眠る前にも夢を見て (ジッキンゲン男爵)
しおりを挟む

降臨する神々 #1 眠りに付かずに

そして、ヘロヘロもログアウトし現実へ帰って行った。

 

ここは体感型オンラインゲーム『Yggdrasil(ユグドラシル)』の世界。

仮想世界内で現実にいるかのように遊べるそのゲームは、西暦2126年に発売されスタートして以来、一世を風靡し――2138年の今日、幕を下ろす。

 

モモンガはたった一人、誰もいなくなった空席へつい溢してしまう。

「折角の最終日ですから、良ければ最後まで遊んで行きませんか…」

その声は自分で呆れてしまう程に情けなかった。

はぁ、とため息をつこうとした瞬間――

「はい!」

虚しいはずだったセリフに、明るい肯定が届いた。

 

ヘロヘロの座っていた方を向いていたモモンガは驚きながら、声がした方へ振り返った。

「――いつの間にインしてたんですか!フラミーさん!!」

モモンガの斜向かい(はすむかい)には――天使にも見紛う六枚三対の羽を背負う、藤の花のような淡い紫色の肌をした女性が座っていた。

彼女は神の敵対者(サタン)、悪魔だ。

「ふふ、今ですよ!でも驚いちゃったなぁ。インしたらいきなり最後まで遊びましょうなんて!」

嬉しそうに笑う彼女はアインズ・ウール・ゴウンを設立し、最後から数えたほうが早いほどに遅くギルドに加入したメンバーだ。

遅くにギルドに入っただけあって、ゲームを始めたのも遅く、今でもたまに気が向くと遊びに来ていた。

 

「あ、ははは、すみません。ヘロヘロさんに言ったつもりだったので…。」

モモンガはそう応えながら、驚きが落ち着いたせいか再び寂しさを感じ始めていた。

「ヘロヘロさんいらしてたんですね。私お会いし損ねました…。」

寂しさは伝播するようで、楽しげな雰囲気だった声音は少しトーンが下がったようだ。

モモンガは少し反省し、努めて明るく返す。

「ヘロヘロさん、またどこかでお会いしましょうって言ってましたよ!」

フラミーはどこかで…と、来るはずのない明日を探すようにオウム返しをした。

それはどこかモモンガ自身の姿に重なった。

「そうだ!ねぇ、モモンガさん。私今日落ちたら、皆でまた軽く遊べるようなゲーム探します!だから、良いものが見つかったら、また一緒に遊んでくれませんか?」

モモンガは声が上擦りそうになるのを抑えながら、勿論!と笑顔のアイコンを出した。

 

+

 

その後強制ログアウトまで約八分と短い時間を見咎め、華々しく終わりを迎えようと、モモンガはギルド武器を携え、二人は玉座の間へと向かった。

 

途中NPC達――執事たるセバスや、戦闘メイド(プレアデス)を引き連れ、第十階層玉座の間へと辿り着く。

玉座に掛けたモモンガと、玉座を挟みアルベドとは逆サイドに立ったフラミーは感慨深げにギルドメンバーの旗を眺めた。

モモンガは途中、このNPC(アルベド)はどんな設定だったっけ…と思ったが、今はギルドの思い出に浸る。

 

(本当に…楽しかったんだ…。)

 

「ホント楽しかったですね。」

 

口に出ていたかと、この日二度目の驚きを持って声の方を見ると、モモンガは変わるはずのないキャラクターの表情に涙を幻視した。

 

「次は私、きっと初期メンバーになれますよね。」

「ははは。なれますよ、俺とふたりで始まっちゃう気がするのだけが問題ですけど。」

「わぁ〜廃人とふたりぼっちじゃすぐ置いてかれちゃいそう。」

朗らかな笑い声が響く。

 

(最後の時を一人で過ごさないで済んで良かったなぁ。)

 

そう思ったのはモモンガか、フラミーか。

 

いよいよ時間が迫る。

 

何年も遊んだゲームだ。

 

アバターも、ハンドルネームも、既に半身のようになってしまった。

 

「こんな時、どんな言葉が似合うんだか…、私よくわかんないです。」

へへ、とフラミーから薄い笑いが漏れる。

 

こんな時にサービス精神が旺盛になってしまうのは男の性だろうか。

 

15..14..13...

 

「フラミー、そう寂しがる事はない。今日でユグドラシルは終わりを迎えるが、我らアインズ・ウール・ゴウンと、そしてナザリックの繁栄はここで終わるわけではないのだ。」

 

これまで友人達と遊ぶときによくやっていた、モモンガの「魔王ロール」だ。

その声はどこか威厳を感じさせるものだった。

 

8..7..6...

 

フラミーは大きく頷く。

「はい!モモンガ様!次の世界でもまた共に歩みましょう!」

「そうだ!その意気だフラミー!」

「はい!モモンガ様!」

 

3..2..1..

 

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

 

「「「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」」」

 

二人は驚きに肩を揺らし、声の主たちを見た。




か、か、書いてしまいました。
因みに私の中の「サタン」のイメージはデビルマンの飛鳥了最終形態でございます。
でも肌色の肌では捻りがないのかしらと思ってとりあえず異形感出していこう!ということで紫です。
緑も良いと思いかけたのですが、緑じゃナメック星人ですものね。

2019.4.27 ペリ様誤字修正ありがとうございます…(//∇//)使い方がわからず一瞬戸惑いましたが無事に直せました。
また一つ賢くなりました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#2 眠らぬ墳墓の

「「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」」

 

そんな唱和に驚きを隠せぬまま、モモンガとフラミーは向き合っていたが、声の主を探してゆっくりと振り返った。

NPC達はさっきまでと同じ格好のまま控えている。

 

先に平常心を取り戻したのはモモンガだった。

モモンガの頭の中にはギルドの中でも最も手のつけられない様々な問題を引き起こす問題児の名前が浮かんだ。

「るし☆ふぁーさんのイタズラにしてはソフトでした…よね?」

モモンガへ向き直ったフラミーは半笑いだ。

「こんなコマンドがあったんですね。るし☆ふぁーさんならこのまま何かが爆発してもおかしくないですよね。はは。」

 

そして向き合っていたモモンガは硬直する。

 

「フラミーさん、なんで口が動いて…。」

「え?何言ってるんですか?口…?口が…動いてる…。」

顔を触りながら感触がある事、口が動いていることに驚愕し、フラミーは慌て始めた。

「これってユグドラシルⅡって事ですか?」

聞かれてもモモンガには分からない。

そしてモモンガもGMコールがきかない事、ゲームのログアウトや設定を開くことができるコンソールが開かないことに焦る。

中空をコツコツと叩くように手を動かすモモンガの挙動と、身体中をせっせと触るフラミーは誰が見てもどうかして(・・・・・)しまったような雰囲気だ。

 

「どうかなさいましたか?」

 

透き通るような女性の声に、二人はまるで練習したかのようにピタリと合った呼吸で視線を向けた。

 

「どうかなさいましたか?モモンガ様…?フラミー様…?」

そしてもう一度同じ問いが届く。

モモンガもフラミーも、誰の発した問いなのかを理解すると、唖然とした。

その声は間違い無く、NPCたるアルベドのものだった。

 

「GMコールがきかないようで…いや、ようなんだが…。」

なんとか絞り出した声が震えていない事に安堵しながらモモンガは答えた。

 

「…お許しを。GMコールと言うものに関する問いに、この私にはお応えする事ができません。どうか無知なる私に、この失態を払拭する機会をお与え下さいませ。」

 

モモンガはフラミーと目を合わせた。

お互いなにかを言おうとするも、何とも言えない空気が視線の間を流れ、モモンガは耐えきれずセバスの方へ視線を彷徨わせた。

 

するとセバスと目が合い――

「申し訳ございません。私もGMコールが何たるか存じ上げません。」

まるで生きているかの如くセバスも会話に参加してきた。

 

一言も物言わず茫然自失となっているフラミーの様子に、逆に冷静さを取り戻したモモンガは、テキパキとセバス、戦闘メイド(プレアデス)へ地表の確認指示を飛ばした。

 

「セバス、そして戦闘メイド(プレアデス)よ、行動を開始せよ!」

「は!承知いたしました!」

声が響きモモンガとフラミーへ跪拝すると、セバスは戦闘メイド(プレアデス)を伴い、巨大な扉の向こうへ消えていった。

 

――嫌がられなくて良かった。

モモンガは安堵するのもつかの間、アルベドから問いが来る。

「それで、モモンガ様。私はいかがいたしましょうか。」

 

何で俺に名指しで聞いてくるんだと焦りからか無意味な感想を抱く――と、ふと気持ちは落ち着き、モモンガの中にはもう焦りはなくなっていた。

「今から1時間後に第六階層アンフィテアトルムに集まるよう、各階層守護者達へ連絡を取れ。」

「畏まりました。そのように取り計らいます。」

「よし。行け!」

「それではモモンガ様、フラミー様、御前失礼いたします。」

アルベドが優雅に玉座の間を後にすると――扉が閉まりきった直後に「命令キター!!!!」と叫び声が聞こえた気がした。

 

「あ、あの、モモンガさん?」

二人だけになった玉座の間に少し怯えたような、頼りなげな声が響く。

「はい。フラミーさん…。」

答えたモモンガの声はこれまでと違い、威厳に満ち溢れるものから温和な雰囲気のものへと変わっていた。

 

(いつものモモンガさんだ。)

フラミーは安堵すると続けた。

「落ちれないどころかこんなのゲームじゃないですよね。あれですか?ゲームに吸い込まれちゃった奴ですか?それとも私達実は死んで気付いたらスライムになってた?ですか?」

自分も考えていた事だが、はっきり言葉にされると不安感が強くなる。

それとスライムの情報が漠然としすぎている気がした。

 

「俺もゲームだとはとても思えません。と言うかNPC達の雰囲気からあんな態度取っちゃいましたけど正解だったのか解らなくて怖いです…。セーブポイントがあればやり直したいですよ。」

モモンガは不安を隠すために努めていつもと同じような言葉を選んだ。

 

「ははは。でもモモンガさん、凄くカッコよかったですよ!こう、魔王って感じでした!行動を開始せよ、なんて私言ったことないです!」

「いやいや、そんなこと普通言ったことないですよ!俺だって初めて言いましたって!」

少し愉快な気持ちに乗って二人で笑い合うと、突然モモンガが素に戻ったような雰囲気を感じてフラミーは首をかしげた。

 

「どうかしました?」

「いえ…なんか、さっき驚いた時もそうだったんですけど、感情に大きな動きがあると感情が抑制されるみたいで…。」

「何ですかそれ、怖いですね。アンデッドのスキルみたい…。」

ハッとしたようにモモンガが声を上げる。

「俺、アンデッドになっちゃった…?」

「えぇ!?じゃあ…私も悪魔になっちゃった…?」

顔を見合わせ沈黙すると、フラミーの呼吸音だけが聞こえ続けた。

 

「私、悪魔になっちゃって生活していけるのかな。」

間が空いてから漏れ出た素朴な疑問に、モモンガはさらに疑問を返す。

「フラミーさん、ここでその体で生活していくつもりなんですか?」

「い、いえ。その。お恥ずかしながら、リアルに戻れないなら戻れないで、と言うか、落ちれないなら落ちれないで…もういいかなーと言いますか…。はははは…。」

所在無げに言うフラミーにモモンガは瞳の灯火を一層赤くした。

 

「フラミーさんは絶対帰りたいと思ってました。最近仕事順調って言ってましたし。」

「あ、うーん。順調は順調でも、今まで泥の中歩いてた感じから泥舟に乗り換えれた程度なので…正直、孤児院育ちの私はここで生活していけたらいいなーなんて、思っちゃったりして。」

ははは…と笑うフラミーに、解る!と声を上げそうになったモモンガだったが、どこかと線が繋がる感覚にこめかみをそっとおさえた。

セバスから伝言(メッセージ)が来たようだ。

40分後くらいにはアンフィテアトルムに来て地表の状況を説明するように指示を出し伝言(メッセージ)を切る。

 

「モモンガさん、今の独り言ヤバすぎますよ。」

「ちょっと!!違います!違いますからね!!」

「ふふふ、わかってますよ。冗談です。ユグドラシルの時の伝言(メッセージ)モーションと一緒でしたもん。」

イタズラそうに笑うフラミーにモモンガは懐かしさを感じた。

 

「まったくもー。しかし魔法が使えるんですね。実は俺、自分の中にある何か魔法の感触みたいなのを感じてます。」

「私もです。何となく怖くって努めて無視しようとしてましたけど。」

二人はうなずき合った。

 

そしてフラミーが伝言(メッセージ)の実験をしようと言い、玉座に腰掛けるモモンガに背を向ける形で玉座下の階段に座り込んだ。

「じゃあ、モモンガさん。伝言(メッセージ)で右手か左手上げてって声に出さずに送って下さい!」

「行きますよ。」

 

二人の間にたしかに線が繋がる感じがした。

 

モモンガは心の中で話しかける。

(聞こえてますか?右手上げてくださーい。)

しかし何も起こらない。

(ジョークでスルーするのは無しですよ。)

しかし何も起こらない。

 

『「ダメみたいですね。」』

耳に声が届くのと同時に頭の中にも同じ言葉が響いた。

フラミーは振り返ると残念そうに笑った。

「これじゃ守護者達の前で内緒話はできませんね。」

 

その後守護者にどんな態度で挑むべきか、敵対されたらどうするかと様々な会議を行った。

「私が副社長で、モモンガさんは社長って感じでいいですよね。」

モモンガは渋面だ。いや、表情は変わらないが唸り声があからさまにに渋っている。

「いや、順位みたいなの嫌なんですけどねぇ。普通に遊んできた友達ですし、さっき俺の態度のせいかアルベドもわざわざ俺にどうしますかーって聞いてきたりしてましたし…。」

「そりゃあ友達皆で起業したって誰か一人は社長になるんですから!これは逃れられない運命なのねん!モモンガさんは社長さんなのねん!」

「それ何の真似ですか?なんか納得行かないですけど仕方ないなぁ…。」

「えらいのねん!社長さんなのねん!」

ふざけるフラミーを見て、この人歳下だもんなぁと昔交わした会話を思い出す。

 

記憶の海に潜り込みかけたところで、モモンガの腕からは妙に幼い作られたような声が響きだした。

『モモンガお兄ちゃん。時間だよ。モモンガお兄ちゃん。時間だよ。』

骸骨の腕から萌えボイスという頓珍漢な光景とは裏腹に、モモンガの頭の中は途端に緊張で塗りつぶされた。

「じゃあ、約束の10分前ですし、掛けられるバフをお互い全部掛けて……第六階層…上がりますか…。」

守護者と戦う事になるような最悪の場合は逃げに徹するとはいえ、命が掛かるかと思うと流石にいつも冷静なギルドマスターでも恐れるなと言うのは無理があるだろう。

 

そんなモモンガの様子を知ってか知らずかフラミーも応えた。

 

 

「はい…。あ、じゃない、行動を開始せよ!!」

 

 

それ俺のやつー。

 

 




2019.06.20 KJA様 誤字のご報告をありがとうございます!適用しました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#3 忠誠の儀

転移の指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を起動させ、二人は第六階層にある闘技場へと続く薄暗い廊下に移った。

廊下の向こう、闘技場に守護者達がいる事を二人は確認した。

良くも悪くも全員揃っていることに、緊張感が増す。

アルベドは敵対しないという事が既にわかっているため、最強の盾役になる事をつい期待してしまう。

どうやって気づいたのか、ふと全員の視線がこちらへ向いた。

 

すると、その中から一人の少女が猛スピードで接近してきた。

二人は身構えながら、円卓の間で何度か上がった「アルベドは敵対しないとしても、何かあった時に味方もしない状況の方があり得る」と言う話が何度も頭をちらつく。

 

すぐに距離はつまり、キキキーッとブレーキを踏むように立ち止まると少女は口を開いた。

「モモンガ様!フラミー様!あたし達の守護階層である第六階層へようこそおいで下さいました!」

真夏に咲くヒマワリのように眩しい笑顔を見せたのはオッドアイの闇妖精(ダークエルフ)、この第六階層を守るアウラ・ベラ・フィオーラである。

そのすぐ後ろを奇妙な走り方で追ってきた少女の影がモモンガの腕に抱きついた。

「ああ!私が唯一支配できない愛しの君!そして、フラミー様!一月ぶりの御降臨、心よりお喜び申し上げんす!」

一息に言い切ったその少女は第一、第二、第三階層を守護する真祖(トゥルーヴァンパイア)、シャルティア・ブラッドフォールンだ。

フラミーは固まり言葉が出ない。

(NPCはゲーム内の記憶を持っているの…?)

 

モモンガがどう感じたか探ろうと視線を向けるも、馴れ馴れしいとアウラに叱られるシャルティアの様子を少しだけ嬉しそうな雰囲気で眺めているその横顔は、一月ぶりという言葉に違和感を感じた様子はなかった。

 

「君たち、御方々の御前だよ。」

気付けば近くまで来ていた三つ揃えの赤ストライプのスーツに身を包んだ悪魔が引き込まれるような張りのある声を挟む。

第七階層《溶岩》を守護する叡智の悪魔、デミウルゴスだ。

 

「行きましょうか。フラミーさん。」

支配者然とした声音でモモンガが言うも、腕にまとわりつくシャルティアの存在のせいかあまり格好がついていない。

アウラ、シャルティア、モモンガ、フラミーと横に並んで進むと、前にいたデミウルゴスは少しだけ道をあけた後、フラミーの斜め後ろから付いて来た。

 

モモンガさん、なんか人気者だなぁ…と少し羨む気持ちが生まれるも、斜め後ろを無言でついてくるデミウルゴスにすぐに意識を向けた。

何か話した方が良いのかとデミウルゴスに振り返ると、目が合いニコリと微笑まれる。

少し笑って会釈を返し、結局なにも言葉を交わさぬまま歩いた。

 

前方はちょうど、アウラの双子の弟である第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレが客席より闘技場へ飛び降りたところだった。

すぐ下では第五階層《氷河》を守護するコキュートスが待っていた。

そそくさとコキュートスに駆け寄り二人で並んで少し早足でこちらへ向かってくる。

アルベドも優雅な足取りでこちらへ近付いて来ると、全員がある程度近くにより、立ち止まったのを確認し、統括としての仕事を開始した。

「それでは皆、至高の御方々へ、忠誠の儀を。」

 

聞いたことのないチュウセイノギというものにモモンガもフラミーも自分達はどうしたらいいのかと内心焦る。

しかし口を挟む隙なくアルベドを一歩前にし、守護者達は横一列に並んだ。

一人一人が名乗りを上げ、皆一様にこうべを垂れて跪く。

もはや先程までの柔らかな雰囲気は霧散していた。

 

最後にアルベドも名乗りを上げると――

「至高の御身に我らの忠義、全てを捧げます。」

全員揃って再び恭しく頭を下げた。

 

モモンガはどうしたらいいのか分からず、――誰も頭を上げていないのをいいことにフラミーの方を見る。

対してフラミーは紫の顔を青くしたり赤くしたりしていた。

あまり無様なところを見せてはいけないと思うも、何をどうしたらいいのか解らないモモンガは思わず絶望のオーラと黒き後光を背負ってしまった。

絶望のオーラから感じた絶望に弾かれたようにフラミーがモモンガを見ると、モモンガは頷いた。

少し冷静さを取り戻したフラミーを確認し、モモンガは告げる。

 

「面を上げよ。」

 

ザッという擬音が聞こえそうなほどによく揃った動きで全員が顔を上げる。

真面目な顔をして立っているだけで精一杯のフラミーに比べ、玉座の間の時と同じように――モモンガは守護者達へ様々な質問を投げかけた。

モモンガ様と呼ばれるのがこんなにモモンガさんに似合うなんて――とフラミーが内心感心していると、更に戻ってきたセバスを交えて話し合いは続いた。

 

「それでは最後に、お前たちにとって私とフラミーさんはどのような存在だ。シャルティア。」

「美の結晶。まさにお二人はこの世界の宝でありんす。」

 

「コキュートス。」

「モモンガ様ハ、マサニナザリック地下大墳墓ノ絶対支配者ニフサワシキオ方カト。フラミー様ハモモンガ様ヲ支エル何ニモ代エ難イ()デス。」

 

「アウラ。」

「慈悲深く、深い配慮に優れたお方々です!」

 

「マーレ 。」

「あの、と、とっても優しい方達だと思います!」

 

「デミウルゴス。」

「深謀遠慮に優れた方で、まさに端倪すべからざると言う言葉はモモンガ様のために存在するかと。そしてフラミー様はリアル世界と我らの世界を行き来する次元を超える力をお持ちの方です。」

 

「セバス。」

「モモンガ様は最後まで残られた慈悲深きお方です。そしてフラミー様は例え一時的にナザリックを離れられても、必ずお戻り頂けると安心しておかえりをお待ちできるお方です。」

 

「アルベド。」

「私どもの最高の支配者と、そして最高の主人であります。そして、私の愛しいお方々!」

 

「なるほど。各員の考えは充分に理解した。フラミーさんはどうかな。」

突然振られ、少しぼーっとし始めていたフラミーは今更ながらに第六階層に来てからまだ一度も言葉を発していないことに気が付いた。

 

「あ、えっと…皆…なんて言うのかな…。」

 

躊躇いがちに出る言葉に、守護者は自分達の何かが気に入らなかったのではないかと、恐ろしい想像が黒雲のように胸いっぱいに広がっていくのを感じた。

このまま、またリアルに行かれてしまうのではないか。

それも、モモンガを連れて。

 

「その…皆…すごいです…。そう、すごいです!素晴らしすぎますよ。はは、ははは!私達、ねぇ、モモンガさん。私達、ここで生きていくんですね!」

 

小さかった声は徐々に大きくなり、笑いが溢れ、輝くような瞳でモモンガと守護者をとらえた。

 

そしてその裏の無い真っ直ぐな言葉の意味を、その場にいた全員が、そう。

モモンガも含めた全員が噛み締めた。

 

――ここで生きていくんですね。

 

「そうですね!それでは私とフラミーさんは円卓の間へ行く。各員今後とも忠義に励め!」

モモンガの視界はいつもの円卓の間へと移った。

一拍遅れてフラミーも現れると、二人は顔を見合わせ、モモンガがこぼした。

「え、なに。あの高評価!あいつら、まじだ!」

「本当凄すぎますよモモンガ様!」

「ちょ、様なんでやめてくださいよフラミー様!」

「モモンガさんこそ!」

朗らかに二人で笑いあい、そして笑い声は一人分になる。

モモンガの沈静化を合図に、二人は守護者たちの感想を言い合った。




モモンガ:あ、今日はフラミーさんインしてたんですね!
フラミー:おはようございます!モモンガさん早いですね!
モモンガ:フラミーさんこそ!何時からいたんです?
フラミー:3時間くらい前から…笑
モモンガ:え?ほとんど夜じゃないですか!
フラミー:ははは!私、まだ弱いんで装備欲しいなーって思って。
モモンガ:言ってくれたら協力したのに!狙いのものは出たんですか?
フラミー:いえ、まだです;;
モモンガ:それじゃ、そっち行きますよ!
<ヘロヘロさんがログインしました>
ヘロヘロ:おはです〜。
モモンガ:おお!丁度いい所にヘロヘロさん!
フラミー:おはおはです〜!
<ウルベルト・アレイン・オードルさんがログインしました>
ウルベルト:おはっすー
ウルベルト:あれ?皆どこか行くんすか?
フラミー:私の装備を取りに行くのに付き合ってもらう所です!
ウルベルト:おお、フラミーの装備か!もっと悪魔らしい格好しなきゃダメですからね。よし、俺も行きますよ!
モモンガ:ははははは!

こういうやり取りあったら楽しいですよね(//∇//)


2019.05.01 すたた様、誤字修正ありがとうございます(//∇//)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#4 その頃の守護者

「す、すごかったね。お姉ちゃん!」

マーレの言葉を皮切りに続々と守護者が立ち上がり、口々に支配者と主人の感想を言い合う。

 

守護者たちにとって、最も大切なのは創造主だ。

 

その次は絶対支配者たるモモンガ。

――もしかしたらいつか創造主と支配者の順位も変わるかもしれないが。

そして、モモンガを支える至高の四十一柱の一柱、フラミー。

フラミーは加入が遅かったのもあり、一人もNPCを創造してはいない。

力も無く、100Lvではあるが、純粋な戦闘能力だけで言えば守護者最弱のデミウルゴス程度か、それよりも下だろう。

悪魔の種族レベルばかり育てた浪漫ビルドの彼女は、モモンガと同じくカルマは極悪。

そしてユグドラシルでは神の敵対者(サタン)は早いうちから発見されていたが、殆ど天使の見た目だと言うのに人間の街に入れなかったり、様々な制限ばかりが無駄にかかる上に、なんとなく不気味な紫の肌が合わさり中々の不人気職だった。

フラミーは銀色の髪に黄金の瞳、紫色の肌に、重なり合う天使然とした6枚3対の翼を生やしている。

足首まである少し広がりのある白いローブ風ワンピースは羽を避けるようにざっくりと背中が空いているデザインだった。

長い髪はおだんご状に巻き上げられ、後れ毛がかかる首元が紫の肌とは言え艶かしかった。

 

「それでは、私はお二人のお側にお仕えするべきだと思うので円卓の間へ向かいます。」

セバスは皆の感想を一通り聞き、自分は特に何も述べなかったが、とても満足した気持ちで守護者達へ挨拶すると、小走りで転移門の方へ向かっていった。

 

「ところで、随分静かだね?シャルティア、アルベド。」

未だ跪いたままの二人にデミウルゴスが声を掛けると、それに合わせるように視線が集まった。

「ドウシタ。二人トモ。」

掛けられた声にゆっくりと顔を上げたシャルティアの表情は、まるで夢見るように締まりなく、とろけきっていた。

「あ、あの凄まじい気配を受けて、少うし下着がまずいことになっておりんすの。」

「あなた、ビッチね!!」

突然立ち上がったアルベドが大きな声を出した。

「あの素晴らしい気配を受けて――。」

「わかってるじゃないの!!」

シャルティアに全てを言わせる前にアルベドが更に続けた。

 

「ああ、モモンガ様の何と素晴らしい気配!お力!フラミー様からはあまり感じられなかったのが残念だわ!でも、きっといつかもっとお力を蓄えられたら素晴らしいんでしょうね!」

一呼吸で言い、手を前で組んで拝むようなスタイルで翼をバサバサと揺らしていた。

「モモンガ様の第一妃はフラミー様だとして、第二妃の座には立ちたいものでありんすね!」

 

「はぁ!?シャルティア、あんたフラミー様と殆ど同じ立場に立とうなんてちょっと不敬なんじゃないの!?」

思わずアウラも口を挟んでしまった。

 

「それなら、側室を目指せば許されるんじゃないかしら!?」

「アルベドも何言ってんの!このバカがその気になるでしょ!」

「チビ助、女として間違っているのはおんしの方ではありんせんこと?あのモモンガ様に、側室でもいいから侍りたいと思うのは女に生まれたからには普通の思考じゃボケ!!」

熱がこもり罵り始めるシャルティアに、アルベドは優しく語りかけた。

「シャルティア。やめましょう。そんな事を言ってアウラまで側室や第二妃の座を狙えばライバルが増えるだけよ。可哀想な子供は放っておきなさい。」

「ちょ!こ、子供って…!」

アウラは反駁しようとするもシャルティアとアルベドはもう二人でビッチドリームの中だった。

 

「あー。女性同士の問題は女性同士に任せよう。」

そう言って関わり合いたくないとばかりにデミウルゴスが少し離れると、コキュートスとマーレもそれに続く。

「全ク。仕方ノナイ三人ダ。」

「ちょっと!三人!?コキュートスー!!」

アウラの叫ぶ声が背中に降り注ぐが三人は聞こえないとばかりに離れていった。

 

「あ、あの、で、でも、フラミー様がモモンガ様のお妃様になるのかは、ちょっと気になります。」

「私もそう思うよ、マーレ。戦力の増強と言う意味でも、ナザリック地下大墳墓の将来と言う意味でもね。」

「そ、それはどう言う意味ですか?デミウルゴスさん。」

「なに、簡単なことさ。今はフラミー様はナザリックに居たいと仰って下さっているが、いつかまたリアルという世界に行かれる時、モモンガ様を伴って行かれる事があれば…。またはモモンガ様が我々に興味を失いフラミー様とリアルに行かれることがあれば…。その時、我々が忠義を尽くすべきお方を残していただきたいからね。その点ではお二人の間の御子ならば忠義を捧げるにこれ以上のお方はいない。」

「ソレハ不敬ナ考エヤモシレンゾ。ソウナラヌヨウ忠義ヲ尽クスノガ我々ノ役目ダ。」

冷気を吐きながら横からコキュートスが口を挟んだ。

 

「ふむ。それは勿論理解しているとも。ただ、モモンガ様やフラミー様のご子息やご令嬢にも、忠義を尽くしたくはないかね?」

「ナニ…!?ムウ…ソレハ…憧レル…。オオ…爺ハ…爺ハ…!」

コキュートスもトリップを始めた。

 

「それに、ナザリックの強化を考えれば、我々の子供はどれだけ役に立つかは知っておかねばならないからね。どうだろうマーレ。子供を作ってみないかね?」

「え?あ、あの、それは、デミウルゴスさんとですか?それともモモンガ様やフラミー様と?」

「ははは。私やモモンガ様とは難しいと思うけどね。ともかく、フラミー様とでなくても、どこかにいるかもしれない闇妖精(ダークエルフ)とかになるかもしれないかな。」

「そ、それがモモンガ様達のお役に立つことなら、ぼ、ぼく頑張ります!」

「そうかい。時が来たらまず君に声をかけるとしよう。」

 

一息つき、まだ幼いマーレの事を下から上へとじっくりとデミウルゴスは眺めた。

 

「それにしてもマーレ。なぜ君は女性の格好をしているんだい?」

「ぶ、ぶくぶく茶釜様がお選びくださったものですから!オトコノコ、っておっしゃってましたから、間違いなくこれが僕の服なんです!」

マーレは嬉しそうに声を張った。

 

「そうかい。ではナザリックにおいて少年はスカートを履くべきなのだろうかな。うん…?フラミー様は人間であるならば十八くらいにも二十五くらいにも見えますが…スカートを履かれているのはまさかオトコノコでは…ないですよね…?」

 

「「な、なんですって!?」」

デミウルゴスの疑問に、今までトリップしていたはずのシャルティアとアルベドが遠くから耳ざとく食いついてきた。

 

デミウルゴスの目には捉えきれないようなスピードで接近してきたアルベドとシャルティアがまくし立てる。

「ああ!!フラミー様が男性であったら、肉体がある分お情けを頂きやすいのではないかしら!?」

「で、デミウルゴス!!そ、そんな素晴らしいことがありんすの!?」

興奮する二人にデミウルゴスはつい後ずさった。

 

「い、いえ…。私はわかりません…。滅多なことは言うもんじゃありませんね…。きっと女性だと思いますよ…。」

 

デミウルゴスは思い付きで余計な事を口にしたことを後悔した。

この後、コキュートス、シャルティア、アルベドの三人を正気に戻し、落ち込むアウラを慰める仕事が彼を更に後悔させたのは言うまでもない。




2019.06.04 kazuichi様 誤字報告ありがとうございます!適用しました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#5 世界を渡る力

円卓の間で話していると、不意にノックが響いた。

顔を見合わせ、二人は高速で身なりを確認し、「入れ」と命じるのはモモンガだ。

 

「失礼いたします。モモンガ様。フラミー様。」

メイド数人を伴ったセバスに続き、数十種類の紅茶の茶葉だけが乗せられたサービスワゴンを押すメイド、手の平より小さなプチガトーとプチサンドイッチが乗せられているサービスワゴンを押すキノコ頭の副料理長が入ってくる。

モモンガはないはずの唾を飲み込んだ。

「モ、モモンガさん!みて下さい!すっごく美味しそう!」

犬なら尻尾を振ってハッハッと息を荒くするんじゃないかと思うようなフラミーの様子に羨ましくなる。

「見てますよ。はは。」

モモンガは苦笑していた。

この骨の体では食事なんてとても出来そうにはない。

 

「ふふふ。お疲れかと思い軽食をお持ちしました。お取りしますのでまずは副料理長であるピッキーよりメニューの説明です。」

セバスに紹介され胸を張ってピッキーは料理を紹介していく。

美味しそうだと自慢の料理を早速至高の御身に褒められ、ピッキーのテンションは相当上がっていた。

セバスはなんと幸せなんだろうか、と仕えることを許された今という時間を噛みしめる。

 

説明は大した時間もかからず、フラミーのとりあえず1つづつと言う言葉にピッキーはメイドと揃ってせっせと配膳をした。

食事のできないモモンガの前にも同じものが並んでいく。

流石に女性だからか、フラミーは甘いものから食べ始めていた。

 

-

 

桜色のスポンジケーキは第六階層にある桜の花の塩漬けが入った、まるで桜餅のような風味の上品な味わいだ。

桜ケーキの奥に置かれた抹茶味の緑色のつるりとしたドーム状のケーキは中がババロアだったため口の中でとろけて消えていった。

縦に細長いガラスの器に入ったフランボワーズのムースは白いパンナコッタと層を成していて、甘酸っぱい。

レーズンの入ったパウンドケーキは素朴ながらパサパサせず、たっぷりのバターでしっとりと焼きあがっている。

クルミの乗ったプチタルトはボリボリと一口で食べれば鼻から抜ける香ばしい香りがクセになる。

パリパリ食感の楽しいミルフィーユはいちごと生クリームが重なっていて、てっぺんに乗るいちごにはさらりとかかった粉糖がまるで雪のようだ。

色とりどりのフィナンシェやマドレーヌのアソートが入ったカゴは乙女の夢のようだった。

四季がナザリックにもあるかは不明だが、春、夏、秋、冬と、どこか遠くに、リアルでは最早あるはずのない四季を感じた。

 

燻製オイルサーディンのサンドイッチは炙られたマヨネーズと挟まれ、脂っこいと思うのに鼻から香りがなくなればまたすぐに次を食べたくなる。

卵とサラダ菜のサンドは見た目も可愛く、どこか懐かしい味だ。

ベーコンとチリが挟まれたサンドはピリ辛で、最早至高のなんとかという存在になっている事を忘れビールを欲してしまいそうだ。

極め付けはアボカドディップがエビとともに挟まれた一品だ。

これはまさに逸品だった。

 

-

 

何個でも食べられるとフラミーは思い、ふとモモンガを見ると、その赤い瞳は悲しく揺れていた。

 

人間だったら泣いていただろう。

 

「も、モモンガさ――ま…の…前では食べるの…やめようかしら…」

わざと様付けで呼ぶフラミーに、モモンガは慌てた。

「あ、いえいえ。気にしないでください。匂いを楽しんでいますから!」

 

そうは言うものの、なるべく食事はモモンガの前では控えようと思ったフラミーだった。

 

+

 

軽食を済ませ、紅茶を満足するまであれこれと飲み、フラミーがトイレへ立った所で、モモンガはセバスとメイドへ振り返った。

「セバスよ。今日はもう休んでいいぞ。私は睡眠不要の体だがフラミーさんはもうそろそろ寝る頃だろうしな。」

「では、フラミー様のお休みのお支度をするように別のメイドへ伝えてまいります。」

え?寝るのに支度がいるの?と、小学生の頃に亡くした母親しか女性を殆ど知らないモモンガは少しだけ驚いた。

セバスの背中を見送り、部屋の隅に立つ一般メイド六人に視線を送る。

 

(ホワイトブリムさん、ヘロヘロさん、ク・ドゥ・グラースさん達の愛娘かー。フラミーさんは女性だし、一般メイド達ともしかしたら仲良くなるかもな。)

そんな事を考えていたら、扉がバン!と開けられた。

驚いて振り向けば、そこには紫の顔を青く――すっかり血相を変えたフラミーが立っていた。

「も、も、も、モモンガさん…!大変です!!」

メイド達と、表に立っていたコキュートス配下のクワガタのような蟲型モンスター達がひどく慌てた様にオロオロしている。

モモンガもただならぬ様子に慌てて立ち上がりフラミーの元へ駆け寄った。

「どうしたんですか!?侵入者ですか!?」

一レベルに過ぎない一般メイド達は身を寄せ合い怯え始めていた。

 

「ち、ち、ちがいます。違いますけど、すみません、私の部屋に来てください!!」

フラミーの自室へ向かって廊下を翔ける二人の姿を、全てのしもべ達が驚きを持って目で追った。

この二人でなければ、第九階層の廊下を駆けるなど許される所業ではない。

部屋に着けばセバスの指示のもと、ベッドを美しく整え、シーツでアートを作り、花をそこら中にまいているメイド達の姿があった。

それは新婚旅行で海外ホテルに泊まるとよく見る演出のようだった。

フラミーは未だ落ち着かぬ様子で通達する。

「皆さん、お仕事の途中で申し訳ないんですけど、出てください!」

 

押し出す様に全てのNPCを外へ追い出し、無理矢理扉を閉め、何やら魔法をかけている。

「こ、これでドアは開きません!!」

モモンガはハラハラしすぎて鎮静と昂りを繰り返していた。

「そ、それでフラミーさん、何がどうしたって言うんですか!?」

「今、今おトイレに行ったら、ちゃんと小さなおっぱいも、おまたもちゃんとあるのに!!男の勲章もついてたんです!!!」

叫ぶフラミーの金色の瞳はうるみ、螺鈿細工のように光を反射させた。

 

(……は?)

 

モモンガは何も言えなかった。

ただただその言葉を頭の中で繰り返す。

 

「こんなのあんまりです。私、女の子なのに男の子にもなって…こんな…こんな…。」

両手両膝を床につけ、崩れた様に座り込むフラミーに、モモンガはそっと肩に手を置いた。

「すみません。なんか、想像したことと全然違った分良かったというか、良くなかったと言うか、いや、その、なんて言うか、二つあれば、何かと便利なこともあるかもしれませんよ…?」

と言いつつ、どちらから排尿するのだろうとモモンガは益体も無い事を考えていた。

 

「便利って何が便利なもんですか!これじゃもう私お嫁に行けませんよぉ…。」

翼をペタリと床に落とし、心底がっかりしている様子のフラミーをなんとか慰めていると、扉が強く叩かれる音がし始めた。

 

二人で何事かとそちらを見ると、どんどん音が強くなっていく。

このままでは扉が壊されてしまうんじゃないかと思うほどに。

フラミーは立ち上がり、扉にかけた謎の魔法を解除し、観音開きの扉の片方を開けると、シャルティアとコキュートスがもつれる様に部屋に転がり込んできた。

「フ、フラミー様、何があったんでありんすか!?」

「扉モ開カズ、中ノ音モセズ、不敬カトハ思イマシタガ、我ラ守護者、御身ニ降リ掛カル物ヲ薙ギニ参リマシタ!」

どうやら力自慢のこの二人と、セバス、アルベドでドアを開けようと必死になっていたようだ。

 

外にもズラッと守護者だけでなく僕達がおり、皆戦々恐々と言った雰囲気だ。

フラミーはなんで集まってるの!と心の中で叫んだ。

「あの…ごめんなさい、ちょっと皆には言えない重大な事実が判明してしまったもので…。」

NPC達は自分達には言えない重大な事実と言うものに必死に考えを巡らせ、最後は全員が自分たちの無力さを呪うように重く暗い雰囲気をまとって下を見ていた。

 

「皆の者。私の口から説明しよう。」

モモンガの威厳のある声に全員が顔を上げる。

「え!?そんな!嫌ですよ!やめて下さいよ!」

フラミーはモモンガのローブのフードから垂れている紫の帯のような部分を握り両手でビンビン引っ張りだした。

 

そっとモモンガはフラミーの頭に手を置くと――「俺に任せてください。」と、小さな小さな、ユグドラシルでよく聞いていた優しい声でフラミーの瞳を覗き込んだ。

もうどうにでもなれ!と投げやりになったフラミーは背中を向けてモモンガの斜め後ろへ立った。

NPCの顔を少しでも見ずに済むようにしているようだ。

 

逆にモモンガはNPC全員の顔を滑らかに見回し、口を開く。

「フラミーさんは実は、リアル世界へ渡る力を失ってしまった事に気がついたのだ。」

ざわりと場が揺らぐ。

 

「今確認したところ、世界を渡る力を私も失ったようだ。いつか取り戻せるかも分からないが、私とフラミーさんの世界へ与える力が弱まったことをフラミーさんは皆には伝えたくないと、このような状況になってしまったわけだ。」

NPC全員が真剣に耳を傾ける中、フラミーも肩越しにモモンガの語りに耳を傾けた。

 

「だが、私は敢えてそれを皆に伝えよう。私たちの不出来や弱い力を皆で補って欲しい。」

守護者の視線は火がつくような温度を感じるものになった。

 

「皆の望む、至高の存在でいられずに申し訳ない。そして、皆、頼む。」

そうモモンガが頭を下げると、フラミーも振り返り、並んで頭を下げた。

 

すると、アルベドが真っ先に叫んだ。

「そ、そんな!滅相も無い!お二人は、ただここにいて下さるだけで十分でございます!」

「そうです!!おやめ下さい!セバス!お二人の頭をおあげしろ!」

「そんな!デミウルゴス様!至高のお二方にそのような…!」

『頭をお上げ下さい!』

「あわわわ!ぼ、ぼ、僕たちがきっと、きっと!その!お二人を守りますから!」

「そうですよ!マーレの言う通りです!それに世界を渡る力がなくったって、お二人は至高の存在に変わりないんですから!」

「ソノ通リデス!ドウカ、オ戻リ下サイ!」

「ど、どうしたらいいでありんすかー!!」

 

大パニックだった。

想像を絶するパニックに二人は頭を上げる気持ちが重くなる。

うまい言い訳を思いついたとペロリと発言してさっと頭を下げ、なおかつ自分達は皆の言う"至高なる存在"とか言うものじゃないと言う事を軽く告げるだけのはずが、思ったのとは違う事になってしまった。

 

ようやく二人が頭をあげると、全員の顔には凄まじい疲労が見えた。

 

フラミーが空気を取り戻そうともう一度「皆、頼めますね…?」と言うと、僕も守護者達も皆が綺麗に並び、アルベドが代表して応える。

 

「ご命令、承りました。我ら守護者、僕一同、全ての力をもってお二人の欠けたお力を補うよう努めます。」

 

「「「「「「努めます。」」」」」

 

その直後から大量の護衛がついた二人は、わずか30分で音を上げ、

「ま、まぁ欠けたとは言え世界を渡る力だけだからな?」

そう言ってなんとか今まで通りの護衛に戻してもらったのだった。

 




少し前に椿山荘のル・ジャルダンへアフタヌーンティーをしに行きました。
椿山荘では、紅茶が飲み放題なので、色々飲みました!
紅茶だけで何ページもあるんですね〜。
中でもすごい紅茶があったのですが、それの茶葉の名前を忘れてしまったのが悔しいです。
あまりにも私の身近にない名前だったもので。ははは。
それを飲んだ私は第一声が「アジア系の古着屋の匂いがする!」でした。
友人にも飲ませたところ
「こいつぁ下北沢の味だぜ。」と言う場違い丸出しな会話をしました。

小市民です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#6 眠る前の運動

杠様より挿絵いただきました!
ありがとうございます!


さっきまでの大騒ぎが嘘のように静かになった自室で、フラミーはベッドに入るも眠気は訪れない。

それもそのはずだ。

ベッドルームの扉の脇には直立不動のメイドが控えている。

 

(落ち着かないよ…。)

フラミーはベッドをゆっくり出ると、指示を貰おうとメイドが少し動いた。

夜遊びなんてと怒られるんじゃないかとドキドキしながらゆっくりと反応を伺うように伝える。

「やっぱり…寝るのはやめて、少しお外を歩こうかなと思います。」

「かしこまりました。兵の準備は出来ておりますので、すぐに連れてまいります。それから、御髪はまた結われますか?」

打てば響くように応えが返り、フラミーは怒られなかったことに安堵した。

 

常に誰かしらがそばにいる為、実は実験以来一度もモモンガと伝言(メッセージ)を使っていなかった。

外の空気を吸うのに誘おうかと思ったが、実験してみたい事があると言っていたモモンガを気まぐれに付き合わせても悪いかとやはり連絡をしない事にした。

サラサラとしたサテンのくるぶしまであるネグリジェに、同じスタイルのガウンを軽く肩に羽織ってドレスルームに向かう。

「自分で伝言(メッセージ)を守護者に送るので兵は大丈夫です。髪も、すぐに戻るのでこのまま行きます。部屋の事だけお願いしますね。」

守護者と動くと言われては守護者を信じる他ないメイドは、了解の意を示し、密かに部屋を任されたことに喜びを感じた。

 

ドレスルームに入ったフラミーは背中がざっくりと大きく開いた、膝下丈の黒いタンクワンピースと、背の開いていない深い紫色の大きなフードのついたローブを手に取る。

着替えを手伝おうといそいそと近付いてくるメイドに、脱いだガウンを手渡した。

着替えつつ趣味やどんな音楽を聴くかなど話しをふってみたが、趣味は至高の御方々にお仕えすること、音楽は特に聞いたことがないと言われてしまい、友達になるにはもう少し時間がかかりそうだと思うフラミーだった。

ただ、モモンガと違い女同士の為――あるいは孤児院という大所帯で育った為か着替えに付き添われる事に大した違和感を感じず、背のホックやリボンを留めることを自然と任せていた。

 

メイドがたくさんのピアスが掛けられた金のピアススタンドを持ってくると、アバターだった頃は付けっ放しだった赤紫のひし形の魔法石をあしらった大ぶりのピアスを迷わず取った。

メイドに礼を言うとフラミーは部屋を後にし、扉脇に控えるクワガタのような蟲型モンスター達に守護者と約束をしたと嘘をつきそそくさと第一階層へ転移して行った。

 

薄暗い霊廟を進みながらフードを目深にかぶり、ゆっくりと階段へ向かう。

月明かりが霊廟を、階段を、自分までも青白く染め、まるで海に沈んだ神殿を歩いているような、美しく荘厳な雰囲気に思わず胸が高鳴る。

 

(私もナザリック攻略や作成時にギルドに入れていたら良かったのになぁ。)

 

静謐な空間に物思いに少し目を伏せると、数人の足音がし、短かい一人の時間に別れを告げた。

ゆっくりと瞼を開ければそこには憤怒の魔将(イビルロード・ラース)嫉妬の魔将(イビルロード・ラスト)強欲の魔将(イビルロード・グリード)の三体の悪魔が立っていた。

わずかに驚くが悪魔達だと思うと何故か安堵し、フラミーは微笑んだ。

 

すると、魔将達の陰から、スッとさらにもう一人悪魔が現れた。

「デミウルゴスさん…。」

「これはフラミー様。このような所へお一人でいらしたのですか?兵はどうされたのでしょう?」

優しい声音に後ろめたさを感じつつ、守護者と約束が、と口から出かけたでまかせをどうにか引っ込める。

えーそのーあー…と言葉にならない言葉を出し時間を稼ぐと、閃いた。

「あー、そう。えっと、ここにデミウルゴスさんがいると小耳に挟んで来てみたんです。」

これでここまで来る為についた嘘はチャラになったとフラミーは心の中でガッツポーズをした。

(そう、私は守護者(デミウルゴスさん)の顔を見る為にここまで来たんだ。うんうん。)

 

デミウルゴスは優雅な笑いを浮かべた。

「これはこれは。仰ってくださればこちらから出向きましたものを。それで、どのような御用向きでしょうか。」

そんなことを聞かれてもデミウルゴスには用なぞあるはずもない。

最初から用があるのは"外"だけだ。

「ちょっとそこまで出ます。」

繕いもせず返す言葉に悪魔はその面を喜びで染め上げた。

「なるほど。そういうことですか。畏まりました。喜んでご一緒させていただきます。お前達はここに残り私がどこへ行ったか伝えておけ。」

「畏まりました。デミウルゴス様。」

叡智の悪魔は何かを察したように魔将へ軽い指示を出し当たり前についてくる。

デミウルゴスを斜め後ろに従えフラミーはようやく、外に出たいと言う小さな願いを叶えた。

 

 

+

 

 

モモンガの自室に、剣を落とす音が響く。

(フラミーさんは増えただけましだよなー。俺なんて実戦使用しないでなくなっちゃったもん…。)

そんな事を思いながら、振るえず落ちた剣を片付けておくように近くで様子を見ていた戦闘メイド(プレアデス)が一人、ナーベラル・ガンマに指示を出し、自室を後にした。

上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)で作った鎧に身を包み、なんやかんやと押し問答をした後に一人で第一階層へ向かった。

 

外へと続く階段から月の光が降り注いでくる。

この先にどんな景色があるのかと冒険心をくすぐられ、足早になり、いよいよ外が見えると言うタイミングで、三魔将が現れた。

 

(な、なんでこんなところに魔将が!?)

考えてもわからないため無視して通り過ぎようとすると、背後から透き通った女性の声がかかった。

「待たせたわね、デミウルゴス。」

 

デミウルゴスもいるのかとモモンガが声に振り返れば、アルベドがそこに立っていた。

「あら?これは!モモンガ様!近衛も連れずにどちらへ?ああ、こんなところでお会いできるなんて…もしかして運命…?」

 

月光に照らされながらアルベドが頬に両手を当てうっとりとこちらを見上げる様は、独り言の内容とは裏腹に一幅の絵画のようだった。

 

「デミウルゴス様はつい先程ここを通られたフラミー様に付き従って行かれました。」

三魔将の一人、憤怒が答えるが、アルベドはそれを無視して自分の世界に入り込んでいる。

「もしかしてモモンガ様、私がここに来ることをご存知で会いに来て下さったのでしょうか?」

ああ!と声を漏らしながら悶えるアルベドを他所に、モモンガは別のことを考えていた。

(フラミーさんはもう寝ると言っていたけれど、デミウルゴスと外に…?どうせなら一緒に出たかったな…。)

 

 

+

 

 

満点の星空の下、フラミーは感動していた。

 

飛べる気がする。

自分の体の一部となった翼をはためかせようとすると、翼の上から着込んだローブが邪魔になっている事に気がついた。

こんな事ならズボンにすれば良かったと思いながら、目深にかぶっていたフードを払うように脱ぐ。

すると緑の香りをはらんだ風がフラミーの長い、いつもは結い上げている銀色の髪を揺らした。

リアルの自分の髪とは違って、サラサラと柔らかくなびく髪が気持ちいい。

 

【挿絵表示】

 

「なんと言う美しさでしょう…。」

そう言うデミウルゴスに、フラミーは頷いた。

「本当に、こんなに綺麗な星空が見れるなんて思いもしませんでした。」

この世界に来て初めて心穏やかに微笑んだ。

 

満点の星空はリアルで見る空とは違い、青、黒、紫と様々な色が混ざり合いながら瞬く星々を強く際立たせていた。

――リアルの空は汚染され、腐ったような空気に侵され、常に毒々しく星など見えはしなかったのだ。

「星空…。いえ、この星達も、フラミー様の前ではくすみましょう。」

デミウルゴスが何に向かって美しいと言ったのかようやく気付いたフラミーはツンと尖った自分の耳と顔に少し熱が溜まるのを感じた。

こんなキザなセリフを言われたのは生まれて初めてだった。

「デミウルゴスさんはお上手ですね。」

そのような…と言うデミウルゴスの言葉と世辞を軽く聞き流しながら、フラミーはローブを脱ぐと腕にかけた。

露わになった背と肩、足が、夏の終わりに向かう切ない空気と触れあう。

6枚3対の白銀の翼と、腕を大きく広げ、――腕の中にあるローブを少し鬱陶しく思いながら体いっぱいに風を感じた。

黒いタンクワンピースから藤色の肌を露わにし翼と髪を風に任せ月光に照らされる姿は、まるで月の光を栄養に咲く花のようだった。

お持ちしますとローブを受け取ったデミウルゴスは、ドラゴンのような皮膜をもつ黒翼を背に出し、いつでも飛べますとでも言うように視線を送った。

 

これで飛べなかったら恥ずかしいと思いながらも、鳥が何も教えられずとも空を飛べるように、頭の中には生まれた時から翼を持っていたものと同じように飛び方が浮かんでくる。

思い切り一度はためかせると、フラミーは高く高く飛び上がっていった。

貧困層だったフラミーは飛行機に乗った経験もなく、まさしく生まれて初めての本物の空だった。

 

高く上がると二人はピタリと止まった。

 

翼はあるものの、魔法の力で飛んでいるようで、翼を動かさずとも空中に留まることができた。

見渡せば遠くには雪を頂く高山、風が吹くたびに波打ち輝く草原、月と星の光だけが照らすどこまでも続く地平線。

そのあまりの雄大な景色に、フラミーは訳もなく涙が出てきた。

 

「い、いかがなさいましたか?フラミー様。」

慌てるデミウルゴスは珍しく両の瞼をしっかりと開き、その宝石の瞳をのぞかせていた。

「あんまりにも世界が綺麗で…私、生まれて初めて空を飛んだの。」

そう目元を困ったように下げ、溢れ続ける涙を拭う事もせず薄く微笑むフラミーに、デミウルゴスは強い衝撃を受けた。

何百年、下手をすれば万と言う単位の時を生き、世界を創造した神とすら戦争をしたと聞く大悪魔サタンが、初めて空を飛んだと、まるでようやく巣立ちを迎えた雛のような事を言う姿に。

(世界を渡るような想像を絶する秘術をお持ちだった御身を空へ向かわせなかったものは一体…。)

わずかに思考の海に潜り込みかけると、未だポロポロと溢れる綺麗な涙に我に返った。

 

「わ、私もウルベルト様と共にナザリックの中の空を飛んだことはありましたが、実を申しますとナザリックの外の空は初めてでございます。」

うろたえながらも今までの数百年の自分の人生――いや、悪魔としての生を振り返り告げた。

 

「じゃあ、私達、一緒ね。」

「はい。一緒でございます。」

悪魔達が囁き合う空はどこまでも透き通っていた。




デミウルゴススキー☆

2019.06.01 氷餅様 誤字修正ありがとうございます!適用させて頂きました!
2019.06.04 kazuichi様 誤字報告ありがとうございます!適用させて頂きました!
2019.06.20 KJA様 誤字のご報告をありがとうございます!適用させて頂きました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#7 運動後の眠りに

霊廟を出たモモンガは空の美しさにブループラネットを思い出す。

興奮して自然について語る彼は、普段はバリトンボイスだと言うのに、声を高く高くして一生懸命色々なウンチクを語ってくれたものだ。

空を見ていると月と重なるように二つの影が見えた。

「アルベド、飛べるな。」

「勿論でございます。」

二人ともフライの効果を宿したネックレスを下げ、高く飛び上がる。

初めて感じる感触は、大気。

リアルでは防護マスクなしでは表へ出る事など許されなかったモモンガは、今日の日の空への小さな冒険を忘れたくないと思った。

 

次第に遠く小さかった影は大きくなりはじめ、フラミーの翼よりハラハラと落ちてくる銀色の羽が舞いながら中空で消えていっていた。

 

支配者らしい低い声を出すことを心がけながら、呼びかける。

「フラミーさん。」

「モ、モモンガさん!出てらしてたんですね!」

慌てて目元を拭うような仕草に違和感を感じるも、普段と同じ態度を取ろうとするフラミーに合わせ、いつも通りを演じた。

「はい。フラミーさんの少し後に入れ違いになったようでした。」

「あぁ、こんな事なら最初からモモンガさんに伝言(メッセージ)してからくれば良かったですね。」

 

笑い合う至高の御身を尻目に守護者も語らった。

 

「あらデミウルゴス。奇遇ね。」

「全くだねぇアルベド。」

「私は今霊廟からここまでモモンガ様と少しデートしてしまったわ。あまり言葉は交わせなかったけれど、素晴らしいひと時だった…。」

「そうですか。それは良かったですね。私もフラミー様の初飛行に立ち会わせていただきました。」

デミウルゴスに自慢されたのかと思ったアルベドは対抗するように声をあげた。

「私もモモンガ様のこの世界初めての飛行に立ち会わせていただいたわ!ああ、今夜あなたと防衛について話し合う約束をしていて本当に良かったわ。」

「全くですね。」

デミウルゴスは返事をしながら、その聡明な頭脳を持ってフラミーが一人で上がってきた理由を考えた。

(最初から悪魔同士で飛行訓練をしようと思ってらしたのか。)

 

 

モモンガとフラミーは遠く地平を眺めていた。

死の化身と、ぱっと見だけは美しき清浄な天使のコントラストは神話の始まりのようで、気づけばデミウルゴスとアルベドは言葉を忘れ見とれていた。

 

「キラキラしていて、まるで宝石箱のようですね。これが本物だなんて、信じられませんよ…。」

優しい鈴木悟の声でつぶやくモモンガに、フラミーは涙を堪えただ黙って頷いた。

 

「この世界が美しいのは、御身を飾る宝石を宿しているからに違いありませんわ。」

「ふ。アルベド。私だけではなく、フラミーさんを、ナザリックを、お前達を飾る為だろう。」

「ご許可さえ頂ければ、ナザリック全軍をもってこの宝箱全てを手に入れて参ります。そしてモモンガ様とフラミー様へ捧げさせて頂ければ、このデミウルゴス。これに勝る喜びはありません。」

スッと頭を下げる悪魔に、私が言いたかったと言わんばかりの視線をアルベドが向けた。

それに努めて気づかないふりをし、モモンガは返した。

「ふふふ。この世界には私達より強大な何かが潜んでいるやも知れんぞ。だが、そうだな。世界征服なんて、面白いかも知れないな。」

「あら素敵ですね!」

軽快なフラミーの返事に「しかもアインズ・ウール・ゴウンの名が轟けば、他にも来てるかもしれない仲間が見つかるかもしれませんよ。」とこの世界に来て初めての心からの笑顔――を乗せた声でモモンガは応える。

ユグドラシルのように会話を続けるふたりは、守護者の顔に浮かんだものを、少しも気付きはしなかったのだ。

 

(きっと名を轟かせ、皆の帰還を助けるんだ。)

そう決意したモモンガがナザリックへ目を向けると、地表が津波のようにナザリックへ迫る一大スペクタクルが行われていた。

フラミーもモモンガの視線の先に気付くと、わずかに自分を恥じた。

「マーレ、すごいですね。私なんかさっきもう寝ようとしてたのに…。」

「御身は休みたい時に休まれれば良いのです。このアルベド、御身を煩わせぬよう守護者達を統括して参りますのでどうぞご安心下さい。」

「ふむ。マーレの陣中見舞いに降りるとしよう。何かいい褒美の案はないか?」

「モモンガ様の慈悲深さにはただただ頭が下がります。ですが、お二人がお姿を見せるだけで十分かと愚考いたします。」

デミウルゴスの言葉にそうかと返し、四人でマーレの元へ降りた。

 

そしてモモンガがマーレとアルベドに指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を送ったので、フラミーも真似をしてデミウルゴスに予備の自分用の指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を送ったのだった。

 

+

 

至高の支配者達が自室へ戻り、三人はそれぞれに歓喜に沸いていた。

 

マーレはウットリと左手薬指のそれを眺めた。

アルベドはもうこれは結婚したと思っていいのよね!?と一人で虚空に向かって既成事実だと騒いでいる。

デミウルゴスは絶対なる支配者のモモンガより指輪を賜ったアルベドとマーレに少しだけ羨ましさを感じながらも、自分も至高の御方に下賜された右手薬指のそれを大切そうにそっと撫でた。

 

デミウルゴスはいつかモモンガから更に指輪を下賜される日が来るかも知れないと、左手の薬指は敢えて空席にしたのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#8 姉妹はその姿を夢に見て

モモンガの執務室にて遠隔視の鏡(ミラーオブリモートビューイング)を何とか使いこなし始めたモモンガと、隣でそれを覗き込むフラミーはある悍ましい光景に目を留めた。

 

「たしかに血祭りと言う意味ではお祭りですね。」

何も感じていない雰囲気のフラミーにセバスは少し心を痛める。

自分は何故このナザリックに善なる存在として生み出されたのでしょうと、心の中で今は姿を見せない創造主へ問う。

「タッチさん…。」

そう静かに漏らしたモモンガにセバスは自分の考えた事を見抜かれたと思い、何も言えず頭を下げた。

「恩は返します。フラミーさん、この世界で私たちの力を確かめてみようじゃないですか。」

モモンガは支配者と鈴木悟の入り混じる雰囲気で提案した。

 

「そう言う事も必要ですよね。でも、私弱いですけど大丈夫でしょうか…。」

フラミーが未だ装備を集めている途中だった事を知っているモモンガも僅かに不安になった。

「確か…フラミーさんの持っている装備と効果の重複しないローブがここら辺に…」

 

ごそごそと空中に手を差し込む姿を眺めるとフラミーは尋ねた。

「モモンガさん、私の装備の効果覚えてらっしゃるんですか?」

「ははは、一緒に取りに行ったじゃないですか。ほら、ヘロヘロさんとウルベルトさんと4人で。」

モモンガはもう何年も前の話をつい昨日の事のように語った。

側に控えていたセバスと一般メイド達は至高の四十一人の話を聞き逃さぬよう、特にヘロヘロに創造された者は全神経を耳に集中させていた。

「すごく…嬉しいです…。」

フラミーから小さく声が漏れるのと同時に、モモンガは目当てのものを見つけ、空中から群青の羽織るタイプのローブをズルリと引き出した。

「あったあった!これです。ちょっと翼が窮屈かも知れないですけど、差し上げます。」

「え?差し上げって、そんな、頂けませんよ!」

「良いですから、俺はもう使いませんし。さ、時間がありませんから行きますよ!」

モモンガはフラミーに押しつけるようにそれを渡すと転移門(ゲート)を開いた。

 

「着られたら転移門(ゲート)くぐって下さいね。セバスよ、フラミーさんを守るようアルベドを呼べ。完全武装で来るようにな。」

 

そしてモモンガは闇に吸い込まれて行ったのだった。

 

+

 

デスナイトが勢いよく立ち去って行ってしまった事に愕然としていると、転移門(ゲート)から完全武装のアルベドと、いつもの白いローブワンピースの上から先ほどのローブを羽織って杖を握りしめたフラミーが出て来た。

その杖は白い珊瑚の骨を削り出して作られたもので、先っぽには細長く青いクリスタルを抱いた白いタツノオトシゴが絡みついている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「お待たせしました、モモンガさん。ほんと、ありがとうございます。」

はにかむフラミーに色っぽい声が届いた。

「ああ、フラミー様!何と羨ましい…!私もモモンガ様ご愛用だったお洋服を頂きたい…!」

クネクネするアルベドにフラミーは困ったように笑うと、足元でこちらを伺う傷ついた少女達に気がついた。

 

「ああ…私がグズグズしていたせいで…。」

 

薄紫の肌と言う聞いたこともない種類の森妖精(エルフ)から発せられる優しげな雰囲気に、少女は叫んだ。

「あ!あの!魔法詠唱者(マジックキャスター)さんと戦士さんですよね!?村を、お母さんとお父さんを、どうか助けて下さい!!」

この世界にも魔法詠唱者(マジックキャスター)という概念があるという事が分かったモモンガとフラミーは貴重な情報源だと瞬時に思い至る。

 

クネクネしているアルベドを無視し、フラミーの使える大治癒(ヒール)情報源(・・・)を回復すると、三人は村へ向かった。

 

+

 

仮面をつけた怪しい魔法詠唱者(マジックキャスター)

フルプレートに身を包む女戦士。

そして尖った耳を隠すようにフードを深く被り、素顔をただ一人晒す森妖精(エルフ)

 

アインズ・ウール・ゴウンを名乗る仮面の魔法詠唱者(マジックキャスター)は遠い地からやって来たと言っていた。

恐らく全員が世俗に疎い森妖精(エルフ)なのだろうと村長は納得し、通貨から近隣各国に至るまで人間社会の多くのことを語った。

 

 

「いいんじゃないですか。アインズさん。」

村民の葬儀を離れた所から眺めつつ、ふふと笑うフラミーにアインズは頭を下げた。

「勝手にすみませんでした…。もう自分はナザリックを…皆の子供達を…フラミーさんを、ギルメンを…全てを守っていく為に生きるんだと思ったら…モモンガでいるだけじゃいけないような気がして…。それに、この名前を広めようって思って…。」

心底申し訳なさそうに様々な理由を話すアインズをフラミーは正面から見据えた。

見たこともない程優しく、真剣な目をして。

 

「私達の"アインズ・ウール・ゴウン"を名乗るのにあなた以上の人はいませんよ。私、全てを守るって言ってくれるあなたに、どこまでも付いていきます。ギルドマスター。」

 

アインズは目頭が熱くなり、涙がこぼれるかと思い慌てて顔を逸らすと、昂ぶった感情が沈静化された。

自分がアンデッドとなった事をつい忘れてしまっていたようだ。

涙の出ない体で良かった。

沈静化されるも優しく凪いだ心が温かい。

「きっと守り抜きます。愛する子供達も、家も。大切な友人であるフラミーさんも。」

そう言い切るアインズにアルベドが急接近した。

目の前、今にも触れるような距離だというのにアルベドは更に一歩、二歩と迫ってきた。

「アァインズ様!!愛する!!愛するというのは!!この私もですよね!!」

「あ、ああ。子供達皆を、皆をだぞ。」

「ああぁ!愛する…愛する…愛する…愛する……」

アルベドはトリップした。

 

村長は救いを求める眼差しに気が付いて貰えず、アインズに謎の集団の接近を伝えに来ると、女戦士の顔の前で森妖精(エルフ)が手を振っていた。

 

 

+

 

 

戦士長、ガゼフ・ストロノーフは森妖精(エルフ)の集団だと思われる三人によく礼を言った。

違う種族だというのに助けてくれる者達がいる一方で、これから同族の殺し合いをしに行く己を少しだけ恥じた。

リーダー格だと思われるアインズ・ウール・ゴウンに協力を願い出たが、種族間のバランスや政治的情勢に思い至ってか、断られてしまった。

 

(あの御仁は紫色の肌の森妖精(エルフ)達の王に当たる方なのかもしれんな…。)

素顔を晒せない訳に想像を膨らませながら、決して破られることのないであろう慈悲深き約束が思い出される。

「私も、もっと励まねばならんな!」

種族は違えど"王"に会ったせいか、必ず生きて帰り己が王に忠義を尽くしたい、今日会った王のことを話したい、そう思いながら踏み出したのだった。

 

 

+

 

 

戦士達の血に濡れる大地は翳り始めた太陽に照らされ、どこまでも血の海が広がるようだった。

 

森妖精(エルフ)風情が!!」

ニグン・グリッド・ルーインは叫ぶ。

森妖精(エルフ)は人間よりも寿命が長い為、魔法に長ける者が多い。

それにしてもこの相手達は何かがおかしい。

 

 

「こんな亜人どもに遅れをとったままでいられるか! 最高位天使を召喚する!! 時間を稼げ!!」

 

 

「あれはまさか…魔法封じの水晶! 熾天使級(セラフクラス)が出るとまずいな。フラミーさん、特に相性が悪いですし退避しますか?守りながら戦うとなると、前衛が不足するかも知れません。」

「いえ、私も戦います。私だって、守りますよ!アインズさんのこと!!」

命のやり取りをするかも知れないというのにノリノリな様子のフラミーに恐れはない。

それでも退避した方がいいんじゃないかとアインズは理性で思ったが、――自分より弱い相手ではあるが守ると言われた喜びと、久しぶりのギルメンとの共闘に胸が踊るのを抑えられない――と思ったら沈静させられた。

それでも次から次へと押し寄せるこれから始まる戦いへの期待にアインズとフラミーのボルテージは最高潮だ。

 

ニグンの手の中でクリスタルが砕け散り、あたりにまばゆい光が満ちる。

 

「アルベド、特殊技術(スキル)を使用しフラミーさんを中心に守りながら私の詠唱の時間を稼げ!」

冷静さを保ったまま早口に指示を出したアインズは、輝きが引き天使の全貌が明らかになった瞬間全てのやる気を失った。

フラミーも口を開け、体の芯から熱が引いていくのを感じた。

 

二人は最早先ほどのやり取り全てが恥ずかしいと思った。

 

フラミーは地に膝と手をつくと嘆いた。

「がっかりです…。」

「はははは…。」

アインズは乾いた笑いを返しながら、相手のレベルを看破する能力を持たないために未だやる気に溢れ、バルディッシュを隙なく構え続けるアルベドの肩に手を乗せた。

「すまないな、アルベド。わざわざ特殊技術(スキル)まで使わせたというのに。お前は外で戦ったことがないから知らないかもしれないが、あんなものははっきり言ってお遊びだ。」

「とんでもございません、アインズ様。しかし、あの天使は一体…。フラミー様もそんなに落ち込まれて…。」

「アルベドさん、もう大丈夫です。ありがとうございました。」

しゃがんだまま見上げるように喋るフラミーにアルベドは視線の高さを合わせ慰めるようにフォローしていると、天から光の柱がゴシュウと落ちてきた。

当然アルベドは攻撃の気配を感じた瞬間立ち上がり余裕をもって二人を守った。

大した力も感じさせないその攻撃は数秒経ちーー消えた。

 

フラミーはゆっくりと立ち上がりながら、その場にいる全員によく聞こえる声で話す。

「貴方達は天使と言うものが何だか解っていません。」

 

アインズとアルベドを後ろにおいたまま、一歩一歩前へ進む。

「天使とは、こういう力を持つ者を言うんですよ!」

フラミーがバッと腕を天に向けあげる。

 

内部爆散(インプロージョン)!!」

 

瞬間、天使はブクブクと膨らみ出し――激しい音を響かせながら爆散した。

まるでそこには初めから何もなかったかのように昇り始めた月と星が世界に戻ってきた。

 

「おー!」とアインズとアルベドの嬉しそうな声と、ガントレットがぶつかり合う――拍手というには固すぎる音が静寂の中に響いた。

 

勢いよくローブを脱いだフラミーは自分の中で出来うる一番のキメ顔をした。

3対の輝く翼からは光と羽がキラキラと舞っていた。

 

目の前の光景に陽光聖典達は全員が地に膝をついた。

「そんな…神の使いだったのか…。」

誰が漏らしたかわからないその言葉は、団員達の胸にスッと沁みこんだ。

 

勢いよく脱いだはいいが、せっかくもらったローブを蔑ろにはできず、そんな団員達を尻目にせっせと丁寧にたたむフラミーだった。




1話で私の中のサタンはデビルマンだとお話ししましたが、
ここでご存知ない方の為にwikiから引っ張って来たものを貼らせていただきます。

サタン
元々は天使であったが、自ら創り出した生命であるはずの悪魔達を恐れ忌み嫌い滅ぼそうとする神たちに反逆し堕天使となった者。

如何でしょうか。
永井豪先生のサタンの設定、美しいですよね。

と言うわけでフラミーが悪魔なのに回復魔法や天使の持つような技を持っているご都合キャラでもお許し下さい。
(懺悔)



2019.05.20 杖を一月越しによく考えました。白くてタツノオトシゴのついてる杖ってこんな感じでしょうか?
なんとなくアインズ様が蛇杖持ってるので動物で細長いのが良いなぁー!の結果ですたい!
https://twitter.com/dreamnemri/status/1130251093500280832?s=21
2019.05.28 valeth2様 ご連絡ありがとうございます!魔法の矛盾を訂正致しました!≪神炎/ウリエル≫→≪内部爆散/インプロージョン≫


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#9 法国の罪

ニグンは考えていた。

 

確かにあれだけの力…神か…従属神か魔神で間違いない…。

しかし神の縁の方だとすれば、何故法国へすぐにいらっしゃらず、果ては我々の道を阻むのだ?

もし真に使徒だとするならば…。

 

落ち着きを取り戻し始めたニグンは、空間にあけた小さな闇に手を入れ何かをしている使徒のように見える者に声をかけた。

 

「お聞きしたいのですが…どなた様に使わされたのでしょうか…?」

 

よく聞こえなかったのかこちらに顔を向け、キョトンとしている。

もう一度、今度は確実に聞こえるようにニグンは声を張った。

 

「どなた様のお使いなのでしょう。」

 

使徒のように見える者は、意味がわからないとでもいうような顔をした後、背を向け仮面のマジックキャスターの元へ行った。

 

「お使い…?うーん…見てわかる通りこの人の仲間ですけど…。」

 

やはり神の使いではないのか、もしくはあの仮面の邪悪極まりない魔法詠唱者(マジックキャスター)こそが神とでも言うのだろうか。

(そんなばかな…荒唐無稽すぎる。)

 

魔神で間違いないと判断をしようとした瞬間、空に亀裂が入り、すぐに消えた。

 

「ふむ。何者かが覗き見でもしようとしたのか。何。大したものは見えなかったはずだ。さて、確かこうだったな?無駄な足掻きをやめ、そこでおとなしく横になれ。せめてもの情けに苦痛なく殺してやる。」

 

ニグンは世界にこれほど深い闇があったのかと思わされた。

仮面を外した魔法詠唱者(マジックキャスター)は、母国で崇め奉るスルシャーナ。その人だった。

 

「まままま、ま、ま、まって!!いえ!!どうかお待ちください!!」

神は人類の守護者が人類を殺す姿を見て我らに神罰を下そうとしている。

先程ガゼフ・ストロノーフにニグンが言った言葉を、まるで皮肉のように投げかける神に、全員が武器を投げ出し口々に贖罪の言葉を叫んだ。

喉から血が出るのではないかと思われるほどの懺悔に、神と従属神だと思われる二人はただこちらを見ていた。

 

+

 

「なんだ…?様子がおかしいな?フラミーさんの姿を見て天使だと思い込んだだけにしては妙だ…。」

「アインズ様。これこそが人間たちの取るべき正しき姿かと。」

「それはそうだがな。薄汚く命乞いをするのかと思えば、法国を許せ、お戻りくださいとは…一体…。」

「どうします?殺さずにナザリックに全員一度連れて帰りますか?」

「フラミー様。畏れながら、申し上げます。このような下賤な人間どもに神聖なるナザリックの地を踏ませるのはいかがなものでしょうか?」

「アルベドよ、お前の言うこともわかるがフラミーさんは――。」

「あぁ!良いんですいいんです!アルベドさんの言いたいことが分かりました。これだけの大人数の汚いおじさん達を自宅に入れるのは確かに気持ち悪いですよね。」

「ご賛同頂き心より感謝申し上げますフラミー様。しかし、御身のご決定に口を出した我が身にどうか罰を。」

「いえいえ。もっともですもん。罰なんていいですよ。おじさんって何故か沢山いると臭いますし。」

「ありがとうございます。まさしく下劣な者共でございます。」

少しずれながら、女性同士でなにかをわかり合ったように二人は話し続けていた。

 

(き、汚いおじさんって…臭いって…俺は大丈夫なんだろうか…。骨とは言え風呂にはちゃんと毎日入ろう…。)

アインズは人知れずゾッとしていた。

 

アインズは咳払いをし、二人の注目を集める。

「それでは、ここで少しだけ話を聞いてやりましょう。アルベド、代表者をもう少し見られる程度に、我々が(・・・)不快感を抱かない程度に身なりを整えさせろ。そして連れて来い。」

「かしこまりました。」

 

アルベドが大将だと思われる坊主頭に近付いて行きなにやら話しをする。

すると一も二もなくその男は服を脱ぎ捨て、周りの者たちに身体中をよく拭かせ始めた。

 

呆然とする二人の下へ全裸の男を引き連れたアルベドが戻って来た。

「アルベド…何の真似だ…。」

「これに御身と言葉を交わすに相応しくなれと言うのは無理があると思い、せめてあの土にまみれたゴミにも劣る服を脱がせました。」

フラミーは顔を背け、アインズは固まった。

 

「は!も、申し訳ありませんでした!」

何も言わぬ二人に弾かれたように謝罪を口にしたアルベドに、ようやく気付いてくれたかと黙っていた二人は苦笑を交わした。

 

「早く跪きなさい。それに少し近いわ。貴方は全く御方々と言葉を交わす姿勢がなっていない。」

 

斜め上すぎる発想にアインズは眩暈を覚えた。

 

「どう言う…んん!いや、アルベド。私は不快感を抱かぬようにさせろと言ったはずだ。」

黒い布を空間より引き摺り出し放るとアインズは目の前に落ちた布を眺め動かぬ全裸男に告げる。

「それを使え。」

 

「おお…!!!神よ…!!!なんと、なんという…!!!」

見苦しく不快感しかない男が喜びながら腰に黒い布を巻きつけた姿にアインズは少しほっとした。

(神様に感謝するほど喜んでるよ…。そりゃ骸骨に秘部なんか見せたくないよな…。)

 

「な!?あぁあアインズ様!!そのような物を!!私も脱げばアインズ様から頂いた布で秘部を覆えるのでし――」

アインズはアルベドの肩を掴み腰巻男とフラミーから離れた。

 

「いいか!?アルベド、お前が脱いでも絶対に何もやらん!!だから、至高の支配者からのお願いでも命令でもいいからさぁ!………せめてフラミーさんの前でそれはやめないか…?」

「アインズ様…それは…全裸で居続けろと言うことですか…!」

流石に女性に悪かったかと思いかければ――

「アインズ様ったら…大胆…。」

アインズは確信した。

(こいつはダメだ。)

 

いそいそと鎧に手を掛けるアルベドを、アインズは少し強い口調で咎めた。

「よせ!よすのだアルベドよ!今はそのようなことをしている時間はない。いいか、侮られるような真似は絶対に控えろ。…わかったな…。」

「も、申し訳ありません!己が欲望を優先させてしまいました。」

アルベドが黙って立っていられそうな雰囲気になったので二人のもとに戻った。

 

「んん。失礼したな。で、お前は何なんだ。簡潔に答えろ。」

 

+

 

神より投げられる質問の意味を考える。

見苦しくないようになれと言われたと思えば、裸になり少しでも体を清潔にするように指示をされたニグンは、恥じる気持ちもあれど、神の言葉には従うのみだと思い実行した。

そうして、団員に汚れが一つも残らぬように身体中を拭かれ、生まれたままの姿で神の前に立ったとき、この行動の真の意味がわかったのだ。

 

何も持たず、何ひとつ身につけぬ自分は「ただの生き物」だった。

国もない。

金もない。

生まれもない。

守りたいものも守れない。

弱く、救いのない生き物だった。

 

神の前に膝を突くと、神は「人間」としての尊厳を与えるが如く、秘部を隠す布をニグンに与えた。

そして、自分のことを「なんなのだ」と訪ねている。

 

神を待ちきれず、勝手に再臨されないと決め付けた法国。

多くの命を奪い、正義のフリをし続けた無価値な自分の命。

 

その全ての罪を簡潔に表す。

答えは、ひとつしかない。

 

「貴方様の救いを待つしかない、弱く無価値な人間にございます。」

 

神の眼光が揺らぐ。

償いきれない罪を繰り返した弱い自分を哀れむように。

そして、鎧の従属神は応えた。

 

「その通りよ。あなた、わかっているじゃないの。」

 

ニグン・グリッド・ルーインは頭をただただ下げ続けるしかなかった。

 




2019.06.04 kazuichi様 誤字報告ありがとうございます!適用させて頂きました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#10 命

何を言われているのかわからなかった。

聞き方が悪かったのか、アンデッドを恐れ過ぎているのか、それともプライドをズタズタにしてしまったのか、相手はさっきまでとは違う人間なのではとすら思える。

「そうか…わかった…。」

アインズは何一つ分からなかった。

 

フラミーも捨て犬を見るような目で男を見ている。

「あなた、どこから来たんですか?お名前は?」

全裸にさせられ、混乱してるいのかもしれないので、出来る限り優しく、わかりやすいように質問し直した。

 

「は。スルシャーナ様はお分かりかと思いますが…」とアインズを見るその男の様子はアインズをスルシャーナと言う者と間違えているようだった。

「自分はスレイン法国が特殊部隊。陽光聖典隊長を務めるニグン・グリッド・ルーインでございます。この度は神々への数えきれないご無礼をどうかお許しください。そして、何卒法国へお戻りくださいますよう、伏してお願い申し上げます。」

「お前のいう通りアインズ様とフラミー様は神にも等しきお力をお持ちの御方々よ。最初から命を差し出して――」

「アルベドよ、黙れ。勝手なことをするな。ニグン・グリッド・ルーイン。私は神でもスルシャーナという名でもない。先に言った通り、我が名はアインズ・ウール・ゴウン。この名はかつて知らぬものがいない程に轟いていたのだがな。」

そう答えるアインズにニグンは食い下がる。

「し、しかし!貴方様のお力、お姿、どれをとっても……!!スルシャーナ様、法国のなにがお気に召さないのでしょうか。私から神官長達へ話し全てを改善させます!!必ず御身の理想とする国へと導くことを誓います!!求められれば何であっても差し出します!!どうか、お戻りくださいますよう…どうか我らをお導きいただきますよう…この通り!」

 

伏せるニグンは頭を強く地面につけた。

腰に一枚布を巻いただけの風呂上がりのおっさんスタイルで繰り広げられる土下座を見かねたフラミーがアインズへ耳打ちした。

「この人の事情はよくわかりませんけど…とりあえず数日くらい待たせて、その法国という国について調べてからお返事したらどうです?」

 

「まぁ…はい。別に今すぐきめなくたって良いわけですしね。」

アインズは頷いてからニグンへと向き直った。

「ルーインよ。今すぐどうするかは決められぬ。私は1週間後に再び…そうだな。この野に来よう。その時にお前の言への答えを聞かせる。その時まで大人しく待て。できるな。」

ニグンは涙に濡れる声でもちろんだと、さらに深く頭を下げた。

 

+

一行は取り敢えず転移門(ゲート)でナザリックへ戻り、しもべと守護者を呼び出した玉座の間にてアインズは新しき名を告げ、先ほどのニグンとの話を伝えた。

 

「隠密能力に長けた僕を用意し、法国へ向かわせろ。指揮は同じく隠密に長けしアウラ。そして隠蔽に長けしマーレ。二人で取り掛かるのだ。決して法国に我々が探りを入れていることを悟らせるな。何か必要なものがあればいつでも申し出ろ。期限は6日だ。最後の1日をかけて全員で情報を精査する。」

 

玉座の間に双子の了承する声が響いた。

 

+

 

主人の立ち去った玉座の間には、興奮によって生じた熱気が渦巻いていた。

「皆、面を上げなさい。」

アルベドの静かな声に引かれ、未だ頭を下げたままだった者たちが、顔を上げる。

 

「デミウルゴス。私達がアインズ様と話した際の言葉を皆へ伝えましょう。」

「畏まりました。」

跪いたまま昨晩の事を話すデミウルゴスは、ナザリックの外のものが見れば凍り付くような笑顔だった。

「『世界征服なんて、面白いかもしれないな』と…。」

「そしてアインズ様はすでに世界を手に入れるご計画を始め、フラミー様と共にわずか半日で国ひとつを手に入れるだけのご成果を上げられたわ。私達なんて足元にも及ばない智謀…策略…。」

全員に聞こえるように話すアルベドの声は震えていた。

しかし、悲壮感ではなく、決して逃れることができないよう隅々まで張り巡らされていくその智謀を側で見ていられたことへの大いなる喜びに震えているのだった。

「各員、ナザリック地下大墳墓の最終目的はアインズ様に宝箱を――この世界をお渡しすることだと知れ。」

 

「正当なる支配者、アインズ様にこの世界の全てを。」

 

 

+

 

 

フラミーの自室に入ったアインズは、人生史上二度目の女性の部屋に、以前ドタバタの末に入った時とは違う緊張感を少し感じていたり

「フラミーさん、ルーインとか言うあの人の…どうするんですか?例え法国がどんな国であったとしても、神さま呼ばわりしてくるあの団体と行って裸の王様みたいになったら辛いんですけど…。」

「あの人がさっき言った通り、本当に"求められればなんでも差し出す"んだったら、スクロールとか、村長さんに見せて貰ったお金とか…欲しいものはたくさんあるなって思っちゃって。」

はははと笑うフラミーに、一理あるとアインズは考えた。

 

「それはそうですね。にしても、百歩譲って俺も神様だと思ったとして…何でフラミーさんじゃなくて俺を求めるんでしょうねぇ…。先の姉妹だって、俺のこと殆ど無視してフラミーさんに助けを求めてたのに。」

それについてはフラミーも不思議に思っていたようで、首を傾げていた。

「どうみても死神ですもんね。これで死ぬと救われる系の教えが蔓延してる国だったらゾッとしますね。」

言葉とは裏腹に大してゾッとしていない様子のフラミーに、本当ですねと応えるアインズも特別ゾッとはしないのだった。

 

「ま、殺してくれって言うならアンデッドの材料にでもしますよ。人間を食べたいと思ってるしもべもいるみたいですし。何より魔法の実験もしたいですしね。」

「優しいですねアインズさん。是非そうしましょう!皆が喜んでくれるといいですね!」

精神までも異形となった二人は来るかもしれない大虐殺に胸を踊らせるのだった。

ポットの紅茶がなくなる頃に、話が聞こえるか聞こえないかと言う絶妙な位置どりに立っていたメイドが近付き、新しい物と取り替えた。

 

「そう言えば、昨日の夜デミウルゴスと何かありました?あいつちょっと怖いですよね。はは。」

そう言うアインズを、フラミーは心から優しい人だと思う。

「あ、いえ!デミウルゴスさんは、何も。ただ、世界って雄大なんだなと思ったら、感動しちゃって。ちょっぴり泣きそうになっちゃいました。」

「ああ、わかります。俺も本当に感動しましたもん。これから沢山感動するもの、見て行きたいですね!」

 

温かすぎる。

仲間と共に世界に繰り出すと言うのはこれ程までに温かいものか。

 

「法国も、ファンタジーよろしく素敵な国だと良いですねぇ!」

フラミーは楽しみで仕方がないと言うような様子だった。

「そう…だとしたら、死を望む国じゃないと良いですね。見たこともない建物とかがあったら、壊しちゃうのもったいないですし、ちゃんと管理させたいですもんね?」

「じゃあ、死にたがりの国だったとしても、生かしてやりましょ!別に無理に殺すことないですもんね。」

 

まだ見ぬエリアへ思いを馳せる二人の楽しげな笑いはいつまでも続いた。

 

 

 




2019.06.04 kazuichi様 誤字報告ありがとうございます!適用させて頂きました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

試される法国 #11 旅に出しは、その双子

(やっぱり、双子にこの作戦を任命したのは間違いだったかな…。)

 

まだ殆ど外の情報がない中で子供達を外に出すことに、指示を出した張本人は今更ながらに不安を覚えていた。

眼前には広がる異世界と、それを背にする双子、そしてクアドラシル。

クアドラシルは六本足で、巨大なカメレオンとイグアナを合体させたような姿をしている神獣だ。

アインズは双子と正面から向き合うと、口を開く。

「気を付けるのだぞ。忘れ物はないか?寂しくなったらいつでも伝言(メッセージ)を送っていいんだからな。それから、もし万が一危険な目に合いそうだと思えば無理をせずにすぐに逃げるんだ。アウラは後詰として共に来ていたから解るな?あのカルネ村に一時避難しろ。あそこには今私の貸し出したゴーレムが置いてある、それらと村人を盾にして時間を稼ぐのだ。私もフラミーさんも、いつでもあそこへ転移門(ゲート)を開けるから――」

「アインズさん。」

フラミーの自分を呼ぶ声に、つい喋りすぎていた事に気がつきはっと口に手を当てた。

ついマシンガンのように喋ってしまった。

見送りに出てきた守護者達も含め――全員が優しい眼差しをこちらへ向けていた。

 

「大丈夫です!アインズ様!ちゃんとマーレと揃って6日後には帰ります!」

「ぼ、僕たちがお役に立つところを必ずアインズ様にお見せします!」

 

やる気に満ち溢れたアウラとマーレの声に、「大きくなったな」と思ってしまうのは間違いだろうか。

まだ命を持って動き始めてたった数日だと言うのに。

手のひらにそっと触れる温かい感触に視線をやれば、フラミーがアインズの手を軽く握りこちらを見ていた。

上質な陶器のようにさらりとしたその手を壊さないように握り返す。

 

フラミーはそのままアインズの手を引き双子のすぐ近くまで行くと、優しく語りかけた。

「アインズさんの言う通り、気をつけて行って来てね。マーレ、男の子なんだから、お姉ちゃんを守ってあげてね。アウラ、あんまりマーレを叱らずに導いてあげて、仲良くね。」

そう言うとアインズから手を離し二人を抱き寄せる。

「わぁ!フラミー様!」

アウラは嬉しそうにフラミーを抱きしめ返し、マーレはスタッフを握ったまま夢見心地に顔を埋めた。

数秒そうすると、フラミーは二人から離れ、アインズの後ろへ立った。

 

アインズさんも、と囁くフラミーを見やればニコリと微笑んでいた。

こんな時表情があるのが羨ましくなる。

アインズも気持ちだけは微笑み返すと、アウラとマーレを無言で順にわしわしと撫でた。

「わぁ!ふふふ、アインズ様、くすぐったいです!」

「へ、へへへ。アインズさまぁ。」

少し髪型が崩れた二人からアインズは離れ、本当は寂しがっているのは自分なのかもしれないと思う。

「アウラ。マーレ。二人で見事やり遂げるのだ。では、行け。」

 

「はい!アインズ様、フラミー様!行ってまいります!」

「い、行ってまいります!」

アウラとマーレは挨拶をし、控えていたクアドラシルへ二人でまたがる。

するとクアドラシルは鱗状の皮膚の色を虹色に変化させた――じわりと不可視となった。

双子も不可視化の能力を持つ、通称透明マントを肩に掛け、墳墓から旅立って行った。

 

 

「行きましたね。」

フラミーは誰に聞かせるでもなく呟いた。

透明マントを羽織ったからと言って二人を見失うような者はここにはいない。

ついには地平の彼方へ二人と一匹の背中が消えた、が、地平から目を離さずに、アインズは共に見送りに出ていた守護者達へ伝達する。

 

「万が一あの二人が助けを求めたら、すぐに向かうぞ。そしてアルベド、デミウルゴス。あの二人に知恵を貸してやってくれ。」

 

慈悲深き声に全員が深く、深く、頭を下げた。

 

+

 

クアドラシルは双子を乗せて疾走する。

アウラが前に跨がり、マーレはアウラの後ろに足を揃えて乗っていた。

凄まじいスピードの為前に乗るアウラの耳にはゴウゴウと空気を切る音が届き続ける。

 

カルネ村より30分ほど南下すると、アウラの視界には、遠く巨大な城壁が飛び込んできた。

アインズやフラミーが見ていたならば感嘆していたかもしれないが、二人にとってはつまらない建築物だ。

それはナザリックに存在するあらゆるものに劣っていた。

(アインズ様があの村長から聞き出した話では確かエ・ランテルって言うんだっけ。)

街を迂回すればしただけ法国への到着が遅くなる。

「クアドラシル!突っ切るよ!!」

後ろでここまでの地図を見える範囲で書いていたマーレが検問を指差した。

地図は真っ直ぐ南に向かって伸びはじめ、山や森などが書き込まれている。

「お、お姉ちゃん、あそこに門があるよ!」

「バカマーレ!あんなわざわざあんな所から入るわけないじゃん!」

どんなに壁が近付いても速度を落とさないクアドラシルに嫌な予感がしたマーレは慌てて紙とペンをしまい姉の腰にぎゅっと両手で掴まった。

するとクアドラシルは猛スピードのまま壁へ突っ込み――足の裏を壁に吸い付かせながら垂直に駆け登る。

登りきれば壁はさらに中にも二重にあり、器用に壁の頂点に飛び移りながら越えて行った。

一番内側の壁から六本の足を広げるように大ジャンプをし、ズン!と街の中に着地すると、今度は家の壁や屋根を伝って人を避けながら大疾走して行った。

 

突然大きな揺れに襲われたエ・ランテルの人々が何事かと震源だと思われる辺りを見れば、そこにはハート型のような不可思議な跡が六つあった。

この日、エ・ランテルの町の中心の道には奇妙な一陣の突風が吹いたのだった。

 

+

 

エ・ランテルを軽々と通り抜けた二人と一匹の右手には連なる小さな山々、左手には遠く平原が広がっていた。

夏の終わりとも秋の始まりとも言えない季節の結び目のような陽気だ。

マーレは再び目に見えたものを――太陽の位置を確認しつつ次から次へと紙に書き込んでいく。

気づけば、ナザリックから南へ一直線の地図が出来始めていた。

 

マーレはそれを見ると満足げにふふ、と笑うと出来かけの地図とペンをしまった。そして空を仰ぐ。

夜明け頃にナザリックを出発したが、太陽の高さから言って時刻はもうじき昼だ。

「お、お姉ちゃん。えっと、そろそろアインズ様とフラミー様とお約束したご飯の時間だよ。」

マーレの提案にこれはいかんとクアドラシルは速度を緩め歩き出した。

「あ!そっか!ちゃんとご飯は3回食べろって仰ってたもんね!」

アウラは鮮度維持の魔法がかかったサンドイッチを取り出し、後ろに座るマーレと分け合う。

クアドラシルの背は快適ではあるが、その凄まじい風速にサンドイッチの中身が吹き飛ぶようなことがあってはいけない。

作ったのは副料理長だが、フラミーの指示で用意された一推しサンドイッチを失うようなことがあれば一度ナザリックへ戻り謝罪しなければならないだろう。

食事をしながらゆっくりと進んでいると――恐らくスレイン法国のものであろう防壁が見え始めた。

やはり双子は無感動にそれを視界に捉えた。

長き歴史を感じさせる荘重な壁だが、この何でもないサンドイッチの方が二人には余程価値がある。

「フラミー様はこれがお好きなんだね!今度お食事にご一緒させて頂きたいなぁ!」

「そ、そうだねお姉ちゃん!あ、僕、それに決めようかなぁ!」

この命令を見事にこなす事が出来た暁には好きな褒美を与えられる為道中何にするか考えるよう言われていた。

マーレはフラミーお食事権にするようだった。

「うーん、あたしはもう少し悩もうかな!時間はまだあるしね!」

 

青空の下、カメレオンの背で器用にサンドイッチを食べる双子はごちそうさまの後に、もうぬるまってしまった紅茶を交互に飲んだ。




平成の世が終わりを告げ、令和を迎えましたね。
アインズ様の生きた日本はどんな元号だったのでしょうか。

2019.05.01 すたた様 誤字修正ありがとうございます(//∇//)
2019.06.04 kazuichi様 誤字報告ありがとうございます!適用させて頂きました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#12 求めるもの

「さ、いきな。大体5時間後にこの噴水広場で待ち合わせだからね!」

 

王国エ・ランテルを出た後初めての都市でアウラは自分の影に潜んでいた影の悪魔(シャドーデーモン)達に指示を出した。

その後アウラは人々の話や様子をーー時にはスキルを乗せた吐息を用いながら観察し、マーレは技術や文化の観察を行なった。

 

王国は木造の建築物が多かったようだが、こちらはベージュがかった白い石材を用いた建築が主なようだ。

この都市は地下数メートルの所にまるでアリの巣のように長く長く空洞があるのをマーレは感じていた。

スキルで大地の様子を確認すると、建物に使われている石材は都市の地下から掘り出されているようだった。

恐らく遠出し運搬する必要がないため安価なのだろう。

皆同じ石材を用いており理路整然とした雰囲気を醸し出しているが、決して無機質ではなく、どの建物の壁にもそれぞれ個性を持った彫刻が成されており、長い期間国として栄えていたことが伺える。

また、王国のように木材を回収できるような大森林が近くにない事も想像がついた。

――後にアウラから森林はあるが、そこには森妖精(エルフ)が住まうため長らく手を出していなかった事を教えられた。そして今は戦争中であるとも。

 

一方人々は明日が七日に一度の礼拝日なようで、各々信仰する神が祀られる神殿に祈りを捧げに行く際、神へ失礼にならぬよう、公衆浴場で前日のうちに正式に身を清めようとするものが多かった。

この街は首都ではないという事が早々に判明していたが、アウラは小さなこの都市で、明日のすべての神への礼拝をきちんと守護者の目でも確認しておく必要があると思っていた。

至高なる御身、真なる神をスルシャーナというおかしな名前の偽神と間違えた愚かな人間達が、どのような方法でそれを祀っているのか調べるということは非常に優先度が高い。

地、水、火、風、闇、光の六つの神を祀る法国は各都市に神殿が六つづつある。

礼拝時の混雑を緩和する為、街の中でそれぞれが極力遠くなるように建造されているようだ。

(少し骨が折れるけど、アインズ様のご命令だし、仕方ないよね。)

 

翌日アウラとマーレは手分けをして全ての礼拝を上手く回りきった。

光の神殿は朝早くから礼拝が行われていたが、地、水、火、風、はほぼ同じくらいに礼拝がスタートした。

 

闇の神殿は、夕暮れと共にそれを始めたのでじっくりと見ることができた。

そして、双子は首都たる神都への警戒度を、最大に引き上げたのだ。

 

「スルシャーナ様。六大神の中でも最後まで残られた慈悲深き神よ。どうか再び死の底よりお戻り下さい。死者の国を統べし超越者。」

 

「神都にお残し下さった貴方様の従属神様へ、御身が歌われていた歌を捧げます。」

 

 

+

 

 

 

「フラミ…いや、プラムさん! こっちです!ここ曲がったところみたいですよ!」

「あ!すみませんモモンさん!」

観光客のような態度で辺りをキョロキョロと見回していた――紺色のローブを着た色白の森妖精(エルフ)が漆黒のフルプレートの偉丈夫の元へ駆け寄った。

「デミウルゴスさんにはこの後お礼に何かお土産を買ってあげたいです!」

「ははは、デミウルゴスがアルベドを制してくれなきゃこうやって外にも出られませんでしたからね!兎にも角にも今は金を稼がなきゃいけませんね!」

そうして二人は冒険者組合で勧められた宿に入ったのだった。

 

すると、想像よりガラの悪い雰囲気と、汚らしい建物に、アインズはフラミーの「汚いおっさんセンサー」が働かないか心配になる。

せめて男達がたくさん周りにいる状況から脱した方がいいと思い二人部屋を取ったアインズはすぐさま部屋へ上がろうとする――と、二人の前に足が出された。

「なんだ?耳の落とされてない純正の森妖精(エルフ)とは珍しいじゃねーか。」

「耳があるやつはいくらなんだ?」

「そのフルプレートとどっちが高かったのか教えてくれよ。」

下品な笑い声が店に溢れる。

耳の話はよくわからないが、フラミーが侮辱されている事だけはわかる。

アインズは足を出す男の胸ぐらをつかみ、一緒に囃し立てた男達に叩きつけた。

抑制されても抑制されても怒りが湧き出てくる。

 

そして慈悲を与える為(・・・・・・・)に更に手を伸ばした。

「貴様ら、俺の大切な仲間を侮辱した罪、その命を――」

「モモンガさんってば!!」

そっとしまい込んだはずのその名前で呼ばれ、ハッとする。

「無価値なゴミに腹をたてるのはやめて下さい。品位を落としますよ。もったいないです。」

そう言い、フラミーは中傷治癒(ミドル・キュア・ウーンズ)で、死にそうな男達を回復する。

「す、すみません…尻拭いさせちゃって…。」

 

鬼神のようだった鎧の男は途端に申し訳なさそうにすると森妖精(エルフ)の後ろに従い二階へ上がっていった。

あまりの恐ろしさにしばらく口を開くものはいなかった。

回復された男たちは、回復されたとはいえ元が三途の川が見える様な状態だったため動くこともできず、その後神殿へ連れていかれた。

 

+

 

「モモンさんたら!ああ言うのは構うと調子に乗るんですから無視しないとダメですよ。それに森妖精(エルフ)の耳がなんとかって言うのも、わからずじまいになっちゃいましたし。」

フラミーは悪魔のため、デミウルゴスと同じように耳が尖っているのだが、現地の人々は耳が長く尖っているのは森妖精(エルフ)だと――カルネ村の時から思い込む習性があることが分かっている。

「す…すみません…。ついカッとなって…。」

「もう。精神抑制どこ行ったんですかほんとに。」

プリプリと怒るフラミーに、アインズは自分の失態のせいで、せっかくの仲間との冒険初日を汚したような気持ちになった為ベッドに腰掛け、そのまま俯いた。

 

フラミーは物言わぬアインズに気付くと、少し視線を彷徨わせ頬をぽりぽりかいてから告げた。

「でも、あー…、嬉しかったです。大切に思ってくれて、その、ありがとうございます。」

 

ペコリと頭を下げたあとフラミーは疲れた疲れたと言い肌を白くしていた幻術を解除し紫の肌に戻った。




子供達が働いているのだから我々も調査に赴く!!(気晴らしにお外に行きたい)

2019.06.04 kazuichi様 誤字報告ありがとうございます!適用させて頂きました!
お見苦しい点が多くて申し訳ありませんm(_ _)mとっても助かります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#13 忍び寄る影

*感想をお寄せいただいたotimusha様のご期待に応えようと虫ックスについてたくさん調べました。
おお!神よ!!!


宿をとったらすぐにナザリックに一時帰還するつもりが、宿屋の部屋に入って三時間が経っていた。

あれ程までに心配していたアウラとマーレの事を一時的に頭から追い出し、アインズはフラミーと昔を語り合った。

 

フラミーは飲食可能な為、食事に誘ってあげようかと一瞬思うアインズだったが、悲しいことに金がもうほとんどない。

 

「このスクリーンショットなんて傑作なんですよ!」

ペロロンチーノとotimusya*がエントマを以て繰り広げられるぐじゃぐじゃ虫ックスについて妄想し熱く語らっているのを聞き咎めた源次郎とぶくぶく茶釜が、わざわざジョーク課金アイテム「拷問前の捕虜」を手に入れ、拘束した二人をエントマの前に置き去りにしたものだ。

二人は笑顔のアイコンを表示させていて、「むしろご褒美なので撮っておいて下さい!この後触手がうごうごで…」と更に妄想を加速させたのだった。

 

スクリーンショットは<設定>の<アルバム>を押すとフォルダ分けされたものが見れていたが、この世界ではフォルダーの中に、ごっそり紙焼きの写真が入っているという代物になっていた。

アインズはそれを一生の宝物にしようと決めた。

「本当、なんでこの二人はこうなんでしょうね。」

はははと笑うとフラミーは続ける。

 

「守護者やしもべ達皆で今度写真撮りたいですね!…カメラがどうやって出来てるのか知りませんけど…。」

アインズはいい案だと思った。

アンデッドや悪魔は老いも寿命も存在しないが、、それこそ双子のように今後の成長が楽しみな者達も大勢いるのだ。

何枚あっても足りないだろう。

 

「カメラ…そうですね!そういうのが作れそうなアイテムや魔法に詳しいNPCを募りましょうか。」

アインズは司書のティトゥスを思い浮かべる。

 

「あ、そうか!電気がないこの世界でもマジックアイテムとして作ればいいんですね!パンドラズアクターなんて居場所的にアイテムに詳しそうですし、アインズさんは魔法に詳しいじゃないですか!二人で作ってくださいよ!」

電気がなくてもカメラが作れる事を知らないフラミーはアインズの魔法を用いようとする柔らかい頭に感心していた。

「えっパンドラズアクターは…」

「そう言えば、彼は宝物殿にいるんですか?カメラ、楽しみだなぁ!」

 

NPCを製作していないフラミーにアインズの痛み(・・)を想像することは無理だった。

 

 

+

 

 

すっかり日が暮れてからナザリックに戻ると、既に守護者達はアインズの執務室で控えていた。

双子からの定時連絡を受けたアルベドが朗々と法国について語る。

 

かつて600年前、この世界へ来たと思われるプレイヤー達を神と崇める法国は、特にスルシャーナを信奉する闇の神殿が最大の信者数を有していた。

神都には未だ生きた「従属神」と呼ばれるアンデッドが残っているのも闇の神殿の人気の理由だが、何よりも、このアンデッド以外のすべての従属神達は堕落し『魔神』となり世界を荒らし回った為、スルシャーナを信奉する事は理性的且つ道徳的であると思っている節があるようだ。

 

そして、これより闇夜に紛れて神都大神殿へとアウラが潜入し、従属神のレベルを看破する予定という事だった。

 

「あの…これ、危ないんじゃないですか?」

「俺もそう思います。スルシャーナがどんなビルドの死の支配者(オーバーロード)だったかは分かりませんが、経験値を消費するアンデッドの副官で生み出されたモノだとすれば…恐らく九十レベルを超えます。」

スキルの説明を聞いたフラミーは背筋に冷たいものを感じる。

アインズは顎に手を当て考え込んだ。

「守護者達よ…。お前達はこの問題にどう挑むのがいいと思う。」

 

キラリとメガネを輝かせたデミウルゴスが一歩前へ出て進言する。

「恐れながら…百レベルに達する者に近付いてもそれを気取らせないだけの能力を持つものはこのナザリックに於いてアウラの右に出る者は存在しません。しかし、お二人のご心配もごもっともかと…。そこで私は、敢えてアインズ様とフラミー様、そして全守護者で向かうのがよろしいかと愚考いたします。」

 

やはりそうか…とアインズは頷く。

人任せにせず自分の目で確かめるのが一番だと思ったからだ。

 

「向かってどうするでありんすか?デミウルゴス。まさか見るだけで済ます気ではないでありんしょうね。」

「当然だとも、シャルティア。アインズ様を模し神を名乗る不届きものを全力で抹殺し、代わりにドッペルゲンガーを置いて帰るのさ。そうして、来たる一週間後、そのドッペルゲンガーにアインズ様こそ正当なる神である事を告げさせれば、不届きなアンデッドの信仰をアインズ様は一心に引き受けることができる。」

「ナルホド、ソウスレバ簡単ニアインズ様ノ御名ハ国中ヘト広ガルト…。」

 

殺すことが前提だとは思わなかったが、名前が広がると言われてはそうするのがベストな気がする。

「素晴らしいぞデミウルゴス。そういう進言こそ私の望むものだ。」

「おお、アインズ様。貴方様は、既にお気付きになられていたのですよね。お二人で我らをお試しになった…そういう事ですね?」

「ん、んん。その通りだ。そこまで読みきるとは流石はナザリック一の知恵者。」

「いえ。私もアインズ様がご帰還された際に、一番に宝物殿の…会ったことはありませんが、パンドラズアクターの元へ向かわれた事を知ってこそでございます。」

 

フラミーがこちらを見ている気配を感じるが知ったかぶりを重ねる己が恥ずかしくてそちらを見れない。

「では、これより一時間後にアンデッド討伐へ向かうぞ。準備を怠るな。アルベド、アウラにはお前が連絡しておけ。ナザリックの初陣だ!」

 

 

+

 

 

アインズはフラミーとデミウルゴスを伴い宝物殿を訪れていた。

「ンァインズ様。これは、再びのご来臨このパンドラズアクター喜びに身が――あっ、ドン」

瞬時にパンドラズアクターを壁側まで追い詰め、目一杯顔を近づける。

「パンドラズアクター!お前は、私を超えて行かねばならぬ。それが父と息子と言うものだ。良いか、デミウルゴスを見てみろ。」

ゆっくり二人で顔を向ければ、落ち着いた様子でフラミーと何やら言葉を交わすデミウルゴスの姿があった。

 

「あれは、生み出したウルベルトさんの想像を遥かに超えている。わかるか?」

「はぁ…?」

 

このハニワはまるでわかっていない様子だ。

中二病全開だったウルベルト・アレイン・オードルの息子がああなり、同じく中二病に罹患していたアインズの息子がこうなっているのは何故なのか。

 

「アインズ様。何か。」

フラミーとの話を中断させ、自分の話をしていることがわかったのか優雅にデミウルゴスが声をかけて来た。

「いや、今パンドラズアクターにお前を少しは見習えと言い聞かせていたところだ…。昔お前を生み出した時ウルベルトさんは最高傑作だと言っていたぞ。無論、私の生んだこれも素晴らしいとは思うのだが、な。」

デミウルゴスは歓喜に震える。

何か声を出せば涙が溢れるのではないかと思い、黙って頭を下げた。

一方パンドラズアクターは、目の前の悪魔が果たしてどれだけの成果を上げたのかと、宝物殿の外で働ける守護者を少しだけ羨ましくなっていた。

 

「パンドラズアクターさんだって、今回きっと活躍してくれますよ!」

フラミーのその声はパンドラズアクターにとってまさに福音だった。

「は。必ずや見事カメラなるものを生み出してみせます!んンンンンッフラミー様っっ!」

期待を越えようと、今までで一番華麗に舞いながら、フラミーの足元にひざまずき、胸に片手を当てながら、もう一方の手をフラミーのすぐ前に差し出す。

背中にバラが咲いて舞い散るのを幻視したアインズは沈静化された。

「えええ〜〜〜〜〜…。あぁ……いや………うん………。パンドラズアクターよ。今回はカメラとは別件で来たのだ。んん。先程伝えてからいこうと思ったが、守護者達を待たせていたのでな。詳しいことはデミウルゴス、お前が説明してやれ。」

畏まりましたと頭を下げたデミウルゴスは、どのように作られたのか未だ解らないパンドラズアクターに懇切丁寧に説明をしようとすると、すぐに作戦の趣旨を理解し、討伐ではなく、実験体として使用するため捕縛で進められるよう見事なる作戦案等を次々と提案したのであった。

 

「御身は貴方に私を見習えと仰ったようですが…私も貴方を見習わせてもらいますよ。ここに私を連れてきたのは、恐らく貴方からの良い影響をアインズ様が計算されてのことでしょう。」

「我が創造主たるアインズ様は全知全能の御方。私達のこの会話すら、おそらく読んでいらっしゃることと思いますよ。」

 

落ち着いた様子で話を続ける男子二人を、全く落ち着かない気持ちでパパアインズは嘆き見守った。

「あぁぁぁ。フラミーさん…どうしたらパンドラズアクターはあの動きをやめてくれるんでしょうか…。デミウルゴスのようになれって言ってんのに…。」

「うーん。あれはあれで個性だとは思いますけど…と言うか、あのキザな動きは、若干デミウルゴスさんぽい気もしました。」

そう話しながら、フラミーは二人で外に出た夜を思い出し、デミウルゴスに言われたキザなセリフが脳裏をよぎる。

再び熱を持とうとする悪魔の尖った耳を両手で頭に押し当てるように抑えた。

 

(確かにデミウルゴスがあのポーズでバラでも持ってきたら…似合うかもな…。)

イケメンに創造しなかった自分が悪いのかとアインズは再び苦悩し、二人は小さな呻き声を上げた。

 

+

 

 

双子を監視しているアルベドの姉ニグレドと、転移門を開くため呼び出されたプレイアデスのオーレオール・オメガが第六階層アンフィテアトルムに来ていた。

「アインズ様。この度は御改名おめでとうございます。今後も我ら変わらぬ忠義を捧げます。」

手短に挨拶を済ませると、ニグレドはスキルでアウラの様子を追い続ける。

オーレオールもどこにでも(ゲート)を開けるよう内部を記憶していく。

アウラは連れてきていた全ての僕をマーレの影へ渡し、たった一人アーチ状の天井がぐるりと囲む美しい中庭を音も無く駆け抜けた。

 

 

すると、突然神殿が騒がしくなった。

「陽光聖典が!!!神官長様達をお呼びしろ!!」

アインズに心を折られたニグンと、その部下達が這々の体で帰還したのだった。

多くのものが走り行き交うが、大した力も持たない人間達は誰一人、アウラの存在に気がつかない。

アウラは静かになり始めた廊下に少し気が抜けた。

 

次の瞬間、声が響く。

 

「誰かいるの…?」

 

守護者すら欺く力を持つアウラを看破する者の存在に、ニグレドの後ろから様子を見ていた全員が武器を強く握りしめ、今回の作戦を破棄しなければならない事を予想する。

 

それは、左右で髪と目の色が違う、幼そうな女だった。




2019.06.04 kazuichi様 誤字報告本当にありがとうございますm(_ _)m適用させて頂きました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#14 疲弊した従属神

謎の気配を感じた気がして、女――番外席次・絶死絶命は中庭を注意深く睨め付ける。

 

「誰かいるの…?」

 

しかし、返事はない。

気配を感じたような気がする方へ足を運ぼうとすると、さっきまで寝ていたであろう神官長達が小走りで通り掛かる。

 

「おお番外席次よ、良いところに!お前も陽光聖典のいる場に立ち会うのだ!」

「どうした。何をもたもたしている!」

番外席次は先に行くよう言い、背を見送った。

何となく気配を感じた場所に近付くも、そこには何もいない上、誰も踏んだこともないような柔らかい土と、天に向かってピンと生える若草達があるだけだった。

 

(気のせいか…。)

 

生まれて初めての感覚に戸惑ったが、神殿内がこれ程までに騒がしいのもまた、初めてだった。

(この私がいつもと違う神殿の様子に高揚しているとでもいうの?)

自嘲するように笑うと神官長達の向かった方へ立ち去った。

 

+

 

 

草むらの隠蔽を完璧に行ったアウラは神殿内部を駆け抜けていた。

早くアンデッドの元へ行き、皆をこちらへ呼び寄せねばならない。

大した攻性防壁も張られている様子もなく、遠隔監視ができるのであれば大人数で効率が悪く移動する必要もあるまい。

そしてたどり着いた、神殿の最奥。

長く広い廊下の先に、まるで世界とその先を切り離すかのように二枚の分厚く重厚な扉がぴたりとしまっていた。

アウラは鍵などがかかっていない事をさっと確認し、その向こうにたしかに死の気配を感じると、空中に向かい腕で丸を作る。

すると転移門(ゲート)よりも巨大な闇が廊下に出現し、死の支配者・アインズ・ウール・ゴウンが現れた。

付き従うようにフラミーと守護者達も続々と闇を潜ってくる。

一人ハニワ顔の見たこともないNPCと、どこで合流したのかマーレも来ていた。

アインズはしばし目の前の――周りの廊下やニグレドの監視越しに見た物達に比べ異様に精巧な扉を眺めてから、アウラに声をかけた。

 

「――アウラよ。一時はハラハラしたが、よくやったぞ。」

アインズの称賛に頭を下げ、マーレと二人でやり遂げられなかった事、わざわざ支配者に出てきてもらわねばならなくなった事を詫びた。

「良いのだアウラ。マーレ。お前達の働きは見事だった。さぁ、この中にいる者を連れて帰ろうではないか。…フラミーさん。」

パンドラズアクターの進言により、アンデッドは可能であれば捕獲となった。

上半身より長いくらいの巻物を携えたフラミーがスッと前へ出る。

「どこからがコレに認識されるフィールドかわからないので、ドアを開けたら中に入って発動させますね。」

「お願いします。俺は一歩遅れてから入りますから、時間を稼いで下さい。万一中の者がワールドアイテム保持者だった場合、マーレとアルベドと共に相手を抑え、一時退避します。」

マーレの腕には天使のような清浄な輝きを宿す白きガントレットと、地獄の底を削り出したかのような邪悪な闇を纏うガントレット、強欲と無欲がはまっていた。

アルベドはヘルメス・トリスメギストゥスを装備しているが、バルディッシュではなく、玉座の間に控える時と同じように真なる無(ギンヌンガガブ)を手にしていた。

マーレとアルベドが扉を押し開き、中へ滑り込んだフラミーがその巻物、山河社稷図を発動させた。

 

+

 

のどかな河の流れる風景にポツリと立ちすくむ闇が口を開く。

「貴様ら何者だ。私を捕らえるこの力は一体…。」

 

疑問を口にする相手にフラミーが返事をしようとすると、切り離されたこの空間にアインズも入ってきた。

アルベドとマーレは外で待たせているらしく一人だ。

 

想像よりも穏やかな雰囲気にアインズは肩透かしを食らった。

死の支配者(オーバーロード)か。久しぶりに見たものだ。私を、その血肉をもって召喚せしめた至上の神もそうであった。紹介が遅れたな。私は具現した死の神(タナトス)だ。侵入者よ、私に何か用か。」

血肉というのは恐らく経験値だろうとアインズは推測する。

「そうか。やはり召喚された僕か。我が名はアインズ・ウール・ゴウン。持って回った言い方は好かん。単刀直入に言う、具現した死の神(タナトス)よ、私とともに来い。」

一息に告げ、手を差し出すが、相手はピクリとも動かずに返事をする。

「それはできない。ここを守るように言われている。」

「では、あなたを召喚せし小神は偉大なるアインズ様のことだと愚かな人間共に言ってはくれませんかね。」

まるで対等な者のように至高の御身と話す下等アンデッドである具現した死の神(タナトス)にデミウルゴスは相当な不快感を抱いていた。

いや、デミウルゴスだけではない。全ての守護者がそうだった。

 

「断る。主人を偽る理由がない。」

 

「交渉決裂でありんすね。」

真紅の鎧に身を包むシャルティアが具現した死の神(タナトス)に向かって飛び出すと、それを皮切りに守護者全員が目の前のものに襲いかかった。

 

一人パンドラズアクターだけは相手の姿をコピーし変身を始めていた。

 

アインズとフラミーは何もしなかった。

九十レベルの具現した死の神(タナトス)程度、守護者達の敵ではない。

そんな事よりもアインズは入り口の扉に見覚えがあった事をフラミーに伝えた。

「あの扉は…確か地獄の門(・・・・)だったと思います。昔タブラさんとタッチさんと上野に行った時に確かに見ました。上に考える人(・・・・)が乗っていましたし。」

「つまり、あの門は確実にリアルを知るものが作った、ということですね。」

アインズは頷いてから、続ける。

「恐らくここは、さっきのあの一部屋しか維持できないような状況のギルドホームだと思います。最後の従属神なんて呼ばれる具現した死の神(タナトス)がいる事を考えると、ギルド武器もあるかもしれません。」

「ギルド武器!!ぜひ破壊しましょう!!前に建築物は壊したくないって言いましたけど、破壊しましょう!!」

フラミーは興奮気味に二度破壊を提案した。

 

「それが…ちょっと正直悩み所です。」

「なんでですか?*ギルド武器を破壊できた者は強くなるって聞くじゃないですか。ワールドチャンピオンをはるかに凌ぐって。アインズさんが破壊して強くなるのがベストですよ。」

「それは特定のクラスを持つ人達だけです。それがどんなクラスか解ってない以上、へたに手を出すのはもったいないと思うんですよね。」

 

瀕死の状態の具現した死の神(タナトス)捕獲(ホールド)魔法で動けなくしたシャルティアと、それを引きずるコキュートスが向かってくる。

「アインズ様。フラミー様。片付きんした!」

「オ待タセ致シマシタ。」

キラキラした瞳に、アインズはシャルティアとコキュートスの初めての手柄を大いに褒めた。

 




*9 : Arcadia感想返し[2877]


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#15 眠れば良いのに

具現した死の神(タナトス)に化けたパンドラズアクターを残し、ギルドホームだと思われる戸を閉める。

タナトスパンドラには、ギルド武器の在り処を後で伝言(メッセージ) で伝える様に言い残した。

 

万が一偽物だとバレるようなことがあったとしても、ギルドメンバー四十一人に変身できるパンドラズアクターならばなんとか逃げ出すことができるだろう。

同じく残されるアウラが撹乱すれば、より安全に退避できるはずだ。

 

フラミーから山河社稷図を受け取ったアウラは二色髪の女の監視に勤めるよういわれ、夜闇に紛れた。

これと開戦する場合は伝言(メッセージ)をまずパンドラズアクターに送り、山河社稷図を広げる手筈だ。

 

アインズ達が帰還すると、数時間後にニグンと陽光聖典数名を引き連れた神官長が地獄の門(・・・・)の前に現れた。

「もし本当にスルシャーナ様の再臨だとしたら、あのお方が何もおっしゃらないはずがなかろう。」

全員が正装だ。

「しかし…確かにあのお力、全てを見通す智謀…あのお方がスルシャーナ様でなければ…それはこの世界の終わりにも等しいかと…。」

全員が悲痛な顔をする。

漆黒聖典はこんな時に限って破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)支配のため出かけている。

「ともかく…五年ぶりか…。久々にお言葉を賜るほかあるまい…」

闇の神官長は人類の技術を超えたその扉をゆっくりと開けたのだった。

 

 

+

 

 

(あー魔力がなくなるってこんなにだるいのか…。)

 

さまざまな魔法対策を施された氷結牢獄で、手足と装備をもがれダルマのように転がる具現した死の神(タナトス)の前にアインズは座っていた。

痛みも恐怖もないアンデッドは別になんということもないという具合におとなしくしている。

時折、「スルシャーナ様…」などと呟きながらアインズを眺める姿は痛ましさすら感じる。

 

記憶を覗き、法国やスルシャーナ、魔神、八欲王、竜王、ギルド武器、神官長達の事をじっくり調べるアインズのそばで、司書のティトゥスは情報を書き起こして行った。

始まりの記憶はこうだ。

スルシャーナは、愛するギルドメンバーと共に作り上げた国と、メンバーとの絆の証であるギルド武器を守るように具現した死の神(タナトス)を生み、そして下がったレベルで八欲王との戦いへ身を投じた。

白金の竜王(プラチナムドラゴンロード)と共に。

スルシャーナはこちらを向いて語っていた。

「良いか、これまで使えなかった魔法が突然我が身に戻ったのだ。推測に過ぎないが、相手は世界級(ワールドアイテム)を持っている。私は恐らく戻れないだろう。だが、それでも、もういいんだ。この国を…皆のいない世界を…今後何千年と見守るのは…少し、辛い…。」

スルシャーナのその後を、具現した死の神(タナトス)は<母から切り離された感覚>をもって死を確信した。

 

MPがいくらあっても足りない状況に、フラミー、シャルティア、デミウルゴス、ルプスレギナが代わる代わるアインズへ魔力を流し込む。

 

「なんという……。」

読み上げるのをやめ顔を抑えるアインズに、フラミーが近付き慰めようとすると――

「素晴らしい!!」

高揚した声が響いた。

すぐに沈静化されたらしく冷静さを取り戻した雰囲気でアインズは続けた。

「ここのギルド武器はパンドラズアクターのすぐ側にあるのだが…更に白金の竜王(プラチナムドラゴンロード)の下に、五百年前現れた八欲王のギルド武器があるらしい。」

それでも興奮しているようで、いつもの丁寧な話し方ではなかった。

「この世界最強の竜、でございますね。」

デミウルゴスの問いに頷く。

「ここには…一度出向く必要があるようだな…。これで先んじて法国の物も破壊ができる。ふふふふふ。ははは!――ふぅ。はははは!」

上がる笑い声はまるで魔王そのものだった。

それを眺める守護者達の瞳は歓喜に、フラミーの瞳は何かに迷うような色が一瞬だけうつった。

アインズの話に出てくる八欲王の生み出した浮遊都市に――かつてユグドラシルにナザリック地下大墳墓があったとき、遠く米粒のような大きさで浮いていた天空城をフラミーは思い出していた。

初めて外に出たセバスに、アインズはそれの存在を確認したほどだ。

 

その後レベルの低いルプスレギナは魔力欠乏を起こしユリ・アルファに引きずられるように立ち去って行った。

次はデミウルゴスがMPを枯渇させたが、ティトゥスの情報精査を手伝う為その場に残った。

そしてシャルティアも疲れ果てると、鏡で自分の顔を確認して悲鳴をあげて吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)に抱えられるように去って行った。

 

なんとか一通り記憶を見終わったタイミングでフラミーのMPも切れてしまった。

「あーーもーだめです…。」簡易的な椅子にだらしなく座る。

「お疲れ様でした、フラミーさん。今日はここまでにしましょう。」

「そうしましょー。アインズさんもお疲れさまでした!あぁ…アインズさん、よく平気でいられますね。」

「あ、いえいえ。かなりだるいですよ。でもアンデッドなんでフラミーさんほど怠くないかもしれないです。」

「こんな時もアンデッドは便利なものですねぇ。」

 

後ろでふむふむと話を聞いていたデミウルゴスが話に参加してきた。

「アインズ様、フラミー様、良ければ我が赤熱神殿にいらっしゃいませんか?疲れを癒すには絶好の場所でございます。」

はじめての遊びの誘いにアインズとフラミーはパァっと顔を明るくする。

「い、いいのかデミウルゴス。」

「ぜひ行かせてもらいましょう!アインズさん!」

 

+

 

ティトゥスと別れた三人は、全員指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を持っているのですぐさま第七階層へと転移した。

デミウルゴス配下の悪魔達が支配者達をもてなす準備を始め少しだけ慌ただしい。

灼熱の大地に、高さ十五メートルのイオニア式の柱で天井屋根が支えられる黒き神殿が建っていた。

神殿に入れば、薄暗く、六メートルはあろうかという巨大な――右半身のまだ完成していない白いアインズ像が建っていた。

 

「これは…。これはなんだデミウルゴス。」

「はい。ここ数日時間がありましたので悪魔のしもべを大量に召喚しまして…殺して良い部分を集め、現在我が神殿内にアインズ様の像を建造中でございます。完成した暁にはぜひ又当階層へお越しくださいませ。」

「デミウルゴスさんって器用なんですね!これは一見の価値ありですねぇ!」

すごいすごいと喜ぶフラミーと、まんざらでもない雰囲気のデミウルゴスは、アインズとの温度差に気付く様子もない。

 

アインズ像を回り込むと隠すように地下への階段があり、下れば奥行きのある大広間と、さらに下層へ行ける階段があった。

そこには部屋がいくつもあり、デミウルゴスについて行きながら風呂場や食堂などを軽く案内される。

一階とは違いふんだんに白い大理石が使われ、随分と明るい雰囲気だ。

さらに地下へ下れば、数部屋と長い廊下の先に大きな扉があった。

「こちらは畏れ多くも私の玉座でございます。ですが、本日は良ければ私の私室をご案内いたします。」

アインズとフラミーは顔を見合わせ、それで良いか目で確認しあう。

「うむ。お前の玉座はウルベルトさんと何度も通ったものだ。今日はそちらを見させてもらおう。」

代表しいつもの如くアインズが答える。

 

「畏れ入ります。では――取るに足りない、質素な部屋ではありますが、どうぞおくつろぎ下さいませ。」

デミウルゴスが扉を開けたその先は、ゴージャスな雰囲気かと思いきや、モダンな内装だ。

しかし、決して質素などではない。

 

広いリビングには向かい合うように四人がけの茶色いソファが二つあり、真ん中のテーブルの両脇には肘掛のある一人掛けソファがある。

近くの壁の煖炉は燃えているが、薪は使われていない。

リアルでも薪が高級品になり、エタノールで燃やすほとんど二酸化炭素の出ない暖炉が主流になっていた。

その先には執務机と、大量の本達が壁一面に所狭しと並べられている。

本棚の脇にひとつだけ扉があり、その先が寝室のようだ。

「デミウルゴスさんって、このリビングで物作りしてるんですか?」

「これはフラミー様。まさに今その話をさせて頂こうと思っておりました。実を申しますと、私は工房を持っておりまして…こちらの本をこのように押し込み、ずらして……」

カチリと何かが噛み合う音がし、本棚の向こうに隠し部屋が見える。

「このように、この先が工房にございます。」

こんなに得意げなデミウルゴスは珍しい。

アインズは確信した。

 

こいつも、ウルベルトさんも、やっぱり中二病だ。

 

そして進むデミウルゴスについて行くと、そこには白く美しい背もたれのない椅子があった。

 

「こちらも、アインズ様のために現在鋭意製作中の簡易玉座にございます。フラミー様の分もご用意しようと思ってはいるのですが…」

珍しく何か言いづらそうな様子にアインズは先を促した。

「どうした。何か困ってるのか?」

「は。畏れ入ります。実を申しますと、こちらも悪魔の骨だけで作るというのは少々芸がないかと思い、制作を一時中止しようかと思っております…。」

え?それも骨なの?と思うアインズとフラミーは、その後決して気の休まらない、そして共感もできない趣味の話をしばらく聞いた。

しかし、甘え下手な息子が始めて自分の描いた絵を見せてきたような雰囲気と、ちゃんと休みをenjoyできる守護者の存在に、若干は癒されたような気もする二人だった。




ほのぼの日常パートも大好きなんですけど、中々うまく行きません(-_-)
精進します!!

2019.5.4 もんが様誤字修正ありがとうございます(//∇//)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#16 世界の夜明け

ニグンとの約束の日の前日に帰還したアウラは玉座の間に向かっていた。

その足取りは重く、これでもし慈悲深き御方々が失望されるような事があれば、きっと世界を渡る力を一番に取り戻そうとするだろう。

それの手伝いだけはしたくない。

アウラは拳を握りしめた。

 

ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)にたどり着いてしまう。

そこにはすでにヴィクティムを含めた守護者達が集まっていた。

その視線は中長期遠征への労いと、大いにアインズの役に立った者に対する羨望で染まっていた。

 

アルベドは支配者達の介添えとしての務めがある為、デミウルゴスの指示の元謁見の列や並びを覚えていく。

様子のおかしいアウラにマーレが心配そうに声を掛けても、アウラは何も返さなかった。

 

 

+

 

 

「面を上げよ。」

毎回このやり取りをしなければいけない事に面倒くささを感じながら、アインズはいつも通り皆に号令をかけた。

 

今日は多くのしもべが守護者達の後ろに控えている。

失敗できない、いや、自分どうこうよりも誰もが功績をあげたいと思うように見事アウラを褒めなければならない。

 

「アウラよ、この度は六日間に亘る隠密任務、ご苦労だった。」

アウラは物言わず、深く頭を下げた。

「それでは最終日のあの女と、神官長達の様子をここで聞こうじゃないか。」

これまで、法国に残りアウラは様々なことを報告した。

漆黒聖典というもの達がナザリックのほど近くの森林をうろついている事。

番外席次と呼ばれる女があの法国最強である事。

そのレベルは恐らく九十前後だという事。

戻った陽光聖典は、タナトスパンドラの元に現れたあと、神官長全員と共に転ぶような勢いで再びカルネ村へ発った事。

他にも数えきれない報告を行い、目を見張る成果を上げた。

 

そのアウラが、今にも泣き出しそうな様子で、話し始める。

「あ、アインズ様…。あたし…あたし……。」

その様子に不穏なものを感じた守護者から立ち上がる殺気にフラミーは珍しく玉座の間で声を出した。

「落ち着いて。アウラ、何があったの?」

「謝罪があるなら、顔をあげなさい。」

そしてアルベドの冷たい声に、アウラは顔を上げた。

「今日、大神殿を出たら、番外席次が………『また来てね』…と……。」

 

気付かれていた。

 

それは、「決して気取られずに監視しろ。」と言う命令の失敗を意味する言葉だった。

 

 

+

 

 

「自分より低レベルだからと言って見くびるなという良い例だな。しかし気付いておきながら相手はアウラが身辺を探る事をなぜ許していたか、分かるものはいるか。」

「畏れながら…。アインズ様が神であるとパンドラズアクターが神官長達にすでに通達していた為ではないでしょうか…?」

そう言うアルベドを補足するようにデミウルゴスが続ける。

「しかも、自分より強い存在を求めるような発言を繰り返していたことを思いますと、アウラがそれに該当している事に――如何に低俗な存在でも理解できた…ということではないでしょうか。」

「強い相手を求めていたなら、なんで戦いを挑んで来なかったでありんすか?余計わけがわかりんせん。」

「ソウダ。シャルティアノ言ウ通リダ。強キモノノ存在ヲ求メテイタノナラ、何モシテコナイノハヤハリオカシイ…。」

「ど、どういう事なんでしょうか…?」

 

そして集まる視線にアインズはわからない答えを求め必殺技を繰り出したのだ。

「仕方ないな。デミウルゴス。皆にわかるように説明してやりなさい。」

 

返事をし、皆を見回してから、デミウルゴスは解説する。

「簡単な事だよ。アウラの挙動から自分の事を見張らせている、更なる上位者の存在に気付いただけさ。アウラを支配できるだけの強大な力に期待しているんだろうね。当然、それが神官長達が出て行った理由だと当たりをつけているはずだ。"強きものを求める"番外席次は恐らく、アインズ様との謁見の時にこそ動くだろうね。」

 

「じ、じゃあ、デミウルゴスさん。番外席次さんは、アインズ様と会ったら、アインズ様に襲いかかるかもしれないんですか?」

「畏れ多くも、そういう真似をしでかす可能性も大いにありえるね。」

マーレの問いに応えるデミウルゴスの言葉に、全員の瞳に剣呑な光が宿る。

 

「アインズ様。明日の陽光聖典との謁見後、もう一度法国へ一人で行かせてください!!」

アウラの叫びに、精一杯の優しい声でアインズは応える。

「アウラ、お前はまだ聞いていないだろうが、明日の謁見の後、皆でそのまま法国へ行く予定だ。」

「そ、そしたら、明日、あの女の命、必ずあたしが!!」

「殺す予定はないんだけど…んん。まだ様子を見るのだ。そう昂ぶるな。」

アウラから視線を外して続ける。

「アルベド、明日の予定を皆に伝えろ。それから、ガルガンチュアの起動確認を忘れるなよ。私はこの後フラミーさんと共に最古図書館(アッシュールバニパル)で天使の召喚を行う。コキュートスはアルベドの説明が終わり次第第五階層にて天使の訓練を行え。少しでも見栄えを良くするようにな。先に渡した者たちの調子はどうだ。」

「ハ。ナザリック・オールド・ガーター達ノ訓練ハ既ニ万全カト。後ハ天使ガ加ワレバ、正シク神話ノ軍隊ヘトナリマショウ。」

「よし。我々は行く。フラミーさん。」

「ふふ。神話の始まりですね!」

 

支配者を失った玉座の間には歓声が響いた。

 

アインズ・ウール・ゴウン。

 

明日、神話が始まる。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#17 神話の軍勢

従属神との謁見を行った一行は「アインズ・ウール・ゴウン様の降臨を感じる。」たったそれだけ告げられ、一も二もなく出立の準備をしに再び大神殿内を駆けずり回り、深夜にも関わらず法国神都を発った。

あの従属神が"様"を付けて呼ぶお方が神でないはずがないのだ。

 

ニグンは王国領に戻る道中、神官長達に激しい叱責を受けていた。

神に喧嘩を売ったことを責められ、日付の指定だけ受けて一体何時に神が再臨されるのか聞かなかったことを責められ、神を法国にお連れすることもできず、ニグンは身も心もズタズタだった。

 

「ああ…。私は…私は…。うおあああああ!」

今にも発狂しそうなニグンは馬車で二日も眠らされたのだった。

 

 

+

 

 

法国一行が約束の地に辿りついたのは、日付変更直前、真夜中だった。

流石にこんな時間には現れないだろうとは思うが、すでに失態を犯している身だ。備えすぎるくらいが丁度いいだろう。

遠くにある村を一瞥し、落ち着きを取り戻したニグンは団員に混ざり野営の準備をした。

 

幾人かが見張りとして交代交代でキャンプの周りに立つ。

夜明けよりも早い時間、神官長とニグンの元に見張りが駆け込んできた。

全員眠りが浅かったようで、飛び上がるように起きるが――見張りの言葉は期待していたものではなかった。

 

「ゴ、ゴブリンに囲まれました…!」

 

いくらなんでもそんなものが神の使いだとは思えなかった。

 

+

 

陽光聖典の隊員達がゴブリンを迎え撃とうと、いつものように陣形を組む。

そして、ニグンの指示のもと天使が召喚された。

既に気づかれたと理解した様子の隠れていたゴブリン達が姿を見せる。

ゴブリンの後ろにはクワやオノ、ナタ、貧相な弓を抱えた人間も来ていた。

 

「貴様ら、何のつもりだ。いや、操られているのか…?」

ニグンの言葉に、醜きゴブリンが返す。

「おたくら、こんな所で一体何をしでかそうってんだか知りませんがねぇ。うちの姐さんの村を襲った人らの仲間たちにちーと似すぎちゃいないかって、村で結論が出たんですわ。」

また別のゴブリンが話す。

「違うんなら違うでいいんですがね。もしまたあの村を襲おうって言うなら、こっちとしちゃ黙ってられないわけでしてね。」

まさかこのゴブリンは、カルネ村の者によって召喚されたとでも言うのだろうか。

しかし、そんな術者がいるならばあの日に現れなかった理由がわからない。

「確かに、あそこの村に手を出したのは我々だ。」

ニグンの言葉に、対峙する全てのものから激しい憎悪が沸き立つのを感じた。

 

いつもならば、無視するそんな感情に、法国の面々は初めて向き合った。

「すまなかった。我々も、それこそが人類の為だと信じて疑わなかったのだ。取り返しのつかないことをしてしまったと、深く反省している…。」

神官長達も出て来て、共に謝るその姿は、村人を一層苛立たせた。

 

首すら差し出すと言うような相手達に斬りかかるような真似を村人達はできなかった。

行き場のない感情を地面にぶつける者、叫ぶ者、再び涙を流す者。

それらを前に神官長も、陽光聖典も、下を向き続けるしかなかった。

これも神がここを指定した理由かとニグンは唇を噛んだ。

 

そして日が昇りはじめる。

あまりの眩しさに、聖典の誰かがそちらを向いた。

それに引かれるように、一人また一人と昇り行く日へ目を向けていった。

誰も視線を戻さないことに違和感を感じ、ついには最後の一人が朝日を見た。

 

日の出と共に現れたのは、魔法の防具に身を固めた大量のアンデッド。

見たこともないような獅子の顔の大天使。

向こうには太陽すら掴めるかと言うような巨大なゴーレム。

30メートルを超えるそれは、どこから取り出したのか平べったい巨石を抱えていた。

ゆっくりと動き出し、それをブーメランのように放り投げる。

 

思わずニグンも神官長達も顔を覆ってしまった。

村人達は逃げ出すかと思えば、足がすくんでしまったようで呆然と立ち尽くしていた。

夢だろう。こんなのは夢だ。

それが村人達の総意だった。

 

凄まじい地響きと共に巨石が着弾する。

土砂が舞い散り、あたりが土煙に覆われる。

 

もうもうと立ち込める土煙の中、アンデッドと天使達が動き出し、道を作る。

平べったい岩は大人の男の身長ほどの高さに、二十五メートル程の幅、奥行きも十メートルくらいだろうか。

それの前に続々とアンデッドが集まり、二段の階段を作り出す。

声を出せるものなどいるはずもない。

 

土煙の向こうからは、腰から羽を生やした悪魔、憎っくきエルフの王の血を引くであろう双子、銀髪の少女、空中を滑るように移動する化け物、尻尾を生やした男…。

 

それらが巨石の上へ立つと、跪き顔を下に向けた。

 

最高神官長はピンと来て叫ぶ。

「全員!!礼!!!」

陽光聖典と神官達はザッと跪いた。

訳もわからずオロオロとする村人達に構っている余裕などない。

それぞれ自分の姿勢が失礼に当たらないかと、それだけが気がかりだった。

 

「ゴウン様!?」

若い女の声が響く。

「ゴウン様だと…?」

「見ろ!!ゴウン様だ!!」

「ああ…仮面が…!!」

カルネ村の人々が口々にその尊き名を口にする。

 

「すごい!すごいすごい!やっぱりゴウン様は、神様だったんだ!!!」

 

村にも岩が落ちる衝撃が伝わったのだろう、気づけば殆どの村人が着の身着のままその野に出て来ていた。

 

 

+

 

 

その夜、時間を指定しなかったことを思い出したアインズは頭を抱えていた。

(明日は一応いつでも出れるようにしろって言ったし…。法国の奴らが来たら出るくらいでいいよな…。もう伝達したし…今更だよな…。)

そんな事を考えていると、ノックが響く。

お付きのメイドが扉へ近づき、アルベドとニグレドの入室の許可を求めて来た。

「ニグレドだと…?入れろ。」

 

「失礼いたします、アインズ様。夜分遅くに失礼致します。」

「気にするな。私は睡眠不要の身。それで、ニグレド。お前が来ると言うことは何かあったか。」

「は。それが、法国の者どもが、指定の場所に着いたようです。」

「え…?」

 

ニグレドの言葉に時間を指定しなかった己の思慮の浅さに頭を抱えたくなる。

「彼らの到着後すぐにナザリックを発つというお話でしたが、フラミー様がお休み中ですので、どのようにするのが良いかとご判断を頂きたく参った次第でございます。」

アルベドの言葉は最もだ。

昔フラミーは趣味がユグドラシルと昼寝だと言っていた記憶もある。

それに今は女性を起こす時間ではない気がする。生えているが。

目の前のこの姉妹にもちゃんと寝て欲しいと言う思いが沸き立つも、ニグレドの睡眠は監視中断を意味するため口にできない。

 

「あの者たちはいくらでも待たせておけばよろしいかと。」

悩んでいる様子のアインズに気付いてか、続くアルベドの提案は魅力的だった。

「そうだな。しばらく私もニグレドと共に監視に着きタイミングを見極めるとしよう。」

そう言って腰を上げたアインズにアルベドが興奮し始める。

「んな!ね、ね、姉さんと一夜を共にすると…!?アァアインズ様!!私も、どうか!!私も共に!!そうです!三人!三人では如何でしょうか!?」

おかしな様子にまた始まったと思うアインズだった。

 




ちょっとーちょっと統括さん頼みますよ〜。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#18 涙

遠くに見える巨大なゴーレム、そしてそれが投げた巨石の起こす地響きに、予言された破滅の竜王(カタストロフドラゴンロード)かと男たちはまず周囲を見渡し安全確保に努めた。

近くに危機が迫っていない事が分かると急ぎゴーレムの方に向かおうとする――が、闇に吸い込まれるようにゴーレムは消えていった。

「これは…なんと言うことだ…。」

呟くは黒く長い髪にまだ幼さの残る顔立ちの、漆黒聖典隊長だ。

本体が居なければ、神の残したその力を使うこともできない。

そうなれば、少しでも情報を得るためにゴーレムのいたと思われる地へ向かうか――投げられた岩の下に向かい、着弾地点の確認に行くか――。

 

「近いですし、一先ず岩の落ちた方を見に行きますか?」

第五席次・一人師団、クアイエッセ・ハゼイア・クインティアが進言する。

応えたのは神の秘宝に身を包む老婆、カイレだった。

「そうじゃな。あれだけのモノじゃ、恐らく急いでも後から行っても、残った痕跡に変わりはあるまい。」

鶴の一声で漆黒聖典の向かう先は決まった。

 

 

+

 

 

「面をあげ、アインズ様とフラミー様のご威光に触れなさい。」

黒い翼を広げ、女の悪魔が告げる。

顔を上げれば、後ろからも聞こえて来ていた通り、目の前には闇の神と、それに並ぶよう天使が立っていた。

ニグンの話では天使は従属神だと言っていたが、その立ち位置からは神だと思われた。

 

闇の神は何か言おうとしたが、何も言わない。

女の悪魔はそれに気付き、辺りを睥睨すると、尻尾を生やした男に何やら伝える。

 

『跪きなさい。』

深みのある声が聞こえたかと思うと、後ろから村人が跪く音が聞こえる。

「すごいね!すごいね!」

「ゴウン様のお仲間なのかな!」

膝を折ることに何の違和感も感じていない村人の興奮が聖典にも伝わった。

 

「アインズ様のお言葉を賜ります。」

 

(お言葉を賜るって、向こうが俺に来てくれって頭を下げて来るのに乗るんだとばっかり思ってたよ!!俺が舵取りするのか!!)

 

「え?んん。まずは、ニグン・グリッド・ルーインよ。お前の的確な働き、まさしく私の望むものだ。」

ニグンは歓喜の中頭を深く下げた。

「神官長達もよく来てくれた。」

その様子に、カルネ村の村民達が動揺の声を上げ始めていた。

「ゴウン様の配下の方達なの…?」

「じゃあどうして村を…」

「そんな…」

 

『静まりなさい。』

デミウルゴスがカルネ村の者達を黙らせると、アインズは手前の法国の面々から視線を滑らせた。

「カルネ村の村長よ。まずはあの日、現在の世界について多くの事を学ばせてもらった事を感謝する。そして、私の留守中に、我が法国が迷惑をかけた事、心よりお詫び申し上げる。この事実は詫びても詫びきれないだろう。」

アインズは、悲痛な面持ちで地面を見る村人に言葉を詰まらせた。

すると、変わってフラミーが語り出した。

「村人の皆さん、私達も今回のこの事を見過ごすつもりはありません。」

 

そうはいっても、死んだ者は帰ってこないのだ。

口をきけないエンリはゆっくりと手を挙げた。

『言ってみなさい。』

フラミーの許可に、エンリは軽くなった口を開く。

「天使様…。ゴウン様も天使様も…知らなかっただけなんですよね…?ゴウン様は、それに気付いて駆けつけてくださったんですよね…?だ、だって……だってあの時、天使様は『私が遅かったせいで』って、私達の傷を癒して下さったじゃないですか…!!」

涙ながらの言葉に、村人はあの日、確かに命を助けてくれた二人に「もう一度信じさせて欲しい」と目で訴えていた。

 

応えたのは、愛する者達を殺した者達の仲間だった。

「そうです。全ては我ら法国の罪…。神々は何の許可も、指示も…出されてはいません…。」

その声は震え、今にも泣き出しそうだった。

周りからは神官長様…という囁きが漏れ出ている。

 

「マクシミリアン・オレイオ・ラギエよ。」

突然声をかけられた闇の神官長は神が自分の名前を知っていた事への喜びと、これから来ると思われる叱責に肩を震わせた。

「はい。スルシャーナ様。」

「私はスルシャーナではない。アインズ・ウール・ゴウンだ。お前は闇の神官を司りながら、我ら不死者の王(オーバーロード)の声に耳を傾けることを怠った。」

「はい…。しかし…我ら人間は、もう…こうする事でしか一つになれないと…そう思ったのです…。」

「人が一つになるためになぜ人を殺す。」

分かり切っているはずの問いを敢えて投げかける神にガゼフ・ストロノーフがいなくなれば王国の崩壊が進む事、王国はもはや腐り切っている事を必死に話した。

「そうなのか、いや。んん。そんなことは分かっている。そうではない。アルベドよ、私の真意を教えてやれ。」

 

アルベドと呼ばれた悪魔が一歩前へ出た。

「アインズ様は、なぜ自分へ深く救いを求める祈りを捧げず、人を殺して回ったのかと、そうおっしゃっているのです。」

 

確かに、自分達は必死でスルシャーナ様、いや、闇の神殿へ祈りを捧げただろうか。

目の前に存在した従属神に数年に一度謁見し、供物を差し出し…聖歌を捧げるだけの日々に満足していたのではないだろうか…。

本当の意味で、神を信じていたのだろうか。

そして、再臨を助けるだけの事をしただろうか。

 

「申し訳ございませんでした…。」

 

もはや謝ることしかできない。

闇の神官長は涙を流し、嗚咽し、謝り続けた。

 

「アインズ様。」

「わかっている、アウラ。お出ましだ。」

 

聖典も神官も村人もその言葉の意味を探ろうとアインズの視線の先を確認するように振り返った。

すると、遠くから馬に乗った複数の人影が見えてきた。

中には強大な力を持つ魔獣、ギガントバジリスクもいるが逃げ出す者はいない。

法国の人間は近付いて来る者達に覚えがあった。

村人はあまりの非日常的な展開に感覚が麻痺し始めていた。

いや、中にはアインズを守りたいと思うものも大勢いたのだ。

 

 

王国民に囲まれるその岩と、その上の魔物と言っていいのか解らない者達の存在に漆黒聖典は必要であれば開戦するつもりだった。

しかし、近付けば法国の神官長、そして陽光聖典の存在が見咎められた。

 

徐々にスピードを落とし、馬から漆黒聖典達は飛び降りるようにしてそれに近付いていった。

「最高神官長様!!それに神官長の皆様も…!」

「頭が高いぞ!!早く、お前達も!!」そう怒鳴る土の神官長の言葉に慌てて列を作り跪く。

 

 

「良いのだ、レイモン・ザーグ・ローランサン。」

アインズはせっかく覚えた名前なのでとりあえず流れがあれば全員呼んで、アルベド達に暗記した自分の成果を――ちゃんとトップも働いていますよ、というアピールをしたい気持ちでいっぱいだった。

 

その言葉に法国に連なる者達が頭を下げる。

が、一人だけ…いや、正確には一人と一つだけはそうしなかった。

 

わなわなと手を震わせ、一歩一歩近付いて来るのは漆黒聖典第五席次、一人師団。

「クアイエッセ・ハゼイア・クインティアか。」

名前を知ってる者が立っていることにアインズは喜びを感じていた。

「スルシャーナ様!!!!」

そう言って駆け出そうとするが、後ろから聞こえてきた声に驚いたようにクアイエッセは振り返った。

 

「…スルシャーナ…君なのか…?」

 

アインズはその鎧を知っている。

具現した死の神(タナトス)に、魔神を諌めるように頼みにきた…この世界最強の竜。

「ツアー…。」

 

(あ、つい具現した死の神(タナトス)が呼んでた名前で呼んじゃった…。)

アインズはここまでうまく行ったのに、と失態に少し落ち込んだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#19 モモンガ

コロ介様の感想を読んで、素晴らしいな〜!と思ったのでアイデア?妄想?想像?確信?をお借りします!



「…スルシャーナ…君なのか…」

 

そんなわけが無いと理性ではわかっている。

しかし、そうであって欲しいとツアーは願いを口にした。

 

「ツアー…。」

 

目の前の死が友しか呼ぶことを許していないその名で語りかけて来る。

しかし――呼び方も、外見も、その身に纏う物もスルシャーナによく似ているが別人だ。

ドラゴンの鋭敏な感覚が否定する。

竜王(ドラゴンロード)だと?と神官長達がこちらを忌々しげに睨みつけて来ていた。

 

「君は一体何者なんだい。その力、ぷれいやーだと言うことは間違いなさそうだね。」

「おお、やはりぷれいやー様!神だ!」

湧き立つ法国の連中の様子にツアーは苛立たしくなった。

「君は、いや。君達は世界に協力するものかな。」

聞いてみたが、正直そうは見えない。

ほとんど全員から邪悪な波動を感じる。

見た目だけは清らかそうな、スルシャーナ似アンデッドの隣の者も、根は悪だろう。

しかしスルシャーナもそうだった。

かつての友の中にはその邪悪さと、無垢なただの"ヒト"を併せ持つ者が多くいた。

そして皆一様に激しく葛藤していたのだ。

 

「流石にこれまで六大神、従属神、八欲王、十三英雄と多くのプレイヤーに会ったことがある者は違うな。ツァインドルクス・ヴァイシオン。私達は世界に協力する者でいたいと、そう思っているよ。しかし、私は自分の愛する子供達を、仲間を守る義務がある。それを背負っている事だけは今ハッキリ言っておこう。」

 

子供と言うのは従属神達のことだろう。

しかし何を勘違いしてか、村人や法国の者達が感涙にむせんでいる。

 

「そうかい。それを侵されなければ、世界を蹂躙しない、と。そう誓えるかな?」

 

「誓えるとも。我がアインズ・ウール・ゴウンの名に今誓おう。」

「なに…?」

 

アインズは何かおかしかったかなと焦る。

「アインズ様が、その尊き御名前に誓うと仰っているのです。これ以上の誓いはありません。」

アルベドの助け舟に心の中で感謝し鷹揚に頷く。

 

「そうか、だからか。君がその服も見た目も、なにかとスルシャーナに似ていた筈だね。」

「似ているだと?」

アインズは苛立たしい気持ちになる。

この見た目も装備も誰かを真似した事はないと断言できる。

何百何千とある外装を自分で選び、ビルドしたものだ。

 

「スルシャーナはひこうにんふぁんくらぶに入っていると言っていたよ。君を崇める宗教だろう?」

「何のことかさっぱりわからないな。」

本当にわからないアインズはますます苛立たしくなる。

 

「おかしいな。スルシャーナはアインズ・ウール・ゴウンのひこうにん魔王を崇め、それを真似てヒトからアンデッドの身になったと聞いたよ。そしてこの世界に渡ったと。」

神官達が「やはりスルシャーナ様は人の身から神に昇りつめた方だ」と興奮しているが今は無視する。

ツアーはアインズのそばまで進みつつ話した。

「初めて聞いたときは意味がわからなかったけれど、六百年経ってようやく分かった。君にはほかに本当の名前があるんだろう?アインズ・ウール・ゴウン。」

 

「待ってください。」

横に立っていたフラミーがふわりと岩から降りる。

「今アインズさんはアインズ・ウール・ゴウンを名乗っています。この名前はアインズさんの全てを守るという誓いです。」

そこまで大仰なものではないが、間違いでもない。

皆が戻ってきたら、きっとこの名を返して元の名前で再び生きていくことになるだろう。

それまではこの名を背負ってアインズは全てを守らなければならない。

 

「…君もえぬぴーしーではなくぷれいやーなのかな。」

ツアーの目の前まで進んでいくフラミーの後ろ姿から、アインズは目を離さなかった。

「プレイヤーです。悪いですけど、その名前は言えないですし、言わないでください。」

ツアーの前で立ち止まり、杖を握りしめるフラミーの瞳はアインズを全てから守ろうとでも言うようだ。

モモンガの名前が知られれば、真っ先にモモンガはプレイヤー達に狙われるだろう。

「…君はまるで従属神だね。良いとも。今日は漆黒聖典を追ってみて良かったよ、ゴウン。」

フラミーの頭越しに声をかけて来る。

「私のことはアインズと呼んでくれ。そしてこちらはフラミーさんだ。」

「そうかい。では、アインズ。そしてフラミー。まさかこんな所で今回の揺り返しを見つけるとはね。また会おう。」

 

そう言い残した鎧は後ろへ飛び上がって人々を越え、どこかへ向かって荒野を疾走していった。

アインズは敵対するとも友好的とも言えない竜の後ろ姿を複雑な気持ちで見送った。

 

「ニグレド、あれの監視はやめておけ。バレれば後が怖い。」

虚空に向かって呟いておくのを忘れない。

しかし、いつか仲間にできたら良いなとレア物収集欲が高まるのを感じる。

「…まずはお友達から、か。」

フラミーはアインズの声に振り返るとはははと笑った。

 

立ち去ったツアーの背中を皆呆然と眺めていた闇の神官長が一つ、早急に確かめなければいけない事を口にする。

「アインズ・ウール・ゴウン様。スルシャーナ様が貴方様を崇めていた事はよくわかりました。して、私たち闇の神殿に使えし者も闇の神官、ではなく、ひこうにんふぁんくらぶの神官と名乗りを変えた方がよろしいでしょうか。」

 

最悪だ。

 

それがアインズとフラミーの総意だった。

いや、スルシャーナも恐らくそんな事は望まないだろう。

 

+

 

法国へ行く約束はしたが、フラミーがその前にやることがあると告げて、ぞろぞろとカルネ村へ移動した。

 

遠くから聞こえてくるクアイエッセの狂信的な言葉の数々と、ニグンの初めて声をかけられたのは自分だと言う声、それに競うように村人達が自分達こそ神に選ばれ救われた者だという主張達に――アインズは既にこの選択は間違いだったんじゃないかと思い始めていた。

アインズとは裏腹に守護者達は上機嫌に小さな声でヒソヒソと何かを話してちた。

 

「さすがアインズ様…プレイヤーの中にもアインズ様を崇める者がいたんでありんすね…。」

「全くだねシャルティア。そしてアインズ様はこうなることを全てお読みになっていたかと思うと…私達ももっとお役に立てるように頑張らなくてはいけませんね。しかしあの従属神は全く。そんな事も知らなかったとは所詮は下賤の者ですね。」

「アア…我ラガ神ノ素晴ラシサヲモット多クノ者ニ知ラシメタイモノダ…。」

「ぼ、ぼくはもっとフラミー様の素晴らしさを皆に教えたいです!」

「あたしも皆フラミー様を軽んじてる気がしてちょっとムカつくかな!アインズ様が至高の御方々の中でも素晴らしいお方なのは分かるんだけどさ!」

「そうね、アウラもマーレも、勿論コキュートスの言うことも最もだわ。もっと知らしめましょう。そして、いつかはお世継ぎが必要になって!!あぁ!なんて素晴らしいの!!」

アルベドが暴走しかけるのをデミウルゴスが制し、なんとか乱れずにカルネ村に進む。

 

 

「フラミーさん…本当に俺このままじゃ神様なんですけど…」

ヴィクティムを大切そうに抱えるフラミーはそれが何か?と顔に書いてあるようだった。

「え?はい。神様ですね!これで一気に私達のアインズ・ウール・ゴウンが広まりますよ!」

少しフラミーと感覚がずれてきた気がする。

ヴィクティムがいる為、あまり踏み込んだ話ができない。

 

そして、カルネ村の墓地に着いた。

「やっぱり神話には復活がつきものですよ!」

神話など殆ど知らないフラミーが上機嫌に話す。

野次馬達は、墓地に対して人数が多すぎるせいで丘の上や木の上などさまざまな所からアインズとフラミーの様子を伺っていた。

ヴィクティムと多くの儀仗兵は村についてから一度転移門(ゲート)で帰還させた。

守護者達は僅かに離れた、いつでもアインズ達を守れる距離から様子を眺めた。

 

フラミーは失敗したくないと思いつつ、墓に向かって第九位階の真なる蘇生(トゥルーリザレクション)を使った。

その光景の神々しさに、村人達は言葉を失う。

 

しかし何も起こらない。

 

まさか、復活魔法は流石に使えないのか…とどうやってこの状況を誤魔化せば良いのかわからないフラミーはぐるりと聖典、神官、村人、と見回した。

すると目のあった人々が法国も村人も関係なく集まってきて、慌てて墓を掘り始めた。

あぁあ、やっちゃったと思うフラミーを余所に、生き返ったばかりで力が入らない様子の村人が土から引っ張り出された。

あたりは歓声に包まれた。

蘇生された者の家族は泣いてフラミーに礼を言い、這いつくばってその足に口づけをしようと近づくと、爆音と煙を上げてアルベドが村人の前に立ちふさがった。

「フラミー様は大切な作業をしておいでです。邪魔してはいけません。」

その言葉に納得し、村人はすぐに引き下がった。

 

村人の収穫だ。などと思いながら、フラミーは次々に人々を生き返らせ、墓地は掘り返されて行った。

これなら別に第七位階の蘇生(リザレクション)でも良いのでは、と欲を出すと、老婆は起き上がらないどころか灰となって消えた。

歓喜に沸いていた墓地に静寂が訪れる。

 

「か…彼女は…スルシャーナの下で仕えることを選びました。スルシャーナもまた、彼女を選んだのです。」

自分でも何を言っているのかよくわからない。

これではヴェルタースオリジナルだ。

 

しかし、勝手に皆納得していたのでフラミーは無視する事にした。

1/3くらいまでなんとか生き返らせた所で魔力がほとんど底をつき始めるが、まだまだ死者はいる。

一体何人殺したんだ陽光聖典。

忌々しい隊員達は喜びに聖歌を歌っており、幸か不幸かフラミーの視線に気づかなかった。

 

フラミーは疲れ果てた体でフラフラとアインズの元へ行くと耳打ちした。

「アインズさん、もういいですよね?これだけ大盤振る舞いしたんですもん。」

しかし、答えは非情だった。

「ダメですよ。フラミーさんももっと崇められる神様になってください。ほら、MPあげますから。シャルティアの分もあるんで全員行けます。さ、早く戻って下さい。」

アインズはフラミーの手を取ると自分の魔力を小さな器に大量に流し込んだ。

フラミーは魔力が戻ったと言うのに紫の顔を青くして戻って行った。

 

フラミーのテンションとは裏腹に、人々のテンションは上がり続けた。




非公認ファンクラブの神殿
非公認ファンクラブの神官
非公認ファンクラブの信徒
非公認ファンクラブ聖典

非公認ファンクラブの神官長様…それだけは…それだけはやめて下さい!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#20 法国の決定

夜明けから始まった会談も、ツアーの乱入やフラミーの蘇生作業によって、既に昼間になっていた。

 

魔力がすっからかんの一行は、伝言(メッセージ)でオーレオールに神都神殿前に続く大通りへと門を開かせたのだった。

 

現れた闇に呆然としている法国民達は、そこから現れた高位の神官達を見て安堵した。

そう言うことも、我らの神殿なら出来るだろうと納得したのだ。

見たことの無い部隊を引き連れ進んで行く様は人類の守護者然としていて、そんな行進を一目見たいと中心通りには続々と町の人々が集まってきていた。

 

しかし続いて現れた獅子の顔の天使、アンデッド、さまざまな異形に何が起きて居るのかとざわめく。

その後、闇の神官長と、南方の衣装に身を包む尻尾の生えている男が出てきて、それぞれ一言告げる。

「スルシャーナ様を教え導いた神々の降臨です。」

『我々が通り過ぎるまで跪きなさい。』

自然と膝をついてしまう自分の体に人々は驚くも、恐怖はなかった。

その様子に満足したように神官も男も再び進み出した。

現れたのは幾枚も重なり合う翼を持つ、紫の肌をした天使だった。

その美しさ、決して人ならざる者の威光に方々で感嘆の声が上がった。

その後から出てきた死の化身は、誰もが学校で習い、日々感謝を捧げてきた神そのものだった。

深く神々しい黒き後光を背負った――スルシャーナを導いたと言う神は威厳に満ち溢れた様子で、神とはこのように歩くのかと思わされた。

その後から再びアンデッドと天使が神を守るようについて出て来て、大神殿へと消えて行った。

その姿が見えなくなると人々はワッと声をあげ、抱きしめあい、今日という祝福の日に感謝した。

昨日闇の神殿と光の神殿に祈りを捧げに行った者達は、自分達こそ神を呼んだ敬虔な信徒であると声を高くした。

 

この日は"約束の日"と呼ばれ、後に魔導王と名乗るようになる神の神殿や、大聖堂へと必ず参拝に行く日となった。

そして誰もが一生に一度はお伊勢参り、ならぬ一度は"約束の地"参りを夢見た。

約束の地に建てられた神殿の中にある、美しく切り出された巨大な岩に触れると魔導王の叡智を分けてもらえると、世界でも指折りの聖地になる事を、今はまだ誰も知らない。

 

 

+

 

 

神と共にニグンはステンドグラスのハマった、自分の出立の時に土の神官長から指令を受けた"長の間"に来ていた。

跪き、神々の言葉を待つ。

 

「面をあげよ。」

自分はこれから断罪されるかもしれない。

それでも、最後にもう一度神の威光に触れられた事に心から感謝した。

「ここに、国を守り続けた具現した死の神(タナトス)を連れて来るのだ。」

神の言葉にざわめきが起きた。

スルシャーナの従属神のことを言っているのは確かだが、あの神は唯の一度も神殿最奥から出てきたことはない。

しかしNOとは言えない神官長達が、出て行く。

 

人の呼吸しか聞こえないその場に、従属神は現れた。

見たこともない剣を携えて。

 

「よく来たな、パン…んん。具現した死の神(タナトス)よ。」

「ンァインズ様。再び拝顔の栄に浴する事ができ、恐悦至極にございます。一日も早く、神々の城に戻る事を、どうかお許し下さい。そして、こちらを…。」

 

神々の居城へ帰りたいと願う従属神は、ようやく本当の自分を取り戻したかのように喜び、舞っていた。

差し出す剣をアインズが受け取ろうとするが――

 

「神よ!!」

 

神々の行いに口を挟むカイレに、ニグンは苛立った。

 

『だまり――』

「よいのだ、デミウルゴス。なんだ、カイレよ。」

 

「それは、六大神の残した、我らが神殿最奥を支える世界に匹敵すると言われる剣…。それを…どうされてしまうのでしょうか…。」

どうするもこうするも、神々の持ち物が神々に帰っただけだ。

神官長もやめないかと声を荒らげる。

ニグンは必要があれば今すぐこの老婆を殺す覚悟をした。

 

そして、フラミーが告げた。

それは死刑宣告のようにも聞こえた。

「破壊します。」

 

崩壊だ。

 

「それではこの神殿が壊れてしまいます!そうなっては法国の力が弱まったと森妖精(エルフ)に悟られその戦線は――」

カイレは壇上に控える双子の闇妖精(ダークエルフ)を視界に入れたまま、食い下がった。

神官長達もどうなってしまうのかとオロオロしたようにカイレを諌める事をやめ始めた。

堪り兼ねたニグンは我を忘れ神の御前だと言うのに立ち上がり、気付けばカイレに向かって指を指していた。

「貴様…!神のされる事に刃向かうと言うのか!!この神殿の崩壊を以ってこれまでの法国の罪を濯ごうと言う神々のご慈悲に気付けないような貴様が!これまで神殿の中枢にいたのかと思うとヘドが出る!!貴様には神の秘宝を身に纏う権利など、ない!!」

 

ニグンは既に誰よりも神の真意を悟るのに長けていた。

 

カイレの言い分も最もかも知れないと黙った神官長達だったが、成る程とニグンに加勢する。

 

「カイレ様。貴女様はニグンがあの約束の地で受けた神の洗礼を知らなかったのだから仕方ありません。我らは、ただただ驕っていたのです。」

 

ニグンは約束の地での事を思い出しながら深呼吸をし、特に優しく語り出した。

「自分たちは、神の前では無力な人間にすぎません。そこには権力も、生まれも、強きも弱きも、何一つ介在する隙はないのです。カイレ様。」

先ほどとは打って変わって――神の洗礼を受け、真意に近付いた者だけが浮かべる事を許されるような慈悲深い笑みにあふれていた。

 

「これまでの法国を壊していただきましょう。」

全員が破壊に納得した。

 

アインズは静まった室内に頷き、語る。

森妖精(エルフ)の国との事は心配する必要はない。今後あの国は、この二人が象徴となろう。そして邪王は地獄に落ちる。」

 

その淀みない言葉に、安堵の声が誰かから漏れた。

 

「私はこれから、人も亜人も、魔族も、全ての者たちが幸せに暮らす、そんな国を作る事をここに宣言する。」

 

神は、人だけを救うのをやめた。

 

+

 

翌日、法国中に触れが出された。

一週間後に大神殿の一部が崩壊するという事。

その日に法国は改名する事。

これまで法国の犯した罪の数々。

 

そして、神の再臨。

 

+

 

アインズとフラミーは約束の日の翌日から気晴らしの冒険者ごっこに出かけた。

「これは将来の王国統治の円滑化に必要なことだ」

そんなよくわからない言い訳は、下々の者に任せてくれと言う大反対に阻まれるが、今回もデミウルゴスの謎の魔法をもって事態は収束した。

冒険者組合では、フラミーが「何ですかこれ!?ファンタジーなのに読めない!!」と大声をだし、謎の森妖精(エルフ)語まじりの叫びに見兼ねた冒険者・漆黒の剣が冒険に誘い出してくれた。

そうして数日ゴブリンやオーガを狩り、野営をして、袋いっぱいの魔物の部位を詰めた一行は再びエ・ランテルに戻って来ようとしていた。

 

法国では聞こえてこなかったフロストドラゴンの話や、見たこともない魔法に二人は胸を躍らせた三日間だった。

「まだまだ見所がたくさんあって良かったですね!モモンさん!」

「本当ですね、俺、ちょっと法国で世界を知った気になってましたもん!」

夕暮れ、ハムスケと名付けられた大魔獣の背に乗る二人はエ・ランテルに戻りながらそんな話をする。

ルクルットが割り込むようにハムスケの下から声をかけてきた。

「二人は法国の出身なのか?モモンさんは南方の生まれかと思ったが。」

「そう言えば確か森妖精(エルフ)と戦争してましたよね?法国はもう勝ったんでしょうか?」

ニニャの何気ない言葉に慌ててペテルが頭を下げる。

「ニニャ!すみません、冒険者の癖というか、つい新しい情報を求めてしまうんです。プラムさん、気を悪くしないでくださいね。」

「え?あ、良いですよ。私は別にエイヴァーシャーの生まれじゃありませんし、別に森妖精(エルフ)達が負けても関係ないですから!」

見たことのない残酷な表情に、やはり地雷だったと漆黒の剣は頭を下げた。

 

 

とっぷりと日が暮れ、エ・ランテルの城壁門にたどり着けば、そこには長蛇の列が伸びていた。

「誰か!!この中に冒険者はいないか!!」

衛兵達の声に最後尾に並んでいたモモン達は顔を見合わせた。

二人の心の中は「ドラマで見る"お医者様いませんか"だ。」と緊迫感がまるでなかった。

「我々は漆黒の剣、冒険者です、何があったんですか?」

ペテルの問いに衛兵はその後ろの大魔獣を連れているのかと期待を持って応えた。

「中でアンデッドが大量に湧いているんだ。減るどころか次々と数が増えて行くせいでめちゃくちゃだ!頼む!加勢に行ってくれ!」




ニグンさん、お利口さんだな〜!

次回、神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国

2019.05.20 ふまる様誤字修正ありがとうございます!
2019.06.04 kazuichi様 誤字報告ありがとうございます!適用させて頂きました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#21 神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国

クレマンティーヌはついに法国は狂ったと思っていた。

スルシャーナを超える神の再臨なんて夢物語だ。

 

「ん?お前、クアイエッセに似ているな。」

「…やっぱり法国の関係者なんじゃーん。そうだよー?私は元漆黒聖典第九席次、クレマンティーヌ。覚えなくってもいいよー。だって、今日ここで死んじゃうんだから!!」

そう言ってクレマンティーヌは勢いよく飛び出し――

『止まりなさい。』

地面と激突するように無様に転んだ。

「な!?何なの!?」

カジットと戦っていたはずの森妖精(エルフ)がこちらを見下ろしていた。

 

「モモンさん、今地下に降りたら半裸の男がこれを。」

その手には、叡者の額冠があり、そして体の陰から青年の死体を放り出した。

「煩かったので殺しました。なんでこの世界の人は陰部を晒しがちなんですか?」

その声は明確な苛立ちをを含んでいた。

「ちょっとちょっと!あんた慈悲ってもんがないの!?」

きょとんと首をかしげる森妖精(エルフ)は心底何とも思っていない様子だ。

すると、戦士が口を挟んできた。

「んん。プラムさん、その子は多分懸賞がかかってた薬師の子です。勿体ないことしちゃダメじゃないですか。」

クレマンティーヌが言えた義理ではないが、こいつらは命を命と思っていない。

「あ、この子がそうでした?写真とかがないからわかんなかったです…。あ、パンドラズアクターがお出かけしてた間カメラの製作って滞ってますよね?」

よくわからない関係ない話を始めてしまった。

土が口に入ってきて気持ちが悪い。

 

「とりあえずお願いしますよ。随分良い金額出てたんですからね!名声にも繋がりますよ!」

「モモンさんと遊ぶためのお金じゃ、仕方ありませんね!」

そして青年は輝き、森妖精(エルフ)はローブを激しくはためかせた。

その時クレマンティーヌは確かに見たのだ。

 

とっとと国を見限ってよかったと、国は狂ったと、ずっと思っていた。事実そのはずだった。

 

煌めく翼、息を吹き返す死者、そして戦士が手の中で兜を消すと――そこには白磁の輝き。

 

間違っていたのは自分なのかもしれない

 

 

+

 

 

「と〜の〜〜!!ひ〜め〜〜!」

ハムスケは二人の元へ走る。

「あ、ハムスケ!」気付いたプラムもハムスケへ両手を広げて駆け寄り、顔を抱きしめた。

「可愛い可愛い!ハムスケかわいいね〜!」

よしよしと撫で付けてくる優しい感覚と、メスとして褒め称えられる気持ちの良さにふふんと得意げな顔をしてから尋ねる。

「姫、殿は…?」

「今は神さましてるから、ここで待ってようね!少し記憶を覗いて書き換えたら戻ってくるからね。」

意味はよくわからないが、モモンに跪く薄着の女の姿があった。

 

「殿は誠に偉大なお方でござるなぁ。」

 

+

 

ンフィーレアを横抱きにしたモモンと、ハムスケに横乗りになるフラミーの凱旋は町中の大歓声をもって迎えられた。

 

しかし、町はボロボロで、いまにも倒壊するのではと危ぶまれるような建物がいくつもある。

木造建築はアンデッドの行進の前には無力だった。

そして多くの者が怪我をしたり命を落としたりした。

全くの無傷でいられたのは、門の外で足止めをされた商人達くらいのものだった。

 

漆黒の剣の面々が駆け寄ると、モモンと共に生きて再会できたことをひとしきり喜んだ。

その後、モモンが墓を突破して行く凄まじい剣技、魔獣を従えた威風、プラムの見事な魔法――それらはあっという間に漆黒の英雄としてエ・ランテル中に広がった。

 

事態の収拾に喜んだのもつかの間、国王直轄地エ・ランテルの長きに渡る都市再建が始まる。

家を失った人々は雨に打たれ、殆どの店が崩壊した街では商売も立ちゆかなくなり、その凄惨な状況に王国の貴族派閥はどんどん力を増していくのだった。

 

+

 

エ・ランテルでの出来事を聞いた守護者は瞠目した。

転移して数週間、次の都市での名声を欲しいままにした主人達の偉業に、果たして自分たちはどれだけ役に立つことができるのかと焦る気持ちをもって。

 

「で、でも…人間達の中で名声を高めてどうするんですか?」

マーレの素朴な疑問に今度は支配者達が焦った。

 

「デミウルゴス、マーレに教えてあげなさい。」

 

その言葉にデミウルゴスは立ち上がる。

「今後アインズ様の勢力範囲は法国のみならず――」

「魔導国。デミウルゴス、魔導国よ。」

アルベドの横槍に悪魔は頭を下げた。

「これは失礼しました。大神殿の破壊とともに魔導国へと改名されるその国、のみならず、アインズ様は王国も早々に手に入れるための布石を打たれたという訳です。そして――」

続くデミウルゴスの解説に「そいつぁーすげーや!」と思うアインズと、「アインズさん、そこまで考えてたんだ!さすがギルマスだなぁ!」とすれ違い始めるフラミーだった。

 

その後、双子は魔導国改名後エイヴァーシャー大森林へ派遣されることが決まった。

同時にコキュートスは蜥蜴人(リザードマン)の集落へ、デミウルゴスは聖王国付近へ、

シャルティアは地表に近い階層と言う事もありアルベドとともにナザリックの警護運営を任されたのだった。

皆、何か困ったことがあればすぐに情報共有を行い、助け合うように言い添えられて。

 

+

 

大神殿破壊の日――新しい、神の上に立つ神の降臨によって始まる時代に道行く誰もが希望に溢れている。

 

神官長達の挨拶が始まる通行止の大通りには国中から人が来たのではないかと思うほど多くの人でごった返していた。

最後の闇の神官長は、スルシャーナがアインズ・ウール・ゴウンを崇拝するひこうにんふぁんくらぶという神々で構成された組織の一員だった事を申し述べ、神官長の列に戻った。

 

侵入禁止の、大神殿の前に闇と光が現れる。

 

そして、腰から黒い翼を生やした聖母のごとき笑みを浮かべた美しき従属神――いや、守護神が剣を持って現れ、御前に浮かべると、頭を下げて裾にはけていった。

 

「これより、古き時代と法国の罪を灑ぐ。」

 

その声はどこまでも遠く、誰の耳にも届いた。

 

アインズは魔法攻撃力を上げる魔法達を次々と唱え始める。

脇に立っていたフラミーもアインズに向かって攻撃力に寄与する魔法をかけ続け――最後の魔法を、期待を込めて送り出した。

フラミーが剣と改めて向き合ったアインズから少し離れると、アインズは杖を前に掲げ、渾身の魔法を放つ。

 

現断(リアリティスラッシュ)

現断(リアリティスラッシュ)

現断(リアリティスラッシュ)

 

壊れるまで続ける。

まるでそれは、そう簡単には灑ぎ切れない罪と向き合う、神聖な儀式のようだった。

 

当のアインズは思ったよりもギルド武器が硬く、早く壊れてくれと心の中で祈っていた。

 

+

 

そして、剣は割れ、光の中砕け散ると――同時に法国神殿は地響きの中崩れて行った。

 

これで法国は許された。

 

今日この時をもって、スレイン法国は神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国へとなったのだ。

 

早馬が各国へ発つ。

スレイン法国の改名と、新たな国のトップの降臨を伝えるために。

 

「おめでとうございます!アインズさんっ!」

ワッと駆け寄ってくるフラミーにアインズは振り返った。

「あ、ありがとうございます。頼みますよ、俺一人じゃ王様も神様も…務まるとは思えないんですから。」

「ははは。神様が早速泣き言ですか?大丈夫ですよ。ずっと一緒にいますから。」

そんなことを言っていると、アインズの体が光り出し、軽く浮かび上がった。

 

神官長も国民も跪きながら、忘れたくないとその姿を目に焼き付ける。

漆黒聖典の末席に戻ったクレマンティーヌは兄、クアイエッセと抱き合って喜び合っていた。

隊長の脇で言葉を交わすチャンスをもらえずに不貞腐れていた番外席次もその姿を忘れないようにと手を前に組んで、まるで敬虔な信徒が祈るようにアインズを見つめ続けた。

 

「あ、アインズさん!?」

強大な何かを破壊すると輝きの中どこかに消えて行ってしまうと言うのは異世界転移もののお約束だ。

「ま、待ってください!行かないで!!」

このままではアインズが消えると思ったフラミーがアインズの脇腹に抱きつく――いや、締め上げると、アインズの光は、収まった。

「あ、あの、フラミーさん?」

慌てて離れるフラミーはマゴマゴと何かを違う違うと言っていた。

「はは、あの、どうやら、どのクラスに反応したのか分かりませんけど、俺強くなったみたいですよ!」

その言葉を聞くや否や、フラミーはやっぱりアインズの首に飛びついた。

「おめでとうございます!おめでとうございます!!これでアインズさん、タッチさんを超えたんですね!!」

ワールドチャンピオンを超える存在になった、本当にそうなんだろうか。

「わかりませんよ、それはタッチさんがこっちにきて、俺と戦って初めてわかることです。」

ふふと笑ってフラミーの背中を軽く抱きしめ、一回ポンッと叩くとアインズはその身を下ろした。

「でも、これで守り切れるはずです。フラミーさんも子供達も!」

その言葉にフラミーは目を細めた。

 

闇の神を、光の神が祝福するその姿は画家達の定番のモチーフとなり世の中に大量に出回る。

それを見たフラミーとアインズが頭を抱えて唸り声を上げるまであとわずか数ヶ月。

 

+

 

土煙を上げながら崩れ去った旧法国神殿を背に、アインズは国民へ口を開く。

「我が民よ。これよりすべての生あるものはアインズ・ウール・ゴウンの庇護の下、繁栄の時を迎えるだろう!!」

 

守護者も、神官も、衛兵も、町の人々も歓喜に声を上げた。

 

アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!

アインズ・ウール・ゴウン万歳!!

 

その唱和に、初めてこの世界に来た時のことをアインズは思い返したのだった。

 

そして――

「ここで生きていくんですね。」

脳裏によぎったフラミーの言葉。

 

(皆があっと驚くような成果を上げて見せる。そして皆に言わせるんだ、ここで生きていくと。)

 

アインズは拳を固く握り締め、それを掲げた。




やったー建国できたよモモンガさん!

ンフィーレア君、ギリギリノトコロヲ助ケテ貰エテ良カッタネ。
きっとすぐに彼も元気になりますとも!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

試される王国 #22 閑話 カメラの完成

その日ツァインドルクス・ヴァイシオンは、新たな国の建国の報を複雑な気持ちで受けた。

「まぁ、法国らしいと言えば法国らしいかな。」

「それでどうするんじゃ?」

ツアーは老婆の声に頭をあげた。

「それがね、アインズはどうやらぎるど武器を破壊したようなんだよリグリット。」

リグリットがツアーの体の向こうのギルド武器を見ようと視線を動かした。

「ぷれいやーの中にはギルド武器の破壊で強大な力を持つ者がいるとスルシャーナは言っていた。だから、僕はこうして八欲王のぎるど武器を守ってる。彼らは太古の昔、世界を渡る前は皆無垢なヒトだったんだ。力を持てば欲が出る。」

「つまり八欲王の再来になってしまうと…。」

そう言いながら、リグリットは八欲王や、スルシャーナ、そして今回現れたアインズ・ウール・ゴウンがかつてヒトだったとはあまり信じていない様子だ。

「そうだね…。取り敢えず近いうちにもう一度行ってみようかな。約束の地とか呼ばれるようになったあの場所に。」

 

 

+

 

 

ここ数日神で王という謎の職業に従事していたアインズは日々ストレスが溜まって行っていた。

「フラミーさん!!もう我慢なりません!!」

その声に顔を真っ赤にしたアルベドは興味津々だ。

「な、大きい声出してなんですか?欲しいなら早く言ってくれればいいのに。」

副料理長から今日もお弁当のクッキーとサンドイッチを受け取っていたフラミーが驚きながら、副料理長に追加のクッキーを頼むと副料理長は慌ててクッキーを焼きに飛び出して行った。

「そんな話をしてるんじゃありませんよ!!良い加減にそろそろ――」冒険に行きたいんですよと最後まで言わせずにノックが響き、アルベドが外と取り次いだ。

「お話中申し訳ありません。パンドラズアクターが、アインズ様とフラミー様に、約束のものをと。」

アインズもフラミーも飛び上がる。

「なに!パンドラズアクターがついにやったか!!すぐに入れろ!!」

 

恭しく入ってきたパンドラズアクターはソファに掛け直したアインズに挨拶をした。

「ンァインズ様、フラミー様に置かれましては本日もご機嫌麗しゅう存じます。して、ご希望のものが完成しましたので、本日はお持ちいたしました。」

アインズは良い気分転換が来てくれたと初めてパンドラズアクターに心から感謝した。

本当は冒険者をしに行きたいところだが日々の忙しさと、滅茶苦茶になってしまったエ・ランテルの仕事の少なさに早速出鼻をくじかれていたところだった。

しかし外貨はンフィーレア救出の報酬でそこそこ獲得できた為――もう辛抱堪らんと思ったら組合を通す必要はあまりないかもしれない。

 

パンドラズアクターが華麗に取り出した、かなりの大きさのあるカメラを受け取りきゃいきゃい喜ぶフラミーを見ていると、多少もやもやとした苛立ちが和らぐのを感じる。

「フラミーさん、それで、まずは何を撮りますか?」

「うーん、そうですね。テストで…あ、ズアちゃん、アインズさんの隣に並んでください。」

少し前にシャルティアがパンドラズアクターをズアちゃんと略してから*と言うもの、フラミーはすっかりその呼び名にはまっていた。

「ズァッ…はい。フラミー様。それでは、ンァインズ様失礼致します。」

並んだ二人に向かって、フラミーが「はーいちーず」とリアルではお決まりの掛け声をかける。

意味は分からないが写真を撮る合図だと察したパンドラズアクターは一人掛けソファに優雅に腰掛けるアインズの隣で敬礼をした。

 

チャカっジーーーーー。

 

なんともレトロな音が響き、出てきたのはB5ほどの大きさの羊皮紙に見事白黒印刷された写真だった。

この羊皮紙はエイヴァーシャー大森林で働く双子の手助けをしながら、その傍でデミウルゴスが両脚羊からはいで送ってくるものだ。

クリーム色のそれに印刷された写真はどこか古めかしく、エモーショナルな仕上がりだ。

 

「こちらのカメラは魔法詠唱者(マジックキャスター)にしか使えないマジックアイテムでございますので、実を申しますとこれが初めての撮影でした。勝手に至高の御方々に変身するのも不敬かと思いまして。」

「素晴らしい!よくやったぞ、パンドラズアクターよ!」

「ほんとすごいです!ご褒美あげましょう、アインズさん!ズアちゃんは何が欲しいですか?」

フラミーの提案にパンドラズアクターは背中にぶあっと薔薇を舞い散らせ、フラミーの手元のそれを指し示した。

「畏れながら…アインズ様とのツーショット!!そちらを頂きたく存じます。はい。」

「え?こんなのでいいんですか?」

フラミーはそう言ってパンドラズアクターに写真をペラリと渡した。

 

「ふ、フラミーさん…こんなのって…。」

「あ、いえいえ!ご褒美にお父さんとの写真が欲しいなんて、もっとあるんじゃと思ってしまって!」

あわあわと言い訳をするフラミーに、アインズが落ち込んでいるとアルベドから大声が掛かかった。

「デミウルゴス!!が、帰還いたしました。」

不愉快な気持ちを抑えようとしているのを感じ、アインズは僅かに動揺した。

「あ、はい、んん。入れろ。」

 

頭を下げて入ってきたデミウルゴスの視線がギャンッとパンドラズアクターの手元のものに注がれる。

フラミーもアインズもヒィと小さな悲鳴をあげた。

パンドラズアクターは創造したアインズと同じく表情はないが、"ほくほく"といった様子だ。

「双子より、エイヴァーシャーの邪王をこちらへ送って良いか、と、ちょうど聖王国より戻った所で連絡が来ました。御許可を頂きたく。アインズ様。」

いつも通りの雰囲気で頭を下げるデミウルゴスだが、尻尾が今にも絡まろうとする様や、オールバックの額に浮かび上がる血管が少しもいつも通りではなかった。

 

「そ、そうか。あれは高位の存在だし殺すのは惜しい……あ、そうだ。」

アインズはパンドラズアクターの持つ写真を示した。

「これのように、いい皮が取れるかも知れんな…。その者をナザリックに入れる事を許可する。そいつは双子の教育に悪いからな、デミウルゴス。お前が実験等を行え。」

「かしこまりました。それでは御前失礼致します。」

頭を下げたデミウルゴスが早々に立ち去ろうとすると、フラミーは悪魔を引き止めた。

「で、デミウルゴスさん!」

「はい。フラミー様。」

「デミウルゴスさんも、せっかく良いところに来たんですから、一緒に写真、撮っていきますか?」

アルベドとパンドラズアクターから驚愕の声が上がった。

「ふ、フラミー様…?パンドラズアクターはそのカメラなるアイテムを作った褒美にアインズ様との尊きお写真を下賜されたのですよね…?何もしていない(・・・・・・・)デミウルゴスには分不相応なのでは…?」

「あ…そうか、いや、そ、そうですよ?えっと、だから、アインズさんとではなく、私との写真です。あ、それにこのカメラが印刷している紙はデミウルゴスさんのお手柄ですからね!うんうん!」

「何と!素晴らしいお言葉をありがとうございます。アルベド、これなら異論は無いね。それでは、失礼させていただいて…。」

そう言っていそいそと身なりを整えながらフラミーの横に並ぶデミウルゴスの様子に、アルベドが殺意を込めたような視線を送る。

「…あー、それでは私がシャッターを押そう。はい、二人ともこっち向いてー。はい、チーズ。」

 

チャカっジーーーーー。

 

手を前で軽く合わせるフラミーの斜め後ろで、にこりと目を細めるデミウルゴスが写っていた。

フラミーはその写真を見て、思った。

 

やっぱり私のアバター可愛すぎる、そして悪魔のコンビはカッコいい。と。

 

「すみません、アインズさん、私の分も撮ってもらって良いですか?」

「「「「えぇ!?」」」」

アインズ、アルベド、パンドラズアクター、デミウルゴス、果てはメイドに天井のアサシンズまでもが声をあげた。

「え?あの、ダメ…ですか?」

印刷されて出てきた写真を一緒に囲むように眺めていたデミウルゴスをフラミーは見上げた。

想像より近い距離にデミウルゴスは狼狽えて二、三歩後ずさってしまった。

「え!?だ、いや、ダメなわけありませんとも!んん。アインズ様、畏れながら、も、もう一枚、お願いいたします。」

膝をついて、震える両手でカメラをアインズに差し出すデミウルゴスに、あぁ…と生返事をしたアインズがカメラを受け取る。

 

そして、さっきと違って宝石の目を開いたデミウルゴスと、若干ドヤ顔のフラミーの写真が撮れたのだった。

 

「おぉ!これは素晴らしいものだぁ!!」

写真を見て声を上げるフラミーに、デミウルゴスは自分の分の写真を胸に抱え、深く深く頭を下げてから退室した。

カラー印刷を所望する御方々の声が、扉が閉まるまでの数秒聞こえた。

廊下で写真をしばし眺めると、右手薬指の指輪をそっと撫で赤熱神殿に帰還した。

 

そのあと、副料理長が慌ててクッキーをカゴいっぱいに入れて戻ってくると、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)に引きずられてアルベドがどこかへ連れて行かれるところだった。




*不死者のohの最新巻、特に外堀を埋めるお話のおかしさにしばらく笑ってました( ̄▽ ̄)はははははははは

2019.06.04 kazuichi様 誤字報告ありがとうございます!適用させて頂きました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#23 世界を穢す力

法国の早馬から受けた話に絶句した帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは書状を机に放り投げていた。

ばさりと散らばるそれをロウネ・ヴァミリネンが集め、整える。

 

「なんだこれは。信じられるか、闇の神と光の神の再臨だそうだぞ。」

「まーやっこさんらはちーと変わってますからね、元から。」

呆れたようなジルクニフに雷光バジウッド・ペシュメルが応えた。

鮮血帝からはははと上がる声は信頼する者達しかいない為か優しげだ。

「よし、とりあえず法国…いや、神聖魔導国か。ここには祝いの品をいくらか送っておけ。中身は任せる。ああ、存在するかは分からんが神への貢物も忘れるなよ。」

頭を下げ手元のメモにロウネが書き留める。

 

「それで、今年の王国との戦争だが…」

ジルクニフの真剣な面持ちに皆姿勢を正した。

 

+

 

法国の大神殿の残骸の撤去と、残った大神殿と合体させるように作られる大聖堂建設はアインズから齎された労働力によって急ピッチで進んでいた。

多くの死者の大魔法使い(エルダーリッチ)達の指揮の下、働くはスケルトンに多数のゴーレム。

音の出ない作業は夜でも関係なく行われて行った。

闇の神、アインズ・ウール・ゴウンを頂点に戴くこの国で、その神が生み出したアンデッドに最初怯えはしたが、忌避感を持つものはいなかった為、民達は代わる代わる物珍しそうにアンデッド見物をしていた。

 

そこには初めて見る「建築計画概要」「建築許可証」という看板が立っており、中には働く人間の「労災と神官による回復」についてや、どこの大工達が共にとりかかるのか、いつ生み出されたアンデッドが何体いるのか、地下空洞を埋める地盤の補強、大体の工期など初めて聞く言葉も交えながら、詳しく書かれていた。

神の行うことに間違いなどある筈もなく、神聖魔導国では神殿への建築計画の提出が通らなければ建物の建築ができなくなった。

全てはフラミーの「素敵な街だったら維持させたいですね」と言う一言から始まったことだった。

いち早く景観を守る建物作りが義務付けられた神都はいつまでも美しくあった。

 

正面に建築され始めた建物は日々の礼拝ができ、時には神との謁見も可能な大聖堂を予定しており、太陽が最も長い時間当たる位置には美しいバラ窓がはまる構想だ。

鍛冶長の妙技によって生み出されつつあるそのステンドグラスは、リアルでは大抵中心にイエス・キリストが入っているが、もちろんそこにはアインズが。

その周りの八つの丸い窓はナインズ・オウン・ゴールの最初の九人の、アインズを除いた残りの者達を。

そして、周りを囲むように十二人の者達、さらにその周りをフラミーを含む残りの二十人が、加入順に収められていく事を予定している。

その下には守護者達の姿が縦に入り…正面にはアインズ像とフラミー像。

そんなパースに、フラミーはとても満足していた。

 

アインズに、せっかくフラミーの所望で作るバラ窓に、ここにいるフラミーが真ん中から遠いのは如何なものかと言われたが、意味やストーリーのあるものの方が後世に語り継がれやすい、せっかく三年もかけて建てるそれは嘘偽りのないアインズ・ウール・ゴウンの物語で作りたいと本心から断った。

鍛冶長や共に立ち会った多くの法国の設計者達、最古図書館(アッシュールバニパル)の司書達が既存物件の破壊一週間前から練りに練って提出された設計図には、長く深い奥行きと、高い天井、そしてバラ窓。

破壊時に残った神官長達の部屋や神官達の出勤する部屋のある大神殿と新設の大聖堂はうまく繋がれ、デザインも実用性も新旧合わさった優れた設計だ。

――神官達の部屋は若干減ったが、四大神信仰はこれにてお取り潰しとなる為問題はないだろう。

各小都市に残るれぞれの四大神の建物は順次役所を兼ね備えた闇か光の神殿へとなっていく。

 

魔導国を象徴するに相応しい美しい建物となるだろう。

フラミーは完成予定の三年後へと想像の翼を広げる。

人間もアンデッドも亜人も異形も竜も関係なく、多くの者達がここへ集う様が見え、フラミーは設計図で口元を隠すようにふふ、と笑った。

その後、完成に至るまで実に三年間。

フラミーは週に一度はここに来て、働く神官達やアンデッド、三日に一度は建材を生み出しに来るマーレなど、日々進む建築の写真を撮って行った。

フラミーが現れるたびに周りの人々は傅き、熱心に平和への感謝を送った。

大聖堂へ行けば運がいいと神と目見えると評判になり、実際に多くの者達に愛されるようになるその大聖堂には、フラミーの撮り続けた写真が後世展示される。

それを見た人々がマジックアイテム・カメラを作ろうと躍起になるのはまた別のお話。

 

+

 

王国にはいつもよりも少しだけ早いこの時期にカッツェ平野での戦争の書状が届いた。

帝国から届いたそれには――エ・ランテルの状態を知っているようで、今年で決着を付けると言わんばかりの雰囲気の文章が綴られている。

王は頭を抱えていた。

 

今年はそれだけでなく、旧法国…神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国から、貧困と生活困難に喘ぐ民を助けるためと称しエ・ランテルとカルネ村付近の割譲を要求されていた。

そして、そもそもそこは旧スレイン法国の持ち物なのだから正当な所有者への返還だとも。

 

「戦士長殿のいう通り、確かにアインズ・ウール・ゴウンと言うものは王だったようですな。」

そう吐き捨てたのは果たしてどの貴族か。

「しかし戦士長の言うには、旧法国の手先のものが村々を襲っていたのだろう?それを旧法国の王が助けた?全くとんだ笑い話だ。」

「考えてみれば少なくともカルネ村を攻撃されているのですから、こちらから法国…んん。失礼。神聖なんたら国でしたかな?それに攻め入ってはいかがでしょうか。」

忌々しげに語らう貴族達に、年老いた王が諌める。

「やめよ。今は目の前の帝国との戦じゃ。」

 

そうは言ったが、正直エ・ランテルは今住んでいる者達も食事に困るような有様だ。

いつものようにそこを中継地にして戦争へと行くと言うのは無理がある。

逆に兵糧を町の者たちに配れば王への支持は高まるが、他の貴族は自分の領民に食わせない気かと反対してくるのが目に見えている。

もはや八方塞がりだ。

それでも、やるしかない。

 

「いつもの通り、帝国をあの平野で迎え撃とう。準備を進めるのだ。」

 

王の号令は弱々しかった。

 

+

 

それから数週間が過ぎ、開戦したがその年の戦争は実に悲惨だった。

王国の兵は敗走したが、その先に待つものも、ボロボロのエ・ランテルだった。

今まではカッツェ平野だけで行われていた戦争は、じりじりとエ・ランテルに近付いてくる帝国兵の様子からいって、これでは終わらないだろう。

 

ガゼフはこの不毛な戦争に付き合わされて死んでいった無辜の民を思い、血が滲むほど手を握りしめた。

そして、帝国兵に囲まれているせいで――急激に増えた人口に耐えきれず悪臭が漂い始めていたその都市を、一体どうしたら救えるのかと考えを巡らせる。

王だけでも先に逃がしたい。

しかし、どの問題にもいい案は何一つ浮かばなかった。

もっと色々学んでくればよかったと、ガゼフは剣しか知らない我が身をいくら呪っても呪いきれなかった。

 

誰もが疲労困憊と言う雰囲気の中、旧法国のものだと分かる装束に身を包んだ一行と、てんでバラバラな見た目の団体が帝国兵をすり抜けてエ・ランテルへの入国を申し入れてきていた。

国名改名の書状にあった奇妙な紋章の織られた見事な旗を掲げて。

 

帝国との戦争状態に臆することもなく進んできたその厚かましさに、王は笑うしかなかった。

 

このままエ・ランテルを寄越せとでも言うのだろうか。

帝国も今、わざわざ戦争をしてまでこのエ・ランテルを欲していると言うのに。

 

神聖魔導国の使者と門番が入れろ入れないの押し問答をしていると、遠くから地響きが聞こえてきた。

城壁の上高いところにいた者達が口々に叫ぶ。

「なんなんだあれは!?」

「山が歩いてる…!?」

「よく見ろ!!木だ!!枯れ木が歩いてきてるんだ!!」

低いところにいる帝国兵は地響きとその異様な様子にただただ戸惑っていた。

 

+

 

ツアーはリグリットとともに"約束の地"を訪れ、アインズとフラミーのことを考えていた。

「神聖魔導国を君達はこれからどこへ導いて行くんだ…。」

その呟きはツアーの本体が発したもので、鎧は何も言わずにリグリットとその巨石を眺めていた。

「ツアー、こんな物を投げつけたゴーレムを操るアインズ・ウール・ゴウンがもし邪悪なものだったらわしらは…。」

 

するとその言葉に呼ばれたかのように邪悪な気配がツアーとリグリットを襲った。

広がるトブの大森林の先に、その木はいた。

ツアーは確信する。

「世界を汚す力――…。」

進行方向は、エ・ランテル。




https://twitter.com/dreamnemri/status/1126790988205371392?s=21

大きな薔薇窓と大聖堂、皆さまお気づきかと思いますが、ノートルダム大聖堂イメージでした。
フランスとシンガポールしか殆ど渡ったことのないジッキンゲンは、大聖堂や大神殿というとすぐにフランスにあるゴチック建築が思い浮かびます。
皆さんに見せたい欲が爆発してわざわざアカウントをとって写真をツイートしました( ̄▽ ̄)はははは

https://twitter.com/dreamnemri/status/1126793752360525824?s=21
こんな廻廊があったらもう堪りません。

ノートルダム大聖堂の一日も早い復旧、復興をお祈りします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#24 破滅の竜王

破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)…」

呟くは漆黒聖典隊長。

「なんだ!?なんだそれは!あれを知っているのか!」

 

さっきまで押し問答をしていた門番や衛兵が救いを求めるような眼差しを向けてくる。

 

「いえ、私達も詳しいことは何も。そうか…魔導王陛下はあれの出現を予見されたために我々を…。」

神聖な何かに触れようとするように顎を上げ、目を閉じる隊長に横槍が入る。

「じゃあ早くあれを止めてくれよ!!」

命の危機を前に手段を選んでいられない衛兵がそちらを指差す。

隊長は少しの苛立ちをもって薄眼を開けると、無作法な男を横目で睨め付けるように見遣った。

他の隊員たちの視線も冷たい。

「な、なんだ、なんだよ!」

「助けてくれるために来たんだろ!!」

騒ぎ始める衛兵に隊員達はやれやれと言った風にため息をついた。

王国の国民性が見えるようだ。

 

「静まれ!」

硬質な男らしい声音が響き、人を掻き分けて王国の秘宝に身を包んだ偉丈夫が現れる。

「君たちは…。」

「これはガゼフ・ストロノーフ戦士長殿。カルネ村では(・・・・・・)うちの陽光聖典が大変失礼しました。」

さっと頭を下げる隊長にほかの漆黒聖典隊員達も続く。

「やはりそうか…。いや、それで、神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国の皆さんはあれを知っているのかな。」

ガゼフは自分の感情を読ませないように魔物に目を向けた。

魔導国はカルネ村のみの襲撃を認めて、残りの村の焼き討ちについては歴史の闇に葬ろうとしているようだった。

 

「先ほども申しました通り、詳しいことはわかりません。占星千里。」

「は。私は漆黒聖典第七席次、名は伏せさせて頂きますが、占星千里とお呼びください。」

ガゼフがうむ、と頷き先を促す。

「あれは恐らく私の占いに出た破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)で間違いないかと。世界を壊す力を持つものの復活を少し前に読み()ました。」

「…それが…あれだと言うのか…。」

 

魔樹はその巨大さからは想像もつかないような素早さを持つらしく、どんどん近づいてくる。

 

「戦士長殿…。」

その声は人類国家最強の戦士ならそれを倒せるのでは?と言う希望と、あんな化け物と渡り合える生き物なんてこの世にはいないと言う理性の混じり合った複雑そうなものだった。

 

すると、まだまだ遠くにいると思っていた魔樹の持つツルの一本がエ・ランテルへ向かって目にも止まらぬ速さで振るわれた。

まだエ・ランテルには届かなかったが激しい地響きと共に、王都へ続く街道がごっそりと抉られ無くなる。

表でエ・ランテルを囲んでいた帝国兵を指揮する帝国第二将軍ナテル・イニエム・デイル・カーベインが帝国兵数名を伴ってこちらへ向かって来ているのがガゼフの視界の端に入った。

 

「陛下だ、陛下にお伝えしろ!!あれは止められん!!」

漆黒聖典第八席次、巨盾万壁と呼ばれる大男が叫ぶ。

ガゼフは一瞬ランポッサⅢ世の事かと思うが、すぐに誰を示す言葉なのか思い至った。

「しかし、陛下をお呼びして万一陛下に何かあったら…!」

「一人師団の言う通りだ!我々はせっかく取り戻した陛下を失えない!」

時間乱流も反対する。

 

すると、一台だけ引き連れていた馬車から十字槍に似た戦鎌(ウォーサイズ)を握った――左右で髪と目の色が違う少女がふわりとおりた。

その戦鎌(ウォーサイズ)はあまりにも神々しかった。

 

「いけません、勝手に降りては!」

揃った装束に身を包む神聖魔導国の兵士や神官達が押し戻そうとするが、それの放った一言はまるで世界を凍らせるようだった。

 

「黙れ。」

 

ガゼフも決して届かぬ頂を前に衝撃で一瞬呼吸を忘れる。

周りには腰を抜かした王国兵と、帝国兵達がいた。

その顔にはここにも想像を絶する化け物がいたと書いてあるようだった。

 

「私が出るわ。神聖魔導王陛下とフラミー様を呼びなさい。全滅、いえ。絶滅したくなければね。」

 

有無を言わせぬ声音に誰かがゴクリと唾を飲む音がした。

いや、それは自分が立てた音かもしれないと誰もが思い直す。

 

「貴女は一体…」ガゼフはカラカラに乾いた喉から声を絞り出す。

 

「私は何者でもない。こんなところで敗北を知る事になるのかしら。ああ、陛下。初めては…」グッと足に力を込め――「あなたに捧げたかった!!!」

そう言い残すと、ドンッと音を鳴らし、ものすごい勢いで駆け出した番外席次に向かって魔樹が全てを薙ぎ払うようにツルを振るう。

あれだけ本体が近づいたのだ、今度はエ・ランテルにも届くだろう。

 

聞いたこともないような風切り音がしたかと思うと、番外席次とツルがぶつかり合う衝撃波がエ・ランテルを揺らした。

魔樹の足元近くでは、叫び、逃げようと走り出した者が、細く短いツルによってビッと言う音を残して粉々に吹き飛ばされる様があちらこちらで見られた。

蔓の先が赤く染まる姿は、まるで魔樹が怒りに狂い、燃え上がっているようだ。

ガゼフは数名の戦士を残して弾かれたように国王の元へ駆け出していった。

 

番外席次は何度も何度も、そう、何度もツルを弾いた。

その姿は誠神聖な戦乙女だった。

しかし、ついには叩き落とされ番外席次は城門を破壊しながらエ・ランテル奥深くに突っ込んでいった。

如何に九十レベル前後の番外席次とは言え、生きる中で漠然とクラスを習得、積み上げてしまったそのビルドは――ユグドラシルプレイヤーが確認すれば発狂するようなものだ。

 

番外席次、人類の切り札が手も足も出ない魔樹を誰が止められると言うのだろうか。

ツルによって押し潰されるように城門の破壊が進む…。

それに至るまでに帝国の騎士も王国戦士も多くが殺された。

そして城壁付近でモタモタしていた一般市民も。

 

隊長はカイレを呼び出せば、と少し思ったが、あれに有効範囲まで近付ける訳がないとすぐにその思い付きを破棄し、その手の中のボロボロの汚らしい槍――神々の最秘宝を握りしめた。

これを使えば、もしや――。

しかし伝わる伝説は

曰く、相手を絶対に消滅させることができる

曰く、相手と使用者が消滅する

曰く、相手の力を生まれた頃まで戻すことができる

曰く、神をも殺す力を持つ

――どれも不確かすぎる。

 

確かなことは、これが絶大な力を持つ事と、使用すれば秘宝は失われると言う事だけだ。

この遠征が終わったら人の身には過ぎたアイテムたちは全て返却しようと話はついていたが、仕方がない。

試す価値はある。

「番外席次が落ちた今、私が出る。しかし私には策がある。それが失敗しても成功しても私はここで死ぬだろう…。その後、陛下をお呼びしろ。少しでもあれの体力を削る。」

魔樹が街への攻撃をやめ、再び進み始めた。

その足元には大量の土と周りに生えていたであろう木々がまだ付いていた。

「魔導王陛下に――神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下に…、私は勇敢だったと伝えてくれ!」

そして飛び出す隊長の前方には、神々しくもやわらかな闇が広がった。

 

「そんな、まさか――陛下…!?」

隊長を除く神聖魔導国の者達は一斉に跪いた。

隊長は隊員へ振り返り怒鳴る。

「誰が陛下をお呼びしたんだ!陛下にもしものことがあったら――」

 

「よい。」

 

たった一言、温かく優しい声が隊長の心に染み込む。

 

「へ、へいか…」

 

「お前の覚悟、見せてもらったぞ。しかし、教えておこう。覚悟とは、犠牲の心ではない。覚悟とは、暗闇の荒野に進むべき道を開く事だ。」

 

そして続々と神と守護神達が現れる。

漆黒聖典は確信した。

やはり神々は我等を救うために降臨されたのだ、と。

 

+

 

アインズは完全に決まったと思った。

かつてリアル2019年にアニメ化までされた超人気書籍、覚悟の物語に出てくる名言。

魔法のないはずのリアルで、2138年の現在も作者は不老不死の為――未だにこのシリーズは続いていた。

 

カルネ村の監視に出ていたルプスレギナから「自分では叶いそうにない相手が村のすぐ脇を通ってエ・ランテルへ向かっている」と伝言(メッセージ)が届いた時には驚いたが、せっかく手にしたワールドチャンピオンを凌ぐと言われるこの力を試すには絶好の機会だと思った。

 

ふと視線を感じ顔を向けると、フラミーが横に並び、アインズと隊長を交互に眺めていた。

 

(あれ、俺はしゃぎすぎたかも。)

アインズは心の中で恥ずかしい気持ちが積もっていくのを感じた。

 

すると、フラミーから飛び出たセリフは想像の斜め上だった。

「"あなたの覚悟は、この登りゆく朝日よりも明るい輝きで道を照らしている!そして我々がこれから向かうべき…正しい道をもッ!"」

 

何故かますます恥ずかしくなり、ついには沈静化されてしまった。

そもそも太陽は朝日どころか後2時間もすれば傾き始めそうな時間だ。

賢者になったアインズは心の中で頭を抱えるとパンドラズアクターのドヤ顔が脳裏をよぎるのだった。

 

「陛下、フラミー様…。」

しかし効果は抜群のようで神聖魔導国の聖典達は皆一様に涙を堪えているようだった。

 

「んん。守護者達よ。まずは私が少し押し戻そう。その後お前達のチームワークを私達に見せろ。最後は私とフラミーさんが手を下す。行くぞ。」

 

いつの間にか背後でひざまずいていた守護者達は全員が顔を真っ赤にして震えていた。

そんな笑う事ないじゃん!!とさらに恥ずかしくなるアインズとは裏腹に、守護者達はその素晴らしい言葉を胸に刻みつけていた。

いつか聖書を作るときに絶対に盛り込もうと。

聖典達は帰ってこの言葉を国中に広めなければ死ぬに死ねないとすら思っていた。

 

アインズとフラミーは一生、いや、死ぬことのない彼らだ――永遠に元ネタがあることは言い出せなかった。




2019.06.04 kazuichi様 誤字報告ありがとうございます!適用させて頂きました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#25 ずっとあなたを探してた

神話の戦いだ。

 

それを見ていた誰もが思った。

 

光の神が深い闇を放つと、闇の神が瞳を焼く程の光を持ってその魔樹の命を奪った。

 

神の放った輝きは、あれ程邪悪な魂すら救済したのだと、誰が見てもわかるものだった。

 

神々が魔樹へ近付いていくと、魔樹の足元から、新緑の葉を揺らす何かが起き上がった。

それは最初、生まれたばかりで何も分からないというような雰囲気だったが、最後は頭部の葉を揺らしてはしゃいでいるのが見える。

そして闇の神が開いた天国の門へと進んだ。

穢れきった魂は無事に本来の美しい姿を取り戻したのだった。

 

+

 

「どうじゃった?ツアーよ。」

 

誰も気づかないような遠く、丘の上にそのもの達はいた。

ツアーはリグリット・ベルスー・カウラウの声のする方へ鎧の頭部を向け答える。

「まさかあれがまだこの森で生きていたとはね。驚いたよ。」

ハッハッハと豪快に笑う老婆は実に愉快そうだ。

かつて十三英雄と呼ばれ、リーダー達と共にあれの枝を倒した記憶を思い出しているのかその声は少し何かを懐かしむようでもあった。

「素直じゃないのう。ワシはあの者達も世界に協力するものだと確信したわ。」

パチンと拳と手のひらを合わせ、さてと…と誰に聞かせるでもなく呟き、遠くでアインズ・ウール・ゴウンを讃える人々から背を向ける。

 

「まぁ、今のところはそうみたいだね。」

 

背中に向かって返事をすれば老婆はヒラヒラと手を振りながら既にゆっくりと歩き出していた。

「わしは久し振りにインベルンの嬢ちゃんの様子でも見に行くとするよ。」

「全く、気まぐれだね。君ってやつは。」

 

ツアーの鎧はリグリットとは違う方向へ向かって丘を降りていった。

 

鎧の帰還の道中、ツアーは誰もいない自分の巣でひとりごちる。

 

「アインズ。

あの魔樹は君が起こしたのか…?

…。

わからない。

君はいつからこの世界に来ていたんだ。

これは本当にただの偶然だったと言うんだろうか。

もし君が世界に背を向けたとして、僕は君に…、君達に勝てるだろうか…。」

 

+

 

 

アインズの生命の精髄(ライフ・エッセンス)が魔樹の足元にある弱い命の気配を告げる。

 

近付けば、根元についたままだった木々に気絶したドライアードが引っかかっていた。

 

「え!?これがあのザイトルクワエ!!??」

ギャンギャンと興奮しきったピニスン・ポール・ペルリアと名乗ったそれが応える。

 

「まあ、そういう訳だ。さあどうする。私に忠誠を誓うか?」

 

「ザイトルクワエに勝てるような人が守る場所に行けるならもちろん一生懸命頑張るよ!!厄介になるね!!」

 

「よし、ピニスンはこれより第六階層の畑で働く。アウラ、マーレ。面倒を見てやれ。」

「「かしこまりました。」」

 

ピニスンを送った転移門(ゲート)が閉じると、ワァっと人々が集まってくる。

一番にアインズ達の元に辿り着いた、番外席次の輸送を行っていた神聖魔導国の兵士や神官によって必要以上に近付くことは許されないが、それでも少しでも神に近付きたいとばかりに人々が殺到した。

 

帝国騎士も王国兵士も、王国戦士団も、城門衛士も、誰もが肩を抱き合って近くのものの生を喜んだ。

 

アインズ・ウール・ゴウン万歳!

その唱和は遠くの丘を越え、どこまでも響いた。

 

 

 

遅れて漆黒聖典隊長に肩を預けた番外席次がよたよたとアインズに近付こうとするが、すでに分厚い人の壁がそれを阻む。

人の波の向こうの神に、何でもいい。自分も隊長のように言葉をかけてほしい、せめてその目に自分を映してほしい。

それだけなのに、自分が守ってしまった人間共が邪魔で、いっそ殺してしまおうかと思う。

しかし神に失望される事を恐れ、できない。

こんな時どうしたらいいのか知らない番外席次は――

「ごうんへいかぁーー!うわぁーん!!」

流れ出した涙は止まらず、しゃくりあげながら泣くその姿はただの少女そのものだった。

番外席次の見たこともない姿に隊長が硬直していると、誰よりも早くエ・ランテルを守ろうと魔樹へ挑んだその少女のため、人々はバラバラと神へ続く道を開けた。

 

尊き姿が目にうつれば、抑えられないと思ったはずの声と涙がハッと止まる。

名もなき番外席次と呼ばれる少女は親を求めるように進んだ。

モーセがイスラエルの民を連れ海を割り、カナンの地を目指したように、ボロボロの体を引きずって、気付けば隊長を後ろに取り残して…。

 

しかし、割れたはずの海は再び閉じられた。

 

「アインズ様にこれ以上近付くのは、このあたしが許さないよ。」

 

ある日自分のそばに現れた強い気配の正体、それが誰だったのかこの至近距離にあってようやく気付く。

何かに守られるような初めての感覚に、それがいつまでも続けばいいと願った日々。

 

「あなただったのね…。」

 

漏れ出た言葉にぴくりと守護神がその身を揺らした。

もしやこの守護神とは遥かなる昔に同じ血を魔導王やフラミーにより分け与えられたのだろうか。

そんな夢想に、番外席次は顔をギュッと拭く。

そうだとしたら、自分はなんと祝福されているのだろうか。

森妖精(エルフ)に生まれたことを恨み続け、この耳も隠し疎んで生きて参りました。が…今日ほどこの生を喜んだ日はございません。」

 

「そうか。番外席次よ。」

 

まだまだ続きそうな雰囲気にアインズは焦れていた。

ザイトルクワエと呼ばれた魔樹を早くもっとくまなく調べたいと言う気持ちが抑えきれなかったのだ。

 

口をつぐんだ番外席次に、アインズは続ける。

「このアインズ・ウール・ゴウン、お前の働き、確かに見届けた。よくこの町を守ってくれたな。後日褒美を取らせよう。私は急ぎザイトルクワエの遺骸を調べねばならない。フラミーさん。」

一息にそう言うと、呼ばれたフラミーが番外席次を完全回復した。

 

その瞬間、番外席次はアウラに飛びかかった。

支配者と守護者が臨戦体勢になると――

「守護神様!!私と子供を作りましょう!!」

その叫びに呆気にとられ、皆が固まった。

 

「あ、あ、あの、デミウルゴスさん。同じ性別では子供は作れないって、その、前に言ってましたよね?」

マーレの言葉は辺りに虚しく響いた。

 

+

 

「そんなの信じない!!私はアウラ様とお子を作りたいの!!!ゴミの分際でこの私を止めようと言うの!?」

すでにアウラから引き剥がされた番外席次を羽交い締めにする隊長は殴られ、蹴られ、最早どちらがザイトルクワエと戦ったのか分からないようなボロボロの有様だった。

 

アインズの後ろに控える守護者は気味が悪いのか近付こうとしない。

アウラは自分の身を抱きしめ、フラミーの腕の中で心底気持ち悪いと言う顔をしていた。

そんな醜態を晒しているとガゼフ・ストロノーフを伴ったランポッサⅢ世がこちらへ向かってくる姿が見え、流石にまずいと思ったアインズが止めに入る。

繰り出される若干下品な言葉の数々を止めようと、番外席次の前に出て片手で後頭部を、片手で口を抑え、極限まで顔を寄せて言う。

「番外席次よ、黙るのだ…!!」

絶望のオーラに耐えるレベルの相手だと分かっているため狭い範囲にそれを放つ。

番外席次はびくりと体を震わせ真っ青になった顔にだらだらと冷や汗をかいた。

ようやく静かになった破天荒娘からそっと手を離すと、肩で息をして汗だくの問題児は更なる問題を起こした。

「あぁ…陛下…なんてすごいの…。やっぱり、やっぱり最初に考えた通り私陛下の御子を産むわ!アウラ様、残念だけどあなたは諦めたわ。」

ひらひらとアウラに手を振りアインズの腕にまとわりついた。

アインズは訳が解らず振り解こうとするが、じっとりとした視線を感じ振り返る。

そこには、睨むような呆れたような目をするアウラ、シャルティア、アルベド、マーレ…そしてフラミーがいた。

 

真後ろからアインズの姿をみていたナザリックの面々には、アインズが番外席次に力強い口付けを行なったようにしか見えなかったのだった。

 

「やっぱり、殺した方が良かったんじゃないの?」

アウラの言葉は女性陣と男の娘によって肯定された。




ツアーさんには困ったもんですね、ほんとに。
すぐ何かを誰かのせいにしたがるんだから!

番外ちゃん…このままじゃ第二の統括さんだよ…。
( ;∀;)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#26 全く君と言う人は

「我が戦士長のみならず、エ・ランテルまでお救いいただいた事、心より感謝しますぞ。マジックキャスター殿(・・・・・・・・・・)。」

相手をアインズ・ウール・ゴウン魔導王だと認めれば、国王としての立場上この先一生礼を言えないと思い、敢えてランポッサⅢ世はその名を濁した。

 

「いえ、当たり前の事をしただけですよ。」

その事を汲んだ目の前の王の慈悲深き返事に心の中で深く頭を下げたのだった。

おぉ…と周りにいた神聖魔導国兵士、王国戦士、帝国騎士達が慎しみ深き魔導王の返事に感嘆の声を上げる。

 

そしてアインズの視線はランポッサⅢ世の斜め後ろへ向く。

「……元気そうだな、ストロノーフ殿。」

「ゴウン殿も元気そうで…ふふ。元気と言ってもいいのかな?あれから人間をやめたという事であれば失礼になってしまうからな。」

「ははは。あの時から私は変わっていないよ。」

軽い笑い声をあげた魔導王は何か言葉を探すように視線を彷徨わせる。

そして、破壊されたエ・ランテルをゆっくりと眺め、すぐに魔樹の遺骸を睨みつける。

その姿は、まるで壊れてしまった日常そのものと、ここで不本意にも一生の幕を閉じる事になった人々を悼み、苦しんでいるようだった。

「ゴウン殿…あなたという人は…。」

戦士長が再びその名をつぶやくと、魔導王の後ろから捕獲魔法で拘束され地面に座る番外席次と呼ばれていた戦乙女が声を上げた。

「いつまでそんな呼び方をするつもり?近隣国家最強。」

その不機嫌な雰囲気は、事態をあまり理解できていない様子の者達に伝播していった。

 

「そうだ…きちんと神聖魔導王陛下とお呼びするべき…だよなぁ?」

「国王陛下の態度は少し良くないんじゃないか…?」

『不敬だ!皆声をあげろ!』

「そうだ!国王の態度はおかしい!」

「戦士長だって何もしなかったくせに!!」

「国王は神聖魔導王陛下にきちんと礼をしろ!!」

「神聖魔導王陛下の優しさにつけ込むな!!」

「誰がエ・ランテルを守ったと思ってるんだ!!」

『皆、神聖魔導王陛下を再び讃えるんだ!』

 

「「「神聖魔導王陛下万歳!」」」

「「「神王陛下万歳!!」」」

 

爆発的に広がるその声に、ランポッサⅢ世は何も言えなかった。

しかし慎み深い魔導王は国王の手前それを素直に受け取りはしなかった。

増えゆくその唱和に慌てたように左右を見渡す。

「デ、デミウルゴス…。デミウルゴスはどこだ。いや、すみません、フラミーさ――」

光の神に何かを言いかけると南方の衣装に身を包む尾を生やした男が小走りで周りの守護神と呼ばれた異形の中に混ざり、丁寧に頭を下げた。

「は!デミウルゴスここに。」

「お前と言う奴は本当に…。さぁ、静かにさせろ。」

畏まりました、と返し立ち上がると、魔導王を称え続ける人々に向かって大声で呼びかける。

「皆さん!!神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下がお話になります!!」

しかし、人々の興奮はまるで収まらない。

『皆さん!!ゆっくり、ゆっくりでいいです!今だけ御静かに願います!!』

そうもう一度大声で呼びかけると、徐々に人々は静かになっていった。

魔導王の守護神と言うのは頭ごなしに物を言わない、人の心に寄り添うような者らしい。

「お待たせいたしました、アインズ様。」

うむ、と魔導王は返すと、苦しみのせいか静かにしている王とガゼフへ向いた。

「失礼したな…。こんなことよりも……そうだな……えー…………。」

そういって目を閉じたのか魔導王の瞳の灯火は消えた。

皆察したのだろう、王は死んだ者たちへ黙祷を捧げていると言うことに。

遠くのわかっていないもののためか、先ほどの守護神が厳かな響く声で周知する。

『皆さん。陛下に倣い、死した者へ祈りを捧げましょう。黙祷。』

誰もが静かに目を伏せた。

え?と誰か若い男が呟いた声が聞こえたが、誰もが熱心に死者へと祈りを捧げた。

魔導国の者たちは、どうか哀れな者達を導いてくださいと、目の前の神々へ祈った。

1分程経つと、『お直りください』とまた丁寧な声が響いた。

ランポッサⅢ世は一番最初に国王の立場としてどうしたらと考えたが、この目の前の王は何よりもまず死者を悼む事が一番だと考えていたという事がその場にいた全てのものに伝わった。

ガゼフは考えていた。

この慈悲深さ、法国は確かに村々を焼いたが、それを見過ごせなくなって降臨したと言う噂は本当かもしれない、と。

既に命を救われたのは二度目なのだ。

驕りかも知れない――それでも、自分は王国内ではもう誰よりもこの王の本質を知っているだろうと思えてならなかった。

 

そんな事を考えていると、城壁の方から都市長のパナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアがこちらへ走って来るのが見えた。

その後ろには冒険者組合長のプルトン・アインザックと、魔術師組合長のテオ・ラケシルが続いていた。

 

「へ、陛下…!こちらにおいででしたか!」

パナソレイが息も絶え絶えにランポッサⅢ世に話しかけると、魔導王は自分は都市長に陛下と呼ばれる者ではないと示すかのように、背を向けた。

 

「お、おお…!パナソレイよ…。またもこの様な凄惨な事件にエ・ランテルが巻き込まれてしまったこと…一体何と謝れば良いか…。」

「いえ…王よ……。このような事を一体誰が予見できましょう…。」

言葉を交わす王と都市長に金髪ボブカットの猫のような女から横槍が入る。

「まー神王陛下は予見してたよねーそして人々を助けようと最初っから動いてた。漆黒聖典のあたしらがここにいるのが何よりの証拠だよねー。」

兄弟だろうか。よく似た男が肘で小突いて黙らせる。

 

王国戦士団の鋭い視線に何も感じないと言うように女はヘラヘラしていた。

沈痛な面持ちで地を眺めた後、ランポッサⅢ世はハッとし、パナソレイに一番大切なことを訪ねた。

「…それで、都市の民は無事か?中はどうだ…?」

 

都市内はズーラーノーン事件の経験を生かし、避難は順調だった。

しかし、番外席次が突っ込んで崩れた城壁から魔樹が見えると一気に混乱状態になってしまったらしい。

そこからは、文字通り地獄絵図と化したが、すぐに神話の戦いの火蓋が切られたのだった。

その後パナソレイは都市内部で冒険者や魔術師組合員達の協力を得ながら、更なる民の避難や一時帰宅所の確保などに精を出していた為少し遅れての登場となったらしい。

 

「そうか…。何という…。お前もよくやってくれな…。」

国は国王だけでは作られない。

そして国王も国があるだけでは務まらない。

民がいて、初めて国王と国が生まれるのだ。

ランポッサⅢ世は空を仰ぐ。

どこまでも続く空は、視界の端に映り込む巨大な魔樹の遺骸によって穢される。

忌々しげについそちらを見てしまうのは仕方のない事だろう。

 

「な!?君は!?」

その驚きの声に、王は魔樹の存在を瞳と頭から追い出す。

それは普段冷静な、元冒険者としても活躍した冒険者組合長のプルトン・アインザック。その人が発した物だった。

ぞろぞろと街から出て来始めていた冒険者達も何事かと駆けて来る。

 

「いや、肌の色が…いや、しかし!!しかし!!」

そう言ってジリジリと神聖魔導王の方へ近づいて行く様子に、誰もがハラハラしていると――

 

「わっ!アインザックさん!」

「やっぱり!!!君はプラム君だろう!!!!」

 

都市を半壊させ、大量の死者を出したズーラーノーン事件をわずか二人で解決に導き、カッパーからアダマンタイトへと異例の大昇格を以って名声を欲しいままにした謎の森妖精(エルフ)魔法詠唱者(マジックキャスター)――プラムの名を、光の神に向かって叫んだところだった。




がっつり顔を見せて冒険者をしていた知恵の足らないフラミーさん、少しはアインズ様を見習ってもらいたいものですね( ̄▽ ̄)
次は息抜き閑話です。
コキュートスはちゃんとリザードマン達を掌握できてるかな?

2019.05.13 もんが様誤字修正ありがとうございます!適用させて頂きました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#27 閑話 だって女の子だもん

――ザイトルクワエ襲撃の数日前

 

アルベドはアインズに迫っていた。

「エ・ランテルは今後どの手を用いてその手中に入れるご予定ですか?アインズ様っ!」

 

どの手も何も一つも手がない。全くのノープランだ。

「あ、アルベド…お前はどう思う…。」

「わたくし、でございますか?」

「そうだ。守護者統括としての意見を聞かせろ。」

「それは…もう…以前アインズ様が仰ったアレが宜しいかと。」

「アレ、だな。」

「はい!アレ、でこざいます!」

(どれだよーーー!!!!)

叫び出したい気持ちを必死で抑えていると――

「ああ…もう一度私に、手取り…足取り…腰取り…アインズ様のお考えを叩き込んで下さいませ…。」

アルベドは頬を赤らめ体をくねらせてはじめた。

 

トリップしていてくれればむしろ時間を稼げる。

くねるアルベドを放置して今後どうするべきか、アインズは自分なりに精一杯考えていると、気付けば机越し、息の掛かるような距離にアルベドが迫って来ていた。

「アインズ様…何もわからぬこのアルベドに…アインズ様の全てをお教え下さい…」

珍しく可愛い様子にアインズは少しどきりとするが、目を覚まさせる事にした。

「仕方のない奴め。」

アインズはアルベドの前で手を叩いて呼び戻そうと両手をアルベドの方に伸ばすと、ノックが響いた。

 

パン!と打ち鳴らそうとしていた手をそのままに顔だけ扉に向けると、その日のアインズ当番と目が合い、頷く。

来客がデミウルゴスならアルベドを目覚めさせるよう言えばいいと思い、アルベドの顔の前に伸ばしていた両手を書類の乗った机にそっと下ろす。

ちらりと一応自分の姿勢が支配者らしいか確認することも忘れない。

 

いつもの入室許可前作業を行っていると、小さな声だが、アインズは確かにそれを聞き取った。

「申し訳ございません。これよりアインズ様はアルベド様と情交を結ばれますのでお急ぎでない御用のお取り次ぎはどなた様であっても――」

「待て!!!シクスス!!違う!!!違うだろう!!」

下ろしたばかりの両手で机を叩くように立ち上がり、アインズは扉に向かって駆け出した。

 

「あ、アインズ様!?」

思わずシクススの手を引き寄せる。

シクススの手はノブに触れたままだったため、キィ…と扉が開き、外に立っていた、以前アインズが贈った紺色のローブを両手で抱いたフラミーと目が合った。

 

「あ……ふ…らみーさん………」

 

+

 

(アルベドと条項を結ぶってなんじゃ?)

フラミーはまたアルベドが何かしでかし、してはいけないリストでも作ったのかと心の中で苦笑していると、中からバタバタと慌ただしい音とアインズの声が聞こえ――扉が軽く開けば、そこは犯罪の匂いがする部屋だった。

 

「あ……ふ…らみーさん………」

 

そう言うアインズは、つい今しがた扉から顔を半分だけ覗かせていたはずのシクススの右手を引っ張り上げ、その身を後ろから抱きしめていた。

腕の中でシクススは空いている左手を顔の横に当てながら「はっ…はぅ…あぁ…」と息をしている。

抱きしめるアインズの腕には柔らかそうな胸が乗っかり、息を吐く度に上下に揺れる胸が骨の腕をマッサージするようだった。

 

「ど、どうも……これは……あいんずさん……」

 

その奥、アルベドは長い黒髪を片方の肩に全て流し、いそいそとドレスの前に掛かっている金の蜘蛛の巣のような装飾を外しているところで、手袋は脱いでいた。

肩甲骨付近には玉の汗が光っていて、髪の毛が数本首筋に張り付く様が艶めかしい。

 

アルベドが手袋とったの初めて見た、と思いながら、フラミーは踵を返す。

「じゃ……ごゆっくり……。」

何とかそれだけ絞り出し、ブリキのおもちゃのようなぎこちない動きで背を向けると、突然スピーディーな動きを取り戻しカササッと斜め3つ向かいの自室に駆け込む。

 

「ち、違う!!違うんですってばーー!!!」

 

支配者の叫びはどこまでも響いた。

 

 

+

 

 

「「はーーーーぁ!!???」」

第六階層の湖のほとり、アウラとシャルティアの唱和が響く。

 

「私に伸ばされたその指の美しかった事…。あぁ…本当…夢のような時間だったわ…。」

 

「そ、そ、そ、そ、そんなの嘘でありんす!!!」

シャルティアはひたすらに否定を繰り返していた。

「あのアインズ様がそんな訳ないじゃん!!第一アインズ様にはフラミー様が……あ!!フラミー様は!!??」

アウラは何となくそんな場面を目撃したフラミーが心配になっていた。

 

「フラミー様は流石の貫禄よ。なんせ、さっとこちらを確認されたら、いい笑顔で私とアインズ様を応援する言葉を残していかれたもの!ああ、フラミー様ももしかして、奥手なアインズ様をその気にさせる者の台頭を楽しみにされてるのかしら!?」

ご期待にお応えしなくてはとさらにアルベドはハッスルする。

 

「アルベドばっかりアインズ様のお側にお仕えしてずるいでありんす!!あ、り、ん、す!!!」

「仕方ないじゃない、シャルティア。私は守護者統括、あなたはアインズ様から最も遠い階層の守護者なんだから。」

オーッホッホッホッホとでも笑うような統括と殺意剥き出しの従姉妹の姿を呆れた眼差しでアウラは見ていた。

 

しかし、この胸の小さな痛みはなんだろうと、アウラはそっと痛みの部分に手を当てた。

 

 

+

 

 

その日玉座の間には階層守護者達が集まっていた。

 

「今日はよく集まってくれたな。さて、コキュートス。蜥蜴人(リザードマン)達の様子はどうだ。」

「ハ。族長ヲ倒シテ回ッタ私ノ事ヲ確カニ敬ッテオリマス。ソコデ、フラミー様ニオ願イシタイ儀ガゴザイマス。」

「そうか。フラミーさ――」

「なんですか?コキュートス君。」

支配者の言葉を最後まで待たずに話し出したフラミーは満面の笑みでコキュートスを一直線に見つめている。

余程コキュートスの成果を喜んでいると見えた。

その待ち切れないと言う様子に守護者達は皆幸せな気分になる。

そしてフラミーをこうも喜ばせるコキュートスを心から尊敬した。

「私ガ殺シテシマッタ族長達ヲ、ソノオ(チカラ)デ蘇ラセテ頂キタイノデス。ペストーニャニ頼モウカトモ思ッタノデスガ、ドウセナラ御身ニ信仰ガ集マル方ガ宜シイカト…。」

「わかりました。明日は神都にマーレと写真を撮りに行くので明日以外ならいつでもいけます。」

「アリガトウゴザイマス。死体ノ損傷ガ増エル前ニ…モシ可能デアルナラバ本日ハ如何デショウカ。デミウルゴスト共ニ養殖技術ノ向上ノ会ト、ソレノ慰労会ガアリマス。」

「なるほど、じゃあ今日行きましょう!」

「急ナ願イニオ応エ頂キ感謝致シマス。宜シケレバアインズ様ニモマタオ出マシ頂ケルトヨリアリガタイノーー」

「私も行こう。」

またも食い気味に答える支配者の様子に皆幸せでいっぱいになった。

 

+

 

「コレデ全テノ族長デス。」

ザリュース・シャシャがフラミーの前に腐り始めたシャースーリュー・シャシャの亡骸を優しく置いた。

 

「フラミー様の奇跡はそう易々と手に入るものではありません。皆、そのお姿をしかと目に焼き付けなさい。」

デミウルゴスの発声を合図に、フラミーは白い杖を空中から引き出す。

そして、全ての部族の蜥蜴人(リザードマン)達が見守る中、族長達は次々に目を覚ました。

 

その日はお祭りだった。

闇の神の再臨と、光の神の新たな降臨、そして戻った族長達の生を誰もが心から喜んだ。

 

族長を殺したコバルトブルーの武人が何を要求するのかと思えば、全ての蜥蜴人(リザードマン)は同じ湿地に暮らすのだと、グリーンクロー族の村に集められた。

これではまた食糧事情が悪化し、地獄の時代の到来だと、皆が嘆けば、最族長に就任した武人は様々な事を知る尾を生やした人間と、闇の神を連れて戻ってきた。

闇の神は新たな家々を建てるためにスケルトン数体を与えてくれた。

そして、スケルトンを指揮するカジッチャンと呼ばれる死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の事も。

カジッチャンは態度は横柄だが、アインズ様の為だと言って蜥蜴人(リザードマン)をよく助けてくれる、今となっては良い仲間だった。

 

+

 

祭りに盛り上がる蜥蜴人(リザードマン)を眺めながら、アインズはフラミーに恐る恐る話しかけていた。

「あ、あの、フラミーさん?」

フラミーはひゃ!と驚いた後、しどろもどろになりながら、コキュートスを呼び付けた。

「如何ナサイマシタカ、フラミー様。」

「あ、アインズさんがお話があるみたいなので、一緒に聞きましょ?」

「カシコマリマシタ。」

 

話せるかーーーい!

アインズはコキュートスを取り敢えず褒め、褒美をとらせる約束をし、下がらせた。

「んん。フラミーさん?」

フラミーはあわわわわと謎の言葉を紡いだ後、今度はデミウルゴスを呼び付けた。

「如何なさいましたか、フラミー様。」

「あ、アインズさんがお話があるみたいなので、一緒に聞きましょう!」

「畏まりました。」

 

話せるかーーーい!

アインズはコキュートスの成長を助けた事を褒め、渡す技術や知識には細心の注意を払うようにとデミウルゴスに話し、下がらせた。

 

「フラミーさん。」

次は誰を呼ぼうかとキョロキョロするフラミーに、アインズはもう一度強い調子で声をかける。

「フラミーさん!」

ようやく観念したように、フラミーはしぶしぶアインズを見た。

「フラミーさん、絶対あの夜の事勘違いしてますよね?」

「いえ、勘違いなんて絶対しませんでした。」

「絶対してます!」

「いやだからしてませんて!!わっ!そんな顔で見ないでください!!」

「顔は変わりませんよ!じゃなくて、じゃあ何であの夜から俺の事避けるんですか!」

アインズは必死だった。

フラミーが軽蔑する"汚くて臭いおっさん"の上位種、"汚れたおっさん"の烙印を押されているんじゃないかと。

 

「……仕方ないじゃないですか!!エッチなんだから!!」

 

「んな!?エッチって!良いですか、あの夜は別にやましい事をしてたんじゃなくて、いつも通りアルベドの暴走に付き合わされてただけなんです!」鎮静――「それからシクススが間違った事を外の人に言ってると思って慌てて引っ張ったら、気付いたらあんな事に――。」

 

気付けば何やら様子のおかしいアインズとフラミーに、蜥蜴人(リザードマン)達と、野性味溢れる酒を楽しみつつ何やら語らっていたはずの守護者二名の視線が集まっていた。

 

「と、とにかく!誤解なんですからね!」

アインズは全く恥ずかしいとばかりにプイと顔をそらし何処かを眺め始める。

こうなったらこっちも徹底抗戦だ、と言わんばかりに。

 

「いや、それはわかってますってば!」

 

「え!?」

 

アインズの中の戦は早くも終わりを告げた。

 

「じゃ、じゃあ…なんで?何で無視するんですか…?」

 

「何でも何も、恥ずかしいじゃないですか!友達の……アインズさんとアルベドさんのエッチな姿を想像してしまった自分のエッチさが!!アインズさんの顔見ると、その日の想像が…その…あの…うぅ…何でこんな事言わせるんですかぁ…」

 

(あーーー……。)

 

ほっといて下さいよと顔を手で覆い、何かを汚されたとでも言わんばかりのフラミーに申し訳なさを募らせながら、アインズは今日の夜風はとても気持ちがいいと思った。

 




この後アインズ様がどうしたかって?
そりゃあ、一般メイド全員がシクススの話を聞いている事を知ってまた苦悩の日々に戻るんですよ!

ちなみにカジッチャンさんは死の宝珠さんと共に日々アインズ様の為に頑張っています。
いつかアッシュールバニパルに入る命令を受けたら、少しで良いから時間が貰えると嬉しいなと、その日の訪れをワクワクして待っているようですよ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#28 閑話 知ったかぶりの支配者達

「あ、待ってください。そう言えばあの日は何の用だったんですか?」

もう寝ると言ってアインズの部屋を立ち去ろうとしたフラミーに声がかった。

「そうでした!アインズさんにもらったこのローブあるじゃないですか。」

そう言いながらアインズの元へ戻りつつフラミーはズルリと紺色のローブを取り出した。

 

「これ、ここの背中の辺り、切ってもらっちゃおうかなーって言う相談だったんです。」

大きく背中のあたりをぐるっと指差して告げる。

「いいんじゃないですか?少なくとも俺は着ないですし、フラミーさんが使いやすいようにするのが良いと思いますよ。」

想像より軽い返事に、フラミーは苦笑した。

 

「それでも、初めてアインズさんがくれたものですから。」

フラミーが感慨深げにローブを眺めていると、アインズは何やらごそごそと空中を探り――出てきたのはフォルダーだった。

「はは。フラミーさん、俺が初めてあなたにあげたのはこれですよ。」

そう言うと、何年も前のスクリーンショットを迷いなく取り出した。

そこにはもうずっと使っていないネックレスを貰って、笑顔モーションを出すフラミーと、今とは全然違う装備に身を包むモモンガ、そして当時から最強だったタッチミーの姿があった。

「もーアインズさんはわかってないなー。それもそうですけど、これは直接貰ったものだから違うんです!一先ず、背中を切るかは保留にしようかな。じゃっ、私もう寝ますね!趣味なので!」

そう言ってフラミーは部屋を立ち去った。

 

「そうか、確かにそれもそうか…。」

ふふと僅かに笑いが漏れるアインズだった。

 

+

 

やばい!やばいやばいやばい!!!

ネックレスの存在を完全に忘れていたフラミーは慌てていた。

それが無限の背負い袋(インフィニティハヴァザック)に入っているのか、ドレスルームの何処かにしまったのか、はたまた売ってしまったのか、そのネックレスに関する記憶がほとんどごっそり抜けていた。

 

自室に戻ると今日のフラミー当番のフォスにフラミーは泣きついた。

「フォスさん、私のこのくらいの結構長いネックレス見ませんでした?つけるとおへそくらいまで来る長さで、金色で、トップはひし型の魔鉱石がついてるやつなんです!」

フォスはこれぞメイドの腕の見せ所と言わんばかりにフンと荒い鼻息を出すと、胸に手を当てて堂々を宣言した。

「わたくしフォスは、そのネックレスがどこにあるのか知っております!!」

「おお…さすが神様!フォス様!女神様!良かった、良かったぁ!!」

 

そんな畏れ多いと言うフォスの後ろからフラミーは抱き着き、ご機嫌で改めて尋ねる。

「それで、どこにあるんですかっ!」

「はい!アインズ様のドレスルームのっっっっうわっっ」

フラミーはフォスを抱きしめたままソファーに横向きに倒れた。

「うぅ…なんで…なんでそんなところに…。」

 

フラミーは文字通り泣いていた。

 

 

+

 

 

アインズは懐かしくなって、アインズ当番にそのネックレスを出させていた。

「わー懐かしいな。フラミーさん、俺が金欠だった時貰った物なのに悪いけど良かったらこれを売ってくれって、わざわざ返してくれたんだよなぁ。」

 

紺色のベルベットの張られたアクセサリートレイに乗っているそれをアインズはまじまじと眺めた。

 

「ふむ、この世界じゃアクセサリーの着用数制限はないみたいだし、何か効果付け足してまたフラミーさんに返すか。」

そう言ってアインズはアインズ当番に少し出ると言い、鍛冶長の元へ出かけたのだった。

もし寝てたら悪いなーと思いながら。

 

+

 

次の日の朝、フラミーの顔は青かった。

「あれ?フラミーさんよく眠れなかったんですか?」

アインズの後ろに控えるアルベドが深々と挨拶をするのに手を挙げて答えつつ、フラミーは頷いた。

「あーいえ、うーん。はい。よく眠れませんでした…。」

「珍しいですね。自分に回復魔法かけたらどうです?」

「いえ、これは戒めなので…。」

ふふふふふ…と不気味に笑う様子にアインズは首をかしげるが、この後玉座の間でどうやってエ・ランテルを手に入れるか発表すると言う課題を前に、フラミーにあまり構っている余裕はないのだった。

 

+

 

「エ・ランテルだが、私は漆黒聖典を派遣する事を宣言する。」

今エ・ランテルは帝国と王国の戦争の真っ只中らしい。

だったらそこを無事に戦線を乗り越えて街を乗っ取れるような部隊を送るのが正解だろうと思った。

何よりそこにはフル装備のガゼフ・ストロノーフもいるのだ。

あのクレマンティーヌは自分とガゼフは対等の強さだと言っていた。

漆黒聖典最弱に近い彼女だが、陽光聖典や風花聖典はクレマンティーヌにとても勝てそうにない。

なのでフル装備のガゼフ対策としてクレマンティーヌを基準とした結論だった。

 

(うんうん、中々論理的に導き出した結果だぞ。俺も結構できるじゃん!)

アインズは心の中でふふふと笑った。

 

「漆黒聖典…でございますか…?」

だが、アルベドの雰囲気がそれは不正解だと物語っていた。

助けを求めてデミウルゴスを見ても、顎に手を当て、なにやら考え込んでいる。

 

情けないがフラミーに視線を送れば、びくりと肩を震わせて、ふぃと視線を逸らされてしまった。

誰か助けてくれ…そう思っていると、デミウルゴスが難しそうな顔をして手を挙げる。

泣きたい気持ちで顎をしゃくって促せば――

「失礼かとは存じますが…漆黒聖典を送る理由を…お聞かせ願えないかと…」

最悪の質問が届いてしまった。

 

「デミウルゴス…そしてアルベドよ……。」

胃がしくしくと痛む。こんな痛みは幻だと思っても、それでも胃が痛む。

二人は揃って深く頭を下げた。

「お前達にはわからぬか…。」

「「はっ!!申し訳ございません!!」」

その声は玉座の間の中を軽く反響した。

反響が聞こえなくなると、デミウルゴスが続けた。

「アインズ様の深遠なるお考えに、我々ごときの頭では近付くことが…できませんでした…。」

大切な友人の子供達が非常に辛そうにしている。

アインズは自分の情けなさに目を覆った。

「なんという…。」

呟いた声に守護者達が口々に至高の御身の足下にも及ばない我が身を罰してくれと嘆いた。

 

アインズは自分が情けなくて何も言えなかった。

 

「皆、アインズさんは、当たれば大成功、外れれば大失敗のかなり危ない橋を渡る事にしたんじゃないですか?今はまだその意味がわからないと思いますけど、その時が来たら分かるんだと思いますよ。」

フラミーの言葉は天啓のようだった。

情けないと思いながら、顔の前からゆっくり手を退け、アインズは守護者達を見渡した。

「そう言うわけだ…。なので、各員自分の目で学ぶように…。」

 

そうして漆黒聖典の派遣は決まった。

 

+

 

珍しくフラミーの自室に集まると、アインズは疲れたと言う調子でソファに崩れた。

 

「あ、アインズさん大丈夫ですか?」

「もーダメです……」

 

それぞれの当番の二人が焦った様子で近付いてくる。

「あ、アインズ様、大致死(グレーターリーサル)を使える者をお呼びしますか?」

だらしなくなり初めていたアインズは少し身なりを整えてからそちらを向きもせずに答えた。

「いや、いい。こちらの話だ。悪いが二人は少し、そうだな。隣の部屋で控えていてくれ。用ができたら呼ぶ。ああ。八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)もだ。」

食い下がられるもなんとか追い出した。

 

「あ、フラミーさんすみません。人の部屋なのに勝手にあっち行ってろとか言って…。」

「いえいえ、本当支配者が堂に入って来たじゃないですか。」

はははと疲れたように笑うフラミーに、そうかと疲れの理由に思い至った。

 

「フラミーさんも、支配者というか、至高の人で疲れますよね。わかります。」

「あ、あー…。私は、伸び伸びやらせて貰ってますから。アインズさんのおかげで。」

「俺のおかげ…」そう言われるだけで少し滅入った気持ちが和らぐようだ。

「そうですよ、アインズさんが頑張ってくれるから、私はとってもナザリックの居心地がいいんです。」

絶対支配者として君臨することは、ナザリックだけでなく、フラミーを――ギルメンを守る一つの手段なのかとアインズは思った。

 

「そうだ。フラミーさん、これあげます。」

よっと背もたれから上体を起こし、中空から、リボンのかかった小さな箱を取り出した。

アインズは開けてくださいとフラミーの手の上に箱を乗せると、フラミーはまじまじとそれを見た。

「こりゃなんですかい?」

「ははは、何。警戒しないで下さいよ。ただの懐かしいものです。」

するりとリボンを引き、そっと箱を開けると、中にはまた箱が入っていた。

赤紫に染められた皮で包まれてたその箱は、真ん中に金で"le souvenir"と書かれている。

 

「あ、アクセサリーボックス。かわいいですね。る…すーべにる?思い出…?」

そう言ってフラミーが箱を開けると、中にはあのネックレスが入っていた。

「あっ!これ!!」

興奮するフラミーにしてやったりとアインズは思う。

「そう、それ、俺あの後結局売らなかったんですよ。だから、昨日鍛冶長に頼んで…多分この世界じゃ無意味なんですけど、気前よくドロップ率アップの効果を――って!うわ!」

フラミーはポロポロと泣いていた。

 

「なん!?ああ!勝手に効果つけちゃダメですよね!?あああ、わ、わかります!!」

しどろもどろなアインズに、フラミーは想像とは違う事を口にした。

「私、本当はこれどこにやったか忘れてたんです。だのに、分かったみたいな嘘ついて、アインズさんは大切に持っててくれたのに。嘘吐きの知ったかぶりでごめんなさい。」

そう言って泣くフラミーを、アインズは少し羨ましいと思った。

よっこいせと腰を上げて、向かいに座っていたフラミーの隣に腰を下ろす。

 

「俺も、漆黒聖典に決めた理由、本当は滅茶苦茶で、皆にそれらしい事言って、フラミーさんに嘘の片棒担がせて…いつも知ったかぶりしてんです。俺も涙が出てたら、多分毎日泣いてますよ。」

アインズの困ったような雰囲気に、フラミーは呆けたようにそちらを見る。

 

「アインズさんって、超級の策士じゃなかったんですか…?」

「うわ!何言ってるんですか!やめて下さいよ。そんな訳ないじゃないですか。」

「そうだったんだ……私、デミウルゴスさんやアルベドさんには大失敗しか浮かばないけど、アインズさんには見えてるのかな、閃いたのかなって思ってました…。」

「勘弁してくださいよ〜。はは。」

アインズは言いながら、もう止まったフラミーの頬に残る涙の跡を親指でグイと拭いて、忘れられてしまっていたネックレスに視線を戻した。

それに気付いてか、フラミーがネックレスを箱からスーっと取り出す。

 

「これ、今度は忘れないようにちゃんと付けておきます。」

ネックレスを首に何重にもクルクルと巻いて、チョーカーの様に付けると、魔法の装備のそれはピタッとフラミーの細い首に隙間なく着いた。

「長いネックレス、リアルじゃ私よく引っ掛けて切っちゃって…トップ無くしちゃったりとかした事あるんで、戦うこともありますし、こうしておきます。」

「ネックレス、そんな着け方あるんですね。」

「私はオシャレさんなので。」

「はは、俺24時間365日同じ服だ。」

ふふっと笑うフラミーはまた申し訳なさそうな顔をした。

 

「本当、忘れててすみませんでした、アインズさん。」

ぺこりと頭を下げるフラミーに、アインズは頭を上げてくれと言う。

「良いんですよ。ヘロヘロさんも言ってました。まだナザリックがあったんだーって。」

「え…?」

「でも、俺が維持してくれてたお陰でーって、言ってくれたんですよね。俺、その時良かったって思いました。」

フラミーは黙って話に耳を傾けた。

 

「フラミーさんもそれの事忘れてたけど、でも、維持してる誰かや、覚えてる誰かがいれば、また思い出して貰えるんだって、俺はもう知ってますから。」

「アインズさん…。」

「これじゃ墓守ですかね。」ポリポリと頬を書く。

「墓守だっていいじゃないですか。前も言いましたけど、私も一緒に守りますよ。どっちか一人が覚えていれば良いなら、やっぱり楽勝ですね。」

ずれ始めていた二人の感覚が、またピタリと合った気がした。

 

隣の部屋から聞こえてくる和やかな笑い声は、まるで優しい歌のようだと、メイドもアサシンズも思った。

 




結構ゲーム内では何を誰にもらったかって忘れてしまうんですよね。

アインズさんは性欲の8割を失って女子との距離感狂ってますね。
フラミーさんも生えてるせいで男子との距離感狂ってますよね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#29 収束、そして始動

プラムにアインザックは近寄ろうとするが、隣の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)や青い蟲型モンスターの存在に足が止まる。

いや、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)しか知らなかったが、恐らくそんな存在ではない事にアインザックはとうに気付いていた。

町から遠くに見えていた神話のようなあの戦いを誰が行ったのか米粒のような大きさで殆ど見えなかったが、本能が察する。

 

「…君は森妖精(エルフ)ではなかったのか…」

大きな声を出しすぎたせいで衆目を集めてしまっていた。

いや、この神聖な姿のプラムに近付けば静かに進んでもそうだったかもしれない。

 

「ははは、どうも…。」

いつもと変わらない様子で返事をするが、その背には神か神の使いだとしか思えない様な翼が煌めいていた。

「君はまさか…。」

謎に包まれた漆黒の英雄のバラバラだったピースがアインザックの中で全て繋がっていく。

モモンは法国の出身者だと冒険者たちの中では有名な話だったじゃないか。

そしてプラムを侮辱すれば殺され兼ねないと。

それは、神と従者を意味していたのではないか。

 

「エ・ランテルを救う為だけに冒険者になってくれたのか…モモン君も情報を欲していたな…。もっと早くに我々が君に…いえ、あなた様に協力していたなら――。」

ズーラーノーン事件はここまで酷く爪痕を残すような事にはならなかったかもしれない。

例えズーラーノーン事件を未然に防いだとして、魔樹によって結局は滅茶苦茶になっていただろう――が、魔樹の襲来後生活する余裕は残ったかもしれない。

次から次へと悔恨、自責の念が押し寄せる。

このエ・ランテルを壊したのは他でもない自分でもあるのだ。

 

今やエ・ランテルは人が生活して行ける街ではない。

それこそ、超常的な力を持つ何者かが手を差し伸べてくれなければ。

 

皆同じことを思ったのか、魔導王に救いを求めるように視線を送っている。

 

「陛下…これから我々はどうやって生きていけば良いのでしょうか…。」

アインザックのつぶやきは、魔導王に向けられていた。

パナソレイとガゼフは驚いたが、それを注意するでもなくやはり痛みを堪えるような顔をするしかない。

しかし魔導王は何も言わなかった。

 

 

代わりにランポッサⅢ世は、少しでも民を安心させようと言葉を紡ぐ。

「復興に向け、国が一丸となって――。」

「それが貴国にできますかな。」

それは帝国騎士を率いていた帝国第二将軍ナテル・イニエム・デイル・カーベインのものだった。

「我らが皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下であれば、見事エ・ランテルを復興させましょう。」

辺りに微妙な空気が漂う。

周りの帝国騎士はハラハラした様子でカーベイン将軍を伺っていた。

「これ以上は戦争にもなりますまい。我らも同胞を多く失いすぎた…。一時休戦です。」

そして背を向け続ける魔導王へ向かって頭を下げた。

「…神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下。此度は人類を、エ・ランテルを、我が騎士達をお守り頂き、ありがとうございました。私は皇帝陛下でなく神王陛下であってもエ・ランテルを復興できると信じております。」

振り返らずに手を挙げるだけで応えるその背中は、とても大きかった。

何を言いたいか分かっている、そう心配するなとでも言うように。

周りのエ・ランテルの衛兵や冒険者、組合長達でさえ安堵に包まれたのが感じ取られた。

偉大なる神々に深く頭を下げたのち、馬に飛び乗りカーベインは帝国騎士達を引き連れ撤退して行った。

野営の準備はいつのまにか片付けられていた。

 

もはや誰が死んで誰が生き残ったのかもわからない状況だ。

カーベインは馬の上で考えていた。

皇帝ではエ・ランテルの復興はできない。

そして隣り合う事になる神聖魔導国を御することもできないだろうと。

忠臣として仕事はした。

しかし、人間として魔導王にエ・ランテルを頼みたい気持ちでいっぱいだった。

 

あの激しくも美しい戦いを思い出す。

騎士もカーベインも、堪らず魔導王万歳の唱和に参加してしまったが、あれを見せられればそうしない方がおかしいと思えてならなかった。

 

「皇帝陛下にはあの万雷の喝采の事は黙っておこう。ふふふ。神王陛下か。」

仲間を失い、己も死ぬかと思った状況で差し伸べられた強く大きな手に帝国騎士達はすっかり魅了されていたのだった。

 

+

 

挨拶もそこそこに、アインズ達はナザリックに戻った。

デミウルゴスの提案により、薬草しか見つからなかった魔樹の遺骸も、"偉大な戦いの痕"も今はまだ全てそのままに。

執務室ではアルベドの手によって王国に再度送られるエ・ランテル近辺の割譲を要求する文章が制作された。

前回とは違い――少なくとも苦しむ者は助けるという事、邪魔すれば粛清するという文が追加されて。

 

今回貴族の者達はエ・ランテルまで帝国騎士が迫った後、自領を守る必要があると言い残しさっさと立ち去ってしまった為魔樹との戦いは見ていない。

果たしてこの書状もどれだけの効果を発揮する物かとアルベドは溜息をつく。

「アルベドよ、疲れたのなら下がって良いのだぞ。」

アインズから掛けられる言葉に胸が温かくなる。

「いえ、とんでもございません。しかしアインズ様。先程国王が目の前にいた時、なぜ殺してしまわれなかったのでしょう?そうすればエ・ランテルは、王国は今既に手中にあったのでは…?」

 

何故か。

アインズも当然それには思い至っていた。

しかし――「今はいい。あそこには引き入れなければならない者がいる。それの反感を買ってはいけないだろう。」

ガゼフ・ストロノーフ。

自分にない、いや、憧れの人と同じ輝きを持つ眩しき戦士長。

 

「引き入れなければいけない者、でございますか…?人間にアインズ様の慧眼に叶うような者がおりましたでしょうか…?」

「ふふ。お前にはまだ難しいかもしれないな。いつか、わかるようになるとも。」

その優しい声音は何かを懐かしむようでもあった。

 

 

+

 

 

「セバス、ソリュシャン、そしてシャルティアよ。王都へ向かい、王都の情報を収集するのだ。魔導国の敏腕商人の娘と執事としてな。街の噂から我らが魔導国に関わることまで何一つとして漏らさず報告せよ。当面危険は無いと思われるが、ザイトルクワエの事もある。決して油断せず、三人で事に当たれ。」

 

頭を下げた三人はやる気に満ち溢れていた。

特にシャルティアは守護者の中でも出遅れている事に焦りを感じていた。

地表に近い階層を受け持つ者として殆ど外に出ていなかった為、未だに従属神の拘束と、無礼な白黒女の拘束しか行っていない。

デミウルゴスとアルベドは言うに及ばず、コキュートスはこの短い期間で見事に蜥蜴人(リザードマン)集落を統治せしめ、次は近くの湿地の蛙人(トードマン)に忠誠を誓わせるよう動き始めていた。

アウラとマーレは、法国潜入時若干の失敗もあったが、今や神聖魔導国スレイン州エイヴァーシャー市の"象徴王"として君臨している。

マーレはフラミーとお食事権を見事に手に入れた。

温情でそこにアウラの出席も許されたほどだ。

まだ何もできていないのは自分しかいない。

ここで他の守護者達がアッと驚くほど見事な成果を上げて見せると、その目は爛々と光っていた。

 

セバスは不安を抱かずにはいられなかった。




漆黒聖典や魔導国の神官の皆さんは漆黒の英雄、モモンはどこから来たんだろうと今も思ってます。

ユズリハ様より現在の勢力図を頂きました!なんて分かりやすいんだ!

【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#30 閑話 一緒にお食事権!

雲が素早く流れていく。

空の高いところはかなり風が強いようだ――と思わされるが、ここはナザリック地下大墳墓、第六階層。

アウラとマーレの守護する地だ。

その湖畔に、双子とフラミーはいた。

 

どこからか男性使用人によって持ち出されてきた――無駄に広い十二人がけのL字のソファと、ソファに対して小さいテーブルが置いてある。

九人掛け目で折れ、三人掛けと八人掛けがくっついているような具合だ。

それの八人掛けのところにフラミーは双子に挟まれ座っていた。

「ぶくぶく茶釜様のお写真ですか!?」

フラミーは興奮するアウラに優しく頷いてさらりと髪を撫でた。

「そうなの、気に入ったのがあれば二人にあげる。」

十三冊あるうちの、古いフォルダーを開くと、そこには日付順に大量の写真が入っている。

写真は六つ切程度の大きさのため中々の重さだ。

「い、いいんですか!?どれがいいかな、お姉ちゃん…!」

良いも悪いも良いに決まっていると二人に微笑めば、眼前に広がる湖の端っこで蜥蜴人(リザードマン)とハムスケ、死の騎士(デスナイト)が遅い昼食のために訓練から戻ってきたのが目に入った。

 

「そういえば、ここで暮らしたり出入りするようになった者達はどう?」

「うーん、少し目障りです!」

「ぼ、ぼくは、皆面白いなって思います!でも、別にいなくても良いです!」

フラミーはアルベドが陽光聖典(おじさん)達を連れて帰るのを反対した日の事を思い出していた。

「トカゲは家を守ってくれる的な言い伝えが…えーっと、家トカゲ?違うな。えーと…なんて言ったっけなぁ…。」

ブツブツしゃべっていると、後ろから声がかかる。

「ヤモリですよ、フラミーさん。」

気付けばアウラとマーレはソファから降りて膝をついていた。

「あ、アインズさん。」

顎を上げて、真上を見上げる。

アインズは両手をフラミーの肩にポンと乗せると、肩を揉みながら双子に目で戻るように指示をした。

「ブループラネットさんがそう言ってました。…凝ってますねお客さん。」

「そうでした、ヤモリ。そのヤモリって言うのはトカゲの仲間でね、家を守ってくれるんだから、あんまり邪険にしちゃダメだよ、二人とも。」

はーいと行儀よく声を上げる二人に微笑ましい気持ちになる。

でも家を守るならあたしたちの方が強いし実績もあるよねと話すアウラに確かに、と思うフラミーだった。

「あーアインズさん、そこいっすね〜。あ〜羽の根元の方もお願いしていっすか〜。」

フラミーは中年のくたびれたサラリーマンのような雰囲気を漂わせつつ、アウラとマーレの背中のあたりに開きっぱなしにしていた翼をわずかに持ち上げる。

「いっすよお客さん、この辺ですか?」

「あー効きます、上手ですねアインズさん……………。そろそろ変わりましょうか?」

「あ、いえ。俺は凝るものないんで。」

「はははですよねぇ。言ってみただけです。」

「ははは、ですです。」

上がる支配者達の笑い声にアウラとマーレはお食事権は大正解だったと思った。

 

しかし、続くフラミーの言葉にアインズは固まる。

「あースパ行きたいなぁ、それで全身マッサージとか…いいなぁ〜。」

「え……。」

「え?」

 

フラミーが軽い疑問を口にするのと同時にアウラが片膝をソファに乗せるように体をフラミーに向けた。

「フラミー様、あたしがマッサージしますから行きましょうよ!!スパリゾート、ナザリック!!」

「わぁ良いね!今夜行く?」

「ちょちょちょちょ!フラミーさん!!そんな教育に悪い真似やめて下さいよ!!」

え?何?と疑問に思いながら、アインズへ体ごと振り返り、まずいことに気がついた。

 

「!!!!」

「そうですよ!!女児に何見せる気ですか!!」

まるで変態(ペロロンチーノ)のような扱いだ。

「やばい、もはや当たり前のようについてて忘れてました!!」

何だろうと首をひねるアウラに、顔を青くしたり赤紫にしたりしながらフラミーは伝えた。

「わ、私はちょっとね、女の子に見せられないような体なんだった…。ごめんねアウラ。」

「え?何でですか?フラミー様とってもお綺麗なのに!」

天真爛漫な太陽から目を背けると、そこにはマーレが同じく首を傾げていた。

「あ!えと、その!じゃあ、僕とならどうですか?」

「あ…マーレならギリギリセーフかな…?」

肩揉みをやめたアインズがL字の三人掛け部分に座りながら、いやそっちもアウトなんじゃ…と呟いているのが聞こえた。

「うう…ですよねぇ…。」

フラミーが悲しんでいると、後方少し離れたところでパラソルの下、お茶を淹れたり食後の軽食を出す為に控えていたペストーニャがアインズの元に跪き来訪者を告げた。

 

「ご歓談中失礼いたします。デミウルゴス様がいらっしゃいました。あ、ワン。」

アインズがちらりと斜めに座るフラミーを伺うと、フラミーは悲しい様な不満なような、自嘲するような表情をして、訳もわからぬ双子に左右から慰められていた。

その向こう、ペストーニャが控えていたパラソルとワゴンのそばに、この晴天に暑苦しいスリーピースの悪魔がにっこりと控えていた。

「ふむ、通せ。ただ、双子とフラミーさんは休暇だと言うことを伝えるのを忘れるな。」

頭を下げてデミウルゴスを呼びにペストーニャが戻っていく。

 

替わりに現れたデミウルゴスはすぐさま跪いた。

「アインズ様、お忙し――」

「良い良い、デミウルゴスよ。私も今は休んでいる。して、あれは成ったか?」

「は。エイヴァーシャーの邪王から取れた皮が中位魔法を込めるのに耐えましてございます。」

「そうか!よくやったぞデミウルゴス。お前にも何か褒美をやらねばならんな。」

頭を下げ辞退しようとするデミウルゴスを手で押し留めた。

「お前は実に良くやってくれている。何が欲しいか言ってみなさい。」

アインズは父親気分だ。が、言ってから気がついた。

椅子を作るための骨が欲しいと言われたら困る、と。

 

しかし悪魔の願いは想像以上に困るものだった。

「それでは…今お話になっていた、アインズ様、フラミー様が、マーレと共に今夜行くスパリゾートナザリックに私もお供させては頂けないでしょうか。」

ワクワクと言った雰囲気で尾を振る守護者に、アインズもフラミーも固まった。

「ちょっとデミウルゴス!あなたみたいな男がいたらフラミー様が入れる訳ないでしょーが!」

アウラがブーブー言うが、こればかりは正論だ。

「しかし、アインズ様とマーレと入るのでフラミー様は恐らく水着で…。」

「だーかーらー!デミウルゴスはどうなの!マーレは子供だし、アインズ様は絶対的支配者だし、何より骨でいらっしゃるからフラミー様が入れるんでしょ!この!あほすけべ!!」

フラミーは意外とおませなアウラの頭に手をポンとのせると愉快そうに笑い始めた。

「はははは。ありがとうね、アウラ。――デミウルゴスさん、私は今は誰ともお風呂には入らないつもりなんです。マーレもごめんね。でも、プールなら入れるかしら。」

楽しそうに笑うフラミーにアインズはほっとした。

 

しかし、デミウルゴスはすけべ呼ばわりされた事を訂正せずには居られなかった。

「フラミー様、自分は決して助平心で言ったわけではありません。先ほどのアインズ様との会話で、サタンであるフラミー様が両性具有であ――」

アインズは慌ててバサリと立ち上がると跪いたままのデミウルゴスのスーツの首根っこをつかみ、蜥蜴人(リザードマン)の方に引きずっていく。

「え?」と一言残し、呆然と猫のように引き摺られていく叡智の悪魔の姿にアウラは大笑いした。

「デミウルゴスのすけべー!すけべだからアインズ様にお叱りを受けるんだ!!」

「そ、そんなこと言っちゃデミウルゴスさんが可哀想だよ、お姉ちゃん…。」

フラミーを挟んで姉に止めるように言うマーレはチラリとデミウルゴスを見ると、ははっと結局笑い出してしまうのであった。

幸い、ダラダラと大量の脂汗を流すフラミーに二人は気付かなかった。




なんで生やしちゃったんでしょう。
これじゃあ楽しい女湯話が書けない…( ;∀;)
フラミーさんがアルベド、シャルティアと過ごす究極にエッチなお話しが脳裏をよぎる…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

試されるエ・ランテル #31 閑話 エ・ランテルの炊き出し

エーリッヒ擦弦楽団はいそいそと天使に化けると、華麗な礼をして鏡を潜っていった。

 

アインズもエ・ランテルで行われるボランティアイベント、炊き出しに行く為モモンの装備と口唇蟲を身につけていた。

今日フラミーは一人でスパに行って文字通り羽を伸ばすとウキウキしていた。表にフラミー番を立たせて。

彼女はもう冒険者のフリはできないし、最初にエーリッヒ天使ドッペルを伴って行った時には町中狂喜の大混乱に陥った為留守番だ。

エ・ランテルでは神の身でありながら自らズーラーノーン事件から人々を救ったと言う武勇譚と――何より人に扮して共に生活していたと言うローマの休日よろしく物語チックな話は人々を夢中にさせた。

 

「さて、誰といくかな。」

アルベドが隣でハンカチを噛んでいるのは見えないふりをする。

「ユリ・アルファよ。共にいく場合のお前の意気込みを簡潔に聞かせて欲しい。」

「はい。貧困と苦痛に喘ぐ人々を救うべく、最善を尽くします。」

 

「ルプスレギナ・ベータ。」

「人間どもをさらなる地獄の底に――」

「分かった。黙りなさい。」

 

「んん。ナーベラル・ガンマ。」

「は。私は必ずやアインズ様をお守りします。」

 

「シズ・デルタ。」

「ん。アインズ様とお出かけ。楽しみ。」

 

「エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。」

「はぁい!アインズ様ぁ!人間の死体が落ちてても食べないよぉにしまぁす!」

「はははは。偉いな、エントマ。しかしヨダレが出ているぞ。」

 

ユリが最適なように感じられたが、恐らく彼女は頑張りすぎるだろう。

そうなればアインズがふらふら遊んでいると叱られるかもしれない。

エントマとルプスレギナは論外として、シズは少し子供すぎだ。

で、あれば…「ナーベラル・ガンマ。お前だ。」

呼ばれた者が皆の列から一歩前に出て跪く。

「かしこまりました。このナーベラル・ガンマ、アインズ様に無礼を働くものから必ずやアインズ様をお守り致します。」

 

 

+

 

 

「黙りなさい、ガガンボ。身の程を――」

モモンがナーベラルをヘッドロックしパンを受け取る人から引き離していく。

十人連続でこのざまだ。

「ナーベラル・ガンマ!!お前何度言ったら分かるんだ!!フラミーさんと私の顔に泥を塗るつもりか!!」

「も、申し訳ございません!」

「いいか!お前はここにいる間は決して口を利くな。これは命令だ!あそこの"炊き出し最後尾こちら"の看板を持つエーリッヒの者と変わってこい!」

肩を落としたナーベラルが立ち去っていくのを見送ると、モモンをモモンちゃんと呼んだだけの善良な老婦人の元へ戻る。

この人はフラミーと数度立ち寄ったパン屋の奥さんで、ズーラーノーン事件の際に店も窯も壊されてしまっている。

「すみませんね、あいつ魔導国の中でも特におかしな奴で…。」

「いいのよ、おばちゃんあんな美人さんに嫉妬されるなんて鼻が高いくらいよ。」

うふふと笑う夫人にアインズは礼を言って頭を下げる――と、事態に気が付いたエーリッヒのドッペル天使が同族のナーベラルへ殺意を向けていた。

ドッペル天使の肩にポンと手を置き、「ほんとあいつ困ったやつですよね。」とアインズが言うと「はい。正に仰る通りでございます。」と天使は殺意を霧散させながら丁寧に相槌を打った。

 

すると連れ立ってきていたパン屋の主人はニヤリと笑った。

「しっかしわしゃーてっきりプラムちゃん…いや、フラミー様とモモン君がデキてるんだと思っとったわい。」

「ははは、ご店主そんな、やめて下さいよ。フラミー様にも悪いですって。」

そういうモモンはどこか満更でもない様子だった。

話を聞いていた周りの人々はおや?と思うが、決して人間の身で実る恋ではないと分かっている為誰も深掘りはしなかった。

 

お盆の上に皿を並べた人々は、モモンからスープを受け取り、続くドッペル天使達からパンや川魚のムニエル、グリーンサラダを受け取り、皆思い思いの場所で食べた。

魔樹だった枯れた大樹から南に向かって見たこともないほど巨大な――魔導国の紋章が入ったタープがはられ、その下には沢山の鉄でできたカフェテーブルと椅子が出されていた。

これまで落ちていた肉片はドッペル天使によって綺麗にナザリックへと回収されるとマーレの力で大樹の根元には芝生が生やされた。

人を殺し、踏み、血を滴らせていたときは燃えるように赤かった大樹には、人の頭ほどの高さまでふかふかと優しい感触の花咲く苔がはやされ、子供たちは魔樹を倒すと言って体当たりをしたり、魔法を撃つ真似をしたりして遊んでいた。

そこの穏やかな空気は最早高級な避暑地のようである。

 

+

 

割れないように木で出来ている皿のセット、カトラリーには全て神聖魔導国の紋章が施されていた。

最初に一人一つ、と決められタダで支給された物を皆洗って持ってきていた。

 

魔樹から半径約一キロ、真っ直ぐ十五分歩いた付近に幅四メートルほどの美しい人工の川が作られ、それは真円状に魔樹を囲むように流れていた。

――ちょうど魔樹の端からエ・ランテルの壊れた城壁の外までだ。あと一歩魔導王の到着が遅れていたら、エ・ランテルの人々は一人も生きてはいなかっただろう。

その川に囲まれた場所は神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国の飛び地だ。

川で洗濯をした者や、体を洗った者がエ・ランテルの恥さらしと袋叩きに合ったのは言うまでもない。

後に東西南北の四停留所に止まる魔導国の旗を掲げた小さな幽霊船が水上バス(ヴァポレット)として内回りと外回りに2つ走るようになるとそう言うものはすっかり見なくなるが。

魔樹の南側は現在食事広場になっているが、その裏北側には巨大なテントが四つでき、それらは男女で分けられ温かい湯に浸かれる巨大浴場テントと、帝国で売られているセンタクキが十台づつ置かれた脱衣テントができた。

センタクキは魔導国で行われたボキンなる善良な制度によって集められた資金で、魔導国の商人が買って来てくれた物だ。

そして東西には、スケルトンとゴーレム、死の騎士(デスナイト)によって建物の建築が進んでいた。

偶に神話の戦いにも参加した双子の守護神が監督や資材生成に来ると人々は膝を折った。

 

【挿絵表示】

 

 

日の昇る東には光の神殿、兼魔導国の行政窓口が建築されている。

既に屋根のかかったそこでは祈りを捧げる聖堂と、脇には国籍とぱすぽーとと言う身分証明書が取れる部屋が既に運営を開始していた。

日の落ちる西には闇の神殿、兼魔導国ザイトルクワエ州州庁ができて行っている。

そこでは祈りを捧げる事ができる聖堂はもちろん、街づくりや、エ・ランテルの片付け計画、地上げ等の計画を立てていて、魔導国本国より日々八十名程度がそれぞれの神殿へ鏡の扉を使って出勤して来ていた。

 

今度数キロメートル先に新たに作られる円形川はついにはエ・ランテルを取り込み始める。

しかし、反対者はいなかった。

と言うのもエ・ランテルのどこであっても魔導国が土地の買い取りを受け付けるそうで、仮河川設置の範囲内の売却申し込みが五十パーセントを超えるまでは川の製作が始まらない慈悲深い政策や、売却者には川の内側の土地を買う権利が優先的に与えられたことが大きい。

そして…王都からの支援が未だ始まらないこともひとつだった。

 

人々は売却の申し込みと魔導国国籍取得の為、光の神殿…行政窓口には連日長蛇の列ができていた。

土地を買う者は少しでも良いところを買いたいと売却額に所持金を上乗せした。

土地を持たない者は国籍必須ではあるが、州営のコンドミニアムと呼ばれる建物の賃貸申し込みをしたり、まるで金のない者はカッツェ平野で晩秋にスタートするという農業開拓に繰り出す契約を結び不安はありつつもちっちゃな地主を夢見た。

魔導国は美しい街作りをスローガンに必要以上に土地を小さくすることを禁じた為、殆どの者は今までより大きな家を手に入れることができたが、小金しか持たない者は6世帯程度で寄り合って所持額を大きくし、Building co-operatives(コーポラティブハウス)の建築計画を進めた。

 

人々は当然無償だが、これからできる美しい街の光景と、新たなマイホームを胸に、一刻も早い整備に向けて朝な夕なに働き続けた。

 

 

+

 

 

「おや!モモン君!精が出るね!」

そう声をかけてきたのは冒険者組合長アインザックだ。

都市長パナソレイと魔術師組合長のラケシルも来ている。

「これはアインザックさん。山盛りにしておきますよ。」

「分かっているじゃないか!しかし魔導国の飯はうまいもんだな。家も組合も壊れてしまったがこれが食えるならしばらく避難所生活でも文句はないとも。」

「全くその通りだアインザック。おっと、私は程々にしておくよ。この後また身が重くなるとスクロール発掘作業で若いもんに怒られる。」

そう続くのはかなり痩せて見えるラケシルだ。

「私は沢山食べるぞ!痩せたりしたら仮州知事殿に心配されてしまう。」

パナソレイは次の川ができるとザイトルクワエ州エ・ランテル市の地が公式に生まれるので、そこの都市長を再び任せられる事となっていた。

最初は断っていたが、手紙を出しても何の連絡もない王都にすっかり愛想を尽かしてしまっていた。

この感じで行けば王は今後、魔導国に取り込まれると思われる王国で、そのまま直轄のリ・エスティーゼの都市長か、ザイトルクワエ州の州知事になるだろうし、と流れに身をまかせる事にした。

 

ガハハハと笑う仲のいいおじさん三人に、アインズは思わず――「友達と歳をとるって、素敵なことですね。」そう言ってしまう。

少しだけ寂しそうなその様子におや?と三人は顔を見合わせ、モモンを食事に誘った。

「モモン君、君も一緒にどうだね?ずっと立ちっ放しだろう。新しい冒険者組合の仮図面も見せるぞ。」

アインザックは妙に距離の近い人だと思っていたが、面倒見の良い、父親気質のおじさんなんだとアインズは最近わかった。

「うむ。それに、旧法国に神々が降臨される前から神の下にいた君の話は是非一度ゆっくり聞きたいものだ。」

「全く。全く。」

そう言うおじさんズに、アインズは心があたたかくなる。

こう言う気安い人たちの存在がアインズを炊き出しに向かわせる一番の理由だ。

「ありがとうございます。食事はもう済ませましたが、休憩を取ろうかと思います。」

 

四人でやいのやいのと空いてるテーブルに近付けば、人の立ち去ったテーブルと座面を拭く事だけを指示されている――魔樹に殺された者から作った地産地消型スケルトンがモモンの側の椅子を引いたので、自然とそれに腰掛けた。

すると冒険者よりも身分の高い他の面々のことは無視してまたテーブルを拭きに立ち去っていってしまった。

 

「え………。」

 

「はははは!良いとも良いとも!この魔樹の周りは王国ではないんだ!」

そう言ったのはなんと都市長パナソレイだった。

「何を呆然としてるんだ英雄!ここは神聖魔導国だ!その国の貴賓である君がそうされる事に何も思う所はないとも!」

「しかし我々が国籍を取ったら、覚えてろよ!」

お盆をテーブルにおき、椅子を引きながら笑うおじさんズに、アインズはきっとこの人たちはいい上司だろうなとまた心をあたたかくしたのだった。

 

「また、俺の休憩に付き合ってください。」

いつもより若く聞こえるその声音に、三人は揃って笑顔で首肯した。




2019.5.15 12:53 書いておきながら伝える能力低くてごめんなさい…( ̄▽ ̄)今の所のエ・ランテルちゃんはこんな感じです。
https://twitter.com/dreamnemri/status/1128508382149668865?s=21
(描いておきながら伝える能力低くてごめんなさい 二度目)

パナソレイさん、あなたの手紙、本当に王様に届いてますか?
早馬から手紙を確かに受け取った衛士は、本当に、人間だったんでしょうか。
ああ、でも、黄金の姫は手紙が来たことを、たまたま見かけた犬から聞いているから、きっとダイジョウブですね。

州は県と違って本国の法律に反していなければ更なる法律の制定を行えるのと、
軍隊を持つことを許されるのでとっても便利便利です(*'▽'*)
都市計画にはつい胸が踊ってしまいまさぁ!

2019.05.21 挿絵という概念を知りました!
2019.06.04 kazuichi様 誤字報告ありがとうございます!適用させて頂きました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#32 ツアレニーニャ

その日、セバスは人間の女を連れて帰って来た。

「おや?セバス。その女はなんでありんすか?」

吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)を連れた、金髪のカツラに白いドレスを身にまとったシャルティアが尋ねた。

 

「ただいま戻りました。カーミラ様。ソリュシャン。」

 

いつもの戦闘メイド(プレアデス)の物とは違うメイド服に身を包むソリュシャンは、続くセバスの回復を指示する声にピタリと止まった。

 

「セバス、それは役に立つんでありんしょう?そのくらい私が直してやりんすえ。」

セバスは人間の娘なんか絶対に回復しないと思っていたシャルティアの声に深々と頭を下げた。

「それではカーミラ様、よろしくお願いいたします。」

「これが至高の御方々を喜ばせるならお安い御用でありんす。」

信仰系魔法詠唱者(マジックキャスター)のシャルティアはその場で大治癒(ヒール)をホイとセバスの抱く汚らしい小娘に向け唱え、次は何をしたらいいかと楽しげにセバスに瞳を向けていた。

「とりあえず私はこれを寝かせて参ります。」

 

「セバス様。アインズ様に御報告なしにそれをここに置き止めるのですか?」

セバスの足が止まる。

そしてシャルティアが少しだけ強い調子で聞く。

「セバス、そのゴミをアインズ様に隠すつもりでありんすか?」

「いえ、ただアインズ様を煩わせるほどの事でもないかと。と言うのもこの屋敷に対して仕えている者の数が少なすぎると思い、この娘は丁度いいと思ったのです。」

シャルティアはしばらく逡巡した後短く応えた。

「…行け。」

「シャルティア様!!」

セバスは深々と頭を下げ、立ち去って行った。

 

「シャルティア様!例えどんなに有用な者であろうとアインズ様のご許可なしに――」

「ソリュシャン、今私からアインズ様に伝言(メッセージ)を送るからそうギャアギャア言いんせんでくれんかえ。私達はどう動けば良いか御身にご相談すれば良いだけの話。」

珍しく頭の回るシャルティアにソリュシャンは羨望の眼差しを持って応えた。

「さすがシャルティア様…。私一人ではこうは行きませんでしたわ。」

「ふふ、このくらい守護者として当然のことでありんすよ。」

じゃ、と言って報告する為に自室に帰って行った――階層守護者としてペロロンチーノに創造されたその小さくも大きな背中にソリュシャンは深々と頭を下げた。

 

+

 

「ん?シャルティアか。どうした。」

『アインズ様、セバスが何やら先程こっそり女を持ち帰りんした。あれはアインズ様にそのことを隠し立てしてこのまま飼い始めるつもりのようでありんす。そこで私も人間の女を何匹か飼ってみたいと――』

 

「却下だ。」

 

『あぁん御無体な…。では、セバスには女の処分を命じんしょうか。』

「…いや、セバスの事だ、今はそっとしておけ。」

(タッチさんはリア充だったからなぁ。女の子の一人や二人お持ち帰りしても仕方ないのかもしれない…。)

 

『かしこまりんした。このままセバスは泳がせるようにしんす。それでは、またご連絡差し上げんすぇ。』

「あ、待てシャルティア。お前が私にそれを話したことはセバスには言うな。いいな。」

セバスの名誉のために。

恐らく女子を連れ込んだことなどセバスは恥ずかしくて知られたくないのだろう。

 

こめかみからそっと手を離してため息をつくアインズに、フラミーは首をかしげた。

偶々蛙人(トードマン)を掌握したことを報告に来たコキュートスも気になるようで顔を上げた。

「セバスさん、どうかしました?」

「ふーいえ、なーんか女子をお持ち帰りしてきたーってシャルティアから連絡来まして。それも俺に秘密で飼うって。」

ドン引きの表情をするフラミーに、アインズは全ての言葉の選択を間違えた事に気が付いた。

「セバスさんが…。」

「セバスガ…。」

「セバス様が…。」

フラミーもコキュートスも一般メイドも全員がウワァ…と言うような声を上げた。

しかし、フラミーとNPC達は違う感情を抱いている事にまだアインズもフラミーも気付きはしなかった。

 

次の日、デミウルゴスを伴ったコキュートスが入室してくるまで。

 

+

 

「ツ…ツアレ…ツアレニーニャ・ベイロンです…。」

「なるほど、なるほど。では、聞こう。ツアレニーニャ。お前の願いはナザリック地下大墳墓、我らが支配する地に行き、そこで暮らしたいと言う事だが、それは本当か?」

「は、はい…。セバス様と一緒に…暮らしたいです。」

 

「そうか。しかし、その願いは聞き届けられない。」

 

セバスは目を閉じ、また汗をぐっしょりとかく。

自分の進言によって、ツアレは死ぬ事になるのか。

ツアレは拒否の言葉に息を呑み、スカートを握り締めて俯いた。

 

すると、アインズがこめかみに手を当てた。

「ああ、フラミーさん丁度いい所に。今。はい、来ています。それが問題が発生しましてね…………。場所が解らないと思うのでこちらから転移門(ゲート)を開きます。」

ナザリックの最高責任者であるアインズでさえ、頭を抱える問題なのかと守護者は驚きを隠しきれない。

セバスの斜め前に闇が開くと、清浄風な輝きを宿したフラミーが現れる。

アインズを除く全員が一斉に畏まり、慌ててツアレも真似をした。

 

(一時は非情な方かと思ったが、哀れにも虐殺にあった人々を最後はその慈悲深さによって生き返らせたこの方ならば或いは…)

これは非常に礼を失した行為だが、ツアレにだけ聞こえるような非常に小さな声で、セバスは告げる。

「この方に助け舟を頼みます。」

ツアレがハッとこちらを見ようとするのを視線で制する。

 

フラミーは辺りをさっと眺め、状況を確認すると、アインズの方へ近寄る。

「すみません、わざわざ転移門(ゲート)開いて貰っちゃって。」

「いえいえ、とんでもないです。あ、フラミーさんも掛けますか?」

「はい!ありがとうございます。――皆さんも楽にしくださいね。」

アインズはソファの中心からわずかにズレると、その隣にフラミーはヒョイと座った。

 

楽にするように言われたが、セバスとツアレは顔だけをあげ、決して立ちはしなかった。

フラミーも特別二人に立つようには言わなかった。

「それで、彼女が噂の?」

既にツアレの事はナザリックに広まっているらしく、セバスはゴクリと喉を鳴らし身を固くする。

「ええ。そうなんですが、よく見てください。」

「うん?ツアレさん、でしたっけ。」

さっと立ち上がり、フラミーが近付いてくる。

ツアレは呆然と口を開けてフラミーの顔を眺め続けていた。

そんな様子に、セバスはツアレの意識を取り戻そうとわずかに背中を押した。

「ひっ!はっ!!」

ツアレが我に帰る時に大きな声を出すと、再びデミウルゴスとコキュートスから強い怒りの波動を感じる。

シャルティアとソリュシャンもやれやれと言ったような雰囲気だ。

このままでは悪感情を抱かれる恐れがあるため、セバスは代わりに返事をした。

「失礼致しました。そうです。この者はツアレ、ツアレニーニャ・ベイロンでございます、フラミー様。」

「はっ、そ、そうです。申し訳ありません…あんまり…綺麗すぎて…。」

そう言うツアレとセバスに少し笑うと、フラミーはツアレの前髪を斜めに搔き上げる様に触れた。

その手付きは優しく、まるで母のようだとツアレは思った。

涙が頬を伝うことにも気付かず、またフラミーに見入る。

 

「どう思いますか、フラミーさん。」

「なるほど、そういうことですか…。」

フラミーはデミウルゴスみたいな事言っちゃったなと思う。

 

支配者たちは守護者とツアレを置いて何かに納得している様子だ。

そして、フラミーがツアレに向き直る。

「ツアレニーニャ・ベイロン。」

 

「は、はい…。」

まだセバスはナザリックにツアレを…いや、せめて命を助けて欲しいと請願していない事に焦りを感じる。

「フ、フラミー様…。」

思わず名を呼び、話を遮ってしまうと、アインズがこちらへ視線を向け、それを嗜めた。

「セバス。」

「…し、失礼いたしました。」

 

「貴女には妹がいますね。」

「ん?」

「何故…それを…。」

ツアレのつぶやきはセバスの心の声とぴたりと合っていた。

 

フラミーが振り返ってくるので、アインズは先制攻撃に出る。

「どうしました?フラミーさん。」

「あ、いえ。アインズさんが何か仰った様な気がして。」

「そうですか、いえ。頷いただけです。さぁ、続きを。」

 

フラミーはそういう事かとまた突如納得し、向き直る。

「…私は(・・)エ・ランテルで姉を探していると言う、ニニャを名乗る冒険者に会っています。」

ツアレは再び息を呑んだ。

 

「そ、その名前は……」

 

+

 

「お姉ちゃん一緒に逃げよう!?」

「え…?……できない。できないよ…。そんな事したら村の皆も…お父さんお母さんだって…どうなるか……。」

ツアレニーニャは妹の優しい言葉に決断が揺らぎそうになるが、親や友人達、そして目の前の愛する妹の未来を想う。

「私、ちゃんと仕えて…皆の未来を守るからね。心配しないで。うまくやってみせるって。ね。」

妹が今、人質にしかなれない自分を責めているのが伝わってくる。

 

「お姉ちゃん…。」

「なぁに?」

「私の一部をあげるから、そしたら、ずっと持っててくれる?」

「…嬉しい…。」

ツアレニーニャに頷くと、妹は机に向かい、鉛筆を削るのに使うごく短いナイフを取り出す。

そのナイフで身を守る様にと持たせてくれるのだろうかと、眺めていると――ザクリザクリと美しい栗色の髪を切る。

そして生まれた時に親が作ってくれた自分のベビーリングを引き出しから取り出すと、自分の髪を一束結び付けて小さな巾着に入れ、それを渡してきた。

 

「私がいつでも、お姉ちゃんのそばにいる事…忘れないでね。生まれたときから、今までも、これからも、きっと、ずっと…。」

ツアレニーニャは涙を溢れさせながらありがとうありがとう、と言い続けた。妹の生を詰め込んだ巾着を握って。

自分に何が返せるだろう。

美しかった妹の髪は斜めに不格好に切られ、ボサボサだ。

同じようにしたいが、ツアレニーニャは髪は切れない。

明日領主のもとに行く時に、あれの思う通りで行かなければ両親は苦しめられるだろう。

 

ツアレニーニャは沈黙し、手の中の巾着を眺めると、やはり自分のベビーリングを引き出しから取り出しに行く。

これが一番ふさわしいと思える、自分の身の一部。

妹の隣に座り、手の平にベビーリングを乗せる。

 

「私の一部も、貰ってくれる?」

妹は大切に手の中の姉の生まれた証を握る。

その拳をツアレは愛しむように手の平で包む。

「私はツアレニーニャ。あなたに、私の半分。ニーニャをあげる。」

え?と顔を上げた妹に、ツアレニーニャは続けた。

「私はツアレニーニャじゃなくてツアレ。この先どんなにツアレニーニャが辛い思いをしても、ツアレの私は大丈夫。ニーニャ、受け取ってくれる?」

妹は涙で歪む視界を、ツアレ(・・・)でいっぱいにする。

「うん!うん!私、私はじゃあ、これからはニーニャ。私達、半分づつ自分を交換こしたから、きっと、きっといつまでもどこまでも一緒に居られるよね。」

「うん、私達、二人でツアレニーニャ。ニーニャ、沢山幸せになってね。ツアレがもし辛い思いをしても、ニーニャの幸せがツアレニーニャを幸せにしてくれるから。」

 

二人は最後の夜、同じベッドで泣きながら眠りについた。

 

+

 

(ニーニャ…私の大切な半身。)

その日の指輪も、ニーニャの髪の毛も、すべてもう捨てられた。

二度と繋がることのできない半身を思って泣き暮れた。

でも、自分はツアレ、ニーニャは幸せに暮らしてる。

その思いだけがツアレニーニャを生かしてきた。

 

「その名前は…たしかに私の大切な半身でございます…。」

 

フラミーは満足したように頷いた。

そして、アインズの元へ行くと、アインズは立ち上がった。

 

「良し。聞け、我がシモベよ。」

 

決まってしまった。請願する間もなく、決断が下された。

「アインズ・ウール・ゴウンの名において、ツアレニーニャを苦しみの時から解放する。」

フラミーもデミウルゴスも嬉しそうに微笑んでいた。

セバスは白い手袋が赤く染まるのを止められない。

 

「ツアレニーニャ・ベイロンはエ・ランテルに建ちつつある我が闇の神殿に仕えるものとする。住む場所は州営コンドミニアムだ。何、神殿から出る給料で家賃は賄えるはずだ。…そして、ザイトルクワエ州の今後の守護神はセバス。」

驚きに顔を皆が上げた。

 

「我が魔導国の名に恥じぬよう、お前が指導してやれ。ナザリックとして、特別ツアレニーニャを保護することはないが、今度は匙加減を間違えずに行えるな?」

セバスは体を温かな力が漲るのを感じる。

「は。このセバス、必ずや魔導国、延いてはアインズ様とフラミー様の温情に相応しい働きをお見せする事を深く誓います!」

アインズはゆっくりと頷いた。

「さて、デミウルゴスよ。異論はないかな。」

「私の方からはこれでもう何もございません。」

「コキュートス。」

「私モゴザイマセン。」

 

「よし。では明日からツアレをしっかり指導するんだぞセバス。我々は帰還する。」




良かったね、ニニャ。ツアレ。
きっとまた幸せに暮らせるよ( ;∀;)


2019.06.04 kazuichi様 誤字報告ありがとうございます!適用させて頂きました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#33 血の狂乱とゲヘナ

次の日セバスは外に出たくないと言うツアレも連れて、方々に挨拶回りに行った。

ツアレの指導は明日からと言ったアインズの言葉に忠実に従い、ソリュシャンも共にツアレの指導にあたった。

シャルティアは、結局まだ何も手柄を立てていないのに帰還する事を腹立たしく感じ、挨拶する人々につい不愉快そうな態度をとった。

一軒十分程度の簡単な挨拶に留め、昼には屋敷に戻ってくることができた。

 

「これじゃまた結局デミウルゴスの麦の運搬係でありんす。なんでこの私があれを引き立てなきゃならないでありんすか!!」

シャルティアが深窓の令嬢と言う設定をすっかり忘れてドタドタと馬車を降りると、物陰から男達が現れた。

 

「どーも、お嬢さん。御宅の執事さんは約束を守ってくれやしないみたいなんでね。一緒に来て貰わなきゃならないみたいですよ。」

一人が代表してそう言うと、周りの男達が下衆な笑い声をあげる。

男がシャルティアに手を伸ばそうとすると、男の手がコロンと地面に落ちた。

「汚い手で触らんせんで。」

「ぁああああ!!!て、手が!手がぁあああ!!」

「手が無くなりんしたくらいでそんなに喚かないでくんなまし。男なんだぇら。」

シャルティアはそう呟くと無造作に手を振るった。

それに合わせ、男の首ーー幻魔サキュロントの首が落ちた。

流れ出るはずの血は何かに引き寄せられるかのようにシャルティアの頭上に集まり、球を作る。

 

「い、いけませんカーミラ様!!」

「なぁーにぃ?妾はお前のせいでアインズ様のお役に立つ機会を奪われたんでありんすぇ?」

セバスは止められないと悟る。

ソリュシャンはアインズが自分の神殿で働かせると言った人間をとりあえず守ろうとツアレの前に立ちふさがった。

 

そして白昼悲鳴が怒号が、閑静なはずの住宅街に溢れかえった。

 

誰かが通報したのだろう、「セバスさんの屋敷から恐ろしい悲鳴が」と。

駆けつけたのはクライムと、魔樹によってあっさりと破壊されたアジトから命からがら逃げ出し、エ・ランテルで神話の戦いを見せつけられたことによって己を失っていたブレイン・アングラウスだった。

同じく意気消沈していたガゼフが王都への帰り道で見つけ、拾ってくれた。

 

「「セバス様!!」」

屋敷の門の前に馬車があるせいで中がよく見えない。

しかし中からは狂ったような女の笑い声が聞こえる。

 

「仕方ありません、不本意ですが、御免!!!」

セバスのその力強い声と共に、グェと何かを押しつぶしたような声が響き、馬車に何かが突っ込む。

塀から入ろうとブレインの手に足を掛けていたクライムのすぐ脇、かするように門も馬車も道の半ばまで吹き飛んで行った。

 

クライムは白いドレスの女性が馬車に乗っていたことに気づき慌てて駆け寄る。

「だ、大丈夫ですか!!」

「セバス様!!」

ブレインはその血みどろの庭の中構えるセバスに向かった。

 

「いーつつつ。セバス、もう少しやり方ってもんがありんせんの?」

シャルティアが馬車からよろよろと出てくる。

「申し訳ありませんでした、お嬢様。しかしご無事で何よりでございます。」

「ふん、よく言うわ。」

手を差し伸べるクライムを透明人間のように無視してシャルティアはスタスタとセバスの方へ向かって歩いて行った。

その頭上には赤く丸い球が浮いていた。

 

「あ…魔法詠唱者(マジックキャスター)…。」

呟くクライムの声はひゅるりと風に流され消えていった。

 

+

 

「それで、そのツアレさんを救ったためにお嬢様を連れさらわれそうになったと…。」

「はい、我を忘れて暴れてしまいました。」

クライムにそう話すセバスの白い手袋は血一つ付いていなかった。

「クライム君、これを。」

ブレインが庭を片付ける衛士達が見つけた紙切れを持ってくる。

それにはご丁寧に時間と場所を指定する文章が書かれており、クライムはその場所に覚えがあった。

「今夜、八本指のアジトを急襲する予定があるんです…。恐らく、ここは娼館を経営していた者の本部かと…。セバス様…共に来てはいただけませんか…?」

セバスは悩む。シャルティアが最初に殺した者と同等の力を持つ相手ではクライムは再び苦戦を強いられるだろう。

 

すると、ソリュシャンが耳打ちしてくる。

「セバス様、アインズ様と連絡が取れました。」

クライムとブレインはその聞き知った名前にハッと顔を上げる。

この力、もしやこの人は…二人が何かの答えにたどり着こうとすると、庭には闇が開いた。

 

ブレインが堪らず声を上げる。

「あ…あいつ…あいつもあの魔樹をやった奴だ…。」

「おや?君はだれかな…?」

その声は転移門《ゲート》から出てきたデミウルゴスのものだった。

 

「デミウルゴス。またおんしかぇ。」

「これもアインズ様のご計画の一つですよ。さて、黄金の姫の仕いは…」そう言いながらクライムに視線を送る。

「あぁ、君か。君はこの国を良くしたいかな?」

その問いに淀みのないまっすぐな声で返す。

「はい。自分は黄金の姫、ラナー様に仕えしクライムです。きっと国を良くし、守りたいと、そう思います。魔導国守護神の…えっと…。」

「ふふ、いい返事だ。私はデミウルゴスと言うんだ。」

さて、と一息着いてから守護神は何かをしようとする。

既に邸宅の門の外は野次馬でごった返していた。

すると、まるで吹き上がるように、街の空には炎の壁が何本もドッと立ち昇った。

 

「ふふ。さぁ、働いて下さい。今こそ手柄を上げるチャンスですよ。」

 

誰もが炎の柱に目を向ける中で浮かべたその笑顔は、とても神の使いには見えないものだった。

 

+

 

人々は不思議な炎に目を奪われていた。

 

「制圧が終わったようですね。さぁ、参りましょう。」

そう言うと、クライムとブレインに視線を送ってデミウルゴスは歩き出した。

 

デミウルゴスはその場にいた守護者たちは言うに及ばず、大量の衛士を引き連れ進んでいく。

たどり着いたのは、指定されるはずだった八本指の娼館本部だった。

「ここにたまたま六腕のほとんどがいたのは僥倖でしたね。さて、クライム君。もうじき君の大切な者が現れる頃かな。」

一本目の炎は立ち所に消え、中には気絶する大量の犯罪者たちがいた。

衛士たちがせっせとそれを縛り上げる中、王国の紋章を掲げた馬車が二台近付いてきた。

馬車は立ち止まると、中からは第二王子ザナック、レエブン侯、そして、黄金の姫ラナーが降りてきた。

 

「何と言う技だ…。」そう言うレエブン侯とザナックを他所に、ラナーは駆け出す。

「クライム!!」

そしてその胸に飛び込む様を、野次馬が、衛士達が、その場にいた誰もが目撃した。

 

「な!?ら、ラナー様!いけません!!」

振り解こうにも振り解けず、ワタワタするクライムの胸の中で王女は誰にも見えない顔を歪ませた。

 

「では、殿下方。約束通りこの者達は我々神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国が引き取らせて頂きますよ。」

えっと驚いたのは何の事情も知らない衛士やクライム達、そして情けないことに守護者数名だった。

「ああ…頼みます。」ザナックは妹の変貌に呆れながら、デミウルゴスに軽く手を挙げた。

 

満足そうに頷くデミウルゴスはセバスへ近づいていくと、読めと言わんばかりに魔導国紋章の印が押された書状を渡す。

 

僅かにそれに目を通すと、セバスは胸を張って読み上げる。

「王国犯罪組織八本指。罪状。神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国がザイトルクワエ州。エ・ランテル市にて、罪なき数十名の女性を誘拐した罪。不当にその国土に立ち入った罪。復興意欲を削ごうと人々に麻薬を渡した罪。魔導国内の物を許可なく持ち出した罪。他にも九つの罪によって、ザイトルクワエ州が守護神、セバスの名に於いて逮捕する。尚、罪人は本国の新たに制定した神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国憲法に則り裁かれるものとする。以上。」

理解したシャルティアは堂々としたその姿にチッと舌打ちをした。

何故自分がそこに立っていないのかと。

そして仮面とかつらを外し、ソリュシャンに押し付ける。

 

クライムとブレインはセバスの強さと、優しき人柄に心から納得した。

そうか、これがエ・ランテルを飲み込み始めた神聖魔導国を守る一柱かと。

僅かでもそんな相手に稽古をつけてもらえた事は何にも変えがたい経験になるだろう。

男達の瞳はキラリと輝いた。

 

その隣でツアレは自分は救われるべくして救われたことを、昨日の神々に心から感謝した。

いや、今日が解放の予定だったとすれば、やはり感謝するべきはその前に殺されそうになっていた自分を救い出したセバスだろうか。

 

拘束された罪人の周りに次々と闇が開いていく。

そして、悍ましい悪魔が身を固くする衛士を避けるように歩いて行き、それらを回収したかと思うと、再び闇は閉じた。

 

「では、次のところへ行きますかね。セバス。」

デミウルゴスは次の炎の柱に向かって歩き出した。

 

セバスはその背中に丁寧に頭を下げると、気にするなとでも言うようにヒラヒラと手を振る後ろ姿にナザリックの者への愛情を感じずにはいられなかった。




アインズ様が手に入れたいと言う人間の存在を統括と悪魔は一生懸命探し回ったでしょうね(´ω`)

2019.05.17 すたた様 誤字のご報告をありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#34 ラナーの出発

国王とガゼフは戻ってきたザナックとラナーの帰城を驚きを持って迎えた。

つい今朝方までは襲撃すると言っていた筈のそれを全て魔導国が何の被害もなく連れ去ったこと。

いつの間にラナーやザナックと繋がりコンタクトを取っていたのかと言うこと。

王都や王城にあれ程目立つ守護神がどうやって誰にも知られずに入ったのかと言うこと。

もはや何から突っ込めばいいか分からないランポッサⅢ世は考えるのをやめたくなる。

「全くお前達は…。」

やれやれと国王が被りを振ると、ラナーは愛らしく微笑み、ザナックは満足気にうなずいた。

 

ガゼフは後ろに控えるレエブン侯とクライム、ブレインへとやってくれたなといった様な、信頼の瞳を向けたのだった。

久しぶりに和やかな空気が王の私室に流れる。

すると王の向かいのソファにザナックと並んで座っていたラナーが王へ身を乗り出した。

「ねえ、お父様!私、神聖魔導国がどんな所なんだか、見に行きたいんです!スレイン州の神都では光の神も闇の神も偶にそのお姿をお見せになるそうですよ!」

きっと素晴らしいんでしょうね、と正義の神のおわすその国へのまっすぐな憧れからキラキラと瞳を輝かせていた。

 

ランポッサⅢ世は溜息をつくと、メイドへ視線をやり下がらせた。

「良いか、ラナーよ。王女たる者一歩国外へ出れば、お前の言葉はこの王国の言葉として扱われるのだ。普通の貴族の娘のように物見遊山とは行かない、わかるね?」

ラナーが悲しそうな顔をするのが国王も悲しい。

「どうか、今は我慢してくれないかのう…。」

そんな…と呟くラナーの声は、まるで籠に囚われる小鳥のようだった。

「では…ではお父様、せめて、我が国エ・ランテルを見に行くのは…ダメでしょうか…。」

ザナックはラナーの様子をオェとでも言うような雰囲気で見てから加勢した。

「父上。あれからもうじき一月が経ってしまいますし、この辺りで王都と国王がエ・ランテルを見限っていないと言う証明をされるのは如何でしょうか?今回魔導国の守護神がザイトルクワエ州エ・ランテル市を守るために八本指を引き渡せといっていましたし、エ・ランテルは実行支配を受けている只中です。」

あの魔樹を神々はザイトルクワエと呼んでいたことを王は思い出した。

なんと禍々しい名前だろうか。

「王陛下。ラナー殿下が物資を持ってエ・ランテルに現れ、支援と激励を行い、少しでも魔導国に取り込まれる事を市民が拒否するようにするべきです。瓦礫の街の今行かねばなりません。」

口を挟んだレエブン候は、今回の戦争では兵を王に貸し、王都の均衡を保とうと城に残りうまく立ち回った影の立役者だ。

レエブン侯のお陰でまだ王は貴族派閥の貴族達に見限られてはいないのだ。

「未だパナソレイから連絡がない事を思うと…恐らく相当苦しんでいることと思われます。綺麗な服と、食事などを積んだ、大々的な支援団をラナー殿下が引き連れて行くと言うのは非常に絵になりますし、宜しいかもしれません。」

その話を聞きながらクライムは首をかしげた。

あの日パナソレイ都市長閣下から来ていたと思った手紙は別人からのものかと。

 

「それならば私が行くのが一番だと思うが…。あぁ…。」

言っておいてランポッサⅢ世は必ず横槍が入る事に思い至る。

この一ヶ月、王による支援は悉く邪魔立てが入りエ・ランテルに未だ何もできていないのだ。

「そうです、陛下やザナック殿下が行こうとされては恐らく計画は頓挫します。ですが、ラナー殿下ならば…。」

王はやる気に満ち溢れるラナーへ目をやった。

「…そうだな…。ラナー、行ってくれるか。我らがエ・ランテルへ…。」

「はい!私ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフが、陛下の分まで苦しむ人々を救う事を誓います!」

溢れるやる気にランポッサⅢ世はいい娘に育ってくれたと思う。

しかしその瞳の中に一瞬だけ、蠢く闇が見えたような気がした。

 

+

 

八本指襲撃から一週間と数日。

エ・ランテルを囲んでいた三重の城壁は、あと少しで全てがなくなるという勢いで撤去が進んでいた。

ラナーを一番外側の川の南の橋で迎えたパナソレイは、自分の今の立場を気まずそうに告げたのだった。

「王陛下には…とても申し訳ないですが…。私たちもやはり、生きねばなりません。家族にも、食事を取らせなければいけないのです…。」

警護のために蒼の薔薇が付いてきていたが、絶句していた。

 

「そうですか、パナソレイ都市長。仕方のない事です。」

ラナーの返事は一見淡白だったが、責めるつもりは毛頭ないと言う雰囲気があり、パナソレイが目に見えて安心しているのがクライムにも、蒼の薔薇にもわかった。

 

すると、蒼の薔薇のイビルアイが眼前に死者の大魔法使い(エルダーリッチ)を見つけて身構えた。

「皆!!死者の大魔法使い(エルダーリッチ)だ!!くそ、綺麗な瓦礫に見えたがやはり人が大量に死んだだけはある…!!」

「了解。」

「まずは私から。」

双子の忍者がすかさずクナイを握ると、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)はゆっくりとこちらへ向いた。

「ま、待って下さい!!その方は違うんです!!」

パナソレイは慌てて死者の大魔法使い(エルダーリッチ)と双子の間に立ちはだかると、人間魅了(チャームパースン)かとガガーランは相手の力量を早くも見極め始めていた。

「危ないぜぇ都市長さん。何、俺たちがさっさとやっつけてやるって!」

「煩い人間どもだ。全く。笑止。」

死者の大魔法使い(エルダーリッチ)にラキュースは負けじと声を張るため大きく息を吸い込む。

周りの瓦礫撤去をしていた人々は何事かとその手を止め冒険者達の様子を見始めていた。

「成仏させてあげるわ。私は蒼の薔薇リーダー!私のこの――」

最後まで言う前に、後ろから大きな影がラキュースに落ちた。

「な…な…!なんだと!?」

イビルアイの叫びにラキュースは振り返る前にさっとその陰から距離を取るように飛び退いた。

「貴様、まさか死の騎士(デスナイト)を呼んだとでも言うのか!!」

「ギャーギャー煩い小娘達だ。OT8-174番、何でも無いとも。こいつらは私を倒せると思ってるらしいが、何。すぐに気付くさ。自分たちの愚かしさに。」

OT8-174と呼ばれたそれは頷くと瓦礫撤去作業を始めた。

 

ラナーは蒼の薔薇に恐る恐る声をかけた。

「あ、あの…ラキュース…皆さん…周りを…。」

下を向くラナーに違和感を感じ、蒼の薔薇はサッと周りに視線を飛ばすと、そこには様々なアンデッドと手を取り合い作業をしていた様子の人々が何事かとこちらを見ていた。

 

ガガーランのお前のせいだぞと言う声が妙に大きく聞こえた。

 

+

 

周りを行き交うデスナイトやエルダーリッチはこの数日で途端に増えたものだった。

恐らく魔導国内で決められていた土地の買い取り率を達成した為工事スピードを上げるのだろうと人々は思った。

すでに一番外側の環状3号川と名付けられた円形川はエ・ランテルの巨大な三重壁の一番外側をすっぽりと囲み切り、巨大なその川は北に位置するカルネ市をも飲み込もうと工事が迫っていた。

 

「ではパナソレイ都市長、案内してください。」

深々と頭を下げてから、ラナーの馬車にパナソレイが乗ると六台の馬車と言う大所帯で、一行は移動し始めた。

作りかけの川の次、2本目の円形川――環状2号川の内側はもう町になり始めていた。

すると遠くから幽霊船が現れ、滑るように停留所に止まるのが見えた。

 

バタバタと可愛らしい双子が降りてくると、ラナーよりいくらか年下の、冒険者のような出で立ちの少女が降りてくる。

「ウレイ!!クーデ!!走っちゃダメだって言ってるでしょ!!」

「姉様こそ早く来てー!」

「姉様、きっとあれよ!あの建物!ほら、光の神殿で頂いた紹介のオシャシンと一緒!!」

 

魔導国の神官とは違う神官装束に身を包むおおらかそうな男が楽しげな声を上げた。

「ははは、よく見つけましたねクーデリカ!ウレイリカ!さぁ、行きますよ!」

続いて痩せ型の、これまた冒険者のような男とハーフエルフが降りてくる。

「ふーん、あれがチンタイのコンドミニアムね。見えてるなんて思ったよりも停留所から近いじゃない。さ、ヘッケラン!グズグズしない!」

「まてよイミーナ、自分の分ぐらい自分で持てよ!」

 

慌ただしく船を降りた一行は三階建ての、コの字型をしている建物に向かってズンズン進んで行った。

新生活を始める移住者のようだ。

白いその建物の全ての窓辺には、誰が管理しているのだろうか――赤い花が咲いていて、その者達の新生活を祝うようだった。

 

 

「近頃はエ・ランテルの外の人達も少しづつ増え始めて、前よりも賑やかになりそうだなと思います。宿とは違って賃貸と言う新しい概念が始まったことも人を呼ぶ理由かもしれませんね。」

そう言うパナソレイは、心底良かったと思っている雰囲気だ。

「そのチンタイってやつは何なんだ?」

一緒に馬車に乗っていたブレインは初めて聞く言葉に首をかしげた。

パナソレイの説明を受け、俺もここに住もうかなと検討し始めると、パナソレイも自分の新しい町を気に入られたのが嬉しいのか、光の神殿併設の行政窓口を後で紹介すると言い出した。

コンドミニアムは個人が運営することは宿業を脅かすと禁止されている為、それは州によって運営され、家賃は税収として国や州で使われるらしい。

良いシステムかもしれないとクライムは思う、が、パナソレイのそれは引き抜きだ。

 

「んん、すみません。ブレインさん、今はちょっと…。」

「ん?何だクライム君…ああ、悪いな姫さん。俺は国に仕える気はないし、いつかはガゼフの家を出なけりゃならねーからな。情報収集ってやつだ。」

はははとブレインは心底悪気のなさそうな顔で笑った。

 

一番中心の円形川、環状一号川を渡ると、そこには王都にいる全てのものの想像をはるかに超える景色が広がっていた。

 

魔樹は頂上から美しい水を、その枯れた体にくるくると這わせるように流していた。

その魔樹から出ている水は東西南北に四本落ち、三本の円形川全てを繋ぐまっすぐな川として街を潤していた。

 

【挿絵表示】

 

ラナーは思いがけず馬車を止めさせ、クライムが止めるのも聞かずに降りてその光景を眺めた。

「美しいですね…。魔樹と言うよりも、恵みの大樹と言ったところでしょうか。私は世界にこんなに美しいものがあるなんて知りませんでした。ねぇ、クライム。」

そう言うラナーの横顔はもっと美しいとクライムは思った。




https://twitter.com/dreamnemri/status/1128886013755944960?s=21

こんなでしょうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#35話 閑話 新生活

――ザイトルクワエ州エ・ランテル市

 

王国エ・ランテルを半径で飲み込んだ前代未聞の巨大都市。

そこにある光の神殿は、王国エ・ランテル先住の者達によって以前であれば長蛇の列ができていたが、地上げが殆ど終わりを迎え始めた昨今では随分とその列も短くなり、待ち時間は一時間程度まで短縮された。

その神殿に、今日は珍しく帝国からの移住者が訪れていた。

 

「それで、そのこんどみにあむって奴は一日いくらなんだ?」

聞く男はヘッケラン・ターマイト。

帝国から渡ってきたワーカーだ。

「いえ、コンドミニアムは月額制の二年契約ですので一日、というより月の額の方がわかりやすいかと思います。それとも冒険者になられるなら宿屋と比べるために日割り計算のものをお出ししましょうか?」

よく教育されているのがわかる窓口の男性はスラスラとお決まりの文句を返した。

窓口の男性は神都から来たものではなく、エ・ランテルで以前四大神の神殿に勤めていたそうだ。

一通り説明を受け、ヘッケランは一緒に聞いていた仲間達に振り返った。

「どのコンドミニアムが良い?」

 

既に建っているのは五棟で、内一棟は一区と呼ばれるザイトルクワエのすぐ周りを囲む環状一号川の内側に建つ、一昨日から入居の始まった超人気物件だ。

残りの四棟は二号川の内側、二区に位置する。

さらに八棟が三区、三号川の内側に順次建って行く予定だが、まだ竣工まで数週間ある予定らしい。

 

「うーん、一区は無理ね。ちょっと高すぎるわよこれ。」

イミーナの声に全員が賛同する。

 

「安さではこちらの、二区北東の物件が一番安いですね…。三区の北東の物件より安いのは何か問題でもあるんですか?」

ロバーデイクの質問は誰もが聞きたいと思ったことだった。

 

「こちらは南にあるザイトルクワエからの距離が半端に近い為少し日当たりに問題がある物件です。三区まで離れれば、殆どザイトルクワエの影響は受けないんですけどね。」

そう言うことかとロバーデイクは唸る。

 

イミーナも減点方式の値段設定に納得すると、続ける。

「じゃあこの二区の…ザイトルクワエより南側の二棟はどうして西側の物件が安くて東の物件が高いのかしら…?」

「東はスレイン州と帝国の商人の方々が大体この辺りで宿を取って露店を出したりするんで買い物好きな人にはかなり便利な地域なんです。」

今度は加点方式だ。

物件選びがこんなに難しいとは思いもしなかったため、ロバーデイクの隣でイミーナも一緒に唸りだした。

 

「じゃあ……こっち、この北のカルネ市のちかくのやつ…これはどうして三区なのにこんなに高いの?」

アルシェの質問にニヤリと神官が笑う。

「それはもちろん、神王陛下が一番に旧法国の罪を裁こうと降臨された約束の地がありますから。良いですよねぇ。今神殿が新たに建てられて行ってるんですけど、私も建ったら絶対行くつもりなんですよぉ。あ、失礼。んん。すぐ近くのカルネ市は人とともにゴブリンとオーガが暮らすので市に入るためには講習を受けて下さいね。」

神聖魔導王の事を語る時の魔導国民は――エ・ランテルの人々だけかもしれないが少し暑苦しい。

 

「そんな市の近くが高いなんて…信じらんねぇな…。俺たちにはあんま向いてなさそうだ…。」

ヘッケランの言葉は総意だった。

 

「とすると、この王都街道に近い西の二区のこれが私達には一番良さそうね。」

「よし、俺はイミーナの意見に賛成だ。中庭ありって書いてあるしな!子供も嬉しいだろ!」

ヘッケランは双子の妹達と、いつか自分とイミーナの子をそこで遊ばせれたら良いなとつい夢想してしまう。

 

アルシェは微笑み、待合椅子で眠りこける双子の妹をチラリとみる。

「ありがとう。ウレイとクーデも喜ぶ。」

「では神官殿。ここに二部屋お願いします。」

ロバーデイクの声に神官が頷き、手続きが始まった。

「ちなみに貴方のその身なり、神官ですね。神殿では神官の募集もやっておりますのでご興味があればこちらも。ただ、一点ご注意頂きたいのが神聖魔導国では治療による報酬を受け取る事を禁じているので、そこだけご納得の上お願いします。我々への報酬は全て国の税金から支払われますので。」

 

+

 

幽霊船のヴァポレットに乗りながら、手元の求人チラシに目を落とすロバーデイクにヘッケランが声をかける。

「なぁ、ロバー。別に俺達と冒険者にならずに神殿に勤めたって良いんだぜ?」

「あっ、あ、いえ…。違うんです。私が目指した神殿のあり方が…まさかこんなに簡単に実現するなんて…。ははは。本当、神様ってすごいですね…。っ。失礼…。」

望んだ世界のあり方に、喋りながら感極まったようで黙ってしまった。

ロバーデイクはこの神聖魔導国を作った王を神と認めたようだった。

 

「そうねー。この街、一月前にはなかったって思うと恐ろしいわね、神様って奴が。ふふ。また一月経ったら消えちゃうんじゃない?」

「イミーナ、不吉なこと言わないで…。」

 

そんな話をしていると、幽霊船長が喋りだす。

「次は西二区。西二区です。中央西川線をご利用のお客様はお乗り換えです。お忘れ物のないようご注意ください。」

鼻にかかった変な声で喋るそれの案内にアルシェはウレイリカとクーデリカを起こす。

「二人とも、もう着くって。降りるからちゃんとして。」

「わぁ、起きたのにお姉様がいるぅ…ん〜よく寝たぁ!」

「お姉様新しいおうちに着くの?」

 

途端に騒がしく話し始める二人に、他の乗客へ頭を下げる。

「静かに。迷惑になるから。」

すると光の神殿から一緒に乗っていた向かいに座る老夫婦は楽しげに笑った。

「良いのよお嬢さん。お嬢ちゃん達新しいおうち楽しみねぇ。」

老婦人の温かな声にアルシェは照れくさくなって不器用な笑顔を返す。

「この辺りは良いところさ。まぁ、どこに住むもんもそう言うけどね。ウチはパン屋をやってんだ。あの漆黒のモモンと、昔はフラミー様の御用達さ。良かったら遊びに来ると良い。運がいいと英雄を見れるぞ。」

老夫はシワシワの大きな手でキャイキャイ喜ぶウレイの頬を優しくつまんで軽く振ると、西二区停留所からの道を書いてメモを渡してくる。

アルシェは礼を言いながら受け取り、その地図に目を落とした。

 

「あ、コンドミニアムの近く…。」

おや?と顔を合わせた老夫婦は、この一行の新生活の場所に思い至ったようでニッコリと笑った。

「じゃあ、毎日元気なお嬢ちゃん達を見られるね。」

そうこう言っていると船が止まる。

「ドァ開きイェッス。」

やはり癖のある喋り方をする幽霊船長に双子のテンションはうなぎ登りだ。

「変なのー!」

「変だねー!」

そしてタタタタと荷物も持たずに降りて行ってしまった。

慌ててアルシェも二人を追って降りる。

大人の面々は降りる様子のない老夫婦にさっと頭を下げて下船して行った。

 

パン屋の老夫婦は三区に取り込まれた――崩れた昔の家と窯に最後の別れを告げに行った。

 

+

 

美しい鉄製の大きな門は開け放たれていて、すぐに広がる中庭には晩秋だと言うのにたくさんの花々が咲き誇り、噴水には小鳥が止まっている。

木の陰では人間サイズのゴーレムが鳥達に何か餌をやっていた。

うわぁーと全員がその小さな可愛らしい庭に見惚れ、思わず荷物を下ろしてその美しい光景に時間を忘れてしまう。

「は…ははは、これ、大当たりなんじゃねーか?」

ヘッケランの呟きに全員がうんと頷いた。

 

 

「あれ?新しい入居者さんですか?」

中性的な声に振り返れば、買い物帰りなのか手には紙袋を抱いたザンギリ頭の、こざっぱりとした身なりの者が立っていた。

「はい。今日から住まう者です。私はロバーデイク、そしてこちらは私のルームメイトのアルシェさん、その妹のウレイリカ、クーデリカです。よろしくお願いします。」

ロバーデイクが丁寧に頭を下げると、それに合わせるように慌てて三姉妹も頭を下げた。

「これはご丁寧にありがとうございます。ふふ、アルシェさん達は姉妹なんですね。そちらのお二人もお知り合いですか?」

 

ヘッケラン達は自分達に送られた視線に応えた。

「あぁ。俺たちはワー…いや旧知の仲って言うか。一緒に引っ越してきたんだ。俺はヘッケラン。」

「私はイミーナ。ハーフエルフよ。よろしく。あなたは?」

 

「僕は…いえ、私はニニャ。王国で冒険者をしていました。今はこの栄光ある神聖魔導国の冒険者です。ウチは姉さんと一階の、すぐそこの部屋で暮らし始めました。よろしくお願いします!」




本当街とか物件とか建物とか大好きすぎて困っちゃいましたね( ̄▽ ̄)

2019.06.08 83様 誤字のご報告ありがとうございました!これまでスルーだった事が驚きの誤字でした!笑
イメーナ→イミーナ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#36 精神の異形

すでに一週間滞在するラナーからの報告の手紙には、エ・ランテルは今や魔導国そのものとなっていると書かれていた。

 

「エ・ランテルの民も民だ!!王家への恩も忘れて、よもやアンデッドに恭順するなんて!!」

「そうだ!それにパナソレイは魔導国の都市長だと!?あいつは豚のようで頭の悪い奴だと思っていたが、ここまでとは!」

「王よ、このままでは三国家の交易拠点が本当に奪われてしまいます!」

「考えてみればズーラーノーン事件から税の支払いも滞ったままではないか!?」

「せめて川が囲みきる前にカルネ村だけでも取り戻すよう動くべきです!」

 

王はとうとう止められなかった。

 

ラナーのいる街への出兵と、カルネ村への出兵を。

 

+

 

「なんですって!?」

新黄金の輝き亭、食堂にラキュースの驚愕の声が響く。

「おい、少し声を下げろ。ここの連中はズーラーノーン事件、ザイトルクワエ襲撃となにもかも奪われて来たんだ。この上戦争でまた奪われると思ったりしたらパニックだ。」

イビルアイの冷静な声に、あっと口元を押さえて首を短くする。

そのままの姿勢でキョロキョロと目だけで辺りを探るが、周りは特になにかを気にした様子はなかった。

 

「そんで?どーすんだよお姫様。」

ガガーランはコーヒーをカップに置いてラナーに視線を送った。

 

「どう…しましょうね…。私はこの街が好きになりました。一生ここで暮らしたいとすら思うほどに…。」

そう話すと、ラナーはなにかを迷うように瞳を泳がせた。

「ラナー様…。」

後ろに立つクライムの声に、膝の上で握っていた手を切なげに前に組み、ぎゅっと目をつむった姫は、まるでこの世の全てを愛しているようだった。

「私…この街を守りたい…。ううん、この街だけじゃなくて…この街を育てた魔導国を…守りたい…。例えそれがお兄様やお父様との道を別つ選択でも…。」

躊躇いながら紡がれる言葉に、蒼の薔薇は唇を噛む。

冒険者は戦争には行けない。

それに、蒼の薔薇の本拠地は王都だ。

ラキュースに至っては王国に実家もある。

「ラナー…。ごめん…今回ばっかりは、私達では力になれない…。」

 

仕方のない事だ。当然それを責める王女ではない。

「良いんです。私、この後闇の神殿にお取次をお願いに行きます。」

闇の神殿で取次を願う相手、それに誰もが思い至る。

「神聖魔導王陛下とフラミー様に、謁見とご相談を。」

ラナーのその瞳からは、もう迷いは消えていた。

 

+

 

次の日、闇の神殿は変わらず神官達の仕事の場として開いていたが、併設された闇の聖堂の扉には一般の者の参拝を断る旨が書かれたプレートが下げられ、表には死の騎士(デスナイト)が二体来るものを拒むように立っていた。

 

普段並べられている長椅子は避けられ、都市長パナソレイと仮州知事の任に就いている者が正面、闇の神の像を避けるように立っている。

 

ラナーを先頭に、蒼の薔薇、クライムとブレインの三列で並び、神の降臨を待った。

 

すると、神聖魔導王の美しき白い像の前に闇が広がっていく。

中からは黒い羽を生やした美しき守護神と、王都で炎の柱を上げた守護神デミウルゴス、そして――クライムとブレインの憧れである守護神セバスが出て来た。

 

「セバス様…」

クライムは思わず漏れてしまった自分の声にハッとし、口を強く結び直す。

その様子にセバスが笑ったかと思うと、守護神達は揃って跪いた。

それを合図に都市長達も、そしてラナー一行も膝をついた。

 

「神聖魔導王陛下と、フラミー様の御成です。」

誰もが熱心に頭を下げる。

そして、クシャリと小さな音が立った。

「面をあげよ。」

 

クライムは失礼にならないように、ゆっくりと細心の注意を払って頭を上げた。

目の前には、想像を絶する存在が二人立っていた。

 

「良く来たな。ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。」

「神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下。この度は私の急な願いをお聞き届けいただきありがとうございました。」

「何。お前は我が国を案じて私を呼んだのだろう。礼を言うのはこちらの方だ。助かったぞ。」

ラナーは痛みいるように頭を下げる。

 

「では聞かせてもらおうか。お前と、お前の国の事を。」

ラナーは王国によってこれから始まってしまう悲劇と戦争について熱心に話した。

魔導王はまたしても生を脅かす者が現れた事に悲嘆したように、語り終わったラナーにたった一言返した。

「そうか………。」

 

優しき王だとは聞いていた。

本当は虫も殺せないような人なのだろう。

それでもその強大な力を、生あるもの達の為に振るうこの人は、正義だ。

クライムはそう思った。

 

「その日は、私とフラミーさんで出よう。ラナー王女よ。お前は、我が民を勇気付けてやってくれるか。」

「仰せのままに。」

 

「よし。デミウルゴスよ。方針は決まった。お前は王都でこの者と行き来があったな。細かいディテールの組み立てはお前がラナー王女と行うのだ。」

「畏まりました。アインズ様。」

満足げに魔導王は頷くと、光の神に顔を向ける。

 

「フラミーさん、何かありますか。」

「ありません。その日が来ればあなたと出るのみです。」

 

光の神と闇の神の間に上下関係はないと何処かで聞いたが、恐らく闇の神の方が上の者だとこのやり取りだけで感じる。

 

「うむ。では、どの魔法を持って迎えるか決めるとしよう。我らは先に戻る。お前達、任せて良いな。」

その言葉に守護神のみならず、都市長と仮州知事も畏まる。

 

そして神々は立ち去ろうとするが、ふと思い出したように振り返った。

「セバス。お前の弟子達だろう。」

「は。」

セバスの硬質な声が響く。

「ふふ、思い出話をして来ていいんですからね。無理に急いで帰らなくっても。」

光の神は守護神にも丁寧に話すようだった。

 

自分の支配するものにも優しい神々は今度こそ、立ち去っていった。

ラナーはその後、セバスと共に先に皆に宿屋に行くように言って、二人の守護神と共に大聖堂に残った。

 

+

 

「セバス様は、潜入捜査でなくとも執事服なんですね。」

ブレインのその声に、セバスは軽く笑うと、自分が何者であるのかハッキリと告げる。

「私は生まれた時から、アインズ・ウール・ゴウン様と、フラミー様に仕える執事ですよ、ブレイン君。」

「生まれた時からと言うことは、セバス様は代々ご両親も神々に仕えてらっしゃるんですか?」

クライムの投げかけた更なる疑問はイビルアイも知りたい所だと身を乗り出す。

「そうだ。あなた達はいつからそうなんだ…?」

「そうですね…。アインズ様とフラミー様がどのようにお生まれになり、何千年、何万年、一体どれほどの時を生きてらしたかは、分かりません。しかし、私は文字通り至高の御方々により創造された大地と空の下、創造されました。なので両親はいません。実は生み出された時から老人です。」

セバスはそう言って笑う。

 

イビルアイは認めそうになった。

大地と空を生み出し、更に心を持つ生き物を生み出し、自分に仕えさせる事などただのアンデッドに出来るわけがない。

 

(ツアー…お前は調停者を自負しているが、神殺しをするつもりか。)

 

たかだか600年しか生きていないツアーに、何万年という単位で生きると思われるそれらの事を知っていろという方が間違っているのかもしれない。

前身の神、スルシャーナがアインズ・ウール・ゴウンを崇めていたと言うのはリグリット伝てで聞いている。

止めなければ、ツアーは殺される、いや、それならまだいい。

下手したら世界はまた一から創り直されてしまうかもしれない。

イビルアイは、まるで暗闇に放り出された子供のように心細くなった。

 

+

 

「ふふふふ、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下…なんと素晴らしいお方なのでしょう。私が足元にも及ばないあの智謀。」

 

「そうだろうラナー君。我々はアインズ様のご計画の掌の中だと前に話した通りさ。君が何もしなくても、君の望むようになって行くから心配せずに"民を勇気付けて"やってくれたまえ。」

 

「かしこまりました。デミウルゴス様。」

 

「ラナー。全くこんな王女がいたとはね。アインズ様が王国には引き入れなければいけない者がいると言っていた時はそんな者がと思ったけれど、アインズ様はあなたの存在にいち早くお気付きになっていたのね。」

 

「本当にありがたいことです。恐らく帝国の皇帝に向けて行っていた事を読み解かれ私の存在に気が付かれたのでしょう…。本当に、デミウルゴス様を超えると聞いてそんな者がと私も思いましたが…まさかこれ程のお方だとは…。」

 

「あの短い間で君がちゃんとその事を分かってくれて良かったよ。賢い者とのやり取りは実に楽しい。」

 

悪魔達(・・・)は心酔し、しばらく笑い合った。




次回#37 大虐殺
本日12時公開です。

2019.05.18.すたた様 誤字報告ありがとうございます!(//∇//)
2019.06.06.黒帽子様 誤字報告ありがとうございます!適用させて頂きました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#37 大虐殺

後日、エ・ランテル市中に触れが出された。

それはラナー王女に届いた王国の書状が転写されたもので、魔導国以外から救われることのなかったエ・ランテル市民の心を激しくかき乱した。

 

曰く――

 

黄金の姫 ラナー

 

長きに渡るエ・ランテルの調査ご苦労だった。

 

都市長パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアと、エ・ランテルの民はこれより一週間で粛清されるだろう。

それまでにその呪われた地を離れ、王都へ帰還するよう偉大なるランポッサⅢ世も勧めておられる。

 

エ・ランテル市民が王都からの支援を待たず、神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国による実行支配を拒否しなかった事は明確なる国家への叛逆であろう。

王家より借り受けた尊きリ・エスティーゼの地をあろう事か他国の王に恭順し、不当な取引に因って売り渡す等した行いは王家発足以来他に類を見ない大罪だ。

又、エ・ランテルの民は税を納める国民の義務を放棄し、現在も国家の運営に損害を与え続けている。

ついては市民を扇動した代償として神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国とエ・ランテルの民へは――――

 

 

その不愉快な書状の隣には、簡潔に、三日後南広場に神聖魔導王とフラミーが降臨すると書かれた物が貼り出された。

 

誰もその手で育てた愛する新天地を離れるつもりはなかったし、神々がこの地を救わないとも思わなかった。

が、それでも安堵の一息をつかずにはいられず、思わずへたり込む者が続出するのだった。

 

そして、三号川は工事をストップさせた。

 

+

 

早朝。

かつてエ・ランテルの人々が肩を寄せ合い食事を取っていた南広場に、今となっては懐かしい巨大なタープが張られた。

昔とは違い中心に川が流れているが、人々はたった数週間前には当たり前だったその光景に、かつての雨に打たれ、食事と風呂だけを楽しみに生きていた自分たちの姿を幻視した。

 

まだ神は広場に姿を見せていないが、声がかかる前に誰もが率先して床に座ったり、跪いたりしていた。

この浮かれた一行も。

「ロバー、やっぱりもっと前に行くか?よく見たいだろ?神様達。」

ソワソワするロバーデイクにヘッケランが声をかける。

「そうよ、滅多に見れるものじゃないんだもの。その点に関してはこの戦争に感謝ね!」

「イミーナ…それは幾ら何でも不謹慎。」

「「お姉様ふきんしんってなぁに?」」

「ははは、この大人数でこれより前は難しいので、ここで我慢しますよ。」

「しっ!セバス様が見えたみたいよ!」

――――

――

 

「魔導王陛下と、フラミー様の御成です。」

全守護者、漆黒聖典、陽光聖典、風花聖典、都市長と仮州知事が跪く。

広場の人々は自分達の身なりが失礼でないかを今一度確認した。

 

温かい闇だ。

夢を見る前に見る温かい闇だ。

 

人智を超越した神々の降臨に嗚咽する者もいた。

自分達の街、今の優しい生活、全てはこの二柱によって支えられているのだと。

 

+

 

えぇー…。

アインズは思ったよりも人々の温度が高い事に若干引く。

 

「アインズ様よりお言葉を頂戴します。」

アルベドの声に、アインズは余計な思考を追い出し、語る。

「我が民よ。我が子らよ。」

 

人々の真剣な眼差しが痛い。

「私は…もっと早く王国へ手を打たねばならなかった。そうしなかった事で皆を不安にさせた事を、まず謝ろう。」

 

ラナーは神聖魔導王のザイトルクワエ討伐以降の計画に瞠目していた。

おそらく神聖魔導王はこの戦いで邪魔な脳のない貴族を葬るつもりだろう。

ザイトルクワエ戦で戦士長ごと王を殺していれば、貴族は魔導国を侮る事はせず、恐れこの機会は訪れなかったかもしれない。

そしてあの時戦士長を生かして帰し、ザイトルクワエに破壊させた街道を避けて帰るその身にブレイン・アングラウスを回収させ、クライムとセバスに出会わせる…。

ブレインはまるで何者かの手で操られるかのようにまっすぐ王女の元へたどり着き、エ・ランテル近郊の出来事を伝えてきた。

そして…それに応えたラナーの元には叡智の悪魔が現れた。

どうやって神聖魔導王が知ったかは分からないが、ラナーの望みは恐らく続く言葉によって叶える前段階を済ませるだろう。

 

「だが、安心するのだ。我がエ・ランテルは決して蹂躙されない。我が民の血は流させない。そのために、私とフラミーさんが出よう。そして、この情報をいち早く我々に知らせ、街と無辜の民の命を守ろうとその肉親にも背を向けた気高き王女に、喝采を。」

 

万雷の喝采の中ラナーは立ち上がる。

 

全ては、クライムのため。

私はここで新たな地位を得る。

慈悲深きものとして死の神の下で権勢を振るう。

あらゆるしがらみから解き放たれた暁にはついにクライムと添い遂げるだろう。

絶対に、何を使っても魔導王とフラミーを失望させてはならない。

この神々は、慈悲深い振りをしているが、失望させれば――――。

 

+

 

戦争の日、人々は三号川の内側から祈るように地平と偉大なる二つの背中を見つめた。

すると神々は美しい青白く発光する魔法陣をその身に纏う。

 

目の前の十四万の王国兵は、かつての同胞だ。

苦しみなく逝かせてやって欲しいと人々は願う。

神さま…近くの誰かの囁きが聞こえる。

次の瞬間、二柱の周りを回っていた魔法陣が砕け散り、願いは聞き届けられた。

吹き抜けた黒き風によって。

 

目の前の十四万人が痛みも、恐怖もなく命を奪われた事に、人々は慈悲深き神に感謝した。

そして、今倒れた人々から無数の青い透けるような光の塊が尾を引きながら飛んで来て、よく見えないがフラミーの下に収まっていく。

 

次の瞬間。

 

メェェェェェエエエエエエエ!!!!!

 

世界を怨むような黒い山羊は現れ、疾走しだした。

きっとあそこに並んでいた兵士達だって誰もエ・ランテルに来たくはなかっただろう。

半分の者は帝国との戦争の時に神話の戦いを見たのだ。

神に楯突く気などなかったんだと証明するかのように――自分達を駒のように扱い、重税によって苦しめた、後方に控える貴族達に向かった。

 

+

 

「見て見て!見てください!」

フラミーの興奮した声が響く。

「うわ〜綺麗ですねぇ!経験値ってこんな風に見えるんですね!」

フラミーの装備する黒いガントレットに経験値が溜まっていく。いや、魂が吸い込まれていく。

 

「あーそれにしてもすごかったですね。黒き豊穣への貢(イア・シュブニグラス)!あんなにたくさん。全部でえーと一、二、三…」

アインズもウキウキと目の前の可愛らしい仔山羊を数えていく。

「うわ!十もいますよ!!二人でやっても二匹かなって思ったのに!それに想像より死にましたね!」

「十月ですか!すごい!アインズさんのワールドチャンピオン超えパワーが効いたんじゃないですか!ワールドパワーですよワールドパワー!」

前代未聞の新記録を二人で喜び合っていると、仔山羊が目的の人物を発見した。

 

アインズは指をさす。

「お、あっちに見つかったみたいです。ずっと戦士長仲間にしたかったんですよねえ。なんかアルベド達は王女様仲間にするって言ってたけど。」

「戦士長さんって勇者っぽいですもんね!でもほら、そこはやっぱりお姫様を仲間にしたい人と勇者を仲間にしたい人とそれぞれですよっ。皆好きな人パーティー作るのが一番です!」

和気藹々と語っていたが、ガゼフと王の近くまで来ると二人は黙って歩いた。

そこにはレエブン侯も控えていて、背後にはたくさんの戦士団がいた。

 

「ま…魔導王…殿…。」

王はかすれた声を絞り出す。

「ランポッサⅢ世よ。私は大切な子供達とただ平和に、静かに暮らしたいだけなのだよ。分かるかな。」

それは、もうこんな事はやめようとでも言うような声だった。

 

そしてガゼフに目をやる。

「戦士長殿。」

ガゼフは頷く。

「私は言葉を飾るのは好まない。だからこそ、単刀直入に言おう。」

アインズはガゼフに手を差し伸べた。

「共に来い。」

 

フラミーはなんと素晴らしい光景だ、と思う。

出かけるつい一時間前にパンドラズアクターが持ってきたカラー版のカメラを取り出し、画角を確認すると少し後ずさる。

全員の表情がよく見えるようにとその馬鹿でかいカメラを横に向ける。

ドキドキとガゼフの返事を待つアインズはその怪しい動きに気付きもせず――

 

チャカっジーーーーーーー。

 

全くもって場違いな音が響き渡った。

 

「あはっ!」

 

フラミーはカメラから出たこの世界初めてのカラー写真に思わず喜びの笑いが漏れてしまった。

 

振り返ったアインズは呆然とフラミーを見ていた。




え?ちょっと!
空気読んでくださいよフラミーさん!

7万x2人で14万人、ぴったり!!
いやいや、御都合主義でその人数じゃないですよ!!
ほら、エ・ランテルから出兵しなかった分や、帝国との戦争で死んだ分とか…ザイトルクワエに殺された分とか…
そう言うもろもろで14万人ぴったりにたまたま減っただけなんだからね!

ゴツゴウシュギ(*゚∀゚*)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#38 決断の夜明け

「あ…あー…んん。すまないな、戦士長殿。君の大切な決断の時に。」

「あ…いや、気にしないでくれ。魔導王陛下。」

「ゴウンで良いとも。」

「はは。ゴウン殿…王国には、あなたを誤解した者が多くいるが、私はあなたの慈悲深さをよく知っている。だからと言うわけではないが、申し訳ない。私は王の剣。王から受けた恩義に懸けて、これを譲る事はできない。」

そう言うガゼフは困ったように笑っていた。

 

「見てください。」

場違い娘が手の中に持っていた写真を見せる。

そこにはいつもと変わらないアインズと、何故かしてやったりと言う表情のレエブン侯、複雑極まる王の顔、そして、アインズの手を見つめて――驚く表情の中に歓喜が覗き見えるガゼフが写っていた。

 

ガゼフは光の神が見せた自分の本当の感情に言葉を失った。

自分は、この王の中の王に誘われた自分を誇らしくなってしまったのだ。

 

フラミーはまじまじとカラー写真に見入る戦士長に、満足げに頷く。

 

「いい写真ですよね。焼増しできるようになったら差し上げますよ。」

フラミーはガゼフと国王を順番に眺めたのち、レエブン侯をちらりと見ると、この人は誰だろうと思った。

アインズはせっかくシリアスなシーンだったのに、と一瞬思ったが、もうすっかりおかしくなってしまった。

「はは、国王、戦士長殿。私の国では皆自由だよ。」

 

周りにはまるで眠っているように綺麗な死体の平原が広がっている。

そして、視界の端に映るおぞましい黒い仔山羊と、ぐちゃぐちゃに砕かれた王国の腐敗の象徴たる貴族達。

国王は目を瞑る。

これはきっと罰なんだろう。

国民も貴族も御しきれなかったくせに、何かを守った気でいた自分への。

 

「自由…。久しぶりに聞いたような気がしますな…。」

王は言葉を絞り出す。

「…分かりました。我がリ・エスティーゼ王国は、これより貴国の言葉に従いましょう…。属国化を…。」

完敗だった。

「…属国……。んん。良いだろう。属国、属国だな。」

 

ガゼフもレエブン候もホッと一息ついた。

王国にはこれで家長のいない貴族と、男手のない農家しか残っていないのだ。

レエブン侯は王女との秘密の約束がこれで果たせたことに安堵した。

姫を送り出す協力は容易だったが、あの手紙を貴族の代表者から出させるのは中々骨が折れた。

自分の頑張りを心の中で褒め、自分と妻、愛する息子との約束された未来に早くも想いを馳せる。

 

アインズは詳しい話はまた後程と言い残すと、フラミーと共に後ろに下がって行った。

アインズは子供のようにフラミーの耳に手を当ててこっそりと耳打ちした。

「あれ、お願いしますよ。神話には付き物なんでしょ?」

フラミーは何を言いたいのか悟ると、バッとアインズの方を向き、心底嫌そうな顔をする。

「こんなに無理ですって、私が死んじゃいます…。」

「ふふふ、そう言うと思いました。なので実は俺、今回は作戦考えて来たんですよ。まぁ想像よりたくさん死にましたけど。」

そう言うと、アインズはユグドラシルの、最も高価なスクロールを取り出した。

「まさか…アインズさん…。」

 

アインズがニヤリと笑った気がした。

すると、手の中のスクロールが空中で燃えて消える。

アインズの周りには再び超位魔法の魔法陣が展開された。

呆気にとられる戦士団と国王がアインズの向こうに見える。

 

「さぁ、ここからがデミウルゴスの望んだ、今正に覗き見をしている帝国へのデモンストレーションですよ!!」

 

魔法陣は砕け散る。

 

そこには最高位の天使が複数体。

 

「あー………。シャルティア!!デミウルゴスさん!!マーレ!!」

フラミーは街に向かってMPの多い守護者を呼ぶと、自分たちが呼ばれたとすぐにわかった守護者三人が走ってくる様子を確認した。

そして魔法陣を展開させ、砂時計を砕く。

指輪の戦乙女達(ニーベルング・I)!」

 

はははと笑うとアインズも二本目のスクロールを燃やす。

それを横目に見ながら、フラミーもMPがなくなるまで高位の天使を呼び続ける。

そして天使にも天使を呼ばせる。

 

そこには、もう数えきれない量の天使が現れていた。

フラミーはこんなもんかと目の前の天使軍団を見る。

「それじゃあ皆さん……行動を開始せよ!!」

「あ、それ懐かしいですね。」

楽しそうな支配者達は、今その手で命を奪った人々を無差別に生き返らせていく。

アインズは復活魔法を持たない為自分の天使に指示を出すだけだが。

 

大歓声とともにエ・ランテルから人々が走って溢れ出して来る。

それを無視して、シャルティアにMPを渡されながらフラミーは天使に混じって一心不乱に人を生き返らせる。

悪魔なのに、悪魔なのに…とぶつぶつと文句を言い続けながら。

アインズは、デミウルゴスとラナー王女のお見事ですと言う言葉にそれはそれは満足げに頷いた。

そして可愛い仔山羊達をナザリックに送ってやった。

 

生き返らされたものは、これまで自分の身に起こっていた恐ろしい事実を町の人々に肩を預けながら教えられる。

神官達はこぞって回復を行なった。

ンフィーレア・バレアレも大量のポーションを馬車に乗せ、人々に配って歩いたが、とても量が足りず、最後は薬草をそのまま配っていた。

皆が神官とンフィーレアに大層感謝した。

粛清に来たはずの兵士を何の憂いもなく手助けする人々のその姿はあまりにも美しかった。

 

やっと人は一つになれるのかもしれないと思わせるほどに。

 

聖典達は殆ど儀仗兵扱いだったことに、もっと役に立ちたいと不満を抱いていたが、全てがもうどうでもよかった。

これを伝えることが今回の自分達の役目だと思い至ったのだ。

この素晴らしい光景を、神殿から巫女姫を介して見ている神官長達はさぞ悔しがっていることだろう。

 

蒼の薔薇は、いつの間に現れたのかリグリットを伴って顔を青くするフラミーに近付いて行き、跪く。

「復活の神フラミー様、貴女様のお力をお借りしている蒼の薔薇、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラです。足元にも及ばぬこの力ですが、是非お使いください。」

「このリグリット・ベルスー・カウラウも捧げましょう。」

「私はイビルアイ。私も捧げるぞ。」

フラミーは三人と、その後ろに同じく跪く冒険者を睥睨する。

正直、一人分にもならなそうだと思う。

しかし断って食い下がられても面倒だ。

「あぁ、ありがとうございます。ラキュースさんリグリットさん、イビルアイさん。じゃ失礼して…。」

フラミーが手の平を向けると三人はばたりと息絶えたように倒れた。

慌てる双子忍者とオーク戦士に、倒れた三人は大笑いしながら「ほんとに根こそぎ全部持ってかれた」と告げた。

 

+

 

その後、昼前から始まった地獄の復活作業は数えきれない量の天使を伴っていながらまるで終わる気配がなかった。

街の人々は日が暮れても、月が昇っても続くその作業を前に、もう冬の近付いた寒空の下毛布やスープを持ち出して、復活後の動けない人々に分け与えたりしていた。

MP切れを起こした天使が生き返らされた人々を、街の者達の前にどんどん置いていく。

 

エ・ランテルの人々は皆また思い出していたのだ。

ザイトルクワエに何もかもを奪われ、身を寄せ合って南広場で食事をとることだけを楽しみに生き凍えながら眠っていた日々を。

それは確かに強い痛みを伴う日々だったが、魔導国があったから、神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王がいたから、常に希望を胸に抱いていられた。

今と同じように決して一人ぼっちになる者はいなかった。

 

町中の、老若男女問わず、子供すら眠らず神々と天使達へ祈りを捧げた。

そして日が昇る。

昼前になり、漸く終わりが見え始めると、たくさんいた天使達が突如光の粒となって消えて行った。

 

そんなことには目もくれず、フラミーはアインズと手を繋ぎアインズの無尽蔵に尽きることのないMPを直に使いながら人を生き返らせ続けた。

 

あと数百人程度、と言うところまで来ると、フラミーは輝き宙に浮かび始めた。

人々が眠い瞼をこすって様子を見ていると、光はパンと弾け、三対六枚だったはずの翼は一対増え、四対八枚になっていた。

 

フラミーは再びアインズと手を繋ぎ直すと、一度に十人もの人々が動き出した。

その日の夕暮れ時にはついには全ての人を生き返らせた。

 

と、言いたいところだが殆どの貴族は生き返らなかった。

その恐ろしい経験から、復活を拒否し、灰となって消えた。

魔導国へ謝罪しなければならないと思い至ったものや、恐れよりも愛する家族を思い出したもの、王の役にもっと立ちたいと思ったもの。

善良な一握りの貴族が息を吹き返したのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#39 新州知事の就任

ラナーは自分が思った方法の数倍、いや何百倍も凄まじい間引きに言葉を失っていた。

統治を邪魔するような貴族は死ぬだけでなく、灰にされ二度と復活を望めぬよう徹底的に断罪された。

「これが…あの神々の真の力……。」

アインズを侮った事などなかった。

それでも、本当に神かどうかは怪しいと思っていた。

その智謀は確かに自分を遥かに超えていたが、本当に神と言う超常の存在だとすればわざわざ人間に構う意味は何だろうと、クライム以外に慈悲を抱いたことのない王女は思っていたのだ。

しかし、王女は気付いた。

世界でも一人居るか居ないかと言う歪んだカルマを持つその女だけは気付けた。

 

神々は人間で遊んでいるだけなのだと。

 

ゲームのように殺したと思ったら、生き返らせ――それを人間が勝手に有難がって、まるで目の前を進む羊飼いに何の疑いも抱かぬ羊のように付き従う。

もしラナーが物語の勇者のような人物であれば、「そんな者の下で与えられる平穏や幸せは、本当の幸せじゃない」と声を上げただろう。

しかし、彼女はこれこそが自分の求めた幸せだと確信する。

死ぬまでクライムと生きるためだけに存在する世界は、そうあった方が良い。

実に超常の存在らしい遊びだと思った。

 

+

 

人々の復活から一週間。

南広場には、戦争前よりも多くの人で溢れていた。

最早入りきれない人々は二区の民家屋上からもその様子を見つめている。

 

「ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフよ。」

闇の神と光の神の前に、ラナーと仮州知事は並んで膝をつき手を前に組んでいた。

 

「お前はこれから、リ・エスティーゼとこの魔導国の架け橋となるのだ。お前は父ランポッサⅢ世の元を離れ苦悩を得るかもしれない。覚悟は出来たな。」

これから、神とクライムの為だけに生きる覚悟を問われ、ラナーは応える。

「はい。神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下。とうに覚悟は出来ております。」

真っ直ぐな、心の底からの返事に闇の神は満足そうに頷いた。

光の神が仮州知事に近付く。

 

「貴方はこれをもって現在の仮州知事の任を解かれます。復興への長きに亘る勤め、ご苦労でした。エ・ランテルの一番辛い時を支えた貴方は時代に名を残す良き知事でありました。そして、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。あなたを、このザイトルクワエ州の新州知事に任命します。」

そういうと、フラミーは仮州知事がこれまで羽織っていた神聖魔導国の紋章が入ったマントを外し、ラナーに掛けアインズの隣に戻った。

ラナーはゆっくりと立ち上がり、組んでいた手を下ろしてマントの端を両手で摘み上げながら細心の注意を払って頭を下げる。

「神王陛下、光神陛下。このラナー、全てを捧げ二柱の望む州知事となることを誓います。」

 

ランポッサⅢ世はラナーの後ろでパナソレイ都市長と魔導国神官長達と共に跪いていた。

誰よりも優しい心根を持って育った娘を誇りに思って流した涙は温かかった。

そしてカルネ村に別働隊として派遣し、帰らなかったバルブロに心からの謝罪を送ったのだった。

 

国家を越えて人の命の為に奔走した王女はこの日、リ・エスティーゼ王国、ヴァイセルフ王家よりその名を消した。

その後永らくこの王女の素晴らしき行いは神聖魔導国で語り継がれるのだった。

 

王位を返上したかつて王女だった州知事は、わずか三年後――神都大聖堂完成と時を同じくして崩御する父ランポッサの下属国だったリ・エスティーゼ王国をリ・エスティーゼ州になるよう政策を推し進め、新たに魔導国に加わったリ・エスティーゼ州知事には自らの兄ザナックを推薦した。

ザナックの元にはレエブンと言う子煩悩が都市長を務め、繁栄の時を迎える。

 

ランポッサは、可愛らしい子犬のような孫の顔を見られた事を魔導王に心から感謝して息を引き取ったという。

 

+

 

数日前

 

「あー…エンリよ、お前は角笛でこの者たちを呼んだのだな?」

アインズは目の前の大量のゴブリンの集団に言葉を失っていた。

 

「はい!ゴウン様から頂いたこの角笛で、私達は生き延びる事が出来ました!ゴウン様はこの日の為に二つ角笛をお渡し下さったのですね!」

特区カルネは今、区壁の中にみっちりとゴブリンを内包する謎の区となってしまった。

後にゴブリン区とあだ名がつく程に。

 

「んん。その通りだ。これでこの地は本当に何にも脅かされない場所となっただろう。しかし国籍登録は全員きちんと行うのだぞ…。」

アインズがエンリや村人達と共に跪く大量のゴブリンを眺めていると、区壁の警護を行っていたゴブリンが駆けて来た。

 

「すみません、神王陛下、フラミー様。今姐さんの恋人が船で着いたみたいでして…。ちょいと御前に通してもいいでしょうか?」

全ゴブリンは今ここでボスの未来の配偶者をお披露目したいとその目で訴えていた。

「エンリちゃん、彼氏できたんですか!アインズさん、是非見せてもらいましょうよ!カルネ区長の未来の旦那とやらを!」

軽快に笑うフラミーにエンリは顔を赤くする。

「ははは、よし、その男を連れて来い。」

アインズの号令に従ってゴブリンは支配者の気が変わらない内にと急いで区壁に戻っていった。

そして、現れたのはンフィーレアだった。

ンフィーレアはフラミーの存在に気付くや否や小走りから猛ダッシュへと姿勢を変えてすっ飛んでくる。

「ふ、フラミー様!!神王陛下!!要人が来てるってカイジャリさん!そんなレベルじゃないじゃないか!!」

足元にたどり着くとズザザと音を立てるように跪き、いや、スライディング土下座をしながら、フラミーへ改めて礼を言うのだった。

「ふ、ふ、フラミー様!!僕は貴女様にズーラーノーン事件の時に救われた――」

「ンフィーレア・バレアレ君ですね、よく知っています…。なにもかも。」

フラミーの言葉に区民もゴブリンもオォ…と声を漏らす。

フラミーは素っ裸だった男子を軽く見た後、ふぃと視線を逸らした。

 

「んん。そうか、君がカルネ村によく来ていたという薬師だったのか。」

アインズは夏の終わりに言っていた当時の情報源(エンリ)の言葉を思い出す。

「し、神王陛下に置かれましても、この村、いえ区を、僕の大切な人を救って頂いて、本当にありがとうございました!!」

真っ直ぐな瞳だ。

アインズは一度この青年を殺したことを思い出してやはりふぃと視線を逸らした。

 

そのことに気づいたンフィーレアは慌てだした。

「あ!あ!ごめんなさい!!公式な区長との会談中に失礼しました!!」

エンリの後ろに入るとネムに軽く小突かれて静かにした。

 

「いや、用は済んだ所だ。それではエンリ、カルネ区を頼むぞ。区壁は今後撤去が始まるが、それも問題ないな?」

アインズの言葉に少し区民達が複雑そうな雰囲気を出すが、今はもう栄光あるこの王の庇護下に入っていると自分達を奮い立たせる。

「…はい!三号川の完成と共にという事ですよね。よろしくお願いします…!」

エンリはぺこりと頭を下げると、それに習ってゴブリンと区民も頭を下げた。

「いや、厳密には川を渡る四箇所の橋の前に入国管理塔が設置されたら、だな。これまで区壁前で行なっていた講習にいくつか追加してそのまま川の門で行うのだ。安心しなさい。」

今までと同じ講習といわれ少し安心する区民と区長の顔をアインズは見渡した。

 

「先ほども話したが、全ての橋の門にはお前達ゴブリンも人間の管理官と共に働くのだぞ。ここに危険が迫らないように全ての門で見事危険分子の侵入を食い止めるのだ。さて、今回は戦争で恐ろしい思いをさせたな。中心都市に気を取られてこちらに来られずすまなかった。」

慈悲深き王はいつでもカルネ村を――いや、カルネ区を慮ってくれている。

この期待に応えたい、カルネのゴブリンに川門を任せて良かったと言われたい。

やる気に燃えた人々は頷きあった。

 

「アインズさん、そろそろ。」

フラミーのその声にアインズは皆に別れを告げ、区壁の出口へ向かう。

三号川を大森林方向に渡す北の橋へ向かう為。

 

すると、アーグと呼ばれる子ゴブリンがその背中に向かって叫ぶ。

「へいかー!ふらみーさまー!!父ちゃんの仇を、皆の仇を!!どうか頼みます!!!へいかーー!!ふらみーーさまーーー!!」

その声は、二柱が見えなくなるまでいつまでもいつまでも響いた。

この子ゴブリンは数日前に仲間を、家族を、巨人達に攫われ、殺され、息も絶え絶えになりながら逃げているところをエンリに拾われた幸運な者だ。

 

支配者の背中が見えなくなり、電池が切れたように静まったアーグは不安そうにその場を動けずにいた。

「安心しろ、アーグ。」

カイジャリがアーグの頭に手をのせた。

「あれは…まじもんの化け物…いや……。神様だからよ……。」

その表情は、畏れと期待の合わさった、とても複雑なものだった。




蒼の薔薇はこの先ナザリックやアインズ様とがっつり絡む予定です!
我らがBest girlガガーランの活躍をお楽しみに☆

現在の状況を地図にしていただきました!

【挿絵表示】

ユズリハ様、ありがとうございます!

2019.05.19 XYZ+様 誤字報告ありがとうございます!(*'▽'*)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#40 閑話 お前には失望したぞ

同じく就任数日前――

 

トブの大森林から帰ってきた支配者達は怒り心頭という様子だった。

 

「ルプスレギナ!お前には失望したぞ!!」

 

玉座の間に響くそれは全ての僕の心胆を凍らせた。

 

「エ・ランテルに向かうザイトルクワエの存在を知らせたお前がなぜだ!!すでに我が国の一部となっているカルネ区に区民では勝てないモンスターが近付いている事をなぜ知らせない!!しかも王国によってカルネ区が襲われていたなんて!!」

 

口籠るルプスレギナにアインズは顔を歪める。

 

「カルネ区に関する裁量権は与えていたが、それは何をやってもどんな判断をしても良いという意味ではない!状況が大きく変わる時には報告せよと言ったにも関わらず、これはどういう事だ!!」

 

玉座の肘掛をゴーーーンと打つ激しい音が響き渡る。

 

今回ルプスレギナはやり過ぎていた。

区壁に逃げ込んだゴブリンとオーガが暮らしていた事は――エンリに連れられきちんとエ・ランテル光の神殿で国籍登録もしていたため良いとして、王国第一王子の引き連れた兵と開戦するカルネ村を傍観した後大量のゴブリンから逃げた王国兵と王子を面白可笑しく拷問し、殺し尽くしたのだ。

 

「あぁあ。ルプスレギナやってくれたね。」

フラミーの冷たい声が響く。

 

せっかくランポッサⅢ世に魔導国へ降ると言わせたというのに第一王子を殺されてはラナーの州知事就任に反対し、国民も復活したからと恭順するのをやめるかもしれない。

そうなれば今回の戦争は全ての意味を失うだろう。

見事な復活劇も含めて。

 

「…その兵士どーすんの。魔導国の奇跡で全ての王国兵は蘇ったって世界中が言ってる中で。………私が寝ずに人間を生き返らせた傍で。」

 

もはや私怨かもしれない。

フラミーは数日前の復活に次ぐ復活に心底辟易していた。

あの大復活祭りでは、まさに数えきれない量の天使が出ていたが、天使は当然途中でMPを切らし、時間による回復の中で復活を行なった。

もたもたしていると二十四時間の制限を超えて天使は消えた。

フラミーが何百人目かを生き返らせると未発見のクラスを獲得した事によって一度に十人まで生き返らせられるようになったが、それでも夕方までかかったのだ。

凡そ三十時間ぶっ通しで人間を生き返らせ続けたフラミーの怒りは深かった。

その努力と根気という泥にまみれた奇跡に、ルプスレギナは簡単にケチをつけたのだ。

 

「ルプスレギナ、あなたには反省が必要。」

 

しかし怯えるルプスレギナにチクチクと罪悪感を感じる。

ちゃんと反省してくれるならこれ以上責めることは双方のためにならない。

 

「アインズさん、行きましょ。ここにはいられません。」

これ以上皆といてもフラミーは切れるだけだ。

落ち着くには二人で一度愚痴り合わなければいけないという思いが一瞬で通じ合った。

その声にどっこいせと腰をあげる支配者はフラミーとともにプリプリ怒りながら立ち去っていった。

 

玉座の間の扉が閉まると、二人はフラミーの私室へ飛んだ。

 

+

 

「アインズさん、行きますよ。ここにはいられません。」

 

それはルプスレギナへの死刑宣告だった。

支配者達の立ち去った玉座の間には、ルプスレギナへの激しい殺意が渦巻いていた。

 

アルベドが玉座を眺めながら立ち上がる。

「ルプスレギナ。アインズ様はいつも仰っていたわ。何か解らない事や困った事があれば誰かに相談し、相談を受けた者は自分の身に起きた事だと思って相談に乗るようにと。」

ルプスレギナに振り返ったその顔は、怒りで何かを破壊せずにはいられないとばかりに歪んだ、大口の黒い化け物――アルベドの本来の姿だった。

 

何も言わず、床を見つめ、涙と鼻水、汗を垂らし続けるルプスレギナの様子にアルベドは吼えた。

「このクズがあああああああ!!!!!」

 

そして、一発。

渾身の力を持ってルプスレギナを殴り付ける。

誰も止めない、ルプスレギナも抵抗しない。

虚しい一撃だ。

 

「貴様は至高の御方々を失望させたわ。そして……フラミー様に一番言わせてはいけない事を……。」

 

アルベドは元の美しい姿に戻り、転がるルプスレギナの前に崩れ泣き出す。

その嗚咽は次第に広がり、気付けば来ていた全ての僕に広がっていた。

 

今日は本当は王国を手に入れた事を労われる筈の、喜びの会だったというのに。

 

しかし、誰も支配者達を追いかけられない。

アインズは法国のギルド武器を破壊し、前にも増す激しい力と尽きることのない魔力を手に入れた。

フラミーは人を生き返らせる中、突然覚醒したように新たな力を手に入れた。

そんな支配者達が世界渡りの術を取り戻していないと誰が断言できるだろう。

これで探してどこにも支配者がいなかったら、ナザリックはおしまいだ。

誰もが真実を確かめる事が恐ろしく、立ち上がれない。

 

そんな絶望の中、一番に立ち上がったのはデミウルゴスだった。

「アルベド……私は……フラミー様とアインズ様がどちらへ行かれたか探してきます……。皆を…頼みます…。」

そしてセバスが続く。

「私も行きます…お二人がどこへ行かれたのかは分かりませんが……お側にお仕えするべきでしょう…。」

 

セバスは責任を感じていた。

ザイトルクワエ州を任されていたのは自分で、更にプレアデスは自分の直轄の部下なのだ。

皆の絶望には自分も責任があると。

 

+

 

フラミーの私室には事情の分かっていない――アルベドに玉座の間へのエスコートをバトンタッチしたフラミー番、アインズ番、そしていつも通り二人分のアサシンズがいた。

更に副料理長が呼び出され、私室のBARカウンターであれやこれやと用意する前でフラミーは変わらず怒り続けていた。

「もうルプスレギナ本当信じらんないんですけど……。」

 

「いや俺もまさか報連相一つできないとは思いもしなかったですよ。はぁ。これで国王が魔導国信用しないって言い出したら…このデミウルゴスとアルベドの大掛かりな計画は………あぁ……国内の式典だって神官長達の到着に合わせてもう三日後だっていうのに…。」

フラミーの隣に座るアインズも頭を抱える。

復活のやりたいやりたくないは置いておいて、ばっちり証拠隠滅を行ったルプスレギナによって死体は跡形もなく消し去られている。

じゃあ復活しましょうと言うわけには行かないのだ。

もし遺体があったとしても拷問されて死んだ者達が復活を受け入れるとは到底思えなかった。

 

僕もいる中であまり大きな声で愚痴は言えず、二人ともブツブツと声を小さくして嘆いていた。

「アインズさん…まだ神官長さん達こっちに向かってる途中ですよね…?」

フラミーのその声に隣に座っていたアインズはギクリと肩を揺らした。

「…まさか…フラミーさん…俺に言えと……今更やっぱりダメでしたと……そんなん言えないですよぉー!!」

うわぁーー!ルプスレギナぁーー!!と突然大きな声を出すアインズの様子に僕達の中にはルプスレギナは何をやらかしたんだと戸惑いが広がる。

 

すると、ノックが響き、アインズ番が扉へ向かった。

なんだよと言わんばかりの瞳を支配者達はジトッとそちらへ向ける。

「ひっ!あ、アインズ様、フラミー様。デミウルゴス様とセバス様が…お出で…です。」

いつもは淀みなく答えるアインズ番は恐る恐ると言う風にしりすぼみになってしまった。

「はぁ。仕方ないですね。」

フラミーは許可を出したが、アインズは渋った。

二人になんと謝れば良いのかわからないのだ。

「後五分待たせろ…。」

珍しい拒否に慌ててアインズ番は部屋の外へその事を告げに戻った。

 

「フラミーさん、どんな風に顔合わせればいいと思います…?しかもセバスまで…セバスも自分の任された州がどうなるってそりゃ気になりますよね…。デミウルゴスなんか怒ってるかも…。」

小声でごにょごにょと頭を悩ませる支配者の隣でフラミーも顔を青くした。

「怒って出てきちゃったけど報連相ちゃんとしろって言わなかった私達の責任ですか…?デミウルゴスさんとアルベドさんはお姫様手に入れるためにすごい頑張ったのに……王様がやっぱり娘は魔導国にやらんて言い出したら…あああ………」

 

結局何の答えも出ないまま五分が経過し、再びアインズ番が入室許可を求めてきた。

 

フラミーとアインズはもう逃げられないとばかりに頷きあった。

「入れろ…。」

アインズは心底入れたくないと言わんばかりに声を低く低く出した。

入ってきた二人は、扉の前ですぐに跪いた。

 

いつもと違う様子に二人の怒りを感じて、アインズはフラミーと一瞬視線を交えると、ソファセットに黙って移動して行く。

気配を窺われている気配に居た堪れなくなりながら二人は静かにソファに腰を下ろした。

 

「んん…。それで…セバス…デミウルゴスよ…。」

何も言わずに床を見つめる二人にやりにくさを感じる。

「そこじゃ遠いですし、二人ともとりあえず座ってください。」

フラミーが呼ぶと、渋々と言う具合に近くまで来るが、向かいのソファの横に跪いて一向に座らない。

反抗期だと思った。

 

「言いたい事があるなら、まずはお前達から言いなさい。さぁ、掛けて…。」

アインズはソファをもう一度進める。

目を合わせた後、二人は非常に居心地悪そうに小さくなって座り、ゆっくりとセバスが口を開いた。

 

「アインズ様とフラミー様を失望させ…この世界を……後にすると言わしめた……っ……」

セバスは最後まで言えず、泣き始める。

「どうか、アレを断じる事でお許しください。アインズ様…フラミー様…。」

仲が悪いはずの二人は肩を寄せ合って共に泣いている。

 

あまりの光景にアインズとフラミーは絶句していた。

「なんですかいこりゃ…。」

フラミーの声に誰も返事をする事はなかった。

 

+

 

五分待たされるデミウルゴスとセバスによって、玉座の間には御方々がまだナザリックにいた報告がされていた。

「とりあえず御方々がいらっしゃって良かったわ…。」

アルベドはやはり怒りに震えていた。

「全くでありんす。こんなもんがナザリックに生まれていたかと思うとそれだけで反吐がでる。」

シャルティアが唾を吐いた先には至高の御方々より与えられた装備を全て剥ぎ取られ、姉妹から、仲間から、様々な責め苦を受けたルプスレギナが今にも息絶えようとしていた。

 

扉が開く音がし、皆の視線がそちらへ向くと、支配者達が走って入ってきた。

 

皆、これをボコボコにしておいて良かったと思った。

御方々を不愉快にさせるゴミを、あとはゴミ箱に捨てるだけだと。

 

しかし、駆け寄る支配者達の雰囲気は想像していたものと違った。

「「ルプスレギナ!!」」

それを急いで回復するフラミーと、空中から黒い布を引き出し、ルプスレギナに掛けて抱き寄せるアインズに、皆呆然としていた。

 

後ろをついて走ってきたセバスとデミウルゴスに説明を求めるように誰もが視線を送る。

 

デミウルゴスは代表して告げる。

「アインズ様とフラミー様は…その者をお許しになりました…。」

 

ルプスレギナを抱き寄せるアインズの横でフラミーは泣きそうな声で謝罪を送りながらその顔にかかる髪をなで付けている。

何故支配者達をこんな顔にさせるものがこの世に残る事が許されるのだろうかと皆首をひねる。

 

しばらくフラミーの謝罪が響くと、ルプスレギナを抱いて立ち上がったアインズは、心を失ったそれを愛しむように抱えたまま玉座に腰掛けた。

フラミーも続いて玉座の肘掛に座り、ルプスレギナの頭を軽く撫でる。

「アルベドよ…。」

その声にアルベドが顔を上げる。

「私は前にお前に話しただろう…。カルネ村で…。私はナザリック全てのものを愛してると…。」

アルベドが頷く。

「私は今こうして愛するお前達が、愛するルプスレギナを傷つけた事が悲しい。」

ルプスレギナの瞳に光が戻る。

アインズも優しくルプスレギナの頭を撫でた。

 

「皆は、私達を慈悲深いと言ってくれたのは嘘だったんですか…?」

フラミーの言葉に沈痛な面持ちの僕と守護者達が首を横に振る。

じゃあ…とデミウルゴスとセバスに視線を向ける。

「私はここで生きていくって言いましたよね…。」

「「はい…。」」

「私は嘘付きですか…?」

その問いにフラミーがアインズを連れて去る事を想像した者達は唇を噛んだ。

「嘘つきですか…?」

フラミーの二度目の問いに、一番疑っていたデミウルゴスは応える。

「いえ。違います…。」

優しく笑ってフラミーはうなずいた。

「私達はここで生きていきます。怒る事も泣く事もありますけど、皆と一緒にここで生きていくと、それだけは信じてください。」

皆が頭を深く下げた。

 

すると、アインズの腕の中からルプスレギナが小さく話し始めた。

「あいんずさま…ふらみーさま…この度は私の失態、申し訳ございませんでした…。このるぷすれぎな、二度と御身に失望したと言わせぬよう、二度と御身にここにいられないと言わせぬよう、命を懸けてお仕えいたします。どうか、おゆるしください…。」

そう言うルプスレギナに、アインズとフラミーは微笑みを送った。

 

会社勤めをする程生きたアインズとフラミーに比べて、ルプスレギナも僕も誰もがまだ生まれて半年と経たないのだ。

生後数カ月の赤ん坊に求めすぎていたことを反省する。

 

「私達からみたらまだまだ赤ちゃんだったのにね。ごめんね。」

「お前の全てを許そう、ルプスレギナよ。」




次回#41 フールーダの来訪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

試される帝国 #41 フールーダの来訪

皇帝の部屋には興奮したフールーダが魔法について語り続けていた。

もうこれで一週間だ。

その魔法談義は意訳すると、魔導国に連れて行くか紹介状を書けと言っているのだ。

 

ジルクニフは、これまで一切魔法で覗き見ることができなかったはずのエ・ランテル近郊が突然見えるようになった時から何かがおかしいと思っている。

フールーダは王国民の大虐殺と大復活に終始興奮して見入っていた。

そしてフールーダの弟子が帝国騎士にその事を話せば、帝国騎士は「流石神王陛下」とうっとりとその力を思い出し始めるではないか。

王国との戦争、いや。魔樹の襲撃から帰ってきたカーベイン将軍からエ・ランテルと神聖魔導国について聞かされたが、隠しきれない尊敬と崇拝をジルクニフは感じていた。

ほとんどの帝国騎士達は神聖魔導王に魅せられてしまっていたのだ。

 

「わかった。わかったよ爺。書簡を送ってやる。お前がエ・ランテルを視察したいと言っていると。」

ジルクニフは遂に観念したが直ぐに訂正が入った。

「ジル、私はエ・ランテルを見たいのではなく神王陛下と光神陛下にお会いしたいのです。」

「相手は神で王で国家元首だぞ。そう易々と会えると思うな。全く。」

ジルクニフは忌々しげにそう言うと文官のロウネ・ヴァミリネンを呼び出した。

「ロウネ、魔導国の新都市の見学を願う書状を早馬で送れ。神聖魔導王と光の神に十分でいいから時間をくれと添えてな。向こうも戦争で我が国が手に入れようとした都市を横からかっさらったんだ。このくらいは歓迎してくれるさ。」

 

「失礼ですが陛下。私もフールーダ様と共にエ・ランテルへ行かせてください。」

控えていた四騎士のうちの一人、レイナース・ロックブルズの進言にジルクニフはつくづく部下に恵まれていないと思った。

「わかった。わかったが、お前も爺も向こうで絶対に誰にも迷惑はかけるなよ。皇帝の名を入れた書簡を送るんだからな。」

 

次の日レイナースの口から漏れたエ・ランテル見学会の話は帝国騎士達の耳に入り、是非自分達もとカーベイン将軍自ら直談判に来たのだった。

 

それから数日。

 

「それでは、陛下。行って参りますぞ。」

フールーダは自分の持っている最もお気に入りのローブに身を包んでいた。

共にはレイナースとニンブル、カーベイン将軍だ。

そして抽選に当たった帝国騎士十数名とフールーダの弟子数名。

約二十名のこの部隊は、とても迷惑をかけないとは思えない構成だった。

「…すまない、ニンブル…頼むぞ…。」

ジルクニフは騎士達が魔導国に骨抜きにされてしまった今、長く帝都を離れるのは危険だと判断しての留守番だ。

魔導国を見定めて帰ってきたら粛清したはずの貴族が復活してました、では目も当てられない。

 

「お任せください。この激風ニンブル・アーク・デイル・アノック、フールーダ様を守り…いえ、帝国の尊厳を守ってみせます。」

ニンブルの言葉に皇帝は頷き、危なっかしい雰囲気の一行を見送った。

 

その後ニンブルを除く全てのものが帝国には戻らぬとも知らずに。

 

+

 

一行は二台の馬車と馬で移動していた。

一台にはフールーダとその弟子達が乗り、一台には見学を受け入れてくれた礼の品が積まれている。

帝国の騎士は誰もが信じていた。

あの神王陛下ならばエ・ランテルを見事復興されているはずだと。

そしてそれが間違っていなかったことに騎士達はすぐに胸を熱くするのだった。

近郊は見えてもエ・ランテルは変わらず覗くことができなかった為、魔樹襲来後初めて見るその都市は、水の都になっていた。

 

「落ち着いてください!フールーダ様!陛下に呉々も魔導国の皆様にご迷惑をお掛けしないように言われたのをお忘れですか!」

案内を任せられていた陽光聖典隊長ニグン・グリッド・ルーインとその部下たち、そして光の神官長イヴォン・ジャスナ・ドラクロワは優しい瞳で帝国の団体を眺めていた。

 

ニンブルは環状三号川の外に建つ入国管理・東塔に入った時からフールーダの暴走にほとほと困らされていた。

入れば普通の人間の衛士もいたが、信じられないほど礼儀正しいゴブリンと、帝国でも一匹捕らえている死の騎士(デスナイト)、講習官には西の魔蛇と呼ばれていたというナーガがいた。

 

恭しげに貴賓にお茶を出す死の騎士(デスナイト)を前にしたフールーダはそこで一度目の絶頂を迎えた。

そして都市内に入ると大量に設置されている――周りの明るさに反応してついたり消えたりする永続光(コンティニュアルライト)の前で弟子と共に絶頂した。

二号川の幽霊船のヴァポレットには乗る予定がなかったのにも関わらず乗りたいとゴネにゴネ、仕方なくフールーダと弟子だけ乗せて他のものは馬で移動した。

すると隣の停留所で降りる約束をしていたはずのフールーダは銅貨ニ枚で一律運賃だと知るや否や降りずにそのまま隣、また隣、とどんどん移動していき、ばっちり帝国一行は町中にその痴態を晒したのだった。

 

東二区から乗ったはずが西二区と呼ばれる真反対の停留所まで来て、ようやくフールーダは満足したように下船した。

アンデッドの船長は愛想が良かったらしく、右側に見えるのが何、左に見えるのが何、と軽い観光説明を混じえた運航に弟子もホクホクといった様子で降りて来ていた。

念のために一人付いて乗ってもらった陽光聖典隊員は対照的に、心底疲れたと言う様子で降りてきたのだった。

 

帝国商人とスレイン州商人が出店を出したりして賑やかだった東に比べて西は閑静な住宅地という印象で、建物の窓辺には冬だと言うのに思い思いの花が掛けられ街を明るい雰囲気にさせていた。

 

「も…申し訳ございません…。ドラクロワ神官長様、そしてルーイン殿…。」

ニンブルは改めて国より案内を任されてしまった可哀想な二人に謝った。

すると、ニグンは機嫌良さそうに返してきた。

「何、神王陛下と光神陛下の一から生み出されたエ・ランテルは神都と同じくらい我が国にとっては尊く、また素晴らしき街ですからね。仕方ありません。」

「ニグンの言う通りです。さぁ、折角西二区に来たのですから、神王陛下の御考案されたチンタイのコンドミニアムをお見せしましょう。皆様、こちらです。」

先頭を歩く神官長にすぐそこまで案内されると、そこには秘密の花園と言った雰囲気の中庭を持つ管理の行き届いた建物があった。

 

「ドラクロワ殿!!あのゴーレムはなんですかな!?」

フールーダを興奮させるものが何処にでもある事にニンブルのみならずレイナースも苦笑する。

しかし、帝国騎士達は相変わらず「流石神王陛下」と言い続けていて、もしや魅了の魔法をかけられたのではと思う程だった。

「ああ、あれは神王陛下がコンドミニアムに一体づつ配備したラピュタ君シリーズのゴーレムです。彼は花や鳥の世話と、共用部の掃除、そして月に一度入居者から家賃の回収を行っています。」

なんと近未来的なんだとフールーダは贅沢なゴーレムの使い方に唖然とする。

 

「ここは州営と仰っていたが…余程月々の金額はお高いのでしょうな…。税収もすごそうだ…。」

カーベインは、チンタイと言う新概念に心底感服していた。

そして騎士達は皆、国籍さえ取れば住めると言うそこに憧れ掛けていたのだ。

しかしゴーレムを置いてこれだけ綺麗に管理される物が庶民の手に届く額な訳がないのだ。

「あ、いえ。大体三十日普通のクラスの宿屋の個室に泊まる四分の三程度の値段です。ここはコンドミニアムの中でも中クラスですからね。」

カーベインの呟きを聞き取った陽光聖典副隊長がきちんと答える。

 

ニグンは自分の部隊の行き届いた様子に満足げに頷き付け加えた。

「王国エ・ランテル約五つ分の大都市へと成長した我が国のエ・ランテルは土地もまだふんだんに残っています。買うなら今ですよ。私も畏れながら約束の地の近くに別荘を持ちましてね。」

ニグンの自慢話にカーベインは移住を決意した。

その晩直ぐに帝国の妻子と両親に手紙を送り、皇帝にも謝罪と辞任表明の手紙を送り、すっかり魔導国に居ついてしまうのだった。

家族も当然執事やメイドを連れて、一歩遅れて移住してくる。

後にカーベインが庭付き一戸建てを建てると、その周りは帝国出身の元貴族達も越してきて住み始めたそこは――中華街ならぬ帝国街と呼ばれたりしたとか。

帝国騎士も皆その晩カーベインを真似、友人騎士や、貴族位を剥奪され力も未来もなくした友人などをエ・ランテルに呼んだ。

新しく三区にたったばかりのL字形のコンドミニアムは、美しい庭と川が見える眺めの良いものだった。

それには元帝国騎士ばかりが住み、殆どの者は入国管理局や冒険者育成窓口に再就職を果たすのだが、それはまた別のお話。

 

 

「フールーダ様!?」

するとまたフールーダが問題を起こしていることを告げる声がニンブルの耳に届く。

そちらに目をやれば、冒険者のような少女がフールーダと何やら話し込み始めていた。

手招きするフールーダに嫌々近付けば、昔の教え子がそこに住んでいたようだと少女――アルシェ・イーブ・リイル・フルトを紹介した。

 

「ちなみにフルト君、君は神々を見たことがあるのかな…?」

周りの弟子たちとレイナースがゴクリと喉を鳴らすのが聞こえた。

「…見ました。」

「して…その…お力は……。」

「光神陛下は、十一位階というところかと思います…。」

「じゅっじゅういち!?師よ!そのようなものがこの世に存在するのですか!?」

近頃では光の神の名前を直接呼ぶのは不敬だとヴァイセルフ州知事が就任時に呼んだその敬称で――特別何の地位も持たなかったフラミーを便宜上国民は光の神、光神陛下と呼ぶようになっていた。

 

フールーダは待て待てと興奮する弟子を落ち着かせ、アルシェに先を促す。

「ドラクロワ殿と陽光聖典の皆様の前でこんなことを言うのは失礼かもしれんが……光神陛下は神王陛下よりお力が劣るとわしは見ておる。神王陛下は如何じゃった。」

本当にがっつり失礼をかますフールーダに、帰ったら全てをジルクニフに言い付けようとニンブルは決めた。

 

「神王陛下は…わかりません。余りにもすごすぎる魔力の奔流を前に、直視することも難しいです。でも、言うなれば、十二位階でしょうか…。」

「そんな位階が存在するのかフルト君…。」

アルシェに講義で教えていた弟子が信じられないと言う視線を投げる。

するとアルシェも不安げに口元を手で押さえ、悩み始めた。

「わかりません…。私もそんなものがこの世にあるのか…神王陛下にも光神陛下にもお聞きしたことはないので…。」

それはそうだと弟子達も神妙な顔になる。

 

そして答えを求めるかのように魔導国の者に目を向けると、ドラクロワ神官長が代表して応えた。

「神王陛下もフラミー様も…失礼、光神陛下も第十位階を超えた超位魔法と呼ばれる魔法をお使いになります。陛下方はいつも、自分達の間に上下関係はないと仰っておられます。」

神官長は興奮したように舌でペロリと唇を湿らて、さらに続ける。

「しかし、強いてお力を比べるとするならば、たしかに神王陛下は光神陛下を上回るでしょう。今回王国の不信心者達を生き返らせる際、光神陛下は神王陛下よりお力をお借りしながら行われました。」

陽光聖典と何故か帝国騎士達もうんうん頷いている。

 

「超位魔法…。」

確かめるようにアルシェが繰り返す。

「そのようなものが…なんと素晴らしい…。」

フールーダはこの旅に来て良かったと心底思った。

そして紹介状を書いてくれた皇帝ジルクニフに心から感謝した。




次回#42 レイナースの失態


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#42 レイナースの失態

デミウルゴスの計画通り、帝国から神都に書状が届いた。

それは帝国のトライアッド、フールーダ・パラダインのエ・ランテル見学と、わずかな時間で良いから少しでも魔法談義に付き合ってほしいと言うものだった。

 

アインズは午後のフールーダとの謁見に向け事前準備を進めていた。

帝国には魔法省と呼ばれる厨二心くすぐる素晴らしい機関があると言う。

そこの長が来ると言うのだ、何をするどんな所なのか詳しく教えてもらって、あわよくば魔導国内にそれを作りたいと思った。

 

「よく来たな、フールーダ・パラダイン。そして共の者達よ。」

アインズは支配者らしい喋り方を――人払いをした寝室で一生懸命練習していた。

するとノックと声が響く。

「アインズ様。そろそろお召し物のお支度を。」

「そうか、もうそんな時間か。それなら仕方ないな。」

少し気持ちが疲れて来たところだった為すぐさま寝室を後にした。

 

ドレスルームに入れば、そこには赤、青、紫、黒、白の五着のローブが出されており、どれも派手だ。

いつものように相応しいものを選んでおくように言ったが、今日は一着に絞られていない事に少しの不安を感じる。

「どれも私には少し派手ではないかな?」

アインズ番はキラキラする瞳を向け、ブンブンと顔を振った。

「とんでもございません!どれもアインズ様によくお似合いになるかと思います!さぁ、どちらに致しましょう!」

アインズとしてはいつものローブが良いと思うが、絶対者が毎度同じ服を着ていては沽券にかかわる。

しかしコーディネートに少しも自信のないアインズはいつも人任せだ。

「そうだな。フラミーさんはもう着たのか?あちらのコーディネートに合わせよう。」

フラミーは服が好きみたいだし、最悪意見を仰げば良いと思ったのだ。

「畏まりました!それではフラミー様に御入室の許可を頂いて参りますのでお待ちください。」

さっと頭を下げるとアインズ番は出て行った。

ふぅと一息ついてこんなの買ったっけと赤いローブを眺めているとアインズ番はすぐに戻ってきた。

「お待たせいたしました。フラミー様はもうお召し替えを済まされていたのでいつでもどうぞとの事です。」

うむとフラミーの部屋へ向かい、入るとドレスルームから盛り上がる女性陣の声が聞こえてくる。

いつでもどうぞの意思表示なのかドレスルームの扉は開けられていた。

 

「フラミーさん、今日何色ですか?」

そう言ってアインズがドレスルームに顔を覗かせると――肌よりも薄いラベンダーカラーの大きく背中の空いた長いエンパイアドレスに、白く長いベールをそれぞれの肩から垂らしている姿が目に入る。

いつも背で畳まれている翼は引きずるように下げられ、肩のベールが翼の上から重なるように長く垂れている様は実に悪魔らしくない。

チョーカーのように着けるのが定番になっていた通称思い出ネックレスは珍しく本来の長さで着けられているが、バックワードネックレスのようにチャームは背中側に垂らされ肩甲骨と翼の間で輝いていた。

アインズはたまにフラミーの着る服達に、そんな装備ユグドラシルにあったっけと思う事があったが、装備の仕方で同じものも随分印象が変わるものだとしばらく見つめた。

 

「あ、アインズさん!私今日は肌色(・・)ですよ!」

「肌?あ、なるほど。はははは。じゃ俺も肌色(・・)にしようかな。」

後ろから五着のローブを持ってついてきていたアインズ番がせっせと白いローブを広げてよく見えるようにしていた。

「わー肌色いいじゃないですか!こないだラナーちゃんの就任式で黒だったし、メリハリですね。」

うふふと笑うフラミーにそう言うものかとアインズは心得ていたかのように頷いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「フラミー様、初めて帝国の者と謁見されるにふさわしいピアスはこちらのラインかと思うのですが如何でしょうか。」

フラミー番の声にフラミーは視線を向けると、アクセサリートレイにはピアスが大量に乗っていた。

え?その中から選ぶの?とアインズが呆然と眺めているとフラミーはトレイをしばらく眺め、いくつかをジャラリと指で転がすと、楽しげにアインズを見た。

「アインズさんどう思います?こう言うダイヤの連なった細いピアスも繊細でいいと思うんですけど、やっぱり大振りゴテゴテビジュー系がカッコいいですか?」

何を言われてるのかまるでわからないアインズは来るタイミングを間違えたと思った。

「そ、そうですね…ネックレスがシンプルですしゴテゴテいいんじゃないですか…?」

精一杯の意見だったが、女性陣がオォ!と声をあげゴテゴテしたピアスをあれやこれやと試し始める。

どうやら意見としては正解だったらしい。

「それじゃ…俺も着替えてこようかな…。行くぞ。」

アインズは次は髪飾りと楽しげな声に背を向けアインズ番と部屋に戻った。

 

+

 

神王はエ・ランテル、闇の神殿に転移の鏡でその姿を現した。

白磁の顔に白いローブを纏うその姿は実に神々しかった。

まるで不可侵の聖域とでも言うような姿にニンブルは言葉を失う。

神とはこう言うものかと。

隣に立つ光の神は四対の翼をトレーンのように引きずっている。

作り物のようなその顔は美しく、決して人間の手に入れられるものではないと思わされた。

そして他にも守護神と呼ばれる美しき異形達が侍っていた。

 

想像通りフールーダは相手が話すのも待たずに一人喋り出した。

「…魔法を司るという小神を信仰して参りました。ですが、それが神王陛下と光神陛下でないと言うのならば、私の信仰心は今搔き消えました。真なる神々よ…。」

そして勢いよく床に額を付け、痛そうな音が聖堂内に響くが感動に涙を流し続けるフールーダは気にした様子もなかった。

 

「失礼と知りながらも、伏してお願い申し上げます!私に両陛下の教えをお与えください!!私は魔法の深淵を覗きたいのです!!!何卒!!どうか!何と――」

 

「騒々しい。静かにせよ。」

アインズはここぞとばかりに練習の成果を披露していく。

「良し。よく来たな、フールーダ・パラダイン。そして共の者達よ。」

 

「神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下!どうかこのフールーダ・パラダインの――」

一時静かになったはずが再び興奮し始めたフールーダに尾を生やした理知的な雰囲気の男性から声がかかると――

『お静かに。』

フールーダはついに静まった。

 

「よせ、デミウルゴス。」

デミウルゴスと言う名の凛々しいそのものは恭しく頭を下げた。

『自由にしたまえ。』

 

「おおぉぉぉ……。」

フールーダは今は話ができるような雰囲気ではなかった。

一番にフールーダには魔法省の事を聞きたいと思っていたが、アインズは取り敢えず守護者達を紹介していく。

そしてデミウルゴスを紹介すると騎士達がざわめいた。

「ん?デミウルゴスがどうかしたかな?」

アインズの問いに騎士達を代表してカーベインが答えた。

「は。あの魔樹討伐の後、デミウルゴス様のその理知的で慈悲深い物腰に、騎士達は皆男として憧れてしまいまして…。デミウルゴス様が陛下方に信頼されている様子を見たら、なんといいますか…皆自分の事のように嬉しくなってしまったのです。」

 

思いもしない返答にアインズも、なんとデミウルゴスも一瞬惚けた。

しかし、確かにこいつは歩き方も決まっていてかっこよくてずるいと思った事もあるとアインズは納得する。

「そうだろう。デミウルゴスは我が配下の中でも指折りの知恵者だ。そうあれと私の仲間が創造したのだ。ウルベルトさんに聞かせてやりたいものだよ。ふふふ。」

アインズは親友のウルベルトとその自慢の息子を褒められた気持ちよさからカーベインと帝国騎士への好感度を急上昇させた。

「な、アインズ様、い、いえ…私は…。そのぅ…。」

嬉し恥ずかしと言う様子のデミウルゴスの態度は帝国騎士達をなぜか和ませたのだった。

 

その後も順調に守護者を紹介していくと、最後にフラミーの番を迎えた。

アインズのすぐ後に紹介すると大抵アインズの方がえらいと思われる事が多いので近頃では最初にアインズが名乗り、最後にフラミーを紹介する事で勘違いを未然に防ごうとしている。

 

「そして、こちらはフラミーさんだ。」

「フラミーです。皆さん宜しくお願いします。騎士の皆さん、この間はどうも。」

ニコリと笑うフラミーに男達はとろけたような視線を送った。

――元はCGで美しく作られた顔なのだ、美しくないわけがない。

「んん。光神陛下は復活の神だとお聞きしたのですが…。」

レイナースの少しぶっきらぼうな咳払いに、とろけた男達は途端に表情を締め直した。

「ふ…そうです…私こそ復活の神です…。」

フラミーは欲しかったわけでもない称号に遠い目をした。

 

レイナースはゴクリと唾を飲んだ。

「神王陛下!!光神陛下に私のこの、醜き顔の治療をお願いしてもよろしいでしょうか!!」

「…レイナース・ロックブルズよ。何故私に許可を求める。いや、帝国の皆さんには説明がまだだったな。光の神は闇の神の部下なのか、どちらが上の立場だ、と聞かれることがままある。だが、彼女は私の大切な友人だ。私の方がほんの少し年上というだけでフラミーさんは私をよく立ててくれている。それが君達の目には上下関係に映るかもしれない。それでも私達は対等であると覚えておいてもらおう。」

瞳の灯火が燃え上がるように赤くなると、レイナースは睨まれたと直ぐに分かった。

 

――失敗した。完全に失敗した!

「も、申し訳ございません、神王陛下。」

「違うぞ、私ではなく、フラミーさんに失礼だと言っているのだ。」

さらにレイナースは失態を重ねたようだった。

「申し訳ありません!!光神陛下!!」

 

ダラダラと顔が汗を伝うと、膿が汗とともに美しい黒い大理石の床の上にポタリポタリと落ちる。

なんと忌々しい顔なんだと、慌てて汚してしまった床をその手で拭いていると、光の神の朗らかな笑い声が響いた。

 

「ははは、良いですよ。私はアインズさんを尊敬してますから。それにアインズさんの方がほんの少しお兄さんなんですから、上といえば上の立場です。」

「…本当に申し訳ありませんでした陛下…。」

「気にしてませんよ。アインズさんもお兄さんなんだから許してあげてください。」

顔を神王に向けると神王はふぅ、とため息をついた。

「もういっそアインズでも良いんですよ、フラミーさん。」

「え、あ、あいんずですか?……無理です。あ、私こそフラミーで構いませんからね!」

二人のやりとりは本当にただの友人というような雰囲気だった。

 

騎士達と聖典達、そして神官達は少しお兄さんって五百歳くらいかな?と考えていた。




おフラさんのイメージ図が今更できました!!
https://twitter.com/dreamnemri/status/1130081854072057857?s=21
皆さんイメージと違いますか?
誰か美しく描いてやって下さい…!
紫の肌って悪魔っぽくていいんじゃないと思ったんですけど、
紫の肌に尖った耳ってバリバリ魔族丸出しでした。

ちなみにアインズ様も、呼び捨ては辞退されたようです( ・∇・)
ああ、いつか二人は呼び捨てしあえるようになれるのでしょうか!
大人になってから出来た友達を呼び捨てにするのって、何故かものすごく難しいですよね。
子供の頃はあんなに簡単だったのに!
大人って難しい!!(小学生並み感想

次回#43 奇跡のオシャシン


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#43 奇跡のオシャシン

「それで、レイナースさんの顔の治療でしたっけ?」

フラミーはレイナースに近寄っていく。

願いが聞き届けられるのかと皆瞬きを堪えて二人の様子を見続けた。

 

「っは、っはい!私のこの顔は、昔村を救う為に魔物を滅した時に受けた呪いです。帝国はもちろん法国にも王国にもこれを治せるものは一人としておりませんでした…どうか、どうか御身の奇跡を我が身にも与えては頂けないでしょうか…。」

レイナースはこれ以上失態できないと慎重に言葉を紡いだ。

 

「なるほど…」

アインズは、こんな呪い簡単に解けるだろうに難しい顔をするフラミーに、やっぱり部下呼ばわりは不愉快だったかなと思った。

フラミーはアインズが皇帝と支配者同士仲良くしたいと言っていたことを思い出し、少し考えていた。

 

部下にまず幾らか恩を売って好感度アップが望ましいだろうが、一応皇帝も治してあげたいと思っているのか聞いておいた方が確かだと思った。

これが部下だけでなく皇帝にも直接恩を売れる行為ならより望ましいはずだ。

本当は皇帝からお願いされたかった。

「光神陛下…いえ、フラミー様…もし解呪頂けるのなら、このレイナース。貴女様に全てを捧げます。」

 

 

「皇帝も、このことは?」

 

 

ニンブルは帝国内の状態を察したような女神の発言にわずかに驚いた。

いや、神々に隠し事などできようはずもないのかもしれない。

レイナースは解呪されれば皇帝の元を離れるだろうが、それを皇帝は良しとするのか――わからない。

ニンブルが迷宮に潜り込もうとしていると、レイナースの明るい声が響いた。

 

「当然、お望みです!」

 

勝手な真似をと同僚の女をニンブルは忌々しげに睨んだ。

 

「…良いでしょう。」

フラミーはそういうと中空から白いタツノオトシゴの絡みついた杖を引きずり出し、レイナースに向ける。

大治癒(ヒール)。」

 

何も変わらないその様子に周りのものは少し首をかしげるが、レイナースだけはハッとして、ポケットから膿を拭くためのハンカチを取り出すと、ゴシゴシと顔をこすった。

膿に埋もれた下も膿んでいたはずのその顔は、今拭き取った膿によって少し黄色くなっているが何年も求め続けたレイナースの本来の顔だった。

 

「あ…あぁ……。うっ…うぅうぅううわあああ!!」

レイナースは人目も憚らずにフラミーの足元で這いつくばって泣き始めた。

そしてフラミーがその肩を優しく抱くと、レイナースはフラミーに縋って泣き続けた。

その神の奇跡に騎士団も聖典も神官長も皆目を潤ませていた。

 

レイナースの嗚咽だけが聞こえる聖堂内に、鳴り響くは場違い音。

 

チャカっじーーーーー。

 

守護神シャルティア・ブラッドフォールンがカメラのシャッターを切った音だった。

 

シャルティアは写りを確認すると、師匠フラミーに見せて恥ずかしくないそれに満足した。

 

 

フラミーは落ち着き始めたレイナースから離れ立ち上がった。

「フラミー様。私の全てを御身に。」

レイナースはそう言うと美しく跪き直して、ドレスの裾を恭しく手に持ち口付けを送ってから陽光聖典の末席位置に移動して行った。

 

「「え………?」」

フラミーとアインズは二人でつい疑問を口にしてしまうと、レイナースは支配者達の心配事に思い至った。

「神王陛下、光神陛下。きちんと自分で帝国へ辞任の書状を(したた)めます。今後の神聖魔導国での配属先が決まれば、義理として皇帝にきちんとそれも報告しますのでどうぞご心配なきよう!」

明るく声を張るレイナースに、ニグンはその姿をちらりとも見ずに告げた。

「当然の配慮だ。今後は両陛下をご不安にさせぬようしっかり働きなさい。」

 

何が起こっているのかわからない支配者達を取り残して、聖堂内は当然だよね、うんうんと言った空気であふれていた。

 

「あ…そうなの…?んん。いや、そうだな?さて、フールーダ・パラダインよ。私はお前に聞きたいことがある。」

遂に自分の番かとフールーダは鼻息を荒くする。

「は!!何なりと!!」

こちらも明るく声を張る様子にアインズは少し引いた。

 

「…うむ。帝国には魔法省と言うものがあるな?しかし、我が魔導国にそれはない。我が国も魔法省と魔法学院を作りたいと思うのだ。そこでーー」

「お任せください!!」

(ん?)

フールーダはやる気に満ち満ちていた。

「このフールーダ・パラダイン、見事神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国に魔法省、いえ魔導省並びに魔導学院を設立して見せます!!」

アインズとフラミーは顔をパッと明るくして目を見合わせた。

なんて親切なおじいさんなんだと。

それに魔導省に魔導学院と言うのは中々良い言い回しじゃないかと二人は感心した。

「そうか!やってくれるか!」

例えノウハウを聞いても経験者がいなければ中々痒いところに手が届かないだろう。

アインズもフラミーも最初はなんか煩い変な人だと思ったが、パラダインお爺さんの好感度はうなぎ登りだった。

 

「ふ、フールーダ様!?」

帝国はこの破茶滅茶爺さんを失えば潰されてしまうとニンブルは慌てた。

フールーダは大切な防波堤なのだ。

 

「いけません、フールーダ様!どうかお考え直しを!」

しかしフールーダはニンブルごときに止められるじいちゃんではない。

「ニンブル、わしはちゃんとジルに許可を取る手紙を出すつもりじゃぞ?何の問題があるというんだ。」

「な、何って…そんな…そんな…!」

 

何やら必死でフールーダを説得する様子にアインズとフラミーは目を合わせた。

「ニンブルさん、フールーダさん。別に私達は無理に来ていただかなくても…。」

フラミーがそう言うと、フールーダはニンブルの頭をバシンと叩き、フラミーとアインズの足元へ寄った。

「ど、どうかそう仰らずに!!このフールーダに魔導省並びに魔導学院の設立をお任せください!そして、お気に召していただいた暁には、どうか魔法の深淵を覗かせて下さいませ!!」

伏して頼み込んでくる不思議なお爺さんに、やはりアインズとフラミーは顔を見合わせるのだった。

 

「フールーダ様!!そんな!!フールーダ様!!」

一人で小旅行に行きたいという老人に、心配だから我慢して下さいと家族が頼み込む光景のようだとアインズは思った。

「良かろう、フールーダ・パラダイン。しかし、身内の方々に迷惑と心配をかけるのは良くない。ちゃんと手紙を週に一回はエル=ニクス皇帝に送れるな?」

 

「おぉ!神よ!!感謝いたします!このフールーダ、必ずや陛下のお役に立つ事をお約束いたします。そして皇帝に手紙も送ります!おい、お前達はどうする?」

フールーダは己の高弟達に声をかけた。

「勿論我らはフールーダ様にお供させて頂きます!」

いい返事に満足したように頷いたが、フールーダは流石にレイナースのように帝国の列を離れたりはしなかった。

いや、最早ここに帝国の者はニンブルのみだとすら思っていた。

 

「さて、それではそろそろ時間かな?」

アインズの声にアルベドと神官長が頷いた。

「この度の謁見、実に有意義で面白かったぞ。帝国は皆良い者達ばかりだな。エル=ニクス殿にも近いうちにお会いしたいものだ。」

はははと笑い帰ろうとすると、何かを思い出したようにフラミーがそれを止めた。

「あ、アインズさん待って下さい。シャルティア。」

カメラを抱えたシャルティアがとてててと駆け寄ってきてフラミーのすぐ前に跪いた。

「はいフラミー様!シャルティア・ブラッドフォールン、御身の前に!」

きっと褒められるとワクワクする瞳が実に愛らしい。

「シャルティア、さっき撮った写真を帰る前にドラクロワ神官長にあげてくれる?」

「畏まりんした!」

そしてまたタタタと走って行くと、写真を見せた。

「人間の身でありながら、フラミー様とアインズ様の写る尊きお写真を頂けることへよく感謝するように。この素晴らしき一枚はおんしらの命よりも――」

「シャル!シャルちゃーん!」

「はい!フラミー様!兎に角、大切にしなんし!」

そう言って嫌々写真を渡すとフラミーの元へ走って戻った。

えらいえらーいと頭を撫でられシャルティアは相貌を崩すと、何の手柄もまだ立てられていないが、今ばかりはとりあえず我慢しようと思った。

 

+

 

神々が去った後、聖堂内を一行は案内された。

ニンブルは顔を青くし、魂が抜けたようにトボトボと後ろをついてきていた。

 

魔導国の者達は早く帝国も魔導国に降ればいいのに…と思いながら少しだけニンブルを可哀想に思った。

 

すると、問題児…ならぬ問題爺が口を開いた。

「ドラクロワ殿、先程守護神殿が仰っていたオシャシンとは一体何なのですかな?」

ドラクロワとニグンは先程のシャルティアに負けないくらい目を細め、その締まっていた顔を崩した。

 

「ふふ、仕方ありませんね、魔導国の民となられるパラダイン様にはたった今下賜されたこちらをお見せしましょう。」

そこには感涙にむせぶレイナースがフラミーに抱きとめられ、それを見下ろすアインズが写っていた。

「こ…これは…なんと言う写実性…。彼の方は余程絵の才能がおありなのですな…。」

「いえ、パラダイン様。こちらはカメラと言う神の生み出した景色を切り取るマジックアイテムで生み出されるものなのです。絵ではございません。」

あまりよく分からないと言う様子のフールーダにニンマリと魔導国勢は笑うと、闇の聖堂の入り口付近に帝国一行を連れていった。

 

そこには魔導王が平和について語り、痛み入るランポッサⅢ世、そして差し伸ばされた慈悲深き手に戦士長が感動すると言う素晴らしい写真がかけられていた。

「ほほう、こちらもそのオシャシンですかな?」

「その通りです。このお写真の偉大さと言うのは、この通り、絵と違い複製が容易にできるのです!」

ドラクロワの声に合わせて――ニグンが入り口前に設置されていたテーブルの上にドンっと大量の写真を出した。

 

「な!?こ、これも、これも、これもこれも、寸分違わず同じ絵…いや、オシャシン…!」

 

フラミーがその手で撮った最初の一枚は神都大神殿に安置されているが、ラナー就任式後パンドラズアクターの手によって大量に複製されていた。

「そうなのです。今ではかつて王国民だったエ・ランテルの人々の家には大抵飾られていますよ!」

 

ドラクロワの興奮が騎士達に伝わって行く。

王国から魔導国へ渡った事を許されるようなその写真は、少しだけ後ろめたい気持ちを持っていた旧王国民の心を見事に射止めたのだ。

庶民には少しばかり値が張るが、宗教画を買うよりもはるかに安く、国中の闇の神殿、聖堂で複製が売られ始めると瞬く間に売れていったらしい。

 

「もちろん神都でも多くの者の手に渡っていますが、神都では王国の者達が写っていなければと皆よく言っております。」

はははと軽快な笑い声が響く中、それを見ていたカーベインがそれを五枚手に取った。

「私も神王陛下のお姿を家に飾ろう!いくらだね?」

「一枚あたり銀貨二枚です。五枚のお求めで銀貨十枚です。」

陽光聖典の副隊員が普段ここに勤める守護神セバスのお気に入りの娘の代わりを行なった。

カーベインが会計をしていると、それを見ていた帝国騎士達も二枚づつ手に取り後ろに並んで行く。

 

すると、レイナースがドラクロワに遠慮がちに話しかけた。

「あの、ドラクロワ神官長様、私が写っているそれもこうして売られるのでしょうか…?」

「勿論です。奇跡とは誰にでも与えられる可能性を持つ事を全国民は知る権利があります。」

「では、販売の目処がつきましたら、どうかお知らせ頂けないでしょうか。素晴らしき両陛下とともに写っているオシャシンを一刻も早く手に入れたいのです。」

「良いですとも。あなたに連絡し、なんなら一番にこれを手に入れられるようにしましょう。あなたにはそれだけの権利がある。」

 

レイナースは帝国の者達には見せたことがない笑顔でニコリと清々しく笑った。

そして、取り敢えず王国の戦争の日のオシャシンを十枚買ったのだった。




ひこうにんふぁんくらぶ は なまじゃしん を うりはじめた!
#8ぶりに語られたフラミーさんの杖について妄想を広げました。
https://twitter.com/dreamnemri/status/1130251093500280832?s=21
褒められて良い気になったのでたまに挿絵入れていけたら良いなと思います!


次回 #44 閑話 その後の仔山羊達


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#44 閑話 その後の仔山羊達

ジッキンゲンがちょろぴすぎて、感想貰うたびに書きだめが投下されてます。(*゚∀゚*)うひひひひ






魂を媒介に召喚された十匹もの可愛らしい仔山羊は当然のように消えず、今日も第六階層「大森林」を元気に駆け回っていた。

 

「あたしもアインズ様とフラミー様の生み出された仔山羊を預かれるのはとっても光栄なんですが…あの無礼な蜥蜴人(リザードマン)達とドライアードが嫌だって言うんですよ。」

アウラはそのくらい我慢しろー!と憤慨しているが――口ではそう言いながら、何だかんだ自分の階層の者が仲良く幸せに暮らせるように気を配っている様子がアインズには伝わって来ていた。

「苦労をかけたな、アウラ。他にも広い階層はあるのだから今から受け入れ先を探して来るとしよう。」

「ありがとうございます、アインズ様!でも御許可を頂けるならあたしが皆に聞いて来ますよ!」

お任せくださいと胸を張るアウラの頭をくしゃりと撫で付けると、可愛い娘はくすぐったそうに笑った。

「いや。久し振りに各階層を見て回る良い機会だからな。私が行くとも。えーとフラミーさんは…。」

 

 

+

 

 

フラミーは畑を一部踏み抜かれたピッキーとピニスン、そして現地産トレント達に頭を下げていた。

「すみません、本当うちの子達が…。ほら、ちゃんと謝らないと。」

フラミーは足にトマトの残骸を貼り付ける自分の生み出した不出来な仔山羊の足を手のひらでパンと叩いた。

 

メエェェェェェ………

 

申し訳なさそうにする巨大な仔山羊にピニスンとトレント達は顔をヒクつかせていた。

「それじゃ私ザリュースさん達のところにも謝りに行かなきゃいけないんでこれで。本当すみませんでした。」

ペコペコと頭を下げながら立ち去るフラミーを最敬礼で副料理長は見送った。

 

フラミーは蜥蜴人(リザードマン)の宿泊施設を直すマーレの下についた。

「マーレ、本当ごめんね。」

「え!あ、ふ、フラミー様!僕は全然構いません!」

マーレが施設を破壊されたことを心底何とも思っていない様子で応えるのがむしろ怖い。

「ザリュースさん達は?」

「あ、あちらで仔山羊対策会議を開くそうです!」

 

礼を言いマーレの言った方へ向かえば、すぐに湖と林の間に目的の人物達を見つけた。

そこからは仔山羊に罠を張るとか、むしろ訓練になるかもしれないとか物騒な事を話している声が聞こえて来る。

 

ザリュースと目が会うとフラミーは手を振った。

「ザリュースさーん!シャーしゅーリューしゃーーー…っく、しゃーしゅーりゅー…しゃー。すー。りゅー…。しゃーすーるー…ああ!」

フラミーは頭を抱えてザリュースの兄をいつまで経っても呼べないことに苦悩した。

「こ、これはフラミー様!シャシャとお呼びいただければ良いと言いましたのに!」

シャースーリューが駆け寄るが、フラミーは頭をブンブン左右に振った。

「折角ですけど、シャシャさんじゃザリュースさんもクルシュさんも、奥さんも皆シャシャしゃんじゃな……くっ……皆シャシャさんじゃないですか!」

ただ折衷案もうまく言えないだけだと言うことを露呈させながらフラミーは申し出を断った。

ゼンベルがグヮハハハとワイルドな笑い声を上げると、フラミーの後ろについて来ていた可愛らしい仔山羊の一体からビッと目にも留まらぬ速さで会議時に地面に書いていた図が抉り消された。

当たっていたらゼンベルは煎餅になっていただろう。

「は……は……ははは…。いや…失礼しました。俺はフラミー様を笑ったんじゃねーんですよ。ただ、ほら、この言いにくい名前の兄弟を笑っただけで、なぁ…?」

同意を求められるキュクー・ズーズーはふぃと無視した。

復活後呪いが解け知恵が戻ってからはゼンベルを脳足りんだと評していた。

 

「フラミー様、このスーキュ・ジュジュ良い案を思いつきました。」

スモールファングの黄色い族長にフラミーは視線で続きを促した。

「我々は敬称は不要ですので、シャースーリューさんではなくシャースーリューとお呼び下されば良いのです。なぁ、そうだろう皆。」

それはそうだとうんうん頷く可愛い爬虫類達にフラミーは下唇を噛みながら唸った。

 

「フラミーさん、何の話ですか?ザリュース、シャースーリュー、キュクー、スーキュ、ゼンベル。皆今回は悪かったな。」

アインズからかかる声にフラミーは振り返ると複雑そうな顔をしていた。

「く…至高の支配者は噛まないとでも言うんですか?」

「え…?まぁあんまり噛みませんね。」

「じゃあ、『シャシャさんちの、クルシュさんが、シャー、スー、リューさんと、散歩した』って早口で十回言ってください。」

後ろで仔山羊達がウネウネと触手を動かしながらメメメェェェ…メェエェメエェェェェェと各々早口言葉を言っている気になっているのが実に愛らしい。

 

「シャシャさんちのクルシュさんがシャースーリューさんと散歩した。シャシャさんちのクルシュさんがシャースーリューしゃんとしゃんぽした……」

「噛みましたね。」

「噛んでませんとも……。」

「噛みました!」

「噛んでないです!」

『噛んだって認めて下さい!』

「あ、、ずるい!でも俺にそんな姑息な手は効かな――」

「「「「「噛みました」」」」」

 

呪言に誘われてレベルの低い族長達が声を揃えて噛んだと口にした。

至高の支配者に生意気にも噛んだと指摘してしまった族長達は慌てて口を抑えるが、支配者達は心底おかしそうに笑った。

 

+

 

アインズとフラミーはシャルティアの元に来ていた。

 

「と言うわけで少しでも第六階層から他所の階層に引っ越させたいのだ。」

一体だけ連れてきた仔山羊はとてもシャルティアの住まいには入れず、外で吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)に見張らせている。

「仰ることはわかりんすが、私の階層では天井を擦ったりしそうなので出来ればもう少し広いところを当たった最終手段にしていただきたいでありんす…。」

外からズンズン…と言う足音が聞こえ出すと――

「それに、あれの体重では一部の敢えて脆く作られた床が抜けるかもしれんせん。」

バギィという床を踏み抜く音と、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイアブライド)達の キャー!!ハヤクハヤク!!という悲鳴が聞こえてきた。

外から聞こえる恐ろしい音に三人は顔を見合わせると慌てて外に出た。

 

「うわ!こら、こいつ、あんまり動くなって言ったのに!すまなかったな!シャルティア、お前は自分の階層の性質をよく掴んでいる素晴らしい守護者だ。転移門(ゲート)!」

アインズは転移門(ゲート)に仔山羊を蹴り入れた。

「すぐに金貨で直すようにズアちゃんに連絡しておくから、少しだけ待ってね!ごめんね!」

二人はそそくさと闇に身を投じると去っていった。

 

「あ…アインズ様…フラミー様…もう行ってしまわれんした…。お写真を一緒に撮って頂きたかったのに…。」

 

+

 

「と言うわけで少しでも第六階層から他所の階層に引っ越させたいのだが、流石に第一から第三階層は無理だったわけだ。」

「ナルホド。ソウイウ事デシタラ我ガ階層デ全テ引キ取リマショウ。」

コキュートスは広がる雪原に仔山羊が居ることに何の不都合も感じないだろうと結論付けた。

「そうか!預かってくれるか!よし、では早速外に転移門(ゲート) を開こう。」

「畏マリマシタ。タダ、氷ノ湖ニ死体ヲ保存シテイル為ソコダケ行カナイヨウニ言ッテオイテ頂ケルト……ン?」

コキュートスと共にスノードームを出ると、そこには寒さ故か小さくクシュクシュになって震える哀れな仔山羊がいた。

「パトラッシュ!パトラッシュ目を覚まして!」

パンドラズアクターに連絡するから後で入ると言っていたフラミーが仔山羊の巨大な足をすりすりと暖めている。

「メエェェェ………メェ……。」

仔山羊は冷気への耐性を持っていなかった。

「…コキュートス、せっかく預かってくれるという事だったが…。」

「ハイ。コレデ死ンデシマッテハ元モ子モアリマセンノデ…。」

 

+

 

「と言うわけで流石に第一から第五階層は無理だったわけだ。」

「なるほど。そういうことですか。」

「全くどうしたらいいもんか。」

目を離すと意外と何が起こるか分からない為、赤熱神殿の前で三人は仔山羊を見ていた。

「…私にいい考えがあります。」

デミウルゴスの声に二人はさすが知恵者!と目を輝かせる。

「いっそ、殺してしまえばーー」

「なんだとデミウルゴス?」

「デミウルゴスさん…パトラッシュ達殺しちゃうんですか…?」

支配者二人は二度とこれだけの数は出せないだろうと思うと、重度の勿体無い病を患っている為悲しそうな顔をした。

「失礼いたしました。愚かな提案をした私をお許しください。」

仔山羊に自由にするようにアインズが言った為、暖かくて気持ちがいいのか火山の麓に湧く温泉に腹を沈め、極楽と言ったような顔をしている。顔はないが。

が、冷気耐性を持たない仔山羊が熱耐性を持つはずもなく、段々黒い体は赤くなって行った。

 

【挿絵表示】

 

 

「ふふ。本当可愛い。あの子アインズさんの子ですよね?」

「そうですよ。俺と繋がりがあります。」

「あの子、パトラッシュって名前付けてもいいですか?」

「ははは。どうぞ。でも実は俺も名前考えてたんですよね。フラミーさん所の子に付けようかな。」

「なんて名前ですか?」

「おにぎり君ですよ。」

「あはっ!可愛い!」

 

デミウルゴスは二人を見て思う。

何とかしてこの慈悲深い支配者達の為にパトラッシュとおにぎり君達を生かす術を考えねばならないと。

 

「アインズ様、フラミー様。このデミウルゴス、良き方法を考えますので数日お時間を頂けないでしょうか。」

 

「ほう、考えてくれるか。デミウルゴス。」

「勿論でございます。」

支配者達は頷きあった。

「じゃあ、デミウルゴスさんお願いします。すみませんね、聖王国に悪魔送るのに忙しいって言うのに。」

「いえ、とんでもございません。慈悲深き御方々のお役に立てるようこのデミウルゴス、精一杯努めさせて頂きます。」

「あ!そしたら明日貪食の魔将(イビルロードグラトニー)を呼ぶ時は私のスキルで召喚しますよ!」

「おぉ、なんと優しきお言葉。是非よろしくお願い致します。」

 

デミウルゴスはナザリックにいる憤怒、強欲、嫉妬ではない魔将を一日に一回召喚し、知識を共有してから聖王国に送り込んでいる。

支配者達がパトラッシュを連れて立ち去ると、忙しくなるぞとデミウルゴスは肩を回した。




ナザリック生活スーパーエンジョイ!

ジッキンゲンの脳内仔山羊です。
https://twitter.com/dreamnemri/status/1130354447979241472?s=21


次回 #45 閑話 だって男の子だもん


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#45 閑話 だって男の子だもん

叡智の悪魔は久々に宝物殿、応接間を訪れていた。

 

「と、言うわけなんだよ。」

「なるほど。少なくとも宝物殿では飼えませんねぇ。」

応えるは卵頭の領域守護者、パンドラズアクターだ。

 

「それはわかっているとも。こうしている間にも御方々は第六階層で肩身を狭くする仔山羊達を思って御心を痛めているんだ。早急に解決案をお出ししなければ。」

「同意ですね。一番は冷気耐性のアイテムを持たせて第五階層の雪原に置いておく事だと思うのですが、ンァインズ様は当然それには…?」

パンドラズアクターは支配者達がいない為少しだけ姿勢悪くソファに寄りかかっていた。

「お気付きでしようね。恐らく仔山羊がありのままで過ごせる環境と言う条件だと思うのです。」

二人は唸り声を上げた。

 

すると突然デミウルゴスが姿勢を正してこめかみに手を当てる。

 

「はい。デミウルゴス……これはフラミー様。何と。すぐに参りますのでそのままお待ちを。」

 

何が起こったかを察したパンドラズアクターは頷いた。

「すまないね、押しかけておいて。」

「いえ、いつでもいらして下さい。」

手短に挨拶を交わすとデミウルゴスは転移して行った。

 

パンドラズアクターは立ち上がると、応接室にかけられている拡大コピーされたアインズとの写真の前に行きゆっくりと頭を下げた。

 

+

 

「フラミー様!」

デミウルゴスは本当にすぐに来た。

第七階層に転移してきたと思ったら小走りで向かってくる。

「用事大丈夫ですか?すみません、1時間近く早く来るなんて思いもしないですよね。」

「いえ。フラミー様をお待たせする程の事では。」

デミウルゴスはそう言ってフラミーの足元に跪いた。

「デミウルゴス、御身の前に。」

「ありがとうございます、立って下さい。」

わずかな時間しか膝をつかないとしても挨拶は大切だ。

 

「今日貪食(グラトニー)を出す約束だったじゃないですか、でも考えてみたら私と知識共有してるの呼んでも足手まといな気がして。」

フラミーは申し訳なさそうに笑うと頬をポリとかいた。

「確かに精神のつながりがない者は御し辛いかもしれません。どうぞお気になさらず、私がいつも通り呼び出しますので。」

デミウルゴスは実に物分かりがいい。

 

「しかし、それなら先ほどの伝言(メッセージ)でも宜しかったのでは?」

フラミーはキョロキョロと辺りを伺うと、少し背伸びをしてデミウルゴスの肩に片手で触れると耳元にもう片手を当てた。

デミウルゴスは内緒話のポーズにすぐに思い至ると軽く小さくなりながらフラミーの方の肩を下げた。

「実はアインズさんに内緒の話というか…相談があるんです。もし今時間がなければ出直します。」

そう言ってフラミーはデミウルゴスから離れた。

至高の支配者に秘密。

果たしてそんな事が許されるのかとデミウルゴスは身を固くした。

もしフラミーがアインズと違う道を行くと言ったら、自分はどちらに着いていけば良いのだろうと一瞬考えるが、そんな事は起こり得ないと嫌な想像を追い払った。

「と、兎に角お話をお聞きします。どこかに移動しますか?」

フラミーは真剣な眼差しで、自分の右手中指にはまっている指輪をトントンと触ると告げた。

「私の部屋にします。それ以外の場所だとアインズさんは自由な出入りを許されますから。」

 

二人は部屋の前に着くと、怪しくキョロキョロと左右を確認し、男性使用人とメイドが掃除してるだけの姿を確認すると部屋にサッと入って行った。

 

「フラミー様お帰りなさいませ。」

本日のフラミー当番、フォアイルが迎える。

フラミーは翼が出せるように背を切った紺のローブを脱ぎ、フォアイルに預けるとデミウルゴスといつものソファセットに進んだ。

三人がけソファに座ると、立ったままのデミウルゴスにすぐ隣の一人掛けソファを勧めた。

普段は正面を勧められるが、これは恐らく内緒話という事だろうと、デミウルゴスは形上一度断ってから座った。

 

「フォアイルちゃんいつものお茶お願いします。」

フォアイルが丁寧に頭を下げて部屋を静かに出て行くと、フラミーは頭上のアサシンズに軽く視線をやり、ヨジヨジとデミウルゴスから離れて行った。

デミウルゴスは一体何が始まるんだと思ってみてると、フラミーはポンポンと自分の隣の席を叩いて勧めた。

 

それは許される事なのかと炎獄の造物主は思わず汗をかいた。

「どうしました?デミウルゴスさん。早く早く。」

デミウルゴスは頭を下げながらフラミーと同じソファの一番端っこに座ると、額を汗が伝う感覚に慌ててチーフを出して拭った。

(これじゃあの日のセバスじゃないか…。)

 

「それだけきてたら暑いですよね、脱いで良いんですよ。あ!そうか!いや、むしろ脱いでください!さぁ、早く!」

「ふ、フラミー様!?ちょ、落ち着いて下さい!!私はウルベルト様に頂いたこのお衣装にはーー」

「自分達は威厳の為って毎日違う服勧めるくせに!いつも同じ服着て!この!至高のなんちゃらの命令が聞けんか!!」

 

カチン

 

半ば取っ組み合いになりかけていたが、謎の音に二人が顔を向けると、フォアイルがお茶をカップに注ぎ終わってそっとポットを置いた音だった。

これまで音もなくお茶の準備を進めとっくのとうに部屋に戻っていたフォアイルは、命令が聞けないと言う言葉に思わず少し動揺してしまったのだ。

 

「ほら、男の子でしょ!!」

デミウルゴスは追い剥ぎにあった。

そしてフォアイルとアサシンズは同じ部屋の、一番二人から遠い所に待機させられた。

 

デミウルゴスは訳もわからずジャケットもジレも脱がされネクタイも放り出されると、すっかりYシャツ姿にされてしまった。

フラミーは至近距離でまじまじとその胸を見ていた。

「…触って良いですか?」

「は?あ…いえ…良いですが…。」

許可するとペタペタとシャツ越しにデミウルゴスの胸を触り首を傾げている。

「デミウルゴスさん、あなた最上位種の悪魔ですよね?」

 

「は……はぁ…。フラミー様程の存在ではございませんが…。」

フラミーは触るのをやめて少し考えた後、ついに本題を口にした。

「どうやって隠してるんですか?」

何の話かわからない。

そう言う表情をしたのだろう、フラミーはフォアイル達のいる方の手で口元を隠し、読唇されないようにすると声を小さくして言った。

「デミウルゴスさんも両性ですよね?どうやって片方の性別隠してるんですか?おっぱいは?」

 

(???????)

 

デミウルゴスは訳がわからなかったが、理解はした。

「ふ、フラミー様……。我々悪魔は普通に男女分かれていますが――」

「うぉっと!!デミウルゴスさん!声が高い!!」

フラミーのその言葉に、デミウルゴスもフォアイル達のいる方から見えない様に口元を片手で隠すと声を落とした。

「失礼しました。もう遥かなる昔でお忘れになったかも知れませんが…貴女様は元が天使としてお生まれになった故に両性具有なのではないでしょうか。そう言う性質は悪魔ではなく、天使の性質かと。」

 

膝と膝が触れるような距離に座っていたフラミーはガタンと立ち上がった。

「な……な………!じゃ、じゃあ…私は…無駄にデミウルゴスさんを…脱がせた…だけ!でも、じゃあなんであの時に気付いたんですか!!自分もそうだからだと思ったのに!私あんなに親近感抱いてたのに…!」

支離滅裂だった。

「落ち着いて下さい、フラミー様。大丈夫です。安心してください。考えてみればほぼ悪魔のニューロニストも両性です。」

フラミーはその言葉にすっかり意気消沈した。

「ニューロニスト…ニューロニストちゃんと…一緒…。」

「あ、あああ、違います、一緒ではありませんが、ああー。」

 

そしてお決まりのタイミングでノックは響いた。

 

ハッとデミウルゴスは顔を上げたが、フラミーはずっと「ニューロニストちゃんと一緒ニューロニストちゃんと一緒…」と呟き続けている。

デミウルゴスはこの部屋の戸を叩く人物には一人しか心当たりがない。

(そろそろ自分の階層に御方々が来る約束の時間が近いはず…。)

フォアイルに出るように言おうかと思うが、フラミーの最初の言葉が脳裏をよぎった。

 

(アインズさんに内緒の話しというか…相談があるんです。)

 

デミウルゴスはその人生で最も悩んだ。

この状態のフラミーでもアインズなら瞬時に元に戻せるだろうが自分にできるのか。

これで招き入れたとして、至高の御方の機嫌取りを至高の支配者に頼るというのは怠慢じゃないか。

そもそも至高の御方には至高の支配者に見つからないようにこの部屋にしようと言われたじゃないか。

 

返事をする様子のないフラミーをチラリと見て、デミウルゴスは謹慎覚悟でフォアイルに告げた。

「い、今は……お入り頂けません……。」

 

+

 

フォアイルにはデミウルゴスがフラミーを振ったようにしか見えなかった。

何故?どうして?自分が至高の四十一人に望まれれば誰であっても喜びその身を捧げるだろうに。

何とも言えない気持ちで扉へ行き、外のアインズへ声をかけた。

「申し訳ありません。只今フラミー様はどなた様にもお会いになれる状況ではございません。また、ご一緒のデミウルゴス様よりアインズ様のご入室許可が出ません。」

 

「え?何て?」

アインズは初めてのパターンに首をひねった。

(デミウルゴスから入室の許可が出ない?)

中からデミウルゴスの聞き取れないくらいの小さな声が聞こえたかと思うと音もなく扉は閉められた。

別に生意気だとは思わないが、アインズは友達を取られた気分になった。

それに約束の時間になるのに何故自分だけ仲間はずれなんだ、そう思うと微妙に怒りが湧いて来る。

 

部屋の前でうんうん唸っているとアルベドがアインズの部屋から執務の後処理を終えたのか出てきた。

「あら?アインズ様、フラミー様とデミウルゴスにご用では?」

「ああ、アルベドか。そのデミウルゴスが中にいるそうなんだがな。私に入るなと言っているんだ。」

「…あのデミウルゴスが…?」

 

+

 

「フラミー様、アインズ様がご到着されました。どうかお気を確かに。」

「デミウルゴスさん、一緒に初めて空飛んだ時のこと覚えてる?」

やっとニューロニスト以外の言葉を喋ったフラミーにデミウルゴスは一生懸命頷いた。

「はい、このデミウルゴス。その日のことは全て、覚えております。こちらも頂きました。」

右手薬指の指輪を見せると、フラミーは手をグーにして中指にしている同じものをコンと当てた。

「その時私達一緒だよねって言ったじゃないですかぁ。」

「一緒でございます。」

「じゃあどうして女の子の要素ないの!?」

理不尽な怒りにデミウルゴスは狼狽えた。

 

「いや、そ、それは、ウルベルト様にそうあれと――。」

「ウルベルトさんのせいにするんですか!!」

「そう言うわけでは!」

ポコポコと叩いてくるフラミーの手を握るに握れず手のひらで受け止めていると、許可を出していないはずの扉が開き、咄嗟にフラミーの手を握りしめた。

 

「フラミーさ――ぁあ!?」

アインズが勝手に入ると、そこは犯罪臭が漂う部屋だった。

デミウルゴスが割と頭をめちゃくちゃにさせ、アサシンズがとても遠く端っこに群れている。

ネクタイとジャケット、ジレがソファやテーブルに散乱し、同じソファに座るデミウルゴスに正面から手を握られてフラミーは離してよ!と若干涙目で切れていた。

フラミーがそうじゃなかったら犯罪臭はしなかっただろう。

 

「アインズ様!!」

デミウルゴスは考えるよりも先にその誰よりも何よりも大切な主人の名前を叫んでいた。

 

「デミウルゴス!!貴様!!!」

アインズは激昂するが鎮静される。

その後も怒りが次々と押し寄せる中手を握り締め、未だフラミーの両手を握るデミウルゴスにズカズカと近付いた。

すると、後ろからアルベドとセバスがサササと入室していき、デミウルゴスを羽交い締めにした。

 

「フラミー様、この者はこのセバスが責任を持って首を落とさせて頂きます。」

 

「「「え"」」」

支配者達とデミウルゴスの情けない声が重なった。

 

「おい、セバス!ルプスレギナの時の話聞いてたか!」

「ちょ!ちょーちょちょっと待って!セバスさん!!」

支配者達は途端に我に返ってセバスを止めるが、セバスは清々しい笑顔を見せるとデミウルゴスを無理やり引きずり出した。

「セバスさん!待って!待ってください!!止まってよ!!止まってってばーー!デミウルゴスさんを連れてかないでー!!!」

フラミーはYシャツが微妙にズボンから出て筋肉質な腹を覗かせるデミウルゴスにひっ付いていた。

当のデミウルゴスは目を点にし、セバスに引きずられて尻を半端に床に付けていた。

外のコキュートス配下の者たちがコキュートスを呼んだらしくそのあんまりな光景をコキュートスも目撃してしまった。

 

アインズは転移直後のドタバタを思い出しながら、フラミーとデミウルゴス両名を残して一度全員追い出した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

+

 

「それで…。フラミーさん。あんたがデミウルゴスから服を脱がせたわけですか。」

ナザリックナンバーワンの功労者に何やってくれてんだとアインズは無性に苛々した。

「ごみんなさい…。」

「ごみんなさいじゃないですよ!!デミウルゴスのあれを見なさい!!いい歳した大人が!!」

 

デミウルゴスはこちらに背を向け心を失ったように床に転がったままだった。

 

「可哀想に!女子に剥がれる童貞の気持ちがわからんのですか!!」

(いや、それはご褒美か?)

一瞬邪念が入った。

そして勝手に童貞呼ばわりだった。

 

「だ、だって私デミウルゴスさんは女の子でも男の子でもないんだって思ったんだもん…。」

「だもんじゃない!!」

「はひぃ…デミウルゴスさんは…私の一番の理解者だって思って…つい暴走しました…。ごめんなさい…。」

デミウルゴスは突然むくりと起き上がると、こちらに顔もむけずに、メガネを押し上げた。

「私は…私はフラミー様の一番の理解者です。それでは。」

そして手近にあったジレだけ手に取るとネクタイもジャケットも置き去りに、スタスタと立ち去っていった。

 

「この……じゃじゃ馬娘ーー!!!!」

 

その後フラミーはしばらくアインズに叱られた。




はやしてよかったぁ!!てのひらくるりん☆
くー!やっぱりすれ違いとラッキースケベは最高だぜぇ!!(変態
自分、続き行っていいっすか?

じゃじゃ馬フラミーさんと心を失うデミウルゴスさん
→https://twitter.com/dreamnemri/status/1130476270855176193?s=21

次回 #46 閑話 だって両性具有だもん

(じゃじゃ馬って聞いたのらんま以来)

2019.05.21 響丸様のおかげで挿絵という概念を学びました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#46 閑話 だって両性具有だもん

「オ前トモアロウ者ガアレハ一体何ダッタンダ。」

 

騒動の晩、コキュートスは久しぶりにデミウルゴスをBARナザリックに誘っていた。

「いや。少しフラミー様からその御生れについてご相談を受けただけさ。」

「ソレガ何故アアナルンダ…。」

「そうだね。フラミー様は天使として御生れになって、神と戦争し、悪魔だと言われ続けて何万年の時を生きてらっしゃった。そのせいで、生まれた時から自分は悪魔なんだと少し混乱されていたようだ。しかし…結局天使も悪魔も同じだと私は昨日気付いたよ。」

全く質問の答えになっていないと副料理長は思う。

 

「ソウカ…。フラミー様ハ確カニ悪魔モ天使モ呼ビ出セル。」

「そういうことです。」

守護者は納得しているがどういう事だか訳がわからない。

 

「ソレデ?オ前ノソノ格好ハドウシタンダ。」

「これについては…説明したいが、フラミー様よりアインズ様にも秘密と言われている事だから、私は言えないんだ。すまないね。」

至高の支配者に秘密という言葉にコキュートスも副料理長もザワリと動いた。

「アインズ様はフラミー様と対等だといつも仰っている。何。アインズ様の御意思に背くつもりはないよ。」

それもそうか、いや、そうなのか?と聞いているものは迷宮入りしかけると、コキュートスは、デミウルゴスが昼前の騒動から何時間も経っていながら未だにその時の、Yシャツにスラックス、サスペンダーという姿のままな事に疑問をもった。

髪はいつもの通りに美しく整えられ、Yシャツも綺麗に裾の中にしまわれているのに、ネクタイもジレもジャケットも着ていない。

 

「…ソレハウルベルト様ノ御意志ニ背ク格好デハナイノカ?」

デミウルゴスはグラスを眺めながら話していたが、それを優しく手に取った。

「勿論、ウルベルト様の御意志に従っているさ。…アインズ様の御意志にも、フラミー様の御意志にもね。」

軽く笑ったあとデミウルゴスはグラスの中身を一気に煽ると席を立った。

 

「今日は誘ってくれて嬉しかったよコキュートス。」

「次ハ隠シ事無シデ集マリタイ物ダ。」

珍しいコキュートスの嫌味にデミウルゴスは背中をバンと叩いた。

副料理長は出て行く背中を見送る口を開いた。

「デミウルゴス様、珍しいですね。昼に一体何があったんですか?」

「ソレガナ――――」

 

+

 

翌日、第六階層湖畔。

 

「「「えぇーーーーー!?」」」

そこにはまたしても女子の声が響いた。

いや、今回はマーレもいるので男女だが。

「デ、デミウルゴスがフラミー様を襲う!?そんなの信じられないでありんす。今日は隕石が降ってくるんでありんすか?」

シャルティアは眩しそうに偽物の空を見上げた。

「全くあいつ、ついこないだアインズ様にすけべを叱られたばっかりだってのに!」

「「はぁ!?」」

「何なの!?アウラ、その情報は!!」

「それがさーあいつってばすけべにも程があると思うんだけど――」

 

「アウラ。あまりそれを言ってやるな。」

その声に湖を見ながら話していた全員がバッと振り向き、膝をついた。

「あ、アインズ様!フラミー様!」

マーレが現れた者達の名を口にした。

 

フラミーはアインズと現れたが、まっすぐ守護者に向かうアインズから歩みを逸らし、黒い仔山羊を手招きして呼びなから、自分も仔山羊に向かって行った。

「皆、昨日のことはデミウルゴスに罪は無い。ふぅ。何というか…そうだな、全ては勘違いの積み重なりと悲しいすれ違いだ。」

皆がフラミーに視線を送れば、唸りながら仔山羊の足にまとわりついて、触手によしよしと慰められていた。

 

「あ、デミウルゴスだ。それにパンドラズアクター!」

アウラが更なる来訪者を告げると嬉しそうに手を振った。

アウラはパンドラズアクターと共に法国に潜入してから割と仲がいいらしく、指輪を持たないアウラは宝物殿には行けないが、パンドラズアクターが宝物殿を出るときは連絡を貰ってよく遊んでいるらしい。

 

「よく来たな、デミウルゴス。…パンドラズアクターよ。」

アウラの歓迎とは対照的にアインズはパンドラズアクターも来ること無いのに…と思っていた。

「ンァインズ様!!フラミー様!!このパンドラズアクター、見事素晴らしきアイテムを作成致しました!!」

くるりと華麗に回転しながら片膝をつく無駄に高度な技を見せてくるせいでアインズは鎮静された。

落ち着いてゆっくりと膝をつく隣の男とつい見比べてしまう。

 

「アインズ様。まずは昨日ご迷惑をお掛けしました事、改めてお詫び申し上げます。」

「良い良い。お前には苦労をかけたな。怖かったろう。」

謝罪するデミウルゴスは深く頭を下げていたが、最後の言葉にピクリと耳を反応させる。

「いえ。そのようなことは。ありがたいことです。」

デミウルゴスは男として、いや、童貞の無駄な矜持として全然怖くなかったもん!と言いたいのだろうとアインズは優しく察した。

「そうか。ほら、フラミーさ……何やってんだ…?」

フラミーは五匹の仔山羊に囲まれ、姿を見えなくしていた。

仔山羊達は隣のものと身を寄せ合い幸せそうだ。

そして無駄にでかい。

 

「お迎えに行ってまいります。」

デミウルゴスは許されても責任を感じているのか背に皮膜を持つドラゴンのような翼を出し飛び上がると仔山羊達の中心の空間にその身を投じた。

 

コキュートスもアインズの存在に気がついて蜥蜴人(リザードマン)の宿泊施設からこちらへ向かってきていた。

「やれやれ、結局守護者全員になってしまったな。ん?あれはパトラッシュじゃないか。」

そしてフラミーを囲む五匹の仔山羊の一頭が自分の仔山羊ということに気がついた。

 

 

+

 

 

デミウルゴスは仔山羊の生み出している五角形の空間に入り、フラミーの足元に跪いた。

「フラミー様。デミウルゴス、御身の前に。」

一本の触手を大切そうに抱きしめていたフラミーは振り返ると、その狭い空間に跪く悪魔に謝罪した。

「デ、デミウルゴスさん…。昨日は本当にごめんなさい…。」

「いえ、このデミウルゴス、むしろご褒美です。」

フラミーは一瞬疑問を持つが、確かに楽しかったと思う。

「そう…ですよね。アインズさんはちょっと過剰反応でしたよね?」

「はい。誠に畏れながら私もそのように愚考致します。」

悪魔達はニヤリと視線を交わした。

「ははっ!やっぱりデミウルゴスさんは私の一番の理解者です!」

触手を手放すと、シャツにスラックスとジレを着ただけのいつもよりさっぱりした身なりのデミウルゴスに近付いた。

 

「これ、返さなくっちゃ。」

そしてネクタイとジャケットを取り出し、フラミーはネクタイを一度自分の首にかけ、ジャケットをデミウルゴスに向けて広げるように持った。

袖を通してやると言うのだ。

 

「あ…いや…そこまでのお気遣いは…。自分で着れますので…。」

「良いですって!私が脱がしたものですし、着せてあげます!」

デミウルゴスは何度かジャケットと、また随分楽しそうにしているフラミーを交互に見た後、遠慮がちにそれに袖を入れ――同時にフラミーが肩までジャケットを持ち上げて着せ掛けた。

「あ、そう言えばデミウルゴスさんの服って、翼をしまうと破れてたのが直るんですね、不思議。」

「恐れ入ります。えぇ。そのようにウルベルト様にお作りいただきましたので。」

少し自慢げに語りつつジャケットのボタンを留めてチーフを美しく胸ポケットにしまい直す悪魔の背中をフラミーは両手で確かめるように触った。

 

「え?ふら…あ…いえ…。」

 

デミウルゴスの言葉にならない言葉が仔山羊の小さな鳴き声の中一瞬響いた。

フラミーは閃いてしまった。

このデミウルゴスの翼を出したり引っ込めたりする能力があれば――と。

 

「デミウルゴスさん…着せておきながら言いにくいんですけど…やっぱり脱いで貰えませんか?」

デミウルゴスは背中から手の感触が離れるのを感じると、やはり御身に着せられるのは良くなかったかとジャケットを急いで脱ぎ、その腕にかけ、フラミーに向き直って跪いた。

「失礼いたしました。」

フラミーが前にしゃがんで頬杖をつくと、その瞳は昨日のように輝いていた。

 

「もっと全部脱いで下さい!」

 

(悪魔か……。)

デミウルゴスはそう思いながら袖たたみにしたジャケットの胸ポケットから、しまったばかりのチーフを取り出すと額を拭った。

「それは…アインズ様の御許可が必要かと…。」

「ちょっとだけでも…?」

「ちょっとだけでも……」

 

気まずい沈黙が流れ、デミウルゴスは堪らず下を向いた。

「じゃあ、せめてジレ脱いで下さい。」

しぶしぶジレを脱ぐために一度立ち上がると上からボタンを外していった。

フラミーはもう待ちきれんとばかりに下からボタンを外すのを手伝おうとすると、仔山羊が突然ジャンプして退いていった。

 

「あ。」

 

やっぱりちゃんと断れば良かったとデミウルゴスは後悔した。

 

+

 

アインズは少し長すぎるそれに焦れて来ていた。

「随分長いな、デミウルゴスがフラミーさんを許さないとは思えないが…。」

「デミウルゴスハ、フラミー様ノ尊キオ考エニ触レラレタ事ヲ昨夜ハトテモ喜ンデイマシタ。」

じゃあ何故いつまで経っても仔山羊の門が開かないんだろうとアインズはまた首を傾げた。

「仕方ない。喧嘩になってたら厄介だからな。」

アインズはギルメン誰にでも優しい男だ。

いつでも喧嘩の仲裁をして来た。

 

「パトラッシュよ、退きなさい。」

パトラッシュはその巨体に似つかわしくない素早さで、ピョインとジャンプしてずれる事でその門を開けた。

 

アインズと守護者は固まった。

 

デミウルゴスもこちらを向いて固まっている。

 

「アインズさん!」

フラミーだけはいい笑顔で手を振っていた。

デミウルゴスのジレに手をかけたまま。

 

アインズはフラミーの元にズンズン進んでいくと、その頭に乗ってるお団子をペチンッと軽く叩いた。

「なんで昨日の今日でまたデミウルゴス脱がしてるんですか!」

横ではデミウルゴスが許しを請うていた。

「あ、アインズ様、お許し下さい、どうかお許し下さい。」

アインズはかわいそうなデミウルゴスの頭を撫でつけた。

「お前、本当可哀想なやつだな…。断れないもんな……。」

フラミーはその首にデミウルゴスのネクタイをかけたまま、腰に手を当てた。

「邪魔しないでください!」

 

「は…?」

 

アインズは何を言われたかわからなかった。

「せっかく今いい所だったのに!」

フラミーは興奮し始めていた。

「あ、いや、ちょ、落ち着きましょうフラミーさん。何かおかしいですよ…?」

「今デミウルゴスさんに大事なことを教えてもらう所なんです!!」

アインズは何をだよと思いながらも、噛み合う様子のない会話に眩暈を覚えた。

「分かりましたから。ゆっくり後で部屋で話し合いましょうね?とにかく今は皆いますから。」

アインズはフラミーの手を取って守護者達の元へ向かおうとすると、フラミーの身がガクンと止まった。

振り返ると、フラミーの手を取るデミウルゴスがいた。

「…デミウルゴス。何のつもりだ。」

 

デミウルゴスはハッとしてその手を離し、頭を下げた。

「あ、いえ。失礼致しました。」

フラミーはデミウルゴスの教える気満々と言う雰囲気に嬉しくなった。

「デミウルゴスさん、続きは今度私の部屋で!」

怪しすぎる言葉を吐いてフラミーは離れたデミウルゴスの手を取り直すと歩かせた。

デミウルゴスは続きについて考えてはプルプルと頭を振り、自分の中に広がる想像を不敬だ、不敬だ、と押し留めた。

 

「え?フラミーさん…?」

アインズの声に、フラミーはちゃんと歩き出したデミウルゴスの手を離し、アインズに内緒話のポーズをした。

アインズは小さくなって耳、の部分を近づける。

「デミウルゴスさんの翼をしまえる秘密が分かれば、私女の子に戻れるんですよ!」

きゃー!と喜ぶその姿に、アインズは心底納得した。

「それは良かったですね。じゃ、俺もその原理一緒に教えてもらおうかな。」

嬉しそうに繋いだ手をブンブンと振る支配者たちの隣をデミウルゴスは自分の手を眺めながらついて来た。

 

+

 

パンドラズアクターが仔山羊にすもーるらいとを当てて人の腰くらいまで小さくしていく横で、シャルティアは地面にあぐらをかいて座っているデミウルゴスに迫っていた。

「デミウルゴス、おんしどうやってフラミー様を篭絡したのか教えなんし。」

「そうよ。自分は何も興味ないみたいな顔をしながら。全くアウラの言う通りとんだスケべ男ね。」

女性守護者の声にデミウルゴスはじっとりとした視線を送った。

「篭絡なんかできていませんよ。全く君達はそんな事を言って不敬だとは思わないんですか。」

「オ前ニハ言ワレタクナイト思ウゾ。」

コキュートスが味方じゃない事にデミウルゴスは若干の居心地の悪さを感じた。

「全く。もし本当に篭絡できているのなら、あの光景は何ですか…。」

吐き捨てるデミウルゴスの視線の先には小さな仔山羊にアインズとフラミーがキャイキャイ喜ぶ姿があった。

たまに手を取り合っては楽しげに笑いあい、離れてはくっつく二人に溜息が出る。

デミウルゴスは袖も通さずに肩にジャケットを掛け、膝に頬杖を付いた。

「じゃ、じゃあ、フラミー様のお世継ぎはまだお生まれにはならないんですね。」

マーレの声にがっかりと言うようにコキュートスも溜息をついた。

「デミウルゴス、モット男ヲ上ゲルンダナ。」

「でもさー、アインズ様みたいな素敵な人が近くにいちゃーねー。」

アウラの声に守護者たちはうんうんと首を縦に振った。

不貞腐れたようなデミウルゴスの視線はフラミーの首に掛かったままのネクタイから離れなかった。




近いうちに引っ込める能力について言及したいところですね!

そして響丸様がフラミーさんを美しく描いて下さいました!!
あまりの素晴らしさにオォ!と口から漏れたのは初めてでした!
見て下さいこのタッチ!この美しさ!(興奮

【挿絵表示】


#4以来フラさんの見た目にほとんど触れていないと言う怠慢が発生していたのですが見事に描いて頂けて喜びにとろけてます(*゚∀゚*)

響丸様の他の絵もご覧になりたい方はこちらへどうぞ!
https://syosetu.org/?mode=img_user_gallery&uid=114164


次回 #47 ドワーフの工匠


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#47 ドワーフの工匠

ニンブルはひとり、二台の馬車を連結させ、さらにその後ろに十頭を越える馬を引き連れて一人で帝都に帰還した。

その顔は疲れ切り、自分もこれで粛清かなと自嘲する様はすれ違う町の人々に戦争があったのかと思わせるほどだった。

いや、実際に魔導国と帝国の高度な戦争は始まっているのだ。

 

「最後に…帝国は皆良い者達ばかりだなと…神王陛下はおっしゃいました……。」

「そうか…。アインズ・ウール・ゴウン。人、それこそが目的だったか。」

ジルクニフはまんまと相手の掌の上で踊らされていたことに気が付いた。

「誰をこちらが送るかも全て想定内とはな。ふん。良いだろう。フールーダもレイナースもカーベインもくれてやる。しかし如何に慈悲深い統治を行おうと、人間は同じく痛みを知る血の通った人間の手でしか御しきれん。ニンブル、お前はよくやった。今は休め。」

ニンブルは深々と頭を下げ、四騎士――いや、三騎士の仲間に見送られた。

 

一月後には魔樹との戦いを見た騎士達と、魔法省の抱えていた魔法詠唱者(マジックキャスター)、そして魔法学院の教師、粛清し力を落とした貴族達がこぞって魔導国エ・ランテルに渡っていった。

ジルクニフはバラバラと髪を落とし、胃痛に悩まされるようになるのだった。

 

+

 

しんしんと雪が降る朝、神都大神殿では新たな聖典が生まれようとしていた。

「クレマンティーヌ・ハゼイア・クインティア。レイナース・ロックブルズ。お前達二人は今日から紫黒(しこく)聖典だ。現在陽光聖典はコキュートスと共に我が国に降る亜人や異形の捜索を行っているのは解っているな。」

青空のように透き通った色のローブに身を包むアインズの言葉に二人は真剣な眼差しで頷く。

「漆黒聖典も竜王国の様子を見にいっている関係上簡単に呼び戻すことはできない。紫黒聖典はそう言う者達の補助、補佐を行って欲しい。そしてその傍らで、監査機関として独立し、論功行賞を与えるに相応しい働きをした者を最高神官長に伝えるのだ。」

アインズが自分の胸三寸で決まる評価をなんとかしたいと考えていた結果だ。

レイナースと言う実力者が増員されたのは幸運だった。

クレマンティーヌも漆黒聖典に戻っていたが、一度空けてしまった穴にはもう新たな第九席次がいたし、正直ふらふらと何もしていないような感じだったのだ。

 

棚から牡丹餅だなとアインズが考えていると、赤紫のローブに身を包んだ背中の寒そうなフラミーが正式に言いわたす。

「クレマンティーヌ・ハゼイア・クインティア、紫黒聖典隊長を任命します。レイナース・ロックブルズ、 紫黒聖典副隊長を任命します。変わらずに二つ名は疾風走破と重爆を使いなさい。」

二人は頭を下げ、新たな団員服を受け取った。

とりあえず陽光聖典みたいにわかりやすいユニフォーム欲しいよね!ユニフォームがあると連帯感出るし!と平凡なアインズとフラミーが話し合った結果だ。

ナザリックで余っているものでサッと作らせた鎧だが、この世界でならまぁまぁいい働きをするだろうと思われた。

胸当てとブーツ、ガントレットは紫黒色のアダマンタイトで出てきており、光が当たるとわずかに紫色に輝いた。

動きやすさを重視して作られたそれはレイナースのこれまで着ていた鎧のデザインによく似ていた。

 

紫黒聖典の任命式が無事に終わると、先に魔導省の設立を任命したフールーダにアインズは問うた。

「任命式はここまでだが、フールーダよ。お前の腰に佩いているその小さな剣に彫られているのはルーン文字だな?」

「は。こちらは昔帝国に交易で来ていたドワーフ達が作った物にございます。護身用に買って以来帯刀しております。式典の間は不敬かと外しておりました。」

なるほどなるほどと唸りながらアインズはドワーフを探しに行くことを決意した。

そして、その場でドワーフの居場所を知る者を募ると、レイナースただ一人が手を挙げた。

「私の村をドワーフが昔経由して帝都に来ていたと祖父から聞いたことがございます。」

 

+

 

「そうか、それは大変だったな…。」

「恐れ入りますじゃ…。」

アインズの慈悲深きその言葉に答えたのは、哀れなたった一人生き残ったドワーフ、ゴンド・ファイアビアドだった。

 

彼は廃れ始めたルーン技術を一人、追い求め続けるドワーフだった。ルーン技術は魔法を付与するよりも時間もコストもかかるため、今では殆どルーンの工房を開いているドワーフはいない。ルーン工匠として、たった一人採掘を行い、ルーンを刻む装備を作る日々。ゴンドがルーンにこだわる姿は、よく笑われたものだ。

ある日、ゴンドが採掘を終わらせ不可視化のマントを羽織り国に帰ると、街の前でクアゴアと言うモグラのような亜人が友人達の死体を大裂け目に放り込んで行くところだった。クアゴアはドワーフの天敵で、これまでも何度も戦争を繰り広げてきた相手だ。

その後は無我夢中で逃げ、昔破棄された街でただ一人、手持ちの食料とそこら辺に生えてるキノコで腹を満たしてなんとか生活していたらしい。

 

「ゴンドよ、それでも私はお前達の本来の街に行って見たい。案内を頼めるか。その後は我が国で難民としてではなく、ルーン工匠としてお前を受け入れよう。」

ルーン工匠というアインズの言葉にゴンドは胸を張った。

「任せてくだされ陛下。しかし…人の国にわしが馴染めるかのう…。」

「安心しろ、ここにいる者は皆私とフラミーさんの民だが、皆いい者達ばかりだ。」

そう言ってアインズはお供に強く立候補したシャルティアと、道案内のゼンベル・グーグー。

そして新しく生まれた紫黒聖典の二人を紹介した。

 

その様子を、フラミーは睨むように見ていた。

「フラミー様…?」

レイナースはそのいつもと違う様子に名を呼んだ。

フラミーはハッとし、レイナースに何でもないと言ったが、何でもない雰囲気ではなかった。

 

ゴンドに地上を案内されながら一行は陥落した都市、フェオ・ジュラに向かった。

夕暮れが迫ると、レイナースとクレマンティーヌはせっせと焚き火を起こし、テントを張った。

ナザリックに一時帰還する事も、魔法で要塞を出す事も可能だが、折角キャンプ技能を身につけた二人がいるのだからと、この数日すっかり任せていた。

「アインズ様、そのクアゴアという者共も魔導国へ招きんすか?」

シャルティアは準備を進める二人を無視してアインズに問うた。

「そうだな…幾らかは引き入れたいと思うが…」

チラリと横目にゴンドを伺えば、ぞっとするような表情でこちらを見ていた。

「ドワーフの面々が嫌がらない程度の量にするつもりだ。」

 

ゴンドは言ってる意味が解らなかった。

面々と言っても、もう自分しか生き残っていない。

(いや、他の地域に住んでいたドワーフが魔導国に住んでおるのかもしれんのう…。)

例え育った街が違っても、同じ種族の者が居る国に行くのは非常に魅力的だった。

ゴンドはもう生きる事も辞めようかというタイミングで出会えたこの王に心から感謝した。

 

「あれー?フラミー様、やっぱり様子おかしいですよね?どーかしたんですか?」

クレマンティーヌもフラミーの顔を覗き込んでいた。

フラミーはやはり真剣な――いや、どこか悩むようでもある面持ちでアインズとゴンドの話を聞いていたのだ。

「何でもないですよ…。いえ、少し、嫌な予感がするんです…。」

そういうフラミーの言葉に、二名の聖典はこれから行く街がどんな惨状に見舞われているかと恐怖した。

 

 

「フラミー様、ちょっとだけいいか?」

ゼンベルがぶっきらぼうに来い来いと手招きすると、シャルティアが近くに落ちていた小石を投げつけ、ゼンベルのすぐ隣に立つ木数本を貫通して行った。

「あ……よろしい…でしょうか…。」

言い直したゼンベルにシャルティアは満足げに頷いていると、アインズに頭を撫でられた。

フラミーへの無礼を嗜めるとアインズに褒められ、アインズへの無礼を嗜めるとフラミーに褒められる為、永久機関のこのトカゲの事を実は少しシャルティアは気に入っている。

こっそり心の中でよくやったとゼンベルを褒めた。

 

「どうしました?ゼンベルさん。あんよ痛くなっちゃいました?」

ゼンベルはフラミーと共に少しだけ一行から離れた。

「あ、いや…ははは。そうじゃねーんですよ。その…もし、死体があったら…俺の世話になったドワーフだけでも…生き返してやって欲しいんだ…いや、です。」

そういうゼンベルはとても言いにくそうだった。

族長として生き返され、その奇跡はそうは起こらないと養殖指南役デミウルゴスが言っていた事を覚えている。

それに、人を生き返すことは自然の摂理に反しているのだ。

神々はそういうバランスも気にするだろうと思えてならなかった。

「…今は約束できません。ごめんなさいね。」

フラミーはそう言うと、脚に回復魔法をかけ背中をポンポンと叩いてから戻って行った。

「フラミー様も神王陛下も良い奴らだってのに、周りがちょっと過激なんだよなぁ…。」

ゼンベルは頭をボリボリとかきながら、もう見えないその背中を追って戻った。

 

一行は食事を済ませると、張られた四つのテントに各々向かって行った。

まずゴンドとゼンベルが一つに入っていくと、レイナースとクレマンティーヌも荷物を一つに入れて行き、食事の片付けに勤しんだ。

それまでゴンドが居なかった時はレイナースとクレマンティーヌ、ゼンベルで一つのテントにギッチリと入り、後はナザリックの三人が一人一つづつテントを使っていた。

 

しかし、今日からはテントは残すところ二つだ。

 

アインズは思った。

フラミーが眠るまで喋って、眠れば折角だから外で星でも眺めていれば良いやと。

それに、シャルティアと一晩フラミーが過ごすんじゃ気が休まらないだろうし、シャルティアと自分はまず無理だ、眠らないが眠らせて貰えそうにない。

 

シャルティアは思った。

このタイミングを逃せばまた暫くアインズを籠絡できるタイミングは訪れないかもしれないと。

そして、共同戦線を敷いているアルベドの強引な手口は目を見張るものがある。

見習うべきだ。

 

フラミーは思った。

アインズは骨だが一応男性だし、ヨダレ垂らして眠ったりしたら恥ずかしいよなぁと。

孤児院大部屋育ちだ、女子なら誰かと眠る事に何の気負いもない。

 

そして三人が動いた。

 

フラミーがシャルティアとテントに行こうと手を取ると、

シャルティアは迷わずアインズとテントに行こうとその手を取り、

アインズはフラミーとテントに行こうと手を取った。

 

静寂だった。

 

クレマンティーヌは面白そうにその様子を見ていると、レイナースに頭を叩かれた。

「っつー!レーナースさぁ、あんた顔のせいで婚約者に振られたとか言ってたけどその暴力体質が原因で逃げられたんじゃないのー!?」

クレマンティーヌが煽るとレイナースは太い薪を一本その手の中でボキリと折った。

「次無駄口叩いたらこの薪はあんたの腕よ。で、あんたは誰応援すんのよ。私はフラミー様の味方よ。」

「そーんなのつまんなーい!当然シャルちゃんと神王陛下の組みを推すに決まってんじゃーん!」

 

外野は自由だった。

 

アインズは焦った。

迷わずフラミーがシャルティアの手を取った事に。

自分がスケベニンゲンだと思われる気がする。

女子は女子と寝る、考えてみれば当たり前だ!

 

シャルティアは焦った。

迷わずアインズがフラミーの手を取った事に。

自分はもしかして至高の支配者の何か(・・)を邪魔しているのではないかとよぎる。

しかし、デミウルゴスやアルベドのような強引さが無ければ、勝ち残れない!

 

フラミーは焦った。

迷わずシャルティアがアインズの手を取った事に。

シャルティアとアインズが二人で寝るなんてエッチ極まりないと思ったが、その考えこそがエッチではないか。

ここでシャルティアを止めた者がこの空間で一番エッチな奴になる!

 

フラミーとアインズはパッと手を離した。

そして、フラミーは細心の注意を払って笑顔を作る。

「ご……ごゆっくり!!!!」

そしてゴキブリのようにカサカサカサとテントに入っていった。

 

「え…。」

アインズの呟きは冬の夜空に溶けていった。




フラミーさん、どんだけ復活に警戒してるんですか!
頑張れシャルティア…!

次回 #48 クアゴアの毛皮


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#48 クアゴアの毛皮

翌朝、アインズはツヤツヤしていた。

「おっす、陛下。おはようございます。」

ゼンベルの挨拶にうむと応えると、フラミーの元へズンズン進んでいく。

 

「おはようございます、フラミーさん。」

「あ、アインズさん、おはようございます。」

フラミーは考えたら負けだと必死にえっちな想像を追い払いいつも通りに返した――が、続くアインズの言葉に限界を迎えそうになる。

「いやー昨日すごい良かったんですよ。」

 

紫黒聖典の二人は驚きに振り返ったが、立ち聞きするのは不敬かとそそくさとテントの撤去に取り掛かった。

耳をダンボにしながら。

 

「そ、そうですか。」

フラミーはまだ平静だ、いつも通りの返事をできた自分を褒める。

「流石にシャルティア、ペロロンチーノさんに創造されただけありますよ。だってーー」

限界だった。

「だーーー!!!やっぱり!……カカロット。お前が、ナンバーワンだ。」

ビッとフラミーはアインズへ指をさすと立ち去っていった。

フラミーは歩きながら思った。

昨日の夜、あの中で一番エッチなやつが決まると思ったが、まさか翌朝に試練が待つとは、と。

 

(な、なんだ……?)

 

昨晩、アインズはテントにとりあえずシャルティアと二人で入ると、迫るシャルティアを何とか正座させ、女子としてのなんたるかを説教した。

決してフラミーのように追い剥ぎ行為を行ってはいけないと。

気付けばアインズはシャルティアと、一晩中ペロロンチーノを筆頭としたギルドメンバーについて語り合っていた。

それはとても楽しく、幸せな時間だったのだ。

フラミーとも散々昔話をしたが、守護者目線から見る皆の話は新鮮だった。

シャルティアの部屋でギルメンが話したことの多くを覚えていた彼女は、アインズの知らない話は勿論、自分が忘れかけていた話も覚えていたし、フラミーの知らないペロロンチーノとの内緒話も知っていた。

そして普通の会話をしている中でたまにヤラシイ事を言う姿はペロロンチーノそのもののようだった。

 

そう、楽しかったんだ…。

 

アインズは昨日の晩を思い出すように目を閉じると、シャルティアが髪を結び終わったようでテントから出てきた。

「アインズ様、素晴らしいお時間をありがとうございんした。このシャルティア・ブラッドフォールン、この日のことは決して忘れんせん。」

「あぁ。シャルティア。私も決して忘れないだろう。」

二人は仲睦まじく笑い合った。

 

+

 

フラミーは無性にイライラしながら一度ナザリックに帰還した。

(私にNPCは断れないんだから慎重に接してあげろみたいなこと言ったくせに。)

アルベドに言いつけてやろうと少しワクワクしながらアインズの執務室にノックもせずに入っていくと――そこではアルベドとデミウルゴスが遠隔視の鏡(ミラーオブリモートビューイング)を二人で覗き込んでいた所だった。

バッとデミウルゴスがそれを伏せたが、音が出るようにスクロールを消費したのか木々のざわめきや朝食の用意をするレイナース達の声が聞こえてくる。

「こ、こ、これはフラミー様!!」

「フラミー様!シャルティアがついにやったようで――」

ゲインとアルベドの頭をデミウルゴスが殴った。

「な!あなた何か勘違いしてるんじゃないの!?」

アルベドは頭を抑えながら可愛らしく頬を膨らませ口を尖らせながら小声でブーブー言っていた。

フラミーはアインズを覚醒させるものの台頭を望んでいるはずだし、現に昨日も二人を激励してひとりのテントに潜ったのだと。

 

デミウルゴスはそうなのだろうかと考えようとしていると、鏡から音声が流れてきた。

『アインズ様、素晴らしいお時間をありがとうございんした。このシャルティア・ブラッドフォールン、この日のことは決して忘れんせん。』

『あぁ。シャルティア。私も忘れないだろう。』

 

フラミーはそれを聞くや否や、ドアからズンズン二人に進み――

「行け!アルベドさん!」

何もない空間を指をさすとアルベドの前に無詠唱化された転移門(ゲート)が開いた。

アルベドはピンと背筋を伸ばすと、今こそ自分の出番だと敬礼をしてみせた。

「かしこまりました!!フラミー様のご期待に私も見事応えてみせますわ!!えいっ!」

そして恋する乙女は転移門(ゲート)にピョインと飛び込んでいった。

 

+

 

朝食の準備が進む傍で、フラミーとバトンタッチしたと言って現れたアルベドにシャルティアがドヤ顔をしていた。

「ア、ル、べ、ド〜!最初にアインズ様と一夜を共にしたのはこのシャルティア・ブラッドフォールンでありんしたねぇ?」

「ふん、順番など関係ないわ。私はあなたよりも数多くその時を迎えるのみよ。ねぇアインズ様?」

 

アインズは昨日のシャルティアとの楽しかったひと時を思い出していた。

「ん?あぁ、そうだな。皆を呼んで会を開くか。」

「み!!みんな!!!アインズ様は大人数がお好きでいらっしゃるんですね!!」

「好き?まぁ。その方が多くのものが楽しめるだろう。」

「ななんて慈悲深い!!シャルティア、あなたよくやったわ!!」

シャルティアとアルベドが手をにぎり合うのを尻目にレイナースとクレマンティーヌは勘づき始めていた。

この方たちは多分噛み合ってない。

 

思い出話をしたがる可愛い娘二人にアインズは顔をほころばせる。

近いうちにナザリック大お泊まり会を開こうと心のメモに書き留めたのだった。

 

+

 

「アインズ様!モグラどもはここには王はいないと言っておりんす!」

シャルティアは大量に殺したクアゴアを放り投げた。

「なんでもフェオ・ベルカナとか言う都市でドラゴンと共に下賤の王は暮らしているそうです。そちらに半分は残っているようなので、ここの者達は皆殺しで如何でしょうか。」

アルベドは流石に聞き出す情報が細かかった。

 

「そうか、よくやったぞお前達。大裂け目の下にはドワーフの死体があるらしいからこいつらの死体は捨てるな。後でフラミーさんを呼ぶときにデミウルゴスも呼べ。毛皮が特殊だから何かにして売ったら良い税収になる可能性もある。見極めさせろ。」

アルベドとシャルティアは頭を下げ、残党狩りに向かった。

そして女子二人の仕事の早さにアインズはすっかり感心したのだった。

 

皆殺しが済むと、アルベドの提案なのかサイズに分けて――更に頚動脈を切られ血抜きしながら積まれていくクアゴアをアインズは興味深げに見ていた。

皆心臓は止まっているが血は何かに呼ばれるようにシャルティアの頭上にぐんぐん溜まっていく。

 

ゼンベルはその圧倒的な殺戮を前に神は怒らせたら怖いと胸に刻んだ。

ゴンドは本当にこの王について行って大丈夫かと少し不安になった。

 

「アインズ様。これで以上でございます。全て整いました。」

アルベドの発声に頷くと、アインズはナザリックへ転移門(ゲート)を開いた。

アルベドは一礼するとフラミーとデミウルゴスを呼ぶ為に入って行った

 

+

 

フラミーとデミウルゴスは鏡を覗き込んでいた。

「アルベドさんは本当お利口ですねぇ!」

ソファに座るフラミーは後ろに立って鏡を覗くデミウルゴスと笑い合った。

「全くです。血抜きをしなければ皮には汚らしい血の斑点が出ることがありますし、瞬時にシャルティアのスキルを応用させるのは流石統括と言わざるを得ません。」

二人はアルベドの的確な働きに舌を巻いていた。

そして紫黒聖典の二人と同じく、ここの二人もなんとなくアインズと女子が噛み合っていない事を鏡越しに察していたのだった。

つまり一番すけべだったのはやはりフラミーなのだが。

 

「じゃあ、そろそろ準備しますか?あー骨が折れそうだな!」

そう言って立ち上がり、うーんと伸びをするフラミーにデミウルゴスはずっと疑問だったことを口にする。

「フラミー様は疲労無効のアイテムをお持ちではないのですか?」

「ふー。いえ、有りますけど、ずっと疲労を感じないと時間感覚なくしちゃいそうで。それに夜眠れなそうですし。」

はははと言うフラミーにデミウルゴスはゴクリと唾を飲み、空間に手を突っ込んだ。

「実は、このデミウルゴス。そうではないかと思いある物を作ってみました。」

そう言って取り出したのは真っ白な――長い茎を持つ蕾が朝露に濡れてそのまま時間から切り離されたように見える不思議なものだった。

綺麗…と呟くフラミーにデミウルゴスは安心してそのアイテムのなんたるかを語り出した。

「フラミー様の白い杖が珊瑚の骨だったので、聖王国の向こうの海から貪食(グラトニー)に上質な珊瑚の骨を帰りしなとって来させました。そして一日たった三回ですが、疲労回復効果をつけましたので、どうかお持ちください。」

ソファの前に回り込み、片膝をついてその蕾を恭しくフラミーの前に捧げる。

 

「デミウルゴス、全くあなたのその図太い神経が羨ましいわ…。フラミー様、お分かりかとは思いますがアインズ様がお待ちです。」

アルベドの声にデミウルゴスは宝石の目を開き口をヒクつかせていた。

 

「はーい!デミウルゴスさん、ありがとうございます!よく私がこういうの欲しいって分かりましたね!嬉しい!」

そう言ってデミウルゴスから蕾を受け取ると、頭のお団子にプツリと刺した。

「い、いえ。こう見えて、私はフラミー様のお心の洞察には自信がございます。」

そう言ってデミウルゴスはさっと頭を下げてから立ち上がりそそくさと闇を潜った。

 

「デミウルゴス、御身の前に。」

アインズの前に出ると悪魔は再び跪いた。

「来たか、向こうで見ていたとアルベドに聞いたぞ。さぁ、事情はわかっているかな?あれをどうするのがいいと思う。」

そう言ってアインズは背後に積まれたクアゴアの山を親指で指し示した。

「は。毛皮として使用すると、招き入れたクアゴアと身に付ける者の間で諍いが発生しかねないので皮はスクロールに、硬い毛は撚って染めて絨毯にでもするのが宜しいかと。ふふ、是非それはクアゴアの暮らす建物に敷きたいものですね。」

上機嫌に残酷なことを言いながらも的確な判断にアインズは満足した。

「よし。それで良いだろう。お前とシャルティアにあれのナザリックへの運搬を頼んでもいいか?」

「もちろんでございます。この忠臣に何なりとお申し付けください。」

いい子だなぁとアインズは思いながら血抜き――と称してボーッとクアゴアの前に立ちこちらを見ている愛らしい吸血鬼を呼んだ。

 

その後フラミーとデミウルゴスのスキルで呼び出された最低位の大量の悪魔達によって、裂け目下のドワーフ達が拾われた。

 

アインズと手を繋いで魔力を借用しながら、フラミーは十人づつドワーフを生き返らせながらやっぱりもう嫌だと嘆くのだった。

 

 

【挿絵表示】

 




シャルティア!よくやった!!

ローブの背中がこうだと可愛いですよね!
このリボンをひっぱるとピラリってなったりしたらと思うとヤバイ笑いが込み上げてきます。
→https://twitter.com/dreamnemri/status/1131205852373774336?s=21

次回 #49 動き出す邪神教団


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#49 動き出す邪神教団

ほとんど丸一日かけて生き返らされたドワーフ達は口々にアインズとフラミーに礼を言った。

 

「それで、我が国に来るかな?」

もはやボロボロの街は食料も建物も、ドワーフの暮らせる要素を全て失っていた。

摂政会の八人の長達は全員が移住に賛成した。当然渋々、と言うものもいたが。

相手は強大なアンデッドだと思うと生き返らされたとは言えほのかに恐ろしさを感じる。

しかしここではもう暮らせない。

人と肩を並べて暮らすのは不安だが、飢え死によりは良いだろう。

 

遠くからその様子を眺めるフラミーに、ゼンベルは近付いた。

「フラミー様、ありがとよ。俺の世話になったやつもちゃんと居たぜ。」

ニヤリと笑うゼンベルの足に、フラミーはとりあえず回復魔法をかけた。

「…お安い御用ですって…。」

フラミーはもうドワーフをしばらく見たくないと思いながら頭から蕾を引き抜く。

初めて効果を使うと、蕾の中に生じた丸い輝きが先っぽに現れ、ポンと弾けた。

フラミーは目を閉じてその光を浴びた。

 

「よし!そしたらドラゴン狩りに行きますか!」

ドワーフの今は遺棄されている王都には霜の竜(フロストドラゴン)と呼ばれるドラゴンが巣食っているらしい。

以前、冒険者漆黒の剣と冒険をした時にニニャがそのドラゴンの存在を教えてくれていたが、まさかこんなところにいるはとアインズとフラミーは瞳を輝かせていた。

 

ゴンドとゼンベルを含めたドワーフ達はアルベドと紫黒聖典の先導で先に歩いて山を下って行った。

帰りしな、ずっと女子達に魔導国の素晴らしさを聞かされた一行は自分達を復活させた王のその国を何だかんだ楽しみにしながら歩みを進めるのだった。

 

+

 

アインズ達は溶岩地帯を抜け、天然のガスだまりを抜け、ドワーフの旧王都に来ていた。

「アインズ様!お言葉に従い、全て選別完了しんした!オスが四千、メスが四千、子供が二千でありんすえ!死体はまたデミウルゴスが持ち帰りんした!」

軽快に声を上げるシャルティアに、アインズは優しく頭を撫でた。

その後ろには十九匹の霜の竜(フロストドラゴン)が平伏している。ドラゴン達の父で、群れの長だったオラサーダルク=ヘイリリアルと言う者が大層不遜だったせいで、アインズは一瞬でドラゴンを一匹始末してしまった。が、他の者は従属を願ったためにこうして連れ帰ることにした。

「よくやったぞシャルティア。ペロロンチーノさんもお前の活躍を喜んでるはずだ。」

シャルティアは素晴らしいその褒め言葉を絶対に忘れたくないと思いながら、撫でて来る優しいその手に頭を委ねた。

次の夜はきっと語らうだけでは済ませないと胸に誓って。

「それで、王はどれかな?」

アインズの問いにシャルティアは粗末な王を指差した。

 

周りのクアゴアの恐れが伝わってくる中、アインズは王様らしく見えるように黒い後光を背負って、道中で練習した口上を王に述べる。

「私は慈悲深い王として知られている。お前は罪のないドワーフを皆殺しにしたな?しかしその罪はお前の同族が流した血によって償われたと考えている。今後お前達が私たちのために必死に働くのであれば、繁栄を約束しよう。」

その時アインズはまさしく王だった。

 

「わーアインズさんカッコいいー!ぎるますー!」

「アインズ様ほんとにほんとにかっけぇでありんす!!」

女子二人が台無しにしたが。

 

「んん。どうするかね。」

「ははぁ!!子々孫々に至るまで、御身に仕えさせて頂きます!!」

いい返事にアインズは頷く。

「お前達はドワーフとはあまり近くないところに住ませた方がいいな。日光の問題もある。一度ナザリックに行くのだ。」

アインズはシャルティアの開く闇にクアゴア達を送り出した。

こうしてナザリック鍛冶長の必死のサングラス製造の日々は幕を開けたのだった。

 

+

 

アインズとフラミーはドワーフの城にある宝物殿を改めて訪れていた。

「アインズさん!これみーんな持って帰りましょうね!税金!税金!」

フラミーはリアルで納める税金の多さに日々嘆いていた為か、税金になる金銭には目がないようだった。

「大したものは無さそうですけど、とりあえず全部持って帰りますか?ドワーフは二度とここには来ないでしょうし、来たとしても誰かが盗掘したと思いますよね。」

 

アインズは少し躊躇ってからこめかみに手を当てる。

「パンドラズアクターか。悪いが宝物殿に持ち帰りたいものがあるのだ。うむ。……うむ。そうしてくれ。頼む。こちらから転移門(ゲート)を開こう。」

 

アインズの開いた闇から出てきたパンドラズ・アクターは華麗に跪いた。

「パンドラズアクター、御身の前に。」

「よく来たなパンドラズアクターよ。フラミーさんが残さず全部これらを持ち帰りたいそうだ。できるか?」

その言葉にパンドラズアクターはパッと顔を上げ、それまで胸に当てていた手を顔に当てると、ゆっくりと丸い顔に沿わせていく。

「御身に生み出されたこの身に不可能はございません。」

そしてバッと開かれた腕を見るとアインズは沈静化された。

「んん。では頼んだぞ。貨幣は使うとドワーフにバレるな。対策を考えておけ。」

「では、貨幣は全て潰して、新たな魔導国貨幣に鋳造し直すと言うのはいかがでしょうか。」

アインズは鷹揚に頷く。

「名案だ。話が早くて助かるぞパンドラズアクターよ。」

褒められた事に嬉しそうに頭を下げると、くるりと回ってアインズの姿になりパンドラズアクターは転移門(ゲート)を開き直した。

「それでは回収を始めさせて頂きます。」

 

親子の話が終わるとフラミーは深遠の下位軍勢の召喚(サモン・アビサル・レッサーアーミー)を発動させた。

 

ギャギャギャギャギャギャギャ!

 

黒い穴から、愉快そうに笑うライトフィンガード・デーモンが大量に出てくると、フラミーとアインズの前に跪く。

 

「皆さん、これみーんな持って帰ります!ズアちゃんの言う事をちゃんと聞いて運ぶんですよー!」

フラミーの楽しそうな声にギャーイ!と声を上げる悍ましくも愛らしい悪魔達はアインズの姿を模したパンドラズアクターの言う事をよく聞いて、せっせと宝を運ぶのだった。

 

+

 

帝国の邪神教団は神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国の王にして神を、まさしく自分達が求めていた神だと確信していた。

 

怪しい仮面をつけた、裸体を晒す複数の者たちがヒソヒソと囁き合っていた。

「近頃はクレマン様もすっかりそのお姿を現さない。やはり、神のおそばに侍っていらっしゃるのだろうか。」

「しかし以前クレマン様が仰っていたのは本当だったようですね。」

「全く。なんせ、旧法国が王国の数々の村を焼き討ちにしていたら降臨されたとか。」

「たった数名の生贄や鳥では足りなかったと言う事ですね。」

「旧法国が一体何人を生贄にし、村を焼き討ちへ処したか知りたいものですな…。」

 

しばらく思い思いに生贄の有用性について語り合っていると、これまで黙っていたヨボヨボの体の男が躊躇いがちにその口を開く。

「…実はフールーダ様が神聖魔導国で魔導学院の設立を目指してらっしゃるそうなのだ。そこでノウハウのある者の引き抜きを行ってらっしゃる…。」

何を言いたいのか周りの教徒達は理解を始めた。

全員それぞれが何者なのかは知らない体でいたが、この老人だけは別格なため皆が何者なのか察している。

 

「行かれるのですか。」

その言葉に頷く。

 

「ああ。私は、神王陛下のご降臨を心待ちにしていたのだ。向こうで成果を上げ…そしてフールーダ様のような不老不死を願おうと思う。」

皆の心の中に嫉妬の炎が渦巻くが、誰も老人に手は出さなかった。

神の役に立とうとする男に手を出すのは不信心者のする事だ。

「今日限りで私はここを出る。すまない。」

 

しばしの沈黙が訪れると、ドタドタと無作法に誰かが教団の階段を下りてくる音がした。

 

「た、大変だ……!!大変だぞ!!神が、神が大量のドワーフを連れて帝国のすぐ側を通ってらっしゃるそうだ!!しかも、その隊列の中にはクレマン様らしき女性が!!!」

 

「なんだって!?」

男の絶叫に全員が立ち上がり、階段を駆け上ろうとする。

「待つんだ皆!!神は旧法国の生贄を捧げた男を裸にしたと聞きおよぶ、やはり生贄を捧げるにはこれが本来の正装だとは思うのだが…だが…生贄を捧げない時我々はどんな格好で神の前に参ずれば良いのだ!?」

 

当然表に出れば服を着ている者しかいない。

「この仮面はいつも通り持って行って、クレマン様にお聞きするのが一番じゃないのか!?」

違う男の意見に全員がソレだ!と瞳を輝かせた。

頭のおかしな教団は無駄にピタリとハマってしまったピースに歓喜し、服を着こんで初めて魔法学院の学院長以外の者が何者だったのかを知った。




次回 #50 知られざる戦争

や、やばいやつら来ちゃった(//∇//)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#50 知られざる戦争

アインズ達は先を行かせたドワーフに追いつき、一緒に歩いて帰っていた。

ドワーフは復活したばかりで歩みが遅かったが、アインズはすぐに帰りたくなかった。

帰れば聖王国の作戦が始まってしまう。

考えるのも恐ろしいデミウルゴス発案の作戦に行かなければならない。

渡された作戦案書類には嫌がらせかと思う程に「御心のままに」と言う文章が並んでいた。

 

本来であれば下山はリザードマンの住む湖に向かってまっすぐ険しい道で南下するのが早いが、ドワーフの足腰を心配してと言う名目でわざわざ東の帝国のわきを通ってエ・ランテルを目指した。

転移門(ゲート)をアルベドに勧められたりしたが、なんとかのらりくらりと躱した。

 

ゾロゾロと歩いていると遠くから大量の馬車が向かって来るのが見え、レイナースとクレマンティーヌ、アルベドとシャルティアが組みになって立ちはだかった。

 

「か!神よ!!」

口々に神と呼びながら、男や女が馬車から飛び出すように降りてきて跪く。

 

アルベドとシャルティアがいつでも殺せますと優しい微笑みをアインズに向けていると、如何にも身分の高そうな老人が馬車から降りて来た。

クレマンティーヌのゲッという声が聞こえるが今は構わない。

 

「く、クレマン様…やはり神々の元にいらっしゃったのですね…。」

老人は感動するようにクレマンティーヌを見ていた。

「お前の知り合いか。私達は先に行く。お前は後から来ればいい。何。十万の牛歩の列だ、1時間くらい話してもすぐに追いつくさ。」

そう言ってアインズは歩き出した。

アルベドもシャルティアもここ数日、中々話のわかるクレマンティーヌを割と気に入っていたので武器を下ろしてまたアインズの左右につくと歩き出した。

 

「お待ち下さい!!神よ!!」

しかし、謎の集団はクレマンティーヌに用がある訳ではなさそうだ。

「あなた間違ってるわ。アインズ様にお言葉を頂きたければ神殿か聖堂に行って面会要求書を書くの。それがお会いするに相応しい内容だとわかって初めて謁見の時を迎えられるのよ。」

「クレマンティーヌ、おんしの仲間でありんしょう。無礼なそのもの達によく言って聞かせなんし。」

アルベドとシャルティアの言は至極当然のものだった。

 

そもそも普通の王がいても呼び止めて話しかけたりするものだろうかとアインズは思う。

しかし庶民のアインズは答えを知らない。

アインズは左右にピタリとくっつきながら怒っている守護者達の頭に手を乗せ撫でた。

「まぁ、帝国のこれだけ近くをこんな隊列を組んで歩いていたこちらも悪かろう。三分だけやるか。」

アインズは二人の頭から手を下ろすと列を離れて行き、怪しい一団に向き合った。

ゼンベルと楽しげに何か話していたフラミーもそれに気付くとゼンベルに手を振ってアインズの下へ向かった。

ゼンベルは頭を下げるとドワーフ達を連れて再び歩き出した。

アインズ達の後ろをドワーフの長い長い列が通る。

 

「この人たち誰ですか?」

何の話も聞いていなかったフラミーは、何やら話の中心にいるようなクレマンティーヌに聞いた。

「あーえっとー神様の降臨を願う…その…慈善団体です……。うん。」

クレマンティーヌはズーラーノーン事件を起こした時、アインズに記憶をのぞかれ、更に微妙にいじられている。

いじられた内容は簡単だ。

フラミーが薬師を殺したことを消し、モモンがアインズだったことを消し、そして素晴らしい――もう忘れてしまった何か洗礼を受けて、法国に戻ることを許されたという漠然としたものだ。

 

しかし、覗いた方は割とじっくりと覗いたのだ。

アインズの脳裏にビビッとクレマンティーヌの頭をのぞいた時の記憶が蘇る。

「お前、嘘をついていないだろうな?」

クレマンティーヌは背筋をゾッとさせた。

 

別に何を殺してどんな儀式をやっていてもいいが、クレマンティーヌの扇動していた怪しい教団が自分を崇め始めたと思うと気持ちが悪かった。

(勘違いじゃなければこいつらは仮面をつけて裸になって鶏を殺して遊んでた奴らだ…。)

 

「私は慈悲深い神として知られている。お前達の生贄はもういらん。しかしその罪はまだ償われていない。今後お前達が私達のために必死に働くのであれば、繁栄を約束しよう。」

クアゴアの王、リユロに言ったことをほとんどそのまま言って、以上とばかりにアインズは列へ戻ろうとした。

「おお!神よ!絶対に御身のお役に立つ事を我ら教団一同誓います!」

そう言うと、誓いを示すぞと老人は後ろの者たちに声をかけ上着を脱ぎ始め――後ろの者達もそれに続く。

 

フラミーは嫌な予感に襲われ、呆然とし始めたアインズのローブのフードから出ている紫の帯をビンビン引っ張った。

「やややややめさせてくださいよ!あの人達アインズさんの何か分かんないけど何かなんでしょ!!」

アインズは我に返った。

「あ、あ!お前達やめろ!!いいか!!絶対私達の前で裸になるな!!クレマンティーヌ!!!!」

若干パニックになりかけたアインズは沈静させられる。

駆け寄るクレマンティーヌは跪くと頭をバシンと叩かれ、あまりの強さに一瞬意識を失いそうになるが何とか意識を手放さずに耐えた。

「お前今度怪しい宗教やったら殺すからな!!もしこいつらのせいで魔導国に変な風習が根付いたら街ごと消す!!それを忘れるな!!」

慈悲深い王にかなりの勢いで怒られたクレマンティーヌは大慌てで目の前のせっせと服を脱ぐ教団の元に駆け寄っていった。

 

「なんでこの世界の人達は裸になりたがるんですか?あの人達、アインズさんの知り合いなんですか?」

フラミーの久しぶりの問いと微妙に引いてる雰囲気にアインズは焦った。

「ち、違うんですよ。クレマンティーヌの記憶にあった変な人達だから知ってただけで…。」

「…本当はニグンさん脱がしたのもアインズさんの指示じゃないですよね?」

「そ、そんな!フラミーさん、そんなのあるわけないじゃないですか。やめてくださいよ。え!?そんな目で見ないで下さい!」

 

宗教団体も神様達もわちゃわちゃしていた。

 

+

 

クレマンティーヌはレイナースに道中こってこてに絞られた。

神官長にも全てを報告すると言われて。

あの慈悲深い王に街ごと消すと言わせるクレマンティーヌはある意味才能がある。

 

「レーナース…。」

「何よ。本当にあんたって旧法国に仕えてたわけ?」

「神様ってまーじすごいね…。」

クレマンティーヌの謎の呟きにレイナースは当たり前だろと頭にあるたんこぶを叩いた。

 

てんやわんやの後、エ・ランテルについたドワーフ達は数日かけて全員が国籍を取得し、ザイトルクワエによって最も日当たりが悪くなっているあまり人気のない地域にドワーフ街を作ることにした。

元から穴蔵生活だった彼らはむしろ日当たりの悪い土地が残っていたことを心から喜び、可愛らしい小さな家をスケルトンと共に建てていくのだった。

工房が完成し、鍛治仕事ができる様になると、ルーン工匠達は懸命に働き、街についてから魔導王に見せられた素晴らしき短剣を再現するべく日夜研究に励んだ。

人の家は景観規制もあり白い建物ばかりだが、この一角はドワーフらしさを出す様にと言う魔導王直々の要請で赤や黄色、青に紫…実に様々な色に塗られたのだった。

小さく可愛らしい家の立つカラフルな街並みはフラミーの「トゥーンタウンだ!」と言う一言から後に誰もがそう呼ぶ様になり、割と観光客が訪れる人気スポットになるのはまた別のお話。

 

その後一足遅れてエ・ランテル入りを果たしたフロストドラゴン達は普段はザイトルクワエの頂上に暮らすようになった。

夜は大樹の上で眠り、五日は空輸便としてカッツェ平野――現カッツェ穀倉地帯から魔導国中に新鮮な野菜や肉、魚を運んでいる。

五日働くと与えられる二日の休日にはエ・ランテルの上空を自由気ままに飛び回ったり、友人が出来るとザイトルクワエの頂上に招待したりした。

友人には、講習官のナーガであるリュラリュースを筆頭に、荷を預ける穀倉地帯で働く者達や、荷を受け入れる商人達がいた。

その背に乗ってしか行けない頂上は、極一部の者達の秘密の遊び場にもなったのだった。

 

 

+

 

 

「国の横を魔導王が通っただけでこれはどう言うことだ!!」

ジルクニフは荒れに荒れていた。

それもそのはずだ。

魔法省の残りの人材と、魔法学院の人材が一気に殆ど魔導国に流れ出したのだ。

次々と出される辞表はもはや開ける事も追い付かず、帝国はパニックになり始めていた。

魔法に関わるもの達だけならまだよかった。

なぜか魔導王が通った翌日には粛清しなかった貴族達も何を思ったかお世話になりましたと国を出た。

 

皆口々に「神王陛下のお役に立たねばならない」と言って。

 

魔法省は壊滅だ。

魔法学院も教師がいなくなったのだから生徒も教師を追って親と移住して行く。

騎士団も半分程が帝国を離れた。

貴族も出ていけば内政を預かるものが足りなくなる。

 

最早帝国は限界だった。

フールーダを送り出してわずか一ヶ月。

帝国は無血のうちに負けたのだった。

 

「ロウネ…ロウネ・ヴァミリネン…。」

皇帝に呼ばれたその者はゴクリと唾を飲む。

「魔導国に…いや…神聖魔導王陛下に書簡を出せ…。」

 

皇帝がそれを陛下と呼んだ。

それだけでロウネは書簡の中身がわかった。

 

「属国化を願い出ろ…。帝国が生き残るにはそれしかない…。」

 

三騎士は悲痛な面持ちで床を見た。

 

 

+

 

 

その日、BARナザリックには非常に珍しい組み合わせの守護者達が三人訪れていた。

 

「我々がアインズ様のお役に立てる日は来るのでしょうかねぇ…。アルベド…。」

知恵ある悪魔はため息をつきながらもう一人の知恵者に聞いた。

「私…アインズ様が歩いて帰ると仰ったのをお止めしたのよ…。デミウルゴス、あなたは良いわよ、これから聖王国で手柄を上げられるじゃない。私は…私はどうなるのよ…。」

統括は嘆いていた。

帝国の属国化を願う書状が届いたのは、どう考えてもドワーフ行進のお陰だ。

そしてアインズに忠誠を誓った謎の教団。

何故行ったことも見たこともない帝国で何が起きているのかアインズが見通す事が出来るのか分からなかった。

皇帝なんて未だ会った事もないのだ。

 

「アルベド、アインズ様のその何もかも見通すお力は我々の及ぶところではありません。そう自分を責めないで…。」

デミウルゴスはよく働いたはずのアルベドを慰めた。

その肩に手を乗せポンポンと叩く。

そして、三人目の知恵者も口を開く。

「私からアインズ様にお写真をお願いしてさしあげましょう。アインズ様は貴女の働きを非常に喜んでいらっしゃいましたから。」

卵頭は落ち着いた調子だ。

「ほ、、本当?パンドラズアクター…。」

「私に任せてください。こう見えて私はアインズ様に結構可愛がられてるんですよ。」

「あぁ!?」

「あ、いえ、失礼…。」

 

その後知恵者三人は聖王国の一大イベントの最終確認を行うのだった。




次回 #51 閑話 月下に咲く花
5/25の12:00更新です!

これにて帝国編が終わって聖王国編が始まりますが、聖王国編は御身めっちゃ頑張っちゃいますよ!
帝国編、全くジルジル出てこなくてただただ反省ですね。
今後活躍する機会を設けます!

ユズリハ様より勢力図を頂きました!

【挿絵表示】

やはりわかりやすい!ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

試される聖王国 #51 閑話 月下に咲く花

ドワーフの国から戻ったアインズはその晩、風呂から上がったフラミーの部屋を訪れていた。

 

「こんな時間にすみませんね、フラミーさん。前にデミウルゴスの引っ込める能力聞くって言ってたじゃないですか。それってまだですよね?」

フラミーは本日のフラミー当番のエトワルにまだ少し濡れる髪をとかしてもらっていた。

「あ!それ、聖王国行っちゃう前に時間作らないとまたタイミング逃しちゃう!」

フラミーは不思議な白い蕾を手の中でくるくる玩びながら応えた。

「エトワル、すまないが少しアサシンズと共に向こうに行っててくれるか?」

アインズは人払いした。

 

「フラミーさん、そのタイミングで聖王国での細かい作戦内容をデミウルゴスから探りましょうよ。だから、明日とか…兎に角一週間後の出発までになんとしてもその会を開きたいです。」

フラミーは下ろしたままの髪と不思議な蕾を片方の耳にかけると、目をギラつかせた。

「なんなら今夜でもいいっすよ。」

二人はサムズアップを交わすとニヤリと頷きあった。

 

 

ーーーー

ーー

-

 

 

「デミウルゴス。御身の前に。」

「よく来たな!さぁ座るんだ。」

 

デミウルゴスは一度断ってから支配者達の前のソファに座ると、ワクワクしている雰囲気の二人へ向いた。

「それで、今宵はどのような御用向きでしょうか。」

 

「デミウルゴスさん!こないだの続きです!」

身を乗り出してそういうフラミーにデミウルゴスは宝石の瞳をパチクリさせた。

「あ、あいんずさまもご一緒に…?」

 

アインズは女子のデリケートな話を男二人で聞くのはマズイのではと言われたような気がして焦った。

ここで出て行かされては聖王国のことが聞き出せない。

「わ、私がいては不服かな?」

「あ、いえ。とんでもございません。お望みとあらば。」

デミウルゴスは頭をさっと下げた。

 

「それじゃ、デミウルゴスさん。すみませんが翼をしまえる秘密を教えてください!」

フラミーの言葉にデミウルゴスは翼をしまえる秘密…と復唱していた。

「あ、いえ。失礼しました。翼ですね。はい。分かっておりますとも。それでいかが致しましょう。」

メガネをクイと上げる悪魔はとても頼りになりそうだ。

 

「とりあえずこの間見損ねたので背中見せて貰っていいですか?」

フラミーの言葉に頷くと悪魔はいそいそと服を脱いでいき、筋骨隆々な細い背中を露わにした。

フラミーはメモを持って近付くとその背中をまじまじと見た。

「はい。じゃあ、ゆっくり出してください!」

「……それでは、始めさせて頂きます。」

フラミーのゴクリと唾を飲んだ音がした。

背中からミチミチと音を立てて翼が出てくる。

デミウルゴスはゆっくりやるのは初めてなのか、緊張したような顔をして少しだけ粘液にまみれた翼を出した。

 

「痛いですか?」

フラミーはデミウルゴスの斜めから翼の生え際をツツ…と指で触りながらデミウルゴスを見た。

「…あ?え?いいえ、痛くありません…。」

アインズは自分は何を見せられているんだろうと思う。

「んん!さぁ、しまって見せてくれ。」

 

「かしこまりました。」

そしてデミウルゴスはゆっくりと背中にその翼をしまって行くと、フラミーからダメ出しが入った。

「あ!ダメですよ!もっとゆっくり!よく見せて下さい!」

デミウルゴスはアインズに心底困ったような視線を送りながら、自分の中で一番ゆっくりな動きで翼をしまい直す。

フラミーは翼がしまわれた背中をスリスリ触った。

「痛いですか?」

それしか聞くことはないのだろうか。

「いえ………。」

そしてふーむと唸るとメモを取り、フラミーは核心に迫った。

「デミウルゴスさんは、しまったことありますか?」

デミウルゴスはまさに今翼をしまったところだったので質問の意図を探したが、よく分からなかった。

「んん。フラミーさん、絶対こいつは試したことないです。それは俺でもわかります。」

アインズの返答にふむふむと頷き更に手の中でメモを取って行く。

 

どんな事を書いているんだろう、と立ち上がってフラミーの手元を覗くとそこには――

 

●デミウルゴスさん

・だしても痛くない

・いれても痛くない

・未経験(アインズさん談)

 

アインズは顔を覆った。

(この人ある意味ペロロンチーノさんよりダメだ…。)

フラミーは絶対にいらないであろうメモを見ると満足げにふんすと鼻息を吹いた。

「フラミーさん…それ誰にも見せないでくださいよ本当頼みますから…。デミウルゴスの名誉のために…。」

「見せませんよ!!私の秘密のメモなんですから!!それじゃ、ちょっと今の感じイメージして試してきますから待っててくださいね!」

 

そう言ってメモをテーブルに置くとタタタと寝室に入っていった。

 

「いつもすまないなデミウルゴス…。さ…着てくれ。」

アインズの懺悔にデミウルゴスはいやいやと首を振りながらYシャツに袖を通して行った。

「とんでもございません……。フラミー様は翼をお仕舞いになりたいのですか?」

「へ?あ、いや、男子部分を仕舞いたいらしいぞ…。」

どっこいせとソファに座るアインズに顔を向け、デミウルゴスは宝石の目を見せると中途半端にYシャツのボタンを閉めたまま固まった。

 

「そのようなことが出来るのでしょうか…?」

「いや、多分無理だと思う…。」

アインズはいつもよりずっと若い声でそう答えた。

デミウルゴスはふーむと悩み、Yシャツをズボンの中にきちんと仕舞い切ると何か閃いたようだった。

「アインズ様。このデミウルゴスにいい考えがあります。」

アインズは視線で続きを促すと、フラミーがちょうど寝室から出てきた。

 

「これはフラミー様。もしフラミー様がお仕舞い頂けない場合、お望みとあらばニューロニストに切らせれば宜しいかと愚考――」

アインズは立ち上がってデミウルゴスの頭をスパンと叩き、顔を近付けて瞳の灯火を赤くした。

「お前…それは確かに愚考だ、初めての愚考だぞ…!」

「お、お望みかと…。」

チラリとフラミーを見ると、呆然と自分の股間に視線を落としていた。

 

アインズは咳払いをしながら座りなおすと、フラミーはいそいそとサスペンダーをあげるデミウルゴスを驚愕の瞳で見ていた。

「フラミー様。何はともあれ仕舞えるのが一番でございます。如何でしたか?」

フラミーは黙ったままかぶりを振った。

 

「…フラミー様が天使だった名残を捨てたい気持ちは分かりますが、そのままで宜しいのではないでしょうか?」

デミウルゴスの声にフラミーは少し悩んだ。

「うーん。もう少し、諦めないで方法を探してみます。それで全部試してダメだったら、もう諦めるしかないですね。そうなったら誰のお嫁さんにもなれなそうだけど。」

フラミーは困ったように笑った。

「このナザリックにフラミー様をお嫁さんに貰える事ができるのであればその身体的特徴を理由に断る者は誰一人としておりません。」

デミウルゴスの口から出るお嫁さんという言葉にアインズはなんだかおままごとのような可愛らしさを感じた。

 

「ははは。うんうん、そうだな。デミウルゴスの言う通りだ。まぁもう少し方法を探せば良いんじゃないですか?それにフラミーさんは綺麗だから大丈夫ですよ。」

「そりゃ元々CGですからね。」

ははははと笑う支配者達に、シージーとは何だろうとデミウルゴスは考える。

(元々シージー…。天使という意味か。)

デミウルゴスは一人納得した。

 

「ところでフラミーさん、ちょっと前から気になってたんですけどそれ何なんですか?」

コメカミのところをちょいちょいとアインズが指差すと、フラミーは蕾を耳から引き抜いてアインズの前に摘んだまま見せた。

「綺麗ですよね、デミウルゴスさんに貰いました!」

デミウルゴスは思わず思考の海から上がり支配者の様子を伺った。

「ほーこんなの初めて見ました。」

「とっても綺麗ですよね!」

アインズがよく見せてとフラミーに手を伸ばすと、フラミーはそれを耳に戻した。

「ダメですよ!私のですから!あげません!」

ふふっと笑うフラミーはいたずらっぽかった。

 

「ふーむ…。デミウルゴス、効果は何なんだ。」

「…は。疲労無効を一日三回利用できます。」

「それだけか?」

「は?あ、いえ、月の光の下に出すと、ゆっくり花が咲きます。」

 

え!とフラミーは立ち上がった。

「そんなの聞いてないですよ!アインズさん、デミウルゴスさん、行きましょ!」

そのまま指輪をきらめかせると姿は消えた。

残された男達は顔を見合わせてから、おそらく地表に転移して行ったのだろうと続く。

 

第一階層に出ると、フラミーはもう外に向かって走っているところだった。

「あーもー本当偶にあれだからな。」

アインズはやれやれと思いながらフライで後を追った。

デミウルゴスもとりあえず引っ掴んできたジレに腕を通しボタンを締めながら走った。

 

外は雪が止んだところだった。

ちょうど雲間から出てきた月に照らされるフラミーの背中は音のない世界でひっそりと芽を出した銀色の蕾のようだった。

 

するとフラミーの手の中の白い花はゆっくりと花を咲かせ始めた。

あらゆる温度に耐性を持つ三人は積もった雪の中でも何の痛痒も感じない。

「綺麗。」

フラミーもアインズもその手の中の咲いて行く白銀の花に見入った。

 

風が積もったばかりの雪を舞い上げると、その風はフラミーの翼と髪も舞い上げた。

デミウルゴスは初めて外に出た日と同じことを思った。

(月の光を栄養に咲く花のようだ…。)

 

フラミーとアインズにデミウルゴスは近付いて行き、胸に手を当て、少しだけ頭を下げた。

「実はフラミー様を見立ててお作りしました。…どうか飽きる日が来るまで使ってやってください。」

 

デミウルゴスの言葉はまるで自分の事を言うようで儚く、アインズは甘え下手な可哀想な息子の頭をくしゃりと撫でた。

「お前のセンスが羨ましいよ…ほんとに…。」

 

フラミーはいつまでも大切そうに月の花を見続けた。

 

+

 

二人と別れて部屋に戻ったアインズは聖王国の事なにも聞いてないじゃん!と頭を抱えるのだった。




うひひひひ(やばいやつ

ザーボンさん!ドドリアさん!行きますよ!!

次回 #52 聖騎士と青の薔薇


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#52 聖騎士と蒼の薔薇

魔導国の属国になった王国に、ローブル聖王国の聖騎士団が訪れていた。

「我々が悪魔に苦しめられている傍でこの国はアンデッドの治める国の属国になったと言うのか!」

「団長、抑えて下さい。蒼の薔薇の皆様申し訳ございません。」

怒りに身を任せる聖騎士団団長レメディオス・カストディオを副団長のグスターボ・モンタニェスは止めた。

 

流石に宗主国の王を侮辱されて蒼の薔薇ガガーランは気を悪くしたようだった。

「おい、団長さんよぉ?アンデッドって言っても神王陛下は神様だぜ。それも十四万人もの人間を生き返らせる事ができる神様に慕われた超級の神様だ。」

「それに光神陛下はアンデッドじゃない。美しい。」

「ガガーラン、ティナ。よして。我々にそのグラトニーなる悪魔を倒せるかは分かりませんが…。兎に角、共に参りましょう。報酬は――」

「待ってくれ、今の話は本当か?」

蒼の薔薇ラキュースが話をまとめようとすると、レメディオスは再び口を挟んだ。

 

「は?はぁ、共に参りますが…?」

ラキュースの答えが気に入らなかったようで、ガガーランを指差すと、もう一度ゆっくりと疑問を口にした。

「十四万人も人を生き返らせたというのは、本当か?」

グスターボも止めない。

いや、こればかりは止めてはいけない質問だ。

 

表情の読めない仮面の魔法詠唱者(マジックキャスター)、イビルアイがそれに答えた。

「あぁ。本当だ。私達はその場で光神陛下に魔力もお渡ししてすぐそばで手伝ったんだ。陛下方に誓って真実だよ。」

全ての聖騎士がゴクリと唾を飲んだ。

 

グスターボは祈るような気持ちで頼む。

「蒼の薔薇の皆様…追加報酬をお出しするので、その神王陛下と光神陛下にお取り次ぎ頂けないでしょうか…?」

「良いですが…お出まし頂けるかは分かりません。」

ラキュースの言葉にレメディオスは忌々しげな声を上げた。

「ち。所詮はアンデッドか。」

「おい、こっちは別に断っても良いんだぞ。二度とアンデッドだから何とかと言うな。陛下をなんだと思ってる。」

イビルアイは怒っていた。

あれ程までに善良な神がアンデッドだった事が嬉しかったのだ。

だと言うのに先程からこの団長のあからさまにアンデッドを馬鹿にしたような態度は、今まさに自分が侮辱されているような気分にさせた。

 

「…落ち着きましょう。なるべく話が通るように…神殿に行くだけではなく、ザイトルクワエ州の州知事に着いた私の友人にも話をします。報酬に折り合いが着くようでしたら、明日出発で如何でしょうか。」

ラキュースの言葉に全員が心得たと頷いた。

 

+

 

数日後――。

蒼の薔薇と聖騎士団はエ・ランテル市、光の聖堂にいた。

聖堂の前には一般の参拝を断るプレートが掛けられ、外には死の騎士(デスナイト)が二体立たされた。

 

人を何人も殺して来たような目付きの少女――従者ネイア・バラハはその美しい聖堂に神様はこう言うところに降臨するのかと辺りを見渡した。

そして、入り口すぐそばに置いてある写実的な二枚の絵を見て文化も発展しているのかと感嘆したのだった。

 

「欲しければお求め頂けます。銀貨二枚ですよ。」

そうネイアに声をかけたのは執事服に身を包んだ品の良さそうな老人だった。

「あ、いえ…銀貨二枚も持ってませんから…。」

ネイアは何で今日は一般の人も係員も入れない筈のここに執事が居るんだろうと不思議に思った。

「そうですか。それは残念ですね。大切な税収です。差し上げることはできませんのでいつかまた欲しくなったらいらして下さい。」

執事服の老人はニコリと笑うと、聖堂の前の方に行き、おそらく光の神なのだろうと思われる美しい像の隣に立った。

 

「皆さま。前方へお進みになり、両陛下をお迎えするご準備をお願いいたします。」

ただのおじいさんじゃなかった事にネイアは驚く。

神様に仕える時は神官服ではなく執事服が正式なのだろうか。

 

ラナー、レメディオス、グスターボ、ラキュース

そして後ろに三列、蒼の薔薇と聖騎士団が並んだ。

 

「陛下方は対等でいらっしゃいます。それだけは皆様お心にお留めください。くれぐれもご無礼のないよう。それでは神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下とフラミー様の御成です。」

執事の声にネイアは頭を下げ、周りから浮いていないか自分の姿勢を今一度確認する。

一瞬斜め前に跪く州知事の顔が恐ろしい物に見えた。

 

カツン、カツンと硬質なものが床を叩く音が二つ重なる。

それが止まると、クシャリと何かを握ったような音がした。

 

「面を上げよ。」

その深みのある声に、全員と合わせてゆっくりと顔を上げる。

 

そこには金の豪奢なローブに身を包む闇と、銀のローブに身を包む光が立っていた。

 

オォ…と誰かが声を漏らしたのが聞こえる。

(これがアンデッド…?嘘…。)

 

「遥々聖王国からここまでご苦労だったな。カストディオ殿。そして聖騎士の方々よ。」

「ありがとうございます。神王陛下。」

「ラナー・ティエール知事と蒼の薔薇の面々もご苦労だった。よくぞこの者たちの来訪をセバスに伝えてくれた。」

「とんでもございません。陛下。」

ラナーの鈴を転がすような声が響き、斜め後ろに控える執事も頭を下げた。

 

「さて、貴殿らに時間的余裕はないのだろう。故に忙しい合間を縫って時間を作ったのだ。ならば無駄な時間は双方の為にならない。持って回った言い方はやめて話を進めようではないか。腹を割ってな。異論は?」

「何一つございません。」

「よろしい。それでは聖王国の現状を教えて頂こう。隠し事や嘘偽りなくな。そうすれば、我が国としても貴国に何か有益なものを提供できるかもしれん。」

了解したレメディオスはグスターボと共に、一部を隠し、また一部を偽り現状を伝えた。

聖王国は未だ持ち堪えているらしいが実情は窮地に陥っている。

 

「なるほど。なるほど。それで、貴国はこれからどのようにするつもりなのかな。」

「はい。そこで神王陛下にお願いがございます。お隣にいらっしゃる光神陛下を我が国にお貸しくださいますようお願い申し上げます。」

神王の瞳の灯火がフッと消え、また光を取り戻す。

「セバスよ。お前は話さなかったのか?」

「いえ。ご降臨前に触れさせて頂きました。」

「そうか。お前達が光神陛下と呼ぶこの人は私の友人だ。私から彼女にどうこう指示を出す事は決してないし、貸すとか貸さないとかそういう言い回しは特に好かん。私にそれを願っても無駄だ。分かったな。それでは、もう一度だけ聞こう。貴国はこれからどのようにするつもりかな。」

レメディオスは言葉に詰まった。

 

「陛下方、申し訳ありませんでした。ここからは私グスターボ・モンタニェスが変わらせていただきます。光神陛下。どうか我が国に共にいらして頂けないでしょうか。そして、王国の民に与えたその奇跡をどうか我が国にも。」

女神は目を閉じていたがゆっくりとその金色の瞳を覗かせた。

ゾッとするほど美しい女神は、初めて口を開いた。

「どれだけの人が死んだのですか。」

 

「…わかりません…。」

先に人があまり死んでいないような、しかも持ち堪えていると説明したのが仇になった。

「…貴方達は命を取り戻すことを簡単に考えてはいませんか?」

ネイアはゴクリと唾を飲む。

確かに考えていた、十四万を生き返らせる神ならきっと聖王国の犠牲になった人々は大した数ではないはずだと。

 

誰も何も言わない姿を見回して神は再び口を開いた。

「そうでしょう。私は共に行っても良いですが、それを行うかは今はまだ約束できません。」

迷わず真実を話さなかったせいで信仰を確かめられているのだろうかと思う。

「光神陛下。我々は聖騎士です。陛下のお力を日々お借りし、また祈りを懸命に捧げて参りました。神王陛下と違って貴方様には――。」

「団長!!失礼しました。ただ、団長は光の力を扱う為、特に光神陛下には並々ならぬ信仰を捧げて来たと言おうとしたまでで、他意はございません。」

余計なことを話し始めたレメディオスを止めるグスターボの額には汗が光っていた。

 

「分かりました。共に参りましょう。但し、私は神王の居ない場所には決して行きません。貴方達が忌み嫌うこの人の降臨や存在を国の者達は皆納得できますか。アンデッドを恐れるなとは言いませんが、なにかを決めつけて優しいこの人に無礼を働きませんか。」

光と闇は切っても切り離せないとでも言うようなその言葉に蒼の薔薇のイビルアイがうんうんと頷いている。

 

「決して行いません。もしそう言うものが居たとしても、必ず止めてみせます。」

グスターボの声に女神は頷くと神王へ向いた。

「いいですか?」

簡潔なその言葉に神王はフーと息を吐いた――あの体でそれが必要なのかは不明だが。

「良いですよ。行きましょう。」

 

 

+

 

 

二人はナザリックに一度戻った。

「アインズさぁん。」

フラミーの声にアインズはギクリとしたように振り返る。

「な、なんですか…。」

「私嫌ですからね。自分の魔力が続く人数しかゼッッタイ復活させないんですからね。」

「は、ははは。それは作戦を立てたデミウルゴスに言ってもらわなくっちゃ…。」

「でも、作戦書にはまだどこにも生き返らせるとかは書かれてないし…こことここと、こことここと……あああ!これもこれもフラミー様の御心のままにって!私できる気がしないです…。」

 

フラミーはアインズと揃って渡された計画書に従ってやればいいんだよね、とずっと気楽に考えていた。

が、前にアインズがデミウルゴスから聖王国の作戦内容のディテールをもっと詳しく聞き出したいと言った晩、眠る前にそう言えば何も聞かなかったなと思い出しサッと目を通したのだった。

するとそれは想像を大きく超えた物だった。

 

「まぁまぁ、それは俺も同じです。頑張るしかないですよ。でもフラミーさん、人を生き返らせるの嫌で断るかと思ってハラハラしましたよ。」

「流石に断らないですけど…最初から絶対生き返らせるお約束では行きたくなかったんですもん…。」

 

支配者たちの苦悩は始まったばかりだった。




次回 #53 神々の馬車

アニメを抜かし始めました。
この先分かりにくい所があったら皆さん仰ってください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#53 神々の馬車

謁見後、一行は仮眠をとってから出発の準備を開始した。

神の姿を見ると街の人々が興奮するため深夜――死の騎士(デスナイト)達が持つ幕の中一行はいよいよ出発の時を迎えようとしていた。

「神王陛下、何かあればこの従者バラハに。光神陛下はグスターボにどうぞ仰ってください。」

レメディオスのあからさまな差別にイビルアイは仮面の下でピクリと眉を動かした。

「待て。一国の王陛下、それも神に従者を付けるだと?つい数時間前に光神陛下から無礼を働くなと言われたばかりなのにお前達は何を考えている。」

「我々は陛下方をお守りするため、一番力の無いものをお世話に回しただけだ。グスターボは光神陛下に重要なお話があると言っているし、何も間違っていないと思うが?」

 

「な!貴様よくもぬけぬけと――!」

蒼の薔薇の面々がイビルアイ!と周りで声を上げるが、イビルアイはそれを無視して手に力を込める――と、神王が肩に手を乗せそれを止めた。

「良いのだ。イビルアイ…と言ったかな。私は気にしていない。丁度良い、お前も乗りなさい。」

「へっ、陛下…よろしいのですか…?」

イビルアイの驚愕はその場の総意を代弁していた。

 

「良い良い。さぁ、乗りなさい。」

「へいか……。」

イビルアイは自分が神王の味方だと解ってもらえた事に僅かに胸を熱くした。

 

+

 

馬車には、アインズとフラミーが隣り合って座っている前に、イビルアイ、ネイア、グスターボの順で座った。

五人も乗っていると言うのに狭苦しさを感じさせない馬車は魔導国の物だ。

 

アインズはグスターボとフラミーが話している間や、フラミーが眠っている間、警戒心の強そうな目付きの悪い少女と何かを話さなければいけない状況に先手を打てた事に安堵していた。

 

「それで、出来れば光神陛下には九色と呼ばれた我が国の大将格の者達の復活だけでもお願いしたいのです…。」

グスターボは出発から熱心に目の前の女神に頭を下げ続けていた。

「解ります。解りますが、皆納得できるのでしょうか。」

「納得させて見せます…。どうか…。」

女神は少し辛そうに目を瞑る。

「全ては向こうについてからです。すみませんが、グスターボさん。解ってください。」

そう言うと四対の翼で卵の殻を作るようにその身を包んだ。

神との約束はそう簡単に交わすことは出来ないとグスターボは思い知る。

「畏まりました。お聞き苦しい事を…申し訳ございませんでした。」

グスターボが頭を下げ、再び顔を上げた時には神は翼の殻に包まれ眠ってしまったようだった。

 

ネイアは眠りについた――まるで人々の夢見る美を凝縮したような女神をジッと見続けていた。

「…バラハ嬢。フラミーさんがどうかしたかな?」

つい先程まで熱心に流れる景色を眺めていた神王はチラリとネイアを伺った。

思いがけもしない質問に慌ててそちらへ視線を向けると、隣で黙って座っていたイビルアイも神王に加勢した。

「そうだ、ネイア・バラハ。あまりジロジロ見るな。女神相手じゃなくてもそれは失礼だ。」

「あ、し、失礼しました。」

その注意に最もだと頭を下げると、隣のグスターボも共に頭を下げた。

 

沈黙。

 

女神の心地好さそうな寝息だけが車内に響く中、ネイアは何か言わなければと精一杯頭を回転させた。

「へ、陛下方はご友人でらっしゃるのですよね。」

「そうだとも。」

「えっと…その…あ!神様は何をして遊ぶのですか?」

ネイアは言ってからやめておけば良かったと後悔し始めると、隣のイビルアイから冷たい視線を感じた。

 

「ふふ。そうだな。昔は我が支配地であるナザリックの空を作ったり、守護者…いや、君たちが呼ぶ所の守護神を生み出したり、色々したな。秘宝を探しに星の降る山に登ったりもした。そこには多くのドラゴンがいたものだ。懐かしいな。」

神の語る遊びは、最早遊びではなかった。

「…そこにいたドラゴン達はどうしたのですか?」

イビルアイが恐る恐ると言う具合に質問を投げかけた。

「ん?皆、我がナザリックの糧にしたとも。」

「ナザリックの…糧…。」

神々の遊びは神話そのものだった。

スケールが大き過ぎたせいかイビルアイは考え込んでしまった。

その後も輝く草原を支配する巨人を倒した話や、誰も踏み込んだことのない底無し沼を発見した話、無限に広がる星空を支配する竜を倒した話など――語る者がこの目の前の神でなければ俄かには信じられないような話が続いた。

「陛下方の神話は神聖魔導国に行けば読めますか?」

ネイアはもっと聞いてみたいと思った。

「あぁ…次々に部下達が神官長達と書き起こしていっているよ…。全く困ったものだ…。」

(何で困るんだろう?)

もっと世界中の人に見せるべきだと思うのに。

 

「さぁ、フラミーさんが起きてしまっては悪い。仮眠もしただろうが眠れる者は眠るのだ。」

優しい神王の声に皆頭を下げて目をつぶると、ネイアは神王の話した夢のような話を何度も反芻してから眠りに落ちた。

その間にも、少しでも早く向かうために馬車に乗らない者たちは必死に聖王国を目指した。

 

+

 

翌朝ネイアが目を覚ますと、神王が女神の顔にかかる前髪を静かによけているところだった。

その光景はとても美しく、ネイアは何故か――子供の頃に部屋に差し込む朝日で目覚めた時の清浄な空気を思い出した。

神王は視線に気づいたようで、こちらを向いた。

「わっ!んん。バラハ嬢、起きたかね。」

 

「あ!お、おは――」しー、と口元に人差し指を当てる神王に頭を下げ、声を小さくする。

「おはようございます、神王陛下。」

「うむ。おはよう。バラハ嬢。」

すると、グスターボも目を覚ました。

「おはようございます。申し訳ありません。思ったより眠ってしまったようです。」

「それは良かった。副団長殿。」

腕を組んでいたイビルアイも目覚めたようだった。

「んぅ……。はっ!神王陛下おはようございます。おはよう、バラハ、グスターボ殿。」

これはこれはと皆が頭を下げると、馬車が止まり、女神も目を覚ました。

恐らく朝食の為に止まったのだろう。

「ぁ?んーーー!はぁ、座って寝たのは久しぶりでした、おはようございます。皆さん。」

伸びをした後にぺこりと頭を下げる女神に皆慌てて頭を下げた。

(神様でも座って眠るような夜があるんだ…。)

 

「陛下方はもう少しゆっくりしてらしてください。私は団長と話し合いがありますので、先に行かせて頂きます。何か必要な物はございますか?」

ネイアはさすが副団長は違うと思った。あの団長では中々こうは気を使えないだろう。

「いいえ。私は大丈夫です。アインズさんは?」

「いえ。副団長殿。我々は何もいらない。バラハ嬢とイビルアイ嬢はどうかな?」

イビルアイはピクリと体を動かした。

「いびるあい…嬢…。」

確かめるようにその言葉を繰り返し続けている為、恐らく何も欲しくないのだろうと判断したネイアが代表して返事をした。

「何もございません。お気遣いありがとうございます。」

グスターボは一つ頷くと馬車を降りていった。

 

「イビルアイ嬢はあまり眠れなかったかね?」

「あ、い、いや!陛下、大丈夫です!よく眠りました。」

イビルアイは柔らかく座り心地のいい椅子でぐっすり眠ってしまっていた。

最初は仮面越しに熱心に神の観察をした。

すると神は星を見ながらたまに小さく感嘆したり、並走する馬の筋肉を眺めてうんうん頷いたり、カクンと頭を揺らす女神に肩を貸したり…あまりにも善良すぎた。

睡眠が深くなり足がパカリと開いてしまったネイアのそれを優しく閉じたりする場面もあった。

ドラゴン狩りについて詳しく聞きたい気持ちがあったが、ツアーがそれを知らなそうなところを見るとここ六百年や千年の話ではない事だと一度胸にしまう事にした。

やはり自分のアンデッドを見る目は間違っていなかったとイビルアイは確信すると、神に見守られながら眠りに落ちたのだ。

 

神々が「やっぱり魔法によらない移動は良いものですね」と楽しげに話し始めると、外から副団長の朝食を告げる声が響いた。

 

+

 

ネイアは大急ぎで流し込むように朝食を済ませると一人佇む神王の元へ走った。

女神は物珍しそうに朝食を取っていて、グスターボやレメディオスにもてなされていた。

イビルアイも今は蒼の薔薇と朝食を取って、馬車での話を共有しているようだった。

 

「陛下!」

「これはバラハ嬢」

背で手を組む神はゆっくりと振り返った。

「何をご覧になっているのですか?」

「あぁ。見たまえ。この連なる大山脈を。」

ネイアはそちらを見るが、特別変わったところのない何の変哲も無い山々だ。

「美しいな。これを見るために私はこの世界に来たのかもしれないとすら思うよ。」

(陛下はロマンチックな方なのかもしれない…。)

「陛下は今まで違う世界にいらっしゃったのですか?」

「ん?そうだとも。」

神々の世界がどんなものかネイアは想像の翼を広げる。

「光神陛下とも、そちらで?」

神は笑ったような雰囲気をまとって頷き、また楽しげに山と雲を眺めた。

神聖な姿にネイアはしばし見とれた。

 

朝食を皆取り終わったのか聖騎士達がガヤガヤと出発の準備に取り掛かり出すと、女神が後ろから声をかけて来た。

「お山すごいですよね。アゼルリシア山脈はトブの大森林に囲まれてたからまた趣が違う気がします。」

「あぁフラミーさん。本当ですよね。もうご飯はいいんですか?」

また神々は仲睦まじく話し出した。

ネイアは神様なのに山をあまり見たことが無いのかと一瞬思ったが、地表からはあまり世界を見たことがないのだという事に気が付いた。

もし見ていたら神様が普通にそこらへんを歩いていることになってしまうのだから。

 

+

 

出発から四日、いよいよ聖王国が近付いてくると、馬車からは海が見え始めた。

「綺麗ですねぇ。」

「本当綺麗です…。」

神々が熱心に窓の外を眺めてる様子を見ると、イビルアイはおずおずと提案した。

「光神陛下、よ、良ければこちらに座ってよくお外を見ては如何でしょうか?」

「それは狭いんじゃ無いか?フラミーさんには翼もある。」

神王の反駁にそれもそうかとイビルアイが唸ると、グスターボが解決策を提案した。

「それでしたら、自分が降りますので、良ければごゆっくりお外をご覧下さい。」

こういう時のグスターボの気遣いは流石としか言いようがない。

御者に止める合図を出すと、グスターボは丁寧に頭を下げ降りて行った。

 

ネイアによって伝達された「神々は地上から世界をあまり見たことが無い」という話は部隊全員を納得させた。

子供のように自分達で生み出したであろう世界を綺麗だと喜ぶ神々は自画自賛している事に気付かぬようでなんだか可愛らしいとネイアは思った。

 

「すみませんね、イビルアイさん。よいしょ。」

女神はネイアの隣に腰を下ろし、嬉しそうに神王と一瞬視線を交わした。

イビルアイも神王の隣に座ろうとすると、馬車が出発したのかガタンと揺れ、イビルアイは軽く神王の肩に寄りかかるように座ってしまった。

 

「あ、あ、陛下!申し訳ありません!」

イビルアイが慌てて頭を下げ立ち上がると、神王は笑ったようだった。

「何。気にすることはない。さぁ危ないから座りなさい。」

「ありがとうございます…。」

慈悲深い神の横顔をイビルアイは眺め続けた。

何となくその仮面の下は惚けているような気がする。

神々は飽く事なく外を見たりお喋りをしたりして夕暮れを迎えた。

翌日は夜明け前に聖王国に入るので一行は早いうちに移動をやめ、野営の準備を始めた。

 

女神は海に余程感動しているのか食事の時以外はこれまであまり馬車を降りなかったが、今日ばかりは降りたがった。

「あの、降りてもいいですか?」

その言葉に誰もダメだと言うはずもなく、ネイアがまず降りて周りの状況を確認すると、次いでイビルアイが降りた。

そして神王が降りると、女神もそれに続いた。

神王と女神は真冬の静かな海に夕暮れが落ちて行くのを物言わず眺め続けた。

グスターボも一応ネイアとイビルアイの隣に並んで、用事があればいつでも対応できるように控えた。

 

「神王陛下と光神陛下は、自然が…世界がお好きなんですね。」

ネイアの問いに闇の神は振り返る。

「美しい大地というのは何にも変えがたい宝だ。君たちにはまだわからないかもしれないが、いつかそれは自分達の欲求を抑えきれない者達によって破壊されてしまう時が来るだろう。」

そして光の神が続けた。

「私達はそれをする者達の台頭を許しません…それが例え世界を停滞させる事でも。」

二人はまるで恐ろしい何かを見て怯えているかのようにネイアの目には映った。

そして月が登り始めると、女神の頭の上にはゆっくりと白い不思議な花が咲いたのだった。

その光景はあまりにも美しかった。

神王が花が咲いたことを告げるように優しく花に触れると、女神は嬉しそうに目を細めた。

 

「陛下方は…未来が見えるのですか?」

イビルアイの質問に、気付けば耳を澄ませて神々の言葉を聞いていた聖騎士達はゴクリと唾を飲んだ。

 

「見えるんじゃなくて…見ただけですよ。ね。」

光の神の言葉に闇の神は辛そうに頷いた。

「フラミーさん、俺たちは…デミウルゴス達の言う通り本当にこの世界を手に入れなきゃいけないんでしょうね。」

そういうと闇の神は光の神の手を取った。

「この綺麗な世界を…皆にも見せないといけないですしね…。」

握り返された手は震えているようだった。

 

ネイアは神々の背中に、何かとても強い決意のような物を感じたのだった。




次回 #54 神の嘆き

自然保護団体ナザリック…!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#54 神の嘆き

岩がちの山に穿たれた天然の洞窟――現在の聖王国解放軍の拠点に着くと、大慌てで神々の過ごす場所が用意された。

神王を見た者達はギョッとし、その後に続く女神を見ると皆手を前に組んで熱心に祈りを捧げているようだった。

(見た目が違うだけでこんなに態度が違うなんて…。)

ネイアはショックだった。

数日この二柱と旅をして、見た目が違うだけでこの神達は変わらない慈悲深さに溢れていると言うことはよく分かっていた。

この神々が全ての生ある者を魔導国へ導きたいと熱心に生を守っている事も分かったのだ。

だと言うのに、見た目だけで神王を拒絶し、女神には縋ろうとする。

(なんて浅ましいんだ…。)

 

その後聖騎士と神官の集まる会議室に神々は通された。

女神は特になにも作戦等に口を出さなかったが、神王は現状の問題点を次々と提起した。

満を持してある神官が物言わず目を瞑る女神に縋るように言葉を送った。

「それで…光神陛下…。恐らく聖王女様はまだ生きてらっしゃるかと思うのですが…それに連なる王族や有能な軍人達を生き返らせては頂けないでしょうか。」

 

女神は金色の瞳を見せると、恐るべきことを口にする。

「聖王女が生きている?」

まるで死んでいるはずじゃなかった?と言うようなその言葉に神官達は背筋を凍らせた。

「へ…陛下…!聖王女様はお亡くなりになっているのですか!?お分かりになるのですか!?」

レメディオスがすごい剣幕で迫る中、同席している蒼の薔薇は痛ましそうに目を伏せた。

「あ…いえ…そのはずですが……。」

女神はチラリと神王に視線を送ると、全員が生を司る神よりも死を司る神の方がそれに詳しい事に思い至り、続くようにそちらへ視線を向けた。

 

レメディオスも珍しく察したのか、そちらへ顔を向けると苦々しげに吐き捨てた。

「く…!おい!!どうなんだ…!!」

レメディオスの神王への態度は女神に向けるものといつも真逆だ。

やれやれと神王は手で顔を覆う。

「それを知って君達はどうする…。」

「どうするかだと!?光神陛下にお願いを――。く、なんだグスターボ!」

興奮していくレメディオスをグスターボが部屋の隅に連れていく。

ネイアも蒼の薔薇の面々も、会話は聞こえないがその内容は容易に想像出来た。

最初に女神には神王に無礼を働かないのなら一緒について行っても良いと言われたのに、これは流石にやりすぎだ、と。

 

「失礼したな…。光神陛下にお願いし、祈りを捧げさせて頂くのだ…。それで、聖王女様のお命はどうなんだ…。」

やはり少し大人しくなった様子のレメディオスが戻ってきた。

神王がゆっくりと顔を左右に振ったのを見ると、全員が唇を噛み足下に視線を落として拳を震わせた。

「わかったな。さぁフラミーさん、一度戻りましょう。」

「え、えぇ。すみませんでした。アインズさん…。」

「悪いがバラハ嬢はここに残って話を聞いてくれ。光の神は失われた命を悼む必要がある。」

 

そして神々は立ち去って行った。

 

「あれが…神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王…。カストディオ団長、あれは大丈夫なのですかな?」

「そうだ。光神陛下だけをお連れする事は出来なかったのか。」

神の去った部屋での神官達の態度にネイアは強い怒りを感じた。

それはネイアだけでなく、イビルアイもそのようで、二人は頷きあうとイビルアイが口を開いた。

「悪いがウチの神を敬称も付けずに呼ぶのはやめてもらおうか。」

神官達は僅かに苦々しげな声を出し、憎たらしそうにイビルアイを睨むが、何の痛痒も感じないという風にイビルアイはふんと鼻を鳴らした。

 

神官は相手にしてられないと言った風にその様子を無視すると議題を戻した。

「しかし…なぜ光神陛下は聖王女様や我が国の民を生き返らせる事に躊躇されるのだ…。」

「あんたらは本当に話を聞いてたのか?」

ガガーランのぶっきらぼうな声がかかると神官達との間には火花が散ったようだった。

「何を冒険者風情が。」

「冒険者風情でもわかるぜ。あれほど慈悲深い…一時は自分達に歯向かいすらした十四万人を生き返らせる程のお方が、なんでお宅らの国民を生き返らせる事だけを渋るのかな。」

神官達は続けろと言わんばかりに睨みつけた。

 

「あのお方はここに来る前にこの騎士様に言ったんだぜ。『私は神王の居ないところには行きません』てな。」

神官が確かめるようにグスターボに視線を向ける。

「たしかに仰いました。」

「そう言う事だよ。まだわかんねーか?」

神官達は分からないようで少し焦りながら自分の左右にいる神官にそれぞれ分かったかと言わんばかりの視線を投げ合ったが、誰も分からないようだった。

残念ながらネイアもよくわからなかった。

神王と女神に刃向かう十四万人と、神王だけを嫌う聖王国の民。

聖王国の民の方が余程信心深いと思えた。

それともあの二人は愛し合っていて、それ故どちらかを嫌う相手を憎むとでも言うんだろうか。

ネイアは考えるがそれは俗物的すぎると思えた。

恐らく正解ではないだろう。

「ちっ。それでよく神官が務まるもんだ。おいラキュース。お前も神官の端くれだろ。それも光神陛下のお力をお借りして人を復活させる事があるんだ。教えてやれ。」

ネイアは恥ずかしい気持ちになった。

 

ラキュースは頷くと語り始めた。

「光あるところに闇は必ず生まれます。強い光であればあるほどにその闇は深まる。陛下方は表裏一体なのです。旧法国は陛下方が国にお戻りになるまで六百年、揃って陛下方を信仰し続けました。」

神官達は熱心に耳を傾ける。

「そして私の生まれた王国は、今はもう廃されましたが四大神を信仰しておりました。」

「うちと違って光神陛下を祀ってすらいないじゃないか。」

忌々しげに一人が吐き捨てた。

「聞いてください。祀ってはいませんでしたが、エ・ランテルの人々も、今回の戦争で生き返らされた十四万人も、誰一人として闇の神を蔑んだり、見くびるような真似はしませんでした。そして他者を傷付けざるを得ない自分達の境遇――闇に正面から向き合っていたんです。」

段々と何が言いたいのか神官の中に伝わっていく気配がする。

「あなた達は闇の神だけじゃない。闇そのものを嫌いすぎる。光神陛下は最初からその事にお気付きです。」

 

イビルアイもいい加減にしろというような調子で続けた。

「出発前から光神陛下はヒントをくれてたぞ。"アンデッドを恐れるなとは言わないが闇の神の存在に皆が納得できるのか"とな。グスターボ殿は納得できない者がいれば抑えると陛下に約束したがどうだ?今のこの結果を見ろ。女神の半身のような闇の神にどんな態度を取った。」

双子も語る。

「行く事は構わないと言っていた。」

「でも復活は約束できないとも言っていた。」

部屋はしん…と静まり返っていた。

自分たちはまさに今試されている最中なのかと。

しかし納得のいかないレメディオスは変わらず冒険者達を睨みつけた。

「それはお前達の想像に過ぎん。確かにこの世に闇がある事は認めよう。しかし悪人がいなくても正義はこの世に在り続ける筈だ。であればあのアンデッドを信仰する意味はない。」

 

ラキュースは可哀想な物を見るような目でレメディオスを見た。

「悪人がいなければ正義という言葉は成立しません。闇は光がなくても存在出来ますが、光は生まれた時から闇とともにある事をよく考えてください。」

「ち。難しい言葉を使って煙に巻こうとでも言うのか。」

「…私達は命を奪って、それを食べて生きているんです。命を奪う事も、その生を永らえる事も、生と死、光と闇が一体となっているでしょう。陛下方はそう言う神なんです。」

ネイアは激しい衝撃を受けた。

闇の神は単体で存在できるが、光の神は闇の神の存在なくしてはこの世に存在できないのかもしれない。

この教えはまさに生きる事なのだ。

生き物は命を奪って食べなければ死に絶えるだろう。

そこは闇だけが存在する世界だ。

「すごい…。」

ネイアは思わず言葉が漏れてしまい慌ててその口を手で押さえた。

 

ガガーランは大きくため息をついて追い討ちをかけた。

「闇の神も信仰しろとは言わねーが、お前さんら、少しは身分と立場をわきまえろっつー事だよ。ったく。おい、副団長さんよ。礼は弾めよ。俺たちのお陰で神様が聖王女様を復活させてくれるかもしれない一手が見えたんだからよ。」

「今の状況では私が…いえ、恐らく誰が復活魔法を唱えたところで、その力を司る光神陛下…フラミー様が拒否され魔法は発動しません。」

ラキュースの言葉は会議室に大きくこだましたようだった。

 

沈黙が支配する部屋で、特に年長に見える神官が口を開く。

「…神王陛下と、光神陛下をお呼びしてくれ…。」

 

 

+

 

 

神々の控え室には謝罪が響いていた。

「ごめんなさい…本当にごめんなさい。」

フラミーは辛そうにアインズに謝り続けていた。

「良いんですよ、平気ですから、フラミーさん。」

「私なんかに神様なんて務まらないです…すぐ顔にも口にも出るし、なるべく玉座の間や謁見みたいな時は喋らないようにしようって思って来たけど…私…私…。」

手を握り締めてうぐうぐと泣くまいと堪える様子に、アインズはだらりと垂れる翼をさすっていた。

「仕方ないですって。フラミーさんは精神抑制を持たないし、表情だってあるんですから。汗だって涙だって出る体じゃ限界がありますよ。俺だって鈴木悟…あ、本名なんですけど…鈴木悟としてここ来てたら絶対務まらないですから…。ね、大丈夫ですから…。」

「うぅ……うっ…あいんずさんに、皆に、迷惑だけはかけたく無いのに……。」

ポロポロ落ち始めてしまった涙に綺麗だなぁと場違いな感想を抱いてしまう。

「…良いんですよ、ちゃんとフラミーさんが神様出来るように俺も手伝いますから。今は鈴木の分も泣いてください。」

「鈴木さぁん…。うぅ………。」

聖王女が既に処分されている事はデミウルゴスの計画書で二人は知っていたが、この国の者たちは知らないようだった。

今日初めて来るはずの二人がそれを知っていてはおかしいだろう。

アインズに背中をさすられながらフラミーが涙を零していると、外から声がかかった。

 

「神王陛下!光神陛下!少しよろしいでしょうか!」

 

アインズは慰めるフラミーの首に煌めくネックレスを見て思い出す。

『アインズさんが頑張ってくれるから、私はとってもナザリックの居心地がいいんです。』

自分が絶対者として君臨する事は、ギルメンを――フラミーを守る一つの手段なんだと瞳の炎を燃やした。

(この体と精神には感謝してもしきれないな。)

「守ります。ナザリックもあなたも、"アインズ・ウール・ゴウン"も。俺は一人じゃないんだ。」

アインズはフラミーの翼をもう一度サラリと撫でると返事をした。

 

「入れ。」

 

「申し訳ありません、陛下方!あ?あ、あの、陛下方……あの、あ、あの……神官達がお呼びで……その……。」

「ネイア・バラハ、しっかりしないか。神王陛下!え!?」

ネイアとグスターボが顔を出すと、神は不出来な人間達と死者を憐れみ泣いていた。




次回 #55 覚醒

蒼の薔薇めっちゃ鍛えられてるぅ!
あぁあ、フラミーさんやらかしましたねぇ。
言っちゃった言っちゃったー。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#55 覚醒

「フラミーさんはお疲れだ。私だけで納得して貰えるかな。」

それはまるで人々を試すような、そんな響きがあった。

 

「もちろんで御座います。どうか神王陛下、ご一緒にいらして下さい。光神陛下の事は私の口から説明いたします。」

グスターボは正しく伝えなければいけないと思った。

神々はヒントはくれるが決して試練無くして奇跡を与えないとわかったから。

 

会議室に入れば、全員が立ち上がって神王を迎えたが、レメディオスの姿はなかった。

誰もが納得したというのに、レメディオスだけは決して納得しなかったのだ。

「不浄なるアンデッドが神など貴様等に人間としての誇りは無いのか!」

最後はそう言い捨てると神王が来る前に立ち去っていってしまった。

いや、立ち去ってくれるくらいがちょうどいいだろう。

グスターボの胃の為にも。

 

「神王陛下のお出ましです。光神陛下は…そのお心をとても痛め、涙しておられました。今はお出まし頂けません。」

グスターボの言葉に、神官達は気付くのが遅すぎたその身の不出来を恨んだ。

そして、その後ろから入ってきた、先程よりも威厳溢れるように見える神に皆が頭を垂れた。

 

「私こそ神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王。その人である。」

人々が改心し始めたのを知ってか、王は改めて名乗りを上げた。

 

+

 

「下がれ!!」

「もっと下がれ!!この子供が死んでいいのか!!」

捕虜収容所に亜人の叫びが響いていた。

 

ラキュースは絶望的な状況の中、ついイビルアイに聞いてしまう。

「イビルアイ!!何かいい手はないの!!」

「あればとっくにやっている!!くそ!!」

目をそらしたラキュースに、双子が警笛を鳴らした。

「まずい。鬼ボス。」

「子供が殺される!」

 

まるでその言葉を合図にしたかのように、子供は殺された。

そしてまた新たな子供が連れて来られる――。

手も足も出せない聖騎士達と蒼の薔薇を背に残し、神王は新たに人質にされた子供を指差した。

「このままでは、人質の有用性がバレる。蒼の薔薇、いけるか。」

その場の全員がゴクリと喉を鳴らした。

ラキュースはこれから何が起こるのか察すると、きつく目を閉じ、首を縦に振った。

「よし。」

 

すると、神王の指先から激しい光が迸り、子供ごと目の前のバフォルクを射抜いた。

蒼の薔薇は感謝の言葉を送って駆け出した。

そして、レメディオスを筆頭に騎士団もそれに続く。

人々が漸く救い出され、収容所から出てきたレメディオスは忌々しげに神王と蒼の薔薇を睨むと、すぐさま女神に向かって手を組んだ。

 

女神の復活の奇跡を期待するようにネイアもそちらへ視線を向けてしまう。

いや、恐らく皆がそうしただろう。

救い出されて来た捕虜達も女神に気付くとすぐさま祈りを捧げ、跪き、口々に救いを求めた。

しかし、神王に跪く者も、祈りを捧げる者も誰一人としていなかった。

それどころか人々は子供を殺した神王を睨みつけたり、なんて酷い事をと口を覆った。

女神はそんな人々の様子に、一言も口を開かずただただ首を左右に振った。

 

光も闇も受け入れる事が出来なければ奇跡は起こして貰えないと、いくら神官が話しても、子供を殺した神王は恐れられるばかりだった。

この収容所の者達は誰かが担わなければならなかった、子供を殺すという闇を受け入れることはできなかった。

そしてその闇の上に自らの命がある事を認められなかった。

 

女神が救いを与えることが出来ない様子に、他でもない神王が一番苦しんでいるようにネイアには見えた。

 

ネイアは光と闇は表裏一体と言った蒼の薔薇の言葉を思い出す。

(綺麗事だけでは世界は救われないんだ…!)

 

ネイアは耐えきれず神王に話しかけた。

「神王陛下も、光神陛下も、お辛いですよね…。」

「バラハ嬢。優しさと言うのは、時に自分を最も傷付けるものだ。わかるな。それでも…。どんなに辛くても…俺たちは子供達の為にいつだって精一杯優しくいなきゃいけないんだ…。」

神の深い言葉にネイアは考えを巡らせる。

今女神は闇を受け入れられない子供達…目の前の民の様子に優しい心を傷付けている。

そしてこの目の前の王も、優しいが故に奪わざるを得なかった子供の命を悼み傷付いている。

ネイアは考える。

(慈悲深い神々は数えきれない痛みの中耐えて、闇を受け止め立っているんだ…。)

それを感じる事もできず、自分達が一番辛いんだと嘆く人間を神々は哀れみ、また心を痛める。

神々が全ての命を救いたいと降臨した理由がわかった気がした。

 

 

+

 

 

一つ目の捕虜収容所から人々を救った解放軍は、翌日には次の捕虜収容所に向かった。

すると再び人質に聖騎士の足は止まった。

躊躇い続ける聖騎士団長と聖騎士を前に、次々と子供が、人質が殺されていく。

昨日生きることは闇を受け入れる事だと教えられたばかりだというのに。

蒼の薔薇が堪りかねた様子で何かをレメディオスに訴えているのが見える。

 

神王はそちらへ近づいて行き言葉をかけた。

「私が行こう。いいかね。」

神王の言葉に、騎士団と神官達が頷き、舌打ちをするレメディオスの代わりにグスターボが頭を下げた。

「お願いします。陛下。」

ネイアは目の前の神に祈った。

(どうか、私達を導いてください――。)

 

「フラミーさん、一緒に行きますか?」

女神は少し悲しそうに笑うと、やはりゆっくりと首を左右に振った。

「わかりました。鈴木に任せてください。」

スズキとはなんだろう。神々の言葉は人知の及ぶところではない。

 

ネイアは神王について街の中心に向かうと、そこには強大な亜人がいたが、神王の手によってすぐに殺された。

そして、ネイアは王の心の嘆きを聞いた。

「くそ…こんな下らないお遊びのために…。行くぞ。さっさとグラトニーを葬る必要がある。」

神王が見せる初めての怒りを冷やすかのように、その夜街には雪が降った。

 

その後都市の奪還、人々の解放は神王の力で順調に行われた。

そして、聖王女の兄、カスポンド・ベサーレスの無事が確認されたのだった。

 

+

 

支配者達は魔法で作り出した椅子に掛けていた。

「フラミーさん、もう二週間になりますしそろそろ一回ナザリック帰りますか?」

「いいえ、ダメな女神でも、一応最後まで居るだけ居ます。なんて、デミウルゴスさんの期待には何も応えてないですけど。」

「無理しないで良いんですからね。」

「ご迷惑ばかりおかけしてすみません…。」

アインズは困ったように笑うと、フラミーの前髪に指の背でサラリと触れた。

「…ずいぶん髪伸びてきましたね。」

「本当だ…全然気付いてなかったです。」

「嫌じゃなかったら切ってあげますよ、俺が。」

フラミーはえ?と顔を上げた。

「俺金無しだったんで、自分カットでしたから。そこそこ腕に自信はあるんですよ。」

そう言うと、肘を曲げて骨しかないであろう腕をポンポンと叩いてみせた。

「あは、お願いしちゃおうかな。」

久しぶりに少し笑った女神に、アインズはどうかそのまま笑っていて欲しいと祈った。

 

 

「じゃ、念の為一回お団子ほどきますよ。痛かったら言って下さいね。」

「ふふ、お願いしまーす!」

そう言いながらフラミーの後ろに回り込み、お団子を崩すためにそっと蕾を引き抜くとそれを軽く咥えた。

お団子から大量の銀色のヘアピンが取れて行き、お団子がすっかり崩れると、アインズは咥えておいた蕾を手に持ち直した。

正面に戻ると、座ってニコニコするフラミーの前に跪く。

これを持たせたデミウルゴスに感謝して。

「元気になるおまじない行きますよ!」

そう言うと、蕾の中に丸い光が灯る。

光が蕾の先から出ると、ポンっと弾けてフラミーに光が降り注いだ。

しばらくその光を眺めると、フラミーは愉快そうに少しの間笑った。

「ふふ、アインズさん、可愛くして下さいね!」

「ははっ、任せておいて下さい!」

 

【挿絵表示】

 

嬉しそうに笑ったフラミーの頭をクシャリと撫でて、蕾をその手に渡すと、アインズは魔法で作った少し背の高い椅子に腰掛け、これまた魔法で作ったハサミを使い、器用に前髪を切った。

 

「このくらいが一番ユグドラシルで見慣れた長さかな?バランスどうですか?」

そう言って遠隔視の鏡(ミラーオブリモートビューイング)を取り出すと、フラミーに持たせ、魔法の力で正面、斜め、真横と映し見せて行く。

前しか見てないのに自分の横顔が見える奇妙な感覚にフラミーは笑った。

「アインズさん、まさか運営もこの鏡がこんな使い方されるなんて思いもしてないでしょうね。ふふ。」

「鏡なんだから景色よりも女の子の顔を映せて本望だと思いますよ。」

支配者達が愉快げに笑っていると、外から声がかかった。

 

「神王陛下、光神陛下、入室しても宜しいでしょうか。」

 

フラミーは不安げにアインズの顔を見上げるが、アインズはなんて言うことは無いと動かぬ顔で笑ってみせ、フラミーの肩から落ちる長い髪の毛に指をサラリと通すと返事をした。

「構わない。入ってくれたまえ。」

すると、デミウルゴスに貸し出したドッペルゲンガーが入ってきた。

 

「ご歓談中失礼致します。アインズ様にはご無礼を働き続け申し訳ございません。」

「良い。お前は勤めを果たしただけだ。」

「恐れ入ります。ここ数日、アインズ様に強い信仰心を寄せるものが特に増えて来たようですね。それで…いかが致しましょう。」

「うむ……。蒼の薔薇には注意しろ。あれは言わばうちの国民だ。あとは適当に間引け。ただ、間引きすぎには注意するように。まだ生き返らせてやるかは不明だが、万一そうなった時フラミーさんの負担になる。」

「畏まりました。では再起不能を中心に、適宜間引かせて頂きます。他には何かございますか?」

「ない。あ、いや。そうだな。あの不愉快な団長もうまく使え。」

 

次の日、丘の向こうには大量の亜人と悪魔の軍勢が姿を見せた。




うわーアインズ様かっけぇー(統括並感想
https://twitter.com/dreamnemri/status/1133285867202666497?s=21

次回 #56 奇跡の上に

閑話じゃないですが12:00に上げますー!
twtrでちょろぴ発揮しました(//∇//)へへへ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#56 奇跡の上に

会議室には救いを求める声が響いていた。

「神王陛下…どうか…お力をお貸し下さい。」

そう言って多くのものが跪く。

初日には女神にしか跪かなかった人々は、首を横に振るだけで、会議室にも姿を見せなくなった女神よりも、確かに命を救ってくれる神王に強い信頼を寄せ始めていた。

特に比較対象がいるせいか神王の慈悲深さに皆胸を打たれているようだった。

 

ネイアは即物的だと思ったが、これもまた仕方のない人の弱さ――闇なのだと思った。

「困ったものだ。私はフラミーさんについて来ただけだと言うのに。」

その言葉に皆がぎゅっと唇を噛みしめていると、衛士が無粋にも部屋に駆け込んでくる。

「か、神よ!!グラトニーが、グラトニーが出ました!!」

「人々を食い漁っています!!」

神は瞳の灯火を消した。

神よ、と叫ぶ人々の中、神王はゆっくりとその瞳に炎を燃やした。

 

「終わらせるか。」

そう言って神王が立ち上がると、人々の視線はその後ろに集まった。

 

不思議そうに神王が振り返ると、そこには銀色の髪を下ろした女神が立っていた。

 

「あ…フラミーさん…。」

「アインズさん、行きますよ!」

 

その女神の声は明るく、人々の信仰が闇の神に充分集まったことを知らせた。

 

「ほらな、だから言っただろ。」

ガガーランの明るい声が響き、神官達が気恥ずかしそうに頷くとラキュースも優しく笑った。

「あなた達は生きていく上で切っても切り離せない闇を、やっと受け入れる事ができ始めたのよ。」

「全く世話の焼ける国だ。」

イビルアイは嬉しそうに腕を組んだ。

 

+

 

人々は、女子供を盾にする亜人達に涙を飲んで投石した。

生きるためには闇も光も必要なのだと、ネイアや神官の日々熱心な訴えかけや、闇の神の言葉を聞いて心を動かしていた。

すると、その中についに亜人を扇動したグラトニーを名乗る邪悪な悪魔が姿を見せた。

 

グラトニーは頭部を持たず、人の腹部分に顔がついていて、背徳的なピンクの体をしていた。

その巨大な口がパカリと開くと長い舌がべろりと顔中を舐めた。

その邪悪さに人々が息を呑むと、門の上にいた人をものすごい勢いで吸い込み始め、捕まえ、貪る。

「聖王国の皆さん。私は腹が減っているのですよ。貴方達人間は実に美味い。さぁ、ここを我々の牧場にしてあげましょう!!」

グラトニーの声に後ろの亜人達が血を震わせるほど歓声を上げた。

「食って食って食い散らかすのです!!ここは飢える者の食卓ですよ!!ヒィーハッハッハッハァー!!」

耳をつんざくような笑い声をあげると、片手を天高く掲げる。

 

人々は手の上、天に視線を奪われる。

そこには巨大な炎の塊が門に向かって降り注ごうとしているところだった。

 

「そんな――――」

 

見たものは死んだ。

 

+

 

門を完全に破壊され、逃げ惑っていたはずの人々は、街の中心広場に追い詰められ、囲まれていた。

後ずさりをする事すら叶わない程に人が密集している。

 

収容所では自分達の子供を、親を食わされた。

亜人達は大笑いで美味いだろうと言っていた。

皮を剥がされた者も大勢いる。

そこから滴る血を飲まされ、狂った隣人もいた。

この広場は、再び地獄になるのか――。

誰もが絶望すると、馬に跨ってこちらへ近付いてくる複数の影が見えた。

それは聖騎士団を率いたレメディオスだったが、いつも何もしていないそれの登場に、人々は大した希望を見出せなかった。

 

「現れたな!グラトニー!!貴様、聖王女様をよくも!!」

「ん?なんだか見たことのある顔ですねぇ。あぁ。わかった。ふふ。頭冠の悪魔(サークレット)よ。」

グラトニーの後ろに闇が開き、そこから枯れ枝のような悪魔が現れた。

その悪魔はレメディオスの妹ケラルトと、聖王女カルカの頭部をさくらんぼうのように飾っていた。

 

「貴様ーーー!!!」

レメディオスはその手の中の聖剣に目一杯の力を込め、死を冒涜的するような目の前のサークレットと呼ばれた存在に攻撃を繰り出す――が、悪魔は何の痛痒も感じていないようだった。

鬱陶しいとばかりにサークレットが無造作に腕を振るうと、たったそれだけの動作で、レメディオスは人々の中に吹き飛ばされた。

レメディオスが激突した者達は苦しみから声を上げた。

「「「団長!!」」」

聖騎士団が叫び人混みの中レメディオスをなんとか立たせると、レメディオスは一度大きく息を吐いた。

「任せろ。こいつらは邪悪な存在なんだ。我が聖剣の真の力を今こそ思い知らせてやる!!」

レメディオスはついにその聖剣の力を発揮した。

善良なる市民や聖騎士達、レメディオス本人も特に何の変化も感じていないが、目の前の邪悪な二人には眩しく見えているはずだ。

レメディオスは再びサークレットに向かって駆け出した。

「だああありゃああああ!!!」

全身全霊のその一撃は、サークレットの、聖王女の顔を繋ぐ枝のような部分の根元を狙い繰り出された。

人間ならそこに刃を受ければ致命傷だ。

しかし、激しい音が鳴るだけで、悪魔は再び何の力も感じないとばかりにその場所をぽりぽりとかいた。

「なんですか?あれは。」

サークレットは困ったように呟いた――いや、困っているのではなく馬鹿にしているのだろう。

「相手が弱すぎても考えものですね。これじゃ引き立て役にもなりません。」

グラトニーは自分を引き立てる事も出来ないサークレットとレメディオスの戦いに呆れているようだった。

 

レメディオスは手も足も出ない目の前の悪魔たちにラキュースの言葉を思い出し呟いた。

「復活魔法の力を司る女神に拒否されれば復活魔法は使えない…?」

周りの騎士達はその言葉を聞くと、今の状況の訳に思い至った。

「そんな…私は光神陛下にはずっと…祈りを捧げ信じてきたのに…この私に聖なる力を貸す事をやめたとでもいうのか…。」

 

「勝手に絶望してますよ。面白いですねぇ?」

グラトニーはそう言うと、猛烈に息を吸い込み始めた。

レメディオスよりも悪魔の近くにいた数人がその口に吸い込まれていく。

レメディオスもそのものすごい吸気に食われるのかと思った次の瞬間、風は止んだ。

二人の間には優しき闇の神が立っていた。

 

「そこまでだ。悪いがお前には私のストレス発散に付き合ってもらうぞ。」

 

再びの地獄に突き落とされそうになった人々は大歓声を上げた。

神王を応援する声が広場中に広がる。

すると空からポタリポタリと赤い液体が降りだし、ついには赤い小雨に見舞われた。

何事かと見上げれば、今までどんなに乞うても決して救いの手を差し伸べてくれなかった光の神が上空で真っ赤な血を振りまいていた。

それに触れると、傷だらけだった人々は途端に癒えて行った。

瀕死で担がれていた大量の人々も、レメディオスに突っ込まれ苦痛に声を上げていた人々も、町中に諦め置いていかれてただ死を待っていた人々も、目の前の奇跡に、神王と女神に強く感謝した。

 

「これは…神の血だ……。」

街の評判の薬師の呟きが、何とかその場に追いついたネイアの耳に届く。

「人を癒す…神の血…。陛下、陛下方はやっぱり自分を傷付けてでも人々を救うのですね…。」

ネイアはその慈悲深さと、普通の人間ではあまりにも辛く耐え難い生き様に気付けば涙を流していた。

一緒に走ってきた蒼の薔薇はネイアのそれを聞くと拳を握り締め、つい目を逸らしたくなる衝動に駆られる。

いつの間にかかなりの怪我をしていたイビルアイは深くフードを被り、さらにその上にガガーランのマントを羽織っていた。

イビルアイは自分の肩を抱きながらネイアの隣に並ぶと、ネイアの手を取り、遠く自らの血を流し続ける女神と、目の前で悪魔に立ちはだかる神王を交互に見続けた。

この血を浴びれば怪我は治るのに、イビルアイが敢えてそうしないのは、きっと神に頼るだけではいけないという意思の表明だろうとネイアは思った。

 

+

 

神王とサークレット、グラトニーの戦いは壮絶を極めていた。

しかし、神王も悪魔たちもまるでじゃれ合うようにそれを楽しんだ。

いや、そう見えただけなのかもしれない。

目の前で行われる激しい魔法の応酬に、時には激しい砂塵を舞い上がらせ、時には残っていた家々を破壊し、街を殆ど更地にして行った。

最初にサークレットが倒れると、そこに女神は降りた。

なにかを話しかけているように見えるのは恐らく弔っているのだろう。

そこでは女神が笑っていた。

邪悪な命の終わりを喜ぶと言うよりも、まるでこれまでの生を労うような笑顔は人々に衝撃を与えた。

人々が女神に目を奪われていると、神王の絶大な力を前に、グラトニーも地に伏せた。

すると神王は大量にアンデッドを生み出した。

死して尚聖王国のために戦いたいと願った聖騎士はその奇跡によって死の国から呼び戻され、残った亜人の討伐に駆け出した。

そうして広場は何とか秩序を取り戻し始めるのだった。

 

女神はサークレットをから恭しく二つの頭部を外すと、見たことも無い強大な魔法をかけた。

輝きが二つの頭部に集まると、聖王女とケラルトは体を取り戻し、二人はゆっくりと目を覚ました。

「こ…ここは……。」

聖王女は何があったのだと言う様に仰向けに寝転がったまま目を泳がせた。

「カルカ様…?」

ケラルトの声からその存在に気付くと、聖王女はケラルトにより復活させられたのかと思った。

「ありがとう、ケラルト…復活させてくれたの…?私、グラトニーに振り回されて死んだわよね…。」

すると、立っていた女神がしゃがみこんで二人を上からまじまじと覗き込んだ。

美しい金色の瞳は何か言いたげだった。

「あなたは…?」

聖王女の質問に、女神は神官長達をちょいちょいと呼び寄せたると、神官達が駆け寄った。

アンデッドとなった人々を闇に返し供養してくれた神王もそちらへ向かっていた。

 

神官は神々の降臨やこれまであった事、そして一月にも及ぶかと言う苦難の日々を伝えた。

皆誰もが涙ながらに話をした。

いつから来ていたのか王兄カスポンドも神官の向こうで軽く手を挙げ聖王女の復活を祝った。

そして絶望した様な顔のレメディオスに何やらこれまでの必死の抵抗に労いの言葉をかけているようで、レメディオスは再び手の中の聖剣を強く握りしめていた。

 

「そう…そうだったのね…。」

未だ座っている事も辛いと言う様な二人に、神王が近付いて行くと、どこからか真っ赤な液体を取り出した。

人々はすぐにそれが何なのか分かった。

神は二人にその血をバッと振り掛けると、女神に頷いた。

すると、力の湧いた聖王女とケラルトの叫びが響いた。

「「レメディオス!!!!」」

 

レメディオスは、女神の背に剣を振るっていた。

しかしその剣は女神には届かず、守ろうと間に入った王兄カスポンドの身を貫いていた。

 

苦しげな王兄の声が辺りに満ちる、レメディオスは震える手で聖剣を王兄から引き抜くと、ドシャリとその身は地に崩れた。

「殿下!」「お兄様!!」

駆け寄ればすでに王兄は既に絶命していた。即死の一撃だ。

「そんな…王兄殿下…貴方が…こうしろと…なんで…。」

レメディオスの呟きは混乱の喧騒の中、誰の耳にも入らなかった。

聖騎士達の手で捕縛されたレメディオスは吠え出した。

「そんな…お、おかしい!!いや、私は間違っていない!これも殿下の御心に従ったまでだ!私はずっと正義を行なってきた!!そうだ、お前にも祈りを捧げ続けた!!なのに…くそ!!なのになのに!!!」

「レメディオス黙りなさい!!」

王女の命令も無視し、レメディオスは続ける。

「こんなの間違っている!!守れた!!お前が最初から私に力を与えていれば!!全ての収容所の子供達だって守れたに違いないんだ!!殿下もそう仰ったのに何故邪魔を!!くそ!くそ!!お前は、いや!お前も、お前も神なんかじゃないんだろう!!」

そう言って神王と女神を順に指差すと、女神はびくりと肩を震わせた。

今まさに神の血によって人々を回復させた女神は、神王に顔を向けると、神王は黙って顔を左右に振った。

 

「許さない、許さないぞ!!分かった!貴様らだ、貴様らが犯人だったんだ!!」

レメディオスは支離滅裂な事を叫ぶ。

聖王女の命令で動きだした聖騎士達に引きずられながら、レメディオスは魂を震わせるように慟哭した。

 

ネイアは哀れなその生き物はきっと救われることはないだろうと思った。

「あいつは自分で選んだんだ。世界は光だけでは救われない事を神々は示し続けたのに、光だけで世界を満たしたがったエゴが、結果的に多くを殺したんだ。」

隣でネイアの手を握るイビルアイは怒りに震えているようだった。

「それでも…それでも光を求めたくなってしまう私達はどうしたらいいんでしょう…イビルアイさん…。」

「どうすることもできないさ。光だけを求めたくなってしまう心の闇を受け入れろ。」

イビルアイの言葉にガガーランが頷く。

「目を逸らすなよ。その闇から目を逸らしたら、光を求めるはずが光に見放される。」

 

ラキュースは話をする仲間たちから離れ、哀れな獣のようになって引きずられていくレメディオスを一瞬振り返ると神王と女神の前に跪いた。

「神王陛下、光神陛下…。その身を呈した王兄殿下に、再び命を与えては頂けませんか…。」

二柱は悩んだ。

聖王女もそれを見ると、闇の神にも何の抵抗もなく共にラキュースの隣に跪く。

聖王女はその身に起きた奇跡と神官達の話をきちんと理解していた。

そして、女神は口を開いた。

「できません。えーと…この人の死は彼女の罪そのもの…です。償わなければいけません。うん。」

闇を抱いてそれでも生きろと、女神はいったのだ。

果たしてレメディオスはこの罪を償い切れるのだろうか。

ラキュースと聖王女は深々と頭を下げ、了承の意を示した。

神王はその様子に満足げに頷くと聖王女に告げた。

「この者の尊き命はこちらで弔わせて貰おう。転移門(ゲート)。済んだ後に体は綺麗にしてお返しする。祀ってやってくれ。」

恐らく誰よりも素晴らしい世界に旅立てるだろうと人々はその闇に神王が王兄を連れて入る背中を見送った。




次回 #57 帰路

グラトニーちゃんはピンクでまん丸で、丸に手足がついてて、
足は赤くって、食べたものの能力をコピーできるよ!
とってもかわいいね!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#57 帰路

ツアーは仲間の気配に体を起こした。

 

「なんだいリグリット。また来たのか。」

「ツアーよ。まだゴウン陛下を疑っておるのか?」

リグリットの疑問にツアーは目を細める。

「陛下、ね。そうだよリグリット。丁度ついさっき、世界が悲鳴を上げたような気がしたんだけど、アインズはまた何かやったのかな。」

「また…?」

「僕はねリグリット。アインズは僕との約束を守っているようにはどうしても思えなくなってしまったんだよ。それを調べなければいけない。」

リグリットはいつもツアーの鎧が置いてあるところに目を向けると、そこは空洞だった。

「それで、どこに向かってるんじゃ。」

 

「なに。彼の神殿で謁見を申し込むさ。ルールに則ってね。」

 

+

 

翌日街の小さな神殿に神々はいた。

 

聖王女やケラルト、蒼の薔薇、これまで会議に参加していた神官達も来ていた。

そして新しい聖騎士団団長のグスターボも。

 

グスターボは道中のことを思い出しながら跪いた。

「神王陛下。この度は我が国をお救い頂き誠にありがとうございました。そして、光神陛下。今一度、伏してお願い申し上げます。どうか、九色の三人の復活を。」

女神は初めて首を縦に振った。

「もっと…全ての者をと言わないのですか?」

 

女神のその質問は最後の試練だとネイアは思った。

ここで答えを間違えれば、九色の復活も叶わないだろう。

聖王国は間違い続けてしまったのだ。

 

グスターボはその瞳を僅かに揺らすと、心に決めた答えを力強く返した。

「はい。私達は、この惨劇を胸に生きようと思います。両陛下の教えを刻む為にも、敢えて受け入れます。」

女神は今までで一番いい笑顔で頷いた。

「良いでしょう。遺体をこちらへ。」

 

なんとか回収、保存されていた遺体が運び込まれる。

グスターボと共に副団長を務めていたイサンドロ・サンチェス。

騎士ではないが、その腕を買われていたオルランド・カンパーノ。

そしてネイアの父で凶眼の射手、パベル・バラハ。

 

女神は闇から白い杖を取り出すと三人へ向ける。

 

一度に三人が金銭の代償なく起き上がる奇跡に、第五位階の復活魔法を行使できていたケラルトは目の前の存在を神と認めた。

復活魔法を使うときに感じる存在はこの方だったのかと。

しかし、姉のレメディオスの失態からケラルトはその力を女神から剥奪されたようだった。

その後何年も善行を積み、ついにはケラルトは力を取り戻すが、どんなに乞い願われても、あの日女神がしたように黙って首を左右に振って復活を断った。

そんな事があった夜は必ず、「力を返されたとしてもそれを行使する権利はない」と聖王女の元で嘆いた。

ネイア・バラハに聞かされた慈悲深き神々の話は余りにも切なく、苦しいものだった。

ならば、闇を抱いて生きるしかないと、一時はその手で殺そうかとも思った、幽閉されわずか一年で狂った姉を許し聖王女の傍で懸命に日々を生きたと言う。

 

 

 

「陛下方。我々北聖王国は神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国に恭順致します。」

ネイアが父に縋り泣いていた横で、昨晩紛糾した議題の結論を聖王女が伝えた。

 

「…北だけか…。それで、南は。」

その問いはまるで南部貴族達が神王を嫌厭している事を知っているようだった。

聖王女は首を左右に振り地に視線を落とした。

「畏れながら…ダメでした…。」

北部は神の奇跡と教えを間近で見ると言う幸運に恵まれたが、南部は未だアンデッドには降らないと言い続けている。

これでは北部も受け入れては貰えないのでは、と少し心配になったネイアは神王に瞳を向けた。

「いや、良い。仕方のない事だ。私達の落ち度でもある。デミウルゴスには謝らなければな。」

デミウルゴスとは誰のことだろうと思ったが、恐らく南を案ずる慈悲深いものだろう。

「アインズさん、私の落ち度です。」

闇の神も光の神も辛そうに顔を下に向けた。

南部に悪魔が逃げて行くのを見たと言う多くの人々がいる以上、魔導国に降り大々的に悪魔狩りを頼むのが一番だと言うのに。

命よりも権力を選択した愚かな南の指導者によってまたしても神は心を痛めることになったのだ。

 

「陛下方!!」

ネイアは気付けば叫んでいた。

このいつも人々の愚かしさに嘆き傷付く優しい神々を、少しでもその痛みから守りたいと、身の程知らずにも思ってしまったのだ。

「私が必ず南部にも陛下方の教えを伝え、共に全ての命を愛する魔導国に降るように説得してみせます!!」

父パベルは慌ててネイアを止めた。

「ネイア、やめないか。神々の前でいくらなんでも失礼だ。」

「良い。パベル・バラハ。バラハ嬢よ、頼めるか。」

ネイアは初めて神々の役に立つ事ができる今この瞬間に歓喜した。

「はい。ネイア・バラハ、蒼の薔薇と共に最も神王陛下のおそばで教えを受けた身。既に陛下方を讃える仲間達は三万人を超えております。皆で、南を魔導国へ恭順させて見せます。」

それを聞くと神王と女神は安心したように頷きあった。

 

「ネイア・バラハ。今お前に簡易の儀式で魔導国の身分を与える。」

ざわりと神殿内が揺らぐ。

ネイアは神王と女神の前に進み、聖騎士団に入った時のことを思い出しながら膝をつくと、聖王女に渡された劔を足下に置いた。

 

「フラミーさん。」

女神はネイアに一歩近付き、白い杖でその両肩を軽くトン、トンと叩くと告げる。

 

「ネイア・バラハ。紫黒聖典、第三の席次を与えます。二つ名は父から譲り受けなさい。凶眼の射手。国籍はこちらで取得しておきます。」

 

 

フラミーは任命時など、あんちょこがある場面ではその役割をアインズより任せられていた為スラスラと言えた。

アインズはフラミーに花を持たせる事ができたと満足する。

「後日隊長である疾風走破と重爆を送ろう。…とんでもない二人だが、バラハ嬢ならばうまくやるだろう。」

そして念のため九着作っておいた紫黒聖典の鎧をネイアに一つ渡す。

ネイアはそれを頭上に掲げるように受け取った。

思いがけもせず、自分達の失態を埋めるために働くと言ってくれた目つきの悪い少女をアインズは結構気に入っていた。

そして何より、"聖王国を手に入れるための作戦"と言ったアルベドとデミウルゴス、パンドラズアクター達の意に反して北しか手に入らなかった事にちゃんと布石を打てましたと言える状況に強い安堵を覚えていた。

アインズは空間に手を入れると、白く神々しい、ルーンが刻まれた弓と、黒いバイザーを取り出し、恭しく受け取り未だ掲げられる鎧の上に置いていく。

「バラハ嬢、君はこれも使ってくれ。我が国で作られるルーン技術によって生み出された素晴らしい弓だ。名はアルティメイト・シューティングスター・スーパー。そしてそれの能力を引き出すためにこのバイザーも使うのだ。常にきちんと装備しておくんだぞ?いいな。」

ネイアは心得たとばかりに頷き、応えた。

「ネイア・バラハ、必ずや御身のご期待に応えて見せます。」

 

「良し。私達からは以上だ。カルカ・ベサーレス。今後ここには私の配下の者が今述べた聖典と共に現れるだろう。その者達と属国化を進めてくれ。 」

そう言うと、神王は女神を伴って神殿を立ち去ろうとする――が、何かを思い出したように振り返った。

「そうだ、最近帝国も降ったのだがな。ふふ。今度支配者のお茶会でもしようではないか。きっと実りあるものになるぞ。」

嬉しそうにそう言うと、今度こそ二柱は神殿を後にしたのだった。

 

 

+

 

 

任命後、多くの遺体は全て綺麗に神王が引き取り、確かな供養を約束してくれた。

後日街には大量の亜人達が送り込まれてきた。

全ての亜人は神王に深く頭を垂れ、人々の復興をよく手伝った。

グラトニーと共に聖王国を襲撃した人間を食べる亜人達は殆どが種を維持できるギリギリまで数を減らされたが、聖王国を襲撃しなかった人間を食べない亜人達は、陽光聖典とコキュートスによって魔導国に一足先に降っていた為率先して聖王国の復旧復興を手伝いに来た。

人々はそれを指揮するコキュートスと陽光聖典、オークなどを筆頭とした亜人達と手を取り合って街の復興を進めた。

 

人々が最後に救われた広場には"生死の神殿"と呼ばれる神殿の建築計画の看板が立った。

初の一棟で二柱を祀るその神殿には、後にネイア・バラハと蒼の薔薇によって語られた神々の本質と生き様が神官達によって書き起こされ、安置されていく。

魔導国中の神官達が修行の為にそれを書き写しにこぞって南聖王国を訪れ、自分達の勤める神殿に持ち帰って公開するのはまた別のお話。

 

何とか生きていける目処のついた今日、軽い式典を明後日にでも開こうと話が立つと、偶々何か急用のできた神々が帰り支度を始めてしまった。

街の人々も、神官も、聖騎士も、誰もがその急な出発に心を痛めた。

 

ネイアは心細かった。

この一ヶ月共にあった強く優しい背中との別れに、とても耐えられないと思った。

「神王陛下!!」

聖王女より正式に別れの言葉を送られて馬車の前に立つ神々に、声をかける。

パベルは娘を軽く止めるが、目の前の慈悲深き神々はきっとそれを叱責しないだろうと分かっていた。

 

「バラハ、良いのだ。ネイア・バラハ。これから南をどうか、頼む。」

神王は力強くネイアに南を任せた。

パベルは神にそれ程までに信頼される娘を誇りに思って少し泣くと、ともに復活したオルランドに背中を叩かれた。

「お任せください…きっと…きっと…南部も救ってみせます…。この北部に訪れた真なる平和を伝えます。」

ネイアは必ず人々を救って見せると決意すると、肩にかけてあるアルティメイト・シューティングスター・スーパーに意識を向けた。

「そうだな。明日には紫黒聖典の二人も着く。どうか協力して事に当たってくれ。もしルーン武器を借りたいと言うものが現れたら隊長達に伝えるんだ。わかったな。」

ネイアはその身に聖典の鎧を身につけている。

自分は聖王国から魔導国に初めて渡ったこの神の民として情けない姿はみせられないと、口を一文字にキツく結んで流れそうになる涙を堪え何度も縦に頭を振った。

 

「…さぁ、そろそろ行きましょう、陛下方!」

途中まで一緒に帰る蒼の薔薇のラキュースが声をかける。

ネイアは震える手を神王に伸ばすと、慈悲深くも神王はそれを両手で握りしめた。

冷たく細い骨の感触だと言うのにネイアは温もりを感じる。

「南を頼んだぞ!君は我が紫黒聖典になったのだ。神都で、エ・ランテルで、また会おう。」

神は堪らず涙を流しかけるネイアの頭をクシャリと撫でて背を向けた。

蒼の薔薇が続々と馬にまたがっていく。

帰りは誰も神々の馬車には乗らなかった。

きっとこの二柱には惨劇を悼む時間が必要だと思って。

 

立ち去っていく馬車は数え切れない人々の歓声と万歳唱和の中出発して行った。

 

「陛下方の御心に平穏を!」

ネイアはグイと目元を拭くと肩に置かれた父の手の優しい、神王とは違う温もりに笑顔を向けた。

 

+

 

「はー疲れた。明日にはデミウルゴスの牧場見学かー。」

アインズは行きとは違って斜め向かいに座るフラミーに話しかけた。

「楽しみですよねぇ!」

「うーん、楽しみは楽しみですけど、あえて今は南を手に入れなかったみたいな言い訳を考えないといけないですからねぇ…。」

支配者は悩みながらブーツを脱ぐとベンチチェアに対して横向きに座り直す。

足を椅子に乗せると、壁に背を預け伸ばせるところまで足を延ばした。

 

「はは、まだ二十四時間ありますからきっといい案が思い付きますって。」

それを見たフラミーもせっせとサンダルを脱ぐと、土ぼこりで意外と汚れていた足を綺麗に拭いてアインズと斜めに向かい合うようにベンチチェアに足を延ばした。

「一緒に考えて下さいよー。あー…両脚羊可愛いといいなぁ。」

「何か赤ん坊産ませたりしてるって言ってましたからきっとモフモフのヨチヨチですよ!」

ふふふとフラミーは口元に手を当てて嬉しそうに笑っている。

「可愛いのいたら一匹くらい連れて帰りますか?」

「わぁいいアイデア!でも、生き物って途中で飽きちゃうんですよね。」

「飽きたら牧場に返してスクロールにしたら良いじゃないですか。」

「なるほど。やっぱりアインズさんて頭良いですよ!」

慈悲深い神々は和やかに笑った。

 

ひとしきり笑うと、不意に訪れた無言にアインズは心地よさを感じた。

寝られるとしたら寝てるな、と目を閉じる。

 

「アインズさん。」

 

目を開けフラミーを見ると伸ばしていた足を体に引き寄せて体育座りになっていた。

 

「毎度の事ながら…今回も本当、私役立たずで申し訳なかったです。」

アインズも片膝を引き寄せると膝の上で手を組んだ。

「いいえ。いつも充分役に立ってますよ。」

「いつも?」

「いつもです。主に俺の気持ちが支えられてます。」

それだけ言うとアインズは再び目を閉じた。

 

「優しいんですね、鈴木さん。」

 

アインズはつい教えてしまった懐かしい名前にふふと笑いを漏らした。

 

「なんせ、少しだけお兄さんですからね。」

 

+

 

聖王国にゴーレムの馬で乗り付けたクレマンティーヌとレイナースは小さな神殿に向かっていた。

エ・ランテルや神都では馴染みになり初めていた亜人の闊歩する様子に何の違和感も持たずにズンズン進んでいく。

街の人々は「バラハ様と同じ鎧だ」と二人を噂した。

その腰にはルーンの刻まれた見事なスティレットと、これまたルーンの刻まれた劔が下げられていた。

神殿前に着くと、二人はひとつ頷き合ってから中に入る。

 

「ちわー!ネイア・バラハちゃんいるー?」

クレマンティーヌの呼び声に、一番前のベンチに座っていた少女がビクリと肩を震わせた。

「バカ。神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導国が紫黒聖典。ネイア・バラハですね。」

レイナースの声に恐る恐る、その少女はベンチから立ち、振り返った。

「あ、あの…ううん。しっかりしなきゃ。神聖アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下とフラミー様の命により、新たに紫黒聖典へ入りました!ネイア・バラハです!よろしくお願いいたします!先輩方!」

ネイアはパッと頭を下げ、自信に溢れた顔を上げた。

 

クレマンティーヌとレイナースはニコリと視線を通わせ、ネイアに近付いた。

「よろしくー!私はクレマンティーヌ・ハゼイア・クインティア。一応隊長って事になってるからちゃーんと言うこと聞いてねー!」

猫のように笑うクレマンティーヌとネイアは握手を交わす。

「私はレイナース・ロックブルズ。帝国で騎士をしていたの。この破茶滅茶な隊長の下にたった一人で困ってたわ。新しい人が入って嬉しい。よろしくね。」

レイナースも美しい顔を露わにして握手した。

「クインティア隊長も、ロックブルズ副隊長も、と、とっても美人ですね!」

ネイアのその言葉に二人はきょとんとすると、笑い出した。

「ははは、あんた面白いねー!クレマンティーヌでいいよ!」

「ふふ、私もレイナースで良い。ネイア・バラハ、流石に陛下方に見込まれただけあるわ!」

「あ!わ、私もネイアでお願いします!」

新しい姉二人にネイアは撫でられながら、この二人とならうまくやっていけそうだと思った。

 

+

 

冷たい尖塔の頂上に、大罪人はいた。

「頼む、頼むカルカ…ケラルト……。」

「ダメよ。フラミー様はあなたが罪を償う必要があると仰った。」

「せめてここを出してくれ!!ここは嫌なんだ!!」

これまでレメディオスはいつも自分は悪くない、王兄の言う通りにしただけだと言い続けていた。

しかし、ここ数日は狂ったように――

「影から、影から悪魔が出て来るんだ!!本当なんだ!!あいつらはお前達が居なくなると出てくる!!」

そればかりを言い続けていた。

 

「姉さん、お願い。これ以上嘘をつかないで。罪は償えるんだから…。」

「嘘じゃない!!本当にここには悪魔が住んでるんだ!!」

すると、カルカの後ろに蠢く悍ましい影をレメディオスは見た。

「おい!!カルカ!!後ろに奴がいる!!」

カルカをその悪魔から守ろうとレメディオスは牢から手を伸ばし、その身を突き飛ばした。

カルカは痛みに尻をさすった。

「姉さん!!カルカ様にまで!!」

「……私は悲しいわ…。ケラルト、今日はもう行きましょう。」

二人は心底悲しそうに一度振り返ると、再びそこを出て行った。

 

「違う!違うんだ!!信じてくれ!!カルカ!!ケラルトーー!!!」

虚しい叫びに影の悪魔(シャドーデーモン)達はゲタゲタと笑い声を上げた。




次回 #58 閑話 おいでよ!デミウルゴス牧場
閑話なので12:00更新です!

あああツアーきちゃう、ツアーきちゃうよお。
プレイヤー絶対殺すマン。

その前に現在の神聖魔導国の状況です!

【挿絵表示】

挿絵師ユズリハ様より頂戴いたしました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#58 閑話 おいでよ!デミウルゴス牧場

蒼の薔薇と別れたアインズとフラミーはゴーレムの馬が引く馬車でデミウルゴスの牧場に着いた所だった。

 

「アインズ様、フラミー様。よくぞいらっしゃいました。」

「いらっしゃいませアインズ様ぁ!フラミー様ぁ!」

跪いて迎えたのはデミウルゴスとエントマ、そして牧場勤務の悪魔達だ。

「うむ。邪魔をするぞ。今日は案内よろしく頼む。」

「は。その前に、アインズ様、フラミー様。聖王国への長期滞在誠にお疲れ様でした。見事聖王国も手に入り、お二人の素晴らしいその手腕とアインズ様の慧眼にはこのデミウルゴス日々瞠目しておりました。」

その言葉にアインズとフラミーは少し気まずそうに目を合わせた。

「は、はは…私は何もしてないですし、南も何だかまだですけどね…。」

ポリとフラミーは頬をかいたが、デミウルゴスは心底不思議そうに首をかしげていた。

アインズは気付いた、これは放っておけばいい奴だと。

「そうだろう。何、後は任せたぞ。」

「は。聖王国のその後もお任せ下さい。――それにしても、フラミー様は御髪を切られたのですね。」

「あ!解ります?ふふ、アインズさんが切ってくれたんですよ!」

嬉しそうに前髪を触るフラミーにアインズは聖王国で頑張った自分を心の中で褒め称えた。

「さようでございますか。長いのもお美しかったですが、今の長さがやはり一番お似合いになりますね。」

「あ、ありがとうございます。」

フラミーはそういうとはにかみながらデミウルゴスを見上げた。

「んん。さて、それでは案内してもらおうかな?」

アインズはよくそんなに褒める言葉がスラスラ出ると感心しながら、何とか舵取りをして建物へ向かった。

 

「簡単に牧場内のご説明を申し上げますと、飼育、繁殖、皮剥、飼料作成の四プラントと飼育員小屋に分かれておりまして、まず最初の部屋ですが――。」

フラミーが杖を落とした音がガランと響いた。

アインズは一瞬自分が落としたかと焦ったが自分ではなかった。

周りからは啜り泣く羊の声が聞こえてくる。

羊達は皆裸にさせられ、腰骨のあたりに横向きの線がぐるっと入っていて、シャツの前身頃と後見頃を縫い合わせるかのように腰骨の線から脇下までも線が入っていた。

その姿は一瞬タンクトップを着ているようにも見える。

羊達はデミウルゴスの来訪に心底怯えているようだった。

しかし、フラミーを見た羊達は一斉に檻の中を移動し始めた。

「天使様!?」「天使様!!」「お助け下さい!!」「お助けを!!」

フラミーは呆然と立ち竦み、羊達を前に何とか声を絞り出そうとしていた。

 

「ひ、ひつじ………。」

 

フラミーの声にデミウルゴスは、まさかという顔をしてアインズと視線を交わした後、さっと片膝をつくとフラミーが落とした杖を拾い、その前に差し出した。

「フラミー様、ここではローブル聖王国の両脚羊を飼って――」

「羊じゃないです!」

フラミーは少し強い口調でデミウルゴスを咎め、アインズに向き直る。

「アインズさん、これ知ってたんですか?」

アインズは知らなかった。

しかし、知りませんでしたと言える立場にないため沈黙を送るしかなかった。

「っ!何で教えてくれなかったんですか!」

そう言ってフラミーは出て行ってしまった。

 

いなくなってしまった天使に再びの降臨を願い羊達は激しく泣き出した。

 

デミウルゴスは呆然と杖を掲げたまま呟いた。

「フラミー様…。」

その耳には羊達の喧騒は入っていないようだった。

「…デミウルゴスよ、お前はよくやっている。立ちなさい。」

その声に我に帰ったのかゆっくりと立ち上がる。

アインズも別に人の皮を好きだとは思わない。

しかし、別段気持ち悪いとも思わないし、正直それらを目の当たりにして出た感想は「別にどうでもいい」だった。

いや、むしろナザリックの為になるならばもっと人間を連れてきた方が良いのかとすら思う。

そこは肉体の有無と性差だろうか。

 

「困ったものだな。エントマよ。人間共を黙らせここで少し待っていなさい。行くぞデミウルゴス。」

アインズは初めてその種族の名を口にした。

 

+

 

フラミーは少し離れたところで草原に一人ぺたりと座っていた。

正座を崩したように座るその背中は何も知らなかった自分を恥じているように見えた。

 

「フラミーさん。」

アインズは極力優しい声で話しかけた。

デミウルゴスは無言でフラミーの杖を持ってついてきていた。

「フラミーさん、デミウルゴスも悪気があったんじゃないんですよ。」

「悪気があるとか悪気がないとか…そんなの…。」

アインズはデミウルゴスをちらりと見るが、何を考えているのかわからない。

 

「フラミーさん、ナザリックの為なんです。」

「ナザリックの為ってなんですか!アインズさんもデミウルゴスさんも…信じらんないです…。」

フラミーは本当にもう嫌だといったような雰囲気で吐き捨てた。

 

「あんなに大量の人間を…。」

言い辛そうにするフラミーに、アインズは隣に座って翼をさする。

二人の斜め後ろに立っていたデミウルゴスは、背中に語りかけた。

「フラミー様が人間種をそこまで特別にお考えだとは思いもしませんでした。私の落ち度です。申し訳ございませんでした。」

その声は震えていた。

 

しかし、フラミーの続く答えは――

「人間種どうこうじゃないです。毛の生えてない生き物全般です。それをどうして全裸で飼うんだって話をしてるんです…。」

二人の想像とは少し違った。

 

アインズの視界の端に写るデミウルゴスはメガネがずれていた。

「んん。フラミーさん?」

「アインズさんだって、私がこの世界の全裸になりたがる人間達をイヤって知ってたのに。あんなに大量の裸の人間…。」

やはりフラミーも歪んだカルマを持っていた。

「あ…その…すみません…。」

とりあえずアインズは謝った。

 

デミウルゴスはアインズと反対側、フラミーの斜め前に出ると、膝を地面につけ恐る恐る顔色を伺いながら杖を差し出した。

「フラミー様… こちらを…。」

フラミーがそれを受け取り軽く礼を言う姿にデミウルゴスは心底安心した。

「デミウルゴスさんも…何で裸で毛の生えてない生き物飼ってるのに裸で飼育してるって教えてくれないんですか。」

「は。ご不快なものをお見せ致しました。申し訳ございません。早急に両脚羊に布を与えるように伝達してまいります。」

そういうとデミウルゴスは軽快に走って牧場へ戻って行った。

 

アインズが呆然とデミウルゴスの背中を見送っていると、フラミーは怒り出した。

「やっぱり、ナザリックの為にって。アインズさんが今までの人達皆裸にして来たんじゃないですか!せめて裸の人間がいるって教えて貰えてたら、心の準備だってできたのに!」

顔を赤くして怒るその横顔に、アインズは無性に笑いが込み上げた。

「は、はは…ははは。ははははは!」

「ひぇっ。」

フラミーは翼をさすってくれていたアインズから少し離れた。

「はは…!ち、抑制されたか。そうですよね。いつも何で裸になりたがるんだって怒ってましたもんね。」

「怒らない方がおかしいです。」

 

腕を組んで頬を膨らませたフラミーはふんっとアインズから顔を逸らした。

「ははは、本当ごめんなさい。気持ち悪かったですか?」

「気持ちいい訳ないじゃないですか!私、まだ、男の人の裸はニグンさんとンフィーレア君しか見たことないし…アインズさんと違って私…私…。」

フラミーは膝を抱えると顔をそこに埋めてしまった。

「あーーちょっと待って下さい?俺もニグンくらいしか他人の裸は見たことないです。」

何も言わないフラミーが不名誉な想像をしていることをアインズが感じているとデミウルゴスが走って戻ってきた。

 

「お待たせ致しました。全員に陰部を隠すように指導が済みましたので、今度こそご案内いたします。」

座る二人の前に跪き告げる悪魔を、フラミーは膝に顔を埋めたまま侮辱した。

「デミウルゴスさんの変態。」

「え!?そんな、違うんですフラミー様。」

「じゃあ何で裸で飼うんですか。」

「き、聞いてください!羊達は身に付ける物を与えると汚してそこから湿疹ができ羊皮紙の生成に問題が起こりますし、かと言って日々新しい布を与えるのもコストの面でナザリックの負担になりかねません!それに毛の生えた動物では毛を毟る必要もあり人手も必要です!」

驚くほど早口でスラスラ出てくる人間を飼う理由にアインズはなるほどと心底納得した。

 

ようやくフラミーが膝から顔を上げるとデミウルゴスは戦々恐々と言った雰囲気でゴクリと喉を鳴らした。

「それは…仕方ないかも知れません…。」

ようやく納得したフラミーにアインズもデミウルゴスも安堵のため息をついた。

 

デミウルゴスは立ち上がるとフラミーに手を差し出した。

「お、お分りいただけてようございました…。さぁ、お手を。」

差し出されるデミウルゴスの手を取って立ち上がると、手を預けたままフラミーは気まずそうに下を見た。

「すみませんでした、出てきちゃって…。」

「とんでもございません。先程申し上げました通り私の配慮不足でございました。」

 

フラミーはちらりとデミウルゴスを見上げた。

「怒ってない?」

「あ…。くっ…!」

その瞳を間近で覗き見たデミウルゴスは顔を抑え、うんうんと無言で頷いた。

「ほら、行くぞ。俺は怒った。」

アインズは自分で立ち上がると空いているフラミーの手を取って牧場に向かった。

 

「あ、アインズさん、変態か疑ったから怒ったんですか?あの、アインズさん?アインズさんてば。」

無言で歩く支配者をフラミーは何度も呼んだ。




あーなんだフラミーさんそっちですか。
安心しました〜。
もっとヘゔぃーな方が良かったですかね笑

次回 #59 閑話 だってだって両性具有だもん

あ?嫌な予感のする次回予告だって?
ひひひひひ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#59 閑話 だってだって両性具有だもん

飼育、皮剥、飼料作成の三プラントを見終わる頃にはフラミーは悪魔としての何かを刺激されたようだった。

「はー面白かったですね!皆私が助けに来たと思ってましたよ!んふふふ。」

楽しげに話すその姿にデミウルゴスは満足げに頷く。

「はい。誠哀れで愚かな愛らしい羊達でございます。」

「お前達は本当に…。私はナザリックに歯向かっていない者達を痛ぶるのは好かん。」

アインズは悪魔達のワクワク皮剥体験に少し辟易していた。

これでフラミーがナザリックで拷問官をしたいと言い出したら嫌だなと思いながら。

 

「ねぇアインズさん、可愛い子羊いたら連れて帰るって言ってたじゃ――。」

「却下です。」

嫌な想像は当たるものだとフラミーを見る。

「良いですかフラミーさん。あんまりそんな事ばっかり言ってるとお嫁の貰い手本当になくなりますよ。」

フラミーは口を開けて顔を青くした。

「そ、それはマズイです。私の子供の頃の夢は可愛いお嫁さんなので…。」

男子は心のメモに書き留めた。

後ろのトーチャーも。

「じゃあ自重して下さい。」

 

「ところで、アインズ様、フラミー様。次は繁殖プラントですので羊達は皆裸体のままでございます。今日は繁殖日ですので、あと五時間程は魅了に掛かっている為止めることもできません。如何なさいますか?」

アインズとフラミーは顔を見合わせる。

「わ、私はやめておきます。向こうでエントマと待ってるんで男性二人で楽しんできてください。」

そう言うとフラミーはエントマの手を取った。

「フラミーさまぁ、デミウルゴス様は次のお部屋が大好きなのでおススメですぅ!」

 

アインズとフラミーは黙ったまま叡智の悪魔を振り返った。

 

「………。」

デミウルゴスはエントマに視線を送ると、エントマは心得たとばかりにぴょんと頭の二本の触覚を立てた。

「フラミー様是非どうぞぉ!私もたまに蟲を出してお手伝いしてますぅ!」

「む…むし…?」

「はぁい!蟲種と人間種の間に子供が出来たら、それはとっても進歩なんですよぉ!」

「ははは、わかったからエントマ行こうね。」

「あやっ!」

エントマはフラミーに引っ張られて出て行った。

 

そう言う趣味があったのかと言わんばかりのアインズの視線にデミウルゴスは冷静に応えた。

「アインズ様。我々ナザリックの僕は皆種族が十人十色。異種間で子供をもうけられるか、と言うのは戦力増強と言う意味では大変重要なキーワードかと。特にあの番外席次が邪王の力を強く受け継いでいる点を見ても、我々の子供というのはかなり期待ができます。」

「なるほど。それもそうだな。ん、そう言えばセバスはあの人間の女とどうなったか。」

アインズは進み始めたデミウルゴスに続いて歩き出した。

 

「まだうまく手も握れないなどと腑抜けた事を言っております。アインズ様とフラミー様を見習って自然に手を繋げば良いと言っているのですが。」

「…ん?それは、んん。私達はな。うんその、アレだな。」

「はぁ…そのアレ、でございますか…?」

段々目のやり場に困るような周りの状況にアインズはデミウルゴスから視線を外すことができない。

「あーまぁ良い。男なら手ぐらい早く握れと言っておけ。触れ合いは人の心を動かす。」

「おぉ、流石アインズ様。何にでも精通していらっしゃる。」

こいつは嫌味で言っているのかとアインズは一瞬疑うが、成る程成る程と顎に手を当て頷くその守護者の様子は尊敬で満ちている。

 

「では、セバスにはアインズ様も子を心待ちにしていると伝えておきます。」

「そうだな。しかしその前に結婚式か?ナザリックはじめての結婚だ。神都で盛大に祝ってやるか。」

アインズはこういう時タッチさんがいたら詳しそうだと思う。

「なんと慈悲深い。では式ではアインズ様が仲人としてお出になられるのですね。」

「え。うわ、いや。本人たちの希望によるな。」

そんな事を話していると繁殖プラントをすっかり一周し、フラミーの待つと思われる職員食堂に向かった。

職員食堂に着くとフラミーはおらず、嫉妬の魔将(イビルロードエンヴィー)がいた。

「これはアインズ様。よくぞお出で下さいました。」

嫉妬(エンヴィー)、興味深く見させて貰ったぞ。お前達の働きはナザリックに必要不可欠だ。これからも励んでくれ。ところでフラミーさんは?」

「畏れ入ります。フラミー様はあちらの外のデッキでエントマ様とお休み中にございます。」

指し示した方に確かにフラミーがわずかに見える。

嫉妬(エンヴィー)は恭しく頭を下げ、それではと立ち去っていく。

 

アインズはその豊満な後ろ姿を眺めるとデミウルゴスに振った。

「ふむ。お前はああいうのはどうなんだ?」

「は?ああいうの、とは?」

「悪魔種同士だ。お前達がその気になれば嫉妬(エンヴィー)との間に子供を持てるんじゃないか。」

「そう…ですね。アインズ様がお望みとあらば。」

デミウルゴスは素直に頭を下げた。

「いや。望みと言うほどでもない。忘れてくれ。」

アインズはさっと手を振るが、デミウルゴスは何かを言いたそうにしていた。

「悪魔種、という事でしたら――」

「うん?」

 

「悪魔種の繁殖という事でしたら、嫉妬(エンヴィー)とよりも、殆ど姿形が同じフラミー様との方が実りは早いかと。間違いなくナザリックの為にもなります。」

「……それは…そう…だが…。」

デミウルゴスの提案は尤もだ。

アインズはデミウルゴスに向いたままその光景(・・・・)を想像しかけると、後ろから冷たい声がかかった。

 

「二人で私の繁殖実験の話ですか…。」

「流石デミウルゴスさまぁ!それでしたらお世継ぎも御生れになりますし、何よりですぅ!」

きゃっきゃと喜ぶ愛らしいエントマと対照的にアインズとデミウルゴスは自分たちの間の悪さに物が言えなかった。

フラミーは何も言わないアインズとデミウルゴスを交互に睨む。

「アインズさんもデミウルゴスさんも…私のことそんな風に見てたんですか…。」

静かにそう言うと転移門(ゲート)を開き入って行ってしまった。

 

「…軽率にデリケートな話を振った私が悪かった…。」

「いえ、私も軽率でした…。」

二人はごにょごにょと言い訳と反省を暫く口にしてから、エントマに軽く挨拶をするとフラミーの部屋の前に向かった。

後ろからは「お世継ぎ楽しみにしてますぅ!」と楽しげな声が響いた。

 

目的の部屋の扉をノックをするとそこからはアルベドが顔を出し、フラミーに確認することもなく告げた。

「畏れながら、フラミー様はアインズ様にもデミウルゴスにも会いたくないと仰っております。」

女子として共感しているのか冷たい視線を感じる。

「アルベド…。我々も反省しているのだ。」

「アインズ様の仰ることは解ります。でもデミウルゴス。貴方繁殖実験の為にフラミー様に近付くなんて不敬にも程があるわ。反省しなさい。」

そして扉は閉まった。

 

この世の終わりのような顔をするデミウルゴスの頭をアインズは撫でた。

「…今は少し時間を置こう。」

そう言うと二人はアインズの部屋へ向かった。

 

+

 

アルベドは扉から離れ、開いたままの寝室へ戻った。

「フラミー様、不敬なあの男は去りました。ご安心ください。」

「アルベドさん…。私が子供を作ったら、皆は嬉しいんでしょうか…。」

フラミーのその目は涙が溢れそうだった。

「…確かにそれは嬉しく思います。ですが、御身がお望みにならないソレは私達も望むところではございません。」

「ありがとうございます…。アルベドさんは悪魔ですよね。」

「はい。悪魔でございます。」

「…もしアルベドさんに、私が子供を作ろうって言ったらどうします?」

「え?」

 

+

 

「デミウルゴス、本当に済まなかった。お前を陥れたようで私も辛い。」

「いえ…御身は何も…。私も何故あんな事を言ってしまったのか…。」

大反省会が部屋で行われていると、俄かに廊下が騒がしくなる。

何事だろうと二人が音の方に目を向けていると扉がものすごい勢いでバンと開かれた。

「あっ、あいんずさん!!」

ローブの背のリボンが解かれているのか今にも服が肩からずり落ちるような状態でフラミーが部屋に駆け込むと、足がもつれたのかワッと部屋の真ん中で転んだ。

アインズとデミウルゴスは慌ててフラミーの下に寄った。

「フラミーさん!?どうしたんですか!?」

「フラミー様!!」

「あ、あ、あるべどさんが!!」

扉に向けて指を指すフラミーの後ろに、その悪魔は立っていた。

「デミウルゴス。貴方の気持ちはよく分かったわ。さぁ、フラミー様。ご安心下さい。女同士この私が手取り足取りお教え致します。その可愛らしい勲章をどうぞ私に。」

そう言うとアルベドはフラミーを後ろから抱きしめ持ち上げようとした。

「ひゃっ!!や、やめて!やめて下さい!!」

その手を止めようと握るが四十一人最弱に近いフラミーは止められない。

「まさか!!やめろ、やめなさい!!アルベド!!」

「な!アルベドやめるんです!!守護者統括として恥ずべき行為は慎みなさい!!」

「デミウルゴス!あなたには言われたくないわ!!」

「アルベド様!ゴ乱心!」「アルベド様!ゴ乱心!」

腕力最弱アインズと守護者最弱悪魔、アサシンズで無理やり引き離してもそれでもなお縋ろうとするその悪魔は表に控えていた配下の者より連絡を受けたコキュートスによって漸くお縄についた。

 

アインズはアサシンズに引き摺られて行くアルベドを見送った。

「…よくやったコキュートス……。」

「イエ…ソレヨリモ……。」

コキュートスが目を向ける先でフラミーは床で崩れたままその翼で自分の身を包んでいた。

 

それを見たデミウルゴスは自分の中に生まれてしまった衝動と、昼にアインズに言われた言葉に突き動かされた。

(触れ合いは人の心を動かす……。)

床で小さくなるフラミーをデミウルゴスは正面から抱きしめた。

「申し訳ございませんでした…。全てはこのデミウルゴスの責任です…。お許し下さい…とはとても言えません…。」

フラミーは前で閉じていた翼を開いて許すと言うかのようにデミウルゴスも包むと、静かにその胸に縋った。

 

「美味しいところは全部あれだ。なぁ、コキュートス…。」

「全クデゴザイマス。」

アインズは二人に近付いて行きフラミーの背のリボンを結んだ。

「フラミーさん、行きましょう。」

アインズはデミウルゴスからフラミーを引き離すと優しく横抱きにした。

フラミーもアインズの肩に顔を埋めて首に手を回した。

「アインズ様。」

後ろからデミウルゴスの声がかかる。

「よろしくお願いいたします。」

頭を深く下げた悪魔にアインズは頷いてフラミーを自分の寝室に連れて行った。

+

 

フラミーをベッドに腰掛けさせるとアインズは立ち上がった。

「さぁ、しばらくここにいて下さい。俺はアルベドの記憶を消しに行かなきゃいけないんで。」

すると裾を引っ張られる感触に目を落とした。

「あいんずさん…ごめんなさい…。」

「そんな、俺こそ…。」

「でも、アルベドさんの記憶は…私が悪いんで…。」

「いいんですか…?」

「はい…。きっと、記憶操作(コントロールアムネジア)は怖いから…。」

アインズは暗闇の中一度フラミーを抱き締めて背中をぽんぽんと叩くとその場を後にした。

骨の体に産まれた衝動に負けないように。

 

+

 

アインズがアルベドを叱って戻って来て、しばらく経つとフラミーが照れ臭そうに出てきた。

「へへへ、こいつぁーどうも皆さんお騒がせしました…。」

精一杯いつも通りを装うその姿にアインズとデミウルゴスは痛みを感じる。

「いえいえ。全部我々の責任ですから…。本当すみませんでした。」

アインズが座ったまま頭を下げると、デミウルゴスも立ち上がりそれに続き頭を下げた。

「申し訳ございませんでした。フラミー様。」

 

「ねぇ、アインズさん。デミウルゴスさん。」

二人は顔を上げる。

「いつか、子供は作るかもしれないけど、ナザリックの為でも…今はまだ…。その…。」

言葉を濁すフラミーにアインズは続きを押し留める。

「そんな事いいんです。忘れてください。」

 

少し考えてからアインズは立ち上がってフラミーの側に行く。

「全部忘れさせてあげましょうか。」

真剣な眼差しでフラミーを見つめてその顔を優しく撫でると、デミウルゴスは目を伏せた。

記憶操作(コントロールアムネジア)は…怖いです…。」

「じゃあ……。いえ、なんでもありません。そうですよね。」

頭にのるお団子をポフポフと叩くとアインズはソファに戻った。

 

すると、ノックが響きセバスが入室許可を求めてきた。

 

「アインズ様。エ・ランテルにツァインドルクス・ヴァイシオンを名乗る鎧が。」




ラッキーラッキーラッキーすけべ☆
はぁ、早く結婚しろよもう。

次回 #60 世界の敵
12:00に更新します!

ストーリーが佳境に入ってきたのですけべが加速しています。
まぁまだ攻略先はまだまだありますけどね!

おフラさんがアインズ様とおデミとどっちとくっつくのが良いか、近々皆様にお聞きするかもしれません!
今のところデミしか応援されてないので何も聞かずにデミとくっつけちゃう可能性もありにけりです!
いや、もちろん結論を出さずにのらりくらりのラッキーすけべを無限に行う可能性もありますが…。(絶句)

2019.05.31 21:04 アンケートを開始しました!よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

試される世界 #60 世界の敵

蒼の薔薇は聖王国から王都に帰国するまで飽きる事なく話し合いを行っていた。

「私は、エ・ランテルか神都で冒険者をしたい。」

イビルアイは沈黙が訪れるたびにそう言っていた。

「気持ちは分かるけど…」

「ラキュース、俺は別に良いぜ。エ・ランテルならお姫様もいるし、お前も結構楽しいんじゃねーか?」

ガガーランは丁度王都に飽きてきたタイミングでのイビルアイの提案に前向きだ。

「当然私も構わない。」

「勿論私も構わない。」

双子は別にどこでも構わないようで、王都を離れ難く思っているのはラキュースだけだ。

実家もあり友人もいる、そんな王都はやはり特別な場所だ。

しかし、皆もう親元を離れて立派にやっている。

リーダーの自分がこんな調子で良いのだろうか、ラキュースは悩んだ。

「…ごめん、両親に確認させてもらっても良いかしら。場所は何にしてもエ・ランテルが助かるわ。」

「勿論!ありがとうラキュース!!あぁ、これで私はまた神王陛下のお側にいける!!」

「何だよ。魔導国の冒険者組合のシステムが良いとかなんとか言っておきながら結局それじゃねーか。」

「んな!う、うるさい!!それもこれもだ!!」

やれやれと全員が首を振った。

帰路に吹く風はもう春の香りを運び始めていた。

 

+

 

「ツァインドルクス・ヴァイシオン。久しいな。」

アインズは相変わらず練習をしていた。

この一週間は氷結牢獄に手足をもいで放り込んだままの従属神の記憶を改めて隅々まで確認した。

隣に入れられているアルベドがブーブー言うのを聞きながら。

MPの底が未だに見えないので以前は駆け足に眺めた記憶だったが、じっくりと隅から隅まで舐めるように確認した。

知りたいのは、ギルド武器の他に世界級(ワールド)アイテムを持っているか。

しかし、そんな事までは従属神は知らなかった。

司書ティトゥスの書き起こした記録書はフラミーが読み漁っていたが、「難しい言葉が多くて小学校中退の限界を感じる」と辞書を引きながら読んでいる姿はさながら受験前の学生だった。

 

すると寝室の扉がノックされ思考の海から引き戻された。

「アインズ様。フラミー様と守護者の皆様がいらっしゃいました。」

「そうか。今行く。」

アインズは寝室を後にし、謹慎のとけた統括と守護者の中で少し緊張した様子でなにかを話す紫色の悪魔に手を振った。

「お疲れ様です。フラミーさん。」

「あ、アインズさん。お疲れ様です!」

 

「さて、お前達もよく来たな。」

守護者達は揃って膝をついた。

「パンドラズアクターよ、首尾はどうだ。」

「は。このパンドラズアクター、既に全守護者とフラミー様へ世界級(ワールド)アイテムの配布を済ませております。」

珍しく落ち着いた様子で返事をするパンドラズアクターにアインズは鷹揚に頷いた。

「宜しい。ロンギヌスには扱いに十分注意しろ。今後お前に持たせておくが、装備するだけで使用は固く禁ずる。いいな、パンドラズアクター。例え死んでも使うな。それはお前を他の世界級(ワールド)アイテムから守る為だけにある。今回は皆が出かけた後のナザリックを頼むぞ。」

「この宝物殿が領域守護者。心得ておりますーンァインズ様!」

身振りもいつもより抑え目のその姿にアインズはやれば出来るじゃんと嬉しくなる。

本人はきちんとTPOを弁えられるので今はこのくらいかと加減しているのだが。

「よし。信じているぞパンドラズアクター。さて、今一度最終確認を行う。相手は八欲王のギルド武器を持っている。それを気持ちよく献上させるのだ。その為にも友好的に、建設的な話し合いを行おうではないか。」

守護者達は頷き、さらなるギルド武器の破壊に思いを馳せた。

「よし…。舌戦だ!!」

 

+

 

蒼の薔薇はホームを変更して三日、宿屋ではなく一区のコンドミニアムに住み始めた。

エ・ランテル中で最も高い家賃だと知られるそれの一番広い部屋は、リビングルームとダイニングルーム、寝室六部屋にそれぞれドレスルームとシャワールームのついた贅沢な作りだ。

これまで宿屋生活だった為殆ど荷物を持たない女五人は買い物に出ていた。

 

「センタクキやレイゾウコも帝国より安いみたいね。すごい…。」

ラキュースの呟きにガガーランが頷きながら応える。

「なんせあのフールーダ・パラダインが中枢にきたんだ。帝国の魔法技術が丸っと流れて来てるだろうな。」

 

「本当にエ・ランテルは未来都市だ…。」

「なぁイビルアイ。お前ちゃんとネイアに手紙出したか?ホーム変わったって。」

「あぁ。今日闇の神殿の近くで出す予定だ。空輸便がちょうど聖王国に向かって出ると聞いたからな。」

「本当は闇の神殿に行きたいだけ。」

「神様はそんなに暇じゃない。」

「う、うるさい!うるさい!!そのくらい良いだろ!!」

双子の冷やかしに仮面の下が赤くなっていくのをイビルアイは感じた。

 

「インベルン。」

 

背後からかかった本当の自分の名前を呼ぶ声に少しの敵意を持って振り返ると、そこには馴染みの――かつて蟲の魔神討伐の際には共闘もした鎧が立っていた。

 

「な、お前どうしてこんな所に?」

「ふふ。元気そうだね。まぁ元気なのはリグリットに聞いていたけどね。」

蒼の薔薇の面々が何者かと少し身構えている。

「皆、こいつはリグリットがよく話しているツァインド…いや、ツアーだ。怪しいやつじゃない。」

「あなたがあのツアー様。私はラキュースです。一度はお会いして見たかったので光栄です。」

「俺はガガーランだ。良かったら一緒に寝てくれ。」

「ティア。」「ティナ。」

善良な心を持つ、この世界で生まれた冒険者達を眩しく感じながらツアーは手を挙げ応える。

「そうかい、よろしく。」

 

「それで、お前何やってるんだ?街なんかに来て珍しいじゃないか!」

「あぁ。ちょっとここの神様に用があってね。リグリットが来てから謁見に――」

「なんだと!!!」

ツアーはイビルアイの変貌ぶりに驚くと、心の中で確信に近い何かが生まれた。

「私も、私も連れて行け!!いや、連れて行かなかったらお前の兜を外す!!」

「な、どんな脅しだい。しかし、そうは言っても二人で謁見と言ってしまったんだ。君も行けるかは――」

「行けるかどうかじゃない!!行くんだよ!!」

イビルアイがアインズの何かを掴んだのか、もしくはアインズとイビルアイの間で何かが起きたのか。

「…わかった。三人で行こう。ダメだと言われたら悪いけど、僕は絶対に聞かなきゃいけない事があるから我慢して貰うよ。」

「わかった!!最悪リグリットに変わって貰うさ!」

イビルアイはクゥーーと両の拳を握り、仲間達に背中を叩かれて激励されている。

 

「…君達は、アインズとフラミーと何かあったのかい?」

すると、行き交っていた街の人々がピタリと足を止め、ツアーを見た。

その瞳はなにかを期待するようでも、怒っているようでもある。

「ツアー様、あまりそのような呼び方は…。」

ラキュースは越して来たばかりのこの街で早速の厄介ごとは御免だ。

「お前の鎧は目立ちすぎる。皆お前を守護神か何かかと勘違いしてるぞ。兎に角ここを離れよう。」

イビルアイの言葉に頷きながら、魔導国では従属神を守護神と呼ぶ事を覚えた。

そして、街の人々は守護神に恐れを抱いているのかもしれないと心のメモに書き留める。

 

南広場と呼ばれる川の通ったそこで、リグリットは合流した。

「なんじゃなんじゃ。お前達皆揃いも揃って。」

やれやれと言う具合に現れた老婆に蒼の薔薇が手を振る。

「リグリット!お前今日謁見すると聞いたぞ!何で私に連絡しないんだ!」

「何でも何も、お前さんずっと王都におらんかったろう。」

イビルアイはそうだった…と呟いたまま何かを考え始めたのでガガーランが変わった。

「一月程聖王国に行っててよ。悪魔をしょっぴいて来た所だったんだ。」

なるほどと頷く老婆は旅をしていると近頃よく耳にした話を思い出した。

「あそこは何か悪魔、グラトニーだったか?それを亜人達が召喚したと騒ぎになっておったの。」

「あぁ。そう言うわけだ。」

 

ツアーも悪魔騒動は小耳に挟んでいた。

亜人の王達が強大な悪魔の召喚を行い、人間の国家を巨大な牧場にしようとしたと言う話だ。

「そうかい。解決したとは知らなかったな。君達は本当に腕が立つ。」

ツアーの言葉にイビルアイは首を振った。

「いいや、私達だけじゃないさ。あのグラトニーは正直私では敵いそうになかった。あれはきっと魔神を上回る。」

ツアーは城にいる本体の目に剣呑な輝きを宿した。

「それで、そんな化け物は今どうしてるんだい。」

「それは――。」

ゴーーーーーンゴーーーーーン

闇の神殿に設置されている鐘が鳴り響く。

皆顔を上げその音のなる方へ目を向ける。

魔導国では神殿に鐘が設置され、朝、昼と夕暮れ時の三度鳴らされる。

余談だが三度目の鐘以降はなるべく働かないようにと神王よりお達しが出ていた。

 

「時間だ。じゃあ、悪いけど蒼の薔薇はここで。」

ツアーがそう言うと、イビルアイ以外は皆心得たと頷いた。

 

「私達も神殿の前まで行きます。イビルアイが暴れ出さないか心配ですし、外で待ちます。」

ラキュースの言葉に、ツアーはぷれいやーとの開戦を覚悟した。

 

+

 

「両陛下が御成になります。」

セバスが声をかけたが、後ろに控える冒険者二人は素直に跪いたと言うのに鎧は動かなかった。

「悪いね。僕はそう言うことはしない主義なんだ。」

「おい、ツアー!」

イビルアイの声をセバスは押しとどめる。

「仕方ありません。アインズ様とフラミー様がそれでお怒りになるようでしたら、私も共に叱責されましょう。」

 

この従属神、いや。守護神は善なる者だ。

その優しさは一週間前に謁見を聖堂入口の女性に頼んだ時から気付いていた。

誰にでも優しく、紳士的なこの老人を生み出す"アインズ・ウール・ゴウン"に感心しながら、あの邪悪な気配を纏い人と魔の間で葛藤しているであろう"アインズ・ウール・ゴウン"を警戒する。

十三英雄にいたリーダーは同じぷれいやーを殺した事を悔やんで死んで行った。

取り残されるえぬぴーしーは魔神になる。

善なる者と悪なる者に道が別れる事があれば、恐らく同じ過ちが繰り返されるだろう。

 

「悪いね、セバス君。」

 

「いえ。同族のよしみですよ。」

ツアーは目を細め、相手がどのような存在か確かめる。

「…そうか、君は竜人か。」

その言葉にセバスはニコリと笑った。

 

そして闇が開く。

 

+

 

守護者達が転移門(ゲート)をくぐって行くと、フラミーはアインズを引き止めた。

「…アインズさん。」

「ん?どうしました?」

「あのツァインドルクス・ヴァイシオンて人、すごく怖いです。」

相手はこの世界最強の竜だ。

恐ろしいと感じ無い方がおかしいかもしれない。

しかしアインズはなんでもないといった顔をした。

全員に世界級(ワールド)アイテムを持たせておきながら。

「大丈夫です。初めて会った時だって、友達の友達なのかって友好的だったじゃないですか。」

「…そうですよね…。ねぇ、アインズさん。」

アインズは黙って続きを促す。

「もし、またモモンガさんの名前を聞かれたとしても、絶対に言わないでおきましょう。もし、またあの従属神の記憶するようにプレイヤーが100年ごとに来るとしたら…あなたの名前は……。」

「…大丈夫、言いませんよ。安心してください。さ、皆が待ってます。」

アインズはいつものようにフラミーの手を取り歩き出した。

 

 

 

「ツァインドルクス・ヴァイシオン。久しいな。」

「やぁ、アインズ。それにフラミー。」

周りの守護神から今にも溢れ返りそうな怒りを感じる。

隠そうとしてもドラゴンの鋭敏な感覚は騙せない。

 

「わざわざ会いに来てくれた事にまずは礼を言おう。此方も丁度聞きたいことがあったんだ。」

「そうかい。それに答えるかは、僕の質問に、僕の望む答えを君達が言った場合のみ考えるとするよ。僕は(・・)正直者なんだ。」

 

あからさまに喧嘩腰なツアーの様子にイビルアイとリグリットは焦っていた。

「や、やめんじゃツアー。一体お主どうしたと――。」

「リグリットは黙っていてくれるかな。アインズ。僕はこの世界を600年見守ってきた。いや、もっと長いかもしれない。その中で、君達ぷれいやーはいつも強大な力を持つことを自覚せずに現れ、世界に大なり小なり手を加えた。だからこそ、僕は今一度君達に確認しなくちゃならない。」

アインズもフラミーも口を開かずに耳を傾けた。

「君達は、子供と仲間と言う領域を侵されなければ世界を蹂躙しないと今一度誓えるかな。君達の最も信じるものに。」

「あぁ、誓えるとも。当然だろう。」

何を隠すでもない、真っ直ぐな返事に目に見えてイビルアイとリグリットが安堵した。

 

「じゃあ、もう一つ。君達は、世界に協力する者かな。」

 

「それも以前も聞かれたな。私達はいつもそうありたいと思っているよ。」

イビルアイとリグリットはツアーの後ろで最早笑顔を交わしていた。

 

「しかし。」

 

その声に、今一度二人は目の前の死を見つめ直した。

 

「いつか自分達の欲求を抑えきれない者達によってこの空も自然も何もかもが破壊されてしまう時が来るだろう。私達は例え世界を停滞させてでもそれを止めなければならない。それが、世界に協力すると言う言葉に、もしも、そう。もしも反するとすると言うならば――

 

 

私達は世界の敵かもしれんな。」

 

 

アインズはニヤリと笑った




次回 #61 竜王との闘い
うわーやばいよやばいよー
来ちゃったよー

2019.05.31.21:20フラミーさんの行方は投票にすることにしました!
誤字りましたけど…笑(くっつけ→くっつけろ
アンケート開始です!
2019.06.01 ニノ吉様 誤字の修正をありがとうございます!適用しました!
2019.06.01 すたた様 誤字の修正をありがとうございます!適用しました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#61 竜王との闘い

後書きにフラミーさんの行方を聞くアンケートを入れました。
よろしくお願いします!!


ツアーは迷いなく自分の腰の劔に手を伸ばした。

 

「残念だよ。」

 

ツアーはアインズに飛びかかった。

「やめろ!!やめてくれツアー!!この人達はお前が思うような人達じゃない!!この人達は違うんだ!!」

ツアーを止めにかかったイビルアイはその手に弾かれ、神殿の壁を破壊しながら外に吹き飛ばされた。

 

「く、ツアー!!お主神殺しをするつもりか!!足止めさせてもらう!!」

リグリットの叫びは虚しく、鎧に向かって放たれた魔法は弾かれ、リグリットは自分の魔法に撃たれた。

ツアーは劔を引き抜きながら目の前の死に飛びかかると、アインズを守ろうと立ちはだかったアルベドとセバスを激しく弾き飛ばす。

二人が柱と壁を破壊して行くのをツアーは満足げに見やると、繰り出した横薙ぎの剣戟によってアインズの肩の骨を一部砕いて落とした。

アインズは激しい痛みの中心底後悔した。

自分もさることながら、アルベド達に戦闘用の装備で、きちんと武装を整えて来させれば良かったと。

そうすればこんな鎧は敵じゃないはずだ。

「…ッング!!これが……痛み………ッンン!!」

アインズは何度も鎮静されながら肩を抱いて地に膝をつくと、シャルティアの大致死(グレーターリーサル)で即座に回復され、ツアーの続く二撃目はコキュートスによって弾かれた。

そのままコキュートスは斬神刀皇でツアーを切りつけ、聖堂の中心あたりまで鎧を後退させた。

アインズは再び立ち上がり、襲い掛かろうとする守護者達と何かを言おうとするフラミーを手で制し、かつてPKを行っていた時の合図を指で作る。

(俺を信じろ。頼む、冷静でいてくれ。)

 

「君達はたくさんいて実にずるいね。」

コキュートスによって後退させられた鎧はゆっくり起き上がると歩みを進めだした。

「ソレ以上御方々ニ近寄ル事ハ許サン。」

威嚇は何の意味も持たないとでも言うように鎧は歩いてくる。

相手は戦士でこちらは魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。

距離が命を分かつ。

 

しかし、アインズは近寄ってくる相手に冷静に話しかけた。

「ツァインドルクス・ヴァイシオン。お前は世界を守って来たんだろう。」

アルベドとセバスが突っ込んで破壊した壁から出てくるのを横目で確認しながら、無詠唱化したバフを次々とかけていく。

フラミーからも無詠唱化されたバフが届くのを感じながら、そうだそれでいいと心の中で呟いた。

(ぷにっと萌えさんに鍛えられてる俺たちに勝てない敵はいない。)

 

崩れた壁に外から人々が集まって来てイビルアイが瓦礫から助け出された姿をツアーはちらりと確認してから応えた。

「そうだよ。僕は世界を守る。」

「私達はこの世界の自然を守ろうと言っているんだぞ。定義の問題を話しているんだと解らないのか?」

「僕はね、アインズ。もし君の言う通りこの空も自然も何もかも壊されるとしても、全てこの世界の者達が行うというのなら、それはそれで世界の選択だと思っているんだ。」

 

その言葉は冷静だったアインズを少し怒らせた。

「なんだと?貴様。それで世界の守護者か!笑わせる!!」

フラミーから、最後のバフが掛かったことを告げる声が届く。

「アインズさん!!」

 

ツアーは何かが完了してしまった事に思い至り、その手を振りかぶった。

上げられた手に呼ばれるかのように劔や斧が何処からともなく現れ、ツアーの周りに浮かんだ。

「この世界の決定に、世界を渡るぷれいやーが口を挟むとロクなことにならないんだ!!」

鎧が手を振るうと刃の雨が降り注ぐが、それをシャルティアとコキュートスが次々と弾いていく。

フラミーは一心不乱にシャルティアとコキュートスにバフをかけ続けている。

「あ、アインズ様!フラミー様!お逃げ下さいまし!!」

「黙れシャルティア!!ヴァイシオン、破壊された自然は決して取り戻せないんだ!お前みたいなやつがいるから、地球は、日本は、俺たちの人生は!!」

アインズは言いながら手を横に払うと魔法陣を纏う。

「何を言ってるのかわからないね!僕はもう二度とぷれいやーの悲劇を繰り返させたりはしない!!」

ツアーはその見覚えのある輝きを発動させまいと再び手を振り、宙に浮かぶ武器達をコキュートスとシャルティアを避ける用に繰り出し魔法陣を破壊した。

「くそが!!プレイヤーを知るだけある!!」

ツアーは更にアインズへ武器を繰り出すと壁の穴から戻ってきたアルベドがスキルを用いてそれを止めた。

同じく戻った半竜と化したセバスは先程までの和やかさを完全に失い、その拳を繰り出すと、ツアーは神殿の扉を破壊しながら吹き飛んでいった。

フラミーにバフをかけられたシャルティアは追撃を許可されていると理解しそれを追う。

「セバストアルベドハココデ御身ヲオ守リシロ!」

コキュートスも一言残すと、その巨体からは想像も付かないような素早さで神殿を飛び出していった。

 

コキュートスはここにいて欲しいと思っているだろうが、フラミーはそれを無視して全体飛行(マスフライ)でマーレを連れて神殿を出て行った。

その背中を見ながら落ち着いた様子でアインズも外に向かって歩き出した。

「デミウルゴス、お前は神殿と広場付近の者達を逃せ。アウラは一区と二区の南の住民を念の為に東の光の神殿へ避難させろ。我が名で守るこの街を蹂躙されてたまるか。転移門(ゲート)のスクロールを使う事を許す。行け。」

それだけ言うとアインズは先に出た四人を追おうと飛行(フライ)で浮かび上がるが、デミウルゴスの悲鳴のような反論が届いた。

「し、しかしアインズ様!!我々は――」

外からは激しい剣戟音と、人々の悲鳴が聞こえ始める。

「行けと言ってるんだ!!お前達は弱い!!!言わせるな!!」――鎮静「わかったな。」

「…っく!!」

「デミウルゴス!!行くよ!!」

アウラとデミウルゴスがイビルアイの開けた穴に向かって立ち去っていく背中を横目で見送り、コキュートスに頼まれた通り控えていたアルベドとセバスとともに表に出た。

 

「フラミー、君はそんなに強くないみたいだね!安心したよ!君から落とせば良いのかな!!」

「それが正解かもしれません!!」

コキュートスによって止められた一撃を横目に見ながら、フラミーはユグドラシルで言われ慣れた嫌味に応えるとシャルティアに背を任せ距離を取る。

そして最も都合のいい所(・・・・・・)まで誘導出来た事をアインズに知らせようと魔法陣を展開する。

「く、従属神のように感じてもやはりぷれいやーか!!」

ツアーが武器を振るおうとするとマーレの魔法によって瞬時に伸びた蔦に脚と腕を掴まれ鎧は体勢を崩した。

フラミーはマーレに指示が正しく伝わっていたことに安堵し砂時計を砕くと魔法を繰り出した。

失墜する天空(フォールンダウン)!!」

鎧が融解しかけるが、痛みを感じない鎧の身には動きを鈍らせる効果しかない。

シャルティアとコキュートスはまともに巻き添えを食らったが掛けられて来たバフもあって大したダメージを受けなかった。

神殿からフライで出てきたアインズは杖でツアーを指し示しその脚を狙う。

内部爆発(インプロージョン)!!」

足が砕けるのを見ると、フラミーにアインズは叫ぶ。

「行ける!!フラミーさん!!」

それに頷きながらフラミーも次の魔法を唱えた。

「最終戦争・善!!」

フラミーに呼び出された複数の高位天使がツアーに掴みかかるとアインズは控える全守護者に叫ぶ。

「全員この場を離れろ!!フラミーさんが下がるところまで下がれ!!」

自分を一振りの劔に見立てるコキュートスは力強く頷き主人の意に従い駆け出す。

「し、しかしアインズ様は!?私はアインズ様と共に――!!」

縋るアルベドの頬をパンと叩くとアインズが叫んだ。

「いけ!!何度も言わせるな!!お前達を守らせろ!!」

フラミーはすでにマーレとシャルティアの手を取って一心不乱に光の神殿に向かってまっすぐ飛び去り始めていた。

アインズは背に巨大な時計を浮かび上がらせると、針が進む。

躊躇うアルベドの手を取ったセバスがフラミーに追い付こうと走り去るのを見て満足げに頷いた。

「まるで最初からこうなることが分かってたような的確さだね。嫌になるよアインズ。」

刻一刻と秒針が進む中、ツアーに告げる。

「俺は、本当は友達になりたかったんだよ。この綺麗な世界を守ってきたお前を心から尊敬してたんだ…。一緒に守れると思ったのに…なのに…辛いよ…。」

 

「君は――――――

 

あらゆる生ある者の目指すところは死である(The goal of all life is death)

 

+

 

エ・ランテルの一角は建物が砂のように熔け崩れ、美しい芝生は消え去り、えぐり取られた大地はガラス状に輝いていた。

川も崩壊し、そこにはザイトルクワエより流れ出る水が溜まり始めた。

 

アインズは極度の精神疲労に地へ膝と手をついて、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのレプリカを落とした。

 

「くそが…いい奴なのかと思ったのに…。」

美しく作ったお気に入りの街は自分達の手によって一部破壊されてしまった。

人々は何者かの襲撃より街を護る愛すべき神に感謝し、祈ったり万歳唱和をしたりしていた。

 

「神王陛下!!」

アインズが目をやると、そこには先程ツアーを止めようとした――聖王国ですっかり馴染みになった蒼の薔薇達がイビルアイとリグリットを抱えて向かってきていた。

「神王陛下、申し訳ありません。」

イビルアイは肩を預けていたガガーランからサッと離れると(くずお)れる神の足元に頭をつけた。

「イビルアイ嬢…後一歩早く出てきていたら君達は巻き添えだぞ…。考え無しだな…。」

アインズは疲れ果てた気持ちを一度抑え、頭を下げる冒険者の頭をポンと撫でた。

「も、申し訳ありません。それより、あいつは…ツアーは…。」

「はぁ。疲れた。鎧は破壊したが本体が別にいる以上また襲われるだろうな。」

芝生のなくなった、土が剥き出しの地面にゴロリと寝転がった。

「「「「アインズ様!!!」」」」

守護者達の悲鳴のような声が聴こえて来る。

「貴様ら、よくも!!」

アルベドがイビルアイとリグリットに襲いかかろうとすると、フラミーがそれを止めた。

「待って!!待って……。やめましょう…。」

「フ、フラミー様…。」

デミウルゴスとアウラはパニックになりかけた人々に支配の呪言やスキルを乗せた吐息を用いて見事に避難させていた。

自由にするように言い渡したのか戻って来る姿がアインズの目に映る。

 

「フラミーさん、よく俺のやりたいこと分かりましたね。」

フラミーは目にいっぱいの涙を溜めながら笑って寝転がる支配者の脇に寄り添うように座った。

「何年やって来たと思ってるんですか。」

アインズはフラミーの涙を指の背で取ると軽く笑いパタリと腕を落とした。

 

「アインズさん?アインズさん!!」

瞳の灯火の消えたアインズをフラミーは慌てて起き上がらせて前後にグラグラ揺すった。

「あぁあぁあぁあぁ大丈夫です、生きてます。死んでますけど。ただ猛烈に疲れた。眠りたいです。子供達もフラミーさんも、一歩間違えたらと思ったら怖かった…。」

へへへと笑い、怖かったと言う神らしくないその姿を見てしまった蒼の薔薇や、讃えたいと思って走って来ていた住民、守護者達は拳から血が流れるのでは言うほどにその手を握りしめた。

この優しくも強大な王を守りたいと思ったのだ。

 

フラミーはアインズから溢れた鈴木悟を慰めるように抱き締めると小さな声で告げる。

「皆あなたが守りました。モモンガさん。」

アインズはフラミーを抱き締め返すと、再び瞳の灯火を消した。

 

+

 

「鎧を失ってしまったな…。あれを作るのには苦労したというのに。」

ツアーは目を覚ましてやれやれとため息をついた。

 

(俺は、本当は友達になりたかったんだよ。この綺麗な世界を守ってきたお前を心から尊敬してたんだ…。一緒に守れると思ったのに…なのに…辛いよ…。)

 

「君は本当によくわからない人だなぁ。」

鎧の今際の時に呟いた寂しそうなその骸骨を思い出す。

 

「はぁ。今更だけど評議国に招待してみようか。来るだろうかな…。」




いや、普通こんだけ襲われたら来ませんよ(マジレス

次回 #62 星に願いを
2019.05.31.21:20フラミーさんの行方は投票にすることにしました!
誤字りましたけど…笑(くっつけ→くっつけろ
アンケート開始です!6/3 12:00までにしようかと思います!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#62 星に願いを

アインズは神官長達や全ての聖典をエ・ランテルに呼び、光の神殿にて早急な復旧復興会議と、評議国・竜王対策会議を開いた。

そこには行政官の死の魔法使い(エルダーリッチ)や、ゴブリン兵団の長も来ており、皆が真剣に王の話に耳を傾けた。

 

「最悪、竜王達を滅ぼすことになるかもしれん。最初に私は全ての生あるものを魔導国へと言ったが、恐らくそれはもう叶うまい。」

慈悲深き王の嘆きは深かった。

 

「ツァインドルクス・ヴァイシオンは、このまま我が国に戦争を仕掛けてくるでしょうか。」

急遽呼び戻された漆黒聖典隊長の声音はもしそうなれば命を賭してでも戦い抜くと言うやる気を感じさせた。

「無いとは言い切れん。ナザリック全軍を以ってそれを壊滅に追いやろうとは考えているがな…。」

「いえ。神々の兵を出す前に、我々が命を賭して戦い抜きます。」

 

「そうです。国民からも徴兵したとしても誰も文句は言いますまい。」

「陛下、宣戦布告を!」

「評議国にかける情けはありません!」

徐々に白熱し始める部屋の中、アインズは手を挙げてそれを止めた。

「落ち着け。まだ戦争と決まったわけではない。何にしても、白金(プラチナ)の鎧や全身鎧(フルプレート)を着ているもの達は入国審査時に必ず兜を脱がせろ。顔を見せるまでは決して国内に入れるな。顔は幻影の可能性もある為必ず触れて確認するように指導を徹底しろ。」

死の魔法使い(エルダーリッチ)とゴブリンが頷くと、フラミーはアインズに問いかけた。

「アインズさん、国内での兜の常なる着用を一時的に禁止しますか?」

「そうですね、それも考える必要があるでしょう。今国内は死の騎士(デスナイト)に守られて安全ですし、街中の兜は必要ない筈ですからね。」

速記のリッチが一言一句漏らさないように議事録を残していく。

 

アインズは一つため息を吐くと全員の顔を見回した。

「兎に角万一それが現れたら、即座に身近な守護神か死者の大魔法使い(エルダーリッチ)に知らせろ。行政官ではないような、建築に携わっている者でも魔導学院に勤める者でも構わない。国民にも伝えておけ。以上だ。」

控えていたセバスが声をかけた。

「アインズ様とフラミー様がナザリックへお戻りになります。全員、礼。」

 

ザッと揃った礼を背にアインズ達が立ち去ると、皆ガヤガヤと評議国のこの度の侵略行為について話し合った。

セバスは万一の事を考慮し呼び出されるまではそのままエ・ランテルに残った。

 

リグリットとイビルアイは重要参考人として会議に招致され、白金の竜王(プラチナムドラゴンロード)について知っているほとんどの事を喋った。

ただし、最後の友情としてどこに住んでいるかは二人とも知らぬ存ぜぬで通し、決して口を割ることはなかった。

二人は胸の中で、ツアーがアインズ達に接触しなければ何とかなると信じたのだ。

いや、そう信じたかった。

 

「しっかし信じらんないねー。普通人の国来て王様襲う?」

流石のクレマンティーヌとレイナースも竜王の横暴さには呆れ返っていた。

「本当に。何を考えてるのかよくわからない人だわ。うちの国でもフロスト・ドラゴンが働き始めたけれど、こんな奴じゃ荷物も運べないでしょうね。」

そう言うレイナースの隣でネイアは神王と別れてたった数週間で、それもこんな形で再び神の嘆きを聞くとは思いもしていなかったため胸が苦しくなっていた。

「先輩方…私では陛下方の嘆きを止めることはできないのでしょうか…。」

胸に手を当てて震えるネイアにイビルアイがリグリットを伴って近付いた。

「ネイア…私達の落ち度だ…、魔導国の皆様には何とお詫びしたら良いか…。」

心底申し訳なさそうにしているが慰める者はおらず、それどころか針のむしろだ。

誰もが共に謁見を申し込んだこの愚かな二人を強く憎んだ。

特に最高神官長と闇と光の神官長、クアイエッセ、そしてニグンは怒りを隠そうともせず、その波動は空気を赤く染めるかのようだ。

「リグリット・ベルスー・カウラウともあろう者が、よもや陛下に仇為す存在をわざと連れて来たりはしていないでしょうね。」

クアイエッセは老婆をぎらりと睨む。

十三英雄だか何だが知らないが、この国にはそんな者すら容易に凌ぐ精鋭が揃っているのだ。

「わしもあいつがまさか…あれ程までに陛下を拒絶するとは思いもしなかったんじゃよ…。」

そう言うリグリットをフールーダはヒゲを扱きながら、ほんの少しザマァ見ろと言うような空気を含む視線を送った。

「陛下の崇高なるお考えには触れようとしなければ触れられはすまい。リグリット・ベルスー・カウラウ。お主今後闇の力を陛下より剥奪されてもおかしくはない状況だとわかっておるのかのう。」

リグリットは手を握りしめ頷いた。

「あぁ…お許し頂けた事に心から感謝しておるよ…。」

「ふん。しかし、陛下方は流石でいらっしゃる。もう相手の手の内は分かったから二度と遅れを取ることはないと仰った。わしも間近で見たかったのう…。」

フールーダはつい先程まで聞いていた神々の英姿を気持ちよさそうに思い浮かべた。

 

+

 

神官長と行政リッチを残すと会議は漸く解散した。

紫黒聖典は聖王国を現地の者たちに任せ、暫くはエ・ランテルに留まることになった。

「あーぁあ。つまーんなーい。評議国と戦争になったら私喜んで行くのにさー。」

クレマンティーヌは悪魔狩りを心底楽しんでいた。

悪魔は悪魔を呼ぶようで、南部はすっかりかつての北部のような様子になり始めていた。

しかし悪魔によって新たに作られた捕虜収容所の解放を行う際、クレマンティーヌは何の躊躇もなく人質を殺し、見事一つの収容所につき一人の犠牲で抑えた。

ネイアはその姿に訓練された魔導国の英雄の素晴らしさを、大罪人レメディオス・カストディオと比べ心底尊敬していた。

そして滅茶苦茶に見えるクレマンティーヌが何故隊長に据えられて来たのかレイナースは漸く納得したのだった。

「あ、あの先輩方。私、神殿にまだ用があるんです。もしあれでしたら、先にご飯食べてて下さい。」

その声に姉二人は振り返ると、今出てきたばかりの神殿とネイアを見比べた。

「今は祈りを捧げても流石の陛下方とは言えお聞き届けいただけないと思うわよ?」

レイナースの声にネイアはプルプルと首を振ると、少し恥ずかしそうに神殿への用事を告げた。

「ち、違うんです…。オシャシンを買いたいなって思って。」

「あーそっかー。あんたまだ持ってなかったんだっけー?私なんか陛下方のところだけ切って持ち歩いてんだー。もちろんレーナースも切り捨てたよー!」

キャハッと可愛らしく笑うクレマンティーヌをレイナースはゴチンと叩いた。

「はいはい。――ネイア。そのくらい付き合うわ。行きましょう。」

「っつー!!もー!!本当に!!」

流れ出てきた陽光聖典と漆黒聖典を掻き分けて神殿へ戻っていくと、クアイエッセがすれ違いざまクレマンティーヌに声をかけた。

「クレマンティーヌ。陛下より隊長の任を預かったんだろう。陛下に恥をかかせないでくれよ。」

「ははは、全くだな。」

好き勝手言う巨壁万軍と兄をギッと睨むとクレマンティーヌはぶーぶー文句を言いながら神殿に戻った。

 

「うっさいわねー。わーってるわよ。んなこと。」

「はは、クレマンティーヌ先輩はずっと漆黒聖典にいたんですもんね。」

「ネイア。ずっとじゃないわよ。こいつは漆黒聖典抜け出して変な宗教やって陛下に殺すって言われたこともあるんだから。」

「う、うるさい!!レーナースなんか神王陛下にフラミー様へ指図するように頼んだ癖に!!」

皆何かしら神に無礼を働いた事がある様子の紫黒聖典は、周りの聖典からは世話の焼ける妹達と言う視線で見られていたのだった。

 

「あ、セバス様。」

ネイアは初めて神に謁見した日、誰なんだろうと思っていた守護神に駆け寄った。

守護神の守護階層とその役職は聖典に入ると必ず叩き込まれる。

「これはバラハさん。何かお忘れですか?」

「はい!あの日の忘れ物を…!」

ネイアの瞳にセバスは何を言わんとしているかピンと思い当たった。

「ふふ、何枚にしますか?」

「お父さんにもあげたいんで、取り敢えず三枚づつお願いします!それとは別に北部の神殿に頼まれたので別の会計で五百づつお願いします!」

クレマンティーヌとレイナースは知らない間に後輩が頼まれていたお使いに、やはり聖王国はこの子が中心になるのが一番だと思った。

「それはそれは。神殿に持ち帰る分はフロスト便でお送りしておきましょう。輸送費は私が持ちますよ。頑張って陛下方のお役に立って下さい。」

神々自ら生み出した守護神に激励されると、ネイアは喜びに顔を赤くしてぺこりと頭を下げた。

 

+

 

玉座の間には大量の異形が集まり、今後のナザリック防衛についての話し合いがなされていた。

「ですので、急ぎ囮となるナザリックをどこかに作るのがよろしいかと思います。相手は旧カルネ村付近でうろついていたという市民からの報告もありますし、カルネ市から遠くも近くもないような位置で。」

デミウルゴスの提案に誰もが賛成した。

「良いだろう。ではアウラ、マーレよ。二人でトブの大森林に架空のナザリックを生み出せ。将来的には冒険者達を敢えてそこで鍛えてもいいかもしれん。真のナザリックとはある程度違いをつけろ。3階層まで作れば充分だ。」

双子は深々と頭を下げた。

「完成したらパンドラズアクターは私と共にアンデッドを呼び出すぞ。いいな。」

「畏まりました。ンァインズ様。」

優雅に手をくるくると回して腹に当てると、頭を下げた。

「…よし。それでは解散、ん?」

玉座の間では相変わらず何も言わなかったフラミーがアインズの隣でおずおずと手を挙げた。

「どうしました?」

「あの、アインズさん。今後きっとあれはまた襲ってきますよね。」

フラミーの疑問にアインズは首を縦に振った。

「そうなると思います。」

「そうですよね…始原の魔法はかつてプレイヤーを幾度となく殺してきた…。」

確かめるように魔法の情報をフラミーは口にした。

アインズは何か思いつめているようにも怯えているようにも見えるフラミーを手招く。

「大丈夫ですよ。きっと守りますから。ほら、来てください。」

フラミーはぷるぷると頭を振った。

「アインズさん、もしそれが手に入ったら、きっと貴方は守り切ってくれますよね?」

不可解な発言にアインズは首を傾げた。

「え?」

「私、星に願いを(ウィッシュアポンアスター)を使おうかと思うんです。」

フラミーはそう言うと体の周りに魔法陣を出した。

「な!?やめなさい!!あなたは指輪を持ってないんだ!!」

アインズは驚くと鎮静され、にこりと笑って砂時計を取り出したフラミーの手に立ち上がり様魔法を投げた。

「くそ!現断(リアリティスラッシュ)!!」

一定以上のダメージを負ったフラミーは何故?と驚くような視線を送りながら魔法陣と血を散らし、尻餅をついた。

「アインズ様!?」「フラミー様!!」

思いがけもしない支配者たちの行いに守護者も僕も何が起こったのか解らず悲鳴のように名前を呼ぶことしかできなかった。

「馬鹿野郎!!何やってんだフラミー!!」

アインズは鎮静されながらフラミーに近付き片膝をついてしゃがむと、腕と手首から赤紫の血をダクダクと流し始めたフラミーの肩を持って激しく揺すった。

しかし、フラミーの瞳は驚きの色から固い決意に満ちたものへと変わった。

「アインズさん!従属神の記憶にあった始原の魔法、それをあなたが奪えばナザリックの脅威はこの先百年はなくなるんです!!」

「その願いが聞き届けられるかもわからないんだぞ!!やるなら俺の指輪で試せばいいだろうが!!」

二人の間に満ち始めた激しいエネルギーに僕は口の中がカラカラに乾いていくのを感じる。

「あ、アインズ様、フラミー様、どうかおやめください。」

一番近くで見ていた統括が二人の元に両膝をついて胸の前で手を組んだ。

アインズは鎮静されても鎮静されても抑え切れない感情が波のように押し寄せるのを感じた。

「うるさいアルベド!この人には一度分からせないとダメだ!!」

「あなたこそ解ってないです!!あなたの持つ指輪は、もっと私達で対処できないプレイヤーが現れるまで絶対に使っちゃいけないんだ!!ザイトルクワエがユグドラシルから来ているなら、他のボス級の敵…ワールドエネミーだって現れかねない!!今からまだ百年猶予があるうちに、この選択をしないと手数が減るんです!!Lvはまた取り戻せます!!」

プレイヤー、ワールドエネミー。

その言葉はアインズの最も恐れる脅威だった。

「っ…だからって何で相談もなく勝手な事しようとするんだよ!あんたあの日俺が皆守ったって言ったじゃないか!!」

「守りましたけど、アインズさんはあんなに傷付いてたじゃないですか!!」

「俺は最初に少しダメージ食らっただけで――「違う!!」

フラミーは見たこともないほどに怒っていた。

ゆっくり立ち上がると、未だしゃがみこむ支配者に叫ぶ。

「鈴木さんが傷ついたって話をしてるんです!!」

その手はわなわなと震え、玉座の間には再び静寂が訪れた。

 

「すず…俺が…?」

フラミーは怒りの感情を逃すように息を吐いてから続けた。

「私は元から弱いんです…。例え星に願いを(ウィッシュアポンアスター)を使わなくても…レベルが下がらなくても…物理的にはきっと誰も守りきれない。バフなら多少レベルが下がったところで使えますしね。怖かったなんてあなたが思いもしないくらいに、この世の全ての力をモモンガさんに私は送りたい。それが私のできる()を守る精一杯。」

くるりとフラミーは背を向けると、玉座の階段の下に転がる砂時計へ向かって歩き出した。

 

「ま、待ってください。俺は本当になんともないです。今はまだその時じゃない。」

時計を拾うフラミーが再び魔法を発動させようとする気配に、アインズは焦って立ち上がって駆け寄ると、フラミーの血が流れ続ける腕を高く引っ張り上げた。

「うっ…く……。」

痛みを伴うそれにフラミーが苦しげな声を上げた。

「頼みます、そんな事されたら俺本当に…!!本当にお願いしますから!!それが一番辛い!!」

未だ砂時計を離さないその手に負の接触(ネガティヴタッチ)で強いダメージを送ると、ポロリと砂時計は落ちていった。

「いっ…ッツ……!」

「お願いします。絶対にやらないで下さい。もしやるとしたら、貴女をどんなに傷付けても止める。この世界でそれだけの願いを叶える為に必要な経験値量は計り知れない。」

五レベルで済むかもわからないその願いは絶対に認められなかった。

目を細め、なんで分かってくれないんだとでも言う様な視線を送ってくるフラミーにアインズはもう一度頼んだ。

「お願いします…。」

フラミーはアインズの眼窩に燃え続ける悲しげな炎を見つめると、諦めたように下を向いた。

 

「…分かりました…。」

「はぁ…良かった…。じゃあ、はい。」

アインズは安堵の息を吐き出しフラミーの腕を離すと、手の平を差し出した。

「なんですか?」

「砂時計全部出して下さい。何回あなたがガチャ回したか知ってるんですからね。観念してお縄について下さい。」

苦々しげにアインズを見ると、骨は何も感じないと言った風に手をもう一度、ンと動かした。

「始原の魔法も奪えてない中そんな事して、次にまたアレが来たらどうするんですか。」

「その時は俺一人で倒すんで。ほら。いいから。」

フラミーは地面に向けて無限の背負い袋(インフィニティハヴァサック)を開くと、そこからバラバラと大量の砂時計が床に散らばっていった。

「パンドラズアクター。これは宝物殿にしまっておけ。後で数を報告しろ。」

パンドラズアクターは恭しく頭を下げ、砂時計を自分の闇に放り込みはじめた。

 

「ペス。フラミーさんを部屋に連れて行け。いや、砂時計が無くても魔法は発動できるな。シャルティア、お前も行くんだ。もしフラミーさんが魔法陣を出すようなことがあればお前が斬りつけろ。」

「し、しかしアインズ様…。」

「命令だ。逆らう事は許さん。迷わず斬れ。一定のダメージが必要だ。これはその人を守る為に必要な事なんだ。絶対に手加減するな。」

「…っか、畏まりました…。」

シャルティアは何故魔法を使おうとする御身を止める必要があるのか解らないまま――しかし、それが御身を守るために必要と言われてしまっては納得するしかなく、渋々頷くとペストーニャに支えられて玉座を去る背を追った。

 

「まったく、開戦した時にもフラミーさんは何かを言おうとしていたが。」

アインズは床に散らばる――己が手で傷つけた仲間から流れて生まれた血溜まりを睨むと手を握った。

 

「…この俺に仲間を傷付けさせた罪は重いぞ。ツァインドルクス・ヴァイシオン!!!」




次回 #63 閑話 皆の夜
12:00更新です。

あわわわわフラミーさん落ち着いてください!

アンケート、これはアインズ様を正規ヒロインに改めて据え直して、デミを弄ぶ感じで決まりになりそうですね!(弄ぶな
アインズ様がヒロインとしてアップを始めました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#63 閑話 皆の夜

フラミーは治療を受けると装備を全て脱ぎ捨て、お団子も崩すとベッドに入った。

「私、本当に役立たずだ。」

苦々しげに漏らしたその声に、控えて立っていたシャルティアはおろおろしていた。

「フラミー様…そのようなことは決してありんせん。どうか御身を一番大切にお考えいただきます様に心よりお願い申し上げんす…。」

フラミーはそれを無視して布団に潜り続け考える。

本当にアインズは自分の持っている砂時計の数を知っていただろうかと。

そして、すぐにそんな訳が無い事に思い至って笑った。

「ふ、策士ですね。」

 

+

 

アインズの部屋にはシャルティアを除く守護者達が来ていた。

「お前達もあの人から目を離すな。」

アウラとマーレは不安げに顔を上げた。

「フラミー様は…何をされようとしたんですか…?」

「し、始原の魔法って一体なんなんですか?」

アインズは二人に頷くと、逃げるためではなくデミウルゴスに顎をしゃくって説明しろと伝えると、デミウルゴスは立ち上がり守護者を見渡して聞く用意ができている事を確認した。

「君達は従属神を覚えているかな?」

皆が頷く。

「あれの記憶の中からアインズ様はあのツァインドルクス・ヴァイシオンの持つ力の一端を発見されました。それが始原の魔法です。この世界に我々も行使する位階魔法が八欲王よりもたらされる前には竜のみがその魔法を使って世界を席巻していました。が、どうやら漆黒聖典の話によるとそれはもう殆ど穴蔵から出てこない竜たちと、竜王国のドラウディロン王女、そしてあの真なる竜王くらいしか行使できるものはいないようです。」

「そ、その魔法はそんなに強力なんですか?」

マーレの疑問にデミウルゴスは頭を振った。

「わかりません。ただ、以前いたプレイヤーやエヌピーシー達はそれによって殺されているということだけは確かです。そして聖典によればドラウディロンの使うそれは何百万人もの命を糧に繰り出される魔法だとか。アインズ様とフラミー様の黒き豊穣への貢(イアシュブニグラス)が十四万人を贄に仔山羊を十体出している事を見ても、恐らく命を糧にする魔法は強力でしょう。」

しんと部屋が静まったのを見て、アウラは再び最初に問いかけた質問を投げる。

「だからフラミー様はその魔法を竜王から奪ってアインズ様に捧げようとしたんですよね…?それってダメなんですか?」

 

アインズは静かに口を開いた。

「人…その友のために命を捨てる事にこれより大いなる愛はない。マルコの福音書だったかな。あの人は自分の力と引き換えにそれを行おうとしたんだ。しかもどれ程の力を失うか分からない中で…。もしそんな事をしてあの人が生まれたての赤ん坊のようになったらどうなる。」

守護者が絶句し、アインズの行動の理由に思い当たったのを確認した。

「そうだ。いつ何者に殺されるかも分からん。しかし、例え自分が死んでも力を持つ私がいればナザリックとお前達は護られると思ったんだろう。」

「そんな…。」

アウラは自分の愚かな発言を悔いた。

「申し訳ありませんでした…。少しでもそれをいい考えだなんて思ったあたしは…大馬鹿ものだ…。」

「良い。アウラ。皆わかったな。シャルティアにも伝えておけ。それを食い止めることの重要性を。」

守護者が静かに頭を下げるのを見ると、何処かと線が繋がる感覚にアインズはこめかみに手を当てた。

「私だ。…パンドラズアクターか。あぁ。いや、いらん。数の報告はいらんと言った。ああ言えば全てを出すと思ったに過ぎない。よくやった。」

静かに手を下ろすと、今後どうするかと目をつぶった。

 

「とりあえず、皆で見舞いに行くか…。腕は治っただろうが…あの人のことだ。落ち込んでいるだろう。」

 

+

 

シャルティアが守護者とアインズの来訪を伝えると、フラミーはフラミー番に楽な服を持って来させた。

その黒い半袖のワンピースはかぶるだけで着られる、冷気耐性しか付かない趣味の収集品だ。

 

「あ、フラミーさん…。」

「アインズさん……。」

下ろした髪は蕾と耳にかけられ、膝丈のワンピースを着ただけのフラミーは裸足でぺたぺたと寝室を出てきた。

 

「腕、傷跡残ってないですよね。」

アインズはフラミーに近付き、血を流していた腕を軽く掴むと親指で撫でた。

「治される気満々だったので綺麗に治りましたよ。」

そう言うとフラミーは苦笑した。

「それは良かったです。本当にすみませんでした。痛かったですよね…。」

「全然。何ともありませんでしたとも。」

あれほど苦痛に声を上げていたフラミーはふふんと鼻を鳴らした。

 

「あの、フラミー様。」

アウラの心配そうな声がかかると、フラミーはいつも通りの笑顔を作った。

「なぁに?」

アウラは少し拳を握り下を見て何かを考えると、許可なく立ち上がりフラミーに抱きついた。

「フラミー様、あたし、あたし嫌です!フラミー様が危険な状態になるようなこと!絶対嫌です!!」

その声は、どんどん大きくなって、フラミーの胸の中で泣き出した。

「フラミー様。我々デハゴ不安モアルデショウガ、キット御身モアインズ様モオ守リシマス。」

「そ、そうです!だから、だから…」

泣きそうなマーレとコキュートスを手で招き寄せ、マーレがフラミーの元にたどり着くとフラミーは床に座った。

上から見下ろすことは不敬だと思いマーレとアウラも床に座ると、フラミーにピタリとくっついた。

「ごめんね…。でも、皆には本当は分かって欲しいの。アインズさんと皆を守るためなんだから。」

跪いた大きなコキュートスの頭に手を伸ばし優しく触れると、その体はヒヤリとしていて、先程までのアインズとの苛烈なやり取りを行なった頭を芯から冷やす様だった。

知恵者二人はシャルティアに先程の会話を伝えながら、その様子を見守った。

シャルティアの目が驚愕に染まると、絶対に自分が止めて見せると胸に手をあてたのだった。

 

 

気付けば皆で円になって床に座っていた。

アルベド、アインズ、アウラ、フラミー、マーレ、デミウルゴス、コキュートス、シャルティア……アルベド。

その円は、かつて円卓の間で開かれていたギルド集会のようで、アインズは少し懐かしい気持ちになった。

アウラとマーレはフラミーに寄り添って、フラミーの膝に頭を預けていた。

「フラミーさん。まだ諦めてないんですか…?」

双子の頭に両手を乗せたフラミーは幸せそうだった。

「そう、ですね。何にも脅かされない強いアインズさんがいてくれたら、やっぱりそれが一番で…。もし私が死んでも――。」

「おやめください!!」

デミウルゴスは叫んでいた。

「アインズ様もフラミー様も我々がお守りいたします。あんなトカゲ一匹、このナザリックの脅威でも何でもありません!」

「そうでありんす。フラミー様は安心して世界征服だけお考えいただければ良いでありんす。」

縋る瞳にフラミーは耐えられなくなり天井を見上げた。

「皆に守られる私じゃなくて、アインズさんみたいに皆が安心して背中を預けられるような私だったら良かったのに。もっとユグドラシルやってれば良かったかな?」

「はは、そうですよ。ちゃんと一生懸命インしないから。」

支配者達はいつもの不思議な言い回しで前世界の事を話して笑った。

 

穏やかな雰囲気に守護者は安心すると、アルベドはフラミー番とアインズ番を呼んだ。

「フラミー様とアインズ様にお飲み物をお出ししてちょうだい。」

それを聞いた二人は頭を下げ、ハチミツがたっぷり入ったホットミルクを八杯持ってきて、それぞれに渡した。

アインズも飲めないがその甘い香りと温もりを感じた。

 

「アウラ、マーレ。ソロソロ起キ上ガッタラドウダ。御身ノオ邪魔ダ。」

コキュートスの声に二人は嫌々起き上がり、ミルクの入ったマグを手に取った。

「温かい。皆でこんな風にゆっくりするの初めてかもしれないですね。」

フラミーの声に皆頷いた。

「フラミーさんが望むなら、国も世界も放っておいて、いつまでもこうして皆で過ごしても良いんですよ。」

「ふふ、ダメですよ。ちゃんと、世界中どこにいても私たちの存在がわかるくらいにその名を轟かせなくっちゃ。それに、この綺麗な空を守らないと。」

体育座りでミルクから熱を奪おうとふーふーそれを吹くアウラの頭上を通り越して、アインズが髪をさらりと撫でるとフラミーはくすぐったそうに笑った。

「ふふ、私子供じゃないですよ?」

「…知ってます。でも俺の方が少しお兄さんです。」

支配者たちは笑い合った。

 

心地いい沈黙が訪れるとフラミーはデミウルゴスへ顔を向けた。

「ねぇデミウルゴスさん。」

「はい。フラミー様。」

少しフラミーはなにかを考える姿は苦笑まじりだった。

「ナザリックの為に子供作りますか。」

「はい………は?」

デミウルゴスは言われた意味が分からずにマーレの向こうのその人の顔と、自分の渡した耳にかかる蕾を交互に見た。

「は?フラミーさん?」

アインズと守護者達の視線を感じる。

フラミーは正座を崩してぺたりと床に座り直すと、マグを手の中で弄んだ。

「今、何も役に立てないなら、やっぱり前に二人が言ってたように繁殖が一番ナザリックの為なのかなって思って。」

「ちょっと、忘れて下さいって言ったじゃないですか。」

デミウルゴスは否定する支配者を尻目に黙ってマグをおくと、ジャケットを脱いで腕にかけ――フラミーの前に移動していくと胡座をかいた。

その様子をアインズは黙って眺めると、悪魔は己の両膝に手をつき、深々と頭を下げた。

「フラミー様、是非よろしくお願いいたします。」

「おい!お前――。」

「と、言いたいところですが、そういうお気持ちでのお誘いはお断り致します。あなたがこのデミウルゴスと子供を持ちたいと心からお望みになるまでその言葉はどうぞお仕舞い下さい。」

そう言うと悪魔は抱えていたジャケットをフラミーの露わになっている膝の上にかけた。

アインズは受け入れる事は許さないと思ったが、いざ頭を下げるそれを目にすると、デミウルゴスを心底損な男だと思った。

「デミウルゴスさんの望んだ実験なのに…。」

「違います。最初からそんな実験は望んでおりません。お断り申し上げます。」

フラミーの揺れる視線から目を離さずに、キッパリそう告げるとデミウルゴスは右手薬指から指輪を引き抜き、左手の薬指に入れ直した。

話は以上とばかりに頭を下げると悪魔はマーレとコキュートスの間に戻って行った。

「イイノカ。」

「煩いですね。良いも悪いもありません。」

コキュートスの問いにぶっきらぼうに応えると、片膝を立てて再びマグを手に取りそこに視線を落とした。

 

「…フラミーさん、仕返しですか?」

「仕返し……。ふふ、そうですね。全裸の人間見せてきた仕返しです。」

デミウルゴスは頭を下げた時に落ちてきた前髪を鬱陶しそうに後ろに送った。

 

+

 

支配者たちは守護者たちとそのまま床で円になって眠った。

いや、アインズは眠れないので暗い天井を眺めてフラミーの話を思い出していた。

(フラミーさんは俺の指輪はまだ使いどころじゃないって言ってたけど、指輪でその願いを求めるのが一番平和な気がする…。)

ちらりとフラミーの方を見ると、こちらに背を向けて眠っていた。

アウラがアインズのローブのトゲ(・・)を避けるように少しくの字に折れて眠っているのが視界に入るとアインズ番に着替えるか、と視線を送って二人で出て行った。

アルベドがすがろうとしたのを狸寝入りのシャルティアが止めたのは言うまでもない。

 

「フラミー様。」

自分を呼ぶ声にフラミーは悪魔の金色の瞳をのぞかせると、デミウルゴスが自分の曲げた腕を枕にして美しい宝石の目でこちらを見ていた。

その胸あたりでマーレがすやすやと眠っている。

「デミウルゴスさん…。」

デミウルゴスはフラミーの顔にそっと手を伸ばし、指の背で頬を軽く撫でるとその耳から蕾を引き抜いた。

そして蕾の先をフラミーに向けると、小さな光が蕾から生まれサラサラと降り注いだ。

「元気のおまじないでございます。」

「ふふ、アインズさんもそう言ってました。」

男の子揃って同じ事を言う姿が可愛くてフラミーは笑った。

「そうでございましたか。ふふ。さ、どうぞ。」

フラミーの顔の前で半端に開かれている手の中に蕾を置くと、悪魔は再び目を閉じた。

フラミーはいつでも優しいその悪魔は本当に悪魔なんだろうかと疑った。

「あったかい…。」

そう呟くと、蕾を大切そうに両手で抱いてフラミーも目を閉じ優しい眠りに落ちた。

 

+

 

(はぁ?デミウルゴス何のつもりよ。)

(全くでありんす。自分ばっかりお情けをかけて頂いておいて断る。しかも断ったくせにあの態度。信じられんせん。)

(あの男ははっきり言って私たちの敵よ。私がフラミー様にお情けを頂こうとした時も邪魔してきたのよ。いい加減にして貰いたいところね。)

(全く本当不届きな男でありんす。フラミー様が妾をお誘いになったら今すぐでも寝室へ行きんすのに。)

(私もそうするわ。今度女子三人という事でお誘いしましょう。)

(良い提案でありんすね。当然あの男には秘密で。)

フラミーの秘密を共有した女子のヒソヒソ話にデミウルゴスは額の血管をピクピクと浮き上がらせた。




次回 #64 世界の選択
00:00更新です!

デミちゃん弄ばれてる(にっこり
今までコメントで誰もアインズ様応援してなかったのに!!
ダブルスコア決めてるアインズ様の底力よ……!!
明日6/3 12時でアンケートは締め切ります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#64 世界の選択

アインズの怒りの声が神都大神殿に響いていた。

「ふざけるな!!もう一度聴かせろ!!」

「は!はい!!アーグランド評議国から、永久評議員ツァインドルクス・ヴァイシオンより、評議国にて謝罪の懇談会を開きたいと、書状が届いております!!招待客には神王陛下とフラミー様のみのお名前が…。」

 

守護者達も忌々しげに視線を交差させ、怒りの標的となった文官があまりの恐怖にヒューヒューと息を吐いている。

「ツァインドルクス・ヴァイシオン。罠か。しかし国に招くとはどう言うつもりだ。我々が効果範囲に入った瞬間始原の魔法を放つつもりか。」

アインズの考察に神官長達が怒りの声を上げるがそれを無視して忠臣に尋ねた。

「デミウルゴス。お前はどう見る。」

「はい。始原の魔法を放たれなくても、少なくとも竜王達に囲まれ何かしら害されるように思います。しかしこれで断り、始原の魔法の効果範囲を見誤りナザリックにそれを撃ち込まれても問題です。」

「最悪破壊され埋もれてアリアドネが起動するか。」

アインズの言にデミウルゴスは頷く。

どうしたものかと皆唸る中、アルベドが口を開いた。

「アインズ様?ナザリック全勢力をもって愚かな竜王達の首を刎ねると言うのは如何でしょう。もちろんアインズ様とフラミー様にはナザリックでお待ちいただいて。」

「危険すぎる。お前達は強くあれと創造されているが復活地点の確認もまだなのだ。お前たちを失うような事はできない。」

「アインズ様。試シニ死ネト仰ッテ頂ケレバ、喜ンデコノ首ヲ差シ出サセテ頂キマス。」

コキュートスの言葉にこれまで共に亜人種を探し旅をした陽光聖典が声なき悲鳴を上げると、アインズは瞳の灯火を消した。

「かつての通りならばナザリック内に復活するが…。」

「やめましょう、アインズさん。それはいけません。皆はもうただのNPCじゃないんです。」

フラミーのその声は低く、ゆっくりと話すその瞳には嘆きの色があった。

「わかっています。…かと言ってフラミーさんと二人で評議国へはとても…。」

「あ、あの、それなら…。」

マーレはおずおずと手を挙げ、言葉を濁しながら提案した。

「その、えっと、前みたいに、その、とりあえずパンドラズアクターさんとお姉ちゃんに先に行って貰うのは如何でしょうか…?あの、その、パンドラズアクターさんなら、に、逃げ切れるんじゃ…」

 

+

 

ツアーの寝ぐらには珍しい客が来ていた。

その巨体は青空の竜王(ブルースカイ・ドラゴンロード)、スヴェリアー・マイロンシルクだ。

「ツァインドルクス・ヴァイシオン。お前は何を考えているんだ。」

不愉快そうな声にツアーは頭もあげずに答えた。

「なんだろうね。正直僕もよくわからないよ。」

ただ、あの時の寂しそうな顔に昔の友人を思い出しただけ。

ただ、あの声からは、本当に自分への尊敬を感じただけ。

ただ、あの燃える瞳から嘘偽りのない、善良な心が見えただけ。

理由なんてあってないようなものだ。

 

「僕は少し早まったのかもしれないと思ってね。」

「魔導王なるぷれいやーに手を挙げ返り討ちに合ったのだろう。それを何故我れらの国に招こうと言うんだ。これでぷれいやーとまた戦争にでもなってみろ。ツアーよ、この国は、いや。世界は再び焼け野原になる。」

「反省しているよ。」

ツアーはそう言いながら、やはりあの時アインズを討ち取れていれば良かったと思う。

守護神達も恐らく本気の装備ではなかった。

アインズの持っていた杖も、恐るべき力は感じたが、この背に隠す"ぎるど武器"ほどの力は感じられなかった。

敵将を討ち取れる最初で最後の機会だったのだ。

しかし、じっくりと話し合えば分かり合える気もした。

我々の世界は我々に任せて下さいと言えば、干渉せずに生きてくれるかもしれない。

ツアーはこの懇談会を少し楽しみにしていた。

話がわかる相手ならまた友達になってもいいかもしれない。

かつて十三英雄の一人に渡し、今は墓に置かれていた始原の魔法(ワイルドマジック)で作られた鎧を少し動かすと、善良だったぷれいやーの一人を思い出した。

 

「我らを巻き込まないようにしてくれれば私からは何もない。」

戦うつもりを毛頭感じさせないもう一人の永久評議員は捨て台詞を吐いて立ち去って行った。

 

「最早ぷれいやーと戦う竜王は僕一人か。皆かつての戦いで弑された。世界を守るというのも骨が折れる。」

 

ツアーは約束の日を待ち眠った。

 

+

 

麗らかな春の午後、約束の時間にそれは現れた。

 

「…君はアインズではないね。」

「だとしたらどうする。ツァインドルクス・ヴァイシオン。あれだけの事をされたのだ。仕方のない事だろう。」

 

その様子を、偽りのナザリックから支配者たちは守護者各員と眺めた。

「ははは。流石に無理があったか。八十レベル程度までしかパンドラズアクターには再現できんからな。」

アインズは何がおかしいのか遠隔視の鏡(ミラーオブリモートビューイング)を見つめて笑っていた。

それは傾城傾国を纏い隠れたアウラの瞳と繋がれて、ライブ中継されている。

アウラは本体が出てくることがあればすぐにでもそれを使うことになっていた。

 

パンドラズアクターとアウラのもしもの退避場はここだ。

真のナザリックに飛べば場所を探知される危険もある。

ただ、アインズは評議国の探知魔法技術はそう高くはないと結論を出し始めていた。

隠蔽魔法を散々使ったとは言えナザリックに同じような監視が向けば相手は爆散するだろうが、まるでそんな様子はない。

「こんな奴の為に全く。」

吐き捨てるアインズの後ろで全く全くと守護者達が首を振っていたが、フラミーは厳しい視線を鏡から離さなかった。

 

『まぁいいさ。そこのお嬢さんを通してアインズも見ているようだしね。』

鏡から流れ出てきた忌々しいドラゴンの発言に室内の温度が下がった。

アインズはこめかみに手を当て瞳を揺らした中継員に繋いだ。

「アウラか。お前に責任はない。バレている以上隠れても無駄だ。傾城傾国だけは見せるな。勘付かれると厄介だ。何でもいいから上から羽織れ。その後パンドラズアクターと並ぶんだ。」

 

 

『君は…法国の盟約の子供ではあるまいね。』

『はぁ?何言ってんの?私は法国じゃなくてぶくぶく茶釜様とアインズ様、それからフラミー様の子供なんだけど。』

『そうかい。じゃあ法国はあれを出さない約束を破ってはいないのかな。』

『ちょっと!法国はもう、ま!ど!う!こ!く!そのくらい覚えなさいよあんた。』

 

アウラの可愛らしい怒りはアインズとフラミーの中でチリチリと燃える炎を少しだけ小さくさせた。

 

『そうだった。悪かったね。所で、アインズ。君は世界を守りたいと思っているんだったよね。』

 

アウラの方を向くその鎧はアウラの瞳の中に潜む死を見通そうとしているようだった。

 

「こいつは同じことしか言えんのか?それこそNPCだな。」

「はは、本当ですねー。」

支配者たちの呆れた声に、NPC(守護者)達は恥じ入る。

「申し訳ございません。アインズ様。フラミー様。」

アルベドの声にえ?と振り向けば守護者達が深く頭を下げていた。

「あ、いや。NPCって…あぁ…。お前達の事じゃないさ。難しいな。なんて説明するのがいいかな…。」

「アインズさん、鎧が。」

フラミーの声に呼ばれ鏡へ意識を戻すと、鎧がアウラに近寄ってきているところだった。

『見ているんだろう。君は世界を守りたいんだろう。』

 

「こいつはどう言って欲しいんだ?一体。」

アインズは独り言を言うとこめかみに手を当て、パンドラズアクターと繋がりを感じる。

「この同じことしか言わないN…いや、ノンプレイヤーキャラクターに"だからそう言っているだろう、馬鹿野郎"と言ってやれ。」

 

『アインズ様は、だからそう言っているだろう、馬鹿野郎と。』

本当にそのままを伝えたパンドラズアクターが襲われるんじゃないかアインズは一瞬冷や汗が出る感覚に陥った。

 

『そうかい…。でも、どうやら僕と君は世界の守り方が違うみたいなんだ。できれば、世界を渡る力を持つ君には世界の選択に手を出すことを諦めてもらいたいと思う。そうして貰えれば、僕は君にも君達にも特別何か危害を加えたりはしないと誓うよ。蹂躙しなければと言う条件は付くけれどね。』

 

アインズはこの頭のおかしいドラゴンの言い分に何かが引っかかる。

世界を守りたいと言っているのに、世界が認めるなら世界が崩壊してもいいとでも言うようなこいつは一体何を考えているんだ。

「この人、やっぱり変ですよね。」

思考に没頭しかけたところでフラミーから声がかかった。

「まぁ、変な奴ですけど。…なんですか?」

アインズはそこに答えがあるような気がした。

「世界の選択って言ってるけど、世界は私達を呼び出したじゃないですか。プレイヤー嫌いそうなのにスルシャーナさんとは友達だし…世界の選択って何なんですか…。」

 

アインズはそれを聞くとガタンと立ち上がり、こめかみに手を当て、パンドラズアクターに繋げた。

「こちらに転移門(ゲート)を開け。」

『し、しかしンァインズ様』

「いいから開け!!」

「え?アインズさん!どうしたって言うんですか!」

「アインズ様!!」

闇が開くとアインズは周りの止める声を無視してそれを潜ってしまった。

 

鏡の中にその姿が現れたのをフラミーは見ると、全員に告げる。

「始原の魔法が放たれる危険があります。全員防御を最大限に固めなさい。行きます。」

 

+

 

闇から現れたアインズを見ると鎧は満足げに頷いた。

「焦れったく思っていた所だから助かるよ。アインズ。」

アインズはツアーの言うことを無視し、違和感をぶつける。

「ツァインドルクス・ヴァイシオン。お前は何も知らないんじゃないのか。」

「どう言うことかな?」

「お前はプレイヤーがどうやってこちらへ渡ってきているか聞いたことがあるか。」

闇からフラミーが現れたのをチラリと見てからツアーは腕を組んだ。

 

「聞いたとも。皆、ユグドラシルと言う世界を、うんえいと呼ばれる者が終わらせたと思ったら、ここにいたとね。」

「…お前がどこまでユグドラシルを理解しているのか知らんが、ユグドラシルは何の力も持たない人間が作ったただの遊びの世界だ。運営もただの人間の集まりだ。」

最強装備に身を包む面々が続々と転移門(ゲート)を潜って現れる。

「何の力も持たない人間が作った遊びの世界ね。それができる者達をこの世界では神、乃至は創造主と呼ぶんだよ。君達ぷれいやーは皆それをわかっていない。」

 

「ち。原始人め。先入観を捨てろ。もう一度言うがユグドラシルは何の力も持たない世界だ。私たちも何の力も持たない人間だった。」

「NPCの皆も命を持ってはいませんでした。」

フラミーの言葉にアインズは頷いてから続けた。

「力を持たない私たちは、皆この世界に引っ張られて、無理矢理連れて来られたんだぞ。」

NPC達は自分たちの起源を必死に理解しようと耳を傾けるが、三人の知恵者ですらその言葉の持つ真実の意味は分からなかった。

たしかに自分達は命を持たなかった、しかし至高の四十一人に命を与えられた。

それ以上でもそれ以下でもない。

御方々が人間だったと言うのは初めて聞いたが、しかし世界を作って渡るなんてことが出来るのがただの人間だろうかと心底疑問に思う。

その一点に関しては目の前の不愉快な竜に全面的に賛成だ。

NPC達が精一杯生み出されたその頭で考えていると、アインズが口を開いた。

 

「お前はもう気付いているんだろ?私たちの存在こそこの世界の選択なんじゃないのか。」

 

鎧はアインズの言葉に黙った。

片手を顎に当て、何かを少し考えてから再び口を開いた。

「…言いたいことはわかるよ…。それでも君達はこの世界の異物だ。」

その声は心底辛そうだった。

 

「…君達はりあるでユグドラシルを筆頭にあらゆる世界を生み出し、そこに渡っては多くの冒険をしたそうだよね。ある世界では魔王を倒して世界を救い、また別の世界に渡れば今度は勇者を倒す魔王になる。遥か過去や未来、空に煌めく星の海にも行った。そうだね?」

鎧は確かめるように二人を見る。

 

「…まぁ…一部語弊はあるがその通りだ。」

「あの、全てはここの世界の人達が本を読むのと同じですよ。バーチャルで作った世界に入って遊ぶ、それだけです。」

フラミーは少しでも伝わるように話を噛み砕いた。

ばあちゃる…とツアーは繰り返した。

「それが神の行いだと言っているんだよ。フラミー。君達はその世界を作り、渡ると言う凄まじい力を持つ事を当たり前に考えすぎている。だから世界に手を加えたり蹂躙することに何の痛痒も感じずにいられるんだ。」

鎧から出た言葉にフラミーは絶句した。

「ち、違う…違います…。」

 

「フラミー、君はまだ無垢な様だ。しかしその無垢さをいつまで保っていられるだろうね。君達はここに来る前に無垢なヒトだった時と違ってその邪悪な体に心が引かれ出しているんじゃないか?君達がそれまで別の世界に渡った時、魔王の体になると当たり前のように勇者達を殺したのと同じように。スルシャーナも同じように悩んでいた。自分の体に心が蝕まれる事を。」

フラミーは可哀想なものを見るような目で鎧を見た。

「あなたやっぱり何もわかってないです。それは――」

 

反駁しようとするフラミーの肩にアインズは手を置いた。

「フラミーさん、やめましょう。こいつには、いや。俺たちと違ってリアルを知らない者にそれは解りませんし、解らせても何の意味もない事でした。」

「でもアインズさん…。」

「仕方がないことです。高度な科学は魔法と同じだとタブラさんも言ってました。きっと今までの全てのプレイヤー達がそれを説明して来たんだと、あいつからはそれが感じられました。初めて会った時も、考えてみれば世界を渡るのなんのと言っていましたしね。」

アインズはフラミーの手を握って、鎧へ向き直った。

 

「なぁアインズ。僕は世界のありように関わる事から手を引いて欲しいだけなんだよ。善良な心で国を立ち上げるくらいは目を瞑る。君達ぷれいやーは自分をヒトだと言うが、それはこの世界にとっては神に等しい。特に君はスルシャーナにも崇拝された神だろう。」

 

アインズは静かに頷いた。

 

「…わかった。私達は世界を渡る驚異の力を持った神だ。これまでも数えきれない程の世界を渡った。まぁ、ただ農業するだけの世界もあったけどな。」

アインズは苦笑すると、ため息をついて続けた。

 

「ツァインドルクス・ヴァイシオン。世界の有り様に関わるなというのはどこまでの話なんだ?」

「…どこまでとは…?」

 

「俺たちはここの世界の美しさに魅せられただけなんだよ。俺たちは世界もびっくりの大当たりプレイヤーだ。守りたいんだ。ここの美しさを。」

 

鎧はまるでそれを拒むかのように手を前に出した。

「君はそれを行う中できっと世界のあり方を歪めてしまう。それに、この世界の者達が選び、成長して行く中で掴む未来に異世界の存在が介入して操作したりして欲しくはないんだ。」

「…お前の言いたい事はわかる。しかしそこに待つのは闇だ。人間は、生き物は、決して欲求を抑える事はできない。リアルはそうやって何もかもを失ったんだ。」

「それはそれでりある世界の選んだ結果だよ、アインズ。この世界でやり直しをしようとするのはエゴだ。」

「では世界が汚染されるのをお前は黙って見ているのか?自然破壊はある一定を越えるとそこからは自浄作用を失う。その時を迎えれば取り戻そうと誰かが動き出した所でもう二度と取り戻せないんだ。世界が元に戻りたいと言った所で、毒の空気は、腐った空は、二度と本来の姿には戻れない。まだお前達は成熟していないから解らないだろうが、俺たちは見てきているんだ。」

アインズはリアルの情景を思い浮かべた。

 

「君は生き物を見下しているよ。その欲求こそが生きると言うことでもあるんだ。それを君は操作して管理しようなんて、それは余りにも過ぎた行為だ。」

「俺たちだって短い人生を生きたからこそ解ってる。皆我武者羅に目の前の物にしがみついて愚かに生きている。ツァインドルクス・ヴァイシオン、お前こそ世界を見下しているんだとそろそろ気が付け。神様気取りでどうなっても関係ないと思っているんだろう。自分は何百年も生きて来たからって。」

 

「…僕だって見て来ているし生きているんだ。もし君が君の方法で世界を守り出したとして、そんな箱庭のような世界で誰が幸せになれるって言うんだい。」

「箱庭なりの幸せを生んで見せるさ。お前は俺の国を見ただろう。あそこに生きる者達の幸せは偽りか。生を見くびるな。」

 

「それは………。しかし、もし君の方法で世界を守り始めたら、君は最後には必ず孤独になって、絶望の中死ぬぞ。そして残されたえぬぴーしーは魔神になる。その後は君の言う自然破壊なんて物よりももっと恐ろしい地獄の世界が待っているんだ。そうなればこの六百年の繰り返しだ。頼む、手を引いてくれ、アインズ…。」

 

アインズも鎧も黙った。

おそらく二人とも、これ以上はナンセンスだと気が付いたのだ。

守護者達が沈黙の中、いよいよ開戦かと手に武器をとり始める。

 

「…やめろ、お前達。ツァインドルクス・ヴァイシオン、俺たちは孤独になんかならないさ。」

アインズはフラミーと目を合わせると、フラミーは笑っていた。

 

「俺は本当は孤独だった。だけど、この世界ではそうならずに済みそうなんだ。そんなに怯えるなよ、お前だって竜王なんだろ。」

アインズは語りながらフラミーと取り合っていた手を少し離すと指を絡ませ強く握り合った。

 

「プレイヤーは百年ごとに世界に呼ばれて来ると聞いた。そいつらがリアルの知識を持ち込み過ぎる事を俺は許さない。」

守らなければ。

美しい世界を。

アインズ・ウール・ゴウンの皆が感動するであろうそれを。

アインズはフラミーの手の温かさを感じた。

 

「世界に選ばれた俺達は…この世界に生きる者達から…今後現れるプレイヤー達から…この美しい世界を守る。決して俺は手を引かない。その為にも、俺はあらゆる生の上に君臨する。」

 

ツアーはまじまじと死を眺め、竜の体の瞳を閉じた。

 

「君はこの世界でも神になると言うのか……。」




次回 #65 眠る前にも夢を見て

開戦じゃああああ!!(え


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#65 眠る前にも夢を見て ≪最終話?≫

アンケート締め切りました。
皆さまご回答ありがとうございました!
結果は以下でした。アインズさまの圧倒的パワーですよ!

(120) アインズ様とプレイヤー同士愛し合え!!
(62) デミデミの恋を成就してくれ!!
(47) 二人の間をのらりくらりで決着つけるな!
(34) ハーレムこそ正義!


「君はこの世界でも神になると言うのか………。」

 

「…あぁ。なってみせるさ。」

神様だった事は一度もないし、これからも本当にそれになるかなんて解らない。

しかしもうこの際原始人には神と呼ばせたままでいい。

(いや、スルシャーナとか言うプレイヤーのせいで最初から俺は神さま呼ばわりだったか。)

アインズは苦笑した。

 

「ツァインドルクス・ヴァイシオン、世界の決定に協力しろ。世界はお前が思うより複雑だ。」

 

「…アインズ、君は本当にこの先現れるぷれいやーと戦ってくれるのか…。」

「戦うよ。俺たちの概念で世界を汚す者だと認めたらな。あぁ。後はアインズ・ウール・ゴウンに手を出す者もだが。」

ツアーは悩んだ。

今このぷれいやーと血で血を洗う戦いを始めるのが正解なのか。

一度はこの者のやりたいようにやってみせてから次の揺り返しに備えるのが正解なのか。

 

ツアーは拒むように組んでいた手を下ろした。

「君達はぷれいやーを殺してまともでいられるんだろうか…。」

「俺は別に何も感じない。フラミーさんは…辛いですか…?フラミーさんが嫌なら、別に戦いに参加する事はないんですからね。」

「知ってる人達だったら思うところもあります。だけど、世界を美しく残す事よりは後から現れるプレイヤーの命の優先度は低いです。」

ツアーは気付いた。

この二人は既に精神に大きく変容を迎えていると。

それでも尚落ち着いているこの二人なら――

 

「ツァインドルクス・ヴァイシオン。」

ツアーが思考に没頭しかけると、アインズに呼び戻された。

「ツアーでいいよ。」

「そうか。ツアー。俺は世界を守るためにも、お前にあの日聞きそびれた事を聞きたい。」

「…構わないとも。」

 

アインズは頷くと手を伸ばした。

「ギルド武器はどこにある。」

 

ツアーは何故それを知っているんだと竜の体に冷や汗をかく。

このぷれいやーは流石にぷれいやーに崇められるだけあって智謀も力もインフルエンスも何もかもがこれまでの者達に比べて飛び抜けている。

最初から自分の名前を知っていたり、おかしい事はたくさんあった。

だからこそ、一体いつからこの世界にいたんだと疑い続けた。

――ツアーは聞かなければいけない大切な事を思い出した。

「アインズ。その前に君はあの魔樹を知っていたのかい。」

 

「なぜ今魔樹なんだ……?」

「…あれは君が起こしたのか?」

眼前の死は何で?とフラミーと首を傾げ合っていた。

「いや、あれはユグドラシルの物だったが、初めて見るボスだった…。どこに居たのかも知らん。お前あれが欲しかったのか?」

ツアーのドラゴンとしての鋭敏な感覚が嘘をついていないことを見抜いた。

“リーダー”達と共に討伐したあれの枝を思い出す。

 

「そうか…。偶然だったのか…。」

「似たものなら出してやる。さあ、ギルド武器の場所を教えろ。」

「いや。あんなものいらないよ。それと…やっぱりぎるど武器はぷれいやーには渡せないし、場所も言えない…。それが誰であっても。」

「…そうか。」

アインズはわずかに苛立った。

「あれは僕が持っておく。君の言い分はよくわかったけれど、力を持ち過ぎればそれを行使したくなる。」

 

「仕方ないやつだ。ギルド武器の破壊は世界征服のためにもプレイヤーとの戦いのためにもなると言うのに。知識と技術を早急に制限しなければすでにミノタウロスが余計な真似をしているんだ。」

「…僕はまだそれが正解なのかわからない。」

「お前は何もわかっていないんだ。安心しろ。百年後に解らせてやるさ。」

 

アインズはため息を吐くと、ここからが本題だと言わんばかりに眼窩の炎を燃やした。

「さて、次はお前が俺に仲間を傷つけさせた罪についての話をしよう。お前はそれを償う必要がある。わかるな。」

その瞳はこれまでの穏やかなものではなかった。

「よく解らないけど…悪かったね…。」

ツアーは鎧越しのはずのその瞳に一瞬背筋が凍るような思いがした。

もはやその瞳からは炎が上がっているかとすら思えるほどの激しい緋だ。

 

「いや。謝罪はもはや意味を成さない。償いとして俺はお前達ドラゴンから始原の魔法を取り上げる。これから現れるプレイヤー達と戦うためにもな。」

 

突然の宣言にツアーは一瞬言われている意味がわからなかった。

 

「なに?まさか!待て!!それは明らかに世界を汚す行為だ!それは世界を蹂躙することと同義じゃないか!今までの話はなんだったんだ!!それにそんな事をされたらぎるど武器も国も…世界だって守れなくなる!」

「ツアーよ。国は我が魔導国に降ればいいだけの話だ。ギルド武器も持て余したら俺に寄越せばいい。だから今は取り上げないでやろう。…お前は俺が"仲間と子供という領域を侵されなければ(・・・・・・・)世界を蹂躙しない"と言ったことを忘れたか。俺はこんな真似をするつもりはなかったんだ。お前があんな事をするまではな。」

「そんな……まさか……。」

「俺が責任を持って働くさ。PKには自信がある。しかし…ちゃんと理解できたようだな。ご褒美だ。選ばせてやろう。一つ目を言うぞ。よく聞け。この国の滅亡とギルド武器の破壊、ドラゴン種の絶滅、つまりお前の命もここで終わるという選択肢。二つ目は今大人しく始原の魔法を手放す。以上だ。俺は慈悲深いと有名な神だからな。どちらがいい。」

「君はその体に精神を引き寄せられ過ぎているんじゃないか!」

「いいや。俺は元から仲間のために全てを捧げる男だよ。ツアー。」

どちらも選べない。

ツアーはアインズ・ウール・ゴウンに手を出した事を心底後悔した。

 

「頼む…僕が悪かった…。君達の事をよく知りもしないで…心から謝るよ…。」

「ダメだ。お前は俺…いや、私と交わした"世界を蹂躙しなければ手を出さない"と言う約束を破った。私達は世界を守るために平和的に統治を行って居ただけなのに。神と交わす約束の重さを思い知るんだ。ツァインドルクス・ヴァイシオン。」

「アインズ!!!!」

壊された鎧よりも劣るこれで果たしてどれだけの事ができるか。

それでも時間を稼いで自分の中を流れる始原の力を呼び出し、集め始める。

それは詠唱に似ていた。

掴みかかろうと駆け出す鎧とアインズの間にすかさず守護者が立ちはだかり侵攻を止めた。

「アインズ!!話せばわかる!!頼む!!」

なんでもいい、時間が必要だ。

いいぷれいやーかもしれないと解ったが、それを奪われるくらいならやはり倒さなければならない。

 

「選択は成ったな。お前はどうやら生きたいように見える。」

アインズは空いていた左手薬指に指輪をはめた。

「アインズさん、それを使うんですか!」

「大丈夫です。今後現れるプレイヤーくらいこれが無くてもなんとかなりますよ。なんせ知ってる魔法を使う相手ですから。俺を信じてください。貴女はどうか、なにも心配しないで。」

その瞳はいつものモモンガの物だった。

俺は願う(I WISH)!!」

そして青白い魔法陣が回りだす――。

 

「やめろ!!!やめてくれ!!!」

ツアーは鎧の体で絶叫するが、もう分かっている。

――間に合わない。

「ドラゴン達の始原の魔法を取り上げ俺の物にしろ!!」

願いが口にされると指輪は封じられていた力を解放し――

アインズは目の前が真っ白になった。

 

始原の魔法。

世界が生まれた訳。

この世の全ての理。

生きとし生ける者達の太古の記憶。

鈴木悟は頭を駆け巡る激しい情報の中、ふと遠くに小さなトカゲがいるのが見えた。

『君、なぁに?』

『君こそなぁに?』

『僕は鈴木悟!君は?』

『僕はツァインドルクス・ヴァイシオンだよ。君は変わったドラゴンだね。』

『はは!ドラゴンだって!おかしいの!』

『な、なんだよ!僕だって立派なドラゴンになるんだ!』

『じゃあ、僕は、僕はね――――――――――』

 

激しい耳鳴りの中、目を開けるとフラミーが心配そうに何かを言っているのが見えるがなにも解らない。

「俺は…神になるのか…。」

その言葉と同時に鎧はガシャン!!と音を立てて崩れた。

アインズはこの世界に来て初めて眠った。

 

+

 

見たこともない巨大な黒竜が怒りに荒れ狂っている姿が見える。

逃げるか?戦えるか?

いや……あれは一人では――――。

 

+

 

アインズは目を覚ますと、そこは第九階層の自室のベッドの上だった。

その身に迸る激しい力に頭がクラクラする。

「ふ、ふらみーさん…。」

動かない体で友の名を呼んだ。

慌てて誰か――おそらくアインズ番だろう――が何かを言いながら走って行った。

その音に意識が研ぎ澄まされていく。

「うぅ…信じられん…アンデッドなのに眠ったのか…。」

なんとか片手を動かし額にあてると扉がバタンと開く音がする。

「アインズさん!アインズさん!!」

フラミーはベッドに乗って這って来るとアインズを覗き込んだ。

「…ふらみーさん…。俺眠りました…?」

「ね、眠ってました……。骨だから呼吸もしないし、最初は本当に死んだかと思いました。私、私…ごめんなさい、本当にごめんなさい…。」

言い切る前から泣き出すフラミーを前に、確かに呼吸も脈もない骨は眠れば生きているか死んでるか解らないよなと薄い笑いが漏れた。

涙が止まらない様子のフラミーの頭を撫でながら、死ななくてよかったとアインズは思った。

自分が死んだらこの風変わりな女神の相手を誰が――デミウルゴスか?

(いや、あいつには荷が重いな。)

「はは、なんですか起き抜けに…。あぁ…埋葬されなくてよかったな…。何か…眠る前にも夢を見た気がするんですけど…なんだっけな…全部忘れちゃいました…。」

一生懸命話すアインズにフラミーは笑いかけてむき出しの頭蓋骨を撫でた。

「夢なんて覚めれば忘れるものですよ…。アインズさん、お願いですからもう二度と眠らないでください。」

「はぁ…眠るのって気持ちいいと思ってたんだけどなぁ。思ったより気持ち悪かったです…。はは、もう眠りませんよ。安心してください。」

フラミーに抱き起こされると、開いている扉の枠を叩く鎧が目に入った。

 

「アインズが目を覚ましたって?」

「ツアーさん。」

「全く。人の力を奪って倒れるなんてどんな神様だ君は。」

鎧は開いていた扉から無作法にも部屋に入ってくる。

 

「…ツアー…何故ナザリックに…。それに、始原の魔法を持たないはずが何で…。」

「これかい。フラミーに教えられた位階魔法で動かしてるよ。フラミーを僕の家に招いたせいで家の場所がバレた。だというのに僕は昔と違ってこれが今どこにあるのかまるで感じられない。お陰様でね。」

不愉快そうなツアーにふふふとアインズは笑った。やっぱり奪えたんだと。

「そうかツアー…。位階魔法も悪くないだろう。始原の魔法はもう本当…最悪だ…。」

ガンガン痛む頭を押さえながら、フラミーに肩を貸され何とか立ち上がった。

いつのまにか最強装備は装飾の少ないただのガウンとズボンに着せ替えられていた。

自分の体と、肩の下で嬉しそうにするフラミーを交互に見る。

「…俺おじいさんみたいですね…。」

「おじいちゃん一週間も眠ってたんですからね。さぁ、ボケないうちに子供達に会いに行きましょうね。」

「一週間……おばあさん、今後は俺の許可なく勝手にこの鎧をナザリックに入れちゃいけませんからね…。…ツアーよ、お前はずっとここに居たのか?」

アインズは笑うフラミーから鎧へ視線を移す。

鎧はチラリと肩の下のフラミーに顔を向けてから話し出した。

「いいや。評議国の属国化案をお宅の邪悪極まりないデミウルゴス君とアルベド君と、それから無垢そうな君の息子と話し合いに来た所だよ。今日ようやく招かれてね。」

「そうか。はぁ。一週間もあったらそうなるな…。あー仕事溜まってるだろうなぁ…フラミーさん、俺やっぱりもう少し寝たいです…。」

「だ、ダメです!お願いします!ここで寝たら何でもやり放題だってアルベドさんとシャルティア呼びますから!」

フラミーの妙に鬼気迫る様子にアインズはくすりと笑った。

「それはこわいや。」

 

+

 

寝室を出ると、そこには泣いている守護者達が跪いていた。

「あぁ、お前達…心配をかけたな。」

アインズはフラミーに掴まりながらゆっくりとソファに座った。

「アァインズ様!!ああ…もしお目覚めにならない様な事があったら、私達は手始めにこの邪悪な竜の持つ国を滅ぼし、その後に世界を破壊しなければいけない所でしたわ。本当に良かった…私の愛しいお方…。」

アルベドが泣きながら言った恐ろしい言葉を鎧が頭をかきながら聞いている。

「ふふ、そうだな…。あー俺生きてますよ…タブラさん…ペロさん…建御雷さん…茶釜さん…ウルベルトさん…。」

アインズはNPCの向こうの親達に生還を伝えた。

「アインズ様、お加減はいかがでありんしょう。」

「あぁ、シャルティア。良くはないな…。力が漲りすぎている感じがする。でもお前達の顔をみたからな、すぐに良くなるとも。」

 

「アインズ様ガオ眠リニナルトイウ事ガコレ程迄ニ恐ロシイ事ダトハ思イモシマセンデシタ。」

「コキュートス、お前にも心配をかけたな…。」

「このデミウルゴスは、必ずやアインズ様は再び目を覚まされると確信しておりました。」

「アインズ様が眠ってらっしゃる間、あたし達たっくさんフラミー様のお手伝いをしたんですよ!」

「そ、そうなんです!僕たちそれで、その、アインズ様が起きてからのお仕事を少しでも減らすんだって!た、たくさん、その、頑張りました!」

 

「そうか、そうかそうか。皆よく自分達の役割を果たしてくれたな。」

外から何かが激しく走ってくる音がすると、扉がバンと開かれた。

 

「父上!!!!!!」

アインズは鎮静された。

 

「パンドラズアクターよ。なぜそのように私を呼ぶ。」

「ん?彼は君の息子なんだろう?これが普通じゃないか。」

鎧が首をかしげる姿からその理由がわかった。

「ツアー。息子は息子だが別に腹を痛めて産んだんじゃない息子だぞ…。」

「息子は息子だろう、アインズ。」

 

アルベドが心底不愉快だという具合にツアーを睨む。

「ツァインドルクス・ヴァイシオン。あなたの話し方は不敬よ。従属する国の王、それも神を前にその態度はないのではなくて。」

パンドラズアクターは滑り込むようにアインズの前に跪くと父の手を取って顔をスリスリとなすりつけている。

いつもは鬱陶しいと思う息子だが、アインズは今日ばかりはと帽子の上から頭を撫でた。

「アインズ、僕の話し方はダメかな?」

「…いや、構わない。許してやるさ。始原の魔法を取り上げる事でお前の罪は許された。俺の中ではな。」

「そうかい。それは良かったよ。フラミーも僕を許してくれるかな。悪い事をしたね。」

「いいえ、私は何も。アインズさんが良いなら、私も良いですよ。」

フラミーは笑ったが、瞳の奥にはどこにもぶつけられない怒りが宿っていた。

ツアーはそれが自分に向けられたものではなく、フラミー自身に向けられた物だとわかっていた。

「それは良かったよ。」

 

「ふぅ、それにしてもセバスはどうした?」

ぷりぷり怒るアルベドから目をそらしてデミウルゴスに視線を投げた。

「は。セバスには国の者達にアインズ様が目を覚まされた事を報告に行かせました。」

「よし。的確な判断だ。さて私は着替えるとしよう。お前達は……。」

守護者達は立ち去りたくないという瞳でアインズを見つめていた。

 

「全く仕方のない子供達だな。いいだろう、好きなだけここにいなさい。」

 

優しい神は一週間ぶりの笑顔を見せた。

 




次回 #66 閑話 だってだって女の子だもん

ふぅ、そろそろ気の抜けたラッキースケベが読みたい頃ですよね?
読みたいですよね!!!
閑話なので12:00更新です!

一応1話を書いた時から想定していたストーリーの着地点には来てしまいました。
1日1話から多い日は4話という猛烈な勢いで上げ続けたこのお話はたった一月半で65話にて着地しました。
あまり自分でお話を考える力がないので原作ありきのネームド救済作品でしたが、毎日読んでくださる皆様のおかげで本当に楽しく書けました!

と、最終回っぽいことを言いましたが、ビーストマン蹴散らして、都市国家連合も行かなきゃならないし、八欲王の空中都市も行かなきゃいけませんね。
後はミノタウロスに会いに行くのと…とにかくやる事はたくさん。
それに、皆のおバカ可愛いラッキースケベも足りてないですし、何よりアンケートの結果をちゃんと書かないといけませんぜ。
二人が寄り添うようになるまでまだもう少しやきもきさせてから、ゴールインですね!(やきもきしたがり
蛇足になるのが心配ですが、パパもっと続けちゃうぞぉ!
最終話の概念が壊れていますが今後もよろしくお願いいたしますm(_ _)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#66 閑話 だってだって女の子だもん

遡ること数日。

評議国で始原の魔法を奪い取り、アインズが眠りについて三日。

既に神官や聖典は限界を迎え始めていた。

特に身近にその存在を感じ、何度も謁見するチャンスがあった者達程その痛みは凄まじかった。

国中に出された「神聖魔導王陛下の眠り」についての御触書は殆どの者達を強く悲しませた。

誰もがどうか目を覚まして欲しいと神王に祈りを捧げ、同時に眠っていない女神に神王を夢の世界から取り戻してほしいと願った。

 

フラミーと守護者は初めてのアインズ不在に何とか対応し、知恵者三人によってナザリックの運営は行われていた。

 

「フラミー様…?フラミー様。」

アルベドの呼ぶ声に、フラミーはハッとし慌てて机の書類を手に取った。

「は!はい!ごめんなさい!!」

「とんでもございません。フラミー様、少しお休みになっては如何でしょうか。」

心配そうに覗き込む美女とその豊満な体に、フラミーはアインズがいつもこんな誘惑だらけの景色の中で仕事をしていたのかとこの三日間すっかり感心していた。

「ははは…いえ、アインズさんがいつもやっていた事くらい、替わりに出来ないと…あの人が起きた時に可哀想ですから。」

アルベドは辛そうに手を握りしめた。

「フラミー様…アインズ様はいつ目を覚まされるのでしょう…。」

フラミーはその言葉に、言外にお前の提案のせいでと言われている気分になる。

「本当にごめんなさい…アインズさんがいつ目を覚ましてくれるか…解りません…。全部私のせいです…。」

手をふるふる震わせ、フラミーは書類を一度机に置いた。

それを見たアルベドが慌てて机越しにフラミーの顔を覗き込んだ。

「ち、違います。私はそのようなつもりで言ったのでは…。ただ…アインズ様の…お声を…うっ…。」

アルベドはその寂しさを埋めるため、与えられた九階層の自室にアインズぬいぐるみを作って飾り始めた。

それまで恋だと思っていた感情が愛だと気付いた時、彼女はもっとアインズに率先して迫るべきだったと心底後悔した。

「アルベドさんだって辛いのに、ごめんね。」

フラミーは立ち上がると、泣き始めたアルベドの手を取り、二人でソファに座った。

「フラミー様……。」

「私ではあの人の替わりはとても勤まらないけど、きっと可愛い皆を守ります。私はもう泣き言は言わない。絶対にナザリックの為になってみせます。」

そう言うとアルベドの肩を抱き寄せて頭を撫でた。

アルベドもフラミーの背中に手を回すと少しだけ泣いた。

「うっ……うぅ……。……っふ……あぁ…フラミー様…。」

落ち着いてきたのかフラミーの名前を呼ぶそのサキュバスに優しく語りかける。

「アルベドさん、落ち着いた?」

両手でアルベドの顔を包み、顔を上げさせるとその瞳は未だ潤んでいて、物欲しそうな顔はまるで――

「お、落ち着くどころか…興奮して参りましたわ!!」

獣だった。

「え!?」

アルベドはそのままソファにフラミーを押し倒してのし掛かるとフラミーの背中のリボンを引こうとする。

「や、やめ!!おすわり!!おすわりー!!」

背中を絶対にソファから浮かび上がらせないと言う強い意志を持ってフラミーはアルベドと手のひらを押し合い抵抗した。

そんな力があったのかと思うほどに。

「フラミー様はずるいです!アァインズ様が身に付けたことのあるローブを頂いていつでも好きな時に着ることができるなんて!!あぁ!そんな素敵なご褒美を頂いているんですから、もっとナザリックの為に働かなければいけませんわ!そう!ナザリックの為です!!このアルベドと子供を作りましょう!!」

八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)がバラバラと天井から降ってくるのが見える。

「アルベド様御乱心!」「アルベド様御乱心!」

「ちょっと!!忘れて下さいって言ったじゃないですか!!」

「フラミー様、それはあの夜にアァインズ様の仰ったセリフですわね!?んもーー我慢なりません!!」

アルベドの猛烈な力にフラミーは背中が浮き上がるのを感じた。

「いやーー!!やめてーーーーー!!!」

たまらず上げられたフラミーの絶叫は第九階層に響き渡った。

 

八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)がアルベドに吹き飛ばされて行くと、ノックも無しに扉が開いた。

「デミウルゴス!!」

「デミウルゴスさん!!」

正反対の感情が乗せられたその名を呼ぶ声に、闖入者は慌てて八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)と共に絡まる女二人に駆け寄った。

「んな!アルベド!やめるんだ!!」

世界一可愛いゴリラを引き離そうと必死に引っ張るが、まるで石像かと思う程にその身は動かない。

「何て馬鹿力だ!!悪魔の諸相:豪魔の巨腕!!」

デミウルゴスはスキルまで使って何とかフラミーにまたがるアルベドを起き上がらせることに成功するが、とても落ち着く様子がない。

デミウルゴスは急いでコキュートスに伝言(メッセージ)を送る。

自分一人では対処しきれない。

「コキュートス!!フラミー様の部屋に今すぐ!今すぐだ!!」

こめかみに触れる為、片手を離したのが仇となりアルベドは再びフラミーに覆いかぶさると、フラミーの両手をたった一本の手でその頭の上に押さえ込んだ

「デミウルゴス!!私はもっとナザリックの為になりたいとおっしゃる御身のお手伝いをするだけよ!さぁ、フラミー様っ!」

フラミーはアルベドの長い指が下腹部に触れぞくりと背を震わせた。

「ひっ!!か、勘弁してください!!」

外からタタタタタタと軽快に何かが走ってくる音がすると、開きっぱなしだった扉から、その足音に似つかわしくない巨体のコキュートスが駆け込んできた。

「デミウルゴス!!待タセタ!!」

「助かった!頼むよ!コキュートス!」

「アルベド、ヨセ!ヨスンダ!!」

 

ようやくフラミーの上から降ろされたアルベドは床に正座させられていた。

「君はアインズ様を愛していたことに気がついたと言っていたじゃないか。全く。」

「アインズ様は愛してるわ。でもフラミー様にも恋してるのよ。それの何が悪いのかしら。」

デミウルゴスの叱責にアルベドは頬をぷくっと膨らませていた。

「君はフラミー様にはえているからって全く現金な。」

「は……はえ……。ふふ…ふふふ…。」

デミウルゴスのその言葉にフラミーはいつの間にかすっかり周知の事実になってしまったそれに悲しく顔を引きつらせていた。

だが異形の集まりのナザリックでその事をどうこう思う者等あるはずもなく、フラミーは若干開き直り始めていた。

「あ、いえ。申し訳ございませんフラミー様。し、しかしそれは以前も申し上げました通りそう恥じるような事ではございません!」

デミウルゴスのあわあわとした慰めの言葉にアルベドも賛同する。

「そうですわ!むしろ、素晴らしいことですから、フラミー様はもっと自信をお持ちになってもよろしいのではないでしょうか!」

するとアルベドが再び動こうとするのが見え、デミウルゴスは一瞬焦るが素晴らしい言葉を閃いた。

「アルベド!君は初めてを愛するアインズ様に捧げようとは思わないのかな!男性は誰しも特別な相手の初めては何であっても嬉しいはずだ!」

 

その言葉はアルベドを瞬時に落ちつかせた。

 

「デミウルゴス、それは本当でしょうね。」

「そうだとも。コキュートス、君もそう思うだろう。」

「ソノ通リダ。ソレヲ捧ゲレバアインズ様ハオ喜ビニナルニ決マッテイル。」

アルベドが黙って立ち上がる様をデミウルゴスはゴクリと唾を飲み込んで見守った。

するとアルベドは清々しい笑顔をフラミーに向け、ぺこりと頭を下げた。

「フラミー様、大変失礼致しました。私、アインズ様に初めてを捧げてからフラミー様とお子を作らせて頂きたいと思います。」

その言葉はその場にいた全ての者をすっかり安心させた。

 

「は、はは…それは良かったです…ほんと…。」

それはそれでどうなんだとフラミーは思った。

口元を引きつらせながら笑うと、背のリボンを結ぼうと首の後ろに手を回した。

「はぁ、疲れた…。コキュートス君もデミウルゴスさんもありがとうございました本当…。」

デミウルゴスはそれを見るとフラミーの背後に回った。

「いえ、とんでもございません。あぁ、私が結ばせて頂きます。」

「あ、ありがとうございます。」

フラミーはリボンが悪魔の手に渡ったことを確認すると膝の上に手を下ろした。

デミウルゴスが結ぼうとすると、炎獄の造物主の名の通り手袋越しでも感じるほどに熱い指がうなじにわずかに触れた。

「わ、デミウルゴスさんの手ってすごく温かいんですね。」

「ウルベルト様にそうあれとお造り頂きましたので。さぁできました。」

にこりと笑ってリボンが結び終わったことを告げた。

 

「…アイツハ本当ニイツモ美味シイ所ヲ持ッテ行クナ。」

「コキュートス、あなたも覚えておきなさい。あれは私達の敵よ。」

「ナルホド。」

コキュートスとアルベドの声にデミウルゴスは忌々しげに二人を見ると、何かに気付いたのかニヤリと笑った。

「あぁ、フラミー様。統括は危険ですので、今日届いた属国化案はこれより私と二人で精査いたしましょう。」

「良いんですか?」

フラミーは背後の悪魔を見上げる。

「いいですとも。もちろん。今後は私がお側に控えましょう。さぁ、君達は仕事の邪魔になる。一度出て行ってくれるかな。」

デミウルゴスは指輪の光る左手をしっしと振って清々しい笑顔を送った。

 

空元気も元気のうちで、支配者が生きている事が分かってからは皆何とかやっていた。

決して立ち去らないと約束した主人と共に、至高の支配者の穏やかな眠りを見守る日々も、たまには良いだろう。




次回 #67 閑話 小さな支配者
00:00更新です。

襲われるフラミー様いただきました!ユズリハ様よりです!

【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

#67 閑話 小さな支配者

フラミーの部屋では夜になっても書類の精査が続いていた。

「うぅ…デミウルゴスさん…本当に申し訳ないです…。」

日中の騒動から殆ど進んでいないそれを前にフラミーは自分の出来の悪さにすっかり意気消沈していた。

「いえいえ。お手伝いのし甲斐があると言うものです。アインズ様は何でも完璧になさいますから。」

そう言う悪魔は本当に少し嬉しそうだった。

「ありがとうございます…。アインズさんは何でも出来すぎますよね。本当あの人神様向いてるなって思いますもん。」

フラミーは疲れた疲れたとでも言う様にうーんと伸びをした。

「アインズ様は智謀の神ですが、あの竜も言っておりました通りフラミー様は無垢の方です。闇に智謀があれば、光に無垢というのは納得の行く話でございます。」

何でも綺麗にこじつけてくれる物だとフラミーは賢い悪魔に感謝した。

「そう言うことにしておきます。…さ、そろそろまたアインズさんの部屋行ってみましょうか。」

フラミーは二時間に一回はアインズの様子を見に行っていた。

デミウルゴスはこんな状態では誰でも何も手につかなくても仕方ないとも思っていた。

「はい。参りましょう。」

 

フラミーは悪魔を従えて、アインズの静かに眠る薄暗い部屋に入るとベッドに腰掛けた。

「アインズさん、あなたどんな夢を見てるんですか?こっちもこんなに夢みたいな世界だっていうのに…。」

そういうと以前ツアーに砕かれていた骨の肩を触った。

「私、怖いです。あなたがいなかったら…私はどうやってこの先、生きていけば良いっていうんですか…。」

フラミーの嘆きにデミウルゴスは目を伏せた。

「一緒にここで生きていくって約束破ったら許しませんよ…。…なんて、許されないのは私か…。星に願いなんて届けようとしたのがいけないんですよね…。これは勝手なことをしようとした私への罰ですか?」

あまりにも痛ましい背中にデミウルゴスは意を決して口を開いた。

「フラミー様。これはアインズ様がお決めになった事でもあります。どうか、ご自分をそう責めないでください。」

フラミーはその声にアインズからデミウルゴスに視線を移し、静かに告げた。

「デミウルゴスさん。そろそろ戻りましょうか。」

デミウルゴスは頷いた。

 

部屋に戻る間、フラミーは考えていた。

これであの時自分が星に願いを(ウィッシュアポンアスター)を使っていて、アインズがこうして意識を失っていたら、と。

そんなことになっていれば余りの罪の意識に恐らくフラミーはナザリックを離れただろう。

アインズがこの選択をするように差し向けてしまっただけでこれ程までの痛みを感じるのだから。

 

二人は部屋に戻ると、とりあえず現状執務を行なっているデスクへ向かった。

フラミーはデスクの上の時計をちらりと見ると、