おっかない。

知らない内に俺の全身がガクブル状態だ。どうやらさやかに向かって言っているらしい。

 

 

俺じゃなくて良かった。もし標的が俺なら恐怖で精神崩壊してたわ。

 

 

「~~///!うるさいわね!あんたにとやかく言われる筋合いはないわよ!こっちだって容赦しないんだから!」

 

 

自分に向けて言われた事だと直感したらしい。

顔から手をどけたさやかは杏子を睨みながらはっきり言い切った。

 

ちなみに今も顔が真っ赤で涙目なのは俺が現在進行形でセクハラしているからに他ならないからです。

いやほんとすみません!杏さやの横やりしてすみません!

 

ちゃんと誤解は解きますんで!

 

 

 

 

「優依」

 

 

 

「え?・・ひい!」

 

 

 

 

突然名前を呼ばれ顔を上げると杏子がとても素敵な笑顔で俺を見ていらっしゃいました。

しかし全身から漏れ出る怒気は全く隠しておらず、そのせいで俺のビビり度がピークに達しそうだ。

 

こ、怖い!でもビビって何も言わなかったら更に赤鬼の機嫌を損ねてしまうかもしれない!

ここは是が非でも口を開かなくては・・!

 

 

「・・・何でしょうか杏子様?」

 

 

恐怖で口が震えているせいでかなり噛み噛みな返事になってしまったが杏子は気にしてないらしく小さい子を安心させる聖母のような微笑みで俺を見つめている(ただし怒気五割増し)。

 

 

「今のアタシは虫の居所が悪いから頭に血が上ってるけど、落ち着いたらゆっくり話そうな?二人っきりで」

 

 

子供をあやすような優しい響きでそう語りかけてくるが語尾の「二人っきりで」の所がめっちゃ強調された気がする。嫌だ。二人っきりで会ったら冗談抜きで殺されそう。

 

今の杏子の雰囲気ならありえない事じゃない。

 

 

「あの・・話し合いは大賛成ですが出来れば皆を交えてにしませんか?」

 

「じゃあな優依」

 

 

杏子は俺の提案をあっさり無視し高く飛び上がって壁をつたいながら退散してしまった。

 

 

残されたのは頭上を見上げる紫とピンク。

そして責めるような目で睨む青とそんな視線を甘んじて受け入れるしか項垂れた俺だった。

 

次に杏子に会う日が俺の命日にならないか不安だ。

しかしその前にさやかによって社会的に抹殺されないかとても不安だ。




結局優依ちゃんのやった事って杏子ちゃんの怒りを煽っただけじゃ・・?


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74話 ドキドキガクガクな帰り道

今年最後の投稿になります!


「ああもう!何なのよアイツ!すっごく腹立つ!」

 

「落ち着いてくれさやか。傷に障るよ?」

 

「そんなのもうとっくに治ってるわよ!」

 

 

夕暮れがほぼ沈みかけた暗い道に響く元気な声。

 

 

俺は超うるさい大声に耳をやられながらさやかと二人自宅を目指して歩いている。

 

 

それにしてもさやかさん、あれだけ杏子に痛めつけられたというのにそんなものを微塵も感じられない元気溌剌さですがどんな体力してるんですか?

 

ちょっとでもいいのでその元気爆発ぶりを俺に分けてくれないだろうか?

最近激動な日が続いてほとんど寝不足、疲労感ヤバいので。・・ハア。

 

 

カリカリ怒る青の隣で人知れずため息がもれる。

 

 

何で俺はこのうるさい青と一緒に帰ってるのかというと一応理由はあるんだ。ホントに一応だけど。

 

 

杏子襲来という修羅場がお開きになった後の路地裏、予想通りさやかはほむらに向かって

「何で邪魔したのよ!?」と噛みついてきた。

 

第二ラウンド開幕か!?と一瞬焦ったが、幸いな事にほむらはさやか限定スルースキルを駆使して相手にしなかった。

 

まどかはオロオロしながら(心なしか目はキラキラしてた気がするけど)二人の様子を見ていて蚊帳の外。

 

そんな状態がしばらく続き流石に埒があかないと判断した俺は、仕方なく青と紫の二人の間に入ってこの不毛なやり取りを中断させ路地裏から解散させたのだ。

 

ちなみにまどかは紫セコムと一緒に帰ってる。このペアは俺の提案だ。

まどかを頭に血が上って暴走状態な青に任せるのは非常に危険だし、何よりそんな事まどかガチ勢のほむらが許さない。この提案はもっとも無難なものになったと自負している。

 

ピンクに関しては紫に任せておけば大丈夫だろう。

なんせピンクセキュリティに特化したセコムなのだから。

 

 

もちろんさやかはめちゃくちゃ反対していたがそこは強引に決行。

暴れるさやかを宥めつつ先に二人を逃がしたのだ。

なので余り組の俺とさやかは流れで一緒に帰るはめになりました。

 

どのみち俺とさやかの家は同じ帰り道の先にあるので逃れられないので泣きたい。

最近の連泊が響いたのか流石に母さんから「今日は帰ってこい」というお達しが来てしまいどうする事も出来ないのが辛い。

 

さっきの出来事があれだったので俺一人で帰るよりはマシなのだがさっきからずっと青が不機嫌な状態で困る。

暴走寸前の青猪と戦々恐々な帰宅はある意味死亡フラグだ。

 

ここでまた杏子が現れたりなんてしたら間違いなくさやかは爆発する!

そうなったら物理的にも精神的にも俺は終わる!

助けも来ないだろうし絶望的だ!

 

 

どうか俺が家にたどり着くまで間違っても赤が出没したりしませんように!

 

お願いします!

 

 

 

 

 

「えっとさ・・優依」

 

 

 

「?」

 

 

心の中で必死に祈っている中、祈りは届いたのか、さやかはようやく怒りが治まり静かな声で話しかけてくる。

何だろうと隣で歩く青に顔を向けると夕日のせいなのか顔を赤くしたまま伏し目がちに俺を見ていた。

 

 

「・・その、ありがとね」

 

「え?何を?」

 

「その、身体張ってあたしを助けてくれたじゃん?しかも、あたしを大事な友達だって言ってくれて・・あの時は余裕なかったら態度に出さなかったけど正直、凄く嬉しかった」

 

「あ・・そんな大した事やってないよ・・」

 

 

ホントに大した事やってません。

気づけば戦いに渦中に巻き込まれ、何故か杏子からさやかを庇っていた事になってただけだから。

 

そのせいでどういう訳か杏子の逆鱗に触れちゃったし・・ツイテない。

昨日に引き続いて踏んだり蹴ったりだ。

 

 

俺、何も悪い事やってないのに・・。

 

 

 

 

「さやかが無事で本当に良かったよ・・」

 

「え・・?」

 

 

こうなったら自棄だ。せめてさやかの魔女化だけでも阻止してやる!

そうすれば今は負けてでも最後は俺の有終の美となるのだからな!

 

グッと手を掴んでさやかを魔女化回避に導く意味合いも込めて俺の近くに引き寄せる。

突然の俺の行動にさやかは驚いたのか目を丸くして俺を見ている。夕日がかなり強いせいか顔は真っ赤に見えて可愛い。

 

 

「言ったろ?応援してるって」

 

「優依・・」

 

「無理はしないでね?辛くなったら俺の所に甘えにおいで」

 

「・・・うん///」

 

 

目を逸らしがちに頷くさやかはいつもと違ってしおらしい。

 

 

これがギャップ萌えというやつか。

こういう可愛らしい反応を上条の前でも出せばいいのにもったいない。

ホント不器用な奴だ。

 

あ、ちなみに応援するのも甘やかすのもワルプルギスの夜討伐前限定だから。

その後は知らん。杏子にでも慰めてもらえ。

 

 

「あ、あはは・・なんて言うか照れますなー・・」

 

 

頭を掻きながら笑っているがどこかぎこちない。

夕日が強くなったせいかさやかの顔がますます赤くなっていく。

 

おい、何で歩みが遅くなってんだ?早く歩けよ。

俺は一刻も早く愛しい我が家に帰りたいんだよ!

 

いつもは歩くの早いさやかが今じゃ亀さん並のスローモーションだ。

何?実は帰りたくないとか?

 

却下!良い子は帰る時間だバカヤロウ!

例えそれが魔法少女でも許されません!

 

 

仕方なくさやかの手を引っ張って誘導しようとするも足が地面に縫い付けられたように動かず、じっと俺を見ている。その目はさっきと違って戸惑ったような感じだった。

 

 

 

「・・そういえばさ優依、あいつと知り合いだったの?」

 

 

さやかが遠慮がちにそう口を開く。

 

あいつとはどう考えても杏子の事だろう。

 

いつもは高いさやかの声が三トーンくらい下がった気がするもの。

握っている手も少しばかり握力強めになっているから怒っているのは明白だ。

 

 

杏子に関しては弁解の余地はないのでさやかが怒るのも当然だろう。

実際難癖つけてさやかを襲っていたからなあのバカ。

 

さて、どう答えた良いものか?

下手に誤魔化すよりはここは素直に話した方が良さそうだ。

 

 

「ひょっとして杏子の事か?」

 

「名前知ってるって事は前から知り合いなんだ?」

 

「うん、杏子とは・・「まさか優依、あの赤い奴に脅されてるんじゃないの!?」はあ!?」

 

「だってそうでしょ!?あいつ何だかガラ悪かったし、人を脅迫しててもおかしくない雰囲気だったじゃん!」

 

「また脅しの話か!ほむらの時もそう言ったよな!?」

 

 

何でさやかは俺が脅されてると思うんだ?

そりゃあの二人なら脅しそうだもんな。実際俺脅された事あるし。

 

 

あれ・・?さやかの言ってる事あながち間違ってなくね?

てか、さやかの中での杏子の印象も最悪なんですね。

そりゃそうか、いきなり攻撃されたわけだし。

 

 

「とにかく!もう二度とあいつに近づいちゃだめだよ!見た感じだと優依に危害加えようとしてたから」

 

「あー・・」

 

「絶対あいつと会わない事!さやかちゃんとの約束だからね!」

 

 

人差し指を俺の顔の前に立てて念を押してくる。

お前は俺の母さんかと言いたい所だが、純粋に俺の事を心配してくれているのは分かるのでここは素直に頷いた方が良いだろう。

 

 

「うん、分かった。会わない」

 

「よろしい!もしあいつに遭ったら、ちゃんとあたしに知らせるんだよ?」

 

 

俺が素直に従ったのが良かったのか、さやかは満足そうに笑いながら足を動かしている。

 

 

しかし俺は心の中でさやかに謝らなくてはいけない。

 

なぜなら杏子に関して言えば拒否しようがなんだろうが関係ない。

会わないも何も俺から会いに行った事は数えるくらいしかない上に杏子からやって来る始末だ。

 

安全なはずの家で待機してたって杏子は勝手に窓からやって来るものだから会わないなんてほぼ不可能だ。

そういや前もほむらに不法侵入されたし、仕事しろよマイホームセキュリティ。

 

 

「ああ!そういえば!」

 

「! びっくりした・・何だよさやか?」

 

 

何かを思い出したかのように大きな声を上げたから不意打ちでビビる。

それに文句を言いつつ何事かと尋ねるとさやかは不機嫌そうにこっちを見る、いや睨んできた。何事?

 

 

「あんたさっき、あたしの胸触ったのわざとじゃないでしょうね!?」

 

「!」

 

 

さっと自身の胸を手で覆い隠し真っ赤に叫ぶ。

 

これは絶対夕日のせいじゃない!

どうしよう!急いで弁解しなきゃ俺はセクハラで訴えられて先に社会的に抹殺されてしまう!

 

 

「違います!あれは事故ですうううううううう!」

 

「嘘!だってあんなに丹念に揉んでたじゃん!」

 

「ふぁ!?」

 

 

俺は知らない間にガチ揉みしてました!?

 

嘘だと信じたいがさやかの警戒の様子にこれは事実なんだと嫌でも告げている。

あの時は必死だったからあまり覚えていないが、いつの間にかやらかしてたなんて・・通りで杏子が激怒する訳だ。

 

 

アタシのさやかに何て事してやがんだ的な感じの怒りだったのだろうあれは。

そんな感じの激おこっぷりだったし。ヤバい、俺、杏子に会ったら殺される・・!?

 

 

「・・ホントに恥ずかしかったんだからね!人前であんな・・もう、あたしお嫁に行けないじゃん・・」

 

 

じわりと青い瞳に滲む透明な涙にぎょっとする。

胸を守っていた手は今度は顔を覆うポーズに移行してしまい、グスンと何かをすする音が漏れている。

 

 

これはひょっとして、いやひょっとしてなくても泣いてる?

 

 

「はわわわわ!大丈夫だよさやか!だって君はこんなに可愛いんだから絶対お嫁にもらってくれる人は現れるって!」

 

 

きっと赤い人が君を嫁にもらってくれるよ!

 

 

殺し合いの直後だけど根拠のない自信が俺を突き動かしていく。

 

 

「さやか!君は絶対愛される存在だ!俺が保障する!君の丸ごと全てを愛してくれる人とはもう出会っているさ!」

 

 

具体的に言えばさっき殺し合いしてた人だけどな!

 

 

大丈夫!最初は殺し合うくらい仲悪くても最後は心中しちゃうくらい仲良くなれるから喜んでもらってくれるよ!

 

 

だから泣かないで!ここで泣かれたら俺が泣かしたみたいに見えるじゃん!

 

 

・・いや、俺が泣かしてるのかこれ?

 

 

 

 

 

「責任とってくれる・・?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

しばらく根拠のない励ましを続けていたらようやく少しだけ顔を覆っていた手をどけて見えた青い目が俺を捉えている。

 

 

「あたしにセクハラした責任とってくれないの?」

 

「え?それはちょっと・・」

 

「・・・とってくれないの?」

 

「・・・俺に出来る範囲なら・・・」

 

 

ジトッと涙目で睨まれた俺はその迫力に屈し要求を呑む事にするしか道はなかった。

 

 

まあ、さやかの事だ。

 

どうせご飯奢れとか宿題見せてとかそんなとこだろう。

どっかの厚顔無恥な赤と違ってぶっとんだ要求はしてこまい。

一応常識人枠だからな青は。

 

 

 

しかし俺の認識は甘かったと言わざるをえない。

 

 

「ほほう、言ったな?」

 

「・・さやかさん?」

 

 

さっきまで泣いていたと思っていたさやかは涙なんていつの間にか引っ込ませて意地の悪い笑顔で手をワキワキさせている。その様子に何となく悪寒がして思わず後ずさった。

 

 

「だったら優依!責任とってあたしの嫁になるのだー!」

 

「まだ言うんかいそれ!ちょ、どこ触ってんの!?」

 

 

懲りないアホな言動と俺の胸を鷲掴みにしてくるアホな行為をやらかしたアホな青を引き剥がそうと必死に力を込めるも素で力の強い奴な上に魔力の強化もあってビクともしない。

 

 

アホだけど力あるもんなコイツ!全然離れねえ!

 

おい、やめろ!

 

 

「思ったよりもでかい!優依って着やせするタイプだったんだ!」

 

 

って妙な事を道のど真ん中で叫ぶな!

 

 

こんな笑えない現場を同級生にでも見られでもしたら明日から俺たち不登校確定だぞ!

 

 

 

「く・・!」

 

「ふふん♪中々諦めが悪いね優依。潔くこのさやかちゃんの嫁になるのだー!」

 

 

 

 

 

「随分と元気そうね美樹さやか。あれだけボロボロにやられたはずなのに騒げる元気は残っているなんてね」

 

 

「「!?」」

 

 

道のど真ん中で取っ組み合いが勃発される中、そこまで大きな声じゃないのに響く氷のように冷たい声。

冷蔵庫にぶちこまれたような急激な気温の変化に身震いしてしまいそうだ。

 

不登校確定・・!と思ってビクビクしていたがどうやら免れる事が出来そう。

 

 

「あ、ほむら!」

 

「! 何よ転校生?あたしと戦いにきたわけ?」

 

 

急いで声のした方を見合わせると俺たちの行く手を阻むように佇むほむらの姿。

 

どうやらこの不毛な戦いは意外な結末で終わりを告げたようだ。

非常に冷ややかな紫の瞳で俺らを見つめているほむらの夕日をバックに立っている姿はなんとまあ迫力がある事で。

 

 

ほむらが現れた反応は見事に真っ二つに分かれた。

 

俺は安堵のため息をつき、さやかは毛を逆立てた猫のように警戒心MAXだ。

このままではまずい!青の宿敵が現れては間違いなく闘争本能が呼び起こされる!

 

そうなれば第二の修羅場確定だ!それはいかん!

 

ここは俺が先手を打つ!

 

 

「ほむら、まどかは無事送り届けたの?」

 

「ええ、ちゃんと家に入るまで確認したわ」

 

 

戦いが勃発する前に先手を打って話しかけてみたら思いの外、ちゃんと答えが返ってきた。

この紫セコムがピンクを傷つける訳ないのは分かっているのだがさやかは酷くまどかを心配していたから一応聞いてみたのだ。

 

これで少しはほむらへの敵対心が和らげばいいけど・・。

 

 

「本当よね?もしまどかを危ない目に遭わせたら承知しないんだから!」

 

「だから無事だと言っているでしょう。心配なら今からあの娘の様子でも見に行けばいいわ」

 

「! 分かったわよ」

 

「さやか、落ち着いて。ほむらがここまで言ってるんだし、まどかは絶対大丈夫だよ」

 

 

普段の行いのせいで全く信用出来ないが、まどかに関してだけは絶対の信頼を置いているので不本意ながらほむらを擁護しつつさやかを宥める。

 

俺が間に入ったからかさやかは「ぐぬぬ・・!」と悔しそうに歯噛みしつつもそれ以上は追及する気はないのか引き下がった。

 

 

「あたしはあんたを認めた訳じゃないわよ!この前だってわざと遅れてマミさんを見殺しにしようとした事許さないんだから!」

 

 

しかしこれで諦めないのがさやか。

 

悔し紛れに放った一言は青の思い込みの激しさを物語るには十分な威力を持っていた。

おかげで俺は立ちくらみがしそうだ。

 

どうやらさやかはお菓子の魔女の時あるある「ほむらがマミさんを見殺しにした」というとんでもない勘違いをしてるらしい。これはまずい。

 

この誤解を解かない限り、さやかはほむらを拒むだろう。

 

そうなれば必然的にソウルジェムの濁りが促進され、

やがて「人魚の魔女さんいらっしゃい」が開催されてしまう。それはダメ。絶対ダメ。

 

ここで何が何でもさやかの誤解を解いておきたいがこの聞く耳持たずの青猪に説得は無理。奴の契約問答で嫌という程味わった苦い経験があるからな。

 

そうなったら別のアプローチを考えなければ・・待てよ?

 

 

あれが使えるんじゃないか?

 

 

「さやか、ちょっと」

 

「え?うひゃぁ!?どうしたの!?」

 

 

冷めた目のほむらに未だに噛みついているさやかを腕を引っ張って近くにあった電柱まで連行する。

ほむらはその場で放置。この作戦はほむらがいると非常にやりづらいからだ。

 

一か八かこの作戦にかけるしかない!

 

 

「これを見てくれないか?」

 

 

俺はバッグからとある一枚の写真を取り出し、さやかの方に差し出した。

 

 

「? なになに?て、何これ!?」

 

 

俺がさやかに見せた一つの写真。

 

それは黄色のリボンに全身をぐるぐる巻きにされて拘束されたほむらが映った写真である。

 

ちなみにこれはお菓子の魔女の結界でマミちゃんに拘束されたときに撮ったものだ(シロべえ撮影)。

いつの間にか現像していたらしく何故か俺に「持っておきなよ」と言ってくれたのだ。

 

シロべえ曰わく「これでほむらを脅せるね」と、白い体毛してるくせに真っ黒な発言かましてきやがった。

流石にほむらが可哀想なので今日帰ったら処分しようと思っていたのだがまさか役に立つ時が来るとは!

 

 

「実はあの時、ほむらはマミちゃんにこんな感じで拘束されて身動きとれなかったんだ」

 

「え!?マミさんが!? こ、こんな趣味あったんだ・・」

 

 

俺から写真を受け取ってまじまじと見つめるさやか。

 

写真を掴む手は震えており顔に至っては俺のセクハラ言及した時と同じくらい真っ赤だ。

意外と初心な青には少しばかり刺激が強かったかもしれない。

 

 

しかしこれは好都合!

今の内にさやかに誤解だという事を説明しておかなくては!

 

 

「さやかを助けにいく途中、魔女の危険性を分かっていたほむらは親切でマミちゃんに忠告した後、代わりに自分が倒すといったんだけどマミちゃんは聞き入れなくてね。問答無用でほむらを拘束しちゃったんだよ。リボンの拘束を解除するのに思ったより時間がかかったみたいであんなタイミングになっただけ」

 

「そ・・そうなんだ・・」

 

「嘘だと思うならまどかに聞いてみて。実際見てたからね。もしくは拘束したマミちゃん本人に聞くのも良い。とにかくほむらがマミちゃんを見殺しにしようとしていたっていうのはさやかの勘違いなんだ」

 

「そうなんだ・・」

 

 

ここぞとばかりに怒涛の説明をしかける俺にさやかは若干引きながらもきちんと聞いてくれる。

やはり論より証拠。さっきまでビシビシ感じていた警戒心のトゲが目に見えるくらい萎んでいく。

 

 

これはもしや誤解が解けた・・?

よし!一気に畳み掛けよう!

 

 

「でしょ?それに見よ、このほむらの痛々しい姿を。これを見てるとあの澄まし顔がとっても愛おしくみえ、いだだだだだだだだだ!」

 

「何をやってるのかしら優依?」

 

 

肩に激痛が走り、慌てて振り返るとほむらが氷河期のような目で俺を睨みながら肩を万力のような力で掴んでいる。おかげさまで肩がミシミシと嫌な音が聞こえてきて不穏だ。

 

 

「あっ!」

 

 

さやかが持っていた写真を取り上げてすぐさま映っているものを確認したほむらはみるみる内に目を吊り上げていく。

 

 

いででででででででででで!

 

 

それに比例して肩を掴む握力も徐々に増していくその内外れてしまいそうだ。

 

 

「こんなもの・・!」

 

「ああ!」

 

 

ほむら拘束写真は写った本人によって真っ二つに引き裂かれる。それだけじゃない。

引き裂いた後も何度もビリビリに引き裂いて、もはや原型を留めない紙ふぶきと化してほむらの周りを弱々しく舞っていた。

 

相当力を込めて破いたのかハアハアと肩が上がっている。

 

気まずい沈黙に包まれ誰も言葉を発しない。

せっかく上手くいきそうだったので怒りたい気持ちはあるが、内容が内容なだけに後ろめたさもあって文句は言えない。

 

 

しかしここで奇跡は起きた。

 

 

 

「転校生ごめん。あんたの事誤解してたみたい」

 

 

なんとさやかからほむらの方に歩み寄ったのである。

 

これは奇跡だ!

さやかの目には憐憫の色が見え隠れしているがそれはこの際大目に見よう!

 

とんでもない進歩なのだから!

 

 

「あたしとんでもない勘違いで転校生に酷い態度とっちゃったかも・・」

 

「そうね美樹さやか、貴女はとんでもない誤解をしているわね。謝る必要はないわ。私も誤解されるような態度しかとっていないのだし。あとこの写真は忘れなさい。私にこんな趣味はないわ」

 

 

さっきの写真はなかった事にしたいらしい。

ほむらは何てことない風な様子で髪をかき上げているが動作はどこかぎこちない。

 

 

「そのフルネームで呼ぶのやめてくんない?なんか恥ずかしいからさ」

 

「なら貴方も転校生はやめてくれないかしら?」

 

「あ、それもそうだね。じゃあこれからはほむらって呼ぶから、あんたもあたしの事さやかちゃんでもさやか様でも好きに呼んでいいよ」

 

「分かったわ美樹さん」

 

 

さやか式コミュニケーションを軽く無視したほむらは安定の「姓+さん」呼び。

しかしコミュ力高いさやかは全く気にしておらずその後のほむらに遠慮なく話を振っていた。

 

どれくらいかと言われればほむらがテレパシーで「助けて」と送ってくるぐらいのしつこさだった。

 

 

俺はそのSOSを無視し、満足げに二人の様子を見守る。

 

良かった。これならもう二人は対立する事もきっともうないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「・・そろそろ行くわ」

 

 

 

「え?どこ行くのほむら?」

 

 

 

その後、しばらく経って、辺りがすっかり暗くなった頃、疲れた表情を見せつつくるりと後ろを振り返ったほむらの背中に声をかける。

 

 

「友達に会いにゲームセンターへ行くだけよ」

 

 

ああ、杏子に会いにいくのね。

あんな出来事があったばかりなのにチャレンジャーだなホント。

 

 

「今日はもう遅いから早く帰りなさい。また明日学校で会いましょう」

 

「うん、お疲れ様・・」

 

「じゃあねほむら」

 

 

若干足取りがふらついてるほむらをさやかと一緒に見送った。

 

さすがに止めるべきだったか?

まあ、あんだけ間髪入れずに話しかけられたらコミュ力皆無なほむらにはキツイだろう。

 

しかしこれも必要事項。

上手くいけばさやかとの共同戦線も実現するかもしれないから甘んじて受けろ。

 

 

 

「ほむらってとっつきにくいけど話したら案外そうでもないみたいだね」

 

 

俺達も自宅を急ぐ中、さやかがふいにそんな事言い出した。

あれだけマシンガントークを繰り広げていたのに息一つ乱れていないからえげつない。

 

ほむらはあれだけ疲れていたというのにどうなってんだ?

 

 

「ほむらと仲良くなれそう?」

 

「んー、まだ分かんないけど、あの赤い奴みたいに悪い奴じゃなさそう」

 

「はは・・そっか・・」

 

 

すまんなさやか。ほむらの犯罪行為は杏子が可愛く思えるレベルだ。

これは絶対知られたらアカンやつ。

 

とはいえ、さやかの誤解は解けたみたいだし悪くない結果になったと思う。

この調子でフォローしていけば良好な関係になれる未来も来るかもしれないな。

 

未来は明るい!頑張れ俺!

 

 

 

「送ってくれてありがとう!さやかも魔女退治の寄り道してないで早く帰るんだぞ?」

 

「あんたはあたしの親か!心配しなくても今日はもう帰るわよ。ほむらにもそう言われたし」

 

 

俺の家に着いたのでここでさやかとはお別れだ。

一応念押しで今日は魔女退治禁止を伝えたが大丈夫だろうか?

 

後で電話して家にいるか確認しておこうかな?

 

 

「じゃあね優依。また明日」

 

「あ、うん、また明日ね」

 

 

ボーっと考えている内にさやかは手を振って歩き出したので、慌てて手を振り返した。

 

 

さやかの背中が見えなくなるのを確認し、玄関に手をかける。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

 

 

 

久しぶりに帰ってきました愛しきマイホーム!

 

 

数日しか経ってないのに長く険しい旅から帰ってきたような感動に包まれる。

やっぱり我が家はいい!これでやっと自分のベッドでゆっくり眠れる。

 

当たり前の事なのになんと素晴らしい事か!

 

 

「ん・・?」

 

 

リビングの方から音と光が漏れている。テレビがついているのだろう。

どうやら母さんが先に帰ってきてるようだ。

 

ここ最近家事をサボリがちだったからたまには腕によりをかけて美味しいものでも作るか!

 

 

 

家に帰ってきたからか俺の機嫌はすこぶる絶好調だ。

何でもどんと来い!

 

 

 

「ただいま母さん、帰ってたの?珍しいね・・え?」

 

 

 

 

「よう遅かったな」

 

 

 

特に何も考えずリビングに入り、ソファに座っていた人物に話しかけるも振り返ったその顔に言葉が途切れてしまった。

 

 

 

「・・・杏子?」

 

 

リビングのソファに座っていたのは母さんじゃなくて先程さやかと熾烈な殺し合いをしていた赤いポニーテールだった。

 

 

そいつはふてぶてしくも足を組んで俺の方に顔を向けている。

 

 

 

何故!?何で!?どうして杏子がここにいるんだ!?

 

 

 

 

「おかえり優依。・・待ってた」

 

 

 

混乱する俺をじっと見つめる杏子はどこか不穏な雰囲気を漂わせながらにっこり笑っていた。




まさかの杏子ちゃんスタンバイ!
どうなる優依ちゃん!?



大晦日、皆さんどう過ごされますか?
自分はガキ使観ながら執筆でもしようかなと思ってます。


また来年お会いしましょう!
良いお年を!


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75話 大至急、対魔法少女セキュリティ求む

明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!

今年の抱負はエタらないようにする事です!


「どうしたんだよ優依?そんなに震えて?寒いのか?」

 

「そそそそそそ、そうですね!ここなんだかとっても寒いんで身体が勝手に震えちゃうみたいなんです!」

 

 

我が家のリビングの床で直に正座する俺はガタガタ震えながら必死に目の前にいる赤いお人に弁解している。

 

 

そうしなければいつ怒りの鉄拳が飛んでくることか!

さっき会った時の怒り具合だとそうなっても全然おかしくない!

何とか怒りの矛先を俺から逸らさなければ!

 

というか何でコイツここにいんの!?

なに俺の家に不法侵入した挙句、堂々と寛いでんだこのヤロウ!

 

一つ文句を言いたいところだが杏子が怖いので無理、絶対言えない。

どれくらい怖いかと聞かれれば気を抜けばすぐにでも気絶しそうなくらい怖い。

 

 

 

怖いなら何故逃げないのかだと?

 

 

逃げられねえんだよ!出来るならとっくに逃げてるわ!

 

 

 

 

チラリと後ろを見る。

ビッシリ敷かれた赤い楔が目に入った。

 

そうです。

いつの間にか俺の背後に通せんぼのようにびっしり張り巡らされていて逃げ道を塞がれている状態です。

 

 

 

退路を断たれた俺の残る生存方法は杏子の機嫌を損ねない事だけ。

 

 

 

「・・・・・うぅ」

 

 

目の前でニコニコ笑って赤い悪魔の前で正座してる俺は弱音を吐きそうになりながらも何とか目線を合わせて奴と対峙する。

機嫌が良いように見えるけど全身から漏れ出る怒気が杏子の今の機嫌状態の全てを物語っていた。

 

いっその事このまま気絶してしまいたいがこの状態の杏子を放っておいたら物凄くまずい気がする。

具体的に言えば、取り返しのつかない事が起きそうなとても不吉な予感がひしひしと。

 

 

何かあってからでは駄目だ。そうなれば死亡フラグ直結間違いなし!

無謀だけど俺から話しかけて機嫌を直してもらいさっさとお帰り願おう!

 

今日こそは誰にも邪魔されず我が家でゆっくりしたいんだ!

何人たりとも邪魔はさせない!

 

 

 

背筋を伸ばしニコニコ笑っている杏子と向き合う。訂正。

目の前にいる赤い修羅の目は笑っておらず物凄くおっかないので、なるべく目線を合わせないように斜め下を見つめながら向き合う。

 

 

「えっと、杏子さん、いえ杏子様。本日は一体どのようなご用件でいらしたのでしょうか?」

 

「はあ?アタシ言ったろ?二人きりで話そうって。だから来たんだよ」

 

 

そう言えばそんな事言ってたな。

てっきりそれはまた日にちを改めてからだと思ってたけどまさか当日早々にやって来るとは俺もほむらも予想外だ。

 

 

ほむらの奴、今頃ゲーセンで無駄足喰らってるんだろうなぁ・・。

第六感的なものが働いて俺の家に来てくんないかな・・。

 

 

 

いやそれよりも、

 

 

「・・この家セキュリティ万全のはずだけど・・」

 

 

思わずそう呟いてしまう。

 

母さんの仕事である弁護士の職業柄、安全面を考慮して家の防犯対策は万全にしており、考えられるありとあらゆる防犯対策は装備されているのだ。

 

 

いくら魔法少女といえど無暗に我が家に侵入する事なんて・・。

 

いや・・よく考えればバンバン不法侵入されてるなこの家。

白い奴しかり、赤い奴しかり、紫の奴しかり。ポンコツセキュリティかよ。

 

・・何も盗まれてないよね?大丈夫だよね?

 

 

俺の心配のまなざしをよそに杏子はあっけらっかんとしている。

犯罪で生活を成り立たせてるこいつには俺の心配の意味は分からないのだろう。

 

腹立つから出入り禁止にしてやろうかな?

 

 

「まさか我が家のセキュリティ破壊して不法侵入したのか?」

 

「? セキュリティも何も玄関から入ったぞ」

 

「え?合鍵なんて渡してないよ俺」

 

「それなら気にすんな。アンタの母さんに開けてもらったよ」

 

「What?」

 

「たまたま玄関前で会ってさ、これから仕事だから留守番頼むって中に入れてもらった」

 

「はあ!?」

 

 

母さああああああああああああああああああん!!

 

何勝手に入れてんだよ!セキュリティ以前の問題じゃねえか!

じゃあ、今日は帰ってこいっていう連絡が杏子が一枚噛んでるって事じゃん!うわ、嵌められた!

 

 

すぐさま母さんに異議申し立てを行いたかったがこうなった原因は俺にもあるから責めるに責められない。

 

悲しいかな、杏子の入り浸りを俺が拒まなったからそのまま必然的に母さんと杏子は顔見知りになっている。

しかも母さんは何故かこのホームレス魔法少女の事をかなり気に入っているらしく、いつでも家に遊びに来いと太鼓判まで押してしまう信頼ぶりだ。

 

今回それが仇となったらしい。自業自得とはこの事を言うのだろうか?

一先ず杏子がここにいる謎は氷解したけど勘弁してくれ・・。

 

 

思わず頭を抱えてしまう。

 

こんな展開誰が予測出来たんだよ・・チクショウ。

 

 

 

「優依」

 

 

杏子がスッとこちらに手を伸ばしてくる。

その手の行先は俺の頭らしくゆっくり腕を上げている。

 

 

「!」

 

 

殴られると思った俺はすぐさま頭をガードし、防御の体制を整えた。

しかし想像していた痛みはなく、むしろ頭を優しく撫でられる感触を感じた。

 

恐る恐る目を開けると穏やかな表情で俺の頭を撫でる杏子の姿が目に入った。

 

 

「怖がるなよ。ひょっとしてアタシが優依を殴るとでも思ってたのか?」

 

 

うん。思ってました。だって杏子だし。

 

そんな事は口が裂けても言えないのでただ無言で頭を撫でられる事に甘んじていた。

そんな穏やかな時間が少し続いて若干眠気が襲ってきた頃、ピタリと頭を撫でていた手が止まったので顔を上げると赤い瞳と目が合った。

 

 

「少しは落ち着いたか?」

 

「・・まあ、なんとか」

 

「それじゃあ腹割って話そうじゃん。二人っきりでゆっくりしながらさ」

 

「・・・・・」

 

 

そう言えば杏子がここに来た理由を忘れてた!

忘れていた緊張感が一気に吹き返してきて心臓がバクバクとうるさく鳴る。

 

 

 

 

「・・何を話すんですか?」

 

 

時計の針が鳴るだけの静かなリビング(テレビは杏子が立ち上がった時に消されてた)でお互い地べたに座りながら一体何の話をするというのだろうか?

 

あんな劇的なさよならした後なら尚更だ。

どう考えても穏やかな話し合いじゃなさそうな気がする。

 

 

「先にアタシから質問だけどいいか?」

 

「いいよ。何?」

 

「優依はアタシを騙してたのか?」

 

「いきなり本題に入る感じ!?」

 

 

ドストレード過ぎてむせそうだよ!

回りくどいのは苦手だと知っていたがもう少しオブラートに包んでくれても良くない?

 

 

「ひょっとしてアタシに近づくためにわざと魔法少女を知らないふりして騙してたのか?」

 

 

顔が引き攣る俺をよそにさっさと次の質問を投げかけてくる。

杏子の言い方にトゲを感じる。

 

その言い方がまるで俺が杏子を利用するために無垢を装って近づいてきた悪女みたいじゃん。

全然違うわ!むしろ本当は魔法少女だから近づきたくなかったんですよ!

 

遠ざけようとしたのに何故かお前から近づいてきたじゃん!

出来る事ならお近づきになりたくなかったわ!

 

 

なに都合よく記憶改ざんしてんだチクショウ!

 

 

「・・騙すつもりはなかったよ。杏子と会った当初は魔法少女なんて知らなかったんだ。本当だって」

 

 

イラッとしたのでいっその事、本当の事をぶちまけてやろうかと思ったけど、ここには杏子以外の魔法少女がいない。俺の身の安全を保障出来ない以上、今ここで杏子を怒らせてはいけないなのだ。

 

イライラを抑えつつ何とか穏やかな口調で丁寧に説明していく。

 

 

あながち嘘じゃない。魔法少女を知ってる事を黙っていたのは本当だが騙すつもりは更々なかったんだから。

まあ、初めから知ってたから騙してるんだけどそこノーカウントだ。

それ話したら拗れるだけだし言う必要はないだろう。

 

 

あとついでに魔法少女に関わるようになった経緯(=マミちゃん{魔法少女ver}にでくわした出来事)についてを説明しておいた。

 

杏子の事だからきっとこれで魔法少女と関わる羽目になった経緯を分かってくれるはず!

 

 

「それは何か?魔女に襲われた所をマミに助けられたとかそんな感じか?」

 

「そうそう。そんな感じ」

 

 

うんうんと頷いて肯定する。

 

俺の予想通り杏子は物わかりが良くて非常に助かる。

他の連中もこれだけ理解が早かったらかなり楽だったのになぁ・・。

 

 

とはいえこれならすぐに誤解を解けそうだ。

ほむらより先にスカウトする事になりそうだが上手くいきそう。良かった良かった。

 

 

 

 

 

 

「・・ったら・・んで・・」

 

 

 

安堵していた俺は杏子が何かを呟きながら俯いているのに気付かなかった。

 

 

 

 

「杏、「だったら何で!?」え!?どうした!?」

 

 

 

 

遮るように顔を勢いよく上げて叫ぶ杏子。

 

至近距離からの大声に思わず飛び上がるもそれを抑え込むように杏子に肩をガッと掴まれ無理やり固定される。

その表情は怒りの形相ながらもどこか泣きそうになっていた。

 

 

油断していたのもあるがリビング全体に響き渡る声量はさすがにやり過ぎではなかろうか?

近所迷惑だし何より俺がビビるから。

 

 

・・それにしても最近思っていたがこの時間軸の杏子はどこか情緒不安定な気がする。

突然感情的になって小さな子供のような癇癪が起こる事がこれまでもしばしばあった。

 

理由は分からないが過去に負った心の傷が今更ながら噴出しているかもしれない。

数年経ってからトラウマが噴出することがあるって聞いた事があるし。

 

しかしそれとこれとは話は別。これじゃ埒が明かない。

 

 

一応試しに「落ち着け」と宥めにかかってみたが「うるさい!」と首を激しく振って話をまともに聞こうとしないので途方に暮れそう。

 

普段冷静なはずの杏子が聞く耳もたないなんてこれはとんでもない激高ぶりだ。

 

 

・・ひょっとして俺はどこかで杏子の地雷を踏んでしまったのだろうか?

 

 

「い!」

 

 

肩にかかる力が強まって嫌でも杏子に意識を向ける。

ほむらの時とはまた違う。肩に込められた力から杏子の激情が伝わってくるようだ。

 

切羽詰まった表情で俺を見つめる杏子。

その視線に何だか耐えられなくなってすっと目を逸らすも無理やり視線を戻される。

 

 

「魔法少女を知ってた事何で黙ってた!?」

 

「杏子、冷静になろう!な?」

 

「何でアタシに打ち明けなかったんだよ!?マミは良くてアタシはダメって事か!?」

 

「!? ぐふ!」

 

 

話を聞いてない上にヒステリックに叫んだ後、首近くに衝撃が走った。

 

息がしづらい。

苦しい中薄目を開けて見ると杏子が俺の胸倉を掴んで持ち上げていて、まさかの教会でのさやかと同じポーズになっている。

 

 

俺は食い物を粗末にした覚えはないのに何で!?

 

 

「優依を待ってる間アタシがどれだけ寂しかったか分かるか!?また会いに来るから待っててってアンタが言ったから待ってたのに・・それを裏切りやがって!」

 

「うぐ!きょ、杏子・・!」

 

「それだけじゃない!他の女に色目使いやがったな?アタシがいるのに、お前は・・!」

 

「ぐえぇ・・!」

 

 

し、死ぬ!窒息して死ぬ!

 

 

考えなしの馬鹿力で胸倉掴まれて苦しいのに更にダメ押しで前後に身体を揺さぶって来るから意識が飛びそうだ。

視界ブレブレで目が回って気持ち悪い。

そのせいで杏子が何言ってるのかほとんど分からない。

 

 

「大好きって言ったくせに!アタシはそれを信じてたのに!嘘だったのかよ!?」

 

 

言ってる事は分からないが声だけは何となく分かる。とても苦しそう。

物理的には俺の方が苦しいはずなのに杏子の声はその数十倍苦しそうな声だ。

 

 

ヤバ、意識が飛びそう・・!

 

 

それだけで済めばいいけど最悪このまま目覚めないなんて事もありうる。

 

 

「アタシとは遊びだったのか!?他の女、あのザコに乗り換えたから会いに来なかったのか!?何で!?何で何で何で何で何で何で何で!?」

 

 

今の杏子は俺の様子を気に掛ける余裕がないらしく、しきりに何かを叫んで俺を揺さぶってくるからこのまま白目向いても気づかないかもしれない。

 

 

幼児退行でも起こしてるかのような癇癪だ。

 

 

ふぐえ・・窒息する・・。

一体何が杏子をここまでキャラ崩壊させるに至ったのか見当がつかないぞ・・!?

 

 

「何でこんな苦しい思いしなくちゃいけねえんだよ!?」

 

 

苦しいのは俺の方だ!

現在進行形で首絞められてるようなもんだからな!

 

 

急いで杏子を宥めない事には俺は明日の朝日を拝めない気がする。

まさかの死亡フラグだ。

 

杏子を説得するしかない!

やらなきゃ俺が死んでしまう!

 

 

「ち、違う!杏子誤解だ!」

 

「何が誤解だ!今更取り繕ってんじゃねえ!」

 

「ぐへら!」

 

 

更にキツく締め付けられた。全く話聞く気なし!

息絶え絶えの中、なんとか言葉を発したのに一蹴されるなんてあんまりだ!

 

 

うぷ・・意識が遠のいていく・・。

 

 

! だめだ俺!ここで意識を手放したらアウトだ!

とにかくダメ元でもやるしかない!一か八かだ!

 

 

これが最後のチャンスだとばかりに自分に喝を入れ声を張り上げる。

 

 

「聞いてくれ杏子!」

 

「あぁ!?次は何の言い訳だ!?」

 

 

ギロリと人を殺せそうな鋭い目で俺を睨みつけてくるが何とか反応してくれた。

 

よし今だ俺!最後のチャンスを発揮する時だ!

 

 

「俺、杏子との今の関係が好きなんだ!」

 

 

「!」

 

 

余裕で杏子の耳に届くような大きな声を張り上げて叫ぶ。

 

それが功を成したのか先程の激しい揺れがピタリと止まり、心なしか胸倉を掴んでいる力も弱まって息苦しさが多少改善された。

 

 

「・・どういう事だ?」

 

 

訝しげな表情だが杏子は聞くつもりがあるらしく俺を床に降ろす。

これでようやく足が地について一安心。

 

こ、これはもしや最大のチャンスでは・・?

さっきの言葉だけで一体何が良かったのか分からないがこれで攻めていくと上手くいきそうだ!

 

 

よし!やれ俺!

 

 

「俺、杏子といると時間が忘れる事がよくあるんだ。辛い事があっても杏子といるとすぐ忘れちゃって、そのおかげで乗り越えられた事も何度もあるし」

 

 

恐怖の赤い鬼の前で必死に弁解を捲し立てる。

 

 

いやー、ホントに忘れちゃうんだよねー。

 

だってコイツは何かしらトラブルを抱えてやってきて、そっちの方が何かと泣きたくなる事だったりするからどうでもよくなるもんだよ。

 

その実情を嘘半分、真相半分で二枚舌の如くスラスラと言葉に変えていく。

俺は案外女の子限定で詐欺師が出来るかもしれない。絶対やらないけど。

 

 

「そうなのか・・?」

 

 

半信半疑の様子だが杏子の表情は満更でもないのか多少綻んでいる。

 

人間誰でも自分のおかげとか言われれば悪い気はしないものだ。

例えそれが悪い意味でも言い方によっては褒め言葉に聞こえるものだ。

 

 

取りあえず俺は肯定も否定もせずニコッと微笑んでぼかしておいた。

 

 

「杏子が魔法少女だって事何となく気づいてたよ。でも魔法少女の事を言えば疎遠になっちゃうかもと思って言い出せなかったんだ。だって杏子って優しいから俺を危険な目に遭わせないようにわざと遠ざけようとするかもしれないし」

 

「・・・・」

 

「だから、杏子との関係壊したくなくて・・っ」

 

 

俺はそのまま何も言わず俯いてしまった。

 

 

 

第三者から見ればきっと俺は泣いてるように見えるかもしれないが真相は違う。

 

 

やべ・・息持たなかった・・。

 

 

床に降ろしてくれたとはいえ実は未だに俺は胸倉を掴まれていて息苦しい。

そのせいで軽く気絶しかけて途中で言葉が途切れてしまっただけなのだ。

何とかそのまま気絶せず意識を保つ事が出来たが今更取り繕ってももう遅い。

 

 

俺たちの周りは重苦しい静けさに包まれていた。

 

 

次で最後だ。これで決めなきゃ間違いなく意識が飛ぶぞ!

 

 

精一杯息を吸って出来る限りの大声を張り上げる。

 

 

「杏子が大事なんだ!(友達として※ここ重要)大好きだって言った事に嘘偽りはない!」

 

「!」

 

言った・・。言い切った。俺はやり遂げたぞ・・!

 

 

目を見開いて驚く杏子は無意識からかパッと胸倉を掴んでいた手を離したので息苦しさから解放される。

しかしほとんど気絶にしそうになっていた俺はバランスを保てず崩れ落ちた。

 

 

倒れた際の衝撃がなく床に叩きつけられた痛みもない。

 

 

「杏子・・?」

 

 

恐る恐る目を開けると杏子に抱きしめられていた。

背中に手を回され密着度半端ない。

 

 

「・・・本当にお前は可愛いな」

 

「え?ひゃあ!?」

 

 

杏子が何かを呟いた後、いきなり担ぎ上げられソファに放り投げられる。

叩き付けられたがソファの上なので痛くない。

すぐに起き上がろうとするより先に杏子が俺の上に覆いかぶさってギュッと抱き締められた。

 

 

何これ!?ちょ!やめて俺を抱き枕の要領で抱き着いてくるの!

すっごく暑いから!離してくれ!

 

 

「暴れても無駄だ。アンタの力じゃアタシには敵わない。大人しく抱きしめられてろ」

 

 

俺のささやかな抵抗なぞこの赤い戦闘マニアには子猫の抵抗に等しいらしく、すぐに完封されそのまま抱き枕として使用される。

 

 

こら!頬ずりすな!猫かお前は!?

 

 

「えへへ」

 

「・・杏子?」

 

「そっかそっか。アタシの事そんなに好きで大事に思ってくれてたのかー!誤解してて悪かったな優依♪」

 

 

杏子は何故か鼻歌すら歌いだしそうなくらい上機嫌になっていた。

その様子に安堵の溜息が漏れそうになるが何とか堪える。

 

 

たまには本音を言う事も大事だな。半分くらい嘘も混じってるけど。

 

杏子の事が大好きで大事なのは本当だ。

貴重な常識人枠と戦闘力の高さ。これから俺の死亡フラグ回避のための大事な魔法少女だ。

一番味方になってくれそうだから好きです。

 

 

なんとか機嫌は直ったみたいだがまだ肝心の事を言ってない。

ワルプルギスの夜を倒す協力の申し出だ。

 

言い方を間違えてここで機嫌を損ねて風見野に帰られてしまっては意味がない。

何とかヨイショして心良く協力してもらわねば。

 

情緒不安定なのが少し不安要素だが機嫌を損ねるよりはマシだ。

 

 

いや・・それより先にしなければならない事がある。

 

 

「杏子さん、あの・・恥ずかしいんで出来ればもう少し離れてほしいんだけど」

 

 

遠慮がちに杏子に進言する。

 

なんかさっきよりも密着度が上がってる気がして恥ずかしい。

具体的に言えば足を絡めてきてそのままR-18に飛んでいきそうな体勢だ。

第三者が見れば色々誤解されかねない。

 

もしこの場面をトモッちが見たら鼻血出しながら拝んでいただろう。

 

今すぐにでも俺を解放していただきたい!

 

 

「何言ってんだよ?アタシと優依の仲だろ?」

 

「え」

 

 

俺と杏子ってどういう仲だ?友達じゃないの?

もしくはカツアゲされる側とする側とか?

 

てか、真顔で何言ってんのコイツ?

 

 

「これくらいで恥ずかしがってたら身が持たねえぞ?」

 

「うわ」

 

 

更にギュゥゥと抱きついてきて今度は違う意味で窒息しそう。

杏子の息が当たって恥ずかしい。

距離ゼロだからコイツ特有の甘い匂いがするし勘弁してくれ。

 

 

「許してくれたのは嬉しいけどこれはちょっと・・」

 

「はあ?まだ許してないんだけど?」

 

「え!?マジかよ!?」

 

 

そのまま身を任せるように杏子に抱きしめられていたがまさかの発言に思わず上体を起こして拘束から抜け出し杏子を見下ろす。

 

知ってはいたが杏子は怒ると意外に根にもつので意外と怒りがしつこい。

こうなるとかなり面倒臭いのでさっさと機嫌を直してほしいものだ。

 

 

 

 

「許してほしいか?」

 

 

 

見計らったようなタイミングで口を開く。

その表情には意地の悪い笑顔が張り付いていてムカつく。

 

 

「そりゃ・・まあ」

 

 

願ってもないがこういう場合の杏子は何かしら要求してくるのでとても嫌な予感がする。

というか怒りが静まるまで俺の視界圏外のどっかに行ってほしいというのが本音です。

 

 

「だったら・・」

 

 

勿体ぶったように杏子は間をおいて焦らしてくる。

いい加減話せと痺れを切らした俺が口を開くよりも先に杏子が口を開いた。

 

 

 

 

 

「アタシと一緒に来い。そしたらずっと優依を守ってやるよ」




不穏は杏子ちゃんの提案!
果たして優依ちゃんはどう答えるのだろうか!?


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76話 パーフェクトな回答とは何か?

アニメ「マギレコ」始まりましたねー!
皆さんは見ましたか?


自分は見逃した上に録り逃しましたよチクショウ


「・・何だって?」

 

 

 

杏子が言った事はひょっとしたら幻聴かもしれないと思った俺はもう一度聞き返す。

 

 

「だーかーら、一緒に来いって言ってんだよ」

 

 

失礼。幻聴ではなかったようだ。

あまりに頓珍漢な事言うから気のせいだと思った。

 

 

「・・誰が?」

 

「優依が」

 

「誰と?」

 

「アタシと」

 

「どこに行くんでしょうか?」

 

「これから先アタシが行くところ全部だ」

 

「・・・・マジっすか」

 

 

ソファの上でお互い見つめ合って馬鹿なやり取りを繰り返すこの光景は第三者から見れば実にシュールだろう。

 

理解が追いつかない俺に杏子は根気よく付き合ってくれるがこればっかりはどうしようもない。

一緒に来いって事はつまり杏子と同じようなアウトローライフしろって事か?

 

嫌です。一日持ちません。

ヘタレにそんな刹那的な生き方出来るわけないでしょうが。

確実に餓死しますよ。

 

 

「それって拒否権はあるの?」

 

「あぁ?」

 

 

あ、拒否権ないわこれ。

 

遠回しに拒否したら鋭い赤い眼光を向けられてしまった。

さっきまでの優しい雰囲気なぞ見る影もなく今や阿修羅でも降臨なさったような形相だ。怖や怖や。

 

 

「あー・・何でいきなりそんな事言うんだ?」

 

「いきなりじゃない。前から考えてた事さ。初めて会った時もそうだったけど、アンタ随分と危ない目に遭ってんだろ?今は無事だけどいつか魔女に食われるかもしれない。そうなったらアタシは壊れちまうだろうな」

 

「そんな大げさな・・」

 

「大げさなもんか。これは大事な問題なんだ。ありえない話じゃないだろ?」

 

「まあ、考えたくはないけど。でもなぁ・・」

 

 

どう答えたら良いのか分からない俺は口籠ってしまう。

そんな俺の様子を見た杏子は何故か非常におっかない形相に変貌し冷や汗が噴き出てきた。

 

 

「・・まさかとは思うがお前、魔法少女になりたいとか、舐めた事考えてんじゃねえだろうな?」

 

「ひ!そ、そんな訳ないよ!俺は絶対魔法少女になったりしないから!」

 

 

氷点下に到達しそうな声に慌てて両手を振って力の限り否定しまくる。

何を思ったのか杏子は俺が魔法少女になりたいかもと思ったらしい。

 

そんなトチ狂った願望ねえよ!

どう考えたって行きつく先は破滅しか待ってないだろうが!

絶対やだ!マジ無理!断固拒否!

 

 

全身に拒否反応が出て発狂しそうになったが、幸いにも杏子は納得したらしく表情が穏やかに戻ってくれた。

 

 

「ああ、間違ってもなるなよ。もしそうなったらアタシは容赦しねえから」

 

「何それ!?リンチですか!?」

 

 

杏子の目がマジだったので思わず後ずさる。

 

自分の願いによって家族を死に追いやってしまった過去を持つ杏子は魔法少女には否定的だ。

きっとそれは自分と同じような悲劇を繰り返して欲しくないという優しい思いがあるからだろう。

 

決してグリーフシードの取り分が少なくなるとか、そんなリアルな事情が理由だけではないと信じたい。

 

 

「俺の事を大切に思ってくれるのは嬉しいよ。守ってくれようとするのはありがたい。でもごめん。俺は行かない。俺はこの街に大事なものが出来たから離れたくないんだ」

 

 

考えた末、俺はこう答える事にした。

 

 

ちなみに訳をつけるとすれば、

 

 

どうせ逃げたってまどかが魔女化すれば最悪地球終わって逃げ場なんてないから意味ないです。

 

 

といった感じだろう。

 

 

いやだってマジでこれ逃げ場ないもん。

今の所まどかから魔法少女になる意思はないと言質をとっているが、これから先まどかが契約しなくてはならないという事態が来るかもしれない。

 

そうなったら破滅へのカウントダウン待ったなし!

出来ることなら逃げ出したいけど、まどかを見張らないといけないので無理です!という裏事情がある。

 

 

しかし、それを杏子に喋ったら色々拗れそうな気がするので伏せさせてもらいます。

 

ないとは思うけど全部説明して、「じゃあそのまどかって奴を殺そうぜ」なんて冗談でも言われたら、紫&青、ついでに黄色との全面戦争に突入するかもしれないし。ないと思うけど。

 

 

「この街には大事な(俺の死亡フラグ握ってる)人達がいるから離れたくないんだ。だからごめんね」

 

 

こちらの都合により大部分省いてしまっているが、きっとこれで杏子に伝わるだろう。

全部でなくてもある程度は察してくれるはず。

 

 

そう期待して杏子を見つめるも何故か傷ついたように瞳をゆらし顔を俯かせてしまった。

重い沈黙がリビングを支配していてかなり気まずい。

 

 

 

 

「大事な人・・」

 

 

 

 

ようやく喋ったと思ったらとても小さな声でぼそぼそと囁く程度。

 

よく聞こえなかったので「うん?」と曖昧にぼかすと杏子はゆっくり顔を上げて俺を見つめている。

その目はどんよりとくすんだ赤色の瞳だった。

 

 

「・・アタシよりも?」

 

「え?」

 

「アタシよりも大事なのか?」

 

「え?ちょっと?」

 

「マミが大事なのか?それともあのイレギュラーか?」

 

「ちょ、杏子?一体何の話してんの?」

 

「じゃあ、あの良い子ちゃんぶってるピンクの髪の女の方か?」

 

「だから何の話して・・」

 

「それともアタシと一緒に行くのが嫌だから拒否するのか!?」

 

「っ!?」

 

 

またまた謎の癇癪を起こした杏子はグッと俺の制服を掴んで引っ張ってくる。

微かにビリィと不吉な音がし顔を青ざめた。

 

 

 

このままじゃ俺の制服が!

まどかによって生成されたシワを取るにも苦労したのに破けたりなんてしたら心折れる!

 

 

これ以上制服の破損は見過ごせず、すぐに杏子の手を掴んで引き離そうと力を込めるも一ミリも動かない。

 

 

さすがパワー部門第一位。ビクともしないぜ!

 

 

「杏子!ご、誤解だから!何をどう考えたらそんな思考回路になるんだよ!?」

 

「誤解だって証明したいならアタシと一緒に来ればいい!」

 

「だから行かないって!」

 

 

どっちも譲るつもりはないため、「来い!」「行かない!」のやり取りがしばらく続く。

 

 

普段と違って俺が全く折れないので杏子は段々泣きそうな表情になっていき、そして杏子によって段々破損していく制服を見て、俺はほとんど泣いていた。

 

 

「何で!?何でアタシを拒むんだよ!?」

 

「うぇ!?ちょっと!杏子落ち着いてくれ!」

 

「そんなにアイツらが良いのかよ!?アタシよりも!?やだ!そんなのやだ!やだよぉ・・!」

 

「うお!?」

 

 

ヒステリックに叫んで勢いよく俺に突撃し、胸に顔を埋めて泣きじゃくっている。

嗚咽を漏らしている最中やたらと「何で・・?」「やだぁ・・!」という言葉が聞こえてくる。

 

 

・・俺も泣きたい。

もうこの制服クリーニングでも綺麗にならないと悟ってしまったから。

新調するしかないかも・・。

 

 

しかし一体どうしたというんだ杏子は?

キャラ崩壊半端なくてお前誰?状態になってるぞ。大丈夫か?

 

 

リビングに響く嗚咽とむせび泣く声が止まらず途方に暮れる。

どうやらこれは落ち着くまで待つしかないなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・落ち着いたか?」

 

 

 

 

 

そろそろ制服絞れそうだなぁとぼんやり思う頃、ようやく泣き止んでくれた。

 

真っ赤に腫れた目がどれだけ泣いたのかを物語っている。

流石に女の子が目を腫らした状態なのは可哀想なのでタオルでくるんだ保冷剤を渡してやると素直に受け取った。

 

 

「・・悪りぃ。少し不安になっちゃってさ。ガラにもなく怖くなって・・」

 

「ぐふ!」

 

 

不安そうに揺れる赤い瞳は泣きそうでギュッと俺の背骨を折るつもりの力で抱きしめてくる。

 

すぐにでも離して欲しかったが、まるで絶対離さないという子供の意思表示みたいにガッチリ抱きしめてきて思うように声が出ない。

 

ちなみに俺の渡した保冷材は床に放置されてました。

せっかく渡したのに勿体ない。

 

危うく昇天しそうになる寸前で解放され何とか一命を取り留めた。

 

 

ほぼ瀕死の状態ながらも肩を掴まれ、再び杏子と見つめ合う形で対峙する。

 

 

「優依・・一緒に来てくれないのか?」

 

「あー・・悪いけど行かない」

 

 

じっと不満そうな目で睨んでくる杏子から目を逸らして再度のお断りを入れる。

 

 

 

「・・一つ聞きたいんだけどさ」

 

「ん?何?」

 

 

少しの沈黙の後、杏子は俺の顔に手を添えながらをじっと覗き込んできた。

先程の真剣さと打って変わって冷ややかに思えるのは幻だろうか?

 

 

「あの青髪の女・・美樹さやかとはホントの所どういう関係なんだ?」

 

「ひぃ!?」

 

 

「青髪の女」と呟いた時の杏子の顔は見れたものじゃなかった。

 

 

表情はさほど変わってなかったんだけど目が!

一切の光を遮断した深海のような真っ黒だ。

綺麗な赤い瞳なのに真っ黒に見える!

 

 

てか、唐突にさやかの話してきてこっちはビックリなんだけど!?

 

 

「えっとさやか?あの時も言ったけど友達だって「どうだか?」え?まさかの難癖?」

 

 

必死にさやかとの仲を解こうとするも途中で話を遮られてしまった。

抗議したかったがそれを阻まれるような杏子の不機嫌なオーラが邪魔をして何も言えない。

 

もうやだ、この情緒不安定な赤

めっさおっかないんだけど!ほむら、助けにきて!頼りないけどさやかでも可!

黄色どこ行ったんだチクショウ!

 

 

「ただの友達のために身体張って守ろうとするか普通?それこそソイツに特別な感情でもない限りそんな馬鹿な真似はしねえよ」

 

 

いやあれはマジで事故です!

紫と白に仕組まれた陰謀によって起こった事故なんです!

 

 

吐き捨てるようなぞんざいな言い方で俺を睨んでくる杏子に無意識ながら緊張し、ピンと背筋が伸びた。

さながら俺は警察に尋問されてる被疑者といった感じだ。

 

 

「随分と仲良さそうだったもんな?自分が死ぬかもしれないのにわざわざ間に入ってアタシから庇うようにアイツを抱きしめてたし、何より目の前で胸揉んでたもんな?」

 

「誤解です!全て誤解ですけどセクハラに関して言えば事実無根です!」

 

 

杏子に物申すの超怖いが、せめてセクハラの誤解だけでも解いておかないとこれから先、俺の未来は絶たれてしまう!人生的にも社会的にも!

 

 

うぅ・・無実なのに世辞辛い。

 

 

 

そして杏子さんよ、

 

 

「どうせアタシはデカくねえよ・・」

 

 

と落ち込んでいるがそこまで気にしなくても良いと思いますよ。

だってさやかと小競り合いのしてる最中、ほむらが杏子をまじまじと観察した時、

 

 

「この佐倉杏子はどの時間軸の彼女よりも大きいわね・・」

 

 

と、悔しそうに呟きながらじっと杏子の胸見てたからな。

 

どうやら君の胸は他の時間軸の佐倉杏子の平均以上はあるらしいから気にしなくていいぞ。

それはほむらが保障してくれるから。

 

それにしてもまさかこんな所で他の時間軸と差異があるとは驚きだ。

 

 

「さやかとはただの友達です!それ以外にない!」

 

「口では何とも言えるんだよ。実は美樹さやかはアンタの彼女とかだったりしてな?」

 

「違うわ!どこから出てきたんだそんな発想!?」

 

「だってアイツとやたら距離が近いし、特別扱いしてるじゃん!」

 

「それ絶対杏子の思い込みだって!」

 

 

そこからは大変だった。

杏子がやれ「アイツが好きなんだろ?」「ホントは付き合ってんだろ?」と、とんでもない妄想を披露してくるので俺はいちいち否定して回っていた。

機嫌が直らずプイッと顔を逸らされてしまって心が折れそうだ。

 

 

「・・何度でも言うぞ。俺とさやかは友達だ。嫁うんぬんはあいつなりのコミュニケーションだから忘れてくれ」

 

 

根気強く杏子に説明する俺はきっとノーベル賞ものだ。

 

 

ちなみに今の話のテーマはさやかの嫁発言。

どこで聞いたのか知らないけど、エラくご立腹の杏子さんである。

 

 

じっと奴の赤い目を見つめて無実だと訴えるとふいっと逸らされてしまった。

 

 

「・・そこまで否定するなら信じてやるよ。一応な」

 

 

あ、全く信じてないなこれ。

だって目が凄く疑わしそうな横目だし、何より「一応」って言葉を強調してきたぞ。

 

 

そんな目しなくてもさやかに手を出しませんよ。てか、出した覚えないんだけど。

・・セクハラを除いて。

 

 

「あー、冗談なんだけどさ、もし俺がさやかと付き合ってて嫁になりますーなんて言ってたらどうするつもりだったんだ?」

 

 

意地悪と好奇心に負けた俺は気になる事を質問してみた。

ぶっちゃけさやかが気になってるらしい杏子が一体どんな反応するのか非常に気になる所。

 

 

「もし・・優依がアイツと付き合ってたら・・アタシおかしくなってたかもな?」

 

「・・えーと、何を?」

 

 

具体的にどうなるのか知りたかったが、杏子はただ意味深に暗い笑みを浮かべるだけで何も答えてくれなかった。

 

何となくだがこれ以上この話をしない方が良いなという事は分かる。

話を逸らした方が良さそうだ。

 

 

そう思った俺は口を開きかけるも杏子に先手を打たれてしまった。

 

 

「しかし本当に仲良いんだなお前ら。人の目の前で胸揉むなんて事やってるし」

 

「ぶ!何度も言うけどあれは事故だから!さやかにもちゃんと謝ったよ!てか、女の子同士ならそこまで目くじら立てなくても!」

 

 

余計な蒸し返しに思わずむせそうになる。

 

かなり根に持ってるなこれ。やられたのさやかなのに。

いやむしろ、さやかだからこそかもれしれない。

アタシの嫁に~的な感じの。

 

てか、俺だってちゃんと悪い事してしまったって思ってますよ。

 

女に転生してしまって早十四年は経つのに中身は男のままだから、セクハラ認識なのはどうしても抜けない。

せっかく女に転生したんだからセクハラし放題だしそれを満喫すれば良いんじゃんと思うかもしれない。実際思ったけど。

 

しかしそこはヘタレな俺。

そんな大それた事出来るはずもなく今に至っております。

 

 

「罪の意識はあるんだろ?学校だって行きづらいだろうし、引きこもり確定だな。だったらアタシと一緒に来ればいいじゃん」

 

「まだ言うか!」

 

 

めちゃくちゃしつこい!

もうその話はとっくに終わったと思っていたのにまだ蒸し返す気らしい。

 

イライラを隠さない俺を杏子は不思議そうに首を傾げている。

 

 

「何でそこまで頑なに拒むんだ?お前かなり酷い目に遭ってんだろ?これだってそうだ」

 

「ひゃ!?」

 

 

杏子がそっと俺の首に指を這わせてくる。

そこはマミちゃんのリボンで絞められた跡が残るところだ。

 

シロべえが作った特製塗り薬のおかげでほとんど絞め跡は消えているがそれでもまだ少しだけ残っていて、その跡を杏子の指がゆっくりなぞっていく。

くすぐったいのもあるが人の体温とは思えないほどの指の冷たさに身体が反応する。

 

 

「聞いたぞ?マミにつけられたんだってな。ちょっとでも力込めたら折れそうなこんな細い首に、アイツ・・!」

 

「・・ひ」

 

 

杏子の顔が!杏子の可愛い顔が!

般若の仮面を被った人だけが出来る表情にいいいいいいいいいい!

 

やめて!それ女の子がしていい表情じゃない!

せっかくの可愛い顔が台無しだよ!

 

 

目の前の赤い般若に超絶ビビっていると「優依」と名前を呼ばれた。

ぎこちない動きで声のする方に顔を向けると杏子が真剣な表情で俺を見つめていた。

 

 

「アタシならこんな目に遭わせたりしない。アンタを傷つけようとする奴を全部叩き潰して守ってやる。だから・・!」

 

 

 

 

 

“一緒に来てほしい”

 

 

 

 

 

そう呟く杏子はどこか苦しそうでまるで懇願しているようだった。

 

 

杏子の態度を差し引いても個人的には物凄く一緒に行きたい。

だってめっちゃ安全な気がするもん。

 

 

だけど非常に残念ながら一緒には行けない。

 

 

確かに守ってくれるんだろうけどそれは一時の安全だ。

世界破滅フラグの規模で考えるとそれは悪手にほかならない。※基本まどか絡みで。

 

 

「・・ごめん」

 

 

なるべく杏子の方を見ないように目を逸らし、呟くように謝った。

 

 

顔を観たら罪悪感で潰れそうなので絶対見ないようにしないと。

 

マジでごめんよ杏子!

君の親切な気持ちを踏みにじって!

 

でもありがとう!

その優しさは嬉しかった!具体例を言えば泣きそうになるくらい!

 

君のその優しさは忘れないぜ!

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

何かに耐えるように身体を振るわせ顔を俯かせている杏子。

するとその体制で手をポケットに突っ込んで何かを取り出し、それをスッと俺の顔に近づけてるのを視界の端に捉える。

 

 

これはもしや・・今度こそ殴られる!

 

 

そう思った俺は咄嗟に頭をガードして衝撃に備えるもいつまで経っても痛みはやって来ない。

恐る恐る目を開けると俺の目の前にチョコのスナック菓子が差し出されていた。

 

 

「さっきは悪かったな。お詫びにこの菓子をやるよ」

 

「へ?」

 

 

いきなりの提案にポカンと口を開けて固まる。

困惑する俺と裏腹に杏子は笑っている。それも不自然なくらいに。

 

一体何がしたいんだ?

 

 

「美味いぞ?食いなよ」

 

「え?あの・・」

 

「ほら、遠慮しなくていいから」

 

「ちょ、口に押し込むな!むぐ!」

 

 

断る暇もない内に無理やり口に押し込まれる。

その上、俺が吐き出さないようにするためか口を手で押さえてくるという徹底ぶりで、こうなっては仕方なく菓子を咀嚼し飲み込むしかなかった。

 

 

そんな俺の様子を杏子は不気味なくらいニコニコと笑いながら見つめている。

 

 

「どうだ?美味いだろ?」

 

「・・・・うん」

 

 

笑っている割に何故か発せられているプレッシャーが怖くて全く味なんて分からなかったなんて間違っても言えず静かに頷く。

 

 

相変わらず乱暴な事で。

 

しかし、それを差し引いても違和感を覚える。

普段の杏子なら人に食べ物を差し出す時は「食うかい?」と聞いてくるはずだ。

 

それが友好の証か距離を測っているのかは分からないが無理やり人に食べさせるような真似はしなかったはず。

 

だというのに今回、強引とも思えるやり方で俺の口に菓子を突っ込んできた。

しかも吐き出す事すら許さない容赦のなさだ。

そんな事をする理由がよく分からない。

 

 

 

まさかとは思うけど・・毒が入ってるとかじゃないよね?

 

 

 

「っ!」

 

 

 

ロクな想像していない俺など露知らず杏子がそっと頬に触れてくる。

その手が思いのほか冷たくて思わずビクッと肩が跳ねた。

 

さっきの指も冷たくてびっくりしたし普段体温が高い杏子にしては珍しい。

冷え症にでもなったのだろうか?

 

 

「心配しなくても毒じゃねえから安心しな」

 

 

俺の考えてる事はお見通しらしい。

安心させるかのようにポンポン頭を撫でている。その感触に思わずほっとしてしまった程だ。

 

どうやら仲直りのつもりで無理やり菓子を突っ込んできたらしい。

随分不器用なやり方だが杏子らしいと言えばそうだ。

 

 

今んところ身体に異変はない。

あると言えば身体に緊張感が抜けて眠気が襲ってきたぐらいだ。

 

 

「少しの間だけ、こうしててもいいかい?」

 

 

俺が何か言うよりも早く杏子が肩にもたれかかってくる。

今更言ってもどかないだろう。仕方ないのでそのまま好きにさせておく。何より少し眠くて面倒だ。

 

少し間、お互い寄り添ってソファに座る。

穏やかな時間が流れ、より眠気を増進してくるようで瞼が重い。

 

そんな中、杏子が唐突に俺の名前を呼んできたが眠気もあり「んー?」と気のない返事をしてしまう。

 

 

「どうしてもアタシと一緒に来る気はないんだよな・・?」

 

 

ウトウトと瞼がかなり閉じかけていたので杏子が今どういう表情をしているのか分からない。

けど決して嬉しそうな表情はしていないだろう。

 

声の響きが悲しそうだ。

 

眠気と戦うのに必死で「うん」としか言えなかったけど、大丈夫かな?

 

 

・・・ん?別に一緒に行くのに拘る必要なくね?

てか、ここにいれば良くね?

 

そしたら対ワルプルギスの夜に参戦してくれるだろうし、さやかの問題が解決するかも(+マミちゃん)。

そうなればハッピーエンド間違いなし。俺の死亡フラグもなくなるという訳だ。

 

おお!これイケんじゃね!?

一石二鳥どころの話じゃねえぞ!

 

よし早速ここに住むように提案してみよう!

 

 

「杏子、俺から頼みが・・あれ?」

 

 

杏子に話しかけている途中、急激に眠気が襲われ頭がふらついた。

 

 

おかしい。普通の眠気と違う気がする。

一体何が・・?

 

 

「ㇷㇷ・・」

 

 

笑い声が聞こえ、気力を振り絞って杏子の顔を見る。

笑っている。今にも泣きだしそうに見える不安定な笑顔だ。

 

 

「・・仕方ないよな」

 

「杏子・・?」

 

 

どういう事かと問いただそうとするもフラフラとバランスを保てなくなった俺は前のめりに杏子の方に倒れ込む。

幸い杏子が支えてくれたから痛みはなかったが頭がボーっとして思うように思考がまとまらず意識がぼやけていく。

 

 

「残念だよ。素直にアタシと一緒に来るって言えばもっと優しくしたのに」

 

「は・・?」

 

「お前が食った菓子。あれに睡眠薬を混ぜておいたんだ。念のためにな」

 

 

は・・?睡眠薬?

お前どこでそんなもん手に入れたんだよ・・?

 

じゃあ無理やり菓子を食わせたのはこれが目的か。用意周到な事で・・。

てか、睡眠薬飲ませた時点で優しくする気全くないじゃん。どこが優しくだバカヤロウ・・。

 

 

せめてのもの抵抗で睨んでみるも当の本人には全く効かずに、ましてや俺を優しく抱きしめ頭を撫でてくる。

 

 

「そんな不安そうな顔するな。ガキでも飲めるやつだ。副作用も依存性もないから安心しろ」

 

 

そういう問題じゃねえよ!もちろんそれも心配だけど俺は怒ってんだよ!

人に睡眠薬なんて盛りやがって!

ったく親はどういう教育してんだ・・・!

あ、そういや・・コイツの父親はある意味ロクでもなかったわ・・。

 

 

「思ったより早く効果があるんだなこれ。もう少し時間がかかると思って待ってたけどこれはラッキーだな」

 

 

俺が見事に引っかかって満足なのか杏子はネタばらしとばかりに犯行を暴露してきてすっごくムカつく。

 

 

「ふ・・ざけ・・」

 

 

声に出して文句を言いたかったが身体がとても怠くてかすかに口を動かす程度だった。

とにかく眠い。一瞬でも油断すると眠ってしまうレベルだ。

 

何とか起きていようと意識に集中する。

 

 

「いいからもう眠れ。起きる頃にはここにはいないけどな。・・優依が悪いんだぞ?アタシの事、好きだって言っておきながら浮気なんてするから・・」

 

 

最後の方はほとんど聞き取れなかった。

瞼がとても重くて完全に閉じないように抵抗するのが精一杯だったから。

 

しかしそれをあざ笑うかのように杏子がそっと俺の目を覆うように触れてくる。

 

 

マズイこれ!寝たらダメ!起きてなきゃ!

起きて・・寝ちゃ・・だ・・・め・・・!

 

 

瞼が完全に閉じてしまい、ほとんど意識が夢の世界に連れていかれた。

 

 

俺・・ヤバい・・かも・・。

 

 

「おやすみ優依。これからはずっと一緒だからな」

 

 

杏子がそっと優しく頬を撫でる感触を感じながら俺は完全に意識を手放してしまった。




この時間軸の杏子ちゃんが他の杏子ちゃん達の胸の平均よりも大きい理由:
優依ちゃんへの恋心で女性ホルモンが大量生産&優依ちゃんが作った栄養満点料理が全て胸にいってるからかもしれない!


てか、優依ちゃん大丈夫かなこの後?


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77話 狂った愛の先

百合ハーレムタグつけようか迷いましたがやめました。
だってこれハーレムじゃないもん。
死亡フラグに囲まれてるだけだもんW


杏子side

 

 

「すぅ・・すぅ・・」

 

 

規則正しい呼吸音が優依から聞こえて来る。

どうやら飲ませた睡眠薬はよく効いてるみたいだ。

 

 

「ハハ、ハハハ・・!」

 

 

ようやく優依が手に入った!

 

 

押し寄せる歓喜に笑い声を漏らしながら優依を苦しめない程度の力で抱き締める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ杏子、神原優依は魔法少女と関わりを持っているのは知っていたかい?」

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

昨日ホテルにいきなり現れたキュゥべえがそんな事を言い出して、菓子を食べようと開いた口がそのまま素っ頓狂な声をあげる。

コイツが何を言ってるのか理解出来なくてしばらくその赤い目をじっとを見ていたアタシのその様子に「ハァ」と溜め息を吐かれた。

 

 

「その様子じゃ知らないみたいだね。君と神原優依は僕が見た限り良好な関係だと認識していたから、てっきり魔法少女の事も知ってると思ってたんだけど」

 

「! ちょ、ちょっと待て!何でお前が優依の事知ってるんだ!?いや、それよりもアイツが魔法少女に関わりを持ってるってどういう事だ!?嘘だったら承知しねえぞテメエ!」

 

 

さっさと話を進めようとするキュゥべえに槍を突き付ける。

持っていた菓子は槍を向ける際に放り投げてしまい、そのまま地面に散らかってしまったが気にする余裕は無い。

 

 

「言葉通りの意味だよ。神原優依は魔法少女を知っているし魔女も見えている。彼女自身に素質があるからさ」

 

「まさかテメエ!優依に契約を迫ったんじゃねえだろうな!?」

 

 

優依はひょっとして魔法少女だったのか?コイツと契約した?

 

 

怒りと混乱で殺気を隠さないアタシの様子にもキュゥべえは一切動揺せず、ただその無機質な目でアタシをじっと見つめてくる。

 

 

「落ち着いて杏子。確かに僕は神原優依に魔法少女にならないかと持ちかけたけど断られちゃったよ。だから彼女は今もただの一般人だ」

 

「・・・・そうか」

 

 

安堵の息が出て身体の力が抜けていく。

どうやら無意識の内に力んでしまっていたみたいだ。

 

 

それだけ優依が契約する事がアタシにとって大事な問題だという事か。

もし契約したなんて言ったら、迷わずキュゥべえの身体をバラバラにしていただろう。

 

まあ、冷静に考えて優依のヘタレな性格じゃすぐ魔女に殺されちまうだろうし、そもそも契約なんてする筈ない。

 

コイツから優依の名前が出て、少し動揺し過ぎたか?

暫くアイツに会えなかった寂しさから過剰に反応し過ぎたのかも。

 

 

・・いつ会えるのかな優依?

 

 

 

 

 

「あ、そうそう神原優依はマミが魔法少女だという事を知っているよ」

 

 

「え・・?」

 

 

だけど気が緩んだタイミングを見計らったようにキュゥべえは更なる爆弾を落としてくる。

 

 

しかも今度はマミ絡みの事だ。

 

『巴マミ』

かつてコンビを組んでいた魔法少女。アタシの憧れだった先輩。

自分の願いの所為で家族を無残に死なせてしまい、自棄を起こした時も去ろうとするアタシを引き留めてくれた。

結局、マミを叩きのめす形で決別してしまいそれ以来会っていない。

今はどうしてるのかさえ分からない。

 

マミの名前が出てきたときに感じたのは懐かしさと寂しさが入り混じった気持ち、そしてそれ以上に感じたのは怒りだった。

 

優依とマミは知り合い。

しかも優依はマミが魔法少女だという事を知っている。

それだけで身体中が煮えたぎるような怒りでおかしくなりそうだ。

 

 

「優依がマミと・・」

 

「しかもただ知ってるだけじゃない。神原優依は精力的にマミのサポートをしてるみたいだ。仲が良いみたいでね、よくマミの部屋に遊びに来る神原優依に何度か会った事があるよ。よく楽しそうに談笑している姿を見かけるね」

 

「・・・・・・」

 

 

頭の中ではマミの部屋で楽しそうにマミに話しかける優依の姿を思い浮かび、すぐさま頭から追い出す。

そうじゃなきゃ嫉妬に狂ってマミをメッタ刺しにしてしまいそうだ。

 

 

「実は・・最近二人の間に問題が起こったみたいなんだ」

 

「あ?」

 

 

嫉妬にかられて不機嫌なアタシに油を注ぐように続けるキュゥべえを睨む。

まるでアタシをわざと怒らせようしてるんじゃないかと疑いたくなるタイミングだ。

 

 

「マミは神原優依にとても執着してるみたいでね。嫌がる彼女を無理やり魔女の結界に連れ込んでるみたいなんだ。その所為で危険な目に遭ったのは一度や二度じゃない」

 

「・・へえ」

 

「しかも最近は執着心がとても強くなってるみたいでマミ自身が神原優依に危害を加えてしまったんだ。実際あったのが首にリボンを締め付けて窒息死させそうになったり、銃を向けて心中しようとしたりとかなり際どい」

 

「な・・!?」

 

 

マミが?

あの正義の魔法少女を不器用なくらい貫いてたような甘ちゃんが?

 

信じられない信じたくない。

 

でも前にアタシに会いに風見野にやって来た優依の首には痛々しい絞め跡が付いていた。

気になって聞いてみたけど優依は何でもないと誤魔化してた。

 

普通に生きてればあんな跡つくはずがないけどマミにやられたなら納得だ。

アタシに言えばマミと更に溝が深まるかもとか思ったんだろうな。

だから優依は誤魔化した。・・けどもう遅い。

 

 

アタシはマミを許さない!

可愛いアタシの優依を傷つけた罪を償ってもらわねえと・・!

 

 

そして優依、お前もだ!

マミにちょっかいだしやがって!

アタシの事、大好きとか調子の良い事言ってたくせに会いに来ないじゃねえか!

 

まさかマミに鞍替えしたから会いに来ないのか・・?

 

 

許さねえ!アタシがいながら・・!

 

 

怒りに燃えているとそれを見計らったようにキュゥべえが話しかけてくる。

怪しいと思う心の余裕もアタシにはなくなっていて、あるのはただ沸騰しそうな怒りだけ。

 

 

「それだけでも厄介なんだけどもう一つ問題がある。イレギュラーの存在だ」

 

「・・イレギュラー?」

 

 

キュゥべえの話によれば見滝原に契約した覚えのないイレギュラーな魔法少女が現れたらしい。

ソイツは出会い頭にいきなりキュゥべえに攻撃してきたんだとか。

 

 

「ふーん。興味ないね」

 

 

イレギュラーと呼ばれる謎の魔法少女に関しては特に興味は湧かなかった。

 

勝手にすればいい。用があるのは優依だけだ。

正直マミは二の次。優依がいればアイツなんてどうでもいい。

 

 

「おや随分と淡白だね。その例のイレギュラーは神原優依に危害を加えたのに」

 

「!」

 

 

再び出てくる「優依」の名前に反応してしまう。

コイツはいちいちアタシが食いついてくるような内容ばかり話してきてムカつく。

 

 

まるで誘導されてるみたいで気に入らねえ。

 

 

睨むアタシを気にせずキュゥべえは淡々とイレギュラーとやらが優依にどんな危害を加えたのかを説明してきてイライラしながらもそれに耳を傾ける。

 

 

だけど、聞いてる内にイレギュラーの優依に対する横暴さでついに怒りが限界点に来てしまった。

 

 

 

 

 

 

「どこに行くんだい?」

 

 

 

一通りの話を聞いた後、黙って部屋を出ようとするアタシをキュゥべえが呼び止める。

 

 

「決まってんだろ?優依を迎えにいくんだよ」

 

 

振り向かずに扉に手をかけながら言ってやった。今は立ち止まる時間さえ惜しい。

 

 

「見滝原に向かうんだね」

 

「ああ、アタシを放っておいて浮気する馬鹿にお仕置きしなくちゃいけねえしな」

 

 

見滝原に帰る時、優依は「会いに行くから待ってて」と言った。

アタシはその約束を信じてずっと待ってたのに裏切ったのは優依の方だ。

 

だったらもう約束を守る必要なんてない。

会いに来ないならアタシから会いに行くだけだ。

 

 

待ってろよ優依?

今から迎えに行くからな。

 

 

 

扉を開けて歩き出す。向かう先は見滝原だ。

 

 

 

 

 

見滝原に着いて真っ先に向かったのが優依の家だったがアイツはいる気配が感じられなかった。

 

まさかマミとか浮気相手の家に泊まってんじゃねえだろうな?

だとしたらお仕置きが更に増えるな。

 

 

家にいないとなると次は学校だ。

流石に学校には来るだろうと思って先回りして見張っていたのに優依の姿がどこにも見えなくて流石に焦りが出てきた。

 

 

まさか魔女に食われて・・?

 

 

最悪の事態が頭をよぎって不安で胸が押しつぶされそうになりながら見滝原中を駆け回って優依を探し続けた。

一日中探し回ってようやく優依を見つけたのは青髪の女に抱き着いてやがった場面だった。

 

 

 

 

「さやか可愛い!!」

 

 

「・・・・へぇ」

 

 

どうやら優依が抱き着いてるのは魔法少女らしい。

随分と興奮してるのか早口で衣装を褒めまくっている。

 

 

アタシと同じように・・!

優依がアタシ以外の奴に抱き付いて・・!

 

 

 

怒りに震えながら楽しそうな優依を見ていた。

 

 

些細な事だ。

 

この後、隙をついて優依を連れ去ればいいだけなんだから。

誰にも見つけられない所に閉じ込めてアタシだけしか見れなくなるようにしてしまえばいい。

 

 

そう自分に言い聞かせる。

 

 

でも優依を連れ去るにはマミを含めた魔法少女どもが邪魔だ。

それに近くにいるキュゥべえモドキも。

 

キュゥべえ曰はく、優依の傍にはいつも精神疾患のキュゥべえがいると聞いていたがおそらくアイツの事だろう。

口先八兆で優依を誑かしてるらしい。バラバラにしてしまいたい。

 

 

”僕に作戦があるよ”

 

 

いつの間にか傍にいたキュゥべえはアタシにある事を提案してきた。

 

 

自分が囮になってあのキュゥべえを引き剥がすから、その内に優依を連れ去れば良い・・と。

 

 

何でいつも傍観気味のコイツがここまでアタシに協力的なのか眉をひそめたけど他に良い方法がない以上乗っかる事にした。

 

運が良い事に優依は何故かキュゥべえモドキだけを連れてマミ達と別れた。

 

 

 

 

作戦決行だ。

 

 

 

 

「おい待て な!?」

 

 

上手くいったと思ってた。

 

何か目的があって向かった先にある鉄塔を眺めていた優依からキュゥべえモドキを引き離した。

アタシは後ろから声を掛けて背中から抱き着こうとしただけなのに突然叫ばれてしまい、その事に驚いた隙をついて優依は逃げ出し慌てて追おうとしたところに突如目の前に何かが立ちはだかった。

 

 

鋭い何かが地面に突き刺さり、遮るようにアタシの前にある。

 

 

そんな事はどうでもいい。

 

 

それよりも早く優依を捕まえないと見失ってしまう!それはダメだ!

もうこれ以上アタシから離れるのは許さない!

 

 

 

最悪、優依の足を切って・・!

 

 

 

 

「行かせねえよ」

 

 

「!」

 

 

邪魔したソイツはそれだけ告げて優依を追うとするアタシに何かの先端を首元に向けてきて動けない。

殆ど明かりが灯ってないからソイツがどんな姿をしてるのか分からないけど、形は人っぽい。

 

 

首につきつけられてんのは・・槍か?

心なしかアタシの槍と似てる気がするけど・・?

 

 

いや、それよりコイツをさっさと片付けないと優依に追いつけなくなる!

 

 

 

「どこの誰か知らねえけどよくも邪魔してくれたな?もう少しだったのにどうしてくれんだよ!」

 

 

目の前にいる奴は誰かよく分からないが同業者なのは間違いない。

だから攻撃する事に躊躇しなかった。

変身してすぐさま槍を邪魔した奴に向けて振り上げてソイツに先制攻撃をしかけた。

 

 

 

 

 

「く・・そ・・」

 

 

 

 

気づけばアタシは地面にうつ伏せで倒れて頭上を睨みつける。

 

 

何なんだコイツ・・!?

 

 

油断なんてしてなかったはずなのに、全く攻撃が当たらない。

 

 

まさか、アタシの攻撃が全部読まれてた・・?

コイツ一体何者だ?

 

 

「どうやら無事逃げ切れたみたいだな」

 

 

暗がりで姿が見えないソイツは優依が走っていった方向に顔を向けてるみたいでこっちを見ようともしなかった。

それがまた屈辱的でギリッと歯を噛みしめる。

 

 

「お前はちったあ、頭冷やせ」

 

 

ジャリっと足音が聞こえ、顔を上げるとソイツは優依が走って行った方向にゆっくり歩いているみたいだ。

このまま優依を追いかけて危害を加えるかもしれない。

 

 

それは駄目だ!ここで食い止めなきゃ!

 

 

「待っ・・! いない?」

 

 

上体を起こして立ち上がるも、何故かアイツはいなくなっていて辺りはシンと静まりかえっていた。

気配を探ってみても魔力を全く感じない。いるのはアタシ一人。

 

 

「チッ・・」

 

 

優依もとっくに遠くまで逃げられてて、すぐに追いつく事が出来ない。

追いついたとしてもまたさっきの奴が邪魔する可能性がある。

 

ムカつくけど次のチャンスを待つしかなさそうだ。なら明日決行だ。

流石の優依も学校がある以上いつまでも休むわけにはいかないはずなんだから。

 

 

 

今度は絶対逃がさない!

 

 

 

 

 

 

「優依ちゃん美味しい?」

 

「・・うん、とっても美味しいよ・・」

 

「ちょっと優依!あたしに食べさせるの忘れてるわよ!」

 

「・・はいはい。ほら、あーん」

 

「あーん♪」

 

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

次の日、優依を見つけたのはあいつが通う学校の屋上でいつもの女友達二人と仲良くランチをしていた。

いや、仲良くじゃない。イチャイチャと言った方が良い。

 

近くの建物の屋上に隠れてその様子を見ていたアタシはイライラのあまり持っていた菓子を握り潰してしまう。

 

 

優依の交友関係はある程度把握している。

 

遠くからずっと優依を見守ってる時から思ってたけど優依とあの女二人はとても仲が良い。

実はどっちかと付き合ってるんじゃないかと思えるほどだ。

 

 

ピンクの髪の女は優依に媚びてる感じだし、青髪に至ってはウザいくらい優依に馴れ馴れしい。

 

 

「可愛いー!さすがは優依!あたしの嫁だー!」

 

「あー・・よしよし、さやか。今日は特別しっかり甘えていいぞ」

 

 

 

「・・・あぁ?」

 

 

嫁?ふざけんな!殺してしまいたい・・!

優依と付き合ってるのはアタシだ!お前じゃない!

 

 

あの青髪の女「美樹さやか」!アイツは絶対潰す!

 

 

魔法少女ってだけでも潰したいのに、美樹さやかは昔のアタシそっくりで見ていて腹が立ってくる。

キュゥべえの話じゃアイツは昨日契約したばかりのヒヨッコ。

しかも願いが好きな男の腕を治すなんて馬鹿な事を叶えやがった。

 

マミと同じで正義の魔法少女を騙る甘ちゃん。

他人のために願いを叶えるなんてまるで昔のアタシみたいじゃんか!

そんな亡霊みたいな奴が優依の傍にいて仲良くするのは許さない!

 

 

優依がアイツに靡く前に叩き潰さなきゃ!

 

 

 

だから襲った事を後悔していない。

 

アイツが無防備に使い魔に攻撃してる瞬間を狙って背後から槍を突き立てた。

 

狙うは心臓。

 

殺す気で攻撃したのに狙いが甘かったのか美樹さやかは思ったより致命傷を負っていない。

すぐさまアタシから受けた傷を癒して体勢を整えていたくらいだ。どうやら固有魔法は回復魔法のようだ。

 

 

それならそれで好都合。

 

 

 

ムシャクシャするこの苛立ちを発散させるためにも付き合ってもらおうじゃん!

 

 

 

「あたしに恨みでもあるの!?」

 

恨みしかねえよ!優依に気に入られやがって!

弱いくせに何で優依と仲良くしてんだよ!

優依にはアタシだけで十分だろうが!

 

 

「お願い!謝るからもうこんな事やめて!」

 

随分とお優しい事で。

きっと優依にもこうやって良い子ぶって近づいたんだろうな。

二度と優依に近づけさせない。

槍を突きつけて脅してやれば優依から離れていくだろう。

 

 

誰にも渡さない!奪おうとするなら叩き潰す!

 

例えそれが優依の友達だろうと同じだ。

気が変わって優依を奪おうとするかもしれない。

 

 

 

そんな事アタシが許すわけねえだろ!

ふざけんな!優依はアタシだけのモノだ!!

 

 

 

その思いだけで徹底的に痛めつけたが生意気にも美樹さやかは何度も立ち上がってアタシに向かってくる。

その事に怒りがピークに達してトドメをさそうとした瞬間、アタシの前には現れたのは恋焦がれてた優依だった。

 

 

でも・・・、

 

 

 

 

「何でソイツを庇うんだよ優依!?」

 

 

 

 

優依がアタシから庇うように美樹さやかを抱き寄せてこっちを睨んでいる。

まるでソイツを守ってるみたい。

 

 

何で?何でソイツを抱きしめてるの?

 

 

い、嫌だ・・!

 

やめてよ!何でアタシの目の前で仲良く抱き合ってんの!?

 

 

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

 

 

 

胸が抉れるような痛みを感じて苦しい・・。

このまま泣いて滅茶苦茶に暴れ出してしまいたい。

 

 

 

ただでさえ優依の予想外の登場に動揺していたのに、優依の口から出た言葉で更にアタシはボロボロになっていく。

 

 

”俺、さやかに傷ついてほしくない!”

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ赤になっていた。

 

 

傷ついてほしくないって、アタシはいいのかよ?

優依のせいで心はズタズタに傷ついてるのに・・。

 

 

・・優依はソイツを選ぶのか?アタシじゃなくて・・?

 

 

頭の中で何かがガラガラと崩れる音がする。

 

 

美樹さやかを選んだ現実がアタシの中にあるのは怒りと絶望。

それがアタシを突き動かす原動力だった。

 

 

優依がアタシを裏切るはずがない。

きっと美樹さやかに誑かされてるんだ。

 

 

なら美樹さやかを殺して優依を取り戻す!

 

 

そう自分に言い聞かせて、槍を構えた時「そこまでよ」と周囲に響く凛とした冷たい声。

 

 

突如、例のイレギュラーらしい奴が割り込んできて結局勝負はつかなかった。

あの瞬間移動のような妙な魔法を何とかしなきゃアタシに勝ち目はない。

 

 

だから撤退を選んだ。

 

ただしそれはフェイク。退散するつもりなんてない。

アタシは優依と二人で話をしたい。

 

 

優依の家に先回りして待ち伏せしようかと思ったけど幸運にも優依の母さんがいて優依に会わせてほしいとお願いしたらすんなり承諾してもらえた。

 

 

呼び出してもらって待ってる時に優依が帰ってきて、内心ほくそ笑む。

 

 

「お帰り優依。・・待ってた」

 

 

家の中にアタシがいるのに酷く驚いてる間に結界を施して退路を断つ。

 

 

これで逃げられない。アタシと二人っきりだ。

 

 

何故か正座して弁解を始めた優依は魔法少女を知った経緯をポツリポツリと話し出す。

つっかえつっかえな説明だったからあまり要領を得なかったが、おそらく魔女からマミを助けてもらったのがきっかけらしい。

 

頭では理解したが納得できなかった。

 

 

・・最初に魔女から優依を助けたのはアタシだろ?

納得できない!アタシにどうして話してくれなかったんだよ!?

 

 

どうしてマミの方に行っちゃうんだよ・・!?

優依はアタシの彼女だろ!?

 

 

「何で!?」

 

 

言いようのない怒りが爆発し気づけば優依の胸倉を掴んでいた。

 

 

何で優依の傍にいる魔法少女がマミなんだ!?

何で優依はアタシじゃなくて美樹さやかを選んだんだ!?

 

アタシと付き合っておきながら他の女と浮気していた怒りと会いに来てくれなかった寂しさが濁流のように全身を駆け巡って優依を力の限り揺さぶる。

 

結局は誤解だったんだけど、やっぱり優依が悪いと思う。

こんなの一歩間違えたら誤解じゃ済まない。

アタシを裏切ったようなもんだ。

 

 

浮気疑惑そこそこに元々優依に会いに来た本題に入る。

 

 

内容はもちろんアタシと一緒に来いという事だ。

 

でも優依はすぐさまアタシの提案を断った。

何度も一緒に来るように訴えてみるも優依は首を縦に振らず頑なに拒んでる。

押しに弱いコイツには信じられない頑固さだ。

 

 

どうしてここまで拒むのかと思ったがふと脳裏に過るのは優依と仲の良い連中の顔だった。

 

 

ひょっとして優依はアタシじゃなくてソイツ等を選ぶのか?

アタシは優依の彼女じゃないのにどうしてアタシを選んでくれないの・・?

 

 

 

心が壊れそうな感覚を感じながら優依の肩にしがみつく。

 

 

 

 

アタシの持てる全てを使って優依を守る。

そうはっきり告げて優依に迫った。

 

 

 

 

”一緒に来てほしい”

 

 

 

 

そう掠れた声で呟いた。

 

 

 

 

ずっと傍にいたい

 

もうどこにも行かないでほしい

 

アタシだけをずっと見ていて

 

 

 

 

その想いを込めて訴えかける。

 

 

 

 

これで断れたらアタシは・・!

 

 

 

「ごめん杏子。俺は行かない」

 

 

 

でも現実はどこまでも残酷だった。

 

 

出てきたのは拒絶の言葉。

たったのそれだけで目の前が真っ黒になっていく。

 

 

 

 

どうすれば優依はアタシと一緒にいてくれる?

 

 

 

この街には大事な人がいるから行けないって言った。

 

 

 

このままじゃ、他の女に取られちゃう!そんなのやだ!

 

 

どうしたら・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・そうだ。

 

 

 

 

 

無理やり連れていけば良いだけじゃん

 

 

 

 

ソウスレバ、優依ハアタシダケノモノ・・!

 

 

 

 

アタシはそっとパーカーのポケットに手を入れる。

その手つきに迷いなんてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やり方は卑怯だ。でも、

 

 

 

ようやくこれで優依はアタシのものになった。

 

 

 

 

 

穏やかな表情で眠る優依の頬にキスをして髪を撫でる。

二人っきりの時間がとても愛しい。

 

 

 

「・・そろそろ行くか」

 

 

 

じっくり二人の時間を堪能した後、変身して眠っている優依を抱き寄せ近くにあった窓を開ける。

 

 

アタシを信頼してくれている優依の母さんを裏切るような形になるけど、これだけは譲れない。

 

 

可愛いアタシの優依。

誰にも渡さない。例えそれが優依の母親だったとしても!

 

 

迷いを振り払うように勢いよく床を蹴って暗い街並みの中を飛ぶ。

みるみる内に優依の家から遠のいていく。

 

 

もうこの街には用はない。

絶好の狩場だし多少未練はあるが魔法少女三人を相手にするのは流石にきつい。

 

気づかれる前にさっさと風見野に帰るか。

ほとぼりが冷めるまで優依をどこかに閉じ込めて可愛いがろう。

もちろんアタシだけを求めるようにきっちり調教しておかないとな。

 

 

これからの生活を想像して思わず口が綻ぶ。

 

 

優依とならどこに行ったって楽しいだろう。

だってずっと一緒なんだから!

 

 

 

 

 

 

「どこに行くつもりかしら?」

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

背後から聞こえる懐かしい声にすぐさま笑顔が引っ込み、思わず足が止まりかけるもすぐさま動かして建物を駆けていく。

 

 

「チッ」

 

 

アタシめがけて迫ってくる無数の黄色いリボン。

それは行く手を塞ぐように壁となって立ちはだかる。

こんな芸当出来るのは一人しかいない。気配を感じる方に顔を向けて睨みつける。

 

 

 

何でアイツがここに・・!?

 

 

 

 

「・・マミ」

 

 

 

「久しぶりね佐倉さん。優依ちゃんを抱えてどこに行くの?」

 

 

 

 

 

かつて一緒に戦っていた相棒、そしてアタシの師匠だった魔法少女「巴マミ」が立ちはだかるように佇んでいた。




杏子ちゃんに会った優依ママの内面:

あの馬鹿娘は次は何をやらかしたんだ?

優依ママは娘の女事情を把握しています。
殆ど娘が悪い事もW

次はマミちゃんと杏子ちゃんの対決です!


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78話 黄色 vs 赤

3000人の皆さんがお気に入り登録してくれたんですか!?
これは夢ですか!?自分は吉夢を見ている!?

幸せで昇天しそう・・!
ありがとうございます!


マミside

 

 

嫌な予感がする。その予感は当たってしまった。

 

 

私の視界の先には佐倉さんがいる。

もう二度と会うことはないと思っていたのに・・。

 

 

 

 

パトロールの途中で美樹さん達とはぐれた後、ちょっとした用事もあって一人で行動してる所にシロべえが現れた。

 

何だろうと不思議に思っていたら切羽詰まった早口で佐倉さんが現れたと聞いた時は耳を疑った。

半信半疑ながらも優依ちゃんのいる位置をシロべえに教えてもらって急いでいる途中で優依ちゃんを連れた佐倉さんを見つけてしまった。

 

最悪のタイミングでの再会になるなんてね。

 

 

佐倉さん。

 

 

かつては正義の魔法少女として私と一緒に苦楽を共にした大切な仲間。

昔の彼女はみんなの幸せを守るために戦うのが自分の幸せだと笑っていた優しい女の子だった。

 

 

でも彼女の願いが原因で佐倉さんの家族が悲惨な結末を辿ってしまった日からあの娘は変わってしまった。

決別に近い形でコンビを解散させてしまったけど、また元気な姿が見れて嬉しくないかと言われれば嘘。

 

 

久しぶりに会えて凄く嬉しい。

積る話もあるし出来る事ならまた一緒に戦いたいとすら思う。・・でも。

 

 

佐倉さんの腕の中には優依ちゃんが眠る姿があり、さっきまでの私の思いがすぐさま消え心が冷たくなっていく。

衝動のままに銃口を引いてしまいたいと思うほど。

 

 

魔法少女の姿で優依ちゃんをお姫様抱っこする佐倉さんは見た感じだと優依ちゃんをどこかへ運んでいるように見える。これがもし昔の佐倉さんのままだったら安全な場所へ運ぼうとしていたのかもしれない。

 

 

でも私は知っている。

 

佐倉さんは優依ちゃんの事が好き。それも狂った愛と呼べるもの。

優依ちゃんを運んでいる理由は、あの娘を自分のモノにしようとどこか私の手の届かない場所へ連れ去ろうとしていたからだと確信している。

 

 

シロべえから佐倉さんの優依ちゃんに対する異常な執着心を聞いていたけど、とんでもないわね。

 

 

しばらくお互い睨み合いが続いて重い沈黙が漂っている。

私の方はどうやって優依ちゃんを取り戻そうかと考えていて、佐倉さんも私を睨みつつ抜け目なく隙を狙おうとさっきから目を動かすばかりで何も喋らないもの。

 

でもこれじゃいつまで経っても進まないわね。

 

 

「優依ちゃんに何をしたの?」

 

 

尋問のつもりで佐倉さんに問いただす。

頭に血が上っているから口から出た声は思ったよりも少し低かったけど声を荒げなかっただけマシなのかもしれない。

 

 

質問と同時に銃を展開し、いつでも佐倉さんを狙えるように銃口の全てを彼女に合わせる。

 

 

これは脅しじゃない。返答次第で佐倉さんを攻撃するつもりだから。

そう、決別する前の手加減とは違う。今度は本気で行く。

 

 

「・・・・・」

 

 

佐倉さんは何も答えない。

ただじっと私と銃を交互に見つめて口を閉ざしたまま。

 

 

「もう一度だけ聞くわ。優依ちゃんに何をしたの?」

 

「・・別に何もしてねえよ。ただちょっと眠らせただけだ」

 

 

ようやく口を開いてくれたけど、ぶっきらぼうな言い方だった。

 

しかも私に見せたくないのか佐倉さんは優依ちゃんを隠すように少し背中を向ける。

それはまるで小さい子供が自分の大事なものを取られないように必死に守ろうとする姿にも見えた。

普段なら微笑ましい光景かもしれないけど、私の中で怒りの炎が湧き起こる。

 

 

優依ちゃんは佐倉さんのモノじゃない!私のモノよ!

 

 

思わずそう叫びたかったが優依ちゃんが佐倉さんに捕まっている以上刺激してはいけない。

ここは冷静に話した方が良いかもしれない。

 

 

「・・優依ちゃんを連れてどこに行くの?」

 

「マミには関係ないだろ?」

 

「関係あるわ!優依ちゃんは私の愛する女の子よ!」

 

 

私の我慢を無下にあしらうかのような答えについカッと叫んでしまい、すぐさま我に返って口を紡ぐも空間はシンと静まりかえっていた。

 

明らかに雰囲気が変わった。

緊張感が漂ってるのは変わらないけど何だか冷たい空気が混ざり合ったような底冷えする雰囲気。

 

 

「・・へえ、何?ひょっとしてマミは優依の事が好きなのか?」

 

 

佐倉さんが冷めた目で私を睨んでる。

私を睨むその目は明らかに侮蔑が含まれていて、心なしか更にギュッと優依ちゃんを抱きしめる力が強くなった感じがした。

 

蔑んだような笑みを浮かべながら佐倉さんは馬鹿にしたような口調で話しかける。

私の怒りが更に増していくのが分かる。

 

 

「それは残念だったな。コイツはアタシの、っ!」

 

 

それ以上聞く気はなくて、威嚇のつもりで佐倉さんの顔めがけて銃弾をお見舞いする。

 

 

当たっても構わない。

私達魔法少女はソウルジェムが砕かれない限り死なないのだから。

佐倉さんのソウルジェムは胸元にあるから顔が砕かれようと大した問題じゃない。

 

 

むしろそうなってくれた方が優依ちゃんを助けられるしありがたいわ。

 

 

そう思っていたけど結局佐倉さんは反射的に顔を逸らして銃弾を避けてしまった。

 

 

残念。当たれば簡単に優依ちゃんを取り戻せたのに。

 

 

「危ねえな・・優依に当たったらどうするつもりだテメエ?」

 

 

ジロリと人を射殺せそうな目で私を睨みつけながら見せつけるかのように優依ちゃんとの密着度が更に増している。肌に感じる殺気は並大抵のものじゃなかった。

 

 

出来る事なら私を殺したいのでしょうね?

全身から溢れる殺気がそう語ってるもの。

 

私も出来る事なら佐倉さんを殺してしまいたいわ。

優依ちゃんを奪うつもりなら許せないもの。

 

 

「当たるはずないでしょう?狙ったのは佐倉さんだけだもの」

 

「・・前に戦った時はアタシを殺す気なんてなかったくせに・・人間変わるもんだな」

 

「ええ、そうね。私は変わったわ。もう私は正義の魔法少女なんかじゃない。今は優依ちゃんを守るために魔法少女をやっているの。だから私の大事なその娘を連れて行こうとする人に容赦するつもりなんてないわ」

 

 

ガチャリと音を立てて銃口を佐倉さんに向ける。

次も威嚇じゃない。狙うは佐倉さんの腕。

 

 

お姫様のように眠る静かに優依ちゃんを支える憎たらしい腕を吹き飛ばして、彼女を悪い魔法少女から救わなくちゃ!

 

グッと引き金を強く引く。

 

 

「・・・ふん」

 

「! 待ちなさい!」

 

 

私が戦闘態勢に移行した雰囲気を感じ取ったのか、くるりと背中を向けて地面を蹴る佐倉さんの後を急いで追う。

 

 

絶対に逃がさない。

優依ちゃんを連れて行こうとする泥棒猫は許さない!

 

 

リボンを出現させ、佐倉さんに向けて放つ。

 

目的は優依ちゃんを奪取する事、そして出来れば佐倉さんを拘束する事。

佐倉さんを殺したいという気持ちも本心ではあるけど彼女はかつての後輩で仲間。殺したくないのもまた本心。

 

そんな矛盾した思いに板挟みして思ったよりも攻撃出来ない。

それに間違って優依ちゃんに当たってしまってはまずい。

 

 

「優依ちゃんを離しなさい!」

 

 

一斉に放った大量のリボンが津波のように佐倉さんを覆い尽くそうとするも、佐倉さんは重力を感じさせないスピードでリボンを躱していき、避けられなかったリボンは赤い楔の結界を出現させて防いでいる。

 

後輩の咄嗟の判断を感心するも捕まるのは時間の問題。

 

優依ちゃんを抱えている以上、思うように反撃は出来ないはず。

佐倉さんもそれは分かっているでしょうに。

 

私から逃げられると本気で思っているのかしら?

 

 

 

しばらくの間リボンを躱していた佐倉さんだったけど、やがて小さく「チッ」と舌打ちして地面に向かって降りていく。

 

「待ちなさい!」

 

 

すぐさま彼女の後を追い、地面に降り立つ。

 

ここで佐倉さんをどうにかしておかないと優依ちゃんを連れ去られてしまう・・!

 

 

「ここは・・?」

 

 

佐倉さんを追って地面に降りた場所は人気のない閑静な公園だった。

遊具がないこの広いだけの場所は私から逃げたいはずの佐倉さんには不利なはずなのにどうしてここに?

 

 

「正直今アンタとは戦うのは分が悪いからしたくなかったけど・・・仕方ねえ」

 

 

不思議に思いながら佐倉さんの方を見ると優依ちゃんを抱えたままゆっくりどこかへ歩いている。

向かう先にはベンチがあった。

 

そのベンチの上に優依ちゃんを優しく降ろし、慈しむような手つきで髪を撫でている。

その姿はまるでお姫様を守る騎士のように様になっているように見えて私の心を嫉妬でかき乱していく。

 

 

「悪いな優依。ちょっとマミを片付けてくるから少しここで待っててくれ」

 

「私を片付けるですって?随分と大きく出たわね佐倉さん」

 

「ああ。仮に優依を連れ出すのに成功しても、その後に連れ戻されたんじゃ話になんねえからな。だからここで邪魔なマミを潰しておこうと思っただけだ」

 

 

ベンチの上に眠る優依ちゃんから離れた佐倉さんは槍を取り出して私を睨んでいる。

まるで恋敵を見るような目。

 

 

私も同じような目で佐倉さんを見ているのでしょうね。

佐倉さんがとっても憎いんだもの。

 

 

「こんな絶好の狩場はそうはねえから、いつかまたアンタと戦う事になると思ってたんだ」

 

「・・・そう」

 

「それと優依を危険な目に遭わせた報いを受けてもらわねえとな。・・優依のキレイな首に痛々しい痕まで残しやがって・・絶対に許せねえ!」

 

「っ!」

 

 

前半はきっと建前、本音は後半。

私のせいで出来た優依ちゃんの首の痕の話をした後から明らかに殺気立っている。

 

でも今の私にはそんな事気にならない。

 

 

「・・私もね、佐倉さん。貴女の事が絶対許せないの」

 

「・・あぁ?」

 

 

静かに話し出した私を訝しげに眉を寄せて睨む佐倉さん。

 

彼女にとって今の私はおかしく見えるのでしょうね。

だって顔を俯かせてぼそぼそと喋ってるんですもの。傍から見たらおかしく見えてるはず。

 

・・そんな事どうでもいいわ。

 

 

嵐の前の静けさのような沈黙が私達の周囲に漂う。

意を決して顔を上げ、佐倉さんを睨んだ。

 

 

「優依ちゃんが最初に出会った特別な魔法少女が貴女だなんてどうしても許せないの!」

 

 

ずっと私の中で燻っていた嫉妬が言葉として外に出ていく。

その声は予想していたよりもずっとトゲがあって、私がどれだけこの事を妬んでいたのかを物語ってるようだった。

 

 

優依ちゃんが見滝原に引っ越して最初に出会った魔法少女が佐倉さん。

それはキュゥべえから聞いた知りたくなかった情報。

 

私は二番煎じ。ただの順番で佐倉さんは優依ちゃんにとっての特別な存在になった。

その事実を知った日からずっと佐倉さんに嫉妬していて胸に秘めていた。

 

忘れようと思っても優依ちゃんに会うたびにどうしても思い出してしまう。

だって優依ちゃんが普段つけてる髪飾りは佐倉さんが贈ったもの。

 

佐倉さんを象徴する赤が基調の黒いリボンのハンズクリップはまるで優依ちゃんは自分のものだと主張してるようで・・。

 

私が知らない所で逢瀬を重ねて仲を深めていった二人。

誰にも邪魔されない二人っきりの秘密の時間。

 

どれも私が優依ちゃんと欲しいものばかりで憎らしい。

 

でも好きで佐倉さんと一緒にいたとは思えない。

佐倉さんが優依ちゃんに強引に迫ったに違いない。きっとそうだわ!

それを優しい優依ちゃんが拒むはずがないもの。

 

 

 

優依ちゃんの優しさに付け込むなんて許さない!

私から優依ちゃんを奪うなら容赦する必要はない!

 

 

佐倉さんを殺さなくちゃ!

愛する優依ちゃんのために!

 

 

「ここで死んでもらうわ佐倉さん!優依ちゃんのために!」

 

 

嫉妬に狂った今の私には、もう佐倉さんを殺す躊躇がなくなっていた。

ただただ目の前にいる泥棒猫を殺そうと躍起になっている。

 

そんな私を佐倉さんは鼻で笑っている。

 

 

「ハッ!そうこなくっちゃな!アタシもマミには恨みがあるから容赦しねえ!」

 

 

槍を構えて佐倉さんは目で追いつけないほどのスピードで接近し、迎え撃つために私はその場から動かず、銃を生成していく。

 

 

そして十分な距離までやってきた瞬間、仲間だった少女に向けて妬みと憎しみを込めながら一斉に銃を発射した。

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子side

 

 

 

ドドドドドドドド

 

ガキィン、ガキィン、ガキィン

 

 

アタシに向けて一斉に放たれた銃弾をひたすら弾く。

間髪入れずに撃って来るから防御に徹するのが精一杯で攻撃出来ない。

 

 

くそ・・やっぱりマミは強い。このままじゃジリ貧だ。

 

 

どうする?

 

優依を担いでマミを振り切るなんて無理だ。ここで倒すしかない。

いつまでも銃弾を捌くのは限界が来る。その前に攻撃したいが全く隙がないし・・。

 

 

「・・?」

 

 

策を考えながら銃弾を捌いていると突然ピタリと発砲音が鳴り止み銃撃が止まるが宙を漂う銃はアタシに向けられたまま。

 

 

「何の真似だマミ?」

 

「降参する気はないかしら?短い間だったとはいえ苦楽を共にした仲間である貴女を殺したくはないの」

 

「ハン!この期に及んでまだお情けをかけるなんて甘いを通り越して馬鹿なんじゃねえの?」

 

「もちろんタダじゃないわ。優依ちゃんを置いて風見野に帰りなさい。そしてこの娘の前に二度と姿を見せない事。これが見逃す条件よ」

 

 

優依を置いて惨めに逃げ出せって事か。冗談じゃねえ。

 

だが相手はあのマミだ。

しかも有無を言わせないような迫力が今のアイツにはある。

アタシがここで拒否すれば迷わず攻撃してくるだろう。はっきり言って分が悪い。

 

 

だけど余裕綽々といった上から目線で降参しろとほざく様子はためらいよりも怒りの方が上回った。

 

この様子だとマミが優依に執着してるっていうキュゥべえの話は本当らしい。

じゃあ、優依がさみしがり屋なマミの傍にいてずっと支えていたっていう話も本当なのか?

 

 

もしそうならアタシが優依に会えなくて辛い思いをしてる間ずっとマミと・・・!

 

 

「・・優依は連れて行く。これは決定事項だ。そもそもアタシがアンタに降参する訳ねえだろうが!」

 

 

苛立ちから叫んでしまった。

 

 

マミを相手に冷静さを欠いたら駄目だ。

 

それは分かってる。分かってるけど・・どうしてもイライラが止まらない。

今すぐにでもズタズタにその身体を引き裂いてやりたいほどに・・!

 

 

「・・あらそう残念ね。これが最後の忠告だったのに」

 

 

スッと手を上げたと同時に再び銃弾の嵐が炸裂する。

再び槍で捌いていく。

 

 

アタシが自滅するまでこのまま攻撃を続けるみたいだがそうはいかねえ!

 

一か八か攻めてやる!

 

 

「おりゃあ!」

 

「!?」

 

 

捌いた銃弾をそのままマミの方へ弾き返す。

予想外の出来事にさすがのマミも余裕の表情を崩し、慌てて銃弾を解除している。

その一瞬の隙を逃さず、すぐさま間合いをつめてマミの顔目掛けて突き刺した。

 

 

「くっ!」

 

 

逃げられないと悟り、アタシの振りかざす槍を咄嗟に銃で受け止めてるのは流石だと思うけど接近戦ならアタシの方に分がある。

 

 

このまま力任せに叩き潰してやる!

力の方もアタシの方が有利だ。

 

 

「・・・っ」

 

 

ギリギリとアタシに押されていくマミ。

その顔には汗が浮かんでいる。

 

一緒に訓練してお互いの事は分かってる。

だから次にする事も分かる。

 

 

「逃がすか!」

 

「! きゃあ!」

 

 

至近距離じゃマミの方が不利だ。だから必ず距離を取る。

 

そう予測していたら案の定マミは後ろに跳ぼうと足に力を込めたので同時にマミの足に鎖に巻きつけて勢いよく振り下ろして地面に叩き付けてやった。

 

随分と勢いがついてたのかマミを中心にクレーターが出来上がっている。

予想外のダメージらしく「うぅ・・」と呻くだけでマミに身体を起こす気配はないから仕留めるなら今だ。

 

 

地面を蹴って宙を舞い槍を構えてマミを見る。

下にいるマミを見ると今尚ダメージが残っているのか動こうとしない。

 

その機を見逃さず槍の先端をマミの心臓に向ける。

 

 

「悪いなマミ。この勝負アタシが・・! ぐ!」

 

「ごめんなさいね佐倉さん」

 

 

いつの間にかマミの周囲に漂っていた銃がアタシめがけて一斉に弾の嵐がドォンと発砲音が響いて降り注ぐ。

 

 

逃げ場がない。

 

 

咄嗟に槍を振り回して銃弾を弾き返すが、捌け切れなかった弾が身体のあちこちを掠めて鋭い痛みに顔を歪めながら地面に落下する。

 

 

「ぐ・・!」

 

 

痛みに呻きながらも何とか槍で身体を支えながら上体を起こそうとするアタシの前に気配を感じた。

 

 

「チッ・・」

 

 

見下ろされてる感じがして、ムカつく。

 

 

「・・だまし討ちか。まさかアンタがやるとはね。本当に正義の味方ごっこはやめたみたいだな」

 

「ええ、やめたわ。私の大切な優依ちゃんを奪う泥棒猫には容赦しないと決めているの。たとえそれが佐倉さん。今まで一緒に戦ってきた貴女でもね」

 

「ハン、それはこっちのセリフだ。・・泥棒猫はテメエの方じゃねえか!」

 

 

頭上の声がする方へ槍を突き出す。

不意打ちを狙ったつもりだったが上体を少しずらす形で躱されてしまった。

ただ反射的に躱しただけで完全に見越していた訳じゃなかったみたいで頬に赤い線が出来ている。

 

”女の子の顔に傷をつけて・・!”

 

なんてコイツの事だから怒りそうなのに、そんな事を言う事もなくただ無表情でアタシを見下ろしている。

 

 

「!」

 

 

目の前に銃口を向けられる。

 

 

「・・・!」

 

 

すぐさま顔を逸らすと至近距離で響く発砲音とピリッと頬の痛みを感じた。

頬に生暖かい何かが流れている。もしかしたら血が出てるのかもしれない。

マミから距離を取り、試しに頬を拭ってみるとやっぱり血だったらしく手の甲には赤い液体がついていた。

 

 

「お返しよ。少しは効いたかしら?」

 

「やりやがったなテメエ!」

 

 

頭にカッと血が上り、マミの元へ突っ込んでいく。

向こうも迎え打つ気なのか、銃で応戦してくる。

 

激しい金属音と発砲音が何度も響き、その度にお互いに傷が増えていく。

いつしかアタシたちの全身に血の赤で染まっていくが全く気にならない。

 

 

 

 

 

「優依ちゃんは私のよ!」

 

 

「ふざけんな!アタシんだ!」

 

 

 

あれからどれくらい時間が経ったんだ?

 

 

マミと戦い始めてかなり経った気がする。

出来る事ならこの場でマミと決着を着けたいけどそれ所じゃない。

 

 

優依が心配だ。

 

早くしねえと薬が切れて目を覚ましちまう。

マミと殺し合ってる所なんて、とてもじゃないけど見せられない。

 

 

「優依ちゃんは渡さない!絶対渡さないわ!」

 

 

アイツも完全に頭に血が上ってるからか、なりふり構わず攻撃してくるし、どうしようもない。

 

 

 

こうなったら何とかマミの隙をついて・・!

 

 

 

そう思っていたらマミの方に動きがあった。

次に何をするのか悟ったアタシはいつでも動けるように足に力を入れて構える。

 

 

 

 

「これで終わりよ!ティロ・・・!」

 

 

 

「・・?」

 

 

馬鹿デカい大砲を出して、いつかの恥ずかしい必殺技を叫ぼうとしたマミが何故か目を見開いて固まっている。

また、だまし討ちかもしれないと思って警戒していたが攻撃する素振りは全く感じられず、ただじっと何かを見ていた。

 

 

攻撃を中断して明後日の方向を向いているマミを訝しげに思うがこれは思いもよらないチャンスだ。

 

 

今の内にマミを仕留めれば・・・!

 

 

 

 

「優依ちゃん・・」

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

マミの一言にピタリと身体が止まる。

 

 

 

優依?まさか・・!

 

 

 

慌てて優依が眠っているはずのベンチに顔を向け目を見開いた。

 

 

「優依・・・」

 

 

目を向けると寝ていたはずの優依が起き上がってこっちを見ていた。

 

 

マミと戦ってる時の音がかなりうるさかったのか、薬が切れてしまったのかは分からないが優依が目を覚ましていて、戸惑ったような表情をしている。

 

 

その光景にアタシは天を仰ぎそうになる。

 

 

 

・・あーあ。結局起きちゃったか。

 

 

 

せっかく眠らせたのにな。マミのせいで台無しじゃん。




投稿開始初期から登場している杏子ちゃんとマミちゃん。
それなのにお互い顔合わせするのが一年近く経ってからになるとは作者予想外・・。


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79話 夢だったら良かったのに、と思う現実が多すぎる

いつか書いてみたい人物紹介
どのタイミングで投稿して良いか分からないのが人物紹介
どこまで情報載せればいいのか分からないのも人物紹介


・・何か寒いな・・布団蹴っ飛ばしちゃった?

 

 

てか、身体のあちこちが痛い。

背中にあたってるマットが固いなぁ。

 

 

あれ?俺ベッドで寝てるんじゃないの?

ひょっとしてベッドから落ちたのか?

 

 

そこまで寝相酷くなかったと思うんだけど・・。

 

 

まあ、気にする事ないか。

起き上がってベッドに入ればいいだけだし。

 

 

あー・・でも何だか身体がとってもダルいから起き上がるのメンドクサー。

 

 

 

 

「何するのよ!?」

 

 

 

「うるせえな!黙ってやられろよ!」

 

 

 

 

うるさいなぁ。今絶対真夜中だろうが。

 

誰だよ、こんな真夜中にドンパチやらかしてる奴?

何?盗んだバイクで走り出してんの?

人がぐっすり寝てるのに騒音まき散らしやがって。訴えるぞ。

 

 

耳元に届く不愉快な金属音や怒声、そして固い床らしきものの寝心地の悪さにイライラがピークに達した俺は、重い瞼をゆっくり開ける。

 

 

 

「???」

 

 

ぼやけた視界に広がるのは自室の天井ではなく何故か満天の星空だった。

 

 

 

何故俺は星空を眺めているのだろうか?

俺の部屋の天井はいつの間に星空仕様にリフォームしたのだろうか?

 

 

 

疑問に思うも未だに続く眠気のせいで頭がボーっとする。

思うように思考が働かない。それどころか再び瞼が重くなってきた。

 

 

抗おうとしても効果は薄く、だんだん瞼が閉じていく。

 

 

ま、いいか。どうせこれは夢だ。きっと白昼夢ってやつだ。

次に目が覚めたら自分の部屋になっているだろう。

 

とにかく眠い。きっと疲れているからだろうな。

厄介な事は明日考えるとして寝よ寝よ。

 

 

 

 

夜空に光るきらりとした光の線がほぼ閉じた視界に入った。

 

 

 

 

 

あ、流れ星

 

 

 

流れ星はそのまま俺の視界の端に消えて、

 

 

 

 

 

 

―ドガアアアアアアアアアアン―

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

耳元をつんざく爆発音に寝ぼけていた意識が一気に覚醒し、ほぼ閉じていた目を見開き慌てて上体を起こす。

 

 

何今の音!?

ひょっとしてさっきの流れ星落ちてきた!?

 

 

まさかの隕石ってやつ!?

 

 

パニック状態になりながらも、すぐさま自分の身体を隅々まで点検し怪我がないか確認する。

ざっと確認したがどこにも怪我はなかった。

 

 

 

良かった。怪我はないみたいだ。

・・あれ?何で俺パジャマじゃなくて制服なんだ?

 

 

 

何してたんだっけ俺?

 

 

 

 

ぼんやり着ている制服を眺めながら、未だに寝ぼけた頭で必死に何があったのかを思い出そうと記憶を探りやがて結論に達した。

 

 

 

そうだそうだ。思い出した。

 

 

確か杏子が我が家に不法侵入した挙句、イザコザがあって寝ちゃってたんだ。

急に眠くなるからおかしいなって思ったら杏子が俺に睡眠薬盛ったとかなんとか意識を失う直前言ってたような・・。

 

 

「え・・? あ!」

 

 

思い出した!俺、何故か杏子に眠らされたんだ!

 

何のために?全然分からん!

なんか眠らされる前に一緒に来いとか言ってたけど強引過ぎやしないか!?

 

 

てか、ここどこよ!?

 

 

混乱しながら周囲を見てみるも辺りは真っ暗でここがどこだかよく分からない。

ただ分かるのはきっとここは外だ。頬に風が当たってるし。

 

 

めげずに目をよく凝らしてみると、ようやくここが公園らしき場所だと見当がついた。

 

 

 

俺が寝てる間に杏子が連れてきたのか?

 

 

それはともかく、こんな人気のない公園に一人放置するなんて襲われたらどう責任取ってくれるんだよ!

危ないわ!!俺の事守るとかほざいてたくせに酷くない!?

 

 

内心カリカリしながら俺がここにいる原因の首謀者であろう杏子の姿を探しているとある所で目が止まった。

そこには人が立っており、向こうも俺の方を見ている。

 

 

よく見るとその人物はマミちゃんだった。

 

 

魔法少女に変身したマミちゃんが目を見開いて俺を見ている。

それは別に構わないけど、何で固まって微動だにしないんだ?

 

遠目だからあまり分からないけどおそらく手に持ってるのは銃だ。

て、事はマミちゃん戦ってるのか?ひょっとして魔女?

 

 

 

「・・ん?」

 

 

今気づいたけどマミちゃんがいる傍に誰かが俺に背を向けるように立ってる?

背格好からして魔法少女っぽいけど・・あのポニーテールって・・まさか!

 

 

正体を察知した俺の答え合わせをするようにその人物がこちらに振り向いた。

 

 

「・・杏子・・」

 

 

俺の予想通り杏子そのもの顔だった。

こっちも魔法少女に変身して槍を構えている。

 

 

ん?見た所近くに魔女はいないみたいだけど、何で魔法少女に変身して武器を構えているんだあの二人?

これじゃまるで二人が戦ってるように見えるんだけど・・え?

 

 

「え?ええ?」

 

 

見えてるんじゃない?実際二人が戦ってた?

 

 

「え、ええ?えええええええええええええええええええ!?」

 

 

 

 

人気のない公園に俺の素っ頓狂な声が響く。

眠気はもはや完全に吹き飛んで完全に意識は覚醒している。

 

 

嘘であってほしい!もしくは俺の勘違いでも可!

人がグースカ寝てた近くでドンパチやらかしてたなんて全く笑えないぞ!

 

 

というか何でこの二人戦ってんの!?

 

 

マミちゃんと杏子は原作で接点が描写されてなかったが、かつては師弟コンビで戦っていた仲だ。

二人の仲は良好だったが杏子の家族が一家心中が原因でその関係は終わった。

自棄を起こし去ろうとする杏子を引き留めるマミちゃんだったが、結局決別してしまった。

 

そんな過去があるから会えばお互い気まずい、もしくは険悪状態だろうなとは思ってた。

 

 

まさか殺し合いするほど仲が悪かったなんて誰が予想出来た?

 

てか、一体どういう経緯で戦ってんのこの二人?

俺が寝てる間に一体何があったんだ!?

 

 

「優依、起きちまったんだな。悪いな、うるさかっただろ?ホントはアンタが起きる頃に全部終わらせたかったんだけど、とんだ邪魔が入ちまってな。すぐ片付けるから、もう少し待っててくれ」

 

「は?え?」

 

 

状況が全く理解出来ない中、杏子が俺に話しかけてきて余計混乱しそうだ。

 

 

終わらせる?邪魔が入った?

 

どういう事?説明して。

あ、君の場合、俺に睡眠薬盛った経緯から話してほしいんだけど。

そこから理解出来てないから。

 

 

「優依ちゃん体調は大丈夫?痛い所はない?怖かったでしょう?」

 

「えっと、マミちゃん?」

 

「もう大丈夫。貴女に酷い事した悪い魔法少女は私がやっつけてあげるからね?」

 

「・・はあ?」

 

 

怖いも何もどういう状況なんですかこれ?

君はまず、何でさやかから目を離したのかその経緯を話して下さい。

 

 

「あの、二人ともこれは一体どういう状況?」

 

「ああ、ちゃんと説明してやるよ。でも、ここは少し優依から遠いな。待ってろ、今からそっちに行く」

 

「優依ちゃん、起き上がって大丈夫?無理しないで」

 

「え?何でこっちに来るの!?」

 

 

俺の質問は無視され、ゆっくり歩いてくるマミちゃんと杏子。

近くに街灯があり、暗がりできちんと確認出来なかった二人の姿がはっきりと見えてくる。

 

 

 

「だからこれはどういう状況で・・ひい!?」

 

 

 

”ぎゃあああああああああああああああああ!!”

 

 

 

杏子とマミちゃんの姿を確認した俺の口から悲鳴が生成され、夜の公園に木霊する。

 

 

マミちゃんと杏子、二人とも魔法少女の衣装だった。

ただし全身が傷と血で彩られた、それはそれは恐ろしい姿。

そんな姿でにっこり笑いかけてくる少女たちは、もはや一種のホラーと呼ぶべきものだ。

 

 

「優依ちゃん!?」

 

「優依!どうした!?」

 

 

俺の悲鳴に二人は血相を変えてこっちに向かって走ってくる。

もちろん血まみれの姿で。

 

 

怖いいいいいいいいいいいいいいいいいい!!

気絶しそう!いっその事気絶したい!

 

こんなサイコパスみたいな恰好した連中が俺の傍に来るなんて絶対嫌です!

 

 

これ以上の接近は俺の精神衛生上悪い。

慌てて俺は両手を上げたこっちに走ってくるサイコパス共を止めにかかる。

 

 

「ふ、二人とも(怖いから)止まって!何があったか知らないけど落ち着くんだ!ここは一旦武器を下げて話し合おう!(そして最初にその恰好を何とかしろ!)」

 

「それは出来ないわ。だって佐倉さんは優依ちゃんを連れ去ろうとしていたのよ?そんな、泥棒猫と話す事なんて何もないもの」

 

「え?」

 

 

マミちゃん今なんて言った?

 

杏子が俺を・・え?

 

 

「私が佐倉さんを見つけた時、優依ちゃんをお姫様抱っこして屋根の上を駆けていたわ。きっと風見野に向かおうとしていたのね。何とか阻止出来て良かったけど、もし私が見つけてなかったらと思うと・・」

 

 

それ以上話すのは憚られたのかマミちゃんは口を閉ざして杏子を睨んでいた。

※ただし足は止まる素振りは一切ない。

 

 

ていうか途中で言葉止められると逆に不穏なので、せめて最後まで言い切ってほしいんですけど。

取り敢えず首謀者に聞いた方が話は早そうだ。

 

 

目線でどういう事かと杏子に睨みつけると当の本人は悪びれた様子は全く見せず首を傾げていた。

 

 

「こうでもしないとまた優依は危ない目に遭うだろ?ましてやマミ、お前が優依を危険に遭わせてんだ。そんな奴にコイツを任せてらんねえよ。死なせるくらいならいっその事、安全な場所に閉じ込めた方が良いだろ。それの何が悪い?」

 

「悪いわ!俺の人権無視されてんじゃねえか!」

 

「心配すんな。不自由にはさせないさ。喜んで世話してやるよ」

 

「そういう問題じゃないから!」

 

 

ぜんっぜん、話通じないんですけど!

 

ニコニコと薄ら寒い笑顔しやがって!背筋が凍りそうだわ!

何であそこまで悪びれる事無く平然としてられんの?

 

 

杏子ってここまで話通じない奴だったっけ?

 

 

俺の中にあった杏子常識人説にヒビが入る音がする。

 

勘弁してくれ。

唯一の常識人が消えたらこの時間軸どうなんのよ・・?

 

 

 

「閉じ込めるって、どこに?大切にお世話しなきゃ優依ちゃんは壊れてしまうわ」

 

「出来るだけ壊れねえようにするけど、仮に壊れたってちゃんと世話してやるから心配すんな」

 

「でも、それは・・」

 

「アタシは自分に正直なだけだ。魔法少女ってのは自分を利益を優先するのが正解なのさ」

 

「・・・・。本当に変わってしまったわね佐倉さん」

 

「人の事言えねえだろうが。お互い様さ」

 

 

杏子とマミちゃんの口論が遥か彼方で聞こえる気がする。

ただでさえ状況がよく分かっていないのに、次から次へと厄介な事実が浮かび上がってきて頭痛がしそうだ。

 

一体これはどうやって切り抜ければいいんだ?全く分からん。

 

 

 

 

「おーい、優依!」

 

 

「は、はい!」

 

 

 

襲ってくる頭痛にこめかみを押さえていると突如杏子に名前を呼ばれ思わず背筋が伸ばして返事してしまった。

すぐさま後悔し、聞こえてなかったフリをしようとしたけど無理だった。

 

 

緊張感が全身を駆け巡る。

 

 

 

「! 何ですか杏子さん!?」

 

 

無視何て出来ない!精一杯真面目に対応しなければ!

何故なら赤と黄色の魔法少女が血走った目で俺を見ているからです!

これで無視なんてしようものならぶっ殺されそうだ。

 

ピンと背筋を伸ばして言葉を待った。

 

一体何の話を振られるんだろうという一種の危機が俺の中にある。

内容によって難易度が変わってくるからだ。

 

簡単な内容であって欲しいんだけど。

 

 

一瞬の静寂の後、杏子が息を吸い込んで口を大きく開く。

 

 

 

 

 

 

「優依はアタシの事好きなんだよな!?本命はアタシだよなー!?」

 

 

 

「・・・・・は?」

 

 

 

聞こえた内容にすぐさま思考が停止し、マヌケな声が口から漏れる。

 

 

 

え?好き?・・ん?

 

 

 

 

「違うわよね優依ちゃん!私の事が一番好きよね!?」

 

 

 

「・・・・・え?」

 

 

何故かマミちゃんまで参戦して大声で俺に呼びかけてくる。

いや、そんな切羽詰った表情でこっち見られても困るんですけど。

 

 

・・何を聞かれてんの俺?

 

 

「はあ!?妄想も大概にしろよマミ!」

 

「妄想は貴女の方じゃない!」

 

「ああ!?」

 

「ちょ、喧嘩するのは良いけどこっちに来んなって!」

 

 

何故か二人が罵り合いながら俺の方に向かってくる。

それだけでもかなり怖い。

更に向かってくるのは血まみれの魔法少女なので、それがまた恐怖を駆り立てる。

 

 

 

これは逃げた方が良いかもしれない!

 

 

一番安全そうなまどかの家にでも・・!

 

 

 

「!?」

 

 

身体が動かない・・?え・・?

 

 

急いで立ち上がろうと足に力を込めるも思うように身体を動かせない。

・・・どうやらまた腰を抜かしてしまったらしい。

 

 

絶対血濡れ魔法少女共が原因だろうな。

一日二回腰を抜かすというマヌケな体験をしてしまう俺って・・。

 

 

そうこうしてる間に二人はどんどん俺に近づいてくる。

恐怖に駆られた俺は脳内パニック状態でワタワタ身体を動かすもベンチから転げ落ちる。

 

 

「っ! ・・・?」

 

 

地面に激突した痛みが襲ってくると覚悟していたが、身体を何かに支えられ痛みはなかった。

 

しかし素直に喜べない。

 

 

 

「マミ、ここいらではっきりしようじゃねえか」

 

「ええ、白黒ハッキリつけましょう」

 

 

 

俺の助けてくれたのはいつの間にかすぐ傍にいたマミちゃんと杏子だったからだ。

がっしり身体を掴まれて微塵も動かせない。

 

 

 

・・・泣きたい。

 

 

 

 

「「優依(ちゃん)!!」

 

 

 

「! ひい!」

 

 

 

 

そうこうしてる内にマミちゃんと杏子がすぐ近くにいて俺を見下ろす形で話しかけてくる。

見下してくる目はまるで羅刹のようだ。無意識に身体が震えてくる。

 

 

「・・・何でしょう?」

 

 

逃げられないと悟った俺は半ばやけくそで二人の顔を見上げる。

二人とも真剣な表情をして俺の前に屈んできた。

 

 

「優依」

 

 

最初に口を切ったのは杏子だった。

じっと俺を見つめて来る。

 

 

 

 

「アタシとマミ、どっちを選ぶんだ?」

 

 

 

「はあ!?」

 

 

 

そして爆弾を起動したのも杏子だった。

本日何度目か分からない大声が公園内に響き渡る。

 

 

付き合ってられるか、バカバカしい。

怒りと呆れで跳ね除けようとする俺を引き留めたのはマミちゃんだった。

 

いきなりガッと俺の肩を掴んで無理やり目線を合わせてきた。

 

 

「私よね、優依ちゃん?正直に答えてちょうだい」

 

「あの一体どういう基準の選考ですかこれ?」

 

 

そんな必死な様子で言われても答えようがないわ。

 

 

てか、さっきから何なんだこの二人?

俺で一体何を競ってんの?

 

 

は!これはあれか?

 

 

子供に「パパとママどっちが好き?」っていう超厄介な質問と一緒じゃね?

これはどっちを選んでもアウトだし、はぐらかしてもしつこく聞いてくる面倒臭い感じのあれだ!

 

ひょっとしてこいつら俺を使って遠まわしな喧嘩始めやがった!

 

いや殺し合いよりはよっぽど平和なんだけどさ!

選ばされる俺は平和じゃなくなったわ!

 

だって「向こうを選んだらどうなるか分かってるな?」と言った感じの不穏な雰囲気を纏っていらっしゃるもの。

どっちを選んでも俺が地獄を見そうじゃん!女子って怖い!

 

 

「優依ちゃん怖がらなくても良いのよ。本当は私を選びたいのに佐倉さんがいるから遠慮してるのよね?大丈夫、何があっても必ず貴女を守ってみせるわ」

 

「・・何を言ってるんですかマミちゃん?」

 

「ホントに何言ってんだマミ?お前を選ぶわけないじゃん。本当はアタシだって言いたいのに、マミがぐずるから優依が困ってんだろ」

 

「お前も大概何言ってんの杏子?」

 

「優依、正直に答えないと後が怖いぞ?」

 

「ち、近い!」

 

 

ズイッと顔を近づけてくる杏子から離れようとするもガッチリ頭を掴まれて身動きが取れない。

おかげで嫌でも赤い瞳と目が合ってしまう。

 

 

「優依ちゃん」

 

「・・マミちゃん?」

 

 

頭を杏子に掴まれている横でマミちゃんは俺の手を包むようにギュッと握っている。

 

 

「私が真実を知って落ち込んでいた時に言ってくれた事、嘘じゃないわよね?私を支えてくれるって・・」

 

「えっと・・それは・・」

 

「今頃になってごめんねなんて言わないでちょうだい。もしそうなったら私・・どうにかなってしまうわ」

 

 

遠まわしな脅迫をしている事にマミちゃんはきっと気づいていない。

あとそのご自慢のマシュマロを俺に押し付けて耳元で囁くのやめてもらえませんか?

 

 

健全な中学生がやって良い事ではありませんし、俺逮捕される。

 

 

チワワみたいにふるふる震えながら見つめてくるマミちゃんをどうしようか困り果てていたらすぐ隣から「優依」と呼ばれる。

 

振り向くと杏子が俺の首に槍の先端を向けていた。何故?

 

 

「前に風見野に来たとき、アタシの事『大好き』って言ったよな?だからアタシを選ぶに決まってるよな?・・もし、マミを選んだら、タダじゃおかねえから」

 

 

こいつはドストレートに脅してきたよ!

やめて!俺の首元に槍をちらつかせるの!

 

そもそも俺がこれを答える必要あるのか?

この質問の趣旨を全く理解出来ていないのに!

 

 

そもそもこの戦いの状況すら理解出来ていないのに!

 

 

とにかく説明してくれないと何も始まらないよ!

 

 

「あの、だから一体何のお話で「早く答えろ!」ひい!」

 

 

痺れを切らした赤に遮られ検討虚しく俺のターンは消え去った。

答えないという選択肢は二人にはないらしく目が「早く答えろ」とせっついている。

俺に残された時間はあまりないようだ。

 

 

どうする?どうすんの俺!?

考えろ!考えるんだ!

 

 

 

 

 

 

「え、選べないよー、二人とも大好きだし・・」

 

 

 

 

 

 

考えた末、愚かな俺は結局どっちも選ばないという浅はかな選択を選んだ。

 

 

だって仕方ないじゃん!

殺伐としたオーラを纏う二人のどっちも選んでも地獄を見るし、何よりそれ以上良いアイディア浮かばなかったんだから!

 

 

ともかくこれでいいだろ!

俺はちゃんと答えたんだから!文句はないはずだ!

 

 

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

 

「うぅ・・」

 

 

重苦しい沈黙が俺たちの包み込んだ。

俺を見つめる二人の顔は恐ろしいくらい何の表情も映しておらず、さっきから汗が滝のように汗が背中を流れて止まる気配がない。

 

 

 

せめてなにか喋ってくれ!

こんな沈黙耐えられない!

 

 

 

 

「・・お前の考えは分かった」

 

 

 

「きょ、杏子さん・・?」

 

 

 

能面のような杏子は表情そのままの喜怒哀楽を感じさせない声でそう口を開く。

ようやく重い沈黙から解放されてほっとしたがこれはこれで怖すぎる。

マミちゃんも似たような表情で洒落にならん。

 

 

「優依ちゃん」

 

「は、はい・・」

 

 

抑揚のないマミちゃんの声。

むしろ冷たささえ含んでいそうで背筋が凍りそうだ。

 

 

「私はね別に貴女が他の人に手を出しても構わないと思ってるのよ?最後に私の元に帰ってきてくれるならそれで良かったの」

 

「は、はあ・・」

 

 

じっと無表情で俺を見つめるマミちゃん。

直感でこれが嵐の前の静けさなんだろうなとぼんやり頭の片隅に過る。

 

 

”でもね”

 

そう呟くマミちゃんは物凄く剣呑な雰囲気を纏っている。

 

 

来る!

 

直感的に俺はそう悟った。

 

 

 

 

「一つだけ許せない事があるの」

 

「そ・・それは一体何でしょうか・・・?」

 

 

「・・私以外の人が優依ちゃんを独り占めにしちゃう事よ・・!」

 

「ひぃ!」

 

 

怖い!マミちゃんの顔が!可愛らしいマミちゃんの顔が!

子供が見たらギャン泣きしそうな顔にいいいいいいいいいいいいいい!!?

 

 

 

 

「へー、心が広いを通り越してマミは馬鹿だなぁ。欲しいんなら我慢しないで奪えばいいじゃん。・・こんな風にな!!」

 

 

「わ!?」

 

 

ガキィンと目の前で火花が走る。

杏子が槍を握っており、マミちゃんが銃を構えている。

 

 

いきなりの事に追いつけない俺をよそに二人はそのまま飛び上がる。

どうやら再び戦闘を開始されたようだ。

 

 

 

鳴り響く爆発音に金属音。それは徐々に激しさを増していく。

 

 

 

「! 何やってんだよ二人とも!?」

 

 

 

ようやく我に返った俺は慌てて(巻き込まれない程度に)二人に這いより大声を張り上げる。

俺の声が届いたのかマミちゃんと杏子はピタリと動きを止めるも不機嫌な様子でこっちを見ていた。いや、睨んでいた。

 

 

「あの・・何で睨むんですか・・?」

 

「優依ちゃんが悪いのよ!」

 

「え!?何で!?俺何も悪くないじゃん!?」

 

「うるせえな!お前がさっさと決めなかったのが悪いんだろ!」

 

 

怒りの形相で睨んでくる黄色と赤の瞳に超ビビった俺は情けなく「ひい・・!」とたじろいでしまう。

その隙に戦闘が再開されてしまった。

 

 

あんなマジ怒りな魔法少女を止めるなんて俺には無理だ。

無理に割り込んだら一瞬で消し炭にされてしまう。

 

 

・・このまま決着が着くまで待つしかないのだろうか・・?

 

 

目の前で激しくもみ合う光景に俺はただ無力感を感じながらぼんやり眺めるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「優依これはどういう事?」

 

 

 

「!」

 

 

 

 

 

そんな俺のすぐ近くからコツっとヒールのような音が聞こえ誰かがいるような気配を感じた。

 

隣から聞こえる凛とした声に反射的に顔を上げる。

声の正体を確認した俺は思わず涙腺が緩くなり視界がぼやけてしまうも止まる事はなかった。

 

 

「どうして佐倉杏子がここにいるの?それにどうして巴マミと戦っ「ほむらぁ!」きゃあ!?一体何!?」

 

 

感極まった俺はそのまま声の正体である救世主「ほむら」の首に抱き着いた。

ゲーセンで無駄足を食らったものの、第六感的なものが働いたのか来てくれたのかもしれない。

 

 

思わぬ所に救世主登場!

天は俺を見捨てていなかった!

 

 

「ほむら来てくれたんだね!ありがとう凄く嬉しい!愛してる!」

 

 

あらん限りの賞賛を大声で叫び、そのままギューッと密着度を上げていく。

 

 

君こそ俺の救世主!

良かった!これで争いは止まる!

 

 

「っ、いきなり何かしら?そんな事知って・・!?」

 

 

テンション急上昇中の俺を困惑しながらも抱き留めてくれたほむらであったが、何かに気付いたようで途中で言葉が詰まりどこかを向いている。

 

 

「ん?どうしたほむら?何見て・・ひえ」

 

 

ほむらが急に会話を止めて明後日の方に顔を向けるから俺も釣られて顔を向けてしまい、すぐさま後悔する。

 

 

黄色と赤が般若のような表情でこっちを睨んでいらっしゃるううううううううううううう!

怖すぎるううううううううううううううううう!!

 

 

睨んでるだけじゃない!

さっきまでやってた殺し合いを中断して、戦ってた時と比べ物にならない程の殺気を出しつつ武器をこちらに向けて構いている。

 

 

 

「暁美さん・・!」

 

 

「イレギュラー、テメエ・・!」

 

 

 

何で!?何で二人とも殺気全開なの!?

ほむらが何の恨みがあんの!?

 

 

目が据わったバーサーカー状態のマミちゃんと杏子は俺とほむらがいる方向に向かって突っ込んでくる。

 

 

 

いやあああああああああああああああああああ!

来ないでえええええええええええええええええ!!




紫参戦!次回、大乱闘!


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80話 大乱闘マギカラッシュシスターズ①

最近リアルがバタバタしている毎日。
当分週一投稿が続きそうな予感が・・・。


「ちょ!杏子待って!」

 

 

迫りくる杏子に恐れをなした俺はどうにか思い留まってもらおうと慌てて説得しようとするも全く聞く耳持たずらしい赤の戦士は、そのままほむら(+俺)にその凶刃を振るおうと迫っている。

 

頭に血が上ってるせいか一般ピーポーである俺がいる事、絶対忘れてるわこの赤!

 

 

「その腕、もぎ取ってやる! !?」

 

「随分と乱暴ね」

 

 

しかし相手はある意味歴戦練磨のほむら。

案の定、お得意の時間停止を使って杏子の背後に回って難なく攻撃を避けていた。

涼しい顔をしているが時間停止の裏側を知ってるのでぶっちゃけあまりカッコいいとは思えません。

 

 

「・・チッ、また妙な魔法使いやがって・・!」

 

 

苛立ったように杏子は舌打ちをして槍を引き抜いてこちらを見ている。

 

 

今のところほむらが優勢のようだ。それは良い。

 

だが一つ分からない事がある。

何故俺はほむらにお姫様抱っこされているのだろうか?

 

 

仮にほむらの首に抱き付いてる俺を置き去りにされれば、間違いなく抉れた地面と同じ末路を辿っていたのは想像に難くない。

それが分かっていたほむらは時間停止を発動した際、一緒に連れ出してくれたのは非常にありがたい。

ただ出来ればお姫様抱っこオプションではなくどこかに隠れてくれたほうが嬉しかった。

 

だってお姫様抱っこされてる俺と目が合った杏子が見る見るうちに目を吊り上げているもの!

煽ってるようにしか思えないぞこれ!

 

 

「優依、私から離れてはだめよ」

 

 

ほむらが何故か更にギュっと俺を抱きしめている。

おかげで密着度が増して顔にほむらの息がかかってくすぐったい。

 

あの、ほむらさん。どうして俺の頭に顔を近づけながら杏子を見てるんですか?

しかも勝ち誇ったような笑顔のオマケ付き。

 

何がやりたいんだお前は?

 

 

「・・・・・」

 

「ひぃ・・!」

 

 

そんなほむらと俺を交互に見ていた杏子は悔しそうに顔を顰め、ギリッと槍を握る力が増し増しに上昇していく。

見た感じ戦闘力が増したっぽい赤に冷や汗を垂らしていると頭上から第三者の声が聞こえた。

 

 

 

 

「逃がさないわ!」

 

 

 

「! げ!?」

 

 

何だろうと思って顔を上げたら、俺たちがいる頭上目掛けて隕石のバーゲンセールと見間違いそうな大量の火花が降ってきている。

 

 

これってどう考えても・・。

 

 

 

「優依ちゃんを離しなさい!」

 

 

「マミちゃん何やってんの!?」

 

 

火花の後ろにいる人物をよく見るとマスケット銃を並べたマミちゃんが頭上にいやがった。

という事は隕石モドキの火花は100%黄色の中二病のせいだろう。

 

 

杏子はともかく一応味方であるはずのほむらにまで何で攻撃してんだよ!?

ていうか俺がいる事忘れてないですか?

ほむらにお姫様抱っこされてるからしっかり攻撃範囲に入ってますよこれ!

 

 

 

殺す気かあああああああああああああああああ!!

 

 

 

「ひいいいいいいいいいいい!・・あれ?」

 

 

 

火花が被弾する直前、耳元にガチリという機械じみた音が聞こえた。

それと同時に俺たちに迫っていた銃弾が時が止まったようにピタリと静止している。

 

 

やっぱりこれは・・。

 

 

「! うわ!」

 

 

何が起こったか事態を把握する前に公園の広場からどんどん景色が変わっていき、気づけば近くの雑木林の中になっている。何だ何だとキョロキョロ目を動かしているとほむらと目が合った。

 

俺を抱えたまま、杏子とマミちゃんがいた場所からどんどん遠ざかるように走っている。

どうやらほむらは二人相手するのは分が悪いとみて撤退の判断を下したらしい。

 

 

大歓迎です!出来る限り遠くに避難しましょう!

血塗れのサイコパスに絡まれるぐらいなら比較的マシなストーカー兼重火器窃盗犯の方が数千倍マシです!

 

 

もの凄い速さで駆けていくほむらが何か言いたそうに俺の方に顔を向けてくる。

その目が何を訴えているのか何となく分かるが、回答に苦しむものなので答えようがない。

 

 

「一体何があったの?」

 

「俺が知りたいわ!目が覚めたら二人とも戦ってんだよ!」

 

 

予想通り聞いてきたほむらに八つ当たりする勢いで怒鳴る。

ほむらには悪い事してしまったが、ぶっちゃけ俺も全くこの状況がどういうものか理解出来ていないので勘弁してほしい。

 

 

いやだって、目が覚めたら何故か俺は公園で寝ていた挙句、その近くで何故か杏子とマミちゃんが殺し合いしてたんだもん。

それでも十分理解不能なのに、混乱する俺に向かって「どっちが好き?」とかどうでもいい事聞きながらこっちに詰め寄ってきて訳分からん。

 

しかも事態を収拾してくれそうであろうほむらに向かっていきなり攻撃してくるし、あれよあれよという間にこれだ。

 

 

勘弁してくれ。

 

 

魔法少女のバトル・ロワイアルに俺を巻き込まないでいただきたい。

やるなら遠くでやれ。その間に俺は逃げるから。

 

 

「ああもう!戦うなら勝手にしてくれ!俺は知らん!」

 

 

さっきまでの事を思い出して怒りに震える俺は発散するように大声を上げる。

そんな荒ぶる様子の俺をほむらは若干憐れんだ目で見ている。

 

 

「・・とにかく今はここから離れ「そうはいかねえよ!」く!」

 

「わ!」

 

 

会話の途中、突如爆発音が鳴り響き、近くの地面が吹き飛んだ。

ほむらは辛うじて直撃は避けたが、衝撃の余波は思ったよりも強く俺は空中に投げだされる。

 

 

 

周りの景色がスローモーションに映る。

 

 

 

ほむらが俺に気付いて慌ててこっちに向かってきているが果たして俺の頭が地面に激突する前に間に合うかどうか・・。

 

 

「!?」

 

 

だがどちらよりも早くに視界の端に赤い何かが過り、そのまま俺の身体に巻き付いて引っ張られた。

その際、何か柔らかいものに激突する。

 

 

この感覚何となく覚えがある。これは。

 

 

「やーっと戻ってきた。怪我はないかい優依?」

 

 

頭上から聞こえる聞きなれた声。どう見ても杏子の声だ。

 

 

「・・・・・」

 

 

確認のために顔を上げるとやっぱり杏子でショック。

しかも逃げられないようにかしっかり腕を腰に回され更にショック。

 

怪我はないかだと?既に俺の内面はボロボロで全身血だらけの瀕死状態だ。

怪我どころの騒ぎじゃない!どう責任を取ってくれるというんだこのヤロウ!

 

 

ていうかこいつ等何やってんの!?

俺をボールに見立ててラグビーでもやってんのか!?

 

 

「んがああああああああああ!」

 

 

「おいおい暴れんなって。可愛いな優依は」

 

 

チクショー!力の限り暴れてるのにビクともしない!

おいやめろ!その微笑ましい笑顔を俺に向けるの!

何気に傷つくからホントにやめて!

 

 

「!」

 

 

突如聞こえるパァンという発砲音が鳴り響く。

思わず肩がビクッと跳ね上がるもその後に金属がぶつかる音がすぐ近くで聞こえて更に身体が強張っていく。

 

 

拘束されてる身体を何とか捩じって、杏子の背中越しに顔を向けるとに赤い楔の結界が施されていた。その向こうにはこっちに銃口を向けたほむらが見える。

 

 

え?ひょっとしてほむらさん撃ちました?

 

 

「いきなり危ねえな」

 

「優依を離しなさい、佐倉杏子」

 

「そいつは無理な相談だ」

 

 

般若を背負ったようなオーラを纏うほむらを軽くあしらい、杏子は先ほどのお返しとばかりに見せつけるように俺をギュッと抱きしめる。

それが挑発になったのか分からないがほむらが発する圧が桁違いに跳ね上がっていく。

 

 

―ドォン ドォン ドォンー

 

 

「ひい!?」

 

 

その怒りを込めたように数発お見舞いされた(全て結界で防がれたが)。

 

 

―ドォン ドォン ドォンー

 

 

「ひいいいいいいいいい!ほむら!やめてやめて!」

 

 

尚も般若のような顔で発砲を続けるほむらは怖すぎる!

コイツも十分サイコパスなの忘れてた!

 

駄目だ!ここにいる魔法少女は全員まともな奴いない!

誰がこの事態収拾すんだよ!?俺絶対無理だよ!

それこそまどか案件じゃないのこれ!?

 

 

「諦めろって。そんな攻撃じゃアタシの結界は破れねえぞ。それに優依が怖がってる。いい加減ソイツを下ろしな」

 

「・・・・」

 

 

流し目で見られたほむらは不愉快そうに眉間に皺を寄せながらも素直に銃を下している。

思ったよりも冷静なのかもしれない。

 

あ、違った。全然冷静じゃないわこいつ。

銃は盾にしまったけど何故かそれより威力ありそうなマシンガン取り出してこっちに向けてるもん。

俺を蜂の巣にするつもりかあの暴走紫は?

 

 

「一つ聞きたいことがあるけどいいかしら?」

 

 

マシンガンを向けながらほぼ疑問形じゃない質問を聞いてくる。

杏子が何か言う前にほむらが先に口を開く。

 

 

「貴女が攻撃してきた時、私はまだ魔法を発動していた・・・本来なら動けないはずなのに。どうして動けたの?」

 

 

「え!?」

 

 

慌てて杏子の方を見る。

 

 

言われてみれば確かに。

 

ほむらが俺を抱えて撤退していた時はまだ時間停止が発動していた。

盾が発動している所を見ていたからこれは間違いない。

 

それならその間動けるのは発動させたほむらか彼女に触れられている奴。つまり俺だけだ。

それなのに杏子は時間停止なんて効かなかったように攻撃をしかけてきていた。

 

どう考えたっておかしい。

目の前にいる奴があの謎が多すぎる杏子(?)なら時間停止が効かなくてもおかしくなさそうだが、ここにいるのはおそらく俺の知ってる杏子だろう。

 

あの杏子(?)はどこか大人びた感じだったし。

この杏子は年相応なのかは分からないが俺がよく知ってる性格の杏子だ。

 

 

どうなってるんだ一体・・?

 

 

 

「はあ?そんな事聞いてどうすんだよ?分かった所でどうにかなるもんでもねえよ」

 

 

俺とほむらの疑惑の眼差しなど杏子にとっては大したものではなかったらしい。

「ふん」と鼻で笑った後、俺をお姫様抱っこ(今日何度目だ?)をしてほむらに背を向けて駈け出した。

 

 

「待ちなさい!」

 

 

今度は逆にほむらが追いかけるターン。

 

必死に追いつこうと足を動かしているも、スピードは杏子の方が圧倒的に上だから見る見るうちに引き剥がされていき、次第にほむらの姿が小さくなっていく。

ぶっちゃけ俺の目は展開に追いつけてないから残像しか見えてないけど。

 

 

 

―ドドドドドドドドドドドドー

 

 

「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

追いつけないと判断して撃ってきやがったよあの犯罪者!

やめて!当たったら俺死んじゃうよ!流れ弾で死ぬとかいやよ!

 

・・・あれ?そういえば銃弾が時間停止せず、こっちに向かってきてるって事はひょっとして魔法解除された?

 

 

 

て、事は・・・。

 

 

 

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

杏子の背後で激しい爆発音と衝撃が突如発生した。

咄嗟とはいえそこはベテラン。杏子は防御の体勢で衝撃をやり過ごすも腕の力が緩む。

その隙に今度は黄色いリボンが俺の身体を拘束し、主の元へ引っ張っていった。

 

その手際は非常に鮮やかで赤が絶句している内に俺は遠ざかって行く杏子をぼんやり眺めていた。

そしてポフンと今日一番の柔らかいものが俺を包み込む。

 

顔を見なくてもこの弾力で誰か分かる。

というか一人しかいないわこんなマシュマロ。

 

 

「・・・マミちゃん」

 

「優依ちゃん、もう大丈夫よ。私が助け出したからにはもう二度と貴女を危険な目に遭わせないわ」

 

「現在進行形で危ない目に遭ってるんですけどそれはスルーですか?というか何やってんの?」

 

 

リボンで身体をぐるぐる巻きにされた俺はそのまま地面に降ろされ、周りにリボンのバリアーが張り巡らされている。

 

まさに鉄壁の要塞。

俺の逃亡も魔法少女の攻撃も通さない完璧な仕上がりだ。

 

 

ていうかバリアーあるなら拘束解除してくれても良くない?

実質芋虫状態で全く動かせないんですけど俺。

ただ這いつくばるしかないのは物凄く惨めな気分なんですけど俺。

 

 

「そこで大人しくしててちょうだい。すぐに片付けてくるわ!」

 

 

そう叫んだ後、雑木林の茂みがある方に向かってマスケット銃を配置させるマミちゃん。

するとすぐにその茂みが揺れ出したのと同時に銃が一斉に火花を吹かせる。

 

何だ?と呆気に取られながら雑木林の方に意識を向けていると、金属音と人の声が聞こえてきた。

 

 

 

「チッ!マミ!」

 

 

「巴マミ!一体何を!?」

 

 

茂みから先に出てきたのは杏子。その後にほむらが続く。

二人とも発砲された事にかなり怒っているのかマミちゃんを睨みつけ、それぞれの武器を取り出して構えている。

ちなみにほむらが取り出したのはショットガンだった。

 

 

「「「・・・・・」」」

 

 

 

三つ巴の膠着状態。

それぞれお互いに警戒し、神経を尖らせている。

 

そしてそれを少し遠くで見守る俺(芋虫状態)。

 

 

・・・何だこれ?

そもそもなんだけどさ、何で戦ってんのあいつら?

 

 

 

 

 

「はああ!」

 

 

先に仕掛けたのは杏子。

 

鞭のように槍をしならせ、頭上からマミちゃんにお見舞いする。

あんなの当たったら間違いなく俺は木端微塵になるだろうが、マミちゃんは少しも隙を見せない。

ひらりと華麗に躱してそのまま杏子に向かって銃口を向ける。

 

 

「その体勢なら避けられないわね」

 

 

「く・・!」

 

 

今の杏子は身体を空中に預けているためマミちゃんの恰好の的になっている。

その好機を逃さず、しっかり隙を狙ってくる。

 

 

 

「これで終わりよ きゃあ!?」

 

 

トリガーを引く直前、いきなりマミちゃんがバランスを崩しまさかの顔から転倒するというありえない展開が起こった。銃はその衝撃のせいで明後日の方向に発砲。

杏子は何事もなかったかのように地面に無事着地し、そのまま槍を構えてマミちゃんを睨む。

 

 

 

「危ないわね」

 

 

マミちゃんがうつ伏せで倒れている後ろの方にはほむらがいつの間にか立っており、髪を靡かせている。

どうやらほむらがマミちゃんの攻撃を妨害したようだ。ナイスほむら。

 

出来ればそのファインプレーをもっと早く発揮して欲しかった!

 

 

「何するのよ!?」

 

 

いきなり転ばされたマミちゃんはたまったもんじゃないだろう。

すぐさま上体を起こしてほむらを睨む。しかしあくまでほむらは冷静だった。

涼しい顔で文句を受け流している。

 

 

「貴女こそ何しているの?少しは頭を冷やしなさい」

 

 

いや、お前さっき杏子に向かって容赦なく発砲したのもう忘れてんのか!

何都合の悪い記憶消してご高説してんだあの紫!

今更取り繕っても取り返しつかなさそうだぞこれ!

 

 

「だからっていきなり転ばすなんて危ないじゃない!」

 

 

口論は続く。

起き上がったマミちゃんが服についた埃を払いながらほむらに文句を言いまくっており止まる気配はない。

 

 

こんな事してる場合じゃないってのに何やってんだあいつら?

 

 

 

 

「よそ見してんじゃねえよ!」

 

 

 

「「!」」

 

 

口論に夢中になっていた紫と黄色は接近していた赤に気付かずそのまま二人仲良く鎖に巻き付かれている。その様はもはやコントのようで笑いが出てきそうなくらいマヌケな様だ。

 

 

「うおりゃあああああああ!」

 

 

二人分の体重があるというのに杏子はそれを意に介さずそのまま軽々と振り回し二人を地面に叩き付ける。その衝撃でかなり広い範囲に土煙が巻き起こる。

 

 

「ゴホ・・大丈夫か二人とも!?」

 

 

やがて煙が晴れ、周囲の状況が確認出来た。地面に誕生したクレーターが出来ている。

深さが威力の凄まじさを物語っており、その中心にいるマミちゃんとほむらは「うぅ・・」と微かにうめき声を上げている。

 

それを見下ろしていた杏子は再び槍を構えて二人に近づいていく。

おそらくトドメを刺す気だろう。槍の先端に目で確認出来るほどの凝縮された赤い光が集まっているから。

 

 

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 

 

その時、カッと目を開いたマミちゃんが一瞬で作り出したバズーカーを杏子目掛けて発射する。

しかし標的になっている杏子は取り乱した様子もなく砲弾に向かっていく。

※この時のほむらはマミちゃんと違ってリアルにダメージを負っているらしく倒れたまま。

 

 

「同じ手が何度も通用するわけねえだろうが!」

 

 

グッと足に力を入れた杏子はそのまま地面を高く飛んで回避する。

そのためこっちに向かってくる黄色い光がよく見えた。

 

 

「え・・?」

 

「しま・・優依!」

 

「ちょ、え!?」

 

 

簡単な事だ。拘束されている俺の前に立っていたのが杏子。

つまり杏子がティロ・フィナーレを避けた今、当然次の標的はその直線状にいた俺になる。

 

 

 

「ひゃあああああああああああああああ!!」

 

 

「優依!」

 

 

慌てて俺の方に向かってくる杏子。

反射的に助けようとしてくれるのは非常に嬉しいが悲しい事に速度はティロ・フィナーレの方が早い。

とてもじゃないけど間に合わないだろう。

 

頑張って!愛と勇気的な何かで奇跡の超スピードとか出してくれても良いのよ!?

 

 

 

 

 

「逃げて優依ちゃん!」

 

 

悲痛な表情で叫ぶマミちゃん。

 

 

どこに逃げろって言うんですか!?ふざけんな!

俺、貴女のリボン牢獄の中にいるし、ガチガチに拘束されているというのに!

 

ていうか叫んでないでさっさと何とかしろ!

君の魔法なんだから解除すればいいだけでしょうが!

何絶望したような表情でこっち見てんだ!

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

ほむら寝てる場合じゃないよ!起きて!君の出番だ!

今すぐ時間を止めて俺を助けてください!

一番安全な救出方法だから!マジで起きてください!

 

 

 

「あ・・・・」

 

 

目の前に黄色の光が迫っている。

 

 

 

俺、死んだ・・・・。

 

 

 

 

 

「! ぐえ!?」

 

 

ティロ・フィナーレが今にも俺に当たりそうになった直前、突如拘束が解け、襟首を掴まれながら後ろに引っ張られる。

その直後、近くでドォォォォォンという爆発音と爆風が辺りを包みこんだ。

 

衝撃で吹き飛ばされそうになるが誰かが俺の身体を抱きしめて守ってくれてるらしく、何とか無事だ。

やがて爆発の衝撃がなくなり、土煙が周囲を漂っている。

 

 

「うぅ・・」

 

 

解放された俺は地面に手をついて嘆く。

襟首を引っ張られた事で直撃は避けられたが、それでも至近距離だった事もあり所々に傷が出来ている。

命が助かっただけマシだけど散々だ。

 

 

 

「悪いな。今回助けられるのはこれが限界みたいだ」

 

 

そっと俺の頭を誰かが撫でている。この声には聞き覚えがある。

 

 

こ、この感じは・・・!

 

 

 

「じゃあな優依」

 

 

「行かないでえええええええええええ!!今マトモそうなの貴女様しかいないの!お願いこの馬鹿乱闘止めてええええええええええ!!」

 

 

離れていく手を引き留めようと必死に手を伸ばすも空を切ってしまい、俺一人残される。

今回はこれっきりらしい。泣きそうだ。

 

 

これからどうすれば・・・?

 

 

 

「優依ちゃん大丈夫!?」

 

 

 

「! げ!」

 

 

土煙の中から俺を呼ぶ声が聞こえる。

 

その声の中にほむらも混じってるので、どうやら復活したらしい。

何というタイミングだろうか。わざとやってるようにも見えるぞ。

 

 

「優依!無事か!?」

 

 

周囲を覆っていた煙が晴れ、ようやくお互いの姿を確認出来た。

三人とも俺の無事な姿が確認できてほっとした表情だ。

そのままこっちに向かって走ってくる。

 

 

しかし俺は怒りでプルプルと身体が震え、やがてギッと三人を睨みつけながら立ち上がった。

 

 

 

 

「殺す気かああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

夜の公園に俺の怒りの絶叫が木霊する。

 

こちらに向かってくる三人がピタリと止まる。

それだけ今の俺の怒りオーラが凄まじいものだったらしい。

三人とも目を泳がせながらオロオロしてるもの。

 

 

「・・・・・・・っ」

 

 

叫んだ後、俺はその場で口を押えてうずくまる。

ガタガタと身体が震えだし、知らぬ間に目に涙が溜まっているようだ。

 

 

 

先ほどの死の恐怖を思い出し涙が出てきた

 

 

とかだったら良かったんだけどなぁ・・・。

 

 

 

 

気持ち悪い・・吐きそう。

 

 

そうです。俺酔って吐き気催しただけです。

 

 

 

簡単に言えば今の俺は車酔いにあったような症状が出ているのである。

 

ただでさえ強くない三半規管を長時間酷使させられた俺は既に瀕死状態。

身体能力が化け物の魔法少女共にラグビーボールのように扱われたのだ。

当然ただの一般人の俺の身体がそれに耐えられるはずもなく、現在そのツケを喰らっている。

 

 

真っ青な顔で口を押える俺はさぞ滑稽だろう。

 

 

グルグル目が回って正直まともに平衡感覚を保てているか自信がない。

 

気分は最悪だ。油断すればすぐにでもリバースしそうだ。

だがリバースだけはまずい!

年頃の女の子の前でゲロッたりなんてしたら黒歴史なんてレベルですまない!

 

 

それだけは駄目だ!堪えるんだ俺!

 

 

意識が朦朧とする中、俺にあるのはこの思いだけだった。

 

 

 

「優依!」

 

 

タタタと複数の足音が俺の方に近づいてくる。

 

 

うぐっ。走る振動が身体に響く。

タダでさえ心身ともにズタボロな今の俺にとってこいつらはストレス源だ。

 

 

そんな連中が近づいてくるとなると更にストレスが・・!

 

 

走る足音だけでなく、声の振動でさえ今は身体に響く。

おかげさまでより吐き気が増進されてしまった。

 

 

「ちょ・・・くんな・・・」

 

「! おい優依、無理すんな!怪我してんだろ!どこが痛いんだ?」

 

「え?ちょっと・・くんなって・・」

 

「優依ちゃん大丈夫!?顔色が悪いわよ!怖かったのね?ごめんなさい!」

 

「いや、だから・・!」

 

「動いたらだめよ!いいから大人しくしてなさい!」

 

「はい・・うぅ」

 

 

全く話を聞いてくれない。やっとの思いで言えた言葉も何事もなかったかのように無視された。

俺の真っ青な顔を見てぎょっとした三人は、魔法少女特有の思い込みの激しさで勘違いしたらしく人の話なんてなんのその、速攻で無視して騒ぎながら俺の顔を覗き込み、労わるように身体に触れてくる。

 

 

 

「うぐ・・!」

 

「優依!しっかりしろ!」

 

「すぐに治療するわ!」

 

「辛いなら横になりなさい!無理してはだめよ!」

 

「・・・耳元で声上げないで・・・」

 

 

近くで大騒ぎするものだから吐き気が促進され、慌てて口を押えてうずくまる。

俺のそんな様子にやかましい魔法少女共は更に大騒ぎ、そして俺の体調も更に悪化の悪循環。

 

 

 

 

・・・もうほっといてください・・。




魔法少女が集まる。それは優依ちゃんの不幸の始まり。
果たして優依ちゃんは無事に乗り切れるか!?


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81話 大乱闘マギカラッシュシスターズ②

マギレコにマミさん登場しましたねー!
次くらいで杏子ちゃん来てくれますかね?


「よしよし優依ちゃん、もう大丈夫よ。これで傷は全て治ったわ」

 

 

黄色いクルクルさんが俺の身体に魔力を注ぎ込んでくれているので傷はおろか、さっきまでの吐き気もかなり改善されている。

おかげで女子中学生三人の前でリバースするという最悪な黒歴史は免れられそうだ。

 

 

それは良かったんだけど・・・。

 

 

「おい何でそんなに泣くんだよ?お前が泣いてるところ見るの嫌なんだけど・・。泣いてる理由は何だ?アタシが叩き潰してやるからさ」

 

 

赤いポニーテールが俺の目に手をそっと触れて溜まった涙を拭っている。

心なしか距離が近い気がするのですが目の錯覚でしょうか?

 

というか俺が泣いてるのはお前も含めて目の前にいる魔法少女共が原因なんですが?

何?自分もろとも叩き潰してくれんのか?

 

 

どう反応すれば良いのか困っていると俺の頭にそっと何かが触れる。

何だ?と振り返ると紫の瞳と目が合った。

 

 

「とても怖い思いしたのね優依。辛かったでしょう?今日は私の所に泊まって行きなさい。貴女が怖くなくなるように添い寝してあげるわ」

 

 

どさくさに紛れて何言ってんだこの紫ロングは?

どう解釈したらお泊りにの流れになるんだよ。

むしろお前に添い寝されたら逆に怖くて眠れないんだけど。

 

てか、マジで何この展開?

 

大乱闘からの俺に向かってまさかのティロ・フィナーレの流れ弾。

それは謎のお助け人のおかげで回避できたが当然俺はブチギレ。

そりゃそうだ。あやうくうっかりで殺されそうになったからな。

 

しかし今はどうだ?

 

その加害者共が恐怖と吐き気でグロッキーになった被害者の俺を介抱してるってどういう事?

よく厚顔無恥な様子で俺を介抱出来たな。すっげー腹立つ。

 

しかし、これは好機と見るべきか?

理由はどうあれ戦いが止まったんだから。

 

 

「聞き捨てならねえな。ドサクサに紛れて優依を連れ込む気かよ?」

 

 

俺の思いとは裏腹に事態は悪い方へと向き出す。

 

杏子がほむらを睨みながらドスのきいた声でほむらの爆弾発言にイチャモンをつけている。

しかもかなり苛立ってるのかほむらのまな板な胸倉を掴んで顔を引き寄せるというヤンキー紛いな事をしでかしていて怖い。

 

第三者の俺はマジビビりなのに、肝心の当事者であるほむらはそんなカツアゲ紛いな事されても全く気にしていないのか余裕のポーカーフェイス。

どうやら度重なるループのおかげでとんでもなく顔面の皮が分厚いようだ。

 

 

「私は優依の嫌がる事なんてしないわ。誘拐紛いな事をしでかした誰かさんと違ってね」

 

「それってアタシの事か?喧嘩売ってんなら買うよ?」

 

「やめなさい。相変わらず貴女は短気ね」

 

「! テメエ・・!」

 

 

ほむらってやっぱり天才だと俺は思う。

人の怒りを煽るというトラブル製造機な才能は魔法少女、いや人類の中でも上位に入るだろう。

比較的和やかになっていた空気がたちどころに険悪な雰囲気に早変わりさせるなんてもはや神業。

 

 

やっちまったと顔に手をかぶせる俺であったが、すぐさまガキィン、バンと非常に耳障りな音が聞こえてくる。

 

 

 

うわ・・また乱闘始まった・・。

 

 

 

顔を向けると案の定、赤と紫がドンパチやらかしていた。

俺はその戦闘を見ながらため息を隠せなかった。

 

 

はっきり言っていい加減にしてほしい。

さっきみたいにもう一度声を上げてやめさせようか・・あ、無理だ。

 

 

戦う赤と紫の顔を見た俺はすぐさま悟ってしまった。

 

 

目に映るのは般若のように顔を歪めて槍を振るう赤い狂戦士と絶対零度の眼差しで銃口を向ける紫のストーカー。

 

どちらも犯罪やらかしてる超ド級の問題児魔法少女。ただでさえ危険人物な二人なのに今は激おこ状態だ。

 

とてもじゃないけど一般人の俺が口を挟む余地なんてない。

出来る事はただ事の成り行きを見守るぐらいだろう。

 

 

現在進行形で無力感と現実逃避の真っ只中な俺はぼんやりと戦いを見る。

 

 

「・・ん?」

 

 

ここで俺はある事に気付いた。

 

この心底訳が分からない戦いにマミちゃんの姿が見えない。

どうやら無駄な再バトルの中に魔法少女随一のマミちゃんが加わっていないようだ。

 

 

これはチャンス!

 

 

中二病だけど元々戦いを好まない性格のマミちゃんだ。

頼めばきっとあのバカ二人の無駄な殺し合いを止めてくれるかもしれない!

 

幸い問題児である紫と赤はお互い相手を倒そうと躍起になっていてこっちを気にする様子はない。

これなら容易く二人を拘束できるはず!やるなら今しかない!。

 

 

そう思った俺はすぐさまマミちゃんの姿を探す。彼女は簡単に見つかった。

そりゃそうだ。彼女は戦いに参加せず俺の傍にいるんだから。

マミちゃんは二人の戦いを静かに見ていた。

 

 

「あのね、マミちゃ・・て、お前何やってんのおおおおおおおおおおおお!?」

 

 

声を掛けようとした俺の声はすぐさま絶叫に変わる。

 

 

マミちゃんは確かに俺の近くにいた。

しかしよく見ると彼女の手前にはお馴染みのティロ・フィナーレ砲が鎮座しており、その特大の砲口は現在進行形で戦っている赤と紫に向けられている。

 

 

どう見たって杏子とほむらにティロ・フィナーレお見舞いしようとしているとしか思えない!

正義の魔法少女がまさかの不意打ちな漁夫の利を狙ってるとか笑えるかぁ!

 

 

これマジでただの殺し合いに成り果ててるじゃん!

ヤバいヤバいヤバい!急いで止めなきゃ!

 

 

≪ちょっとマミちゃんやめて!今それやったら確実に二人の息が止まるよ!≫

 

 

状況を察知した俺は声よりも確実に届くであろうテレパシーで待ったをかけると弾かれたかのようにマミちゃんが俺の方を向いた。

 

危なかった・・。

ここで俺が止めなかったらマジで撃ってたっぽい。

 

だって「ティロ・・」って言いかけてたからな!

 

 

勘弁してくれよ!

自称とはいえ正義の味方として一番やっちゃいけない事やろうとしてたぞコイツ。

 

 

俺の非難の眼差しをどう勘違いしたのか分からないがマミちゃんはにっこり微笑みかけてくる。

その笑顔はとても可愛らしいものだったが近くに特大大砲があるためその笑顔がとても薄ら寒い。

 

 

「優依ちゃん大丈夫よ!今すぐ危険な泥棒猫二匹を退散させるから、待っててちょうだい!」

 

「何が大丈夫だ!?どう見たってそれこの世から退散させるレベルの装備だろうが!て、そうじゃなくてもうすぐ『ワルプルギスの夜』が来るっていうのに、魔法少女消そうとしてどうすんの!?」

 

「それは・・・」

 

 

「うっ・・」とマミちゃんが口ごもっている。

絶対忘れてたろ。死ぬかもしれない瀬戸際なのによく忘れられるな!

俺なんて夢でも出てくるくらい死亡フラグ忘れられないのに!

 

 

「一時とはいえ杏子とコンビ組んでたんでしょ?仲直りしたくないの?」

 

「本当はしたいわ。・・でも佐倉さんは変わってしまった。悪い噂はいくつか聞いているわ。もうあの娘は悪い魔法少女なの。ためらってはだめ」

 

「それでも全く躊躇なくて怖いわ!」

 

「佐倉さんの協力がなくったって・・平気よ。この街を、優依ちゃんを必ず守って見せるわ」

 

「あのね、相手は街を壊滅させるくらい大物の魔女なんだよ。そんなヤバい奴を相手にするんだからいくらマミちゃんでも危ないよ。仲良くまでとはいかなくても協力するのは出来ないの?聞いてる限りじゃ未練があるんでしょ?」

 

 

俺の指摘は多少なりとも図星だったらしい。

気まずそうに目を逸らしつつ杏子の方を見ていて、その視線はどこか切ない感じがした。

 

 

「協力・・出来なくもないわ。ただ向こうは聞く耳持ってないでしょけどね」

 

 

そう呟くマミちゃんはどこか呆れた様子の物言いだ。その気持ちはよく分かる。

俺もマミちゃんと同じ方向をチラッと目を向ける。戦いは依然と続いていた。

 

 

 

 

 

「おいおいどうした?あの妙な魔法が使えないとアンタ大した事ないな」

 

 

「く・・!」

 

 

「アタシにとってはその方が都合が良いけどな?あの魔法かなり厄介だったし。今の内にアンタから潰しておくのも悪くないね」

 

 

ほむらと杏子の戦いが現在進行形で勃発している。

それの激しさは開始された時に比べて増し増しと言った感じだ。

 

今は杏子の方が優勢のようで余裕の表情だ。

 

 

 

「・・マミちゃんの言う通りだ。あの様子じゃ難しいかも・・」

 

 

それ以上は何も言えなかった。

 

確かに杏子の今の様子じゃ聞く耳持ってくれなさそう。

だって今日会ってから一日ずっとイライラしてるのか様子が可笑しかったし。

難易度高そう・・。

 

 

しかし、マミちゃんは今でも杏子の事を憎からず思っているようだ。

杏子が仲間に加わってくれれば喜ぶだろう。

ひとまず第一関門はクリアだ。

 

 

え?さっき殺し合ってた?

はは、あれはきっと極端の照れ隠しさ。

恥ずかしくってつい武器を向けてしまった究極のツンデレというやつだ。

そういう事にしておこう。じゃないと心折れそうだから。

 

 

ほむらは杏子が仲間になるのは反対しないだろう。

いや、むしろ対『ワルプルギス』戦において杏子が必要だと思ってるから大歓迎するだろう。

 

 

さやかは・・・ほっとこう。

どうせその内、仲良くやってそうだし。目指せ杏さや。

 

 

ただ・・肝心の杏子が承諾しなくちゃ意味がない。

 

 

問題なのは杏子が原作よりも何故かやたら好戦的という事だ。

多方面(基本さやか)にちょっかいだしまくってる。

今の感じだと杏子は協力してくれないのは明白。

 

仲間に引き入れるためにしっかり作戦を練りたい所だがそんな時間はない。

 

なぜなら今の戦い、結論だけ言うとほむらが絶賛大ピンチ。

だって紫の足に何やら見覚えのある赤い鎖が巻き付いているのだから。

 

間接的に杏子がほむらに触れている。

つまりほむらの十八番:時間停止が杏子には通用しないという事だ。

今の所、銃で応戦してるけど明らかに不利だ。

 

 

というかほむらの奴、ここに来てからよく魔法無力化されてないか?

攻略法でも出版されてるのかと疑いたくなるレベルだ。

そう思えるくらいベテラン勢はほむら対策バッチリされている。

 

 

「コイツはどうだい!?」

 

 

「っ!」

 

 

 

「うぉ・・!」

 

 

かなり重い一撃。ほむらは紙一重で躱していたがやられるのは時間の問題だ。

早急に何とかしないとほむらが危ない。

 

 

 

頼りになるのはやっぱり・・。

 

 

俺はマミちゃんの方を見る。

 

流石に大砲はしまったみたいだが戦いに介入する気がないのか傍観に徹している。

ほむらは絶賛追い詰められてピンチだというのに動く様子がない。

 

 

え?君こんな場面見ても動かないって実はそこまでほむら嫌い?

流石の俺も泣いちゃうよ?

 

ここでマミちゃんが動いてくればなければまずい。

これはもう俺が背中を押さないと駄目かもしれない。・・嫌だけどやるしかない。

 

 

「マミちゃん、杏子を拘束出来る?いくらほむらが挑発してしまったとはいえ、杏子さえ何とかすれば戦いは終わると思うんだ」

 

 

内心嫌々ながらもマミちゃんの方に向き直り、説得に回る。

実際、このままではどうなるか分からないのでこんな戦いさっさと終わらせるに限る。

いつ誰に見られるか分かったもんじゃないし。

 

実際、杏子さえ何とかすればどうにでもなる。

流石のほむらも大人しくなるだろう。・・多分。

 

 

「どう?出来そう?」

 

「・・ええ、出来るわ。でもその後はどうするの?」

 

「え?どうって?」

 

「今の佐倉さんは頭に血が上ってるし、下手に拘束すれば暴れ出すわよ。ヘソ曲げて風見野に帰るかもしれないわ。私はむしろ大歓迎なんだけど」

 

「・・・・」

 

 

充分ありえそうなので言葉に詰まる。

 

杏子には申し訳ないが咄嗟に脳裏に過ったのがリボンにぐるぐる巻きにされた状態で暴れまくる姿だった。

良い案だと思ったんだけど拘束した後の事なんて考えてなかった。

 

確かにマミちゃんの言う通り拘束したら暴れる上に更に機嫌損ねて協力とか絶対してくれなくなりそうだ。

 

 

あとマミちゃん。

遠回しに杏子に帰れって言ってるよそれ?

実は仲直りしたくないんじゃないのって疑いたくなるわ。

 

 

くそ。どうやったら杏子は協力してくれるようになるか?

てか、まず杏子が話を聞いてくれるようにしないといけない。

そのためには先にこの戦いを止めなければ。

 

 

 

 

「・・・・・」

 

 

 

 

ふと思いついた作戦。

はっきり言ってバカバカしい内容だ。

 

正直上手くいくとは思えないが絶賛ほむらがピンチな以上、躊躇っている時間はなさそうだ。

 

 

一か八かだがやってみるしかない。

作戦名「KHS」発動だ!

 

 

「マミちゃんお願いがあるんだ」

 

 

早速俺は作戦実行のためにマミちゃんに声をかける。

この作戦は俺一人じゃ絶対無理だ。マミちゃんの力が絶対必要。

 

 

「こんな事マミちゃんにしか頼めない。君だけが頼りだ」

 

「!? 分かったわ優依ちゃんのお願いなら聞かない訳にはいかないわ!何でも言ってちょうだい!」

 

「え?あ、うん・・ありがとう?」

 

 

マミちゃんの機嫌を損ねないようにお世辞混じりで言っただけなのに、いきなりやる気に満ち溢れた。

それにたじろぎつつも何とか協力は得られそうなので良しとしよう。気にしてる暇はない。

 

 

「えっと、あのね・・」

 

「え?それって・・」

 

 

咄嗟に閃いた作戦を耳打ちするとマミちゃんは難色を示すように顔を顰めている。

分かってる。俺だってこれはバカバカしいと分かっているさ。

 

だからそんな嫌そうな顔しないでくれよ・・。

今これしかないんだから。

 

 

 

「作戦は言った通り。頼むよ。君に全て掛かってるんだから。失敗したら俺は死ぬ!信じてくれるからねマミちゃん!」

 

「そこまで私の事を・・!分かったわ!必ず優依ちゃんを守ってみせるわ!」

 

 

マミちゃんから作戦承諾を得られた事だしこれで準備万端。

 

よし!やってやる!「KHS」決行だ!

 

 

 

 

 

「どうした?もう終わりかよ?」

 

 

 

「く・・・ !」

 

 

 

じりじりと壁際に追い詰められたほむらを杏子がネズミを追いつめた猫のような残酷な笑顔を向けている。

ここからだと杏子の後ろ姿が見えた。

 

 

そこで俺は動いた。恐怖を振り切るように急いで足を動かす。

ほむらが俺の様子に気付いたらしく目を見開いているが構わない。

 

 

 

今はやるべき事を優先させなければ!

そのまま杏子の気を引いておいてくれよ!

 

 

 

「・・あん?戦ってる最中だってのに何よそ見して、「杏子!」おわ!?」

 

 

杏子がほむらを不審そうに見ている背中に抱き付いた。

 

 

ミッション:杏子の背中に向かってダイブ!決まった!

 

 

 

「え?え?優依?何で?」

 

 

まさかの俺の乱入に酷く狼狽している杏子は面白いが、それを楽しむ間もなくその赤い衣装に腕を回してしっかり拘束する。

 

 

よし!これで逃げられない!

 

 

作戦はこうだ。

ほむらと俺が囮になって杏子の注意を引き、その隙に俺が拘束に回る。

 

いくら乱暴な杏子といえど非力な一般人を無理やり引き剥がそうとはしないはず!

仮に失敗してしまえばマミちゃんがフォローしてくれるから安全だ!

 

 

K・・杏子

H・・捕獲

S・・作戦

 

 

これが作戦「KHS」の全容だ!

 

 

・・・ええ。分かってますよ。俺もこの作戦の杜撰さとバカバカしさを。

けどこのアホな行動が実際効果テキメンらしい。

 

 

杏子は顔を真っ赤にして固まっている!

アホな作戦だと思ったけど案外これはイケるかもれしれない!

 

このままテンパりながら大人しくしててくれよ!

 

 

 

 

「どうしたんだよ優依?いきなり抱き着いてくるなんて随分積極的じゃん♪」

 

 

「・・あれ?」

 

 

しかし成功を喜ぶ暇もなく杏子が俺の方に振り向いて一瞬腕を離しそうになるもそのまま腕をガッと掴まれて阻止された。

さすが、魔法少女の中でずば抜けた冷静さがある赤。

すぐさま落ち着きを取り戻し、抱き着いたまま俺に話しかけてくる。

 

 

どっかの青にもこの冷静さを見習ってほしいわ。

 

まあ、コイツさっきの苛立ちなど嘘のような今は上機嫌になっているけど情緒不安定だから不安だ。

 

 

て、違う違う!プランA(杏子の拘束)がダメならプランB(杏子を説得)に変更!

これよりプランBに移行する!

 

 

ギュッと腰に腕を回して杏子の顔を見上げる。

ちなみに目はさっき目薬を使ったからうるうると涙を溜めた状態だ。

 

 

・・まさか前にシロべえが言っていた事をやる羽目になるとは・・。

 

 

ただこの目薬。思った以上に効果があるみたいだ。

杏子が驚いたように目を見開いて少し慌てた様子だ。

 

 

「杏子!もうこんな戦いやめようよ!(ほむらが)傷つくだけだよ!」

 

 

ぶっちゃけ今の俺の状態を想像すると気持ち悪すぎる。今はさっきと別の意味で吐きそうだ。

あと、セリフが思った以上に棒読みになった気がするし。

 

自分の大根役者ぶりに内心辟易しそう・・。

 

 

赤い瞳が気まずそうに俺から目を逸らしている。・・マジで?

こんなポンコツな演技で止められんの?

杏子ってひょっとしてマミちゃん並にチョロい?

 

 

「・・泣くなよ優依」

 

 

杏子が俺の目に溜まった涙を優しい手つきで拭っている。

 

 

「杏子がお願い聞いてくれたら泣き止むかも(うわ、俺気持ち悪!)」

 

「・・・・。優依のお願いは出来るだけ聞いてやりたいけど向こうはやる気みたいだぜ?」

 

「へ?・・ひい!?」

 

 

杏子が視線を向けた先、そこには殺気全開の紫の化身がいた。

今にも飛び掛かってきそうな雰囲気で持っている銃がカタカタと音を出している。

手を出さないのは一応様子を見ているからだろう。

 

ただあまりにもその様は恐怖を感じさせる異様な様子だったので本格的に涙が零れてきた。

俺のそんな様子に杏子あやすように背中をさすってくれているがそれ所じゃない。

 

 

「今すぐ佐倉杏子から離れなさい優依。さもないと身体に穴が空くわよ」

 

「ひぇ・・ほ、ほむらさん・・?」

 

 

様子見が終わったらしい。

ほむらが迷いのなくなった手つきで銃をこっちに向けている。

ちょっとでも妙な動きをしたら発砲されそうだ。

 

ほむらの事だ。

その気になれば俺もろとも杏子を始末しに行きそうだ。

 

 

どうしよう!?まさかのピンチだ!

すぐにマミちゃんに助けを・・ん?

 

 

頭に妙な感触を覚えて上を見上げると杏子が俺の頭を優しく撫でている。

 

 

「優依、もう少し我慢してくれ。今すぐアイツをぶっ潰してやるからな?」

 

「え?ちょぉい!ストップストップ!」

 

 

俺の頭を優しく撫でた後、槍を握り直してほむらの元へ行こうとしたので慌てて肩を掴んで阻止する。

身体から漏れだす殺意はほむらの行く末を暗示しているようで不吉だ。

 

 

「マジやめて杏子!やめてくれたら杏子のお願い一つ聞くから!」

 

 

咄嗟に出た言葉に後悔したが背に腹は代えられない。

ここで杏子を止めないと再び乱闘が開始される。それは駄目だ!

 

どうせ杏子の事だ。お願いは食べ物関係だろう。

ご飯奢るくらい造作もない。作るのだって造作もない。

俺の財布が軽くなるだけならむしろ儲けものだ。

 

 

 

 

「・・・本当か?」

 

 

 

「へ?」

 

 

 

「どんな願いでも良いんだな?」

 

 

「あ、えっと俺の出来る範囲でお願いします・・」

 

 

咄嗟に言った言葉に杏子が思ったよりも食いついていたらしく、真剣な表情でじっと俺を見つめてくる。

その眼差しが余分に熱を含んでいるように見えて思わず後ずさりそうになるも腰に腕を回されているため、離れる事は出来なかった。

 

 

「じゃあ優依、さっそく叶えてくれよ」

 

「え?ここで?一体何の願いって・・え?うぉ!?」

 

 

 

「アタシと一緒に来い!これから先ずっとだ!」

 

 

そう叫んだ杏子は俺を抱き上げて、地面を蹴る。

公園の景色はあっという間に過ぎ去り、気づけばどこかの建物の屋上にいた。

ちょっとでも足を滑らせればジ・エンド間違いないのだが杏子はそんな事お構いなしに駆けていく。

 

 

あれ?俺ひょっとして杏子に拉致られた?

 

 

 

 

「ちょ!?俺これからどうなんの!?」

 

 

「どうって、アタシと一緒に暮らすんだよ。さっきもそう言ったろ?」

 

 

あ、ヤバい。これはマジの目だ。

俺を見下ろす目は本気と書いてマジだった。

 

そんなにサンドバックが欲しかったのだろうか?

勘弁してくれ!俺は魔女と違って貧弱なんだから!

 

必死に暴れるも怪力自慢のポニーテールの腕はビクともせず、そういえば俺がいる所は落ちたら即死間違いなしな高さの屋上だったので思うように身動きが取れない。

 

 

自重しないと死ぬ!

 

 

 

 

「マミちゃん助けてええええええええええ!!」

 

 

 

「優依ちゃん!」

 

 

俺の絶叫が夜空に響き渡るその時、視界が真っ白になる。

周りに煙が充満しており、景色が真っ白だ。

その拍子に俺の身体にリボンが巻き付き、杏子の腕から逃れる事が出来た。

 

 

 

 

「ゴホゴホ・・」

 

 

煙たくて思わずむせる俺を拘束するリボンはそのまま身体を引っ張りながら空中を横断する。

 

 

 

 

「優依ちゃん!」

 

 

 

遠くからマミちゃんの声がする。

声のする方に顔を上げるとマミちゃんが近くの建物から俺を見上げていてその手にはリボンをしっかり握っていた。このまま行くとマミちゃんのマシュマロにダイブしそうだ。

 

 

物凄く恥ずかしいが無事助けてもらえたから無心になろう。

やっぱりマミちゃんは頼りになるなぁ。

 

 

 

「マミちゃんありが・・「優依に触るなぁ!!」!?」

 

 

「きゃあ!」

 

 

マミちゃんの手を掴む直前、突如目の前に赤い光が視界に走る。

その光によってマミちゃんは建物から突き落とされ、俺は後ろに引っ張られる。

 

 

「チッ、油断も隙もねえな」

 

 

背中越しに杏子の声が聞こえる。

顔が見えないからどんな様子か分からないが、かなり苛立っているらしい。

声が不機嫌そうに低いし、回された腕にはかなり力が込められている。

 

 

「杏子?」

 

「ああ、そうだよ。それよりマミが起き上がってくる前に行くぞ」

 

「え!?だから! っ!」

 

 

拒否する前にいつの間にか持っていた猿ぐつわで口を塞がれる。

おかげでくぐもった声しか出ない。

「んー!んー!」と意味のない声しか出せない。

 

 

「大人しくしててくれよな」

 

 

絶対これ疑問形ついてない。ほとんど命令形に近い声だった。

杏子がそのまま俺の抱えるように身体に手を回してくる。

 

 

どうしよう!?このままじゃ俺サンドバック確定だ!

絶対やだ!助けて!マミちゃん!ほむら!

 

 

 

誰でもいいから助けてえええええええええええええええ!!

 

 

 

 

 

 

 

≪優依!目を閉じるんだ!≫

 

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

頭の中に響く声。パニックになりかけたがすぐさま目を閉じる。

 

 

 

「!?」

 

 

 

その直後、瞼を閉じても分かるほど激しい光が襲う。

 

 

一瞬何だこれと思ったがすぐさまこれの正体を思いついた。

 

 

これはアレだ。「ピカリンライト」のエグイ光だ!

俺には分かる!だって実際食らったからな!

 

 

アレを使った時は冗談抜きで目が溶けるかと思った程だ。

魔法で視力を強化してる奴はキツイだろう。

 

 

 

「う・・!?」

 

 

案の定、効果テキメンだったらしく、杏子が苦しそうに呻く声が聞こえてくる。

ガタンと何かが倒れる音がするからひょっとして立っていられなくて膝をついたのかもしれない。

俺の拘束していた圧迫感が消えている。

 

 

俺はその機会を見逃さず杏子から離れるため目を瞑りながらも這いながらも距離を取る。

 

 

 

光が徐々に弱まっていくのが瞼の下からでも分かる。そして光が完全に消えた。

恐る恐るゆっくり目を開けて見えたのが杏子が膝をついて手で顔を覆っている姿だった。

 

 

 

「チッ・・一体何なんだよ?」

 

 

 

「間に合って良かったよ」

 

 

「!」

 

 

声がする方に杏子が顔を向ける。

視力が回復していないからか、目を閉じたままだったがいつでも動けるように体勢を整えている。

その姿はもはやベテランの老戦士のような風格だ。

 

 

「いきなり乱暴にして悪かったね。でもこうでもしないと君は止まらなかっただろう?」

 

「・・・誰だ?」

 

 

警戒心むき出しで槍を構えているが俺はほっと安心している。

さっきの光は絶対「ピカリンライト」だ。

 

これを持っているのは俺と製作者のアイツだけ。

それにこの声はやっぱり・・。

 

 

 

「自己紹介がまだだったね。初めまして佐倉杏子。僕が噂のシロべえだよ」

 

 

ようやく俺は声のする方に顔を向ける。

そこにいたのはシロべえだった。思わぬ助っ人に泣きそうだ。

 

 

 

「随分と暴れてくれたね?でも僕が来たからにはこれ以上そんな横暴は許さないよ」

 

 

見計らったかのようなタイミングで杏子に話しかけるシロべえ。

その姿は普段も憎たらしい様子とは打って変わって冷酷な雰囲気だった。

 

 

おお!シロべえに溢れる強者っぽい雰囲気!・・たださ。

 

 

「さあ、ここからは僕のターンだよ」

 

 

 

何で俺の後ろに隠れながらそんな強気な発言出来んの?

張り倒されたいの?




シロべえも参戦!
※ただし超ビビり中


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82話 赤がブチキレて白がビビる

ついにシロべえが参戦・・!?


「シロ、べえ・・だぁ?」

 

 

えげつない光攻撃のダメージが回復したらしい杏子はうっすらと目を開けて突如現れたシロべえを見て(=睨んで)いる。その眼力はヘタレをビビらせる程の威力を誇っていた。

 

しかしシロべえはビビッてない。

それ所か隠れていたはずの俺の後ろからまさかの杏子の前まで歩いている。

 

 

「そうだよ。僕が天才にして超優秀なシロべえさ!」

 

 

天災にしてたまに超ポンコツなシロべえが自慢するような声でここぞとばかりに心底どうでも良い自慢紹介をしている。そのお調子ノリはさっきまで俺の後ろに隠れてた奴だとは思えない程ムカつく態度だ。

 

 

杏子が現れた途端、とんぼ返りのような素早さで逃げ出しやがったくせに、こんな時だけ調子良いなこのヤロウ。

 

というかお前、前に出てきて大丈夫なのか?

自ら殺されにいってるようなもんだぞ?

 

 

「僕が来たからには君の横暴もここまでさ!」

 

 

冷めた目でシロべえを見下ろす俺とだんだん顔が恐ろしい形相に変貌していく杏子。

シロべえはそれに気づいていないのか未だに自慢話が止まらない。

 

今まさに死亡フラグが急速に形成されていってるというのに!

殺されるぞお前!

 

 

 

「そうか、テメエが・・!」

 

 

何かを悟ったのか杏子は槍を取り出してシロべえに向かってそれを振り上げる。

それなのにシロべえはその場から動かずちょこんと座りこんだままだ。

 

 

何で動かないんだ?槍が向かってきてるんだぞ!

まさか杏子の事かなり怖がってたし、恐怖で身体が動かないとか?

それだったらまずい!このままじゃシロべえの串刺しが出来上がる!

 

 

! ヤバい!槍がもうシロべえの目の前に!

 

 

 

 

「あぶ・・・え!?」

 

 

 

しかし杏子の槍はシロべえ届く直前、キィンと甲高い金属音を立てて止まった。

まるで見えない壁に槍が突き刺さっているかのようだ。

 

 

いや、よく見るとシロべえの周囲を薄い膜が覆っていてそれに槍が突き刺さっている。

 

 

「く・・!」

 

 

歯を食いしばるほど杏子が力を入れているにも関わらず火花を散らすだけでビクともしない。次第に杏子の額に汗が浮かんできていた。

 

 

「無駄だよ佐倉杏子。君には見えないだろうけど今の僕は結界を張り巡らせているからね。君の攻撃は僕には効かないよ」

 

 

自信があるのかシロべえは微動だにしない。

むしろ見せつけるかのようにその場に寝転びだすというどう考えても杏子を挑発しているとしか思えない無謀な行動に打って出た。

 

 

何て恐れ多い事を・・・。

てか、そんなもの用意してるなら別にビビる必要はなかったんじゃ・・?

 

シロべえがあそこまで言い切るぐらいだからよっぽど自慢の安全性能なんだろうけどこんな事しでかしておいて後でどうなっても知らないぞ。

 

 

「はあ!」

 

 

シロべえの挑発が効いたのか、杏子は何度もあらゆる角度から結界に槍を突き刺しているが壊れるどころか傷が付く様子もない。

その様子に「チッ」と舌打ちをして悪態をついているもイラついた諦める様子はなく槍に魔力を込めている。

 

 

杏子の異様な迫力に意地でもシロべえを結界から引きずりだそうという執念すら感じる。

後の事を考えるとちょっと忠告しておいた方が良いかもしれない。

 

 

 

≪おい、シロべえ。流石にその辺にしておかないと後が怖いぞ?相手はあの伝説のヤンキー魔法少女なの知ってるだろ?≫

 

≪大丈夫さ!この結界は僕たちには見えてるけど佐倉杏子には見えてない。見えない上に防御マシマシな結果を壊すのはいくら攻撃力があっても至難の業さ。赤は怖いけどここなら絶対安全だよ!≫

 

≪ちょ!それフラグ・・≫

 

 

 

 

「おりゃああ!」

 

 

 

テレパシーで会話してる傍から今まで一番の大振りが結界に迫る。

その威力は周囲に衝撃が巻き起こる程で踏ん張らないと身体が吹き飛ばされそうになった。

 

 

ピシッ

 

 

 

「え?」

 

 

「・・・・え?」

 

 

今ピシって言わなかった?

今明らかにヒビが入った音しなかった?

ここからじゃよく分からないけど絶対ヒビ入ったよね。

 

 

≪ひいい・・・・!≫

 

 

テレパシーから情けない声が聞こえてくる。

あ、シロべえ遠くからでも分かるくらい滝のように汗を流してる。

 

 

これは間違いなく結界にヒビが入ったな。

だから杏子を怒らせちゃだめだと警告したのに!

ていうかあんだけ自慢しまくってたくせにあっけねえなおい!

 

これがフラグの力というやつなのか、はたまた単純に杏子の力がえげつなかっただけなのか真相は分からないが結界が壊れるのは時間の問題だ。そうなったらシロべえの命が終わるのも残りわずか・・。

 

 

≪嘘でしょ!?魔法少女の力じゃ壊せないように調整したのに!?≫

 

≪謝れシロべえ!?靴底を舐めてでも謝っとけ!殺されるよりましだから!≫

 

≪やだよ!どっちみち僕殺されるから!≫

 

≪じゃあどうすんだよ!?グダグダ言い合いにしてる間に既に結界が崩壊寸前までヒビ入れられてんぞ!≫

 

 

俺の距離からでも分かるくらいヒビだらけの結界。

あんだけ自慢してたのになんてザマだ・・。

 

 

 

≪一か八か!≫

 

 

 

「む、無駄だって言っただろう佐倉杏子!この結界は鉄壁なのさ」

 

 

窮地に陥り自棄なったらしいシロべえ。

トチ狂った頭で出した作戦がまさかの強がり発言。

 

それで結界から気を逸らそうとしてるらしい。なんて無謀な。

 

絶対無理!絶対更に怒り煽ったぞあいつ!

だって杏子の目が更に吊り上ってるからな!

 

 

「ききき、君は本当に容赦がないね。いきなり殺しにかかるなんてどうかと思うよ」

 

「人の事言えた義理かテメエは?よくもアタシに発信機つけてくれたな?おまけにエグイ光まで浴びせやがって。目が潰れる所だったんだぞ。この礼はきっちり返さないと気が済まねえ!」

 

「え?ま、待って!ひい!」

 

「うらあ!」

 

 

更に大振りで槍を叩き付ける杏子にシロべえは情けない声を上げてビビりまくっている。

ここからでも分かるくらいどんどん結界のヒビが広がっている。

 

てか、発信機バレてたんだ。

そりゃ怒るわな。

 

 

何回か槍を叩きつけていたがやがて疲れたのか息を切らした杏子は槍を下げる。

 

 

「チッ、本当に硬ぇ・・。どんだけ頑強な結界なんだよ」

 

「! ほら、言っただろう!この結界は完全無欠の要塞なのさ!」

 

 

既に満身創痍なボロボロ結界の中で一人勝ち誇るシロべえ。

杏子は見えない事が幸いして今結界がどんな状態か分からない。

見えてたら躊躇いなく攻撃してるなこれ。

 

 

 

 

「・・仕方ねえ。これならどうだ!」

 

 

「!?」

 

 

 

 

手に赤い光を纏わせて地面に触れると地響きが起きて、地面から笑えない大きさの赤い槍が複数出てきた。

その鋭い先端全てがシロべえに向けられている。

 

どんだけシロべえにキレてんの!?

 

 

「これならその結界とやらにでもヒビくらい入れられるだろ?」

 

 

いや既に結界は崩壊寸前です!

さっきみたいに槍で攻撃すればすぐさま壊れる程ボロボロですから!

どう見てもそれオーバーキルですから!

 

 

「喰らいn「隙だらけだよ佐倉杏子」! な!?」

 

 

杏子が号令するのを遮るようにいつの間にか彼女の背後にもう一人のシロべえがちょこんと座っていた。

気づかぬ間に背後を取られていた事に杏子は驚きを隠せないのか目を見開いて構えている。

 

 

え?あれ?じゃあ結界にいたのは・・って、そっちもいるし。

 

杏子と対峙するシロべえの他にその近くでブルブル震えているもう一人のシロべえがいる。

 

 

え!?シロべえが増えた!?

 

 

キョロキョロ顔を動かして両方のシロべえを見比べる。

杏子と対峙するシロべえはモノホンの鬼と化した仁王立ちの杏子に全くビビっていない所か余裕な様子。その態度は貫録すらある

 

 

「・・・何なんだテメエは」

 

「言っただろう。僕は天才なんだ」

 

「チッ、うぜえ・・!」

 

 

≪これぞ『身代わり君』の真の用途!これで勝つる!≫

 

 

混乱する俺の頭に声が響く。

ヒビだらけのシロべえが俺の方を(震えながら)見ている。

 

 

≪こんな時があろうかと仕込んでおいたのさ!僕に抜かりはない!≫

 

 

やっぱり偽物か。身代わり君ならいくら杏子でも騙せるだろう。

いやむしろ身代わり君を知らない杏子はシロべえが二匹に増えて混乱しているかもしれない。その証拠に何度も白二匹を見比べている。

 

 

「どうなってやがる・・?」

 

「次はどうする気だい佐倉杏子?僕は君の考えてる事の大半は予測可能だ。先回りして阻止してみせるよ」

 

 

どう考えてもお前シロべえじゃないだろうと思う余裕なシロべえ(身代わり君)は混乱と苛立ちで気が立っている杏子に向かって更に挑発を続けていく。

 

何コイツ?

杏子を挑発しろとかそんなヤバい命令でも下ってんの?

 

 

「イライラするのはカルシウム不足らしいよ」

 

「チッ・・邪魔くせえんだよお前!!」

 

 

 

「あ」

 

 

ムカつくシロべえ(身代わり君)の挑発によってついにイライラがピークに達したらしい杏子は怒りのままにその長い耳(?)を掴んで自身の顔の近くまで引き上げる。

相当苛立っているのか杏子に捕まれた耳は握り潰さんとする勢いで見ている方が痛々しい。

 

 

「失せろ!!」

 

 

大きく振りかぶってシロべえ(身代わり君)を地面に叩き付け、そして・・

 

 

 

 

「いっけえ!」

 

 

 

大声で合図を叫ぶ。

 

 

 

 

ドドドドドドドドドドドド

 

 

 

「いやああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

無駄に大きく響くシロべえの悲鳴。

 

 

そりゃそうだ。シロべえ(身代わり君)の身体は執拗なまでに赤い槍によってぶっ刺しまくられてるんだから。

蜂の巣という単語が可愛く思えてくる程、隙間なく槍が貫かれていく。

 

 

ひいいいいいいいいいいいいいいいい!怖過ぎる!

杏子洒落にならんくらい怖い!!

 

 

≪きゃああああああああああああああ!!怖い!やっぱり赤怖すぎるよ優依!≫

 

 

恐怖に染まったシロべえのテレパシーが俺の頭に響く。

 

 

≪どうしよう優依!?トラウマになりそうだよ!というかもう既に僕の中で最上級のトラウマに君臨したよ!発狂しそうだよ!≫

 

≪やかましい!俺だって怖いわ!軽くトラウマものだよ!てか、あれだけ余裕ぶっこいといて何やってんだお前は!?そんな事やってる場合じゃないよ!すぐに謝るか今の内に逃げた方が・・・げ!≫

 

 

気づけばさっきまで騒音のように聞こえていた槍が刺さる生々しい音が消えていた。

代わりに聞こえてくるのは杏子の荒っぽい息遣い。

 

 

恐る恐る顔を向けるとそこには肩で息をしながらもスッキリした表情の杏子がいた。

その爽やかな表情でシロべえの方に向けている。

 

 

「次はテメエだ。今すぐその結界から引きずり出してズタズタにしてやるよ。こんな風にな」

 

 

足元にあったシロべえ(身代わり君)だったものを蹴っ飛ばしてシロべえ(本物)の前に転がした。

それは原型を留めないほど損傷が酷く、見るも無残な姿に変わり果てていた。

今や白かった何かくらいしか分からない。

 

 

「@#$%~!!」

 

 

変わり果てた自分のコピーの姿を見たシロべえは声にならない悲鳴をあげている。

 

 

まあ、自分のそっくりさんが無残な姿にされた上に同じ目に遭わせると事実上の死刑宣告を受けたようなものだからなぁ・・。

 

気持ちは分かる。俺もキツかったもん。

客観的に見る自分が殺される姿は。マジトラウマものよ。

 

 

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

 

 

恐怖のあまりシロべえの奴、顔が真っ青を通り越して真っ白だ。

あ、これは元々だったわ。

 

つうかお前結局何しに来たんだよ!?

ただ杏子を無駄に怒らせてるだけじゃん!

火に油注いだだけじゃん!どうすんのよこの状況!?

収集つかなくなってるよ!

 

 

 

「マミが来るまで時間稼ぎのつもりだったのか?そんなくだらねえ事に付き合うつもりはねえぞ」

 

「~~~~っ!!べ、別に時間稼ぎしてるつもりはないよ!僕はただ君と話がしたかっただけさ!」

 

「あ?テメエと話す事なんてねえよ」

 

 

めちゃくちゃ勇気を振り絞って言った事であろう提案を一瞬で切り捨てる。

あまりのきっぱりさに可哀想を通り越して滑稽ささえあるくらいだ。

ジロリとシロべえを見下ろす杏子はさながら赤い羅刹だ。

 

 

マミちゃんが来るまで時間稼ぎしていたのは図星だったらしい。

明らかに動揺して身体だけじゃなく声まで震えている。

 

 

そんなシロべえに赤い槍が向けられる。

 

 

流石にこのまま放っておくとシロべえが殺される。それは洒落にならん。

 

 

「きょ、杏子!その辺で勘弁してあげて!」

 

 

シロべえを庇うように杏子の前に立った。

ブチ切れてるとはいえ流石の杏子も一般人の俺を攻撃したりしないだろう。・・しないよね?

 

 

「ムカつく事ばっかしてるけどシロべえは杏子と話がしたいだけなんだ!だから聞いてあげて!」

 

「あ?アタシはねえって言ってんだろ?優依を誑かす奴となんてさ。まあ、アンタとなら話す事が沢山あるんだけどな優依?」

 

「すみません。満面の笑顔でこっち見ないで下さい。」

 

 

俺に向かってにっこり笑う杏子に背筋を凍らせながら速攻でお断りを入れる。

 

 

絶対嫌です!また睡眠薬盛られるかもしれないし!

これから先もう二度と杏子と二人っきりになれる気がしない!

軽くトラウマになったわ!

 

 

 

「・・あれ?」

 

 

 

「! 優依!?」

 

 

三半規管の後追いダメージか、杏子が盛ってくれやがった睡眠薬の副作用か、はたまた恐怖からかなのか分からないが急に頭がふらついてそのまま膝から崩れ落ちる。

 

 

杏子が慌てた様子で俺の方に走って来てるのが視界の端に映るが途中で身体が静止する。何かに身体を掴まれ支えられるようだ。

 

 

固い。とにかく固く。まるでまな板のよう。

・・なら奴しかいない。

 

 

まな板のような胴体で俺を支えてくれるこの絶壁の持ち主はまさしく、

 

 

「まn・・ほむら!」

 

「今なんて言った?」

 

「いえ、何も」

 

 

顔を上げるとすぐ近くにまな板もといほむらがいて俺の身体を支えてくれている。

どうやら杏子に拉致られた後、急いで追ってきてくれたらしい。

かなり疲労してるのか肩で息をしていて額に汗が滲んでいる。

 

 

「・・・・・」

 

 

助けてくれたのはありがたい。

しかし俺は何故睨まれているのだろうか?

こ、怖い!俺何かした!?いや、そんな事言ってる場合じゃない!

 

 

何とか機嫌を直してもらわなくちゃ!

 

 

「ほむら」

 

「・・・・・」

 

「助けてくれたんだよね?ありがとう」

 

 

人というのは感謝されれば弱いもの。

俺の身体を支えている手を重ね合わせてにこっと微笑んだ。

 

笑顔の成分は感謝一割、計算九割だ。

 

 

「お礼なんていいわ。人として当然の事をしたまでよ」

 

 

人として当然の何かが欠落しているほむらは表情を変えずにそう言い切った。

 

顔が引き攣るのが抑えられなかったが幸いほむらは機嫌が直ったらしく、相変わらずの仏頂面ながらも眉間に寄っていた皺が軽減されている。

 

どうやら感謝の言葉は思いの外、効果はあったようだ。

副次効果で赤面にもなるらしいが。

 

 

 

「! 優依!」

 

「わっ!?」

 

 

ほむらが俺を後ろに下がらせた直後、目の前に赤い一閃が通る。

正体は赤い槍で正面に杏子がいた。

 

 

「今すぐ優依から離れろ」

 

 

「断るわ」

 

 

杏子の不意打ちを躱したほむらは俺を背中に隠し赤と向き合っている。

応戦する気なのか盾から銃を取り出し杏子に向けている。

 

 

「また殺り合おうってかい?」

 

 

槍を構えながら好戦的に笑う杏子はもうシロべえは眼中にないらしい。

ちなみに無視されたシロべえはこれ幸いと物陰に逃げ込んだ。

 

 

「次は容赦しねえからなぁ」

 

 

怖い!この人めっちゃ怖い!

 

何が怖いって赤の戦闘意欲がもはや執念と化している事だ。

まさに狂戦士と呼ぶに相応しきもの!

 

 

杏子から逃れるようにさっとほむらの背中に隠れる。

ヘタレにとって今の杏子は目と精神の毒だ。

 

 

すぐさま戦闘が始まるかと思ったがそんな事はなくあたりはとてもシンと静まり返っていた。

心なしか冷たい空気が流れている気がする。

 

 

 

 

 

「なあ・・優依」

 

 

 

「!」

 

 

ほむら越しに聞こえる杏子の悲しそうな声。

恐る恐るほむらの背中から顔を上げると杏子が辛そうな表情で俺を見ていた。

 

 

「全部・・嘘だったのか・・?」

 

「へ・・?」

 

「アタシを大好きって言ったのは嘘だったのか・・?」

 

「え・・あー、えっと。そんな事はないよ?」

 

「嘘だ!じゃあ何でアタシから逃げるようにソイツの後ろに隠れるんだよ!?アタシの事が嫌いになったからか!?」

 

「そ、それは・・杏子さんがカンカンに怒ってて怖いからで・・あ」

 

 

これは言っちゃいけないやつだ。

 

直感でそう思ったがもう遅い。

 

 

「怖い・・?」

 

 

ガタガタと身体を振るわせている杏子。

震えを抑えるためか手で身体を抱きしめているが止まる様子がない。

持っていた槍は支えがなくなってカランと冷たい音を立てて地面に転がっている。

 

 

「怖いって何?優依はアタシが怖いって言いたいのか?それってずっと前から・・?」

 

「杏子!誤解だ!」

 

「優依に怖がられてた?ずっと前から?・・う、うう・・うわああああああああああああああああああ!!」

 

 

杏子が苦しそうに胸を抱えて膝をついた。

握ってる場所は位置からしてソウルジェム。・・まさか!?

 

 

「ほむら!急いで杏子のソウルジェムを浄化しないと!」

 

 

慌ててほむらの肩を掴む。

 

 

あれってどっかのゲームで見た事ある!

確か杏子が魔女化する前兆みたいだ!

 

このままじゃ杏子が・・洒落にならん!

 

 

「ええ、分かっているわ。危険だから優依はそこにいなさい。私が行くわ」

 

「頼んだ!」

 

 

緊急事態だと察したのかほむらはすぐさまグリーフシードを取り出して杏子に近づいていく。

その間も杏子はずっと苦しそうに叫んでいてこっちの様子を気にする様子もなかった。

 

 

杏子のすぐ傍に近づいたほむらはソウルジェムを握っている手をどけてグリーフシードを近づけようとしているが何故か直前で止まった。

 

 

「ほむら何やってんだよ!?早くしないと杏子が・・!」

 

 

ほむらが血相を変えた様子で杏子から飛び退いた。

その際、杏子のソウルジェムが見える。

 

 

あれ?思ったより濁ってない・・?

 

 

 

 

 

「・・なんてな?」

 

 

 

 

顔を上げた杏子はニヤリと笑っていた。

そして近くに落ちていた槍を掴んで一気にほむらとの距離を詰める。

 

 

「おらぁ!」

 

 

力任せに槍でほむらの身体を壁に叩き付ける。

かなり威力があったのか壁にクレーターが出来上がりほむらは「うっ」と呻いてずるずると倒れ込んだ。

 

 

「ほむら!「優依」!」

 

 

 

杏子が俺の目の前に立っている。

驚いている俺の肩を掴んでゆっくり自身に引き寄せて耳元で小さく囁く。

 

 

 

 

 

ツ カ マ エ タ

 

 

 

ゾッとするような冷たい声。

 

 

その直後、俺の前を黄色の光が過り、それが杏子を覆っていく。

突然の出来事に茫然としている内に杏子は全身をリボンでぐるぐる巻きにされ宙吊りにされていた。

 

 

「優依ちゃん!無事!?」

 

「マミちゃん・・!」

 

 

杏子に突き飛ばされてフェードアウトしていたマミちゃんが俺のすぐ傍までやって来て、抱きしめてくれる。

その柔らかさは俺の恐怖で凝り固まった心を解してくるようだ。

 

 

助かった・・!

あともう少し遅かったら俺どうなっていた事か・・!

ありがとうマミちゃん!君のおかげで俺の寿命は延びたよ!

 

 

「ぐ、マミ・・!」

 

「全く油断も隙もないわね佐倉さん。でも、もう終わりよ」

 

「もう少しだったのに・・!」

 

 

悔しそうに歯をギリッと鳴らしながら恨みがましい目でマミちゃんを睨んでいる。

リボンを外そうと足掻いているのか身体が左右に揺れて忙しない。

 

 

「遅かったわね巴さん」

 

 

ほむらがダメージから復活したようで俺たちのすぐ傍までやって来て杏子を見上げている。

 

 

「えぇ、思ったよりもダメージを貰っちゃったみたいですぐには動けなかったわ。でも何とか間に合って良かった」

 

「これで佐倉杏子を抑える事が出来たわ。それは良かったけどいつまで優依を抱きしめてるのかしら?さっさと離しなさい」

 

「あー・・頼むからもう仲間割れしないでくれよ二人とも。じゃないと泣くぞ俺」

 

「ええ、優依ちゃんのお願いはちゃんと聞くわ」

 

「今はそれ所ではない事くらい分かってるわ」

 

 

さっき分かってなかったから戦ってたんじゃないのとは言わない。

それは藪蛇だ。それはともかく杏子を捕える事に成功した。

 

 

でも・・この後どうやって説得しようか?

 

 

三人そろって杏子を見上げる。

 

 

「・・・・っ」

 

 

俺たちの様子を見て不利な状況を悟ったのか不機嫌そうに顔を歪めている。

どうやら俺たちが仲間だと理解したようだ。

 

 

「この状況がどういうものか分からない程君は馬鹿ではないよね佐倉杏子?」

 

 

状況が明らかに俺たちの方が有利だと悟ったシロべえは途端にいつものお調子ノリが復活し、杏子に畳み掛けてくる。

 

 

「佐倉杏子、これで分かっただろう?今の君は孤立無援だ。たった一人で彼女たちに勝てるなんて流石に思っていないだろう?」

 

「・・・・」

 

「睨んだって僕は動じないよ。それよりさっさと武器をおいて降参してもらおうか。蜂の巣になりたくなかったらね」

 

 

水を得た魚のような大活躍ぶりだ。

調子に乗るとどこまでも付きあがって手が付けられない。

 

 

「チェックメイトだよ佐倉杏子」

 

 

リボンでぐるぐる巻きにされて地面に座り込む杏子を囲い込むように正面にはシロべえ。

そしてその左右に布陣するマミちゃんとほむら。

 

 

俺はその三人+一匹を少し遠目から見守っている。

観念したように杏子は顔を伏せていた。

 

 

 

素人目から見ても完全に杏子を追いつめられている。

ここから挽回するのはもはや不可能に近い。

 

 

「ハハハ・・」

 

 

 

「きょ、杏子?」

 

 

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 

顔を上げて狂ったように笑う杏子の声は夜の暗さとよく馴染んでいる。

壊れたように笑い続けるその様子に背筋が震えて仕方ない。

 

 

≪流石だぜ佐倉杏子!僕の予想の何倍も上をいってやがる!≫

 

≪しっかりしろシロべえ!恐怖のあまり完全にキャラ変わってるぞ!≫

 

 

 

「アハハハハハ!殺す!邪魔するなら誰だって!ハハハハハ・・!」

 

 

 

狂ったように笑う杏子は夜の光景と相まってかなり不気味だ。

笑いながらも所々で「殺す」「死ね」とめっちゃ物騒な単語が飛び出していて、どう考えたって精神病院行き確定しそうな不穏な雰囲気だ。

 

 

「佐倉さん・・何がそんなにおかしいの?」

 

「おかしいに決まってんだろ?アタシがこの程度で退くと思ってるお前らのお花畑具合にさぁ、アハハハハハ!」

 

 

おかしくてたまらないのか杏子は笑い声を上げ続ける。

マミちゃんが警戒したように拘束のリボンを強めてギュウと音を立てているのも気にも留めていないようだ。

 

 

「佐倉さん、貴女はおかしいわ」

 

「おかしい?アタシがぁ?でもそれって優依のせいじゃん」

 

「え・・?」

 

「だろぉ?・・なぁ優依?」

 

「ひ!」

 

 

間延びした声なのにどことなく不穏な気配を感じさせる。

見知ったはずの杏子は今じゃ得体の知れない恐怖の塊と化しているみたいだ。

 

 

「酷いよなー。アタシをこんなにおかしくさせたのは優依なのに。責任取らないどころか裏切りやがった。・・どれだけアタシが傷ついたか分かってるの?」

 

「・・ひぃ」

 

「ねえ優依、こっち見てよ。優依の顔が見たいなぁ」

 

 

ねっとりとした赤い目が俺を捉えている。

それはまるで獲物を狙う蛇のような目で無意識に身体が震えるもすぐさまそれがなくなった。

 

 

「優依、離れていなさい。今の佐倉杏子は普通じゃないわ」

 

 

杏子の視線を遮るようにほむらが俺を背中に隠してくれる。

 

 

「おい、どけよ。優依が見えねえじゃん」

 

「見せる訳ないでしょう。優依ちゃんを怖がらせないで」

 

 

マミちゃんも俺を守るようにほむらの隣に立っている。

しかも声を聞かないように耳を塞いでくれている配慮付きだ。

おかげで五感に杏子の情報が入ってくるのは完全に遮断された。

 

 

「・・ホント邪魔が多いなー」

 

 

隙間から杏子が見える。

相変わらず余裕の笑みでこちらを見ていた。

 

杏子が何か喋っているのか口を動かしているもマミちゃんに耳を塞がれているから何を言ってるのか聞こえない。

 

 

 

何て言ってるんだ?

 

 

 

 

 

 

「アタシは優依が欲しいんだ。でもお前らが邪魔するし、優依はアタシを裏切った。・・ならもう・・遠慮しなくていいよね?」

 

 

 

「・・!」

 

 

何かを言っていた杏子の身体が透けている。

 

 

これってまさか!

 

 

 

「幻覚!?まさかこの時間軸の彼女は使えるの!?」

 

 

「え!?どういう事!?」

 

 

近くでほむらとマミちゃんの混乱した声で叫ぶも、すぐさま俺を守るように背を向けて武器を構えている。

 

 

 

≪じゃあな優依。今度はちゃんと迎えにいくから≫

 

 

 

頭の中で聞こえる杏子の声。

優しい声だけど有無を言わせない強制力のようなものが含まれているようだ。

 

 

スーッと煙のように杏子は跡形もなく消え去り、あとには彼女を拘束していたリボンだけが取り残される。

 

 

どうやら杏子はいつの間にか封印していた幻術の魔法を復活させていたらしい。

普段なら頼もしいが今は厄介だ。

 

 

これからどうしよう?

 

 

そういえばシロべえは?

あ!いない!あの野郎逃げやがったな!

あいつマジで何しに来たんだよ!?

 

 

「優依ちゃんもう大丈夫よ。佐倉さんは逃げたみたいだわ」

 

 

周囲を警戒していたマミちゃんとほむらだったがしばらく経ってようやく武器を下ろす。

しかし二人とも顔はとても険しかった。

これからどうするか話し合っているのが何となく聞こえる。

 

 

「はあ・・」

 

 

緊張から解放されどっと疲労が出てきて立っていられない俺はそのまま床に座り込んでしまう。

 

 

危機は去ったみたいだけど・・疲れた。

 

・・誰か、水・・下さい。




相談者Y
災厄が近づいてきてるのに、友達の女の子たちがそれそっちのけでガチの殺し合いしてます。
いつか自分に火の粉が飛んできそうで怖いです。
どうやったら平穏が訪れるのでしょうか?
アドバイスをください。


回答

自業自得です。
諦めてください。


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83話 作戦ターイム!

杏子ちゃんに会う前シロべえ:

よし準備バッチリ!
ほむらとマミもいるし、これなら勝てる!


杏子ちゃん会った後シロべえ:

無理無理無理無理!
赤怖い!超怖い!
僕が甘かった!危うく殺されるとこだった!
二度と会いたくない!


「皆お疲れ様。今日は災難だったね」

 

「そうだね。一番の災難はどっかの白い奴が途中でトンズラしやがった事かな」

 

「トンズラとは失礼な。戦略的撤退と言って欲しいね。あ、君の家の戸締りはきちんとしておいたし、壊滅状態だった公園は元通りにしておいたよ」

 

「物は言いようだなおい。取りあえず助かるけどそれでトンズラした事チャラになると思うなよ」

 

 

ちょこんと座ってさも当然のように開き直るシロべえを冷たい目で見下ろす俺。

 

 

何でここにいるんだコイツ?

何でここまで開き直れんのコイツ?

 

 

杏子騒動の後、俺が自宅に帰るのは危険とマミちゃんとほむらに判断され、マミちゃんの家でお泊りとなった。(何故かほむらがマミちゃん宅に泊まるように促して俺ビックリ)

 

まあ、我が家に不法侵入されたので、家に帰ったらまた赤がスタンバってる可能性があるから安全を考慮すると仕方ないかもしれない。

 

文句はないが、ここ最近ずっとお泊りばっかで自分のベッドの感触を思い出せなくなってきているのが悲しい今日のこの頃。

 

 

いつになったら自分のベッドで寝られる日が来るのだろうか・・?

 

 

そんなこんなで黄色と紫に連れられる形でマミちゃんホームの扉を開けたら裏切り者の白に出迎えられたという訳だ。そして上記の会話となっている。

 

 

開き直るシロべえはいつだって腹立たしい限りだ。

 

 

静かなる喧嘩は継続したかったが、早く中に入りましょうというマミちゃんのもっともな提案によってリビングに移動した三人+一匹。

 

そしてまたまたマミちゃんの提案によって急遽お茶会を開催する事になり黄色と紫が準備に勤しんでいる間も俺はひたすら不機嫌だった。

 

 

何寛いでんだシロべえこのヤロウ。

 

 

 

 

 

「はい優依ちゃん。これを飲めば少しは気分が落ち着くわよ」

 

 

「お、ありがとうマミちゃん」

 

 

マミちゃんから手渡された紅茶は香りが良く、一口飲むと疲れとともに荒んでいた心が解れていく。

さっきのイザコザが嘘みたいな穏やかな空間が流れている。

 

 

俺よく生きてたなぁ・・。

 

 

 

「優依ちゃんどうして泣いてるの!?」

 

 

「へ・・?あれ・・?」

 

 

マミちゃんが慌てて俺の目元にハンカチを当てるとそれを合図にしたかのようにとめどなく涙が溢れてくる。

ようやく落ち着く事が出来て我慢してきたものが涙となって出てきてしまったようだ。

 

でもこれは仕方がない事だ。

今までが理不尽過ぎたのだ。

 

 

ホントによく生きてたよ俺!

理不尽に理不尽が重なって何度死ぬ思いした事か・・!

それなのに俺の頑張りはほぼ報われなくて心が折れそうに何度もなったんだ。

 

 

自分で自分を褒めてあげたいよ!

頑張ったな俺!辛かったな俺!

 

 

「よしよし優依ちゃん。怖かったわね。気が済むまで泣いていいのよ」

 

「マミちゃん・・!」

 

 

マミちゃんの優しい言葉に感激した俺は勢いのままその豊満なボディに飛び込もうとするも首元が苦しくなり、「ぐえ!」と蛙が潰れたような声が出た。

 

 

何だ?と思いつつ後ろを見ると冷たい目をしたほむらが俺の襟首を掴んでいた。

 

 

「さっさと泣き止みなさい。作戦会議を始めるわよ」

 

 

それだけ告げて俺の顔にハンカチを叩きつけてきた。

 

 

おいいいいいいいいいいいいいいいい!!

 

ほむらには俺の涙は見えてないの!?

コイツに血も涙もねえのかよ!

ちょっとくらい感傷に浸っても良くない!?

 

俺メンタルガタガタよ?作戦会議どころじゃねえよ!?

 

 

目をハンカチでを押さえて涙を耐える俺にこの紫はブラック企業も真っ青のスパルタでロクでもない事を言ってくる。そのせいで消えたと思っていた疲労がドッと出てきて顔がげっそりとやつれていきそうだ。

 

 

てか、このハンカチってほむらのじゃね?

やべ・・汚しちゃった。

 

 

「ちょっと暁美さん。優依ちゃんは今日一日佐倉さんのせいで大変な思いをしたのよ。少しくらい休ませてあげないと身体壊しちゃうわ」

 

 

マミちゃんが俺を庇うように抱きしめてほむらに抗議してくれる。

それはありがたいが、俺が大変な思いした原因の二割はマミちゃん、君だからね?

そこは理解して欲しいところだ。

 

 

「マミ、優依をあまり甘やかしちゃだめだよ。結局あの大乱闘の全ての原因は優依にあるんだから自業自得だよ。それにこのヘタレのペースに合わせてたらいつまでも進まないからさっさと話を進めてしまうに限るよ」

 

「この・・!」

 

「シロべえの言う通りよ。私達に残された時間はあまりない。問題が山積みなんだから対策を練られる内にしておかないと」

 

「悪魔共めぇ・・!」

 

 

普段は仲悪くても俺を苛める事に関しては息の合ったコンビネーションをしてくる白と紫の悪魔コンビに怒りを込めて睨む。

 

 

しかし効果は全くない。

ほむらは目を閉じて紅茶を飲み、シロべえは何事もなかったかのようにクッキーを齧っている。

滅茶苦茶ムカつくが一番ムカつくのはクッキーを齧る音だ。

サクサクすんな!

 

 

言葉では駄目だ。

ほむらに向かってテレパシーで「今日は疲れたから休もうよ」と訴えてみる。

 

 

「話を戻すわよ。結論から先に述べるとあの佐倉杏子を引き入れるのはかなり難しそうね」

 

 

俺の願いは届かなかった。

何もなかったかのように話を進めて来るほむらに涙が出そうだ。

 

 

しかも話そうとしてる内容は今の頭痛の悩みになりそうな杏子の話。

心が折れそうだ。

 

 

「・・難しいというよりほぼ不可能なんじゃね?」

 

 

さっさと終わらせた方が楽そうだ。

なので仕方なく俺も話し合いに参戦する。

といっても至極平凡は意見だが。

 

さっきの杏子を見てどうして仲間に引き入れる事が出来ると思えるのだろうか?

未だに諦めていないのが凄い。さすがの忍耐強さ。

俺なんてほとんど諦めてるのにすごいなぁ。

 

 

「ねえ暁美さん、どうしても佐倉さんを味方に引き入れないとダメなの?私達だけでワルプルギスの夜を倒す事は不可能なの?」

 

 

俺と同意見がもう一人いるらしい。

マミちゃんが言い難そうに顔を歪ませてほむらに聞いている。

 

 

どうやらマミちゃんも杏子を仲間にするのは無理だと判断したようだ。

 

無理はないと思う。

あの杏子を見て仲間になってくれると思う方が無理があるわ。

ほむらは何で未だに諦めてないのか逆に気になるが、どうする気だろうか?

 

 

俺とマミちゃんの視線がほむらに注がれる。

何気にプレッシャーが凄いと思うが一切表情を変わらない。

 

 

「はっきり言って私達だけで『ワルプルギスの夜』を倒すのは不可能よ。一度まどかと美樹さやかを含め五人の魔法少女で挑んだ事があったけどそれでもあいつを倒せなかった。それを考えると私達だけじゃ心許ないの。どうしても佐倉杏子の力がいる」

 

「え?ちょっと待って?五人そろっても勝てなかったんなら倒すの無理じゃね?」

 

「同じ轍は踏まないわ。何度も戦っているからある程度の攻撃パターンは分析しているし、この時間軸にはイレギュラーもいるから倒せる可能性はある」

 

 

ほむらは俺と近くにいた(寛いでいた)シロべえを交互に見つめてくる。

イレギュラーとは俺たちの事を指しているらしい。

 

確かに俺たちは他の時間軸には存在しない。

今までの時間軸にいなかった俺たちがいるからひょっとしたら・・とほむらは可能性を見出しているのも頷ける。

 

 

頷けるがこいつは俺に何を期待してるんだ?

 

 

シロべえは活躍してくれると思うが、ぶっちゃけ俺は役立たず確定なんだけどマジで何の期待してんの?

まさかとは思うけど魔法少女になって『ワルプギスの夜』を倒してくれとかじゃないよね?

 

 

だとしたらトンズラするぞ俺。

 

 

「暁美さんの言う通り、ここには優依ちゃんとついでにシロべえがいる。確かにそれは心強いかもしれないけど、私にはどうしてもあの佐倉さんが協力してくれるとは思えないわ」

 

 

マミちゃんが杏子の加入に難色の示して食い下がってくる。

 

 

そんなに杏子を味方に引き入れたくないのだろうか?

 

今回の杏子の異常性を見て今までの未練に見切りをつけてしまったのかもしれない。

寂しい事だが仕方がない事だ。

 

俺だって無理。

杏子と二人っきりになったら気絶するかもしれない。

というかこれから先、平常心を保ったまま杏子と会える自信がないぞ。

それだけ今回の出来事は俺の中でトラウマとして形成されてしまったらしい。

 

 

 

 

「佐倉杏子を味方に引き入れる方法は一つだけあるわ」

 

 

 

 

諦めモードな現状を打破するようにほむらは静かに告げる。

 

 

「え?あるの?」

 

「ええ、かなり成功率が高いと自負しているわ」

 

 

普段何気にネガティブワードが多いほむらが珍しく自信に溢れていて目を見開く。

 

驚いたが今のこの予想外な事が続く先行き不安定な時にありがたい。

こちらとしては藁をも縋る思いだ。

 

 

「それで!?その方法って何!?」

 

 

希望を持ってテンション高めにほむらの方に身体を向けて目を輝かせる。

 

 

「簡単な事よ」

 

 

もったいぶった様子で少し間を置いたほむらはようやく口を開いた。

 

 

 

 

「優依を簀巻きにして佐倉杏子に差し出すのよ」

 

 

 

 

「・・・ん?」

 

 

「そしたら間違いなく協力してくれるでしょう。全て丸く収める最良の手段よ」

 

 

「収まるかああああああああああああああああああああ!!」

 

 

部屋全体が震えるような俺の全力絶叫が木霊する。

 

 

まさかの俺犠牲作戦!絶対丸く収まらない!

それどころか余計怒りを煽るだけだ!

状況が悪化する上に俺の生存率絶望的じゃねえか!

 

スケープゴート確定してんじゃん!

 

 

「俺の身の安全は!?なに真顔で恐ろしい事言っちゃってんの!?」

 

「僕もほむらに同意見だよ優依!」

 

「え!?」

 

 

思いもよらぬシロべえの賛同にギョッとする。

 

さっきまでソファで寛いでたくせにちゃっかりほむらの隣に移動してる。

まさかの裏切りだ!まさかの!

 

 

「佐倉杏子は(例外を除いて)君を傷つけたりしない。僕が保障しよう。まあ、心は死んでしまうかもしれないけどね」

 

「何それ!?心が死ぬってどういう事!?俺、杏子に何されんの!?」

 

「さあ?ナニされるんだろうね?」

 

「何だその含んだ言い方は!?絶対嫌だぞ!おい近寄んな!まさか本気で実行する気じゃないよなお前ら!?」

 

 

ジリジリと俺に近づいてくる紫と白。

その不穏なオーラに気圧されて無意識の内に後ずさりしてしまう。

 

 

この外道コンビホントに息ぴったり過ぎて腹立つな!

 

 

「少しの間だけよ優依。『ワルプルギスの夜』を倒すにはどうしても佐倉杏子の力が必要なの。大丈夫。必ず貴女を迎えに行くわ。佐倉杏子に汚された身体は私が癒してあげるから」

 

「いるか!そもそも差し出そうとすんな!俺を差し出すより絶対もっと良い方法あるだろうが!俺単独であのバーサーカーの所に行くとか死ぬから!」

 

「ちょっとだけでいいから我慢してちょうだい」

 

「嫌だって言ってんだろ!何だその嫌がる子供を無理やり歯医者に連れて行こうする言い方は!? っ!」

 

 

ドン、背中に固いものが当たる。

とうとう壁まで追い詰められてしまったらしい。

 

その間にも外道共が俺を捕まえようと迫ってくるので本気で泣きそうだ。

 

 

「~~~~~~っ !」

 

 

 

ほむらの小さい手が俺に触れる瞬間、横からとても柔らかいものに包まれる。

その正体はマミちゃんで俺を抱きしめつつギッと一人と一匹を射殺すような目で睨んでいる。

 

 

「ダメよ!絶対ダメ!優依ちゃんを佐倉さんに渡すだなんて絶対許さないわ!」

 

 

メンタル脆いとはいえ普段温厚なマミちゃんが声を荒げるなんて珍しい。

 

それほど怒ってくれているという事か。

ありがとう!この中でまともなのは君だけだよ!

君こそまさに俺の救世主様だ!

 

 

「優依ちゃんを何だと思ってるの!?見損なったわ!」

 

「落ち着いてマミ。優依を渡すのは一時の事で後は・・」

 

「一時でもダメ!その間に優依ちゃんが佐倉さんに傷物にされてしまったらどう責任を取る訳!?」

 

 

シロべえが何とかマミちゃんを宥めようと試みるもスパッと一刀両断される。

 

それと同時に俺の身体に包む密着度が増していく。

非常に抱かれ心地が良いがかなり苦しい。

 

というか傷物って何?

そこまで杏子にボロボロにされる訳?怖っ!

 

 

 

「どうしても私から優依ちゃんを引き離す気なら・・」

 

 

「! げ!」

 

 

 

 

「貴女達の息の根を止めてでも優依ちゃんを守ってみせるわ!」

 

 

 

 

ほむら達に向けられる無数の銃。

 

それらは今にも発砲してしまいそうだ。

 

 

マミちゃんの表情は刺し違えてでも目的を果たそうとする悲痛めいたもので覚悟の程を伺える。

 

 

違った!俺の認識が甘かった!

 

全然まともじゃないわこの娘!

むしろ外道共より内心思い詰めてんじゃないの!?

 

 

魔法少女にまともな奴なんていなかった!

破滅を呼び寄せてばっかだよ!

 

 

庇ってくれるのはありがたいけど、こんな部屋の中で銃撃なんてたまったもんじゃないし、俺も危ない。

一刻も早く止めた方がいいだろう。

 

 

「ちょ、マミちゃん落ち着いて!止めるって行動じゃなくて息の根の方なの!?早まらないで!!」

 

 

マミちゃんの腰に抱き付いて意識をこちらに向けさせる。

それのおかげかマミちゃんはハッと我に返って俺の方に顔を向けている。

 

 

「優依ちゃん・・」

 

「そうよ。落ち着いて巴さん。少しからかい過ぎたみたいね」

 

 

嘘つけてめえ!

殊勝な事言ってるけど実は本気だったよな!?

ガチで簀巻きにするつもりだっただろうが!

俺を追いつめていた時のマジな目が全てを語っていたもの!

 

ほむらの堂々とした嘘にドン引きだ。

 

 

しかしこれで騙されるのがマミちゃん。

「本当・・?」と半信半疑な顔をしている。

というか既にほとんど騙されている状態だと言っていいだろう。

 

 

「ええ、本当よ。あの佐倉杏子に正直に優依を渡す気は更々ないわ」

 

「・・その言葉を聞いて安心したわ。ごめんなさい。早とちりしてしまって」

 

 

ほむらのほぼ棒読みな謝罪を真に受けたらしくほっとした表情で銃をあっさりしまっている。

 

ある意味これがチョロインの宿命かもしれない。

将来悪い奴に騙される未来が確定しそうで俺泣きそうだよ。

 

 

あれ?そういえばシロべえは・・?

あ、気絶してる・・。

 

 

妙に静かだなと不思議がってシロべえを見たらビビり宇宙人は床でゴロンと寝そべっていた。

どうやらモノホンの殺気を直接ぶつけられて恐怖のキャパオーバーを起こしたらしい。

そっと触れてみたけど目を覚ます気配はない。

 

 

そんな白を全く気に掛ける様子もない魔法少女たちは話は続けていく。

 

 

「仮に優依ちゃんを差し出したところで佐倉さんは約束を守らないと思うわ。『ワルプルギスの夜』は彼女には関係ない事だし優依ちゃんを連れて見滝原を去るはずよ。そうなったら彼女を探し出すのは困難だわ」

 

「その点についてはちゃんと考えているわ。確かこのビビりインキュベーターは本人と寸分違わずなそっくり人形を作りだせるらしいじゃない。それを応用して優依ソックリ人形を杏子に渡せばいいのよ。その間、本物の優依を私の部屋へ隠せば問題ないわ」

 

「色々問題あるわ!魔法少女としてじゃなく人として問題ありまくりだ!これもし杏子に偽物だってバレたら大惨事だぞ」

 

「その時は開き直ればいいのよ。『優依に会いたければ協力しなさい』ってね。何か異議があるのかしら?」

 

 

異議しかないわ!

作戦のそれがインキュベーターの外道な部分と大差ないんですけど!

俺のソックリ人形って多分身代わり君の事言ってるんだろうけどボロボロになってる末路しか思い浮かばないぞ。

俺自身は無事だけどそんな光景見たら心は絶対無事じゃない。

 

しかも杏子を軽く脅すっぽいし。

(脅しになってるかどうかはともかくだが)

 

 

ほむら何でこんな非道な事思いついたんだ?

度重なるループで吹っ切れたのか?

もしくはシロべえの悪影響でも受けたか?

 

どっちにしろロクでもねえ!

 

 

「異議ありだわ!どうして私の部屋じゃなくて暁美さんの部屋なの?匿うなら私の部屋でも良いじゃない!」

 

「そっち!?」

 

 

何堂々と手を上げてどうでも良い所に異議立ててたんだこのクルクル!

他にもっと異議申し立てする所あったでしょうが!

 

 

「だめよ。貴女の部屋は佐倉杏子にバレてるもの。ここに優依を匿ってもいずれ見つけられるわ。だったら私の所しかないじゃない」

 

「そうだけど・・」

 

「いや、そもそも偽物だろうが俺を差し出すのやめて欲しいんですけど」

 

 

こいつ等話を脱線し過ぎだろうが。

一体何の話してんのか分かんなくなってきたぞ。

 

 

「・・話を戻すわ。佐倉杏子の協力を得るためにはちゃんとした作戦が必要よ。優依人形を差し出す作戦を実行するにしてもまずは彼女と接触する必要がある」

 

「まあ、俺(身代わり君)を差し出す作戦はともかく接触する必要はあるわな・・」

 

「ええ、そこで提案なんだけど」

 

「?」

 

「ここからは個別行動をとりましょう」

 

「え!?・・それってどういう・・?」

 

「佐倉杏子と接触してみるわ。そうね、表向きは彼女と協力関係を結んで近くで見張るのが最善かもしれない」

 

 

まさかの危険なスパイ活動を志願するほむら。

 

死ぬ気だろうか?

原作や他の時間軸ならまだしもあの杏子は果たして生きて帰ってこれるか?

 

 

「貴女一人じゃ危険だわ。私も・・」

 

「いいえ、私一人で行くわ」

 

 

マミちゃんもほむらが危険なのは分かっているのだろう。

同行を提案したがほむらはすっと手を出して拒否している。

 

 

「親切を無下にしてごめんなさい。ただでさえ気が立ってる佐倉杏子を刺激したくないの。それに巴さんが行けば必ず警戒されてしまうし最悪また戦闘になるだけよ。かと言って優依が行けば、二度と帰ってこれないでしょうから却下。消去法で私が行くしかない」

 

 

マミちゃんの同行を拒否する理由は分かる。

実際、赤の前に黄色が現れればどんな結末になるか俺でも予想が着くし。

ほむらの考えに俺も賛成だ。

 

話は関係ないけど個人的に気になる事があるんですが。

 

俺が杏子の所に行けば二度と帰ってこれないってどういう事ですか?

何?俺殺されんの?どういう事?

 

聞いてみたい気もするが藪蛇感が凄そうなので聞くのはやめておいた方が良いだろう。俺の安全のために。

 

 

一人身震いする俺をほむらはニコッと笑っている。

その笑顔に俺はさっきよりも背筋が凍りそうだ。

 

 

「そこまで心配する事ではないわ優依。私はこの時間軸の佐倉杏子とはほとんど面識がないし、比較的敵対していない。それにいざとなれば逃げる事も可能だわ」

 

「いやお前、杏子に思いっきり発砲してたよね?思いっきり杏子に殺されそうになってたよね?時間停止妨害されてたじゃん」

 

 

思い返されるのは先程までの公園でも乱闘騒ぎ。

躊躇なく杏子に発砲して、お互い殺し合ってたと記憶しているが・・。

 

しかも最終的に杏子に追い詰められてあわやトドメさされそうになってた気がするんだけど。

 

 

「問題ない。あの時のようなヘマはしないわ。それに元々彼女と接触するつもりだったから」

 

 

自信があるのかほむらはきっぱり言い切った。

 

 

どこから湧いてくるんだろうかこの自信は?

問題ないとか言ってるけど本当に言ってる事の意味が分かっているのだろうか?

 

単身あのバーサーカーの所へ殴り込むって言ってんだぞ。ラスボスに特攻しにいくようなもんだ。

 

ここまでの危険を冒す理由はまどかを救いたいという思いなのは間違いないがもう軽くドン引きレベルです。

 

 

最終回のまどかよ、よく引かなかったな。

流石神様になっただけはあるわ。俺には絶対無理。

 

 

ほむらのこの態度、さながら「ホムの樹」と呼んだ方が良いかもしれない堂々さだ。

あ、だめだ。この名前で呼んだらオムライス食べたくなってくるから却下。

 

 

「うーん・・」

 

 

色々考えてみたが他に作戦がない以上やるしかなさそうだ。

不安要素だらけでぶっちゃけ不安しかないがどうしようもない。

 

多少、いやかなり引っかかるがここはほむらを信じてやるしかないだろう。

 

 

「ほむらがそう言うなら任せた方が良いのかも。マミちゃんは?」

 

 

俺はともかく杏子が絡んでいるため、念のため元師匠でもあるマミちゃんにも確認を取っておいた方が良いだろう。

そう思って彼女の方を振り向くと内面の複雑な心境を表すかのように眉間に皺を寄せて難しそうな顔をしていた。

 

 

「・・・私は優依ちゃんの意見に従うわ。・・でもあまり期待は出来そうにないわね。いつでも変身出来るようにソウルジェムを手に持っておかないと」

 

「ええ、もしもの時は力づくでも言う事を聞かせるつもりよ。この時間軸の佐倉杏子は幻術を使えるみたいだし、慎重にしないと」

 

「さっきも言ってたけど幻術が使えるってどういう事?ひょっとして佐倉さんは使えなかったの?」

 

「ええ、彼女は家族の悲劇のせいで無意識に自分の願いを否定、魔法を封印してしまったの」

 

「・・・そうなの」

 

 

マミちゃんが何やら思いつめたように考えている。

もしかしたら杏子の事を考えているのかもしれない。

 

そういえばマミちゃんは杏子が魔法使えなくなったの知らなかったんだっけ?

殺し合いしてたとはいえ、やっぱり最初の後輩だから気になるのみたいだ。

 

今も表情は悲痛なままだし、考え事してるみたいでこっちを見ようともしない。

 

 

「?」

 

「行ってくるわ優依。私が無事に戻ってくる事を祈っておいて」

 

 

ほむらがギュっと俺を抱きしめてくる。

それも俺が潰れない程度だがかなり強い力で苦しい。

 

 

「必ず帰ってくるわ」

 

「あ、うん。いってらっしゃい・・」

 

 

決意めいた表情で背中を向けるほむらを見送った。

 

 

もはやほむらにとって杏子は危険人物認定なんですね・・

 

 

まあ、ほむらの事だ。

何とかしてくれるだろう。

 

今は信じて待つしかないだろう。

 

 

ほむらを見送った後、俺は床に目を向ける。

 

 

「・・・・・」

 

 

おいシロべえ、いつになったら起きるんだ?

 

はよ起きんかい!

お前への折檻はまだ終わってねえぞ!




次回予告
ほむほむスパイ作戦!



マギレコアニメで杏子ちゃんキター!
リアルタイムで見てテンションMAX!
興奮して眠れませんでした!


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84話 ヤバい奴+ヤバい奴=超ヤバい展開

投稿が遅れた理由

三連休
 ↓
よっしゃ!投稿するぞ!
 ↓
友人から「鬼滅の刃」を勧められる
 ↓
何これ!?面白い!
 ↓
三連休、「鬼滅の刃」三昧のち三連休終了
 ↓
ああ、面白かった!
明日からまた頑張ろう!
 ↓
月曜日:・・あれ?何か忘れてるような?
 ↓
火曜日:あ・・投稿忘れた・・
 ↓
水曜日:今に至る
 


※すいませんでしたああああああああああああ!!


ほむらside

 

 

 

相変わらずうるさい場所ねここは。

 

 

ガヤガヤと深夜であるにも関わらず耳が遠くなりそうな電子音が奏でる音と相変わらず目に優しくない光。

何度ここを歩いたか分からない程来ているのに未だに慣れない。

 

 

私がここに来た理由はただ一つ、佐倉杏子に会うため。

 

 

今日二回目となるゲームセンター、一度目にここに来た時は彼女は不在で空振りになってしまった。

理由は簡単、佐倉杏子はここにいなかったからだ。

 

空振りだけならまだ許せたかもしれない。

でも私がゲームセンターで探している間、杏子は優依の家に堂々と不法侵入した挙句、拉致未遂まで起こしている。

 

 

腹立たしい・・!

 

一歩間違えれば優依は連れ去られていた。

彼女の身勝手な行動と自分の不甲斐いなさへの怒りでどうにかなってしまいそう・・。

 

 

慌てて優依の元へ向かったから何とか阻止出来てそこは幸いだった。

もしそのまま連れ去られていたら私は絶望して魔女と化していたかもしれない。

 

 

ぞっとするわ・・。けどもう大丈夫。

絶対安全とは言えないけど優依を巴マミの所へ預けてきたからそう簡単には手出しできない・・はず。

 

 

佐倉杏子が優依の拉致に失敗してしまった以上、ここにいる可能性が高い。

流石にもう優依の家には現れないだろうし、経験上あの娘はイライラした時にそれを発散するようにゲームにのめり込む事が多いから。

 

もしまたここにいないのなら魔女に八つ当たりしているだろうから、気配を追うだけ。

 

 

でもここで間違いなさそう。魔力の反応がするもの。

それも魔法少女のもの。高確率で彼女のものだ。

 

 

佐倉杏子といえばやはりダンスゲーム。

彼女と接触を図ろうとすれば大概そこにいる。

 

 

「・・!」

 

 

 

目的の場所付近に来ると聞きなれた音楽が聞こえてくる。

 

佐倉杏子がダンスゲームでよく踊っている曲だ。

 

 

すぐさま姿を確認して話しかけたいけど、さっきの戦いの杏子の様子じゃいきなり攻撃してくる可能性も否めない。

警戒も込めて様子を見るために近くにあったゲーム機の物陰に隠れてダンスゲームがある場所を覗き込んだ。

 

 

 

 

「・・やっぱり」

 

 

 

・・いた。佐倉杏子だ。

 

 

ここからだと背中しか見えないが軽快な動きでポニーテールを揺らしながらステップを踏んでいる。

こっちに気付いていないのか振り向く様子はない。

 

 

「・・・・ふう」

 

 

彼女の姿を確認した後、一度頭を引っ込めて大きく息を吸う。

 

 

 

どうやら無意識に緊張してしまっていたらしい。無理もない。

これから話しかける相手は未知の相手だから。

 

 

私の知ってる佐倉杏子は多少乱暴な面はあったが利害が一致すれば協力関係を結べるほど話が通じる常識面と理性があった。口下手で事情を話せない私の説明でも彼女は目を瞑ってくれていてとても気が楽だった。

 

だから他の魔法少女よりも彼女と組むことが多かったとも言える。

真っ先に勧誘するのは決まって杏子だったと言えるほど。

 

 

しかしこの時間軸の佐倉杏子は明らかに今までとは違う。

 

これまで遡行してきたどの時間軸の彼女よりも攻撃的で凶暴な性格。

全く話が通じない上に、背筋が凍るような狂気すら感じる。

 

 

杏子が変貌してしまった原因は優依だと私は確信している。

 

 

シロべえから聞いていたけどこの時間軸の佐倉杏子はあの娘に異常な程執着しているらしい。

何となくそうだろうなと思っていたけど実際に目にするとその異常性が浮き彫りでこっちがぞっとする程だった。

 

 

よく優依はあの杏子と一緒にいれたわね。

あの娘なら怯えていそうなものなのに。

いえ、それを上回る鈍さのせいで全く気付いてないのかもしれない。

でもそれは今日まで。

 

誘拐未遂なんてやらかしたもの。

優依は杏子に怯えている。良い気味だわ。

 

 

でも佐倉杏子の方は本気になってるはず。

あの娘を手に入れるために次は手段を選ばないでしょうね。

 

 

危険だわ。優依を杏子から守らないと。

 

 

あの娘を守れるのは私だけ。

優依の全てを知ってる私があの娘を危険に晒す全てから守ってあげなきゃ。

 

 

・・それも大事だけど『ワルプルギスの夜』を倒す事も重要な事。

不本意だけど杏子も戦いに加わってもらわなければ勝ち目はない。

ここは我慢しなきゃ。

 

 

 

「・・・よし」

 

 

深く息を吸って呼吸を整えた後、口をきゅっと結んで気を引き締める。

 

失敗は許されない。

一歩でも間違えばこの計画は破綻してしまう。

 

そうなれば『ワルプルギスの夜』を倒す貴重な戦力が減ってしまうのは明白。

 

 

今この瞬間、私の行動全てにかかっている。

 

 

 

頑張らなきゃ・・!

 

 

まどかを守るため、そして優依を守るために!

 

 

 

意を決して身体をゆっくりとゲーム機から離れて、赤い髪が揺れる背中の前に立つ。

相変わらず佐倉杏子は私に背中を向けながらステップを踏んでいた。

 

気づいているでしょうけど声をかけなきゃ。

 

 

 

 

「よお、また会ったな」

 

 

 

「! ぅ!?」

 

 

 

私が口を開くより先に背後から声がして慌てて後ろを振り返ると首に衝撃が走る。

 

 

 

 

「が・・ぐぅ・・!」

 

 

 

苦しい!息が出来ない!

何かで首を絞められてる?

 

 

 

すぐさまその場から離れようと試みるも足が地面に着いていないのかバタバタ宙をかくだけで苦しさが軽減する様子はない。

 

 

「こそこそ隠れて様子を伺うなんて趣味悪りぃな」

 

 

すぐ近くから杏子の声が聞こえる。

薄っすら目を開けて確認すると冷えた赤い瞳と目が合った。

 

 

一体何がどうなってるの・・?

 

 

 

窒息しそうなほどの息苦しさ

 

突如高くなる視界

 

好戦的な笑みで私を見下ろす佐倉杏子

 

 

 

 

状況を理解しようと五感を研ぎ澄ませて、ここでようやく私は佐倉杏子に首を絞められている事に気付く。

 

 

 

でも、どうして?

 

 

彼女は私の背中を向けて今もゲームを・・?

 

 

今も聞こえる音楽の方に目を向けると赤い髪を揺らしてステップをする杏子の背中が見える。

 

 

「・・?」

 

 

「・・ああ、あれか。まんまと引っかかってくれたな」

 

 

私が咄嗟に見ていたものを首を絞めている杏子は横目で確認し、ニヤリと笑っていた。

 

 

「!」

 

 

目を見開く。

 

ダンスゲームをしている杏子の姿がぼんやりと透けている。

彼女の姿がが徐々に薄れてきて、やがて何もなかったかのように消えてしまった。

 

 

さっきまで杏子がゲームをしていた痕跡である電子音の音楽はただ虚しく曲を奏でている。

 

 

「幻・・?」

 

「そうだよ。疑問は解決したかい?」

 

 

悪戯が成功した子供のような態度で私を見上げている。

 

 

また騙された・・。

 

 

何度も時間を繰り返しているから佐倉杏子は幻術を操る事は知っていたけど実際見たことがなく今回が初めて。

そのせいで耐性がないからか一度だけじゃなく二度も簡単に騙されてしまったらしい。

 

しかも彼女は私に触れている。

これじゃ時間を止めても杏子には効かない。

 

ギリッと歯を噛んで悔しさを押し殺して表情に出さないようにするのが精一杯。

 

 

「さぁて質問だ。ここに何しに来た?」

 

「・・・・」

 

「アンタはゲームするようなタイプに見えないんだど。まあ、察しはつくぜ?大方マミ辺りにアタシを見張れって言われてきたんだろ?」

 

「!」

 

 

グッと首を絞める力が強まって意識が飛びそうになる。

 

 

 

まずい!首の力が徐々に強まっていってる。

このままじゃ私は殺される!

 

 

「待っ・・私、は・・貴女に用事が・・」

 

 

首を絞められて思うように声が出ない。

それでも何とか言葉を紡いで佐倉杏子の意識をこちらに向ける事に成功したらしい。

彼女は冷めた目で私を見上げていた。

 

 

「あ?用事って何だよ?」

 

≪この街を貴女に任せたい≫

 

 

声が思うように出ない以上テレパシーを使うしかない。

いつまで意識を保っていられるか分からない。

そうなったら私の身は佐倉杏子の意思一つでどうにでも出来る。

 

 

それまでに一刻も早く本題に入らないと・・!

 

 

≪魔法少女は貴女のような娘が相応しい。この街は貴女のものにして構わないわ≫

 

「はあ?さっきはアタシの邪魔しやがったくせに今度は街をくれてやるだぁ?信用すると思ってんのかい?」

 

≪・・・・・≫

 

「本当の事言わない気か?ならこうするしかねえな」

 

≪っ!≫

 

 

ぼーっとしてきた意識が突如目の前に現れたもので覚醒する。

 

至近距離に見えるのは赤い槍。

血のように赤く鋭いそれを杏子は私の首元に向けている。

金属の冷たい感触が肌に伝わり、チクリとした痛みを感じる。

 

 

「アンタが正直になれるようにどこを抉ってやったらいいかな?その済ました目?生意気な事をほざく舌?それとも可愛い優依に触れようとするその汚ねえ手足をズタズタにしてやって動けなくするとかもいいな。飽きたら使い魔の餌にしてやるのも悪くないかもね」

 

 

楽しそうな声なのに私を見るその目は全く笑っていない。

元々目つきが悪い彼女だけど今は比べ物にならない程の鋭い目。

 

 

憎悪

 

 

赤い瞳はその感情に塗り潰されているかのように黒く淀んで見える。

 

 

 

殺される・・!

 

 

 

≪待って!話を聞いて!≫

 

 

気づけば私はそう叫んでた。

 

 

何でもいい。すぐにでも杏子の気を逸らさなければ!

彼女は本気だ。本気で私を殺そうとしている!

 

 

時間停止が使えない今、私に出来る事はあまりにも少ない。

やるだけはの事をしないと殺されてしまう。

 

 

≪二週間後にワルプルギスの夜が来る!≫

 

「・・・」

 

 

表情は変わらなかったがほんの少しだけ私の首を絞める力が弱まっている。

 

 

 

この機を逃すわけにはいかない!

 

 

≪そうなったら街を任せるも何もないの!協力して欲しい!それを倒せば私はこの街を出ていくから!≫

 

「・・何故分かる?」

 

≪・・それは秘密よ。でも『ワルプルギスの夜』は確実に来る。この街を守るために貴女に協力して欲しいの≫

 

 

いくら見滝原が魔女狩りに最適でも壊滅してしまえば意味がない。

リスクとメリットを考えても興味はあるはず。

実際他の時間軸の彼女はそれで首を縦に振ってくれていたのだから。

 

 

 

「ふーん、別にどうでもいいや」

 

 

≪・・え?どうでもいいって貴女・・≫

 

 

言われた言葉の理解が追いつかなくて混乱してくる。

そんな私を杏子は興味なさそうに見上げていた。

 

 

「だってアタシはこの街に生まれた訳じゃないし関係ないね。優依を連れてさっさとこの街を出ていくだけさ。優依以外の誰が死のうがどうでもいい」

 

「・・っ」

 

 

息苦しいのも忘れて絶句する。

 

やっぱり目の前にいる佐倉杏子は今まで出会った彼女とはあまりにも違い過ぎる。

殺し合った仲とはいえ巴マミをこうも簡単に切り捨てるなんて・・。

 

 

限りなくそっくりなだけで同一人物ではない。

そんな事は頭では分かっていたけど改めてその大きな違いを痛感する。

 

 

「もうお喋りは終わりかい?だったら次はアタシに付き合ってくれよ。今ムシャクシャしてるんだよねー。・・徹底的に痛めつけてやるよ。二度と人前に姿を見せられないほどに。お前の次はマミだ」

 

 

グッと突きつけられた槍が肌に少しだけ突き刺さってるみたいで痛みを感じる。

 

 

「貴女・・それ・・」

 

 

「あ?」

 

 

苦しむ中、うっすら視界に入ったものを見て目を見開く。

私が見ている方向に佐倉杏子も目を向けている。

 

 

「ああ、ソウルジェムの事か」

 

 

佐倉杏子のソウルジェムが濁っている。

それも元の赤色だと分からない程のドス黒さ。

 

これ以上濁ればすぐにでもグリーフシードになってしてしまいそうな程黒い・・!

 

 

「何してるの!?早く浄化しないと!」

 

 

真っ黒なソウルジェムを見ても何の反応も示さない杏子に焦りを覚えつつ、すぐさま持っていたグリーフシードを差し出した。

 

だけど彼女はそれを視線をよこすだけで受け取ろうとしない。

 

 

「早く受け取って!」

 

「いらねえよ」

 

「何を言ってるの?貴女そのままだと取り返しのつかない事になるのよ!」

 

「使っても意味ねえよ。さっきからずっとグリーフシード使ってんのにすぐに濁っちまうんだから。たく、どうなってんだか」

 

「!」

 

 

つまり浄化してもすぐに濁ってしまうほど佐倉杏子の心は絶望と怒りでいっぱいだというの?

それほどまでにさっきの戦いは彼女に深い傷を負わせた?

それとも今まで積もり積もっていた優依への想いが溢れ出している?

 

 

まさかと思いたかったが先程の狂気を見ているから妙に納得してしまう自分がいる。

 

 

「しばらくこのまま真っ黒だろうな。前もイライラしてて真っ黒だったから別に気にする必要もねえし。・・ただお前が消えてくれれば少しはこのイライラも消えると思うんだよなぁ」

 

「っ」

 

 

背筋が凍る。

 

冗談っぽく軽い口調で告げているけど私を見上げる目は本心だと告げている。

 

 

まずいまずいまずいまずい!

何とか杏子から距離を取らなきゃ!

 

 

「アンタが消えるだけでも優依にちょっかい出す奴が減るだろ?・・たく、アタシがいながら他の女に手ぇ出しまくりやがって。こっちの身にもなれっての」

 

 

 

・・・・そう。

 

 

さっきまで感じていた焦りが消え、スッと心が冷たくなっていく。

息苦しさで顔が強張っていたはずなのに今は自分で分かるくらい表情が抜け落ちて静かに見下ろした。

 

 

この佐倉杏子は現実を分かっていないようね。

ひょっとして自分が優依の本命だとでも思ってるのかしら?

 

 

可哀想ね。叶わない夢を見てるこの娘がとっても可哀想。

 

優依の本命は私。

 

だってそうでしょう?

あの娘の秘密を知ってるのは私ただ一人。

つまり優依にとって私は特別な存在よ。

この佐倉杏子とは比べものにならない程深い関係なんだから勘違いも甚だしい!

 

 

全く、あの娘の浮気癖はもう空気を吸うのと同じくらい当たり前の事だったから多少見逃してあげてたけど、佐倉杏子のように勘違いする娘も出て来るし、規制も兼ねてそろそろちゃんと見張ろうかしら?

 

いくら私が一番だと言えど限度ってものがあるわ。

そうね、そうしましょう。

その分、私が優依を甘やかしてあげれば良いのよ。

 

 

「・・何笑ってやがる?」

 

 

怪訝そうに私を見上げる杏子を見て気づかぬ間に口角が上がっていたみたい。

不機嫌そうに眉間に皺を寄せていてますますおかしくて笑ってしまう。

 

ここまでくればもう哀れや怒りよりもおかしくてしょうがないもの。

 

 

「別に。ただ浅はかな考えだと思っただけよ」

 

「ああ? な!?」

 

 

笑ったまま隠して持っていた銃を杏子の眉間に突き付ける。

 

もちろん脅すために使う訳じゃない。

少しでも妙な動きをすればその眉間に実弾をお見舞いする気つもりだから。

 

 

「殺したければ殺せばいいわ。ただし優依はもう一生貴女と口を聞いてくれないでしょうけどね」

 

 

「・・はあ?」

 

 

痛覚を消したから何も感じない。

さっきまでの息苦しさが嘘のようにスラスラ言葉を紡ぐ事が出来る。

 

 

不思議ね。

さっきまであんなに杏子に怯えていたのに今は何とも思わない。

優依の本命だという事が私に自信をくれてるみたい。

 

 

「実は貴女に会いに行くことを優依に伝えてあるの。もし私が戻らなかったら貴女に殺されたと思ってと言ってあるわ」

 

 

絶句した杏子の顔がとても面白い。

そうよね。初めから優依の名前を出せば良かった。

そしたら嫌でもこの娘は話を聞くでしょうから。

 

 

「そうなったら貴女は終わりね。臆病なあの娘が人殺しと会う気なんてあるはずないもの」

 

「テメエ・・!」

 

 

意地の悪い笑顔で杏子を見下ろす。

激怒しているのか顔を歪めて私を睨んできてるけど動揺してるのか明らかに首の圧迫がさっきよりもかなり緩んでる。

 

この様子だとかなり葛藤してるみたいだから今のうちに追い打ちをかけておいた方が良さそうね。

 

 

「優依の意思は固いわ。もうすぐ『ワルプルギスの夜』が来ると分かってもこの街に残ると言っている。例え私たちが負けて街が滅んでも」

 

「は!?死ぬ気かよアイツ!?」

 

「ええ、そうよ。あの娘は大切な物のためにここに残る事を選んだわ」

 

「あのバカ・・それでアタシの誘いを断ったのか」

 

 

眉間に皺を寄せているが納得したのか杏子は何やら考え込んでいる。

全部私の口から出た出まかせだけどきっと優依ならそうしてくれる。

 

私が死んだら悲しんでくれるでしょうし、例え世界が滅んでもきっと私と一緒にいてくれる。

他でもない貴女が私を一番愛してくれてるんだもの!

 

 

「優依は今の貴女に相当な不信感を抱いてしまってるの。私が仲を取り持ってあげれる名誉挽回のチャンスだと思って協力してもらえないかしら?」

 

 

これでもう決まったもの。流石の杏子も今の現状を分かっているはずだから。

その証拠に杏子はしばらく迷った様子で口を噤んでいたが、やがて小さく「分かった・・」と呟いた。

 

 

「・・アンタに協力すればいいんだろ?」

 

「ええ、お互いの利益は一致しているわ。私は『ワルプルギスの夜』を倒す協力者が欲しい。貴女は優依が欲しい。そうでしょ?」

 

 

確認すると杏子は無言で頷いた。

 

 

優依が杏子のものになる日なんて絶対ない。

私が二人の仲を取り持つはずないでしょう?断固阻止するわ。

あの娘にとって杏子は恐怖の対象となってしまったからもう遅い。

 

 

いくら優依のためと言っても強引な事して嫌われてしまったら本末転倒よ?

貴女にチャンスなんてないわ、残念ね?

 

 

でも油断は禁物。

佐倉杏子の事よ。黙ってるだけとは思えない。

必ず何か裏で仕掛けてくるはず。

しっかり見張らなければいけない。

 

 

「マミとあの美樹さやかって奴はどうすんだよ?絶対邪魔してくるぞアイツ等?」

 

 

内心で考えてる事を知らない杏子はのほほんとした様子で聞いてくるので表情を変えずに口を開いた。

 

 

「美樹さやかについては私が対処する。貴女は手を出さないで」

 

「ふーん、向こうから来たら別にいいよな?ぶっ潰しても」

 

「ええ、構わないわ」

 

「分かった」

 

「あと・・」

 

 

 

「お前さ」

 

 

「・・・何かしら?」

 

 

他の釘を刺しておく事はないかと考えていたら杏子が唐突に低い声を出す。

 

 

 

「これから優依に近づくな。これが絶対条件だ」

 

 

再び突き付けられた赤い槍。

凄んでいるその表情よりも私を見るその淀んだ目が何より底知れない恐怖を感じ、私は黙って頷くしかなかった。

 

 

やはりこの佐倉杏子は危険ね・・・。

上手くやっていく自信が全くないのに困ったわ。

ともかくこれで佐倉杏子が加わってくれた。

あとは上手い具合に彼女を誘導していければ大丈夫ね。

 

 

 

その後すっかり忘れていた大事なソウルジェムの浄化を思い出し慌てて杏子にグリーフシードを渡すと、彼女は面倒臭そうに受け取りすぐに浄化を始めたのでソウルジェムは綺麗な赤色に戻った。

 

 

だけど浄化してから時間を絶たずしてじわじわと濁り始めているのが視認出来る。

 

濁るのがかなり早い。

かなり精神が不安定になっているみたいね。

この状態の佐倉杏子を放っておいたら魔女になってしまう可能性が高い。

これからの事を考えるとそれは絶対避けなければ。

 

 

・・どうやら今日は優依の元へ帰るのは無理そうね。

 

護衛もいるし魔女の脅威に晒される事はないだろうけどその護衛の巴マミが野獣と化して優依を襲っていないかとても心配だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳でこれからはしばらく別行動になるわ」

 

「すみません。公衆の面前でいきなり背後から抱きしめられた上に時間止めるってどこの薄い本の内容みたいな事してんですか?というか昨日の夜、杏子と何があったんですか?なんかヤクザの同盟にしか聞こえないんだけど」

 

 

杏子の乱の翌日、色々あったが避難先のマミちゃんの家からいつも通りの登校時にいきなり不審者に抱き着かれたと思ったらまさかの犯人はほむらだった。(ちなみにマミちゃんは日直らしく先に登校してる)

 

急展開に頭が追いつけず、口をパクパクさせている間にほむらは時間を止め、昨夜の出来事の顛末を聞かされたのだ。

 

淡々とした口調で内容もかなり端折っているがあの杏子の事だ。

絶対一悶着あったに違いないと睨んでいるが実際のところは分からない。

 

 

「言った通りよ。思った以上に佐倉杏子が不安定だったから見張っていたの。貴女こそ昨夜は黄色い野獣に襲われなかったか心配よ」

 

「黄色い野獣?それってもしかしなくてもマミちゃんの事か?何もなかったよ。一緒に寝たくらいか」

 

 

ただしその前にマミちゃんが“新しく買ったブラどうかしら?”とか言って、見せに来た時は鼻血出そうになったがそれ以外はいつも通りで特に珍しさはないはず。

 

まあ、これをほむらが聞いたらブチキレそう。

人は誰しも地雷を抱えているものだ。

ほむらの場合は胸という事。絶対禁句。

 

 

「・・本当に何もなかったのよね?」

 

「・・うん、本当に何もなかったです・・よ?」

 

「そう、だったら大丈夫ね」

 

「へ?」

 

「私はしばらく杏子と行動を共にするわ」

 

「え?」

 

「貴女は安全のためにもしばらく巴マミの傍にいなさい」

 

「・・ま、まあ、言ってる事は何となく理解出来たけど・・わざわざ時間止めてまで言う必要あったのか?」

 

「あるわよ。杏子から貴女と接触するなと言われているの。話をしたくてもどこかで優依を見張っているだろうから警戒しておかないと」

 

「え!?どこ!?」

 

 

慌てて周囲を見渡すも杏子の姿は見えない。

キョロキョロしてる俺の耳に呆れたようなため息が聞こえてきた。

 

 

「見つかる訳ないでしょう?相手は魔法少女なのよ。ただの一般人の貴女が見つけられるとは思えないわ」

 

「そっすね・・」

 

 

言われて納得。

 

確か原作の杏子も望遠鏡魔改造してさやかを観察してたんだっけ?

その気になったら俺を監視する事くらい造作もないわな。

 

 

魔法少女に見張られるって俺ヤバいフラグ立ってないか?

 

 

「貴方と連絡が取れないのは困るからこうしてわざわざ時間を止めて来たのよ」

 

「早速会いに来てるあたり守る気ないなお前。まあ、連絡取れないのは不便だからいいけど」

 

 

一応納得したけどあんまり腑に落ちない。

 

連絡取る手段って他にもあったんじゃないの?

テレパシーなり、シロべえあたりに伝言頼んだり、古典的にこっそりメモを残すとかさ。

何でわざわざ手間のかかる方をチョイスしてんの?

 

 

「巴マミにはシロべえを通して連絡してあるわ。特に反応はなかったけど内心では私という邪魔者がいなくなって喜んでるでしょうね」

 

「そんな事はないと、思うよ・・」

 

 

一応フォローのつもりで呟いてみたが思ったよりも説得力がないな。

 

この二人は協力関係だけど、殺伐とした仲だ。

昨日なんて殺し合いしてたからなー。

ホントにこんなんで大丈夫なのかこれ?

 

 

「もうそろそろ切れる頃ね。名残惜しいけどまた後で会いましょう優依」

 

「あ、はい、さいなら」

 

 

意外とあっさり解放されたので思わずあっさり挨拶をしてしまった。

ほむらが去って行ったと同時に時間が動き出しいつもの喧騒に戻る。

 

 

当分ほむらと会話出来ないのか。

禁止されると破りたくなるな。

 

 

 

 

なんて思ってた登校時間

 

 

ほむらはその後も暇があれば時間を止めて俺に会いに来てた。

その頻度は一時間に二、三回という高頻度だ。

 

 

特に用事がある訳じゃないのに何で来るの?

魔法の無駄遣いだからやめてもらえませんか?

 

 

お前絶対杏子の言った事守る気ないだろ。




杏子ちゃんの事ヤバい人認定してるけどね。
ほむほむよ、君も大概ですよw


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85話 お願いだから仕事して

くそおおおおおおおおおおお!!
リアルが慌ただしいと思うように投稿出来ないじゃないかあああああああああ!!


おのれリアルめえええええええええええ!!


「久しぶりに優依ちゃんと一緒に帰れるなんて・・私幸せものね」

 

「・・・・」

 

「いつ以来かしら?優依ちゃんとこうして手を繋いで帰るのは・・あ、暁美さんが来る前の話ね。あの時からおかしくなっちゃったもの」

 

「・・・・」

 

「でもそれはもう終わりね。彼女は佐倉さんに付きっきり。ようやく邪魔はいなくなったわ」

 

「・・・はぁ」

 

 

ギュッと俺の腕にしがみついてご機嫌に語るマミちゃんに思わずため息が漏れる。

 

どうしてこんな事になってしまったんだろう?

・・ああ、あの時か。

 

 

時は登校時に遡る。

 

 

俺は突如押し寄せたほむらに捕まってしまった。

ついに俺抹殺に来たのかと一瞬ビビったが、ほむらは身構える俺をスルーし、

「しばらく杏子と行動を共にするから」

なんて一方的に伝言残して去ってしまった。

 

 

突然の事態に言ってる事がきちんと理解出来なかった俺だったが、実際に学校にいる間試しにほむらに話しかけてみると見事に無視されるという典型的ないじめ仕様。マジ泣きそうになった。

まあ、その後、時間止めて何度も話しかけにきてたけど。一時間に数回のハイペースで。

 

 

ちなみにその時は特に会話もなく魔法が解除されるまでただじっと俺の傍にいるだけだった。

 

何がやりたかったんだあの紫?

嫌がらせ?嫌がらせなの?

 

 

ほむらの謎な行動に続いて昨日の疲れがまだ残っていたらしい。

俺の顔を見たまどかとさやかが何度も大丈夫かと訪ねてきた程だ。

よっぽど酷い顔だったらしい。

ここは気遣いの出来る奴として見栄で大丈夫と答えてはみたけどぶっちゃけ大丈夫じゃない。

 

 

なんせ昨日は赤いヤンキーに絡まれて誘拐未遂に遭うし、魔法少女達の殺し合いに巻き込まれるしで平凡な人生を生きてたら絶対起こらないであろう死亡フラグがてんこ盛りだったのだ。

 

 

体力平均より下回ってる一般人には耐え難き苦行よ。

 

 

そのせいで授業は半ば意識がなくなる程の辛さだったが良い事もあった。

 

 

さやかとほむらが仲良くとまでもいかないけど会話していた事だ。

会話と言ってもさやかが挨拶してほむらがそれを返したぐらいだったけど物凄い進歩だ。

だって原作では顔を合わせれば猫のように全身を逆立たせていた程険悪だったから(主にさやかが)

 

これに関しては幸先が良さそうだ。

ひょっとしてたら原作ではなかった紫と青の仲良し√もあるかもしれない!

 

 

そんな喜ばしい出来事を心の糧に何とか学校を乗り越えた俺は現在、護衛としてわざわざマミちゃんが俺のいる教室まで迎え(出待ちとも言う)に来てくれたので一緒に帰っている。

 

 

ちなみに向かう先は安全を考慮して再びマミちゃんの家にお邪魔する事になっている。

最近は冗談抜きで『ワルプルギスの夜』を倒すまで家に帰れない気がしてきて恐ろしい。

だけど我慢だ!原作が終われば晴れて自由の身!

それまでは耐えるんだ俺!

 

 

・・俺ちゃんと家に帰れるよね・・?

 

 

 

「ゆーいちゃーん♪」

 

 

脳裏を掠める嫌な思考は甘ったるい声でかき消される。

 

 

ぎこちない動きで顔を声のした方に動かすとマミちゃんが俺の肩に頭を乗っけて完全に甘えたモードに移行している。俺は彼氏ですかと問いたくなるような格好だ。

 

月に何度かあるマミちゃんの甘えたモード。

以前は室内限定だったのにここ最近ご無沙汰だったせいか悪化している。

一目も憚らないなんて微妙な所で恥ずかしがりやなマミちゃんからは想像がつかないぞ。

よほど我慢していたらしいな。・・勘弁してくれ。

 

一応君は俺の護衛なんだよね?

「必ず優依ちゃんを守るわ!」とかほざいてたのはどこの口だおい。

 

 

「ふふふ・・!」

 

 

だめだ。トリップして話を聞ける状態じゃない。

誰かこの黄色何とかしてください。

 

 

こんな状態だがある意味杏子から狙われている俺は甘んじて受け入れるしかない。

幸いなのは今いるのが俺達二人ではない事だ。

 

 

「優依ちゃんと二人っきりじゃないのは少し残念だけど・・」

 

 

そう言ってマミちゃんが俺の顔の方、正確には俺の顔の横にいる白い物体の方に不満そうに顔を向けている。

 

そう、実はシロべえもいるのだ。

 

このヤロウはマミちゃんと一緒に帰る時にどこからともなく現れ、俺の肩に乗って優雅に寛いでやがる。

なんか優依の護衛だよとか抜かしてたような気が実際はマミちゃんについでに自分も護衛してもらおうという保身が透けて見える。

 

ホント図太い奴になったもんだ。

 

 

「どうしてシロべえも一緒なの?」

 

「何だいマミ?君がそんなに僕と二人っきりになりたかったなんて初耳だよ」

 

 

何をどう聞いたらそんな解釈出来るんだ?

やっぱり調子に乗りやすいのはいつもの事のようだ。

心なしかその無表情がドヤ顔に見えるもん。

 

 

「どう解釈したらそうなるのよシロべえ」

 

「ああ、悪いね。マミのオーラがあまりにピンクだったから思わず口が滑っちゃったよ」

 

「何ですって?」

 

 

俺の挟んでどうでもいい口論をする二人。

仲良さそうで何よりだ。かなり五月蠅いけど。

いや五月蠅い事よりも優先すべき大事な事がある。

 

 

「二人とも離れろ。さっきから暑くてしょうがないだけど!」

 

 

溜まり溜まった不満がとうとう表面化し声に乗せて叫んだ。

 

 

暑い!とにかく暑い!

 

 

ただでさえ日差しが温かい上にこいつ等の体温が密着しているせいで汗が噴き出すほど暑い。

マミちゃんの家まではまだまだ遠いし、おそらく何も言わなかったらこのままベッタリ継続されるだろう。

そうなったら俺は脱水症状間違いなし。

 

 

一刻も早くこの蒸し暑い密着から解放されたい!

護衛だろうが甘えモードだろうが知った事か!

 

 

「早く離れ、ぐ!」

 

「いやよ!優依ちゃんと一緒にいれるチャンスなんて滅多にないのよ!?今日くらい甘えたっていいでしょ!?」

 

 

肉体年齢的には年上のくせに、うるうる涙の上目使いで更にギューッとしがみ付く黄色。

 

窒息する!脱水症状の前に窒息して死ぬ!

 

 

「えー?優依は寒がりでしょ?心優しい僕が君をあっためてあげようと思っただけさ。こういう好意は無下にしちゃだめだよ。ほらほら遠慮しないで」

 

「てめえ・・!」

 

 

白は絶対わざとだ。

 

明らかに面白がってるような軽い口調でそのムカつく程艶のある体毛を俺の頬に擦りつけてくる。

モフモフして気持ち良いがめっちゃ暑い。

 

 

俺が脱水症状になってもいいんか貴様ら。

ほんの少しの距離でも良いから離れろよ。

 

 

 

現実というのは本当に思うようにいかない。

そんな事は分かっている。

この世界に転生してから、それを嫌という程味わってきたからな。

 

 

でも、こんな些細な頼みくらい叶えてくれてもいいと思いませんか・・?

心折れそうだよ俺・・。

 

 

「うぅ・・何でこんな事に・・?」

 

「仕方ないよ。君は佐倉杏子に誘拐未遂されてるんだし」

 

 

打ちひしがれる俺の耳にダメ押しをお見舞いされる。

ムカつくが確かにシロべえの言う通り、一歩間違えば俺は今頃見滝原にはいなかっただろう。

それどころか生きているかさえ怪しかったかもしれないのだ。

 

杏子が悪意を持って誘拐したわけではないと信じたい。俺を守るとかなんとか言っていたし。

しかしそもそも俺はあの野生児のアウトロー生活に耐えられる生命力と精神力を有していないので全力でお断りだ。

 

ヘタレの貧弱性を舐めないでいただきたい。

一日持たずで衰弱死するわ。

 

 

・・それにしても杏子は何であんな暴挙に出たんだ?

 

俺が見た限り今までまともだったと思う。

まあ、昨日の豹変ぶりのせいで俺の中の赤に対する常識人枠にヒビが入ったけど。

 

付き合いもそれなりに長いから俺のヘタレさだって熟知してるはずだ。

杏子の提案を素直に受け入れるはずがないって冷静に考えれば分かるはずだと思うだけどなぁ・・。

 

なんかどことなく悪魔ほむら並みの狂気を感じるぞ。

 

 

案外冷静に見えて実は素はほむら並みにヤバかったりしてな?

俺の前では隠してたとか?・・・違うよね?

頼む!誰か違うって言ってくれ!

 

 

そうだったらおそらく俺はもう立ち直れないかもしれない。

唯一のまとも魔法少女枠だったのに・・。

 

 

「・・杏子は俺に恨みでもあんの?」

 

 

何気なく呟いたつもりだったのに耳元近くにいる白い奴は聞き逃さなかった。

 

 

「あながち間違いじゃないんじゃないかい?大方君の尻軽ぶりに激怒してるんだろうね」

 

「はあ?俺のせいだって言いたいのかよ?」

 

 

度重なる疲労で憔悴してるのにこいつは俺に対して慈悲という言葉はないのだろうか?

 

 

脳内でビシっと何かが割れる音がしたぞ。

きっと俺のガラスハートにヒビが入った音だ。間違いない。

 

 

「それより不可解なのは、美樹さやかが契約したこのタイミングで佐倉杏子が現れた事だ。それだけでも面倒なのに、あの杏子はほむらの時間停止が効いていなかった。大方あのアンドロイド共と協力関係か利用されているとみていいだろうね。必ずまた何かしかけてくるだろうし油断は禁物だ」

 

 

若干シロべえにはぐらかされたような感じもするが不可解に思うのは最もだ。

ただでさえ悩みの種であるさやかが契約してしまって頭が痛いのに、その上杏子までとなると頭痛を通り越して脳が機能停止を起こしてしまいそうだ。

 

というかシロべえ。

昨日お前その時間停止事件の時いなかったくせに何で知ってんだ?

絶対隠れて見てただろ?

明らかに登場するタイミングはかってやがったなおい。

 

 

シロべえの事は置いてもここ最近、原作ではなかった事まで起きているし、行先は不透明。

そろそろ胃薬と頭痛薬を買いに走らなければならないかもしれない。

 

 

 

「はあ・・鬱になりそうだ・・」

 

 

「あ、あのね優依ちゃん?」

 

 

「ん?どうしたのマミちゃん?」

 

「このタイミングで言うのはちょっと不謹慎だけど話したい事があるの。ちょっといいかしら?」

 

 

こめかみを押さえる俺の隣でマミちゃんが少し遠慮がちで俺を見上げている。

この様子からおそらく話の内容は今話してる事と全く関係なくて水を差しそうだから遠慮してるのかもしれない。

 

 

「迷惑じゃなければ優依ちゃんに聞いておいて欲しいの。・・だめかしら?」

 

 

マミちゃんの黄色い瞳が不安そうに揺れながら俺を映している。

拒否されるというより、こんな時に関係ない話するなと怒られるのが怖いみたいだ。

 

 

 

迷惑だなんてそんな事・・・むしろ大歓迎です!

今のこの心が折れそうな現実を逃避出来る話題ならどんなものでもウェルカムでっせ!

 

チェンジ!話題チェンジ!

 

 

「何?悩み事?(魔法少女関連以外なら)相談に乗るよ?」

 

 

マミちゃんを安心させるように努めて優しく促す。

それが功を成したのかマミちゃんは指をモジモジさせながら小さく口を開いた。

 

 

「え、えっとね・・私・・スカウトされたの・・」

 

 

「へ?スカウト?何に?」

 

 

 

「・・・・・アイドルに」

 

 

 

「「え!?」」

 

 

 

シロべえと声がハモる。

 

 

アイドルってあのアイドルですか?

うら若き乙女がキラキラ輝く芸能界で熾烈な競争でのし上がっていく弱肉強食なあのアイドル!?

 

 

「それっていつ!?」

 

「昨日私美樹さんとパトロールしてたでしょ?その時にたまたま・・」

 

「え?・・じゃあマミちゃんと連絡取れなかった理由って・・」

 

「・・うん、スカウトの人と話してたの。私が『Ribbon』だって知って大興奮しちゃったみたいで、とんとん拍子に話が進んで気づいたら夜になってたの」

 

「あー、だから僕が君を呼びに行った時、事務所にいたんだね。あの時は焦ってたから何の事務所かちゃんと確認してなかったよ」

 

 

妙に納得したような声を出すシロべえ。

なるほど、昨日マミちゃんがフェードアウトした理由はそれか。

 

 

俺はかなり危ない目に遭ってる間にこいつ・・。

 

 

でもこれは責められない。

だって昨日のマミちゃん巡回ルートは繁華街メインにするよう勧めたの実は俺です。

 

理由は人通りの多いから杏子と遭遇しないだろうなんて浅はかな理由です。

しかし人通りが多いという事は必然的にその中にはスカウトマンなんて世にも珍しい人種だったいてもおかしくない。

 

さやかから目を離したのはどうかと思うが、結局杏子と鉢合わせさせた原因が遠まわしに俺にも原因の一部という事じゃないですか・・。

その災いが巡り巡って自分に来るって最悪だ!

 

 

 

・・・・・だが!

 

 

「優依ちゃん・・大丈夫?」

 

 

マミちゃんは心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。

 

俺は震えていた。

それはプライベートな事情でさやかを放置した怒りではなく、自身の失策によって危ない目に遭った不甲斐なさでもない。

 

これは歓喜だ。

全身を駆け巡る歓喜によって俺は震えているのだ!

 

 

「マジかよマミちゃん!ついに・・ついに本格的にアイドルデビューしちゃうんですね!?ひゃっほぉ!めでたい!今日は宴だぁ!」

 

 

勢いのままマミちゃんの手を取って勢いよく振り回す。

さっきまで感じていた疲れがウソみたいに消えていくぜキャホウ!

 

 

「やったねマミ!君の輝きがついに認められたんだ!裏方の僕としても誇らしいよ!」

 

 

珍しくテンション高めな声を出すシロべえ。奴も嬉しいのかもしれない。

そのままマミちゃんの肩に飛び移って尻尾で周辺を叩きまくっている。

 

 

「・・・あれ?マミちゃんどうしたの?あんまり嬉しくなさそうに見えるよ?」

 

 

しかし浮かれまくる俺たちと違ってマミちゃんの表情はどこか浮かない様子。

返事も「そうね・・・・」と言ったきり何も口を閉ざしてしまった。

 

不思議に思って顔の覗き込むもマミちゃんは困ったような表情だ。

とても喜んでいるようには見えない。

 

 

・・まさか!

 

 

ここで俺はとある事を思いついてしまい、顔が引き攣りながら震える唇をゆっくり開いた。

 

 

「まさかマミちゃん・・実はアイドルなんて興味なかったとか?動画撮影も俺に気を遣って付き合ってくれてたとか?それなのにやりたくもないアイドルやらされそうになって不機嫌とか?・・だったらごめん!俺無神経だった!」

 

 

高速でマミちゃんに向かって頭を下げる。

 

思い返せば元々ネットアイドル動画を撮るきっかけになったのは俺の強引な押しがあったからだ。

マミちゃんはそんな俺に付き合ってくれたに過ぎない。

 

それなのに自分の望まない道を無理やり進まされようとしているから難色を示しているのだろう。

スカウトの話は俺のぬか喜びであってマミちゃんにとってはただの迷惑な話かもしれない。

 

だから今とても複雑な顔していらっしゃるんですね!

 

俺の馬鹿馬鹿馬鹿!何でその可能性を考えなかったんだよ!?

最悪だよ!マミちゃん怒らせてどうすんだよ!?

取り返しつくのかこれ!?

 

 

「顔を上げて優依ちゃん」

 

 

頭上から優しい声が降り注ぐ。

ついに判決が下るんだと思い恐る恐る顔を上げるとマミちゃんは優しく微笑んでいた。

 

 

「謝らないで。嫌な訳じゃないの。まさか魔法少女の私がアイドルになる日が来るなんて夢にも思わなかったもの。これでも凄く喜んでるのよ?」

 

「え?そうなの?」

 

 

あれだけ眉間に皺寄せて難しい顔してたくせに実は喜んでいたらしい。

ぶっちゃけ信憑性に欠ける。

 

 

ていうか悩み事かと思って聞いたらまさかのアイドルってどういう事?

まさか一緒にやってくれとか?絶対やだ。

緊張でステージに立つ前に気絶するわ俺。

 

 

「えっと・・話ってアイドルにスカウトされた事でいいんだよね?」

 

「うん、私この話断ろうと思うの」

 

「え?」

 

「アイドルにはならないわ」

 

「何で!?」

 

 

信じられない言葉に思わずマミちゃんの肩を揺さぶって抗議するもマミちゃんの表情は固いまま。

 

 

「だってこんな事してる場合じゃないでしょ?これから『ワルプルギスの夜』が来るというのに。この街がどうなるか、私自身生きている保障さえないのよ?それなのにアイドルになるなんて言えないわ」

 

「う!」

 

 

まともな理由にぐうの音も出ない。

 

仰る通りです。確かにそこを乗り越えなきゃアイドルどころじゃない。

一歩間違えたら世界滅亡するし。

でもなぁ・・・そんなあっさり断るって言われると今まで頑張った分凄く寂しいんですけど。

 

 

「それに」

 

「・・・それに?」

 

 

マミちゃんは目を閉じて呼吸を整えている。

何やらさっきよりもシリアスな雰囲気だ。

 

ウソでしょ。ワルプルさん以上にヤバい理由でもあんの?

 

 

ビビりながら待っているとやがて意を決したのかマミちゃんはカッと目を見開いて大きく口を開いた。

 

 

 

「アイドルになったら優依ちゃんと一緒にいる時間が減るじゃない!それは絶対イヤよ!!」

 

 

 

「・・・・は?」

 

 

 

ごめん、今なんて言った?

え?俺といる時間が減るからとか聞こえたんだけど・・え?

 

 

混乱する俺を尻目に目の前にいる黄色は興奮しているのか頬を紅潮させて声高らかに叫ぶ。

 

 

「ただでさえ優依ちゃんとは学年が違うからそんなに一緒にいられないのよ!?それなのに今は暁美さんや佐倉さんまで邪魔してくるじゃない!こんな時にアイドルになんて自分から手を引くようなもんだわ!」

 

 

そんな理由かい!お前は駄々っ子か!

ふざけんなよおい!

選ばれし者しか出来ない仕事『アイドル』をなんだと思ってんだ!

 

 

「ちょっと!そんな理由で断ろうとすんなや!」

 

「そんな理由とは何!?私にとってこれは一番大事な理由よ!」

 

「ワルプルさんをついでみたいに言うな!」

 

 

何これ?何このコントじみた理由?

愛する妻と離れたくなくて仕事行こうとしない馬鹿旦那みたいな事言いやがって!

 

 

 

「・・それにあの時凄く後悔したの」

 

 

ふざけんなと抗議しようと思った矢先、マミちゃんが先程と打って変わってシュンと子犬のようにしょげてしまった。

 

やられた!これじゃ怒るに怒れない!

叫んだり落ち込んだり何なんだ一体?

 

 

「あの時ってどの時?」

 

「優依ちゃんが佐倉さんに誘拐されそうになった時よ」

 

「あー・・」

 

「アイドルになれるって浮かれていた私はシロべえが知らせてくれるまで優依ちゃんの危機に気付かなかった。そのせいで貴女を危険な目に遭わせてしまった。・・ごめんなさい」

 

「そんな!結局助けてくれたから俺は無事だったじゃん!気にしなくていいよ!」

 

 

涙ぐんで勢いよく俺に頭を下げて来るからマジ焦る。

慌てて頭を上げるように言うとマミちゃんは何故か俺をキッと睨んでいた。何で?

 

 

「未遂に終わったからそう言えるのよ!あと一歩遅かったら佐倉さんに連れ去られてた。そうなったら探し出すのは困難だわ!優依ちゃんがいなくなったら私・・・」

 

 

怒ってんのか泣いてんのかよく分からん。

相変わらずの情緒不安定ぶりだ。

 

 

しかしマミちゃんの言い分は一部を除いて正論だ。

アイドルになってほしいなんてむしろ俺のエゴなのかもしれない。

 

だがアイドルになってもらわねば困るのだ!俺が!

 

 

よし!説得だ!

何が何でもアイドルになってもらうぞ巴マミ!

 

 

「マミちゃんはそれでいいの?」

 

 

「え・・?」

 

 

じっと目を合わせてゆっくり口を開く。

 

 

「アイドルになりたくないの?」

 

 

俺の超めずらしいシリアス雰囲気にマミちゃんは少し戸惑っていたがやがて小さく口を開いた。

 

 

「・・・出来る事ならやりたいわ。憧れがないかって言ったら嘘になるもの」

 

 

かかった・・!

 

そのままマミちゃんの肩を掴んでずいっと顔を寄せる。

驚いた表情をしているがそんなもの気にしない!

 

 

「だったら迷う事ないよ!アイドルになろうぜマミちゃん!」

 

「え?何言ってるの?だから私は・・」

 

「満更でもないんでしょ?俺、マミちゃんがアイドルになってくれると凄く嬉しい!」

 

「!」

 

「アイドルになったらきっとこれまで通り一緒にいられなくて寂しいけど、俺の大切な(護衛の)人が輝いてる姿見るのは楽しみだ。俺、マミちゃんの事誇りに思うよ」

 

 

「!」

 

 

感動したように目を潤ませて俺を見ているマミちゃん。

よしよし。これはもう九割成功したようなものだ。

 

もうちょっと煽っ、ゴホ、激励しておこう。

 

 

「優依ちゃん・・!」

 

「ひ・・!」

 

 

口を開く前にマミちゃんが俺の手をギュッと握りしめて息がかかりそうな至近距離まで顔を寄せてくる。

その様子はどこか熱に浮かされたような感じだったのは絶対気のせいじゃない。

 

 

「分かったわ!私アイドルになる!優依ちゃんの誇りになってみせる!」

 

「う、うん」

 

「私頑張るからずっと傍で支えてね優依ちゃん!」

 

「(遠くから)応援するよマミちゃん!」

 

 

激励が思いのほか効いたらしい。

目をキラキラ輝かせるマミちゃんに若干引きながらも何とか笑顔を取り繕えたと思う。

 

 

 

「!」

 

 

少しの間、お花畑状態のマミちゃんだったが何かに気づいたらしく緩み切った表情をキリッとしたものに切り替えた。

 

凄いなその切り替えの早さ。さすがベテラン。

 

 

「魔女の気配がするわ!ここから近いみたい」

 

 

そう言って、握っていた俺の手を名残惜しそうに離す。

 

 

「ごめんね優依ちゃん。すぐ戻って来るから待っててくれないかしら?」

 

 

申し訳なさそうに言うマミちゃんだったが近くに魔女が出たのなら俺が危ない。

なるべく素早く退治してもらわねばならない。

 

なので俺は心からの爽やかな笑顔で「大丈夫」と言っておく。

 

 

「うん、魔女が出たんなら仕方ないよ。てなわけで行ってらっしゃーい」

 

「ええ、行ってくるわ」

 

 

今にもスキップをしそうな上機嫌な黄色のクルクルの背中に向かってひらひら手を振って見送った。

 

 

見るからに浮かれてるけど大丈夫かな?

まさか「もう何も怖くない」と言って遅めのマミるとかやめてよね。割とマジで。

 

 

 

若干不安に思いながらも黄色が見えなくなるまで手を振っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「上手い事誘導したね優依」

 

 

 

「いやあ、上手くいって良かったよ!」

 

 

 

肩から聞こえる声に内心ではなく顔に出してほくそ笑む。

シロべえは俺の意図を察していたらしい。

だからなのか傍観に徹していて何も喋らなかった。

 

 

 

マミちゃんがアイドルになる。

 

 

 

それは確かに今まで頑張ってきた俺たちの努力が報われる形ではあるが、何もそれだけが理由ではないのだ。

 

 

『ワルプルギスの夜』を倒す事が大前提だが俺の日常はこれからも続く。

そうなれば俺にはもう死亡フラグも何もない状態になるという事だ。

 

 

それなのに魔法少女と関わるなんて絶対嫌なので疎遠になる予定だ。

 

 

まあ、俺がキャラに関わらなくなってもあいつらならお互い仲良くするだろう。

ほぼ公式カップルであるピンクと紫、青と赤はぶっちゃけほっといても問題ないくらいだからそこは気にしていない。いないが一番の問題は黄色いぼっちだ。

 

ただでさえマミちゃんはハブられがちなのだ。

それなのにカップルが成立してしまえばさらにぼっち度が深まってしまう!

そうなったら必然的に俺の方にすり寄ってくるのが目に見える!

 

ふざけんな!ぼっちの相手なんてしたくない!

死亡フラグと余計に絡みたくない!

俺は平和を享受したいんだ!

 

もしここにあのチーズ大好きなぎさちゃんがいてくれれば話は違うのだが、残念ながら彼女はお星様になってしまったのでそれは見込めない。

 

 

どうしたもんかと悩んでいたがまさかのガチアイドルスカウト!

これは使わない手はない!

 

一人は寂しい!友達欲しいと嘆く暇もない程に動いてもらおうじゃないの!

ガチで『恋のティロ・フィナーレ』歌ってもらおうじゃないの!

 

 

「マミちゃんはこれで大丈夫だろう。アイドルは絶対忙しいだろうから寂しいって思う暇もないはず!」

 

 

思った以上に事がスムーズに進んでテンションが上がりまくる。

これでももう原作終わったらマミちゃんは俺と絡む暇もなくなるだろう。

原作を乗り越えるのも大事だけどその後の安全もきっちり考慮しておかないと。

 

俺意外と策士じゃね?

 

 

ムフフと一人悦に入っていると横から呆れた感じの溜息が聞こえた。

 

 

「ホントよくやるよ。君絶対営業の才能あるから案外インキュベーター向いてるんじゃないの?魔女化する女の子続出しそう」

 

「やかましい。俺を白いGにカウントすんな!あんな外道な事出来るか!」

 

 

インキュベータ―の仕事なんて絶対やりたくない!

そんな事したらもれなく紫の悪魔に地獄に叩き落されるわ!

その前に何回殺されるんだ俺?

 

駄目だ、考えるな。

他にも悩みは尽きないがマミちゃんの今後に関してはこれで大丈夫だろう。

毎日が苦悩だらけだから喜ばしい事は全力で堪能しなければ!

 

 

「・・一応言っとくけど、絶対君の企み通りにならないと僕は思うよ」

 

「言っとけ。さてと、マミちゃんが魔女退治してる間にちょっと飲み物でも買いに行くか。確かすぐそこに自販機あったはずだし」

 

 

シロべえが不吉な事言うのはいつもの事だ。

そんな事気にしてたらやってられないので無視だ。

 

 

すぐ後ろに自販機があったのはずだ。

いくら絶好調のマミちゃんでも魔女を倒すのには最低でも数分はかかるだろう。

その間に白と黄色の熱によって失われた水分を取り戻しておこう。

 

 

 

 

 

 

「何飲もうかな? !」

 

 

 

 

ルンルン気分で後ろを振り返って固まった。

 

 

 

 

「ゆーい、まさかこんな所で会えるなんてな?」

 

 

 

「きょ、杏子・・!?」

 

 

自販機の方に身体を向けるとあら不思議。

目の前に赤い悪魔が立っていらっしゃるううううううううう!

 

 

ニコニコ微笑みながらパーカーのポケットに手を突っ込むその姿は年相応で可愛らしいはずなのに、今の俺には悪魔が立っているようにしか見えない。

 

 

 

「会いたかったぞ優依」

 

 

頬を染めて微笑む杏子に恐怖で鳥肌が立ちまくる。

 

 

どうしよう!?今護衛のマミちゃんいねえ!!

さっき魔女の所に向かったばかりだ。

俺の馬鹿!何呑気に行かせちゃったんだよ!

 

 

マミちゃあああああああああああああん!!

すぐ戻ってきてええええええええええ!!




真のタイトル:
(マミちゃん)お願いだから(護衛の)仕事して by神原優依


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86話 触らぬ杏子に祟りあり

前回のあらすじ:
赤いジェイソンが現れた!


「ジャンボチョコパフェとビッグハンバーグとプレミアムステーキにカルボナーラの大盛り、全部二人前で」

 

「今のなしでりんごジュース二つとチョコレートケーキ一つお願いします」

 

 

店員さんが下がったのを確認して俺はほっと一息をつく。

向こうの席から「チッ、しけてんな」という文句はスルーだ。

不満そうな視線など難なくスルーしなくてはやってられない。

 

サッと視線を逸らすべくメニュー表を手に取った。

 

 

俺と杏子は今、ファミレスの中にいる。

どうしてこんな事になっているのかは少し時を遡る。

 

 

 

 

「HEY姉ちゃん!俺と一緒に青春を満喫してみなーい?」

 

 

「・・・何やってんだお前?」

 

 

 

アイドル騒動が終わり、魔女を倒してくると意気揚々なマミちゃん送り出した後、目の前に突如赤いジェイソンが現れ俺は混乱していた。

 

このままでは槍という名のチェーンソーによってズタズタにされるのは時間の問題だった。

 

俺はとてもテンパっていた。

どれだけかと言われればジェイソン対策にナンパというトチ狂ったとしか言いようがない蛮行をやらかしてしまう程に俺はテンパっていた。

 

案の定、杏子から冷たい目を向けられ、心が潰れる音が聞こえつつも殆ど自棄に近い形で近くのファミレスに引きずり込んだのだ。

 

 

 

咄嗟の事だったとはいえファインプレーだった。

 

連れ込んだ理由はもちろん杏子と話をするためだ。

 

しかし今の俺は杏子の事が少し(いや、かなり)トラウマになっているので二人きりになるのは恐怖で発狂するから無理。二人っきりになったらそれこそまた何が起こってもおかしくない。

 

なら単純な話、人の目があるなら問題はず。

話をするにはファミレスは最適だ。お財布にもまだ優しいし。

 

これなら流石の杏子も下手な事は出来ないだろう。

 

安全度は格段にアップしたし、落ち着いて話が出来る。良い事尽くめだ。

ただ奢るとは言ったけど誰が貴様の尋常ではない食欲を満たすと言った?

 

冗談じゃねえぞ。

今月かなりカツカツなんだから絶対支払い出来ねえよ。

 

俺の財布をどんだけ軽くする気だ?

既に風船よりも軽くなりつつあるというのに自重せねば。

 

 

メニュー表を見るフリして杏子を盗み見る。

奴は頬杖をついて窓の景色を退屈そうに眺めていた。

何か仕掛けてくる気配はないが油断は禁物だ。

注文した品が来るまでこのまま待機しておいた方が無難だ。

 

 

え?そういえばシロべえはって?

あの裏切り宇宙人なら俺を置いてさっさと逃げ出しましたよ!

ぶり○りざえもんレベルな裏切りの早さだ。

 

今度という今度は絶対許さん!!

アイツのご飯次からペットフードにしてやる!

三食専用の容器に入れて顔突っ込んでやる!

 

 

そうこうしている内に注文した品を持ったウェイトレスがやってくる。

 

 

机に置かれたジュースは速攻で自分の元に引き寄せた。

 

何でかって?もちろん睡眠薬とか盛られないようにだ。

ウェイトレスさんが不思議そうに俺を見ているがそんなの気にしてられない。

こっちは今後の生命がかかっているのでなりふり構っていられないのだ。

 

しかし当の加害者本人はこっちの事なんて全く気にする素振りも見せずに運ばれてきたケーキにガッつきだしたのでそれはそれでムカつくな。

 

 

「・・・・・」

 

 

杏子はケーキを頬張り、そんな赤の様子を警戒しながらストローでジュースを啜る。

俺たちの間にしばしの沈黙が漂っていた。

 

 

 

「別に盛ったりしねえよ」

 

 

やがて杏子がポツリと呟いた。

 

その際、俺を呆れた目で見ているがどの口で言ってんだこの赤は?

犯人がする目じゃないからねそれ。

昨日の今日だから警戒するに決まってんでしょうが!

 

 

「ごめん、身体が勝手に警戒しちゃって・・」

 

 

悲しいかな。ヘタレの性分では文句を言う事も怒る事も出来ない。

それ所か逆に謝ってしまうなんて俺馬鹿じゃないの!?

 

 

「ふーん」

 

 

杏子は興味がなさそうな様子で発した言葉はそれっきり。

再びケーキの方に集中し始めて、そのまま会話が途切れた。

 

 

再びお互いの間に沈黙が漂う。

 

 

き、気まずい・・・!

ただでさえ昨日あんな事があって気まずいのに、その上赤に対するトラウマが発動したらしくさっきから身体ガタブル震えてるんですけど!

 

どうしよう発狂しそう!

一目も弁えずに雄叫びあげそう!

 

 

慌てて首を左右に振って悪い考えを追い払う。

その際、窓の方に視線が向いた。

 

 

・・マミちゃんもう魔女退治終わったかな?

俺がいない事に気づいて探してくれてるかな?

出来る事なら今すぐにでもここに来てほしいものだが可能性はわずかだ。

 

 

微かな希望に縋るよりここは俺が何とか切り抜ける方が現実的だ。

 

 

窓に向いていた視線を杏子の方に戻す。

ケーキに集中していてこっちを見ていないのはありがたいが既にそのケーキは三分の一にまで姿を減らしている。

このままでは早々にケーキを食べ終わり、嫌でも強制的に会話が始まるだろう。

 

そうなったら杏子に話の主導権を握られるのは間違いない。

昨日の尋問の続き再開だ。

 

昨日の様子から察するにちょっと、いや、かなり怒っていたし尋問で済むのかさえ怪しい。

ていうか生きて帰れるのかさえ怪しくなってきた。

 

 

! げ!あれこれ考えている内に既にケーキが残り一口分までになっている!

時間がない!くそ!こうなったら自棄だ!

 

俺から話を切り出そう!

先に俺から話しかけて会話の主導権を握るのだ!

そうなればまだ安全なはず!・・多分。

 

 

やれ!やるんだ俺!

自分の身くらい自分で守るんだ!

 

 

 

「そ、そういえば杏子!」

 

「ん?」

 

 

最後の一口をもぐもぐさせた杏子の目線は俺の方に向けられている。

 

 

よし、無事に話しかける事に成功した!

 

・・成功したけど何の話をしよう?勢いで話しかけちゃっただけだし。

 

! そうだ!コイツには聞きたい事が山ほどあるんだ!

それを聞けば紛いなりにも会話が出来るぞ!

よし!矢継ぎ早に質問していこう!

 

 

 

「俺と風見野で別れた後、何してたの?」

 

 

俺が知りたい事その一:

『目の前にいる杏子と俺を助けてくれるセコム杏子(?)の関係』

 

この杏子と別れて見滝原に戻った後の俺のピンチに幾度なく助けてくれた赤いセコム。

未来を知っているような言動や反則じみたスペックを持っていたが果たして彼女の正体は何なのか?

ちなみにシロべえの見解では同一人物ではないらしい。

 

確かに同一人物じゃないかも。

 

姿は一緒でもあの杏子は目の前のコイツと違ってどこか大人びてたし、ひょっとしたら杏子の姿を借りた別人という線もあるかもしれない。

 

でも俺はこの二人は何かしら関係があると思っている。

特に根拠がある訳ではない。ただの勘だけど。

 

 

今回を機にこの杏子の口からはっきり聞いておいた方が良いだろう。

 

 

 

「アンタと別れてから何してたって?何でそんな事聞くんだよ?」

 

「え、えっとただの興味本位・・です」

 

 

我ながらすごく苦しい言い訳してる自覚はある。

現に背中に滝のような汗が流れてるもの。

 

 

「別に大した事してねえよ」

 

「そうなの?」

 

「ああ、優依の事をずーっと考えてたぐらいだ」

 

「へ、へえ・・・そうなんだ・・・」

 

 

訂正、聞かなきゃ良かった。

頬杖ついて俺に微笑みかけるのめっさ怖いんですけどおおおおおおおおおお!

 

俺の事考えてたって何!?

いかに俺の苛めようかとかそんな陰湿な事考えてないよね!?

ちょっとやめて!どさくさに紛れて足絡めてくるの!

お前ブーツだから地味に痛いんだけど!

 

 

ぐ!負けるな俺!

相手のペースに呑まれるんじゃない!

質問してるのは俺だ!

俺が主導権を握るんだ!

 

 

「じゃあその間一度も見滝原に来てないの?」

 

「はあ?ここに来るどころか、風見野から出てねえよ」

 

「え?ホントに?洗濯物がはためく爽やかなセーラー服とかお菓子だらけのトラウマ級マスコットとか見てない?」

 

 

魔女とか言ったらブチキレられそうだと何となく思ったので遠回しに聞いてみる。

少なくとも杏子(?)にはこの魔女たちから助けてもらったし、ちゃんと対面したのもその場面だ。

シロべえが言うには他の場面でも助けられてるらしいが本当だろうか?

 

 

目でどうなの?と訴えてみると怪訝そうな顔されたのは何でですか?

 

 

「何訳分かんねえ事言ってんだ?そもそもお前が“会いに来るから待ってて”って言ったんだろうが」

 

「そ、そうでしたね」

 

 

ギロリと睨まれ思わず萎縮する。

まさか律儀に守ってるとは思わなかった。

杏子の事だから何か適当に理由つけて約束破ってくると思ったけど、やっぱり何だかんだで義理堅いなコイツ。

 

俺の中で杏子の株がちょっとだけ上がった。

 

 

「前も似たような事聞いてたよな?何?アタシのドッペルゲンガーにでも会ったのかよ?」

 

「アハハ・・まあ、そんな感じかな?」

 

「はあ?」

 

「あ、そうそう他にも聞きたい事あったんだけど!昨日杏子が退散する前に見せたあれってひょっとして幻術ってやつ?すごいね初めて見た!魔法少女には固有の魔法があるって聞いてたけど杏子は幻術なんだね!」

 

 

慌てて取り繕った感が拭えないがこれも知りたい事だ。

 

 

俺が知りたい事その二:

『この時間軸の杏子は幻術を使えるのか?』

 

昨日は逃走の囮に自身の幻を作り出し、ベテラン勢に気づかれずいつの間にか入れ替わるという離れ業をやらかしていたこのハイスペックな赤。

 

 

という事はこの時間軸の杏子は幻術が使えるのではないか?

 

 

ほむらに確認してみた事があるけど、今までループしてきた世界の杏子はほとんど幻術を使えなかったらしい。

一応使えた時間軸はあるらしいがそれは一瞬で自分そっくりの幻を作り出すには程遠かったとか。

だからここまで使いこなせた事にほむらは凄く驚いてた。

 

何がきっかけか知らないが(味方になってくれる場合に限り)悪い話ではない。

となると実はあのセコム杏子(?)はこの杏子が作り出した幻であり、無意識に発動させて俺を助けてくれたのかもしれない。

シロべえもその可能性はあるって言ってたし、俺もありえると思う。

 

 

「あれだけ凄い幻術ならもう一人の自分を遠隔操作で動かせるんじゃないの?」

 

 

遠まわしにあのチートっぽい杏子(?)は君の幻術じゃないの?と聞いてみる。

そうだとしたら一気に謎が解決するし一石二鳥だ。

 

 

「・・無理だ」

 

「え?」

 

 

しかし聞かれた本人はどこか浮かない顔だった。

 

 

「最近まで使えなかったんだ。あの時だって咄嗟に使えただけだし」

 

「あ・・そうなんだ」

 

 

 

本人曰はく幻術を使えたのは昨日からだと言う。

 

どうやら幻術は復活したみたいだが、本人がコントロール出来ていないみたいだ。

咄嗟に封印してた魔法が復活するなんてお前はどこの主人公だと言いたくなる。

 

しかし杏子が言う事が正しいなら昨日以前に現れた杏子(?)と辻褄が合わない。

無意識に作り出した幻術という線もあるかもしれないがシロべえが作った装置の時間停止が効かなかったり、魔女を倒す事が出来る程高度なものを作り出せるかは疑問だ。

 

今の所この二人の接点はなさそうだ。

 

 

・・なんかますますあの杏子(?)の謎が深まってしまった。

 

 

マジで何者なのアイツ?

 

 

「? 何でそんなに落ち込んでんだ優依?」

 

「いや別に。ただ謎が解明されると思って期待してたけど見当違いで落ち込んでるだけだから気にすんな」

 

「?」

 

 

杏子は首を傾げているが説明のしようがないのでそのままにしておいた良さそうだ。

 

だって言えないじゃん。

君のソックリさんが現れて危ない所を助けてもらいましたなんて言っても信じてもらえないし、それ言ったら“一般人が首突っ込むんじゃねえ!”と怒られそうだ。

 

 

落ち込む俺とは対照的に杏子はニヤリのニヒルな笑顔を浮かべて頭の後ろで手を組んでいる。

 

 

「まあ、咄嗟だったとはいえ一度出しちまえばこっちのもんだな。あの後、何度か試してみたけど使えたり使えなかったり。感覚が戻ってきてるみたいだ。・・これならマミに対抗できそうだ」

 

 

コイツまたマミちゃんと戦う気だよ。

好戦的にも程があるわ。ただでさえ杏子は今でも十分強いんだ。

そこに本来の幻術が復活したなんて鬼に金棒、いやラスボスに核兵器を与えるようなもの。

 

ひょっとしてあの夜、俺たちは開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。

 

! いかんいかん!この話はやめよう!

このまま幻術の話をすれば、ロクな事にならなさそうだ。

話題を変えよう!他にも聞きたい事はいくらでもあるんだし!

 

 

「あの!盛り上がってるとこ悪いんだけど他にも聞きたい事があるんだ!」

 

「あ?まだあんのかよ?」

 

「はい!まだまだございます!何でほむらの魔法効かなかったんですか!?」

 

 

俺が知りたい事その三:

『昨日ほむらの時間停止が杏子に効かなかった理由』

 

俺を担ぎながら時間停止させていたほむらに向かって容赦なく杏子は攻撃していた。

マミちゃんにはしっかり効いていたのにどうして杏子には効かなかったのかが謎だ。

これは今後のためにも是が非でも解明させておきたい。

 

 

・・なんかドンドン赤の戦闘力が強化されていってる気がしてならないんだけど大丈夫かな?

 

 

「なんだそんな事か」

 

「そんな事って・・」

 

 

俺の不安をよそに杏子はケロッとした表情ですっごく腹立つなおい。

 

 

「ああ、それはキュゥべえがさ」

 

「・・・・・キュゥべえ?」

 

 

あれ・・?すっごく嫌な予感がしてきたぞ・・?

 

魔法少女の口から「キュゥべえ」の不吉ワードが出て来るって事は高確率でロクでもない話は確定だ。

最大限の警戒態勢に入る俺を尻目に杏子はポケットを弄ってやがて小さなガラスの箱を取り出し机に置いた。

 

 

「・・何これ?」

 

「あいつがほむらの魔法は時間操作かもしれないって言って、一回だけだけどそれを無効に出来る装置をくれたんだよ。ほら見えるか?」

 

 

そう言って視線を箱の方に移したので俺もそれに倣う。

ガラスの箱に見えるが中をよく見ると、複雑そうな文字列がびっしりと浮き出ていて一目で地球産ではないなと分かった。

 

 

「それを持ってると時間停止を無効にしてくれるんだと。半信半疑だったけどまさか本当だったなんてね。道理で闇雲に攻撃してもほむらに攻撃が通じない訳だ。正直アタシには瞬間移動にしか見えなかったしさ」

 

「・・・・・」

 

 

何て事してくれてんだ白いGがあああああああああああああああ!!

 

何そんなヤバい物をヤバさMAXの魔法少女に渡しちゃってくれたの!

何なのアイツら!?そんなに魔法少女の大乱闘誘発したかったの!?

 

エネルギー発生する前に大量の血液が発生するわ!

もはやエントロピーがどうのこうの関係ねえじゃん!

 

 

「つってもそれは使い捨てだからもう使えねえけどな」

 

 

杏子は暇そうにガラスの箱を弄っている。

何て事なさそうだがさっきの一言で俺はとても救われた気分だ。

 

使い捨てなら杏子は次時間停止に対抗する術がないって事になる。

それなら一安心だ。良かった、良かった。

 

て、違う違うそうじゃない!

他にも聞かなきゃいけない事はあるんだった!

 

 

 

「じゃあ次はアタシが質問するから」

 

 

口を開く前に杏子が狙ったようなタイミングで話かけてくる。

弄っていたガラスはいつの間にか仕舞われたらしくどこにもなかった。

 

 

「・・俺まだ聞きたい事があるんだけど・・」

 

「はあ?アンタはさっきから質問しまくってるからもういいだろ?アタシも聞きたい事があるんだよ」

 

「はい・・・」

 

 

俺の流れは呆気なく終わった。

 

だよねー。杏子相手にいつまでも主導権握れる訳ないよねー。

むしろここまで握れて俺にしては凄いんじゃね?

 

・・俺ってホントヘタレ。

 

 

「なあ優依、さっきアタシと会った道は確かアンタの家と反対方向だったよな?」

 

「え?うん」

 

 

質問というより確認と言った感じだ。

何だろう・・嫌な予感がする。

 

 

「どこに行く気だったんだ?」

 

 

そこまで大きな声だった訳じゃないのにやけに耳に響く冷たい声。

おかしい。一瞬ざわざわしていた店内が静かになった気がするぞ。

 

 

じっと杏子が見つめてくる。

真顔だから顔で表情を窺い知ることは出来ない。

 

 

どう答えたらいいんだ?

 

馬鹿正直に険悪な関係のマミちゃんの所に行く気でしたなんて言ってみろ。

それこそ地雷だ。暴発する可能性大。

 

 

かと言って、他に言う事あるか?うーん。

駄目だ。全く出てこない・・。

 

 

「答える気はないのかい?」

 

 

無難な回答を求めて黙りこくっていると露骨にため息をつかれて内心焦る。

 

 

「当ててやろうか?」

 

「・・・・」

 

「・・マミの家だろ」

 

「!」

 

 

何で分かったんだ!?

まさかマミちゃんといた所見られてた?

 

 

「図星か」

 

「!」

 

 

コイツ謀ったな!?

なんて意地が悪いな奴なんだ!魔法少女のする事じゃないぞ!

やめろ!そのニヤニヤ顔すんの!めっさ腹立つから!

 

 

「マミの家に何の用だったんだ?」

 

「いや、紅茶飲みに・・」

 

「へー。実はアタシを避けるためだったりしてな?」

 

 

コイツ実は全部分かってるんじゃねえの?

そうとしか思えない程的確に言い当ててくるぞ?

 

 

何も答えられないので顔を俯かせるしかない。

 

 

これからどうしたものか?

杏子のペースに呑まれつつある。

急いで何とかしないと一気に負け確定だ。

 

何に負けるかは全然分からないけど!

 

 

 

「それ・・付けてくれてるんだ」

 

 

髪に何かが当たって慌てて顔を上げると杏子が慈しむような目で俺を見ている。

いや、微妙に顔からずれてる気がする・・・あ。

 

 

「ひょっとして・・これ?」

 

 

本日もつけていた杏子からもらった髪飾り。

別につけなくても良かったんだけど杏子は神出鬼没、今回のようにどこで鉢合わせするか分かったもんじゃないからご機嫌伺いのためにつけているようなもんだ。

 

今回はそれで功を成したらしい。

威圧感満載だった杏子のオーラが和らいだ。

髪飾り様様だ。

 

・・まあこれ付けてると黄色と紫の機嫌を損ねる副作用があるんだけどね。

 

 

 

「優依によく似合ってる。可愛いよ」

 

 

俺の髪をそっと手に取って笑いかけてくる。

その様子はお前はどこの王子様だと問いかけたくなる程様になっていた。

 

見た目(性格は省く)は可愛いから若干キュンとくるものがあるなあ・・。

さすが人気キャラ。

 

 

「このまま食っちまいたいくらい可愛い」

 

「・・・・」

 

 

うっとりした上目遣いで見つめて来るが、俺自身は一気に氷点下まで冷めた感じがする。

 

 

コイツさ、最近マジでどうしたの?

やけに俺に馴れ馴れしい、ていうか過保護だな。

 

 

何でだ?友達にしてはやけに執着してくるし。

 

 

ひょっとして杏子は友達としてではなく、恋愛対象として・・俺の事好きとか・・?

 

 

・・・・・・・。

 

 

いやいやいや何考えてんの俺!?

自意識過剰にも程があるわ!

 

単純に俺が杏子の唯一の友達だから執着されてるだけだから!

だってコイツ凄い友達思いだもん!

会って数日、しかも最初は殺し合ってた仲なのに最後は一緒に心中するような友情に熱いやつだもん!

そうだ!それに違いない!

 

何を勘違いしてるんだ俺!

 

これ数万歩譲って杏子に「俺の事、恋愛対象として好き?」なんて言ってみろ。

冷たいどころか汚らわしい目で見られる事山の如しだよ!

 

忘れよう!緊張と恐怖のあまりロクでもない事しか思いつかない!

 

 

 

「ほむらから聞いたけどこの街に『ワルプルギスの夜』がやってくるんだってな」

 

「ひぁ!?」

 

 

現在進行形で浮かんでいた俺の腐った考えなんて露知らずに杏子は呑気に俺の髪を弄りながら口を開くもんだから変な声が出た。

 

 

「・・何だ今の声?」

 

「気にしないで。それよりほむらと仲良くやってる?」

 

 

場当たりに近いような事を聞いておく。

 

正直こいつ等が仲良くやってる描写が全く想像出来ないが大丈夫だろうか?

ほむらの話じゃ昨日結構殺伐としたやり取りが行われたと聞いてるんだけど。

 

 

「ああ、アイツはマミ達と違って魔法少女の事を分かってるからな。上手くやれそうだ」

 

「あ・・そうなんだ」

 

 

身構えていたせいもあり露骨に安堵のため息が出る。

 

 

良かったー。

正直あの没コミュニケーションが杏子と接触なんて絶対無理だろって思ってたけど案外うまい事にいったらしい。

出来ればそれをもっと早くに発揮してくれていれば随分楽だったんだが・・。

 

過ぎた事だ。今はこれからに目を向けなくては。

 

 

「えっと、杏子・・」

 

「何だ?」

 

「今からでもマミちゃんと協力はありえます?」

 

「ありえねえな。あんな甘ちゃんなんかと」

 

「あ・・そっすか・・」

 

 

どうせ断れるだろうなと分かっていた。

分かってて言ったけど何もそんな間髪つけずに言い切らんでもよくない?

さすがに傷つくぞ俺。

 

 

「大体マミは分かってねえんだよ。魔法少女ってのは自分のためになるもんだ。希望と絶望の差し引きゼロなんだよ。なのにアイツときたら自己満足の正義の味方面してて気に入らねえ」

 

「・・はあ。そんなもんっすか」

 

「ああ、だから何度でも言うぞ優依。絶対魔法少女になるな。不幸になりたくないならな」

 

「うん。こっちも何度だって言うわ。ならないって昨日も言った気がするんだけど聞いてた?」

 

「・・話を戻すけどさ」

 

「無視?」

 

「この街に『ワルプルギスの夜』がやって来る」

 

 

何でコイツは俺の話ガン無視で話進めようとすんの?

いじめ?いじめなのこれ?

 

 

「ほむらの話じゃ街を壊滅させる化け物らしいじゃん・・・お前死ぬぞ?」

 

「そ、そんな露骨に脅さなくても・・」

 

「脅しじゃねえ。充分ありえる事じゃん。・・ここに居たって危ないだけだ。ほむらに協力する約束だけど相手が悪過ぎる」

 

「!」

 

 

驚いた。まさか杏子共闘承諾してたんだ。

ほむらもそれっぽい事言ってたけど本当だったとは。

 

俺はてっきり断ったのか思った。

 

でもこの様子を見るに乗り気じゃないのは明らかだ。

 

 

「優依・・」

 

「え?何!?」

 

 

ぼんやり失礼な事を考えていると杏子はごく自然な動作で俺の両手を包んでじっと顔を覗き込んでくる。

その事に驚いて包み込む手から逃れようとするも強く握りしめているから動けない。

 

 

「優依、アタシと一緒に逃げよう?」

 

 

杏子は俺を手をぎゅっと握って振り絞ったような声で言った。

提案のはずなのにその声はまるで懇願みたいだった。

 

その様子は首を縦に振りそうになる効果は十分にある。

 

 

俺だって逃げたい。

出来る事ならこのまま逃げ出してしまいたいですよ!

 

でも出来ない!

何度でも言うけどまどかが(以下省略)があるから行けないんだってば!

 

うぅ・・現実は残酷だ。

 

 

「ごめん!気持ちは嬉しいんだけどやっぱり俺、みんなを置いていけないよ・・」

 

 

穏便に、それこそ無難な理由でお断りを入れる。

言っちゃ悪いけど家族とか友達を出すと断りやすいよね。

アニメとかこういう理由で残ると人多い気がする。

みんな優しいんだね!

 

 

「っ・・・・・・・・・」

 

 

信じられないものを見るような感じで目を見開く杏子。

その表情は明らかに傷ついてるのが分かる。

 

 

ごめんよ杏子!

逃げ出したいのは山々だがこっち、というか世界にヤバい事情があるから逃げられないの。

 

 

「そうか・・」

 

「ごめん・・」

 

 

握っていた手が弱弱しい感じで解放される。

何か言葉をかけようにも俺を拒絶するような雰囲気を纏いながら俯いてしまった。

 

 

再び俺たちの間に沈黙が漂う。

しかしさっきと違って俺の方に非があるので気まずさはさっきの倍以上だ。

 

ホントにごめん杏子!

どうしても断らなきゃいけない理由が!

 

 

・・・あれ?杏子なら言ってもいいんじゃね?

魔法少女の秘密バラしても大丈夫じゃね?

 

だってコイツ真実知ってもその鋼のような精神で絶望しなかったし。

そうだ言えばいいじゃん!

逆に何で今まで隠してたかの方がおかしいわ!

 

ほむらも機会あれば言うつもりだって言ってたし、シロべえだって!

・・・あいつはタイミングを考えて話せって言ってたけど、どういう意味だ?

 

まあ、そのタイミングは多分今だ!

よし!決めた!

 

杏子に魔法少女の真実を話そう!

そしたらこっちの事情だって理解してくれる可能性大だ!

 

 

「あの杏子!」

 

「なあ優依、ちょっと寄りたい所あるんだ。一緒に来てくれる?」

 

「え?えっと・・どこへ?」

 

 

何というタイミングだ・・!

俺が話しかけた途端を見計らった感じで話を遮れた。

まるでそれは俺の話なんて聞きたくないといった態度だ。

 

おかしいな。一応提案のはずなのに拒否権がなさそうな感じがする。

有無を言わせない様子で俺を見据えて笑っている。

 

その笑顔は少女らしい優しい笑顔なのに何故か俺はゾクッと身震いする。

 

 

「いいから」

 

「わ!ちょっと引っ張るな!」

 

「ほらほら早く」

 

 

質問に答えてくれる事はなく杏子はそっと俺の手を掴むと立ち上がって店を出た。




IFストーリー

「杏子・・まさかとは思うけど俺の事、恋愛対象として好き?・・なんて」

「ああ、好きだ」

「え?」

「~~っだから優依の事が好きなんだよ!恋愛対象として!!//」

「・・・マジで?」

「好きだ!アタシと付き合ってくれ!(身体を乗り出して優依ちゃんに迫る)」

「え!?・・は、はい?(勢いに負けた)」

「! 幸せにするからな!(幸せそうに優依ちゃんを抱きしめる)」


エンダァァァァァァ イヤァァァァァァ!


もし優依ちゃんが口に出していたらこんな感じになってましたw
杏子ちゃん√突入!
途端にヤンデレからデレデレシフトチェンジしますが黄色と紫は黙っていないでしょう。
間違いなく修羅場起こりますw


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87話 知ってる人でも付いて行っちゃいけないって世の中物騒過ぎるわ

最近思い知った事:
現代人はネットが繋がらないと生きていけないという事。


ネット回線に障害が生じてパソコンが使えなくなったので投稿がかなり遅くなってしまいました。申し訳ございません!


「あの・・杏子さん、どこまで行くんですか?」

 

「もうちょっと先だ」

 

「そう言ってもう軽く三十分は経ってる気がするんですけど?」

 

 

杏子に手を引かれ、ファミレスを後にした俺はひたすら赤の後ろについていく形で歩く。

 

ホントどこまで行く気だこの赤?

結構な距離を歩いた気がするんだけど気のせいじゃないだろう。

かなり疲れた上に足が痛い。悲鳴を上げるまで秒読みだ。

 

 

気づけば夕暮れもかなり傾き始めている。

そろそろ帰らないとあっという間に中学生補導対象&魔女さんいらっしゃい時間帯に早変わりだ。

何としてもそれまでには屋内に逃げ込みたいんだが、それには杏子の拘束から解放されなくてはならない。

 

それにはどうしても前を先導する赤に話しかけてなくてはいけないわけでして・・。

若干、いやかなりビビりつつ慎重に声をかける。

 

 

「杏子、もうすぐ夜になるよ。俺、そろそろ帰りたいんだけど・・」

 

「んー?もうちょっとだから付き合ってよ」

 

「・・はあ」

 

 

だめだこりゃ。

さっきから話しかけてもこんな調子で返されるから押し黙るしかない。

 

 

なけなし勇気で話しかけたのに貼り付けたような笑顔を浮かべて軽く流される。

それが堪らなく怖いので閉口してしまうのだ。

 

さすがに時間の問題上、もうちょっと押し強めにいきたいところだが、これ以上押し強めにいけば今は一応笑顔の杏子も機嫌がみるみる下がっていきそうで怖くて何も言えない。

 

 

大人しくついていくのが無難だろうが、身の安全が保障されない上に夜遅くまで帰してくれなさそうな気がする。

そもそも帰してくれるのかさえ疑問なのだが。

 

 

 

 

マミちゃん今頃どうしてるだろう・・・?

 

 

俺の事探してくれてるかな?黙っていなくなった訳だし。

過保護な上に心配性な性格だから今頃パニックになってないと良いけど。

そうなったら俺の無事を確認するまで暴走しそうだ。

いつかの恐怖の連続着信が来てそうで怖いけど今の俺にはそれを確かめる術すらない。

 

何故なら、

 

 

 

チラッと前を歩く杏子のパーカーのポケット見る。

 

そのポケットの中には黒い長方形のものが入っている。

正体は俺の携帯だ。

 

そうです。いつの間にか杏子に回収されてました。

いやほんとビックリしたよ。

 

 

 

”じゃ、これは預かっとくから”

 

 

 

軽い口調で知らぬ間に俺のバッグから引き抜かれてたんだもん!

全然気づかなかった!何あれ怖い!

 

 

杏子がどうやって普段、資金調達してるかの一部始終を垣間見た気がする。

いつかのATM破壊未遂の時もそうだがコイツの将来が心配だ。

それ以前にこの世界に将来があるのかとても心配なんだけど。

 

もちろん、そんな横暴は許されない。

マミちゃんに連絡を取るため携帯を取り戻そうと試みた。

しかし勘の良いコイツは実行する前に俺の方に振り向いて「大人しく付いてきてくれよな」と釘を刺してきて、その時も笑顔だったけどオーラが確実に怒ってた。

 

 

笑顔+怒りオーラの迫力は凄まじい。

その威力は高速で首を縦に振らせ、抵抗の意思をなくすには十分な威力だった。

 

 

そんなこんなんで今に至る。待っていなくてもすぐに辺りは夜になるだろう。

大人しく付いて行っているが流石にこのまま黙って連行されるのはかなりまずい気がする。

なんせ昨日睡眠薬なんて恐ろしいもの盛られてんだ。

 

今度もそれくらい、いやそれ以上にヤバい事仕掛けてきそうで洒落にならん。

でも俺のようなヘタレがこの目の前のベテラン魔法少女をどうにか出来るとは到底思えない。

やはりここは目には目を、歯には歯を。魔法少女には魔法少女をだ。

 

 

この状況を穏便に解決してくれそうなものはほむらだが、アイツ今どこにいるか分かんないし、何よりまどか最優先だから俺の事など二の次だろう。助けを求めても「どうにかしなさい」と放置されそうだ。

 

 

さやか?論外。

騒ぎが大きくなりそうだし、今度杏子と会ったら殺されそうだ。

 

 

となるとやはりここはマミちゃんだ。

どうにかして彼女と連絡を取りたいがどうすれば良いだろうか?

 

 

 

「? 杏子?」

 

 

杏子がふいに立ちどまるから俺はそれに気づかず背中にぶつかってしまった。

 

鼻が痛い。背中にぶつかった拍子に当たったらしい。

結構強くぶつけちゃったけど鼻血出てないよね?

 

 

イラッとしたが周りの様子を見る。

 

杏子に引率されながらずっと考え事してて気づかなかったが、どうやら俺たちはどこかの橋の下にいるようだ。

薄暗くて気味が悪い。如何にもなにかでてきそうな陰湿な雰囲気ですぐにでもここから離れたいと思わせるそんな雰囲気だ。

 

当然、ホラー超苦手な俺にとってOUTな場所だ。めっちゃ怖い。

この雰囲気に呑まれて恐怖で発狂しそうだ。

 

でも何より怖いのはさっきから立ち止まって微動だにしない杏子だ。

俺の前に立っているから表情は分からないが、手を離す素振りはない。それどころか更に強く握ってくる。

 

 

ひょっとして行きたい場所ってここなんだろうか?

わざわざビビりの俺を連れてまで来るなんて何と意地悪な性格なんだ。

 

杏子はどういう意図で俺をここに連れて来たんだ?

まさかの俺をビビらせてからかうためか?

 

 

怖いけど一刻も早くここから抜け出したい。

流される可能性があるが話しかけるしかないだろう。

 

 

「杏子、一体どうしたんだ?わざわざこんな遠い所まで連れて来て何がしたいんだ?からかうためだったら悪いけど、俺は帰るぞ」

 

 

少し怒ったような口調で話しかける。

ちなみに声の調子は苛立ち一割と残り九割は恐怖を隠す強がりで構成されていたりする。

 

 

 

 

「優依って結構意地悪だよな」

 

 

 

俺に背中を向けたまま杏子はそう呟いた。

その際、俺の手を握る力が一段と強くなったので痛みで思わず顔を顰めてしまう。

 

 

「はあ?・・いきなりなんだよ?」

 

 

俺が意地悪だと・・?意地悪代表みたいな奴が何言ってんだ?

現に今も訳の分からない事して俺を混乱させる意地悪してるだろうが。

無自覚かコンチクショウ!

 

 

 

「アタシこれでも結構傷ついてんだ」

 

 

俺と話しているというよりまるで独り言を言っているようで微妙に話が噛み合わない。

杏子の纏う雰囲気はこの場所に影響されてるかのように暗いものに感じる。

 

これがどういう状況かよく分からないが、このまま杏子の好きにさせておくのは良くないという事だけは何となく分かる。

とにかく話題を振って気を紛らわせた方が良いだろう。

 

 

「杏子」

 

「・・・・」

 

 

 

え?無視ですか?泣くよ俺?

意地悪も辛いけど無視されるのが一番辛いんですけど俺・・。

 

 

 

 

 

「・・・来た」

 

 

 

「え・・? !?」

 

 

 

 

杏子が呟いたと同時に周りの空間が歪む。

 

 

 

 

 

とっても見覚えのある落書きのような空間の中央にこれまた落書きのような物体が子供の笑い声のようなものを上げながら現れた。

それを見た俺はここがどこか悟り一気に顔が青ざめた。

 

 

「良いタイミングで出てくれたもんだ」

 

 

ようやくこっちに振り返った杏子は楽しそうに笑みで俺を見つめている。

その笑顔はどこか虚ろなものを宿していたが今の俺にそんな事を気にする余裕は一ミリもない!

 

 

それよりも俺の生命の方が遥かに大事ですから!

 

 

 

「あわわわわわわわ!」

 

「安心しろ。使い魔の結界だ」

 

「安心出来るか!魔法少女にとって雑魚でも、一般ピーポーにとっちゃ確実な死亡フラグだから!ていうかこれやっぱり使い魔の結界か!」

 

 

安心させるようにパニクる俺の頭を撫でながら告げる杏子に思わず食って掛かる。

 

 

どこをどう見たら安心できるのか是非説明して頂きたい!

杏子にとっては雑魚同然だろうよ!杏子にとってはな!

俺にとっては死が具現化された存在そのものだから!

 

しかもよく見るとアイツって、原作でさやかが倒そうとしたけど杏子が逃がした奴じゃん!

まさかの再会ですか!?ちっとも嬉しくないから!

 

 

それなのにわざわざ自分から結界に入っていくなんて杏子は今更この使い魔に何の用だ?

昔はともかく今はグリーフシード目当てでむしろ使い魔を放置するはずなのに・・・・まさか!

 

 

最悪の事態が脳裏に過り、そっと杏子の手を離す。

考えるよりも先に身体が勝手に動いた。

 

今の杏子は使い魔の方に気を向けている。チャンスだ!

 

 

 

「おっと、どこに行くんだ?」

 

「!」

 

 

全てを悟った俺は本能に従うまま逃げようとした。

しかしそれはすぐさま終わった。

地面を蹴る前に杏子が俺の手を掴んでいたから。

掴まった俺の顔が青ざめていていくのが分かる。

 

 

 

「は、離せ杏子!俺を餌にするつもりだろ!?絶対嫌だぞチクショウ!」

 

 

杏子が俺をここに連れてきた理由、

 

 

それは俺をあの使い魔の餌にするつもりだ!

そうだ!それに違いない!

 

 

チクショウ杏子め!そこまで堕ちたか!

ドライな面はあると思ってたけどそれは過去の事が原因で装った偽悪的な仮面だった。

本質的には心優しい聖女だったはず。

 

それなのに今はどうだ。

自身が生き残るために友達(仮)の俺を使い魔の餌にしようとしているではないか!

なんて奴だ!見損なったぞ!

お前なんか魔法少女どころか人間の風上にもおけねえよバカヤロウ!

 

 

「離せ離せ離せ離せ!」

 

「こら、暴れんなって」

 

 

まさかの裏切りに対しての怒りと失望で半泣きになりながらがむしゃらに暴れるも杏子は全く動じない。

それ所か俺の両腕を掴んで背中に押さえつけられてしまった。

 

 

いたたたたたたた!折れる折れる!

俺のスカスカな骨密度だと確実に折れる!

 

 

もはや暴れるどころじゃない。

痛いと涙ながらに訴えたら、力を緩めてもらえた。

といっても拘束はしたままだが。

 

 

「ここさ、人がよく消えるってオカルトマニアの間じゃ有名らしいんだよね。まあ、真相は魔女や使い魔が好んでやってくる場所だから、それを知らないで肝試しにやってきた馬鹿が食われてるってだけなんだけど」

 

「へ、へえ・・そうなんだ」

 

 

俺が骨折する心配なんて一ミリもしていないのか杏子は腕を押さえつけながら聞きたくもない都市伝説っぽい事を語り始める。いきなりそんな話をするのはどうかと思うが話を聞く俺も大概だけど。

 

 

ていうかガチでリアルな怖い話じゃん!

心霊スポットに遊び半分で行ったら生きて帰れないとかどこのホラー映画だ!

 

 

 

 

「もうすぐだ。あと一人くらい食えばアイツは魔女になる」

 

 

 

背中越しに聞こえる楽しそうな声。

例えるならそれはサンタを待ちわびる子供のような無邪気さを孕んでいた。

 

 

 

「離してくれええええええええええええええええええええ!!俺はまだ死にたくないいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 

全身を恐怖で支配された俺はもはやパニック状態。

発狂からの絶叫とやりたい放題だ。

なんならさっきよりも身体を振り乱して暴れまくってみたが、そんな俺の必死の力にも杏子の力の前ではビクともしなかった。

 

俺史上渾身の力を使ったはずなのに一体どうなってんだおい!

どんだけパワー有り余ってんの!?お前、前世絶対ゴリラだろ!

ゴリラはゴリラでも絶対キン〇コングレベルの強さだっただろ!

 

 

「おい落ち着けって。怪我するぞ」

 

「怪我がなんぼのもんじゃい!骨折がなんぼのもんじゃい!やっぱり俺を餌にするつもりだろ!?昨日の仕返しなんだろ!?見損なったぞ馬鹿!」

 

「誰が馬鹿だ。・・そんな訳ねえだろ。優依には絶対に近づけさせないよ。ましてや餌になんてするはずないだろ」

 

「え?・・・本当?」

 

「ああ、本当だ。約束する。アタシの命に変えてもアンタを守る」

 

 

俺を見る真剣なその眼差しはとても嘘をついているとは思えない。

 

そうだよな。いくら杏子といえど友達(未満)を見殺しにするような真似する訳ないよな。

あー焦った。まじで餌にされるのかと本気で思ったわ。

こんなに友達思いの奴がそんな事する訳なのにな。

誰だよ杏子を見損なったとか最低とか言った奴は・・あ、俺だ。

 

 

「まあ、他の奴は知らねえけど」

 

「・・・ん?」

 

 

ぼそっと独り言のつもりで口にしたようだが生憎俺の耳に聞こえてしまった。

気のせいだ。そう、きっと俺の気のせいだ。

 

 

「ごめん、今なんて?」

 

「ん?他の奴は知らねえって言っただけだけど?」

 

「それって、他の人が食われても構わないって事ですか・・?」

 

「そうだけど?」

 

「・・・・・」

 

 

おいいいいいいいいいいいいいいいい!!

コイツ可愛い顔でとんでもねえ事言ったぞ!?

 

違った!俺の気のせいなんかじゃなかった!

まともに見えて実は自分(多分俺も含まれている)以外、他はどうなってもいいという一番危険な思考の持ち主だよ!

 

怖い!コイツマジで怖い!

病みを極めた悪魔ほむらでさえまだ周辺に気を遣う優しさは残ってたぞ!

自分以外は幸せになる自己犠牲悪魔だったぞ馬鹿野郎!

 

それに比べて赤いヤンキーときたら!

見損なったとかそんなレベルじゃねえぞ!

 

これは非常にまずい!

一刻も早く杏子から逃げなくては!

 

 

俺が暴れなくなって油断していたのか、腕を掴む力が緩んでいる。

そのおかげでなんとか掴まれていた手を外す事が出来た。

 

 

 

 

よし今の内に・・!

 

 

 

 

「!」

 

 

「逃がさねえよ」

 

 

くるりと踵を返した直後、俺を包み込むような形で背後から抱きしめられる。

耳元で聞こえる杏子の声は酷く冷たくて寒気がした。

 

 

「何でこんな事すんの!?俺に恨みでもあんの!?」

 

「昨日言わなかったかい?『容赦しない』って・・アタシは怒ってんだ」

 

 

杏子が俺を抱きしめたまま結界の壁の方に向かって歩いていく。

壁に到着する間際、視界が霞み背中に衝撃が走る。

 

 

「・・っ」

 

 

呼吸が上手く出来ない。背中痛い。

鈍痛が走り、せめてそれを和らげようと背中に手を伸ばそうとするも両腕を何かに掴まれて壁に叩きつけられた。

 

何事!?と前を向くと目の前には杏子の顔があった。

どうやら俺は杏子によって壁におさえつけられているようだ。

 

という事はさっきの背中の衝撃は壁にぶつかったからか。

じゃあ杏子に投げられたのか俺?

いや、それよりもこの状況は・・!

 

 

俺を壁に押し付ける杏子

これは第三者から見たらおそらくこう言うだろう。

 

 

『壁ドン』・・と。

 

 

状況を理解し、顔に熱が集まっていく。

 

 

こ、これが壁ドン!?

まさか人生初の壁ドンを女子にされるとは・・。

 

 

ん?なんか足の間に違和感が・・ !?

 

 

「ちょ・・!?」

 

 

恐る恐る下の方に視線を向けると俺の太ももと太ももの間に杏子の足が割り込んでいるじゃないですか・・・!

もしかしなくても『股ドン』って奴じゃないの!?

 

うっそマジで!?おいおい!

まさかリアルでありえない経験をまさか一度に経験するなんて・・!

 

これ途端に女の子憧れのキュンキュンな状況から途端にR-18にシフトチェンジしそうな展開になるやつだ!

杏子の奴、いつの間にこんな事覚えて・・ありがとうございます!

 

なんてトキめいてる場合じゃねえ!

何これ!?どういう状況なのこれ!?

 

 

「わざわざ遠くまで来たんだ。マミは簡単に追ってこれないだろうさ。ほむらもアタシのいる場所は分かんねえだろうよ。・・ようやく二人っきりだ」

 

 

ショート寸前の頭で一人漫才してると杏子が息がかかる程、グッと近くに顔を近づけて来る。

頬を赤らめてにっこり笑う杏子は肉食獣のような目をしているので本能的に鳥肌が立った。

 

 

「あの、ここ使い魔の結界・・」

 

「優依・・・」

 

 

聞いちゃいねえ。

熱に浮かされたような声が俺の名前を呼んでいて超怖い。

 

速攻で助けてを求めたいが、しかし悲しいかな。助けが来る可能性は皆無だ。

俺一人で杏子及び使い魔から逃げて生き延びなくてはいけない。

 

普通に無理ゲーじゃね?てか何この状況?

俺、ひょっとして杏子に襲われちゃう感じですか?

このままモザイクかけなきゃいけないような百合百合しい展開になっちゃう感じですか?

使い魔の結界の中で女の子同士がR-18展開するとかどんな特殊プレイだ。

 

 

駄目だ。混乱し過ぎてロクでもない考えしか出てこねえ!

 

 

ロクなアイデアが浮かばない中、杏子がそっと俺の耳元に顔を寄せてくる。

 

 

「お前が悪いんだよ。アタシをこんな風にしておいて、責任を取らないで裏切るから」

 

「えー・・」

 

 

俺が悪いの?

確かに魔法少女関連の事黙ってたのは悪かったと思うけどここまで根に持たれる程怒らせるものだったっけ?

そもそも杏子を裏切った覚えはないんだけど?

てか、そもそも杏子をどんな風にしたんだ俺は?

 

 

「面白い事教えてやるよ」

 

「?」

 

「どうやら近くに人がいるみたいなんだよね。このままだとソイツ食われちまうかもな?」

 

「は!?」

 

 

おいおい勘弁してくれよ!どこが面白いんだ馬鹿!

それは何か?下手すればグロイ殺戮ショーが俺の目の前で開催されるって事か!?

そんなもん見たらトラウマどころか精神崩壊起こすわ!

 

 

 

「・・アタシは何もしねえぞ。卵産む前の鶏絞める気ないし」

 

「・・・」

 

 

ですよねー。

ほんのかすかな望みをかけて目で使い魔倒してとお願いしてみたが案の定玉砕。

予想通り過ぎで涙出てきそうだ。

 

 

このままじゃ俺の目にR-20確定のシーンを映す事になる!

それは駄目だ!絶対に駄目だ!

 

 

「取引次第で倒してやらない事もないよ」

 

 

頭を抱える俺に杏子はタイミングを計ったようにニヤリと意地の悪い笑顔で顔を覗き込んでくる。

 

てか顔近いんですけど!

何でいちいちマウストゥマウスしそうな距離に近寄ってくんの?

 

 

「・・取引って何?」

 

 

何となく察しはつくが一応聞いておこう。

絶対ロクでもない取引内容だろうけどな。

 

 

「簡単さ。アタシと一緒に来るって言え。そうすればすぐあの使い魔を殺してやるよ」

 

 

やっぱりですかチクショウ!嫌な予感はしてたよ!

ホントしつこいなコイツ!もはや執念だろこれ!?

 

思わず怒鳴りたい衝動に駆られたが、それよりも呆れと疲れからか思わずため息がもれる方が早かった。

そんな俺の様子を杏子は笑顔を引っ込め真剣な表情で静かに見下ろしている。

 

 

「昨日からずっと考えてたんだ。どうやったら優依を連れ出せるか。どうやったら優依は素直にアタシの元にくるか、マミ達と戦った後からひたすら考えてた。そこでふと思いついたのさ。アタシの言う事を聞かなきゃいけない状況にしちまえばいいって」

 

「何をどう考えたらそんな結論になるんだよ!?それは考えてるとは言わない!思いつめてるっていうんだよ!」

 

 

ほむらと共同戦線が出来たと一先ず安心してたらこれだよ!

まあ、ほむらの方も杏子との約束守る気ゼロだったからあおいこだろうけどこれは酷い。

約束破るどころか裏切る気満々だぞ!

 

 

「これを実行するために今日は一日俺を見張ってた上に待ち伏せしてたのか?」

 

 

つまり、初めからこれが目的で俺を出待ちしていたと?

まさかマミちゃんと引き離したのもキュゥべえと結託した杏子の仕業じゃ・・?

 

 

「はは、それは違うぜ優依」

 

「え?」

 

「今日はアンタの事見張ってない。昨日の事があるからさ、マミとほむらに警戒されてて近づけなかったんだ。どうやってあいつ等の目をだし抜こうか考えてたらまさかの優依の方から来てくれるなんてね」

 

「・・・・・・え?じゃあ今日会ったのって待ち伏せじゃなくて・・・・・・全くの偶然なの?」

 

「ああ、まさか偶然通った道で現れるなんてな。・・これも神様のお導きってやつかね?」

 

 

教会の娘らしく神に向かって感謝を捧げるように目を伏せる。

俺は彼女と違って神に感謝する事はない、むしろ罵倒したいくらいだ。

 

 

邪神テメエこの野郎おおおおおおおおおおおおおおおおお!!

なんつう死亡フラグに導いてくれてんだ馬鹿!

お前そんなに俺の事嫌いか!?

嫌いな奴はどこまでも苦しめってか!?

俺、お前にそこまで嫌われる事した覚えねえぞおい!

俺の何がそこまでテメエを奮い立たせるんだよ!?

 

 

 

「さあ、おしゃべりはここまでだ」

 

 

「!」

 

 

再び顔を上げた杏子の顔がすぐ近くまでに迫っている。

赤い瞳にうつる俺はどこか黒くくすんで見えるのは気のせいじゃない気がする。

 

 

「今ここで決めな。アタシと一緒に来ると約束してアタシに使い魔を退治させるか、自分可愛さにこれからやってくる人間を見殺しにするか。どっちか好きな方を選ばしてやるよ」

 

 

有無を言わせない。

嫌でも雰囲気で分かってしまう。

 

思わず息をのむ。

 

 

間違いない。杏子は本気だ。

冗談抜きでこれは最終通告だ。




邪神様は人がもがき苦しむ姿を見るのが大好きです!
特にリアクションが大きい人ほどお気に入りw




IFストーリー
杏子ちゃんと付き合ったら(杏子√続き)


「マミ、アタシ優依と付き合う事になったから」

そう言って俺の肩に腕を回す杏子。
まさかの杏子からの告白でかなりびっくりしたというのに勢いでついOKを出してしまったが今更後悔しても遅い。

だってめっちゃ恥ずかしい。
彼女いない歴=前世からの年齢加算の俺にこんな可愛い彼女が出来るなんて!


「・・・・・」

何も言わないマミちゃんが非常に恐ろしい。
無表情で俺たちを見る様子はガクブルものだ。

「ここはアタシの優依にとって大切な街だ。可愛い優依に頼まれたんじゃ断れねえよ。仕方ないからアタシも『ワルプルギスの夜』を倒すために協力するさ」

そうなのだ。
(一応)付き合う事になったからダメ元で杏子にお願いしたらあっさりOKが出た。

あれだけマミちゃんと協力するのを拒否していたのに・・恋の力恐るべし。
しかも善は急げとそのままマミちゃんの所に行くなんて行動力が逞しい。


「・・・そう、良かったわね」

「マミちゃん・・?」


ゆらりと立ち上がったマミちゃん。
何故かその手には銃が握られており銃口は杏子に向けられている。


「佐倉さんを殺して私が優依ちゃんの彼女になる!」

「ハハ!やってみろよ!アタシらの仲に入る隙なんてどこにもねえけどな!」


お互い変身して始まる殺し合いに俺はすぐさま避難して頭を抱えるしかなかった。

結局こうなるのね・・。


杏子√は彼女となった杏子は味方になるがそれ以外は敵になるので修羅場展開確定w


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88話 思いつめた先は

ネット回線が不調になって早〇週間・・。


ついに解放された・・!


杏子side

 

 

「さあ優依、返事を聞かせてくれよ」

 

 

壁に押さえつけられた優依が怯えた表情でアタシを見上げる。

 

涙目な上に小動物のように震えててすっごく可愛い。

このまま襲ってしまいそうになるくらいだ。でもここは我慢しないと。

 

今は言質を取る方が優先だ。

可愛がるのはその後でも遅くないし、むしろ邪魔が入らない分そっちの方が良いかもしれない。

 

ほむらには悪いがアタシは『ワルプルギスの夜』と戦う気なんざ更々ない。

何のメリットもないし最悪死ぬ可能性すらあるんだ。

悪いけどそんな無謀な戦いするような正義感はアタシにはないね。

騙してしまった事に少なからず罪悪感を感じるけどもう手段なんて選んでる暇なんてあるものか。

 

 

可愛い優依をみすみす死なせるなんてアタシには出来ない。絶対にそんな事させない。

死なせるくらいなら、守れるように閉じ込めておいた方がよっぽど良い。

例えそのせいで魔法少女全員が敵になろうとも構やしない。

 

 

優依はアタシのだ!

 

 

「きょ、杏子・・取り敢えず話し合おうよ・・ね?」

 

 

ようやく優依が口を開いたと思えばまた『話し合い』の提案で辟易しそうだ。

 

アタシが賛成すると思ってんのか?おめでたいな。

当然そんなものお断りに決まってんだろ。

 

 

「・・話す事なんて何もねえよ。それに今アンタが口開けて喋って良いのはアタシが提案した選択肢をする事だけだ」

 

 

若干苛立ちながらそう吐き捨てる。

 

いい加減聞き飽きたし、アタシもそうだけどマミの方もお互いに話す気なんて更々ない。

次会ったらきっとまた優依を巡って殺し合いになるだろう。

そうなればどちらかが死ぬまで戦いは続く。そんな魔力の無駄使いなんてごめんだ。

 

 

それに今は何より、ようやく優依が手に入りそうな瞬間なんだ。

他の事なんて正直どうでもいい。

 

 

思わず笑みが零れてしまう。

 

 

アタシが提案した選択肢は二つ

 

自分の身柄と引き換えにアタシに使い魔を殺させるか

保身のために使い魔に食われる人間を見殺しにするか

 

仮にどちらかを選んでも優依はアタシのものになる。

アタシと一緒に来ると言えばそのままアタシのものになる訳だし、かといって、アイツが拒めば目の前で徐々にこちらに近づいてくる人間を使い魔に食われるところを傍観すればいい。

 

そんな凄惨な光景を心の弱い優依が耐えられる訳ない。

きっと心を壊してしまうだろう。

そうなれば必然的に優依はアタシのものになる。壊れたコイツをただドロドロに甘やかしてやるだけさ。

 

どっちの選択肢を拒んだってここは使い魔の結界の中。

優依に逃げ場なんてない。ここに向かって一般人が近づいている以上時間稼ぎも使えないはず。

もはや打つ手はないはずだ。どちらかを選ぶしか道は残っていない。

 

欲を言えば壊れてくれた方が嬉しい。

心が壊れた状態なら頼れるのはアタシしかいないって教えやすいから。

 

 

何もこれは最初から考えてた事じゃない。

 

 

優依をどうやって手に入れるか、それはこの想いを自覚してからずっと考えてた。

理想を言えば優依の意思でアタシの所に来てくれる事だったけど、きっとそれは無理だ。

昨日の事でそれは嫌と言う程理解した。

強硬姿勢で無理やり連れて行こうとしても邪魔が入るしイライラが募るばかり。

 

頭が痛くなる事ばかりでどうしようか悩みに悩んでた上に、昨日ほむらからこの街に『ワルプルギスの夜』が来るって聞いちまっていよいよ時間がなくなりつつある事を嫌でも突き付けられた。

 

 

最早一刻の猶予もない。

 

このままじゃ優依は死んでしまう!

嫌だ!死なせたくない!

どうすればいいの?どうすれば優依を連れ出せる?

 

 

そこでふっと思いついたんだ。

 

 

アタシの元に来るように誘導しちまえばいいんだって。

 

やり方なんて簡単だ。

優依は一般人。魔法少女のアタシと違って戦う力はない。

なら使い魔か魔女の結界に連れ込んで脅せば嫌でもいう事を聞かせられる。

 

だから強引な形で使い魔の結界に誘導した。

そしたら本当に良いタイミングで現れるもんだから思わず笑っちゃった。

随分遠くまで来たから頼みのマミはすぐには来れないはず。

優依に逃げ場なんてないんだ。

 

 

だって仕方ないよね?

最後のチャンスでもう一度言ってあげたのに。

”一緒に逃げよう”って。でもアンタはそれを断った。

ならもう容赦する必要なんてないじゃん。

 

 

・・こんなのきっと父さんが見たら「お前は魔女だ」ってあの時みたいに言われそうだ。

確かにこんな最低な事思いついた上に実行してる奴なんて誰から見たらとても教会の娘になんて思えなくてきっと魔女そのものだって思うかもしれない。詰られたっておかしくない。

 

でも・・それがどうした?もうかつての教会の娘なんてどこにもいないんだ。

ここにいるのは欲しいものを手に入れるためなら容赦しない自己中な魔法少女がいるだけ。

それが今のアタシ。

 

 

例えこのまま魔女に成り果ててしまっても構わない。

優依が手に入るならアタシは魔女にだってなってやる・・!

 

 

 

「うう・・うう」

 

 

どれだけ時間が経ったのか分からないが、とうとう堪え切れなくなったのか優依はしゃくり上げて本格的に泣きだしたからアタシはポロポロと頬を伝う涙をそっと拭ってやる。

 

 

「おいおい泣くなよ。別にアタシはアンタを怖がらせたかった訳じゃないんだから」

 

 

嘘だ。優依が見せる表情の中でアタシが一番好きなのは泣き顔だ。

もちろん笑顔も可愛いけど優依は泣いてる顔が一番可愛い。

だってコイツは泣けばいつもアタシに縋りついてきて可愛いんだもん。

 

 

「ほら早く言いなよ。アタシの傍にいるって。そうすれば一生守ってやるから」

 

 

涙を流しながらもギュっと悔しそうに唇を噛む優依の頬に優しく手を添える。

 

こんなやり方で連れ去ろうとして良心が痛まないというのは嘘だ。

本当なら優依の望み通りマミ達と協力して『ワルプルギスの夜』を倒すのが正解だってのはアタシにも分かる。

 

そんな事は分かってる。

 

でも、その後は?

 

 

優依がずっとアタシの傍にいてくれるなら文句はないけど、それを邪魔する奴らがいる。優依の傍にいるのを邪魔する奴が多すぎる。それだけでも殺したいくらいイライラするのに最悪優依を盗られるかもしれない。

 

 

もしそうなってしまったらアタシは・・!

 

 

優依が他の誰かに盗られちゃうなんてアタシ耐えられない!

 

 

 

 

 

「! 優依!?」

 

 

突然肩を強く押され、驚いて優依から少し離れてしまった。

どうやら優依の奴、アタシの肩を手で押し返したらしい。

 

ここにきて抵抗されるとは思ってなかったから油断してたとはいえ一般人に出し抜かれるなんて情けねえな。

 

 

「優依!」

 

 

驚いてる内に優依は駆け出してどんどんアタシとの距離が離れていく。

でも焦ったりはしない。

すぐに追いつけるし、何よりここは結界の中。

優依に逃げ場なんてない。

 

 

「諦めの悪い奴だな。どうせ出口まで辿りつけやしないのに。てか、出口と反対方向だし。馬鹿だな。 !? 馬鹿!戻れ!そっちは使い魔がいる方だぞ!」

 

 

ハッとして慌てて声をかける。

 

優依が走っていく先に使い魔がいる。

それなのにアイツは気づいていないのかそのまま使い魔の方に向かって走っていく。

顔が自分でも分かるくらいサーっと血の気が引いていく。

 

 

このままだと優依はあの使い魔に・・・!

 

 

「早く戻れ!死んじまうぞ!」

 

 

どれだけ叫んでも優依は止まる気配がなかった。

そうこうしてる内に使い魔の方も走ってくる優依に気づいたのか、近づいていく。

 

 

まずいまずいまずいまずい!

何で優依はあんな自分から死にに行くような馬鹿な真似やってんだ!?

 

 

「! まさか・・!」

 

 

・・アタシと一緒にいたくなかったから?だから死のうとしてる・・?

追い詰められたアイツは使い魔に食われる事でアタシから逃れようとしてあんな馬鹿な事を・・?

そんな・・・い、いや・・・!

 

 

ガラガラと足元が崩れるような感覚に立っていられなくてなってそのまま地面に座り込んだ。

身体がガタガタと音を立てるように震えている。

一度考えた悪い考えは振りほどこうとしてもしがみつくようにして頭に張り付いて振りほどけない。

 

 

アタシ・・もしかして優依に嫌われてた?

一緒にいるくらいなら死んだ方がマシだって思うくらい嫌ってたの・・?

そんな・・・!

 

 

身体の震えが止まらない。

視界がぼやけて呼吸が上手く出来なくなっていく。

 

 

このままだと優依が死んじゃう・・!

アタシのせいで・・死のうとしてる!

それはだめだ!絶対イヤ!

 

 

「優依悪かった!アタシが悪かったから!だからお願い!止まって!!」

 

 

ほとんど悲鳴に近い形で叫んでも聞いてくれなくて視界がぼやけたまま。

何かが頬に流れるのを感じ、手に触れてみるとそれは涙だった。

 

 

 

「っ!」

 

「◎☆&%!」

 

 

そしてとうとう優依に向かって使い魔が襲いかかって・・。

 

 

 

「はあああああああああああああ!!」

 

 

そこからは無意識だった。

気づけばアタシは変身してて槍で使い魔を地面に突き刺していた。

 

突き刺された使い魔は地面にめり込んでいるようになっていて姿がほとんど見えない状態だった。

 

 

 

「ハア・・ハア・・」

 

 

焦りと渾身の力を使ったからかかなり息が荒く、肩が大きく上下している。

余程深く突き刺したのか槍が動かない。このまま手放した方が良いだろう。

 

 

くそ、使い魔相手にこんなに力を使ってしまう事になるなんて・・。

 

 

イライラしながら呼吸を整えていると傍目で優依の姿がうつる。

何故かアタシの方を見て笑っていた。

 

 

「・・・・」

 

 

・・何だよその顔?

こっちは余計な魔力使って魔女寸前の使い魔殺しちまったっていうのに、何でそんな顔でアタシを見るんだよ?

 

 

無性にイライラしてじっと優依を睨んでいると空間が揺らいで元の場所に戻っていた。

さっきの使い魔の様子から何となくそうだろうなと思っていたがやはりトドメを刺してしまったらしい。

 

くそ!適当に追い払えば良かったのについ頭に血が上って殺しちまった!

何やってんだよアタシは!?

いや元を辿れば優依のせいだ!勝手な事しやがって!

黙ってアタシの言う事聞いてりゃこんな事に!

 

もういい!こうなったら直接槍で脅してやる!

どれだけ泣き叫ぼうが死にたかろうが力ずくで連れていけば・・!

 

 

「杏子!」

 

「!?」

 

 

優依の方に向き直って槍を取り出そうとした瞬間、衝撃が走って口から声にならない悲鳴が出る。

 

優依がアタシに抱き付いてる!

しかも離れないように力を込めているのか密着度が凄い。

 

 

近い近い近い近い近い近い!

 

 

「~~~~っ///!」

 

「ありがとう!やっぱり杏子は頼りになるな!」

 

「???」

 

「信じてたよ!」

 

「!」

 

 

頭が混乱して顔が異様に熱い中、泣き笑いのような優依の声が耳元に聞こえた。

 

信じてた?どういう事だ?

 

最初は理解出来なかったが何度もアタシに感謝の言葉を吐く優依に次第にある事を確信してしまった。

 

コイツひょっとしてわざとあんな事やったのか?

だとしたらしてやられた。

どうやら優依はわざと使い魔の囮になったらしい。

 

アタシが優依を見殺しにしないと踏んであんな危険を真似に及んだのか?

だとしたらとんでもない確信犯だ。

 

 

「チッ・・」

 

 

利用されたようでムカつく!

 

 

ああ、そうだよ!

優依を死なせるつもりはない!

使い魔や魔女になんか殺させてたまるか!

 

 

 

「えへへ~杏子~」

 

「はあ・・」

 

 

アタシの苛立った気持ちなんて全く分かっていないのか優依は甘えるように抱き付いてきて毒気を抜かれそうだ。

 

そういえば優依に抱きしめられるのって久しぶりだ。

まあ、実際は数日振りだけど長い事なかったような感覚な気がする。

 

持っていた槍が手から離れてカランと乾いた音が出して、手持無沙汰になった手はそのまま優依の背中に回して抱き寄せる。

 

 

「・・次こんなバカな真似したらタダじゃおかねえからな」

 

「うん!」

 

 

ホントに分かってんのか分からないような陽気な返事が来て苦笑いしそうになる。

何か流された気がするけどまあいい。

利用されたような感じがしてムカつくが今回は流してやるか。

 

そっと目を閉じて触れている体温を感じる。

 

あったかいな。ちゃんと生きてる。

優依が生きてる。良かった。本当に良かった。

 

 

・・でもどんなに大事に守っても親父たちのように優依もあっさりアタシを置いていくのかな・・?

 

 

 

「アタシを置いていかないで・・!」

 

 

もう二度と離さないつもりで優依の小さな身体を強く抱きしめる。

 

 

イヤだ!もうあの時みたいに置いていかれるなんて絶対にイヤ!

もしそうなったら・・アタシは・・!

 

 

「優依・・」

 

 

 

死ヌ時ハ一緒ダヨ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ優依、返事を聞かせてくれよ」

 

 

やべえよ。マジやべえよ。

目の前にいる赤がとんでもない事やらかしてくれてるよ。

 

どっかの時間軸で起こる「みんな死ぬしかないじゃない!」の黄色レベルのヤバさだよこれ。

俺の中で赤がヤバい奴のイメージカラーに成り下がっちまった。

 

 

いや、ホント勘弁してください。

 

確実に頭に血が上ってるであろう杏子さんのためにクールダウンも兼ねて話し合いを提案したけど即却下。

全く人の話聞いてくれなくて俺マジで泣きそうです。

 

今の現状を改めて振り返ってみるとほぼ強引に連れてこられた使い魔の結界の中で女の子に壁ドン&股ドンされるという未知の経験中。それだけで発狂しそうだわ。

 

それなのに極めつけは杏子からとんでもない選択肢を突き付けられた事だ。

なんでも使い魔を倒してやる代わりに一生杏子のサンドバックになるか、もしくはそれを拒否して目の前で人が食われるという生涯のトラウマ見させられるかという俺オワタな選択肢だったりする。

 

顔は笑っているがどうやら杏子さんは激おこプンプン丸を超えた怒り(神)の域に達したキレっぷりのようだ。

実際ドスのきいた声で突き付けられた選択肢以外で喋るなって言われたわけだし。

 

 

杏子さん貴女、昨日の事よっぽど腹に据えかねていたのね。

魔法少女の二人ならいざ知らず一般人の俺にこんな陰湿な事するなんてかなり末期だ。

あ、やべ。あんまりにも杏子が不憫に見えて涙出てきた。

 

 

「おいおい泣くなよ。別にアタシはアンタを怖がらせたかった訳じゃないんだから」

 

 

ごめんね杏子。全然違うから。

涙を拭ってくれてるとこ悪いけどこれそういう涙じゃないから。

怖がってるんじゃなくて君が哀れで泣いてるだけだから。

 

ていうかこれは結構ヤバいな・・。

何がヤバいって、現在マッハで俺のトラウマ中枢が刺激され中だ。

 

 

昨日の出来事のせいで俺は杏子に対してかなりのトラウマ(=恐怖)を感じている。

その上での今回のこれだ。油断すればすぐにでも発狂するレベルだ。

 

現に今も小さくではあるが身体が震えている。

叫ばないのはなけなしの理性が働いているからであと一歩踏み込まれてしまえばピンチだ。

 

頑張れ、頑張れ俺。

今すぐこの状況を打開する策を考えなければ人生最大の黒歴史を作る事に・・!

 

 

 

 

「ほら早く言いなよ。アタシの傍にいるって。そうすれば一生守ってやるから」

 

 

 

ガシャン

 

 

 

目の前に映る杏子の目の据わった笑顔に俺の中で何かが壊れる音がした。

 

 

こわああああああああああああああああああああああああい!!

 

怖い!マジ怖い!

杏子怖い!本格的に怖すぎる!

 

もう無理!絶対無理!

赤に対する恐怖が加速していくううううううううう!!

 

いやあああああああああああああああ!!

 

 

この後の事はほとんど覚えてない。

気づけば俺は杏子を振り切って走っていた。

 

これはどういった状況か確かめたかったが、赤の恐怖でなりふりなんて構っていられずそのまま足を動かすしかないので必死に走る。

 

 

なんか後ろで杏子が必死に叫んでるけど無視だ。

怖くて振り向けません!聞きたくない!

今はその声だけで恐怖だから!

ていうか振り向いたらすぐ後ろにいるなんてホラー展開ありそうでマジ怖い。

 

 

「◎☆&%!」

 

「! げ!」

 

 

声がしたからぱっと顔を上げると目の前には落書き使い魔さんがいらっしゃった。

 

 

何で!?俺もしかしなくても使い魔めがけて走ってた!?

じゃあ杏子が後ろから何か言ってたのってこれの事!?なるほどね!杏子が必死に叫ぶ訳だ!

 

ヤバいヤバいヤバいヤバい!

どうしよう!?何とか止まれたけど、仮に今から方向転換しても間に合わない!

 

現に逃げようとする俺の背中を使い魔が触れようとしてる!

 

 

ぎゃあああああああああああああ!!

俺死んだああああああああああああ!!

 

 

 

「はあああああああああああああ!!」

 

 

「!」

 

 

俺に触れる瞬間、使い魔が姿を消した。

代わりに赤い何かが背後に現れる。

 

 

「ハア・・ハア・・」

 

 

杏子だ。魔法少女に変身した杏子が俺のすぐ目の前にいる。

握っている槍の先端には使い魔ぶっすり刺されて地面にめり込んでいた。

 

 

超おっかねえ・・。

 

 

余程強くぶっ刺さってるのか地盤沈下した使い魔の姿が見えない。

あと一歩遅かったら俺もあそこに仲間入りしてたかもしれないので他人事じゃないのが恐ろしい所だ。

 

気づかれる前にこっそりトンズラしようとしたがふと足が止まる。

 

 

ひょっとして俺を助けてくれた?

いやひょっとしてじゃない!間違いなく俺を助けてくれた!

だってあの魔力の無駄使いが嫌いな杏子が俺を助けるためにわざわざ魔法少女に変身までしてくれたんだ!

 

なんて良い奴なんだ!

 

散々俺を脅しまくってたけどそこは常識人枠。何だかんだで助けてくれるんだな!

ありがとう!正直ここ最近見損なってたけどやっぱり君は頼りになるし優しい!

ああ、感動のあまり笑みが零れてしまいそうだ!

 

 

「杏子!」

 

「!?」

 

 

感極まった俺は勢いのままに杏子に抱き付いた。

杏子は突然の俺の行動に戸惑っている様子だが振り払う素振りはない。

 

 

「ありがとう!やっぱり杏子は頼りになるな!」

 

「???」

 

「(君はやっぱり良い人だと)信じてたよ!」

 

 

出来る限りの感謝の言葉を杏子に伝える。

その際、目から液体が零れたけど気にしないでおこう。

 

 

杏子が俺をここに連れてきた理由、それはきっと「危機感の促進」だ。

魔法少女でもない俺がなけなしの義務感で魔法少女に関わっているのは杏子には危うく見えていたのだろう。

だからお灸を添えるためにわざわざ自分が悪者になるような事をしたのかもれしない。

 

俺がある程度怖がらせるのが目的だったのかもしれない。

結局俺が恐怖で暴走してしまってなあなあになってしまったのでそれは申し訳ないが。

 

しかし強欲なあの杏子が使い魔を殺してまで俺を助けてくれたのだ!

つまり何だかんだであの究極の二択も嘘だろう!

その優しさに偽りはないはず!そうだ!そういう事にしておこう!

何事もポジティブシンキングだ!

 

 

強引にそう解釈した俺は結構な力で抱きしめてくる杏子に甘んじた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの杏子さん・・そろそろ離してもらえると嬉しいんですが」

 

 

「・・・・」

 

 

あれからどれくらい経ったのだろう?

少なくとも杏子に抱き付いてから結構な時間が経ったと思う。

だというのに俺は未だに杏子に抱きしめられたままだ。

いい加減そろそろ解放して欲しいので控えめに解放を促してみたが、コイツそれを良い事に無視しやがって!

 

 

「おい!マジで離してくれ!」

 

「嫌だ」

 

「ぐふ!」

 

 

更に力を込めて抱きしめてくる。

それはまるでもう二度と離さないという頑なな意思表示のように。

 

美少女に抱きしめてもらえるのは非常に喜ばしい。喜ばしいが死ぬ!

ただでさえ杏子は力が強いのに今は変身してるから余計握力半端ない!

 

 

「あの・・せめて力緩めて・・」

 

「・・・・」

 

 

俺の心からの願いは何とか聞き入れてもらえ、若干、本当に若干と言わざるえない力の緩みにかなりの不満を覚えるも一応圧迫死から解放されたので文句は言えない。言ったら最後はトドメさされそうだ。

 

 

「優依・・」

 

 

杏子がじっと俺を見つめている。

熱を込められたような視線に気まずさを覚えるもガッチリ顔を固定されているので逸らせない。

 

 

 

「このままずっと一緒に・・」

 

 

 

「それは駄目よ佐倉さん」

 

 

 

「「!」」

 

 

聞き覚えのある第三者の声に俺と杏子は声がした方に振り向いた。

沈みかけというのに強烈な夕暮れの光をバックに誰かがっている。ここからじゃシルエットしか分からない。

 

分からないが・・クルクルした髪の誰か・・てか、あの人じゃね?

 

 

「やっと見つけたわ!優依ちゃんを離してもらうわよ!」

 

「・・マミ」

 

 

やっぱりマミちゃんか。

シルエットしか分からないけど向こうは魔法少女の衣装だ。

そして心なしか殺気めいた殺伐とした雰囲気を感じる。

 

・・まさか杏子が言っていたこっちに向かって来てる人ってもしかしなくてもマミちゃん?

 

だとしたらある意味ミラクルだ!

正直あのまま時間稼ぎすれば良かったかも!

 

ていうかマミちゃんタイミング悪すぎぃ!

来るならもっと早く来いよ!

雰囲気からしてどう見ても第二ラウンド開幕しそうじゃん!

 

どうしよう!?今止めてくれそうな奴誰もいないよ。

俺を含めた三人しかいない!ヤバい!




また修・羅・場(笑)
一難去ってまた一難w

優依ちゃんに心休まる日なんてある訳ありませんので!


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89話 女が集まれば修羅場の出来上がり☆

休日に外出できないのが辛い。
大人しく執筆しろってか・・。


「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・粗茶にございます」

 

 

部屋全体に殺気が充満した重苦しい空気の中、俺は震える手で淹れたてのお茶を彼女たちの前に差し出す。

過剰な緊張感と恐怖のせいで身体が滅茶苦茶震えてまくってて、カップがカチャカチャと音を立てて止まらない。

 

 

怖い。ただひたすら怖い。

いっその事気絶してしまいたいくらいだ。

 

 

何故こんなに緊迫した空気になっているかって?

それは俺の目の前にいる戦闘民族共が漏れ出してる殺気のせいだ。

は?何だそれは誰だって?簡単だよ。

 

 

俺の目の前でマミちゃんと杏子が殺人鬼みたいなおっかない目ぇして睨み合いしてるんだよ!しかも何故か俺の部屋で!机を囲み俺を挟んで対峙する形で!

 

勘弁してくれよ!俺の部屋がとんでもない修羅場に成り果ててんじゃねえか!

今にも殺し合いが始まりそうで洒落にならん!

壊れない?俺の部屋、二人暴れ出して原型留めないくらい壊れない?

むしろ家が全壊しない?更地確定しちゃうんじゃないのこれ。

 

 

よりにもよって魔法少女の中でも一、二を争う戦闘力を有するベテラン二人をどうして我が家に入れてしまったのか?どういう流れでこういう事になったのか?

 

 

それはきっと先ほどの出来事が原因だと思われる。

 

 

 

 

↓以下、回想シーン

 

 

「佐倉さん、どうして優依ちゃんに抱き付いているの?」

 

 

杏子引率の遠足in使い魔の結界は色々あったが何とか終息を迎えた。

しかしそれにほっとする間もなくどこからともなくマミちゃんが現れてあわや修羅場再開まで秒読みと化した。

 

おそらくマミちゃんは魔女を倒して戻ってきたは良いが何故かいなくなった俺を探しにこんな所までわざわざ来てくれたのだろう。

それは非常にありがたいが、何もこのタイミングに来なくても。

 

ただでさえ昨日は殺し合った程の険悪な二人だというのに今、俺は杏子と抱き合った、もとい抱き付かれた状態だ。こんな光景を見られたんじゃ、また俺が誘拐されそうになってると余計な誤解をされかねない。

 

 

急いで誤解を解かなければ!・・解ける気がしないけど。

 

 

無事な俺の姿を見て安心したのかマミちゃんはほっとした表情をしている。

そのせいでこっちは黙っていなくなった事への罪悪感がダイレクトだ。連絡しとけばよかった。

 

 

「優依ちゃん良かった・・無事みたいね。心配したのよ?私が目を離してる隙にまた危ない目に遭ってるかと思ったわ」

 

「え?は、はあ・・」

 

「・・・・・ふん」

 

「ちょ、杏子!挑発しないで!」

 

「何度も電話したし、メールも送ったのに優依ちゃんから全く返事を貰えなくて焦ったのよ。おかしくなるかと思ったわ」

 

「既におかしいだろ」

 

「お願いします!一瞬でも良いから黙って!」

 

「それで・・」

 

 

とても優雅に微笑んでいるマミちゃん。

この笑顔を見ればとても彼女が生死と隣合わせなスリリングな毎日を送っているとは到底思えない。思えないんだけど・・。

 

 

「私がいない間に一体何があったのか・・きちんと説明してくれるかしら?」

 

「・・・・・ひぇ」

 

 

何だろう、この重い苦しい空気は。

にっこりほほ笑んだマミちゃんは大変可愛らしいのに纏うオーラは殺気立ったスーパーサ〇ヤ人のような荒々しさだ。今にもその金髪が逆立ちそうな気がしてならない。

 

 

あとこの雰囲気なんとなくアレに似てない?

 

彼女に浮気現場を見られたような馬鹿な彼氏の重苦しい雰囲気に。

客観的に見ればこれは女の子同士抱き合ってるのをたまたま知り合いの女の子が見つけたといった何て事ない現場のはずなのに、とてもそんなほのぼのした雰囲気ではない。

 

どうしてこんな恐ろしい事に・・。

 

 

「・・・・・」

 

 

ニコニコ微笑みながらじっとこっちを見つめて来るマミちゃん泣きそうなくらい怖い。

笑ってるけど全く笑ってない目でガン見してくるのやめてほしい。軽くトラウマになりそうだから。

 

 

「ハン、くだらねえ」

 

 

耐えきれない程のプレッシャーに水を差すように杏子の声が割り込んだ。

あ、違った。水を差すんじゃなくて油差したやつだこれ!

笑っていなかった黄色い目が今や明確な殺意を孕んだものに変貌して赤を睨んでる。

あんな顔で睨まれたら俺は間違いなく恐怖でおかしくなると自信がある程のおっかなさだ。

 

しかし杏子の方は袖吹く風のごとく軽く受け流している。

それ所かマミちゃんの存在を感知していないかのようにガン無視して「ハン」と鼻で笑った後、再び俺の方に向き直って抱きしめてきた。

 

 

意味分かんない。でも何だろう・・嫌な予感が・・。

 

 

「!」

 

 

正面から押し寄せる荒々しい威圧感。

慌てて何事かと周囲を見渡すと発生源はマミちゃんだった。

とてもじゃないけど女の子が滲みだしていいような可愛らしいものじゃない。肌がビリビリと痛みを感じる程の殺気だ。

 

幸い俺は杏子に抱きしめられているから奴が防波堤となって黄色の殺気を受け止めてくれているから軽症だ。

もし全身で殺気を浴びていたらすぐさま視界がブラックアウトしていただろう。怖や怖や。

 

 

ナイスだ杏子!守ってくれるなんて君はなんて良い奴なんだ!

・・あれ?マミちゃんが怒ったのってコイツのせいなんじゃ・・?

 

 

 

―ドォン!-

 

 

 

 

「優依ちゃんを離しなさい!離して!!」

 

 

「ひ!?」

 

 

嵐は突然やってきた。

いきなりキッと表情が険しくしたマミちゃんの手のひらに黄色い光が集まっていくのが見えた瞬間周辺に響く銃声。気づけば目の前には白い煙が出ているマスケット銃の銃口をこちらに向けている黄色にクルクルが見えた。

どう見てもこれはあのイカレたクルクルが俺がいるにも関わらず発砲してきたとしか見えなかった。

 

 

 

「何してくれてんだあああああああああああああ!!」

 

 

怒りに満ちた俺の声が路地裏に響く。

 

 

危ねえなおい!

挨拶代りに撃ってくるなんてどこの暗殺者だ!

 

おい勘弁しろよ。俺を狙う暗殺者なんてストーカー紫でお腹いっぱいなんだよ!

最近の巴マミは魔法少女どころか人間として進んじゃいけない方向に進んでるとしか思えなんですけど!

何度「みんな死ぬしかないじゃない!」を繰り返すつもりだよコイツ!?

 

 

味方であるはずの奴に撃たれるなんてかなりヤバい事を経験したけど実際、俺は無事だった。

 

というのも肝心の銃弾は俺たちがいる一歩手前、正確に言えば杏子が展開した結界によって弾かれてしまったからだ。かなり頑丈に作ってあるのかあの過剰な攻撃力を誇る銃撃でも傷一つついてない。杏子のファインプレーが光ってるわ。

 

 

心の中で杏子にGJを送る俺の視界に映るのは悔しそうに唇を噛むマミちゃんの姿。

杏子に阻まれたのが余程気に入らないらしい。可愛い顔が台無しになりそうなくらい顔を歪めている。

試しにもう数発撃ってみるも結果は同じで阻まれてしまった。

 

 

 

ドオン ドオン ドオン

 

ガキン ガキン ガキン

 

 

 

「うわぁ・・」

 

 

壊せないのが悔しいのか若干自棄を起こしてそうなマミちゃんは馬鹿の一つ覚えみたいにひたすら引き金を引くも結界に阻まれていた。火花の散る場所からして狙いは明らかに杏子。飛び散る火花はかなり大きいもので結構洒落にならない。

鬼気迫るマミちゃんの様子に内心ドン引きだ。

 

 

「・・・・っ!」

 

「あの・・マミちゃん」

 

「ククク」

 

「?」

 

 

どうにかマミちゃんを宥めようとした矢先、耳元で聞こえる笑いを噛みしめたような声。この声は杏子のものだ。

さっきからずっと俺の首元に顔を埋めてるから表情は分からないが笑っているのは確実だろう。

だって杏子の身体が小刻みに震え「クク」と声が漏れてるから。

 

 

「・・ッアハハハ!」

 

 

ついに耐えきれなくなったのか顔を上げた杏子は口を大きく開けて笑い声をあげている。

その様子に俺もそして半ばキレてたマミちゃんでさえ驚いて杏子の顔をまじまじと見つめている。

 

 

「ハハハ!そんなナマクラ弾じゃ当たらねえよ。残念だったな!」

 

 

ポカンとこちらを見つめるマミちゃんが面白いのか杏子はとても楽しそうに、それはそれはもう心から楽しそうな声を上げてながら笑いすぎて出たであろう目尻を涙を拭っている。

ついでにマミちゃんに見せつけるかのように俺を更にキツく抱き寄せるという火に油を注ぐオマケ付きで。

 

 

「うわひゃ!」

 

 

案の上それを見たマミちゃんは再び発砲し、杏子の目の前で派手な火花が飛び散った。

今のは明らかに杏子を狙っていた。

しかも狙った所は胸元のソウルジェム・・明らかに殺りにきてるよあの娘!

 

 

 

ドドドドドドドドドド!

 

 

「ちょっとマミちゃんやめてええええええええ!!」

 

 

埒が明かないと判断したらしく複数の銃を出現させて攻撃力をUPさせてくる。

絶え間ない怒涛の銃撃は悲しい事に見慣れた光景だ。そして相変わらず威力は凄まじい。

どう考えても俺の身の安全を考慮してくれているとは思えない程の威力だ。

これ当たったら俺即肉片に変わるだろうな・・。

 

 

しかし手加減なしの怒涛攻撃は功を成したのか今まで傷すらつかなかった杏子の結界にヒビが入っている。

このまま壊れるのも時間の問題だろうが杏子も負けていない。崩壊しそうな結界を補強しつつ更に何重にも結界を施していく。

 

壊しては直すのイタチごっこ。

おそらく勝敗はどれだけ魔力が続くかにかかっているだろう。

 

手に汗握る展開だが正直よそでやってくれ。

死が間近に迫ってるし異次元過ぎて俺付いてけないから・・。

 

 

「面倒になったら銃の乱射で終わらせる。芸がねえな」

 

「その無駄口を叩く余裕はいつまでもつかしら?」

 

「アンタの方こそ無駄な真似してどうすんだよ?こんな程度じゃ足止めにもなんねえぞ」

 

「安心してちょうだい。ここから逃がすつもりはないわ。そもそも貴女は二度と風見野に帰る事も出来ないんだから」

 

 

怖っっっわ!それ遠回しに殺すって言ってません!?

 

 

「マ、マミちゃん・・? !?」

 

 

最初は錯覚だと思った。いや思いたかった。

何度目を擦っても目の前に見えるその巨大なそれはどう見てもティロ・フィナーレの砲台だ。

 

 

ティロ・フィナーレ(特大)が俺に向けてるううううううううううううう!!

 

 

確実に殺しにきてる!確実に杏子殺しにきてる!

赤を殺すためなら俺が犠牲になっても構わないってか!?それだけ杏子嫌いなのかお前!?

 

多分最初の方は俺がいるから巻き込まないように加減してくれたと思うんだけど今はどうだ。

『俺の命<<<杏子への殺意』に切り替わっちゃった!

どうみてもあれ俺もろとも杏子を始末するつもりだよ!どんだけ杏子を殺したいんだよ!?

 

 

 

「待てえええええええええええ!馬鹿!阿保!クルクル!俺を殺す気かあああああああああああ!!」

 

「だってもう、こうするしかないでしょ!?このままじゃ佐倉さんに優依ちゃんを・・!」

 

「そんな悲壮な顔向けながらこっちに砲台向けんな!それ当たったら俺死ぬんですけど!」

 

 

滅茶苦茶泣きそうな顔してるくせにティロ・フィナーレ発射準備の手を止めないマミちゃん恐ろし過ぎる!

これは下手に刺激したら駄目だ!下手すりゃ即お陀仏だ(俺が)

 

 

ここは慎重になってマミちゃんを落ち着かせないと・・!

 

 

「ハン!良い表情だなマミ。これで少しはアタシの気持ちが分かっただろ?目の前で大事なモノ盗られる気持ちがさ。ザマーミロ!アハハハハハハ!」

 

「杏子てめえええええええええええ!!」

 

 

よりにもよって一番の刺激物である赤が黄色を煽ってきた。

すぐさま口を押さえつけようとしたけど効果はなし。ガッチリ両手固定されて動けません。

 

 

「あっはは!悔しいだろマミ?分かるぜその気持ち。アタシはずーっとそうだったからな!まだまだこんなもんじゃ足りねえな。もっと傷ついてもらうよ!」

 

 

何がそんなに面白いのか杏子は至極愉快そうな笑い声を上げつつ、マミちゃんを見据える。しかも今度は俺の顔を引き寄せて幸せそうに頬ずりしてきやがった。

暑い。ただでさえ体温高めのコイツが近くて暑いのに更なる密着度となったせいで脱水症状起こしそうだ。あれ?さっきのこんな事なかったっけ?

 

 

「・・・っ」

 

 

杏子のこの密着はマミちゃんを揺さぶるには何故か十分な効果があった。

現在彼女はこの世の全てを絶望したかのような表情でこちらを見ている。

その目には溢れんばかりの涙が今にも・・あ、零れた。

 

 

「そんな・・嘘よね優依ちゃん・・」

 

「? ・・ひ!」

 

 

あああああああああああああああああ!!

マミちゃんのソウルジェムが急速に濁っていくううううううううううう!!

何で!?どうしてこんな事に!?

 

 

 

ふと何気なく髪飾りにあるマミちゃんのソウルジェムを見ると元の黄色が原色が分からなくなる程、現在進行形で黒く濁っていた。すぐにでも真っ黒に変わり果ててしまいそうな勢いだ。

 

 

「応援してくれるって言ったじゃない・・傍にいてくれるって言ったじゃない・・」

 

 

茫然とした表情で涙を流す姿は非常に痛々しい。

聞き取れるかどうかの瀬戸際で独り言を言う姿は目を当てられない。

 

 

このままではマミちゃんが魔女化まっしぐら!

せっかくマミるを回避出来たのにこれはあんまりだ!

何かないか!この流れを中断させる良い方法は!?

 

 

「おいおい、これくらいで根あげんなよ。まだまだやられたお礼したいくらいなんだから」

 

 

頼りになりそうな杏子はとても愉快そうにマミちゃんを見つめている。

 

駄目だ。コイツは頼りにならない。

知らないとはいえよりにもよって自ら師匠を魔女化へ導こうしてるとか性質が悪いわ。

・・魔女化の事知らないんだよね?

 

 

ここはもう思い切って杏子に真相を話して協力はしてもらえなくてもせめて煽るのやめてもらうように頼まなきゃ!

 

 

 

「このまま優依ちゃんを盗られるくらいならいっその事全員ここで・・」

 

 

 

ただならぬ不穏な気配がマミちゃんの身体に充満している。

思いつめたその表情のまま、なにやらもぞもぞと手を動かしている。

 

 

「!」

 

 

出てきたのはこちらに向けられたものと同じ大きさのティロ・フィナーレ×10

それが所狭しと並べられ、杏子に逃げられないようにか知らないが俺達三人を取り囲むように設置されている。

 

 

ああああああああああ!何ですかこれ!?盛大な無理心中!?

そんなもん撃たれたら間違いなく木端微塵ですから!

コイツマミるの峠超えても根本は同じかよ!結局みんな死ぬしかないじゃないってか!ふざけんな!

 

これはまずい!このままじゃティロ・フィナーレのオンパレードで人生にフィナーレを決められちゃう!

急げ!考えてる時間はない!

とにかく何でも良いからマミちゃんの気を引かなくちゃ!

 

 

 

「は、話し合おう!」

 

 

 

気づけば俺は杏子の腕の中でもがきながらそう叫んでた。

出てきた言葉は毎度おなじみの言葉でした。

 

 

俺ってどうしてこれしか言えないんだろう・・?

仕方ないじゃんか。

どこぞの死を招くノートを使う変顔の天才と違ってこの平凡な頭ではそれ以外の方法なんて全く思いつかないんだから。

 

それはともかくこの二人に今必要なのは腹を割って話し合う事だ。

手よりも言葉を出させないと。技を出す前に本音を出せ。

 

一番良いのは二人だけで話し合ってお互い納得できるのが理想だが難しいだろう。てか絶対無理じゃん。

昨日の殺し合いを見てるのでお互いだけで話し合うとか百パーセントありえない。

顔を突き合わせただけで間違いなくバトル開始しそうだ。

 

 

だから滅茶苦茶嫌だが俺がお膳立てしてやるしかない。

話し合いというのは第三者がいた方が頭に血が上りにくいというから俺が中立に立った方が良いだろう。

もっとも最悪お互い血が上って暴走してしまった場合は巻き添えで俺の死が確定するリスクがあるがそれを差し引いても話し合いが必要だと踏んでいる。

 

なんせこれからが戦いの本番なんだから・・ハハ・・。

 

 

「俺が見た限りだけどマミちゃんも杏子もロクに話し合いもせずに力でねじ伏せようとしているようにしか見えない。コンビを組んでた仲だってのにそれはあんまりなんじゃない?」

 

 

突然叫んだ俺にマミちゃんと杏子はじっとこちらに視線を向けてくるのでたじろぎそうになるがここは退くわけにはいかない。攻めるなら今しかない!

 

 

「どのみち戦うにしてもさ一回くらい話し合いの場を設けておくのは悪くないと思うんです」

 

「・・確かに、それは・・」

 

「でしょ?お互い誤解してる部分があるかもしれないし、やっぱりここは一度でも腹を割って話し合う訳にはいかないかなー?っと」

 

「する訳ねえって言ってんだろ。二度も言わせんな。マミと話す事なんて何もねえよ」

 

「! そういう事よ優依ちゃん。私が良くても肝心の佐倉さんが応じなきゃ意味ないわ」

 

「げ!ちょっと落ち着いて二人とも!」

 

 

ああもう!何でこうなるかな!

せっかくマミちゃんは納得しかけてたのに杏子が余計な事言うから振り出しに戻っちゃったよ!

これは先に杏子の方を説得しないとどうにもなんないな。

 

 

「杏子!」

 

「あ゛?」

 

「(怖っ!)えっと・・どうしても話し合い出来ない?」

 

「何でアタシがそんな面倒な事しなきゃなんねえんだよ?欲しいものは手に入ったんだ。とっととズラからせてもらうぜ」

 

「・・え?見滝原を狙ってんじゃないの?」

 

「それはまた今度でも構わない。他に優先したい事があるし」

 

「いやでもですねマミちゃんこのまま放っておくとかなりマズいんですけど・・」

 

「アタシは馴れ合うつもりはねえよ。・・マミの奴死ぬつもりだったんだろ?どうせならあのまま死んでくれた方がこっちとしてはラッキーだったんだけどな」

 

「えー・・そんな事言っちゃう?」

 

「ホントに堕ちる所まで堕ちたわね佐倉さん。せめてもの情けでここで貴女の生涯を終わらせてあげるわ」

 

「あの・・お二人さん・・」

 

 

俺の声は二人にはもう届いていなかった。

二人の目に映るのは嫌悪感まるだしの敵の姿なのだろう。

何をそこまで二人が憎み合うのか俺には分からない。分からないがこのままではまずい。

 

 

必死に考えた。この状況を打破できる術を。

そして俺はある決断をした。

 

 

スッパリ諦めよう!

 

 

悩み過ぎた俺は一周回ってある種の悟りを開いた。

 

 

何事も諦めが肝心だ!手を尽くす手段がないのなら仕方がない!

俺の愛するぐで〇ま(スライス)がそう言ってたんだし。

スッパリ諦めようって!

 

だから俺は諦めて帰る!後は当事者の問題です!

 

 

「分かった!じゃあ俺は帰るから!2人とも気の済むまでとことんやってくれ!」

 

「! お、おいちょっと待て!どこに行く気だ!?」

 

 

せっかく邪魔しないように帰ろうとしたのに慌てて俺の腕を掴んだ杏子に引き戻される。解せん。

 

 

「・・どこって、自宅。家に帰るんだけど」

 

「はあ?アタシが許すと思ってんのか?」

 

「何で杏子の許可がいるんだよ?話し合い出来ないなら俺、杏子と会う意味ないし取り敢えず帰る。戦うなら好きにどうぞ」

 

「帰すわけねえだろ。ふざけてんのかテメエ?」

 

「ふざけてねえよ。こっちは大真面目だからな。マミちゃん!君もだぞ!」

 

「え!?」

 

「いやなに私も!?みたいな顔してんの?君もだから。喧嘩するならさっさと始めなよ」

 

「え、えっと・・」

 

「あー、言っとくけど俺当分二人と会わないから。命が危ないし。頭が冷えて話し合い出来るようになったら会いにいくよ。それまではお互い気が立ってるだろうから二人には絶対近づかないよ。取り敢えず仲良く喧嘩しなー」

 

「そんな・・」

 

 

一度諦めの境地に達するとそれまで気にしていた事は案外どうでもよくなるらしい。

今まで溜めに溜め込んでた不満の一部が噴き出している。思ったよりも俺はストレスを感じていたのか遠慮なしな言葉が出てきてマミちゃん再び涙目になっている。

 

これは仕方がない。爆発するよりはマシだろう。

二人にはしばらく会わないようにしよう。連絡は・・紫やピンクを通せばいっか。

 

 

「杏子、俺そろそろ帰りたいんだけど」

 

「・・・・」

 

「杏子?」

 

 

遠回しに手を放してくれと言ってるのが通じてないみたいだ。

更にギリッと力を込めてくるものだから思わず顔を顰めてしまう。

 

 

「杏子、あのさ」

 

「・・・・・・分かった」

 

「え?」

 

「話し合いしてやるよ。おいマミもそれで良いよな?」

 

「・・ええ、問題ないわ」

 

「え?」

 

 

突然の事態に訳が分からないまま結界を解いた杏子は俺を手を引いたままマミちゃんの方に自ら歩み寄っていく。まさか俺を戦いに巻き込む気か?

思わず警戒する俺だったが杏子に戦う意思がないと判断したのかマミちゃんの方もスタンバイさせていたティロ・フィナーレ方を解除して待っている。

 

 

「え?え?」

 

「ほら、行くぞ」

 

「さあ、行きましょう」

 

「え?ちょっと引っ張んないで。てか、どこに行くの!?」

 

 

状況が全然理解出来てない俺は至極まともな疑問を叫ぶ俺を二人は阿吽の呼吸で引きずりながら迷いなく歩を進めた。

 

 

↑回想シーン終了

 

 

 

で、訳も分からず二人に連行されて辿り着いた場所がまさかのマイホーム。

ここで話し合いするって言うから俺はガチガチに震えながらおもてなししてるって流れ。

 

 

・・・・・。

 

 

いや冗談じゃねえぞ!俺の家を戦場にするつもりか!

何当たり前のように俺の家に上がり込んでんだこいつ等!?

久々に帰れたと思ったらとんでもねえ死亡フラグまでセットで付いてきた!

 

 

くそ、逃げたい!でも逃げられない!

そもそも逃げるという選択肢は存在しない。

どうしてかって?そんなの俺の部屋を見れば一目瞭然だ。

俺の部屋にあるドアと窓、それらに意識を向けてほしい。

 

 

黄色いリボンと赤い鎖でぐるぐる巻きの雁字搦めだからな!

 

 

ネズミ一匹通す隙間もないくらいびっしり張り巡らされている。

二人は邪魔が入らないようにって言ってたけど絶対嘘だ。

 

どう見ても俺の逃亡を阻止するためのものにしか思えないんですけど!

その証拠に外よりも中の方が厳重に配備されている気がする!

俺の部屋がまさかの出口のないプリズンに!

 

 

「え、えーとかつては組んでた仲なんだし、積る話もあると思います。何か言いたい事はありますか?」

 

 

逃げられない自棄っぱちとなけなしの責任感でどうにか目の前のおっかない二人に話しかける。

 

ちなみに俺の言いたい事は一つ。

早く帰ってくれ、ただそれだけだ。

 

 

「そうね」

 

「アタシが言いたい事は一つだけだ」

 

 

そう言って杏子はゆっくりと立ち上がった。

心なしかマミちゃんを見下ろすその目は冷え切っているように感じる。

 

え?何で立ち上がるの?

 

 

「!」

 

「マミ、お前を倒す」

 

 

突如出現した赤い槍はマミちゃんの首筋に止まる。

どうやら話し合いは話し合いでも物理の方らしい・・・泣きたい。




今回の黄色vs赤の舞台は優依ちゃんの部屋!
果たして優依ちゃんは無事に部屋を守りきる事ができるのか!?


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90話 発言には気を付けましょう(手遅れ)

GWの目標:週二投稿頑張るぜ!



そのためにここ最近下書き作業頑張った!
・・あれ?それで普段の投稿サボったら本末転倒じゃね?


終わったー・・・。

 

 

始まってすらいないのに終わったよ。

いや、自分でも何言ってんのか分かんないけどきっとこの表現が正解だ。

てかこれしか言いようがないわ。

 

 

でもこれ俺は悪くないよね。

悪いのは全部、現在進行形で銃刀法違反してる赤だ。

 

 

どうしてこんな状況になっているのか冷静になるためにも今の状況を整理してみる必要がある。

 

 

俺が今いる場所は夢に見る程帰りを待ち望んだ愛しき自室。

念願がかない涙を流しそうになったが感動に打ち震えている状況でない。

 

なぜならここにいるのは俺だけじゃないからだ。俺の他に二人の少女がいる。

かつての師弟コンビ、そして現在は険悪な関係であるマミちゃんと杏子だ。

てかもう険悪を通り越して顔を合わせれば殺し合いを始めるからある意味最恐の仲好しだと言えるかもしれないが。

 

 

正直この二人が再び鉢合わせしてしまった時点で諦めに近い形でそれを覚悟していた。

 

しかしそんな中、半ば奇跡に近い形で穏便に話し合いに持っていく事に成功した。俺にとってはある種の偉業だ。

これで穏やかに解決すれば対ワルプルギスの夜の協力関係という悲願達成に出来ればいう事なし。

そのためなら許可してないけど俺の部屋に上がり込んだ事を許せるし、一万歩譲って部屋が破壊されても最終的に事が丸く収まるなら血の涙を流しつつも許すつもりだった。

 

しかし現実はどこまでも残酷だ。

むしろよく殺し合いが起こらずどちらも死んでいない事が最高に運が良かっただけだったんだ。

 

 

・・もうその運は枯渇したみたいだけど。

 

 

 

俺の目に前には話し合いと称してマミちゃんに槍を向ける杏子が映る。

取り出した槍がいつもより数倍鋭さを増している気がするが気のせいだと思いたい。

 

 

第一声が宣戦布告とかこいつは俺をどれだけストレスを与える気だろうか?

 

 

「あのー・・杏子さん?今から話し合いするって言ってんの。誰が殺し合いするって言ったんだ?」

 

 

口が引き攣るのが抑えられない。

なるべく穏便に話しかけようと微笑んでみたが正直笑えてないと思う。

 

 

「これがアタシの話し合いだ。文句ねえだろ?」

 

「ふざけんな!文句しか出てこねえわ!何だその理屈!?それは何か?魔法少女のコミュニケーションは攻撃から始まるのか!?」

 

「そうだ。間違ってるか?」

 

「ですよね!あながち間違いじゃなさそうなのが辛い!」

 

 

魔法少女の事情を考えると杏子の言ってる事は事実だろう。

アニメでは描写はなかったがグリーフシードと縄張りを巡って魔法少女同士争ってるのは明白だ。

 

くそ!言い返せない。

 

 

ぐぬぬと悔しがる俺を見て勝ち誇ったように見下ろす杏子はそのままマミちゃんの方に目を向ける。杏子を映す黄色い瞳は底冷えしそうなくらい冷たく顔は無表情だ。

 

 

「・・随分な挨拶ね。話し合いなんてこじれるだけだって分かってたけど、まさかいきなりこんな事しでかすなんてね。ここまで乱暴だといっその事清々しいわ。・・でもね」

 

「!」

 

「調子に乗るのはもう終わりよ」

 

 

杏子を取り囲むように無数の銃が出現する。

包囲網のように部屋中に散らばるそれは全て杏子に銃口が向けられ隙がない。

 

 

俺の部屋が一気に戦場へと変わり緊張感が走る。

 

 

オメエも殺る気じゃねえかああああああああああ!!

 

 

ベクトルが違うだけで本質は赤と大差ないよこのクルクル!

むしろなまじ火力がある分赤よりタチが悪い!

 

 

「槍を下げなさい佐倉さん。大人しくしてくれれば私だって下手な事しないわ」

 

「嘘付け。部屋全体に銃を出しておいてよく言うぜ。アタシが少しでも動いたら撃つつもりだろ?殺気駄々漏れのくせに」

 

「あら、気づいてたの?ならしょうがないわね。はっきり言うわ。二度と優依ちゃんに近づかないで。さもないと・・撃つわよ?」

 

「二人とも冷静に!話し合いだって言ってるだろ!」

 

 

慌てて制止を呼びかけるもまるで聞いてない馬鹿二人はお互いを睨み合ったままで泣きそうだ。

 

 

このままでは杏子とマミちゃんに俺の部屋は意味もなく無残に破壊される。

いや部屋だけじゃない。間違いなく家が壊れる。

それも爆弾でも落とされたかのように跡形もなく更地に早変わりするだろう。

 

 

頭に血が上っているだろうこいつ等が周囲に気を遣って戦うとかそんな配慮あるはずない。

 

ワルプルギスの夜が来る前に家がなくなって路頭に迷うとか絶対イヤ!

ふざけんな!こいつ等の事情で家壊されるとかあってたまるか!

 

 

「おいお前ら!俺の部屋で武器を使用するのは厳禁だぞ!もしそのまま暴れて何かが壊れた時点で即刻ここから出て行ってもらうからな!そして二度と俺の視界に現れるなボケェ!」

 

「「!?」」

 

「うお!?」

 

 

凄い勢いでこっちに振り向いている。

合図したのか息ぴったりだな。流石元師弟関係。

 

これから訪れるであろう凄惨な未来に堪らなくなって叫んだら予想外に反応があって逆に驚いてる。

 

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

あれ?何でそんな絶句してんの二人とも?え?

俺がこの状況に絶句したいんだけど。え?舐めてんの?

 

 

しばらく沈黙が続くも杏子の手からポロリと槍が滑り落ち、ガシャンと金属が奏でる音が響き渡り、それが合図のように事態がようやく動いた。

 

 

「ご、ごめんなさい優依ちゃん!私が悪かったわ!だからそんな事言わないで・・!」

 

「え、うん・・」

 

 

最初に反応があったのはマミちゃんだった。

瞳に涙をためて俺に縋りつきながら謝罪の嵐で軽くドン引きしそうだ。

部屋中に散りばめられた銃がいつの間にか消えており空間が広くなったように感じる。

突然の状況に付いて行けず若干放心している間もマミちゃんは壊れたラジオのようにひたすら俺に謝りまくっていて怖かった。

 

咄嗟だったとはいえマミちゃんの方は戦う気はなくなったようで良かった。

ほっとしつつ縋りついてくる黄色を引き剥がしもう一つの問題の方に目を向ける。

 

そう、杏子である。

片方だけ矛を収めて肝心のけしかけた側を何とかしなければどうにも・・。

 

 

「・・・・・っ」

 

「・・何て顔してんの?」

 

 

見慣れた杏子の顔は初めて見ると思えるくらい顔色が悪かった。

心なしか身体が小刻みに震えていて寒いのかと勘ぐってしまう。

 

ヘソ出しスタイルがここに来て副作用でも生じ始めたのかもしれない。

女の子は冷えが天敵なのに無謀な事するから・・。

 

 

「・・杏子、大丈夫か?」

 

「・・視界に現れるなって・・優依に会ったらダメって事か?それも二度と・・」

 

「あ、あー・・話し合いしようか?杏子、取り敢えず早く座ってくれ」

 

 

杏子の様子はおかしいがこれはあえて触れない方が良さそうだったから大人しくなった今のうちに話を勧めた方が良い。そう思って座るように促してみたがこれで良かったのだろうか?

 

無言のままぎこちない動作で再び座り直す杏子は未だに顔色は悪いので少し心配になる。

こちらも出していた槍はいつの間にか消えているようだ。

 

 

そういえば床に槍落としてたけど大丈夫だよね?

床傷ついてなきゃ良いけど。

 

 

それにしても話し合いの序盤でいきなりこれってキツイな。

既にストレスのダメージが胃にキテルってのに。

俺話し合いの途中で血管ブチ切れないか心配になってきたわ。

 

 

 

はあ・・・・。

 

 

 

 

 

 

マミside

 

 

 

「・・じゃあ話し合い始めるよ。言っとくけど出すのは言葉だから間違っても武器なんて出すんじゃねえぞ馬鹿二人」

 

 

未だ怒りがおさまらないのか優依ちゃんはこめかみを押えながらかなり素っ気ない口調でそう吐き捨てた。

 

流石にこれはまずいと分かる。

いくら佐倉さんは危険だと言ってもここで戦ったりなんてしたら優依ちゃんが怒るのは明白。

さっきの激怒ぶりから考えればここから追い出されるかもしれない。

 

 

佐倉さんもそれを理解したみたい。だから顔色を悪くしてる。

優依ちゃんは本気だ。もしこの場で戦ったりすれば二度と口すらきいてもらえなくなる。

 

 

それだけは絶対にイヤ!

そんな事になったら私は生きていけなくなる!

優依ちゃんに嫌われたくない!

 

 

こうなったら優依ちゃんの望み通り、佐倉さんと話をするしか選択肢はない。

・・認めたくはないけど出来る事ならもう一度彼女と落ち着いて話をしたかったのは本当の事だもの。

 

 

気づかれないように向かい側に座る佐倉さんを盗み見ると優依ちゃんに言われた事が余程ショックなのか未だに顔色が悪いまま茫然としていた。

 

 

良い気味ね、なんて思うのは性格が悪いかしら?

 

 

佐倉さんをこんな状態にした当の本人はその事について一切気にした素振りを見せないままお茶を啜っている。どうやら傍観に徹するつもりらしく口を開く素振りがない。

 

 

・・佐倉さんもこんな状態だし、ここは私から話かけるしかなさそうね。

 

 

小さくため息を吐いた後、「佐倉さん」と呼べば赤い瞳がこちらを向いた。

心なしか瞳が虚ろに見えるけど気にしてはいられない。私はゆっくりと口を開く。

 

 

「ここへ何しに来たの?もうこの街には来ないって言わなかったかしら?」

 

 

慎重に話しかけたつもりだったけど思ったよりも少し口調がきつかったみたい。

虚ろだった佐倉さんの目がみるみる内に吊り上がらせていくのが目に見えて分かる。

 

 

この様子だとまた衝動的になってもおかしくないけど、もう後には退けない。

 

私は優依ちゃんの事を愛してるの。

佐倉さんなんて足元にも及ばないくらい。

 

 

それなのに一度ならず二度までも私から優依ちゃんを奪おうとするなんて絶対に許せない!

 

 

昨日もそうだけど今回の事だってそう。

優依ちゃんを抱きしめる佐倉さんを殺してしまいたいと何度思ったと思ってるの!?

あの娘の隣にいるのは私よ!貴女じゃない!

 

 

憎しみを込めてじっと睨んでいたら、その視線に少し気圧されたのか佐倉さんはハアとため息をついて面倒臭そうに口を開いた。

 

 

「誰が好き好んでここに来ると思ってんだ?最近風見野に魔女がシケてるから新しい狩り場を探してたんだよ。獲物が少なくなれば狩りの場所も変えるだろ?すぐ近くに絶好の狩り場があるんだ。狙わない理由はないね」

 

「・・・・」

 

「やっぱここは良いよねえ。ちょっと歩いてるだけですぐ魔女と出会えるんだ。ホント絶好の狩り場だよ」

 

「ふふ・・」

 

「あ?何が可笑しいんだよ?」

 

 

耐えきれなくなって思わず口を押えて笑ってしまった私を佐倉さんは苛立ったように睨んでいる。そんな彼女を見て余計笑いが込み上げてきそう。

 

 

「嘘ばっかり、そんな建前聞きたいんじゃないわ。本当の目的を言ってちょうだい」

 

「・・・・」

 

「優依ちゃんでしょう」

 

 

確信をもってそう告げる。

佐倉さんがこの街に来た理由なんてそれ以外ありえない。

 

何か言おうと佐倉さんは口を開きかけたけどほんの少しチラりと優依ちゃんの方を盗み見てこちらに向き直った。その顔には挑発的な笑みが張り付いている。

 

 

「・・そうだって言ったら何だ?アタシは優依が欲しい。そのためだったら手段なんて選ばない」

 

「やけにあっさり白状したわね」

 

「バレてるなら隠しても仕方ないじゃん。で、それを知ったアンタはどうする?アタシを潰すか?優依の目の前で」

 

 

明らかな表面所の建前でさえあっさり捨てた彼女はどこまでも憎たらしい態度で挑発してくる。

よく本人の前でそんな事出来るわね。呆れて言葉も出ないとはこういう事を言うのかもしれない。

 

 

佐倉さんはここ最近生意気な態度が助長してる気がする。さっきだってそう。

わざと私を絶望させるために目の前で優依ちゃんとイチャイチャしていたもの。

 

 

・・許せない。少しお仕置きが必要だわ。

 

 

そう考えていた私はふと思い出した事を口に出す。

 

 

「聞いたわよ佐倉さん。貴女、優依ちゃんが魔法少女と関わりがある事を知らされてなかったんですってね?」

 

「!」

 

 

反応を伺うつもりで口にしてみただけなのに佐倉さんは面白いくらい表情を強張らせている。

それはまるで聞きたくなかった忌まわしい事であるようで彼女の纏う雰囲気が一気に剣呑なものになっていく。

 

シロべえから聞いてまさかとは思ったけどどうやら本当みたいね。

これはひょっとして佐倉さんに釘をさすチャンスかもしれない。

ここで私の方が特別だと思いしらせれば二度と優依ちゃんにちょっかいを出す事もなくなる可能性だってある。

 

ああ、そうね。それがいいわ!

ここで佐倉さんの心をへし折ってしまいしょう!

 

私と優依ちゃんの仲に割り込もうとする泥棒猫なんて消えてしまえばいいんだわ!

 

 

内心ほくそ笑んだ私は心底同情したような憐れんだ顔で佐倉さんを見やる。

 

 

「貴女は私より早く優依ちゃんと出会ったらしいじゃない。つまり私よりも付き合いが長い。それなのに何も知らされていなかったのね。・・可哀想に」

 

「黙れ!一般人を巻き込むアンタとは違う!」

 

「確かにそうね。でも優依ちゃんは私が魔法少女だって事、私と関わる事がどんなに危険な事だって理解しても離れていかなかった。ずっと傍にいてくれた。佐倉さん、貴女と違ってね」

 

「・・・・・・」

 

 

言葉に込められた皮肉で気づいたらしい。

佐倉さんは不愉快そうに顔を顰めていた。

 

過ぎた事だと思っていたけど私の元を去った事を未だに怒っていたみたい。それが優依ちゃんの事で争っている際に不意に表に出てきた。

 

・・ここまで拗れてしまってもやっぱり佐倉さんに未練があったのね私。

気づいたところで今更、もう遅いけど。

 

 

一度憎しみを抱いてしまえばもう戻れない。

私は佐倉さんが憎い。優依ちゃんを奪おうとする人はみんな憎い!

 

 

「前に言ってたわよね?優依ちゃんは貴女が大好きなんだって。じゃあどうしてこの娘は魔法少女の事を隠してたのかしら?」

 

「・・れ」

 

「実は優依ちゃんは佐倉さんの事何とも思ってないんじゃないの?どうでもいいから何も言わなかった。そう思わない?」

 

「黙れ!」

 

「どうでもいいと思われてたのを知らなかった貴女は愚かにも自分が一番だと信じ込んで今日までぼんやり生きてきたんでしょう」

 

「黙れぇ!!!」

 

 

佐倉さんが叫んだ振動によって窓がガタリと震えた。

いや、部屋全体が彼女の怒りによって震えている気がする。

それくらい今の彼女は殺気を漂わせている。

 

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!」

 

 

思った以上にこれは佐倉さんにとって触れてはいけない事だったらしい。

叫ぶ彼女のその目には激しい怒りの炎がともっているけど、「これ以上聞きたくない」そんな彼女の悲壮さが見え隠れしている。

 

少し言いすぎたかもしれない。多少反省はしても後悔はない。

むしろこのまま壊れてくれればとさえ思っている私は既に狂っているけどそれは優依ちゃんへの愛。

誇るべきものだもの。

 

 

「・・・・・」

 

 

この異様な状況の中、優依ちゃんは身じろぎ一つしないばかりか何かを熱心に考えているようで目を閉じ手を組んでじっとしたまま。よっぽど真剣に考えているのかこちらを気にする素振りすらない。

 

気づいてないなら好都合。

佐倉さんのおかしな様子を優依ちゃんの綺麗な瞳に映すなんて事したくないもの。

 

 

ダァン!

 

 

何かを叩きつける音が響き、何だろうと視線を向けると机に両手を乗せた佐倉さんがこちらを睨んでいた。手が置かれた机の周りにはヒビが入ってるからどうやら怒りのあまり叩きつけたらしい。

 

優依ちゃんがこれを知ったらどうなるのかしら?

 

 

「調子に乗ってんじゃねえぞマミ!その生意気な口をズタズタにされてえのか!」

 

「あらごめんなさい。冗談のつもりだったけど・・もしかして図星だったかしら?」

 

「! テメエ・・! ・・・・」

 

 

口に手をかざして上品に微笑めばすぐさま思った通りの反応を返してくれてすごく面白い。

そのまま私に攻撃してくれれば思惑通り、佐倉さんは優依ちゃんに絶交される。

 

そうなったら万々歳だったけどそうはならなかった。

 

今にも私に跳びかかっていきそうだったのにチラッと優依ちゃんの方を見たと思うと何故かいたずらっ子のような笑みを浮かべてそっと優依ちゃんの傍に近寄った。

 

 

「なあ優依、アンタと会う度にいつもソレ付けてるけどそんなに気に入ってるのかい?」

 

「!」

 

 

耳元に口を寄せた佐倉さんは小さな声でそう呟いた。

 

普通の人では聞こえない程の小さな声だったけど残念ながら私は魔法少女。

魔力で強化された聴力ならどんなに小さな声だって拾ってしまう。

それを分かっていてわざとそうする佐倉さんはとても酷い。さっきの仕返しとしか思えない。

 

佐倉さんが嬉しそうに目を細めて優依ちゃんの髪を見つめるから嫌でも視線がそちらに向いてしまう。

 

優依ちゃんの綺麗な髪に彩られた一つの髪飾り。

大きな黒いリボンが付いた赤が基調のバンズクリップ。

佐倉さんが優依ちゃんに贈ったもの。それは色合いは佐倉さんそのものに見える。

 

 

それはまるで優依ちゃんに佐倉さんのものだという証がついているようで・・。

 

 

「アンタによく似合ってるそれ。一生懸命作った甲斐があるってもんさ」

 

「ん?ああ、これね。結構気に入ってるよ。髪まとめる時とか便利だし」

 

 

そっと後ろから抱きしめてくる佐倉さんに流石の優依ちゃんも気づいたようで目を開けて話しかけている。傍から見ればそれは仲睦まじい恋人に見えてしまって酷く胸が痛んでギュっと服を掴む。

 

 

「ホントに良いもんくれたよね杏子。ありがとう」

 

「ふーん、感謝してるならお礼にキスの一つくらいくれてもいいんだぜ?」

 

「!」

 

「え?キス?」

 

「ああ、別にいいだろ?減るもんじゃねえし」

 

 

調子に乗った佐倉さんは大胆な提案を出してきて絶句する。

キスって・・恋人がするあのキス?

 

まさかいくら何でも優依ちゃんがそんな事するわけ・・。

 

 

「うーん、分かった。いいよ」

 

「! 優依ちゃん!?」

 

 

とんでもない提案をあっさりOKしたから思わず声を上げて咎めるも優依ちゃんは聞いていないのか私の方に振り向いてもくれなかった。そのせいで余計胸が痛くなる。

なにより佐倉さんが勝ち誇ったような笑顔でこっちに一瞥を向けているのが堪らなく辛い。

 

 

「だったら今くれよ・・」

 

 

優依ちゃんの顔にゆっくり近づく佐倉さんが嫌でも目に映る。

どう見てもこれはキスするつもりにしか見えない。

やめてほしいのに優依ちゃんはじっと佐倉さんを見つめているだけで拒む素振りは一切なかった。

 

 

私が優依ちゃんに触れればあの娘は抵抗する事が多いのに佐倉さんが触れればあっさり受け入れている。

 

 

つまり優依ちゃんは佐倉さんとそういう仲だっていう証明。

魔法少女について佐倉さんに話さなかったのも危険な事に巻き込みたくなかったからだとしたら?

それって優依ちゃんにとって私より佐倉さんの方が特別って事じゃない!

 

 

「っ!」

 

 

佐倉さんが今にも優依ちゃんの唇に触れそうになっているのが見えて大きく目を見開く。

 

 

 

あともう少しで・・そんなの、私は・・・!

 

 

 

 

「・・何しやがるマミ」

 

 

 

「佐倉さんこそ何してるの?優依ちゃんに触らないで!」

 

 

 

そこからは早かった。

素早く二人の間に割り込み、優依ちゃんから佐倉さんを引き剥がす。

優依ちゃんを守るようにギュっと抱きしめ、その周りに銃を出現させる。

狙いはもちろん佐倉さん。

 

 

「ハッ上等じゃねえか」

 

 

向けられた銃口を鬱陶しそうに振り払い、憎憎しげに私を睨みつけている。

気づけばその姿は赤を基調とした魔法少女の格好だった。

それに対して私もすぐさま変身していつでも対応出来るように身構える。

 

 

「話し合いなんて堅苦しくてやってらんねえんだよ!元々コイツがはっきりしないでなあなあにするのが悪いんじゃん!アタシはずっと我慢してたんだ!優依が他の奴と仲良くしてても!アタシに会いに来なくなっても!ずっと!ずーっとだ!」

 

 

堰を切ったように叫ぶ佐倉さんはまるで癇癪を起した子供のよう。

今まで溜め込んでいたものを一気に爆発させたみたい。

今にも泣き出しそうな表情はとても痛々しく見ている方が胸が痛んできそう。

 

うっすら涙を滲ませながらもギッと睨んでくるその瞳はとても迫力があるけど、そんな佐倉さんをどこ吹く風のごとく優依ちゃんは再び目を閉じて何か考え事をしている。そんな優依ちゃんに苛立ったのか佐倉さんはドスドスと足音を立てて近寄った。

 

 

「・・おい優依!いい加減はっきりしろ!お前は誰が好きなんだよ!もう前みたいにどっちもとかはナシだ!今ここで正直に言え!」

 

「佐倉さん!」

 

「黙ってろよマミ!お前だって本当は知りたいんだろ?優依の本命は誰なのか」

 

「・・・それは」

 

 

思わず口ごもる私などお構いなしに佐倉さんは尚も無言のままの優依ちゃんに詰め寄っている。遠慮なしに制服を掴まれているのにそれでも優依ちゃんはじっと何かを考え込んだままで佐倉さんの事なんてまるで気にしていないみたい。

 

本当ならここは佐倉さんを止めるべきなんだけど、彼女の言う事に一理ある。

嘘。本当はずっと知りたかった。優依ちゃんは誰を愛しているのか。

私だって信じたいけど優依ちゃんは他の女の子にも思わせぶりな態度をとるから不安だった。私とはあの娘にとってただのお遊びだったんじゃないかって。

 

証明して欲しい。

優依ちゃんの口から私だけを愛してるという証明が欲しい。

 

 

「優依ちゃん、流石にもう分かったでしょう?私と佐倉さんは話し合いなんて出来ない。ましてやお互いを理解するなんて夢のまた夢よ。ここまで来たらもう敵対するしかないの。・・私からもお願い。ここではっきりさせてちょうだい。貴女は誰を一番愛してるのかを」

 

 

じっと優依ちゃんを見つめる。

佐倉さんに便乗にするような形になってしまったのは残念だけど知りたいと思ったのは紛れもない本心。

もし、優依ちゃんの愛する人が私じゃなかったら、と考えるのは怖いけど曖昧なままじゃ先へは進めない。

 

だからここではっきりさせなくちゃ。

 

 

「優依・・・」

 

「優依ちゃん・・」

 

 

不安げに見つめる私と佐倉さんを前に優依ちゃんはずっと目を閉じて俯いたまま。永遠とも思える沈黙が部屋を支配している。

 

 

 

「二人とも・・」

 

 

「「!」」

 

 

 

目を開け、ようやく口を開いた優依ちゃんに無意識に身体に緊張が走った。

佐倉さんも同じだったみたいで緊張した面持ちで優依ちゃんを見つめている。

 

 

とうとう分かる!

優依ちゃんの愛する人が・・!

 

 

どちらかは分からないがゴクンと喉を鳴らす音がした。

そんな事をお構いなしに優依ちゃんは真剣な表情で口を動かす。

 

 

 

「チーズタッカルビ作っていいですか?」

 

 

「「・・・・・・は?」」

 

 

 

時が止まった。




人というのは予想外の事されたら思わず呆気に取られるものです。
怖い修羅場の中、優依ちゃんが何を考えてたのかは次回のお楽しみw


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91話 知ってるか?食事はコミュニケーションを円滑にする最強のツールなんだぜ

GW何してますか?
自分は頑張って執筆に励んでます!

















・・・だったら良かったのになぁ。


「・・そろそろ出来たかしら?」

 

「うおお!ウマそう!いっただきまーす!」

 

「あ、コラ!火傷するからそんなに勢いよくかきこんじゃいけません!」

 

「いいじゃんか、火傷したってどうせすぐ治せるんだし。相変わらず細けえな」

 

「・・・・・」

 

 

目の前で展開される会話に俺はただ茫然とするしかない。

 

場所は俺の部屋と打って変わって我が家のリビング。

ここに用があるとするならばただ一つ。食事をする事だ。

なので実際、食卓の上には料理が並んでいる。

 

皿がひしめく中で異彩を放つように鉄板プレートがあり、主役を勝ち取ったかのように我が家の食卓のど真ん中にドンと置かれ、それを俺と何故かマミちゃんと杏子が囲む形で見下ろしている。

 

ちなみに鉄板の中には涙が出てきそうな程、真っ赤にペイントされた物体とそれを覆うように黄色いドロドロした液体がジュゥゥと美味しそうな音を立てていた。

 

その料理の名はチーズタッカルビ。

最近流行りの本場韓国の料理である。

詳細は省くが鶏肉や野菜をコチュジャン等の辛味で真っ赤に染め上げ、トロトロのチーズで頂くという話を聞いただけで旨そうな料理。

 

とまあチーズタッカルビの説明はこのぐらいにしておこう。

問題はそれではない。この状況だ。

 

 

「かっら!でもうめえ!何だこれ!?初めて食うぞ!」

 

「佐倉さん、口の回りが凄い事になってるわよ。食べるのはいいけどちゃんと口をふかないと」

 

「やめろってマミ!口ぐらい自分でふけるっての!」

 

 

いや何これ?どういう状況なのこれ?

どうしてこうなったの?

こうなった経緯が全然分からない。

 

さっきまで殺し合いが始まりそうな程、険悪な空気でいがみ合ってた最悪な関係の魔法少女同士なのに、今じゃ普通の友達のようにわいわい騒ぎながらチーズタッカルビ食べてるって展開が早すぎて理解が追いつかない。

 

 

・・ホントにこれどういう状況?

どういう過程を踏んだらこうなるんだよ?

 

 

まさか・・チーズタッカルビには険悪な関係を良好にする効果でもあったのか?

分からない。何もかも分からない。

チーズタッカルビについては間違いなく俺が原因なんだけどさ。

 

 

どうやら少し今までの事を改めて振り返る必要がありそうだ。

 

 

 

事の発端はそう。

 

 

マミちゃんと杏子が話し合いを始めるときに遡る。

 

 

今は険悪な仲と言えど元はコンビを組んでた二人。

お互いに関して内心は複雑と言えども積る話もあるだろう。

 

そう思った俺は話し合いには参加せず傍観する事にした。

もちろんそんな重苦しい話の輪に入りたくなかったからではないのかと言われれば答えはYesとしか言いようがないが、出来るだけ二人で話をさせてあげたいと思ったのも紛れもない本心からである。(ちなみに俺の気持ち的なものは気遣い1・保身9の構成だったりする)

 

 

とはいえ話し合いをするにしても二人はまだ中学生で子供、そして女同士。

話が穏やかに進むとはどうしても思えない。

ただでさえ同じ空間にいるだけでも震え上げるほどのプレッシャーを発する二人が怖いのにその上、女同士の喧嘩名物、陰湿な言葉の殴り合いが始まるのは確実だった。

 

 

手が出ないだけマシとはいえ、そんな毒が過分に含まれた言葉を聞いてたらいくら傍観に徹していようと俺の精神は間違いなく崩壊する。

ではどうするか?そこで俺は閃いたのだ。

 

 

 

そうだ!現実逃避しよう!と。

 

 

 

身も蓋もない体で言えば、目の前で繰り広げられるであろうおどろおどろしい現実から目を逸らす事にしたのである。

 

その際、何を考えて現実逃避したかと言えばそりゃもちろん、今日の晩御飯の献立に決まってますが何が?これは俺にとってかなり大事な事なのだ。

 

 

だって久しぶりの我が家だよ!?

(※一度帰ってきた事があるがそれは赤の不法侵入でそれ所じゃなかったからノーカウントだ)

 

 

魔法少女共に関わっていく内にいつしか忘れていた我が家の温もりを五感全てで感じる。

状況はあれだけど安心する。そうなると欲が出て来るものだ。

 

かつて死亡フラグに悩まされてなかった時のように無心で料理を作りたい。

これは今の俺のささやかな願いだ。こんなささやかな願いでさえまともに叶わないと思うと涙が出そうになるが気にしては終わりな気がするが。

 

 

それはともかく、せっかく作るなら今まで一度も作った事ない料理に挑戦しようとその時は思ったわけ。

 

まさか俺が進んで自炊する日が、それも楽しんで献立を考える日がこようとは前世では夢にも思わなかった。前世の俺なら迷わず外食かコンビニ弁当を選んでいただろうが、そこは身体の奥底まで家事スキルが染みついた今世の俺。料理を作る楽しさを知り、自炊一択。

学生という身分でもある事から無駄な出費は控えたいという本音も見え隠れしているがそれは置いておこう。たたでさえ使いまくって財布カツカツなんだから(主に杏子に奢ったりして)。

 

 

献立を考えるのは正直楽しかった。

食べたい物を自分で作るのは案外楽しいものだ。それが久方ぶりとなれば猶更気合が入るというもの。

 

かなり真剣に考えていたから目を閉じていた。

きっと表面上はしかめっ面になっていただろうが、内心はルンルン気分で何作ろっかな♪なんて思っていた俺。

 

思考に沈んだ俺の耳に女同士の罵り合う声がどこか遠くで聞こえてきた気がするがそんな事は全く気にならなかった。むしろ少し騒がしいBGMの方が集中力を増すというものだ。

 

 

二、三品作ろう。一品は魚料理にするか。

たしか母さんがご近所からもらったキス(魚)が冷蔵庫にあったはず。

 

今家にある食材に思い馳せていると丁度、杏子が「キスしてくれ」って言うからそれを了承して一品目はキス(魚)のから揚げは決定した。

まさか冷蔵庫にキス(魚)があると分かっていたなんて流石食欲魔人。

食い物に関しては非常に目敏いといという事か。

 

 

それにしてもなんか杏子の顔がやけに近かった気がするが気のせいだろうか。

まあ、それを指摘するよりも先に何故か甘えたモードに入ったマミちゃんに抱きしめられ、うやむやになってしまったが俺にはどうでも良い事だ。

 

 

今は献立を考える方が忙しい。

杏子とマミちゃんが目の前で何か言い合っているが無視しよう。

 

 

俺は再び思考の底に沈んだ。

 

 

キスのから揚げは決まったがそれだけじゃ寂しい。もう一品欲しい所だ。

どうせなら肉料理が欲しい。それも変わったものなら尚良い。は!

 

 

そこで俺はふと思い出した。

前にテレビで見た「チーズタッカルビ」という存在を。

すっごく美味しそうで食べてみたいと切に思っていた。

 

一度思い出せばもう止まらない。

チーズタッカルビが食べたくて食べたくて仕方なくなった。

 

過去に食べてみたいと思ってネットでレシピを検索した事があるが作るのは難しくなかった気がする。

我が家にある調味料で可能だったはず。

 

 

よし!いっちょ作ってみるか!

 

 

思い立ったが即行動!これに限る。

面倒がらずに行動するにはこれが一番だ。

 

 

若干興奮気味に目を開けた俺の視界には何故か真剣そうな表情でこちらを見るマミちゃんと杏子の姿があった。

何故二人はここにいるのか、何故二人とも魔法少女の格好をしていたのか。

何か大切な事を忘れ、状況の理解が追いつかないのに、チーズタッカルビが食べたくて仕方ない俺は全てを忘却の彼方に押しやってしまっていたので気にもならなかった。

 

一人で食べるのもあれだし、コイツ等も誘ってやるか。

 

 

 

そう思った俺は早速二人に声を掛けた。

 

 

「二人とも、チーズタッカルビ作っていいですか?」

 

 

そう宣言した直後何故かマミちゃんと杏子は口を開けてポカンとして微妙な沈黙が漂うも未知なる料理の前に興奮した俺はそんな事など些事に過ぎず、戸惑う二人の手を引っ張ってキッチンへと強制的に誘ったのだ。

 

 

 

 

 

・・・俺何やってんだっけ?

 

 

 

チーズタッカルビを作り終えてようやく我に返った俺の視界には食卓を囲むマミちゃんと杏子が目に入ったという訳だ。そしてが全てを思い出しみるみる内に顔が青ざめていく。

 

 

馬鹿なの俺!?今まさにここが運命の分岐点だってのに何呑気に晩御飯の献立なんて考えてたの!?

ホント救いようがないんだけど!

これどうなんの!?この後の展開どうなっちゃうの!?

そもそもこの場をどう切り抜けたらいいの俺!?

どうせならおかしなテンションのまま二人を追い出せば良かったのに!

俺のハイテンションマジ役立たず。

 

 

「優依ちゃん、さっきからお箸が進んでないみたいだけどどうしたの?食欲ない?」

 

「え?いや・・そんな事ないけど・・」

 

「嘘はだめよ。さっきから顔色悪いわよ」

 

「だ、大丈夫だよ・・」

 

 

一人冷や汗ダラダラ流してたらマミちゃんが心配そうに顔を覗き込んでくるも後ろめたさしかない俺はつい目を逸らしてしまう。

 

ホントさっきまでの自分殴り倒したい。

話し合いするためだけに家に入れたはずなのに今じゃ親交を深めようとするがごとく食卓を囲んでいる。

これはちょっとでも間違えれば親交どころか溝が深まってしまう大事な場面だ。

全ては俺にかかっていると言っても過言ではない。

 

世の政治家の皆さん尊敬します。

国を背負って接待するなんて俺には出来ません。

プレッシャーのあまり食べたものが逆流しそうです。

 

 

 

「・・ごめんなさいね」

 

「え?」

 

 

自分で自分を追い込む俺の耳に謝罪の言葉が届く。

それはマミちゃんの口から出たものだった。申し訳なさそうに眉をハの字にして俺を見つめている。

 

 

「私たちがちゃんと話し合い出来なかったせいで優依ちゃんに苦労をかけちゃった上に辛い思いをさせてしまった。私たちのために心を砕いてくれてたのに・・あんな事。もう二度と強引に迫ったりはしないわ」

 

「はあ・・?」

 

「私待ってるわ。優依ちゃんが答えを出してくれる日を。だからいつかはちゃんと答えて欲しいわ」

 

 

ごめんなさい。一体何の話されてます?

何か良い事言ってるみたいだけど全然話が見えないんですけど。

 

え?俺が献立考えてる間君ら何話してたの?

ぶっちゃけ聞いてなかったから全く分かんない!

答えって何?あんな事って何!?

 

 

「食わねえなら全部アタシがもらうぞ」

 

 

混乱する俺にマミちゃんから反対に位置する俺の隣から呆れたような声が聞こえる。

振り返ると俺の小皿のチーズタッカルビがすっと杏子の方へ引き寄せられていく。

 

 

「おいこら!人の物を取るんじゃない!てか、お前がリクエストしたんだからちゃんとから揚げも食べろよ」

 

「は?何だそれ?」

 

「何ってキスのから揚げ。さっきキスしてくれって言ってたじゃん」

 

「・・おい、もしかしなくても勘違いしてないかお前?」

 

「勘違い?え?何その顔?まさかのキスがリクエストじゃなかった?」

 

 

目の前にキスのから揚げ差し出してやったら酷く引き攣った顔されたけど一体どうしたんだ?

まさかのキス嫌い?もしくは具合悪いとか?

こいつに限ってないそれはないと思うけど。風邪とか無縁だろうな。

むしろ菌が逃げていきそうだもん。

 

 

「あのさ、アタシが言ったのは・・「優依ちゃんほら」・・マミ!」

 

「・・・・」

 

 

杏子が何か言いかけていたが突如俺の目の前に差し出された赤い物体によって中断される。

それはチーズタッカルビだった。それは分かる。

 

しかし何でそれが俺の目の前に?

答えは簡単だ。素敵な笑顔を携えたマミちゃんが俺に向かってそれを差し出しているからだ。

 

 

「ほら優依ちゃん遠慮しないで?あーん」

 

「いや、あんた状況分かってないだろ。しないからね」

 

「あーん♪」

 

「ちょ、近づけんなって!杏子が見てるだろ!」

 

 

杏子の目などお構いなしにチーズタッカルビが刺さったフォークを近づけて来るマミちゃん。

笑顔三割増しで何故か背筋が凍りそうだ。

今まで何度かマミちゃんにあーんしてもらった事があるからあまり驚かないが何度やっても羞恥心は収まらない。ましてや今回は目の前に杏子がいるんだ。恥で爆死してしまいそうだ。

 

どうしよう?拒否してもこういう場面ではかなり強引なマミちゃんは無理矢理でも決行してくる。

無理に断れば後が怖い。けどここで折れて受け入れたとしたら杏子にあらぬ誤解を与えてしまう。

つまり杏子に強請られる格好のネタを提供してしまう事になる。

 

 

「優依ちゃん、口開けて」

 

 

どこか有無を言わせない響きを含んだマミちゃんの声に小さく「ひっ」と悲鳴を上げる。

笑顔だけど目がマジだ。何が何でも食わせるという気迫すら感じる程に。

何をそこまで彼女を駆り立ててるのか分からない。

 

どうしよう?このまま受け入れるしか道はないのか?

 

 

 

「はむ」

 

 

「「・・・・・・・」」

 

 

 

絶対絶命の危機は急変する。

目の前に突き付けられていたチーズタッカルビが消えたのだ。

正確に言えば、チーズタッカルビが突き刺さっていたフォークが今や杏子の口によってもぐもぐされている。

 

 

「んー、うめえ!」

 

 

沈黙が流れる中、杏子の弾んだ声がやけに響き渡った。

 

 

 

「・・何してるの佐倉さん?」

 

 

「・・は?見て分かんねえの?邪魔してるんだよ」

 

 

あ、元に戻った。先ほどまでの穏やかな時間が嘘のように睨み合う二人。

色が色だからか皿に盛られたチーズタッカルビがまるでこれから流れる予定の血に見えるのは俺の気のせいだろうか。気のせいであって欲しい。

 

 

少しは関係が穏やかになったかなって思ったら一瞬で終わったよ・・。

 

 

「杏子、何でも良いからマミちゃんの言う通りせめて口は拭いてくれ。汚い」

 

「え・・!」

 

「・・いや何その顔?」

 

 

諦めモードに移行した俺は半ば投げやりに告げれば杏子は絶句して俺の方を見つめてくる。

 

今の杏子の口回りは勢い込んでチーズタッカルビにがっついたからか赤く染まっている。それはまるで血がついているように見えて怖くてしょうがないのだ。

今の状況を考えると実際そうなってもおかしくないのが恐ろしいのでただ注意しただけなのに。

 

 

回答に困っていると思わぬところから救いの手が差しのべられた。

 

 

「優依ちゃんの言う通りよ。年頃の女の子なんだからちゃんと節度を守らないと。ほらこっちむいて」

 

「むが!」

 

 

理由は分からないけど固まってる杏子は隙だらけだ。

その隙をついてネチネチ説教しながら杏子の口を拭いていやるマミちゃん。

その光景はさながら幼い子の面倒を見る母親の姿だった。

 

 

しばらくはやられたい放題だった杏子もついに我慢の限界が来たのか押し付けられていた布巾を叩き落としてマミちゃんを睨んでいた。これは完全に怒っている。今にも口から憎まれ口を叩きそうな勢いだ。

 

俺の予想通り、杏子はマミちゃんに向かって売り言葉を吐こうと大きく口を開く。

 

 

 

 

「ああもう!何すんだよマミ”さん”!・・あ」

 

 

 

「「・・・・・」」

 

 

 

 

食卓に流れる沈黙。

 

しまったといった表情で目が泳ぎまくる杏子を黙って見守る俺とマミちゃん。

慌てて「違う」と言い訳する杏子に対してニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべてしまうが仕方ない事だと思う。

 

 

「へー?マミ”さん”ねえ?そういえば杏子はマミちゃんの元弟子だからさん呼びでもおかしくないね!いくら取り繕った所で元々の素がそう簡単に抜けるわけないか。うん!いいね、マミ”さん”」

 

「ち、ちが、これは!」

 

「懐かしいわね。あの頃はマミさんマミさんってまるでヒヨコのように私の後ろをついて回っててとても可愛かったわ。まるで昔に戻ったみたいね佐倉さん?」

 

 

マミちゃんはどこか懐かしむような、そして微笑ましいものを見るような感じで杏子を生暖かい目で見ている。そんなマミちゃんの様子に杏子は動揺しまくりで「勘違いすんな!」と噛みついているが、ツンデレのテンプレ発言に他ならない。俺は更にニヤニヤが止まらなくなった。。

 

 

 

「だああああああああああ!いい加減にしろ!二人して気持ち悪い笑顔しやがって!」

 

 

 

ニヤニヤと二人して杏子を見ているとついに我慢の限界が来たらしい。

真っ赤な顔でダンと机を叩いて立ち上がって叫んでいる。

よっぽど余裕がなかったのか頬の赤みが収まらず、肩で激しく上下している。

それがかえって逆効果だというのは理解してないなこれ。

 

 

「ごめんごめん。杏子があんまりにも可愛くって」

 

「~~~~~っ////」

 

 

茹蛸にでもなったのかと思う程顔が真っ赤だ。

 

やべ、おもしれえ。更にからかいたくなってくるわ。

マミちゃんもどうやら俺と同じ気持ちらしく控えめながらも楽しそうに目を細めている。

そんな俺らに身の危険を察知したのか杏子は若干腰を引いているがそんな事はどうでもいい。

 

 

これは・・もしや二人の溝を埋めるチャンスでは?

 

 

 

 

「! はーい!」

 

 

 

そう思った矢先に玄関に響くインターホン。

正直無視してしまいたいが外から「宅急便です!」の元気な声が聞こえてくるから無視するわけにはいかない。

しかし少しの間とはいえ、この二人から目を離すのは気が引ける。

俺がいない間に乱闘なんて起こされたらそれこそ目も当てられない。

今はとても和やかな雰囲気だから大丈夫かもしれないがちょっと(ものすごく)不安だ。

 

どうしよう?やっぱり無視するか?

 

 

「・・・早く行けよ」

 

「え?」

 

「・・アンタがいないからって暴れたりしねえから」

 

 

さっきのからかいのせいだからかかなりぶっきらぼうな言い方だが俺の気持ちを察している様子の杏子。

ありがたいがなにも犬を追い払うようにシッシッと手を払わないでほしい。

 

 

「私も佐倉さんも大丈夫だから心配しないで。流石にこんな短時間で戦いにはならないわ。だから安心していいわ」

 

 

なかなか動かない俺に今度はマミちゃんが促してくる。

俺を安心させるために言ってくれているのだろうが、会ってすぐ殺し合いを始めた未遂があるので全然説得力がない。

 

 

しかし二人揃って大丈夫だというからそこは信用しても良いかもしれない。

何よりいつまでも玄関で待たせている宅配便さんが可哀想だ。

 

 

「じゃあいってくる。くれぐれも大人しくしててくれよ」

 

 

不安はあるが、二人にそう言い残し俺は玄関に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご苦労さまですー」

 

 

宅配のお兄さんに労いの言葉をかけて荷物を受け取り玄関を閉める。

荷物の受け取り中、背後から爆発音とか銃声とかしないかヒヤヒヤしたが俺の思い過ごしだったらしい。

ともかく何事もなくて一安心だ。

 

 

「母さんの宛ての荷物か?え俺宛て?誰から? ・・げ」

 

 

荷物は俺宛てだった。

そして送り主の名前を何気に眺めて即後悔した。

 

 

 

何で“トモっち”の名前が・・・!?

 

 

よりにもよってこのタイミング!

せっかく平和に過ごしてたのに何故お前はこんな時に!

邪神程じゃないけどこいつも大概だ!

 

 

マミちゃんはともかく杏子の前でトモっちの名前出せばどうなるか考えただけでも身体が震えてくる。

ただでさえ杏子はトモっちの事毛嫌いしてるんだ。ここで奴の名前なんて出してみろ。

穏やかだった状況がすぐさま崩壊する事間違いなし!

 

マジでシャレにならん!

ここは事を穏便に済ませなければならない!

 

幸い二人はリビングにいるからまだ知らないはず。

急いで荷物をどこかに隠して何事もなかったように振る舞おう!

 

 

 

 

 

「どこかに隠そうかな・・」

 

 

「何を隠すんだ?」

 

 

「!? ・・ひっ」

 

 

背後から聞こえる冷え切った声に思わずビクリと身体が反応する。

 

この声は・・杏子?何故!?マミちゃんはどうした?

 

 

 

「荷物が届いたみたいね。誰からなの?」

 

 

「ひぃ・・!」

 

 

背後から杏子に続いて何故かマミちゃんの声も聞こえる。

こちらも氷を纏ったような背筋が凍りそうな声だ。

 

何故だろう?背中にぶつかる圧が凄まじい。

おかげで大量の冷や汗が流れている。

 

 

ひょっとしなくても・・お、怒ってる・・・?

 

 

ギギギと錆びついた機械のようなぎこちない動きで振り返る。

 

 

 

「ひ・・!」

 

 

 

そしてすぐさま後悔した。

 

 

 

鬼だ!美少女の皮被った赤い鬼と黄色い鬼がいらっしゃるうううううううううう!!

やべえ!すげえ怖い!二人とも無表情+仁王立ち&睨み+見下ろしコンボで超怖え!

 

 

何かした?俺何かした!?

全く見覚えないんだけど!この短時間で何があったの!?

 

 

「え・・えっと・・」

 

 

咄嗟に背中に荷物を隠すも意味なんてない。

むしろ状況が悪化したようだ。二人が放つプレッシャーが増した気がする。

 

 

「どうして隠すの?やましい事はないんでしょう。ねえ優依ちゃん?」

 

「え、えっと・・」

 

「まさかとは思うけどさ、その背中に隠した荷物・・・あの変態からじゃねえだろうな優依?」

 

「いや、その・・はは・・」

 

 

 

氷のような赤と黄色の追及に背中に流れる汗が止まらない。




天啓が降りたんだ!やるなら今だとな!
byトモっち



彼も邪神に劣らずトラブルメーカーですのでタイミングはある意味バッチリ!
これは波乱しか呼びませんねw








閑話~チーズダッカルビ調理~


「よし!今からチーズダッカルビ作るぞ!」

「はあ?お前この状況分かってんのか?アタシら変身までしてんだぞ?ふざけてる場合かよ」

「何を言ってる!ふざけてるのは杏子!お前だ!」

「・・何言ってんだお前?」

「何だその目は?お前はチーズダッカルビを冒涜する気か?」

「・・・は?」

「そもそもこれからチーズダッカルビを作るってのに何だその格好は!?冒涜しているとしか思えない!さあ早く変身を解くんだ!」

「お前頭大丈夫か?」

「優依ちゃん・・私たちの話聞いてた?貴女が本当に愛してる人は誰なのか聞いてるのよ」

「知るか!今はそれどころじゃないんだよ!俺は大至急チーズダッカルビが食べたい!さっきから俺を引き留めるなんて何がしたいんだよ?それは何か?そんなに俺がチーズダッカルビを作るのが嫌なのか?俺のチーズダッカルビが食べられないってか?ええ?」

「え!?えっと、そんなつもりじゃ・・」

「無駄話してる時間が惜しいんだ!いいから手伝え!最高に美味しいチーズダッカルビを食べさせてやるから!」

「あ!ちょっと!」

「おい!引っ張るんじゃねえ!」


こうして半ば強引に調理が開始され、本編で優依ちゃんは正気に戻り血の気が失せます。


変なテンションに支配された優依ちゃんは人の話は聞かないのである意味無敵です。
そして我に返り、新たな黒歴史が刻まれた事に絶望するのですw


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92話 パンドラの箱・・?

気づけば投稿初めてから一年過ぎてました。
相変わらず忘れてる自分に呆れを通り越して笑いが込み上げてきそうですw

一周年迎えた「魔法少女オレガ☆ヤンノ!?」
よろしくお願いします!


「ですから何度も申し上げておりますようにトモっちとはただの幼馴染でして、決してお二人が邪推するような仲ではありません。天(邪神除く)に誓って潔白を証明致します。なので、そろそろお怒りをお鎮めいただけないでしょうか・・?正直殺気が洒落にならなく気を抜いたら気絶しそうです俺」

 

「「・・・・・・」」

 

 

凄まじい威圧感を放つ二体の仁王像の前に俺は成す術なく首を垂れて正座し、必死に弁解を試みる。無表情に見下ろされるのって、背筋が凍る程怖いなんて知りたくなかったよ・・。

 

何故こんな事に?

俺はただ自分宛ての荷物を受け取っただけだなのに・・。

 

もしかしなしくても送り主がまずかったのだろうか?いや、そんな事はない。

・・と言いたいところだが送り主はなんといってもあの変態の化身「トモっち」。

あまりの変態ぶりに前の学校では一部の女の子から毛嫌いされてたから無理もないのかもしれない。

 

しかしそれでもおかしい。

マミちゃんと杏子はトモっちに実害を受けていない所か会ったことすらないというのにどうしてここまで怒っているのだろうか?

まさかとは思うがもはや奴の名前が出る事自体が害なんてそんな哀れな話はない・・よな?

それはないと信じたい。だって名前だけで変態性が滲み出てるとか救いようがないわ。

 

 

「・・トモっちだって、俺の事ただの幼馴染としか思ってないって・・」

 

 

二人が怒ってる原因は分からないがとにかくここは謝った方が良い。そんな事は分かっている。

でも俺何も悪くないのに謝るのも癪なのでせめて身の潔白ぐらいは証明させてくれ。

 

苦し紛れに放つ言い訳はただ虚しく宙を漂う。

 

 

「アンタはそう思ってても向こうは違うかもしれないじゃん。・・ここに引っ越してから随分経ったよな。普通は疎遠になるはずなのに今でも頻繁に連絡してるし、こうやって贈り物までくる。優依が好きだからこんな事するんじゃないのか?それ以外どう説明する気だ?あぁ?」

 

「えー・・それは一番ないと思うけど・・」

 

 

杏子から最もありえない妄想が飛び出てきて内心ドン引きを通り越して呆れてしまう。

どうしてそんな妄想が出来るのか非常に理解しがたい。

まあ、無理はないのかもしれない。杏子はトモっちと会った事がないからどんな奴か知らないもんな。知ってたら絶対そんな妄想なんて出てこないはずだ。

 

あの変態が好きなのは二次元とアイドルだけ。

堂々と嫁と公言しており、三次元の女の子は眼中にないとまで言い切っている。

顔はイケメンなのに性格と発言のせいでプラマイゼロどころかマイナスにまで到達してしまっているのだ。黙ってればモテるのに・・きっとああいうのが残念なイケメンと呼ぶんだろう。

だから本来リア充に対して殺意を覚える俺が仲良くやっていけるってのもあるんだけど。

 

 

そう説明してやったのに杏子は納得しない。

未だに不機嫌そうに眉を顰めて俺を睨んでいる。

 

ホントに君トモっちが嫌いなのね。うん、知ってた。

普段はともかく根は純粋な杏子が去年の冬くらいに百合漫画&百合動画なんて未知の不審物に触れてしまったもんね。そうなるよね。その後ずっと挙動不審だったし。

ちゃんと処分しなかった俺も悪いんだけど元凶は間違いなくあの変態だ。

恨んでも仕方ないか。

 

 

 

「ねえ優依ちゃん」

 

 

「? どうしたのマミちゃん?」

 

 

ご機嫌斜めな杏子に呆れてたら、ずっと黙っていたマミちゃんがようやく口を開いた。

杏子がこんな感じだからこっちもどうなるか分かったもんじゃない。

内心戦々恐々していたが、予想外にマミちゃんは穏やかな表情で微笑んでいるので拍子抜けしてしまいそうだ。

 

ひょっとしたら俺の勘違いで怒っているのは杏子だけでマミちゃんはそうじゃないのかもしれない。是非そうであってほしい。怒っているのは杏子でお腹いっぱいだ。

 

 

「確か優依ちゃんの幼馴染の彼は私のファンなのよね?」

 

「え?うん、そうだよ」

 

 

俺の目をじっと見つめながら、確認するように聞いてくるので肯定する。

 

何を隠そうトモっちは真正のアイドル(キモ)オタク。

それもこれからブレイク必須のダイヤの原石のような娘が好みというコアな嗜好性(変態性)を持ち主だ。そんな奴の現在の推しは何を隠そう目の前にいる「Ribbon」ことマミちゃん。

自称「Ribbon」様一番のファンとかほざいていたな。たしか。

 

しかしこの場でそれを確認するなんてマミちゃんはどうしたんだろう?

疑問に覚えて頭に?マークを浮かべているとマミちゃんは何故かにっこり微笑んでいた。

 

 

「あのね優依ちゃん・・私、貴女の幼馴染とお話してみたいわ」

 

 

「え!?いいの!?ありがとう!泣いて喜ぶよアイツ!」

 

 

思わぬ申し出に前のめりになる。

 

これは思わぬ吉報だ。

前々から「Ribbon様にお会いしたい!」ってトモっちの奴、泣き喚いてたからこれは狂喜するだろうな。

下手すりゃそのまま尊死しそうな気もするけど幸せのまま死ねるならそれはそれで本望かもしれない。

 

 

「マミちゃん、本当にいいの?トモっちきっと喜びのあまりハイテンションで暴走しまくると思うけど・・」

 

「大丈夫よ。それは優依ちゃんで慣れてるから。それに私一度彼に会ってみたかったの」

 

「・・そっか、分かった」

 

 

なんかさり気なく貶された気がするがこの際気にしないでおこう。

喜ばしい事に変わりないんだから余計な事言って水を差すなんて無粋だ。

 

 

「ホントにありがとねマミちゃん。でもなんで急に会いたいって言ったの?」

 

「急にじゃないわ。優依ちゃんの口から貴女の幼馴染君の名前が出てくるたびに気になってたの」

 

「え?俺ってそんなにトモっちの名前出してたっけ?」

 

「ええ、二日に一回は出てたわ。だからいつも考えてしまうの。一体どんな人がここまで優依ちゃんと仲良くなれたのか、とか。私の知らない過去の優依ちゃんと一緒に過ごしてたと思うと、うらやましくて仕方がなかったわ」

 

「・・・・ん?」

 

「今から彼に会うのが楽しみだわ。きっとすごく素敵な男の子なんでしょうね。だって優依ちゃんはいつも楽しそうに彼の話をするんですもの」

 

「・・あの、マミちゃん?」

 

「大丈夫。ただお話するだけよ。優依ちゃんがいつもお世話になってますって」

 

「お話?お話って何?それだけで済まなさそうにない気がするんですけど・・?」

 

 

ニコニコ笑いながら語るマミちゃんに心なしかうすら寒いものを感じる。

 

・・これ会わせていいやつかな?なんかダメな気がしてきた。

会ったら最後、トモっち無事では済まない気がする。いろんな意味で。

 

 

マミちゃんの視線がじっと背中に注がれている。

いや、違う。正確に言えば俺の背中に隠してあるトモっちから贈られた荷物に注がれている。

 

 

「少しその荷物を見せてちょうだい。宅配便の送り主は必ず住所が書いてあるはずだから」

 

「はあ!?何言ってんのマミちゃん!?」

 

 

ゆらりと身じろぎしたマミちゃんを見て何をしようとしているのか察した俺はすぐさま両手を広げて荷物を守る。

俺の素早い対応が功を成して荷物の方に伸ばしていたマミちゃんの手は所在なさげに宙を掴んでいた。

 

 

コイツ・・!俺の許可なしにトモっちの住所確認しようとしやがった!

 

 

すぐさま警戒心全開でぐるると唸って威嚇する。気分は毛が逆立った猫。

荷物には絶対に触れさせない!

 

しかし荷物を狙っているのは黄色だけではなかった。

途中から空気と化していた赤がゆらりと立ち上がりこっちに近づいてくる。

その顔には獰猛な笑みが張り付いていた。

 

 

「そりゃいいなマミ。アタシもソイツに話があるんだ。色々と世話になったからな。一緒に行くぜ。・・ちょっとお礼しにいかねえとなあ?」

 

 

コイツに至っては話をするんじゃなくてお礼参りする気だよ!

やめろ!ゴキゴキ指の関節鳴らすの!怖いから!

 

 

「協力してくれるの佐倉さん?頼りになるわ。・・さ、優依ちゃん。荷物を渡してちょうだい」

 

 

再び俺にむかって差し伸べられるマミちゃんの手。

口調はとても穏やかだが所詮表面上のものだ。笑顔では隠しきれない威圧感が溢れている。

そしてその隣には好戦的に笑う杏子がいる。こっちはいつの間にか槍を取り出しいつでも準備OKと言いたげな感じだ。

 

これはどう考えても荷物寄こせの図だ。ありがとうございます!

 

 

ヤバい。このままではトチ狂った魔法少女共の殴り込みがトモっちの家に!

いくらアイツが救いようのない変態でも、さすがに無事で済まないと分かっていて見逃すわけにはいかない!

正直奴の自業自得な気がして仕方ないけどここは幼馴染のよしみだ!

殴り込みは回避させてみせる!

 

 

背中に隠してあった箱をマミちゃんと杏子の前に取り出すと二人は目の色を変えてそれに釘付けになる。

 

 

今がチャンスだ!

 

 

「うおりゃ!」

 

 

「「!?」」

 

 

二人の目の前で住所が書かれた部分、つまりは伝票を力いっぱい引きちぎった。

突然の俺の行動に二人は目を見開いて固まっている。その間に読解不可能になるまで細かくビリビリに破いていく。小さな紙片と化した伝票はひらひらと花びらのように舞って床に落ちた。そんな光景をマミちゃんと杏子は茫然と見つめている。

 

 

俺はゼエゼエと荒い呼吸を繰り返し、二人は固まったまま。

気まずい沈黙が周辺に漂った。

 

 

 

「・・そうまでしてソイツの事庇うのかよ?」

 

 

沈黙を破ったのは杏子だった。

ムスッとした表情で俺を睨んできたので負けじとこちらも睨み返す。

 

 

「庇うも何も君らをこのまま行かせたらトモっちがどうなるか分かったもんじゃないからね。先手は打たせてもらったよ」

 

「お話するだけよ?」

 

「その割にはどうしてソウルジェムを光らせてんのかなマミちゃん?お話って何のお話するの?まさかとは思うけどお話の時に武器を取り出すつもりじゃないよね?それお話じゃなくて脅しだから。ましてやお話(物理)とか論外だから!」

 

 

俺の妨害に不平不満を口にする二人に青筋が立ちそうだ。

 

 

伝票を破いてしまって正解だったようだ。

だって二人ともソウルジェム片手にして今にも殴り込みに行きそうな勢いだったからな。

 

トモっち、とうとうお前に殺意を持った女の子が現れたぞ。

今回は未然に阻止出来たけどしばらく夜道と背後に気を付けろよ。

さもないとあっという間に死ぬぞ。

 

 

「ただお話するだけだって言ってるのに・・冗談のつもりで伝票に触ろうとしただけなのに・・やっぱり優依ちゃんは彼の事が好きなのね・・」

 

「だから!誤解だって何度も言ってるじゃん!トモっちとはただの幼馴染だって!それ以下でもそれ以上でもないっつうの!そもそもお前らガチで殴り込みしようとしてたよね!?目がガチだったもの!てか、いい加減にしろ!お前ら魔法少女の自覚をちゃんと持て!一般人に危害を加えたなんてそれこそ目も当てらんねえぞ!」

 

 

イライラした雰囲気の赤と目をうるうるさせる黄色がいい加減腹立ってきたのでつい怒鳴ってしまうも仕方ないと思う。

 

そもそもさっき伝票を奪おうとした二人が放つ殺気はたとえド変態で変質者だろうとあくまで一般人に向けて良いものじゃなかった。

直接関係ない俺でさえ震えあがる程なのだから当事者に当たればどうなる事やら。考えてだけでもぞっとするわ。

 

 

「とにかく!この話はこれでおしまい!そういえばご飯途中だったしさっさと・・・って杏子何してんの!?」

 

 

まさかの光景に思わず目を見開いた。

慌てて手元を確認し愕然とする。

 

 

あれええええええええ!?

いつの間にか荷物が杏子の手に渡ってるううううううううううう!?

 

 

杏子の手には俺が持っていたはずのトモっちからの未知の不審物があった。いつの間にか掠め取られていたらしい。それをさも親の仇のように睨みつける杏子さん、マジおっかない。

 

てか、お前つい先ほどの俺の携帯もそうだけど、ホント犯罪スキル高過ぎ。勘弁してくんない?

地獄にいる君のお父さんこれ見たら詰る通り越してガチ泣きしてそうなんだけど。

 

杏子は奪い取った荷物をしばらく観察していたが、やがて箱を開こうとゆっくり手をかけた。

 

 

「え?ちょ、杏子さん?何してんの?」

 

「なんでもないんだろ?だったら今ここで開けても大丈夫だよね?アタシらの目の前でさ」

 

 

さっと顔の血の気が引いていくのが分かる。

 

まずい!中身は何か分からないがトモっちからだ。ロクでもないものに決まってる。

もしこれがいつかの百合グッズだったらそれこそ目も当てられない。

ただでさえ杏子の怒りが爆発するのに今度はマミちゃんもいるんだ。惨劇しか待っていない!!

 

 

「ふざけんな!返せ!」

 

 

「おっと」

 

 

慌てて奪い返そうとするもあっさり躱されてしまった。

めげずに何度かトライしてみるも荷物どころか杏子にさえ掠りもしなくて腹立たしい。

そうこうしている内に俺は息が上がってしゃがみこんでしまう。そんな俺を杏子は冷たく見下ろしている。

 

 

「今から中身を確認させてもらう。もしアンタの言う通り、あの変態とはなんでもないんだったら、変なものは入ってないはずだ。その時は大人しく引き下がってやるよ」

 

「は、はあ・・?」

 

 

訳も分からずマヌケな声が漏れてしまう。

理解出来るように努めようと必死に頭の中で言った事を反芻するがそれを遮るように「・・だけど」とドスのきいた声が響く。

 

 

「中に入ってるのがあの時みたいなやつだったら・・覚悟しな」

 

「ひい!?どういう事!?」

 

 

本日一番の殺気の籠った目が俺を射抜く。

その瞬間俺は悟った。

 

 

これは賭けだ。杏子は荷物の中身で俺と賭けをしようとしてるんだ。

 

真っ当な物なら俺の勝ちでそうじゃなかったら杏子の勝ち。

 

 

・・・・・冗談じゃねえ!ほぼ俺の負け確定してんじゃん!

だってあのトモっちだぞ!まともな物送ってくる訳ねえじゃん!

杏子め!それを見越して言ってきてるな!なんて奴だ!

てかお前の言う「あの時」って絶対百合事件の事言ってるよね!

ホントに根に持ってるなおい!

 

これ俺負けたらどうなんの?覚悟しろとか言ってたけど・・だめだ、考えるな。

 

背に腹はかえられない!何が何でも奪い返さなければ!

さもないと俺(&トモっち)に明日はない!

 

 

「何で俺がそんな賭けにのると思ってんだ?誰がやるか!良いから返s「だめよ」え!?」

 

 

もう一度荷物を奪い返そうと試みるも突如金縛りを受けたように身体が動かなくなる。

一体なんだと自身の身体に目を向けると信じられない事になっていた。

 

何と俺の身体が毎度お馴染み黄色いリボンによって縛りあげられているではないか!

俺はすぐさま犯人の方に顔を向けてみると、当の本人はそれはそれは楽しそうな笑顔で俺を見ているではないか!

 

 

「だめよ優依ちゃん。佐倉さんの邪魔しちゃだめ」

 

「マミちゃん・・?どうして邪魔するのかな?てか、なんて事してくれてんの?早く外してくんない?」

 

「それは出来ないわ。いい?いくら貴女の幼馴染といえど相手は男の子なのよ?この年頃の男の子は思春期真っ盛り。エッチな事に興味深々なの。からかい半分でどんな卑猥なものを送って来てるか分かったものじゃないわ。世の中には相手を不快にさせて悦ぶ変質者だっているくらいだもの。もし彼が変質者だった場合、この荷物を優依ちゃんに見せるわけにはいかない。だから佐倉さんが確かめようとしてくれてるのよ。分かった?」

 

「いやあんた、トモっちなんだと思ってんの!?流石にそれはな・・」

 

 

ないと言いたかった。でも言えず途中で口ごもってしまう。

 

悲しいかな。あの変態の化身であるトモっちだからこそないと言い切れない。

バリバリ変質者だもの。相手を不快にさせて悦ぶド変態だもの。

 

てか、むしろそんなド変態からの荷物を君らに見せるわけにはいかないんだけど!

訴えられても文句言えないぞトモっち!

 

 

「前みたいな趣味の悪い本じゃなさそうだな」

 

 

そうこうしてる内に杏子が包装を解いていく。

贈られた荷物の大きさはいつかの百合グッズに比べれば小さく、お菓子の詰め合わせセットくらいの大きさだ。深い緑色の包装紙に包まれた箱。

 

 

ベリッ

 

 

「ああ!」

 

 

それを杏子が無造作に剥がしていく。

あまりに雑に剥がしていくので包装紙が見るも無残な残骸となっている。

このままだと中身が判明するのも時間の問題だろう。

 

 

「やめてえええええええええええ!!」

 

 

「大人しくして!暴れたら危ないわ!」

 

 

どんなに暴れてもマミちゃんの施したリボンはガチガチに絡まっていて動けない。

このままじゃ二人が変態の不審物によって穢されてしまう!阻止したいのに成す術がない。

 

ああ!嘆いている内に杏子が箱の中身を開いている・・!

 

 

「いやああああああああああああ!!」

 

 

これからやって来るであろう惨劇に思い浮かべ、口から絶叫を吐き散らし現実から背くべき目を閉じるも来るべき怒声や罵声は聞こえずただシンと静まり返っていた。

 

 

「何だこれ?・・チョコ?」

 

「?」

 

 

杏子の戸惑った声を不思議に思い、目を開けると彼女の手には俺の大好きな銘柄のチョコレートの箱が目に入った。何故か身体を縛るリボンの拘束が緩んだのでその隙に杏子の方に近寄り箱の中身を覗き込む。その中身は美味しそうにデコレーションされたチョコレートがぎっしりと入っていた。

 

 

「ん?何だこれ?」

 

 

そう呟いて杏子が取り出したのはチョコの箱と一緒に同封されていたカード。そこには手書きでこう書かれていた。

 

 

“優依へ

たまたまお前の好きなチョコ専門店の新作が手に入ったからお前にやるよ。

どうやら女性に人気の味らしいから女の子の友達と一緒に仲良く食べてくれ。 

心の友トモっちより“

 

 

ト、トモっちいいいいいいいいいいいい!!

お前という奴は!なんて友達思いなんだ!

 

 

ジーンと心に感動が響き渡っていく。

 

救いようがない変態だけどこんな優しい所があるから憎めない。

ここ最近ずっと心が折れそうな展開ばかりだったから余計に心に沁みる。

 

ありがとう!心の友よ!

最近の俺愚痴ばっかだったからきっと気を遣ってくれていたんだね!

もちろん、味わっていただくよ!俺一人で!

 

 

「ほら!特に何もなかったろ!?」

 

 

感動と憂いがなくなった俺は実に爽やかな笑みを浮かべて二人を見やる。

二人ともアテが外れたからかむすっとした表情をしていたけど文句は言わせない。

賭けは俺の勝ちだから言えないというのが本音なんだろうけど小さい事だ。

 

 

「トモっちの話はこれでお終いだ。食事の最中だったし早く戻ろう。食べたら早く帰ってくれよな」

 

「・・帰るわけねえだろ」

 

「え?」

 

 

晴れやかな気分に水を差す不機嫌な赤の声。

 

 

「そうよ。ちゃんとお泊り出来るようにおば様から許可は取ってあるんだから」

 

「・・・・・え?」

 

 

ちゃっかりお泊りの許可を取った黄色に俺の顔は引き攣った。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・疲れた。何なんだ一体?」

 

 

湯気の中で響く俺の疲労の声。現在俺は入浴中だ。

結局あの後マミちゃんと杏子は泊まるの一点張りで話にならず、結局俺が折れる形で二人のお泊りが決定してしまったのだ。

 

ただでさえ問題児&険悪な関係の二人の相手はキツイというのに再開した食事で不機嫌を隠そうともせず、殺気立ってて精神が削られていく。

 

どちらかがお風呂に入ってもそうだった。

二人きりになってジト目でこっち睨んでくるしキツイのなんの。

そしてようやく回ってきた入浴タイム。ちなみに俺が最後だ。

どうしてこの家の住人である俺が最後なのかは聞かなくても分かると思う。

だって奴らを二人っきりにさせるの不安なんだよ。

 

しかしそうも言ってられない。

疲れを取りたいし、何より今は一人っきりになりたい。

それが出来るのは風呂だけだから一抹の不安を覚えつつ二人を残してきたのだ。

 

一応忠告はしたけど大丈夫だろうか?

 

 

「あー・・やだな。ここから出るとまた尋問が待ってそうで怖いんだよなぁ」

 

 

憂鬱な気分でドアを開け、そして閉める。

 

 

「・・・・・・」

 

 

余程疲れているのか、それとも湯あたりでも起こしたかは分からないがついに錯覚が見えるようになってしまったようだ。

 

脱衣所に杏子とマミちゃんがいるなんてきっと何かの間違いだ。

そうだ!きっとそうに違いない!

 

 

「・・・・・」

 

 

錯覚だと自分に言い聞かせ再度扉を開けるも錯覚にしてはやけにくっきりと見えるマミちゃんと杏子の姿。二人は既にパジャマに着替えて髪を下ろしているので普段とは雰囲気が異なるがよくお泊りする奴らなので見慣れたもんだ。しかし、どこか様子がおかしい気がする・・?

 

俺はそっと扉の隙間から二人を伺う。

しばらくそんな状態でお互い無言で見つめるも二人は出ていく様子は一切ないので、仕方なく俺から口を開いた。

 

 

「・・あの、取り敢えず出て行ってもらえます?」

 

「はあ?何でだよ?」

 

「何でって・・俺は露出狂じゃないんだ。女の子に裸を晒して悦ぶ性癖なんて持ち合わせてないんだよ。だからここから出て行ってくれ」

 

「グダグダ言ってねえで、さっさと出てこい!」

 

「! ちょっ!?」

 

 

突如キレた杏子に無理やり手を引っ張られ脱衣所に引きずりこまれる。

悲鳴を上げるよりも先に何か白いものに包まれるそれはバスタオルだった。

優しい手つきでマミちゃんが俺の身体を拭いている。それを杏子がじっと見つめていたりする。

 

はっきり言おう。超恥ずかしい!死ぬほど恥ずかしい!

何で俺はこんな事になってんの!?何してんの君ら!?

 

 

「優依ちゃん・・キレイよ」

 

「は?」

 

「とってもキレイ。見とれちゃうわ」

 

 

トロンとした目で俺の髪を拭くマミちゃん。どこか様子が可笑しい。

 

誰コイツ?頭おかしくなったとしか思えない。

マミちゃんをこんな風にした心当たりは一人しかいない。

 

杏子に向かって横目で睨みつける。

 

 

「杏子、マミちゃんどうした・・って、え?」

 

「優依は可愛いなぁ。いつも可愛いけど今日は一段と可愛い。食っちまいたい・・」

 

 

俺の首に腕を回して頬擦りしてくる杏子。

こちらもマミちゃんと同様、トロンとした目で様子が可笑しい。

 

 

先ほどの様子とは百八十度違ってかなりご機嫌な様子の二人。

さっきまでお風呂に入っていたから全身濡れているがそんな事そっちのけで二人はベタベタと俺にくっついてくる。

 

何だこれ?コイツ等どうしたんだ?

 

 

トロンとした目

蒸気した頬

浮ついたような口調

上機嫌な様子

 

 

二人の様子ははまるで酔っているみたいに見えるけど。

 

冷蔵庫に入っていた母さんの酒でも飲んだか?

いやそれはありえない。

酒豪の母さんが家にある酒を飲み残していったことなんて今まで一度も・・まさか・・!

 

 

ある結論にたどり着いた俺は顔が引き攣るのが隠せなかった。

 

 

「・・ねえ二人とも、ひょっとしてトモっちからのチョコ食べなかった?」

 

「ええ、ちょっとだけ。ごめんなさい。佐倉さんが無理やり口に入れてきたから・・つい。でもこれを食べてから頭の中がふわふわしてとっても気持ち良いのよ」

 

「だってさぁ嫌じゃん。アイツからのチョコ見て笑顔になる優依を見るのが嫌で嫌で仕方なかったんだ。・・だから」

 

 

最後まで聞かず俺は纏わりつく二人を振り払いすぐさま着替えチョコが置いてある自室へ向かう。背後から「優依(ちゃん)!!」と呼ぶ声が聞こえるが気にしてられなかった。

 

 

 

 

 

 

「あのドクサレ変態くそ野郎・・!」

 

 

 

 

部屋に戻った俺はすぐさまチョコのパッケージを確認する。

そこには、

 

 

“リキュールが入った大人な女性の味。お酒が入っているので20歳未満の方はご遠慮ください”

 

 

と書かれてあった。

 

 

女性って大人のほうかい!

つまりこのチョコを食べた二人は酔っぱらっていると・・!?

 

チョコの中身は空っぽ。

二人で完食してしまってるという事はそれだけアルコールも摂取してしまっているという事で・・。

 

俺に黙って食べた二人には怒りを覚える。

しかしそれ以上に怒りを覚えるのはこれを送ったあのド変態トモっちだ。

 

あの野郎!”何が仲良く食べろ”だ!確信犯じゃねえか!

これ俺食べてたらどうなってたのよ!?黒歴史確定するじゃん!

最悪あってはならない展開になってもおかしくなかった!

 

俺自身は回避出来たけどとんでもない問題を残してくれたな!

よりもよって魔法少女酔わすとは・・何てことしてくれたんだ!

ただでさえ不安定なこいつらに理性なくす事させやがって・・!

 

そもそもどうやって手に入れた!?

お前未成年だろ!?

 

 

「ゆい~」

 

「ゆいちゃ~ん」

 

 

追いかけてきたであろう赤と黄色が怒りに震える身体に纏わりつきながら俺は思った。

 

 

トモっちマジぶっ殺す・・!




俺のコネをなめるんじゃない!
たとえマグマの中だろうが氷山の中だろうがそこに百合があるなら天国さ!
byトモっち

※トモっち実はボンボンw
なので金には困りませんw


理性を失った魔法少女たちに果たして優依ちゃんは貞操を守り抜けるか!?

泣いてもいいんだよ優依ちゃん・・。


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