黄金体験のヒーローアカデミア (ジャギィ)
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彼の名はジョルノ・ジョバァーナ

ジョルノとナランチャが入れ替わった記念に


生まれ持った力“個性”。原因は不明だが、中国で光り輝く赤子が生まれたのをきっかけに人間にはあり得ない力を持った人間が生まれ始めた

 

現代の人類の8割以上が“個性”を生まれ持ち、それにより社会は大きな変革を遂げた

 

“個性”による恩恵で人々の生活は潤った……しかし輝かしい『光』の裏では、おぞましい『闇』が誕生していた

 

個性社会の黎明期、ある男が生まれ落ちた。名はディオ・ブランドー。“吸血鬼”という個性によって若々しい肉体のまま100年以上の時を生き、そして多くの生命の血と命を奪い尽くした。“個性”を奪い与える能力を持ったオール・フォー・ワンに並ぶ伝説のヴィランである

 

世界有数の財団、スピードワゴン財団の創始者曰く「ゲロ以下のにおいがプンプンする」「生まれついての悪」と称されるほどの邪悪な存在であり、その悪のカリスマで人間を魅了し、堕とし、世界を支配しようと目論んでいた

 

「DIO」は多くの血を吸い、血と共に摂取した個性因子(“個性”を持つ人間の体内にある因子)が混ざり合わさった結果「時を止める」という恐ろしい能力をも身につけ、もはやDIOを倒せる者は誰もいなかった

 

しかしある時を境に、DIOの消息がパタリと途絶えた。唐突な悪のカリスマの消失には様々な憶測が飛び交った

 

曰く『海底深くに沈められた』

 

曰く『宇宙に追放された』

 

曰く『スピードワゴン財団お抱えの人間によって暗殺された』

 

曰く『幽霊に連れ去られた』

 

曰く『永遠に死に続けている』

 

曰く『未来の世界に飛んでいった』

 

どれも信憑性のない仮説だった。1つ確かなことは『DIOに怯えることはなくなった』ことだった

 

そしてDIOの消失から15年の月日が経った

 

1人の少年の黄金のような物語が幕を開ける

 

 

 

 

 

“雄英高校”

 

偉大なるヒーローを生み出した学び舎とも言えるその学校は、多くのヒーローの卵たちが目指す目標である。そして今日はその雄英高校入学試験の日であった

 

ザッ…

 

多くの受験生が雄英の門をくぐる中、雑多の外から少年が巨大な雄英の校舎を見上げていた

 

胸元が大きく開かれ、テントウムシのブローチをつけた改造学ランを着込んでいる。髪は伸ばして後ろで編んであり、何よりコロネを頭に3つ乗せたような特徴的な髪型が太陽の光で金色に輝いていた

 

「君、ウチ(雄英)の受験生かい?」

 

そんな少年に話しかけたのは試験会場への案内人だった。胸ポケットには高級な万年筆が入っている

 

「はい、ヒーロー科の受験を」

「やっぱりか。ここを受ける子供たちはみんな目が輝いているけど、その中でもヒーロー科を受ける子は一際輝いている。君もヒーローになりたいのかい?」

「昔、ヒーローに助けられたことがありまして…」

「そうか。ヒーロー科の試験説明は向こうの建物を入って右に曲がり、左っ側のドアを入ると辿り着く」

 

左前のドーム状の建造物を指差しながら試験会場への道筋を案内する。残りの手の人差し指を空中で撫でると緑色の線が引かれ、それで道筋を描き出す。これが男の“個性”なのだろうと少年は考えた

 

「分からないなら付いて行くけど?」

「いえ、大丈夫です。説明してくれてありがとうございます」

 

深々と礼をする少年を見た男はカラカラと笑う

 

「なんとなくだけど、君はヒーロー科に受かりそうな気がするんだよ。エコヒーキに聞こえるけどね

 

「それじゃ」とだけ告げると手を振って別の持ち場へ向かって移動した。他の案内人である女性と合流して話をする男

 

「受験生の確認は終わりましたか?」

「アァ、彼で全員だ。例年通り欠席の連絡は1つもなかった」

「そう……アラ?」

「?」

 

すると女性が男を、正確にはスーツの胸ポケットを見て不思議そうな顔をする。女性の視線でそれを理解した男は自分の胸ポケットに目をやる

 

「うおッ!?私の胸ポケットに花が!」

「まあ、綺麗なピンクのガーベラ」

 

なんと男の胸ポケットの中には、いつのまにか鮮やかなピンク色のガーベラが刺さっていた。ガーベラをポケットから取り出し男は眉をひそめる

 

「一体いつの間に……それに()()()()()。私の胸ポケットに入っていた万年筆はどこだ?高かったんだぞあれ…どこに落とした…

 

ガーベラを手に万年筆を探す男だがどこにも落ちていない。そんな中、男は手に持っていた花を見ると

 

「え…?」

 

グニュ グニュ

 

ガーベラの花びらが閉じてピンク色が黒ずんでいき、()()()()()()物が手に収まる

 

「わ、私の万年筆だ……」

 

『感謝』の花言葉を持つ花が万年筆に変化していったところを見た案内人の2人は目をパチパチさせた

 

それを見ていた少年『ジョルノ・ジョバァーナ』はさわやかな風のように微笑むと、試験会場に向けて歩を進める

 

 

 

『筆記試験ゴクローサン!!今日は俺のライヴにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!』

 

実技試験の説明をするための広い多目的ホールで、ボイスヒーロー「プレゼント・マイク」が大声で受験生を労った

 

シ────ンッ…………

 

しかし悲しくなるほどに反応がなかった

 

『こいつぁシヴィー!!!』

 

マイクは気にすることなく実技試験の説明を開始する

 

(1〜3P(ポイント)の仮想(ヴィラン)ロボットを破壊して点数を稼いでいくというものか…おそらく点数が書かれてない4体目のロボの目的は妨害。ならば4体目のロボットを投入するだけの理由が何かあるはずなんだ…)

 

手元の資料とマイクの説明を聞きながらジョルノは実技試験の全貌を考察する

 

『さて、最後にリスナーへ我が校の“校訓”をプレゼントしよう!かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った。「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!!』

 

マイクは口元のスピーカー音量を最大にすると、受験生全員を指差しながら叫ぶ

 

『“Plus Ultra(更に向こうへ)”!!!それでは皆、良い受難を!』

 

それを聞いた受験生たちは興奮する者、気を引き締める者、冷静に頭を冷やし続ける者などに分かれていく

 

説明会が終わると、数千はいる受験生たちをそれぞれ分けてバスに乗せ、ジョルノもバスに乗ると実技試験場に向かって移動を始めた




前からジョルノのヒロアカは書いてみたいと思っていたのですよね。でも他に書いてる作品もあるからなかなか踏み切れなくて…

ジョジョとヒロアカのクロスは能力の使いにくさやパワーバランスもあって非常に大変だと覚えました


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実技試験を突破せよ! その1

筆が乗ったんで追加で1話いきまーす


ザッ ザッ ザッ

 

「し、試験場の中に街が丸ごとあるッ!」

「雄英高校……発想のスケールが()げェ…」

 

バスがやがてたどり着いた場所は、中に大きな街そのものが存在するドーム状の試験会場だった

 

受験生たちがスケールの大きさに感嘆する中、バスから降りたジョルノは頭の中で試験の内容を反芻する

 

(仮想敵のロボットを倒してポイントを獲得する……これだけ広大ならば、単なる戦闘能力の他にも判断力の早さ、正確さが重要になってくる…)

 

ジョルノは眼前の町を見下ろす。見ればすでに多くのロボットが点在していて、中には仮想敵が密集しているエリアもある

 

(思いのほか小さい…あれならば、ぼくの“個性”で倒すことは)

『ハイスタートォオ〜!!!』

 

ダァンッ

 

突如プレゼント・マイクが告げたスタートに困惑する受験生たち。唯一、そして反射的に地面を蹴ったのはジョルノ・ジョバァーナだった

 

(いきなりスタートを切ってきた!やはりここ(雄英)の試験は()()()()()じゃあないッ!!実戦的だッ!!ならばただ敵を倒すだけではダメだ!)

 

通常の試験ではあり得ないマイクの行動はジョルノに直感的な確信をもたらした。ジョルノは考えを止めず、中学生とは思えない速度で街を駆ける

 

『どうしたあ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?』

「何だってェェ〜!?」

 

1人の受験生が頭を抱えて叫んだ。それをキッカケに残りの全員がジョルノを追う形で街になだれ込んでいく

 

そしてジョルノは2P敵と会敵する

 

『目標捕捉!!ブッ殺ス!!』

 

鋼鉄の拳を振りかぶり、接近するジョルノに向かって攻撃する仮想敵

 

それに対してジョルノは“個性”を使用した!

 

 

 

ゴールド・エクスペリエンス(黄金体験)!!!」

 

 

 

ジョルノの姿がブレたかと思うと、人間ではない、だが人型のなにかが拳を握り締めて現れ、目にも留まらぬ速さで仮想敵を殴りつけた

 

メキャァ!!

 

仮想敵より先に届いた攻撃は装甲と電子盤の一部を破壊し、仮想敵の動きを停止させた

 

周囲に敵がいないことを確認したジョルノは自らゴールド・エクスペリエンスと名付けた、自身の傍で宙に漂う人型の異形に目を向けた。テントウムシをモチーフにした無機質な体。名前にある通り金色を主にした色合いは後続から来た受験生たちの視線を釘付けにする

 

これがジョルノ・ジョバァーナの“個性”…否、“個性”の枠組みを超えたとしか思えない能力『ゴールド・エクスペリエンス』である

 

「これで2P。そして殴った感触から感じた硬度はその辺の鉄パイプを使えば充分殴り壊せる程度のもの…ロボットの破壊自体に問題はなさそうだな」

 

ドガァ! バギィ!

 

「うぅおおおッ!」

「ハッ!!」

 

そして周囲にはすでに他の受験生が殺到している。各々が肉体・個性を駆使して次々仮想敵のロボを破壊していく

 

「もう追いついてきたのか……さすが最高峰…」

『死ネェエ──!!』

 

ライバルたちを見て感心するジョルノに物騒なセリフを吐きながら仮想敵が背後から奇襲をかける

 

だがジョルノは振り返らず、ゴールド・エクスペリエンスを反転させ逆に殴り返す!

 

「無駄ァッ!」

 

先ほどよりも手応えのないロボ(おそらく1Pの敵)を破壊したジョルノは振り向いた

 

「!」

『取ッタ!食ラエッ!』

 

すると視線の先には2P敵よりも一回り大きな仮想敵が2体、ガトリングのような銃口をジョルノに向けていた

 

「こいつが3Pの仮想敵ッ!!分厚い装甲で身を固めた遠距離タイプの敵か!」

 

ドガガガガガッ!

 

構えられたガトリング砲が火を吹き、ジョルノを蜂の巣にする。吐き出される弾は全てゴム弾だが、()()()()()()()()では全弾命中した時点でまともに立っていられないだろう

 

ガキィンッ!ガギィンッ!ガギィッ!

 

では()()()()()()()()()()()

 

「ゴム弾程度ッ!!俺の“スティール”の敵じゃあねェー!!」

 

1P敵に()()を使いゴム弾を防ごうとしていたジョルノは、急に目の前に躍り出てゴム弾を受けた男の姿に一瞬目を丸くする

 

しかしすぐに考えを切り替えて、全身から金属の光沢を放つ凶悪な面の受験生と同時に3P敵に向かって走り

 

「オラオラオラオラァ!!」

「無駄無駄無駄無駄ァ!!」

 

男は鉄になった肉体の、ジョルノはゴールド・エクスペリエンスの拳のラッシュで3P敵を1体ずつ撃破する

 

「おおっ!?」

「ぼくの能力で攻撃を防ぐことは簡単だ。でも図らずも、君が盾になってくれたおかげで容易に3P敵を撃破できたよ。グラッツェ(ありがとう)

 

全身鋼鉄の男、鉄哲(てつてつ) 徹鐵(てつてつ)は破壊する予定だった2体目の3P敵を一緒に破壊されたことに遅れて驚く

 

そしてジョルノに言われた言葉を嫌味と捉えた鉄哲はジョルノを追いかけた。イタリア語で告げられた礼を知らなかった故だ

 

「なんか言うことねェのかよォ!?人の獲物横取りしといてよォ!!」

「君への礼ならすでに言ったじゃあないか。それにこれは試験だ。プレゼント・マイクも言っていたアンチヒーロー(ヒーローらしからぬ)な行動、つまり君への攻撃を行っていない以上、君の文句は無駄だ」

「なんだと!?」

「頼むから無駄な手間は取らせないでくれ」

 

ジョルノの冷淡な反論は鉄哲の怒りを煽る。そんな中でも仮想敵のロボットたちは受験生に襲いかかる

 

『敵ダッ!!』

『敵ガイルゾ!!』

()レェーッ!』

「だから俺への攻撃は…」

「無駄無駄無駄無駄!!」

 

横道から湧いてきたロボを見据える鉄哲。だが鉄哲が1歩足を踏み出すよりも早く、滑るように宙を移動するゴールド・E(エクスペリエンス)が仮想敵の群れをスクラップに変える

 

「な…!」

「ぼくの『ゴールド・E』、君ほど防御力はないが、この程度の物体ならすぐにスクラップにできるパワーとスピードがある。ぼくに付いてくるなんて無駄なことはやめて、今すぐ別の場所に行くことをオススメする」

 

それはジョルノなりの気遣いだったが、先ほどの礼を理解できなかった事がここで悪く作用してしまう

 

「俺じゃあ同じ土俵にすら立てねェって言いてェのか!?冗談じゃあねエッ!!ゼッテェーてめーより点を稼いでやるよォ!!」

「だから、その為にもぼくから離れた方が良いって言ってるじゃあないか」

「うるせーッ!意地でも付いてってやるッ!」

 

強情な鉄哲の態度にジョルノはため息を吐きながら諦め、試験会場を駆けながらロボットを破壊していった。鉄哲もロボットを破壊はするが、いかんせんジョルノの討ち漏らしばかり倒しているのでロクに点数を稼ぐことができていない

 

仮想敵の数がだいぶ減ってきたところで、ジョルノは1つの違和感に気づく

 

(………この試験会場を相当走り回ったが、1度として0P敵を見かけていない。残骸すらもだ……なんだ?何か奇妙だ………)

 

ズウウウウゥンッ!!!

 

「!!」

「うおああッ!?なんだァ!?」

 

その時、凄まじい揺れが試験会場全体を襲った。地震のような揺れにジョルノも鉄哲も思わず膝をつき、自分の()()()()()()()影の存在に気づく

 

「こ、これはッ…!?」

「デ…デ…」

 

ジョルノたち…いや、受験生全員が見上げた。試験会場の奥地から現れた、ビルと見紛うほど巨大なロボットの存在に

 

「デケエエエエェェェェッ!!!?」

()()()()()()『0P』の仮想敵かッ!!」

 

満を持して現れた妨害ロボットの登場に、試験会場は一気にパニックに陥るのだった




他の小説でもある設定ですが、本作の『ゴールド・エクスペリエンス』は一応“個性”ではあるので、他の生物にも見えている設定です


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実技試験を突破せよ! その2

ギリギリ本日3本目です!……つ、つかれた…


『ジョルノの母親』はとても美しい女性であったけれども、決して良い母親ではなかった

 

海外でジョルノを産んだ母親はその後、日本に住んでいたが

 

「子供ができたからって、自分の自由がなくなるなんてまっぴらだわ」

 

そう言って、幼いジョルノを置き去りにして彼女は、よく夜の街に遊びに出かけた

 

寝ていて夜、目を醒ますと母親が家にいない。1〜2歳の子供にとってそれは、どんな恐怖と絶望なのだろう………ジョルノは暗闇の中で泣いても無駄なので、ただひたすら震えていただけだった

 

ジョルノが4歳の時、母親は結婚した。相手はイタリア人で、日本に住んではいたが、以後、ジョルノはイタリア人となった

 

しかし、この男は母親の見ていないところで、よくジョルノを殴りつけた!

 

「人の顔色ばかりチラチラのぞきやがって、イラつくガキだぜ!」

 

これは逆だった……他人の顔色ばかりうかがう性格にしたのは、明らかにこの男が原因だった

 

そしてジョルノのこうした態度は、街のガキどもが鬱憤を晴らすのにもっとも好まれる性格だった。いじめにいじめ抜かれた彼は、自分がこの世のカスだと信じるようになり、このままではジョルノが心のネジ曲がった人間に育っていく事は、誰が見ても明らかだった

 

しかし、ある事件がキッカケで、ジョルノは救われる事になる───

 

 

 

「0P敵だァアアア───ッ!!」

「あんなデカイなんて聞いてないぞォ──ッ!!」

「チクショー、逃げろ!!!」

 

0P敵は想像以上に大きく強大で、その姿を見ただけでほとんどの受験生が敵わないと察して逃げ始めた

 

「クソッ、まだロクにロボを倒せてねェのによーッ!!」

 

試験継続が困難になるレベルの0P敵の登場に鉄哲は焦りを感じた。しかしここで逃げる訳にはいかない、ヒーロー科に入れないと逃げはしないが、同時にあれほどの巨体で踏み潰されれば死ぬのではないかという恐怖で前に進めもしなかった

 

「ど、どうすれば…!」

 

進む事も退く事もできず立ち往生する中…

 

ダッ!

 

ジョルノは0P敵の方へ唐突に走り出した

 

「な、なんだとォォー!!?」

 

それが鉄哲には自殺願望に見えて他ならなかった。硬化系の“個性”を持つ自分でさえ死の危険があるのならば、ジョルノが踏み潰されれば間違いなく死ぬ!

 

だというのに、鉄哲はジョルノに追従するようにすでに走り出していた

 

(何をやってんだよォー俺はッ!?)

 

自分の衝動を理解できない鉄哲だが、ジョルノが立ち止まった先でそれ以上の衝撃を見る

 

「君、大丈夫ですか!」

「ウゥ……ふ、不覚です…」

 

それは逃げ遅れた受験生だった。キリストのイエスのような清さを感じさせる女子生徒で、“個性”によって生まれつき変質していた茨の髪の大部分と左足が瓦礫の下敷きになったため姿勢を崩し、動けないでいた

 

(まさかッ!()()()()()に近づいたのかよ!!あんな巨大なヤツにッ!!)

 

やがて鉄哲が辿り着くと、ジョルノはゴールド・Eを呼び出して瓦礫を砕く

 

「無駄無駄無駄無駄!」

 

瓦礫がコナゴナに砕けると半分の髪が動けるようになった茨の女子生徒は、その半分の髪で残りの瓦礫をどかした

 

「ありがとうございます。救けていただいて感謝します…」

「悪いけど時間がない。…君に頼みがあります」

「アンッ?」

 

唐突にそう言われた鉄哲は疑問符を浮かべるが、ジョルノは気にせず言う

 

「君には彼女を連れて先に逃げてほしい。左足首が捻挫しているんだ。茨の髪で移動する事もできるだろうけど、彼女の疲労具合を考えれば遅くなる。君が適任なんです」

「はぁ!?なんで…」

「この試験には()P()()()にも獲得Pがある」

 

鉄哲は抗議しようとするが、ジョルノが被せて言った言葉に耳を疑った。女子生徒も同じくだ

 

「おそらく人を救けたりすれば得られる…名付けるなら「レスキューP」といったものが……この試験がヒーローの素質を見る試験なら、むしろそっちが重要だ。君が彼女を連れて逃げれば充分合格圏に入れると思う」

「ほ、本当にそんなモンが…!?」

 

この時、鉄哲の中にジョルノを疑うという発想はなかった。根拠が薄いのにハッキリと断言するジョルノの姿には、信じるだけの何かがあったのだ

 

「でもなんで俺だッ!!お前の使ってる幽霊で運ぶ事だって出来んだろーがッ!!まさか物持てねーのかよ!!」

 

しかし鉄哲はバカではない。ジョルノの『ゴールド・E』の方がはるかに適任だということが分かっていた。だから鉄哲がそれを聞くと、ジョルノは数瞬黙ったあと、真っ直ぐ鉄哲の目を見た

 

「このジョルノ・ジョバァーナには『夢』がある」

「ゆ、夢?」

 

唐突に語るジョルノに首をかしげる鉄哲。ジョルノは鉄哲たちに背を向け、0P敵を見る

 

「ぼくは必ずヒーローになって夢を実現させる……その為にも、()()()()()()に立ち止まっている暇はないッ!!」

「!!」

 

鉄哲はジョルノに対する認識が間違っていたと痛感する

 

自分の信じるものの為に強大な敵だろうと立ち向かうジョルノ……それは鉄哲の知る限り、誰よりもヒーローに近い背中だった

 

「待てジョルノ!!」

 

だから鉄哲はジョルノの名前を叫んだ

 

「あんなデッケェーのをお前だけでどうやって倒す気だよ!俺にもやらせろッ!0Pを一緒にやればよォ〜、結果的に救けることになるから「レスキューP」ってのも狙えんだろッ!!」

「…「レスキューP」に関してはぼくの推測でしかない。それに君の勝手な行動で彼女を危険に晒すわけには…」

「私もお伴します」

 

2人を危険から遠ざけようと鉄哲を説得するジョルノを止めたのは、救助した女子生徒だった

 

「私の“個性”は“ツル”。貴方達の救けようとした心に報いたいのです。手伝わせてください」

「そういうことだ!今更NOなんて言わせねェ!」

「……全く君達は…」

 

ジョルノは柔らかい表情で微笑んだ。彼と彼女の気持ちを信じることに決めたのだ

 

「俺の名前は鉄哲 徹鐵!徹鐡って呼べ!!」

塩崎(しおざき) (いばら)です。よろしくお願いします」

「ジョルノ・ジョバァーナ。徹鐡、さっき君に言った頼みの内容を変えさせてもらいますッ!!」

 

即席チームを組んだジョルノは、2人に作戦を伝える

 

すると鉄哲、ジョルノ、塩崎の順で列を組み、0P敵と相対する。0P敵が3人を捕捉し、巨大な腕を振り下ろす!

 

「来ます!!徹鐡ッ!塩崎ッ!()()()()()()()ねッ!!」

「おう!!」

「覚悟は決めましたッ!!」

 

迫り落ちてくる鉄の塊、しかし3人に恐怖はなかった

 

『ゴールド・E』!!」

 

ジョルノは『ゴールド・エクスペリエンス』で近くの壊れた仮想敵の残骸を叩く。そしてゴールド・エクスペリエンス越しにエネルギーを流し込む

 

「生まれろ…生命よ…生まれろ、新しい命よ…」

 

ドクン ドクン ドクン ドクン

 

『ゴールド・E』が流したエネルギー…生命に満ちたそれは残骸中に循環する

 

グオオオオオ

 

やがて鉄クズは金属の硬度と光沢をなくし、生命に満ちた十数本の巨大な樹木に変化する

 

「ほ、本当にロボットが『樹』にッ!!」

「なんと神秘的な…」

 

それを2人が見ている中、樹木は螺旋状に伸びていき巨大なバネを形成する。樹木のバネが0P敵の拳とぶつかり合い、樹は折れることなくバネを小さくしていく

 

「トネリコの樹は幹は細いが弾力がある。枝がテニスラケットの素材に使われることからその有用性が理解できる……」

 

しかし、トネリコの螺旋樹木は勢いを弱めるだけで動きを完全に止めることはできない

 

「だがいくら樹を重ねても、これほどの硬さと質量の物体を止めることはできない……だからこそ「彼の存在」が必要だッ!」

「来いやぁぁぁっ!!!」

 

全身を“スティール”で硬化させ、塩崎の“ツル”のクッションに乗り鉄哲は衝撃に備える

 

ガッギイイイインッ!!

 

「ゴァッ!!?ぐ、ぐ、ぐぅぅぅ…ッ!!」

『1番の要は徹鐡、君の「能力」だ。ぼくや塩崎の“個性”ではあの質量から来る攻撃を防ぐ事は決して出来ない。全ては君にかかっているッ』

「こんッ、じょオオォォォォッ!!」

 

自分を信じて作戦を立ててくれたジョルノの気持ちに応えたい。その一心で鉄哲は雄叫びをあげて踏ん張り続ける

 

ガギィィ……

 

根性で耐え続けた鉄哲は、0P敵の拳を止め切った

 

「いきます!ジョバァーナさん!!」

 

塩崎はすぐさまツタでジョルノを敵の頭より高い位置に移動させると、そのまま空中に放り投げた

 

0P敵の顔の前を逆さに落下していくジョルノは言う

 

「ロボットを破壊してて気づいたんだ……どの仮想敵のロボもポイントの高さに応じて胴体や手足の硬さが変わるが、頭部だけはどのロボも1番()()()()()()()()だった…内部にある発電機関を破壊されないためにだ………だがもしッ!その法則がお前にも『適用』されるなら!頭部よりも硬く、厚い胴体を持ったお前にも『適用』されているのなら!」

 

ジョルノと0P敵の顔面が、1メートルにも満たない距離に近づいた時

 

「それは逆に『弱点』となるッ!!」

 

 

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァ!!!」

 

 

 

ゴールド・エクスペリエンスの目にも留まらぬラッシュが0P敵の顔面をグシャグシャに破壊していく。やがてジョルノの推測通り内部にあった発電機もボロボロに破壊され、電力の供給源がなくなった巨大ロボは完全に沈黙した

 

空中に放り出されたままのジョルノは落下を続け

 

ガッシィ!

 

同じようにツタで高所まで登ってきた鉄哲に途中で捕まえてもらった

 

『終〜〜〜了〜〜〜〜〜〜〜!!!』

 

直後、ホイッスルと共にプレゼント・マイクの声が試験会場中に響いた

 

「随分ムチャしやがったな!ジョルノ!」

「…グラッツェ(ありがとう)、徹鐡」

「おう!」

 

今度はその言葉がお礼だと分かった鉄哲は、元気にそう返した




『ゴールド・エクスペリエンス』
テントウムシをモチーフにした人型の幽体を操る個性。パワーは人並み(自動車をスクラップにする程度)だが、スピードは他の追随を許さないほど早い。射程距離は10メートル(でも基本的に2メートル以内を維持する)

生命を作り出す能力があり、手で触れた物に生命エネルギーを流す事で動植物を生み出す事ができる


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序章の幕引き

筆休めのつもりで投稿して、2日経ってサイトを見るとランキングで2位になってました☆

……嬉しいです。でも想像以上の高評価に、プレッシャーで目ん玉からゲロはきそーです


「結果が出ましたッ!」

 

そこは全試験会場をモニタリングした広い部屋。暗い部屋の中でプレゼント・マイクを含めた数々の『ヒーロー』…即ち雄英の教師達が実技試験の結果を見ていた

 

「凄いな、この2位の子。敵Pだけでこれほどの点数を取るとは」

「私は8位の子が気に入ったわ。救助(レスキュー)Pだけで合格しただけじゃなく、アレ(0P敵)吹っ飛ばしたものねぇ」

「思わず「YEAHーッ!!」って叫んじまったぜ!!」

 

教師陣のメンバーはそれぞれ試験結果を見ながら驚嘆の声を上げる

 

「だが、とびきり凄いのはやはり…」

「ああ……『彼』だな」

 

そうして全員が見るモニターには、金髪のコロネを頭に乗せたような髪の少年が、これまた黄金の人型を操って0Pの頭をベコベコにする様子が映っていた

 

「ジョルノ・ジョバァーナ、熱情中学出身か…」

「ヴィランやヴィジランテの巣窟って言われる学校からウチ(雄英)の合格者が出るとはな」

 

そう呟くのは長く白いマフラーのようなものを口元に巻くボサボサ頭の中年である

 

「マイクのスタートダッシュには即反応、仮想敵への迅速な対処、救助Pの存在を見破るズバ抜けた考察力、即席チームをまとめ上げるカリスマ、敵の弱点を見つける洞察力に危機的状況でも的確な作戦を組み立てる冷静さ…雄英でもまず見かけない金の卵だな」

「おおッ!イレイザーが絶賛するって珍しいな!」

 

イレイザーと呼ばれた男が下したジョルノの高評価にマイクが驚くが、イレイザーは目を細くする

 

「…だが、わざわざ怪我を負うリスクを背負ってまで破壊を選んだのは合理的ではないな。あいつの“個性”なら発電装置を破壊せずとも、生み出した木で関節を雁字搦めにして動きを止める事は容易だったはず。消耗するにしても、怪我をして動けなくなる可能性を考えれば………」

『安心』してもらうために破壊したのさ!」

 

そんなイレイザーの考えを遮ったのはV字の金髪と筋骨隆々の肉体、画風が違うレベルで存在感がある男。「平和の象徴」「No. 1ヒーロー」の“オールマイト”だった

 

「動きを止めただけではまた動き出すかもと不安に駆られる……しかし目の前で倒したならばッ!?彼はそれを特に意識せずやってのけたのさ!!」

「……オールマイト、みんなが貴方のように強いわけではない。我々には我々のヒーローとしての自覚がある…」

「分かってるさ!相澤くん!」

「ハァ…」

 

相澤くんと呼ばれたイレイザーは、これから未来で起こるであろう受難を想像して、ため息を吐いた

 

「何にせよ、敵Pは65、救助Pは60、筆記も実技2位の爆豪と同点の1位。ジョバァーナは2位から大幅に点数を離して、ブッち切りで首席決定だ」

(ライバルは多い!しかし君ならやってのけると信じているぞッ!!緑谷少年!!私も全力でサポートする!!)

 

オールマイトは自身の後継者の姿を思い浮かべながら、これからの教員となる自分を奮起させるのだった

 

 

 

とぅるるるるる…とぅるるるるるん…

 

ガチャリ

 

「もしもし」

『よおジョルノ!!合格通知届いたかッ!?俺、合格出来たぜッ!!』

「…合格したのは分かりました。ですから、もう少し声のボリュームを下げてください」

『あ、ワリィ』

 

電話に出るなり、鉄哲の大音量が鼓膜を大きく振動させたのを感じて、ジョルノは少し顔をしかめた

 

ジョルノは試験終了後、実技試験をキッカケに鉄哲と塩崎の2人と連絡先を交換していた。他愛のない話をすることもあったが、ジョルノはそれを無駄とは思わなかった

 

『救助P、マジであったんだな!聞かされた時、俺本当にビックリしたんだ。スゲェーよジョルノは』

「いいじゃあないですかそんな事は。分かっていたところで、徹鐡と塩崎の協力がなければ、0Pの敵は撃破できなかったんですから」

『お前なァ〜〜〜……もっとこう、自慢したってバチは当たんねえと思うぜ。俺や塩崎を動かしたのは、間違いなくお前なんだからよォ』

「自慢したって敵を増やすだけですよ。敵が増えて、それに対する労力を考えれば吹聴するなんて無駄だ。2度も言わせないでくださいよ?」

『…お前って本当に無駄って言葉が好きだよな』

「キライですよ。無駄なんて」

 

呆れるようにそう言うジョルノに、徹鐡はまた言ってると返す

 

『先に塩崎に聞いたけど、あいつも合格してたってよォ。これで全員ヒーロー科ってことだ』

「ぼくの合否を聞いてないじゃあないですか」

『1番敵P稼いでたお前が合格してないわけねェーだろうが』

 

そう言われればそうなのだが、このまま鉄哲の思い通りというのが面白くないと感じたジョルノは、ある事を打ち明ける

 

「じゃあ合否のついでに教えておきます」

『アン?』

「ぼく、主席合格みたいです」

 

ガタタッ ガツン

 

電話越しで椅子が倒れる音と鈍い音が聞こえてきた。どうやら立ち上がった拍子にどこかぶつけたみたいだった

 

『〜〜〜〜ッ!!』

「大丈夫ですか?徹鐡」

『お前!お前ッ!それマジかよッ!?』

「本当ですよ。ウソだと思ったんですか?」

『逆だッ!!むしろ納得したね!!そっかあ〜〜〜1位合格!やっぱスゲェじゃあねえかジョルノ!』

「ありがとう」

 

鉄哲の、こうやって素直に祝福してくれる性格は、イイ人だなと思ったジョルノは礼を言う

 

「クラスですが、ぼくはA組みたいです」

『俺はB組だ。塩崎もB組なんだよな……なんかジョルノだけ仲間はずれにしてるみたいでイヤだな』

「同じ雄英で、ヒーロー科なんだからいいじゃあないか。これから3年間、嫌でも顔を合わせますよ」

『それもそうだなッ。じゃ、また雄英で会おうぜ!』

「ええ、また」

 

プッ

 

特に話すことがなくなったため、2人は通話を終わらせた

 

「……これからだ…ぼくは必ずヒーローになる…」

 

右手で首の背後に触れながらジョルノは決意を口にする

 

指先が触れた箇所には、くっきりと星型のアザが浮かんでいた



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無情なるイレイザーヘッド その1

なんだが筆がのーる♪のりのりの〜りのり♪


ジョルノ・ジョバァーナは、再び雄英高校の前に立っていた。ただし、今度は受験生ではなく、新しい生徒としてだ

 

雄英の白い制服を、首元までぴっちりボタンを閉めてもジョルノは平然としているが、その独特過ぎる金髪の髪型が周囲の視線を集めていた

 

「おぉ〜〜〜〜いッ!!ジョルノォ!」

 

するとジョルノに向かって大声で叫ぶ存在が

 

「おはようございます、徹鐡、塩崎」

「おう!会うのは試験以来だな!」

「お久しぶりです、ジョバァーナさん」

 

声の方を見れば、同じく雄英高校の制服を着込む鉄哲と塩崎が一緒に歩いてきた。2人は駅で先に出会っていたのだった

 

合流した3人は校舎の中に入っていく

 

「しかし、ジョルノの『ゴールド・E』って色々できてズリィよな〜〜」

「ズルくないですよ」

「いやいや、普通に破壊力とスピードのある幽霊を自由に操れるだけでもツエーのに、さらに動物や植物を生み出せるってヤバいだろッ。どっちか1つでもツエーのが、2つ合わさったら、そりゃズリーに決まってんだろ」

「確かに、ジョバァーナさんの個性は私の個性と同じ事も出来ますから、強いとは思います」

 

否定するジョルノだが、鉄哲も塩崎もゴールド・Eが強いと主張して曲げない

 

「言っておくけど、ぼくの『ゴールド・E』は、色々できても徹鐡のように耐え続ける事は出来ませんし、塩崎ほど多くかつ早く植物を生み出す事は出来ません。それに、ゴールド・Eにだって弱点があるから、無敵って訳じゃあないんですよ」

「あんなに強いのに弱点があるのか…」

 

『ゴールド・E』にも当然弱点があることを知った2人は意外そうに頷いた

 

「そういえばジョバァーナさん、改めて首席代表、おめでとうございます」

「ありがとう、塩崎」

「お前が俺たちの代表みてェなモンだからなッ!頑張れよ!」

「ええ」

 

雑談をしながら歩いていると、先に鉄哲と塩崎が在籍する事になるB組に辿り着いた

 

「じゃあな。入学式で会うだろうからよォー」

「お互い、学びに励みましょう」

 

別れの言葉を告げて2人は教室に入っていった。見送ったジョルノはそこから少し歩くと、ヒーロー科A組の教室前に着いた

 

まず目についたのが巨大なドア

 

「優に3mはあるな…異形型の“個性”を持つものは200cmを超える者も多い。その為の配慮か」

 

そしてドアを開けて教室の中を見た

 

中にはすでに他の生徒が全員集まっていて、しかし多くが他の者と会話しているから、入ってくるジョルノに気づくのは少数だった

 

「………?」

 

そんな中、ジョルノは教卓の裏側に存在する寝袋に気づく

 

(寝袋…?)

 

寝袋を観察していると、急に寝袋がモゾモゾ動き出し、中から飲料ゼリーのパッケージを咥えた無精髭の小汚い男が出てきた

 

「お友達ごっこなら他所(よそ)でしろ」

 

ヂュッ

 

()()()()()()()()()()

(((なんかいるッ!!!)))

 

教卓の前に立つ謎の男の登場にA組生徒全員(ジョルノなどの数人除き)が驚く

 

「はい、静かになるのに9秒かかりました。時間は有限、君達は「合理性」に欠くね」

(((なんだこの人)))

 

不審人物に急に批評されて、思わず真顔になってしまうA組生徒諸君

 

「………………」

 

しかし、ちょうど不審人物の横にはジョルノ・ジョバァーナがいたのだ。その目は胡散臭そうなものを見る目だ

 

「あんた、誰です?」

(((言った!!!)))

 

ズバッと聞いてきたジョルノの言葉が生徒全員の心の声だった。別にシビれも憧れもしないが、素直に凄いヤツだなと何人かは思った

 

そんなジョルノの質問を、ボサボサ男は責めるような目で返した

 

「口の利き方がなってないな。教師には敬意を払え……それが社会のルールだ」

「教師!?」

 

男の言葉に驚いたのは丸っとした顔が特徴の女子生徒、麗日(うららか)茶子(ちゃこ)

 

「君達の担任の相澤消太だ。よろしくね」

「教師…?てことは、ヒーローって事だよな…?」

「でも、あんな人知らないぞ」

 

雄英高校の教師は、校長を除いた全員がプロとして名の知られているヒーローばかりである

 

しかし、目の前の相澤と名乗った教師の容姿はヒーローとしてまるで心当たりがなかった。この教室一のヒーローオタクも思い出せないレベルである

 

「早速だが、全員これ着てグラウンドに出ろ」

 

そう言って相澤が用意したのは、クラス全員分、21着の体操服だった

 

「男子は隣の空き教室で着替えろ。10分以内に来るように」

 

それだけ言うと相澤は寝袋を抱えたまま教室から出ていった。急な指示に、殆どが唖然としている

 

コツ コツ

 

ジョルノは体操服を1着取ると、そのまま静かに教室から出る。それを見たメガネをかけた長身の男子がジョルノに声をかける

 

「君!一体どこに行く気だ!?」

「隣の教室ですよ。言ってたじゃあないか、10分以内に着替えてグラウンドに来いって。まさかそのまま立ち尽くしてるつもりですか?」

「ム、確かにその通りだが…」

「無駄な事を考えてる暇があったら、早く行動するべきなんだ」

 

忠告だけ残して、ジョルノは教室から出ていった。残りの男子生徒たちも、流れるように教室から出ていくのだった

 

 

 

()()()()()()()ォッ!?』

 

10分後、グラウンドで素っ頓狂な声をあげたのは一部を除いたA組一同だ。色々な器具を用意している相澤は、体操服に着替えたA組全員に対して個性を使ったテストを行う事を宣告したのだ

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

抗議の声を出す麗日だが、相澤は取りつく島もない

 

「ヒーローにそんな()()()()をしている時間はない。雄英は“自由な校風”が売り文句………『先生側』もまた然り」

「…なるほど。つまりこれはそっち(学校)が出す、最初の壁って訳ですか」

 

相澤の言葉に1人納得したジョルノが呟く。そしてその呟きで周囲の生徒の視線がジョルノに集まる

 

「そういうことだ。とりあえず入試試験1位のジョバァーナ、こっちに来い」

「ンだとォ…ッ!?」

 

入試1位という言葉に過剰な反応を見せたのは、ヴィランと言っても通用する形相でジョルノを睨みつけている爆豪(ばくごう) 勝己(かつき)だった

 

そんな爆豪の強烈な視線を、興味のないジョルノは無視して相澤の方へ向かう。なお、強烈な視線は爆裂と形容できそうな視線に変わったが相澤も特に気にしていない

 

相澤は近づいたジョルノになにやら特殊なソフトボールを投げ渡すと、地面のサークルを指差し言う

 

「お前、中学の時のソフトボール投げ、記録は?」

「……48mくらいですね」

「あのサークルの中に入って、ソフトボール投げをしろ…ただし、“個性”を使ってだ」

『なッ!?』

 

A組のみんなが驚くが無理もない。“個性”の使用は法律で厳しく定められている。今まで“個性”を縛られて生きてきた者からすれば、相澤の言動は驚きを値する

 

そして相澤に指示されたジョルノはサークルの中に入る。しかし一向にボールを投げるそぶりを見せないので相澤が眉をひそめていると、ジョルノは振り返ってこう尋ねた

 

「先生……「どんな手段で飛ばしてもいい」って事ですね?“個性”を使うということは」

「……サークルから出なければな……」

 

答えを聞いたジョルノは改めて前を向く

 

グニュ グニュウ

 

「え!?」

「クルックー」

 

すると、特殊ボールが縫い目に合わせて展開して、そのまま翼を広げた鳩に姿を変えた

 

「なにあれ!?鳩になったよ!」

「一体どんな“個性”なんだ…!?」

 

20人の生徒が目を疑っている中、ジョルノは指示を出して鳩を空高く飛び立たせた

 

グングン高度をあげて街の向こうへ飛んでいくが、点に見えるようになってもまだ飛んでいた

 

「…ジョバァーナ、あの鳩はどこまで飛ぶんだ?」

「さあ?能力の射程距離を自分で調べた時は限界が分かりませんでしたから……でも、1度3km以上離れた街に飛ばしても全然平気だったので、多分まだ飛ばせると思います」

「………」

 

ピッ

 

相澤は握った測定器を全員に見せる。そこには「∞」と記録されていた

 

「無限ッ!?」

「そんなのあんの!?」

「いきなりヤベェー記録出たぞ!」

「面白そォー!!流石雄英!!」

 

開幕からの圧倒的な記録にほぼ半数以上が沸き立つ。ちなみに、そのほぼに入ってないうちの1人である爆豪は、信じられないといった風に目を見開いていた

 

そして、相澤はそんな生徒達の浮ついた雰囲気を許さない

 

「…()()()()、か。ウチ(雄英)のヒーロー科に入っておきながら、そんな腹づもりで3年間過ごす気か?」

「え?」

 

相澤は少し考えると、掌の上に拳をポンっと乗せる

 

「よし。それじゃあトータル成績最下位の者は見込みなしと判断……「除籍処分」としよう」

『…ハアアァァァァッ!!?』

 

相澤の告げた無情な宣告。それを聞いた生徒たちは、一斉に信じられないといった風に叫んだ

 

「生徒の如何は先生の“自由”……」

 

が、撤回する気はさらさらない

 

「これが、雄英のヒーロー科だ」

 

相澤のやるという『スゴ味』を感じ取ったジョルノは、こめかみに一滴の汗を垂らしながらも、静かに微笑んだ



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無情なるイレイザーヘッド その2

アニメ見てから投稿です…

ああ……逝ってはナランチャ……


「ま、待ってください!!質問をッ!!」

「却下」

 

メガネをかけた真面目そうな生徒、飯田(いいだ) 天哉(てんや)の言葉をあっさり切って捨てる相澤

 

「い、いくらなんでも理不尽じゃあないですか!?しかもいきなりッ!入学初日にテスト、最下位は除籍処分って…!」

「ヒーローになれば、自然災害、事故、ヴィランはいきなり、そして理不尽に()()()()()

 

麗日が抗議の声をあげるが、相澤は遮るように言葉を紡ぐ

 

「放課後にマックで駄弁りたいと考えてたヤツもいるようだが残念、雄英は君達に3年間、ひたすら受難を提供するご予定だ。そういう理不尽(ピンチ)を覆していくのがヒーロー…マイクのヤツも言ってただろ」

 

長い前髪をかきあげて、笑いを浮かべながら生徒達に語りかける

 

Plus(プルス) Ultra(ウルトラ)さ。全力で乗り越えてこい。さあ、本番だ」

 

個性把握テストのスタートが切られ、全員がそれぞれ、瞳の奥に「覚悟」を灯していった

 

ただ1人、緑谷(みどりや) 出久(いずく)を除いて

 

 

 

第1種目 50m走

 

2人ずつ、50mの距離を走る種目であり、ジョルノの出席番号は12番のため、11番の障子(しょうじ) 目蔵(めぞう)と走ることになった。4本腕の大柄な男子である

 

この種目では個性を使わない障子と違い、ジョルノはゴールド・Eの脚を自身の脚と重なるように発現させる

 

パンッ!

 

相澤がスターターピストルを鳴らす

 

ダッ!

 

「…!速いッ!」

 

先ほど見たジョルノの能力から身体強化の個性ではないと考えていた障子は、想像以上に速い走り…いや、前のめりになりながら横っ跳びで駆けるジョルノの姿に驚く

 

ピッ

 

『5.76』

 

6秒台を切ったジョルノだが、その顔は微妙そうな表情だった

 

(やはり『ゴールド・E』のパワーがあっても、脚で走る以上飛び抜けた記録にはならないな…)

 

そう思うジョルノに、一足遅れてゴールした障子がジョルノに近づく

 

「まさか速く走ることもできるとは……いや、ジャンプか?」

「君は…」

「そういえば名乗っていなかったな。俺の名前は障子 目蔵。確か、ジョルノ・ジョバァーナだったか?」

「ええ、よろしくお願いします」

 

50m走…5.76秒

 

 

 

第2種目 握力

 

「540㎏wってマジかッ!!」

「あんたゴリラ!?タコか!!」

「タコってエロいよね………」

「………」

 

障子が“複製腕”の触手で腕を増やし、凄まじい記録を達成した事で周囲が反応する

 

なお、戯言をほざいているのは、超低身長なエロ葡萄こと葡萄みたいな髪をした峰田(みねた) (みのる)である

 

「先生、これ、借りますね」

 

順番が回ってきたジョルノは、相澤からスターターピストルを拝借すると握力計の中に差し込み、生命エネルギーを流す

 

メキメキ…

 

「うおおッ!?あっちは木が生えた!つーか木になった!」

「どんな“個性”なんだ…」

 

もっとも硬い木の1つと言われている紫檀(したん)の木に生まれ変わらせると、握力計の中を成長した木が圧迫し続け…

 

バキャアッ!!

 

「こ、壊れたァー!!」

 

握力…測定不能

 

 

 

第3種目 立ち幅跳び

 

グオオォオ

 

「今度は竹がすごいいきおいで成長してるッ!」

「動植物を生み出す能力か…?」

 

今度はスタートラインに竹を斜めに生やした

 

50m走と同じくゴールド・Eのパワーで、限界まで成長させた竹の上からジャンプすると、結構な距離を跳んだ

 

立ち幅跳び…1722cm

 

 

 

第4種目 反復横跳び

 

ここでは流石にゴールド・Eを使っても記録が伸びない為、普通に反復横跳びをした

 

反復横跳び…65回

 

 

 

第5種目 ソフトボール投げ

 

これは1番最初のデモンストレーションの時に最高記録を出した為、ジョルノは見学しているだけだった。みんながそれぞれ自分の個性を駆使して、ボールを遠くに飛ばしていった

 

しかし、緑谷が個性を使ってソフトボールを投げたところで異変が起きた。記録が46mとあまりにも一般的な記録だからだ

 

「なッ…今、確かに使おうって…!」

「“個性”を消した」

 

個性を使ったはずなのに発動しなかった。その事実に困惑していると、目が赤く髪が逆立った相澤がそんな事を言った。長いマフラーのようなものの下にはゴーグルが見え隠れしている

 

「つくづくあの入試は『合理性』に欠くよ。お前のような奴も入学できてしまう」

「消した…!あのゴーグル…そうかッ!」

 

相澤の言動、容姿、そして個性が消えたという結果から、ようやく緑谷のヒーローオタク知識の中から彼の正体が浮かび上がった

 

「視ただけで人の個性を抹消する個性!抹消ヒーロー・イレイザーヘッド!!」

 

相澤…イレイザーヘッドはいわゆるアングラ系ヒーローであり、緑谷以外はイレイザーヘッドというヒーローを知らなかった

 

「緑谷…入試でもそうだったな。またそれ(個性)を使って大怪我をして、誰かに「救けて」もらうつもりか?」

「!」

「お前のしている事は1人を救って木偶の坊になる事……()()()()()ヒーローにはなれない」

 

相澤の厳しい言葉に緑谷はうつむく。相澤はソフトボールを手渡す

 

「“個性”は戻した…ボール投げは2回だ。さっさと済ませな」

 

しかし緑谷は投げるそぶりを見せず、ブツブツブツブツと何かを呟いてるだけだ

 

「緑谷くん、一体どうしたのだろうか…?」

「ハッ!「除籍勧告」食らったんだろうがよォー!」

 

飯田の心配を爆豪が嘲笑う。しかしそれに反論したのはジョルノだ

 

「いや、相澤先生は合理主義者です。除籍勧告をしたならボールを渡す理由がない。つまり、彼にはまだチャンスがあります」

「アァッ!?何いきなり割って入ってきてんだてめぇ!入試1位だからって調子乗ってんじゃあねェぞクソコロネ!!」

「…その『クソコロネ』っていうのは、ひょっとしてぼくの事ですか?」

「テメェみてェなクソ髪、どこにもいねえだろうがッ!!」

 

自分が1番でないと気が済まない爆豪は、入試1位の座を横取りした(と思っている)ジョルノを必要以上に敵視するが、どうでもいいという風に緑谷を見る

 

「コロネ野郎!シカトしてんじゃあ…」

「SMASH!!!!」

 

再びジョルノに怒鳴りつけたその時、緑谷がソフトボールを遥か彼方に投げ飛ばした。明らかに700mは超えていた

 

「先生…!まだ…動けますッ」

「こいつ…!!」

 

見れば人差し指の色が変わるほど折れているが、涙をこらえ笑いながらそう言う緑谷に、相澤はどこか嬉しそうに笑う

 

「………ハ?」

 

一方、緑谷の高記録を見た爆豪の目はあり得ないものを見る目をしていた

 

(…人差し指が変色するほどヘシ折れている…“個性”の反動で折れたのだろうか?いや、そうとしか考えられない。指1本でゴールド・E(エクスペリエンス)を上回るほどのパワー……つまり彼は、腕1本動かせなくなる事を承知の上で投げようとしたから、さっきは相澤先生に止められたのか)

「どーいうことだッ!ワケを言え!デクてめぇ!」

 

ジョルノが緑谷の状態を観察していると、爆豪が右手を“爆破”させながら緑谷に襲いかかる

 

シュバァ───ガシッ!

 

しかし、相澤の首元のマフラーのようなものが爆豪を捕らえ地面に叩き落とした

 

「んだこりゃッ…“個性”が…!」

「炭素繊維に特殊合金を混ぜ込んだ捕縛武器だ。ったく、何度も個性使わすなよ・・・俺はドライアイなんだ」

 

目を真っ赤にしながら忠告する相澤

 

「時間がもったいない。次、準備しろ」

 

 

 

第6種目 持久走

 

ゴールド・Eのパワーで常にトップスピードで走り続けたが、“エンジン”でそれ以上に速く走る飯田には勝てなかった

 

“創造”でバイクを創った八百万(やおよろず) (もも)とはギリギリの勝負だったが、彼女はバイクを創造するのに時間をとられスタートが遅れた為、僅差でジョルノの方が先にゴールした

 

持久走…2位

 

 

 

第7種目 長座体前屈

 

ジョルノは座り込むとゴールド・Eにそのままの姿勢で器具を持たせ、そのまま射程距離の限界まで前方に移動させた。長座体前屈姿勢のまま地面を滑るゴールド・Eの姿はとてもシュールな絵面だった

 

「ええーッ!?金ピカのユーレイ出てきた!!」

「マジにどんな“個性”だよ!?」

「つーかアレ()()なの先生!?」

「ありだ」

 

長座体前屈…1061.7cm

 

 

 

第8種目 上体起こし

 

「ユ、ユーレイに手伝わせてる…」

 

生まれ変わらせた植物をクッションにして、ゴールド・Eに引っ張ってもらうことで素早く上体を起こした

 

上体起こし…76回

 

 

 

全てのテストが終了し、全員が相澤の前に並ぶ

 

「んじゃあ、パパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括表示する…」

 

手元の端末を弄りながらホログラムを表示させる。同時に相澤は呟く

 

「ちなみに除籍はウソな」

『………は?』

 

さらっと言われたセリフに唖然とする多数の生徒に、相澤はハッと鼻で笑いながら

 

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

『は───!!?』

 

一部を除き、見事に騙された生徒達は絶叫した

 

「あんなのウソに決まってるじゃない…ちょっと考えればわかりますわ」

(…いや、あの目は本当に除籍するつもりの目だった……おそらく見込みがないと判断した生徒は全員だ…)

 

ジョルノは相澤が思っていた以上に容赦のない先生だと認識する一方で、安堵する生徒達を見ながらこう思った

 

(でもまあ……ぼくを含めた全員が彼のお眼鏡にかなったって事で…良しだったってことにするかな)

 

 

 

ジョルノ・ジョバァーナ──1位で個性把握テストを突破

緑谷 出久──最下位。ただし見込み()()とみなされA組への在籍続行

握力計──再起不能(リタイア)。後日、学校が買い直すことに



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戦闘訓練 その1

気がついたらお気に入り登録が2300越え……実はこれ、2年間今現在も投稿している作品の登録数をはるかに上回ってるんスよね。アッハッハッハッハーッ

俺はもうやばいと思う


波乱の初日を乗り越えたジョルノは、その後は特に問題ない、普通の学校生活を送っていた

 

そしてある日の午後の授業

 

「わーたーしーがー!!」

「来た…ッ!!」

 

 

 

「普通にドアから来た!!」

 

オールマイトがヒーローコスチュームを身につけた状態で、言葉通り普通に教室に入ってきた

 

「オールマイトだ!」

「スゲェ──やッ、本当に先生やってるんだ!」

「「銀時代(シルバーエイジ)」のコスチュームだぞアレ…ッ!!」

 

No. 1ヒーローが指導してくれるというシチュエーションに生徒達が興奮する中、手に持っていたボードをみんなに見せつける

 

そこには『BATTLE』の文字がデカデカと書かれていた

 

「早速だが、今日はコレ!『戦闘訓練』ッ!!そしてそいつに伴って…」

 

オールマイトがリモコンを操作すると、壁が迫り出てきて、21人分のロッカーが現れる

 

「こちらッ!入学前に送ってもらった『個性届け』『要望』に沿ってあつらえた……戦闘服(コスチューム)!!」

 

これにはクラス全員が湧き上がった。立ち上がって喜ぶ者もいて、ジョルノも静かに笑っていた

 

「着替えたら、順次グラウンド・βに集まるんだ!」

 

そのオールマイトの指示に、何人かが大声で返事した

 

 

 

「ジョルノ、まるで制服みたいなコスチュームだな」

「障子ですか……」

 

着替え終わったジョルノがグラウンド・βで待っていると、障子が戦闘服(コスチューム)を纏ってやってきた。特に目立った戦闘服(コスチューム)ではないが、彼は個性で目立つ方なのでヒーローとしては特に問題なかった

 

一方ジョルノは障子の言うように、中学の頃の改造学ランをさらに先鋭化させた戦闘服(コスチューム)だった。胸元に大きな穴が空いた紫色の服で、随所に青いテントウムシのブローチがあしらわれている

 

なお、普通の服のように見えて、耐熱・耐寒・耐電・耐ショックなど最低限の防御力は備わっている

 

「まあぼくは“個性”の都合上、防ぐよりも躱す方がいいので」

「お前の個性か…一体どんな個性なんだ?動物や植物を生み出したと思ったら、身体能力が高かったり幽霊みたいなのを出したり……俺としても非常に興味がある」

「それは、この授業で分かりますよ」

 

会話はそこで終わり、それから間も無く戦闘服(コスチューム)を着込んだクラスメイトが集まった。最後に全身緑色で頭頂部にうさぎのようなV字(おそらくオールマイトをモチーフにした)がついた緑谷が現れて、全員が集合する

 

「格好から入るってのも大切なことだぜ少年少女。自覚するのだッ!今日から自分は…「ヒーロー」なんだと!!」

 

オールマイトの熱い言葉に、みんなが勇気とも闘志ともいえる感情を胸に抱いたことを自覚した

 

全員揃ったことを確認したオールマイトは、先頭を歩きながら目的地まで誘導する

 

「先生!!戦闘訓練とはここのグラウンドで行うのでしょうか!」

 

ビシィッ!とまっすぐ手を伸ばして質問したのは、ロボットと鎧が合わさったようなヒーロースーツを全身に着用していた飯田だった

 

質問を聞いたオールマイトはHAHAHAと笑いながら答える

 

()()()!もう2歩先をゆく!!今回みんなには、ビルの中で『屋内の対人戦闘』を行ってもらう!」

『屋内戦闘』……」

「そう!真に賢しいヴィランとは屋内に潜むもの!そこでみんなにはヒーロー側、ヴィラン側それぞれに2人ずつ入ってもらって、戦闘訓練を行う!何か質問はないかい!?」

 

オールマイトは軽い気持ちで質問を促す

 

「屋内戦闘と言いますが、勝敗の基準はどうなのでしょうか!?」

「選出はオールマイト先生が行うのですか?」

「ブッ殺しゃあいいんだよなァ?」

「このマント☆やばくない?」

「21人だから、2人ずつだと1人余らねえ?」

「どうすれば敵を再起不能(リタイア)扱いにできるのですか?」

「どこからスタートすればいいんですか?」

「ンン〜〜〜〜ッ聖徳太子ィッ!!」

 

すると想像以上の人数から質問が一斉に飛んできて、オールマイトは天を仰いだ

 

そして懐からカンペのような物を確認すると、大きく咳払いをして説明を開始する。教師としてはまだまだ新米なようである

 

「いっぺんに説明させてもらおう!今回の戦闘訓練の設定はこうだッ!核爆弾を持ったヴィランがビルの中で籠城している!ヒーローはビルの入り口からスタートし制限時間内に核を確保、ヴィランはビルの中でスタートし制限時間までに核を守りきるのが条件だッ!」

(((設定がアメリカンだッ)))

「ヒーローチームはヴィランチームがビルに入ってから10分後にビルに入る事。その10分間の間にヒーローチームはビルの中を索敵するも、ヴィランチームは罠を張るも自由!そして核以外にもう1つ、勝敗を決めるのがこの「確保テープ」!」

 

テープ、というよりはタスキのような大きさの物をみんなに見せる

 

「こいつに捕まっちまった人は問答無用でその場で失格!相手チームを確保した場合も、ヒーローチームだろうとヴィランチームだろうと勝利となる!!なお、核は本物として扱う事だ!ちなみに核の確保に関しては、ヒーローチームのどちらかがタッチできた時点で勝利としよう」

 

オールマイトが一旦説明を終えると、「?」が描かれた箱を取り出す

 

「チームの選出に関してだが、このくじ引きで行う!」

「適当なのですかッ!?」

「コンビを組むヒーローも当然いるがいつだっているわけじゃあない。むしろその現場にいるヒーローと即興でチームを組む事もあるから、どんな相手だろうと息を合わせられる事もヒーローには必要な資質だ!」

「なるほどッ!!先を見据えた選出方法だったのですね!失礼しました!」

 

飯田が腰を90°曲げて礼を言うと、オールマイトは最後の説明をする

 

「最後に1人余る事に関してだが……それもくじ引きで決めよう!この中には1つ当たりの球が入っていてね。それを引いた人は、最後にランダムで決めた3人とチームを振り分け、訓練を行ってもらおう。さて、最初に誰が引くかな?」

「俺だッ!!」

 

ズズイッと差し出したくじ箱を最初に引いたのは爆豪である。どうやら引いたのは「D」の球らしい

 

次々に生徒が引いていく中、ジョルノの出番が来たのでくじを引くと

 

「何引いたのジョルノくん!……星?」

 

“透明化”の個性で透明人間になっている女子、葉隠(はがくれ) (とおる)が覗き込むと、ジョルノの球には「☆」のマークが描かれていた

 

「……どうやら、当たりのくじを引いたのはぼくのようですね」

「オールマイトッ!!コロネ野郎は俺にブッ殺させろや!!」

「ダメ。誰かの一存で決めるのは平等じゃあないからね」

「チッ!」

「じゃあ、続きを引いていこうか!」

 

一悶着もあったが、残ったくじを引いていき、その後チームが決定した事で訓練が始まった

 

 

 

訓練は着々と進んでいった

 

1番最初の緑谷&麗日のヒーローチームと爆豪&飯田のヴィランチームとの訓練は、幼馴染でありいじめられっ子いじめっ子の関係であった緑谷と爆豪の私闘などもあったが、最終的に緑谷の援護で麗日が核をタッチ。ヒーローチームの勝利となった

 

他にも“半冷半燃”という炎と氷を出せる強力な“個性”を持つ(とどろき) 焦凍(しょうと)がビル1つをまるごと凍らせて圧勝するなど、波乱や衝撃のある訓練が続いた

 

そして5戦目が終了する

 

「さてッ、いよいよジョバァーナ少年の出番だ!でもその前に、まずくじを引いてもらおうか!」

 

オールマイトに促されてみんながくじを引いた結果…

 

「峰田くんだっけ?よろしく」

「オイラアァァァアアアアアッ!!?」

「口田か。黒影(ダークシャドウ)共々よろしく頼む」

『ヨロシク!』

「………!」(※「よろしくね、常闇くん」と言ってる)

 

ヴィランチームはジョルノ・ジョバァーナと峰田 実、ヒーローチームは常闇(とこやみ) 踏影(ふみかげ)口田(こうだ) 甲司(こうじ)の組み合わせで訓練が始まる



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戦闘訓練 その2

やっぱ戦闘シーンは長くなりますね。あと書いててすごく楽しいです


先にビルの中に入ったジョルノと峰田の2人は、核(ハリボテ)の前で作戦会議をしていた

 

「作戦を立てる前に確認したいんだが、君以外には強力に接着する髪の球体が君の“個性”だね?」

「お、おう。正確にはオイラが“もぎもぎ”に触れたら跳ねるんだけどな」

 

ふむ…と考え込むと、ジョルノは峰田に言う

 

「峰田くん、君のもぎもぎとやらを1つ、地面にくっつけてくれないか?」

 

言われるがまま、もぎもぎを1個頭からもぎ取って地面に置いた。ぶよんと音を立てながらコンクリートの床にくっつく

 

それを見たジョルノは、すかさずもぎもぎに触れた。確かにピッタリとくっつき、簡単に離れそうにない

 

「な、何やってんだよジョルノー!?1度くっつくとオイラでも外す事はできないんだぜー!」

「大丈夫。君から離れた以上、元が君の一部だろうと、それは物体だ」

 

ジョルノの言うように、物体となったもぎもぎはゴールド・エクスペリエンスの生命エネルギーによって形を変えていき

 

「カァー」

「うおおおッ!?オイラのもぎもぎがカラスに!」

「ぼくのゴールド・エクスペリエンスで生命に変えた物体は、生命に変わった時点でその性質を失う。これを使って彼らを分断する」

「分断?そのカラスを元に戻せばもぎもぎに戻るんなら、たくさんカラスに変えて突っ込ませればもうオイラ達の勝ちじゃあねえか!」

 

興奮して勝利宣言する峰田だが、ジョルノはかぶりを振る

 

「残念だがそうはならない。口田くんの生き物を操る個性は、ぼくのゴールド・Eの能力を制限させる天敵だ。常闇はある意味ぼくと同じタイプの能力といえる。君が戦闘を行う事が難しい以上、必ずこの2人をぼくが同時に相手する事になる。そしてそうなれば、流石のぼくも確保されると思う」

「じゃ、じゃあどうすんだよォー!?」

 

ジョルノと一緒なら余裕と思っていただけに取り乱すのが早い峰田。そんな峰田に落ち着かせるように、ジョルノは冷静に言う

 

「それはぼくが1人で戦った場合の話だ。峰田くん、この戦いに勝つには君の力が必要なんだ」

 

 

 

「口田、2人の様子はどうだ?」

「………!」(※「2人とも、核を1階の1番隅の日が差してない大部屋に移動させてるらしい」と言っている)

「1階…?今まで核は全部が上階に配置されてきたから、裏をかいてきたということか?」

 

一方、常闇と口田はスタート時間までの間、口田の“生き物ボイス”で操った鳥で、ビルの中の様子を見張っていた

 

「峰田の方は俺の“黒影(ダークシャドウ)でどうにかなるが、問題はジョルノの方だ。奴の個性はあまりに謎だ…分かっている事は生命を生み出す事と、金色(こんじき)の亡霊を呼び出して操る事くらいか…」

「………!」(※「彼の個性で生まれた動物達は、僕が操れるから大丈夫」と言っている)

「ならば問題は、奴の亡霊をどう対処するかだな。勘だが、あいつの亡霊は俺の黒影(ダークシャドウ)と似た個性だと考えている。射程距離が黒影(ダークシャドウ)より遥かに長い以上、(ジョルノ)自身が核を守っている可能性は十分あり得る。ならば俺達は適度に距離を取り、かつ離れないように行動しよう」

 

常闇の出した提案に口田は頷いて答える

 

カサカサ…

 

2人が作戦会議を行うその時、口田の視線の先に()()()()が横切る

 

「ッ!!!」ビクゥ!

「むっ、どうかしたか?」

 

口田の明らかに狼狽えた様子に常闇は視線の先を追いかける。そこにいたのは…

 

「…蜘蛛か。もしや口田、お前は蜘蛛が苦手なのか?」

「………!!」(※「昆虫はほとんど苦手」と言っている)

 

頭を縦にブンブン振る口田の姿に、どれだけキライなんだとちょっぴり思う常闇だった

 

『10分経過!これより最後の戦闘訓練を開始する!!』

「時間か。行くぞ、口田」

「………!」コクコク

 

オールマイトによるスタートの合図が出たので、常闇は口田から距離を取りつつ、先にビルの通路を歩いていく

 

そして常闇が曲がり角を曲がって少し進んだところで、通路の奥から複数の黒い点が接近する

 

バササッ バサーッ

 

「カァーッ!!」

「カラス!ジョルノが個性で生み出したものか!黒影(ダークシャドウ)!!」

『アイヨ!』

 

突っ込んでくるカラスの群れを視認した常闇は、即座に黒影(ダークシャドウ)…自分の影がモンスターと化した存在に指示を出し、その大きな影の腕でカラスを叩き落とす

 

「? カラスが黒影(ダークシャドウ)の腕にくっついている…?」

 

しかし迎撃したカラスは黒影(ダークシャドウ)の腕にくっついたまま。それを常闇は訝しみ…

 

グニュウ グニュリ

 

「な…!」

 

その瞬間、常闇の目の前でくっついたカラスは翼を閉じて丸くなり…もぎもぎの状態に戻った

 

「何イィ────!!?これはッ!?」

(なぜ奴が生み出したカラスが峰田の粘着玉にッ……まさか!ジョルノの能力はまさか!)

 

その時、常闇は個性把握テストのことを思い返していた。あの時、ジョルノはスターターピストルを動植物に変えていた…!

 

「口田ッ!!ジョルノの個性は「物体に生命を与える」能力だ!!奴は峰田の粘着玉をカラスに変え、迎撃した俺達を動けなくする気だ!」

 

それを伝えている間にも、カラスの軍勢は列を成して突撃してくる

 

「マ、マズイ!口田、離れろ!!」

「飛び立つ者どもよ、地に降りなさい!」

 

常闇の危機を感じ取った口田は言葉を発し、それをカラスに伝える。するとカラスは自ら地面に降り立ち、そのままもぎもぎに戻った

 

口田の援護で攻撃を避けられた常闇は、少し先に進み距離を取る

 

「すまない!今だ黒影(ダークシャドウ)!一時ッ影に戻れ!」

『アイヨ!』

 

このチャンスを利用して、常闇は黒影(ダークシャドウ)を影に戻す

 

するとくっついていたもぎもぎは影に戻った黒影(ダークシャドウ)から離れ、ボトボト床に落ちていく

 

「これで黒影(ダークシャドウ)を再び動かせる…」

 

危機を脱して安心する常闇

 

「ピャアアアァ──────ッ!!!?」

「!?」

 

しかし、口田の悲鳴を聞いた常闇は、真の危機が去っていなかったことに気づく

 

「まさか!俺ではなかったというのか!?狙いは!」

 

黒影(ダークシャドウ)を出しながら口田のいる曲がり角を曲がる

 

「うッ…こ、これは…!」

 

するとその先にいたのは、泡を吹いて倒れる口田とそんな彼を確保テープで捕らえる峰田と臨戦態勢のジョルノ。その足元には…

 

「きょ、巨躯な闇の眷属…!」

「アシダカグモ……日本にいる最も巨大な蜘蛛で、その大きさとは裏腹にネズミ並みに素早く動きゴキブリを好んで捕食する食性から、益虫の1匹として認知されている」

 

床、そして口田の体には無数のアシダカグモが這い回っていた

 

「でも、見た目から一般的に受け入れられない蜘蛛でもある。だからか、どうやら虫嫌いな彼には効果抜群だったってわけさ」

「そうか…入り口にいた蜘蛛もお前が生み出した生命か…!」

「ご名答」

 

ジョルノがゴールド・Eの能力を解除すると、アシダカグモは砕かれたコンクリート片へと戻った

 

『口田少年、確保ォ!』

「くっ…!」

「一応警告しておくけど、無駄な事はやめておいたほうがいい。何故なら抵抗したところで、結局無駄になるんだからな…無駄無駄」

 

冷徹なジョルノの言葉に常闇が体が震えた。ジョルノの堂に入った演技は、これがヴィランなのかと錯覚させたほどだ

 

黒影(ダークシャドウ)ッ!!」

 

だがこの程度で諦めるなら、そもそもヒーローなど目指していない。発動させた黒影(ダークシャドウ)に瓦礫の破片を握らせ、ジョルノに向かって投げる

 

「無駄ァ!」

 

石つぶてをゴールド・Eで弾くが、すでに常闇は核を取りに1人駆けていた

 

「……ベネ」

 

そんなジョルノの呟きを知る由もない常闇は、必死に核の部屋を目指す

 

(口田を捕まえる為に2人で行動してくれたのが不幸中の幸い!このまま核を手に入れる!)

 

そして核の部屋の扉が見えた

 

「扉を開けろ!黒影(ダークシャドウ)!」

『アイヨ!』

 

バァン!

 

ドアを突き破った常闇は部屋の核を探す

 

「バ、バカな…ッ!?なぜ核がない!!」

 

だが、核はどこを探しても見つからなかった。あれほど大きなもの、小さくでもしないとすぐに運ぶ事など…

 

(…小さく、だと……!?)

 

バッ!

 

真っ暗な部屋の奥から唯一あるドアの方を見ると、そこには追いついたジョルノがいた

 

「ここに、俺をおびき寄せるまで、全て計算だったというのか…!」

「そう。口田くんの『生き物を操る』能力を考えれば、こちらの索敵をしてくるのは確実…だから()()()()()()()に核を運び、彼を無力化してから、生命エネルギーを流して猫にしておいた核を別の場所に移動させた」

黒影(ダークシャドウ)!!」

『シャアアアー!!』

 

自分の個性でジョルノに攻撃を仕掛けるが、光がほとんどない部屋の為、暴走気味に黒影(ダークシャドウ)が攻撃する

 

「無駄無駄無駄無駄!!」

 

それを『ゴールド・E』のラッシュでいなす

 

「やはり、同じタイプの個性ッ!」

「ゴールド・エクスペリエンス!!」

 

今度はジョルノが常闇にゴールド・エクスペリエンスを仕向ける

 

『ウオシャァァ───!!』

「この部屋のおかげで、今の黒影(ダークシャドウ)は凶悪だ…選ばせてやろう…!向かうべき2つの道を!1つは逃げ回る道!さもなくば、この俺に倒される道!」

 

だが、凶暴な黒影(ダークシャドウ)がゴールド・エクスペリエンスの攻撃を耐え、無理やり捕まえようとする

 

ガッ!

 

首元を掴まれギリギリと押さえつけられるゴールド・エクスペリエンス。ダメージがフィードバックし、ジョルノの首にも同じ手の跡ができる

 

「こ……こいつ…!」

「少し分かったぞジョルノ。お前とゴールド・エクスペリエンスは文字通り一心同体、片方がダメージを受ければもう片方もダメージを受ける。そして黒影(ダークシャドウ)とは違い、防御力はないようだな」

「ムダダァ──ッ!」

 

押さえつけられながらも蹴りで反撃するゴールド・E。しかし強化された黒影(ダークシャドウ)は、所々攻撃を食らいながらもラッシュを防ぐ

 

カァー カァー

 

ジョルノは壁際に追い詰められ、()()()()()()

 

「今度は俺が言わせてもらおう。無駄だ、この暗黒の世界(暗闇の部屋)黒影(ダークシャドウ)に勝てるものは」

「たしかに、今のお前を捕まえるのは本当に骨が折れるだろうな……だが、逆だったら?」

「…何?」

 

もはや何もできないはずなのに、ジョルノの目から希望は尽きてなかった

 

「ずっと『時間』を稼いでいたんだ…ぼくが1人で戦う以上、お前の影のモンスターは本当に厄介だった……だから、『ずっと待って』いた!外のカラスどもが鳴くこの瞬間を!」

 

グググニュゥゥ…

 

すると、手をつけていたかべが朝顔に変わり、垂れ下がっていく

 

「壁が…!光を差し込ませる気かッ!だがそれでもッ!黒影(ダークシャドウ)の力が多少落ちるだけ…」

 

ピカッ!

 

「ううぐおおおおあああああ!!?」

 

その直後、目が開けられないほど眩しい光が、崩れる壁から溢れる。思わず常闇は手で顔を隠す

 

「お前を留まらせる暗闇の部屋を探してたから、5分だけじゃあ集まり切らなかったんだ……だから時間を稼いで峰田くんに集めてもらった!このビルのトイレだとかにある「鏡」をなッ!!」

「オッシャー!作戦大成功だぜーッ!!」

 

そう、光は「鏡」が反射した太陽光だった。鏡を集めて作った反射板をもぎもぎで角度をつけて光を部屋に送り込む作業を、ジョルノは峰田に任せていたのだった

 

『ピギュウウオオオオオオッ!!』

「ダ、「黒影(ダークシャドウ)」!!」

 

暗黒から一転、太陽の光にさらされた黒影(ダークシャドウ)は苦しみ悶える

 

「か、影…!」

 

常闇は這いながら必死にまだ暗い部屋の奥に戻ろうとする

 

ドグシャア!

 

「ぐおッ!」

 

伸ばした手をゴールド・Eに踏み押さえられ、抵抗を阻止される

 

「向かうべき道が「2つ」あるって言ってたが……おまえにはそんな「多い」選択はありえないな」

 

ジョルノは床の明るい部分を指差し

 

「峰田くん、日当たりのよさそうな()()。そこに、粘着玉を置いてくれませんか?いえ、もう少し下がって…もうちょっと左……そう、そこ」

 

 

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!」

 

 

 

「ゆっくりとあじわいな、日光浴を!」

 

黒影(ダークシャドウ)ごとタコ殴りにされた常闇は、日当たりのいい位置に置かれたもぎもぎの上に落下し、太陽の反射を浴びながら動きを完全に封じられる

 

「たったそれ、()()()()()()。お前の()くべき道は」

『ピギョオオォォォォー!!』

 

やがて太陽の光を浴び続けた黒影(ダークシャドウ)は徐々に縮んでいき

 

『眩シイヨー。クスン』

 

完全にマスコットサイズまで弱体化された

 

常闇は峰田に確保テープをつけられて、そこで訓練は終了した




感想で指摘されたので明記しておきます。本作のゴールド・E(エクスペリエンス)が生み出した生命の攻撃反射の設定はありません。理由はいくらでも後付け出来ますけど、まあそういう事だって事にしといてください


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戦闘訓練 その3

講評回です。前話の反動で、ちょっと短め


「さて、講評といこうか!!ではまず、今回1番活躍してたのは誰だったと思うッ!?」

「はい、オールマイト先生」

 

オールマイトの質問に手を挙げたのは八百万だった

 

なお、彼女の戦闘服(コスチューム)はあまりに開放的で、隠しきれてない発育の暴力に峰田のリトル峰田はバンザイ行為だった。自重しろ

 

「今回1番貢献していたのは、やはりジョバァーナさんだと思います。互いの“個性”を最大限に活用し口田さんの索敵を利用した作戦の立案、真っ先に自分の弱点である口田さんを確保した事、そして自ら囮役になって常闇さんを抑えた事…今回の戦闘内容を全てコントロールしたと言っても過言ではないと考えています」

「うむ!今回ジョバァーナ少年は本当に上手く立ち回ったと言える!何気に核に1回も近寄らせていないというのも良い点だ!他にはないかな!?」

 

そう促すと、オズオズと手を挙げた女子生徒が。長いコード状になっている耳たぶが特徴の耳郎(じろう) 響香(きょうか)

 

「えっと、常闇かな…?モニターで見た感じだとジョルノの個性を見破ってたみたいだし、1人になっても諦めずに戦って、そんでギリギリまで追い詰めていたから」

「その通り!「ヒーロー」というのは例え1人になったとしても決して諦めてはいけない!孤立しても最後までベストを尽くした常闇少年も、十分貢献したと言えるだろう!」

 

オールマイトは常闇を褒め称える。とても嬉しいのだが、手加減していたとはいえゴールド・Eでボコボコに殴られていた為、軽く頷く

 

「峰田少年も作戦の要として頑張ったが、もう少し自分の意見も言うべきだ!口田少年も特に悪い点があるわけではないが、索敵を逆手に取られて作戦を組まれたのは痛かったね!」

 

オールマイトはそう言うと講評を締めようとするが、そこに待ったをかけるように轟がジョルノに声をかける

 

「…ジョバァーナ、1つ気になることがある」

「気になること?」

 

オウム返しするジョルノに、轟は問いかける

 

「常闇は戦ってる最中にお前の『弱点』が分かったみたいだったが……なんでお前は、戦う前から2人の『弱点』が分かっていたんだ?」

『……あ!!』

 

轟の指摘に、生徒の何人かがその事実に気づく。そしてそれを聞かれたジョルノは、特に変わらない様子で答えを言う

 

「そんなのは単純な話ですよ。ぼくは1番最後だった故に、みんなの戦闘訓練をモニターを通して見ることができた。だからぼくだけ、みんなの“個性”を対策できる立場にあったってわけだ」

 

ジョルノはモニターを指差しながら続ける

 

「例えば口田くんは頑なに虫を操らなかった。バレる可能性が高い鳥などよりも都合がいいにも関わらずだ………だから、彼が虫を使わない理由が、虫が苦手なんじゃあないかと予想はできた。常闇に関してはもっと簡単だ。彼が日陰に入っている時だけ影のモンスターが強くなっていた…なら、逆に明るければ明るいほど力を失うのではないか?って推測したんだ」

「…たったそれだけで分かるもんなのか?」

 

轟の言うように、オールマイト以外戦闘中の会話などが聞こえないモニターを見ただけで“個性”の弱点を見つけるのは困難なのだ

 

少しため息を吐くと、物憂げな表情を浮かべジョルノは語る

 

「正直な事を言うと、どっちもあくまで推測に過ぎなかった…どっちかは当たるだろうが、最悪()()()()外れる可能性だってあった……だろ?峰田くん」

「おう、ジョルノはオイラにそう言ってたぜ」

「だから口田くんが虫嫌いじゃあなかったとしても、見た目がグロテスクなアシダカグモを出しておけばゴールド・エクスペリエンスで抑え込む隙を作る事ができたし、鏡の太陽だって黒影(ダークシャドウ)が元のパワーに戻っただけでも均衡を崩すことができる…結局のところ、効果的だったか普通に効くかの違いってだけなんですよ」

「……そうか」

 

説明が終わったジョルノは一息つくが、みんなはその高い洞察力に舌を巻いていた

 

なぜなら、ジョルノだけは一緒に組む味方も戦う相手も完全にランダムなのだ。分からない相手の対策を取るということは、A組20人全員の“個性”を把握するということなのだから

 

「じゃあさァー!もし俺が相手だったらどう戦ってたんだよジョルノ?」

 

そう聞いてきたのは上鳴(かみなり) 電気(でんき)。金髪の髪に稲妻型の黒メッシュが入った、いかにもチャラいといった男子である

 

「そうですね…見た感じ君の個性は電気を放出する個性だ。そういった個性には許容量に限界があるもの……“個性”はあくまで身体能力の一端ですから。だから素早く数の出せる蛇とかで襲わせ続けて、許容限界がきたところを捕らえる…といった感じですかね」

「コエ────よッ!?お前と当たらなくてマジでよかったわ!!」

「常闇も完全にとどめさした上で捕獲したしな…」

「ケロケロッ。ジョルノちゃん、意外と過激なのかしら?」

 

ジョルノの想像以上に容赦ない作戦に、上鳴は震え上がる思いだった

 

そんな中、軽く俯いて考え込むのは爆豪だった

 

(コロネ野郎は終始圧倒してたわけじゃあねえ…けど不利な奴がいたにも関わらず勝ちやがった。「余裕」だッ!あの野郎、最初から最後まで「必ず勝つ」って顔してやがった…!俺はなんだ?デクの奴に負けて、氷の野郎に勝てねえって思っちまった。

あいつ(ジョルノ)にもだ……ポニテ(八百万)の奴の言う事にも納得して……クソがッ…!!)

 

これまでの人生で勝ち続けた、今まで緑谷を見下し続けてた爆豪にとって、今回の戦闘訓練は大きく、そして確かな衝撃があった

 

「それじゃあ、今日の授業はここまでッ!」

 

今度こそ授業を終わらせる為に、オールマイトは大声でそう言った

 

 

 

とあるバー…ほのかな電灯でしか照らされてない薄暗いその場所で、奇妙な2人の男が向かい合っていた

 

1人は黒スーツを着てバーテンダーのようにカウンターの前に立つ男。しかし、その全身が黒いもやのようなものに包まれていて、男の本当の全貌を把握できないでいた

 

もう1人の男の出で立ちはさらに不気味だ。顔と体の至る所に手首から切断、切断面を加工された手が掴むようにくっついていて、顔はほとんど手で見えなかった

 

「なァ────黒霧(くろぎり)ィ───」

「…なんですか?死柄木(しがらき) (とむら)

 

黒霧と呼ばれた黒スーツの男は、死柄木と呼んだ男の言葉に耳を傾ける。そして…

 

「俺はなぁ〜〜〜〜つくづく思うんだ。もし世間一般のみんなが聞いたら、知ったらどう思うんだろうってなぁ〜〜?」

 

死柄木は………指の隙間から狂気の瞳をのぞかせる

 

 

 

 

 

「もしオールマイトが「死んだ」ら……」

 

 

 

 

 

「DIOの血筋が「絶えてなかった」ら……」

 

 

 

 

 

「知った奴ら、どう思うんだろうなァ?」



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ジョルノ・ジョバァーナの夢 その1

台風で雨風がすごいですね。皆さんも外に出かける時は注意した方がいいと思いますよ


戦闘訓練を行った翌日、雄英に登校しているジョルノは校門が見えたところで嫌そうな顔をした

 

「…マスコミか…」

 

嫌そうな顔をした理由は、雄英の校門前で密集している記者やカメラマンの軍勢が原因だった

 

マスコミがいる理由は理解できる。今年から教師として赴任したオールマイトに関する記事を書く為にいるのだろう。しかし理解はしても納得できるわけではない

 

腐肉に群がるハエを連想させてくれるマスコミの姿に、ジョルノは朝から不快なものを見たと感じた

 

「あ!雄英高校の生徒ですね!?ズバリ聞きたいのですが、オールマイトの授業はどうなのでしょうか!?」

 

そして雄英の制服を着たジョルノを目ざとく見つけた女記者の1人が、遠慮なくジョルノに詰め寄る

 

コッ コッ コッ

 

そんな記者を無視して、ジョルノは学校に入ろうとする

 

「あのー!オールマイトに関して何か聞かせていただけないでしょうかー!?」

 

それでも記者はジョルノの前に回り込んで話を聞こうとする。粘り強いと言えば聞こえはいいが、ジョルノからすれば無駄にしつこいだけだ

 

「邪魔です」

「えッ」

「…どうやら記事にする言葉を聞く耳はあっても、自分に都合の悪い事を聞く耳はないようだな」

 

少し前まで中学生だったにしては高い身長のジョルノに見下ろされた女記者は思わず喉を鳴らした。それほどまでにジョルノの目は、この世の掃き溜めでも見てるかのような冷徹な目をしていた

 

ジョルノを知る者がこの目を見たら、本当にジョルノなのかと疑う事だろう

 

「2度、同じ事を言わせないでくださいよ………1度でいい事を2度、言わなけりゃあいけないってのは……そいつの頭が悪いって事だからです」

 

もう1度、警告の為にジョルノは言う

 

「登校の邪魔だと言ってるんですよ………3度目は言わせないでくださいよ」

 

それだけ言うと、ジョルノは茫然自失気味な女記者を放って学校の敷地内に入っていく

 

その直後、背後では校門を遮る巨大な壁(雄英バリアー)が展開されて記者達が締め出されたが、特に気にすることなくジョルノは先に進んだ

 

 

 

朝のホームルームは相澤の説教から始まった

 

「昨日の訓練のVTRを見させてもらった………爆豪、お前、もうガキじゃあねえんだ。次はもうやるなよ」

「分かってる……」

 

昨日の訓練で行った私闘に関して咎められた爆豪は、それだけ言うとムスッとした顔で黙りこくった。出会って間もないが、爆豪がどういう人物か知ってるA組勢にしてみれば驚く静かさだった

 

次に矛先が向くのは緑谷だ

 

「緑谷、お前もだ。いつまでもソレ(個性)を使えないってままじゃあいかない」

「……!!」

「使いこなせれば出来る事が増えるんだ……あせれよ、緑谷」

「ハイッ!」

 

説教、というより激励のような言葉に緑谷はしっかりと返事をした

 

「さて、早速だが今から()()()()()()()()()()()()()()…」

「やってもらう事…?」

「まさかまた個性把握テストみたいな事を──!?」

 

相澤のただならぬ雰囲気に、全員が息を呑み…

 

「………学級委員長を決めてもらう」

『学校っぽいのキタアアァァァァッ!!!』

 

しかしそこからのどんでん返し、学校らしい事が始まった

 

「リーダーやるやるッ!!」

「アタシやりたいーッ!!」

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cmに…ッ!!」

「こう言うのこそ俺だろ俺ッ!!」

 

そして、ジョルノを除いた全員が凄まじい勢いで手を挙げて、自己推薦をする

 

本来誰もやりたがらない役職だろうが、ヒーロー科となると話は別。人を引っ張っていくリーダーという役目は、トップヒーローとしての素質を培っていくことにつながるからだ

 

「静粛にしたまえッ!!」

 

しかしそこに待ったをかける者が。飯田である

 

「『多』を導く責任重大な「仕事」だぞ!それをただやりたいからと、簡単に決めて良いハズがない…………今こそッ!民主主義にのっとり、信頼たり得る真のリーダーを決める為……」

 

飯田の言葉を聞いた誰もが彼の方を向いて黙る。それもそのはず…

 

「──みんなで『投票』を行うべきだ!!」

「そういうあんただってそびえ立ってるじゃあないですか。なぜ投票を提案したんです?」

 

ジョルノの指摘通り、飯田もみんなと同じように手を挙げていたのだから

 

そして飯田が提案した投票に異議を唱える者が。ちょっとカエルっぽい見た目が特徴の女の子である蛙吹(あすい) 梅雨(つゆ)と、逆立った赤髪でいかにも「熱血!!」といった雰囲気の切島(きりしま) 鋭児郎(えいじろう)の2人だった

 

「日も浅いのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」

「ンなのみんな自分に入れらァ!」

「だからこそッ!それでもなお選ばれた者こそ真にふさわしいと思わないか!?」

 

そう熱弁した飯田は、相澤の方を向き己の提案を主張した

 

「よろしいですか!?相澤先生!!」

「ちゃんと決まんなら何でもいいよ……()よ決めろ」

 

そんな熱意に対して、かなり冷たい相澤だった

 

そして5分後…

 

「僕3票────ッ!?」

「2票もぼくに入っているぞ……いったい誰が入れたんだ…?」

 

その結果は意外も意外、緑谷が3票と1番票を取ったのだ。2票ずつ取ったのがジョルノと八百万の2人、そして…

 

「…バカなッ…!?1票…!?いったい誰が…?」

「オメー別のやつに入れたのかよ………」

「投票提案したクセに何がしてえんだよ…」

 

1票だけ入っていたのが飯田だった。自分にも票を入れられた事を驚愕する飯田に呆れるクラスメイトであった

 

「そんじゃあ委員長は緑谷として、副委員長は…」

「すみません、ぼくは辞退させてもらいます」

 

相澤が副委員長を決めようとしたところで、ジョルノが辞退を宣言する。それにざわめくA組のみんな

 

「……これ以上、無駄な時間を消費するのは合理的じゃあないな。時間がない、放課後に再度結果を聞く…それまでに決めとけ」

 

相澤はその場を無理やり収めると、すぐさま授業を開始した




あとで調べ直すと、緑谷の3票って自分、麗日、飯田の3票だったんですね。てっきり緑谷は飯田に入れてたとばかり勘違いしてたので2票になっちゃってました。修正して1票になおしときました


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ジョルノ・ジョバァーナの夢 その2

日常シーンはペースが遅くなります。なんだかやる気がでない


授業が終わって昼休みになると、ジョルノは食堂に足を運んでいた。その手の中には、スタンダートなトマトパスタとタコのサラダ、そしてプリンが入った皿を乗せたトレーがある

 

「こっちです、ジョバァーナさん」

「よー、ジョルノ。ワリーけど先に食わせてもらってるぞ」

 

そしてトレーを持ったジョルノの先には、親子丼を口いっぱいに入れた鉄哲とクロワッサンのちぎった欠けらを食べる塩崎が並んで座っていた

 

ジョルノはその対面に座る。「いただきます」と口にするとスパゲティをフォークで巻き取り、口の中に入れて咀嚼する

 

「そういやよォージョルノ、お前んとこでもクラス委員は決まったのか?B組は拳藤(けんどう) 一佳(いつか)って奴が委員長に決まったぜ。姉御肌ってカンジで、みんなを引っ張ってく奴なんだ」

 

鉄哲が出した話題は今朝行ったクラス委員の話だった

 

「こっちは投票で決めまして、おそらく1番票が多い緑谷くんが委員長になると思います」

「──アッ!デクくん、飯田くん、ジョルノくん見つけたよ!」

「……噂をすれば」

 

そんな話をしていると、ジョルノたちのテーブルに昼食を乗せたトレーを持った緑谷、麗日、飯田の3人がやってきた

 

「すまないジョバァーナくん、どうしても聞きたいことがあって…良ければ俺達も相席させてもらっても構わないか?」

「ぼくは構いませんよ……2人は?」

「俺は別にいいぜ」

「私も大丈夫です」

「らしいですよ」

 

「ありがとう!」と声に出してお礼を言うと、麗日は塩崎の隣になるように、緑谷と飯田はジョルノの右側の席に座らせてもらった

 

そして緑谷が鉄哲と塩崎を見ながら聞く

 

「えっと…2人はジョバァーナくんの友達、なのかな?もしかしてB組の……」

「おう!ジョルノとは実技試験の時からダチだ!俺の名前は鉄哲 徹鐡、よろしくな!」

「「てつ」がいっぱい!!」

 

鉄哲の名前を聞いた麗日の反応は、彼の名前を初めて聞いたほとんどの人の気持ちを代弁していた

 

「私は塩崎 茨と申します。私もジョバァーナさんや鉄哲さんとは、試験以来の仲になります」

「へえ〜、3人とも試験で会って友達になったんだ!私たちと一緒だね!あ、私は麗日 お茶子!」

「俺は飯田 天哉と言う。麗日くんの言うように、緑谷くん達とは試験を通して知り合った。もっとも、俺は緑谷くんにつっかかってただけだけどね」

「も、もう気にしてないからいいよ飯田くん!えっと…緑谷 出久です……よ、よろしくお願いし、ます…」

 

それぞれ自己紹介を終えると、飯田はジョルノの方を向き早速質問する

 

「さて…ジョバァーナくん。俺はどうしても君に聞きたい事があるんだ」

「何を聞きたいのか…()()()()()()()。ぼくが副委員長を辞退した事ですね?」

「ああ、その通りだ」

 

飯田は茶化す雰囲気が一切ない様子で言葉を切り出す

 

「君が言っていた事がたしかなら、君は峰田くんと常闇くんから信頼を得た事になる」

「…ぼくに票を入れたのは峰田くんと常闇なのですか?」

「ああ。先ほど教室でボヤいてたよ」

 

それを聞いて1番驚いたのはジョルノだった。峰田は最初にやりたいと主張してたのに、その後でジョルノに投票した事になる

 

そして常闇も不思議だ。ジョルノと峰田と常闇のこれと言った接点は戦闘訓練しかない。しかし常闇は味方だった峰田と違って敵だった。何が2人の心を動かしたのか、ジョルノは少しだけ気になった

 

「この短い期間で君は2人の心を動かしたんだ。だと言うのに君は辞退した……なぜなのか?俺は知りたいんだ…」

「飯田くん、君に言えることが1つある」

 

飯田の苦悩とも言える感情を感じ取ったジョルノは、飯田の目をしっかり見据えて口を開く

 

「ぼくは彼らの気持ちを蔑ろにしたわけじゃあない。2人はぼくが上に立つべきだという意思を託したんだ……そして誰かから受け継いだものというのは、さらに先に進めなくてはならないものだ。ぼくは自分よりももっとふさわしい人物を選ぶ方が、彼らの気持ちに応える事につながると思った」

 

そしてスッ…と飯田を指差し

 

「だから飯田くん。君が獲った『1票』は、ぼくと峰田くんと常闇の『3票』になるって事なんだ」

「!! 君がボクに入れたのか!?」

「君は自分が()()()()()()()()()()()よりも…投票でふさわしい人を決めるという()()()()()()()()。人を正しく導くという事が君ならできる。君にしかできない。だからクラス委員を選ぶ方法で、投票というものを提示できた」

「正しく…導く………ありがとうジョバァーナくん…!」

 

ジョルノのこれでもかという評価を、飯田は大げさに泣きながら受け入れた

 

「大げさですよ…そろそろ食事をしましょう。休み時間がなくなってしまう」

「ああ、そうだな…」

 

そう言って話を終わらせると、6人はトレーの昼食を食べながら雑談を始めた

 

「茨ちゃん、それだけで足りる?」

「大丈夫ですお茶子さん…私、パンが好きなので」

「おいしいよね!クロワッサン!」

 

麗日と塩崎は女性同士シンパシーを感じたのか、互いに名前で呼び合うほどすぐに仲良くなっていた

 

「鉄哲くんの“個性”って、自分の体を金属に変える個性なんだ。切島くんと似てる…一緒の個性だね」

「ホォ───A組には俺とダダ被りの個性持った奴がいるのか」

「うん、鉄哲くんみたいに体を金属に変えるっていうより硬度をあげる個性みたいだけど………そう考えると本当に2人の個性ってよく似てるどっちも聞いた限り体を硬くする代わりに柔軟性が減る能力みたいだけどそれでもシンプルに強力な個性だし将来的に柔軟性が増せば硬い肉体のまま自由に動き回れるから護衛とかにうってつけの個性だなでも鉄哲くんのは金属に変えるだから硬度に限界も当然あるないや待て金属に変わるって事は鉄や鋼特有の熱への強さとかも持ってるって事なのかそうなると………」ブツブツブツブツ

「うおおッ!?なんだ緑谷オマエ!?」

 

緑谷と鉄哲は互いの個性の話をしていたが、急にオタクモードに突入した緑谷を見て、鉄哲は引き気味に突っ込んだ

 

色々ありながらも食事が進む中、鉄哲はある事をジョルノに聞いた

 

「そういやあよォージョルノ、ずっと前から気になってた事があったんだが……お前の『夢』ってなんなんだ?」

「「「『夢』?」」」

 

鉄哲の「夢」という言葉に首をかしげるのは緑谷、麗日、飯田の3人である

 

「実技試験の時に「夢がある」ってジョルノが言ってたんだよ。なぁジョルノ、ずぅ〜〜〜っと気になって仕方がなかったんだよ、教えてくれねえか?」

「………」

 

聞かれたジョルノは、目を閉じて少しの間黙る。そしてそれを「言いたくない」と解釈した飯田が、鉄哲を咎める

 

「鉄哲くんッ!ジョバァーナくんが話したくない事を無理やり聞き出すもんじゃあないぞ!」

「い、いや!そんなつもりで言ったんじゃあよ〜…わ、悪かったジョルノ、言いたくないから言わなくても…」

「いえ、別に話しても構いません」

 

飯田に怒られた鉄哲も撤回しようとしたが、ジョルノは凛とした態度でそう言い放つ

 

「ただ、どうしてもぼくの過去が関わる話になるからな……はっきり言うと気分の良くない話もある。それでも聞きますか?」

 

周りより大人びた、謎の雰囲気を持つジョルノ・ジョバァーナの過去………それに興味を抱いた5人は、コクリと頷いた

 

5人の意思を確認したジョルノは、最初に簡潔に自分の過去を口にする

 

「幼い頃、ぼくは母親からネグレクト、義理の父親から虐待を受け、街の子供にいじめられてました」




次回、過去回想


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ジョルノ・ジョバァーナの夢 その3

とうとうアニメで『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』が登場。いよいよ次回、あのセリフが聞けるのか


「え……?」

 

ジョルノの言葉にそうこぼしたのは塩崎だった。それほど、今のジョルノからは想像もできないセリフだったのだ

 

麗日は、かみ砕くように言葉を繰り返す

 

「ねえデクくん……ネグレクトって…」

「…簡単に言うと育児放棄の事だよ、麗日さん」

「子供に虐待など卑劣な…!」

 

絞り出すように飯田は怒りの言葉を漏らす

 

しかし鉄哲は、それよりも気になるワードがあった

 

「…なあジョルノ……義理の父親って言ったか?」

「ええ、母はいわゆるシングルマザーって奴で、ぼくは実の父親を見た事がありません。実際は結婚などせずに産まれたらしいので、4歳の時に母はイタリア人の父と初めて結婚したのですが……ぼくはその父に、母の見てないところでひたすら革のベルトで殴られていました」

「そんな…!」

 

麗日は顔を青くしながら呟いた。虐待や育児放棄などテレビなどでしか見た事や聞いた事がないし、彼女は親に愛されてきた。無表情で淡々と告げるジョルノに麗日は涙が出てきそうだった

 

「そして当時ぼくを()()()()()()()からしてみれば、あの頃のぼくはまさに格好の獲物だった。だから「家」だろうと「外」だろうとぼくには居場所がなかった」

「ジョバァーナくん…」

 

緑谷出久は、1年前まで『()()()』だった。個性を持つ事が当たり前の個性社会において緑谷の無個性は、ひたすら侮蔑され嘲笑われる原因だった。しかし両親の愛情があったから、緑谷はへこたれながらも生きてこれた

 

目の前の少年は一切愛を受けずに幼少の時を過ごしてきた。僕だったら耐えられるのか?そんな無意味な考えを起こさせるほど、ジョルノの過去は悲惨だった

 

「やがてぼくは、自分のことをこの世のカスだと信じるようになっていた………心のねじ曲がった人間になるのは、誰が見ても明らかだった……もしかしたら、ヴィランになっていたっておかしくはなかったんだ………」

 

でも、とジョルノは間にはさみ

 

「あの日」がきっかけだった」

 

 

 

いつものようにジョルノが学校の帰り道を歩いていると、男が、血だらけで石壁のかげに倒れていた

 

生きているのか?死んでいるのか?わからなかったけれども、胸を銃で撃たれているみたいだった

 

ドヤ ドヤ ドヤ

 

すると、そこに別の男たちがわめきながら走ってくる……

 

「チクショー!どこ行きやがった!」

「逃がすな、探せ!」

 

あきらかにこの、ケガをした男を探している風だった………どんどん、こっちへ向かってくる

 

「男を見なかったか」とジョルノに質問してきた…

 

「あっちへ行ったよ」

 

ジョルノはウソをついた…

 

恐怖はなかった。ただ、倒れてる男に対し「自分と同じようにひとりぼっちでさびしそうだな」と思っただけだった

 

そして、幸運な事に男の体は『草』がのびて、隠れていた。これはジョルノの『ゴールド・エクスペリエンス』の能力なのであるが、まだ、ジョルノ自身はこの能力に気づいておらず無意識の行動だった。この事はだれにも言わなかった

 

2ヶ月くらいしたころ………

 

「男」がジョルノの前にあらわれた。「男」は生きており、そして、ジョルノがかばってくれた事を覚えていたのだ………

 

──そして、こう言った

 

「君がしてくれた事は決して忘れない」

 

なぜ撃たれていたのか、それは言わなかったが、ほどなくして義父がジョルノを殴らなくなった。町の悪ガキどもが満員の映画館でジョルノに、席を譲ってくれる

 

男は『ヒーロー』だった

 

『男』は遠くから、ただジョルノを静かに見守ってくれているだけだったが、他人の顔色ばかりうかがっている子供に対し、ひとりの人間として敬意を示してくれるつき合いをしてくれた

 

両親から学ぶはずの「人を信じる」というあたり前の事をジョルノは無言の他人を通じて知ったのだ。奇妙な事だが………名前も顔を知らない他人の「ヒーロー」がジョルノの心をまっすぐにしてくれたのだ

 

もう、イジけた目つきはしていない…彼の心には、さわやかな風が吹いた……

 

男は決して、ジョルノを『ヒーローの世界に巻き込まない』という厳しい態度をとっていたが……

 

ヴィランが横行してヒーローが市民だけを守り真の弱者(ヴィランにならざるを得なかった者)を守らない今の世界の状況では、ジョルノの気持ちを止める事はできない…彼の中に生きるための目的が見えたのだ…

 

こうして「ジョルノ・ジョバァーナ」はNo. 1ヒーローのオールマイトにあこがれるよりも……

 

 

 

『名もなきヒーロー』にあこがれるようになったのだ!

 

 

 

「…結局、その人はぼくのいた町からどこかへ行ってしまった…いろんな人たちに慕われているのにだれも名前を知らない不思議な人だった……」

 

最後にジョルノは自分の意志を言葉にする

 

「ぼくは彼のように、この世に絶望している者たちに正しい正義と希望がこの世界にはある事を伝えられるヒーローになりたい…そう思ったんだ」

 

ジョルノは話し終わると、ちょっと呆れた風に息を吐いた。なぜかというと…

 

「ジョルノくん…君にそんな過去が…ッ!」

「ゔゔゔッ〜……!ひぐっ、ぐろゔじたんやなぁ、ビョルノぐん…!グスッ」

「君にとってそのヒーローが、ボクにとっての兄のような存在なのだなッ…!」

「ジョルノォォ〜〜オッ!!なんかあったらすぐに俺を呼べ!ゼッテェ救けてやっからよォ〜〜!!」

「なんと過酷な過去を歩んでいたのか…!」

 

麗日と飯田と鉄哲の3人が、干からびてしまいそうなくらい号泣していたのだから。緑谷と塩崎もすすり泣きしている

 

「まったく…やめてください。もう全部終わった事なんですから」

「で、でもよ〜…ズビッ」

 

ティッシュで顔から溢れ出る体液を拭き取る作業を尻目に、ジョルノは言う

 

「本当に終わった事なんだ…結局その後、父も母もぼくにしてきた事が警察にバレたから逮捕されて今は服役中、ぼくは2人と決別する意味も含めて、ジョルノ・ジョバァーナとして生きる事になったんだ」

「ジョルノ・ジョバァーナとして生きる…?そういえば、子供の頃に結婚したならイタリア人とのハーフって訳じゃあないんだよね?じゃあ、その金髪はお母さんの遺伝?」

 

緑谷の質問をジョルノは否定する

 

「いえ、おそらく、ぼくの本当の父の遺伝だと思います。母が語っていた男は金髪らしいですから」

「ジョルノ・ジョバァーナってのも本当の名前じゃないの?」

「元の名前は汐華(しおばな) 初流乃(はるの)でした。でも、役所の人達がぼくに同情してくれたのか、名前の変更を許可してくれたんですよ」

「汐華 初流乃…ジョルノ・ジョバァーナ…あ!ハルノ・シォバァーナ?ひょっとして」

 

麗日の思いついたような発言に、他の4人はジョルノの名前の由来に納得した

 

ジョルノは「子供だったから他にいい名前が思いつかなかったんです」と言おうと口を開く…その時

 

ビー!ビー!ビー!

 

『緊急警報発令!!──“セキュリティ3”が突破されました。生徒の皆さんは屋外へと避難してください。これは訓練ではありません。──繰り返します──』

 

──校舎内で反響するサイレンと放送が流れた




名前変更のあたりですけど、市役所に行くと1回だけ名前って変更できるみたいですね。未成年だけじゃ難しいって話だけど、あくまで()()()だけで()()()()ってわけじゃないから、そーいうことにしときます


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ジョルノ・ジョバァーナの夢 その4

ゴールド・Eの能力を書いてる時が、1番イキイキして書いてるなーと自分でも思ってます


ビー!ビー!ビー!

 

「なんだァ!?このビービーうるせェのはよッ!」

「“セキュリティ3”が突破されたんだッ!“セキュリティ3”は雄英高校の敷地への侵入を守っていた『雄英バリアー』だっけか…今、この雄英敷地内に、何者かが入り込んでいるッ!」

「なんだとォーッ!?」

 

警報が鳴り響く中でも聞こえるほどの大声で、鉄哲が叫んだ

 

『緊急警報発令!!──“セキュリティ3”が突破されました。生徒の皆さんは屋外へと避難してください。これは訓練ではありません。──繰り返します──』

「マズイよッ…!この食堂にはたくさんの生徒がいるんだ、もし生徒がパニックを起こしたら…」

 

緑谷はこれから起こるだろう事態を懸念する。そして残念な事に、その懸念は実現してしまった

 

「イテエ、イテエ!」

「押すなってェー!」

「ちょっと待ってー!倒れるッ!」

 

どわっと押し寄せてくる大量の生徒にジョルノ達は飲み込まれる。6人は必死にかたまりながら窓側の方へと避難する

 

「! みんなッ!外の方を見て下さい!」

 

その時、ジョルノは校門の方から近づく集団を見つける。ペンとメモを持ち、カメラを構えた集団

 

「マスコミ…!」

()()()ッ!()()()()()()()()()()のが原因だッ!マズイ…このまま侵入させ続ければ、さらに警報が鳴って、より「パニック」が大きくなる!!」

「ジョバァーナくん!ゴールド・エクスペリエンスで壁一面を植物に変えてッ!広いところに出られれば、みんな一旦落ち着くはずなんだ!」

 

緑谷はジョルノにそう指示する。一見すると最善な解決策だが、ジョルノはその方法を拒否する

 

「残念だがそれはできない。今、みんなを外に出してしまえば、マスコミは間違いなく生徒達に食いつく……そうなればより大きな「パニック」になってしまう…」

「クソッー!どうすれば…!」

 

ジョルノは外を見る。緑谷の外に出るという提案、実の所ジョルノは妙案だと考えていた

 

(みんなを外に出すのはダメだ…しかし、ぼくだけが外に出てマスコミを食い止められれば…その為には、()がみんなを動かすしかない!!)

「麗日さん!君の“無重力(ゼロ・グラビティ)”で飯田を無重力状態にするんだ!早くッ!」

「え…う、うんッ」

 

ジョルノが突然麗日にそう命令すると、麗日はちょっぴり戸惑ってから飯田に指先の肉球で触れて、無重力にする

 

急に体が浮き上がる感覚に飯田は混乱する

 

「う、麗日くん!?」

 

グワシィッ!

 

「そういう事かよォ──ジョルノ!今こいつ(飯田)を、軽くしたっつーことはッ!吹っ飛ばせってことだなッ!?」

「鉄哲さん、やみくもに飛ばしてはいけません……ちょうど出入り口の、非常口看板に向かって!」

 

そして無重力の飯田の腕を掴んだのは、塩崎のツタの上でバランスをとってる金属製の鉄哲である

 

「ふ、ふたりとも、一体何を!?」

「今から目立つ場所に飛ばさせます!!飯田、君がみんなを先導して下さい!」

「ボ、ボクがか!」

「今からぼくはマスコミを止めに行く!君だッ、君がやらなくっちゃあならないんだ!」

 

ジョルノは飯田の目をまっすぐ見る。碧色(へきしょく)の瞳に吸い込まれそうな錯覚を感じ…

 

「……わかったッ!ボクはどうすればいい!」

「できるだけ大声で注目を集めてほしい!ぼくがみんなを落ち着かせる!」

 

そう伝えるとゴールド・Eを呼び出し、床にラッシュを叩き込む

 

「無駄無駄無駄無駄ァ!」

 

メキョ グググゥ……

 

「わっ!床に花が咲いた!」

「なんて()()()なんだ…食堂中に広がっていく…」

 

ジョルノを中心に広がっていくピンク色の絨毯、それはゼラニウムと呼ばれるフウロソウ科の花だ

 

「中世ヨーロッパでは悪霊を追い払うとして魔除けの為に植えられる事もあったこの花は、()()()()()()を和らげる強い香りを放つ性質を持っている……ゼラニウムの絨毯は!一斉に踏み潰されることで強烈な「匂い」を食堂にばらまく!」

 

グシャア!グシャッ!ブチッ!

 

「…な、なんだ。この匂い…?」

「毒ガスか!?」

「いや、なんか、嗅いでると落ち着くぞ」

『花』だわッ!何故だか床一面に咲いてる『花の匂い』だわッ!」

 

ゼラニウムの草花は、混乱する生徒達によって()()()()()()()()、芳醇な香りを一気に放つ。すると生徒達の落ち着きが徐々に波紋のように広がっていく

 

「すごい…!みんなが落ち着いていく!今しかない、鉄哲くん!」

「行ってこい飯田ァ!!オゥラァ────ッ!!」

「うおお──ッ!」

 

鉄哲はその場で一回転し、遠心力で飯田を目的の場所へぶん投げた

 

飯田は回転する体勢をくるぶしから生えた『エンジン』で整えながら、「EXIT」の看板を目指す

 

(ジョバァーナくんの言う通り!分かりやすく!目立つように!そして…)

 

そして飯田は、非常口マークのような姿勢で「EXIT」の上の壁に激突し

 

(大胆に!!)

「大丈ー夫ッ!!」

 

大声でそう叫んだ

 

「ただのマスコミです!なにもパニックになることはありません、大丈ー夫ッ!!ここは雄英!!最高峰に相応しい行動をとりましょう!!」

 

目立つ場所の大声は人の視線を集中させ、みんなは飯田の言葉で完全に落ち着きを取り戻す

 

次の指示を出していく飯田の姿を、振り返りながら見ていたジョルノは小さく呟く

 

「…ディ・モールト・ベネ(非常に良い)だ……」

 

 

 

報道陣は雄英校舎を目指して駆け抜けていた

 

やがて、校舎の前まで近づいた、その一歩手前

 

ググオオオ

 

『な、なんだアアアッ!?』

 

校舎の出入り口を塞ぐように、急成長した大樹がコンクリートを突き破って現れた

 

「あ…あの子は!」

 

その時、とある女性記者が大樹の陰にいたジョルノの姿に気づいた。その記者は、朝ジョルノに取材を申し込んで失敗した人だった

 

「雄英生だッ!」

「この際生徒でもいい!取材せねば!!」

「オールマイトについて一言!!」

 

マスコミがジョルノに迫ろうとした時、女性記者はジョルノの目に既視感を覚えた。そう、あの冷たい目は…

 

ジョルノがこの世のゴミを見ている目だ

 

「あなた達は不法侵入罪と器物損壊罪で訴えられます」

『えッ…?』

「理由はもちろんお分かりですね?」

 

スッ…とジョルノが指差した方を見ると、その先には崩壊した雄英バリアーがあった

 

「あなた達が雄英バリアーを破壊して不法侵入し、雄英のみんなを混乱させたからです」

「いや、あれを壊したのは俺たちじゃあ…」

「そんな言い訳がまかり通ると思わない事だ…覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに雄英が訴えます。裁判も起きます。裁判所にも問答無用でいくことになるでしょう。慰謝料の準備もしておいて下さい」

 

ジョルノは静かに、しかし確実に怒りのボルテージを上げながら、これから起こることを羅列していく。すると報道陣はだんだんを顔を真っ青に染めていく。今更になって、自分達がしでかした暴挙に気がついたからだ

 

そしてジョルノはとどめに、マスコミ達を苛烈に責め立てる

 

「貴方達は犯罪者です!刑務所にぶち込まれるのを楽しみにしておいて下さい!いいですね!」

「ジョバァーナ…お前、何やってるんだ?」

 

そんな中、校舎と樹木の隙間から相澤とプレゼント・マイクがヌッと姿を現した

 

完全に勢いを失ってるマスコミを見て、深くため息を吐く

 

「先生……自分の欲の為に他人を平気で踏みにじるような奴はこの世に存在してはならない……ぼくはそう考えている」

「だとしても相手と場所を選べ。雄英(俺たち)はいい。マスコミに有る事無い事書かれたくらいで崩れるほど貧弱じゃあない……だが、生徒(お前たち)は別だ。見込みありと俺達が決めたヒーローの卵が、こんなくだらない事で潰れるのはあまりに不本意で不愉快だ………ヒーローは生き残るのも仕事なんだ。もっと自分を大事にしろ、ジョバァーナ」

「…わかりました」

 

マスコミの目の前ですべきではない会話だが、マスコミ達は全員、自分のこれからの末路に頭がいっぱいのため聞こえてなかった

 

「…とりあえず、今日はお引き取り願います……後日、またお話しすることになるでしょう」

 

その言葉は、マスコミ達には死の宣告に聞こえた

 

 

 

混乱が収まったその後…

 

相澤は、ネズミなのか犬なのか熊なのか、かくしてその正体は雄英高校の校長である根津(ねづ)校長と一緒に、崩壊した校門の前にいた

 

「派手に壊されてるね!」

「マスコミは利用されたって所ですか…(よこしま)な者が入り込んだか、宣戦布告か…」

「どちらにしろ、生徒達に被害を出させる訳にはいかない。──プロヒーロー(先生達)は当分、気を抜かないでもらいたい」

 

相澤は小さく頷いた




正直、今回これが書きたかっただけ


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差し迫る悪意

前回の感想だけで、普段もらってる4倍の数の感想が来ました。ワザップジョルノ効果凄すぎだろ…


マスコミ騒動の翌日…

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺ともう1人を含めての3人体制で見ることになった」

「ハーイ!何するの先生ー!」

 

手を挙げたのは反転目・ピンク色の髪と肌・頭から2本の触角が伸びた、まさに見た目がエイリアン!って感じの女子、芦戸(あしど) 三奈(みな)である

 

A組の教卓に立つ相澤は、「RESCUE」と書かれたボードをみんなに見せる

 

「災害水害なんでもござれ。人命救助(レスキュー)訓練だ」

「レスキュー……今回も大変そうだなァ〜」

「ねー!」

「バカ、おめーこれこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜッ!!腕がッ!!」

「水難なら私の独壇場。ケロケロ」

 

聞かされた授業の内容に、だれかはシンドそうにし、だれかはやる気がムンムンわいてきていた

 

「おい、まだ途中」

 

しかし途中で相澤に叱られるのだった

 

「今回のコスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗って行く。以上、準備開始」

 

合理主義者らしく簡潔にそれだけ伝えると、相澤は外で待つため教室から出て行った

 

ジョルノも戦闘服(コスチューム)に着替えてから外に出る。他のみんなも戦闘服(コスチューム)姿だが、緑谷1人だけ体操服だった

 

「デクくん体操服だ。コスチュームは?」

「『戦闘訓練』でボロボロになっちゃったから……修復をサポート会社がしてくれるらしくてね。それ待ちなんだ」

 

麗日の疑問に苦笑いしながら緑谷は答える

 

「バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に二列で並ぼう!!」

「飯田くん、フルスロットル……!」

 

そして()()()となった飯田は、クラスのリーダーとして張り切って職務に励んでいた

 

──昨日の放課後、緑谷の辞退と推薦によって委員長になる事になった飯田は、みんなから「非常口飯田」と受け入れられる形で委員長になったのだ。ちなみに副委員長は八百万だ

 

飯田に言われるがまま、みんな出席番号順にバスに乗り込み…

 

「こういうタイプだったッ!!くそう!!」

 

バスの座席が横に伸びるソファのようなものだった為、飯田の最初の仕事は空回りで終わった

 

移動中……

 

全員が乗るバスが目的地に向かって移動する中、蛙吹が緑谷に質問する

 

「私思った事を何でも言っちゃうの、緑谷ちゃん」

「あ!?ハイ!?蛙吹さんッ!?」

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

蛙吹に話しかけられてキョドる緑谷。女子への免疫が殆どない反応である

 

「あなたの個性、オールマイトに似てる」

 

ドギィ!

 

「そそそそそうかな!?いやでも僕はそのえっと!」

 

蛙吹に個性の質問をされた緑谷は、女子に話しかけられた時よりずっと動揺している様子だった

 

「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトは怪我しねえぞ。似て非なるアレだぜ」

 

そんな緑谷を図らずともフォローしたのは切島だった。緑谷は心の中でグッド!と親指を立てた

 

「でも、オールマイトに匹敵するパワーなのは確かですね。指1本でゴールド・エクスペリエンスのパワーを超える能力なんて、ほぼありませんから」

 

そしてその親指をジョルノにへし折られた感覚に陥る緑谷なのだった

 

(“個性”は、幼少の頃に発現して成長していくものだ…コントロールも10年経てば十分うまくなる。でも緑谷くんは0()()1()0()0()()()()個性を使えていない。最近発現したとするなら、今度は「成長し過ぎてる」パワーに説明がつかない……まるで『誰か別人の“個性”を無理やり植えつけたような』不自然さだ……)

「──派手でツエーっつったら、やっぱジョルノと轟と爆豪だな!」

 

緑谷の不可解な個性について考えていると、話の対象がジョルノたちの方へ向く。プロヒーローになる上での個性の話をしていたらしい

 

「ジョルノも轟もクールだからモテそーだよな」

「おのれ裏切り者のジョルノ・ジョバァーナ…!」

 

話題を出したのは、巨大なテープを肘から出す“テープ”の個性を持った瀬呂(せろ) 範太(はんた)であった。心のせまい峰田が怨嗟をつぶやくがスルー

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ」

「んだとコラ!!出すわ!!」

「ホラ」

 

一方、人気が出ないと言われた爆豪は椅子から立って蛙吹に威嚇する

 

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ!!殺すぞ!!」

「かっちゃんがいじられてる……!信じられない光景だ。さすが雄英……!」

「……もう着くぞ。いい加減にしとけよ」

 

そんなバスの中での会話は、担任の言葉で打ち切られるのであった

 

 

 

「スッゲ──────ッ!!USJかよ!?」

 

それが新たな訓練場を見たA組一同の感想だった

 

中央のセントラル広場から広がるように点在された各訓練ゾーンの光景は、遊園地のアトラクションを彷彿させるほど似通っていた

 

そして入り口で待っていた、宇宙服のようなコスチュームを着た教師

 

「水難事故、土砂災害、火事……etc(エトセトラ)。あらゆる災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も──嘘の災害や事故(USJ)ルーム!!」

「…その名前、色々とまずいんじゃあないですか?」

 

そう言ったジョルノの言葉に答える者は誰もいない。真実は神のみぞ知る

 

「スペースヒーロー『13号』だ!災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

「わー!私好きなの13号!」

 

麗日はどうやら13号のファンらしい。もしかしたら彼女の宇宙服みたいなコスチュームも、13号への敬意によって生まれたのかもしれない

 

そんな中、相澤は13号に近づき、小声である事を聞く

 

「……オールマイトはまだ来てないのか?」

「ええ。実は事件を解決しながら出勤したらしく、活動時間が削れたので休憩してから向かうとさっき連絡が…」

「不合理の極みだなオイ」

 

それを聞いた相澤はあからさまに不機嫌になるが、会話が聞き取れてない生徒たちにはその理由が分からなかった

 

「えー、始める前にお小言を一つ…二つ…三つ………四つ」

(((増える…)))

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性『ブラックホール』は、どんなものでも吸い込んでチリにしてしまう個性です」

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

「ええ。しかし──簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性を持った人がいるんじゃあないでしょうか」

 

13号のその言葉に心当たりのある生徒は息を呑む

 

「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制する事で一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる()()()()()()()を、個々が持っている事を忘れないでください」

 

みんなが真剣に耳を傾ける中、13号は告げる

 

「相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では心機一転!人命の為に個性をどう活用するかを学んでいきましょう。君達の個性は人を傷つける為にあるのではない。助ける為にあるのだと心得てかえって下さいな」

 

そして一礼

 

「以上!ご清聴ありがとうございました」

「ステキ~!」

「ブラボー!おお…ブラボー!!」

 

レスキューヒーローとしての確かな心意気と信念は生徒に伝わり、大げさに拍手する者も現れるほどだった

 

「そんじゃあまずは……」

 

話は終わったか?と言わんばかりの態度で、相澤はセントラル広場に顔を向け

 

 

ズアァッ

 

 

黒い「もや」が突然現れた

 

「!!」

 

ジョルノは反射的に周囲を見渡し、何もない事を確認してからセントラル広場を見下ろす

 

もやの中から次々と人が出てくる。その中で特に異質なのは3()()

 

黒く筋骨隆々の肉体に脳みそが剥き出しの男、もやを生み出したと予想できる全身が黒いもやに包まれた男……そして手が全身にくっついた灰色の髪の男

 

「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

「動くな!!あれは…」

 

上鳴がけっこう呑気してたところを、相澤が即座に戦闘態勢に入り、叫ぶ

 

「──()()()()だ!!」

 

その相澤の言葉を生徒全員が受け止め切れない中、もやの男、黒霧は相澤と13号を見て訝しむ

 

「……イレイザーヘッドに13号。先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイトもここに居る筈なのですが……」

「……やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

 

昨日のマスコミ騒動の元凶が目の前のヴィランである事を知った相澤は舌打ちする

 

「どこだよ……せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさ……オールマイト……『平和の象徴』いないなんて……」

 

そしてヴィランを率いるリーダー、死柄木 弔は、オールマイトがいない事に落胆し…

 

 

 

「───子供を殺せば来るのかな?」

 

 

 

玩具を見つけた目でそう言った




ズアァッで花京院を思い出した僕は悪くない

あと、メッセージでジョルノの中学について質問が来てたので、さらーと書くことにしました

熱情中学の説明をすると

・入学試験でライターの炎を24時間消さなければ誰でも入学可能(再点火不可なので死人は出ない)
・卒業生の9割9分9厘がヴィジランテかヴィランになっている(残りは歌手とかになってるかも)
・校長は正体不明、カエルやタバコで電話する教頭を通して指示を出す
・先生は背丈の小さいおじいちゃんや「ブフゥ〜」が口癖のメタボだったり
・生徒たちはそれぞれチームを組んで日々を過ごしている。暗殺チームや賭博チームなど
・保健医兼カウンセラーの先生は実験と観察が趣味。カウンセリングをしてやってる助手に、よくビデオカメラで趣味の様子を動画で撮らせている


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ビルに潜む謎 その1

擬音とかモブのセリフとか、ジョジョらしく書くのが何より大変でした。まる


「子供を殺せば…来るか?オールマイト」

 

死柄木の言葉に多くの生徒が背筋を凍らせる。それは初めて感じる命の危機だった

 

()()()()だってエエ〜〜〜!?ヒーローの学校に襲撃!?バカだろこいつらッ!」

 

そう叫ぶのは上鳴だ。上鳴の言うように、多くのプロヒーローが教鞭を振るう学校に攻撃をしかけるということは、即ちその学校全てのヒーローと戦うことに他ならないからだ

 

「余計なことを考えるのは後だッ!13号!避難開始!学校に連絡試せ!『侵入用センサー』が反応しない以上、センサーの「対策」も頭にあるヴィランだ。電波系の奴が妨害している可能性もある。上鳴、お前も個性で連絡試せ!」

「ウ、ウッス!」

 

カリカリ グシャッ!

 

「『ゴールド・エクスペリエンス』!!」

 

それを見たジョルノは懐からメモとペンを取り出すと「USJ ヴィラン襲撃」と走り書きをし、メモを握りしめてゴールド・Eのパワーで真上に投げる

 

すると生命エネルギーを流されたメモは、全長20cmほどのツバメに生まれ変わり、そのまま凄まじい速度でUSJから離れるように飛翔する

 

「ハリオアマツバメは時速170キロの水平飛行が可能なギネスブックにも載っている鳥だ。雄英のヒーローのところまで最速で飛ばす!」

 

1秒にも満たない間に、ハリオアマツバメはUSJの外まで出て

 

ガッシィ

 

…突如空中に現れたもやの中から出てきた手に掴まれる

 

「な、何ィー!?」

 

広場を見れば、死柄木が黒霧のもやの中に手を突っ込んでいる。射程距離外の為、イレイザーヘッドの“抹消”も間に合わない

 

ボロ ボロ ボロ

 

手の中でボロボロに肉体が崩壊していき、ハリオアマツバメから元に戻ったメモは宙でチリになった

 

「くっ!あのもや、あんなに早く出す事ができるのか!」

(いや、そうだとしても時速170キロで移動する物体を、パスタをフォークで巻き取るかのようにたやすく掴んだ!そしてあの、おそらく()()()()()をボロボロに崩す「手」……あいつは危険だ!)

 

見れば、眼下ではもやから出した手をぷらぷらさせながらジョルノをじっと見る死柄木の姿があった

 

「あ〜…手がしびれるぜ。目的はメインターゲット(オールマイト)の他にも、サブターゲットだってあるんだ。他のヒーロー共なんか呼ばせるわけねえだろうが」

「チッ…!」

 

相澤は首にかけたゴーグルで視線を隠し、捕縛布を操作して臨戦態勢に入る。イレイザーヘッドの姿に変えた相澤を見た緑谷は必死に止めようとする

 

「まさか1人で戦う気ですか!?無茶だ!イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だッ、あの数相手に正面戦闘は……」

「緑谷………ヒーローは一芸だけじゃあ務まらん……13号!生徒を任せたぞ!」

 

それだけ言うと、イレイザーヘッドはセントラル広場にいるヴィランの集団に跳び込む

 

「マヌケがッ!」

「ど真ん中に突っ込んできやがった!」

「蜂の巣ゥゥ─────ッ!」

 

それを見た射撃系の個性を持ったヴィランが、宙を跳ぶ相澤めがけて個性を使用する

 

シ──ン……

 

「アレ?でねえ…」

 

ドヒュバ───ッ ガシ!

 

「ふっ!」

「「「ウゲェッ!」」」

 

しかし「抹消」で個性を消され唖然としている間に捕縛布に捕まり、地面に叩きつけられ気絶した

 

「ばかやろう!アイツは個性を消すっつーイレイザーヘッドだッ!」

「「消すぅぅ」〜〜?俺らみてェーな異形系もかァ〜?無理だよなァ────!!」

 

次に異形系個性のヴィランがイレイザーヘッドの背後から殴りかかる

 

「無理だ。発動系や変形系に限る…」

 

その攻撃を、背中に目があるようにさっと躱す

 

ドヒャアア──ッ バシィ!

 

「ウッ!」

「だが、お前らみたいなヤツの旨みは統計的に近接戦闘で発揮される事が多い…だから、その辺の対策はしてる」

 

そして捕縛布でがんじがらめにして、異形系のヴィラン同士頭を打ち付けさせる

 

「「ギニャァ──ッ!」」

 

倒れるヴィランをよそ目に、イレイザーは次々とヴィランをなぎ倒していく。しょせんは裏路地で燻っていただけの木っ端ヴィラン、プロヒーローにかなうわけがない

 

(とはいえ、この数…そしてあの男…)

 

しかし、イレイザーの中にあるのは焦燥だ。あまりに用意された数と脳みそが剥き出しの大男は、イレイザーの警報を鳴らし続けた

 

(…かなり分が悪い……)

 

 

 

「す、すごい!先生の個性は、多数相手の近接戦闘でこそ本領を発揮するのか!」

「感心してる場合ではありません!みんな、僕の側に…」

 

ズズズ…

 

「!! いえ、後ろで固まっていてください」

 

近くに湧いてきたもやを見た13号はすぐに生徒達に指示を飛ばす。生徒の前に出る13号に対面する形で現れた黒霧は、ペコリとお辞儀をしながら口を開く

 

「初めまして、我々は「(ヴィラン)連合」。僭越ながら、この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせていただいたのは「2つ」の「目的」がありまして……1つは平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

(…ッ!?なんだって?…今、なんて言った?オールマイトを……殺す?)

 

緑谷はその言葉の意味が一瞬理解できなかった。オールマイトは誰にも倒せない、それはヴィランにとって当然の認識だ

 

(でも、事実としてヴィランは雄英に攻撃をしかけてきた!まさか、オールマイトを殺せるだけの根拠があるんじゃあ…)

「そしてもう「1つ」が…彼」

 

スッ…と指を指した先にいたのは、生徒達の中からゆっくり黒霧に近づくジョルノの姿

 

そして……黒霧は言う

 

「ジョルノ・ジョバァーナを、我らが敵連合に勧誘する為です」

「………え?」

 

誰が呟いたのか?誰にも分からないが、生徒も教師も黒霧の言葉に大きく動揺した

 

「ジョバァーナくん!近づいてはいけません!」

 

ジョルノを止めようとする13号だが、ゴールド・Eのパワーで押さえつけられる。名指しで指名されたジョルノは顔が影で隠れたまま静かに黙りこくりながら、黒霧の前に立つ

 

「……あんたはぼくの『父』の関係者ってことか」

「そうです。私、というわけではありませんが、大変お世話になったそうです………()()()()()

 

何かを察した様子で黒霧と会話するジョルノに、全員が得体の知れなさを感じた。それほど、今のジョルノは普段にはない()()()()『なにか』があった

 

「あなたの父親には相当してやられたらしく、なので今度は確実に敵対しないよう、その「息子」であるあなたをこちらに引き入れようってわけです……なにせ、あなたの父はあの」

「無駄ァッ!!」

 

その「名」を口にする直前、『ゴールド・エクスペリエンス』の拳が黒霧の顔面を突いた

 

ブワァ

 

否、突いていない。顔を傾けた黒霧の横には、もやに包まれたゴールド・Eの左腕があった

 

「あぶないあぶない…ジョルノ・ジョバァーナ、あなたの個性は知っています。鋼鉄をも砕くパワーと目にも見えぬスピード…だからこそ、物理攻撃の効かない私がこの役目に選ばれたわけですが」

「だろうな。だがお前の個性、無敵ってわけじゃあない」

 

もやで見えないが余裕のある表情だろう黒霧にジョルノが言う

 

「…今なんと?」

「実体がある。なけりゃあ「あぶない」なんて言葉は出てこないし、服を着る必要なんてないからな…」

 

ゴールド・Eは左の握り拳をゆっくり開く。すると手の中にあった()()が黒霧の服の上に落ちる

 

「!! な、サソ…!」

 

服の上でカサカサ蠢くサソリが、服の上から黒霧に尾の針を突き刺そうとする

 

ブワッ ブッヂィ!

 

しかし黒霧はとっさにもやでサソリの胴体を包む。すると胴体がちぎれ、サソリは真っ二つに割れた石ころに戻りながら地面に落ちていく

 

「こ、このガキ…!」

「お前達がぼくの『夢』を阻むというのならば、父の因縁だろうが関係ない。ここでお前達を倒す!」

「仕切ってんじゃあねえぞコロネ野郎!」

「てめーは俺らがぶちのめす!」

 

ジョルノが言い切ったタイミングで爆豪と切島も黒霧に突撃するが

 

「散らして!」

 

黒霧は生徒を逃さないように前方にもやをバラまき

 

「なぶり殺すッ!」

 

もやに包まれたジョルノ達は、その姿を消した



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ビルに潜む謎 その2

モンストでヒロアカコラボきて胸熱です


13号や生徒達を包み、別の場所へ飛ばす『ワープ』のもや…

 

ドッパァ!

 

そこから、“ブラックホール”でもやを吸い込みながら退路を確保する13号とついてくる生徒、“エンジン”の高速移動で麗日を抱えながら()()から脱出する飯田が出てくる

 

「とっさだったので乱暴に運んでしまった!大丈夫か麗日くん!」

「私は大丈夫!でも、デクくん達が…!」

「2人とも、早くこちらに!」

 

13号の声を聞いた2人はその方向に走る。13号以外に残っている生徒は飯田天哉、麗日お茶子、瀬呂範太、障子目蔵、芦戸三奈、そして糖分を力に変える個性を持った砂藤(さとう) 力道(りきどう)の6人だった

 

「こんなにも生徒を遠くに離してしまった…!」

「いいえ、これだけの生徒を守った…と言うべきでしょう。これだけの数の生徒を残してしまうとは思わなかった…さすが雄英ヒーロー科、金の卵ですね」

「きさま…ッ!」

 

飯田が睨みつける先には、この状況の元凶である黒霧がこちらに歩を進めていた

 

「ジョバァーナくんをどうするつもりだ!なぜ彼をヴィランであるおまえ達が勧誘しなくちゃあならないんだ!?」

「答えて差し上げてもよろしいですが……そんな事を考えてる暇があるのですか?死ぬのですよ、今から」

 

黒霧の無関心な、しかし必ず生きて返さないと言う態度に生徒6人は口を閉じる

 

すると黒霧はスマホを取り出し、画面をタップして耳元にスマホを近づける

 

「死柄木は1番にオールマイトを殺したいのでしょうが、()()()()()()どちらでも良いのです。『オールマイトかジョルノ・ジョバァーナ』の二択なのです……」

 

とぅるるるるるん……ぴっ

 

「ジョルノ・ジョバァーナを火災ゾーンにワープさせました。あとはあなたの『仕事』です…()()()()()()()()

 

それだけ言うと黒霧は通話を切ってスマホを懐にしまった。その様子を見ていた障子は疑問に思う

 

「…13号先生、今、このUSJ内は妨害電波を流されている可能性があると相澤先生が言っていましたが…」

「ハイ。彼は確かに連絡のやり取りをしていました。これだけの準備をしている連中が外への連絡を許すとは思えない……つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()のはずです…唯一の」

「なら、あれを奪って電話すりゃ助かるんじゃあねーか!?」

 

瀬呂の提案に13号は首を振る

 

「それはダメです。奴に近づけば必ずワープさせられる。そうなれば詰みなのです。絶対に『触れない』ように逃げ続ける、これが絶対です。そして…」

 

13号は飯田を見る

 

「飯田くん、君の能力は奴から逃げおおせるスペックがある。君がUSJの外に出て、救援を呼ぶのです!」

「そんな!?俺は「委員長」です!みんなを置いて俺だけ逃げるなど…!」

「そのみんなを救ける為に必要な事です!君だけが唯一あれから逃げられる!」

「う、うう……!」

 

飯田は苦悶の表情で悩む。しかし黒霧は飯田が決断を下す事を待ってはくれない

 

「敵の前で作戦会議など阿呆ですね!邪魔しないとでも思っていましたか!?」

「敵の前で電話してたあなたが言いますか!」

 

襲いかかってくるもやを指先の『ブラックホール』で吸い取る13号。命がけで戦う13号の姿に決意を感じ取った飯田は、息を吸って大声を返事をする

 

「──分かりましたッ!!学級委員長「飯田 天哉」、職務を全うします!」

「みなさんは回避を大優先でお願いします!決して「倒す」だとか「撃退する」なんて考えてはいけません!逃げ切るのです、なんとしてもッ!」

 

13号を指示を聞いた6人は、もやの魔の手から逃れる為に走り出した

 

 

 

一方、ジョルノが飛ばされた火災ゾーンでは…

 

「無駄ァ!!」

「死ねェ!!」

「オラァ!!」

 

ジョルノは他にも飛ばされた爆豪、切島の2人と一緒に、炎で照らされたビルの中、床に大穴が空いた部屋でヴィラン達を蹂躙していた

 

ジョルノは窓からセントラル広場の方をチラリと見るが、もう1つのビルが視界を防いでいたため、様子を見ることは難しかった

 

「お、おれ達の相手は、ガキのはずだろ!?」

「こ、こいつら、強過ぎるッ!特に金髪のガキ2人がッ!」

 

数で押し潰せると思っていたチンピラ達は、3人…特にジョルノと爆豪の化け物じみた強さに、完全に萎縮していた

 

そして3人が戦う中、カメレオンの異形型“個性”を持つヴィランが天井に張り付いて薄ら笑いを浮かべる

 

(ウケケケケ、バカめェ〜!他の奴らに気を取られて誰1人気づいてねえ。俺の無敵の個性に勝てる奴はいねえッ!ぶっ殺してやる!)

 

そう考えたヴィランは長い舌を伸ばして、ジョルノに向かって振り下ろし

 

(死ねェェェェー!!)

「無駄無駄無駄無駄ッ!」

「ぶげぇッ!?」

 

──振り下ろし切る前に、天井まで移動していたゴールド・エクスペリエンスの片腕のラッシュを受けて、そのまま気絶して地面に落ちた

 

「ゴールド・E」には生命力を探知する能力がある…お前が天井に張り付いているなんて最初から分かっていたことだ」

 

そしてゴールド・Eを使って、ジョルノはヴィランの掃討を再開した

 

それから3分…

 

「倒した敵はこれで全部か…」

「モブ風情が俺に勝てるわけねェだろーが」

 

3人の周囲には、死屍累々といった感じにヴィランの集団が倒れていた

 

切島は窓から広場の様子を見る。広場全体をよく見渡せたが、遠いため様子が分からない

 

「そんじゃあ、早く広場のところに…」

「待ってください切島…そのまま…穴から離れるんだ…」

「え?」

 

とりあえず広場に行こうと扉に近づく切島をジョルノが制止する

 

「爆豪……」

「わかっとるわボケ…「敵」がいやがる」

 

その言葉に切島は疑問符を浮かべる

 

「いや、そりゃあヴィランはそこら中に倒れて…」

「違います。新手のヴィランが既にいるんです…この部屋の下にッ」

「な、なんだとッ!?」

「ぼくのゴールド・Eでは、敵がいることがわかっても、そこまで正確な位置は掴めない……せいぜい、どの方角にいるのかくらいしか」

 

ゴールド・Eで床に触れながらジョルノは周囲を警戒する

 

()()()()()()()()()()。それは「確か」です。でも姿が見えない…つまり敵は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………」

「ぼくの言いたい事、わかりますか?」

 

ジョルノに聞かれた切島は言葉を絞り出す

 

「よくわからんが、つまり………その……敵の能力の『謎』を見きわめない限り、うかつに近づいたらやられるって事か?」

「ええ!しかし、隠れて襲う能力という事は、逆にそれが短所!『謎』さえわかればヤツを倒せるという事です」

「ハッ!謎なんざ解かなくったってブッ殺しゃあいいんだろうがよ」

 

だが、爆豪はそんなジョルノの提案を一蹴する

 

「何言ってんだよ爆豪!敵の謎を解かなくちゃあ俺達は皆殺しだぞッ!」

「判断材料もねェのに謎もクソもあるかよ。だいたい、それはコロネ野郎の推測じゃあねェか。臆病な想像だけで見たわけでもねェーのによォ。敵は下の部屋のどこかに隠れているだけだ。今、見つけ出して…………俺がブッ殺してやる!」

 

それに対して反論するジョルノ

 

「判断材料があれば、謎が解けると解釈させてもらいます……その上で言います。謎を解かなければ、近づいただけで確実にやられます」

「うっせェンだよ!!ア?このクソが〜〜〜…!」

 

爆豪は、ジョルノが自分を格下と見てるから当然のように命令するのだと思っている。そんなことを絶対に認めるわけにはいかない爆豪は、ジョルノをギロッと睨みつける

 

長い沈黙が続き………

 

「このジョルノ・ジョバァーナには夢がある」

 

そして、ジョルノが沈黙をやぶった

 

「何言ってんだおまえ?」

 

あまりに突拍子のないジョルノの言葉に思わず真顔になる爆豪

 

ザン!

 

「!?」

「!!」

 

するとジョルノは急に脚を前に出して走り始めた

 

「謎」を!!()()()()()()()お願いしますよ………」

「ジョルノ!?いったい、おまえ何を!!」

 

最短で扉に近づく為、ジョルノは目の前のポッカリ空けられた穴をジャンプで飛び越え

 

ズブ

 

───その穴から飛び出した1本のレイピアが、ジョルノの無防備な背中に突き立てられた

 

「ジョ…ジョルノ!!」

「う…う…」

 

切島が声をかける中、ジョルノの体に変化が起きる。まるで()()()()()()()()()()()みたいに、ジョルノの体が皺だらけになってきているのだ

 

「あそこに敵がいるぞッ!こ…これはッ!?やばいぞッ!ジョルノがやばいッ!」

 

居ても立っても居られなくなった切島は、ジョルノを助けようと体を動かし

 

ドン

 

しかし、突如目の前に立ちふさがった背中を見て、切島は困惑する

 

「爆豪…?」

「ジョルノ・ジョバァーナ!!こいつ……クレイジーな野郎だな…証明するためにかァ…?」

 

 

 

爆豪はジョルノの事が気に食わないと思っている。何もかもお見通しだと言わんばかりの態度も、自分の行動が正しいという自信も、爆豪の心をイラ立たせるばかりだった

 

だが、そんなジョルノが自分の身を呈してでも、『謎解きと敵を倒す』ことを自分達に任せたのが()()()気に食わなかった。「謎を解けば確実に勝てる」と信頼してくるジョルノにはムカッ腹が立ってばかりだ

 

 

 

だから爆豪は心のムカつきを一切隠さず

 

「どうかしてんじゃあねーのか!」

 

BOOM!

 

掌を爆破させて叫んだ



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ビルに潜む謎 その3

なんとか休日中に仕上げれたので投稿です


「う…」

 

背中からレイピアで突き刺されたジョルノ

 

「き…きさま……!!こ…この個性は…!!」

 

ジョルノは突き立てられたレイピア、()()()()()()()()()()()()()()で、敵の能力を理解する

 

「『ゴールド・E』で防御しろッ!ジョルノッ!」

 

切島は攻撃されたジョルノにそう言いながら、助けようと走り出す

 

ガオンッ

 

しかし、その前にジョルノの体が敵によって下の階層に引きずり込まれる

 

そして引きずり込まれた穴の底には……ジョルノの靴が片っぽだけ落ちていた

 

「バ…バカなッ!」

 

切島は目を疑った。たった1秒程度の時間でジョルノの姿が消えたことに

 

(何なんだ………!?ジョルノに自分の個性を出して防御する間髪も与えずに、ジョルノをどこかへ隠し切るなんて……)

「ジョルノッ!どこだッ!!」

 

手当たり次第に探そうと穴に近寄り

 

ガシィッ

 

しかし、その肩を爆豪が掴んで止める

 

「そこの穴には()()()()()()()()()、クソ髪。いや、下がりやがれ………!」

 

そのまま爆破でもしそうな剣幕に切島は冷や汗をかきながら、2歩後ろに下がった

 

「俺はコロネ野郎を信用してるわけじゃあねえが、アイツ(ジョルノ)は、俺らがヴィランをゼッテェーブチのめすって事を信用してるらしいな…ずいぶんクレイジーな事をやるヤツだぜ」

 

下の階層を遠目に見ながら爆豪は警戒する

 

「あの野郎………万が一、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…………?()()()()()()()?まるでジョルノが「自分は殺されない」とわかってるような言い方に聞こえたんだが」

「察しろやクソボケッ!!」

 

理由が分からない切島が聞くと、察しの悪さに「チッ!」と舌打ちをしながらも爆豪は答える

 

「広場でモヤ野郎が言ってただろうが。コロネ野郎を勧誘しに来たってよォ。そして、アイツはヴィランどもが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……だから今来た(ヤロー)の目的も、自分(コロネ野郎)の捕獲だって事に気づいたんだろうよォ」

「イヤイヤ!仲間にならないくらいなら殺すって可能性も十分あんだろ!?だいたい、そうだとしてもなんで自分から捕まりに…」

 

その時、切島は穴の下の部屋…正確にはそこに落ちていたジョルノの靴の変化に気づく

 

グニュゥゥゥ…

 

圧縮されるようにどんどん靴が小さくなり、やがてそれは、小さなハエに姿を変える

 

ブウウウウウウ…

 

「く、靴がハエに…これはジョルノの個性!」

「だからイカれたヤローだっつってんだろうがッ…だがアイツはまだ生きてる。そしてこのハエの動きが、自分から捕まりに行った最大の理由ッ!」

 

ブウウウ─…ウウ──ン

 

そしてそのハエはジョルノが消えた地点から離れ、扉から外に出て行った

 

「ハエがッ!逃げるように部屋から出ていくぞッ!」

「生物には『帰巣本能』っつーモンがある……多分、コロネ野郎が生み出した「生命」は、元となった物体の持ち主に帰っていく習性がある…生命エネルギーっつうヤツじゃあ細かい位置はわからねえとコロネ野郎は言ってやがった。だが、隠れて奇襲をしかける敵の持ち物なんざ手に入るわけがねえ。だから自ら捕まりに行ったッ!(ヤロー)の位置を明確にする為になァー!」

 

BOOM!

 

すると爆豪は落ちていたソフトボールほど大きい瓦礫の破片を掴むと、『爆破』の勢いを乗せて高速投擲した

 

それはハエが追いかけてる地点に直撃して、コンクリートを破砕する

 

バゴオッ!

 

…しかし、破壊した場所には誰も存在せず、ハエはそのまま見えない敵を追いかけていく

 

「あの地点じゃあない!敵もジョルノもいない!やはりジョルノの言うとおり、敵は姿を消すだとか、どこかの物陰にただ隠れて攻撃して来たんじゃあないぜ!」

 

2人は穴から下の階層に降りて、廊下に出る

 

ブウウウ────ン

 

ハエはどんどんビルの中を2人から離れるよう移動していく

 

「おい……ハエが離れていくぞ…」

「ジョルノを連れて逃げる気だッ!だがおかしい…どこを移動してるんだ!?敵はどうやって!?どこに隠れているんだ!?」

「この敵の能力に関しては……仕方ねェ──クソッ、アイツの言ってる事を認めるしかねェようだなァ……クソ髪!敵を追うぞコラ!」

 

爆豪と切島は、付かず離れずの距離を保ちながらハエを追いかける。時々、焦るようにハエが速く離れたり、逆に爆豪たちに近寄るように移動してくるが、2人は一定の距離でハエを追いかける

 

やがてビルの出入り口までたどり着く。しかし、そこで奇妙な事が起きる

 

「…なぁ、爆豪…あいつ、ずっと入り口でとどまってるぜ」

「うっせェ」

 

そう、ジョルノを抱えて逃げ続けていたハエが、出入り口あたりでピタリと移動をやめたのだ

 

何か変な感じがする。違和感を覚えた爆豪は背後の切島をチラ見し

 

ピンッ

 

切島の後ろで、カッターの刃で覆われた「グレネード」が天井から栓と一緒に落ちてくるのを目撃する

 

()()使えェェェェェ──ッ!!」

 

反射的に絶叫する爆豪。ドッと汗が吹き出した体で切島に掴みかかり、側面の壁に向かって投げつける

 

「うおおおおッー!?」

 

切島は爆豪の言葉に反応はできなかったが、壁に投げられたことによる危機感から全身を()()させる。鉄哲のように金属そのものに変化させるのではなく、金属並みに硬くなることができるのが切島の“個性”だ

 

頑強な肉体は厚い壁を砕き割って隣の部屋に移動する。割れた壁の穴に向かって、両掌の爆破によるターボで即移動する爆豪

 

ボッ ボッ ボボッ

 

その瞬間、グレネードが()()()()()()して、カッターの刃を撒き散らす

 

ビス!ビス!ビス!

 

爆豪と切島は壁が『盾』になったおかげで刃は飛んで来ないが、それ以外の場所には破裂地点から広がるようにカッターがそこらに食い込む

 

刹那の攻防の中、ようやく切島が床に落ちる

 

「イッデェ!」

 

ブッ

 

「……えッ?」

 

だが、痛みに悶えている暇はなかった。突き刺さったカッターの刃で傷ついた地面や壁が、まるで猫の爪で切り裂かれた布団ような傷口へと裂けていく

 

ブシゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…

 

そして傷口から吹き出す空気を見て、爆豪たちは理解した

 

「こ…これは…!?空気がぬけるように………!!壁や地面…ち、違う!()()()()()()がしぼんでいくぞッ!」

 

今、この周辺が空気の抜けた風船のようにしぼんでいってるのだという事を



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爆豪勝己の逆襲

いよいよ明日、ボスのあの断末魔が聞けますが…とりあえず投稿ですッ!


プシュウウウウウウウ

 

「こッ………!!これがッ!「謎の正体」!」

 

敵を不意打ちを躱した爆豪と切島だったが、その攻撃によって、2人は縮みゆく部屋の中で敵のさらなる「攻撃」を受けていた

 

「傷つけた人間や物を、ビニールプールの空気抜くみてーにペシャンコにする個性か…!コロネ野郎を素早く奪えたのも()()()()()()()()ッ!コロネ野郎を、そして(ヤロー)自身も能力でペラペラになって、普通は入れねェ『隙間』や『パイプの中』に隠れてビルの中を移動してたっつー事!」

 

グシャ グシャ

 

敵の能力を把握した2人だが、すでに2人はグシャグシャに潰されて、扉どころかまともな隙間すらも失った部屋から脱出できない状況に陥っていた

 

「う」

 

硬化して、倒れ込んで来た空気の抜けた軽い壁を押し返そうとするが、吊り天井のように落ちてくる天井の重さに逆に押し潰される

 

「うおおおおおおおおおおっ!!?」

 

さらに硬くなって、つっかえ棒のように切島は天井を支え続ける

 

「ダ…ダメだ!ペラペラになって押し返せると思ったが、逆だッ!ここら一帯の支柱がなくなったせいで、ビル全体が押しつぶして来やがるッ!こ、このままじゃあ、お、俺たちは生き埋めになるぞ!」

(ヤロー)はこれを計算してやがった!アレ(グレネード)を直接食らってペラペラになろうが、壁を盾に防ごうが、確実に俺らを始末する為にッ!」

「ハァ ハァ ハァー…ぐ…ぐぅ!」

 

無慈悲に押し寄せてくる重みに切島は呻く。このままではビルの下敷きになるのは時間の問題だった

 

ガチャ

 

好転しない状況に、爆豪はコスチュームの籠手を構える

 

爆豪の『爆破』は掌の汗腺から、ニトログリセリンに似た性質の汗を生成し、それを起爆させる能力。そして手榴弾の形をした籠手の中に汗を溜め込み、ピンを外すことで、対象の方向に向けて大規模な爆破を起こす事ができる

 

「待て、爆豪ッ!ハァー!ハァー!たしかにそいつならッこのビルを吹っ飛ばせるかもしれねえ…」

 

それを使おうとする爆豪だが、切島が大声で止める

 

「でも、出来なかったらより状況がマズくなる!しかももうここはメチャクチャせまいッ!最大火力でブッ(ぱな)したら、俺たちの方が先に自爆しちまう!」

 

手足は震え、珠のような汗を流す切島は、視線を横道に移す

 

「さっきの廊下に爆破で穴を空けて戻るんだッ!!支柱を失ったのがここだけだということは、言い換えれば、この部屋を脱出できれば敵を追いかけられるッ!!」

 

さらにのしかかるビルの残骸に、切島の膂力(りょりょく)に限界がくる

 

だが、爆豪はうつむきながら動かない

 

「早くしろ爆豪!!もうそろそろ限界が」

「知ったこっちゃあねェな」

 

ガコン

 

爆豪はそう吐き捨てながら音を鳴らした

 

その音は、籠手の安全装置を外す音だった

 

 

「何やってんだァ──────!!?」

 

 

直後、轟音がビルの中で爆ぜた

 

 

 

ドオォ───ン……

 

重く響く爆音と共に、ビルが崩れ落ちて瓦礫の山に成り果てる

 

「最後っ屁で何かを抵抗したってところか〜〜〜?まあ、意味はなかったみたいだけどなあ〜」

 

カメレオンのしっぽのような巻いた髪の毛がトレードマークの男が、崩れるビルを双眼鏡で見ていた

 

男の名はズッケェロ。今回、ジョルノ・ジョバァーナ捕獲の依頼をある人物から受けたチンピラである。だがズッケェロは裏では名の通った人物であり、下手なヴィランよりずっと厄介で強力なチンピラなのだ

 

「これで報酬の6億はおれの物…フヘヘっ、そんだけのカネがありゃあ何が買えるかな…沖縄とかハワイにオンナ()()()()よォ〜〜〜〜」

 

ズッケェロはすでに報酬をもらった気分で、懐にあるペラペラの状態のジョルノを取り出す。足元には、レイピアで一刺ししたあとが残った靴が転がっている

 

「まさか()()()捕まってガキどもに追跡させるとはな〜〜〜〜出口までピッタリとついてきた時はマジに焦ったぜ」

 

「だが」と口角を上げ

 

「しょせんはガキだな。てめー(ジョルノ)を一旦手放しただけで追いかける事が出来なくなったんだからな〜。おかげで背後に回り込んで、隙間から能力で平たくした「グレネード」を落としただけでおしまいよ」

 

ズッケェロは、爆豪たちがズッケェロ自身ではなくジョルノを追跡している事に途中で気づいた。ゆえにジョルノをトラップとして利用し、爆豪たちに不意打ちをしかけられたのだ

 

「ガキは始末したッ!ターゲットも捕らえたッ!あとはこの場を離れるだけ…」

 

しかし、ズッケェロは崩壊したビルを一瞥して、何か違和感を抱いた

 

「………」

 

双眼鏡で細かく、そしてじっくりと観察していると、ズッケェロは不思議な事に気づく

 

ジョルノたちがいたビルはかなり大きい建造物であった。それが全て崩れたとなれば、瓦礫の山も相応に高いはずなのだ

 

だが

 

「な〜〜んか……瓦礫の山、『小さくねぇ』か?」

 

 

 

ズボォ ガシィッ!

 

その瞬間、突如地面から生えてきた右手がズッケェロの足首を掴んだ

 

「………?」

 

あまりに唐突な出来事に事態を把握できてないズッケェロ。続いて左手が地面から現れ、鋼鉄並みの硬度の腕で地面を掘り返す

 

「爆豪…おまえってやつはスゲェよ…」

「!!」

「とっさに地面から下を爆破で掘りえぐって脱出するなんてな…瓦礫同士が引っかかったからすぐ穴に落ちてくる事もなかった…」

 

そして、掘り返した地面から出てきたのは…全身を硬化させた切島鋭児郎の姿だ!

 

「そして今ッ!!地面を掘り進んだおかげで、おまえを捕まえる事ができたぞッ!」

「な、なんだとォォォォォッ!?」

 

ズッケェロは驚愕した。まさかそんな、()()()()()()()()()()()()()()()()()方法であの包囲網を突破してくるとは思ってもいなかったのだ

 

(ありえねえ…!地面を掘って逃れるなんて!瓦礫の山が小さかったのも、ほとんどが脱出の為の穴に落ちたからか!)

「だがッ!」

 

シャキィィ……ン

 

しかしズッケェロはすぐに片方だけ穴の空いた柄だけの物体を取り出す。するとギミックが作動し、穴から突剣が飛び出すように現れ、柄はレイピアへと変わる

 

「このおれに近づくとは、やはりガキッ!」

 

そして切島を無力化する為、レイピアを突き立てる

 

バッキャア!

 

だが、突き刺すよりも先に硬化した拳のパンチで真正面からレイピアをへし折られる

 

「!? エ?」

「オラァ!!」

 

ボギャァァ!

 

「ぶげぇーッ!?」

 

続く右フックを頰に受けたズッケェロはそのまま地面に倒れる

 

「爆豪の予想はあってたな。おまえの『個性』は刃物を使って傷つけないと発動できないみたいだ。そうじゃあなきゃ、()()()()殺傷力の低い(カッターを飛ばすだけの)グレネードを使う理由はない…らしいからな。そしてジョルノが言ったとおりだ。隠れて攻撃するって事はそれが弱点……ノロイ野郎だぜ」

「こ、このガキィ〜〜〜〜〜〜!ハァー ハァー」

 

ピンチになった事で息が荒くなるズッケェロ。ペラペラのジョルノを取り返した切島はズッケェロのうしろに視線を移す

 

「俺がやるのはここまでだ。とどめは任せたぜ……「爆豪」」

 

ザンッ ザン

 

「ハッ!」

「てめ〜〜クソモブヴィラン風情がよォォ〜………ずいぶんナメたマネしてくれたじゃあねェか……」

 

土を踏み進む音に振り向くと…そこには影で顔の隠れた爆豪がズッケェロに近づいていた

 

爆豪の声音は落ち着いていた……非常に落ち着いている

 

しかし切島は気づいていた。その落ち着きは、大嵐の前の静けさだという事に

 

「おい〜〜〜〜〜〜〜〜 覚悟はできてんだろうなああああああああ」

「……………」

 

凄む爆豪に黙りこくるズッケェロ

 

ズバァッ

 

「きゃはははあ──ッ!」

 

そしてブーツの仕込みナイフを出して、間合いまで近づいてきた爆豪に蹴りつけた

 

しかし、切島以上の反射神経とセンスを持った爆豪が反応できないわけもなく

 

BBBOOM(ボ ボ ボ ム)!!

 

「ぐべばッ!!」

 

逆にナイフを仕込んだ足と胴体と頭に、連続で爆破を叩きつけられたズッケェロは、衝撃で気絶する

 

「ひゃっぺん死ねッ!!」

 

ズッケェロを(くだ)した爆豪は、ヴィランを倒したのにまったくスッキリしていなかった

 

 

 

個性名ー薄化(はくか)

本体名ーズッケェロ(本名:佐糖(さとう) 摩利男(まりお)再起不能(リタイア)



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改造人間 脳無 その1

倉庫で働いてるんですけどね?最近職場の3階がサウナかよ!って感じなほど暑いです

暑すぎて痩せそうなくらいで、このままじゃホラーマンかキン骨マンになってしまいそうなレベルです。皆さんも適度な水分補給は欠かさないよう気をつけましょうね


「大丈夫かジョルノ。どこか痛んだりしてねえか?」

「ええ、パイプの中で頭を打ったくらいです。コブにもなってないし、特に問題はありません」

 

“薄化”から解放されたジョルノは、敵が持っていた双眼鏡で周囲を見渡しながら切島にそう答える

 

一方、爆豪は…

 

「次は右足の裏を『爆破』する。いやならよォー、てめーらの情報を洗いざらい話せよ。ナァ」

「ゥんがァアアア───アァッ!」

 

両手両足を縛り、口を塞いだ状態でボロボロになっているズッケェロに尋問していた。しかしズッケェロはしゃべる事が出来ない為、完全に私怨による拷問と化している

 

「おい爆豪!そのへんにしとけよ!広場の様子がわかったってジョルノが言ってる!」

「フンっ」

 

切島からそう言われた爆豪はつまらなさそうに鼻息を鳴らす

 

ドギャアァ!

 

「ンぎゃんッ!」

 

そしてズッケェロの頭を蹴って、再び気絶させた。ドスドスといった感じにジョルノと切島の2人に近づいて怒声を飛ばす

 

「寄越せッ!」

「ハイ」

 

差し出された双眼鏡をひったくるようにジョルノの手から取ると、そのままUSJの中心、セントラル広場を見る

 

「状況は見ての通りです。オールマイトがきて、脳みそが露出した怪物と一騎打ちで戦っています」

「オールマイトが来てんのか!?じゃあ勝てるぞ!みんな助かる!」

「いや、そうとは言えねェ」

 

切島の言葉を否定したのは意外にも爆豪だ

 

「脳みそのヤロー、どういった「個性」「理屈」か知らねェが、オールマイトとまともに打ち合ってやがるのにダメージがない。並外れた増強系ってのは確定だが、このままじゃあキリがねェな」

「しかも相澤先生も13号先生もやられている。オールマイトだけではみんなを守りきれない。このままじゃあ、みんなが確実に始末されてしまう」

「な…先生が2人ともやられてんのか!?」

 

それを聞いた切島は、今からでも助けに行こうと飛び出そうとして、ジョルノが制止する

 

「切島!」

「!」

「そこから……10時の方向…山岳ゾーンを見てください…」

「? オウ…」

 

ジョルノにそう言われた切島は、「チッ」と舌打ちする爆豪から双眼鏡を手渡されると、山岳ゾーンを覗きこんだ

 

「なッ」

 

そして絶句する

 

なぜなら山岳ゾーンの広い場所…多くのチンピラヴィランが倒れてる中心で、ヴィランに上鳴を人質に取られ両手をあげている、八百万と耳郎の姿が見えたのだから

 

「か、上鳴ッ!八百万ッ!耳郎ッ!」

「向こうもかなり…いや、援護が望めない以上、向こうのほうが危機的状況だと言えます」

(広場を見たとき、飯田の姿はなかったが、USJの出入り口に、外に向かって強く踏みしめた足跡があった。彼は1人脱出してヒーローに救援を求めに行ったはずだ。だが、救援の到着が間に合わなければ彼女たちは間違いなく殺される…!)

 

山岳ゾーンは『ゴールド・E』の射程距離よりも遥か先にある。ハブなど足止めできる生命を向かわせても間に合わない。ならば最後の望みは…

 

「爆豪」

「断る」

「まだ何も言ってねえぞ!?」

 

ジョルノが言い切る前に断る姿に切島が突っ込む

 

「俺にあいつらを救けに行けっつー気かァ?……言っとくがコロネ野郎、俺がさっき謎を解いたのは、そっちの方が都合がよかったからだ。てめーやクソ髪がいなくても俺1人でモブくれーブッ殺せてんだよ。全部手のひらで踊らせたようなスカしたツラしやがってよォー、ナメてんじゃあねェぞカスッ!」

 

ジョルノが敵を追跡できるようにしなかったら?切島がビルが崩壊する時間を稼がなかったら?

 

そんな、1人では何もできなかったという事実を爆豪は簡単に認めたくはなかった

 

「爆豪ッ!今はそんな事言ってる場合じゃあ…」

「敵を倒しに行く必要なんてない」

 

一触触発な雰囲気の中、ジョルノは地面に転がっていた程よい大きさの石ころを拾い、爆豪に差し出す

 

「アァ?」

「君はこれをあそこに投げこめばいい。“爆破”の加速を使えば、移動するよりずっと早くおわる………それだけでいい」

 

ジョルノは瞬き一つせず爆豪を見つめる。爆豪も眉間にしわを寄せてジョルノを睨めつける

 

「………」

「………」

「……クソがッ」

 

何を伝えようとしたのか、何が伝わったのか

 

ガシッ

 

緊迫した空気は爆豪が石ころを手に持った事で霧散する

 

「ウラァッ!」

 

BOOM!

 

そして掌の爆破の勢いを利用して、山岳ゾーン向けて石を投擲する。不機嫌を隠さず体を翻し歩き始める

 

「爆豪…?」

「行きましょう切島。おそらく爆豪は敵の移動手段であるもやのヴィランを抑えるつもりだ。ぼくたちもその援護をするべきです」

「ちょ…ちょっと待てよッ!まだ上鳴たちが…」

 

そこまで言って、山岳ゾーンから喧騒が聞こえてくるのに気づく切島。再び双眼鏡で上鳴たちを見ると…

 

 

『い、石がヘビに…!?く、首に巻きついて、息が…!!』

『これは、ジョバァーナさんの…!』

『チャンスッ!』

 

ドスッ ドックン!

 

『ばべッ!』

 

 

人質を取っていたヴィランの首に『ゴールド・エクスペリエンス』で生み出したヘビが絡みついていた

 

それによって上鳴を手放したヴィランは、耳郎の耳たぶが長いコード状になった個性『イヤホンジャック』で体にプラグを挿され、爆音の衝撃波を撃ち込まれた事で倒れた

 

「す、すでに攻撃を終わらせていたのか……」

 

切島は改めてジョルノのすごさを実感した。同い年とは思えない大人びた雰囲気と冷静さ、人を信じる熱い心と信頼を得る為に自ら飛び出す自己犠牲

 

なにより、他人に従う事をもっとも嫌う爆豪すらも動かす、ジョルノのカリスマと精神力

 

(爆豪が俺たちを信じて動いてくれなかったら、きっと死んでたのは俺たちの方だ。爆豪はお前の事をちょっとは認めたと思うぜ、ジョルノ…爆豪はゼッテェー認めねえって言うだろうけどな)

 

2人を追いかける為に走る切島は思った

 

(俺らを信じて1番に動くなんてよォ…ジョルノ、おめー()()()()()()()()ッ!)

 

 

 

一方、水難ゾーンから広場まで戻ってきた緑谷は、蛙吹、峰田と共に絶体絶命の状況に追い込まれていた

 

相澤と13号は戦闘不能、頼みの綱のオールマイトも現在、脳が剥き出しの化け物…脳無に動きを止められた状態で、黒霧のワープゲートに引きずり込まれようとしていた。オールマイトを中途半端に入れたワープゲートを閉じ、真っ二つにする作戦なのだ

 

(オールマイト!!)

 

このままではオールマイトといえど殺される。そう確信した緑谷は、使用した部位のパワーが上がるが自壊する個性で、黒霧を止めようとして

 

ズァ

 

目の前に、もやでワープしてきた死柄木の手が見えた

 

「あ…」

「残念、ゲームオーバーだ」

 

離れている死柄木があざ笑う

 

すでに攻撃のモーションを終えてる緑谷には「崩壊」してくる手を止める術はなく…

 

(まだだッ!)

 

だが、緑谷は突き出した手をデコピンの形に変え、それで迎撃しようと力を込める

 

そして中指だけの攻撃を行う

 

BOOM!

 

「うぐぁ!」

「邪魔だッどけデクゥ!!」

「かっちゃん!?」

 

──その直前、広場に到着した爆豪の先制爆撃が黒霧に直撃した。急な幼なじみの登場に驚く緑谷

 

「なんだと…!?」

 

しかし、死柄木の驚愕はそれで終わらない

 

「無駄ァ!!」

 

メキャァ

 

突如現れた「ゴールド・エクスペリエンス」の拳が、死柄木の腕にめり込んだからだ

 

「ううおぉぉおおおおっ!?」

 

肉がめり込む生々しい音と痛みに思わずもやから腕を戻す死柄木

 

ビシ ビシ ビシ

 

さらに別方向から轟が歩いてきて、足元からのびる氷が器用にオールマイトを避けながら、脳無だけを氷漬けにする

 

「平和の象徴はてめーらごときにやらせねえ」

「轟くん…!」

 

ジョルノ・ジョバァーナ、爆豪勝己、轟焦凍…

 

もっとも強い生徒たちがセントラル広場に集まった



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改造人間 脳無 その2

筆が乗ったので、本日ギリギリもう1本ッ!!!


「動くなッ!俺が怪しい動きをしたと判断したらよ〜〜〜〜〜〜…………即!爆破するッ!」

「ヒーロー志望らしからぬ言動…」

 

黒霧に乗っかりながら凶悪な面構えで言い放つ爆豪の姿に、遅れてやってきた切島はそうこぼした

 

「はははは……()デ!こんだけ生徒が生き残ってるとはな…(ヴィラン)連合、恥ずかしくなってくるぜ…」

 

一方、ジョルノによって腕をやられた死柄木は自嘲気味に笑った。そして氷で動けない脳無に向かって言う

 

「起きろ、脳無」

「やめとけ…無理やり動けば凍った部分ごと砕ける。死ぬぞ」

 

死柄木の無茶な命令に轟は忠告する

 

しかし脳無は小さく震えると、凍ってない手足で凍った肉体を自ら殴り砕いた

 

「何…!?」

 

やけになったのか…全員がそう思った矢先に、脳無の欠けた部位が根元から盛り上がるように生えていき、数秒後には凍る前の状態に戻った

 

「か、体が再生した……!」

「『超再生』の個性さ。『ショック吸収』の個性も合わせて、肉体もオールマイト並みに()()()()()()。オールマイト専用サンドバッグ……つまりこの場で()()「脳無」を殺せるヤツは俺以外にいないってわけだ」

 

悪夢の宣告だった。対平和の象徴の改造人間、文字通りの怪物は死柄木の命令をじっと待つ

 

「出入り口を取り返すぞ。脳無、爆発小僧を殺せ」

 

そして命令が下った次の瞬間には、驚異の脚力で一気に爆豪まで距離を詰め、拳を握る

 

ドゴォ!

 

拳が体に叩き込まれる音が響いた。だが、それは脳無が爆豪を殴った音ではない

 

『ゴールド・エクスペリエンス』!!」

 

それはジョルノがゴールド・Eに命じて脳無を殴った音だった

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!」

 

黄金の腕が突いて引いてを繰り返す。残像が見えるラッシュが次々と脳無の頭と上半身にめり込む

 

グググ…

 

「!!」

「無駄なのはそっちだな。オールマイト以下のパワーじゃあ、どれだけスピードがあったって脳無にダメージすら与えられない……ところで……」

 

離れて戦闘を見ていた峰田が気づく。死柄木の手が、黒霧の出すワープゲートに呑まれてたところを

 

「ジョルノ────!!あいつ、黒いモヤに触れているぞ───!!」

「こ…!」

「!」

 

爆豪の方を振り向く。すると黒霧の下から、死柄木の五本指がコンクリートの地面に触れていた

 

「よそ見してていいのか?」

 

ピシリ ピシリ…ボロッ

 

「これは!」

「死ねッ!モヤ野郎ッ!」

 

地面がボロボロになって空洞に落ちる前に、爆豪は黒霧を爆破しようとする

 

しかし、ブワッと広がったワープゲートが黒霧の全身を一気に包み

 

スカッ

 

「!! クソがッ!」

 

ワープで逃げられた事で、黒霧を気絶させる事ができなかった。死柄木の隣まで戻ってきた黒霧は、小さく頭を下げて謝罪する

 

「すみません死柄木、手間をかけさせて」

「まったくだ。さっきガキを外に逃がした時も言ったが、お前がワープゲートじゃあなかったらコナゴナにしてるぞ」

「しかし、ジョルノ・ジョバァーナがこの場にいるとは…失敗したという事ですか、彼は」

 

ズッケェロの失態に黒霧は黄色い目を細める

 

一方、後退したジョルノは爆豪に怒鳴られていた

 

「クソコロネ!!てめーがちゃんと抑えていりゃあ逃げられなかったんだろうがよォ!」

「無茶言わないでください!対平和の象徴というのは嘘ではないらしい…脳無というヤツを完全に抑え込まなければ、ぼくたちは敗北します!!」

 

ジョルノは想像以上に厄介な敵に汗を流す。黒霧と死柄木を捕らえたところで、脳無がいてはそのパワーで無理やり取り返される。真っ先に倒すべきは脳無の方だった

 

(だがどうする……?ゴールド・Eのパワーも効いていない…当然爆豪の爆破も効かない事になる…轟の氷結も超再生で無意味…この無敵の怪物をどうすれば倒せる……!?)

 

唯一倒せる手段があるとすれば、それはオールマイトしかないのだが…

 

チラリを後ろを振り向くと、出血した左脇腹を押さえているオールマイトに緑谷がボソボソと話しかけていた

 

 

『オールマイト…!』

『緑谷少年、だいぶマズイ事になった……古傷をかなりえぐられた…今の私じゃあ1、2発パンチを打ち込むのが限界といった感じなんだ…』

『………!』

 

 

(何を話しているのかは分からないが、今のオールマイトから感じられる生命エネルギーはかなり少ない……なぜ立っていられるのかが不思議なくらいだ…彼に頼る事はできない…)

 

そこまで考えていて、ふと何もしてこない脳無の姿にジョルノは疑問を抱く

 

「…………」

(ボーッとしている…?なぜ脳無は攻撃してこないんだ?何か、秘密を感じられるッ)

「目の前のやつだけは特別だ脳無。()()()()()()()()()()()()

 

直後、脳無はゴールド・エクスペリエンスに匹敵するスピードで襲いかかってきた。躱した事で空振りしたパンチが地面を割る中、ジョルノの中に1つの仮説が生まれる

 

(そうか…この脳無というヤツ…!)

「峰田くん!君の個性で脳無の動きを止めるんだ!早く!」

「オ、オイラ!?なんでオイラなんだよ!?そんなの轟に頼んだ方が…!」

「早くするんだッ!時間をかけていられないッ!」

「峰田ちゃん、早くしましょう。私があなたを抱えながら動くから」

 

そう言いながら蛙吹は峰田を舌で捕まえて、蛙のジャンプで逃げ回る。その間に峰田はいくつか粘着玉を投げつける

 

「逃すな、ガキどもを殺れ、脳…」

「無駄ァ!!」

 

死柄木が脳無に指示を出す前に、ゴールド・エクスペリエンスで顔面を殴る。しかし『ショック吸収』でダメージが通らない

 

ギョロ

 

脳に埋め込まれた目がジョルノを捕捉する

 

「あ〜〜〜…うっとおしいガキだぜ、大人しくしてりゃあいいものを…ジョルノ・ジョバァーナを捕まえろ。皆殺しはそれからでいい」

「いけないッ!みんな逃げるんだッ!じきにプロヒーローの応援が来るッ!」

 

死柄木の無邪気な殺気を感じ取ったオールマイトは痛みに堪えながら大声で叫ぶ

 

だが、ジョルノを含めた生徒たちの目には強い意志が秘められていた。逃げる気はない

 

「オールマイト……こいつを連れて逃げ回る事の方が危険だ。逃げ回れば逃げ回るほど、退路を詰められるからだ…こいつはぼくが、今、戦わなければならない相手だ!!」

「ジョバァーナ少年ッ!」

 

『ゴールド・E』を傍らに出現させ対峙する。そんなジョルノに、脳無という名の暴力が襲いかかる

 

ブォン ズドォォオ!

 

「ぐうっ!」

 

脳無のボディブローをゴールド・エクスペリエンスの腕をX字に重ねてガードするが、オールマイトと同等のパワーはガード越しにジョルノの体を浮かす

 

WREEEEEAHHHH(ウリャ─────ア─────)ッ!」

 

しかしジョルノはゴールド・エクスペリエンスを操作して、脳無の足元の地面を連続で殴りつける

 

メキ…メキ…

 

すると地面の下から生えてきた木が急成長し、脳無を空中に押し出す。その隙をついて、ジョルノ・爆豪・轟が一斉攻撃をする

 

「無駄無駄無駄無駄!!」

「オッラァ!!」

「凍れ…!!」

 

拳、爆破、氷の三重奏が無防備な脳無に迫る

 

だが脳無はやってくる攻撃に対して両腕を構え

 

バキャァ!バシ バシ バシィ!

 

爆破を耐え、氷を砕き、ゴールド・Eのラッシュはスパーリングするボクサーのように掌で受け切る

 

「チィッ!」

「これでもダメか…!」

 

爆豪と轟はダメージすら入らなかった事に顔を歪めるが、ジョルノは違う

 

「いや、これでいい!」

 

グニュウ グニュウ

 

見れば脳無の掌には、能力を解除した木の枝から戻った峰田の粘着玉がひっついていた。さっきの攻撃の際に掴ませたのだ

 

「くらえエエッ!」

 

BBOM!

 

それを見た爆豪は爆破の勢いを利用して脳無の両腕を吹っ飛ばす。吹っ飛ばした先は…脳無の顔

 

ブョン

 

「!」

「やっ…!」

 

ひっついたもぎもぎの玉が脳無の顔面にもくっつき、顔と手を固定した。腕が伸び切らない為、力をうまく込められず粘着玉を引き剥がせない

 

「やったぞ!動きを封じた!」

「なんと…!」

「ジョルノたちの勝ちだァ───ッ!」

 

動きを止めた脳無の姿を見た峰田は、勝利の雄叫びをあげた

 

 

 

ブッヂィィィッ!

 

 

 

だが……あろう事か脳無は、粘着玉を自らの手の肉ごと引きちぎり…

 

ガッシィィ

 

そして次の瞬間には、ジョルノの首を掴んでいた




今回の「WREEEEEEAHHHHッ!」をキッカケに、「ーーーーー」をくっつく「─────」に変えました。でもくっつけたりその行では変えた傍線を使うくらいで、普段の単語とかは変えずに同じのを使っていきます。ちょっぴり太さが違うと思いますが、読む上で特に問題はないと思いますので、ご了承ください


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改造人間 脳無 その3

お盆休みは、旅行行ったりオフ会行ったりするので、投稿はいったんお休みになります


「え……?」

「バカな…!」

「な…!」

「ケロ…!」

 

その戦いを見ていた4人はそれぞれの反応をする。中でも1番大きな衝撃を受けていたのは峰田だった

 

「なんだってえええエエェェェェェッ!?」

 

眼前には丸太のように太い右腕がジョルノの首に伸び、押さえつけるように首を絞めつける

 

「…こッ」

 

ギリ ギリ ギリ

 

「こいつ……!」

 

捕獲目的なのが幸いして、脳無は首の骨を折るほど力を込めてはいない。しかし、このままではジョルノの意識が落ちるのは時間の問題だった

 

「無駄ァ!」

 

「ゴールド・E」を呼び出し、左手で脳無の頭部に狙いを定める

 

ガシッ!

 

「!!」

 

だが、残った左手がゴールド・Eの攻撃を防ぐ。巨大な掌が黄金に輝く左拳をスッポリ覆い尽くす

 

そして脳無はなんの感慨もなく拳を掴んだ手を握りしめた

 

グシャァ

 

リンゴのように握り潰された音が2人を中心に響く

 

「うぐあああッ!」

「ジョルノくん───ッ!!」

 

ゴールド・Eのダメージがフィードバックした事でジョルノの左拳もプレスで潰されたように粉々になる

 

それを見てるしかできない緑谷は他の人の顔を見る。爆豪は忌々しげに、轟もオールマイトも悔しそうな表情で脳無を睨みつけている

 

(早く救けないとッ!でもどうする!?僕じゃあ脳無にダメージを与えられないッ!かっちゃんも轟くんもオールマイトも、攻撃すればジョルノくんを巻き込んでしまうから攻撃できないんだッ!何か…何か手は!?)

「残念だったなァ────ジョルノ・ジョバァーナ。とりあえず両腕をつぶせばお前はもうどうしようもない。再起不能になってもらう……が、一時的にだ。ウチには優秀なドクターがいるんだ、しっかり治すだろうよ」

 

死柄木は嗜虐的な目を隠さずに見下す

 

ガッ

 

「おおおおおおおおおおお!」

 

死柄木の視界には、ジョルノが悪あがきと言わんばかりに残った手で、自身の首を掴む脳無の右手首に触れるがもはや力を込める余裕もない

 

そして脳無の左手が、ジョルノの右前腕部を掴む

 

「やっ」

 

緑谷は手を伸ばすが、死柄木は止めない

 

「やめろォォォォォ!!!」

「終わりだァ─────ッ!腕をヘシ折れ脳無ウウウ───────ッ!!」

 

 

 

シ────ン………

 

 

 

「………うン…?」

 

しかし脳無は…ジョルノの右腕を掴むとピタリと動きを止めた

 

「…オイ……なんで動き止まってんだ…ソイツを再起不能にしろ脳無ッ」

 

パッ ぶらん…

 

死柄木が指示を出すが命令通り動かない。それどころか、ジョルノを捕まえていた手すらも離して、(ほう)けるように宙を見る

 

「何手放してんだテメ───ッ!?早くそのガキを捕まえろ───ッ!!何をやっ」

「脳無に…お前の命令は()()()()()()()()

 

子供のように駄々をこねる死柄木の叫びを遮ったのは、満身創痍のジョルノだった

 

「脳無は、お前が命令して「一定時間」経った後、まったくと言っていいほど動かなかった………だが命令を飛ばせばすぐさま行動に移した……だから分かったんだ。脳無の命令には「持続時間」があり、命令がなければ自分からは動かないと…!」

「だからなんだってんだ!?肝心の脳無には傷1つついてねェし、『超再生』で回復もする!どうやったって止められねえッ!」

 

ガリガリ首をかきむしりながら、苛立ちを隠さない死柄木。そんな死柄木を見ながら、ジョルノはゴールド・Eを呼び出し、脳無に触れながら言う

 

「ぼくの『ゴールド・エクスペリエンス』には1つの能力がある…『生命エネルギー』を操るという能力が…物体に生命エネルギーを流し込めば、それは生命へと生まれ変わる」

 

脳無に生命エネルギーを流しながら、ジョルノは問いかける

 

「なら……すでに「生きてる生物」に生命エネルギーを流し込めば、どうなると思う?」

「……!!」

 

ガリガリ ガリガリ

 

ありえない、という感じに目を見開く死柄木。ジョルノが何をしたのかを理解したからだ

 

()()()……!()()()ッ!脳無の感覚が暴走してるのかッ!」

「死柄木?」

 

死柄木の突拍子もない発言に黒霧は疑問符を浮かべる。しかしジョルノはその言葉を肯定する

 

「そうだ。ゴールド・エクスペリエンスの生命エネルギーを流し込まれた人間は感覚がより鋭敏になり、すべての動きが超スローに見える。今、脳無は…超スローの世界に居続けている。お前の言葉もすさまじく遅く聞こえるから、命令として…いや、言語とすら認識できていない」

「どこだ…!一体どのタイミングで流し続けてやがった…!?」

 

死柄木は必死にさっきの攻防を思い出す

 

 

『目の前のやつだけは特別だ脳無。()()()()()()()()()()()()

 

『逃すな、ガキどもを殺れ、脳…』

『無駄ァ!!』

 

 

(あの時か…!だから脳無はこのガキばかり狙い続けていたのか!ダメージがないと分かって殴り続けていたのも生命エネルギーを流し込む為にッ!)

「さあ…どうする?ぼくも動けないが……脳無は完全に無力化したぞ…」

「このクソガキがアア─────死ねッ!」

 

お気に入りのおもちゃを取り上げられた子供のように激昂した死柄木はジョルノをバラバラにしようと走る。完全に視野が(せば)まっていた

 

だからこそ、生徒の急接近に気づかなかった

 

「SMASH!!!」

 

ドゴ!

 

「うごがァッ!?」

 

“個性”を使った(しかし個性を使用した腕も脚もボロボロになってない)緑谷に横っ面を勢いよく殴られた死柄木は、顔につけた手が外れながらフッ飛ぶ

 

「緑谷くん」

「ジョルノくんに……手は出させないぞ!」

 

ファイティングポーズを取りながら前に立つ緑谷

 

一方死柄木は、錯乱したような、怯えたような様子で落ちた手を拾って顔につける

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、お父さん…!」

 

お父さん、と呼んだ手を再び顔につけると、落ち着きを取り戻した死柄木は緑谷を憎悪の目で見る

 

「どいつもこいつも、ヒーロー気取りのクソカスどもが…!」

 

ヒーローに対する、並々ならぬ憎しみをさらけ出す死柄木。感情の赴くままに緑谷をチリに変えようと手を伸ばす

 

ドスッ

 

「ぐお…!」

 

が、その腕に弾丸が2発撃ち込まれる。痛みに悶える死柄木は、守る為に近づいてきた黒霧のワープゲートに包まれながら、USJの入り口を見た

 

「すまないみんなッ!先生たちを呼び出すのに時間がかかってしまった…ッ!」

「ヒーローッ……!」

「1ーAックラス委員長、飯田天哉!!──ただいま戻りました!!!」

 

そこには…多くの先生(プロヒーロー)たちを連れて戻ってきた、飯田の姿があった

 

先頭にいる、テンガロンハットをかぶった西部劇のガンマンといった出で立ちの『スナイプ』が、銃身の長い銃を構える

 

ガァーン! ガァーン!

 

再び死柄木に銃弾が撃ち込まれるが、黒霧のモヤが死柄木を覆い、銃弾を別の方向へワープさせる

 

「死柄木弔!!撤退を!」

「…今回は失敗だったけど……今度は殺すぞ、平和の象徴…オールマイト」

 

ズズズズ…

 

ワープゲートで逃げようとする死柄木は、呪詛の言葉を吐く。最後にジョルノを見ながら死柄木は告げる

 

「そして……おまえはどうあがいたところで、その血のさだめからは(のが)れられない……」

 

 

 

 

 

DIO(ディオ)の血を継ぐ者 ジョルノ・ジョバァーナ

 

 

 

「え…」

 

ズズズズズ…ズプン……

 

そう言い残して、死柄木弔と黒霧は姿を消した

 

だが、緑谷は…否、誰もが逃げたヴィランに対して考える事ができなかった。勝利の余韻に浸ることもなかった

 

「………」

 

静寂の中…ジョルノ・ジョバァーナは普段と同じように、何を考えているのか分からない無表情のまま、脳無のそばで佇んでいた



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「DIO」という男 その1

やばいな……お盆まで投稿しないとキッパリ言ったばかりなのに……スマン、ありゃウソだった


わずかな照明だけが頼りのBAR…そこに黒い歪みが生じ、『ワープゲート』が展開される。腕を撃ち抜かれ、頬を殴られた死柄木がボロボロの状態で出てきて床に倒れ込む

 

「オールマイト…全然弱ってないじゃあないか…DIOの息子も何が弱いだ、ほとんど1人で脳無を無力化された……」

 

ずるずる這いずり、ブツブツ呟き、死柄木は恨みがましく見上げる。視線の先は、カウンターの上に置かれたモニター画面の人物

 

「平和の象徴も邪悪の遺産も健在だった……話が違うぞ先生……ッ!」

『違わないよ』

 

先生、と呼ばれた人物は諭すように言う

 

『オールマイトはたしかに衰弱している。そして、ジョルノ・ジョバァーナも彼の息子とは思えぬほど弱い。ただ見通しが甘かったね』

『うむ…舐めすぎた。ヴィラン連合なんてチープな団体名でよかったわい。ところでワシと先生の共作脳無は回収してないのかい?』

「クソガキに奪われた」

 

先生のセリフに返したのは年老いた老人の声だ。そんな老人の質問に、不機嫌にそう言い捨てる死柄木

 

「…そういやあ、1人、オールマイト並みのパワーを持った子供がいたな……」

『…………へえ』

「あいつがいなけりゃあジョルノ・ジョバァーナは殺せたのに………ガキがッ……ガキィ……!」

 

本来の捕獲という目的も忘れて、ジョルノの殺害を邪魔された事に不当な怒りを沸きあがらせる死柄木

 

そんな様子を見ていた先生は、パン!と手を叩き、死柄木に言い聞かせる

 

『悔やんでも仕方ない!今回だって決して無駄じゃあなかったはずだ。精鋭を集めよう、じっくり時間をかけてッ!我々は自由に動けない!だから君のようなシンボルが必要なんだ…死柄木弔ッ!!次こそ、君という恐怖を世に知らしめろッ!』

 

 

 

「ドクター。正直あの脳無、ジョルノ・ジョバァーナに対しては捨て駒のつもりですらあったんだ。父の『力』を引き継いでいるなら脳無くらい秒殺するだろうと考えてね」

「秒殺とは聞き捨てならんのォ。ワシと先生の共作じゃぞ?」

 

死柄木との通話を切った直後、先生はいきなりそう話を切り出す

 

モニターの光だけが光源の暗い部屋の中で、老人ことドクターの心外と言わんばかりの言葉に、先生は答える

 

「事実だよ。何せ、僕はかつて…DIOとの一騎打ちで()()()()()()()()()()()………本当におそろしい「能力」だったよ。実に震え上がる。あの………」

 

先生は……目と鼻のない顔で邪悪に笑いながら、着ていたスーツのジャケットを脱いだ

 

『時を止める』という能力は」

 

露出した左胸には、拳大の空洞の中で心臓が脈動していた

 

 

 

 

雄英高校 校長室内…

 

そこにネズミなのか犬なのか熊なのか、珍妙な生物の根津校長が、特徴の薄い顔の男性“塚内(つかうち) 直正(なおまさ)”と対談していた

 

「生徒たちの救助はついさっき終わったのさ!腕と手をそれぞれ骨折した生徒2名を除いて、残り19名は軽傷で済んでいたよ。大怪我を負った2人も今頃リカバリーガールのところで治療しているはずさ」

「さすが根津校長です。事情聴取が楽に進んで助かります」

「こちらこそ、君のような優秀な警部がいて大助かりなのさ!」

 

そう、この男の正体は警察関係者なのであった。今回のUSJ襲撃事件にあたってチンピラヴィランと脳無の確保、そして主犯格を捕らえる為の事情聴取に来たのである

 

「さて、ここからが本題!…ヴィラン連合の主犯格、死柄木弔が最後に爆弾発言を残していってね。生徒たちにも箝口令を敷いているから、内密にして欲しいんだ」

「爆弾発言?一体何を」

「襲撃を受けた生徒たちの中に『DIO』の息子がいる」

「!!」

 

「DIO」、そのワードを聞いた塚内は驚愕に顔を染めた

 

「最初は負け惜しみと思ったさ!だけど生徒たちからちょっと聞いた話によれば、死柄木たちはオールマイト殺害のほかに彼のスカウトも目的としていたらしい。拉致する為のヴィランも用意していたとの事だ。ここまで周到な計画を用意してる連中が本気で彼を引き込もうとしていた…ただの勘違いならどれだけいいか!でも、そうじゃあなければ、事態は思っている以上に深刻だよ」

「…DIOの影響がそれほど計り知れないから、ですね」

「うん」

 

グイッ、と紅茶を飲みながら肯定する根津校長

 

「今の世代の子供は誰もが知っているでしょう。世界を揺るがした稀代の殺戮者(さつりくしゃ)…当時起きたテロや邪悪な犯罪はほぼヤツの配下が行ったもの、その事態を重く見たヒーローや警察機関は世界規模でヤツの捕獲作戦を敢行した……」

「だけど、オールマイトを除いた全員はDIOの元にたどり着くことすらできなかった。みんなはDIOの部下に痛手を負わせるも重傷ゆえに撤退するか、無惨に殺されたかのどちらかだったのさ…」

 

かつて行われた大規模な作戦。当時のDIOが拠点としていたエジプトのカイロに包囲網を仕掛け、DIOの配下を含め、全員を逮捕する計画であった

 

しかし、DIOの配下には、裏で名の知れた暗殺者や危険人物なども存在していた。その配下から不意打ち・妨害を受けた事で作戦は根元から頓挫。唯一、強行突破できたのはオールマイトのみ

 

ティーカップを置いて一拍置く。塚内は眉をひそめて根津校長の話に耳を傾ける

 

「そしてオールマイトも、DIOとの戦いで腹に穴を空けられる重傷を負い、撤退せざるを得なかった…平和の象徴の実質的な()()……当時の警察機関は、死に物狂いで情報規制をかけていたしね。DIOは、我々が想像するより遥かに邪悪な化身だった」

「しかし、『DIO』は15年前に突如消息を絶ったはず…」

「いいや、こう考えるべきさ……「D()I()O()()()()()()()()()()()()()()()」と」

 

確認するように、塚内は問いかける

 

「…その、彼の名前は?」

『ジョルノ・ジョバァーナ』

「ジョルノ…ジョバァーナ…」

 

噛みしめるように、その名をつぶやいた



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「DIO」という男 その2

(前々回の前書きに関して)おとなはウソつきではないのです。まちがいをするだけなのです……まだ二十代前半の若造ですけど


「緑谷少年、怪我の方は大丈夫かい?」

「あ、オールマイト…はい、大丈夫です」

 

緑谷出久は保健室でオールマイトと会話をしていた。だが…他の人からすれば、そう言われてもまず信じないだろう

 

なぜなら今、緑谷に語りかけているオールマイトは、頰がこけ、ガリガリで、青白い肌色をしている。まるでガイコツのようなその姿は、筋肉オバケのオールマイトと同一人物だと言われても信じられない

 

しかし、この弱り切った貧弱な姿こそオールマイトの本当の姿。(普段は個性を使って膨張している)

 

そしてその数少ない秘密を知っている緑谷こそが……オールマイトの他者に譲渡できる個性「ワン・フォー・オール」を受け継いだ人間、平和の象徴の後継者なのだ

 

「ジョバァーナ少年は?」

「ジョルノくんは…すでに行きました。リカバリーガールに治療してもらって…」

 

それだけ言うと、2人の間に重々しい沈黙が流れる

 

「あのッ!」

 

話を先に切り出したのは緑谷だ

 

「最後にあいつ……死柄木が言ってたことって本当なんですか?DIOの子供って…」

 

緑谷の質問にオールマイトは黙りこくる。少し考え込んでから口を開く

 

「ジョバァーナ少年からはまだ話すら聞いていない……でも()()()言おう。私は記憶にあるヤツの…DIOの面影が、死柄木と対面したジョバァーナ少年にはあったと思っている」

「!! き、記憶って…」

「以前見せた古傷…」

 

オールマイトは白いシャツを捲り上げる。そこには痛々しい手術痕が左脇腹と()()()にあった

 

「どこから話したものか…緑谷少年、君は20年前のDIO捕獲作戦を知っているかい?」

「はい。DIOが世界的に危険なヴィランだって認知された事件…エンデヴァーをはじめとした日本有数のヒーローも参加したけど、誰1人DIOの元までたどり着けず、作戦は失敗。大規模かつ強大な組織をまとめ上げるカリスマとたやすく人の命を奪う残虐性を危険視されたんですよね。でも、その作戦ってオールマイトは参加できなかったんじゃあ…?」

 

疑問符を浮かべる緑谷に対し、オールマイトは中腹部の手術痕をさすりながら答える

 

「私の衰弱を決定づけたのは5年前つけられた左脇腹の傷だ。だが、きっかけとなったこの腹の傷は…DIOによってつけられたものだ」

「えっ!?」

 

 

 

20年前……ヒーローデビューしてだいたい4、5年は経った年の事だ

 

当時、ある凶悪ヴィランを捕まえた時に発覚したDIOの存在、そしてエジプト・カイロでの連続失踪をきっかけに、徹底包囲網によるDIO捕獲作戦が実行された

 

だが、私を除いたヒーローや警察関係者はカイロにたどり着くことすらできなかった。はっきり言って我々は敵を侮り過ぎたのだ。唯一、ヤツの根城までたどり着けたのは私だけだった…

 

カイロについた私は、翌日に備えて宿をとった……そしてその夜、部屋に向かうまでの階段の上にヤツはいた

 

心の中心にしのびこんでくるような凍りつく(まな)ざし、黄金色(こがねいろ)の頭髪、すきとおるような白いハダ、男とは思えないような妖しい色気

 

直感的にだが理解した…()()()がDIOだとッ!

 

『君は…普通の人間にはない特別な“個性”を持っているそうだね?ひとつ………それをわたしに見せてくれるとうれしいのだが』

 

ヤツを本当に恐ろしいと思ったのはその時だった

 

ヤツが話しかけてくる言葉はなんと心が……やすらぐんだ。危険な甘さがあるんだ。だからこそ恐ろしい!!

 

私はすぐさまDIOに攻撃をした。だがヤツは悠々としており、拳が命中する瞬間、ヤツは姿を消した。瞬間移動の個性か?私はすぐにそう思い、背後に感じた気配を頼りに腕を振るった

 

しかし、ありのまま、あの時、起こった事を話すならば……私が振り返った時には、すでに巨大な握りこぶしほどの穴が腹に空いていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

私は恐怖に震えた。攻撃したそぶりもなければ身じろぎひとつすらしてないにもかかわらず、私はDIOに膝をつけられていた

 

頭がどうにかなりそうだった…個性だとかどうとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を、味わったのだ…

 

 

 

「その後、なんとかヤツに1発ブチ込んで両腕を砕いてやったものの、重傷を負った私は逃げるように撤退した…私はDIOに、わけもわからぬまま敗北したのだ」

「オールマイトが、負けた…?」

 

信じられないように緑谷はつぶやいた。それほどまでに彼の中でオールマイトは最強の存在だった。そのオールマイトをたやすく再起不能寸前まで追い込んだDIOの強さに震える

 

「緑谷少年。君はジョバァーナ少年の事をどう思っているのだ?」

「ジョルノくんを…」

「私は、正直に言えば恐ろしいのだ。たしかに彼は君と同じように……()()()()()()()1()()()()()黄金の精神を持っている。だが、死柄木と対峙した時の冷酷な目は、DIOと同じものだった。ジョバァーナ少年は「最高のヒーロー」にも「最悪のヴィラン」にもなれる可能性を持っているのだ……教師として最低な事を言うがね」

 

あまりの情けなさに空笑いもできないオールマイト

 

「ジョルノくんはヴィランになんかなりません」

「…緑谷少年?」

 

そんな、憧れであり今は師匠でもある男の想像以上に弱気な姿を見た緑谷は、オールマイトの目をしっかりと見る

 

「僕はジョルノくんが普段考えてる事も、彼の血筋も、DIOの(こわ)さも知りません……でも()()()()()のかは知っています」

 

緑谷はオールマイトの笑顔で救けるカッコよさに憧れた。ジョルノは自分を救けてくれた男の誠実な行動に憧れた

 

原点(オリジン)』も目指すヒーローの『結果』も違う

 

でも

 

「友だちだから」

 

()()()()()()という『過程』は同じなのだから

 

「あッでも!僕が勝手に友だちって思ってるだけで、ジョルノくん自身が友だちって思ってるかはまた別の話で…あの!その!」

 

意志の強い姿勢から一転、急にわたわたおどおどし始めた弟子の姿を見て、オールマイトはフッと笑った

 

(お師匠……私の弟子は想像以上に強いかもしれません。肉体が、ではなく、その「精神」が……)

 

今は亡き師を思い浮かべながら、彼はそう思った



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友だち

富山の旅行もオフ会もメチャクチャ楽しかったです。再開した仕事がつらいですがめげずに投稿です


雄英襲撃事件の翌日、今回の襲撃犯である『ヴィラン連合』への対策会議の為に雄英高校は1日だけ休校となった

 

他に誰もいない自宅でジョルノ・ジョバァーナは静かに佇む。何かを決意する為に、目をつぶって深く考え込む

 

ジョルノは意を決するように顔を上げるとスマホのLINEアプリを起動した。雄英を受験するまでダウンロードすらしてなかったアプリの中には、鉄哲と塩崎の友だちLINEと、1つのグループLINEがあった

 

(「友だち」か…)

 

『ダチッ!』というグループ名のLINE(命名:鉄哲)には、昨日の襲撃事件を受けたジョルノを案じるメッセージが羅列されていた。指を動かしメッセージを入力していく

 

『2人に大切な話があります。直接会えませんか?』

 

入力して十数秒も経たない内に既読が2つ入り、鉄哲と塩崎の2人から返信が来る

 

『別に行けるけどよォ〜なんの話だ?』

『私は構いません。どこで落ち合いますか?』

『石海図書館まで来てください。あそこの裏なら、誰もいない』

『分かりました』

 

鉄哲の既読が入る。1分ほど経ってからメッセージが飛んでくる

 

『聞かれたくない話か?今聞くんじゃあダメなのか?』

『直接聞いてほしいんだ』

『……分かった。今から行くぜ』

 

話が終わり、LINEの動きはそれ以降止まった

 

ジョルノはところどころテントウムシのブローチをつけた服を着ながら、これから会う2人のことを考える

 

(やはり、徹鐡も塩崎も…いい人だ…)

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

巨大な石と鉄格子のようなフェンスに囲まれた石海図書館

 

まるで刑務所のような不気味な静寂さを持つ建物の裏に、ジョルノは足を踏み入れた。集合場所にはすでに鉄哲も塩崎もいる

 

「……ジョバァーナさん?」

 

ジョルノの物々しい雰囲気に気づいた塩崎が不可思議そうにつぶやく

 

「来ましたか2人とも…」

「ジョルノ、一体なんの話をする気なんだよ?」

「その前に少し待ってください」

 

鉄哲の質問に答えながら、ジョルノは背後の茂みに向かって叫ぶ

 

「そこのお前!出てきたらどうだ!」

 

ガササッ

 

「「!」」

 

すると、ジョルノの声に反応して茂みが激しく揺れ動く。それを見た鉄哲と塩崎は警戒する

 

「お前が()けていた事には気づいていた…人気のないここなら、もしお前がヴィランだったとしても、攻撃する事ができるからな…」

 

徐々に距離を縮めながら「ゴールド・E」をすぐそばに出現させて

 

「わ〜〜〜ッ!待て待て待て待て待て待て待てッ!オイラだってジョルノ──ッ!」

「…峰田くん……?」

「街を歩いてたら途中で見かけたから、つい()けてきてしまったんだよォ───!!」

 

ゴールド・Eが出た瞬間、大声をあげながら茂みから出てきたのは峰田実の姿だった。あまりに予想外の人物が出てきて、流石のジョルノも呆気をとられる

 

「知り合いか?」

「ヒーロー科のクラスメイトです。そうか…()()でついてきた、といったところですか」

「そうか。昨日いきなり襲撃されたからな、無理もねえ」

 

心配……つまりジョルノが心配でついてきたのだろう、と鉄哲は思った

 

「…うう……」

 

なのに峰田は、どこかバツの悪いといった表情をしている

 

「峰田くん…君の懸念はもっともだ。警戒するべきなのだからな………」

 

そして峰田の心の奥を見透かしたように、峰田が隠そうとした本当の気持ちを口にする

 

「──この『ぼく自身』を」

「……なんだって?」

 

鉄哲は自分の耳を疑った

 

「つまり……なんだ?こいつ(峰田)は…ジョルノが「襲われる事」じゃあなく、「ジョルノ自身」『疑ってた』っつ──事か?お前のクラスメイトが?」

「………」

 

執行時間を静かに待つ死刑囚のような気持ちで黙りこくる峰田。彼自身、ジョルノを尾行する事に凄まじい罪悪感があったが、自分の中に不安に打ち勝てなかったのだ

 

ガッ!

 

「どういうつもりだテメ───!」

「ひいいいいいっ!」

「落ち着いてください鉄哲さん!暴力はいけません!」

 

胸ぐらを掴んで峰田を持ち上げる鉄哲。キレた鉄哲を止めようと塩崎が腕を掴む

 

「冗談じゃあねェ!これが落ち着いて…」

「昨日から雄英で流れている噂がある。『雄英のヒーロー科にはヴィランの子供がいる』という噂が、だ……いくら隠そうとしても、情報は人から人へと流れ出ていくもの」

 

言葉を遮られた鉄哲は、遮った張本人を見る。そのジョルノの横顔は何かを決意した目と寂しげな表情をしていた

 

「…何を言ってるんだジョルノ?」

「だから峰田くんはぼくを追いかけてきた。原因はぼくにあるのだからな…」

「まさかッジョバァーナさん」

「何言ってんだよジョルノ!俺には何言ってんのかさっぱり分からねぇッ!分からねぇぞッ!」

 

鉄哲はウソを言っている。頭が悪いと自覚している彼だろうと、ここまで言われて分からないわけがなかった

 

「ぼくの父の名前は───『DIO』と言います」

 

そしてジョルノから告げられた真実に、鉄哲と塩崎の2人は一瞬思考を止めた

 

パチン

 

ポケットからサイフを出してホックを外す。開かれたサイフには写真入れがある。そこに入っていたのは……上半身が裸で、背を向け、首筋に星型のアザがある、大きな背丈をした金髪の男の写真

 

写真の右上に書かれた名は…「DIO(ディオ) BRANDO(ブランドー)

 

「これはぼくが唯一持っている父の写真……そしてこの写真こそが」

 

ジョルノは写真を見せながら服のファスナーを開けて、自身の首筋を見せる

 

「お、同じ星のアザ…」

「ぼくがDIOの血を継いでいる証拠でもあります」

 

服を元に戻しながら、ジョルノは3人の方へ向く

 

「これがみんなに隠していたぼくの『秘密』です。ぼくの出生はそう遠くないうちに多くの人たちが知る事になる…そうなれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。DIOに恨みや憎悪を『抱いている』人間はそれだけいる…」

「……」

「君たちがもうぼくと関わりたくないというなら、それでも構わない…君たちには選ぶ権利がある」

 

ジョルノの悲壮な決意を感じ取った鉄哲と塩崎は顔を伏せる

 

ガシィ!

 

その時、ジョルノの脚にしがみつく者が

 

「うわあああああああっ!ああ、あああ!」

「み、峰田くん…?」

「ジョルノ────ッ!オイラが悪かったよォォ!ゴメン─────!!」

 

その正体は峰田だった。大粒の涙をボロボロこぼしながら泣いて謝っている

 

「オイラ怖かったんだ!せっかく仲良くなれた、オイラを認めてくれたヤツがヴィランだったらって考えたらよォー!昨日ヴィランから守ってくれたのはおまえなのに……ジョルノは何も悪くないのにッ!ゆるしてくれジョルノ───ッ!」

「ソイツの言うとおりだぜ…」

 

そんな峰田の言葉に同調した鉄哲が前に立つ。怒りと思いやりが握りしめられた拳が震える

 

「おめーの親父がDIOだからなんだってんだ!?ンな事はダチをやめる理由にはならねえぜ!俺も、塩崎も、緑谷たちだって絶対そう言う!」

 

ス…

 

塩崎は近寄り、両手で静かにジョルノの右手を握った

 

「ジョバァーナさん…いえ、ジョルノさん。あなたのこれから起こる過酷な未来は分かりました…だからこそ、あの時(入学試験)のように手伝わせてください……「恩」ではなく…「友だち」として」

「塩崎…」

「茨でいいです。徹鐡さんだけ名前呼びなんてズルいじゃあないですか」

「その理屈ならよォー?俺も茨って呼んでもいいんじゃあねえか?」

「はい」

 

ジョルノは深く思考する。ジョルノにとって、これまで出会った人間は、1人の恩人と少ない味方と多くの敵と無関心を貫くその他だった…「友だち」と呼べる者などいなかった

 

だが、雄英で過ごしていて少しだけ分かっていた…友人とは、彼らのように心の許しあえる存在なのだろうと

 

「……ありがとう…君たちの気持ちはたしかに伝わった」

「ジョ、ジョルノ…ごめんよ〜…」

()()…君の勇気あるきっかけで彼らの心に気づくことが出来たんだ…本当に」

 

その言葉だけで、峰田は心にこびりついた泥が剥がれ落ちたような気持ちになった

 

鉄哲に対して右手を差し出すジョルノ。それは歩み寄ろうとする彼なりの行動だ

 

「だから、友だちになろう…これからも、よろしくお願いします」

「さっき言ったじゃあねーか。とっくに『ダチ』だぜ、俺ら」

 

パァン

 

ジョルノの誠意に応えようと鉄哲なりに出した返答は、ハイタッチの為に振るわれた右手だった




「君の“個性”、君の精神、君の支配…じつにスバラシイ。君はこの世でもっともこの『DIO』に近い人間だ」

「しかし……君は()()()()というものを知らない。この私のそばにいれば、真の支配がどういったものなのか見せてあげることができる」

「だから『───』くん………友だちになろう」


──とある邪悪たちの会話より抜粋──



今回すごく難産でした。原作じゃあジョルノに仲間はいても友だちはいませんでしたから、どうすればジョルノらしいのか、あるいはジョルノらしさを崩さずにいられるのか大変でした

色々詰め込みすぎ男になっちゃったけど間のお話はこれで終了。いよいよ次回から雄英体育祭編です


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雄英体育祭 その1

早く戦闘シーンが書きたい


休みが明けて翌日、ヒーロー科A組のほとんどの生徒が困惑していた。その理由の中心は言わずもがな、ジョルノ・ジョバァーナにあった

 

死柄木の言葉を直接聞いた者、別の人から又聞きした者も含め、全員がジョルノがDIOの息子である事を知っていた。その真偽を知らぬ者はジョルノに話しかけるべきか迷っていたり、あるいは警戒したりしていた

 

しかし、それだけならば誰もが困惑する理由にはならない。ではなぜ?

 

「マジー!?ジョルノって熱情中学出身なのかよ!」

「ええ。ヴィランの巣窟と言われるだけはありますが、他では学べないこともたくさんありました」

 

それは──なんと峰田が、あの峰田が、椅子に腰掛けるジョルノと一緒に会話をしていたからだった。しかも峰田から話しかけてだ

 

「なんだよ、学べたことって?」

「悪の限界がない人間もこの世にいる、とかですかね…当時生徒を使って人体実験とかしてた保健医がいたので、屋上で122発殴った後、そのまま校舎裏の焼却炉に直接ブチこんでやりました」

「…こ、殺したりしてないよな…?」

()()()()()()()()()

 

そして聞こえてくるのはジョルノのあまりに容赦ない、物騒な中学時代のエピソードだった

 

(ジョルノの事とか峰田の豹変とか今の話とか、ツッコミどころスッゲェーあんだけど!?せ、瀬呂、お前行けよ)

(行けるかァー!おめー頭パープリンなのか!?)

 

そんな2人を教室の隅から見ながらヒソヒソ話す上鳴と瀬呂

 

キーンコーン カーンコーン

 

「皆──!朝のHRが始まる、席につけ──!!」

「ついてるよ。ついてねーのおめーだけだ」

 

そうしている間にチャイムが鳴り、全員が自分の席に着く

 

ガララ

 

そして教室に入ってきたのは、一昨日重傷を負ったばかりの相澤だった。巻きついた包帯によってさながらミイラのような外見である

 

「相澤先生復帰早えええ!!」

「相澤先生、無事だったんですね!!」

「無事言うんかなぁ、アレ……」

「俺の安否はどうでもいい」

 

生徒の驚愕や安堵を聞いた相澤はどうでもいいと切って捨てる

 

「何よりまだ戦いは終わっちゃあいない」

「戦い?」

「まさか……」

「またヴィランが───!?」

 

担任の言葉にA組一同が唾を飲み込む中……ミイラマンは口を開く

 

「雄英体育祭が迫っている」

『クソ学校っぽいの来たアアア────ッ!!!』

 

相澤の宣告を聞いたみんなは雄叫びをあげた

 

「『()()()()()』……今じゃあオリンピックに取って代わる日本の一大イベント。日本でこれを知らないヤツは()()()()のいなか者くらいだ…それが2週間後に行われる」

「多くの観客が見に来ます。それはつまり……スカウト目的でプロヒーローも見に来ることを意味する、というわけですわね」

「そうだ。ここで「結果」を残せれば、職場体験で多くの指名をもらう事ができる」

 

八百万の言葉に同意する相澤だが、ここでジョルノが手を挙げる

 

「相澤先生、ぼくたちは先日“ヴィラン連合”の襲撃を受けました………しかしここでこれほど大規模なイベントを中止するという事はヴィラン連合に屈服したと受け取られかねない。体育祭を行う以上、相応の対策をとると考えていいのですか?」

「ジョバァーナの言う通り、雄英体育祭の中止はヴィラン共の増長を招く結果につながる。だから、今年は外部のヒーローと協力して、例年の5倍警備を強くする事になった。N()o().()2()()()()()()()()()()()()()()

「ッ…!!」

 

ギリッ…

 

エンデヴァー、その言葉を相澤が口にした瞬間、轟から凄まじい憎悪の感情が燃え上がるのをジョルノは感じ取った

 

エンデヴァーこと() 炎司(えんじ)() 焦凍、ただならぬ因縁に目を細める

 

(轟…“半冷半燃”の個性を持つ彼が半冷の力に固執する理由は…きっとそこ(父親)にあるのだろうな)

 

 

 

ガヤガヤガヤ…

 

「なんだよコレェ────!!帰れねえじゃん!」

「私たちすっかり人気者だね〜」

 

峰田の困り果てた絶叫にけっこう呑気してた葉隠が答える

 

放課後、1年A組の教室前には多くの生徒たちが集まって、みんな帰れずにいた

 

「敵情視察ってヤツですね…ぼくたちはヴィラン連合の襲撃を退け生き残った。気になる人もいるんでしょう」

「意味ねェことしてねえでよオオオオオ─────退()けやモブ共ッ!!」

 

そんな野次馬に対してもいつも通りの態度を取るのは当然のごとく爆豪だ

 

「知らない人の事取り敢えずモブって言うの止めたまえ!!」

「この俺に命令すんなやクソ眼鏡!」

「随分とエラソーだな。ヒーロー科ってのは………みんな()()なのか?ハッキリ言って幻滅するなぁ」

 

飯田の指摘にキレる爆豪の前に、1人の生徒が出てくる。紫色の立った髪と目元の濃い(くま)が特徴の男子だった

 

「あ"あ"ン…?」

「知ってるか?ヒーロー科落ちたヤツはそのまま俺みたいに普通科に入ったのもいる。けど、体育祭のリザルト次第でヒーロー科へ編入が可能なんだ。その逆も然り…………要は舐めてっと足下掬っちゃうぞって事」

 

その男子生徒…心操(しんそう) 人使(ひとし)の言葉は、ヒーロー科全員に対する宣戦布告であった

 

「もっとも、おまえのようなヴィランみてーなヤツがヒーローになれるとは思えないがな。ひょっとして、噂のヴィランの子供ってのはおまえか?昔ニュースで見た凶悪ヴィランとそっくりな(つら)してるぜ」

「ンだとこのクソ隈野郎!!殺すぞ!!」

 

大量の目撃者がいるのを利用して爆豪を挑発し続ける心操。その喧騒でできた人混みの隙間を通って教室の外に出る

 

そこにジョルノを待っていた塩崎が声をかける

 

「ジョルノさん、大丈夫ですか?」

「茨ですか……徹鐡は一緒ではないのですか?」

「いえ、先ほどまで一緒にいたのですが…あちら…」

 

塩崎は野次馬の中心を指差す

 

「おうおうおう!俺ァ隣のB組のモンだけどよォー、さっきの話聞かせてもらったぜ!黙って聞いていりゃあ随分とエラそうな事言ってんじゃあねえか!」

 

そこには爆豪の前で不良のように凄む鉄哲の姿があった

 

「知るかよクソモブがッ!黙って死ねッ!」

「テメ──調子乗ってんじゃあねェぞボケ!」

 

売り言葉に買い言葉、2人のケンカは周囲が近寄れないほど激しくなり、しまいには見に来ていた生徒が教師を呼びに行くほどになる

 

10分後、威圧感を放つB組担任のブラドキングに止められるまで、爆豪と鉄哲の掴み合いは続いた



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雄英体育祭 その2

最初にひとつ言っておく 時は加速する!


2週間後…雄英体育祭当日

 

体育祭の主役であり、選手である生徒たちは、体操服に着替えてクラスごとに控え室で待機していた

 

開会式まで時間がある中…轟は緑谷に声をかける

 

「緑谷、ちょっといいか」

「轟くん、どうしたの…?」

 

普段話しかけられない相手に話しかけられて困惑する緑谷に、轟は続ける

 

「客観的に見て、実力は俺の方が上だ」

「え、あ…うん…」

 

開幕から失礼な事を口にされるが、事実なのと緑谷自身喧嘩っ早い性格ではなかったおかげで、余計なイザコザは生まれなかった。これが爆豪なら即掴みかかってるところだろう

 

「でもおまえ、オールマイトに目ェかけられてるよな」

「…!」

「そこんとこをどうこういうわけじゃあねェが…おまえには勝つぞ」

 

次に、首を横に向けてジョルノの方を向く

 

「そしてジョバァーナ、おまえの「あの話」が本当なのかはどうかは()()()()()()…だが勝つのは俺だ。俺は何としても勝たなくっちゃあならねえんだ」

「No.2がNo.1に宣戦布告かよ!緑谷巻き込まれてるし」

「オイオイオイオイオイオイオイオイ!やめろよ轟、クラスメイトだろ!?」

「仲良しこよしじゃあねえんだ。別にいいだろ」

 

なだめる切島に轟はそっけなく返す。そのやりとりの中、緑谷は小さくうつむきながら肩を震わせていた

 

「そりゃあ……僕よりは轟くんの方が実力は上だよ。ジョルノくんがいなかったら、君に勝てる人が本当にいるのかも分からなかった」

 

………そして、顔を上げる

 

「──けど、他の科の人も本気でトップを取りに行こうとしてるんだ……だから、僕も“本気”で獲りに行く!」

「……おお」

 

気弱な気質である緑谷の強い意志がこめられた言葉は、轟の中の何かを揺さぶった

 

「ジョバァーナ、おまえはどうなんだ?」

 

次にジョルノの答えを聞こうとこちらを向く轟を、ジョルノはジッと見つめる

 

「……この体育祭にはぼくの『夢』がかかっている。だからぼくもみんなと同じ気持ちではあるが、ひとつ言っておく。…戦う相手もろくすっぽに見ていないあんたじゃあぼくには勝つことはできない」

「なんだと……?」

「あんたとは無駄な戦いになりそうだな」

 

そう言うジョルノの顔を見た生徒たちはギョッとする。それはあまりに冷酷で残酷な眼光だった。何人かは分かった。あれは激情がにじみ出ている目だ

 

ジョルノの言葉に轟は眉間にしわを寄せる

 

「言ってくれるじゃねえか…!」

「入場しましょう、みんな。雄英体育祭がはじまります」

 

入場口に歩き出すジョルノの背中を見ながら緑谷は思った

 

(ジョルノくん、怒ってる…?)

 

なぜジョルノが怒っているのか、緑谷には皆目見当もつかなかった

 

 

 

暗い通路、目の前には光の入場口。その入り口から歓声が反響し、やがてプレゼント・マイクの声が響き渡る

 

『遂に来たぜ!!年に一度の大バトル!ヒーローの卵と侮んなよ!!つうかお前らの目的はこいつらだろ!?ヴィラン襲撃を乗り越えた鋼の卵共!!』

 

そして光を越えた先には……目いっぱいに広がるドームのフィールドと席を埋め尽くす観客たちの姿

 

『───A組だろぉ!!』

 

歓声と共に入場していくA組一同。続けてB組、普通科のC組、D組と、サポート科、経営科と選手が並んで歩き続ける

 

やがて全員がフィールドの中央に集まったところで、宣誓台の上に1人の女性が上がる。ヒール・ガーターベルト・ボンテージ・ムチとSM嬢の女王みたいなヤベー容姿が特徴の18禁ヒーロー「ミッドナイト」である

 

「開会式を始めるわよ!」

「『18禁』なのに高校にいて良いものか?」

「良い」

 

常闇の当然の疑問に対していっそ清々しいほど迷いなく答える峰田。ちょっぴり成長してもエロ葡萄なことに変わりはないようだ

 

「選手宣誓!!選手代表!!1ーA“ジョルノ・ジョバァーナ”ッ!!」

「ハイ」

 

呼ばれたジョルノは静かに壇上に上がる。マイクの前に立ち、右腕をあげて宣誓する

 

『宣誓!!…我々、選手一同はヒーロー精神に則り、正々堂々、戦い抜く事を誓います。選手代表、1ーA“ジョルノ・ジョバァーナ”』

 

ジョルノの立派な宣誓を聞いたミッドナイトは、しかしどこか不満そうにつぶやく

 

「普通ね………まあいいわ!それじゃあ、さっそく最初の」

『──そして、無駄な前置きはここまでにしておきます』

 

しかし、進行しようとするミッドナイトの言葉を遮って、ジョルノはマイクの音量を最大にする

 

『ッ!ジョバァーナ、待てッ!』

 

ジョルノが何をしようとしているのか察した相澤はマイク越しに声を荒げるが、それで止まるわけもないジョルノは──ハッキリとこう告げる

 

 

 

『ぼくはDIOの息子です』

 

 

 

「「「!?!?!?」」」

 

それを聞いた生徒、観客、そしてテレビ越しの民衆は驚愕する。動揺が見て取れる会場の様子を見たミッドナイトは、ジョルノを止めるべく“睡眠香”の個性で眠らせようとし

 

「くっ!」

『止めるなッ!』

 

そのミッドナイトの行動を相澤は静止する。ミッドナイトが止まりそうになかったら、解説席から飛び降りて『抹消』を使ってでも止める腹づもりだった

 

(今ジョバァーナを無理やり止めれば、観客やこの中継を見ている民衆に雄英への不信感を植え付けるハメになる…!だが、このままでは誰もかれもが混乱するのは目に見えている。何をする気だジョバァーナ…)

 

ジョルノの行動を雄英教師は誰も止める事ができない。本当にマズい、何かをしでかした時に備えた方が合理的だと考えた相澤は、いつでもミッドナイトに合図を送れるようにしながらジョルノを見る

 

『…ぼくは子供の頃、自分はこの世のカスなのだとずっと信じて生きてきました。そんなぼくにたった1人、対等に接してくれた人がいました…「ヒーロー」と呼ばれている男でした。ぼくは彼のように『自身とこの世に絶望している者』に希望を与えられる存在になりたいと思った』

 

会場は驚くほど静まり返っている。太陽の下に分厚い雲が通り、辺りを薄暗くする

 

『ぼくがヒーローになる事を…ぼくの存在そのものを認めない者は多くいるだろう……父であるDIOはそれだけの事をしてきたのだからな…でも、ぼくは必ずヒーローになります。ぼくの事を認め、友だちだと言ってくれた彼らの為にも』

「ジョルノさん…」

 

塩崎が小さくつぶやく

 

そして、太陽を覆う雲が通り過ぎ……ジョルノを中心に眩しい光が降り注がれ、広がっていく

 

『このジョルノ・ジョバァーナには『夢』がある!その夢の為にも、なんとしてもぼくはこの体育祭で優勝して、のし上がっていかなくっちゃあならないんだ!』

 

生徒も、観客も、テレビ越しで見ている市民も、止めようと警戒していた先生たちでさえ、ジョルノの確固たる「決意」と「覚悟」に目を奪われていた

 

『ぼくは1位をとるッ!君たちがぼくの前に立ちはだかるというのならば……全力でブチのめさせてもらうッ!』

 

そしてマイクから離れたジョルノは緑谷を、爆豪を、轟を、目の前にいる全ての生徒を指差すように手を前に出し

 

「覚悟はいいか?ぼくはできてる」

 

そう宣戦布告した

 

『………………』

 

ジョルノから発せられる威圧感に誰もが閉口する…否、選手たちは心の中が燃え上がっていた

 

(ジョルノくんの覚悟が伝わる…!でも、僕だって勝ちたいんだッ!勝つんだッ!)

(上等だぜコロネ野郎…!!デクも半分野郎もテメーもねじ伏せて、俺がてっぺんを取るッ!)

(俺は右の力だけで勝つ…!そして、あのクソ野郎の人生を否定してやる…!)

(ダチだからって手は抜かね─────!勝つぜ、ジョルノッ!)

(すみません、ジョルノさん……しかし、貴方の意志を聞いて決めましたッ!私、絶対に勝ちたくなりました…ッ!)

 

スタジアムの外に伝わるほどの静寂が長く続き…

 

パチ… パチパチ… パチパチパチ…

 

最初に誰が鳴らしたのだろうか?1つの拍手が鳴ると、その近くで拍手が鳴り、さらにその近くでも拍手が鳴り響く

 

衝撃と情熱の宣言の元、雄英体育祭が開幕した




実はちょっと前にメッセージが届いて、その内容が「雄英体育祭の選手宣誓でジョルノがDIOの息子だということを暴露するのですか?」ってのが届いたんですよ

全く同じ内容を考えてたんで唖然としました


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ティア・ドリンク・レース その1

感想欄でよく聞かれるんで1度ここでも明記しておきますが、本作でのDIOの生死、ジョースター家の有無・因縁は永遠の謎とさせていただきます。正直そこまで書くときりがないし、僕の腕前じゃあ多分あっちが立たずこっちが立たずになってしまうと思うんですよ

まあ、深く考えないで「この作品はジョルノがヒーローを目指す物語だ」とだけ再確認して、本作をお楽しみください


相澤消太は内心驚きを隠せないでいた

 

(あの混乱を一気に鎮めた……DIOが生来(せいらい)持っていたとされる()()()()()()、ジョバァーナのヤツもやはり持っていたのか…あいつがこちら側(ヒーロー側)で本当に良かった。何かのきっかけで、もしヴィランにでもなっていれば…間違いなくそれは恐ろしい脅威の誕生に他ならないからな…)

 

解説席から見下ろす先には宣誓台から降りて列の中に戻るジョルノの姿。宣戦布告をしたジョルノは、当然周囲の生徒から注目を浴びていた

 

そして宣誓台の横では、恍惚とした表情で「うっとり♡」してるミッドナイトの姿が

 

「ヤバイ…トンデモナイもの…見ちゃったわ〜〜〜……あっ!こりゃたまらん!ヨダレずびっ!」

『ヤベーのはオメーだぜミッドナイト』

『放送禁止になりそうなそのツラなおして早く戻ってこい』

「……ハッ!」

 

プレゼント・マイクと相澤のダブルツッコミを受け、トリップしていたミッドナイトは正気に戻る

 

「…さ、さて!開会式も終わった事だし、早速第1種目に行きましょう!いわゆる予選よ!」

 

気を取り直してミッドナイトは進行役を行う

 

「毎年ここで多くの選手が涙を飲むわ(ティア ドリンク)!さて運命の第1種目!今年は……」

 

全員が巨大スクリーンに目を向ける。そしてそこに映った文字は…

 

障害物競走(コレ)ッ!!」

 

『障害物競走』だった

 

「計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアムの外周、約4km!我が校は自由さが売り文句!コースさえ守れば何をしたって構わないわ!さあさあ、位置につきまくりなさい……」

 

約220人ほどの選手がゲートの下にあるスタートラインに集まっていく

 

そしてレース開始の時間が近づく。スタートラインには220人近くの生徒が密集しており、普通に動く事すらも困難だったスタートをどう切るか、それが最初の関門となるだろう

 

3つ赤く点灯するスタートシグナルの内、1つが消える。短い間をおいて2つ目のシグナルも消え…

 

最後の光が消えた直後、青い3つの光が灯る

 

『スタアアア────トォッ!!!』

 

ビシッ ビシッ ビシッ

 

ミッドナイトの気合の入った宣言と同時にスタートライン前後の地面が凄まじい早さで凍りついていく

 

「うおおお!?足が凍ったァ!?」

「あ、あたしのもッ!?」

「あいつだッ!ヒーロー科の、A組の野郎だァ──!」

 

連鎖的に足も凍りついて動けない生徒が指差した先には…足元から氷を出しながら疾走する轟がいた

 

『ついに始まったぜ、雄英体育祭1年部門!実況はボイスヒーロー、プレゼント・マイク!解説は抹消ヒーロー、イレイザーヘッドの2人でお伝えしていくぜ!解説のミイラマン、アーユーレディ!?』

『無理矢理呼びやがって…』

 

ミイラマンこと相澤は不機嫌を隠さずつぶやく。そして露骨にため息を吐いた

 

『スタートダッシュを切ったのは轟ィ!「地面」ごと後続組を凍らせて最初のトップにッ』

『いや……()()を見ろ』

 

解説の言葉に思わず轟は後ろを軽く見る

 

グググ…

 

「…………!!」

 

すると視線の先には、ゲートの一部を束ねた植物のツタに変え、一気に轟の前に出ようとするジョルノとゴールド・エクスペリエンスの姿があった

 

『ジョルノ・ジョバァーナ!!スタートラインのゲートを成長の早い植物に変えて轟に迫るぜ──ッ!つーかあのゲート、コース外にはみ出てるよな!?アリなのか!?』

「本人が外に出てないからセーフよ!」

 

ミッドナイトのセーフ判定をもらったジョルノはそのままトップに躍り出ようとする

 

ピキ…ピキピキ…

 

だがその時…ジョルノのツタに異変が起こる

 

「!」

 

急成長を続けていた植物の成長が著しく遅くなり、やがて止まった。振り向いて植物の根元を見ると、地面から広がる氷結がゲートを介してツタを凍らせていたのだ。もはやツタには人間を運ぶだけのパワーは残っていない

 

「なるほど…俺の初手の動きを「読んでいた」というわけか……しかし、俺が何の対策もしていないと思っていたのか?」

 

途中で地面に着地したジョルノは凍った地面を避けるようにコースの端に移動

 

「『ゴールド・E───ッ』!!」

 

ドン!ドン!

 

地面にゴールド・Eの生命エネルギーを殴って流し込む

 

ビシィ!ビシッビシッ…

 

が、氷に覆われた植物はたちまち成長を止める

 

「…………………」

「植物や生物には」

 

轟は語る

 

「生まれるとき、成長するとき、適温が必要だと本で読んだことがある。お前の「ゴールド・E」はあくまで実際の動植物を『生み出し』『成長させる』個性…俺の氷で止まる以上、俺の敵じゃあなかったってわけだ」

『クレバ────ッ!轟、接近するジョルノの動きを止めたァ─!!』

『こればかりは相性の問題だな…轟の“個性”は「炎」「氷」を生み出すこと。直接、極低温の環境を作ることはできないが、対象を凍らせることができれば同じこと……今のジョバァーナの状況ではツンドラの地面のように短い草しか育たない』

 

相澤の言葉通り、ジョルノが生命エネルギーを流した箇所には霜が降りた雑草のように短い草しか生えていなかった

 

あいつ((ジョルノ))は俺より速いが、妨害できるなら俺の前に出れるヤツはいねえ」

 

『ジョルノの能力を封じた』。そう確信した轟は地面を凍らせつつ走り出す

 

ブチン ブチン

 

その直後、何かがちぎれる音が聞こえた

 

ブチン ブチン

 

轟は無視して前に進むが、ちぎれる音は()()()()()近づいてくる

 

「………」

(なんだ……?ジョバァーナの能力は封じた………妨害もしている……追いつけるわけがねェ………)

 

クルッと首を曲げるとヒーロー科の面々が氷結を予測して避けて追いすがってくる。想定内だ

 

「ヤツが追いつけるわけがねえッ!しかしなぜ()()()()姿()()()()()()ッ!!この『不安』はッ!?」

 

だが、そこにジョルノ・ジョバァーナの姿はない

 

(俺があいつを恐れているとでもいうのか……!DIOの息子だからか……?それとも……)

「はッ!」

 

轟は思考の最中、隣を通り過ぎる気配を感じて、その気配の元を見た

 

パリ パリ パリッ

 

「…な、なんだと……!?」

『うお────────!!喜べリスナーたち、初っ端からお前ら好みの展開だッ!』

 

ドシュウウ────ッ!!

 

「み…短い草を集めて……凍らせて………や…野郎…「そり」を…」

 

そこには、凍った地面の上を「スノーボード」のようなものに乗って滑走するジョルノの姿があった

 

「い…いや、野郎、俺の冷却を利用して「ボード」を作りやがったッ!し…しまった!クソッ…!」

「おまえが何に執着していようと」

 

轟の表情が悔しさに歪む中、ジョルノは宣誓の時と変わらぬ決意に満ちた瞳でゴールを見据える

 

「ぼくのやるべきことは依然変わらないッ!あんたがよそを向いてる間に……ぼく()()は先に進ませてもらうぞ」

 

レースは、まだ始まったばかりだ



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ティア・ドリンク・レース その2

この作品、ジョジョチックな雰囲気を醸し出す為『個性』と書くところを『能力』とわざと書くことがあります。分かりづらいかもしれませんが本作の仕様と考えてくださって結構です


轟のスタートダッシュと妨害、それを乗り越えるジョルノ、そして背後から追いかけるヒーローの卵たち。雄英体育祭は最初から最高潮の熱気に包まれる

 

「クソ…!ジョルノ・ジョバァーナ…やってくれやがった…!」

 

凍らせた草のボードを捨てて先に進むジョルノの背を見ながら轟はほぞを噛む

 

『短い草で即席のスノーボードを作ってジョルノがトップに躍り出たァァァァァー!!第一関門前から凄まじいデッドヒートだ─────!!』

『轟が凍らせた地面も草も即興で利用…やはりあいつは1年の中でも抜きん出た実力を持っているな』

『おいおいA組担当イレイザー!身内びいきは良くねえンじゃあねェの〜〜!』

『客観的な意見だ』

 

実況席でそんなやりとりをしているうちに、コースは広い場所に移る

 

『さぁ〜〜〜〜いきなり障害物だ!まずは手始め、第一関門!ロボ・インフェルノ!仮想敵ロボットがお相手だ!ご存知ッ!雄英受験実技試験で出てきたヤツらだァ!!』

 

プレゼント・マイクの言うように、ジョルノたちの前には見たことのあるロボがズラリと並んでいた

 

ただし………

 

「こ、これ…」

「全部…0P敵じゃあねえか────!?」

 

───その障害物は、最後の妨害に出てきた超巨大ロボのみで構成されたロボ軍団だった

 

見上げるほど大きい敵が何体もいるのを見て生徒たちはかなりの数が立ち止まる

 

ザン!

 

だが、ジョルノをはじめとした上位陣の者たちは、躊躇するどころかさらにスピードを加速させる

 

『おお───っと!ロボにビビるどころか逆にッ!逆に躊躇なく突き進んでいくぞおおお!』

 

0P敵の攻撃範囲に足を踏み入れるジョルノ。ロボの1体が腕を振り下ろすのを冷静に見定める

 

「試験の時は負傷した茨もいたから破壊したが…今回はその必要はない」

 

サイドステップするジョルノだが、それだけでは超巨大ロボの攻撃を避け切ることはできず、拳の端に直撃──

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」

 

──否。出現した『ゴールド・エクスペリエンス』のラッシュを側面からもろに受けた拳は、ジョルノがいた場所の真横に落ちる

 

そしてすれ違いざまにゴールド・Eで仮想敵の片足を叩き、通り抜けていく

 

「1位はもらうぞジョバァーナ…」

 

ジョルノが通ったルートから追いかけようとする轟だが、すでにジョルノの妨害は()()()()()()

 

グニュニュゥゥ…

 

「!! 脚が…!」

 

一瞬の間に流し込んでおいた生命エネルギー、それが仮想敵の左足をツタに変化させる。当然、細長いツタに何tもの巨体を支えるパワーはなく倒れ…

 

(あめ)ェよ」

 

──倒れるはずだった

 

ピキッピキィ ビシビシッ!ビシッ!

 

しかし、轟は倒れる仮想敵のロボを瞬時に凍らせ、氷のオブジェを作り出した。ロボと地面の隙間からジョルノを追いかける

 

『轟、ジョルノの「ゴールド・E」の妨害を物ともせず突破するゥ───────!!』

「あの一瞬で凍らせるとは……凄い強個性だな」

「だが、あのDIOの息子…ジョルノ・ジョバァーナの個性はなんだ?植物を生み出したかと思えば金色の幽霊のようなものも操ってるぞ」

「ゴールド・Eと言う名前なのか。複合型の個性か?」

 

ジョルノと轟のデッドヒートを見ていたプロヒーローたちは、2人の能力を考察する

 

しかし、会場で戦っているのは2人だけでは()()()()

 

「待てやッコロネ野郎!半分野郎!」

 

爆豪は掌の爆破を使ってロボを吹き飛ばし

 

「さすがジョルノさん…!しかし負けません!」

 

塩崎は『ツル』を使った高速移動で仮想敵の間をすり抜け

 

ドゴォン!

 

「うわあッ!2人殴り潰されたぞッ!」

「死ぬのか!?この体育祭死人が出るのか!?」

「「死んでねェ─────ッ!!」」

 

拳で下敷きになるも、全身を硬くしたことでノーダメージのまま拳を持ち上げる()()()()()()2()()

 

「…ん?」

「…アァ?」

 

違和感を感じて互いに横を見る2人

 

「お、俺と同じ“能力”ゥ───!?」

「ダダ被りの“個性”だァ!?おめーが緑谷の言ってたヤツか!」

 

コントじみたことをしている中、2人を追い抜く気配が……より正確に言うなら、『2人分』の気配が

 

「くっ…は、離れませんわ…!まるでひっつき虫のように…いえ、それ以上に…!」

「ウッヒョヒョ─!ワリーな鉄哲!オイラ先に行かせてもらうぜ───!!」

 

それは心底侮蔑し切った顔で走る八百万と………彼女のお尻にもぎもぎを使って密着する変態葡萄(峰田実)の姿だった

 

「ドサクサに紛れて何やってんだァァァァァ!!」

「女に任せっきりでレースたァ、漢らしくねェぜ峰田!」

 

エロまっしぐらなのは知っていてもなんだかんだで敬意を持っていた鉄哲と、自分で走らず女子にひっついてレースを敢行する様子を見た切島は絶叫

 

野郎(やろ)ォ───!ジョルノを呼んでひっぺがしてやる!」

「俺も手伝うぜ!えーと…」

「鉄哲だ!許せねえーぜあいつ!」

「鉄哲、おめー漢らしいじゃあねーか!俺ァ切島だ!よろしく頼むぜ!」

 

峰田という邪悪(変態)を前にしたことで、鉄哲と切島の間に奇妙な友情が芽生えたのであった

 

一方、緑谷はと言うと…

 

『おっとー!?ヒーロー科ではもっとも最後尾の緑谷!仮想敵の装甲をひっぺがしてそれを背負って移動してる───!何がしてェんだおまえ!』

(かっちゃんも、轟くんも、ジョルノくんも…やっぱりみんな強い!個性だけじゃあダメだ!使える物はなんでも使わないと…!)

「ハァー ハァー」

 

ジョルノが植物に変え、元に戻したことで剥がれていた仮想敵の脚の装甲を背負いながら必死に走っていた

 

そして場面はジョルノの方へ戻る

 

ジョルノの目の前には深く大きい谷底と転々と広がる足場、それぞれの足場をつなぐロープがあった

 

『さァー先頭は変わらず1位ジョルノ、2位に轟だ!2人とも既に第二関門にさしかかっているぞ!第二関門は落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!ザ・フォ──ル!!』

 

マイクの言葉通り受け取るなら、地面のロープを使ってゆっくりと進む場所。つまり…

 

「ハッハァ─────ッ!!俺には関係ねェー!」

 

爆豪のように高い飛行能力やジャンプ能力を持つ者

 

「ロープを広く凍らせて橋にすればなんの問題もねえ…」

 

轟のように足場を作れる者には有利な関門なのだ

 

ちなみに中には

 

「兄や家族が見ている手前…カッコ悪いところを見せるわけにはいかないッ!!」

『カッコワリィ──────ッ!!』

 

ロープの上でバランスをとりながら『エンジン』で水平移動する飯田のような者もいた

 

では、ジョルノは?

 

『おおー!ジョルノ・ジョバァーナ、渡ろうとする目の前のロープをッ!!』

 

メキ……メキ メキ…

 

『巨大な木の幹に変えて足場にして駆けるゥゥ!』

「ゴールド・E!」

 

そう、ロープを渡りやすい木の橋にして、最短でザ・フォールを駆け抜けていた。ゆえに1位という順位は変わらない

 

レースは終盤に突入する



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ティア・ドリンク・レース その3

長らくお待たせいたしまた。新鮮な最新話でございます


『先頭はジョルノが独走!後方が轟、爆豪と続いて、下は団子状態!上位何名が通過するかは公表してねえから安心せずに突き進めよ!』

 

プレゼント・マイクの実況が会場に響き渡る。眼下に広がるのは最後の障害にぶつかろうとする選手たちの姿

 

『そして早くも最終関門!!かくしてその実態は…ー面地雷原!!!怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!目と脚酷使しろ!!ちなみに地雷!威力は大したことねぇが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!』

『人によるだろ』

 

ジョルノたちの先には何も立ち塞がらない簡素な道。その下にはいくつもの非殺傷性の接触地雷が埋め尽くされている

 

だが、ジョルノの走る速度は緩まない

 

『トップスピードのまま突っ切る気かァ───!?しかし地雷が埋め尽くされてるんだぜ──!』

 

3m…2m…1mと、起爆寸前までジョルノと地雷の距離は近づき…

 

しかし接触直前、ジョルノの体は真横にスライドした。不規則に蛇行する形で走り続けるジョルノ

 

『クネクネ蛇みてーに走ってるがジョルノ、1つも地雷に当たらねェ!どうなってんだァ!地雷の場所でも分かってんのかオメ───!?』

『分かってるんだ……手の「アレ」を見ろ』

 

相澤にそう言われたマイクはジョルノの手元を見る。同時にモニターにも映されたジョルノの左手に抱えられていたのは、細長い体に、大きな前足と長い鼻が特徴の小動物

 

『手に()()()()()()()()……()()()()()()()()!?なるほどアレで地雷を探知してたっつーわけか!』

『そうだ。モグラは視覚が弱い代わりに嗅覚がスバ抜けて発達している生物。それで地雷の金属臭を嗅ぎ分けて、寸前で回避しているという寸法だ』

『解説サンキューなイレイザーッ!まるでモグ博士だなッ!』

『変な名前つけんのやめろ』

 

若干不機嫌になりつつある解説役を放置して、プレゼント・マイクは実況の方に戻る

 

ジョルノが先頭を突っ切る中、2位の轟はジョルノの後を追いかける形でしか走れなかった

 

(地面を凍らせれば地雷を無力化できる。しかし、それをすれば後続の奴らに対する道を作るハメになるし、凍らせたからといってジョバァーナに『勝てる』確証はねェ……だが、このまま追い続けていたんじゃあ、ジョバァーナに勝つ事が…!)

「テメェェ─────半分野郎ォッ!!」

 

賭けに「出るべき」か「出ないべき」か。そんな迷いに乱入してきたのは、爆破の飛行で地雷を無視しながら轟を追い越した爆豪だ

 

「宣戦布告する相手間違えてんじゃあねえッ!コロネ野郎もテメェもデクもブッ殺して1位になんのは俺だァッ!」

「爆豪……!クソ……!」

 

爆豪はようやくジョルノの横に並ぶ。それを見たジョルノは5mほど先に「ゴールド・E」を発現させる

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」

「しゃらくせェ!」

 

BOOM!!

 

地面を殴って生命エネルギーを流す。猛成長する木が爆豪の進路を妨げるが、うまく空中で姿勢制御を行いながら爆破で対処する

 

「やはり強い…」

 

改めて爆豪の強さを再認識したジョルノはゴールド・Eをもう1度呼び出し…

 

 

 

BOOOOOOM!!!

 

 

 

「「「!!」」」

 

その時、後続の方向から大爆発が起こる。それは地雷が一斉に爆発した音で…

 

『オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ!!あいつクレイジー過ぎねえか!?』

『なるほど…ジョバァーナの草のボード、そいつを真似したわけか…』

「何……!」

「アァ!?」

「これは…!」

 

その爆発の勢いに乗って、0P敵の装甲に乗って飛来してくる『1つ』の存在

 

『緑谷ァ!地雷の爆発を逆に利用しッ!一気に前に出たアアアアアアアアッ!!』

 

──そう、緑谷が掘り起こして集めた地雷を爆破させ、上位3人の中まで近づいたのだ

 

宙を飛ぶ装甲に乗った緑谷は頭を必死に回す

 

(追いつけた!でもダメだッ!このまま落ちたら、すぐに引き離されるッ!)

「デクてめぇ!俺の前に立つんじゃあねえ!」

「邪魔だ緑谷……!」

 

予想外の人物が追いついてきたのを見た2人は“個性”をフルに使ってでも1位になろうとする

 

(もう1度…爆風で飛ぶ!!)

 

それに対して緑谷は…空中で装甲を鍬のように地面に突き立てるべく振るった

 

ドスゥゥゥッ!

 

 

 

「必ず…そうすると思っていたよ、緑谷くん」

「!?」

 

装甲が地雷に突き刺さったと同時に、ジョルノはそう呟いた

 

「君の個性には大きな『リスク』がある。使わずにぼくたちを出し抜くというのならば……必ず地雷の爆発を利用すると考えた」

 

グニュ グニュ

 

「じ、地雷が!」

「すでに!『ゴールド・エクスペリエンス』で地雷をアミメニシキヘビに変えていた!6mに迫る長さを持つこの蛇は、頭の部位が第三関門のゴール地点まで移動している」

 

緑谷が叩いた地雷のセンサーにあたる部分は尻尾に変わり、そこから伸びた体の先には、炸薬部位が生まれ変わってできた頭部

 

「そしてセンサーの反応は、体内の受信機・安全装置・信管を通って───頭部で起爆するッ!」

「ンだとオオオオオオッ!!」

 

 

BBBBBBOOM!!!

 

 

頭部で炸裂した地雷の衝撃は周囲の地雷を巻き込み、連鎖爆発がジョルノたちに迫り、爆音と共に飲み込んでいった

 

『み、緑谷が機転をきかせてトップに出るかと思いきや、ジョルノの奇策で4人とも全員地雷をモロに食らった───!?つーか、いつの間に地雷を生命に変えてたんだよ!』

『爆豪を妨害した時しか考えられねえだろ。本来なら自分で起爆させるつもりだったが、ちょうど良いタイミングで緑谷が乱入してきたから、急遽緑谷に起爆させる事にした…といったところか』

『だが、地雷はジョルノにも当たったぜ!?こんな自爆同然の方法、策って言えるかァ!?』

 

もっともな事を言うマイク。しかし、相澤の観察眼は見逃していなかった

 

『ジョバァーナが持っていた『モグラ』……「物体」「生命」を与える能力という事は……』

『…おおぉ!!』

 

緑谷が装甲を剥ぎ取った仮想敵…その脚には、緑谷が()()()()()()()とは別に、「もう1枚」分厚い金属の板がなくなっていた事に

 

そして煙の中から出てきたゴールド・Eの手には…

 

()()()()()()()()「生命」「物体」に戻る』

 

───爆破を防ぐ盾にした仮想敵の装甲があった

 

次に出てきたのは、持ち前のタフネスでゴリ押して耐えた爆豪で、3番目に煙から飛び出してきたのは、ジョルノと同じように装甲を盾に前進する緑谷

 

轟も即席で氷のシェルターを作り爆発を防いだが、それ故にその場から動けず、4人の中で出遅れる形となった

 

ジョルノは地雷も何もないデコボコの道をひたすら走り抜け、そして……

 

『さァさァ!最初にスタジアムに還ってきたのは、宣言通り1位になったこの男──ジョルノ・ジョバァーナだァァァッ!!』

 

1番でゴールにたどり着いた



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狙われるジョルノ その1

ちょっと早めに投稿でーす☆


轟焦凍は考える

 

(負けた……ジョバァーナだけじゃあない。爆豪にも…緑谷にさえも…俺は…出し抜かれた……)

 

“半冷半燃”の個性。大規模な炎と氷を操る事ができるこの能力は、まさに他の追随を許さない強力な個性と言えるだろう

 

しかし、轟は自らの個性を憎む。正確には…左半身から生み出せる『炎の部分』を

 

決して「()」は使わない、「()」の個性だけで頂点に立つ。そして今もまとわりつく過去の因縁に決着をつける…そのはずだった

 

だがこの()()()()はなんだ?ジョバァーナに勝てないばかりか、見向きもしてない爆豪に競り負け、格下と思っていた緑谷にすら出し抜かれる始末………そんな思考が轟の心をぐちゃぐちゃにかき乱す

 

上を見る。視線の先にある観客席の出入り口…そこにヒゲや顔、ヒーロースーツの一部をメラメラと炎で燃やす…忌々しい父親(ヒーロー)がいた

 

No.2ヒーロー「エンデヴァー」

 

その目には、反抗する子供を眺めるような呆れた感情が存在しており、それを見た轟は憎悪の『炎』をさらに燃やす

 

(おまえを完全に否定してやる…右の力だけで勝って)

 

エンデヴァーの抱く野望…その為だけに過程を捨て、結果だけを求め、自分と母の人生をメチャクチャにした事実に怒りを抱く轟だが、彼は気づかない

 

(それが俺と……母さんの復讐だ…!!)

 

目的の為に周囲を顧みない轟の目は、執着に囚われた父親と同じ目をしていることに

 

 

 

障害物競走が終わり、ゴールをくぐり抜けた生徒たちがスクリーンの前に立つミッドナイトに視線を向ける

 

「さて!上位42名が予選通過者ですが、残念ながら落ちちゃった人も安心なさい!この体育祭ッ!まだ見せ場は用意されているわ!!」

 

そう解説するミッドナイトの背後のスクリーンには、先ほどの障害物競走の順位が記されている

 

 

『1位 ジョルノ・ジョバァーナ

 2位 爆豪 勝己

 3位 緑谷 出久

 4位 轟 焦凍

 5位 塩崎 茨

 6位 骨抜 柔造

 7位 飯田 天哉

 8位 常闇 踏陰

 9位 瀬呂 範太

 10位 切島 鋭児郎

 11位 鉄哲 徹鐵

 12位 尾白 猿夫

 13位 泡瀬 洋雪

 14位 蛙吹 梅雨

 15位 障子 目蔵

 16位 砂藤 力道

 17位 麗日 お茶子

 18位 八百万 百

 19位 峰田 実

 20位 芦戸 三奈

 21位 口田 甲司

 22位 耳郎 響香

 23位 回原 旋

 24位 円場 硬成

 25位 上鳴 電気

 26位 凡戸 固次郎

 27位 柳 レイ子

 28位 心操 人使

 29位 挙藤 一佳

 30位 宍田 獣郎太

 31位 黒色 支配

 32位 小大 唯

 33位 鱗 飛龍

 34位 庄田 二連撃

 35位 小森 希乃子

 36位 鎌切 尖

 37位 物間 寧人

 38位 角取 ポニー

 39位 葉隠 透

 40位 取蔭 切奈

 41位 吹出 漫我

 42位 発目 明』

 

 

「ぼ、僕が…さ、3位なんて…!」

「チクショー!ジョルノと茨に負けちまったぜ……11位か俺は!」

「僕だけヒーロー科で唯一通過できてない…☆」

「ドンマイ、青山くん」

 

それを見て喜ぶ生徒(緑谷)、悔しがる生徒(鉄哲)、落ち込む生徒(青山)、慰める生徒(葉隠)といった風に反応が分かれる

 

「そして次からいよいよ本戦よ!!ここからは取材陣も白熱してくるよ!キバりなさい!!さーて第二種目よ!!私はもう知ってるけど〜...何かしら!!?言ってるそばから、コレよ!!」

 

ミッドナイトの言葉に反応して、巨大スクリーンに競技名が表示された

 

『騎馬戦』…」

 

その呟きの通り、次の種目は騎馬戦であった

 

「参加者は2〜4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ!基本は騎馬戦と同じルールだけど、1つ違うのが...先程の結果にしたがい、各自にポイントが振り当てられること!」

「つまり、相手によって取るポイントが違うって事?」

 

麗日の簡潔な解釈に頷くミッドナイト

 

「そうよ!!そして与えられるポイントは下から5ずつ!42位が5ポイント、41位が10ポイント...といった具合よ。そして...」

 

ミッドナイトはジョルノを一瞥し、衝撃の宣言をする

 

「1位に与えられるポイントは1()0()0()0()()ッ!!」

「…はぁッ!?」

 

明らかにおかしいポイントの振り分けに思わず鉄哲が声をあげる。なぜならその事実が意味するのは、()()()()()()()()()()()()()()は騎馬戦で1()()()()()()()()()()であり…ゆえに誰よりも狙われる「立場」になってしまうからだ

 

生徒全員の視線が1位であり1000万ポイントの所持者となったジョルノに降り注がれる

 

「上位の奴ほど狙われちゃう、下克上サバイバルよッ!!」

 

ごく僅かな、ジョルノを心配する視線。そして大部分の、ジョルノに対して興味を持つあるいは敵意を抱く視線が、ジョルノに向かって集中的に浴びせられる

 

そんな状況でもジョルノは取り乱すことなく、逆にさわやかに微笑んでみせるのであった




今回どうしても都合上予選落ちしてしまった青山くん…

ゴメンね、ゴメンね…いつか活躍させるから、出番もあげるから。ゆるして ねっねっねっ?


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狙われるジョルノ その2

おひさですー。今年の秋はアイスボーンだったりブレイクポイントだったりP5Rだったり時期が被って被って…しかも来月にはポケモンの新作も出ますし、仕事もあって忙しい時期です


次に行われる騎馬戦…それは1位が1000万ものポイントを持つ下克上上等のサバイバルだった。狙われるのは当然1位であるジョルノ・ジョバァーナ

 

「制限時間は15分、その間に2人から4人のチームを作るのよッ。騎馬戦自体は個性発動アリの残虐ファイト!!騎馬を崩してもアウトにはならず、どんなことをしても最後に首から上にポイントのハチマキを巻いている者が勝者になるわ!でも悪質な騎馬狙いの攻撃は一発退場だから注意しなさいッ!!」

 

ミッドナイトの説明を最後に、生徒たちはそれぞれ騎馬のチームを組むべく動き始めた

 

そんな状況でジョルノに近づくのは2人の友人だ

 

「ジョルノ、おめー災難だよなァ。なんだよ1000万ポイントって」

「私と徹鐡さんはジョルノさんとチームを組みたいと思っているのですが、よろしいですか?」

「ベネ。ぼくも君たちを誘おうと考えていたところです」

 

揃ったのはジョルノと鉄哲と塩崎。入試の実技試験以来となるチームメンバーだった

 

「他の奴らは、だいたい4人で組んでいるけどよォ──────────俺らはどうするんだ?」

「ジョルノさんが騎手となると、力がある徹鐡さんが前の騎馬になりますから、サポートに長けた方がよろしいですね」

「茨の言う通りです。もっと言えば、ぼくの個性「ゴールド・E」と相性のいい個性を持った人が望ましい。候補となるのは瀬呂や八百万だったのですが…」

 

周囲を見渡すと瀬呂は爆豪、八百万は轟とチームを組んでいた

 

「他んとこに行っちまってるのか…」

「轟は個性の出力がぼくらの中でもケタ違いに高いです。爆豪も、轟ほどではないが強力な“爆破”があり、動体視力や反射神経もズバ抜けている…………どうしたものか…」

 

ジョルノは2人の顔をチラリと見る。B組で相性の良い個性を持った生徒がいないか問いかけている目だ

 

だが鉄哲は申し訳なさそうな表情で頭を掻く

 

「ワリーけどジョルノ、俺らのクラスにお前の『ゴールド・E』と相性の良い奴はいねえな。お前の能力、多分「肉体の一部を切り離して操作してるもの」は対象外なんじゃあねェの?」

「そうですね。切り離した部位は、言ってしまえば()()()()()()()()()()()と繋がってるようなものです。つまりその一部の肉体は生きてるワケですから生命に生まれ変わらせることはできません」

 

例えばB組所属の取蔭(とかげ) 切奈(せつな)の“トカゲのしっぽ切り”。その能力は全身を細かく分割し、自在に動かすことができる

 

しかしジョルノの言う通り、分割した肉体は無機物ではない為、いくら生命エネルギーを流し込んでも生命を生み出すことはできないのである

 

「あ…けど角とか鱗とかはどうなんだ?どっちも自分の体から飛ばす能力なんだけどよぉ〜〜〜」

「飛ばした角や鱗はできます。だけどぼくは人に対して生命エネルギーを流したことは少ないんです…それに、角や鱗にだって神経が繋がっているものも存在する……結論を言うならば、どうなるかはぼく自身も分かりません」

「そうか…どうすりゃあ、いいんだァ…?」

 

他の生徒もチームを組んでいる以上ヘタに時間はかけられない。何が最適解なのか鉄哲はうんうん唸り

 

「なら私と組みましょう1位の人!!」

「うおわあああ!?テメー何者(なにモン)だァ──ッ!?」

 

するといきなり鉄哲の後ろからゴーグルをかけた桃色の頭髪をした女子がジョルノに向かってそう提案した。鉄哲は気配もなく急に現れた女子の登場に驚愕する

 

一方ジョルノは、女子…否、ただの生徒にしてはあまりに濃い鉄と油の匂い、そして背負っているガジェットの存在から1つの結論を出していた

 

「キミは、サポート科のヒトですか?」

「正解です!私は発目(はつめ) (めい)!あなたの事は知りませんが、立場利用させてください!」

「随分とストレートな要求ですね…」

 

初対面の人間にも遠慮なしにそう言う少女、発目に、さすがのジョルノも呆れた風に呟く

 

そんなジョルノの様子を微塵も気にせず、発目はゴーグルを外しながら語り始める

 

「あなたと組むと必然的に注目度がNo. 1になるじゃあないですか!?そうすると必然的に私のドッ可愛いベイビーたちがですね大企業の目に留まるわけですよ!それってつまり大企業の目に私のベイビーが入るって事なんですよ!!」

 

ペラペラペラペラと一息でまくし立ててく発目

 

「さっきの話は聞いてました!聞く限り「無機物」を「有機物」に変える個性らしいですね!?なら私のドッ可愛いベイビーたちと組み合わせれば相性バツグンじゃあないですか!あ、でも私のベイビーをちゃんと宣伝させてくださいよ!じゃないと組んだ意味ないですから!」

「今宣伝って言ったぞコイツ…」

「欲深きお方…」

 

普段はおっとりとした塩崎が引いているといえば、彼女の凄まじさが理解できるだろう

 

自分の目的のためにあらゆる手段を講じる女。入学から僅かな期間で、数え切れぬほど教室を発明の為に爆破させてきた。それが発目明である

 

(ちなみに発目曰く「『失敗はドッ可愛いベイビーの母』です!ドンドン産んでもらいますから!!フフフフフ…』とのこと)

 

グイーッ!

 

鉄哲はジョルノの肩を掴むと、近くまで引き寄せて耳元でささやく

 

(オイ コイツはマジにヤベーってジョルノ…意味不明だッ!こんな得体の知れないヤツと組むより別のヤツと組んだ方がいい!!それか3人でいこうぜ!そっちの方が勝つ確率は上だ!!)

「…そうですね…」

 

ジョルノの返答を聞いた鉄哲は内心ホッとし

 

「いいですよ発目さん。ただし、ぼくの指示にはキチンと従ってもらいます」

「なんだとォォッジョルノ!?」

 

次の言葉に絶叫するのだった

 

「ジョルノさん…私も不安です…大丈夫なのでしょうか…?」

 

普段の2人を見ればイメージからかけ離れた行動だろう。しかし、発目のインパクトがあり過ぎる初対面の印象を考えれば、仕方がない対応なのだ

 

そんな鉄哲と塩崎に向かって、ジョルノは口を開く

 

「2人は何を考えているのか分からないと思っているようですが、逆です。むしろ彼女は分かりやすいくらい目的とメリットを明確に伝えています」

 

言われてみれば確かにそうだが、それでも納得できない表情をする2人に、ジョルノはさわやかに笑いながら言う

 

「それに…彼女がぼくを広告塔として利用したいというのなら、こっちもトコトンこき使ってやればいいんですよ。無駄なことはキライなんで、たっぷり利用させてもらいます」

 

2人の不安を取り除こうとキッパリと言い切るジョルノ

 

しかし2人の表情は晴れるどころか、なぜか疲れた様子でため息を吐いた

 

「おまえ…さわやかな顔でゲスなこと言うよな…」

「ヒーローを志す者として、そのお考えはどうかと思います……」

「………?」

 

友人の言葉に、疑問符を浮かべるジョルノなのであった

 

 

 

『さぁ────シンキングタイム終了!騎馬も組んで準備オッケー!お前らお待ちかねの本戦開幕だッ!!』

『こいつは………なかなか面白い組み合わせだ』

 

フィールド内で点在する騎馬のチームを見て、相澤が呟く

 

「徹鐡」

「おう!」

 

1番前の騎馬に鉄哲

 

「茨」

「はい」

 

その左後ろに塩崎

 

「発目さん」

「フッフッフッ…私のベイビーにお任せを!」

 

右後ろに発目

 

そしてその上に乗るのは……10000355Pと書かれたハチマキを額に巻いて付けたジョルノ

 

『始まっぞ!!──今ッ!合戦がスタァァァァァトッ!!』

 

プレゼント・マイクの言葉と共に始まる騎馬戦

 

「つってもおッ!」

「実質!それ(1000万)争奪戦ンン───!!」

 

そして、開幕と同時に2組の騎馬がジョルノの騎馬に強襲し…

 

「無駄無駄ァ!!」

「ぶべらッ!?」

「アギァ!!」

 

───ゴールド・エクスペリエンスのパンチが1発ずつ、襲ってきた騎手の顔面にブチ込まれた

 

「み……見えなかった…!」

()えーぞッコイツ!」

 

目にも止まらぬ反撃に慄く周囲にジョルノは宣告する

 

「来るなら来い…!!どんなヤツが相手だろうと、全員ブチのめさせてもらうッ!!」

 

苛烈な騎馬戦が幕を開ける




ハチマキの本数が最初は1本だったと指摘を受けて、調べ直したらそうだったので修正しました。ご迷惑をおかけしました


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騎馬の上の攻防 その1

最新話でーす。今回書いてて楽しかったです

前回、最初のハチマキを4本にしてたのですが、単に作者の勘違いで4本になってただけです。前回のラストも含め、ハチマキは1本に修正しておきました。ご迷惑をおかけしてすみません


『ゴールド・E』の反撃をきっかけに、戦いの火蓋が切って落とされた

 

「ジョルノ、オメーさっきミッドナイト先生に何か聞きに行ってたけどよ〜〜〜〜。何聞いてきたんだ!?」

 

敵がひるんでいる隙に、騎馬戦が始まる直前にミッドナイトのところへ質問しに行ったジョルノの様子を思い出しながら鉄哲が問いかける

 

「彼女は審判ですからね……“個性”アリの騎馬戦とはいえルールにも「白」「黒」がある…そのグレーゾーンを聞いてきたんです。とりあえず()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい」

 

自身のハチマキを撫でながら「「自分が痛い目に遭っても構わないのであれば」とも言ってましたが」と告げるジョルノ

 

「他には…」

 

ドップン!

 

再度質問しようとしたその時、突如フィールドの地面がドロ沼のように柔らかくなり始める

 

「!? こ……こいつ…この能力はッ!」

「ジョルノさん!骨抜さんの『柔化』の個性です!彼自身も推薦入学に選ばれるほどの実力者です!」

 

塩崎の言う通り、ジョルノたちの側面から迫る騎馬の前には、まるで骸骨のように歯が剥き出しになった痩せこけた顔の男子…『骨抜(ほねぬき) 柔造(じゅうぞう)』がいた

 

「なるほど、君が鉄哲と塩崎の2人が実技試験でお世話になったって人か。2人ともそれなりに仲はいい方だけど……マッ!それはそれ、これはこれ」

 

そして動けなくなったジョルノに近づきながら、騎手の『(りん) 飛龍(ひりゅう)』が竜のような「ウロコ」で腕を強化する

 

「ハチマキもらおっかな!」

「柔軟かよ骨抜ッ!」

 

柔らかくなった地面を掻き分けながら騎馬が接近する

 

しゅるるるる────

 

「うん?」

 

すると塩崎が髪のツタを柔化してない地面まで4方向に伸ばす

 

「ツタで脱出しようって魂胆かい!?しかし4人分もの体重(しかもサポートアイテムを含めればさらに重い!)、不安定なその状況では圧倒的にパワーが足りてないね!!シマウマがどう足掻こうとライオンのパワーには勝てないくらい同じこと──!」

 

それでもお構いなしに騎馬は近づく為に動き…

 

ドン ドン

 

直後、ツタにゴールド・Eの拳が叩き込まれた

 

「……? なんだ?なんで塩崎の「ツタ」を…」

「彼女の『ツタの髪』は、生まれつき変質しているだけの体の一部だ…しかし、水をかければ著しく成長するという性質は、間違いなく植物の性質でもある」

 

ドクン ドクン ドクン

 

「! これは!」

「ならば、ぼくのゴールド・E…その『生命エネルギー』を流し込めば()()()()()()()?」

 

すると生命エネルギーを流し込まれた部位から、ツタが大きく、太く、生命力が満ち溢れたモノに『成長』していく

 

「こ、これほど、力が増してくるなんて…私の個性ッ!」

「見てるだけで分かるこのパワーならよォォ──…茨、イケるぜ!」

「はい!!」

 

ゴールド・Eで強化されたツタを動かして、塩崎は騎馬を柔化した地面から早く脱出する

 

だが、骨抜の騎馬はもう目前まで近づいている

 

「しかし!それでも俺たちの方が速い!」

 

鱗の鎧を纏った飛竜がジョルノのハチマキに手を伸ばす

 

「とった!!」

 

スカァ…

 

「!?」

「な…!」

 

骨抜のチームメンバーは目を見開く

 

ゴオオオオオオ

 

なぜならば、塩崎と発目の背中から火が吹き出し、その加速で予想より速く地面から脱出したからだ

 

「なにィィィ────ッ!!」

「この人数でも飛べるジェットパックか。しかし発目さん……かなり火力が高いんじゃあないですか?無駄ですよ」

「試作機28号ですから!次は火力のコントロールが課題ですね!」

 

作品の失敗を嘆くどころか大いに喜ぶ発目に呆れるジョルノだが、それどころではない者も当然いる

 

「予想以上に位置が高い!このままじゃあ、アイス落っことした時みてェに地面に激突するぞ!」

「茨にツタのクッションを作らせます!君は「硬化」した状態で先に着地して、衝撃を分散するんだッ!ぼくは…」

 

そしてジョルノは、()()()()()()()()()()()()()()()に強襲してくる存在に目を向ける

 

「──『コイツ』を抑える!!」

「ハチマキ寄越して死ねッ!コロネヤロオォォォォォォォ───!!」

「ば、爆豪だと!?」

 

そう、“爆破”で飛んで1人奇襲を仕掛けてきた爆豪に

 

『ゴールド・エクスペリエンス』!!」

 

ジョルノはゴールド・Eを呼び出し、近づいてくる前に1発パンチを打ち込む

 

「無駄ァ!」

(あめ)え!」

 

だが爆豪は並外れた反射神経と身体能力でこれを躱し、逆に「ゴールド・E」の腕を掴む

 

BOOM!

 

そしてそのまま掌を爆破。ジョルノの右上腕がフィードバックによってダメージを受け、焼け焦げる

 

「ぐゥッ!?」

「ジョルノ!?」

「ぼくの事は気にしないでください!君は着地に備えていればいい!」

「よそ見してンじゃあねェ!」

 

ボボボボッ!と火花を散らしながら爆豪は左腕を振り下ろす

 

ガッシィ!

 

それをジョルノは左手を使い、命中する寸前に掌を真上に向けながら止める。爆豪は無理やり振り解こうと力を込める

 

(かて)え…!ンだッこのチカラ!?」

 

しかし、生身で掴んでいるハズのジョルノの手を爆豪は振り解く事ができないでいた。力を強く込められない空中だとしても異常な硬さだ

 

グルゥゥゥン

 

「うおッ!」

 

そして手首の力だけで爆豪を逆さまにひっくり返し、手首を手放すジョルノ

 

その時、爆豪は見た。ジョルノの左手の甲にうっすらと見える、紫色のテントウムシの形を

 

(クソコロネ……自分の「体」“個性”(ゴールド・E)を重ねて、パワーアシストを…)

WRYYYYYYYYYYYYYY(ウリャ────────────────)!!」

 

爆豪の視界で『ゴールド・E』のスピードラッシュがスローモーションのように迫ってくる

 

シュバァ─────ガシッ

 

確実な追撃…それは下から伸びてきた巨大セロハンテープが爆豪を絡め取り、引き寄せた事で、空振りとなる

 

「なに!」

 

セロハンテープ…これは瀬呂の能力に他ならず、ならばとジョルノが下を見れば、そこには切島・芦戸・瀬呂の騎馬の上に着地する爆豪の姿があった

 

『瀬呂、強襲した爆豪を騎馬まで華麗に回収ゥ───!!つーか今のアリかァ!?騎馬戦的に!』

「テクニカルなのでアリよ!」

 

どうやら反則ではないらしい

 

「バクゴー!勝手すんなよなッ!俺が助けなかったらジョルノにやられてたぞッ!」

「俺がクソコロネに負けるわけねェだろーがしょうゆ顔!殺すぞ!」

「仕事したのにヒデー言い草!」

「それがテメーの役割だろがッ!いいか、ヤロー(ジョルノ)の騎馬が着地したら!もっぺん仕掛けるッ!」

 

獲物を睨み殺さん眼力の爆豪に、ジョルノは気を引き締める

 

「かなり…手強いチームだな…」

 

塩崎が普段より太いツタの『クッション』を騎馬の下に用意し、「スティール」で硬くなった鉄哲が、ツタで弱くなった着地の衝撃を一身に受ける

 

「イッデェ……!でも…ツタのおかげでだいぶ楽だ…」

 

直後

 

ビシッ ビシッ ビシィ!

 

「ってうおああ!ツタが凍っ…」

「来たか……!」

 

着地と同時に始まる凍結…これが示すことはひとつ

 

轟 焦凍の攻撃が始まったのだ



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騎馬の上の攻防 その2

ペルソナ5ザ・ロイヤルがクッソ楽しいです

そして今回は緑谷回です


ジョルノたちが轟と対面する5分前…

 

「みんな、ジョルノくんの方に目が行ってるけど、そうじゃあないチームも必ず出てくるはず……だから僕たち3人で必ず時間ギリギリまで粘るんだ……決して、()()()()()()()()()()()()()…!」

 

額にチームの合計ポイント…580Pのハチマキを巻いた緑谷は、作られた騎馬の上でチームメンバーにそう告げる

 

「やるよ!麗日さん、常闇くん!」

「うん!」

「ああ」

『アイヨ!』

 

そして…緑谷は彼に声をかける

 

「───()()()()!」

「……ああ…」

 

最後のメンバー…心操(しんそう) 人使(ひとし)は、なぜ自分がここにいるのか、記憶を(さかのぼ)ることで再確認を始めた

 

 

 

事の発端はそう…見るからにお人好しそうな2人(緑谷、麗日)を見つけた事だ。もう1人(常闇)は警戒心がないわけではないが、それでも俺に対して普通に返事はした

 

「そこの3人、ちょっといいか?」

「え、あっハイ──」

「私たち──」

「何か用な──」

 

ドクン

 

だからこそ俺の個性「洗脳」を簡単に喰らった。あとは騎馬戦の間コキ使ってやればいい…そのはずだった

 

「よしおまえら、騎馬になって俺を上に乗せ…」

『オイ、ドーシタ?』

 

───常闇と言う奴の影がカラス頭の奇妙な生物になると、動かなくなった常闇の体を叩いたのだ

 

マズい!そう思うもすでに遅く…

 

「ハッ!か、体が動く…緑谷、麗日!」

 

『洗脳』は簡単に洗脳状態にできるが解けるのも簡単……ほんのちょっぴり小突かれたり、軽い痛み程度で解けるからな…

 

「あ!ビ、ビックリしたァ──!」

「返事をしたら頭にモヤがかかったみたいに…これって」

 

連鎖的に緑谷たちの洗脳も解ける

 

「間違いなくこいつの個性だろう。俺たちに命令して操作しようとしていた。さしずめ『洗脳』といったところか……2人とも!返事はするな…それが奴の能力の条件だと俺は考えている…」

「…………!」

「『洗脳』…?」

 

最悪だ。能力の発動条件までバレている。こうなると再び洗脳することが難しくなる…いや、仮に洗脳出来たとしても、またあいつの影で洗脳を解かれる…クソッ…!

 

「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ………………」

「!? ……?」

 

な、なんだコイツ…?緑谷というやつがうつむいたかと思うといきなりブツブツつぶやき始めた。隣にいた女子もドン引きしている。不気味なやつだ…

 

ブツブツと言い始めて30秒ほどだろうか。緑谷はバッ!と顔を上げて、俺を見ながらこう言った

 

「君に頼みがあるんだ!」

「なに…?」

「君の個性ならジョルノくんを出し抜ける…!僕達とチームを組んでほしいッ!」

 

…俺は自分の「洗脳」があんまり好きじゃあない。この『ヴィランみたいな』能力のせいで、何度も偏見の目で見られてきたのだ、当然だ…

 

だから、この先この個性をほんのちょっぴりでも好きになれるのならば…それは、きっと、度を越したお人好しのせいだろう

 

 

 

ビュオオ!

 

「───心操くんッ!」

「ハッ!」

 

麗日の声で思考の海から現実に帰還した心操は、心操の方向から迫る長いベロのようなものに気づく。だが不意の攻撃を防ぐことは心操にはできない

 

「『黒影(ダークシャドウ)』!!」

 

しかし、それは心操ならの話だ

 

前面の騎馬の常闇から伸びた黒影(ダークシャドウ)が背面に移動し、ベロを叩き落とす

 

「ベロの攻撃…!蛙吹か!」

「ケロケロ。正解よ、常闇ちゃん」

 

声がする方へ騎馬を向ける緑谷

 

するとその先には、障子が“複製腕”で背中にドームを作り、その中に潜むように蛙吹が入っていた

 

「蛙吹さん!?えッ、障子くん1人だけの騎馬!?」

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

そう。障子の巨体を活かした、1人戦車とでも言うべき騎馬を作り、その背中に小柄な者を乗せたのが蛙吹の…否

 

「フハハハハァ────!一方的に略奪させてもらうぜェ緑谷ァ!」

「峰田くん!マ、マズい!」

 

──ハチマキをつけた峰田実の策だった

 

「食らえッ!」

 

会敵するや否や、いきなり「もぎもぎ」の玉を放り投げてくる

 

「迎撃しろ黒影(ダークシャドウ)ゥゥゥゥ───ッ』!!」

『ウオオオオシャアアアアアアアア!!』

 

常闇の命令に雄叫びをあげながら両腕のラッシュでもぎもぎを受け切る。影の腕に多くの玉がひっつく

 

「そのまま戻れッ!」

『アイヨ!』

 

そして距離を取った状態のまま影に戻すことで、ひっついていたもぎもぎはボトボトと地面に落ちた

 

ドギュン!

 

だが、「黒影(ダークシャドウ)」を戻した瞬間、蛙吹のベロが緑谷に向かって高速で伸びる

 

「オメーよおおおおおお、授業でオイラたちと戦ったのを忘れたか?…オイラのもぎもぎを外そうと影を消せば常闇ッ!オメーは無防備になるんだぜ──!」

「し、しまった!」

「影は間に合わねえ!もらったぜ緑谷───!」

 

緑谷は頭部を動かすものの、そのスピードより蛙吹のベロの方が速く…

 

ガシッ!

 

「うおおおおおお!」

 

──否、緑谷は首より早く動く腕でハチマキをひっぱることで、自分の頭部を横に倒し、ハチマキの奪取を紙一重で避けた

 

「!!」

「ハァー…常闇くん…ハァー、迎撃の準備を…」

「もうすでに出来ている!」

 

あの攻撃をかわした緑谷の機転に驚く峰田だが、すぐに頭の玉をもぎ取る

 

「まさかアレを避けるとはな…ジョルノに追いつきかけただけのことはあるぜ…USJでもオメーの機転に助けられた…」

 

そして新しい玉を、大量にブン投げる

 

「しかし勝つのはオイラたちだあああー!黒影(ダークシャドウ)さえ封じれば、さっきみてーな手は何度も通じねェェェ!」

 

ペタァァァ

 

「!」

 

ペタ ペタ ペタ ペタ

 

それを常闇は黒影(ダークシャドウ)を出現させて対処する。ただし、今度は玉を()()()()()()()()()

 

黒影(ダークシャドウ)!振りかぶれ!」

『アイヨ!』

 

騎馬の半分ほどはある大きさの、集まった“もぎもぎ”の玉を持ち上げてから素早く振り下ろし

 

「そして戻す」

 

同時に黒影(ダークシャドウ)を影に戻す

 

すると巨大な粘着玉は峰田たちの騎馬に向かって飛んでいった

 

「これなら蛙吹の視界も防げ、おまえたちも対処せざるを得なくなる!」

『勝ッタ!!』

 

ボヨヨォ〜〜〜ン

 

だが、障子の体にひっつく予定だった巨大粘着玉は跳ね返る音と共に緑谷たちの上空に打ち上げられる。複製腕のドームから出てきているボールを蹴り上げた姿勢の峰田

 

「「オイラ」のもぎもぎは「オイラ」には()()()()……はね返るんだぜ?力がなくったってふっ飛ばせる…ジョルノや緑谷に会って、自分の能力の良さに気づいたぜエエエエ…」

 

その右手に握られているのは…もぎもぎの玉

 

「何イイイイイイ───────!?」

「上空からはオメーが作った超粘着玉ッ!前方からはさらなる粘着玉と蛙吹のベロッ!同時攻撃を防ぐことは不可能!もう逃げらんねェぜェェェー!!」

 

常闇の防御が崩れた瞬間、ベロと一緒にもぎもぎを勢いよく投げた

 

バッ

 

その時、緑谷は急に握り拳の右腕を横に伸ばした

 

「?」

「峰田くんの粘着玉は…峰田くんには『はねる』。それ以外の物には『ひっつく』。でもあとふたつ、ひっつかないものがあるんだ…」

 

疑問符を浮かべる峰田に、緑谷は言葉を続ける

 

「それは「液体」「気体」!!「固体」でないふたつの要素は例外的に峰田くん以外だろうとくっつかないッ!そして、手加減した僕の個性じゃあ、パンチで物を押し返すほどの風圧は生み出せない…」

 

そして緑谷は握り拳の『グー』を緩めて…

 

「でも、面積が増えればッ!!」

 

──『パー』にする

 

「はっ!!」

 

ブォン!

 

右腕を団扇のように扇ぐと、凄まじい風圧が巻き起こる

 

「ケロォ!?」

 

急な強風に煽られた蛙吹のベロはコントロールを失い、空中でめちゃくちゃにはね返る。さらにいくつかもぎもぎの玉もひっつく

 

「ブッエフゥ!」

 

そして反射したもぎもぎと砂煙が顔面に直撃してむせかえる峰田

 

しかし、一時撤退を進言しようと砂を払いながら目を開けた峰田の視界に入ったのは…オーバースローの形で思いっきり振り上げた腕を、今にも振り下ろさんとする緑谷の姿

 

 

 

いっぱあああああつッ!!」

「うわぁああああ!!!」

 

 

 

ブオォォン!

 

強烈な風が蛙吹のベロをはね返し、勢いをつけて首に命中

 

「うげェェ!!」

 

首元を強く叩きつけられたショックから峰田は白目を剥いて仰向けに倒れ、気絶した

 

「ケロ、ゴメンナサイ峰田ちゃん……でも、私の舌も峰田ちゃんの個性で動かせない…私たちはここでリタイアね」

()してあまく見ていたわけではない。だが………緑谷の爆発力に負けたか……」

 

巨大粘着玉を黒影(ダークシャドウ)で受け止める緑谷の騎馬を見ながら、障子は静かに目を閉じた

 

 

 

緑谷チーム──ハチマキを死守。峰田チームのポイントは獲得できず

峰田チーム──再起不能(リタイア)



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騎馬の上の攻防 その3

お待たせ


ジョルノと轟の騎馬が対峙した同時刻…

 

「!? オ、オイ……爆豪…」

「アァ?」

 

今にもジョルノに飛び掛からんとする爆豪に瀬呂が声をかける

 

いいところを邪魔された爆豪はドスの効いた声で返事し、しどろもどろな瀬呂に苛立って罵倒しようと口を開こうとした時、瀬呂は問いかける

 

「お…おまえ…()()()()()()()()()()()?」

「ハ?」

 

「何言ってんだテメー?」とでも言いたげな表情で爆豪は頭につけたハチマキを確認して…

 

「………?」

 

だが、いくら触っても、いくら確認しても…自分のチームのポイントであるハチマキの感触がない

 

「…アア!?」

 

それを気づいた爆豪は即座に周りを見渡す。すると背後、正確には左後ろの方向に、爆豪のハチマキを握ったそのチームがいた

 

「クソがァ!」

「爆豪!?」

 

一気にキレた爆豪は切島の驚く声を無視して『爆破』で飛ぶ

 

「モブ野郎が!ブッ殺す!」

 

ハチマキを奪い返すことよりも、相手をぶちのめすことに決めた爆豪は爆破する右手を振り下ろし…

 

ガン!

 

───その直前、爆豪は空中でへばりつくように何かにぶつかった。まるで、『見えない壁のようなもの』があるかのように

 

「てっ!ンだッ」

 

バキィ!

 

「ガッ…!?」

 

そして、透明な壁に直撃した隙を突いて、宙に浮いた()()()()()()()の握り拳が爆豪の右頬を殴り抜ける。続け様に左拳も追撃を仕掛ける

 

BBOM!

 

しかしそこは並外れた反射神経と戦闘センスを持つ爆豪。即座に爆破でその場を離れ、追っかけてきた切島たちの騎馬に着地する

 

「うお…!爆豪、先走り過ぎだッ!もうちょい俺らも頼れッ!」

「ルセェ!!」

「あーヤダヤダ、注目されてるからって見下してさァ…特にキミは野蛮だね、爆豪クン?」

 

単純な挑発だが無視するのは爆豪的にあり得なかった

 

爆豪が睨みつける先…そこにいたのは、ヒーロー科B組に属する男、物間(ものま) 寧人(ねいと)のチームだった。彼の手首から先には手が存在せず……代わりに物間の周囲でふよふよ浮いていた

 

「「ヴィラン」を撃退して一躍有名人になった気分はどうなのかなァァァァァ────!?…いや待てよ。そう言えば爆豪クン、キミは前から有名人だったねェ…」

 

挑発を続ける物間は…爆豪にとって忘れられない、屈辱の黒歴史を口にする

 

「ヘドロ事件で()()()()()()『爆豪クン』?」

 

プッツ──────ン

 

その時、その場にいた誰もが「決定的な何かが切れる音がした」とのちに言う…

 

「ば、爆豪ッ!?おちつけ……明らかな挑発だ!!キレるんじゃあねえぜ!!」

「…安心しろ…切島ァ…」

 

地獄から響き渡るような底冷えする声。今にも大噴火しそうな怒りを抑えて…爆豪は凶悪ヴィランよりも凶暴に笑う

 

「俺ァ今…………史上最高に冷静だ………!!」

「見えねーぜッ!?その「(ツラ)」はよォ────!」

「どうすんのさ切島!?」

「やるしかねえ!このまま独断で動かれてもハチマキは取り返せねえ…全力で爆豪をサポートするぜ!」

 

芦戸の迷いに、全身を硬化させながら切島は男らしく断言する

 

「足引っ張んなよォォォォッ!切島!しょうゆ顔!黒目!」

「オウ!」

「瀬呂だっつーの!」

「ア・シ・ド・ミ・ナ!」

 

真正面から突っ込む爆豪チーム。それを見た物間は鼻で笑いながら、分裂させてた両手を元に戻した

 

「ヨユウぶっこいてスカしてんじゃあねえクソモブ!」

 

怒りを爆発させ続ける爆豪が振り下ろした右腕

 

ビュルルルルル…

 

それを正面の騎馬である円場(つぶらば) 硬成(こうせい)が『空気凝固』の個性を使い、口から吹いた息で吐息を固めた盾を作る。先ほど爆豪を妨害した透明の壁の正体がこれなのだ

 

BOM!

 

「効かねェ!」

 

ガシャァン!

 

その空気壁を爆破で難なく粉砕し、そのまま物間に爆破を浴びせる

 

ガシャァ!

 

「!?」

 

だが、聞こえてきたのは物間に攻撃が命中した音ではなく、2()()()()()()()()()()()()()

 

しかし円場が作った壁はすでに破壊した。2枚目を作る暇もなかった。ならば何故?

 

ビュルルルルル…

 

その答えは、円場と同じように空気を吐く物間の姿にあった

 

(コイツの能力は手を切り離して操作するモノのハズ……いや、(ちげ)え!ヤローのこの『能力』はッ!)

「お返し…するよ!!」

 

そして息を吐き終えた物間は腕を振り上げ……

 

BBBOM!

 

爆豪に叩きつけながら「掌を爆破」させた

 

「な…!?あ…あり得ねえ…今のは爆豪の「爆破」の個性!コイツはいったい!?」

「なるほどなァ…クソモブ…いや、()()()()()()

 

かろうじて腕で爆破をガードした爆豪は、物間の能力を理解する

 

「『他人の個性をコピーする』…それがテメーの能力か」

「さすがに(わか)っちゃったか。まあここまで見て解ってなかったら、キミは頭もオソマツな不良クンってことになるんだけどね」

 

随所随所で相手を煽ることを忘れない物間だが、みみっちい爆豪はさっき鼻で笑われたことを思い出し、同じように鼻で笑う

 

「テメーの能力、コピーする個性の「持ち主」「触れねえ」と使えねえんだろ。しかも複数同時にも扱えねえ」

「…へぇ…証拠もないのによく言うねェェェ?」

 

それを聞いた物間は嘲笑う。だが、それが演技だというのに爆豪は気づいている

 

「さっき俺の爆破を防いだ時、空気の壁を作ったわけだが…防御するなら切島の個性(硬化)も使っときゃあ、より完璧に防御できた。俺に不意打ちした時も他の個性を併用すりゃあもっとダメージを与えられた。だがわざわざ手を戻してから別の個性を使い始めた…そしてテメェ、俺らの個性で使ったのは………()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

粗暴な印象の爆豪には似ても似つかない論理的な説明。最後まで拝聴した物間は、嫌味ったらしい表情でパチパチと手を鳴らす

 

「スゴイねえ!ヴィランみたいな顔つきとは真反対のしっかりした良い説明!!でも………それを肯定してあげる義理なんてボクにはない。だってキミのポイント、もう取っちゃったし」

「取ったハチマキよりよ〜〜〜〜〜〜〜…テメー(自分)のハチマキの心配でもしろ……」

 

逃げる態勢の物間の騎馬とは対照的に、今からでも突撃しそうな雰囲気の爆豪の騎馬…

 

掌の上でボボボボと火花を散らしながら…爆豪は叫んだ

 

「──ブッ殺し()ってやっからよォッ!!」

 

再び飛びかかってくる爆豪に、物間は挑発的な笑みを浮かべた




本当は「その3」、ジョルノVS轟の騎馬戦の予定だったのですけど、そうなると爆豪の介入がすごく難しくなったんですよね。だから急遽内容を変更して、爆豪VS物間を間に差し込みました


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騎馬の上の攻防 その4

最近めっきり朝が冷え込んできました。さみぃ


「死ィィィねェェェッ!」

 

ヴィランみたいに物騒な絶叫と共に爆豪は物間に襲いかかる

 

「真正面からなんてバカだね!」

 

ビュルルルルル…

 

物間と円場、2人が作った空気壁が進行方向を防ぐ

 

BBOM!

 

「!」

 

だが、それを事前に予測していた爆豪は爆破による衝撃を利用した姿勢制御でアクロバットのように空中を舞い、物間の背後を取る

 

そのまま爆発の慣性を利用したローリングソバットを後頭部に向けて放つ

 

「マヌケはテメ─────だッ!」

 

ガキンッ

 

しかし、爆豪の蹴り抜いた脚に伝わったのは、硬い金属のような感触。鉄哲からコピーした「スティール」による防御だ

 

「ッつ…………!(かて)えだと…!?」

「アッハッハ────!!やっぱりマヌケはキミだねェ──!こっちの手札も知らないのに無策で突っ込むなんて────!」

 

ガシィ!

 

「何!」

「一名様ごあんな〜〜〜……」

 

そして止まった爆豪の脚を、手首から先だけの手がガッチリつかんで勢いよくぶん回す

 

このバラバラになる個性『トカゲのしっぽ切り』の持ち主であり、物間チームの騎馬でもある女子……取陰(とかげ) 切奈(せつな)が起こした行動だった

 

「──いいいいい!!」

「ぐおおおお!!」

 

女にぶん投げられるという屈辱を怒りの咆哮で表現しながら明後日の方向へと飛ばされる爆豪。しかしすぐ爆破で体勢を立て直すと、瀬呂が出してきたテープを使って騎馬まで戻る

 

「ありゃ、場外までふっ飛ばそうとしたのに失敗した」

「いい調子だよ取陰。そのままネチネチ攻め続けてやってくれ」

「攻めるのはいいけど、ネチネチの部分は完全に物間の私怨でしょ」

 

クラスメイトのB組と言えど、物間の凄まじい嫌味っぷりには引くところがあるのだ

 

一方、爆豪は想像以上に攻めあぐねている事実に苛立ちを隠せないでいた

 

(パクリ野郎の能力は『個性のコピー』……本人の戦闘能力までコピーできるわけじゃあねえ。現に『爆破』も俺の方が数段使いこなしてる…だが…)

 

思い出すのは、「空気凝固」を使ってたはずの物間に「スティール」で綺麗にガードされた瞬間

 

(個性の切り替えが異様に(はえ)え…おそらく攻撃のインパクトの瞬間に個性を使う芸当もヤローならできる……)

 

しかし、同時に()()()()()()()

 

(それだけ個性の切り替えが上手いならもっと最適解の個性が使えたはずだ……やらねェっつー場合はこの俺をナメてるって事だからただじゃあ済まさねェが、できねェっつーンなら答えは2つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()か………)

「どっちにしろぶち殺すがよオオオ…………!」

 

敵意を一切隠さず唸りを上げる。だがそんな爆豪の状態を見ても、物間は飄々とした態度を崩さない

 

「おお、怖い怖い、本物のヴィランみたいだ……でもその程度だね。動物園の檻の中の灰色熊(グリズリー)を怖がる子供がいると思う?テレビの中で出てくるヴィランを本気で怖がる子供がいるかい?いなァァァ〜〜いッ!つまりはそういう事なんだよね…」

「なめやがって…」

「違うねッ!考え無しなキミたちが悪いのさッ!」

 

物間は腕を…どういった原理か分からないが、ドリルのように高速回転させながら前に出る。最後のメンバー、回原(かいばら) (せん)のコピーした「旋回」の個性で起こした現象なのだ

 

「黒目ェ!弱めの溶解液を正面ッ!」

「芦戸だってば!」

 

呼びかけに応じた芦戸は掌から『酸』によって生成した溶解液を物間の騎馬にバラまくが、物間と円場と回原によって防がれる

 

物間の個性切り替えの速度では、爆風で攻撃したところで別の個性に変えられてガードされるだけ。そう考えた爆豪は徒手のみで物間に対抗する

 

しかし、いかに爆豪が高い戦闘センスを持っていようと、個性の「ある」と「なし」の差は埋め難いものがあるのだ

 

ギャルギャルギャルッ!

 

「クソがッ!」

「障害物競走だけでは全ての能力を測れない!だからもうひとつ、ふるいにかける競技があるってことにはすぐ予想できた!そこがボクとキミの違いさ…力をセーブしないでバカみたいに目の前のニンジン(ゴール)にひっかかるキミたちが、この予選を勝ち抜けるなんて土台無理な話だったのさァ────!」

 

ビュォォ!

 

「! チィッ!」

 

短い攻防、その間を縫うように取陰の腕が爆豪に狙いを定める。爆豪は条件反射で体を反らして攻撃をかわしたが、その隙が攻め手に欠けていた物間にチャンスを与えてしまった

 

ドグシャァァ!

 

個性によって底上げされた威力のコークスクリューが、生々しい音を立てながら爆豪の体にメリ込む

 

「ガハ……!」

「ここでおまえたちは再起不能(リタイア)だァァァァ!!」

 

そして勝利を確信した物間は、トドメの攻撃を振り下ろした

 

「勝ったッ!」

 

ガクン!

 

しかし直後…物間の視線が一段下がった。まるで階段を踏み外したかのように

 

「えッ」

 

ボギャァァァ!

 

「ぶべぁッ!」

 

そこにすかさず爆豪が肘鉄を物間の顔面に叩き込む

 

「!? え………!? !? !? ブガッ」

「さっきから黙ってきいてりゃあよ〜〜〜〜………てめー…」

 

爆豪が話し始めるが、物間は頭の中が混乱して半分も聞いていない

 

(何があった…!?ボクに何も起きてないということは騎馬か?しかし騎馬狙いはルール違反のはず!そうだとしたら、何故コイツ(爆豪)は反則になってないんだ!?)

「はっ!」

 

血が垂れる鼻を押さえながら下をチラリと見る……そこで物間は気づいた。この状況を引き起こした原因が何かを

 

ジュゥゥゥゥ……

 

(地面がッ!地面に穴が空いて、円場が片脚を踏み外している!)

「わ、悪い物間!いったい、いつこんな穴を…!」

(地面が溶け落ちている…!さっきやたらめったらに酸をばら撒いたのは、ヤケになったからじゃあない!!地面に穴を作るためだったんだ…ボクたちの騎馬が足を踏み外すために!そして逃げられなくするために!)

 

そう、すでに物間チームの周囲には囲むように穴がぽっかり空いており、脱出できない状況が出来上がっていたのだ

 

「力をセーブするだァ?ナメプ野郎みてーなこと言いやがってよォパクリ野郎………」

「3人とも!急いでコイツから離れ…」

 

シュバァァ──────ガッシィ!

 

「うっ!」

 

逃げようとするが、突如伸びてきたセロハンテープに物間の全身が拘束される。そして物間がストックしている個性では、この拘束から抜け出す手段は……皆無だ

 

「本気で1位ィ狙わねえ野郎がよ───…」

「や…やばいッ!」

 

そして目の前までやってきた爆豪の姿に、青ざめた物間は『スティール』で鋼鉄になる

 

だが………

 

(はな)から俺()に勝てるわけねェだろうがよオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 

「オラララララァァ───!!!」

 

 

 

BBBBBOOOOOM!!

 

「ぷぎょろばああああああッ!!?」

 

爆豪の苛烈な攻撃が空中に放り出された物間を襲い、その攻撃自体に耐えられても衝撃そのものが精神的に耐えられない

 

物間は即「スティール」が解除され、生身でラッシュと共に繰り出される爆破の嵐を受けた

 

ドグシャアッ!

 

「物間ァ───────!?」

 

2つの騎馬がすれ違った時には決着がつき、地面に叩き落とされた騎手の姿に円場が絶叫した

 

そして爆豪はぶちのめしたついでにブン奪った2つのハチマキを首にかけると、1位のジョルノを倒すために、振り返らずに騎馬を進めた

 

 

 

爆豪チーム──665Pと240Pを獲得。現在2位

物間チーム──再起不能(リタイア)



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騎馬の上の攻防 その5

遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。今年もこのジャギィの小説をよろしくお願いしますね


ビシリ!ビシリ!ビシリ!

 

ジョルノの騎馬の真下にある植物のクッションに恐るべき氷結が迫る

 

ツタは表面に霜が降り、植物の芯まで温度を奪い、細く萎びた白い何かに変貌していく

 

『ゴールド・エクスペリエンス』ッ!」

 

凍結が本体(塩崎)に届く前に、ジョルノは手刀でツタの伸びた部分を切り離し、生命力が無くなり始めているツタから騎馬を離す

 

「なんつースピードで凍ってんだよ………ハァ──ハァ──……い、息が白い。俺たちの周りだけ真冬みてーに(さみ)いぞ…」

 

「スティール」を解除しないまま、ジワジワと白く染まっていく地面を踏みしめながら鉄哲は呟く

 

「俺は金属化すれば熱や冷気には強くなるから良いけどよォ………そっちは大丈夫なのか…?」

「いえ……ゴールド・Eが生み出す生命も『ツタ』も、ヤツ((轟))の氷とは極端に相性が悪い…」

 

チラリと騎馬の後方を見る

 

「そして…」

「ハァー………ハァー、ハァ、ハァ…ゲホッ」

 

髪であるちぎれたツタの先端が白く凍えている塩崎が、寒さに震えながら咳き込む

 

彼女()が戦闘不能寸前まで追い詰められているのが最悪なところだ。ただでさえ茨は大質量のツタの操作で消耗しています………ツタの大部分を凍らされた上、()()()()()()()()()()()()()()で周囲の空気を「冷却」された…今の彼女は「咳ぜん息」と似た状態になっています」

「咳ぜん息」?」

「急激に冷え込んだ空気を体内に取り込んだ時、気道が(せば)まることで起こるぜん息の事です…俗に言う「エアコン咳」ってやつですよ」

 

背後から聞こえる、ところどころ途切れる息。今の塩崎は戦力として数えられないほど消耗していた

 

「轟さん!絶縁体のシート、完成しましたッ!」

「絶縁体のシート……………!」

 

正面に陣取っていた轟チームの騎馬は大きなシートを覆いかぶっていた……唯一「上鳴」だけを除いて

 

「徹鐡!足元の『イバラのツタ』を!蹴り上げるんだ!!」

 

何をしてくるか察したジョルノは、即座に鉄哲に指示を出す

 

「シーツみたいなのをかぶりやがった…!何をする気だヤロ────!!」

「『前方に蹴り上げる』んですッ徹鐵!『ツタ』が完全に凍り切っていない今のうちにッ!」

 

急かすような言葉に反応して、表皮が白くなっている植物に鋼鉄のシュートをブチこむ。砂煙と植物が空に舞う

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 

次々に宙に飛ぶツタの塊にゴールド・Eのラッシュを打ち込み、生命力を与える

 

グ グ グ……

 

だが、そのツタの塊から新たに生まれる生命の成長は著しく遅い

 

「ダ…ダメだ!空中だろうが周辺が冷え切ってることに変わりはねェンだぜ!?…間に合わない!」

「喰らえッ!!」

 

バリ バリ バリ!

 

直後、轟チームを中心に電撃が(ほとばし)り、周辺の騎馬全てに襲いかかる

 

ビシビシビシッ!

 

さらに電撃を食らって硬直している瞬間を狙っての凍結。電撃を食らった全てのチームが動きを封じられる。砂煙で影しか見えないが、確かに6本の脚を捕らえた

 

「これでジョバァーナのポイントを…」

 

だがその瞬間、轟の左側面から黄金の人型が突如姿を現す。紛れもなくそれは『ゴールド・E』だ

 

「なにッ!?」

「うェ〜〜い…」

 

轟の左後ろの騎馬は『帯電』を全開で使ったことで頭がショートし、一時的にアホになっている上鳴…防御は期待できない

 

(左側面…俺の氷の防御が遅れ、かつ個性の反動で動けない上鳴がいる側を狙って…!捨て身でハチマキを取りに来たのか!!マ、マズい!氷の防御が…ま、間に合わ……)

「無駄ァァ!」

 

鬼気迫る表情のゴールド・Eを見て、轟の思考が加速する。その時、脳裏に映ったのは………

 

 

 

涙を流す母さんと、あきれた表情でコチラを見下ろすクソ親父(エンデヴァー)の姿

 

 

 

ボワァァ!

 

するとゴールド・Eが殴り抜く直前、轟の()()()()()()()火炎がゴールド・Eを包む

 

「ぐああああ!!」

「ジョ、ジョルノ!?」

「やった!ダメージを与えましたわ!チャンスです轟さん!」

 

だが、八百万の言葉の返事が返ってこない

 

「轟さん?」

 

思わず轟の顔を八百万は覗き込み…そして驚く

 

「ハァー ハァー ハァー」

 

なぜなら、反撃をした轟の方が息を荒くしていたからだ。焦点の合っていない目で、自身の左手を見つめる

 

「轟さん!?どうしたのですか、轟さん!!」

 

異常に気付いた八百万は大声で呼びかけるが、轟は返事はおろか、反応すらしない

 

「八百万くん、それよりも周りに注意するんだ!!常に冷静な轟くんのことだ、すぐ元に戻るはずッ!ボクたちはそれまでにこのチャンスをものにする準備を…」

 

そこまで口にして、飯田は違和感に気づく

 

(待て…なにか変だ………おかしい!なぜ「影」の脚があんなに『細い』!?それにジョルノくんたちの騎馬が妙に高く見えるような…)

 

人の脚として見るには細い影。脚というより、まるで()()()()()()()貧弱さ…

 

「…き…『木の枝』……だと…?」

 

思わず出した例え………もし、それが『例え』でないのだとしたら?

 

「ま……まさかッ」

 

そして土煙が完全に晴れた先には……

 

「…徹鐡、作戦は分かっていますね…君には…負担を強いる事になりますが…」

「おう、ジョルノ…俺は『覚悟』を決めたぜ!!」

 

───1本の横倒しになった木の上で乱雑に伸びた枝のクッションに乗り、全体をツタで隙間なく、そして分厚く被ったジョルノの騎馬があった。その木を支える6本の枝は氷漬けになっている

 

「やっ…やられた!氷漬けにしたのは騎馬の脚じゃあない!ゴールド・Eで生み出した植物だ!」

「なぜ植物が…!?轟さんの氷結で、ジョバァーナさんは個性が使えないはず…!」

「ぼくの『ゴールド・E』」

 

動揺する2人にジョルノは語る

 

「君の言うように「適温」がなければ生命を生み出す事も成長させる事もできない…しかし、言い換えれば適温であればどんな生命も生み出せるということ」

 

そして2人は気づく。ツタのシェルターの中から見える、発目の手にある、背負ってたはずのジェットパックの噴出口が

 

「『サポートアイテム』ッ!」

「火力が高いのは本来考えものだが、今回はイイ感じに利用できましたね。周囲を温めることができました。もっとも…」

 

そう言うジョルノは轟を見る。未だ動揺してる様子が見て取れる轟は、荒い呼吸を続けながらジョルノを睨みつける。まるで、ナワバリを荒らされて怒り狂う、野生動物のように

 

「君のおかげで、ぼくは体を温める必要なんかなかったわけだが」

「ハァ ハァ ジョルノ…ジョバァーナァ……!!」

 

制限時間は残り1分

 

最後の攻防が始まる



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騎馬の上の攻防 その6

勢いに乗ってもう1本です。もう日付跨いでますけど


『さァ!残り時間が1分を切るぞッ!!1000万Pは未だジョルノ・ジョバァーナの手にあり!この競技、いったい誰が頂点に立つのか─────!?』

()()()()()()()()…いきますッ徹鐡!!」

「おおお!!」

 

残り時間を聞いた2人は勝負に出るべく行動を開始する

 

鉄哲の全身が『鋼鉄』に変わると、ジョルノが鉄哲の肩の上に乗り…

 

「『ゴールド…エクスペリエンスッ』!!」

 

ドン!

 

───鉄哲の背にゴールド・Eの拳を()()()()()

 

「何ッ…!?」

 

味方を攻撃するという異常な行動に全員が驚く

 

グググググ…

 

だが…その驚愕も…

 

「ぐううおおおおおおおっ!!?」

 

メキメキ…メメキィ…!

 

金属の皮膚から樹木を生やす鉄哲の姿によって塗り替えられる。伸びて、束ねて、巨大に成長していく樹木の上に、ジョルノの姿が見える

 

『なんだァァァ!?「ゴールド・E」に殴られた鉄哲の全身から木が生えてきたァ!!どーいう状況だコレェ!!』

『そうか…これがジョバァーナの、最後の策。『人間』のまま全身を『無機物』に変えられる鉄哲に生命力を与え………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ちなみに峰田がすでに1人の騎馬に複数の騎手を乗せるという作戦を実行できている以上、1人の騎馬に1人だけ乗るのは当然まかり通る事…』

『なんでもアリな“個性”だな!つーかどこまで伸びてんだ──!?』

『世界には100mを超える木がいくつもある…『ハイペリオン』や『ロックフェラー』とかな…』

 

皮膚が別の物質に変わり続ける以上、壮絶な痛みが鉄哲自身を襲う事になる。それを必死に歯を食いしばりながら耐える

 

「させねえ…!!」

 

鉄哲の意識を奪えば「スティール」が解除されて木の成長も止まるわけだが、「騎馬崩し目的の攻撃」はルール上禁止にされている。だから木そのものの成長を止めようと轟は動く

 

「させません!」

「!? ツタが…!」

 

樹木の根本に氷を辿り着かせないよう、塩崎が髪のツタを束ねて時間を稼ぐ。その間にもどんどん木は成長する

 

「邪魔だ…!!」

「ああ!!」

 

思い通りにいかない事に轟は苛立ち、力任せに凍結箇所を増やす。わずかな時間でツタを乗り越え、樹木の表面に辿り着く

 

だが…

 

「こ、凍らせているのに……成長が止まらねえだと…!?」

 

すでに30mは超えた樹木にとって、多少の凍結は些細なダメージでしかなかった。ならばとさらに凍らせようと個性を使用するが、右半身に襲う寒気がそれを許さなかった

 

「右」が冷えてきたッ!許容量の限界が…!冷えれば冷えるほど、「半冷」の能力が使いづらくなる!冷えた「右」をどうにかする方法は…)

 

思い浮かぶのは、己の左半身から感じた熱

 

(ありえねえ!それだけは断じてッ!だがッ…「(コレ)」を全部冷やす事はまずできねえ…すでに奴を追いかける手段はない…俺は…)

「轟くんッ!!」

 

その時、自分にかけられた飯田の声に轟は正気を取り戻す

 

「聞いてほしい…「とっておき」がボクにはある!しかしジョルノくんがいるところまで登るには、残念だがボクだけじゃあ登る事ができない……轟くん、氷で()()()()を作ってほしい」

 

一方、50mの木の頂点…丸太の切り株のようになっている場所で、ジョルノは玉のような汗を浮かべながら警戒する

 

「徹鐡の負担を考えれば50m辺りが限界…それに『ゴールド・E』の生命エネルギーもほとんどない状態…ここからは、言葉通り真正面からの戦いってわけだ」

 

そんな高層ビルに等しい高さまで登ってくる人間はそういない

 

だが、もし、いるとすれば…

 

BBBOM!

 

それは余程の天才か、勝算があるか、勝利に凄まじい執着がある者だけである

 

「俺から逃げられると思ってんのかァ!!コロネ野郎!!」

 

1番先に上がってきたのは爆豪であった。鬼のような表情の、しかしジョルノとは比較にならぬほど尋常ではない汗の量から、かなり『爆破』の能力を使ったのだと想像できる

 

「死ねッ!!」

「くッ!」

 

しかし、そうとは思えぬほど機敏な動きで木に着地し、爆破でジョルノを吹っ飛ばそうとする。常人離れしたタフネスである

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 

BOM!

 

そして同じく、常人離れしたゴールド・Eのラッシュが爆豪に迫るが、爆破の反動で側面に回り込みカウンター

 

「シャァ!」

「ぐぅ!」

 

回し蹴りを生身でガードするも、その重さに思わず姿勢がグラつく

 

「ウオラァァァ!!」

「うおおお!!」

 

続け様に爆破のラッシュが降り注ぐ。『ゴールド・E』でガードするもジョルノは徐々に後退り…

 

ガクン

 

木の幹から踏み外した

 

ガシッ

 

ギリギリでしがみつくも、そばには悪魔のような笑みを浮かべる爆豪の姿

 

「俺の勝ちだァーッ!取ったぜ!!」

 

容赦なく手をジョルノのハチマキが巻かれた頭部に伸ばし…

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

「なッ…!?」

 

バキ バキ ベギィ!

 

だが直後にジョルノは『ゴールド・E』で木を殴り、即席の穴を作る。そしてすぐその穴に逃げ込む事で爆豪の手から逃れられた

 

ベキ バキィ ゴギ!

 

さらに響く破砕音

 

「テメェェェェ!!逃げてンじゃあねェクソコロネ!!」

 

それを聞いた爆豪は怒りながら木の穴に入り込み

 

 

 

視界に映ったのは、脚で木を踏み砕くジョルノと迎え撃つ姿勢のゴールド・エクスペリエンス

 

 

「何ィィィィィィ!!?」

「無駄ア!!!」

 

 

バキャァ!!

 

「ぶぐえッ!」

 

狭い穴の中では回避もできず、咄嗟のガードも間に合わず顔面に渾身のパンチをぶち込まれた爆豪は、混濁する意識の中、落下していった

 

「ハァ ハァ 危なかった…爆豪に大きな消耗がなければ逆に反撃を受けていたのはぼくだった…」

 

ビキ…ビキキィ…

 

その時、異音がジョルノの耳に入る

 

「…?この音はなんだ?外から聞こえた…しかし地上から50mも離れている…なぜ聞こえてくる…」

 

ピキキィ…ビシッビシッ!

 

先ほどより大きく聞こえる音。さらに触れた木の内部が徐々に冷たくなっているのだ

 

「また聞こえてきた…しかも心なしか木が冷えてきているような…ま、まさかッ!」

 

ジョルノは穴から乗り出して地上を見下ろす

 

「なっ!」

 

ビシィ!ビシィ!ビシィ!

 

DRRRRRRR(ドルルルルルルル)!!

 

「何ィ───────!!!」

「トルクオーバー…レシプロバースト!!」

 

そこには、氷の斜面を勢いよく爆走して駆け上がる、騎馬と騎手をロープで縛って固定した轟たちの姿があった




()()がれ 委員長(いいんちょう)!!!



チョーシにのってジャンプの煽り文句みたいのまで書いてしまった…完全に深夜テンションだコレ


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騎馬の上の攻防 その7

朝が寒くてちゅらい


「こ…氷で「坂」「作った」のか……しかも勾配50°以上はある壁と言って過言でもない坂を…その上をまるで『下り坂』を下るようなスピードで…」

 

DRRRRRRR(ドルルルルルルル)!!

 

「駆け上がってきているッ!!」

 

ジョルノが高い場所に逃れようとしたのは、追撃してくる敵を限定させる為だ。仮に道を作ったとしても、樹木の周りをグルグル回る螺旋構造の階段でなければ激し過ぎる傾斜で走る事すらままならない…そう考えていた…

 

「『エンジン』にこれほどのパワーがあったとはッ!最短距離で突っ切ってくるぞ!」

(木の中へ逃げる事はできない…轟の氷結で樹木ごと拘束されればポイントは確実に取られる!!ならばっ…!!)

 

ジョルノは穴から天辺の木の幹まで移動して、凄まじいスピードで上ってくる轟たちを見下ろす。それを確認した轟が呟く

 

「真正面から迎え撃つ気らしいな…」

「説明した通り!レシプロバーストは無理やり「エンジン」の回転を上げて普段以上のパワーを得る捨て身の技…10秒しか持たない上、脚がオーバーヒートして当分「エンジン」が使えなくなる…!!」

 

脚部のマフラーから出る煙に黒煙が混じる

 

「残り3秒ッ!!必ず取れよ轟くんッ!」

「ああ…!!」

 

静かな、しかし「取ってやるッ!」という確かな気持ちがにじみ出た返事をすると、轟はジョルノの動きに注視する

 

(あと3秒…)

 

距離が近づく

 

(2秒…)

 

ジョルノは微動だにしない

 

(1ッ)

 

ドォン!

 

「ハッ」

 

その時、ジョルノがゴールド・Eを呼び出して……樹木の幹の端をパンチで砕く

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 

木屑が飛び、木粉が煙のように舞い散る

 

(煙幕か!?しかし距離は十分近づいている!隠れていようがおまえの『位置』は完璧にわかるッ!)

()()()っ!ジョバァーナ─────!!」

 

雄叫びと共に右手が頭部に伸び…

 

カッ!

 

瞬間、まばゆい光が轟たちの目に焼きつく

 

「うおあ……!?」

 

条件反射で目をつぶってしまった轟チーム

 

それが、勝負の分かれ目となった

 

「無駄───ッ!!」

「がッ…!」

 

最小限のコンパクトな動きから放たれた一撃が轟の右頬をすれ違いざまに殴り抜けた

 

殴られた痛みに呻き声をあげながらも、轟はうっすらと開いた目で光の正体を理解した

 

『日光』…!()()()()()のは煙幕にする為じゃあねえ…照射を遮っていた遮蔽物を除いて、俺たちに日光を浴びせる為…そしてまんまと俺は隙を見せてしまった…)

「轟さん!?」

 

八百万の驚く声が空に響く

 

しかし、騎馬の加速を止める術はなく、引き返すこともできない…最後の攻撃は失敗に終わった

 

バン!

 

「創造」であらかじめ作られていたパラシュートが開き、樹木を飛び越した轟チームはゆっくり落下していく

 

(何故だ…何故俺は…ジョバァーナに勝てねえ…)

 

轟の心を支配したのは、父親に勝てない時の憎悪と怒りではなく、やるせない敗北感だけだった…

 

一方、ジョルノも、度重なる連戦により大きな消耗を強いられていた

 

「ハァー ハァー …まだだ……!ぼくが「同じ立場」ならば、このタイミングこそが最良だ…!ぼくが1番消耗していて、ハチマキを取り返す時間がない、最初で最後の今こそが…」

 

ガシッ

 

すると樹木の幹に、影のような巨大な手がひっかけられ…()()()()()は現れた

 

「───君たちの狙った好機っ!!」

 

麗日を除いた3人を『無重力』で浮かして、『黒影(ダークシャドウ)』でロッククライミングの如く登ってきた…緑谷出久のチームが!

 

 

「ジョルノ・ジョバァーナ───ッ!!」

 

 

すると心操がジョルノに向かって大声で叫んだ。「洗脳」の“個性”をかけるために

 

ジョルノに対する挑発の言葉はいくつも考えていた。ジョルノがDIOの息子である(相澤とミッドナイトの反応からそう判断している)事やヴィランの子供がヒーローを目指す事、奇妙な髪型の事も含めてだ

 

だが、そのどれを口にしても、確固たる意志が強く、数少ない判断材料で「洗脳」を見破るかもしれない知能を持ったジョルノが、口を割るはずがないと心操は奇妙な確信をしていた

 

『返事』をさせりゃあ良い!この、見ててムカつくほどまっすぐなコイツに『返事』をさせる言葉は…!)

 

ぐるぐると頭の中がかき回る錯覚に陥りながら…心操は大きく喉を震わせる

 

 

「俺と勝負しろオオ───ッ!!」

 

 

それは、味方である緑谷たちもすくみ上がるほど、積もり積もった感情のこもった叫びであった

 

「いいだろう…ヒーロー科も普通科も関係ない…」

 

そして、その言葉に…

 

「倒させてもらうッ!」

 

ジョルノは応えた

 

ドクン

 

「! 止まった!「成功」したッ!『ハチマキを外して、緑谷に渡せ』!!」

「今だ…常闇くん!」

「投げろ、 黒影(ダークシャドウ)ゥゥゥゥゥ!!」

『アイヨ!』

 

騎馬から無重力状態の緑谷を「黒影(ダークシャドウ)」で投げ飛ばす。その先には、頭のハチマキを外して緑谷に手渡そうとする虚な目をしたジョルノがいる

 

(いける!!取れる!!)

 

ハチマキを奪うべく緑谷は左手を伸ばし

 

「!!」

「な…!?」

「バカなッ!」

「ウソ…!」

 

ドオオン!

 

「何イイイイ──────!!?」

 

直後、心操の絶叫が木霊した

 

なぜなら、動けないはずのジョルノの隣に、緑谷に殴りかかろうとするゴールド・エクスペリエンスが現れたのだから

 

(ダメだ…!緑谷は直進している!緑谷に「ゴールド・E」の拳はかわせない!)

(俺の「洗脳」が効かない奴が…この世にいるなんて…)

(デクくん!!)

 

各々が作戦の失敗を悟る…だが、緑谷だけはまだ諦めていなかった

 

(自力で「洗脳」を解除した!?イヤ違う!!入学してから今日まで見てきた、『ゴールド・E』の発動に肉体的キッカケはいらない…「精神力」で動かすんだッ!でもあんな、頭の中にモヤがかかって、体1つ動かせない状態で能力を使うなんて、なんて精神力なんだ…!!)

 

弓を撃つように右腕を引き絞り、テレフォンパンチが目にも見えぬ速さで放たれる

 

「ウオオオオオオオオオ!!」

 

緑谷も「O・F・A(ワン・フォー・オール)」で強化した右腕を同じように顔の横まで引き、ゴールド・Eに狙いをつける

 

「無駄ァ!!」

 

顔を横に倒すも『ゴールド・E』の拳は正確に狙いを定め

 

カッ!

 

…その時、顔を傾けていたことで隠れていた太陽の光が、ゴールド・Eを通して相手を見ていたジョルノの視界を白く塗り潰す

 

ヂッ

 

 

 

「オラァ!!!」

 

 

 

バキャァ!

 

「ガ…!?」

 

『ゴールド・E』のパンチは緑谷のハチマキにかすり、逆にカウンターの一撃が命中し、ダメージのフィードバックを受けたジョルノの意識を一瞬だけ刈り取る

 

先ほど轟の攻撃を凌ぐことができた日光…それが皮肉にも『ゴールド・E』の拳が外れる結果を生んだのであった

 

ガッ

 

緑谷が1位のハチマキを掴むと、常闇が黒影(ダークシャドウ)を伸ばして即座に回収

 

「いくよ!」

 

麗日が指先の肉球を逆の手にもある同じ指の肉球同士触れる事で個性を解除

 

ギュン!

 

『ウオオオアアアアア〜〜〜〜〜〜〜!!!』

 

緑谷チームは上空50mから落下した

 

ピトッ フワァ

 

そして樹木を半分以上落ちたところで再び肉球で3人に触れ、無重力状態にした事で、4人がつぶれたザクロのように地面に落ちる事を防ぐのだった

 

「し、心臓に悪い…!」

「作戦を立てたのはおまえだぞ緑谷…!」

「うぷ…個性の反動が…」

黒影(ダークシャドウ)、麗日を刺激しないように降りていけ…」

『アイヨ』

 

緑谷は下がっていく景色を横目に、1000万Pのハチマキを握った感触に不思議な気持ちが湧く

 

(なんで勝てたのか僕でも不思議だけど…ジョルノくんに勝ったんだ…「僕が来た!」って、見せられたよ、オールマイト…!)

「なあ、緑谷…」

 

そんな感慨に浸っていると、唐突に心操が話しかけてくる

 

「今気づいたんだが…俺らのハチマキは?」

「え…」

 

指摘された緑谷は頭に手を当てる。そこにはたしかにつけていたはずの緑谷チームのハチマキがなかった

 

思わず緑谷は空を見上げる

 

「も…もしかして!」

 

そして、ハチマキを取られたジョルノは樹木の頂点で座り込み、反省していた

 

「完全にしてやられた…か。返事をするだけで相手を操る『個性』、緑谷くんの作戦…徹鐡たちには、本当に申し訳ないことをしてしまった…」

 

そんなジョルノの元に、1匹の白い蝶が飛んでくる。その蝶はジョルノの掌の上に乗るとうごめき…

 

「あとで彼らに謝ろう…」

『しゅうりょ───おッ!!ラストのド派手な戦いを制し、1000万Pを獲得したのは……いったい誰が予想できたのか!?』

 

グニュゥゥ…

 

『緑谷出久率いる、緑谷チ─────ムッ!!』

「心置きなく、戦えるように」

 

──最後の攻防でかすった時に生命力を流していた緑谷のハチマキが、蝶々結びの状態で戻った

 

 

 

ジョルノチーム──4位通過。持ちポイントは580P

緑谷チーム──1位通過。持ちポイントは10000355P

爆豪チーム──2位通過。持ちポイントは905P

轟チーム──3位通過。持ちポイントは590P




これにて騎馬戦終了!!いやー長かった。マジに長かった。その3くらいで終わらせようとしてたのに倍以上話数が増えたもの…

トーナメントが待ち遠しいですけど、閑話もいくつか挟む予定ですので…それでは、また次回!


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ガッツの「G」

3人分の仕事量を1人でさばいてる最中にやってくるセール…素直に過労死するかと思いました


騎馬戦が終わったその後…………

 

昼休憩に入った生徒たちは午後の競技に…そして、何より勝ち上がった生徒たちは、最後のトーナメントの戦いに備えて、食事をとっていた

 

「菜食主義ってよォ〜〜〜……あるよな」

 

パクパク ムシャムシャ ズズズ

 

そして生徒たちの中で、青椒肉絲(チンジャオロース)を口に運ぶ瀬呂がそう言うと、同席していた爆豪、切島、上鳴の3人が耳を傾ける

 

「あれってよォーッ、チーズとかはさあ食っちゃっていいわけ?」

「ああ?」

 

マグマのようにグツグツ煮え滾ってる麻婆(マーボー)豆腐を食べる手を止めて、ケッコー不機嫌そうな爆豪は軽く舌打ちをした

 

「そいつはダメだろーな。牛乳関係とか卵は牛とかニワトリのもんだからな。クリームとか使ってるケーキもきっとダメだろうよ」

「へえええ〜〜〜!!ケーキもダメ〜〜〜?でも、その方が体の調子いいのかなあ〜〜〜?」

 

それでもなんだかんだ答えるあたり、出会った時より少し丸くなったもんだと切島は酢豚を口にしながら思った

 

上鳴は中華スープをすすりながら続けて別の質問を投げかける

 

「じゃあさ!じゃあさ、やつら靴とかさ、ハンドバッグはどうしてんの?革でできてるじゃんよォ」

「そりゃ、当然動物がカワイソーって菜食ならよォ、スニーカーはいてリュックとか背負ってんだろーがよ」

「うっへェー。そりゃ、気合入ってるわッ!バーさんになってもバスケの選手みてーなカッコするのかあ〜。きっとレストラン入れてくんねーぞ」

 

食事と並行して雑談が続く。そして、上鳴がエビチリを食べようとスプーンですくった時、偶然後ろを通ろうとした生徒とぶつかり、エビチリソースが生徒の体操服にひっかかった

 

体操服が汚れた生徒…物間はその赤いシミを見ると、詐欺師がカモを見つけたような悪い笑みを浮かべ、突如大声で騒ぎ始める

 

「……アア〜〜〜〜ッ!!ちょっとちょっとォ、何してくれたのかなア〜〜〜!?」

「うん?」

 

急に話しかけられて疑問符を浮かべる上鳴だが、お構いなしに物間は肩をつかみながらまくし立てる

 

「どうしてくれんのかなキミィ!午後にも競技があるのに、ボクに目立ったシミついた服で出ろって言うのォ!?おっとッよく見たら目立ちたがりのA組じゃないか!キミがこの服着たらどうだい!?」

 

ドグシャア!

 

「ぶぐァ!」

 

だが上鳴は、手に持っていたガラスのコップで物間のアゴをアッパーの形で痛打した。混乱する物間をしゃがみ姿勢で見下ろしながら上鳴は言う

 

「敵だな、てめー」

「なに!」

 

その言葉に反応する瀬呂

 

「敵か!敵かッ!」

「敵かよッ!敵かッ!」

 

ゲシッ!ゲシッ!ゲシッ!

 

そのまま2人は床に倒れている(「物間」)に蹴りで袋叩きにする

 

「………」

 

爆豪はそれを無関心そうに眺めながら飲み物を飲む

 

グビッ

 

「おらっ!おらっ!おらっ!」

 

そして流れるような動作でリンチに参加する爆豪。ちなみに3人の中で彼が1番強く蹴っていた

 

物間が暴力の嵐にさらされる中、爆豪が途中で動きをピタッと止める

 

「おい待て、テメェら、こいつは敵じゃあねェ。気絶してやがる…ただのB組の野郎だぜ、こりゃ」

 

なお、爆豪は最初から気付いてた上で物間に蹴りを入れていた事をここに明記しておく

 

「え、本当かよ!ヤベーよ俺、どうしよう!?」

「う〜む、たしかにこのシミは取りにくいな。白い服に一滴の赤いシミは目立つんだよなぁ〜〜〜〜」

 

シミがついた体操服を見ながら瀬呂はそう言うが、リンチの結果付着した物間の血の方が圧倒的に目立っている

 

「幸いコイツは気絶している。ヤオモモ(八百万)に服(つく)ってもらって着替えさせりゃあバレねえぜ」

「おお!」

 

そう言いながら物間を素っ裸にしていく瀬呂の姿に上鳴は妙案だと破顔する

 

「ついでだ。こいつサンドバッグにして次の競技のウォーミングアップでもしようぜ」

「ははは、そりゃあいいな」

「おい。そのくらいにしとけよおまえら」

 

さすがにそれ以上はやり過ぎだと切島が3人を止める。ちなみに途中まで見逃していたのは、切島も物間の言いがかりには思うところがあったからである

 

 

『お〜う、待たせたなァ…アレ?ジョルノはいねーのか?』

『ジョルノさんなら先ほど、轟さんに呼ばれてましたよ。緑谷さんも一緒でしたが…』

『轟ィ〜〜〜〜?俺、なーんかアイツ気に食わねェんだよな。態度がいけスカねーぜッ』

 

 

そんな時、聞こえてきたどうでもいいはずの会話が、爆豪の耳にこびりついた

 

 

 

「ワリィな。急に呼び出しちまって」

「う、ううん、大丈夫だよ轟くん。僕もう食べ終わっていたし…」

「ぼくも問題はありませんが…なぜぼくたちを呼んだのか?まずはそれを聞かせてもらいます」

 

同時刻、ジョルノは緑谷、轟の2人と会場の薄暗い通路にいた。ジョルノの質問に轟は頷く

 

「話がしたかった。聞きてえ事があってな…緑谷」

「ッ…な、なに?」

「単刀直入に聞く。おまえ、オールマイトの隠し子か何かか?」

 

ドギィ!

 

オールマイトとの関係性を問われた緑谷は心臓がバクバクになる

 

なぜなら、緑谷はオールマイトから『ワン・フォー・オール』を受け継いだ()()()()()()()()()」。はっきり言って、オールマイトの隠し子だった方がマシに思えるほど、決してバレてはいけない『秘密』なのだから

 

「ちッ違うよ!僕がオールマイトの隠し子なんて、そんな…!」

「…そうか……………」

 

納得していない疑わしい視線だったが、轟はそれ以上追求するのをやめるとジョルノの方を向く

 

「ジョバァーナ、おまえはDIOの息子なんだろう…人前で堂々と宣言したんだ。違うとは言わせねえ」

「…ええ。たしかにぼくの父はディオ・ブランドーです…聞きたい事とはこの「確認」ですか?」

 

言外に「これで終わりではないのだろう」と言う

 

「俺の父親が「誰なのか」……おまえたちは知っているはずだ」

「…ヒーローランキングNo.2のフレイムヒーロー『エンデヴァー』…」

「そうだ。『オールマイト』と『DIO』…どちらも親父が超えようと、倒そうとしてたどり着けなかった存在…そんな2人と浅からぬ関係があるおまえたちだからこそ話そうと思った」

 

轟は少しの間、目を閉じ、そして語り始める

 

「俺は、オールマイトを超えるという親父の野望の為に、産まされた存在なんだ」



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焦凍 孤独の青春

寒さがまだまだ続きますが私は元気です


轟炎司こと『エンデヴァー』という男は上昇志向の塊である。常にNo. 1を目指し、そのための努力・研鑽は一切厭わず、年間の事件・事故の解決数もトップ。まさにNo. 1ヒーローにふさわしい実績を持つ者と言えただろう…

 

『オールマイト』という存在がなければ──

 

エンデヴァーはいくら努力を積み重ねても超えることができぬ壁の存在に絶望した。彼は…ある1つの結論に思い至った。「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」という結論に……………

 

『個性は親から子に遺伝して、引き継がれていくもの。エンデヴァー自身の能力「ヘルフレイム」の弱点を補う個性を持った女性と子を成せば、「ヘルフレイム」を上回る能力を持った子供が生まれる…』…この考えは「個性婚」と言われ、いわゆる血筋と能力に固執する前時代的な思想であった……しかしエンデヴァーの執念は凄まじかった。(れい)と呼ばれる女性の個性を得るために、彼女の親族を自身の名声と金で丸め込み、冷と婚約した

 

冷の意思はあったのか?それは当人以外には分からないことだ…

 

そしてエンデヴァーと冷の間に4人の子供が生まれた。そして4番目に生まれた子供こそが、エンデヴァーの望む能力を宿した『轟焦凍』であった

 

『兄さんたちなど見てどうする?見るな。あれ(兄と姉)はおまえとは違う世界の人間だ』

 

常にエンデヴァーはそう言い聞かせ、胃液を吐くほど壮絶な教育を幼い焦凍に対して行った

 

『もう5つだ!邪魔するな!!』

 

冷は必死に止めたが、エンデヴァーはその度に殴って黙らせる。子供が父親に恐怖を抱くのにそう時間はかからなかった…

 

 

そんないびつな日常が永遠に続くものなのか……?焦凍は、運命の『その日』をきっかけに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

その日、焦凍はリビングで祖母と電話している冷の姿を見つける

 

『お母さん…私ヘンなの…もうダメ。子供たちが…日に日にあの人に似てくる…焦凍の…あの子の左側が、時折とても醜く思えてしまうの。私…もう育てられない。()()()()()()()()()…!』

 

それは焦凍の知る儚さの中に美しさと優しさがある母親ではなく、今にも崩れ落ちそうなほど追い詰められた幽鬼のような母親であった

 

そして焦凍は、不幸にも扉の隙間から『顔の左側』だけをのぞかせて彼女に声をかけた

 

『お…母さん…?』

『───』

 

焦凍の左側を見た事で精神に限界が訪れた冷は…

 

 

バシャアアア!

 

 

 

手元にあったやかんの熱湯を、焦凍の左側に浴びせたのだ!!

 

 

 

冷は精神疾患を患ったとして強制的に入院することになった…

 

『焦凍にとって大事なこの時期に余計な事を…』

(よけい…?お父さんがお母さんをいじめてたからあんなことになったのに…『おまえ』のせいでお母さんが…!)

 

この日、母を苦しめた父に復讐することを、焦凍は5歳という若さで強く決意したのだ

 

恨みというエネルギーは時にすさまじいパワーを生み出すものだが、それを、10年間絶えず燃やし続けた執念が、皮肉にもエンデヴァーが望む優秀な力を(はぐく)んでしまったと言えよう…

 

轟焦凍にとって、自らの『個性』は、父親からもたらされた忌々しい呪い(『炎』)であると同時に、呪いに立ち向かう為の(『氷』)でもあるのだ

 

 

 

「…これが、俺の「過去」であり、誰が相手だろうと負けられない理由だ…」

「……………」

「……」

「…記憶の中の母さんは…いつも泣いてる。あんな男のくだらない「夢」の為に、今も病院で1人でいる…孤独だッ。だからこそ、()は使わねえ…母さんの()で1番になって、あいつを真っ向から否定してやるんだ…!」

「轟くん…」

 

轟の壮絶な過去を聞いた緑谷は絶句する

 

プロヒーロー、それもNo.2の子どもでさらに周囲とは一線を画す強個性を持つ轟。普通に考えれば順風満帆な人生そのものだ

 

だが轟が語ったのは、勝利に執着したエンデヴァーを否定するための人生を歩んできたというコールタールのようにドス黒い決意だった

 

(想像もつかないほど過酷な過去……ジョルノくんもそうだけど、まるで漫画の主人公のような…無個性で、諦めかけていて、ただただ周囲に恵まれていた()()の僕が…2人やかっちゃん、みんなよりも見せつけられるのだろうか?「僕が来た!」って…)

 

どう返せばいいのか、どう答えればいいのか分からず、頭の中をぐるぐる動かしていると…

 

「無駄だな」

 

突如、ジョルノは一言漏らした

 

「…なんだと?」

「そんな決意は無駄だと言ったんだ。あんたの人生のために言うけど……無駄はやめた方がいい」

「無駄だと…?どういう意味だ…!」

 

今の人生を形作っている決意を無駄の一言で片付けられた轟は怒りをにじませた表情で問いかける

 

「ぼくにさっき「DIOの息子」だと言ったのと同じさ…どこまで行ったって、何をやったって、あんたは「エンデヴァーの息子」だ。炎を使わずに1番になったところで周りはこう受け取る…「炎を使わずに勝つとは、さすがNo.2ヒーローの子どもだ」と」

「……!!」

「本当に復讐したいならヴィランになれば良かったんじゃあないか?最高傑作だと信じた子どもが、その“個性”で多くの人間を殺せば」

 

ガシィッ!

 

『それだけでエンデヴァーが築き上げた地位も信頼も全て失墜する』というセリフの続きをジョルノは言わなかった

 

なぜなら、轟が怒りを灯した目でジョルノの胸ぐらを掴んだからだ

 

「てめえッ………!!」

「まっ、落ち着いて轟くん!」

 

今にも殴りかかりそうな轟を緑谷は止める

 

「ジョルノくんも!今のは流石に…」

「熱情中学にいた時の担任の言葉なんだが…」

 

ジョルノに対しても叱責しようとする緑谷だが、遮るようにジョルノは言葉を口にする

 

「『『侮辱する』という行為に対しては殺人も許される』だったか?なるほど……本当に為になる言葉だ」

 

そしてジョルノは…轟を強く睨め付けた

 

「おまえはこの体育祭に全力で臨むぼくたち全員を『侮辱した』」

「ッ!」

 

その瞬間、ジョルノから凄まじいプレッシャーを感じた轟は思わず手を離す。言葉には強い重みを感じ、冷や汗が一雫垂れる

 

「あんたが復讐をするのはあんたの勝手だ」

 

服のシワを伸ばし、2人に背を向けて暗い通路の先を歩いていくジョルノ。最後に顔を轟に向けて言う

 

「でも、ぼくたちに簡単に勝てるとは思わない事だな」

 

最後にそう告げると、ジョルノは闇の先に消えた




ジョジョの擬音にピッタリなフォントが見つかんない…誰か心当たりありませんかね?


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ジョルノVS心操 その1

今日感想もらって、投稿する希望と勇気がムンムンわいてきたので投稿です

あと擬音をジョジョチックなフォントに修正しました。提供者のボンシュさん、ありがとうございます


昼休みも終わり…雄英体育祭、午後の部が開始する

 

『昼休憩が終わり、最終種目の時間だあ!だがその前に失格者の皆に朗報だ。あくまでも体育祭!全員参加のレクリエーションがあるぞ!そして、本場アメリカからチアリーディングのみんなも来て会場の盛り上がりも最高潮──なんだが………ひとつだけ突っ込ませてくれ』

 

場を盛り上げていたマイクだったが、いきなりテンションが下がり、視線をヒーロー科A組の生徒に向ける……

 

『どーしたA組!!?』

 

正確には、()()()()()()()()()()()()()A()()()()に向かって

 

「よく考えりゃあ相澤先生がこの2人に伝言頼むわけなかったじゃん…」

「騙しましたわねッ!?峰田さん!上鳴さん!」

「「YEAAAH!!」」

 

ピシッ ガシッ グッグッ

 

どうやらA組女子一同にチア服を着せたのは峰田と上鳴の策謀らしく、2人は大成功と言わんばかりに息ピッタリの動きを見せた

 

「うう…恥ずいなぁ〜…」

「マアマア!祭りなんだし楽しもーよッ」

「ケロ、元気ね透ちゃん」

 

気恥ずかしそうな麗日を励ます葉隠を見て、蛙吹はそう呟く

 

『まあ───花があっていいんじゃあねェか!?そんじゃあ仕切り直して午後の部イクゼ───!』

 

マイクの合図と共にレクリエーションが始

 

 

 

 

 

キング・クリムゾン!我以外の全ての時間は消し飛ぶッ────!

 

 

 

 

 

『───いよいよお待ちかね!勝ち残るのは誰かッ!?本日のメインイベントォ、トーナメント戦の開幕だアアアアァ!!実況は自称解説王こと俺!プレゼント・マイクと!ミイラマン改めイレイザーヘッドでお送りするぜッ!!』

『自称かよ。時間が惜しいから早く説明しろ』

『まったくせっかちなティーチャーだぜ……まッ!やるけど!…そんじゃあ、早速ルールを説明していくぜ──────!』

 

相澤に促される形でマイクが説明を開始する。スタジアムの中心には、教師の1人のセメントスが『セメント』で正方形のステージを作る様子が見える

 

『つってもルールは簡単!このバトルステージでタイマンで戦って、戦闘不能あるいは場外にした方が勝ちだ!!当然だがアンチヒーローな行動はご法度だぜ!?』

「では、対戦カードを発表していくわ!」

 

勝ち上がった生徒16名の前に立つミッドナイトが鞭を鳴らして背後のモニターに注目させる。ちなみにA組女子は未だにチアの格好をしていた

 

「網はこうなりました!」

 

 

第一試合 ジョルノVS心操

 

第二試合 緑谷VS轟

 

第三試合 塩崎VS上鳴

 

第四試合 飯田VS発目

 

第五試合 芦戸VS瀬呂

 

第六試合 常闇VS八百万

 

第七試合 鉄哲VS切島

 

第八試合 麗日VS爆豪

 

 

モニターに表示されるトーナメントの網と下に並ぶ名前。それを見て、各々の生徒が反応を示す

 

(ジョ………ジョルノ・ジョバァーナ……………だと…!?)

(轟くん…!まさか、いきなり、彼と戦うことになるなんて……)

 

心操と緑谷は初戦からぶつかる強敵に冷や汗を流し

 

(俺の『復讐』が…『人生』が無駄だと…?そんな事はねえ…!ジョバァーナ…おまえは必ず倒す…!そしてクソ親父も超えて、証明してやる…!!)

 

轟は怒りを煮詰めたような精神で敵意を露わにし

 

「切島だァ?ちょうどいいぜ、どっちがツエーか確かめたかったとこだッ!!」

「オオッ!アツくなってきたぜ!!」

 

個性ダダ被り組は対戦相手を見て心を燃やし

 

「常闇さん…!」

「八百万か…油断はできんな…」

 

ある2人は互いに警戒し合い

 

「フフフフ…イイですねイイですね!この注目!」

 

発目は何かを企む様子でゴーグルを光らせ

 

「おぉ?あの子が俺の相手か〜〜〜〜?結構カワイイじゃん!」

「?」

 

上鳴は見当違いな事を考えていたり

 

「麗日ァ?」

(ヒイイイイイイイイ!!)

 

麗日は対戦相手がよりにもよって爆豪であることに青ざめたり

 

とにかく多種多様な反応が広がっていた

 

『なかなかに愉快な組み合わせじゃあねーか!第一回戦は10分後に始まるぜッ!楽しみに待ってなッ───』

 

 

 

「……」

 

光さす通路の中でジョルノ・ジョバァーナは静かに佇む。マイクの宣言通り、10分経とうとしている今、トーナメントの初戦が始まるからだ

 

(心操くん、か───彼の目は…)

 

ワァァァァ───…

 

『リスナーのみんなアアアァァァ!!待たせたなッ!気分はデートの待ち合わせ場所で待つ恋人気分か──!?もう意中の相手は目の前だぜッ!』

『キャラにあってねえ例えだな』

『うるせえよっ!?──第一試合はこの2人の対戦だァ!』

 

プレゼント・マイクの呼びかけに応じて、ジョルノは一歩一歩、踏みしめるように歩き出し…スタジアムに出た時、快晴の太陽に目を細める

 

『最初から衝撃のカミングアウトをかましたぶっ飛びBOY!!宣言通り優勝をとるのかッ!?「ジョルノ・ジョバァーナ」!!

 

騎馬戦でまさかのジャイアントキリング!!今度も勝ってみせるのかァ!?「心操 人使」!!』

 

ザッ ザッ ザッ

 

対面する2人。ポーカーフェイスのジョルノは何を考えているのかまるで分からず、対する心操も同じ無表情であるものの、冷や汗を流している

 

(ダメだ…何を考えてやがる?「洗脳」のタネはすでにバレている…そう考えて戦うならまず俺の問いかけに答えねえ…)

 

しかし心操の中で答えは出ていた

 

()()()()()()()ッ!!言い換えればヤツは俺のささいな『言葉』にすら気を配る必要がある…その隙を突くしかねえ!どっちみち、俺には「洗脳」しか勝つ手段がないからな……)

 

勝つことを考えながらもその方法に悲嘆的になる心操。そして、そんな心操をジッと見つめるジョルノ

 

『そんじゃあREADY(レディ)ィィ〜〜〜………』

「スカした面してんな。「もう返答するわけにはいかない」…とでも考えてんのか……?まあいくらおまえでも…」

 

いつでも駆け出せるように脚に力を込め…

 

「それ以外の方法なんて思いつかないよな」

GO(ゴー)─────────!!!』

 

ジョルノから無理やり言葉を引き出そうとする

 

「それは違うな」

 

しかし、ジョルノは開幕と同時に「ゴールド・E」を呼び出し

 

 

 

スッパァァァン

 

 

 

自分の手首を手刀で切り裂いた



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ジョルノVS心操 その2

スパァン!

 

最初は誰もが何が起きたのか分からなかった

 

手刀を振り下ろした姿勢のゴールド・E…勢いよく飛び散る血潮…そして、汗を流しながら顔を歪めるジョルノ

 

『キャアアア!!』

 

観客席から聞こえる悲鳴がその答えだ

 

「何やってんだテメェェ────!?」

「ぐううッ……!」

 

いきなり自傷行為を起こした痛みにうめくジョルノの姿を見て、心操は走り出そうとした脚をピタリと止めて絶叫する

 

『リストカットだアアアァッ!?何を血迷ったのかジョルノ・ジョバァーナ、開幕と同時に自分の手首を自分の“個性”で切り裂いたー!!い、いや、マジに何やってんのアイツ!?放送事故じゃあねえかこれ!』

『あのバカッ…!!』

 

これにはさすがの実況サイドの2人も…否、相澤は頭の中のどこかで、ジョルノが勝つ為に無茶をするのではないかと懸念はしていた

 

だが、その方法がリストカットなど、いったい誰が思いつくというのだろうか?

 

「君の個性は…強い衝撃か痛みが解除のきっかけとなる……………」

「…………!」

「これで『洗脳』は無力化された…」

 

ビチャ ビチャ ピチャ…

 

徐々に悪くなってゆく顔色の素を左手首から垂れ流し、コンクリートの床を赤く染めながら、ジョルノはゆっくりとした足取りで敵との距離を詰めてゆく

 

カツン…カツン…

 

「うッ…」

 

カツン…カツン…

 

「ううう………!」

 

目の前の、理解不能な行動を起こした敵に恐怖を感じた心操は、ジョルノが歩を進めるたびに後ずさる

 

そして………

 

ピッタァァァ────

 

『い、今にもッ!砂漠でさまよって枯れ果てた遭難者みてーにブッ倒れそうなグロッキー状態のジョルノが!!心操をステージの角まで追い詰めたァ!』

『人は未知の恐怖を体験すれば本能的に恐れる。…それを狙っているわけではないようだがな…』

 

マイクの解説通り、心操はステージ角ギリギリのところまで下がっていた

 

「ハァー ハァー ハァー」

 

そしてダメージを自ら負ったジョルノと、負傷こそしていないがその焦燥し切った心操の表情を見れば、どちらが追い詰められているのかは会場のだれが見ても明らかだ

 

「ハァー…クソッ…!何のつもりだおまえ…!」

 

いよいよ逃げられなくなった心操は、この状況を生み出した元凶に問い詰める

 

「わざわざ自分を傷つけなくても返事をしなければそれでいい…俺の“個性”はそういう能力なんだからな…!そうだ、テメェが手首を切る必要なんざ微塵もないことくらいッ!」

『返事』…」

 

ジョルノはボソリと呟く

 

「たしかに…君は敵だが…それと同時に、何かヤケになっているように感じた。目の前の断崖を前に諦め、捨て鉢に飛び込もうとする感覚…そして『返事』………」

 

確信するジョルノ

 

()()…「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「!!」

 

その言葉は、追い詰められた心操が心を乱すには十分すぎる確信だった

 

「普通の会話もできない洗脳の力を疎んだ」

「だまれッ………」

「だから「こんな“個性”を持った自分が悪い」のだと心の奥底で納得させた…」

「だまれェ!!」

 

やがて、その隠し続けていた醜い心を見たかのように語るジョルノへと、心操は羞恥と嫉妬と羨望がない交ぜになった心を爆発させ、右拳でヤケクソに殴りかかった

 

ガッシイィィ

 

「ぐっ!」

「……」

 

ブシッ! ポタ ポタ

 

それをゴールド・Eを使わずに左手で受け止める。吹き出た血が両者の間の床を濡らす

 

「勝つなら手首を切る必要なんて存在しない。君の言っていることは間違ってはいない…」

 

ここで心操に負ければ、ヒーローへの道は大きく遠ざかるだろう。ジョルノの道はそれほど険しく、過酷なものなのだから

 

しかし

 

「だが、このジョルノ・ジョバァーナには、正しいと信じる夢がある」

「………!」

 

ここで、自分ではどうしようもない痛み(個性)に苦しむ人間を救けなければ、永遠にジョルノが目指す「ヒーロー」にはなれないと、直感で理解していたのだ

 

だからこそ、彼に「希望」がある事を示さなければならないのだ

 

「ここにいる以上、君にも「夢」があるんじゃあないのか?」

「…うっ…うう…!」

 

右手が解放される。心操は小さく唸りながら拳を震わせて…

 

「うわあああ────────ッ!」

 

強く握りしめた右拳を振りかぶり、ジョルノを倒そうと決意した

 

「夢」を諦めたくなかったがゆえに

 

(いい目だ…)

 

それを見たジョルノは心の中で薄く微笑みながら

 

 

 

「無駄ァ!!」

「ぶがァ!?」

 

 

 

『選手宣誓通り』全力でブチのめした

 

『ゴールド・エクスペリエンス』の一撃を受けた心操は、軽い浮遊感を味わって間もなく背中から地面に落下した。コンクリートの「ステージ」ではなく、「地面」に

 

「………ハッ!し、心操くん、場外!!ジョルノくんの勝ち!!」

 

そのミッドナイトの宣言に、静まった会場が熱を取り戻すかのように沸き上がった

 

『決まったァァァー!!トンデもねースタートを切ったが、最初の勝者となったのはジョルノッ』

『オイ、ジョバァーナ…』

 

マイクが実況を続けようとしゃべるが、ドスのきいたA組担任の声がそれを遮る

 

『とりあえず早く保健室に行ってばあさん(リカバリーガール)から治療と輸血を受けさせてもらってこい。…それとこの体育祭が終わったら説教だ。覚悟しとけよ…!』

 

相澤の声音には、無茶をしたジョルノに対する「怒り」がありありと表現されていた

 

それをどう受け取ったのか、ジョルノはさわやかな笑顔を実況席に返し、そんなジョルノを見た相澤は両目の間を指で押さえながらため息を吐くのだった

 

次の試合に備えるべく保健室に向かおうとステージから降りようとすると

 

「なあ…」

「!」

 

左頬の痛みも気にせず心操が話しかけてきた

 

「なんですか?」

「おまえは…なんで『ヒーロー』になりたいんだ?」

 

ジョルノは「きっと君と同じですけど」と前置きし

 

「1人のヒーローにあこがれたからですよ」

 

そう伝え、今度こそジョルノはステージから去っていった

 

心操は澄み渡る青空…まるで今の自分の心のような…を眺めながら、ポツリと呟く

 

「…俺もだよ…」

 

 

 

ジョルノ・ジョバァーナ──勝利。1回戦突破

心操 人使──敗北。()()()()




単行本でジョルノのプロフィールに書かれているのですが「希望さえあればどんな所にでも たどりつけると決心している」とありました

だからジョルノは、心操に「希望」を与えたくて、あのような行動を取ったのです


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ファイアー・アンド・アイス その1

衝撃の1回戦が終わり、2回戦の準備が進められているその頃…

 

緑谷の脳裏に浮かぶのは先ほどの試合

 

(ジョルノくんは…心操くんの苦しんでる「何か」に気づいた…だからあんな行動も迷いなく、よどみなく取れた…僕だったらどうする?いや…そもそも心操くんの悩みに気づけるのだろうか?仮に気づけたとしても……)

 

待合室で終わらない思考を繰り返す

 

次の試合があるのに…それも相手はヒーロー科でもトップクラスの実力を持つ轟が相手なのに、緑谷はずっとその事ばかり考えていた。なぜか今考えるべきだと緑谷は思っていた

 

(ダメだ、いろんな事ばかり考えてしまう。オールマイトと約束したのに…「僕が来た!」って世の中に知らしめるって…)

 

ふと時計を見た緑谷は焦る

 

「あっ!そろそろ試合が始まる!」

 

部屋を出て、早歩きでステージまでの道を進む

 

そして入場口近くのT字路まで来たところで…

 

ザシッ

 

道の脇から出てきた人物を見て緑谷は目を丸くする

 

「………へ?」

「おお!!ここにいたのか!ようやく見つけた…」

 

それはヒーロースーツを着込んだ、()()()()()()()巨漢だった

 

メラメラと燃え上がる大きな炎のヒゲが特徴のヒーロー…その男はヒーローオタクの緑谷でなくとも、ヒーローを志していれば誰もが知っているほどの男

 

「エ…エンデヴァー!?」

「君を探していた。少し話がしたかったものでな」

「ぼ、僕と、はッ話ィ!?」

 

突然No.2ヒーローが目の前に現れたことに緑谷はこれでもないほどテンパるが、エンデヴァーはお構いなしに話を始める

 

「今までの競技…実にすばらしいものだった。騎馬戦の最後を見るに“増強型”の個性か?オールマイトに似ているな…それに策を弄する柔軟な思考、よくジョルノ・ジョバァーナを出し抜けたものだ」

「そ、そんな…僕1人だけ言われても…みんながいなければ僕なんて何も…」

「謙遜することはない。君自身が間違いなく勝利を勝ち取ったのだ、誇るべきだ」

 

超有名なヒーローからまさかのベタ褒め。よく分からないまま緑谷はエンデヴァーの言葉を素直に受け取り

 

「あ…ありがとうござい」

「だからこそ、君という強敵を破れば、焦凍はより強くなるだろう」

 

───そのセリフを聞いた時、頭の中が急速に冷えていくのを緑谷は実感した

 

「ムッ?気分を害してしまったのならばすまない…しかし私も1人の親…息子の勝利を願うのは、当然だと思わんかね?」

 

エンデヴァーの言う事はもっともだ。いかにヒーローといえど家族が…大切な者がいるなら、それも子どもならば親心で()()()してもおかしいことではないと、親に愛されている緑谷は考えただろう

 

『俺は、オールマイトを超えるという親父の野望の為に、産まされた存在なんだ』

「……ッ………」

 

轟焦凍の過去を知らなければ

 

「反抗期というヤツなのだろう…焦凍はかたくなに(左側)を使おうとしない…しかし、あいつが炎を解放すれば、このエンデヴァーよりも完璧な上位互換の個性となる…焦凍はオールマイトを超えられるのだ」

 

そこに轟の意思は存在しない…エンデヴァーの野望にあふれた目を見て、緑谷は理解したのだ

 

「騎馬戦の時は炎を一瞬出しただけに残念な結果に終わったが…オールマイトに似た君と、DIOの息子であるジョルノ・ジョバァーナとがぶつかれば、あいつの“個性”は完全に完成する!…試合、楽しみにさせてもらおう…」

 

それはきっと、轟の『半冷半燃』が完成する事を意味するのだろう

 

だから、背を向けるエンデヴァーに緑谷は言った

 

「僕はッ!」

「……………?」

「オールマイトじゃあありませんッ」

「何を言っている…?当然だ。君はオールマイトではない」

 

振り返ったエンデヴァーに対し、さらに言う

 

「ジョルノくんはDIOじゃあないし…轟くんもあなた自身ではない」

「……」

「轟くん」「轟くん」だ!!」

 

沈黙するエンデヴァーに言いたい事を言った緑谷は、歓声が聞こえてくるスタジアムに向かって歩を進めた

 

(ジョルノくん!!君もこうだったのか!?まるで爆発寸前の活火山が腹の底で燃え上がってくるのが分かるこの気持ち…!)

 

ザン!

 

『2回戦の組み合わせはコイツらだアアア──!!地味だが意外と良い戦績!「緑谷 出久」!!

 

見た目は超絶クールッ!ならば心はホットかァ!?「轟 焦凍───ッ」!!』

 

ステージ上で相対した緑谷と轟。2人の目は普段よりも一層変わっていた

 

緑谷はより鋭く。轟はより冷たく

 

「轟くん」

「………」

「試合前に、エンデヴァーが話しかけてきた」

「ッ……!!」

 

“エンデヴァー”というワードを聞いた轟の反応は劇的だった。憎しみに歪んだ表情と残酷なまでに復讐で燃え上がった目は、それほど父親を憎み、侮蔑しているのだというのがありありと表現されている

 

「君は…どうしても炎を使わないで勝つつもりなんだね…?」

「だからなんだッ…あいつに金でも握らされたのか?俺のやる事は変わらねェ…!!」

 

怒りに震え、内側に宿る感情を声に乗せる

 

「俺は“右側の力”だけで1番になって、エンデヴァーを完全否定してやる…!クソ親父の“()”なんざだれもいらねえって事を証明してやる!!」

『第2回戦、レディ〜〜〜…』

 

プレゼント・マイクの間延びした声が響く数瞬後

 

『ゴー!!』

 

 

 

ズオオ!!!

 

 

 

轟がいる場所以外を全て凍らせるほどの大氷結がステージ上を襲い

 

 

 

バキャア!!!

 

 

 

その氷山を砕くほどの衝撃がスタジアムに響いた

 

「な…!?」

 

それに1番の驚きを見せているのは轟だった

 

崩れる氷山の奥から姿を現す緑谷。デコピンをした形の左手の中指は歪に曲がり、赤紫色に腫れ上がっており、一目で骨折しているのだと理解できる

 

「ふざけるなよ…」

「!!」

「みんな必死で戦っているんだ…!なのに「右側の力」だけで勝つ…?僕たちをバカにしてるのか!」

 

轟を憎しみから救けてあげたい気持ちと自分を見ないで戦う轟に対する怒りの心。一見矛盾した感情は緑谷の中でひとつとなっていた

 

「今、心の奥底から、メラメラと沸き上がってくるこの気持ち………!」

 

それは、初めて緑谷が人をぶん殴ってやりたいと心から怒りを覚えた瞬間だった

 

「君は間違っている…!だから、殴って!勝って!君を止めてやる!!」

 

グググ…ガシィ!

 

折れた中指を無理やり動かし、握り拳を作り、轟に突きつけて、叫んだ

 

 

 

「───僕がぶん殴りに来たッ!!」

「ッ──ほざけ!!」

 

燃える怒りと凍った怒り…ふたつの怒りがぶつかり合う戦いが始まった




タイトルの元ネタは、イングヴェイ・マルムスティーンの「Fire And Ice(ファイヤー・アンド・アイス)」のアルバムの収録曲「Fire and Ice(ファイアー・アンド・アイス)」から取りました


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ファイアー・アンド・アイス その2

今回ちょっと擬音多めです


「!」

 

ズアアア!

 

2度目の攻撃が緑谷の眼前から迫る。最初よりもさらに巨大な氷塊が空気を押し出して近づく中、緑谷は冷静に左手薬指に「ワン・フォー・オール」の100%のパワーを込め…

 

「スマッシュ!!」

 

グシャアア!

 

先ほどと同じように、超パワーの余波でコナゴナに破壊した

 

「まだだ…!!」

「…! スマッシュ!!」

 

変わらないパワーで生み出された凍える波を小指を犠牲に粉砕する

 

「ぐ…もう1度ッ!」

「スマッシュ…!!」

 

同じく人差し指で

 

「しつけェ…!!」

「スマァ────……ッシュ!!」

 

5回目の大質量も、左手の親指を弾き、暴力的な風圧で押し返す

 

『レンッ!ゾク!苛烈なまでに連続で攻め立てる轟とそれをガンガン防いでく緑谷ッ!ド派手なぶつかり合いだ──!!しかしコレ、緑谷ジリ貧じゃあねーか!?もつのか!?』

『いや、「もたない」……………()()()

 

ガクンッ

 

相澤がそう口にした直後、轟は崩れ落ちて膝をつく

 

「ハァ ハァ ハァ…!?ハァ──ハァ───」

 

ガチ ガチ ガチ

 

全身に霜が降り、真っ白な息を吐き、ガタガタ震えるその姿は、まるで轟の周囲だけが真冬になったかのような異常な光景だった

 

『「最大火力で速攻で倒す」こと自体は合理的だ…しかし連発し続けるのはあまりにも不必要なこと…「砂場で作った山のトンネルを掘るのにダイナマイトがいる」か…?轟は致命的な『ミス』をした』

 

その言葉は轟の(しゃく)にひどく触れた

 

「緑谷など敵ではない」という油断が、何より勝つことに執着(しゅうちゃく)し、あせったばかりにペース配分を怠ったことが、この状況を生み出したのだ

 

ダッ!

 

そうして動けない轟に向かって、緑谷は迷いのない瞳で走り出す

 

「くッ…!」

 

反射的に氷で防御する

 

バキャァ!

 

だが、先ほどの猛攻と比べれば、あまりにもろく、小さい氷壁は調整したワン・フォー・オールの一撃で簡単に砕かれる

 

「な…!」

「うおお──ッ!」

 

ドッカァ──ン!

 

「ガッ!」

 

そして…完全に接近した緑谷の頭突きが轟の顔面に直撃する

 

「うがぁああああっ!」

 

思わず白目を剥いて気絶しそうになるのを必死にこらえる轟だが、緑谷はお構いなしに、個性を使わず轟を殴り続ける

 

『さっきとは打って変わって、緑谷が轟を殴りまくるゥ──────ッ!!ラッシュ〜〜〜!!』

「ウオォォオオ──ッ!」

 

ドガ!ドガ!バキ!ドガ!バキ!ドガ!

 

普段は内気で臆病な緑谷が、人が変わったみたいに雄叫びをあげながらひたすら殴る

 

「君がッ!」

 

バン!

 

「炎を出すまで!」

 

ボガ!

 

「殴るのをやめないッ!」

 

グオオッ!

 

そして細くも筋肉質な右腕が振り上げられ

 

ドッガァァァン!

 

血飛沫と共に轟を殴り飛ばした

 

「ぐぁッ…!!」

 

派手な音を鳴らしながら地面に落下する轟。しこたま殴られ、整った顔は所々腫れあがっており、鼻血も出ていた

 

『轟ダウ─────ンンン!いい勝負するかもたァ思っていたが想像以上に緑谷が有利だ!!このまま決着つけちまうかァ!?』

「うぐッ……く…くそ……!」

 

鼻を押さえながら立ち上がる轟

 

それは、父親(エンデヴァー)からの異常なまでに過酷な戦闘訓練の賜物であり、身体の基礎能力が高かったゆえに、立ち上がる体力と気力がまだ残っていたのだった

 

もっとも………父親を心底嫌悪している轟本人からすれば、皮肉な事この上ないが

 

 

 

「焦凍オオオー!!何を躊躇している!()を使えッ!左を解放すればその“個性”は完全となるのだ!」

 

 

 

その時、轟が今1番聞きたくない男の声が鼓膜(こまく)に響いてきた。とびっきり顔を歪めながらつぶやく

 

「うるせェ…!!」

 

苛立ちを含んだセリフを吐き捨てる轟。緑谷は、そんな轟の体についた霜を指差す

 

「その『霜』…」

「………!」

「…君は触れた物から伝うように冷やして凍らせることができる個性だ…問答無用で相手を行動不能にできる強い能力…でも、個性は身体能力の延長線上の力。必ず『肉体』との綿密な『つながり』があるものなんだ…手で触れる必要があったり、使うたびに体のどこかに影響が出たり…」

 

すでに緑谷の中では結論が出ていた

 

「氷」を出せば出すほど体の「温度」も一緒に下がっていく。そして限界が来ている…それが今の君の状態の理由ってわけだ」

 

「でも」と前置きし、続ける

 

「もうひとつの「炎」を出して体温を上げれば、君は再び「氷」が使えるようになる……いや……その理屈なら、炎を使って上がった体温を氷で冷やすことだってできるはず。互いのメリットとデメリットが見事にかみ合っていてほとんど『弱点』がない。『完璧な個性』……なるほど、エンデヴァーがそう力説するのも納得がいく」

「だから…なんだ…!!」

 

同じセリフを常日頃から言われているのだろうか?緑谷の推測を聞き終えた轟は血が滴るのも無視して、溜め込んだ怒りを爆発させる

 

あいつ(クソ親父)の理屈だ!そして、そのくだらない「夢」のために俺は…俺たち(家族)はたくさんのものを失ったッ!!たくさんだ!!俺の心は、他人のおまえには永遠に分かるわけがない…」

「轟くんッ」

「俺が清算させてやるッ!オールマイトを越えるために生み出された俺がエンデヴァーを否定することで───」

 

轟が言えたのはそこまでだった。なぜなら緑谷が轟に歩み寄り…

 

「オラァ!!」

 

バキ!

 

「ぐお!?」

 

そのほおに拳を叩き込んだからだ

 

「…さっきから右側だけで勝つなんて言っているけど………僕を見てみろッ!僕はまだ君に、傷ひとつつけられちゃあいないぞ!」

 

地に伏せる轟に、緑谷は叫ぶ

 

「父親を否定したいだけならヒーローになる必要なんてどこにもない。でも…それでも、君がヒーローを目指すのは、純粋にヒーローになりたい君自身が、自分の中にいるからだろッ!?」

「違うッ!!」

「違わない!!」

 

轟の反論を即座に返し、さらに言い続ける

 

「ジョルノくんは自分がDIOの息子だって認めていたけど…ジョルノくんはDIOそのものじゃあないじゃあないか!『轟くん』だって同じだ!君はエンデヴァーの子どもだけど…『君』『君』だッ!」

「ッ………俺はッ」

 

緑谷出久は14年間“無個性”だった

 

齢4歳の頃から始まった絶望の日々だったが、親から受け継いだもの(“個性”)が何もない体だが、それでもたしかに自分は「緑谷出久」なのだ

 

だからこそ…怒鳴るような音量で叫んだ

 

 

 

「君の力じゃあないか!!」

 

 

 

ドクンッ

 

『なりたい自分に、なっていいんだよ』

 

脳裏によぎったのは……優しい母との昔の会話

 

ボワァッ!!

 

その瞬間、轟を隠すような火柱が立つ

 

「うわ!?」

 

飛び散る火の粉、強い熱風

 

「…ぶん殴るとか言っておいて敵に塩を送るって…どっちがふざけてるって話だ…」

「───…!」

 

…そして、火柱の中から現れたのは……

 

「俺だって…ヒーローに…!!」

 

心を凍てつかせていた氷を解かし、それを涙にして目尻から流す…薄くも笑みを浮かべる轟焦凍の姿だった



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ファイアー・アンド・アイス その3

「俺だって…ヒーローに…!!」

「───…!」

 

轟の左半身から炎が燃え盛る。それは極限まで冷え切った肉体を、バトルフィールド全てを覆い尽くす氷を勢いよく解かし始めていく

 

 

 

「そうだッ!焦凍ォォ───!!」

 

 

 

その時、観客席からエンデヴァーが歓喜の声を上げた

 

「ようやくその『血』をッ!俺の『炎』を受け入れたかッ!そうだ………その力を使うことでおまえはようやくスタートラインに立ったのだ!!」

 

炎の髭の熱量を上げながら観客席の最前列へと進み、そして叫ぶ

 

()()()ッ!!No. 1になるのだ!!このエンデヴァーも、オールマイトも超えてッ!!」

 

その言葉に込められた熱量を感じ取れば、どれだけエンデヴァーがオールマイトを超えることを望んでいるのか…執着しているのかがよく分かる

 

それでも…轟焦凍には、もはやあれだけ(わずら)わしかった父親の言葉が()()()()()()()()()

 

「…うるせェな……周りが……」

「轟くん…!」

「──いくぞッ」

 

ゴオオオッ!!

 

直後、凄まじい熱量の炎が前から迫る

 

『轟が出した凄まじい炎が緑谷に迫るゥゥゥ!』

「くっ…!」

 

飲み込まれれば意識を持っていかれそうな炎を横っ跳びで回避する緑谷

 

「逃さねェ!」

 

轟はとっさに炎を緑谷に向けて広げた

 

しかし炎の範囲が広がると、同時に熱量も一気に高く上がる

 

「!? しまっ…!」

「───ッ」

 

ボフワァ!

 

「ウアアアアーッ!」

 

火が緑谷を襲い、衣服に着火する。だが、この状況を生み出した轟の方にも焦りがあった

 

轟は緑谷を気絶させるつもりで炎を放ったわけで、必要以上に火力を上げるつもりはなかったのだ

 

しかし長年、父親に対する憎悪から炎の訓練をロクにしておらず、ゆえに炎をうまくコントロールできていない轟は、範囲を広げると同時に火力も上がってしまったのであった

 

ガバァ

 

体操服の上着を脱ぎ、火から逃れようとする緑谷

 

メラ メラ メラ

 

だが、まだズボンの左脚の裾先に引火した炎が残っていた。徐々に燃え広がる炎

 

「ヤバいッ…!」

 

決断は早かった。炎を包まれゆく左脚を鎮火させるために右脚から氷結を伸ばし…

 

「うおおお!!」

 

バキャァ!

 

───緑谷はそれよりも早く、左脚を溶け始めている氷の柱に、ピックで突き刺すように蹴りを入れた

 

ドジュゥゥゥ…

 

「!」

「ぐうう…!」

 

メラメラと燃えるジャージの布地が、密着する氷によって直接冷やされ勢いが弱くなっていく。緑谷の脚の皮膚にも少なくないダメージがあるが、無視した様子で氷柱(ひょうちゅう)から脚を引っこ抜く

 

「ハァー ハァー」

(ためらいなく氷の柱に脚を突っ込んで炎を鎮火させた…普通なら少しは動揺するか正確な判断が下せないものだが…どんな精神力をしていやがるんだ?こいつは…。しかし、何にせよ()で強い攻撃ができないことは理解した。未熟な俺の炎じゃあ緑谷を殺しかねない…すまなかった緑谷…)

 

轟は反省する。そして勝負が終わったらもう1度緑谷に謝ろうと心に決めると、素早く氷を生み出して相手の拘束を試みる

 

「スマッ…!?」

(こ、この氷…さっきと比べてずっと規模が小さい…!あくまで僕の動きを止めて、拘束するためだけが狙いッ!連続で狙われたら体がもたない…!)

 

ダッ!

 

そう判断した緑谷は反撃をやめ、逃げの選択をする。轟はそんな緑谷を逃さないよう新たな氷を生み出し、逃げ道を断ち切るように火炎を繰り出す

 

ジャンプし、ステップし、迫る魔の手から逃げ続ける緑谷。そして氷の追手が一箇所に固まったその瞬間を逃さなかった

 

(ここだッ!)

「スマッシュ!!」

 

残っていた右手、その中指を犠牲に、超パワーの余波で氷結の波をまとめて吹き飛ばす

 

「これで攻撃は全部吹き飛ばした…!」

 

ビシィ!ビシィ!

 

「……え?」

 

しかし、凍りつく音と急激に冷えていく足の感覚

 

緑谷はゆっくりと足元を、そして後ろを見る…そこには、ステージ外から回り込む形で緑谷の足首を捕らえた氷の道筋が見えていた

 

「何ィィィィィ!?」

「おまえを追いかけていた氷はすべて囮…」

 

ようやく緑谷の動きを止めた轟は静かに語る

 

「本命は静かに、ゆっくり回り込ませていた…そして捕まえた」

『とうとう緑谷を捕らえた轟ィィ!さっきの状況とは一転、轟が王手をかけたァ───!!』

「だが、油断はしない…!」

 

炎で全身を温めて体温を整える轟を前に、緑谷は必死に打開策を考える

 

(どうするどうするどうする!?足が凍っているからうまく体が動かせない!腕が届かなくて氷を砕くことができない!脚でワン・フォー・オールを使えば…ダメだッリスクが高すぎる!脚じゃあ力の調整ができないッ!クソ!()()()を壊さないで“個性”を使うことができれば………)

 

そこまで考えて…緑谷はあることに気づく

 

(……()()()?待てよ…そういえばオールマイトは腕や脚だけワン・フォー・オールを使って戦っていたのか?そんなはずがない!移動だけで強化してない部分がもたないし、テレビの電源みたいにいちいち切ったりつけたりしてたら動きにタイムラグだって……)

 

轟がこちらを見据え、左手を構える

 

(…そうか…!今の僕が「それ」だッ!いちいち“個性”を使っているから動きが遅くなる!「腕」だけじゃあなく「脚」も………いいや!)

 

ボアァァァ!

 

そして、意識を刈り取る炎の(アギト)が緑谷のいた場所を通過した

 

 

 

「………」

 

攻撃した後も轟は決して警戒を解かなかった。揺らめく炎が消え、解けた氷の水蒸気が晴れた先にあったのは……

 

何も残っていない、()()()()()()ようにひび割れた床と氷

 

「ッ!!」

 

ズァッ!

 

そこからの判断が早かったのは、轟の叩き込まれた戦闘能力の高さのおかげと言えた。即座に自身を囲むように氷壁を生み出し、攻撃に備える

 

ガシィィ

 

しかし、攻撃をしかけた者は氷の壁を掴み、即座に登りきって轟の真上を取る

 

「なッ」

「オラッ!」

 

バキャァ!

 

「ぐぅッ…逃がすか!」

 

轟を殴った襲撃者を拘束すべく、手を伸ばして捕まえようとする

 

ビュオ!

 

「な、なにィ!?」

 

だが、伸ばした手は体を掴むどころか、衣服にかすりすらしないほどの高速移動で氷壁の内側から脱出した

 

そして…ステージ上で生み出された氷のオブジェの上にその男は…緑谷は着地する

 

「ハァー!ハァー!ハァー!」

「…………」

 

明らかに肉体を酷使した激しい呼吸で全身を上下させる緑谷は、しかし自分に言い聞かせるように小さくつぶやく

 

「…人型のエネルギーを…ハァー…()()()()()()()()()…!」

 

バリ バリ バリ

 

直後、緑谷の体から薄く輝くスパークが発生し、赤いラインが浮かび上がる

 

「なんだ…その体は…?」

 

その轟の疑問を、“個性”の名前だけ隠して…答える

 

(ワン・フォー・オール…)

 

 

 

「───フルカウル…!!」

 

それは、平和の象徴の後継者が次のステージに足を踏み入れた瞬間だった




「フルカウル」発動です。 ズギャァァァン!

ヒロアカ二次じゃあ二番煎じな展開かもしれませんが、この話のラストは気合入れて書きますので楽しみにしててください


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ファイアー・アンド・アイス その4

緑谷の予想外の反撃。それは観客を騒然をさせて、実況のプレゼント・マイクも困惑する

 

『なんだぁぁあああああ──!?轟がとどめを刺したかと思ったら緑谷反撃ィ!!つーか動きもエライ速くなってるしなんかバチバチしてねえかァ!?』

『今まで緑谷は…指だの腕だの、一部の部位だけに“個性”の(パワー)をのせていた…おそらくアレは()()()()()()()()()()()()()()()()個性を使っている。だから身体能力が向上している』

(もっとも…緑谷の様子からして、土壇場で思いついて、実行したみたいだがな…)

 

窮地をひっくり返す爆発力。個性把握試験でも見たそれは、緑谷の最大の武器なのだと相澤は思った

 

一方、緑谷も自分の体の変化に驚きを隠せずにいた

 

(で、できたッ!!成功したッ!!ジョルノくんはいつも「ゴールド・E」を自分の体から分身するように発動していた…「ゴールド・E」を体に重ねることで肉体の強化みたいなこともしていた…前例があったからイメージしやすかった!)

 

しかし、同時に全身からあふれる(パワー)を足りないとも感じていた

 

(でも、フルカウルのコントロールが難しい…!全力を100%とするなら、フルカウルの出力は1%に届くかどうか…!)

「手加減をしていた」

 

不意に、轟がつぶやいた

 

「…ってわけじゃあなさそうだな…もっとも、おまえがそんな奴じゃあないってことは、この試合を通して理解できる…」

「……………!」

「しかし、勝つのは俺だッ…!」

 

炎と冷気のふたつがうずまく。もはや試合前の一方的な因縁はどうでもよく…

 

ゴバァァアアア!

 

先制を仕掛けたのは轟だ。炎が一直線に緑谷が立つ氷の柱を飲み込むが、回避した緑谷は別の氷塊の上にのる

 

(疲労もある…だから!倒れる前に倒すッ!)

 

ダンッ

 

稲妻のように緑谷は直進し、轟を左半身(炎の側)から殴りつける

 

「オラァ!」

「ぐお…!」

 

しかし轟は腕でガード、体を反転させて敵を足元から一気に氷結させるが、すでにそこに緑谷はいない

 

「また逃がした…!」

「まだ…ッだァ!」

 

ヒット&アウェイに徹する緑谷は、再び轟を殴るべく距離を詰めようとし…

 

「ハッ!」

 

ゴアァァァ!

 

その直後、波のように広範囲に押し寄せる火炎が緑谷を覆い尽くす

 

「炎のコントロールはうまくねえが…単純に範囲を広げるだけの大雑把なものならできる…」

 

これならば殺傷力のある火力にはならないと轟がとった方法。緑谷はなす術なく酸欠状態になる…

 

(あつ)っ…!」

「!」

 

いや、緑谷は無事だった。幾度と繰り返した攻防でボロボロになったステージ、その巨大なコンクリートの塊を盾にすることで、難を逃れたのだ

 

「チィ!」

 

ビシッ ビシシッ

 

しつこく耐える様子に苛立ちながらも、すかさず追撃の氷を地面に走らせる

 

ダッ!

 

緑谷は氷を避けながら轟の右側に回り込み

 

「オラッ!」

 

バキ!

 

「ぐう!」

 

その顔を殴り抜いた

 

『テレフォンパンチがヒット────!!』

 

マイクの実況が響き渡る

 

だが、緑谷にそれを聞いているヒマはなかった

 

「ううっ!」

 

ピキッ ピキキッ

 

なぜなら轟を殴った右腕が凍りついていたからだ

 

「右を使った直後なら凍らせる(パワー)が弱くなるって算段だったんだろうが…それでもおまえ1人凍らせるくらいわけない」

 

ガシィ

 

そして今度は全身を凍らせようと、向き合う形で対峙する緑谷の左腕を、轟が右手で掴む

 

『轟、緑谷を掴んだァ!』

「そのまま凍りや」

 

ブォン

 

「オラァァ!」

「がぁ!?」

 

しかし、緑谷は残っていた、凍りついた右手で再び轟の顔を殴る。衝撃にやられ手を離す轟

 

(こ、凍った腕で…!?芯まで凍り切ってないとはいえ…イカれてんのかコイツ…!)

 

腕の氷が砕ける。破片が皮膚に食い込み、あるいは凍結した皮膚ごと破片が砕けて、緑谷の右上腕から血しぶきが飛び散る

 

そんな緑谷の状態を見た轟は、氷でステージの表面を覆う。冷気の行使が轟の体に霜を下ろす

 

「ハァー!ハァー!ハァー!」

「…無理やり右側()を使ったから、体が冷えちまった…」

 

左半身から吹き出す強い炎が空気を、轟の体を無理やり熱する

 

通常の体温を「ゼロ」とするなら───通常の体温よりも冷えた体(マイナス)の方が振り幅が大きい分、より強い炎を生み出せて、熱い体(プラス)はより強い氷を生み出せる…そしてメトロノームの振り子が大きく揺れていくように、徐々に炎と氷の(パワー)を増やしていく

 

それは轟にとっても捨て身の行動だった。いかに体温調整ができるようになったとはいえ、体温を高温・低温状態に繰り返し切り替えていては、人間の肉体はもたない

 

「だから───これで終わらせるッ…!」

 

再び眼前一面に広がる炎の絨毯(じゅうたん)。しかし先ほどとは違い、ステージの上は凍りついてるため、コンクリートを掘り起こして盾にすることができない

 

「く!」

 

緑谷はフルカウルで強化された脚力で高く跳び上がる

 

(必ず追撃が来る!でもこれほどの炎を使ったなら、次は氷ッ!「ワン・フォー・オール」で砕いて足場にすれば…)

 

 

ズアアアッ!!

 

 

だが、そんな緑谷の予想通り放たれた氷は…今までのどれよりも冷気のエネルギーが凝縮された特別な氷塊だった

 

「そ…そんな!?」

 

下を見れば、轟はすでに左半身を緑谷に向けられるよう攻撃の構えをとっている

 

例えどのように対処されても、確実にトドメをさせるように

 

(し、しまった…!これほどの氷のパワー………フルカウルで殴っても凍らせるスピードの方が早い!ワン・フォー・オールのフルパワーで砕いても、氷を足場に避けても、姿勢が崩れたところを炎で追撃される!!の…逃れられないのか…!?)

 

敗北の足跡がヒタヒタと聞こえてきたような気がした緑谷は、それでも何か方法がないか考えて…

 

(…いや待て!フルカウルで殴れば凍らされる…でも『凍らなければ』?氷結のスピードをも上回る速度で殴ってこの氷塊を掘り進めれば…逆に彼の懐に飛び込める!)

 

しかもその方法ならば、大出力の氷塊が緑谷と轟の間にあるため、追撃の炎の盾にもなり、緑谷が懐まで近づく時間を稼げる

 

(でも、今のフルカウルのパワーじゃあ足りないッ!!少しでも強く、少しでも速くしないと!4%…5%…いいや…)

 

グッ!

 

Puls Ultra(更に向こうへ)!!

 

拳を握り、パワーを上げると悲鳴を上げる肉体の痛みをこらえて、緑谷は轟に立ち向かう

 

ワン・フォー・オール フルカウル ()()()()6()%()

 

緑谷のパンチが氷塊の先端に触れ…

 

バッキャァァ!

 

 

 

()()()()() ()()()()

 

 

 

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」

 

バキャア!バキン!バキャァン!

 

「な、なんだとォォ──────!!?」

 

それは普段、冷静で物静かな轟からは想像もできないほどの絶叫だった。それほどまでに轟は、緑谷の爆発力に驚愕していた

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ」

 

鬼気迫る表情で氷の中を砕き進み…やがて、砕けた氷壁が粉となって轟の体に降り注ぐ

 

「ッ───くらえ!!」

 

それでも轟は、冷静に体を動かし、炎を緑谷に向かって伸ばし…

 

 

「オラ───ッ!!!」

 

 

雄叫びと共に100%の右腕が、地面に向かって放たれて、炎をかき消す

 

「うおおおおおおお───っ!!」

 

パンチ1発で天候すらも変える「ワン・フォー・オール」のパワー…その余波に轟は耐えきれず吹き飛ばされ、()()()()()()

 

「あっ…」

 

審判のつぶやきがやけに耳に残る

 

「ハァー…ハァー…」

 

ぐぐぐ………ばっ!

 

全員が唖然と見守る中、緑谷は決して崩れ落ちず、拳を握りしめ……左腕を突き上げた

 

 

ワアアアァアアアア!!

 

 

瞬間、全観客席が湧き上がり、拍手が鳴り響く

 

決着がついたのであった

 

 

 

緑谷 出久──勝利。1回戦突破

轟 焦凍──敗北




winner 緑谷出久!

というわけで戦いを制したのは緑谷になりました。感想でどっちが勝つか分からないとありましたが…まあ勢いで書いたとこあります

実はもともとこの勝負、轟に勝たせる予定だったんですよね。でも書いてるうちにこっちもだんだん興奮してきちゃって…緑谷が勝った方がなんか熱い!って思ってたらこうなっちゃいました。それならそれで主人公対決でおいしいですからね

でも完全に燃え尽きた感じです…正直残りの試合をこれ以上熱く書ける気がしないです

書きたいこと書いたんでまたかなり間が空くかもしれませんが、楽しみに待っていてください

ではっ!


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謎の男 八木

お ま た せ し ま し た

前回の話で完全に燃焼気味になってしまって執筆意欲が掻き消えてました…それに仕事もエライ忙しかったんですよーこの夏

『この3ヶ月の間に、別の作品を投稿していたようだが…?』

ドギィ!

ゆ…ゆるしてくれ!久々に投稿しただろっ!クオリティも維持してるじゃあねーか!ゆるして ねっねっねっ!


ジョルノは保健室にて、赤いチューブに繋がれていた。輸血パックからチューブを通して1回戦で失った分の血液を輸血しているのだ

 

「ほれ、これで体内の血液は十分なはずだよ」

「ありがとうございますリカバリーガール」

「まったく!自分で自分の手首を切り裂くなんて何考えてんだい!!」

 

体の血の巡りを実感しているとリカバリーガールはおかんむりな様子を見せ、少しすると真面目な表情で語る

 

「USJの時もそうだったね……見ず知らずの誰かのために行動できるのはあんたのいいところだけど、もっと自分を大事にしな」

「…ありがとうございます…」

 

多くの命を見てきて、そして救ってきた人間の心遣いに、ジョルノは頭を下げてもう1度礼を言った

 

ガララッ!

 

その時、保健室の扉が勢いよく開き、ガリガリに痩せこけたスーツの男が担架を引いて登場した

 

「失礼しますリカバリーガールッ!!怪我人を連れてき…」

「保健室で大声を出すんじゃないよ八木!あと扉は静かに開けるようにしな!」

「失礼しました!ゴボッ!」

 

八木という名前の男は入室して早々リカバリーガールに怒られ、直後吐血した。見た目通り貧弱らしい

 

「八木さん、と言いましたか?怪我人を連れてきたと言いかけてましたが…」

「む!君はジョバァーナ少年!そうだ、彼の言う通りです。緑谷少年を見てほしいのです!」

 

ハァ ハァ ハァ…

 

そう言って車輪の音を立てながら入ってきた担架の上には…ズタボロで凍傷している両腕に軽度の火傷を負った左脚、限界まで体力を使って疲弊している、誰が見ても重傷と分かる緑谷の姿があった

 

「これは…ひどい重傷だね。しかも体力も消耗し切ってる…これじゃああたしの個性で治すことはできない。強引に『癒し』を使えば間違いなく死ぬ」

 

リカバリーガールの“個性”は“癒し”。対象者の治癒力を活性化させ、重傷もたちどころに治癒できるが、それには傷に応じた対象者自身の体力が必要

 

つまり今の緑谷の体力では重傷を治すことは不可能なのである

 

「それでは緑谷少年は…!」

「早とちりしちゃあいけない。あたしは「医者」なんだよ。個性がなくとも命を救うのが仕事の「医者」……幸い命に別状はないし後遺症が残るような怪我でもない。治療してしばらく安静にしておけば大丈夫よ」

 

ガッ

 

「ダ………メなんだ…それじゃあ…」

「み、緑谷少年!」

「何やってんだい!?怪我人が無茶して動くんじゃあないよ!」

 

だが、それを聞いていた緑谷は体に鞭打って動かし、担架の端をつかむ

 

「ずっと……「自分」のことを()()()()()()()()()()()()()…でも、こんな僕を応援してくれる人のためにも……「最高のヒーロー」になるためにも……ここで退場(リタイア)するなんてことはあり得ない…!!」

 

目尻に涙を浮かべる。体が痛いのか、心が悔しいのか、その理由は緑谷以外には理解できない

 

それでも、医者として大ベテランである彼女は、その訴えに対し首を振る

 

「……ダメだね……」

「リカバリーガール…なんとかできないのでしょうか?」

「さっきも言っただろう?怪我を治す体力がないんだよ」

「──つまり…体力があれば治せるということですね」

 

そんな2人の会話に入ってきたのはジョルノだ

 

「ぼくの『ゴールド・エクスペリエンス』は、言ってしまえば、ぼく自身の生命力がエネルギーとして形になったもの…ならば」

 

己の分身であるゴールド・Eを出現させ、緑谷に触れると、本当に極々少ない量の生命エネルギーを手を通して送り込む

 

ズギュン!

 

青白かった顔色に赤みがさす

 

「顔色が…!」

「ちょいと待ちなさい…チユ──…」

 

それを見たリカバリーガールがジョルノの意図を察すると、蚊が口吻から血を吸うように、緑谷の体を突き出した口でほんのちょっぴりだけ吸う。すると緑谷の左脚の火傷が逆再生するビデオのように消えていく

 

「おお…!」

「リカバリーガール、その調子で緑谷くんの怪我を少しずつ治していってください。体力が低下すれば、再びぼくが生命エネルギーを流し込みます」

「いっぺんに生命エネルギーを送り込まないのかい?」

「過剰に生命エネルギーを流し込めば、逆に感覚が鋭敏になって彼を苦しめます。少しずつがいいんだ…」

 

説明を聞いたリカバリーガールは納得し、「輸血した直後だから無理はしないこと」と忠告すると、そのままジョルノのサポートを受けながら緑谷を少しずつ治療していった…

 

そして30分が経過する…

 

ベッドの上には、怪我が完全に完治した緑谷がどっと押し寄せてきた疲労によって寝ていた

 

「フゥ────」

「ちょっとずつ治療するなんて初めての経験だったからね…あたしも少し疲れたよ」

 

30分間生命エネルギーを流し続けたジョルノは少し疲れた様子で椅子に座って息を吐く

 

そんなジョルノに対して、八木は痩せ細った両手でジョルノの手を掴み、感謝の言葉を口にした

 

「ありがとうジョバァーナ少年!!君がいなければ緑谷少年の大怪我をこんなに早く完治できなかった!本当にありがとう…!」

 

しかし、そんな八木の感謝の念に対し、ジョルノが取った反応は不可解なものだった

 

「…………」

 

不思議なものを見るような目で八木の手を、八木本人を、そして寝ている緑谷の姿を見たのだ

 

「ジョバァーナ少年…?」

「…いえ、なんでもありません。…あまりここに長居するわけにもいきません。失礼します」

 

ジョルノはそれだけ言うと、そそくさと保健室から退室するのだった

 

 

 

A組の観客席へ向かう中、ジョルノは頭の中で情報の整理をしていた

 

(…(緑谷)の口ぶりからして、おそらく轟を倒したのだろう。自壊するほどのパワーだけで“半冷半燃”を攻略したとは到底思えない。何かあったはずなんだ…彼の中の『何か』を変えるほどの『何か』が──)

 

そこまで考えて、脳裏にチラつくのは先ほど、八木という男が手を握ってきた時の場面…

 

(しかし…あれは一体どういうことだ?双子の兄弟でさえ「生命エネルギー」には僅かな違いがある。他人ともなればより大きく違ってくるもの…………だが…なぜ…)

 

ジョルノは自分が歩いてきた道を振り返りながら…独り言を呟く

 

 

 

(緑谷)の肉体の中に、あの(八木)とまったく『同じ』生命エネルギーが宿っているんだ───?」



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第二回戦進出!

緑谷と八木の間に謎の共通点を見つけながらも答えが出ないまま、ジョルノは観客席にたどり着いた

 

「お、ジョルノが戻ってきた!」

「おかえりー!」

 

そこにはA、B組に分かれるように集まっているヒーロー科の面々がいた。切島の言葉に反応した芦戸が手を振って呼びかける

 

「ずいぶん戻ってくんのが遅かったな?」

『治療』に時間がかかりましたからね」

「輸血だけでかァ?」

 

わざとぼかす言い方をして緑谷の治療を誤魔化すジョルノ。別にウソはついていないし、追及されれば面倒なことになると予想しての判断だった

 

「それで………勝ったのは彼ですか」

 

ジョルノの視線の先。そこには担架で運ばれていく疲労困憊な麗日と、珍しくも唖然と突っ立っている爆豪の姿があった

 

ステージの破損状況、しかし石片の数がかなり足りないこと、そして麗日の怪我が軽症なことから、“無重力”で大量に浮かせたガレキを隕石のように降らせたが“爆破”の圧倒的火力で全て粉砕され、その直後に麗日は力尽きたのだとジョルノは考えた

 

「おやおやおやおやおやァ〜〜〜?誰だと思ったら初戦でいきなり手首を切り裂いたジョルノ・ジョバァーナくんじゃあないかァァァ?」

「…どうも」

 

そう考え事をしていると、ねちっこくイヤミたっぷりな声でジョルノに話しかける物間がいた。どうやら挑発するためだけに話しかけてきた様子だ

 

返事をしながら彼の顔を見る。そして気になったので問いかける

 

「ところで、爆豪につけられた騎馬戦のキズ、さらにひどくなってませんか?」

「昼休み時にさらにボコられたんだよ!アーアーッヤダヤダ!ホンのちょっぴり何か言われただけで暴力なんてキミらってホント倫理観が欠けてるよねェ!特に目立つためにリストカットするキミとかと一緒くたにされると困るんだよねボクらァ!ボクらまでクレイジーな集団だと勘違いされたらぜーんぶキミのせ」

「あて身」

 

ドスッ

 

その時、1人の少女が物間の背後に立つと首筋に強烈なチョップを打ち込んだ

 

煽り製造機を物理的に黙らせると、白目を剥いた物間を「巨大な手」で端っこに放り込んで、長いオレンジ色の髪をサイドテールにした少女がジョルノに対して謝罪する

 

「あー、ウチ(B組)のクラスのアホ(物間)が迷惑かけてゴメン。悪いヤツじゃないんだけど、A組相手になるといつもこんなチョーシで…」

「いえ、助かりました。君は?」

拳藤(けんどう) 一佳(いつか)。B組のクラス委員長をやってんだ。よろしく」

 

拳藤の自己紹介を聞いて、以前のマスコミ騒ぎの時に鉄哲が言ってた人のことだと理解した

 

『これで全ての第一回戦終了ゥー!!試合はご覧の通りだ!』

 

そんな中、プレゼント・マイクが巨大モニターを観客たちに見るよう促す。そこに記された結果は…

 

 

第一試合 ジョルノ⚪︎VS心操×

 

第二試合 緑谷⚪︎VS轟×

 

第三試合 塩崎⚪︎VS上鳴×

 

第四試合 飯田⚪︎VS発目×

 

第五試合 芦戸×VS瀬呂⚪︎

 

第六試合 常闇⚪︎VS八百万×

 

第七試合 鉄哲×VS切島⚪︎

 

第八試合 麗日×VS爆豪⚪︎

 

 

(だいたいは相性で勝てたようだな…例外があるとすれば第二試合と第五試合か…轟の“個性”の出力は言うまでもなく高い。となると、その攻撃を回避し続けたことになる…つまり「脚を増強した」と見ていい。芦戸さんの『酸』も、瀬呂の『テープ』を溶かせる以上、相性は良いのだが……全身から酸を吹き出せば自身の服を溶かすことにつながってしまう…ましてや服の上から拘束されれば…)

 

ジョルノはその試合結果を見て考え込む。まるで実際に見たかのような考察通り、芦戸と瀬呂のバトルはかなり白熱していたが、芦戸は女子故に恥を気にしてテープへの対処に躊躇した

 

結果、体操服の上からがんじがらめにされた芦戸は瀬呂に投げ飛ばされ、場外負けしたのであった

 

ちなみに切島VS鉄哲は策がカケラほどもないガチンコステゴロであったことをここに明記する。最終的に腕相撲で決着がついた

 

『さあ、次の試合は15分後だァ!!トイレ済ませんなら今の内にしとけよぉ!!』

「15分後かぁ」

「ジョバァーナくん、緑谷くんは試合に来ることができるのか?」

「体力が残っていれば」

 

飯田はジョルノに聞くが、望んだ答えが出なかったことからなんとも言えない表情をするが、ありがとうと礼を言うと席に座り直した

 

ザッ

 

「ジョバァーナ…」

 

直後、ジョルノの前に立つ者がいた。轟だった

 

「………」

 

静かに、しかし重みのある雰囲気で轟をジッと見るジョルノ

 

それを見たA組の面々は体育祭前の2人のやりとりから内心ヒヤヒヤとしており、事情を知らないB組もその雰囲気に緊張感が高まる。その場所だけ“個性”で時が遅くされたかのように、1分がとても長く感じる

 

そしてその膠着を破ったのは…轟の言葉だった

 

「スマなかった、ジョバァーナ」

 

申し訳なさそうに目線を下げ、轟が謝罪の言葉を告げる。A組のみんなが驚く中、言葉を続ける

 

「俺は確かにおまえを…みんなを『侮辱』していた。緑谷との戦いで激しく痛感した。思い知らされたんだ…本当にスマなかった」

「……ぼくには緑谷くんとの試合で何があったのかは知らないが…」

 

ジョルノはどこか優しげな眼差しで言う

 

「少なくとも、あんたにとって無駄な戦いではなかったようだな」

「…ああ………そうだ。…そうだな…」

 

それだけを伝えると、試合に向かおうとみんなに背を向ける。鉄哲や塩崎、A組のみんながジョルノに声援を送る

 

「頑張れよォジョルノ!!」

「悔いのないよう戦ってください」

「どっちも応援してるからねー!」

「ベストを尽くせ」

 

ジョルノは声援に対して振り返らず、観客席から離れながら、一言だけ呟いた

 

「グラッツェ」

 

 

 

「ハッ!」

 

ガバァ!

 

「おや?起きたのね」

 

同時刻。保健室にて緑谷出久は目を覚ます

 

清潔なベッドから跳ね上がるように覚醒した緑谷は、好調な自分の肉体に疑問を抱く

 

「怪我が治ってる…」

(保健室……ということは、リカバリーガールの“個性(治癒)”で怪我を治療した…そこまでは分かる。でも、あれだけあった疲労感がまるでない。治癒には体力を使うってリカバリーガールは言ってたのに…)

 

ガララ…

 

その時、保健室の扉が開き、少女が1人入ってくる

 

「アッ…デ、デクくん…」

「!? う、うらら…」

 

麗日さん、と言おうとした緑谷は視線を入り口に向けて…そして硬直する

 

声の主である少女…麗日お茶子の全身にすり傷や見覚えのある焼け焦げた痕のようなものが多数あり、着ている体操服も同様の痕跡によってボロボロの一歩手前な状態であった

 

「そ…その傷…」

「アハハ……作戦通り戦えたんだけど、真正面から負けてしまった…強いなぁバクゴーくん」

 

その言葉から、自分が気絶してからかなり時間が経っていたことと麗日が爆豪に完膚なきまでに負けたことを理解した

 

「デクくんはすごいよね。あの轟くんと戦って勝っちゃったし、騎馬戦の時もデクくんがいたから私も決勝に進めた…」

「そんなことッ」

「1人じゃあ何もできんかった…悔しいなぁ…」

 

最初は愛想笑いを浮かべていた麗日も、徐々に顔をうつむかせる。そんな彼女の姿を見ると、なんだかイヤな気分になると感じた

 

そんな時、リカバリーガールが緑谷に言う

 

「そろそろ次の試合が始まる頃だよ緑谷」

「え?」

「……早く出て行ってあげな。あたしもちょっと用があるから、ここでゆっくりしてなさい」

「………!」

 

そこまで言われて、リカバリーガールが麗日を気遣ってやりなさいと伝えていることに気づいた

 

心配そうな視線を麗日に送るが、緑谷は「ありがとうございます!」とリカバリーガールに礼を言うと一緒に保健室から退室し、緑谷は待合室に、リカバリーガールは反対側の通路を歩く

 

 

「…うッ…うあぁぁ…ッヒグ……!」

 

 

保健室の中からうっすらと聞こえてくる嗚咽

 

慰めてあげることができない自分自身に歯痒さを感じながらも、緑谷はとにかく通路を進むのだった



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緑谷出久はくじけない

『待たせたなァァァァァリスナー共ォ!!さっそくだが対戦カードを紹介してくぜ───!!』

 

マイクの熱狂的な実況に湧き上がる歓声。人々が見下ろす、コンクリートの正方形ステージの上には、金髪と緑髪の少年2人が対峙している

 

『ジョルノ・ジョバァーナ!VSゥゥゥ、緑谷出久!どっちも予選で1位取ってるヤツらだァ!どんなバトルになるんだろーなー!?みんな気になるか!?俺も気になるぜ!!』

 

爆音が会場の外まで響き渡る中、ジョルノは緑谷を静かに見つめる。それが緑谷にとっては非常に不気味だった

 

(朧げに覚えているのは…………リカバリーガールに治してもらう前に、だれかに触られた感触。そしてあの場(保健室)にいた中で、僕に何かできる人がいたなら…それは君しかいない…君がやってくれたのだとしてもその理由はなんだ…?)

 

今の自身の不思議なまでに快調な肉体、その理由は、目の前の対戦相手なのだとなんとなく理解していた緑谷。だが、その理由までは思い至らない

 

(ダメだ。余計なこと…じゃあないけど、それでも今は考えるな!彼に勝つ…ジョルノくんに勝つ!)

 

その思考を頭の隅に置いておき、“ワン・フォー・オール”のパワーのコントロールに集中する

 

(フルカウル…!)

 

出力は………3%

 

バリ バリ バリ!

 

「ム…」

『そんじゃあ、レディィィィ…!』

 

全身に赤いラインが入った緑谷の姿にジョルノが反応する中、スタートの合図が出されて

 

『───ゴオオオオオッ!!』

 

ビュォ!

 

「スマッシュ!!」

 

開始と同時に、一気に距離を詰めた緑谷の先制パンチがジョルノに向かって放たれる

 

バシィィィンッ

 

「な…ッ!?」

「………」

 

そしてその攻撃は、“ゴールド・エクスペリエンス”の右手で容易くキャッチされた

 

『おおっとぉ!緑谷が先制攻撃を仕掛けるも、これを軽く受け止めるジョルノ!余裕って感じだぜ!』

「く…!オラァ!!」

 

ビュ!

 

もう1度渾身の拳を打つも、ゴールド・Eは軽く顔を動かして避ける

 

「オラ!」

 

ビュォ!

 

避ける

 

「オラオラオラッ!」

 

ならばと両腕を振り、パワーとスピードを兼ね備えたラッシュで攻撃を試みる

 

「フ!」

 

ガーン!ガーン!

 

だがジョルノはゴールド・Eを操作して、凄まじい速さでラッシュを見切り、2発の拳で緑谷のスピードラッシュを止める

 

「ぐぅ!?」

突き(ラッシュ)の速さ比べか…」

 

直後───黄金の弾幕が緑谷の視界を埋め尽くす

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄無駄駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!」

「ッ─オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」

 

ガン! ガン! ガン! ガン! ガン!

 

ゴールド・Eに対抗するために緑谷も全身を使って腕を動かす。大きく、激しく、拳のぶつかり合う音が数秒続き…

 

「無駄ッ!」

 

バッキィィィィ

 

「ぶぐぅ!?」

 

ラッシュ対決を制したのはゴールド・Eだ。現時点でパワーもスピードも大きく劣っている緑谷ではゴールド・Eの攻撃に対抗できず、なおかつ反撃が一瞬遅れたこともあって、ラッシュの合間に打ち込まれた左ジャブが緑谷の右頬を捉えたのだ

 

2回ほど地面の上を転がる緑谷。痛みに悶えながらも起き上がり、膝立ちの状態で敵の姿を見据える

 

「ゲホッ、ゲホッ」

『圧!倒!激しい攻撃をさばき、反撃のラッシュを制したジョルノのパンチが緑谷にクリーンヒットォォ──────!!』

『一見、生身で戦わないという点でジョバァーナが有利なように見えるが、「ゴールド・E」のダメージは本体に帰ってくる以上、この戦いはある意味「増強系個性」同士の殴り合いとも言える。つまり…今の攻防で、ジョバァーナがどれだけ緑谷より上をいってるのかがよく分かる』

『真正面から勝ててるってことは、それだけ個性が強く、個性の練度も高いってことだからな!』

 

そう、「ゴールド・エクスペリエンス」は能力頼りの個性では決してない

 

パワーとスピードがあるということはそれだけ本体が「ゴールド・E」の動きに慣れておかなければならず、生命を生み出す能力も、その多様性を遺憾なく発揮するにはジョルノ自身の広く深い知識が必要になってくるのだ

 

「なるほど……脚だけじゃあなく全身を強化したのか…それなら(パワー)は格段に落ちるが、全体的な動きがグンと良くなる…」

(ダメだ、今の『ワン・フォー・オール』のパワーじゃあ勝てない!でもこれ以上出力を上げて、轟くんの時みたいにコントロールできるのか…!?や、やるしかない…!)

 

決意を決めた緑谷はさらに多くの(パワー)を全身に込める

 

(ワン・フォー・オール フルカウル……5%!!)

 

バリ バリ バリ!

 

(機動力!それだけが唯一ジョルノくんに対抗できる要素だ!でも轟くんが出した氷がある時と違って、平坦な今のフィールドじゃあそれもうまく活かせない…!とりあえず距離を取──)

 

その直後である。攻撃モーションに入った『ゴールド・E』が緑谷の目の前に現れたのは

 

「!? まず──」

「無駄ァァ!!」

 

無駄のない体捌きから放たれたパンチが緑谷の右足に直進する

 

「ウ」

 

このままでは足がやられる……そう悟った緑谷だが、その時彼は避けるそぶりを一切見せず…

 

「オオオオオオ!!」

 

()()()()()()()()()()()()

 

ドッギャァァァァァ!

 

人が日常的に使用している「筋肉」は「()」である

 

蹴りは拳の一撃の約3倍のパワーを持っているとされ、足の骨を砕かぬよう加減していた「ゴールド・E」のパンチは、緑谷の必死のキックによって押し返されたのだ

 

「…!!」

 

拳が右足の甲から離れる。思わぬ反撃にジョルノ自身の手に痛みがやってくるが、手痛い反撃を受けてなお、緑谷に近づく

 

緑谷は一定の距離を保とうと足を動かし

 

グィィー

 

「う!?」

 

しかし、足は地面から離れることができなかった

 

ガシィ! グググゥ…

 

「く…靴が!」

(植物のツタになって…コンクリートをも貫通して、足を地面に縫い付けている…!)

 

そう、ジョルノの真の狙いは足を負傷させることではなく、緑谷の靴に生命を与えることで動きを封じることだった

 

完全に混乱した緑谷は無理やりツタを引きちぎろうと足を引っ張るが…「二手」遅かった

 

 

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!」

 

 

 

ゴールド・エクスペリエンスのラッシュ突きが緑谷の全身を打ちつけた

 

「ッ───!!」

 

強烈な痛みが宙を浮く感覚を上書きし、そのまま緑谷の肉体をステージの外に叩きつけた

 

『決まったァ───!!勝利したのはジョルノ・ジョバァーナだァァ!!短いがケッコー白熱とした試合だったぜ!!勝ったジョルノにも健闘した緑谷にも拍手ゥ───!!』

 

ワアアァ────!!!

 

拍手と歓声を最後に、緑谷の意識は遠のいた

 

 

 

試合が終わってから10分後…

 

「ハッ!」

 

ガバァ!

 

「あ、起きた!」

(あれ、なんかデジャヴ…)

 

保健室の清潔なベッドで起き上がった緑谷は奇妙な既視感を感じた

 

「大丈夫?デクくん」

「う、麗日さん…」

 

違うところがあるとすれば、リカバリーガールの代わりに麗日お茶子がいることだろう

 

「リカバリーガールは…?」

「薬を取りに行くって」

 

体を動かせば、鈍い痛みが残っている。そしてなぜ自分が保健室にいるのか、その理由を理解する

 

(そっか、僕はジョルノくんと戦ったんだ…そして負けた…完璧に負けたんだ…)

 

そう思い返していると、そんな緑谷の顔を見た麗日は、あることに気づき驚く

 

「デ、デクくん、大丈夫!?もしかして、まだどこか痛かったりする?」

「え…?き、急にどうしたの麗日さん?」

「だって」

 

明らかにオロオロしている麗日の姿に疑問符を浮かべるが、麗日はその答えを口にする

 

「だって……デクくん、泣いてる…」

「えっ」

 

ボロ ボロ…

 

緑谷はそう指摘されて、ようやく自分が涙を流している事実に気づく

 

「な、なんで…おかしいな、アレ…?」

 

手で流れる涙を拭うが、大粒の雫は止めることなくポロポロとこぼれ落ちる

 

「ゴ、ゴメン麗日さん、僕なら大丈夫…」

 

顔を隠しながら緑谷は謝る

 

ギュ…

 

その時、麗日が緑谷の頭を胸に抱えるようにそっと抱きしめた

 

一瞬何が起きてるのか、女の子に抱きしめられているというとんでもなくあり得ない現実に思考停止しかけるが…

 

「大丈夫。私にもその気持ち、分かるから…」

「………!」

 

そう優しく言われて、抑えていた感情が溢れ出た時…緑谷は自分がなぜ泣いていたのかが分かった

 

「う、うう」

 

全力でぶつかって、真正面から戦って、それでも完膚なきまでに敗北した

 

「ううううう」

 

それは、緑谷出久が人生で初めて味わった、「挫折」でも、「諦め」でもない

 

「うああああああ!!」

 

 

「悔しい」という思いだった

 

 

 

ジョルノ・ジョバァーナ──勝利。2回戦突破

緑谷出久──敗北。()()()()



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勝ち上がる者たち

ダイジェスト風にお送りします


ジョルノと緑谷の試合に決着がついた後、その後の試合も大盛り上がりを見せていた

 

 

塩崎VS飯田

 

祈るような姿勢で立ち尽くす塩崎茨を前に、飯田天哉は考える

 

(塩崎くんの「ツタ」はパワーもスピードもある上、応用もきく汎用性の高い“個性”だ…しかし!「速さ」に関しては間違いなくボクに分がある!!狭いステージゆえにコントロールの難しい『レシプロバースト』は使えない…だからッ)

『そんじゃアア!塩崎VS飯田、レディィィ…』

 

対面する2人を確認したマイクは、持ち前の大声を拡散して開始を告げる

 

『ゴォー!!』

 

ドン!

 

直後、「エンジン」で加速した飯田が塩崎の体操服の後襟(うしろえり)を掴み、ステージの端まで走る

 

「即!ケリをつけるッ!」

 

そのまま加速の勢いを利用して、飯田は塩崎を掴む腕を勢いよく振るった

 

だが

 

ガクン

 

「!?」

 

その腕は突如重い感覚によって無理やり止められた

 

ググググ…

 

(なんだ!?塩崎くんを引っ張ることができない!まるで突然、巨大タンクローリーを無理やり引っ張るような感覚に置き換えられたようなこの状況…!バカなッ!彼女は華奢な女子だぞッ!)

 

どう考えても女子1人では成立しない重さに、飯田はグルゥーと振り返る

 

ギチ…ギチ…ギチ…

 

「こ…これはッ!」

 

飯田は驚愕する

 

自身が掴んでいる塩崎…その彼女の髪のツタが、飯田がいる場所を除いた三方向のステージの端を掴んで塩崎を固定していたのだ。よく見れば首と前襟の間にツタを差し込んでもいる

 

シュルル───ガシィ

 

「ウ!」

「あなたの能力は…騎馬戦でしっかり見ていました…3人分の重さをものともしない馬力から…凄まじい加速まで…」

 

飯田の掴む手を、腕ごとツタで雁字搦(がんじがら)めにしながら塩崎はポツポツとつぶやく

 

「防御はとても間に合わない…ならば私の取れる手は…体を『固定』して場外を防ぐこと…!」

 

そしてそのまま、力任せに飯田を投げ飛ばす

 

ブォォン!

 

「ウオオオオオオオオ!?」

 

宙に投げられた飯田は必死にもがくも、空中でどうにかする術もなく…

 

ドグシャア!

 

「うぐあ!!」

 

飯田はカクカクした変な体勢のまま、ステージ外の地面に落下した

 

『きぃぃぃまったァァァー!!一瞬の攻防を制して準決勝に進んだのは塩崎だぁぁぁぁ!!』

『速攻という狙い自体は悪くなかったが、防がれることを考慮しなかったがゆえの敗北だな…その点、飯田の行動を読んだ塩崎の動きはスムーズで無駄がない。実に合理的だ』

「ケホ……襟を掴まれて少し呼吸ができませんでしたが…そのおかげで勝てたのだと考えましょう」

 

肺へ酸素を送り込みながら勝利を噛み締める塩崎。その姿を観客席から眺めていたジョルノは、観客席から離れる

 

「うん?どこ行くんだー?」

「少し…ある人に用ができたので」

 

峰田の疑問に振り返りながらジョルノは答えた

 

 

瀬呂VS常闇

 

こちらの試合は先程の試合と違い、長期戦となっていた

 

「そおりゃ!」

「クッ…迎撃しろ黒影(ダークシャドウ)!!」

『アイヨー!』

 

ベシィィ!

 

「絶え間ない…!」

 

肘先から飛び出す「テープ」を黒影(ダークシャドウ)の手が払いのける

 

テープに捕らえられても黒影(ダークシャドウ)なら影に戻して剥がせるからこそ防御ができるが、前後左右から途切れることなくやってくるテープに防戦一方な常闇。ステージ中央に陣取っている常闇の周辺には多くのテープが落ちている

 

「クッソ!全然アタんねー!テープの量だって無限じゃあねェのによ───!」

 

対して瀬呂はその常闇の周りをグルグル走りながらテープの拘束をひたすら試みていたが、高いフィジカルを存分に発揮した影のモンスターによって全て迎撃されていた

 

「だが策は思いついた…黒影(ダークシャドウ)!!」

 

互いに消耗していく中、防御を続けていた常闇が攻勢に出る

 

「瀬呂を捕らえろ!」

『マカセロ!』

 

バァン!

 

「うおわッ!?」

 

常闇の影が瀬呂に猛スピードで迫る。両手のひらを瀬呂に向かって叩きつけるが、回避されたことでコンクリートに命中し、砂煙が飛び散る

 

「そのまま追えッ黒影(ダークシャドウ)!!」

『ウシャアアアア!!』

「う、うおおおおお!!」

 

バン! バン! バァン!

 

追う者から一転、追われる者と化した瀬呂は、テープを地面に貼って巻き戻すことで、まるでスパイダーマンのような高速移動で黒影(ダークシャドウ)から逃げ続ける

 

「へ…焦ったな常闇ィー!」

 

しかし、瀬呂はそこにチャンスを見出した!

 

バシュゥ!

 

黒影(ダークシャドウ)が自身を追っている間は本体の常闇は無防備…つまりはテープへの防御ができないということなのだから

 

バッ

 

それに対して常闇は床に落ちていたテープを拾ってガードしようと試みたが、すでに遅かった

 

ガッシィィィ

 

テープを持ち上げた姿勢の常闇に瀬呂の長いテープが巻きつく。テープの粘着が体につけば逃れる方法は常闇にはない

 

「捕まえたぜェェェッ!常闇!」

 

即ち、常闇の敗北となる

 

「いや、()()()()()()()()()()

 

…はずだった

 

ヘロォ…

 

しかし現実はそうはならなかった。なぜなら、服や体に引っ付くはずのテープが、なぜかヘロヘロになって剥がれたからだ

 

「…へ?」

 

ベバシィ!

 

「ウゲェ!?」

『ツカマエタッ!』

 

そして、そんな光景に呆けている間に黒影(ダークシャドウ)に追いつかれた瀬呂は、影の手とコンクリート床のサンドイッチにされるのだった

 

「さてと、このままステージの外に放り出してやるとするか…黒影(ダークシャドウ)

『アイヨ』

「ま、待て待て待て待て!降参する!だから追い打ちかけんなっての!」

 

その言葉を聞いたミッドナイトは高らかに宣言する

 

「瀬呂くんの降参により、常闇くんの勝ち!!」

『勝者は、常闇に決定だァァ!!…しっかし、なんで最後のテープは剥がれちまったんだ?』

『正確には「くっつかなかった」だ…床に落ちてるテープを見てみろ』

 

遠い位置のためハッキリと見えないが、それでも粘着部分が微妙に黄ばんでいることにマイクは気づく

 

『ありゃあ……『砂』かぁ?』

『そうだ。常闇が瀬呂を捕まえる時、やたら黒影(ダークシャドウ)で地面を叩いていただろう。あれで砂ぼこりを巻き上がらせて、空気中と自分の体に砂を散布した。その砂がテープの粘着力を奪ったおかげで、体にテープがくっつかなかったって寸法だ』

『なるほど!頭脳プレーで勝ったってことだな!』

 

相澤の解説に感心するマイクだった

 

 

切島VS爆豪

 

そしてこの試合は、一言で表現するならば…

 

BOOM!

 

「爆破は効かねェー…ってさっき言ってたがよォ」

「ッ…!」

『硬化』してる間だけだろうがよォ〜。パクリヤローは衝撃に耐え切れねェで一瞬で解除してたが…」

 

BBBOM!!

 

「テメェはどんだけ()()だァァァ────!!」

「ぐおおおおおああああああ!!?」

 

───「蹂躙」だった

 

『ボコボコだァァァァァ!?「爆破」で休むことなくひたすら切島をボコり続ける爆豪ー!!これお茶の間の子ども泣いてねぇか!?メッチャ凶悪な笑顔してんだけどアイツ(爆豪)!!』

 

そう。マイクの言うように、爆豪はひたすら切島に爆破の嵐を叩き込んでいた。普通なら途中で攻撃が途切れるものだが、驚異的なスタミナと汗をかくほど火力が上がる“個性”の組み合わせが、一方的な状況を生み出していた

 

BBBBBOM!!

 

ジワジワと苛烈さを増していく攻撃に“硬化”を解除しないように防御することしかできず、爆破の衝撃で徐々に後ずさる切島

 

ザン

 

そしてとうとう、ステージの端まで追い詰められた

 

「トドメだァ───!!」

 

手のひらを爆破させながら右腕を切島の頭部に向かって振り下ろす

 

BOM!

 

爆炎が切島を飲み込む。硬化による角ばった肉体が元に戻り、グラリと後ろに傾いた

 

その時であった!

 

ガガシィ

 

「!?」

 

力尽きたはずの切島が全身を硬化した状態で足を踏み締め、爆豪の両手首を掴んだのだ!

 

「ンのッ…離せクソが!」

 

BBOM!

 

手のひらの角度を調整し、切島に爆破攻撃する爆豪。それでも切島は身じろぎもしなかった。なんとしても爆豪を倒すという執念で立ち上がって爆豪を捕まえた切島

 

 

ド ド ド ド ド ド

 

 

目の前の切島がデカく見えるように錯覚する

 

「………!」

 

思わず息を呑む爆豪

 

しかし、そこから微動だにしない切島の様子を訝しんだ爆豪はよく観察して…そして気づいた

 

「こ、こいつ…白目をむいている…」

 

切島が立ったまま気を失っていることに

 

「切島くんが気絶したため、爆豪くんの勝利!!」

 

爆豪は、最後の最後で切島の気迫に押された。だが、それを簡単に認めることなどできるはずもない

 

「…クソがッ」

 

吐き捨てるように爆豪はそう言った



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迫るアイヴィー・ウォール その1

タイトル書くのが1番悩みました


ヴィラン連合…正確にはその中核である死柄木と黒霧が拠点としている薄暗いバー

 

ガリ ガリ ガリ

 

気だるそうな雰囲気でイスに座る死柄木の目の前にあるテレビ……そこには雄英体育祭の様子が生放送されていた

 

ガリ ガリ ガリ

 

そして、最後の競技であるトーナメント戦で今現在戦っているのは、自分の恩師が気にかける金髪の子供と、USJ襲撃の際に邪魔をしたオールマイト並みのパワーを持つ緑髪の子供…

 

バキャァァァン!

 

直後、カウンターの上にあった酒瓶やグラスを裏拳で殴り壊す。“崩壊”で破壊しないことからかなり心が荒れ狂ってるのが理解できる

 

巻き添えを食らった他の酒瓶やグラスも宙を舞って床に落下する──

 

パッシィィィ

 

…のを、黒霧がギリギリでキャッチする

 

「随分と荒れていますね。死柄木」

「…ああ…なんだろうなぁ…」

 

テレビの中で歓声を受けているあの2人を見ると、海水の底で沈澱したヘドロのようなドス黒い狂気が湧き上がってくる

 

体を掻きむしる手が止まらない。奴らを見れば見るほど、不愉快なかゆみと奇妙な感覚が体に表れる

 

「あいつらを見ているとムカつくなぁ……」

 

首の後ろをより強い力で掻きむしりながら呟く

 

「あの、いかにも「希望」に満ち溢れている顔を…ゲドゲドの恐怖面に変えて」

 

ガリ ガリ ガリ

 

──壊したいなぁ…

 

そんな、あらゆる者が目を背けたくなるほどの闇を垣間見せる死柄木の背後にある大きなモニター

 

『いいね…成長している。楽しみだよ…』

 

そこに映る『口元以外の顔が潰れた』男は、明日のピクニックを待ちきれない子供のような気持ちで、しかし邪悪に唇を歪ませながら嗤った

 

教え子を、邪悪の血筋より生まれた者を見ながら…

 

『君の息子の成長が楽しみだよ………DIO』

 

その手のひらの上の黄金の『矢』に触れながら

 

 

 

一方、雄英体育祭会場では…

 

『ラストのトーナメント戦もいよいよ大詰めとなってきたぜ!勝ち上がった4人ッ!その中から決勝に進むのはいったい誰か!?それを決める戦いが今から始まるゥゥゥゥゥ!!』

 

ワアァァァァァァ!!

 

マイクの言葉で会場は盛り上がり、湧き立つ観客たちの前に2人の生徒が入場する

 

『さあ〜準決勝開幕だァ!選手はこの2人!ジョルノ・ジョバァァァァーッナ!!VSゥ!塩崎ィィィ茨だァァァー!!』

 

ステージ上に上がり、友と対面するジョルノ。少しすると体を半回転させて、ヒーロー科が集まっている観客席の方へ目を向ける

 

「ジョルノさん」

「………」

 

塩崎が目を閉じて語りかける。首だけ動かして振り向き、静かな姿勢で彼女の言葉に耳を傾ける

 

「私、あなたの事を、出会って短いですが大切な友人と思っています」

「ぼくも…君や徹鐵や峰田には感謝しています」

 

ジョルノの素直な気持ちに笑みを浮かべる塩崎

 

だが次の瞬間、おっとりとした彼女には似つかわしくないほどの闘志が、開かれた眼の中で燃え上がる

 

()()()()()………()()()()()()()()()()()。開会式の時、ジョルノさんの『覚悟』を聞いて、全力でぶつかり合いたいと」

 

シュルル シュルルル

 

(はかりごと)を行ってでも…あなたを倒すと」

 

髪のイバラが伸びて彼女の周囲で波打つ

 

その時、ジョルノは違和感に気づく

 

(…?なんだ?特に変化があるわけではないはずだ…でも、雰囲気や言動などの内面的な事ではない。いつもの彼女とどこか違うということだけが感覚で分かる。これが「策」ということか…)

 

この違和感の正体を暴けなければ負ける。そんな奇妙な確信がジョルノにはあった

 

『みんな早く見たいか〜?見たいよなぁぁぁ〜?俺もだッ!だから…』

 

そして…その時がやってくる

 

『準決勝……スタァァァ───ットォ!!』

 

ドバアアア!

 

開幕と同時に前面から薄い緑色の波が押し寄せてくる。それに対してジョルノが取った行動は……

 

『ゴールド・エクスペリエンスッ』!!」

 

──迎撃ッ!!

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 

ドゴォ! メキョ! メキィ!

 

分厚く、長いツタの壁をゴールド・Eのラッシュが押し返し、ブチ抜き、吹き飛ばす

 

道が開けたことでゴールド・Eと共に塩崎の方へ一気に突き進むジョルノ。その動きを封じようと側面からツタが数本伸びるが

 

ガシィ ブヂィ!

 

周囲に漂っていたジョルノの分身がそのツタを掴み、腕力に任せて引きちぎった

 

「無駄ァ──!!」

 

そしてそのまま、ちぎったツタを握りしめた右手で、塩崎に攻撃すべく大きく突き出した

 

しかし、それを想定していない塩崎ではなかった!

 

ズッボォォォ

 

「! ツタの盾…」

 

ゴールド・Eの拳を防いだのは、塩崎を覆うほど大きなツタの盾だった。ただ大きいだけではなく、自動車を瞬く間にスクラップにできるゴールド・Eの一撃を防ぐほど分厚い盾であった

 

ギュウウウウウ…

 

そして、同時に捕らえたゴールド・Eの腕を、イバラのツタで強く圧迫する

 

「ぐッ…!」

 

痛みのフィードバックを受けたジョルノは、急いでゴールド・Eの腕をツタの盾から抜き出した。圧迫された腕はイバラの棘によって傷を負い、本体の右腕からも出血が起こる

 

見れば、本体まで切り拓いた道は膨大なツタで塞がれ、試合前と同じ状況に陥ってしまっている

 

(いや…右腕の負傷、そして茨の消耗具合を考えれば、こちらが不利な状況になったといえる…何よりツタの物量で迫られれば、時間が経つほど形勢を覆せなくなっていく…)

 

冷静に分析するジョルノ。思考の果てに至った結論、いかに効率よく彼女のツタをダメージを抑えて消耗させるか…それが肝要だった

 

ドビュゥ!

 

直後、緑色のツタが束になって叩きつけるようにジョルノに襲いかかってくる

 

「無駄!」

 

ドン! ドン!

 

その束にゴールド・Eのパンチが直撃し、同時に生命エネルギーをツタに流し込む。すると…

 

グググ…ボロ ボロ ボロ…

 

急激な速度でツタが成長を始め、しかし次第にそのツタは老いるように活力とツヤを失い、やがて減速しながら朽ち果てていった

 

『ゴールド・E』…どんな生命も成長の果てに老いて死ぬ…君のツタに生命エネルギーを流し続けて枯れさせた。髪がツタの君には申し訳ないことをするが……今から襲ってくるツタは、すべて枯らして朽ちさせる」

 

ビュオォ!

 

さっきより細いツタが高速で側面から迫る

 

「無駄ッ!」

 

ズギュン! ズギュン!

 

それを同じように「ゴールド・E」の拳を介して生命エネルギーを流して枯れるまで成長させる

 

グググ…

 

「………」

 

しかし、さっき以上に生命エネルギーを流し込んでいるはずなのにツタのイバラは枯れるどころか…

 

「な…」

 

グオオオ!

 

「なにィイイイイイ!?」

 

より太く、頑丈に成長してジョルノに襲いかかる!

 

ドグシャァァ!

 

「うぐァッ!!」

 

天然の鞭でゴールド・Eごとしたたかに打ち付けられたジョルノは、勢いよく吹っ飛ばされ、コンクリートの上に倒れる

 

『うおおお!?信じらんねェモン見ちまったぜッ!まさかのジョルノがダウゥゥーン!!』

「く…!」

 

ハァー ハァー

 

吐き出された息を取り込みながら、ジョルノは塩崎を守るツタと、攻撃してきた太く成長したツタを観察し…そして理解した

 

「そ…そうか…!」

 

なぜ、ツタが最初と違い、枯れず成長を続けたのか

 

「どんな生命も、生まれた時は皮膚が厚くなかったり色素が薄かったりする…人間や動物の赤ん坊が赤みの強い体色をしているのは、皮膚が薄く血の色が表面に出やすいから…植物も体内の葉緑素が少なければ、それだけ葉や茎の色も薄くなる…成長につれて光合成に必要な葉緑素が増え、それだけ色濃くなっていく…」

 

目の前の大きく成長したツタは鮮やかと言えるほど『濃い緑色』に()()()()()…そう、()()()()()

 

「普段から彼女を見ていなければ気づけないほどの些細な変化!」

 

一方、塩崎を中心にうねるツタの色が…ほとんど『薄い緑色』であった

 

「そうだ…茨の髪のツタの「色」が薄くなっている!」

 

それはつまり…

 

 

 

「今の彼女のツタは、枯らすには多量の生命エネルギーが必要な『若葉』のツタだということだ!!」

 

「ゴールド・エクスペリエンス」の能力にとって有利に立ち回れるはずの「ツタ」の個性

 

それが新たな『天敵』として、ジョルノの前に立ちはだかるのであった



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迫るアイヴィー・ウォール その2

土日で急いで書き上げました。雄英体育祭編も佳境です


「コリント人への手紙 第一 10章13節「神は真実である。あなたがたを耐えられないような試錬に会わせることはないばかりか、試錬と同時に、それに耐えられるように、のがれる道も備えて下さるのである」」

 

姿は見えないが、手を組み、祈るような所作で聖句を語っていることがジョルノは容易に想像できた

 

「あなたにとってこの試錬が「立ち向かうもの」「逃れるもの」かは存じませんが…ひとつだけ確かなことが」

 

地面に叩きつけられた体を静かに起こす中、塩崎が口を開く

 

「私はこの試錬から逃れる気は一切ないということです…!必ず勝ちます。あなたに勝つことは…過去の固執した己自身に打ち勝つことだと理解しているからです」

「…少し前の君ならば、決して思いつかなかった策だった…()()()()()()()()のですね」

 

ジョルノの考え通り、それこそが塩崎の作戦

 

“個性”の性質上、水と日光があればすぐにツタは伸びる。大部分のツタを切り、成長させることで若いツタに生え変わらせたわけである

 

「君は自分の過去に勝つと言ったが…すでに君は変わることが『できている』。ぼくは大きなダメージを与えられているわけだからな…」

 

『ゴールド・E』に戦闘の姿勢を取らせる

 

「それでも………君に勝つ」

 

グバァァァ───!

 

大量のツタ、それが一斉にジョルノに襲いかかる!

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 

ドバ!ドバ!ドバ!ドバ!

 

最初の攻防以上のパワー、そしてスピードラッシュで触手の如くうねるツタを凌いでいくが、その顔色は良くない

 

(このツタの量…キリがない!しかも絶え間なく襲ってくるぞ!ツタをちぎったりする隙がないッ!この(パワー)、スピード、物量、何よりゴールド・Eの能力を利用してくるところ!この猛攻を耐え凌ぐことが、で…できるのか…!?)

 

徐々にステージの端に追い詰められていくジョルノ

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 

次に迫るツタ…色は緑色!

 

(! これは普段のツタの色!つまり!)

「無駄ァァァ!!」

 

危機的状況でも判断力を失っていないジョルノは、生命力に満たされたパンチでツタを殴る

 

しかし!

 

ビュォ!

 

「なに!!」

 

殴る直前、真新しいツタが新緑のツタをかばうように前に出る

 

ピッタァァァァ…

 

急ブレーキをかけた車のように急停止するゴールド・Eのパンチ。これで少なくとも、敵に塩を送るような事態は避けられた

 

だが、敵の攻撃が止まったわけでは決してない

 

ドゴォ!

 

「グッ…!」

 

2度目の痛烈な強打がジョルノを襲う

 

若葉のツタは細く柔らかい。ゆえに先ほどよりは強くない一撃だが、決して弱い一撃でもないのだ

 

「あなたを気絶させるのは難しいですが、捕まえてここから追放すれば問題ないでしょうッ」

 

ズシャァァ

 

倒れずに大地に足を踏み締めて踏ん張る。そこに追撃が来る

 

どこへ行かれるのですか(ドミネ・クオ・ヴァディス)?」あなたは磔刑(たっけい)です────ッ!!」

 

文字通り、相手を磔にするツタがジョルノを捕らえた

 

バキャァアア

 

…誰もがそう思った瞬間だった

 

「……!」

(地面を砕いて、石つぶてをツタの中に…!)

 

『ゴールド・E』が拳で砕いて出来た大量の石を握りしめて浮かび上がる。すると、ステージ全体に広げられたツタの網…ちょうどジョルノと塩崎の中間にあたるツタの部位に向かって、満遍なく石を放り投げた

 

そしてその石は…オレンジと黒の派手な体色をした小さな虫に姿を変える

 

「こ、これはッ!?」

「『ミイデラゴミムシ』…いわゆるゴミムシの一種なんだが、この虫の生態には1つの特徴がある」

 

ブブブブブブッ

 

成長し切ったミイデラゴミムシは腹部に当たる部分を勢いよく振動させて……腹の後ろから()()()()()き出す

 

「それは高温の「ガス」!!例えばカエルなどの外敵から攻撃を受けると、過酸化水素とヒドロキノンの反応によって生成した、主として水蒸気とベンゾキノンから成る100℃以上の気体を爆発的に噴射する!そして生命エネルギーで最大まで成長したその虫は、それ以上に高い温度のガスを放てる!」

 

ブブブブ…ボッ!

 

「ハ!」

「植物ならギリギリ発火する温度だ」

 

直後、ミイデラゴミムシはジョルノの意思を感じ取り、ツタに向かってガスを噴出する!

 

ボォオオオ!

 

『ファイアァアアアア!!追い詰められていたはずがジョルノ・ジョバァーナッ、逆にツタを燃やして形成を逆転した───!!』

「その位置ならば、ツタをすぐ切り離せば炎は君に届かない。かつ、ツタへのダメージが最大限に発揮される…これで君の能力は封じた」

 

シュバァァ

 

「!」

 

ギュゥウウウ…

 

しかし、塩崎は冷静に燃え盛るツタを一箇所に束ねる。それを地面に押し付け、さらに先端のツタを隙間なくドーム状に集めると炎に被せて圧迫し始めた

 

『おおっとこれはァ!?まさか炎の消火を試みてるのか!?』

『隙間のないツタを覆い被せることで酸素のない密閉空間を作ったのか。炎は強く燃えるほど燃焼が激しく、酸素の消費がそれだけ多くなる。植物系統の“個性”は総じて炎熱系の“個性”に弱い…その弱点に対する克服の答えがこれというわけか…』

 

相澤の言う通り、ドームの中の炎は、あれだけ大きかったにもかかわらず…否、大きく激しい炎だったからこそ、すでに火種程度にまで鎮火していた

 

無傷ではない。痛手ではある。しかし、それでも全体の三割程度のツタしか焼け落ちてない姿を見れば、ダメージをかなり抑えられたのは明らかだった

 

「弱点の対策は…無論しています。私自身に降りかかった火の粉を払う程度ならば、ですが」

 

ビュォッ

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 

ドバァァ

 

「く…!無駄無駄無駄無駄!!」

 

再び激しい攻撃を受けるジョルノは必死に抵抗するも…

 

ザリッ

 

「…………!」

 

とうとうステージの端まで追い詰められた

 

「あなたがどんな行動をしようと、必ず私のツタがあなたを掴み、そして即座にこの聖域(ステージ)から追放いたします」

 

掴み、投げる。その二手で塩崎の勝利は決定する

 

『チェック』です、ジョルノさん…もう逃げることはできませんよ」

 

………ゴクリ

 

観客の誰もが固唾を飲む中…ジョルノは静かに語る

 

「いいや…茨。それは違う」

「…どういう意味ですか?」

「逃れられないのは君の方だ…すでに君はチェスや将棋でいう「詰み(チェックメイト)」にはまっているのだからな」

 

シュルル

 

「え…?」

 

その時、塩崎の首に冷たい『何か』がピッタリと巻きつく。長い体をくねらせて目の前で舌をチロチロと出すその存在を見て、塩崎は目を剥く

 

「まさか…「ヘビ」!?な、なぜヘビが私の」

「動くな!!」

 

いきなり現れて首に巻きついてきたヘビに混乱する中、ジョルノに一喝されて動きを止める

 

「もし少しでもツタを動かしたりヘビを引き剥がそうとする素振りを見せれば、即座にヘビが君の頸動脈を押さえて意識を奪う…」

「うう!」

「さあ、最後まで抵抗を試みるか、降参するのか…選ぶのは君の自由だ」

 

完全に逆転した状態で、先ほどの塩崎のように『詰み』を突きつけるジョルノ

 

塩崎は考える。考えて、考えて、考えを巡らせて…

 

「………まいりました。降参いたします」

「ベネ(良し)」

 

出した答えは「打つ手なし」であった

 

『…ウオオオオ!!めっちゃキンチョーしたー!というわけでッ!頭脳戦を制してファイナルラウンドへの切符を手にしたのはジョルノ・ジョバァーナだァアアア───!!』

 

パチパチパチパチパチ

 

静寂を破るプレゼント・マイクの絶叫に、観客席から拍手が上がった

 

ステージ上で塩崎がツタを縮めて腰ほどの長さまでに戻すと、ジョルノもゴールド・Eに指示を出してヘビを操り、手の上に乗せると元の物体に戻す

 

「! それは、私のツタ…?」

 

そう、ヘビは塩崎のちぎれたツタに生命力を注ぎ込んだ結果、生まれた生命だった

 

それを見て、塩崎は気づく。試合の序盤、ジョルノがちぎったツタを握りしめてツタの盾を殴った時、無理やり引き抜いた腕の中に握られていたツタは存在しなかった…

 

「そうですか…あの時すでに…」

「“個性”を考えれば、君を場外にすることは不可能に近い。だから君自身を戦闘不能にする必要があるわけだが、そうすると今度はツタの物量を乗り越えることが困難だった。だからぼくそのものを囮にして、ヘビを君のそばまで近づかせようと元々考えていたわけだが…正直、君が自分の能力をぼくの能力の天敵にしてくるとは思ってもいなかった。いかに攻撃を耐えるかが重要だった…」

 

説明が終わると、ジョルノは会場を後にしようとする

 

「ジョルノさん!決勝、頑張ってください!徹鐵さんと応援しています!」

「グラッツェ」

 

礼を口にしてジョルノは去っていく。塩崎もステージから出ようとした時、ふと花の香りが背中…正確にはツタから漂う

 

ツタを動かして見てみると、高温のガスで焦げていたはずのツタがツヤのいい濃緑に輝いており、さらにその上に紫と白の花、紫のオダマキが咲いていた

 

思わず塩崎は友が去っていった道を見る。そして、慈母のように穏やかな笑みを浮かべ、つぶやいた

 

「本当に、慈愛に満ち溢れた人です」

 

 

 

ジョルノ・ジョバァーナ──決勝進出

塩崎 茨──敗北



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宣戦布告

遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。いつまでもやりたい放題なジャギィですが、今年もよろしくお願いしますね


それはジョルノと塩崎が激闘を繰り広げている最中のこと…

 

「負けるなジョルノォオオ!!」

「うおおおおッいけぇ気合いだァァ!!」

「頑張れジョルノと茨ァァァ!!」

「鉄哲、応援必要なの塩崎だけだよね?B組の彼女だけで応援いいんじゃあないかな?ネェ?」

 

見てるだけで暑苦しいまでに声を張り上げる峰田と切島と鉄哲、そしてクラスメイトが敵である(と勝手に対抗意識を燃やしてる)A組のジョルノにも自然と声援を送ってることに苦言を呈す物間

 

誰もが手に汗握る攻防を繰り広げている中

 

とぉるるるるるん

 

着信音が鳴り響いた。鳴ったのは飯田のスマホだ

 

「ム……すまないみんな!母から電話が来た!少しの間抜けさせてもらう!」

「おーう」

「いってら〜」

 

試合に夢中なのもあるが、電話くらいならすぐに戻ってくるだろうと思ったみんなはそれぞれ軽く返事をする

 

返事に聞いた飯田はすぐに観客席から離れ、薄暗い通路まで移動してから電話に出る

 

ピッ

 

「もしもし。ごめん母さん、試合に負けてしまった…せっかく応援してくれていたのに不甲斐ない…」

 

電話に出てすぐに体育祭の結果を報告し謝罪する飯田。しかし、飯田の言葉に対して返事はおろか物音すらも立てない

 

「母さん…?」

「天哉…よく聞いて…実は、兄さんが…」

 

飯田の母親は、絞り出すように震える声で、飯田にある出来事を話した…

 

「兄さんが…ヴィランに…!?そ、そんなバカなッ!」

 

それは、飯田天哉にとって何よりも、誰よりも信じられない真実だった

 

 

 

「おまえらは気づきもしない」

 

血で形作られたように紅く染まった布切れがたなびく

 

背の刀、両腰に備え付けられた複数のナイフ、スパイク状の足裏に装飾品、浮浪者のようにボロボロで風化した衣服。すべてが一般からかけ離れた異様な男がビルの上で街を見下ろす

 

ウウ〜〜〜!

 

『名声』……『金』…どいつもこいつもヒーロー名乗りやがって…ハァ…」

『こちら保須警察署!至急応援を頼むッ!』

「ハァ…てめェらはヒーローなんかじゃあない…彼だけだ…」

 

ガッ

 

各部にエンジンのマフラーがついた甲冑姿のようなヒーローを、血の池の中に沈む「インゲニウム」を見下ろす

 

「俺を殺っていいのは…ハァ〜…!」

『救急車もだッ!『インゲニウム』がやられているんだッ、早くしろ!』

 

下手人は刃こぼれした刀を長い舌で舐めながら、地獄の底から響くような声で呟いた

 

「オールマイトだけだ」

「ヒーロー殺し」が現れたッ!!』

 

 

 

雄英体育祭もいよいよ終わりが見えてきた

 

待機室に向かって廊下を歩くのはジョルノ・ジョバァーナだ。保健室にとんぼ返りすることになったジョルノは、リカバリーガールから小言を受けながらも軽い治療を受けて、傷を治してきたのだ

 

待機室に到着したジョルノはドアノブに手をかけ、扉を開ける

 

「……アァ?」

 

すると中には、机に足をかけて気だるそうに座る対戦相手(爆豪)の姿があった

 

「…何やってるんです?」

「そりゃこっちのセリフだろうがよォ。テメェー何しに来やがった」

 

敵対心を隠さずそう言う爆豪に、ジョルノはなぜ爆豪がここにいるのか理解した

 

「ここ、ぼくの方の待機室ですよ」

「ハァ?寝ボケてんじゃあねェぞコロネ野郎」

「表札、見てみます?」

 

その試すような物言いに腹が立った爆豪はいかにも怒り心頭といった足取りで廊下に出て振り向き

 

(ちげ)ェじゃねえかよクソが!!」

 

『第一待機室』と書かれた表札を見た爆豪は大声でキレた。ここで恥ではなく怒りの感情が出てくるのが爆豪クオリティである

 

「………」

「ンだテメェ何見てやがるクソコロネ!!」

 

そんな様子をジッ…と見ていると爆弾の破片のようにところ構わず当たり散らす爆豪

 

「……爆豪」

「アァン!?」

「おまえを倒す」

 

突如そう告げられ、爆豪は思わず真顔になる

 

「勝つのはぼくだ」

「…テメェ、いきなり喋ったかと思えばよォォ〜…俺に勝つだァ?勝つのは俺に決まってンだろがボケが!!」

 

だが、それは怒りを発散させたからではない。逆にその「怒り」を内側に溜め込み、そして凶暴と表現できる「闘争心」に変換させたからだ

 

その証拠に、口角を限界まで吊り上げたその笑みは…誰が見ても原始的で好戦的な笑みだった

 

『全力』で来やがれッ!『全力』のテメェをブッ潰して、俺が完膚なきまでの頂点(テッペン)を取る!!」

 

堂々とした宣戦布告を口にすると、爆豪は本来自分が待機すべきべき場所に向かっていった。通路の奥まで、見えなくなるまで見送ったジョルノは扉を開けて第一待機室に入る

 

 

その時のジョルノの目は

 

 

もはや誰もが知るよしもない

 

 

かつて1番にこだわり続けた「父親(DIO)」と同じ、野心に満ち溢れた目をしていた

 

 

 

2人を除いたA組が集う観客席。そこに緑谷出久は麗日、飯田の友達2人と席を共にしていた。近くには鉄哲と塩崎、あとA組トリオとはあまり馴染みがない峰田もいた

 

「いよいよ決勝か」

「ジョルノくんと爆豪くんの対決だね」

「うん…」

「ねえデクくん、デクくんはどっちが勝つと思う?」

 

麗日の純粋な質問に緑谷は答える

 

「正直なところを言うと分からない。ジョルノくんは僕を簡単に倒したし、実力もヒーロー科の中でトップクラスだと思ってる…でも、かっちゃんだってすごいんだ。子どもの頃からずっと見てきたから分かる。少なくとも、ジョルノくんでも簡単に勝てる相手じゃあないってことくらいは分かる…」

 

緑谷としてはどちらも応援したい心を抱いている

 

かたや子どもの頃から憧れ続けてきた幼なじみ、かたや自分の進むべき道の先を悠然と突き進む友だち。両者とも今の緑谷にはかけがえのない存在だ

 

「オ!始まるみてェだぜ!」

 

鉄哲の言葉にヒーロー科全員がステージに注目する。向こう側からはジョルノ、こちら側からは爆豪はステージ上に向かって歩く

 

『長かったこの雄英体育祭…それもいよいよ終わりが見えてきた…さァリスナーのテメェら、フィナーレの開幕だッ!!テッペンを決める決勝戦が始まるぞォオオオオオ!!』

 

オオオオオオオ!!

 

最初は静かに、しかし徐々にボルテージを上げ、最終的にはいつも以上のハイテンションでマイクは喉を震わせて叫んだ。観客たちもつられて絶叫する

 

『このファイナルにふさわしい選手を紹介するぜ!クールと熱血がハイブリッドするこの男!宣言通りブチのめして1位を取るのかァァ!?『ジョルノ・ジョッバァ───ナ』ァアアアア!!

 

触れるものすべて吹っ飛ばすぜボンバーマン!勝つのはこの俺だッてかァ!?『爆豪ォオ勝己』ィイイイイ!!』

 

ザン

 

対峙するジョルノと爆豪。2人の間に言葉はない

 

言いたいことはさっき言った。ならば残るべき()()()()()()()………

 

『そこから見ろ!むこうから見ろォ!今最後の試合が始まるんだぜ─────!!』

 

「目の前の敵をブチのめす」だけだ

 

『ス………タアアアアアットォオ!!!』

 

 

BOOOM!!

 

 

爆音をゴングに、決勝戦が始まった



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誇りの道は誰が()く その1

BOOM!!

 

開幕と同時に熱と衝撃がステージ中央で巻き起こる

 

「初っ端から飛ばすなアイツ!!」

「ジョバァーナくんは…!?」

 

ボッ

 

爆炎と粉塵から飛び出す影。ジョルノだ。ゴールド・Eの脚力でバックステップして距離を取る

 

追い縋るように飛び出す影。爆豪だ。掌に凶悪な花火を携え、言葉と共に振り下ろす

 

「くらえッ!」

 

BBBOM!

 

連鎖する爆発を肉体を横に倒して回避するジョルノ。当然そんな隙を見逃す爆豪ではないが…そんな隙を放置するジョルノでもない

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 

ドゴ!ドゴ!ドゴ!

 

『おおっと先制ィィ──!!』

 

ゴールド・エクスペリエンスの拳が数発命中する

 

殴られた爆豪が宙を()()()飛ぶ。そのまま行けば場外に落ちるが、爆破による飛行でステージに着地して場外を防ぐ

 

油断なくゴールド・Eを側に寄せる

 

(命中はした。だが感触は良くなかった。わざと全身を弛緩(しかん)させて吹っ飛ばされることで「ゴールド・E」の攻撃を受け流したのか。空中だったことも相まってダメージをほとんど与えられなかった…)

「ぬりィぜッ!」

 

ダメージを受けた様子もなく、再度突っ込んでくる爆豪

 

常に爆破による滞空で上空に位置取り、決して無理に距離を詰めず爆炎と衝撃のみで攻撃する。そして攻撃を終えれば必ずジョルノから離れる

 

『ひたすらヒット&アウェイに徹する爆豪!ジョルノも反撃を試みようとするが防戦一方だァ──!』

「ゴールド・エクスペリエンス」の防御能力自体は皆無に等しい。切島や鉄哲のように自身を硬化させる“個性”ならばゴリ押したりもできるんだが、痛みがフィードバックすると分かっているからこそ爆豪も無闇に攻め続けない…この状況を維持し続ければ、有利になるのは爆豪の方だからな』

 

単純に物理的な攻撃であればゴールド・Eのパワーとスピードで無理やり突破できただろう。だが爆発による熱と衝撃ではそれができない

 

常人を凌駕するスタミナと並外れた反射速度、加えて汗をかけばかくほど火力が増していく『爆破』の能力の存在が、爆豪撃破の難易度を底上げしていた

 

「無駄ッ!」

 

バッゴォ!

 

アンダースローのような軌道で放たれたパンチが地面のコンクリートを抉り、広範囲の石つぶてが着地する爆豪に飛来する

 

「オラァ!」

 

それを最小限の姿勢、火力で迎撃し、残りの石が真横を通過していく

 

ザンッ

 

「!!」

 

その時だ。石つぶてに紛れてジョルノが接近してきたのは

 

「無…」

「シャァ!!」

 

拳が振るわれるよりも先に掌が炸裂する

 

バッキィィィ!

 

『クリィィンヒットォオオオオオー!!』

 

そして爆発の勢いを乗せた裏拳がジョルノの右頬を強かに打ちつけた。そしてそのままジョルノは吹き飛ばされる

 

ビィィン…

 

…はずだった

 

「ア゛!?」

 

腕を引っ張られたかのような奇妙な姿勢で急停止するジョルノと、対照的にジョルノが吹っ飛ばされた方向に右腕を引っ張られる爆豪

 

シュルルル…

 

「ンだ……こりゃア!!」

 

そう、爆豪の右手首には、ジョルノの右手首と繋がるように太い樹の根っこのような物が巻きついている!

 

石つぶての散弾はフェイク。本命は爆豪の腕に木の根を絡まらせることにあった!

 

「この程度でよォ!俺を捕まえたつもりかァコロネ野郎!!」

 

BOOM!!

 

残った左掌から出た容赦ない爆炎が根っこを飲み込む

 

ブス ブス

 

しかし、高温の爆発が根っこに晒されたにも関わらず、根は焼け落ちるどころかその表面を軽く焦すだけだった

 

「焼けねェだと…!?」

「無駄だ。ジャイアントセコイアは樹齢1000年を優に超える世界一の巨木だ。山火事をも耐える生命力を考えれば、おまえの爆破も十分耐えられる」

 

説明が終わる頃には生命の成長は完了しており、ジョルノと爆豪の右手首は世界一丈夫な根っこで繋がれた状態になった

 

「このままおまえにヒット&アウェイを繰り返させれば、ぼくの勝ち目はなくなる…しかし、こうして互いに繋がれば、おまえはもうぼくから距離を取ることはできなくなる」

「テメェ……」

『ま、まさか…ジョルノの奴…!?』

「だが、そうすれば当然おまえからの攻撃を防ぐのも難しくなる」

 

根で繋がった右手を前に構え、『ゴールド・E』と共にファイティングポーズを取りながら…

 

「だから……その前におまえをブチのめす…!!」

 

ジョルノはそう宣言した

 

『真正面から殴り合う気かァ─────!?』

「ムチャだッ!爆豪とスタミナで張り合おうなんざ!!」

 

観客席でそう声を荒げるのは切島だ

 

切島は“個性”の関係上、そして彼の「漢らしさ」を重視する性格ゆえに爆豪と真正面から戦った

 

だからこそ、硬化してなお貫通してくる爆破の攻撃力の高さと、その爆破を絶え間なく打ち込んでくる爆豪の恐ろしさをよく理解していた

 

「面白れェ…!!」

 

一方、真正面から戦おうと闘志を燃やしてくる姿を見て、爆豪は指名手配されたヴィランのように凶悪な表情を浮かべる

 

「分かりやすくて良いじゃあねェかよォォォー……その度胸に免じて…完膚なきまでにブッ殺してやるぜコロネ野郎(ヤロ)ォ!!!」

 

そして、その面構えと完全に一致するセリフと共に左腕を振るい襲いかかる

 

グイィ───

 

スカァ…

 

だが、威勢よく爆ぜる爆発は、右腕を強い力で引っ張られ、姿勢を崩されたことで見当外れの方向に打ち込まれる

 

「!!」

「無駄無駄無駄無駄───!!」

 

ドン! ドン! ドン! ドン!

 

「ぐお…!!」

 

カウンター気味に打ち込まれた鉄拳が爆豪の胴体にめり込む

 

肺の中にある空気を全て吐き出した後、すぐに呼吸して酸素を取り込みながら、忌々しげにジョルノと繋がるジャイアントセコイアの根のロープを見る

 

(今の力、あきらかに生身のコイツが出せる力じゃあねえ。騎馬戦の時みてーに生身の肉体に「ゴールド・E」(パワー)を上乗せしてやがんのか…ならこのロープを俺が引っ張ったところで逆にパワー負けするだけ。つまり、この状況を見通した上でこの策を選んだっつーことッ!)

 

ジョルノを見る。その体には黄金のヴィジョンがブレるように重なっている

 

「テメ〜〜〜〜…!!」

「爆破を喰らえばどうなるかなんて分かり切っていることだ。さあ…どれだけ耐えられる?」

「ナメてんじゃあねェ!!」

 

BBBOM!!

 

苛烈な戦いは続く



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誇りの道は誰が()く その2

「かっちゃん……!」

 

緑谷は殴られて膝をついた幼馴染の名前を呟く

 

爆豪勝己は、緑谷にとっていじめっ子であり、嫌な奴であり、スゴイ奴であり、越えたい壁である

 

その爆豪が苦渋の表情で眼前の敵を殺すと言わんばかりに睨め付けている。眼前の、巨悪の息子で緑谷たちの友達の、ジョルノを

 

「爆豪の奴、スゲェ顔してんな。ありゃ猛獣だぜ」

「まさしく修羅よ…」

「でも、さっきと違って爆豪はあっちこっち動き回れねえ。ジョルノもそうなんだが…こりゃあ、ガチに我慢比べってやつになるな」

(違う…)

 

クラスメイトたちは眼下の状況を素直に捉えるが、ジョルノと爆豪の両方をよく知る者だけは違った

 

(かっちゃんは僕らの中で1番突出したスタミナを持ってるけど、決してタフネス任せの考えなしで行動しない。詰め将棋みたいに、正確に、確実に、相手の手を潰して弱点を狙って攻撃してくるはずなんだ…!そんなこと、騎馬戦の終盤で追い詰められていたジョルノくんが気づかないはずがない…ッ!!つまり………)ブツブツブツブツブツブツ

「デ、デクくん…!?」

「アー、放っておいた方がいいぞ麗日」

 

オタクモードになった緑谷の姿を真横で見ていた麗日はビックリして、そんな麗日に助言する鉄哲

 

(つまり…!)

 

 

 

(狙いはスタミナ切れ()()()()()()()

 

一方、ステージの上で爆豪は、緑谷と同じ結論を出していた

 

「ウラァ!」

 

ドヒャァ

 

座った状態から繰り出したとは思えないほど鋭い蹴りがジョルノに迫る

 

「無駄ッ!」

 

ジョルノが構えた左腕から飛び出たゴールド・Eの左腕の裏拳が、まるでボウガンから射出された矢弾のような蹴りを迎え撃つ

 

バッシィィィ!

 

「チィ!」

「……!」

 

バチ バチッ

 

スゥ…

 

距離を取れない代わりに威嚇する猛獣めいて、両手から爆発の火花を散らす。対するジョルノは右側を前面にした半身の姿勢で爆豪と向き合う

 

(ヤローはモブどもと違って頭はいい。だがとんでもねェバカだ。少なくとも、よく知らねー俺と切島に(ヴィラン)ブチ殺すのを任せて1人囮になりにいく程度にはな…勝てるならどんな手だろうと使う)

 

ジョルノの優しさや心の強さをよく知っているのが緑谷や鉄哲たちだとするのならば、そのハングリー精神や自己犠牲の具合をよく知っているのは爆豪と切島の2人と言えよう

 

爆豪の脳裏に、見えない敵に向かって突っ込み、背中をブッ刺されたジョルノの姿が浮かぶ

 

(言い換えれば、勝てる手段を必ず実行しようとするのがコロネ野郎だッ!しかし俺が持久戦で負けるわけがねえ!ンなことはコロネ野郎も分かってる…ならこの、(ヤロー)にとって不毛な殴り合いのメリット、そこに狙いがあるはずだ…!)

 

一瞬の油断もできない膠着(こうちゃく)状態…

 

グィン

 

それが破られる

 

「!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 

膠着を破ったのはジョルノだ。ゴールド・Eで強化された腕力で爆豪を引き込み、近づく爆豪にゴールド・Eのラッシュを打ち込む

 

ボッ!

 

爆豪はこれを迎え撃つのではなく、爆破の勢いを利用した動きで回避する。並外れた反射神経がなければ爆豪は容赦なく滅多打ちにされていただろう

 

そして爆豪は一定の距離を保ちながら攻撃する…のではなく

 

「!! 何…!」

 

逆にジョルノに向かってさらに接近した!

 

そのままジョルノに飛びかかり

 

ガッギィィィィン

 

その左腕に全身で絡み付いた

 

『う、腕ひしぎ十字固め!?関節技ァ!?あの爆豪が!?』

『なるほど…植物のロープで距離を取れず、中途半端な近距離はジョバァーナの独擅場。ならばむしろ密着するほどの距離であれば、ロープが弛み右腕が自由に動かせる分、爆豪の有利に働く。しかも関節をしっかり()めればゴールド・Eのパワーアシストも意味がなくなる』

 

重みで仰向けに倒れるジョルノ。お互いに体を地面に打ち付けるが、爆豪は意に介さず、左腕をへし折らんとばかりに関節をさらに極める

 

ギリギリギリギリギリ…

 

「ぐ、ううう…!コ、コイツ…!!」

『普通の増強型ならば、この時点で勝負は決まりだが…』

 

そうはさせないのが「ゴールド・E」だ

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 

もはや拳の雨と表現できるラッシュが爆豪の真上から降り注ぐ

 

その拳撃を見ても爆豪は離れようとしない…それどころか、腕を固定したまま器用に両掌をゴールド・Eに向け…

 

BOOM!!

 

絨毯爆撃を浴びせる

 

「ぐあぁぁッ!!」

 

ブシャァ!

 

爆撃をモロに受けたゴールド・Eの上半身が一部ひび割れ、ジョルノの体も同じ箇所から出血する

 

このまま攻撃を続ける…そう思考する爆豪だが、そう上手くいかないのが現実というものだ

 

「ぐっ……無駄!!」

 

バッキャァァ!

 

砕かれるコンクリート。その破片が爆豪の体に落下し…与えられた生命エネルギーによって姿を変える

 

ウネ ウネ ウネ

 

姿を変えたその虫を見て1番大きな反応したのは…実況者であるプレゼント・マイクだった

 

『ギイヤァァアアアアアア!!?』

『うるせーぞ山田』

『本名はやめてェ!!』

 

あまりにも大袈裟な反応…とは誰も言えなかった

 

「ムカデ…!」

 

爆豪の体に這い回るのは全長10㎝はあるトビズムカデ。見ているだけで不快なその見た目と動きは、観客席の口田が奇声を上げるレベルだ

 

数匹のトビズムカデは決してジョルノを咬まず、敵対者である爆豪めがけて飛びかかる

 

「クソが!!」

 

バッ  BBBOM!

 

これにはさすがの爆豪もたまらず拘束を解いてムカデを振り払い、爆発による高熱で焼き殺した

 

しかし爆豪の関節技が外れたということは、その者の反撃を許すということに他ならない

 

ドォォォォォン

 

「はっ!!」

 

 

WRYYYYYYYYYYYYYY(ウリャア────────────────)!!!」

 

 

ドゴ!ドゴ!ドゴ!ドゴ!ドゴ!ドゴ!

 

「ぐぎィ………!!」

 

黄金の嵐が爆豪を飲み込む

 

「ッ───ガアアアアアッ!!」

 

常人ならば間違いなく気絶している「ゴールド・E」のラッシュを爆豪は耐え切り、獣のような雄叫びを上げながら爆破でジョルノを狙う

 

BOOM!!

 

「……………!」

 

ビィ───ン…

 

「ぬァ!」

 

爆風と衝撃で吹き飛ばされるジョルノだが、根っこのロープに繋がった爆豪が思わず踏ん張ったことにより、場外に飛ぶことは避けられた

 

ハァ ハァ ハァ

 

ハァー ハァー ハァー

 

この試合を見ている観客や視聴者たちは目が離せなかった。一進一退の激しい攻防、知略を尽くした戦い、真正面からのぶつかり合い。まさに、決勝戦に相応しい大激突がそこにあった

 

2人揃って肩で息をし、体操服は砂と血で汚れ、ボロボロに破れてもいる

 

「ハァ…なるほどなァ〜〜〜…ハァー…」

 

爆豪が右腕を上げる。手首にはあれだけの攻防に巻き込まれながらも未だ表面が削れた程度のジャイアントセコイアのロープがある

 

「コイツぁ、俺を縛る首輪であると同時に、文字通りテメェの命綱っつーわけかよォォォ〜……」

「……!」

「ならよォォォォォッ!!」

 

すると爆豪は自分の右手首を左手でがっしりと掴み

 

 

BOOM!

 

 

()()()()()()()()()()()

 

「!!」

「ぐっ……オォォッラァ───!!」

 

そして右手首を覆う爆炎の中から、輪っか状のロープが、敵を逃さない手錠が飛び出す

 

今まさに、縛られたケモノが解放された瞬間だった




次回 決着


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誇りの道は誰が()く その3

ジョジョ6部のアニメ化ニュースを見て、頑張って書きあげました

決勝戦決着。さて、どちらが勝つのか…?


(しまった…気づかれたか!!)

 

爆豪の手から世界一頑丈な植物の手錠が外れる。それはジョルノの思惑が敵に悟られたということだ

 

(手首を縛っていた部分は()()()()()()()…!縄を爆発で削って緩くすることで抜け出したのか!関節を外して縄抜けをするようにッ!)

「ガッ…ァア!!」

 

痛みに悶える爆豪の呻き。たしかに爆豪は自由の身となったが、それは右手を犠牲にした捨て身の行動でもあった

 

(他の奴らは俺と戦う時のみ、隔絶としたハンデがある!)

 

火傷した右手首を押さえる爆豪

 

(それは勝利条件の数!奴らは必死こいて俺を気絶させるか場外にさせてェわけだが、“爆破”で空を飛べる俺に対して場外勝ちはほぼ不可!逆に俺は、敵をブッ殺そうがブッ飛ばそうが自由だ)

 

できれば直接ブチのめした方がスカッとするのだが、目の前の男相手に勝ち方を選べるほどの余裕はない

 

(自由な分、余裕だ。だからコロネ野郎はそれを防いできたッ!俺とコロネ野郎が物理的に繋がってりゃあ、ヤローは場外で勝つことを考える必要がなくなる。逆に俺はコロネ野郎を外に放り出せなくなる。それでもなお俺の方に分があるが…予想以上にダメージを受けちまった…)

「だがッ!!」

 

ボボボボボ!

 

右手首の痛みを堪えながら、爆豪は空高く飛ぶ

 

「忘れてねェよなぁ〜。俺の個性は汗をかけばかくほど威力が増す…!エンジン吹かしまくった車のボディが()()()()()みてェーに……体を動かせば動かした分よォー!!」

「来るか…!」

 

上空10mほどで静止してホバリングする爆豪をジョルノは見上げて身構える

 

ボボボボボボボ!!

 

両手を左右逆方向に向けて爆発を連続発生させ、その反動で錐揉み回転しながら下にいるジョルノに向かって突撃する

 

爆炎を噴き上げながら落下していく爆豪の姿は……まさしく人間ミサイル

 

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)ォッ!!』

 

 

地面に叩きつけた掌から発する、もはや爆音と言うよりも特大の衝撃波(ショックウェーブ)が観客席中の大気を揺らす。誰もが目を瞑り、腕なりなんなりで顔を覆う中、砂塵と煙で隠れたステージが顕になる

 

そこには、勢いを乗せた特大火力の爆発によって、約2/3ほどが抉り飛んだステージの惨状

 

そしてその上にいるのは…この状況を生み出した男、爆豪勝己ただ1人だった

 

「ステージが…!!」

「なんつー威力だよ!」

「ジョルノはどこだよ!ふ、吹っ飛ばされちまったのか!?」

 

ジョルノの姿がどこにもないことに動揺する峰田。ジョルノに限って死ぬなんてことはないと思いたいが、それでもどこにも見当たらないことに不安を覚え始め…

 

BOOM!

 

そんな時、必殺技を放って疲れ切ってるはずの爆豪がいきなり真上に飛び始めた

 

「え…!?爆豪?」

「…! まさかッ!」

 

急な行動に呆気を取られるヒーロー科の面々だが、常闇が最初に気づいて空を見る

 

つられてみんなも空を見上げてみると…

 

「ジョルノォッ!!」

 

──先程の爆豪よりもさらに上、上空10m(ビルの4、5階ほどの高さ)の地点にジョルノ・ジョバァーナとゴールド・エクスペリエンスの姿が確認できた

 

そう、ジョルノは榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)を打ち込まれる直前に『ゴールド・E』で脚力を強化して、真上に跳ぶことで爆豪の最大火力から逃れたのだ

 

とは言え、これはジョルノの最後の策であると同時に、賭けなのだ

 

(跳んでしまえば、空中で身動きの取れないぼくは『爆破』で飛ぶことのできる爆豪に対して()()()()何もできない…!)

「テメェなら避けると思ってたぜ()()()()()()()ッ!アレ食らってくたばるなンざァ有り得ねえよなぁ!!」

 

物理法則に従って落下を始めたジョルノに狙いを定める爆豪は、この時初めてジョルノの名前を呼んだ

 

それはジョルノが爆豪にとって、初めて真正面から互角に戦った強敵であり、今、必ず倒すべき男だと認識したことによる無意識の変化だった

 

だからこそ、油断なく、容赦なく、確実にトドメの一撃をブチ込んでやるという意思で、掌の痛みを無視して爆豪は飛ぶ

 

両者の

 

(5m…3m…!)

(まだだ…引きつけろ…)

 

距離は

 

(2m…射程距離に入っても出してこねェっつうことはッ!)

(射程距離内に入ってきたらではなく…)

 

徐々に

 

(コイツの狙いも俺と同じッ!!)

(ギリギリまで懐に近寄らせるッ!!)

 

縮まり

 

 

「無駄ァッ!!」

「ウラァッ!!」

 

 

BOOM!!

 

 

そして、密着寸前の攻撃を先に当てたのは…

 

 

「カハッ…!」

 

ジョルノの胸部に両掌の爆破を叩き込んだ爆豪だ。顔の横を掠めたゴールド・Eの腕が薄れていく

 

「───」

 

勝てた。攻撃を先に当てたのは俺だ。俺が頂点を取った

 

しかし、望んだ勝利をもぎ取ったにも関わらず、爆豪の胸中にはなんとも言えない…胸にポッカリ穴が空いたような虚無感があった。それは勝負が終わってしまったことによる寂しさの感情だった

 

だが、今その気持ちを自覚することができなかった

 

できるはずがなかった

 

 

 

グッバァァァ───

 

──なぜなら、大口を開けた魔物のようなジョルノの体操服が爆豪の両手に迫っていたのだから

 

「………ハ?」

 

バッグゥゥゥ!

 

グニュウ グニュ

 

不意をついて爆豪の両手にまとめて絡みついた体操服が、途中で緩やかになっていた成長を一気に早め生命に生まれ変わる

 

この試合で何度も爆豪に辛酸を舐めさせたジャイアントセコイア、それによって作られた対爆豪用拘束ミトンが完成する

 

「な…!」

「おまえなら…必ず『そうすると』思っていた」

 

掌を爆発の通さない天然のミトンで包まれて能力を完全に封じられた爆豪に、体操服がなくなり上半身が裸になっているジョルノは語りかける

 

「ぼくへのトドメを確実に刺すために…両腕を使った最高火力の爆破で胴体を攻撃してくると信じていた……!完膚なきまでにッ!完璧な勝利にこだわるおまえならッ!!」

 

そう…だからこそ、ジョルノは自分の体操服に生命エネルギーを流し込み、植物の防爆チョッキ兼爆破封じの拘束トラップを仕込むことができたのだ

 

「テ…!」

「そしてここは!!すでにゴールド・Eの『射程距離圏内』だ!!」

 

 

 

 

 

「テメエエエエェェェェェ!!!」

「無駄無駄無駄無駄ァ!!!」

 

 

メキャァァ!

 

 

「うぐええッ!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!」

 

空中で繰り出された、何本にも見えるほど速いゴールド・Eの蹴りが爆豪に突き刺さる

 

普通ならすでに気絶してもおかしくない威力の蹴りを何度も受けてなお、爆豪の目は闘志が消えない。ゆえにジョルノはゴールド・Eで何度も爆豪に蹴りに入れる

 

何度も、何度も、何度も何度も何度も

 

そして───

 

 

「無駄アアアー!!!」

 

 

ドゴォォォーン!!

 

 

 

地面への直撃と同時に、最後の一撃が打ち込まれた

 

隕石のように落下して砂埃を巻き上げるスタジアム中央。先ほどと同じような状況だが、違う点がたった1つだけあった

 

それは、砂埃が晴れた先の光景

 

爆豪は大の字で仰向けに倒れながら白目を剥いていて…その近くには、特徴的な金色の髪を揺らしながら静かに佇むジョルノと、彼の魂の象徴であるゴールド・E

 

ミッドナイトが爆豪の状態を確認して、宣言する

 

「──爆豪くん、気絶!!よって…ジョルノくんの勝ちィ!!」

 

一瞬、静寂が会場を支配し…直後

 

 

『決着ゥゥ─────ッ!!どこまでも白熱した戦いを繰り広げてよぉ───そして勝利したのはッ!

 

 

 

ジョルノ・ジョバァーナァァァ!!お前が雄英体育祭優勝者だァ─────!!!』

 

 

 

ワアアアァアアアア!!

 

 

 

新たな優勝者の誕生に観客たちはスタンディングオベーション

 

そこには優勝したのが大悪党(DIO)の血筋を引くジョルノに対する不満や悪意などは感じ取れず

 

今はただただ、素晴らしい試合の数々を見せてくれた1人のヒーローの卵に対する賞賛が、会場を埋め尽くしていくのだった



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