かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について (低次元領域)
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次元高まる日※

短編です。
思いついたネタを消化するために投稿……続けるかも不明


 ここは、日本一の中学サッカーを決めるための戦場。各地方から集まった精鋭たちが競り競う場所である。

 手入れが行き届いた芝と、埋まる観客席。彼らの視線は試合が始まるのはまだかまだかとフィールドに注がれている。

 会場のボルテージは間違いなく上がっていた。

 

「────!」

 

 キックオフを知らせるホイッスルが鳴った。

 ファーストボールは敵チームから、豪快なドリブルでこちらに向かってきていた。

 その進みからして、生半可なブロックではこちらが吹き飛ばされてしまうだろう。

 

 ──次の瞬間には、相手が吹き飛んでいた。

 

 比喩ではない、本当に相手は空を飛んでいた、飛ばされていた。

 そして、いつのまにかボールは味方のDFが確保していた。こちらに笑顔を向けてくるから、とりあえず頷いておいた。

 

 すごいね、一体全体どうすれば「触れもせず」相手を吹き飛ばせるんだろうか。

 

 ボールはそのままMFにパスされるかと思いきや、DFは何を考えたのか、思いっきり蹴って敵陣地へと上げた。

 クリアにしたって強すぎて、高すぎた。

 

 このままだとゴールの頭上を通ってそのまま相手ボールだ。

 ミスか?

 

 違う、パスだった。

 FWが天高く舞っていた。すごいな、軽く10メートルは飛んでいるんじゃなかろうか。背中に翼とか生えている気がする。気のせいだと思いたい。

 

 そのまま、カカト落としの要領で蹴り落とされたシュートは、キーパーごとゴールを吹き飛ばした。

 わずか一分で先制点だ。解説の人が引いている。俺も引いている。

 キーパーはそのあと、担架で運ばれていった……。

 

 これは、ただのサッカーの試合ではなかった。打ち震え一歩も動かない俺に、仲間が声をかけてくる。

 

「どうしました『部長』」

「……(普通の)サッカー、したいな」

「……? はい、(超次元)サッカーやりましょう!」

 

 

 眩暈がした。

 超次元は序の口だぞと教えてくれている、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

──俺はきっと、あの日の行動をずっと後悔し続けるだろう。

 きっかけは本当に、単純なことだったんだ。

 

 俺が通うこととなった『習合中学校』は平凡なところだった。

 別段、廃校になるってレベルでもない程度には人が居て、

 校庭がやけに広く、たまに近くで見かけるのは健康目的に走る爺さんぐらいな、閑散とした場所に存在する母校。

 

 特にスポーツが強いと聞いたこともなく、勉強もそんなに力を入れていない普通の中学校だった。

 そう、ある一点を除き……普通の中学校だったんだ。本当なんだ。

 

 入学してから一週間が過ぎようとしていたある日の事。教室の片隅で一人、部活動に励む同校生達を見ていた時の事。

 たまたま、本当にたまたま気が付いてしまったのだ。

 

「──うちの学校は、サッカー部がないのか?」

 

 奇異であった。

 なんだかんだ言ってサッカーというのは世界でもメジャーである野球と競り合う、もしくは勝てさえすると考えていたスポーツであり、それなりの規模の学校には当然サッカー部が存在すると俺は考えていたからだった。

 

 なんならサッカーは少し好きの部類に入るものだったし、「モテる中学生デビュー」をひそかに考えていた俺にとってはサッカー部への入部は規定事項になっていた。

 

 それなのに、

 

 それだというのに──!

 

 

 荒れた。どれくらいかというと数か月後、或いは数年後でも思い出したらのたうち回り苦しむ程度にはイタい荒れ方をしてしまった。

 具体的に言えば、勘という名の適当で選んだ生徒に片っ端から声をかけ、勧誘したのだ。

 

「サッカーやろうぜ」と

 

 体格だけは同級生と比べても一回りは育ちが早く、逆に口回りは幼稚園デビューしたばかりですか?と吐き捨てられるようなコミュ障野郎が良くやったものだ。

 そんなんだから一緒に部活見学しにいく友達もいなかったんだが……この話は一旦別の所に置いておこう。俺の口下手さとやらかしは関係ない、関係ない筈なんだ……。

 

 とにかく、とにかく、そんなふざけた勧誘だったというのに面白いように人は集まってしまった。

 僅か一週間で十人、俺も含めて見事に一チーム分集まってしまったのだ。正直俺としてはチームとしては成り立たない、五,六人程度で校庭の隅で遊ぼうと考えていたのだから驚きの成果と言っていいだろう。

 

 そして、幽霊部員が多かった将棋部の顧問を説得し、特に指示出しなどをしてもらわなくてもいいことを材料に、兼業させることに成功。

 

 入学してから三週間、思い立って二週間目、それが我ら『習合サッカー部』が誕生しためでたき日である。

 実に、実にめでたかった。なんて言ったって一年生にして部長就任だ。自分がすごい人物なんだと誤解するのもしょうがなくて、浮かれに浮かれた。

 そして、部結成祝いとしてみんなで教室を借り、仮部室として騒いでいた時のことだった。

 

「部長部長、せっかくですし抱負とか決めちゃいましょうよ!」

 

「……いるか?」

 

「いりますって! ほら、夢はでかけりゃでかいほどいいって言うじゃないですか! さぁどうぞ!」

 

 勧誘した中では一番背が低く、人懐っこいのがウリな部員(あだ名はウリ坊)にそそのかされ、俺は後先も考えずまた適当に浮かんだ言葉を口にしてしまったのだ。

 サッカーで、目標。なら……

 

「──フットボールフロンティア」

 

 野球でいう甲子園。地区予選を勝ち上がったチーム同士がぶつかり合う、日本中学サッカーの王者決定戦。

 確か話では、ある中学が40年間無敗、優勝し続けているという魔境だ。

 

 ノリだった、完全に。俺みたいなのが部長で、かき集めたのはその殆どが未経験の素人ばかり。

 幸いにしてうちの地区は強豪校がいない。数年頑張って、ちゃんとした経験者が揃えば「出場だけ」は狙えるかもしれないが、少なくとも自分の代では無理だ。

 

 それぐらい、到底無理な話だった。

 

「……」

 

 案の定、壮大すぎる俺の言葉に部屋は鎮まりかえる。慌てた俺は、すぐに言葉を取り消すか冗談だと言って笑われようと思った。

 

「……すまん、言いすぎ──」

 

「やろう!」「いいな!」「もえるぜ部長!」

「そう来なくっちゃな!」「僕たちならいけますよ!」「……フッ、悪くない」

 

 俺の言葉を遮り、闘志をたぎらせ俺を見てくる部員たち。

 困惑し考えが追い付かない俺を他所に、ウリ坊は目をキラキラと輝かせ飛び跳ねながらこう言った。

 

「フットボールフロンティア、優勝目指して頑張りましょう!!」

──おぉーーーっ!!!

 

「……え?」

 

 これは、超次元な才能の塊ばかりの部員たちに囲まれた、ただの凡人である俺が、引きずられるように超次元サッカー蔓延る戦場に連れていかれる話である。

 

 助けて。

 

 





【挿絵表示】
(しゅう様制作。誠に感謝いたします)

2019/8/20 ほんの少しだけ加筆、キーパー退場追加
2020/2/19 分かりやすいよう、プロローグにても部長の画像追加。


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部長、全治二か月だってよ編
特訓始まる日


見切り発車もいいところの短編にいきなりお気に入りやらしおりが付いててウレシイウレシイ……

ちなみに地の文に ! ? とか使っていますが、一人称だしコメディだし許して許して……


 夢を見た。

 それは暗い教室で一人、掃除をしていたときのこと。

 

 掃除当番を押し付けて帰っていった二人は、俺のことを「友達だよな」って言ってくれていたけど……友達って何なんだろう。悩んでいた。

 

「……」

 

そもそも、あの二人は俺のこと「お前」とかって呼んでたけど、一度たりとも名前で呼んでくれなかったような……。

 

 友達って、一緒に掃除したり、あだ名で呼びあったり、一緒に帰ったりするものだよな。

 間違ってないよな。何度も自分に投げかける。

 

「……」

 

 答えなんて、とっくに出ていたのに。上辺だけの関係だろうって、分かっていたのに。

 なら、掃除当番なんて投げ出して、明日三人まとめて先生に怒られてしまえばいいのに。

 それも出来ずただ、ウジウジと手を進めていた

 

「──誰かいるのか?」

 

 錆びついて滑りが悪くなったドアを、半ば蹴破るように強引にこじ開けた彼が、やって来るまでは。

 

「えっ…?」

 

「……手伝おう」

 

 彼は、目が点になっている俺を見ると何か察したのか、ロッカーから箒一本取り出して手伝い始めてくれた。

 後片付けまで一緒にしてくれて、そのまま一緒に帰ることにもなった。

 

 帰り道、今日は何があったとか、好きなことはとか、今夜の面白いテレビはとか、俺の他愛ない話をしっかりと聞いてくれて、笑ってくれた。

 

 やがて、途中にあった空き地を通りすぎようとした時。

 彼は何処からか持ってきたボール片手に、こう言ってくれた。

 

「……サッカー、しようぜ?」

 

 俺は、あの日を決して忘れない。

 

 けたたましく鳴る目覚まし時計を止め起きる。今日は待ちに待ったあの日なのだ。

 ゆっくりはしていられない。

 

 すっきりとした目覚めを更に引き締めるため、俺はバンダナを頭に巻いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──習合サッカー部の朝は早い。

 

 

 どれくらいかといえば、俺の毎日八時間はあったはずの睡眠時間がなんと……六時間に減ってしまったほどである。

 誤算だった。運動部はやたら朝練が好きなのだ。素人ばかりを集めたサッカー集団であっても、そこは変わらなかった。

 

 眠く重い瞼をこすりながら起きて、寝ぼけながらシリアルをむさぼって、一度間違って後ろ前逆にしてしまったシャツを正しての登校。

 気が滅入る。

 

 何故部結成の次の日からこんなことに……俺はもっと、和気あいあいとした緩いサッカー部を作るつもりだったというのに。

 もしかしたら昨日の俺の「フットボールフロンティア」という単語のせいかもしれないが……過ぎたことを気にしてもしょうがない、しょうがないんだ。

 

 ふと、左腕にはめた腕時計を見た。

 

「(……約束の時間まで30分、歩けば20分はかかるけど十分間に合う……が、あいつらのやる気を考えると全員15分前にはいそうだな。

部を作った奴が朝練で一番遅く来るのは……)

……走るか」

 

 走った。それなりに速く、具体的に言えば50m7秒切れるぐらいには。自慢じゃないが足はそこそこ速い。中学生でこれなのだから高校生になる頃には5秒台に入れるかもしれない、と己の将来性に夢すら見ていた。

 

 

 

 

「あれ部長、まだ約束の時間にはちょっとはやくないスか?」

 

「……お前らがハァ、言うのか? フゥ……」

 

 息を切らしつつ辿り着いた校門前には、すでに全員がそろっていた。

 なんでだよ、まだ二十分以上前だぞ。お前ら全員常に三十分前行動とか心掛けてるの? 社畜もびっくりだよ。

 しかもウリ坊とかはもうストレッチ始めてるし。

 

 そのせいでなんか、約束の時間より前に来たのに遅れました感出てるじゃないか。どうしてくれるんだこの罪の重さ。いや、無罪なんだけどね。

 

「アハハ……みんな気合ノッてるみたいで。そんなことより部長、息切らしてますけど……」

 

 まずい、ドベは嫌だから全力で走ってきました何て言ったら引かれそうだ。初手ドン引きはまずい。

 かといって、なんて言うべきだろうか?

 実は宇宙人がいきなりしょうぶをしかけて来て世界の命運をかけた戦いをしていましたとか……駄目だ、酸欠の脳みそじゃろくな返しが浮かんでこない。

 

「……なんでも、ない」

 

「え〜……絶対なんか隠してるっス」

 

 誤魔化した。すっごいわかりやすい誤魔化し方だ。あかんこれじゃバレる。人目がなければ直ぐに頭を抱えて落ち込みたいぐらいやらかした。

 

 希望ポジションはMF、〜スが口癖でおでこでバンダナがクロスしている、俺がポケモ〇のバ〇ギラスをイメージしながら「バングロス」、もといバングと名付けた彼もすっごい訝し気な目で見てきている。もう終わりだ。

 

「ふっ、甘いねバング」

 

 詰め寄られこれまでかと腹をくくろうとしていた矢先に、救世主様(メシア)が現れた。

 

 希望ポジションはFW、集めた十人の中では一番の優男。入学して一週間だというのに既に二回告白されたらしい経歴を持つ者。モテ男を目指していた俺にとっては最大のライバルであったため、皮肉を込めて「メシア」という事で、女っぽいしこれでいいだろうと縮めて「メア」と呼んだら甚く気に入ってしまった。恐らく厨二病の方だったのだろう。

 

 普段から煌めくその髪も相まって、今は本当に救世主に見えてしまう。

 

「えっ、どういうことっスかメアちゃん?」

 

「……ちゃん付けはよして欲しいんだけど。簡単なことさ、僕らがリーダーは()()をしたのさ」

 

「ズル?」

 

 やっぱり違ったわ、こいつ堕天してるわ。なに自信満々に言ってくれてんだ、その銀髪を黒く染めて黒光りさせてやろうかメシアぁ!!?

 無表情で睨みつける俺を、メアはどこ吹く風で受け流す。こいつホントメンタル強い……。

 

「リーダー、君は()()()()()()()をしてきた。そうだろう?」

 

「えっ、そうなんスか?! なるほど、だからそんな疲れてんスね!」

 

 えぇ……練習の前に練習とか意味わかんないよ。否定した方がいいのか?

 ああでも、家から学校までそれなりに距離あるし、そこから全力疾走してきたっていうのはある意味練習になる、のか……?

 

 肯定でいいか。口にたまった涎飲み込むついでに頷く。

 

「はー、流石は部長。精が出ますね〜これから朝練ッスけど体力は大丈夫……って聞くまでもないッスね!」

 

 あ、わかる? 実のところ結構疲れてるから約束の時間まで休ませてもらえると助かる。

 あれ、みんな何でもう動き出してるの。 なんでみんな口々に「負けてられるか」やら「部長に続け」とか言ってんの?

 違う、待って、このままだと俺ぶっ倒れるんだけど。続いたら俺の屍超えていけ状態になるんだけど。

 

 頼むウリ坊、皆を止めてくれ。懇願と期待の混じったの視線を送る。

 

「……? あっ! 僕!?」

 

 よかった、届いたようだ。

 そうだ止めてくれ、なんなら始める前にちゃんともう一回ストレッチをしよう、とかで時間稼いでくれ。

 

 あれ、なんでトコトコと俺の隣に来るのかな。 もしかして何言えばいいか分からない系かな。

 そうだよね、息がまだ整ってないけどちゃんと言ってくれないと困るよね。ごめんごめん。

 ん、なんで足踏み始めてるの?

 

「よーし、じゃあみんなぁ! 部長の後に続いて校外走るよ!

ゴー!」

 

 違う。声かけ頼んだ、の合図じゃない。そんな奮起しないで!

 そんな内なる声虚しく、強引に背中を押され走り出すサッカー部……当然、ウリ坊の言葉通り先頭は俺だ。

 

──習合―ファイ! オー! ファイ! オー! ファイ! オーー!!

 

 決めた覚えのない掛け声が朝の学校に響く。

 半ばやけになって全速力気味で走る。肺が痛い。

 

 というか、みんな俺の後ろってことは……俺はどう足掻いてもサボれないじゃないか! 下手に遅かったら格好悪いじゃん?! 無理やり体動かしてでも走り続けるしかないじゃん!?

 全身が既に悲鳴を上げているというのにこれ以上の無茶は……。

 

「(……いや待て、俺達は素人集団がいいとこの烏合の衆。いくらやる気に満ち溢れていると言っても、そんなに速く走れないはず)」

 

 そうだ。その殆どがなにかスポーツをやっていたという訳でもなく、サッカー経験者も俺を含めて僅か二名という状態だ。

 なんなら、早歩きと殆ど同じぐらいのスピードでも問題ないんじゃないか?

 

 これは参ったな、最初のスタートダッシュはみんな景気がよかったかもしれないが、今の俺の速さに徐々に置いてかれるメンバーが出てきてしまうのではないか?

 

 それじゃあ部長失格ダナー、ちゃんと速度調節シナイトナー。

 

 そんな期待を込めて、曲がり角の所でチラリと後ろを見た。

 唖然とする。

 

──全員ピッタリとついてきている。

 なんならバング辺りなんて汗一つすらかいて無くない?

 

「部長、どうかしたんスか?」

 

「……いやゼェ、きつくは、ハァないか?」

 

「大丈夫ッス! なんならもうちょいペース上がってもいけますよ? な、みんな!」

──オゥ!

 

 わーみんなすっごい優秀。泣きたい。これジョギングとかのペースじゃないと思うんですけど。

 

「あ、そうだ部長。これあとどれくらい走りますか?」

 

 同じように息を切らしていないウリ坊がついでとばかりに尋ねてくる。そうかお前も余裕か。

 俺? もうこのペース、下手すりゃもっと上げなきゃならないって気が付いて絶望と共に吐き気を催しているよ。

 

 ……せめて、せめて校外三周ぐらいだよね?! うちの一周は800mはあるはずだからそれだけ走ればアップに相応しいと思うんだよ俺。

 その後軽くボール蹴ってパス練とかドリブルすれば丁度いい時間になると思うんだよ。

 

 ということで、もうこれ以上喋ると吐いてしまいそうなので三本指を立ててウリ坊に見せた。

 

 

 

「──わかりました! 校外走30分

──オーゥ!!

 

 

 助けて。




~選手紹介~


・バング MF 8番
 おでこを中心にしてクロスするバンダナがトレードマーク。
小学生の頃はよくパシリ的役割をしていたそうで持久力に自信アリ(超次元的)
 ッスが口癖だけど、偶にはずれたりしているのは気のせいなんだろうか(部長談)


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特訓続いてる日

お気に入り百件越えほんとうありがたいありがたい……




※朝練の30分走は二回あったので訂正いたします。
そのため、時速50kmで走らされる部長はいなくなりました。深く感謝いたします。


 僕は生まれつき、背が低かった。

 それは周りの成長に合わせてどんどんと顕著になっていき……中学に入る頃には、他の子の半分くらいの高さで落ち着いてしまっていた。

 

 僕よりも4つか5つも年下の子とよく目が合って、同年代には顔を上げなきゃならない。日常生活から不満はあったが、僕の鬱屈はもっと別の所で溜まっていた。

 

 

 基本、スポーツは体格がものをいう競技だ。野球バスケバレーの球技どころか、階級分けされるボクシングや柔道とかの格闘技だってそうだ。

 だから、僕はスポーツがそんなに好きではない。家でも好きな番組がスポーツ特番に潰されているのを見るたびにうへ、と声に出しそうになる。

 

 だから、だから、僕を『サッカー』に誘って来た彼に対して……僕は嫌悪感を少しも隠さず睨みつけてしまった。何せ僕はサッカーなんて未経験。

 それを知っていて、僕みたいな低身長の子を誘うのは裏があるに違いない、そう思い込んでいた。

 

 どうせ数合わせ要員でしょって、そのうち人が増えれば仲間外れにするんでしょ、と彼に吐き捨てた。

 

 

 彼は、次の日も僕を誘ってくれた。僕は無視した。

 

 次の日は、他の部員候補だろう子が一人、彼の死角にこっそりと隠れているのが見えている中でのスカウトだった。僕は断った。

 

 その次の日は、部活が成立する最低限の五人が揃ったらしく、ほんの少しだけ興奮した調子で話す彼がいた。相変わらず一生懸命な彼が少しは報われたのか、と少しは心に余裕が出来た。僕は丁寧に断った。

 

 次の日も次の日も次の日も……

 

 ──そうして、最初のスカウトから一週間が経とうとしている日のこと。

 彼の周りには、既に九人の部員がいた。ここまで集まればもう流れに乗ったも同然だろう。サッカーをしたいという人間は探せば校内にいくらでもいるはずだ。

 

 だから、もう僕を誘う必要なんてないのに。

 なんで、なんでそうまでして僕に話しかけてくるんだ。ずっと変わらず目線を合わせ誘ってくる彼に対して、激昂した。

 

「なんで──!」

 

「……お前が必要なんだ。『最後の一人』として」

 

 けどそれは、彼の口から自然に出てきた言葉にあっさりと鎮火されてしまった。

 はぇ、と開いた口からは怒りが煙となって出て行ってしまった。

 

 気が付いたら、僕は入部届に名前を書いていた。

 

 迎えてくれたチームのメンバーは、それまでの僕の怒り様を揶揄って「ウリ坊」なんて呼ぶけれど、不思議と悪い気はしない。

 そこに親しみが込められているからだろうことが半分、もう半分は……。

 

 部長から、中学サッカーの日本一を決める『フットボールフロンティア』優勝を目指していることを聞かされた。

 それを目指すメンバーの一人として、部長から必要とされていたのだ。それさえ知っていれば、この体格が今は自分の武器であるとさえいえた。

 

 小柄だけど決して非力ではないって、皆に見せてやるんだ。そう高い高い空に向けて誓った。

 

 

 

 

 後に聞いた話では、僕たちが揃った後からも入部希望者が幾人か現れたらしいが……全員、部長が面接した後に辞退してしまったそうだ。

 残念だと思う反面、ほっとしている自分がまだいることに気が付いて、思わず顔を顰めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 入部希望? うれしいねー全然大歓迎だよ。まだまだ出来てから一週間も経ってない部活だし、全然なじめると思うよ。ちなみに目標は?

 へーリフティング十回ぐらいできるようになりたいんだ、いいね。やっぱり小さなことからコツコツとだよね。

 えっ……毎日の練習スケジュールが知りたい? 

 

 そうだなえっとまず朝練が、校外走30分、休み挟んでもう一回……え、何kmぐらい?

 …………合わせて、25km

 

 あ、待って! 逃げないで! 逃げるな! くそぅ!!

 

 

 

 

 てなことが今日もあったよ。

 まあ当然だよね、誰だって毎日朝から25km走るとか聞かされたら逃げるよね。俺も逃げたいもん。

 

 不思議なことに、今の部員メンバーのような超次元的な奴が部結成以降は入ってくる兆しがない。誰か一人でも来てくれたら「すまない、持病の膝が悪化してしまった……俺はマネージャーとして裏方に回る」とかいって任せられるというのに……。

 いや、マネージャーだとモテないか? まあいい。

 せめて隔日だよね、ほんと。

 

 しかもメアの奴が言い放った「部長は朝練の前に練習してる」発言のせいで、事態は悪化した。

 みんな詰め寄って「なにしてるの?」って聞いてくるもんだから、誤魔化そうにもうまい言い訳が思いつかず、

 

「……(教科書を殆ど教室に置いてきているのでペラペラな)カバンを背負ってドリブル」

 

 なんて言ってしまったもんだから、今は校外走よりも前に全員うちの前に集まり、カバンに重り(10kg)を入れて背負い、ドリブル練習しながらの登校と言う地獄なのだ。

 誰だ、重り入れるとかいう発想提案した奴。なんで10kgなんだ。腰と膝が死ぬわ。

 

 なんで毎朝足腰がガクガクになりながらの勉強しなきゃいけねぇーんだよ!? 初日なんてほぼ死にかけで走れメロス朗読してたわ!

 メロスも辛いんだな……ってすっごい感情移入して涙出そうになったし。

 

 しかし迂闊にも気絶しようものなら、同じクラスにいる部員たちに見られるし、何より「練習のし過ぎでぶっ倒れた奴」というレッテルが貼られ、哀しい学生生活になるだろうことは確実。

 どうにか見た目を取り繕って「平気ですよ、空気イスだってできます」と言って誤魔化すしかないのである。

 ……上記のことを口にしたら、間違いなく部員全員が授業中空気イスをするようになるだろう。当然俺も。

 

 絶対に言わないことにしよう。心の中で誓った。

 

 幸いなことに、放課後の練習は今はそこまできつくはない。

 理由としては、作られたばかりのサッカー部は中々校庭を借りることが出来ず、狭いところでパスやドリブル練習するぐらいしかできないからだろうか。

 

 せいぜい始めと終わりに10kmずつ走る程度で……朝に25km、放課後に10+10で20km。つまり一日で45km。

 おかしい、フルマラソンより長い。

 

 マラソンの起源メロスが走った距離は片道で40km近くだったはず……あれ?

 

 

 メロス大したことねーな!

 

 

 

 

 

 

 

 ここ数日で、明らかに俺の体は限界を迎えている。ずっと我慢していたけど、正直体全身が棒のように痛い。

 布団の様な柔らかいモノに触れると気が付けば寝てしまっていることも多々ある。

 昨日なんて玄関マットで数時間寝てしまい首を寝違えた。おかげで今日の俺は黒板から目を逸らす不良児だった。

 

 この状況は非常にまずい。あと一週間もすれば俺は死ぬかもしれない。

 フットボールフロンティアの地区予選が始まるまであと三週間を切ろうとしているこの時期でこれだ。

 どうにかして練習を減らすしかあるまいが……何と言って誤魔化す。

 

1.オーバーワークだと言って休むように促す

 観察した限り、俺以外は適度に疲れている状態。今の訓練量が適切か少ないくらいだと推測できる。

 つまり反論を食らう。駄目。

 

2.メンタルトレーニングだと言って瞑想を取り入れる

 メンバーのやる気だと確実に魔改造を加える。下手をすると尖った岩の先端とかでやらされそう。

 いや確実に奴らはやる。むしろ一人してそうな奴がいる。ナシ。

 

3.全てを告白し練習量を抑えてもらう

 くそカッコ悪い、たとえ死んだとしてもそれは嫌だ。

 

 

 駄目だった……何一ついいアイディアが浮かばない。

 どうにかして、俺は楽できて、アイツらも苦労して納得するような夢のような特訓はないものか……。

 

 そう思い、サッカーについての雑誌をあさっていた時であった。

 

「……炎の、ストライカー?」

 

 それは、去年のフットボールフロンティアにて準優勝した学校を取り上げた記事。

 

 木戸川清修という中学のFWが繰り出す強烈なシュートの瞬間を切り取った写真が、ページの片方を独占していた。

 炎を纏い(この時点ですでにおかしい)、足を回転させヘリコプターの様に上昇し蹴り落す『ファイアトルネード

 

 明らかな人体発火を捉えた写真を見た時は「俺のサッカーに関する知識ってやっぱおかしいのかな」と白目をむきかけたが、少しした後に思いついたのだ。

 

「これだ……!」

 

 思い、ついてしまったのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は放課後、皆が校外を走ろうと準備をしている中言い放った。

 

「必殺技の開発……ですか? 部長」

 

「そうだ、地区予選を勝ち進むためにも。みんな、頑張ろう」

 

 名目はそれだった。地区予選の1回戦目とかはともかく、勝ち進めばそれに伴って敵チームも超次元度を増していくだろうと俺はみんなを説得する。

 火曜日と木曜日はペアを組み、お互いのいいところや不足している所を指摘し合う。そして補う、あるいは強みを伸ばす必殺技を作り出そうと提案したのだ。

 

 もちろん、必ず一個は完成させろ。といった様なノルマも存在しない。

 

 どの記事を読んでも、必殺技の開発は一夜にして成るものではないと書かれていた。つまり、部員たちがどんなに才能豊かな連中であったとしても、必ず苦戦するだろう。

 つまり、俺も苦戦し皆も苦戦する。

 

 最悪、これで自分の力の限界を感じ、こちら側(低次元)に落ちてきてもらっても構わない。酷い言い方をするようだが、良くも悪くもほとんど全員がサッカー初心者なのだ。まだ夢を見ている段階なのかもしれない。壁を作り、自己を把握させるのも部長の務めだ。

 

 ……多分そこまでになる奴は一人もいないだろうなとは薄々勘づいてるけど。

 

 更にこの特訓のいいところは、「ペア」を作るという点だ。我が習合サッカー部は十一人。

 そう、どう足掻いても一人余るのだ。当然、その枠は俺だ。部長と言う立場を活かし、或いは部員全員が何故か俺に抱いている「自分たちよりも努力している」という幻想のおかげで俺は一人になれるのだ。

 

 完璧だった。後はそれこそ必殺技のイメージを練っているんだと言いながら座禅でも組んでいればいい。誰かに介入されなければ瞑想も安心だ。

 

 みんなもすっかり騙されてくれて、各々どんな技がいいかとか、技名をどうするかとか談笑している。

 

「ふふ……なら、僕は空高く飛び立ち、皆の道を照らす光を放つ一撃を目指すとするよ」

 

「あー? あー、必殺シュートって意味か。メアの言うことはなんかズレてんだよな……」

 

「ジミーくんに言われたくはないんだけどね……」

 

 その中で厨二病を相変わらず発症しているメアは、唯一のサッカー経験者且つ同じFWである副部長、ジミーに話しかけていた。ちなみにメアが十一番でジミーが九番である。

 

 ……別にいじめてるわけではない。本人がジミーって呼んでくれって何故かイキイキと宣言していたのだ。確かにこれと言った特徴もない彼だったからピッタリと言えばピッタリなのだが……もしかして本人は地味を皮肉ったあだ名だと気が付いていないのだろうか。いやまさかそんな訳──、

 

「じゃっ、部長」

 

 思考はジミーが話しかけてきたことで遮られた。その後ろをついて、メアもやってきている。

 一体何なんだろうか。ほらゴールなら空いてるからそっちに行くといい。

 

「……うん? なんだ」

 

「いや、俺とメアが必殺シュートの練習するからさ……」

 

 

──キーパー役お願いな

 

 殺害予告かな。

 

 そこでようやく気が付いたのであった。

 俺の背中には一番の数字、ポジションはGK。

 自分で考えた作戦が、実は自分を地獄に蹴落とすものだった……と。

 

 

 助けて。




 やめて!二人超次元的才能を持ったFWの必殺シュート特訓で、日が沈むまで続けられたら、朝練ですでにズタボロの雑巾になっている部長の精神まで燃え尽きちゃう!

 お願い、死なないで部長!あんたが今ここで倒れたら、部員全員でフットボールフロンティアへ行く約束はどうなっちゃうの? 寿命はまだ残ってる。ここを耐えれば、玄関マットに勝てるんだから!

 次回、「部長死す」。デュエルスタンバイ!




~選手紹介~


・ウリ坊 DF 4番
 身長100ないでしょう系ディフェンダー。部長が転生者とかだったら病気を疑っていただろう。
 小さい身長からは想像できないタックルの強さが売り、ウリだけに(激うまギャグ)。
 スポーツが嫌いだというけれど、それは参加したいのに身長のせいで門前払いにされるといった感情の裏返し。
 
 


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河川敷で殺される日

ふんふーん日刊ランキングで面白いの出てないかなー

>>21位

……('Д')


たくさんの感想、評価、誤字報告誠にありがとうございます!!

今回からチームメンバーのあだ名が大量に登場しますが、覚える必要はない気がしてきた((


 自分は普通の人間とは違う。選ばれた、才能を持った人間なんだ。

 こんな思いを抱き始めたのいつ頃だろうか。

 

 そして、その思いが粉々に砕かれた時はいつだっただろうか。

 

 中学受験に失敗した時か、

 母の言うことに従っていたら父に奇異の目で見られた時か、

 いつの間にか友達が一人もいなくなっていて、自然と涙がこぼれた時か。

 

 それとも、いくら祈りをささげても"奇跡"を授からず、救いもなく、神も天使もいないと知った時だろうか。

 それを知った後でも、神に祈ることから抜け出せない自分を見つけてしまった時か。

 

 母がいつの間にか姿を消して、父が雇った家政婦さんからようやく"普通"を教えてもらって、つまるところ、自分は年の割には少し早熟で、ちょっとした勘違いをしていただけだった。

 それが母の教育方針と合わさり、増長してしまっていただけであったと気が付いた時か。

 

 その時にはもう手遅れで、僕はもう普通に戻れなくて、かと言って突き抜けることも出来なくて、どんな場所に行っても浮く存在となってしまっていた。最後に"友達"と遊んだのは果たしていつだったか……。

 

 そんな僕でも、必要だと言ってくれる人はいた。

 綺麗だとか、かっこいいって言ってくれて近寄ってきてくれる人もいた。

 けれど……みんな、僕を知れば知るほど辟易してしまうようだ。直ぐにいなくなる。

 結局、遠巻きに眺められるだけの存在。そんなの、外面だけを写した人形を置いといても変わらないじゃないか。

 

「サッカーしようぜ」

 

 ほら、またこうして誘蛾灯に引き寄せられてしまった憐れな人がやってきた。

 いいよ、やろうよサッカー。体を動かすことは好きだからね。へぇ救世主、僕が君の? そりゃうれしいな。

 

 言うべきことを一つ飲み込んで、僕は頷いた。

 

 せいぜい君が僕の普遍さに気が付いて、離れてしまう時まで付き合うよ。

 だから……それまでは仲良くしてほしいんだ、リーダー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雲一つの無い天気、風は弱くも柔らかく、火照った体を適度に冷やしてくれる。

 お散歩するには絶好のコンディションだろうか。

 

 

 さて突然だが、必殺技の練習に必要な物とは何だろうか。

 

 本人の熱意、発想力、それとも地道な練習か。

 否、それら全てが必要であり、何よりもう一つ大事なものがある。

 

 練習スペースである。

 

「いやー、河川敷ってちょっと遠いんスね。なんで部長がこっちに来ようとしてないかわかりましたよ」

 

「まっ、それでもたったの10kmぐらいだがな。あんまり学校から遠ざかると面倒も出そうってこったろ。なんせセンコーは来てくれねぇしな」

 

 我ら習合サッカー部はその日、学校から離れた位置にある河川敷に来ていた。もちろん背中に重り入りカバンを背負いながらのドリブルでである。

 

 もはや彼らにとってその行為は日常生活となんら変わりないほどに溶け込んでおり、最初によくあった誰か一人のドリブル失敗による休憩時間無駄な時間も発生しないようになっていた。

 

 ちなみにこの時点で俺はこれから起こることに絶望しており、誰にも聞こえないような小さな声で「河川敷ってこんな綺麗だったんだな」と呟いている。

 

 気分は死刑囚だった。というか死刑囚だろもうこれ。

 

 幸い(ふこう)なことに、河川敷のグラウンドは今の所使用している人が居ない。どっかのおじいさんの忘れ物だろうか、ゲートボールのクラブが置いてあるぐらいで空っぽだ。

 昔に誰かが設置したのか、ご丁寧にサッカーゴールまで置いてある。やろうとすれば試合だって出来てしまいそうだ。

 

 最悪雑草だらけで、整備しなくては使い物にならないような状態だったらなぁという願望は崩れ去った。

 

「で、どうすんだボス。 もう始めちまってもいのか? なんか指示あんなら聞いておきてぇんだが」

 

 最期に眺める空がこれは悪くはないなと上を見上げていた時、グラさん(サングラスをいつもかけているからつけた)が話しかけてきた。

 というかもうすぐ日が沈み始めるけど視界的に大丈夫なんだろうか。

 

 そうやって意見を聞いてくれるのありがたいんだけど、結構今疲れているから何にも考えられないんだよなぁ。

 なんか最近背中の重りが更に重くなっている様な気がするし、本当に限界が近いのかもしれない。

 

「……指示、か?」

 

「ああ、こっちも色々と考えてはみたんだが……ボスとジミー以外はズブの素人だしな。方向性とか、伸ばすべきところとか……」

 

「つまりはアドバイスってことッスよ、ね? グラさん!」

 

「まぁ、そうだなバング」

 

 若干頬を赤くし、恥ずかし気に顔を背けたグラさん。可愛いかよ。頭金髪に染めてて完全にヤーさんな風貌してるのにギャップ萌え狙いか?

 需要はないからしなくていいよ。

 

 しかし、アドバイス……かぁ。確かグラさんはバングと一緒に練習するんだっけか。DFとMFだし、普通に攻め役と防衛役に分かれてのボールの取り合いになるんだろう。

 

 何か言う事って言われても、頑張れとしか言えないんだよなぁ……。俺も一応部長らしくあるために資料集めたりして勉強してるけど、ほんの一か月前はただのエンジョイ勢だったんだぞ。

 とはいっても、「何も言う事はない」って答えるのも雑だしな。適当に誤魔化すか。

 

「……じゃあまず、グラさん」

 

「おぅ」

 

 グラさんのいい所は……相手に対する恐怖心、違う。相手の力量を何となくだが把握できるところ(何故か俺には効かない)にある。つまりウリ坊やトール──何も浮かばなかったから下の名前からとった。ガタイがでかくて短気な奴──みたいに猪突猛進でツッコむ、といった事はしない。

 

 カガ──俺以上に無口な奴。粘りあるディフェンスが得意。苗字と一緒だから本人は気が付いてないが、カミツキガメから用いた──のようにひた向きという訳でもない。

 相手の隙を狙って一回の動きでボールを奪う、という技巧派な印象だ。

 

 また、DFの統括役でもあり三人に指示だしをしてくれる。司令塔みたいなやつだ。

 あれ、それって本来GKである俺の役目じゃね? って思ったのは秘密だ。仕事は少ない方がいい。

 

 じゃあ何を鍛えるべきかと言ったらやっぱり、

 

「……一撃で仕留めろ」

 

「──っ、了解!」

 

「いやなんか怖いんですけどっ!? 仕留めるってボールをッスよね?!!」

 

 俺の指示に対し、グラさんは口角を吊り上げた。こわい。

 

「……バング」

 

「えっはい!」

 

 次はバングか。持久力がチームの中では一番あるし、向いてるのは……走り回ることか?

 こう、ボールを持っている奴をひたすら追う……なんかMFっぽくないな。かと言って他に武器があるのかと言ったら特にないし……。

 

「……頑張れ」

 

「雑ぅっ!! なんかもっとこう、無いんですか!? 泣きますよ俺?!」

 

「よーしバング、行こうぜ。 色々準備してきたから退屈はさせねぇよ」

 

「待って、グラさんなんか懐から物騒なもん覗かせてるんッスけど明らかにサッカーに使いませんよねそれ!? ねぇ、誰か!! お巡りさん!!」

 

 そのまま、彼はグラさんに引きずられ連れていかれてしまった。

 …………がんばれ、バング。後多分グラさんが持ってるのは水鉄砲だから、死にはしないよ。多分こう、隙を見せたらその瞬間狙撃する気なんだよ。

 

 ……サッカーで狙撃?? 俺は何を言ってるんだ?

 

 その後は、まぁ各自それっぽい事を言って誤魔化しておいた。ウリ坊とトールは何かを言う前に二人でぶつかり稽古を始めていた。

 すごいな、なんか金属がぶつかり合ってるような音がするんだけど。あいつら実はサイボーグだったりしないかな。

 というか何で身長が三倍近く違うのに成立してんだろあれ。え、足元に来るからやりづらい? なるほど……いやそういう問題か?

 

 

 

 

 

 全員への指示がいきわたって、ゴール周りには俺とメア、ジミーだけが残っていた。

 当然、二人はボールを持っていて、俺はゴール前で構えている。

 

 刑の執行は、目前だ。

 

「よーし、まずは俺からなー?」はジミー、頼む。地味の名にふさわしい普通なシュートをしてくれ頼む。君が所属していたサッカーチームもかなりエンジョイ系だったって聞いたぞ。

 お前だって若くして殺人犯になりたくないだろう。必死に目で訴えかけた。

 

「ドリャー!」

 

 彼の右足から放たれた一撃は、俺の目には普通のシュートに見えた。

 確かに速いけど、年相応なものだった。

 

 ──それを見た瞬間、俺は歓喜に打ち震えた。

 

 やった! 俺は賭けに勝ったんだ、信じていたよジミー君! そうだよね、流石に君たちがいくら才能マンだったとしても、いきなり必殺技なんてできないよね!

 よーしこれなら耐えられそうだ、何発だって撃ち込んでもらおう。

 

 そう思い、緩やかなカーブを描いて飛んでくるボールをしっかりと両手で受け止めようとした瞬間──

 

「──っ!!?」

 

 何が起きたか理解するまで時間を要した。

 航空機のタイヤ、例えるならまさしくそれだった。明らかに見た目と質量が合っていない一撃が、抑えきれなかった両手をすり抜け、腹部を襲った。

 

 声にならない悲鳴が出た。 

 空気が肺から消え去っていた。胃の中のモノが激しく揺れた。吐き気がする。

 

「あちゃー、簡単に止められちまったなー。やっぱまだ全然駄目かー」

 

 冗談だろ、お前には俺がどういう風に見えてるんだ? もしかして節穴?

 正直皆に指示出してるうちに回復した微量な体力ゲージが既にお亡くなりになっているんだけど。

 今の速度でこれは、しかもジミー全然疲労してないし……つまりまだ何十発と撃てるのってことだよな。 

 

 死ぬじゃん? 何が地味なんだよお前! 裏切ったな!?

 

「よーしもう一発──」

 

「いやジミーくん、僕のこと忘れてないかい?」

 

「あっすまんすまん」

 

 追撃しようとしているジミーをメアが止める。次はメアの番。

 

 そう、俺の目からしても派手な、超次元的な才能と釣り合った見た目をしている奴の番だ。

 つまり死ぬ。確定的に明らかだ。

 

「じゃあいくよ、リーダー?

 

──()()

 

 ほらぁ

 なんかいきなりボールが宙に浮きだしたんですがそれは……あ、なんか光り出してる。LEDかな。

 

救いを求める人々へ

 

 急に風が強くなって、ボールの中心に吸い込まれていくのが見て分かる。

 ダイソンだってあそこまですごくないよ。というか詠唱は意味あるのかな。

 何か唱えて超次元的になれるなら俺もしようかな。あっ、ついに蹴るみたいだ。さっさと唱えなきゃ。

 

「──エンゼル・ブライトォッ!!

 

 南無阿弥陀仏。

 

 

 光は、全てを飲み込んだ。

 

 




エンゼル・ブライト
 天から光をかき集め相手の周囲事吹き飛ばす。
部長は死ぬ。


主人公はタフネスブロックを習得した(大嘘)
ちなみにフットボールフロンティアの地区予選開催時期は5月の第三週辺りと勝手に変えました((

次回は練習試合予定、ただ日曜は忙しいので月曜とかになりそう。


~選手紹介~


・メア FW 11番
 厨二系、アフロディ系ストライカー。
何やら秘密を抱えているらしいよ。才能ないとか皆言ってるけど、部長は喧嘩を売られているのかもしれない。
 銀髪は生まれつきらしく、キリスト教圏の国の人とのハーフだってさ。
 エンゼル・ブライトという必殺技をさっそく編み出したけど……?


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河川敷で殺される日②

日刊ランキング3位入ってる……なんで、なんで?
これもひとえに皆様のおかげです。ありがとうございます。


また、連載に変えました。
ちなみにこれ、短編からなにか変わる要素あるんでしょうか……?

 今回は少しシリアスです。
ですがご安心ください、今作品はコメディです。直ぐに化けの皮が剥がれます((


 何を思って僕は「エンゼル・ブライト」と、それを名付けたのだろうか。

 輝かしき天使を降臨させようとした。再現しようとした。自然と叫んでいた自分に説明するのであれば、そういう事なのかもしれない。

 

 僕の理想を作るには、天からだけでは足りない。周りにも降り注ぎ、蓄積している光すらも飲み込み、成り立たせた一撃だった。

 ──だが、出来で言えば首をかしげる物だった。何かが違う、と。

 

「……驚いた、ぞ」

 

「ふふ、流石にこの程度じゃ崩せないか」

 

 光が消える。

 目眩い程のそれが収まった時、ボールは白煙を上げ、リーダーの両手に収まっていた。ボールは、それなりの熱だけは持っていたらしい。

 だが、リーダーの足元を見るに威力は先ほどのジミーくんのものよりも弱々しかったのがわかるほど、少しも土は削れていなかった。

 

 失敗だ。

 何がいけなかったのだろうか。キック力に関しては経験者のジミーくんよりも確かに弱かったかもしれないが、必殺技としてはジミーくんのものよりも形になっていたと思ったのだけれども。

 

「ちなみに、ジミー君の視点からなにかアドバイスとかってあるかな?」

 

「ほへー……あっ、俺!? えー、っと気が付いたらボール止められてたしなぁ……」

 

 ジミーくんはすっかり呆けていたらしい。これは頼りにならなそうだ。

 そもそも彼は必殺技を単なる「強いシュート」として捉えて蹴っていた辺り、必殺技の教師には向いていないのかもしれない。とはいえ、ドリブルやパスカットといった基本的な技術はまだまだ教わることが多いんだけど。

 

 さて、じゃあ次は真正面から受けたであろうリーダーに聞いてみようか。

 首を回し、リーダーにもう一度視線を向けた。その時、自分が「誰かから必要とされる自分」ではなく、「誰かを必要としている自分」になっていた事に気が付いて、慌ててその意識を消した。

 確かに今は楽しいけれど、そのうち……僕はみんなをがっかりさせなきゃならない。それを自覚しておくべきだと、肝に銘じた。

 

 

 

 

 

 

 

 (自分が生きている事に)驚いています。部長です。えー、あの、なんといいますか。すっごかったですよね。

 バッと光って、目がチカチカしてたらいきなり目の前にボールがあったんですよ。あぁこのまま死ぬなって思って、最後抗う気持ちでキャッチしたら、成功しちゃったんです。

 

 えっ、て思いましたね。ちゃんと両手でつかめたからってのが大きいと思うんですけど、ジミーの一撃に比べたら軽いなって。

 もしかしてジミーがおかしかっただけで、普通の必殺シュートはこんなもんなのかなって。派手なだけで威力はないのかなって。期待しちゃいましたね。

 

 次第にね、違和感に気が付くんですよ。

 あれ、なんか焦げ臭いなって。ふと手元を見るじゃないですか。

 

 ──重ねてたはずのグローブが一枚、焼失してたんですよ……、えぇ焼失。燃えて、黒焦げになって足元に落ちてました。

 そんで残った方のグローブも煙上げてるんですよ……。あ、これ手の痛覚死んだだけなんだなってわかりました。

 

 中古で千円くらいの安物だったからかなぁ……絶対違うよなぁ。

 何をどうすれば物体を燃やすほどの熱を発するんだよ。これ顔面に当たってたら大火傷で死ぬじゃないか。

 

 ボールの勢いで相手を吹き飛ばすとか、そういうものじゃなくて、相手を焼き尽くしてゴールするとかどんだけやばい技編み出してくれてるんですかねメアさん。

 エンゼル・ブライト、でしたっけ名前。こう、全てを燃やし尽くしてやるみたいな気概をアピールすべく「エンゼルファイア」とかに変えてみたらいかがかな。「ホーリーファイア」とか。

 ……なんかボールごと消し炭にしそうだな。やっぱやめておこう。

 

「リーダー、今のシュート……僕的にはなにか足りなかったと思うんだけど。何が足りないかとか分かるかな?」

 

 ひっぱたくぞマジで貴様。片方叩かれたらその後にもう片方の頬も差し出せよ貴様。

 何が足りないって? 優しさだよこんちくしょう! よく見ろよ! 俺の足元にゴミ屑になったグローブが転がってんだぞ!

 今粉々になって風に飛ばされたけどな!

 

「……お前は、何を目指しているんだ?」

 

 お茶濁すしかねぇな畜生。そもそもシュートなんて点さえはいればなんでもいいだろ。

 あっ、やっぱり今の無し。キーパーに少しも触れず決められるような、キーパーに優しい技がいいと思う!

 

「……そうだね、どんな守りも通用しない。貫き通す力を持った一撃、かな」

 

「そうか」

 

 なるほど、熱を持って全てを溶かし突き進む気か貴様。ドラゴンボ〇ルの悟空だってそんな惨い技使わねぇ──いや龍拳があったな。あんな感じで腹突き破られるのかな。

 贓物まき散らさない為に次からサラシ巻いておこ……。

 

 で、何言えばいいんだ。正直熱量高めればもう完成だろこの技。そもそもボールにどうやって熱量持たせてるかも見て分からんかったけど。

 

「……勘だが、いいか?」

 

「うん、お願いするよ」

 

 俺の返しに、特に考えもせず答えたメア。なんか適当なこと言えば勝手に昇華しそうだこいつ……。

 技の工程を並べて試行してみることにする。

 

 

~簡単! エンゼル・ブライトのやり方~

 

1.ボールを浮かして(この時点でおかしい)力をためる?

2.蹴った瞬間にボールに溜めておいた光で目つぶしする。

3.トドメに極熱になったボールで全てを溶かしまっすぐ進む。

 

結果:俺は死ぬ。

 

 だよな。どう見ても全部理解しがたいんだけど。

 貫き通す、という事だけ特化するのであれば……2の目つぶしがいらないのか?

 仮にだけど、そのせいで納得のいく技になってないとしたら……。

 

「……蹴った衝撃で、せっかく溜めた光が漏れてしまっている」

 

「──っそうか、通りで威力が出ないはずだ!」

 

 どうやら、お眼鏡にかなう答えは出せたらしい。すっきりしたといった表情でメアは自分の手をポンっと叩いた。

 ほんとにやる奴いるんだなそのリアクション。

 

「となると、蹴っても壊れない程にボールの外側を強化すべきなのかな……? いやでもそうすると結局溜まった力を使ってしまっているしな」

 

「……いっそ、ずっと光ってればキーパーも反応し辛いんじゃね?」

 

 お、いいぞジミー。そのままメアの必殺技を、光らせてキーパーを素通りする技に修正してくれ! 

 なんかこのままだと物騒な必殺技が誕生しそうだ。

 

「……いや、それはちょっと僕の趣味じゃないな」

 

 畜生!

 駄目だってよジミー、せめてお前は俺を労ってくれるような技を開発してくれ。くれぐれもメアと同じ方向に行くなよ!?

 

「そっか、まぁそうだよなー。さてとっと、次は俺の番だな! 今度こそぶち抜いて見せるぜ部長!」

 

 やめてくれよ……。お前多分チームの中で一番キック力あるんだからな。

 メアにその提案できたならお前もそっち目指せしてくれよ。頼むから。

 

「技名くらいは考えた方がいいよな……うーん、ん?」

 

「──!!」「──!」

 

 そうして、ジミーが俺をどう殺すかの技のイメージを育んでいた時であった。

 遠くの方の騒ぎが耳に入ってきて、思わず三人ともそちらを向いた。

 

 グラウンドの反対側でトール達と誰か──恐らく俺たちと同じ中学生が話しているようだが……少し、穏やかではない。

 一触即発、トールのほうなど今にも相手に対してつかみかかりそうな雰囲気だ。

 

 俺たちは顔を見合わせ、直ぐにそちらの方へと走りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今にもはちきれんばかりの怒りに震え、何とか抑えているトールを庇い、ウリ坊は立っていた。

 その小さな体でもひるまず、「練習中にいきなりボールを蹴り込んできた」集団に対し、吠える。

 

「なんなんですかあなた達は、僕たちの練習をいきなり邪魔してきて!」

 

「──はっ、我々『高天原中学サッカー部』の第二練習場を勝手に使っているから注意してやったのだろうが。ありがたく思え」

 

「高天原中学、フットボールフロンティアの常連校じゃないッスか!?」

 

 騒ぎを聞きつけて早期に駆けつけてきていたバングは唸る。確かにこの河川敷の近くに学校は存在するが、まさかここを拠点にしていたとは。

 怯む彼を見て、高天原中の面々は顎を撫でる。しかし、それに待ったをかけたものが居た。

 

 グラさんだ。

 

「待ちな。こっちが調べた限り、ここは早い者勝ちの公共の場だ。予約も占有もないはずだぜ?」

 

 何の情報もなしに来たわけではない。今回は先にやってきていた自分たちに使う権利があるはずだ。

 そう、グラさんには武器があった。

 だがしかし、それを聞く相手ではないようである。

 

「それがどうした? ここはずっと我々が使っていたんだ。新参者が使っていいわけがないだろう」

 

 ルールとは自分である。そう高らかに宣言した彼に対し、ウリ坊の怒りは更に高まった。

 

「横暴だっ! そんなんで邪魔していいわけないだろう!」

 

「知ったことか……これ以上俺たちの邪魔をするなら、力づくでどいてもらうほかないがな」

 

 そう言ってリーダー格、集団の中で1人だけユニフォームが違う男が他のメンバーに目配せすると、それに従い部員たち──主力格を除いた、雑用などをさせられているのだろう、いわゆる二軍連中と推測できる──が習合サッカー部に近づいてくる。

 それが、彼の怒りを最高潮に達する原因となった。

 

「──やってみせろよ……アァ!?」

 

「おいよせトール! 暴力沙汰なんて起こしたら地区予選にも出れなくなるぞ!」

 

 トール。身長はその年齢にして180を超え、横幅も大きい。巨漢と評するに値する男。

 また厳つい風貌が故か、頭に血が上りやすく喧嘩っぱやいとも言える男であった。そんな彼がボールを当てられて、今までもっていただけでも奇跡に等しかった。

 

 前にいたウリ坊を避け、彼は構えを取った。

 溜まりに溜まった怒りが今、拳によって解き放たれようとしてる。その様を見て、一番慌てたのはグラさんだ。

 

 相手は恐らく暴行に値しない程度、つまり体を抱えるなどして強制的に排除しようとしている。

 その行為を写真等取って、バラまいてしまえば十分な材料になるかもしれないが、逆にその際「暴行を振るわれた」なんてことになったら目も当てられない。

 

 相手側は嬉々としてその情報を広め、最悪自分たちに待っているのは廃部という終わりだ。だからこそ、止めなければならない。

 だが、高天原のリーダー格の男もそれに気が付いてしまったらしい。わかりやすすぎるほどに、態度に現れた。

 

「っふん、随分と血気盛んな奴もいるもんだな……そんな奴が部員だなんて、碌でもない部だな」

 

「ぐっ……」

 

 トールだって分かっている。殴ればただでは済まない。

 昔とは違う、今の自分には責任を同じにする仲間がいる。だから食いしばって耐えようとしている。

 

「習合中学校だったか? サッカー部もなかったはずの所の奴が何を勘違いしているんだか。

お前らは……その辺の隅っこでボール遊びしているのがお似合いなんだよ」

 

「……ハァ……ハァ……ッ!」

 

 だが、どうにも衝動を抑えきれない。血が頭に上る。

 思考がおかしくなる。目の前の奴はムカつく、だから殴りたい。ぶん殴って分からせたい。欲望が頭を支配する。

 握りしめた拳から何かが、液体の様なものが垂れるのを感じた。

 

「学校が学校、部が部なら……お前らの部長とかもくっだらないやつなんだろうなぁ!!」

 

「──ッ!!」

 

 リーダー格の男の最後の言葉に、トールの拳が振り下ろされた。

 

 

 雷が落ちたと思わせるような轟音が、響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何の、騒ぎだ」

 

 

──そして、()()()()()()()

 

「部長……」

 

 トールがすごい申し訳なさそうな顔で見てくる。

 ただでさえ火傷して感覚死んでる手だと腕にもろに衝撃が来るからやばい、折れたかもしんない。でも言ったら絶対引きずるよなこいつ……え、てことはその状態隠して練習続けなきゃいけないって事?

 やばすぎない?

 

 

 助けて。




ノ ル マ 達 成

 なお特にノルマではない模様。


試合するはずが上手くいかなかった、提訴。
次回は予定を変更して「泣くな部長! 炎のPK対決」が始まります。
今度こそ死ぬかもしれません。


~選手紹介~


・トール DF 3番
 いわゆるいろんなチームにいるガタイのいい奴。
昔は喧嘩ばかりしてきた一匹狼だったそうで、鍛え抜かれた筋肉は鋼の如く。
 その腕力は部長の骨に甚大なダメージを与えられるほどだぞ。
 短気だし騙されやすいけど、最近は割と我慢を心掛けていた。


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河川敷で殺された日

 感想きすぎてびっくりしてます。
返信遅れるかもしれんがすまない……すまない

しかし、感想欄で「世宇子中はでますか?」「化身世代突入しますか?」「帝国学園は?(五条さん)」などと色々聞かれるのですが、
みなさん部長に対しての殺意高すぎませんかね……(笑顔)

一先ず短編からの見切り発車なので、目標はFF出場。余力があればその後
エイリア学園とかはそれらが終わってから考える! 方向で行かせていただきたい。

 だからひとっ走りつき合ってほしい(峠を曲がり切れず転落)

 あ、ちなみに今回は流石に章の終わり間近だからシリアスっぽいかもしれぬ。


 俺は、一人が好きだった。

誰かと群れていてもイラつくことばっかりで、自分と比べてひ弱な奴は扱いにも困る。少し力を入れれば簡単に傷ついちまって、泣いて、喚いて、もっとムカついた。

 

 静かな、誰もいない場所ならイラつきもムカつきもしない。けれど、不思議とムズムズする。柔らかい毛先でずっと全身を撫でられる様な不快感があった。

 だから、自然と俺は騒がしい場所に向かう様になっていた。

 

 昼夜問わず騒げるような輩が集まる、どうしようもない場所へ。

 

 暗い路地裏、

 ごちゃごちゃとしたゲームセンター、

 駅の裏口、

 

 少なくとも、そこでムカついて暴れても……壊れるのは()()()()、どうしようもない奴らばかりだ。そこが、俺の居場所だった。

 

 弱い奴からカネを集ろうとしている奴にムカついた、

 効果もよく分からない薬に酔っていた奴にイラついた、

 同類じゃない奴に絡んでいる奴にムカついた、

 俺の威を借りようと媚びへつらって来た奴にイラついた、

 

 暴力を振るうとスカッとする。自分の胸に渦巻く感情を表に出す方法を、それしか知らなかった俺は暴れまくった。

 

 暴れて、暴れて、暴れて……

 

 

 

 

「……クソッ」

 

 ──俺は激しく降りしきる雨の中、路地裏で倒れていた。

 

 何が起きたんだっけか、とぼんやりとする頭の中で考えていてもいまいち纏まらない。

 確か、タイマン張ろうぜってやたらイキのいい奴がやってきて……応じて場所を変えてやったら、そいつの仲間が待ち伏せしてたんだ。

 気が付いたら囲まれてて……あぁ畜生、負けたのか。

 

 負けた事に対して、簡単に騙された自分に対して怒りを覚えているはずの体はどんどんと冷えていく。

 歯が震える。力が抜ける、入れようとしても穴の開いた風船のように膨らまない。

 

 駄目だ。また意識が……ここで、俺は死ぬのか。

 いいかどうせ、一人で暴れて、独りで死んで……きっと、お似合いだ。

 

 ただ……腹が減っていた。喧嘩の前に飯ぐらい食べればよかった。

 

「……おい、大丈夫か」

「──」

 

 誰かの声が聞こえる。

 雨が体を打つ感覚が、途切れたのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は喧嘩は嫌いだ。いい事がない。お互いが傷つけあって、何も生み出さない。

 

 ……ってのは表向きな理由だ。実際はどうでもいい。なにも意味は無いけど楽しい、みたいなことがこの世には多いってのはよくわかっている。

 単に見てて怖い、それが主な理由だ。あと血も苦手。

 

「……すいません」

 

 俺の横で深々と頭を下げる彼を見て、ふと過去を思い出していた。

 トールに出会ったのは、放課後。まだサッカー部のメンツを探している途中だった時の話だ。

 

 顔面が血と涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた集団が横を走り去っていくのを見た。

 何事かと好奇心から逃げてきた方向に歩いて行ったら倒れていた。

 

 思わず傘を貸し救急車を呼ぼうとする俺を、トールは何もしゃべらずに足首を掴むことで止めたのをよく覚えている。

 ……かなり重症に見えたのに、たまたま学校に持ってきたのに食べなかった弁当をあげたらすぐに元気になってたのは笑ったなぁ。

 

 腹が減っていたから助かった、とか言われてさ。

 ギャグマンガの人間かよって。

 

「PK戦、ルールは簡単だ。3本勝負、キックする奴は固定だ!」

 

「負けた方は文句言わずに出て行ってもらうってのを忘れてるぜ」

 

 俺もそうなりたかったなぁ……。

 

 いやさ、何勝手に決めてくれてんの。俺がトールのパンチの痛みに耐えてるうちに何があったの?

 無理だぞPKなんて。

 

 俺今両手火傷して左腕骨折(推定)してるんですがそれは。ヒビであってくれヒビであってくれ……と祈ってはいるがこっそりと押すと尋常じゃなく痛い。

 まだ腕動かせるから麻痺は起きてないんだよな。

 日常生活これからどうしよう。あ、これから死ぬから問題ないのかいっけねぇ。

 

問題あるわ。でも仮に口挟みでもしたら…

 

『いや、待て……』

『なんだと3本で足りるのかだって!?(言ってない) いいだろう、ならば5本勝負だ!』

『部長さっすがー!』

 

 今グラさん達に口挟んだら何となくだがこうなりそうな気配がする。

 よくわからないが確実にこうなる。

三回耐えれば生き残れることを柱に頑張ろう。

 

「……トール、手の手当てはしておいた方がいい」

 

「……あぁ」

 

 どうにかして、火傷した右腕で耐え抜かなきゃなんない……。

 痛覚が少し戻って来たから多分火傷は軽度だ。脳内麻薬かなんかでガードしてくれてたのかな、ありがとう俺の脳みそ。

 よほど握りしめたのだろう、拳から血が垂れていたトールに注意し、その場を離れた。

 

「(いきなり土砂降りが来たりしないかな……)」

 

 そして、ゴール前に立つ。

 目の前にはボールを手にこちらを見て笑っている高天原の……どっかでみたことあるなこいつ。何だっけな、雑誌か?

 

「──いくらお遊びの習合でも、流石に部長は俺の事をご存じだったらしいな。俺は高天原中学2年、真経津 光矢(まふつの こうや)

 

「……高天原の、FWだったな」

 

 思い出しちまったよ。こいつ昨年の高天原中学でいきなりエースストライカーになった奴じゃねぇか!? 

 何でそんな奴が二軍連中に混ざってるんだよ! いろよ一軍と! 勝てるわけねぇだろこんな奴!! お前確か必殺シュート持ってたよな!?

 

 死じゃん!! 死、あるのみじゃん!

 

「その通り、お前は運が悪い。絶対に勝ち目のない戦いに挑まされるんだからな……」

 

 そう言うと、真経津は少しだけ首を傾け、奥にあるもう一つのゴールの方を顎で指した。

 当然、そちらには俺達とは逆の立場……攻撃側の習合FWのメアと、防衛側の高天原学園のGKがいる。

 幸いなことに、あっちのは正GKではないけど……、

 

「今日はサブゴールキーパーがいる。そちらのへなちょこFWじゃあいくら撃っても無駄だ……何せ、俺の弟だからな。

経験さえ重ねれば今年中に正ゴールキーパーにだってなれる器だ」

 

 兄弟でサッカーとか仲いいかよお前ら。少しうらやましいわ。

 交代要員と言うと弱そうに聞こえるが、要は二番手、チームの中で二番目に強いキーパー。

 超次元のシュートを受けまくって鍛え上げているだろうあの体は、俺とは比べ物にならないものの圧を感じる。必殺技が未完成とか言い張っているメアをしても、突破は出来ないだろう。

 

「よかったのか? 一応チームにはまだアイツよりかはマシそうなFWがいたが……」

 

 確かに、ジミーのシュートは強力だ。もう一人のFW、背番号十番のワタリ(カラスが好きらしいのでワタリガラスからとった)の方もメアよりはキック力は上だろう。

 けれど、この二人はまだ必殺シュートの糸口もつかめていない。そもそも直ぐに練習を止められたせいもあるが。

 ちなみにワタリはドリブル技の開発を考えていたそうだ。

 

 未完成とは言え、まだ必殺技の体をなしているメアが一番可能性があったのだ。メアに頼めば、他二人も納得した。

 唯一、メアだけは不安になっていたが……俺はもっと不安なんだ。お前は特に生命の危機ないだろ、いけるいけると背中を叩いて励ました。めっちゃ痛かった。

 ……まぁ、この辺は言う意味もないだろう。

 

 というかいつまで話をする気だコイツ、先行だぞお前。まさかこいつも俺と同じく超次元に巻き込まれた者で時間切れを狙っている……訳がないな。

 ちゃんと必殺技を決めている写真だって撮られていたぞ。知ってんだからな。

 

「……蹴らないのか?」

 

「──っ蹴るさ! バカにしやがって……お前なんざただのシュートで終わりだ!」

 

 あ、やっぱ蹴るんですかごめんなさい許してください。

 やめて、そんなに足を振りかぶらないで……多分すっごい軽く撃っても決まると思うんですよはい。

 

「──くらえっ!」

 

 助けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンゼル・ブライト──()!」

 

 無謀だった。

 相手はフットボールフロンティアの常連校。この地区で一番サッカーが強い学校だった。

 力の差なんて、リーダーが一番わかっているはずなのに、何故彼は僕をストライカーにしたのだろうか。

 

「──八咫鏡

 

 わからなかった疑問は、易々と止められた僕のシュートを見てますますわからなくなった。

 その手に出現したのは全てを吸い込み跳ね返す、強大にして巨大な鏡。

 光を放っていたシュートは、幾分とずれることもなく僕の足元に帰って来ていた。

 

「くっ……これでも駄目か」

 

「……これで0()-()0()、君じゃあ僕の鏡を割ることはできない」

 

 一度目は、技も何も使われずに止められてしまった。

 リーダーに放った時よりも改良を加えていた。溜めるコツが分かって、同じ時間でより多くの力を溜め込める様になっていたのに。

 

 二本目は更に改良を加え、ボール自体の威力を保ったままゴールにたどり着くようになっていた。

 それでも、駄目。真経津弟の必殺技の前に、少しも通用しなかった。

 

「……ふふふ、これで2本目」

 

 どうすればいい。どうすれば威力をこれ以上高めることが出来る。どうすればあの鏡を打ち破ることが出来る。やはり、やはり僕じゃ才ある人には立ち向かえないのか?

 駄目だ、分からない、辿り着けない。

 わからない、わからない……駄目だよリーダー。やっぱり僕みたいなやつじゃ……。

 

 下を向いて諦めようとしていた時、 

 

 ──光の流れを感じた。

 

 フィールド全体の全ての光が流れていき、僕たちにはただ陰のみが残る。

 これは、なんだ? こんなことがあっていいのか。

 

 恐怖心から後ろを向けば、

 

 力をその手に集め、煌びやかでありながらも神々しさを併せ持つ、光の弓矢を作り出していた真経津兄がいた。

 

「なっ!?」

 

 高天原のエースストライカー、敵キーパーから聞かされていたその意味が分かった。

 同時に理解した、あれは危険なんて言葉で収まるものじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「へぇ、あれを出すんだ兄さん(……二本もシュート止められたからって、やり過ぎじゃないかな)」

 

 真経津弟はそれを見て、意外だと呟く。

 それを知ってか知らずか、真経津兄は弦に掛けていた指を動かし

 

 

「──光陰如箭(こういんじょぜん)

 

 

 ──光の矢を解き放った。

 

 いや、その光の軌跡が残留し見えただけ。僅かな時間で僕はシュートを見失う。

 けれどそれが向かう先は、その対象は、二度の強力なシュートを受け、既に体をふら付かせているリーダー。

 両腕は垂れ下がり、構えすら取れていない。どう見ても、万全ではない。

 

「──っ、リーダー!!」

 

 最悪を、想像した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺もしかして何か悪いことしたのかな。

 迫りくる光の矢とは対照的に、思考はゆっくりと動いていた。

 

 右腕は動かない。左腕も同様だ。

 一本目のノーマルシュートで右腕が限界に達していた。

 二本目、更に強くなったシュートを止めるために無理やり左腕を動かしたツケが来ている。これ左は完全に折れたね。疑惑が確信に変わったよ。

 

 もはや腕はピクリとも動かない。

 

 最初にジミーのシュートを止めた時の様に腹で防ぐか。無理だな、抑えきれずに吹き飛ばされそうだ。

 じゃあ蹴り返す、直ぐ足首折れそう。サッカーじゃねぇんだから……サッカーだったわ。

 

 なんでボールが光の矢になってるんだろう。マジでどういう仕組みなんだよ。多分世界ビックリ人間とかに出られるよ君。

 

 というかいい加減コース狙うとかしてくれませんか。ムキになって正面突破狙わないでほしい。真経津兄の目からしたら構えを解いた=効かねぇよ、みたいな風に映ってるのかな。

 眼科に行った方がいいと思う。効いてんだよ、体力からっぽ、瀕死なんだよ。

 

 いっそ、避けちゃ駄目かな。駄目だな、キーパーがボールから逃げるなんて言語道断。永遠のお笑い種だ。

 

 ──じゃあ、力を抜くってのはどうだろう?

 

 最初は強くぶつかって後は抑えキレナイーとか言って後ろに吹っ飛べば、まぁバレないんじゃないかな。

 大丈夫、こんな凄い必殺技が相手なんだぜ。きっとみんな「しょうがない」って許してくれるさ、しょうがないしょうがない。

 高天原だって多分「よく頑張ったが、この必殺技が相手では仕方がなかったな下郎」とか言うさ。

 

 あぁいいね、そうしよう。力抜いちまおう。めっちゃ痛いだろうけど、嗤われるよりはマシだ。

 

 ──ふと、部員たちに目が逸れた。

 

 焦り、絶望、そんな感情が混ざった目で俺を見ている。

 誰も、目を瞑ったりなんてしていない。あぁ違う、グラさんだけサングラスかけてっからわかんないし、メアは向こう側のゴールの方にいるから小さすぎる。

 

 ……でも、きっと見てくれているんだろうな。

 他のみんなの目に宿った、ほんの少しの「期待」の感情が、俺にそう思わせた。みんな、俺に抱いてるイメージに期待しすぎなんだよ……ただの格好つけたがりなのに。

 例え違っても、なんてたらればは出てこなかった。

 

()()()()!」

 

 一番遠くに居たはずのメアの声が、なぜかはっきり聞こえた。

 そっか俺は……リーダー、部長だもんな。

 

 

 ……、

 

 …………、

 

 ……………格好、悪いよな。

 

 

 もう少しだけ、頭使うか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──着弾すると同時に、光が弾ける。

 

 陰に落とされていたフィールドを今度は光が支配し()()()()、ネットが揺れた。

 

 その事象を知覚した瞬間、習合サッカー部はみな結果を悟った。

 少しの期待は崩れ……視線は下がろうとし、

 

「……なん、だと?」

 

 それを制したのは、真経津兄の驚愕に彩られた声であった。 

 慌てて視線を戻し、光が晴れたその先に僕は見た。

 

 ゴール内でネットを揺らしていたのは……寄りかかっていたリーダーだった。

 その姿はまるで、仕事は終えたと言わんばかりに見えたのは気のせいだろうか。

 いや、きっときのせいなんかじゃないだって、

 

 ボールは、()()()()()()()の場所に転がっていたから。

 決して、割っていない。

 

「ありえない……」

 

 真経津弟は震えていた。

 自慢の兄の技を受け切ってなお、彼はゴールを守り切ったのだ。

 

「リーダー!」

 

 ありえない、どうやった。何故あんな離れた場所に……まさか、この土壇場で必殺技でも使ったというのか?

 

「……()()()だ」

 

 その一連の流れを見てただ一人確認できていた男、真経津兄は、信じがたいものを見たと言った口調で語る。

 

「やつは、頭突きでボールを支えたかと思ったら……! 最後、突き上げる様にして軌道を逸らし、上のポストに当てたのだ……!」

 

「そんな馬鹿な……!?」

 

 自分たちのエースの混乱が混じった声に、高天原の一同がざわつく。

 

 理屈は分かる。ボールはゴールにさえ入らなければ点にはならない。止めなくてはならないという理屈はない。

 けれど分からない。

 必殺技にただの頭突きで立ち向かうその意味が、分からなかった。

 

 

 ……でも、そうまでして彼は勝ちを諦めなかったことは理解できて、

 

「──……これで0-0、だね」

 

 どこか、吹っ切れた自分がいることに気が付いた。

 

 丁寧に返してくれたボールに、足をかける。

 ここから僕の番だと、声をフィールドに響かせた。

 

「っ、なめるな! 君のシュートなんてなんてことはない、ん……だ?」

 

光よ

 

 光を集める。

 

 天から、地から?

 

「──()()()()()

 

 (ボク)からだ。

 世界を照らす光を借りていては意味がない。

 自分で生み出すんだ。僕だけの強い輝きを集めて集めて集めて、誰にだってマネできない僕の光を今ここに!

 

救いを求める人々へ

 

 信じろ、僕はきっとやれるって。

 諦めるな、歩き続けていれば、走り続けていればいつか辿り着き、越えられる!

 光で二枚の翼を作り出し、高く飛ぶ。頬を切る風が心地いい。

 

エンゼル

 

 蹴った衝撃で光が漏れるというのなら、溜め切って爆発しそうなボールに対し僕の光を更に、着火剤代わりに流し込めばいい!!

 ゴールを見下ろし、足を高く上げた。

 

 ──これがきっと僕が求めていた一撃だ。

 

ブラスタァー──!!

 

「ひっ……や、八咫かが──!!」

 

 鏡が現れるとほぼ同時に割れた、違う。

 僕が割ったんだ。

 

 光弾となったシュートはゴールネットを突き破った。

 

 

 




頭を使う(物理)
なお単に弾いたらうまくいっただけな模様(台無し

 一応知っている方はいると思うのですが、高天原中学はFFトーナメントで名前だけあった? と思わしきところです。確認した手段が画像だったのでもしかしたら違うかもなんですが。
 なので選手とか全部ねつ造です。同じ名前の奴とかゲームにいても関係ないですすいません……。


-オリ技紹介

・八咫鏡
 かの天照を映したとされる鏡を顕現させどんなシュートも跳ね返すパンチング技。
 
・光陰如箭
 光陰矢の如し的な技名。フィールド内の光を全て集めて射るシュート技。直線的過ぎたが故か軌道ずらしなどに弱かったが、威力は十分に超次元級。速度だけならかなりのもの。
 流石に無限の壁とかは破れないけど。

・エンゼル・ブラスター
 エンゼル・ブライトなんてシュート技はいなかったんや!
という事でついに完成したメアの必殺シュート技。

 自分を天使に見立て、天高くから蹴り落とす一撃である。


~選手紹介~

・グラさん DF 2番
 目がコンプレックスだそうでいつもグラサンをしている。だからグラさん。
 暴走しがちな部員を抑えてくれる役割を持つ。なお部長は無茶しているとは思っているけど「ボスなら何とかなるだろう」という信頼がある。


※修正点
・真経津兄の名前を灯夜→光矢に変更。それに伴い、台詞もやや変更。前話の方はトール怒らすためにわざと口汚くしてるので無変更。
・メア覚醒シーンちょこっとだけ修正


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とうとう病院に行けた日

度々の誤字報告大変助かっております……!
3回ぐらい見直して投稿しているのに、なぜ誤字は発生するんだろう……

また、今週は本当に忙しいため……次の更新はだいぶ遅れるやもしれません。


 勝負はうちの勝ち。それだけではなく、自分たちのボスが必殺技相手に頭突きで対抗し、勝利を収めた。

 終わって、ボスがベンチに戻ってきたとき……周りの何人かの顔が熱を帯びているのに気が付いた。

 

「流石ッス部長! どうやったら頭突きであんな技を止められるようになるんスか!?」

 

「部長ー、見事な頭突きでしたよ! 僕もあんな風になれるまで特訓頑張ります!」

 

「お疲れリーダー。君のおかげでようやく自分がどうすべきなのか、少しわかった気がしたよ」

 

 別に、色恋沙汰のことではない。その感情は憧れだ。

 ボスに救われた奴はこの部に多く存在している。だからこそ、自分を助けてくれた存在の凄さが分かると更に興奮する。そんな仕組みだ。

 

 自分がそうじゃなかったか、と言われれば……少なくとも、同一ではないと言い張れる。

 バング、ウリ坊、メア、トール、ソニック、カガ……習合サッカー部はなにも上手くいっていなかった、現状に不満を持っていたような奴らばかりが集まったわけではない。

 

「……って部長! 頭から血が出てますよ、血!!?」

 

「擦りむいただけって……絆創膏誰か持ってないかい?」

 

「……」

 

「……あぁ、ありがとうカガくん。凄いね、いつも持ち歩いてるんだ?」

 

 副部長──ジミーの様に単にサッカーが好きだから賛同した奴もいれば、

 俺やワタリの様に、馬鹿で愚直な夢がどこまで届くのか見世物代わり。駄賃はその最後の時までの協力、と半ば喧嘩を売る形で参加した奴もいる。

 

「まったく……地区予選前にこんな調子では、この先どうなるか……そうは思いませんか、ジミーさん」

 

「その割にはワタリ、ソワソワしてたよーな? なんだかんだ言って心配してたんだろ」

 

「っそ、そんなわけないでしょう!? 私は──」

 

 ワタリの方は「どうせ途中でめげるんですよ」とネガティブな感情が強かったのがせいぜいの違いだろうか。正直、最後まで居てやると言ったも同じな気がしてきたが……話が逸れた。

 

「おつかれ〜部長さーん、甘酒飲む〜?」

 

「……もらう」

 

「おっ? 珍しいねぇ、普段は遠慮してんのにぃ。まっ、一緒に飲む人が居ると楽しいからいんだけど〜。

あっ、グラさんは〜?」

 

「いや、今日はいいかな。その分ボスに注いでやりな」

 

 最後に、アルゴ。いつも大量の甘酒を陶器の瓶に入れて飲み歩いて酔っぱらっているこいつ(アルコールほぼほぼ含んでいない筈なのに)。

 彼の目的は単純。正直、お前それないだろうと自分の参加理由を棚に上げて呆れたことが記憶に新しい。

 

「……うまいな」

 

「でしょ〜! うちで余った酒粕もらって作ってるんだよぉ」

 

 ケラケラと笑ってお猪口に注いだ一杯を一飲みにすると、ご機嫌といった風にまた笑う。いや、最近はずっとご機嫌で、更にそれが良くなったと言うべきか。

 今日のようなPK戦がまたあれば、こいつは酒樽でも持ってきて勝手に宴を始めるだろう。

 

「……アルコールは大丈夫なのか、これ」

 

「だいじょぶだいじょぶ、ちゃんと煮切り*1してるし~」

 

 ──それは、彼はボスのことを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 甘酒って本当においしい。

 アルゴって、しょっちゅう目を合わせるたんびに甘酒飲んでるけど本当に美味いんかねぇ……とか思ってたんだよな。

 

 体の隅々の細胞にまでいきわたるのを感じる。壊れた部位もこれで治ればいいのにと思いながら、また口をつける。

 次から常備しようかな……本当に。

 

 でも多分こんなに美味しいのはアルゴが作った奴だろうからってのもありそうだ。確か酒造の跡取り息子だっけか。なんかあんま男子って感じがしないけど……まぁそれはメアも一緒か。

 

 俺も料理は得意分野というか、一応こなせるけど……やっぱ専門家の方が数段上だよな。

 

「そんでボス、この後はどうするんだ? 高天原の連中は意外とおとなしく帰っていったが……」

 

「……そうだな」

 

 グラさんの言葉の通り、驚くほど真経津兄は素直に負けを認め帰っていったのだった。弟の方は少し抗議の声を上げようとしたが、兄に頭を叩かれていた。

 

 五本勝負に変更だ! とか言われてたらもう本当にやばかったので助かった。

 正直俺は渾身の力で頭突きした後の記憶が抜け落ちているので、何が起きたのか全く分かっていない。なんであのやばいシュートが決まらなかったんだろう……?

 

 そして、僅か三本のシュートで技を進化させたらしいメアはなんなの。絶対二度とお前のシュート受けないかんな!

 ……で、これからか。正直もう帰りたいんですけど。気が抜けて腕がじんじんと痛みを増してきているんですけど。

 

 長袖で誤魔化してるけど、絶対腫れてないかこれ!? どうしよう、正直に「腕やばいから病院行ってくる」なんて言えない……何かないか何かないか。

 あ、そうだ!

 

「……グラさん所のペアでウリ坊を見てくれるか?」

 

「ん? まぁ的が一つ増えたところで問題ないが……?」

 

 怪我をしてくれている(恐らく皮膚に爪が食い込んだ)トールくんがいるじゃないか。いやこれもかなり重症だし、してくれているって言い方は酷いな。ごめんなトール。

 確かウリ坊とのペアだったよな。じゃあウリ坊をグラさん達に任せて、自主練とか言い渡して、俺は「トールを病院に連れて行く」という部長ムーブをかまし、この場から離脱するのだ。

 ふはは何ていい考えだ、天才的だな!

 

「聞きました部長!? グラさんに急に走らされたかと思えば、どっからか持ってきたのか分かんない量の水鉄砲で狙ってくるんスよ!? これサッカーじゃなくて射的ッスよ!!

しかも水の中にめっちゃ辛いの仕込んでるし!」

 

「ハッハッハッ、単に濡れるだけじゃ必死にならねーだろぉ?」

 

 ……がんばれ。抗議するバングの肩を適当に叩いて激励しておく。

 さて、

 

「病院に連れて行く、トールは何処だ?」

 

 トールの処置が終わったらさっさとお家に帰して、次は俺を診てもらおう。うんいい考えだ。

 ……うん? なんかクラクラする気が……甘酒の飲みすぎたか、それとも頭強く打ったせい……早くこの場を離れた方がいいかな。

 で、肝心のトールは何処だ?

 

「……あー、それが部長」

 

 そう聞くと、ウリ坊は気まずそうにしながら遠く──視界の端の方、部員の塊から少し外れたところで丸くなり、うずくまっているトールを指さした。

 

 えぇ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方、黒い雲に日も隠れた帰り道。

 俺の横に来ようとしないトールに対し、何度も話しかけていた。

 

 だからさ、そんな気にすんなって。

 結局勝負には勝ったし、次からは高天原中も邪魔してこないとか言ってたしさ……。な? 終わりよければ全てよしってことだよ。

 

 ……違うな。やっぱり過程も大事だよな。

 頑張ったんだろ、我慢したんだろ? じゃなきゃ、そんなに掌から血がにじんだりしないって。

 悔しかったよな、バングたちから聞いたぞ。自分の事だけじゃなくて、皆のこと馬鹿にされたんだろ?

 

「……けど結局、我慢、できなかったんだぞ俺は……部長を」

 

「……大丈夫」

 

「……他の奴らを、傷つけちまうかも……」

 

 いや多分そっちは本当に大丈夫だと思う。

 ウリ坊見ろよ、お前とぶつかり合って何ともないんだぞ。

 俺見てよ、今だってグローブの下包帯ぐるぐる巻きだかんな。絶対気に病むだろうから言えないけど。

 

「……俺、やっぱりチーム抜け──」

 

「駄目だ」

 

 切り出そうとしたトールとしっかり目を合わせ、止めた。

 いや別に、サッカーやりたくなくなったぜひゃっほーい!! 的なノリだったら笑顔で送り出してたよ俺。

 いやーチームかけちゃったな、もう一人どっかで探してくるからその間みんなは練習しといて! みたいな感じで。

 

「……それじゃあ、後悔する」

 

 でもさ、罪悪感からそれを言い出す部員止めずに放逐するような部長ってすっげぇ格好悪いだろ。

 そんなん許したらお前この先ずっと駄目になるだろ。俺も後味悪いし。

 

 めっちゃブルーになってんなぁ……。病院寄った後に待ち合わせでもしてラーメン屋でも一緒に行くか。トールはご飯好きだから丼もの美味しいとこがいいかもな。

 とりあえず、今はやる気出してもらわないと。

 

「……お前の力が必要なんだ」

 

 なんだかんだ言って、トールみたいなデカいDFが一人いるだけで相手に与える圧力は大違いだ。超次元的な力を持っているこいつらなら、すっごいディフェンス技とか思いついてくれるかもしんない。

 そうなりゃあれだ、めっちゃ試合中楽できるじゃん。

 

「DFとして、トールとして、ゴールを守ってくれ……!」

 

「……部長」

 

 必死に訴えたのが効いたのか、トールの目にようやく生気が戻ってきた。そうだよ、その意気だ。

 

「──ん? なんかポツポツ……雨か」

 

 ……げ、突然雨降ってきやがった。

 

 降るならPKの時降ってくれよほんと……あ、でも腕が微妙に冷えて気持ち……よくねぇ! めっちゃ痛い! あと頭の傷口に染みてこっちも痛い!

 やばい、傘、傘! ……持って来てねぇ!

 

 畜生、カバンが重すぎるから少しでも軽くしようとしたせいだ、槍が降ってきた気分だぜ!

 

「……部長、これ」

 

「……これは」

 

「あの時借りた、アンタの傘だ。俺は、傘はいらない。頭冷やすのに丁度いいからな」

 

 そう言って差し出されたのは一本の折り畳み傘。

 あの時……あぁ初めて会った時の奴か。そういやトールに渡したまんまだったな。安物だったし、あげた気分でいたんだが……。そっか、大事に持っててくれたのか。

 

 ……でもよく考えたら、両手火傷してんのに傘持つとか拷問だな! 絶対持ちたくねぇ!!

 

「なら、お前が差してくれ」

 

「……は?」

 

「お前の身長は大きいから、二人で入っても問題ないだろ」

 

 すごいよなぁ。俺だって同年代の奴より少し大きいのに、トールなんて下手すりゃ大学生並みにでかい。これからもでかくなるなら中学3年とかになったら二メートル超すんじゃないか?

 背がでかけりゃ女の子にモテモテだって聞くし、少し分けてもらえないかな。

 

「……でも」

 

「な?」

 

「……はは、分かったよ」

 

 少しのためらいの後、トールは傘を広げ俺に寄ってきてくれた。

 雨が体を打つ感覚が途切れたのを感じる。

 

 その後は病院まで、他愛もない話が続いた。

 

 そうだよ、俺がしたかったのはこんな部活動なんだって、何度も思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこんな怪我をしたんですか?」

 

「サッカーで……」

 

「そんなわけがないでしょう。両手の火傷に左腕の骨折、右腕は筋挫傷。頭の擦り傷に慢性的な疲労……。

──他はともかく、左腕の骨折は治るまで最低1か月以上かかると思ってください」

 

 えぇ……もしかして俺フットボールフロンティア終わるまでずっと骨折したまま……?

 

 

 助けて。

*1
煮立て、アルコールを飛ばす事




序章「部長、全治二ヶ月だってよ」が終わりました((

嘘です、本当は1か月半くらいです。
ここから、片腕しか使えなくなってしまった部長のあがきが始まる……!

※筆者は人体についての知識が乏しく、専門家から見たらかなりとんでもないことを書くことがあるかと思いますがご了承ください。


~選手紹介~

・ワタリ FW 10番
 カラスに愛されカラスを愛した男。
近寄ってくる人を見下す悪癖がある。理由はあるらしいが……?
 カラスとよく遊んでいるらしく、ついばまれ毛先がバラバラな髪の毛が特徴。


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部長、噂の人になったよ編
闇っぽい力を閉ざす日


 久々に初代のゲームやってて思ったんですが、初代って技進化なかったんですね……進化要素入れちゃった……まぁいいか!!
 

 そしてなんと、今回はクソ平和な回です。


※ちなみに、手術する前は本当は入院したりするらしいのですが……カットさせていただきました。
 ちょっとだけ超次元な医療という事で……きっとエイリア学園編の途中ぐらいからは骨折が一週間で治ったりしそう。
 瞳子さん、部長に紹介してあげてください。


 それは夕飯の後、キック力を鍛えるため重りを持ってスクワットをしていた時の事だった。

 

 二日ほど()()()()()()()()()()

 部長が俺にそんなことを電話してきたとき、驚きのあまり受話器を落としてしまうかと思った。

 何せ俺の中では部長は無類のサッカー好きであり、また誰よりも辛いトレーニングを積み重ねる男という印象があったからだ。それが休む? 一体どういうことだろうか。

 

 どうした、何か怪我をしたのか。なにがあった。

 そう尋ねてみても申し訳なさそうに言葉を濁されるばかりで、不安になり……今日の部長を思い出す。

 

 軽いジョギングで河川敷まで行って、俺とメアのシュートを止めて、トールの拳を止めて、高天原のエースの必殺シュートだって頭で……。

 頭の傷、そうだそれがあった。まさか、それが見た目よりも酷かったのか? 頭を打ったせいで何かが起きたのか。

 

「……いや違う」

 

 そこだけはっきり否定された。見当違いだったようだ。

 流石にあの丈夫な部長がそれしきでどうにかなるはずもないか。

 

「……あー、いや、その、だな。

──病院で、風邪をもらってきたようでな。頼んだぞ……ジミー副部長」

 

 意外と丈夫じゃなかった。

 恥ずかしそうに白状する部長に、思わず吹き出してしまったのは別段悪い事ではないだろう。

 

「そっか風邪か……風邪?」

 

 お大事にと言って、通話を切った。

 どこか、腑に落ちない自分がいた気がするが気のせいだろう。

 

 明日の朝、雨が弱くならなくても部長の家の前に集まるのはやめとくように部の連絡網で伝えとくか。

 多分何人か見舞いに行こうとするだろうけれど、本人は「うつすと悪い」とか言って拒むか困るだろうし。

 あー目に浮かぶな。

 

「99……100っと、ふぅ。少し疲れたな」

 

 決めておいた回数を終える。

 なんだかんだ言って、今チームの調子はかなりいい。

 

 途中の大雨でまたも練習が邪魔されたものの、必殺技練習も中々実りあるものだったことは間違いない。

 メアが編み出した『エンゼル・ブラスター』を見て糸口をつかんだようで、少し形が出来てきた者が何人か出てきたのだ。

 

 ……俺はさっぱりだったけど。

 

 ただやはりメアの様にすぐさまとはいかず、まだまだ時間を要するだろうこともわかる。

 土曜練で取り返そうと意気込みが沸いてくる。副部長が必殺技なしなんて笑われちゃうからな、頑張らないと。

 

 ……そういや部長って必殺技持ってるのか?

 PKの時も頭突きで対抗してたけど……まぁ持ってるか、部長だし。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土曜日。

 PK戦を制した次の次の日の事。俺はおかゆを一人ほおばっていた。テーピングされた右腕と、火傷した部分にラップの様なものを張った手では食べづらくてしょうがないがまぁいい。

 学校は休み、部活も今日は……ははは、なんて優雅な朝だろうか。こんな日は心もゆとりを持って……

 

「(──ああちくしょぉぉう!! 仮病使っちまった、格好悪い! 今頃は部長クン風邪ひいたんだってー、とか言われるんだよもう!

風邪は一応ひいてたけど、休むほどのもんじゃないってのにこんちくしょう!)」

 

 ……いなかった。ここまで避けて来ていた休むという行為をした結果、心は嵐の海の様に荒れていた。

 ではなぜ休んだのかと言えば、左腕の手術痕がそれを物語っている。

 

 骨折をしたら、基本外側から固定するためのギブスをつける。しかし、どう考えてもギプスなんてしたら周りにばれる。

 医師と相談し、幸いにして空きがあったのでさっさと手術で左腕に金属を埋め込んでもらい内側から固定することにしたのだ。まだ手術の痛みが残っているが、あと一日も経てば痛みも引くだろう。

 

 ……当然、左腕を使えば激痛が襲ってくるが。

 

 その後消毒をして今朝帰宅。

 まったくもって忙しい。今日一日は絶対安静と言われているし、食べ終えたので寝てしまおうか。

 

 ……っと、新しいグローブ買っておかないとか。手術したせいで今月厳しいし、メ〇カリとかにある安い中古品とかにしよう。そう思いパソコンの電源をつける。

 あ、めっちゃ安いのあった。二束三文同然じゃねぇか。

 なんでこんなに安いんだ、訳ありの品か? 確かに年季はありそうだが、しっかり手入れされててまだまだ使えそうだぞ?

 

 えーと何々? 「私の兄が長年使っていたグローブです。兄は無理な特訓がたたり体を壊してしまい、すっかり大好きなサッカーが出来なくなってしまいました。

リハビリも嫌がり、サッカーに関するものを見るのも辛くなってしまい処分してくれと頼まれ……捨てるには忍びなく、サッカーをする人に渡せればと思っての出品です。

大事にしていただけるとありがたいです」

 

 ……明日は我が身かな。

 縁起は悪いが、背に腹は代えられん。購入させてもらおうぽちっとな、指動かすのもいたいけどしゃーないしゃーない。

 ごめんね、多分また仲間の必殺シュートとかで壊れるけど……その時までしっかり手入れするから。

 

 うわ、返信はやっ!? 張り付いてたのかってぐらい早いぞこいつ……。いや偶々、たまたまだろ。

 取引完了したし、火曜には届くかな。

 

 これでとりあえずはokか。

 日曜はもともと休みだし、明日も休めると思うと気が楽になるな。

 

 

……あ、結局左腕使えなくなったのどう説明しよう。キーパーなのに右しか使わなかったらバレるよな普通。

 えーと、一か月以上左腕を使わないのを納得させられるような理由……えーと、えーと──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月曜。日曜までの大雨が嘘かと思えるほどの快晴。

 くそが。

 

「あ、風邪大丈夫でしたか部ちょ……う?」

 

「おはようございま……ス?」

 

「……?」

 

 相変わらず玄関の扉を開けたら揃っている部員たちが、今日は奇特なものを見るような目で見てくる。いや実際不思議に思ってるなこれやっぱ。

 気になるよね。

 正直俺的にはこんなのより背中から翼はやしていたメアの方が気になるけど。

 

「……あーボス、その左腕の包帯は一体……」

 

「……しかも()()? あなた、一体何を考えてるんですか」

 

 みんなが見ているのは、左前腕から手までを隙間なく隠している黒い包帯。そう、白ではない。黒だ。

 白だったら恐らく、みんな「怪我したのか!?」って驚くだろう。しかし、黒だった時は「え、なにその……え?」という疑問を与え、思考を狭めさせることが出来る。

 

 まず初手は成功と言っていいだろう。次はいったい何なのか、という事を教えなければならない。

 多分皆分かってはいると思うがギプスではない。

 

 さぁ、息を吸え。

 今までは勘違いされる方で生きてきたが、今この場一瞬は勘違いをさせる話し方をしなければならない。気をつけろと自分に投げかける。

 

「──封印だ」

 

 風邪だと思っていたら闇っぽい力が目覚めた。暴走しそうだったので抑えた。

 だからしばらく左腕は使いませんよ。

 という方向性で行く。

 

 超次元に生きるみなさんならきっと信じてくれるはずだ。日曜日を丸々潰し、深夜を過ぎても出なかった思考回路はとんでもない結論を導き出していた。

 苦肉の策だった。というか無理過ぎる。

 もう少し考えておけばよかった。今日ぐらいは長袖で隠しておいて誤魔化せばよかった。

 

 冷や汗が出てくるのを感じる。

 

「えぇ……マジなのかボスそれ」

 

「すごーい……」

 

 まずい、普段は言うことなんでも信じてくれる部員達でも()()半疑だ。

 ……むしろなんで半分も信じてくれるんだよお前ら。俺が友達に言われたら鼻で笑う自信があるわ!

 

 でもどうしよう、このままだと話が進まないどころかバレる。

 

「ねーねー部長さ~ん、一度その包帯と──」

 

「──そうだったんだね!」

 

 サンキュー救世主(メシア)ァー!

 

 これメアちゃん(厨二病)完全信じてますね、目がキラキラしています。

 やっぱいきなり詠唱始める人は話が分かるぜ!

 

「そうか、通りであの時もふらついて……光、僕の未完成な技を受けて闇の力が活性化していたんだね!?

そのあと真経津兄の光陰如箭で覚醒へ……!」

 

「……なるほど?」

 

 すげぇ、ちょっと理論立てて解説してくれるおかげでみんな信じ始めてる。

 闇っぽい力って言っただけで結び付けてくれるとかメアちゃんパナイ……というか君ここまで重症だったっけ? 羽生えて悪化した?

 

「でも安心してほしい。君は気が付いていないかもしれないが、僕は確かにあの時君に宿る光を──」

 

 このあと、メアが五分近く語りつくしてくれたおかげでなんかみんな納得してくれたという事だけは明記しておく。

 二度とこの話題をメアの前でするのはやめよう、そんな意識がみんなの心の底に結びついたらしく、誰も俺が包帯をしていても疑問を持つことはなくなった。

 

 だけど、

 

「……その、授業中は包帯を」

 

「先生! リーダーは──」

 

 クラスメイトからは奇異の目で見られることになった。

 そしてメアが逐一解説してくれるせいで、更に設定が盛られていく様を横目で眺めることしかできなくなってしまった。

 恥ずかしい、穴があったら入りたい。

 

 

 助けて。

 

 




ダ ー ク フ レ イ ム マ ス タ ー ・ 部 長

ついに部長も超次元の仲間入りですね((

 感想で書かれてて思ったんですが、骨折してるのにFF棄権を微塵も思考に出ていない部長ってもう頭超次元なんじゃないかって思いました。
 後鬼滅の刃の二次創作で「深呼吸してたら鬼狩りにされた」みたいな勘違いもの書いてみたいっすね。こっちとは違って真面目に強い主人公的な奴。



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遂に目をつけられた日

 キャラの見た目を分かりやすくするため、全員描こうと思った。よく考えたらそんなスキルなかった……。
 あと今頃気が付いたんですが、部長や部員の名前どうしよう……実況の人にずっと「習合キャプテン!」とかあだ名言わせるのは無理ですし……
あとの事はあとで考えるか!(無鉄砲)

前回より第一章「部長、噂の人になったよ」編がスタートしています。
地区予選までを考えています

※色々追記
 バングの必殺技をマイルドに
 ペンギンなどいなかった、いいね?


「────」

 

「……そう、父さんがそう言うなら。じゃあ私はそのことを部長さんに伝えるよ」

 

 カーテンが閉め切られ、日の光が一つだけ差し込んでいる部屋。

 冷え切り、短い会話。親子の会話とは到底思えない惨状だ。

 相手に対して決して目を合わせようとしない自分を、父は何と思っているのだろうか。

 

 ──どうせ、疎ましく思っているに違いない。そうでなければ、出来立てのサッカー部に()()()()()()が出来るはずがない。

 

「……部活は、サッカーは楽しいか?」

 

 外面だけは取り繕っているつもりなのだろうか。その息子が楽しんでいるかもしれない部活をつぶそうとしているのは何処のどいつだ。

 きっと、本当に私がそんな思いを抱いていたのなら叫んでいただろう。

 

 けど、私は……。

 

「……あの部長さんの足掻きを見るのは楽しいですよ。それも、次が最後になりそうですが」

 

 自分も父と同じ最低な人間なのだ。自嘲を含めた笑いで、久しぶりに父の顔を見返してやった。

 直ぐに、後悔する。

 

 ──父の顔は、あの日見た物と全く変わっていなかった。

 

 夢を捨て、母も助けられなかった、壊れた人のそれ。

 きっと自分もいつかそうなるだろうと思うと──。

 

 父さん、私は近いうちに……多くの人をその顔へと陥れることでしょう。

 せいぜい、仲間が増えることを期待でもしていてください。

 

 そう吐き気に合わせ言い捨てて、私は『理事長室』を出た。

 

 目指すは、今も希望に満ち溢れ練習に励んでいるだろう皆の元へ。

 手土産に──一つの絶望を持ちながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とっくに分かっていたかもしれないが、必殺技と言うのはなんでもありだ。

 俺が簡単に調べた限りでも……謎のエネルギー壁を張る奴がいたり、生き物を召喚したりする奴がいたり、分身する奴がいたり……この間の高天原だってそうだ。光を集めてボールを矢にするとかいう訳の分からない物質変換が容易に行われていた。

 改めてこの世界はどうなっているのか不思議でしょうがない。

 

 だからと言って、それアリなのか。

 俺はこの光景を受け入れられないでいた。

 

「そんじゃあもう一回やりますから見てくださいっス!」

 

 グラウンドの真ん中に立っていたのは、ボールを持ったバング。その前にはすでに体制を万全にしているトール。

 いたって普通の1on1だ。

 

 ……バングが、このまま普通にドリブルをするだけなら。

 

「──ドライブアウト!」

 

 端的に言おう。

 バングは最初の動作として、ボールを軽く蹴って頭に乗せた。中々のバランス。

 次に彼は、身に着けていたバンダナ一本を外すと右手に持ち、()()()させた。

 

 ……うん、この時点で色々おかしいが、まだ聞いていてもらえると助かる。

 

 次の瞬間にはそれを自分の体全身に巻き付けた後、一気に引き抜く──恐らくはベーコマ回しをイメージしたのだろうか。

 自分をものすごい勢いで回転させ、トールに突っ込んだ。

 

「ぐぉぉぉっ!!」

 

 ──トールは、吹き飛んだ。あの巨漢が、二,三メートル。

 回転によって生み出された輪っかのエネルギーによって。

 

 やはりそれも、負けて弾き出されたコマの様に……。

 

 人ってあんなに飛ぶんだね、という感想と共に、俺の目の光は失われていく。

 というかあれ俺だったらファール取りそうだな。

 

「……へへっ、どうッスか部長、皆! これぞ俺の必殺技……ドライブアウトッス!」

 

「お見事だねバングくん。自分の頭に巻き付けている物からイメージを膨らませて技につなげるなんて……」

 

「なるほどな、隙を見てブロックされるならずっと回ってりゃ隙なしってことか。

その分疲れそうなもんだが……持久力を生かすいい技だぜ。考えたなバング!」

 

「……」

 

 腕を組み眺めている俺とは違い、回転を終えたバングに対してみんな、走り寄って褒めたり頭をぐしゃぐしゃにしたりして可愛がっている。

 めっちゃうれしそうだなバング。よかったな。

 あとカガは相変わらず無口だがそれ喜んでるんだよな?

 

「……くっそ、耐えきれなかったぜ」

 

「どんまいトール」

 

 一方、ウリ坊に肩を叩かれながら悔しそうにしてるのはトールだ。

 自分を弾き飛ばすほどの力を見せつけたバングをうれしく思う反面、自分も早く必殺技を……! という思いがあるのかもしれない。

 頑張れ。多分あと少しだぞお前も。

 

 ……いろいろと思うことはあるが、ドリブル技ならそんなに俺にも危険は及ばないだろう。

 ようやく部内にて二つ目の必殺技が誕生したのだ。ここは部長としてしっかり喜ぶべきだ。

 バングの努力を、トールの健闘を称えるべく、俺は二人へと近づいて行った。

 

 

 ……岩の様に重たく、疲労を重ねた足で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝は重りを背負って走り、

 昼は勉学に励む。

 夕方は月水金なら基礎練習、火木ならば必殺技習得をめざし四苦八苦する。

 土曜は一週間の成果を見せるため紅白戦を行う。

 

 これがジミー達が設定した我々習合サッカー部の一週間のスケジュールだそうだ。というかほぼ確定事項になっていた。紅白戦とかどっから出てきたんだろうか……俺なんも言ってないのに。

 まあこの文字だけなら普通だな。普通にありえそうな感じだ。

 

 だが、注釈をつければ一変して地獄に早変わりだ。

 

 本日は俺がダークネス・部長として噂されるようになってから一週間以上が経過した木曜日であるが、それまで体験したことを書いていきたい。

 

 朝、重り(10→20kg)が入ったカバンを背負って学校までドリブル。

 いつのまにか重りが増やされていた。もうお米二十kg分である……当たり前か。

 もう流石にカバンに重りが入りきらないのでこれ以上は増えないだろう……増えないよね?

 

 ちなみに犯人は持久力が自慢のバングと筋力自慢のトールだ。最近仲が良くなってきたらしく、トールがつい手が出てしまった場面でも見事紙一重で躱している姿が目撃されている。

 

「来週あたりには腕と足に5kgずつ付けるか? どう思うよバング」

 

「いやー流石にそこまで一気に重くすると負担が大きそうッスね……次はボールを重くしてみませんか?」

 

 やめろ!!

 そんなに重り(20+5*4=40)つけたらほぼ同年齢の奴抱えてるようなもんじゃねぇか! 腰と膝やるわ! しっかりサポーターつけとけよ!!

 

 そして、何をとち狂ったのか校外走三十分走にも重りが導入された。こちらはまだ両足に二.五ずつの計五キロだが、そのうちこっちも重くなっていくに違いない。

 犯人は勿論同じだ。なんでこいつらこんなにやっても体格変わらないんだよ。過労で筋肉回復する暇ないんじゃないか?

 

 というか部費全然ないのにどっからこんなに重り持ってくるんだ。

 

「あーそういえば言ってませんでしたね。うちの家、建材とか扱ってるんスよ。なんでいらなくなったものとかを色々!」

 

「ビックリしたぜ、うちの親父が懇意にしてるところだったなんてな」

 

 そうなんですかバング君とグラさん。あとグラさんの家は土建屋だったんですね。

 ヤーさんぽいのはそのせいなのか。大丈夫だよね、マジもんじゃないよね??

 

 昼の勉学……はうん、こっちは俺の問題だ。

 あの一件以来、すっかり「いきなりサッカー部を立ち上げたと思ったら厨二の世界に目覚めた忙しい人」扱いだ。昨日なんて新聞部から奇人として取材を受ける始末。

 練習スケジュール伝えて「入部大歓迎」って伝えたらすっごい謎な顔された。ひいてたのだろうか。多分そうだな。

 

 ちなみに、最近やたら()()()()()()()()()()()()()メアちゃんくんは盛ってくれたようで新聞部が来た頃には訳の分からない異名がいっぱいついていた。

 

 光と闇を併せ持つものとか、必殺技をただの頭突きで止める男とか、その左手にはかつて神に戦いを挑み命を落としたサタンが宿っているとか。

 なんだよサタンって、世界格闘技のチャンピオンか?

 

 ちなみにサタンとルシフェルは同一説があるからルシフェルの可能性もあるらしい。

 そこははっきりしておいて欲しい。そのうちサタンとルシフェルが同居してるとか言い出されそうで怖いもん。

 

 おかげで俺のあだ名がルシフェル部長とかつけられてんだぞ。誰が堕天使だ。翼がおれたエンジェルどころか腕がおれたヒューマンだよ。

 

 それと俺のキメ台詞は新聞部によれば「闇の炎に抱かれて死ね!」だそうだ。死ねとか言わないよ僕ぅってなったわ。

 

 これが、見事にメンタルを追い込んできてくれる昼の精神訓練だ。

 もうこの学校でモテるという可能性は潰えた気がする。他校の子に望みを抱こう。

 

 

 基礎練習は日に日に頭がおかしくなっている。

 

 最初は普通にパス回しをしていたのに、今じゃコントロールの練習と称して遠くに空き缶を並べ置き、その間を狙う。

 ……どれもボール一個分丁度の幅しか開けておらず、コースを間違えたり空き缶に当ててしまったらその数にスクワットを()()()を掛けた量こなす。

 

 ブロック練習は一-一の練習が基本だったのに今は二-一、一-二で攻撃側を多くしたり、防御側を多くしたり。

 こちらは失敗したらプランク三分と腕立て伏せ五十回を一セットにして、その回数分こなす。

 

 当然、全て重り(20kg)をつけたままでだ……。重り大好きかお前ら……昔の漫画のタイヤみたいに何にでも使えると思い込んでいる節がある。

 一週間ちょっとで普通の練習がここまで超次元になるとは思わなかった。

 

「──遅れました皆さん」 

 

 あ、なんか呼び出されたとか言ってたワタリがやってきた。偉いなぁちゃんと走って来てて。 

 

 ……それはそうと、左腕が骨折している俺はこの全てにおいて激痛が走っているし、腕立て伏せとプランクは片腕でやらなければならない始末。

 左腕の痛みが我慢できなくなったらワザと右手で抑えて「闇の力を抑えようとしている」ムーブで誤魔化している。

 

 普通に死ねる、両方の意味で。(超次元サッカーの)闇の炎に焦がされ死にそう。甘酒を飲まないとやってらんないよ本当に。すっかり甘酒中毒だよ。

 

「……おやワタリ。随分と遅い登場だな」

 

「ソニックさん。私は部長さんにきちんと遅れることをお伝えしておりましたが……」

 

 最期──じゃない最後を締めくくる紅白戦は、まだ平和だ。

 何せみんないくら身体能力が高まって来ていてもまだ実戦経験がほぼほぼないし、さっきまでは必殺技もメアしかもっていなかった。

 

 せいぜい、俺が何度もエンゼル・ブラスターの餌食にされただけだ。

 

 ……泣きたい。どう考えても右手だけで防げるもんじゃない。

 トールとかが頑張って体張ってガードしてくれるおかげで無理やり弾いてポストに当ててるのが現状だ。そろそろこっちも折れるかもしれない。

 幸いなのは、エンゼル・ブライトと違って熱はそんなに無いから火傷しない事か……。

 

 あと思いのほかこの新しい(中古だけど)グローブがよくなじむ。

 元はかなりの高級品なのか、そう思わせるだけの頑丈さを発揮しており、今のところ破れたりする気配はない。

 

「おっ、ワタリさーん! 聞いてくださいよ俺ついに必殺技を覚えたんスよ~!」

 

「……それは、それは……おめでとうございます。それで部長さん、呼び出されたついでに伝言を預かっているのですが……」

 

 いろいろと愚痴を吐いたが、今のところ何とか耐えている。

 どうにかして、これ以上の練習の激化を抑えつつDF勢に必殺技を早く習得させなければ死んでしまう。

 

 このままいけば、ここの地区予選レベルであれば高天原中学以外は相手にならなくなるだろう。

 ……いっそ、同じ地区のサッカー部と練習試合を組んで、自分たちの実力を正しく認識させた方がいいのかもしれない。

 

「……なんだ?」

 

「以前皆さんの要望であったサッカー部の部室の件についてなのですが……」

 

 あぁそれね。今は空き教室借りてるから着替えもままならないんだよね。

 かと言って空いている部室棟もないし、どうにかなりませんかーって愚痴を届けたんだっけか。

 まあ無理だろうなとは思ってたけど。

 

「一定の、部活として実績があれば建ててもいいという事で……練習試合が組まれました」

 

 おぉ? 凄いナイスタイミングだな。

 こりゃいい。部長である俺になんも相談されずに組まれたのは意外だったがまあ、部室貰えるならいっか。

 それで、相手は何処? 隣町のとこ? それともまさか高天原だったり?

 

 

 ──帝国学園??

 

 あの都内の名門。

 フットボールフロンティアで四十年間無敗……つまり四十連覇、つまりは超次元サッカーのトップ中のトップ?

 死じゃん。

 

 

 助けて。




デ ス ゾ ー ン 開始


 ようやく原作キャラ出せる……といってもそんなに書かないんだけど



-オリ技紹介
・ドライブアウト
 バングが編み出した必殺技。
巨大化させたバンダナを紐の様に体に巻き付け、勢いよく高速回転しツッコむドリブル技。
 回転によって生まれた謎のエネルギーリングだから直接触れてはいない、いいね?
 ファール率が高そう


~選手紹介~
・ワタリ FW 10番
 よくいわれるエースの番号を保持しているが、今のところまだ普通。
 鳥の羽を模したロケットを首からよくかけている。
スネ夫

 カラスが好きだそうだ。


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逃げられなかった日

 前回の前書きに追加したメアちゃんの挿絵、予想外に好評でうれしいウレシイ……

 ちなみに主人公たちの地域は私の勝手なねつ造により、高天原中学などがいると思われる(??)奈良県としています。

 エイリア編だとまぁまぁ初期のイベントから参戦が出来る……なお

 もし次で試合始まると思っていた方は申し訳ない……会話回なんだ。

・以下別に読まなくてもいいところ



以下 文字数稼ぎ



 またFFは各地区大会を優勝した一校が集う大会で、16校の出場が確認されていることから地区大会は15ある(残り1は昨年優勝校枠)と仮定。

 すっごい単純に北海道,東北,関東,甲信越,東海,近畿,中国,四国,九州の9つの地区に分けて考えると、雷門と木戸川の存在から関東は2枠確定?
 ので、地方によって2枠あるか1枠なのかがまちまちと思われる。

 今作では近畿地方は2枠あるものとし、東部と西部で一校ずつと定めました。
 東部近畿地方で去年FFに出場したのが高天原、西部近畿地方突を|雌斗路≪メトロ≫学院としており2枠存在。

 ただし東部近畿地区大会は「参加校が多いだけでレベルは関東等と比べると多少下がる」位置づけ。(漫遊寺中とかいう木暮属するところもあるが、FFには未参加)
 高天原が強いため、サッカーを日本一目指す東部近畿っ子は高天原にあつめまっている。だからまた高天原が勝つ。そんなループ。



「……来週の土曜日、奈良の習合中学との練習試合を行うこととなった。

先程配った紙に記載されているメンバーは、当日の早朝4時には指定の場所に集まるように」

 

 突然集められて、突然練習試合が決まったと告げられて、いつかと聞かれれば来週の土曜日。

 どこだと聞かれれば、車を使っても六時間はかかるだろう遠方。

 

「最後に──これは総帥のご命令だ。決して失敗は許されない」

 

 普通なら、普通なら誰もが疑問を抱き反発し、説明を求めるだろう状況下において……彼らは誰も異を唱えなかった。

「……ハッ!」

 

 ただ、彼らの指示者に対しての揃った返事を返す集団。知らない誰かからすれば、酷く不気味としか言いようがなかった。

 それこそが帝国、それこそがトップをひた走る学園。

 都内に在する、全てにおいて上に立つものを目指す者達の日常風景だった。

 

「……鬼道さん」

 

「佐久間……どうした?」

 

 ミーティングは終わり解散、みなすぐに移動をし始めていた時だった。

 少し考えることがあり、着席したままだった俺の前。

 

 指示者に──総帥と呼ばれる男から受けた言葉を伝えていた俺達のキャプテン、鬼道 有人(きどう ゆうと)に対し、佐久間が話しかけた。

 

決して抗議の声ではない。

片方の目は眼帯によって隠されてはいるが、もう片方の目から窺えるその感情は憧憬。つまり、憧れた者の心を、その真意を詳しく知ろうとする知的好奇心と言えるものだった。

 

「一体なぜ急に奈良へ……しかも相手は出来て一月も経っていないサッカー部だなんて」

 

 不可解だとは、疑問だとも確かに思っていた。けれど従う。

 帝国学園の歪みを正しく表した男の問いに対し、鬼道は自身のゴーグルの位置を直しつつ答える。

 

「佐久間──高天原中学の、あのFWを覚えているか?」

 

「あの……? あっあぁ、真経津のことか……チーム自体は大したことはなかったが、アイツの必殺シュートは曲者だったな」

 

 光陰如箭(こういんじょぜん)

 眼帯の裏に浮かぶのは、光をその手に集めていた男の姿。

 貫通力と素早さをウリにしたその一撃に対し、帝国は苦戦を強いられた。

 

 威力だけならば、帝国のものならば防がねばならないものだ。

 しかし、いかに強力な必殺技を帝国側が備えていようとも……それを使うタイミングを計ることが難しい「単純な速さ」がどれほど厄介だったか──。

 

「……習合のGK、キャプテンの男はそれを『単なる頭突き』で防いだそうだ」

 

「──なんだとっ!?」

 

 何の冗談だ。それまで冷静でいた佐久間の顔は一気に崩れる。

 確かに、実力がかけ離れている者の必殺技をキーパーがそよ風が吹いたとでも言いたげな顔で止める。それは彼らの様な強者の立場なら偶に聞く出来事だ。

 

 高天原が、ではなく習合が止めた? あの一撃を頭突きで?

 

 佐久間の中にあった弱小校「習合」の存在は崩れ去り、突如として湧いた……ダークホース。そのような言い方が当てはまるだろうものに変わっていくことに耐えられなかったのだろう。少したっても未だ、佐久間の顔が戻っていない。

 

 ……俺もかもしれないが。

 

 その様を見て、鬼道は「これを先ほどのミーティングで話さなくてよかった」と口にした。普段は参謀役、司令塔である佐久間でこれだ。さっき口にしていれば、ミーティングは混迷していただろうことは間違いない。

 

「まだ本腰を入れて調査はされていないが、そいつはこれまで然程サッカーと関わってこなかった人間だ。少々家庭環境は特殊とも言えるが、その強さとは何ら関係がないだろう」

 

 そう言って、鬼道は自分が持っていたファイルから一枚の紙を取り出し見せてくる。

 話の流れに逆らうことのない、習合の正ゴールキーパーについての仮調査書……と言ったところだろうか。

 

「……また、奴の指導を受けていると思われる部員たちの殆どは、クラブの経験もない素人ばかりだ。

それだというのに先週の時点で一人、強力なシュート技を披露したそうだ。二つとも噂だが……高天原中学を中心に広まっている」

 

 そんな噂を高天原が流すメリットがないことが、増々信憑性を高めている。

 一瞬「奈良の学校の噂がもう帝国に……?」と疑問に思ったが、なんてことはない。大方「高天原中学の中に、()()()()帝国のものと仲のいい生徒」でもいたのだろう。

 重要なのはそこではない。

 

「……下手をすると、今はもっと……か」

 

「中学生になったばかりの、碌に鍛えても来なかった男が作ったチームが僅か一週間程度でフットボールフロンティア常連校に並ぶ実力にまで手が届く。それどころか、本人は必殺技すら使っていない……。

この間の雷門には木戸川清修の天才ストライカーだった豪炎寺がいた。ゴッドハンドを使った円堂は一年以上の練習があった。

 

そういった要素が、不思議なほどに習合にはない」

 

 不気味だと、思わないか?

 鬼道は言外にそう伝えてきていた。僅かながらだが、その頬から汗が滲んでいる気がした。

 

「だからだろう、我らが総帥は直ぐに動き……試合を組んだ。

その男がどんな男なのか……もし、万が一帝国の脅威になるようであれば」

 

 潰す。

 これは伝える必要すらなかった。三人とも、そうなるだろうという確信があった。

 自分たちのサッカーをもって、完膚なきまで叩き潰す。佐久間と俺の拳は、いつのまにか固く握りしめられていた。

 

「……説明は以上だ。当日のコンディションにもよるが、今開発している技もいくつか試す予定だ。

特に──源田、お前の新技があれば俺達の優勝も更に盤石のものとなる。頼んだぞ」

 

「……任せておけ」

 

 警戒対象と同じポジションである俺は、帝国正GK──源田 幸次郎(げんだ こうじろう)は、燃え上がる対抗心を胸に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帝国学園か……いずれ当たるだろう相手だけど、まさかもう来るなんて……! 部長、どうします!?」

 

「速いのはいい事だが……気が早いこととはまた別ともいえるか。しかし何故いきなり帝国が……」

 

「試合に負けたとこの校舎が破壊された、なんて話すらあるようなところが部室すらないうちになんだってんだ?」

 

「というかここまでくんの~? それともこっちが東京に~? ふへへ~、なんか楽しくなってきちゃったな~僕」

 

 混乱。

 部員たちは突然のトップが襲来すると言われ、思い思いの言葉を口にしていた。

 一先ず言えることは、ウリ坊は取り敢えず落ち着いてくれ。

 俺の足元で頭を振り回しているせいで髪がビシビシ当たっている。髪質が硬いせいなのかそこそこ痛い。まぁ最近の怪我を考えれば蚊に刺された様なもんだけど。

 

 後アルゴは気持ちはわかるけど新しい瓶の蓋取るのやめなさい。今日三本目だろそれ。

 

 しかし、なんで本当に帝国学園なんか来るんだよ……。帝って名前付いてるんだから、もう少しどっしりしといてくれよ。

 メアか? メアの才能が轟いたのか?

 確かにメアならもしかしたらフットボールフロンティアでも通用するFWになれるかもしれないけど。下手すりゃもうなってるけど。

 

「……? どうかした、リーダー?」

 

 とぼけてんじゃねぇよ。お前狙いだぞ確実に。

 そんなニュアンスなことを言った。

 

「──いや、部長の方だと思うんスけど」

 

「買ってくれているのは凄く嬉しいんだけど、僕もバング君に賛成かな……」

 

 バングが名推理、みたいなポーズで指摘してきた。メアが便乗してきた。

 ありえないって。仮に帝国が俺狙いだとしたらとんだ節穴だぞ。……超次元サッカーやると皆節穴になるのか?

 

「そうかぁ? 結構もうこの辺りじゃ噂になってるぜ色々」

 

「……」

 

 納得がいかない俺に対してグラさんとカガも加勢四対一で勝てるわけがないな。諦めて受け流すか。

 これ以上やっても謙遜してるとか言われて終わりそうだ。

 そうかぁ、噂かぁ。

 

 ……噂? 噂ってなんのだ?

 

 頭突きのことなら、弾いてポストに運よく当たっただけだ。仮に誰か勘違いしてても誰か訂正するだろ。帝国が気にかける理由にならん。

 

 

 ……ダークネス・部長の方か?!

 

 あれもう東京まで広まってるのか!? ふざけんなよ、何かの間違いでFF出れた時観客皆「あれがダークネス・部長かぁ」って思うって事か!?

 確実にモテないじゃないか!! せいぜいちょっと暗そうな「俺と一緒に真の闇へ」みたいな勘違い厨二が近づいてきて終わりだろそれ!

 泣きたい。メアの情報拡散能力どうなってるんだ、スピーカーってレベルじゃないだろう!

 

 あっでも、ルシフェルとかサタンよりはマシか……? いやほぼ変わんねぇか。

 

 ……落ち着け、落ち着くんだ俺……流石に、流石にそんな訳がない。

 仮に帝国のキャプテンが「お前がダークネス・部長だな。今日はよろしく頼む」とか言ってきたら瞬時に降参してやるけど。

 

「……それで部長さん、どうしますか? 正直に言いまして、うちに勝ち目はないと思いますが」

 

「ちょっ、ちょっとワタリ! いくらなんでもそんな言い方は……!」

 

 そうだなワタリ。やっぱりお前、()()()()()()()()とかはともかく他に関しては割と冷静に事を見れる目があるよ。

 だからこそ、部活作ろうとしてた俺がほぼ確実に失敗するだろうって思って来てくれたんだもんな。なんか偶々部活づくりは上手く行っちゃったけど。

 

 今の本音を言えば、部室は一回諦めて何とか断れない? ってのがある。情けない?

 確か全員必殺技持ってるようなバケモンエリート校だぞ、当たり前だろ?!

 

「……」

 

 ……けどなぁ、そこで勝てない。負けるのは確実だが実りあるものになるだろう……とか、怖いからどうにか断れないか、とか言えないんだよ俺。

 だって、他の人たちめっちゃ期待籠った目で見てくるんだもん。裏切ったら最低最悪の部長だよ。それこそサタン部長だよ。

 ……アルゴは期待の目って言うか、「おツマミまだ?」みたいな目だけど。

 

「……やるぞ」

 

 まぁでも、なんかうまい事が言えるわけじゃないんですけど。

 けど、誰かの尻は叩けたようだ。少しだけだが、重苦しい雰囲気が晴れた。

 

「──っ、そうだ。帝国だかなんだか知らねぇが戦う前から逃げる奴なんていねぇよな部長!?」

 

「わっトールさん、なんかすごい気迫……けどそうッスよね! 俺も必殺技身に着けましたし、なんなら帝国相手に暴れてやりますよ!」

 

「お、おう! やるぞバング!」

 

 ……しゃーない、しゃーなくないけど。

 なんだかんだ言って一週間でバングが必殺技編み出したんだ。来週の土曜にはもう何人か使えるようになってるかもしれない。ともすれば、GKの負担も減るかも……。

 流石に練習試合で格下相手にそんなに本気出さないよね帝国さん……? 頼みますよホント。

 

 今から帝国の情報集め直して、どうすれば一番死ににくいルート行けるか対策立てないとなぁ……また腕壊れそう。

 

「……ははっ! みんなすげーやる気だな。こうなりゃ俺もウカウカしてらんないな。よーし部長、特訓再開しよーぜ!」

 

 ……ジミー達のシュート練。そろそろ俺が参加するのやめて、DFだけに止めさせる特訓とかさせたほうがいいよな、うん。断じて、最近ジミーのシュートが怖くなってきたわけじゃない。

 ノーマルシュートだし。

 ……ただ受け止めるとすっごい体の芯に響くんだよジミーの。めっちゃ重たいの。蹴った瞬間にボウリングのボールとかにすり替えてない?

 

「ああそうだね、ジミーくん! ……あっ部長、僕のシュートについてまたで申し訳ないんだけど……なにか改良点とかあったりしないかな?」

 

 あ゛!? 翼でも増やせばいいんじゃね!?

 これ以上進化とかマジで死ぬからやめろ! トール達が毎回死ぬ気で威力減衰してくれてなきゃ右腕も死んでるわ!

 

「あ、僕も部長に話が! 次の帝国に向けて、強化週間ってことで練習量か重りどっちか()にしませんか?」

 

 やめて!?

 なに両方はあれだから片方だけにしましたよ的雰囲気だしてんだ!

 最近俺への感情が殺意なんじゃないかと疑いを持ってきたぞウリ坊!!?

 

「……どうして

 

 なんて言ったかよく聞こえなかったけど、ワタリくんは静かに目を伏せるのやめて!?

 四文字くらいだから「さよなら」とかかな。お別れの挨拶が出来るなんていい子だね!

 

 

 ──ちなみにこの後、重りは増えた。

 

 

 助けて。

 

「──あっ、出来たよリーダー! 一瞬だけど、三枚目の翼が……!」

 

 

 助けて。

 




エ ン ゼ ル ・ ブ ラ ス タ ー 己


エンゼル・ブラスター改になるのは時間の問題か。
帝国組は佐久間が初期は鬼道さん呼びだったのは覚えている。多分このころ皇帝ペンギン一号が封印されたのかな。

次回は練習風景を挟んでキックオフの前まで行きたい
遅くなるかも

~選手紹介~
・ソニック MF 7番
 かき上げたオールバックと、よく日に焼けた小麦色の肌がニクい"元"天才ランナー。
 別にハリネズミは関係ない。部長はそっちで付けたけど。
 

~頂き絵紹介~

大変うれしい事に、クラネスハインドさんよりメアちゃんの絵を二枚も頂きました!
短編から始まった子がこんな風になるなんて本当にうれしい……とくに肩だしは肌綺麗な子にしか許されない所業。
ありがとう……ありがとうございます。

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助かって、助けられなかった日

シリアス回が続く
基本強敵相手だとコメディが取れそうになるから困る

なので更に部長に責め苦を与えるものとする


 ──自分がどこまでも人と馴染めない人間だと思ったのはいつの事だっただろうか。

 

 俺は、色々と考え事は出来る。見る力もあって、いろんなことに気が付くことが出来る。体幹だって、まあ人並み以上にはある。

 相手が自分を見て、大体何を考えているかも分かる。

 

 けど俺は喋らない、()()()()

 

 それは障害とか、そういった体質的なものではない。

 単に、話すのが苦手なだけ。

 何かしゃべっても、大概勘違いされたり、何度も聞きなおされたり……迷惑をかけることしか出来ない。

 

 なんでなんだろうか。相手がどう思っているかはわかるのに、言葉では碌に伝わらない。

 

 そんなことばかりだったからだろうか。

 俺はいつの間にか口数が減っていき……ある日とうとう、喋ることを止めた。

 

 喋ろうとする力を、他に注ぐようにした。 

 誰かに話しかけて時間を取られるなら、その分早く自分で動いた方が何倍も効率的だった。

 無口になれば、みんな「アイツは何を考えているのかが分からない」で統一されてやりやすくなった。

 

 俺の事は俺しか分からない。

 下手に教えて勘違いされるなら、何も教えなくてもいい。

 

 そんなことばかりしている内に、俺の口は機能を落としていき……今では喋り方すら忘れてしまっている。

 

 けどいいやって、どうせ思い出しても今更伝えたいことなんてないし。そうやって、生きていこうと思った。

 ……あの日までは。

 

「──サッカーやろうぜ?」

 

 彼が来たのは、そう心に決め中学に入学し、一週間程度が過ぎた頃。

 花壇の花が枯れそうだなと思って、水をやっているときのことだった。

 

 第一印象は不思議不可思議、ナゾな人? とにかく分からなかった。

 

 まず疑問に思ったのは、「この人、一体何を考えているんだろうか?」ということ。

 静かに、返事もしない俺に対して彼は眉一つひそめることなく話しかけてはいたが……決して無表情という訳でもなかったのに。

 

 対面している時に出る所作、表情の動き、或いは喋り方。

 どれもこれも、俺が短くも積み重ねた経験からは想像が出来ない。この動きをしたという事は今彼は、というのがテンでバラバラ。

 

 しかし決して支離滅裂、思考破綻者と言うわけでもなさそうで、彼から感じさせる一つ一つには確かに、何か一本芯の通ったものがある。

 

 悪い人ではなさそうだが、どうしようか。

 サッカーは好きだけど……と、しばし悩み「お試しで少しだけ」と思った時、また別の衝撃が俺を襲った。

 

「──そうか、ありがとう」

 

「……? ──ッ!?」

 

 彼は、俺の伝えようとしたことを受け取っていた。()()()()()()()()()()()のに。

 首を傾ける、手で何かジェスチャーしたわけではない。

 何故分かった? 頭の中は混乱し、口は開き呆けてしまう。

 

「……違ったか?」

 

 しまった。混乱が伝わってしまったようだ。

 違う、サッカーはやる。

 

「……ならよかった」

 

 だから何故分かるんだ!?

 

 もしかして心が読めたりとか、そういった力を持った人なのか。混乱のあまり思わず、特異な才能の存在を疑う。

 

 すると彼は「雰囲気」とだけ答えた。いわゆる空気が読めるという奴、だろうか?

 それでも、動きも喋りもなく……理解できるものなんだろうか?

 体の動きも、言葉も含まないナニかを理解する彼。

 

 この人なら──、

 少しだけと揺らいでいた天秤は──勢いよく彼の方へと傾いた。

 

「……よろしくな、カガ」

 

 その後も、彼は俺が思うだけで理解してくれた。

 DFをやってみたいとか、背番号は五がいいとか。

 

 それを周りの仲間達に伝えてくれて、自然に他の人も俺の事を少しずつだけど分かってくれるようになった。

 ……流石に、キャプテン並みにとは行かないけれど。むしろこれでもみんなかなり凄い方だ。

 

 毎日はどんどん楽しくなっていって、前のような仏頂面が抜けて来ている内に、俺はふと思った。

 

 ──きっと、きっと俺の言葉を皆はちゃんと分かってくれる。

 なら、言わなきゃ駄目だろ。なぁ俺? って。

 

 だから俺は、みんなに……喋れるようになったら()()()伝えたいことが出来る度にこっそりとメモを取っておくことにした。

 今日はウリ坊が掃除を手伝ってくれたとか、アルゴに美味しい甘酒を貰ったとか。色々。

 

 ただのジェスチャーでも、文字でもない。ちゃんと俺の言葉で、言わなくちゃと思うことがいっぱい。

 俺の中に詰まって、頑張る原動力になっている。

 

 いつか、喋り方を思い出した時は……。

 まず最初は、部長の所に行く。行って、言う前に多分全部悟られちゃうけど……伝えたいことがあるんだ。

 

 誰にも見せないメモにすら書いていない、心の中の0ページ目。

 

 部長、俺を──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近やたら視線を感じるようになってきたが、辺りを見回しても誰もいない。せいぜい散歩中のおじいさんがプルプルと震えているか、近くの電柱にやたらカラスがとまっているぐらいだ。

 まさか、カラスが死にかけの俺の肉を貪ろうと集まってきたのだろうか。

 

 なんてな、流石にないよな。

 元々この地域にはカラス多かったし、気のせい気のせい。

 

 ……多分、死んでも包帯やら湿布だらけですっごい不味いと思うし。

 

「部長、部長ー!! しっかりと見てて下さいね!」

 

 あ、うんウリ坊。大丈夫、見てるよ。

 最近やたら意識が飛ぶようになってきてるけど、今は大丈夫。

 

 なんか、メアのエンゼル・ブラスター受けた後とか気が付くと数分経ってたりとかする。怖い。

 DFいなかったら多分これが永遠になる。なお怖い。

 

 幽体離脱とかしてるのかもしれない。幸いなことにまだ誰にも気づかれてないみたいだが。

 探りを入れてみたところ、なんか俺が意識失っている時もちゃんと返答とか練習もできているらしい。

 

 夢遊病かな。

 

「……行くぞ、ウリ坊!」

 

 相手はトール。まぁつまるところ、また()()だ。

 しいて言うなら、今度はトールが攻撃側だってことだ。彼の鍛え上げられた丸太の様に太い足から力強いドリブルが繰り出される。

 

「よーし──!」

 

 ウリ坊はトールが走り出したのを確認すると、ただでさえ低い体躯を屈め、同じく自分も走り出した。

 この時点で、ウリ坊の頭はボールと同じ高さにまで下がっている。

 

「まっすぐ、すばやく、豪快に……!」

 

 次第にウリ坊は加速していく。普段なら一歩で進む距離をワザと二歩、三歩……踏み込み蹴り出す回数を増やす。

 

 ──やがて、ウリ坊のその小さな体は……大猪の幻覚を見せるほどの突撃を成した。

 

「──猪突猛進!」

 

 横で見ている俺ですらそう思ったのだ。対面しているトールには、どれほど凶暴な猪に見えているのだろうか。

 

 これがウリ坊が作り出した必殺技。

 周りの事を考えず、ただまっすぐに力を込めた走りから暴れ猪を見せて相手を脅かし、ボールを奪う。

 相手が怯えずとも、イノシシは全てを轢き倒し走り去っていく。

 

 ……なんでバングといい相手を吹き飛ばす技を覚えるんだお前ら。

 よほど鬱憤が溜まってるのか。

 

 話が逸れた。ともかく、その勢いを正面から殺すことは不可能だという事は傍目でも分かった。

 

「──っ、負けっかぁ!!」

 

 ……それでも、トールは止まらなかった。

 むしろ、相手を弾き飛ばしてやると更にドリブルの勢いを強めた。

 みんながギョッとする。その姿は奇しくも、高天原の必殺シュートに対し頭突きで応えた俺と重なった。

 

 つまりは俺と同じ、無茶な行動だ。

 

「──ん?」

 

 いくらトールが力を強く振るおうとも、今のウリ坊を止められる訳が…そうと思いながら彼らがぶつかる瞬間、トールの動きに違和感を覚えた。

 けれどそれが何かは分からなくて……そのまま二人は激突する。

 

 結末は……想像したとおりになった。

 

「……やられたか」

 

「ふぅ……あっ、見ましたよね部長! これが僕の新必殺技です!!」

 

 トールは猪に吹き飛ばされ、ボールは笑顔のウリ坊が頭の上にのせていた。

 ウリ坊の努力が実ったことは喜ばしい。ついでに、この技は「シュート相手にも使える」という事実がめっちゃうれしい。

 これで敵の必殺シュートも怖くないぜ!! あ、嘘です……出来れば普通のサッカーでお願いしますほんと。

 

「……やったな、ウリ坊」

 

「~~っ、はい!」

 

 一先ず走り寄ってきたウリ坊におつかれの言葉を贈る。

 うれしさのあまりか、ハイタッチをしようとジャンプして俺の高さに合わせて叩いてきた。そこそこ痛い。

 強く叩きすぎだぞ。ようやく火傷も治って筋肉痛しか起きていない右手なんだからもっといたわってくれ。

 

 何度も跳ねてくるウリ坊は、地味にダメージを蓄積させてくる。

 やっぱり君俺に敵意ない? ないってわかってるけどさ。

 

「おぉ~すっごい、めちゃくちゃキバすっごい猪だったッスよウリ坊!」

 

「先こされちまったな! 俺ももう少しなんだが……」

 

「……!」

 

 そしてまた同じようにウリ坊を褒めたたえる皆。

 あとカガは俺も続くぞと言いたいならウリ坊の目の前に出ないと伝わらないと思うぞ。

 何はともあれ、みんなの声(一人だけ違うけど)を受けて増々ウリ坊の力強さは増していく。やめて……。

 

 ……まぁしょうがないか。これで三人目。

 メア、バングに続き三つ目の必殺技だ。オリンピックで言えば銅メダル。体長を気にしていたらしい彼が、自分の何倍もあるトールを吹き飛ばせた。

 その興奮は、計り知れないものがあるのだろう。

 

「……くそっ

 

 けれど、仰向けになっているトールを見ると……何とも言えない感情が込みあがってくる。

 トールは、明らかにスランプだ。ディフェンス能力は上がってるし、筋肉量だって日に日に増えている。

 

 それなのに、一向に必殺技にたどり着けない。

 今まで気にせずとも、喧嘩をしている内に強くなっていったといつの日か話していた彼にとって「伸び悩む」ことがどれだけ苦痛か。

 

 だから、トールは積極的に他の部員の必殺技を受けに行っている。

 みんなの技を受けて、少しでも感覚を掴みたいと俺に零していた。

 

 その努力もかなわず、今日DFの中でウリ坊に先を越された。同じDFのグラさんとカガもその片鱗を見せている。

 自分が一番、出遅れている。その思いが焦らせ、調子を崩す要因となっている。

 

 ……本当にそれだけなんだろうか? ふと思った。

 俺の碌に信用性のない見立てだけれど、トールは既に技を完成させていてもおかしくない水準にまで来ているはずだ。

 

 他に、なにかトールの足を引っ張っていることがあるんじゃないか……?

 それさえ見つければ、きっとトールも……。

 

「よーしウリ坊の頭もかなり撫で回されたし、そんじゃみんな練習再開だ! 部長、俺達FW三人のシュートを止められるかな!?」 

 

「……ジミーさん、僕はアルゴさんとドリブル練をしようとしていたのですが」

 

「まぁまぁ、アルゴくんはさっき甘酒を補充しに一旦学校に戻ったし」

 

 ……え、三人のシュートを今日は受け続けるの?

 ははは、ナイスジョーク。ジョーク……。

 

 トールの事も大切だけど、俺も必殺技をいい加減覚えないと死ぬことを、改めて思い知らされた。

 必殺技の覚え方の本とか、後でネットで売ってないか探すか……。

 

「いくよリーダー!

──光よ」

 

 了承を得ずに始めないでくださいお願いします!

 

 あっ、翼が二対になって……維持しきれず、一対に戻った?

 やった! まだ完成してないんだ。ははは、流石に才能マンでもそんなに早く完成は出来ないよな。

 

「……助けを求める人々へ」

 

 でも死ぬね。

 誰か助け──待てよ、助けを求める人々へなんだから助けてって言ったら逆に来るんじゃないか?

 

 なーんだ、じゃあ助けなんていらないって思えばいいんだな。

 簡単じゃないか。ははは、こんなことで技を防げるなんてちょろいちょ──、

 

「エンゼル・ブラスター!」

 

 あっ、しまっ──助けて!

 

 

「──待って! 必殺シュート相手でもすごいってことを部長に見せるんだ、邪魔させてもらうよメア!

──猪突猛進!!」

 

 調子に乗ったウリ坊がいきなり割り込んできた。

 助けが来た!?

 

「ぐっ……うわぁぁぁっ!」

 

 そしてウリ坊吹っ飛ばされた!?

 でもボールの勢いはノーマルシュート並みになっている。これなら片手でも余裕だ!

 

 

 助かった!

 

……まぁ、この後まだいっぱいシュートくるんですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……夜中。

 自分しかいない家で一人、眠たい瞼をこすりながらマウスを握る手を動かす。

 その視線の先には、例の出品者の新しい品物が……相変わらず激安だ。

 

・【訳アリ】兄が三年間書き記した必殺技ノート【サッカーやる人に】

 

「……この子、本当はお兄さん嫌いとかじゃないよな?」

 

 いくらなんでもノートは売らないでやれよ……買うけどさ。

 なんだかんだ言ってこの人の兄が使っていたもの、やたら高性能なんだよな。スパイクとか諸々。

 

 助かる。

 

 購入っと…………うわ、また直ぐにメッセージ送られてきた!

 怖い。いや同じ人から何度も買ってる俺みたいなやつも怖いだろうからおあいこだろうか?

 

 けどなんか、今日のは少し長いな。

 えーとなになに、「いつもありがとうございます! こんなに買っていただけるなんてきっと──ところで、是非とも使っているところが見たいので練習風景などを写真に撮って送っていただけませんか。

ちなみにどこに住んでらっしゃるんですか!?」

 ……ところでの使い方おかしくないですか。

 しかも住所特定しようとしてないこの人?! こわっ。

 

 

 

 助けて?




レギュレーション違反を確認
難易度上昇



-オリ技紹介
・猪突猛進
野生に生きる、野生中の人たちに似合いそうなブロック技
駆けこむ足を増やし、恐れを知らずただ相手のボールめがけてツッコむ。

 暴れ猪を幻影として纏い、全てを引き倒す。
ファール率高し。シュートブロックも可能。

けどエンゼル・ブラスターにはかなわなかったよ……

~選手紹介~

・カガ DF 5番
 いわゆる、無口な人。けれどいろんなものをよく見ており、相手の動きに耐えて、隙を見つけるまで食らいついて離さない。
 隙をつける俊敏さというものはグラさんなどに比べると低めなので、スタミナ切れ狙いが大きいか。
 
 あだ名の由来はカミツキガメ。本名は加賀。ゲームやアニメとかに加賀さんがいても特に関係はない。


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帝国がやって来ちまった日

 ようやくギャグ回
 
 また、現段階で名前が決まっている人は2人しかおりませんが、フォーメーション画像。こちらはアプリ「LINEUP」さんのを使用させていただいております。
 ユニフォームの色は襟以外こんな感じです。


【挿絵表示】


 また、実況にどうやって名前を呼ばせるか問題ですが部長視点の時は部長の耳に補正が掛かっているという体で、部長以外はあだ名を使わせていただきますご了承ください。
 オリキャラ多すぎて、漢字の名前とあだ名が混ざり合うとわけわかんなくなるんじゃ……

本来:『習合サッカー部キャプテン織部、ここは堅実な守りを見せました! そしてそのまま加賀にパス』
部長視点『習合サッカー部キャプテン織部、ここは堅実な守りを見せました! そしてそのままカガにパス』


※前話にて「メル●リって住所買った時点で伝わらない?」という指摘がありました。
 これも作者の知識不足であり、「らくらくメ●カリ便」なら匿名で出来るという事を知らず、メルカ●を使えば全部匿名で発想が出来ると思い込んでおりました。
 深く謝罪させていただきます。ので、部長くんはらくらくを使ったという認識でお願いします。



「……」

 

「……」

 

 装甲車を思わせるかのような見た目をしたバスは、ずっと走っていた。

 都を出て、関東を越え、中部を越え関西へと。

 

「……そろそろ、か」

 

「えぇ……」

 

 車内は、その外見に相応しく静まりかえっている。今回は色々と()()()()()()が存在していることが、俺を含め他の者への緊張感につながっていた。

 

 近い地域ならば、或いは力を見せつけ他の者を威圧する目的ならば、二軍三軍も随伴させ数台は走らせるだろうが、今回は遠方ということもあり一台のみ。

 また「弱小校」というレッテルは本来、彼らにとって驕りを見せる要因になるが、事前の説明により不気味さを出すものへと変質している。

 

 そして今回は我ら()()が直々に見られるという事で持ち込まれた中継カメラ。まだ電源はついていないが、つまりはそれが「総帥の目」であることは誰もが理解できる。

 腑抜けた、ましてや失敗など、到底できはしない。

 

「……鬼道、今回は」

 

「……そこは普段通り、最初は撃たせ、ある程度動きを見る。

──だが、源田。分かってるな?」

 

「あぁ、最初から全力でいく……!」

 

 短く区切られた会話の中で、お互いがすべきことを再度確認する。

 決して点を入れさせてはならない。源田から感じられた覚悟は、決して「出来てひと月も経っていないサッカー部」に対して向けられるものではない。

 けれど、それでいい。

 

「鬼道さん、()()()は……?」

 

 佐久間が聞いてきたことも、ぼかされてはいるが何を指しているかは考えなくても分かる。

 

「……完成度の事もあるが、あれは雷門のゴッドハンドを相手に考えられたものだ。迂闊に漏らすような真似は出来ない」

 

 だがもし、もし……そこまで考えて、思考を止める。

 流石にそこまではいかないだろうという少しの余裕と、仮にそうなってしまったらと言う恐怖が自分を止めた。

 

 

 

 ……丁度良く、バスが止まった。プシューっという音と共に、監獄の様にも感じられる車内に、新鮮な空気が入り込んでくる。

 バスに長い間揺られた旅の末、俺達は辿り着いたのだ。

 

 運転手と最低限としてついてきたお供の人間がレッドカーペットを引くのを合図に、みな席を立つ。

 そして歩き出ていく。

 

 ──太陽が隠され、黒く染まった雲で埋め尽くされた空にはカラスが舞っている。

 

 ここが習合中学。

 芝生もない、急ピッチで作られたのであろう土のグラウンド。その真ん中に、奴らがいる。

 全員が一年と聞いていたが、あまりそう思わせない立ち姿だ。

 

 しかしそれ以外、ある違和感が俺にはあった。

 

「随分と観客が多いっすね。高天原中学まで居ますよ鬼道さん」

 

「……妙だな」

 

 そうだ。誰かが言った通り、あまりに観戦する人員が多い。

 習合中学の生徒ならともかく、これは……恐らくだが、この地区のサッカー部。そして地元であろう人々。

 それどころか、他地区の中学と思わしき制服の生徒まで来ている。

 

 当然、こちら側はこの日を部外者に教えたりはしていない。

 つまり、

 

「……鬼道さん、どうやら相手側が大々的にこの練習試合をアピールしたようですね」

 

 ……何故だ?

 

 そう一瞬俺は首を傾げそうになる。

 わざわざサッカーの練習試合をそうまで多くの人に見せようとする意味はなんだ。

 

 まるでそれは……自分たちが勝利すると確信しているようにも思えた。

 

 力の差を理解していない、そう一笑に付すのは簡単だが……。

 

「──今日は、よろしく」

 

 そう考えている内に、俺達もフィールドへと。そして習合サッカー部の前にまでやってきていた。

 こちらが黙っている内に、相手側の……今回の任務における重要人物が挨拶をしてくる。

 

 第一印象として、雰囲気が奇妙な人物。そう思った。

 まるで、そのうちにいくつものナニカを抑え込んでいる様なチグハグさ。左手の黒い包帯も目を引いた。

 

 ゴーグル越しの自分に視線を合わせて来て、ゆっくりと右手を差し出してきたが……無視をする。

 仲良くする意思はない。そう伝える為に。

 

「……帝国学園2年、キャプテンの鬼道 有人(きどう ゆうと)だ」

 

「……習合中学1年、部長──織部 長久(おりべ ながひさ)

ウォームアップはどうする?」

 

 織部はそれだけ言うと、こちらの意思をくみ取ったといわんばかりに質問をしてきた。

 確かに、初めてのグラウンドではそれをすべきだが……。

 

「いや、いい。雲行きも怪しいからな……さっさと始めよう」

 

 雨が降って来ては困ると理由をつけ、断った。

 しかし本当の所は……こいつらに少しでも自分たちの動きを見せるのはまずい。

 

 

 ──俺の勘がそう囁いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近のバスってあんな頑丈そうになってるんだな……。

 何この人たち怖い……、写真や動画で見るよりもずっと迫力あるんですけど。本当に中学生かな。

 

 ドレッドヘアにゴーグル、マント。明らかに集団の中でも一人格好が浮いている男。

 キャプテンにして異名は「天才ゲームメーカー」、鬼道率いる帝国を前にしてそう思った。

 

 しかも隣に立ってる水色の髪の……確か佐久間だっけか。その子は眼帯してるし……他にもマフラーとかヘッドフォンしてるやつもいる。

 ありなのかヘッドフォン? 俺も耳怪我したら真似しようかな。 催眠音声とか流して痛み知らずとか……無理だな。

 

「……大丈夫かいリーダー? 作戦は聞いてはいるけど」

 

「大丈夫だってメアー。僕の必殺技もあるんだし!」

 

「過信は禁物だぜウリ坊……少なくとも、帝国は舐めていい相手じゃねぇ。例え練習試合だってな」

 

 俺の周りに立つのはおニューなユニフォームでばっちり決めた部員たち。

 ……こっちも大概か。俺は包帯してるし、グラさんはサングラスだし、メアはなんか最近チョーカーとか付けだしたし。おしゃれに目覚めたの?

 

「……」

 

「カガ、悪いがこの俺は感情の機微に疎いんだ。もう少しわかりやすくしてくれ」

 

「ふへへソニックってば言い方きつ~い。カガはぁ……ユニフォームが前後逆だって教えてくれてるんだよぉ~」

 

「──なっ!?」

 

 あっ、ソニックようやく気が付いたか。俺も言おうと思ってたけどすっごい今日キメてたから言いづらくて。

 カガナイスだ。そして君がこっそりと用意してくれた救護ボックスの中身大概俺が使うと思うけどごめんね。

 水分補給のポ●リ大量に用意したから許して。

 

「……クソッ、あと少しだってのに」

 

「だ、大丈夫ッスよトールさん! そうッスよねジミーさん!?」

 

「え、俺!? え、えーと……ファイト!」

 

 うーん、相変わらずトールは悩んでいる。

 俺も結局何が原因なのか分からずじまいだったし……一昨日なんて少し体に電気帯びてたし、本当にもう少しなんだけどな……。

 途中でどうも力が霧散しちゃってるんだけど、本人もなんでか分かってないし。

 

 だけど、お前の体使ったブロックは本当にありがたいから今日はファイトだトール。

 頼むから頑張ってくれ。じゃないと死ぬんだ、俺が。

 

 ……ン? ワタリはどこだ?

 着替えの時は一緒にいたのに……着替えと言えば、今回の報酬としてもらえるって言うけど、やっぱり部室欲しいよな。

 

 メアとかソニックなんて着替え見られたくないから水泳の巻き巻きタオル使ってるし。

 俺? ウチの学校は私服制だからその下に着て、練習の時は脱ぐだけで済むようにしてる。怪我の痕見られたくないんだよ。

 

 って思考がずれた。ワタリはどうした。

 

「──すいません部長さん……少し遅れました。呼ばれていて」

 

 あっ来た。最近呼ばれること多いね。俺なんて医者から相談受けた教師陣から一度呼び出し食らったことぐらいしかないのに。

 ワタリってかなり頭いいし、勉強の事かな。それとももしかして教師陣に部長はワタリだって誤解されてんのかな。

 

 哀しい。

 

「……部長さん。本当に勝てるとお思いですか?」

 

 一人悲哀に満ちていると、ワタリがこっそりと俺だけに聞こえるような声で問いかけてきた。

 ……やっぱりお前、かしこいよなぁ。普通出来てから一か月もしてない部活が勝てると思わないよな。

 

 けど場の流れを乱さずに、しっかりついてきてくれる。本当にジミーがいなけりゃ副部長任命してたよ。むしろ部長を譲りたいよ。

 ……でも練習量については何も言わないんだよね。

 

 なんで?? なんでそこはしっかり超次元なの?

 

 で、えーと、勝てるかどうかか。

 ワタリの雰囲気的に、励まして! って感じじゃないなこれ。

 現実を見て、俺に「部員の幻想打ち砕いといた方がいんじゃね」って感じに提案してるのか。

 

 

「……無理、だな」

 

 メイビーじゃない、確実に。

 なんならノーマルシュート五,六本でも死ぬ気がする。最近意識が飛ぶだけじゃなく変な声すら聞こえるようになった俺は、この試合で棺桶に入るのかもしれない。

 必殺技ノート届いて読んでみたけど、大体「こんな技出来たらいいなぁ」みたいな妄想ノートだったし……しかも原理殆ど考えてなかったし。返品したい。

 

「──俺だけ、なら」

 

 一個だけ、一個だけ出来そうなのあったけどさぁ……なんか血みたいな赤い字で書かれた奴。

 やたら怖かったし名前物騒だしリスク高いしのふざけた奴だったので没。結局俺はキャッチとパンチングしかできない。

 対する帝国学園は必殺技のオンパレード集団だ。うん、無理。

 

 けど、

 

「……皆の力があれば、やれる」

 

 無理だよってここで答える部長なんていない訳で、格好つけるしかなくて……ははは、こうして首は絞まっていくんだなぁ、おりべ。

 実際メアのシュートなら帝国のゴールキーパーにも通用しそうな気がする。メアを重点的にサポートして、ボールを徹底的に渡さないような塩試合狙いだ。

 

 クソだ? うるせぇ! 何が悲しくて帝国と試合なんてしなくちゃならないんだ、こちとら天国に召されるどころか地獄の底真っ盛りなんだよ!!

 しゃーないしゃーない。

 少しぐらい小汚く勝ち狙いに行ってもいいだろう!?

 

 あとちょっと部員に内緒で()()()()してるけど! まぁこれも問題ないだろ!

 バレても誤魔化せるしな!

 

「行くぞ、試合開始だ」

──オゥッ!

 

 ヤケだよこんちくしょう。

 

 ここで帝国と上手くやれば、相手した俺の株めっちゃ上がるよね!? ダークネス・部長の汚名も消えて「天才カリスマ部長」とか呼ばれるよね!?

 そしたらさ、可愛いマネージャーとか来ないかなぁ!!

 

 まぁ逆を言えば、ここで醜態晒したら一生笑いものなんだけど! 誰だよ試合の事ばらまいた奴!? 医者から「君本当にサッカーしてたんだね……」とか言われたぞ!?

 

 絶対に生き残ってやるからな!? 

 

 

 ……なんで練習試合の意気込みが生き残るなんだろうな俺。

 

 

 助けて。




 驚いたのは、あの後書きだけで何が違反なのか当てた人とか、妹ちゃんの行動理由とか完ぺきではないですけど当てたりする人と書いたってことですよね……ちなみに違反理由は「低次元サッカーを諦め超次元技に意識を傾けた」
 そのせいで更に彼の道のりはやばい事に……というネタでした。
 低次元のままだったら、ある時期で辞められたのに……

 アルゴ試作できましたので……イメージとしては淡い桃色とかやりたかった。
 これで陶器タイプの酒瓶に紐くくって持ち歩いている感じ。

【挿絵表示】




~オリキャラ紹介~
・織部 長久 GK 1番
 主役。思いっきり名前に部長を入れた。つまり部長になる運命を持った者。
 長久という名前は、両親から「末永く生きて欲しい」という願いの元付けられた。短命が許されなくなった瞬間である。

 助けて、と本人は心の中でよく言うけれど、纏う雰囲気と強キャラムーブのせいで1mmも伝わらない。


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父の過去を踏襲する日

 ようやく「なんでこの学校にサッカー部がなかったのか」がワタリ視点で書かれるという。
 遅すぎた墓穴。

 あとソニックは男です(無慈悲)
 アルゴも男です(無印良品)

 感想でメアの男女疑惑に勝手に掛けられた花京院とアブドゥルの魂。貰ってもどうしろってんだ……


 ──私立、習合中学校。

 

 出来てから十年も経っていない、歴史も浅い学校。

 名前の由来はそのまま、多種多様な教養を取り合わせること。と父さん普段から言っているが、本当の所は違う。

 

 烏合の衆。

 この地域に建てようと下見をして空を見た時、カラスがたまたま多く飛んでいたから。

 はっきり言って、ふざけた付け方だった。

 

 その事実を隠して、父さんは今日も理事長を続けている。

 ここが、()()()()()()()()だということもひた隠しにして。

 

 

 父さんは自分と同じ年の頃、テレビで華々しくプレイをする選手たちを見て、サッカーにあこがれを抱いたらしい。

 当時クラスメイトだった母さんをマネージャーに誘って、「彼」の様に部活を作って部員をかき集めて……そう、ただかき集めた。

 

 内面も何もかも気にせず、片っ端から声を掛けた。

 

 まさしく烏合の衆。父さんのチームは、お世辞にも強いチームとは言えなかった。練習もうまくいかず、試合の日に休むものまで出る始末。

 それでも、父さんは諦めなかった。

 必死に部員たちを煽てて、やる気にさせようとして、ずっと続けて、三年目。

 

 ついに、敵チームの不祥事によるおこぼれをもらったようなものだったが、父さんのチームは地区予選突破を成し遂げた。

 

 そして──叩き潰された。

 

 今も尚無敗を誇っている帝国学園と初戦でぶつかり、父さんを含め全員が入院を余儀なくされ、部は跡形もなく消えた。

 これが、父さんのサッカー人生が終わりを告げた日だ。

 

 それからは運動することすらやめて、ただ勉学にその身をささげた。

 大企業に就職して、母さんと結婚して、私が生まれて……傍目からは恵まれている生活を送っていた。

 

 だが父さんは、ただ諦めたわけではなく……サッカーへの執着を憎しみへと変えていた。

 

 私がふとしたことからサッカーをやろうとした時、泣きながら激昂されたことを、それを止めていた母さんも泣いていたことも、決して忘れた日はない。

 

 心労で倒れた後、仕事が忙しいと行って見舞いにもろくに来なくなった父さんに対し母さんはベッドの上で嘆いていた。

 彼の夢を叶えさせてやれなかったことが心残りだと、いつかきっとサッカーが大好きだった彼に戻ってくれると。

 

 寂しげに私を撫でる母さんを見て、どうして父さんを憐れに思ったのだろうか。

 

 やがて大病を患った母さんは、迷惑を掛けたくないと離婚届けを置き、姿を消した。

 

 ……父さんはそれを受けてひとしきり泣いた後、ぐしゃぐしゃになった顔のまま、学校を建てると言い出した。

 まだ幼かった私はその意味が分からなかったけれど、こうしてその学校に在籍する歳になった今ならわかる。

 

 わざとサッカー部を最初に作らず放っておき、やがて出てくるであろう「過去の自分」に現実を見せて、心を叩き折るつもりなのだ。

 

 それは、自分の様に中学の生活全てを注ぎ込むのを止めるためか?

 違う。

 

 万が一、自分と同じようなことをして、成功させてしまうものが出てしまうのを防ぐため。或いは、失敗する様を自分の目で見て、心の慰めにするため。

 自分は悪くない、そもそもが無理なことだったんだと、自分を納得させるためだけに作られた学校。

 

 わざとらしく周りの期待を集めさせ、そして惨憺たる有様を見せ……、

 決してサッカー部が二度と誕生しない学校を作るつもりなんだ。

 

 

 その犠牲者が今……僕たちの後ろで、ゴールを守っている。

 

 あなたのまともな顔を見られるのも今日で最後だろう。ふと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全力で心の中にて雨ごいしてたけど効果がなかった。もう二度と天気の神様とかは信じない。

 

 ついに始まってしまった。

 試合は、メアがタッチしたボールをジミーの軽快なドリブルで幕を開ける。

 

「よしっ、いくぜメアちゃん、ワタリ!」

 

「ちゃん付けはやめてくれないかな!?」

 

「……はい」

 

 うちの陣形はやや攻撃的な4-3-3、対して帝国は堅実な守りとも言える5-3-2。

 逆に言えば、あちらは前の層が薄いという事。

 

 そのまま、三人はV字の陣形を崩さず、敵陣地に切り込んでいく。三人とも重りを外しているおかげか、普段と比べとてつもないスピードだ。

 ……三人とも陸上に行けば記録残せるんじゃないかな。転向する?

 

『さぁキックオフ! まずは習合中学のFWが機敏な動きを見せつけ帝国学園を翻弄していくー!』

 

 実況さんも興奮気味に、メアたちの活躍を…………あの、さりげなく実況始めてますけどどなたですか?

 制服的に、うちの中学どころか近くの学校の子でもないよね? みんな普通に受け入れてますけど。

 

『紹介が遅れました。実況解説はたまたま将棋の試合で奈良にまで来ていた雷門中将棋部、角馬 圭太(かくま けいた)が務めさせていただきます!』

 

 あぁ、そうですか……雷門? 雷門中学……関東の学校だな。

 えっと、確かこの間帝国が練習試合をして「20対1」っていう有利な状況なのに棄権して、勝ちをもぎ取ったところだっけか。

 なんでも木戸川清修の元エースの「炎のストライカー」が雷門に転校してて……ってそこはどうでもいい。

 

『おおっとそんなことを言っている内に習合の副キャプテンジミー、帝国キーパーの目の前まで上がってきている!

これは帝国、早くもピンチかぁ~っ!?』

 

 しかし……奇妙な光景だ。帝国学園のFWはそんな状況下でもゆっくりと、ジミー達を観察しながらこちら側に殆ど歩くのと変わらない速度でやってきている。

 MFは一度、ジミー達に軽くブロックを仕掛けたがそれだけで、抜かれるとFWと同じようになってしまった。

 

 どう考えても、これは攻撃を誘っている。

 

 大方、弱小校の全力はどんなものか、こちらの動きを知るついでに試しているのだ。

 その余裕は、帝国学園のGKにあるのだろうという推測も出来る。

 

「いくぜ、帝国のキーパー!」

 

「……さぁ、どれほどのものか見せて見ろ……!」

 

 たった今、硬く握りこぶしを作りジミーに挑発を飛ばした男。

 奴こそが帝国の正GK。つまり超次元サッカーの頂点、数多くの必殺技を受け凌いできた者、源田 幸次郎(げんだ こうじろう)

 その異名は「K O G(キング・オブ・ゴールキーパー)」、キーパーの中のキーパー。決して伊達ではないことは、彼の経歴とその拳が証明している。

 

「おりゃぁ!」

 

 ジミーが高く足を振り上げるのとほぼ同時に、彼は右腕を構え跳びはねた。その高さは優にゴールを越えている。

 間違いない、必殺技の予備動作だ。

 

 やがて、重力に従い、隕石をも思わせるその風格を纏い落ちる体。

 構えていた拳を地上に向け、勢いよく叩きつけられた。

 

 その瞬間、彼の前には強靭な壁が、橙色のやや不透明なそれは、ゴールを守るため曲線状に展開された。

 

「──パワーシールド!

 

『止めたー! キーパー源田、ジミー選手のシュートを自慢のパワーシールドで弾き飛ばしましたぁ!』

 

 ジミーが放った渾身の一撃。もはやまともに受け止めただけで骨に深刻なダメージを与えるであろう凄まじき回転の掛かった一撃を、彼はいともたやすくはじき返した。

 

 ただのシュート相手でも技を使わないという選択肢を無くし、あえて全力で挑む。その姿勢はすばらしく、確かな帝国の守りというものを感じさせた。

 

 なるほど、散々動画や写真では見たが……これを突破するのは並大抵の選手では無理だろう。

 ましてや、必殺技を持たないものでは絶対に不可能だ。

 

 

 ──知ったことではない。

 大きく、息を吸う。

 

「メア!」

 

「──光よ」

 

 既に、作戦はほぼ完了している。

 帝国は初戦、データが少ない者を相手にするとき今回と同じような対応を取ることが多い。気が付いていた。

 その後は力の差を見せつけるように蹂躙し、自分たちが上に立つ者なのだと誇示する。酷く分かりやすい、帝国のサッカーだ。

 

 だからこそ、ある程度の油断を誘えるファーストボールこそが、俺達の得点チャンス。

 ジミーの一撃は重く、受け止めるのは至難のもの。相手が凄腕のキーパーだからこそ、触れる時間を最小限にして弾いてくると踏んでいた。

 

 弾き飛ばした空には、メアが既に待機している。

 

「……これは」

 

「我が身から……」

 

 全身からあふれ出す光を束ね翼と、ボールへと集めているメア。

 思わず歴戦のキーパーすら唸る神々しさ。一対の翼から零れ落ちた羽すらも目を逸らしたくなるほどの光量を放つ。

 

「助けを求める人々へ」

 

『す、凄まじい力の流れをフィールドの外にいても感じられます! これは一体!?』

 

 己が天使となり、全てを貫く光弾を地へと蹴り落とす。

 この距離ならば、この技ならば、叩き下ろした衝撃波による堅固な()()()()を作り出す「パワーシールド」を打ち破れる。

 

 眠たい頭を叩きながら導き出した唯一の、勝利への方程式だった。

 

「──エンゼル・ブラスター!!」 

 

 確信していた。

 

 

 

 

「──舐めるなと、言ったはずだ

 

 事実、相手が「普段の源田」であれば貫けていたはずだった。

 最悪の現実が、俺の前に現れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼道から言われていた通り、警戒を怠らずに正解だった。

 

 深呼吸を一つ。 

 気を充填させ、両腕を交差させる。

 

 ──弾ける、何が?

 

 この両手にたまった力が、火花となって弾けている。

 明らかな許容限界、普段であればこれほど力をためたりはしない。

 下手をすれば、両腕がお釈迦になってもおかしくはない。

 

 けれど、止めはしない。そのまま漏れ出している力を全て、右手に宿す。

 更に火花が酷くなる。

 

 これこそが俺の全力だと、天からの一撃に吠えた。

 

 膝に力を入れ高く、高く跳び上がる。

 ボールを蹴り落とし、上空で静観の姿勢になっていた相手と目が合った。

 

「……なっ!?」

 

「認めてやる、お前のシュートは凄まじいものだった」

 

 だが、今回は俺の勝ちだ。

 そう言い切って、地上に向かって墜ちる。いや、進む!

 

 

 爆発寸前になっている右拳を、地上へと突き立て叫んだ。

 

 

「──フルパワーシールド!!」

 

 広がる衝撃波は先ほどの比ではない。

 既に全国が相手でも不足などしないパワーシールドを超えるフルパワー。

 その一撃を俺は放つ。決して一点もやらぬために。

 

 シュートはしばし俺のフルパワーシールドと競った後、大きく、習合のFW達を越え大きく飛ばされていく。

 一先ず、仕事は終えた。後は頼んだぞ鬼道、そう思い痛みを発する腕をさする。

 

 ──帝国の守護神であらねばならない。

 その責務が、俺を強くする。

 

 お前はどうなんだと、俺と真逆の位置に立つ"奴"の姿を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エンゼル・ブラスターが弾かれた? 冗談でしょ!?

 ふざけんなよ! なんで弱小相手に新技とか出してきてくれてるんですかあのGK!! ファンサービスがすごいな!?

 

『なんと、本当にこれは練習試合なのか!? 序盤からFF決勝と見間違う様な攻防が起きました!!

メアのエンゼル・ブラスターも素晴らしかったのですが、それさえ弾き飛ばして見せる源田の新技、フルパワーシールド!

そしてボールはそのままセンターラインを越え帝国FW、9番寺門(ジモン)へ!』

 

 ああぁぁぁぁ! ボーっとしてる場合じゃねぇ、敵ゴールから弾き飛ばしてこっち陣地まで一直線とかまじでチート技だなおい!

 しかも寺門!? 帝国のエースストライカーじゃねぇかふざけんなよ!

 まずい、「アレ」を打たれたら確実に終わる。絶対にそれだけは阻止しないと!

 

「グラさん」

 

「任せなボス!」

 

 その一声だけで察してくれたグラさん、周りのDFに指示を飛ばし寺門に近寄ろうとする他選手を止める。

 相手のちっちゃい子にはウリ坊が、佐久間にはトールが、口元を布で隠している子にはカガが、鬼道にはグラさん自身がついた。

 

 よし、これで「アレ」の発動は無理だ!

 

「……ちっ、こっちの情報は流石に知られてっか」

 

 ……ん? グラさん、DF全員使っちゃってるからキーパー補佐する人いなくない?

 確かに「アレ」の発動は阻止しようとは言ったけど、それでがら空きになったら意味なくない?

 

「けどよ、俺を一人にして大丈夫かよ習合のキーパーさん?」

 

 その通りだよ!

 この人確か単体で必殺シュート持ってるからね!? エースストライカーだからやばいんだぞ脚力!?

 

「……」

 

「けっ、ダンマリか!」

 

 混乱して声すら出ねーんだよ!!

 どうする、弾く? 無理だろ!?

 

 あの技はこの間の奴と違っていろんな方向から力が加わってるから弾きにく──やめて! ボールと一緒に跳び上がらないで! 必殺技の体勢ストップ!

 

 よせ、作戦決まってどや顔してたらそのままカウンター決められるとか格好悪すぎるわ!!

 

 そのままボールに対して蹴りを、一、二三,四五六──……どんどんと加えていく。

 その度にボールは赤いオーラを纏い、濃くなっていき……

 

「──百烈ショット!」

 

 真っ赤に染まった凶弾が、俺へと迫って来ていた。

 ははは、せいぜい二十発くらいしか蹴ってないように見えたのに百烈とは笑止。

 

『一瞬のスキを突かれた形になった習合キャプテン! これは防げるか!?』

 

 ……現実から逃げても何も変わらないので、右拳に力を込める。

 それだけではない。足腰の体重移動を意識し、ブレるボールの中心を意識する。

 

 振りかぶり、全力の右ストレートを叩き込んだ。

 足が地面に食い込む感覚がする。小細工が生きている証拠。

 

……そんなに、言うほどの威力はなかったな。メアのとかと比較してだけど。

 しばしの時間の後、手からボールが離れる。止めた、止められた。

 

『お~っと!? 習合キーパー織部、必殺技をただのパンチングで弾いて見せました!! そしてボールは転がり……』

 

 でも……すっげぇ痛い! 右手がシューッと摩擦熱で白煙あげてる。

 まだ開始五分経ってないのにこれ……?

 あれ、そういえばボールはどこに……あ、寺門の方に転がっちゃってる。やばい。

 

『なんとキーパー、これはミスか? 弾いたボールはそのまま寺門の足元へ!』

 

「……挑発のつもりか、上等だ! そっちの手がイカれるまで叩き込んでやる!」

 

 やめて!?

 二十烈ショットとか馬鹿にしてごめんなさい、もう一発でだいぶいかれ始めてるからぁ!?

 

 

 

 助けて。




2 0 × 5 烈 ショット

 やめて(城之内コピペ以下省略)


・以下、書くこともないのでなんか予告っぽく

 僕たちの全力が聞かない帝国学園を相手に、メンバーはじわじわと追い詰められていく。
 そして部長さんは重点的に……この試合、もう結果は見えているはずなのに……

 次回習合イレブン「イナズマチャレンジャー」


 嘘です


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腕など不要な日

 誰か「ハーレムのおこぼれ狙いのはずが俺が狙われてる件について」みたいなの書いて
 あとイナイレの二次創作もっと増えて、ギャグ強めな奴

 今回は少し説明が多い回。サッカー小説なのになぜ試合中の描写が一番面倒なのだろうか。


 二十、四十、七十、百。

 ──でも本当は四本、果たして何の数でしょうか。

 

 答え、寺門が今までボールに蹴り込んだ数であり、必殺技としての単位数。

 四百烈ショットの内訳である。

 

 そして、俺の右腕が限界に至るまでにかかった数だ。

 

 ……嘘です、本当は二発目から限界でした。

 四発目受けた時なんて一瞬気を失っておりました。最近三途の川をよく見るようになった。

 俺仏教とか信じてないんだけどな……。

 

 このまま死んでも渡し舟用の六文銭とかないから泳ぐ羽目になるんだろうか。

 

『し、信じられないことが起きております! 帝国のエースストライカー寺門の百烈ショットが片手で止められたのは今ので四度目……!

全く無名校であるはずの習合キャプテン、織部の不敵な笑みを崩すことは出来ないというのかーっ!?』

 

 実況がすっごいはやし立ててくる。

 お願い、最初に思い込んだモノが真実と思いたくなるのはわかるけれど、もう少しだけ視線を下ろして。俺の右手もうプラプラしてるから。脱力してる? 違うよ力が入らないんだよ。

 グローブ外したら多分もう真っ赤に腫れてるから。

 

 不敵な笑み? 痛すぎて笑うしかねぇんだよ! あるだろ、ランナーズハイ的な。脳内麻薬が出過ぎて止まらないんだよ!! でも痛いってことはこれかなり重症な気がしてならない。

 

 もうちゃんと跳ね返すことすらなくて左の方へ転がってったよボール。

 

「……!」

 

「なっ!? 待てこのヤロウ!」

 

 それにいち早く気が付いたカガが素早く寄ってそのままクリア。

 流石だカガ、ありがとうカガ。

 

 ……おかげで五発目はないな、ないよね!? しったことかまだ前半始まったばかりじゃい!

 

「んな、バカな……!?」

 

 なんかすっごいショック受けてる風だけどさバカな、じゃないんだよ。

 お願いだよ寺門さん、コースを狙ってくれよ。そりゃ最初考えた通りだけどさ、なんでみんな真正面狙ってくるんだよ! もうムキになってるよね!?

 

 今の俺スピード半減ってレベルじゃないんだぜ!?

 正直途中で角っちょとか撃ってたらバスバス決まってたからね?!

 

 あ、後君途中から技進化させたよね?

 三回目の時「あれ、なんか20回以上蹴り始めたな」って気が付いちゃったとき顔青ざめたんだぞ。

 

 特に名称変えてなかったけど、百烈ショット改かな名前は。そもそも進化時の名前の付け方って法則性あるようなないような。

 ……違う、そんなことは関係ない。

 

 とにかく今はボールを味方が保持して何とか耐えてもらわないと。

 

「ハハハ! これがトップに立つ者達だと? 遅い、遅すぎるぞ!!」

 

『おっとここで習合7番ソニック、脅威のスピードでボールを拾いこのまま反撃と出るか! しかし帝国のDFは固いぞー!?』 

 

 おぉすごい。帝国の人たちより速いとか流石だなソニック。部に誘った時はもう走れないとか言ってたけどなんか吹っ切れたみたいでよかったよかった。

 

 ……えーと指示飛ばした方がいいよな。DFはグラさんが逐一飛ばしてくれてるけど、こっちの意向も伝えないとな。

 とにかく状況把握しないと、痛みに耐えるのに必死で全然見てなかったよ。

 

 ……あ、メアが三人マーク付かれてる。かなり危険視された結果か、こりゃ動けないな。ジミーは一人。ワタリがフリーだけど今のワタリじゃ突破は難しいか?

 

 帝国の残ってるDFの一人は……こいつもゴーグル? 自軍キャプテンの真似なのか? 関係ない?

 流石にトールには負けるがガタイも大きいし強そうだな。……名前なんだっけ、オオノ……まぁいいか!

 

 そして相手キーパーの源田さんはいまだ健在。腕さすってたしフルパワーシールドを連発させれば或いは……って思うが、肝心のソレ引き出せるメアが張り付かれてるんじゃあなぁ。

 

「……」

 

 うわ、今気が付いちゃったけど鬼道さんめっちゃこっち睨んでる!? ゴーグル越しだけど。

 何その雰囲気、絶対「何で四発も撃たせたんだろ」って考えてる?

 そりゃ仮に俺がめっちゃ格上の人だったとしても二発くらいで十分だよね。せめて技が進化した三回目で「進化させてもこれか……」みたいなこと言いながら終えるもんね。

 

「……?」

 

 あ、多分「俺達がわざと撃たせたことへの意趣返しか……? それとも寺門に数を撃たせることで何かメリットが……?」とか変な方向に思考行ってるな。帰ってきてくれ天才ゲームメーカー。

 

 なんかうまい具合に三回もパンチングしたボールが寺門くんに転がってっただけなんだよ。

 嘘じゃないよ。

 

「はぁっ!」

 

「……ぬるいな」

 

『ソニック、パスを諦めそのままの勢いに乗ってシュート! しかしキーパー源田に生半可な一撃は通用せず難なくキャッチ!』

 

 やべ、源田さんにとられた。

 ソニックの脚力は凄いんだけど、キック練習あんまりしてないしな……。けどコース狙おうとしたのは偉い。

 源田さんは容易にコース読んで取ったけど。

 

 さて、また寺門さんに蹴られたら死ぬからグラさんにマーク対象変えてもらわないと。

 

 小さい子についているウリ坊を外して……佐久間についてるトールを寺門さんにずらして、ウリ坊は必殺技生かすためにゴール前で待機だな。

 これで小さい子、佐久間の二人がフリーになるわけだ。

 

 ウリ坊がついていた帝国のちびっこ……ドウメン? とかそんな感じの名前だったはずの子。

 彼は確か必殺シュートは持ってたけど……MFということもあり、寺門さんに比べたら大丈夫なはず。キック力もそこまで無い筈。

 うん、これで彼が裏のエースストライカーとかだったら泣くけど。

 

 佐久間は確か"アレ"の参加メンバーによくいるけど、"アレ"は三人技。そんでその技の指示だしを鬼道さんが担当してるみたいだし、佐久間単体なら問題はない筈。

 ……単体の必殺シュートもってないよね、ないよね!?

 

 

 さてどうやって伝えよう。

 

「……グラさん」

 

 というかうちのDFの皆と……なんなら他の帝国の人たちも、マークしてるのは分かるけど途中で間に入って来ても大丈夫だったんだよ……?

 なんで「よくわかんないけど部長が楽しんでそうだしいっか」みたいな目をしてたのグラさん……? サングラスで目が見えないけど。

 

「ウリ坊とトールを──」

 

「ん……分かったぜボス!」

 

 やめろ!? 言い切る前に分かったふりすんな!

 絶対分かってないだろ、いい加減こっちも学んだんだからな!!

 

「いや──」

 

「大丈夫だってボス。ウリ坊をゴールに、トールを9番(寺門)に、だろ?」

 

 ……え、マジでわかってくれたの。

 すごい、読心術とか持ってたんですか? はい、それで大丈夫です。

 

 ……おおう、ウリ坊たちもすぐに察知して動きを変えている。すごいなDFの連携。なに、皆テレパシーとか持ってる?

 俺にもつなげてよ……もしかしてブロックされてる?

 

 ──ん、トールちょっと不満そう?

 性格的にマークとかより派手なシュートブロックとかのが合ってるだろうからかな。ごめんな。

 

『おっとここで習合は何人かのマークを変える模様。ボールは依然として帝国が……おっとここでフリーになったFW、佐久間へと渡った! 』 

 

 よし、ここまでは思い通り。

 ウリ坊も待機できたしトールも寺門に張り付けている。……やっぱりみんな足速いね?

 

「頼むぞウリ坊」

 

「任せて部長!」

 

 まあいい。

 よし、何とか防ぐぞ。流石に佐久間が寺門よりキック力高いとかとんでもはないだろうし頑張ればいいな。

 ウリ坊が。

 

 

 ……あれ、鬼道さんについていたグラさんは何処だ?

 

 

 あれ、なんでグラさんあがってるんですか?

 えっと、なんでこっち見て親指たててるんですか?

 

 え、メアのマークはがすために自分も上がる? 頑張れボス? サングラスの照り返しで伝えてこないでよ……曇りだからろくに光らんし。

 

 あの、帝国の攻撃側の五人のうち二人しかついてなかったら三人分……あの、一人でもはがされたら"アレ"発動するんですけど?

 グラさんが上がったことで鬼道さんフリーで……。

 

 あっ、もう来る? 腕使えないんですけど助け──

 

 え、ちょっとなにしてんの佐久間さん?

 必殺技出してきそうな雰囲気醸してるけどまさか"アレ"を無理やりやる気? え、鬼道さん上がって来てる。

 ちびっこは……来てない。あれ?

 

 そのままボールを鬼道さんに渡して……あれ、二人しか来てない?

 三人+指示役の鬼道さんいないと無理だよね?

 え、どうするの? 

 

『おっとここで鬼道、佐久間、見たことのないフォーメーションでゴールに迫る!

これは新必殺技かぁ!?』

 

 あ、やばい。なんか新技とか出してくるみたい。すっごいオーラ纏ってるもん確実だよ。

 嘘だろ。どんだけ試合の中で成長見せつけてくるんだよ。主人公かな君たち。

 

「──行くぞ習合!」

 

 こないで、帰ってくれ天才ゲームメーカー!

 

 

 助けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国にとっての勝利とは、美しいものだ。

 勝負は始まる前から決められているものであり、その路線に乗って走り続けられるものが素晴らしいもの。途中で壊れ脱線するのは不良、欠陥、凡な品。

 

 それが今はどうだ?

 

 相手の身体能力ははっきり言ってこちらとほぼ同質、下手をすれば何人かは超えている者もいる。

 必殺技、或いはサッカーの技術、勝負に対する経験。これらは自分たちが"少し"上回っている。だからこそ、試合の流れ自体は掴めている。

 

 おかしい、まるでFFの決勝戦……或いはそれよりも重い圧が自分の心をすりつぶそうとしているのを確かに感じ取っていた。

 

「……くそっ」 

 

 帝国の参謀として鬼道に次いでフィールドの状況を把握し、作戦を提示する立場にある佐久間 次郎(オレ)は考えなくてはならない。気づかなくてはならない。

 チラリとベンチに目をやれば、何も言えるはずのないカメラが一脚。けれどその先にいる人物は間違いなく、今の自分たちに失望している。

 

 聞かなくても分かる。ありえないから。

 

 帝国の守護神の源田が最初から腕を賭けなければ決められていた?

 帝国のエースの寺門の必殺シュートが四発も止められた?

 

 始めて一月も経たない連中のマークが外せない?

 全力で動かなくては試合の手綱を握れない?

 

 ありえない、帝国としてこんな試合はあり得ない!

 

「──行くぞ習合!」

 

 だからこそ、自分もあり得ないことをしなければならない。鬼道の声に奮起させられる。

 

 走る、走る。全ては泥臭い勝利の為に。

 走り、勢いをつけて跳ぶ。高く、黒き曇天へ、鬼道の真上へ。

 

 構想こそあれど「自分たちには不要」と考えていた、少人数──たった二人でも使える必殺技の為に。

 

 鬼道が走りながらボールに回転をかけるよう足で円を描き、空中にいる自分に向かい飛ばす。

 

 それを、渾身の力を込めて頭で叩き落とす。

 弱小相手なら、この動作だけで十分だろう。けど足りない、だからこそまだまだ終わってなどいない。

 

ツイン──」

 

 ──更にまたその先に、走り続けていた鬼道がいる!

 彼は降り落ちてきたボールを右足で捉え、放つ。百烈ショットよりも更に赤く、燃えるような一撃に進化させた。

 

「──ブースト!!」

 

 さぁどうだ習合キーパー織部長久!?

 お前がどんな訓練をしてきたかは知らない、だがいい加減右手以外……必殺技でも使わなければ止められないぞ! そう叫んでいた。

 

 

「──僕がいるの、忘れてるよね? ちょっと怒ったかも!」

 

 うちの洞面といい勝負をするほどのチビが、ボールの前に立っていなければ。

 

『おーっと! 帝国の新技に対しウリ坊が向かい立った!』

 

 スパイクを履いた足で土を蹴り、砂ぼこりが軽く舞う。

 前へ進む、地面を蹴る数とは合わない距離。普通の人間なら一歩で済む距離をその何倍も蹴って加速する。

 

 砂煙が目に入り、思わず瞬きを一つ。

 

 ──いつのまにやら、一頭の猪がそこにはいた。

 毛は荒々しく逆立ち牙をむき出しにし、全てを吹き飛ばそうとする獣がいた。

 衝突する。

 

「──猪突猛進!」

 

 轟音。金属にでも打ち付けたかと思い違うほどのそれ。

 ツインブーストを相手に一歩も引いていない。

 

 むしろ、押している──っ!?

 

「──ぐぅっ……そりゃっ!」

 

 首を曲げる動作だったのだろうか、猪はそのままボールを打ち上げ……勢いが殆ど殺されたボールはキーパーの足元に転がった。

 

『──ウリ坊、凄まじいブロックで帝国のツインブーストを防ぎましたー! すかさず織部に駆け寄りハイタッチ! 喜びを分かち合っております!』

 

 負けた、負けた? 誰が、俺達が?

 鬼道と二人で作ったこの技が素人に?

 

 ……どうすればいい。

 

「……鬼道さん」

 

 堪らず、縋るように鬼道を見た。

 少しばかり呆気に取られていた鬼道は、俺の視線を受けてか知らずか直ぐに自分を取り戻した。

 

「──あの選手も中学に入るまでは運動のうの字もなかったはずだ。

やはり、習合は短時間で凄まじい成長を遂げている……だからこそ、やらなければならない」

 

 そう毅然と言い切る鬼道を見ていると、燃え尽きようとしていた心が再燃していくのが分かる。

 その姿は帝国のキャプテンとしてふさわしくて……だからこそ、俺も帝国の参謀としてやらなければいけない事を再認できる。

 

「……分かっているな、佐久間?」

 

 俺から不穏な気配が消えたのを感じ取ったのか、鬼道が薄い笑みを浮かべ問いかけてきた。

 

 

「──習合を潰す、そして──()()()()()で織部の息の根を止める。だな?」

 

 正誤の判定はいらなかった。




部長が助かるとかこれは過去改変されましたね……((

あと二,三回分帝国戦あるとか何故だろうか


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降ってきた日

その……RPG買ったんです。
さぼってたわけじゃなくて、世界を救おうと……((


今回視点変更が多いため、やや読みづらさを感じるかもしれません。誠に申し訳ない。
そして路線変更した場所でもあるので……。


「ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァァァァア!」

 

 今にも降り出しそうな雨雲の下で、カラスが鳴いた。

 ……いや本当にカラスか? 人間の叫びっぽい気もするけど……まさかこんな声を出す人間がこの場にいるわけもないか。

 うん、声の方を見てもハイタッチをしてるウリ坊さんと部長さんしかいない。

 

 聞いたことのない声だったので、思わず意識がズレる。

 ……いや、元からズレてはいた。

 

 試合は、誰の予想も超えて順調な膠着状態。矛盾するような状態が続いていた。

 部長さんたちが敵のシュートを止め、僕たちに渡してくれて、決められず今度は帝国キーパー源田が止めて、味方のFWに渡す。

 

 如何に帝国が強力な必殺シュートを放とうとも、決してゴールネットが揺れることはない。

 帝国エースが放つ百烈ショット、司令塔と参謀がこの場で新たにお披露目したツインブースト。

 

 どちらも通用せず、部長とウリ坊によって止められた。その事実が、チーム内の活力になっている。

 僕たちは勝てるんだって、みんな夢を見ている、見続けることができる。

 だから、

 

『ここでボールは習合バングに、しかし後ろから鬼道が迫る!』

 

 ──見られている。どこから、恐らくはカーテンで覆われた理事長室の窓から。

 誰に……違う、今は無視だ。

 

「バングさん、後ろです!」

 

 ……チーム内で意識がズレているのは、僕とトールぐらいなものだ。

 勿論、トールは必殺技に固執しこの試合に焦りを覚えているってだけで、勝負をあきらめたりなんて決してない。

 

「おぉっと? ふふふ、ここはウリ坊に続いて俺の必殺技を見せつけちゃいまスか!」

 

 比べるのもなんだけど、頭に巻いている赤い方のバンダナを取って構えたバングなんて、不安の意識はどこにもない。

 必殺技を身につけたことからくる高揚感と、自分たちの動きが通用していること、部長さんが絶好調なのがきっと嬉しいんだろう。

 

「こうして大きくして、巻いて……回して──ドライブアウト!」

 

「──ぐっ!? こいつも必殺技を……!」

 

『ななな、なんと8番バング、小さな竜巻かと見間違うほどの回転で鬼道を吹き飛ばしました! それでもなお回転は収まらず……まさかこのままゴール前まで向かう気なのかっー!?』

 

 観客席からまた驚きの声があがる。大半は学校近くに住んでる一般の人とかだけど、中には地区予選で戦うはずだった他校のサッカー部も混ざっていた。

 他には……お医者さん? ややこの場に似つかわしくない人も見かける。

 

「……?」

 

 何故だろうか、観客席の方に伸びた視線が一度、僕の意思に反して止まった。

 誰か、知り合いに似た人でもいたのだろうか。

 

「ワタリさーん!あとお願いしまッス!」

 

 バングさんが回る勢いのまま出した短いパスボールが、僕の視線を呼び戻す。

 いけない、よそ見をしている場合ではなかった。勝てないとわかっていても手を抜くのは違う。

 落ち着いてトラップし、敵ゴールを見やる。

 

 その時、少し胸が痛んだのはボールの勢いを殺しきれなかったからか、はたまた罪悪感からか──。

 

「──ッ、くっ」

 

 また見られている。……父さんだろう。

 無視しろ、放っておけ。気にしたところで何も変わらない。父さんが望んでいる絶望はゆっくりと迫って来ている。

 だから、わざわざ今見なくてもいいだろう。試合終了のホイッスルでも目覚ましにして寝ていて欲しい。

 

『ボールは習合10番! ワタリがキープ。

このまま攻撃と行きたいところだが……他FWは帝国DFに囲まれていてやや厳しいか? 源田、全く気を緩めずボールを見つめている!』

 

 攻撃側の希望だったメアさんの一撃は源田さんには通用しなかった。ジミーさんのシュートも当然。

 きっとあのキーパーは僕のシュート力を知らないから警戒している。意味がないのに。

 

 十番を、エースと呼ばれる番号を背中につけている僕が、FWの中では一番劣っている。

 だから、無理にでもメアたちに渡した方がいい。けど渡せない、このままだとまたボールが取られる。

 僕にはシュートもドリブルもない。せいぜい相手の裏をかくような狡い真似ぐらいだ。

 

 それも源田さんには通用しない。ゴールを幅広くカバーできるパワーシールドの裏をつけるとは到底思えない。

 

「……なら、ワタリくん!」

 

「なっ、待て!」

 

 そんな僕の弱気を読み取ったのか、メアはいきなり姿勢を低くしてフィールドをさがり始めた。

 初動が遅れた帝国DFは少し距離を取られる。しかし、仮に下がった位置でボールを貰えても、ゴールに近づこうとすればまた囲まれるだけだ。

 この無駄な動きに果たして何の意味があるのだろうか。

 

 でも手を抜くのは……なんで?

 ──なんで手を抜くのはいけないことなんだろうか。

 

 違う、それは人として、せめて──見られ、違う。──手を抜いても、違う!

 集中しなくちゃ──

 

「──上だワタリっ!」

 

 グラさんの声が聞こえた。

 

 気が付けば、メアにもジミーにもついていなかった帝国DFの一人が僕に寄って来ていた。

 僕が視線を向けようと首を回せば、その巨体からは想像も出来ないほどの跳躍をして……落石かと見間違うほどの勢いで迫って来ていた。

 

「……あっ」

 

 けれど、どうしてだろうか?

 僕はそんなことより──一粒、たった一粒降ってきた雨粒と、そこに反射し映り飛んでいた一羽の烏に目を奪われた。

 

 濁った雲の海を気にせず、溶け込みながらも強く飛ぶ。

 

 ……やっぱり、カラスは好きだなって、そう思って。

 

 

 ただ運命を受け入れ、吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──アースクエイク!」

 

 あの鬼道もどきのようにゴーグルをつけているDFの名前は大野伝助だったか。

 そうだ。その巨体から来る重さを武器に、地面に叩きつけ衝撃で相手を吹き飛ばす必殺技はアースクエイクだ。

 部長が作戦会議の時にそう言っていたのをよく覚えている。

 

 ……そんなことはどうでもよかった。

 

 重要なのは、ワタリが大きく飛ばされ、体を強く打ち付けた事。

 直ぐに起き上がれないほどのダメージを負っていた事。

 

 そして……決して被害はワタリだけではすまなかったことだ。

 

 試合は、そこから加速的に、進んだ。

 いつのまにか雨は降り出し、地面はぬかるみ始めている。

 

 雨は、今にもイライラで爆発しそうな俺の頭を少しだが冷やしてくれた。

 だから、まだ俺は自分を見失わずにいられる。

 

『帝国、ここにきてやや荒々しいプレイが目立つようになってまいりました。はたして習合イレブンは持ちこたえられるのか……』

 

 実況の声のトーンが下がっているのが分かる。

 観客席からどよめきの声が上がっているのが分かる。

 

 帝国は、ここに来てただのサッカーをする訳でもなく、ひたすらに俺達の体力を削る作戦に出た。

 

 ボールをパスするときは、フィールドから出てしまうほどに勢いを強くした。習合の誰かに当てるために。

 審判の死角に来れば、ボールをわざと敵に渡して胸でトラップさせ、ボールごと蹴りを叩き込んだ。

 

 そうして、

 

 ボールを取ろうとしたジミーもワタリと同じように飛ばされた。

 

 ドリブルでまた切り込もうとしたソニックはDFに挟まれ、ボールごと足を蹴られ倒れた。

 

 グラさんは、カガは、ウリ坊は……どんどんと、"仲間"が傷つけられていった。

 

 チームのみんなは強い、それこそ……並の奴ならもう立ってられないようなダメージを受けながらも、少しした後になんとか立ち上がってプレイを続けていく。

 だからまだ試合になっている。

 一人につき一人とつけていたマークを変えて、一人につき複数人で必ず当たる様に指示が飛び、少しでもラフプレーに対抗できるようにと陣形が変わっていく。

 

 でもそうするとフリーな奴が出て来て、増々帝国が試合の流れを握る。

 そうして、シュートを撃たれる回数が増えていく。

 

 あいつらは、コースも狙わずにわざと部長の顔を狙う。手が使えないように鋭く素早いシュートに切り替えた。

 部長はそれらに対して頭突きで対抗しているが……次第に動きが鈍くなっていっている気がした。

 

 ……本人は何も言わないが。

 

『激しいシュートをまたもやはじき返した織部! 転がったボールは……バングが拾った! このまま繋げられるか!』

 

「バング、ボールをあまり長く持つんじゃねぇ、狙われるぞ!」

 

「俺は必殺技もってますから、皆の分まで頑張りますッス!」

 

 俺の言葉に、バングは必死になって答えた。

 思わず固まる。

 

「──ドライブアウト!」

 

『再びバングの必殺技が炸裂、帝国DF陣これは近寄れない!』

 

 バングは、人一倍体力のあるバングはここに来て明らかに無理をし始めていた。

 誰よりも長く走り、誰よりもボールを長く持とうとする。いくら体力が多いからって、連発するのは無理があろう必殺技を続けて出す。

 

 ──羨ましかった。

 ガタイがでかくて、力もある俺が……そうすべきはずなのに、出来ない自分が嫌だった。

 

「けっ、近寄らなくてもやりようはあんだよ……──サイクロン!」

 

 おかっぱ頭の奴が回り続けているバングに向かい()()()()()()()()()()()()

 

 ただ、ただそれだけでバングを囲い閉じ込めるように風が巻き起こる。

 名前の通り、竜巻を操る技。

 

「くっ……うわ──」

 

 バングの回転と順風だった風は、回転の速度を更に速めさせた。そうして、バランスを失ったコマは傾き、飛ばされる。

 

 飛ばされ──落ちた。

 俺の目の前に。手を伸ばしたのに。

 

「──!」

 

 背中から落ちて、空気が肺から逃げ出して、苦しんだ顔を直に見た。

 練習中の顔と重なった。なんで、こいつらがこんな目に遭わなくちゃならない。

 せめて、俺がもう少し強ければ。

 

 俺は、どこまで弱いんだ。

 

「────!!」

 

 声にならない怒りが、俺を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国は、こちらを完全に潰しに来ていた。

 だから皆こんな目に合っている。少し遠くでシュートのチャンスが来たら無視し、近くのDFに近寄り取り合いを起こす。そうしてまた誰かを傷つける。

 

 ……ウリ坊が膝をついた。

 カガも息を切らしている。

 グラさんはサングラスにひびが入ったようで、上手く動けていない。

 

「ジャッジ──」

 

 トールは怒りに飲まれ、ボールを持っている相手に突進しようとしていた。

 ……一瞬焦ったけど、大丈夫。暴力を振るおうとしているわけではない。ただ、突っ込んでいっただけ。

 

「スルー!!」

 

 けどこの場は、暴力を振るってでもボールを奪い取ろうとする強さが合っていたのかもしれない。

 胸にボールを勢いよく蹴り押し付けられて、トールだけがこちらに転がってきた。

 

「だいじょうぶか──」

 

 そこまで言って、言葉が止まる。

 ゴールライン手前まで転がり、泥だらけになっていたトールは……泣いていた。

 

 …………悔しいよな、そりゃ。

 

 仲間が必殺技で耐えるのを眺めることしかできなくて、その後怒って全力でぶつかろうとしたのにそれが敵の必殺技に負けて、自分は少しも耐えられずにここまでやられた。

 悔しいに決まってる。

 

「……わりぃ部長、俺……役立た──」

 

「まだ、立てるな?」

 

 絞り出したように震えている小さな声を遮る。

 ごめんな。本当だったら、役立たずじゃないとかお前のいいところ十個いうとか、肩叩いて励ましたりとか……いろいろしたいよ。

 ここで慰めの言葉を言ったら、お前が壊れちゃう気がして……少し強く言った。

 

 

「──デスゾーン、開始」

 

 ()()がそう呟いて、ボールを高く上げた。

 それを合図に佐久間、寺門、洞面が動き出す。

 

『こ、この動きは……帝国学園が誇る必殺技、デスゾーンだぁー!!

キーパー織部、これに対しどうする!?』

 

 ……まあ、慰めてるような時間なんて、はなからあっちはくれないか。

 そうか、DF陣片付けたから心置きなく発動できますってことか。

 

 ということは、今からは俺を潰す時間って事か。そうかそうか。

 ならしゃーないな。一発くらったら多分もうダウンするだろうから、そこで試合終了。右腕もウリ坊にとどめ刺されて動かんし。

 0-1でうちの負けだ。仮に、奇跡的にゴールはいんなくてもこのままじゃうちが点を取ることなんてできないし。

 

 観衆とかはがっかりするだろうけど、こんなのが相手なんだから慰めてくれるよな。

 結構みんな頑張ったし。

 しゃーないしゃーない。

 

 視界がスローになる。最近はちょっと強いシュートを受ける時はいつもこうだ。多分体が限界過ぎて毎度臨死体験的なことが起きてるんだろう。

 頭の中で「力が欲しいか……」的な声とかするし。力より休日が欲しいっていったら「そっか……」とか同情の声になるんだぜ、笑ってくれ。

 

 ……宙にあるボールを中心として、平面的な三角形の点となり回る帝国の三人。

 それだけではなく、自分たち自身も回り……やがて三人の回るスピードは同一のものとなっていく。

 

 その奇妙な動きが、紫色の力を生み出し、ボールに纏わりたまっていく様子がよく分かる。

 もう少しでこちらに向かって打ち出されるのだろう。俺を殺すための一撃だ。

 

 

 ……観客も本当にいろんな人いるなぁ。思わず視線がずれるほどバリエーション豊かだよ。現実逃避したいとかじゃなくて。

 メンバーの親御さんかなって思う人もいる……今は顔が青褪めて天に祈る様に手を握ってるけど。あぁ、あれは……ワタリのお父さんかな? ワタリによく似てる。……どこかで見たことあるけど。学校の中とかだったかな。PTAの人とか?

 

 ん、別の所にもワタリとよく似た人が……あっ、あそこにはメアによく似た人もいるな。お姉さんかな。

 グラさんの家族と思わしき集団もいるな……ヤクザかと思ったわ最初。

 

 他にも何人か……みんな、自分の子供の雄姿を見に来てるんだよな。

 それが、試合続行不可能による棄権負けなんて結末になったら……悲しむかな。

 

 俺の両親だったらどう思うかな……シュート受ける前から諦めて、棄権の事なんて考えてる俺を見てどう思うかな。

 多分、怒ったりもせず……誤魔化しの褒め言葉とかもなしに、ただ頭をなでてくれるのかな。

 

「…………」 

 

 ……あ、観客の中にお医者さんいる。いつもお世話になっています。

 休みの日かな。すっごいラフな格好してますね。初めて見ましたよすっごいリアルな骨格標本みたいなシャツ着てる人。

 白衣の下で透けてるからレントゲン的な思惑あるんですかね。

 

 まぁ多分、この後お世話になると思うので……。

 

 

 

 

 

「──まだ、試合は終わってないぞトール」

 

 ──ちょっとだけ、もうちょっとだけ頑張っても罰は当たらんだろ。

 自分を奮い立たせるために、トールに呼び掛ける。

 

 視界のスピードが、ゆっくりと流れていた景色が元に戻る。

 丁度、デスゾーンが完成しようとしていた時だった。

 

「……部長」

 

「サッカー、するぞ」

 

 今この瞬間だけは、超次元なサッカーをしてやる。

 落ち着いて、自分の武器を確かめる。

 

 頭、何度もボールを受け止めたせいかくらくらする。けど骨とかに異常はない。石頭なのかもしれない。

 右腕、骨に異常はない感じだが筋肉とかがイカレてる。あと多分手の甲がボロボロ。

 左腕、金属入ってる。直りかけの腕。包帯だらけだから少し防御力ありそう。……包帯で防御力加算する人あんまりいないだろうな。

 足腰、()()()使ってるせいで何気に疲労困憊。だが怪我はない。

 

 必殺技……というかなんというか。多分使えるけど、これ使ったら本当にあとが……まぁいいか!

 部員がこんなに頑張ってるしぃ!? 腕の一本ぐらい賭けに使わないと部長っぽくないよなぁ!?

 

 使うのは……なんか曰くつきっぽい事にされている左腕ぇ!! 右腕折れたらご飯作れないからね、しゃーないね!

 

──そうだ長久よ、今こそ我と一つになり力を解放──

 

 うるせぇ勝手に住み着いた脳内のお前! なんか相棒面っぽい声で出てきたけど邪魔なんだよ!

 ちょうど最近読んだ本の最後にあった血文字と間違う様な赤色で書かれた禁断っぽい技に精神と手の骨を犠牲にするっぽいのあったからお前を犠牲にしてくれるわ!!

 

──えっ

 

デス──」

 

 今更謝ったって遅いからな。愚痴とか結構聞いてもらってやや友情が芽生え始めてたけど家賃代わりにお前犠牲にするわ。

 本気だよ。お前覚悟しろよお前。多分限界になった俺から生み出されたもう一人の僕とかそんなんだろ。

 お別れしなきゃねしっかりと。

 

「──ゾーン!!」

 

「……サクリファイス──」

 

──ま、待て話し合おうか長久。我がいなくなったら……晩御飯の時とか寂しいだろう?

 

 ちょっと考えて自分がいなくなった時のデメリットそれしか出てこないのかよ。

 ほら使うぞ、もう佐久間達がボールを蹴り出したぞ遺言考えとけ。

 あ、南無三は俺のだからパクるなよ。

 

 

 

──助けて!

 

 パクるな。

 

 




生 贄 の 手(サクリファイス・ハンド)


・難易度上昇要素
1.部長が必殺技を覚える(2ランクアップ)
2.ある者から合計3点以上呪いのアイテムをお買い上げする(1ランクアップ)


ギャグに振りたくてつい……。


~オリキャラ紹介~
・謎の声さん
 部長の相棒面をして、今回文面に出てこれるほど力を取り戻していたが犠牲になったのだ。
 犠牲の犠牲にな……。


~オリジナル技紹介~
・サクリファイス・ハンド
 見た目は普通に片手でキャッチしているようにしか見えない。
 あるノートの最後のページに描かれていたもの。
 手の骨が折れる衝撃でボールの威力を殺す自爆技。


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風評被害な日

 この話が終わればあと一話で帝国戦が終わる……
あ、鬼滅の短編投稿も始めたのでもしよければそちらも読んでいただけると幸いです。
 あと部長の必殺技が日本車の安全構造みたいだと指摘されてしばらく笑いました。

 今回は短めです。次回は来週までに出来たらいいなって……


あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!

 

 またカラスが鳴いた。

 彼が守っていたゴールポストに止まり、目を離さずに彼を見守っていた。その仕草は、まるでゴールの近くにいても危なくないと分かっていたようで……この場で一番に結果を予期できたのがカラスだったのかと思えた。

 

『──ここでホイッスル、前半終了ぉ!

得点はお互いの守りの固さが発揮され0-0! 帝国のデスゾーンを止めて見せた織部のキャッチは誰もが驚いたことでしょう!』

 

 その声は私の頭を通り過ぎて、通り過ぎたはずなのに残音が引っ掛かって何度も何度も反響した。

 止めた、何を、父が全く敵わなかったデスゾーンを?

 

 冗談でしょう、思わず言葉尻が弱く零れ落ちた。

 

『──はい、わかりました。

ただいま入りました情報によりますと雨脚がやや強くなってきたため試合を一時中止。経過を見て再開するか決めるとのことです。観客席並びに選手の方々はお体を冷やさぬよう──』

 

 実況の子がそう伝えてくれて、初めて私は雨が強くなっていたことに気が付いた。

 痛む体を冷やしてくれているのだろうかと、空を見上げるそぶりをした。

 

 その少し後、呆気に取られていた他の仲間たちが気が付いて部長に走り寄った。

 みんな、帝国との戦いで疲れダメージを負っていたというのに……すっかり元気いっぱいみたいだ。

 

 ……まぁ、私も気が付けば一緒になって走っていたのですけれど。

 

「ふっ、流石は我らが部長か。あれほどのシュートを左手だけで止めると──」

 

「──やっぱりリーダーの左手には古代の聖戦にて封印されていたサタンが封じられていたんだね!!??

ふふ、確かに僕は感じたよ一瞬増幅した闇の力と、それを制御しきって見せた君の笑顔を……!

見たところ左手を使う=それ自体が必殺技という印象なんだけれど、もしかしてまだ先があるのかな、次はもう少し力を解放して悪魔の羽とかはやしてみたりとか……ところでサクリファイス・ハンドって言ってたけど一体何を代償に──」

 

「メアちゃんめっちゃはしゃいでますね。ソニックさんもそんな別の生き物見るような目をしちゃ駄目ッスよ」

 

「だからメアちゃんはやめてくれないか!? あとソニックくんはどういうつもりなんだい?!」

 

 特にメアさんがはしゃいでいる。目をキラキラとさせて、部長さんが手に包帯を巻いてきた時よりもうれしそうだ。

 これは多分明日にはもっとひどい事になった噂が拡散されそうだ。いや確かに部長さんはすごいけれど、流石に悪魔とかは存在するはずもないし。

 

「……!」

 

「ボス、カガが何か伝えたいみたいだぜ……俺はサングラスの替え取ってくるぜ」

 

「僕もぉ~甘酒切れちゃってもうヘトヘトー」

 

 腕をワタワタと動かし必死で何かを伝えようとしているカガなんて初めて見た。よほど何か言いたいことがあるのだろうか。それを彼に押し付けてグラさんとアルゴはベンチの方へと向かう。

 

 相変わらずの様に見えるが、それでもやはりその顔は希望の色に満ち溢れていて……。

 僕が予想していた絶望の顔なんて、誰一人としてしていなかった。

 

「……、……!」

 

「……早く手当をしよう? そうだな……みんなベンチに行くぞ」

 

「あーそういう意味だったか? わるいなカガ読み取ってやれなくて」

 

「……」

 

「……気にしていない、それよりサングラスの破片とかは目に入っていないか。だそうだ」

 

 彼も相変わらず、少しの動作だけでカガさんが言いたいことをすべて理解していた。なんでわかるのだろうか。

 ……そうか、後半戦が始まるかもわからないけど……とにかく休憩しないとか。

 

「ふー流石にトップは中々きついもんがあんな。ワタリもお疲れさま。怪我とかしてないか?」

 

「え、えぇ……なんとか」

 

 ジミーさんと当たり障りのない会話をする。

 本当は少しだけ吹き飛ばされた時首筋の辺りを擦りむいていたけど。もう血は止まっていたしいいかと思って流した。

 

 少しして……ウリ坊さんとバングさんが少し歩くのが遅い事に気が付いた。

 この二人は積極的に必殺技を使い踏ん張っていたからこそ、疲労も大きいのだろう。

 

 それでも「帝国に潰しかけられた者達」というフィルターを通してみれば元気そうだけど……。

 カガもそれに気が付いたようで、こちらに歩み寄ろうとして……それを止めた。

 

「──よっせいと」

 

「わわっ、トール!?」

 

「トールさんいきなり何を?!」

 

 何も言わずにいきなりトールさんが二人を両脇に抱き上げたからだ。体格の違いも相まって、休日に悪ガキと遊んでいる大人みたいだなと思った。

 

「なにって……疲れてるやつ運んでやろうとしてるだけだよ。

……ま、俺は力があるからな」

 

「おー? トール、久しぶりにいい笑顔してるじゃん! どしたの、部長になんか言われたとか?」

 

 なにかを掴んだのだろうか。少なくとも先ほどまでは誰よりも……絶望が近づいている顔をしていたというのに。

 ウリ坊は運ばれることをさっさと受け入れ、ニヤつきながら尋ねた。

 

「──まだサッカー、やりたいからな」

 

 そう言って有無を言わさず二人をベンチまで運んでいくトールさんの顔は、天候とは真逆と言っていいほどに、本当に晴れやかなものだった。

 やがて、みんなベンチに歩いていき……気が付くと僕と部長さんだけ、ゴール前に残りました。

 

「……行かないんですか、部長さん?」

 

「……まだ、行けない」

 

 そう言って左手をさする部長さんを見て、思わず笑みがこぼれました。

 ……きっと、僕が何か言いたことがあるのを察してくれたのでしょう。

 僕も覚悟を決めて、全てを話そう。

 

 何故か、そう思えたんです。

 

 

「──部長さん、実は……言わなきゃならないことがあるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──この我を生贄にするなどとふざけた真似をしてくれおって……いいかよく聞け長久、我は不滅の存在だ。例え今力を失おうと、お前の心の中の闇が消えぬ限り必ずや──

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!

 なんだこれ?! この間の骨折よりずっと痛い……! 必殺技としてわざと折れやすいように手の構えを作ってたからか……! 痛みと小細工のせいで全く動けねぇ……。

 マジでふざけんな、絶対お兄さんがサッカーできなくなったのこれのせいだろ……どういう発想したら体を壊すことでボールの衝撃を殺すとかいう技作り出すんだよホントに!

 

──……聞けよ

 

 ……あ、なんとなくだけど頭に居座られてた様な感覚が弱まった。そうか、やはりこの技を使うと人格分裂でも起こしてない限り精神がぶっ壊れるのか……多分もう一人の俺には肉体的痛みだけじゃなく精神の痛みとかも向かったのだろうか。南無南無。

 ありがとう、お前の力は確かに借りたよ……。あ、下手したらまたこの技使う羽目になるかもしれんからよろしく頼む。

 

──もうやだこの肉体……

 

「──と、言う訳で……今回の試合ははっきりいって私たちを潰す目的で組まされたに違いないんです。今まで黙っていて本当に申し訳ありませんでした……」

 

 さて、もう一人の俺ともお別れしたことだし現実に集中しなきゃだな。

 大丈夫、全部聞いてたから。ワタリが理事長の息子さんで、理事長は昔に俺みたいに部活作って帝国学園にやられて、サッカー部がない学校わざと作って自分と同じような運命を辿る奴を作りたかったと。

 

 ……えぇーマジか。ワタリいつも申し訳なさそうにしてたけど、これが原因か。そりゃ親が部活潰そうとしてるなんて話したくないもんな。お疲れ様、よく話してくれたな。

 まぁ話されてもやることかわらんけど。

 

「……問題ない。誰だって隠し事はある」

 

 今から理事長糾弾しても状況何も変わらんからな……むしろ息子からバレたとか家庭環境が更に不味くなりそうだし……とはいえ、観客席にいるあの男の人だよなワタリお父さん。

 すっごい心配そうにワタリを見てるけど、本当にワタリが言っていることが全部正しいのかな。というか、失踪したお母さんってもしかしてあの離れたところにいる……やめておこう、憶測で話してはいけない。

 

 あ、お医者さんがこっち睨んでる。多分俺の様子を何のフィルターもなしに理解してくれる人だ。ほんとすいません……。

 

 とにかく、隠し事なんて皆してるものだからさーと返してベンチに……あ、やばい。

 "アレ"がずり落ちかけている。デスゾーン食らった衝撃で紐が切れたか!?

 

「それは……部長さんもですか?」

 

「……ま、まぁそうだな」

 

 不味い不味い不味い、今落ちたら後半がやば……駄目だ体を捻って耐えようとしても上手く力が入んない。

 あっ、ちょっとずつズレ落ちてる! あと少しでユニからはみ出そう。

 

「……そういえば、今日の部長さんは少し太って見える様な……」

 

──ベチャ

 

 あ、落ちた。ぬかるんでいた地面に叩きつけられて、大きな音を立てた。

 

 薄く小分けにして体中に巻き付けていた計四十キロの重りが。

 帝国は潰す気で来るならコースとか狙わないから、耐えられるようにと巻き付けていたそれが。

 

「……え」

 

 ワタリの目が点になっている。まぁそりゃそうだよな。

 どうしよ。

 

『──あ、あれはまさか……なんとキーパー織部! 重りをつけたまま試合をしていたようです!!』

 

 やめろ実況! 拡散するな! 周りの奴らがとうとう俺を人と思えないような目で見てくるようになってしまったじゃないか!!

 あ、鬼道さん達も信じられないものを見たような目でこっち見てる。違うんです! ほら、みんな直線的にしか狙ってこなかったから重りなんてデメリットになってなかったんです!

 足腰疲れたけど! ほとんど俺二人分の体重で戦ってたんです、枷じゃなくてブースターだったんです!

 

『……え、はい? ええとたった今匿名の情報が寄せられました。織部長久選手の左腕には闇の力が封じられており、それを制御するため普段から彼は重りをつけている……?

ダークネスの名を冠していて──』

 

 おい誰だその情報差し入れた奴!? ダークネスの名前だけは絶対拡散させたくなかったのに!

 嘘情報を拡散するなよって……メアじゃねぇか!! あいつ何ベンチ通り過ぎて実況席に走り抜けてんだ!

 くそ、止めに行きたいのにまだ左手の痛みが引かないから動けねぇ!

 

『先ほどのサクリファイス・ハンドは悪魔の力を引き出すことの代償に精神を乗っ取られかねない必殺技で……?』

『しかしそれを彼は自分の中の悪魔を確かに鎮め、ボールの威力を犠牲に見立てて発動しているんだと思うよ』

『……だそうです!』

 

 やめろ、誰かアイツを止めろ! こっちは骨と知らないもう一人の俺犠牲にしてんだよ! 名前の通り捧げてんだよ!

 匿名とか言ってたくせに途中からマイク奪って話し出すな、お前今日どうした!?

 

「……ふふ」

 

 あ、ワタリ今笑いやがったな!?

 絶対許さん……あ、いやメアのほうに笑ったんじゃないの? じゃあなんだ、重りの方か?

 

「あぁ……いえ、みなさん……自由だなぁって」

 

 そういうことか。親のしがらみとか色々縛られてたワタリからしたらメアの最近のはっちゃけ具合は羨ましいのかな。

 励ました方がいいんじゃない?って三人目の俺が頭の中でささやいている。いやだよ、どっちかって言うと俺の方が励まされたいよ。

 というかお前は誰だよ。二人目の俺はちゃんと「苦痛と怨嗟が集まりし」とかなんか自己紹介してたぞ。無視したけど。

 

「その……サッカー、一緒にやりましょう、キャプテン!」

 

 どうしたいきなり。後さっきから背後でカラスが睨んできてるんだけどワタリのペットか何か?

 多分死にかけにみえて狙われてる気がするんだけど。

 

いやそんなことはどうでもいい、早くメアを止めないと、

 

 

『学校の皆には親しみを込められてダークネス部長などと呼ばれているそうです!』

 

 ……あ、

 あ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁ……終わった。

 

 

 助けて。

 

 




ギ ャ グ 回

前半戦終了したからね、しょうがないね……
謎の声さんが大人気で笑いました。あんな唐突に出たのに……((



・小細工の正体
「あれ、みんな正面突破狙ってくるなら自分の体重増やせば対抗しやすくなるんじゃ」という深夜テンションの元に考えられた作戦。
 体中に重りを巻き付けていた。
 予想されててどうしようか三分ほど悩んだ

~オリキャラ紹介~
・もう一人の俺(自称 苦痛と怨嗟が集まりしもの)
 せっかく新しい肉体に来れたのに大外れを引いた。
 助けて(ノルマ二重達成)


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ペンギンが空を飛ぶ日

 シリアス回
そして感想返しについてなのですが……
感想は私の血となり肉となるので隙間時間を狙ってゆっくりと返していきたいです。

 それはそうと夢見りあむと砂塚あきら欲しさにデレステ始めちゃいそう


 雨雨ふれふれかあさんが~、じゃのめでお迎え嬉しいな……。

 ──雨もっと降らないかなぁ、いっそこのまま試合延期とかになってくれないかなぁ。

 

『──え~報告します。雨脚が弱まってきたため、グラウンドの整備をした後に試合が再開されることとなりました』

 

 ど畜生!! 弱まってんじゃねぇぞ雨ぇ! さっきこっそり天気予報見たけどこのまま大雨警報の流れだっただろうが! 朝の俺の全力の雨ごいも無視しやがって!

 「降れーっ!!」って祈ってたら第二の俺に「流石にテルテル坊主を逆さにしただけでは降らないだろう貴様」とか笑われたんだぞ!

 

 あれか、この会場に晴れ男さんでもいらっしゃるのか!?

 だとしたらお帰り頂こう、5nチョコあげるから帰って! チョコバットマンの方がいいかな、それともガムボールか!?

 ちなみに俺はうまかった棒のコンポタが好きだからそれはあげない。

 

「──とりあえず、出来る限りの処置はしたよ。デスゾーン……だったっけ? あんなシュートを止めて、左手の骨以外左腕に異常が見られないのは本当に……不思議としか言いようがない」

 

「……ありがとうございます」

  

 右手は潰れた豆を覆うための絆創膏だらけ、右腕は湿布だらけなのを包帯で隠している。

 左手はこっそりと包帯の下に足された添え木。左腕の中にはいまだ固定用の金属が入っている。

 さてこんなボロボロの奴の名前はなーんだ?

 

 正解は……ダークネス部長!

 

 ……いや本当にありがとうございますお医者様。非番の日なのに態々見てもらって、しかもこうして物陰に隠れてやって欲しいという要望にもこたえていただけて。

 しかし準備いいですね、おかげで後半戦も動けそうです。

 

「……これでもまだ試合に出る気か。

……どうしても、怪我をしていることは部員の子たちに知られたくないのかい?」

 

 ……いや、まぁ……帝国のデスゾーン受けて体ボロボロになりましたって言えればよかったんですけど……思いのほかサクリファイス・ハンドさんがデスゾーン相手に対して勝ってしまったというか。

 あの周りの反応的に「え、あんな余裕気に止めてたのに骨折したんですか!?」みたいに怪しまれそうだし……骨折してるのバレたら試合に出してもらえないだろうし、そんなことなったら自動的に負けになっちゃうし……。

 

 流石にこんなこと言えないけど。

 

「……こうして隠していても、既に学校の方は怪我をしてしまったことは知っているはずなんだけれど」

 

 確かに、それは気になっていた。教師陣も「いじめとか受けてない?」って聞いてきたんだけど……ああそれと、怪我したことは知ってても骨折したとは知らなかったな。

 あっ、骨折したことはまだ伏せてくれていたんですか? 助かりましたホント。手の火傷と筋挫傷だけ伝えたと。おかしいなすっごい重症っぽいぞ。

 

 ……まぁそうなんですよね。すっごい不思議で……特に、俺達を潰したがっているというワタリ談の理事長とかがそれを広めないのはおかしいはずなんですけど。

 あれかな、怪我してるはずなのに練習しまくってたから、教師の人たちはもう治ったと思ってるのかな。

 

 ……やっぱり変だよなぁ。後で理事長に聞ければいいんだけど。

 

「……医者は人を健康に、健やかにすることが仕事だ」

 

 あ、めっちゃ悩んでる。まあそりゃ自分よりも二回り以上も年が違う子供がボロボロになるのにサッカー止めないとかそりゃ止めたいよね。本当に申し訳が立たない。

 

「……今ここでサッカーを止めたら、後悔する」

 

 主に精神的な意味でな! ダークネス部長、実は怪我してたので退場! とかダサすぎるし部員たちからの落胆の視線を想像してしまう……いやアイツらいい子だからアルゴ以外は心配してくれるだろうけど。

 

 アルゴは完全に甘酒のつまみに参加した人だし……なんか俺の苦労が最高の肴とか言ってたし、がっかりするだろうなぁ。

 

「君だってわかっているはずだ。今の今まで、取り返しのつかない怪我をしてこなかったのは本当に運が良かったということを。

……この試合で君の選手生命が絶たれるかもしれない」

 

 ……い、いやでも! ほら、後半戦からは多分帝国の動きに慣れたうちの超次元な部員たちが更に活躍してくれて多分シュートの危機も減りますし、デスゾーンが効かないと誤解してくれているならあっちもそんなポンポンデスゾーン撃たないで何か対策……そう、コース狙って俺が取れない! みたいなことしてくれるかも。

 

「いや、例えこの試合を乗り越えることが出来たとしても、FF優勝を目標に掲げる限り苦難は免れない……分かっているのかい?

怪我どころの話じゃない……この目で見てはっきりとわかったよ。あんな無茶を続けていたら……

 

──君は、君はサッカーで死んでしまうかもしれないんだよ?」

 

 その……。

 

 あの…………。

 

「…………絶対、生き残ってやります」

 

 ……もう、後戻りできる状況でも、性格でもないんです。

 お願いします。

 そりゃ、最初の目的は女の子にモテる事だったから、だいぶ話がずれちゃったけど……みんなFF優勝目指して頑張ってるんです。

 

 ……優勝したら、ダークネスとか異名があっても、モテると……思う、多分。うん。

 いやモテないかもしれないけど、ここでサッカー止めたら「ほらあの人、腕故障して辞めたダークネスさんよ」って事になるのが目に見えてる。それだけはやだ。

 

 だから、最初は勘違いで始まった目標を自分のものにする。自分を引っ張り上げてくれる鎖が多ければ多いほど、俺は二の足を踏まないで済む。

 

「……FF、優勝して、カップをこの手で持ち上げます」

 

 そう強く言い切って、建物の影から出ようとする。

 雨は放送の通り、弱まっている。

 

 

 

「……君は、嘘をつかないと信じている」

 

 ──その言葉を受けて、俺を探している皆の元へ走り出した。

 

 ……すっごいヒロインっぽいムーブしてくれるなこのお医者さん。

 これで二十代前半の女性とかだったら告白してたかもしれん。危ない危ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続く雨の中、仮設テントに叩きつけられる水の粒が時間の進みを教えてくれる。

 その中で鬼道を中心に囲み、立っていた俺達は──帝国サッカー部は……窮地に立たされていた。

 

「……くそっ、重りだと……ふざけやがって!? 俺達との試合じゃ本気を出す価値もないというのか!! どうすればアイツを崩すことができるんだ!?」

 

「落ち着けって佐久間」

 

「しかしなぁ……どうするんだこれは」

 

 その原因はゲームスコア。

 

 0-0というまるで試合が始まってもいないような何も刻まれていないそれが、自分たちは何もできていないという事実を突きつけている。

 少し視線をずらせば、反対側のベンチでは元気そうに軽い怪我に対して手当を施したりして騒いでいる。後半戦が始まっても、まったく問題はなさそうだ。

 

 ……自分たちはどうだ?

 少なくとも、万全ではない。習合のマークを振りほどき離し、ダメージを与えるために無理に動いてきたツケが出始めている。

 

 GKとしてそれがなかったはずの俺自身も、フルパワーシールドを使ったことによる腕のしびれがまだ残っているのを感じる。パワーシールドならともかく、フルパワーシールドは使えて後一回が限度……。

 

 無理に使えば……恐らく、俺の腕が壊れるかもしれん。

 ──例えそうなってしまっても、このゴールは守り通す。そう硬く心に誓う。

  

「……寺門、足の調子はどうだ?」

 

「へっ、問題ないぜ鬼道さん……いっ!」

 

「無茶をするな……デスゾーンは、撃ててもあと二回と言ったところか」

 

 そう弱く返す……FW、寺門……「織部に遊ばれ」必殺技を休まず連続で放ったことにより、両足が震え始めている。

 無理もない、百烈ショットは目にもとまらぬ速さで数十回もボールを両足で蹴り出す技だ。

 

 更に途中からは技のキレが上がったことで負担も大きく……いや、今にして思えばそれも奴の術中だったのだろう。

 

「……こうなったら」

 

 進化させたところで脅威にならないのであれば、ワザと進化させて疲弊させる。そうすれば寺門が参加するデスゾーンも……いや、待て?

 織部は、デスゾーンをサクリファイス・ハンド……ただ左手を使うだけ、俺の様に衝撃を伝え壁を作り出したりなどといった派手なことをせず……ただボールの威力を殺してキャッチして見せた。

 

 そんな男が態々疲労など狙う理由があったのだろうか。正直言って、奴に何度デスゾーンを撃ち込めたとしても、全てが止められてしまうように思えてしまう。

 では……狙いは、デスゾーンでは無い? あるいは、こうして俺達を追い込んで……何かを引きずり出す事こそが──、

 

「──皆、一人でのシュートは狙わなくていい。デスゾーンを止めたというのに……碌に消耗もしていない男だ。それこそ、練習にすらならないだろう」

 

 鬼道が攻撃陣に説く。きっとそれは正しい、奴は重りがありながらも寺門のシュートを四度も弾き返している。並のシュートでは経験値にすらならない。悔しいが……。

 後半戦では動きも素早くなり、いくらコースを狙おうとも意味すらないだろう。

 

 ではどうする、答えは決まっている……。

 

「……あのシュートを──」

 

『──そうだ、鬼道。()()()()()()を使え

 

 それは、用意されていた中継カメラの脇に置かれた、スピーカーから流れていた。

 

 重く、冷たい言葉。この場の誰のものではない、けれどこの場の誰よりも力を持つ男の声。姿は見えなくとも、確かにその存在の感情の動きを感じる。

 ──影山総帥、我らのトップであり、帝国学園の輝かしき歴史を作ってきた男。

 

 そんな御方が、()()()()()()

 

 たったそれだけで、俺達の身は竦んだ。もはやここは窮地どころか、今にも崩れそうな崖の上。

 仮に失敗すれば……声の主は容赦なく俺達を切り捨てるだろう。そうすれば、俺達はどうなる? 今の今まで、血のにじむような特訓で他者を蹴落とし、頂点に君臨していたというのに、そこに投げ捨てられればどうなる。

 

 不安、不安で仕方がない。

 より強力なシュートを、皇帝ペンギンを使うしかない。

 動揺が広がっていた帝国の考えは固まる。これしかないはずだと、他の考えを弱いと切り捨てる。

 

『……鬼道、わかっているな……? 以前の20対1(雷門との試合)からの棄権負けとは訳が違う。帝国が0-0で引き分けなどあってはならない……』

 

 しかし、どこか迷っている俺がいたのも事実だ。

 これこそが──皇帝ペンギン2号を出させることこそが、あの男の狙いなんじゃないか、そう言いだせるはずもなく、やがて試合は再開のホイッスルを鳴らす事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『──はじまりました後半戦、ボールは帝国からのキックオフ! 早速ボールは鬼道へと渡り、警戒しながらのドリブルというスタート!』

 

 そうかやばい、後半のキックオフだから最初帝国ボールやん。これ早速一点はいるかもしれない。

 

 いや頼む帝国さん、手当してもらって両腕今包帯巻いてるから「部長、とうとう闇の力が両腕に……!?」って部員に慄かれたんだ。今なら闇の力が暴れ出してるムーブでコース狙われて動けない感じに決まるから。

 メアちゃんくんなんて「そうか、デスゾーンに込められた闇の力を吸収したのか……!!」みたいにそっかぁな顔してたからね。その理論だと俺いくらデスゾーン食らっても問題ない事になるけど、そんなわけないからね。

 

 ……で、どうすっかな。鬼道さんの目を見るに確実に強力なシュートで俺を吹き飛ばしてやる! みたいな意思を感じ取れるんだが。

 デスゾーン連発とかやめてくれよ本当に……。

 

「…ウリ坊とトールは下がってくれ。ラインは気にしなくていい!」

 

 どうせ帝国の優秀な人たちならオフサイドとか引っ掛からんからな!

 なら誘導係のソニックとカガを残して二人はシュートブロック用に近くに置いておいた方がいい。頼りにしてるぞ二人ともぉ!

 マジで頼んだぞ、サクリファイス・ハンドは在庫切れだ! 右手が余っている? うるせぇ、百烈ショット四発とか防いだせいでヒビが入りかけてるって感覚でわかるんだよ!

 

「任せてよ部長!」

 

「前半の借りはここで返してやるぜ!」

 

 ははは、ウリ坊もトールもすっかり上機嫌だな。やっぱみんな笑ってると気持ちがいいな。

 この二人ならデスゾーンもきっとかなり力を弱めてくれるに違いな……、

 

『習合DF陣は二人一組になって堅実に帝国の攻撃のルートを潰していく動きか!』

 

 ──ん?

 なんか、あの……デスゾーンの動きじゃなくない? 鬼道さんと佐久間と寺門さんが中心になって……え、デスゾーンならあと一人誰か来るよね?

 あ、やばいこれデスゾーンじゃねぇ!? 鬼道さん達の目で分かるわ、なんか「デスゾーンが効かない今これしかない!」みたいに覚悟決まった目で見てくる! 鬼道さんゴーグル越しだけど!

 

 嘘でしょう?! デスゾーンを超える必殺技ってなんだよ!?

 少なくとも聞いたことも……いや、北海道にいるとかいう熊殺しの異名を持った人は調べててめっちゃすごいっぽいけど、今は関係ないな!

 

「気をつけろ──デスゾーンじゃない!」

 

 言葉で警戒促すけど間に合うか!?

 あ、鬼道さんがいきなり立ち止まった? なんだろ、やっぱり「こいつにこのシュート使っていいのかな」って悩んでてくれないかな! くれてないなこん畜生!

 佐久間と寺門さんが定位置っぽい場所に走っていくもんね!

 

──ピューッイ!

 

 突如としてなる笛の音、発信源は鬼道さんの口元。

 ……つまり口笛、いきなり? 激マブな子でも見つけたんですか?

 うん……? なんか鬼道さんの周りの土が動いてるような……。

 

 え、ペンギンが……生えた? 五匹。わぁかわいい……水族館結局連れて行ってもらえなかったなそういえば、約束してたのに。

 って違う、哀しい思い出に浸るのは後だ。ペンギン見れたし忘れろ忘れろ。で、何でペンギンが生えてきたんですか?

 

皇帝ペンギン──」

 

 あ、これ必殺技? うそでしょ? さっきから頭の中ハテナマークだらけなんですけど。

 鬼道さんが、ボールを思いっきり蹴り上げて……え、ペンギンが空を飛んだ? ボールに並ぶように飛んでいくペンギン五匹……。えなにこれは。

 あと鬼道さん、この時点でツインブーストに匹敵する威力があるような気がするんですがどんだけ力込めて蹴ってるんです?

 

 そのまま、ボールはペンギンと一緒に佐久間と寺門達の元へと飛んで行って……ツインシュートの態勢? 漫画で見たことあるぞその動き。

 

「──2号!!」

 

 息ピッタリに二人で最後蹴り出したボールに追従するようにペンギンも更に勢いを増してこっちに向かって……どうみてもデスゾーンより強そうなんですけどこれ。見た目ギャグなのに。

 どうしよ、サクリファイス・ハンドを右手でやっても、技の性質的にひびが入りかけてる右手だと全力を発揮できないよな!? そもそも犠牲にする人格がまだ復活してないし……あ、そういえば三人目の俺がいたな。おい、どこ行った! さっさと出てこい!

 

 あああぁぁぁ、やばいやばい早くしないとボールが来る……!!

 

 拝啓お医者様、ペンギンに殺された場合は死因は何と書くのでしょうか。

 

 

 助けて!!




曇 り 時 々 雨 後 ペ ン ギ ン





・5nチョコ
 5の倍数ごとにcmの大きさの種類がある。ただ甘い。

・チョコバットマン
 金で強くなれ

・うまかった坊
 湿気てる


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ペンギンは地に落ち、雷は迸る。やがて蛇が飲み鴉は鳴く日※挿絵追加

くそ長タイトルって便利だなってふと気がついた日

白モヤシ様より、挿絵をいただきまして素晴らしいなってめっちゃはしゃいだ後掲載許可いただけたので掲載します。

【挿絵表示】



 迫り向かってくるペンギンを前にして、不思議と俺に恐れはなかった。

 

 確実に、メアの一撃よりも高い攻撃性だろう、

 バングのものよりも近づきがたい、力の持続性もあるのだろう、

 ウリ坊のものよりも速く重たいのだろう。

 

 いつもなら、どんな必殺技を前にしても負けるものかと恐れを伏せて、突っ込んでいくはずだったのに、その動作がいらなくなったおかげかこんなことを考える余裕があった。

 

 なんでだろうか。

 自分の力に自信を持ったからだろうか、泣き言を言っているのは馬鹿らしいと気がつけたからか。

 クタクタになってるウリ坊たちを見て、持ちつ持たれつ、出来ない時は協力しあうってことを知れて……強くならなきゃって焦りがなくなったからなんだろうか。

 

 きっと、そっちもあったんだろうな。

 でも大方の所は……ワクワク? 

 

 違う。今──すっげぇ、イライラしてるんだ! 

 

 散々仲間痛めつけてくれたな!? とか、

 ふざけんななんでペンギンが空飛んでんだ! とか、

 まだ奥の手隠してやがったのか! とか、

 ……ずいぶん無様晒したってのに、まだ部長やウリ坊たちだけにいい格好させる気か!? とか。

 

 あー……すっげぇ不思議な気分だよほんと。ムカムカしてんのに自然と笑っちまう。

 

 今俺は、全力でサッカーを楽しんでる! 目の前のすっげー脅威を前にして、絶対()()()()()()()って気力の炎が燃えている! 

 

 ──燃えて燃えて、今までのものよりもずっと、透き通った雷が生まれる。

 散って霧のように消えてしまうような混ざり物ではない。

 

「──トール……行けるな?」

 

 ……あぁ、もう大丈夫だ。待ってくれてありがとうよ。

 部長、顔見なくてもわかるよ。その言葉で俺の背中叩いてくれてんだよな。

 

 サクリファイス・ハンド……だったか? わざわざアンタみたいなのが封印までした腕使わせるまでもねぇよこんなペンギン! 

 

 ──吠える、さっきからしとしと降っててうざったい雲に! 

 その雲の中に少しは雷も溜まってんだろ!? なら……俺のも溜めてもらっていいよな! 

 

「うおぉぉ────っっ!!」

 

 俺の怒りで燃え上がり溜まった雷、天まで届きやがれ!! 

 未だ俺を前にして脅威を感じ取っていない生意気なペンギンを睨み、叫んだんだ。

 

 

「雷鳴──」

 

 

 

 ◇

 

 

「── 一喝!!」

 

 ──フィールド全体の空気が爆ぜた。

 降っていた雨は止み、雲は大穴を開け地上に光が注ぎ込まれる。久方ぶりの太陽の光は、雨で冷え切っていた体を温めてくれる。

 

 皇帝ペンギンを前にまたもや視界がスローになっていた俺は、その時なにが起きたかを全て見ていた。

 

 トールがやってのけたのだ。

 この短時間で、一皮も二皮も剥けたのだ。俺の前に立ち、ペンギンを前に少しもひるむ様子も、或いは無謀と思える心もなく、ただ頼もしい背中を見せてくれていた。

 

 あぁ、行けるな。そう思ったのはなんでだろうか。

 多分、トールからは守る……そんな思考がなく、ただひたすらに目の前のシュートをぶっ壊してやるって気持ちが感じられたからなんだろうか。

 その時ようやく気がついたんだ、トールの不調の原因は……慣れない、何かを守るという意思だったんだろうって。

 

 気がつくのがもう少し早ければ、俺からも伝えられたんだけどな……すまんトール。

 

 そして、鼓膜をつんざく程の雄叫びの後、トールから放たれた雷は雨雲に飲み込まれ……支配し、一瞬のうちに大きな雷雲へと成長した。

 

 ペンギンが覆い飛ぶボールがトールの目の前へと迫った瞬間──光る。

 トールが吸わせた雷が更に激しく、大きく鋭いものとなって、降り注いだ。

 その電撃は、ペンギンたちに有無を言わせずに飲み込んだ……。

 

 ……雷鳴一喝、かぁ。めっちゃ格好いいな。雷のトールとか呼ばれそう。……イナズマンとかあだ名つかないようにな。

 いや、トールなら呼んだやつ黙らせる凄味があるから大丈夫か。

 

 ははは、ウリ坊ったらめっちゃでっかい雷にビビって動き止まってら、コラコラ、トールの活躍がなきゃやばかったぜ……? 

 

 あれ? なんか、煙の中にまだ蠢く物体が見えるような……。

 

「ぐっ──まだだぁ!」

 

『す、凄まじい落雷!! ですが、トールの新必殺技を受けてもなお皇帝ペンギンは動きを止めていないぃー! これが帝国の新必殺技!!』

 

 嘘だろ!? 

 あれ多分エンゼル・ブラスターさえ止められるだろうクソ強技だぞ!? どんだけだよ皇帝ペンギン2号! これで2号ってことは改良前だろう1号とかもやばそうだな?! 絶対使うなよ!? 

 

「行けぇっー!!」

 

 よせ、そんな気迫込めて叫ぶな佐久間! なんか心なしかボールが速くなった気がしたぞ!? 

 

 あ、でも三匹くらいペンギンが焼け落ちて消えていくのも見えるし、残り二匹も焦げたりしてる……いける? これなら今ウリ坊が割り込んでくれれば防げるかな。

 あ、でも無理じゃん。ウリ坊動き止まってるやん。

 ……あれ? やばくない? ペンギン二匹とまだまだ威力のありそうなボール止めなきゃならんの? 

 

『しかしキーパー織部、依然として笑みを崩しておりません!』

 

 仮にここで止めらんなかったら、部員が新必殺技ようやく編み出したのに通したクズキーパーじゃん……。無理無理、絶対いやだぞそんなの。

 ……おい、出番だぞ第三の俺。お前は犠牲(俺)の犠牲(第二の俺)の犠牲だ。光栄に思うといい。安心しろ、右手が折れる痛みは俺が引き受けてやるから。

 なんかさっきから頭の中で可愛い女の子見つけたとかうるさいんだよ。ナンパ師な俺とか多重人格にしたって無理がありすぎるんだよ。

 

 あれ、サクリファイス・ハンドって悪魔を封じていた左手を使う……みたいなことになってるんだっけか。右手は封印したばっか(という設定)だし、いきなり右で使ったら怪しまれるか。

 ……じゃあ無言で使うしかないか。声出せないと気合入れづらいんだけど。

 

──よしなよ長久くん!? ようやくあの女から逃げられて若い体に入れたと思ったのにさ! サクリファイス・ハンドは自分の心を無理やり砕いて使う技……そんなの使ったら僕は消えてしまう!

 

 知ったことか。お前も俺なら覚悟を決めろ。人の脳内で勝手に増えて分裂しおってからに。

 サクリファイス──、

 

──だから何度も僕も彼も君の人格じゃないって言ってるだろ?! ……いやだ、もう二度とあの痛みを味わうのは!

──そういうな前の契約者よ、案外耐えれるかもしれんぞ? ……粉みじんにされてまで意識が残っていたらな

──君と違って僕は人なんだよ! 無理に決まってるだろ!? 力弱ってて生贄にされないからって高みの見物決めやがって!

 

 うるせぇ! 人の頭の中で会話はじめるんじゃねぇぞ別人格ども!! 第二の俺の方もそこそこ元気になってきたな! また使う時があったら迷わず生贄にするから覚悟してやがれ!

 というか顔見知りみたいな体で話してるけど何なの、俺に話しかけてくる前に人格の控室で待機してたりとかあるのか? 下手すると四人目が出てくるんじゃ……。

 ええい、南無三。

 

 ──ハンド!

 

──助けて!

──あ、それ我の。それはそれとして長久よ、やはりここから先の戦いに備え我の力を解放──

 

 俺のだよ!!

 後第二の俺はいちいち変な契約もちかけてくんのやめろ!

 

『今度は技すらも使わずに右手でキャッチ……! 帝国の新必殺シュートは無念に終わってしまったかー!?』

 

 使ってるけどね……。見た目通常キャッチにしかみえないから仕方ない……ん?

 なんか、手の痛みが激しすぎて気が付いてなかったけどなんか右腕にも痛みが……。

 

「──まだシュートは死んでいない!」

 

『な、なんとぉ! ペンギンが織部の右腕に食らいついている!』

 

「──部長!?」

 

 いたぁぃ!? ふざけんなよ! なんでペンギンが襲ってくるんだよ! めっちゃ噛みついて? 啄んでくるんですけどぉ!?

 ボールの方はもうほぼほぼ威力弱まってんのにペンギンが力強過ぎる……! やばい水族館行きたくなくなってきた、こんなのうようよいるの……?

 水族館の飼育員さんも大変なんだな……ってそんなわけねぇ! これがそういうシュートだった話なだけですよね、野生のペンギンは人の腕めがけて飛んできたりしないよね、ね?

 

──ふふ、これはいわゆるピンチ、という奴ではないか長久。お前の悪運もこれまでだ……さぁ今こそ我と契約しようではないか

 

 畜生こいつ、もう折る手が無くなったからって急にイキイキとしやがって……。

 じゃあ仮に聞くけれどここでお前の力借りたら突破できるのか? 今俺両手折れて、左腕も治りかけだけど折れてて右腕いまペンギンに食らいつかれてるんですけれど。

 

──……

 

 無理なのかよ!? 頑張れよ自称苦痛と怨嗟が集まりしもの!

 今めっちゃ苦痛集まってんだろ!? 怨嗟は知らんけども!

 

──かなり溜まっていたはずなんだが、どこぞの誰かが精神を犠牲にする技を使ってくれたからな……

 

 なんかごめん。

 ……で、どうするよこれ。闇の力でも何でもいいが、ふざけてないでいい加減ペンギンどうにかしないとシュート決まるよ? 左手で叩き落す? 使えませんね。頭突き? 届きませんね。ボールをずらす? 今の体勢からは無理です……。 

 

──じゃあ食べてもいい?

──えっ、誰だ貴様?

 

 えっ? 誰、四人目?

 何て言ったの今?

 

 

 ……え、なんか臀部の辺りがもぞもぞしてるんですけど。

 えっ、蛇。黒塗りで目だけ白い蛇が出てきたんですけど。

 

──焼き加減がレアで美味、ごちそーさま

 

 ……えっ、ペンギンを飲み込んで? ゲップして、帰った……。

 

 

 

 

 

 ……えっ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぼ、ボールが止まり織部の見事なセービング……い、今のは一体……? キーパー織部の必殺技、なのでしょうか……?』

 

 フィールドは静まりかえっていた。

 それを、センターラインを挟み見ていた俺も……奴の真意に言葉を失っていた。

 

 織部から現れた蛇の姿をしたナニカは、俺達の最後の希望を食らいつくして消えた。

 そうだ。必殺技で防いだとか、そういった次元のものではない。あの目がこちらをチラリと見た瞬間、まさしく蛇に睨まれたカエルの様に固まってしまった。

 

 あれが、あれが……奴の腕に封じられた悪魔だとでもいうのか。

 皇帝ペンギン2号すらも餌とする、そんな存在と相手しているというのか?

 

「……馬鹿な」

 

 遠くで鬼道達が膝をつくのが見える。自分たちの渾身のシュートは完膚なきまでに……いや、もはや最後はシュートとしてすら扱ってもらえなかった。

 俺達は今──本当にサッカーをしているのか? 根底が揺らぐ。

 呼吸が乱れる。崩れた崖の下で、人食いサメが待ち構えていた。もはや這い上がれず、ただ食われるのみなのか。

 

「──ワタリ!」

 

『──ととっ、失礼しました! 織部、ワタリへのロングパス! 呆気に取られていた帝国陣営にカウンターが突き刺さる!』

 

「──させるか! 例え勝ちの目が潰されたとしても、負けの目しかないわけではない!」

 

 例え何が来ても止める、キングオブゴールキーパーの異名にかけて、必ず無失点で抑えて見せる!

 怯えた膝を叩きつけ、活を入れた。

 

 目の前ではボールを受け取りこちらに向かってきているFWが一人、厄介な十一番勅使ケ原(メア)も、副部長の上条(ジミー)もDFが抑えている。

 習合の十番の帳塚(ワタリ)の一人だけのシュート。止められないはずがない!

 

 ……本当か? あんな人外じみた部の、十番が本当に何もないのか? 疑心が心の中で芽生え、騒めく。

 流石にあの部長のようとはいかなくとも、雷を放ち皇帝ペンギンの多くを焼き尽くしたDFのような何かがあるんじゃないか……?

 

「──っ辺見! 大野のサポート、十番に撃たせるな!」

 

「っ……わかった──サイクロン!」

 

 勅使ケ原(メア)についていた辺見に声をぶつけた。

 いくら呆気に取られていたとしても、俺たち全員は厳しい訓練を乗り越えてきた者達だ。指示の一つもあればすぐに復帰し、プレイを続行することが出来る。

 辺見の鋭い蹴りから放たれた小さな竜巻は、あっという間に()()()()()()()()()()()()

 

「いいぞ辺見! アース──」

 

「何をしているお前ら──」

 

 そのまま技を打ち込もうとした大野達に対し叱咤する。

 どこを見ているお前ら!? 帳塚はそこにはいない!

 

「──上だ!」

 

 ──落ちてくるカラスの羽が、視界にチラついた。

 

「なるほど、空を飛ぶというのは中々気持ちいいものですね……」

 

 宙を跳ねる様に飛んでいく奴の姿に、俺は自分の判断が遅れていたことを察した。

 その両足にはそれぞれ一対の黒い翼が生えていて……必殺技の準備は既に終えていることを俺に教えている。

 

「──くらえっ!」

 

『ここで習合十番、帳塚の新必殺技が帝国キーパーに放たれたぁ!』

 

「くっ、パワーシールド!」

 晴れたばかりの太陽を背にし、影に身を隠した奴から、空中で放たれたシュートが風を切り迫ってくる。光を背にしているせいでかなり見えづらいが……この程度の小技、経験がないわけがない!

 DFを切り抜け、目くらまししつつ空から叩き落す技。しかしこれならば、パワーシールドで防ぐことが出来る!

 

 拳を地に叩きつけ、橙色の衝撃波を繰り出す。

 さぁ来い、習合十番のシュート! 例え何発来ようが、完全に防いでみせ──、

 

「……?」

 

 ──その攻防の一瞬、視界がゆがむ。

 落ちてきていた羽のせいか……?

 だが衝撃波の壁に問題はない、そのままシュートはパワーシールドに触れて……

 

 

 

 

「──源田! それは囮だ!!」

 

「──F・F(フェイク・フェザー)

 

 烏の羽となって霧散した。

 

「っ!?」

 

 立ち上がった鬼道から声が聞こえる。

 シュートが囮? 違う、そもそもボールが偽物で……じゃあ帳塚はまだボールを持っているのか?

 思わず奴を探せば、既に地上に降りていて……その足元にボールはない。

 

 一体どこに……?

 

「──光よ

 

 答えは、すぐに真上で照らされた。

 ……帳塚に気を取られてマークを一人外した勅使ケ原がいつのまにか……最初の時よりも更に高く飛んでいる。

 

 まずい! 慌てて構えを解き、体中に残っていた力を両手に注いで俺も跳び上がる。

 

()()()()()()()()──()()()()()()()()()()()

 

 二対の神々しき翼は、宙に舞っていた烏の羽すらも明るくする。

 近づけば近づくほど、熱量は増し、肌がヒリヒリと焼け付くのを感じ取る。

 

 間に合え、間に合え! 上に伸び切った自身の体を地表に向け、落ちる。

 

フルパワーシールドッ──!!」

 

エンゼル・ブラスター──」

 

 間に合った!拳をいつの間にか乾いていた地面へと叩きつけ、分厚く、激しい衝撃波の壁を作り出す。

 ……瞬間、両腕が悲鳴を上げる。だが、知ったことではない! 今この瞬間に全てを注ぐ、注いで見せる!

 これが、俺の全力のフルパワーシールド……!

 

 

「──()!!」

 

 

 ……けれど、それが音を立てて崩れ去り、光弾が横を通り過ぎていく様を、ただ俺は見ていることしかできなかった。




1-0(なお帝国はほぼ再起不能)

ようやく終わったぞ……?
三話くらいで終える予定だったはずなのに。


~オリ技紹介~
・雷鳴一喝 ブロック技
 体に溜まったイライラを燃料に燃やし発電、雄たけびと共に空に放ち、増大させてボールに落とす。
 雲が分厚く、発達しているほど威力アップ。逆に雲一つない快晴だとあまり強くない。

・F・F≪フェイク・フェザー≫ ドリブル・パス技
 初出なのでFFと表記したが、フットボールフロンティアと被るのでこれ以降はカタカナのみの表記になる哀しい運命を背負っている。
 カラスの羽を纏った両足で空を飛び、蹴り出したボールは本物、偽物?
 敵を惑わし、ボールをつなげる。

・エンブル・ブラスター改
 お ま た せ
 二対になった翼で更に天高くから打ち下ろした一撃。以前のがイナズマ一号並みだったとすると、今回はイナズマブレイク並みの威力或るんとちゃう?
 進化理由は「部長の中の悪魔が顕現したよやったー僕もさらに光り輝く!!」だそうです。

~オリキャラ紹介~

・勅使ケ原 明(てしがわら あきら) 11番 FW ニックネーム:メア
 無敵ヶ原くんとはなんも関係がない。ちょっと重い過去を持ってて自分の性別に悩んだりもしたけど最近は部長が闇の力を良く見せてくれるので問題ない。
 完璧無敵な姉がいる。
 
・上条 翔(かみじょう しょう) 9番 FW ニックネーム:ジミー
 諸行無常から名前を思いつかれた。
 副部長、サッカー経験者なのでサッカースキルは普通にチーム内で一番上。むしろ普通のサッカー経験しているせいなのか必殺技に中々辿り着かない。
 でも本人あっけらかん。

・帳塚 望(とばりづか のぞむ) 10番 FW ニックネーム:ワタリ
 親が金持ちなんだ。
 四月最初の学力テストにて学年成績トップクラスでその賢さを示した。部長は五点差で負けた。
 

・第二の俺
 人の痛みや憎しみを糧に育つやべー奴。なのに犠牲にされた。
 不滅の存在なので主人公の痛みを糧に喋れるようにまでは回復した。

・第三の俺
 サクリファイス・ハンド開発者
 そして犠牲になり消滅した。
 これが因果か……

・第四のナニカ
 蛇
 なんだこいつ


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ベルゼブな日

しばらく出番がなかった高天原さんたちの出番

謎の四人目(?)さんの予想レース
・サタン,或いはルシフェル
・アクレオピスの杖に巻き付いてるやつ
・イグ(クットゥルー)
・ベルゼブブ(暴食の王) ……これ蛇じゃなくて蠅じゃね?

 そうそうたる面々だぁ……


謎の女(メルカリ)の予想レース
・ヤンデレ

 まさか一択とはなぁ……


 きっかけは、バラまかれていたチラシを一枚拾ったところからだった。

 あの習合が帝国と練習試合を組んだと書かれていて、何故こんなものが……と疑問にも思ったが、あの男の底を見るためには好機だと思った。

 最初は、俺と弟だけが行く予定だった。部長に相談し休みを貰おうとしたところ、いつのまにやら一軍全員で「帝国学園の戦いを観察しよう」ということになってしまった。

 

 それが……俺達高天原中学にとっては致命的な手であったことに気が付いたのは、試合が終わりを迎え……周りの仲間たちの顔を見た時だった。

 

『──ここで試合終了!! この展開を誰が予想できましたでしょうか、まさかまさかの大金星!

 

5-0! 習合イレブンの大勝利! 練習試合とは言え、FF40年間無敗であった帝国学園を下したぁっー!!』

 

「……あの帝国が、負けた?」

 

 動揺し、焦点が合っていない目を俺とは逆サイドに位置するFWがしていた。同級生という事もあり、俺に対していつも勝負を吹っ掛けエースストライカーの座を奪って見せると言ってのけたアイツが……心を折られていた。

 信じられないと、いつも強気だった発言はどこかへと隠れてしまっている。

 

『勅使ケ原は試合終了間際にハットトリックを達成! 凄まじいシュートを皆の目に焼き付けた事でしょう! かくいう私もこれほどのストライカーの誕生に身を震わせております』

 

 去年は控えからの後半戦出場、源田のパワーシールドを突破することが出来ず落ち込んでいた時よりも、その顔色は悪い。

 ……目の前で、源田が力負けし、二点目のシュートで腕を痛め退場した姿を見送ったからだろうか。

 

『しかし、ここまで点が開いたのは……帝国の攻撃を完璧に防ぎ切ったDF陣、またキャプテン織部の活躍があったからこそでしょう!』

 

「……皇帝ペンギン2号、エンゼルブラスター改……あんなものが来たら俺は……少しの間耐える事も……」

 

 冷や汗が止まらず、息すら止まっているのは俺達の守護神。三年の正ゴールキーパー。

 天照が身を隠したとされる天岩戸を模し、鋼鉄をも想起させるほどの守りを見せていた大男が……この試合で見せられたものが理解できないと頭を振っていた。

 その脳裏には、デスゾーンに対応できず吹き飛ばされていた自身の姿を思い出しているのだろうか。

 

 ……昨年の俺達の成績は、2-9。前半に光陰如箭の速さで源田の守りの隙をつけたが、結局はボロ負けだった。

 そんな負けを経験してもなお、今年こそはデスゾーンを止めて見せると豪語していた男が……。

 

 ──ど、どうするよ……?

 ──あんなの勝てっこないぞ?

 

 他の部員たちも口々に弱音を吐いている。

 俺達の地区で生まれた化け物を相手にすることを恐れ、誰もが逃れられないかと可能性を探している。

 観客席にいた中学サッカー部の中では、一番上位に居たはずの俺達が揺らいだことが、周りのサッカー部にも伝播しどよめきが広がっていくのが分かる。

 

 ──な、なぁ……棄権も考えた方がいいんじゃないか?

 

 誰かが言った。

 もはや、そいつが高天原の者かどうかは重要ではなかった。

 

「──ふざけるな! 始まる前から勝負を捨てるなどこの俺が許さん!」

 

「兄さん……」

 

 猛り、周りをしかりつけようとする俺を弟が見る。……この中では一番マシな目をしていたが、やはりどこか怯えが見えた。

 エンゼル・ブラスターをその身で受けたからこそ、源田が受けたシュートの凄さを理解していたからか。

 

 つまるところ、高天原中学のメンバーは……俺を除き、もう戦意を喪失していた。

 地区予選の一回戦が始まる前から……負けを認めていた。

 

「……光矢、お前の言い分は分かる。しかし……うちの柱であるお前のシュートさえも通用しないのでは……」

 

 キャプテンが俺に諭すように言う。俺の技を作る原点になった人が、太陽の光をも操って見せた人が……。

 

 これも全て──俺が不甲斐ないからか?

 俺の光陰如箭が頭突きで防がれたという話を聞いて、不安がりながらも冗談だと思い込もうとしていた一軍。今にして思えば、そこできちんと説得してでも意識改革を行うべきだったのだろうか。

 エースストライカーなどともてはやされ、去年から技の進化もしていなかった俺の声では……もはや誰も奮起しないのか。

 

 無力感が俺を支配する。

 

「……こんなこと。この場で決めるべきではないでしょう……一度、学校に戻りましょうキャプテン」

 

「……あぁ」

 

 肩の力は抜け……絞り出せた言葉は、酷く情けなかった。

 敗者となった俺達は……フィールドに背を向け、ただ歩き帰ることしかできなかった。

 

 

 ──だが織部、俺は必ず……。

 

 それを言葉にできるだけの力すらも、失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国に……5-0? 何これ、夢? 全身痛いから夢じゃないか。

 ……勝っちゃったよ。生き残っちゃったよ。

 

「……やった、やったよ部長! 僕たち……帝国に勝てたよ!」

 

「……!! ッ!!」

 

 お、おうウリ坊……嬉しいの分かったから腹部に何度も突進するのやめて……君それがツインブーストにも通用した頭だって理解してる?

 カガも「やったね! すっごい嬉しいッ!」って感じではしゃぐ気持ちは分かるけど肩掴むのやめて、そこは折れてないけど酷使したから筋肉痛がもう来てるんだ。

 お願いトール助け……グラさん達と談笑中か。ジミーが飛びついてるし楽しそうだなあっち。

 

「ふへへ~おツマミいっぱい……5本目あけちゃお~」

 

「そ、そろそろ飲み過ぎじゃないッスかアルゴさん……?」

 

「甘酒は永遠に飲めるのだ~」

 

 アルゴなんて帝国のメンツ見ながら甘酒がぶ飲みしてる。趣味が悪いとか言われそうだから仲間内以外はほどほどにしておけよ……。

 バングは今近寄らん方がいいぞ、甘酒取り上げようとすると泣くからなアルゴ。

 

 ──キャーッ! メア様~~ッ!!

 

「あ、あはは……応援ありがとうね」

 

「相変わらずの女子人気ですが……この分だとファンクラブが出来ていそうですねメアさん」

 

「う~ん……今回はワタリくんもだいぶ活躍してたし、そっちもファンが出来るんじゃないかな?」

 

 たたくぞ貴様。 その辺の商店街のおばちゃんすらお前に頬赤くして手振ってるじゃねぇか。なにあんまり知らない人からの好意には困るなぁ……みたいな顔してんだ!

 そしてその通りだな、ワタリの事を見てる女子もちらほらいるもんな! 畜生……。なんで皆ばっかり……俺だって……。

 

──ま、まぁお前にもそのうちいい人が出来るだろう……爬虫類好きの厨二病の奴とか

 

 いるわけねぇだろそんなの!? メアか!? メアは男だろうが貴様なめてんのか!

 というかさっきの蛇どこ行ったマジで?! 二回目の皇帝ペンギンが撃たれた後、猪突猛進と雷鳴一喝でなんとか威力殺した奴頭で受け止めたらまた出て来てたけど!?

 

──叩かれて柔らかくなったお肉はジューシーだった

──うっ、貴様また……せめて名乗れ貴様

 

 おお急に出てきたな……相変わらず何て言ってるか分かりづらいな。ペンギンの味の感想を言ってる感じは分かるんだが。

 そしてなんか頭の中で常識人ぶるな第二の俺。お前も怨念とかそっちの類だろうが。……マジでこの蛇はなんなんだ。

 

──名……? うーん……フェルタン?

──何と言っているのか全然わからんなこいつ。まぁいいどうせお前も第四の俺とか呼ばれ──

 

 ……フェルタンって言うのか、そうかそうか。

 なんか錆止めできそうな名前だな。よろしくなフェルタン。

 

──理解できているのか貴様?! そしてなぜいつもの呼び方をしない! 順番的に第四の俺でいいだろうこいつは!

 

 えっ、こうなんかニュアンスで……フェルタンかなって。

 ……流石に俺は蛇じゃないし。明らかに異質だろこの子。晩ご飯の時とかに愚痴を聞いてくれるような奴とは一線を画すというか……。

 

──晩ご飯……? たくさん、いっぱいがいい

──わ、我だって力を取り戻せば地獄の番犬をも震え上がらせるほどの狼へ……

 

 そうかワンコなのかお前……俺の第二人格が犬か……。

 

──……ワンコ

──ッ!? おいこいつ我狙ってないか!? 助けろ長久、今すぐサクリファイスしてこいつを爆散させろ!

 

 やだよ。今両手折れてんだぞ。というかなんかフェルタンは犠牲にできる気がしない。存在的に格上感がすごい。やろうとしたらいつのまにか自分が犠牲になってそうだ。

 ……まぁ頑張れ。

 多分、何となくだけど大丈夫な感じがするから。

 

──貴様今どき天使ですらそんな曖昧な言葉授け──

「リーダー! さっきの蛇について詳しく聞きたいことがあるんだけどいいかな!? いいよね!」

──手羽先……甘辛く? 否サッパリ目も……

 

 あ、ごめんメアが来たから現実に集中させてもらう。

 メア、人の応答を待たず会話を始めようとするでない。フェルタンはメアの翼を食べようと考えないで……味付けか?

 あれか、蛇だから鳥とか好きなのかな。

 

「サタン或いはルシフェルは神話の世界においては蛇となり人の前に現れたりしたとは聞いたけどまさしくあれは……!

それとも……デスゾーンをわざと受けることで力を取り戻し顕現、皇帝ペンギンをも食らいつくす姿からもしや──暴食の王、ベルゼブブ……!? けどあっちは蠅のような姿とされていることが多いけれど……一説によると豹の姿を取ったともされているし、姿が違っても問題はないのかな……。

それより何かさっきの蛇とは違うような力をまだリーダーの中から感じ取れるんだけどもしかして他にも何か宿していたり──」

──……こいつ何気に我の存在を感知してないか?

 

 やだ怖いこの子。

 流石源田を退場に追い込んだだけはある……。大丈夫かな、FF地区予選には間に合うといいのだけれど……。

 まあ帝国は昨年優勝校だから地区予選で負けても出場決まってるけれど。

 

──お前は寺門を退場させたではないか。二発目の皇帝ペンギンの時、あれは完全に足首を痛めていたぞ

 

 あれ俺のせいじゃないよ!? その、確かに撃つ瞬間疲れからか足がもつれて、タイミングがズレて……そのせいで負担が増えてやっちゃったっぽかったけどさ!

 その、確かに百烈ショット四回も撃たせたせいで疲れ溜めさせたのかもしれないけどさ!

 だ、大丈夫……俺の見立てだと二週間もあれば復帰出来るだろうし……。

 

 こう、本当に練習試合なのに帝国はなんでここまで全力で……単に部室欲しさで組まれた試合なのに。申し訳が── 

 

「もしかしてどんどん何か食べさせれば更に力を……試しに僕の強くなったエンゼル・ブラスターを──」

 

 そんなこと言ってる場合じゃねぇ!? 逃げなきゃ……!

 

 

 助けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰宅。いや、本当に死ぬかと思った。

 なんとかメアの暴走はメアのお姉さんを挟み食い止めさせることに成功したが、その後もどんどんと部員たちの保護者がやって来てもまれ死ぬかと思った。

 というかメアのお姉さんめっちゃいい匂いしたんですけど。柔軟剤とかいいものにするとああなるのかな。すっごい笑顔で「弟を誘ってくれてありがとうね」って言ってきてもう癒されましたよ。メアすっごいぶーたれた顔してたけど。

 

 他の人たちはこう、うちの子とっても明るくなったのよ~とかうちの悪ガキがいつもご迷惑をとか色々……バングとトールすっごい恥ずかしそうにしてたなホント。

 アルゴの所の家族はなぜか酔っていた。まさか観客席で飲んでいたのか……?

 いろんな人の家族がやって来てて、ワタリがどこか寂しそうにしてたから「校庭のあの杉の木の後ろにこっそりと忍び寄ってみろ」と助言しておいた。

 

 しばらくしたらすっごい泣きじゃくってるワタリが遠くから見えたのでよしとする。それをすっごい羨ましそうに端から見ている理事長もいたがそっちは無視した。今は親子の感動の再会の時間だったから、しゃーないね。

 

 …………しゃーないね。

 

「ただいま……」

 

 ドアノブを右腕で押し開ければ、誰もいない家に声がこだまする。叔父さんが単身赴任中で助かったな、帰ってきたら子供が両手骨折とかシチュエーションがやばすぎる。

 しかし、中学生にして一人暮らしというのも中々に格好いいポイントがあるな?

 ……さて今日は本当に疲れたな……。両手怪我してるけどシャワーとか飯とかどうすんべかな。

 

 ……足で出来るか?

 

──いや無理だろ、貴様ビックリ人間コンテストにでも出場……優勝しそうだな

 

 第二の俺よ、人間死ぬ気でやれば大抵不可能ではないのだ。不可能な時は死ぬからな。

 ……超次元なサッカーは不可能だと思いますはい。

 時間かけて服脱いで、洗濯機の中に放り込んで……明日は日曜だしゆっくりしよう。あと病院の予約しとかないとな……先生、今度は手の中に鋼線とか言ってたな。

 

──ごはん、ごはん!

 

 ……あぁご飯か。そうだな……おかゆ作ろうにも米研ぎできんし、備えておいた栄養食品食べようか。

 羊羹タイプの奴って腐りにくいし便利だなホント。あとは二本満足バーとか……飲み物がないか。まぁ、水道水でいいか。

 

 ……歯で包装かみ切るのすっごい難しいな。

 

──まあメーカーも両手使えない人向けに作ってるわけないからな……

──ごはんまだ?

 

 …………やっと切れた。

 うん、うまい。……もう一個の方開けるの面倒だな。今日はこれだけで寝ちゃうか。明日になれば少しは気力が回復してることでしょう……明日の自分に期待です。

 

──甘い……でも足りない! オリベ、もっともっと!

──はは、今のは何となくわかるぞ。腹を空かせているからもっと食わせろ! だな。 ……待て、何気に長久が食べている物を共有してないか貴様

 

 うー確かに腹は減っているが……ごめんなフェルタン。この通り両手が折れてるせいで何もできないんだ。

 せめて右手さえ治れば……冷蔵庫の食糧とかも使えるんだけど。

 

──……治れば食べられる?

 

 うん。だからせめて辛うじて腕が使えるようになるように早めに病院に行くから……それまでなんとか我慢してくれ。

 それかさっきの試合の時みたいに出て来て冷蔵庫の中とか漁ってくれれば……。

 

──寒いの嫌い……じゃあ

 

 そうそう、そうやって出て来てもらって……痛い痛い!? やめてフェルタン! 右腕に巻き付かないで!? 手も痛いけど右腕もペンギンに噛みつかれたせいでもうアウトなんだよ!!

 助けて、誰か助けて!

 

──治す

 

 痛い痛い痛い……! なんか腕がベキベキ音なってるんですけれども!?

 なにこれ! 皮膚の下の骨とか筋肉がすっごい動き回ってる感じがする、怖い!!

 

──まさかこいつ……?

 

 …………あ、収まった、フェルタン消えた? もう何なんだよ本当に……ようやく言葉が分かるようになったのに、見てよ赤黒く変色していた俺の右腕がこんなに……普通になっている?

 あれ? 痛みがない……右手も動かせる。……まさか痛覚死んだ!?

 試しに歯で噛みついてみて……うん、痛覚あるな。

 

 ……えっ、治った? なんで?

 フェルタンが巻き付いたから?

 

──お腹減ったからはやくはやく、鶏肉所望。葡萄があるとなおよし

 

 えっ……はいご飯作るけど……鶏肉? 確か買い置きしておいたのがあるからそれを焼くか。

 ブドウはないから、貰い物のイチゴで……。

 

──苦しゅうない

 

 

 ……えぇ、本当にこの子なんなの。




 ベ ル ゼ ブ 部 長


 超次元が進むにつれ、主人公の回復力不足が目立つようになってきた。
それゆえの蛇だった。後悔はしていない。
 ちなみにフェルタンの喋りはコピペ、もしくは誤字修正機能などを使うと見れたりもします。文脈で読み取って見せるぜ! な方できになったらどうぞ……


~オリキャラ紹介~

・真経津 光矢(まふつの こうや) 2年 FW 9番
 高天原中学のエースストライカー。傲慢な喋りとそれを裏付ける強さをもっていた……けれど。
 帝国との試合を見ても尚心が折れないほどに保っていたが、仲間たちの弱り様を見て落ち込む。
 何気に帝国相手に二得点できているので普通に優秀。

・フェルタン
 黒い体色と白い眼を持つ蛇。
 食いしん坊万歳。
 皇帝ペンギン二号二回分のエネルギーで右腕を治してくれた。

 ……一見チート回復できるやんと思うかもしれないが、その分のエネルギーを集めるのに結局死にかける気がする。謎。
 住処は背中の腰部分。普段はタトゥーみたいに擬態している。


※追記 フェルタンはファイアトルネード、百烈ショットみたいなのは食べられないよ
タイガードライブ、皇帝ペンギン1号、トライペガサスとかはいける


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食い荒らす日 挿絵追加

「イナイレ世界に転生したので傍観者しようと思ったらいつのまにか解説者になっていて超次元技の解説を求められる件について」
 みたいなの誰か書いて♡
 最近ツイッターでエゴサをしていると捕捉されて焦ったりしてる。

習合ユニフォーム決まりました。ロゴについてはデジモンなどを執筆されているアズマケイさまより頂きました!ありがとうございます

【挿絵表示】


※私の説明不足で感想欄にて混乱が起きていて大変申し訳ないのでこちらでも明記させていただきます。いずれの内容は本編にても説明が入りますが、ルール把握のためとして……
1.フェルタンが技パワーを食べることができるのは動物系必殺技かつ、動きが鈍っている物です。
2.蹴った瞬間にだけ気迫の様に出るものもアリ
3.メアが生やした翼は行けますが、光弾の方は無理なので部長は死にます(確定事項)

 


 ──帝国学園理事長、突然の辞任を表明。経緯は語らず

 

 新聞の三面に書かれていた記事を脳裏に浮かべながら私は、校門前で立っていた。

 本来なら今日はいつも通りキャプテンの家の前に集まってドリブルをしながらの登校となるはずだったが……キャプテンが試合の疲れからの故障を考え、大事を取っての一日練習無しだ。

 確かに、初めての試合はかなりくるものがあったが……。とは思ったが、擦り傷など目に見える傷もあったので素直に頷いた。

 

 ……みんな、キャプテンだけはこっそり練習をしているだろうと口に出さずとも理解していた……まぁ一人だけ規格外なのでそれくらいがちょうどいいのかもしれない。

 帝国との後半戦も重りをつけたまま出る気だったようだし、私たちに合わせてくれているだけで普段はもっとハードな練習をしているのだろうか。

 

あれって──

ああ、例の十番──

 

「……有名人になった気分です」

 

 いや事実、有名人なのだろう今は。

 校門前に立っていればいやでも目立つ。通り過ぎていく生徒たちが口々に私の事を指さすもので、思わず肩に力が入る。土曜の試合の結果は公式のものではなかったというのに、()()()()()()()()のせいですっかり広まってしまっている。

 帝国の事が載っていた所とは別のスポーツ紙では快挙として載せられ、さっそくFF優勝候補として一躍躍り出た習合。商店街の近くを歩くだけで今では声を掛けられてしまうほどだ。

 

 先ほど校舎の方へと向かっていったウリ坊さんは、今朝はやたらとご老人に頭をなでられたと複雑な顔をしていた。

 ……まあ、朝起きて玄関を開けたら昔喧嘩した人たちが報復を恐れて謝りに集まっていたと言っていたトールさんよりはマシだろう……。

 

 ジミーさんはそれらのことを聞くと、自分から絡みに行っていた。試合中は私のフェイク・フェザーからのタイミングずらしのループシュートで得点をしたりと、技巧派として活躍していたはずなのに……。

 

「……」

 

 そうこうしている内に校舎の針が進み……そろそろ来なくては遅刻の疑いも出てくる頃に差し掛かる。

 まだ来ていない部員は二人……一人はキャプテンだとして、もう一人は──来た。

 

 普段と真反対の方向から、似合わぬツバ付き帽子を被り薄茶色の眼鏡をかけてコソコソと一人やってきているのが見える。

 ……メアさん。顔を隠しているつもりなのかもしれませんけれど、すっごい目立っています……!

 

「……何をされているんですか?」

 

「あっ……ワタリくん、おはよう。いや、その……警戒を」

 

 声を掛けられるとビクンと体を震わせ、周りを注意深く観察し声を細める。

 しかし、彼の声は透き通り、本人が思っているより響く。どうやらそれがいけなかったらしい。

 

──あっ! メア様~~!!

──見ろよ、帝国相手に三点奪い取ったメアさんだ!

 

 まだ玄関近くで駄弁っていたり張っていた者たちが一斉にこちらの方を見る。

 それに誘われ、教室へと向かおうとしていた者たちもこちらに戻ってきそうなのが見えた。

 ……そうか、これを警戒していたのか。迂闊だった。既に習合のエースストライカーの顔を見ようと多くの人が玄関で壁を作り出している。

 

「うっ! まずい見つかった!?」

 

「……ははは、人気者ですねメアさん」

 

「くっ……他人事じゃないだろう君も。どうにかあの人の群れを突破する術を探さないと……!

この分じゃお昼に食堂も使えないぞ……!?」

 

 メアは頭を抱える素振りを見せもはや無駄だと言わんばかりフードを脱ぎ捨てる。相変わらずの顔の良さが露になり、黄色い声が聞こえた。

 ……確かに、私もそろそろ教室に向かわないといけないが……心配はしていない。何故かと言えば……そろそろ()が来るだろうと予測できているから。

 普段口を開けば彼の事を語ろうとするメアさんにしては珍しい……と思っていた時だった。

 

「──おはよう」

 

 その一言が後ろから掛けられる。共に、キャプテンが現れたのだろう……騒めきだっていた玄関は一気に静まりかえる。

 やはり彼に対しての反応だけは私たちに向けられるものとは一線を画しているなと苦笑しつつ振り向いて、固まる。

 

 両手にはそよ風になびく黒い包帯、もはやキャプテンのトレードマークとなったものが巻かれている。これは別に想像通りだ。

 

「……その、キャプテン……あの、それ」

 

「──ん? あっ、おはようリーダー! 今日もいい天気だ……ね?」 

 

 傍目に映るメアさんが、眼鏡をはずし目を輝かせ始めているのが分かる。つまりは、そっち系だ。

 

 彼の右肩には、先日も皇帝ペンギンを前に現れたあの蛇が顎を乗せ鎮座していた。

 胴体部分は彼の背中の方へと落ちている辺り、あの時の様に背中辺りから生えているのだろうか……?

 もはやペット感覚で一緒に登校してきた蛇を前に、何と言っていいのか分からないでいた。

 

「……あぁ、すまん。

 

──フェルタン」

 

 私たちの反応を見て異変を察知したらしい。キャプテンは右肩に向けて……恐らくは、その蛇の名前を呼んだ。

 数秒も経たないうちに、舌をチロチロと動かしていた蛇は霞がかかるように消える。

 

──な、なああれって……

──馬鹿、指さすな!? ダークネス部長の噂を知らないのか?!

 

 あまりの光景に誰かが声を出し指摘しようとしましたが、直ぐにそれは別の人によって阻止されました。

 メアさんなんて「あぁ……写真を撮っておけばよかった」と残念そうにしていたが……私はまだ冷や汗が収まらなかった。

 この部の皆の自由さには慣れ始めていたつもりだったが……流石はキャプテン。まさか自由自在に蛇を出すとは。 

 

「だ、大丈夫なんですか……その、子?」

 

「……あぁ、天気が良かったからな。日向ぼっこの気分だったんだろう」

 

 そういう問題なのだろうか。というかその蛇って部長に秘められた闇の力的なものだったんじゃ……日光を浴びる闇の力……深く考えないことにしよう。

 

 ──予鈴がなりました。それを聞くとキャプテンは会話も手短に「行くか」とさっさと歩いて行こうとします。

 

 ……私もさっさと校舎に入りつつ、伝言をしてしまいましょう。

 キャプテンが玄関に近づけば近づくほど、まるでモーセの海割りの如く人ごみが勝手に避けていきます。

 

「……キャプテン、放課後なんですが──」

 

「フェルタン……? サタン、ルシフェル……? うーん──あっ、待っておいてかないで二人とも!」

 

──ヒッ、こっちに来るわ!?

──メア様に近づきたいけどあの人が怖くて近づけない……

 

 ……お昼ご飯の時もキャプテンに同席しましょう。

 別に、人避けに使えるなんて失礼なことは思っていません。ただ今日は、母さんにお弁当を作ってもらえたのでそのお礼を伝えようと思っただけです。

 はい、他意はありません。

 

 ……嘘をつきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、無言で廊下を突き進む。すっごい視線が痛い。

 ……なんかますます皆が俺をやばいものを見る目で見てくる件について。

 

 教師にすら怯えられたぞ今日は……? 将棋部の顧問の先生には「本当に私は名前を貸すだけでいいんだよね……?」って疑われたし。何だ、俺が一体何をしたと言うんだ。

 メアの奴は休み時間など上級同級構わず話しかけられて困って俺を盾にするし。盾として機能するのが悲しいよホント。

 

──いや、腰から蛇生やしてるからだろう。もう貴様完全にビックリ人間コンテスト優勝確定だぞ

──ナガヒサ優勝おめ

 

 不可抗力だ……フェルタンは祝わなくていいから。というか君本当に自由だね……、いや腕治してくれたことには感謝してるけどさ。

 あの後鶏のから揚げ大量生産させられるとは思わなかったぞ……蛇なのに揚げ物好むな。

 しかも自分で食べないで俺に食べさせるし……なんなの、一回俺の胃を通さないといけないの? 皇帝ペンギンは自分で食べてたのに。

 

 ……まああっちは超次元的力で出した謎の力の集合体みたいなところあるし、普通の食べ物とは訳が違うか。

 

──次回はニンニク強めでお願い。それとしっかり食べなきゃ早死にしちゃうよ?

 

 ちゃんと食べないと死ぬって、そんな田舎のおかん的なこと言わんでも……やばい、自分で言ってダメージ食らった。

 

 しかし……日曜の日はほとんど食料の買い出しと調理で終わってしまったんだけどな。フェルタンが一回の食事で満足する量って異常に多いというか……。それに応じて俺の胃袋も大きくなってる感じがするし、これはエンゲル係数が高くなる……業務ス●パーとかいって安めの鶏肉大量に仕入れておかないと。

 まだ左は治ってないから中々苦労する。

 

 その点、うちの食堂は安いし学生向けの大盛りメニューとかも揃えていて助かる。

 流石は私立だ……まあ俺は学費免除してもらってるけど。

 

──お、おいアレ……

──あぁ間違いねぇ……今日の食堂で暴食の限りを尽くしたベルゼブ部長だ……!

 

 ……。

 

──……ダークネス部長って呼ぶ奴が減ってよかったな

 

 うるさいぞ第二の俺。しょうがないだろ……フェルタンが食堂のチャレンジメニューのデカ盛り系食べたいってせがむから……。

 20分以内に食べきったら無料って書いてあったからつい……。可愛いお弁当を手にしていたワタリが引いてたのをよく覚えている。奇跡的に快復したお母さんが帰って来て作ってくれたと嬉しそうに話していた直ぐ後にそんな気持ちにさせて本当にすまない。

 

──途中で飽きたけどうまかった。明日はテラカツカレーってので

 

 いやだよ……テラカツカレーって確か3kg近くある化け物メニューだぞ。今日の2.5kgのラーメンでも周りの視線痛かったのに。

 ちなみにその横でトールが負けん気を発揮し、俺と同じのを頼んでいたが撃沈しDF陣と分け合っていた。

 そのせいでメアが試合中呟いたベルゼブブのあだ名が広まったし……俺後いくつあだ名がつくんだ……サタン、ルシフェル、ベルゼブブとか七つの大罪うち半分に差し掛かってるじゃねぇか。

 

──まあ、傲慢……虚飾に近い事はお前の性分だな。いつも怒ってるから憤怒も満たしているだろう。暴食も達した……彼女を欲しているから色欲もか。体を休められないか画策するのは怠惰に当たるだろう……嫉妬もある。

 おい、既に七つ達しているぞ。呼ばれるのも時間の問題ではないか?

──セプテム・ペッカータ・モルターリア・ナガヒサ

 

 こいつらっ……覚えていろよ第二の俺、地区予選で凶悪なシュートが来たら躊躇なく使うからなサクリファイス。出来れば使いたくないけど。

 せめて痛みさえなくなれば……いやそれはそれで危ないな。痛覚死んだら危機を危機ともとらえられなくなるか。気が付いたら死んでましたじゃ笑い話にもならない。

 

──……何故我だけ? 今確実にフェルの奴も何か言っただろ

 

 籠っている感情の問題だよ。お前は笑っている感じが強いんだよ。フェルタンはなんか純粋な感じが強いんだよ。

 ……と、目的の場所についたか。すごい廊下が長かった気がしたぞ。

 

 重厚な作りの扉に軽く右手でノック──不意に、後ろから視線、先ほどまでの畏怖が混じっているようなものではない。

 ……まぁ気になるよな。しゃーないしゃーない。気づかんふりしとこ。

 

「……織部です」

 

「──どうぞ」

 

 落ち着いた声が返ってきたので扉を開ける。

 その先にはカーテンが閉め切られ、弱い明かりのみで照らされた理事長室……そこに、ワタリ父が立っていた。怖いわ、ホラーゲームかな。

 じゃなかった……なんかワタリが父さんから伝えたいことがあるらしいってことで呼ばれたんだよ。

 

「……わざわざすまないね織部君。お茶を入れるからソファにかけて待っててくれないか」

 

「……はい」

 

 なんだかんだ言ってこうやって対面で会うのは初めてかもしれない。しかし……一体何の用──あっ、ソファ柔らかい。

 じゃない、ワタリの言い分ではサッカー部を潰そうとしていた人だ。奥さんが戻ってきたおかげか大分憑き物が落ちた感じになってるけど、流石に気を抜いちゃ駄目か。

 次はこの学校と勝負ね、とか言い出されたら丁重にお断りしよう。

 

「……今日はね、色々なところから編入願いが届いたんだ。それにいったいどんな教育をしているんだって問い合わせすら……来年の入学希望者も増えるだろう。君たちの活躍のおかげだね……」

 

「……そうですか」

 

 へー転入生が来るかもしれんのか。帝国学園に勝ったことが契機なら、すっごい腕、もとい足に自信のある子とかいないかな。……出来れば練習は超次元じゃない子。

 で、それをわざわざ俺に話してどういう意図が……入部希望くるかもしれんから心構えつくっとけ的な? 違いそうだな。

 

「……ところで、織部くんは本当に四月までサッカーの経験は……?」

 

「……いえ、小さい時ボールで少し遊んだくらいで」

 

 あったらこんなに死にかけたり第三の俺まで発生したり蛇まで出てきたりしてませんよ。

 ……後者は関係ない気もするが、いいか。

 

「──そうか……君は、私と……本当に違うね」

 

 あっ、これもしかしてワタリが言ってた……帝国学園に負けたって話思い出してる?

 そうだな、目を見る感じ「こんな小さい子が帝国を打ち砕いたというのに自分は」ってめっちゃ落ち込んでる。

 

 えぇ……どうせぇと?

 

 この人は多分、無力感に苛まれていたんだろうってのはわかる。帝国に負けて、部も自然消滅して、サッカーにトラウマを抱くほどになっちゃって……奥さんいなくなった後にわざわざサッカー部がない学校つくる労力凄いなと思ったが。

 帝国と試合を組んだのは……案外、諦め大概……希望ほんの少し、だったりしないのかな。

 

 自分じゃもう何にも出来ないけど、今のサッカー部ならもしかしてって……都合のいいように考えすぎか?

 でもなぁ……帝国相手で潰されると思っているなら、態々観客用意する意味はあるのか……?

 

 観衆のド真ん中でボロボロにするため? いや、なんかかみ合っていないような気が……。

 普通それは皆に期待された後にやることで……あの場に俺達が帝国に勝てるなんて想定していた人なんていないだろうし。

 

 うーん、下手な励ましは逆効果だな……この人についての経歴は又聞きもいいところだし……。

 かといって放っておいたら駄目そうだ。覇気が無くなってるというか……執着が無くなっちゃってるというか。

 

 

 ……そういえば今、アイツらは扉に耳でも立てているのかな?

 ……そうだ、この作戦で行こう。名付けて、一人じゃ何にもできないんですよ作戦だ。

 

「……いや、俺だけでは勝つのは無理でした。……メア、ジミー、バング、ソニック、アルゴ、ウリ坊、トール、グラさん、カガ、

──ワタリ達がいなければ」

 

 事実100%だぞ。みんないなけりゃ0-100とかになってる気がする。

 特にワタリのフェイント技のおかげでメアが自由になったわけだし、ワタリはあの試合での貢献度はかなり高い。

 

「……」

 

「……当然、これから始まる地区予選は公式試合。相手も死に物狂いで挑んでくる……一筋縄ではいかないでしょう」

 

 帝国以上の奴がいるとは思えないけどな!!

 でもこちとら技も骨と精神犠牲とかいうふざけたもの一個しかないんだよ。苦戦はあっても、余裕はないと思う、思う。まだまだジミー以外はテクニックもないしね。

 

──正直、メアの一撃で大概ひれ伏すんじゃ──

 

 第二の俺、ハウス! もしかしたら10人ぐらいメアにマークつくかもしれないだろぅ!?

 それかメッチャ強いけど今まで部活に入らずブラブラしていた奴がいきなり加入して化けるとか!

 

──後者はともかく前者はもうほぼ負けではないかそれ……?

 

「……?」

 

 あ、ほら理事長さんも首傾げてるじゃないか! 「え、地区予選……帝国崩しといて何言ってるのこの子?」みたいな顔してるよ! こっちの混乱が伝わったか!?

 ええい、さっさと畳みかけてしまえ!

 

「……例え地区予選を勝ち抜けたとしても、その次は本戦……チームメイトだけじゃない。より多くの協力者が必要となります。

……理事長も、その一人です」

 

 お前さんにはこれから部室作ってもらったりとか、FF出ることにより発生する行事とかいろいろ動いてもらわないといけないんだよ!

 顧問には働かないことで契約してしまってるし、学校側の動いてくれる味方が欲しいんだ。落ち込んでる暇ないぞ。

 あと単純に部員の保護者としても、これからが大事なんだよ!

 

 ワタリ、いま母親帰って来てウキウキしてるけどなぁ。 母親いなくなった後、一番ワタリが寂しがってる時に支えてやんなかったのアウトだかんな!? この点においては病気になったからと言って姿くらますお母さんにも物申したいけどさ! まだお弁当作ったりとかそれっぽいこと早速してるからいいとして!

 今からでも遅くないから、ちゃんと父親としての勤め果たしてくれ……頼むよホント。

 

「理事長として──父親として、ワタリ達を支えてやってください」

 

 そう言い切って、頭を下げる。

 久しぶりだぞこんなにしゃべったの。勧誘始めて暴走してる時ぶりぐらいかもしれん。今じゃみんな「わかったぜ部長!」って言って切り上げるからな。

 

「……」

 

 ……沈黙が続く。

 顔見えないから今何考えてるかさっぱり分かんない。響いた? なんか心の炎燃えましたか?

 あ、手を組んでおいてた膝が震えてる。そんなに自信がないのか。えぇ……どうすっかな、口下手過ぎてなんも思いつかないぞもう。

 

 ……ん? なんか扉の方が騒がしいよなような……。

 

「……しか──」

 

 理事長がなにかまた発しようとしたとき、重い木の扉が勢いよく開かれる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──しかしもカカシもありません!!

 

 頭に血が上っていた。

 自分で心配だから聞き耳したいと言い出しておいて、その場をぶち壊していた。

 

「ちょっワタリ、今はいっちゃ駄目だって!」

 

「わわっ押さないで下さ──ぐへっ……ッス」

 

 後ろでバングさんが潰される音がするがそんなことは今どうでもいい。

 とにかく、頭下げてるキャプテンの目の前で無様晒してるこの人をどうにかせねばなるまいと息を巻いていた。

 ズカズカと歩みを進めて……ああもう暗い! なんで毎回カーテン閉め切ってるんだこの部屋! こんな部屋にいるから陰鬱になるんだ。 二度と使えなくなってしまえ、と思いっきりカーテンを引っぺがす。

 

「──あぁ」

 

「眩しいからって目を閉じないでください。父さん……ここまでやられて、まだ立てませんか?」

 

 朝、せっかく母さんが家に戻って来たのに声もかけられず、私と目を合わせることも出来ず、ただ作ってもらったお弁当を無言で受け取ることしかできなかった父を情けなく思ったが、その比ではない!

 私と同い年のキャプテンに励まされて、力を貸してくれと頼まれて、なぜ取り繕うことも出来ない!?

 

「いいですか? 父さんが帝国に負けたのは実力の差です。部がその後跡形もなくなったのは信頼関係の差です。比べるまでもなく、父さんとキャプテンじゃ何もかも違うんです!」

 

「うっ……」

 

「お、おいおいワタリそんなにオヤジさんをいじめて──」

 

「グラさんも今は黙っていてください。事実確認ですこれは」

 

 自分ですらおかしいと思いました。今になって考えてみると何故キャプテンと父さんを重ねてみたのか全く分かりません。

 少なくとも、帝国が来るという事を知ったあの時点でもみんな信頼し合っていました。ただかき集めて空中分解しないように気にしていたという父さんでは天と地ほどの差があります!

 

「それで、キャプテンと違うと気が付いて、このままウジウジと過ごすつもりですか!? 私達は、必ずFFを優勝して見せます。トロフィーを持ち帰る私たちを見て、何もできなかったとまた落ち込むんですか!?

……私の、ワタリの父だって言うのなら……習合イレブン10番の父親だって周りに胸張れるくらいにはっ……!」

 

 胸倉つかんで叫んで……言葉が詰まりました。

 

 父の表情が、壊れたあの日から戻ることのなかった顔が、戻っていた……。自分と同じ色の瞳で、逸らすことなくしっかり私を見ていたから。

 ……よく見れば、目が次第に潤いを帯びていっているのがわかりました。

 

「──ありがとうな、望」

 

 ……多分、それは私も。最近、随分と涙腺が緩んでいるようです。

 ただ、名前を呼ばれただけで、泣くわけがありません。

 

「……部活は、サッカーは……楽しいよな?」

 

 胸倉をつかんでいた手を父さんがそっと触れて、静かに聞かれて……強く、頷き返しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……随分と迷惑かけたね、織部君」

 

 うん、本当にかけてくれたね。大人が泣き出して俺めっちゃワタワタしてたからね内心。

 あとアルゴは他メンバーに見えないようにこっそり甘酒飲むのやめなさい。今は駄目だよ流石に。

 

「本当です、これからは馬車馬の様に働いてもらいますよ父さん……」

 

「ははは……手厳しいな」

 

 がんばれよワタリ父。正直信頼マイナススタートだからな。部室めっちゃ綺麗なの頼むぞ。

 個別着替え室とかシャワールームとか……流石に贅沢かな。まあ任せるよ。

 

「いやー一時はどうなるかと思ったぜ……雨降ってなんとやらってやつだな!」

 

「地、固まるだな。副部長」

 

 しかしなぁ、何人かつけて来てるとは思ったけど……全員いるとは思わなかったぞ。

 練習今日はないんだからみんな帰って休んでくれればいいのに。

 

「……皆、地区予選一回戦はすぐそこだ。明日からの練習も頑張るぞ」

 

 頑張りたくないです。でもこう言わないとね……ほら、解散解散。

 ……うん、なんでみんな微妙な顔してるの? さっきの理事長の時と同じような顔だけど……まさか帝国に勝ったから練習しばらく抜きとか……いや絶対違うなこれ。

 

「……その、キャプテン……新聞読みました? なんなら昼食の時話していたんですけど」

 

 どうしたワタリ。新聞? いやうち新聞取ってないけど……ごはん時? すまない、チャレンジメニュー相手に格闘してたからかなり聞いてなかった。

 なんか聞かれたら顔見れば大概分かるしいいかなって……。え、なに?

 

「──うちを除き、ここのブロックの出場校が全部出場を棄権したため……うちは確定でFFに出場です」

──ひれ伏せさせるまでもなかったか……

──ナガヒサ、今日は棒棒鶏がいい

 

 

 ……え?

 

 

 助かっ……てない、地獄へのエスカレーター式じゃねぇか!?

 

 助けて!

 

 




無 血 開 城


くぅ~これにて「FF地区予選・部長、ウワサの人になるってよ編」完です!((

次回からは「激闘!FF前日譜 部長、雷門に殴り込むってよ編」が始まります

……二、三週間充電してからな!


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部長、雷門に殴り込んだってよ編
騒がしくなる日


 メルカリでポイントを貰い、300pでファイアのソフト手に入れた後、よく考えたら円堂守伝説あったやんと思ってニンテンドーカード買いに行きました。

低次元領域です。

 シリアスはコメディへの落差を考えていれていたりもするのですが……なるべく食傷起こさないレベルで抑えたい。ただイナイレを書いてると暗い過去ばかり製造しそうになるのはなんでなんだろう。

 つまり、今回は散々におわせてた部長過去回。
 今回人間は部長以外でない。


 家で一人、お留守番をしていた時の事だった。

 サプライズがあるから、いい子で待っててねとママは俺に優しく言い聞かせてくれたのを覚えている。

 何のことはない、今日は俺の誕生日だ。正直バレバレの見え見えだったが、そこはまあ子供として甘んじて受け入れた。

 

 ……ま、あっちもバレバレなの分かってて楽しんでたし、どっちでもよかったんだろうけど。

 飾り付けされた居間で、テレビを見ながら楽しみに待っていると、電話が鳴る。

 

──……長、ひさ……げんきか?

 

 電話を取れば、どこか歯切れの悪いパパの言葉。ママに叱られている時よりも声は弱弱しく、思わず不安になる。

 

 パパ、どうしたのさ……?

 元気だけど……あ、さてはゲーム買えなかったとか!? だから予約しといてって言ったじゃん!

 

──……ごめんな、実はケーキも、だ……めに、なってな……

 

 まさかの誕生日にプレゼントもケーキもなしである。おいおい最悪の誕生日確定だよ。

 ……まぁいいよ、しゃーないしゃーない。どうせこういう時は後々に埋め合わせしてくれるし。

 もうお腹減っちゃったからさ、早く帰って来てよ。

 

──……ごめん、な……

 

 いいからさ、今どこ?

 ……なんか周りうるさいけど、交差点とか? 運転中は駄目だっていつも言ってたじゃん。ママに代われば?

 

──……

 

 パパ、……パパ?

 切れちゃったよ……まったく、いっつもおっちょこちょいなんだから……。

 まっしゃーない。夜になる前には帰ってくるでしょ。なんなら隣町とかに遠征してたりして。

 

 

 

 

 

 

 

 ──早く、帰ってこないかな。

 

 ……寂しいよ、お腹減ったよ……どこ行ったんだよ……ゲームもケーキも、埋め合わせもなんもいらないから……帰って来てよ。

 なんか近所の犬もうるさいし……この辺に犬なんていたっけ?

 

 いいよもう……自分でなんか食べるから。

 

「──!」

 

 何、また電話? はぁ、どうせパンクしたとか道に迷ったとかでしょ。

 まったく二人とも……パパは楽観的だし、ママは気配りが利くのに大事な時にずれてるし。

 

 俺がしっかりしないとか。

 ……さてさてさっさと電話を取らないと。

 あれ、知らない番号だ。なんだろ……セールスとかかな。

 はいもしも──はい? すいませんよく聞き取れなくて……犬の声がどんどん大きくなって来てて……え、なに病い──

 

 

 

──起きろ、ナガヒサ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝、相変わらずカラスがうるさい。いくら来ても俺の死肉は食えんぞ。多分死んだときは必殺技で灰すら残らない気がする。

 メアのシュートどんどんやばくなってきてるからな……あれ天に召す、というか救う気あるんだろうか。死は救済とかそっちに目覚めていないことを祈る。

 

 ……寝汗がすっごい、一瞬おねしょでもしたかと思ったわ。いや小学生になってからは一度もしたことないけどね。

 

「……ねむ」

──オッハーナガヒサ、そして朝ごはんは卵かけご飯がいい

 

 ……あれ、フェルタンいつのまに普通の言葉で語りかけてくるようになったのさ。まぁフィーリングで読み解く必要がなくなったのはありがたいけども。

 卵かけご飯……うん手軽だしそれでいいか。

 

 ……あー、久々の悪夢だったな。中学入ってからは一度も見てなかったのに。疲れすぎてて死ぬように寝てたからな。夢見る隙も無かったか。

 まったく、こちとらすっかり乗り越えた気分なのにいちいち掘り起こすなよ俺の体。

 

──……長久よ、ようやく目覚めたな貴様……こちらが命の危機に瀕している時に心の闇に浸ってくれおって……まぁいい。

 さぁ今度こそ契約の時間だ、貴様の心の闇を我に渡す代わりに強大な力を──まぁその、メアのアレとかは無理だが日常生活においては便利な力を渡してやろう。

 

 そこはもっと誇示してくれよ……新興宗教の勧誘とかの方がもっといい事ばっかり羅列してたぞ。怨念名乗るお前がそれでどうする。

 ところで命の危機ってどうした、寝サクリファイスでもしかけていたの俺? 右手は健在だけど……。

 

 ……あれ、なんか体の中がやたらスッキリしているというか……モヤモヤしてる感じが減ったというか。

 

──よくぞ聞いてくれた! そこのフェルがお前が起きず腹が減ったなどと抜かし、体の中に隠れていた他の者どもを食らい始めたのだ!

 

 え、まって何それ色々と聞いていない。何、俺の体の中まだまだ人格いたの?

 もはやシェアハウスってレベルじゃないだろそれ。どんだけ分裂しているんだ俺。

 

──違う、あの女がお前に送り付けた曰く付きの品々があっただろうが!? グローブの方には我がいたが……他のシューズやらすね当てやらにも色々と潜んでいたのだ!

 まぁ全員我には到底及ばない小物、名前すらないような低級の悪霊だったがな……我がいたからこそ、表に出ては来ず潜んでいたのだろう。

 

 何それ怖い。というか俺の装備全て呪われてたの……? 後で神社とか行ってお祓いしてもらおうかしら。

 ……そういえば、たまたま道端にいた占い師さんに運勢見てもらおうとしたら腰抜かして這いずりながら逃げられたっけ。

 

──低級の奴らがみな食われたせいで危うく我まで標的になる所だったわ!

 

 そ、そうか……食べられる危機ってのは味わったことないからよく分かんないけど大変だったな。

 フェルタン、お腹空いたとはいえ問答無用で食べちゃダメだぞ。

 

──美味しそうだけど、流石にダメかなとは迷ったよ

 

 だってよ。

 

──迷うな!?

──いただきます

──そっちに行けという意味ではない!

 

 ほんと騒がしいな朝から……まぁいいか。

 さっさとご飯食べちゃうか。予約炊飯で既に炊き上がっているはず……うん……うん? なんかテーブルにもう料理が……シャケなんて冷蔵庫にあったっけ。

 ……なんか左目が痒い気が。ついでに視界に知らない人が、女の人が居る気がするし。

 

「──おはようございます兄さん! 既にご飯の準備は出来ていますよ」

 

──……そういえばお前が起きる一時間ほど前に扉が開く音がしていたな

──お~エマだ~ 

 

 ……ああ、顔を洗い忘れたからか。いかんいかん、鏡見て……やっぱり知らない人が手ぬぐい用意して後ろにいるんですけど。

 実体あるのかなこれ。なんか一瞬姿ブレた気がするし人間じゃないだろコイツ。

 

 ──まぁいいか。害無さそうだし。

 エマちゃんね、俺と同年代か、1,2個上かな? 見た目年齢。当たってるみたい、にこっと口元だけ笑ってくれたよ。

 

──いいのか……前の契約者は半狂乱したんだがな……

 

 第三の俺の話か……うん、まあアイツ多分俺じゃなかったんだろうな。なんか女の子に対して口笛吹いてたし。多分その辺のナンパ師とかだよ。

 ノートに宿ってたのかな。まあ今じゃ欠片も気配がないけど。

 

──もともとエマから逃げる為にサクリファイスし、砕け散った人格の残滓だったからな。時間かけて悪霊擬きになりかけていた所を更にサクリファイスすれば消えるのは当たり前だな

 

 そっか……ん、左目の違和感が……うん?

 なんか目の色がおかしい気が……あれ、人間の目って白目に黒い瞳孔があるんだよね。いや橙色とか緑色とか色々いるけど、基本はそれだし白目は皆共通だよね。

 

 ……なんか白目があったはずのところが黒くなってて、瞳孔白くなってるんですけど。なんだっけこれ、黒白目とかいうんだっけ。

 なにこれ、フェルタンの仕業?

 

──や、それは知らない

──どうせまたその辺で変なの拾って来たんだろ……貴様もう見た目だけは完全な人外だな

 

 嘘でしょ……左目がもう化け物みたいに。ちょっと格好いいから許すけど。というかお二人が知らないってことはこれまた別の何か目覚めようとしてるの……?

 この間の帝国の佐久間くんみたいな眼帯を買っておこうかな……いや、見えづらくなるのは嫌だな。

 

「……兄さん、ご飯冷めちゃいますよ」

 

「……わかった」

 

 ああごめんごめん……無視してたわけじゃないんですよ……てっきり座敷童的なサムシングかと思いました。

 すごいなぁ……どんぶり一杯のご飯に味噌汁、塩鮭、漬物……ザ・和食みたいな朝ごはん。

 おいしい、これは手慣れてます。

 

──普通見知らぬものが家に忍び込み、当然のように作った飯を口に入れるか……?

──ちとしょっぱい

 

 味は……普通だ。

 美味しいんだけど、なんか違うというか……家庭料理感が強いな。完ぺきではない、わざと崩している感じがする。

 

「兄さん、今日は祝日ですが予定は……?」

 

「……部室の工事が始まったらしい、その確認をしに行く」

 

 電話でワタリが「溜め込んでいた私財をたらふく投じさせました」と言っていた。

 多分やばいぐらい大きなものになるのかもしれない。そしてグラさん、バングの家の協力も取り付けたらしい。

 

「ごちそうさま」

 

「お粗末様です……ふふ、やはり今度の兄さんは完璧ですね……」

 

 ……何作る気なんだろほんと、部室だよね? 工期やたら短く設定していた気がするし、下手するとFF本戦に間に合わせてくるぞ。

 違法建築とかだけはやめてね……?

 でもなあ……なんかグラさん張り切ってたし、確実に変な設備とか追加されてそう。蛇口からリンゴジュースでてくるとかそっちの方向性に行かないかな。

 

「……ではお弁当を作っておきましたのでそちらを」

 

 え、うん……やたらでかいね弁当箱。何キロあるんだろこれ……俺がフェルタンの影響で大食いになったの気にしてくれてるのかな。

 

──メガ盛り

──いや、こいつは元々こんな量渡してくるぞ。前の契約者がご機嫌取りの為に料理の腕を褒めたせいでこうなった。

 

 そうか……というか詳しいね第二の俺。……お前もやっぱり俺じゃないのか、息が合うから少しだけ第二の俺説信じてたのに。

 ということはこいつも自称怨念どころか本物の怨念か。

 ……犬の怨念?

 

──苦痛と怨嗟の……というか我は狼だ。今でこそ翼も尻尾の蛇も失ってはいるが

 

 そっちの名前長いし呼びにくいんだよね。フェルタン的な呼び名ないのか。

 ……尻尾の蛇? まさかフェルタンってお前の……。

 

──違うわ! こんな食い意地の張った尻尾など持った覚えがない!

……個人名としてなら、コルシアがある

 

 コルシアか、よろしくよろしく。

 ……フェルタンの監視役として、これ以上俺の体が作り替えられないように……頼むよ。成功報酬として訓練による地獄の苦しみあげるから。

 怨嗟の方は……まぁその辺から集めておいて。

 

──……ある意味契約かこれ?

「……兄さん、そろそろ出た方がいいのでは? なんなら私もついて行ったりしちゃいますけれど」

──寄り道してアイス買おうナガヒサ。しょっぱいものの後は甘味だよ

 

 コルシア、フェルタン、エマちゃん……増えたなぁ。

 ……せめて一人ぐらいは人間が欲しいけど、まあ……いいか。

 

 いいよね?

 




オッドアイズ・ダークネス部長


~オリキャラ紹介~

・織部 長久 1番 GK
 寂しがり屋

・コルシア
 狼の体、グリフォンの翼、蛇の尻尾を兼ね備えているらしい。
 部長も蛇の尻尾とか生えてるので実質第二の俺。

・フェルタン
 喋れるようになった。これで一々コピペで確認しないで済む。
名前もないような悪霊たちを食らい少しだけパワーアップ。

・エマちゃん
 勝手に家に住み始めた。まだ影が薄い。
 メルカリとか駆使して理想の兄を探してるデジタル派悪魔


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新入部員を振るい落とす(自動)日

タイトルで遊び始めた(懺悔)



 あぁようこそ、習合サッカー部へ。

 俺は部長兼キャプテンの織部長久。一年だが……上下関係は苦手でね、上級生と言えどため口になるかもしれないから注意しておいて欲しい。

 大丈夫? 流石だな……帝国に勝ってから一週間でこちらに来るほどの情熱は仮初めではないという訳か。

 

 ……うんこれなら大丈夫、多分一日でいなくなったりしな──ハハハ、ナンデモナイデスヨー……。

 よーし新入部員は6人、マネージャー希望は三人だね。

 

「……ふふふ、汗光る青春……泥まみれになりながらも走り続ける兄さん……ふふふ……」

 

 ……えーと、マネージャー候補の一人にすごい人が居ると思うけれど気にしなくて大丈夫だよ。うん、排除しようと動かないように伝えてあるから。

 

 他二人はどうしてマネージャーに……あ、メアのファンクラブの人? もう片方はトールのファン? へー……。

 ……とって食ったりしないから話しかける度に身をすくませないで欲しいなぁ……。目が怖い? うんごめんね。俺も目がこの色になってから前よりもいろいろなものが見えるようになったから少し怖くなってきてるけど多分大丈夫だよ。時折「全てを破壊するのだ……光なき世界を」とか頭の中で声がするけど。

 

「……おい、一体いつになったら練習が始まるんだ」

 

「そ、そうだぞ……」

 

 ああごめんごめん。そうだね、皆やる気一杯だもんね……ところで今発言した二人、覆面したままだけど大丈夫なの? めっちゃ呼吸し辛いと思うんだけど。

 

「……ふん、なめてくれるな。他4人は知らんが、俺達は基礎体力は出来ている。この程度ならいいハンデだ」

 

 そ、そうですか……やめた方がいいと思うんですけど。というか体格的に見覚えあるんですけど。

 覆面に収まり切っていない髪の毛の色とかもさ……もしかして二人とも、高天原中に入っておりませんでした? というか真経津兄弟ですよね?

 

「気のせいだ、俺は謎のサッカーマスク1号だ」

 

「に、2号だぞ」

 

──長久、こやつらもしや……アホではないか?

 

 左様。まぁいいか、害を加えようと来てるわけじゃないみたいだし。あれかな、覆面で読み取りづらいけど「強さの秘密を探り、腑抜けた高天原中を叩きなおしてみせる」みたいな感じかな。となると期間限定加入? まぁ、FF経験者はものすごいありがたいので頑張ってくれ。

 じゃあ指示出しまーす。マネージャーさん達は今から渡すボードに書かれたチェックリストに従って、今河川敷にいる部員たちが練習しすぎてないか見張ってね。勿論自転車で行っていいよ。歩いたら遠いからね。

 

 それで、俺を含めた7人は河川敷までドリブルを続けつつ走り込みでーす。車や人の通りがないルート使うけど、万が一があるから気を付けてね。

 

「……それだけか? 思っていたよりも──」

 

 ──はいこれ、重り。体に巻き付けてね。

 大丈夫、普段の練習の時よりは重さ減らしてるから……。

 

「……待て部長。これは一体、何キロあるんだ……?」

 

 ………20kg、これでもね……俺が今背負わされてる重りの三分の一なんだよ……フフフ……泣いていいかな。常に足がプルプルしてる気がするよ。

 もう重り入れるところがないからって、メンバー皆で重りを敷き詰めることのできる服とか作れないか協議してたよ……鎧でも着た方がいいんじゃないかな。

 

「……兄さん、どうかされました? もしかしてまだ重さが足りな──」

 

 ──よーしみんな走るぞー!!

 いやー、足が岩の様に重いけど動かさなきゃ何も始まらないなー!!

 

 

 

 ……この後、新入部員はサッカーマスク達を除き、全員いなくなったのは言うまでもない。むしろよく耐えたよサッカーマスク……。最後なんか「黄泉の国が見える」とか呟いてたけど。

 戻ってこい。

 そして二号くんには早速エンゼル・ブラスターの洗礼が行われていた。いじめとかじゃないよ。というかよく怪我しないで済んだね……。

 

「……リーダー! 次は──」

 

 許してメア。僕それサクリファイスしても受け止めきれる自信がない。 

 あれ、河川敷に車が……これはこれはワタリ父理事長。いかがなされたので。え、明日?

 

 まあ学校と部活の後は特に何も……え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走れ走れ新幹線。速いな怖いな恐ろしいな。レールから伝わる小さな振動がマッサージみたいで心地が良い。

 窓に目をやれば、反射し映る自分の白黒目と移り変わっていく景色が眺められる。乗り物酔いしやすいからしっかり外を見ないとね。

 ……新幹線って乗り物酔い起きるんだろうか。

 

「……すみませんがキャプテン。もう一度確認させてもらってもよろしいですか?」

 

 なんだいなんだい隣に座るワタリくん。別にこんなの聞いても面白くないだろうにわざわざ聞き直してくれるなんて。

 いいかい? なんか目の色が変わった日に丁度()()()()()()が現れて家事を手伝ってくれるようになったんだよ。ほら、昨日みんなの前でマネージャーとして紹介しただろ?

 

 あの時も「初めまして習合サッカー部の皆さん……兄さんがお世話になっています」とか言い出したからみんなに詰め寄られて大変だったぜ。

 メアなんて自分と同じクラスに織部姓の人間が入ってきたのを見て朝から混乱してたのが爆発してたな。

 転入手続きとか、いつの間にしていたんだろうな。さすが悪魔。

 

「……織部エマさんでしたよね。えーと、以前ネットで商品取引をしていただけで、血縁関係も一切なく……突然家に住み始めたんですかあの人?」

 

 うんそうだよ。エマ曰く「血が繋がってなくとも、魂さえ繋がっていれば問題ないのです!」だそうだ。その理論だとフェルタンとコルシアとも兄妹になるんだけど……まぁいいか。

 生き別れてもいない、血もつながっていない赤の他人だよ。

 

「……キャプテン、失礼を承知で申し上げます。

 

──その人、ストーカーです」

 

 百点満点だよ、泣けてくるね。でもさ、その積極性さえ抜けば本当にいい子なんだよ?

 朝起きたらご飯用意してくれてるし、お弁当作ってくれるし……買い物手伝ってくれるし、晩御飯作れば感想述べつつ綺麗に食べるし。

 

 その、風呂入ると視線が気になったりするのは怖いけどさ。あと布団に入ってこようとするし。流石にこれはワタリには言わないけど。

 

──気をつけろよ長久、奴は歪んだ愛の魔物だ。兄妹愛がどうとか言って理想の兄を求め、それを持つ妹としての立場に愉悦を感じる。お前が理想の兄から離れれば、強引にでも叩き直そうとするぞ

 

 そっか、そういう人?なのねあの子……コルシアも怨嗟の怨念とか言ってなかった? 若干被ってない?

 

──……我が求めるのは闘争における苦痛、恨み辛みだ。アレとは違う、分かったか?

 

 よくわかんない。

 まぁいいか。それで多分、布団に入ってくるのはあれか、寂しさから布団に入ってくる妹を寝かしつける兄ムーブを求めていたのかな。そんな感じにしたらすっごい満足そうに寝たけど。

 あのまま簀巻きにして海に捨てた方が良かったかもしれない。

 ところでなんか彼女、やたら姿がぶれるんだよね……。

 

──それは恐らく、奴が人間に擬態しているからだな

 

 

 ああそうなんだ。まぁ本物っぽい見た目の方も牛みたいな角生えたり蝙蝠みたいな翼あったり尻尾あったりするぐらいで大して変わらんけど。

 むしろ人外らしい時の見た目の方が違和感なくなってやりやすいまであるよ。

 

──前の契約者は格好つけがすぐに崩れてな。エマが来たあとにナンパをしたり弱音を吐いたせいで……

 

 せいで?

 

──まともなことにはならんかったな。エマから逃げるべく、奴は自分の精神を壊すための技を編み出し……この間砕け散った残滓はともかく、本人は入院中のはずだ。

 

 あー……なんであんな技作ったのかと思ったらコストの方が目的だったのね。なーるなーる……南無三。今は安らかに眠れ。

 って今はエマの事はいいんだ。遠出するときは一時間に一度メール送らんと怒るぞって言われてるけど、それさえこなせばいいと考えれば問題はない。

 

「……まあ、いい子だ」

 

「……そ、そうですか……まあ確かに今のところ他のマネージャーの方とも仲良くやってますね」

 

 うん、メアファンの子は他のメアファン押しのけてマネージャー希望出した猛者だし、トールファンの子は筋肉フェチらしく練習を傍で見られることに喜びを得ていた。エマ的には俺に近づく女子がいなければいいのだから争いは起きないという訳だ。

 メアとトール、爆発しないかな。今の所ファンクラブの数はメアがダントツ、次点でワタリ、三位がトール。

 

 ……俺? あるにはあるけど……会長がメアだったよ。後二人は悪魔信仰してたし、あれもはや黒魔術同好会だよ。

 

「ハハハ……みんな仲良く出来ればいいよね」

 

「急に会話に入ってこないでください父さん」

 

「息子がどんどん遠慮の壁をなくしていく……」

 

 当然だぞワタリ父。はしゃいで温めるシュウマイ弁当とか買って、匂いを車内に充満させたりした悪行をワタリは忘れてはいないからな。

 まあそっちからは見えないだろうけど、ワタリは語気こそ強いが別に嫌悪感示してないし好感度はそこまで低くなってないと思うよ。

 

「……今日は私の仕事につき合わせてしまってすまないね二人とも」

 

 本当だよ。どうせ今日の授業の所は予習こそしてあるけどそれでも人から教わるのとでは大分違うから……あとでメアからノート借りて復習しないといかん。

 でもメアのノート、落書き多いんだよなぁ……。

 まぁ、仕方がない。エマのノートよりかはマシだ。

 

「……県外に出るのは初めてなので、悪い気はしていません」

──ナガヒサ、東京名物を食べつくそう

 

「キャプテンはともかく、父さんが心配でしたし……」

 

 そう、学校を午後からお休みし、新幹線で東京へと向かう旅の途中なのだ。フェルタンは楽しみで仕方がないのか、心の中で食べ物の名前をずっと繰り返している。俺もお腹減ってくるからやめて欲しい。

 

 東京に行くことになった理由? あれだよ、サッカーだよ。

 

「まさか不正が疑われてしまうとは……」

 

「……まぁ、うちの成長速度は確かに他校から見て異常でしたし。しょうがないかと」

 

 そう、帝国学園に5-0で勝ったという事実が拡散され……とうとううちは、少年サッカー協会という中々の権力を持つ組織から「なにか不味い訓練をしているのではないか」という不名誉な疑いまでかけられてしまったのだ。

 仮に習合中がもう少し古株で回りともコネ作りまくっていれば疑われなかったのかもしれないが……まだ校舎ピカピカだしワタリ父も若いからね。しゃーない。

 

 と、言う訳で少年サッカー協会会長にある提案をすべく……メールという形ではなく直談判しに来たのだ。あ、当然アポはとってある。

 俺は部長だからってことで……特訓メニューとかは俺が管理しているものとなっているからね。実態はウリ坊たちによる魔改造をせき止めようとする係だけど。セーブ率? 30ないよ。

 

『──お出口は左側です、どなたもお忘れ物の無きよう──』

 

 ……さて、目的の駅についたわけだ。ここからその会長が務めている学校までバスで行けるはず。

 ……周りの視線が痛いな。

 

──ね、ねぇあの子……目が

──両腕に包帯巻いてるわよ……?

 

 ……泣きたい。俺だって好きでこんな格好をしてるわけじゃ……いや包帯は好きでしてるのか。

 今フェルタンのおかげで左手も治ったし、何もないのに巻いてるだけだもんな。

 

 

 助け──求める前に急ぎで件の中学校までタクシー乗れませんかワタリ父!?

 

「え、いいけど……凄いやる気だね」

 

 なのです!

 待ってろよ──()()()!!

 

 

 




 野生中との高さ勝負、イナズマ落としを習得した壁山たちの努力で一回戦突破出来た!
 けど次はデータを知り尽くし対策をしてくる強敵……そんな試合を前にした俺達に、ある男がやってくる!
 こいつが鬼道達を……!?
次回、イナズマイレブン「悪魔のキーパー!」
これが超次元サッカーなのか……!




 ようやく主人公出せるんやなって……なお時系列的に「野生中乗り越えた後」となります。
 織部の仕業により早期に影山が抜けたため、色々と混乱が起きています。

・影山からのスパイである雷門監督、冬海の失踪による響木監督早期就任
・帝国学園のスパイとして派遣されていた土門。帝国学園の混乱を受けスパイ業廃業間近。
・少年サッカー協会副理事長が突然の辞任により混乱、事態収拾のため習合理事長直談判決行


~オリキャラ紹介~
・謎のサッカーマスク一号 FW
 後ろ髪以外を隠した謎の男。傲慢な喋り方は相変わらずだ!
 光の矢とか撃ってきそう

・謎のサッカーマスク二号 KP
 待望のサブキーパー枠に名乗りを上げた男。しかし力量はまだまだ。
 いきなりの暴挙に出た兄に困惑し喋りがおどおどしている。
 巨大な鏡とか出しそう。

・エマ マネージャー
 兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん

 コルシアには強気、フェルタンには弱気な女の子。

・メアファンクラブの子 マネージャー
 ここに薔薇があると聞いて

・トールファンクラブの子 マネージャー
 ここに筋肉があると聞いて


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酷く長閑で酷く過酷な練習風景を見せる日

信じられるか、こいつらまだ公式試合すらしてないんだぜ……?

累計210位、またUA50万突破、本当に感謝してもしきれません。大変ありがとうございます!!

ちなみにですが仮に全国大会出場した後の雷門だともっと混乱が大きくなると思います。ついでに鬼道さんと雷門マネージャー音無さんの絆も戻ってないので


──過半数の賛成を得た、故……我ら高天原中は今年のFFを棄権することになった

 

 屈辱だった。項垂れる俺を他所に、話は進む。

 

──……光矢、お前には悪いとは思っている……しかし、どう考えても勝ち目のない試合だ

 

 何も変えられない己が憎かった。

 夢を見せられない弱さが嫌いになった。

 

──兄さん……その、来年もあるよ

 

 誰もいなくなった部室で一人荒れる俺を慰めようとする弟に救われて、情けなくなった。来年こそは、俺達は挑戦できるのか? 舞台に立つことは許されるのか?

 ……俺が、俺達が強くなれば高天原の皆はやる気になってくれるだろうか。

 

 ……いや、それではだめだ。また同じように習合よりも強い奴らが現れた時に心が折れてしまう。

 必要なのは、全員が強くなるための方法だ。心も、体も、成長しなくては駄目だ。

 

「……鏡介、兄に……ついてきてくれるか?」

 

 今からやるのは、神が在する場所という肩書をつけた者からすれば遠く離れた、愚かしい行為だ。

 けれど、もはや俺にはこれしか残っていない。だからこそ、弟の後押しが欲しかった。なんて弱いエースだと自嘲した。

 答えが分かっている問というのは何とも無駄で非生産的な行為だろうか。

 

──も、もちろんだよ兄さん! 来年こそは習合の奴らに一泡吹かせてやろう!

 

 ああ、本当に出来た弟だ。俺にはもったいない程だ。

 ……今度は途中で折らせなどしない。俺たちの挑戦は今この時より、始まるのだ。

 膝に力をため、ゆっくりと立ち上がる。

 

「じゃあ、このマスクをつけてくれ」

 

──えっ

 

 俺は確固たる意志の元、手元にあったヒーローマスクを弟に差し出した。

 待っていろ習合、織部長久!

 

 この俺は貴様を打ち倒し、再びエースストライカーとしての輝きを取り戻して見せる!

 高天原中二年、真経津 光矢(まふつの こうや)を地に落とした意味を知るがいい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──フゥーッ、フゥーッ!! はぁっ……」

 

 俺達はすぐさま習合に転入、習合サッカー部に潜入することにした。

 敵を超えるために敵の教えを受けるというのは酷く屈辱的であったが、これも全ては「如何にして習合が帝国を超えたのか」を知るためにしようのない事であった。

 

 教えを物にした後はさっさと高天原に戻り、仲間にも伝授。強い高天原を取り戻す作戦だ。

 だが、俺達は奴らに喧嘩を売っている。そんなのが来ても受け入れてもらえないかもしれないという問題を()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 しかしやはり、マスクだけでは隠し切れないものがあったのだろうか。一度、正体が疑われてしまう事態が起きたが……何とか隠し通すことが出来た。

 

 今は真経津 光矢という名を捨て、ただの謎のサッカーマスク一号だ。ちなみに、付いてきてくれた弟を気遣い一号ではなく二号に甘んじようとしたが、心優しい弟は「兄さんが一号だよ、言い出しっぺなんだから。うん、絶対……うん」と譲ってくれた。

 本当にできた弟だ。

 

「……その、大丈夫っスか? 生まれたての小鹿みたいな震え方してまスけど」

 

「甘酒飲む~? それか新しいマネージャーが用意してくれたプロテインドリンクがあるけど~」

 

「……スポーツドリンクで頼む」

 

 やはりというべきか、習合の訓練は常軌を逸していた。特訓二日目にして、俺は今までの鍛え方がぬるすぎたことを痛感する。これが全国に悠々と進んでいく者達の努力なのか。

 走り込みに加えパス、ドリブル、ブロックをゲーム形式で実施、罰ゲームとしての筋トレ。

 いたって普通の様に見えるメニューの羅列だが……その細部、行う数値の全てがおかしい。

 

 明らかに粉が溶け切っていないドリンクを流し込み、息をなおす。喉にべたつく粉の感覚が気持ち悪い。

 というかこれプロテインか、普通のドリンクはないのか?

 

「(……なぜ、一日だけでこいつらは最低40kmも走るんだ……? しかも重り付き……)……はぁっ」

 

 パスは針孔を通す様にコースが絞られ、ドリブルは曲線などが加えられた平均台擬きの上で行われ、ブロックはそんな猛者たちを連続で止めることを強いられる。

 当然、失敗すれば罰ゲームとして筋トレが待っている……。これら全てが、重り付きだ。

 ではクリアすれば筋トレはしなくていいのかと言えば、全員最低数が設けられている。逃げ場はない。

 

「はぁ〜リーダーは今頃ワタリくんと東京か……。一緒に行きたかったんだけどな……」

 

「どうせまたすぐ行くことになるんだからいいじゃねーか!」

 

「ふへへ……憂いを帯びたメア様。その考えの先には……時代の最先端は天使×悪魔……」

 

「……その、兄さんでそういう妄想しないでもらえますか」

 

 新入りの俺達は20kg。既にかなりの重量を持たされているが……他のメンバーは織部とトールを除き全員この倍、40kgだ。頭がおかしい。

 そして例外の二人は60kg、もはや人一人を背負っているのと同義だ。何がしたいんだこいつらは。本当にサッカーのためなんだよなこの訓練。

 気が付いたら立派な兵士にされているとかないよな。

 

「……おっとウリ坊、サポーターまき忘れてるぞ。ボスが見たら怒るぜ?」

 

「わわっいけないいけない、サンキューグラさん!」

 

 いやもうこれサポーターあるかないかとか変わらないだろ。その微妙に体労わってます感はなんなんだ!?

 くっ……いかん、この程度で弱音を吐いていては。俺は高天原のエース、真経津 光矢なんだ……誇りはいらない、ただ高みを目指すんだ。

 ここで倒れては、今年が最後のチャンスだったというのに諦めてしまった先輩方にも顔が向けられない。

 

「よーし次は……そうだ、こう── 一号! DFの訓練の為に必殺技を頼む! ウリ坊たちはライン形成、きょう──二号もファイトだぜ!」

 

「……は、はい……死ぬ

 

 副部長……確かジミーと言ったか。そいつの掛け声とともに、DF陣がさっさとゴール前に……弟はふら付きながらもゴール前に歩いていく。

 そうだ弟も頑張っているんだ、兄である俺は立ち続けねばならない。

 

「……? あぁ……速いシュートへの対処法か。いいだろう……何本程撃てばいい?」

 

 これは前のチームでもやったことがある。俺の光陰如箭は速度に特化した一撃、逆に言えばこれに見慣れてしまえば他の技に対してのシュートブロックに入りやすくなる。

 目を慣らすためにも必要なことだ。……織部には頭突きで弾かれるほどに見切られていたが。

 

 とはいえ、必殺技はそうホイホイ撃てるものでもない。大体五本も連続で打てば疲弊してしまうから、練習と言えど最大十本程度にしてほしいのだが……。

 

 もしかして重りをつけたままなのか? だとしたら五本でも、あれそういえばいつ光陰如箭使えることを話したか俺──、

 

「三十本くらいだな、頼むぜ一号!!」

 

 ……助けてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──みなさん、大変です!」

 

 その情報を持ってきたのは、いつもいろんな情報を調べあげてくる元新聞部のマネージャー──音無だった。

 野生(のぜ)中の試合を前にし、空中戦を得意とする奴らへの対抗策としての必殺技もなかなかうまく行かず……それでもやるしかないとみなで円陣を組み、意気を高め合っていた時の事だった。

 その手には握られたのは地方紙の写しが数枚。少なくとも地元のものではないなと思った。

 

「どうしたってんだ音無、そんなに慌てて……」

 

「明日が雨で試合が出来ないとかでヤンスかね」

 

「い、いいからこれを見てください! この記事!」

 

 大きなバンダナが目印のキャプテン……円堂がその慌てようを問うと、傍にいた栗松が能天気に呟いた。それをまた隣にいたソリ込みが入った男、染岡が「ンなわけねーだろっ!」と叱りつけているのを他所に、話は進む。

 音無が持って来ていた写しが皆に配られると……部室は異様な空気に包まれた。ある者は目を丸くし、ある者は震え、ある者は信じられないと声を漏らす。

 当然、それは俺も……紙面に書かれたことすべてが、信じられないでいた。

 

──完全勝利! 習合イレブン、無敗の帝国を相手に5-0!!

 

「……じょ、冗談でしょこれ……? ほ、ほらこの部まだ作られてから一月も経ってないって」

 

「あの帝国が、一点も取れなかったどころか五点も……」

 

 俺達、雷門中学サッカー部は……あいつらの恐ろしさを知っている。どれだけ非道なサッカーをできるのか、その裏に、どれだけ研鑽された技術があるのかを。身をもって痛感させられたばかりで、その記憶はまだ新しい。

 故、地区予選では勝ち進んだらその先に帝国とぶつかると知り、どれだけ彼らの高みへと追いつけるのかと不安を覚えていた部員だっていた。

 それだというのに。

 

 そこに書かれていたのは、とある奈良県にあるサッカー部についての事。その殆どがずぶの素人であるという彼らが、帝国を相手にいかに勝利したかが強く書かれていた。

 帝国最優のキーパーの、源田の新技すら真正面から打ち破って退場させるほどに追い込み、ハットトリックすら決めたストライカー。

 どれだけ攻められようと、決して倒れることはなく後半はむしろ圧倒した習合メンバー。

 

 ……そして、帝国のエースストライカーであった寺門を退場させ、あのデスゾーンを簡単に止め……その後放たれた帝国の新たなる必殺シュートさえも喰らったと比喩?されているGK。新聞記者は記事の中で彼の事をダークネス、また悪魔の(デビル)キーパーと記していて……。

 ありえない、つい俺もそう言ってしまうほどの事態だった。 

 

「お、俺達だって一応帝国に勝ってるでヤンス!」

 

「……1-20で、豪炎寺さんのシュートが見れたから帝国が棄権して帰っただけだけどね」

 

 栗松の強がりを、猫耳ニット帽を深く被った少年が打ち消した。

 ……帝国は、鬼道達はこの中学に転校した俺の事を追い、円堂達に練習試合を申し込んだ。

 元々数人だけだった寂れたサッカー部。円堂がなんとか人を集め、ようやく11人に届いたばかりだった雷門では帝国の相手は荷が重すぎた。次々と部員たちは倒れていき……とうとう一人、メガネという部員が恐れをなして逃げ出してしまった。

 

 その後、ただ点を入れようともせず甚振られ続けて……それでも、決して諦めようとしなかった円堂を見た俺は、再びフィールドに立った。

 

 あの源田から一点を取れたのは運が良かった。奴が準備を終え、パワーシールドを発動さえできていれば……俺のファイアトルネードはゴールに突き刺さることはなかった。

 そんな男の新必殺技すら破った者は、一体どんなシュートを……。

 

「……その、習合の何人かの必殺技の動画があるんですけど」

 

「──見せてくれ」

 

「あ、俺も!」

 

 思わず円堂の前に入り、音無に詰め寄る。その後直ぐに円堂も俺の横に立ち、音無に求めた。

 答えは、彼女が持って来ていたノートパソコンにあった。

 

『ドライブアウト!』

 

 バンダナを二枚巻いていた選手が、豪快な回転で屈強な鬼道を吹き飛ばす姿があった。

 

『ツインブーストォ!!』

『──猪突猛進!』

 

 巨大な猪を思わせる一撃が、強烈なシュートとぶつかり合う。

 俺達の中では一番背の小さい少林。彼とほぼ同じ体躯の人間が、鬼道と佐久間の合体技を防いだのを見た。

 

『皇帝ペンギン二号!!』

『──雷鳴一喝!』

 

 空を飛んだペンギンに、天罰だと言わんばかりの雷撃が降り注ぐ。

 これまで見てきたどのシュートよりも凄まじい、映像越しでも分かる激しいシュートを、焼き尽くさんと雷を落とす男を見た。

 

『フェイク・フェザー』

 

 烏の羽が散らばり、いつのまにかボールは消える。

 途中まで見事に全員が騙された、巧みなフェイントを仕掛ける選手がいた。

 

『フルパワー……シールドォ!!』

 

 俺の知っているパワーシールドを遥かに上回る、堅牢な衝撃波の壁を見た。

 そして……、

 

『エンゼル・ブラスター──改!!』

 

 壁など知ったことかと、ありとあらゆるものを貫いていくような光弾を見た。

 俺が知っている誰よりも高く飛ぶ、天使と見間違う様な翼を2対携えた選手を見た。

 

 そいつが習合のエースストライカーだということは、声に出すこともなくわかる。

 ……これが、本当に始めて一月経っていない人間の動きなのか? 彼らの経歴を疑わずにはいられなかった。

 

「……これで、動画は以上です」

 

 静まり切った部室で、音無はパソコンを畳みそう言い切った。短い時間の中で何度も常識が覆され、頭は疲れ切ったと泣いてた。

 ……だが、引っ掛かることがあった。まだ一人、いるはずの男がいない。

 

「……いや、習合のGKがまだだ」

 

「染岡の言う通りだ。……動画はないのか?」

 

 そうだ、帝国を相手にパーフェクトゲームを達成した、習合のキャプテンが映っていない。

 彼の動画はないのか、そう染岡たちが尋ねると音無は申し訳なさそうに眉をひそめた。

 

「す、すいません……それが、習合のキャプテンが映っている動画は一個も無くて……なんでも、見ると『悪魔に呪われる』って怖がられて貼られないんです」

 

「──悪魔!? ヒィー! またオカルトっすかぁ!?」

 

 狭い部室が揺れ、埃が落ちる。

 悪魔という単語にいち早く反応した男、壁山の仕業だ。

 

 今回の野生中を相手に、重要な役目を任されている男でもあるが……その巨体に見合わぬ臆病さがあり、そういった話題にめっぽう弱い人間でもあった。

 

「落ち着けって壁山! 悪魔なんて存在するわけないだろ……」

 

「そうだぞ、呪いを使うとか言ってた尾刈斗(オカルト)中もインチキだっただろ?」

 

「ででででも、帝国相手に守り切るキーパーならももしかして……!」

 

 オカルト、と言えば帝国との練習試合の後にやってきた尾刈斗中の存在がちらつく。

 練習試合に応じなければ呪う、そんな脅しの手紙を送ってきた酷く怪しい連中だった。確かに試合が始まればいきなり足が動かなくなったり、染岡や俺の必殺シュートすらも止めてしまう恐ろしい実力を秘めていたが……。

 

 ……その実態は、監督すら巻き込んだ暗示を刷り込む戦法。決して呪いの類ではなかった。

 またそれなのか、と壁山を除き疑うメンバー達の前に、音無が一枚の写真を提示した。

 

 やや浅黒い肌に、立ち上がりバラけた黒髪。両腕に巻かれた黒い包帯がその存在感を誇示しているが……見た限りではまだ普通。それこそ、尾刈斗中に混ざっていても違和感のない男だ。ユニフォームやシューズの色合いがやや明るい事を除けばだが。

 これが、帝国を下したキーパーなのか?

 

「これも、ネット上で見つけた彼のファンクラブに連絡を取ることでやっと手に入れた一枚でして……。話によると、彼はこの試合で自分に宿る悪魔を見せ、他校を威圧。帝国との圧倒的試合と合わせる事で戦う前からその心を折ったそうなんです!」

 

 あぁ、それでまだ地区予選が始まってないのに全国大会出場とか書かれてるのか。

 どんな情報もお手の物、と普段なら自信満々に豪語する彼女がこれしかないという辺り、どれほど彼、織部というキーパーの情報が少ないかが分かる。

 しかし、そんな男がいるとは……。

 

 帝国どころか一回戦目も厳しい試合になる自分達は、仮に全国に行けたとして、敵うのか?

 言外の不安が、部室の中に漂うのを感じる。よくない事だ。どうにかして打開できないか、と一瞬思考を巡らせようとする。

 

「……す」

 

 しかし、そんな必要はないと気が付いた。

 そんな不安な声が漏れる部室に、灯りその勢いを増そうとしている火が一つ。

 

「──すっげぇな! こんなチームが出てくるなんて……俺たちも負けずに特訓頑張ろうぜ!」

 

 今までの話を受け、身を震わし、まだ見ぬ強敵の出現にワクワクを隠しきれていない男が一人。

 サッカーバカの男、円堂守だ。竦むどころか、「出来立てのサッカー部が帝国に勝利した」という事実が、彼の熱意に燃料を注いでいる。

 

「きゃ、キャプテン……」

 

「そのためにはまず目の前の野生中からだな! ぃよしっ壁山、今日も()()()()()()()の練習をやるぞ!」

 

 怯え身を縮こませる壁山の背中をバシバシと叩き、笑顔で励ます彼を見ていれば、不思議と何とかなる気がしてしまう。

 ……いや、何とかするんだ。円堂の様に諦めず、練習を続けなければ見えない景色と言うものがある。

 思わず自分の口元も緩み、笑う。

 

「そうだな……俺一人の力ではこのストライカーの様に飛べないかもしれない……お前の力が必要だ壁山」

 

 野生中に対してのキーとなるだろうイナズマ落としは、高く飛びあがり雷を落としたかと見間違うかのような強烈なシュートを叩き込む技。

 一人では成しえない、壁山を空中の足場とし更に飛ぶ必要がある。俺も頑張るから頼んだぞ、そう肩を叩き同じように励ました。

 

「ご、豪炎寺さん……うぅ……まだ怖いっすけど、頑張るっす!」

 

 俺達の声を受け、まだ小さいながらも壁山の瞳の中には確かな炎が宿ったのを感じた。

 きっとこれなら大丈夫だ。思わず円堂と目を合わせ頷いた。

 

「その意気だぜ壁山! ──それじゃあみんな、地区予選一回戦今日も全力で練習だ!!」

──オゥ!

 

 今度は全員の揃った声で部室が揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時は……そんな俺達の元へ、()がやってくるなんて思いもしていなかった。

 

 

「──サッカー、しようぜ」

 

 まさか、習合のキャプテン……織部長久がやってくるなど。

 




ラ ス ボ ス 登 場

嘘です((
50万突破記念として部長のキャラデザを作ろうと思い、依頼中。ふへへ楽しみだ



~オリキャラ紹介~

・謎のサッカーマスク一号 FW
 光陰如箭を巧みに操るマスクマン。高天原を抜け、今一度地獄より天を目指す。
 非道な技訓練に駆り出され既に死にかけ。

・謎のサッカーマスク二号
 少なくとも一号になり、まるで自分が主導して行ったかのように思われるのだけは避けたかった。
 実力が近く、必殺技を使えるキーパーとして主にFWたちから歓迎された。シヌゥ

・トールファンのマネージャー
 ダンベルとサッカーボール何キロモテる?

・メアファンのマネージャー
 推しシチュは誘い受けからの逆転シチュ。
 実は方向性の違いからメアファンクラブから追放された剛の者。

・部長ファンのマネージャー
 悪魔の筈なのに腐海を前にたじろいでいる。
 メアファンの子にカプの中に混ざるならアリと抜かしたら怒られた。
 


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君臨、河川敷の惨状! な日

 累計195位到達、本当に感謝してもしきれないほどでございます…!
お気に入り、評価、また誤字訂正報告、感想、ありがとうございます。
3回は読み直しているのにどうして誤字はなくならないんだろうか……


 それはそうと、ポケモンマスターズのアカネチャンの声がめっちゃ好みだったので私はミルタンクになりたいです。





 その日は、雲一つもない晴天だった。

 

 窓から校庭に視線を落とせば、各々の練習着に着替えた運動部たちが忙しそうにしつつも楽しそうに部活動に励んでいた。

 住宅街の近くにあるこの中学は中々に広く、決して東京にあるとは思えない程の広大さがあると言える。

 

──普段彼らはこのように学校から離れた位置にある公共の河川敷で練習を重ねておりまして、その際は近隣住民の方からは応援のメッセージもいただいております。

決して理事会で議題に上がりましたような不正薬物、虐待と言えるような訓練などといったものは……

 

──えぇ、もちろん私の方でもそのように考えております。

ただこの度は理事会の混乱も酷く、帳塚さん並びに習合サッカー部のみなさんに不名誉な噂が立つのも止められずに大変申し訳なく……、

また大会の棄権を申し出た東部近畿地区に在するサッカー部からは、動画を見て体調を崩したと訴える子がいることは事実であり……

 

「……ふぅ、これはまだまだ時間がかかりそうですね。キャプテンは何処へ行ったのか……」

 

 陳情をしに来たはいいが、挨拶と無実の表明をするとさっさと後は大人たちでと追い出されてしまった。正直父さんがいるより私が話した方がいい気もするが仕方がない。せいぜいここで雷門中の様子を見つつ会話の内容を盗み聞きすることしかできない。

 キャプテンは「……あいつらは、胸を張れることをしています」と言えたので気が済んだのか、理事長室から追い出されると何処かへ行ってしまった。フェルタンさんのお腹が空いたから購買に行くとは言っていたが……明らかに何処かへ寄り道をしている。悪目立ちする見た目をしているので、迷子になるという事はないだろうけど……。

 

「……しかし、今日はお忙しい中、お時間を取っていただき誠にありがとうございます。雷門さん」

 

「下の名前で構いませんよ。それに、今日は校舎改築のための資料を整理していただけですので……。

ところでそうね……帳塚、望さん。もしお暇であればそちらの部長さんのお話などを聞かせていただきたいのですが」

 

「雷門──いえ、失礼。夏未さん……」

 

 廊下に立つ私の隣にいるのは雷門中理事長──雷門総一郎の娘、雷門夏未さん。赤みがかった髪と吊り目が特徴的だろうか。丁寧に掛けられたのであろうウェーブも相まって、ザ・お嬢様と言える存在だ。

 一見ただの世間話のようにも思えるが……その実は、うちに対する探りだろう。彼女はキャプテン調べによればかなり雷門サッカー部に近しい人間。とある事情によって語るのも恐れられる存在となってしまったキャプテンの情報を少しでも手に入れようとしているのだろう。

 

 ……彼曰く、ちょうどあの試合後までは撮られると()()()()()()()()()状態だったらしい。今はその殆どをフェルタンさんが喰らいつくしたから偶にしか映らないとか……もう部長だけ別世界に行ってしまっている。彼、実はホラー映画の世界からやってきたとかいうオチはないのだろうか。

 思考が逸れた。さて、別段そんな悪魔が宿っていることを教えてもさほどデメリットはないだろうけどどうしたものか……。どうせ情報を渡すのならこちらも見返りが欲しいところだが……。

 

「(あれ、そういえばサッカー部が見当たらない……?) それもいいですが、こちらとしては是非雷門サッカー部のお話をお聞きしたいですね。

──出来れば、練習風景も拝見させていただきたいものなのですが……」

 

 私たちが帝国との練習試合に勝利する前に、帝国側の棄権で勝利した雷門。

 つい先日は地区予選一回戦では野生中を下しており、強力なキャッチ技「ゴッドハンド」を持つ部長、円堂守を中心とした彼ら。キャプテンの話では昨年の準優勝校のエースが今年加入したらしく、今ノリに乗っている話題性の高い男たち。

 しかし、元は弱小サッカー部……廃部寸前だったという話も聞いている。それゆえ、校庭も使えず河川敷にでも出ているのだろうか。ちょっとした親近感がわいた。

 そう言うと夏未さんはやや顔を悪く、苦虫を噛み潰したように歪ませる。ふふ、聞いた方が先にお話しすべきですよね。

 

「……彼らには今、基礎練習だけしかしてはいけないと伝えてあります。あまりに注目が集まり過ぎてしまっているので……」

 

「あ、あはは……そうでしたか。それは大変ですね……」

 

 そういえば校庭のあちこちに他校の生徒と思わしき人間がちらほらと。これは大変そうだなと苦笑する。話題を集めるのも本当に考え物だ。これでは雷門サッカー部も練習がしづらくてたまらないだろう。

 

「……他人事のように笑っているけれど、そちらは他地区からの偵察は来てはいらっしゃらないのかしら。公式戦0回で地区予選突破なんて、目立ちすぎにもほどがあると思いますけれど」

 

 あまりにわざとらしい笑い方を不満に思ったのか、やや砕けつつ強気な言葉をぶつけられる。これはいけない、怒らせる気なんてみじんもなかったというのに。

 慌ててこちらも訂正する。

 

「すみません……確かにそれらしき人は何人かいたのですが……」

 

「?」

 

 思い出すのは、河川敷で必殺技を練習をしていた時。恐らくはどこかのサッカー部であろう人がこっそりと覗いていた時の事。

 ……視線に感づいたのか、キャプテンがチラリとそちらを向いてしまった時の事。

 

「──みんな、キャプテンを見るといつの間にかいなくなっていて……」

 

 蛇に睨まれた蛙。まさしくそんな状況が何度も起きるうちに、誰も偵察なんてしないようになっていった。……人避けにとても便利でいい人です。

 苦笑し、視線を逸らす私を、彼女はどんな目で見ていたのだろうか。

 

 そんな時に視界の端で、晴天を覆う様に黒い雲が出来上がりつつあるのを私は見た。

 一雨降るのだろうか? 傘は持って来ていないから参ったなとこぼし……河川敷の方を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日はいい天気であった。こんな日にグラウンドを思いっきり走れば、心地の良い風を切っていい気分になれるだろう。

 そんなことが確実に思える日だった。けれど、どこか俺の心は浮かないどころか息苦しくなっていて……。

 

 次の相手に勝つためには必殺技を編み出す必要がある。

 けれど練習を見られ、研究されては意味がない。だから俺達は基礎に励むしかない。橋の上に並ぶギャラリーの視線の先で今日もみんな、河川敷で練習に取り組んでいた。

 今日なんて次の対戦相手、完璧なデータをもとに機械の如く精密な動きをする中学──御影専農がテレビ局の中継車と見間違うほどの設備で現れ……気に入らない、気分が悪い日だった。

 

「──何故必殺技の練習をしない」

 

 御影専農のキャプテンがそう言って、俺達の練習を邪魔して来るとは思ってもいなかったが……少なくとも、そこに好意はない。

 ただ、自分たちがデータを欲しがっているだけだと簡単に見て取れた。

 

「君たちのデータは既に網羅している。いくら基礎を鍛えようが無駄だ。……君たちの評価はD-、我々に勝つ確率は1%もない」

 

「御影専農のキャプテン、杉森 威(すぎもり たけし)だよな。試合はやるまでどっちが勝つかなんてわからないだろ?」

 

「──試合だと?」

 

 突然練習を中断させられ、やや語気が強くなっている円堂を前に、杉森は眉一つ変えることなく淡々と自分の意見を述べていた。

 もう一人の御影専農……エースストライカーである男がそこに割り入る。確か名前は下鶴 改(しもづる あらた)

 

「貴様らでは試合にすらならないだろう、一方的な……()()()()に等しい」

 

「──なんだとっ!?」

 

 下鶴の言葉に感情はない……少なくとも貶すためではなく、奴はただそれが事実だと認識していた。

 ……余計に、腹が立った。少なくとも、俺達はここまで必死に練習をしてきたんだ。立たない訳がなかった。

 チームのみんなもすっかり怒りを噴出させておりもはや一触即発。次に何か下鶴が言えば、染岡あたりが強制排除に名乗りを上げるかもしれない。

 

 

 ──風が吹いた。

 

 生暖かく、それでいてなぜか底冷えのする。いやな風だった。

 怒りで熱くなっていた頭を刺激し、俺の目をそちらへと向けさせるには十分だった。

 

 ……そういえば、やたらギャラリーが静かになっていたと思った。

 てっきり御影の奴らが押し入ったことにより静かになっていただけだと思っていたが……違った。

 

「お、おい……みんな、あっち」

 

「どうしたでヤンスか風丸さん」

 

 橋の欄干に集まっていた人はいつのまにか、すっかりと姿を消していたのだ。大事であろうはずのカメラすら置いて、まるで何かから逃げ去ったように。

 そうして橋からは誰もいなくなったのかといえばそうではない。

 ただ一人だけ、じっとこちらを見つめている男がいた。遠くにいてその詳細は分からないというのに……それを理解した途端、体中に悪寒が走った。少なくとも、アイツはまともじゃない。

 

──なんでも、動画を見ると呪われるって

 

 音無の言葉を思い出す、ああそうだ。きっとそれは事実だ。そうでなければこの体の震えはなんだと言うんだ。

 見える、見えてしまう……あいつの後ろに黒い何かが蠢いているのを……!

 

「──習合の、キャプテンがいる」

 

「っ!?」

 

 その言葉にいち早く反応したのは雷門ではなく、杉森だった。

 円堂からにらまれていたときは何も反応しなかった男が、冷や汗を流し奴を見て動かなくなる。きっと、奴も俺と同じ思いをしている。

 いつのまにかそれは伝染し……喧嘩の雰囲気なんてどこへやら。ただ、突然やってきた奴から目を離せず動けずにいた。

 

 ……やがて、奴は首を回し……しばし考え込むそぶりを見せた後、俺達の方へと向かってくる。

 その間、なにも発さず……一歩、また一歩近づいてくる。気のせいか、足音が地面に響いているようにも思えた。

 

 そうして……俺達の前に立つと、奴はこう言った。

 

「──サッカー、しようぜ」

 

 普段なら円堂が挨拶の様に言いまくっていた言葉の筈なのに、どうして俺達は……それが酷く恐ろしいものに感じて取れてしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……フェルタンの要望で食べ歩きしてたら、河川敷で練習しているサッカー部見つけたんだけど、いつのまにか絡まれた件について。

 いやしょうがないじゃん、しようぜ? って持ちかけたけどさ、みんな俺見て動かなくなるんだもん! ただ見学してただけなのに……へーやっぱ基礎大事だよなーとかほほえましく眺めてたのに。 

 まぁあれよ、商店街寄って大盛りメニューいくつか勝利してきたし、腹ごなしに練習ってのはいいと思うんだよ。こっちはそこまで練習は化け物チックじゃないし。混ざって練習するだけならいいよ、楽しそうだし。

 

「──君のデータもとらせてもらう」

 

 うん、まぁ観察するのはいいけど、くれぐれも動画とかには気を付けてね……たまに変な悪霊みたいなの映るみたいだから。

 ……でさ、なんで俺ゴールに立たされてるの?

 雷門の皆さんもなんで固唾を呑んで見守ってるんですか?

 

「覚悟しろ織部……長久!」

 

 えーとキミは……下鶴君だったか。なんで君はシュートの体勢に入ってるの?

 位置的に俺に蹴る気満々だよね?

 

──さっきの話を聞いていなかったわけではあるまい長久。単に三校合同のPK対決だ

──アメリカンドッグ食べたい

 

 うるさいよコルシア! 知ってるよ! 現実から少しでも目を離していたかったんだよ!!

 おかしくない!? PKって……うち今シュート役いないんですけど! 俺が守って俺が蹴るの!? 無理でしょ、超次元な奴らに勝てるわけねーだろ!

 今からでも学校に戻ってワタリ呼んできていいかな……駄目? いっそメアとか心の底で呼びかけたら飛んでこないかな。

 

──来たら地獄絵図になるだろ、やめんか貴様

──諦めも肝心だよナガヒサ

 

 来たら、じゃなくて来ないだろってツッコミが欲しかった! やっぱやめよう、今呼び掛けて反応されたら本当にホラーになる。

 

 あ、こんなあほなことで時間使ってたらもう蹴ろうとしてるよ下鶴君!

 やめて、せめてノーマル、ノーマルシュートでお願いします!

 

「──()()()()()()

 

 はい。

 知ってましたよ……君の必殺技だって調べてあるんだから。そうそう、ボールを高く蹴り上げて……空中で静止する。

 そしてその後、いきなり火炎が噴射して……加速し俺に迫ってくる。うん、まったく原理が分からん。

 

「──()()()()()!」

──よかったな、この間の百烈ショットよりかはまだマシそうだぞ

 

 いや今重りは20kg分しかないんですけど……旅行だからって気を抜きすぎていた。

 ははは、こやつめははは……少なくともあと四本これで、雷門の五本も受けないといけないの?

 

 

 

 助けて。

 

 

 

 

 

 

 




織部長久が現れ始まったPK戦、
御影の必殺シュートを防ぎ切るほどの強敵、俺達は勝てるのか?
……染岡,豪炎寺,壁山、お前たちが頼りだ! 俺もゴールを守り切って見せる!

次回、イナズマイレブン「龍呑む蛇」
これが超次元サッカーだ!





雷門「やべぇよやべぇよ」
御影「弱小校煽ってたらなんか来たよ」

的な話です

~裏話~
高天原中は実力が一定あったが故、心が折れました。
しかし、それ以外の中学の多くは……彼らの偵察なりが持ち帰った映像も合わせて、恐怖に支配され危険を感じ棄権を表明しました(激ウマギャグ)。

ちなみに今の長久君をとっても呪われたりしません。せいぜい家の中の果物が無くなってたりするぐらいです。
安心だね!


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竜喰らい龍宿す日

突然西日本に研修に行くことになった作者、慌てて準備していたのに行く数日前にやっぱりなしと言われ……次回、作者泣く。

嘘です

それはそうと、天河原中(てんがわらちゅう)と勅使ケ原(てしがわら)って語感似てますよね。
まぁ、あれだよ。仮にGOまで行けたら三国さんやばそうだなって




 物心ついた時から俺は走るのが好きだった。

 駆けて駆けて駆けて、自分の知らない世界へ冒険していく感覚がたまらなく好きだった。昨日の自分よりも速く、明日の自分に追いつく。加速し、また新しい自分に進化していく。

 

 そんな毎日を繰り返していくうちに、周りの人は俺を天才陸上少年と呼ぶようになった。悪い気はしなかった。俺は特別な存在なんだという

 走れば走るほど賞賛が集まって、人も集まりまた噂が大きくなる。未来は日本の陸上を背負うとかも勝手に言われていたが、まぁそうなるだろうと自分でも思っていた。

 俺にとって、速さこそが全てになっていった。速いものは素晴らしきことで、遅いものは価値がなくなっていく。

 

 そんな中で、日に日に速さを増していくこの俺こそが……世界で一番価値あるものになると信じ切っていた。

 

 ──あの日が来るまでは。

 

「──ぁぁぁあああ!! 足が……っ!」

 

──早く担架!

 

 石につまづいたとか、転んだとかではない。ただ何時ものように、自分の最高速に挑んでいた時の事だった。

 ブチッ、と何かが切れる嫌な音がして、俺の足は急に動かなくなった。

 少しの違和感の後、襲い掛かってくる激痛に悶え地面を転ぶ。

 

 周りにいた大人たちは騒然とし、同年代は何が起きたか理解しておらずオロオロとしていたことを覚えている。

 なにせ、俺も何が起きたか全く理解していなかったからだ。

 

 病院に運ばれやがて、俺の身に何が起きたか暗い顔をした両親から聞かされた。

 ろくにアップもクールダウンもせず、少し疲労が溜まっている時も気にせず走り続けたツケが来たのだと知って俺は悔しがりながらも反省した。

 そうか、なら次からはキチンとしよう。次こそは更に高みへと、まだこの時は希望を抱いていた。

 

 その後、手術が終わり、リハビリも難なくこなした。

 スパイクを履き、グラウンドに対し戻ってきたぞと宣言をし、走り出した。

 

 ようやく、俺はそこで自分の歪さに気がついた。

 

 体は戻っている。医者からは後遺症も残らないと聞いていた。

 だというのに、それだというのに!

 

 まったく、俺は遅くなっていた。あの日の最高速の足元にも及ばず、50mのラインを過ぎていた。

 わからなかった、何が原因だ。筋量の衰えも少しはあるのかもしれない、けれどここまで差が出るはずがない。自分の体が今出せるはずであろう最高速に達する前に、どこかブレーキが掛けられているのを感じた。

 

 何度も何度も走って、クタクタになっても……何が原因かはわからなかった。そのうちやって来た大人に諌められるまで走り続けてもわからなかった。違う、俺はもっと速い筈なんだ! そう叫び、引きずられても決してグラウンドから離れようとしなかったのを覚えている。

 風を切る感覚が、周りが遅く見える風景が、依然として大好きだった。脳裏に焼き付いていた。

 

 だからこそ、その状態に酷く腹が立った。

 

 俺は、全力で走ることが出来なくなった。

 人の噂というものはこれまた簡単に広まるもので、走れなくなった天才陸上少年は、一人になった。遅いものに価値はない、そんな価値観を持っていたからこそ当たり前だと思った。

 けれど知っていたはずなのに、走れなくなった途端いなくなった者たちに対しての落胆は抑えることが出来なかった。

 

 

 

 

「……俺はもう全力で走れん。期待には応えられない」

 

 やがて小学生という肩書きから卒業し、中学生となった俺に話しかけてきた奴がいた。サッカー部を作ろうとしている。お前もどうだ? そんなことを言っていた。

 全力で走れないならただ落胆されるのみだと、俺は一度それを断った。

 

 断った、はずだった。

 

「──俺は、お前とサッカーをするために話しかけた」

 

 ……よくもまあこの男は、素面でこんなことを言ってのけるものだと呆けた口をした。

 

 ……逆にこっちが酔ってしまって、気の迷いで俺はボールを蹴ることを決めた。そうして仲間が出来た。

 全力で走れないとしても、まぁ常人よりかはまだ速い方だったからか、やつらは俺の事をソニックと呼ぶようになった。

 速い速いと言われても自分の最高速を求められない、不思議な空間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「光陰如箭!」

 

 光となったボールが迫ってくる。いや、それは残像で次の瞬間には更に先にあるのだろう。

 俺はそれを知っている。感覚として理解できる。だから、だからこそ追いつけないことも理解している。

 自分の今出せるであろう理想の最高速なら辿り着ける。けれど、現実のスピードでは一歩も二歩も遅い。

 

 諦めるか? いいや、ここで通したらGKに一直線だ。つまり奴に負担を与えるだけ、それはつまらないから簡単に通すわけにはいかない。

 俺よりも速く動くボールに対して、いつのまにか芽生えていた対抗心がフツフツと湧き上がるのを感じた。

 今日この日まで、サッカー部として、ソニックとして、俺は走り続けていた。

 一人ならとっくに最高速に達せぬ自分に苛立ち、辞めていただろう練習が、仲間がいることで続けることが出来ていた。

 

 あの日の最高速などとうに超え、最高速一歩前の速さでも十二分に戦えていた。

 だからこそ、今この場で本来の限界に挑もうという気概が湧いていた。今なら行けるんじゃないかという、確証のない自信があった。

 

 一歩、二歩、踏み出して、速度の枷に辿り着く。

 なんたるものかと思い枷を壊す、

 

 ──壊そうとして心の手が奥底に触れて、気がついた。

 体が震え、足が痛みを訴える。周りの風景があの日のモノに勝手に移り変わる。

 当然幻覚、現実ではない。けれどそれらは、俺が最高速に辿り着けなかった意味を教えてくれた。

 

 ──あぁ、怖かったのか俺は

 

 突然走れなくなった恐怖と苦痛は肥大化し、本人でも気がつかぬところで根を張っていた。

 言わばセーフティ。二度と同じ怪我を負わぬように掛けられた保険だった。クタクタになるまで走れば余計に深層心理が働きかけ走れなくなる。

 人間として、生命として課せられた枷だったのだと知った。

 

 けれど勇気をもって、自信を持って探っていれば簡単に知れたのだろう。

 

「ふっ──」

 

 それが、今か。

 

「──フハハハハハッ!」

 

 この俺が、速くなることに怯えていただと!? 未来永劫の笑い話ではないかこれでは!!

 

 怒りが沸き立つ、愉快さも際立つ。

 破顔し、体の震えはエンジンの様に音を鳴らし加速を今か今かと待ちわびるものへと変貌する。

 今の今まで体を守ろうとしていた無意識を労いつつ、余計なことをするなと叱咤した。自分の体調管理は自分の意志でするものだ!

 

──ソニック

 

 俺は、俺を今この場へ誘い出した男に感謝をした。一人ならきっと知ることのなかった境地、これを教えてくれた者達への駄賃を支払わねばならない!

 今ここで、習合MFのソニックは! 名実ともに音速へとたどり着き──導いた貴様に追いついてみせる!

 

ストーム

 

 枷を踏み砕き身を屈め、前へ飛ぶ。地を蹴り出した音すら置き去りにし、空を駆け抜ける。追いかける風を引き連れ、ボールを覆い囲む竜巻を起こす!

 上から見れば、円を描き高速で走り抜ける俺が見えるやもしれん。目にも止まらぬ早業というやつだがな!

 

「──ブリンガー!!」

 

 突き抜けようとしていた光の矢はたちまち暴風の檻に閉じ込められ、巻き上げられ勢いを失い俺の足に収まる。

 流れる風に身を任せ、緩やかに着地を決めた。……まあ、及第点だな。

 さてさて、この技に対する感想でも奴に聞いてみるとするか!

 

「どうだ、これがこの俺の必殺技だ! 見たか部──」

 

「……」

 

 拳を高く掲げ、真の完全復活だと言わんばかりに叫びゴールを見た。

 ……けれど、そこにいたのはあの男ではなく、青い覆面をした……二号。度重なる練習ですっかりくたびれており、まだシュートが届かないことに気がつかず呆けていた。

 思わず首を戻せば、これまた膝に手をつき肩で呼吸をしている一号。

 

「……ソニックくん、リーダーは東京に行ったんだって……忘れちゃってた?」

 

 言葉を失っている内に反対側でドリブル練習をしていたメアが揶揄い、声をかけてくる。

 そうだ、今は単なる練習だった。何故か心が燃え上がりうっかり試合中の様な熱さを……。

 

「……ふはは! 遠くより見ているか部長!」

 

 俺は、とりあえず笑って誤魔化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんかソニックに呼ばれた気がする。っていう体でこの場を切り抜けらんないかな。

 駄目? 駄目か……もう右手が限界なんですけど。パトリオットシュートさん、真正面から殴りつけると爆発しやがるんですもん……。そもそもパトリオットって確か対空用の奴だよね……なんで地上のキーパーめがけて飛んでくるんですかね……。

 二発目からはもうやぶかぶれで握り拳振り落として地面に叩きつけてました……おかげでグラウンドボロボロだよ。誰が整備するんだこれ。

 

「……五本、止めたぞ」

 

「……協力感謝する」

 

 そんな感情のない顔で感謝しないでよ下鶴君。というかよく考えたら年上だから下鶴さん。一本目は感情はともかくもうちょい気合入ってたでしょ。

 あれか、三本目あたりから「どの角度が一番弱いか」とか計算し始めてたもんな。打ち破るの目的じゃなくなってたもんね。流石は最新設備によるデータサッカーチーム……けどね、俺もうボロボロなのにそれ察してない時点でちょっと怪しいよそのデータ……。

 

──御影専農のあんな必殺シュートを片手で……! あれが悪魔のキーパーって訳か……スカしやがって。この俺がぶち抜いてやるぜ!

──その自信は何処から湧いてくるんだ、染岡……

──んだよビビッてんのか風丸!

 

 違うんです雷門の……確か点取り屋さんとか異名あったっけ、染岡 竜吾さん。スカしてるんじゃなくてこれはHP瀕死による最期の微笑み的なモーションなんすよ。それはそうと見た目怖いっすね、グラさんが日本ヤクザだとしたら染岡さんはイタリアンマフィアっぽい風格ある。

 吹っ飛ばしてやるってシュートでってことですよね? ……そもそもシュートで人って吹っ飛ぶか普通?

 

──まだ情報はすくないが、現段階で確実なことのみ抽出しても評価はA+……

 

 そして味方のキーパーである杉森さんも乗ってきた車に乗り込んでカタカタパソコン動かしてないで……キーパー役代わって……。というか土手によくそのでかい車で入り込んだね。

 あと今撮った映像大丈夫? フェルタンとか映ってない?

 

──安心しろ、撮られていると分かれば我々も迂闊に映らぬ

──そーそー、いろいろ動けるのは楽しいんだけど扉開く感覚めんどいし~

 

 さいですか。

 さてと……俺はベンチに戻ってゆっくり休ませてもらうとするよ。……うぅ、足が重い。帰省した時に起こりうるかもしれないメアの襲撃用に重りなんか付けてくるんじゃなかった。

 でもこれないと御影のシュート防げなかったろうし……まぁよかったのか。

 えーと御影専農の攻撃は終わったけど、次は雷門がシュート役。御影が防御かな。

 御影のGKはかなり強いけど……今回のルールはお互いの強さ確認的意味合いで合体技も蹴る人の重複もありだし。雷門には合体技があるらしいからそれ使えば……ワンチャンあるかも。

 

 ……あれ、なんで下鶴さんがパソコン操作に加わりに土手を登って行ったのに杉森さんは降りてこないんだろう。おーい、出番ですよー……。

 駄目だ、カメラしかこっちに向けねぇ。くれぐれも何か映さないように注意な。

 

「──よぅし、次は俺達の番だ! 一番目は任せたぜ染岡!」

──染岡さん、ファイトでヤンスー

 

「任せろ!」

 

 ……あれ、俺もしかしてキーパー役続行なんですか? 今疲労困憊なんですけど。あれか、周りからは余裕綽々に見えるからこのままやっちまえってことか。

 声を大にして「疲れてます!」って叫べる人間になりたかった……格好悪いからしませんしできませんけども。

 

「……御影の奴らみてぇに簡単にいくと思うなよ!」

 

 落ち着け俺。雷門は確かに知名度急上昇中のチーム。その成長力は計り知れないものを感じるが、帝国より上なわけがない。

 つまり、下手をすれば御影よりも下の可能性もある……! ここを耐えれば勝負はまだ分からないから……御影とは引き分け確定したから帰りたい。御影と先にやってもらって、雷門が御影に負けたら習合=御影>雷門の式になるわけだからやらなくて済む……!

 でもそれは起こりえないifなんだよなぁ。

 

──……どこか、並行世界のどこかに悪魔も宿さず平和にサッカーをしているお前がいるかもしれん。だがそれは夢物語でしかない。

 立ち続けるのだ長久。ここまで来たら倒れることも許さんぞ。せいぜい仮契約の対価として苦痛を捧げるがいい。……それとも今、真なる契約を──

──美味しそうな気配……!

──……フェルがいる限りまともな契約が結べる気がせぬな

 

 美味しそう? フェルタン、頼んでもパトリオットシュートには見向きもしなかったのに……あぁ、確か目の前の染岡さんは動物系必殺技持ってたね。確か名前はなんだっけ。

 練習試合の尾刈斗中はもちろん、校風でデジタルなもの排除しまくってる野生中との公式試合の映像も手に入らなかったからなぁ。詳しく調べた感じ名前はなんちゃらクラッシュとか……。似たような技が昔の記事にあったけどそれもほとんど噂話で碌な情報なかったなぁ。

 ……やばそうな技じゃありませんように。

 

()()()()──」

 

 左足を踏み込み軸にして、思いっきり右足に力溜め込んで……ああそうだそうだドラゴンクラッシュだった。

 おおすごいなぁ、まだ蹴ってもいないのに背後に蒼い竜が……腕もないシンプルな一本竜が見えるよ。中華系統の髪が生えている奴だね。

 いやぁ見事見事……強そう。

 

──クハハ! これはいい体になりそうだ、しっかり取り込めよ我が契約者!

「──()()()()()!!」

──おっ、トロアっちおひさ~

 

 え、なんで急に別の人の声が……取り込め? 契約者とか呼ばれても契約結んだ覚えがないんですけれど。押し売りは困ります……。

 それとフェルタンも急に前の文字で会話し始めないで……翻訳し辛いから。この新しい子はトロアっていうんですか? へーもしかして知り合い? というか交友関係広いねフェルタン。こうなるとコルシアが逆に交友関係が狭いと考えるべきなんかな……?

 

──いや、こいつなら分かるが……そんなこと気にしている場合か? 貴様

 

 ……ってそうだよ!!

 今目の前に蒼い竜が口開けてこっちに喰らい付こうと迫って来てるんだよ! 新人さんいらっしゃいしてる場合じゃねぇんだよ!

 分析しろ俺のトゥルーアイ!

 

 ドラゴンクラッシュ……右足に込められた強力なキック力から繰り出される、速さと貫通力を兼ね備えた一撃か。

 ……威力はパトリオット並? コースとか角度を微調整できるのがあっちの良さだとしたら、こっちはスピードで防御の隙間を潜り抜けてゴールに突き刺さるタイプだな。

 

 光陰如箭と比べたら速度はない。エンゼルブラスターと比べたら貫通力もない。未熟だからこそ、これからどう進化するかがいろいろと想像できるな。

 ……よし、まだ期待の注目校レベルを逸脱しないレベル。けれど弱いわけでもない、可能性を感じさせるいいシュートだ。

 

 ……明日の練習では上二つを受け切んなきゃいけないのか俺。帰りたくねぇな……。

 ともかく、これならなんとか止められるか……? よーし覚悟を決めろ俺。腰に力を入れて、踏ん張れよ……。

 

 拳をぶつける狙いは竜の鼻先、から少し下に逸れた顎の位置。竜には逆鱗があるとはよく言われるが……前に突き進むこの一撃には、斜め下方向からの一撃で衝撃をずらすべきだと判断した。

 少し体を屈め、竜の下に潜り込んで右手を振り上げる!

   

「──フンっ!」

 

「──なんだと!?」

 

 ──っ(つう)……!? 思いのほか進行方向以外にも力ありますねドラゴンさん!?

 逆に光陰如箭が真正面以外に弱すぎたのか……? 頭突きで逸らすとか考えなくてよかった……間違いなく噛みつかれてるよ俺。

 ……くっもう少し力が入ればずらしきれるのに……なかなか飛ばない! 下手すると押し切られるぞ!? やばいやばいどうにかしないと。

 

「──フェルタン」

──わーい! いただきます

 

 臀部からすべすべとした感覚が現れ、伸びる。少し力が抜けるからなるべく肌に擦れない方向性でお願いしたい。

 次の瞬間には俺の顔の横を黒い蛇が通り過ぎていく……最初見た時よりちょっと大きくなった? 成人男性のより太くなっているような……うわ、めっちゃ口開いた。顎どうなってんのそれ? 脅威の拡張性。

 そのまま蒼い竜を……飲み込んだ。すごい、お腹ン中膨らんでツチノコみたい。あ、消化した。早っ。

 

 ……俺サッカーしてるんだよな? うん、ほら勢いが無くなったボールがその場に落ちたし。

 ほら、これで一本目終わったから……。うん、雷門とか御影の皆さま……そんな目で見ないで。ほら、人畜無害な蛇だから。確かに悪魔っぽいなぁとは最近思って来たけど今の所暴飲暴食と腕の治療をしてくれるいい蛇だから。

 

「俺の、ドラゴンクラッシュが……喰われた!?」

──……な、なぁ今のって

──ひぃ~~っ!! 出たー!!

──うわっ、暴れんなよ壁山!

 

 壁山君と言われた子がベンチで跳びはねたせいで雷門ベンチが地獄絵図になってる……。

 ……まぁ、明らか必殺技じゃないしビビるわな。消化し終わって元のサイズに戻ったのにまだ肩に首おいて舌チロチロしてるし。一つの生命体としているのが分かりやすいよね。

 ええと、どうしようかなこれ。なんかいい意見ありますか私の頭の中の悪魔さん達。

 

──プリプリの弾力のあるお肉……でもあじわいは淡泊。スパイス求む

──あと2,3本受ければ顕現まで行けるか……? よしそのまま喰らうがよい!

──……まぁ、続けるしかないだろうこれは

 

「……2本目、来い」

 

 いやーコルシアは頼りになるなぁ……ちくしょう。

 もうさっさとやって絶対帰ってやる……シュートなんか蹴らずにな! 絶対だぞ! で、次はだれが蹴るんだ!? 染岡さんか? それとも今さっきすごいジャンプ力を見せた壁山君か!?

 

「──あぁ、いくぞ」

 

「頼んだぞ豪炎寺!」

 

 あ、昨年準優勝を果たしたチームの炎のストライカーさん……居ましたね貴方。

 ……その、お手柔らかに。くれぐれも代名詞のファイアトルネードとかはやめて……アッ駄目ですね。完全にその体勢に入ってますね。

 記憶にあるとおり、今よりキレを磨いた回転で上昇していく……摩擦から生まれたのか、至極熱そうな炎と共に渦を描いていく。

 

「──ファイア

 

 ちなみになんだけどフェルタン、炎って食べられる?

 もし大道芸のインド人が如く食べられるなら食べて欲しいなぁって。

 

「──トルネード!」

──無理

 

 そっかぁ……無理かぁ。

 

 

 

 助けて!!

 







 オリジナル原作でメンタルクソ雑魚三下レズ小説とかありますかね。読みたい。
「〇●様よ~ギルドからたんまり金貰ってんだろぅ? どうかこの憐れな盗賊紛いの女にお恵みを~」とか揶揄ってくるくせに
「ただ渡すのは難しいが、君の力を貸してくれれば相場より多めに出そう。君の力が必要なんだ」って言われると
「──へ、へーふ~ん。ま、まぁしょうがないなぁ~」ってデレる奴。でも決して根元が浄化されるわけでもなく定期的に英雄思考から反した「自分さえよければ」論は振りかざす。でも反論されると泣く。

 ないんですか?
 作者は泣いた。



~オリキャラ紹介~

・ソニック MF 7番
 元陸上界の期待の卵。ソニックくんがこの場にいた場合、風丸が「あいつは……」的な感じで円堂君にソニックくんの過去を教えてくれる。
 一度手術する羽目になり、傷跡が気になるのか着替えの時はマキマキタオルの民。

 本人曰く自分の最高速に辿り着けなかったらしいが、練習から察するに十二分に速いぞこいつ。超次元的訓練でも問題がないため、もう怪我による退場とかは起きないだろうという安心感がある。

・トロア
 押し売りセールスマン。フェルタンとは仲良し。
 コルシア・エマは序列的に下。
 素質がありそうなやつがいたので憑いたら知り合いがいたので楽しい。


~オリジナル技~
 
・ストーム・ブリンガー ドリブル・ブロック技
 目にもとまらぬ早業で円を描き竜巻を起こす。中心にいるボールor相手を巻き上げ進む。
 それなりに強い。


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罅が走る日

ゼロワンが楽しすぎて小説が進まない(懺悔)
ゼロワン二次創作でプログライズキーをICカードに変更し、お金を払って変身する成金ライダー誰か書いて(ハート)

それはそうと、こういう事書いてると偶にメッセージ欄に本当に書いて送ってくれる方がいて惚れそう。

今回は珍しくギャグ回

※活動報告にて、チームキャラ+悪魔ーズの設定とか色々をば公開。妹の真名とか公開されてたり、フェルタンの名前の由来とか色々。




 グラウンドで練習を続ける皆、それを土手に腰を下ろし見下ろした。

 竜巻が起こり、光の矢は又再び飲み込まれその明かりを無くす。

 これで捉えられたのは五本目、竜巻を起こせるようになったソニックさんの成功率は70%。光の矢は放たれ続けて()()()()()。音速と光速の対決ならば光速に圧倒的利がある。

 

 それでもこのように拮抗しているのは偏に、一号の疲れと実力が不足しているのが原因か。推察し、まぁどうでもいいなと放り投げた。こんなことじゃないですかーと兄さんに尋ねる会話の材料としてだけ使う予定だ。

 

──……次で、さ、さい後……だ

──クハハハッ! どうしたどうした一号、最初の方が速かったぞ!!

 

 ……なんで人間がその速さを思わせるレベルにまで達しているんでしょう。まぁ実際二人ともしっかりと測れば音速に達しているわけではないのが丸わかりなんですが……。明らかに速すぎますよね。

 実はあの方たちも悪魔と契約してたりしないのでしょうか。なさそうですね、感じ取れませんし。

 

──その程度では我らが部長の守りを崩すなど夢のまた夢ではないか! 貴様も速さを追求するというのであれば、腑抜けた弱さを見せてくれるな!

──……! あぁ、そうだ……この俺は弱さを見せないと誓ったのだ……! この程度の地獄で折れて……たまるか!

 

 悪魔と言えば兄さんの体の中。コルシアさんは私が送り付けたからいるのは当然として……なんでフェルタンさんがいるんでしょうか? まああの人?のことですから散歩中に入ったとかそんなんでしょうけど……ここしばらくは姿を現したなんて情報は誰からも入ってきてなかったのに。

 しかもあの兄さんの目、恐らくまた誰か……しかもかなり階位の高い悪魔が憑りついてますし……コルシアさんに番犬をお願いしないといけません。まったく、駄犬の扱いには苦労させられます。

 しかし、しかし……

 

「そんなに大量の悪魔を体に入れても何ともないなんて……今回の兄さんほんっ──とうに最好ですっ!」

 

 前回の兄さん()()は、私という存在に怯えあろうことかこんなにかわいい妹がいるというのに他の女に手を出そうとする不届きものでしたが……今の兄さんは悪魔相手であろうが何も動じない精神力があります。そして他の女を寄せ付けない風格もあり、泥棒猫が寄ってくるなんてこともないでしょう。

 それはつまり、私が迫っても受け入れてもらえるということ! あぁ……完璧すぎる兄妹、それらは二人の体が成長するにつれ性の知識を芽生えさせ……! 今の兄さんの体なら後三,四年……高校2年生辺りになったころが食べ頃でしょうか。その為にも今は二人で仲睦まじい関係を構築して……楽しみです。

 

「……うーんメア様と一号さんのカプは微妙か、ソニックさんとの方が正当……やはり時代は天×魔からの逆転攻め堕ち……」

 

「ほとばしる汗、蒸れるマスク…酷使された肉体美……」

 

「……その、お二人とももう少し自嘲──失礼、自重した方が。あと兄さんでそう言う妄想は貴方の頭の中でだけにとどめておいてくださいね……?」

 

 隣でカメラのシャッターを下ろし続けている腐人と、練習で動き回っている皆をスケッチしているプロテイン信者。この二人が同じマネージャーと言うのはあまりにも……いや仕事はきっちりしてくれるから責めるに責められないんですが。 

 というか前者は本当になんで入部が許可されたんでしょう……? 兄さんにまさかそっちの気がある……? いいや流石にそれは……ない、はずです。

 

──リーダーに会いたいなぁ……折角今日はシュートの調子がいいのに

──ん、なら帰りに駅で出待ちでもしておくか? メアのためってよりかは、今日の練習の報告しておきたいし

──いいね! 賛成賛成!

 

 ……帰ったら問い詰めましょう。

 確率はゼロにも等しいものですが、ソドムの人々の様な気質が万が一でも混じっていたら大惨事です。流石に私も弟にはなりたくありませんし。危機の芽は摘み取っておくのが吉なのです。

 ……そうこうしている内に、スカートのポケットに入れていた携帯端末が振動します。要求しておいた兄よりのメールです。

 

 時刻は丁度前回から一時間ほど経っています。律儀です、流石です。

 自然と頬が緩むのを感じます。さてさて、そろそろ向こうの理事長とのお話はまとまったのでしょうか……。兄さんのメールは、会話とは違って丁寧な言葉遣いになっているのでそのギャップも一つの楽しみです。

 何々、『雷門中、御影専農中とPKをすることになりました』そうなんですか。

 

「……えっ?」

 

 ……どうして単に話に行っただけでそんなことに。 今回の兄さんは完璧ではありますが、どこか天然なところもありますね。ふむふむ、練習風景を見てたらいつのまにかに? 強い人を見つけたら勝負をしかけたくなる男の子のサガなのでしょうか?

 首をコテンと傾げ思い、この情報を皆に共有することにしました。

 

──さぁ……これでどうだ! これが俺の進化した必殺わ──

「──みなさーん、兄さんからメールが届きましたー」

 

 おっと、一号さんが何かまた光を集めていましたが……まあいいでしょう。

 そんなことより兄さんです。一に兄さん二に兄さん、三四も兄さん五も兄さん。妹ならば当然ですよね。

 ……どうしました一号さん、そんなにしょぼくれた顔をしながら地に倒れて。無理のし過ぎですか? 無理はいけませんと兄さんがいつも言っているでしょうに、仕方のない人ですね。

 

「……まぁ確かに無理のし過ぎはよくないかもしれんが貴様今のは……」

 

 え、ソニックさんもどうしましたか。

 まぁまぁほら一号さんに肩かしてあげてくださいな。今から兄さんから届いた大事なメールを見せてあげますから。

 まったく、マネージャーとしての仕事もしなくちゃならないのは大変ですね。

 

「──それで、リーダーは何て!? いつ頃帰ってくるのかな!」

 

 メアさんだけこっそり排除できませんかね。出来ないでしょうねはい。

 ……大人しく、私はメールの内容を事細かに伝えつつ……対決することになった御影専農、雷門の情報を公開することにしました。

 

『ps: トロアって言う人が頭の中に出てきたんだけど、エマは知ってますか?』

 

 ……追記の部分は無視しました。えぅ……なんでよりにもよってまた立場が上の人が!! しかもかなりの問題児の人です……フェルタンさんよりも面倒具合が大きいです。

 ……どうにかして悪魔払いの方法を習えないものでしょうか。悪魔ですけど私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 右手が燃えるように熱い。なんでだろ。

 今さっき燃え盛るボール止めたからだね。うん……ファイアトルネード……螺旋を描き飛んだ力がボールに乗り、飛んでくる猛り燃やし尽くさんとするボール。

 威力はどうだろね……熱いと痛覚鈍くなるから分かんなくなる。エンゼルブライトの時よりかは熱量はないかもね。……ちょっと足が浮きかけてビビりました。

 流石ですね昨年準優勝校エース……なんで転校したかはわからんけど。確か決勝戦の試合にも出てなかったよね。なんか部内でいざこざあったんかね。

 

「ファイアトルネードも通用しない、か……」

 

 いや深刻そうにみないでください。多分元々コルシアが入っていたグローブのおかげですよこれ。じゃなきゃグローブ焼けてた気がする。流石に灰になって風化したりはしないだろうけどさ……。

 で、後三本なわけだが……。

 

──ドラゴンもう一本求む、ナガヒサが言ってた合体技の奴!

──いいぞ、凄まじきものをその両眼で多く見ろ……それこそが妾への捧げものとなる! そろそろ顕現したいからさっさと次をよこすのだ!

 

──……この二柱だけをどうにか取り外しできんものか

 

 合体技、あぁ今さっき蹴った二人が協力して使う必殺技の話か。確かドラゴントルネード、だっけか。ドラゴンクラッシュで打ち上げたボールをファイアトルネードでさらに勢いを増して……って技。尾刈斗中との試合で大活躍したらしい。野生中との試合はどうなったか知らんけど。

 ……いやだよ!? なんで今の二本だけでも泣きそうなのにその上さらに強力な技受け止めなきゃならんのさ!? 止められる気がしないからな!

 

 そもそもPKって一回蹴ったらアウトだっけ? あれ違ったっけ……昔そんなルールあった気がするけど変わったんだっけか。

 まぁいいか。どうせ必殺技は飛んでくるよ何処までも。そして今回は特別ルールで必殺技もアリだから、ドラゴントルネードも出して全く問題がないという訳だ。

 

 ……撃たないようにお願いできないかな。よーし染岡さんに視線送ってちょっと話しかけ──

 

「……まだだっ、いくぜ豪炎寺!」

 

「……ああ!」

 

 あ、視線逸らした瞬間に煽られたと勘違いされちゃった……違うんです、出来ればもうやめて……豪炎寺さんも「あれ死にかけてない?」みたいなことに突然気が付いてもいいから指摘して……。格好悪いから認めないけど。

 駄目? あ、駄目ですね。既に染岡さんが蹴る体勢に入ってますね。豪炎寺さんも高く飛び上がろうとかがんでいる。辛みが深し。

 フェルタンよかったね……よかったから今度は止める前に捕食とかしてくれないかな。立食いみたいで行儀悪いのかもしれんけど、絶対に怒らないから。ね?

 

ドラゴンッ──!」

──やー

 

 そんなご無体な。ああ駄目だ、蒼き竜が天を昇る。

 鯉が滝登り達成して竜になる瞬間って、あんな感じなんかな……いやそもそも鯉は竜にならんけど。

 

「──トルネーッド!!」

──よき炎だ! 契約者よマジマジとその眼で観察するがよい!

 

 豪炎寺の炎が加わり、蒼き鱗は炎鱗となりて火の粉を散らす。より凶暴さを持った竜が今、俺を食い殺さんと迫って来ていた。

 

 ……言われなくてもしっかりみてどうやったら死なないか考えてますよトロアさん。

 どうすっかな、ドラゴン単体なら逸らして難をしのぎたいが……トルネードの力が加わっているせいでそうもいかない。迂闊に横からパンチを入れても、回転する竜に飲まれそのまま吹っ飛ばされるぞこれ。

 じゃあ鼻先、真正面から殴りつけるか? ……威力がやばいからなぁ、少なくとも帝国の百烈ショットは越えている気がする。素のキック力とかは寺門さん負けてないどころか上だというのに、これが必殺技の差だというのか……。

 

──サクリファイスは使うなよ、我はまだ色々準備が出来ていない

──円熟ならぬ炎熟した肉の予感……絶対止めてねナガヒサ!!

 

 そうでしたね、流石に俺も残り2本残ってるのにサクリファイスしたくないです。そもそも何もかかってない単なるPKで何してんだろ俺……。

 せめて相手が俺を習合の奴と気が付いていなかったら……恨むぞ風丸さん。今すっごい息呑んで事の成り行き見守ってますけど。

 

──いや片目黒白目で腰から蛇生やす一般人なんていないだろ。遅かれ早かれバレるわ

 

 コルシア、ハウス! というかお前そんな態度とっていいのか。さっきは使わない宣言したが、やばそうになったら俺の両手犠牲にしてでもつかうぞサクリファイス。

 今は……自分の肉体の少しばかりの頑強さにかけるしかねぇけども!

 

「──こいっ!」

 

 膝を軽く曲げ前傾姿勢、両足に力を込めてつま先を杭にする感覚。

 深呼吸を一つ、熱せられた空気が肺に入り少しむせそうになる。

 両腕を限界まで後ろに引き出し……まだ炎の名残残る両手を固く、硬く握り締め……竜の鼻先に叩きつけた。

 

 

 

──ピキッ

 

 あっ右手にひびが、助け──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かが壊れる音がした。骨が折れてしまう様な音。

 それが何かを理解したのは……俺たちの必殺技が打ち砕かれる様を見てのことだった。

 

 竜の牙が折られたのだと、理解して理解が出来なかった。確かにドラゴントルネードは強力な技とは言え、全国で必ず得点できるかと言えば厳しいだろう。源田のような強いキーパーであれば、必殺技で防がれていてもおかしくはない。

 しかし、目の前のこいつは……単なる両手のパンチングで防いで見せた。そこに必殺技はない。名前を言っていないから、とかではない。あの場から発された衝撃が、空気が俺達にそう伝えてきていた。

 

「──フェルタン」

 

 鼻を潰され伸びようとしていた竜を、またもや奴から出てきた黒い蛇が、大口を開いて竜を飲み込んだ。

 大蛇と呼ぶにふさわしきそれは、綺麗に尻尾まで体に含めると……舌なめずりをし、霞みがかるように消えていく。

 撫でようとでもしたのか、織部はそれに対し右手を伸ばしかけ……消えるのと共にひっこめた。

 

「……いいシュートだった、全国でも十分に通用する。

 

──続けるか?」

 

 白煙を上げる左手を見て、奴はそんなことをつぶやいた。

 今行われた事象を見れば、見え見えの世辞にもとれたが……謙遜ではないのだろう。つまりは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? と言っているに過ぎない。

 ……そんなことを言われて、愕然と膝を地面につける様なお利口さんではなかった。

 

「……当然だ」

 

「……そうか」

 

 少なくとも俺は、どうすれば勝てる? 次の瞬間にはそうした考えを張り巡らしていた。

 コースを狙って、なんてことで抜けるキーパーには見えない。万全のドラゴントルネードを受けて屁にも思っていない奴だ。下手な小細工では失望されるだけだろう。

 より強い、俺達の中で一番の一撃がいる。

 

「──壁山、準備だ」

 

「……は、はいっす豪炎寺さん」

 

 ……イナズマ落としも恐らく、止められてしまうだろう。これは威力よりかは高さを追求したものだ。ドラゴントルネードとほぼ同じ、もしくはほんの少しばかり上。それでは織部を崩すことはできない。

 必要なのは、出来上がったばかりの野生中を相手に完成したイナズマ落としよりも更に強い一撃だ。

 

「……」

 

 ……そう思った後で、チラリと御影達を見た。

 相変わらず、でかい機材でこちらの様子を余すところなく撮っている。こちらを見下した発言こそしたが、その情報収集に対しての姿勢は一切ブレていない。

 ……たとえここで勝てたとして、次の対戦相手であるこいつらにわざわざ新技を見せてしまうことになる。

 けれど、心の中で今もなお轟々と燃え盛る負けん気は全力で戦えと叫んでいた。

 

 ふいに以前、雷門理事長から渡されていた……必殺技の秘伝書の事を思い出す。

 40年前に、雷門中に存在していたという無敵のサッカーチーム「イナズマイレブン」。彼らの遺志を受け継いだ秘伝書、そこに書かれていた大技の数々を。

 理事長はひょんなことから、そのイナズマイレブンの監督をしていた()()大介からそれを受け取っていたらしい。

 

 ……そう、円堂。俺達のキャプテンである、円堂守のおじいさんだ。

 知らず知らずのうちに自分のお爺さんと同じ道をたどり始めていると知ったアイツは、瞳に収まりきらぬほど目を輝かせていた。

 

「円堂──」

 

 なら、いまこうして織部を前にしてどんな顔をしているのだろうか。

 そう思い振り向いてみれば……鼻息を荒くし、こちらの行く末を一瞬たりとも見逃さないとしているアイツがいた。そこには少したりとも怯えがない。想像していたとはいえここまでとは、思わず微笑んだ

 俺の呼びかけに少しの後反応して、「なんだ?」と表情変わらぬまま円堂は尋ねてくる。

 

「──五本目、試してみないか。御影に撮られてはいるが……()()を」

 

 途中まで言って、彼の顔を見て悟った。

 ああ、これは──

 

「あれ……──! ぶつけてやろうぜ……今の俺達の全力……()()()()()()!」

 

 関係ないか、そう思ってまた笑った。

 

 強大な壁を前に、俺達の心は最大限に燃えていた。




以下激闘

ワタリ「それでですねキャプテンがですね(まだ帰ってこないのか……)」
夏未「そうなんですね、うちの円堂君は(習合の人に帰ってもらわないとイナビカリ修練場の事を教えられないじゃない)」



~オリキャラ紹介~

・エマ マネージャー
 真名が活動報告でばらされた子。まあ本編で出す機会ないし多少はね?
 自分が一番マネージャーとしてマシだと思っている。しかし一番マシなのはプロテイン信者だ。
 コルシアを駄犬と呼んではいるが、お互い全盛期のまま殴りあったらコルシアと引き分ける模様。流石元暴力の化身。

 爛れた兄妹愛希望

・トロア
 一瞬で正体ばれた奴。
 自分勝手に契約するので真面目にヤバイ。凄まじきものを間近、寄って目で捉えることで力を増す。
 増したところで長久にそこまで恩恵はない。過去も未来もとくにみせてくれるわけではない(できないとは言っていない)


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雷落ちて風戦ぐ、やがて龍の産声轟く日+挿絵

前回の修正点
・トロワのキャラ紹介にて寄り目でみて、と書かれていたが実際は寄って目であった。寄り目でボールを見るナガヒサはいなかった。


──あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛゛ぁ゛ぁ゛゛ぁ゛゛ぁ゛゛!!

 

 聞き慣れた烏の声が聞こえた。

 それは普段私に夕暮れを、練習の終わりが近づいていることを教えてくれるもの。彼の鳴き声が聞こえれば、ああもう今日の練習も終わりかと寂しくなるものだ。

 ……いや待て、ここは東京。雷門中だぞ? 普段の河川敷ではないんだぞ。あのカラスがこんなところにいるはずがない。

 

「……」

 

「……? どうしましたか、急にきょろきょろとしだして」

 

「いえその……烏の鳴き声がして」

 

 夏未さんを前にしながらも私は、窓を開けあの黒く雄々しい翼を広げるカラスを探しました。

 

 けれどどこにもその姿は見えません、幻聴だったのでしょうか。いえそもそもあの烏は奈良に居て……やたら部長の近くにいることが多い存在。

 もしや、もしやですが新幹線に乗った部長すらも追いかけてこの地に来ていた? いや流石にそんなことは……そもそもあのカラス、本当にカラスなんでしょうか。

 蛇の姿をした悪魔を宿している辺り、カラスの姿をした別の何かなんじゃあれも……メアさんとかに伺ったらおおよその正体とかつかめないでしょうか。ああでもメアさんがカラスに対して気にかけていないってことは悪魔関連ではない? いや、うーん……。

 

「烏? そんなのはどこにも……あら、お話が終わったようですね」

 

「いやこれからも習合中とは仲良くさせていただき……おや、ずっと待っていてくれたのかね雷門くん」

 

「──いやこの度はお時間を取っていただきありがとうございます。……ああすまないね望、待たせたね」

 

 そんなことを考えている内に、理事長室の扉が開き笑顔になった二人が出てきます。

 公私を分け実の娘であろうと君付けで呼ぶ雷門理事長の隣にはもはや完全に家の中での顔になっている父……少々恥ずかしいです。

 とにかく、この様子であるならば不正の疑いの件は最早晴れたと思って安心していいでしょうか。委員会に視察を要求することも考えましたが、今は地区予選真っただ中でどこも人手不足です。

 

 来るまでの間にうわさが広がってしまう前に止められるのであればそれが最善でした。こちらも笑顔で迎えます。一先ずお疲れ様です、父さん。

 

「さて……帰りの新幹線まで少し時間もあるか。雷門の街並みを見て帰るとしようか」

 

 腕時計に少し目をやって、父さんはこんな提案をしてきました。

 ……まぁそれはいいですね。母さんにお土産を買わないといけませんし。人形焼きとかいいでしょうか。

 

 それはそれとして、

 

「その前にキャプテンの事を探しに行きませんと。どこへ行ってしまったのか……」

 

 話が長かったからと言ってうちの部長の事を忘れないでください父さん。

 それとも単にトイレにでも行っているとでも思ったのでしょうか。

 

「え、彼は一体どこに……」

 

「購買に行くと言っていたのですが……携帯で呼びますか?」

 

 普段なら携帯を持ち歩かない彼も、こう言った時には所持しているはずだ。ポケットから取り出し電話を掛けようとした時でした。

 

 ──雷が落ちたような小さな空気の振動が開いていた窓を通し伝わってきて、思わず携帯を落としてしまいました。

 いけませんね。

 

「おっと、大丈夫かい望……おや、メールが来ているじゃないか」

 

「えっ……本当だ。キャプテンからです」

 

 丁度それは父さんの足元に落ちて拾われます。そして指摘され……私はようやく、待ち受け画面にメールの通知が表示されていることに気が付きました。

 ……新幹線に乗った時、マナーモードにしていたのを切り忘れていました。振動にも気が付かなかったとは……不覚です。

 

 それにしてもキャプテンから……一体どうしたんでしょうか。まさか道に迷った……なんてことはないでしょうけど。

 首を傾げつつメールを開きます。

 

「なになに、ワタリへ……河川敷で雷門,御影専農とPKをすることになりました。これを読んだら加勢しに来てくれると助かります。

──えぇ?」

 

「なんですって?」

 

 何をしてるんだあの人は。大方部員集めをしていた時の様に「サッカーしようぜ」と誘ったんでしょうが……今のあなたの風評的にそんなことしたら喧嘩吹っ掛けに来たと思われてもおかしく……喧嘩しに行った? いやそんな血気盛んではありませんし。多分巻き込まれたんでしょうね。

 ……まさか雷門たちの力量を測るため? いやでもなぁ……少し納得いかない。そんなことしなくても多分あの人なら見てるだけで大丈夫でしょうし……そもそも何で外に行ったんでしたっけ。

 

 確かフェルタンさんがお腹を空かしたらしいとか……フェルタンさんって、帝国の必殺技を食べていましたよね。ペンギンをごっくんと。

 ……雷門にも今確か──あっ。御影専農はよく知りませんが、そっちも恐らく。

 

「……父さん、直ぐに河川敷に向かいましょ──」

 

 いや想像でしかないけれど、これが確かなら少々相手がかわいそうです。

 そう思い促そうとした時……私は自分の行動が遅かったことを悟りました。

 

『────ッ!!』

 

 遠くの、きっと河川敷があるのであろう方角に見えたのです。

 確かに……天すら喰らい付くさんと顎を開き牙を剥く白竜が産声を上げているのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰よりも高く飛び跳ね、一人では到達できない高さよりのオーバーヘッドシュート。

 そのためには空中で壁山を足場にし、()()()()のごとき一撃を蹴り落とす必要があった。

 だからこそ、本来のイナズマ落としである「土台の肩を踏む」という行為を進化させ「土台の強靭な腹を踏む」ことで更に高く飛ぶことが出来るようになったイナズマ落とし。

 

 ……それを、片手で止められるとは思わなかったと言えば嘘になる。

 むしろドラゴントルネードを真正面から止めてしまう腕力を持つ相手ならば……角度をつけたこの一撃をどうにかしてしまうんじゃないかと心のどこかで思っていた。

 

「──雷が落ちたと間違うな」

 

 上から降るボールを相手に、奴はパトリオットシュートの時と同じように叩き潰し対処して見せた。

 如何にボールの勢いが殺されなくとも、地面に突き刺さってしまえば……そう判断されたのだろう。埋まりながらも反射し跳ねてゴールに向かおうとするシュートにもう一撃、奴の右拳が叩き込まれボールは完全に殺された。

 

──どたっ、ドンッ……

 

 そうしてしばらくした後に、彼の体のどこに隠されていたのか滑り落ちるのは……大量の重り。

 紐で一つにつながれていたそれがフィールドに着いて、大きな音を鳴らした。

 目と耳で感じて軽く10キロは超えている。

 

「……なっ、あのキーパー()()重りつけてやがったのか!」

 

「あの量……あんなの付けていたらまともに動けないぞ……!?」

 

 土門と風丸がいち早く反応し、言葉を紡いだ。……また、という言葉に引っかかりを覚え……しばらくして帝国戦との記事に一行、彼が重りを付けながら前半帝国を相手取っていたことを思い出す。

 しかしPKが決まった時、彼が重りを付けているような動作は見られなかったという事を考えれば……彼はどんな時でも重りを付けているという事になるが……。

 これが、それが……帝国の猛攻を防いで見せた男か。

 

──円堂、何も強くなるためには必殺技だけじゃない。

パス回しを含めた連携、ドリブルやブロックなどのテクニック。それらを磨き上げることも、勝利に向かうためには必要なんだ。

 

 数日前、偵察の多さに必殺技練習ができないことに悩む円堂に言い聞かせた言葉を思い出した。

 この言葉は間違っていないはずだ。木戸川清修に居た時も俺だけじゃない、他のメンバーが強くなければ勝ち抜くことは出来なかった。……それでも、木戸川の皆は俺に頼っていた面もあったが。決して弱かったわけじゃない。

 必死で特訓して、体を鍛えて、そうして技に結びついたりもして……サッカーの強さとはそういうものなんだ。

 

 この男の強さは、そういったものが大きいのだろう。

 一見すると背後に見える悪魔に気を取られはするが……包帯が巻かれ如実にわかる腕の形、踏み込みの強さが分かるグラウンドに残る足跡。必殺技に頼らず、己の身でシュートを止めて見せるその姿。

 日々鍛え上げる、真に迫る強さ。それが織部長久を構築しているのだと分かった。

 

 ……だからこそ、それを超えようと思えば思うほど、圧倒される自分の底から力が湧いてくる。

 それはきっと、ベンチから立ち上がりこっちに歩いてきていた円堂も同じことだったのだろう。両手を握りしめ、気合十分とした表情をしている。

 

「……キャプテン、俺達の必殺技が……」

 

「ナイスファイトだったぞ壁山! すっげーなアイツ、ぜんっぜん底が見えねぇ! 全国に行けばアイツみたいなのがいっぱい出てくるんだとしたらもっと強くなんなきゃな!!」

 

「……いや流石に。それはどうなんっすかねぇ」

 

 ……俺もいっぱいは出てこないと思うぞ円堂。

 キャプテンの世間知らずと言うべきか、恐れを知らぬ態度に緩和され、壁山もゆっくりとベンチに戻っていく。その後姿を見送り、円堂に話しかけた。

 

「……円堂、例の秘伝書の通りなら……とんでもない脚力が必要となる。一発勝負、覚悟はいいな?」

 

「あぁ! 習合のキーパーに、俺達の全力をぶつけてやろうぜ!」

 

 ……敵わない、なんて気持ちはないのだろう。

 だからこそ、俺の湧いてくる力も更に強くなるというものだ。重りを左手で軽々と持ち上げ、ゴール端に寄せている織部を見……終えて構えるのを見届けた。彼方も準備万端のようだ。

 ふと、今奴はどんなことを考えているのだろうかと思った。

 

 その白黒の双眼は、こちらの動きを一挙一動見逃さないと少しもズレることがない。構えられた足は体重をしっかりと地面におろしており、どんなボールが来ても対応して見せるのであろう俊敏さを伺わせる。

 油断など一つもない。見下しているという感情も見て取れない。今まさに、織部は俺達を「相手」として捉えている。

 

 ……先ほど言われた褒め言葉も、決して傲慢から来るものではなかったのか? 不意に前の自分の考えを訂正しようとする感情が生まれた。

 

「……行くぞ、織部!」

 

「──これが最後だ」

 

 だから、最高の一撃にしろということか。

 ……当然だ、ボールを挟み円堂と並び立つ。そして、視線を合わせ両足に力を込めた。

 

 力強い頷きと共に、並び立っていた位置を交換。横に体を回しつつ軸を右足にして体重を乗せる。

 軸足に全体重を込め切った次に、その全てを左足に注ぐ。

 

「ぐっ……!」

 

 ──瞬間に分かった。これではまだ足りない。今の自分たちのキック力では、この必殺技を成しうるには届かない。

 

「ぐ、うおおぉぉぉっっ!!」 

 

 だからどうした。足りないというのなら、今ここで足せばいい!

 今の今までの自分の限界を、超える……この一瞬で進化する!

 

 これは、強力なキック力を持つ二人で放つツインドライブシュート。

 イナズマ落とし、ドラゴントルネードを超える、必殺技!

 辿り着かなければ、いや辿り着く!!

 

 

イナズマ──()()!!」

 

 二つのスパイクが一つのボールに集約するとき、イナズマ落としよりも更に強い雷が生まれた。

 血管が浮き出るかと思えたほど力を込めたシュートは今確かに、長き眠りから覚めて産声を上げる。

 そしてそのまま、ボールは風を切りゴールに一直線に向かっていく。

 

「いっ、けぇーっ!!」

 

「……そうか、ならば」

 

 叫ぶ円堂を、シュートの余韻で倒れようとする俺……自分に向かってくる必殺シュートを見てアイツは……笑った。

 嘲るものではない、どこかワクワクを隠せずにいる……円堂の様な笑み。

 

「俺も、()()()

 

 ──悪魔のキーパーと言われた男の真価が今、発揮されようとしていた。

 その内に秘める、蛇とは別のナニカと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……泣いていいかな。いや泣けないけども。

 イナズマ落としとかいう知らない技で右手にとどめ入れられて、唯一頼れる重りさんもバレて……この上さらに新必殺技とかなんなの。

 あと豪炎寺君たち、蹴っている瞬間に力増しました? 実は二回目のファイアトルネードの時から段々脚力強くなっている気がするなぁって思ってましたけども。一分一秒で強くなっていくとか漫画の主人公かよって思っちゃいますね。

 えーとそれで、これが俺達の全力だぞ! って言われちゃいましたね。

 

「俺も、全力だ」

 

 とっくにな!! 一発目の染岡さんの時から全身全霊だったわ!!

 もう足がガクガクし始めている気がするもん。重り外れたから楽になったけど、その分僕を地に縛り付けてくれる重みが消えましたもん。

 

──これも食べたくないー

──いいぞ、いいぞ! 妾の力がたまっていくのを感じる……!

 

 あ、トロアさん標準語喋れるようになったんすね。一人称妾はこの時代中々挑戦的。

 ……力溜まっているんでしたら今この場を何とかする力とか貸してくれたりとか。

 

──あぁん? まぁ待て……顕現まであと一歩なのだ。力を貸すのはその後でもよかろう。それよりいいのか、早く止めんでも

 

 今欲しいんですよその力……。もらえないの薄々分かっていたんですけどね。

 よーしよーしお兄さん、頑張って止めちゃうぞー。右手はヒビの後気にせず振ったからもう完全に折れましたけど。まだ頭と左手と両足残ってるからね。

 きっと力を込めて四撃それぞれのパーツで打ち込めばなんとかなるかもしれない。

 

 ……俺そんな曲芸師みたいなマネできないし、やっても吹き飛ばされて終わるな、うん。

 しゃーない、ここまで来て「く、ここまでとは……」みたいなムーブできないもんね。重り外れる前だったらそれ受けて、ゴールされた後に外して見せて「次は本気でお相手する時を待っているぞ」みたいなこと言い残して去れたかもね。

 いやダサいか? IF語ってもしゃーない……使()()()

 

 ──左手で構えを作り、折られまいとする力を抜く。肉体の犠牲の方は準備完了だ。

 出番だぞコルシア。

 

サクリファイス──」

──断固として反対する! まだ貯金が十分ではないのだ!

 

 貯金ってなんのだよ。なに人の体の中に口座開設してくれてんだお前。そもそも悪魔が口座って何に使うんだよ、振り込め詐欺とかか?

 ちなみになんだけど定期預金とかシステムあるの?

 

 ……違うそうじゃない。

 無駄だぞ隠れようとしても、今この体の中には俺とトロアとフェルタンとコルシアしかいないからな。気配ですぐ分かる。

 ……いや結構いるけどさ。それとなんか微妙に違う気配がもう一つ混ざってるけどさ。さぁ覚悟を決めるんだ。相手が限界超えてきたんだからこっちもこれ使わないとやばいんだよ。

 後でまた地獄みたいな特訓の苦痛あげるから……また会えるよきっと。だから寂しくなるけど……しばらくさようなら。

 

 ……コルシアの魂を心の中に作り上げた台座に乗せ……迫るボールに対し、左手を突き出した。

 

「──ハンド!」

──たすけっ──

 

 ごめ──あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛゛ぁ゛ぁ゛!!

 

──あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛゛ぁ゛!!

──ぃょし、それでは華々しい顕現をお見せしてやろ……えぇ……何しとるんじゃこ奴ら

 

 

 助けて。

 

 




一人阿鼻叫喚



 UA50万突破記念として依頼させて戴ていた物がついに完成しましたのでお披露目いたします。




【挿絵表示】

・題名「死地」
 ちょっと未来、具体的にはFF本戦一回戦の時の長久君。
・制作者
 眞田居間様。ご依頼引き受けて下さり誠にありがとうございました。
・備考
とある選手から見たキーパー。フィルターが無いような目で見ているため、ほぼほぼ真実の長久。
普通にしてればモテたろうに


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制圧、撲滅、骨折、いずれもマッハな日

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『──指令が入った、総帥はまだ私を見捨てていない……いいかお前たち、雷門を完膚なきまでに……我らの地位を脅かす原因となった害虫を駆除するのだ!!』

──ハッ!

 

 御影専農はこの一年で強くなった。帝国に敗北を喫した後、取り入れられた技術が俺達を強くした。

 ホログラフの映像を組み合わせ写し出される敵はどんな状況下、片田舎の二軍選手どころか帝国の一軍選手までを再現することが出来る。

 

 データは重要だ。

 癖、筋肉量、骨格、来歴。一見関係ないだろうとさえ思える学業の成績、趣味。何もかもを集約し、分析すれば相手が何をどうするかなんてのは正確にわかる事だ。

 ドリブルで右に行くか左に行くか、或いは上に行くか。

 パスを誰に出そうとしているか。

 コースは何処を狙おうとしているか。

 

 当然、人間は成長し、変化していく生き物だ。試合の最中で強くなる、なんてことも往々にしてあり得る。測った後に行われるであろう訓練量も予測し、成長率を考え推測する。

 全てはデータが裏付ける。個々人にあった練習、思考によって最大限にまで鍛えあげられた我々が今の今まで勝利できてきた理由もそこにある。

 感情を廃し、ベストを尽くすサッカーロボ。御影専農の選手たちはデータを裏切ることはない。

 

「……なんだ、これは──!?」

 

 ……データが裏切らない限りは。

 雷門は古くは敵なしとも言われたチーム……イナズマイレブンが在していた中学。その時に生みだされた必殺技が時を経て、受け継がれている可能性は低いがありえていた。事実、イナズマ落としが野生中で使われていた。まだ何かほかの必殺技が隠されていても全く不思議ではなかった。

 

 結論から言って、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だがそれを試合前に撮れたことは我々にとってメリットはあれど、デメリットは何もない。

 また学校に戻り、大量の機材を用いて分析、再現。対策を練ればいいと考えていた。

 ……豪炎寺の脚力がシュート1本ずつ増して行っているのにやや気を取られたが、誤差の範囲内だ。

 そんなことは今はどうでもいい。

 

「──ッ!!」

 

 太陽を頭で隠し、フィールド全体に影を落とさんとする巨大な龍。多くの動物の声が混ざり合った様な鳴き声を散らし、自身の生誕を祝う。

 酷く上機嫌に聞こえるそれがなぜか恐ろしかった。

 

 その足元には止めたボールを足で押さえている長久。そうして肩に乗ったまま欠伸をしている蛇。奴に宿るとされている悪魔は変わらず、そこに居る。

 つまり、この龍はあの蛇とは別物だということに……。

 

「白龍……!? 奴に宿る悪魔は蛇ではなかったのか!?」

 

 この状況下においても少しも揺るがず、気にも止めていない。つまりこの現状は彼らにとって、全く不測の事態ではないということを指し示す。

 ……サクリファイス・ハンド。ボールの威力を悪魔に捧げることでシュートを殺す技。そうして捧げた力がついに実ったとでもいうのか? 何故織部が態々雷門に来ていたのかはわからなかったが……これが目的だったのか!?

 

「な、なんなんだこれは……!?」

 

 混乱する。

 下鶴が見上げ声を荒げる横で考えなくてはならない。かき集めた情報を整理し、今この状況を理解せねばならない。

 

 ──織部長久。

 小学二年の誕生日に両親を交通事故で亡くす。その後は叔父と暮らしていたが、叔父は4月より出張今は一人暮らし。

 元々は口数の多い子どもであったが、事件を機にそれも減り目立った交友関係もない。

 

 そんな男が習合中学に入学後突然サッカーを始め、部活を設立。

 帝国学園を相手に悪魔のキーパーとして君臨し、日に日に増えていく異名をほしいままに。

 

 ……小学生時の身体能力の数値は入手済み。しかし、成長予測される数値とあまりに合わない実態……誰の目からも隠れ、秘密の特訓を行っていた、もしくは既に悪魔を体内に従え……隠していたと推測できる。

 何のためにか、がまだわかっていないが。

 

 習合中学は、帝国に敗れた男が作り上げた場所。

 帝国の手から隠れるにはあまりに都合がいい場所だというのも気がかりだ。

 

「……そうか、足りないかフェルタン」

 

 顔を上げ、肩の蛇と会話をする織部。返事のつもりなのか蛇は頭を縦に振る、奴に宿っているとされる蛇……こいつもまた厄介だった。

 そもそも蛇としての姿を持つ悪魔、非科学的な存在が現れただけでこちらは混乱したのだ。何かトリックを使っているのではないか、幻覚ではないのかと議論もした。

 それでも、事象としてそこに存在するのであれば解明せねばならない。

 だからこそ、織部がわざわざ我々の前に悪魔を出したことも幸運だった。

 

 それだというのに、まだろくに分析もできていないというのに……二体目だと!? 情報量の暴力に思わず頭を抱えたくなる。

 だか今俺達に出来る事は……この場を少しでも情報として残し、持ち帰ること。

 理解せねばならないと、思い立った。

 

「くっ下鶴、カメラをあの龍に──」

──不躾なやつじゃなぁ……?

 

「っ!?」

 

 指示を飛ばそうとして体が止まる。脳裏にしみ込んで甘く溶かす、くつくつと笑う声が聞こえる。

 

 瞬間、選手たちを映し出していたモニターの光が途切れた。

 バッテリー切れ? いや違う……緊急用電源も発動せず、こちらの操作を受け付けない。

 

 やがて、黒煙が上がり始めた。してはいけない音が鳴り始め、回路が焼き切れる匂いがし、

 

 ──小さな爆発。アンテナが折れ曲り、河川敷を転がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 回路が焼き切れる匂いとともに、痛みが引いていく。脳内麻薬さんいつもお疲れ様です。

 多分また30分後くらいにきれると思うので、よろしくお願いします。

 

──ほんと貴様許さんからな貴様覚えておけよ

──アイムハングリー、ナガヒサおかわり

 

 あぁ……まじで痛かった……そしてまた両手がお釈迦だよこん畜生……フェルタン、さっき無理って言ってたけどやっぱり治せない……?

 そっか、駄目か。足りないかぁ……染岡さんにドラゴンクラッシュ撃ってもらえないかな。駄目だな。もう五本蹴り終わったし。

 コルシアもそんなこと言わんでくれ、なんか目の前で進化されたらサクリファイス・ハンドを使わざるを得ないんだよ。ぐっこれが雷門の力──みたいな感じで吹っ飛ばされたらめっちゃ噛ませ犬だもん。

 

 はあ、帰りの新幹線骨折しながら帰らなきゃだめなんかな……。

 

──フハハハ! 体、妾の体だ! 憎き神々よ、みているか! フハハハハ!!

 

 ……で、トロアちん。めっちゃはしゃいでるところいいかな。あともうちょいボリューム絞ってくれない? 頭痛に混ざって中々痛いからさ……。

 俺の足の影からおもっくそ生えてる事実とかにはもう何も気にしないから。そのうちコルシアとかも顕現出来たらどこからか生えるんだろうか。

 

──うん、なんだ契約者よ。今妾はひどく機嫌がいい、出生から今ここにこうして至るまでの説明だってしてやろう

 

 いやもうそこは聞いてもどうしようもないのでいいかな。

 なんか神話大戦とか聞かされそうだし……そっちじゃなくてさ。

 その……御影専農のさ……、チラリと視線をずらせば……煙を上げている車が見えるわけで。

 

 トロアが壊した? っていうか壊したよね。ふんっ、て感じで一瞬力んだ感覚したもん。確実に君だよね。

 なんで壊したん?

 

──ふっ、許可も撮らず妾の姿を捉えようとした愚か者には生ぬるい処罰であろう

──トロアっち相変わらずだいた~ん

 

 やめてくれよ……機材直せとかいわれたら極貧生活待ったなしなんですけど。ただでさえ今も残されたお金と保険金が頼りなんだからね……叔父さんにお金頼むの気が引けるし。

 そしてフェルタンは友達ならあんまりこういうの褒めないで、間違っていることは訂正してくれ……。

 今後も映像とられるだけで壊すんだったら目にレモン汁かけてでも追い出すからな……。効くかな?

 

──……塩も混ぜておくといいぞ

──あっ許さんぞコルシア貴様!

 

 サンキューコルシア。

 で、どうするよこの状況。順番的に次は御影の攻撃で雷門防衛側なんだけど。

 

 とりあえず消防車呼ぶ? ついでにその隙に逃げていいかな。こう、俺は幻覚でしたみたいなノリで……次会っても「え、東京にいた? 知らんなぁ……生き別れた血のつながってない弟とかじゃないかなぁ」みたいに誤魔化せたりしない? 無理か。

 ……あ、車が急に走り出した。走っていいのそれ?

 

「あっ、御影の奴ら帰りますよ!」

 

「……勝負はこちらの負けでいい。だが次は──!」

 

 雷門の……オレンジアフロくんの指摘に対し、捨て台詞を吐いて去っていく御影専農カー……。

 えぇ……御影専農の二人帰っちゃったよ。後で請求書届いたりしないかな。しないよな。

 ……よし、助かった! ってないな。いやどうするよ本当にこの空気。あ、とりあえずトロアはもう出るのやめてくれない? じゃないと明日の新聞の一面とか飾りそう。

 

「……トロア」

──む……もう少し暴れたかったが、まぁよしとしよう

 

 その巨体で暴れたら真面目に世界の終わりとか来そうなのでやめてくれください。

 ……で、帰っていいかな。もうPKする感じじゃないよね。雷門のみんなもドン引きしてるもん。巨体の子、壁山君だっけかもうベンチを頭巾代わりに持ち上げて震えてるし。筋力凄いね。

 ……よし、帰ろう! 「続きはフットボールフロンティアで……」みたいな感じに上でお前ら待ってるぜ! 的なこと言えばなんか逃がしてくれそうだもん。それでうん、地区大会突破頑張ろーみたいなノリになってくれれば御の字ですよはい。

 いいぞ俺の灰色の脳細胞、これはパーフェクトコミュニケーションに違いない。

 

「……続き──」

 

「──よし、続きをやろうぜ織部!」

 

 ……うっそだろ円堂さん!?

 

 なんでたった今龍見たのにそんな鼻息荒くしてキーパーの位置に着こうとしているの!? あれか、逆境◎みたいな人なんですかね君ぃ。

 君もしかしてマゾの類か何かか……!? 部員たち「キャプテン!?」とか「無茶だ円堂!」みたいに諫めてますけれども! あ、豪炎寺さんは笑ってますね。一年生の子はすっごい心配そうに……二年はいけんのか……? みたいな顔してる。

 まあ私シュートなんて練習の時以外しないから専門外もいいところなので本当余裕なんですけども。

 

「さぁこーい!」

 

「……ふっ、そうだな」

 

 まぁ、なんというか悪魔見られた後でノリノリでサッカーしようとしてくれるのはありがたいな。 うちの部員以外でそんな目で見てくれるやつ見るの久しぶりかもしれん。

 ……よーし織部長久くん、はりきってボール蹴っちゃうぞぉ!

 見た目のキャラに合わない感じにめっちゃコース狙っていいかな。得意技としては足元狙うと見せかけて右上ギリギリみたいなのとかあるけど。

 

──ごはん?

 

 いやいやフェルタン、今はシュートの時間だから。

 ……いやいけるか? 雷門中正ゴールキーパーの円堂、必殺技は……熱く煮えたぎる決意と共に振るわれる熱血パンチ。

 そして彼の代名詞とも言えるゴッドハンド。こっちは気のエネルギーで大きい手を作り出して、それをクッションにシュートの威力を殺す……みたいな感じだったかな。あの帝国のやばいデスゾーンも止めてる実績のある大技だな。

 ……神の手、生物枠で……もしかしてフェルタンゴッドハンド食べられる?

 

──たべたい! 神の手食べるって響きもいい! ボールに乗り移るからお願い!

 

 やったぜ。勝ち確だなこれ。お風呂入りたい。暖かい布団で眠りたい。

 とりあえず5本ぐらい蹴って5回ぐらいゴッドハンド使ってくれないかな。両手治るかもしれんし。そのためにはコース狙うのは駄目か。確か熱血パンチが出が早いから、迂闊にコース逸れるとそっちで対応されるやもしれん。

 

「──行くぞ」

──ん? あぁシュートをするのか……いいこと思いついたぞ契約者よ

 

 真っすぐ、威力がありそうに見せる蹴り方を……。

 右を軸足にして、左振りかざして……あぁドラゴンクラッシュみたいな感じの構えがいいな。

 すっごい力が足にたまる感じする。でもこの構え方だと真っすぐにしかボールが飛ばない気がする。なんでこれで空中へパスできるんだ、染岡さんすごいな。

 

 で、トロアはなに思いついたの? すっごい嫌な予感するんですけど。

 

──なに、妾も神の手なんぞぶち壊してやろうと思ってな……

 

 え、あの……ボールに乗り移る予定のフェルタンはともかく、なんでトロアの力が足に纏わり始めてるの? 白い顔が顕れはじめてるんですけど。

 なんか勝手に必殺技みたいなノリで出て来てますけど何も聞いてないんですがあの、すっごい足が()()()()()()って聞いたことない音出してるんですが……痛い痛い痛い!

 すっごい痛いんですけど! 視界的に見えてないけどもしかして僕の足に噛みついてたりしない?

 

──? 悪魔の力を使う代償に足が壊れるのは当たり前だろう

──……こういう奴なんだトロアは

 

 トロアさんは押し売りやめて? あとコルシア助けて。

 もうこのまま痛みでぶっ倒れたいんですけど。駄目ですよね蹴らないと。足振りかぶっていきなり倒れるとか格好悪すぎるもん。わけわからんもん。

 ああ叫ばないともう力はいらないってすぐ分かる。ついでになんかいい感じの技名付けちゃう? ……はい、整いました。

 

ロアフェル──」

 

 足がボールに触れる。瞬間、足が爆発……纏っていた龍の顎が開き、間欠泉の如く噴き出た炎がボールを吹き飛ばす。

 空を切る、乗り移り大きくなったフェルタンが大口を開く。そして左足がぐにゃぐにゃに砕け散る感覚がする。

 これ完全に左足の骨全部行きましたね。それどころか筋肉もいかれやがりましたね。

 

「──ドミネーション!」

 

 ……痛いとかいう次元じゃない。複数のペンチで引っこ抜かれようとしている感じがする。俺なにかしたかな?

 そうか、調子に乗ってシュートしようとしたからだな……二度と調子に乗らないので勘弁してください。

 

──あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛゛ぁ゛ぁ゛゛ぁ゛゛ぁ゛!!

 

 あ、あのカラスの声が聞こえる。

 ははは、死肉寸前の男はここだぞ。

 

 

 

 助けて。

 

 

 




最近忙しかったり忙しくなかったりする



~オリ技紹介~
・ロアフェルドミネーション シュート技
 トロア+フェルタンの力が合わさって最強に見えたりしなかったりする。 白き龍のブレスに黒き蛇が撃ち出され相手を喰らう。
 代償として左足が使い物にならなくなるレベルで骨が木っ端みじんになり筋肉がイカレル。皇帝ペンギン一号みたいだぁ……
 
 そこそこ強い

~オリキャラ紹介~
・トロア
 押し売り。
 神なんてくそくらえ。ゴッドハンドなんて名前がついているのが運の尽きよ。

・コルシア
 神なんてくそだけど押し売りは駄目だと思う

・フェルタン
 オレンジソーダ味


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家に帰れない日

 なんかいつのまにかにオリオンが終わってた……アルテミスあるって聞いてたから一気見しようと思って撮りためておいたのをおさらいしておくか……

たまに「あれ、今どの骨が無事何だっけ……と思ったりする」
あと壁山の地の文のやりづらさすごい


 黒い蛇は、一瞬にしてそれを飲み込んでしまったッス。

 

「……ゴッドハンドまで──!」

 

 ゴッドハンドはオレ達にとって始まりの合図。

 部員も足りずに諦めてゲームをしていたオレ達にとって……ようやくそろったけど帝国を前に何にもできなかったオレ達の希望の証でした。

 いわば原点で、どんなに強い相手でオレ達がやられても……キャプテンのそれだけは破られない。そう心のどこかで信じ切っていたッス。

 

 だから、その必殺技を……突如として現れた悪魔が全て壊して食い尽くしてしまうだなんて、思ってもみなかったッス。

 そのままボールは──

 

「──まだだぁ!!」

 

「キャプテン!」

 

 キャプテンの目の前へと飛んでいったッス。少し呆気にとられた後直ぐにキャプテンは復帰し、シュートをキャッチしようと両手で抑え込もうとしましたッス。

 ……その姿を見て、織部は少しだけ目を丸くしていたような気がしたッスけど、ほとんど一瞬の事だったんでもしかしたら見間違いだったかもしれないッス。

 

「……何度も驚かされる。だが──」

 

「ぐっ……」

 

 でも、

 いくらキャプテンが口を開け進もうとする蛇を必死で止めようとしても、足腰にいくら力を入れようと……引きずるように押されて行って……

 足がラインを割るとほぼ同時に、キャプテンはボールごとゴールに叩き込まれてしまったッス。

 

「……っうわぁーっ!!」

 

「──ゴールだ」

 

 ネットが揺れて、限界まで伸びます。

 前のめりに倒れ両腕からボールがこぼれて……思わずベンチを離れ、オレ達は駆け寄っていました。

 

「キャプテン!」

「円堂!」

 

 慌てて寄って怪我はないか確かめる皆をヨソに……ボールはキャプテンの横を転がり、一度割ったラインを跨ぎ直して……そのまま止まることなくシュートをした人の元へと返っていったッス。

 緩い回転がかかっていたとか、そんなことじゃなくて……。

 ()()()()()()()()で静かに呟く習合の部長を見て、オレの体は又震えましたッス。

 

「……おかえり」

 

 ボールから、習合の彼から出ていたあの蛇が出てきたんス!

 そしてボールが織部の左足に着くと、ズルりと出た蛇がボールから現れ巻き付いて……消えていったんです。

 

「ぐ──ふぅ……ありがとうフェルタン……今回はこっちの勝ちだ。

──本戦で待っている……雷門イレブン」

 

 それだけ言うと、ゆっくり……ゆっくり歩いて河川敷から去り登って行くッス。

 もう何も出ていないはずなのに、どうしてかその背中にさっきの蛇やら龍の姿を幻視しちゃって、思わず近くにいた栗松君の肩を掴んで震えちゃってるッス。

 ……少しもしないうちに、河川敷の堤防にタクシーとリムジンが一台ずつやってきましたッス。多分ですけど、片方は夏未さんが乗ってるんだと思うッス。

 

「ぅぅやめて欲しいでヤンス壁山~」

 

「わわっ、ごめんッス! ……それにしても、すごいシュートでしたッスね……大丈夫ですかキャプテン」

 

「あ、あぁ……」

 

 俺達もそうですけど、キャプテンもゴッドハンドがあんな破られ方をして大分ショックを受けているみたいで……こっちの呼びかけに一応返してくれますけど、視線はずっと自分の手に向かっていたっす。

 ……あ、ほらタクシーから……たしかあれも習合の人ッスね。あっちの部長となにか話して……ちらっとこっちを見た後そのまま車に乗り込んでいきました。

 

 ……えーと、リムジンの方からは夏未さんが出て来たッス。なんかこっちに早歩きで来てますよキャプテン。

 一応ちゃんと立ち上がった方が……な、なんというかやたら夏未さん怒ってるようにもみえますッスね。

 

「──完膚なきまでにやられてしまったようね、円堂くん」

 

「……夏未」

 

 腕を組み見下す夏未さんを前にしても、キャプテンはどこか上の空ッス。

 これは……重症かもしんないッス。オレもかなりショックでしたけど、キャプテンがこんなんじゃもっと駄目だって思うと不思議と心の余裕が出来ました。

 

「……彼が今の優勝候補校のキャプテン……キーパーとしてだけでもなく、シュートも一流なんて……あなたとは偉い違い様ね」

 

 走り去っていくタクシーを見て、殆ど挑発に近い言葉を彼女は言いましたッス。

 相変わらずキツい……あ、染岡さんが怒りそうッス。ちょっとまずいかもしんないッス……もしものために止めに入れるポジションに入れって半田さんが目でメッセージ送って来てるッス。

 

「おい! いくらなんでもそんな言い方──」

 

「貴方がFF優勝という夢を抱える以上、今は足元にも及ばない帝国に万が一打ち勝ちてたとしても……最後には彼らが必ず立ちはだかるでしょうね。

──諦めるなら今の内よ」

 

 ……あ、あれ? なんというかこれ……もしかして夏未さんなりに励ましてるんでスかね? 意外ッス。もうちょっと笑ってくると思ったんでスけど。

 それを受けてキャプテンは……ようやく夏未さんの方を見上げました。 ……何処か戸惑ってはいますけど、いつものキャプテンの目っス。

 

「……いや、そうか……そっか『待っている』って言ってたもんな……!」

 

 キャプテンは勢いよく立ち上がって、転がっていったボールを走って拾い持ち上げました。

 その手のボールはシュートの勢いを物語る様に焦げていて……それを見て息を呑みながらも笑顔は崩れていないッス。

 

「……今はまだ全然だけど──次は勝つ、勝ってみせる!

……よーしみんな! 練習再開だー!!」

 

「えぇ……まだやるんスかぁ……」

 

「なんだ壁山、そんなこと言いながらもうスパイクの紐結びなおしてるじゃないか!」

 

 相変わらずのサッカー愛っぷりに思わず文句の一つが出ちゃったッスけれど、そんな口とは裏腹にオレの体は直ぐに準備を始めようとしていたッス。

 思わず恥ずかしくなって周りを見渡してみれば、オレと同じように苦笑いを浮かべていたり……でもみんな準備をしてるッス。

 ……流石にいきなりみんなショックから立ち直ったわけじゃないんでしょうね。オレもまだ、必殺技が何一つ……折角覚えたイナズマ落としも通用しなかったことに結構キテるッス。

 

 悪魔のキーパーには……習合には勝てないかもしれない……でも、今は練習に励もう。キャプテンと一緒にサッカーを頑張ろうって、そうみんな思ったんだと……オレは思いますッス!

 この答えに夏未さんは……何か、笑ってます? なにか企んで……いやな予感がするッス。やっぱりお腹空いたんでラーメンとか食べに行きませんか?

 

「……そう、強くなろうという気持ちはなくならないのね──ならいい訓練場があるわ」

 

「ほんとか!? ……って訓練場?」

 

「えぇ……本当は偵察対策も兼ねていたのだけれど……帳塚くんから聞いた話が本当なら、彼らよりも特訓に励む必要があります。

今は昔、かつての雷門イレブン──イナズマイレブンが使っていた『()()()()()()()()』で特訓をしてもらいます」

 

 ……それが、地獄の練習の始まりの合図でしたッス……うぅ。

 

 

 勘弁してほしいっす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 速いし揺れが少ないなさては神の乗り物か新幹線。

 両手骨折してるせいでワタリ父から奢ってもらった弁当もろくに箸が進まんが痛いの我慢して食べなきゃ……もう完全にバランスゲームやってる感覚だよ。きつめの包帯したまま食べる無礼をお許しください。さもなくば多分指とか全部グニャンってなるんだ。

 ……もう慣れてきたけど、なんで俺ただ東京旅行しただけで帰りが両手骨折に……。泣きたくなるね。まぁ人前で絶対泣かないが。

 

「……それで、PKは無事勝利したわけですか。キャプテンから見て雷門はどうでした? ……なんかいつの間にか必殺シュートも使ってますけど」

 

 さてさていやいやワタリくん、なんか力隠してましたー? って目で見てくる気持ちはわかるがあの場でいきなり生まれたんだよあれ。え、その方が余計怖い? そんな……。

 でえーとね雷門の今後? いやビビりましたよ。

 足の痛み酷くて少しも動かしたくないからってこっそり、右足にのみ体重移して直立不動して見てたけどさ……なんでゴッドハンドをフェルタンが食べた直後に反応できるんだろ。

 

 しかもあの威力をノーマルキャッチで……少しもってたし、終わった後怪我とかしてる感じゼロでしたし。

 一瞬「あっやば、源田さんみたいになっちゃう!?」って焦った俺の心を癒して欲しい。

 で、総評だよな。なんか壁山って子はジャンプ力あるなぁとか個人個人の話じゃないよね。

 

 ……うーん。

 

「──今よりずっと強くなる」

──貴様頭まで打っていたのか?

 

 お黙りコルシア。時に正論は人を傷つけるんだぞ。

 当たり前すぎること言ってお茶濁しておく……いや別に適当なわけじゃないよ? なんというか未知数過ぎてさ……。今こんくらいだろうなぁと予想するとそれを普通に上回って来たりして……成長期ってやつなんかな。

 あの調子なら御影専農にも勝てるかも。……帝国はどうかなぁ、それこそうちみたいな訓練量に切り替えたら化けるかなぁ。

 

 ……そう言えば、待っているなんて言っちゃったけど雷門が途中で負けたらすっごい恥ずかしくないかこれ?! やっばい失敗した……帝国さんどうか雷門地区予選突破なりませんかね……こう、怪我に気を使って地区予選休んだりとか……駄目そうだなぁ。

 

 お願い帝っちゃん、雷門をFF本戦に連れて来て……。

 

「……キャプテンがそういうのなら、間違いないのでしょうね。私も警戒しておきます」

 

「そうだな……」

 

 あっこの唐揚げ、中に胡椒の粒みたいなの混ざってる。初めて見たかもしれんこんなの……。

 味わってる心の余裕ないけど改めてワタリ父にお礼を言っておこう……いやなんかすっごいワタリ父見て来てるんですけど。なんです? 美味しいっすよ。

 

「その……長久君……あの時見えた変な龍について──」

 

『──あぁん? だぁれが変な龍』

「よせトロア……申し訳ありません。……新しく加わったトロアです。少なくとも、周りに危害は加えさせません」

 

 車内で顕現しないで……気を使ってミニマムサイズになってるけど他の人が見たらパニック起こすから……唐揚げ用のレモンかけるぞ本当に。

 握り潰すとかできないから目に直接塗り込む感じになるけど。

 ……お、引っ込んでくれた。ありがとうね。

 

──……両手骨折してるのに飯が食えてる契約者が言うと冗談に聞こえんからな

──お前の余計な行動がなければ片手は治っていたろうがな……

 

 そこは本当に……ロアフェルドミネーションとか名付けたけど絶対に二度と撃たねーからな。

 フェルタンが食べられてもキーパーが対処可能かもしれない技はきつすぎる……。痛すぎて一発でコルシアが殆ど力が元に戻ってたもん……。

 むしろサクる前より力増してない? そろそろ勝手にコルシアも出てきたりするん?

 

──……いや、そういった契約を結んでからだなそういったのは。我自身の体、我の力……欲しくなれば願うがよい、代償はそれなりのものをいただくがな……フッフッフ

 

「父さん……その辺はあんまり気にしない方がいいんです──あぁそろそろ着きますよキャプテン」

 

 欲しいけど今以上になんか要求されたらやばいからやめときます……。

 っと、おおもうそんな時間か。乗り心地本当良かったなあ……立ちたくねぇ……!! あ、そういえば重り河川敷においてきちゃったよ。道理で体は軽いわけだ。

 ……いやそれでも筋イカレテる足で立ちたくないんですけど。

 

 

 

 あ゛あ゛っ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……必要最小限の荷物でも投げ捨てたい気分に駆られながらの下車。

 駅から出れば本日最後の刺客としてなのか習合の皆が待ち伏せしておりました。よく気が付いたなって?

 ウリ坊が低空タックルしかけてきたからね……すばらしい一撃だったよ。思わず倒れてしまったのをごまかすために叫び声もあげず「いいタックルだった」って褒めることしかできなかった。……叩くぞ貴様。

 

「へへ、どんどん強くなってどんなボールでも止めて見せますからね!」

 

「……!」

 

 俺も俺もって感じだなカガ。よし二人とも試合中はどんどんシュートブロック頼んだぞ……。ちょっと待って、立ち上がるのに一呼吸置かないと立てないの。

 ……お゛お゛っ。

 よせメア! 肩掴んで揺らすな! 後顔近い! 何でそんな鼻息荒いんだお前……ジミーは後ろで苦笑してるんじゃない! 支えてくれ副部長……。

 

「おつかれリーダー! ワタリからメールで聞いたけど新しい悪魔が出てきたんだって!? 少しだけ、少しだけでいいからその姿を見せてくれないかな……!」

 

──トロアっち人気だねぇ~出ないの?

──……自力で天使に近い力を得ようとしている奴の前なんぞに出て堪るか

 

 頼む出てくれ、メアの気を逸らしてくれ……駄目か。許さんぞワタリ……悪意ゼロだろうってのは分かっているけれども。

 ……早くも力が欲しくなってきたんですけどどう思うコルシア。出てくれたりしない?

 

──いやだ

 

 そっかぁ……。

 アルゴは相変わらず甘酒……やたら飲む量多くない今日? なんかいいことあったの?

 

「何でも必殺シュートも出来たんだって!? その……-僕と合体技とか考えてみないかな!? 光と闇の力を合わせればきっと無敵だよ!」

 

 いやだぁ……絶対足壊れるシュートでお前と一緒に合わせたら怪我酷くなりそう……。そもそもFWとGKとか離れすぎてて必殺技一緒にやるの無理でしょ。

 メアは……うん、一号と技の相性いいしそこで組んでみたりしたらどうだろうか。……ってあれ、そういえば一号と二号はいないのか。迷子かな?

 

 えっなにグラさん。違う? 練習終わったあと這い這いになるほど疲れていたから流石に置いてきた? ぇえ、何させたの……必殺技をいっぱい使わせた? あぁ……なんとなく察せたぞ。

 頑張れ高天原コンビ……特に二号の方は次の試合必ず出場してもらって負担減らす予定だから……。八咫鏡が進化すればFFメンツ相手でもきっと行ける。

 

「あっそういえば部長、ソニックが新しい必殺技を編み出したッス! めっちゃすっごい竜巻で……とにかくすごかったッス!」

 

「ハッ、ようやく調子が戻っただけの事よ……」

 

 今気が付いたんだけど壁山くんとバングって口癖同じなんだね。もし合えたら仲良くなれるかな……ッスッス繰り返されると流石に煩わしそうだな。

 で、ソニックの必殺技? しかもDF技でシュートブロック可能? よくやった!! 本当によくやった!!

 流石だぞソニック……お前に最初会った時全力で走れないとか言いつつ俺より普通に速かったのほんと何なの……って思ったこともあったけど流石だ。

 

「流石だソニック」

 

「……フッ」

 

 ニヒルにふるまっているつもりでも若干口元緩んでるぞ。

 ……よし、皆伝えたいことは伝え終わったな? トールはメアを引きはがしておいてくれ。……目で伝わるとは流石だぞトール。

 うん、俺からも言うことがあるから離れててね……拗ねないでメア。

 

「──一月もしない内に各地区のFF予選が終わる。本戦……勝つぞ、みんな」

──オーウ!

 

 ……よし、なんかいい感じ纏まったしこのまま帰っていいよね。じゃあ俺今日はもう家に帰りますので……定時なので。

 メール読む限りエマは晩御飯の用意でもう帰ってるっぽいし。いいよね。

 ん、どうしたジミー俺の隣に寄って来て。

 

「──よーしじゃあ部長も戻ってきたし練習しに河川敷に戻るぜみんな!」

──オゥ!

 

 ???

 何を言ってるんだいジミー。ええとなんでみんなもう走り出そうと準備始めてるの?

 なぁワタリ、僕たちは新幹線でくたくたなんだよ。今日は流石に解散したほうがいいよね……って君もなんで荷物をワタリ父に託そうとしてるの?

 

 ……えっ、えっ?

 

 ……そうか、そりゃ勝つぞ! って言って素直にそのまま帰るはずもないか……。

 

 

 

 

 助けて!!




残 業 開 始


 ようやく雷門殴り込み編が終わりました!
 次回からの予定としては「束の間の休息、長久の夏休み編」とか挟もうかな? って思ってたりしたのですがどうしようか悩み中。内容もかなり緩く、メアの姉のお買い物につき合ってもらったりとか、崖の下に落ちたりとかそんなんです。海辺怖いじゃろう。

 ちなみにその後は「死ぬな部長 FF本戦!」ですね。あまりトーナメントの当たり方は変えていないので、高天原中の場所にすっぽりおさまり……一回戦の相手は「代之総中」というところが相手です。
 ダイナソーって事なのできっと恐竜とか多いに違いない。

~オリキャラ紹介~

・トロア
 レモンはやめて欲しい悪魔。目に憑りついたばかりに。
 それはそうとサイズは自由に調節可能。自由気ままにふるまうが感性は常識に寄っているのでツッコミも出来る。

・コルシア
 契約すればヤル、しなければヤラヌ何事も。
 それはそうと犠牲にされる。仮に顕現にしていたら手からリードみたいな感じに伸びる黒シベリアンハスキーっぽいのが誕生していたかもしれない。
 していたら多分メアにお持ち帰りされる。つながっているので部長もされる。メアファンの妄想ははかどる。いいことづくめだな。

・フェルタン
 自由過ぎるがゆえに最近あまり喋らない。ご飯をよこせ。

・エマ
 信じて家に帰ったら兄さんが残業に連れていかれた件について
 無事(???)帰宅した長久の格好つけ兄ムーブを受け機嫌は治った。そして胃に対する物量作戦が敢行された。


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部長、地獄の幕開けだってよ編
部室、別名地獄のお披露目の日


 更新遅れて申し訳ない……車の買い替えとか色々ごった返してしばらく遅れるかと思います。
その代わりツイッタではよく出没して二三言呟いてそそくさいなくなるようになりました

 ところで歌詞を引用できるようになったらしいですね。最終話とかの時に試してみたい気持ちが合ったりなかったり。ちなみにイナイレ3の「僕らのゴォール!」が一番合うんじゃないかなって思いがありますがどうでしょう

心を言葉にしないので一切部長の気持ちが伝わらないところとか((


 夏、それは別れの季節だ。

 逆だろうって言われるかもしれないが……俺にとっては別れの季節だ。暑さは人をおかしくする。

 普段なら絶対にしないだろうミスだってしてしまうし、普段なら外に出さない感情だって出してしまう。

 

 いつの日か、神社の境内の隅に隠れ一人で泣いていたことを思い出した。

 行く気なんてなかったのに、いつの間にか彷徨い、寂しさに耐えきれず神頼みをした。何とも格好悪い日の事だった。

 祈って、祈って祈って……神なんていないんだとただ知って……今にして思えばあれは少々考え違いがあった。

 

 神と自称する超常的存在はもしやいるかもしれない。

 ……コルシア、フェルタン、エマにトロアが神を敵視している辺り、少なくとも過去には存在していたはずだ。

 けれど、信じるものをもれなく救ってくれる、そんな全知全能な神がいる訳ではないのだろう。

 

──……堕天使という存在そのものが奴らの全知全能に矛盾をもたらしているのに間違いはない!

まっ? 天使だった時よりも妾の力は増しているがな! クヒヒッ!

 

 トロアがそういってため息を吐く。腹の底より体が熱くなる。

 多分トロアがなにかしたというわけではない。どっちかっていうとフェルタン。ごはんならさっきエマ弁当食べたでしょ?

 

──うーんブドウが食べたくなった。ナガヒサ、帰り青果屋いこ

──……流れ的に、原罪の一場面でも思い出したのかフェルは?

 

 原罪……あぁアダムとイブに食べちゃダメな果物唆して食べさせたやつだっけ。

 そんで二人とも追い出されちゃって……失楽園? この間メアに「失楽園って技考えたんだけどどうかな!?」って提示されたこと思い出したわ。

 始動が俺で、ゴールでボール止めたら……ロアフェルドミネーションでゴールから打ち出して、上空でメアがエンゼル・ブラスター決めるんだと。距離考えたらメアが近距離でブラスターぶっばした方が強いよね。しかも俺はそれで足死ぬし。

 

 誤魔化し方? 「──失楽園……ならば、最後楽園から走り出す者……"人"が必要だ」とか言って今はまだその時ではないとか言って誤魔化しましたよ。

 そしたらね、そっかぁっ顔した後「それじゃあこれは三つの力を必要とするのかもしれない……僕はまだ未熟だ。最初は二つの力を合わせる事から始めよう!」とか言って新しい必殺技考えてくるって……地獄先延ばしにされただけな気がする。

 

 それで、ええと……ブドウか。高いんだよな。まぁ何とか両腕治してもらえたしお礼に買うか。エマの胃袋攻めと食堂の大盛りメニューとかでも少しエネルギーに変えてくれるから優しい……。

 なんか希望の品種あるん?

 

──シャインマスカット!

──む、なら妾はデラウェアを

 

 う、それなりにお高い奴だよなそれ……しゃーないか。買うって言っちゃったし。

 それとトロアは知りません。欲しいなら自分のお金で買ってください。

 

 ……? あれ、何の話してたんだっけ? 今日のお買い物の話じゃなかったことは分かるんだけど。

 なんで教室出て廊下の奥で一人突っ立てるんだっけ……。

 

──回答する、お前はメアたちを待っていた。そして廊下の窓から日差しにやられ……いきなり神がどうのこうの云々を始めた

──日向ぼっこじゃなかったけ~?

 

 ……サンキューコルシア。カバンから取り出したスポドリを呷り、一息つく。

 いやぁ……夏場の水分補給は大事ですねほんと。指摘されてようやく思い出せたよ。たった十数分近くでこんな考え始めるなんて普段より気が抜けてるな……気を付けないとほんと。

 せめて重りさえなければもう少し頭に血が行く気もするけれど。普段の生活で20kg持たされるのははっきり言っておかしい気がする。

 

「──リーダー! 待たせてごめん……それで用ってなにかな?」

 

「わりぃな部長……ったくセンコーが中々おわりにしてくんなくてよ……」

 

「フハハ……既に脚は温まっている、いつでも走り出せるぞ部長!」

 

 ……来たか、メアにトール。そしてソニック。

 じゃあ立ち話もなんだ。歩きながらしようじゃないか……うん。

 

「? で、話って何なんだよ部長。あれか? もしかしてもう次の対戦相手が決まったか!」

 

「いやトール、FF予選は終わりはしたけれどトーナメントの裁決は明日の筈だ。

──この四人で合体必殺技とかかな!?」

 

 メアの最近の思考って合体技のことしかないの?? そんなにせがまれても俺を入れる時点で多分単独より弱くなると思うよホント。

 

「いやFWとMF、DFにGKで何をするというのだ……?」

 

 ちょくちょく常識人になるよなソニック。ただお前の速さならどこのポジションにも加われそうだからいろんなところに関わっていけ。

 ……また話が逸れた。それでえーと話っていうのはだな……大変いいにくいんだが。

 うん、そんな興味津々に見つめられるとすっごい言いづらい。ちょっと恥ずかしいレベルだ。

 

「メア、トール、ソニック……

 

──練習への参加を一部制限する

 

 でもまぁ言わなきゃだよな。部長だし。

 

「……え?」

 

 絞り出した精一杯の声。

 クマゼミの声がかき消す様に響く校舎の片隅で、足が止まる三人をつき放し進んだ。汗ばむ暑さが一つ落ちるのを感じる。

 言葉を受けたメアたちはまだ何を言われたのか理解できないといった表情で目をぱちくりとさせていた。

 

「……じょ、冗談だよねリーダー? そんな、今日は部室が完成して……夏休みが始まって……もうすぐトーナメントの相手だって決まるじゃないか!?」

 

「メアの言うとおりだ。この俺を練習から外すだと!? 一体どういうことだ……!」

 

 話された事に気が付いた三人が近寄り、瞳孔が揺れ同じように両肩が揺らされる。

 メアやめて……昨日君のエンゼルブラスター食らって左手折れてるから……油断も隙もあったもんじゃねぇよほんと。一号が光陰如箭をパワーアップさせて、無理やり弾いてて痛がってたらいつのまにか天に浮いてたからね。

 あっこれ死ぬ……って思ったから無理やりサクリファイスハンドで勢い削いで、もう片方の手でパンチングすることでなんとか弾けたけれど。

 

 おかげで夜中コルシアにぶつくさ文句言われた……でもアイツ日付変わったら絶対黙るから優しいね。

 ってそうじゃない。

 

「怪我のことか? だが今の俺達の疲労に問題はない、休む必要性も何処にもない!」

 

「──嘘だろ部長?」

 

 ソニックの言い分ももっともだ。1号2号は正直かなりぎりぎりに挑んでいるがそれでも俺よりは余裕がある。最初の10人の方などいやー今日もいい汗かいたぜって安眠するレベルの疲労度だ。だからこそ、それは関係がない。

 トールはこういう時は怒らずただ呆けるんだな……。

 

「な、何か悪いことしたかな僕たち……もしそうなら謝るから……!」

 

 ごめんなさいですんだら部長はいらないんだよ……うんメア?

 肩から掴む場所が落ちたと思ったらお腹辺りに来るのやめよう。

 シャツが伸びたらすっごいカッコ悪くなるから……。あと涙目になるの早くない? 人泣かせるのすっごい罪悪感からやめてほしい。

 

 ……この間女子の落し物拾った時のこと思い出したよこんちくしょう。ブドウの香りがついていたせいでフェルタンが巻き付いて、女の子ビビッて泣いちゃったんだよなぁ……。

 あの後ハンカチは黒装束の変な集団が買い取ってたな……あいつらほんと何なの? 一人メアっぽいの居たし。

 また話が逸れた。

 

「じゃ、じゃあ何をすればいいのかな! 自主練──」

 

「駄目だ」

 

「え、えっと? 雑よ──」

 

「違う」

 

 あぁ違う、違うんだよメア。

 今お前たちがすべきなのはサッカーじゃない。今はお前たちに「サッカーしようぜ」とは言ってあげられないんだ。

 ……本当にすまない。

 

「──じゃあ、何でもする! リーダーのいう事ならなんでもするから……だから!」

 

「お、俺もだ!」

 

「この俺の足をこんなところで止めるなど天が許しても俺が許することではない……! 厳しい試練でも何でももってくるがいい!」

 

 ……今、何でもって言ったよね? いけないんだよ……迂闊にそんなことを言ってしまっては。

 人は自分の言葉に責任を持たなければならない……この言葉自体が俺に突き刺さってる気がするけど気にしない。

 

──お前の場合人の言葉を訂正しようとしないからこうなるんだがな

 

 お黙りコルシア。

 

「──その言葉を待っていた」

 

 じゃあ、してもらおうか………?

 カバンから紙を取り出し……メアたちに告げた。

 

 

 

「──地獄を味わってもらう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、メアたちは?」

 

「期末テストの成績が酷すぎて部長に勉強会に連れていかれたッス。あ、そういやカガは点数どうだったんスか?」

 

 ……流石にあの点数はなぁ……ひどすぎて教師に呼び出し食らって、部長の堪忍袋の緒が切れたのかな。それとも単に心配してか。

 メアなんて中間の頃はまだ上の下ってくらいの成績だったのに何があったんだ……って聞いたら「合体技について考えてて……」って笑ってたんだよな。

 

 さて、舐めてくれるなよバング。こう見えて勉強は出来る方でな……学年の中で20番目だ……。

 まぁ部長やワタリには勝てないけど。バングは確か……30位くらいだったか?

 

「……!」

 

「? あー、俺は国語と英語が苦手で……暗記物は得意なんすけど……ッス」

 

「僕もトールを馬鹿に出来ないレベルだからなぁ……後でしっかり復習しておこ」

 

 そういってウリ坊が顔を歪める。恐らく一歩間違えば連れていかれていたと自覚し反省しているようだ。いい心がけ。

 ……バングってたまに語尾忘れるよな。クラスが違うから分かんないけど、英語の授業の時は語尾をつけるんだろうか?

 

 まぁいいか。

 さて、今日は夏休み開始、終業式を迎えた日の午後。

 

 茹だる様な暑さがある日の事であった。

 FF予選が各地で終わりをつげ、部長が強くなるだろうと目星をつけていた雷門中があの帝国を相手に3-1で勝利。関東Aブロック最後の試合に決着がついたのは記憶に新しい。

 ……帝国との試合は映像をエマが仕入れて来てみんなに見せてくれたが──部長曰く「明らかに動きも強さも違う」そうだ。

 

 しかし部長が雷門に行った日からさほど時間はたっていない。それだというのに部長にそこまで言わせる進化を遂げるとは。

 一体どれだけ過酷な練習をしているんだ……と息を呑んだことを覚えている。

 

 調べようにもうまくいかない。どうやら、雷門は屋内の秘密特訓場を手に入れたらしい。そこで練習を続けている様なので碌に情報が手に入らない。

 せいぜい、毎日ぼろぼろになって帰宅しているらしいという事しかわからなかった。 室内で一体何が行われているのだろうか?

 

 全体的な強さは勿論、個々人としても彼らは一皮むけ始めているそうだ。

 

 皇帝ペンギン2号を相手に一度は破れるも、仲間達の声を受け両手でのゴッドハンドを見せペンギンを打ち破った……キャプテン、円堂。

 去年と比べれば回転数が格段に上昇し威力が上がっている、炎のエースストライカー豪炎寺。

 精度の高いパスとキック力で隙を狙いこじ開け突破する、もう一人のエースと部長に評されたドラゴンストライカー染岡。

 他にも、ソニックに興味を持たれる素早さを持った風丸、体格つながりでトールが目を付けていた壁山。

 

 ……ちなみに既に形になっていると思えたDFの土門という男。彼は部長とエマによれば元帝国の人間であった可能性が非常に高いそうだ。偵察代わりに送り込まれ、そのまま馴染んだのであろうか?

 うちはそれらしき人は来たが皆いなくなった。この違いは何なのか。おかげで活動部員は一号二号含めて13人しかいない。部長もこの事態を重く見て「かなり低負荷のメニューを組もう」と言い出したが……次に新入部員が来た時にどうなるか。

 

「よし、みんな揃ったな? 折角部室が完成したんだからみんなで入らないとな!」

 

 校庭に一度集められた俺達を先導するのはジミー。部長はあまりしゃべらないためか、こういった場ではジミーが音頭を取ることが多い。

 ……そう、今日は俺達は部室に入れる。

 明らかに早すぎる工程に、グラサンとバングの家がどれだけ頑張ったのかがわかる。

 

「ジミー、そんなこと言ってるが今朝はアルゴと二人で忍び込もうとしてたよな?」

 

「いやーやっぱり気になっちまってさ……って言わない約束だろグラサンー!?」

 

「う~新築っていうと入りたくなってさ~」

 

 グラサンはサングラスをきらりと光らせ、笑いながら犯人ににらみを利かせる。

 その視線を受け軽く笑う二人。反省のはの字も感じられない。特にアルゴは先ほどなど「メアたちの様子見てくるねぇ」などと言って甘酒片手に見物を決め込もうとしていたほど元気である。

 流石に皆に止められたが。もし向かっていればアルゴも勉強会に参加させられていたのではないだろうか。

 

「──遅くなった」

 

「お、待ってたぜボス。あの三バカは?」

 

 そうこうしている内に珍しく……本当に珍しい、息を切らしている部長がやってきた。

 その様子から、あの三人に勉強を教えるという行為がどれだけ大変だったのか……思わず息を呑む。

 

「……目標を決めさせ、今はワタリに任せている」

 

──ですから、今この数字をa,b,cと置き換えているだけであって別に他の概念に塗り替わっているわけじゃないんですよ!

──えぇい計算など面倒だ!

 

「……基礎練習の時は加えるが、目標を超えるまでは必殺技といった応用技術特訓はさせない」

 

 ……ワタリとソニックの叫び声が聞こえ、言い切る形で部長がため息を吐いた。

 勉強会に使われている教室、そこそこ遠いって聞いたんだけどな……。ほんと大変そうだ。

 

「ハハハ……それじゃさっさと済ませちまうか。よしジミー行こうぜ」

 

「おっ、了解! よしじゃあ行くぞ!」

──おーぅ!

 

 そんなこんなで、俺たち9人は仲間を置き去りにし新しい部室へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……す、すっごくでかい……!」

 

「地上三階、地下一階。部に必要な設備を詰め合わせた夢の部室……って話だ。

意外と面積が狭かったからな。上と下に伸ばす形で空間を確保したらしいぜ?」

 

 ……話し下手だからワタリいて助かったわ。

 しかし言い出しっぺとはいえ任せて本当に悪かった。後でジュースとか奢ってやろう。ワタリは何が好きなんだろうか。

 今週中にはアイツらの苦手分野に合わせた問題集を作っとかないとか。仕事は増えるが……メアを隔離さえできれば練習の危険度もぐっと下がるし問題はないか。

 いやー部長って大変だなぁ。

 

──部長なら部室の出来にも何か言うべきではないか?

 

 ……いやさ、想定以上過ぎて言葉が出ないんだよ。

 なんだよ計4階分の部室って。あと狭いとか言ってるけど普通の部室よりかなり広めのスペース貰えたんだからな?!

 なんだよ、なんだよこれ……やたら禍々しい装飾ついてるし。デザインセンスどうした。メアの親戚にでも頼んだか……いやこの感じはワタリの筋か。ユニフォームといいこういうの好きなのかアイツ。

 

 そのうち魔王城とか呼ばれそうだな……蝙蝠とか烏とか色々彫られてる。

 ラスダンかなにか?

 

「……あらいいデザインですね。兄さんにもピッタリ」

 

 エマの目は節穴か? 俺はどっちかって言うとこの城に転がってそうな冒険者の骨だよ。

 返事がないただの屍役。

 

「部員全員が使っても余る広さのロッカールームとシャワー室。倉庫にミーティングルーム。地下には……なんと、観客だって収容可能なスタジアム!」

 

「まじっですか!? ッス!」

 

「……!!」

 

「すっげーぜグラサン!! もう住めるじゃんこれ!」

 

 あの、俺としては全員分のロッカーとシャワーはその半分ぐらいあれば十分すぎたんですけど……。大丈夫これ?

 お金使い果たしてない? 次ワタリ父見たらすっごいしょぼくれてたりしないよね?

 というかスタジアムがなんであるんですかね……別に練習試合もしないのに、誘っても誰も答えてくれない。近くのサッカー部にメール送ってみたら「ゆるして」の四文字返ってきたし。

 

「だが目玉はこれだけじゃないぜ……!

エレベーターで三階へ行こう」

 

「まだあるのか……」

 

「ふへへ甘酒バーとかは……」

 

 ないです。知らんけど絶対ないです。

 あとサッカーマスクズは眩暈を覚えているようだけどそれが正しい反応だぞ。俺も眩暈起こしている。

 

「ないでしょそれは」

 

 ナイスウリ坊。

 そして次々エレベータに乗り込む。というかエレベーター広いな……サッカーの器具とかも乗せる予定でもあるのか病院とかで見るようなでかいやつだぞこれ。

 

 ……で、三階についたわけだが。

 あったのは……サッカーコート? 天井のドームはもうなんか薄紫色していて怪しく光っているのはツッコまないからな。

 地下にあるって言うスタジアムと比べると、観客席らしき場所がないし……練習のためのスペースかな?

 

「ここが天上、屋内練習場だ。天井を開けることも出来るし、雨の時でも当然練習が可能!

でも更に驚く要素があってな……ボス、良ければコートの中に入ってみてもらえるか?」

 

「グラさん、なんスかそのリモコン?」

 

 ……絶対入りたくない。いやな仕掛けありそうな感アリアリでござい。

 でもなぁ駄々こねたら格好悪いし……大丈夫だよね? 地雷が仕掛けられてるとかじゃないよね?

 入るか……。

 

──ここで入るのが本当にお前だよ長久

 

 お黙り。

 で、トコトコ歩いてフィールドに入ったけど。なんも起きないぞ? せいぜい芝の感触いいなぁってぐらい。土に比べると足の踏ん張り効かなそうだから気を付けよう。

 ……グラさん? なんかすっごいニヤニヤしてるんだけどなんなの?

 

「親父たちが建設計画を立てている時に、ある会社が声をかけてくれてな。

そこの会社で研究中の設備が取り付けられたんだとさ……こんなのがなっ!」

 

 そう言って勢いよくリモコンのボタンを押したグラさん……。

 

「……?」

 

 なんだろう。急に体が重くなってきたような……熱中症かな?

 ……あ、違う絶対違うぞこれ!? すっごい体が下に引っ張られる!? 重っ! え、なにこれ!?

 血が足の方へ流れていく感覚がして気持ち悪くなってきた……。

 

 グラさん、にやにやしてないで説明してくれ! あれか、屋内練習場の壁の四隅付けられているあのへんなアンテナみたいな機械が犯人か!

 というか重……重り持っているせいで更にひどく……足プルプルしてきたよ。

 でもふらついてたまるか……マジでなんなのこれ。

 

「おぉ……ボスじゃ流石に問題なさそうか。みんな、今あのフィールドの中は3G……重力が強化され三倍になってるんだ。

この装置を使えば最大20Gの環境下で特訓が出来るのさ」

 

「へー、よくわかんないけどすごそう」

 

 ……はい!?

 重力制御ってお前……ドラゴンボ〇ルか!? それサッカーにいる!?

 あれか、最近重りつける場所がなくなってきたからって空間ごと重くしちまえって事か! くそみたいに偉大な発想だよ!!

 

「これで更に全国のライバルに向けて鍛えられるって訳か……じゃあ試しに何倍まで行けるか試してみるか!」

 

「よし、部長つぎは5Gまでいくぜ」

 

 やめろ! そのレベルは普通一瞬とかだから耐えられるんであって訓練で使う強さじゃない……!

 くそ、言いたくても体が上手く動かな……あっ、もう始まった。どんどん頭が重く……意識が……!

 

 

 

 助けて!!!




体 重 3 0 0 0 倍(誇張)

今回はシリアス回でしたね……

 ついに部室が完成し「FF本戦」が開幕。
メア姉弟とのデートとかは皆で補完してほしい。
ちなみにデート理由は「弟が部長さんと合体(技を)したいとか言い出してやばいので探る」だそう。




~オリ技紹介~

・失楽園 ??技
 テスト時間を犠牲にしメアが考案。始動は部長、仕上げはメア……だったが、部長の逸らし技術により、もう一人「楽園から追い出される人」役が募集される。
 完成しないことを祈る。

・光陰如箭 改 シュート技
 文章内で進化してる不憫な奴。
 以前よりも更に素早さ、直線へ方向への勢いが増している。だから部長のスローモーション視界による側面パンチングに弱い(ただし痛くない訳がない)
 何気にかなり強い技だが文章内で防がれた不憫な奴(大事なことなので二回)

1/31 V進化させてましたすんません。改です光陰如箭は。


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強敵登場な日※トナメ画像追加

・重力訓練室について
 建材は強化段ボールです(適当)
 仮に、超仮にアレスルート走る場合の企業協力なので今の段階だと部室に重力設備付けるやべー奴らの産物。
 正直ジェミニストームなら開幕時点でもなんとかやりあえるレベルへと到達しようとしてるんじゃないか? 低次元は眩暈を覚えた。

 それはそうと、つい最近知ったんですけど戦国伊賀島中って近畿代表なんですね……ま、まぁ近畿は二校出せるので……うん


【挿絵表示】
トーナメント画像です。手抜きではない気がします


 ……という訳で、メアたちには特別課題を渡しています。

 帰ったらしっかりやらせるようにお願いします。

 

『本当っごめんね織部くん……バカ弟が本当に迷惑を……』

 

 いや大丈夫ですよメア姉さん。テスト中に落書きとかしてたり妄想してたのが恐らくは原因なので……地頭もかなりいい方なので一週間もしっかりと勉強すれば以前よりか成績もよくなるかと。

 ……夏休みの宿題も毎日きちんとやってるかどうか確認お願いします。一応ドリル系は確認するけれど自由研究とかは難しいので。

 

『……どこに出しても恥ずかしくないものにさせるわ』

 

 お願いします。多分メアの性格上……フェルタンの観察日記とかつけそうだから。

 ……よし通話は切れたな。

 

 今頃メア姉さんによるスパルタがメアを襲っていることだろう。メアも最初は反抗するかもしれないが渋々やるに違いない。あの姉弟本当は仲いいからな。

 この間メア姉さんに「ちょっとお話したいから買い物行かない?」って誘われてホイホイ行ったら後ろからメア着いてきてたし。指摘すると恥ずかしそうにしながら真ん中に来たっけ。

 

 ……いや本当になんであの買い物に誘われたんだ?

 結局、洋服屋さんで次々着替えるメア姉さんと対抗するメア見せられて「なんなのこれ」って気分になった良く分からないお出掛けだった。

 最後あたりはエマ(メアの更に後ろについていたらしい、怖い)も参加してきたのは本当によくわからなかった。

 エマがメア姉に火花散らしてたのでそれ宥めるため解散になったし。

 

「ふふふ、そのまま弟に執心してればいい。兄さんは私のもの……」

 

 ──まぁ今はいい、なんなら後でもう一度聞けばいいし。

 ……たった今、会話を聞いていたのだろうエマが「兄さん観察日記……ふふふ」とか言ってノートにガリガリ書き始めた方が気になるというか怖い。

 それ研究か本当に? というかなんで悪魔が宿題出す気満々なんだろうか。

 

──宿題として出され、受け取った……つまるところの契約成立であるからな。宿題をやるのは嫌がっても提出しない悪魔はいないだろう

──妾はやるのめんどいからしっかりやれよ契約者

 

 サンキューコルシア。略してサンコル。

 まぁ宿題はきちんとやりますよ。学費無料はありがたすぎるから手放して堪るか。

 トロアはもう最近ニートって感想しか出てこない。多分今心の中覗いたら寝そべってそう。

 

 ……というかいい加減予習しておいた分のストックが無くなったから勉学頑張らないとね!!

 こうさ、普段全く勉強してる素振りがないのに頭がイイースゴイー、とかカッコイー! みたいなの期待してたんだけどね。

 

 もう誰も俺のテストの点数なんて気にしないからね……部員の中じゃ結局ワタリに負けるし。

 なんなのワタリ、教師が作るわざと100点にさせて堪るかーっ!! みたいな問題悠々突破するし。 

 え、復習した知識に応用利かせれば問題はない? かー言ってみたいねそんなこと!

 

──どんまいナガヒサ、えらいえらい

 

 ……サンキュ。

 さてだ。これで三人の家へは連絡終わった。

 トールの家なんてもう電話しながらトール叱ってて少し面白かったな。トールは計算させまくると知恵熱出るから、少しずつ慣れさせてやらないと。

 ソニックは……考えるより足動かす派だからトールと同じだな。ワタリと二人してどうにか勉強させてやらないと……いやもうソニックは最悪足速い人として生きていけそうだけれど……一般常識ぐらいは覚えさせないと可哀想というか申し訳ないというか。

 

「7月×日曇りのち晴れ……兄さん、今日の体調は……すこぶる良し」

 

 どこがかな?

 始まってしまった重力増加サッカー練習のせいでもう足腰ガックガクなんですけどぉ。

 みんなさ、俺が4Gの段階でもう気を失ってたのに聞いた話だと5Gまでは耐えたんだとさ。ほんとアイツら規格外だよね……サッカーマスクズ? 4Gで同じくぶっ倒れた。

 

 うめき声で意識取り戻して、介抱しつつなんとかフィールドから逃れたよ……。

 その後「ひと先ず練習中は2Gまでだ」って咄嗟に誘導しましたけれど……それでも辛いものは辛いよね。

 ……メアに怯えなくていいからまだ楽か?

 

 いや、ジミーのシュートが強烈過ぎて変わんないな。

 

 ジミー、もう見た目ただのドライブシュートなのに必殺シュート並みの威力あるんだよね。毎日少しずつ威力増してるし。

 受ける度に泣きそうになるんですよホント。人前で泣いたりなんて格好悪いことしませんけど!

 

──あの一撃、もはや必殺技と扱っていいのではないか? 見た目は何にも変わらんのは我らのサクリファイス・ハンドも似たような物だろう

 

 それは本当に思う。けどジミーが納得いっていない表情のままそう扱うとこじれそうだし。

 あと、もうなんかコルシアからしたらサクリファイス・ハンドは俺との合体技扱いなんだな。

 

 今日やること残りは……ごはんの準備は出来ている。

 うん他のメンバーがメアの様に俺に対し、合体技しようぜ! って言いださないために策を練ろうか。

 

 具体的には、技の進化とか……他メンバーと相性がよさそうなの見繕って合体技はそっちと開発させたり。カガ、グラさん辺りは多分次の試合までに技を完成させそうだから気を付けないと……。

 ウリ坊とかは猪突猛進の強化と、今のところ直線的過ぎて避けられやすいしそこの補強とか──。

 

『──♪』

 

 おやパソコンの通知音……メールか。

 珍しいな? 部員の皆はいつもは電話をかけてくるし……それとも闇雲に送った練習試合のお誘いに対する返信かな。

 今の所八校送って七校お断り頂いているからな。

 

 まぁ……正直実力的にメアのエンゼル・ブラスター改で沈みそうな所ばっかりだからしょうがないけれど。

 強いところ探すと大体遠いし。強いって話聞いたところ尋ねたら「我らは競うために鍛えているのではない」的なお返事貰ったよ。

 

 後一応予選は別ブロックだったけど戦国伊賀島中にもお手紙出しておこうかな……でもそれで本戦でぶつかったら対策練られそうでめんどいな。

 しゃーない、ぶっつけ本番でもアイツらなら何とかなるか。

 

 唯一、返事が来ずに残ってたのは高天原中だけど……完全無視されてるんだろうなぁっともう返ってこないものだと思ってたよ。

 さてさて内容は……あれ、高天原からじゃないな?

 

「どなたからのメールでしょう? 兄さん、もし女性であれば──」

 

「いいや──叔父だ」

 

 そう言えば月一回必ずするって約束した電話による状況説明遅れてたか。仕事も忙しいのに申し訳ない。

 沖縄に転勤とか大変そうだよなぁ。先月なんてハブに噛まれたとか言ってたし大丈夫なんだろうか。

 

 件名は……「FF本戦出場おめでとう」か。いやーほんとありがとうございます。

 ええとそれで、沖縄での仕事が一段落すんだから少し休暇を取って戻れる?

 

 ……そっかぁよかったよかった。久しぶりだな叔父さんと会うの。

 日程的に、順調に進めば準々決勝の前には戻れそうかな?

 その前に負けたらかなり恥ずかしいから踏ん張らんと。

 

 ……待てよ、ここに戻ってくるのか?

 ふと、後ろにいたエマをみ──いや近い!? 勢いよく振り返ったら顔ぶつける距離だったぞお前!

 

「……どうかされましたか兄さん? そんなに見つめられてしまいますと恥ずかしくなってしまいます……」

 

──エマっちさっきまで変な顔だったよ~

──メールに女性の影がないかひどい形相で見てたな恐らく

 

 あぁびっくりした……ってそうじゃなくて。

 

 エマの事、なんて説明しよう……?

 流石に妹を名乗る人が急に家に来たとか言っても警察呼ばれるだけだぞ……。

 

「まぁ、叔父さんが帰って来られるんですね! しっかり挨拶させていただきませんと……チッ

 

──おい舌打ちしたぞこの女……まあ、問題起こすのも面倒だから認識ずらしの魔術でも使うだろう……多分

 

 ははーん、さては叔父さんを帰らせない方が平和だな?

 逃げてほんと。

 

 あぁ……助けて。

 

 ……いや助けるのは俺の方か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中部地方、見晴らせば直ぐ日本海を見ることが出来る……山の上にある中学、代之総中(だいのそうちゅう)

 ここは日本でも有数の恐竜の骨が発掘される地域、校門などは骨をイメージした飾りつけがされ、校庭の一部では今もなお発掘作業が進められている。

 骨を掘ってはトラックによって博物館に送られていく様を眺める。

 

 全寮制であるこの中学では町に降りるのも一苦労。やや外の世界と隔絶された……そんな学校。

 

「──FFの組み合わせが発表された」

 

 そんな学校の中のある一つの教室の中。

 既にキャプテン、自分を除く部員たちは椅子に座っており、試合はまだかまだかと待ちわび己の牙を研ぎすましていた。

 自分たちは中部地方で一番強い、いいや今回で日本一になってみせると意気込みを持ち、鼻息を荒くする。

 

「で、で!? 最初は誰が相手なんだよキャップ!」

 

「今回は帝国も雷門なんて聞いたことのないような所に負けた! 誰にだって勝てるに決まってる!」

 

 昨年は惜しくも敗れたが、今年ならば余裕だ。思わず雄たけびが聞こえてきそうなほどにボルテージを上げ、キャプテンを見つめていた。

 ……全く、血の気が多くてかなわない。恐竜のごとき荒々しさと言えば聞こえがいいが、今年は特にプレイが皆荒い。

 全国大会では気を付けさせないといけない。そう思いながら、トーナメント表を読み上げる。

 

「俺達はBブロック……帝国が勝ち進んだとして準決勝で当たる位置。そして一回戦の相手は──習合だ」

 

 シン、と教室内が静まりかえる。帝国の名が出てきた時はみな目をぎらつかせたというのに。

 ……それは気を引き締めたからではない。むしろ逆。

 

「──()()()()!」

──そうだそうだ、ラッキー!

──公式戦0の出来立てホヤホヤのとこだろ? よゆーよゆー!

 

 チームのうち一人が言いだした。部員もそれにのった。

 そうだ、習合は今の今まで公式戦どころか、練習試合を一度しかしていないというずぶの素人集団。

 帝国学園に対し勝利した、なんてのも()()()()()()()が所詮は噂。聞いた話ではフィールドに寺門も源田もいなかったらしい。大方二軍相手に勝利したのに尾ひれがついたのではないか?

 それが俺達の認識だ。

 

 だが、いくら勝てる相手とは言えこの気のゆるみはまずい。

 少し冷やしつつ、誘導をしようと思い立った。

 

「落ち着け! そうやって調子に乗るのは悪い癖だぞお前ら。

……確かに、今年の俺達は強い」

 

 両手で制し、立ち上がろうとする部員たちを宥める。

 そうだいい子だ……大人しくするんだ。

 

「だが、いつ急な脅威が降りかかるかもわからない。この地に未だ眠る恐竜たちの様に、隕石、寒冷化……原因は定かではないが、そんな異変が起こり得るとも限らない。

目の前の相手がいかに弱く見えようと……全力で踏みつぶす! それこそが王者として相応しい振舞いだとは思わないかお前ら!」

 

 相手が何であろうと骨まで喰らい付く。それが俺達代之総中のサッカーだ!

 拳を握り振り上げ叫ぶ。

 

「あの帝国は随分と腑抜けた!

今年、全国大会を制するのは俺達代之総中! 熱く血を燃やし! 頂点からすべてを踏み潰すのだ!!」

──オゥ!!

 

 教室が揺れる。皆の雄たけびが響く。

 あぁ、いい心地だ……! きっと今年こそは、先輩方が出来なかった全国制覇も夢ではない!

 そう信じ、ミーティングを終わりにしようとした時だった。

 

「──ちょっとええかな?」

 

「? おつかれさまです監督……? どうしたんですか急に」

 

 ミーティング遅れると言っていた監督が自信ありげな表情で教室に入ってきた。

 普段の練習試合の時は顔だけ出して碌に部活に参加してこないというのに一体?

 

「いやいや……今年は優勝目指せる皆の為にな?

 

──えぇ助っ人呼んどいたのよ? 入ってええで……ブラックくん!」

 

 

 ──恐竜たちの根城へ、炎の息吹を持つナニカがやってくる。

 そんな気がした。




強 敵 登 場
 

 いやー代之総中は強そうですね。恐竜のパワーを前に、はたして習合中はどう立ち向かうのか!
 勝敗から目が離せません! ちなみに試合はプロローグの「次元高まる日」に続きます!!((

 今回短めなのはすまない。
 次回で練習風景一つ挟み、開会式の風景うつしたら試合が始まったりしなかったりします。


~オリキャラ紹介~
・ブラックくん MF
 教師の少ない給料で作られた全財産()を注ぎ海外から招待された帰国子女。
 次回出る時はいつになるか。炎の息吹を持つブラックドラゴンミッドフィルダーなんだって。攻防ともに優れたすごい奴だよ。
 元ネタが思い浮かんだ人はまぁ、そういうことだな。

 後別に監督の見た目はダイナソ〇竜崎ではないし体の中に恐竜の骨を埋め込んでいたり語尾がザウルスとかの子も居ないから安心してほしい。

・エマ
 兄さん、と呼ぶのもおこがましい存在に対する観察日記を提出予定。
 読んだものは2d3のSAN値チェックです。
 途中楽しくなってきたらしく時と絵が汚い。

・メア姉
 自分の性別に悩んでいた弟が最近明るくなったと思ったらホモの疑いが出て来て焦っている。
 それはそれとして織部君にもかわいい弟判定が下されそう。下ったら多分下の名前を呼ぶ。
 エマは切れるしメアも加わる。

・メア
 そうだジミーならば僕と部長の一撃に合わせることが出来るのでは?
 と思い始めたがすぐに姉直々スパルタ勉強漬けの刑になった。

・織部長久 GK
 気を失った後はコルシアと自分の意地で立っていたらしい。
 サッカーマスク達が倒れなかったらやばかった。


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開会、役者が揃う日

スマブラ買って、ポケモンのあらかじめダウンロードしました。
……いや更新遅れてすみません。


『会場の皆さま、大変……大変長らくお待たせいたしました!!

大変よき天候にも恵まれ本日、ついにフットボールフロンティア全国大会が始まります!』

 

 頭上のスピーカーから響く実況の声。

 湧き上がる観客、轟く祝砲。

 

 既に屋内で待機している各校の選手たちは入場、行進が始まるのを今か今かと待っていた。

 初めてのことに辺りを見回す者。緊張を抑えるためか掌に人と書いて飲み込むもの。あるいは行進の流れを仲間に確認しているもの。

 

 けれど、俺の後ろにはただ身じろぎ一つせず待つ男たちが十三人。内十一人は自分と同じ深緑のユニフォーム。

 他二人は橙色……キーパーとしての誇りを放つものを着用していた。

 

 ──俺達は帝国学園。ほんの少し前まで無敗だったもの。

 フットボールフロンティア四十連覇を成し遂げてきたもの。

 

──見ろ、帝国だ……やっぱり風格がちげぇな

──へん、張子の虎に決まってら。今年の帝国なんざどことも知れねぇところに負けたろうが

 

「……」

 

「……気にするな佐久間」

 

 だがその絶対的地位は今、揺らぎ崩れ落ちそうになっている。

 

 練習試合での大敗、影山総帥の突然の辞任。

 ついには地区予選決勝にて、成長した雷門中に負けた。

 去年の優勝校に与えられる特別措置にて全国大会出場は揺るがなかったが──

 

 ──影山が居なくなったことで明かされた数々の不正の痕跡。

 

 新鋭校の選手に対する妨害工作は当然のこと。手駒とした者を操り……当時、木戸川清修のエースであった豪炎寺に、或いは雷門イレブン──そして数十年前のイナズマイレブンに対し……いや、味方に行った非道さえも。

 

 

 影山は当時、なんとイナズマイレブンの一員としてチームに所属していた、雷門中の人間であったのだ。

 誰もそれを知らない、知ることが出来なかったのは当事者以外が知らぬよう情報を操作していたためか。

 

 奴は大会決勝当日にバスに細工を加え……結果、イナズマイレブンの多くが大怪我を負い欠場、表舞台から去ることとなってしまう。

 

 帝国学園の無敗を守るためには影山の存在はとても都合が良かったのだろうか。

 先代の帝国総帥となんらかの取引でもしたのか、その後は帝国学園のナンバー2として就任。

 

 先代の総帥が引退し実権を握った後は勝つために多くの工作が行われ、手駒の数を増やしていった。

 

 昨年の俺達との試合当日、豪炎寺の妹を事故に見せかけ……意識不明の重体にされたことも、奴の仕組んだことだった。

 これにより攻撃の要を失った木戸川清修は崩れ、俺達は危うい事もなく……悠々と勝利を奪い取った。

 

 去年の優勝が汚れたものだと知って、どれほどみんなショックを受けた事か。

 

 

 ……妹が試合に出る自分を見に行く道の途中で事故に……そう思いこんでいた豪炎寺はそれが原因でサッカーを止めた。

 そうしてチームとして成立もしていない、サッカーがないと思っていた雷門へと転校した。

 

 だが次の年、豪炎寺を追い雷門にやってきた俺達の行為を見て奴はサッカーに復帰。

 そして雷門に眠っていた……イナズマイレブンを率いていた円堂大介の孫、円堂守を目覚めさせることになる。

 因果と言うものは存在しているのかと思わず考えてしまった。

 

 そうしてあいつらがとてつもないスピードで成長しやってきた地区予選。

 ……俺達はそこで初めて、奴の醜さをその目で見ることになった。

 

 影山は雲隠れをした後も失っていない力を使い、考え得る限りの酷い手段を放つ。

 

 それはフィールドの天井の一部のネジを緩ませたこと……試合中に鉄骨が落ちてくるように仕組ませた。

 

 ──奴は、雷門イレブンを()()()()()()()

 下手をすれば俺達も……。

 

 それを防げたのは一重に影山を追っていた警察の方からの忠告、そして雷門側に居た元スパイである土門の気が付き。

 この二つがなければ……俺はフィールドに落ちていたネジに気が付けず……最悪な事態になっていただろう。

 

 これを受け俺達の中でも疑いが確かなものとなったのは至極当たり前だった。

 

 その後、雷門への申し訳なさから降参を申し出た。いくら知らなかったとはいえ自分たちのかつてのリーダーがやったことには変わらない。

 だから俺達がお前らと戦う権利はないと、そうみんな口々に言った。

 

──関係ないって! ──サッカーやろうぜ、鬼道!

 

 けれど、雷門はそんな俺達を鼓舞した。

 サッカーをしようと言ってくれた。

 

──フッ、後悔するなよ!

 

 ……そうして全力で挑んで、負けた。

 だが確かに、あの時のサッカーは今までしてきたものの中で一番楽しく、熱中出来た物だったのは間違いない。

 今も思い出せば心のどこかが熱くなる。

 

 だからこそやはり、勝てなかったという事に対して悔しさも大きかった。

 

「(もう一度……次は俺達が勝つ!)」

 

 だからこそ、今度こそ、俺達は実力で王者となる。なって見せる!

 その為には誰よりも強くならなければならなかった。急成長を続ける雷門よりも、底の全く見えない習合よりも。

 とうとう始まる、やってきてしまった日。

 

 どれほど()()()から修練を積めただろうか?

 どれだけ強くなれるだろうか、不安は尽きない。

 

 それでも、俺達は強くなる。

 自分たちのサッカーを極め……不確定で可能性が低いかもしれない勝利をこの手に掴んで見せる!

 

──おっといくぞお前ら

──ケケケ、分かってますよキャップ

 

 そんな中、一番入口に近かったチームが動き出す。

 

 確か奴らは……代之総中。標高の高い場所に位置する学校で鍛えられたスタミナと、精度は悪いが荒々しいプレイスタイルが売りのサッカーをするチーム。

 前に立っていたプラカードガールが先導し、光あふれる外へと歩き出す。

 

 その一歩一歩、手の振りには自信が満ち溢れトップバッターにもかかわらず少しも臆していない。

 ああいった輩は試合中も調子に乗せればどんどんと厄介になっていく。最初に出鼻をくじくのが一番だが、それは相手も承知の所だろう。

 奴らと一番最初に戦うのは……習合か。

 

 勝ちは習合がとるだろうが……一体どんな試合になるか──。

 

「……ん?」

 

 後いくつか進めば次は俺達の番だ、そう顔を向けることで後ろの佐久間達に伝えようとした時だった。

 視界の端……代之総中のメンバーで唯一……最後尾で一人、出遅れた男がいた。

 

 そいつはそれに気が付いている素振りはあるもののまったく急かず、のんびりと背伸びをする……気の抜けた男だった。

 

──っ、おい助っ人! 遅れんじゃねーよ!

──ハイハイ……またく、急がなくとも会場は逃げナイヨ

 

「……奴は」

 

 トゲトゲしく長い髪。後ろで一つに束ね先を編んだその形に見覚えがあった。

 だからこそ、俺はふと思ったのだ。

 

 代之総中が勝つ可能性はゼロではない、と。

 しかし、この考えはどこかまだ習合の強さに甘さを抱いていたのだと俺は直ぐ後に気が付くことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今大会は全国大会が始まる前より大荒れ! 各地より激闘を制した猛者たちがここに!!』

 

 俺は格好いい行動が大好き、というよりかは格好悪いのが大嫌いなんだよ。

 どんぐらい嫌いかって言うと、最近どんどん寝床に入ってくる頻度が増えた謎の妹が謎の食材を料理してても何も言えないぐらい。

 

 食べた後なら言える「この食材なに?」って。大体滋養強壮に良い漢方紛いの植物だったり、普通捨てる動物の臓物だったりするけれど。

 美味しい時はいいんだけど……癖が強すぎて喉を通らない時もしばしば。しかも量が尋常ではない。

 無理やり消化しても血行が良くなりすぎてな、練習の疲れですぐ眠りに落ちるはずの体が数十分布団の中で意識を保つレベルに元気になる。

 

 本当にアレは人体に無害なんだろうか……。まぁそれはそれとして。

 

『──今、選手入場ォ!!』

『まず一番最初に入ってきましたのは中部ブロック代表、代之総中だぁ!』

 

 だからまぁうん。選手入場なんて晴れ舞台中の晴れ舞台を前にして俺は少し緊張している訳なんだよ。

 どれくらいかって言うと黒包帯巻いて行こうと思ったのに普通の白包帯巻いちゃうくらい。

 

 気が付いた時すっごい恥ずかしかったけど「──そうかリーダー、既に封印をする意味もない……太古の戦争で猛威を振るった闇の力を手中においたという事なんだね!!」ってメア解釈に助けられたね。わけわかんねぇけど。

 

『代之総中は地区予選で必ず点差を3点以上獲得し勝利を収めてきました! その攻めの強さを持ち全国大会を駆け上がるかぁ!?』

 

 あっ、ウチと一番最初に戦う所だな。

 福井県にある代之総中。パスミスやらドリブルミスが他校より目立つけどそれを補うフォワード陣、キーパーの強さがある所だな。

 

 ツートップのうち一人FWがキャプテン。恐竜の足をイメージして高所から叩き踏み潰すシュート技「ダイナソースタンプ」って技が有名だな。

 キーパーはトリケラトプスの三本角を現しているのか、両腕と頭で真正面に弾き飛ばす「トライデントホーン」って技を持っているはず。

 

 ……まぁ俺はともかく他の超次元な部員たちを相手できるのかというと断言できないんだけど。

 メアの相手は無理だろうな……うん。

 

 ってあれ? なんか前調べしたはずなのに知らない選手が一人混ざってたな……?

 あんな紅い目の選手いたっけ。後で詳しく調べておこ。

 

 そんで次々と皆入場していくな。

 忍者っぽいところとか見た目ロボっぽい奴とか海賊帽子被ってるやつとか……うんここはハロウィン会場か!?

 

 サッカースタジアムだよな……? なんでみんなこんなに見た目いかついんだよ。

 帝国学園のゴーグルとかドレッドヘアとかマントとかが霞むじゃないか。俺達結構個性的な集団だとは思っていたけれど見た目モブみたいだな?

 

 やっぱり包帯は黒にしておくべきだったか……。ついでに海賊の人見習って眼帯とか付けようかな。

 視線には慣れたからどうだ格好いいだろうって見せびらかしてはいたが……眼帯とかで隠しておいて「本気を出す」みたいなこと言いつつ取ったらめっちゃ格好いいんじゃないかって事に最近気が付いたよ。

 

──なんだ長久、貴様まだ本気ではなかったのか?

 

 本気3000倍だけど?? なんなら今突っ立っているのも疲労的な意味で辛いよ?

 ……そうだなこれやるには隠された力とかないとすっごい格好悪いな。……これはハロウィンのコスプレ案とかにしてしまっておこう。

 サンキューコルシア。

 

──コスプレはするのか……

 

『続いて関東Aブロック代表──雷門中学!

地区予選ではあの帝国学園を下し今大会注目が集まっております! 40年前の伝説、イナズマイレブンの再来となるかぁ!?』

 

 円堂さん率いる雷門軍団、豪炎寺さん以外大なり小なり緊張しつつ入っていったな。

 チラッとこっち見てたけど俺のこと覚えてるかな。顔見知りレベルだけど、それでも知り合いが勝ち進むのは嬉しいよね。

 

 まぁ……地区予選ではどんどん強くなっていって震えましたよ。そうかアイツらうちの部員と同じような人たちなのかって気が付いた時はもうよく生きて帰ってこれたなと更に震えましたね。

 もう震えすぎてただでさえない贅肉が削げ落ちるぐらいに。

 

 さて、会場に入っていく雷門の人たちの体を思い浮かべてみるか。

 心なしか以前見た時よりも体が仕上がって服もピチピチ……いや、アイツら……さては服の中に重り仕込んでる!?

 

 ふふ、俺の真似かな。……しなくていいんだよ。

 だからかなのか、少し動きぎこちない部員が居るけど開会式の時ぐらい外そう!? まぁこっちも俺だけこっそりしてるけれど! 重り仲間出来てもこれっぽっちもうれしくないからな!!

 その特訓してるとかますます強くなること確定じゃん……勘弁してくれ、仮にぶつかることになった時どんだけ強くなってるんだあいつら……。

 

 絶対その時になったら二号にキーパー任せてベンチ居座るぞ俺。

 今の内から格好悪くない理由探しておこ……。

 

『続きまして昨年優勝による特別枠として、帝国学園が入場だぁっー!!』

 

 ……帝国の人たちは全員俺をこれでもかってぐらい睨みつけて入場していきました、はい。「絶対に俺達が勝って見せる」みたい闘志が込められていましたが……それは俺にではなく後ろの部員たちに頼む。

 

「んだゴラアイツら……! やりてぇんだったら今ここで」

 

「──トール、落ち着け」

 

 トールは喧嘩売られたと思って隊列崩しかけないように。ステイ、ブロック的に準決で当たるから怒りはその時に放つのだトール。

 あとこっそり見えないと思って後ろの方で甘酒飲もうとしているアルゴ、行進の時は仕舞っておきなさい。

 

『今年は番狂わせが続く中、絶対的王者の地位を脅かされた彼ら!

気合も新たに王者奪還を目指します!』

 

 奪還……まだ優勝決まってないのに? まぁ敗者復活的な立ち位置だしもう失ったものとして扱われているのか。

 しゃーないか。それはそうと多分俺達と練習試合した時より強くなってるよなあの人たち……。

 

 源田さんと寺門さんも怪我から復帰してますし、エンゼルブラスター改はもう効かん! とか言い出されませんように……。

 

 それはそうとなんか影山さんが辞めて色々とごたごたしているらしいが大丈夫なんだろうか。

 調べた限りだと不正とかなんか言われてるし、もしかして俺達との試合の後辞めたのって帝国が負けたって事実に視線を誘導させてそのうちに隠れるためだったり?

 うーんなんか違いそう。

 

『そして、今大会の出場校を語る上で彼らの事を無しでは語れません!

なんとチーム結成より半年未満、彼らの戦いぶりを見て予選対戦校全てが棄権を表明! 公式戦0回で全国大会進出という偉業を成し遂げた男たち!!』

 

 え、そんなところうち以外にあるの? 知らんのだけれど。時間なくてまだ参加校数校しか調べてないからそれ以外の所かな。

 しかし全部棄権って……どんな凶悪なサッカーすればそうなるんだ? もしかして影山さんのソレらしく脅してとか……なにそいつらこわっ、絶対試合したくないぞそんなとこ。

 

「ぶ、部長」 

 

 お、どうしたウリ坊。ユニフォームを引っ張ってはいかんぞ。部員の皆に仕込まれた重りのバランスが崩れて倒れるからな。

 ……あれ、目の前に居たはずのプラカードガールさんがいない。おかしいな、俺が怖くて逃げ──ああ違う? 少し進んだ先にいるな。

 随分困ったような顔でこっち見てて……うん?

 

『近畿Bブロック代表、注目度ナンバーワン!

デビルズキーパー織部長久率いる──』

 

「ボス、もう呼ばれてるが行かなくていいのか?」

 

 あ、あぁぁ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!

 やらかした、やらかしたやらかしたやらかした!!

 

「……ふふ、違うよグラさん。リーダーはわざと遅らせて一瞬周りに疑問を持たせた後君臨することで──」

 

 

 助け──じゃねぇ全力ダッシュだお前ら!!?

 もうチーム名呼ばれた瞬間には会場内にいないとまずい!

 

 

「──駆けるぞ」

──オゥ!!

 

「フハハハ! 滾るな部長!」

 

 あっ違うソニック待って確かに走るとは言ったけどそんな普段の練習の時並の全速力じゃなくてい──いや速いね皆!?

 そうか重力訓練でもうみんな二倍の重力で以前と同じような動きしてたもんね。つまり単純に以前より二倍の速さで動けるように……まって連れてかないで!

 一号二号止め──アッ駄目だ

 

 

 

 

 助けて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『習合──』

 

 一瞬にして奴らはその場に現れ、制した。

 

 快晴、半袖でもジワリと汗が額を伝うほどの熱気。

 フットボールフロンティアスタジアムを覆っていたはずのそれは、一陣の風によって吹き飛ばされる。

 

 ゾクリ、体の底を冷やすソレ。

 思わず実況の声が止まる。決していけない事だと理解していたはずの口が閉じる。

 

 黒と赤を基調としたユニフォームの一団。そこに混ざる二人の緑色。明るい色だというはずなのに毒物を思わせる色に思えてしまうのは彼らの威厳が故か。

 初めの十一人に加え、同じ地区のトッププレイヤーとその弟を加えた十三人。

 目にもとまらぬスピードで動いたのだろうか。そう認識したというのにどこか「異空間から現れたのではないか」なんて妄想すら抱いてしまう彼らを見て、

 

「……来たか」

 

 そう呟いた。

 

 何かしら仕掛けるのではないか、と予想していたからか周りの奴らよりかは驚きが少なくすんだが……他の者は駄目だろう。

 少なくとも周りの者は皆、奴らに度肝を抜かれている。

 

 ……これが狙いか。確かに出鼻をくじくものとしてはこれ以上のものはない。

 

『し、失礼いたしました!

改めまして……その強さは未知数、今大会の台風の目となる男たち! 習合中学の登場でございます!』

 

 少なくとも、侮っていただろう中学も皆今「習合は何か違う」そう確かに心に刻み込まれた事だろう。

 当然それは、あの時よりかは強くなったとどこか思っていた俺達もまた同じ。

 

 ──確実に、あの日の時よりも強くなっている。

 

「……(乗り物酔いならぬ部員酔いした……つらい、助けて)」

 

 特に、世界に対して絶望でもしているかのような負のオーラを放つ奴……織部を見て、そう感じることしかできなかった。

 

 




 ちなみにゼウス中の人たちは普通に調整中として欠席した説明が会場内でされましたが、習合がやらかしたせいでみんな頭に入っていませんでした。
 ゼウス中って名前に悪魔たちが反応しかけましたがそれやると会場がやばいので必死で抑え込む長久が居て、その後姿を見て「やっぱ闇の力とやらはもうあやつれてるんだな」と納得する部員たちが居たとかいないとか


 それはそうと、カンタム、アクション仮面、ぶりぶりざえもんを鬼滅の刃に出したらウケるのでは? と昨日思いました。
 

~オリキャラ紹介~
・エマ 妹
 おかしい……いくら完璧な兄さんとは言え、美少女な妹が薄着で寝床に来ているのだから少しぐらい誘惑に振り向きかけてもいいのでは? もしやホモ……?
 と疑いを持ったりはするが格好つけ兄さんムーブによってほだされる人。悪魔の中で一番長久に弱い人。次点コルシア。中国四千年の歴史みたいな変な食材をどこからか調達し始めた。

・代之総中の助っ人
 紅目って格好いいよね
 中国人らしいアル



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準備をした者出来ない者の日

 ……スマブラクリアしました(土下座)
 あとポケモン楽しみですね(白目)

 それとベイブレードの二次創作考え始めてみました。
 ベイブレードに転生して美少女に使ってもらえるという幸せを得るが、子供の玩具とかいう次元ではない。コロコロコミック並みの戦いが起きる世界線に行ってしまった男の話とか。



 代之総中は強者だ。

 例え、何が起ころうと動じることなく油断することなく、ただただ全力で相手を潰す。

 そう俺は決めていた。

 

 けれど、

 

「──このままだとうちのチームボロ負けネ」

 

 その足場が……いいや、踏みしめるものそのものが脆い。

 開会式を終え新幹線で最寄り駅までやって来た俺達に対して、助っ人はそう言い放った。

 

 既に日は沈み、駅前は飲みに出かけようとするサラリーマン達がちらほらと見える。

 これからは自分たちの寮にバスで戻るだけ、長距離移動の疲れもある。

 

 色々な事もあったが一先ず休もう、そう俺が提案した直ぐ後の事だった。

 

「……おいブラック、今なんつった」

 

 チームの切り込み役、俊敏なドリブルで敵陣に攻め込んでいくドロマエオ──泥前という苗字から由来──が奴を睨む。

 しかし助っ人はどこ吹く風か、ドロマエオを一瞥すると視線をすぐ俺の方へと戻しまた口を開いた。

 

「負ける、惨憺たる結果。惨たらしく惨めに……と言った」

 

「ぜってぇ今付け足したろテメーッ!?」

 

 淡々と流すにしては言葉の棘があり過ぎた。

 当然、チームのみんなの反感が噴出。

 先ほどまでは蚊帳の外のような位置にいた助っ人を取り囲み、発言の意図を説明して見せろと言わんばかりの威圧の意思がにじみ出る。

 

「(……いくら挑発に近い言動とは言え、血の気が多すぎるな)」

 

 あぁまずい、いくらなんでもこの状況はまずい。

 下手をすれば暴力沙汰にまでなるかもしれない。

 ただでさえこの助っ人はチームに溶け込めていなかったというのになぜこんな火種を……いいや、違うか。

 

「(……俺が一番前に出て話さねば、他の者にやらせてはどうなるかわからんな)」

 

 そもそも溶け込ませる気が俺達にはなかったのだろう。

 精々試合で欠員が出てしまった時にのみ使おうと考えていて、最初からあてになどせず……いないものとして扱っていた。

 

 こいつの力を決して発揮させてなるものかと、みんな思っていた。

 

「……言ってくれるじゃないか……ブラック」

 

「ただ事実を言ったまでヨ、キャップさん」

 

 名を黒月 夥瓏(ヘイフェイ クーロン)。発音が面倒なためブラックと呼んでいて、中国では黒龍(フェイロン)なんて呼ばれているらしい。

 

 中国中学生ユース選抜のMF。その一行だけでこいつがどれほどの実力者なのかがわかる。

 確かにこの中で言えば……実力はトップクラスどころか随一だろう。それは認めよう。

 

「お前は、あの習合に俺達がなすすべもなく敗れる。そう言いたい訳か」

 

 だが、そんな奴を入れて優勝を目指す……!? 到底受け入れがたかった。

 今の今までみんなでこの大会の頂点に立つためしてきた努力に泥を被せる様な愚行。

 

 ……突如として現れた外国人をチームにだなんて監督は何を考えているのか。

 そんな男が居なくても俺達の勝利は揺るがないというのに。

 

「是。むしろアレを見て何も思わないとしたらお前らの目は節穴……化石の骨穴ネ」

 

「……ほぅ」

 

 ……聞き捨てならなかった。

 確かに開会式の時はちょうど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が会場がしずまりかえったのは分かった。

 失笑の類ではない、畏怖。弱者が強きものに対してするもの。

 

 ──だが、それがどうしたというんだ。

 あり得る筈がない。出来立ての無名校が、俺達を凌駕し得る筈がない。

 会場のモニターで映し出された奴らを見ても、二人ほどは緊張疲れからなのか口から魂が出かけているような有様だった。

 

「……お前」

 

 あんなものが強者だと? お前が節穴だろう、言い返そうと思った。

 そうして奴に近づく。真紅の瞳は動じずただ俺の顔をじっと捉えていて、思わず身が竦む。

 

 思えば奴にそこまで近寄ったのは……その時が初めてだった。

 

「──おいおい仲良くしてくれってぇー! この子呼ぶのに全財産使って今ビンボーなんよ~。

ブラック君も言いたいことはあるかもしんないけどもっと優しくなぁ?」

 

 俺達の対立の空気を感じ取り、手で制してくる監督を見て一つ溜息を吐く。

 

 そもそも金で人を呼ぶなと言いたいところだが、勝利を願ってのことでありまた目上である先生の計らい。無下にすることはできない……けれど受け入れることが出来ない。

 砂が舞い散っている様なむず痒さがある空気だった。

 

 だがこれ以上ここで話していても仕方がない。少なくともここでブラックと俺達が意見、考えを変えることはない。

 回りに無視させててもこの場を流すしかないだろう。 

 

「……みんな、一先ずバスに──」

 

 奴から視線を逸らそうとした時だった。

 

「──信じなくてもイ、けどアイツラの速さはどう考えても大会のレベルからズレてる。

そんな奴らとの試合が前にあるのに呑気に折角の山道をバス帰り?」

 

 肩を掴まれていた。

 

 更に距離を詰めてもなお、ブラックは俺をじっと見ていた。

 真紅の中にどこか黒みを帯びた、燃える紅があることに気が付く。

 

「っ、仮にそうだとしても移動の疲れもある。山の上の校舎まではかなり距離が──」

 

「やれるとこまでやればイ、時間は有限」

 

 ……乾いている、そう思っていた。

 それでも奴は眉一つ動かさず、俺達を指さしてくる。

 

「……習合が会場に入った時、確かに温度が1度下がったネ。

つまり、()()()()()()()()アイツらに飲まれたってことネ」

 

 誰もがという言葉を少し強調して奴は話す。

 感じるのは……悔しさか? こいつは……こいつは今、不機嫌なんだ。

 

 ……こいつの仕事は、大会に参加する俺達の夏が終わるまでチームに加わること。

 勝ち負けなど報酬に関係ない、既に支払われているから。そのはずだ。

 

「……お前」

 

 だから、本当に例え習合が俺達より強かったとしてもそれを指摘する意味も無い筈だ。

 むしろ仕事が早く終わるのだから願ってない事だろう。どこかそんな考えが根底にあった。

 

「──(ウォー)は負けるのが大嫌いネ。

例え一時の助っ人だとしても我は負けたくない。だからお前らが弱くて負けそうなら全力で鍛える」

 

 むず痒い空気の正体がふと分かった。

 

 これは炎。

 ブラックから放たれる勝利への執念の炎が俺達を炙っているのだ。

 

「負けたら終わりネ……お前らは勝ちたくないのカ?」

 

「……」

 

 ブラックを囲んでいた部員たちの目に宿っていた敵対心に燃え移る。

 燃えて崩れて、そこに新たな……習合に確実に勝つ。そんな気概の炎が生まれるのが分かった。

 

 では俺は?

 ……決まっている。

 

「──俺達は、勝つ者だ」

 

 肩に手をやり、奴の手をつかみ取った。

 

 習合が強いかどうかじゃない。

 単に、こいつに……助っ人に「弱者」として認定されるのが気にくわなかっただけ。

 

 代之総中は強き者、全てを踏み潰すものだ、

 こいつが俺達を強くするというのなら利用してやればいい。そうしてこいつを越え踏み潰してやろう。

 

 そう思っただけだ。

 

 

 

 

「ふん、少しはマシな目つきになった」

 

 ……いや本当に気に食わないなこいつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日は快晴。全国大会も進み現在大会四日目。

 既に12チームが試合を終えており、本日の4チームが終われば第一回戦は終わり。準々決勝が始まるという訳だ。

 

 折角のじごく……新しい部室から離れ東京のホテルでグースカ……してるわけにもいかないのでテレビを見て試合中継を眺めたりスタジアムの周り走り回ったり死にかけたり……。

 うん普段と何ら変わりないな!

 普段のご飯もホテルのもの+エマがどうやってか知らないけれど用意した物が出てくるから変わりない。キッチン借りたんだろうか……。

 

 部屋は4人部屋。各部屋の住人はくじ引きにより決められたのだが俺の所は、バング、カガ、ワタリとかなり平和。

 

「リーダー、ちょっと新しい技を思いついたんだけど……!」

 

「部長ちょっといいか……アイツがやたらプロテインを飲ませようとしてくるから匿ってくれ」

 

「部長ー! 技の改良案をちょうだーい!」

 

 ……だと思っていたのも束の間。事あるごとに皆来て部屋はぎゅうぎゅうになるわけだ。寝る時なんて布団を持って来てこっちで寝る奴すらいる始末。

 そんで寝る時もメアたちがいるから気が抜けない。

 全員が寝たのを確認してからじゃないとおちおち眠ることも出来ない。

 

「夜は長いぜボス……」

 

「部長! 代之総中相手の作戦についてなんだが……」

 

「遅い、遅いぞ貴様ら……何故寝ないのだ」

 

 ジミーとソニックはうんまぁいいか。前者は本当に作戦の事だし、ソニックは皆が寝ない事への苦情だし。

 でもバングとかが「折角みんないるんで……こ、コイバナとかしましょう!? ッス!」とか言い出すと乗るからやっぱり同罪。

 

 断れないじゃん……バングもうトランプとか持って来てるし。グラさんなんてさきイカ取り出してアルゴとつまみ始めるし。

 睡眠時間が削られる削られる。ようやく全員が寝たかと思ったら今度はマネージャー部屋抜け出したエマが入って来ようとするし。

 

 エマ曰く、マネージャー部屋はかなり平和で退屈なんだとさ。メアファンのマネさんは休憩時間はもっぱら執筆してるらしい。トールファンの子はトールの肉体の改造についてレポート書いているんだって。

 エマは俺の観察日記付けているんだし似たようなもんじゃねぇかな。

 

 そんでおかげでめっちゃ寝不足。眼に隈が出来ない様マッサージとかはこっそりしてるけど時間の問題。

 

 枕投げとか始めた時はもうね、死を覚悟したよ。死にたくないけど。

 あいつら多分野球とか砲丸投げでもかなりいい所行けると思う。

 数人に別方向から狙われたおかげで倒れずに済んだけどめっちゃ痛かった。

 

 一通り済んだ後、ホテルの人に迷惑かけるなって叱ったから流石にもう枕投げはしないよな……?

 ……で、なんだっけ?

 

 ああそうそう全国大会の進みだ、うん。眠い。

 勝ち上がりを決めたチームの中には雷門もいる。

 相手をした戦国伊賀島中の生徒は全員忍者、なんていわれるほどの素早さに打ち勝ち、風丸さんと豪炎寺さんによる「炎の風見鶏」という必殺技で見事にゴールをぶち抜いていた。

 

 ……成長率半端ない、半端なくない? 前半結構苦戦してんなーって思ってたけど「外すの忘れてた!」とか言って皆重りを外し始めたのはもうなんといっていいかわからんかった。

 あれ俺のせいなんかな……。

 

 他は守りの王者、鉄壁誇る千羽山中。科学的データで選手育成する未来工業中。昨年準優勝の木戸川清修中。

 農業で鍛えられた肉体を持つ農産光中。

 

 ……そんで、()()()()

 

 聞きましたか奥さん? 世宇子中ってところ。無名校だし特に地区予選で成績があるわけでもないけれど「特別推薦招待校」って枠に選ばれたらしいんですのよ?

 なんでも光る所があるチームを全国大会を経験させてあげようって枠らしいけれど……それの最初の相手が王者帝国ってなかなか意地悪だよな。

 

 中学自体は宗教系。ギリシア彫刻味溢れた校舎があったりと中々に個性的なところだけれど……スポーツの成績は今一つ。

 古代オリンピックの研究の一環として陸上競技とかは力を入れているみたいだけどサッカー部の成績は駄目駄目。

 

 開会式の時も「調整中の為本日は欠席」というアナウンスで流されて世宇子の人はこなかったけど、急遽参加が決まったらしいし……帝国に自信つけさせるためとかに元理事長かつ元中学サッカー協会副理事長の影山さんが用意させたとか?

 うーん間違っている気がする。

 

 ……いや、間違ってるな確実に。

 じゃないと帝国学園との試合結果が12対0で()()()()()とかいうおかしな結果になる訳がない。

 

──だろうな、試合映像からして本気を出してすらいない。あれを単なる掘り出し物として扱うのは……いやここにいたか

 

 うるさいぞコルシア。

 頭痛いんだからなるべく喋らないでほんと……。

 

──すまん

 

 いいよ。

 とりあえずあの中学の情報はエマにお願いして集めてもらっているけど何が出てくるか……。

 

「──部長」

 

 ……これは記憶の中の言葉じゃないな? 現実の声?

 

『さてフットボールフロンティア激動の一回戦も大詰め! 今日のスタジアムも大勢の観客で賑わいを見せております!』

 

 ……ジミーがいる、目の前に。俺を囲むように皆も……あ、監督代わりに拉致した将棋部の顧問も。お疲れ様です。

 で、どこだここ。

 ベンチ……フットボールフロンティアスタジアムの。なんでだ。服もユニフォーム来てるし。

 夢遊病かな。

 

「準備、出来てるよな?」

 

 ……えーと何がだジミー?

 

──いやお前……今から試合だぞ

 

 あぁ! そうだ試合だよなこれから。サンキューコルシアごめん本当に意識が飛んでいた。

 そうだな、他の中学に目を向けるのもいいけど今は目の前の相手に集中しないとだめだな。すまん。

 

「……当然!」

 

 いやもう勝てるとは思う。

 なんか助っ人として一人世界レベルの激やばプレーヤーが入ったみたいだけどチームに馴染めていないって情報あったし。

 流石に一人で勝てる程サッカーは甘くない……甘くないはず。

 

 そんでな、なんと……この試合前にカガとグラさんが必殺技を完成させている!

 昨日の練習の最後にようやくだけど、いい技だったよホント。

 

 ……グラさんなんてバズーカ砲具現化させ始めたから何おっぱじめる気だ!? って思ったけど。

 それでそれで、グラさん曰く「今の技とな……実はもう一個完成してるんだぜ!」とか言い出してたからな。いやそれ見せてよって思ったけど「折角だし試合でな!」ってはぐらかされた。

 

 うん、きっと勝てるな。

 それじゃあえーと皆さん……試合前の言葉くれって目かな。

 えーとえーと……うん大丈夫。それっぽい言葉なら言い慣れてる。

 

 

 

 

「皆……サッカー、しようぜ

──オゥ!! 

 

 頭痛っ!? 大声でこれならサッカー出来るかな……二号にキーパー任せ……あれ二号何処だ!? いねぇ!

 えーと……思い出した、食べ過ぎでお腹壊してたから大事とらせて休ませたんだ。

 

 え、やばくない? 寝不足でサッカーするの?

 

 

 助けて。

 




遅 寝 早 起 き 地 獄 サッカー

みなさん運動するときはしっかり睡眠とりましょうね。
ちなみに私は8時間寝ないと気が済まないけど最近六時間しか眠れていない。
辛い

何で試合始まる予定だったのに犠牲者出てないんですかね

~オリキャラ紹介~

・黒月 夥瓏(ヘイフェイ クーロン) MF
 黒龍の異名を持つ可能性のMF
 勝ちに拘る男であり黒いポニテと真紅の目がトレードマーク。
 世界レベルの選手なので普通に大会トップクラスの実力を持つ。
 
・将棋部の顧問 監督
 理事長と部員と保護者の三重囲いから逃げ出せなかった者。
 恐らく今の心境はライオンの檻に入れられたチワワ。

 将棋は出来るので戦術論は展開できるがそもそもサッカーのルールを知らない。


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次元が高まる日

殿堂入りしてました(土下座突き)
何となくで選んだヒバニーが最後サッカー技覚えて運命のつながりを感じましたねぇ!!

それはそうと、ボール置くだけで瀕死から快復できるポケモンセンターが欲しい。あればいくらでもサクリファイス出来るのに


 

 夢を見ている。みんなで。

 

 悪夢なんてとんでもない。すごくて、幸せで、決して壊したくない、覚めちゃ……冷めさせてはいけない──

 

 旗を振り応援する大男、

 

 子供を連れ添いながらも爛々と目を光らせこちらを覗き込んでいる家族、

 

 撮影器具の調整を行い、一秒一瞬も見逃さないと意気込みを見せるカメラマンたち、

 

 ……みんな、僕たちを見て期待している。

 きっとこの状態が好きな人だっているのだろう。スポットライトを浴びるというのはとても気持ちのいい事だと昔はよく教えられたからこそ思う。

 

 けれど、僕が感じる熱は"そこ"だけじゃあない。

 

「……あぁ、今日この日こそリーダーたちの覇道が多くの人へと知られる日だね。

光を放ち……僕はもっともっと強くなってみんなの進む道を照らして見せる!」

 

 後ろを見る、僕の中身を知ってもなお居てくれる仲間がいる。

 その誰もが光を持ち、決して僕自身が照らす必要もない人ばかり。

 

 けれどそうじゃあない。必要がない事でもあれば嬉しいってこともある。

 彼らの光量に負けない強さを持つことでより彼らの煌めきは強くなる……かもしれない。

 

 なんてね。

 

「相変わらずメアちゃんは微妙に何言ってるかわかんねぇな!」

 

「ひどいなジミーくん!? ……ふふッ」

 

 ジミーくんの軽口に反応を返して……少しの後に笑いがこみ上げてくる。

 結局のところ、僕は僕を受け入れてくれたみんなの為に張り切っているだけなのかもしれない。

 仲間の熱に浮かれているのかもしれない。

 

 でも、絶対に……この光と熱は絶やす気はない!

 君もそう思うよね、リーダー?

 

「……」

 

 目をやや細め、観察を続けている彼を見てまた笑みが浮かぶ。

 君の内に秘める多くの闇すら締める黒い光はやっぱり暖かい。思わず欠伸をしてしまいそうな心地よさすらある、流石に眠ったりはしないけど。

 

 

 熱狂の渦の中心に、僕達は立っている!

 フットボールフロンティアスタジアム、そして僕達の試合が今始まるわけだ!

 

「すっごい人の数……」

 

「縮こんでんじゃあねぇぞウリ坊! ……よっしゃあ! バング、ビビッてねぇだろなぁ!?」

 

「もちッス! エンジン全開でぶっ飛ばしていきますッス! 」

 

 騒ぎ、キックオフを今か今かと待ちわびるウリ坊くんたち。

 残念なことにコイントスに負けちゃってボールは彼ら……代之総中。攻撃の初手を握られた事になるけれど……まったく不安になっている様子はない。

 

 ──笛の音が鳴る。

 瞬間、空気が揺れる。

 

「いくぞ習合……勝つのは俺達だ!」

 

『さぁ、今キックオフでございます!! 代之総中のキャプテン竪村(タテムラ)、ボールをしっかりと受け走り出しました!』

 

 代之総中のキャプテンが豪快にボールを蹴り出し、試合が始まった。

 まずは僕、ジミー、ワタリが位置的にぶつかることになるんだけれど……。

 

「作戦通り行くぜ!」

 

「もちろん!」

 

「はい、確かに」

 

 ジミーの掛け声に合わせて僕たちは……ボールを無視し、前線へと走り込んでいく。

 チラリと後ろ目で彼にエールを送りながら。

 

「っ!?」

 

『な、なんと習合FW陣、竪村を無視し代之総陣営に入り込んでいく……? 大胆不敵と言うべきかぁーっ!?』

 

 習合の凄さを見せつける時だ!

 さあ出番だよ──グラさん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんで三人ともあっちの陣地に走り込んでるんだ……見た感じトール達も特に驚いてないし……俺だけ知らない感じ?

 もしかして作戦会議の時眠すぎてうんうん頷いたりしたのかな俺。

 

 あぁとても眠い。眠過ぎるのだけどもしかして今俺は悪夢を見ているんじゃなかろうか。

 夢なら早く覚めてくれ。きっと今頃俺は至極普通な力量の仲間たちと来年のフットボールフロンティア出場に向けて頑張っている違いない。そんで転んで頭うってしばらく気を失っているに違いない。

 

 断じて、頭おかしい次元の奴らに引きずられて魔の地でキーパーをしている筈がない。

 

──妄想の世界に逃げるのは楽でいいな。……体は依然現実世界に置き去りのままだが

 

 逃げられたらなぁ! まあ逃げられないからこんなとこまで来ちゃったんですけどね!

 あと頭痛気遣って小さめの声で話しかけてくれてありがとう。

 

──契約者よ、目を閉じるでないぞ? 折角妾が力を蓄えられるいい機会なのだ!

 

 はいはいそうですね……俺も流石に戦地で眠る程間抜けじゃないよ。

 あと今の流れでよく普通に大声出そうと思えましたねトロアさん。後でレモン目薬の刑だからな。

 

 ……頭痛がしても全く眠気が覚めないか。万が一眠ったら起こしてコルシア……。

 

──我を目覚まし時計代わりにするな……契約として一応受理しておこう。代償は成立後に領収する

 

 サンキューコルシア。

 ……で、試合だようん。

 

 代之総中のキャプテンがこちらを警戒しつつもどんどん進んでくるじゃないか。

 いい動きだなぁ、前調べした時よりドリブルの精度がよくなっている気がするぞ。流石だ。

 更に体格もいいと来ている。あれを止めるのは至難の業だぞ。

 

 ……ま、まぁでもうちの陣営にはMF、DF含めてまだ7人いるからな! 流石にこれを簡単に突破は出来ないだろう。

 なんならソニック辺りが自慢の快足で──

 

『習合MFも動かず……!』

 

「随分と舐めた真似を……後悔することになるぞ!」

 

 止めて……くれないんだ!?

 嘘だろ! ソニック少し企んだ顔してるけど動かないんだ!?

 

──ふーむ、中々に強そうだ。このまま必殺シュートを……いい考えだと思わぬか?

──賛成、美味しそう。コルっち生贄頼むね~

 

──よく考えろお前ら、前半数分で片手と我の魂を使わせようとするな!?

 

 頭の中で喧嘩しないで……マジで痛い。フェルタンがこういった痛みとかも治せたら……。

 

──無理

 

 そうっすかぁ。

 いや、でどうすんだよこれ。もしかして俺が一度サクリファイスしてドミネーションしメアたちにパスとかそんなエグイ作戦じゃないよね?

 骨二本いきなりやらかすわけにはいかないから今からでも作戦変更……あぁ大丈夫そう。

 

 グラさんが一人、竪村さんに対して指をさしている。

 何かやる気だ。よし頑張れ、すっごい期待してるから!

 

デッド──」

 

 キラリ、観客席が光った。

 カメラのシャッターか何かかな。いぇーいみんな見てるぅー?

 俺だけはなるべく撮らないようにね。みんな映り込まないように気を付けているけど映ったら面倒なことになること確実だから……。

 

「──スナイパー!!!」

 

 瞬間、人が吹き飛んでいた。

 

 比喩ではない、現実だ。斜め後ろへ転がっていく代之総中のキャプテン。

 次いで聞こえたのは……()()。観客席で光った場所からは煙……えぇ?

 

 そんでボールは転がってグラさんの足元に……そんでこっち見てサムズアップ。

 

『い、今のはいったい──』 

 

「ヤったぜボス!」

 

 殺ったなお前!? 雇ったのか!?

 ……いや流石に本物じゃないか。大方……超次元サッカー的力で狙撃手を作り出して観客席から狙撃したのか……?

 これがもう一つの度肝を抜くとか言っていた技か。うん肝が抜けるというか冷えたよ。

 

「さてと……そっちも仕事だぜメア!」

 

 そんでそのままソニックとかにパス……じゃなくてクリア? にしては強すぎる……あぁそういうことか!

 

「──光よ、我が身から溢れよ

 

「飛ぶのは本当に気分がいい……フェイク・フェザー!」 

 

 地をジミーが走り気を引き、低空をワタリが幻惑の羽で目隠し。

 それよりも遥か高くにいるメアが既に、シュートの態勢を作り出している……いや高いな今日はほんと。軽く10mは飛んでいるんじゃないか? 走り高跳びとか無敵なんじゃないかアイツ。いや流石にサッカー関係ある時じゃないと翼生えないらしいけど。

 

救いを求め天を仰ぐ人々へ!

 

 2対の翼に宙に支えられたメアが繰り出すはカカト落とし。

 足がボールに触れる瞬間に、メアの体から溢れる光を翼以外余すことなく注ぎ込み光弾を作り出す必殺技!

 普段は俺の生命を脅かす悪魔が今はこれほどに頼もしい。

 

──天使だがな

 

 仮に天使だとしたら天へお迎えするタイプの方だよ。

 ほらみてよ相手キーパーなんてまだ状況を掴めてなくて構えすらできてない……えっ?

 

 殺人シュート相手に……やばくない?

 

「──エンゼル・ブラスター改!

 

 逃げろぉキーパー!?

 

「っ、なめんな!」

 

 あ今ようやく気が付いて必殺技使おうとしているけどもう無理だよせ……!

 見た目以上に速いんだぞそれ、光っているせいでボールの位置が掴みづらいし! 

トライデントホ──ッ!!

 

 3本角、薄い緑色のトリケラトプスが顕現しかけた瞬間に、光弾が全てをぶち壊して進んでいった。

 あぁ……南無三。いや例え最初から構えられてても止められないってあれは。

 

「……何が起きた?」

 

 デッドスナイパーで吹き飛ばされたあとようやく立ち上がった竪村さんが辺りを見て呆然としている。まぁそうだよな……。

 なんなら会場が引いてますし。審判とか笛吹かずに立ち尽くしている。お仕事頑張って。

 

 ……うわ、ゴールごと吹き飛ばされてる。やっぱ今日のメアかなりはしゃいでるせいなのか威力増量されてるされてない? 後ろに人いなくて良かった……!

 見た感じだけど大丈夫じゃないよなあの人。起き上がれてないけど……頭を打ったんだとしたら早く処置しないと後が大変だ。早く担架で運んでもらわんと。

 

 ……その為には早く試合を一度停止させんとか。

 

「……審判?」

 

「っ、──!!」

 

 重たい瞼を片方閉じ、トロアがいる方の黒白目だけで審判を見る。

 直ぐに呼びかけに反応、笛の音が鳴る、頭が痛いからやめて欲しいけど必要な犠牲だ。

 

「……寅助!? 大丈夫か!」

 

 竪村さんたち代之総中がキーパーに駆け寄る。

 ……罪悪感すごい。やってしまったメアも少し心配そうにしている。

 担架がすぐさまやってきて寅助と呼ばれたキーパーが運ばれていく。後でしっかり謝りに行きます……本当にすみません。

 

「どうしました部長」

 

 落ち込み打ち震えている様子が悟られたのかウリ坊が話しかけてくる。

 えーとそのだな……頭回らん眠くて。

 

「……サッカー、したいな」

 

「……? はい、サッカーやりましょう!」

 

 薄々気がついていたけどウリ坊さては人の痛みが分からないな?

 別に「この程度が相手では俺達は全力でサッカーができない」って意味のサッカーやりたいって言葉じゃねぇからな!? お前今日帰ったらしっかり何がいけなかったか教えるから部屋で待ってろよ……いや今日は試合終わったらいったん奈良に戻る日か。

 じゃあ帰り道で待ってろよ。

 

──一応分かっているだろうが、この作戦許可しただろうお前に全責任があることを忘れるなよ

 

 ……はい。サンキュー……コルシア。

 そうだね、メアとかがやらかしちゃったのも部長責任だもんな。次から作戦会議はちゃんと意識をはっきりとさせておきます。

 ……それでどうしようかなこの試合の空気。

 

『た、大変失礼いたしました。

習合イレブンが早速の先制点! 目が眩む一撃によって代之総ゴールを大きく吹き飛ばしましたぁ!! まさしく規格外、これが今大会の優勝候補の実力!!

対する代之総中はいったい、どう立ち向かうのかぁーっ!!』

 

 実況のコメントにより冷え切っていた観客席にもまばらながら熱が戻った。ありがとう。

 

 しかし敵チームはどうだろう。帝国との戦いを見た同地区チームたちのように怯えてたりしないよな?

 ……いや違うな。流石に折れていない……どころか、煮え滾る暑さを感じる。

 

「……」

 

 ひぇっ、代之総中9番の黒月さんがすっごいこっち睨んできてる。

 本当すみません……助っ人の方とは言えすっごい思い入れがあるチームですよね多分。「やってくれたな?」って感情がすっごい読み取れるもん。

 その後で顔がそっぽ向かれて竪村さんに何か話している……企んでるなぁなにか。 

 

 ……サブキーパーがゴール前に立った。

 試合が再開するわけだが……大丈夫だろうか。

 

「──!」

 

 笛の音が鳴る。また竪村さんがボールを持って……センターサークルから飛び出た瞬間バックパス!?

 そのままボールが黒月さんへ……消えた!?

 

 やべっ今の俺のバッドコンディションだけどそれでも捉えられないってかなり早い……というか何処に。

 

「一点には一点で返す──訳ない、倍返しネ!」

 

「え、はやっ?!」

 

 いつの間に目の前に……やっべ!!

 その構えの技だけはやばい……バングたちは完全に間に合ってないしウリ坊たちでなんとかなるか!?

 無理だよね多分、ならええっとどうする……頭が全然まわらない……!

 

──お、おいしっかりしろナガヒサ! サクリファイスで間に合わんレベルならDFに指示を出せ!

 

 痛い、頭が痛い!

 あ、あぁぁぁ、あぁぁぁぁぁ!! 間に合わない、皆一動作遅れてる!

 サクリファイス一回で間に合わないなら二回分のダブル……んなことしたら魂2個分必要じゃん!

 え、えーとえーと……せめて魂が一個分の生贄で済むようにしてなおかつサクリファイス単体より強い技……!

 

 

 いやないわ。

 

 

 助け──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燃える、地底の底から燃え滾り割れる。

 割れ出た大地からは真っ赤に溶けた岩石……溶岩があふれ出て浸す。

 

 その中を泳ぎ時折顔を出す龍が一頭。空気が触れた部位が冷え固まり、何重もの黒い鱗となり堅牢さを増していく。

 

「これぞ我の必殺技──」

 

 故郷はただただ広かった。

 強くならなければ生き残ることも出来なかった。いくら強くても勝たねば意味がない事など幾度とあった。

 

 その中でも何度も機会を作り出し、物にしてきた龍こそが自分。

 ボールを高く高く蹴り上げ、炎の海から飛び立つ。黒い翼を広げ、赤い翼膜で熱風と共に上昇する。

 

 可能性がないなんてことはない、諦めなければ、動くことを止めなければ未来を作り出せる!

 

「──黒龍炎弾(ヘインヤダン)!!

 

 口から火を吐き纏い急降下する龍の一撃。

 最後の動作は、奇しくも先ほどの天使小僧と同じ。カカトを勢いよく振り下ろし……悪魔のキーパーに向かって放った。

 

 確かに我の本領はMFとしてのボール回し、けれどシュートが出来ないわけではない。

 お前を燃やし喰らってやる、勝利は我のものだ! 

 

「──サクリファイス・ハンド!」

 

 織部の必殺技が我の炎をせき止める。ただ片手を突き出しているようにしか見えない動作にどれほど力を込めているのかは分からない。

 なるほど強い、中学校同士の争いにいるレベルの技じゃない。

 

 けれど、

 

(ウォ)の方が上ね」

 

 止めきれるはずがない。

 直ぐに焼けていく右手を見て、ただ哀れむ。

 

 黒龍はやがて、織部の全身を飲み込んだ。




…………

……

Q.シリアスです?
A.小説タグを見るんだ



~オリキャラ紹介~
・竪村 FW
 代之総中キャプテン。名前の由来はティラノサウルスのテタヌラ下目から。
 ダイナソースタンプという技を持っているが果たして使うタイミングはあるのか。普通に良い選手。
 けれど狙撃手には勝てなかったよ……

・寅助 GK
 代之総中の正GK
 プロローグで犠牲になった人。戦場で気を抜く方が悪いんだ仕方がないね
 技は使えなかったけどトライデントホーンというものが使える。


~オリ技紹介~
・デッドスナイパー ブロック技 
 グラさんが編み出した必殺技。観客席とかに狙撃手を作り(?)撃たせる。
 初見殺しの要素が強いため、なれるとよけやすい。
 ただこれ本当にサッカーなんですか?

・黒龍炎弾 シュート技
 めちゃ強い。この時点では大会最強格。
 単体技のくせにサクリファイスの手に負えないやべー奴。フェルタン曰くエビチリ味(ネタバレ)
 生物技なのがいけなかったね

 


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陽炎に誰かの背中を見た日

 いきなり空から三億円振って来て受け取ったことにより美少女やら悪の組織と関わることになるストーリー始まんないかな


 

 揺蕩う、漂う。

 風鈴の音、誰かの笛の音。太鼓も轟けばまったくもって夏の夕暮れは寂しくない。

 

 寂しくなんて、ない。

 

「……」

 

 夏祭り。くじを引いて、チョコバナナを食べて、わたあめを食べようかどうか迷って、射的で落ちないことに憤慨したりして。

 楽しむつもりだったんだ。お小遣いだって溜めていたんだ。

 楽しまなきゃ損なんだ。

 

「……」

 

 電気の提灯に照らされる出店。

 遠くでデート中のカップル、孫に引っ張られ困りつつも楽しそうにしているおじいさん、家族で浴衣を着て楽しむ家族連れ。

 

 いつもと違う神社が眩しすぎて、俺は逃げ出した。

 

「……グス」

 

 下を向いて石段を駆け上がり、人混みを走りぬけ神社の隅っこへ。

 けれどまだ五月蠅くて……暗い暗い森の中へと自然と足が向いた。

 

 叔父さんからもらった、多すぎるお小遣いがポケットの中でクシャクシャになる感覚がする。

 申し訳ないので止まり、取り出して伸ばした。これがあればお絵かきせんべいが何枚買えるだろうか、くじ紐が何回引けるだろうか?

 

 ふと考えて、どうせ今日はしないだろうにと愚痴る自分がいた。

 

 しゃーないしゃーない。

 叔父さんは仕事が忙しいから仕方がない。友達は妙に気を使ってくるようになって話していても楽しくない。

 それならクーラーが効いた部屋で()()、テレビでも見て過ごしていればよかったのに。

 

 どうしてか、祭りに行く人たちの中に……二人を見てしまったから……最近知った、陽炎だってなんとなく気がついていたのに俺はここに来てしまっていた。

 

「……さびしいよ」

 

 涙が出てくる。哀しくなんてない。過去は変えられないし散々泣いた後だ。

 今更泣く意味なんてないのに……どうも涙が止まらない。駄目だ、こんなんじゃ()()()()

 夜遅く帰って来て疲れている叔父さんを困らせるし、何より俺が許せない。

 

 止まれ! 止まれ、とまれ……駄目だ。

 止まるどころか鼻水が出て来てさらに絵面が酷い事になる。ハンカチは持ってない。ティッシュもない。

 

 どうしよう、このままじゃ帰れない。

 この顔じゃ誰かに見られたら恥ずかしすぎる。祭りが終わるまで、人が居なくなるまで……暗い森の中でじっとしていなければいけないのだろうか。

 

「──な~に泣いてんの~?」

 

 そんな風に困っていると最悪なことに……誰かに見つかってしまった。俺と同じくらいの子供の声。からかいの感情が混ざっている声。

 誰だ、顔だけは見られたくない。慌てて背中を向け、うずくまる。

 

「……泣いて、ない」

 

「うっそだぁめちゃくちゃ泣いてるって~。ん……ぷはぁっ、迷子とか~? 探してきてあげよっか」

 

「泣いてない!」

 

 腕を組み顔を隠しソイツの視線からとにかく隠れる。何か飲んでいるような喉を鳴らす音。気楽な奴だと思った。

 知り合いではないはずだ。だが違うクラスの同学年という可能性もある。決して顔を見られてはいけない。

 早く何処かへに行けと、丸まった背中で意思を示した。

 

「あ、わかった~! お小遣い全部くじに使って外したとか……女の子に振られたとか?」

 

「違う! 関係ないからどっか行け!」 

 

 視界を塞いだからか、それとも焦りでおかしくなってきたのか少しばかり体がふわふわしてきた。

 犬の声も聞こえてくる。散歩がてら祭りに来た人でもいるのだろうか。

 

 それでもなお、後ろの奴は帰らない。飲食の音は依然と聞こえるし、愉快気な声も響く。

 本当に分からない奴だと思った。

 

「え~だって泣いてる子を一人には出来ないし~……あ、この焼き鳥美味しい! 君も食べる?」

 

 焼けた肉の匂い。腹が鳴る。

 恥ずかしい。

 

「いらない!」

 

 だが腹の音のせいでこいつは俺が腹をすかして泣いていると思ったのか次々と手持ちの食べ物を出してきた。

 わたあめ、焼きそば、イカ焼き、甘酒、枝豆。

 その度に拒否して腹の音を鳴らして……何度も繰り返されるうちに俺は疲れ果てた。

 

「……どうすればいなくなるんだよお前……」

 

 だからそう、聞いた。

 

「ん~そうだな……じゃあ──」

 

 

 

──起きろナガヒサ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……コルシアの声で覚醒する。

 

 硝子の様にどこか歪んでいて、砂の様に崩さり落ちた……夢、過去の記憶。

 ああそうだ、こんなことあったっけか。懐かしすぎて忘れていた。あの後から……ええと、どうしたんだっけか。

 結構大事な"()()"をした覚えがあるんだけどな。結局アイツの名前を聞かずに別れちゃってそのまま。神社にもう何度か行ってもアイツは現れなかった。

 

 借りたハンカチを返せてないんだよな。今も洗ってタンスの中にしまってある。

 クリーム色の下地にデフォルメしたスルメがプリントされているなんとも子供らしくないもの。

 

 

 ……そういやあの神社、結構御利益があるとか何かで家族でいつも参拝しに行ってたっけ。案外その神様が出てきて声をかけてきたとか……いやないない。悪魔はもうその辺うろちょろしてるけど神様なんて一度も見たことないしいるならもっとこう神様っぽいことしてほしいわ。

 例えばそう……

 

『な、なんと凄まじき爆炎……! こちらにまで熱が伝わってくるかと思えるほどの威力!

これが世界の力か!?』

 

「部長ー!!」

 

 試合開始五分未満で相手チームの必殺シュートに焼き殺されかけた時とかかなぁ。

 黒龍炎弾……サクリファイスハンドでも少し威力殺して止めることしかできないとか世界パネェ。必殺技の格の違い……いや地力が違いすぎるのか?

 久々に手が燃える感覚しましたよホント。エンゼルブライトみたいな白熱電球を触った時の熱ではなくヒリヒリと焼き焦がす炎の恐ろしさを味わいました。

 

 で、止められたのかって? ハハハ、俺じゃ100本やっても無理だよこんなの。これで本業はMFだってんだから泣きたいね。

 

──なかなかの辛味、その中に旨味……! あぁ、もう無くなる……かなしい

──龍の形さえしていれば炎を纏っていても食うのか貴様……

──クハハハハハ! よい、よかったぞ今の一撃は!! よぅし契約者、ドミネーションしようではないか!

 

 まぁ……フェルタンが食べてくれたからなんとかね。フェルタンが内側から黒龍を喰らう光景は絶対テレビで流せないなって思いましたまる。

 サクった右手と頭突き、左手で一撃加えてなんとか……生物系の技ってフェルタンが喰らいきるまでのタイムラグ中はせき止めてないといけないのがつらい。これが非生物ならそれすら使えないのが怖い。

 

──スパイシーなマグマがミルフィーユ状になって作り上げられた鱗……よく泳いで締まっている身……さいこう

 

 お腹減るようなこと言わないでフェルタン。

 後ドミネーションはする訳ないからな? いまだって火傷して骨折してる右手をフェルタンに治してもらっている最中なんだからな。

 いやほんと助かります。痛覚そろそろ死ぬんじゃないかなってぐらいお世話になっている。

 

「よ、よっしゃぁ! よくやったブラック、これで同点だ!」

 

「……そう、ネ……?」

 

 もう殆どなくなって視界を遮る効果ぐらいしかなくなった炎の壁(でも熱い)の中、黒月さんはこちらをじっと見ている。フェルタンが殆ど平らげたの勘づいたか?

 出来ればもう少しだけこの中で息整えたりしたかったんですけど……ダメ?

 ……しゃーない、出るか。手も治ったし。

 

──あ、ついでにお礼言っといて美味しかったから

 

 えぇ……シュート撃った相手から味の感想ってなんだよ。

 絶対変人の目で見られるじゃん。

 

──いやもう貴様は完全変人の類だしなんなら代表格だぞ

 

 コルシアハウス! ああそうだよ、この爆炎の中で無傷で出てきたら絶対また変なあだ名着くなこん畜生!

 せっかく今は悪魔のキーパーとかまだそれらしい異名なのに……インフェルノ部長とかつくんだよしってる。

 つらい……。

 

 …………。

 

 ……あれ、なんか焦げ臭いな。グローブかな……うん、焦げてるけどまだ大丈夫。流石元コルシアのハウス。臭いの元は……これじゃないな。

 でも腕の方から臭うんだよな……あれ、なんか燃えてる。

 

──包帯だな、お前の

 

 そうだねうん。白い包帯が燃えてる。

 ……で、包帯は俺の腕に巻き付いているわけだが。

 

 ──肉が焼けるにおいがする。

 

 あ、そっかぁあの夢の中で漂って来ていた匂いやけにリアルだなぁって思ったら自家製って訳か。

 ハハハ……。

 

 

 ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!"!"

 

 

 

 助けて!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷え切った会場はお返しとばかりに放たれた黒龍の一撃で盛り上がりを見せた。

 そうか、これは一回戦目にして決勝戦並みの盛り上がりになるのだと誰もが予感したからだ。

 ゴジラの出現には驚いたが、相手にモスラが出て来て怪獣大決戦になると……。

 

「──?」

 

 その動きに最初に気が付いたのは黒月ただ一人。

 揺らめく炎の中、ボールがゴールを揺らさない違和感から注視していた我だけが気が付けた。

 

 まだキーパーは……織部は倒れていない。

 それどころか、ボールを足もとに落とし、何かしようとしていると。

 

「っ、全員さが──!」

 

──あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!

 

 その声は烏の汚い声で潰される。

 同時に、黒龍の炎が払われ……()()の織部がドリブルをして出てくるではないか。

 

 ボールは止められた。その光景を見て万人が理解した。

 

 ありえない、自分の力をよく理解していた我だからこそ、目の前の光景が理解できなかった。

 自慢のサクリファイス・ハンドは簡単に打ち破った、奴の手はグローブ、包帯の上から焼けていくのを確かに見た。

 包帯は未だに燃えている、織部から大きく両腕を振るうものだから火の粉が散る。元気だ。疲弊していない。

 

 ありえない。

 

 万が一、億が一に踏ん張って止めたとしてもダメージはあるはず。

 それなのに……どうして全力で走れる!?

 

『炎の渦からキーパー織部飛び出しました! シュートは決まっていません! 代之総中惜しくも得点ならず!』

 

 ああ違う、今はそんなことを考えている暇はない!

 いくら奴が元気でも我を抜けるわけがない、ここでボールを奪取すれば例えこいつがどれだけ守りが堅かろうとゴールはがら空き!

 

黒龍炎棘(ヘインヤッジ)!

 

 腰を落とし、片足で地面に弧を描く。

 芝生に火花が散り、赤く発熱し燃える。溢れ飛び散った溶岩が形を成し、黒龍の鱗となり外殻……炎を纏う棘を顕現させる。

 前方、走り寄ってくる織部に向け棘が突き刺し燃やす様に飛び出る。

 

 これもまた世界を相手するために磨かれた必殺技。例え止めきれなくても、一瞬体勢を崩した相手からボールを低姿勢のまま奪い取る。

 始動は短く、隙も無し。

 

「これで──」

 

 問題ない。そう言いかけて……ペナルティエリアから出てきた奴が構えを変えたのを見て、気が付く。

 右足を大きく振りかぶり、我よりも後ろを見据えている。

 

 これは……シュート、それもゴール付近から反対側へと届ける超ロングシュート! 

 

 我は……選択肢を間違えた。

 

「──()()()()()

 

 その言葉をつぶやいただけであった。

 黒龍の外殻の前に現れるは……とても美しい白龍と、何もかも飲み込んでしまうかのような黒を持つ蛇。これが、奴を悪魔のキーパー足らしめている存在だとどうしてか見た瞬間に解った。

 

「──()()()()()()()!」 

 

 耳を塞ぎたくなるほどの咆哮。白龍のそれは我が吹き飛ばされるのではないかと思うほどの風。辺りの炎すらかき消し、龍声が会場内に轟いた。

 ついで迫る黒蛇が煎餅のように棘をかみ砕き飲み干し横を通り過ぎて行く。

 

 技が完全に叩き潰され、低姿勢のまま動けないでいるとシュートを終えた奴がこちらを漸く見て言った。

 

「……言い遅れた」

 

 さっきまでとは違い、獲物を見るかのように見開かれた二つの眼が我の体の動きを一瞬、完全に止める。

 時間にして数秒。

 

 けれど、その瞬間に我の人生の全てを見透かされた気分になる。

 

「いい、シュートだった」

 

 我に対し、奴はただ……ごちそう様と告げてきた。

 我の、今の今まで積んできた鍛錬を奴は……喰らったのか?

 

「──!!」

 

 声にならない咆哮。上手く動かせない体は……シュートが決まったことを知らせる笛の音と共に、フィールドに叩きつけられた。





 超次元サッカーのルールはみんなしっているな?
 基本キーパーは控え入れて二人ぐらいしかいないから両方退場させるか戦意喪失させて、敵チームのエースも心を折るのが正攻法だぞ

 まあそのな……シリアス入れたらもう圧倒的展開の速さで全てぶっ壊すしかないかなって

~オリキャラ紹介~
・謎の子供A
 ~ を多用する
 甘酒を所持。からかい上手

 一体誰ルゴくんなんだ……
 それなりに重要人物

・織部 長久 GK 1番
 かちかち山の狸さん
 
~オリ必殺技~
・黒龍棘 DF技
 シュートブロック可能、短い時間で発動できて仕事を確実にする有能技。
 パリパリおせんべいなのが悪い。


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眩む炎天、遠点に未来を見出す日

 Twitterでいろんな人と話している内に、松風世代になったらさすがに現役参戦はキツイけど三国さんの装備枠になりそうな部長が誕生しました。
 いつか辿り着けるといいなぁ

 それはそうと更新遅れてすまない。5V色違いギガイアスが欲しい


 故郷はただただ広かった。

 けれど、それに比例する人の数が生み出す闇は……際限がなかった。

 

「────!」

 

 自分の生まれがあまり恵まれていないことは知っていた。

 それは自分に最初、戸籍の存在すらなかったことは勿論。物心がついた時、親と言える存在がいないということも。

 ただ一番古い記憶、誰かに連れ去られ、我に手を伸ばす誰かが居た。

 それが何を意味するのか、理解しない脳ではない。

 

「──!」

 

 地頭が、見た目も悪くはないというのは本当に運が良かった。

 そうでなければ、ただ我は他の人の歯車の代替品になるのみだったから。

 

 狭い檻の中に閉じ込められ、人間らしい生活なんてのは知識としてすら得ることが出来ない。

 求められた"未来の値段"のために日々泣きながらも頑張るしかなかった。

 

「……あぁ」

 

 足りないものを探し出し埋める。飛び出ている点に気が付き伸ばす。一日中。

 

 媚を売った、周りを蹴落とした。己の扱いをよくするための手段は選ばなかった。泣き言を言った仲間を足場にするなんてのは手慣れた事だった。

 どんなことをしてでも我は勝ちたかった。人になりたかった。家畜で終わるのが……材料で終わりたくなかった。

 

 やがて行動は報われた。ある程度よい買い手に気に入ってもらえたようで、そこからはようやく"人並み"になれた。

 でもそこでも更に我と同じような子供が大勢いた。

 力をつけて、周りを蹴落として、また次の買い手へ……また力をつけ……。

 

 いくら生活が裕福になろうが、踏み外せば溶岩に飲まれる。

 安全安心と言える日がなかった。これはきっと人生が終わるその時まで続くのだろうと気が付けたのは救いか否か。

 

『……ご、ゴォール!! 2-0、織部の超ロングシュートが突き刺さる!

黒月の爆炎シュートを吹き飛ばし……再び得点、習合の勢いは止まりません!』

 

「……今がその時か?」

 

 分からなかった。確かに習合の面々は化け物ぞろいであったが、それはこの大会基準においてという話。

 世界を相手にした時、才能に溢れる怪物はいくつも見た。

 祖国は世界を相手にした時、まだまだ見劣りするレベル。我がいたチームよりも強いなんてのは至極当たり前にあること。

 

「……油断せずいくぞみんな」

 

「リーダー、今のシュートもう一回、もう一回! ほらワタリくんからも!」

 

「メアさん、シュート重ねようとしてタイミングが合いませんでしたね。出来たらそれこそえげつない物になりそうなので安心してますけど。

あキャプテン、包帯が焦げちゃって黒くなってますけど交換しなくて大丈夫ですか?」

 

「……問題ない」

 

 目の前で天使、烏小僧が織部に駆け寄る姿を見ていた。

 乾いた墨の様にひび割れた包帯、転がり戻ってきたボールから這い出る黒蛇が足に巻き付き締め付けたかと思えば消えていく。

 

「……?」

 

 一瞬の違和感。織部の足の何かが変わったような気がする。目をこすり凝らしてみたが分からない。

 気のせいだったのか?

 

 ……この日本で、我の必殺技が耐えることも出来ずに食い破られるなんて……起こり得る筈がないと思っていた。

 我の本業はドリブル、もらったボールを継いで攻撃役に渡すこと。けれど他も一流だと自負していたから。

 

 なんならば、今大会で一二を争うであろうエンゼルブラスター改すらも弾き飛ばす自信もあった。

 

 だが、奴のロアフェル・ドミネーション……サクリファイス・ハンド。

 あれは……本当に何故我の必殺技を破れた? 負け惜しみではない、謎が残る。

 こちらが凌駕していたはず……それなのに。

 

『再び代之総中ボールで始まります。悪魔、天使のごとき力を前にどう立ち向かうのか!』

 

「くっ、負けてなるものか。いくぞお前ら!」

──お、おぅ!

 

 ああ違う。悩むのは常の事だが、足を止めるのは違う。

 笛はなる、皆は動く。時間は無くなる。

 刻一刻と変わる状況に対応するため、生き残るため……我は切り開いて見せなければならない。

 

「──ボールを、我に!!」

 

 そう叫び、もう一度大地を強く踏みしめ飛んだ。

 考えなしと言われるだろうか? それでもいい……ただ、停滞は嫌いだから。

 

 思考に思考を重ねるのもいい。けれど動かなければ始まらない。

 竦む自分の尻を叩き、眼前にある……高さも厚さも分からぬ壁へ飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グラさん!」

 

「トールとウリ坊は引いて必殺技で、カガとバングでプレス! ソニックは呆けてないではよこっちだ!」

──オゥ!!

 

 黒い軌跡が綺麗だなぁ……自慢のディフェンス陣がどんどん抜かれていく。

 ……やばいやばいやばい、何がやばいって黒月さんが駄目押しの如く黒龍炎弾狙ってくることだよ!?

 あんなの二度も三度も撃たれてたまるか! いくらフェルタンが食べられても完食するまで耐えなきゃいけないんだぞ!

 

『一回戦とは思えぬ攻防! 巻き起こる砂煙と共に飛び交う習合と黒月選手! ボールはずっと彼の足に吸い付いて離れません!』

 

──お代わり? よろしくナガヒサ

──しかも今両腕火傷してるしな……白い包帯後悔してたし、黒くなってよかったな

 

 燃え尽きて炭になっただけだがな! 今もポロポロ零れてるから替えたいけどみんなの前で変えたら火傷した腕が見られそうで迂闊に替えに行けないんだよ。

 あとフェルタンはもう満腹になったりしないの……? いや食べてくれるのはありがたいし治してくれるのも大助かりなんだけどさ。

 

 というかほんと黒月さん強すぎてどうしようもないんですけど。

 バングとソニックの永遠に追っかけまわされるコンビ突破する当たりテクニックが一人だけ天元突破してますね。

 

「追いついたぞ貴様──ストームブリンガー!

 

『おおっと、砂嵐が急に……! 黒月の周りを駆け巡ることで生み出される大嵐だぁ!』

 

 ナイス追っかけてきたソニック! 流石に耐えられても足を止めればカガが喰らい付ける。

 カガの粘り強さがあれば……あんま関係ないけどなんかポケモンバトル見てる感覚になってきたな。よくよく考えたら竜巻起こせる走りって何なの?

 

「むっ!?」

 

「その速さは認める……けど、巧くないネ」

 

『な、なんと嵐を駆け上がり突破しました! ストームライダーと言うべきでしょうか!?』

 

 なんなの? 風を足場にするとかもうわけわかんないすけど。

 しかもその勢いのまま高く飛んでるんですけど!? やばい既にシュート体勢に入ってる!

 止めてグラさんかトール! ウリ坊は何とか天に向かって猪突猛進できないかどうか……無理だなよし!

 

「ちっ……デッドスナイ──なんだと!?」

 

「撃たれると分かってて当たる馬鹿もいない」

 

 空中で身をよじって狙撃も躱しちゃったよ!

 マジでどうやって止めりゃいいのアンタ!? あああぁぁぁ、また大地から溶岩吹き出し始めて黒龍が!

 あれちょっとなんかさっきより少し熱気強くないですか? もしかしてですが進化の兆しですがやめてくださいほんと!

 

「──黒龍炎弾!

 

「舐めんな──雷鳴一喝……ぐぅっ!?」

 

『またもや炎を纏う黒龍が習合ゴールへ……雷も物ともせず突き進みます!』

 

 あああの皇帝ペンギン2号すらかなり削ったトールの雷鳴一喝食らっても駄目か!? ……今日いい天気だからあまり威力出てないってのもあるけど。

 そんでも少しは減衰するぐらいしてほしいかなぁ!? カガの必殺技……は喰らい付いてから出す技だし上空の物には無理だな!

 ジミーとかメアは「あれすっごいけど止められるし問題ないよな」的な視線こっちに送って来てるし。加えてメアはさっきスタミナが回復してなくてエンゼルブラスターズレたせいなのか「もっかいドミネーションして!」って分かりやすい気持ち抱いてるし!

 

 絶対断る、炎を消すいい案があるとかトロアに騙されて放ったあれを公式試合では唯一のシュートにしてやる!

 

──また犠牲か……闘争の場に出つつお前がゴールに立たないいい方法はないも──

 

サクリファイス・ハンド!

 

──あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ!!

──いただきます……!

 

 あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ! そんで肉が焼けるにおい! 

 MFのシュートをサクリファイスして威力半分ぐらいしか殺せないってホント化け物だな世界級! 

 炎の中で頭突きして膝蹴りして火傷済みの左手でぶんなぐって……あのフェルタンなんかさっきより完食するのに時間かかってません?!

 

──おーおーいい炎じゃ……単独顕現で暴れたりしたいのぅ

──味わいふかし

 

 ……???

 

 

 ……え、ちょ早く食べ……助けて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──習合の勝ちだな」

 

 病院のベッドの脇で、かつて天才ゲームメイカーとうたわれた男、鬼道が言った。

 苦痛に、戦いの場にもうしばらく立てなくなった男たちがひしめくこの病室でただ一人唯一"軽傷"で済み入院生活の必要がなかった彼。

 

 昨日の戦いの傷からも既に復帰し、足に若干の不安だけを残し歩く。

 未だ痛みにうなされる仲間達の様子を見つつ、部屋に設置されたテレビを見ていた。

 

「そうだな」

 

「雷門……なんだ、来ていたのか。……円堂はいないのか?」

 

「あぁ……電話で呼ばれたらしくて遅れてくるそうだ」

 

 覇気の消えた奴を前に、思わず動揺していた栗松たちを差し置いて俺は声を掛けた。

 一瞬驚き目を丸くする鬼道を見て、やはり隙が多いなと一人零した。

 

「そう見えるか? お前がそう言うという事は……そうなんだろうな」

 

「鬼道さん……」

 

「え、ででもまだあのへいふぇい?って人を誰も止められてないじゃないでヤンスよ?」

 

 自嘲気に佐久間を見下ろした鬼道。

 栗松は彼から目を逸らし、周りに訴えかけるようにきょろきょろと見まわす。

 前半が終わろうとしている今も6度目の黒龍炎弾が織部を襲い飲み込んだ。その間も習合メンバーは動くが未だ誰一人として黒月からボールを奪えていないのは確かだ。

 

 そう、6度目だ。

 

「……一人だけ強くても意味がない」

 

 鬼道が強く拳を握りしめる。

 仮に、全員が習合と渡り合えるほどの強さを持っていれば……黒月はその倍、前半終了までにシュートしていただろう。

 しかし、既に代之総中は限界を迎えながらも走るキャプテンを除き全員戦意を失っている。

 ……ああ駄目か、そのキャプテンさえも防ぎ切った織部を見て崩れ落ちた。

 

「黒月にとっての不運は、相手が習合……織部率いるチームだったこと、仲間がそれをあまり理解せず試合が始まってしまった事だ」

 

 経験者は語る。と言うべきだろうか。

 少なくとも俺達が織部達の事を何も知らず、挑んでいた時はどうなっていただろう。

 隣で源田たちを見て険しい表情をしている染岡は、食い散らかされた黒龍を見てあの日の事を思い出しているのかもしれない。

 

「奴が集めたメンバーも傑物ばかりだが……悪魔を宿す奴は次元が違う。俺の目にはどうして黒月の一撃が止められるのか分からない程に……」

 

「そして、そんな奴を相手にした時、人は気持ちが折れてしまうことがある」

 

 そうすればエース格に割ける人員が増え、さらに苦しくなる。

 織部が集めた者達は成長性も高い、格上とのぶつかり合いで少しずつだが確実に力をつけ始めている。

 後半戦に入れば、ボールが奪えるようになるかもしれないほどに。

 

「習合を相手にするときはどれだけ絶望的だろうと、諦めない心が必要だ。奴らとのサッカーは超えられない壁に当たり続ける様な苦行に等しい」

 

 拳を握り続け……やがて、もう一度テレビを見る。

 その目に宿る感情は……悔しさ、だろうか。

 

『ここで前半終了! 攻撃の主導権を握られつつも織部が防ぎ切り、3-0で習合がリード!』

 

「──でも、そんな相手だからこそ勝ちたいと思う、思っていたんだ」

 

 帝国は、世宇子との戦いで惨敗し敗退。

 チームメンバーの自分以外もしばらくはサッカーが出来ない体にされてしまった。

 もはや帝国学園に今季出来る事はない。

 

『……おおっと、たった今代之総中監督より試合続行の拒否がございました。これにより試合終了……帝国学園に続いての放棄試合です』

 

『……黒月選手がなにか監督に訴えかけているようですが……』

 

 悪意はなく、ただ力の差に心が折れてしまう習合。体を痛めつけ自発的に身も心も折ろうとしてくる世宇子。

 俺達雷門が勝ち進めば決勝で必ず、この二つのどちらかとぶつかることになるだろう。

 部屋に重苦しい空気が流れる。

 

「──そうだよな!」

 

 明るく笑う声が聞こえた。

 病室のドアが開き……両手にカバンを持った円堂たちが入ってくる。

 その隣には同じようにカバンを抱えた音無、秋、夏未たちマネージャーも。

 

「円堂……? 一体どうしたんだそれ」

 

「いや、そろそろ昼だからって秋たちが作ってくれててさ! せっかくだから鬼道達にもって!」

 

「いっぱい作ってきたから遠慮せずにどうぞ~!」

 

 開かれたカバンには大量の握り飯。炊き立てなのだろうか。消毒液の匂いに米と海苔の匂いが混ざる。

 ポカンとする帝国のメンバーたちにも握り飯が渡されていく。

 当然、鬼道にも。音無が直接渡した。

 

「春奈……」

 

「らしくないですよお兄ちゃん、こんな時はご飯食べて元気出さなくちゃ!」

 

 そこで漸く悟った。鬼道を心配する音無の事を思い、秋たちが気を利かせたのだろう。

 円堂は大方作り過ぎて運べなくなったから呼ばれたのかそれとも企みの一人なのか。

 

 ……配り終えたら早速ほお張っている辺り、ただ呼ばれただけだろうな。

 

「織部たちもさ! この間やってみて分かったんだけどすっげぇサッカー楽しんでてさ! それで強いんだから流石だよな。

……だから、今度は絶対止めて見せる! それで、強くなったみんなであの守りを突破するんだ!」

 

「きゃ、キャプテン……米粒飛ばしながら話さないで欲しいっス」

 

「それに、まだ世宇子が上がってくる可能性だってあるんだぞ?」

 

「いいや、勝つのは織部達だ!」

 

 ゴッドハンドが破られて円堂は落ち込んだ。

 けれど、そこから再起した。夏未が用意したイナビカリ修練場、聞き出された習合の特訓メニューを参考にし雷門はあれから格段に強くなった。

 それもひとえに、円堂のやる気に皆が付いてきたからだ。

 

 勝つのは無理だ、という諦めから頑張れば可能性があるかもしれない。そう思えるようになって栗松たちも頑張った。

 少し前まで廃部寸前の部活で遊んでいたとは思えない程の根性を見せた。

 

 ……楽しい、最高のサッカーになる。勝敗はともかくとして。

 何故だか俺にはそんな確信があった。

 

「……頑張れよ。リベンジは……またいずれ果たすとしよう」

 

 握り飯を口に入れ、鬼道は少し笑う。

 悔しさの目は消え、羨望……そんな感情が見て取れて──

 

「──お前も来ればいいじゃないか」

 

 その全てを後ろから見ていた、監督の声により……事態は急変することになる。

 




 スカウト力SSSの響監督に参りますね……
 あと代之総中の展開がプロットとかなり変わって苦しみましたね。本当なら習合に後に加わるはずだったんですがそのもろもろのフラグへし折ってみました。
 つまり……昨日の敵は次の次の次の敵だな!


 かなり強引ではありますがこれにて「部長、地獄の幕開けだってよ」編は終了。
 次回より「部長、パイレーツオブ狩火庵、呪われたサッカーだってよ」編がスタートします((

~オリキャラ紹介~
・黒月 夥瓏 MF
 いつだって諦めないドラゴンボーイ。
 このままではすまさんぞ……後地味に何かに気が付いたらしいぞ。
 詳細は次話で

・織部 長久 GK 1番
 多分前世はマグマ遣いに喧嘩でも売ったのだろうってぐらい焼かれた。
 途中から包帯が完全に焼け落ちていたのでフェルタンの回復がなかったら即バレだった。
 あぶにぇーい



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部長、呪われた男だってよ編
勝利の代償を知る日


 いわゆるシリアス回
書類だし忘れたりインフルなったり色々あったけれど私は元気だったり元気じゃなかったりしています。


──一回戦突破おめでとうございます監督! ずばり勝利の秘訣は!

──生徒から監督を頼まれたというのは本当なんですか!?

──今日の試合で一番気にしたことは……

 

「……えー、えーと」

 

 試合は僕たちの勝利で終わった。

 前半終了時点で向こうの監督が続行不可能と判断。フィールド上で疲れ果て、ベンチに戻るのさえ天を見上げていた代之総中のメンバーを気遣った結果だろうか。

 ただ一人、走り続けていた黒月くんのみが抗議していたけど……やがて無駄だと思ったのか、そのまま控室に戻ってしまった。

 

監督、これを……

 

「あ、ありがと帳塚君。えー……今回はお互いのトッププレイヤーのぶつかり合い。確実に勝つために、こちらの持ち味であるスタミナを重視して……?」

 

 ワタリからカンペを渡され凌いでいる僕らの監督を見ながらふと思う。

 今回は、リーダーと黒月くんのタイマンだったんじゃないかって……。本気になった彼の相手は本当に恐ろしかった。

 

 いくらボールを取ろうとしても流動する水の如く動く足とそれに付随し離れない球さばき。

 なにより必殺技の完成度……まさか僕のエンゼルブラスター改が防がれるとは思っていなかった。ドリブル技なんてまず出させることすら叶わなかった。

 

 結局僕たちがボールに触れたのは、代之総中の他の子がパスミスしたりしたのをソニックくんとかが拾ってつないでくれた時だけ。

 それもすぐに黒月くんに取られて、シュートチャンスはほとんどなかった。

 

 それでもなんとか彼の動きに慣れて来て、これから……そう思っていたけれど。

 リーダーのサクリファイス・ハンドがなければ負けていたのは確実だろう。守りどころか攻撃まで任せてしまい、3点目のロアフェル・ドミネーションに加わるのもまた失敗した。どうも近づくと力が抜けていく感覚がして上手く飛べなくなってしまうのだ。

 始めた頃からはかなり強くなったと思っていたけど……とんだお笑い種だ。

 

「……僕たちはまだまだ弱い。黒き龍に喰らい付くことさえもままならない……こんなんじゃリーダーの期待に応えられない」

 

「……だな、こりゃ帰ったらメニューを増やさなきゃだ!」

 

「俺も賛成だ……ボスは反対すっかもだが」

 

 僕のつぶやきにジミーとグラさんが反応する。

 二人も自信満々でこの試合に望んでいたからこそ、何もできなかったという無力感を感じているのだろう。

 

「……」

 

「か、カガどんまい……新技出せるチャンスは次あるって!」

 

 言葉を出さず、俯いているカガを励ますウリ坊が少し離れた場所に見える。

 速さでは上回っていたのにテクニックの差で翻弄されたソニックもその近くで苛立っていて……トールも同じ様だ。

 このままではいけない。みんなそう思い、悩み次を考えている。

 

 ……強くなろう。

 

 けど、どうすればいいだろうか。

 こういう時リーダーなら……うーん、「持ち味を伸ばせ……短所は最後だ」って言うかな? 多分言うかも。

 なら僕の長所……やっぱり必殺シュートだろうか。けどなかなか5枚目の翼を出すことはできないし、開発中の失楽園も今のままじゃリーダーのシュートに近づけないし。

 せめてもうちょっとリーダーがアレを撃ってくれたら練習できるかな……でもなんでかあまり練習中に必殺技を極力使おうとしないんだよね。

 

 ……あれ、そういえばリーダーはどこだろう?

 

「ワタリ……は監督の補佐でつきっきりか。ジミーくん、リーダーがどこ行ったか知らないかい?」

 

「んー? ……確か包帯が取れたから巻きなおしたいとか言ってた気がすっけど」

 

「更衣室じゃあねーか? バスの時間はまだ先だが着替えない理由もないし」

 

 そうか更衣室。軽くお礼を言って僕もそちらへ向かう。

 確かに試合自体はもう終わってるし、さっさと着替えるのもアリだよね。

 包帯もいつの間にか無くなっていたし、闇を封じる必要がなくなったとしてもしておきたいんだろう。

 

 ……いや、本当にそうなのかな。なんだか不自然の様な気がする。

 リーダーならこう言った時は大抵、落ち込んでいるメンバーに声を掛けたりしてくるイメージがあるんだけど……。

 

 それだけ疲れていたのかな……それともあまりに役に立たなさ過ぎて怒ってたりは……しないよね?

 あぁ、不安だ。彼に限ってそんなことはないだろうけど無力感が嫌な妄想をさせる。

 

「あ、なら俺も! そろそろ着替えたかったしな」

 

 ジミーが後ろからついてくる。

 早く会おう、会って何か言ってもらうなりなんなりしないと不安で不安で仕方がない。

 更衣室に向かう足が少し、早まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あぁねむ。

 試合終わったしもう寝ていい? まじで今なら立ったまま眠れそうなんですけど。

 

──少なくともこれから、ホテルに戻り反省会して明日の朝には奈良に戻る準備して更に部員たちが寝静まったのを確認し、なおかつ部屋に侵入してる偽装妹をなんとかしてからだぞ貴様が眠れるのは。眠れるといいなまず

──たらふく、ねむねむ

──クハハ、妾も大満足。次はパンチングするときにドミネーションしてみるか契約者よ。なんなら正式に契約すればもう少し力を貸してやっても──

 

 ごめん、聞いたのはなんだけどあんま喋んないで……まじねむい。

 どのくらいかって言うとご飯一杯食べて日向ぼっこしてる時の百倍くらい眠い。なんならちょくちょく意識というか記憶が飛ぶ。俺どうやって更衣室まで歩いてきたっけ。

 なんで……あぁサクリファイス・ハンドのせいじゃなく、受け止め方間違えて折れた腕隠すため包帯取りに来たんだった。

 痛いなぁ……痛みが走るたびに意識が浮上するけどすぐ沈む。そのうち見た目変わってくるからさっさと巻いて隠さんと。

 

──それ本当に眠気か? 死にかけてるとかじゃないよな? 碌な契約もなしに死なせんからなナガヒサ?

 

 だいじょぶだいじょぶ。多分精神的疲労と治してない肉体の疲労とかが限界超えてきているだけだから……多分。

 こんなこと続けてると寿命縮むかもなぁ。寿命いくつぐらいあるんだろ……あれかな、そのうち試合中に寿命尽きて死んだりしそうだな俺。

 ……黒い包帯ないなやっぱ。通販で買うとして取り敢えず白い奴巻いておくか。

 

──よく食べてよく生きるのだ~

──いやサッカーで死人は出ないだろ貴様

 

 それもそうか……そうかな? この超次元具合なら出てもおかしくない気がする。

 なんならグラサンの今回出せなかった必殺技とか……ああいやデッド・スナイパーの方だったな。もう一個の方は重火器感すっごいけど当たっても黒焦げアフロで済みそう。

 ええとつまり俺がこの先生きのこるためにはギャグマンガの人間になれば……? スポーツ漫画だとあれだな、怪我とか病気とかで苦しむキャラとか多いよな。

 

「(スポーツ漫画の)人間を辞めれば……」

──思考がずれてるぞ、仮眠だけでも取るか?

 

 サンキューコルシア。

 そうだそうだ人間やめてもな。悪魔になったところで元が俺じゃ弱そうだ。……そういう問題じゃないな?

 本当に眠気が酷い。コルシアの言う通り……5分、いや10分だけ眠ってもいいかな。

 

「──ススメはしないネ」

 

 ……え? いやいや寝ていいでしょ。もうこれは眠らんと正直帰りのバスでガチ眠しちゃうもん。

 というか誰ですかこの私の悲惨で至福なお昼寝タイムを邪魔する人……は。

 そうやって振り返れば、先ほどまでもう帰ってくれとお願いしていた存在が腕を組んで立っていた。

 

「……黒月」

 

「名は覚えたか、織部」

 

──おーエビチリマスター

 

 えー……いや、なんで?

 なんで黒月さんいるんですか? ここ習合の更衣室なんですけど。というか私服? が黒一色なのはワタリとセンスが似通ってるからやめた方がいいぞ。シルバーペンダントとかこっそり集めてたりしない?

 ええと……駄目だ混乱と眠気で頭が回らん。と、とにかくそれっぽく振舞うんだ俺。頑張れ長久。ここを耐えなきゃ試合中泣かずに耐えた意味がないぞ。

 

「なに、一得点も出来なかった負け犬として……一つ、助言しにきただけネ。そう警戒するナ」

 

「負け犬……? いや、お前のシュートは凄まじか──」

 

 なにが負け犬じゃい! 散々人の骨と肌を焼いてくれよってからに、火葬をこの場で済ませる粋な計らいか? あぁん!?

 と言いかけた時、黒月さんがこっちに向かって迫って来ているのに気が付いた。しかも手を伸ばしてこっちの腕を……思わず退くが後ろはロッカー。逃げ場がない。

 そのまま壁に押し付けられ……壁ドンだな。俺の人生で壁ドンされるなんて思ってもいなかった。仮に俺が乙女だとしたらガチ恋する距離だぞお前。

 

 なんて冗談も虚しく、そのまま腕を掴まれる。

 激痛が走る。声も出ない、骨と骨がずれて、神経をわしづかみにされている。痛い、やめろ。やめてくださいお願いします。

 

「……なにをする」

 

「……折れた腕握られて冷や汗一つだけ、感覚も死んでるのカお前?」

 

 バリバリ生きてますね。痛すぎるのと体が疲れきってるから碌に反応してないだけですけど!? いやもう離し……あれ何でこの人に俺の骨折バレてんの?

 やばくない?

 お医者さん以外の目利きの人初めてすぎて固まるんですけど。

 

「確実に破った技で何で止められるのかと思ってたが……骨を折ってでもとめてるなんてネ。流石に驚いた。(ウォ)の見てきた人間の中でもそこまで命を捨てている奴は初めてだヨ」

 

──これは……サクリファイスが我とナガヒサを犠牲にしてるワザとはバレてはいないか。よかったな、単に必殺技破られた後に根性で骨折して止めてると思われているらしい

 

 よかねーよ!?

 あと黒月さんは俺を自暴自棄人間扱いしないでくださいます!? こう見えて夢はお嫁さんとかたくさんの家族に囲われて老衰することだからな!

 まだ家族のかの字も……いや妹はいるか。いるから、他の家族募集状態だからな!

 

「それであの蛇……悪魔との契約内容は身体の回復か? ……炎の中、ひん曲がってた腕が戻るのを見た」

 

 ゲー!? 腕治すところまで見られてたよ!!? どうやって……いや高く跳ぶもんなぁ君。高所からなら炎の壁に囲まれてる状態でもなんとか見えるかぁ。納得。

 だから自分の所の監督さんに抗議してたんだ……そりゃ腕折りまくってる奴ならその内倒れそうだもんな。分かるわ。

 

「……根負けを狙ったか」

 

「その通り……ま、そのまえにみな倒れてたから確かにウチの監督の気持ちも分かるけどネ」

 

 それは本当にすみません。なんというか黒月さんに向けて繰り出された必殺技の余波でやられてましたもんね、

 メアのエンゼルブラスターでも何人か吹っ飛んでましたし……それを黒龍棘で防がれた時は俺の心も吹っ飛びそうでしたよ。怪我してるわけじゃないから許して……一人目のゴールキーパーさんは本当に申し訳ない。

 

 とにかく悪魔の力に頼ってることバレたらやばい、吹聴されたら社会的に終わる。

 

「使えるものは何でも使う……止められるのであれば全力を尽くす。それは称賛に値する」

 

 ……あれ、意外と好反応? ドンびいてるわけじゃない? よかった~。

 そう思ったのもつかの間、「けど」と一呼吸置いて腕から手を放す。

 更に顔と顔の距離が狭まる。二つの眼が俺の一挙一動を逃さんと動く。トロアより迫力がある。

 

──おいこら

 

「その契約の代償はなんダ? 人間を止めるとか言ってたが……軽いものじゃないのは確実か。

そんなことをしてまで()()は「中学サッカー日本一」になりたいのか? 負けたら……どうなるんだお前は」

 

「……」

 

「そうやって何ともないように振舞える気力は本当に褒めてやる。……だが確実にお前は今弱っている、触れて分かった。

 

──サッカーで死にたいのか?」

 

 それだけ言って、答えを待つように口を閉じる。

 そこにあるのは……ただ純粋な疑問か。こいつは何を考えているんだ? 多分そんな感情だ。

 いや俺も目の前で骨折りながらプレイする奴いたら絶対精神疑うからその気持ちわかる。

 

 わかる、けど……。

 

()()は、日本一になる。そう決めた。決めたことはやり通す」

 

 逃げるわけにはいかないんだよホント今更……。気が付いてくれたのはありがたいんだけど。

 気が付くならもっと早く……帝国戦より前あたりに来て欲しかった。少しは軌道修正できたかもしんないし。

 

「気遣い、感謝する。いつかまた会おう……俺は死なない」

 

 強引に会話を打ち切り、黒月さんにどいてもらって更衣室を出ようとする。

 これ以上話してたら身体回復のこと以外もバレるかもしれん。いやマジで……かなり鋭い人な気がする。

 

「……またすぐに会うことになるだろうネ、我は負けず嫌いだってこと……その無茶に引導を渡してやるから覚悟してるとよい」

 

 あの、その不吉な言葉を後ろから掛けるのやめてもらっていいですか?

 再戦フラグとか嫌な予感しかしないんですよ……二度とやりたくないです。

 なんというか、決勝戦とかの相手チームにこっそり紛れてたりする気がし始めたぞ……うん。

 

 さーて!! さっさとみんなの元に戻らないと心配されてるかなー!!

 特にメアとかゴールキーパー吹き飛ばしたこと気にしてたら今後苦しいだろうからフォローしないとな!

 あいつが憂鬱な顔すると心臓に悪いからうん。

 

 はーいドアガチャ!

 

「──リーダー」

 

「部長……今のマジ?」

 

 うーん何でか知んないけどジミーとメアの顔が見えるな―! 眠すぎて幻覚まで見えるようになったかな?

 うん、違うな。メアがすぐに俺の腕を確かめるように掴んできたもん。激痛走るけど我慢我慢。一瞬顔歪んだかな? ははっ。

 やばいね、折れてる場所触られたから一瞬で察されたね。すっごい眼が小さくなってるもん。人間って驚くときあそこまで瞳孔小っちゃくなるんだね。

 

「……メア」

 

「……ごめん、リーダー……全然分かってなくて……ごめん」

 

 ああやばいです、とうとうバレました。

 しかも想像できる中でかなり最悪なパターンのバレ方です。

 

「と、とりあえず病院行こうぜ部長……」

 

 泣かないでメア……軽口叩いてジミー……えっと、そのえーと……。

 

 

 

 助けて!!

 

 

 




見栄っ張りの罪

勘違いものなら一度は勘違いを解かねーとなぁ!?(なお勘違いした要素はまだまだある模様)



~オリキャラ紹介~

・将棋部の顧問 監督
 拉致された。今回の話の中で一番の被害者。
 しばらくマスコミ対応に追われるだろう。南無三。


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阻害、疎外感を味わう日

 クリスマスケーキ食べ忘れたのですがよくよく考えたらある意味いいタイミングなんじゃないかって、
 忙しい季節が過ぎた後のケーキってなんだか手が込んでて美味しくなっているんじゃないか?って思ったんですよ。
 ははーんこれは買いに行くしかあるまいな?って。あのしっとり濃厚なチーズケーキを買いに行けと神が言っているのだろうと。

 年末で行きつけのケーキ屋さん休みでした。


 そこは奈良。ようやく戻ってこれた故郷の空気……病院。

 第二の故郷って言っても過言じゃないよね。ほら故郷って心休まって眠ったりご飯食べたりする場所でしょ。

 病院食とかも美味しいよね、うす味だけど。いや……なんというかここに来るまでに逆兵糧攻めされたせいで味覚おかしくなってる気がする。

 

「──はい、骨に異常ないね……それで? 結局隠してたこと無理してサッカーしてたのみんなにバレちゃったの?」

 

「……いえ、二人と交渉して黙っていてもらうことに」

 

 黙っていてもらう条件は二つ、コルシアと相談しながらなんとか交渉した。

 1.俺は二度と骨折しながらサッカーをしない事。痛かったら手を上げてくださいねーという歯科方式だ。守れる気がしない。

 2.いくら治せるからと言ったって心は傷つくでしょう!? ということでしばらく練習参加禁止。そして全国大会二回戦……狩火庵(かりびあん)中学との試合を欠場すること。折角なのでお言葉に甘えたが、まさか部員の練習を見ることも作戦を練るのも駄目になるとは思わなかった。寂しい。

 

 この二つを守ることで、二人に何とか納得してもらい「部長に頼り切りだと危ないので次の試合は完全部長抜きでやる」という方針だとジミーから発表してもらった。

 「悪魔の力で身体再生をしてる」こと「そのために代償……生命エネルギーを支払っている」という事実は黙秘されたという訳だ……ふはは(ソニック風)。

 はい、泣き崩れるメアを何とか宥め、ジミーの「副部長」という立場を最大限に利用させていただきました……ゲスだなぁ俺。

 

──我を代償にしてることぐらい話しても問題はなかったよなよく考えたら

──フェルタンはナガヒサに悪さしてないよー

 

 いやそうなんですけどね……流石にサクリファイス・ハンドの性質「手の骨と精神ぶっ壊すことでボールを止める」という事がバレたら禁断の技にされますからね。万が一の為にサクリファイスだけは死守せんといかん。

 今のところ二人の認識は「サクリファイスでも止めきれないから悪魔の力無理やり引き出して骨折って、蛇の悪魔との契約で生命エネルギー支払って治してる」って感じだからね。

 つまりサクリファイスで悠々止めるのは問題ないんだよ。

 

──その度に手の骨と我が犠牲になってるんだが?

 

 うん。

 そしてフェルタンは悪者扱い解けずにごめんね……「フェルタンがいなければ」って力説してみたんだがどうにも二人には「身体回復に依存しつつある」様に見えたらしくてさ……。

 再生の代償は何!? って散々聞かれたからさ……皆の必殺技とご飯ですって言える雰囲気じゃなくて少し言い方変えたら寿命支払ってるのかと誤解されかけたよ。何とか方向修正して生命エネルギー支払ってるって事になったけど。何かそっちの方が体に悪そうだな? って思ったのは後の祭り。

 

──妾もただ力を貸してやってるだけで、足がおかしくなるのは貴様の努力というか資質不足じゃろ

 

 あぁん!!?

 一発目で火を消す時にそそのかされて使ったのは自分の意志だけど、三点目の時はトロアが勝手に人の体操ってましたよねぇ!?

 あれなんか急に体に力が入らなくなったな、お迎えかな? って焦ったらドミネーションだからな! 正直こっちはバラしてもいいかなって思ったけどそこから他もバレると思って話さなかっただけだからな!

 

「そっか……それでも秘密を共有する同年代の子が出来たのはいい事だよ。辛いときはしっかり話すんだよ?」

 

「……善処します」

 

「……ははっ、頑固だなぁ君はほんと」

 

 多分二度と人前で再生できない。ただ煙を巻き上げるだけの技とか開発しようかな。足で地面擦って砂煙とかだしてさ……。

 ……五里霧中って技があったな。確か地区予選で雷門と戦ってたところが使ってた。三人でそんなことして視界塞ぐ感じで。後で真似してみようかな。

 

「さて、診断書は用意しておくから。今日はゆっくり休むんだよ? あと、君が欲しいって言ってた包帯も痛み止めと合わせて渡すから」

 

「……ありがとうございます」

 

 保険適用でお安く黒包帯ゲット……。後欲しいって言ってないのに痛み止めつけてくれるとかほんと神だよこのお医者さん。

 メタボじゃなくてかつ俺が女の子なら惚れてるかもしれない。

 ……さて、診察室を出て待合室へ……。

 

──通してください、私の大切な兄さんが病気かもしれないんです。()に任せるより私が診た方が早いに決まっています

──安心してください、ただの検査ですから!

──ならばなおさら妹である私を通さないのはなぜですか

 

──相変わらずアイツはアホだな

 

 暴れてるエマを宥めて一緒に帰るだけだな。

 ……追跡をかいくぐったというのにもうこの病院にたどり着いたのか。なんでだろう。まさか虱潰しに病院探し回ったとかじゃないよね。

 ほんと暴れ……いや一般人に対して認識阻害の魔術とか使わない辺り抑制してるんだろうけど。

 

……女性には効きが悪いですがここは魅了──兄さん!」

 

「エマ……部活はどうした?」

 

 いや間一髪だっただけだこれ。なんか右手の人差し指に怪しい光集まってたよ!?

 マジで止めて……なんかしわ寄せとか来そうだし。

 というかまだ部活の時間の筈なのになんでここに……。

 

「……兄さんがいない部活に何故参加する意味があるのですか?」

 

 真顔で返されましたね。いやーそっかぁ、確かに部活出れなくて寂しいとは思ってたけどなぁうーん喜ぶべきか否か。

 いや喜んじゃだめだよ。

 

──天秤が喜ぶ方に傾いてる時点でおかしいからな、叱れ叱れ

 

 そうだなコルシア。ここは部長としてしっかり指示しないと。

 

「……いやエマ、俺がいない間の部活を支えて欲しい」

 

 マネージャーとしての能力高いエマは本当に必要なんだ。

 メアファンの人はちょくちょく妄想の世界に入り込むし、トールファンの子は小声で「大腿筋の山脈……!」とか「仕上がりのその先の仕上がり!」とか鼻血出しつつ評論してるからね。むしろこの二人の方こそ病院行った方がいいんじゃないかな。

 

「……兄さんがいないと部活も楽しくありません。だからどうか……、私が()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 おおぅ上目遣いで言われても揺らぐほどちょろくないんだぜ……?

 あれ、なんか一瞬許してもいいような気がしたんだが。まだ喜び派の息の根が残ってるのか?

 

──エマの奴今こっそり魅了の目にならんかったかえ?

──だねー、まぁコルちゃんが防いだっぽいけど

 

──……油断も隙も無いなコイツ

 

 え、なんか悪魔さん達今なんか攻防あったの?

 魅了されかけたの俺? 怖い。あ、されかけたっぽい。影響受けてない俺見て一瞬エマ動揺したな。

 サンキューコルシア、サンコル。

 

 次何かされる前にさっさと言いくるめなきゃやばいかもしれん。

 エマが喜びそうな言葉を考えよう。

 

「……エマ、頼む。お前しかいないんだ……アイツらを支えてやってくれ」

 

「兄さん……でも──」

 

「──次の休みに、エマの好きなところへ行こう……()()()()でだ」

 

学校戻ります!!

 

 次の瞬間にはもうエマは背を向け病院から去っていった。あんな足速かったっけ。

 ……ふっ、チョロいな。

 

──今お前は身投げと同然の事したという自覚はあるのか?

 

 なーに流石のエマだってデートならそれっぽい場所選ぶし。「妹」である以上きっと可愛いところを選ぶさ。

 ……多分、きっと、なんとなく。

 やっばいすっごい不安になってきた。気が付いたらエマの親御さんとかに挨拶する羽目とかにならないよね。

 ……いや悪魔って親いるのか?

 

──そっちか……そっちなのか?

 

 え、どっちなの?

 

──下手したらホテル連れてかれるぞ

 

 ホテル? 宿泊とかは確かに困るけど……なんで?

 

──えっ

 

 えっ?

 

 ……えっ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 織部がスタメンどころか補欠にすら入らない。更には練習もしばらく参加しない。

 その発表を受け、ジミーとメアの二人以外の部員はみんな一様に驚いていた。あり得ない、この俺自身も奴が試合に出ないなんて想像が出来なかった。

 ……それほどに奴の強さ、雰囲気が強烈だったからだろうか?

 

「という事で二号、次の狩火庵中との試合ではお前がゴールキーパーだ!」

 

「う、うん分かった」

 

「頑張れよ……!」

 

 ビシっと指をさされ、任命された鏡介はマスクを着けたまま両こぶしを握り締める。

 それはやってやるという意気込みではなく……緊張から。

 ……織部の代わりとして。その意識が弟の心の重しになった気がした。

 

 弟の自信に満ち溢れていた立ち姿は既に消えて久しく、今はこの部の中でどこか弱者として振舞う事も増えていた。

 

「きょ──弟よ」

 

 思い出すのは、体調を崩した弟の横。テレビ越しに見たあの黒龍のシュート。圧倒的威力と共に、映像だというのになぜか熱風を感じ取ったアレ。

 ……あれを止めるのは鏡介では到底無理だっただろう。当然、それは弟も思っていたはずだ。

 

「……何? 兄さん」

 

 その織部の代わりなんて……そう思っているに違いない。

 このままではいけない。思わず声を掛けた。

 

「……織部の代わりになる必要はない。お前にはお前の守り方がある……それを忘れるな」

 

「そうだな……安心しな! 前回の試合じゃ役立たずだったが、俺達も全力でゴールを守るからよ!」

 

 俺の言葉に追随しグラさんが肩を組んでくる。

 ……習合のこいつらが仲間というのは、改めて心強いと感じた。少なくとも世界級の選手が紛れ込んでいる様なイレギュラーが起きない限り、十全に戦えるだろう。

 一発、敵のシュートをとめさえすれば弟の緊張も解きほぐれるだろう。

 

「それでは早速次の試合のための対策を立てていきましょう。狩火庵中は……」

 

 話もよくなったと判断したのか、部長がいなくなりジミーの補佐としてついたワタリが指揮を執る。

 その手には資料と思わしき紙束……けれど、代之総中の時の物と比べるとなぜか薄い気がした。

 

「四国ブロックより参戦した瀬戸内海に面する中高一貫校。なんでもカリキュラムの中には帆船を操ったりするのもあり正しく海の男たちって感じですね。

一回戦では大巨人中を相手に前半は1-0で普通に進めておりましたが……後半が終わる頃には6-0と大差をつけ勝利しました」

 

 説明のため紙の資料が配られ全員にいきわたる。学校の成り立ちやこれまでの戦歴。チームメンバーの名前など……手当たり次第に手に入った情報を入れているといった感想だ。

 ……試合の動画とかはないのか? 写真とかでもいいんだが。

 

「試合を見たものの感想では不死身の狩火庵などと称されており……どうやら無尽蔵のスタミナ勝負を仕掛けてくるようです。スタミナに関してはこちらの領分ではありますので少し様子見をしつつ、対策としてはパス回し等でぶつかり合いを避けるべきでしょう。

もしくはソニックさんなどの速さで相手を引き離すというのも手ですね」

 

「質問だワタリ、要注意選手とかはいんのか?」

 

「あ、グラさんそれ俺も気になってましたッス!」

 

 もう読み終えたのか、グラさんが手を上げ質問をする。

 守りの要である奴からしたら当然気になる所だろう。

 ……それを受け、ワタリは少し困った顔をした。一体なんだ?

 

「えー……一人、帝国学園の鬼道さんに比べられる程のゲームメイカー、船長と呼ばれる選手がいました」

 

 ……そうか、ゲームメイカーか。

 ああいった手合いがいるといつの間にか相手の流れに飲まれてしまう。こちらも策を練り思い通りにならないようにしないといけないか。

 

 ……過去形?

 

「ですが……一回戦の数日前から行方不明なんです。チームメンバーの誰も行方を知らないそうで……恐らく出てこないかと」

 

「なんだと? それはいったい──」

 

「──みなさんすみません遅れました。織部エマがたった今兄さんから頼まれ対戦校の詳細なデータをまとめて持ってきたのでさっさと見て下さい私は兄さんとこの夏海に行くんですそのまま波打ち際で水をかけあって転ぶフリして兄さんの水着を」

 

 詳しく聞き出そうとする俺を突き飛ばし、突如としてエマがやってきた。

 そのままプロジェクターを設置、パソコンをつないで上映会の準備を始める。

 

 ……ほんと自由人だなコイツ、奴の妹とは思えんほど傍若無人……いや奴の妹だからこそ周りに気遣う力を養う必要がないのか?

 まあいい。情報が不足していたのは……いつも情報を持ってくる織部とエマがいなかったからか。

 

 とにかく作戦を練ろう……ポジションが空いていない俺はスタートメンバーになるためには次の試合での有用さをアピールする必要がある。

 弟だけに苦しい気持ちを味合わせてる気分はない……弟が戦場に立つというなら、俺も立って支える。

 

 ……見ていろ織部、貴様抜きでも勝てるという事を教えてやる。

 

「それでは……狩火庵中の不死身と言われるサッカーがこちらです……無人島……遭難……アダムとイブ……ふふふふふふ

 

 ……逃げろ織部、戻ってこない方がいい気がする。




~オリキャラ紹介~
・メタボの医者 医者
 織部がトールの時から骨を折りつつサッカーを続けていることを知っている唯一の人間。
 けど流石に格好つけの為に無理してることまでは気が付いてない。気がつけなんて無理じゃ

 腕は普通の次元より上、超次元レベルではない

・エマ
 本性現した……元からか
 魅了の力は精神判定で失敗したり成功したりする。コルシアみたいなやつがいると防げる。
 万能ではないけどチート。

・二号
 えっ、悪魔のキーパーの代わりやるんですか!?
 とりあえず必殺技進化かつ重力5倍からはじめてみよっか(処刑)
 パワーレベリングよりひどいものが待っている


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長を失い呪いを得る日

年末なのでサンタさんには英雄たちのグレートロードかオーガ襲来の映画DVDをお願いしておきます。

……ちなみにオーガ襲来を期待されている読者さんが散見されるので意見をば。
 オーガ学園が攻め込んでくる理由は「サッカーで腑抜けた子供が育つ」ということだったと記憶しておりますので、基本蹂躙。相手が倒れるまで走り続け追い込むサッカースタイルの習合の存在が優位である限り彼らは攻め込んでこないかと思われます。
 まぁつまり雷門が高確率で勝つような事態にならない限りは出張ってこないという事ですね。

 ……ということにしてくだちい!!((ほんとは記憶が薄すぎて扱えないの

 え? エルドラド達が差し向けるプロコトル・オメガはどうなんだ?
 いや彼らはフットボールフロンティアには関与してこないはずだから……サッカーの存在を消すため行動するのでやるとしたら「円堂たちのサッカー関与の否定」「天馬たちのサッカー関与否定」「織部達のサッカー関与否定」とか……。

 後はうん、サッカーをおもっくそ封じこめる様な事件を起こせるならやってくるんじゃないっすかね。
 それはそうと、ベータちゃんってかわいいですよね。ね、ね。ね?



 

「──!」

 

 カモメが鳴いて、海は凪ぐ。

 ……その日、俺らは航海に出ていた。

 天気は快晴。少し船から顔を出せば遠くの島が見える程に空気もすんでいる。暇つぶしとばかり釣り糸を海に垂らす余裕さえあった。

 

──錨をおろせー!

 

 一人の掛け声と共に、勢いよく鉄の塊が海の底へと投げ込まれる。水面と触れた瞬間、少し水しぶきを上げ肌を濡らした。

 夏の日差しと潮風に熱されていた体に気持ちよく染み込む。

 口の近くにとんだ水滴を舌で舐めた。しょっぱさが今はちょうどいい。

 

「おーい船長! 錨を降ろさせるってことはそういうことなんだよなー?」

 

 見張り台にいた船員が船首に座るアイツに声をかけた。

 声に対し、海を見つめる海賊帽子が揺れる。

 

「──ナッハッハッハ! 当然、地図はこの海の底を指し示している……俺様を信じろ!」

 

「あいよー! じゃあさっさと取ってくるかい? ダイバースーツの準備は……」

 

「いらん!!」

 

 それだけ言うといきなり服を脱ぎ、船長は海へと飛び込む。少なくとも水深は15m以上は余裕であり難しいと思ったが……まあ船長なら問題ない。仮に無理だったなら上がってきたときに笑い飛ばすだけだ。

 錨の時よりも大きい水しぶきが俺達を襲い、今度はやれ汚いだのなんだの減らず口を叩いて見送った。

 

 その間は特にすることもなく、俺達は帰りを待ちつつ雑談する。

 持ってきた肉と麦ジュースを呷り休憩。

 

「いやぁ~しっかし、ほんとにこんなところにお宝なんて眠ってんのかね?」

 

「どうだかね、持ってきた奴がツルッパゲの黒服サングラス野郎って話だろ? しかも目的も言わずに置いてったらしいじゃねぇか……怪しいもんだぜ」

 

「けどよ、船長がありそうだって言ってんだからあるんじゃねぇか?」

 

「あいつの勘はたまーに外れっからなぁ……折角のFFの開会式前に景気づけどころか外れってのはなぁ……」

 

「けどよ、そんならそれで……「FFの優勝杯」っていう宝を目指すいい契機になんだろ!」

 

 それに賛成だ、と俺も肉にかぶりついて飲み込んだ。喉の油をすかさず飲み物で流し込み馬鹿笑いをする。

 ああ楽しい。ずっとこんな航海が続けば最高だなともう一度笑った。

 

「──ぷはぁっ」

 

「お、船長お帰んなさい。見つかりましたー?」

 

 おやつタイムの途中で船長が水面から顔を出す。その長さから大分深くまで潜ったらしいが……船長の顔は暗い。

 

「あ、あぁ……それが……だな」

 

「船長……?」

 

 視線を水面に向け、俯き言葉が途切れ途切れ。

 ……その動作を見てみんな悟る。

 

 あぁ船長……

 

 

 

「──見つかったぞぉ!!

 

「わざとらしいんだよ船長!」「上手くいったときいつもそれですよね!」「早くおたか──船長を……お宝を引き上げろ!」

 

 水面下に隠していた……大きな大きな宝箱を両手に掲げ、特大の笑顔を見せないでいいですから。

 

 いい加減鉄板ネタでもやめりゃいいのに……また笑いながら、船長に縄をかけて引き上げる。

 氷上を滑るアザラシの如く叩きつけられ、水揚げされた彼が全身を振るい水を散らす。犬かお前はと誰かがまた笑った。

 

「まじか、まじで本物!?」

 

「すげぇな……いつ沈んだ奴だよこれ。藻と貝がくっつきまくって自然の錠前になってやがる!」

 

「木がかなり古いし重てぇな……すげぇお宝かもしんねぇ。というかよくこれ船長海底から持ってこれたな」

 

 同じく船上に置かれた木箱。縁を金属で補強されている……その上からいろんなものがくっついているそれ。

 開けてもいないというのに皆もう価値があるものが入っているに違いないと思えるほどにオーラを放っていた。

 

「どうだ、これでこの俺様の海賊伝説にまた一ページが刻まれる訳だ!! よぅしちょいとどいていろ今叩きわ──」

 

「わー! 流石に船長ここはアンタのフィジカルに頼るのは無しだ! 今ナイフ持ってくっから……!」

 

 ……そのオーラはどこか、海藻のせいだろうか。鼻につく、嫌な予感がした。どうしてか、宝箱というのは開けてなんぼだというのに……開けてはならないと思えた。

 けれど、宝を前にワクワクしている皆を前に言い出すことが出来ない。

 

「おぉすげぇ詰まってんなこれ……今にも壊れそうだぜ」

 

 海藻が海に放られ、ついで貝がナイフで外される。

 その度に宝箱に潜む何かが今にも飛び出してきそうにミシミシと木を押していた。

 

 とうとう阻むものが何もなくなり、少し指で持ち上げれば開いてしまうようなところまで来る。

 

「さぁ、宝とご対面──!?」

 

 それで、開けたのは……誰だったんだっけか。

 

 

 どうしてか、その先はちっとも覚えていないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開会式前日、宝探しに海に出ていた彼らは()()()()に襲われ難破。幸いにして直ぐ近くを通った漁船に拾われ無事……一名を除いて。

 呼び名は船長。狩火庵中キャプテンである男が行方不明となってしまったのだ。

 

 けれど彼らはそのままフットボールフロンティアに参加、居なくなってしまったキャプテンの為にも優勝を目指す……そんな風に地域密着型の記者に紹介されていた。

 

──宝探しか……欲深い人間が行い、宝の番人の食い物にされる。よくあった話だな

 

 そうなのかコルシア。まあ俺はいきなり宝くじにあたったりしないかなぁと思ったりする人間だけど、流石に一攫千金でギャンブルしようって感じではないからよくわかんないな。

 ……しかし恐ろしい話だ。早くこの船長が見つかるといいんだけど……。

 

 で、だ。

 

「ふへへ~~スパイ任務完了ー♪ 僕はダークネス・部長さんの忠実なる(しもべ)ー」

 

「お疲れ様だ……それで今日の練習はどうだった?」

 

 最近悪魔のキーパーが定着してきて呼ばれなくなってきたからって態々そっち使わないで……。

 

 ……ダメもとで頼んでみたらオッケーが出た練習スパイ。まぁ習合の練習だからスパイもクソもないけどそれを進めていかねばならない。

 エマ? 一日目はエマに聞いてみたんだけど「怪我人はゼロです」みたいな情報しかくれないというか、興味ないのか記憶してなくて……そっち頼むのにも代償あげたらやばいって俺は学んだからね。

 ホテル行くことはエッチなこと。うん。休憩って単に休憩するだけのサービスなんだなーって思ってましたはい。

 

──なんでこんなこと教えねばならんのだ……こっちが恥ずかしくなるわ。そもそも貴様保健体育の成績もよかっただろうが

 

 保健体育でホテルとか習わないしい!? いやね、そういう行為は知っていてもあくまで教科書の事でしか知らないからね。

 今後もなんかズレてたら補足頼んだコルシア……。

 

──それこそエマに頼め……ウキウキで実践してくれると思うぞ

 

 やだよ……。

 

 ……仲間をスパイにしてたりと段々手段を選ばなくなってきた感があるが特に恐ろしいと感じないのが恐ろしいな。

 なんでだろ、これがバングとかウリ坊とかなら罪悪感すごそうなんだが。アルゴだとすっかりそんな気分が解けちゃう。

 あと持って来てくれた甘酒が相変わらずおいしい。今日は少しお塩強めなんかな、甘味が際立っていていい。

 

「えーとね、昨日から重力増やして6倍にして倒れるまでシャトルランしたり……あと二号君の希望でメアとジミーでひたすらシュート撃ちこんだりしてたかな~めっちゃ苦しそうな顔してたよ☆」

 

 すっごい嬉しそうな顔浮かべますねアルゴさん。

 いやまあ部に誘う時にそれ許可したから別にいいんですけど……。ただあん時は「俺の苦しそうな顔をいくら見て楽しんでもいい」って言っただけな気がするんですけどね。

 

 そん時のアルゴ? 「君の泣き顔とか見てみたいからやるね~」って感じだったよ。なんかいい感じに甘酒のつまみになるんだって。

 そして二号が何気地獄味わってるな……八咫鏡をさっさと進化させないとマジで死ぬんじゃないかアイツ……。いや必殺技とか普通簡単に進化しないけどね。

 

 ちなみに一号は?

 

「うーん、光陰如箭・改……だっけ? を相変わらず連射ー。みんなも限界に挑んでるよ……ほらこれ皆のヘロヘロになってる時の写真~」

 

 そう言ってアルゴは隠し撮りしたのだろうか、汗をかきグラウンドに突っ伏している皆の写真……いや待て!?

 あいつらがこんなに疲弊してるところ見たことないんですけど!? 後君ちょいとさぼったの? 何でその手前で余裕の自撮りピースしてんの? 君もしかして今まで本気出してなかっただけで潜在能力ナンバーワンとかいう孫悟飯路線?

 いやまさかね……。

 

 すごいな……メアが汗だくで襟をつかみ風を取り込もうとしている。メアファンクラブの奴が暴動起こしてでも手に入れようとしそうだな。あの人たちこういう写真好きらしいし。鎖骨?がいいとかなんとか。コルシア的には鎖骨って魅力的に見えるものなの?

 

──骨で興奮するのか……噛むのか?

 

 お前自分が犬だって思い込み始めてない? 狼というか悪魔なんだよね? 頑張って。

 ……ふふ、倒れ突っ伏しているトールがマネージャーにプロテイン流しこまれてる。いや死なないかなこれ。

 

「……やり過ぎじゃないか? ハードワークも大事だが過剰にならないように……」

 

「はいすとっぷー。アルゴさんが頼まれたのは「練習風景の情報」だけなので指導案は無しー」

 

 指摘しようとした瞬間、アルゴはにやりと口元をゆがめた後大きく手でバッテンを作った。やることあざといよねコイツも大概。

 

「しかし……」

 

「まーま、それで問題が起きたら皆反省するって。折角部長無しで動き始めたんだし……問題点は今のうちに洗い出しとこー! そんじゃまたね~」

 

 それだけ言うとアルゴは新しい甘酒片手にどこかへと走り去ってしまった。

 ……密会の場所として指定した神社に一人残される自分。やっぱりどこか寂しいけれど、それでもアルゴの明るさには救われる。

 そう言えばアルゴからこの神社裏指定してきたけどよく知ってたな……。

 

──今なにか変な気配がしたような気が……

──ナガヒサー、お腹へったからはやくかえろー今日はバターチキンがいい

 

 ああそうだねフェルタン。今日はお安く鶏ムネが手に入ったから鳥パーティーだ。

 ついでにオムライスも作るぞ、卵料理は得意な方なんだ。俺はケチャップ派だけどフェルタンはデミグラス?

 

──マッシュルーム入りデミ

 

 おおそうか……オムライス二個分作ってソース二種にしようか。

 エマは何らかの獣のコンソメスープ作っておくとか言ってたし今日は洋風だなぁ……素材は聞かないようにしておこ。

 

──妾は牛

 

 脱線しすぎじゃないトロア? 牛は高いからお祝い事あった時にね。

 さて家に帰ろう……帰宅が楽しいってのはいいよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁっお帰りなさい兄さん……ご飯を一緒に作りますか? それともお風呂……それとも私──」

 

「エマの今日の報告からだな」

 

 うん、一日の報告を態々家でするのもいいね。テレビとか見ながらとかお菓子食べつつ……なんかがっくりしてない?

 もしかしてお風呂掃除してほしかった……? そうだな掃除しつつ会話する?

 

──今のはそれとも私を食べますか、という古風な誘い文句だな。漫画とかで読んだりしなかったか?

──エマっちは美味しいのかなぁ……多分美味しいかも。後で一口だけ頼めないかなぁ……

 

「……? なにか身震いが」

 

 食べる……? エマのキャラを考えて……あぁそういう……確かに前読んだかもしれん。

 けど流石に突然それ言われても反応しづらいかな……多分エマの期待に応えた完璧な兄としての100点満点は、顔を赤らめつつ「からかうな」……とか?

 

──それであっている、くそだな

 

 面倒っすね。次回も悟らなかった振りしつつ着地前に狩ろう。

 さて、お風呂……準備できてるし。部活終わって帰ってきたばっかりだよね時間的に。ほんと家事スキルすごいなぁエマ。ありがとうね。

 

「えへへ……」

 

 こういう時は素直にかわいいんだがなぁ。

 

──よく見ろ涎垂らしてるぞ

 

 あ、ほんとだ。

 こわ。早く気を確かにして。

 

「……あぁそれで兄さん、明後日の行き先なんですが」

 

 一瞬で涎ふき取って何事もなく会話を始められるとそれはそれで怖いな。

 明後日……ああそうか明日の練習が終われば休みを挟んでまた東京だったな。

 

 そんで休みの日は……迂闊に出してしまった「エマの好きなところへ行く権利」が行使されるという訳だ。

 で、どこいくの? デパートとか? 甘いもの巡りとかもいいよね。妹が行きたいところってなかなか想像できないけど……いやまぁ流石にコルシアが危惧したように「ホテル行きましょ!!」とはならないと思う。

 なったらその瞬間にこちらが普通のホテルを予約する。流石にね。

 

「私、海に行きたいんです。なので兄さん、水着を用意しておいてくださいね?」

 

──ヌーディストビーチとか言わない辺り自制したのか……?

 

 コルシアのエマへの警戒がすごい。セコム出来てます。

 ……海かぁ。まぁ試合に出れないのなら多少海で泳いで疲れても影響ないか。メアとかも海で泳いだりしてましたって言ったらちゃんとレジャー楽しめるんだ! って喜んでくれるかな。

 

 ……いや流石に皆からの俺のイメージはそこまでひどくないな多分。この間メア姉とメアでファッション巡りしたし。

 

 いいね海、いこいこ。

 海の家とかで焼きそば食べたりバナナボート乗ったりとかこっそりやってみたかったんだよね。

 水着は……中学の授業で使う奴でいいかな? いや去年まで市民プールとかで使ってたズボンタイプの方がいいかも。中学の奴ってぴっちりしてて気持ち悪いんだよね。

 結構楽しい休日になりそ──、

 

ふふ……オイル塗り……手が滑って……

 

 

 ……前言撤回! コルシア、全力で敵の魔の手を教えてくれ!!

 なんかすっごい手をウネウネさせてて怖い!

 

 助けて!

 

──まぁいいぞ。流石にこの体に手を出されるわけにはいかんからな……

 

 サンキュー!

 




平和な世界


~オリキャラ紹介~
・船長 MF
 野性味あふれる俺様系海賊野郎。
 少なくとも15m以上底の宝箱を一潜りでとってこられる海の漢。

 船の難破のせいなのか行方不明になっている。

・ツルッパゲで黒服の眼鏡
 ゲームしてる人ならお気づきであろう、影山さんの手の内の者の一人。
 主に破壊工作、人攫いによる洗脳とゲームの中では好き放題している。
 エイリア学園にも似たような奴がいるのは気のせいだろうか。

・アルゴ MF
 人の不幸を見て笑っちゃだめだという常識は持っているが押さえられないのだから仕方ねぇ思考。
 甘酒大好きでいろんなフレーバを試したりしている。
 
・二号
 次回君の視点なので頑張って生きて


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海の波にはご用心な日

 ベータちゃん可愛いので出したいなぁって思ったのですが、第一部で扱ってもどう考えても邪魔になるんですよね。
 かと言って大人になった織部をわざわざ線上に出す理由も中々ないのよね。
つまりは……わかるな?
 欲望は第二部を求める、アーマードコアの新作は出たりでなかったりしろ




 高みを知った、ひたすら遠い遠い。道のりすらも見渡せない。

 歩き方は知っているけれど、かかる時間もわからない。走るにはどうしたらいいかも知っているけれど、この体が耐えられるとは思えない。

 けれど、弱音を吐いていては……この両肩に、背中に、真経津 鏡介に掛けられる期待に応えることができない。

 

 いつだって信じてくれる兄さんに、どう考えたってばれてるだろう変装を見逃してくれている奴らに、置いてきた高天原のみんなを見返すために。

 

 ここは地獄の一丁目、通常の五倍の重力が体を蝕む部室棟。

 本気で走ろうとするだけで心肺機能が悲鳴を上げる。

 

──八咫鏡!

 

 ようやくこの状態でも必殺技を使えるようになった。

 まだまだ安定しないけど、時に失敗するけど。

 

 突き出した両手で、全てを映し跳ね返す鏡を支える。

 この地区で天狗になっていたころよりも強大で、厚く。またそれを支える腕も太くなった。

 

 けれど、

 

エンゼルッ……ブラスター!

 

「くそっ!!」

 

 ボールが、砕け散る鏡と共にゴールに突き刺さる。五倍の重力下で進化後が使えなくなった状態でさえこれだ。

 天より注がれる光弾を止めることは敵わない。

 ただ数秒のつばぜり合いが己の進歩を確認させるとともに、目標までの長さを自覚させる。

 

 ……改になったこれをアイツは弾いて見せたはずだ。

 

「いくぜぇーっ!」

 

 揺れる頭を押さえ立ち上がり前を向けば、もう次弾を装填しているジミーがいる。

 そうだこれしきでへこたれるわけにはいかない。

 

 迫ってくるのは強烈な縦回転が掛かったシュート。

 風切り音が耳に届き、自身の危機を教えてくれる。

 

「ぐっ!?」

 

 煙を上げるグローブで叩き掴もうとする。沈む……っ重い重い一撃が肉に、皮膚に、骨にしみて響く。

 抱えようとして心臓に当たり一瞬、力が抜けた。すると勢いのまま、体がゴールに引きずられる。

 

 芝生が切れて口に入った。苦い。抜けた力が入らず立てない……あぁ駄目なのか。

 アイツなら腹で受け止めて軽くボールを返すだろうに。

 

「ちょっ、ちょっストップ!? メアチャージストップ! 二号が倒れたぞ!」

 

光よ──ってわっ本当だ!? 大丈夫かい二号君!」

 

 二人が……いやゴール付近にいた者がみんな集まってくる振動が地面から伝わってくる。

 

「……!」 

 

「早く救急ば──おぉカガサンキュッ! よしいま──」

 

「やめろ……っ!」

 

 差し伸べられた手を掴み抗議する。

 こんな所で一々練習を止めてなんていられない。もう試合は目前に迫っている。

 あの……試合を見て感じた、狩火庵中を前に生半可な傷や疲労で動きを鈍らせてはいけない。

 

──うしコツがつかめそうだ。一号、まだいけっかァ!?

──とう……ぜん!

──よいぞよいぞ、その根性は実に俺好みだ!

 

 ようやく作れた握りこぶしで弱音を吐く膝を叩いてたたき起こす。

 ……あぁ、反対側で兄さんが同じ様に肩で息をしている。その前にはソニック、トール……速い一撃に対しての特訓。その度に光陰如箭を放つ。

 この重力下では力を集めるのもままならないというのに……。

 

「メア、ジミー……再開する」

 

「いやいやいや、無茶はやめとけって……」

 

「そうだよ! ここで怪我したら元も子もないよ!?」

 

 ……なんでか、この二人が以前よりも怪我に対して過敏になった気がする。少しだし、その割には特訓の難易度が頭おかしいが……その気づかいが今は邪魔だ。

 どうしても僕は、無茶をしてでも強くなりたいんだ。

 

「……織部(アイツ)に追いつくんだ。一人に頼りきりじゃ……高天原(前と同じ)なんだ、意味がない」

 

「……っ」

 

 そう歯ぎしりをしていえば、なにか思うところがあるのか二人の目に映っていた心配の念を押しのけ火が付いた。

 なんだかわからないが押し切るチャンスだった。

 

「お願い……せめてあと1セット! 僕は、強くなるんだ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後悔した。

 

「お、おーい……生きてっか?」

 

 いやほんとうに。最後ようやく必殺技を進化させる糸口が見つかったのはいいけど……なんで重力五倍の状態でメアはエンゼル・ブラスター改を発動できるのか。

 マスクが破けて替えを取りに行ってもらう羽目になったどころか髪が焦げた気がする、焦げた。

 ……血が頭に上ってないせいかしゃべり方がおかしくなってる。

 

「はーいみなさん、休憩時間は15分。キリキリ休んでくださいね……船の手配はok、あとはどうにかしてフェルタンさんたちを眠らせられれば

 

「うーん……駄目だ。重力が元に戻ってるのに翼が4枚から増えない」

 

「め、メア様……一応部長さんからアドバイスと言いますか、一助になるやもしれない言葉をメモに記しましたのでよろしければ……! ふひっ」

 

「ぅ……よ、読みたい……けど頼らないって言いきっちゃったしなぁ…………す、少しだけ」

 

……この天使小僧の力を使えばあるいは……?

 

 近くでエマとメアが話し合っている様で話していない。何の話だ。

 まだ翼増やすつもりなのかメアは、休憩中なんだから発光していないでもっと休め。

 

「なになに……『体から放つ力が多すぎて操り切れなくなっている可能性がある。光で翼だけでなく、管理するための器官……天使の輪などを作ってみるといいかもしれない』?

……これだ! 流石だよリーダー!!」

 

 よせ。

 

「ふぅーつっかれるー……、足が痛いや」

 

「俺もまだ目が回ってる気がしますッス……でももっと回転力を上げなきゃスよね」

 

 体力自慢の二人、ウリ坊とバングが近くで芝生に寝そべっている様だ。

 この二人が疲労を口にするのは珍しい……けどまだ俺に比べたら余裕がありそうだ。……死にかけの僕より余裕があるというのは、おおよそ部活でしていい疲労なんだろうか。

 ……そもそもここは本当に部活なのか最近疑いを持ってきた。

 

「……、……!」

 

「おうそうだな、ボスに頼らねぇようにもっと強くだな。 そんでボスが左団扇のまま優勝だ!」

 

 ……グラさんの声が聞こえる。

 そうだ、僕達は優勝してみせる。

 何なら最後の試合だって織部をベンチに押し込んで、僕が守り切って見せる……。今日ももう一息だと、立ち上がる。

 

「──そういえば、なんで部長って習合に来たんだろ?」

 

 そんな時、ウリ坊がふと思いついた疑問を口にした。 

 

「ん……?」

 

「どういうこったよウリ坊?」

 

 その疑問にグラさんたちが首をかしげる。ついでにドリンクを浴びるように飲んでいた兄さんがこちらに意識を向ける。

 

「いやだってさ、部長ってば入学早々部活作ったわけだどさ……サッカーしたかったなら普通部活あるところに行かない? 部長の家の近くに別の中学もあるっちゃあるし……なんならそっちにサッカー部あるはずだし」

 

「あれじゃねぇか? ここの学食とか美味いし校舎も新しいしな」

 

「案外、部長は部長やりたかったから部がないところに来た……とか? 」

 

 他愛もない、明日には忘れているかもしれない程度の話題。

 それでもみんなが参加しだしたのは……あまりに不思議なアイツが気になっていたからかもしれない。今にして思えば、みんなが知っているのは部長としてのアイツで。

 なんなら私服を着ている時でさえ部長だ。食べ物は何が好きなのかとか、何でサッカーを始めたとか、悪魔と契約なんてイカレたことをした契機はとか。

 聞きたいことが思えば思うほど出てくる。

 

「……いつも家の前で集まってたけど、家の中に入ったこともなかったな。なんならエマちゃん以外の家族にも……ってどうしたワタリ?」

 

エマさんはストーカーで……家に出入りどころか住んでても何も言われない。特待生……いや、まさか? いえ、少し父さんに確認したいことができただけです」

 

「……それも無理していたのかい、リーダー……?」

 

 ただどうしてか、この話が彼のなにかを崩してしまいそうな危うさを孕んでいる気がして……僕は口をはさむことが出来なかった。

 

「エマちゃんはなんか知らないの?」

 

知ってても教えません♡

 

 えぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーちょっと生命線が短いですね。これじゃあと10年ちょっとしか生きられませんねぇ」

 

──10年後に死ぬということはそれまでに何をしても死なないということだ。よかったな

 

 ウケる。いや受けない。いやなんだよこの占い結果! 享年20代前半とか

 100日後に死ぬワニだってその間に超次元サッカーしまくれば運命捻じ曲げて死ぬかも知んねぇからな!?

 ……いやこの占い師の人ズバズバいうなほんと。まあ女性というか女の子だからなすがまま受けてるけど男の占い師だったらこんな失礼なこと言われたら即刻帰るからね。

 

──そこの方、明日浜辺に行きませんか? と聞かれ心臓が飛び出るほど内心驚いて見せたくせに何を言う 

──いや、コルシアも驚いていたではないか? まっ妾らの存在に気が付けない辺りなんらかのイカサマを働いているのじゃろう。温かい目で見てやろうではないか

 

 ……いやほんとにね。この子なんか俺のストーカーなのかってぐらいやたら個人情報とか当ててくるんだよね。

 家族構成とかストーカーがいるとか、後今度の試合出ないことまで知られてるし。でも前診てもらった占い師の方はコルシアたちに驚いて逃げたけど……見る感じ悪魔が憑りついていることは知ってても見えてないのか?

 フードとか取ってもらえればもう少し読めるんだけど。

 

──貴様も何気に占い師モドキになってるな、その相手の心推しはかる力は何なんだ

 

 いやこう……勘で。特に試合している時とかだと反応が見て分かりやすいから。

 後性格知っている人だと分かりやすいし……意外と注意すればみんなできるんじゃないかな。

 

「そ、れ、でぇ……今なら長生きできちゃうヒケツとかお教えできますけどどうですかぁ? せっかくであったのも何かの縁、初回サービスとしてタダでやってあげますよぉ」

 

 タダ、タダかぁ……タダより高いものはないっていうけどどうだろうか。

 しかしやたらぶりっこなしゃべり方するなこの子?

 まあ口元から見るに美人さんだから許されるのかもしれないが、仮に俺がこんな喋り方をしていたらメアが泣きながら病院に連れていくことは間違いない

 

「……それは?」

 

──答え、サッカー止める。とか言いそうだな

 

「──サッカーから距離を置くと、いいことありますよぉきっと」

 

 コルシアも占い師になれそうだな。怨嗟を糧にするってことは人の恨みつらみに一番詳しいわけだし案外間違っていないのかもしれない。

 ……で、占い結果はうーん。こう当たり前のこと言われてる感凄い。いや占い的にはサッカーで死にかけてる感じじゃなくて悪魔の代償で死にかけてるって思われてるっぽいけど。

 その力を使う場所のサッカーから距離置けってのはすっごい自然なアドバイスだよね。

 

 アドバイスと言えば、メアファンの子からメアが伸び悩んでいるからなにか助言くださいって頼まれたっけか。もう翼増やすぐらいだろうよと思ったけど天使になりたいならわっかでも生やせば? って軽い感じで言ったなぁ。

 それぐらい意味のないアドバイスだった。

 つまりはだ、

 

「……占い感謝する。だが、俺は少なくとも……優勝するまでサッカーをやめない。さらばだ」

 

 じゃあねまたねバイバイ。

 ……可愛い女の子相手によく頑張ったよ俺。顔隠されてなかったらきょどってたかもしれない。

 

「……それはざーんねん」

 

──……? 何か悪寒が

 

 どうしたコルシア。もう顔背けて帰りたいんだけど。

 変に何か気づくとその正体をはらしたくなるじゃないか。

 

「ああでは最後に、是非とも織部さんの未来をこの水晶に映して見せましょう。何かお役に立てるように……ふふふ」

 

 おおっとまだサービスを続けてくるかこのお嬢さん。商売熱心だな。

 ……そう言って占い台の上に球体を出してくるけど……これ水晶じゃなくてサッカーボールじゃない? いや全体的に黒いしなにやらハイテクな感じがするけれど。

 最近の水晶ってこんなんなの? まぁいいか……どれどれ。

 

 …………、

 

 ……? 一瞬ボールが光ったようだけど何も起こらないな。

 

──おい長久、こやつ球体を通して精神干渉をしかけてきてるぞ。大方悪魔関係者だ、とんずらこけ

 

 えぇ……最近エマといい人の心操ろうとしてる人多いっすね。

 占い師って精神干渉スキルまで必須なの? こわ、近づかんとこ……。

 

「……何も映らないようだな、失礼する」

 

「……はい、どうぞ」

 

 すっごい睨まれてる気がする!! フード越しだけど、絶対なんで効いてないんだよコイツ? みたいな思惑されてる!

 逃げよ逃げよ! さっさと帰って晩御飯作ってエマの相手して明日の海に備えよう!

 

──ナガヒサー、今日は油淋鶏がいい

 

「……ちっ!」

 

 ひぃ舌打ちされたよ!? 怖いよこの子、僕もうおうち帰ります!

 やっぱり重り無しとは言え体が鈍るからってランニングしてたのがいけなかったんだ。約束破ったから罰が当たったんだ!

 

 お願いします二度と約束破りませんから……助けて!!




崩壊の序曲と見せかけて更に深刻な過去持ちと疑われる織部な回
そして二号くんはイキロ



~オリ技紹介~

・八咫鏡 パンチング技
 技名だけならラスボス系。ラスボス系チームにいるから問題ないな!
 使い手の二号が成長しているので初登場時よりはずっと強くなっている。今回で技進化の兆しが見えたのでそれもクリアすれば織部の100倍は怪我せずに守れるキーパーになれるに違いない。

 成功時、蹴った場所にまでボールを跳ね返すので周りが注意しないとまたボールが取られる。

~オリキャラ紹介~

・10年とちょっと後に死ぬ織部 GK 1番
 むしろ10年も生きられるのか?
 生命線ってホント指針になるんですかね。織部とか怪我して治しまくってるからえげつない手相してそう


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7つぐらい海を跨いだ日

 イナイレSDみんな始めましたか?
私……? トータルパワーで勝ったのにルーレットはちょっと……素材集め対人戦に頼っててきついのでしばらくログボ勢で……うん



 うーみーはひろいーな、おおきーなー。

 

 潮風が頬を過ぎてはヒリヒリと肌を焼く日差しを感じる、メアのエンゼル・ブライトに比べたら余裕だな。そう言えばすっかりブライトしなくなったなぁ、そんだけ力の扱いがうまくなったということだろうか。あれ転じたらドリブル技とかに使えそうなんだけど……メアの性格的に目つぶし技は使わんだろうな。

 まあ俺自身、元々色黒だからこれ以上日に焼けたら真っ黒になっちゃうからあんま焼きたくないし、意味のないことはやめとくか。

 

 同じくらい焼けてる豪炎寺さんは元々あれなんだろうか?

 

「にいさーん、今あそこでイルカが跳ねましたよ!」

 

「あぁ、初めて見た」

 

 ボートから身を乗り出し、水しぶきが上がったところを指差している妹。

 出発前の着替えではやたら肌の露出が多い水着に身を包み、着痩せするんですよと何故か説明していたエマ。擬態の体を弄ったんだろうとはコルシア談。

 擬態じゃない本体の姿がチラチラ見えてると教えたらどんな反応するんだろうか。

 

──妹になりきれないということに繋がるからな。面倒なことになるから決して言うなよ?

 

 サンコル。

 いやぁしかし、まさか……エマが船借りてるとは思いませんでしたね……。お金の出どころとかは聞かないほうがいいだろう……。

 免許不要のモーターボートらしいけどこのままどこに向かってるんでしょう? 聞いても何も教えてくれないけど。

 ……やばない?

 

──逃げる準備をしとけよ。最悪数キロ近く泳ぐことになるぞ

 

 泳ぎそこまで得意じゃないんすけどね……。

 まあ普通にエマ見た感じ「誰もいない島で私を意識させて見せるぜぐへへ」って思ってる気がする。

 ははは、確かに可愛い妹だと思ってはいるけど……女性として意識はしないなぁ。

 

──可愛い妹……?

 

 どうしたコルシア。発言とか行動は目に余ることもあるけど可愛いだろう? 俺に妹がいたらきっとこんな感じだったんだよきっと。

 まあ最近気がついたんだけど……可愛いなぁ美しいなぁって思うことはあっても付き合いたい、LOVEな感情が湧くことがないんだよね。

 

 惚れるかもしれないって思っても実際惚れないし。メア姉さんとか話すときは楽しいけどこれまた惚の字でもないし。

 そもそもloveってなんだろ。likeとはどう違うんだろう。

 

 モテたいモテたいと思ってきたけど……これがわからない限り、俺から告白するとかは出来ないんだろうな。

 まっ誰かから告白されたらすぐオッケーするけど。こんな俺を愛してくれるとか希少すぎるからね。悲しい。

 

──あーうん、なんだ。成長すればそれがどんな感情か理解できるだろ

──なんじゃコルシア面倒な言い回ししおって。単に人と人との愛情というのは欲望の塊。独占、破壊、堪能。そういった感情の寄せ集めだろうに

──そうとも言えるがな……しかし愛というのはそんな性質に相反し時に綺麗な物語を生むこともある。献身、慈愛と言った風にな、酷く矛盾した事象だ

 

 ???

 わかんないなぁ……。つまり答えがないものなのか?だとしたら難しいな。答えが出せるならさっさとわかりそうなもんなんだけど。

 よくみんな愛情が分かるようになるもんだ。

 

──まぁ、一つ言えることがあるとすればlike,loveを分けて考える必要もないことだな。それだけに複雑なものだ、分けるだけ無駄だ

 

 そんなもんかな? うーん大人になるって分からんな。

 

「……兄さん、どうかされました?」

 

「いや、エマは可愛いなとな」

 

「……もー! そんなこと言っても何も出ませんよー?」

 

 俺がそういうとエマはにこりと笑う。

 ……めっちゃ擬態で隠してる尻尾揺れてるけど潮風のせい?

 

──いや、興奮してるからだろうな。こいつとて世辞かどうかは見分けがつく

──エマちゃんめっちゃ喜んでるー

 

 そっかそっか。喜んでるならよかった。

 ……お、なんか近づいてきたな。あの島で遊ぶのかな? いやぁ楽しみだなぁ銛突きとか魚釣りもやってみたかったんだよね。

 あと砂のおしろとか作ってみたり。あと……うん?

 

「エマ、あれは……」

 

「おや? ……木箱ですかね?」

 

 ふと見つけた、海上でぷかぷかと浮かぶ箱。

 蓋は開いてしまっている様だがどうしてか沈まずにいる。

 

 ……海の上ということもあり、ワクワクする心がそれに近づけと囁いた。

 

──なーんか嫌な予感がするから近づかんほうがいいと思うぞ長久

──おいしそうなにおいが……

 

「……近づいちゃいますか兄さん?」

 

 そう尋ねてくるエマにこくりと頷きエンジンを弱め方向を修正する。

 コルシアのいい分もわかるけど、まぁこれを見逃すほど男の子捨ててないから……めっちゃ気になるじゃんこういうの? コルシアも男ならわかるでしょ?

 何とか引き上げられる距離まで来たので魚を獲ろうと持ってきた網を使いボートに置く。

 

 随分海藻とかついてるなこれ、あとでボート帰す時ちゃんと洗っとこ。

 

──悪魔に性別求めるな。大体どちらかと言えば──む? この感覚は

 

 さてさて中身はいかほどか……なんだ、ほぼ海水じゃないか。

 残念。やっぱりお宝が入っていたりはしないか……待てよ、何でこんなに海水が入っていたのに浮いてたんだこの箱? 普通沈むよな。

 やっぱりなんか怪しい……お、箱の底になんかあるぞ!?

 

 海水に手を突っ込み探る。

 指先に何かが当たったのでそのままつかんで持ちあげ確かめた。

 

「……金貨?」

 

 手の中にあったのは一枚のコイン。

 髭生やしたおじさんが彫られてて、裏には花っぽい何かがある。

 少しも錆びついてない辺りかなり状態がいいけど……反応に困るな。価値のわかる人に見せればどのくらいのものかわかるんだろうけど。

 もっとこう、昔の海賊とかが残した剣とか銃とかの方が俺的には格好いいポイントあって好きだな。

 

「……このオーラ……まさか?」

 

──おい長久今すぐ捨て──!

 

 ……ん、なんかコインがかすかに震え出しているような。

 というか……なんか黒い瘴気みたいなのが噴出しているような。あれ、やばい?

 もしかしてトロアみたいなのが居ついてる? すぐ捨てなきゃ……手が動かねぇ!?

 

──馬鹿な業突く張りがまた一人、ケッケッケッーでヤンス!

 

 おおっ!? ……あ、またなんか新しい声が頭に響き始めましたね。

 これ初めてだったらかなりビビるけど、慣れてると少しびっくりするぐらいで済むな。

 

──? どうした、あまりのことに声も出ないんでヤンスか?

 

 ヤンス口調かぁ……雷門のDFにそんな子がいたよね。栗松君だっけ。

 あ、瘴気が形になっていくな。クジラ? ちっちゃいけど空中に浮かぶクジラとか可愛いな。マスコット的需要があるかもしれない。

 

 ……これから悪魔の力を使うときはこいつを前面に押し出せばファンとかつくかもしれないな。

 

──……悪魔を前になんとも不躾な奴でヤンス。まぁそれも今のうちの話、お前もあいつらと同じ様……に……うん?

──おっすおっすアヴィちゃん。なん百年ぶり~?

──誰かと思えばアヴィ嬢か。久しいなぁ……随分と力が小さくなってしまったようじゃが、ククク

 

「……アヴィさんまで……なんでぇ……?」

──第一階級の悪魔がどうして集まってくるんだここは……あぁ警告したからな長久。それでも玄関開けたのは貴様だからな

 

──……フェルタン様にデモアちゃん? トロアのクソガキまで……ネイロン? いやこいつは知らないわんこでヤンスね

 

 あの……同窓会するのは別に構わないし賑やかになるのもいいんだけど……一先ず金縛りといてくれない?

 アヴィちゃん? アヴィ………海……レヴィアタン? いやまさかね。

 それとなんだかアヴィちゃん出てきてから波が高くなってきてるような気がするんですけどもしかしてこれも君の仕業だったりします?

 

 揺れる、船が揺れる……!

 エマちゃんそんな落ち込んでないでとりあえず船の操作を……あぁ波が!

 

 あっ助け──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奴がいなくなった特訓は過酷を極めた。

 奴自身は性急な強化を嫌う性分でもあったのか少しずつ鍛え、限界から距離を置く方針ではあったらしい。……俺たちにはきついものがあったが。

 それが限界まで体力を使い果たし眠る方式に変わったことはほんの数日でも俺たちの体に変化をもたらしていた。

 

 確かに感じる力の脈動。土台づくられていた肉体からほとばしる力の研磨。

 この俺は今、あの屈辱の日より何段階も先に届いている、と。

 

『ついに始まりましたFF準々決勝! 本日は狩火庵対習合!

先日は大巨人中を相手に不死身のサッカーを見せつけた狩火庵中に対し、悪魔のキーパー率いる習合中はどう戦うのか!』

 

「……2回目だけど、この試合前の空気って慣れねーなー」

 

「ふん、慣れる必要はない。この緊張感こそが君臨するためには必要だ」

 

 辺りを見回すジミーの肩に手を置き首を回す。

 そうして俺は……キーパーのポジションに立っている弟を見た。

 今日は俺たち兄弟は二人ともベンチではない。スターティングメンバーだ。

 

『おおっと……? 今回は織部、アルゴを下げ謎のサッカーマスク一号、二号が出ているようです。顔をマスクで隠しておりますがその実力は如何に……!?』

 

「みんな~頑張れー」

 

「資料、これは資料……ふひひ!」

 

 ベンチにはMFのアルゴとマネージャーが二人。メアに付きまとう方はカメラを持ち出し連写している。シャッター音がうるさい。隣で筋肉狂がテレビ局が使うようなカメラを持ち出している。いやなんなんだアイツラ。

 

 ……おほん、今回はパス回しに長けているワタリを下げ、俺とメアが両翼の攻め手として決める。当然そちらを警戒すればセンターフォワードのジミーが決める。かなり攻撃的な型だ。

 そうこうしているうちにワタリがこちらにやってきた。

 

「一号さん、メアさん、今回はよろしくお願いしますね」

 

「当然だ」

 

「うん! ……リーダーはまだ来ていないみたいだけど……僕達の成長を見せよう! ──輪っかはまだ作れないけど

 

 それだけ言えばワタリは満足したのかさっさと戻っていく。

 ……織部は本来ベンチで観戦する予定だったはずなんだが……。今朝方エマから「う、海が楽しすぎてついつい夜も泳いじゃいまして……今東京流れ着きましたのでこれから向かいます」と電話が来たから行方知れずというわけではないが。

 まあアイツなら心配するだけ無駄か。

 

 今一番考えるべきは……敵方だ。

 

「ゲェヘッヘヘヘ……」

 

「さっかぁー……サッカーだぜぇ!」

 

 うん、明らかに様子が変だなコイツら。

 俺たちが言える義理ではないがちゃんと眠っているのか? 目の下の隈が凄いな……。不死身というかゾンビなんじゃないかとすら疑うぞ。

 エマの解説ではこいつらも何かが憑りついている呪いの品を手に入れていてそこに宿る何かが悪さをしているとかなんとか……。

 

 あぁあれだな、首から金貨がついた首飾りをつけている。

 ……服の中に隠しているとはいえアリかあれ? まあメアも首輪したままサッカーしてるし似たようなものか。なんなら織部が重りをつけたままサッカーするのも言われかねないしそんなものか。

 

 考えがそれたな。

 もう試合開始の笛が鳴る、集中しなければ。

 

「──!!」

 

『今キックオフ! 先行は狩火庵中、開幕に全力ダッシュで一気に習合に切り込む作戦の様です!』

 

 予想していた通り、狩火庵中はスタミナの消費を一切考えない全力プレイだ。

 それが続き大巨人中は自分たちのスタミナもつられ消費、敗北を喫したが……それが通用するほどぬるいサッカーはここでは行われない。

 

「ソニック!」

 

「──それが全速力か? 些か遅すぎるぞ!!」

 

 ジミーの指示を受ける前に既にソニックが追い付いている。重力5倍の環境下でも走り回っていた男だ、重しがなくなった今奴をスピードで置いていく奴など今大会にはいないだろう。

 一つ喋るとともに、ボールを持っているやつの周りを高速で回転……竜巻を起こす。

 

「──ストーム・ブリンガー……!」

 

「ぐぅ……うわ~~っ!」

 

 黒月には通用しなかったその一撃が、その屈辱を原動力とし更に回転力を上げ戻ってきた。

 巻き上げられ足に収まったそのボールとともに、相手もフィールドにたたきつけられる。

 

 いくら芝生の上とはいえそれなりに衝撃があるはず、これで少しは威勢も削れた……──

 

「ぅぅ……やってくれんじゃねぇかぁ!?」

 

「なんだと!?」

 

 そのまま起き上がってソニックに突撃しただと!?

 

「ちっ、バング!」

 

『おおっとソニックのストーム・ブリンガーを受けてもものともせず! 不死身のサッカーが早速始まったようです』

 

 ボールはそのままバングへ。すると今度はバングを囲もうと他の選手が雪崩れ込む……絵面が凄いな。

 だが全方位から来てもバングには問題がない。奴には帝国の鬼道すら吹き飛ばした必殺技がある。

 

「ぅぉ!? 実際みると迫力ありますッスね……ええぃ! ドライブアウト!」

 

 次はバングを中心とした回転。ベイゴマの如く己を回し出る衝撃波で辺りを蹴散らし進む技だ。

 これもまた出力が上がっており、以前よりも軸がしっかりとしていて簡単な技では打ち崩せないだろうことがうかがえる。

 

 その証拠に、狩火庵中のもの達が突っ込んで行ってはどんどん蹴散らされて……どんどんとまた突っ込んで行く。

 

「ちょちょちょ!? 二十人くらい俺に突っ込んできてません?! ッス!」

 

『素晴らしいぶつかり合いです、いく度弾き飛ばされようが諦めず狩火庵中攻撃陣が飛び込んでいきます!』

 

「ば、バングくん! 早くパスを!」

 

 ……厄介だなこれは。ボールを持てばこうして囲われ追い続けられるのか。

 しかも迂闊に足を止めれば永遠かと思うほどの猛攻に合う。一人一人が代之総中レベルから多少強い程度なのもまた厄介なことに拍車をかけているか。

 ……織部はこんなにも異質な力を二つ以上兼ね備えているのか。しかしこいつらの様に人間性が疑われる見た目になっていないのは何が違うのだろうか。

 

「め、メアさん! 頼んますッス!」

 

 しかしそれも圧倒的火力の前には無意味だろう。

 回転の勢いが落ちないうちにボールが高くあげられた。 あそこまで行けば狩火庵中も手が出せまい。

 

「──光よ、我が身から溢れよ!」

 

 やがて挙げられたボールが光を纏い、空を飛ぶ奴に吸い寄せられていく。

 奴の背中には相も変わらず神々しさを持った輝きを放つ翼が二対。スタジアムの奥まで照らす光量に思わず観客たちからは感嘆の声が聞こえた。

 

助けを求め天を仰ぐ人々へ──エンゼルッ、ブラスタァー改ッ!!

 

 全てをなぎ倒す圧倒的貫通力をもったシュート。周囲の空気を熱し進んでいく様は圧巻の一言だ。

 ……織部に勝つためには。こいつの一撃をも超える必要がある。どうすればいいか考えなくてはならない。

 俺の頭はすでに、もう一点決まるものと思っていたのだ。

 

 

「ヘヘヘ……野郎どもォ! 壁になりなぁ!?」

──オーゥ!!

 

 敵方のキーパーの号令とともに、DF達が隊列を組みだすまでは。

 いったい何をする気だと思ったのもつかの間、直ぐに光弾を迫っていき……5人の足元が波打ち始めている。芝生の大地に確かに水が張られ、深き海の蒼を成し始めていることに気が付いた。

 まさかこいつら……、そう思った時にはもうそれは発動していた。

 

ハイドロアンカー!!!

 

 五人が一斉にそう叫ぶと海中に手を潜らせ、人間の腕と同じほどの太さの鎖を引き上げる。

 ついで海中より飛び出すは……鎖の大きさに見合った錨、水しぶきを高く上げエンゼル・ブラスターに5本の錨が襲い掛かったではないか。

 

「五人全員によるシュートブロックだと!?」

 

圧倒的質量攻撃を前に、さしものエンゼル・ブラスターさえも一瞬止められる……。

 

「負けるかっ!!」

 

「おぉ……凄まじいな」

 

 それでもメアの一撃を完全に止めることは難しく、鎖を一つ、また一つ砕いて前進していく。

 けれど……

 

「ぐっ?! ひひひ……ハイドロアンカー!!」

 

「な!?」

 

 吹き飛ばされたばかりのDFが直ぐ隊列に戻り、また同じ様に必殺技を発動させたではないか!?

 そうして鎖が砕かれて進んでもまた新たな鎖が出てきて……8本を砕いた後、光弾は収まり地へと落ちる。

 

『と……止めました! 狩火庵中、まさしく人海戦術ともいえる戦い方で見事ゴールを守り切りました!!』

 

「そんな……また僕のシュートが止められた……!?」

 

 転がるボールを足で抑え、DF陣は少しも息を切らした様子もなく笑う。

 あり得ん……いくらなんでも必殺技を連続使用するなんて無茶をやってあんな笑っていられるはずがない。

 不死身不死身と騒がれていたが……奴らは悪魔と契約し、本当に不死身にでもなったというのか!?

 

「クヒヒッ! さぁ成り上がりの奴らから全部奪ってやろうぜ野郎ども!」

──オーウ!! 

 

 奴らの体から滲み出す瘴気が次第に上空に集まり始め暗くなる。

 

 ……誰も予想できなかった展開が今、繰り広げられようとしていた。




 ゲームをやっていたころ、強くて勝てない相手にDFを並べまくって地道に削っていたことを思い出し作られた戦法ですお納めください。


~オリキャラ紹介~
・狩火庵中の皆さん
 正気ではないことは確か、瘴気はあるけど。
 人海戦術と不死身と言える耐久力(?)で追い詰める。
 本当に不死身なのだろうか……?

・アヴィ
 ヒッキーしてたら解放してくれる大馬鹿がいたので遊んでいたらかつての上司と後輩とかがやってきて気まずい。
 なんなら数百年ニートしてたのでアスタロト辺りには抜かれている。エマ? 暴力の化身の姿を取り戻したら強いんじゃないすかね

 ベヒモスの対となる存在とも言われ、不死身、水をつかさどるとされる悪魔。あと嫉妬とか羨望とかも。。
 コルシアと似ている気がするのでもう末路は決まったようなもんだな。

 別にどこぞのパワフル野球の様にメガネをかけているわけではない、多分きっとメイビー。
 鯨。


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交渉決裂する日

──「自分の考えを曲げてまで交際を求めない。」

 福沢諭吉(部長の財布を暖かくするものであったが、今濡れて破れた。哀しい)
 

 それと少しだけ時が巻き戻ります。
 具体的には 部長、海でアヴィを拾う→???(今回の話)→東京湾に流れ着く(直ぐ後に試合開始)
 となっております。混乱させてしまう構成で申し訳ありません。

 また、ヒロインはコルシアなのかといったメッセ―ジがもらえました。
 作者は犬が好きです。猫も好きです。男の娘も好きです。男も女も好きです。なんなら可愛けりゃみんな好きです。
 つまりはそういうことです。

 追伸:ハイドロアンカーってキーパー技だったのすっかり忘れていました。キャッチ技ですがまあ松風時空のことなので改良前のハイドロアンカーはDF技だったって事で一つどうか……


「──」

 

 沈んでいく。

 体が重くて、空気がなくて、沈んでいく。

 ……本当に沈んでいるんだろうか、瞼が開けない。上も下も左右だって分からない。

 

──……おい、起きろ長久。死ぬぞ貴様

 

 あぁコルシア、おはよう。

 ……そっか、今死にそうなのか。

 

 ……えっ、死ぬの!?

 やば、夢とかじゃなくてマジの海のだったのこれ!!

 

──……アヴィちゃ~ん?

──ひっ! い、いやあの波はオイラじゃないでヤンス! 今分心体で碌に力もないからあんな波起こせないでヤンス! 多分誰かが意図的に……ほら早く海面に顔出せ人間!

 

 意識が覚醒する。

 瞼が開けばそこは海の中、それなりに沈んできたからか辺りは暗く、海底にはサンゴ礁が見えた。あ、フグが泳いでる。

 水深は恐らく15m以上は……そう、確か船に乗ってて……波にのまれたんだった。

 

──そんなことしてないで早く海面に浮上せぬか!

──トロアに同意だ。ここで死ぬなんてことは許さん

 

 サントロ、コル。って言ってる……場合じゃない。肺が痛い。

 やばい、早く上へ……まずい、碌に……力が入んない。空気が体に残ってないせいか……全然浮かない。

 そもそもどうやって浮けば……頭痛い。

 

──ちっ、おいフェル。顕現して引き摺り上げるぞ

──おっけ~トロアっち

 

 ……足元から白龍が、腰から黒蛇が出てくる……。

 そんでそのまま……体を……上へ──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやマジで今回は死ぬかと思ったんですけどぉ!?

 死因サッカー、もあれだけど遊びに来ていた海水浴で死亡とか格好悪すぎるわ!

 

「あぁ兄さん──! いくら探しても見つからない時はこの鯨を殺してでも地獄と取引しようかと思いましたが本当に良かった!」

 

『で、デモアちゃんがそう言──』

 

「エマです」

 

『はい……でヤンス』

 

 苦しい苦しい。首が締まってるから緩めてエマ。失うのが怖いのは痛いくらい分かるけど悪魔パワーで締められたらガチで痛いから。

 

 フェルタンとトロアが海面に浮上させてくれた後、近くの海岸で俺を探し回っていたエマがそのまま救出してくれた。

 なんでも気が付いた時には砂浜に倒れていて、俺がいない事に気が付き焦っていたらしい。ごめん。

 

 いやほんと……フェルタンもトロアもエマもありがとう。

 

──……まぁ本当に死にそうになっていたら契約を持ちかけていたぞ我も。この二柱が憑りついている時点で早々死なんがな

 

 ああコルシアもありがとう。いや本当これからは迂闊にたからものとかにも触らんようにするから……。

 まさかあんな所にフェルタン、トロア級の悪魔がいるとは思わんけど……。

 

──いや勘違いするなよ契約者、肩を並べたのはもはや昔。アヴィ嬢はドジを踏み数百年の封印。更には多重契約の為か今は分心体……コルシアに負ける恐れすらあるぞ

──……トロア、我の炎の氷柱を受けてみるか?

 

 え、えーとつまり今アヴィは弱体化してるのね。確かになんとなくだけどサクリファイス出来そうな気がする。

 トロアとかだとやろうとしても無理だからな。

 

──ほーぅ、それは妾の鱗一枚でも焼けるのか? まあ今の顕現も出来ないお前では無理だろうがなぁ

──ふん、力の貯蓄は既に済ませている。サクリファイスしても関係ない場所にな……長久と顕現の契約を済ませれば直ぐにでも使いその減らず口を閉じてやろう

 

 そこ喧嘩しないで。あと貯蓄って……あぁ前言ってたね。

 人の体の中に口座作らないでよ……せめて手数料とか頂戴。

 

 ……さて、海岸にまでたどり着いたけどここどこだよ。

 エマが最初連れて行こうとしていた島でもないし、周りにこの島以外の陸地見えないし。

 

──お前がいつも溜まった力を魂ごと砕くからだろうが……貯金ならぬ貯闇だ。これを使えばサクリファイスされるまでは全盛期と言わずともそれなりに力を出せる……力が欲しくなったのならばいつでも言うと良い。

まぁ、それなりに代償は頂くがな!

 

 うん、そりゃ心強い。ちなみにメアのエンゼル・ブラスター改は止められそうか?

 前の時は満身創痍だと皇帝ペンギン2号は止められない感じだったけど。

 

 ……お、海面で魚が跳ねた。南国っぽい見た目じゃないのが心の救いか。

 どこまで流されたんだろうか。

 

──……改良前の方ならなんとか

──海鮮食べたくなってきた

 

 ……いやすごいんだけど、すごいけどさ……。

 そうか、それでも改は止められないか……。

 

──いやお前の体を強化する方針でこれはかなりの成果だからな!? ゴールポストに当てるとか重りの小細工なしでだからな!

 

 え、例の炎の氷柱とやら使うんじゃなくて? わざわざ俺を強化するんですか?

 

──天界との戦争に使う様なアレをサッカーで使う訳がないだろうが……超次元なアヤツらなら耐えるかもしれんが余波でお前が死ぬわ。

しかし内側から強化しても確かに効率が悪いかもな……どうせ契約して顕現した後も犠牲にされるし、少ない力でも出来る様な強化法を……少し考えておこう

 

 ええこわ……やっぱ余程の時でもない限り契約はやめておこう。それはそれとしてちゃんと色々考えてくれるのは流石だぜコルシア。

 ……で、ここは何処なんですかねホント。帰れるの?

 

「で、ここはどこなんですかアヴィさん」

 

『え、えーと……多分太平洋のどっかの無人島でヤンスね』

 

「雑ですね……船は失うしどうしましょうか」

 

 ……う、転覆した時に船まで失ってたのか。

 エマ、携帯は……電源は入るけど電波が入らない? 食料も服もないし……ガチ目にやばい気がするというかやばい。

 

「……うーんいくら兄さんと二人きりだからと言ってもイチャイチャできる状況じゃありませんね……アヴィさん、海と嫉妬の悪魔なんですから海操ったりして帰れないんですか?」

 

『い、いやー……流石に今の力だと軽い波作るぐらいしか無理でヤンス。面目ない』

 

 

「──そうか、それは残念だ。折角楽が出来るかと思ったんだがな! 」

 

 

 とりあえずここで生き残るためになんとか食料を……コルシアと契約したら釣り竿出せたりする?

 ……うん?

 

──出来なくもないがそれなら顕現して直接魚取りした方が早いな……うん?

 

「まったく……警戒して損しました。だいぶ力が削れているようですね……え?」

 

『ははは……デモ──エマちゃんはすっかり体維持したまま現代馴染んでるでヤンスね……あぁ?』

 

 ……皆一様に後ろを向く。

 そこには生い茂る木々……が切り倒され作られた小さなログハウス。

 気が付かなかったぞ……よく見たら葉っぱとか散らしてカモフラージュされてるのか?

 

 そしてその前には仁王立ちしている……海賊帽子をかぶった男が一人。年齢的に同い年か一個上か。

 ボロボロのシャツをスカーフ代わりに腰に巻き上半身裸、背中には先端に尖った石が付いた槍をツタで巻いている。

 

 ……いやなんだこの人!?

 いや顔見て分かったけど、数日前に調べた人だから分かるけど!

 

「──狩火庵中のキャプテン」

 

「ナハハハハ! そういう貴様は確か……誰だ! まぁいい、俺様を知っているというのであればそれでいい!

この──東船道 尊(ひがしふなみち たける)様をな!」

 

 ……開会式前に難破して行方不明になっていた人。なんだってこの島に……。

 いや一先ず生きていたことに安心すべきだなうん。……そういえば狩火庵中はなんだってか「悪魔に憑りつかれた」様なプレイというか雰囲気醸しだしてたな。

 あれ見る限り呪いの品手に入れて悪霊に憑りつかれたんだろうなって感じだったけど……海で手に入った呪いの品?

 

 まさか……アヴィ?

 

『げげっ、まだ生きてたでヤンスかお前……』

 

 答え合わせしてくれたよ……お前かよ。何してんの。

 

──えぇー……強制的に契約結ぼうとしたら弾かれたんで。契約も出来ない人間なんて邪魔なだけでヤンス

 

 悪魔かお前。しかも今の言い分から察するに狩火庵中の奴らも強制的に結んだな?! じゃないとあんなゾンビみたいな事になんないよな!

 トロアの時も思ったけど強制的に契約するのほんと極悪だからやめろよ……。

 お前もしかしなくてもフェルタンたちいなかったら同じようなことしてたんじゃないだろうな。

 

「ふっ、当たり前だ鯨下郎が! 貴様がこの俺様から奪った船員を取り返すまでは死ねんわ!

……して、その金貨を持っても意思を失わないという事は貴様もそれなりにやるようだが……名を聞いてやろう!」

 

 すっごい元気ですね貴方。少なくとも二週間近くはこの島で生き抜いていると思えるんですが。

 流石に超次元なサッカー部のリーダーやってるのは伊達じゃないって訳だな。羨ましい。

 

「……習合中、キャプテン。織部長久」

 

「……ほう、そうか貴様が習合の長か! 俺様たちが勝ち進めば二回戦で当たる可能性があったところだが……」

 

「あぁ、明日その試合がある」

 

「そうか!」

 

 そう言うと……いろいろと含みを込めた笑い声を一つ。ああそりゃ不安だよね。

 部員が変な悪魔にとられて自分は島から出れずにどんどん日が過ぎていくんだから。少なくとも負けてはいないという事で安心してもらえたか。

 ……いや、でもなぁ……あれは無事と言っていいか分かんないよな。

 

「あぁなるほど、狩火庵中の選手の様子が変だとは思っていましたが……アヴィさんの仕業だとすればさっさと解呪しないと面倒ですね。そうですよね兄さん?」

 

「……あぁ」

 

 大巨人中との試合中、連中は大巨人中の必殺技をもろに受けてはその度に、痛がるそぶりも見せずすぐにまた動き出していた。

 一見不死身、の様に見えてはいたけど……多分あれってフェルタンの様に再生してもらえてるわけでもないよな。

 

──ぎくっ

──あぁあれは……ナいなさすがに。妾もドン引き

 

「……どういう訳だ織部」

 

「……恐らく──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラさんのデッド・スナイパーを受け、宙を舞った直後の事。

 奴は確かに着地に失敗し……足首があり得ない方へ捻ったように見えた。

 

「ゲヒヒヒ! ハイドロセーリング!」

 

「ぐぅ!? マジで不死身かこいつら……!?」

 

 それは出航。奴の眼前の芝生へレールの様に敷かれ広がる海の道を一直線に突き進む船が一隻。

 勢いのまま、引き金を引いて無防備になっていたグラサンを轢き飛ばしゴールへと進む。

 

 ……否、断じて不死身などではないはずだ。

 俺はその後姿を追いつつも確かに、具現化した船に乗る奴の足首が捻ったままなのが見えたから。

 よく見ればそれだけではない、意気揚々と振る腕にも多数の擦り傷や痣がある。

 

「こ、こいつらまさか……」

 

「──ハイドロバースト!!」

 

 そのまま……奴は足を捻ったままシュートの態勢に入った。

 周囲のどこから湧いたかもわからない蒼き水がボールを包み込む。荒れ狂う海流の水球に、痛みで力など入れようもない筈の足がぶつかる。

 

 瞬間に起こるは圧縮され行き場を求めていた水流の奔出。

 そこに技の曇りはないどころか……あり得ない。

 

「くっ八咫鏡!」

 

 対するは弟の鏡。確かに強力な一撃だが……メアのアレを受け続けていた弟にとっては軽い一撃の筈だ。

 激突し、鏡の曲線に合わせ水が飛ぶ。しばし押し合いをした後、鏡がボールを跳ね返す。

 

『狩火庵中の突撃も二号、危うげなく防ぎました! キーパーが変われど習合の守りは盤石か!』

 

 そのまま跳ね返る位置は……シュートを決めた相手の位置。鏡に映った場所へ、真実を正しく返す技だからこそ。

 この特性から下手をすれば連続シュートを決められかねないが……流石にそこは全員承知している。

 

「……!」

 

『浮いたボールを取ったのはカガ、すぐさま中央へパス!』

 

「っ!? おぅ待て!」

 

 すかさず間に入ったカガがフォローし……ボールが追って来ていた俺に渡された。

 それを見るや否や、周囲にいた狩火庵中の者どもが目をぎらつかせこちらへ駆けてくる。

 

 注視すれば、その走り方が不格好だとかそんなものではない……異常の中に隠れる異常が見える。

 ……こいつらもか。

 

「これは、惨いな」

 

 激痛で碌に動けないだろう、そう思える体のまま……笑い叫び走り寄ってくる男たちに対し、

 俺は何故か……恐怖ではなく、憐れみを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛覚をなくしている……!?」

 

──疲労感もだろうな。ついでに身体能力を少し上げ……疲れ知らずの兵隊に作り替えたというわけか。

……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ、いずれ限界が来るぞ?

 

──悪魔に倫理観求めるとはずいぶんお人よしの悪魔でヤンスね。そん時はそん時、代償として賭けにした魂頂いて別の所行くだけでヤンス。

ま、FF優勝しても代償はもらうでヤンスが

 

 ……。

 ほんと悪魔だなお前。

 

「あぁ、チームの中に呪いをどうこうできるのは……一人だけ心当たりがあるが、有効かも不明。はやく止めるべきだ」

 

 ……とは言ったものの、脱出の手段もない。ただ俺は今東船道を不安にさせただけだ。

 教えるべきじゃなかったか? 考えなしにもほどがある……馬鹿か俺は。

 

「よく知らせてくれた」

 

 けど、そんな俺の心を知ってか知らずか目の前の彼はただ俺の手を握り、笑顔を見せた。

 ……見て分かる、こいつだって仲間の事が心配でたまらない癖に。それを露も見せず功を労うか……船長と呼ばれているだけある。

 

「そうと決まれば──出航だ!」

 

「……なんだと?」

 

「出航、船を出すと言ったのだ!」

 

 立ち上がり、深く海賊帽をかぶりなおす。

 そのまま海岸とは真逆……奴のログハウスの方へと歩いていく。

 

 ……まさか、このときの為に船をこの島の中で作り上げていたというのか?

 

 すごいな船長、流石だ船長!

 なるほど、考えてみれば先ほど背中に担いでいた槍、近くで見て気が付いたが石のナイフもあった。船を作るのも可能なのかもしれない。

 

「……なんとかなりそうでよかったですね兄さん」

 

「あぁ……凄い漢だ」

 

 しかしそれでも……方位は日の出日の入りで分かっても、どこに向かえば陸地があるのかが分からない。太平洋なら北に進めば……難しいか?

 例え辿り着いても明日の試合までに間に合わないと色々と不味いだろうし。

 どうにか東京までの行き方が分かれば……待てよ?

 

 アヴィ、分心体と言えど……本体たちがいる場所はなんとなくわかるんじゃないか?

 狩火庵中に憑りついてるんだろ?

 

──あ、妾も思った。流石に距離が離れたら伝心は難しいかもしれんが、自分の体の一部がどこにあるかぐらいは分かるじゃろうて

──ぎくっ

 

 明日にはもう試合だ。時間的にまだ四国の方にいるとは考えづらい……そろそろ東京のホテルにたどり着いていてもおかしくない。

 その場所の方角さえ分かれば、後は船で向かえば問題ないよな。それこそさっき言ってた軽い波で補助してもらえれば早く着くし。

 ……今の反応的に、ワザと言わなかった?

 

──い、いやー……まさかそんなことする訳ないじゃないでヤンスかー

 

 本当?

 実は狩火庵中との契約邪魔されたくないからしばらくここに滞在させようとしてない?

 

──……ケケケ、バレちまったからにはしょうがないでヤンス!! いくらフェルタン様たちと言えど海ではオイラの領分……!

ただしい方向の情報が欲しければオイラと契約するでヤンス……当然、代償は魂!

 

 ……。

 そうか。

 

──ふふふ、やはり強欲なのが運の尽きだったでヤンスね。

フェルタン様達もこんな海のちっぽけな島で依り代が死んだら面倒でしょう? ここはオイラに協力しなきゃだめでヤンス

 

 ……コルシア、いや苦痛と怨嗟の集まりしものさん。

 あとフェルタン。

 

──なんだ?

──……なにー?

──へへーん、トロアのクソガキたちも随分と生ぬるくなりやがりましたでヤンスね。悪魔なんて基本相手を追い詰めて契約させて骨の髄までしゃぶりつくすものだというのに

 

 つかぬことを聞くけどさ……食べたら、追える?

 

──ああそういうことか……ああ、このままだと取り込めんから砕いて弱らせてくれると助かる

──オッケーオッケー、任せてーって言いたいけど、性質が似てるコルちゃんの方が追いやすいかな? 譲るよー

 

 ……オーケーオーケー。なら、しゃーないな。

 しゃーないしゃーない。俺もこんなことはしたくはないけど……船長のためにもな。

 アヴィ、ちょっと見てもらいたいものがあるんだけどいいかな。

 

──……何でヤンス? 悪いけど値引きしたりはしないでヤンスよ。オイラはさっさと力取り戻してあのクソッたれな神共に復讐しなきゃなんないんでヤンスから

 

 いや、すぐに済むことなんだ。

 ほら砂浜に手ごろな岩が落ちているだろう?

 

 これに向けてだな? 拳を構えて……いつもの手の形を作る。

 誰にだってマネできる、「手の骨だけが折れやすい構え」を。

 

「……兄さん? 一体どうしましたか?」

 

──……あの? なんかオイラの周りに鎖みたいなのがまとわりつき始めたんでヤンスが? ちょっと苦しいのでやめてもらっていいでヤンス?

 

 息を整え……サクリファイス・ハンド!!

 

──? なにを──ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ!?

 

 あぁアァあぁあ゛!! 痛い! でもこれが生きてるって言う証!!

 ……いけコルシア! このくそ野郎を取り込むんだ! 双方の合意ならまだしも、一方的に魂奪おうとしている奴なんて悪魔の風上にも置けねぇ!

 せめて今協力してくれるんだったら水に流そうと思ったが交渉決裂だボケぇ!!

 

──視点が悪魔になってるが大丈夫か? まぁお前にとっては許せん行為だろうからなんも言わんが……さて、分心体とはいえ第一階位の悪魔だ。力を蓄えるには十分だろう

──ぐぅぅぅ……許さんぞ貴様ら……!!

 

 視点が悪魔!? 左目がトロアが強制契約して悪魔目になってるからな!!

 それと語尾が抜けたな、ヤンス口調わざとだな!

 

──それがどうした! 覚えていろ……本体の前にやってきたら最後、この海の王に楯突いたことを末代まで後悔させてやろう……!

 

 ……いいのか最後の言葉がそれで、もう方針としては狩火庵中に憑りついている分心体全部コルシアかフェルタンに食わせるぞ。

 それが遺言でいいんだな。

 

──相手を追い詰め、骨の髄までか……まぁそうだな。我もそうさせてもらうとしようか、リヴァイアサン殿

──よせ、この犬風情が……やめ──

 

 

 

『──助けて!!』

 

「っ、アヴィさん!?」

 

 パクるな。




新しい住人の予定でしたが、大家の査定に通りませんでした。
そんな話です。



~オリ技紹介~

・ハイドロアンカー ディフェンス技
 同名で海王学園のキーパーが使っていた技。
 前回書くときにうろ覚えで使用した結果、DF技になった。まあ時間が経てば技のポジションも変わるやろ!!(適当)
 海中から錨を取り出し、ボールにぶつける。
 エンゼル・ブラスター改に大量にぶち破られた。

・ハイドロセーリング ドリブル技
 一直線に海のレールを引き、ついで出した小型の船で突撃する。
 道上に人が居たら撥ねる。そこそこ強い。

・ハイドロバースト
 ハイドロで統一しているのはアヴィの力という事を強調したいだけであり、決して作者が技名を考えるのを手を抜いたわけではない。
 ボールを水で包み荒れ狂わせ、蹴りの衝撃で間欠泉のごとく噴き出す。


~オリキャラ紹介~

・アヴィ
 コルシアに取り込まれた鯨。
 数百年眠ってたせいか倫理観が一切更新されていなかった。中世の気分でやってたら現代を生きる悪魔と部長から不平を喰らって食われた。
 分心体とはいえ一応不死の特性を持ち合わせているため、コルシアにとってかなりの栄養源になったことは間違いない。
 鯨食べたくなってきたな。

・船長:東船道 尊 MF
 よい子なので無人島生活余裕でしたが仲間がピンチと聞いて海に出ない船長はいない。
 


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ネロる日

・前回までのあらすじ
 その辺に居た鯨を油鍋に放り炎上したものの、無事食し無人島を出る活力を付けた二人と一柱。
 男たちは今、船長自ら作り上げたイカダで海へと旅立った!

 二割嘘です。


 


 周囲に散らばり照らす光は砂のようなものだ。簡単に舞い軽さを持ち合わせながら、水を含ませた時のように一つの物質として凝固させることが出来る。

 光を集め、束ねる。一本の矢を作り、一張の弓を作る。

 ただただこの一撃は光の速さを、何人も追いつくことのできない領域を目指したもの。

 

 あちらこちらの糸が緩みたわんだ操り人形のように動く亡者たちには手が届かないはずの速さへ。

 

「ゲヒッ……ハイドロ──」

 

 ゴールの前で闇雲に錨を振り回す男たちが矢の光で浮かび上がる。

 質量作戦というのは意外に効果的で、こちらも考えもなしに技を撃てばたちまちにあの乱舞に巻きこまれてしまうだろう。

 

「──光陰如箭……改!

 

 だが、あの針の穴を通す様に繊細なパス練習で培ったこのコントロール技術と弾速の前には無意味だった。

 光を奪われ闇に満ちた世界を一筋の光が切り裂く。

 

 技の精度は完璧に近いと自負したボールが錨を素通りしていく……やったか?

 手ごたえアリと体勢が前のめりになる。

 

「グヒヒ……!」

 

 ……瞬間、両手を観音開きの如く背後へ広げたキーパーの姿が消えた。

 光の矢で照らされていたはずのその姿はすぐさま、光を無くしただけではない……闇よりも深い真の闇に覆われたのだ。

 

『──雑魚が足掻く

 

 その中で僅かに……こちらを見下す、ひどく冷たい眼光があったのは気のせいだろうか。

 

「──メルビレイ・ザ・ホール!!

 

 黒は固まり、形成されていくのは生物を思わせる様な大口。ゴールを覆っても余りある大きさに隙間はない。

 それは……鯨を模しているのだろうか?

 普段よく知る鯨よりも頭部が大きく発達し、それに伴う強大な牙が口内を埋め尽くしており……口内に吸い込まれていった光の矢を噛み砕いた。

 

「なっ……!?」 

 

『止めたー! 一号、シュートブロックを掻い潜る一矢を放ちましたが……その先で更なる壁が待ち構えていたぁーッ!!』

 

「なーっいいとこ行ったと思ったのに!? ……どんまい一号、下がるぞ!」

 

 周囲の光量が元に戻る。

 

 ジミーの声で立ちつくしている暇はないと己に叫ぶが足取りは重い。

 未だ陰るのは奴ら狩火庵中から吹き出している黒い煙が空を覆っているからか。それとも「悪魔」に睨まれたと気が付いたからか。

 震える体を抑え走る横に、メアが近づいてくる。

 

「一号くん、あのシュートブロックを無視しちゃうなんて流石だね! 次僕がやってみ──」

 

「いや、このままでは……あの鯨を突破できん」

 

 俺がやってもあの鯨は撃ち抜けない。

 メアならどうか? 鯨だけなら結果は分からないが……あのシュートブロックの群れがある限り、メアでは突破できない。

 ジミーも、ワタリでも。

 

 あれが、奴らに力を貸している悪魔。

 普段織部に纏わりついている蛇や時折顔を出す龍のと同じような気配を感じても、ここまで体は冷えつくことはなかった。

 

「……すべて平らげ進む、あの一撃があれば……」

 

 ……織部ならどうだ。

 炎を纏う黒龍の棘すら食い散らかしたあの一撃なら──、

 

「それは駄目だ!」

 

 ふと考えがよぎった時、メアが俺に叫んでいた。

 それはこちらを叱咤するようなものではない、どこか焦りを含む表情に思わず足が止まる。

 

「っ……?」

 

「あ、いや……今回の試合の課題は「リーダーに頼らない」なんだから……ね?」

 

「あ、あぁそうだな……?」

 

 慌てて手をがむしゃらに動かし説明するメア。その言葉に妥当性はある。確かに今ここにいない、頼らないと決めた男の事を思うのは間違っているのかもしれない。

 だが俺にはその取り繕った言葉が……何か、メアが隠しているものがあると思わせたのだ。

 

「……なぁ、メアお前なにか──」

 

ハイドロセーリング……いくぞヤロウドモー!!」

──オェーイ!

 

『ボールは護送船団方式ドリブルで習合陣営へ、再びピンチかー!』

 

「っしまった!?」

 

 会話に気を取られいつのまにやらボールが向こうへ。

 数人でハイドロセーリングを同時に発動し、大量の船で群れを成し進む奴らは、止めようにも数の差で押され弾かれている。

 少し削れたと思えばまた起き上がり加わる……鼬ごっこというレベルではないぞこれは!?

 

 不味い、仮に奴らが同時にシュート技を使おうものなら……!

 

ハイドロ──」 

 

 悪い考えはよく当たる。

 船団から飛び出て……否、二人は空を転がるように投げ出されそのままシュートの体勢になった。

 二人が操り纏うことで更に特大な水球が作り出され……二人の蹴りが交差し叩き込まれた。

 

バースト!!」

 

 奴らの枯れた喉が叫んだ、勝利の……略奪の一撃だと。

 

「くそっ──!?」

 

 滝の如き奔流が、手を伸ばし追う俺達から離れていく。

 この一点だけは決めさせてはいけないと理解できているというのに……!

 

「──八咫鏡!」

 

 シュートが鏡に激突する。

 膨大な水流が鏡に押し寄せていく。鏡面が歪み、写し出されていたボールがおぼろげになっていく。

 

 

 傍目から見ても分かる、鏡が割られるのも時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──時はまた少し遡る

──トロアよどうした

 

 その文言って多用されると時系列とか分かりづらくなるから嫌いなんだよなぁ。

 読書感想文とか書く時にややこしい本選んだ時の絶望感とかね。かといってフランダースの犬みたいに皆ご存じの本選ぶと負けた気になるし。

 

──やいネロよ、妾はもう眠いぞ

 

 誰がネロじゃい。

 それと悪魔は寝る必要ないって前、ホテルで俺が寝不足で苦しんでいる時に嗤ってたよなぁトロアさん?

 

 ……パトラッシュの最後思い出して嫌な気分になってしまった。バッドエンドってどうにも苦手なんだよなぁ。

 創作の世界なんだから幸せになってほしいというのは傲慢なんかなぁ。

 

──きれいな海だね~あ、今マンボウいたマンボウ! おいしいかな?

 

 ……マンボウはあまりおいしくないと思うなぁ。というかよく見えましたね、水面波立ってもう俺には海の中が見えないよ。

 なんなら日が沈んだから何も見えない。

 

──えー……お腹空いたなぁ

 

「この荒れよう、アヴィさんの足掻きでしょうか? うーん……それにしては気配を感じませんし……」

 

 うーみーはひろいーなー波がやべぇーなー……いやほんとに波高すぎません?

 嵐でも来てるんですかってぐらい波高いんですけど。

 

 ついでにこのイカダ狭くないですか? 2畳ないから少し動くだけでぶつかりそうになる。

 ……いやそもそも一人で脱出しようとしていたんだから三人乗れば狭いのは当たり前だけどね。

 

 あとオール漕ぐのってかなり大変ね、フェルタンに片手治してもらってなかったらやばかったよ。

 けどこれで練習不参加の機会にドカ食いして貯めておいた分消費しちゃったからなぁ……早まったかな。

 

──まあ悩むと良い。我は奴の力の探知に励むとしよう……

 

 うん頼んだ。しかし意外と簡単に食べきりましたね……どう、体調に変化とかある?

 語尾がヤンスになったりしてない?

 

──……お前も最後気が付いただろうがあれは恐らく媚び油断させるための演技だ。まあ元々サクリファイスで粉々になり、そのままエネルギーにされてしまえば不死と言えどひとたまりもない。

もう少し喰らえば貯金も使わずとも全盛期並みに戻れるかもな

 

 さいですか。

 ところで犠牲にする魂の格が上がって強固なものになったらサクリファイス・ハンドの出力が上がりそうな気がするんだけどどう思う?

 

「羅針盤長、方向はどうだ!」

 

「……もう少しこちらだ」

 

「……東北東か! 操舵手、舵を左に……そうだそこでいい!」

 

「誰が操舵手ですか……私には織部エマという名前が」

 

──ないだろ。前も後ろも偽名だろ貴様。後長久、お前も発想が悪魔染みてきたな

 

 さよか。

 この間確認したら住民票に登録されてたから一応本名ではあるんじゃない? ……絶対手続きの担当の人に魅了使ったんだろうな。怖い。

 これで実害出てたら対応に困るよねほんと。いたずらで済むぐらいに抑えてもらわないと。

 

 日が沈み明かりは月光のみというこの暗い海の上、船長の的確な指示の元イカダは進む。

 時刻的に今は干潮の筈らしいのだが荒れ狂う波……船長の経験がなければ沈没していてもおかしくないだろう。

 

「……よし、潮の流れに乗ったぞ。漕ぎ止めーい! しばらく休憩だ、操舵さえ見ておけば問題がない」

 

「そうか、分かった」

 

 ……助かった。かなり腕が痛くなってきてたからねもうね。

 オールをイカダに乗せ胡坐をかく。

 後何時間ぐらいで着くかな。もう多分日付変わったよな……試合はお昼より前だし速く行かんと上陸前に試合が終わりかねないな。

 

「ふぅ……少しばかり焦り無理をさせてしまったか? 羅針盤長、疲れはどうだ?」

 

「……漕げないほどではない」

 

「そうか! 流石はお前もキャプテンの地位にいるもの……ナハハハハハ!」

 

 いや君ホント元気ですね。うちの超次元な部員並みにスタミナありますよ……これで軍師タイプとかつらたん。

 うちの軍師キャラっていないからなぁ。ワタリやグラサンは賢いけど軍師って感じじゃないし。その場で戦況操りつつ作戦練る頭は俺もないなぁ。

 ……でもなんか、手持無沙汰のフリしてそわそわしてるな。

 

 ……もしかして、

 

「……不安か?」

 

「むっ……」

 

 それは不意に口から出ていた。自分の失言に申し訳なくなり謝罪する。

 ただ船長はそれを受けるとひどく不服そうに眉をひそめ……しばらくすると雰囲気がどこか柔らかくなり、

 

「……多少はな」

 

 一言、弱音を漏らした。

 思わず目を見開き彼の顔を見る。そこには先ほどまでの荒々しい、迷わぬ指示を出していた者とは思えない表情が合って更に驚く。

 まるで……今まで仮面を被っていた様に? いや、違うか。仮面というよりは二面性。 

 

「……」

 

「……船長はみなを導く漢だ。そんな者が弱音を吐いてはいけない」

 

 雄々しく振舞い恐れるものなどないように振舞う船長としての彼と、船員のことを心の底から心配する思いやりのある東船道としての彼は矛盾しない。

 普段は他人に見せることのない彼を今、俺に見せてくれているだけだと気が付くと……不思議と共感している自分がいることも見つけた。

 そうしてポツポツと己の心の内を吐き出していく東船道をじっと見つめる。

 

「……正直なところ、同じ遭難者と言えど久しぶりに人に遭えたのはうれしかった。

危機とは言え、仲間の事も知れたのは心底助かった」

 

 全部本音だ。見なくても分かるほどに震えた声。零していいかも悩んで一言一言呟いていた。

 

「……貴様はどうだ? あのクソ鯨をさっさと処分した所を見るに、その類に精通しているようだが……悪魔が憑りついた俺様達の仲間が相手だ」

 

 不安じゃないのか。そう尋ねられた。

 だから俺は──

 

 

 

 

 

「全く」

 

──それ如きどうにかなるならここまで我らは苦労せん

 

 少し寂しかったけれど答えた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──諦めてんじゃねぇよお前ら……サッカーすんぞ」

 

 空に昇り重なる黒い瘴気に穴が開く。

 怒号が天に昇り、音をたてる。

 

「──雷鳴一喝!!!」

 

 鏡が割れた、水流は叩き落され割れた。

 天から振り下ろされた、特大の雷が全てを薙ぎ払い壊された。

 

 なんならシュートをした狩火庵中の軍団さえも吹き飛ばし、弟はゴールネットに叩きつけられた……おい!?

 

『か、間一髪! キーパーごと必殺技を当てトールが防ぎ切りましたァー!!』

 

「よっしゃぁー!! どうだゾンビどもが!」

──トール様マジ脳筋!! こっち向いてー!

 

 数人がぽかんとゴール前を見る。煙を上げ止められたボールを踏み雄たけびを上げるトール。

 その姿に黄色い声を上げるトールファンの奴。

 しばしした後、笛が鳴る。

 

『ここで前半終了ー! 点数はお互い0! 必殺技が飛び交う熱戦が繰り広げられております!!』

 

「いやいやいや待て貴様よくも弟ごと焼き払ってくれたな!?」

 

 思わず詰め寄りトールの両肩を掴み揺さぶる。

 ゴールを守り切ってくれたことには感謝しているがどんな防ぎ方をしているんだ貴様は!!

 

「んだよ一号……力溜めるまでちと時間がかかっちまったが代わりにいい威力してたろ?」

 

「そんな問題ではないわ! おい鏡介、無事か!?」

 

「……ダイジョブ

 

「死にかけではないか戯け! 威力を味方に発揮するな!」

 

 周りにいたウリ坊たちが近寄って来て俺を羽交い絞めにしようとするが知ったことではない。いくらなんでもあのプレイは危険すぎる!

 何度も訴えかけてでもこいつを控えのアルゴ(甘酒を既に4本空けている)と取り換えなければならない。

 

 こちらの多弁に思うところがあったか、そうしていると頭を掻いてトールが反論してきた。

 

「そりゃ確かに危ねぇ事はしたが……この作戦は二号が言い出したんだぜ?」

 

「──なんだと?」

 

「……そうだよ兄さん」

 

 そんな馬鹿な。言い訳ではないかと疑う前に、カガに手を貸され立ち上がった弟が視線も確かに口を開く。

 ……試合の疲れと言うよりほぼ今の雷鳴一喝のダメージじゃないかこれは?

 

「僕からお願いしたんだ。さっきだけど……止められなそうだったら僕ごとやってくれって……」

 

 ありがとうトール、そう小さく言い切って小さく息を吐く。

 その目には、ゴールを一人で守り切れなかったという悔しさと……それでも点を入れなかった、誇らしさがあった。

 

「鏡介……」

 

「……兄さん、僕には……僕の守り方があるって言ってくれたよね」

 

 ゆっくりとベンチに運ばれていき、横たわる。

 俺もゆっくりとその後を追い、弟の背中を見た。

 いつのまにか、自分の事を抜きに誰かに頼ろうとしていた俺と違い……協力してゴールを守り切ろうとしていた弟の背中を。

 

「でも……まだ僕の守り方、分かんなくてさ……だから、()()()()()()()を借りようと思ってさ」

 

 ゆっくり、ゆっくりと息を吸って吐く。

 僅かばかり上下する胸の動きは次第に小さくなっていくのが分かる。

 

「……そうか、そうか……! よく守ってくれた……鏡介、疲れたろう!」

 

「……うん。なんだかとても、眠い……んだ……」

 

 ……やがて、鏡介は深い深い眠りについた。

 その顔はとても安らかで、やり切った男の顔だった。

 

「──鏡介ーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや単に寝てるだけですよこれ」

 

 隣でワタリが水を差してきた。いやドリンクを渡してきた。

 お前……弟がやり切った瞬間を劇的にしなくてどうするというんだ!?

 

「えぇ……これ私が悪いんですか……?」

 

 粋を理解しないワタリは一旦放っておこう。

 

 あぁ神よどうしてこのような仕打ちを……俺達の神っていうと天照大御神辺りか。

 和風の神はどちらかというと神が気まぐれに暴れてそれを鎮めてもらうとかそっち系が多いからあまり合わんな……ふむ、天照か。

 

「……メア」

 

「えっ、えーとなにかな僕は別に──」

 

 何か勘違いしているようでメアが焦っている。

 

「奴らの守りをぶち抜く必殺技を考えた」

 

 弟の頑張りを見て何も変わらない兄などいるはずがない。

 ここに妙案アリと言った表情を浮かべ、奴に提案した。

 








 少し寂しかったけれど答えた。

 練習量が増えた事とか、少しの勘違いで二号とかに重圧がかかってることは心配だけど。それは試合の結果にあまり関わってこない気がするんだ。
 なんとなくだけどね。
 明日だって多分、奇想天外な相手に少し追い込まれるかもしれないけど……負けることはない。
 そう断言できた。

 黒月相手だって俺が無理やり止めなくても、追い詰められたアイツラが何とかできちゃうじゃないかって。
 前半で6点取られたら後半で7点取るんじゃないかな。

 ……でも本当にそうなっちゃったら、本格的に試合から外されちゃうかもなぁ……そっちは不安だ。

 もっと格好良く、強くなれたらな。メアたちにも心配かけさせずにすむのにな。ずっと遊んでいられるのにな。
 東船道はすごいよ、羨ましい。またよく考えず言いかけて、煽りになるかもしれないと直ぐに口を閉じた。

「……そうか」

 東船道はゆっくりと目を瞑り、下を向いた。
 いやな気分にさせてしまっただろうかと慌ててのぞき込もうとした。

「──ナハハハハ!」 

 瞬間、笑い声に吹き飛ばされイカダから落ちる。「兄さん!?」というエマの声が聞こえた。
 寒い……いやでも意外と暖かい? いや寒いな!

「こいつは一本取られた、そうだな! 船員信じず何が船長か!
羅針盤長……貴様の事をどこかで舐めていたのかもしれんな、詫びよう!」

 おお、弱音を吐き終えて完全復活しましたか?
 もう無理してる感じ一切ないな。いいねその明るさ……引き上げてくれません? ちょっといきなり海に飛び込んだせいで体が上手く動かないっていうか。

「む、なぜ海に……そうか飯だな!? 確かに腹が減っては航海も出来ぬ……先ほどはしてやられたのだ。今度は俺が大物を取って驚かせてやろう!」

──ごはん?

 違います船長、フェルタン!
 潜ろうとしているんじゃなくて沈んでいるんです!

 ねぇ、エマも勘違いしたまま見送りの意味で手を振らないで!
 ちょっとトロア助け──

──なんじゃ、妾ももう疲れたんじゃ

 お前出航してからなにもしておらんじゃろがい!?

 あ、ちょっとまってガチで沈む……


 助けて!!?







◇◆◇


 初めて後書きらしい後書きしたゾぃ。



~オリキャラ紹介~

・東船道 尊:船長 男 MF
 実は少しだけ心の中に弱気な自分を飼っていた、部長と(当社の基準で)似ているリーダー。
 ウツボとマダコを捕獲しイカダの上で捌くサバイバルスキルを見せる。
 初期案で名前を浜口かにしようかなと思われていた良い子。

・一号
 アホ

・二号
 策士策に溺れるというか殺される


~オリ技紹介~

・メルビレイ・ザ・ホール キャッチ技
 何気に気に入っている技。アヴィの体を一部顕現させシュートを吸い込む。
 ゴール全体を覆える、いわゆる隙が無い技なのでかなり優秀。
 勿論悪魔の力を使って常人が大丈夫な訳がなく、一回使うごとにそれなりに腕に負担がかかる。
 まあ部長が使うドミネーションよりは全然マシ。
 
 ちなみにメルビレイってなんぞ? って人向け解説
 ぐぐると楽しいぞ


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超次元排球する日※

 ここしばらくTSしたり眼鏡をお墓を作ったりしながら日本の行く末を案じていました。
 私の様なものが生きているのであれば多分平和です。


【挿絵表示】


 そしてこちらはしゅう様に描いていただきました、織部長久くんです。
 お願いしてイナイレのゲームの作画に近づけてもらったりと苦労させてしまいましたが本当に素晴らしい…


「ナハハハ、ここが正念場だぞ羅針盤長!」

 

「……上等」

 

 照りつける太陽。熱く燃える砂浜から熱が伝わり空を昇れと後押しする。

 ここに今普段の装備はない。吹き飛ばされないようつける重りも手を守ってくれるグローブもない。

 パンツ一丁、着の身着のまま戦いに身を投じている。

 

 ──一撃が迫る。

 回転、加わっている力、全てを両目で見極めコースを予測する。

 このままでは届かない。そう察した時、すでに行動は終えていた。

 

「っ!」

 

 跳んだ。砂を蹴り空を切り重力に逆らって前へ。

 僅かに揺れた視界その端、落ちるボールへと手を伸ばし……打ち上げた。

 

「ナイスです兄さん!」

 

 ふわり浮かぶは……()()()()()()

 強烈にかかっていた回転は反転、僅かに動くだけとなりネット際へと戻っていく。

 絶好のアタックチャンスだ。船長の動きは見るまでもなく予想できた。

 

「っ!」

 

 先ほどよりも強く高く、砂を蹴る音がする。

 カラカラガラゴラと、乾いてるはずの砂浜から何かがこみ上げてきている。飛び散る砂がしずくとなり、やがて奴の周辺は深い深い……光も届かない暗い海が広がった。

 

 深い青は波となり渦となり逆巻き宙に集まる。

 瞬間、天地が逆さになっている男と目が合った。

 

「──ディプシーバースト!!

 

 渦と波がひしめく強大で巨大な水球。そこへ突き刺さるオーバーヘッドキック。

 人一人分は優に超えた高さから放たれた一撃は、作り出された深海よりも深く相手コートに突き刺さった。

 二秒、点が入ったホイッスルとともに奴らはようやくボールが自身の横を通り過ぎていたという事を悟った。

 完璧だ。

 

「これで11-3……兄さん・船長さんチームの勝ちでーす!」

 

 近くではボードを更新し喜びはねるエマ。

 船長はニヤリと笑い、観衆も手を叩く。すばらしい試合だった。最初こそ慣れずサーブミスなどで失点してしまったが、ここまで勝てば誤差の様なものか。

 意外と才能があるんじゃないだろうか俺。特にさっきの反射とか生かせばいいところ狙えそうだ。

 

──……おい長久

 

 ……いやわかってるよコルシア、俺はサッカー部の部長、織部長久です。

 でも仕方がないんだ、生きていくためには人は時として道を外さねばならないんだ。時にはサッカー以外の球技をしてもいい、そうだろう?

 

──くっ、まだだやっぱハーフじゃなくてフルポイントで……!

──はーいそれではクソ雑魚なお二人さんはさっさとお財布を出してくださいねぇ……ほら早く出して? 出しなさいよ

 

──あれ止めんでいいのか? エマの奴かなりあくどい顔しておるぞ?

──契約とはいえ喜々として毟ってるなあいつ……

 

 ……いやうん。本来なら妹が悪魔な顔して敗者二人から財布奪い取ってる光景なんて見たくないんだけどね。

 でも……哀しい事にパンツ一丁の我々がどうにかして会場に行くためにはこうして策を講じなくてはいけない訳で……服もなしに町中走り回ったらタイーホですよはい。

 

 イカダをこぎ続けやっとのことで海岸にたどり着いた俺達。近くにはショッピングモールや駅もあり間違いなく好条件だった。

 だがしかし、何をするにも金がない。

 

 警察? 頼ったら確実に健康を気遣ってくれて検査のため病院に連れていかれる。というか行方不明になっていた人間が見つかったら大騒ぎになる。それはまずいよなぁと二人で話していた。

 

 しばらくして、お花摘みに行ってくるといったエマがなかなか戻ってこない事に気が付いた。

 エマはほうっておくと魅了の力を使い、その辺の人からお金を巻き上げてきそうだったので探しはじめたのだが……。

 

『ウェ~い君一人? もしよかったらこっちで遊ばない?』

『二人……カモセットが来ましたね』

『え、なんかいった?』

 

 若干遅かった。既に日サロ通い、ピアスが見えたりタトゥーがあったりと完全にナンパ目的の二人組に声をかけられてしまっていた。

 慌てて間に挟まり、普段の恐怖される部長を演じようとしたが相手も難敵。よほどエマに惚れたのか退こうとしない、勇者かお前ら。

 

──かと言ってエマも流石に貴様の目の前では金を奪い取る様な真似はしにくい。奴らが高校生のバレー部だったことからビーチバレー対決をして勝ったら賞金を渡し、負けたらエマがついてくる。……というなんともまあ他人から見たら悪逆非道な契約をエマが言いだしたわけだが

 

 説明ありがとうコルシア。いや言い出した時のチャラ男君たち凄い顔してたよね。「えっ、いいの……えっ?」みたいな。妹を賞品にとかする訳ねーだろって反論してもエマ引かないし。

 

──仮に負けてたら少し目を離した隙に魅了を多重に掛けてその辺に捨てて帰って来てたじゃろうな。……契約に嘘はついてないから問題ないな!

──エマちゃん相変わらずぅ~

 

 主に相手のために勝たねばならない。

 絶対に負けられない戦いが始まった。勝てたのは良かったよマジで……。

 しっかし、高校生が中学生ナンパするなよ。俺達が小学生に声かけるみたいなもんだぞ……いやあんま変わらんな。そんなもんか。

 

「はい、確かに。随分多いですけどこの日のために貯金でも崩してきたんですかね。まぁ関係ありませんが」

──契約成立したおかげかかなり機嫌がいいな。普段なら小銭も残らず奪い取るだろうが

 

 家計に優しい妹をもって幸せ……幸せです。

 少し譲る姿勢を見せたようだがそれでも二万円毟ったね。高校生にしたって大金だ。あ、エマの推測が当たってたみたいでシクシク泣いてる。可哀想。

 ……よく見りゃあのピアスも穴開けないでくっつくタイプか。タトゥーもシールっぽいな。イメチェンしてこの夏はモテモテに! って思ってたみたいだな。可哀想。

 

 ……まぁあれだ、夏休みの宿題とかで作文とかあったらいいネタが出来たじゃないか。

 

「で、どうだ会計士。会場までは辿り着けそうか?」

 

「それ私の事ですか船長さん? ……はぁ、シャワーを浴びて服を買って交通機関を使って……となると少し厳しいですね。あと一万円は欲しいです……」

 

 持ってないのか、妹は視線をチャラ男たちに向け暗にそう尋ねた。

 瞬時に理解し首を全力で横に振られる。まあそうだろうね。

 

「……コルシア、服を作り出せるか?」

──全身黒タイツみたいな見た目でいいなら契約してやっていいぞ

「駄目か……」

 

 流石にダサいのでやめてくださいお願いします。

 ああいったタイツは袖の下とかにあるからいいのであって、タイツオンリーは変態の所業だからね。

 

 じゃあどうするか、また悩むことになるのかと思っていた時、誰か二人が観衆から抜けこちらに歩いてくるのが視界の端に見えた。

 

「──まったく、どこに行っているのかと思ったら……子供を相手に何をしている」

 

「うっ、先輩……」

 

 どうやらこの二人の関係者らしい。

 二人のチャラ男君よりも膨らみ、なおかつ引き締まった肉体。決して一夜足らずではない、色素が沈着し落ち着いた日焼け肌。

 チャラ男君たちがトランククスタイプの海パンを履いていたことに対し彼ら二人はブーメランパンツ。正直みたくない。

 

「ナハハッ、貴様がこいつらの長か!」

 

「……いかにも、後輩が不躾なことをしたようなので詫びさせていただく」

 

 先輩コンビの片方のスキンヘッド、意外に素直。

 船長の問いかけにも真摯に答え、深く一度頭を下げた。

 いやいや、金奪い取った身なのでそこまで丁寧にされると……チョウチンアンコウに食われそうになってたのよお宅の後輩たち……。

 

 え、それはいい? 息抜きとは言えナンパをしに行ったコイツらが悪い? さいですか。

 

 んじゃあ僕ぅ、はここでお暇させていただいて金策考えますんでぇ……えっ、なに? それでもうちの部活としての意地は見せたい? へぇ今年は大会でいいところ行けそうだからこのまま負けて終わってしまうと士気に関わると。

 

 また、バレーをするものがさっきのような腑抜けた試合をするとは思われたくない。

 こっちが勝ったらお金、負けても特にない事を条件に再度勝負を受け入れてくれないか……? 

 

 えぇ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 照りつける太陽。熱く燃える砂浜から熱が伝わり空を昇れと後押しする。

 ここに今普段の装備はない。吹き飛ばされないようつける重りも、手を守ってくれるグローブもない。

 パンツ一丁、着の身着のまま戦いに身を投じている。

 

──勝負は先ほどと同じく11点先取。だが、明らかに相手は先ほどよりも強い。覚悟しておけよ長久

──お金余ったらブドウとか買ってこうよナガナガー!

 

 本日二度目のバレーです。今度はレギュラーらしい二人組。あとナガナガはちょっと青果店行く予定はないので……フェルタン、かき氷とかじゃダメ?

 駄目と。せめてぶどうジュースか。売ってるかな。

 

 羅針盤長は気合万全、これに勝てばみんなの元へ行けるからね。船長も張り切っている。俺はともかく船長は超次元サッカーの技をこっちに持ち込んでるからなんとかなるかな。

 バレーボールで足使って戦うとかなんなん? って感じだが彼のフィジカル化け物。

 

「……勝負を引き受けてくれて感謝する。そして──」

 

 サーブはあちらから。さっきの試合でもサーブを受けるのは大変だったが、流石にジミーのシュートと比べたら温い。

 さてどうしてくる……そう思いネット越しに相手を見据えて……嫌な予感がした。

 ゾクリと、暑さによるものではない汗がほおを伝った。

 

「──さらばだ」

 

 ボールを構える彼の背後に……仁王が立った。

 

 俺がよく知る木造のものではなく、生命力を感じる……阿行と吽形がこちらをにらみ落としているとさえも思ってしまう迫力。

 思わず息を呑む。その力が腕にたまっていき……やがて、黒光りする金剛力士の腕が作り上げられた。

 

 ──軽く上げられたトスはまるで罪人の首の如く、ただ裁かれる時を待って……、

 

波動球っ!

 

 放たれた。

 車が衝突したかと聞き間違うほどの轟音。それとともに吹っ飛んでくるはまるで砲弾。

 仏敵を滅ぼそうとする仁王の拳を安易に受け止めれば、相応の報いが降りかかるだろうことが見て分かった。

 

 ……あの、これ本当にバレーボールですか?

 

 それなりに楽しいスポーツが始まったなと思ったら途端に普段の奴に、次元が切り替わったんだけど。

 波動球ってお前……テニス●王子様じゃないんだぞ。確かに坊主頭だけど……もしかしてこれあと108式あるとか言い出さないよね!?

 

 というか怒ってないとか言ってたけど少し怒ってませんか!? さらばとか言ってたし殺す気満々すよね!

 

──これが超次元バレーボールか……

──しっかり見とけよ契約者。いい栄養じゃ

──ウケる

 

 フェルタン!? ウケてないで止めるの手伝って……正確には仏さん系だから多分食べられるよね。

 サクリファイスしてなんとか止めるしかないってこれ、せっかく力復活しつつあり申し訳ないけどまたコルシア犠牲頼むぞ!

 

──いや長久よ……それはやめた方がいいんじゃないか?

 

 えっ、なんで?

 大丈夫だよ手が折れてもばれないよう涼しい顔しておく心構えあるよ。

 

──いや、お前の(サクリファイス・ハンド)は……キャッチするための技だろ。バレーって止めたら駄目だろ

 

 あ、そうだね。うっかりうっかり。

 普段のように止めきれずその後パンチングしたら……ツータッチでアウトか。

 

 …………え、これどうしろと? 仮にドミネーションしようにもネット超えて相手陣地に入れるなんて無理だぞ、あれ一直線に進むだけだし。

 やばくない? 素で弾けと? いつものグローブもないのに?

 

「で、出た! 田石さんの波動球! 数々の相手をノックアウトしてきた悪魔の技だ!」

 

 やめろ解説になったチャラ男! 実績紹介するな!

 

 多分これ止めなきゃ勝てないよね、見た感じ打った後の疲れとか見えないしサーブの度にポイント落としてたら終わりだよ。あ

 あそろそろ対処しないとボールが俺の顔に着弾するぅ! かと言って避けたらカッコ悪い!

 なんか手はないかなんか手はないか……! 

 

 

 助けて!!

 

 

 

 

 

──……お試しコースで我と契約してみるというのはどうだ? クーリングオフも効くぞ

 

 じゃあそれで!

 助けてコルシア!!

 




「かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について」は日本男子バレーボールを応援しています。

 ほら、主人公の強化イベントだよ。
 燃えるだろ? 私もなんでバレーで覚醒してんだって思いだよ。


~オリキャラ紹介~
・田石(たいし) バレー部
 スキンヘッドであり対戦相手を戦闘不能にするバレーをする男。
 波動球は零式ぐらいまではあると思う。
 高校生なのでパワーもある。

・コルシア
 今なら入会してから二週間以内に返品手続きをしていただければ全額返金、送料はお客様負担ですが同棲しているので問題ありませんね。
 強化イベントが最近多いので多分作者は犬が好き。 

~オリ技紹介~
・ディプシーバースト シュート技
 実の所狩火庵中の「ハイドロ」シリーズの技は全て船長の技の劣化・変化版であり船員の記憶からアヴィが与えたコピー必殺技という使う予定もない設定の産物。
 当然ハイドロより技としての完成度、威力は上。

・波動球 シュート技
 テニヌ


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真なる闇を纏う日

 1人でダメなら手を合わせればいい。心配をかけさせてしまったら今度は自分が心配する。

 人と人が時に支えあって人の字をなす。

 

 俺はどうだっただろうか。高天原の時はエースとして引っ張っていたつもりだったが、結局のところ独りよがりだった。

 だからいざと言う時にみんなの心が折れてしまった。

 

 今はどうだ? 己の力が通じず光速の矢も天使の息吹も悪魔の腹に消えていった今は。

 

ハイドロセーリング!! オレたチはトメランネぇ!! ギャぎゃギャッ!」

 

『開幕早々にまたもや護送船団陣形、これには習合なす術なしか──いえ違いました! 五人組の集団へソニックとトールが向かっていきます!』

 

 少なくとも過去とは違う。

 

ストーム・ブリンガー!」

 

 ソニックの起こす竜巻が、五人の船出を阻む。

 普段よりも広く回り、誰一人逃すものかと走り続けていた。

 しかし、転覆しようが溺れようが気にすることない亡者たち。竜巻を抜け出ようともがく。

 

「キクか! ハイドロ──」

 

「──雷鳴一喝!」

 

 それを、雷が仕留める。

 

 暗雲に溜まり、空気を揺らすほどの一撃が竜巻の中に落ちる。さながら台風。

 痺れた体では暴風に耐えられず巻き上げられた。

 

 船出は失敗し、散り散りになって船員たちは海から追い出され大地に転ぶ。

 

『こ、これは見事な連携必殺技! 5人が使う必殺技をまとめて粉砕いたしました! さぁ反撃開始です!』

 

「ナイスッストール!」

 

 バングが走る。お手柄だと褒めたたえ、選手と同じように転がったボールをすかさず拾う。

 その間ゾンビたちはどうかといえば……流石に必殺技の二連発は効いたようだ。絶え間なく放出していた瘴気が途切れているのが見えた。

 

「グラさんっ! 一発景気がいいのお願いッス!」

 

「任せな……奴らの度肝をぶっこぬいてやらぁ!」

 

 すぐ近くにいたグラさんにボールが渡る。

 

──作戦通りだ。近くにいたメアに目配せをした。

 軽く頷くと共に、すぐさま奴は奴の準備を始める。

 

 僅かながら光始めそれが天へ飛び立つための翼を作り出す。

 

デッド・アーテナリー!」

 

 その後ろで少し、火薬の臭いがした。

 

 破裂音と共に飛び出たボールはロケット弾のごとく、煙を噴射し空へと飛んでいく。

 後ろを少し見れば、しゃがんでバズーカを構えているグラさんがこちらに親指を立てていた。

 

『な、なんとこれはDFグラさんによるロングシュートォ! しかし軌道がやや上すぎるか!?』

 

 それは違う。

 見上げれば、瘴気の曇天の中で二対の翼をはためかす奴がいる。

 今ここにある誰よりも強い光を放ち、会場を照らしている。

 

……違う! あの天使擬きへのパス……何をしているさっさと盾になれ愚図ども!

 

「ゲヒ! はっ、ハイドロアンカー!」

 

 またも底冷えする声がする。DFたちに指示を出し錨をあげさせる準備を急がせた。

 グラさんが編み出していたロングシュートはそのまま、天へと昇っていく。

 

── ()()()()()()()()

 

『ほら、保険だやれ』

 

「グヒヒ……メルビレイ・ザ・ホール!」

 

 錨のカーテンが敷かれる。鯨の大口が開かれる。

 このままいけば、前半の焼き直しだ。

 だから、

 

── ()()()()()()()()()()

 

『なっ!?』

 

 メアはいたずらが成功した子供のように笑った。

 エンゼルブラスターが、ゴール向かって走る俺に向かい打ち出されたのを見て俺もそうした。

 

 これこそが昔の俺との違いだと奴に吠えるために。

 

 周囲に散らばり照らす光は砂のようなものだ。簡単に舞う軽さを持ち合わせながら、水を含ませた時のように一つの物質として凝固させることが出来る。

 光を集め、束ねる。一本の矢を作り、一張の弓を作る。

 

──だが、集める光はそれだけではない。

 上空から俺目掛けて落ちてくる天使の息吹は、今の今まで集めて来た光よりも更に強い。

 

 作り出していた矢を形変え弓に加え頑丈にする。誰にも壊されることはない、神秘の弓。

 

 そうして……降り注いできたエンゼルブラスターを受けつがえた。

 

「ぐっ……ううぅぅ!!」

 

 ミシり、きしみ光の弓が悲鳴を上げる、

 矢を引く、尋常ではない光の奔流がそれを阻み逃げようとする。

 

 ここまで来たんだ、どうなろうが撃てれば勝ちだと、抑え込んだ。

 

 ただただ以前の矢は光の速さを、何人も追いつくことのできない領域を目指したものだった。

 

 あちらこちらの糸が緩みたわんだ操り人形のように動く亡者たちには手が届かないはずの速さ。

 

 そこに更に貫通力を上乗せしたこの一撃を、世界の暗闇をあまなく照らして見せるような輝きを込めた一矢を、

 

「──天照

 

 名付け、解き放つ。

 光は──全てを射抜き、吹き飛ばした。

 

 笛がなったのは、ボールがネットを突き破ったしばらく後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ぶっつけ本番だったけど上手くいってよかった。

 本当にそう思えた。

 

『ご、ゴール!! 12番一号とメアの合体技が突き刺さりました!

目も眩むほどのシュート……強大な鯨をも穿ち抜き……これで1-0! 遂に習合、得点です!!』

 

 マイクを握りしめ叫ぶ解説席、未だ目をパチクリとさせ僕と一号、ゴールを見る観客たち。

 これが威力と素早さを兼ね備えた必殺技……個人的には光を掛け合わせるから、シャイニング・ブラスターって名付けたかったなぁ。

 

「よっしゃあ!よくやったなオメェら!」

「すごいね全然見えなかった、もっかいやろうよ!」

「……! ……」

 

 ──こ、ここに来て三角関係……? ふひ萌え、いや燃える!

 ──トール様……みなさんやったー!

 

 みんな祝ってくれて、頭をがしがし撫でてきたり突進してきたり。

 カガは……俺も必殺技を! って感じなのかな。よくわかんないけど興奮している。

 ようやく取れた一点を噛みしめれば噛み締めるほど楽しい気分になってしょうがなかった。

 

「……ぁ、あれここは…?」

 

「いでで!? ……頭がスッキリしたと思ったら急に痛みが!」

 

 ……嬉しい誤算もあった。

 あの鯨を撃ち抜いたおかげだろうか? フィールドにいた狩火庵中の選手が次々倒れたかと思うと、纏っていた瘴気が晴れ正気に戻っていった。

 

 全てうまくいった。リーダーの助言を生かすことはできなかったけど、みんなで考えて成功させた。やったよ!

 喜びのままに、天を仰いだ。

 

──巫山戯るな、巫山戯るな巫山戯るな!!

 

 唖然とした。

 空に浮かぶ鯨の群れを見た。一体一体は鯨にしては小さいながらも、数にしておよそ十六体。

 瘴気の海を泳ぎ、牙を覗かせ怒りのままに叫んでいる。

 

『こ、これは一体……空に無数の魚が浮かんでおります!?

いったい試合はどうなってしまうのか!?』

 

 そう、見える。

 今の今まで怪しい煙、声だけならまだしも向こうは完全に姿を見せていた。

 サッカーが見せた幻覚? 違う。確かにそこにいる。

 

たかが人間風情がこの大海の王に盾突きおって……! 貴様ら纏めて呪いにかけてやろう、喜ぶといい!

 

 どよめく観衆を他所に、こちらを見下ろす。その目には確かな怒気が宿っていた。

 僕は、唖然とした。

 

まずはそこの天使擬きからだ! 生まれてきたことを後か──

 

「──随分と、調子に乗っているな」

 

……あぁん?

 

 だって、見上げたスタジアムの……解説席よりも更に上の屋上に、君がいたんだから。

 腕を組み普段している包帯もユニフォームも着ていない彼は新鮮で、だからこそ「僕たちが知らない織部長久」がいる気がして。

 

「リーダー!」

 

 思わず叫んでいた。

 

誰だ? 貴様

 

「……食事の時間だ。フェルタン、トロア……コルシア」

 

 普段とどこか違う、雄々しい雰囲気を持った彼。

 リーダーは、怪訝に声を曇らす鯨達を前にただそう言い放った。

 

 次の瞬間だった。

 蛇が、龍が、そして……今まで見たことのない、翼の生えた黒狼が彼の体から現れ……瘴気の海へと潜って行った。

 

なっ!? なぜ貴様らがここに……よせ、止めろ!

 

 瘴気の海をドリンクのように飲み込めば、次は群れていた鯨達を締め付け飲み込み噛り付く。

 瘴気の海を削られうまく動けなくなった鯨達は抵抗もうまくいかず次々と喰らわれていく。

 

『……わ、我々は今、何を見ているのでしょうか』

 

 悪魔対悪魔。リーダーの中にいるという三柱の悪魔を操り、同じ悪魔を食わせるその姿はまさしく魔王。

 悲鳴を上げる鯨に対し眉一つ顰めることなく、ただその様子を見ていた。

 

ぐっ……訳が! くそ!

 

 十五、あれだけいた鯨が消えて最後。一回り大きいものが残った。

 いや残されたというべきだろうか? 先ほどまで暴れていた三柱も少しおとなしくなり、じっとする。

 

どうなっている! なぜ人間に悪魔が三柱もいて正気を保っている、何故この海の王が喰われなければならん!?

 

「……食い物にされた気分はどうだ、アヴィ」

 

 そこまで見て、ようやく悟った。

 リーダーは怒っていた。先ほどまでこちらを見て憤慨していた鯨よりも静かに深く。

 だって、あんな顔……帝国を相手にみんなが傷ついた時だってしてなかったから。

 

ふ、巫山戯るなっ人間ごときが!!

 

 激昂し牙を剥いて迫る鯨を見ても、もうリーダーをどうこうできるとは思えなかった。

 

「……」

 

 彼は一度目をつむり、三柱がその姿を消す。

 そしてまた目を開き、右腕を引いた。

 

 その行動はサクリファイス・ハンドの前兆のように見えたけど、そうじゃなかった。

 

「──」

 

 それは、彼一人を覆い隠すほど大きく、僕たちに聞こえないほどの声で唱えられた。

 漆黒の骨で作られた手が、鯨を握りつぶそうと手を広げる。

 

 ようやく追いつけそうだと思えた君がまた遠くへ行ってしまう、寂しい思いがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時が止まったと思えるほど一瞬の出来事であった。

 

 流動、ぐつぐつと煮え滾り異物を吐き出し純化する。

 血管、皮膚の裏、あるはずもない隙間を通り抜け溜まっていく。同時に、そこから力が発され自分の体が作り替えられていくような感覚がする。

 少しの痛みと痒み、成長痛にも近い骨同士の結合部分に点在する違和感。

 

 やがて……反転、全てが「強くなった」と自己を支える声援に代わる。

 

──……どうだ長久よ、一時的だが身体能力の強化を施してやったが。あぁそれと、この力は我の魂を砕いてる時は使えん。

よほど使いたい時は……あの鯨を完全に取り込めば犠牲にできうる分身体を作り出せるやもしれん。それまで待つがいい

 

 止まったように感じる時の中で、悪魔の声は変わらず響く。俺の意思と体感時間は似ているのかも知れない。

 

 今ならそう、エンゼルブラスターを一人でなんとか弾くことも出来るかもしれない。

 ……いやダメだなグローブ無いし。あっても改は無理だし腕を折るなりなんなりする気がする。

 

 では目の前の波動球はどうだろう。

 トロアに底上げされてよく見えるようになった目で考える。回転、威力、どれとっても一級品だろうか。高校生のバレーの一撃としての質は……考える必要がない。

 今は自分に対しての脅威を測ることが大事だ。

 

──しょっぼいのおコルシア

──……所詮仮契約だ。本契約になれば素手であの天使もどきの一撃を……改ではない方を安全に弾くことは保証する

──いやマジでしょぼいの

 

 グローブがない、手の滑りを抑えられない。方向を逸らせる可能性は高いが、二発も受けたら異常をきたす可能性がある。

 ダメだ、このままレシーブするには足りない。

 じゃあ足掻こう、出来ることはないか考えよう。いやしっかしあの田石って人の腕ツヤツヤしてて硬そうだ。

 

 まるで、そう……硬く身を守る甲虫の甲殻のようだ。

 

 …………サクリファイス・ハンドは、魂を砕き燃やし対象の勢いを殺す。骨を砕くのはそのための着火剤。まあ骨を折ることでも勢いを殺せるけど、頑張ってドラゴンクラッシュレベル。その上をいくドラゴントルネードやイナズマ一号は無理だろう。

 

 手の骨がもっと硬く強大だったら出力は上がっただろうか?

 

 いま問題なのが、たった一発止めればいいだけのサクリファイスが使えない? 違う、それはフェルタンに任せれば解決出来る可能性がある。

 キャッチしてしまう、止めてしまうのが問題だ。

 

 ……いやこれはあまり深くとらえないでいいな。殴り飛ばせばいい。

 バレーとして、ボールをただ飛ばすわけではない。威力を殺しきり、けれど狙った場所に跳ね返す力を与える。

 

 ある程度、注ぐ力を調節すればいい。コップの大きさに注視して注ぐジュースだ。

 

 かき集める、いまこの場に対していらない部位の力は全て右手に集中させる。

 かき集める。かき集める。光も何も通すことのない闇を集める。

 

 かき集めて……──内より外側に出して束ね、形成する。

 

 親、人差、中、薬、小指骨を作る。それら5本を支える土台の骨を作る。

 大きさは……円堂さんのゴッドハンドの如く子供1人掴めるほどがいいか。先端に行くにつれ折れやすく、土台は硬く。

 

 作って、操るために手に突き刺す。元々体の内側からあったものだ、痛みも傷もない。

 感覚とリンクし、何十倍にもなった手は握るも開くも自由自在になる。

 

 これなるは亡者の手。

 肉を無くしただ相手を殺すためだけに作り出されたもの。

 

 黒い骨をいかに効率よく折るか考え構える。

 

 ──必殺技の完成だ。

 

 魂の犠牲をなくし、擬似骨と自己骨の犠牲だけでサクリファイスハンドに追いついた。

 

 故に、これをサクリファイス・ハンドとは呼べない、呼ばない。

 真なる闇で作り出したこの手を使った必殺技に、俺は新たな名をつけた。

 

 あぁ、出来上がった今考えてみればみんなに心配させない、いい技ができたぞ。

 名付けて──

 

 

 

()()()()()・ハンド

 

 ……もっといい名前あったかもしれない。

 あだ名の方と被ったのは多分……アルゴが最近そっちで呼んでくるからだろうか。

 ふとそんなことを思って、笑った。

 

 




ダ ー ク ネ ス 部 長 再誕!!


~オリ技紹介~

・ダークネス・ハンド パンチング技
 織部長久がサクリファイス・ハンドを改造し辿り着いたもの。
 闇の力で作られた疑似骨と自分の骨二つで二段階骨折することで魂の犠牲無しで止める安全な技。
 疑似骨でまず勢いを弱め、己の骨でパンチングする。
 
 ゴッドハンドはエネルギーで作り出されたあの黄色い手をクッション代わりにするので発想は似ているね!

 ちなみに、疑似骨の感覚もリンクしているため骨折の痛みも二回分ある。
 見た目はでっかい骨の手が砕け最後黒くなった手がパンチング
 その派手さゆえまさか骨折してるとは誰も思うまい

・デッド・アーテナリー シュート技
 デッド・スナイパーに続いてグラサンの技。
 作り出したバズーカ砲に弾を詰めて発射するシンプルなロングシュート技。
 威力はそれなり。パトリオットシュートのロング版みたいなもんだな。
 
・天照 シュート技
 パワー×スピード は最強だって誰かが言ってた。
 エンゼルブラスターを矢にして放つ一撃。
 使う度に腕に負担がかかるため連発は出来ないが使えばまず対処は難しい。
 名前に負けない、高天原のエースが習得するにふさわしい技だ。


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大は小を隠す日

 感想欄をニコニコ読みながら思ったんですが

Q.天照(シュート)で腕に負担かかるのっておかしくない?
A.確かに




 鯨を骨の指で握り刺す。突進の威力を受けひび割れる破片となり散っていく疑似骨。

 先端は素早く、段階的に折れていき……やがて土台が割れる。

 

 その中にあり、到達した……黒い握り拳がアヴィの鼻先に突き刺さる。最後の疑似骨で出来た殻と骨が折れる。

 

『ぐっ……た、助け──』

 

 この一瞬の間に、再び腰から出てきたフェルタンが顎を巨大化、鯨を丸のみにした。

 

 南無南無……。

 

あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛っ゛!!

 

 痛みが手から全身に駆け巡る。

 

 カラスが鳴いた。まるで俺の心の内を代弁してくれるように。

 この技痛い……痛すぎて碌に動けない。

 

 サクリファイス・ハンドでコルシアが被ってくれていた痛み分もこっちに来るから当たり前だけどくそぉ……。

 大丈夫? 顔強張ってない?

 

──安心しろ、少し不機嫌そうだなってぐらいの顔だ。せいぜいアヴィに対しての憎しみだろうと誤解される

 

 サンコル。

 これ以上変な誤解されないように、めっちゃいい笑顔しておかないと……こう、歌のお兄さんの如くハツラツな。

 

 やあ会場の皆、試合中にお邪魔してすいませんね。試合中断させた鯨はもう食べられましたので安心してね!

 ついでに習合のキャプテン織部をよろしく。 ほら、ニコッ!

 

──威嚇か?

 

『……空が晴れて残ったのは習合中、悪魔のキーパー……ダークネス織部です!』

 

 怪獣大決戦を見たかのような震え声はやめて。なんか「勝ち残った方が私たちの敵です」って雰囲気やめて。

 あとさりげなくダークネス部長をダークネス織部にするな。もはやハーフみたいになっちゃったじゃないか。

 

 こちとらバリバリ日本人だぞ。

 

──な、なにあの人……人?

──ばかっ目を合わせちゃ駄目だ!

 

 ……うぅ、近くの席の人たちがすごい距離取り出した。

 

──当たり前だ……それにしても、貴様またこの技を使いおったな? 痛みがあるのはいいし我を犠牲にしないのもいいが……体に巡らせてやった力を回収するのは誰だと思ってる

 

 その声と共に、周辺に散らばった骨の破片が霧散。

 黒い砂煙となって俺の元へと戻って来て壁となり、視覚的に隠れ少し落ち着ける。

 

 サンコル。

 狙ったわけじゃないけどこれで安心して治す姿を隠すことが出来る。

 

──けふぅ……余は満足じゃぁ……あ、治しとくねナガナガ

──偶にはこういう摂取も悪くないのぉ……けぷ

 

 さいですか。でもありがとう……痛い痛い痛い痛い!! ああっあっ、あ゛ーっ!!

 

──……やはり完全回収は厳しいが、二度の痛みと治す際の痛みで儲けは出るか。ふふふ、完全復活も近い……!

 

 ……ふぅ、ふぅー……痛みの中に万全な腕が出来上がっていく感覚がもうわけわからんけど耐えた。

 痛みに耐え抜けば、丁度良く煙も体の中に消えて視界も晴れる。

 

 さてと。状況を確認しよう。

 

 試合は後半が始まったばかり、1-0でうちが勝っているなよしよし。

 コルシアに大部分は食べさせるって話ししていたけど、会場着いたら思いのほかアヴィちゃんが力取り戻してたから焦ったな。

 でも0-0で押さえてたのは流石うちの防御陣。そして二号もかなり強くなっている。これなら本当に俺無しでも大丈夫そう……うん。

 

 そして得点をしたのはメアと一号二人の合体必殺技。お疲れ様。

 やっぱ二人とも才能というか色々すごいわな……合体必殺技を練習も無しで完成させてるし。

 個人技と比べて難易度が段違いだって聞いてたんだが……あぁトールとソニックの合わせ技も凄かったな。あれももう少し工夫すれば合体技になりそう。

 

 竜巻と雷……すでに強力だけど何がいるかなぁ。あとで考えておこう。

 

 そんで……破れているゴールネット。いやパナイなこれ……。

 俺がまともに受けたらヒルデガ●ンのごとく腹に大穴開きそう。

 

 ……エンゼル・ブラスターと光陰如箭の合わせ技。どっちも改の技を基準にしているからか進化する必要もないぐらい強い。

 

 あ、一号君がすっごい睨んでくる。えーと……「今に追い抜いてやる」って感じだな。……いやもう完全に抜かれてますけどね。

 あとちょっと腕に違和感ありそうだからあとで冷やしといたほうがいいな。

 

 ……他のみんなもすっごいガン見してくるせいで試合が再開されない。

 どうしよ。

 

──大丈夫かお前ら!

『……む、なにやら狩火庵中のベンチが騒がしく……あ、あれは行方不明になっておりました東船道選手です!』

 

 おぉナイスです解説さん。

 どうやら船長も辿り着いたらしい。倒れたチームメンバーに駆け寄っている。

 みんなの視線が一瞬ズレたのを利用しさっさと降りた。地味に足に響く。

 

「……エマ、これ以上邪魔をしないよう隠れるぞ」

 

「あ、お帰りなさい兄さん……はい、逃避行ですね!」

 

「……何か違う気がする」

 

 着地点で待機していたエマを連れ、俺達はその場を後にする。

 少し駆け足。

 

──ひぃ!

──ちぃっ

──な、長久君……?

 

 会場で人の横を通り過ぎる度に悲鳴上げらるのはスルーして……いややっぱ辛いわ。

 涙目の子供や引いている大人。

 呆然としている叔父さんに、睨みつけてきているこの前の占い師さんとかいろんな人とすれ違って──

 

「……む?」

 

 あれ、なんか二人ぐらい知り合いいたな。思い振り返る。

 占い師さんは何故かもう姿を消していた。

 

 けれどあの人だけはやはりいて……俺に対し、少しだけ伸ばした手で虚空を掴んでいる。

 

「……おや、貴方は兄さんの」

 

 夏だというのに、スポーツの会場には不釣り合いなスーツに身を包み、ネクタイを締めもう片方の手にはビジネスバッグ。

 見るからに仕事の合間だと思えるような姿。というよりそれ以外の格好がなかったのかな。

 

「や、やぁ……三ヶ月ぶり、だ……ね?」

 

「──叔父さん」

 

 腫物を触る様に言葉を濁す、保護者の顔があった。

 やべ、保護者に悪魔を出してるところ見られた。どうしよ。

 ……あ、エマこら! なんか暗示をかけようとするんじゃない! やめなさい、やめっ──

 

 

 助けて、っていうか逃げて!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪魔と悪魔の対決は、一方的過ぎる……ただの食事で終わった。

 

『し、試合は狩火庵中の続行不可能という判断により終了! 1-0で習合の勝利です』

 

 リーダーが姿を隠ししばらくした後、大きなホイッスルとともに試合は幕を閉じた。

 痛みを訴える狩火庵中の生徒達が次々と担架や肩を貸されて運ばれていく様は、彼らをそこまで追い込んでしまった僕たちの心を憂鬱に……。

 

「習合のものどもよ……狩火庵中を代表しこの俺様、東船道が感謝を告げよう!」

 

 と思っていたのだけれど、彼の一言により困惑に変わって訪れていた。

 というか君って確か行方不明になっていた船長さんだったよね。なんで今ここに……。

 

「なに、あの鯨によって遭難させられていた所に羅針盤長……織部も流されて来てな。そのまま一緒に帰って来たのだ!

感謝する、奴が居なければここまで早く帰って来れなかったからな!」

 

「そ、そうですか……あとでキャプテンから詳しく伺っておきます」

 

 ワタリはそれを聞いて頭を手で押さえる。痛いのかな。

 そっか二人一緒に……ん、流されて? ということはリーダーも遭難したの?!

 

 ……ああいや、流石にそんなわけないか。

 海に行くって言いだしたのも、エマちゃんと口裏を合わせ、彼を救出しに行くための理由だったり?

 てっきり息抜きのためだと思ってたのに……。

 

「そして東京湾に着いたはいいが何をするにも金銭が無くてな。賭けバレーをして銭を稼ぎようやく辿り着いたというわけだ。中々に強敵だった……」

 

「賭け……? 部長にしては珍しいな……よっぽど急いでたのか? よくわかんね」

 

 ……意外と楽しんでる? ジミーが首をひねっている。

 うーん……リーダーとバレーか、いいなぁ。賭けはよくわからないけど。 

 ただ急いでいた、という単語に反応し船長君は指をジミーに向けた。

 

「そうだ! 急いでいたのだ俺様達は……決して、手遅れにするまいとな!」

 

 そう言って彼は次に、フィールドに残っていた一人のメンバーを連れてくる。

 先ほど天照が撃ち込まれたゴールキーパーの子だ。

 やはり彼も負傷していて、赤く腫れている腕を抑えている。

 

 あのメルビレイ・ザ・ホールの反動と、無理に天照を止めようとしたのが原因だろうか。

 

「よっ……天使さんと、赤い仮面被ってる奴。()()()()()()()()()()()!」

 

 だがなぜか……その顔に悲哀、憎しみの色はない。それどころか、僕たちに近づくと彼は笑顔になった。

 鯨に侵されていた時とは違う、心からの笑顔にどうしてだと僕たちは更に疑問に思った。

 

「……えっと」

 

「ナハハ! 分からんのか貴様ら!」

 

 困惑を深める僕たちを見て、愉快なものを見たと船長君が隣にいたキーパーの肩を何度も叩く。

 「いてぇーぞバカ船長!?」と叫んで、また彼らは笑った。

 それは痛覚が生きている証。

 

「……こうして叩いて叫ぶほどの元気がある。他の者共も少し入院する必要があるが、後遺症などは残らない程度だろう……船長としての勘だがな!

あの鯨擬きが憑いたままではどうなるかもわからんかった事を考えるに、十二分の結果と言える」

 

「……」

 

「ふん、納得していないな? 俺達は罠にかかり馬鹿をしていた。その馬鹿を殴り止めて崖から落ちるのを阻止したのだ。どこにお前らが気にする必要がある」

 

「……!」

 

 きっとその言い分は正しかった。憂鬱になる原因を刺激し、溶かそうとする。

 

 けれど消えない。足りないからだ。

 こうして落ち込んでしまうのは……リーダーがあんなにも簡単に悪魔を吸収してしまったのを見てしまって……思ってしまったせいなのかもしれない。

 

 ──サクリファイス・ハンド。

 ボールに掛かっている力を殺す……代償に見立て捧げることを契約に悪魔の力を引き出し止める技。

 精神を乗っ取られかねない大技。でもリーダーは完全に使いこなしている。

 

 けれどブラックの一撃を殺しきることは出来ず、無理に何度も骨を折りながら戦わせてしまった。

 

 狩火庵中の戦いを見て改めて感じたけど……危う過ぎる。

 これからも相手が強くなるなら彼を支えられるよう強くならなきゃと思った。

 

 

 ──ダークネス・ハンド。

 きっとあまり理解されないかもしれないけど、綺麗な技だと思った。見ているだけで魅入ってしまうほどに。

 

 そして……怖くなった。

 リーダーの出した骨が折れる……なんて光景だったからか。

 

 君の強さに安心するのに、「僕たちが無理をさせた結果」を引き出している様な不安を。

 見る人を恐怖に陥れるかもしれないそれは、力の凄さを視覚的に訴えかけていたのか。

 

 見て何となく思ったのは……「衝撃」を黒い骨に吸収させているという事。

 砕け散る黒骨を見て顔色一つ変えなかった辺り、砕かせるまでが技の流れなんだろう。

 そして弱くなった勢いを最後、殴りつける。

 

 その迫力からして、サクリファイス・ハンドの時よりも強く鮮やかに、悪魔の力を引き出しているとすぐにわかった。

 

 怪我をしてしまったという意識が彼の技に変化を与えたのだろうか。

 ブラックの猛攻を骨折しながらも防ぎ切った彼は、休んでもらっていると僕たちが思い込んでいる間にも進化を遂げていた。

 

 ……行ってはいけない領域へ、踏み込んでいる気がした。

 更にもう一歩進めば……崖から落ちてしまうような不安を覚えた。

 

「……もっと、僕たちに力があれば」

 

 あの鯨の技をもっと早く突破できていれば。

 試行錯誤でようやく成長できたと思っても、リーダーは……周りは待っていてくれない。

 もっともっと強くならなきゃ──そう気張った時、

 

「──自惚れるな」

 

 船長は、その線を切った。

 鈍い痛み。少しした後、彼が僕の頭にチョップを一つ入れたことに気が付いた。

 

 思わず頭を押さえる。

 

「えっ……」

 

「……お前らは神ではない。万能ではないし、全てを救う必要もない。その上で最善を尽くし、誰かを救えたのだ、勝利を手にしたのだ……誇り進め!

さもなければ、負けた者たちへ、そして……信頼し託してくれた者への侮辱となる」

 

 先ほどまでの笑顔とは一変、まるで刃物が付きつけられているように鋭利な警告の視線。

 

 負けた者とは狩火庵中の……いやこれまでに戦って来た代之総、帝国、高天原を含めて全てのこと。

 信頼してくれた者とは……誰と言われなかったけど悟った。今ここに姿を見せないで「任せた」という意思を伝えてくれたリーダーの事。

 

 強くなることは当たり前だとして、至るまでに不安を抱えるなと言外に。

 その鋭さは……僕が今付けようとしていた枷を、大きく切り落としてくれた。

 

「再度言おう、お前らは俺様のチームと全力でサッカーをして、その最中で呪いを解いた。その感謝を然りと受け取れ」

 

 言い切ると、また笑顔になって……彼は手を差し伸べてきた。握手を求めている。

 僕は……それを、

 

「……ありがとう」

 

 強く、握り返した。

 

「あ、それは副部長の俺の役目だろメア~!」

 

「ナハハハッ! 狩火庵中を代表して全員と握手してやろう!」

 

 慌てたジミーにもう片方の手を差し出し握手。

 次はワタリ、その次は一号……次々と繰り返していく中で、皆の憂鬱とした気分は抜けていくように見えた。

 

 ……ちょっと遠くでアルゴが残念がってたけど。

 

「……ふん、羅針盤長に伝えておくがよい。残った借りは必ず返すと! ナーハッハッハッ!」

 

 どうして彼が船長と呼ばれているのか、よくわかる瞬間であった。

 

 

 

 ──リーダー……走るのを邪魔するようなことをしてごめん。

 

 今度はちゃんと一緒に走ろう。ちょっと転んだり遅かったりするかもしれないけど、立ち上がって追いかけるから。

 もし君がどこか行ってはいけない場所へ落ちてしまったのだとしたら……僕が飛んで掴んで見せるから。

 

 晴れた空を見て、そう誓った。

 

 

 

 

 

 

「……ついでに言えば、大量の金貨を処分せずに済んだので丸儲けなのだ、ナッハッハッハッ!!」

 

「退院したら焼肉行きましょーぜ焼肉!」

 

 ……うーん、台無しかな?

 




遺失物(所有者は目の前で消えた模様)
海辺に換金所があればバレー部のお小遣いは助かったのに((



 これにて「部長、呪われた男だってよ編」が終了となります。
元ネタはパイレーツ・オブ・カリビアン~呪われた海賊たちから。金貨という点や不死身の体という点を参考にさせていただきました。
 
 次回から「部長、反転した神を討ち滅ぼすってよ編」が始まります。
 時間渡航者による小細工、部長たちの存在による歪みなどが巻き起こす難易度上昇をかけたらなと。
 スポットを当てる予定はアルゴ、ジミー。そしてカガ。


~オリキャラ紹介~
・東船道 尊 MF あだ名:船長
 この章におけるブラック君ポジ。
 キーパー技以外の三種で「ディプシー」技を所持。その身体能力の高さとカリスマ性でまともに戦えば苦戦する相手でした。
 とはいえ原作世宇子は無理でしょうけど。

 金貨は操られていた監督含め皆で豪遊したり船の改造費用とかに使うらしいっすよ?
 治療費に使え。

・勅使ケ原 明 FW11番 メア
 少し気が変わった人。
 今なら翼を5枚にまでならいけると思う。あと少し何かあれば行ける気がする。
 怖い。天使の羽ばたきがめっちゃする。

・謎の占い師 FW10番
 次回登場。なんか適当に漂流させようとしたら強化されて帰ってきたのを見て舌打ちをする。
 ただ、彼女らの思惑的には習合が勝ちあがっても問題はない筈だか果たして……?

~オリ技紹介~
・ダークネス・ハンド パンチング技
 見た目が強そう。
 魂を犠牲にしなくなった。
 そして感想欄でも指摘されてたけど強化の余地がある。コルシアが気づいてるかどうかは内緒。
 部長は技進化、成長どちらの面でも一応なんとなく気が付いている。

・天照 シュート技
 せっかくゴールネットを破ったのにあまり話題にならなかった可哀想な子。気がついていた人に花丸さしあげますわ(唐突なお嬢様)
 原作ゴッドノウズより威力はまだ及ばないものの、スピードという観点で見たらかなりのすご技。
 改*改なので、二人の技が進化すれば自動的に天照も進化する。
 ガニメデプロトン


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部長、反転した神を討ち滅ぼすってよ編
ミーティングする日


──何度眠っても何度太陽を見ても、あの日の光景が脳裏から離れない。

 

 

 私と兄の関係は、あまり良好な物とは言えなかった。

 ……というより、私一人が勝手に嫌っていたのだけど。

 

 運動も勉強も人付き合いも、兄は少しの努力でものに出来ていた。いわゆる秀才の類だったんだろう。

 こちらはへとへとになって、ようやく勉強だけは追いつける程度。

 

 兄は凄いという憧れがいつしか、心を締め付ける縄となっていった。

 

 兄は家を出た。

 大学を出て、就職をして、ほどなくして結婚をした。出ない理由がないので結婚式に出た。

 兄の友達は多く、会場には私が知らない人がたくさんいた。両親は涙ぐんていた。

 みんなが兄を祝福していた。

 

 私は、祝いの言葉が書かれた手紙をただ読んだ。

 

 人の不幸を願う訳でもない。ただ、羨ましいものだと僻む嫉妬心を飼っていた。

 はたしてその内はバレなかっただろうか。

 ……きっとバレていない、昔から表面を取り繕うのは得意だったから。

 

 それから一年もたたずして、子供が生まれたと聞いた。

 両親は早くも孫が見れた事にまた泣いていた。病院で泣いている二人を見て、よく泣く親だと思った。

 

 生まれてこの方、彼女も出来たことがない私には無理だろうと思っていたからこそ、気になったのかもしれない。

 

 長く生きて欲しい。二人の願いからその子は……長久、と名付けられた。

 年に一度、正月に実家に集まっては大きくなるその子を見た。

 

「おじちゃん、おとしだまありがとー」

「ん、わかんない~! たすけておじさん!」

「かっこいい? ……ありがとう!!」

「おてつだい? しゃーない、やるよー!」

 

 兄によく似て、隠し事一つ出来ない分かりやすい子だった。

 ヒーローにでも憧れていたのか……格好つけて、意地を張る時もあった。けど、全然隠せてなくて。

 

 次第に、幼いころの兄を見ているような気分になり……締め付けていた縄は緩んでいった。

 

 だが就職してすぐのこと。

 元々体調を悪くしていた父が亡くなり、母はショックから立ち直れず、私たち兄弟の事を忘れ次第に弱り、息を引き取った。

 

 そこでようやく、兄弟二人して泣いた。

 長久君も。死んだってことを理解していなかったけど……悲しいという事だけは分かったようで、寂しそうな顔をしていた。

 

 まだ、親を失うという事の覚悟が出来ず、立ち直ることも出来なかった私は……私は、仕事に没頭するようになった。

 仕事をしている内は自分を忘れられるような気がして……無茶なスケジュールをこなして身を削っていった。

 

『もしもし織部さんのお電話ですか? 私──』

──正気に戻ったのは、兄が死んだという一報を受けた時だった。

 

 子供の誕生日プレゼントを夫婦そろって買いに出かけ、事故で吹き飛んで来た車に潰されたらしい。

 神などいないのだと、何故兄が死ななければならなかったと叫びたかった。

 

「──」

 

 私の前には、泣いている子供がいた。

 いつもの彼はいなかった。私を見て一瞬顔を明るくして、すぐにまた顔をクシャクシャにする。

 格好付けに拘る彼なんてどこにもいなかった。ただ外面も気にせず、ずっと泣いていた。

 

 葬式に集まった親類達はやれ可哀想だ、これからどうするのだなどと囁くばかりで近寄ろうとしない。

 ただ遠巻きに眺めていた。

 

 理由は単純で、祖父母を亡くし、一年もたたない間に今度は誕生日に両親を亡くす。

 そんな彼を見て……不吉だと、心のどこかで思ったのだろう。

 

 いつの間にか、私は彼を引き取っていた。

 職場からは遠くなってしまったが……兄が残した家で、彼の面倒を見ようと思った。

 

 ……実に甘い考えだったと、今でも思っている。

 私に子供の世話というのは、ましてや親を亡くし、心に深い傷を負った子を相手にするには……甘すぎた。

 

 長久君は起きている時、前触れもなく泣き出してしまうようになった。

 本人すら止めようがなく、学校に行っている間も授業が碌に受けられないほどだった。

 

「────!」

「落ち着いて長久君、大丈夫だから、大丈夫だから……!」

 

 夜寝ている時は更にひどかった。深夜に突然暴れ出し泣き叫ぶ。怖いと、置いてかないでと、呂律も回らずに繰り返す。

 いくらなだめようとしても彼自身の意識はないらしく、ただ落ち着くまで抑え込む。

 

 次の日の朝、起きてくれば……そんなことは覚えておらず、疲れている私を心配してくる。

 だからこそ何も言えなかった。

 

 こんな日が続き、仕事もあり……疲れは減ることなく、次第に溜まっていく。

 自分自身もうまく眠れなくなり、ボーっとすることも増えた。そんな風になれば仕事でミスをして、また学校から電話が来て、夜は眠れず。

 

 ……限界が来ていた。

 当然、言い訳だ。

 

 

 ある日のこと。

 町内の祭りがあると話す、久々に楽しそうな顔を浮かべる長久君がいた。

 出し物の地図がかかれたチラシを握り、こちらを何度も見ては何かを期待するような目をしていた。

 

 一体なんだろうと、碌に回らなくなった頭で考えて……ああそういう事かと気が付いた。

 

 だから私は──()()()()()()()()

 これで友達と遊んでらっしゃいと、私は何も考えずふざけたことをしでかした。

 財布から雑に出した札を握らせた。

 

「……うん」

 

──あの時の、彼の目を忘れられない。

 

 私に少しずつ頼ろうとしてくれていた、弱々しい手を振り払ったのだと気が付いたのは……随分後の事。

 

 その日から、彼は一切泣かなくなった。

 

 私は、保護者と名乗ることも出来ない人間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーダー、僕もっともっと強くなって見せるから……!」

 

「天照の調整を頼む、帰ったらキーパー役を頼むぞ織部」

 

 泣くよ?

 もう全開で泣き叫びますよお前ら。なんで俺が格上みたいな態度で来るんですか。

 

 いくら見た目派手になってても出力はサクリファイス・ハンドとほぼ変わらないからな! 天照なんぞぶち込まれ日には吹っ飛ぶわ! せめてコルシアグローブとかエマがくれた"元"曰く付き装備をさせてくれ……。

 

 あれと、重りがあればまぁなんとか……いやそもそも天照は動物系じゃないからフェルタンの回復見込めないし受け止めたくないけど!

 

「ダークネスさ~んのいいとこちょっとみたい~へへへーん」

 

「アルゴさん、上機嫌ッスね」

 

「いやぁ、やっぱ彼がいないと始まらないからね~」

 

 ここはホテルの一室。

 今日の反省会をするため集まった16人。エマは少し離れて座っているけど。

 いやー久々に皆と一緒に居られて楽しいけど、相変わらず騒がしい。

 

 こらそこアルゴ、反省中はおつまみ仕舞いなさい。バングに勧めて共犯にしようとするな。食べるなバング。NOと言えない人になるな。

 ……エマはちゃんと座ってるよねトロア、コルシア?

 

──妾の目は欺けん。そんなに確証が欲しければ……もう片方の目もいくか?

──あそこで「私は悪さをしました」と張り紙を張られ正座をしているのは間違いなくエマ本人だ。みろあの赤面具合を、ざまぁみろ

 

 そうか……角とか尻尾生えてる子が正座してるのはちょっと絵面が面白いな。

 

に、にいさーん! ちょっと足がしびれてきたのでそろそろ……

 

 ……まあ、叔父さんに変な術を勝手に掛けたお仕置きなのでもう少しだけね。

 あの後叔父さんにすっげえ目で見られたからな……「いも、妹……???」って。

 あんなに頭にハテナマーク浮かんでる叔父さん初めて見たわ。

 

──途中で魅了を打ち切らせたせいで変に掛かってたな。多分だが「変な子だなぁ」程度で収まるぐらいには認識阻害は機能してるぞ

──エマっちの先手ひっしょー

 

 ううぅ、かと言って解いても面倒なことになるからしょうがないけどさ……せめてもう少し躊躇してねエマ。

 というかもう完全に悪魔だって隠す気が無くなってるよな。悪魔らしさは妹に合わないからってことでその様にふるまっていたと思っていたんだが……。

 

──悪魔のキーパーとかダークネス織部とか呼ばれてる奴の妹なら問題ないかもってとこだろう

 

 さよか。

 

「よし、準備はいいな。──ジミー」

 

「おう、任せとけって! ……えーでは今より、本日の反省会、そんで周りの状況と……これからの目標を立てていくぞ!」

──オーウ!

 

 司会進行は相変わらずジミー。副部長にはいつも助けられております。

 用意されたボードに背番号がかかれたマグネットを張り、今日の試合の流れを確認していく。

 

 開幕、ボールを奪取しエンゼルブラスターを仕掛ける。

 いい流れだが、決まったと思い込み下がろうとも、ボールを弾かれた時のためカバーできる位置にいなかった所とか。

 前半は少し走りも弱かったとか、マネージャー達が撮っていた映像(やたらメアとトールが映ってるけど)を使い分析していく。

 

「で全体的な話だが、個人技……必殺技だけに頼っちまってパスがあまり出せなかった。元々速いパスでって話だったけどうまくいかなかった」

 

「あーそうだったな……どうにも試合になると焦っちまうな」

 

「駄目だーって分かってるんだけど……全体的に見れないんだよね」

 

 ジミーの指摘を受けて頭を悩ませるウリ坊、グラサンのDFコンビ。

 ……やはり経験不足。グラさん自身も周りを見て指示を出そうとしてくれるが、こればっかりは場数踏まないときついのかもな。

 

 今回キーパーだった二号も一年だから試合経験は少ないし……かと言って俺も出せているかと言ったら別だ。

 要望こそ出せるが戦術ではないし。なんなら忖度されて捻じ曲がる。

 

──ただでさえ対人が少ないというのに、規格外エース、サッカーゾンビと普通ではない相手をしているせいもあるだろうな

──……エビチリ食べたい

 

 フェルタン、奴はもう敗退したんだよ……いや、なんかまた会いそうな気がする。怖い。

 

 で、そうだな。特殊な試合が多すぎてまともな経験が詰めていない。

 ただでさえFFをフルタイムで戦いきってないからな。KO勝ち多くない?

 

 ……うーん、練習試合とか組めたらいいんだが。今残っている所で受けてくれそうなところ探そうかな。

 

「意識を変える為、普段の基礎も集団に。あとは重力の倍率も上げて動きを俊敏に、だな!」

 

「さんせーい! 今回あまり活躍できなかったし、次はもうバリバリ止めちゃおう。ねっ、トール!」

 

「そうだな……もっと鍛え上げてどんな奴も吹っ飛ばせるくらいにしねぇとな! ……そうだろ部長!」

 

 やめてくれよ……人には限度があるんだぞ。

 トールの目標は心強いけど、お前とウリ坊に任せると際限なく特訓の難易度が上がっていくからな……。

 せいぜい俺としては怪我をしないようにと忠告するぐらいしかできません。

 

「じゃあ次は……ライバルたちの動向だな! 今日勝ち上がったのは俺達と……何て名前だっけ?」

 

「……木戸川清修中、昨年の準優勝校だぞジミー」

 

「そーそーそれだよ一号! トライアングルなんちゃらって技で大量得点してきたチーム!」

 

「……トライアングルZですよジミーさん」

 

 ……ジミーの記憶力が心配だが、今はスルーしよう。一号とワタリというツッコミ属性の補助もあることだしな。

 零式中を下し、勝ち上がりを進めたのは……以前雷門の豪炎寺さんが属していたところ。

 去年は帝国学園に敗れてしまったが、やはり強者か。

 

 豪炎寺さんが出場しなかったから破れた、という経験を糧に、エース一人に頼り切りだった戦術を見直したのだろう。

 

「そうそう、やぁー格好いいよな! 特にZってところ! 俺もあーんなシュートを撃ってみたいぜ」

 

 珍しい事にこのチーム、三つ子でサッカーをしている者がおり、武方三兄弟という三人が豪炎寺さんが抜けた穴を埋め、強力なシュート技を開発。

 

 ……映像見た感じ、皇帝ペンギン二号より強そうなんだよなトライアングルZ。

 これの相手をするのは……明日決まるが守りの王者「千羽山中」か、それとも脅威の成長率でグングンと力を伸ばしてきたイナズマチャレンジャー「雷門中」か。

 

「で明日は午前に雷門と千羽山が試合だな!」

 

「あぁ……明日は会場に行こう」

 

 ……多分雷門中かな。

 千羽山は確かに守りが硬い……守備二人と協力し発動する、無限の壁という必殺技。

 メアのエンゼルブラスター改なら撃ち抜けるだろうが、今の雷門にはちょっときつい。

 

 しかし、逆に千羽山側はどうしても攻め手に欠ける。

 初見殺しの技として、メアのエンゼル・ブライトの如く、光を放つシュートで目つぶしをする……シャインドライブという技があるが、それが上手くいかなければ対策を取られ千日手だ。

 

 そうなれば、試合の最中も進化していく雷門中が勝つだろう。……今の時点で無限の壁を打ち破る技があるなら、もっと簡単に決まりそうだけど。

 流石に、流石にないと信じたい……。

 

「雷門はキャプテンがかなり前から目を付けておりましたが……順調に勝ち進んでますね。これなら決勝にもやってくるでしょうか」

 

「リーダーが前、東京に来た時にPK対決したところだよね。神の手を名乗る必殺技……ちょっと相手してみたいかな」

 

──お、メアに同意。また打ち破ってやりたいのぅ

──オレンジグミ食べたい

 

 俺が注目しているとか言ったせいか、みんなも千羽山が勝つとは思っていないようだ。

 すまない千羽山。大穴だったら心の中でもう一度謝っておく。

 

 ……そうだ、後で雷門にお願いしたいことを思いついたな。明日試合見に行くついでに話しかけよう。無理だったらワタリを通してお願いしよう。

 

「……で、午後の試合。決まった方が俺達の相手な訳だが……」

 

 トーナメントも進み、残り六校。

 俺達が準決勝で競う相手……そこまで言って、ジミーは言葉に詰まる。

 それが伝染し、先ほどまで騒がしくしていたチームのみんなも静かになった。

 

「──()()()()、が来るだろうぜ。確実に……ありゃやべぇ」

 

「だよなー……やーすっげぇところだなあそこ」

 

 推薦枠、という怪しげな枠よりやって来た集団。

 あの帝国学園の殆どを病院送りにしたという存在。

 

 なにより……グラウンドをえぐり、ゴールポストを大きく飛ばした……エースストライカー兼キャプテン、亜風炉(あふろ) 照美(てるみ)の放つ必殺シュート。

 ゴッドノウズの存在がプレッシャーになっている。ブラックの一撃でみんな身に染みたから余計だ。

 

「……」

 

 更に辛いのが、世宇子中はエース一人だけが強いというわけではない。全員が異様な身体能力、必殺技を持っているからこの間の代之総中のようにはいかない。

 

 そして生物系必殺技じゃないからフェルタンに食べてもらうのも無理だから……止められる気がしない。

 つまりあれだぞ、例え奇跡的に一発止めても回復分を補充出来ないというわけだ。今日の貯蓄分を使っても何度耐えられるか……。

 

 

「──でも、負ける気はさらさらない。そうだよねみんな?」

 

 憂鬱とした空気を吹き飛ばしたのは、メアだった。

 意外だった。こんな時は少し落ち込むのがメアらしかったんだけど……どうやらなんかあったらしい。

 

「……よし、神の力だか何だか知らねーけど……がんばればなんとかなんだろ!」

 

 そうっすねジミー。

 ……うん、ここで止められなくて死ぬかもとか言えません。頑張りましょ、出来たらDF陣で馬鹿強いシュートブロック技とか開発してもらえませんか。

 尽力しますので……。

 

「あ、部長。なら提案! 重力室の特訓、重力10倍ぐらいにしよう!」

 

 やめてウリ坊。

 それ多分君たちは耐えても俺とサッカーマスクズぶっ倒れるから……!

 

 

 助けて?

 

 

  

 




 カラダもってくれよ!! 10倍重力だっ!!!(野沢雅子)

 次回は雷門視点と、いい加減どんなことになってるかの世宇子中視点ですかね。
 まあ書き終わったら変貌してそうなのであまり信用しないで……。

・ゴッドノウズの強さについて
 アニメの描写など考えて色々と判断した結果かなりのつよ技認定してます。
 また、神のアクアを飲みやばやば人間になったアフロディたちのスペックの高さも考え、
威力だけなら
 エンゼルブラスター改・天照<<ゴッドノウズ≦黒龍炎弾<<時間渡航者がやらかした結果のゴッドノウズ
としています。え、メアが神のアクアが飲んだら? そりゃパない事になる。
 また今作品ではマジン・ザ・ハンド、トリプルディフェンスのパワーバランスをアニメと変えたりしています。


~オリキャラ紹介~
・織部叔父さん
 兄の忘れ形見を引き取って育てようとするが、色々と限界が来てしまった人。
 ついでにお祭りの日からちょっとキャラチェンした長久に後悔を覚え、今では育児放棄気味になっている。
 長久は普通に遠慮してるだけなので強く押せば行けると思う。

 妹とか名乗る子が同棲しはじめた……? へぇ、最近の子ってすごいアクティブだなぁ。ぐらいの暗示がかかってしまっている。

 下の名前は必要になったら付けます(土下座)
 


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敵情視察をする日

 イナズマイレブンfor3DSをしていて思ったんですが、こんなに下画面反応悪かったかな……? 故障?
 そして書けるかどうかわからない第二部の為に……松風天馬伝説とか出ないかな。

 あと、色々キャラ紹介したいがために一部時系列を変えていたりいなかったりします。原作知識持ちの方には少し変に映る……すまない。


 ──その戦いは、人と自然のぶつかり合いだった。

 

無限の壁ッ!

 

 腕を組み立つキーパー。両隣には腰を落とし衝撃に備えるDF。

 何人も通さないという意思は具現化し、彼らの背後には石が積まれる。そうして出来た、強大で堅固な城壁がゴールへの道を閉ざした。

 

 今しがたできたばかりであろうにも関わらず、壁からは長年侵入者を防いできたかのような時の重みを感じる。

 これこそが人の手で作り上げられた歴史。

 

ドラゴン……!

 

 対峙し、城を落とそうとするは竜。

 積み上げられた歴史が何だというのか、自然の猛威が人を喰らおうと顎を開く。

 

 だが……これはフェイク、

 壁を前にした瞬間、竜は天を目指し急上昇。

 

『これはっ、シュートではなく味方へのパスです!』

 

 ──走る人、止めようとする人、その後に備えて待つ人。

 眼下で繰り広げられる戦いを前にすると、不思議と心が燃えて誰かを応援したくなってしまうのは果たして異常だろうか?

 

──トルネード!

 

 竜は炎に包まれ赤く染まる。

 燃える竜は全てを貫かんと牙を剥き、城壁へと喰らい付いた。派手に響く、牙と石がぶつかり合う音。

 

 しかし、数瞬の競り合いの後……竜の牙は折れ、跳ね返された。

 勢いを無くし反転、転がったボールは拾われまた走り出す。

 

 ──超常的現象を前にすると、自分が幻覚でも見ているのかと錯覚してしまう。

 

 違う、きっとこれは正常。きっと多分そうに違いない。

 やや買いすぎたと後悔したドデカポップコーンとドリンクはいつの間にか減っていくほどの熱狂。

 スタジアム全体が今、熱に浮かされている。全ての人間がサッカー馬鹿になっている違いない。

 

 それに釣られちょっと俺も馬鹿になっている、きっとそうに違いない。

 

『これまたキーパー綾野防いだ! しかし弾いたボールは雷門に……後半も残り半分。停滞を打破しようと染岡と豪炎寺、ツートップによる猛攻が千羽山中を襲う!

千羽山中、なんとかカウンターを狙いたいところだが……果たして耐えきれるかぁ!』 

「──まぁまぁネ」

 

──ナガ、ポップコーンをエビチリマスターに食べられてるよ?

 

 ……知ってる。いや何でかは知らないけど隣に黒月さんが居るんですよね。

 

 お久です。その後お変わり……ありますね。

 この人()()()()()()着てる……最初、他人の空似だといいなぁとか思ってたけど「ん、織部カ」って話しかけてきたからね。

 俺も「そうだ」と言って隣に座ることしかできなかった。席替えたら他の習合の皆が隣になって絶対変な空気になるし……。

 

「……いやなんで君がいるのさ。代之総中はどうしたんだい?」

 

 一息つこうとジュースに手を伸ばしてもホルダーに目的の物はない。

 混乱しているらしい。自分のドリンクの存在を忘れ、俺の席にあるオレンジジュースを飲んでいたのはメア。

 お前自分でアップルジュース買ったの覚えてないの……?

 

「メアさん、それキャプテンのジュースです……」

 

 そのまた隣にいるのはワタリ、こちらが気が気でないらしく先ほどからチラチラと見てきている。

 

なんでああやりゃ竜やら炎やらが出るんだ……?

 

 また隣にはもうこっちなど見ていないジミー……試合観戦楽しいもんな、すっごい集中してる。

 

「おおっと……ごめんリーダー、僕の飲む?」

 

──わーい

 

 もう大半を飲み切ってようやくメアは気が付いたらしい。申し訳なさそうにリンゴジュースを差し出してくる。

 それとなく断っておく。ポップコーンもろくに食べてないから喉乾いてないし。

 

 ……する前にフェルタンが勝手に出て来て飲み始めた。ストロー穴から潜り込み啜る音が聞こえる。喉が渇いていたのだろうか。

 メアが悪魔を前に目を輝かせたり「でもこの悪魔と再生の契約を……」とか悶々唸ってる。

 

「……ぉ、おおフェルタンくん……いやちゃん?」

 

──どうして人は悪魔に性別を求めるんだ?

 

 知らん。ともかく救いはない。

 左方のブラック、右方のメア。ははは両腕破壊コンビだ。

 笑えねぇ。

 

「なに、代之総中との契約はFFの手伝いのみ。その契約が終わった今、(ウォ)がなにしてようが自由」

 

「だからって……というかその制服」

 

「あ゛ぁ゛ー……」

──なんなのだこの鳥は……不遜であるぞ、妾の仮契約者に足を乗せよって

 

 しまった、包囲網のメンツが数え足りなかった。

 

 ──上方、俺の頭に足を乗せ羽を休ませているカラスが一羽。

 ……悪魔とかじゃないよね? 流石にこれ以上増えられたら困るんだけど。

 

 昨日、チラッとネットを見たら「デビル・オリベ・ダークネス」みたいな外国人風あだ名とか付けられてて、もう俺の風評被害は何があっても抑えられないんだなぁって理解したからさ……せめて悪化を防ぎたい。

 この先高校とか大学行けた時も面接で「あ、君ダークネスの子?」って言われるの確定してるけどこれ以下になりたくない。

 

 つらみが深し。

 

「これカ……お前らへのリベンジには丁度いいだろうと思ってナ」

 

──……悪魔の類ではないな。エマの呪いの装備に隠れていたような、低級の霊がカラスに憑いているのだろう。……随分お前に懐いている辺り、餌でもやったのか?

──ナガナガー……ごーはーんーエビー。頭の鳥食べて良い?

 

 サンコル。あとフェルタンはダメだから……スタジアムでスプラッタだけは勘弁して。

 ちょっとそこの売り子さんに軽食頼むから。

 

 ……そして黒月さんは何気にもう雷門の一員だということが確定しましたね。コスプレであってほしかった……!

 嫌な予感的中しちゃったよ! リベンジ? あの試合で何本骨折られたと思ってるんだ……!

 

「……雷門イレブンになったわけか、黒月」

 

「ブラックでいいぞ織部。使えるものは何でも使う……まっ、入部申請は間に合わなかったガ」

 

 ああそれで会場席に? なーるなーる。

 FFのチームに属する条件は、試合前までに転校、入部を済ませていることだからな……。

 仮にブラックがこの試合に間に合っていれば……無限の壁なんて気にせず黒龍無双となっていた所だったな。

 

「そ、そう……でも、なんでまた雷門なんだい? 確かに彼ら成長性は凄いけれど……」

 

 いやメア、お前が一番だよと言いかけた口を噤み、俺を挟んで行われる会話の先行きを見守る。

 当然この間も試合は続く訳で、視覚も聴覚も大忙しな訳だが。

 

『ここでパスカット! ボールがようやく千羽山に渡る……鋭いカウンターアタックだ!』

 

 ようやくチャンスが巡って来た千羽山は防御の薄いところを探し切り込んでいく。

 ……だがそれは罠、ワザと分かりやすい場所を作ることで誘導され囲まれ──、

 

 ──眩しっ!? ……あぁシャインドライブを出したのか。目くらましによる不意打ちだけど……流石にペナルティエリア外からは遠すぎる。

 あぁやはり、雷門DFに邪魔されて弾かれた。目つぶし技は時間が経つとすぐ効果が無くなるのが痛いな。

 

「それも単純。雷門が一番人を受け入れやすい体制だったから。……世宇子はきなくさい」

 

 あーそれわーかーるー! 試合映像見る度に「こいつら人間か……?」って思えてくるんですよね。しかもあれだけのパフォーマンスを発揮して少しもつかれる様子もないし。

 入ったら最後、自分も人を止めることになりそうだなって思えた。

 

──もう止めてるようなものだろ貴様

 

 お黙りコルシア。

 そして……雷門の包容力というか、円堂さんの来るもの拒まず感はすごい。多分だけど俺が「いーれてっ♪」って入部申請しても大丈夫そう。

 ……何せ、

 

『惜しい、せっかくのチャンスだったが千羽山中逃す……! そしてボールは……()()()()()()()()()()()()に渡る!』

 

「マックスは裏に、豪炎寺は正面右へ!」

 

 あの帝国学園の元キャプテン、鬼道さんすらも入れちゃってるんだもんなぁ。

 

 ……いやなんでよ!? 世宇子に倒された後何があったんだ……? あと雷門に入ってもゴーグルとマントは外さないんすね。

 ちょっと雷門カラーに合わせたのか赤のマントが青になってるけど。TPO気にしてるんだったらマントを脱げよ。

 

──風呂場以外、いつも包帯巻いてるお前には言われたくないだろうな奴も

 

 コルシアハウス。

 最近暑いけど頑張って巻いてるんだよ。

 

「……鬼道は、打倒世宇子、習合のため入ったらしい。我と似たような物、これで雷門に足りなかった全体指示を出せる者が入った。そこに我が入れば……このブロックで負けはないネ」

 

 ああなるほど。

 確か帝国学園は鬼道さんを除いてチームのみんなが入院したんだっけか……。しかもサッカーゾンビやってた狩火庵中より重傷らしいし。

 

 そっかそっか仇討ち……いやならうちに来てよ!? なんで俺達も世宇子に並べて仇認定されてるんだ……あ、しかも今ちょっと鬼道さんこっちに気が付いた気がする! 「待っていろ織部」みたいな闘志燃やした目でしたよ今!

いやゴーグル越しですけど! 遠すぎて目じゃなくて点に見えるけど、そんな気がしたんですぅ!

 

──長久、お前とメアは寺門と源田の仇認定されててもおかしくないと思うぞ

 

 お黙り、クーリングオフすっぞ!

 あれは、あれは不慮の事故だから……やっぱ今度詫びの手紙でも送ろうかな。

 でも文面をどう書いていいか分からん。「挑発と思わせるようなそぶりをしてしまい申し訳なかった」とか書いたら完全煽りになるし……。

 書くものは「奈良のデビルマン」とかだけして詫びの品だけ送ろうか。いや怖いな。

 

 流石に思考が飛び過ぎたな。反省、試合と会話に集中。

 ……お?

 なんか狙ってんのか、鬼道さんがボールキープを続けてるな……残り時間の少なさから焦ってか、無限の壁要員の二人を残して鬼道さんに千羽山が集中する。

 

 あれでボールを渡さないのは流石だ。

 

「……それで、お前の方はどうなんだ織部」

 

 何をする気だ、そう思い身を乗り出そうとしていた俺をブラックが止める。

 彼もまた視線は試合会場に注がれているが……意識はこちらに向けていた。感じ取り、俺の意識もそちらに向く。

 

「……なにがだ?」

 

「恍けるナ。世宇子を前に……また人間から離れた力に手を染めようとしているようだが──それで勝てるのカ?」

 

「……」

 

 声色から読み解くに……心配、ではないのだろう。

 ここまで雷門は整った。無論、そこまで勝ち上がって来るな? と確認してきているのだ。

 

 ……確かに、今のダークネス・ハンドだけではゴッドノウズは止められない。確信に近い物がある。

 仮に防げても今度はボールをつなぎ、攻撃できるのか、得点できるのかということもある。

 今の俺達には、天照による一撃しか手がないというのも痛い点だ。

 

「俺一人では難しい……だが、勝つ……! 習合、皆でだ」

 

 ──だから、いつものように()()()()()。そもそも勝てないと弱音を吐く部長がどこにいると。

 ここまで来たら勝つしかない。だから()()()()()()()()()()()に言い放つ。

 

「……そカ」

 

 ……実のところ、一回だけならゴッドノウズを止める算段は付いてる。

 それで止めたら、帝国戦の時のメアみたいにみんな盛り上がってパワーアップしてくれないかなぁー……なんて。

 

『な、なんと大胆にもキーパー円堂がゴールを空け前線へ駆けあがっていく!? これはイナズマ一号かー?!』

 

「う、うん、そうだよねリーダー! ……悪いけどブラック君、この間の僕たちと思わない方がいいよ!」

 

「期待しないで待つとする。……せいぜい、織部ははやく意識の矛盾を治すべきネ」

 

「……?」

 

 矛盾とはなんだ、そう尋ねようとして──今度は聴覚さえもが試合に引っ張られた。

 

 無限の壁に対し繰り出されたそれは……俺があの日見た、イナズマ一号ではなかった。

 敵に囲まれた鬼道さんが力強くボールを蹴り打ち上げる。

 頂点まで届き……すれば雷鳴轟き、ボールは雷を纏い落ちてくる。

 

 まるであのボール自体が雷雲と化したかのように、一触即発とも思えるエネルギーがこもっている。

 

イナズマ……!」 

 

 そこに合わせるは円堂さん、豪炎寺さん、鬼道さん。三人もボールの元へ飛びあがり、足を振り上げる。

 左方を円堂さん、右方を豪炎寺さん、上方から鬼道さんが思いっきり蹴る。

 

──ブレイク!!

 

 弾ける火花。生きていてまず見ることはない、ゴールに向かって落ちる雷を見た。

 間違いなくメアのエンゼルブラスター改と同等……いや、キック力の差で上回っている!

 

 そうなれば当然、無限の壁で防げる訳も無し。

 人の手で作り上げられた城壁が、自然の象徴とも言える天災によって壊され落ちた。

 次いで二度の長いホイッスル、試合終了を知らせる音。

 

『ご、ゴォール!! 雷そのものと思えるような強烈シュートが突き刺さり1-0! そして試合終了ー! 雷門中が土壇場でねじ込みましたー!!』

 

「……凄まじいですねキャプテン、あんな強力な技が」

 

 ワタリが冷や汗をかきまたその隣にいたジミーがヤッベーと口を洩らす。

 事実、俺もまた内心ビビっていた。

 ……そりゃゴッドノウズと比べたらまだ優しいのだろうけど、仮に決勝に進めたら今よりもっと進化したあれが襲い掛かって来るのか……。

 

 ……無理じゃねぇ?

 

 助けてぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃぁ、勝ったぞみんなぁ!」

「勝った、勝ちましたよキャプテン!」

「やったな円堂!」

 

 試合は終了し、もう着替えだって済ませた。

 後はバスに乗り帰るだけなのだが……ギリギリの勝利に燃えたみんなはいつもより気持ちが高ぶっているのか、なかなか静まらない。

 

 会場近くで騒ぎが始まり、それを遠巻きに眺めていれば……集団にもみくちゃにされたのだろう。ゴーグルがずれマントが外れた鬼道がよろめきながら抜け出してくる。

 その姿に思わず笑いがこぼれる。これが少し前までは帝国を率い、多くの者から恐れられていた男だと誰が信じられるだろうか。

 

「ふっ、随分お疲れだな、鬼道」

 

「あぁ……お前は察知してすぐ離れられたようだが、俺はこの通りだ」

 

 ゴーグルを直しつつ、鬼道の口角は上がっている。

 最初雷門に来た時は馴染めないかもしれないと思ったが、意外に早くに慣れそうだなと思った。

 

「勝利への立役者なんだ、それぐらいで済んでよかったな」

 

「……そうだな」

 

 見れば今度は円堂が壁山たちに持ち上げられ、騎馬が組まれている。

 まるで優勝したかのような盛り上がり具合で、見ているこっちが恥ずかしくなるほどだ。

 

「お疲れ様ネ」

 

「ああブラックか──!?」

 

 鬼道も感化されたのか突然立ち上がった。

 まったく……まだまだ、強敵との戦いは残っているというのに。

 流石にバスの時間になってもこの調子だったら……怖いマネージャーに釘を刺されるだろうか。

 

 そんなことを考えている内に、

 

「──練習試合をしないか?」

 

 背後には、悪魔の男が迫っていた。

 




 準決勝を前に、織部率いる習合中が練習試合を挑んできた!
 間違いない強敵……強力な必殺シュートを前に、ゴッドハンドは通用するのか。
 爺ちゃん……爺ちゃんのノートに書かれた最後の技、物にしてみせるよ

 次回イナズマイレブン「激突! 天使と悪魔と神と魔神!」
 
 これが超次元サッカーだ!
 


~オリキャラ紹介~
・黒月 夥瓏 (へいふぇい くーろん) MF
 雷門中に転校した世界選手。
 この後に一之瀬とかが入ることを考えると雷門のMF枠はカツカツである。ごめんなマックス、半田、少林。
 木戸川清修中からの試合に参加してくるため、もはや無強化の武方三兄弟に勝ち目はない。

 一応突出しないように、チーム全体を生かす動きをしようとするので一回戦の様な暴れ方はしないと思われる。多分。
 それはそうとポップコーンを食べたのは、以前フェルタンに必殺技が食べられたことへの意趣返しだろうか。



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九時は子供が寝る時間だと教えられた日※

箸休め回です
雷門視点書いてたはずがどこかへ消えた。

そしてこちら、しゅう様に描いていただきました、勅使ケ原 明くん……メアちゃん君です!
モデル体型に合わせ中性的容姿、最高です。


【挿絵表示】



「へぇ、雷門の練習試合。それはいいことだね……雷門理事長は入院中だが、きっと喜んでくれることだろう」

 

「ええ、そうでしょうね」

 

 父が言う。視界の端に私を入れながらも決して眉を開くことがない。言動とは合わない、緊張感がこの場を支配している。

 習合中の、明るくなったはずの理事長室は再びカーテンに閉ざされていた。

 

「……ああ勿論交通費は学校で補助するよ。FF出場を契機に寄付金もいただけたからね」

 

「──そんなことはどうだっていいんですよ、父さん。これは何だって言っているんです!」

 

「……っ、それは……()についての、調査書だ」

 

 話を逸らそうとする父に詰め寄り、紙を突きつける。いやでも父さんはそれに目が行き、言葉に詰まる。

 そこにはただ、一人の生徒の記録が記されているだけだ。

 ただ一人、織部長久……キャプテンの記録が。

 

「小学一年生の時に両親を亡くし、叔父に引き取られここの特待生に。理由は金銭面から……!

そして入学してからわずか一か月も立たないうちに、サッカーをして両手に火傷、右腕は筋挫傷! しかもこの日は、キャプテンと高天原中が一対一のPKをした日ではないですか!!」

 

 思えば、以前バングさんが訓練道具を用意していた時、金銭面に関して心配していた時があった。グローブやシューズを格安だったという理由で購入していた。

 理事長という立場を使い、かき集めさせた情報に虚偽はない。普段の彼を知るものならば信じられない様なものでも、信じざるを得ない。

 

 ……この日のキャプテンは、帝国の時と比べれば必殺技に対して必殺技も使わず対処をした……そんな風に思っていたが、何かが違ったのだ。

 どこだ、どこで怪我をした?

 単に光陰如箭を相手にした時は頭突きしかしていない。火傷をするようなものは思い浮かばない。メアさんの未完成だった必殺技を止めた時も平気にしていた。

 

 不意に、メアさんのあの日の言葉が思い浮かぶ。

 

『僕の未完成な技を受けて闇の力が活性化していたんだね!? そのあと真経津兄の光陰如箭で覚醒へ……!』

 

 思えば、この間の鯨の姿をした悪魔が憑りついた狩火庵中を解放したのは、彼の一撃だった。

 ──キャプテンに憑りつき隠れていた悪魔が、あの日を境に? その代償として何かを支払ったのか?

 

「どうして、どうして止めなかったんですか! あの時の父さんはサッカー部を憎んでいた、止めるには十分な理由だったはずです」 

 

「……そんな症状になっても、彼は顔色一つ変えずに特訓に励んでいた。何かの間違いだと思ったというのもある……」

 

 あの二日後、キャプテンは左腕に黒い包帯をしてきた。

 これは怪我を隠すためか?

 違うだろう、仮にそうなら()()()()()()()()()()を隠すはずだ。左腕だけ包帯を巻く理由がないし、彼はその時、なんてことないように振舞っていた。

 怪我をしていたなんて誰も気が付けなかった。

 

 ……本当に、あの時点で怪我はしたままだったのだろうか?

 

「……彼が、望たちがサッカーに一生懸命取り組む姿を見て、そんな中途半端な終わり方をさせたくなかったというのもあった。……結局のところ、私のちっぽけな過去ごと吹き飛ばされてしまったけど」

 

「その代償として、キャプテンは人の道を外れようとしています」

 

 じゃあもしかして……可能性の話になる、訳ではない。

 私には確証がある。帝国の皇帝ペンギン二号を食い尽くした黒蛇。あれが現れた直ぐ後、キャプテンは食堂で大食いをよくするようになった。

 食べ盛りの学生と言えどおかしい量を腹に入れ、練習の時も平気にしていた。

 

 ……あの蛇、フェルタンさんと同じように、よく食べるようになった。まるで、失った何かを埋める様に。

 生物にとって、食べる事とはエネルギーを取り入れることだ。では、あの黒蛇が食べた方はともかく、キャプテンが食べたものは()()使()()()()?

 

 蛇とは古来より、賢き悪、永遠の生命、執着の象徴として扱われる。

 ……キャプテンの怪我があの黒蛇によって治されていた可能性は、捨てきれないんじゃないだろうか?

 発想の飛躍だというのは分かっている。だが、仮にそうだとしたら……私が気がつけていないだけでまだ他にもキャプテンが怪我を隠し治していたことがあるんじゃないだろうか。

 

 そしてそれを指摘できるものは、止める者は、誰もいなかった。

 学校にも、部活にも……家の中だって。

 

「……分かっている。だからこそあの子の、あの子が築いた部活の……思い出させてくれた、サッカーの楽しさのため、力になるよ。

返しても、決して返しきれない恩がある」

 

「……それは、私だってそうです。こんなの……」

 

 ……父さんを責めたところで意味はない。私たちが気が付けなかったということから目を背けているだけだ。

 彼の背中を見て走っていた、決してその顔を見ずに。

 

『理事長として──()()として、ワタリ達を支えてやってください』

 

 彼があの日この場所で告げた言葉には、どんな思いがこもっていたのだろうか。

 

 彼の叔父は中学に入学して直ぐに転勤でつい最近まで家を空けていたことがわかっている。

 

 だから妹を名乗るストーカーが家に住み始めても、咎めるものが居なかった。

 ……エマさんが人であるかももはや怪しい。もしや彼女、或いは彼の家にいつも留まっているカラスだって……。

 

「……あの人が世宇子を相手にするとき、力不足だと思えば……無理をするでしょう」

 

「……どうするんだ、望」

 

 彼は特別な存在だと思っていた。

 私たちの誰よりも強くて、私達の誰よりも優しくて、私達の誰よりも大人びていて。

 

「決まっています──」

 

 彼は、私たちを守るため自分を犠牲にしていた。

 彼は、誰よりも優しくて、誰よりも自分に厳しかった。

 彼は、子供でいてはいけなかったからこそ大人びたんだ。

 

()は──(ワタリ)は、彼の力になってみせます……!」

 

 例え、この結論が彼が嫌がるものだったとしても。

 決意を新たに私は部屋のカーテンを取り払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで黙っていたんですか、ジミーさん、メアさん?」

「いや、その……だな、まさかそんな前にも怪我してたなんて知らなかったってのもあってだな……はい。すんません」

 

「……輝きは、生命の灯火。彼の強さは、孤高が故に……? 僕は、助けになってみせるから……今こそ真の天使の息吹を……全然完成しないけど」

「メアさん? メアさーん……。駄目だ、少し現実逃避してますね。はぁ……、当の本人はあれだし……」

 

 ……遠くですごいことが暴露されている気がする。こう、真相が明かされてる感じがするけど変にこじれ曲がった勘違いが誕生してる感じが……。

 気になるけど、集中するために思考から外す。

 

 

 ──足元に転がるボール一つ。向かい側のゴールを見据え、軽く息を吐く。

 

 身体中に流れている、コルシアの力を足に集め、強く硬く進化させる。ここまではダークネス・ハンドと同じだが、ここからが更なるダークネスなのだ。

 どれくらいダークネスかって言うと、この間の狩火庵中の試合映像が公開されると同時に、親御さんから子供が泣いたり、変な力へ憧れを抱いたという苦情が寄せられたぐらい。

 あと俺のファンクラブへの入会希望者が急に増えたことぐらいに闇が深い。ファンメも大量に貰ったらしい。エマが自慢してくれた。

 

『ああ待ちわびておりました我らが主よ! 今こそ緩み切った世界を争乱の世へ、世界の破壊を!』

『貴方の力に惚れました。是非とも我らにその力の一端を……』

『髪の毛一本まで忠誠を誓います、だからどうかお慈悲を……!』

 

 ……黒魔術研究会がそのうち、新興宗教になりそうだ。怖い、助けて。

 教祖とかにされたら全力で逃げます。

 

 

 けど今は大地を踏みしめる必要がある。

 踏ん張りが利くよう、スパイクの爪先とかかとに擬似爪を生やし、グラウンドに突きつける。本来のスパイクよりも爪が増えたことで、力が分散しより耐えられるようになる。

 今ここにあるのは獣の足などという生易しいものではない。

 

 地獄の帝狼、コルシアの脚。

 準備はいいか。

 

──そのまま返す、失敗すればまた仲間外れだぞ

 

 それは嫌だ、頑張ろう。独りぼっちは寂しいからな。

 

 ……世宇子を相手にするためには、俺も進化しないといけない。もっと小手先を磨いて、少しでも手数を増やさなければならない。

 構える。体重をわざと一度後ろへ乗せ、蹴る。反発する力を足に、トロアとフェルタンに呼び掛ける、

 

「……ロアフェル──」

 

 力を借りるぞ、と。

 

──ご飯ない……ない……

──チカラを振るうのは気持ちいいぞ!

 

──悪魔に対して借りる、か……相変わらずの傲慢だな、アベルの様にならんと良いが

 

 傲慢なんぞしておりません……強い皆に追いつくためになんとかせねばね。しゃーないんですよ。

 で、アベル? 確か、カインに殺された……世界で初めての被害者とか言われてる人だっけか……? いや流石にサッカーやってて死にたくはないよホントだよ。

 ……違うって? コルシア。ってことは悪魔関係?……アベル、ベルア、ベアル……傲慢……ベリアル? いやそんな、まさかね。

 

 違うよね、コルシア? 確認し呼びかける。

 

「──()()!」

 

 白龍の顎が背後に、黒蛇がボールに、帝狼が脚部に。

 三つの悪魔の力を借りた大技。トロアの力の代償として足がやられるなら、怪我をしないようにコルシアの力で補助をする。

 技の進化、悲しいところはここまでやっても、威力自体はロアフェルから少し上がっているだけで、生物技以外はもう碌に通用しないという事か。

 

 インフレって怖いね……。

 

ドミネーション!!」 

 

 足に走る衝撃と共にボールが飛ぶ。がら空きのゴールへと刺さる。

 ……見た目だけならイナズマブレイクとかエンゼルブラスター改並みの威力がありそう。そのように誤解されそう。

 実際この前ブラックさんの技食い破っちゃったし。あれ見た人とかエンゼルブラスター改<<ロアフェルドミネーションだと勘違いするよね。

 そのパワーアップ版……絶対誤解されるな、間違いない。

 

「おー……すごいッスね部長! 滅茶苦茶ド派手! 最強って感じ! ッス!」

 

 案の定だなバング。目がキラキラしてる。

 あともう語尾があの鯨並みに雑になってるぞ。

 

「あ、次は僕! 僕に向かって試し撃ちしてみてよ部長!」

 

──牡丹肉……!

 

 お前の闘争本能はなんなんだウリ坊。目がギラギラしてる。気のせいか技を出していないのにもう猪の気迫を感じる。

 フェルタンも乗り気だからいいけど……お前の猪突猛進は生物系だからあまり特訓にならんぞ。

 それいっ。どみねーしょん。

 

「わっ、早速……猪突猛し──うわぁっ!?」

 

──すこし臭みがあるけど歯応えあってよしよしのよし。欲を言えばもう少し量が食べたい

 

 さいですか……、まぁウリ坊とフェルタンが満足ならよし。

 

「……!」

 

 カガもかっこいいって褒めてくれている。やったな。

 お前の必殺技も格好いいから、雷門戦で披露しような。

 

 ……この流れだとメアとかも失楽園の特訓したいって言い出して……と、ワタリたちと話してたか。

 見た感じ……俺の話だよね? なんなんだろ、少し耳を澄ませてみよう。どれどれ……。

 

「とりあえず、基本方針としては無理はさせない。少しでも体の異常が見られたら引っ張ってでもベンチへ」

 

「お、おう……」

 

「……なんだか、ジミーさんも少し疲れてます? しっかり貴方も休息は取ってくださいね?

あと、メアさんは……悪魔の方々に効果がありそうなので、悪魔関係で本当に不味くなったら、全力のエンゼルブラスターを打ち込んでみましょう。この間の鯨のように、悪魔が離れるかもしれません」

 

「わかった!!」

 

──おい全力で仮病しろ仮契約者! 妾はまだ野良になりとうない!

──どっちが悪魔なんだろねー

──よかったな、死ぬ時は一緒だぞ長久。クソくらえだな

 

 絶対バレちゃならねぇな! イェーイ僕元気! 元気すぎて、更にもう一発打てそうだぞぉ!

 

──疲れたからもうよいわ

──牡丹肉以外ならやる気起きないなぁ

 

 あっ……左様で。

 えっと、なんかそれっぽいこと言って俺の紹介シーン終わります。はい。

 

「……今度の雷門との試合は、練習だからこそ試せることが多い。必殺技、連携を実戦で特訓できるいい機会だ。

だが、やるからには全力。……いいサッカーをしよう、みんな」

──……オゥ!!

 

 よ、よしなんかそれっぽいまとめになったぞ。みんなやる気満々に各メニューをこなそうと準備をし始めている。

 

 先ほど吹っ飛ばされたウリ坊なんて、どこから持ってきたのか妙な器具を……というか、もしかして野球部のピッチングマシーン? 借りたんだ、なんに使うの?

 150km超えた野球ボールを捉える特訓をすることで、猪突猛進の一撃の威力が上がるかもしれない?

 へぇ……禁止な、返してらっしゃい。

 

「え、えー!? なんでさ部長!」

 

 いや意外そうな顔するな! お前毎度思うが発想の危険性半端ないからな!?

 せめてサッカーボールにしなさい、野球ボールなんてこの先止める機会ないんだからやる意味ないです!

 

「うっ……わかったよ部長……今日は普通にメアのシュート相手に特訓する……」

 

 そうそう、しっかりサッカーをな……サッカー……うん。

 よくよく考えたらあまり危険性変わんない気がしてきたな。

 

──部長ー、重力装置いれますッスー!

 

 あ、お願いねバング。リモコンは安全の問題から、重力をいじる場所以外じゃないと使えないのが面倒だよね。ありがたいけど。

 確か今はハードワーク用の6Gではなく、安全を取った4Gで設定されてるはずだから、電源を入れたら急に負荷がかかるな。

 よししっかり足腰に力入れて……今日は重りもしてないからかなり楽なはずだ。感覚マヒしてる自覚あるけどまだ天国だ。

 

 ……狩火庵中前の時は2Gまでしか練習で使わせないようにしてたのに、ここでもインフレが激しい。

 

──グラビティ~オンッス!

 

 ヤード・ポンド法の単位か?

 

「……あ、やば」

 

「あ、やべ」

 

 ん、なんかウリ坊とジミーが急に慌てたような……っ!?

 そう思ったのも束の間、意識が反転……違う、一瞬にして地面に押し付けられたのだ。

 耐えることが出来ない、6G……違う、重り無しでコルシアの強化を得たんだ。来ると分かっていたのに対処できないレベルじゃない。

 

──えっ、なんでみんな倒れてるんすか!? ちょっ……うわ9G!? ちょちよ、ぐ、グラさんこれどうやってとめるんでしたっけ!!?

 

 9G!? ふざけんな人間の限界せめんな……!

 ああ駄目だ、考えが、意識が薄れ──、

 

 

 助けて──!







嘘です。
次回こそ雷門視点……世宇子編なのに。


~オリキャラ紹介~
・帳塚 望:ワタリ FW 10番
 クソカネモチの名のもとに、ようやく父親から怪我の案件を引き出した。
 だが医者と織部の企みにより、真実は知らされず、余計にこじれた。
 織部は昔もフェルタンの力を使ったとバレた(時と場所はおかしい)。

・上条 翔:ジミー FW 9番
 地味ならば、特訓で誤魔化せ熱血サッカー道。 
 人の事を言えないことをこっそりしていた。
 バレた。

・ウリ坊 DF 4番
 危険な特訓を思いつくことで部長の中で有名な部員。
 絶対に彼に特訓の指揮を取らせてはいけない。
 部長に言えないことをこっそりしていた。
 バレた。


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抗体、或いは変異を得る日

シリアスなふりしてます
インフルはガチです。死ぬかと思いました。


16:03オチを入れ忘れてたので修正しました


「で、なんでこんなことしたんですかお二方……? 特にジミーさん」

 

「え、えーと……そのーこっそりー……練習してたら、ちょ、ちょーっと。ちょっとだぜ? 刺激が足りなくなったと言いますか……う、ウリ坊は副部長特権で付き合ってもらっていたというか……」

 

「ぼ、僕が提案したんだよ! シュートブロックにジミーの手がかりたくて……」

 

 目の前でワタリに二人が叱られている。

 芝生の上で正座させられ、背中にはゼッケンの上から「私たちは無茶な特訓をしました」と紙が貼られていた。ちなみにこれはアルゴの仕業だ。

 

「そうですか……確かに部室棟の鍵は、キャプテンとジミーさんしか持っていませんからね。とりあえずこれは没収します」

 

「うっ……はい」

 

「それで、重力装置をいじって……9Gなんて試したんですか?」

 

「い、いやそれは……昨日の最後に、試しに……っていじって戻し忘れて……」

 

 そうだろうなウリ坊。お前も潰れたカエルのような声を出していたもんな。

 俺はもはや魚の干物レベルでつぶれていたよ。死ぬかと思った本当に。あと少しバングが電源切るのが遅れていたら本当にやばかった気がする。

 お手柄だぞバング。

 

 遠くにいるバンダナ頭に軽く手を振る。

 

──え、いやぁ……アハハ、アルゴさんが止めてくれたので、褒めるならアルゴさんにお願いするッス!

──いぇーい

 

 照れるバング、だがすぐに手柄は自分のものではないと打ち明ける。優しい子だなぁ。

 ……あれ、アルゴって重力装置オンにした時フィールドいなかったっけ。

 ??? ま、まぁ……いいか。サンキューアルゴ。

 

──……何も言わんでおく

 

 ? さいですかコルシア。

 偉いぞアルゴ、何でか知らんけど俺も正座の刑を受けていなければ近づいて褒めに行ったんだが。

 ……ニヤニヤしてるけど、もしかしてアルゴ君、俺の背中にも紙はってます? 張ってる。そっかぁ。

 

「キャプテンは、その他諸々含めて丁度いいので」

 

「リーダー、一応重し持ってきたけど……膝に乗せる?」

 

 いらないです! それ正座の正式スタイルじゃなくて江戸時代の拷問だからなメア!?

 頼むから仕舞え、何キロあるんだそれ!

 

──連帯責任はんたーい

──かと言って貴様、叱る立場にもなれんだろ

 

 さいですねコルシア。ハウス。

 ギャグが一度入り、空気は軽くなる。

 

 コホンと、ワタリは一度咳払いをして締めなおした。

 

「……それで、もう一度お聞きします。ウリ坊さん、ジミーさん。()()()、こんなことをしたんですか?」

 

 そう言われ、ジミー達は俯く。

 歯噛みし、悔しそうな顔がちらついては消える。

 

「──もっと、強くなりたかったんだ!」 

 

 沈黙を最初に壊し、立ち上がったのはウリ坊であった。

 両手を強く握りしめ、ワタリに、メアに、俺に、遠くで練習に励む彼らを見て吠える。

 

「次の相手って、あの中国の奴がいるんでしょ。その次は……部長たちが警戒している世宇子! もっと

もっと、強くならなくちゃなのに……あんまり伸びなくて」

 

 だから危険な特訓をした。それがウリ坊の答えだった。

 その姿はどこか、部活に誘った時にあった……憧れへの反転を含んでいる様な気がする。

 スポーツで役に立てなくなったら、仲間外れにされてしまう。そんな危機を抱いた……叫びだ。

 

「──っ」

 

 伸び悩んだら、隠し事をせずに……仲間を頼れ。

 そう……気の利いた、部長として掛けるべき言葉を使おうとして、喉に詰まり腫れあがる。その言葉だけは言ってはならないと、自分の心が首を鷲掴みにしていた。

 口を閉じて、ようやく解放される。息切れに似た疲労感が体に広がっていく。

 

「(……?)」

──言っておくが、我もトロアもフェルも何もしていないぞ

 

「……俺は、必殺技を覚えたかった」

 

 正座を崩し、あぐらをかいて。

 そうこうしている内に、ジミーが今度は言葉を吐いた。いつもの明るさが、軽さが消えた……重い、暗い言葉は芝生の中に染み込んでいく。

 

「……必殺技、ですか?」

 

「あぁ、メアみたいな派手にゴールぶち割れる奴とか……ワタリ、お前みたいに全員につなげられる奴とか。ウリ坊、部長みたいに敵の一撃を止められる奴。

なんか一つ、欲しかったんだよ」

 

 そう言って後ろを振り向く。遠くでは、バング、ソニック、トールが各々の必殺技を合わせ、合体必殺技に出来ないか試していた。

 ドライブアウト、ストーム・ブリンガー、雷鳴一喝。どれも派手で、俺にはなんでそうなるかが全く分からない現象が起きている。

 

 ……そんな俺だって、ジミーにとっては羨望の対象だった。

 悪魔の力を借りないと何もできないというのに。

 

「でも……駄目だったわー!」

 

 背中を芝生に預け、ジミーは手足を思いっきり伸ばした。

 ……だが、中身がない。空っぽの、明るさを装った動作だ。まったく気持ちよくないだろう。

 

「いくら蹴っても、何にも起こらなくて……」

 

 天を見上げる。部室棟の最上階からは、いい空がよく見える。

 今日だって雲一つない。けれど太陽は沈み、屋根の陰に隠れていた。

 

 だから、空には何もなかった。

 

「もしかして、なんだけどさ。……俺、才能……ないんかね?」

 

 ジミーは……絞り切る様に、否定してくれと言外に添えて、言い切った。

 

──……

 

 ……俺は、それをどうするべきか、迷っていた。

 否定したら、多分この場は収まる。

 けど……ジミーにとって、本当の助けにならないって、思った。

 

──何を言うべきか、分かっているな? それは、奴の処方箋であり……どこぞの誰かにも効いただろう

 

 ……どこぞの誰かがよくわからないが、サンキューコルシア。

 地獄の帝狼の後押しを受け迷いつつも、俺も言い切る。

 

 

 

 

「──あぁ、ジミー……お前に、必殺技の才能はない」

 

 そうまで口にして、ようやく気が付く。

 ああこれは、俺にも効く筈だった特効薬なのだと……。

 

 誰かに言って欲しくて、欲しくはなかった言葉を。

 目を丸くするウリ坊たちを他所に、俺は……もう自分の為にはならない言葉で、ジミーを少しでも助けるために……。

 

 ただ、口を回した。

 

 

 ……もう、助けを取る手は、何処にもないのかもしれない。

 

「ちょっ、そんなこと言っちゃ駄目だよリーダー……ってあぁ!」

 

 重しをしまおうとしていたのを中断し近寄ってくるメア。転ぶ。

 重しが宙を飛び、迫ってくる。

 

「あ」

「あ」

「……え?」

 

 え、あのちょ、今正座してて……ちょっと痺れて動け……あ、あーっ!

 

 

 助けて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぅし次、こーいっ!」

 

 それは地下深き場所。

 銅像の下に隠された階段を降りて広がる深淵。人工的な明かりのみが頼りとなる世界に、彼らはいた。

 

「行きますよキャプテン──グレネードショット!」

 

 突き抜ける風切り音。やがて空気の抵抗は熱を産み、ボールに爆発力を宿す。

 触れれば手が持ってかれるかもしれないという一抹の不安をも抱かせるシュートだった。

 

熱血パンチ!」

 

 真正面から受け止めたのは赤く燃え滾る拳。

 サッカーに注がれる情熱で煮え滾る血の証。

 一見して、単なるパンチング。だが必殺技として確かにそこに存在していた。

 

 雷門中キャプテン、円堂守の一振りだった。

 

「……すごいぞ宍戸! 昨日よりまた強くなってる!」

 

「ありがとうございます!」

 

 MFの8番、宍戸くんは嬉しそうな声を出す。

 自慢のアフロの乱れを手で触りながら、直ぐに戻っていく。転がっているボールの数からして、それなりの数を打ち込んだようだが……。

 

「じゃキャプテン、今度はこっちで!」

 

「よっしゃー! いつでも来い!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()。秒間一回シュートが放たれる機械に乗る宍戸くん。

 両手をぶつけ合わせ、気合は十分だと答えて見せる円堂くん。

 

 ……まだ続ける気らしい。

 少しのため息のあと、周りを見る。 

 

玉乗りピエロでヤンス~!」

 

 天井に備え付けられた()()()

 対象を狙い自動的に放たれるそれに当たれば、しばしの痺れを与える。それから逃れ、ボールに乗って回避するのはDFの5番、栗松くん。

 

 他何人かも必殺技を使ったり、或いは自身のフットワークを生かし回避している。

 ……これがサッカーの特訓だと言われて、昔の私は納得できたか分からない。

 

「あががかがが!」

 

「あ、栗松がひっかかったぞ」

 

 ……いえ、私が改修を命じておいてだけど、本当にこの特訓は効果があるんだろうか。

 確かに結果は出ているのだけれど、日に日に進化していく彼らを見て、そもそもこれはサッカープレイヤーとしての成長なのか? と心の中に疑問がわいてきてしまう。

 なんというか、超人育成をしているような気分になってくるのだ。

 

「──!」

 

「────!!」

 

 背後で響く轟音。叫び合う男たちの声。

 こんな考えを抱いてしまうのは……それは、きっとあのMF達のせいだろう……意を決し、振り向く。

 

「アメリカ帰りと聞いて期待したガ、こんなものネ?」

 

「まだまだっ、いくぞ鬼道!」

「あぁ、次はもっと息を合わせるぞ()()()!」

 

 最近、雷門に加入した……鳴り物入り三人衆。

 三人とも各チームに入れば直ぐエースとして胸を張れるほどの魔物たち。

 

「はぁ……っ! 上だ、一之瀬!」

 

 かつては絶対王者とうたわれた帝国学園。天才ゲームメーカー……鬼道 有人。14番。

 ゴーグルをしてなお……いや、ゴーグルをしているからこそか、視界内に映る物事をすぐさま判断し、組み立てる力を持つ。

 そんな彼が今、スライディングし……躱された。

 

「いい鋭さだけど……甘いネ」

 

 代之総中ではあの習合を相手にワンマンで圧倒し続けた、間違いなく今大会最上級のプレイヤー。

 中国で既にプロとして所属しており、世界を相手に経験を重ねている……黒月 夥瓏。15番。

 高く高く、ボールを足に抱え跳ぶ姿に思わず、龍の姿を幻視する。

 

 それを追い落とそうとする、存在が一人。

 天を駆け上がり、頭を地に向けてでも足をのばす男がいた。

 

「届いた……!」

 

「っ、……訂正、中々ネ!」

 

 一之瀬一哉。16番。

 フィールドの魔術師と呼ばれる彼は……同じマネージャーの秋さん、そして土門くん曰く「アメリカにいた頃の幼馴染であり、その昔に事故で死んだはずの人間」だったらしい。

 本当はサッカーができなくなっていただけだったが……それを悲しみ死を装っていたそうだ。

 

 ……かなり迷惑な嘘だ。

 

「が、やらン! (ウォ)を舐めるナ!」

 

 揺れかけたボールを再度、足で挟んで黒月くんは振り切った。

 

 だがやはりサッカーへの思いは消えず、手術とリハビリを重ね……なんと今回、アメリカ代表に選ばれたらしい。

 それを伝えるために日本に来た人が……なぜか今、雷門中のユニフォームを着ている。

 

 その時私はいなかったが……なんでも、秋さん、土門君たちと遊んでいた頃に編み出した必殺技、トライペガサス。

 思い出をもう一度、当時は居なかった円堂君を混ぜて復活させたことに感銘を受けたらしいが……。

 

「まだまだ、こんなんじゃ我を扱いきれるか怪しいヨ!」

 

「言ってくれる……!」

 

「くぅ~っ、もう一回もう一回!」

 

 アメリカ代表に選ばれたのはいいのだろうか。私の疑問はもはや誰にも届かない。

 

 改めて考える。アメリカ代表に選ばれた天馬、中国代表として既に経験を積んだ黒龍、日本トップを切っていたペンギン。

 ……次の試合、MFの枠は他のメンバーにあるのだろうか。

 

「──」

 

 だけど、今は……えぇ、そんなことはどうでもいい。

 アラームを鳴らす腕時計を見て、眉間にしわが寄る。

 

「……」

 

 私は……マネジャー、雷門夏未は叫んだ。

 

「──いい加減っ、練習を止めなさい! 練習試合の時間よ!!」

 

 すっかり約束を忘れ練習にふける大バカ者たちに、雷を落とす。

 もうすでに待ち構えている彼らの元へと向かえと尻を叩き、修練場から追い出した。

 




助けのいらないデビルマン

 最終章らしく、主人公は少しだけ変わるお話。
次回からはまたサッカーに殺される織部が見られます(深刻なネタバレ)



~オリキャラ紹介~
・アルゴ MF 6番
 最近どんどん隠れ強者なムーブをするようになってきた。神無月になったら少し里帰りするなど冗談を吐いて楽しんでいたりする。
 甘酒が美味しいが、それ神のアクアとかじゃないんすよね。

・上条 翔:ジミー FW 9番
 副部長としての権限を使い、皆がいないうちにこっそり特訓をしていた。
 部長的センスからして「あの地獄の特訓終わった後自主的に特訓しておいて何が才能ないじゃはたくぞ」だが……?

 キック力習合最強の男はどうなるのか。

・ウリ坊 DF 4番
 普通に伸び悩んでいるだけだったが、ジミーが横にいるせいでなんかウリ坊自身もかなり深刻な問題の様にされそう。
 ジミーのノーマルシュート相手に猪突猛進で受け止めたり弾かれたりしていた。
 進化が待ち望まれる。

・織部 長久 GK 1番
 雷門がいつの間にか進化を遂げているが一之瀬の技は「トライペガサス」なのでまだラッキーな男。
 馬肉はおいしいらしい。作者も久しぶりに食べたい。

 お前才能ないよ、と言われる言葉はきっと、帝国戦途中までだったら彼を救う言葉になっていた。
 今は無理である。

・黒月 夥瓏 MF 15番(雷門)
 移籍したわけではなく、シーズンオフなのでこっちにいる奴。
 大会決勝予定日が日本にいられるギリギリの日なので、仮にエイリア学園が後日来ても国に帰ることが決定している。よかったねエイリア学園。

 アメリカ代表に選ばれた男と帝国のゲームメイカー相手でもまだ少し優勢な辺りほんとに出る時期を間違えている。


~オリ技紹介~
・現在特訓中の必殺技 使用者:トール,ソニック,バング
 バングを中心に置き、ソニックが回り、トールが怒る。
 名称未定。まるでベイブレードのアニメを見ているような気分になれる技。
 まだまだ不完全。


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三角壊す死角から牙が生えてくる日※

  最近私の中でサッカーが分からなくなってきました
 そしてインフルかかってて遅くなりました。それはそうと、やはりゼロワン二次創作が思い浮かぶんです。
「課金ライダーは路頭に迷う」っていう感じの。
なんならTwitterでプロット垂れ流しにしてました。誰か使え。


そしてこちらは大変嬉しいファンアートです!!

【挿絵表示】

一般人から見た部長
雨くしら様、本当にありがとうございます!!


 サッカーを始めたのは単に目についたから。

 クラブに入ったのは楽しかったから、サッカーは好きだけど……。

 思えば、そこまで俺はサッカーに全力で取り組んできたというわけではなかった。

 

「……なんだ、サッカー部はないんだ? へーん……」

 

 だから、入った中学でそれがないと知っても……そこまで取り乱すわけでもなかった。

 少しだけ「サッカーやりたかったなぁ」という気持ちはあったとしても、俺を突き動かす原動力になるというわけでも無くて……。

 適当に、野球とか、テニスとか、また面白そうなスポーツでもないかと探そうかと思った時もあった。

 

──ジミーと呼ばれているのは、お前か?

 

 違うクラスのお前が、わざわざ休み時間にやって来たあの時までは。

 今とは違う普通で、けれど全てを見下ろすような冷たさを感じる目。

 

「おっ? ああそうだけど……?」

 

「……サッカー、やろうぜ」

 

 一体何事だと身構えたが、言い分は単に「サッカー部を作りたい」という提案で……すっげー、楽しそうだった。

 勿論サッカーは好きだったし、今参加すればサッカー部創設者、なんて肩書も手に入る。

 俗っぽいと言われればあれだったけど……まぁいいだろう?

 

「いいなそれ、やろうぜサッカー!」

 

 気が付けば、俺はお前の手を取っていた。副部長という権限も貰って。

 

 ……なんでもこの時、既にウリ坊に話しかけて一度断られた後だったらしい。

 話しかけられた順番は二番目、入部には一番手。締まらねーなと笑い、習合サッカー部の誕生を心待ちにした。

 

 それから、どれほど特訓をつんだだろうか。

 何回ボールを蹴っただろうか。

 

 分かんなくって、でも目に見えた結果につながっていない事だけは分かっていた。

 

 どんだけボールを蹴っても、

 メアみたいに光り輝く天使になれない。

 ワタリの様に目くらましも出来ない。

 一号の迫力ある弓撃ちにもならない。

 

 どんだけグラウンドを蹴っても、

 バングが振り回す遠心力にだって、

 ソニックが生み出す竜巻にだって、

 アルゴがこっそり編み出していた───にだって、届かない。

 

 雷、猪、銃撃、牙。

 鏡に……悪魔。

 

 何一つ、俺にはない。

 どんだけ蹴っても蹴っても、ただのシュートにしかならない。

 分からない、何をどうすればそうなるのか。

 

 だから、才能なんてないんだと弱音を吐いた。

 そんで否定されたら、少しは不安が紛れるかと思った。

 

 

 

「──あぁ、ジミー……お前に、必殺技の才能はない」

 

 ひどく、寂しそうだった。 

 そう切り捨てたお前の顔を見て……ああ、馬鹿なこと言ったなと気が付いたのは、後の祭り。

 

 降り注ぐ重しの雨に打たれる部長を見て、俺はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

トライアングル──Zッ!

 

 それは三兄弟の努力の結晶だったはずだ。

 昨年、FF決勝の場に現れず去った……ええと、そう。豪炎寺 修也を越えるために作り出したと言った彼ら。

 長男が始め、三男が高く蹴り上げ、次男が力を込めてボレー。

 

 目を見張った。

 俺にとっては単に力を込め、奇抜なポーズをしているようにしか見えなかったのに。

 

 あの一撃は、帝国のデスゾーンよりも、もしかしたら皇帝ペンギンよりも強いかもしれない。

 そう思えるほど、ボールに熱が込められ、紅蓮に燃えていた。

 

 ……蹴り終わった後に、三人で妙なポーズをするのはやっぱりよく分からなかったけど。あれで技名のトライアングルを現している……らしい。

 一挙一動、去年は控えにいたという彼らとは何もかもレベルが違った。

 

 エマちゃんに見せられた映像との差異から、彼らが血のにじむ様な努力をしてきたのが分かった。

 

 間違いなく、あの一撃を越えるシュートを俺だけでは撃つことはできないだろう。

 そう確信できた。

 

「……ダークネス・ハンド

 

 三人の努力の結晶が、部長の努力と執念の一端に打ち砕かれる。

 黒骨の手が、それを叩いた。

 

 トライアングルは抗うように骨を砕き進んだが……内より出てきた、漆黒の手が潰す。

 ボールが跳ねのけられ、三兄弟たちの横を通り過ぎていく。

 

「……なっ?!」

「嘘、っしょ?」

「あ、ありえません……僕たちの必殺技が!」

 

 自慢の必殺技が、ここまで誰にも破られた事のなかったものが、いとも簡単に終わり消える。

 せめての成果だと思える骨も霧散、部長の体の中に消えていく。

 

 すれば、黒い霧が消えたあと残るのは……ただ立っている部長だけ。

 初めからシュートなんて来ていなかった、そう思わせる程の風格でただ立っている。

 

「す、すげぇ……あのシュートをいとも簡単に……」

 

「既に進化を遂げていたか……」

 

「……? なんか変ネ」

 反対側のベンチで雷門が驚きの声を上げていた。

 かつて、切り札を食いつぶされた鬼道も冷や汗をかきその光景を眺めている。

 ブラックだけ、何故か首をかしげていたが。

 

「は~い、っていうわけでぇ……君たちのまけー! ふふふのふ~ん、ふふふ……」

 

「アルゴさん……喧嘩を売ってきたのは彼らですが、挑発するような真似は……あと、これから試合なのにそんな飲んで大丈夫ですか?」

 

 部長が守ったゴールネットの後ろにいる俺達。破られないとわかっていたのか、みんなリラックスしていた。

 そういう俺も、トライアングルの強さには驚いたが……部長は超えられないなとどこか分かっていた。

 

「……豪炎寺、奴らをどう思う?」

 

「……悪魔のキーパーと比べれば些か地味にも思えるが、一人一人から感じる力は強大だ。

──今まで戦って来た誰よりも強い……!」

 

「おおー……やっぱ、実物は派手だな! トライアングル……なんとか! どう思うよートール!」

 

「……最後の文字はZ、だと思うぞ俺は」

 

 あれほど派手に、激しい必殺技があっても部長の守りは撃ち抜けない。

 そんな部長が危惧する相手が迫って来ている。トールの肩を叩き笑って見せるが……どうにも、まだ肩の荷は下りていなかった。

 

 ……しっかし武方三兄弟は、部長が来る日にわざわざやってきちまうなんて……とんでもなく運が悪いんじゃないだろうか?

 

「──雷門と戦う権利を賭け……だったな、止めたぞ」

 

「ぐっ……お、覚えていろ。決勝で待っててやる、みたいなぁ!?」

 

 部長は未だに一歩も動かず、ジロリと視線だけを動かす。

 ……よほど不満だったのだろうか、その表情は、僅かばかりの怒気をはらんでいるようにも思えた。

 

 怯み、三兄弟はそのままどこかへと消えていく。

 ただその後ろ姿を見て、雷門の一人が「なんだったんだよアイツラ……」とこぼしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛ぁ゛っ゛ー!」

 

 試合開始のホイッスルに合わせ、烏が鳴いた。

 そのままこちらのゴールポストに居座り、俺をじっと見つめている。話しかけて懐かれても困るので無視する。

 餌あげた覚えがないしなんでこんなついてくるんだこの烏……ここ東京ですわよ?

 

『始まりました雷門VS習合! お互いFF準決勝への一戦を控える、大事な大事な練習試合!

実況は例の如く雷門中将棋部、角馬 圭太が務めさせていただきます! 木戸川清修の三人が乱入してくるハプニングもございましたが、さてどうなりますでしょうかぁ!?』

 

 あぁ……まだ右手がじんじんしている気がする。

 サッカー勝負挑みに来たのなら事前に話付けて欲しいよ。これだから都会民は困るよ全く。たとえダメでも電車ですぐ来れるからって気軽にやって来よってからに。

 こちとらバスと新幹線乗り継いでるんだぞ。

 

 ……何が悲しくて、雷門を前に一度骨折しなきゃいけないんだ。

 あぁせめてトライアングルZが生物技ならよかったのに。おかげでフェルタンの食いだめ貯金がお亡くなりになられたぞ。

 

──あいむはんぐりー

 

 はい分かっておりますともフェルタン。

 あと雷門に、円堂さんに挑んでくれよなぁ……なんで俺に挑んでくるんですかねぇ。

 

──あの場ではお前が一番格上だと判断したからだろう。ヒエラルキーが上の者を倒そうとするのは上昇志向があるものにありがちだ

 

 ははは……犬社会思考止めてコルシア。この場にいるキーパーたちの中では俺自力最下位だと思うけどな。

 トライアングルZ……コルシアたちいないと止められんし。円堂さんならどうだろ? 帝国で見せたダブルゴッドハンドでも少しきついかな……。二号はまだ無理だったろうな。

 

 あれ、かなりの強敵だった?

 

──まあそれなりにじゃな。あの黒竜の一撃と比べるとアレじゃが

 

 さようかトロア。もう少し丁重に扱ってあげるべきだったか?

 でもまぁしゃーない。約束の邪魔をする者に正義はない。

 ダークネス・ハンドで止められてほんとよかった。皇帝ペンギンより強いし非生物技だしびびりまくったけど。

 40キロの重り装備と重力(最近ようやく2Gに慣れた)特訓で強化された足腰は飾りではないと言うことだ。

 

 いや、こんな苦労してんのに飾りであってたまるか。

 

──その重り、さっきワタリの小僧に外されたがの

 

 それなトロア。

 もはや重りつけてるなんて言ってないのに当然の如くバレた。

 

『はい、キャプテン。試合が始まりますので脱いでください』

 

『あ、じゃあ僕が回収するよリーダー!』

 

 勘だったのかはたまたハクナマタタ。

 俺はもう外すのも一苦労なのに、メアとかはヒョイって持ってくからな……流石に4G下でも必殺技を出せる者よ。

 他のやつは流石に倒れるからね。

 

 なのにキック力やスピードはジミーやソニックの方が上。どういう原理かわからん。

 

『5-3-2の守備に重点を置く雷門に対し、習合は普段と変え、FWを一人下げての4-4-2! この変更がどう出るのか!』

 

 こっちはワタリをMFに変更、一号とメアのツートップ。ジミーは()()()()()()()、前半はベンチについてもらっている。

 あちらのMFは案の定鬼道さん、ブラック……そんで謎の帰国子女、一之瀬の三人。いや誰!? って思ったが、調べたらなんでもアメリカ代表に選ばれた子らしいですね。うん。

 

 ……雷門さん期待の新人入り過ぎじゃないですかね?

 

『おおっと、早速一之瀬が巧みなボール回しで右サイドを駆け上がっていくぅ!』

 

 ……ええもう来るんですか……?

 すげぇな、アルゴとワタリの幻惑フェイントコンビを抜けたか。流石はフィールドの魔術師の異名を持つだけはある。

 ボールに不思議な回転をかけ、取ったかと思えば足元を離れ自分の元に戻ってくる。そんなすご技をさっそく披露されておられるぞ。

 

「わ~頼んだ―」

 

「おう、任せなってアルゴ!」

 

 火の粉が舞い散る様な華麗で苛烈なドリブルで切り込んでくる一之瀬さんに対し、グラさんが構える。

 指で銃を作り相手に構えるそれは、まぎれもなく「デッド・スナイパー」の構えだ。

 死角から狙い撃ち体勢を崩すグラさんの必殺技……それを見て、一之瀬さんは軽く笑う。

 

「おおっと、それはもう勉強済みだよ!」

 

 勢いは止まることなくむしろ、どこからでも撃って見せろと言わんばかりにグラさんの横を駆け抜けようと加速した。

 

 ……死角からの一撃、つまるところ死角以外からは飛んでこない事こそが弱点だ。

 本来なら死角からの一撃に対応なんてまず無理なんだが、このレベルのサッカー選手になると簡単には引っかからなくなってくる。

 

「ふっ、がら空きだぜ。なぁ、そうだろう……?」

 

「……?」

 

 だからこそ、二の手が必要になってくるわけだ。

 グラさんの横を通り抜けようとする一之瀬さんが、あまりに動かないその様子を見て一瞬、進みを緩める。

 

 今がチャンス、待ちに待った出番だろう?

 肺に空気を吸い込み、叫ぶ。

 

「──カガ!」

 

 助けはまだ必要ない。うちには期待の仲間であふれているからな。

 笑って、腕を組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

 ベンチで眺めていた。

 なにか部長に考えがあるらしい、見ていれば答えが出るはずだと言われ置かれた席でじぃっと見ていた。

 カガが一之瀬の背後から忍び寄り、グラさんの一撃に紛れ食らい付いたのも全部見ていた。

 

「なっ!?」

 

 気が付けば一瞬のこと、一之瀬は水中に引きずり込まれた。

 俺達から見て、急にフィールドに出来上がった深海の池。あの中は重い水に動きを制限されており、思うように動けなくなるんだ。

 

 そうして自由を奪い……更に暗い、水底から迫ってくる一匹の鮫が牙を剥き襲い掛かる。

 食らい付かれたら最後、重い水の中でボールを放すまで鮫の猛攻は続く。

 カガが編み出した必殺技だ。

 

「フッ、兄さんに届けるには甘いですね」

 

「……ディープバイト、か」 

 

 マネージャーが腕を組み鼻で笑っている傍で、

 ゆっくりと、彼が紙に書いて決めた必殺技の名前を読み上げた。

 水飛沫が上がる。そこにはボールを奪い走り去るカガと腰が抜け倒れた一之瀬。

 

『これは惜しい! 一之瀬二人を躱しきることが出来ずボールを奪われた! 習合の反撃だ!』

 

 すげぇな、素直に喜ぶ自分の中に……羨ましい。そう思ってしまう自分もいた。

 

 一体、ここで何を学べばいいんだ。

 そう問いかけても、答えてくれるやつはいなかった。

 




ようやく練習試合開始です

〜オリキャラ紹介〜
・上条 翔:ジミー FW 9番
 そこまでサッカーに人生を捧げてはいなかった
 だからこそだろうか、彼のシュートは低次元の見た目のままである。

 なお部設立直後でも航空機のタイヤを思わせる一撃だった。

・加賀 守人:カガ DF
 ようやく必殺技を出せたのでご満悦
 まだ喋らないので必殺技使う時は誰かが呟くスタイル。
 カミツキガメ由来のあだ名だったが、本人は自分を鮫だと思っているようだ。

〜オリ技紹介〜
・ディープバイト DF技
 敵を一瞬で海中に引き摺り込み、噛みつきながらボールを奪う荒技。
 どれだけ抵抗しようとも離さないその姿勢を鮫と彼は表現したが、部長曰く「やっぱカミツキガメでは?」
 
 まあまあの強技なので今後も積極的に使って欲しい。シュートブロックはできない


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神を越える日※

 最近サッカーってなんだっけと思うようになってきました。
 

 そしてこちらはしゅう様に依頼し描いていただけた、FW10番、一時はひねくれていたクソカネモチ坊ちゃん。
 帳塚 望くんです!

【挿絵表示】


 モテます(血涙)


「くっ、下がれみんな! 豪炎寺たちもだ!」

 

 鬼道の掛け声が響いた。

 攻勢に出ようとしていた俺たちの足を止めた、加賀という選手の必殺技のすぐ後の事。

 

 鬼道を相手にも互角どころか優勢であった一之瀬が、成す術もなく止められた。水中へと引きずり込まれたかと思えば、次に出てきたのは……獰猛な獣を思わせるように息を吐き出して走り出す敵の五番。両眼を隠すその前髪は、まるで牙の様。

 ディープバイト、そう誰かが呟いていたが……一体どんな必殺技なんだと考えている時間もない。

 

 刻一刻と、戦況は変化していく。ただ立っている何て選択を取れるわけがない。

 

『加賀はそのままサイドを駆け上がっていくぅ!』

 

「おい豪炎寺!」

「っ、すまない!」

 

 反対側で上がって来ていた染岡に声をかけられ、すぐ走り出した。

 だが、

 

『雷門イレブン、直ぐに取り戻そうとするも追いつけないか!?』

 

 差は縮まらない。 

 

 俺達が遅いというわけではない。

 少なくとも、忍者を養成する「戦国伊賀島中」の時よりも特訓を重ね、25kgの重りでランニングを重ねた今、かつて木戸川清修で走っていた時よりも格段に動きがよくなっているはずだった。

 

 それでも追いつけない。ボールを持っているはずだというのに碌に減速するそぶりもない。

 

「これが習合か……!」

 

 彼らの動きははっきり言って、異様だった。

 鍛え上げたのだろう足腰から来る、地に根付いた重さを感じる、揺るがない足さばき。けれど一度走り出せば俺達を置き去りにしていく。

 

 最高速はあまり変わりがない、では何が違いを産むかと言えば……加速度だ。

 瞬発力が段違いで、一瞬のうちに彼らは最高速に達する。ボールを蹴っていようがお構いなし。

 

「通さん!」

「一之瀬の敵討ちだぜ……!」

 

 だからこそ、追いつくには風丸の様な俊足か……土門の様にあらかじめ進行方向を塞いでおくしかない。

 フィールドベンチ側サイドで二人が道を遮り、加賀の行く手を阻んだ。その後ろからは俺達が走ってきている。

 

 逃げ場はない、はずだった。

 

「……っ」

 

「なっ!?」

 

 何を考えたか、カガはボールをその場に残し後ろに飛んだ。

 また新たな必殺技か、そう体が強張った隙を、一陣の風がかっさらう。

 

 一瞬のうちに、置いてあったはずの場所からボールが消えた。

 

「──フッ、いいパスだカガ!」

 

 数秒の内、土門たちの背後を走り抜けている蒼が見えた。

 ……7番、自分の事をソニックと呼称していた男の背中が見えた。

 

『……!? な、なんという速さ!? 7番、(じん)。目にも止まらない速さだーっ!』

 

「くっ……アイツ、怪我はもう完全に治ってるって訳か!」

 

 置いてかれた風丸がすぐに追いかけるが、それでも最高速に乗った奴には追い付けない。

 

 ……迅 (はやて)

 その姿を見た風丸がひとり、知っている人間がいることに驚いていたのを思い出す。

 栗松たちに尋ねられ、返ってきた答え。じっと迅から目を離さずに零した答えを思い出すのは容易だった。

 

──小学生記録をいくつも塗り替えて、将来は陸上の期待の星と噂されていた人間だ。……でも、怪我をしてそれっきり。話も聞かなくなった

 

 風丸も元は陸上部の人間。その速さは先ほど思い出した戦国伊賀島にも通用したほどに鋭い。

 だが、それでも……たとえ風丸が直ぐに最高速を出せたとしても追いつけない。スピードの限界の差がそこにあった。

 音速(ソニック)と呼ばれるにふさわしい。そう思える。

 

「あわ、あわわわでヤンス~!」 

「は、はやすぎっス、どうすればいいんですかー!?」

 

「落ち着け壁山、栗松! コースを塞ぐように立つんだ!」

 

 栗松と壁山では到底追いつけない。待ち構えようにも、縦横無尽にフィールドを走り回られては防ぎようもなかった。

 円堂の指示も虚しく防御の陣形がかき乱され……やがて、ゴール付近まで近づくと奴は大きく左足を振り上げた。

 決して立ち止まらず、左足を軸とし、誰も追いつけない速さを乗せたシュートが放たれた。

 

「これで、どうだ!」

 

『雷門ピーンチ! 迅のシュートが迫るがどうする円堂ー!?』

 

「っ!? なにくそうっ」

 

 サイドから逆サイド、ゴールの角を目いっぱいを狙った一陣の風。

 スピード任せではない、テクニカルな一面を備えた一撃が……ソニックを正面に構えることが出来た円堂の反応を一瞬遅らせた。両手を、体全体を大きく伸ばし斜めに飛んだが……。

 

「遅い!」

 

 一手、遅かった。

 ボールがグローブを擦れて過ぎていくのが見えた。

 

「やべっ──」

 

『これは……残念そして雷門にとっては幸運! ポストに助けられました!!』

 

 見えて……数瞬後、強く音を立て、ゴールポストに当たり跳ね返る。

 間一髪、狙いが逸れたらしい。栗松たちはほっと胸をなでおろしていた。

 

 だからこそ、

 

「……ふっ」

 

「……? (笑って、いる?)」

 

 悔しがっていない、迅たち習合の姿が酷く不気味に思えて……跳ね返ったボールを目で追う。

 ボールは高く、高く撃ちあがり……天へと吸い込まれるように昇っていき……やがて、発光する。

 直視するのが難しい程の光量を放つボールは、力の主人の元へと飛んでいく。

 

 そこには、

 

 

 

『い、いや違います……なんとこれは、ポストへの当たり方を計算して放たれたパスだー!?』

 

「──光よ、我が身から溢れよ……助けを求め、天仰ぐ人々へ!

 

 光り輝く、11番の姿が見えた。

 羽ばたき風を起こす二対、神々しく輝く翼。薄く形を取りなしている一対、頭上に円を成そうとしている光。

 それは何度も映像で見た、習合のエースストライカー、勅使ケ原の……。

 

エンゼル・ブラスター……改!

 

 天使の名を持つ必殺シュート!

 華麗な踵落としと共に落とされた光弾は、円堂を貫かんと迫っていた。

 あれはゴッドハンドでは防げない。例え両手でも。

 

「……すげぇ──ならこっちも!」

 

 だから、()()()()()()()()で勝負をする。

 その直感は円堂も同じだったようだ。

 腰を落とし、右手を構えるその姿は以前と変わらないように思えるが……違う。

 

「じいちゃん、やってみるよ」

 

『対する円堂はゴッドハンド……ではない!? 新必殺技かぁ!!?』

 

 かつてよりも広く足幅を開き、歯を食いしばり右手を……突き出すというよりかは、ボールに向かい掌底打ちするという方が正しいだろう荒々しさ。

 神々しく誰かを救う光ではない。敵を打ち倒し叩き潰す雷だ。

 力強さを感じさせるその技は……まだ()()()だが、確かな可能性を感じさせる。

 

 かつて円堂のお祖父さんが編み出したという、幻の必殺技。

 名は……。

 

「──()()()・ザ・ハンド!」 

 

 神を越える、魔神の手。

 天使も悪魔も神さえも相手取るにふさわしいだろう。そう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩く。一歩、また一歩進むたびに体が揺れて、声が響く。

 静かな世界にただ、絶対者の言葉が存在する。

 

 それが、ひどく心地がいい。

 空っぽの心に潤いを与えてくれるオアシス。それさえあれば何処へだってすすんでいけるだろうとも思えた。

 

──聞こう、FFで頂点に立つ者は誰か

 

 当然、我々()()()()だ。

 神の力を得た僕たちに、敵うものなどいるはずもない。

 例えなにびとであっても、人である限りは意味がない。

 

──私に栄光と、完璧な勝利をもたらすのは誰か

 

 当然、我々世宇子中だ。

 腑抜けた帝国を見限り、僕たちを選び力を与えてくれたお方、影山総帥を裏切るなどあり得ない。

 期待された通り……いや、それ以上の成果をこなして見せると思うのはごく自然なことだった。

 

──完璧な勝利とは、一切の泥臭さも、何もかもがない事だ。僅か0.1%の負けもない事だ。戦いとは、始まる前から決められている

 

 総帥は語る。

 戦いとは、いや神と人との間に戦いなど成立しない。ただ力で、威光で全てを押しつぶし、草の根一つ残さずに君臨するのだと謳う。

 その為の絶対的な力、指導者。

 

 当然だ、この力があれば何ら難しくない。僕ら十一人、なにがあろうと負けるはずがない。

 

 だから……だから。

 

『……ふふふ、とーってもいい子たちですね。それじゃあ~あ、こちらをどーぞ? マネージャーからのドリンクです』

 

『……私の考えに共感するものにのみ、神のアクアを……、それを更に精製した……()()()()()()を、飲む権利がある』

 

 青髪の子が注ぎ入れたグラスが渡される。我慢せず奪い取りたい気持ちを抑え、ゆっくりと手を伸ばす。

 

 あぁ、ようやくだ……!

 まだ口にしていないにもかかわらず体は快感に打ち震え、渇きを知らせていた喉は歓喜する。

 

 目の前のグラスには半透明な液体が注がれている。

 凡人にとっては単なる濁り水にしか見えない、至高の飲み物がそこにある。

 以前飲んでいた神のアクアとは比べ物にならない程の絶対的力を与えてくれる力の源がそこにある。

 

 志を同じとする者達と目を合わせるという考えすらなかった。

 容器を手に取り、ただ一滴も零してなるものかと傾けた。

 

 ──反転する。

 生死が、万物が、ぐるぐる回って雲の中を飛んでいるようだった。

 

 燃料が切れていた体に流れ染みて、動悸が激しくなる。血を送り出すはずの臓器が神の力を流す器官となって、全身に流れていく。

 溶ける、溶ける、体の中の凡俗だった少ない部分が溶けだして消えていく。

 

 亜風炉(あふろ) 照美(てるみ)というツマラナイ人間が消える。

 アフロディと言う神の力を得たものへとなり変わって行く。

 

『……ふふふ』

 

 誰か、女性の声が聞こえる。あぁマネージャーだった、気を付けなければ直ぐに意識から消えてしまうような儚い女性だ。

 彼女が来てから、超神のアクアが渡されるようになった。偶然だろうか。

 それと、彼女が持つボールは少々カラフルというか、なにかおかしいような……、

 

 ──まぁ……どうでもいいか。

 

 酷く、心地が良かった。

 ずっと続けばいいのにと思っていたのに。

 

「……?」

 

 覚めてしまった。冷めてしまった。

 気が付けば僕はどこかの町並みの花を眺めていたのだと気が付く。

 

 ……ええと、そうだ。

 今日は確か習合と、雷門の練習試合があるから、丁度いいだろうと思ってお話しに……うんそんな感じだった。

 参ったな、その途中で道草を食ってしまったか。

 

「……まぁいいか、間に合わない訳でもないだろうし」

 

 これは任務ではない。単に僕たちと戦おうと無駄に足掻く者達を救おうと思っているだけ。

 神としての力を得た者にのみ許される慈悲。

 

 この慈悲から零れてしまうものが居たとしても、それは仕方がない事……おや?

 そんな風に考えていると、道の先に……うん。何やら奇妙な三つ子が歩いてきた。

  

「──はぁ……どうするよ。俺達のトライアングルZが全く通じなかったー……みたいなぁ?」

「僕の計算ではあそこまで力の差があるようには……」

「監督に呼び出し食らっちゃったし、一先ず学校に……」

 

 制服からして……えーと? 木戸川清修、だったかな。

 ……彼らも可能性として決勝に来るかもしれない所だったはず。

 

「……ん、おいあそこにいるのって」

「世宇子中の……?」

 

 うん、じゃあ彼らも──救済の対象だ。

 いやあ本当に丁度良かった良かった。

 一歩、跳ぶ。

 

「なっ、消え──」 

 

 何故か固まっている彼らに近寄り、話しかけた。

 

 

 

 

「──サッカー(救済)、してあげよう」

 

 憐れな人たちに手を差し伸べるのも、神の仕事だからね。

 

 

 

 

 

 

 




 土下座の準備は出来ている。


 アフロディ、世宇子中ファンの皆様に申し訳ないと思う気持ちは確かにある。
 けれど、まあいいかと思い決行する自分がいた。


~オリキャラ紹介~
・迅 颯(じんはやて):ソニック MF7番
 陸上期待の星が悪魔のサッカー部の一人になっていた。きっと陸上協会は泣いている。
 名前がようやく付いた。

 めちゃ早い。未来人による強化前世宇子相手ならヘブンズタイム(超高速移動)にも喰らい付ける。
 
~原作知らない人へのサポート~
・マジン・ザ・ハンドって?
 アニメではFF編最後に完成した、神をも越える魔神を出す技。
 エイリア学園相手ではスピード不足で使えなくなってしまったが、その力は絶大。
 鍛え上げた足腰ととあることを行う事で完成する。
 
 現在、円堂は重り特訓でアニメより鍛えられていたため木戸川を前に「あと一歩足りないマジン・ザ・ハンド」を使用できる。
 その力は未完成ながら、自分を抜いた監督、鬼道、豪炎寺による「イナズマブレイク」と同等。
 つまり強い。
 フェルタンステイ。

・青髪の世宇子マネージャー
 世宇子のマネージャーって夢小説の主人公とかでいそうですよね(無知)
 未来製のボール型多機能・時空コントロールユニット「スフィアデバイス」で洗脳、コスプレなどなどいろいろできる。
 また、未来技術を使い神のアクアを改造したようだがその目的は……?

・神のアクア
 製法とかゲーム見ても何もなかったので、今世界観では「宇宙より降り注いだ不思議な紫色の石に長時間浸した美味しい富士のお水」ということにしています。
 一体ナニリア石なんだ……!


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サッカーがそこにある日

今回は本格サッカー小説です


 天使と魔神のぶつかり合いだった。

 

 幻視した。雷神と形容すべき存在を円堂の背後に見た。

 

 ほんの一瞬で、煙のように消えてしまったが……あれこそが魔神なのか、名に恥じない姿。

 故に、だからこそ、今の状態は不完全だろうと理解も出来た。

 完成した暁には、足を引きずることすらしないだろう。数瞬の競り合いをも生まず、メアの一撃を止めていたに違いない。

 

 俺に越えられるだろうか、辿り着けるだろうか。

 焦燥が強くなった。それと同時に……なにか、座っていられない。自分を立ち上がらせる何かを感じ取る。

 

 気がつけば拳を握りしめ、ラインぎりぎりに立っていた。

 

「ぐぅっ!?」

 

 貫かんとした光弾と火花を散らす。

 ボールはゴールラインを跨がず弾かれ、反動で円堂のみがゴールインする。

 笛はならない。試合は続いている。

 

 俺はそれを見ている。

 ほらソニックが拾ったぞ、次はワタリのフェイントか!? それとも一号の速さの一撃か!?

 どうなるんだと未来を予測して、刻一刻と変わる試合を見ていた。

 

『──は、弾いた! シュートは入らず……円堂、メアの対決は両者譲らずかーっ!?』

 

「す、すげぇシュートだ……よぅしまぁだまだぁ!!」

 

「っ、やるね……!」

 

 シュ~ッと音と煙を立てるグローブを見て、円堂は驚きながらも笑っていた。転んで土に汚れた顔を拭くこともせず構える。

 地上に降りたメアもその迫力に一瞬怯むほど。けれどそれは決して怖さからではないだろう。何となく、そう思った。

 

「メア様……で、でも驚いてる表情もお綺麗で……」

 

「……す、すごい」

 

 少し後ろでメアファンの子が悶え叫ぶ。すっごい元気だ。

 連射する音も聞こえる。カメラで撮るのは……本人に許可取ってんのかな? 取ってなけりゃ部長辺りが注意するか。

 

 そして二号も慄いていた。彼も俺の隣に立って、目を見開いている。……いや、必殺技のひの字にも辿り着いてない俺がこんなこと言ったら失礼かもしれない……けどきっと、お前の八咫鏡も進化すれば止められる。

 

「(──俺はどうだ? ……部長はどう思ってんのかな)」

 

 ふと気になって、視線をボールの位置とは反対側へ向けた。

 仁王立ちしている、戦況の行く末をじっと見ているアイツを見る。

 

 見れば彼の足元から、腰から、小さく現れた龍と蛇とでなにやら話をしている。会話の内容は一切聞こえない。

 一体何の話をしているのだろうか。少なくともどうでもいい事ではなさそうだとはわかった。

 

 数秒、見ていれば……不意に、部長の首が動いた。

 

「──」

 

「っ!?」

 

 部長は、ただ無言で……こちらを向いた。それに釣られて蛇と龍がこちらをにらんだ気がした。

 思わず背筋が伸びる。まるで「お前ならどうする?」と問いを含んだ視線。

 

「どうって……」 

 

 返答に当てはなかった。

 ジミーの為だと言われてベンチに行って、試合の流れを少し見ただけだ。

 何か思いついていたわけでもない。

 

──だから……考える。

 改めてボールの方へ視線を戻し、考えた。

 

『流れるようなパスが一号へ、連続シュートのチャンスです!』

 

 あのマジン・ザ・ハンドは未完成ながらメアの一撃を防ぐ。パワーだけではかなわない

 では一号の光陰如箭。速さをもつあの技ならどうだろう?

 散々特訓した今なら反応できるが、それでもあの速さを防ぐのは至難の業だ。

 

光陰如ぜ ──っなに!?」

黒龍炎棘(ヘインヤッジ)……地上で溜めてたらこうなるのは当たり前ネ」

 

 駄目か。

 ブラックが腰を落とし、足をコンパスの様に廻しグラウンドに弧を描く。次いで発火、溢れた溶岩が直ぐに冷え固まり生えた棘が一号を崩す。

 ……いくら放たれた後が速くても、ああして無防備なところがあれば止められる可能性が高い。

 ブラックの様に早ければ、或いは張られていたら難しいだろう。

 

 ……必殺技は、ブラックみたいな隙が無い方がいいのかもな。

 そうじゃないと必殺技を発動するまでにかなりの手間を食う。

 

「おぉっとッス! そんで、ワタリさん!」

「っありがとうございます!」

 

『ボールは10番ワタリに、またもや習合のシュートチャンス!』

 

 じゃあワタリのような……フェイントを交えた、テクニカルな一撃はどうか。

 ちょうど一号からこぼれたボールをバングがすかさず拾い、ブラックにとられる前にとワタリへ渡る。

 

 パスを出そうと一瞬周りを見るが……ブラックが張り付いている一号、他の雷門メンバーが警戒しているメアには簡単には渡せないしメアの必殺技も少し溜めの時間がいる。

 その間に陣形を整えられてはまたマジン・ザ・ハンドで弾かれるだけだ。 

 

 だから一瞬、パスをする素振りをしてワタリが切り込んだ。

 羽が散る。

 

「こなくそっ……ぉお!?」

 

『これは……帝国陣営を翻弄したワタリの必殺技だぁ!』

 

「……フェイク・フェザー

 

 既に迫っていた染岡のスライディングを躱し、ワタリを空を飛ぶ。

 足にカラスの翼が生え、散って視界が途切れ……いつのまにやら増えた二つのボールがゴールへと伸びた。

 

 本来はパスとして使う技らしいけど……あれもかなり厄介だ。二つのボールの見た目に全く違いはない。両角から攻めたシュートへの対処に遅れれば失点も免れない。

 

「栗松、左を頼む」

 

「分かったでヤンス……ゥオワーッ!?」

 

『おおっと円堂! 増えたボールに対し、片方をDFに任せて着実に対処! 栗松も体を張ったナイスプレイだ!』

 

 ……と思ったが、駄目らしい。

 

 そこに威力と速さは共存していない。

 片方は円堂の熱血パンチで、もう片方は栗頭のDFがぶつかり羽となって消える。

 ボールは高くとんで……雷門ゴールラインを割った。すぐさま審判の笛が鳴り、腕はコーナーをさす。

 

『あーっとここでコーナーキック! 習合の猛攻に雷門イレブン防戦一方か!? それともここを凌いで反撃に出られるかぁ!?』

 

 ……いくら騙せても十分な時間があれば意味がない。時間を稼げてもあんな風に弾けるんじゃ難しいか。

 栗松は2回ほどボールの衝撃で地を転がったが……うーん。

 

──イテテ……パスの威力じゃないでヤンスゥ……

 

 このままでは防ぎ切られ、その内反撃のチャンスを与えてしまう。

 だから一点、まずは取りたい。取るためにはあの守備を打ち崩すことが必要だ。

 

 威力だけの必殺技じゃ同格以上にはキツイ。

 速さがあっても溜めに時間がかかれば効果は薄い。

 フェイントを入れても決め手に欠ける。

 

「……あれ、つまりは……()()()()()()()()()?」

 

 結論は簡単だ簡単。

──パワーとスピードとテクニックを兼ね備え、隙は無い……そんな必殺シュートだ。

 

「……い、いやそんなのあったら苦労しねぇよ……」

 

 自分で自分の頭を小突いた。

 だがこれが正しいというのは揺るがない。思えばメアと一号の天照はパワーとスピードを兼ね備えた必殺技。ここにテクニックと隙の無さが合わされば本当に手が付けられないだろう。

 

 ……ついでに付け加えれば、一発だけ撃てればいいわけでもない。サッカーは60分戦うスポーツ。継続性も大事だ。

 みんな……習合(ウチ)とブラックはバカスカ必殺技を使うが、雷門のほかの人たちはそうでもない。

 未完成のマジン・ザ・ハンドのダメージが大きいのか、時折円堂は右手を気にしている素振りをしている。

 

 うちの一番のシュート技である天照は一号の負担が大きいし、部長のドミネーションは本人は問題ないと言っているが使わせたくはない。

 何本も簡単に撃てることが必須だ。

 

 けど、そんな都合のいい必殺技なんてあるのだろうか?

 どうしたらいい。どうしたら……考える中でずっと試合が始まろうとしている。

 

 もう一度、答えを探すためにフィールドを見た。みんなはこの状況でどうしようとしているか教えてもらおうと思って、

 

「……?」

 

 心がざわついた。

 俺は、皆を見る。

 

 ソニックとバングはすぐに追いついて回して、囲んで吹き飛ばせるよう、足の柔軟をしていた。

 カガとアルゴが相手の隙間を探し、付け込もうと片や陰に潜み、もう片方は隣人の如く溶け込んでいた。 

 ウリ坊とトールは息を整え待ち構え、自分の力を完全に発揮できるよう力をためていた。

 周囲に指示を飛ばしながら、グラさんはスナイプする瞬間を狙っていた。

 

 ワタリは雷門の顔を伺い、どうすればうまくフェイントが効くか考えていた。

 メアはいつでも空高くに飛びたてる様、そして今度はマジン・ザ・ハンドを打ち破るべく小さく詠唱を繰り返していた。

 一号は先ほど邪魔された悔しさを燃やし、コーナーに向かっていた。

 

 ただその後ろで、ずっと部長は腕を組んで見下ろしている。

 助けはいらないと、皆に期待して任せている。

 

「……はは、そっか」

 

──楽しそうだった。

 

 ……部長一人だけなんか違う感じがしたけど。

 とにかくサッカーを楽しんでいた。

 力不足に悩んでいたウリ坊もその陰りは何処か、困難を前に晴れ始めている気がした。

 

「……」

 

 そうだ、サッカーを楽しんでいる。技が決まらなかったから、じゃあどうしようとみんな思いを巡らせながらサッカーを楽しんでいる。

 雷門もそうだ。まだシュートの一本も撃ててないのに対し、どうすればいいかと声を出し全力で挑戦しにきている。

 

 サッカーは負けたら悔しいけど、勝つと凄く嬉しい。そんで、その勝ち負けを決める試合中が楽しくない訳がない。

 いいな、いいな。そう誰かが呟いていた。

 

「──いいな」

 

 俺だった。

 気がつけば、スパイクの紐をきつく縛り直していた。

 ここに来てようやく、俺はベンチでじっとしていられなかったことの理由が分かったんだ。

 

 必殺技がなくたって、不意にあの日の部長の言葉がよみがえる。

 

『──あぁ、ジミー……お前に、必殺技の才能はない』

 

 その言葉は残酷だった。けどどこか、気が楽になった自分がいたんじゃないかって……今なら思える。

 

 部長はあの時、何か続けて喋ろうとしていた。

 メアのアクシデントで聞けずじまいだったけど……それがなんだったのか、今更聞くのは野暮だ。

 

 部長は俺に必殺技の才能はないと言った。

 それでもこうして部長は俺に尋ねてきた。だから、必殺技が答えではない。

 そんで、見ていれば皆が全力で挑んでいるのが手に取るように分かった。

 

 なんだ、ほんとのほんとに簡単じゃねーか?

 

「必殺技がなくたって、全力で……楽しくサッカーするだけだ」

 

 ……ただ「俺もサッカーがしたい」と思って、立っていたんだ。

 悩み事があったっていい。それはそれとしてサッカーを楽しむことを止めない。

 

 分からないから、とにかく全力で挑む。自分が今できることを全て試す。

 必殺技が通用しなくなっている今なら……そう思うと、「じゃあこれはどうだろう」「ダメ元でこれも」なんて浅い考えが出てくる。

 

 ……これが、部長の言いたかったことなんだろうか?

 どんなに強敵が控えてようと焦っても仕方がないと、お前の全力で挑めばいいと。

 

 もう一度、部長を見た。

 

「……」

 

 部長が、笑った。

 練習の後や登校……ご飯を食べる時、はしゃぐみんなに偶に見せる、心底安心したという彼の笑顔。

 

 だから、俺も心底安心した。

 

「(ああ俺はもう大丈夫なんだな)」

 

 俺もいつの間にか笑っていた。いつからだろうか……?

 戻そうと思ってもちっとも戻らない。これからのゲームの楽しさにおさまらない。

 

 彼が息を大きく吸った。

 試合を再開しようとしている審判に待ったをかける様、フィールド全体に届く声を出すため。

 

「──選手交代……9番、ジミー!!」

 

 叫んだ。腕を組んだまま、フィールドにベンチにいる俺にまでしっかりと聞こえる声で。

 

 俺は、鼻息をふかし腕をまくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──マジン……ちぃっ! ジンジンカミカミカミ腹が立つ言葉ばかり使いおって……おい契約者! ドミネーションして蹴散らすぞやはり!

──シュワシュワ……やろやろナガヒサ!

 

 いやです。というか君たちさっきもマジン・ザ・ハンド(未完成?)をぶち破ろうぞ! とか騒いでましたが実は僕ぅ、キーパーなんですよ……?

 

──別にキーパーがシュート決めるのはまずいなんてルールはないぞ長久よ

 

 お黙りコルシア。

 ロアフェルシアは痛みも何も無いから蹴っていいんだが……試合終了間近で負けそうだったらやろう。

 

 そもそもゴールキーパーが蹴る事態に陥るのもやばいし、それに……。

 

『さぁここで習合、12番の一号と変わって9番のジミーが入りコーナーキック』

 

「へへっ……!」

 

 ……俺なんかより、よっぽど信頼できるストライカーがいるからそんな機会ないだろうけどな。

 しかしコーナーキックに間に合ってよかったよ選手交代……練習試合だから少し大目に見てくれたのかな。これで「あ、じゃあキックの後交代してもらいますね」なんてなってたらすごい赤っ恥だった。

 

 改めて、遠くコーナーで笑っているジミーを見る。代わりにベンチに送られた一号がとてつもなく不満げな顔でこちらを見ているがスルーだスルー。

 ……とりあえず、必殺技の才能はない。の意図が伝わって本当に良かった。そうだよジミー。本来サッカーに必殺技なんて必要ないんだ。

 普通のサッカーをしよう。地味なのは全くもって悪い事ではない。深くうなずく。

 

──骨の手とか出してる奴が言うと一味違うのう

 

 お黙りトロア。暴れたかったのはわかるけど今それやり出したらほんとに空気が読めてないことになるから……!

 ……とにかく、今はジミーのシュートを見ようじゃないか。ほらすっごい気合入っているから。

 

「ぃよし……っ!」

 

 ──静粛。

 誰が指示したわけでもない。だが確かに皆感じ取った。もうすぐジミーが蹴ると。

 だから雷門は構えた。習合は直ぐにフォローできるよう走り出した。

 

「──!!」

 

 3メートルもない助走。軸足に重心が綺麗に乗っていた。

 ダン、とサッカーボールを思い切り蹴った時によく出る音がした。

 

 ボールは……斜めにループを描き、キーパーの真後ろ目掛けていく。

 ……地味だけど、上手なコーナーシュートだった。自分の頭の後ろというひどく取りづらい位置へ、見事に導いた。

 

 そして速かった。少なくとも、近くで見ている円堂の反応が少し遅れたほどに。

 だから彼は飛んだ。後ろに跳ねて、先ほどワタリのシュートを弾いた時の様に手を赤く燃やしていた。

 

「グッ!?」

 

 だが、それでもジミーのシュートは止まらなかった。

 俺は知っている。最初の頃から航空機のタイヤを思わせる如く重い……一撃で体が持っていかれそうになるふざけた威力のシュートだということを。

 だから、それでは止めきれない。

 知っていた。

 

「世話が焼け──」

 

 黒龍の棘がゴールラインに生えて阻む。

 熱血パンチをものともしないジミーのシュートが棘に触れた。

 

「ルッ、なッ!!?」

 

 ブラックが察し、それを阻もうとしていたことも。

 そして、見ても気が付けない、ふざけた回転数のシュートが……棘の壁を駆けのぼり、ほぼ無視する形で突破できるだなんてまったく。

 

 はははどうだうちのジミーはすごいですよねホント全く……。

 

 ……うん?

 

──……

 

 ……突破した?

 

──したなぁ……

 

 笛が鳴る。

 唖然と固まる皆。雷門だけではない、習合すら固まっている。

 ブラックなど信じられないものを見たような目で見ている。

 

「……あ、あれ?」

 

 ジミーすら固まっている。いやその、俺はやる時はやるとは思っていたよ?

 だからこそ励ましてたし、お前十分強いぞこのヤロウとか思っていたけれど。

 

 ただその……思いのほか、

 

 

「──俺、なんかやっちまったか?」

 

 

 やったなぁと。ジミーを見て思った。




~オリキャラ紹介~
・上条 翔 9番 FW ジミー
 元々強かったけど吹っ切れたせいでステータスバク上がりしたのかと思うほどのシュート。
 真正面から受ければ部長でもダークネス・ハンドで止めきれるか分からない。

 怖い


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契約確認する日

 仕事が休みになったりならなかったり腰痛用マットレスが駄目になってて腰が逝ったりしましたが一万円もする椅子を買ったので元気です



 

 

 

 

『またまた得点! 3-0で習合大きくリード! そしてホイッスル、ここで前半終了です……!』

 

 笛と実況の声が響いていた。疲弊した雷門イレブンを後目に、皆がジミーに駆けだしていく。元気だなぁ……。

 俺? 途中で一度放たれた黒龍炎弾止めるためにダークネス・ハンドと頭突きとドミネーションして疲弊MAXだよ。

 ちなみにドミネーションはメアへのパスとして使ったから得点はしてないぞ。そんでメアもやっぱりうまく必殺技を合わせられず。

 

 つまりこの三点は全部ジミーの仕業だ。怖い。

 あとハットトリックおめでとう。

 

──ナガヒサーおかわり所望

──手はフェルに治してもらい、コルシアの力で足は怪我もないではないか。何を言うとるか怠け者め

 

 あぁん!?

 ダークネスの方は体感三回分の骨折の痛みがあるし、ドミネーションは怪我しなくなったけどそれはそれとしてかなり痛いんだからな?

 頭突きした後は意識も薄くなるし、もう体力赤ゲージなんですけどぉ!?

 

 ……いや雷門を相手にしてこれだからかなり軽傷なんだろうけど。黒龍炎弾はトールが雷鳴一喝ぶつけてくれたからかなり余裕もって防げたし。滅茶苦茶熱かったけど。

 

──衣の中の肉汁がジューシーになっていた。またたべたい

 

 さよか。

 そんでキーパーの円堂さんがゴールから離れられないから、例のイナズマブレイクも打ててない。

 これは……さては勝ち申したな?

 

「やったぜ!」

 

「ナイスシュートだぜジミー! これで3点目だ!」

 

 グラさんとジミーが肩を組み合い笑っている。ちょっと楽しそうで羨ましい……じゃなくて、いやその……活躍しているのは喜ばしい事なんだけどね?

 吹っ切れたせいか、もう本当に手が付けられなくなっているといいますか……見ろよジミー、背後に隠れているワタリとメアの顔を。

 福笑い失敗した時みたいな顔してるぞ。

 

ねぇ、僕たち……いる? これ

3点目、殆ど一人で駆け上がっていった気がするんですが……2点目の時なんてあの部長のシュート合わせてダイレクトボレーしてましたし

それだよ……僕まだ全然合わせられないんだけど

 

 仲間が吹っ切れた喜ばしい気持ちと規格外のジミーの活躍に、皺くちゃになったピカチ●ウみたいな顔をしている。うける。

 ファンクラブの奴らには見せない方がいいぞ。頑張れ。

 あとドミネーションに合わせてのボレーは本当に驚いたな。構えてた円堂さんの必殺技間に合わせずぶっ飛ばすし。

 

「よーしこのまま押しきんぞ! ジミー、ウリ坊!」

 

「だな、トール! おっ部長、どうだジミー様のご活躍ー? フッフッフッ!」

 

「いぇーい部長いぇーい!」

 

 おっどうしたトール、ジミー、ウリ坊。早く休憩を……何故こっちに来る。

 ははは、そのままの勢いで抱き着いてくるな。ウリ坊は突進の構えを取るな。お前らの身体能力のやばさなんとなく気が付いただろ──ぉお゛ぅ゛っ!

 やめろ絞めるな死ぬ、呼吸が……! 上から下まで攻められて限りある体力が消えていく……!

 

あ、いいなあれ……こうなったらなんとしてでも真エンゼル・ブラスターを完成させないとだね。あと部長との合体技も早く完成させないと……名前決めた方がやりやすいかな? うーん蛇、龍、狼に合わせる様な……違うな総称して闇の力として扱って……カオスブラスター? なんか違うなぁ」

 

「私としてはフェイントの強化と……シュート技もそろそろ考え……聞いてませんねメアさん」

 

「ブラスター・ザ・エンゼル&デビル……長いな。正負の力が合わさり零になって、ゼロブラスターいやうーん? ダークネス・レイ……悪魔と天使って感じはあるけどしっくりこないなぁ。光と影が生まれたことをなぞらえて……ビッグバン、スーパーノヴァ。ギャラクシー……ギャラクティカブラスター……。うーんそもそもこれは失楽園に進化させるための技でもあるから……」

 

 なんかラスボスとかが使いそうな名前一杯考えてないで。

 お、おいそこ和やかに談笑し始めてないで助け……助けっ、ああもう駄目だ。

 コルシア、闇の力を使うぞ! ダークネス・ハンド作って下半身に執拗にタックルを繰り返すウリ坊だけでも持ちあげる!

 唸れ俺の右手、凶暴すぎる仲間をつかみ取れ。

 

──あのなぁ……

 

「わぁっ!? あははっ、冷たい!」

 

「ボス、それサッカー関係なく出せるのか……というか出せていいのか? すっげえ禍々しいオーラを感じるんだが」

 

 クレーンアームみたいなことして摘まめばウリ坊がはしゃいでいる。……やめて叩かないで!

 上手く動かすために触覚、ひいては痛覚つながってるんだよそれ!

 

──ところで、そろそろ一週間になるが……本契約するか? 具体的な変化は、貸し出している力の量が二倍になる。勿論我の力が増すたびに総量も増える

 

 え、ああそうかもうそんな時期か。いやーどうするかと言われても、もうこれを手放す気がない。

 エマと一緒に買い物行った時、エマから目を離すとあり得ない量を持って来て……指が千切れそうなくらい重かったからつい使っちゃったけど、あれは楽だったなぁ本当に。

 他にもちょっと届かない棚裏に落ちたものとか取ったり……闇の力が便利すぎる。

 

 なるほど、お試し期間と言いつつ力の深みにはまらせるコルシアの商法にまんまとはまったわけだな。

 

──……我の力を何だと思ってるんだお前は? あと買い物の帰り道の時、小さめに作ったつもりかもしれんが……ご婦人達がひどく怯えた目で見ていたぞ

 

 言ってよ!? バレるなよーって思いながらの帰り道だったんだからな!? もう回覧板とか回しに行けないじゃねぇか!

 マジックアームとして使っている件に関してはごめん。梯子取ってくるの面倒でつい。

 それでええと、本契約はしたいんですけど……お高いんでしょう? いきなり四肢が折れたり、寿命減らしたりしそうで怖いな。

 

──ははは間抜けめ、貴様が早々に死ねばまた宿主を探す羽目になるのだ。貰っても旨味の少ない代償など要求するか

──寿命はとっちゃだめだよーナガヒサは長生きしないと―

 

 そうなの? じゃあ一体何を要求するんだ? 晩御飯に果物追加とか……喜ぶのはフェルタンだなこれ。

 疑似骨で何度もウリ坊を高い高いなどしたりしている間に話を進める。

 

「ちょ……ちょっとぶら下がってみて良いッスか?」

 

 あっこらバングも掴んで来るな。持てる量は俺の腕と同程度しかないから二人は……いやそもそもウリ坊一人でも重いけどまだ小さいから軽いのであってお前は中学生の適性体重──そんなキラキラした目で見られたら断れない。

 何も言わないのを是としたらしくバングが疑似骨に掴まり足を地面から離した。

 肩が、肩が!

 

──求めるのは当然、怨嗟と苦痛。まぁお前なら試合に出続ける限り稼げるだろう? 故に、契約内容は──だ

 

 騒ぐ現実の光景とは裏腹に、コルシアはゆっくりと口にする。

 それは……なるほど理解した。中々に重い内容だ。

 

 ──まぁ払えないわけじゃない。今後の人生に大分関わるけど……いいよ、払おう。

 

──本気か? そんな簡単に決めていいことではないと思うが……

──フェルははんたーい

──妾はさんせーい

 

 二対一なので可決だな。

 ははは、しゃーないだろ。これないと今キーパーやるのもきついくらいだし何より、世宇子中の相手ができないんだから。

 しゃーないしゃーない。ベンチに置かれたままなんて嫌だしな。

 うん……契約する。

 

 だから──早く力貸しくれ。

 ……バングがぶら下がってるせいで本当に右腕が死にそうなんだ。

 

──最後の確認だ。これは我が力を貸している限り決して破ってはいけない契約。例え貴様がもう力を要らないと突っぱねようが──

 

「に、兄さんもしよかったら私も──」

 

「リーダー! それ僕も……というか乗るね!」

 

 二人の悪魔の言葉を遮るように、断罪者が現れた。絶望しかない。

 頼む持ちこたえてくれコルシアの力。じゃないと三人分の重みが俺の本物の手に降りかかって──

 

──むぅっ!? 天使擬きが来たぞ総員防御じゃ!

──ぐぇぁぁ! 浄化されている!? こいつまた天使に近づいて──ひっぺがせ長久!

──うぇー……いやな記憶おもいだすぅ……

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!

 

 シュワシュワしている! メアの体に秘められた光が疑似骨を溶かしている! 酸とかに手を突っ込んだらこんな感じになるのかな!?

 消えていく、闇の手がぁ!! 徐々に筋肉に負荷が増していく……あぁぁっ!

 重い、痛い、痛い、重い、痛重い!

 

 

 

 助けて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マジン・ザ・ハンド……!」

 

 その手は未完成だ。けれど知っている、その手が完成した暁には……我の炎龍の一撃だろうと防いでしまう。それほどポテンシャルを感じさせたものだということを。

 だから天使小僧の一撃を弾いたのも頷けたし、むしろそうでなければ困ると思ったくらいだ。

 雷神が進化することこそが、雷門の守りを盤石にする最短であり最良の結果だと思っていた。

 

「その技はもう何度も見たぜ……!」

 

 思い出す。

 入ったばかりの我に対し、暑苦しい程の笑顔で自慢をしていた奴を。亡き祖父が残したという秘密ノート。

 字が汚すぎて碌に読むことのできないページを開き興奮していた奴を。

 

 我の必殺シュートを五本ほど打ち込んだ後だから頭でもおかしくしたかと思った。

 ついでにもう三本ほど打ち込んでやった。随分と丈夫なバカだった。

 

『爺ちゃんの特訓ノートによると、ゴッドハンドを越える最強のキーパー技……!

手を掲げ……とか腰を落とす。()()()()()()()ってところしかわからないけど』

 

 そう言って奴は、心臓の辺りを汚れたグローブで軽く叩く。ノートには、左胸の辺りには鉛筆で汚く何重にもぐるぐると書かれた円が。

 ここがポイント、その見開きの中で唯一読める字で大きく書かれたそれが重要だというのは分かったが……。

 

 肺活量のことだろうかとプールに重り付きで沈めたみたり、

 胸筋のことだろうかと円堂の両手を五人五人で左右に引っ張り地獄の鬼のごとき所業をしてみたり、

 心臓のことだろうかと灼熱サウナと氷風呂を行き来させてみたり、

 

 せいぜいこのキャプテンは不死身か何かか? と疑問に思う結果しか出なかった。

 

 結局のところそれはどういう意味だと誰も理解できず、故に手を天に掲げ腰を落としといった他のことしか奴はマスターできなかった。

 それが今の不完全な必殺技。

 

「ぐっ、重い……!?」

 

『え、円堂なんとか上条のシュートを弾いた! ボールは高く宙へ!』

 

 だからといって、何も発現していないただのシュートと相打ちになるとはどういうことだ。

 ジミーと呼ばれた選手を、上条のことを見ていた。はたから見ても異常性は見受けられない。

 強者ゆえのオーラも、怪しい力の存在も、賢きものが使う技術の匂いもしない。

 

 だが恐らくは習合の中で一番のストライカーは奴だ。

 

 悪魔も天使も抑えて、ただの人間が一番だ。

 本当に同じ人間かと疑いたくなる。

 

 ……ともかく仕事をしなければならない。空にボールが飛んだという事は天使小僧の可能性が高い。目の前にいる銀髪からマークを外さないようにする。

 

 だが違ったらしい。

 視界の端、シュートをした後だというのにすぐさま高く跳んだ奴の背中が見えた。

 

「むっマズ──!」

 

「一回これ、やってみたかったんだよ……ねっ!」

 

 頭を地に向けたオーバーヘッドシュートが落雷の様に叩きつけられた。

 マジン・ザ・ハンドを使ったばかりで消耗している円堂の足元を通り抜ける。

 

「あぁっ!?」

 

『またまた得点! 3-0で習合大きくリード! そしてホイッスル、ここで前半終了です……!』

 

 ゴールを決め気持ちよさげに腕を振り上げるストライカー。

 着地もいつの間にか済ませ、高く跳んだ後だというのに何も気にせずフィールドを駆けまわり喜びをあらわにしていた。

 

 そして奴を囲む習合の者ども。

 副部長という肩書が、天使小僧と両翼の位置に置かれたFWという意味が、今ここで漸く理解できた。

 奴は化け物だ。部長が人の身を止め悪魔の力に手を染めようとしているからこそ余計に際立つ。

 恐らくは数年後、プロの世界を大手を振って歩く姿を幻視する。

 

 ──だからと言って、折れるわけでもない。

 

 我は誰だ?

 このままおめおめ祖国に帰り、敗北から何もを得ずに戦うつもりはない。

 

 我は「助っ人外国人」だ。

 そんな肩書を持つ我の心の炎が燃え上がる。

 全体を見回し、何かできることは無いかと頭は回り始めていた。

 

「……やはり正攻法の力押ししかない、カ」

 

 我一人でコースを狙ったところで対処されて終わりだ。鬼道などに任せても習合のDFに食われる……我一人では少し厳しくなっているほどに成長している。前提として「我を含む複数人が切り込む」必要がある。

 

 現段階で、雷門の最高火力は我の黒龍炎弾。準じてトライペガサス、イナズマブレイク。だが後者二つは円堂がゴールから離れないと行けないから駄目だ。こんなのは試合終了間際にしか使えない。

 我が円堂の代役をしても、結局は三人で一斉に蹴る技ではバランスを考えねば崩れるのみ。

 

「技の進化……簡単に出来るのはアイツラ習合くらいなもんネ」

 

 考える。

 我の必殺技は意地で防がれる可能性が高い。しかし、裏を返せばその意地を越えさえすれば到達できるということ。

 黒龍炎弾を改良すれば成る……が、ぱっと思いつくようなものでもない。

 

 なにかないか。

 

 フィールドを味わう様に一つ一つ考えていく。

 鬼道のツインブーストに合わせるか? いや鬼道の足が持つか分からない。世宇子中からの傷は完治しているが、古傷をえぐる真似はしたくない。

 一之瀬は巧みだが一人では威力に欠ける。どちらかというとボールを回す、習合で言えば帳塚のようなタイプだ。

 

「……」

 

「……どうしたブラック」

 

 肩で息をしているメンバーを見つめていき、豪炎寺がこちらの視線に気が付き近づいてきた。

 ……豪炎寺は気づきがよく調整もいい。いざとなった時に合わせやすい人材だ。ファイアトルネード、イナズマ落とし、イナズマ一号に炎の風見鶏。イナズマブレイクと多々ある合体技に参加している経験もある。

 本人のキック力という点においても優秀だ。

 

「足りない、カ」

 

「……? 何の話だ」

 

 だが、それでも我が合わせるにしてももう一歩欲しい。

 くっ、やはり数打って奴が悲鳴を上げるのを待つべきか。そう考えていた。

 

「おい、なにしてんだ二人とも。さっさと位置に……」

 

 悩んでいる我と戸惑っている豪炎寺の間に、染岡が割り込んできた。イタリアンマフィアみたいな見た目をしていかつい奴だがこう見えてサポートも上手い人物だが……さて。

 ……こいつのドラゴンは未だ未熟。キック力とコントロールはある程度両立しているが……求める水準ではない。それなりに頑丈なのは認めるが。

 

 最低ラインとしてでも……豪炎寺と染岡、この二人のいいところを併せ持ったような人物が──。

 

「……ふむ? おい染岡、豪炎寺──」

 

 ふと、我に良案ありだと言いたくなった。

 

「我とお前らで、双龙(ダブルドラゴン)としゃれこむネ」

 




イナイレのゲームがしたいです


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双竜顕現、食い倒れる日

いやほんとすみません



「……はぁ、これをやったのはアフロディさんですか?」

 

「うん、そうだよ? それにしてもこんなところで会うなんて奇遇だね」

 

 救済した人たちを見下ろして、彼女はただ微笑んでいた。

 日差しから肌を隠すためか、白いローブで頭を隠しているマネージャー。本当に意外だった。彼女は気が付けば近くにいることはあるけれど、まさか今日みたいな日に会うなんて。

 左腕に下げたバスケットをちらりと見て僕は、買い物か何かかと辺りを付けた。

 

 だが、彼女はむしろ自分の方こそ意外だと前置きを付けて、

 

「──()()()()()()、ですから♪」

 

 と言ってのけた。

 

「……そう」

 

 今日この日、この雷門中の近くで。

 

 僕は何も言われず、彼女は指示を貰っている。

 

 どこか、イラついている自分がいた。

 どうしてだろう? 疑問に答えることが出来ず、時計の針は進んでいく。

 一秒一秒が、狂うほどに長く、短く変化する。いやな感覚だ。

 

「それで、目的は?」

 

「……答える必要はないでしょう? アフロディさん、今日はお休みの日の筈ですしぃ……こっちのことなんて気にせず、ゆっくりお休みしてて下さい」

 

「いいや、マネージャーにばかりさせるのもね。僕が部長だ、協力ぐらいさせてもらえないかな」

 

 何かが渇いていく。

 知っている。水が足りない。協力すれば、総帥のお役に立てればこの渇きは抑えられるに違いない。

 笑顔を絶やさぬ彼女の目を見つめ続けた。

 

「……はぁ、こんなの予定になかったんですけれど」

 

 一瞬、彼女の眉が困ったように八の字に寄る。

 彼女が折れた。いいや僕が折った。

 袖から出した端末を何度か触り何やら操作をした後、彼女は僕に向き直る。

 

「あなたがいると大分荒っぽくなっちゃうかもしれないですし……まぁ、そっちの方が()()()()()に沿ってていいのかも?」

 

「……本来の歴史?」

 

「特別にお力をお借りしちゃいます♪ 名付けて、オペレーションαならぬオペレーションAfro。実行です」

 

 時たま訳の分からない事の言う彼女だが、今回のは更に訳が分からない。

 今度はこちらが困惑する番だった。 

 

 首を傾げ、結局何をするんだと言外に尋ねる。

 

「ふふっ、それは簡単……なんと──」

 

 だが、それもやめればよかったかもしれないと僕は直ぐに思った。

 協力なんてしたくないことを聞かされる気分なんて二度と味わいたくないとも大きく感じた。

 

 

 

 

「織部長久、彼を世宇子中に引き抜いちゃいます♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 違和感に気が付いたのはいつだっただろうか。

 後半開始のホイッスルを今か今かと待っている今? 違う。

 フィールドに入り、最後に確認をしていた時か? 違う。

 

 きっと、奴がフィールドに再び足を踏み入れたその瞬間だ。

 

「……この短時間で、更に悪魔と契約でも重ねたカ?」

 

 織部長久は、闇を纏っていた。漂う霧の様に重く、体に張り付いている。

 

 相手陣営から聞こえた、骨が折れるような叫び声。すりつぶされる怨念が放つ恨み、すすり泣きにも似た震動。

 それらを纏って、奴は再びゴールの前に立っている。

 はめたグローブの指の動き一本一本を確かめる様に眺め、何度もゆっくりと瞬きを繰り返していた。

 

『さぁ少しの休息を終え選手たちは気合十分! 雷門は3点の遅れを取り返せるのか! 実況は引き続き、角馬がお送りさせていただきます!』

 

 恐らく我の推測は正しいのだろう。何を感じ取ったのかは知らないが、こちらの可能性を前に、少しの油断も……油断していないつもりで、また深みに沈んだ。

 FWの天使小僧と烏小僧は心配そうにチラチラと後ろを見ている。ジミーは気にせずと言ったところか。

 

 ……こいつは、自分の弱点をまったく補わずに前に進んでいる気らしい。

 全くもって腹立たしい。ダークネスハンドで何か変わったかと思えば、心根は何も変わっていないようだ。

 

「はぁ……鬼道、開始と同時にボールを渡す。あの技を一度見せて欲しい」

 

「……何をするつもりだブラック。豪炎寺と染岡になにか指示を出したようだが……」

 

 そういえばほとんど説明してなかった。だがもうじきに笛は鳴る。話している時間はない。

 審判が構えた。

 

「なぁに……単に、新必殺技を試すだけ……ネッ!」

 

「お、おいっ!」

 

 だから、ボールを足蹴にして鬼道に渡した。

 軽く走るフリをする。

 

『さぁ後半キックオフ! ボールはまず鬼道から……おおっとさっそく帳塚たちが立ちふさがった!』

 

 幸先がいい。鬼道なら何とか押せるかもしれない相手だ。

 二度ほど我を見て、考えている場合ではないと走る男をじっくりと観察する。

 

「ソニックさんは私が仕掛けて浮いたところをお願いします!」

 

「合点承知の助とやらだ!」

 

 帳塚がスライディングの為に態勢を低くする。

 合わせてソニックが早速必殺技の準備に入った。雷門側にも緊張が走る。鬼道の体に微かな強張りが見えた。

 

「せいっ!」

ストーム──」

 

 とはいえパフォーマンスに影響はないだろう。その程度で足がすくむほどの小物でもない。

 足さばき、呼吸、蹴る力、ドリブルのリズム。

 そして何より、

 

ブリンガー……なにっ!?」

イリュージョンボール……!」

 

 両足で大きくボールを踏みつければ、そのまま破裂するかの如く三つに分身する。

 竜巻によって巻き上げようと、迅はどれが本物か見分けがついていない。

 

『ここで鬼道の必殺技が炸裂、ボールは風に運ばれ三方に散らばったぁ!』

 

 帝国のエースであった男の、必殺技。派手ではなくとも実に沿ったいい技だ。帝国の技は理論だてられていて、誰にも使えるように構築、磨かれている。

 だからこそ、今こうして実戦で観察できたのは大きい。

 

 確かに見た。技の原理も何となくだがつかめた。

 さて……本物は、こちら側に飛んで来たあれか。

 

「ソニックさん、本物はアレです!」

 

 むっ、帳塚も気が付いたらしい。流石に同じようなフェイント技を使うだけはあるか。

 だが……もう遅い。

 

 高く跳び、ボールを捕まえる。足で固く鋏み、逃がす訳がない。

 叫ぶ。

 

「染岡、豪炎寺、走れ!!」

 

「おぅ!」

「あぁ!」

 

 二人は声をかける前から走り出していた。なるほど、流石だと言わざるを得ない。

 下を見る、数メートルの高さ。下手に落ちれば怪我は免れないだろう。

 

『二人が飛び出した、これは……ドラゴントルネードの構えか!?』

 

 ちらりと織部をもう一度見た。何かを察したらしい、DFに指示を出そうとしている姿が見える。

 少なくともドラゴントルネードではない、もっともっと危険な何かだと勘づいている。

 

 我の思い付きが、閃きが、闇に沈む男にとって脅威であると正しく認識されている。

 燃える。ただ力強く、ボールを垂直に蹴り落とす。

 

 ついでに宙を蹴って、加速する。

 落ちるボールに追いついて……接地すると同時に上から両足で押しつぶした。

 

双龙(シャウロン)よ──」

 

 地面は熱を持ち、溶岩の海へと変貌を遂げる。

 ボールは弾ける。卵の殻を破いたように、龍が生まれる。

 

 片や黒い甲殻で覆われ、

 片や烈火も生ぬるい炎を纏い、

 

 産声を上げる。双竜は進む。

 

 黒龍は染岡へ、

 炎龍は豪炎寺へ、意思を持ってるかのように奴らの陣地の上を飛んでいく。

 

「なっ!? トール、ウリ坊、防ぐぞ! デッド……」

 

「もう遅ぇ!!」

 

 ああ遅い。既に構えているお前らの部長以外は間に合わない。

 金髪頭の横を走りぬける染岡たちに、龍の頭が届く。

 

「だらぁっ!!」

 

 黒龍が染岡の衝撃(クラッシュ)を秘めた蹴りを受け更に甲殻を固く、ひび割れたところからは棘が生えより強固に進化する。

 

「はぁっ!!」

 

 炎龍が豪炎寺の熱を持った蹴りを受け、更に熱く、マグマをも焼き尽くす炎へと進化する。

 

「……!」

 

 双龙がそれぞれ己の良さを伸ばし、飛んでいく。

 織部が拳を握りしめ、闇を集めている。さっきよりも多く、段違いに色が濃い。

 

 このまま双龙をぶつけても勝ち目は薄いだろう。

 

『す、すさまじいシュートが習合ゴールへ……な、なんとまだあるのか!?』

 

 だが、それに合わせて……我が駆け上がっている!

 フィールドの中央付近から一気にゴール前へと、真っすぐに加速し力を込めた足がある。

 

 さぁ双龙よ、父の元へと戻ってこいと大地を燃やし飛ぶ。両足を揃え宙を切る姿はさながら竜の顎。

 二つの龍を合わせ、強大となった黒炎の龍が口を開け、全てを焼き食らいつくさんと吠える。

 

 染岡と豪炎寺の唸り声に合わせて我も叫ぶ。

 

 

爆哮(バオウ) 双龙!!

 

 

 爆炎と黒鋼鱗の牙が、奴に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの時間が長く感じる現象が起きる。

 

 目の前は大火事、そして土砂崩れの様な質量。

 これなーんですか?

 

──ヒント、生命の危機による走馬燈的現象

 

 お黙りコルシア!! もう答えなんだよそれ!!

 いやほんと何なんですか!!? ただでさえ黒龍炎弾もギリギリ防げる奴なのに、何でここに来て新技ホイっと完成させてんだこのヤロウ!!

 謝れ、コルシアにそれなりに重い対価払ってようやく技が進化しそうな俺に謝れ!!

 

──むしろ契約で得た力で戦われているあいつらに謝るべきではないか? んん?

──満漢全席……!! 確実美味!!

 

 トロアさんご機嫌っすね。契約した覚えのない対価で飯来てますもんね……これ間近で見てるからまた力を蓄えられるんでしょう?

 そしてフェルタンは中国人みたいな発音にならなくていいから……。というかこれ見て美味しそうだと思えるのはほんと羨ましい……羨ましいか?

 

 ええと、とにかくなんとかしよう。避ける選択肢は()()()()()()()()で消えている。つまりなんとかして立ち向かう必要がある。

 今の手札はなにか、ダークネス・ハンド、サクリファイス・ハンド。そんでロアフェルシアドミネーション。

 サクリファイスは……コルシア、例の鯨さんみたいな分心体作れる?

 

──時間がかかる。もっと早くに言うんだったな。ちなみに貯金もさっきお前に力を与える為に崩したから、ぜっったいにサクリファイスは禁止だぞ

 

 ちくしょう……ここで使ったら折角の闇の力も消失するって訳か。サクリファイスはお蔵入り。

 ロアフェルシアドミネーションはどうだ? トロアも力増えてそうだしフェルタンも食べたがりだし行けるのでは?

 

──まあそれに見合った出力を出してもいいが、足を吹き飛ばしてよいものとするか?

──フェルタンは流石に飛び散ったら治せないかも~

 

 やめよう!! サッカー場でスプラッタなことになるのは! お子様の影響に悪いですので!

 じゃあダークネス・ハンドしかない……と言っても、

 

 改めて、目の前に迫る黒炎龍の巨大な顎を見る。生きているかのように脈動する炎、一瞬揺らめく炎の中に見える骨組みは黒い金属のようにも見えて、頑丈さをうかがわせる。

 ……今までのダークネス・ハンドじゃ一瞬でぶっ壊されて終わりだよな。

 

──肯定。例え100回やったところでフェルが噛みつく前に貴様がネットを突き破ること間違いなしだ

 

 つまり、つまりだ……俺も、技を進化させる必要がある。

 

ダークネス・ハンド……」

 

 片栗粉を溶かした水の様に重たい力を集め、疑似骨を作り出す。

 仮契約時よりも質が上がった闇はより固く、複雑な形にすることが出来る。

 

 闇の疑似手が出来上がる。以前よりも和らげる衝撃は増えているはずだ。

 

「(だけど、足りない)」

 

 黒炎龍の後ろで慌てて駆け付けようとしているメアたちの顔が見える。

 アイツらを安心させるため、部長として俺は更なる力を持ってこの龍を打ち崩さなければならない。

 じゃないと、メアたちにまた心配される。心配されれば試合に、練習に、部活に参加できなくなる。

 

──……おい? 大丈夫か長久。お前は深刻に物事を考えている時は大体うまくいかないんだ、気楽になれ

 

 ……大丈夫大丈夫。

 だから、()()()()()()()()()、もう一個手を作る。

 同じように、漆黒の手を作る。右腕に接続された疑似骨手の掌に突き刺さる。

 

 禍々しくも頼りない、頼れるように見せかける必殺技。

 ダークネスハンドの進化系。骨を増やすことで効果を高めたのだから、更に骨の手を増やすのは至極当然のことか。

 

──言っておくが、痛みは三倍どころでは済まない。気を失うなよ

 

 分かっているともコルシア、気を失ったら誰がゴールを守るんだ。

 

 より痛く、より怖く、より強くなったこの必殺技を何と呼ぼう。

 時間の流れが戻っていく感覚がする。

 どうしよう、進化したのに技名変わらんのはなんかダサい。例え生き死に関わってても格好良さは重視したい。 

 

『あ、あれは……新必殺シュートに合わせ、ダークネス・ハンドも進化したのかー!?』

 

 勝利を……犠牲の上に立つ勝利を得るための進化。

 そうだ、こう呼ぼう。

 

ダークネス・ハンド──V2!!

 

 頭にBGMを流しながら決めた。

 いやほんと、契約更新しててよかった……0%ぐらいの生存確率が少しだけ上昇したはずだろう。

 

 ……1%、あるかどうかだろうけど。

 

 叫びと共に突き出した手が、黒炎龍の顎と衝突し、一つ目の手が砕ける。

 同時に走る、三回分の骨折の痛み。折れた疑似骨手の痛みが、まだある疑似骨手、接続している強化した右手にも走る。

 

「──」

 

 ──。

 

 声に、ならなかった。

 叫ぶことも出来ずただ、痛みに耐えるため手を突き出す。

 龍はいまだ健在だ。

 

 二つ目の疑似骨手が、顎を殴ることなくかみ砕かれた。

 爆散する疑似骨、衝撃は和らげているのか? 分からない。引いてない痛みの中に走る二回分の骨の痛みが思考を奪う。

 

 とにかく、とにかくボールを殴れ。

 明滅する視界の中で、拳を突き出す。

 

──いただきます

 

 フェルタンが何か言っている。聞き取れない。

 シュートはどうなった。まだ俺は耐えられているのか? 右手の先にあるのは痛みなのか、そうじゃないのか、感覚がおかしくなっている。

 手の先に何かが触れていることだけが分かる。力を抜いちゃいけない事は分かっている。

 

 だから、叫んだ。

 ブラックが叫んでるから、染岡さんが叫んでるから、豪炎寺さんが叫んでるから?

 

 なんか、格好いいから叫んだ。力が入る気がしたから叫んだ。

 

「──」

 

 そうだ、声も出せなくなっていたんだと気が付いたのは、随分後のことだった。

 

──……多い。ナガヒサ、もっと時間ちょうだい!

 

 フェルタンが何か言っている。分からない。

 みんなの声がする。叫んでいる。部長って、呼んでくれているのかな。

 

 それならもう少しだけ耐えられる気がする。

 頼むコルシア、意識を、はっきりさせてくれ。

 

──……よかろう

 

 もう少し、もう少し──

 体が焼かれているのだろうか。牙によってかみ砕かれているのだろうか。

 消えた感覚を取り戻す、少しでも踏ん張るために消えた感覚を取り戻す。

 

 突き刺す、磨り潰す、焼き焦がす、切り砕く、全身の感覚を取り戻す。

 大丈夫、耐えられている。耐えられている。

 

 痛みで、コルシアの力が急激に増幅しているのだろうか。闇の力が永遠に湧き出ているように錯覚を覚える。

 使わせてもらう。壊れた右手に急増して疑似骨を生やす。直ぐに砕かれる。生やす、砕かれる。

 

「──ぁ」

 

 痛みが襲う。痛みに襲わせている?

 コルシアの力が増せばそれだけ有利になるのだから間違っていない。

 

──お、おいよせそれ以上は……!

「ぁぁあああ」

 

 喉に湿り気を感じる。生臭い。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」

 

 

 どうしてだろう、叫ぶ仲間の声が聞こえなくなった。

 烏の声は聞こえるのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ご、ゴール。織部長久が、ボールを抱え……ゴールラインを割っています』




初 失 点☆
技進化は勝利フラグらしいですが、今回は暗黒進化だったのでセーフ。



~オリキャラ紹介~
・織部長久 1番 GK
 思考は相変わらずなくせに、最近どんどん自分を犠牲にすることに抵抗がなくなってきた。
 今回彼がやるべきだったのは、二号がやった耐えている間に必殺技ぶつけろ戦法だったと思われる。
 頼りにしてても力を合わせなかったのが敗因。

・黒月夥瓏 
 思い付きで今作最強格の技の作り出した。
 下手をすれば裏世宇子にも通用する。というか決まる恐れがある。怖い。才能の申し子。
 
・謎のマネージャーβ
 かわいい


~オリ技紹介~

・ダークネス・ハンド V2
 織部が考えていたダークネス・ハンドの強化法の一つ。
 もう一つは恐らくお察しの通り、サクリファイスと組み合わせたもの。
 どちらも代償が大きすぎて、織部ですら扱えない。イナズマブレイクだって精神を保てれば止められる。
 でも双龙には勝てなかったよ……主にフェルタンの食事スピード的な意味で。

 未来に伝わる、禁断の技。

爆哮 双龙(バオウ シャウロン) シュート技
 バオウザケルガさんの親戚(適当)
 黒月がボールを二つに分割、染岡と豪炎寺がそれぞれ全力でドラゴンクラッシュ、ファイアトルネードを打ち込み成長させ、合流した所を黒月が両足で満月ラッシュの最後のごとく蹴り飛ばす。

 片方が上顎、もう片方が下顎になり最強に見える。
 メタくそ強い。強化アフロディさんの奴より強い疑惑がある。怖い。
 作者はネーミングに一か月近く悩んだりしなかったりした。


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契約の代償を払う日

すきなことだけでいいです





 この惨状はなんだ?

 リーダーが新たに悪魔と契約を深めた理由はなんだ。ジミーの優勢にうつつを抜かしている僕らを他所に、確かな危機感を抱いたからこそだろう。

 敵の新必殺技に対応も出来ず、ただ眺めるしかできなかったから引き起こしてしまった地獄か何かか。

 

『ついに決まりました……! 雷門イレブンの新必殺技、爆哮双龙(バオウシャウロン)が無敗の習合ゴールをこじ開けました!!』

 

「……ゴールが入った?」

 

 信じられない光景と、言葉。

 リーダーが負けた? 無理をしていたことは知っていた。休憩中にまた悪魔の力を増したことにも気がついていた。

 けど、そこから来る不安は決して「敗北」ではなかった。彼の体が壊れないかとか、また僕らを置いて行ってしまうんじゃないかと思っていた。

 

「お、おい……ボス、ピクリとも動いてないぜ……!?」

 

「ぶ、部長! 大丈夫か!」

 

 グラさんとジミーが駆け寄る。二人の呼びかけにもピクリとも反応していない。

 ゴールが入ったことにも気が付かず、勢いの止まったボールを抱えずっと立ち尽くす彼が目に映る。

 顔を伏せ、右腕の包帯には焦げ付きと赤い染みが見えた。重力以外には従わず、右腕は垂れ下がっていた。

 

 直ぐに蛇が巻き付いて、消えていく。

 赤い染みが消えていた。骨の存在をようやくそこで思い出した。

 

 間違いない、治した。焦げ付き焼け落ちた包帯の下に、真新しい皮膚が見える。

 

「部長! も、もう決まったから……ボールを放して……!」

 

「お、おい? 気失ってねぇかこれ……」

 

「……!? ……!」

 

 ウリ坊がボールを引っぺがそうとしてもがいている。

 喧嘩慣れしたトールが焦っている。

 カガは慌て、持ってきた救急箱の中身を散らした。

 

「お、起きろ部長!」

 

「だぁーっ! トールさんやりすぎっすよ!」

 

 よほど慌てたのか、トールはリーダーの肩をゆさぶる。

 彼の首が酷く揺れる。見ていたバングが悲鳴を上げた。

 

「──ァ?」

 

「……っ」

 

 そこまでしてようやく、リーダーが意識を取り戻した。トールは……彼の顔に何を見たのか、手を離す。

 それでもボールを固く抱きかかえたまま、辺りをきょろきょろと……ふら付いて、前のめりに倒れた。

 慌ててウリ坊が支える。カガも肩を貸す。

 

 ボールが落ちて、転がる。細々とした声でリーダーは、地面を見ながら尋ねた。

 

「……ま、け……たか?」

 

 たまたま、ぐるぐる回る彼の視線の照準が僕に合った。

 一瞬、両目ともが……黒白が反転した、悪魔の目に変わっている気がした。

 直ぐにいつもの半分半分に戻ったけど……それでも、それでも……あれは、本当にリーダーの視線だったのだろうか。

 

「(怯えて、いる?)」

 

「……! ち、違う。まだ試合は終わってないって! まだ3-1だよ! ()()()()()()なんだって!」

 

 ウリ坊が叫ぶ、それに合わせてグラさん達もそうだそうだと捲し立てる。

 僕も声をかけようとしてやっと、自分の足が竦んで全く彼に近づけていない事に気が付いた。

 怖かった。少し離れた位置で見えた、聞こえた彼を知るうちに……何かが壊れてしまいそうだった。

 

「だめ……だった、か……ご……め……──」

 

「部長? 部長! 部長!!」

 

 そうこうしている内に、また彼が意識を手放した。何も言えなかった。助けになれなかった。

 

「どうしようどうしよう! 部長が死んだ!」

 

「結論がはえ―よウリ坊!?」

 

 体の中、心の中の光が……とげとげしく変化していく感情を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 膝を曲げ、何度か屈伸をする。燃えているように熱い足裏を冷ますように軽く振る。

 

「ふぅー……今の技、もっと改良の余地はあるネ」

 

「あ、あぁそうだな……」

 

 染岡が居心地が悪そうに返答をした。

 豪炎寺などは彼方が気になってそもそも会話に参加していない。

 ……せっかく決めてやったというのに、まるで葬式会場ではないか。

 

「部長がまた気絶した! どうしたらいいの!」

 

「甘酒でも飲ませてみる?」

 

 強引に口を開けられ、甘酒を流し込まれている男が皆気になってしょうがない……いや気になるが。

 

 我が何をした。ただ単に強力なシュートを蹴っただけではないか。

 アイツが無理をして一人で受け止めようとして、その報いを受けただけではないか。

 

「ふふふ、フフフフ……」

 

「おいトール、エマ嬢を抑えろ。般若みたいな顔してんぜあの子」

 

 こう……もっと称賛する声が響いてほしいものである。評価は大事だ。

 かなりの偉業をしたのだぞ? 土壇場で必殺技を編み出し、決めたのだ。本国に持ち帰れば来期もスタメンは確実である。

 

 ……散々骨が折れても止め続けた男が今更どうにかなるわけもないだろう。

 苛立ちを込めてさっさと起きろと念じてみた。

 

「──いや、生きている。五体満足だ」

 

 はっきりとした声で、奴らのリーダーは無事を主張した。

 

 ……どうやら意識を取り戻したらしい? 今度は万全の様に見える。

 すっかり立ち上がって肩を回し、軽く手を握っては開いてを繰り返している。

 

「お、おぉ……? 部長、大丈夫か? 何かさっきまで世界が終わったみたいな目ぇしてたけど」

 

「心配かけたなジミー、われ──んんっ! 俺は問題ない」

 

 ……何か違和感があるな?

 似ているけれど、根本的な何かが違う様な。

 

「キャプテン……また無理をしましたね?」

 

「ああワタリ。そうだな……約束通り、ベンチに入るとする……キーパーを交代、二号!」

 

 ……キーパーを交代した? いやあれほどのダメージを受けた後だから当たり前のように思えるが……織部が交代を素直に認めた?

 それこそ骨折を隠してでも立ち続けた奴が? 意外とキーパーの立ち位置は気にしてないのか?

 

『お、おおっと! ここで習合はキーパーを交代するようです。雷門大チャンスか?』

 

 心なしか実況のトーンが落ちている。流石に試合中の気絶には驚くか。その程度で驚いていては世界では任せられんぞ。

 ……交代と聞いて、もう一度自身の足を確認した。

 

 まだ悲鳴こそ上げてないが……さっきの織部に感じた強烈な違和感に似たようなものが足に渦巻いている。

 これはいけない。

 

 事態を飲み込めていない我らのキャプテンの元へと向かう。

 

「……キャプテン、我も正直疲労が強い。練習試合という事もある、交代を願う」

 

「え、あ、そうか? わかった! それにしても、さっきのシュートは──」

 

 そう言えば、キャプテンは残念そうに、また点を決めたことを盛大に褒めつくしてから交代を宣言する。

 やれあんな威力のシュートは見たことがないとか、お前が作った流れは無駄にしないとか。

 後色々。豪炎寺と染岡も呼んでまた同じことを言いだしたり。

 

 ……うむ。

 まあまあいい環境だ。

 

 ベンチの少林とハイタッチをしながらベンチについて、試合の流れを見守ることにした。

 

……何やってんですかこるしっ──に、に……にい……さん?

 

……何も言うな……あのバカのせいだ

 

 仲がいいと聞いていた、妹に何やら睨まれている織部を横目に見ながら。

 何を話しているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 負けた。駄目だった。

 俺は結局何も成せなくて、醜態をさらした。

 心配そうに見つめていくれているのだろう皆のまなざしがどうしてか哀れみに感じてしまった。

 俺が弱い人間だってみんな知ってしまったかな。明日から練習は、試合は。

 

──……気をやっている間、体は好きに使うぞ。……いやならさっさと起きろ

 

 コルシアの声らしき何かが反響する。聞き取れない。

 そう言えばウリ坊が何かを叫んでいた。聞こえなかったけど。見れば考えていることは何となくわかった。一点ごときでそんな落ち込むなとか、多分そんなところだろうな。

 ごめん、それが俺の心の支えだったみたいだ。

 

──ふふっ、随分と一瞬で壊れたなぁ契約者。そうは思わんかフェル?

──……美味しかった!!

──寂しいのぉ

 

 トロアとフェルタンの声色だ。

 何を言っているのか分からないけれど、今はただ見知った声が聞こえるだけで安心する。

 

 多分どうでもいいことを話している。それもありがたい。

 

 …………

 ……、

 

 ……俺は今、何をしているんだろうか。

 何が駄目だったんだっけ。なにが支えだったんだっけ?

 負けた……何に?

 

 えーと、えーと……。

 

 考え事がまとまらなくなった。視界がぼやける。

 真っ黒だった世界に徐々に色が付き、何かが出来上がっていく。

 

──そうだ、せっかくいいものを間近で見た褒美をやろう。妾は優しいからなぁ、くふふ

──お、おいトロア貴様何を!

 

 ──。

 

 ……? 何か今、ノイズが走った。何だろう、まあいいか。

 ただ目に映るものに思考が揺れる。

 

 

『──!!』

『──!』

 

 うるさい気がする。四方八方から声が響く。歓声、煽る実況。

 ……下は芝生?

 綺麗な、青々とした芝生。寝っ転がったら気持ちいいだろう。

 

『さぁフットボールフロンティアもいよいよ最終幕の決勝戦! 会場の熱気は最高潮だ!!』

 

 フットボールフロンティア? 決勝か。

 じゃあ今俺は……試合をしているのか。気が付けばゴールの前に立っている。顔が上手く動かないが、少なくともベンチではない。よかった。

 

『ついにここまでやって来たのは雷門イレブン! ここで勝って、伝説のイナズマイレブン再びとなるかぁ!!』

 

 相手は……雷門か。そりゃそうだ。

 強いもんな。いなかったら怖かったよ。うんうん。にしても……最初の頃とはだいぶメンバーが違うな。

 帝国の鬼道、アメリカの一ノ瀬、中国の黒月。

 

「……」

 

『今回からはまたもや新メンバー、エンゼルストライカー! 勅使ケ原 明が加わっております! 』

 

 習合のメア……。

 

 ……えっ?

 メアがいた。フィールドの中央に、気が付けば目の前に。今にも泣きだしそうな目でずっとこちらを見ている。

 どういうことだ。俺が嫌になって、雷門に転校したのか?

 なあみんな、教えてくれ……。

 

 周りを見る。

 誰も、見知った顔がいない。

 

 ウリ坊は? カガは? トールは、ソニックは、ワタリは、一号は……あれ?

 あれ、その後姿。習合の赤黒いユニフォームなんて欠片もない。神々しさを表現するかのような白が……。

 

『対するはかつての仲間、デビルキーパー織部 長久!! そして──』

 

 何でおれは、こいつらと一緒にフィールドに立っている?

 

『神のごとき強さを持つ世宇子中!! そのキャプテン、アフロディ!!』

 

 おれは、習合の部長ですらなくなったのか。

 

 事実を受け止めきれないままに、笛が鳴る。誰も動かず、目の前のメアにボールが渡っている。

 彼が飛ぶ。

 

「──」

 

 三対、六枚の羽と天使の輪が今はただ眩しい。

 力がメアからボールへそそがれていく。あれが、真・エンゼルブラスターか?

 

「──」

 

 何かが違う気がする。

 ただひたすらに、何かを滅しようとする。救済の光を求めたメアのものからかけ離れたナニカに変貌していく。

 周囲の光がイナズマに変わり、暖かかったはずの光が痛みを与えてくる。

 

 体が勝手に動いた。

 何を考えているのか、何も考えてないのか、ただ体は闇をかき集める。

 

ダークネス・ハンド……V3

 

 淡々と読み上げる。全力の、全壊の一撃。三つの疑似骨手が蠢き全てを壊さんと空を呪う。

 だが無意味だろう。きっと通じない。どれだけ犠牲を重ねようが、届かない。

 

 だってあれはきっと、

 

「……デビルスレイヤァァァーーッ!!!

 

 俺を壊すための、助ける(ころす)ための一撃だ。

 

 落ちてくる。光が、イカズチが落ちてくる。

 ただ一つ一つが俺を、悪魔のキーパーを殺すために落ちてくる。

 

 ダークネス・ハンドなど何もできず消えていく。

 飲み込まれる。奔流に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 空を見ていた。

 ただずっと、手を握ってくれているメアも見えずに空を眺めていた。

 多分負けたんだろう。

 

 2-3になっているスコアボードが印象的だった。

 三点も入れられたのか。キーパー失格だなホント。

 

 ……部長でなくなったんだから、別にいいか。

 

 

──あぁ、メア。いるのか?

 

 声が出ていたのかどうかは分からない。

 喉がその時実体があったかも。

 

 消えていく、浮いていく。

 この体は何処へ消えるのか。何の代償だろうか。また無茶な契約でもしたのか。

 わからないけれど、心配事が消える。心配事をしなくていいという心配事が消える。

 

 ああでも、このグローブとかは大事にしてくれ。コルシアたちがいるはず……もういない?

 そんなバカな。多分隠れてるだけだ。

 

 まあいいや。最悪自分で何とかするだろう。

 

 息を吸った。

 天を眺めて、呪った空が恋しくなって、見せてくれたメアに感謝を伝えたくて。

 

──助けてくれて、ありがとうな

 

 そう言って、消えた。

 多分、満足していたんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──本当にそうなのか?

 

 どうしてか、空に飛ぶ烏が喋っている気がした。





Bad End No.66「迷惑野郎」





嘘です
次回からはコメディに戻ります(自分に言い聞かせる言葉)


~オリキャラ紹介~
・織部 長久 
 とある世界線では何かが原因で世宇子に寝返った。そのまま意気消沈した習合に勝ち、リベンジしに来たメアに滅ぼされた(サッカー)
 タチの悪い契約をしたようで、その後消えた。
 でも多分コイツのことなのでそのまま時間転移とかして白亜紀などに生息している。
 この世界線ではトロアが大分悪さをしている。フェルタンの姿を見かけない辺り、交渉決裂したのかもしれない。
 そして律儀に付き添ったコルシアは死にかけた。カスみたいになって生き延びている。

・メア
 とある世界線ではいきなり部長が敵になり、悪魔殺しの名を手にした。(サッカー)
 デビルスレイヤーを決めた後、習合の仲間たちと共に姿を消す。
 二週間後くらい後、簀巻きにした部長と共に帰還。曰く「ティラノサウルスにも効いたから多分あれも悪魔」
 詳しくはイナズマイレブンGOクロノストーン エンゼル/デビル/ヒト を参照(2XXX年 LEVEL99社より)

・コルシア
 ぼくナガヒサ。
 それはそうと体を勝手に動かしているのは「気絶しているのばれないようにして」というお願いジミた契約に準じたものなのだ。やろうと思えば寝ている時とかに散歩に出かけたりも出来る。
 
・トロア
 過去や未来を見せたりすることができるが別に勝手に見せてもいいのだろう?
 悪魔、怠惰のくせして悪魔。ニート。家の中でジャージでポテチとコーラ飲んでそうな悪魔ランキング堂々の一位。

 とはいえ見せた時点で未来は少しだけでも変わるため、厳密には未来は見せられない。役立たず。

・カラス
 コノカラダニモ、ダイブナレテキタナ


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女神邂逅、誰かがほほ笑む日

土日、火木で更新したい
嘘、本当は書き溜めがないので定期更新などできない


 昔はよく、あり得た未来を浮かべて、そうならなかった過去を吐き出しては泣いていた。

 ひどく不格好で、思い出したくもない日々だった。

 だからこれを知っている人が叔父さん以外にいたのなら、もだえ苦しむこと間違いなしだ。

 

 最近、過去を夢に見ることが減った。

 サッカー部を作ってからは碌に見なくなって、トロア達が体に入ってから少し見るようになったけど……それでも頻度は減っていた。

 

 反対に、未来を見ることは増えていた。

 

 みんなと楽しく、仲良く大きくなって、高校とか大学とか仕事とか、ファンタジーやらなんやら色んな夢を見る。

 夢だとすぐにわかる夢ほど楽しくて虚しいものはないけど、目覚めは酷く楽しいものだ。

 

 起きなさい、起きるんだ。

 声が響く。

 

 ……夢の中のカラスの声は、聞き覚えがある気がして、慌てて飛び起きた。

 男? 女? どちらともとれない。不思議な声だった。

 

「……」

 

 薄れゆく記憶に後ろ髪を引かれる思いをする。起きなければならないのに。 

 まだ寝ていたいよ。

 分かっている、わかってる……起きなきゃ……何なんだっけ?

 

──ア゙ー、ア゙ー

「……はぁ」

 

 

 低血圧の時にくるような頭痛、喉にものが詰まっているような違和感。耳鳴り。口の中に残る鉄の味。

 見上げれば、カラスが弧を描いて宙を舞う。

 獲物でも見つけたのだろうか。俺のことじゃありませんように。

 

 目覚めは最悪だった。

 それでも起きれたのだから良かった、のかな?

 どう思うコルシア。

 

──あぁ良かったと思うぞ。我はこれ以上エマの相手をするのは面倒だ

「あぁ兄さんっ、おはようございます! お体痛むところはございませんか? コルシアに何かされませんでしたか?」

 

 うんざりとした口調のコルシアの声が内で響く。水が震えそうなほどに響く音が外でする。

 見れば万人が自然と微笑んでしまうほどにかわいい笑みを浮かべている妹がいる。

 そうだ、これを見れただけでも良かった。

 

「問題ない、ありがとうなエマ」

 

「いいえっ! なによりです、今お茶を淹れますね……」

──ギゥェェァァァ

 

 ところで今すりこぎで磨り潰している変な植物は何? 

 悲鳴上げてるし顔が付いている気がするんだけど。マンドラゴラとかその類じゃない? 飲んで大丈夫?

 いや妹が淹れたお茶なんて飲むしか選択肢がないんだけど。

 

──その家族役割論理もだいぶおかしいぞ貴様……ふと思ったんだが、貴様の立場はなんだ?

 

 ……なんだろ? わかんない。

 兄でも、一人息子でも、家主でもない。何なんだろ。全部に満遍なくかかわっている様で判別できない。

 考えても上手くいかなそうだ。あとにしようそうしよう。

 

「……それで、ここは」

 

『後半10分、崩れた習合を切り崩して一之瀬が攻めこ──いや、ここでアルゴがいつの間にかにボールを奪っていた! 4点目につなげるか!』

 

 周りを見る。俺はベンチに腰かけている。

 エマの逆隣には一号が座っていて、二号のことを拳を握りしめ、活躍を願ってはらはらと見ていた。

 思わず二号が羨ましく思える程に。

 

「ン……? どうした織部、どこか痛むのか?」

 

 視線に気が付かれたらしい。

 いや大丈夫だと答えて観戦に意識を戻させた。

 

──ふーふふんふ~

 

『これは自然なノールックパス、バング追いついた!』

 

 一之瀬の鋭いパスをカットしたアルゴがさっさと渡す。

 少し離れた位置に出されたボールは走り抜けて拾われる。

 

──バング、例のをやるぞ!

──はいッス、ソニックさん!

 

 バングがすかさずドライブアウト。回転ゴマとなって雷門陣地を破壊していく。

 ソニックのストームブリンガーも合わせたせいで地獄だ。あ、グラサンの爆撃も混ざっている。

 

──グレートストーム!!

──デッド・グレネーダー!丸焦げにならないように気を付けなぁ!

 

 新技のオンパレード。蹂躙ともいう。

 バングが弾き、ソニックが巻き上げた雷門選手、かがんだまま手りゅう弾をバラマキ爆破するはグラサンかな。

 B級映画だってこんなこと起きねぇよ。よくファール取られないなあれ。爆弾を当てないで爆風で吹き飛ばすからセーフなのか……?

 

──技の殺意が心なしかいつもより増えているな。これほんとサッカーか?

──いいぞーやってしまえー! くははっ

 

 煽るなトロア。あとなんか無性に腹が立つからあとで目薬の刑なお前。

 濡れ衣かもしれんがこの目覚めの悪さに一役噛んでいる気がする。

 

 ……いやほんと、コルシアの言う通りなんか怖いな。グラさんは通常営業だが。

 ソニックとバングのグレートストームは……狩火庵中の時の奴を技に仕立て上げた奴なんだろうけど、それにしても竜巻高すぎないか? 相手が雷門レベルじゃなきゃ危ないぞあれ。

 俺だったら心の中で泣き叫ぶよ。

 

──理不尽じゃないかのう

──正当だが? ……あー、後で選手のメンタルケアをしておけ。その為にもまずはお前の精神を直しておけ

 

 ……そうか。つまりはまあ、そういうことか。……どういうことだ?

 よくわからんが励ましておけばいいのか。サンキューコルシア?

 

──ジミーさん……とみせかけてワタリさん!

──はいっ、そしてメアさん!

 

『バングからのパスを空中で受け取ったワタリ、そのまま蹴り上げパスが繋がるぅ!』

 

 がら空きになった雷門陣地で悠々とループパス。つなげて天高く。

 奇劇団かなにかかアイツら。今更か。

 にしてもあれだな。みんなすごいな。今もDF陣は攻撃中だってのに全く気を抜いていない。

 

 そしてボールを受け取ったメアからは……いつもよりも強い、攻撃への意思を感じ取れる。

 

──光よ……我が身から溢れよ、()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

──もう少し、もう少しでなにか掴めそうなんだ……!

 

 おぉ、ここでメアの技進化か。

 改の時点でギリギリだったんだ、真となれば未完成マジン・ザ・ハンドでは相手にならないだろう。これは決まった。

 

──今ならいける……いける!

 

 翼が六枚になったメアが空にいる。天使の輪も大きくなり、バチバチと散るイナズマが迎え撃つ相手を威圧する。

 まさしく裁き。エンゼル・ブライトを初めて目にした時の様な恐怖心から湧き上がる。

 

 ……? なんか見覚えあるし、違和感がある。

 

──力が不安定に感じるな

──ちからがびりびり~でもよわよわ

 

 あ、光が消えた。霧散する。

 

──真 エンゼル・ブラ──ってあれ?

──マジン・ザ・ハンド! ってえ?

 魔神の幻影がボールを受け止めることなく消える。役目を果たす必要が消えたからだ。

 

 6枚だったはずの翼が一つを残して消え、メアは慌てて地に降りる。

 その姿はまるで片翼の天使。残った一枚もか細く今にも消え失せてしまいそうなほどにボロボロだ。

 

『おおっと、これはミスシュートか。雷門ピンチを運よく凌ぎました』

 

 転がったボールがグレートストームで飛ばされていた雷門DFに拾われる。クリアされライン外にボールが飛んでいった。

 行けるかと思ったんだけどな。何が原因だろうか。

 

──精神だろう、お前が敗れた時に一番動揺していたのは奴だろうからな

 

 俺が敗れた時……敗れた、負けた……。

 ベンチ……居場所がなくなる……。

 

──今そこ気にするか!? 面倒な男め! 流せそこはもう、過去は変わらんのだ愚かな人間!

 

『さあ試合再開……今度は染岡のパスカット! ドラゴンクラッシュをパスに変えて攻撃だ! 鬼道と一之瀬が位置に付いている!』

 

 そうだ……俺は愚かな人間……いやなんかムカついてきたな?

 常人よりは少し強いと思うぞ俺は。あくまで超次元な奴らに比べるとあれなだけで。

 

「くっ、がんばれ鏡介! ツインブーストなんぞ敵ではない! 高天原の強さを示すんだ!」

──そうだそうだそのふてぶてしさを保て。あとそこの一号からマスクを奪い取れ、意味がない

 

 兄が弟を応援するため立ち上がる。素晴らしい事だが確かにもう正体隠す気ゼロどころかマイナスに入っている。

 そのうち正体を明かすのかと思ったがもうタイミング失っただろお前。

 

──っ、八咫鏡!

 

 そして……習合のピンチはゴールキーパーの二号に託される。

 

 

 

 

──ディープバイト!

──猪突猛進!

 

『鬼道達吹っ飛ばされ沈められたぁ! 恐るべしモンスターDFたち!』

 

 ことはなく、猪と鮫が構えられた鏡の前で暴れてぶち壊した。

 おかげでボールなど届かずただ綺麗な鏡が置いてあるだけ。ドレッサーかなにかか。

 そして弟が無傷で済んだものの活躍も出来なかった兄は何か言いたそうな顔をしながら座り込む。

 

「……技のスピードと精度は上がっているぞ、一号」

 

「……そうだな」

 

 とりあえず褒めておく。

 散々鍛え上げられた二号ならブラック相手でもなければ失点はまずないだろう。イナズマブレイクとかは分からんけど……。

 

──オラオラオラァ! どけぇ!

──ナイスだ、トール。パスパス!

 

 今度はトールが必殺技も使わず持ち前のパワーと体格で駆け上がっていく。すごい。ボールは直ぐに雷門側フィールドに運ばれる。

 なんだかみんなやる気が前半戦よりも倍増している気がする。やばい。

 ジミーが前でプレッシャーを放っているから円堂さんも前に出られない。ほぼ勝ちは決まったな。

 

──つまらんのぅ……結果の決まった過程ほど作業になるものはない。そうは思わんか

 

 トロアの意見に賛同するのはあれだが……本当にやることないな。

 技の改良とかを観察しながら考えようにも、大体言うこと決めてるし。メアのそれなんかコルシアに教えてもらっちゃったし。

 

──そう、予期しない物が無ければ全く面白くならない。全知全能な人間なんていたらそれはさぞつまらん人間じゃろうなぁ

 

 ……? なんかトロアが意味深だな。またなんか企んでないか?

 どう思うコルシア。

 

──こいつはいつだって神をどう斃すかか人間で遊ぶかぐらいしか考えてないぞ

──あぁん? 態度がでかいなぁ獣が。お前とてどう契約を結ぶか、の契約至上主義ではないか

 

──ナガヒサーお腹減ったから買い食いいこー

 

 二柱の悪魔が喧嘩を、手から小さい狼が、足元から小さい龍が現れ言い争いを始めた。せめて人の中でやってほしい。

 そんな時でもフェルタンは自由だな……。さっきやばすぎるシュート食べたでしょ?

 

──治すのに大分使ったからまだ腹六部ー【あ、エマちゃん。おべんとー……羊とかない?】

「ぅえっ!? ふぇ、フェルタンさん……びっくりした」

 

 いきなりシャツの下から蛇が伸びて口を開く。

 悲鳴を上げる事すらできなくなった草に熱湯を注いでいたエマが急須を落としかける。アブナイ。

 

「あっ、驚かせてごめんなさい兄さん! え、えーと……すいません、お弁当はあるのですが豚で」

 

 まぁそうだろうな。お弁当に羊肉なんて聞いたことがないし。

 今日のおかずは豚の生姜焼きとかかな。冷めても美味しいよね。……え、足丸ごと一本焼いてきたの?

 どこで手に入れたのかすら気になるけど聞かないでおくね。

 

【食べたいなぁ……エマちゃん取って来てー】

 

「えぇ……」

 

 お、おいフェルタン? いくらなんでも少しは我慢してくれせめて試合中ぐらいは──。

 

【えー羊ならそこらにいっぱいいるからさー……いいじゃーん】

 

 ……? この辺牧場とかあったっけか。

 流石に羊肉なんてその辺にないと思うんだが。

 

「──わかりました。兄さん、少し席を外しますね」

 

 え、待ってエマそんな本当に行かなくてもいいって。仮にいたとしても捕まえ方とか生肉持ってこられても困るし……!

 駄目だ行っちゃった。珍しいな静止すら聞かずに向かうなんて。

 あんまり無理言っちゃ駄目だぞフェルタン……?

 

──……おいフェルぅ、面白い事をするではないか

──なにートロアっち~♪

 

 トロアが少しフェルを睨む。トロアも豚派だったのか。今日はやたら意見が合う。

 後でエマが戻ってきたらかけるねぎらいの言葉でも考えておこうな。

 しかし、試合中にどっか行くなんてマネージャーとして結構あれなことをさせてしまったなホント。

 

「トールさんの大胸筋がチラリと見えた……! 永久保存スケッチ!」 

「メア様の憂鬱と怒りが混ざり合った顔がお美しい」

 

──……我らが出て来ても欲望に忠実なこの二人といい勝負だと思うが

 

 それな。トールファンとメアファンの子はエマと上手くやっていけるほど図太くて本当に良かった。

 あっ雷門のマネージャー達ドン引きしてる。

 

 ……流石に試合中に羊の調理とかはさせないようにしよう。イカレすぎだ。

 

──カカッ、そんな心配はいらんだろう仮契約者よ

 

 またトロアと意見があう。

 確かにそうかもしれない。だって、

 

『さあ後半20分、勝負はこのまま習合のものとなるのか!』

 

「その前に、試合が終わってしまうからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──本当にそう思っちゃってますぅ?」

 

 独り言を零す俺に、誰かが話しかけてきた。

 どこかで見た……あまり会いたくない女の子が、後ろに立っていた。

 

「……占い師?」

 

「こんにちはー、悪魔のキーパーさん?」

 

 ……じわりと肌着に冷や汗が染みて張り付く。いやな予感がした。

 

 

 助けて?




 
 今回も悪魔回、シリアスは出荷よー

 最近のゲームのスカウトって肉を投げつけた後に殴ったりしないんですかね。
 石を払うだけでいっぱいきてくれるんですけど、その後なぜかみんなまた石になるんですよね。

 素敵な仲間=石
 賽の河原にでもいる気分です


~オリキャラ紹介~

・カラス
 よくメッセージで尋ねられたりする奴。
 コルシア曰く「雑な思念体が憑りついている」程度。

・グラさん DF 2番
 チームの中で一番殺意が高い物。トロアと少し意見が合うかもしれないが、直接自分でやる派と遠巻きに眺めて楽しむ派なので一緒にしてたらその内抗争になる。
 一発一発の威力は他と比べると微妙かもしれないが技のレパートリーの多さは流石の一言。
 「習合の火薬庫」というあだ名がつく日もそう遠くない 。

・メア FW 11番
 翼が抜けたエンジェル(ストレス性)
 怒りは人の力を引き出す感情として優れたものではあるが、それは決して慈愛の天使の息吹には似合わない感情。
 拗らせたら悪魔殺しへと変貌する。

・コルシア
 最近サクリファイスされなくなってきたおかげか力もかなりついてきている。
 余裕が付いたのでアドバイス的なことも少し多くなった。

・トロア
 悪魔らしい悪魔。「予期しないものに翻弄される人間」の姿はかなりの好物。結果を知りつつも未来を変えようと必死になるのもそれなりに好き。
 過去を変えようとする奴は面白いけど嫌い。
 一番嫌いなのは神。

・フェルタン
 これでも最高位の悪魔。

・エマ
 伯邑考

・謎の占い師マネージャーβ
 逃げた方がいい


~オリ技紹介~
・グレートストーム(未完成) ドリブル・ディフェンス技 シュートブロック可
 バングの回転を更に強めたソニックの嵐が敵を吹き飛ばす。
 バングの微細な腕の動きだったりが竜巻に変化をもたらしきりもみ回転を引き起こすのだ。
 濡れた洗濯物を淹れれば多量の埃が付着するのと引き換えにそれなりに乾くだろう。

・デッド・グレネーダー ドリブル・ディフェンス技 シュートブロック可能
 デッド・スナイパーが単一相手に対する者なのだとしたらこちら対多数。
 爆風で相手を蹴散らし、疲弊させる。怖い。



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策士に恐れる日

仕事が忙しい日が続きます
そんな中だと逆に新作のこととか思い浮かぶのが皮肉なもんですね

「奴隷を買ったがイメージと違ったので返品したい」
ファンタジーものでまるで愛玩動物の如く適当に買った奴隷がなんか違う、とのことで本人に「返品していい?」と尋ねる話です。
9割9分9厘奴隷に丸め込まれます
「エルフ奴隷を買ったが加齢臭が酷いで返品したい」「ハーピィー奴隷を買ったが抜け羽がすごいので返品したい」「不幸が口癖な女の子奴隷を買ったら幸せだとか言い始めたので返品したい」「元騎士団奴隷を買ったがチョロすぎて心配になるので返品したい」「元奴隷商奴隷を買ったが、知りたくもない裏事情を暴露して来るので返品したい」「元幼馴染奴隷を買ったが態度が大きくなって来たので返品したい」

など。毎日8千字くらいかけねーかなぁ!!




 

 火炎の龍が吠えようと、届く前に雷に焼かれ銃器で打ち抜かれる。

 猪と鮫の猛攻をかいくぐり不意を突いた回転シュートは巨大な鏡で跳ね返される。

 そもそもシュートの段階にこぎつけられればたいしたもの、褒められたもの。

 

ドライブアウト、ッス!」「足元注意だぜ? デッド・グレネーダー!」「ふははは! ストーム・ブリンガー!」

「にひひ~ボールもーらった♪」「猪突猛進!」「雷鳴一喝!!」「……!」

 

 ブラックが前線から消え、攻撃に尖りがなくなった雷門では次元の差がある習合に対抗することは難しい。

 いくらガッツがあろうとも、心の要が破れ裏手に下がったとしても、その程度で覆せるのなら地区予選校全てが辞退などという事態が起こるわけがない。

 逆立ちしても、小細工をしても勝てぬ存在。

 

 それが求めた存在だ。力を得るためにこの身を投じた場所だ。

 

「そーらよっと!」

 

『なんだ?! コーナーから逆サイドへの逆バナナシュート*1!? ありえない軌道を描き雷門DF陣をボールが抜いた!』

 

 ……ジミーは置いておこう。あれはもう、次元が違うという域ではない。正直見ていると心が折れそうになる。

 下手に出来てしまいそうな技術の極限をホイホイ見せられるのは堪ったものではない。どんな脚力してるんだアイツ。

 見た目は単なる回転シュートのくせして何故……なぜキーパー前を飛んでいったはずのボールが曲がってゴールに突き刺さるのか。

 上から見たら釣り針の様な軌道描いているに違いないぞ今の。

 

「よっしゃ、これで4点目」

 

「すごいねジミー。正直僕もう少しひいてるよ!」

 

 メアに同意だ。お前まさかやろうと思えば光陰如箭並みの速度出せたりしないだろうな。出したら怒るぞ。

 

「くっそぉ~! あと少しだったのに!」

 

 相手の円堂とかいうキーパーも反応しかけているのが恐ろしい。

 徐々にマジンザハンドの魔神も幻影から実体へと色を濃くしてきている。

 習合が相手でなければ打ち崩すのが難しかっただろう。

 

「このままじゃ一点も取れないで終わる……! 何とかして調子を取り戻さないと、リーダーの体は今も地獄の悪魔たちにむしばまれて……!

 

 焦っているのはジミーにひいているメア。先ほどから急にエンゼルブラスターも使えなくなり、単に素早くスタミナが無尽蔵なFWになっている。

 いや普通に脅威だが。後何やらぶつぶつ喋っている。たまにある痛い時間だろう。

 しかしあのままでは流石に不味いかもだ。試合中の不調は試合中に消さなければ後に引きずる。

 折角あみだした天照が使えなくなれば、世宇子中を相手するのも危うくなる……かもしれない。

 

「……はぁ、おい織部。なにか声でもかけてやった方がいいんじゃないか?」

 

 こんなことを言うのもあれだが、見ていて忍びない。さっさとどうにかしろと隣にいる男に投げかけた。

 

 ……、

 …………、

 

 …………?

 

 返事がない。無視、な訳はなかろう。

 まさか織部の方も不調をきたしているのか? 先ほどの負けが響いたか?

 

「おい? 聞いているのか。おり──」

 

 視線を試合から外し、見た。

 いない。本来奴が座っていたはずの場所はぽっかり空いていて、チームの長の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「お、おい……織部の奴は何処に行った?」

 

 周りに尋ねてみたが誰も答えず、行き先を知ることはできない。

 いくらなんでもおかしい。アイツの妹なら先ほどどこかへ出かけたようだが、織部にはその様子もなかった。

 

 いやそれどころか、真横に座っていた男が動いて何も感じないはずがない。

 まししてやあの織部だ。同じ廊下にいるだけで「いるな」と把握できるほどの闇のオーラを放つことだってある男がいなくなってどうして気が付かないか。

 

「もっともっと点入れてよ、部長の奴が気にしないくらいにとってやるぜ!」

 

「頼もしいですね……気が付いたらあと五点ぐらい入ってそうで怖いですけど」

 

 点取りに、或いはもう一点も入れないと躍起になっている習合のものたちは部長の不在に気が付いていない。

 

 そうして進む試合がただ、異常な事態を教えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ムーブモード停止──スフィアデバイス、スリープ状態へ移行』

 

「大声を出したりしないでくださいね、少し邪魔が入らないように場所を移しただけですから」

 

 ボールが青く光ったかと思えば、景色が一変していた。

 彼女が持つサッカーボールは小さく音声を鳴らし、光を消す。

 

「改めましてこんにちは、世宇子中のマネージャー……ベータちゃんです♪」

 

 占い師が名乗った。笑い首を傾ける様は絵になるほどに可愛らしい。エマといい勝負だ。

 

 さてここは……屋上だろうか。雷門中の校庭が一望できる場所。

 見下ろせば皆が戦っている姿が小さくも確認できる。夢の世界……なんてわけではない、気を失ったわけでもない。

 

──空間転移? ばかな、単なる人間に扱えるものを越えている……ハマルファス、ラムーの力でも与えられたのかこの小娘は

──人間でいうオカルティックな力は欠片も感じん。奴らというわけでもなかろう。というかラムーの奴はとっくに死んでるだろうが

 

 コルシアとトロアがひそひそと体の中で話をしている。悪魔の力ではないようだ。

 ではそれこそ、天使や神のごとき力か? いいや、それならもっとフェルタンたちが騒ぐだろう。

 じゃあなんなんだ。一体どうやってここまで?

 そもそも彼女は何者で、なにしに今ここにやって来た?

 

「あらあら、そんな怖い顔しないでください。わたしは単に、お話に来ただけですから」

 

「話、だと? また悪い未来でも見えたか」

 

 以前は確か、そう遠くない未来で死んでしまうとかそんな感じだっただろうか。もうよく覚えていない。そしてボールを使ってこちらの精神に干渉してきて、コルシアが防いでさっさと逃げたのだ。

 そんな子が話があるとやって来てさらわれて、どうして緊張を緩めることが出来るだろうか。

 まあ可愛いけれど、可愛いだけでは流石に無理なこともある。

 

 自覚できるほど顔に力が入る。それを見て彼女は「やだぁこわーい」なんて軽くおどけてみせた。

 かなり肝が据わっている。

 

「話が早い。そうです、今のままあなたが「習合のGK」でいられると危ないので、鞍を変えませんかとお話に」

 

「なんだと?」

 

──うーん……この子、なーんか変な気配~美味しそうなのを隠している様な

 

 フェルタンのボヤキの意味は分からずに、彼女の言う事を察する。

 

 不意に、覚えのある景色が脳裏に光る。

 既視感……というよりかは、昔に見た夢を思い出す様に。

 

「単刀直入に、織部長久さん。世宇子中のゴールキーパーになったほうがいいですよ?」

 

「──」

 

 

 

 

 思い出し、辿っていた。

 

 帝国を前に、折れた自分がいる。サクリファイス・ハンドにたどり着けず敗北した自分がいる。

 試合こそメアの覚醒と皆の頑張りで引き分けに持って行ったがどう足掻いても皇帝ペンギンを止められなかった自分がいる。

 フェルタンがその時に目覚めた。けれど時間を稼げず意味はなかった。

 

 ワタリの父とはわだかまりが残りつつも和解出来た。簡単な部室も作ってもらえた。

 けれどきっとベストではなかった。分かっていた。俺が勝てば、ワタリはもっと心の底から笑えたのに。

 

 力が欲しいと願った。みんなに心配されない、皆の部長でいられるための力が欲しかった。

 少しした後、トロアがやって来た。体を壊すが一時的なブーストを得られるようになった。

 

 それでも足りない。

 だからか、俺はあいつに引き寄せられた。

 

【くっ、エマの奴こんなところに捨てるとは……いつか確実に仕返ししてやる。……うん? なんだ貴様、我の声が聞こえるのか?】

 

 心折れずに鍛え上げ進化した高天原とぶつかり合う前の事。

 捨てられたグローブを拾いコルシアを見つけ契約。編み出した……ダークネス・ハンドで勝利を手にした自分がいる。

 サクリファイス・ハンドの知識をコルシアから又聞きして作り出した。

 

 ようやくそれらしい必殺技を手にして、確かな手ごたえを感じたはずだった。

 ブラックも鯨の悪魔も出てこない。メアの一撃で殆ど片が付く。

 

 それでも結局、皆についていけなかった。

  

 地区予選を勝ち上がった後、誰かに話しかけられて……()()()()()()()()

 学校を捨て、家に鍵をかけ、地元を離れた。

 

 目に焼き付いて離れない。

 

 泣き出しそうに、もはや何も信じられないと言った顔でこちらをみる習合の皆を。

 世宇子のユニフォームを着て、棄権を促したことが頭から離れない。

 準決勝ではメアは一度も空を飛べず、5-0で世宇子が勝利した。

 

 そして決勝で俺はメアを加えた雷門を前に……もっと力を求めた。

 トロアと契約を結びトロアの力で更に闇の力を深めた。フェルタンは何も言わなかった。

 

 そして、そうして……そうまでして求めた力は、結局メアに焼かれて消えた。

 ……これが、これが未来の俺が歩む道だった?

 

 

 

──……敢えて言うなら、多くあった道筋の一つだろうな。結局のところ貴様は今、まったくもって違う場所にいる。参考にしても気に病むものではない

「──長久さん? 聞いていますか?」

──見せた未来を思い出したか。……それで、見た未来に一切いなかったはずのこの女はなんなんじゃ?

 

 女の子の声が二柱の悪魔で挟まれる。聞いているとも。

 

 世宇子に誘われるのは……確かもっと禿げた男からだった気がするが些細なこと、ではないかもしれない。

 ブラックが代之総中に雇われることがなかったように、狩火庵中のキャプテンが無人島を彷徨う事がなかったように。

 なにかとんでもないことが起きているのかもしれない。

 

 それでも、俺には知らなければならない事がある。

 

「……断る。俺は習合を離れることはない」

──そうだそうだーゼウス、なんて名前のとこいくなんてやだー

 

 思い出す、世宇子に誘われた時の、歩まなかった未来の俺の言葉を。

 口にする。

 そうすれば、スカウトにしに来た男は口元を歪ませ下卑た笑いを見せたはずだ。

 

「……え~本当にいいんですかぁ? これははっきり言って、従うしかほかない助言ですよ。だって──」

 

 ところが、目の前の女の子はこちらを本当に心配するような目で見る。眼を見て何となくわかる。少なくともこの提案は善意から来るものだ。

 ……いい人、と信じたいけれど、あり得たかもしれない未来の知識が彼女が次に口にする言葉を教えてくる。

 

 

 

「──従わないと、あなたのご家族や……ご友人に危機が起きちゃうかもしれないんですから」

 それこそが、織部長久が皆を裏切った理由だという事も知っている。

 ついていけないと、周りから心配されていた俺だけが出来る、皆を守る方法に手を染めた。

 何で裏切ったんだと聞かれても答えられなかった理由。決勝を前になぜか暴露されていた事実。

 

 スカウトマンは語っていた。自分が属する、世宇子の裏に在する男の力の強大さを。

 有望な選手は手駒にし、頷かなければ排除する。そしてそれがまかり通り、警察の手も及ばないほどだと。

 

 その男とは、かつて帝国学園の総帥を務めていた……。

 

「……影山の指示か」

 

「さーてどうでしょう? ……まぁ、少なくともあの人は……勝負の前に少しでも負ける可能性が1%でもあれば潰しにかかる性分らしいのですけれど」

 

 物騒ですよねぇ。と迷惑そうに眉を顰める彼女。やはりわからないと混乱するがひとまずどこかに置いておく。

 未来を思い出す。

 

「……もう周りに仕掛けているのか?」

 

 あの時は確か……そう、脅しは通用しないと強がった俺の前に、遠くから監視されている叔父さんの映像が端末越しで見せられた。

 指示一つで男たちが叔父さんを襲うと言われて、仮に防いでもそれが仲間に向かうと思ってしまって、頷いた。

 

「? やけに話が早い……まぁそうですね。今回は折角チームメイトさんも集まってますから、雷門中のいたる所に控えています♪」

 

 背筋が凍る。嘘ではないと目を見て分かった。

 彼女は優しい人間に見えるが、それでもやるべきことの為には犠牲は致し方ないと割り切れる人間でもあると気が付く。

 

「例えば居眠り中の車のサイドブレーキが外れちゃったり……水道に変なものが混じっちゃったり、こちらとしてもあまりしたくはないのですけど……」

 

 ……ここで彼女をかわし、周りに注意を呼び掛けてもどうにかなるものだろうか?

 トロアはそれに対し、ひどくつまらなそうに答えた。

 

──一般人にそれは無理だろうな、はぁー……つまらん

 

 そうだろうな……そうだとしたら、奇跡が起きても……例え今日を凌げても明日から毎日みんな……。

 叔父さんが、メアたちが……。

 耐えられるはずがない。心が、体が。ただこの身を売ればみんな助かるというなら。

 

──……んん? そういうことか……?

「まだ悩みますか? そうだ、監視についている人と通話をつなげてみましょうか。踏ん切りがつくかもしれません」

 

 ベータはポケットから端末を取り出し操作する。

 軽いコール音の後、つながる。

 

『……? こちらb-1 なにかあったか?』

「こちらβ。少々確認したいことがありまして……あなたは今誰を見ているんでしたっけ?」

 

 揺らぐ。

 せり上がる吐き気が、裏切りの言葉になろうとしている。

 浮かぶ、皆の顔が。俺を信じてくれていた皆の顔が。

 

 叔父さん、習合の皆……あれ、そういえば。

 

 

『? 俺は指示通り、悪魔のキーパーの妹を』

──フェルタンのだいしょうり―いぇいいぇいー

 

 エマの奴、どうにかできる奴がいるんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──ミィツケタ』

 

 麗しく愛しい妹の声が、少し低くなって端末の向こう側から聞こえた。

 ……男の悲鳴が数秒後に聞こえた。

 

 

 ……助けた方がいいかなぁ?

 

──長久、世界にはこんなことわざがある。人を呪わば穴二つ、とな

*1
カーブするシュートの事、ググると早いよ




 悪魔の妹から逃げるサスペンスホラーがはじまります(大嘘)
ようやくコメディに戻せる。




~オリキャラ一覧~
・織部長久
 いろんなルートを辿れるとかこいつぎゃるげのヒロインに間違いない。
 一応どの世界線でもコルシアとは出会うしダークネス・ハンドには目覚める。サクリファイス・ハンドは知らない。エマも知らない。

 それはそうと、弱点である仲間について。
 彼は今回の人生では心強い()家族のおかげで敵の魔の手に打ち勝てる。

・エマ
 ベータが知っている世界線では織部と遭遇していない模様。
 「いやなにの妹とか名乗っている人……」と思われていたようだが、織部があまり暴れないようにしていたようで正体が掴まれなかったようだ。
 ベータが影山さん的な石橋ヘリコプターで飛ぼう精神を持っていれば危なかった。

 それはそうと、実態持って生活している悪魔のやばさがそこにある。
 愛する兄を害そうとした相手に遠慮などいらない。


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悪魔たらしめる日

マスターモード祠、コログ集め終わりました(死んだ目)


『そもそも人間ごときが悪魔とその契約者に対してどうこうできると考えるのがおかしいんですよ。

だってそう、超常の存在なのですから。ただでさえ兄さんと契約している悪魔は三柱のうち二柱がこの世に現存する悪魔たちの中でも突出した存在。ついでに駄犬も一線級。

例えあなた達がいくら手を回そうが策を練ろうが意味はありません。人質? ええひどく無駄です。せめて今度からやるなら自己愛者や愛も畏敬のないロボットでも使ったらいいんじゃないですか?

まぁ結局のところ、もう尻尾を私に捕まれちゃってるので……無意味ですけれど♪』

 

 流れ出るは脳裏を溶かそうとする甘い声。通信機越しだというのに、その奥にいる悪魔の艶めかしさを想起させるもの。

 

 対岸の火事というのは酷く冷静にものが見えて楽しい。

 そんなことを語る悪趣味な評論家がいたのを思い出す。理由は何処か分からないでもないけれど、流石にそれを公言する気もなければ同意を示す気もなかった。

 

「……エマ、ほどほどにな」

『はいっ! 帰りにおやつを持って行きますね兄さん!』

 

 出来る事ならばそのおやつは倫理的に問題のない奴で頼みたい。

 それはそれとして、 

 

『こちらa-2! 他a班との通信が途切れた。なにか分からないか!』

『b-2、b-2! 応答せよ! 一体何を見た!』

『d-1より報告、こちらの近くにいるはずのないb-2ターゲットを確に──』

『おいふざけるなよβ! 何がただの家探しだ、こちら部隊は現在逃走!!』

 

 たしかに。

 通信機に矢継ぎ早に入ってくる怒号、悲鳴。慌てているベータちゃんを見ていると今までの不安と言うものが吹き飛んでしまう様な気がした。

 ところで通信内容的に各地で暴れているようだけどエマって複数人いたんだったけ??

 

──なに、一時的な分身。ついでに以前魅了した人間など使えば奴にとって他方での行動など生ぬるいものだろう

──エマっち増えようとすればサッカーチームだって作れるはずだよ~

──そういえば昔、目を付けた女を追い詰める為に村一つ全員自分の手駒にした事があったなあいつ。長久、気をしっかりと持て

 

 何それ怖い。分身なんてうちのチームだってできないのにナチュラルにしてくるのあの子? つまりもう逃げられないというわけか。

 いや可愛い妹を置いて逃げるわけもないんだけどさ。

 

「……っ! やたら素直だった理由は既に手を打っていたからですか。織部っ!!」

 

 何目の前の子めっちゃ怖い。さっきまでの妖しい微笑はどこへやら。

 まるで餌を食べる直前にお預けされて奪われた柴犬の様に……いやそれはそれで可愛いな。というか例えに犬はあんまり恐怖感でない。

 犬めっちゃ好きだし。動物に怖がられるようになった今の体質が無ければ将来的に叔父さんに許可取って捨て犬とか拾いたかったし。……コルシア、姿出す時もうちょっとコンパクトでキュートに出来ない?

 

──お前悪魔を何だと思ってるんだ……? 出来なくはないがやってやる理由もないからな

「どうやら、可愛い妹が気を利かせてくれたらしい」

──ナガヒサー、フェルもフェルもー

 

 はいはいわざわざ顔を出してアピールして来なくていいのですよフェルタンさん。さりげなくエマに指示出してくれてありがとうな。

 なんかお願い事とかあります?

 

──爆哮双龙おかわり

 

 いやです……。助けて。

 そうこうしている間にベータちゃんは一息呼吸を入れる。こちらを気にしても仕方がないと思ったのか、直接被害は加えてこないと思ったのか。

 

「……F部隊、何故逃走することになったか知らせてください」

『あぁ!? 言われた通り家に爆弾仕掛けようとしたら急にカラスが襲ってきて……時間食ってたら急に仲間割れが始まってボンッだよ! ついでに家の方は傷一つねぇ! 簡単な工作任務じゃなかったのか!』

 

 明らかに通信機の必要量を超した罵声。

 ……うん、というか言い草的にこいつ人の家に爆弾仕掛けようとしたのか? 俺の、家に?

 もはや対岸の火事とさえ思えた能天気な心にふと、どす黒い感情が生まれる。コルシア、糧にしてくれ。

 

──……ああ。しかし奇妙なカラスに、家も無事……やはりアイツか? だがあれは確かに致命傷を負ったのを我は見たが…… 

「? 分かりました。ではそのまま以前伝えた場所へ撤退を」

『ああそうさせてもらうね。もうひどい目に……あん? 変だななんで奈良に今コイツがいるんだ』

 

 まあ家が大丈夫で本当に良かった。そうかそうだな。きっと俺にとってあの家を少しで燃やされようものなら恭順どころかひどく悪魔らしいことを願ったに違いない。

 きっと世宇子の仲間に入るフリして全部自爆じみた形でウラ情報をばらまいたり色々していたことだろう。

 そう考えるとお互い助かったともいうべきか。

 

「F部隊? 状況を」

『……身を隠しているが現在、遠目にだが織部エマの対象を確認した。視認される訳もいかねぇから迂回──ぁっ』

 

 ……また一人、エマの戦果になった奴がいるようだ。

 すごいな。分身って東京から奈良にも飛ばせるのか。もうほんと日本全国逃げ場がない。それとも単に仕掛けがあるのか。

 ベータちゃんは通信機を握りしめ、急に応答が途絶えた……恐らくは最後の生き残り(比喩)であるF部隊を呼ぶ。

 

「F部隊? 応答してください……F──」

『いえ、問題ありません。失礼しました。これよりF部隊……()()()()()帰還します』

「えっ?」

 

 えっ。

 

──あぁ、やられたな。これでF部隊とやらは全員エマの手駒だ。この分だと他のもそうか……これがあるからエマを相手にしたくはないんだ

 

 そ、それってつまり魅了されたって事?

 あのいつもエマがやっているほわほわした魔術を全員食らった……? そうなると、やばいんじゃないかベータ陣営。

 

「ま、待ってください今何と」

『こちらa-1並びにa-3班。バックアップ部隊と合流。不測の事態ゆえ撤退します』

『同じくb-1から3班、行動を共にします』

『c,d班も共に……()()()()()()()()

 

──駄目じゃな。手先どもが何にも知らなければあるいは生き残れるかもしれんが、少しでも情報があればそこから芋づる式にオワリじゃ

──でた、エマちんのコウモリ戦術

 

 あ、なるほど。一人から十人に。十人から百人に。どんどん情報ぶっこ抜いて黒幕、影山のもとへと迫っていくのかぁ……。

 こわ。ベータちゃんが目に見えて焦っている。冷や汗がダラダラと流れ、今何が起きているのかを必死で理解しようとしている。

 魅了なんて、知識がなけりゃ仕方がないよな。いきなり仲間たちが不気味になったのだから。

 

「っ待ちなさい。指揮権はβにあります!」

 

 しかし通信機からは応答がない。無視されているようだ。

 魅了された人ってここまで変えられるのか……そりゃそうか。叔父さんも「エマちゃん? 長久くんに似ていい子……あれ、妹なんていたっけ……?」と中途半端に記憶というか常識が改変されていたもんな。

 役所辺りも唆したようだし……この現代人間社会において、力技ではなく根回しできるエマって一番やばい存在なんじゃ。

 

──まあいざとなれば自分だけ生き残ればいい。下の者の能力なんて受け付けない。という悪魔界隈においては見くびられるが……面倒すぎる存在だあの女は

 

 さようかコルシア。絶対兄妹喧嘩はしないと誓う事にするよ。

 ……そうこうしているうちに、ベータちゃんがまたサッカーボールみたいな機械を取り出した。

 あれかな、またワープとかして止めに行くのかな。いやほんとなんで悪魔の力も使ってないのにワープできるのか意味不明なんだけど。

 

『スフィアデバイス──時間停止(タイムストップ)モード移行』

 

 は?

 

──は?

──ほぉぅ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時が停止した世界というのは、絵画の一枚のように思えた。

 鳥は宙で静止し、微動もしない空と言うのはこの先行きがどうなるかわからないと不安を覚えさせる。

 

 体はまともに動かない。瞬き一つも出来なければ声を発することも。

 

『ベータ、今回の任務においてその機能は許可していないが?』

「……申し訳ありません。想定外の事態が起きたため、これよりムーブモードで事態を把握。マインドコントロールモード機能を使い各人より聞き出します」

 

 風の流れがないというのがここまで不気味に感じるものか。目の前で誰かに謝っているベータをみつつ考える。

 ……上司なんだろうけど、影山ではないことは確かだな。というか時間停止できるってその技術力使えばもっと別のことに使えそうだけども。

 うちの部室の重力装置だって画期的で最新鋭の機械だってのに、目の前のサッカーボールみたいな機械は一体全体なんだというのだ。

 

『手に負えない様であれば、現在別時間へ向かっている者を向かわせるが』

「っ! いいえ、それには及びません。このベータ……与えられたプロトコルは全うします」

 

 別時間? なんだその言い方。まるで……いや、まさかねぇ?

 そんなドラ〇もんじゃないんだから。

 

【──つまり、貴様らは人の身でありながら……時間の流れに逆らった存在。という訳か?】

「っ誰!?」

 

 気がついたら、トロアが顕現していた。足元の影からおどろおどろしく、止まった時の流れなど知ったことかと宙を泳ぐ。

 自分以外誰もいないはずの停止した時間への乱入者。驚き振り向いた彼女は、自分の頭上を埋め尽くす龍に恐怖を覚えた。

 

「なっ……あっ」

【その力を単なる小娘が扱う……時間旅行者にしては悪ふざけがすぎるわ】

 

──トロっち、めちゃくちゃおこってる

──まあ我で言うなら目の前で「痛みを自由自在に操りますぅ」なんて言われたような気分なのだろう。自分の領分を侵されたと感じたらしい

 

 一言一言が響く。停止した校舎すら揺るがす呼吸。

 ベータの血の気がみるみる引いていく。どう足掻いても彼女の手でどうにかできる存在のように思えないようだ。まあ初見で俺もこんなの見たらビビるかもしれん。

 でも普段ニートしてる龍だと考えるとあんまり怖くない不思議。

 

【……妾の前に時間遡行者に似た存在が現れたのは貴様で二人目だ。喜べ、血肉にする名誉を与えてやる】

 

 固まったままのベータに対し、大顎を開いてそのままトロアは頭を降ろしていく。

 ってちょっとトロアストップ! 流石に目の前で踊り食いなんぞ御免だぞ俺は!

 いう事聞かないと後であれだぞ、目を唐辛子浮かべた水で洗うからな。俺も苦しいからやめた方がいいぞ。

 

【……言い残すことはあるか?】

 

 顎を開いたまま話す。小さく尋ねればようやく呼吸を許されたかのようにベータが息を吹き返した。

 吐き出すばかりの息。一言でも無駄にすれば夢もない。

 

 視線が一瞬俺の方を向く。残念ながら今は停止中なので何もできない。

 

「……た、……った!」

 

 ベータは、重圧に耐えかねる。トロアの口から吹き出す生暖かい息に押される。

 ひざを折り、スフィアデバイスと音声が響いていた機械を床に置き。

 

 

「──助けて、ください」

 

 神に祈る様に、声を擦り出した。

 

 

 

 

 

 

 

【つまらん、食うのはやめだ】

 

 それ俺の、と呟けたのはトロアが軽く指を振り、スフィアデバイスを壊したとほぼ同時刻だった。

 





ヒント トロアは見栄っ張り
次回はようやく神のみぞ知るさんの活躍回です、信じて下さい



オリキャラ一覧

・織部 長久 GK 1番
地雷:友達、家族、家
 流石に時間停止中は動けないらしい。
 
・トロア
 未来視の力を授けたりしてくれる悪魔。故にか時間を変えようとする輩に対しては人一倍敏感であった。
 トロアは後に目薬の刑に処された。
 やろうと思えば時間停止に対抗できるのは悪魔としての格の大きさのせい

・エマ
 人脈づくりがとても得意なので敵に回してはいけない子。
 魅了するだけではなく、悪意を持って家に近づくものに混乱の魔術をこっそり仕掛けたりも出来る。
 裏切りさせるならお任せあれ。蝙蝠。

 ちなみに家の被害が0なのは身に覚えがないそう。

・カラス
 なんか家に悪さしようとしているのがいたのでつついたりした。
 家の守護鳥気取ったりしている。


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経緯を知りて神に敬意を払えと宣う日

最近更新しなかったくせに書き溜めている物リスト
・元ブラック鎮守府提督と潔白すぎる職場
贖罪を求めワーカーワリックになった提督を救うお話。え、家に帰っていいんですか? 26時間執務室か現場にいますよ?

・光の巨人ですがこのたび、右腕がフォークになりまして
死にかけて地球に不時着したら改造されまくり、実験されまくりの日々になったウルトラマンの話。グドンおびき寄せるんですか。
 ……えっ、囮として俺の腕をツインテールに?

・大逆転ざまぁ裁判
 「もう遅い」「婚約破棄して幸せになりました」彼らの発言に思い当たる節がない、やってしまったと頭を抱えた者に訪れるやりなおしの機会。
 怪しい発言する者にゆさぶりをかけたりハッタリをしたりなどして(都合のいい)真実へ向かえ

・奴隷を買ったが返品したいと思う
 奴隷に夢見るご主人と返品を受け付けたくない商人、交渉を仕掛ける奴隷。三者の戦いは続く。
 たいてい返品できない。

・俺は四天王の中で最もルーキー
 才能芳しく夢を目指した男。チャンピオンにはなれなかったけど、数年後に旅立つ10歳の少年少女に絡み指針を示す四天王のお兄さんにはなれました。
 そんな君にはこのバルキーの卵を上げよう。あとガントル進化させていたから交換してくれ。
 やや腐りつつあった男がマフラーたなびかせもう一度頂点を取りに行く話。

・鼻毛の悪魔
 ところてんが喋っている

・フーリー・ポッターと安酒5Lボトル
 これは知らん。多分昨日あたりにやけくそ書いた


 鳥は動き雲は流れ出す。グラウンドの方からは歓声が聞こえる。

 かくして時間停止は解かれた。

 破損し転がるボールが割れ、ネジやら導線やらが火花を散らしている。素人目であるが……もう使い物にはならなそうだ。ついでとばかりに破壊された通信機も散らばる。

 

「……」

──クハハハ! いい顔しとるのぅ、帰還手段はそれだけか? 仲間に伝えられず、人知れず過去で老いていくのだ!

 

 それを死んだ魚のような目で見つめるベータちゃんからしてもそう思う。弁償とかはできない、すまん。

 トロアがいるとは言え時間停止中に色々と考え事出来たのってなんでなんだろうか。

 

──今お前の左目はトロアのものに近しい。その影響だろう。一応我も抵抗した

──あとフェルのせいかも、むずがゆくてパーンって弾いたから

 

 悪魔との契約は便利だなぁ。おりべ。

 マインドコントロールもコルシアがどうにかしてくれるし、策はエマが封じてくれたし。おかげでベータちゃんの企みはほぼほぼ壊滅したと言って間違いないだろう。

 

「さて、俺が質問する番だ」

 

 ……時間が動きだした今、有限となった時間をかみしめるべく一歩踏み出す。

 少しばかりベータがたじろいだが流石は時間旅行者、肝が据わっているようですぐに気を取り直す。

 水色の髪が揺れて覚悟の決まった目になった。

 

「まず、お前の()()はなんだ。世宇子に協力をしてお前になんの利がある」

【吐いた方が楽だぞ小娘】

 

 トロアがまた足元より這い出る。

 今度は人間大の大きさではあったがやはり間近で見ると動物のそれとは違う質感。神秘的なのに何処か気味の悪い鱗のきめ細やかさなどがよく見える。フェルタンが黒一色、コルシアは滅茶苦茶凶暴そうではあるが現実的な狼なのを考えると随分と悪魔間でも違いは出るものだ。

 

──さりげなく貶していないか貴様。力を取り戻せばもっと凶悪な見た目にだってなれるのだからな?

 

 気のせい気のせい。愛くるしい見た目だよコルシアは。

 だからハウス。腕から滲みだし闇の力を震わせて抗議しないでくれ。急に腕がプルプル震え出したらアル中かなにかだと思われるだろう。まだ未成年です。

 

「……それを言って、私の命が助かるかもしれない以外に何のメリットが?」

 

 内側のやり取りに気づかないベータちゃんは……違うな、腕が震え出したせいで「答えなくばこの手で貴様を」みたいなイメージにとられたようだ。

 眉を一段と吊り上げこちらをにらみつける。すごい、命がかかっているのにこの胆力とは。さっきのトロアの脅しも予想できていればかわせたかもしれないな。

 

 メリット、メリット……と言っても相手のことが何もわからんからな。顔を見ても未来人故か全然読み取れん。

 賢い人の顔見ても考えや答えが理解できないような物だろうか。だがどうしてだろうか。

 

「……こちらの邪魔立てをしないものであれば、もう一つの目的にある程度協力しよう。帰す方法についてもな、トロアがやり過ぎたようだからな」

 

「っ、心を読んだのですか……?」

 

「そんなたいそうなものではない」

 

 尋ねれば、隠し事は出来ないのかと歯噛みした。どうやら当たっていたようだ。

 「二兎を追うもの一兎も得ず」、俺に対しての目的意識ともう一つなにかがある。感じ取れた。だから提案した。

 

──おい契約者? 妾は反対だぞ。未来の者が時間を書き変えるなど虫唾が走る

 

 トロアはステイ。そもそも未来人をこの時間に取り残したらそれこそ未来変わるでしょ。彼女に家族とか知り合いが居たら絶対悲しむだろうし。

 コルシア、時間を跳ぶ悪魔とか知らない?

 

──時間の跳躍は……生憎レガースぐらいしか思い当たらんな。しかも奴のはペテンであるし。

我の知人であるハマルファス、死んだラムーは空間の転移を力として持つ。可能性としてはあり得るだろうか

──レガース……あぁ、逃げた奴を呼び戻させて「彼の時だけ戻しました」とか、わざとその時よりも昔の言葉を使ってらしく演出してたあのワニもどきか

 

 悪魔にもワニとかいるんだな……少し前にヤンスヤンス言ってた鯨もいたし当たり前か。

 じゃあとりあえずハマルファスさん探してみようかな。どんな見た目か分かるか。

 

──マチマチだな見た目は。鶴だったりフラミンゴだったり……やたらでかいからわかりやすいが。前会ったのはエマに捕まる前、数十年以上前だから場所は知らん

──鳥の悪魔の子たちはおいしそうだよねー。デラビっち、ダンダリー、ドレアルにラムー……あ、ダンダリーは食べちゃったんだっけ

 

 さりげなく同族食いが起きていたが聞こえないものとした。人間だって争うのだ、食物連鎖ぐらい可愛いものだろう。

 鳥の姿をした悪魔のうち既に死んだのはダンダリーとラムーか。伸ばし棒が死亡フラグか何かなのだろう。

 

──ちなみにだが長久よ。デラビアは五芒星の模様が付いたツバメ、ドレアルは孔雀。ダンダリーは八咫烏、ラムーは小柄な烏だった。後はラットスか。やたら脚の長いフクロウの

 

 サンコル。ツバメとクジャクは可愛いかもしれないなぁ。フクロウは少しキモそうだ。……八咫烏?

 そういやうちのチームのマークは八咫烏だったな。何かご利益あるかもしれないしあったら感謝でもしておこう。

 ……なんだか、ダンダリーという言葉がよく頭に残った。

 

 コルシアがよくしゃべり、トロアは俺をにらみつけフェルタンはウネウネしている。

 はたから見れば異様な状態で考えていると、

 

「……分かりました、降参します」

 

 ベータちゃんが何を思ったのか肩の力を抜いてそう答えた。腕を組み最初にあった頃の余裕を取り戻したようにも見える。

 ようやく事件の全容が分かるかもしれない。

 

 半ば安心した。

 何故未来人に狙われたのか、知れば役に立つだろうとも思えたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来では進化し超能力じみた力を持った『S(セカンド)S(ステージ)C(チルドレン)』たち『フェーダ』が破壊活動を行っている。

止めるために未来意思決定機関『エルドラド』所属であるベータがこちらへ出向いた。

SSCは驚異的なサッカーの流行が原因と考えられるからこそ、その契機となる今年のフットボールフロンティアに手を加えることが必要と判断した……と?」

 

「ご理解が早いですね。流石はデビルキーパー」

 

 ……SSC遺伝子? セカンドステージチルドレンにフェーダ?

 すまねぇ日本語で話してくれ。ちんぷんかんぷんだ。正直君が話してくれた情報羅列しただけだぞ。

 サッカーが原因で人類滅びかかってるの??

 

「……それで、俺に何度も関わってきたのは?」

 

 でもその理由なら俺にサッカー止めさせたりする必要ないよね。フットボールフロンティアぶっ潰したいのにいち出場校の部長を止める意味とは。

 

「SSCの多くは優秀なサッカー選手の遺伝子が関わっているとされています。その道筋を辿る上で、エルドラドは織部長久を「発展途上だがSSCの素質を開花させている」と判断。可能な限りサッカーから遠ざける。もしくは管理、排除せよというのが()()

 

「? 俺がSSC……だと。身に覚えがないな」

 

 未来の組織に危険人物認定食らってるんだが泣いていいかコルシア。いやいや、SSCってサイコキネシスしたりテレパシーしたり人の何倍の身体能力もある化け物集団なんでしょ?

 みんなの練習に喰らい付くのが精いっぱいの俺がなんでやのん。どっちかというとみんなの方が認定出てもおかしくないと思うよ。

 ほらごらん、私はこの様に単なる人間でございまして。

 

 しかしそう言うとベータは「は? 何言ってんだコイツ」という顔をした。

 

「でも普通の人は悪魔と契約したり人の心読んだりしませんが」

──残念だったな長久。10割お前の負けだ。

 

 哀しい。何も言えねぇ。

 で、でも心を読んでるわけじゃないんだよ。単に皆の顔見て何となく考えてるだけで……事実SSCの話とかなんてベータちゃんから聞くまで知らんかったし。

 でもそうか、それ知らずに伝聞の形で残ってたら疑われてもしゃーないのか……。

 

「あとフェーダに貴方そっくりの人が居ますし」

 

 ……ちなみにSSCの特徴とかって他にあります?

 

「寿命が極端に短く二十歳程度で死にます」

 

 つら。

 そう言えば前フェルタン辺りが寿命伸ばすとか言ってた気がする。原因これかもしかして??

 ちょ、ちょっとそのフェーダにいるそっくりさんの写真とかあります? そう聞けばフェーダの何人かが集まっているのを隠し撮りした写真を見せられる。

 

 ……うわ、そっくりっていうかほぼ本人じゃん。せいぜいトロアと契約してないからか目が普通の色してるぐらいだ。

 なにしてんだ遺伝子を継ぐ者よ。おじいちゃんおこりますよ。

 

──あくまで遺伝子を継いでいるだけで、子孫とは確定してないからな?

 

 ハウスコルシア。

 

「……それで、もう一つは?」

 

「はい、こちらがメインミッションですが……単純にフットボールフロンティア開催を中止させてもいいのです。しかし「サッカーの人気を落とす」ことを目的とした時、よりひどい理由で二度とフットボールフロンティアを起こさせない。その為に世宇子中を強くすることとしました」

 

 さりげなく中止とか言わないでくれ。サッカーに対して普通の好感度の俺はともかく、他の命かけている連中からしたら憤怒するぞそんなもの。

 しかしそうか、世宇子中を強くし俺達の邪魔をするということは……決勝ブロックで雷門とぶつかりたいのか? 人気を落とすのが目的なら序盤より締めでやらかした方がでかいだろうし。

 

「ええご名答! 習合を操れるならそちらでもよかったのですが、貴方もいましたから」

──あの機械の精神操作。雷門のようなサッカー馬鹿どもには効かないだろうな

 

 彼女は語る。

 この時、どうしてか俺の方から目線を外しグラウンドの方へと歩いていく。屋上のてすりに体重を預けと話す様はさながら美少女だ。

 

「影山さんを帝国学園から早期に離れるよう唆し、狩火庵中に曰く付きの海図を渡し、世宇子中には未来の技術をふんだんに使い……」

 

「そこまでして、決勝でどうする気だ?」

 

「──潰すんですよ。選手の一人一人を、観客を、テレビの前にいる人たちの心を」

 

 だが決して美しいという言葉を付けていい程の所業で収まる彼女ではなかった。

 

「圧倒的力で、残虐なプレイで、執拗に悪烈に。誰が止めようとしても止まらずに。試合を見たものがボールを見ただけで身を震わす程に。なんてものを見に来てしまったんだと、何故こんな物に熱くなっていたんだと。そうすれば世界のサッカーに対する熱は冷え切ります。

これがエルドラドの決定なんです」

 

 残念ながら。と彼女は最後に付け加えた。その声色に嘘はなかった。だからこそ未来の荒み具合が脳裏に浮かぶ。

 しかしさせるわけにはいかない。とはいえ確かにSSCの暴走は止めなくてはならない。俺は何と言うべきだろうか。

 突如として目の前に現れた未来救済の問題は重い。思わず憂鬱になる程。

 

 皆の試合を見て少し考えよう。そう思い俺も彼女の方へ向かう。

 

「……でも、あれは止めた方がいいかもしれませんね」

 

 向かった。手すりに身を乗り出して、見下ろした。

 変だ、絶えず聞こえていた歓声がやんでいた。観客が半数……それ以上に減っている。

 

「なんだ……アイツは!?」

 

 雷門の皆が倒れていた。

 習合の皆も体をふら付かせていた。

 異常事態。

 

 グラウンドの中央に一人、黒い翼を持ったものが居た。メアか?

 違う。メアの翼よりもより鳥の羽に近い。だが大きい。

 三対の翼は彼自身を優に包み込むほどに一つ一つが大きく、放つ黒い光は見るものを絶望へと染め上げるだろう荘厳さを持っていた。

 

 

「──真・ゴッドノウズ

 

 極光は収束、球体となりボールを締め付ける。電撃に近い力の奔流。

 離れた位置の俺にも伝わる。

 

 ただ足を添える様に蹴り出され、二号の元へと向かって行く。

 

 二号は逃げない。破れたマスクを脱ぎ捨てて、一瞬たりともボールから目を離すものかと身構えている。

 見ればゴール付近には倒れ伏した一号がいた。大事な兄弟に対して動かない体を震わし、少しでも近寄ろうとしていた。

 

「っ! コルシア、トロア、フェルタン!! なんでもいいから飛べそうなの頼む!!」

 

 

 

 だから、俺は屋上から飛び降りた。 

 




次回、メアちゃんくんの元ネタが暴れます


~オリキャラ一覧~

・織部 長久 GK 1番
 彼の両親はとある神社に良く寄っていたらしいっすよ。
 そんでそこに祀られているモノに対して子供が出来ますようにとか末永く健康になりますようにとか色々お願いしていたそうです。
 なおこの神社は長久君が夏祭りで迷ったところであり、アルゴの実家でもあります。

 SSC遺伝子があるのかどうか寿命との関連は不明。本人試合中にいなくなっちゃったからね、仕方がないね。

・悪魔たち
 レガース ワニ。詐欺罪により刑務所にぶちこむ楽しみにしている。裁判も起こされます。
 ハマルファス コルシアとは知人ではあるが契約の裏をかくことが多いので好いてはいない。巨鳥として動物園にてぐうたらしているのは内緒。
 ダンダリー フェルタンに食われた後残りカスはその辺に捨てられた。泣いていい。
 デラビア フェルタンの部下。五芒星ツバメ
 ドレアル 変態
 ラムー 何でもないようなことで致命傷を負った後体を引きずり何処かに消えた。
 ラットス ハリーポッターブーム時は餌に困らなかったらしい
不和を招くことを得意とする


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確認をしたい日

前回までのあらすじ

 校舎から飛び降りる時はしっかり確認してから落ちよう


 誰かが言った、轟雷が驕りと共に猛り降りてきたと。

 俺は見た、神話の一ページの様だった。

 

 ジミーの地を抉り突風を起こす渾身のシュートを奴は片足で止めていた。

 奴の後ろを残し、砂が巻き飛ぶ。

 

「……神の降臨だ。頭を垂れなよ」

 

 円堂の目の前に突如降り立った神。俺達が反応できないでいたのが不服だったらしい。ボールを踏みつけ宙に浮かせたと思えば……そのまま奴はボールを円堂ごとゴールに叩きつけていた。

 マジンの手が顕現する暇もなかった。一瞬たりとも持ちこたえられず……いやもはやそれは、ただ唖然としていた円堂の手に当てたようにしか見えなかった。

 

 習合のシュートに喰らい付いてた円堂が反応できずに……その光景は、去年の俺がよく見てきたもの。

 あまりに素早いシュートを前に散っていったキーパーたちのよう。

 

「……」

 

 そう俺には見えていた。何の気なしの一撃が……俺の光陰如箭に劣らぬ速さだったのを。

 メアのエンゼルブラスターにだって負けてはいない風圧だったのを。

 ジミーの、必殺技と名付けられない必殺シュート。それすらも上回り実力差をその場の全員に見せつけた。

 

 こいつは、この場にいる誰よりも数段上の位置にいる。

 

「なっ、この!」

 

「……君は動かない方がいい」

 

 メアが駆け寄ろうとした。一瞥するだけで止められた。

 奴はつまらなそうに周りを見下して、メアにだけ一瞬気をやるがただそれだけ。

 

「悪魔のキーパーはいない、か……じゃあ──サッカーをしてあげよう」

 

 わらっていた。

 倒れ伏す円堂から転がってきたボールをまた踏みつけ威圧する。

 ベンチにいる俺ですら身震いするほどに感じる憐憫の眼差し。どう足掻いても……足掻くことすらできないだろうと侮っている、確かに感じた。

 不快だという感情が出る前に、「どうにかしなければ命が危うい」と悟る。

 

「楽しい試合に割り込んでくんじゃねぇっ、キラースライド!」

「アフロディ、貴様!」

 

 一番先に動いたのは雷門のDFの土門、そしてMFの鬼道。二人が帝国学園を想起させる動きで襲い掛かった。無数に蹴り出されるスライディングが相手ではどうよけようと足を取られるだろう。上に飛べば構えている鬼道がそこを突く。二段構えで確実にボールを奪い去ろうとする。

 普段ならやや危険なプレーにも思えた動き。

 

「これで──なっ、消えた!?」

 

 ……奴には蹴りから飛ばされる一粒の砂さえもかからなかったのだから、気にする必要もなかった

 気がついたら今度はこちらの陣地にいた。

 

「……はぁ」

 

 ため息交じりにまた周りをアフロディは見下す。

 ゴール前から瞬時にしてフィールドの半分近くを走った? ベンチで全体を眺められるはずの俺ですら動きが見えなかった。

 ……つまりそれは光陰如箭をも超えた速さ。ボールではなく人体のみで。

 

 何の前触れもなく出来るものか。人間に出せる速度ではない。

 衝撃で頭が鈍る。

 

「えっ」

「なんだと!?」

「……!」

 

 周りにバング、ソニックがいた。出現に気が付いて少し遠くにいたカガがフォローに入ろうと前傾姿勢になっていた。

 ようやくアフロディを見つけた鬼道達が追いかけようとしていた。

 

 風が、俺を前のめりにして倒すほど。近く置いてあったものを等しく倒す風が、フィールドに向って吹く。

 

「──ヘブンズタイム

 

 己だけの時間。奴が高らかに指を鳴らした。

 

 奴が通った後を追う様に集められた風が、皆を巻き込む。

 無理やりに集められた風は、圧から逃れるために()()()()

 

 雷門の殆どが、近くにいた習合の三人が、オモチャの様に吹き飛ばされる。

 ストーム・ブリンガー、エンゼルブラスターがそよ風に感じる程の爆風。

 

 その被害がひどいものはフィールドにすらいられずに近くの草むらに放り投げられ突っ込んでいく。

 悲鳴すらも気にせず、奴は習合のゴールに目指して歩く。わざとらしい程にゆっくりと。

 

「よう……随分ふざけた真似してくれるじゃねぇか……!! 雷鳴一喝!」

「ウリ坊、タイミング合わせていくぜ! デッド・グレネーダー!」

「お、おう……! 猪突猛進!」

 

 残ったDF陣も反抗した。これまで見た中でも最も強く密度の濃い雷、榴弾の雨が降った。それすら気にするものかと駆け抜ける巨猪の一撃が迫る。

 どんな優れた選手だってまず立つことすら困難なブロック。

 だがどうしてか、少しも安心できなかった。

 

「その程度か」

 

 だが敵わない。全てが見えているようにゆっくりと歩いていく。紙一重に、けれど服の一糸も擦ることなく。

 爆風を躱し、雷は自然に避けていくように見えた。巨猪が目前に迫る。

 

 煩わしいと思ったらしい、姿がぶれたかと思えば……ウリ坊がボールと共に空を舞っていた。

 気が付けばトール達にもボールがぶつけられ吹っ飛ばされた。

 ゴールががら空きになる。

 

「ぐ……八咫鏡・改!」

 

「歪んでるね?」

 

 弟が出した、以前に比べ大きく装飾豊かになった鏡が、真実を映し大きく未熟な力を跳ね返す鏡が。

 耐えることなく割れる。奴のシュートを映す事すら辛いと破片の一つも砕け散る。

 

 己とゴールを守るすべを失った弟が、叫ぶことすらできずにネットに叩きつけられた。

 

「鏡介っ!」

 

 叫んでいた。反応はない。

 

 ボールが転がる。奴の足元に。

 また、周りを見下す。被害をあまり受けなかった者達が唖然としている。

 倒れた男たちが再び立ち上がろうとしている。

 

「……いいよ、わかるまで()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは乱戦。介入してきた奴からボールを奪うべく、雷門も習合も関係なく奴に喰らい付こうとした。

 控えだってお構いなしだった。何せ交代する暇もない。なんなら外には飛ばされそのまま倒れたままのものもいた。

 

 俺も出ていたはずだ。弟をよくもやってくれたなとフィールドに入った……。

 だがいつの間にか地面を舐めていた。何が起きたかそこから先は覚えていない。

 

 痛くないところのほうが少ないと思うほどに疲弊した体。

 今どこに倒れているかもわからない。

 

「さあ、これで終わりだね」

 

 音が聞こえる。アフロディだ。近くにいるはずだ。

 弟が近くにいる気もする。じゃあゴール近くか。きっとそうだ。

 

「畏れ多くも神の名を使う様な身の程知らず……しかもこの僕の前で、だがそれは無知によるものだろう」

 

 力の奔流を感じる。大地が鼓動している。

 

「無知は罪だ。しかし僕は寛大だ。罰の代わりに……神の叡智を見せてあげよう」

 

 まずい、とにかく弟の近くに行かなければと体を動かす。

 何が不味いのかもわからないけれど、弟を守らなければいけないと心の底から思う。

 

「──真・ゴッドノウズ

 

 光が、光が動き出す。

 弟へと、少しずつ堕ちていく。

 動かなければならないのに、立ち上がらなければならないのに。

 

「や、たのっ……かがみ!」

 

 よせ、鏡介。呼吸にもならない息が吐きだされる。

 

 弟の叫びが聞こえる。わかる。それが強がりに似たものだと、鏡の一欠けらも出せていないと感覚的に。

 立て、走れ、情けない頭を地面に叩きつける。

 

 ──ことすらできない。

 指一本砂をかくだけだった。

 

 

「ぐっ、ぅぅゥゥウウウアアアア!!」

 

 弟の雄叫び(ひめい)が聞こえた。

 だから、だから俺は祈った。

 

「……ぉ」

 

 傲慢で人の痛みも知らない神にではない、

 頼りにしていたが破れてしまった天使にでもない、

 

「っ織部えぇぇッッ!!」

 

 ひどく恐ろしく遠くにいて。それでいてどこか、俺達の近くにいようとする悪魔を呼んだ。

 

 

 

「──すまん、遅れた」

 

 弟の近くで声が聞こえる。

 だから、癪にも思えたが、安心する。

 

 

 冷たくも優しい風が体を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翼を何度か上から下へと降ろし、ゆっくりと降り立つ。

 切らした息を悟られぬよう、痛い肺を無視してゆっくりと呼吸をする。

 

「……へぇ、君は賢いんだね。ゴールじゃなくてそっちの子を助けるなんて」

 

 わきに抱えた二号を一号の上に乗せる。ぐふっと声が出たあと、二人とも気を失ったようだ。……兄弟の絆ってすごいなぁ。一安心。

 大きく吹き飛ばされたゴールを後目に見つつ、来訪者を見る。

 

「世宇子中キャプテン、亜風炉 照美(あふろ てるみ)か」

 

 メアよりも金が混じり輝く髪。左腕の裾に巻かれた草冠モチーフのキャプテンマーク。白を基本としたユニフォームの上から肩から反対側の脇へと掛けられた布。

 目につくものばかりだが……一番気になるのはその後ろで羽ばたく黒い翼。

 ハッカチョウ、カラス。動物的なものとは違う。

 

 こうあるべき、と定められ作られた。上等な美術品に近しいはずのそれは、どこか下品にも思えた。

 

「アフロディと呼んでくれたまえ。悪魔のキーパー……織部。長久、の方がいいかな?」

 

「……お前が俺の名前を、苗字も口にしなければ、な。ひどく、虫唾が走る」

 

「そうかい? それはありがたい。君の名前を覚えるのは嫌だったから丁度いいよ」

 

──珍しいな、お前がそんな言葉を口にするとは

 

 そうだなコルシア。今俺は、ひどく怒っている。

 メアが、ワタリが、ジミーが、バング、ソニック、ウリ坊にトール、カガにグラサン、一号,二号。

 そして雷門の皆……大事な仲間たちと、知り合いをこんな風にされて、怒らない奴がいるか?

 

──いたらきっとそいつは、目の前の男の様な顔をしているのだろうな

「一つ聞く」

 

 歩いて、一号達から離れる。

 もう後ろには守るものはない。

 

「なにかな?」

 

「これをして、楽しかったのか?」

 

「……いいや? 少しも面白くなかったかな」

 

 何を聞かれてるかも分からないと、亜風炉は首を傾げた。

 それを見て俺は言い捨てた。

 

()()()()()()。神の名を騙るもの……亜風炉、お前は絶対に」

 

「……」

 

 殺意が飛ぶ。

 だがそれがどうした。こんなのものは普段の重力特訓に比べたら屁でもない。

 みんなの方がもっと大変なことをしているし、この程度で怯む様なら部長ではない。

 

「この僕を敢えてそう呼ぶか……いいだろう。その愚かな挑発にのってあげよう」

 

 黒き翼で強く羽ばたいて亜風炉が空へ駆ける。

 光が集まる。一号の様にではない。手あたり次第、乱暴に奪って引っぺがして詰め込んでいく。

 光が反転して、黒く染まる。漏れ出た力が粒子の怒りを表すかのように黒き稲妻となり迸る。

 

「……ダークネス・ハンドV2」

 

 小さくつぶやいて、こちらも準備。怒りと闇の力をこねて合わせて骨手を二段作り出す。黒く細い管が腕に伸び繋がり感覚がリンクする。

 今自分が出来る、最大級の技だ。

 だが、

 

──防げんだろうなぁ

──食べらんなそー

 

 そうだ。あれは下手をすればブラックの合体必殺技をも超えるかもしれない。フェルタンのお気に召さなければ食べることによる威力減衰も望めない。

 シンプルに強い。俺達が一番苦手で不得意とするシュートだ。

 正直逃げたくて仕方がない。

 

──だが逃げたくない、それは

 

 格好悪いからだ、コルシア。仲間をここまでやられて、敵わないから相手をしないなんてのは習合の部長じゃない。

 だからこうして迎え撃とうとしている。意地だ。

 多分負けるし大怪我をする。99.9999%。なにをどうしようとそうなる未来しか見えない。

 

 ……コルシアたちも被害を受けるかもしれない。いいかな?

 

──神の名を騙る偽物であっても、そいつから逃げる方が屈辱じゃ。妾は褒めてやるぞ?

──息の根だけは死守してね

──おい今更か貴様? 散々サクリファイスしてくれたくせに今更か?

……まぁあれだ、欲望に正直に動いてこそ、悪魔であり、契約者だ。だがくれぐれもあの記憶のV3なんぞに手を出すなよ? あれは非効率なだけだ。いいか、そもそも──

 

 ありがとう。あとコルシアは後で話聞くから……。

 そうだ、全力で、知恵を絞って、出来るだけのことをしてやる。

 

 空に向かって笑いかけ、闇の骨手を構え終わる。

 これが駄目ならもう片方の手で更にダークネス・ハンド、それでもダメならロアフェルシアドミネーションで、それでもダメなら頭突きでもなんでも……あとはそうだな。

 

「……」

 

 この翼でも何でも使おう。

 改めて後ろを見れば、禍々しくも頼りがいのある片翼。

 軸は骨で、肉も羽もないこの翼。なんで滑空できたかもわからないこれだって使おう。

 

 いやーそれにしてもほんとこれおどろおどろしいな。黒い布とか巻き付いてて、いかにも死んで骨になりましたって感じの翼だ。

 正直滅茶苦茶格好いい。気がついたら生えてたけど、これ誰の翼なんだ。

 なあみんな?

 

──……?

──……?

──……えっ?

 

 ……えっ? なにその、全員知りませんよ見たいな反応。

 

──妾のじゃないぞ。もっとドラゴン!って感じのやつだしそもそも肉がついておる

──フェルのでもないよー、黒一色って感じだもん

──我のでもないぞ? 我のは今はまだ普通の翼だがそもそも本来は火炎を凍らせたもので……

 

 え、じゃあこの骨の翼は何? 悪魔ーズたちのものじゃないならなんなの?

 骨だらけのくせして風を捉えるし滑空できるし絶対超常の物だよね? そもそも普通人の背中から翼とか生えないよね? メア? しらん。

 

──正直、勝手に屋上に飛ばれたし…誰も契約していないと思うぞ

 

 えっ、じゃあほんとこれ何なの?!

 怖い怖い怖い、悪魔の誰かじゃないって知った途端ナチュラルに動かしてたこの翼が滅茶苦茶怖いんですけど!?

 俺のキョドリが通じてるのか片翼さんも滅茶苦茶荒ぶってらっしゃるのだけれど?!

 コルシアさん、教えてコルシアさん!

 

──知るか

──しらーん

──……あ、あれじゃないか? お前の先祖に骨の翼が生えた謎の生物がいて、今隔世遺伝が目覚めたとか……いや無理だなこの説

 

 言ってて諦めるな! え、どうしようどうしよ──

 

真・ゴッドノウズ!!」

 

 

 あっ──

 

 




祝 主人公に翼が生える


~オリキャラ一覧~
・織部長久 人間? GK 1番
 なんだかんだ生命よりも意地と格好良さを優先するあぶねー奴。
 気がついたらセフィロスっぽく骨の片翼を手に入れていた。スマブラ参戦する日も近いかもしれない。
 
・一号 FW 12番
 極神のアクアがキマッている状態でもなければヘブンズタイムは見抜けたと思うほどの実力者。見抜けたところで動きが追い付かなければ意味がないが、
 弟が大事。


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超新星爆発する日

 チェンソーマンの第二部が待ちきれません。
 あと12月の魔物に囁かれ、とある大物作者さんと幻覚を語り合いメスガキデュエリストを書き始めたりもしました。

 


 誰かに助けて欲しかった。

 

 

 地面に倒れているのに揺れる頭。僕の人生の中で一番追い詰められた瞬間だろう今この場だからこそ、考えが巡っていた。

 どうすればいい。単純な身体能力だって神を自称する彼には及ばない。

 それだってのに一番の僕の武器であるエンゼル・ブラスターもうまく使えない。

 

 もう何もできないのか?

 

 部長の力になりたくて、少しでも部長より強くなりたくて。自由で窮屈な空を飛びたかった。

 悪魔と契約して身を焦がしていく彼を助けるために全てを照らそうとする太陽の光だって目指した。

 彼のシュートを無駄にしたくなくて合わせようと何度も試みた。

 

 その結果がこれだっていうのか?

 

 エンゼルストライカーと呼ばれ始めて少したって、僕はどこか傲慢になっていたのかもしれない。

 瞼の裏にかすかに残る、今にも消えてしまいそうな光。手放せば意識は闇に落ちていくだろう。

 

 ……そもそも、エンゼル・ブラスターを初めて使えた時は僕は、何を思っていたのだっけ?

 確か真経津兄弟相手に……未完成だった必殺技も通用しなくてそれで……僕は。

 

 

ダークネス・ハンド V2──ロアフェルシアドミネーションッ!! ぁぁああ゛あ゛っ゛ぅがあぁぁぁっ!!」

 

 闇を振るい、強すぎる光を遮ろうとする男の声がする。

 必死に叫んでいる。きっと絶望的な差がそこにはあるのに。

 

『──自惚れるな。

……お前らは神ではない。万能ではないし、全てを救う必要もない。その上で最善を尽くし、誰かを救えたのだ、勝利を手にしたのだ……誇り進め!

さもなければ、負けた者たちへ、そして……信頼し託してくれた者への侮辱となる』

 

 不意に狩火庵中の船長の言葉が反響する。

 あの時は信頼して練習を任せてくれた部長をのけ者にしておくことが彼の為だと思い込んでいた。

 船長の言葉で不安な顔で進もうとするのが間違いだと気が付けた。

 

 だから、()()()()()()()()()であるリーダーが走るのを止めようとせず、頑張って追い付くと誓ったのだ。

 でも追いつけないほどに広がっていく差を見て……、人の道を外れようとしていると知ってどうにかできないかともやもやし始めて。

 彼の無茶の理由は自分たちの不甲斐なさだと改めて思ってしまって、孤高を癒そうと真の輝きを求めて。

 

 僕の輝きは消えた。

 

「……あぁ、そっか。必要なのは北風でも、太陽でもなかったんだ」

 

 心の臓からじわりと力が湧き出していくのが分かる。

 

 彼の、どんな手を使おうと最後まであきらめないその意味の解らなさに惚れたんだ。

 

 でもいつのまにか君を特別視しているくせに、分からない事を怖がっていたんだ。転ぶのを後ろで、前で見て手を差し伸べた気になっていたのか。

 なるほど傲慢だ。彼が人の道を外れようとしている?

 

 例え偽りであれど神に逆らおうとする彼は、きっと誰よりも人間らしい。

 僕の目を覚ますのは君だ。天使の輝きをくれたのは悪魔と契約する君だった。

 

「僕は、契約したんだ」

 

 君が持ってきた入部届にサインした。間違いない事実が過去にある。

 君を救う事と、君を理解することは決してイコールではないし、彼の選択を心配することと力になることも違う。

 

 契約の力である天使の力が使えなくなった理由が不意に理解できる。

 だからもう一度、自分に活を入れなくちゃならない。

 

──光よ

 

 舌に残る土を涎で洗い流して飲み込んで唱える。

 二度とそれを忘れぬために、誰に誓う? 当然リーダーに。

 余計なおせっかいになるかもしれないけれど諦めない、君の隣に立ちたいからこそ遠慮の一片もいらない。

 

我が身から……()()と、()()助けたい()()()へと!!

 

 空を飛ぶ。

 目を開けば、眼下に広がる激戦。砕け散っていく骨の手と世界を喰いつくさんと吠える悪魔たち。圧倒的光量で押しつぶそうとする雷玉に威嚇するように骨の翼が開かれている。

 

 ……また何かと契約したのかな? じゃあもっと、僕も強くなる……ってそうじゃない。

 

 今まで悩んでいた出力が一段と上がる気がした。三対の翼を動かせば空はキャンバスの如く自由自在だ。

 一瞬のタメの後、リーダーの元へと駆ける。

 

 コートの半分なんて一瞬だ。君の元へ飛ぶのならどれほどだって飛んで見せる。

 

「っリーダー! 」

 

 君の横に、君の手を取るためにただ考える頭もなく全力で雷玉に対し足を振り下ろす。

 助けに来たよって言ってみたかったけど、流石に恥ずかしいからやめておいた。

 

 彼の闇がより一層深くなった気がする。でもなんでか、僕はそれを見て不安じゃなくて、安心できた。

 

 ……少しは助けになっているかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 助けてぇーっ! 仲間に焼き殺されるぅぅーー!!

 

──ぎゃぁぁぁ!! 来るな天使擬き! やめろ!

──あつい……やける……

──おいどうにかしろ織部、お前の部下だぞ!!

 

 あ゛あ゛ああ゛あ゛゛あっあ゛あ゛っ゛゛!!

 無理言わないでくれよ三人とも、俺もなんか焼けているんですから!! 滅茶苦茶熱いし痛い! なんか浄化されてる気がする!

 羽か?! 骨の羽が悪魔判定あって焼けてませんかもしかして!?

 

「すごい、体中から力があふれ出てくる……!!」

 

 すっごい久しぶりに目がキラキラしてますもんねメアちゃんさん! やっぱ君超次元の先へ届くナニカだよ!

 見てよ俺達、俺みたいな一般人はともかく他の名だたる悪魔連盟さんたちの悲鳴と叫びをよぉ! 心なしか背中辺りから焼き鳥の匂いがする! この骨は鳥か何からしいですね、んなことはどうでもいいんだよ!

 天使の輪が頭に出来てますし翼が六枚になってますしもう完成しましたねほんと! すごいしか言えませんよほんと!

 

「ばっ、ばかな……神の力と釣り合うものなんて……これが天使と悪魔の力だとでもいうのかっ!?」

 

 おめぇーも節穴かその目! さっきまでの一瞬ならともかく、今メアの光に焼かれまくってほぼ力出てないからな!? 比率で行ったら1:99でメアがほぼだぞ!?

 悪魔消えかかってんだよ! 神にとっては喜ばしい? やかましい。

 

──……おい、織部。なんかまた我達とは別に黒いオーラ的なの出てないかこれ?

 

 え? あ、ほんとだ。俺の足に変なの纏わりついている。コルシアの闇みたいなフワフワしたものとまた違った、少し重い泥飛沫みたいなのがある。

 なにこれ。よく考えたらトロア達の力引っぺがされてるから立ってられるわけもないけど、これのおかげかな?

 

「これがリーダーたちの悪魔の力……! 全力を出してやっと耐えられるぐらいだなんて!」

 

 メアさん何か言ってますが、これ僕たち由来の力じゃないんですよ。むしろ俺達消し飛んでるんですよ。

 

──……あぁっ! この天使擬きの奴め。どういう原理か知らんがこの変なドロッドロの力も出しておるぞ! 自己暗示でもかけておるのか!?

 

 ひぇっ、とうとう悪魔の力モドキも生み出し始めたのこの子?

 待てよ、それで俺の足が支えられているってことは……今の状況メアの力によるものが100%?

 

──たぶんね。堕天の力を堕天せず扱ってるかんじぃ

 

 情けなさ過ぎる。むしろもう俺のことを無視してくれ。なにが悲しくて一片も力になれてないのに足だけゴッドノウズ相手に括りつけてられなきゃならないんだ。

 無茶苦茶痛いからほんと離して……ほらメア、俺の目を見て? リーダーがもう止めてって訴えかけてるよ?

 終りにしよ、な?

 

「っ、遠慮するなって事だね。わかった! もっと頑張ってみるよ!」

 

 ……なんか懐かしいなぁこの全く伝わってないけれど頑張ろうとする感じ。

 ああっ、謎の闇の力が更に強まった。多分メア的には「僕の力に合わせてくれている……!」って暗示かかってそうですね。

 自己暗示か、俺も自分に色々かけてみようかな。「お前は超次元なサッカー選手だー」とかかけたら滅茶苦茶強くなれるかな。

 

「っそんな、押し返している!?」

 

 ……亜風炉くん。全力の一撃がこんな思い込みで跳ね返されようとしていることには同情を隠せませんよホント。

 まああの、お互い因果応報って事で……。勘違いさせ続けた俺も悪いんだよきっと。

 

「ぐぐぐっ……負けるかぁ!」

 

 多分あと一言あればメアは完全に二段階ぐらいパワーアップしそうだ。雷玉を潰しにかかる二つの光と闇の力。

 今にも混ざり合いそうで混ざらない。その均衡を打破するためには着火が必要だ。

 

 そうと決まれば早速準備に取り掛かる。 

 この間も足が痛すぎてすごい顔が険しくなっていそうな気がするから無理に表情を崩し、楽しかったことを色々と思いだして優しげな顔を作った。

 

「……メア、聞きたいことがある」

 

 尋ねれば、メアは嘘偽りのない。眩しい程の笑顔を浮かべた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──名前は、どうする?」

 

「────」

 

 不意に、その名を答えていた。

 

 虚をつかれた気分だった。その顔は悪だくみを思いついた子供の様に可愛らしくて、思わず敵の必殺シュートを前にしているなんてことを忘れてしまうほど。

 当然それは必殺技のことだ。

 この状態を、リーダーと二人でボールを蹴っているこの姿に名前を付けようという提案。

 

「いい名前だ……いくぞ!」

 

 それは、いつも必殺技を一緒にと言うと少し渋った顔になるリーダーの事を思うと……認められた気がして、すっごく心が温かくなる気がした。

 

「……うん!」

 

 少し昔に色々と必殺技の名前を考えた気もするけれど全てが吹き飛んでしまったのに。

 代わりに、代わりにどうしてか頭の中に一つ出来上がっていたものがある。

 最初からあったと言わんばかりにその子は僕の中で広がっていく。

 

 光が世界を照らし、届かぬ世界を闇が浸している。

 朝になれば日が昇り、夜になれば月が。

 

「──光よ、この一撃より照らせ

 

 森羅万象、永遠に続いていくだろう理を紡ぐ。

 

「──闇よ、この一瞬より広がれ

 

 リーダーの言葉で更に闇が強くなる。負けじと僕の光が強くなる? 違う、きっと互いに互いが高め合っている。

 闇があるから光が際立つ。光があるから闇がより濃くなる。

 混沌(カオス)の始まりを、ビッグバンを、世界の始点をここに。

 

 

 その名を

 

 

楽園(ザ・ユートピア)!!

 

 全てを飲み込み、人間も、天使も悪魔も全てが生まれるこの場所を神など、ましてや偽神に壊せるわけがなかった。

 

 




ひ か え め に い っ て 地 獄



 ようやっとメアたちの限界突破が始まりました。かき集めた部員が超次元な奴ばかりだった件について、次話を向かえて間章「部長、最期の一週間だってよ編」に突入します。
 最終章なんてなかったんや((


~オリキャラ紹介~

・織部 長久 GK 1番 人間(原材料不明)
 背中から生えた翼が悪魔認定されているヒト。
 楽しそうにしている部員を見ると彼自身もうれしくなります。だからお願いします、謎の必殺技に巻き込まないでくださいと日夜願っている。
 ちなみにカッコつけていますがこの人間、既に左手が折れています。

・メア(勅使ケ原 昭) FW 11番 人間(加工法不明)
 長い長いタメにより成長した天使の子(大ヒット上映中)
 ちなみに上のヒトと違って本物の天使とかが混ざりあった可能性は一切ない。
 なのに天使どころか堕天使っぽい力も使いだす。

 最終結論は「リーダーがやることもうよくわかんないけど力なら貸すし、転びそうになった全力で支えるからね!」スタイルになった。
 これが伝染した場合、習合のメンツは化け物になる。
 一号二号は知らん。

~オリ技一覧~

・ザ・ユートピア シュート技 
 メアが辿り着いた世界。部長が自信満々に一緒にボールを蹴ってくれることがうれしくて張り切っちゃう。
 力のでどころは99.9%メアだということは織部マンションズ以外気が付いていない。

 本来ならウラゼウスの真ゴッドノウズ並ではあるが、ダークネス・ハンドV2、ロアフェルシアドミネーションを受けた後だったので押し返し飲み込んだ。
 アフロディさんは泣いていい。

 ちなみに、メアの構想に失楽園という技がある。
 既に末路は敷かれているようなものなのだ。


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撤退、会場が爆発する日

 ムリゲーと化していたウラゼウス戦ですが、これ以降はレベル80VSレベル85(チートアイテムによりスタミナ無限)ぐらいの戦いになります


 未だに目がチカチカする。

 全力で放たれた一撃が、亜風炉ごと、反対側のゴールまで飛ばしたところまでは何とか気をたしかに持てていた。

 でも、流石に限界だ。メアも天使の羽が徐々に消えつつある。どうやらこいつも気が抜けてしまったようだ。

 

 ……いやどちらかと言えばザ・ユートピアで張り切り過ぎたせいじゃないか?

 

「──おっと」

 

 ふらふらと泳ぎ倒れそうになる体を慌てて支える。

 全身に掛かる重みに足と左手が悲鳴を上げたが……それしきで人を地面に落とすなんてマネはしない。

 全力でクールを装いつつ、声をかける。

 

「……大丈夫、そうだなメア」

 

「うんっ……ひんやりしてて気持ちいいね、この手」

 

──コルコル、今さっきの痛み分で増えた力食べさせて。疲れた

──あ、妾にも寄越せ。お前ばっか力増しててムカつくんじゃ

 

──やめろこの蛇公が! そしてトロアの方は今のぶつかり合いを瞳で見てたんだから収穫があっただろうが誤魔化すな!

 

 悪魔たちが俺の体の中で争っている。放っておこう。

 

──おいこら契約者だろ貴様! 我が食われる分、身体能力の強化が減ることを忘れるなよ!!

 

 はいはい。いつも頼りにしていますともコルシアさん。

 左手を覆うようにして作った板状の闇と右手で抱える。

 こうして、俺の手に微笑むこいつは……ファンクラブがそろそろとんでもない数になってきた理由が分かるぐらいに綺麗だ。それでいて年相応の子供の無邪気さも持っている。

 

「勝ったんだよね、僕たち」

 

「……あぁ、よく──」

 

 

「いいや、まだだっ!!」

 

 勝利に浸ろうとした時、近くの花壇に体を突っ込んでいた神が飛び起き怒りを発した。

 青筋が浮き出るほどの憤怒。一撃を喰らったものの本当にまだまだ元気なようだ。えぇ、どうなってんだよお前の体力……。

 

「神の一撃を返したことは褒めてあげよう! きっとこの先二度とない快挙、奇跡だ! だからこそ、それがどれほどの薄氷の上に成り立っていたものかを教えてあげよう!!」

 

 再び広がる黒い翼。先ほどよりかは薄くなっているが未だに甚大な力を感じる程の胎動。

 もはや塵すら残さないと決心した彼の一撃はどれほどの惨劇を生み出そうとしているのか。

 

「ぐっ、あの子まだやる気か……!」

 

「メア、無理に動くな」

 

 ……メアは流石に無理そうだよなあ。自己暗示による一撃だからこそ疲れた、気が抜けてしまったという状態に於いて絞り出すのは難しいだろう。

 ダークネス・ハンドV2でも当然無理だ。V3はそもそもメリットがない。単に心をぶっ壊すだけ。ならダークネス・ハンドV2を両手でくり出す方がまだ強いだろう。

 

 えっ、やばくないかこれ?

 

──やばいから早く蛇共にどうにかするように言ってくれ長久 

 

 コルシア、ハウスッ。今は内輪もめを気にしている余裕ないんだよ。

 どうしよどうしよ他の皆もまだフラフラしてるし頼れないぞこれ。

 

 助け……、

 

 

 ──ん?

 

 あ、大丈夫かもしれない。

 屈辱に燃える偽神を見て、もう泥はつけられていると思った。

 そして、

 

 

「……いや、これどういうことネ?」

 

「うわーなんかすごい事なってるぅ」

 

 亜風炉の襲撃から偶々難を逃れた二人、ブラックとアルゴの帰還。

 二人してこの騒ぎからどこ行ってたんですか……? あ、二人とも片手に甘酒の紙コップ持ってる。もしかして飲んでました? いいな、後で下さい。

 これは好機だ。ブラックは語るに及ばず、アルゴもやたらと潜在能力が高いんですぜ的なポーズをちょくちょく見せてくる。

 この二人を頼れば、もしかしたらなんとかなるかもしれない。

 

「……二人とも、頼む(手伝ってくれ)」

 

 しっかりと目を見て、こっちに来てくれとお願いをした。

 

「……」

「……」

 

 ……あの、その目はなんですか? 何でブラックさんは神妙な顔して、アルゴさんはニヤニヤしてるんですか?

 僕すっごい嫌な予感するな―。

 

「(倒れている者の看護)確かに、承ったネ」

「ボクも」

 

 あっこっちに来てくれ……ない! 倒れてる雷門とふら付いている習合の人たちをシュバババと回収してくれている! いやそれも必要だけれども! 違う、あとアルゴさんは絶対わざとやってるだろお前!

 最近なんか勘づいているってこっちも気が付いているんだからな! 晒してくれもはや! 一体何の秘密を握ってるんだお前は!

 

「……それじゃあ、最期の言葉を聞いてあげよう」

 

 ほら、もう逆にゴミども掃除してくれてありがとうみたいな態度してるじゃん! 誰がゴミだって!? あぁ!?

 

──お前の心不安定過ぎないか?

 

 逆にこの状況で落ち着いてティーでも飲む奴がいたらそいつの頭ヤバイよ。それかアルゴだよ!

 え、えっとどうしようかなー!? と、とりあえず一発ぶち込んでこっちは気が済んだみたいなところあるし、なんか褒めて場をうやむやにしよう!

 コーディネートとか褒めたら意外と気を良くしたりするんじゃないかな!? ほ、ほら頭のその。

 

「……意外と、花冠が似合っているじゃないか」

 

殺す

 

 駄目でした!!

 いやそりゃ花壇に頭ツッコんで出来た花飾り褒めたら挑発になるよね! 俺は馬鹿か。馬鹿じゃないとこんなところいないな!

 後はえーと、白い服についた土汚れがいいアクセントに……どう考えてもこれも挑発だよこんちくしょう!

 

 あ、あー! 逃げたい! でも流石にメアがいる前で逃げられない!

 かくなる上は、ダークネス・ハンドに無理やりサクリファイスハンドを合わせて──

 

「真、ゴッド──」

 

「そこまでです」

 

 救いの神が来た! ベータちゃんが駆け寄って来て亜風炉の前に立ちふさがる。

 よく来てくれた! 色々と仕掛けられたけどもうすべて水に流してしまいたくなるほどのファインプレーだ。流石未来人!

 

「……何のマネかな、マネージャー。邪魔立てするようならまずは君か……らっ!?」

 

 一瞬の驚きと共にまた髪の毛を逆立たせる亜風炉……しかしそれはすぐ重力に負けた。

 急に亜風炉が口元を手で抑えたかと思えば翼も消え、尋常ではないほどの汗が噴き出す。

 覇気が消えた。遠くにいても感じ取れたはずの力が空虚だったかのようにその存在を消す。

 

2()0()()、経ちました。おかわりもありません。アフロディさん、あなたの負けです」

 

「……はっ、はっ、はっはっはぁっ!!」

 

 息切れ? 口をパクパクとさせてもだえる姿は……病気にしか見えない。一体何が。

 これが奴の力の代償?

 

「加えて、こちらの不手際ですが手駒の8割は使えなくなりました。もはや私達には大それたことは出来ません、戻りますよ」

 

「やめろっ、触るな! ああっ!?」

 

 暴れる亜風炉だがその力は弱弱しい。

 俺一人さえも振り払えないだろう剣幕は当然通じず、ベータちゃんに腹から抱えられ持ち上げられる。

 

「やめろ、やめろ……」

 

 子供だあれは。周りに恐怖しか覚えていない子供。俺とほとんど変わらぬ年の人間がとるものではない。

 アフロに対しての感情が、憐れに近い物に移っていく。

 彼も、ベータたち『エルドラド』並びに影山に利用されているのかもしれない。

 

 ……世界の滅亡を止めるための手段と言えど、それを是とするのは、あまりに格好が悪い。

 

「……ベータ」

 

 だから俺は、碌な会話も無しに去ろうとする彼女の背中に呼び掛ける。

 ビクリと肩を震わし、振り向きもせずに「なんですか」と言葉だけ返してきた。……嫌われてるかな。

 

 だけど、とりあえずこれだけは伝えておこう。そう思い口にする。

 

「──決勝に、世宇子の席はない」

 

 主目的である「サッカーを潰す」なんてさせない。例え未来の世界が滅亡する原因になろうと勝ちあがるのは俺達だ。

 勝てる確証なんてなかったけど、つい言ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まぁ、出来るだけ抗ってみてください。また後日、今度は()()()()()で会いましょう」

 

 

 

 

 

 彼女の別れ際の言葉がそれだった。

 一時間、二時間がたち帰りの時間が近くなるまで俺達は雷門中にいた。

 倒れていた人たちも意識を次々に取り戻し絆創膏を貼ったりなんだりかんだり。頭を打ったかもしれないので何人かは近くの病院に行くことになるそうだ。

 

「それで! それで!?」

「リーダーの包み込み浸してくれる闇が、僕の不安定な光を支えてくれたんだ! おかげであのゴッドノウズに打ち勝つことが出来て……!

あれこそ正しく本当の神が生み出し、原初の空間である楽園とも言えるような──」

「ふははははっ、よくわからん」

 

 俺達? ピンピンしてるよこいつら。ウリ坊が俺に突進しながらメアに話を聞いている。ソニックは話半分にストレッチ。

 もう癖になってますねこれ。治したて(コルシアは犠牲になった)の左手が早くもやばい。あんなにボロボロになってたくせになんでもう回復してるんですかね。

 え? 雷門からおにぎり貰ったからそれで? いややっぱりお前らギャグマンガの人間だろ。食べもの食べて回復とかカービィか己ら。

 

──貴様が言うのかそれ……あと絶対このことは恨んでやるからな長久。今日の夜中あたりに復讐してやる

 

 すまんコルシア。まあほら、アヴィがやってた分心体とやらに力分けて食べさせたんだろ? 直ぐ回復するってそれぐらい。

 あと許可しないと俺の骨の翼が食べられそうだったから……しまおうと思ったら仕舞えたけどほんとこれ何なの? 怖い。

 

「キャプテン、円堂さん達も元気になったようなので挨拶に行きましょう。お伝えしたい事もありますので」

 

 おおそうだなワタリ。……円堂さん、彼も何度かシュート喰らってた気がするんですけどすっごい元気におにぎり食べてる。彼もまた超次元な人間だったのか……。

 俺なんて杖突きたい気分でいっぱいだぜ。見てくれよこのプルプルとした筋肉の痙攣の一切を隠そうとする歩き方を。

 

「……もう元気そうだな、円堂」

 

「ああ! 織部達は大丈夫だったのか?」

 

 見ての通り瀕死ですよ。

 やめなさいウリ坊、俺の左手でバスケットボールの如くダムダム跳ねるんじゃない。ドリブルしないからな。

 

「……元気いっぱいって感じだな!」

 

 そうか!? 部位破壊一歩手前なんだが!?

 俺が驚愕している間にワタリが一歩前に出る。

 

「改めまして私は帳塚 望。皆にはワタリって呼ばれています。円堂さん、この画面を見ていただけますか」

 

 軽い挨拶も矢継ぎ早に、ワタリは携帯の画面を円堂さんに見せた。何だろうとのぞき込む彼だったが……直ぐに神妙な顔へと変わる。

 俺も肩越しに見て、驚き声に零す。

 

「木戸川清修が棄権を表明?」

 

「どうなってんだ!?」

 

「……武方三兄弟が病院に担ぎ込まれて、事態を重く見た監督が判断したそうです」

 

 ……亜風炉たちか。時系列的に、俺達の前から居なくなった武方たちが遭遇したってことだろうな。

 それにしたってすげぇ判断スピードだ。よほど手ひどくやられたのか、或いはこんな手が使われることを想定していたのか……。

 豪炎寺さんのところの母校だもんな、つながりで影山の情報とかわたっていたのだろうか。

 

「……これで雷門は決勝進出が決定的になりました。後三日後の準決勝戦で、あなたたちと戦う学校が決まります」

 

「っ」

 

 世宇子か習合か。

 その選択はキャプテンである彼に深刻に伝わる。世宇子の一人にここまで二校がやられた後で、習合が一度やり返せた後で、雷門は後一週間と少しでその二校のどちらにだって勝てる力を身につけなきゃならない。

 能天気そうに見えていた彼の目に覚悟が見えた。……やっぱキャプテンしている人は色々違うもんだな。

 

「……もちろん、勝つのは僕たちですが。そうでしょう? キャプテン」

 

 俺? いや無理じゃないかなって気持ちが半分占めてますよ。

 だってサッカーって11人で攻めてくるゲームだし……ザ・ユートピアのためにメアをゴール前待機なんてこと出来ないし。

 みんなぴんぴんしてるけど亜風炉が来た時は見たことがない程疲弊してたし。

 

「……」

 

 そう思って、振り返る。

 

「ん? なにリーダー! 今ねジミーと新必殺技のアイデアをだねー!」

「部長―、なにをどうすりゃ背中から羽生えるんだ? やっぱこう背中に力入れたら生えんのか??」

 

「おいウリ坊ーいい加減こっち戻ってこーい。ちゃんとグラウンド整備して帰るぞー」

「そっッスよー、グラサンの銃口が足元狙ってるうちに戻ってくるべきッスよー」

 

「ほらほらのみねぇのみねぇ、うちの特製甘酒」

「いやもう飲めないから止めてくれアルゴ……ああよせ弟に注ぐな」

「兄さん、僕もう……」

「鏡介ー!!」

 

「だからやっぱりドンッしてダンッ! て感じにだな……重力増やして鍛えた方がいいか?」

「……! ……!」

「であろうなぁカガ! 音速を越えるためには更なる負荷が必要だ!」

 

 ……全員、少したりとも絶望していない。メアがやたらキラキラ輝いていたせいだろうか?

 だからうん、格好つける為にまた俺はその言葉を言う。

 

「世宇子に勝つのは──優勝するのは、俺達習合だ」

 

 そう言い放てば、円堂さんの目には覚悟を核に燃える炎が見えた。

 世宇子に対する不快感が邪魔者になり燃えて消えてしまうほどの純粋な闘気。

 ……もしかしたらベータたちが語る未来では、雷門が優勝していたのかもしれないな。ふと思ってしまうほど。

 

「……よしっ! じゃあ絶対、決勝戦で会おうぜ、織部!」

 

「あぁ」

 

 絶対に勝たねばならない約束。

 俺達は後三日で、あの世宇子たちに勝てるほど強くなる。

 

「強くなって、もう一度いいサッカーをしよう。そうだろう、みんな!」

──オゥ!

 

 雷門の覚悟を借りて、俺は腕を上げて仲間に示した。

 痺れる程の返事が返って来て、思わずこけそうになる。格好つかないのはごめんだと踏ん張った。

 

 決まった、これは決まっただろう。遠くで見ている雷門の女子生徒の方々とかファンになってくれないかなぁ。

 

 ……ピリリ、と電子音が鳴る。

 台無しすぎる。音源はワタリから。

 

「あ、メールが……」

 

 ……プルルルル、と着信音が鳴る。

 今度は俺の携帯だ。……相手はエマだ。直ぐに出る。

 近くにいた円堂さんをなんかのけ者にしてしまったが悪意はないんだ信じて下さい。

 

「……エマ? どうかしたか」

 

『あぁ兄さん♥ いえ……なんでもない、事後報告みたいなものなんですけど……羊を追っていたら少し手を滑らしちゃった子がいて』

 

「……?」

 

『えーとその、ちょーっと騒ぎになっちゃいまして……』

 

 羊……はベータちゃん達の手駒の人間だとして、手を滑らしたってなんのことだ。

 要領を得ないな……珍しい。意外と素直にしゃべることが多いのに。どんだけ後ろめたいことが──

 

「えぇっ!!?」

 

 電話に気を取られていた俺は、突如叫んだワタリに驚いて転びかける。慌てて手元にいたウリ坊が俺の体を支えてくれた。

 力強い、流石トールとぶつかり稽古しているだけはある。ありがとうウリ坊……ごめんな邪魔っけにして。

 

 ウリ坊の頭を撫でながらそちらを向けば……顔面を青く染めた彼がいる。

 なにか、また恐ろしい事が起きたのか?

 

『で、ですからそのぉー……』 

 

「ど、どうしたワタリ」

 

「きゃ、キャプテン──

 

──今度の試合会場が、爆発したらしいです……」

 

『ちょ、ちょっと脅しはしたんですけど……まさか爆弾が仕掛けられてるなんて流石に思わなくてぇ……これ私のせいですかね。違いますよね兄さん? 優しい兄さんならきっと許してくれますよね?』

 

 

 ……後日、フットボールフロンティア大会委員会によって、事件の全容解明の捜査を進める事、他スタジアムの精査をすることが発表。

 幸いにして怪我人は下手人であった影山の手駒たち数人。取り調べ中らしいが口を割らず理由もその組織形態も不明。

 

 また習合対世宇子の試合は、他のスタジアムを使ってもよかったが……万が一を取って一週間の延期。

 エマは……フェルタンの発案により本物の羊を捕まえてくるまで家に帰ってきてはいけないという罰が下され、二日で任務をこなし帰ってきた。

 

 ……格好が、つかない。

 怒涛の終末を目まぐるしく過ごす俺はただそう呟いた。




朗報 試合が一週間後になったよやったねナガちゃん

 次回から特訓三昧、部員が全力でイベントを発動してくる「部長、最期の一週間だってよ編」が始まりです。
 パワーレベリング(直喩)ともいう。


~オリキャラ一覧~
・黒月 夥瓏(へいふぇい くーろん):ブラック 雷門 FW 番号はその日の気分
 ストレッチをしていたところアルゴに酒盛りに誘われ楽しんでいたら襲撃が終わっていた。食いしん坊の素質がある。
 次の出番は世宇子戦が始まるまで無しなのだ。

・アルゴ MF 6番
 とある神社の家系であり酒蔵の一人息子。
 織部が翼生えているのを見て滅茶苦茶楽しそうにしていた。
 なんとなく助けてほしそうだという事は理解したが、言葉にしてくれなかったのでわざと他の救援に向かった。
 
・エマ 妹
 爆発に巻き込まれはしたが普通に無事だった子。伊達に実体持ちの悪魔していない。
 羊はちょいと国を渡って野生のを見つけて来たらしいっす。織部の翼を目撃していないのは幸か不幸か。
 流石に会場爆破はやばいという常識的な感性を持つ。


 


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部長、最期の一週間だってよ編
恋焦がれる日


ラブコメ回です(大嘘)

そして……お気に入りがついに一万件を突破いたしました!!
これもひとえに読者様方の御助力、誤字報告などによるものです。
本当に、本当にありがとうございます!!


 会場が爆発したり大会運営が冷や汗ダラダラの記者会見したり、会場に思い出がある人たちが涙を流していたりした土日が終わる。

 そして月曜。ラストダンジョンと名高い部室棟にて……、ジンギスカンパーティーが行われていた。

 

「聞きましたかキャプテン。雷門はこれから再来週の試合までイナビカリ修練場でほぼ一日中籠るそうですよ」

 

 ワイワイと楽しく肉鍋を囲む皆を見ていた時、

 ワタリが世間話とばかりに野菜が乗った皿を持ちながら話しかけてきた。

 

 えーほんとうかワタリ? すげぇな雷門の人たち。帰りにチラッと見せてもらったけどうちの施設より……何というか熱血! って感じのところだったよねそこ。

 サッカーボールを装填するガトリング砲とか、謎の電撃出す光線銃とか、転んだら弾き落とされるルーレット型ランニングマシーンとか。あと全方位から竹刀がぶつかってくるドリブル妨害空間とか。

 

 ……あれ考えるとうちの施設はかなりマシな気がしてきたな。だいぶ。

 

「あと重力増加下の訓練の話をしたら今度こちらでも導入したいって言ってましたね夏未さんは。紹介しても大丈夫ですか?」

 

 え、ああうん。あれってうちは実験の為に格安で導入してもらったけどその辺は……夏未さんちはお金持ちなんだ。へー、いいね。

 ……ところで夏未さんって、雷門 夏未さん? 雷門のマネージャーの子だよね。滅茶苦茶強気な顔づくりだけどツンデレ風味触れるお嬢様の。

 へー。メアド交換したってのは聞いていたけど、そんな感じにイチャイチャしてるんですか?

 

 へー。こっちはつい昨日なんて復讐のために力を貸してくれとか悪魔との契約した話を出版しませんかとか怪しい手紙しか届いてげんなりしてたのに。

 

 まあすべて羊を焼くための燃料になったけど。取り敢えず近隣住民の方々に焼くことを最初にお伝えして、良ければと一部おすそ分けに行こうとしたりもした。

 

──悪魔召喚の儀式だと思われたのか大概居留守使ってたな

──ウケルという奴じゃな

 

 ウケない。

 というわけで、流石にフェルタンと契約しててもヒツジ一頭は食べきれないし、こうして部活に持ってきたわけだ。

 ほらワタリもっと肉食え、そしてその女子との交流話をもっと聞かせるんだ。

 

──がんばればイけるって~

 

 無理ですフェルタン。胃が破裂してしまいます。

 

「……? どうしましたキャプ──」

 

「ワタリさんってその子のこと好きなんスか?」

「あ、僕も気になっちゃうなぁそれ―」

「だよだよ!」

 

「はいぃっ!?」

 

 よしいいぞよく言ったなバング、アルゴ、ウリ坊。お前ら人のイチャイチャを直ぐ茶化す三人組ならばワタリの防御など紙切れ同然だ。

 この三人の好奇心からは何人たりとも逃れられないぞ。

 

「い、いや普通にマネージャーの方との交流は色々と益がありますし、偶々それでメール交換をしただけで」

 

「えー、でもその辺りはマネージャーの人がした方が自然ッスよね?」

 

 あくまで普通であるというかわしをバングが離さずつかみ取る。ちなみにうちのマネージャー達、エマはそもそも雷門マネージャーが眼中になく、メアファンの子はインスピレーションが湧いたとかで創作活動に励み、トールファンの子はトールが傷つけられるのを見ていられず気絶した後、トールに起こされたおかげで悶え死んだ。

 

 後者二人は全治五日と俺は診断している。

 

「最初は何もなくてもさぁ、案外話していくうちに仲が深まってーなんてよくある話じゃーん? 実際あの子美人さんだよねぇ?」

 

「……まあ確かにお綺麗な方だとは思いますけど……ってアルゴさん、誘導はやめてください!」

 

 アルゴの前者を否定したいのに文末に否定しにくい事を付ける。そんな惑わしの言葉でワタリの歩みを崩す。

 そして、

 

「ぶっちゃけお似合いだよね」

 

 雑過ぎるウリ坊のぶっこみが全てをなぎ倒す。完ぺきだ。こいつらの追求ではどんなドリブラーでも太刀打ちできまい。 

 人のいいワタリにとってここからの逃げ方は一つ「あの人には僕よりお似合いの方がいますよ」と定形を喋ることだろう。しかし、三人を前ではその言葉も「つまり意識はしてるって事?」と繋げられてしまう。罪──間違えた、詰みである。

 

 流石に少し可哀想になってきたな。ワタリにそんな感情はなかったろうし、これ以上掘り下げるのは危険か……?

 

──おい長久、色恋のいじりは気を付けた方がいいぞ。過去の契約者の中には色恋沙汰から恨みを募らせて、というものも多くいたからな

 

 サンコル。確かにそうだな。恋愛というのはよくわからんけどそこらへんはデリケートかもしれん。

 

「……三人とも、それぐらいにしておけ」

 

「え~……はぁーい」

 

 不満げにしたのはアルゴ。他二人もまだ物足りないという感情をうずうずと感じる。

 

「……早く鍋に戻らないと肉をトールに食いつくされるぞ」

 

「え──うわちょっとトール! トング食いはなしでしょ!? バングいくよ、僕たちの肉を取り戻すんだ!!」

 

「い、いや俺はちょっともうお腹いっぱっちょっと引っ張らないで……ッス!」

 

 筋肉増強が目標なのかやたら以前にも増して食べるようになったトールを指させば慌てて二人は戻る。ふふふ、そのうちトールは山盛りご飯を我慢できずに食べだすだろうから肉が無くなることは無いのだがな。簡単に引っかかるとはまだまだよ。

 これでアルゴは一人、流石に分が悪いと感じたのか既に撤退ムードだ。

 

「……ふふふ、これで勝ったと思わない事だ~」

 

 謎の遺言を残し、アルゴは姿を消した。嘘だ、本当はそのまま鍋に戻った。

 これで完勝、ワタリを無事に守ることが出来た。どうだワタリ、サッカーのことならともかく他のことに関してなら部員たちを誘導することは意外と俺には出来るのだ。

 

「……ありがとうございますキャプテン」

──騙されるとるのぉ……むしろ最初はやし立てておったぞこいつ

 

 お黙りトロア。お前も頭の中でヤレヤレと声出していただろうが。コルシアの提言もあった俺はこれから、相手の体力を見極めつついじるという芸を身に着ける。

 ……まずは思ったことをしっかりと口に出す特訓しなきゃ。そうじゃなきゃこうしてワタリ達を勘違いさせ……う、罪悪感出てきた。やっぱり話すか。そうしよう。

 

「……いや、本当のことを言えば俺も少し思っていた」

 

「えっ」

 

 懺悔に対しすっっっっごい意外そうな目をするワタリ……ご、ごめんなさい! やっぱり無理です、耐えられませんこの視線!

 誤魔化します、すっごい誤魔化します!

 

「お前が、あまりにも楽しそうに話すからな……」

 

「そ、そうでしたかね……?」

 

 あれ、思いのほか好感触に変わったぞ! いける、この誤魔化し方行けるなぁ! 何がクリーンヒットしたんだ?

 ……なるほど、楽しく喋るという行為が以前は考えられなったからそれが良かったんだな。顔色に出ているぞ!

 ならそっちにシフトだ。恋愛話とかは忘れてもらう。

 

 ようし舞い降りろ俺の中に誤魔化しの神……いや悪魔よ!

 

 助けて!

 

──んなもんいないわ戯け

 

 そんなー……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああそうだ……いや、ワタリはよく笑うようになった」

 

 そう言って微笑んだキャプテン。

 おかげ様ですとつい言いかけて慌てて仕舞う。自分がよく笑うようになったのを認めるのがやや小恥ずかしかったから。

 

「……苦笑いの方もよくするようになりましたが」

 

「それは……よかったな?」

 

 皮肉も通じずに受け流すキャプテンを見てるとどうしても笑ってしまいそうになる。……確かに、少し前ならここで怒っていたかもしれないと思う。

 

 色々なことがあったが、あの雷門との練習試合が組まれて本当に良かった。

 世宇子が襲撃したのは大変だったが、あれを期にメアさんが変わり……その影響を受けたのかチーム全体が「キャプテンの助けになれる」という意識を持った。

 

「それでね、リーダーが発現させた片翼の翼こそ旧約聖書の一説の──」

 

「そうなんですね! 参考になりましゅ!!」

 

 ……メアさんはもう有頂天に達し、少し昔の様に神話を独自解釈してファンの方に説いている。メモにそんなこと書いてどうするんだろうあのマネージャーさん……。

 

 話が逸れました。

 とにかく、あの日の出来事で色々と変わったのです。もう一人の雷門マネージャーさん、音無春奈さんからの情報によれば、会場爆破の一件は相手側にかなりの損害を与えたとかなんとか。

 

「翼……? またコルシアさんあたりがなんかしたんですかね……?」

 

 初めて鬼道さんや帝国学園だった人たちから影山の恐ろしさを聞いた時は驚きましたが……今ではやや憐れにも思えます。

 

 エマさんの仕掛けとやらで多くの「いつでも切り捨てることができる手下」は警察署へと届けられ、世宇子側はもう迂闊に動くことが出来ない。

 更に自分の仕業だとはバレていないが、会場への仕掛けが明らかになったことで監視の目が内外から向けられている。

 そのせいで影山自身、周りから切り捨てられようとしている……。

 

 もはや彼らが挽回するには、習合を試合で倒し、大会で優勝するという栄光をつかみ取ることで力を示すしかない。さもなくば負けた瞬間、証拠が出揃い彼は逮捕されるだろうと。

 つまり僕たちは勝てばいいだけ。

 

「……メア、服が焦げているぞ」

 

「えっ?! わ、燃え焦がれる気分だったのこれか!」

 

 ……目で追う事すらできなかった実力差がありましたが、自信で溢れるメアさんを……そして皆を見て笑っているキャプテンを見ていると、負ける気がしません。

 強くならなきゃ、という使命感ではなく「まだまだみんなといたい」「サッカーをたくさんしたい」そんな思いが湧き上がる。

 

「……キャプテン、提案があるのですがいいですか?」

 

「? あぁ……」

 

 だから僕は、強くなりたいという気持ちよりもそちらを元にこれを考えました。

 

「雷門のマネではないのですが……僕たちも、合宿みたいなことをしませんか?」

 

「合宿?」

 

「はい、この部室棟で寝泊まりして、朝から晩までみんなでサッカーをしてその、とっても、楽しいと思うんです」

 

 朝は何を話そうか、夜は何を話そうか。普段ならないシチュエーション。……さっきみたいないじられ方は少し困るけれど、絶対に楽しい。

 思いついた時からワクワクしていたんだ。今こうしてキャプテンに考えてもらおうとしている時でさえ口元が笑おうとしているのを止められない。

 

「……いろいろと許可をとる必要があるな」

 

 けど彼は大人の観点でしっかりと考え始める。そこまで言われてハッとする。

 保護者への説明、部室棟とは言え敷地内での寝泊まり。簡単に上げただけでも大変なものが二つ。駄目なのか。

 気がついたら俯いている。

 

「──まあ、何とかなるだろう。いいと思う、楽しそうだ」

 

 けれどもう一度顔をパッと上げれば……満面の笑みで笑うキャプテンがいて、任せろと言っていた。

 ……いや、ここでその顔はずるい。一瞬大人の振りをしたのはなんだったんですか。言おうとして、

 

「じゃあ私は早速父さんから許可を取ってきます!」

 

 思わず元気に走り出していました。

 

 不思議ですよね?




台無しにします。

部長の内心「これが死刑宣告か……ワタリの動作がずる過ぎて断ったらかっこわるぅ」


台無しにしました。
 今話より「部長、最期の一週間だってよ」編です。正確には月曜の夜からなのでで六日です。
 特訓回と見せかけて好感度が稼がれていきます。
 ……好感度が高まれば高まる程強くなるタイプの育成ゲームを思い出してください。


~オリキャラ紹介~

・マネージャーズ
 兄さん大好きエマ、バラ最高限界オタク、トールオタクの三人。
 主に仕事はちゃんとやる気ではいるが、ワタリさえいればまぁなんとかなる哀しさを持つ。
 一人はザ・ユートピアの映像をカメラで撮影したことをメアから大変褒められて、また自分でも尊いと言い残し死んだ。
 一人はなんがかんだ付きまとっていたからか、気絶した後トールが介抱してくれて全身から熱を発し死んだ。
 午後の練習には間に合うらしい。

・ワタリ(帳塚 望) FW 9番
 カラス大好き親父への反抗期ドリブル型フォワード。
 メアに感化され心配事が薄れたらしく笑うことが多くなった。「いくら言っても聞かないなら無理やり手伝ったほうがいい」と気が付いたらしい。

・アルゴ MF 6番
 これで終わったと思うなよ。


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ベイビーボアとハンターでつるむ日

タイトル通り、
ウリ坊&グラサン


・影山についての補足
 サッカーで負けたら部下たちが自分の身可愛さに情報を手放すところまで追い詰められている可哀想なおっさん(真っ黒)

・習合の部室についてのおさらい
三階 天井が開くタイプの練習用コート。重力装置が付いている。
二階 ミーティングルーム、レストルームも兼ねている。自習にも使える。
一階 ロッカー、シャワールーム完備。倉庫が隣接。
地下一階 観客収容可能なスタジアム。

その他:魔王城でおどろおどろしいレリーフなどが飾られている。
Wi-Fi完備、簡易的なキッチンもある。住める。


【えぇ急にそんな数日間も学校内で泊まるなんて。いくらなんでもむずか──】

 

【返事は……わかりますよね父さん?】

 

 理事長から許可が出た。もぎ取った、奪い取った。ワタリの気迫は、断った瞬間に家族の縁を切られるんじゃないかとヒヤヒヤさせるものだったらしい。可哀想な理事長さんに南無とだけ添えておく。

 そのことを部員のみんなに伝えれば、ワッと許可を取ってくると家に帰って行った。……アルゴと一号二号はのんびり歩いて行った。

 

「……ということでしばらく帰らないから」

 

『……わかった』

 

 俺も家に向かおうとしたのだけど、エマが全て任せて欲しいと言い切り猛スピードで家に向かってしまったので、俺は電話で叔父さんに許可を取るだけ。

 叔父さんが珍しく一度目の着信で電話を取ってくれたので話はとてもスムーズに進む。断って家にいなさいって言ってくれてもよかったんだよ??

 ねぇ、普通中一が学校で数日寝泊まりとか許可出さないよ叔父さん?

 

「……いいの?」

 

『──も、勿論! その……た、たのし──いやなんでもない。それじゃあ』

 

 断らせる最後の機会だぞ? そう念を押したが叔父さんは何かに焦ってそのまま電話を切ってしまった。急な仕事でも来たのかな?

 仕方がない、腹をくくるしかあるまいてか。頭の中でどうにか生き残るすべを探りつつ一人の時間を過ごす。

 

──……いやそれくらい汲み取ってやれよ貴様

 

 え、何のことだコルシア。

 そんなこんなで皆を待って数十分。流石に手持無沙汰になり始めたのでいったん外にでも行こうか。扉に手をかけた時だった。

 階段を駆け上る音が聞こえた。

 

「がっ……!?」

 

 いやな予感がして扉から離れようとしたのもつかの間、勢いよく扉が開きピンボールよろしく吹き飛ばされた。そのままミーティングルームの長椅子にぶつかり、奇跡的に収まる。

 まるで最初から椅子に寝そべっていましたよ? と言わんばかりのフィット感。体全身に走った痛みからうめき声も出せず立ち上がれない。

 超エキサイティングならぬ懲役再ティン、前にもこんなことがあったようななかったような。……痛みで思考が意味不明になってるな。

 

「よっしゃ―僕たちがいっちばーん!!」

「おっ、ほんとだ。メアたちの方が早えかと思ったんだがなぁ。ボスもまだか?」

 

 おっ、思いのほか早く来たなウリ坊にグラサン。ところでウリ坊くん。扉はゆっくり開け閉めしような。

 棺から蘇る吸血鬼が如く、ゆっくりと上半身を起こす。

 

「ここだ」

 

「おっ? なんだ寝てたのかボス。それじゃ静かにしてた方がよかったか」

 

「……いや、騒がしい方が好みだ。それにしても、随分早いな」

 

 まだ家に帰って少しも経っていないだろう、それなのに二人は肩からボストンバッグをぶら下げもうお泊りの準備は万全と言った顔。グラサンはサングラスしてるから分からんけど。

 尋ねれば、少し自慢げにウリ坊が胸を張る。

 

「へへんっ、泊まってくるの一言でオッケー出たからね!」

「俺も似たよ―なもんだぜ。せいぜい迷惑かけんなよとは言われたが……」

 

 そうか、かなりさっぱりした親子関係なんだな……っとメールが届いている。ウリ坊とグラさんの家から?

 えーとなになに、ご迷惑かけたらすぐに連絡ください。引っ張って連れ帰ります? ……なるほどなるほど。これ俺が保護者代わりにされてるな? 俺同い年だよ?

 ……まあいいか、とにかくあれだ。先にグラサンが来てくれて助かった。グラサンはDFの中では司令塔、指導方針を合わせれば地獄を軽減できる可能性がある。

 

「よし、まだ早いが……先に特訓内容を──」

 

「おうわかっ──」

 

よく、聞いてくれ

 

 させねぇぞ!? 何いつもの試合のノリでアイコンタクトで全てわかった気になってんだ! 100の内の1も通じてねぇよ確実に!

 大きくばれないように息を吸いどうにかしてグラさん達を丸め込んで見せる。そう覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は珍しく、すげぇ珍しくボスの奴が色々と喋っていた。

 途中喋るのが面倒になったのか、ホワイトボードを使ってまで俺達に合宿の流れを説明する様は、思わず「もしかしてボス、そんだけ合宿楽しみにしてたのか」と思わざるを得なかった。

 寝る場所、食料調達の方法、料理に掃除当番。謎に幅を取られた自由時間。わずか数十分でこれを考えたのか……流石だぜ。

 

デッド・アーテナリー!」

 

「なんのっ、猪突猛進!」

 

 俺の砲撃が巨大な猪によって弾き飛ばされる。ロングシュートだし威力は重視してないが、流石にウリ坊相手はむずいな。

 説明が終わった後、ボスから「お前ら二人はしばらく二人で特訓していてくれ」みたいな感じで頼まれた時はビックリした。そりゃだって、俺達は仲いいけど相性がいいかなんて考えたこともなかったしな。

 

……コルシア、やっぱりこれお前のじゃないのか?

 

 けどそれ以上ボスはなにも言わずに……ああしてゴール前で一人、骨の手と翼を作ってなんかしてるだけ。なにしてんだあれ? 手からは最近よく見る狼みたいなやつが出てきて会話してるっぽいが。内容は聞き取れねぇし。

 ボスに限ってさぼりだなんてことは無いだろうけどなぁ。新技の考案とか?

 

「……新技か」

 

 そういや俺の今使える必殺技も増えてきたが……世宇子に通用するとはいいづれぇな。狙撃して崩すデッド・スナイパー、ロングパスの代わりになるデッド・アーテナリー。早くてとらえきれねぇ奴だったりに使うデッド・グレネーダー。

 小技ばっか増やしてきたが、格上の相手となるとちと厳しい。俺も新技を考えるべきか?

 

「新技……そうだね、僕も今色々考えてるんだ!」

 

 俺のつぶやきにウリ坊が反応した。そういやウリ坊の必殺技はいまん所一つだけか。

 一直線に突き進んでのブロック。そんだけに対処されやすいっぽいし考えることは同じだな。

 

「でもいいアイディアが浮かばなくて……あ、そうだ!」

 

 腕を組みうんうんと唸って見せた後、ウリ坊の顔はひらめきを得たりとこっちに向って走り出す。

 ……あん? そのまま体を倒して、加速して……明らかにこれ、猪突猛進の体勢か!?

 

「ちょっ、ウリ坊何のつもりだ俺は今ボールも何も──あぁ?」

 

 抗議する前にウリ坊が俺の横を通り過ぎていく。凄まじい速さでさらに加速していき……ボスの所へ。

 

「部長―、受け止めて―!! 猪突ッ猛ッ進!」

 

 そう言って必殺技を発動させたウリ坊。後ろから見たのが初めてのせいか、普段よりも猪がでかい気がする。

 いやいやいや、いくらなんでもそれは無しだろウリ坊! ボスだってそんなにすぐ準備が、

 

「ッ!? ふんっ!!」

 

 出来たな!? ペナルティエリアに入ってきたウリ坊を見つけたかと思ったら、すぐに骨の翼から風を起こし猪にぶつける。更には少し跳び上がり、斜め上から骨の手を使ってウリ坊を抑えつけた。

 すげぇな……ボス。まるで一秒が何倍にも感じているかのような判断の速さだ。猪の牙が地面に突き刺さり蛇に食われ、ついで骨の手が砕け散り消える。

 

「……ウリ坊、大丈夫か」

 

 左手に巻き付く蛇を撫でながらそう言った。

 何事もなかったかのようにウリ坊の心配をするボス。一方のウリ坊は頭から芝に叩きつけられたように見えたが……。

 

「うん? むしろなんか普段シュート止めるよりか全然……なのにこんな簡単に止められちゃうなんて!」

 

 平気だった。口に入った芝を吐き出して喜んでいる。なんでだ。確かにすげぇが渾身の一撃を止められたばっかだってのに。

 というかなんで今ボスに攻撃を……?

 

「やっぱり部長、僕の必殺技の欠点とか諸々分かってるよね! 何かアドバイスとかチョーだい!」

 

 ……賢いなアイツ。ああして自然な流れでアドバイスを貰おうとするなんて。なるほどそうか、その手があったか。

 ボスは確かに……例として挙げるならドラゴンクラッシュ相手に下からパンチングしてたり、相手の技の性質をよく読み切っている節がある。メアにもよく適切な助言をしてるっぽいし。

 

「……直線加速だけじゃ限界が来ている。なら、横に飛ぶことも視野に入れるといい……かもしれない

 

「おー? よくわかんないけどやってみるよ! ありがとう部長!!」

 

 ……もしかしたら俺も聞けば何か言われるか? そう思い、先ほど弾かれて転がって行ったボールを拾いに行く。

 これで必殺技をボスにぶつけりゃいいんだな。

 

「っ!? いやまてグラさん、お前は……その、アレだ、ボール──弾自身が追尾する……なんてどうだ?」

 

 俺を気遣ってくれたらしいボスが矢継ぎ早に、また珍しく大声を出してアドバイスをくれた。

 

 ……そうか、こうして必殺技を自分からぶち込むという意識を持たせることをボスは狙っていたんだな? 今にして考えれば、ダークネス・ハンドに使う骨の手を出しながらゴール前にいるなんてわかりやすすぎるヒントだった。もう少し早く気が付くべきだったぜ。

 ……何かボスが「違う、そういう事じゃない」なんて顔をしているようにも見えたが思い違いだな!

 

 にしてもあれかぁ、追尾弾か。その発想はなかった。確かに自分で勝手に追ってくれるなら相手を追い込むのにも便利そうだ。

 けどそれを連発するってのはまだ難しそうだし、とりあえずデカい一発をぶち込む方向性で考えてみるか。

 

「お、おおおお! なっなんか部長! 反復横跳び僕得意かもしれない!」

 

「あ、あぁそうだな……二人いるように見えるぞ」

 

 視界の端で元気に跳んでいるウリ坊を横目に考える。デッド・アーテナリーの技を元に改造する方向がよさげか。バズーカが敵を認識するように作って、弾にそれを伝えて……。

 うーんどうすりゃいいんだそれ? そもそも相手を認識して飛んでいく弾をどうやって作るか。バズーカよりも威力を持たせねぇとこれから先通用しねぇだろうし。

 

「二人……そうだ、この感じで横に跳びはねながら猪突猛進すればパワーが二倍だし、横幅も大きくなる! そういうことだね部長!」

 

「えっ」

 

 バズーカを砲台に変えてみるかいっそ。サッカー場にどんと迫撃砲みてぇなのが現れれば威圧にも使えるな。

 

「よぅしこんな感じだな……後はやっぱり弾なんだがっ!?」

 

 遠くをもう一度よく見れば……とんでもない光景が広がっていた。

 

「こうか、こうだね!? よしうまく行けた! もっともっと横に飛べばどんどん突進で巻き込めるものが増やせる! すごいや部長!」

 

「……」

 

 一面芝生の筈のグラウンドに砂嵐が吹き荒れる。サングラスについたホコリを払いもう一度見ても変わらない。

 ウリ坊のいつもの巨大猪が……増えていた。正確には普段の猪よりもやや小柄だが、一頭を先頭に何頭も。群れの突進の如く。ボスを囲み周回している。

 それらを見てボスは……腕を組み、こちらを見つめてきた。

 

「名付けてっ、百獣大行進!! これを進化させればそのうち地上は敵なしだぁ!」

 

 ウリ坊がご機嫌で走り回っている。それらを見てもう一度こちらを見ている。

 傍目から見りゃ助けを求めているように見えるが、ンな訳がない。

 な、なんだ? ボスは何を求めている。今の俺に何かできることなんて、まだ必殺技づくりに躓いてるんだぞ。

 こうして砲台こそ作れたが、それにふさわしいだけの強力な弾が……。

 

 弾……弾丸の様な突進。それを操るウリ坊は当然、目が見える。

 

「──っ、そうか! ウリ坊! この砲台に飛び込め!」

 

「えっ? う、うん!」

 

 俺の声に従い、獣の群れがこちら目掛け突っ込んでくる。

 地響き、だがウリ坊は確かに俺を目掛けている。曲がることだってできる。間違いない、これだ!

 

「いくよグラさーん!?」

 

 やがて十頭近くの群れが一つの巨大な猪に、更にそのエネルギーが砲台におさまるべくウリ坊の体に圧縮されていく。

 砲台の前で一度跳ねくるりと回り砲台にすぽりと収まった。まるで最初からこいつの為に拵えられたかのようなジャストフィット感。

 

()()()()()()、空を飛ぶぜウリ坊!」

「っなるほど! いくよグラさん──」

 

 強く強く、砲台のケツを蹴れば溜められたエネルギーが爆発を起こす。

 勢い良く飛ばされたウリ坊は空を駆け抜け敵に当たるまでとまらねぇ!

 

 名付けて、

 

「「──(スーパー)猟猪(ハウンデッド)突進弾!!」」

 

 ジェットパックを背負った猪が飛んでいく。小柄ながらそこに秘められた力は今までの猪突猛進なんて優に上回るだろう。

 

 何一つ相談してねぇはずなのに名前すら完成した必殺技。

 煙を吹き出し一直線に加速しながらボスに向かって行く。

 待ち構えていた様に構えていたアイツを見ると……そうか、正しかったんだなと嬉しくなる。

 

 

 更にウリ坊が加速した。武装が更に凶悪な者へと

 まるで祝砲のようだ、達成感に包まれた俺はそんな感想を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっ、いきなり必殺技が二個も完成とかふざけんなよお前ら!? しかも応用技っぽかった百獣大行進はともかく……いや明らかに分身してて怖かったけど無視するとして!

 何だよスーパー・ハウンデッド突進弾って!? 構えてないと吹き飛ばされそうなぐらい圧がすごい!

 しかもこれシュート技じゃないよね!? いやシュートにも使えるのかもしれないけどブロック技だよね恐らく! 俺今ボールないんだってば! さっきのウリ坊と同じことを繰り返さないでくれ!

 

 グラさん、グラさん! ついぞお前には何も伝わらなかった気がします! ちょっ、なんか誇らしげにしてないでどうにか攻撃を中止……!

 あ、あっ……あぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 助けてぇ!!

 

 主にフェルタン! ほら、ご飯だよ!?

 

──火薬のにおいがするのはちょっとやだなー

 

 後生です、お願い!

 

──お前、後生があるのか……?

 

 コルシアハウス!!

 

 

 

 




いやぁ……長くキツイ特訓でしたね(((



~オリキャラ紹介~

・部長,ボス(織部 長久) 1番 GK
 とりあえず特訓だけ命じて翼の使い方を探りつつさぼっていたらこの仕打ち。
 とりあえず一瞬浮遊する程度の浮力を発生させることが出来るらしい翼。ダークネス・ハンドを別の方向に進化させるとき。

・グラさん 2番 DF
 あんまり心酔していないタイプの部員だったが、上手く事が運びすぎて好感度が増えた。必殺技枠4つ目が埋まる。
 早熟型。持ってきた荷物の中にはグラさんのサングラスコレクションもあるらしい。

・ウリ坊 4番 DF
 経験値が溜まっていたらしく、アドバイス一つで化けまくった。怖い。
 横幅で巻き込んでいく百獣大行進、敵に当たるまで突進を続ける超・猟猪突進弾を覚える。
 怖い。
 荷物の中には枕投げに使おうと持ってきた枕(一キロ)が入っている。怖い。


~オリ技紹介~

・百獣大行進 ブロック技
 反復横跳びが世界を変える。横に飛びながら前に進む。つまりは超高速で斜め跳びを繰り返すことで全てを飲み込み弾き飛ばす縦横無尽技。
 普段の猪突猛進よりずっとつかれるらしいが、習合のメンツにはあんまり関係ねぇな!?
 シュートブロックに対しても使えるが猪突猛進した方が威力はある。

・超・猟猪突進弾 ブロック技
 グラさんが作り上げた頑丈な砲台にウリ坊の溜め込んだエネルギーを発射する技。これでドリブルしている相手を地の果てまで追い続ける。
 当たれば並みのサッカープレイヤーはタダでは済まないだろう。怖い。
 シュート、シュートブロックにも使えるが、ためるのに時間がかかるのでやや使いずらいか。

 


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クロススカーフ、巻きなおす日

 仕事が変わってぐっすり眠れるほど疲れる様になりました。健康になりますが更新が再び遅くなります。


 俺は考えていた。

 秘密のバンダナコレクションを是非とも見てもらおうと思い、トランクケースに詰めて持ってきたのは……このためだったのかもしれないと。

 ついで、自分の為ではない。皆がつけるとしたらこんな柄が似合うだろうなと思っていた物も持って来ていたのも功を奏した。

 

「なんで部長さんが全面的に焦げてるかと思ったら、グラさん達の必殺技が完成したんッスね~よかったよかった」

 

「おうよ。超・猟猪突進弾! 直撃したらウリ坊の強烈な一撃が、例えギリギリで避けてもウリ坊に込められた力が大爆発を起こす。無事じゃ済まねぇぜ!」

 

「追尾性もばっちりだったでしょ部長! 紙一重でワザと避けてくれたから逆に燃えたよ!」

 

 ふんすと胸を張り自慢しているウリ坊さんを見つつ思う。いくら必殺技のためとはいえ部長さんに頭突きの必殺技をぶつけるのはどうなんだろうと。まあ部長さん本人も乗り気じゃなきゃ叱ってるだろうし別にいいか。

 

 地下グラウンドに降りてきた時ッス。骨で作り上げられた翼と手を使って、時に華麗に時に巧みにウリ坊さんを何度も躱す部長さんを見た時は驚いた。いやそもそもウリ坊さんが空を飛んでいたのもびっくりしたんだけど。

 

「しっかしこりゃあ……いい技が出来たんじゃないか!?」

 

「そうだよね、そうだよね! これなら世宇子にだって……! よぅしグラサンもっかい特訓しよ!」

 

 白く輝く歯をむき出しにする二人に部長さんは笑いながらもやや呆れているように見えた。多分二人とも規格外だなぁとかズレた考えをしてそうな気がする。

 最終的にはいつものダークネスハンドを使って止めた……けど、すぐさま起きた大爆発。ジェットパックを背負った猪の全身が爆弾となり爆ぜたのだ。

 爆心地にいた部長さんは煤で汚れ、ユニフォームは見事に焦げていた。ダメージ加工という奴ッスね。

 

「部長さんは普段暗めの色が多いッスから、こんな感じの少し明るめのグリーンペイズリーとか合うと思ってたんス。ほら、こうして前髪だけちょろっと出して縛れば……すっごい別人に!?」

 

「へぇ。なら俺のコレクションの……高さが極端にない、目の半分も隠さない琥珀色のサングラスをだな……すげ、地中海にいそうなやべぇマフィアになっちまったぜ」

 

 グラさんと協力し、部長さんのコーディネートをしていたんスけど……どんどん変になってきた気がするッス。船の中ででっかい包丁叩き下ろして鳥とか捌いてそうな。或いは小型クルーズ船の上で裏切り者を海に落としてそうな……。

 元々浅黒いから少し変えるだけでアングラな格好良さが化けるんすね。アハハハハ……。

 

 そ、それはそうとして。

 

「……なーんか、意外とみんな遅いっすね?」

 

 ……周りを見てみれば集まった部員は半分ほど。もうすぐ部長さんが定めた一日目の特訓時間午後の部が終わりを告げる。

 

 その後は自由時間を挟み、みんなで夕食を準備。食べ終えた後は筋トレなどの基礎メニューがあるが……安全のためという部長さんの提案により本格的なことはしないことになっている。

 大事な一日目だからこそみんな揃って終えたかったのに。

 

「それもそうだな……ワタリのやつなんて滅茶苦茶張り切ってたのにどうしたってんだ?」

 

 俺とほぼ同時にきたジミーさんも顎に手を首をひねる。FW陣の中で今現在いるのは()()()だ。

 他にいないのは二号さんとアルゴさんにソニックさん、そしてトールさん。

 

 キョロキョロしている俺達を見て、部長さんが一歩前に出る。あ、少しバンダナがずれた。

 

「……ワタリは準備に時間がかかり過ぎているらしい、もうすぐ来るはずだ。一号,二号からは明日から、そして特訓のみ参加すると連絡が来た」

 

「お、おう!? ワタリは……わ、分かったけどあの二人は合宿しねぇのか?」

 

 今頃ワタリさんは海外留学でもするのかというほどのバッグを引きずってこちらに向かっているらしい。何をする気なんですか一体。

 そして高天原コンビはまさかのノーお泊り。理由はなんだとジミーさんだけではなく皆気になったが……部長さんが少し言いよどんでやめたのを見て、詮索するのを止める。何かあるのだろう。

 

「メアは説得に時間がかかっている。アルゴは……恐らく寄り道中だ」

 

「あぁ……目に浮かぶッス」

 

 多分その辺で面白そうなものを見つけてフラフラしているのだろう。恐らくというあたり、連絡も来ていないに違いない。流石、流れる如くであり己が道を行く男。

 憧れるけどなりたいかと言われればなんか違うッスね……。

 

 メアさんは単純に来れていない。家が滅茶苦茶いいとこっぽいし、難しいかなぁ。

 

「ソニックは少し走った後に合流。トールは、そろそろだ──」

 

「──わりぃ! 遅れた!!」

 

 部長さんがそういうや否や扉が勢いよく開かれ、カバン一つでトールさんが駆け込んできた。

 既にユニフォームに着替えている辺り、やる気まんまんと言ったところだけど……。

 

「……? うげ、もしかして今日の特訓はもう終わりか?」

 

 片付けを始めている部員の皆を見てトールは悟る。肩掛けカバンを力なく落とす様を見ると何とも言えない気分だ。

 

「お……遅かったねートール! ……に、荷物もそんなに無いように見えるのに」

 

「……かあちゃんにな、説教みてぇに色々と約束事させられてよ」

 

 気遣ったのかわからないけど話しかけたウリ坊さん。それに対してやはりげんなりとトールさんも返す。……帝国学園戦の時に来てたトールのお母さん、めちゃくちゃ強そうだった。体格がいいという訳ではないんだけど、歴戦と言った風格が確かにあったのを思い出す……ッス!

 部長さん曰くメールで息子を頼みますとだけ書かれ送り出されたグラさん達と違って、自分のケツは自分で持て。そんな教えがあるのかもしれないッスね。

 

 ウチ? いやまぁ……楽しんできてねって言われて、良かったねぇとか見に行っていい?とか言われて……だーいぶ気恥ずかしい気分で家を出ました。はい。

 

「……さて──自由時間だが、なにか行きたい場所。やりたいことはあるか?」

 

 トールに日程表を渡したあと、部長さんがそう切り出した。自由時間というか団体自由行動時間? 一応部長さんにも案はあるらしいけど、みんなの意見を聞いて決めたいらしい。

 ……そもそも何をすればいいのかわからない。時間の目的として息抜き、サッカー以外の事を敢えてすることで視点のリセットとかいろいろあるらしいッスけど。

 

「ひっさつ──!」

「サッカー以外でだ」

 

 間髪入れずに提案しようとしたウリ坊さんを手で止めつつ、改めて皆に尋ねる。

 

「あー、俺のコレクションでも見るか? 夜に見せびらかすつもりだったんだが」 「それ喜ぶのグラさんだけだぜ? サッカーじゃないならドッチボールでもすっか?」

「俺ぁは来たばっかだし体を動かしてぇ、ジミーの案に賛成だ」「……! ……!」

「……カガは、せっかくだし普段やらない事をしたい。と言っている」

 

 最後の部長の補足も交えて一通りの案は出る。今のところドッチボールが優勢だけど……部長さんからしたらもう少し運動から離れたことの方がいいんじゃないだろうか?

 かと言ってサングラス鑑賞会は嫌ッス。自分もバンダナ持って来ておいてなんスけど。

 

「……」

「……」

 

 うんうんと唸っている内に……視線が自分に集まっていることに気が付いた。

 

「……えっ、なんですか? ……ッス! じ、ジミーさん」

 

「いや、バングの意見がまだ出てねぇなーって?」

 

 ……そ、そっか俺も意見していいんだ。いけないけない、どうしても控え気味になってしまう。

 じゃあ考えよう。何がしたい?

 皆で動く自由時間、普段やらない事、やらない事……。

 

 ……、

 …………、

 ………………うーん、あっ。

 

「……」

 

 あっ、と声を出したまま口を開けて固まる。いやこれはないだろう、直前になって思いとどまった心が止めたから。

 けど、衝撃が走る。

 

 

 

「──痛ッァ!? ちょ、いきなりぶっ叩かないでくださいッスよトールさ……ん?」

 

 これは、あまりにも場違いだ。

 

 飲み込みかけた言葉、させじと大きな平手が背中を押した。ビタンといい音が室内に響く。

 こんな大きな手、トールさんしかありえない。一体何なんスか?!

 思わずトールさんの顔を涙目で睨んだけど……。

 

「いや、俺じゃねえが……?」

 

 困惑の顔を浮かべるトールがいて、その視線の先には……。

 骨の手に薄い膜みたいなものを付け宙に浮かべている人が居て、腕を組んで俺の顔をじっと見ていた。

 

「……」

 

「……ぶ、部長さん?」

 

 尋ねて、ふと思い返した。

 眼鏡の意味を成していないサングラスをして、怪しさを醸し出すバンダナを巻いていて、普段と似ても似つかぬ姿になっているのに。

 片方の目も、出会ったあの頃とは白黒が逆になっているのに。悪魔の力をありありと見せつけているのに。

 

「……俺は、いいと思うぞ」

 

「──っ!」

 

 あの日、掃除を手伝ってくれた。あの部長と何も変わっていない。俺が心の底から友達だと思えたあのやり取りと変わらない。

 俺の思っていることを読み取って、それを手伝ってくれる。背中を押してくれている。

 

「は、はい! え、えーと俺は……」

 

 だから、俺は。

 あの日のように、他愛もない話をして河川敷を歩く。

 世宇子相手だからとか関係なしに、合宿だから実りあるとか関係なしに。

 

「…………だ、駄菓子屋とか寄ったり、公園にみんなで行ってみたい」

 

 子供っぽい、一度はしてみたかった願望を打ち明けてみた。

 

 答え……この誘いをみんなは、サッカー部としてではなく、友達として応じてくれた。

 やっぱり俺、すげー幸せ者だ。

 

 

 ……あ、ッス!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よーしよく言ったぞバング!! そうだよお前はいつだって平和な志を持つ者だ! 時折重りの量を増やしてきた罪悪については水に流そう!

 駄菓子屋、駄菓子屋とかなら確実に何も起きないはずだ! 皆がサッカー絡まない時は比較的、うん比較的超次元じゃなくなるのはとっくに把握済み。

 さぁみんなお小遣いは持ったな!? 中学生と言えど我らは子供よ、さぁいかんぞ無限の彼方──駄菓子屋へ!!

 

 ははは、勝ったなコルシア! フェルタン! トロア!

 

──……妾は駄菓子屋で騒ぎが起きるに一票

──ふっ、甘いな。我はそこで大きく油断したあとの寄り道で死ぬに一票だ

──だがしー、だっが~しー♪

 

 

 ……くっ、絶対助けなんて求めないんだからな!?

 

 

「すいません遅れました皆さん……!? え、なんで財布を握りしめて……あ、待ってください! ちょっと荷物をロッカーに詰め込んでくるのでお時間を!」

 

 ワタリ、これからテントでも張るのかってぐらいの荷物は流石に使わないと思うぞ。何入れたの? へぇ人生ゲームとかのボードゲームとか色々。あとお菓子も? わぁ高級そう。

 ……今から駄菓子買いに行くから、他の皆には見せないようにしまっといてね。




台 無 し (既視感二度目)

 バングの好感度アップイベント。
 次回はそのバングを起点としつつ、トール、ソニックの必殺技イベントです。
 タイトルは「進化、大嵐吹き荒れる日」を予定しております。
 つまり部長は死にます。駄菓子屋は生き残ります。 
 当然だね。


~オリキャラ紹介~

・バング MF 8番
 久々にメイン視点をもらったバンダナクロス男。中身は友達少なかった系、流され男子。
 意外と部長と似通っている点が多いからか二話目で視点を貰っている。何気に出会いに勘違いもほぼない。
 チームで二番目に必殺技を習得している辺り、テンションが上がれば上がる程強くなるメアと似た気質であることは間違いない。

 今回のイベントでこっそりパワーアップしているが、次回もパワーアップする予定である。

・部長(織部 長久) GK 1番
 自由時間ならばなんとか体力を回復できると思い込んでいる愚者。
コルシアの力の使い方がどんどんうまくなってきているが、とうのコルシアはこの間の仕返しを練っているとは未だ知らない。
 駄菓子屋は久々のびさであるため、内心楽しみである。

 あと超・猟猪突進弾の仕業で左手が折れているが、バレていない。やや焦げ気味の包帯の下に、闇の力でギブスは既に作ってあるので痛みさえ我慢すれば問題ないらしい。
 そうか?

・トール DF 3番
 姉御(母)とのお約束条項、第百二十九条「45回目だが絶対に喧嘩はするな。仲間があぶねぇ時はやっちまえ」を胸に秘めている男。
 荷物の中身はクソ重ダンベルと着替えのみという潔さがある。

・高天原コンビ FW・GK 12番,13番
 とある思いから泊まることに不参加を表明した。
 織部にだけはその思いは悟られているようだが……?

・メア(勅使ケ原 明) FW 11番
 とうとう父親が口を出してきたが、特にシリアスることは無い。
 やや苦手意識を抱えている姉が全力で協力してくれるらしくそのうち来る。

・ワタリ(帳塚 望) FW 10番
 父を全力でねじ伏せた後、彼は母親と協力し限りなく詰め込んだ。
 多分一か月は余裕で暮らせるほどの荷物を持っている。
 恐らくアホ。昔のツンデレ気味な君は何処へ行った。


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在りし過去、無き今に震える日

 最近部屋に置いてある猫のぬいぐるみの視線が怖くなってきた気がします。

 あ、滅茶苦茶平和な回です。具体的に言うと骨折しません。




「……もっとだ」

 

 走る、走る、走る、駆ける。決して一瞬たりとも地上から離れないように。足が常に地面を蹴っているように。ただひたすら前へ進む。

 違う、体全体を傾けることで無駄な力をそぎ落としてターンをして円を描いているのだった。ズレる砂粒一つすらスパイク越しに感じ取る必要がある。

 

「もっと、もっとだ……!」

 

 壁が前にある。体に纏わりついて俺の最高速をその程度にしてしまう奴がいる。

 

 邪魔だ、追い風よ吹け。俺よりも速く、俺よりも強く。駆け抜けて見せるから吹いてみろ。

 いくら円を描いても吹く風は、竜巻は俺よりも遅い。これでは駄目だ、補助になっても突破する力にはならない。

 それどころか足を引っ張られている気すらする。

 

「──ちっ、もうダメか」

 

 ……体が熱く沸騰しそうになっているのを理解する。これ以上は無駄だ。いくら走ろうとそれは無茶であり、成果を生み出さない努力だ。

 壁から離れていく。薄膜がはがれ、俺の速さが遠のいていく。

 竜巻が形を崩す。それから少しすれば生暖かい風が頬を撫でていくものだから、気持ちが悪くて仕方がない。競技場に出来た砂のサークル中央で膝に手をついた。

 

 視界端で散る枝葉。

 息を整えつつ、思い返す。自分の壁と、超えるべきものの壁を。

 

「……今の俺の限界はこれまで、か。どうすれば()()を越えられる?」

 

 脳裏に浮かぶは世宇子中。

 先日好きなだけ暴れていつの間にか帰って行きおった奴がいた。あれが神だというなら俺はこれからワザと足を向けて寝ようとさえ思う。

 だが酷くムカつくことに、認めたくはないが……奴は速かった。

 

 それだけは確かだ。以前ストームブリンガーを乗りこなして防いだあの中国人。夥瓏よりも身のこなしが良かった? いや違う、技術においては夥瓏のほうが数段上だ。奴はひたすらに身体能力が高かった。

 人が出していいものではない。俺よりもずっと多くの枷を壊したのだろうか。だとしてもたどり着けるものか。

 

「ヘブンズタイム、あれを超えなければ世宇子の流れは止まらない」

 

 指を鳴らされれば時が止まったかのように体が固まり、気が付いた時には背後を歩いていく。もう一度指を鳴らせば風の爆発が襲う。

 しかし、()()()()()()()()()

 チームの中では俺だけだから、奴の()()()()を目で捕らえたのは。

 

 何度も受けるうちに気が付いた、目が慣れた。これはまやかし、そしてヤツの人体の超常性を生かした必殺技なのだと。

 

 最初の指を鳴らすのは、腕をわざと上に伸ばすのは、注目を一瞬でもそちらに向けさせるため。

 周りの注意が逸れた瞬間に加速し、風を置き去りに走り抜ける。ピントがずれた視界は奴の動きをスローでとらえる。しかし本当の足は目にも止まらず動いている。湖の下の白鳥の足がごとき。

 

 対策は簡単だ。まやかしに引っかからず、急加速して走り抜ける奴の邪魔をしてやれば簡単に止まるだろう。

 ……対策が分かっても追いつけない速さを考慮から外せば。

 

 体から逃げきらない熱が煮え切る様に己を責める。

 最高速を出せない頃に何度も味わった挫折感が顔を出そうとしている。

 

「──よしっ。考えていてもしょうがない、合流しよう」

 

 だから一度思考の隅に追いやった。

 どけた脳裏に浮かぶ部員の皆の顔を浮かべれば体の熱が楽しみの物に変わって行く気がした。

 

「……フハハハハ! さて待っていろ皆っ、ソニックがいま向かうぞ!」

 

 最速で置いておいた荷物を取りに行けば、携帯にメールが届いていることに気が付いた。むっ? 部長からか。

 なになに『駄菓子屋で尽きました』? ……誤字か。そこは駄菓子屋につきました、だろうに。まったく。

 

 それと……『ソニックの分も買っておいた。公園で食べるが、溶けるといけないからそろそろ来るか?』のメッセージ。そして添付されているソーダ味のチューブアイス。

 

「フフッ」

 

 ……まったく、全くも全くだ。あの強面部長め、文面やら気づかいは似つかわしい事をするのは受け狙いか何かか?

 零れた笑みは置き去りにすべく、俺は公園までの道を駆け抜けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燃え尽きたぜ……駄菓子屋でな。

 よくよく考えたら俺って町を歩く時は色んな人に怖がられてるんだった。

 

「ひ、ヒィィィ! 新手の地上げ屋かい!? じいさん、わしももうすぐそっちへ行くかもしれん……!!」

 

 おばあさん、腰を抜かして慄かなないでくれ。そんでじいさん生きてるでしょ。後ろでフガフガ茶を啜ってますよ?

 あと5nチョコ下さい。折角なので奮発して一番でかいやつ。そう、その天井に飾ってある奴。パッケージ埃被ってる辺り不良在庫なんでしょう?

 いや貢物とかじゃなくてね?

 

「おかぁさぁぁぁん! 魔王が。魔王がいるよぉぉぉ!!」

 

 少年よ、なにを恐れて顔を隠すか。目の前に魔王がいるから?

 少年よそれは柳の木のように吹けば飛ぶ人間じゃ。さあ涙を吹くがいい、綺麗なお洋服が台無しだぞ。

 

──シューベルトか、懐かしいな

 

 無駄に博識だなコルシア。夏休み前に習ったのを思い出してな?

 もしかしてコルシアなら本人に出会った事もあるのかもしれないのか。そう考えると浪漫だな。

 

──おっ、ブドウグミだ~ちょうだーい

 

「ひぃっ、魔王の尻尾ぉ!」

 

 こらっいけないぞフェルタン。小さな子供のお菓子を食べちゃ駄目だからな。

 ごめんね坊や、うまかった坊買ってあげるからご内密に……。ああこら暴れないでくれ手が折れてるんだ、あっサングラスとバンダナが。

 

「あ、あの子は悪魔の──!?」

 

 

…………、

……、

…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──おっかし~おかしが大漁だぁー

 

 はっはっは、そこまで嬉しいかフェルタン。微笑ましいが重心がぶれるから顕現してぶんぶん振れないでくれ。

 

──予算オーバーもいいところじゃな、我が契約者にしては買い物下手だった

 

 しゃーないトロア。駄菓子屋のおばあさんがつわものだった。

 最初はビビっていたかと思えば客がいなくなってしまったことを嘆き、俺達が必要以上に駄菓子を買うように仕向けてきた。おかげで闇の手ははち切れんばかりのレジ袋を持たされている。重い。

 しかし自分が持てるのに部員の皆にいっぱい持たせるのはなんか格好悪い気がする。

 

「……部長の変装解くの忘れてたッスね。すんません……」

 

 いやいいんだよバング。むしろ少し地中海風味になっていたおかげで騒ぎになるまでタイムラグがあった気がするから。むしろ変装前に見破ってきたあの少年が怖い。きっとそのうちいい目をもった男になるだろう。

 しかし、本当に、疲れた……燃え尽きた。ただでさえ常時手が痛いのに心労も重なると辛さが倍増だぞ。

 

 はぁ……モテたい。女の子とかとすれ違うだけでキャーキャー言われたい。人気者になりたい。道行く人たちに一目置かれたい。

 

──ある意味叶っておるではないか? 今朝もポストに呪いの依頼だとか悪魔降ろしの方法を教えてくれだとか愚かな投書がきていただろう?

 

 そういうのじゃないんだよなぁ。一応呪いの依頼とかは警察に届けておいたし、悪魔降ろしの方法はメル●リって教えておいたけど。

 見つかるといいね、メ●カリ使って呪いの品売りさばく妹系悪魔とか。朝目が覚めたら憑りついてる龍とか気が付いたら生えてたよくわからん骨の羽根とか

 

 あ、そうだ今度お金に困ったらこの骨の一部とか出品してみる? 高値がつくかも。

 

──今朝、フェルが喰らい付いた痛みでしばらく動けなくなったことを忘れたのか? 痛覚を殺してもいいというなら知らんが

 

 そうでした。普段コルシアの力で覆ってるから忘れがちだけどこれぶつけたりするとかなり痛いんだった。

 それはそうといくら寝ぼけてたからといってもいきなり体の一部を食べようとしてくるのはほんと怖かった。蛇に睨まれた蛙どころか飲まれかけてたもん。

 

──いやーなんか、焼けた鶏肉の匂いがしてたからつい

 

 さいですか。二度と食べないでね。あと多分それメアに焼かれた後の残り香。

 ……いや何の話だったっけ? えっとバングが自分のせいで駄菓子屋が騒ぎになったと思っている話だったな。

 別に気に病む必要はない。もう公園についたしさっさと気持ちを切り替えて欲しい。

 

「……気にするなバング。いつものことだ」

 

「そうそう、部長もこう言ってるしいいじゃねぇかバング、縮こまってねぇでそろそろ食おうぜ? 」

 

 俺の言葉に乗って励ますトール。……お前も色々と怖がられたりであるんだろう。人の背中ばしばし叩いていなければ同意したかったところだ。また力強くなったなトール、キーパーやらない? 一撃ごとに地面に埋まる気持ちなんだけど。伸びるよりかどんどん小さくされてる気がするんだけど。

 

 ……さあみんなお菓子でも食べてすっごく溜まった疲れを労おうではないか。

 そんな疲れてない? どつきまわすぞおのれら。疲れてるんですよこちとら。

 

 なあ?

 

「──ああ食おう、たらふくな!」

 

 ソニック。

 君めっちゃ来るの早かったね。メールしてから数分だよ? そんな近くにいたん?

 いや塩の結晶がシャツに浮き出ているあたり、大分走ってきたな。

 

 ほらソニックが好きな炭酸抜きの炭酸ジュース味を取り揃えて置いたぞ。炭酸抜きのコーラとか美味しいのかわからんけどよく飲んでるよな。

 あとは……しょっぱめなポテト系駄菓子とか。おお喜んでいるな? 口元緩んでいるぞ。

 

「よーし食うぞ食うぞ、ミニンドーナツは全部俺のだぜ!」

「あっずるいグラさん! じゃあ僕はイノメン……ああっ、お湯もらって来るの忘れてた」

「……!」

 

 ほう、手裏剣型ドーナツのミニンドーナツがグラサンの好みか。そしてウリ坊はやたらニンニクと脂が強いミニカップ麺を。

 お湯を忘れたウリ坊をサポートするのはカガ。気がついていたと言わんばかりに取り出した水筒からは湯気が。そして反対側の手にはくそ硬い事で有名なカチールチョコが。

 へぇ、硬すぎるチョコをバリバリ食べるのもいいけどお湯に溶かして謎飲み物を味わうのも乙? 知らなんだ。

 

「……なんでバング、お前は駄菓子じゃなくてベイゴマ買ってんだ? ワタリは置いておくとして

「いや、なんか置いてあったからつい……まあワタリさんに比べたら

 

「なんですか、ええ指輪の形をした飴を買い占めてやりましたよ。悪いですか!?」

 

 趣味が悪いかなって……。しかもなんでドクロ型なんだ。よく売ってたなこんなの。べっこう飴だから微妙にきれいなのもあれなんだが。

 トールは麩菓子を飲み物の様に口に流し込んでいる。飲み物用意しておけよ。

 

「……駄菓子選びにも個性って出るんだな」

 

 そうだな、くじ付きの菓子を中心に買って大体外れたジミーよ。ほら寂しげにうまかった棒をモソモソ食べてないで俺の買いすぎた菓子を食うがよい。ジミーだけでなく欲しい奴は持ってっていいからな。

 

──施しをするとは偉くなったもんじゃなあ? せめてもうちっと驕りつつ配らんか。聖人の真似事は嫌いじゃ

 

 ははは、部長を崇め奉りたまえ。ってキャラじゃないし別にいいよ。それに皆が喜んで、また選んだ菓子にドラマが見えて。

 全部、キラキラに見える。普段の超次元な訓練ではまず見ることがない、普通の中学生のワンシーン。

 

 ……楽しいな、この光景が見れただけで部活作ってよかったかもしれないって思えた。

 

 あ、部員たちよ。出たゴミはこの袋に入れるんだぞ。ポイ捨てなんてカッコ悪いことしないと思っているが、ゴミは持ち帰った方がよりクールで格好いいからな。

 

「おお流石は部長。ちなみに部長は何買った……ってなんだよそのやたらでかい包み」

 

「チョコだ」

 

 これかジミー? 5nチョコの最大サイズ、n=20の直径100cmチョコだ。これが入るビニール袋があったことが驚きだったぞ。

 値段も駄菓子のそれではないくせして、デカいだけでひたすら甘い。厚さはないのにやたら口に残る甘さがとにかくしつこい。美味しい菓子じゃないんだけど……昔からこれを食べてみたくてな。

 

 懐かしいなぁ。

 買ってって強請ったらパパがもっと大きくなってからなと言って、普通の大きさの奴を買って半分に割って分けて……。そんでママにご飯前にお菓子を食べるなって軽く怒られて……。

 なんだ君たち、そんなに目を輝かせて。ジミーはともかく他のものたちはまだ手元に自分好みの駄菓子があるではないか。

 

 ……。

 

「──食べるか?」

 

「えっ、いいのか部長?」

 

 なあに。欲しがられて分けない部長なんて大人げなさすぎるからな。それにまぁ……あれだ、多分一人で食べたら寂しくなっちゃいそうだったし。

 ほら希望者は並びなさい。全員か? じゃあ今闇の手使うから。ピザみたいに切り分けてやろう。

 

 あっやべ、ズレた。ああっ、変なところが割れた!

 

 ……すっごい歪に割れちゃった。かっこわるぅ。

 どうしよう、大小が丸わかりになっちまった。

 

「……」

「……」

 

 こらウリ坊たち、すっごいいたたまれない顔で見てくるんじゃない。仕方ないだろ。薄いせいで微妙な力の加減で勝手にヒビが入ったりするんだよ。

 とにかくまぁあれだ。これ以上割ろうとすると惨事が起きそうな気もするし、人数分の破片が出来たし……。

 

「──じゃんけんだ」

 

 ええ、計算通りですよ? 的な顔をしつつ言ってのけた。部長らしくオリエンテーションを設けたまでですが何か?

 断じて、断じてオーパーツの様に複雑な形に割れたのは失敗したからではない。そう強く押し込めた宣言。

 闇の手を握り宙に浮かべさせれば準備はいつでもと言わんばかりに見える事だろう。

 

「ア゛ー」

 

 あっこらカラスよ止まり木代わりにするな。いい感じに決まらないだろ。

 ……みなさんなんか微妙な顔されてます? え、そもそも部長がじゃんけんとか似合わないって顔されてますね?

 いいじゃないか、もっと年相応なことをしようぜ。ほらバング、駄菓子屋の後の公園での駄菓子争奪戦じゃんけんだぞ。すっごくそれっぽくないか!? 頼む、乗ってこい。

 

「じゃ、邪ん拳……!?」

 

 なんの聞き間違い?! 違う、骨の手でチョコを割り切った技の名前とかじゃないから!! ほらみろ、今の変なボケ?のせいで周りの雰囲気がより変になった!

 どうしてくれる、地獄だぞこの空気。俺はただ、ただ……部長っぽいことしたかっただけなのに!

 

 

 助けて!

 

「あ、おツマミに良さそう。これもらうね~」

 

 急に現れたなアルゴ!? いやまぁいいけど!

 よしそのまま全員分もってけ、そんで配れ!

 

 助かったな!?

 

 

 

 

── 一人増えたのだから、そのまま配ったらお前の分がなくなるのではないか?

 

 ……あっ。

 

 




無き今とは:骨の手に残ったチョコカス


 駄菓子の話が広がり過ぎてソニック強化できなかった。
次回こそ強化されます。


~オリキャラ紹介~
・魔王(織部 長久) GK 1番
 どこかの世界では魔王・ザ・ハンドという必殺技があるらしいが何の関係性もない。モテたいと本人は言うが、モテたいならまずは悪魔祓いを考えてみるべきである。
 教会に出入り禁止を言い渡されないかどうかの瀬戸際をあるいていることを知らない。

~オリ駄菓子紹介~
・5nチョコ
 帰ってきたチョコ菓子。nの数字が1-20まで存在し、5ncmのサイズがウリ。
 甘い、ひたすら甘い。大体でかいチョコに憧れた男子が餌食になっている。

・うまかった棒
 湿気ている。歯が弱い子にお勧めらしいがモソモソしすぎていて食べていると悲しくなる。 
 何故こんな物が生み出されたのか。

・ミニンドーナツ
 ミニでニンニンな手裏剣ドーナツ。凍らせて投げつける危ない遊びが一部の悪ガキに流行しているらしい。
 味は可もなく不可もなく。

・イノメン
 ブタメ●のパクリとして炎上したことがある。

・ドクロ型指輪飴
 一つ一つ暇な職人が形成しているとかなんとか。無駄に綺麗だが女の子にプレゼントしたら引かれること間違いなし。
 
・ベイゴマ
 ドランザー。 


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言った言葉は取り消せない日

イキテマス


 失望されていた、奇異の目で見られていた。だからこそ僕にはもう何もかかわってこないと思い違いをして言った言葉は、もう取り消せない。

 どうして僕はいつもこうして物事を軽く見てしまうのか。いくらはぐらかしても現れる現実が理想を蝕む。

 

「そんな……急にサッカーをしちゃいけないなんて。なんでそんなことを言うんだよ!」

 

「お、お父さん。明だって成績も落としていないし何も準決勝前にそんな」

 

 広くきれいに掃除された書斎。本の並び一つすら乱れがないこの空間では息をするのも一苦労だ。

 父はこんなところにいてどうして休めるのだろうか。聞く気も起きなかった。

 

「……勅使河原家の長男として、当たり前の事をしろと言っているんだ」

 

 僕たちが部屋で立ったままだというのに座り手を組んで、まるで話し合うことはない。決定事項だといわんばかりに告げられればこちらは抗議の声を上げることしかできない。

 親子の会話じゃあない。姉さんが味方にいても何もできないという絶望すらある。

 

「なんだよ当たり前って……! ただサッカーがしたい、合宿に参加したいっていってるだけじゃないか!」

 

「そうだよお父さん。織部君から聞かされてるけど、ちゃんと勉強の時間とかもあるって……! なにもサッカーごと禁止しなくても」

 

 こんなことならだれにも相談せず勝手に合宿に参加してしまえばよかったか。後悔先に立たず。

 反抗しても父は険しい顔色を緩めることはない。それどころか僕らの反論を聞いて眉が吊り上がったようにも見える。

 

「……サッカー、だと──ふざけているのか?」

 

 正しかったようだ。その言葉は呑み込めないと父が動く。

 一体、なにがここまで父を頑固にしているんだ。疎外感、放任主義なところはあれど常識的な性格をしていると思っていたのに。

 

お前たちのしているアレ……一体どこがサッカーだというんだ……!

 

 くっ、本当にどこが父は気に入らないというんだ!

 こんなにも僕たちの部活は健全かつ好成績だというのに!

 

「普通サッカーに必殺技なんて概念はないし人が宙に浮いたりもしないんだよ……! この間動画を見て怖くなったぞ」

 

「お父さん、ちょっとその感覚は古いよ……今はトップ層はあんな感じなんだって」

 

 ……どうやら今の技術が発達したサッカーが気に入らないらしい。

 そんなことを言われたって僕にはどうしようもないじゃないか。だって真面目にサッカーをしようとすればするほど父が気に入らないものになってしまうんだから。

 どうすれば……あ、そうだ。リーダーに相談してみたら何かいいアイデアとか出してくれたりしないか──、

 

「それになんなんだ悪魔のキーパーって。ふつうは比喩だろう比喩。なんで本物なんだ……! そんな危ない子とつるむなんて許さないからな……!」

 

「──っ」

 

 不意に湧き上がる衝動。ほっといてくれと思った相手からの言葉が深く突き刺さる。

 こぶしを握り締めるよりも逆に力が抜ける。

 

「そんな言い方ないでしょう? あの子は確かに見た目が少し怖いかもだけどすっごい明たちのことを考えてるいい子なんだから!

お父さんなんてつい昨日まで明の成績すら気にしてなかったじゃない!」

 

「うっ……だ、だが」

 

 姉が父の痛いところを突く。目に見えてうろたえている。しかし姉自身もそのことを引き出してしまったのに後悔しているらしい。追撃が切り出せていない。

 僕のことだから僕がやるべきだろうか。

 

 ……でも、

 

「もう、いいや」

 

「えっ……?」

 

 二人に背を向け、窓に近づく。三階から見下ろす庭園。庭師が隔週で来ては丁寧に整えていく、家の中でも嫌いではない場所だ。

 最後に見ておくべきだと思った。

 

「勅使河原なんて苗字、僕にはもういらないから」

 

「あ、明……なにを?」

 

 窓を開ければ花の匂いがほのかに。それも堪能せずに僕は、窓辺に足をかける。

 ……靴下のままだと不便かな。まあいいか。

 

「は、早まるなっ。話を聞け明!」

 

「……僕は、メアだ」

 

 迫る手からすり抜け宙に身を投げた。

 そして、祈る。この力で隣に立ちたいと願った彼のことを。

 

 さすれば翼を授かる。何一つおかしくない。

 

「なっ……!?」

 

 天使の羽と輪っか。この間から少しコツがいるけど出せるようになった。こんなことに使おうとは思ってもいなかったけど。

 リーダーのもとへ行こう。逃げ出すように僕は空へと飛び駆けていった。

 

 

 ……こんな日でも太陽は強く輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うーんメアからの連絡が遅いな。やっぱりお医者様関係の家だと難しいかな。

 そうなると不貞腐れるだろうからフォローのこと考えておいたほうがいいかなー。でもなー最近一緒にいるとすぐザ・ユートピアをもう一回打とう! 二人で新世界作ろう! って顔になるから対面するのもやりにくいんだよな。

 

「こうしてじっくり見ると……子供のおもちゃでも色々考えて作られてるってわかりますッスね……軸先を敢えて広げて攻撃用とか」

 

「上のリングも四方ではなく流線型に二つの突起……、案外バングさんの必殺技に役だったりするんじゃないですか? あれも着想はベイゴマですよね」

 

 さてこちらはごくごく平和なやりとりが繰り広げられている公園。回るベイゴマを見つめるバングとワタリ。なんとも長閑なものだ。

 しかしワタリくん、今はみんなで暇を潰す時間なのだからサッカーのことなど忘れていたまえよ、いやほんと。

 

「おぉーっ、それは確かに! 早速やってみるッス!」

 

 あぁいけませんいけませんよバング君。公園はみんなのものなのです。いきなりバンダナを巨大化させて己に巻きつけ始めたりしないで下さい……!

 

 見たまんまだけど文章にしてみると訳わかんないなこれ。そもそもなんでバンダナが急に巨大化するんだろうか。

 

「ドライブアウト……アタックモード!」

 

 繰り広げられる回転は試行錯誤の一品。

 軸足をより狭く、真円ではなく敢えて崩した回転。やがて回転から生みだされたエネルギーは視覚化されるほど強くなる。

 軸を小さくしたせいかすぐに傾きが生まれているが、逆に相手の足元をすくいあげる一撃が繰り出されそうだ。

 

 ……これは、確かに以前よりも当たればただですまない。確実に体のどこかを抉られそうだという感想が心の内で出る。

 反面、傾きで地面に対して並行ではなくなり上段からの攻撃に弱くなってしまったようにも見える。一長一短というわけか。

 

「おー流石ですねバングさん。いい感じですよ」

 

「ほんとっすか?! じゃ〜あ~ディフェンスモード、ッス!」

 

 ワタリの賞賛に気をよくすると今度は回り方を変える。伸ばしていたつま先を戻し設置面を増やす。回転の勢いこそ落ちたが横の力に強く、バランスよく。そしてじっくりと進む円は少しもずらさぬように回っている。持久力に優れているバングらしいそれだ。

 

 ……が、これはどうなんだろうか? 長く回りそうだというだけで、あまり硬いといった印象を受けない。完全ではない真円の回転は単独の効率。相手の一撃を受け止めるというよりかは受け流し耐える技だろう。

 つまりはアタックモードがブロック、ディフェンスがドリブル中といった使い分けをするのがいいだろうか。

 

「ど、どうっすか部長。俺の新ドライブアウト!」

 

 ……しかし、だ。ブロックしようとアタックモードで突っ込んで、敵の攻撃的なドリブル技が放たれた場合……これは今までよりも弱くなってしまっているのではないか?

 

「……」

 

「あ、あの部長さん……?」

 

 仮に、だ。ドライブアウト・ディフェンスモードで対抗しても、バングは回転によって守られるかもしれないが……相手はそのドリブルの勢いのまま抜けていくんじゃないか?

 しかもディフェンスモード中の足の遅さ、アタックに切り替えてもそこまで速くならないことを考えると、耐えてカウンターで背後を狙うというのも厳しい。

 

 これはその……俺のところまでさっさとやって来るんじゃ……!?

 

「──まだ、だな」

 

「うーんまだッスかー! も少し工夫してみるッス!」

 

──そこそこ汚いぞ長久

──やーいビビりめ

 

 お黙りコルシアにトロア! いやこの間の世宇子のヘブンズタイムみたいな危ない技相手なら怪我してほしくないしそっちの方がいいんだけど、ブラックみたいなテクニカルプレイヤーに簡単に抜けられたら腕がいくつあっても足らないんだよ!!

 わかる!? エースとのタイマンとかほぼ死だからね!

 

──散々我の魂を犠牲にしてくれたやつが言うと説得力が違うな

 

「防御……敵の一撃を受け流し、反撃できるよう……更に移動は速く、だろう」

 

 さすがに防御かなぐり捨てろなんて言うわけもない。自分の身の安全はとりつつもという路線で。

 ど、どうにかこう……相手の足を止めつつ無防備な相手に一発叩き込む感じで進化してくださいバングくん!

 

「ぐぐぐ、さすがは部長さん。涼しい顔をしてなかなか難しいことを……で、でもそれが出来たらきっと強いこと間違い無いかも……ッス!」

 

 流石物分かりのいいバングくん! いよっ、優しい子! まあ流石に俺も色々考えて言うからさ。頼む。

 えーとほら、相手の一撃を受け流しつつ自分は近づいて一撃ってことはアレだよアレ。

 えーと、その、ほら。

 

 ……コルシアはどう思う?

 

──案もないのに口にするな! ……受け流すだけなら、先ほどのように真円の回転で守るのが良い。あああくまで"真円"だぞ。真円もどきでは結局非効率であるし、ぶつかった際も完全には受け流しきれん。

 回転の安定力ならば重心を低く、遠心力も味方につけたほうがいいだろうが、遠心力が強すぎると攻撃を受けた時に自分にも反動がくる。

 ……無理なことだろうが、いくら回っても自分にあまり影響を及ぼさない、そんな外円の防御壁があれば更にだろうな

 

──こいつ質問のこととなると急にイキイキするな

 

 ……すげえめっちゃ丁寧に教えてくれるじゃん。なんだお前ベイゴマ博士かなにかか。中世ヨーロッパとかではベイゴマが大流行していた可能性……?

 そうかそうかよしよし。とりあえず今のコルシアの言葉を大体そのままバングに伝えるとしよう。

 

──フンッ……あとで適当な場所を殴打でもして痛みを寄越せ長久

 

 その対価はなかなか怖い。でもキーパー練習するよりはマシか……。

 コンクリート辺りでいいかな。

 

「ほほぅ……めちゃくちゃ参考になるッス! あざます!」

 

「……なんかノリノリですね部長。そもそも今必殺技の練習はするな、とか言うかと思ってたんですけど」

 

 ……そっそうだねワタリくん! 言いたかったけど変な方向性で進化されると困るからね! 適当な理由つけて誤魔化すよ!

 そして誤魔化し方は当然、格好つけムーブだ。

 

「……腹ごなしの運動ぐらいだったらいいだろう?」

 

「……ふふっ、そうですね」

 

 どうだなんかこの余裕ありまっせみたいな顔した発言。久々に決まったんじゃないか?

 最近全然いいカッコできなかったからな、この辺でポイント稼いでおかないと。

 ワタリもいい笑顔でほほ笑んでくれるしな。どうだお前も何か考えてみるか? フェイント技も強敵は最近野生の勘とかで見破ってくるようになってきたとか愚痴ってたしな!

 

「……そうしたいのは山々なんですけど、構想もまだまとまってないので。それに……」

 

「……?」

 

 ──あーあ、しーらない

 ──フェルのやつに同意だ。愚かものめ

 

 えっ、なんでワタリ君急に「タハハ」みたいな顔をしたの。

 えっ、なんで二人ともそんな急に辛辣に──、戸惑っていれば不意に背後に感じる影二つ。

 

 

 振り向かずともわかる。今にも爆発しかねない……雷鳴と、暴風。

 

「……そうだよな、腹ごなしくらいならいいよな?」

「フッフッフッ……一度吐いた言葉は飲み込めんぞ、部長?」

 

 あっ、そっかぁ。そりゃ軽くとも許可出したら、練習やる気満々だったトールとウォームアップしてきたソニックは出てくるよね……。

 

「そらそら逃げろ逃げろ、ハハハハ!」

「うぉー!? これ絶対当たったらアウトな奴だ! 頼んだぞカガ!」

「……! ッ!?」

 

 み、みんな助け──アッだめだ遠くにいるジミーたちはジミーたちで変な練習始めてる。何してんのあの子たち。

 ウリボウたちの超・猟猪突進弾をみんなで全力で対処する? へー……絶対こっちに近寄らないでください。

 

 はい。

 

「必殺技を鍛え直したくてな……!」

「俺も少しぶりに調子を見てもらうぞ……!」

 

 は、は、はは。えっとそれってやっぱり……俺が受け役って事だよね? 単に二人が技出してる横で助言するとかそんな優しい展開じゃないよね?

 

 ──おおっ、そろそろ妾の食事の時間というわけか、

 

 良いぞ良いぞと、目に映る凄まじき光景を糧とするトロアの心が躍る。

 あ、やっぱりー? ウケるー……ウケない。よしバング! 俺と共に死地へ行くか!? お前も技の進化させたいよな!

 

「えっ、俺もッスか!?」

 

 旅は道連れ世は情けない男を助けるんだよほら早く!

 

雷鳴──」

ストーム──」

 

 

 助けて!!

 

 




 今回こそソニックの強化にしようと思ったのにバングの強化イベントで終わりました。不思議ですね。
 次回は近日中に。



~オリキャラ一覧~

・メア(勅使河原 明) FW 11番
 家庭内の事情で家を飛び出した天使系フォワード。ついにサッカー関係なくとも飛べるようになった。怖い。
 父親のほうにもう一つの故郷の国からのスカウトが来てたりして今回につながったことは知らない。

 本人にとっては家出するレベルなのでシリアスだが、周りから見たらコメディである。

・織部 長久 GK 1番
 後先考えない格好付けと後先考える保身さが絶妙にかみ合わない。阿呆。最近バングを道連れにする画期的な進化を遂げた。
 
・コルシア 両腕
 一人でYaho●知恵袋をさせたら延々としているタイプの回答ガチ勢。




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巻き上げられた愚民は手を伸ばす日

サブタイはネタバレです。
近日だったので投稿しました



 

 いつだってそう、俺の昂りを飛ばしてくれたのは限界(いま)の速度のその先だった。ブレる景色が強くなるたび、己の成長を実感させた。

 

 今にして思えば、自分の走っている姿を見る誰か。そんなことを意識したことはまずなかったのかもしれない。

 

「フフフ……ハーハッハッハ!! どうだ部長、これがストーム・ブリンガーだっ!!」

 

「……ああ、凄まじいな」

 

 回転ジャングルジムに腰掛け、俺の必殺技をその身一つで受ける奴。

 涼しい顔をしているのがやや腹の立つところだが、そうこなくては面白くはない。

 

『今から俺をこのジャングルジムから引き離してみろ』

 

 そう言って始まったこの遊び。最初は何を言い出したのかとも思ったがなかなかどうして、考えられているものだ。

 まずおひとり様でガラ空きとはいえ金属でできた建造物を触れずに回すことによる。更に目的はその中にいる人間を巻き上げること。

 

「(大雑把な風では意味がない。当てる部位を考えて体勢を微調整……!)」

 

 この二つを達成するためには出力、コントロールともに要求される。生半可な走りでは達成ができない。

 更に相手はあの部長だ。猛りたちうねる衝動をいくら消費しても血がたぎる。

 

「涼しい顔をしていられるのも今のうちだ、今日は空の旅へと招待してやろう!」

 

 叫びと共にまた自己の最上を超えていく。楽しい、成長できている、工夫を生み出せている。それだけがこんなにも楽しい。

 竜巻の中で腰を下ろす部長の反応を逐一確認し、まだ飛ばせないものかともどかしくなる。

 

 単に同じ場所を同じ速度回るのではない。わざとずらし、緩急をつけることで引き込み突き放し引き込む竜巻を作り出す。

 この時点で以前よりも一段階技の完成度は高まった。さしずめストームブリンガー改ともいうべきか。

 

 けれどまだ理想には、越えるべき壁には足りない。

 目的とするはあの忌々しき神気取りすらも置いていくスピード、強さ。

 

 方向性は合っているはずだ。あとはこのまま全体のスピードを、出力を増やせば……!

 しかしそれ以上は肉体の限度、人としての限度。

 

「……くっ!」

 

 踏み出せば間違いなく体を壊す、勇気ではなく蛮勇の壁。以前壊した心の鎖から警告の音が鳴り響いている。

 俺とて、たった一瞬のみの速さで体を壊す気はない。

 

 走れなくなるつもりもない、ずっと走って走って、とことん見せつけてやるのだ。

 誰に? 見放した者たちに、向かい合う敵に、一緒に戦う仲間たちに。

 

 イメージができない。限界を超えた自分を描けない、描けないから追いつけない。

 急に成長に鍵をかけられたようだ。

 

 だからどうした。

 

 俺が、俺が世宇子を止めるのだ。

 俺だけがヘブンズタイムを止められるのだ。

 俺だけで勝たないといけないのだ。

 

「……?」

 

 自分で自分の心に疑問を持ち一瞬速度が落ちる。

 

「ソニック?」

 

「い、いやなんでもない……!」

 

 部長が怪訝な顔で尋ねてくる。慌てて戻したがはて、自分は何をおかしいと感じたのか。

 

「ソニック、休憩をとるか?」

 

 俺の迷いがすぐ伝わったらしい。部長が気をつかう。問題ないと視線を返しまた駆ける。

 もとより腹ごなし、疲れなんてかけらも無い。だから心配をするな──と考えていれば、視界の端に雷鳴が光る。

 

「雷鳴一喝ッ!! ……おお、バング。完璧に弾きやがったな!」

 

「ウス……ッス」

 

 見れば、トールの一撃を受けて何度も回転を落としていたバングがとうとう成し遂げた姿があった。

 最初は部長を相手できずバングとだと指示され不貞腐れたトールも、何度も雷を放ちスッキリとした笑顔を浮かべている。

 

「自分に直接影響はない、空気の回転層……それであの防御力。まさしく技が進化したと言っていいですね……!

ドライブアウト改……いえ、真 ドライブアウトと銘打っていい出来でしょう!」

 

 指輪のキャンディを全部の指にはめたワタリが興奮を抑えきれないと言った素振りで話している。

 

 頭上から注ぐ雷、それから身を守るために生み出した

 ほぼ全方位を囲む回転する気流の壁か。元々あった、敵を弾き飛ばす回転エネルギーのリング。

 その一部を外側の気流に融合させたというわけだろうか?

 

「よーし後二十回ぐらいやるか!」

 

「ひぇぇ……全然一喝じゃないぃッス」

 

 仮に敵が気流を突破してバングに迫っても、気流の中には十全に回っているバングがいる。アレを破るのは至難の業か。

 奇しくもバングの技は、俺の竜巻と似た方向性へと変化し更に進化したわけだ。

 

 ──俺が、手をこまねいている間に。

 

 違う、嫉妬なんて感情は俺にはいらない!

 

「ソニック、回転が更に荒々しくなったぞ」

 

 愚かな感情をさっさと捨て、身軽になる、なる、なっているか?

 むしろ先ほどより何処か重く感じる。部長の褒め言葉……違うこれは苦言だ。荒々しいと考え込まれた嵐は違う! 今のままでは少しも動かないぞと教えてくれているのだ!

 

 どうすればいい、何をすれば己を追い越せる!

 どうして自分の中に言葉にできない感情が渦を巻いている!

 何故だ、何故だ、何故だ、何故だ!

 

「ソニック、そろそろ腹ごなしも済んだか?」

 

 部長の言葉が混乱する俺を射抜く。もう終わりなのか?

 待ってくれ部長、まだ掴めていない! ここで逃したらダメな気がするんだ! 頼む止めないでくれ、俺を立ち止まらせるな!

 

 まだ走っていたい、最初のころの気持ちよさで走りたい! こんな不完全に、どろどろに腐った走りで終わりたくなどない!

 

「……止まらない、止まれないのだっ!!」

 

 渦の中で吠えた。

 無様な犬のようだと思う。けれどこの叫びだけは聞いてほしかった。

 風のきる音が叫びを切り刻む。天に届くわけがないともて遊んだ。

 

「……そうか」

 

 部長には、目の前にいるお前には届いただろうか。

 回る檻の中、瞼は強く閉じられていた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 騒ぎというのはいつも想像もしないものであり、だからこそ俺たちは驚き慌てふためくものである。

 

 目を閉じ、ただ時間の経過を吐き気を抑えつつ待っていれば懐で震える携帯。

 ゆっくりと通話のボタンを押せばそれは知らされた。

 

「──家出、メアが?」

 

『そ、そうなんだよね……お父さんと喧嘩しちゃって』

 

 我らのエンゼルストライカー、メア。またの名を勅使河原 昭。

 彼のややコンプレックスの対象でもあり、できた姉であるメア姉。

 焦った声で状況を細やかに教えてくれた。電話の先であたふたしている彼女の様子が目に浮かぶ。

 

『急にサッカーするな、そもそもアレは本当にサッカーかとか言い出して、明は……なんか飛んでっちゃって。

申し訳ないんだけどもしそっちに行ったら、こっそり教えてもらえない?』

 

「……わかりました」

 

『ごめんね、こんなことになっちゃって。

 ……ほら父さん、早く車の準備──!』

 

 こちらの返事も早々に切れた通話音。焦りを如実に伝えていた。

 大丈夫だろうか。メアの心配は物理的にはしていないが、アイツはかなりメンタルの乱高下が激しい。しかし一体どこへ?

 

 ん……飛んでっちゃって、とか言ってなかったか? いやいやまさか。聞き間違いだろう、流石にメアもサッカーのこと以外で翼生やしたりしないし……。

 

 ──ふと空見上げたらいたりしてな

 

 ははは。フラグのようにも思えるけど……まあ例えいたとしても見えないだろうな。

 なんせ、

 

「ぐ、ぐぅぅっ!!」

 

 空をも覆い尽くすほどのうねる竜巻が、俺の周りを囲って消えないからな。

 かれこれストームブリンガーに閉じ込められ、どれだけの時間が経過しただろうか?

 回転ジャングルジムに立て篭り、こっそりと足から闇の力で引っ掛かりを作り、ジャングルジムにしがみついたがもう何回転したか考えたくもないほど回されている。

 

 目を開けていれば目まぐるしく変わる景色に吐き気しか覚えず、大半の時間は瞼の裏を見て過ごした。

 辛い、助けて。だが終わらない、腹ごなしと称した地獄の特訓は終わることはない。

 なんかバングの方は成功したし適当に声をかければ終わるだろうしかし、こちらソニックの回転拷問は終われない。

 

 何故なら、そう何故なら!

 先ほど本人が告白してくれたのをしっかり耳で聞いていたがなんと!

 

(不可抗力により)止まれないらしい!!

 

──本当にそっちか? いつものように顔見て気持ちを読んでみたらどうだ

 

 無理、三半規管狂いまくってるこの状況下でソニックを捉えられない。

 死にかけていると思うんですが、いつもの走馬灯の如きスロー視界再生も機能していない。

 

 まあ例え、例え別の意味だったとしてもだ。そろそろ止めてくれないと本格的にリバースする。

 

 今の俺には三つのルートが存在している。コルシアのいう通り意味が違っていて、部員の意図を汲んでやらないかっこ悪い部長ルート。絶対嫌だ。

 このまま止めずに続け、竜巻に巻き上げられ空からリバースするルート。悪夢がすぎる。

 不可抗力によって止まれないソニックを奇抜な発想で止めることに成功するルート。これしか生き残る道がないのだ。

 

 のだ!

 

 いや無理だこれ! どうやってこの荒れ狂う暴風を止めろってんだ!

 それにわかってんだよ! 多分不可抗力じゃなくて本当はうまく技がいいところまで伸ばせなくて満足してないんでしょう!? だとしても、このまま回り続けでも解決しないから! せめて素面で考える時間をくださいソニックさん! ねぇ、あとでアイス買ってあげるから!

 

 話し合おうソニック、回転ジャングルから降りさせてくれ……!

 止める、止める。何か良い手はないのか?

 

「ふぅー、よーしあと半分だぞバング!」

 

「う、うぃーすッス!」

 

 う、あっちの地獄も中間地点か。

 しかし俺が考えたとは言えバングには申し訳ないことをした。なんか必殺技は進化したからそれに免じて許して……。

 ……! そうだ俺の近くにはこんな素晴らしき人材がいるじゃあないか!!

 迫り上がってくる胃液を飲み込んで俺は叫んだ。

 

「バングッ!」

 

「えっ!? あ、あはいなんスか部長!」

 

 急に呼ばれ体勢を崩しかけたのだろうバング。それでも強く明るく返事をしてくれる。

 散々トールの相手をしていたのにかなり元気だな。まあむしろうれしいことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちへ、逆回転だ!」

 

 どういうことだ。走り続けているさなか疑問がわいた。

 なぜ急にバングをこちらへ。そもそも俺の叫びは届いたのか? 聞こうにもその余裕はない。

 あればさっさと限界を超えるために費やしている。

 

「え、えっ……その竜巻の中へ……ッスか!?」

 

 バングも驚いている。ようやく技が進化したばかりなのに何を? といったところか。

 だが世迷言ではあるまい。あの部長が声を張り上げて話したことが頓珍漢であるわけがない。そんな信頼が俺たちを動かす。

 

「ソニックは気にするな……いやむしろ、技をぶつけ合え!」

 

「……あ、あぁ!」

 

 ドライブアウトとストーム・ブリンガーこの組み合わせはかつて狩火庵中で試行の上生まれ、雷門を相手にひとまずの仮称を付けた。

 しかし、しかしそれはあくまでお互いが同じ方向に回ることでの相乗効果を考えた代物。逆回転させて何の意味が……!?

 

「え、ええいままよッス! 真 ドライブアウト!」

 

 俺の竜巻は中央にいるものを決して逃さずじっとはさせずのもの、外から突っ込んでくるものを拒むことはない。

 といったところでろくに力のないものなら触れた瞬間フィールドのかなたまで巻き上げる自負はあるが。バングはそのくくりに入らない。

 やや強引に風の壁を突破すれば、部長が閉じこもっている回転ジャングルジムの上に位置をとった。

 

 その変化は当然、竜巻を維持している俺にやってくる。

 

「ぐ、ぐぐぐっ……!? 風が、重い……!!」

 

「う、ううっ荒波すぎるッス! こんなの、共倒れに……!」

 

 内側から走り出した逆風。俺を追い詰めるためだけにあるのではと疑いたくなるほど試練。

 しかし部長は言った、技をぶつけ合えと。だから手を緩めるわけにはいかない。

 

 走るんだ、体力の底まで、限界まで、速度の先ではない。

 どれだけ過酷であろうと今自分が出せる最高速を、最善の回り方を。最上の竜巻を。

 

「全力、全力、全力ぅ……」

 

 バングも同様のことを考えているらしい。だからか、俺に吹きすさぶ逆風は衰える気配がない。

 風が髪を抑え込む、服を引っ張る。目が乾く。苦しい。

 爽快であるわけがない。

 

 ……だがどうしてか、一人で走っていた時よりか、限界を超えられずに吠えた時よりかは、どこか成長ができるという予感がするんだ。

 なぜだ。この環境下では間違いなく速度のその先などたどりつけないのに。

 自転を揺らされながらも決して曲げないバングを見ているとまだまだいけるだろうと鼓舞する己がいる。

 

「ソニックさん……負けないッスよ!」

 

「……! 俺もだっ!」

 

 そうだ、負けたくない。劣りたくないというよりかは負けたくない。

 勝ったらとてもうれしくなるだろうし、負けたらとても悔しい。だから、最低でも引き分けでそれでも、それでも一秒でも長く風を起こしていたい。

 

「もう一段階ギアを上げる、ついてこれるなバング!? まぁ勝つのは俺だがなァ!」

 

 踏み込む足がまだやれると言い出した。膝がまだ力を籠められると励ましている。太ももがたるんでいるぞと喝を入れてくる。

 体のすべてが負けるなと言ってくる。警告を唱えない。危機を無視しているわけではない、限界を超えても何とかしてやろうと励ましてくる。

 

 だからこの苦難を、試練を、仲間という名の強敵手(ライバル)に打ち勝てと叫ぶ。俺のちっぽけな叫びをかき消す大音声。

 

「……どうだ、止まるか?」

 

 ガタガタと揺れ始めたジャングルジムで部長が尋ねてくる。相変わらず目は閉じているが、口元を左手で抑えている変化に気が付いた。

 ……笑って、いるのだろうか? だとしたらまあなんとも、キザで格好つけで、人のことのばかり考えているような男である。

 こちらも笑うしかなかった。

 

「──止まるわけがなかろう!」

 

 笑いが竜巻の中切り刻まれていく。小刻みになった声が降り注ぐ。

 

 最大を維持する、すぐにバングの回転で減速させられるがやはりまた加速する。

 押し付けられた風にコースがずれてすぐ戻す。逆風を前に体勢を変えて凌ぐ。

 

「……ん?」

 

 気が付けば、気が付けば先ほど自分の頭で考えて実行していた、より効率的な風のコントロールが自然にできている。

 不思議なものだ。しのぎを削りあっているだけだというのに。協力しようといてるわけではないのに。

 

 これを教えたかったのか? いいやあえて聞くまい。

 熱に浮かれた脳が、頭上より降り注ぐ大粒の雨で冷やされる。

 

 ……雨? はて今日は一日中晴れだったはずだが。

 

「こ、これは……二つの強力な気流のぶつかり合いで、巨大な雨雲が形成された……!?」

 

 ワタリの解説で何となく何が起きているかを察する。まあどうでもいいか。

 とにかくバングに負けじと走るのみ、外野の言葉は聞き飽きたわ!

 

「グレート・タイフーンの時よりもなんか規模増してませんかこれ……」

 

「すげぇじゃねぇか二人とも! 俺も負けてらんねぇな!」

 

 風をいなし駆け抜けるのは性に合わん! 走る、強く、常に最高を!

 濡れた服さえも今は風を強くつかむために使い果てる!

 さあさあ俺もバングもそろそろ限度か、ここからは意地の張り合い、疲れていようが最大出力でだ!

 

「……ぐ、ぐぅ! トール!」

 

 くっ、また試練を呼び寄せようというのか部長!

 だがそれが面白い、泥仕合ほどダレるものもないからな!

 

「──雷を!」

 

「任せろォッ!! 雷鳴一喝!!」

 

 すべてを吹き飛ばせと言わんばかりの命令に待っていたとトールが叫ぶ。俺たちが作り上げてしまった雨雲に、トールの雷が届く。

 帯電が音でわかる、風に伝って肌をひりつかせる。

 

 やがて、雷が放射され始めた。気流によって落ち着くことのない雲は雷を真下には落とさず、常に形を変え嵐の中を縦横無尽に駆け巡る。

 放たれた雷は嵐の中から出ることは許されず、巻き上げられてまた雨雲の中に戻っていく。そのたびに気のせいか帯電が強くなっていく。

 これはループ。きっと俺たちのどちらかが止まるまで続くロシアンルーレットに似たようなもの。

 

 ああけれど、残念ながらだ。

 バングに雷が当たろうと弾いてしまうし、そもそも俺の速度をとらえることはできない。つまりは、俺たちの戦いに巻き込まれた哀れなもののみを襲うのだこれは。

 それでも、俺たちは回り続ける。勝つために。

 

 

 

 

 

──ア゛ア゛ア゛あっ、ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!

 

 

 終わりを告げる鐘の声。

 どうやら途中で鳥を巻き込んでしまったか、断末魔にも似た叫び声が聞こえた。

 流石に動物を巻き込むのはと、バングと視線を合わせてお互いに止まった。仕方がない、今回は引き分けだ。いわずとも通じ合った。

 

 雷雲が掻き消える。閉じ込められた空気が逃げた。

 回り終えたジャングルジムの周りは、台風でも過ぎ去ったかのように荒れている。

 風でえぐれ泥でぬかるみどこから運ばれてきたのか木の枝や木の葉が散っている。

 

「……さながら大嵐の後、か」

 

「おっ、いいなその表現……! じゃあ今の、大嵐って名付けるか!?」

 

「いやさすがにそのままは微妙ッスよトールさん……」

 

 結果としてこれは新しい必殺技として成立しただろう。俺の想像していたものとは違う方向性で生まれた合体必殺技。

 ……これでヘブンズタイムを崩せるだろうか。とふと考えがよぎったが……なんだかそれもどうでもよく感じてしまった。

 

「……ザ・テンペスト、ってのはいかがですか? 暴風雨って意味なんですけど」

 

「あワタリさんの意見に一票ッス、覚えやすいし」

 

「ざっ、てんぺ……?」

 

「……後でスペルを見せますね」

 

 俺の意地にバングが加わり、トールが重ねられ、奇妙にも強力な必殺技が生み出されたのだ。

 ならばうだうだ考えようが結局、意地を通すしかない。つまり頑張るしかない。なんとも単純すぎて、なんとも単純な俺の答えにはふさわしい、か。

 

「ふっ、フッーハッハッハッ! よいではないかtempest! 行く末阻む者など俺たちの競争の合間に吹き飛ばしてくれよう!

なぁ部長よ!」

 

 嵐、竜巻、ハリケーン。どんな風でもそれは結果であって目的ではない。俺はただ走ることでお前を魅せてやろう。

 そう心で思って振り返った。

 

「……」

 

「……」

 

「……あれ?」

 

 一度首を戻して、もう一度振り返った。

 誰もいないジャングルジムを見た。

 

 ……はて、途中までは余裕をこいていたはずなのにどこに消えたのか。

 首を傾げ、空を見上げて……。

 

「あ、空飛んでいるなあやつ。……誉め言葉のつもりか?」

 

「わーほんとだ。ずいぶん高いところまで飛び上がってますッスねー」

 

 骨の片翼で、遊覧飛行としゃれこんでいる奴がいた。まったく、あそこから飛ばされたといわれて信じる奴がどこにいるのか。

 自信をつけさせるためとはいえもう少しやりようがあるだろうに。まったく。

 

 

 ……フッ、だがお前を信じて叫んでよかった。

 

 そう口にしそうになって、慌てて咳払いでごまかした。

 

 

 

「あっ、あれメアさんじゃないッスか?」

「ほんとうですね。ついにあの人もサッカー関係なく飛べるように……あっ、キャプテンとぶつかった」

「そのままどっかに落ちてくぞ……? 大丈夫かあれ」

 

 ……まあ部長だし問題なかろう。

 俺はそう信じて、疲れたのでベンチを探した。

 

 




 ようやく出せました、習合究極奥義が一つです。
……次回からは一号、二号、そしてメアちゃんくんの出番です。
カガ、アルゴ、ワタリの強化はいましばらく先に……

 ジミー? 奴は、なんかチームみんな強化されたら勝手にまた強くなるから……

~オリキャラ一覧~

・織部 長久 GK 1番
 愚民。
格好よく落ちてるだけでやり切ろうとしたら三半規管が死んでいて衝突事故を起こした。医者の息子に慰謝料(激うまギャグ)

・ソニック(迅 颯) MF 7番
 少しゼウスを止めようと考えすぎていたが、部長のナイスアドバイス()にて走り勝つことへの執着を取り戻した。
 ついでに技も進化している。新技は究極奥義級。部長は泣いて喜ぶといい。え、もう泣いている?

・バング MF 8番
 パシられることに定評があり、織部から「まあバングなら一緒に道連れにしても問題ないだろう」とチーム内ではかなり珍しいポジションについている。
 技を真にたどり着かせ、究極奥義の一員になっているのですごい出世魚。

・トール DF 3番
 最近雷鳴一喝が修行用に使われていると薄々感じているが、力をふるってもみんな元気なのでそれはそれでうれしい。
 一喝じゃないととうとう突っ込まれたのでそのうち技を変えてくるかもしれない。

 

~オリ技一覧~

・真 ドライブアウト ドリブル・ブロック技
 攻撃守備両方の要素ごとに進化させようとしたが、織部のわがままにより奇妙な進化を遂げた。二層になった回転により持久力、防御力を高め結果的に効果的に攻撃が叩き込めるように。
 
・ストーム・ブリンガー 改 ドリブル・ブロック技
 ただ竜巻を作るだけではなくどう巻き上げればいいかを考えて作られるようになった。これには乗りこなすのも至難の業。
 一度閉じ込められたが最後、竜巻が絶え間なく襲い掛かる。


・ ザ・テンペスト ブロック技
 ソニックとバングの技をぶつけ合い生まれた気流は、滝つぼのごとききりもみ気流で敵を逃がさない。
 雷鳴轟き大雨吹き荒れるその姿はまさしく暴風雨。
 究極奥義としての格を持つ。

・闇の力とげとげ 意地張り技
 小細工だったが究極奥義に勝てるわけがない。
 


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家族を知ったかぶりする日

 ウィー・ムゥー・ウォー・ジンガムル・ディオボロスの術式の法則を考えたりしてました。
結論としてはイムオウ・ジンガムル・ディオボロスって考えたほうが気が楽だというあきらめでした。
 金色のガッシュ 称号:呪文博士ルートRTAとか誰かやって術法則全部解き明かしてくれません? ごーむと最速でコンビ組めばたくさんの魔物と遭遇できますよ。ネタ切れしなくて安心だね((



 ちなみにこちらはイナズマイレブンの二次創作小説の前書きで問題ありません。


 鳥は鳴いていた。

 

 靴も履かずにでかける空は生ぬるくて、どうしてか物寂しかった。

 勢いに任せて飛び出してしまったものの行く当てもなく、部活に行こうと思ったけどそれもみんなに迷惑がかかる気がしてなかなか向かえず。

 電源を落とした携帯の重みがズボンをかすかに引っ張るものだから気が晴れない。

 

 父はどうでもいい、当てつけになればいいとも思う。けど姉は、味方をしてくれたのだし……後ろめたい気持ちがある。

 

「……どうしよう、かな」

 

 目の前をカラスが横切ったから、少し風向きが変わったから、あちらの景色が目に留まったから。

 適当な理由をつけて飛んでいるうちに……僕はある公園の上空へとたどり着いた。

 

「よっほっはっ! すげぇ追尾能力だなウリ坊!」

「う~涼しい顔してよけられてそれ言われると少しむかつく……! 絶対当たってやる!」

 

 見下ろせば、部員のみんなが楽しんでいる。ウリ坊くんが足から火炎を噴射しジミーくんたちに突撃しようと飛び回って、ソニックくんが竜巻を起こしているのを眺めているワタリくんたちがいる。

 いつもらしすぎる部活の光景が、まぶしい。

 

 ……加わりたいなぁと思う気持ちはあれど、もしかしたらもう彼らにも僕の家出が伝わってしまっているかもしれない。

 二の足ならぬ、二の翼を踏む。

 

──ア゛ア゛ア゛あっ、ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!

 

「ん、なんだ──カラス……ッ!?」

 

 そうこうしているうちに地上で変化が起きた。竜巻がさらに巨大に、さらに雷雲を纏い始めたかと思えば十数秒。カラスの鳴き声らしきものが聞こえてきた。

 僕はそちらに気を取られ辺りを見回していた……すると、不意に暗くなる。影が僕にかかる。

 

「ゥ、ゥゥ……ハキソ──グゥォッ!?」

 

「り、りーだ──ぅあっ!?」

 

 見上げればリーダーがいた。骨の片翼を携えたリーダーがいた。

 いつの間にそこに、いつから僕に気が付いたいたのか。考える暇もなく、リーダーは僕にぶつかる。

 降ってきた彼になすすべもない。

 

 完全なる不意打ちに思わず天使の翼が消える。得意げに飛んでいようが、集中が散りリーダーの闇の力が来ればこんなものだった。

 

 地上が僕を引っ張る。ああ落ちる。

 背中に鎖がついたように引っ張られる。

 

「──っメア!」

 

 間髪入れずリーダーが僕の手を取った。

 

 あっ、と声を出す暇もなかった。

 包帯ごしの手から伝わる力強さに痛みはない。骨の翼が一際大きく開き、芯まで冷やすかのような冷たい風が頬を撫でた。

 引き上げられる肩と、ぐっと抱えられた腰が心強い。

 

「──メア。翼は出せるか」

 

 彼は表情を崩さず尋ねてきた。骨翼は大きく力強く動いてはいるが緩やかに……いやかなり速やかに高度が落ちて行っている?

 

 これはまずい。惚けている僕でも分かった。

 今の僕たちは空を飛べてない、危険な速度で落ちていっている。

 だけど、

 

「ご、ごめん……」

 

「……わかった。近くの河川に突っ込む」

 

 早く飛ばなきゃリーダーごと落ちてしまう。そう思えば思うほど翼がうまく形にならない。天使の輪っかが作れない。

 

 先ほどまであの台風の中にいたんだろうか、雨に濡れたリーダーを見ていると、黒く呪詛が書かれ巻かれた包帯骨の一本一本が生きているように動く翼を見ていると……うまく力がまとまらない。天使の力よりも何か違うものに傾いてしまいそうで出力できない。

 

 笑い事ではないのに、僕のせいで危機的な状況でも冷静に判断を下し、笑いかけてくれる君を見ると安心して力が抜けてしまう。もはや訳が分からない。

 

 落ちていく、君が僕を離さぬようにと腕を肩に回す。

 堕ちていく、でも怖さはなかった。

 

 

 自分がどうして空を飛んでいたかも忘れてしまうほど高ぶる気持ちがあったからか、迎えてくれた河川の水は冷たくはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浮き上がる。

 吸い込んだ空気と闇の力で作った大きい水掻きの手を頼りに水面から顔を出す。水に濡れたふくがなんとも言えず気持ちが悪い。

 

 ……し、死ぬかと思った……めっちゃ怖かった……海で波にさらわれた時よりも怖かった。

 

──計算してやっただろうが長久。あの速度と入射角、沈む位置さえ間違わなければ安全だと

 

 それでもっ、それでもパラシュートもなしにスカイダイビングからの入水とか怖すぎるんだよコルシア!!

 なんかメアはさっきまで出せてただろう翼全然出せないし、俺の骨の翼は一人でゆっくり落ちるのが限界なのに! ああマジ怖かった!

 絶対メアくんってば「わーい悪魔の力使ったリーダーと空の旅だールンルン」みたいな感じでしたよね!?

 

「……もう一回やりたいなぁ」

 

「……強いなメアは」

 

 絶対ごめんですよ!! なにジェットコースター乗ったみたいな感想こぼしてるんだ!

 おい聞いてんのかメア! あ、服が濡れたままだと風邪ひくからしっかり水絞っとけよ。

 ……水も滴るいい男って言うけどずぶ濡れでも少し色気出せるのすごいなお前。絶対将来彼女に困らんな。くそう。

 

「……なんで貴様らは空から落ちてくるんだ」

 

「び、びっくりした……」

 

 さて……メア姉にこっそりメールして着替えを持ってきてもらうか?

 いやメアも家出して逃げてきたのにいきなりお姉さん召喚は嫌だろうか。

 ここはエマに相談して俺のを代わりに持ってきてもらうか。そうだな、それなら俺も着替えができる。いい案だ。

 

 ……あっ、携帯が壊れている。

 

──そりゃそうだろう

 

 そうですよね、そりゃそうですよね! ジャングルジムの時も回されながら使ってましたけども!

 ああちくしょう!

 

「うぅっリーダー……まだ頭がぐらぐらする。ついでにサッカーマスクくんたちの幻覚と幻聴も聞こえる」

 

「奇遇だな、俺たちもだ。せっかく兄弟二人水入らずで修行していたのに、天使と悪魔が入水事故を起こす幻覚が見えているよ」

 

 半裸でウロウロするなメア。着水したときは俺が水面側になったんだからさほど衝撃はないだろうメア。俺なんて背中がめちゃくちゃひりひりするんだぞ。

 そんなんでへたるなら普段の重力訓練でなんで平気なんだお前。

 

 ……さて。

 

「……邪魔をしたな」

 

「……そうだな織部部長、お前のことだから居場所はバレているとは思ったが」

 

 まさかこんなところで出会うとはな真経津兄弟。いいや謎のサッカーマスク一号,二号。

 あと別に狙ってきたわけではないぞ。落ちる川の近くにたまたまお前たちがいただけだ。風の吹くまま重力の赴くままに。格好つけてみたが単に墜落しただけなんだけど。

 

()()()お前たち二人か。因縁めいたものを感じる」

 

 そんなことは知らない一号さん。呆れつつも黄昏れ、辺りを見回す。

 もったいぶった言い方に俺も周りを見て考え、すぐに思いついた。

 

「……ここはお前たちと会った場所、だな」

 

「そうだな。俺たちがお前たちに勝負を仕掛け、敗北を喫した河川敷だ」

 

 使う権利を賭け勝負したが、部室が完成したあとろくに使っていなかった河川敷。

 高天原の人はもうここには近寄らないらしいことを考えると、二人にとっては絶好の訓練場だったと言うわけか。

 

 ところで、ついさっきまではマスクしてなかったけど、普段からそのマスク持ち歩いてんの?

 俺の包帯みたいなものか。納得納得。さーてじゃあ僕たちは帰りますんで……。

 

「……で、なんのようだ」

 

 えっ。

 

「俺たちの修業を邪魔してまで空から降ってきたんだ。理由があるんだろう?」

 

 ……えっ、いやほんと墜落先にいただけなんです。出来ることならこのまま出会わなかったフリして帰る気でいたんだけど。

 あ、二号よタオルありがとう。気がきくね。ほらメア、お前もさっさと拭くんだ。

 どうしたんだメアすっごいなにか言いたげにして。

 

「いや、単にリーダーとぶつかっ─」

 

「運命を、見届けに来た」

 

 はいメアくんお黙ってくださいませねー! 空で衝突事故起こして落ちてきたなんて正直に言わなくていいんです! 格好悪いんだから。

 ほうら、君の想像する悪魔の力を持ったキーパーがまさか味方の必殺技で吹き飛ばされて降ってきたなんて思わんだろう!?

 適当に、ごまかせる言い方。オブラートの包み方検定2級の腕を見るがいい!

 

──おい、今の一言で天使もどきの目が輝いとるぞ

──盲信は怖いな長久……熱っ!

 

 そうだね。強引に空の旅へ誘ったと思われてますね。

 さっきまで仕舞っていた天使の翼全開にして喜んでるよ。それ骨翼が焼けるから勘弁し──痛い痛い!

 

「……ふんっ。まあ好きにするがいい。俺たちは練習を続けるだけだ、行くぞ鏡介二号」

 

「うんっ、に──いちっ、えっとにいさ、えーっと……いちにいさん!」

 

 マスクつけてるんだから一号二号呼びは守ってやれよ一号……。弟くんめっちゃ困って謎の呼び名作っちゃったし。一号の兄さんでいちにいさん……ふふっ。

 

──センスが悪いぞ長久

 

 お黙り。

 

 そうこうしている間に一号たちはさっさと定位置に戻っていく。一号はペナルティエリアすぐそばで、二号はゴールを守るように、二人は対峙している。

 シュートとキーパー練習か。二人のポジションは噛み合っているからこそだな。

 

「――真・光陰如箭

 

 呟きは宣言にも似た力強さがあった。

 最初に見た時とは比べ物にならない、洗練された一挙一動。周囲の光は吸引されて一号の手に集まり弓矢が作られる。弓の形も逞しくなり、緩やかな曲線だった光の形はよりしなやかに。けれど角度をつけた。

 

「……一号くん、強くなったね」

 

「あぁ、間違いない」

 

 ……昔みたいに頭突きで対処しようもんなら失敗ウィリアムテルみたいな光景になること間違いない。外野で見ていると言うのに寒気すら感じる。

 かつてはメアたちに追いつくべく入部して来た男は、目的をほぼかなえたといっても過言ではないだろう。

 対するは、

 

「真・八咫鏡……!」

 

 これもまた進化を遂げた二号の代名詞。巨大な鏡は全てを写す。神に何度も砕かれようが真実は変わらないのだと、強固な意思で作り上げられていた。

 二号もとても強くなった。ブラック、アフロディのようなイレギュラー、とんでもでも来ない限りあれを一人で打ち破ることは無理だ。

 

 ……世宇子みたいな危険な相手でもなければ、もうキーパー任せてベンチでふんぞり返りたいぐらいだ。

 

「……頼もしい鏡になった」

 

「うーん……そう、だね」

 

 メアはやや言葉を濁して肯定する。……まあお前の真・エンゼルブラスターでぶち壊せそうだしな。それは俺も死ぬんだけどね。

 

「ところでさ、なんか不思議な特訓だねこれ」

 

「そうだな」

 

 しかしこれは一体全体どう言うことか。二人とも必殺技を発動してはいるが、放っていない、受け止めていない。

 一号は矢を引いたまま保持しているし、二号も鏡を出し支えたまま。一体なんの練習なのか? 必殺技の持続力……にはあまり効果的ではないだろう。

 

「聞いてみたいけど邪魔するのもなぁ」

 

「しばらく見ていよう」

 

 一号たちの表情を読めば分かるだろうと思ったが、集中のしすぎでろくに読み取れない。

 せいぜい一号が「速さ」を追求し、「鏡のど真ん中を狙う」こと、

 二号が「地上に対して水平」にし、「一寸も違うこともなく反射する」と考えていることだけ。

 

「──ふっ!」

 

「……! グゥッ……ハァッ!」

 

 放たれた一矢は、やがてという副詞をつける暇もなく一瞬にして鏡に垂直に突き刺さり、二号を後退させる。

 だが鏡にはわずかなヒビを入れたのみ、光の矢は掻き消え──違う。

 改良された鏡はより威力を増大させて跳ね返す。光陰如箭は鏡の前から消えたかと思えば更に速度を増して一号の足元へと飛んでいたのだ。

 

「……ふぅぅぅ!」

 

 スパイクを焦がしたかと思うほどの白煙。とんでもない威力になっていたであろう一撃を止めて一号は片膝をついた。

 二号もまだ跳ね返したシビレがあるのか手を気にするそぶりを見せている。二人は全力でこの特訓に当たっていた。

 

 ……すげっ、と声が出かけたのは秘密。

 メアも小さい拍手を送る。

 だが、

 

「……まだまだだ」

 

「うん……!」

 

 一号は二号が立ち上がるのを見届けると声を出す。

 二人は決して納得しておらず、もう一度同じように必殺技を発動、待機させた。

 なぜだろう、何が満足ではないのか。

 

「えぇっ、今のはかなり上手く行っていたよね……? 今まで見てきた中で一番速かった。それをちゃんと跳ね返してたし」

 

 俺もそう思ったが二人にとっては違う。では今の光景からケチをつけるとしたらなんだ?

 一号はボールを受け止めた時、二号の様子をじっと見ていた。二人ともその場の、一回分の必殺技としては満点に近いはずなのに。

 

 

 ……なんで一号はいま、跳ね返ってきた光陰如箭を止めた?

 

 

「……鏡のヒビ、止めきれない光の矢。──連携が繋がらない」

 

 なんとなくわかった言葉を整えずに並べる。

 一号の必殺技としてならほぼ完成形。二号の必殺技としても、真正面の光陰如箭を跳ね返せるなら完成度はとても高い。

 

 だけれども文句があると言う。更に上を目指すため? 違う。

 

 あれは光陰如箭でもなければ八咫鏡でも無い。

 恐らくは個々人の必殺技の強化の練習ではないのだ。

 

「そ、それってまるで」

 

「二人の、兄弟による合体必殺技。求めているのはそれだろう」

 

 メアとの合体技、天照は速さと貫通力を兼ね備えた……はっきり言って最強に近い奥義だ。

 だがそれに頼ろうとは二人は考えていない。

 

 きっとそれが合宿に参加しない理由だ。練習で自己を高めつつも、寝食は家族の世界で過ごす。

 習合のメンバーとしての強さを糧に、高天原の、真経津兄弟としての強さに昇華しようとしている。

 

「……上手く行くといいね」

 

 偽りの神を前に打ち倒され蹂躙された苦々しく腹立たしい思いを燃やし、新たな挑戦に乗り出したのだ。

 あと数日でたどり着けるわけがない、そんな常識を蹴飛ばして。

 

「……いくだろう、あの二人だ」

 

 世辞でもなく、そう思っていた。重力訓練を前に倒れていた日も懐かしい。あの二人ならきっと完成させる。

 ……帰るのは野暮、かと言ってこのまま特訓を見続けるのも野暮だろうか。一先ず濡れた体が乾ききるまでは芝に座っていようそうしよう。

 メアはどうする? 同じようにするか。こっちに座るといい。ちょうどいい大きさの石が椅子にちょうどいいぞ。

 

 座らない。二人を見続けたまま、メアはぼーっとしている。何か思うところがあるらしい。

 

「……兄弟でサッカーか。改めて考えると、すっごい仲がいいよねあの二人」

 

 ……あぁ、不意に自分と重ねてしまったのか。家出中の自分だっているのにと。

 父親と喧嘩し、味方をしてくれる姉にも引け目がある。それで仲睦まじくサッカーする兄弟を見て何も思わないわけがない、か。

 俺は押し黙る。

 

「その、僕のとこは……なんというか、全然かみ合わなくてさ」

 

 家出しているということは言い出せず、けれど俺に苦しみをわかってほしいのか苦笑して腰に手を当てる。

 やがて俺の顔を見て、表情に曇りが募る。……どうやら俺の家庭事情のことを思い出したらしい。というかいつ知ったんだ、ワタリか。ワタリなのか?

 

「……でも、そうだよね。家族は仲良くしたほうがいい、よね」

 

 言いたいことがあったメアだったが、それを口に出せずメアは「常識的な答え」をわかったフリをした。

 少なくとも、人の顔色をうかがうのが得意な俺でなくてもだ。無理をしているなんてまるわかりだった。

 

 だから俺は、

 

「家族が分かり合える、なんてのは幻想だ」

 

 格好つけることにした。

 無理をしている部員をそのままにするなんて格好悪いことはできない。なにか説得できそうな物事はないか。必死で頭の中を探し始める。

 

──いや決めてから話さんか

 

 コルシアお黙り。今まで俺と付き添ってきたお前なら、俺がその場の勢いだけで凌いできたと知っているだろう。

 

「……少し、昔話をしよう」

 

 特に話すことも決めていないが、なんかそれっぽい雰囲気にしてみる。

 メアはもう座り込んで聞く気満々モードだ。生半可なことではだめそうだ。

 

 ……さてどうしよう。過去の俺よ助けてくれ。




 つなぎ回、次回はアルゴ君の回想を交えつつのメア君立ち直り回。つまり部長の死刑宣告回。



~オリキャラ紹介~

・真経津 光矢(サッカーマスク一号) FW 12番
 高天原中のエースストライカー。FFが終わった後はまた戻る気満々だが、どう考えても常人を超次元にする秘訣は学べていない気がする。
 目つぶしと超高速シュートというクソゲーを強いてくるのは秘密。チャージから放つまではその場から動けない弱点がある。

・真経津 鏡介(サッカーマスク二号) GK 13番
 兄に連れられ一か月しかたっていない中学を転校するはめになった生真面目な子。兄と比べるとキャラが薄すぎるが、逆に言えば兄がいる時は大抵出番があるので美味しいのかもしれない。
 織部に毎日正ゴールキーパーを打診されそうになっているとは夢にも思わない。


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後に祭りを思い出す日※

おそらく初めての子の視点描写が入っています今回
そして後書きにて挿絵がございます。


 思い出す、思い出す。

 あの日のことをゆっくりと。煙に巻かれた記憶を読み解いて、当時の自分を思い出す。

 この間夢見た時は忘れてしまっていた過去を朧げながらに言葉にして、形を取り戻していく。

 

「確か、あの日は……1人で神社にいた。夏祭りの日だ」

 

 家族はそんなに分かり合えない、自分の中の例を挙げるために、頭の中を進んでいた。

 

「叔父と少し考えがすれ違い、不満に思っていた日でもあった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世で初めて目が覚めた時を物心ついたとするのなら、僕は生まれてからずっと目が覚めていた。

 

 ずっと考え事をしていた。なぜ自分と同年代の子は泣くことしかできないのか。なぜ僕と同じように立ったり出来ないのか。

 やがてそれが普通なのだと気がついた後は、大人しく自分も乳飲み子のフリを受け入れた。

 

 ずっと、奇妙な声が聞こえていた。

 大人に説明してもアルコールで赤らんだ顔でスカされるばっかで、特に大事にされることはなかった。

 今思えばそれで病院とかに連れて行かれていたらもっと面倒だったから、それは良かった。

 

―― ふぁ……ぁっ眠い。まだねてよう

―― はやくこい、こっちへこい

 

 声はいつも神社の本堂より離れた位置にある………境内舎? つまりはちっちゃくてあまり人が来ない方の舎から聞こえていた。

 近づけば近づくほど鮮明に、だけれど意味もわからない言葉。

 

―― わたしはここだ、開けておくれ

―― ……ぐぅ。ぐぅースピー……

 

 なんとなくだけど、助けを求める声が聞こえる。

 

 何度か言えば、大人たちは「それはありがたいことだ」とか「きっとお前は神様の生まれ変わりなんだ」と流す。

 ただ、「あの舎だけは開けてはならないよ」とはきつくいいきかされた。なんで?と聞いても、貴重なものが置いてあるからだよとしか教えてくれなかった。

 

―― 早く楽になりたいのだ

―― むにゃ、ふひぃ……

 

 だから、雑音として考えるように。そう思うと邪魔に思えて、自分からその舎に近づくことは無くなった。

 

 二つの声を放って飲む甘酒は、ひどく濁りを感じてたまらなかった。でもまたすぐ声が聞こえてくるのでやっぱ邪魔だった。

 この町にいる限りは声は大小、あるいは頻度こそあったが止むことはない。

 

 性格が人道から少しずれてるのはこの経験のせいかもー?なんて言い訳を頭の中でした。

 ……本当はもっと違うのだろうけど。自分は人間らしいところが薄い。それが原因だなんて最初から分かりきっていた。

 

 学校に行けば、今日もみんないろんな表情を浮かべている。

 

 楽しげな顔は嫌いだった。落ち着いているのも嫌いだった。

 苦しげに、騒いでいる人を見つけるとどうしてか楽になった。

 

 まぁ当然、そんな好き嫌いをしていれば誰も寄ってこない訳で。学校では一人、人間観察と称してツマミを探すばかり。

 

「ふへへ……次はやきとうもろこし、いや焼き鳥かなぁ」

 

 とある夏祭りの日。神社で開かれるお祭りで、親戚一同集まるのが面倒で抜け出した。

 甘酒片手に屋台のおつまみを楽しむ。神社の子ということでみんなサービスしてくれて楽しかった。

 

―― はやく、はやくはやく

―― いいにおい……?

 

 でも、声がいつにも増してうるさかった。だからムカついた。こんな楽しい日なんだから少しは黙ってよと。

 そしてイラついてる自分の周りは祭りを楽しむものばかり。面白くないな。

 

 腹立ちかねて、舍がある方を向いた時だ。

 

「……えーと、アレって確か」

 

 小学校で見覚えがあった後ろ姿が、舍の方へ向かっていくのを見つけた。

 

 ◆▷◇、そんな名前だったはずだ。いつも学校で遠巻きにされて、見守られている。変な子だ。

 予兆もなく苦しげな顔をすることが多かったから覚えていた。

 

 はて何をしているのだろうか。今日もまたいきなり混乱してしまうのだろうか。自分の悪い嗜好が、彼への興味を強める。

 

「……あのままだと、舍に向かっちゃうのかなぁ?」

 

 頭にこびりついた「開けてはならない」という言いつけ。

 そんな場所に向かう、まともではない精神状態の子。

 

「……ふぅ〜ん♪」

 

 僕は彼の後をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「な〜に泣いてんの〜?」

 

 林道の脇で1人泣いている彼に話しかけた。お小遣いでも落としたか? いや手元にお札がある。

 女の子にフラれたとか? 聞いたが違うらしい。

 

「じゃあこれ食べる? まだ半分あるよー」

 

「いらないってば……」

 

―― あぁ、感じるぞ近くに、近くに!

―― ぅぅーん、美味しそうなにおい……

 

 お腹の音が鳴っていたから、もう飽きたおつまみを差し出してみるも食いつかない。ついでに泣いている顔も見せてくれないものだからつまらない。

 

 ずいぶんと強情な子だなぁ。もう放って置いて大人の人にでも任せようか。そう考えた時である。

 

「……どうすればいなくなるんだよお前は」

 

 否定するばかりだった男の子が、初めて僕に尋ねてきた。

 

 ……そう言われてしまうと、じゃあもう帰るねと言いたかった気分が収まる。というかそのままいなくなったら面白くない。

 何かをすればいなくなる、その契約内容を決めるのは僕自身だと気がつくと、途端に楽しくなってきた。

 

 この子に何を求めれば楽しくなるのだろうか。

 グルングルンとめぐる脳みそは、一つの誘導路を思いつく。

 

「じゃあさ――もう泣かないって宣言しよっか」

 

「……? そうすればいなくなるのか?」

 

「うん、泣いてたらこっちも気になっちゃうし……何より格好悪いじゃ〜ん?」

 

 無理だろうとは知っている。そんな約束一つで泣かなくなる人間は学校であんなに崩れたりしない。無理な約束を違えば僕はまた彼を見に行く口実が出来る。

 それに……。

 

「……わかった、もう二度と泣かない」

 

 話していてようやく落ちつきが少し出たらしい。腕で涙をこすり彼は振り向いた。

 ……赤く充血した目でそう言われても説得力がまるでない。甘酒をまた一杯、喉を潤す。

 

「……」

 

「……?」

 

 しばしの沈黙。彼はこっちを伺うように眉を顰める。

 

「……ん、どったの?」

 

「……いや、もう泣き止んだだろ。早くいなくなれ」

 

「いいや、まだ信じきれないなー」

 

「えっ」

 

 純真というかなんというか、あまりに呆けた顔でこちらを見てくるものだから笑ってしまう。それが不快に感じたのか彼は騙したのかとばかりに怒りを滲ませる。

 

「いやさー今一瞬泣き止んだくらいじゃ、離れたらすぐに泣いちゃうかもでしょ〜?

だから、泣かないか確認しよ?」

 

「かく……にん?」

 

 勘違いだよーと言えばまた彼はキョトンと怒りをどこかにやってしまう。チョロい子だ。将来は大丈夫かとさえ思う。

 だが関係ない。僕の、僕のためによるイタズラを実行するためだ。

 

「……うん、ほらっせっかく今日は夏祭りじゃん?

――肝試し、しない? 近くに……いい場所があるんだぁ」

 

――悲願がいまここに

 

 

 

 

 

 

「――以上だ」

 

「……ええっと、まとめるね。夏祭りの日にリーダーは一人でいて、そしたらその変な子が話しかけてきて、離れるように言ったのにいなくならないから条件?を飲んで……最後に肝試しをしたってわけだよね?」

 

 どこから取り出したのかメモに逐一俺の言葉を記録していたメア。

 特にすれ違ったこともなかったので肯定のため頷く。

 

「……えっ、そ、それからどうなったのさリーダー?」

 

「……思い出せないな。気がついたら家に帰っていた」

 

 泣いていたことを全力で隠し、とにかく夏祭りで一人でいたら変な子に誘われたことを話した。

 

 ようやく思い出せた部分を語ってみるも、肝心の肝試しの内容が出てこない。せいぜいポケットに自分のではないハンカチ……というか布切れが入っていたくらい。

 

「肝試しの後に記憶がなくて、気がついたらおうちに……!?」

 

 ……まぁ別にいいだろう! 仮に肝試しで俺がめちゃくちゃびびっていたとしてもメアに教えられる訳ないからな!!

 というかそうか、約束事は「もう泣かない」だったか。すっかり忘れていたけど、まあそれ以降一度も泣いた覚えがないしオーケーだろう。契約は守れている。

 

――心の中ではいつも泣き叫んでるくせにのぉ

 

 お静かにトロア! 今度体育の授業受けたときに塩素水で目をめちゃくちゃ洗うぞ!?

 

――……あーそういう訳か。フェル

――まーそういう感じ?

 

 なんか悪魔二柱は通じ合ったようだけどなんの話? 教えない? そんなー。別にいいけど。

 

「そ、そのあとその舍には向かったりは……」

 

「あぁ、何度か。こっそり開けても見たが、何もなかったな」

 

 ……て今にして思えば、なんにも入ってない舍ってのも不気味だよなあ。明らかになんか置かれてたっぽい台座もあったし。

 もしかして盗まれちゃったんだろうか。

 

――ソウカモナー

 

 やっぱコルシアなんか勘づいてるよな? でも言わないってことはその方がいいと判断してるからなのか?

 じゃあそのままで。世の中には知らない方がいいことはあるだろう。

 

「……ん、一号のキレが良くなってきたな…」

 

 話をしている間もサッカーマスクズは特訓を続ける。次第に増幅されて帰ってきた自身の一撃をうまく受け止める術を上達させていっているようだ。

 そう話を振れば、メアはチラリと見たのちまたこちらをじっと見つめる。

 

「……? どうしたメア」

 

「え、いや……今の話はすっごい気になるところあるけど……その、本題というかなんというか……」

 

 結局、家族は分かり合える云々は? 疑問符が目に見えるほど困惑しているメアはなんだか新鮮だ。

 ……ははは、そうだよなあ。本題とずれまくってるもんなぁ。

 

 ……、

 

 …………、

 

 ………………やっべ。思い出すのに夢中ですっかり忘れてた。本題に絡んだのはおじさんが一緒にお祭り行ってくれなかったってだけで特にそのあと地が固まったわけでもないし……。

 どうしようコルシア。

 

――結論を考えずに話すからそうなるんだ……

 

「……ズレていたか? ありがとう」

 

 内心汗ダラダラで何も考えずに返答する。

 

 いやだってそもそも家族の仲直りとかさぁ! 俺全然わかんないもん! 喧嘩したことないし! なんか拗ねても大体あっちが折れてくれてたし!

 ワタリの時は親の方を説得するアレだったから、常識に訴えかけたけどさぁ!

 

 メア親子の喧嘩の原因なんだっけ? 確か、悪魔が絡むサッカーってなんだよ! そんなあぶねーもんやるんじゃねーぞって話だよな?

 

 

 ――事実じゃん!!

 

 十割正解じゃん! もう何も反論できねーよ俺!

 むしろメアのお父さんとかたい握手交わしたいぐらいだよ俺!

 でもメア的には地雷すぎる答えなんだよなぁ!

 

「……俺は、メアのことをほとんどわかる気でいる。でも違えることもある」

 

 ほら、チームメイトでも思考はズレまくり、勘違いしまくりだろう? だから家族でも……いやダメだな。チームメイトは仲良くしていて欲しいし。

 

ほーれどんどん空気が微妙になっていくぞ〜?

 

 愉快そうだねトロアさん、今日は目薬キツいやつさしたい気分だぜ!

 えーとえーとそうじゃないよね、適当に言葉並べても誤魔化せないよねぇ! とにかく家族が仲良くなくてもいい理由を考えないとぉ!

 

 たすけて! 神でも悪魔でも天使でもいいから!

 

「お〜こっちにいた部長さん♪」

 

 アルゴが来た!? 絶対助けにならないな!

 誰か助けて!

 

 

 




次回に続く


〜オリキャラ紹介〜
・アルゴ MF 6番
 なんらかの生まれ変わりとして祝福されし子供。
けど本人的には変な声が聞こえる力はいらなかったし、周りから浮いてしまう感覚が嫌だった。 結果として隠居じみた、人を観察する
趣味を得る。
 今現在は声も聞こえないし楽しいらしい。


・挿絵紹介


【挿絵表示】


 この度、ジミーくんを描いていただきました!!
 健康でたくましい肉体、学校で友達がいっぱいいそうな快活な笑顔が素晴らしいです。
 しゅう様、いつもありがとうございます。


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光陰を呑む日

マリトッツォって世界編の必殺技に使えそうっすよね


「公園にいてもつまんないからさ~飛んでったほうへうろちょろしてたらここにこれたってわけー」

 

「……そうか」

 

 はい、甘酒瓶片手にふらふらとやってきたアルゴ君。アルコール分は一切ないはずなのに酒気帯びた赤ら顔。本当にアルコール飛ばしてる?

 疑うなら飲んでみろって?

 ……はい、一杯いただきます。いつも通りおいしい。でも今日は少し甘みが強いね。

 

「あーそれ、塩入れたと思ったら砂糖だったんだぁ。まあなんにしても甘酒はおいしいからいいのだ~♪」

 

「へぇ。ね……僕ももらっていいかな。アルゴくん」

 

「……う~んっいい顔してるしいいよー!」

 

 じろりとメアの顔を舐め回すように見た後、アルゴは嬉しそうにトックリを傾ける。

 ……ダメだぞアルゴ。いくらなんでも落ち込んでるメアの顔をつまみにするのは。

 

 あくまで部員勧誘の際に許可したのは俺のことだけだからな。

 ほら俺を見るんだアルゴ、メアのフォローができずに困り果てている俺の目を見ろ。メアに向こうとしている顔を引き寄せてでもこっちを見ろ。

 どうだ、情けない顔をしてるだ──誰の顔が情けないだ。

 

「……ふふ、嫉妬ぉ?」

 

「……部員のためだ」

 

──なんだこの絵面は

──とっとと天使擬き置いて帰らんかぁ? 妾は暇になってきたぞ

 

 本当になんなんだろうねこの構図。あとメアは流石に置いていけないからなトロア。

 暇なら今夜アクション映画とかでも見るか? ホラーは嫌だけど。

 

「──真 光陰如箭!」

「──真 八咫鏡!」

 

 そうこうしてるうちにまた二人の状態が整ったらしかった。

 輝く光の矢が鏡に水平に突き刺さる、瞬間だ。光の写しが通り抜けるように跳ね返る。

 

「おー、なんかすごそう」

 

 アルゴが気を抜かして言った。俺も言いたかった。

 光の矢が、先ほどよりも水平に鏡にぶつかったのがなんとか見えたから。というかそれしか見えなかったから。

 その一瞬で、ボールは一号の足を射抜くように進み戻る。

 

「……ぐ、ぅ……ぅうっ! !」

 

 しかし、終わらない。

 生きていた。ボールはまだ生きている、白煙をあげ、輝きが今にも爆ぜようとしている。

 だがまだだと、俺たちの理想はこれからなんだと言わんばかりに一号は再び構える。

 

「……光、陰!」

 

 放ったと同時に戻った周囲の光をもう一度、弓矢と成して収束させている。

 一触即発のラインを優に超えているボールを浮かび上がらせ、番える。

 

「っ!」

 

 反転。

 狙いは、反対側。がら空きのゴールのど真ん中。尻餅をつき立ち上がろうとしている二号を背に置き、芝を踏みしめる。

 

「――如箭ッ! !」

 

「……っ!」

 

 その言葉が耳に届くよりも先に、ボールがネットに突き刺さるのを確かに見た。

 そのあとようやく、放つ動作を行った一号を見た。

 体よりも、音よりも速く、その一矢が放たれた証拠。

 

「……また、一段階速くなったな」

 

「す、すごいねリーダー……今の、全然見えなかった……」

 

 とてつもなかった。まさしく光の一撃。

 光った瞬間には手元に届いていた従来の光陰如箭よりも更に速く。

 

 光った、それを認識することすらできない神速ともいえる領域。

 これを止めるにはそれこそ……。

 

「……兄さん、やったね」

 

「…………あぁ」

 

 やりきった、進化した光をその目に焼きつけた二号は小さく笑った。

 ……だが、一号は煙を上げるゴールネットをじっと見つめ、小さく返事をしただけ。

 納得していない、俺にはそう見えた。

 

――難儀なやつじゃのう……向上心の高さは不満足に繋がるだけじゃというのに

 

 トロアが呟いた。全くもってその通りだと思うが、強くなろうという心意気はとてもいい事だ。

 しかし一号は自分が何に納得していないのか、それすらもわかっていないようでもある。

 

「今のなら世宇子にも通用するかな? ねぇリーダーどう思――」

 

「――織部!」

 

 新たなる光に期待を隠せないメアが尋ねるよりも強く、一号が俺の名前を叫んだ。

 

 ……えっ、俺?

 何の用でございますかとばかりに立ち上がり、一号に少し近づく。

 

 ……決してグラウンドの線は超えない様にな!! 参加しないぞ俺は!

 

「……今のシュート、お前なら防げるな?」

 

 無理だが? 人の可能性を高く見積もり過ぎだぞ。

 

 いつものように逸らして防ぐやつでもシュートのタイミング掴めなければ……、いやどうだろう?

 なにせさっきの軌道はど真ん中丸わかりだった。シュートを放つためのタメもいつもより長くなっていた。

 

「……」

 

 ダークネスハンドV2を、弾く方向性に誘導する様に作り上げれば……なんなら、溜めている間にDFに指示を飛ばせば……。

 入れなきゃいいだけだし。わざわざ打たせる理由もなし。

 

「……その沈黙は、お前の甘さと取るぞ」

 

「……すまん」

 

 数秒の沈黙は肯定と取られたらしい。今の全部言葉にしようとすると数分以上は普通に使うからね。無視してたわけじゃないんだごめん。

 

 ……というか、「タメがわかりやすいし止まってるから邪魔し放題」、「元より苦手としていた、常に防御壁を出すような技」といった弱点が克服出来ていないんだよな今の。

 

――かと言って今の速さだけで得点できるかと言えば、まあ貴様が言った攻略法がある時点でお粗末だ。

キーパーと合わせて2枚のコマを使ってやるほどの価値があるとは思えん。

あの速度を一人で、なおかつタメをより少なくできればこれから先でも有用だろうが

 

 コルシアからも手厳しい指摘。さすコル。

 

「え、今の何かダメだった? 僕全然わからなかった……」

 

「……ボクも」

 

 しかしメアと二号は頭にクエスチョンマーク。一号もダメだとは気がついてるけど言葉にできていない。

 ……つまり、俺が説明しなくちゃならないというわけだ。

 

 コルシア、解決策というか原因を考えてくれ。なんかこう、いい感じに格好つけられる論理も併せて。

 

――断る、それくらい自分でなんとかしろ

 

「……じゃあ、実際に部長さんがやって見せたらいんじゃない〜?」

 

「あ、それいい案だねアルゴくん」

 

「……うん、お願いする」

 

 ……何言ってくれてんだよアルゴさんー!?

 そして名案とばかりにうなづくな天使と二号!

 一号も仕方がない……って顔をしないでくれ! マスクしてないからわからない? 雰囲気で読み取れるわこんちくしょう!

 

――喋りが苦手なんだろう、良かったじゃないか

――お、動くのか? せいぜいよく目を凝らすがよい

 

 やめるんだアルゴ、ぐいぐい俺をゴールに押し出すんじゃない! というか力強いなお前!

 ニヤニヤしてる辺りわざとだよなぁ! 一号たちのためって感じじゃないよなぁ!

 

 フェルタン助けて、なんかこういい感じにこの状況を邪魔して! というかさっきから無口だけどどうしたんですか?!

 

――ご飯の気配ないから休んでるね〜

 

 そんなご無体な! ああでも確かに一号たちの技は食べられる要素ないもんね。ちくしょう!

 

――別に天使擬きの技よりかはいいだろう、さっさとダークネスするがいい

 

 結局ダークネスハンド使ったら骨折すること忘れてませんかねぇトロアさん。

 今日既にグラサンたち相手に一回使ってて、フェルタン貯金使い果たしてるんだよ!

 ここで折ったら下手したら合宿の間ほとんど骨折したままになるんだよ!

 

「……では、いくぞ織部! 準備はいいな弟よ! 」

 

「うんっ、わかった! 」

 

 俺にも準備の可否を聞いてくれませんかね一号さん。

 嫌だぁ……、なんか良い手はないのか、できるだけ被害を最小限に抑えられるやつ!

 そうだコルシア、闇の力で頭に兜みたいなの作って、それでヘディングして軌道をずらすというのはどうだろう。

 

――一号たちのシュートの威力を想定、お前の首が一大事になる事がほぼ運命づけられるが?

 

 ……無かったことにしよう! やっぱり小手先の技じゃダメだな!

 じゃ、じゃああれだよアレ! 闇の力で逆滑り台みたいなのを軌道線上に置いて、シュートをゴールから逸らすってのはどうだろう!

 

――……出来なくはないが、大丈夫かそれ? 主に貴様のイメージが、だが

 

 ……闇に葬ろう今のアイデア! やっぱり男はなんか止めたり跳ね返したりしないとね!

 どうすりゃいい、どうすりゃいい! 嫌だよ骨折して今テンション爆発中の習合のみんなのところに戻るの!

 

「行くぞ2号、真 光陰如箭!」

 

――……うるさいのう、手を使いたくなければ、ドミネーションでもすれば良いではないか。特別に、出力を最大にしてやろうか

 

 ……ちなみにトロアの全力って、普段のドミネーションが1だとしたら?

 

――む? うーん、10ぐらいかのう

――貴様……いつの間にそんな力を蓄えて……いやよく考えたらたまる一方だったな

 

 それしたら片足が死ぬんだよ! 今でさえコルシアの力で強化しても一撃するたびに足痛くなるんだぞ。

 

真 八咫鏡! ぐっ……兄さん!」

 

 というかなんでわざわざ俺の体を犠牲にするの? こう、普通にトロア単体からビーム出すとかそんな感じの使い方はできないの?

 そうしたらドミネーションの時もわざわざ足が痛くならないんだけどさ。

 

――あーん? 顕現してやるのは肉体的にも疲れるじゃろ。他人の体でやるからこそやる気が出るというものよ

 

 こ、こいつ……! じゃあ指一本でも宿れればやる気が出るんだな?!

 

――あー? まあそうなるが……

 

 よーし言質とったからなトロア! とりあえず今は右腕にいてくれ。

 

 よしあとは指だけとか最小限の骨で防げそうなモノを考えよう。

 えーと形はどうするか、とりあえずは闇の力を出しやすく、こねやすくするためにダークネスハンドを作っておいて……。

 操作性をよくするためにさっさと痛覚とか色々繋がないと──。

 

「光、陰っ!!」

 

 あ、やべ間に合わ――

 

 

 

 助けて! !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前なら防げるな?

 

 聞いたのは、ある種のあてずっぽうであった。

 強力な技だと思った。光速の名にふさわしき一蹴、どう止めるかも頭の中では浮かばない。

 

 ……かつてのブラックのように、光を収束させている間に妨害する。

 もしくは強固な壁を一定時間出しておく。

 

 せいぜいがこの二択だろうとも思ったし、この二択を取るような人間ではないことも知っていた。

 それだというのに、目の前の男は何も語らなかった。

 

 俺なら防げる。

 

 言外に語る奴を見て、必殺技の習得が上手く行かない苛立ちに火が付くのを感じた。

 だからこそ、アルゴの提案も関係ない。最初から受けさせる気でいた。

 

 きしむ体は、限界だと俺に騒ぐ。

 黙っていろと歯を食いしばる。

 

「光、陰っ!」

 

 弟の必殺技により増幅された俺の一矢、そこへ更に光を集めて凝縮、固めていく。

 だからこそ速い、だからこそより推進力を持つ。

 放つ、という行為が終わる前にゴールする。

 

 ゴールするからこそ放たれる!

 

 因果逆転の一撃をどうにかして見せろ! そう吠えて大地を踏み蹴る!

 奴はいつものように骨の手を作り上げていた。だが遅い!

 

「如箭っ!!」

 

 その言葉を言い切った。

 体は解放感に包まれていた。

 

「──」

 

 

 

 最光の矢が、放たれたはずだった。

 

「……何が、起きた?」

 

 光の爆発で一瞬奪われた視界、次の瞬間にはすべてが変わっていた。

 

 周囲の芝は吹き飛んでいた。

 ゴールは大きく後退し、力が抜けていた俺も吹き飛び気が付いたら弟の近くまで……フィールドの中央から反対側のゴールまで転がっていた。

 

 爆心地、芝どころか土も削れたその場所に立っている……その男だけが、何が起きたのかを知っている。

 いや、()()()()()()のか知っているはずだ。

 

「……何を、起こした」

 

「……」

 

 だから、聞いた。聞くしかなかった。

 かつて俺の一撃を防いだ、頭突きなんてモノではない。だから答えを求めた。

 男は俺の声など聞こえてないとばかりに空を見上げる。

 

「何を起こしたと聞いてるんだ、織部長久!」

 

 ……少しした後、空からサッカーボールが落ちてきた。

 完全に光を失ったそれは何度か地面をはねた後、動きを止める。

 

「──しゅ」

 

 それを見届けた織部は、ただ言葉を口にした。

 

 

 

「……拍手を、した」




幸せなら手を叩こ



~オリキャラ一覧~

・織部 長久 リーダー 1番 GK
 骨折を気にしていたら功を奏して新技の切欠を手に入れた。
 ちなみに右腕は折れた。

・真経津 光矢 サッカーマスク一号 12番 FW
 神速の域に達するほどの合体技にたどり着きかけていたが織部に壊された。かわいそうな人。
 とはいえそのままだと裏ゼウスなどには通用しなかったので仕方がないともいえる。


~オリ技一覧~

・真 光陰如箭+真 八咫鏡+真 光陰如箭=?
 未完成技。とにかく速さを求めた結果、放った時にはゴールしている。技名を叫んだ時にはゴールしている。
 とにかくふざけた速さになった。
 しかし溜め時間、直線的すぎるなど以前の弱点を克服できていない。

・拍手
 右手は(トロア入り)はダークネスハンド、左手もダークネスハンド。
 合わせてドーン!!

 芝は死ぬ。


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聞こえないフリをする日

梨がおいしい季節になりました
お金がマイナスになるほどに買い占めてオーバーフローさせたい。


「──」

 

 耳鳴りが続いていた。空は夕焼けが近づき赤みを帯び始めている。

 宙をボールが飛んでいる。

 

 周りを包む砂と芝混じりの煙が、思考をスマートにしていく。

 ……いやスマートもくそも、何も覚えていない、混乱している頭を整理しているだけなんだけど。

 

 覚えているのは三つだけ。

 

 両手のダークネスハンドもどきでなんとかシュートを止めようとして、まず左闇の手を光の矢の射線上に置いたこと。

 それだけでは防げないと思って慌てて右の闇の手で叩き潰すように振り下ろしたこと。

 右腕にトロアがスタンバイしたままだったこと。

 

 気がついたら、辺り一面が吹き飛んでいた。

 ……なんでオレは吹っ飛んでないんだこれ。

 

──ふざけた速度と威力でおろされた右の闇の手。しかし強度は左の闇の手とほぼ同じだ。ぶつかりあい……爆ぜたと考えられる。

長久が無事な理由は、弾け飛ぶ闇の手の衝撃を無意識に前、そして上方向へずらしたからだろう。

そして……いつものその骨の翼を支えにした、と言ったところか

 

 あっ本当ですね。気がついたらまた背中から骨が生えていました。

 片翼をこうして使うのもありなんだ。咄嗟とはいえ勉強になった。

 

 ……というか闇の手を闇の手で叩きつけた、そんだけでなんでこんな衝撃が発生するんだよ。

 とうとうサッカーしている時に空から爆弾でも降ってきたのかと思ったぞ。

 

 ……そのうち本当にサッカー中に空爆とかされそうで怖いな。

 

──ふふん、妾の力を使い右腕を振るったのじゃぞ? 衝撃波の一つや二つ起こせないとでも思うたか

 

 いや普通は衝撃波は起きないんですよトロアさん。

 ……だからですかね? さっきから右腕の感覚が一切しないんですけど。

 

──あーなんというかだな、ダークネスした時よりもひどいぞ。包帯も外れて……うおっ、これは……ひどいな

 

 え、まじ? そんなヒクほどひどい状態なんですか右腕? 骨だけではなく?

 一切力のカケラも入れられない辺りやばいなと薄々感じ始めたけど。

 

──今の状態を他の人間に見られたらすぐに病院送りだ。我の力で隠してやるから黙っておけ

 

 あぁサンキューコルシア……。

 ちらっと見たけど、あの、洒落にならないレベルで出血していた気がする。見なかったことにしよう。

 

 あ、コルシア。右腕だけだと不審がられるかもしんないからいっそ左腕も覆っといてくれ。

 ……これ、いつものようにダークネスハンドに痛覚とかリンクさせてたら両腕死んでた?

 

──そうじゃな

 

 そうじゃなじゃないが? と抗議しても知らんぷりされた。今夜は目薬フルコースをしてやる。

 

──よし覆うぞ

 

 ズモモモと妙な音を立てて両腕を闇の力が覆っていきコーティングされていく。

 便利だなぁ。

 

──傷口も塞いでおく、とはいえあとで一度消毒しておけ。せいぜいガーゼ代わりにしかならんからな

 

 助かります……いやほんと。またいつもの病院にこっそり行っておこうかな、フェルタン貯金当てにするのも危ないし。

 いやでも合宿期間中はそんな暇ないよな……。

 

「──何を、起こした」

 

 砂煙が晴れていく。

 二号たちやメアたちが見える。どうやらみんな無事のようだ。いや本当によかった。

 

 ……お、どうした一号。なんか叫んでいるがうまく聞き取れんぞ。というかなんでそんな遠くのゴールに……オレが吹き飛ばしたのかもしかして? それはごめん。

 

「何を起こしたと聞いてるんだ、織部長久!」

 

 ……やっぱり聞き取れない。耳鳴りが酷いせいだろうか。

 でもなんとなく何を聞こうとしているのはわかる。

 大方「何したんだよお前」と言ったことだろう? 読み取るのは得意なんだ。

 

 ……何したんだろうなこれほんと?

 

 煙が晴れてみればさらに被害がよくわかる。芝はフィールドの4分の1は削れてるし、俺が立っていたゴールもズレている。

 これを元に戻すの、大変だ。

 

 ……で、えーと、うーんと?

 闇の手を闇の手で、ボールを捕まえようと……蚊を叩きつぶす時みたいに合掌したから、

 

「……拍手を、した」

 

 としか、言いようがないよな。

 

「…………はく、しゅ、だと?」

 

 いや、あの……そんなビビらないでいただけるとありがたいというか。

 俺のせいではなくほとんどトロアの仕業で、ボールを弾けたのはタイミングがたまたま良かっただけだよほんと。

 

 あ、でもアレだよな。かなり積み上がってた努力が悪魔の力とはいえぶち壊されたようなもんだよな。

 単なる拍手ですよーとってことにすると一号の心壊れるよなこんなん。

 

「……新必殺技。その、試作。のだ」

 

 嘘です。

 そもそも新必殺技とか考えてすらいなかったよ俺。ダークネスハンドV2が限界だなーって思ってたし。

 

「……そう、か。……お前の方が、先に完成しそうだな」

 

 ……えーと今なんて言った? 心は読めるんだけど言葉はどうも……。読唇術とか身につけておこうかな。

 あぁ、なんか別の方向に落ちこんじゃった……違うんですほんと。

 今頭の中には新必殺技のしの字も無いんだよ。

 

「一号、気を落と──」

 

「──リーダー!! 何今の!? なんかこうっ! よく見えなかったけどっ、闇の塊が二つぶつかって、すっごい音がしたけど!」

 

 励まそうとしていればメアが視界外からタックルしてきた。みぞおちに突き刺さるメアの頭。

 けれど珍しく翼が生えていないメアタックルは闇の力には優しい。俺の体には優しくない。

 

「なんとなくだけどさ! いつものドミネーションの時と似た力を感じたんだよね! あのドラゴンっぽい悪魔の力!」

 

──っぽいというか、ドラゴンなんじゃがなぁ……

──こいつ、力の感知もできるように……

 

 骨翼が焼けないのはありがたいが、衝撃で何も入っていない胃が揺れる。気持ち悪い。

 吐くかと思った。言葉と共に飲み込む。メアもたくさん喋っているがやはり聞き取れない。

 

 ……、

 よし、適当にうなづいて聞いているフリをしよう!

 

「って、どうしたんだいその腕……黒くなってるけど? まさか……」

 

 表情を読み取る、不安そうな感情はない。つまり肯定して問題なさそうだ

 うん、そうだぞメア。とゆっくりうなづく。

 

──おいよせ長ひ──

──おっと、面白そうじゃ。黙っていろワンコロめ

 

「かつて左腕に封印していたサタン!? そうか最近目覚めたあの翼はサタンの復活を……いや? 悪魔を複数身に宿すリーダーの体そのものが悪魔人間として目覚めている……そういうことだね?!」

 

 うん? なんかめっちゃ喋ってるけどこれ同意していいやつかな。コルシアはどう思う?

 

──やめろトロア貴様!

──おおっ? やるかぁ?

 

 ……なんか脳内で喧嘩してるな。

 まあいいか……含みを持たせるため、yesともnoとも言えないような表情を浮かべる。

 

「わぁ……! すごいねリーダー……僕ももっと輝いてみせるから!」

 

 うーん目に見えて上機嫌になったなメア。

 パーフェクトコミュニケーションというやつだろうかこれが。

 あ、やめて天使の力出そうとしないで。燃えるからほんと色々。

 

──……うーん、面白がっといてなんじゃがこれ失敗じゃったかも

──……我は知らんぞ、貴様のせいだトロア

 

 ん? 二人ともどうした?

 喧嘩収まったか?

 

「……協力、感謝する。また俺たちは二人で特訓する」

 

 そうこうしているうちにまた聞き取れない音がする。それはメアよりも遠く、一号の方から……。

 ってああ、一号のこと忘れてた!

 

「習合の元に戻るがいいだろう……」

 

 こっちに呆れた、というよりかはもはや辿り着けない。

 折れかけている。諦観の目をした一号は俯いていた。

 

 ダメだ、これはこのまま放っておいたら嫌な予感がする。

 

「……一号くん」

 

「なんだメア。少し疲れただけだ、休息を取ったらまた再開する」

 

 メアと一号の声色。内容は読み取れないがどちらも暗い。変えなければならない。部長として。

 

 でも、なんと言えばいい?

 

 一号が落ち込んでいる理由はなんとなく読める。兄弟だけの必殺技を作ろうとしていたのに、やっと少しだけ……納得はいかないが成果としては前進したかと思ったのに。

 俺がぶち壊した。

 

 今俺の方から何を言おうと、きっと響かない。叱咤激励にならない。イヤミになる。

 

 ……周囲を見渡してみる。

 

 今さっきの上機嫌は潜め、事の成り行きを不安げに見つめるメア。

 俺がどうするのかを眺めているアルゴ。

 折れかけてなお、今のやり方続けようとしている一号。

 

 そして、

 

「……」

 

 俺は見た、その顔を確かに。

 

 自信はない、確証もない。

 けど俺は、そいつに一縷の望みを賭けることにした。

 

「……一号、一つだけ聞いてくれ」

 

 大きく息を吸い整えて、なんとかなれと心の中で叫んだ。

 

「後ろを、お前の後ろにいる男を見ろ」

 

 二号、この状況をどうにかしてくれ……!

 

 助けて……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──兄さん」

 

 俺はハッとし、すぐ振り向いた。

 吹き飛ばされた後、俺は弟の顔をちゃんと見たか?

 

 弟は今どんな顔をしているだろうかなんて、頭から抜けていた。

 兄失格だ、もし落ち込んでいるのなら鼓舞しなければならない。

 

 そう、思い込んでいた。

 

「……兄さん」

 

 いつもと変わらぬ、いやずっと力強い瞳で、俺は睨まれていた。

 睨まれている? 違う、そう感じてしまっただけだ。

 

「……きょう、すけ?」

 

 弟は、ただ俺には期待を向けているだけなのだから。

 

「……ごめん、僕」

 

 俺は、俺が、俺だけが、この場で心が折れかかっている。

 かつての高天原のみんなのようになりかけていたことを悟った。

 

「僕は今──かなりむしゃくしゃしているんだ」

 

 織部たちに追いつくのは徒労だと、一瞬でも思ってしまった自分がいることを知った。

 だが弟は違う、途方もない道のりを見て、その先にいる二人を見て、怒りにも似た原動力を得ていた。

 

「ぜっったい! 織部たちに追いつこうって、思ってる。

思っている……思っているのに! 少し厳しい程度の特訓で辿り着けると思っていた自分がいたんだって!」

 

 握りしめたこぶしでなんども開いて閉じて開いて閉じて、まだ自分が動けるということを確かめている。

 散々特訓したくせになんでまだこんなに元気を残しているんだと怒っている。

 

「そ、それは俺が言い出したことでお前の責任じゃ──」

 

「──でもボクはそれに反対しなかった!!」

 

 弟が、俺の意見を真っ向から跳ね返した。その事実に震える。

 目の前の弟が……いや男が、自身の情けなさを嘆いている。

 

 お前は、誰だ。

 

「ボクは、いつも兄さんに頼りっきりだ! 高天原を立て直そうとした兄さんに、来年もあるからなんて励まししかできなかった!」

 

 何一つ違わない、鏡介だ。優しくて、兄想いの、最高の弟だ。

 だから、違うのは俺の見方。

 

 ずっと、俺の後ろをついてきてくれると思い込んでいたんだ。

 

「兄さん! ボクは強くなる! もっと色々考えて、色々前に出て! ずっと強くなる! そして高天原の正ゴールキーパーになる!

 

──高天原の切り札に、エースになってみせる……なるんだ!!」

 

 弟の後押しがあればなんでもできると考えていたくせに、弟が先んじる事があるなんて思ってもいなかった腐った兄だった。

 輝きを取り戻そうとして、ただ見せかけの光を求めていたダメな兄だった。

 

「──あぁ」

 

 強くなって、高天原のエースとして舞い戻ろうとしていた。

 既にそっちではエースだったから、そんな傲慢な気持ちでいた。

 

 そんな体たらくで、織部を倒す? 輝きを取り戻す?

 

「あぁ……!」

 

 自分のかつての意気込みで笑えてくる。

 なんと無様な話か。

 

 じゃあどうする、このまま腐ったままか、みすぼらしいままか。

 

 どうだ見てみろ、弟は今、誰よりも輝いている。

 その輝きの邪魔をするつもりか、水を差すつもりか。

 

 どうなんだ?

 

 そう世界が問いかけている気がした。

 

「──俺は」

 

 サッカーマスク一号は、

 

「俺はっ」

「僕はっ!」

 

 元高天原のエースは

 

 

「僕は! ──真経津 鏡介は!」 

「俺は! ──真経津 光矢は!」

 

 お互い覆面を脱ぎ捨てて、真経津 鏡介を見た。

 

「絶対に! 新必殺技を完成させる! 誰もが止めることのできない、ふざけた、次元が違う、隔絶した一撃を編み出して見せる!!」

 

 二人で叫んだ。言い合うように、お互いの顔にかみつくように大口を開けて、

 叫んだ、叫んだ。

 叫びつくした。

 

 もう何を言っているのかも分からないほどに叫んだ。

 

 叫んで、織部の方を見た。

 

「だから、せいぜい首を洗って待っていろ!

 

織部……長久!!」

 

 言い捨てて、グラウンドから走り去る。

 頭に上り切った血を冷やすため、まだまだ走れる体を酷使するため、走り出した。

 

 次に会うときは度肝を抜かしてやると、習合のサブゴールキーパーにしてやると好き放題叫んで走る。

 

 

「……ふっ」

 

 そんな俺たちの叫びを、憎たらしいほどの安堵の感情で奴は送り出した。

 ただ口元を緩めて、うなづいて。

 

 ……あぁ、ほんと、むかつくやつだ!

 




織部「……なんも聞き取れねぇ」


 難聴系主人公を目指しました(


~オリキャラ一覧~

・織部 長久 GK 1番
 新技の代償で右腕、そして鼓膜が犠牲になった。
 鼓膜のほうは数日すれば治るだろう。

・サッカーマスク二号 GK 13番
 メンタルが強くなってきた弟。兄より優れた弟は存在するのかもしれない。
 正ゴールキーパーになったら織部が泣いて喜ぶ。



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帰路に着く日

イナイレ杯が始まったらしいっすよ、それはそうと引越ししたい。
主に車がいらない生活がしたい。


「――と、いうわけで! 僕としてはエンゼルブラスターを更に進化させつつ、ザ・ユートピアもより完成度を高めていこうと思うんだ!

そのためにはやっぱり更なる特訓、そして光の強さを上げていくわけなんだけど、やっぱりそれには深淵なる闇を使うリーダーの協力が――」

 

「そうだな、そうかもな、その通りだ」

 

 相変わらず何を言っているかわからないまま、メアと二人で歩く道。

 無事な左腕でメアを支え、メアはオレの首元に手を回し半ばおんぶ状態。靴がないからね、流石に歩かせるわけにはいかない。

 

――今の状況をエマが見たら喚きそうだな

 

 仕方ないだろう、携帯で着替え持ってきてもらおうにも、ふと見たら携帯が壊れてたんだから……。防水仕様でもイカレるとは。それとも耐衝撃の方がダメだったのか。

 携帯会社の保険は入ってるから大きな出費にならないってだけが今の心の励ましだよちくしょう。

 

「今こうしてリーダーの背中に乗っているだけでもなんだか……深く、沈む冷たさと、包み込む闇と確かな暖かさ……? いや冷たいのに暖かいっておかしいかも……と、とにかく肌身で感じ取れる気がして、また一段と強い光になれそうだよ!」

 

「そうかもな」

 

 適当相槌も堂に入ってきた。しかし耳が治らないと不便で仕方がない。

 まあ大体は読み取れるからいいんだけど。

 

 多分新技作りたいなぁとかエンゼルブラスターもっと強くするから〜とか言っているに違いない。

 

 ……真 エンゼルブラスターまで行ったけどまだ先があるんだろうか。

 なんだろう、超とか極とか絶とかその辺の冠詞がつくのかな。いっそ元祖とか本家とかどうだろう?

 

――絶対特訓に協力するなよ長久。下手をしなくとも焼き尽くされるぞ……

――うー張り切りすぎて疲れたのぅ……妾も休むかぁ。ふあぁ……

 

 悪魔って寝たりしないはずじゃ……いや休息ぐらいは取るか。おやすみトロア。フェルタンと仲良く休んでな。

 あくびが一つ脳内にこだまして声が減った。やや寂しい。

 太陽が傾いて、足元からじっくりと伸びる影を見てもトロアの気配をほとんど感じない。本当に休んだらしい。

 

 ……そしてメアの影がどこか薄い気がした。というかメア自身がほんのり発光している気がしたが、無視した。

 洞窟とかいったら便利そうだな発光機能。

 

──もう手遅れだなこの天使擬きは

 

 それはそうとコルシア、アルゴがどこに行ったか知ってる? なんか見かけないんだけど。

 あの子ったらすーぐどっかにふらふら行っちゃうんだから。

 

――アルゴ……あぁあの不気味な桃色頭。マスク兄弟の後をつけて行ったぞ?

 

「……アルゴ」

 

 アルゴくーん……。

 さては一号たちの顔をじっくり見たいからとかそんな理由で離脱したな……。まあ無理矢理連れ戻すにもどこ走って行ったかもわからんし諦めるか。

 すまん真経津兄弟。強く生きてくれ。そして強くなって俺がベンチでかっこつけてても問題ないくらいになってきてくれ。

 

「? ……あれ、そういえばアルゴくんがいない?」

 

「一号たちの特訓を見に行った。そのうち帰ってくる」

 

「あー……彼らしい、のかな? 二人とも大丈夫かな……」

 

 アルゴの趣味はあまり良くないが、流石にあの二人の熱気をどうこうできるとは思えないし、悪影響はないだろう。

 ……よく考えたら、立ち直った後の顔はアルゴの趣味とは違くないか? うーむ。まあいいや。

 

「問題ないだろう、今の二人なら」

 

「……」

 

 それだけ言うとまたテクテク歩く。腕痛いからあまり震動が伝わらないように。

 一瞬だけメアの呼吸が止まったが、すぐにまた再開したかと思えば、逆に大きくゆっくりと二、三度深呼吸をする。

 膨らむ肺が背中に押し当てられたからわかる。聞こえないはずの呼吸の音が、背中を通して伝わってくる気がした。

 

 少し湿った靴が音を立てる。グチュリグチュリと進む。

 不快な感覚のはずだが不思議と楽しかった。なんでだろうかと考えても答えは出なかった。

 

「……リーダー、僕さ。少しだけ、少しだけわかった気がするんだ」

 

「……ほう?」

 

 メアがまた話し始めた。首だけ回して顔を見る。

 空を見上げたメアの瞳には、夕暮れの月が映っていた。静かな闇を待つ、赤さを残した衛星。星を浮かべ、やがて干上がり上る光を沈めた海。

 相変わらず綺麗な目をしやがって、さぞモテるでしょうなぁ! と謎の怒りがわいてきたが原因はワカラナカッタ、ナンデダロウナー。

 

「家族は理解しあってるってのは違うって」

 

「……」

 

「勘違いしてたんだ。通じ合っているのが一番いいんだって」

 

 落ち着いた、けれど芯を持った声はやはり聞こえないけれど、俺に真意を伝えてくれる。決して焦らないリズムの音は波として耳をいやす。

 メアの脳裏に浮かんでいるのは、きっとあの兄弟のことだ。

 

「二人がああして熱くなったのは、仲の良さもあったろうけど……ズレがあったからだ」

 

 思い出しているはずだ。熱きこころが流した真経津弟の悔し涙を。それを見て困惑した兄の顔を。

 いつも通じ合ってるように見えた兄弟で起きたすれ違い。

 

 でもそれは喧嘩の原因ではなかった。

 

「ズレがあったから、1号くんは底から引っ張り上げられた。

2号くんは理想に辿り着くために、走ることができた」

 

 真経津兄が最初から燃えていれば、弟は内心を燃やすことなく特訓に挑んでいたかもしれない。発露し、吠えることもなかったかもしれない。

 逆に、弟が発露しなければ兄はその後の特訓に惰性が出てしまったかもしれない。

 

 ズレがあったからこそ、二人で高みを目指せる。

 きっと素晴らしいことだ。

 

「僕の父さんは、僕がサッカーするのが嫌いなんだ。リーダーのことも……少しも理解してくれないんだ」

 

「……そうか」

 

「だから、何も分かってくれない父さんなんかもう……い、いなくなって欲しくって……飛び出したんだ」

 

 絞り出した言葉はきっと、父親を否定する言葉だった。

 

 俺の顔を見て一瞬ひるんで、それでも言い切った勇気の言葉。否定の言葉は吐き出すだけ体力を使う。

 メアは心を疲弊することを知ったうえで、言い切った。

 

「その、ごめんねリーダー。わがままだしひどいことを──」

 

 そう見えた。

 だから俺は、俺は。

 

「……俺も――父のことは嫌いだ」

 

 嘘偽りなく話した。

 心が疲れたくないから流していた言葉を、誠意をもって口にする。

 それがメアへの励ましであり、礼儀になると思ったから。

 

「……!?」

 

 メアが驚いてこちらを見る。

 

「どちらか言えば、叔父のほうが好意は強い」

 

「えっ、えっ……」

 

 一言で終わらせたかった怠惰な心。

 それなのに、どうしてか言葉が流れ出る。封を切ったらあふれ出る。

 

「時折からかうために嘘を言うのも、調子に乗って母に叱られるのも、大人の癖に子供っぽいところも、準備がなってないところも、格好つけたいがために格好わるくなるのも嫌いだった。子供らしい父だった」

 

 思い出はきれいなものばかり残していたつもりが、改めて思い返すときれいなものなんてほとんどない。

 日常のどうでもいい場面ばかりがよみがえる。

 

 メアの父親を否定する自分を否定する言葉を出したかったのに。

 気がついたら俺は自分のパパを否定し始めていた。ルートは一緒かもしれないが、目的がずれている。

 

 これじゃまるで、俺の悩み相談じゃないか。

 

「母も、しっかり者のようにしていたが、時折り抜けていた。それでいてプライド高く、自分で失敗に気が付かないようにする癖があった。言い出せば自分が面倒を見るから。結局父の後始末をするが、先んじて注意しない。だから、だから……もっとしっかりして欲しかった」

 

 おかしいな、メアを励まそうと思ったのに。

 仲直りさせたかったのに、愚痴が止まらない。

 

 子供の時に思った感情が、乗り越えたと思った感情が溢れ出す。

 

「叔父さんは、赤の他人に近い俺を引き取ってくれた。とてもいい人だ。だが、大変そうだった。もっと頼ってほしかった。俺でなくてもいい。色んな人に」

 

「三人には……格好良くし、しっかりし、頼って欲しかった」

 

 吐き出していた。

 好意を持っていると先ほど言ったばかりの叔父にすら。吐き出していた。

 

「メア」

 

「う、うん」

 

 地面を見る。俺の影の中にはトロアがいる。

 腰のあたりにはフェルタンがいる。

 手の中にはコルシアがいる。

 

「……俺には、同体の悪魔がいる。けれど隠し事もあるし、もめることもある」

 

 脳内で話すときはほとんど包み隠さないが、意図的に話さない、聞かないことなんて山ほどある。

 でも、それでいいし楽しい。にぎやかだし。

 

 メアを諭すためにはまず自分から? 無理だ。腹を割って話せば傷つくこともある。俺はそれが嫌だ。

 腹を割って話すことを良しとし、悪意に近いものを否定したいメアは尊敬に値する。

 

 だから、俺はただこういうほかなかった。

 

「家族とは……スレ違い、勘違い、人生を共にする者。そう、思っている」

 

 理解しなくていい、ただそこにいるだけでいい。

 臆病者の考えだ。今すぐごまかしたい。でも、それだけはしちゃいけない気がして、ずっと何もしゃべらないでいるコルシアが見守ってくれている気がして。

 

 ただ、言い切って歩いていた。

 

 俺は今、どんな顔をしている。

 メアにそう尋ねる事だけはどうしてかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――でも、違うんだよね」

 

 リーダーが、いつもとは違った。デパートでおもちゃを買ってもらえなくて、泣き疲れた子供を思い出す。

 

 その時僕は、父に連れられていたはずだ。

 僕が欲しかったものとは違うけど、実に子供らしい、合体ロボットがレジでラッピングされていた。

 

 僕のために、わざわざ父が店まで連れてきて買った。そのことの意味を考える。

 

「分かり合えないから、でもずっといるから、偶に、一瞬だけ噛み合う」

 

 その時僕が、あっちが欲しいって言い出したら、父はどうしたんだろうか。

 母との一件以来、僕は父に対してどうしていたんだろうか。

 

 わからず屋だと僕は父に思ったけど、ちゃんと何度も僕は訴えたっけ。

 

「噛み合った時きっと、かけがえのない光を生む。それが積み重なって、消えない人生の宝になる」

 

 親は、何歳からが親なんだろうか。その時点で未熟さは消え失せるのだろうか。

 期待していないどころか、僕は何も言わずに父が分かってくれるだろうと思い込んでいた。

 

 リーダーが気づかせてくれた。子供らしさを残す親を嫌いだといったリーダーの顔が、いつもよりずっと子供らしかったから。

 年相応どころかずっと若く見えたから。

 

「でも、避けてたら、逃げてたら、その瞬間も逃しちゃうんだね」

 

 二号くんがあの時無力さに燃えていなかったら、一号くんが熱に浮かされて立ち上がらなかったら。

 

 彼が一号くんに後ろを向くように言わなかったら。

 あの綺麗で、流星のような光景はなかった。

 

 宝は生まれなかった。

 

 人生を歩む友……いいや知り合いは、例え仲が悪くとも、例え思考がずれていても、置いていくなんてもったいないんだと。

 

「ありがとう、リーダー」

 

 今にして思えば、リーダーは僕のことをほとんどわかってくれて、ありがたかったはずなんだ。

 理解されないのが当たり前だったんだ。

 

 自分にとって嫌な環境から逃げ出して甘えて、どうなる。

 それで長い時間の間、ほんの少しずれたら離れるのか?

 

 リーダーの負担を増やして、またあんな思いをさせるだけだ。決めたはずだ、彼の隣を歩くと。

 

「もう、おぶってもらわなくても平気だよ」

 

 彼の、一度も聞いたことがなかった家族への愚痴。

 勇気をくれた。彼を支えようと気を引き締められた。

 

「……そうか」

 

 彼に預けていた体重を戻し、天を見る。

 沈む夕日とそれを遠くで見る月。時折り噛み合い、移り変わりを教えてくれる景色がそこにあった。

 

「じゃあ――飛ぶね!」

 

「? とぶ――っ!」

 

 その輝きに混ぜて欲しくて、いつかわかり合いたくて、高く高く飛んだ。

 気がついたら光を放ち、この街のどんな建物よりも高く飛んでいた。

 

 四対、八枚の翼が風も空気も撫で飛ばし、重力すらも話し合う。

 

「……また、強くなったな。メア」

 

「リーダーに追いつきたいからね!」

 

 いつもだったら光が弱まってしまう、リーダーの闇の力も気にならなかった。

 リーダーが気を使ってくれたのか、それとも分かり合えたのか。わからない、分からないからまだ手を繋ぐ。

 

「よーしっ、色々うじうじしてしまったけど! 特訓に戻ろう――あっ……い、家出は……そのえーと」

 

 改めて公園に向かおうとして、そうだ家出中だったと思い出す。

 流石にこのまま参加するのはまずい。一度電話でもして話し合って、許可をもらわないと。

 

 んー、でもそうすると間違いなくまた猛反発するよね。どうするか……。

 そう悩んでいたら、ぶら下がっていたリーダーが

 

「……分かり合えないとしても、譲れないものを譲る必要はない」

 

 そう言って、恥ずかしそうに下を向いた。

 

「え、えーと?」

 

「『なんと言われようと合宿に参加する。合宿期間中は戻らない』。これで十分。

あとは、こっちの仕事だ」

 

 今度はこっちが口を開けた。

 それいいの? 反則では? 避けない逃げないに値するの? 色々と巡る。

 

「……絶交、というわけではないならいいだろう。気にするなら毎晩、成果をメールにでも、投げつけてやれ」

 

 別に仲良くする必要なんてどこにもない。

 相手の反応はともかくこっちの言い分をずっといいつけてやれ。そうリーダーは背中を押してくれた。

 

 でも、確かに、まあ、家出したままよりかはずっとマシな話……だし?

 

 ここまで言われてもなお、僕は云々と唸って――、

 

 

 

「――習合のみんなは、メアには……いて、ほしい」

 

「全力で言い捨ててくるよリーダー!!」

 

 こっちの言葉の方がよっぽど反則だ!!

 力技の解決案で開いた口すら更に惚ける口説き文句で、僕の飛翔はより速度を増した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだやるのか!」

 

「こっちにも意地ってものがあるんですよ……!」

 

「お、おいおいおっさんたち喧嘩はやべーって……」

 

 ……しばらくして、公園で言い争いをしている僕とリーダーの親御さんたちを見つけた途端ガタ落ちしたのは言うまでもないよね。

 

 ……どうしようかこれ。

 

 リーダー、助けて……。

 

「無理だ」

 

 そんなぁ……

 




地獄絵図が作りたかった。
反省はしている。





~オリキャラ紹介~

・織部 長久 GK 1番
 なんだかんだ全肯定するほどではない。でもまあそれが家族だろという思考。
 腹を割って話すなんてことは絶対に無理と考えているチキン。ちょうど背中から鳥の骨生えてるしちょうどいい。

・メア 勅使河原 明 FW 11番
 リーダーの話を受け取り、本人よりも素晴らしい考えを生み出した。結果本人がごまかしたかったきれいごとを答えにしてしまう。まあええか。

 ちなみにエンゼルブラスターは超進化の系列である。


・備考
12/19-1/2の期間中、花蕾様主催。イナイレ杯となっております。
 タグで検索すれば出てくる予定です。出てこなければ私は泣きます。

 ちなみに、コラボが決まりました。
 詳細は、コラボ導入話を投げるまでお待ちを……!


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分からせる日

エルデンリングやりたいなぁ


 親の喧嘩ほど見苦しいものはない。特にそれが親しくしている人の血の者であれば尚更だと思いました。

 

「だからっ、離せと言っているだろう!」

 

「いいえ、一言謝ってもらうまでは行かせません!」

 

 どこかに行こうとするメアのお父さんの袖を、どこにも行かせまいとするキャプテンの叔父さんが掴みます。先ほど会った時の弱気に見えた表情には今、必死めいた物もあり、最初は怒りを露わにしていたメアのお父さんさえもたじろぐほどです。

 

「……どうしてこんなことに」

 

「まあー、あんなこと言ったらそりゃ怒るって……とは言えどうすっかなこれ」

 

 慌てて頭を悩ませる僕の横で、冷や汗をかいているジミーさん。それはそうだ。あんなこと言えば家族が黙っている訳がない。

 ただでさえキャプテンの家の事情は複雑そうであるというのに。

 ……みんなでワイワイしていたら突然メアのお父さんがやってきて、

 

『明をだせ! ここにいるのはわかっている!』って言いながらまあ荒れまして……そのうちに今度はどこからかキャプテンの叔父さんがやってきて……。

 最初は叔父さんのほうはメアのお父さんを宥めようとしていました。

 

 この状況はまずい。ただでさえメアさんの家はうちの学校に対しての発言力が大きいと言うのに、それと現在学校で魔王と恐れられてるキャプテンの家がぶつかり合えば……何かよくないことに繋がるのは間違いない。

 だからみんな、大人である叔父さんにお任せしていたのです。それが裏目に出でしまったのかもしれません。

 

「というか俺、メアが家出してたって初めて聞いたんだけどワタリは?」

 

「いえ……でもよく考えればいくらメアさんと言えど不自然な行動でしたね。飛びながらキャプテンに激突するなんて」

 

「あん時裸足だった気もするしなー」

 

 事の発端はメアさんの家出らしい。家を飛び出した息子を追って、ここに来ていると思ってメアのお父さんが襲来。

 そこにたまたま仕事で近くに来ていたらしいキャプテンの叔父さんが、雰囲気がおかしいとこっちへやってきて……。

 

 彼がメアお父さんを宥める時「織部」であると名乗ったら、

 

『お前があの悪魔憑きの家族か! うちの息子をたぶらかしてどうするつもりだ!』

 

 怒りで頭に血が昇っていた言葉が、温厚そうに見えた叔父さんの導火線に火を……むしろその本体ごと爆破しました。

 それまでは取りなそうとしていたのも一変、絶対に許さないとばかりに睨みつけています。

 

「お父さん、だから謝りなって……」

 

「お前は黙っていなさい!」

 

 メアのお姉さんが心配でやってきた頃にはもはや手遅れ。

 大人と大人の意地の張り合いは袖の引っ張り合いという、ひどく地味に見えて一触即発の事態へと発展してしまっていたのです。

 

 うぅ……二人を呼びに行ってもらったはずのアルゴさんは戻ってきませんし、どうしましょう。やっぱり人選を間違えた気がします。

 

「あの子が……長久くんが、どんな思いでこの合宿に参加したかわかってない。絶対に撤回してもらいます!」

 

「知ったことか! 本人が危なければその家族も危ない。そんな合宿に参加させるなんで許可するわけもない。故に言葉も取り下げない!」

 

 事態の収拾のために動くべきなのでしょうが……大の大人二人の喧嘩に戸惑いみんなおろおろしています。

 

「トールさん、トールさん! 流石に力に頼るのはやばいっすよ……!」

「……! ……!」

 

「離せお前ら……メアにはワリぃがあのおっさんは一発拳骨をくれてやらなきゃ気が済まねぇ……」

 

 ……内1名がいつまで抑えられるかもわかりません。頑張ってくださいバングさん、カガさん……!

 でもこれなら最初からトールさんを先頭にみんなで抑えつけて無理矢理にでも引き離せば……ここまでこじれずに済んだのでは、後悔先にたたず、ああどうしよう。

 

「いい加減にしないと警察を──」

 

 そう、思っていた時でした。

 

――光よ、この一撃より照らせ

──闇よ、この一瞬より広がれ

 

「……回避!」

 

「えっ」「あれ、部長とメア……やばっ」

 

 

 声がしました、慌てて視線を頭上に上げれば……、

 天より広がる光と闇の奔流、それが一点に集まり降り落ちようとしていたのです。

 

 その場にいた全員がみんな慌てふためくこととなった、というのは言うまでもないでしょう。

 ゆっくりと、わざとらしいほどに遅く落ちてくる楽園から逃げるため、私たちは雲の子を散らすように走り出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、言うわけで二人とも喧嘩になってしまいまして」

 

「……うぅ、ごめんねワタリ」

 

「世話をかけた」

 

 みっともないほどの泥仕合はとりあえず力による恐怖で落ち着いた。

 ……みんなほんと死に物狂いで逃げていて申し訳なくなった。

 

──あのゴッドノウズを吹き飛ばした技という認識だからな当たり前だろう

──ぐうっ……妾らのほうも傷ついてるだろうぞこの技は

 

 い、いや待ってほしいコルシア。ほら着弾点を見てほしい! 少し芝がつぶされて濡れているくらいだろう!?

 

 いくら魔王呼びされていようがチームのみんなに危害が及ぶようなことはしない!

 ボールも使わない必殺シュート、実体がない技だったから例え直撃しようと少し暑さと寒さを感じる程度のはずなんだ!

 

──見た目は何も変わらないのだから意味ないだろう。貴様本物そっくりのナイフを突きだされて冷静でいられるか?

 

 ……はい、そうですね。ちょっと焦っていたからって考えなしでした。

 

「みんな……驚かせてすまない」

 

「なーに、おかげで喧嘩もトールも収まったしな! しっかしマジでビビったぜ……」

 

 頭を下げた俺の肩を優しく叩くのはジミー。

 こんなことを言ってるが、みんなが逃げる中、一人着弾点に向かって蹴り返そうとしていたすさまじき男だ。

 ……蹴り返されていたらヤバかっただろう、つくづくボールを使っていなくてよかった。

 

 トールはとりあえず凄いものが見れてすっきりしたらしくまたソニックたちと練習する(遊ぶ)ためもう回転ジャングルジムへと向かった。

 ……遊具が壊れないだろうか心配だ。

 

「安心しろってボス、壊れてもウチのモンで直しておくからよ」

 

 そういう問題ではないんだグラさん。

 叔父さんは……

 

「へいへーい部長の叔父さーん、ちゃんと反省してるー?」

「本当にごめんね……」

 

 何故かウリ坊に慰められ……慰められ?ている。あと頭突きは叔父さんには耐えられないと思うからやめてやってくれ。

 すっかり消沈したようだから……まあ後で俺からも励ましておくとしよう。今は何も言うことが浮かばない。

 

「そういやメアのパパさんはどした?」

「……うーんびっくりして帰っちゃったみたい、ほんとうにあの人は……」

「まぁ、サッカーもあんまり知らないみたいだしびっくりするって」

 

 サッカーて今更だけどなんだっけな……。

 

「あ、ワタリ今携帯持ってる? ちょっとお姉ちゃんに電話したくて」

「ええどうぞ」

 

 内心悩んでいる俺をよそに、メアはワタリから携帯を借りた。何度か画面に触り、おそらくは電話番号を押し切るとほんの一瞬息を吸って、携帯を耳に当てた。

 苦手だという相手に電話をかける、それだけだというのに俺はメアのことをすごいと思う。

 

「……ああ、お、お姉ちゃん。その、悪いんだけど後で靴とか持ってきてもらいたくて……うん、うん」

 

 ああそういえばメアは家から直接飛んできたから荷物とか何もないのか、確かに今お家に戻ってもまた揉めるだろうし仕方ないよなぁ……。

 俺も一旦濡れた服とか壊れた携帯とか色々やらなきゃいけないことが……

 

「──安心してください兄さん、着替えをお持ちしました! あとその携帯はこちらで何とかしておきますね」

 

「っ、エマいつからそこに……もういない」

 

 そう思った時、急に背後からエマの声がしたと思えばそこには服の入った紙袋のみ。

 ……エマにしてはとても珍しい行動だ、というか壊れた携帯も持っていかれてるし。どこまで把握されているんだ?

 

──まあ、むしろ何もないならありがたい限りだろう

 

 うーんどうしたんだエマの奴……なんか企んでいそうで怖いんだけど。

 案外叔父さんとの一件を心配してくれてるとか。

 

「……え? 分かった、いいよ。電話替わって、僕も言いたいことがあるし」

 

 む、そんなことを気にしているうちにあちらのことが進んだらしい。

 メア姉が電話を替わる相手は……考えるまでもなく、あの人だろう。

 

「……父さん?」

『──! ──!?』

 

 スピーカーモードにはしていない。それでも電話の先からメアの父親が騒いでるのがわかる。

 きっとまたメアが傷ついてしまうようなことを口にしているのかもしれない。大丈夫かなとメアの顔色を窺おうとして、やめる。

 

 携帯を持っていない手をぎゅっと握りしめながら、メアの瞼は優しく閉じられていた。

 そして彼は口を開ける、怒号に負けない、芯が通った声を出した。

 

「うるさいっ! 何をどう言われようと僕はサッカーをリーダーたちとする!」

 

『ッ……』

 

「それと、そんなにリーダー達のことが怖いなら……もっと見に来なよ! 練習でも、試合でも、それでもだめだっていうなら、もっともっと見てよ!」

 

 叫んでいる、全部満タンのメアの言葉が詰まっている。

 ぶつかり合うために、いつかかみ合う瞬間のために、隠そうとした、放そうとした自分の欲望をぶつける。分かってくれ、なんて優しい言葉じゃない。

 

 つまるところ「譲るなんてことはないし、諦めもしない」、永遠に殴り続けるといっているようなものだ。

 宣戦布告……メアの、凛々しい顔の中に隠した夢へのあこがれのように強い宣言だった。

 

 

『……』

 

「……あっ切れちゃった、全く……また後でかけよっと」

 

 ワタリに携帯を返し、吹っ切れたメアは力の抜けた困り顔を見せた。

 

 ……これでようやく、全員が合宿に参加できたような気がする。約二名、別の場所で特訓しているけど……きっと強くなれる。

 ゼウスが相手でも、希望の光が強くなったような気がした。

 

「ワタリ、お父さんを言い負かすときってどんな風にしたらいいと思う?」

 

「そうですね、やはり弱みに付け込むか、反論の気力をなくすほどに話しかけてはいかがですか? 一日一

回以上……さっきのような強さがあれば」

 

 ……メアのお父さんのこれからは心配だが、まぁうん……聞こえないふりをした。

 

 助けて、と言ってきたら……どうしようかなぁ。






どんなどろどろの話でも力が解決する、それが真理です。


~オリキャラ一覧~

・メア (勅使河原 明) 11番 FW
 悪いことを覚えた天使。大体のことは粘ればいける。最後までしゃべっていたほうの勝ちらしい。
 ちなみにザ・ユートピアをボールなしでも出せるのはリーダーのおかげだと思っているが99割己である。

・メア父
 心配することは間違っていないがとにかく強情かつ言動がうかつ。
 この後から毎日メアコールによってうなされることが確定している。


~オリ技一覧~

・ザ・ユートピア シュート技(ロング)
 光と闇が広がる一球はすべてを包み込み押しつぶす。
ボールがなければそこまで被害はない。


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監督責任を負う日

あけましておめでとうございます
イナイレの新作まで生き延びます


 突然だが、合宿といえばカレー、という認識はあるだろうか。

俺はといえばない。テレビや漫画やらで見るが実際に合宿した経験も無いし、

むしろなんでカレーが多いんだ? と疑問に思う時だってあった。

 

 それは全て、目の前の惨状が物語っている。

 

「──ジャガイモの"眼"ってどこにあるのかな。いくら切っても見えないけれど

最初はあんなに凸凹だったのに、今じゃこんなにきれいな形になれた……その行程に意味を見出して……」

「なぁメア。細かくしすぎだろそれ……」

「んーそうかな……トールは逆に大きすぎないかなそれ?」

「あの、食べやすいようにじゃがいもは6等分でですね二人とも……」

 

 みじん切りとぶつ切り(皮付き)のジャガイモと作り出すはメアとトール。

その二人をたしなめつつ、ワタリがこちらにsos信号を目線で送って来ている。受信したくないなぁ。

 

「バング分隊長! 玉ねぎの皮全部剝きました……結果は無です!」

「フハハハバング! オレは既に全て切りおわったぞ! やりすぎて散らばり飛んでったがな!」

「これ自分の責任ッスよね、タハハ……」

 

 とことん最後まで実行し虚無へ猪突猛進に、あるいは包丁さばきで超局地的サイクロンへとたどり着いた探索者たち。

その二人の暴走に気が付けず全てが終わっていた様を見て涙を零すバング。

玉ねぎが染みた手で目を擦ったのかな? ……うん頑張れ。

 

「…………」

「ぃよしっ完成……ん、んん? あれ、おかしくねーか」

「うへへ~♪ おいしー」

 

 ニンジン班のグラサン、カガ、いつの間にか帰ってきていたアルゴの三人は手際よく料理を完成させていた。

……ニンジンの酢の物を。途中から過ちに気が付いたらしいカガが青ざめているし、誘導した犯人らしい甘酒飲みはつまんでいる。

 

「カレー、存外難しいのか?」

「いやそんな訳ないだろうが織部! この惨状はなんだ?」

「お腹すいた……」

 

 マネージャー達に米の準備の指示をして戻ってきた俺は、そんな地獄と、床にはいつくばりながらもプライドを無くさない一号達に出迎えられた。

 二人とも宿泊しないはずだったが……どうやらアルゴが戻ってくるついでに引きずってこられたようだ。二号などは腹の音を大いに鳴らしているし、放っておくわけにもいかない。

肉調達係のエマに、食べ盛り二人追加と連絡を送っておこう。あとニンジンも……。

 

──……いやぁ、酷くないかのうこれ

──カレーまだ~?

 

 トロアすら真面目に困惑している。俺だってだよ。

 一応、各班に包丁使ったことある人を配備。安全面の為セラミックの持ちやすい奴を持ってきたりと気にしていたはいたが、これはひどい。

 

──合宿という行事中に気の高ぶった学生たちを集めたらこうにもなるであろう。

  気が抜けているんじゃないか長久さっきから

 

 お黙りコルシア。責任が俺にあるのはわかっているから……。

 

「キャプテン、ええとどうしましょうか」

「部長~! すみませんでしたッス……」

「なあボス、オレ達なに作ってたんだっけか」

 

「……指示を出す」

 

 とりあえずジャガイモはトールが切った半分サイズのはワタリに三等分にしてもらう。

メアのサイの目切り状のはあくだけ抜いておき最後に入れればいいか。

 虚無と竜巻になった玉ねぎは、虚無までの過程で剥かれた玉ねぎはまだ使えるのでカット。

竜巻は自然にお帰りしてもらった。明日は玉ねぎの雨が降るかもしれない。

 

──あめ……玉ねぎ……あめ色……飴……

 

 なにか引っかかったらしいフェルタンは放っておいて、最後はニンジン。

まずアルゴとグラサンを買い物が増えたエマの荷物持ちとして派遣。

エマごめん。

 

「皿は借り物だ。……投げたりするなよ?」

「わ、わかってるよ部長ーやだなーもー、アハハ……」

 

 最後はとりあえず手が空いたトールたちに共に使ったものの片づけやら皿などの準備をさせた。

 ウリボウがうずうずしていたので奴には行き倒れの一号達を運ぶ仕事を与えた。

 

「織部」

 

 担がれ運ばれていく際に、一号はただそうつぶやき、

ジェットコースターの如き勢いで運ばれていったことはよく覚えている。

 まあ耳はほとんど聞こえていないのだが。南無。

 

「あの、部長さん。本当に量はあってますよね?」

「問題ない」

 

 途中、不安になってマネージャーさんが確認しに来たが、特に問題はなかった。

指示された米の量が多すぎないか心配してくれた辺りかなり料理はできるに違いない。

 

──お前が食べすぎなだけじゃないか?

 

 コルシア。人は食わねば生きていけないんだ。

回復のためのエネルギーとしてな。

 後はエマが追加のニンジンと玉ねぎ、肉を持ってきてくれればそれの処理をして寸胴鍋に。といったところまで来たのだが、エマ達がなかなか帰ってこない。

 はて……と空の寸胴鍋を見ながら考え込んでいると、野菜の入った段ボールを抱えてグラサン達が帰ってきた。

しかしその近くにはエマは見当たらない。

 

「たらいま~。ねぇ部長、これすっごい重いんだけどこれ~」

「……? お疲れさまだが、エマはどうした」

「いやな、合流場所についたら野菜とメモ書きがあってな。

お肉はもうすぐ届くから、先に野菜だけでも持ってってくれーって書いてあってな?」

 

 不平を漏らすアルゴにとりあえず段ボールを置くよう指示し、グラサンから事情を聞く。

 

 ……届く? 配送サービスでも使ったのだろうか。いやそれならエマも帰ってきていいはずだが……。

そう、不思議に思っていた時だった。

 

 遥か遠くのかなたから調理室まで響く雄たけびを感じ取り、振り返る。その視線の先、窓の外のグランドの先に何かがいる。

グラウンドの端っこから、土煙を上げて迫って来るナニカがいる。

 

──長久、いやな予感がするぞ我は

──妾も

 

 ギョッとして目を凝らし、凝らしたのを後悔する。

 次いで聞こえた頭の中のコルシアたちにそれなと思いつつ、グラサンたちに背を向ける。

 向かうは窓のほうへ、上靴だけどまあ時間ないししゃーないと窓を開ける。

 

「外に出てくる」

「えっ、いやボスあれ……牛、だよな? なんか羽生えてるけど」

「なんか豚っぽくもない?」

「出てくる……!」

 

 お肉の種類の指定をしない俺が悪かったんだ!!

まさかあんな魔界生物みたいなのをお届けされなんて思ってもみなかったけど!!

 

──今の地獄ってあんな奴がいるのか……

──……おどり食い

 

 だめだぞフェルタン。みんなが食べる分の肉もアイツから取らないといけないんだからな。

 ……だけど、できれば俺が突進止めたらすぐ喉元食らいついて動きを止める方向性でお願いします。

 じゃないとうん、あんな化け物をまともに相手したら俺は死ぬので。

 

『コケプギョォォォォオオ!!』

 

 さあ地獄の豚……牛? 鳥? よくわからないが生物よ、飛び込んでくるがいい。

 そう意気込み、ダークネスハンドの体勢を……

 

──で、どう止めるんじゃ。右腕どころか左腕も回復しきっとらんじゃろ

 

 あっ。

 そうだった。今のオレは右腕が死んでいて、左腕も疲労していて……。

 えっ、そうじゃん俺何してんだ。力を入れようとした腕が、鉛のように重いまま、ようやく負傷し過ごしていたのを思い出す。

 

『ゴゲプギョォォゥォオオ!!』

 

 しかし悲しいかな。目の前の牛豚鳥はこちらの事情など知ったことではない。

 憤り猛った力を奮うべく、突進する準備を進めている。後ろ足で何度もグランドを蹴り、狙いを定めている。

 ……えーとコルシア。悪魔らしいライフハックとして、あいつをどうにかできないだろうか?

 

──長久、土下座というものは知っているか?

 

 生きることとプライドの両方は諦めたくはないのでどうにかそれ以外で頼む。

 というかこんな化け物相手でも土下座って効くんだ?

 

──いや無理だが

 

 お前ここ生き延びたら覚えておけよ。

 サクリファイスすんぞ無理やり。

 

──威嚇でもしてみたら案外動き止まるんじゃないか?

 

 少し脅してようやく建設的意見が降ってきた。威嚇いいね。

 よしそれじゃあ中学一年織部 長久、地獄の生物を頑張って脅かしてみせま

 

『ゴゲゴゲプギョォォゥォオオ!!』

 

 いや無理ですねこれ!!

 なんかこう、なんかこう咄嗟にできてめっちゃ怖そうな奴!

 怖いやつお願いします!!

 

 助けてぇ!!




 久々に更新したら新年近いと言うバグが発生しています。
解消には作者のアップデートが必要です。自動ダウングレードはするのにね。

~オリキャラ紹介~
・織部 長久 GK
 監督責任の結果、闘牛?をすることになった人?
そろそろ価値観アップデートしたほうがいいともっぱら噂。
現在、右腕の感覚がなく鼓膜もあまり戻っていない模様。(隠すため両腕をコルシアの闇で覆っている)

・地獄肉覇獣 ミノブタトリス
 星四 攻守2000/500 地属性
 おすすめの部位はモモ


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