アルベドさん大勝利ぃ!【完結】 (神谷涼)
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1:婚前交渉なんてしませんよ

初投稿です。
設定知識など甘い面もありますが、どうぞよろしくお願いします。


 西暦2138年――DMMO-RPG『ユグドラシル』サービス終了時間間近。

 ギルド、アインズ・ウール・ゴウンが拠点たるナザリック地下大墳墓、玉座の間。

 

 最終日、残ったプレイヤーはギルドマスターたるモモンガ、ただ一人。

 異業種、それもアンデッドの最強種たる死の支配者(オーバーロード)だが。

 今や、彼は最後を迎える墓守そのもの。

 

「はは、最後を共に過ごしてくれるのは、NPCだけか」

 

 渇いた笑いと共に、玉座の周りを見る。

 控えたるは執事(セバス)戦闘メイド(プレアデス)――そしてアルベド。

 メイドたちもだが、アルベドは特に美しく造られていた。

 より厳密に言えば、モモンガの好みそのものである。

 

「ああ――改めて見れば、こんなに美人だったんだな」

 

 彼女を作ったメンバー、タブラ・スマラグディナの言葉が脳裏に蘇る。

 

(モモンガさんの嫁にどうですか――か)

 

 アイテムボックスから、存在を忘れていた品を取り出した。

 

 略式婚姻の指輪(リング・オブ・インフォーマルマリッジ)

 本来は町の神殿でイベントとして行われる“結婚”だが。

 この一組みの指輪を同意の元、装備するだけで“結婚”が成立する。

 相手がNPCなら、実質一方的でも問題ない。

 課金ガチャから出たレアアイテムだが……誰もが認めるハズレ枠。

 重婚不可の『ユグドラシル』では、複数持っても無意味であり、安価で流通していた。

 モモンガ自身、数えたくもないほど持っている。

 

 結婚をすれば、いくらか有利なスキルも得られる。

 相互回復、相互召喚転移、バフとデバフの共有などだ。

 とはいえ、いずれも拠点から出られないNPC相手では、意味も薄い。

 

(でも、ロールプレイ的には一回やってみたかったよな)

 

 溜息をついて、アルベドをじっと見る。

 最後までギルドにしがみついた己には、彼女がふさわしい気がした。

 

(ゲーム内で結婚したら負けた気がするってぺロロンチーノさんは言ってたけど……

 もう誰もいないんだし。最後くらい、いいですよね)

 

 指輪の一つを、己に装備し。

 もう一つをアルベドに指輪を差し出そうとして……味気ないなと思い返した。

 

「ふむ――」

 

(何もかも消えるんだ。どうせ使えなくなるなら、最後にぱーっと使おう)

 

 流れ星の指輪(シューティングスター)を取り出す。

 さんざん課金して手に入れ、結局使えなかった課金アイテム。

 あまりに贅沢な願いの使い方に、何度か、ためらったが。

 残しても意味のない、最後の時間だから……と。

 超位魔法〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉を発動した。

 

我、願う(I wish)――ナザリックの移動可能な全固有NPCを、我が元へ!」

 

 瞬間。

 玉座の前を、無数の異形が埋め尽くす。

 

(ああ――どれも、みんなと作ったキャラクターだ)

 

 階層守護者たち、領域守護者たち、メイドたち――他にも多数のNPC。

 一人一人にメンバーとの思い出があり、設定がある。

 

(ペロロンチーノさんが趣味を詰め込んだシャルティア、

 ぶくぶく茶釜さんが別の意味でアレだったアウラとマーレ、

 武神武御雷さんのコキュートス、ウルベルトさんのデミウルゴス、

 黒歴史だって避けてたパンドラズ・アクター……)

 

 名前のおぼろげなNPCも多いが。

 その製作に関わる会話、配置時のみんなの感想は……彼らの姿を見れば思い出せる。

 多種多様の彼らは、そのままギルドの歴史。

 この最後の時に回り始めた走馬燈。

 可能なら、今からでも彼ら一人一人のデータを見たい。設定を読み直したい。

 きっと失われた時代に触れられるから。

 

 モモンガはかぶりを振り、その衝動を振り払う。

 今更、だ。

 もう、その時間はない。

 指輪を使った甲斐はあった。

 モモンガは、元よりロールプレイ勢である。

 せめて彼らの前で、最後の魔王ロールをしよう。

 

「皆の者、聞け! ユグドラシルは終焉の時を迎え、ナザリックも消滅する!

 私も、お前たちも、消えるのだ!」

 

 最後の魔王ロールは、半ば絶叫するようだった。

 泣いているような、声だった。

 実際に、泣いていたのかもしれない。

 己を紛らわせるように、アルベドに視線を向ける。

 

「アルベドよ。こんな最後になってすまない。

 お前を作ったタブラ・スマラグディナさんとの盟約を今こそ果たそう」

 

 アルベドを玉座の正面に立たせる。

 

「とはいえ、相手が骸骨ではお前にも気の毒か。私も最後は気分を変えたい。

 我、願う(I wish)――この身をアルベドと同じ種族に!」

 

 白骨の体が光に包まれる。

 鏡で姿を確認したいし、クラス構成の変化にも興味があるが――時間もない。

 手が生身に変わっていれば十分だろう、と。

 

「さあ……最後まで時間がない。アルベドよ、指輪を受け取れ」

 

 アルベドを見つめ指輪を差し出し、装備させる。

 見える己の手は、白く美しい。

 これならアルベドと似合いの姿だろう。

 

「これで我らは夫婦となった。全てが消滅しようとも――この契りは消えぬ。

 訪れる終焉を恐れるな。皆の者、『喝采せよ』」

 

 祝い事や勝利時のためのモーション。

 全員が片手をあげ、勝鬨をあげるポーズをとる。

 声がでないため……人形遊びの範疇を出ないのだが。

 それでも、モモンガは目を細め、もう一度NPCを見回した。

 

「さらばだ。ナザリックの守護者たちよ!

 アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

 

(とと、あぶない。あと5秒しかない!

 結婚したらできるようになる、あのモーションをしておかないと!)

 

 モモンガは玉座から立ち上がり、アルベドを()()()()()

 そして、少しばかり性急に()()()()()

 結婚した夫婦が一日に一度だけ許される、相互回復効果。

 もちろん触感はカットアウトされ、何の感触もありはしない。

 ただ、そう見えるというだけだ。

 

(はは、初期はこれでひたすらキスしてるプレイヤーが町に溢れてたっけ)

 

 苦笑しつつアルベドを抱きしめるが、何の感覚もない。

 

23:59:57

 

(きっとこれが最初で最後のキスなんだろなー)

 

 スクリーンショットで残すと、黒歴史だな……と控えた。

 

23:59:58

 

(ファーストキスと共に終わるか、そう思えば上等かもしれない)

 

 もう時間はない。

 

23:59:59

 

(リアルならこの先も……)

 

0:00:00

 

――ずにゅ

 

(そうそう、こんな風に舌が入ってきたりして)

 

0:00:01

 

――ずりゅりゅるぅ

 

(舌? えっ? 唇に感覚があ――)

 

 腕の中にも柔らかい感触がある。

 というか、柔らかい何かと何かが、押しつぶしあっているような。

 

0:00:02

 

――ずぼっ、ぐぢょっ、ずぢゅるるるるぅ

 

(んぐっ、おぶっ、のどっ、のどまでっ)

 

 それは舌というにはあまりに長すぎた。

 長く、いやらしく、熱く、そして卑猥に過ぎた。

 それは正に触手だった。

 

 あと、モモンガは玉座に押し倒されていた。

 

0:00:03

 

(んぶっ、んぐっ、んへっ、ひょっ、から、からだぁっ♡)

 

 触手がモモンガの口の中を、喉を、貪るように舐めまわしてくる。

 押しのけようとするが。

 いつの間にか凄まじい力で抱きすくめられ、体中をまさぐられていた。

 

0:00:10

 

(んんんーーーーっ♡ んふぁあああああああああああ♡♡♡)

 

 状況を理解できないまま、激しいくちづけと愛撫に晒される。

 今のモモンガの種族は、アンデッドではない。

 

 性別について何も言及せず、願ったのだ。

 

 小悪魔(インプ)を経て、女淫魔(サキュバス)に至ったと改竄されていた。

 女淫魔である。

 サキュバスである。

 もちろん、精神耐性――感情抑制などない。

 サキュバスの体は常に発情状態で感じやすい。

 中の人は童貞で、性経験はとても少なかった。

 しかも、愛撫してくる相手もサキュバス。

 冷静になる時間も与えられないままに。

 

 たった10秒で、モモンガはのけぞり、絶頂し、痙攣した。

 全てのNPCの目の前で。

 




はい、結婚したから婚前交渉じゃないですね!

設定書き換えが起きていないので、このアルベドさんはビッチです。
モモンガさんのアレは実用されないまま消えましたが、種族特性上また生えるかも。


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2:鬱濡れとかありんせん

続きました。


 唐突に集められたNPCたちの前で、ナザリック終焉が宣言されてすでに十分以上。

 (彼らの主観で)涙ながらに喝采していたNPCたちは、主がアルベドと婚礼のくちづけを交わすと同時に、一斉に沈黙した。

 唇が離れた時、さらなる喝采を――と、彼らは待っていたのだ。

 

 だが、モモンガとアルベドのくちづけは、既に五分以上に及んでいる。

 覆いかぶさったアルベドは、がっちりとモモンガを捕まえている。

 モモンガの身を覆うのは体の前面がむき出しになるローブだ。

 他の露出を抑えているのに、大きな乳房は先端をわずかに隠す程度でしかない。

 下腹部すらギリギリまで露出されたその中に、アルベドの手は遠慮なく這い込んでいる。

 いろいろと、気まずい粘液音が二人の間から聞こえていた。

 モモンガの手足は数十秒ごとにガクガクと痙攣し、玉座から床にとめどなく液体が(したた)る。

 何度か勢いよく流れた様子から、液体が一種や二種でないとわかる。

 

「…………」

 

 多くのNPCたちが、すっと視線をそらす。

 主がアルベドとこのような痴態を晒すのを、

 見て見ぬふりをする情が、ナザリック守護者たちにも存在したのだ。

 

 ナザリック――否、ユグドラシル終焉とあらばなおさらに。

 享楽に溺れる主を、どうして彼らが咎められようか。

 とはいえ、例外はいる。

 

「うらやましい……」

「モモンガ様、受け身だったっすかー」

 

 ソリュシャンとルプスレギナは普通にガン見していた。

 一般メイドたちにも少なからず、観察中の者たちがいる。

 

「ウソ! こんなのウソよん! なんであんなブスのアルベドが選ばれるのッ!?」

 

 特別情報収集官ニューロニストは号泣していた。

 そして彼女の悲鳴が、一人の静かなる怒りを覆い隠す。

 

(アルベド……コロス……)

 

 シャルティアは激怒した。

 必ず、かの邪知暴虐のアルベドを除かねばならぬと決意した。

 シャルティアには主の意図がわからぬ。

 シャルティアは第一第二第三階層守護者である。

 妄想に耽り、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)をほじくり暮らしてきた。

 けれども、主の絶頂に対しては、人一倍敏感であった。

 

(アアア……またおみ足ををををを!!)

 

 同性経験豊富なシャルティアの目には、モモンガが何度も絶頂しているのがわかるのだ。

 白く艶めかしい脚がまた、跳ねる。

 己やユリにも似た、青白い肌。

 アンデッドの相を未だ保つ姿。

 体型や角、翼はアルベドと同じ。

 黒髪はアルベドの髪と絡み合い、溶け合ってすらいるようだ。

 アルベドと互いに押しつぶし合う大きな乳房からは、女淫魔(サキュバス)の誘惑香が噴き出す、。

 だが……欲望に染まり切ったアルベドと異なり、モモンガの貌は蕩けてなお気品がある。

 官能に狂う仕草ひとつひとつに、羞恥が見え隠れし、初々しさすら香ってくるようだ。

 しかも、死の支配者(オーバーロード)の力を失いきっておらず、全身から死の気配が濃厚に漂う。

 端的に言って最高であった。

 最高の最高の最高であった。

 

 かつての姿なら、シャルティアはモモンガを美の結晶と評しただろう。

 だが、今やモモンガは美の有頂天、美の天元突破、美の永久機関、美の無量大数。

 憎きアルベドに弄ばれ、よがる姿さえ、シャルティアを熱く疼かせる。

 憎悪と殺意に囚われながら、なぜか己のスカートの中に手が伸びた。

 濡れているし、あんな痴態を見せられて――と。

 手が止まった。

 

――シャルティアにも、NTR趣味だけは目覚めてほしくないですねー。

――ハーレムができたらいっしょに楽しむ! これでしょ!

――えっ? 別にNTRがNGじゃないですよ! でもシャルティアがNTRで喜ぶのはちょっと。

――いいかい、シャルティア。想う人を奪われた時。怒りと憎しみに身を任せ、心に消えぬ傷を刻んだなら、NTR沼に沈んでしまうんだ。

 

 脳裏に偉大なる御方、金色に輝くバードマンの言葉が蘇る。

 

(はっ、いけない! いけないでありんす!

 これがぺロロンチーノ様のおっしゃっていたNTR沼……なんと恐ろしい)

 

 ぶるりと身を震わせ、冷静を取り戻す。

 冷静に、観察者の目で、二人の痴態をガン見する。

 一度、二度と、繰り返し達するモモンガを見ていれば。

 シャルティアに、余裕が戻りつつあった。

 

(ふっ、ふふっ、よく見ればアルベドはただ勢いに任せて一方的に貪っているだけ。

 長く楽しもうとも、楽しませようともせず、乱暴に攻撃を繰り返すばかり。

 そう、私ならもっと、モモンガ様をしっかり悦ばせてさしあげられるでありんす)

 

 たとえしばらく、アルベドが楽しもうとも。

 ナザリックの主たるモモンガ様が、たった一人の妻で終わられるはずがない。

 正妃の地位を奪われても、真の寵愛は間違いあるまいと。

 シャルティアは不敵な笑みを浮かべた。

 

(ああ、それにしてもモモンガ様。なんて感じやすい御体……私なら、あんな乱暴でなく、もっと繊細に、達するギリギリを見極めて攻め、一気に溺れさせてさしあげ……ああ、でもその前にあの御体、全身を隅々まで舐めまわさせていただきとうありんす)

 

 もっとも、次第にいつもの妄想に溺れ始め、欲情しきった笑みに変わっていったのだが。

 

 一方で。

 玉座での行為は10分間に及び。

 ようやく、唇が離された。

 長い舌でさんざん嬲られたモモンガの口は、舌を突き出してアルベドの唇を追ってしまう。

 そんなモモンガに、アルベドの全身からピンク色のおぞましいオーラが溢れ出していた。

 

「あふ……ふぁ……ふぇ? あるふぇと? ゆめ?」

 

 繰り返されすぎた絶頂に、ぴくぴくと断続的痙攣を続けながら。

 モモンガは蕩けきった顔で涎を垂らし、アルベドを見上げるしかできない。

 彼女の異常な表情に、警戒すらできない。

 

「はぁはぁ……モモンガ様っ。私ごときを妻に選んでくださりありがとうございます。世界が終わるそうですが、終わる前に私たちの関係をより強固にすべく、このまま新婚初夜に移らせていただこうと思いますが、問題ございませんか? 問題ございませんね? はい、承知いたしました! 不肖アルベド、これよりモモンガ様にこの体捧げさせていただきますっ!」

 

 ぐへへ、と擬音の浮かびそうな表情のアルベド。

 早口で一息に、一方的宣言を行うと。

 

 まさしくゴリラの腕力でモモンガを押さえつけ、自らのドレスを引き裂きながら。

 

 モモンガのローブを無理矢理に押し開く。

 

「~~~~~~~!!!!」

 

 絹を引き裂くような悲鳴が、玉座の間に響き渡った。

 




シャルティアよりの内容でした。
NPC勢ぞろいさせたせいで、いろいろキャラ描写せざるをえない状態が……。
病んだ目で見てるマーレも出そうか迷いましたが、話進まなくなりそうなので。
しばらくは、アルベド中心、シャルティアサブです。

ところで、モモンガさんの衣装って生身で着るとすごいセクシーなデザインですよね……。
他をがっちり隠して、胴体前面はほぼ完全露出……。


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3:わたしは しょうきに もどった

 さらなるカオスの鐘が鳴る。



 気まずく目をそらしていたNPCたちだが、主の悲鳴があがっては放置できない。

 

「守護者統括殿、やりすぎです!」

「アルベド様、ひとまずお離れください!」

 

 デミウルゴスとセバスが、同時に駆け寄る。

 一瞬遅れて、他の高レベルNPCらも駆け寄った。

 

「ああああ、モモンガ様の甘露――しゅ、しゅばらしいでありんす」

 

 シャルティアのみ、ゴキブリの如く床を這いながらぴちゃぴちゃと奇妙な音を立てていたが。

 幸か不幸か、彼女に目を向ける者はいなかった。

 

「離せやぁ! これから、モモンガ様をいただくんじゃぁ!」

 

 至高の御方の上では、アルベドが暴れていたのだ。

 ほぼ全裸のままで。

 

「あーふぁ……あは、あるべど、げんきだな……」

 

 モモンガは未だ呆けたまま、暴れるアルベド、取り押さえんとする守護者たちを眺めるばかり。

 時折ぴくっぴくっと思い出したように絶頂し、目は蕩け、口は半開きのまま。

 その目にはハイライトもなく、体液の溢れた痕跡も明らかな……まさに事後。

 

「はぁはぁ、モモンガしゃまっ♡」

 

 床を舐めるシャルティアが、足元に近づいても気づきすらできない。

 そのまま吸血鬼に足先から付け根まで舐めまわされようかという時。

 一時的に離れたアルベドの隙をついて、ナザリックのメイド長がモモンガに触れた。

 

「失礼いたします、モモンガ様……〈正気(サニティ)〉です、ワン」

 

 あらゆる精神異常の強制解除と、一時的精神耐性を与える呪文。

 心身ともドロドロにされていたモモンガの意識が、一瞬でクリアになる。

 

「あ……あれ?」

 

 蕩けた目にも理性が戻り、不安げに周囲を見る。

 幸か不幸か、痴態を晒した記憶は飛んでいた。

 

「……え? え?」

 

 控える無数のNPC。

 守護者ほぼ総がかりで取り押さえられているアルベド。

 横に立つ犬頭のメイド長(ペストーニャ)

 足下で土下座しているらしき少女。

 騒ぎ暴れていたNPCたちも一斉に沈黙した。

 主の言葉を待つ。

 

「今、時間はどうなってるんだ? ユグドラシルのサーバーダウンは?」

 

「今は0時13分……さーばーだうん?」

 

 シズ・デルタが即座に答えた。

 

「日付がとうに変わっているだと? それはそうだ……よな」

 

 整った眉を寄せつつ、緊急の操作をするが……。

 

「何……? コンソールが開かない……GMコールも利かない……だと?

 〈伝言(メッセージ)〉……〈伝言(メッセージ)〉……〈伝言(メッセージ)〉……

 〈伝言(メッセージ)〉……〈伝言(メッセージ)〉……〈伝言(メッセージ)〉」

 

 思いつくままに知っているプレイヤーにつなげてみるが、応答もない。

 

(はいぃ、なんでしょうモモンガ様ぁっ)

 

 最後に、試しでアルベドにつなげれば、即座に応答が入る。

 

「む……アルベドにはつながるか。呪文は普通に使えているのか?」

 

 不明の言葉と共に困惑する主に、NPCらがざわめく。

 あの恥辱の後遺症では……と気遣う声もあった。

 

「あの、こんそーる、じーえむこーる、とはいったい……」

 

 足下からシャルティアが土下座したままたずねる。

 

「…………シャルティア?」

 

 特徴的なゴスロリドレスと、銀の髪で、顔を見ずとも彼女とわかる。

 パンドラズ・アクターを除けば、シャルティアはモモンガが最も製作に関わったNPC。

 己の娘のようなものだ。

 

「は、はい」

 

 今の今まで床を舐めていた口元を瞬速で拭い、顔を上げた。

 

「………………」

「ひゃっ!?」

 

 モモンガはそんなシャルティアを抱え上げ、膝の上に乗せる。

 無心のままに彼女の頭や頬を、その白い手で撫でた。

 シャルティアの顔が赤く染まり、ゆるみ、にやける。

 間違いなくシャルティアに触れる感触だ。

 

(NPCなのに表情もある……声で口も動いていた。

 匂いや感触もあるし、こんな全身で触れ合うのはR-18に触れるはず……)

 

 横のペストーニャを見れば、彼女も首をかしげて見せる。

 ざわめくNPCたちの動きも、プログラムではありえない。

 

(そういえば、最後に骸骨じゃなくしたんだっけ)

 

 シャルティアを撫でる己の手は白く、ほっそりとしている。

 

(そうだ、それでアルベドと結婚を……)

 

 ようやく思い出し、さっき結婚したアルベドに目を向ければ。

 

「あ、あんのガキャアアアア!!」

 

 凄まじい形相のアルベドと目が合った。

 

「おわっ、ちちちち、違うからな、アルベド! これは浮気とかじゃないぞ!

 彼女は私の娘も同然なのだ。み、みんなもアルベドを離してやれ! 状況を説明する!」

 

 ぎゅっと、恐怖のあまりシャルティアを抱きしめながら、アルベドを解放させた。

 巨乳大好きなシャルティアとしては、最大級のご褒美である。

 たわわな乳房の谷間に埋もれたシャルティアの表情は、モモンガに見えてない。

 

(うひょおおおおおおおおおおおおお、おほおおおおおおおおおおおおおおおおお)

 

 モモンガはシャルティアに書き込まれた設定をほぼ覚えていないのだ。

 AIの制御下だったシャルティアは(アルベドも)特に変態的行動はとらなかった。

 親友ぺロロンチーノが作った100レベルNPCという以上の認識は、ほとんどない。

 

(ふひょほおおおおおおおおおおお!! こ、これはいいってことでありんすね! ね!)

 

 びちゃびちゃれろれろじゅるじゅると、酷い音を立ててモモンガの乳房を舐めていた。

 手で揉んでもいる。

 NPCたちの顔がまた、うわあ……となるが。

 表情の見えないモモンガは、〈正気(サニティ)〉による強制賢者モードの影響もあり、じゃれついているのかな――程度に捉えてしまう。

 

「まったくシャルティアは、思っていたより甘えん坊だな」

 

 女性の体となった影響か、モモンガの中には確かな母性愛がある。

 

「ぐうぇへへへ、ひゃい~、シャルティアは甘えんぼでありんす~♡」

 

 慈母の表情で髪を撫でるモモンガに、さらに調子に乗るシャルティア。

 その笑い声に純真さなど皆無だが、主は気づかない。

 

「――シャルティア、控えなさい」

 

 ようやく衣服を整えたアルベドが、冷たく言い、シャルティアを引きはがす。

 

「チッ」

 

 舌打ちしつつも、シャルティアは離れた。

 主が、己を憎からず思っているとわかっただけで、彼女としては満足だ。

 

(そんなに子供相手に嫉妬せずともいいだろうに)

 

 モモンガは一人、状況を理解せず、苦笑して二人の髪を撫でる。

 それだけで二人は恍惚とした表情を見せた。

 

(やっぱり感情や意志があるみたいだな……それにしてもなんだか胸や下半身が冷たいなあ)

 

 そんな二人の様子を他人事のように観察し。

 己が晒した痴態の記憶もないまま――モモンガは立ち上がった。

 胸の谷間はシャルティアの唾液に濡れ、下半身はいろいろ溢れたままである。

 ――が、女淫魔(サキュバス)の性質なのか、今のモモンガは特に気にしなかった。

 

「すまないな。無様を晒した。アルベドも、許してほしい」

 

 アルベドの手を取り、握る。

 やわらかな暖かい手だ。

 モモンガ本人としては、空白の10分間は、パニックを起こしたと考えており。

 まさか手を握る相手による、痴態と恥辱の連続だったとは覚えていない。

 

「そんな、妻として許すも許さないも……くふーっ!」

 

 手を握り、下卑た笑みを浮かべたアルベドだが、モモンガはNPCたちに目を向けていた。

 各階層守護者、セバス、パンドラズ・アクターら、高レベルNPCらが前に進み出ていたのだ。

 

「どうやら至高の御身にすら不測の事態の様子ですが……

 もしや、さきほどおっしゃられていたユグドラシル終焉と何か関係が?」

 

 代表として発言するデミウルゴスは、敢えて主の言葉をスルーする。

 アルベドの邪笑と、先刻の痴態を話題にせぬよう、気遣ったのだ。

 

「ああ。本来ならあの時……日付の変わると同時にユグドラシルは消滅したはずだった。

 このナザリック大墳墓も、私も、お前たちも、すべてもろともに、だ」

 

 不安からアルベドの手を強く握り、無意識に身を寄せてしまう。

 

「くふーっ!」

 

 互いの黒い翼を絡め合うように互いの腰を抱き寄せつつ。

 モモンガは説明と推測を述べ始めた。

 

 NPCたちが裏切るなら、もうとっくに空白の時間の間に殺されていただろうし。

 今もそっと肩を抱き寄せてくれるアルベドがいれば、なぜか安心ができた。

 それが女淫魔(サキュバス)の種族特性とは気づいていない。

 

 そう、『ユグドラシル』ではフレーバー情報だったが。

 女淫魔(サキュバス)は己を屈服させた相手へと本能的に従属し、依存してしまう。

 そしてモモンガはあのくちづけの中、アルベドによって繰り返し何度も“屈服”させられたのだ。

 性的に。

 モモンガの純潔はボロボロである。

 その異常経験は、モモンガの隠された性的レベルを上昇させつつ。

 鈴木悟ではない……女淫魔(サキュバス)の性質を強化し、発露させていた。

 

 今やモモンガは、アルベドに体を密着させ、その存在と体温を感じてこそ満たされる。

 あの恐ろしい笑みを見ても、魅力的としか感じない。

 あらゆる状況において、無意識下にアルベドを優先し、頼ってしまうのだ。

 (シャルティアに無防備なのは、天然だが……)

 

 かくして、べったりと密着し、触れ合いながら。

 モモンガはリアルの説明を除き、ほぼ全てを包み隠さず話すのだった。

 




■捏造設定

・〈正気(サニティ)
 公式呪文〈狂気(インサニティ)〉が第8位階魔法だったことを考えると、同級でもおかしくないかなと。かなり長時間の精神系耐性を与える、事前バフと想定しています。
 以後、少しの間モモンガさんは感情抑制付の強制賢者モードなモモンガさんになります。
 ただし、種族に引っ張られたサキュバス的価値観は変化ナシです。

女淫魔(サキュバス)の価値観
 ユグドラシル時のフレーバーは「相手を誘惑し襲うが、逆に屈服させられれば隷属し、従順な使い魔となるという」程度。特にそんなマイナススキルはなく、単なる設定。
 しかし、モモンガさんはアルベドを屈服させる前に、屈服させられまくったので、いろいろ酷い状態です。「ギルドへの執着」が「アルベドへの偏愛」にチェンジしつつあります。そしてアルベドさんは目下、モモンガさんラブではなく、至高の御方に欲情するビッチに過ぎません。
 モモンガさんはヤンデレ力を溜めています。

・アルベドとシャルティア
 設定変更されていないので、ナザリックの処女ビッチ双璧です。
 アルベドが処女じゃなくなりそうで、シャルティア焦ってます。
 アルベドもはよヤらな!と焦ってます。


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4:カリスマ復活ッ!

独自展開タグもつけるべき……?


 ユグドラシル終焉を告げた後。

 モモンガは代表者として100レベルNPCの大部分を伴い、全員で地上に向かった。

 他のNPCらは各自持ち場へと戻らせ、待機を命じている。

 途中、各階層のチェックも兼ねたが……幸い、ナザリック内部に異変は生じていないようだ。

 第八階層の警備を強化させ、各領域守護者にも声をかけつつ、地上を目指す。

 

 この間に、モモンガはNPCと積極的な交流をした。

 NPCらもまた、モモンガに話しかけられれば喜んだ。

 特に己の創造主の話題に、彼らは深く関心を抱くらしい。

 モモンガは彼らの確かな忠誠……そして、奇妙な気遣いを知った。

 痴態を晒した記憶がない以上、モモンガとしては、こういうものかと考えるほかない。

 ただ、彼らそれぞれの中に製作者たるギルドメンバーの魂が宿るとは……確信できた。

 それなりに打ち解け、距離感も、ある程度は掴めたと言えるだろう。

 

 アルベドはずっと腕を絡めており、シャルティアは隙あらば身をすり寄せてきたが。

 結婚相手と義理の娘なのだと思えば、愛情がわいた。

 

 特にアルベドには、心の底から愛情があふれ、触れ合わずにいられない。

 モモンガは、自ら身を寄せ、時折頬ずりするように顔を当てたり、間近でアルベドを見つめた。

 その都度、アルベドは「くふーっ!」と特徴的な笑みを浮かべたが。

 己に欲情しているのだなと思えば、奇妙な誇らしさを感じるのだった。

 そんな考えが、女淫魔(サキュバス)という種族に引っ張られた結果とは、気づけていない。

 

 一方、シャルティアは娘として、子供扱いしてしまう。

 第六階層に至っても、ずっとくっついたままの彼女に提案するように言ってみた。

 

「ふむ……そろそろアウラやマーレと代わってやってはどうだ?

 シャルティアの方が、お姉さんだろう?」

 

 ローブの裾をつまみ、立ち止まるごとに脚に身をすりつけるシャルティアの頭を撫でながら。

 他の幼い二人に気遣ってみる。

 

「え……アウラ、代わりたいでありんすか?」

 

 歪んだ笑みで、モモンガのへそを舐めほじっていたシャルティアが振り向く。

 

「い、いえっ、あたしたちは大丈夫ですよ!」

「う、うん……また、今度で…………」

 

 アウラとマーレは、慌てた様子で遠慮した。

 至高の御方には触れたいが、いろんな汁にまみれた様子を見ると、ドン退きしてしまう。

 

「アルベドとシャルティアは、あっさり受け入れてくれたが……この姿には違和感があるか?」

 

 女の体になったことで、人見知りされているかなと首をかしげるモモンガ。

 

「い、いえっ、そーゆーわけではっ!」

「あ、ありま……せん」

 

 二人としては、先刻の痴態がちらついて、顔を合わせづらいのだ。

 このあたり、他の大人の面々も同様である。

 

「どうも距離感を感じるな……アルベドが遠慮せず接してくれるのは、夫婦になったからか?

 シャルティアは、製作にも関係した直接の創造主の一人だからかな?」

 

((いやそれはない))

 

 他の全員が心の声を同じくする。

 

「下品でしたか……?」

 

「馴れ馴れしすぎたでありんしょうか?」

 

 けなげな上目遣いで尋ねる二人の髪を撫でて、モモンガが微笑んだ。

 

「いいや。己の望みをぶつけてくれた方がいい。お互い少し我儘になるべきだろう。

 きちんと本音を知らなければ、いい夫婦にも親子にもなれないからな」

 

「くふーっ♪」

 

「きひっ……母娘プレイ……禁断の関係でありんすね……♡」

 

 そんな二人のおぞましい表情に気づかず、モモンガは他の者たちを見る。

 

「だから、お前たちも家族のつもりで、私には遠慮なく接してくれ」

 

 とはいえ、あっさりと受けいられるものではない。

 

「ソノヨウナ恐レオオイコトハ……」

「至高の御方の力を疑っては、ナザリックが立ちゆきません」

「執事として、主の家族など、あまりにも過分でございます」

 

 そんな風に答える彼らに、モモンガは困ったような笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 そうして。

 第四階層、階層守護者ガルガンチュアの沈む地底湖のほとりにて。

 ふと、モモンガが立ち止まった。

 シャルティアが、すかさず脚に抱きつき、下腹部に頬ずりする。

 

「いかがなさいました、モモンガ様。ガルガンチュアに何か異常でも――」

 

 すわ異常かと、デミウルゴスが問えば。

 モモンガは、開いた手を向け、言葉を抑えた。

 

「いや。そうだったな。家族と言えば……私は謝らねばならぬ点があった」

 

 湖に背を向け、全員に向き直る。

 もっとも、シャルティアが呼吸荒く股間に頬ずりしているため、いろいろ台無しだった。

 

「我が子、パンドラズ・アクターよ。

 お前にも甘える権利はあるのだぞ?

 それとも……シャルティアのように子供ではないと思うか?」

 

 手を伸ばし、己の生み出したNPC……宝物殿の守護者たる二重の影(ドッペルゲンガー)の軍帽を撫でる。

 

「とォーンでもございません、我が創造主たるモォモンガ様ッ!

 このような緊急時、私などに気遣いいただけるなど、身に余る光栄ッ!」

 

 軍服をはためかせ、最後にカッと音を立てて軍靴を打ち揃え敬礼する。

 激しいポーズをとる我が子を、モモンガは苦笑と共に抱擁した。

 さすがのシャルティアも、空気を読んで離れる。

 

「も、モモンガ様ッ!?」

 

 突然の創造主からの抱擁に、パンドラズ・アクターが歓喜のあまり硬直する。

 他のNPCから、強い嫉妬の視線。

 特に約二名からは、憎悪で殺さんばかりの視線。

 

「正直、私はお前と顔を合わせるのがいつも恥ずかしかった。

 お前は、かつての私そのものだからな。だが、今は微笑ましく愛らしく思えるよ」

 

 今のモモンガの体は柔らかく、甘い香りを放つ。

 

「ああ……なんと、勿体なきお言葉ッ!」

 

 創造主に触れ、愛情を注がれ、歓喜に震えるパンドラズ・アクター。

 だが。

 

「ふふ、こんな風に腹を割って話せるのも、アルベドという素晴らしい伴侶を得たおかげだな」

 

「「えっ」」

 

 約二名を除く全員が硬直した。

 そんな反応も気にせず、モモンガは微笑み、アルベドに視線を向ける。

 

「まあ、モモンガ様こそ、私などには過ぎた御方です♪」

 

 悪鬼じみた顔から、一瞬で淑女の仮面をつけて。

 守護者統括は微笑み、返す。

 

「「は、はは……」」

 

 他の者たちからは、渇いた笑いしか出ない。

 

 デミウルゴスは、主が羞恥を感じずいるのは痴態を晒したせいでは……と思ったが。

 口には出さなかった。

 彼はできる悪魔なのだ。

 

 実際のところ、女淫魔(サキュバス)特有の発情や過敏がなく冷静に振舞っているのも。

 黒歴史(パンドラズ・アクター)と冷静に向かい合っているのも。

 全てはペストーニャから受けた〈正気(サニティ)〉の効果である。

 ついでに、(無自覚とはいえ)己の貞操を失ったゆえの奇妙なテンションでもあった。

 

 先刻からアルベドとシャルティアの不埒な指は、しきりにモモンガの体を愛撫していたが。

 ただじゃれつきくすぐっていると考え、余裕ある態度を保っていた。

 

 効果が切れれば、過敏な体は二人によって即座に蕩かされていただろう。

 この道程は、たいへんな綱渡りだったのだ。

 

 幸いにも……効果が切れる前に、一行は目的地に至る。

 ナザリック地下大墳墓、第一層。

 地上とつながる入り口である

 

 

 

 そして、彼らは“外”を見た。

 

「こ、これは……」

 

 どこまでも広がる草原。

 リアルとまるで違う自然の空気。

 そして何より、空にまたたく、満天の星空。

 

「「も、モモンガ様、不用意に出られては!」」」

 

 ふらふらと外に歩き出した彼女を、全員が囲む。

 主にアルベドが背後から抱きすくめ、シャルティアが脚へとしがみつく。

 

「す、すまない……しかし、ここは……いったいどこなんだ」

 

 不安げに見つめて来るモモンガに、答えられるものはいなかった。

 己のいたらなさに、それぞれが目を伏せる。

 

(やっべー、モモンガ様の体めっちゃ柔らかー、いい匂いしすぎぃ♡

 胸揉みまくってもぜんせん怒らないし、モモンガ様マジ神すぎじゃね)

 

(はぁはぁ、ローブの中に潜り込めたでありんす。

 おみ足にまだまだ汁跡がっ……な、舐めとっておきんせんとっ♡)

 

 約二名も、それどころではなかった。

 




 今回は展開消化回っぽいお話でした。
 全員でお外を見るので、世界征服フラグは起きません。
 ただし、全員全力のガチな情報収集が開始されます。

 なお、今回のお話で気づかれた方も多いかと思いますが。
 性的な意味では、アルベド、シャルティア、クレマンティーヌ、レイナースが好きです。
 性的でない意味では、パンドラズ・アクターが大好きです。

 このお話は自分得を念頭に置いてるので、精神状態がアレなモモンガさんに、パンドラズ・アクターと早々に仲良くなってもらいました。
 地上活動において、彼にはフルスペックで無双してほしいので……。
 とはいえ、この話で地上描写をどれだけやるか、謎ですが。

 次はまた元の空気に戻ります。

次回「カリスマ死す」デュエルスタンバイ!


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5:ここからが、本当の雌堕ちだ……

 開幕が酷かったので、期待と忠誠には押し潰されなかったモモンガさん。
 アットホームな環境を獲得しました。


 流されやすく、堕ちやすく、雌の匂いを立ち昇らせていようとも。

 モモンガは、ギルドマスターである。

 即座に冷静な指示を出し、周辺調査を開始する。

 

 シャルティア、デミウルゴス、マーレには召喚させ、また眷属を大量に出させた。

 一定範囲の安全を確認後には、パンドラズ・アクターに弐式炎雷の形態で送り出し。

 エントマや恐怖公ら、召喚を得意とする者らをさらに追加。

 セバスにはプレアデスと共に遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)での情報収集をさせ。

 外部情報の集積と分析は、デミウルゴスに任せて。

 アウラとコキュートスには内部の再点検を行わせる。

 外部に出る者以外には、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを惜しまず渡し、迅速な報告も可能としたのだった。

 

 その指導力と判断力、凛として迷いなく指示を下す姿は、まさしく闇の女王。

 主の偉大さに、NPCたちは忠誠を新たにせざるをえない。

 あれだけ見せられた痴態も、蓋をするように意識から追いやれた(忘れてはいない)。

 

 そして。

 

 モモンガはアルベドを伴い、ひとまず自室へと退く。

 ペストーニャに施された〈正気(サニティ)〉の効果は切れ。

 アルベドとつなぐ手は汗ばみ、全身からじっとりと発情した雌臭を発していたが。

 モモンガ当人は無論、仕事モードに入ったNPCたち(アルベド含む)も、気づいていなかった。

 

 

 

 モモンガは、鏡に映る己の顔を眺めていた。

 そう、種族を変えた自身を、モモンガは今、初めてしっかりと見たのだ。

 

(うーん、すごい美人だな。これなら、アルベドと並んでいても恥ずかしくないぞ)

 

 己自身の姿に、ほうと溜息をついた。

 発情した女淫魔(サキュバス)特有の〈魅了の吐息〉だが、当人は気づいていない。

 長く黒い髪に、金の瞳、白い肌。

 容貌はアルベドに比べて釣り目で、目元に影ができ……いかにも悪の女王といった風。

 ありていに言えば、美人だが悪人面。

 

(うん、魔王ロールをするなら、これはこれで悪くないな)

 

 何より、縦に割れた瞳孔は、アルベドと同じ。

 山羊状の角も同じくだ。

 

(ふふ、鏡をじっと見ると、アルベドと見つめ合ってるみたいだ……)

 

 鏡の中の瞳がじっと己を覗き込んでいるようで。

 欲情した表情になれば、鏡の中からも欲情の視線が向けられる。

 体の奥が、疼くように熱い。

 フードから流れ出す長い黒髪は、細く柔らかく、しっとりとした手触りで。

 触れればモモンガ自身すら、うっとりするほど甘い香りがする。

 全身から欲情した雌のオーラが立ち上る。

 

(と、いけないな)

 

 軽く首を振り、己の内に湧いた奇妙な熱を抑える。

 本物のアルベドが横にいるのに、己に見惚れている場合ではない。

 傍にいるアルベドをチラリと見る。

 彼女はどこか思案するように、モモンガに目を向けずいた。

 安堵と同時に、少し不満を感じる。

 

(……体はどうかな)

 

 顔ばかりでなく全身を見た。

 腰からは黒い翼が伸びている。

 

(うん、おそろいだな♪)

 

 アルベドと同じ翼になっていることが嬉しい。

 あちらは肌を露出させて付け根を見せていたが……魔法的な種族ゆえか。

 ローブで隔てられても、翼の機能には問題ないようだ。

 

(おお、風を起こさず空を飛べる……あれ? 飛行(フライ)が死に呪文?)

 

 少し眉を寄せつつ、さらに肢体を見る。

 黒いローブは体型に合わせて変化し、かつてほどの肩幅はない。

 だが、白く露出する肌には、かつてと違う(なま)めかしさがあった。

 体の正面を大きく開くデザインは、骸骨だった時には何とも思わなかったが。

 今では乳首と股間をかろうじて隠すように開かれ、谷間もへそも丸出しである。

 恥骨ギリギリまで下腹部が露になっているのだ。

 少し恥ずかしかったが……閉じれば、野暮ったい。

 

「それにしても、このローブがこんな恥ずかしい衣装だったとは……」

 

 くるりと回ってみて、他の露出度が皆無なだけに。

 胴の前面をほぼ露出させた姿に、赤面してしまう。

 性能を落としてでも、もう少し慎ましい装備に変えるべきかもしれない。

 

「いえ、この上なくお似合いかと」

 

 落ち着いた声でアルベドが言えば。

 モモンガの羽根が嬉しそうにぴょこんと跳ねた。

 

「そうか? アルベドがそう言うなら、このままでいるとしよう」

 

 かつてのリアルの姿と違い、今のモモンガは、アルベドに比肩する美女でもある。

 (あらわ)な肌は美しく、己自身すら魅了せんばかりだ。

 当のアルベドも、常に腰や尻を半ば露出している。

 一部を金属片で隠しただけの、モンスターとしての女夢魔(サキュバス)を思えば、気にする衣装ではない……かもしれない。

 

(そういえば、装備してた世界級(ワールド)アイテムは体内に融合してるのか?

 気配あるし、装備解除もしようと思えばできそうだが……)

 

 下腹部に奇妙な熱を感じ、触れてみる。

 体内の世界級(ワールド)アイテム――通称モモンガ玉の共鳴を感じる。

 子宮の辺りに収まっているらしい。

 人間の体ではなかった奇妙な昂ぶりと共に紋様が浮かび上がった。

 哄笑する髑髏のような……ギルメンとしての、モモンガの紋章だ。

 

(うん? 刺青(いれずみ)っぽく浮かぶのか……

 しかしこれって、ぺロロンチーノさんが言ってたアレ……そう、淫紋みたいだな。

 確か、性的な奴隷の証としてエルフや女騎士がよく付けられる一種の呪いだっけ?)

 

 浮かんだ紋章を指でなぞりながら、ぼんやりと考える。

 

(性的な……奴隷……アルベドの、だよな……)

 

 ちらりと、アルベドを見て。

 ずくんと体の奥が熱く疼くのを感じる。

 そう思って、己の体を鏡で見れば……。

 

(本当に……見れば見るほどいやらしい体だなぁ)

 

 手足はほっそりとし、ウエストも締まっているが……乳房や尻は明らかに大きい。

 太腿も、下品なくらいむっちりとしている。

 この体をアルベドの自由にされるのだと思えば、悦びで背筋が震えた。

 だが、ふと思いもする。

 

(アルベドはこんなに脚、太くないよな……)

 

 おそらく、魔法職と戦士職の差だろう。

 モモンガの肉付きは、柔らかい。特に乳房や二の腕、太腿は顕著だ。

 アルベドの乳房は筋肉に支えられ、肉の丘といった風に盛り上がっており。

 モモンガの乳房は重力のままに柔らかな曲線を描く。

 おかげで、少し歩くだけで胸が揺れる。

 ローブで乳首が擦れ、胸の先端がじんじんと痺れる。

 淫魔の種族特性〈再生能力・弱〉が働いていなければ、最初に胸部下着を求めていただろう。

 もっとも同じく〈鋭敏感覚〉のせいで、ただ歩くだけでも昂ぶる体になっていたのだが。

 

 アルベドとシャルティア以外の守護者が視線を合わせづらかったのは、先の痴態だけでなく。

 現代進行形の痴態もまた、理由だったのだ。

 

(胸が大きいのは……シャルティアも喜んでたし、いいよな?)

 

 自分の胸を軽く揉んでみる。

 

「んっ♡」

 

 驚くほど感じやすい体に、喘ぎ声が漏れてしまった。

 

「……!」

 

 慌てて、アルベドを見るが……どうやら〈伝言(メッセージ)〉が届いたらしい。

 何かぼそぼそと、やりとりをしている様子で。

 モモンガを見てはいなかった。

 なぜか、無性に不愉快になる。

 形のよい唇を尖らせたが、それすら気づいていないらしい。

 

(……見られていなくてよかった。いや、待てよ。見たくなどないのでは?

 今の私の体はいわゆる男好きのする体型だが……アルベドの――女性視点ではどうだろう?

 もっとほっそりした、胸や尻も小さめのスレンダーな体型の方がよかったのではないか?)

 

 対話が終わっても、モモンガに報告するでもなく何か考えている様子で。

 モモンガを見ていない。

 

(私の主観なら美人なのに。やはり、アルベドの好みではないのでは……)

 

 沈んだ気持ちになってしまう。

 完全に雌の発想に至っても、感情抑制のない体では己の変質に……気づけない。

 

(いや、そんなはずはない。アルベドは私の妻だぞ。

 本人は喜んでいたし、さっきからあんなにさわって来たし、

 初めてのキスだって捧げたし、すごく欲情した目で私を見てたじゃないか)

 

 さっきまでの、アルベドの顔を思い出す。

 あんな目でまた見られたかった。

 己に欲情をぶつけてほしかった。

 

(むう……どうして二人きりになった途端、落ち着いているのだ?

 私より気になることがあるのか? まさか、やたら張り合っていたシャルティアが本命……?)

 

 嫌な想像を打ち消すように、己の体を撫でまわし、手触りを楽しみ。

 時折、意図せず刺激した性感に、小さく息を吐き。

 様々な表情やポーズをしてみる。

 吹き飛んでしまいそうな、己への自信を取り戻したかった。

 アルベドが向けていた欲情が嘘でないと、信じたかった。

 

(よし)

 

 前かがみに乳房を強調するポーズをとってみたり。

 

(よし)

 

 アルベドを真似て、舌なめずりしてみたり(めっちゃ長くなってた)。

 

(よし)

 

 パンドラズ・アクターのようなちょっとオーバーアクションをしてみたり。

 

(よしよし、美人は何をしても絵になるって本当だなぁ)

 

 鏡に映る怜悧な美貌は、まるで損なわれない。

 美貌ゆえ沈んだ顔はさせたくない……表情にも自信が蘇る。

 調子に乗って淫らなポーズ、挑発的なポーズもとってみる。

 かつての己なら、間違いなく男として反応しただろう。

 

(うん、これならアルベドも、私に――え?)

 

 鏡越しに、伴侶の視線を伺う。

 アルベドは、モモンガを見ていない。

 足下が崩れていくようだ。

 信じられないほど衝撃を受けていた。

 鏡越しには、アルベドが息を荒げ、今にも襲い掛かろうとしていると。

 こうして視線を伺った途端に押し倒され、貪ってもらえるのだと。

 信じていたのに。

 裏切られたのだ。

 

 どろりとした雌の情念で、モモンガの瞳に赤い光が灯った。

 




 アルベドさんは真面目に警護してるだけなのに。
 次回アルベド視点。

 TSモモンガさんのビジュアルイメージは黒髪ロングな悪の女王系。
 セミラミス(Fateシリーズ)、ミラクル・トー(Ranceシリーズ)、羽衣狐(ぬら孫)あたり。

女淫魔(サキュバス)の種族スキル
〈再生能力・弱〉
 常時発動。トロールほどではないが、HPを常時回復。外傷バッドステータスへの抵抗力。
 性的絶倫をイメージしている。粘膜擦傷や粘膜劣化を抑える効果もある。このため、衣服で乳首が擦れたりしても一切のダメージを受けず刺激のみ受け続ける。

〈鋭敏感覚〉
 ユグドラシルでは奇襲や不可視化への対抗ボーナス。一部の盗賊職スキルへのボーナス。
 転移後は、五感全般が鋭くなり、性的感度上昇。指や舌の(一部状況での)器用度上昇。


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6:結婚したし、お仕事がんばります!

 本日はコミケ上京中のため、予約投稿になります。
 本文修正、感想への返答は10日になります。

 すいません、今回はエロ分ほとんどないです。
 主にアルベドさん視点。



 守護者統括アルベドは気を張って、モモンガの護衛を務めていた。

 モモンガはナザリックに残った最後の至高の御方。

 強く、賢く、美しく、慈悲深い……アルベドを伴侶に選んでくれた、まさに最高存在である。

 そんな至高の御方曰く、二人の婚姻のくちづけと同時に世界もろともナザリックは消滅するはずだったという。アルベドを含む全てのNPC、さらにはモモンガすらもろともに。

 

 そんな災厄が訪れず、無事に顔を合わせられたのは……喜ぶべきだろう。

 しかし、まだ完全に去ったとは言えない。

 沼地にあったはずのナザリック地下大墳墓は、見知らぬ草原となっていた。

 空は星空であり……アルベドが去る時には早朝近いのか、朝日の気配もあった。

 常に暗雲立ち込める常闇の世界だったヘルヘイムとは思えない。

 あの草原の端では世界が虚無に飲まれているかもしれないし。

 草原がひたすら続く、何もない――ナザリックしかない世界と化したのかもしれない。

 何もわからない状況なのだ。

 

(……だとしたら、私たちがモモンガ様に必要な全てを生産する必要があるわね)

 

 他のNPCがいない、モモンガと二人きりになった今。

 アルベドは真面目だった。

 真面目モードだった。

 

 創造主タブラ・スマラグディナに、ビッチたれと造られた身だが。

 完璧な美女、守護者統括の地位に相応しい存在としても、造られているのだ。

 多くの仲間がいた中なら、ビッチとして振舞って問題なかった。

 偉大なる至高の御方に伴侶として選ばれた喜びのまま、ほんの少し、ほんのちょっとだけ羽目を外して、女淫魔(サキュバス)の最上級のくちづけを味わっていただきもできた。

 あのナザリック内を見回る道中もそうだ。

 しかし、今は……。

 二人きりである。

 

(モモンガ様は、私が守護(まも)らねば……くふーっ♪)

 

 この状況に、女淫魔(サキュバス)として欲情しないわけがない。

 だが、今この時にモモンガに何かあれば……と考えれば、それどころではないのだ。

 終焉、消滅――それが至高の御方の身に起きぬと、なぜ言えるだろう。

 モモンガの死や消滅が起きれば、たとえナザリックが残ろうとも。

 アルベドは無論、他の誰もが正気ではいられまい。

 だからこそ、慈悲深き主は、己の能力検証においてもアルベドを傍に置いたに違いない。

 アルベドこそ王の守り、防御最強。

 御身に難あらば、一命に代えて……いや、全てに代えて、主を守らねば。

 

(発情してる場合じゃないわ。何があろうとも、絶対にモモンガ様を守らないと)

 

 幾重にも防御スキルを用いて。

 五感を拡大し、あらゆる奇襲に備え。

 事前使用可能なカバーリングスキルも施し。

 HPとMPを削りながら、効果時間の途切れぬように集中し続ける。

 

(そう、これからの結婚生活のためにも!)

 

 モモンガの様子を見れば、鏡に映る己の姿に夢中なようだ。

 会話と言えば、衣装に迷うモモンガへと、軽く肯定の言葉をかけた程度。

 

(そういえば御姿を変えてから、ご自身の姿すら、ろくに見ていらっしゃらなかった……)

 

 シャルティアと二人で、慌ただしくさせてしまったと反省する。

 ほんのじゃれつき()だったが、控えた方がよかったかもしれない。

 今は一人の時間として集中してもらわねばなるまい。

 自身が邪念を抱かぬよう、アルベドは御身から視線をそらした。

 

(いけない、あの御姿を見ていたら警護が(おろそ)かになってしまう)

 

 そんな時、ちょうどデミウルゴスから、伝言(メッセージ)が入る。

 

『守護者統括殿、そちらに問題はないかな?』

 

 モモンガでなく、アルベドに来たということは、彼も己と同様の心配をしていたのだろう。

 もし、モモンガに送って返答されなければ……という恐怖もあったに違いない。

 

「大丈夫。私もモモンガ様もここにいるわ。ナザリック内も今のところ問題なさそうよ」

 

 小声で答えた。

 アルベド自身の落ち着きと、異常のない状況を知ってもらうためでもある。

 

『それはよかった。相応の分別を持って仕事にあたってくれているようだね』

 

「何? シャルティアが邪推でもしてるの?」

 

『はは、そんなところさ』

 

 困ったものね、と小さく眉を寄せた。

 結婚したからこそ、今この状況でアルベドが焦る理由などないのに。

 むしろ今は、守り手として働きを見せる時だ。

 

『こちらでは夜が明けつつあり、森林と山脈を見つけた。また、宝物殿守護者殿は人間種の村を見つけたらしい。今、詳しい調査に入ってもらったところだよ』

 

「人間種……」

 

 あまり好ましくない。

 アルベド自身も含め、ナザリックには人間種に敵意を抱く者が多い。

 周囲が人間種の生息域で囲まれていたなら、対処方針を固めておくべきだろう。

 

「それで? モモンガ様から消費アイテムを無闇に使わないよう言われてたでしょう。司書長(ティトゥス)やその配下あたりを呼んで代理はさせられなかったの?」

 

『彼らを第一層に呼ぶのは周辺の安全確認後……つまり今、呼びにやっているところさ。とはいえ、モモンガ様の状況は我々全員の士気に関わるからね。御身の安全はもちろんだが……アンデッドから女淫魔(サキュバス)に変わられたのだ。感覚の違いなどから暴走なされたりは、していないかい?』

 

 キミ自身も含めてだよ、と皮肉っぽく付け加えられた。

 

「まさか、私だって半分演技なのよ? モモンガ様がそんな暴走するわけないわ。

 いくらなんでも、不敬な心配じゃないかしら。私だってこの状況で色に狂ったりしないもの」

 

 夢中でキスをしていたアルベドは、モモンガの無惨な連続絶頂を知らない。

 

『ならいいんだが。引き続き情報を集めておくよ。次はモモンガ様に直接連絡させてもらおう』

 

「ええ、情報の集積と解析は任せるわ。よろしくね」

 

 通話が終わった。

 じゃれあうならシャルティアは(ビッチ仲間として)いい相手だが。

 仕事の話となれば、デミウルゴスこそ最も信頼できる守護者だ。

 彼を指揮官に配置しただけでも、モモンガの的確で冷静な判断力は疑いない。

 

(まったく……モモンガ様が暴走なんてするわけないじゃない)

 

 己やシャルティアこそ、そうして見せて、至高の御方を楽しませる立場。

 茶化していい状況か否かの判断くらいはできる。

 今やアルベドは、ナザリックの正妃。

 至高の御方の伴侶として、今まで以上にできる女たらねばならない。

 

(くふーっ♪ 安全確保できたら、この部屋が私の部屋にもなるのね……と、いけないいけない)

 

 浮かれ気味になる気持ちを抑える。

 モモンガの自室に来てから、アルベドは直立不動の姿勢を崩していない。

 ひらすら警護に意識を割いている。

 モモンガを視界の隅で確認しつつ扉を見据え、転移等の気配はないかと気を巡らせるのだ。

 

「んんっ」

 

 と、不意に。

 モモンガから、容姿に似合わぬ、かわいい咳払いが聞こえた。

 呪いやバッドステータスでは、とアルベドがモモンガに視線を向ける。

 

「しかし、超位魔法〈星に願いを(ウイッシュ・アポン・ア・スター)〉を用いたとはいえ……。

 最後には運営の審査も適当になっていたのか? あるいは様々なチェックが緩まっていたのか?

 矛盾ある種族とクラス構成が、問題なく成り立っているようだぞ……」

 

 モモンガが、紅く光る目をアルベドに目を向け、自身の能力について話しかけて来る。

 その目が少し濁って見えるのは、自身の能力検証の結果だろうか。

 

「矛盾……ですか?」

 

 警戒態勢を解かず、真面目な表情で問い返す。

 集中を解かずでは、会話はともかく移動や姿勢変化がしづらい。

 やはり会話相手役として一般メイドか、プレアデスの一人を呼ぶべきだろうか、と内心考える。

 

「ああ。私が彼の魔法で起こした変化は種族レベル中の骸骨の魔法使い(スケルトンメイジ)死者の大魔法使い(エルダーリッチ)を、お前と同じ小悪魔(インプ)女淫魔(サキュバス)に変更するものだ」

 

「そのような種族変化を……さすがは至高の御方たるモモンガ様でございます」

 

 NPCを一瞬で玉座の前に集めた点も含め、世界の法則を大きく歪めた力に、心からの感嘆する。

 が、モモンガの機嫌はなぜか悪くなった。

 

「……ああ。だが、これは矛盾する種族やクラスを消滅させ、レベルダウンをもたらしもする。私なら少なくとも死の支配者(オーバーロード)とチョーセン・オブ・アンデッド、さらにはエクリプスも失っていた、はずなのだ。まあ、消滅の間際であり、お前を伴侶とできるなら安いものだが」

 

 どこか得意げに微笑むモモンガの言葉を。

 

「そんな、モモンガ様のレベルを私如きのためになど!」

 

 アルベドは聞き流しも、感謝も、できない。

 至高の御方にとって、経験値やレベルがどれほど大切か――どのNPCも、己の創造主から多かれ少なかれ耳にしている。アルベド自身、多くの御方の言葉を介して知っていた。

 死の支配者(オーバーロード)、チョーセン・オブ・アンデッド、エクリプス。

 合計レベルは20。

 シモベ如きのために、100レベルの御身を80レベル――アルベドより下に落とそうとしたのだ!

 不敬どころか、死んで詫びても足りるものではない。

 

「アルベド」

 

 主が声をかけても、アルベドの言葉は止まらない。

 今後、いや今まさに同じような判断をされては。

 自身が誰を何のために守っているのか、その意味は――

 

「どうか、どうかそのようなことは、今後お控えください! 経験値が必要なら我らのものを!

 第八階層守護者ヴィクティムのように死亡発動スキルとて、喜んで使って見せます!」

 

 防衛スキルの持続使用すら忘れ、必死に懇願していた。

 己を主のため犠牲にするのはいい。

 シモベの喜びだ。

 だが、主がシモベのために己を犠牲にするなど――

 

「アルベド」

 

 酷く重い声であった。

 あのくちづけの後……いや、それ以前ですら、モモンガのこんな声を、アルベドは知らない。

 吹き付けるような〈絶望のオーラV〉が、アルベドを床に押しつぶす。

 (ひざまず)き、ひれ伏すしかない。

 強力な即死効果の奔流は、即死耐性を持つ彼女にも圧倒的恐怖を感じさせた。

 

「も、モモンガ、様……」

 

 それでも食い下がろうと、見上げるアルベドの前に。

 スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン(レプリカ)の先が、激しく打ち下ろされた。

 目から深紅の光を溢れさせ、漆黒のオーラで身を包む彼女は。

 

 まさしく死の女王(オーバーロード)であり。

 まさしく闇の女神(エクリプス)だった。

 

 そして彼女は、かつてないほどの怒りに身を震わせ。

 アルベドに絶望をもたらしていた。

 




 モモンガ、キレた!

 次回、アルベドさんがメンヘラ上司の理不尽な要求に晒されます


モモンガ「アルベドのためならレベルダウンもできるよ! 褒めて! 襲って!」
アルベド「やめて!」

 なお、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン(実物)は、地上の視察前に円卓の間へと戻されてます。このモモンガさんは、原作に比べてスキルとか呪文の検証を適当にしかしてません。色ボケてるので……。

■モモンガさんの種族&クラス変更
 骸骨の魔法使い(スケルトンメイジ)  → 小悪魔(インプ)
 死者の大魔法使い(エルダーリッチ) → 女淫魔(サキュバス)
 変更はこれらのみ。
 本来はアンデッド種族を前提とする種族&クラスを喪失するはずでした。
 (超位魔法星に願いを(ウイッシュ・アポン・ア・スター)の限界として)
 喪失してないのは、最終ギリギリ時のご都合ないし、運営隠しサービスのせいです。
 アンデッド分入ってるので、肌が異様に白かったり、眼が紅く光ったりします。
 深海棲艦っぽいビジュアルな気もしてきました。


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7:結婚したのに、抱いてくれないんです

 本日はコミケ上京中のため、予約投稿になります。
 本文修正、感想への返答は10日に行います。
 あと、10日(明日)は投稿お休みです。

 モモンガさんの、封印されしヤンデレ力が解放される……!



「見ろ、アルベド。私は未だ死の支配者(オーバーロード)であり、チョーセン・オブ・アンデッドであり、エクリプスでもある。何も失ってはいないだろう?」

 

 やさしい声色だが、その目は赤く光り輝き、怒りの炎を噴き上げていた。

 漆黒の〈絶望のオーラV〉に入り混じるように、赤紫の〈欲望のオーラ〉も溢れている。

 後者は女淫魔(サキュバス)のスキルだ。

 

「モモンガ様! い、如何様な罰も甘受いたします! どうかお許しを!」

 

 NPCとして生み出されたアルベドには、主の怒りが恐ろしくてたまらない。

 至高の御方に失望され、捨てられる以上の恐怖などないのだ。

 好色に主を貪り、触れていたのも、不安の裏返しにすぎない。

 何が怒りを招いたかもわからないまま、ただ震え怯え、ひれ伏す。

 

「……〈絶望のオーラ〉は出ているが。

 死者の大魔法使い(エルダーリッチ)のスキル〈負の接触(ネガティブ・タッチ)〉は発動していないだろう?」

 

 許しの言葉はなく。

 ただ、やさしく頭を撫でられる。

 防御力に秀でたアルベドが、モモンガの手でどうなるはずもないが。

 〈絶望のオーラ〉が、頭を握りつぶされそうな――絶対的な死の予感を与えて来る。

 

「あ、あ……シモベの身で口答えなどして、申し訳ありません……っ」

 

 100レベル護衛役として造られた彼女の体が、ガタガタと震えた。

 守護者統括という立場にありながら、呼吸の乱れが治まらない。

 生物を死滅させる〈絶望のオーラV〉は、即死耐性を持たされていても……恐ろしい。

 

「いいや。お前が己の意見を言ってくれたこと、私はとても嬉しく思っているとも。

 怒りなどしないし……罰など与えん。ただ、お前の口から、正しい謝罪を聞きたい」

 

 何が、何が怒らせたのか。

 アルベドにはまるでわからないのに。

 問い返せば、さらなる怒りを招くのではと。思いつくまま、理由を探す。

 

「もしや、しゅ、種族変化は意に添わぬものでしたか?

 私のために斯様な身となられたこと、悔やまれておられたのでしょうか?」

 

 顔を上げ、表情を伺いたくても……頭を上げさせてもらえない。

 モモンガの手は、アルベドの頭を押さえつけたまま離さない。

 

「呪文構成は一部の下位死霊術が消えた程度。

 各種耐性を失ったが、飲食と睡眠が自在ならば悪くない。食事も楽しみだな、アルベド」

 

 緩やかな否定、やわらかい言葉。

 けれど、アルベドの髪を角を撫でる指は、恐ろしい威圧感を込めたままだ。

 変化を咎めたように聞こえたのが問題であったろうか。

 いや、そもそも、終焉の戯れとしての婚姻自体が……。

 

「あ、ああ……私如きとの婚姻を後悔なされておいででしたら、いつでも縁を切ってください!

 この姿を見るすら不快でしたら、どうかこの命を摘み取ってくださいませ!」

 

 伴侶に選ばれ嬉しくて。

 天にも昇る気持ちでくちづけ、甘えていたのに。

 涙をこぼしながら、叫ぶように訴える。

 

「…………」

 

 失望のため息が聞こえ、手が離れた。

 

「え……?」

 

 この慈悲深い方を、失望させてしまった。

 殺されすらせず、捨てられる――絶望のまま、せめて最後に御方の顔をと見上げれば。

 冷え切った目が、紅い光を宿して、見降ろしていた。

 欲望に取りつかれた時のアルベド自身にそっくりな……おぞましい視線。

 

「アルベド。お前は私の、いったい何だ」

 

 紡がれる言葉も恐ろしく冷酷で、まさに悪魔の愉悦に縁どられている。

 

「わ、私はモモンガ様の、忠実なシモベで――」

 

 恐怖に震え、床に額を擦りつけて。

 渇く口の中から、必死で言葉を紡ぐ。

 

「違う!」

 

 モモンガが、杖を床に打ち付け、激しい音を立て、遮った。

 どうしてそんなことを言うのか、と。

 

「ひっ」

 

 アルベドが小娘のように怯える。

 

「お前は私の妻だ。伴侶だろうが!」

 

 モモンガは、アルベドに愛されたい、欲情されたいのだ。

 これ以上アルベドに触れずいるなど、耐えられなくて。

 アルベドの横へと周り、その手を掴んで、立ち上がらせる。

 入り混じる黒と紫のオーラの中に飲み込まれる。

 絶望と欲望が、交互にアルベドの魂を(さいな)み、侵す。

 

「は、は、はい……っ! そうです! 伴侶です!」

 

 身悶えしながら、悲鳴のような声で答えるしか、できない。

 

「婚姻した夫婦が、二人きりになって、なぜ会話をしない? 私を見もしない?

 私の求めることは、そんなに贅沢か? 私はお前にとって我儘な伴侶なのか?」

 

 ねめつける目には涙が溜まっている。

 だが、アルベドは悲哀より同情より、恐怖を感じた。

 

(逆らえないNPCまで、私を捨てるつもりなのか?)

 

 モモンガは心の中で、そう叫んでいた。

 身勝手な欲望で、アルベドを睨み(あぶ)っていた。

 その目は、偏執的な愛情と欲望に満ちている。

 

「い、いえっ! ごく当たり前のお望みかと!」

 

 シモベに、他にどう答えられるだろう。

 

「なら、私から離れるな」

(私を一人にするな)

 

 モモンガとアルベドは、吐息の絡む距離にいる。

 ふくよかな乳房の先端が、互いにつと触れた。

 

「は、はいっ!」

 

 互いの肢体が、そっと触れ合う。

 答えは震え怯えていたが。

 それでも、モモンガが待ち望んだ回答だったのか。

 安堵したようにモモンガが大きく息を吐き出し――〈絶望のオーラV〉が霧散した。

 ただ薄紫の〈欲望のオーラ〉のみが二人を包む。

 

「……離れるなよ、アルベド。お前は私を捨てたりしないのだろう?」

 

 潤んだ目で、見つめ。

 腕を絡め、抱き寄せながら、懇願するように言う。

 モモンガは、女淫魔(サキュバス)の情欲に完全に取りつかれていた。

 

「もちろんです……モモンガ様。モモンガ様が捨てない限り、私は必ず傍にいます」

 

 酷く危うい主に、内心の怯えを隠しつつ。

 アルベドは、真剣な顔で答えた。

 そう答えなければ、主の魂が壊れてしまいそうに見えたのだ。

 

「……それが本当なら、もっと傍によれ」

 

「は、はい」

 

 決して、逆らわない。

 全身がぴったりと触れ合い、互いの脚が交差し、乳房が押しつぶされ合う。

 モモンガの体がひどく熱い。

 心臓が、激しく脈打っている。

 アルベドも女淫魔(サキュバス)である。

 己への欲情を感じて、何も感じないわけではない。

 動悸は伝染し、脈打つ鼓動が共鳴し合うように高まる。

 

「まだ、もっと近くに寄れ」

 

 もう密着している。

 

「は……はい」

 

 だがそれでも、逆らいはできない。

 ただ、言われたように、ぐいぐいと身を押し付けるようにする。

 

「んっ……♡」

 

 100レベル戦士職のアルベドに押されて、魔法職のモモンガが耐えられるはずはない。

 あっさりと、モモンガの体が背後に仰向けに倒れる。

 

「あ、モモンガ様っ」

 

 抱き寄せようと伸ばした手を掴まれ、引っ張られ……。

 

「何をしている。離れるなと言ったぞ」

 

 仰向けに、ベッドに倒れ込んだモモンガの上に。

 アルベドは覆いかぶさる体勢になっていた。

 

「は、い……」

 

 ふかふかの布団とベッドは、二人の体を包み込むように受け止めている。

 

「……すまない。ここから先は、よく知らないのだ。アンデッドだった、からな。

 アルベドよ。お前に任せて……いいか? 私よりは、詳しい……だろう?」

 

 はぁはぁと、甘く熱い息を吐きながら。

 その白く官能的な肢体は、小さく震えて。

 濡れた目でアルベドを不安げに見上げていた。

 

「承知いたしました、モモンガ様。私も実践は初めてですが……努力させていただきます」

 

 先の恐怖がなければ飛びついていただろうが。

 今は緊急時でもある。

 アルベドは慎重に言葉を選び、モモンガに奉仕すべくドレスを脱いだ。

 

「……夫婦だろう。これからはただ……その、モモンガと呼べ。アルベド」

 

 脱がせろと、視線で訴えながら。

 シモベたるNPCにとってさらに無茶な要求をする。

 

「わ、わかりました……モモンガさ――ん」

 

「……まあ、いいだろう。呼び捨てるよう努力をしろよ」

 

 不満そうに唇を尖らせる。

 

「……ん」

 

 ごまかすように、互いを裸にしていきながら。

 アルベドは、モモンガの唇を封じた。

 

「んんんっ♡ んぢゅっ♡ んぶっ♡ ふーっ♡ ふーっ♡」

 

 再び、玉座の間でと同じ行為。

 口の中を犯され、体中を指でいじめられ。

 感じやすいモモンガの体は、呆れるほどに絶頂を繰り返す。

 

 ただ。

 

 今回は、キスだけでは終わらなかったけれど。

 




 めんどくさくなって、キスで黙らせるアルベドさん! 
 さんざんパワハラしておいて、決して攻めには回らないモモンガさん!

 タイトルが置いてけぼりになってきた件。

2019年8月12日
 R-18版のその後を投稿しました。R-18で検索ください。

女淫魔(サキュバス)のスキル

〈欲望のオーラ〉
 ユグドラシルでは接触対象の精神耐性にデバフ。
 転移後は精神耐性のない相手を自身に欲情させる(理性で抑えられる程度に)。
 この欲情効果は、接触ならほぼ貫通。精神抵抗弱ければ、姿を見ただけでも効果あり。
 アニメ3期のアルベドさんがOPで出してたやつ……という扱い。


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8:キング・クリムゾンッ!

昨日はさすがに疲労のため一日休ませていただきました。
最中はスキップしてます。

2019年8月12日
 R-18版の初夜エピを投稿しました。R-18で検索ください。



 そして三日三晩が過ぎた。

 

 当然ながら、地上調査についてモモンガへの〈伝言(メッセージ)〉も送られたが。

 艶めいた息遣いと喘ぎ混じりに「情報収集を優先し、各自の判断で」との指示が与えられ。

 デミウルゴスらも主の邪魔はできず、ろくな報告もできぬまま情報のみ集積されていた。

 シャルティアは大いに悔しがり、プレアデス含むメイドらに覗きたがる者も多かったが。

 至高の御方の楽しみを妨げてはならぬと、私室に近づく者はいなかった。

 

 だが、状況に大きな変化が起きれば、さすがに報告せざるをえない。

 守護者らの間で意見が割れては、なおさらだ。

 守護者は非干渉と積極的干渉に分かれ。

 さらに、一部は異なる積極的干渉を望んだ。

 かくして、判断を仰ぐべく誰も来なかった雌臭あふれる部屋に、来訪者が訪れる。

 厳罰を覚悟し、ノックの音と共に訪れたるは三人。

 

「――という次第です。指揮官としての己の力不足から、御身を煩わせ申し訳ありません」

 

 デミウルゴスが事情説明をし、頭を下げる。

 要はナザリック最寄りの村へと騎士の一団による襲撃が行われんとのこと。

 その騎士らは既にいくつかの村を襲撃し略奪や火付などを行っていたこと。

 騎士らを追うように、粗末な装備をした戦士の一団が接近しつつあること。

 また、この戦士らを殲滅すべく潜伏する魔法詠唱者(マジックキャスター)中心の集団があること。

 

「いや。よい。お前たちの全てを許そう」

 

 三日三晩、アルベドに溺れきっていただけに、罪悪感でいっぱいだった。

 その間、彼らはモモンガの指示通り、ほぼ不眠不休で働いていたらしいのだ。

 しかも、報告の冒頭は蕩けきったまま聞いていた。

 

「「寛大なお言葉、我ら一同感謝の言葉もございません!」」

 

 そんな風に言われては、モモンガとしてはなお、申し訳ない。

 

「……ん。お前とシャルティア、セバスが、この件について意見を分けているのか?」

 

 妙な組み合わせだな、と頭をかしげつつモモンガは話を聞く。

 シーツで裸体を隠してはいるが、背後からはアルベドに抱きかかえられたままだ。

 モモンガとしてはこの間にも愛撫してほしいのだが、アルベドは黙っている。

 まあ、真面目に聞くべき時に違いない。

 

「現状、たいした戦闘力の存在は見当たらず、特殊な魔法や能力も見当たらない……のだな?」

 

 色ボケた頭でぼんやりと聞いた情報だけに、実感はない。

 

「は。私としてはこの機会に、人間のサンプルを確保し、直接情報を吸い上げたく。複数勢力が一堂に会するこの機会こそ、様々な人間から情報確保する好機と考えます」

 

「いえ、ここは最寄りの村に恩を売り、人類との交流拠点とすべきかと」

 

 デミウルゴスの発言にかぶせ、セバスが即座に否定する。

 どうにも二人は、互いに苛立ちを見せている様子だ。

 

「ふむ…………シャルティアはどうなのだ?」

 

 シャルティアは跪きつつも、モモンガを舐めまわすように見つめたまま発言しない。

 

「シャルティア?」

 

「ひゃ、ひゃいでありんす!」

 

 息を荒くしつつあった彼女が、飛び上がるように返事する。

 三日間の情事の痕にまみれたモモンガを観察するに忙しく、ろくに聞いていなかったのだ。

 

「シャルティアはどう思っている?」

 

「に、人間同士の争いに、我ら栄光あるナザリックが関与する必要などないでありんす!」

 

 慌てつつも、はっきりと断言した。

 

「なるほど。シャルティアの考えが多勢を占めているということか?

 確かにギルド、アインズ・ウール・ゴウンとして正しい考えと言えるだろうな」

 

 モモンガは微笑み、三人を眺める。

 ウルベルト、たっち・みー、ぺロロンチーノ。

 やり取りも反応も、彼らの造物主たる三人そのものだ。

 もはやメンバーのいないギルドでも、この忘れ形見たちとなら、似た日々を送れるかもしれない。

 そう思い、満足げに頷いて……シャルティアを手招きする。

 顔を輝かせた真祖吸血鬼が、モモンガの裸体を隠すシーツの中へ飛び込み潜る。

 アルベドは苦笑するのみで止めたりはしない。

 

「っん♡ 人間の都市は見つかったと言っていたな。

 現状で、人間以外の種族による……だ、大規模集落は見つかっているの、か?」

 

 シーツの中であやしい音が響き始めると同時に、モモンガの声に艶が混じる。

 はみ出したシャルティアのスカートの尻が、卑猥に振られているのを見て。

 デミウルゴスとセバスは眉を寄せるが、主にそのような顔は決して見せない。

 

「は。既に都市へと、恐怖公の眷属を多数潜り込ませております。地図や街の情報も集め、分析しておりますが……亜人については、森林内で小規模集落が分散している程度にございます」

 

 デミウルゴスが淀みなく答えた。

 

「よし……全員聞け」

 

 モモンガから黒い〈絶望のオーラ〉が溢れだした。

 

「「ははっ!」」

 

 背もたれに専念していたアルベドも居住まいを正し。

 シャルティアもひとまず、侵入させつつあった舌を口に戻す。

 デミウルゴスとセバスは、頭を床に擦り付けんばかりとなった。

 

「我が方針として、この世界の覇権に関心はない。

 私にはナザリックさえ……お前たちさえあればそれでよい」

 

((な、なんとありがたく慈悲深きお言葉……))

 

 全員が滂沱(ぼうだ)の涙を流さんばかり。

 

「とはいえ、我らは引きこもってもいられまい。ナザリックには維持費がかかる。宝物殿の財産を切り崩せば数百年は維持できるだろうが……数百年後の破滅を、座して待つつもりはない」

 

「無論でございます。それゆえ――」

 

 ギラリと、宝石の眼を輝かせるデミウルゴスに、モモンガは手を開き留める。

 

「まあ、待て。お前たち一方の意見を取り入れるというものではない。

 実戦の実験と、どのように目に映るかという調査は必要だ」

 

「では――」

 

 セバスの眼が光る。

 

「ああ。お前と……そうだな、あと一人か二人、100レベルでない者を連れて行け。

 人員の選択は、セバスが行ってよい。その村を救ってみろ」

 

「ははっ! ありがとうございます!」

 

 恐縮しきりに頭を下げる、セバス。

 

「かまわん。それがお前の中に宿る、たっち・みーさんの意志なのだろう。行け」

 

 元より、時間はない。

 セバスは急ぎ、指輪でナザリック地上部へと転移していった。

 そして、モモンガは残ったデミウルゴスに言う。

 

「デミウルゴス。残ったメンバーから隠密系の人員を選び、村人以外から適当にサンプルを取れ。村人よりは戦士や騎士、魔法詠唱者の方が情報を持つはずだ。また、セバスが苦戦したり敗北しそうな相手が出たなら、支援せよ。勝利より生存を第一にな」

 

「承知いたしました」

 

 満足げに礼をする。

 もともと、モモンガはギルド内の折衝役だ。

 こうした時に折り合いをつける方が、独裁者になるより馴れている。

 

「状況を見て、生かして返した方が得に思えれば、無理に確保せずともかまわん。その場合は、こちらについて気取られぬよう注意せよ。お前もウルベルトさんの意志を継承するのだ――行け」

 

 デミウルゴスもまた、転移により姿を消す。

 

「ふむ……こんなところか。シャルティアよ」

 

「はっ」

 

 己にも何か指令が……と緊張し、ベッドの上、モモンガの股間の前に跪く。

 

「私とアルベドはこれより身を清めるため風呂に入ろうと思う。お前も入るか?」

 

「ひゃいるでありんちゅ!」

 

 噛むどころか、赤ちゃん言葉になる勢いで即答した。

 

「ああ、そういえば……〈伝言(メッセージ)〉。アウラか? プレアデスの一人に遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を私の部屋にある浴室へと持って来させよ。至急だ。指輪を使わせてよい」

 

「あの、それでしたらソリュシャンがよろしいかと」

 

 ほとんど黙っていたアルベドが、横から囁いた。

 

「ほう。アウラよ、すまぬがソリュシャンで頼む。あと、安全とわかった土地ならばお前とマーレも、そろそろ調査に出てよいぞ」

 

 通話を切るとアルベドの手を取り、モモンガが立ち上がった。

 実に三日ぶりの、ベッド離れである。

 アルベドがその肩を支えるようにし、シャルティアも慌てて追って、主の脚を支える。

 

「ふう……浴室で外の様子を眺めるとしよう。状況によっては指示も出さねばなるまい。アルベド、私の差配に問題はなかったか?」

 

 真面目な顔を最後に弱らせ、甘えるように首をかしげて問うモモンガ。

 

「見事な指示であられたかと」

 

 冷静に、答えるアルベドだが。

 

(ギャップ萌えええええええええええええええええ!!!!)

 

 彼女の中にもやはり、創造主タブラ・スマラグディナの魂の断片が残っていたのだった。

 

(ぐへへぇ、モモンガ様とお風呂ぉ、どのくらい奥まで洗ってもいいでありんしょうかぁ♡)

 

 もちろん、シャルティアも平常運転であった。

 ただ。

 

(これで、私以外の者にも関心を向けてくださればいいのだけれど)

 

 アルベドはぴったりとモモンガに身を寄せつつ。

 内心で呟いていた。

 色に溺れる自体はかまわない。

 だが、このままでは……モモンガがアルベドの傀儡になってしまいかねない。

 アルベドはそんな主の姿を見たくなかった。

 何より、ビッチとして多数の相手と楽しむ悦びを知ってもらいたかったのだ。

 シャルティアに譲りつつ……ソリュシャンにも少し激しめに奉仕させよう。

 ルプスレギナも使えるだろうし、場合によっては外の“人間”を利用すべきかもしれない。

 

(モモンガ様が私一人に囚われるなんて、よくないわ)

 

 そっと首筋に唇だけ触れるキスをし、甘いキスの返答を受けながら。

 浴室に向かいつつ、思案していくのだった。

 

 すでにシャルティアは、脱ぎながらモモンガの下半身を舐めまわし始めている。

 




 女体の冒険(主にされる側)が忙しくて、モモンガさんはまだまだ外の冒険に出ません。
 アルベドさんはビッチ理論に則って、モモンガさんを正しく導く義務感に駆られています。
 お風呂観戦エピソードは、全年齢版とR-18版に分かれます。
 要望多かったらモモンガさんの初夜(72時間)もR-18で改めて書かせていただきます。


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9:あくまで洗浄でございます

 正直に言うと、ここまで続けるつもりはなかったのですが。
 続いてしまったので、今回から本作に「残酷な描写」タグが付きます。

 R-18パートとして7.5話も投稿してます。
 モモンガさんの初夜詳細。
 オマケ的な初夜ビフォーアフターなデータも別途投稿してます。


 アルベドに手を引かれ、シャルティアに絡みつかれながら、浴室に向かうモモンガ。

 私室据え付けの風呂だけに、移動も何もない。

 鼻息荒いシャルティアはゴシックドレスを驚くべきスピードで脱ぎ捨て。

 モモンガとアルベドに至っては、初めから全裸である。

 

 洗い場ではシャルティアに身を清める手伝いをしたいと言われ、微笑ましく思ったのだが。

 投擲系の戦闘もこなすシャルティアの器用度は、アルベド以上であった。

 止める間もなく、指で舌で狂わされ。

 念入りに奥まで舐め清められた。

 短時間で何度も達していると……真打の如くソリュシャンが訪れる。

 

 そして今や、モモンガは粘体メイドの中へと飲み込まれていた。

 アルベドが目配せすれば、ソリュシャンは薄く笑ってモモンガに侍る。

 嗜虐的かつ淫奔な性質を持つ彼女は、アルベドともシャルティアとも波長が合うのだ。

 

「いかがで、ございましょう♡ モモンガ様……酸などは出さず、洗浄用に、成分操作しておりますが……っ♡」

 

 モモンガの全身を飲み込み、顔のみ乳房の谷間から出させ。

 昏い目を蕩けさせて、ソリュシャンが問う。

 不定形の粘液(ショゴス)にして始まりの混沌(ウボ=サスラ)たる彼女の肢体は、モモンガを飲み込んでも体積が変わらない。その美しい肢体のままに、主を念入りに、愛を込めて清めていく。

 プレアデスとしてメイドとして、最初に至高の御方の側仕えし侍る名誉。

 一人の女性として魅力を感じてもらえる栄誉に、ソリュシャンは酔っていた。

 何より、ソリュシャンは粘体全体でモモンガを“感じられる”のだ。

 感覚操作次第では、己の中を文字通りモモンガに“かき混ぜて”もらう感覚すら味わえる……無論、そんなことをすれば主への丹念な奉仕はできない。理性で留めてはいるが。ソリュシャンは絶えず、主に“かき混ぜていただく”誘惑と戦いつつ、蕩けた顔で奉仕していた。

 

「そ、ソリュシャンっ、あっ、そ、そこは、もう、シャルティアがっ♡」

 

 モモンガとて、全身をねっとりとした粘液に全身を包まれ、這いまわられるのだ。

 開発され尽くしたモモンガには、愛撫としか思えない。

 

「はっ♡ はぁぁ……はい♡ メイドとして、念入りに清めさせていただきますっ♡」

 

 ソリュシャンの口調も熱を帯び、呼吸も乱れ。

 傍目にも、粘体の中で淫らに絡み合っていると見てとれる。

 

「っ、あっ♡ またっ、アルベドっ、み、見なひぎゅっ♡」

 

 過敏な場所も、念入りに這い込まれ磨かれて。

 びくっびくっと、メイドの中で痙攣する。

 シャルティアの時から、他の女の手で絶頂する己をアルベドに見せまいとするモモンガだが。

 そんな羞恥こそ、彼女らを昂ぶらせ悦ばせる。

 今も絶頂顔は、愛する妻、娘同然の存在、名もろくに覚えていなかったメイドに見られ……羞恥快楽を開発されているのだった。

 

 そんな間も傍に浮かぶ遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)は、ナザリック近郊にあるという村を映し。

 すでに現れた騎士たちによって、村への襲撃が開始されていた。

 

 

 

 最初に気づいたのは、奉仕の機会を奪われ、退屈そうに鏡を見ていたシャルティアだった。

 

「おお、人間どもの殺し合いが始まった様子でありんす」

「殺し合いというには、一方的じゃないかしら……」

 

 騎士たちが村になだれ込み。

 村人たちが逃げ惑っている。

 抵抗しようとする者はほとんどいない。

 

「はぁっ♡ はぁっ♡ にゃ、なに……?」

 

 まだ呼吸も整わないモモンガが、ソリュシャンの乳房の間から鏡に目を向ける。

 

「セバスはまだの様子。〈転移門(ゲート)〉を開いてやるべきでありんしたか?」

「ん……デミウルゴス様が、何か話かけておられましたが……」

「おそらくは敢えて一定の犠牲を出させ、交渉で有利に立たせるつもりかと」

 

 三者三様の意見、報告が為される。

 

「はふ……♡ ソリュシャン、少し、洗浄を止めろ。少し集中して、見るぞ。確かにセバスでは、犠牲が出るより先に解決してしまいそうだが……」

 

 小さく身じろぎするだけで甘い声を漏らしながら。

 モモンガが明確な命令を下した。

 命令とあらば、全員が居住まいを正し、忠実な部下として侍る。

 

「あは……承知いたしました。ですが、お望みとあらばいつでもマッサージと洗浄を行ないますので。どうか遠慮なくおっしゃってくださいませ」

 

 出せとは言われなかったのだから……取り込んだモモンガを、解放したりはしない。

 歪んだ笑みのままに、ソリュシャンが胸元から顔を出したモモンガへの刺激を止め。

 過敏な部分を止めて、肌をゆっくりと舐める如く流れ撫でるに留める。

 

「ん……刺激は抑えておいてくれ」

 

 モモンガも、小さく震える声のまま、止めはしない。

 シャルティアが抗議しようとしたが……アルベドが止める。

 正妃たるアルベドも認めているのだ。

 ソリュシャンとて、この栄誉と悦びを容易に手放す気などない。

 少しでも長く、己の中にいていただくべく、ソリュシャンは全力で快適な環境を与えた。

 

 

 

 洗い場で眺めていては湯冷めすると、四人が浴槽に入る。

 

「はぁ……なるほど。ソリュシャンの粘体ごしに湯を感じるのは、いいな。先刻からお前の中で随分と動いてしまっているが……大丈夫なのか?」

 

 胸元からちらりと、ソリュシャンの顔を伺うモモンガ。

 モモンガとしては立ち泳ぎに似た体勢。

 ずいぶんとソリュシャンの中をかき混ぜ続けているのだ。

 

「モモンガ様を中に迎えるは、この上なき光栄。どうか存分に味わってください……」

 

 言いつつ、モモンガが状況を見やすいよう、鏡を操作して戦闘状況を映す。

 

「そうか、ありがとう」

 

 モモンガとしても心地よい状態を、無理に破るつもりはない。

 ソリュシャンの中にいれば、アルベドやシャルティアの悪戯にも晒されないのだ。

 じっと、真面目な顔で鏡を眺めるモモンガ(ただし顔はソリュシャンの谷間にある)。

 

「……私は魔法専門職ゆえ聞きたいのだが。お前たちはこの騎士や村人の力量をどう見る?」

 

 まるで強そうに見えない。

 スキルは使っておらず、後衛を伴ってもいない。

 魔法専門職のモモンガから見ても、攻撃は遅く、たいした威力とは見えないのだ。

 しかし、村人はそんな攻撃で簡単に死んでいる。

 騎士の装備もまるで初期状態。鑑定をせずの判断は早計だが……全員が偽装した装備で振舞うような特殊部隊がありえるだろうかと、モモンガは首をかしげた。

 

「論外でありんす」

「よほど高度な隠蔽でもなければ、取るに足らない連中かと」

「はい。100レベルの御三方に遥かに劣る私から見ても、容易に始末できるかと」

 

 三人の評価も完全なザコとのことだった。

 

「ソリュシャン。お前のレベルを教えてくれ」

 

 一応聞いておく。

 

「は。57レベルでございます、モモンガ様」

 

「ふむ……騎士は最大30レベルと見ておくか。村人は騎士の半分程度か?」

 

 鏡の中、逃げ惑う村人たちが騎士たちに切りつけられ、血を噴き出して死んでいく。

 家族を逃がすべく騎士にしがみつき、時間を稼ごうとする男がいた。

 しかし、彼は敢え無く殺され、こちらに向かって口を動かし、必死に何か言っている。

 

「なかなかの絶望顔でありんすね」

「ええ。入浴中の娯楽としてはなかなかだわ」

「私も、じっくり溶かしてあんな顔に……ふふ」

 

 三人とも、物騒な感想を抱いている。

 

(カルマ値のせいかな? 私もその影響を受けているのか? 人間だった頃なら、卒倒しかねない光景だと思うんだが……といって、特に面白くも感じないな。弱者を虐げる様子は好きじゃない。アルベドたちが喜んでいるのは、嬉しいんだが……)

 

 モモンガは真面目に考えこみ、己と状況を分析する。

 騎士たちが、いかにもモブっぽい村人を殺戮する様には不快感がある。

 だが、それは断じて正義感などと呼べる感情ではない。

 

 妹だろうか、幼い子を連れた娘が森へ逃げる様子が映る。

 いたぶるように追いかける騎士たちが映る。

 

 かつて低レベル時に、PKされた己の姿。

 社会構造の中で搾取され続けるリアル。

 時の流れに取り残されるギルドの状況。

 か弱い姉妹が殺されんとする状況に、かつてのモモンガ自身が重なった。

 

「…………不快だな」

 

 ぽつりと重く呟く。

 鏡の中、娘は必死に抗い、幼い子を逃そうとしている。

 庇うように背中を切り裂かれ……倒れる。

 

 過労で命を落とした、リアルの――鈴木悟の母のように。

 

「やはり、モモンガ様ももったいのう思いんすか? 妹はちと幼すぎんすが、姉の方は磨けば光るでありんしょうに――ひっ!?」

 

 軽口で答えようとしたシャルティアの貌が恐怖に固まる。

 

「…………」

 

 押し黙ったモモンガの目が紅く光り、内から昏いオーラが溢れだしていた。

 

「も、モモン、がさ……ま……っ……お、ぼ……」

 

 ソリュシャンは形を保てず、浴槽内にどろりと溶け崩れ広がる。

 白い裸体のモモンガが、浴槽に足のみ浸けて立っていた。

 

 そんなモモンガの手を、アルベドはそっと握る。

 

「すまぬ。アルベド――それに、シャルティア、ソリュシャンも」

 

 さっきまでよがり狂っていたとは思えぬ声に。

 シャルティアは湯に顔をつけてもひれ伏し。

 ソリュシャンもまた、必死に人型に戻りつつ頭を下げた。

 

 鏡の中、騎士がもう一度剣を振り上げ。

 娘にとどめを刺そうとする。

 そして――騎士の頭が、兜もろとも()ぜた。

 

「モモンガ様、セバスが村にたどりついたようです」

 

 アルベドが宣言すると共に。

 モモンガは無言のまま、伴侶の手を少し強く握った。

 




 どこに地雷があるかわからない、危険な上司モモンガ!

 ソリュシャン参戦。
 アルベドさんは個人依存にならないよう、複数相手と関係結ばせに来てます。
 ただし、モモンガさんはメイド相手でも受け身プレイしかしません。


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10:エロの霊圧が……消えた……?

 お風呂で四人がアレコレするR18とどっち投稿するか迷いましたが。
 前回が半端なところで途切れえているので、今日はこちら。
 とりあえずニグンさんの処理が終わるまで、本編進めるつもりです。


 残る騎士の頭も一瞬で爆ぜ、あっさりと死亡する。

 実は人間に擬態した別種族やアンデッド……でもない。

 

「どうやら、ユリとルプスレギナを連れて行ったようですね」

 

 瞬時に騎士を始末したセバスは、姉妹らしき娘らに話しかけている。

 その背後から、プレアデスの二人が姿を見せていた。

 

「ルプスレギナは回復役だったな?」

「そ、その……とおり、です」

 

 ようやく形を取り戻しつつあるソリュシャンが頷き、同僚の信仰系魔法詠唱者としての能力を説明する。

 シャルティアはこんな時でも、立ったモモンガを下から覗くのに忙しい。

 

「音声が聞こえないのは不便だな……〈伝言(メッセージ)〉ルプスレギナよ。聞こえたなら、小声で返答せよ」

『ふゃっ!? は、はい、モモンガ様っ』

 

 すぐに慌てたルプスレギナの声が聞こえる。

 

「セバスとユリに〈気功〉等のスキルは使わせるな。危機を感じなければ、基本能力で戦わせよ。ナザリック外にスキルが使えると教えるのも禁止だ」

『はっ、了解いたしました』

 

 鏡の中では、セバスとユリが動きを止めている。

 小声ゆえ、村娘らには聞こえまいが……二人には聞こえているのだろう。

 至高の御方による、ルプスレギナへの通達を待っているようだ。

 

「それとお前の使用してよい魔法は第三位階までとし、許可があるまで使うな。これらはそこの娘らにも、教えてはならんぞ」

『第3……わかりました!』

「では、その娘はお前が回復してやれ。ひとまず切るぞ」

 

 鏡の中で、ルプスレギナが第2位階魔法〈中傷治癒(ミドルキュアウーンズ)〉で娘を回復させている。

 モモンガは深く頷くとユリにも連絡し、己の名を出すことを許可した。

 執事とメイドが現れたなら、主の存在を匂わさねば不自然だろう。

 さらに騎士は逃げる者以外、殺してしまうよう命じる。

 被害を抑えようとしてだろう……二人は既に村へと駆け始めていた。

 

「次は……〈伝言(メッセージ)〉デミウルゴスよ。村の監視とサンプル獲得には誰を向かわせた?」

 

『ハッ、これはモモンガ様。パンドラズ・アクターが多数の影の悪魔(シャドウ・デーモン)を率いて村を包囲。また、例の魔法詠唱者らの退路を阻むよう、森にアウラとマーレ、隠密に長けた魔獣らを配置しております』

 

 満足げに頷くモモンガ。

 鏡の中では何の問題もなく騎士たちがセバスに一撃で殺されている。

 指揮官が我先に逃げ出し、さらに他の騎士が続く。

 士気もさほど高くはないようだ。

 ユリは指示通り、村の救助に動いている。

 

「さすがだな、デミウルゴス。慢心なき配置だ。ここからは状況により、私自身が現場の者たちに連絡をつなぐ。お前の意図と食い違う場合、スクロールを使って私かアルベドに連絡をとれ」

 

『過分なお褒めの言葉、恐悦至極に存じます。邪魔せぬよう最大限の調整をいたしますゆえ、どうか御身の意のままに振舞いください』

 

 大げさな言葉に、モモンガが苦笑した。

 

「ありがとう。お前こそ、働きづめだろう。これが終われば、少しは休みを取ってくれ。私にはお前が必要だ」

 

 たしなめる言葉を送るが。

 

『そのお言葉に勝る恩賞はございません! モモンガ様の安寧がため、このデミウルゴス粉骨砕身働かせていただきます』

 

 モモンガは部下を働かせ、己が享楽に耽るような主にはなりたくない。

 ある程度の意識改革が必要かもしれないな、と考える。

 

「ふむ……そのあたりは、また後程に話をしよう」

 

 少し疲れた溜息と共に、魔法を切る。

 同時に、怒りも鎮まっていた。

 〈絶望のオーラ〉も霧散する。

 鏡の中でも騎士たちは全て逃げ出すか、落命していた。

 

「……お前たちの楽しみにも水を差してすまなかった。特にソリュシャンは、大丈夫だったか?」

 

 やっと人の姿に戻ったソリュシャンの髪を撫で、謝罪する。

 

「いえ。御身の威光に耐えられず……お体を晒させ、申し訳ございません」

 

 すっかり委縮した姿に、申し訳ないことをしたと感じる。

 

「……お前とシャルティアには、後ほど償いをしよう。どうか許してくれ」

 

 冷め始めた体を湯に浸からせ、股間を見上げていたシャルティアも抱き寄せる。

 もう一方の手は、アルベドの手を握ったままだ。

 

「も、もったいなきお言葉でありんす……」

「ああ……私のような身にそのような」

 

 二人の表情が感動と期待で蕩け、緩んだ。

 

「無論、アルベドもだが……今は守護者統括たるお前の知恵を借りたい。セバス一人で騎士どもを退散させた様子だが。あの連中はこの近隣において、どの程度の戦力と考える?」

 

 アルベドをじっと見つめ、真面目に問いかけた。

 

「平均よりやや上程度と愚考いたします、モモンガ様」 

 

 アルベドも、冷静に答える。

 

「同意見か……一応の根拠を言ってみよ」

 

 村人から感謝を受けつつ、救助と治療にあたるセバスたちを横目に問う。

 

「あの連中は、ろくな斥候部隊も後衛も持たず、複数の村を襲い、殺戮しております。社会制度にもよりますが、村に戦闘能力を持った人間が皆無とは考えづらいかと」

 

「確かにその通りだ。にもかかわらず騎士たちは、手傷もろくに負わず一方的だった」

 

 村人が5レベル以下の完全なモブだったのか。

 とはいえ、これだけR18行為を重ね、雌の悦びを拷問並みに刻まれたモモンガだ。

 この世界がゲームではないと、文字通り身をもって理解していた。

 

「ゆえに、不測の戦力に出会っても十分勝利可能な程度には強力かと。一方で、最精鋭と呼べるほどの戦力でもないはず」

 

「道理だ。我々自身、そんな仕事に100レベルの者は差し向けまい――〈伝言(メッセージ)〉我が子よ、今かまわないか?」

 

 深く頷き、納得すると。モモンガは監視役たる我が子(パンドラズ・アクター)に連絡をとった。

 

『こォれは、モモンガ様ッ! ちょうど逃げ出した騎士を全て回収したところでございますッ! ただいま〈転移門(ゲート)〉にて、特別情報収集官(ニューロニスト)殿の元へ送っておりますが……我が創造主には何か、懸念でも?』

 

 魔法ごしでも、カッと軍靴を響かせ敬礼した後、軍帽のひさしを下げて流し目したとわかる。

 

「ふふ、よくやったぞ。連中をさらに監視する者などはいなかったか?」

 

 そんな彼を微笑ましく思いつつ褒め。

 代わりに手元のシャルティアの頭を撫でた。

 

『例の魔法詠唱者(マジックキャスター)の集団から監視が出ておりましたが、幻術系魔法によって森に分散し逃げたよう見せておりますッ!』

 

 勢いよく答える声に淀みはない。警戒も十分行えていそうだ。

 

「よくやった。村の方は最低限の監視でよい。魔法詠唱者(マジックキャスター)らに専念しておけ。あと……それらの確保だが、セバスと交戦後に相当の時間を置いて行え。連中が撤退する、その道中を狙う程度でよい。また、場合によって確保は断念する」

 

 やりとりの合間、浴槽の他の三人が何か話をしているが。

 詳細を知る余裕はない。

 

『攻性防壁や、対監視妨害も可能では――問題が?』

 

 即座にモモンガの意を汲んで、パンドラズ・アクターが答える。

 

「セバスは既に見せると決めた。あいつを怪しまれる可能性は、できる限り避けたい」

 

 アルベドたちにも聞かせるように、言う。

 

『ハイッ、仰せのままにッ! 情報拡散に有効そうなら“放流”いたしましょうッ』

「よくぞ我が意を汲んでくれた。お前は本当に優秀だな」

 

 その言葉に、シャルティアとソリュシャンが嫉妬を浮かべる。

 

『それと……勝手ながら末端騎士の脳をタブラ・スマラグディナ様のブレイン・イーターの能力にて吸収させていただきました。奴らの会話と総合するに、あれは“スレイン法国”なる国家ないし組織の精鋭と判ッ明、しておりますッ。目的は王国戦士長ガゼフ・ストロノーフなる人物――件の戦士集団の長の暗殺。騎士らは陽動であり、魔法詠唱者らが本隊とのこと』

 

「ほう! さすが、我が最高傑作! 見事な機転だ」

 

 さらに褒めて通信を切り、アルベドとソリュシャンにもたれかかりながら。

 三人にも情報を共有させる。

 

「その精鋭部隊と、戦士長なる男の力で、近隣の戦力を計れるかと」

 

 アルベドが冷静に述べた。

 

「うむ。だが……たった一人を殺すため、弱者の殺戮を繰り返すか。毒を盛るなり、刺客を差し向けるならわかるが……民を殺す意味があるのか?」

 

「映像を見る限り、さしたる実力差とも見えませんでしたが」

 

「その通りだ。実力差があればわかる……あるいは種族自体が異なる場合もな」

 

 憮然とした顔で、モモンガは湯に顔を半ば沈めた。

 

「もう一度……御身を包みなおしましょうか?」

 

 ソリュシャンが、恐る恐る訊ねてくる。

 

「ああ……だが、手は出しておいてくれ。アルベドにも触れていたい……っ、ん♡」

 

 死んだ村人の葬儀を手伝う様子を眺めつつ。

 モモンガは再び、ソリュシャンの中に飲み込まれていく。

 

「今は悪戯を控えておけ……あとで、好きなだけさせてやるから……っ♡」

 

 ソリュシャンの内に飲まれる感覚だけで、小さく震えてしまいながら。

 モモンガはさらに細かく、各員に連絡を取り始める。

 後で好きなだけ……と聞いて、シャルティアとソリュシャンが浮かべた笑みには、まるで気づかぬままに……。

 

 一方でアルベドは、二人に心許し始めたモモンガに、少し安堵していた。

 主が完全に、己だけに溺れたわけでないとわかったのだから。

 




 このモモンガさんは、ゲームの中じゃないという確証をR-18行為を介してしか持ってません。
 だってR-18行為しかしてないから……。
 おかげでストレスは解消され、良くも悪くもNPCに何でも任せるようになってます。
 ただし、感情抑制がないので、民衆視点でルサンチマンをたぎらせやすいです。
 でもスライム姦には、さっそくハマり始めてます。

 現状では国際情勢とか関係ない、あくまで情報収集&戦闘介入なのでギルマスとしての有能さが活きてます。政治や経済がわからないと自覚してるし無理するつもりないので、戦力的脅威以外は部下に任せるつもり。
 このモモンガさんはNPCのアルベドとこんな関係になったため、NPCを個人と捉えてます。
 彼らを身内と認め、各自の価値観や考えを推し量りつつ、尊重し配慮して会話。
 現場との報連相を欠かしません(本人がまったく外に出ませんが)。


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11:事件は風呂場で起きてるんだ

やっとガゼフ登場!


 村人は弔いをし、セバスは会話をしている。

 家族や隣人の死に涙する村人は、見て気持ちのいいものでない。

 接近中の戦士団、潜伏する魔法詠唱者集団などを眺め、モモンガは状況を考える。

 

「ん? そういえば、この体はふやけたり、のぼせたりしないのだな」

 

 ふと、村の殺戮から、相当の時間が過ぎたな、と気づいた。

 ソリュシャンの中から突き出て、アルベドと触れ合う手を見る。

 だが、モモンガもアルベドも、肌や体調に変化はない。

 

「私たち女淫魔(サキュバス)は悪魔の一種として、火属性に抵抗を持っております。また、姿においても、環境影響からの問題が生じたりはいたしません」

 

「ほう! そういえば私もお前も化粧品もろくに使っていないな。シャルティアとソリュシャンは大丈夫なのか? 長風呂がつらければ言うのだぞ」

 

 このまま風呂で観戦していられると知り、上機嫌になるモモンガだが。

 心配そうに、他の二人に目を向ける。

 

「御身に心配いただけるなど光栄……問題ありんせん。もとより、自室でも一日中風呂に入っておりんすし……アンデッドの身なれば、御身の心配する状況とはなりんせん」

 

「はい。私も粘体(スライム)系として、体内水分と温度は任意調整できますので」

 

 心配されて嬉しそうに、しかし問題ないと答える二人。

 

「ならば処理が終わるまでここにいて問題ないか……なあ、アルベド」

 

 手を握る指が少しだけ艶っぽく絡み、目が熱っぽく見つめて来る。

 

「どうしました……モモンガ」

 

 アルベドは軽く深呼吸し、覚悟して呼び捨てた。

 

「っ……んっ♡」

 

 名前を呼び捨てられるだけで、モモンガは身を震わせて軽く絶頂する。

 アルベドに詰問するような目を向けた二人が、その反応に息を飲む。

 シャルティアが目くばせするが、ソリュシャンは首を横に振る。

 何も、していないのだ。

 モモンガは本当にただ、アルベドの言葉だけで達していた。

 

「さ、さっきはベッドを……シーツどころか、マットまで……な? だから今度から、できればここで……ここなら汚しても……」

 

 潤みきった目でアルベドを見つめて、モモンガが言う。

 ベッドではなく、風呂場でかわいがって欲しいとねだっているのだ。

 実際、今まさに私室の方はメイドたちによるマット交換が行われている。

 というか、床まで汁が垂れんばかりの惨状だった。

 そんなシーツが一般メイドに持ち帰られ、御方の香りと言われたりもするのだが。

 

「夫婦の営みや睡眠は、ベッドでするのものです……モモンガ」

 

「は、はい……」

 

 冷たく言うアルベドに、震えた声で返事する。

 アルベドに呆れられたのでは、捨てられるのではと、怯えているのだ。

 にも関わらず、その目、その言葉に、モモンガは感じてしまう。

 

「「…………」」

 

 主のそんな様子に、シャルティアとソリュシャンが剣呑な目をアルベドに向けた。

 アルベドが御方を傀儡にするなら、二人でアルベドを討たねばと。

 

「あくまで入浴を長時間するに留めましょう。この二人もいれば……問題ありませんし」

 

 その言葉に、二人の殺気も消える。

 さらにアルベドはソリュシャンに目を向ける。

 ずるりと、モモンガの体中を、ソリュシャンの粘液が這いうねり舐めまわした。

 

「それはあっ♡ あっ♡」

 

 言葉で抗おうとしても、粘液の刺激に流される。

 

「かまいませんね? モモンガ」

 

 さらに冷たく畳みかけるアルベド。

 

「私もいっしょにお風呂に入りたいでありんす!」

 

 シャルティアが子供っぽく甘えるように言う。

 

「わ、わかった……なら、二人もっ……四人で入るっ、入るぅっ♡」

 

 ずるずると体中這いまわり続ける粘液、愛する妻の目に。

 モモンガはまた、軽く達するのだった。

 

 鏡の中では、ようやく訪れた戦士長とやらがセバスと何か話していたが。

 モモンガは蕩かされ。

 他三人は今後の素晴らしい性生活への期待で、まったく見ていなかった。

 

 モモンガが状況変化に気づいたのは、パンドラズ・アクターから魔法詠唱者らが行動を開始したと〈伝言(メッセージ)〉が届いてからである。

 

 

 

「はぁ……っ、はぁっ♡ 〈伝言(メッセージ)〉ユリ。お前から見て戦士長とやらはどんな人物だった? 答えろ」

 

 何やら緊迫した空気が漂いだした頃、ようやく正気に戻ったモモンガが連絡をつける。

 

『は。善良な方……でしょうか。私やセバス様とは相性よく感じます』

 

「冷酷で合理的な判断より、己自身に納得いく判断を優先する、か?」

 

『そうですね。確かにそう思えます。それと、権威を好んでいないようです』

 

「武人肌……コキュートスに近いのか?」

 

 言ってから、コキュートスにも活躍の機会を与えねばと、心に留める。

 

『確かに、コキュートス様とも相性は悪くないかと。ただ、主君以外にも情を向けがちですが』

 

「なるほど……もう一つの集団と戦士団がぶつかる時、お前とルプスレギナは村にいろ。村人らも不安だろうからな。別途の襲撃部隊が来る可能性もある。セバスには一人で戦士長に同行するよう言っておけ」

 

『ありがとうございます』

 

「ん? 何か礼を言われる点があったか?」

 

『いえ、村の子供になつかれましたし……ルプスレギナは、人間を見下しがちですから心配で』

 

 そんな彼女の言葉に、その創造主やまいこ……リアルでは教師だったギルメンを思い出す。

 彼女の意志が、ユリに宿っているのなら。

 モモンガはギルドマスターとして、叶えてやるべきだろうと思った。

 

「……今回の件で孤児も少なからずできたろう。他の村でも、な。それについて私はお前に謝罪できん。だが、お前をこれからも村に残し、交流拠点の責任者にはできる」

 

『それは……』

 

 彼女の言葉に明らかな喜びと期待が満ちる。

 

「期待を持たせてすまないが、まだ確約はできん。状況次第だ。だが、私の心には留めている。今は、その民衆を守るべく専念してくれ」

 

『承知いたしました! 必ずや御身の期待に添わせていただきます!』

 

 弾んだやる気に満ちた声に、モモンガはもう一度励まし、通信を切った。

 そして考える。

 NPCにはNPCの、それぞれが持つ価値観がある。

 彼らはそれに基づき、明確なモチベーションを持つのだ。

 ただ命令に従うばかりの存在ではない。

 セバスやユリは明確な判断基準、個人の価値観を持っていた。

 デミウルゴスも、まだ明確ではないが、いくつかの状況に喜びを示している。

 パンドラズ・アクターは、モモンガと接するだけでテンションを高くしていた。

 シャルティアも熱心に己を求めてくれる。

 ソリュシャンも……おそらくモモンガに執着してくれているのだろう。

 では、アルベドは?

 

(アルベドは……どうだろう。NPCだから従うのか? 私のように、執着してくれているのか? 私ではなく、ただ女淫魔(サキュバス)として色事を好んでいるだけではないか? だとしたら、私はアルベドにとって面倒なだけの存在では……あああああ……こんな、こんなことなら、転移前にアルベドの設定を見ておけばよかった。いや、設定に私への愛情を書き加えていれば。でもそんなことをしたと知れば、そんな望みを抱いていると知れば、アルベドは私を……いや、そんな都合よく書き換えたアルベドに愛されて満足なのか? 私が愛するアルベドは今いるアルベドじゃないのか? 私はアルベドを都合のいい人形扱い……いや、違う、違うのだ。ただアルベドに愛されたくて……私が今悩み苦しんでいるように、アルベドは苦しんでいるのか? アルベドにも悩んでほしい……でも、アルベドを苦しませたくない……私はアルベドに何を求めているのだ? アルベドに何をされたい? 何をしたい? そしてそれはアルベドがしたいことなのか? 勝手な命令でアルベドを渋々に従わせているのではにないか? 主だから仕方ないと私を抱いているのでは……でも、最初にあんな熱心に私を求めてキスしてくれたはずだ。だからアルベドは私をきっと求めている。求めていると言ってほしい……呼び捨てられるのは嬉しい。アルベドのものになったと自覚できる。NPCと主人の関係じゃない、アルベドという存在の、ただ一つの何かになれたと思えるし……アルベドに捨てる自由があるのに、捨てたくないから抱きしめてくれると信じられる。信じたい。私が命令しているんじゃない、アルベドがアルベドの意志で私を手放さずいてくれると……いてくれるよな? アルベドは私を捨てないよな? 捨てたいのにNPCだから従ってるわけじゃないよな? どうなんだアルベド……こうして悩んでいるのにわからないか? お前が私の心を読んでくれないかと望むのはおかしいか? おかしいだろうな、私はお前の心を読めていないのに。私の心だけ読んで欲しがるなんて。でも、またあの時みたいに熱心に求めて欲しいんだ。今の状況だって、お前が求めてきたら全て放り投げるのに。すまし顔で指示を出している時に、またその指や舌で私を鳴かしてくれてもかまわないんだぞ。望むように、望むままに、求めてほしいんだ。求められていないかもなんて不安に思うよりは……嫌になるくらい求めて求めて、私をずっとドロドロに溶かして壊してほしいんだ。ナザリックの支配者であり続ける以上に、お前のものになりたい。お前のお前だけのものになって………………ダメなのか? それとも、この体がシャルティアやソリュシャンにも反応してしまったから。それで怒っているのか? シャルティアはともかく、ソリュシャンはお前が連れて来ただろう? 私がソリュシャンに狂わされる顔を、嬉しそうに見てたじゃないか。も、もしやアルベドはNTR趣味なのか? わ、私が他の者に抱かれて達する顔を見るのが好きなのか? お前が望むなら、お前がそんな趣味だからと愛想を尽かせたりはしないし、お前の趣味を無理に変えようなんて言わない。求めるなら応じるが……他の者に代わる代わる抱かれて、よがらされてしまうのか。くぅぅ、こんな想像だけで逐一、反応するなんて……やはり、私がいやらしいからと、アルベドが変に気遣っているのでは……なあ、どうなんだアルベド……私が答えろと思っているのがわからないのか? どうなんだ?)

 

 すがりつくような目でアルベドを見てしまう。

 もちろん、そんな胸中がアルベドにわかるはずもない。

 

「心配ありません。セバスなら、一人でも容易に全て打破しうる程度の戦力です。予想外があっても、予備戦力で十二分に殲滅可能かと」

 

 戦況への不安と思ったのか。

 アルベドからは冷静な指揮官としての返答。

 鏡の中では戦士団がセバスと共に村を離れ。

 包囲する魔法詠唱者らと対峙していた。

 

「……そうだな」

 

 短く答え、モモンガはなんとか頭を切り替える。

 対峙する直前、セバスに連絡をとった。

 




モモンガさんの闇思考は流してどうぞ。

ガゼフ登場しましたがセリフありません。
今回でニグン決着までいくつもりでしたが……。
途中でモモンガさんの闇が蠢きだしたので、今回は激突直前まで。
(冒頭でずっとお風呂にいる理由説明したら伸びたせいでもある)
ニグンさんの運命は次回決まる……はず?

とりあえずソリュシャンは、ちゃっかりレギュラー入りしました。


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12:計画通り……!

闇が引っ込み、お風呂で観戦モード持続中。



 戦いは一方的だった。

 戦士の集団は、魔法詠唱者たちに手傷すら与えられていない。

 セバスに、ひとまず介入せず待機させたのだ。

 

「……『ユグドラシル』では見たことのないスキルだな」

 

 ガゼフという男が使う技は、さしたる脅威ではないが。

 明らかに異質なスキルだ。

 

「魔法詠唱者側は、なかなか現実的な運用だ。召喚したシモベに戦わせ、自らは一切前に出ず戦う……それを集団で実践するとはな」

 

「モモンガ様、戦士側が崩れつつあります」

 

 アルベドが言う。さすがに仕事では呼び捨ててくれないかと小さくため息をついた。

 

「……〈魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)〉〈伝言(メッセージ)〉再々すまんな。介入せよ。この通話は維持する」

 

 戦いがまた一方的となった。

 事実上、セバスが無双している。

 魔法詠唱者らの取り乱す様子も明らかだ。

 天使は次々と消滅し、魔法詠唱者らも吹き飛ばされる。

 そんな中で、指揮官らしき男が何かを取り出し叫んでいる。

 

「魔封じの水晶か……!? セバス、使わせるな」

 

 鏡の中、男の片腕が落ちた。

 手には水晶を握ったままである。

 一瞬で踏み込んだセバスの手刀が、男の腕を切り落としたのだ。

 

「見事だ。私の指示より早かったな。我が意を汲んでくれて嬉しく思うぞ」

 

 褒める言葉を送る。

 

「退くよう言え。ユリにも言ったが、両軍とも犠牲は最低限にな」

 

 もう、問題はあるまい。

 鏡の中、セバスが水晶を拾い上げ。

 精鋭部隊とやらは、撤退を開始している。

 通信を切った。

 

「さて……〈伝言(メッセージ)〉我が子よ。戦士長とその副官あたりにも影の悪魔(シャドウデーモン)を最低2匹ずつ付けておけ。逃げ出した連中は、相当の時間をおいて捕らえよ。即座に合流する対象がなくば、奴らの国へと相当に近づいてからでもよい。複数の魔獣に襲わせ、数人は敢えて逃がしてやれ」

 

 後に控えるパンドラズ・アクターに指示を出す。

 

『承知いたしましたッ……母上。うまく情報を流させてご覧に入れましょう』

 

 珍しく口ごもり、真面目な口調だ。

 母上と呼んでよいか迷いつつ、口に出してみたのだろう。

 先刻、己を呼び捨ててくれたアルベドを思い出し、モモンガの顔がにやける。

 

「ふふ、いい子だ。それと……お前ならわかっているだろうが、逃がす連中に影の悪魔(シャドウデーモン)は付けるなよ」

 

『ハイッ! 彼らは魔法に長けていると、少なくとも自認しているから、ですねッ!』

 

 勢いよく嬉しそうに答える口調に、慈愛に満ちた笑みが浮かんだ。

 

「その通りだ。戦士(ファイター)修行僧(モンク)相手に逃げ出して、使い魔を付けられるなど不自然だからな。私の名を教えはしたが……力を高く見積もられたくない」

 

『母上の御力と威光は神すら滅ぼすものッ! 宝物殿の品々が、数多の神々を討った母上の証! それを敢えて隠されるとは……その慎ましさ、慈悲深さ、まさに母上こそ至高の女神でありましょうッ!』

 

 母上と口に出すごと、彼のテンションが際限なく上がるようだ。

 

「ああ、それともう一点――」

 

 続く指示に、パンドラズ・アクターは酷く狼狽した。

 モモンガは、聡明な我が子ですらこうならば……なおさら意識を改めさせねばと感じるのだった。

 

 通信を切り。

 深々と溜息をつくと。

 

「ソリュシャン、このままではお前しか相手にできん。一度出してくれ」

 

「は、はい!」

 

 期待の満ちた返事と共に、ソリュシャンの中から出される。

 彼女の粘液に馴れた体は、普通の湯が少しピリピリと肌に刺すように感じられた。

 

「待たせたな、シャルティア、ソリュシャン。後始末が終わるまで、私を好きに――」

 

 最後まで言わせてもらえるはずもない。

 飛びつき、絡みつく二人に囚われながら。

 モモンガはアルベドに視線を向け、混ざって、せめて一緒に、とねだる。

 

「ええ、もちろん私も……モモンガ」

 

 アルベドがそう言って手を絡め、身を寄せて来るだけで。

 モモンガは激しく気を遣った。

 ただ、ソリュシャンとシャルティアに激しくかき混ぜられ、しゃぶり付かれて。

 本当にアルベドで気を遣ったのか……モモンガにはもう、わからなかった。

 

 パンドラズ・アクターが陽光聖典捕獲を成し遂げて帰って来るのは40時間後。

 法国の勢力内に入り、風花聖典に作戦失敗と簡単な事情を報告した後のことであった。

 捕獲達成の連絡が入るまで、モモンガは浴室から出ず。

 延々と三人に鳴かされ続けたのだった。

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓。

 第十階層、玉座の間。

 モモンガとアルベドの婚礼、そして終焉からの転移以来初めて。

 この広間に各守護者その他NPCが集められていた。

 

「セバス、パンドラズ・アクター、デミウルゴス、ルプスレギナ、アウラ、マーレ。よくぞ我が大任を果たし、我が元へ戻った。また情報収集にあたっていた恐怖公にも、無理を言って帰還させて、すまない」

 

 玉座に座るモモンガが最初に詫びれば、ざわめきが走る。

 功を挙げた面々が前に出たのはわかる。

 だが、御方は第一に恐怖公――多くの女性守護者に忌避される存在に謝ったのだ。

 

「我輩如きになんと過分な言葉、もったいなく……」

 

 進み出た恐怖公――マントを羽織って直立したゴキブリに、モモンガの両脇に侍るアルベドとシャルティアが少し顔をひきつらせる。

 元より前で報告せんとしていたアウラも同様だ。

 

「うむ。お前の活躍はデミウルゴスの報告からも得ている。これからも頼むぞ」

 

「ははーっ!」

 

 恐怖公が平伏して見せる。その姿はまさに床を這うゴキブリそのものだ。

 女性陣の顔がさらにひきつる。

 

「そして、ニューロニストよ」

 

「はぁいッ」

 

 甲高い声と共に、くねくねと妙な動きで、水死体じみた怪物が進み出る。

 

「お前にも、これから多く働いてもらう。そして先日引き出した情報も、大いに役立っている。今後も……いや、情報が確かなら、今後はさらに働いてもらわねばならん。よろしく頼むぞ」

 

「ああんっ、モモンガ様から直接に褒めていただけるなんてッ」

 

 特別情報収集官――ひらたく言えば拷問官たるニューロニストは、先日に村を襲った騎士たちを拷問し、また脳を直接喰らい、多くの情報を引き出していた。

 ぶにょぶにょと異様な音を立てて悶える“彼女”も前に控えさせる。

 NPCの一同にとっては、異様なメンバーが前に立つことに混乱の声すらあった。

 恐怖公もニューロニストも、ナザリックで好かれる存在ではない。

 

「では、今回の論功行賞の前にデミウルゴス。パンドラズ・アクター。恐怖公。ニューロニスト。客人の情報分析と情報補助を頼むぞ」

 

 四人がそれぞれに返答し、(ひざまず)く。

 

「では、待たせたな。ニグン・グリッド・ルーイン殿」

 

 NPCたちの隅で膝をつき、震えていた男を呼ぶ。

 

「ひゃ、ひゃいいいっ! おおおおおお気になさらずっ!」

 

 酷い取り乱しようだ。

 いいところ40レベル程度だろうに、自身を含む100レベル多数で囲む状況では仕方ない。

 圧迫面接も同然だろう。

 とはいえ、抵抗が無意味と教える必要があったのだが。

 

「……ふむ。ペストーニャ、彼に〈正気(サニティ)〉を。それとお前たち、彼は重要な協力者候補だ。多少の無礼も許す。私の許可なく彼に危害を加えること許さん」

 

 ペストーニャは元から男に同情的だったのだろう。

 言われるまま、かつてモモンガにもかけた術を施す。

 

「しかし、モモンガ様。彼の者はセバスの名乗りにおいて、モモンガ様を侮辱なされたとか。まずは相応の罰を与えるべきではありませんか?」

 

「ええッ! 『貴様のような身の程知らずの主は、最も腐敗した貴族以下の屑だ』とォ、確かに、言っておりましたッ! ニューロニスト殿の元で、自身の身の程……思い知らせるべきでは」

 

 デミウルゴスとパンドラズ・アクターが珍しく、感情的に口を出す。

 二人の言葉に、他のNPCが騒然とした。

 ニグンに殺意が降り注ぎ、怒りの声をあげるものもいる。

 

「……騒々しい、静かにせよ」

 

 NPCを威圧はしたくないが、〈絶望のオーラV〉を放出する。

 ぴたりと、静まった。

 

(ニグンには〈正気(サニティ)〉をかけたし、射程外だからな。大丈夫だろ……たぶん)

 

「私を知らぬ者が、私をどう言ったからと逐一騒ぐな。器が知れるぞ。すまぬな、ニグン殿」

 

「いえっ! 知らずとはいえ愚かな言葉を! どうかお許しください!」

 

 その場でひれ伏し、床に頭を擦り付け謝罪してくる。

 

(おお、やはりあの呪文のおかげでかなり落ち着いたな。しかし随分と簡単に屈したものだ。ある程度は抗って見せるかと思ったのだが。気概のない小物だったか?)

 

「気にするな。私とて知らず、お前の気に障る言葉を吐くかもしれん。互いを知らぬ同士では、自ずと事情も異なるであろう」

 

「寛大なお言葉、感謝いたします!」

 

 部下は別途保護しており、拷問は禁じている。その点は、事前に聞いているはずだ。

 また保護時の検査により、かけられていた妙な呪いも解除している。

 

「ところで、先の私に対する侮辱とやらについて問いたい。責める意味ではないぞ。お前はセバスを、何処かの貴族の配下と思ったのか?」

 

「はっ、おっしゃる通りでございます! 執事の姿であったため、愚かな誤解をいたしました! 御身のように偉大な御方の執事とは露知らず失礼を!」

 

 振り絞るような声だ。〈正気(サニティ)〉はかかっているというのに。

 

「では、腐敗した貴族がおり、腐敗しておらぬ貴族があの戦士長を味方するのか?」

 

「その可能性を考えておりました!」

 

 元より、戦士長抹殺の経緯について、モモンガには納得できない点が多い。

 

「ふむ……可能な限り客観的に、ニグン殿の今回の任務について教えてもらえるか? 逐一質問もさせてもらうが、事情を知りたい。どこまで話すかはニグン殿自身の意志にゆだねよう」

 

 艶然と微笑み、モモンガが説明をうながした。

 

「デミウルゴス、パンドラズ・アクター、恐怖公、ニューロニスト。彼の情報に不自然な点、明らかな食い違いがあれば教えてくれ」

 

「「はっ」」

 

「で、では説明させていただきます。根本には我々スレイン法国の――」

 

 精神を安定させられ、なお脂汗を(したた)らせながら。

 陽光聖典隊長ニグンは、釈明すら許されぬ事情説明を開始した。

 目の前の存在が、六大神や八欲王に比肩する“ぷれいやー”だと悟りながら。

 




現場に行かず、客観的に見ながらなので指揮は冴えてるモモンガさん。
そして始まるニグンさんルート(エロ要素はないです)。
さらっと済ましてますが、「特定状況で質問に三回答えたら死ぬ呪い」は解除されてます。

魔封じの水晶は、セバスが回収してパンドラが鑑定しました。
モモンガさんが最中で忙しかったので、中の呪文は報告行ってません。

ここのモモンガさんは、情報収集させてますが、ほとんど報告見てません。
(大半の時間をアルベドらと忙しく過ごしてるので)
情報収集&分析は全部デミウルゴスとパンドラに任せっきり。
恐怖公とニューロニストも、原作より重視してます。
(ベリュース以下、村襲撃騎士はニューロニスト送り)
NPCが自主的にアクションを起こしたい時だけ、決定権を行使。
サキュバス化の影響か、ロジカルな思考よりフィーリング重視になってます。


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13:選べ

 思えば、ここのモモンガさんが初めて会話した人間ってニグンさん……。



「……つまり、王国民自体に問題があると」

 

「現状では上が代わろうと唯々諾々と従うばかり。貴族に怒りを燃やし動けばまだしも、彼の民は反抗すらできません。亜人や魔物の脅威に対しても、自主的に備える民はわずかです」

 

 ニグンの弁舌が振るい始めていた。

 モモンガはチラリと情報に関わる配下に視線を向けるが、全員頷いて見せるのみ。

 彼の発言に間違いはない、ということだ。

 

「あの戦士団とやらは、民を守るための存在ではないのか?」

 

「いえ。あくまで王の護衛です。今回は、我々に内通する貴族を使った特例任務にすぎません」

 

 玉座に腰を沈め、モモンガは考える。

 思った以上に面倒な話だ。

 自身の範疇を超えている。

 

「戦士長抹殺と開拓村襲撃には『王の権威を弱める』『貴族を暴走させる』『民衆の危機感を高める』――という3つの小目的があり、究極的には民衆ないし帝国により『王国を滅ぼす』という目標に向かっているわけだな?」

 

「はっ、その通りでございます!」

 

「なるほど。ゆえに大局を見据えず、一時の情から戦士長を助けんとする貴族が、セバスを差し向けたと考えたわけか。確かにお前の視点では腐敗した貴族以下とも思えよう。納得いったぞ」

 

「些末な釈明にお時間取らせ、申し訳ございません!」

 

 ニグンが再び土下座同然の礼をする。

 

「よい。おかげで貴重な情報も多々手に入った。まだまだ聞きたい点はあるが……ニグン殿」

 

「は、ははーっ!」

 

 ニグンは平伏する。逆らおうなど、考えられない。

 

「私は、ニグン殿とその部隊の能力を高く評価している。彼の戦士長を追い詰めた手腕、実に冷静かつ現実的な戦術だった。セバスが手を出すまで、一切の損害も出さなかったな」

 

「稚拙な戦いを褒めていただけ、望外の喜びです!」

 

 じわりと、嫉妬の目がニグンに注がれる。

 人間風情が、至高の御方に認められ褒められているのだから。

 

「うむ。ゆえに、貴殿らを我が麾下に迎えたい。いかがか?」

 

「ははっ! 喜んで!」

 

 即答である。

 

「まあ、無理にとは――ん? よいのか?」

 

「無論です! 部下どもも説得し、御身に満足いただけるようこれからも精進いたします!」

 

 予想外の積極的な姿勢に戸惑う。

 デミウルゴスたちを見るが、嘘というわけでもないらしい。

 

「スレイン法国は宗教国家だと聞いたぞ。人間種以外を排斥するともな。私が人間種に見えるか? 貴殿らの信仰はそのように軽いのか?」

 

「以前の私なら、このような判断をせず、信仰に殉じたやもしれません」

 

 モモンガが首をかしげる。

 

「では、なぜだ。おためごかしはいらん。正直な胸中を教えてくれ」

 

「き、聞き苦しい言葉となりますが、よろしいでしょうか?」

 

 それはモモンガより、周囲のNPCに言っているように見えた。

 

「かまわん。この者らに手出しはさせんし、無理やり聞き出した内容で貴殿の扱いを変えはしない」

 

「わ、私は人間です。故国に妻子もおりません。神殿の精鋭たるべく、幼くして親とも離されました。部下には例外もいるでしょうが……わ、私のような人間は、ですね」

 

 ごくりと、彼の喉が鳴るのがわかる。

 安定化させた心が、恐怖に歪んでいる。

 ニグンは目を見開き、がくがくと震えながら、言葉を振り絞った。

 

「私自身が何より、大事なのです。死にたくない。苦しみたくないのです」

 

「…………」

 

 そうだった。

 それが人間なのだ、と。

 モモンガは遠い日を思い出すように、ニグンを見た。

 

「御身に抗ったり、裏切れば、私は死より恐ろしい目に合うのでしょう」

 

 沈黙に言葉を促されたと見たか。

 彼は釈明ではなく、言葉を連ねる。

 薄汚い言葉だ。

 しかし、これが真に誠意に溢れた言葉なのだと、モモンガにはわかる。

 

「…………そうかもしれんな」

 

「私が、ただ保身のために服従を選択したこと、御気を害されたでしょうか?」

 

「いや。つまらぬことを聞いたな。確かに人とはそういうものだ。己の腹の底、よくぞ話してくれた。貴殿らの安全は保障する」

 

 かつての日々を思い出し、少し泣きそうになった。

 鈴木悟は抑圧され搾取されながら、何の行動もしなかったし。

 モモンガは去り行くギルドメンバーをろくに引き止めず。現実で交流しようともしなかった。

 どうして、目の前の矮小な男を嗤えるだろう。

 今のモモンガ自身、アルベドへの想いにしがみつく矮小な身なのに。

 

「アウラ、マーレよ。この者ら……陽光聖典を、お前たちの領域で保護しろ。ペストーニャが世話の責任を持て。彼らは脆弱に見えるやもしれんが、戦術面では私に準じる熟練者だ」

 

 二人のダークエルフが明らかに不満を浮かべ。

 戦術の熟練者と聞いて、コキュートスが目を光らせる。

 

「ありがたき幸せ! これでも生まれついての異能(タレント)に恵まれた身! “ぷれいやー”たる御身にも必ずや役立ってお見せいたします!」

 

「なに!?」

 

 最後の言葉で、モモンガの苦い郷愁は吹き飛び。

 そのあたりを詳しく聞き出すこととなった。

 

 

 

 ニグンに部下を説得するよう言い、ペストーニャに護衛を付けて共に退出させる。

 

「思わぬ良き情報を提供してくれた。それに、ああも己の醜い在り様を吐き出せる者は稀少だな。良き人材を確保でき、私としては嬉しいのだが……人間を配下に加えたこと、お前たちは不満そうだな」

 

 NPCらを見回す。

 慌てて表情を隠す者もいれば、今も不快な表情を露にする者もいる。

 

「外の世界――少なくともこの近隣では、人間種が覇権種族です。利用価値は認めております」

 

 デミウルゴスが代表として発言した。

 アルベドが言えば、冷静に判断できぬと考えたのだろう。

 

「そうだな。私は大いに人間を利用するつもりだ。あの戦士長とやらも、いずれ利用するが……配下にするよりは、うまく表で躍らせるべきだろうな」

 

「ならば、あの男も洗脳なり魅了なりすべきでは? あんな俗物を、栄光あるナザリックの旗の下に迎えるなど、私は反対です!」

 

 宝石の眼球を見開き、珍しく激しい剣幕を見せる。

 彼としては、モモンガを侮辱した人間が咎められもせず、認められ迎えられるなど、受け入れがたいのだろう。

 その後の釈明も薄汚い俗物だった。

 彼の創造主ウルベルトの好む“悪”から、かけ離れている。

 

「ああ、まさにそれだ」

 

 モモンガはじっとNPCらを見る。

 そして最後にアルベドを見た。

 

「多くの者は、あれを迎えるに不満を持っているな? だが、誰とは言わぬが持たぬ者もいる。これはカルマ値の影響なのだろう。私自身も時折、よからぬ感情が蠢くのを感じる」

 

 アルベドをじっと見つめる。

 瞳が暗く空ろになり、舐めるような目がアルベドの魂までしゃぶろうとする。

 ソリュシャンに似た……いや、情欲ゆえになお暗い目だ。

 ぞわりとした恐怖に、アルベドが身をすくめる。

 

「……ああ、まさにそれが問題だ。お前たちは誰に仕えている?」

 

 首を打ち振り、内心の闇を払って。

 デミウルゴスを見る。

 

「む、無論、最後に残った慈悲深き至高の御方たるモモンガ様に――」

 

「違うな」

 

 冷たい言葉に、NPCたち全てが凍り付いた。

 席を外したペストーニャ、村に残ったユリを羨みたくなるほどに。

 主の言葉は絶望的に、全てのNPCにのしかかる。

 あれだけ体を重ねたアルベドやシャルティア、ソリュシャンも。

 この世の終わりを見る目で、モモンガを見ていた。

 それは、御方がギルドを放棄する予兆に思えたのだ。

 

「で、では……我々は……」

 

 NPCを代表するように絞りだして、何とか言葉を紡ごうとするデミウルゴスの姿に。

 モモンガは、迷子になった子供を重ねる。

 

「お前たちを真に支配するのは、お前たち自身だ」

 

 やさしく、可能な限りやさしく、母性を込めて、モモンガは言う。

 NPCたちの多くは意味がわからず、戸惑うばかりだ。

 

「わからないか?」

 

 モモンガは微笑み、玉座を立つ。

 

「かくあれと造られたにせよ、今やお前たちは自ら考え、動き、生きている。ゆえに、私はアルベドと愛し合い、我が子(パンドラズ・アクター)を抱きしめもできた」

 

 アルベドの髪を撫でてから、パンドラズ・アクターの前に立ち、その頭を帽子越しに撫でる。

 

「お前たちの愛情や忠義はとても嬉しい。さんざん口出ししているが、能力や結果よりも、お前たち自身で下した判断や機転をこそ、私は常に褒めているつもりだ」

 

 つかつかとNPCらの間を回り歩きつつ。

 

「お前たちには自身の意志で私に仕えてほしい。私を逃げ道に使わないでほしい」

 

 再び玉座の方へ。

 デミウルゴスの前に立つ。

 NPCらは、一言一句を聞き逃すまいと、動かないままだ。

 

「お前たちは人形ではない。デミウルゴス、さっき私に反論したな? 狭義においてあれは、私に対する反逆にあたるのではないか?」

 

 モモンガはデミウルゴスより少し背が低い。

 下から覗き込むように見上げ、視線を合わせて問う。

 

「全てはモモンガ様のためです。不快とあらば――」

 

 どこか憮然とした口調のデミウルゴスだが。

 モモンガが溜息をつき、彼の唇に指を当て、言葉を止める。

 失望、ではない。

 しょうがないなと言った、どこか優しい笑みを伴った溜息。

 

「……やはりお前たちはどれだけ賢くとも、強くとも……子供なのだな」

 

「なッ!」

 

 意味を理解できず、デミウルゴスが狼狽した。

 

「私の我儘(わがまま)を止めたくば、己が我儘を自覚しろ」

 

 怒るのでなく、叱った。

 

「お前の言葉は、ただの我儘だ。私のやり方が、私の我儘であるようにな」

 

 子供にするように、背伸びしてデミウルゴスの頭を撫でる。

 

「私のためと言いながら、お前たちは己の自己満足を満たしたいだけだ。私が、お前たちを以て……私の自己満足を満たしたいように」

 

 モモンガの目が暗く赤く、光る。

 デミウルゴスは、正面から見据える主の目が己を見ていないと感じた。

 

「私が何を以て満足するかもろくに知らず、己の望みをぶつけていないか?」

 

 ゆらりと肩越しに、モモンガはアルベドへと視線を向ける。

 

「アルベド。お前もきっと、デミウルゴスと同じなのだろう」

 

 紅い光は瞳からじわじわと溢れ出て、アルベドに這い寄る触手のよう。

 

「もっとも子供に溺れた私は……子供以下、か」

 

 小声で呟き、自嘲的な笑いがこぼれる。

 

「だが、たとえお前たち全員が私を見限っても。私は私の意志において、アルベド。お前を決して手放しはしない」

 

「……ありがとうございます」

 

 自身も〈正気(サニティ)〉をかけてもらえばよかったと後悔しながら。

 アルベドは必死に震えを抑え、答える。

 主の視線が鎖となり、アルベドを縛り上げる様が、誰の目にも幻視できた。

 シャルティアもソリュシャンも、他の一般メイドも……アルベドが羨ましいとは、思わなかった。

 

「さて……急にこんな話をしても切り替えられまい」

 

 アルベドから視線を離したモモンガは、既に紅い光を瞳から消している。

 

「だから、お前たちをここに集めた。今こそ、リアルでの私と、今に至る私について……語っておこう。私がお前たちに何を望み、何を望まないか。お前たちの創造主がどんな人間だったか。どうか、知ってほしい。あの人間を受け入れた理由もわかるはずだ。そして、お前たち自身で判断し、選べ」

 

 モモンガが再び全員を見回す。

 

「私に仕えるか……あるいは、私を見限るか」

 




ビッチ的解決策を持ち出したアルベドに対して、モモンガのターン!
エロが消えて病みが噴き出してます。
クライマックスかよって発言してますが、モモンガとしては「NPCだからって遠慮せず対等の立場になろうよ!」って方針。もちろん、主にアルベドに言ってます。
このモモンガは対等の恋人か、できれば格下の奴隷になりたいのです。


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14:気分は最終兵器彼女

モモンガ「真実を語るとしよう」
 (そして私に幻滅して支配者の地位から引きずり下ろすのだ。アルベドに跪いて情けを乞う日々を手に入れるぞ。見下されながら足を舐めて、無様に尻を振って見せたりして……ああ、シャルティアやメイドの性欲処理に使われ、蔑みの目でアルベドに……ハァハァ)

 かっこよさげな展開ですが、モモンガさんの頭の中はこんな感じです。



「――といったところか。長話になってしまったな」

 

 『ユグドラシル』についてゲームという言葉だけは避けたが。

 モモンガはほぼ全てを話した。

 リアルという世界の過酷な環境と社会構造。

 その中で生きて来た鈴木悟という人間。

 彼の知る限りのリアルにおけるギルドメンバー。

 そして『ユグドラシル』という逃避先の存在。

 異形種の扱いと、このギルドの発端。

 リアルとの因果関係ゆえ生じていた、ギルド内の人間関係。

 荒廃の過程と、最後に残った孤独の日々。

 アルベドとの婚礼に至った思い。

 

「即答が難しければ各自、持ち帰って考えよ。この場におらぬユリとペストーニャには、他の者から伝えてやるがよい」

 

 モモンガは深々と玉座に腰を下ろし。

 アルベドの手だけを握る。

 そのアルベドの手も、震えていた。

 モモンガにはわかる。

 その震えは恐怖や絶望ではなく……怒りだ。

 

「お前たちに、もっと早く話さず。すまなかったな」

 

 溜息をついて、モモンガは目を閉じ。

 軽く上を向いて喉を晒す。

 ここまで矮小な己を示したのだ。

 望んだ通り、彼らは己を見限るはずだ。

 

(何せ、人間嫌いの連中が、元人間に仕えてられないだろし。でも思った以上にショック受けてるな……殺されちゃったりするのかな。何人かは味方してくれるといいんだが)

 

 NPCたちを見回す。相当な衝撃だったらしい。

 今にも暴走して暴れ出しそうだ。

 

(まあ、どうせリアルに未練もないし。アルベドに殺されるならいいか)

 

「全員が私を――」

 

 葬りたいならば、せめてアルベドの手で……とは、続かなかった。

 

「無論! モモンガ様こそ我が主です!」

 

 デミウルゴスが絶叫するように吠えた。

 彼は宝石の眼球から大量の涙を流し、感情のままにその形態を目まぐるしく変える。

 見えぬ敵を必死に探そうとする如く眼球を巡らせている。

 第三形態すら見せ、内なる怒りを必死に抑えんとする姿に、モモンガは困惑した。

 何に対して怒っているのか、わからなかったのだ。

 

(え、ええー? なにそれ)

 

 そしてその有様は、最も理性的な守護者ゆえに過ぎず。

 全員が怒っていた。

 怒りながら、泣いていた。

 憤怒と――なにより、己の不甲斐なさに狂わんばかりだった。

 シャルティアも、血の狂乱状態の姿を見せている。

 ここが尊ぶべき玉座の間でなければ、暴走したNPCらによって崩壊していただろう。

 全員が必死に理性で己を抑え、言葉に変えて少しでも感情を吐き出そうとする。

 

「し、至高の御方らが、人間に嬲り者にされていた、とは、本当でありんすか……」

 

「り、りあるで、つらい目に合ってたのに、ぶくぶく茶釜様は……あんな、やさしく」

 

「モモンガ様ガ一人、維持費ヲ稼ガレル折、後衛職デアリナガラ護衛スラ……」

 

「執事でありながら、ただ立って見送るばかりだったなど……」

 

「ヘロヘロ様が……搾取され……瀕死の状態……」

 

 モモンガとしては、細かく説明しなおしづらい。

 実際、間違っていない案件も多いのだ。

 

(確かにそうだけど! そうなんだけど! もっと私の不甲斐なさを攻めろよ!)

 

 誰もが慟哭し、絶望と悔恨と憤怒で魂を燃やす中。

 ぺたぺたと小さな足音がただ一つ、モモンガの前へと進み出た。

 それは小さな、イワトビペンギンに似た生き物である。

 

「……ん? どうした、エクレア。私を見限り、ナザリックの新たな主となるか?」

 

 多くのNPCを忘れていたモモンガだが。

 やたら濃い設定を付けられた彼のファーストネームは覚えていた。

 

「私、執事助手エクレア・エクレール・エクレイアー。餡ころもっちもち様により、ナザリック簒奪を目指すよう創られておりました。ですが、それも今日限りとさせていただきます」

 

 フッ、と不敵な笑いを見せるエクレア。

 階層守護者全ての目が。否、全NPCの目が、小さなペンギンに注がれる。

 やり場のない怒りをぶつける獲物を、見つけたと言いたげに。

 

「――やめよ。エクレアを害したい者は、先に私を討て。抵抗はせん」

 

 留められた殺気が、玉座の周りの空気を焼く。

 

「不肖エクレア。ろくに戦力ともなれぬ身ですが、一個人としてどうか、モモンガ様にお仕えさせてください。たとえモモンガ様がナザリックを去られようと、御身の住まいを必ずや完璧に掃除し続けてお見せいたします! 在るべき姿を捨てても、御身にお仕えしたいのです!」

 

 ぺちょ、と転んだようにしか見えない土下座を見せてエクレアが叫ぶ。

 

「……み、見事だ! エクレア君!」

 

 デミウルゴスが興奮と共に彼を讃える。

 次々と他の守護者、メイドらも彼を讃える。

 

(ちょ、そうじゃないでしょ!)

 

 期待と違う展開に、モモンガはさらに困惑する。

 

「あ、ありがとう、エクレア。だが私こそ、お前の忠誠に応えられる器と言えるかどうか」

 

「いいえッ! 誓って、モモンガ様以上の主はおりません!」

 

 腹ばいで顔だけ上げた姿勢から、ペンギンらしく床を滑って足元に来る。

 そしてもう一度、礼――土下座というか、うつ伏せになって見せた。

 

「どうか私の忠誠の誓い、お受けくださいッ!」

 

(わあ、かわいい)

 

 少し、現実逃避気味になったモモンガは、ぼんやりとそんな姿を見て。

 握り返しても来ないアルベドの手を離し、エクレアに両手を伸ばした。

 

「「えっ、も、モモンガ様!?」」

 

 アルベドとエクレアが共に、取り乱す。

 エクレアが抱き上げられ、ぬいぐるみのようにモモンガの膝上に収まる。

 彼の頭にはまだ三人しか触れていない、豊満な乳房が乗せられ。

 その手は優しく、エクレアを撫でる。

 

(手触りもいい……ナザリックの主を辞めて、アルベドはペットを認めてくれるかな)

 

 ぼんやりとそんな、現実から外れた妄想に耽るがゆえに。

 無心かつ無上の愛を、このペンギンに注いでいるように見える。

 そしてNPCたちが、あまりの感情の嵐により、ついに。

 ぷつんと糸が切れる時が来た。

 

「モモンガ様! 私ッ、私が先に忠誠を誓いましたッ!」

「母上ッ! わ、私は誓うまでもなく母上に付いていきます!」

「コノ身ハ既ニ御身ノ刀デゴザイマス!」

「外でも既に執事として名乗って参りました!」

「さんざん体で付き合った仲でありんせんか!」

「私もずっとお風呂で世話をいたします!」

 

 NPCたちが一斉にモモンガに押し寄せる。

 その様子は、姿が異形であれ、能力が超級であれ、子供にしか見えない。

 

「こ、こらっ、お前たちっ。エクレアが潰れてしまうだろうっ」

 

 あるいはこれが彼らの“素”なのか。

 ぐいぐいと我先にと押し寄せて来る。

 コキュートスやセバスも混じっているのだ。

 100レベルキャラクターも混じった筋力では、モモンガ自身危険である。

 

「ッ! 至高の御方を害するつもりですかっ! 落ち着きなさいっ!」

 

 危険を察知したアルベドが割って入る。

 比較的理性的なデミウルゴス、パンドラズ・アクター、セバス、ソリュシャンらが、はっと冷静に戻り、他のNPCらを留めた。

 

「そしてモモンガさ――いえ、モモンガッ!」

 

 アルベドが、他のNPCの前で呼び捨てる。

 

「私はあなたの伴侶でしょう! そのペンギンより先に私を抱き寄せなさいっ!」

 

 モモンガが、アルベドを見つめ返す。

 その目は再び暗く病み、業火の如き光を渦巻かせていたが。

 アルベドは踏みとどまる。

 

「アルベド……」

 

 片手を伸ばし、彼女の白いドレスに触れると。

 モモンガは玉座を立ち、アルベドの胸に飛び込んだ。

 アルベドが抱き留めると。

 モモンガは涙を流し、泣きじゃくり始めていた。

 

「ちょっ、ちょ、モモンガ様ーっ!?」

 

 そしてエクレアは、上に放り投げられていた。

 

「きゃっち」

 

「あ、ありがとうございま――ふぎゃぶっ」

 

 そして、彼はシズに抱き留められ、腕の中で潰されんとしていたが。

 平時と変わらぬそんな光景には誰も目を向けず。

 

 今度は汚くない、感動的な二人の姿に、NPC一同が貰い泣きしていたのだった。

 涙を流す主は、どのような思いであの秘密を一人抱えておられたのか。

 敢えて主を呼び捨てたアルベドは、どれほどの覚悟を以て対等の立場を名乗ったか。

 心打たれぬNPCが、いるはずもない。

 

(やった……過程はともかく、アルベドが私をリードしてくれてる! 対等……むしろ私の方が格下になったと言っていいよな、これは! 今日からいっぱい甘えるぞ!)

 

 無論、モモンガの真の胸中を察する者はいない。

 

(シャルティアとソリュシャンは、私に合わせてはくれないみたいね。いっそ、外から使えそうな人間の女でも、引き込むべきなのかしら……)

 

 アルベドの胸中を真に理解する者も、また……。

 




 設定された通りやってれば間違いないぞーと思ってたNPC陣。
 真実を知って足元崩壊。
 神と思ってた至高の御方は、泣きゲーヒロインだった案件。
 あるいは何でもできると思ってた最高の母親が実は(各自で任意の内容を入れてください)。
 つまりタイトルのようになった件。

 NPCが感じ入ったり、忠誠心を強くした理由は、各人で微妙に異なるんですが。
 とても書ききれないので省略。個人的に書きたいキャラも多いんですけどね……。
 主旨たるエロから外れますが、希望あれば閑話として挟んでいきます。

 と、昨日初めて誤字報告という機能に気づきました……指摘くださってた皆様ありがとうございます。
 反映させていただいたり、わかりづらい箇所を前後修正したりしました。


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15:我儘でなにが悪い

 原作のアルベドさんに追いつきつつある、モモンガさんの闇。



 

 しばし声をあげて泣き。

 嗚咽も止み、涙をぬぐい、差し出される紙で鼻をかんで。

 改めて、モモンガはNPCに向き直る。

 その瞳は、涙で潤んだままだ。

 

「……私を愚かな人間に過ぎぬと知ってなお、忠誠を誓うのか」

 

「愛を注いでくれた方に背く恥知らずなど、ここにはおりません」

 

 密着したままのアルベドが、静かに断言した。

 

(愛……愛か。そうだな、アルベドにはこれ以上ない愛を注いでいるのだからな)

 

「……ありがとう。こんな私について来てくれて」

 

 ふさわしい主たるべく……とは言わない。

 モモンガが望むのは、アルベドの奴隷なのだ。

 それも性奴隷である。

 欲望の捌け口以外、役に立たないと思われたいのだ。

 

「今、ようやく執事として自覚できた気がいたします」

「私もメイドとして……」

「防衛指揮官として……」

「御身ノ剣トシテ……」

 

 無論、逆効果である。

 主君が自ら率先し、全てを動かそうとする方がおかしいのだ。

 これまでの彼らは、主の意を伺い、喜んでもらおうとする子供に過ぎなかった。

 だが、今や主は己らによって守られる存在と知った。

 守らねば、身も心も壊れてしまうかもしれないのだ。

 彼らは至高の御方を支え、守るべく、今までと比べ物にならぬ意気で溢れていた。

 

「そうだな。さしあたって……料理長、副料理長、メイドらも。食事の準備を頼む。皆で、食事にしよう。食堂を使わせてもらえるか?」

 

 あのように話を聞いた後に、ふさわしいとか、ふさわしくないとか。

 言ってはそれこそ、不敬に当たるだろう。

 何より、主は語ったのだ。

 リアルにおける、酷い食糧事情を。

 ならば――調理能力を持つ者らが、我先にと食堂に向かう。

 今こそ、その技術を活かす時なのだから。

 プレアデスらも、できるできないに関係なく配膳等のため向かう。

 

「では、私も向かいますね」

 

 アルベドが微笑み、言う。

 彼女もまた、家事全般を完璧にこなせると設定された身なのだ。

 傍から彼女が離れるのはつらい。

 だからと、アルベドの袖を握ってしまうが。

 

「夫婦なのに、手料理もまだでしょう?」

 

 そう言われれば……鈴木悟として、母の顔がちらつく。

 手料理、という言葉自体。

 モモンガの中にはもう長く、なかった。

 

「……ああ。お前の手料理を食べさせてくれ」

 

 儚い、壊れそうな微笑と共に、モモンガは伴侶から手を離した。

 じっと、去り行くアルベドを目で追ってしまう。

 

(今の私はアルベド以外を求めているだろうか。私はどうして泣いたのだろう)

 

 あれは己自身の道化ぶりに、流した涙ではないか?

 あるいは、かつてのつらさに、今になって押しつぶされたか。

 

(あれほど望んだギルメンを……今は望んでいない)

 

 アルベドが遠ざかっていく。

 玉座の間から出ていき……どこかへ行く。

 食堂へ行くのだ、決まっている。

 モモンガのために料理を作りにいったのだ。

 すぐに会える。

 わかっている。

 けれど。

 

(もし、タブラさんが現れて、アルベドを私から奪おうとしたら)

 

 いや。

 

(パンドラズ・アクターが私を慕うように、アルベドがタブラさんを慕う様子を見るくらいなら)

 

 アルベドが玉座の間から消えた。

 

(……アルベドに知られる前に、始末しなければ)

 

 それでも、彼女の去った扉をじっと見る。

 ここは転移不可のフロア。

 扉の向こうでまだ彼女が歩いているはずだから。

 

(あるいは、他の誰かでも……アルベドはタブラさんが来る可能性を信じ始めるのでは……)

 

 姿を消したアルベドを、まだじっと見つめる目は涙で潤み。

 NPCたちは、そんな主に声をかけず待った。

 潤んだ瞳の中で蠢く感情には――当事者たるアルベドの去った今、誰も気づかない。

 

 やがてモモンガは、セバスに差し出されたハンカチで涙をもう一度拭う。

 その瞳は、あの衝撃的な真実を語ったと同じ、真に尊き主のもの。

 闇は奥に潜んだ。

 慈愛と威厳を持ち、彼女は重々しく口を開く。

 

「さて……我々も食堂へ向かう前に、少しだけ今後について話しておこう」

 

 穏やかな声には、剣呑さの影もない。

 

「最初にデミウルゴスとも言っていたが……私は、私の我儘を言う。お前たちも好きに言え。互いに相容れぬ時は話し合おう。大きな指針はそんなところだな」

 

「「それだけで……ございますか」」

 

 デミウルゴスとセバスの声が重なり、互いを横目に見る。

 

「ふふ、皆がお前たち二人のように、我儘ではないぞ」

 

 モモンガが微笑めば、二人も笑った。

 反目の理由も知ったのだ。

 主に微笑んでもらえるならば、道化の立場とて気にすまい。

 

「アウラ、マーレ。シャルティアを見習えとは言わんが……もう少し、我を出してよいのだぞ」

 

「い、いえ、私の年ではモモンガ様のお傍に付くには、早いかな~と……」

 

 口ごもるマーレの前に立ち、アウラが言う。

 

「ん? あ、あーーーー」

 

 思わず声に出してしまう。

 確かに、子供が近づける振舞いではない。

 というか、思いっきり教育に悪い。

 

「そうか。ふふっ、いかんな。種族に引きずられていたらしい」

 

 苦笑とはいえ明るい笑いに、NPCらの顔もほころぶ。

 

「その、なんだ。興味が出て来たら、アルベドの許可を取って、その……な?」

 

 とはいえ、種族として、自重する気にもなれない。

 成長すれば、その辺りも自覚するのだろうし、と思うモモンガだが。

 二人の反応は対象的である。

 

「は、はい……はい? ええ~~っ!?」

 

 きょとんとしてから、真っ赤になってしまうアウラ。

 

「はい……」

 

 じっとりとした目でモモンガの肌を見て来るマーレ。

 

(マーレの方が目覚めやすいのか? シャルティア……いや、ソリュシャンに任せるか?)

 

 自身がマーレの相手をするのは……と思い、考えかけるが。

 首を振り、性的な考えを払う。

 アルベドのいない時に、そうした考えを抱くのは……不義に思えたのだ。

 

「と……そろそろ我々も食堂に向かおうか。主従ではなく、家族として、な」

 

 シャルティアの頭を撫でつつ玉座を立つ。

 

 

 

 皆での食事は賑やかで、楽しい時間だった。

 プルチネッラは道化として、チャックモールは楽師として、本懐を遂げた。

 何より料理長、副料理長、一般メイドらにとっても。

 副料理長のバーについて、モモンガは知っておらず、教えられれば必ず行こうと約束した。

 NPCらは忌憚なく己の要望を口にしたし、モモンガもそれを望んだのだ。

 

 モモンガが箸を休め、皆の話に聞き入りつつ、傍らのアルベドに身を預けると。

 エスコート役に専念していたデミウルゴスが、立ち上がり手を叩いた。

 

「皆、すまないが、少し私に時間をくれないか」

 

 モモンガも目を向け、皆に静まるよう軽く両手で示す。

 ざわついた談笑も、即興の器楽も、止まる。

 全員がデミウルゴスに目を向けた。

 彼の横には既に、セバスと恐怖公とパンドラズ・アクターもいる。

 

「……モモンガ様。地上での情報収集は未だ続けられるかと思います」

 

「その通りだ。情報収集こそ、全ての要と考えている」

 

 ぷにっと萌えが提示した戦略と戦術は、ナザリックの根幹であり。

 多くのNPCにも適用すべき在り方と考えている。

 

「現時点の情報によるものですが。私の――私たちの我儘を許していただきたいのです」

 

 セバスがいる点に、モモンガは内心で首をかしげた。

 

「言ってみよ。たいていは聞き届けるつもりだ」

 

 アルベドと互いに何度も料理を食べさせ合ったモモンガは、上機嫌である。

 身を寄せて、手料理を食べさせてもらうのは嬉しかった。

 

「モモンガ様によるリアルの話、我らの創造主を苛む呪わしい社会構造を聞く限り。この世界の――この国の社会構造が酷似しております。現情報より間違いありません」

 

「ふむ。どのように、か?」

 

「民は兵として使われ、死んでも補償はなく。識字率も低く、ろくに教育が施されておりません。今回、騎士らに襲撃されたカルネ村とて、年貢の免除は難しいとのこと」

 

 セバスが言う。

 

「それとて、まだマシな扱いでございます。近隣都市からの調査では、貴族が民をさらい、奴隷として売りさばくような例も少なくないと」

 

 恐怖公が続けた。

 

「また、犯罪組織が横行し、人身売買や麻薬も蔓延しておりますッ! 事実、この近隣でも麻薬栽培を行っている村がありましたッ!」

 

 パンドラズ・アクターが連ねる。

 

「ゆえに、八つ当たりは重々承知ですが。王国貴族を清めさせていただきたく」

 

 デミウルゴスが深々と礼をして言う。

 

「……なるほど。ニグンの話は、大げさでもなんでもないということか」

 

「ハッ。あの男を認めるつもりはありませんが、嘘は言っておりませんでした」

 

「ふふ、正直だな。いいだろう、存分に八つ当たりしろ。危なくない範囲でな。それと、貴族というレッテルで判断しすぎるな。それでは、かつて異形種だからと私を嬲り者にした連中と変わらん」

 

 デミウルゴスとセバス、また他の者らの顔を眺める。

 

(ウルベルトさんも、たっちさんも……いや、プレイヤーなら皆、現実をどうにかしたかったろう。王国とやらが、その捌け口になるなら悪くない。私はアルベドで満たされたが、彼らはそうもいくまいからな)

 

「…………無論でございます」

 

 モモンガの言葉だけで、会話に参加せぬNPCも怒気をみなぎらせた。

 主のかつて受けた屈辱。

 想像すらしなかった冒涜。

 斯様な下種どもに、地獄の責め苦を味わわせられぬ己が、許せないのだ。

 

 だから。

 

 せめて、同種の屑どもを、地獄に落とさねばならない。

 これはモモンガのためですらない、彼らのエゴを満たす“我儘”なのだから。

 

「それと。お前たち各自のやり方で、楽しめ。これは私から与えた仕事ではない。お前たち自身の、望みだからな」

 

「「ありがとうございます」」

 

 デミウルゴス達……いや、NPC全員が礼をした。

 このナザリックに、死すらなまぬるい連中が送られてくること間違いなく。

 また地上ではこれから活躍の機会も増えるだろうから。

 





特に理由のない自覚ある八つ当たりが、王国貴族を襲う!

保護された上に、気に入ってもらえたニグンさんは、マジラッキー。

そして、このモモンガさんはギルドの呪縛から完全解放されています。
ギルメンも転移してきてるかもとか、考えてません。
頭ピンクなんで他プレイヤーについても、原作より警戒ゆるいです。
ただ、アルベドとの愛の巣として、ナザリックから出る気ありません。

明日は投稿できるか不明。
次はR-18の方になる可能性が高いです(一段落したのでお風呂編へ)。


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16:えっ、ひ、一人で……?

 みんな、いっしょうけんめい活動している!
 その間にモモンガさんはアルベドその他と爛れた日々を過ごしてます。

 シャルティア主眼のお風呂シーンを、R-18で投稿しました。



 その後しばらく、NPCたちは随分と忙しくしていた。

 モモンガはアルベドを手放さず。

 シャルティア、ソリュシャンに加え、ルプスレギナを側仕えにした。

 対外工作は主に、デミウルゴスとパンドラズ・アクターが仕切っている。

 相当数の王国貴族や犯罪組織員が捕らえられ。

 戦闘力や特殊技術のある者は確保、ない者は……地獄に落ちている(現在進行形)。

 

 アウラは、近隣の森林探索を行い。

 ユリは、モモンガの名代としてゴーレムやアンデッドを使ってカルネ村復興を手伝い。

 マーレは、地上部近隣にニグン他、確保した人材を住まわせる集落を築き始めていた。

 セバスは英雄として振舞うこととし、近隣都市から王都へと、活躍しつつ進んでいる。

 

 そんな中。

 近隣都市エ・ランテルの徹底調査を終えた恐怖公とパンドラズ・アクターは。

 幾人かの人間を捕らえ、ナザリックに一時帰還していた。

 

 

 

「……なるほど。それが、お前の目的か」

 

 モモンガは、平伏する男を見る。

 数日ぶりの玉座と……着衣だ。

 なんとも体が重く、気怠(けだる)く感じてしまう。

 

「ハハッ、左様でございます、偉大なる御方!」

 

 痩せこけた男と……その弟子たちは、平伏して地に顔を擦り付ける。

 己らに抵抗すら許さず連れ去った戦闘力。

 この玉座の間に至るまでに見た権勢と力を知れば。

 ズーラーノーンを、あるいは法国すら上回る存在であること、間違いない。

 どうして、逆らう気が起きようか。

 

「よかろう。研究が実を結べば、私にとっても有益だ。よき副産物も得られるだろう」

 

 男の目的は、モモンガにとって大いに同情に値する。

 モモンガ――鈴木悟も、“リアル”に魔法があれば……と、考えずにいられないのだ。

 寝食すら削ったカジットの不健康な容姿も、かつてのリアルと重なった。

 

「おお、まことにございますか!」

 

 歓喜と共に、男が答える。

 

「お前に不死を与えるもやぶさかではない。その弟子どもも、相応の働きを見せれば然るべき褒賞をやろう」

 

「よろしいのですか! ありがたき御言葉……! このカジット・デイル・バタンデール、微力ながら御身に永遠の忠誠を誓います!」

 

(簡単に忠誠を誓うなぁ……疑ったりしないのか)

 

 どこかぼんやりと、男らを眺める。

 およそ、見て楽しい顔ではないが、苦労と苦悩が刻まれているとわかる。

 深々と溜息をつき、一つ改善させるべき重要な点があるなと頷いた。

 

「しかし、条件がある」

 

「何なりとお申し付けください!」

 

 即答に、モモンガが(ひる)まされる。

 

(NPCたちもニグンもそうだが、即答する奴ばかりだな……迷ったりしないのか?)

 

「こほん。弟子はともかく、カジット……お前は生活を改善せよ。その体調で効率的な研究ができると思っているのか? お前の母は、そんな姿のお前に蘇らされて喜ぶのか?」

 

「え……し、しかし、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)となるのであれば……」

 

 容色など、より酷くなるに決まっている。

 

「誰がお前を死者の大魔法使い(エルダーリッチ)にすると言った」

 

「な……ッ!」

 

 カジットが凍り付く。

 まさか、ゾンビやスケルトンに変えて嘲笑(あざわら)うつもりかと。

 

「目的を聞いた以上、吸血鬼(ヴァンパイア)天使(エンジェル)に変えるつもりだ。小悪魔(インプ)にもできるが……お前の母は、普通の民なのだろう。顔を合わせ、共に過ごすならば、これらの方がよかろう」

 

 モモンガは微笑と共に言った。 

 

「な……なんと……! ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 カジットは頭を床に何度も打ち付け、感謝する。

 真に慈悲深き超越者を疑った不覚と。

 心の底からの感謝を込めて、何度も。

 目からは、とめどなく涙がこぼれた。

 嬉しさ、感激、感謝……信仰を捨てた己が、流さなかった涙。

 

 法国の神官らはカジットの望みを聞いて同情して見せつつ……内心で嘲笑っていた。

 ズーラーノーンはカジットを迎えつつ、狂人の戯言として……明確に嘲笑っていた。

 誰も、カジットの望みに耳を傾けず。

 誰もが適当な、心にない言葉をかけて慰めたり、利用しようとした。

 だが今、目の前の美しい超越者はなんと言ったろう。

 

 すべて母が蘇生できる前提の話だった。

 母と共に過ごす時のための、話だった。

 カジット自身の体調など……それこそ死んだ母くらいしか心配してくれなかったのに。

 この超越者に恭順したとして、目的から遠ざかると覚悟していたのだ。

 己の忠誠を買うため? 容易に拉致できるほどの人物が? 傍に控える者一人ですら、己を……可能なアンデッドの軍勢すべてを率いても、一蹴するであろうに。

 打算ではない。

 真の慈愛が、己に与えられているのだ。

 カジットはこれまでの利用し利用されるための関係でない、真の忠誠を誓う。

 

「で、では……御身の慈悲の対価たりえませぬが、我が最大の宝をどうか、お納めください」

 

 それがアイテムによる支配か。

 あるいは自身の意志なのか。

 もはや、カジットにはそれすら、どうでもよかった。

 

 

 

 カジットの退出後、モモンガはそれを手にした。

 一見すればただの石にしか見えない。

 

(――あなた様のその絶対なる“死”の気配に、敬意と崇拝を)

 

 だが、触れると同時に、頭に声が流れ込んでくる。

 

「知性を持っているようだ。ユグドラシルにはなかった品だが……〈道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)〉」

 

(貴様は何者か)

 

(私は“死の宝珠”……この世界に死をもたらすべく活動しておりました。しかし今、あなた様にお仕えするこそ、我が使命と悟りました)

 

 敬服し、跪くイメージが送り込まれる。

 決して欺いておらず、心底仕えたいと思っている……と示しているのだろうか。

 

(死をもたらす? カジットに、“死の螺旋”を行わせんとしたのはお前か?)

 

(ある程度は。あの狂人とは一応の同盟関係でした。無理に支配するより、断片的な情報を与える方が便利でしたので)

 

 そうして送り込まれる感情は、明らかな嘲笑を伴っている。

 カジットに好感度の高かったモモンガとしては、あまり気分はよくない。

 何より、今回の件は近隣都市でアンデッドによるテロが起きれば、今後に差し障ると見ての行動だ。それなりの能力を持つだろうと、テロリスト確保を命じたのだが……。

 

知性あるアイテム(インテリジェンス・アイテム)としては面白いが……効果はアンデッド使役の支援。死霊系エネルギーによる一定強化か……私が直接用いる意味は薄いな」

 

(そんなっ! どうか、再考を――)

 

 カジットに好感を抱いたモモンガの主観では、これこそ主犯だ。

 

我が子(パンドラズ・アクター)よ」

 

「ハッ」

 

 カジットを拉致し、連れて来たパンドラズ・アクターが敬礼する。

 カツーン、と踵を打ち合わせる音が響いた。

 

「これはお前に持たせる。人間種は支配する能力があるらしい。好きに使うがよいが……まずは、情報を聞き出しておけ」

 

 支配の危険性もある以上、わざわざ作成したアンデッドに持たせる意義は薄い。パンドラズ・アクターこそ死霊系魔法を最も用いる可能性が高いNPCと判断したのだった。

 

「ありがとうございますッ! 母上!」

 

「よい。もう一人いるのだったな」

 

 母からの贈り物に歓喜するパンドラズ・アクターに、微笑み問う。

 

「ハイッ! すぐに連れてまいりましょうかッ!」

 

「……そのことで、少し私に一案が」

 

 アルベドが横から口を挟む。

 

「ん? 珍しいな。よいぞ。アルベドの我儘はいつだって大歓迎だ」

 

 彼女が自主的に何か言ってくれるだけで、モモンガはとても嬉しい。

 求められていると実感できるのだ。

 

「実験的に、人間の側仕えを置いてみてはいかがでしょう? モモンガ様が世界の細かな情報を知るにもよいかと」

 

「なるほど。確かに一理あるが……」

 

 今の側仕えたる三人の顔を見まわす。

 アルベドは淡々とした冷たい声色、シャルティアは苛立ちを隠さず。

 ソリュシャンとルプスレギナは、じっとりと暗い笑みを浮かべている。

 

「私は、人間を虐待する趣味はないぞ」

 

「いえ、虐待せずとも、相応にモモンガ様を楽しませようはあるかと……」

 

 アルベドが耳元に囁き、頬を撫でる。

 それだけで、モモンガは期待にぞくぞくと身を震わせ。

 雌として濡らしてしまうのだ。

 

「……んっ♡ では愛しい妻の言葉だ。信じて任せるとしよう」

 

 艶を帯びた笑顔で、アルベドに頷く。

 

「では少し下準備をしますので……私室にてお待ちください。ああ、相手を怯えさせぬよう、探知阻害の指輪を装備しておかれますよう」

 

「む……私一人でか? 確かに多人数で囲むと、いつも威圧している形だったからな……」

 

 首を傾げつつも、アルベドも言うまま指輪をつけ。

 どこか心細げに、一人で私室に向かう。

 何度もアルベドを見る目は、ついて来て欲しそうだが。

 アルベドは敢えて無視した。

 付き従おうとするシャルティアらも、アルベドに抑えられる。

 

「むぅ……私もダメでありんすか」

 

「モモンガ様も言っていたでしょう。多人数で囲んでは緊張させるって」

 

 不満げなシャルティアを、アルベドがたしなめる。

 

「やー、モモンガ様めっちゃ期待してたっすからねー」

 

 濡らしたモモンガの匂いを嗅ぎ、けらけらと笑うルプスレギナ。

 護衛を兼ねたペットとして、モモンガの体中を毎日好きに舐めまわし、目下充実しきった日々を送っている。アルベドの推挙のおかげなのだから、基本的に彼女には賛成の姿勢だ。

 

「とはいえ、護衛として不満もあります。モモンガ様お一人にして大丈夫でしょうか……」

 

 ソリュシャンが不安げに言った。

 

「じゃあ、例の鏡で三人で見張っておいて。人間の応対は私がするから」

 

「承知いたしました」

 

 少し不満そうなソリュシャンだが、歯向かえる立場でもない。

 体内から遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を取り出し、三人で玉座の間を離れた。

 

「さて……では、お願い。パンドラズ・アクター」

 

「はいッ。彼女ならば失踪しても問題なく、彼の世界では一応の強者でもあり……性格面も我々の元で暮らすに問題ありませんッ! 母上のペットには、まさに適任かとッ!」

 

「では、連れて来てちょうだい」

 

Wenn es für meinen Gott ist(我が神の御ためとあらば)!」

 

 身の程を教えんと、敢えて第七階層の悪魔たちに監視させた彼女を運ぶべく。

 パンドラズ・アクターも退出した。

 

「はぁ……そのクレマンティーヌとやらが、モモンガ様の意識を少しでも変えてくれると……いえ、せめて刺激になればいいのだけど」

 

 不可視化モンスターすらいない玉座の間で、アルベドは一人、深々と溜息をついた。

 




 さらっとクレマンティーヌ登場まで行くつもりが……。
 カジットさん、ちょっと書き始めるとやたら膨らんでしまいました。
 ニグンさんといい、原作でさらっと消えた男キャラに、思わぬ愛着がががが。

 性的な目ではまるで見てませんが、このモモンガさんはニグン&カジットに対する好感度がかなり高いです。問答無用で攫って来て、本人の釈明だけ聞いてますからね。明確に裏切らない限りはしっかりフォローしてくれるでしょう。原作カルネ村に近い扱いです。
 逆に、カルネ村の扱いは原作より軽いです。
 本人、ろくに見てませんし……。

 シャルティアたちはその後、部屋でこっそり一人で始めてしまったモモンガ様を、鼻息荒く覗いてます。フレンドリーファイアが怖いので、このモモンガさんは攻性防壁を発動してません。
 アルベドたちとの爛れた様子も、警護と称してプレアデスの面々その他によく覗かれてます。


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17:女は度胸、何でも試してみるものさ

満を持して、クレマンティーヌさんの出番!


 豪奢な玉座の前だった。

 少なくとも今まで置かれた、悪魔の跋扈する荒野より遥かにマシ……だが。

 

「ふ、ふーん……地獄じゃなかっただけで、一安心だねー」

 

 クレマンティーヌの声は震えていた。

 目の前の女淫魔(サキュバス)は、あまりに圧倒的強者だったのだ。

 彼女の知る最強の存在――漆黒聖典、番外席次よりもあるいは。

 

(やばーい……やばいよ……これ……)

 

 華々しい白いドレスをまといながら、傷一つ負わせられると思えない。

 その存在は山……いや、大陸そのものとすら思えてくる。

 己をここに連れて来て退出した山羊頭の悪魔より、さらに上。

 しかも、その目に灯る光は、どう見ても好意的ではない。

 

「そ、そそそそれで、アルベド様は私なんかに、なんの御用かにゃー」

 

 震えすぎて、噛んだ。

 

 

 

 ナザリックのNPCなら誰しも、至高の御方の私室に入るならノックする。

 しかし今、ノックもされず、ドアが開かれた。

 

「あっ♡ あっ♡ アルべドっ、アルベドぉっ!」

 

 ドアから訪れるアルベドを想像し、扉に向かい、己の肢体に指を這わす。

 ノックして訪れるギリギリまで、アルベドのため己を昂ぶらせようと始めた自慰だが……途中から夢中になり、扉の開く音にも気づかなかった。

 

「うっわ、これはさすがに退くわー」

 

 そして見知らぬ女の呆れかえった声に、とびあがる。

 

「……ひぁっ、だ、誰だっ!」

 

 慌てて脚を閉じるが、時すでに遅し。

 下着姿同然の女が、するりと部屋に滑り込んでいた。

 

「クレマンティーヌ様だよー、はい、開いたまま開いたままー♪」

 

 疾風走破の異名を無駄に使い、一瞬で距離を詰め。

 モモンガの脚の間に入り込んで、閉じさせない。

 そして笑みを浮かべ、モモンガの怯える顔を見ている。

 姿勢も表情も、猫を思わせる女だった。

 

「ひっ! や、やめ! アルベドっ、たすけ、たすけてぇっ!」

 

 しかし無情にも扉が、半ば自動的に閉まる。

 部屋の中から、廊下に音はまず漏れない。

 色に溺れるモモンガのため、ノックのみ反応するよう処理が施されたのだ。

 

「騒いだって無駄だよー? そのアルベド様から、この部屋にいるモモンガちゃんを、いーっぱいいじめて来てーって、頼まれたんだからさー♪」

 

 にたぁっと耳まで裂けんばかりの笑みを浮かべ。

 先刻までモモンガ自身がさんざんいじっていた箇所を、乱暴に摘ままれる。

 

「そんな……うそ……ひぎゅっ!!」

 

 自慰で昂ぶったモモンガの体が、それだけで気を遣ってしまう。

 

「へーーーーぇ、アルベド様の言う通り、簡単にイッちゃうんだねー♪」

 

 見知らぬ人間の女が、下卑た笑みと共にアルベドの名を口にするごと、モモンガは胸が締め付けられる。

 だというのに、乱暴にされるだけで、体は反応し。

 

「やっ、ちが……っひぃぃぃぃぃいっ!!」

 

 絶頂に追いやられてしまう。

 不本意な快楽に、声には艶すらないが。

 そんな悲鳴じみた声に、クレマンティーヌは笑みを深める。

 

「ホント、私より年上のクセにさー♪」

 

「いぎっ、いぎゅっ! いぎたぐないいいいい!」

 

 心が拒み、異常な状況に怯えるほどに。

 体は勝手に昂ぶり、より過敏になってしまう。

 

「指だけで感じまくって、恥ずかしくないのー?」

 

「はっ、はぁっ、や、やめ、やめてっ、クレマンティーにゅうううっ!!」

 

 怯えるモモンガに、クレマンティーヌは嗜虐心を刺激される。

 

「んー? モモンガちゃんはアルベド様の奴隷(みたいなもの)なんでしょー? そーのアルベド様からさぁー、アンタを自由にしていいって言われた私を、クレマンティーヌ様って呼んでくれないのー?」

 

「はっ、はっ……えっ……♡ あ、アルベドの奴隷……♡」

 

 びくっ、びくっと、モモンガの体が今までで最も深く痙攣した。

 アルベドに奴隷と思われている……というだけで。

 性的興奮の極みに達したのだ。

 

「そーだよー。あのアルベド様に比べたら、モモンガちゃんはダメダメだもんねー?」

 

 モモンガの声に明らかな艶と媚びが混じり始めるが、クレマンティーヌはそこまで色事に精通していない。

 

「ひゅっ♡ ひきゅっ♡ そうっ、私なんてアルベド様にくらべたらぁっ♡」

 

「じゃー、私のことも何ていうか、わかるよねー? モ・モ・ン・ガ・ちゃぁん♪」

 

 にんまりと笑うクレマンティーヌに、頬を舐められるモモンガ。

 

「いぎっ♡ いぎゅっ♡ きゅれまんてぃーぬ様ぁっ♡」

 

「そうそう♪ ほら、もーいっかいー♪」

 

「くれまんてぃーにゅっ♡ しゃまっ♡」

 

「ちゃんと言えるまで続けちゃおっかなー♪」

 

「ひょ、ひょんなっ♡」

 

 すっかり蕩けて、目にハートマークを浮かべたモモンガは。

 クレマンティーヌにさんざん、鳴かされるのだった。

 

(まー、この英雄の領域に足を踏み入れたこのクレマンティーヌ様がさぁ。こんな縛りだらけの、くっだらねーオママゴトに付き合ってんだからさー……せーぜー、いじめ尽くしたげるよー、モモンガちゃん♪)

 

 突然に拉致され、武装解除され、地獄同然の場所に放置され。

 さらには、見知らぬ女を性的に辱めるよう言われたのだ。

 拷問や傷が残る行為は禁止とも言われている。

 クレマンティーヌは様々な鬱憤を、ひたすらモモンガにぶつけた。

 

 

 

 シャルティアとルプスレギナは、この状況を音声ナシで覗き続け。

 アルベドとソリュシャンはその横で、たまった報告チェックをしていた。

 

 

 

「はー、やっぱ淫魔はタフだねー。指が痛くなってきちゃったよー」

 

 ごまかすように言って、手を離し。

 ごろんとベッドに寝転ぶ、クレマンティーヌ。

 あのアルベドには劣る様子とはいえ、女淫魔(サキュバス)相手の色事は無理があったか。

 モモンガのよがり狂う顔を見ていると、魅了されていくのがわかる。

 

「ん……クレマンティーヌ様……寝る?」

 

 完全にローブを脱いで裸になったモモンガが、いそいそと横に寝そべってくる。

 敵意や殺気はない。

 

(くそっ、このクレマンティーヌ様ともあろう者が、なんでちょっとかわいいとか思ってんだよ……)

 

 顔を背ける。

 年上の同性相手にそんな関係になるつもりは、毛頭ない。

 

「チッ、なんか寝食不要疲労無視になる指輪もらっちゃったから、一休みするだけだっつーの」

 

 自身の内心を否定するように舌打ちして。

 ぞんざいに答えた。

 

(コイツ、なーんであんな扱いされて、私に懐いて来てるかなー……やっぱ、淫魔だけに淫乱ビッチってことか……?)

 

 もぞりとモモンガの方を向くと、思いのほか顔が傍にある。

 なぜかドキリとさせられてしまう。

 

「その指輪も、アルベド様から……?」

 

「そそ、アルベド様からー♪ モモンガちゃんが満足するまで相手できるよーにってさー♪」

 

(……人間に、リング・オブ・サステナンスを? 薬指には着けていないが……浮気では……)

 

 すぅっと、モモンガの瞳から光が消える。

 

「アルベド……様は、今何を?」

 

 ぞわんと、少し悪寒を感じたクレマンティーヌだが。

 さんざん淫魔を性的に攻めて、自身も少し濡れたせいかなと思った。

 

「私にいじめられるモモンガちゃんを見ながら、たまったお仕事するって言ってたよー♪ さっきまでのも、みーんな見られちゃってたねー?」

 

 ぽふぽふと、わざと優しく頭を撫でて煽ってみた。

 

「そ、そうなのか……う……うう……」

 

 嗚咽を漏らし、泣き始めてしまうモモンガ。

 

(ふっふーん、いい泣き顔見せてくれるねー♪ かわい……いやいや、そうじゃないだろ!)

 

 己の感情を否定する。

 淫魔に魅了される……という打算以上に、自分が自分でなくなるようで怖いのだ。

 

 もっとも、モモンガが泣いた理由は、クレマンティーヌの憶測とはまったく違う。

 

(アルベドが……アルベド様が、仕事をためこんでいたなんて……知らなかった。私がずっと、部屋に縛り付けていたせいで……)

 

 ため込んでいたのは各NPCからモモンガへの報告であり、アルベドの仕事ではない。

 

(しかも、遠回しにアルベド様と呼ぶことを許して……人間を私の相手に寄こすなんて。きっと、シャルティアたちもアルベド様を手伝っているんだろうな……)

 

 モモンガの涙は、アルベドへの感謝と。

 己の不甲斐なさである。

 奇しくも、かつてデミウルゴスらが流していたと同質であった。

 

(私はアルベド……様をろくにわかっていなかったのに。アルベド様は私の望みを、わかってくれているのか……私を……奴隷にしてくれるなんて……)

 

「泣いちゃったー? かわいそー♪」

 

 涙ぐむモモンガを、横から煽る。

 

(はぁ……クレマンティーヌはいじめるの上手だな……こういう風に、アルベド様にも……ん? ううん? そ、そうだ、よく考えれば、いつも私ってされる一方のマグロじゃないか! うう、アルベド様に飽きられたくない……この人間で私にもそういう練習をしておかないと……このまま他の子の相手ばっかりで、アルベド様に抱いてもらえないかも……い、いや。この機会を活かすんだ。まずは人間をしっかり感じさせられるようにならないと!)

 

「あ、ありがとう……、クレマンティーヌ様……っ」

 

 ぎゅっと、彼女を抱きしめて寝転がる。

 上からのしかかる体勢になった。

 

「え……?」

 

 クレマンティーヌとしては、なんで礼を言われるのかわからず、戸惑うしかない。

 

「わ、私ばっかり気持ちよくなって……く、クレマンティーヌ様にもしっかり、気持ちよくなってもらうから……っ」

 

 真剣な顔で抱きしめ、頬ずりしながら言ってくる。

 

(え……どーゆー思考回路してんだ? まあ私にするのは別に……っていやいや! いいわけないだろ!)

 

「ちょ、おま……力つよっ……やめ……ひぅっ!」

 

 抵抗するクレマンティーヌにのしかかってくる。

 淫魔の指と舌が、鍛えられた肢体を舐め、愛撫し。

 思えば女淫魔(サキュバス)となって初めての攻めを、その体で繰り返し試すのだった。

 

 

 

「はっ♡ はぁっ♡ す、すご……♡」

 

 さんざんモモンガに弄り尽くされ、クレマンティーヌは息荒く横たわる。

 

「ありがとう……クレマンティーヌ……様。おかげで自信が、ついた」

 

 少し晴れ晴れとした顔で、モモンガが横に寝そべっている。

 

「モモンガちゃん、上手(うま)すぎ……やっぱ淫魔ってすごいねー……」

 

「ん……クレマンティーヌ様、かわいかった」

 

 横から頬にキスをされても、もう抵抗も何もない。

 もっとさんざん恥ずかしいところを見られたのだから。

 

「はー……ねー、モモンガちゃんってアルベド様の妹だったりするのー?」

 

「え? そ、そういうわけでは……」

 

 思わぬ質問に、口ごもるしかない。

 今更、関係としては自分がアルベドの主だなどと、言えるはずもない。

 

「ふーん……どっちにしても、上の出来が良すぎるって、つらいよねー」

 

「……うん」

 

 出来がいいのは下なんだけど……と、モモンガは言葉を飲み込み。

 曖昧に頷く。

 

「私はねー…………」

 

 事後の甘い脱力感のせいか。

 クレマンティーヌは、自身の内で(くすぶ)るものを、吐き出し始めた。

 




 この後、クソ兄貴と周辺環境への愚痴をひたすら言います。
 そしてモモンガさんに、ちゅっちゅしてもらって慰められます。
 クレマンティーヌは、まだまだツン期ですが、ベッドの上では(相互的に)ペットです。

 モモンガさんは、例の探知妨害(強者のオーラや魔力も隠す)を装備中。
 アルベドさんは「寂しがりの子がいるから、淫魔の流儀でいじめてきなさい」と命令してます。
 リョナとハードすぎるプレイは禁止されたので、クレマンティーヌなりにアルベドの縁者なんだなーと推測してます。
 まさかモモンガさんの方が支配者とは、思ってません。
 あと、指輪を左手薬指につけてて、アルベドとの恋愛方向でモモンガさんを煽ってたら、クレマンティーヌは死んでました。既にモモンガに半ば魅了され、アルベドからは威圧しか受けてない(アルベドから逃げたい)ので、そんな煽りはしませんでしたが!

 ちと忙しくなってきましたので、隔日投稿もちょいちょい混じりそうです。


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18:エロゲー・イズ・マイライフ!

 クレマンティーヌ×モモンガの、キマシタワー展開が見れるのはたぶん、ここだけ!



「――って感じで、こんな風に歪んじゃったんだー」

 

 自嘲的に笑って、クレマンティーヌはモモンガの頬をふにふにと軽くつまむ。

 

「…………」

 

 モモンガとしては、家族にひどい扱いを受けた経験というものがない。

 それなりにエリートらしい彼女の境遇と、周囲の扱いは、どうにもよくわからなかった。

 どういえばいいかわからない、そんな空気を相手も感じたのだろう。

 

「モモンガちゃんは、アルベド様に大事にされてていいよねー」

 

「え……そそそそ、そうかっ?」

 

 少し妬ましげに、そう言われると。

 モモンガは飛び上がらんばかりに、喜ぶ。

 

「そうだよー。私なんて大事にされなかったせいで歪みきちゃったからねー。拷問大好き、殺すの大好きになっちゃったもーん。アルベド様が、モモンガちゃんに痛いことしちゃダメーってさんざん言ってなかったら…………」

 

 ぎろりと、威圧し。

 

「モモンガちゃんも、ズタズタにしちゃってたかもねーーー?」

 

 上からのしかかって、下劣で邪悪な笑みを見せるが。

 

「ひゃわっ! クレマンティーヌ様……」

 

 悲鳴をあげはしても。

 怯えるというより、期待するような目で見られる。

 

「こーの淫乱っ! なーに期待してるわけー?」

 

 調子が狂ったまま、合わせてしまう。

 なんだかんだと、だらだら甘い時間を過ごしてしまっていた。

 この閉ざされた部屋では、時間もわからない。

 クレマンティーヌの体は指輪によって、寝食不要疲労無効になっている。汗や汁にまみれれば、風呂に入って。気疲れすれば会話して……また、交わる。

 おかげで、二人とも互いの心身をかなり隅々まで知るのだった。

 

 

 

「もう三日でありんすよ? そろそろ、私も混ざっても……」

 

 初日以来、一時間に一度はぼやくシャルティアを、既にアルベドは無視していた。

 モモンガが自らアルベドを呼ばない限り、なるべく放置しておくことにしたのだ。

 

(そうすれば私も仕事ができるし……モモンガ様も、他の相手で満足できるでしょう)

 

「あんな泥棒猫にペットの座を奪われるなんて屈辱っす!」

 

 もっとも、ルプスレギナもシャルティアと共に不満を募らせている。

 

「私たちはメイドでしょうに……」

 

 ソリュシャンが毎回、溜息混じりに訂正するが。

 

「でも、私だってモモンガ様とあんな風にいちゃいちゃしたいっす!」

 

「それはそうだけど……」

 

 二人としても、側仕えの任に早く戻りたかった。

 

「それにしても、やっぱモモンガ様の体は魔性っすねー! この人間もどんどん上手くなってるっすよ!」

 

「あら……本当ね。動きっていうか……いろいろ別人みたい」

 

 その言葉に、アルベドがぴくりと反応した。

 机を離れ、鏡に映る室内を見る。

 

「これは……」

 

 戦士職を極めたアルベドの目にも、クレマンティーヌの動きは明らかに変わっていた。

 

 

 

「はぁ……はぁ……♡ モモンガちゃんの体って、ホーント全然あきないねー♡」

 

「んっ♡ クレマンティーヌ様も、どんどん上手になってきてる……♡」

 

 ベッドでして、お風呂でして、床でもして、べたついたベッドでまたして。

 休息の間も身を寄せ合い、頬ずりし、キスをし、髪を撫で。

 二人はずっと、肌を触れ合わせ続けていた。

 

「フツー、女淫魔(サキュバス)としたら、ドレインされて死んじゃうんじゃないのー? それもちょっと、覚悟してたんだけどなー。どっちかというと調子よくなってきてる気がするんだよねー。モモンガちゃんってば、ひょっとして何かしてるー?」

 

「え? 何もしてないけど……?」

 

 きょとんと首をかしげるモモンガを、クレマンティーヌは愛らしいと思う。

 むっちりとした肢体は明らかに年上の……母性すら感じさせるのに。

 眺めていると、いつものような殺意や苛立ちではない、奇妙な愛情を抱いてしまうのだ。

 

(魅了されちゃってるのかなー。何もされないから、別にいいけど……)

 

「そっかー……まあ、どっちでもいいんだけど」

 

「あっ♡」

 

 小休止は終わり。

 また抱き寄せて……という時。

 ノックをせずに、扉が開いた。

 

「え?」

 

「チッ!!」

 

 反応は、クレマンティーヌの方が速い。

 モモンガの前に立ちはだかり。

 突き立てられるナイフを、枕を盾に受け止める。

 襲撃者はナイフを手放し、瞬時に距離を取った。

 

「へぇ……確かにこれは……」

 

 襲撃者が興味深そうに、反応したクレマンティーヌを見る。

 

「どういうことだ……?」

 

 モモンガが、シーツで裸身を隠しつつ襲撃者を睨んだ。

 クレマンティーヌは即座に、枕に刺さったナイフを手に取り、構えている。

 こちらは裸体のままだが、機能美に満ちた肉体は研ぎ澄まされ。

 今までの、快楽に溺れた時間を感じさせない。

 

「お叱りは後でお受けします、モモンガ様。少々、興味深い事例を見つけましたので」

 

 煽情的な衣装のメイド――ソリュシャンが、淡々と答え。

 別のナイフを取り出し、構えた。

 かつてのクレマンティーヌなら飛び出し、交戦しただろうが。

 今は状況を知るべく警戒し、留まる。

 

「……模擬戦ということで、軽くいかがです?」

 

 ソリュシャンが冷たく笑い、挑発するが。

 クレマンティーヌは無視。

 

「聞いていたより慎重ですね。最初の防御が、まぐれか否か、しっかり吟味させていただきたかったのですが――」

 

 言いつつ、床をすべるようにメイドが迫る。

 しかし、対するクレマンティーヌに動揺は見られない。

 

「――〈超回避〉〈即応反射〉」

 

 体をひねり、切っ先をかわしつつ。

 体勢を戻す武技によって、己のナイフをメイドの喉に付きつける。

 

「お見事」

 

 追い詰められても、ソリュシャンは余裕ある笑みのまま。

 

「……満足したー? メイドちゃん」

 

 クレマンティーヌはつまらなさそうに言い、突き付けたナイフを離す。

 

 開かれた扉の向こう。

 廊下から、軽く拍手の音がした。

 

「アルベド!」

 

 現れた女性に、モモンガが嬉しそうな声をあげる。

 

(……なんだよ。守ってやったのに。先に私に礼くらい言えってーの)

 

 一方、クレマンティーヌは。

 アルベドへの恐怖より先に、なぜかモモンガへの苛立ちを感じていた。

 

 

 

 ソリュシャン、ルプスレギナにより、クレマンティーヌは連れて行かれた。

 モモンガは、丁重に扱うよう言ったが。

 二人は苦々しい顔をして見せ、クレマンティーヌは心細そうな顔を見せた。

 

(無理を言ってでも、部屋にいさせるべきだったかな……)

 

 少しだけ心配するが。

 目の前にアルベドがいる以上、モモンガの頭の中はすぐに情念で塗りつぶされる。

 

「やっと仕事が終わったのか、アルベド……様。こ、今度から仕事が溜まったらきちんと言ってくれ。伴侶として、お前が仕事の間を待つくらいはするし……少しは手伝うからっ」

 

「ありがとう……モモンガ」

 

 “様”と呼ばれて、目を見開くアルベドだが。

 下を向いて、その驚愕を主に見せまいとする。

 そして、シャルティアを連れて来なくてよかったと、安堵した。

 

「それで……その、私も汚れたままだし、よかったらいっしょにお風呂……」

 

 おずおずと、艶めいた顔で誘ってくる主に、アルベドとて応じたいが。

 

「その前に。モモンガ様、守護者統括として報告があります」

 

「あ、ああ……仕事のことか。地上で何かあったのか?」

 

 “モモンガ様”と呼ばれ、露骨に気を落とす。

 できれば、おおっぴらにアルベドの奴隷になりたいのだ(アルベドにそんな気はないが)、

 

「いえ、現状ではおよそ問題なく。いくつか気になる情報はありますが、詳細を調べて吟味の上で、モモンガ様に報告させていただきます」

 

「では、内部か? 維持コストに問題でも出ているのか?」

 

「いえ。まだユグドラシル金貨への換金率に優れた品は見当たりませんが……幾百年の余裕がある以上、慌てる状況ではないと考えております」

 

 アルベドは冷静に、すらすらと答える。

 

「では、他に何の問題があるのだ?」

 

 少し拗ねたような顔になる。

 モモンガとしては、早くアルベドにかわいがって欲しいのだ。

 

「モモンガ様と、あの人間の女です。今しがた、ソリュシャンに行わせたテストで、重要な問題が判明しました」

 

 沈痛な面持ちであった。

 

「どういうことだ」

 

 その真剣な様子に、モモンガも真面目な顔になる。

 

(クレマンティーヌ様に、変なバッドステータスでも与えていたのか? それで私とするのは問題あるからしばらく……誰ともエッチなのナシとかそういう!?)

 

 頭の中はまったく真面目ではなかったが。

 

「……モモンガ様と交わって、あの女は相当のレベルアップをしております。来た折は、30レベル前後でしたが……今の彼女は最低でも40レベル以上はあるかと」

 

 種族特性を使わぬソリュシャンと十分に渡り合ったなら、そういうことなのだ。

 かつてのクレマンティーヌなら、反応すらできなかったはずなのだから。

 

「え? なんで?」

 

 予想外の言葉に、モモンガは呆然と問い返す。 

 

「申し上げにくいのですが……御身を性的に屈させるごと、一定の経験値が得られるのではないかと……」

 

「はぁぁぁぁ!?」

 

 モモンガの頭の中で、いつか見たバードマンが飛び回った。

 




 トラップカード発動! 『エロゲーの法則』!
 多くのファンタジーエロ主人公が経験値稼ぎする方法で経験値稼がれてしまう系ボス(長い)だったモモンガさん。そう、モモンガさんの転移後人生こそ実はエロゲーだったのだ……(主人公側とは言ってない)。

 さすがに倒した扱いにはならず、一部経験点のみ。
 クレマンティーヌは100レベルに至ってませんが、かなり強化。
 ただ、方法が方法なのでエロ系クラスを獲得し、レベルアップさせてるだけです。
 戦士としては、ほぼ基本能力値底上げのみ。


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データおまとめ

 手元で裏設定的に書いて来たデータが溜まってきたので。
 新話投稿のできない日に、代わりに投下。



 これらは本二次創作独自設定であり、公式とは何の関係もありません。

 また、神聖属性に対する邪悪系属性が何なのか今一つわからなかったので仮に「暗黒属性」としています。

 原作アインズ様が使う主なのは「死霊属性」かなと思うんですが。

 (実際、今のD&Dに倣うなら全て死霊属性)

 かといって悪魔系は無属性や火属性ばかりと考えるのも……ということで。

 あまり本作事自体と関係ない、裏設定と考え、気楽に流していただけると幸いです。

 

 

■クレマンティーヌが追加で得たクラスと特性

 

 以下のデータにより、複数の呪文を獲得しています。

 戦士職と関係ないクラス&スキルのため、当人は今一つ成長を自覚していません。

 呪文を使った経験がないため、一定の危機的状況に陥るか、相応の手ほどきを受けるまで使用できません。

 

 

●プロスティテュート(一般) Lv.5

 性的技巧の多くを納める娼婦のクラス。

 当然ながら『ユグドラシル』には存在しない。

 クレマンティーヌは自ら快楽を求めず、モモンガを主に攻めていたため、性的奉仕としてこのクラスを得た。

 戦闘力は一切ないが、性的技巧全般を高め、対人能力もいろいろと上昇している。

 恋愛関係の地雷回避能力も高い。

 最高位までマスターしたため、以下のスキルを獲得している。

 

〈最高位娼婦〉

 一定時間、近接距離にいた存在に「魅了」のバッドステータスを与える。これは戦闘中でも発動し続けている。

 条件が厳しいので、ユグドラシル的には意味がないスキル。

 ただし、実生活では手をつないで散歩するだけで魅了されるし、同じ部屋で寝ると同性でも魅了される。

 

 

●コラプテッド    Lv.5

 悪魔に誘惑され堕落した者を示すクラス。

 各種の暗黒系クラスの前提クラスにもなりうる。

 また「堕落の種子」などで小悪魔に変化した際、このクラスは任意の中級悪魔系種族に変化する。

 当然ながらクレマンティーヌは自動的に、女淫魔(サキュバス)へと変化する。

 データ的には劣化悪魔系種族だが、悪魔崇拝者の面もあるため信仰系呪文も一部取得できる。

 このクラスから悪魔化した場合、取得した信仰系呪文を種族制限・クラス制限を無視して持ち越せる。

 (ごく一部の信仰系なので、大きな影響はないが)

 想定される獲得スキルは以下の通り。

 

〈悪魔の特性〉

 暗黒・火・氷への抵抗力が上昇。ただし、神聖系が弱点属性となる。

 

〈堕落のオーラ〉

 自身の精神系抵抗力が低下。一方で、近接距離の人間種、基本カルマ値プラスの亜人種&異形種も精神系抵抗力が低下する。

 

〈悪魔の下僕〉

 中立の悪魔系種族から同種と認知される。悪魔系モンスターからのヘイトが低くなる。

 ゲヘナの中にいても、まず襲われない。

 

〈伝染する堕落〉

 自身が精神系バッドステータスを受けた際、近接距離の人間種、基本カルマ値プラスの亜人種&異形種のいずれかの1体に同じバッドステータスを付与する。

 

〈退廃の宴〉

 自らランダムな精神系バッドステータスを受ける代わり、自身と周囲の味方にバフを与える。

 自身が受けるバッドステータスは七つの大罪にちなんだもの(「怠惰」や「憤怒」など)。

 小悪魔(インプ)も同様のスキルを所持。

 

〈欲望の結実〉

 1日に1回、HPとMPを消費して悪魔系アイテムを1つ作成する。これには「堕落の種子」も含まれる。

 小悪魔(インプ)も同様のスキルを所持。『ユグドラシル』では使えない製作系スキルだった。モンスター系で取得している悪魔はおらず、ナザリックNPCにもいない。クレマンティーヌは、出産仕様でアイテム“産み”出す。

 

 

●ドミネーター    Lv.3

 他者を威圧的なオーラによって支配する暴君を示すクラス。

 主に精神系呪文を習得可能。レベル5で〈支配(ドミネート)〉を習得できる。

 戦士系パラメーターも上昇するため、『ユグドラシル』では60レベル以上が条件の上級クラスである。

 想定される獲得スキルは以下の通り。

 

〈威圧〉

 基本能力。行動を消費し、よりレベルの低い相手に「恐怖」か「屈服」の効果を与える。最大でレベル合計が自身と等しい相手に対して使用できる。適用範囲は声の届く範囲。転移後は〈伝言(メッセージ)〉越しでも可能。

 

〈支配のオーラⅠ〉

 近接距離の、レベルがより低い相手に対して、各種戦闘ボーナスを得る。半分以下のレベルの相手には、ボーナス上昇。

 

〈支配のオーラⅡ〉

 近接距離の、レベルがより低い相手に「委縮」のバッドステータスを与える。「委縮」は精神系魔法や精神系異常への抵抗力低下。これらオーラを同時に発動した場合、よりランクの低い効果から順に処理される。敵対していなければ、近づくだけで怯んでしまう。

 

〈支配のオーラⅢ〉

 近接距離の、レベルがより低い相手に「従順」のバッドステータスを与える。「従順」は精神系バッドステータスであり、精神系効果への抵抗を大幅に低下させる。敵対していなければ、文字通りの意味で従順になる。

 

 

●クレマンティーヌが取得可能性のある呪文

 〈人間種魅了(チャーム・パーソン)〉〈恐怖(フィアー)〉〈恐慌(スケアー)〉〈人間種束縛(ホールド・パーソン)〉〈麻痺(パラライズ)

 〈武器魔法化(マジック・ウェポン)〉〈静寂(サイレンス)〉〈加速(ヘイスト)〉:従来の補強となる呪文

 〈清潔(クリーン)〉〈無臭(オーダレス)〉:三日間の間に無自覚で何度か使っている?

 〈生命力持続回復(リジェネレート)〉:三日間の間に無自覚で発動している……?

 〈第?位階悪魔召喚(サモン・デーモン?th)〉:第四位階程度まで?

 また、ユグドラシルにない性的なオリジナル呪文を取得した可能性あり

 

 

 

■付記:女淫魔(サキュバス)おまとめ

 

 ユグドラシル時のフレーバーに「相手を誘惑し襲うが、逆に屈服させられれば隷属し、従順な使い魔となるという」とあり、転移後のアルベドとモモンガは、そうした設定に引きずられています。特にそんなマイナススキルはなく、単なる設定だったのですが……。

 アルベドはそうした屈服をまだしておらず、モモンガの気持ちがよくわからずいます。

 

 呪文ほどでなくとも、多くのクラススキルは相応の数があり、最大レベルになったからと全スキルを習得できるわけではないと想定しています(自動取得スキルもあるでしょうが)。

 サキュバスは人気高そうだし、多数スキルがあってもいいかなと思ったり。

 よって、アルベドとモモンガで、取得差異があると想定しています。アルベドはクラス取得に合わせてスキル取得していますが、モモンガは〈星に願いを(ウイッシュ・アポン・ア・スター)〉で無理矢理変わったため、ランダム取得です。

 

 以下が想定しているスキル。()内が取得キャラです。

 あくまで裏設定なので、本編が進む中で修正したり、変更されたりする可能性もあります。

 

〈再生能力・弱〉(アルベド・モモンガ)

 強制常時発動。トロールほどではないが、HPを常時回復。

 ただし、トロールと異なり外傷系バッドステータス(出血や炎上など)への強い抵抗力も備える。

 たぶん基本スキルというか種族特性。

 性的絶倫をイメージしている。粘膜擦傷や粘膜劣化を抑える効果もある。このため、衣服で乳首が擦れたりしても一切のダメージを受けず刺激のみ受け続ける。

 

〈誘惑の所作〉(モモンガ・アルベド)

 常時発動、オンオフ可。戦闘中、低確率で中距離以内の敵を「魅了」状態にする。

 多数相手では強力な効果を発揮し、一定数を毎ラウンド「魅了」するだろう。

 たぶん基本スキルというか種族特性。

 転移後は戦闘に限らず、一定の肉体を動かす行動全般に適用される。

 さらにフレンドリーファイアが通るため、味方も「魅了」する。

 複数の「魅了」は上書きされるため、ある種の魅了対策とも言えるか。

 さらに魅了率は露出度に比例し、完全武装時のアルベドはこのスキルがほぼ無駄になっている。

 普段のアルベドはオフにしているが、モモンガは常時使用。

 当然ながら行為中は戦闘扱いとなり、クレマンティーヌは魅了されていた。

 

〈ドレインタッチ〉(アルベド・モモンガ)

 接触によって対象に暗黒属性ダメージを与え、また自身を回復させる。

 任意にオンオフできるが、基本は常時発動。サキュバスの基本スキル。

 本編では描写していないが、最初にNPCらと触れ合いつつ地上に向かった時に自覚し、オフにした。

 ただし、同様のスキルを持つアルベドと二人きりなら積極的に使う。

 (シャルティアは、接触によるドレインは持たないとする)

 転移後裏設定として、サキュバス同士でこのスキルを使用して触れあうと、生命エネルギーがぎゅいんぎゅいん循環して、触れてるだけで常時セクロス状態になる。実際の行為に移るとさらに凄い快楽を与える。このため、モモンガはいつまでたっても、アルベドとの行為は特別視している。 

 

〈淫欲の化身〉(アルベド・モモンガ)

 強制常時発動。非ダメージ型バッドステータス(拘束や恐怖など)を受ければ、自身にバフを得る。

 受けたバッドステータスが増えるほど、受けるバフは高まる。

 たぶん基本スキル。このため、プレイヤーのサキュバスが壁役構成になりやすい?

 バーサーカースタイルとも相性がいい。

 

〈欲望のオーラ〉(アルベド・モモンガ)

 ユグドラシルでは近接距離の精神抵抗を低下させる。

 転移後は精神耐性のない相手を自身に欲情させる(理性で抑えられる程度に)。

 この欲情効果は、接触ならほぼ貫通。精神抵抗弱ければ、姿を見ただけでも効果あり。

 基本スキルではないが、推奨される鉄板スキル?

 

〈鋭敏感覚〉(アルベド・モモンガ)

 強制常時発動。ユグドラシルでは奇襲や不可視化への対抗ボーナス。一部の盗賊職スキルへのボーナス。

 転移後は、五感全般が鋭くなり、性的感度上昇。指や舌の(一部状況での)器用度上昇。

 実はアルベドもかなり感じやすい体なのだが、目下はモモンガの受け身プレイのため活かされていない。

 

〈被虐の悦び〉(アルベド・モモンガ)

 味方の攻撃対象となった時、全能力値バフを得る。レベルが上がれば、バフは重複で得られる。

 範囲攻撃に巻き込まれた際は発動しない。「対象」に選ばれる必要あり。

 複数対象を選べる攻撃スキルや呪文使用時、選んでもらう形になる。

 フレンドリーファイアがなかったユグドラシル時は、単に変な条件のセルフバフ。

 転移後は危険度高いため戦闘ではまず使わない。ただ、性的屈服ごとにもこれは発動している……。

 モモンガさんが事後、やたら冴えてる理由。

 

〈悪魔の領域〉(モモンガ・アルベド)

 中級悪魔系種族の共通スキル。近接系スキルの範囲を、ショートレンジまで広げる。

 他のスキルとの組み合わせが重視される、コンボ系スキルの要。

 アルベドはカバーリング系や近接攻撃範囲拡大に、モモンガは各種オーラの範囲拡大に用いる。

 このため、本気モモンガが地上に出てオーラを放つと、原作より大惨事発生しやすい。

 また、現地キャラクターが取得すると、一部の武技範囲が拡大されるかもしれない。

 

〈嗜虐の昂ぶり〉(アルベド)

 近接ダメージを与えるごと、自身に微弱バフ。レベルが上がれば、バフは重複で得られる。

 ただしダメージを受けるごと、このバフは一段階ずつ失われる。

 連続攻撃系スキルと相性がいいため、アタッカーに与えられる場合が多い。

 転移後はモモンガへの性的攻撃でも逐一発動しており、アルベド自身を興奮させていた。

 なお、設定だけのビッチなので、転移直後キスのアルベドは童貞メンタルであり、抑えが効かなかった。

 

〈淫魔の触手〉(アルベド)

 ユグドラシルでは近距離対象の足元から生え、精神属性ダメージと共に拘束と魅了のバッステを与える。

 レベルによって本数は増え、サキュバス10レベルなら3本出せる。上位クラス取得によってさらに増加。

 転移後は、当人の肉体の任意箇所から任意の形で発生可能。与えるバッステも選択可。

 直接挿入すればもちろん、あらゆる抵抗を貫通してバッステ与える。当然ながら、生殖能力はなし。

 

〈淫魔の抱擁〉(モモンガ)

 近接距離の攻撃兼回復スキル。対象に高確率でランダムな精神系バッドステータスを与えるか、あるいは対象が受けている精神系バッドステータスを全て解除する。

 ユグドラシル時代は抱擁と言いつつ、翼が伸びて包むだけで接触できなかった。

 転移後、モモンガは翼をほぼ使わず、クレマンティーヌ含め触れた相手に回復スキルとして数え切れないほど使っている。アルベドが初夜以後、やたら冷静になった理由の一つでもある。ソリュシャンもこれにより原作より冷静。

 当人のスペックや設定を変えるものではないので、シャルティアには変化がない。

 

〈誘惑者の手管〉(モモンガ)

 デバフ系の呪文・スキルの使用時、相手の抵抗力を低下させる。

 一部効果において常時発動する〈魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)〉。

 アルベドは戦士タイプなので取得していない。

 ユグドラシル時代のモモンガなら、「使えなくもない」程度のスキル。

 しかし、転移後では〈絶望のオーラ〉が抵抗不可の確殺能力になる。

 

〈敗北の代価〉(モモンガ)

 敗北ごとに、わずかながら金貨を得られる。金貨の額はレベル換算。蘇生費用の半額程度?

 勝者がサキュバスを弄んだ代価を魂で支払ったためとも、大悪魔がサキュバスの戦いを娯楽として愉しんだ代価とも。アレな理由を想定されてか、フレーバーでもぼやかされていた。

 ユグドラシル時は敗北=死亡のため、死にスキル(デスペナもあるし)。

 転移後は、性的敗北ごとにも死亡時ほどでなくとも稼げている。このため、冷静にイベントリを見れば、驚くほどの額が溜まっているのだが、モモンガはろくに見ていないので気づいていない。ただ、維持費のために抱かれる生活とか絶対イヤなので、気づいても黙っておく。追い詰められなければ言わない。

 

 

小悪魔(インプ)時点で取得していると想定している能力

 

・暗黒属性、火属性、氷属性への耐性と、神聖属性の弱点化

・暗視能力

・寝食不要、排泄不要(望めば可能)

・疲労耐性(完全な無効ではない)

 





 絶対的な確定情報ではないので、今後修正したり変更する可能性多々あります!(再)


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19:屈しない!

 有能なアルベドさんの舞台裏回です。タイトルがよくわからなくなってきてますが、アルベドさんは勝利を諦めず努力を続けています。


 ナザリック地下大墳墓、第五層。

 氷結牢獄。

 真実の部屋。

 人間ならば身の毛のよだつ、悲鳴と絶叫に満ちた場所。

 だが、今の来客らには最も落ち着く妙なる調べであった。

 

「それはまた、贅沢な悩みだね」

 

 長身の悪魔が皮肉げに笑い、肩をすくめる。

 

「私個人の悩みなら、話さないわよ。けど、私一人に固執なさるのは、ナザリックにも、モモンガ様ご自身にも、よくないでしょう?」

 

 対する女淫魔(サキュバス)は真剣な表情。

 

「御身の寵愛を一身に受けて、守護者統括殿は何を悲観するのかな?」

 

 悪魔は薄く笑い、問う。

 理由がわからぬではない、ただもう一人に説明させるためだ。

 

「そうよそうよん! シャルティア達ばっかりずるいわッ! 私だって、仲間に入れて欲しいのよん!」

 

 響いていた悲鳴が止まり、異形が会話に割り込んだ。

 特別情報収集官ニューロニストである。

 

「私だって、あなたも紹介したのよ。でも、あの姿になったせいか……モモンガ様は、あなたを愛らしいとは思っても、そういう対象には思えないそうなのよ」

 

「な、なんですってェーッ! じゃあペット! ペットはどうなのよん!?」

 

 必死である。

 至高の御方のペットは、ナザリックの誰もが憧れる地位なのだ。

 

「今はルプスレギナと、新しく入れた人間の女で手一杯……って様子ね」

「キィーッ! あの泥棒犬! それに何よ人間って! 至高の御方々に酷いコトした連中じゃない!」

 

 その言葉に、笑いながら会話を聞いていた悪魔――デミウルゴスの尾が床を叩く。

 アルベドの翼も、びくりと跳ねた。

 かつて骸骨の魔法使い(スケルトンメイジ)だったモモンガを、人間種プレイヤーが何度もいたぶり殺したという。それだけでは飽き足らず、同様の人間種プレイヤーどもは、三人の創造主――いや、至高の御方全員に、同様の非道を働いていたのだとか。

 あの日、モモンガの語った中でも最大の衝撃の一つである。

 ナザリックのNPCならば、誰もが気の狂いそうな怒りに駆られる逸話だ。

 もし、その人間がいるなら……世界もろとも滅ぼさねばと思えるほどに。

 彼らですらそうなのに、当事者だったモモンガら至高の御方の胸中はいかばかりか。

 

「よしたまえ。モモンガ様もおっしゃられた通り……人間種全てを憎んでは、モモンガ様を害した連中と同じだよ」

「それに今のところ、連れて来た人間はどれも、モモンガ様に気に入られているでしょう?」

 

 ニューロニストのみならず、己自身にも言い聞かせる。

 デミウルゴスもアルベドも。

 彼の件について、冷静でいるのは難しいのだ。

 そしてちょうどその時、囚われ拷問を繰り返されていた男の一人が口を開いた。

 幾度も拷問を受けた男のその精神力は、相当なもの……かもしれない。

 まさに奇跡的な、福音とも呼べるタイミングだった。

 

「ぐ……うう……そ、そこの女、この拘束を解けっ……この俺の側室にしてやる……」

 

 三人の視線が、その男に向いた。

 拷問を受ける者たちは、全裸にされている。

 アルベドに欲情したのか、その下半身では下劣な肉塊が隆起していた。

 

「これは?」

 

 アルベドが、至高の御方には決して見せない冷え切った目を向ける。

 おそらく至高の御方に向けても、悦ばれるのだろうけれど。

 

「あー……王国の第一王子、だったかな?」

「そうねん。かわいがってあげても、それしか鳴かない子よん」 

 

 三人の怒りが、ある意味で抑えられた。

 

「女! 助けろと言っているのがわからんのかッ! この俺を誰だと思っている! リ・エスティーゼ王国第一王子バルブロだぞ! 解放すればこの怪物どもを皆殺しにし、お前に俺の側室となる栄誉を――」

 

 アルベドの体を舐めるように凝視しながら叫ぶ様子は、まさに言葉を吐く下等生物。

 

「今ばっかりは、アルベドに同情するわねん」

 

 ニューロニストが助手たる拷問の悪魔(トーチャー)を手招き、差し向ける。 

 それが近づくだけで、男は野太い悲鳴をあげた。

 切れ間にまだ何か言っているが、三人は互いに肩をすくめる。

 

「なるほど。驕り高ぶった末はこうなると」

「力があるからと、人間種全てを見下せば……ね」

「確かに、ああはなりたくないわねん」

 

 互いに深く頷き合う。

 己が不覚を取った時、あんな風にナザリックの名、御方の名を使って命乞いをするとしたら。

 いや、命乞いですらない、現実を直視できず上位者気取りで振舞い続けるとしたら。

 それこそ、御身を害した連中の姿そのものではないか。

 

「反吐が出る」

 

 誰が言ったか、三人にもわからなかった。

 モモンガ様を救った、たっち・みー様は屑どもから風評被害を受け続けたと聞く。

 一方で、至高の御方と友情を育み、敬意を捧げてきた人間種プレイヤーもいたという。

 

「……やはり、至高の御方の言葉は正しいということだね。人間種という括りで、単純に判断してはならないということだ」

 

 どこか晴れ晴れとした様子で、デミウルゴスが言った。

 他の二人も、頷く。

 玉座の間に招かれたニグン、カジットは、これに比べれば遥かに好感の持てる傑物だった。

 クレマンティーヌという女も、思いのほかモモンガと仲良くしている。

 一方で、こんな()()を、至高の御方の目に触れさせてはなるまい。

 人間種は、個体によって大きく異なると認識すべきなのだろう。

 

 以来、バルブロ王子の扱いは変わった。

 

 人知れず拉致され、拷問を繰り返されてきたが、彼の誇り(だけ)高い魂は、いかなる苦痛にも屈さず。

 命乞いに金を差し出す言葉しか吐けぬ貴族や汚職官吏とは、一線を画した扱いを受けるようになる。

 より時間をかけてじっくり苦しむよう、懇切丁寧に拷問されるようなったのだ。

 これに、彼がどれほど自尊心を満たしたかは不明である。

 ただ、その後も彼の心が折れなかったこと、間違いない。

 彼は重要な()()となったのだ。

 人間種全体を憎みがちな守護者たちに、その愚かさを教える啓蒙者として。

 彼は人間種の中で、ナザリックのNPCの意識改革に最大の影響を与えたと言えるだろう。

 彼のおかげで、NPCたちは人間種殲滅という考えを捨てたのだ。

 姿を消して、むしろ少なからぬ人間に喜ばれたバルブロ王子だが。

 これは、歴史に刻まれるべき英雄的功績と言えるだろう。

 

 読者諸氏も、この世界に生きる人類ならばこう言わねばなるまい。

 ありがとう、バルブロ王子――と。

 

 閑話休題。

 

「さて、先の問いの続きだが。御身の寵愛を得て、何が問題なのかね?」

 

 デミウルゴスが再度問うた。

 ニューロニストは、その本業たる芸術的拷問に戻っている。

 

「寵愛ならいいのよ。でも、あの方は私に固執しているの」

 

 溜息。

 

「おやおや、随分と自己評価が高いようだね」

「茶化さないで。問題なのは、今のモモンガ様が……ご自身より、私を優先しかねないことよ。そして優先されるのは、私自身じゃなくて……御身の中にいる私なの」

 

 再び、溜息。

 

「そこまでかね。女冥利に尽きそうなものだが」

「くふーっ! もっちろんね! そりゃもちろん、嬉しいわよ! シャルティアにざまぁ!って言ってやったわよ!」

 

 モモンガの前では崩さなくしている相好が、だらしなく歪み、裂けんばかりの口がうにゃうにゃと妙な曲がり方をして笑みを刻む。

 

「ま、とはいえ御身を犠牲にされてはそうも言えまい」

「……そうなの。それに私を貪って来るならいいけど。モモンガ様は、私に貪られたがってるのよ。いえ、私に限らず、シャルティアやソリュシャンにも」

 

 瞬間芸の如く、真面目な顔に戻るアルベド。

 これと真顔で会話し続けるデミウルゴスは、相当な胆力(?)の持ち主と言えるだろう。

 

「だから、人間のペットかい」

「その人間にも、好きにされたがってるけどね」

 

 アルベドは真顔になると溜息しかついていない。

 それだけ、懸念も大きいのだろう。

 

「ふむ……不遜な考えと言われること、承知で言うが。モモンガ様は、支配を望まれておられないのではないかな」

「でしょうね。私に支配されたがってるみたい――私のことを、“アルベド様”なんて呼ぶのよ」

 

 最後は小声で言う。

 アルベド自身、不敬を承知。後ろめたいのだ。

 だが、デミウルゴスは、なんでもなさげに続けた。

 

「どうも統括殿は、モモンガ様だけに視点を注ぎ過ぎているようだね」

「……どういうこと?」

 

 冷静な悪魔も、不快に思うだろうと覚悟しただけに……アルベドが首をかしげる。

 

「私は“支配を望まれていない”と言っているのだよ。“支配されたい”ではない」

「え? ――いえ、そういうことなの?」

 

 アルベドが目を見開いた。

 

「先日、我々に真実を語られ、忠誠を試されただろう。あれは試したわけでなく……私たちに巣立ちを促したのだと思っている」

「つまり、私たちやナザリックに君臨する気がない……?」

 

 悔やむように、デミウルゴスが頷いた。

 

「私たちは甘え過ぎていたんじゃないかな。御身にとって、我らの上に立つことは負担なのだろう。だからこそ、あの話をされ、己を見限ってもよいなどとおっしゃられたはずだ」

「……そうね。モモンガ様も、甘えたいのかしら」

「キミの目から見て、どうなんだい」

「そう……かも」

 

 思い当たる点は……多すぎる。

 だとすれば、支配者でいてほしいと考えるこそ、甘え。

 アルベドが下を向く。

 

「先日の料理も、感激と共に食しておられた。語られた“リアル”の惨状から見るに、至高の御方々は、この世界の人間どもより酷い環境で暮らしておられたはずだ」

「……そうね。お風呂もすごく感動してらしたわ」

 

 おいたわしい……と、二人で悔やむ。

 しかも、ここに居ない残る40人は今も苦しんでいるのだから。

 

「だから今は、様々な娯楽を味わっていただくべきだろう。我々は御身の子として、今までの労苦をいたわり、支えるべきだと思うよ」

「だからこそ、好きにしてほしかったのに……モモンガ様は、好きにされたがるのよ」

 

 アルベドが悩ましく眉を寄せた。

 

「人間の娼館などで得た知識だが……支配者でいることに負担を覚え、ベッドで奴隷になりたがる者はそれなりにいるらしい。モモンガ様もそうではないかな? 玉座におられる時は、良き支配者として振舞われておられるように見えるが」

 

 キミの婚礼の日を除いて、とは口にしなかった。

 

「なるほど……あれは、ああいうプレイなのね。なら私を様付で呼ぶのも、寝室では受け入れないと……」

 

 アルベドとしても、そう言われればわからぬではない。

 そして、支配者として在るが負担なら、なるべく部屋に留めるべきなのだろう。

 

「そうだね。そういった嗜好と考え、キミたちの方で受け入れた方がいい。まあ、統括殿への固執については、御身の側室や愛妾を増やせば解決しそうだが」

 

「そうね……その点だけど、やっぱり私たちではプレイでもモモンガ様を奴隷扱いなんて恐れ多いし……適当に価値のある人間や、特殊技術のある人間で、モモンガ様が好みそうなのをまた確保してもらえる?」

 

「あのカジットやクレマンティーヌ程度でも、外ではかなりの実力者なんだが……お好みも把握しきれていないし……女性の方がいいのかい?」

 

 デミウルゴスが首をかしげる。

 さすがに、房事の好みについては、アルベド以上に把握する者はいまい。

 

「たぶん……ね。でもカジットの扱いを見るに、お相手以外でも現地の人材を求めてるみたいだし。ああいう汚物じゃなく、使えそうで己をわきまえる賢さのある人間は……なるべく、お会いいただきましょう」

 

 チラッとバルブロ王子に目を向ける。

 アルベドの気分は、引きこもりの子を持った母親である。

 

「なるほど。なら連れ去るに限らず、同盟を結べそうな人間も見繕っているから、会っていただくべきかな」

「ただ、野心が強すぎるなら、寝室に招かない方がいいわね」

 

 冷たい目で、アルベドが言った。

 

「どういうことかな」

 

 これが本当の本題か、とデミウルゴスも目を光らせる。

 

「モモンガ様が受け身な以上……ベッドの上とはいえ、人間に屈するでしょう? その時に、どうやら相当の経験値を与えるようなの。先日のクレマンティーヌは40レベルを超えたわ」

 

「なんと! では、『強欲と無欲』を装備すれば――」

 

 ノーリスクかつノーストレスで、相当の経験値を得られるのでは。

 

「軽く提案してみたけど、叱られてしまったわ」

 

「どうしてだい。今後の防衛、また攻勢においても、経験値の貯蓄はいくらあっても――」

 

 モモンガの超位魔法の実験もしなければならない。

 

「経験値目当てで抱かれたくないんですって。その点は、個人として私も賛成ね」

 

「女心だね」

 

 デミウルゴスが苦笑した。確かに、彼の思い描く至高の御方とは異なる。

 

「そうね。でも、そういうところが、モモンガ様はかわいいの……くふーっ!」

 

 アルベドの憂いを帯びた表情も、最後で台無しだった。

 

「それはそれは、ごちそうさま」

 

 肩をすくめるデミウルゴス。

 

「でもね、現地人のレベルアップ実験と検証は必要でしょう? 種族変更の実験も。あのカジットという男に種族変更をおっしゃってたけど、当分無理そうだし……それともう一つ、あなたにも頼まなければいけないわ」

 

「失敗してもよく、成功してもそれなりに有益な人材だね。いいだろう……頼みとは?」

 

 地獄に落とす候補者たちを、頭の中で眺めつつ問う。

 

「基本種族を集めても仕方ないもの。大悪魔(アーチデビル)のスキル、〈悪魔の昇格〉を試してほしいの」

 

 それは召喚等で使役する悪魔系モンスターを、より高位の悪魔に変更するスキル。

 通常は第三者に使用したりできない。

 だが、この世界なら服従させ、受け入れさせれば……と考えたのだ。

 

「なるほど。小悪魔(インプ)を増やすより、女淫魔(サキュバス)にしてモモンガ様の相手に、ということかな」

「そういうこと。適当な人間に試してもらえる?」

「かまわないよ。私も個人的に興味がある。現地で特殊な悪魔が発生するかもしれないしね」

 

 そして二人は互いの持ち場に戻る。

 後には、無数の悲鳴と――未だ屈しないバルブロ王子のうめき声が残った。 

 




 今後も、バルブロ王子は、ニグンさんやカジットさん、クレマンさんがいかに立派(マシ)な人間なのか、ナザリックの面々に教えるべく、高圧的で下劣な命乞いをし続けるのでした。
 王国貴族は既にあらかた処置済です。

 一方で、ここのモモンガさんはレベル、経験値、呪文、レアアイテムへの関心も薄いです。システムやデータの検証もほとんどしてません。
 比較的頭のいいNPCのみんなが、そのあたりのユグドラシルとの差異検証をがんばってます。検証結果や世界とのズレは、報告書としてアルベドが受け取り、ソリュシャンと二人で頭に入れるようしたり。モモンガさんが困った時は、横から教えてくれます。
 原作ですぐわかったのに未だ知らないこともあるでしょうが……話がややこしくなるので、幕間で教えてもらってるものと思ってください(字が読めないとか、オリジナル呪文あるとか)。

 なお、モモンガさんはベッドの外でもアルベド様って呼びたがってます。


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20:わけがわからないよ

 選ばれた実験台。

 途中で切るとどうしても中だるみするので、いつもより長いです。



「ヒルマ・シュグネウスと申します」

 

 軽く礼をし、艶めいた笑みを浮かべて見せる彼女は、モモンガが初めて見るタイプだった。

 女性にしては背が高く、肉付きはやわらかい。

 アルベドよりは、モモンガに近い肢体の持ち主である。

 だが、全身から退廃的な色香を溢れさせ、目に見えるほどの自信をまとっている。

 

「ほう――同じ女淫魔(サキュバス)でも、随分と違うものだな」

 

 ローブを着てナイトテーブルに座るモモンガ。

 魔法のティーポットから冷めぬ茶をカップに注ぎ、席を勧める。

 

「では、失礼をいたします」

 

 小さく会釈し、勧められるままに席に着く。

 その時も、かすかな誘惑と色香を織り交ぜておく。

 女淫魔(サキュバス)となったヒルマには、あらゆる香りが敏感に感じられる。

 茶は、高級娼婦として多くの貴族の屋敷を訪れた身とて知らぬ、豊潤なもの。

 また、部屋は甘い淫らな香りで満ちている。

 ヒルマにも、そうした相手を望んでいるのだろう。

 その気のない同性間ではありえぬ視線が這うのを、感じる。

 女性相手はあまり経験がないが……できぬわけでもない。

 

「高級娼婦だったというヒルマの口に合うかわからんが……」

 

 茶を勧め、自ら先に口をつける。

 格式ばった様子もない、砕けた自然体だ。

 傲慢や劣等感でない、生まれながらの上位者の振る舞い。

 少なくとも下衆の類ではない。

 相手が恐るべき実力を持ち。

 美しさにおいて、()()()()()()()己と同じかそれ以上とわかっていても。

 娼婦として呼ばれた以上、ヒルマには娼婦の矜持を捨てる気はなかった。

 

「かつての……いえ、かつてより美しい姿にしていただけたこと、真に感謝を。選ばれし身として、モモンガ様には、けして後悔させません」

 

 その感謝に間違いはない。

 かつての全盛期か、それ以上に美しい姿を与え。

 人ならざる――本当の意味での“力”をくれた。

 しかも、服従を強いられてもいない。

 八本指で麻薬部門を支配した時より、よほど晴れ晴れしい気分だ。女としての自信に満ちている。

 もっとも、好き勝手できるわけではない。

 女淫魔(サキュバス)の本能が、目の前の相手を逆らうべからざる上位者だと教えてくれる。

 そんな相手を蕩かせ、己に溺れさせるには……対等で振舞わなければならない。己が対等の恋人やパートナーだと、錯覚させねばならない。高級娼婦として経験を積んだヒルマなりの、処世術である。

 もちろん、愚かな小物には媚びて見せもするが……目の前の相手は、違う。

 

「いや。私こそ、お前には期待している。皆の前ではそうもいかないが……他の者がいない時は、砕けたもの言いでかまわん」

 

 微笑み、軽く手を振るモモンガ。

 当たりだ、と。

 ヒルマは内心で快哉をあげた。

 妙なプライドに凝り固まらず、変に恰好をつけようともしない。目下を思いやる器量もある。

 露骨な傀儡とするには、周りが恐ろしすぎるが。

 取り入って、いくらか融通してもらうのは容易だろう。

 

「ありがとうございます――いえ、ありがとう。モモンガさんとお呼びしても?」

 

 少し距離を詰めてみる。

 これだけ実力の差があれば、失敗でも許してくれるだろう。

 許さなければ、狭量の証となってしまう。

 

「モモンガでよい。私も呼び捨てているのだからな。むしろ、仕事を思えば、ヒルマが私の上に立つ時もあるだろう」

 

 少しだけ警戒をした。

 ちょろすぎる。

 当人に演技は見えないが……監視はされていると見るべきだろう。己の屋敷にあっさりと忍び込み、己をさらってきた手際……最近の仲間や貴族の失踪。少しだけ見せられた、地獄落ちの者ども。

 そんな中、ヒルマは娼婦としての経験を評価され、選ばれたのだ。

 実際には、失敗しても問題ない身として、種族変更の実験台になったのだが。

 ヒルマ自身は、能力を評価され選ばれたつもりである。

 

「それで……あたしには何を? モモンガに会って来るよう、デミウルゴス様やアルベド様に言われただけなんだけど」

 

 気安い口調にする。

 二人の態度から、この集団のトップをモモンガと判断していた。

 

「うむ。それなのだが……私に、娼婦としての技術を教えてほしいのだ」

 

 恥ずかしそうに言う様子は、いかにも初々しく愛らしい。

 熟れた体と相まって、男には大いに喜ばれるだろう。

 ヒルマも、そんな風に考えながら――ふと、言葉の意味を反芻した。

 

「えっと、夜の技術を磨きたいってことかい?」

 

 モモンガが、こくんと無言で頷く。

 愛らしくも艶めいて、実際に娼婦なら相当の人気が出るだろう。

 とはいえ、貴族の夫人が勘違いして聞いて来るなど、高級娼婦には少なからずある。

 己を役立たずにせず、かつ上手く話を持って行かなければならない。

 

「あたしも女淫魔(サキュバス)になったから、アレが大事なのはわかるけど……とりあえず、相手は特定の一人かい? それとも不特定かい?」

 

 そんな時は、夜の技巧があれば恋人に捨てられないと思っている可能性が高いのだ。

 モモンガもやはり、小さくぽつりと一人だと言った。

 

「それはモモンガの好きな人なんだね?」

 

 また、頷く。

 

「名前や立場を言いにくい人なのかい?」

 

 無言で頷くなら、そのあたりを説明しづらいのか。

 あるいは一方的な恋なのか。

 当人は恋のつもりで、ただ弄ばれている時もある。

 

「そんなことは……ない。アルベドとはちゃんと結婚、したし……」

 

 おずおずと言う様子には緊張感があり。

 相手からの想いに不安を抱く様子がうかがえた。

 

(えっ、アルベド様? あんな恐ろしいのと……いや、でもこの子の方が立場は上だったね) 

 

 ヒルマにとって、アルベドは恐ろしい存在である。

 名前を聞いただけでも、恐怖に震えんばかり。

 デミウルゴスと共に、おぞましい地獄の光景を見せ、己がそこに行かず済んだこと、何度も感謝させられた。

 女淫魔(サキュバス)に変わってからは、格の違いを見せつけられ、屈服せざるを得なかった。

 知性、暴力、残虐、すべてにおいて敵わぬ存在。

 

 一方で、目の前の同族からは、そんな威圧感を感じない。

 むしろ、妹分のような愛らしさを感じる。

 

「じゃあ、その相手と……自身について、なるべくでいいから客観的に教えてくれるかい? 関係や相手によって、するべき振る舞いも違うからね」

 

 惚気(のろけ)話を聞くことになるだろうが、その程度は馴れている。

 貴族の阿呆な自慢話よりはよほどマシだろう。

 

 

 

(なるほど……こりゃ、マズイね。アルベド様が会ってくれって言うわけだよ)

 

 惚気話を語りながら時折、瞳に暗い、怨念めいた影が宿る。

 ヒルマは、こうした目で恋を語る女を、少なからず見て来た。

 多くは騙されて娼婦になった女であり。

 ろくでもない破滅をしていった……ヒルマからすれば、弱者だ。

 そして問題は、目の前の強者(らしき存在)が、同じ目で同じように恋を語っていること。

 おかしい、間違っていると断じても解決しない。当人が納得しない。

 格上相手に指摘すれば、怒った相手に殺されかねない。

 格下相手でも、同僚がおせっかいを焼いて刃傷沙汰になった時もあったのだ。

 

「……で、アルベド様は他の女と関係を持てっていうのかい?」

「ああ。ヒルマもきっと、そういう意図で送られてきたのだろう?」

 

 うっそりとした目を向ける。

 望んでいないが、相手のために抱かれるという意識が見える。

 

「指南役だよ。どんな相手とどんなことしてきたんだい?」

 

 聞いてみて少し後悔した。

 バケモノの巣窟だけあって、まともな行為ではない。

 スライムに全身飲み込まれるプレイとか、理解を超えている。

 

「……モモンガ、結論から言うとね。どれだけベッドで上手になっても、相手は惚れてなんてくれないよ」

 

 女淫魔(サキュバス)はまた違うのかもしれないけどね、と続ける。

 

「えっ? ならどうすればいいんだ?」

 

 心底驚いたように目を見開く。

 体は十分熟れて、色事の経験も偏ってはいるが己以上に思えるが。

 ひどく初心で、恋愛について何もわかっていないのだ。

 

「いろんな客を相手にする娼婦ならともかく、固定客相手の――あたしみたいな高級娼婦は、ちょっと違うのさ。アンタだって、大事なのはアルベド様に惚れてもらうことで、気持ちよくすることじゃない。そうだろ?」

 

 モモンガは何回も大きく頷いて見せる。

 見つめて来る目も熱を帯びて、男なら勘違いするだろう。

 そんな彼女が愛らしく思えて、ヒルマは髪を撫でる。

 目下からそうされても、くすぐったそうにするだけで嫌がらない。

 

「あたしはアルベド様を、ちらっと見た程度だけどね。仕事で忙しくなさってるんじゃないかい?」

 

 仕事で張りつめたタイプ、有能なできる女に見えた。

 モモンガを撫でながら、聞いてみる。

 

「そうなんだ……でも、私はいつもそばにいてほしくて……」

 

 少し、暗い光を目に灯している。

 

(拘束はしたいけど、しない分別はまだあるんだね。閉じ込めたいとか言わないなら、まだ目はあるか)

 

 冷静にモモンガを観察し、分析しつつ。

 ごく自然体を装って、言葉を紡ぐ。

 

「なら、側にいる時はしっかり休ませてやりなよ。モモンガはアルベド様の前じゃ、はしゃいじゃいないかい?」

「う……確かに」

 

 心当たりがありすぎて、落ち込んでしまう。

 

「男女に限らず、ちょっと遊ぶなら派手な相手を選ぶもんさ。若けりゃそんな相手とも、けっこうな時間を遊んでられるだろうよ。時間の余ってる身なら、なおさらね」

 

 モモンガは、真剣な目で話を聞いている。

 言葉だけで突然、殺されたりはしないだろう……と、ヒルマは言葉を続けた。

 

「けど、仕事ってのは疲れるもんさ。疲れたなら……休みたいだろ? だからね、長く関係を続けられる相手ってのは、いっしょにいて安心できるってことさ。モモンガはアルベド様にお熱なんだろ? 傍にいたら、周りが見えなくなっちまったりしないかい?」

 

 言葉を切って反応を待つ。

 

「…………」

 

 モモンガは何度も躊躇して……重々しく、頷いた。

 

「別に悪いことじゃないさ。恋ってのは、そういうもんだからね」

 

 ヒルマとて、恋の一つもせずに生きて来たわけではない。

 

「けど、相手も熱くなってないと、ろくな結果になりゃしないよ」

 

 軽く、現実を告げてみる。

 

「えっ……」

 

 得体の知れない、部屋の気温が下がるような何か。

 かつて見知った女たちと同じ、情念の揺らぎ。

 ヒルマとしては正直、避けて通りたかったが。避けられない相手なら、何とかするしかない。

 人を超えた力を受け取った代価としては、十分に己の領分であり。

 安い。

 

「モモンガが好きなアルベド様は、今どこにいるんだい?」

 

 意識を、少しそらす。

 

「え……? た、たぶん執務室……かな?」

 

 きょとんとした顔。

 見た目は高級娼婦か人妻か、というのに。

 中身はおっかなびっくり、ふらつきながら初恋を手探りする小娘。

 

「そうだね。つまり、アンタの中にいるわけじゃない」

「そんなことはわかっている」

 

 憮然として言うモモンガだが、ヒルマの目には――

 

「いいや。わかってないね」

 

 強く、断定した。

 

「そんな――」

 

 何か言いかけるモモンガを、封じるように畳みかける。

 

「アルベド様に嫌われるとか、捨てられるとか、飽きられるとか、本人が言ったのかい? アンタが勝手に決めてるだけじゃないのかい? 嫌わないで、捨てないで、飽きないでって、アンタはちゃんと言ったのかい?」

 

「言えるわけない……そ、そんなこと言ったら……」

 

 本当に、捨てられるかもしれないと。

 口に出すすら怖くて、モモンガは口ごもる。

 

「相手を気遣って言いたいことが言えなくて、モモンガはだんだん苦しくなってく。どんどん苦しくなってく」

 

 独り言のように、他人(ひと)事のように、言う。

 実際、他人事だ。

 

「…………」

 

 モモンガは黙り込んでしまう。

 

「アンタは我慢する。ずーっと我慢して、我慢する自分が偉い、すごい、努力してるって思う」

 

 モモンガを見ないふりをしつつ、目の端で慎重に観察する。

 加減を間違えれば殺されかねないと、ヒルマは自覚している。

 

「本当に捨てられる時――こんなに我慢してる、努力してる自分の何が悪くて捨てられるのかわからない」

 

 びくっと、怯えるように震えた。

 初恋かと思ったが……過去にも何かあったのだろうかと、見るが。さすがのヒルマにも、そこまでの詳細は読めない。

 とりあえず、これ以上攻めるべきではない、と勘が囁いた。

 言葉の矛を収める。

 

(臆病者のふりをした、傲慢で自分勝手な人間だって……自分で気づけりゃいいんだが)

 

 押し方を、変える。

 

「アンタは……大切な相手には、行動よりも言葉をもっと伝えるべきじゃないかい? 結婚して、なんだかうやむやになってる点はないかい? ベッドじゃなくて素面(しらふ)で、ちゃんと告白したかい? あんたの勝手な憶測じゃなく、アルベド様自身の言葉を聞いたかい?」

 

 質問を重ねる。

 答えさせない。

 当人の中で自問自答に、持ち込む。

 その質問を――ヒルマが選ぶのだ。

 

「アンタ自身ならどう思う? 仕方なく別れる時、別に好きな相手ができた時、仕事があって待たせる時……あっさり許されて嬉しいのかい? 引き留められたり、悔しがられたり、怒られたりしたくないのかい?」

 

 痛そうなところを、適当につつく。

 

「それ……は」

 

 言い返しかけた。

 ヒルマに、鬱屈した敵意が向かないよう……そらす。

 戦いで言うならば、間合いを取る。

 

「――小手先の技で留めても、便利な女にしかなれないよ。アルベド様に支えて欲しいなら……モモンガもアルベド様を支えなきゃいけないんだ」

 

 モモンガの目はどこか遠くを見ている。

 けれど、悪い目ではない。

 過去の何かを、思っているのだろう。

 今は、考えさせるべき時間だ。

 ただし。

 

「じゃあ、私はアルベド様を呼んでくるよ。二人できちんと話し合いな」

 

 時間制限は必要だ。

 

 ヒルマは席を立ち……うつむくモモンガの額にキスをした。

 そして、部屋を出る。

 反撃を受ける前に逃げて、冷静になる前に直面させてしまおう。

 

 

 

 扉の外には、赤毛のメイドがいた。

 

「随分と早いっすね。モモンガ様、ダウンしちゃったんすか?」

 

 にやにや笑いながらメイド――ルプスレギナが下世話な探りをしてくる。

 彼女はいかにも、娼婦向きでわかりやすい。

 

「いえ、そういうわけでは……アルベド様と話をする必要があります。申し訳ありませんが、時間を取っていただきたく……」

 

 軽く頭を下げ、言ってみる。 

 

「……へぇ? 種族が変わったからって、偉くなったつもり?」 

 

 こちらが本性なのだろう。獣じみた凶悪な目で威圧される。

 わかりやすい。

 反応パターンが、昔の先輩娼婦たちと同じだ。

 つまり、己は後輩、この組織の下っ端ということ。

 

「いえ。モモンガ様について、アルベド様ほど知っておられる方はおりません。今後、指導するにもアルベド様から裏付けを得たく……序列を考え、後といたしますがルプスレギナ様にも、同じく教えを乞いたく」

「なるほどー。そーゆーことっすか。りょーかいっす、アルベド様に時間を割けるか聞いてみるっす」

 

 少し持ち上げれば、容易に機嫌をよくしてくれる。

 

「皆さまそれぞれ、モモンガ様の異なる面を知っておられると思いますので……一人ずつ話を聞きたいのです」

 

 少し色香を漂わせる。

 色香に、自身の欲求を交えれば、己自身すら騙す演技となる。

 たとえ、心を読めようとも見破れまい。

 

「ほーん、じゃあ私も――個別ってことは、モモンガ様に試してみたいこと、ヒルマちゃんにさせてもらってもいいっすかねー?」

 

 下卑た笑みを、演技臭く浮かべてくる。

 

「そ、それもまた、必要でしたら……」

 

 それなりに切れ者でもあるのだろうが……モモンガやアルベドに比べれば単純な相手だ。

 しおらしく見せ、先ほどは満たされなかった疼きを前に出せば……容易に情欲を前に見せる。

 ただ。

 

(ここって、女同士ばっかりなのかね。男がいないわけじゃないみたいだが……)

 

 首をかしげつつ、アルベドの元に向かう。

 あちらと語り合う方が……ヒルマとしても恐ろしく、恐怖もある。

 とはいえ、この仲人(なこうど)を成功させねば、命もあるまい。

 内心で溜息をつきつつ、ルプスレギナの後を追うヒルマであった。

 




 前回は真面目だったし、エロ回にするつもりで娼婦を出したら、人生相談回になってしまった……。
 わけがわからないよ。

 間違いなく悪人だけど、設定的に苦労もしてそうで、人間力は高そう……ということでヒルマさんをチョイス。サキュバス化によって二十代前半程度に若返ってます。美貌や体のエロさは、本来よりアップ。
 言葉では屈させてますが、性的には何もしてないので、ヒルマさんは特に経験値とか受け取っていません。「アドバイザー(一般)」のクラスを獲得した……かも、程度?


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21:違う、そうじゃない

 そして、勇気をもって行動に移すモモンガさん。

 明日投稿予定でしたが、短めでちょうど一段落ついたので今日に。


 ナザリック地下大墳墓、第九層。

 至高の御方の執務室。

 モモンガが執務を任せて以来、ここはアルベドとデミウルゴスが使う部屋だ。

 

「……っ……ふ……」

 

 今、アルベドは脂汗をかきながら、執務を続けていた。

 つらい。

 つらすぎる。

 

「っく……ぅ……♡」

 

 幸せだとは思う。

 気持ちがいいのは、間違いない。

 しかし。

 溺れられない。

 つらい。

 

「アルベド様、こちらの書類をお願いします」

 

 ソリュシャンが、書類を渡してくる。

 彼女の目は明確な殺意をこめた、敵を見る目だ。

 仲間に引き込んで、感謝もされていたはずなのに。

 

「っぅ……わかった、わ」

 

 返事するにも息と声を飲まねばならない。

 アルベドとて、気持ちはわかる。

 同じ状況を見たら、自分だって殺意くらい出る。手も出ていただろう。

 シャルティアやルプスレギナも、ここにいたら同様の――シャルティアからは直接攻撃だって受けていただろう。ソリュシャンはただ、アルベドに勝てないと知っているから……手を出さず、視線でのみ敵意を投げているのだ。

 

「他の方は入れないようにしますので。せめて匂いだけでも抑えてください」

 

 冷たくぴしゃりと、ソリュシャンが言えば。

 別の意味に捉えたのか。

 ずじゅるるるるるぅっ!と激しい音が響いた。

 

「ち、ちがっ! そういう意味、ではッ~~~~~~~ッッ♡♡♡」

 

 アルベドが突っ伏して、びくっびくっと肩を震わせる。

 腰から生えた黒い翼が、ピンと伸びて……くたくたと脱力した。

 

「……やはり、状況を知っていただくべく、報告の方には入っていただきますね」

 

 冷え切った目で、ソリュシャンが執務机から距離を取る。

 

「えっ、やめ……」

 

 突っ伏したまま、追いすがるように手を伸ばすアルベドだが。

 ソリュシャンはそのまま、執務室を退出した。

 扉を閉じる音さえも、彼女にしては酷く乱暴で。

 その怒りをまざまざと感じさせる。

 

「……っ、はぁっ……も、モモンガ、もう部屋に戻って、いいのよ?」

 

 息を切らせながら、内心で懇願するように。

 アルベドは執務机の下にいたモモンガに、声をかけた。

 

「いいや。今までは一方的に奉仕させてばかりだったからな。夫婦として、お前の仕事を手伝うべく、執務中のお前にしっかり奉仕させてもらうぞ」

 

 机の下、どろどろに濡れ汚れた顔でモモンガが胸を張り。

 ドヤ顔を見せて来る。

 そう。

 モモンガはずっと執務机の下で跪き、アルベドに奉仕していたのだ。

 

「け、けど、そんな机の下に入らなくても……」

 

 アルベドは別に感度が鈍いわけではない。

 実際にはモモンガと大差ない、過敏な体なのだ。

 

「アルベド。さっきも言ったが……私は今まで、想いを抑え、お前のため耐え忍んできた」

 

 それはどうかと……と、思うだけで口にできないアルベド。

 至高の御方たるモモンガの言葉に、どうしてシモベの身で反論できようか。

 

「だから私は、伴侶として仕事中のお前にきちんと奉仕を続けるぞ。そして後で、きちんと腹を割って話し合おう」

 

 にっこりと微笑み。

 モモンガは再びそこに顔を埋めた。

 それに専念する間、アルベドがどれほど声を抑え、絶頂をこらえているか気づかぬままに。

 

 

 

 ヒルマの言葉に、目からウロコだったモモンガは……己を偽らず、言葉で全てを示そうとした。

 だから自分からアルベドに〈伝言(メッセージ)〉を使い。

 仕事中と聞けば、ルプスレギナに案内させて執務室にも来た。

 

 そして、アルベドに何度も愛を告白した。

 シャルティアとソリュシャンとルプスレギナと――ついでにデミウルゴスの目の前で。

 退出しようとする彼らを、モモンガは留まらせ、見届け人とさせる。

 彼らとしては、別に聞きたくなかったのだが……。

 

 アルベドは、もちろん嬉しかった。

 御方が愛の言葉を口に出し、熱心に訴えてくれるのは本当に嬉しい。

 最初の一言で、嬉しくて涙が出た。

 ただ、言葉は一言ではまったく終わらなかった。

 元より理性の強いアルベドは、すぐに冷静になる。

 そして……己の置かれた状況にも気づく。

 できれば、同僚の目がない場所でしてほしかった。

 最初はデミウルゴスの咳払い程度だったが。

 次第に嫉妬が高まり、全員が殺意に溢れんばかり。

 だが、それだけなら……まだよかった。

 デミウルゴスは理解していたし、シャルティア達もうすうす感じてもいた愛情だ。

 しかし。

 

「これ以上は仕事中では邪魔だろう。ナザリックの内務と外務において、私はアルベドやデミウルゴスのようにはこなせんからな。せめて、愛する妻には私なりに仕事中の手伝いをさせてくれ」

 

 この言葉に頷いたのが、アルベドの運の尽きだったのだろう。

 ぺロロンチーノから聞いたという“仕事中の奉仕”に、アルベドは顔を青くした。

 シャルティアは知っていたが、至高の御方がすることではないと留め。

 ルプスレギナは、モモンガが仕事してメイドである己たちがすべきでは……と言ってみたが。

 モモンガの意志は、余計な時に固かった。

 

 おかげで、アルベドは手伝いでもなんでもない、仕事中の奉仕を受けている。

 正直、妨害だ。

 シャルティアとルプスレギナは、怒りに肩で風を切って去った。

 比較的冷静に秘書を務めてくれていたソリュシャンも、立ち去ってしまった。

 デミウルゴスは、とうに仕事へ出て行った。

 

 もちろん、アルベドとて嬉しくないわけがない。

 プレイとしてなら、至高の御方が己に跪くのもいい。

 だが、ここは職場である。

 真面目に仕事する場所であり、アルベドにとって“切り替えるべき場所”なのだ。

 遠回しに言ってみても、今日に限っては気遣いを放棄したように、ぐいぐい来る。

 

 正直に邪魔だと言いたかったが……。

 そうした扱いは、モモンガを後々なお問題ある状況にしそうで。

 結局言えなかった。

 

 集中すれば3時間程度で終わる仕事が、延びている。

 その間、アルベドはどれだけ絶頂させられただろう。

 途中からモモンガの手は、がっちりとアルベドの尻を掴んで離してくれていない。

 快楽に溺れたかったが、目の前の書類、守護者統括の責任感が、それをゆるさない。

 

 12時間後――アルベドの執務はまだ終わっていなかった。

 労働と快楽の中間の生命体となり、永遠に視線をさまよわせるのだ。

 そして放棄したいと思っても放棄できないので。

 ――そのうちアルベドは考えるのをやめた。

 

 

 

「……文句の一つも言ってやりたかったのだが、その様子では私もかける言葉がないね」

 

 空ろな目で、時折びくびくっと震えるだけのアルベドの姿に。

 デミウルゴスは深々と溜息をついた。

 もっとも、嫉妬の念は変わらずだ。

 パンドラズ・アクターにも伝えたところ、彼は大いに激昂していた。

 おかげで王国での工作は前倒しとなり、書類の数も倍増している。

 見れば、プレアデスやシャルティアによるものだろう。

 本来ならば彼女らが処理すべき書類も大量に積み上げられていた。

 

「まあ、素晴らしい伴侶を得た代償だよ。がんばりたまえ」

 

 一方的にそう言って。

 デミウルゴスは持ってきた大量の書類を、執務机に積み上げるのだった。

 

 72時間後……いくら何でも仕事が終わらなさすぎると、ようやく気付いたモモンガは。

 アルベドの机に積み上げられた書類の山に呆然とし。

 その仕事を分担させるべく、他の者らにも書類仕事をさせるようになる。

 そして、アルベドのナザリックにおける立場は、さらに悪化するのだった……。

 




 この後、腹を割って話あうことも忘れ、結局ベッドに向かいました。

 そう簡単に、初対面の人の言葉で全ては変わらない。
 サキュバスのピンク脳で考えた、精一杯のお手伝い。
 実際、アレは真面目な仕事中にされても邪魔でしかなさそう。
 アルベドさんの性経験値はモモンガさんと同じです。
 転移初キス()の時、アルベドさんは童貞メンタルでしたし!

 そして、実際趣味でやってるので、こんな理由でいろいろ前倒しされる王国!


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22:一方、そのころ……(1)

 アルベドさんがビクンビクンしている間にも、みんなは王国を侵食している!

 放置していた、外で活動中のみんなについて、そろそろ描写していきます。


 

「リイジーさん、お孫さんのためにも……私が守った村のためにも、どうかお願いいたします」

 

 銀の髪と髭が刃を思わす執事が、老婆に深々と頭を下げていた。

 彼の名はセバス・チャン。

 辺境の村を荒らす騎士たちから、戦士長ガゼフを救い。街道を荒らす『死を撒く剣団』を一人で壊滅させ。トブの大森林から現れたギガントバジリスクとて一人で倒した。城塞都市エ・ランテルでは知らぬ者なき英雄である。

 しかも、己の威を誇らず、平民や浮浪児にも優しい。まさに誰もが思い描く理想の英雄。

 

「おやめくだされ。厳しく言うたはあくまで、孫のためのこと」

 

 老婆は少し顔を赤らめつつも困った顔で、セバスに頭を上げさせる。

 見事な老い方をした異性の英雄には、彼女とて思わず心ときめかせてしまうのだ。

 何より、セバスが持ってきた赤いポーション。

 森林近くに住むという彼の“主”が見つけたポーションには、彼女も大いに関心がある。

 

「カルネ村には、私の弟子を残しております。そこいらのモンスターに遅れはとらぬはずですが……一人で村を守り切れるものではありません。魔法詠唱者(マジックキャスター)でもあるお二人に来ていただければ心強いのです」

 

 英雄にそう言われては、リイジーも……その孫ンフィーレアも誇らしく面映ゆい。

 

「は、はい! エン――カルネ村は必ず守って見せます!」

「…………」

 

 元気よく言い改める孫を、リイジーはため息交じりに横目で見た。

 優柔不断な孫は、村に行っても進展すまい……と。

 

「では、弟子にもどうかよろしくお願いをいたします。我が主たるモモンガ様が訪れは……しないと思うのですが、もしもの際にはくれぐれも失礼なきよう」

 

 モモンガについて、隠棲中の偉大な魔法詠唱者とだけ喧伝していた。

 事実は、いろんな意味で教えかねたし。

 デミウルゴスからも詳細は教えぬよう言われている。

 

「はい、セバス様も道中お気をつけて」

 

 年頃の娘のように顔を赤らめ、リイジーはセバスの手を取り、一礼して別れた。

 彼女をカルネ村に向かう決断をさせたのは……赤いポーションへの知的探求心のみであはるまい。

 うっとりとした顔でセバスを見送ると、まだ期待にぼんやりとしたままの孫を叱咤し、さっそくカルネ村移住の準備を始めるのだった。

 

(……彼らは生まれついての異能(タレント)でも、薬師の技術においても、良き影響を与えてくれるでしょう)

 

 満足しつつ、バレアレ商店を出る。

 若い二人の恋の仲介でもあり。

 ナザリックへの貢献ともなるのだ。

 下劣な悪党を屠るより、大いに好ましい、セバスにとって嬉しい仕事だった。

 

「おう、師匠。相変わらず妙な連中が遠巻きに見張ってるぜ」

 

 外で待ってた青い髪の剣士――ブレイン・アングラウスが言う。

 野盗『死を撒く剣団』を討伐した折、拾った男である。

 敗北の後、命乞いではなく弟子入りを望んで来たことから、生かして弟子入りを認めた。現地の強者はなるべく確保せよとの、モモンガの命令ゆえでもある。

 

「いつもの法国の連中でしょう。放っておきなさい」

 

 ニグンの陽光聖典を退けて以来、法国の風花聖典なる連中がセバスを監視していた。

 彼らの目的や内情は、既に隠密に優れたシモベらが調べ尽くしている。

 接触をとろうとする様子もあったが、避けていた。

 

「で、まだどっか挨拶しなきゃいけねぇのか?」

 

 振る舞いは粗野だが、己の腕を磨くべく一心に鍛える彼に、セバスは悪感情を持っていない。

 ナザリックに戻る機会があれば、コキュートスに任せてもいいかもしれない。

 

「……アインザック組合長殿に挨拶したら、この街を発ちましょう」

 

 首にはつけていないが、いくつかの働きをあげた後。

 ただの旅人扱いでは申し訳ないと、都市長と冒険者組合長から金級の冒険者プレートを与えられていた。

 実力ならばアダマンタイトでも文句を言う者はなかろうが、名誉としてのものであり、他の土地に行った際に最低限の身分の証として――と聞けば、断るものでもなかった。

 彼らとしては、エ・ランテルに囲い込みたかったろうが。

 禁欲的な老修道僧(モンク)に、欲望での誘いはなかった。

 セバスは――ついでに言えばブレインも、そのストイックさから人々の尊敬を勝ち得ていたのだ。

 街を発つのも王都に向かうためであり、戦士長に会いに行くと言われれば、止めもできまい。

 

(この街は比較的健全と聞いてもいます。既に他の都市の“掃除”は進んでいるそうですが……そのチェックもまた、執事としての仕事でしょう)

 

 本来ならばもっと早く王都に至っていたはずだが。

 『死を撒く剣団』との遭遇から、ンフィーレア確保に至る中……思わぬ長居をしてしまった。

 デミウルゴスたちは既に相当数の貴族や犯罪者を拉致したと聞く。

 たとえ彼らを撲滅しようとも、些細な問題に悩む人々はいくらでもいるだろう。

 モモンガから与えられた指示は、受け継いだ創造主の魂の示すままに、だ。

 困っている人は、助けなければならない。

 

(ふふ、この広い世界自体をナザリックと思えば、為すべき仕事は絶えませんね)

 

 上機嫌で、ブレインを連れてセバスは歩み始めた。 

 道行く人々が彼を眩しそうに見、また深々と礼をしてくれる。

 空の太陽と共に、人々の顔も、セバスには輝いて見えていた。

 

 

 

「いやはや、申し訳ない王女殿下。我らの主の事情により、少々計画が前倒しとなった様子」

「いえそのような。次の段階については聞いておりませんでしたが……やはり、父上を?」

 

 申し訳なさげな声の主へと、リ・エスティーゼ王国第三王女ラナーは丁重に応じる。

 

「はい。今夜中に、苦しまず逝去いただきます」

「ザナック兄様の継承は問題ありませんが……私はどのように身を振れば?」

 

 父の死について特に思う所はないが……王女のまま、他の貴族に降嫁させられたりしては困るのだ。

 事前の契約ゆえ、そんな展開はあるまいが。

 彼らの桁違いの戦力と人材を思えば、うっかりで忘れられかねない。

 

「いくつかの候補がございますが、我らの主による決定次第ですな。王女殿下には相当の協力をいただき、その才覚は我らも高く買っております。お望みに反する結果はありえぬでしょう」

「ならばよろしいのですが……」

 

 多数の貴族が行方不明となった今、未曽有の人材不足が起きている。

 王族からもバルブロ王子を代表に、幾人かが消えた。

 臨時的に統治を引き継いだ者も、少なからず行方不明になっているという。

 彼らは愚かで無能だったが、少なくとも文字を読めたし、字も書けた。

 地方において、王国の識字率は低く。

 教育水準は無論、統治知識を持つ者も少ない。

 王族だからと、ラナーが思わぬ地位を与えらえる可能性もある。

 

「不安ですかな? 殿下を信頼して私個人からなら、希望的観測をお教えもできますが……決定を下すは我らが主たるモモンガ様。ぬか喜びをさせてしまうやもしれません」

「いえ、それでもいくつかの予定を教えていただければ、私も心づもりができます」

 

 憶測程度でも、ラナーとしては彼らの情報が欲しい。

 脅迫など無意味だが……自身の計算材料が必要なのだ。

 

「では、ラナー王女殿下。継承の混乱時、想い人と駆け落ちしていただくやもしれません」

「えっ」

 

 それは驚きの声ではない。

 病的なまでの歓喜の声だ。

 

「手引きはお任せあれ。我らが主モモンガ様は、殿下と良き友になれるでしょう」

「まあ……本当にそうなれば、なんと素敵なことでしょう!」

 

 昏い笑みを満面にたたえたまま、ラナーは身をよじらせる。

 

「まだ決定事項ではありませんぞ」

「それが真実であり、私の望む生活が保障され続けるならば……私はモモンガ様に絶対の忠誠を誓います!」

 

 窘める声にも、ラナーの喜びは止まらない。

 

「喜ばしいことですが。おそらく、主は殿下に服従よりも友情を望まれるでしょう。我らでは主の心を計りきれませぬからな。いかな結末であれ、我輩は主の友として殿下を迎えたく思っております」

「……?」

 

 首をかしげた。

 これだけ暴力的に王国を蹂躙し、粛清した勢力が支配を望まないとは。

 ラナーにも、なぜ友たることを望まれるかわからない。

 知性が欲しいなら、あのデミウルゴスという悪魔やパンドラズ・アクターなる異形で十分なはずだ。あれらの知性はラナーと同じかそれ以上だったのだから。

 他に己にだけあるものとは何だろうと、首をかしげる。

 

「さて……我輩は今夜の分を眷属に与えに向かいますが。殿下は休まれますか?」

「いえ。この指輪のおかげで、私も夜通し起きておられます。よろしければ、私もご一緒させてくださいな」

 

 椅子を立ち、ぴょんと床に降りたったそれ――恐怖公。

 ラナーは病んだ笑みのままに、彼に付き従う。

 寝食不要の効果を持つリング・オブ・サステナンスは、ラナーに最初に与えられた褒賞だ。

 無能な貴族と王族をリストにして渡すだけで与えられるには、破格の品と言っていい。

 

「ふふ、女性の方で我輩とその眷属に心安くしてくださるとは、つくづく珍しい。我輩からも、殿下についてはよくなさってくださるよう申し上げておきましょう」

 

 上機嫌で、恐怖公が床の一角を錫杖で示す。

 昆虫の森祭司(インセクト・ドルイド)の能力で造られ、隠された“巣穴”――第二の黒棺(ブラック・カプセル)が現れる。

 貴族が多く行方不明になる中、メイドの幾人かが行方不明となっても気づく者とて少ない。

 

「彼女は私のクライムに随分と陰口を言っていましたからね。しっかりと罰を与える様子を確認したいのですよ」

 

 魔法で仮死状態になったメイドが、無数のゴキブリの中に埋もれていた。

 グロテスクな笑みを浮かべるラナー。

 恐怖公が音を遮断し、食事を再開させ始めた。

 

(本当に、モモンガ様と良き友となれるでしょう。我輩の身もよく活用くださる……この地では最高級の人材と保証できますな)

 

 監視役と連絡役を兼ねた恐怖公を、ラナーは不満も言わず迎え入れた。

 眷属を使った情報収集に彼女は心から感服し、二人で行って来た工作活動は、デミウルゴス達の期待以上だったろうと自負している。

 ラナーの持つ、モモンガと同じ狂愛を知るにつけ、恐怖公は彼女をモモンガの友にと推挙もした。心情的にも、彼女の味方と言える。

 

(このような出会いも、本来ならば一領域守護者であった己を地上活動に選んでくださったモモンガ様のおかげ。彼女とモモンガ様に友となる機会を与えるよう、我輩もさらなる尽力をせねば)

 

 ラナーの歪んだ笑みを暖かく眺め、頷く恐怖公であった。

 




 デミウルゴス、パンドラズ・アクター、アウラ、マーレ、ユリといった面々の現状も書くつもりでしたが、二人書いたらそこそこの量になったので、この二人で区切ります!

 一度はエ・ランテルを出たセバスですが、死を撒く剣団と出会って戻り。
 そのままンフィーレアのタレントを得るため確保優先。
 (拉致すべき対象でもないし、拉致すると騒ぎになるので勧誘)

 王国は今、貴族の大半が拉致されて人材ジェンガ状態です。
 しかも、臨時で当主代行みたいに始めた貴族も、ダメだと判断されると拉致されます。
 領地放棄して逃げ出しても、拉致されます。
 汚職官僚も裏社会も拉致されてスカスカです。
 ラナーは原作と変わりありませんが、恐怖公とがっつり友情育んでます。
 ゴキブリとか平気なラナーは、完璧な貴族で情報収集超得意な恐怖公といいコンビだと思ってます。


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23:一方、そのころ……(2)

 前回に続いて、アルベドさんがビクンビクンしている間の話です。



 バハルス帝国首都アーウィンタール。

 帝国魔法省、最奥の塔、地下5階。

 

「ンッン~♪ いかがですかなァッ、フールーダ殿ッ!」

「ぴゃああああああああああああ、すびゃりゃっしゃああああああああああ!!!!」

 

 クルクルとスタッフを回す、強大なアンデッドに対し。

 帝国主席宮廷魔術師フールーダ・パラダインは顔中からあらゆる液体を溢れさせていた。

 実際は下半身や全身も相当な状況だが、特に顔が酷い。

 

「フッ、偉大なる主に造られた私には、他愛ないこと……」

「神に等しき御身にさらにあるじぎゃばあああああああああああ!!!!」

 

 キリッ、とポーズを取ってドヤ顔を見せれば。

 歓喜と感動でいろんな体液をあふれ出し、水たまりを作るフールーダ。

 モモンガのかつての姿で、素晴らしくかっこいいアクションをし。

 それに対して凄まじいオーバーリアクションで感動を示すこの老人を、パンドラズ・アクターは大いに気に入っていた。

 

「未だ主に会わせることは叶いませんがァ……この力を帝国に提供するのですッ。当然――相応の働きを期待しても、かまいますまい?」

 

 くるり、バサァッと身を翻し、ギラリと目に赤い光を宿す。

 

「もちろんもちろんもちろん! もちろんでありますッ! 偉大なる御方ァァァッ!!!!」

 

 床を舐めんばかりに跪き、興奮と共に吠えるフールーダ。

 

(なんとノリのいい人でしょう。王国の姫や、連行した連中より、彼こそ評価したいですねッ。あの王国戦士長よりも、己の立場や在り様もよく理解している様~子ッ。オオッ、母上を見た時のリアクションも期待できます。きっと、お喜びくださるでしょうッ。もっと色事以外の娯楽にも目を向けていただかなくてはッ!)

 

「フッ、では必要に応じて皇帝とも引き合わせてくださいッ。我々は帝国を害したいわけでは、ありませんッ……少なくとも今の統治を続けるならば、覚え良き国と言えるでしょうッ」

「なんとっ、なんとありがたいお言葉ァッ!」

 

 フールーダがひれ伏し、涙を流す。

 叫び方も、実にパンドラズ・アクターの好みだ。

 

「働き次第で、我が主が真なる魔法の深淵を教授くださるはずッ! では、数年ばかり王国に猶予を与えるようお願いしましたよ――〈上位転移(グレェータァーッ・テレポーテーションッ)〉!!」

 

 パンドラズ・アクターが転移して立ち去る。 

 

「おおおおおおお、魔法の深淵ッ! あれが第7位階転移呪文ッ! そして、これが――」

 

 消えてはいまいかと、周囲を見回す。

 それは、変わらずあった。

 捕らえ拘束した死の騎士(デス・ナイト)は完全に支配下に置かれ。

 その周囲にあるのは。

 さらに3体の死の騎士(デス・ナイト)と、4体の魂喰らい(ソウル・イーター)

 フールーダが知る最強のアンデッドを組み合わせた騎兵が四騎。

 その支配権が、今はフールーダに預けられている。

 王国を――否、帝国すら滅ぼして釣りが出るこの戦力が……フールーダ一人に。

 

「ひゃっはああああああああああああああああああ!!!! これがッ、これがァッ、最強のアンデッドを支配する感覚ッ!! すばらっ、すぅばらしいぃぃひぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 叫び笑いながら、子供のようにこれらを動かし駆け回らせ。

 ついには壁を攻撃すらさせた。

 地上階まで震わせる振動に、勇気ある弟子が恐る恐る覗きに来るまで。

 “逸脱者”フールーダの狂乱は続く。

 いや、別にその後に狂乱が治まったわけでもないのだが。

 

 

 

 アゼリシア山脈、ある高原にて。

 つい最近、乱雑ながら建物が建てられていた。

 それは畜舎にも似て、どこかのどかな牧場を思わせた。

 しかし、その中の行為は、牧場からは程遠い。

 中には無数の男たちが拘束され、女にいたぶられていた。

 そんな中。

 

「ぶいっぎぃぃぃぃ♡♡♡」

 

 野太い矯声が上がり、びくっびくっと両手でピースしながら見苦しい喜悦を晒す、豚のような男がいた。

 その顔は絶え間なく殴られ膨れ上がり、豚鬼(オーク)より酷い様。

 男にはかつてスタッファン・ヘーウィッシュという名があり。

 相応の権力を得て暴虐を振るった身だったが……今の彼は、ただの豚である。

 

「この豚がっ! 豚ッ! 豚ッ!」

 

 ヒステリックに痛めつけるのは棘だらけの衣装に身を包んだ女淫魔(サキュバス)

 その足は男の尻と睾丸を、何度もストンピングする。

 その都度、長く太く棘のついたヒールが、男の尻を抉っていた。

 元から汚らしい男の尻は裂けて血まみれとなっており。

 さらに踵についた拍車が回っては、男の尻にさらなる傷を刻む。

 汚物をまき散らさないよう、男のものは根元できつく縛られ。

 痛々しく膨れあがっている。

 艶めかしい金色の髪が舞い、攻めはなお激しくなった。

 

 いつの間にか、その背後に長身の悪魔が立っている。

 

「どうかな、ツアレ。強くなった感覚はあるかい?」

 

 冷徹な声で悪魔――デミウルゴスが問う。 

 

「はい! この体をいただいてからは、どんどん強くなっている気がします!」

「それはよかった。やはり種族が関係するということかな」

 

 元気よく答える彼女が、豚を蹴とばす。

 ズムッ、と重い音がして、豚が呻いた。

 デミウルゴスが頷く。

 本来の彼女ならば、こんな重い蹴りは放てまい。

 ここは、アルベドから得られた情報以後、性的行為や拷問によって得られる経験値を検証する施設となっていた。

 比較的レベルのマシなクズどもが集められ、元娼婦らにいたぶられている。

 

「ですが……その、この豚では一日中痛めつけなければ得られません。やはり、あの黒豚の方が」

 

 ツアレがチラ、と奥を見る。

 そこでは全身に刺青を彫り込んだ、日に焼けた肌の男が……女淫魔(サキュバス)拷問の悪魔(トーチャー)に囲まれ、痛めつけられ続けていた。

 くぐもった悲鳴とも喜悦ともつかない声を発している。

 

「やはりレベル差か……とはいえ、さすがに一人に頼り切りはいけないよ。可能な限りは、これらを使ってくれたまえ。力を得る感覚を感じなくなったなら、より高レベルな豚を用意しよう」

 

 必死に抗おうとしては屈し、抗おうとしては屈する姿は、悪魔たちにこの上ない娯楽である。

 黒豚と呼ばれるこれが、八本指の幹部“闘鬼”ゼロだと知る者は……少なくとも女たちにはいない。

 六腕が捕縛された後、彼は一人ナザリックにてデミウルゴスとパンドラズ・アクターに噛み付き。

 しかも至高の御方を侮辱したのだ。

 その後、怒れる二人の守護者によってゼロが迎えた運命に、残る六腕はたちまち服従を誓ったが。当人は未だ許されずにいた。

 

「では、引き続き“れべりんぐ”を行わせていただきます」

 

 復讐の暗い喜びを、嗜虐心で彩り。

 艶めいた表情で……ツアレは再び、豚を痛めつけ始めた。

 

(ふふ、やはり女淫魔(サキュバス)の方が、性的屈服を引きずりだしやすいせいか……効率よく何度も経験値を得るようだね。とはいえ、人間同士ではレベルアップの気配がない。モモンガ様の例を考えるに、どちらかが女淫魔(サキュバス)である必要が……女淫魔(サキュバス)の誰かに受け身をさせるべきかな。いや、彼女ら同士の慰め合いを推奨しよう)

 

 ツアレの攻めを眺めながら、デミウルゴスは考える。

 彼女、ツアレニーニャ・ベイロンは八本指の娼館で使い潰されんとしていた娘だ。

 本来ならば、彼女ら奴隷娼婦はナザリックの資源として持ち帰るべきだったろうが。

 モモンガから聞かされた、己の創造主ウルベルトの境遇がふと、内心をよぎった。

 彼は娼婦らを保護し、回復ではなく『堕落の種子』による悪魔化を施した。

 さらにデミウルゴスの大悪魔(アーチデビル)のスキル〈悪魔の昇格〉により、小悪魔(インプ)から各種悪魔に変えてもみた。結果から言えば女淫魔(サキュバス)以外の経験値獲得はうまくいっていない。

 たとえば拷問の悪魔(トーチャー)も、レベルアップはするが……同じ相手から何度もとはいかないらしい。拷問の技巧と、相手の屈服の様子によるのかもしれない。戦闘系の悪魔については、文字通り“倒した”時しか経験値を得られないようだ。

 女淫魔(サキュバス)ならば、魅了や催淫のスキルによって、容易に相手を性的に屈服させてしまえる。それも複数回に渡って可能だ。女淫魔(サキュバス)を助手に付けつつ、人間や他悪魔に攻めさせてもみたが……彼らは性的屈服させても経験点をさほど得る様子がない。

 あの豚も、スキルの効果で魅了と発情を受け、苦痛を快楽に変えているのだ。

 

(この結果が変わらなければ、他の者も女淫魔(サキュバス)に昇格させなおして……相当数の女淫魔(サキュバス)の集団を生み出しておくべきかな。地上工作にせよ、モモンガ様の側仕えにせよ、お役に立つはず。スクロールの素材としては、先日から捕えている霜の竜(フロスト・ドラゴン)霜の巨人(フロスト・ジャイアント)の方が量も多く役立つのだし……下級呪文なら、アウラの捕獲した妖巨人(トロール)の方が効率がいい)

 

 アルベドがろくに動けない以上、デミウルゴスは各種補給も考えねばならない。

 スクロールは、ポーションと並ぶ重要な消耗品だ。

 いや、己らを傷つけうる者がほぼいない以上、汎用性あるスクロール確保こそ重要。外部で活動する全員が気軽に〈伝言(メッセージ)〉を使えるだけでも、戦略は大きく変わる。

 

(王国ですべきことはもうないだろう。国自体を富ませるまで待つ必要がある……そういえば、帝国ではエルフが奴隷扱いされるとか。そちら側で、よりよい豚と新しい女淫魔(サキュバス)候補が手に入るかもしれない。これは次にパンドラズ・アクターにも相談すべき課題だね)

 

「ぴぎぃぃぃぃっひぃぃぃぃぃ♡♡♡」

 

 豚がまた汚いよがり声をあげた。

 ツアレの技術上昇を喜ばしく思いつつ……デミウルゴスは他の者たちを見て回る。

 女淫魔(サキュバス)となった者らを他の者に屈服させて経験値を得られるかも試してみるべきだが……手づから人間を辞めさせた彼女らは、デミウルゴスにとって我が子も同然。これを虐げては、己の母に等しいモモンガに合わせる顔もない。

 

(まあ、自ら望む子がいれば考えましょうか……)

 




 汚いジジイから汚いオッサンへ、自然なシフト。

 王国の掃除は既にあらかた終わっているので、パンドラは帝国に移動。

 モモンガさんが現地人取り込みを進めてる(と思ってる)ので、デミウルゴスは人間以外の聞き分けない連中のみ羊皮紙材料にしてます。グさんは既に羊皮紙材料になりました。剥いでも再生しますしね!
 本来はバルブロ王子も経験値豚に来るべきなんですが、彼には啓蒙モニュメントとして大事な仕事があるので来てません。

 六腕は、とりあえず見せしめしないと歯向かうだろうなということで、ゼロに屈服していただきました。
 残りの5人は、ニグンさんたちに合流してる予定です。

 本作のナザリック勢は特に征服とか考えず、鬱憤晴らし用のクズを拉致しまくっただけですので、アフターフォロー皆無です。八本指も各貴族も突然行方不明になって消えてます。


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24:一方、そのころ……(3)

 少し日が空きましたてすみません。
 ちょっと来週火曜くらいまで、素早い投稿難しくなります。
 まだ、アルベドさんはビクンビクンしてます。
 外部編は今回で(たぶん)終わります。



 

 ナザリック地下大墳墓、地上部。

 神殿のような白い遺跡部分の周囲に、石畳が広がり始め、いくつかの建物が建ち始めていた。

 多くはテントや丸太小屋だが、石造りの建物も建造されつつある。

 働くのはスケルトンやゴーレム。

 指示を出しているのは人間たちだ。

 何もない平原の中、突如現れるには奇妙な光景だ。

 それはまさに、都市の建造過程であった。

 

 そして、遠くに見える森の方から、一団が訪れんとしていた。

 のっそりと歩く、多数の魔獣の群れである。

 それらはいずれも傷を負い、疲労困憊状態。

 先頭を進むフェンリルの背には、ダークエルフの双子――アウラとマーレが、疲れ切った顔で乗っていた。

 

「たっだいまー……」

「おお、お帰りなさいませ殿! 聞きしに勝る激戦、見事勝利なされたでござるな!」

 

 帰還したアウラへと、森の賢王が駆け寄る。

 疲れ切った身に、甲高く忠義に満ちた声はつらい。キンキンした声のドライアドも、戦闘後に相手するのは面倒で、無視してきた。後日に回収に行けば問題ない……はずだ。

 あるいは至高の御方も、同じストレスを感じていたのだろうか。

 

「お、お姉ちゃん、大丈夫?」

 

 自身もまだMPが回復しきっていないだろうに、心配してくれる弟が嬉しい。

 日頃頼りない弟だが、そのやさしさには癒される。

 確かに激戦だった。

 ザクロポワレとかいうフランス料理みたいな名前の植物モンスターはすさまじいHPを持ち、遠距離攻撃もこなす強敵だった。攻撃力がもう少し高ければ、アウラも撤退の判断をしていただろう。

 

「ヨキ強敵デアッタガ……」

 

 ドスドスと足音を立て、遅れてやってきたコキュートスが呟く。

 その声には、アウラへの気遣いがあり。

 彼自身の不満もまた含んでいた。

 

「……私より弱い敵と味方に会いに行きたいっす」

 

 後続の傷ついた魔獣たちの背には、ぐったりとしたルプスレギナもいる。

 一応の回復役としてついて来た彼女は、緊張とMP切れで精神的にボロボロだった。

 回復魔法は何度かけても足りなかった。

 最後にはポーションを投げつけていたほどだ。

 何せ、味方のアタッカーが容赦なく仲間を巻き込むのだから。

 おかげで、距離を取って回復に努めていたルプスレギナも、(味方の)流れ弾による死の危機を幾度も味わったのだ。

 

「やーっと戻ったでありんすかー?」

 

 まさに問題の人物が、見下し切ったドヤ顔で出迎えていた。

 四つん這いにさせた陽光聖典隊員の上に座って茶を入れさせている。

 

「階層守護者ならば、優雅に戻る力くらい残すのが当然でありんしょうに」

 

 茶をすすり。

 

「苦ッ! 何を飲ませてくれなんし!」

「ひっ」

 

 茶を入れたニグンに、それを浴びせかける。

 もちろん熱い茶だ。

 ひどい。

 

「も、森で取れる薬草を煎じたものでございます。疲労回復の効果があり……」

「はぁ? 雑草を飲ませたでありんすか?」

 

 横からフォローするカジットを、殺意を込めて睨む。

 血色のよくなった彼の顔色が、青ざめる。

 ひどい。

 

「マサニ、バルブロ王子ノ如キ振ル舞イ……」

 

 嘆かわしそうに、コキュートスがつぶやく。

 まったくだ、と。

 アウラは深々と溜息を吐いた。

 シャルティアは、アレを見ていないのだろうか。

 見てこれだとすれば、至高の御方の考えをまるでわかっていない。

 

「シャールーティーアー、ここの人間の扱いは聞いてるよね? モモンガ様に全て報告させてもらうから」

「はぁ!? 殺してもありんせんに!」

 

 疲れ切っているだけに、アウラも投げやりにもなる。

 その言葉には、他の仲間全員も(魔獣たちさえ)頷いた。

 別に人間の味方をする気はないが、あまりにも見苦しい。

 とりあえず、シャルティア以外の全員に連帯感と、己の戦術的問題の自覚ができたのは僥倖だった……のだろうと、アウラは己を納得させる。

 

 森林の奥に在る強大な植物モンスターの存在を報告したアウラは、デミウルゴスからナザリック残留戦力による威力偵察任務を与えられた。そして、知性があるなら交渉し、交渉不可能かつ討伐可能ならば討伐すべしとも。厳しい場合は速やかに撤退し、セバスやアルベドも加えるべしとなっている。

 指揮官役となったのがアウラだった。

 今回連れて来た戦力で殲滅は十分に可能と判断し、交戦した。

 魔獣たちはもちろん、マーレもコキュートスもルプスレギナも、アウラの指示をよく聞いてくれた。アウラとしても己の指揮が完璧とうぬぼれる気はない。思い返せば問題は多かった。だが……それでも、本来ならばもっと損傷少なく倒せたはずなのだ。

 問題の全てはフレンドリーファイアを一切考慮せず戦ったシャルティアにある。

 戦闘に参加した面々がシャルティアに向ける目が冷たくなるも、仕方あるまい。

 

「ニグン殿――」

 

 コキュートスが、茶を頭からかぶったニグンに声をかける。

 かつて、ニグンを引き入れる時、モモンガは言っていた。

 彼から戦術を学ばねばなるまい、と。

 今、コキュートスはようやく、その言葉の意味を理解しつつあった。

 

「ニグン殿、戦術ニツイテ指導イタダケマイカ」

「は?」

 

 ニグンとしては、呆気にとられるしかない。

 ぽたぽたと落ちる薬草茶の雫は、既に冷たい。

 目の前の昆虫型の魔神が、どれほどの戦闘力を持つか……ニグンたちも何度かの“訓練”で重々知っていた。

 

「我ガ剣ハ、一人ニテ振ルウ時シカ想定シテイナイ。仲間トトモニ戦イ、後ノ者ヲ守ルニハ戦術ト布陣ヲ身ニ付ケネバナラナイ」

 

 今回の植物モンスター討伐は、十分に余裕を持って勝てたはずなのに、結果的に少なからぬ手傷を受けてしまった。それぞれが単発の攻撃を打ち出すばかりで、連携も何もなかったのだ。

 以前に、モモンガから戦術や経験が足りないと言われ。

 コキュートスなりに研鑽を積んだつもりだった。

 最古図書館(アッシュールバニパル)で戦術書に触れもした。

 だが、実際の戦闘でわかったのは、己のまだまだ至らぬ点ばかり。

 最悪を避けると言う意味で、研鑽には意味があったが……重要な経験や訓練が足りぬのだ。

 

「あー……そうだね。今日はもう疲れたけど、あたしもお願い」

「ぼ、僕もお願いします……」

「私も、側仕えのない時は教えてほしいっす。村の方にいるユリ姉にも、機会あったら……」

 

 アウラとマーレ、それにルプスレギナも頷く。

 彼女らもまた己の連携が(つたな)く、役割分担すら満足にできていないと感じていた。

 

「も、もちろんでございます!」

 

 一行の苦戦を察したニグンは胸を張り、宣言する。

 

「おんしら正気でありんすか!? 人間如きにそんな――」

 

 状況も空気も理解しないシャルティアが、他の守護者に食ってかかるが。

 

「アンタはニグンに謝りなさいよ」

「あ、謝った方がいいですよ」

「詫ビルベキ」

 

 味方がいない。

 

「ニグンちゃんはモモンガ様のお気に入りっすから、謝った方がいいっすよ……」

「ルプスレギナよ、おんしもでありんすか!」

 

 実質肉体関係もある彼女の言葉に、シャルティアは絶望した。

 そして、グギギギとなりながらも、ニグンに謝ったのである。

 謝られるニグンにとっては、凄まじいストレスだったのだが。

 

 

 

 魔樹討伐の後、ニグンに助言をもらいながら反省会をする一行。

 ペストーニャも来たおかげで、HPは全員回復した。

 差し入れの食事も出され、各自が次の機会に向けて取り組み始めている。

 そして一方で、近隣――カルネ村から来客が訪れた。

 

「よかった……ルプスレギナも無事に戻ったのね」

「ユリ姉、心配しすぎ」

 

 村に駐留していた、ユリとシズである。

 ナザリックと村の間には、開いた道が開通している。今は土がむき出しの道だが、ゆくゆくは石畳を整備し、馬車の往来を容易にする予定だった。

 

「いやー……正直、死ぬかと思ったっす」

 

 戦闘を思い出してテーブルに顔をつっぷさせながら、ルプスレギナが答える。

 少なくとも前衛役のユリが立っていられる戦場ではなかった。

 超長距離型のシズなら……攻撃力不足か、と。

 二人をちらりと見ては、溜息をつく。

 

「村の方でも相当激しい戦闘音と、魔法やスキルが見えていましたが……そんなに強敵だったのですか?」

「ああ、うん……きっと、至高の御方なら一人でも、もっと上手く倒してたと思う」

 

 アウラが疲れた笑みを浮かべた。相手の攻撃を知っていて、己のスキルや呪文やアイテムの使いどころをよくわかっていれば……と、反省せざるをえない。

 

「御身の力は、レベルでは測れないということですか?」

「チガウ。オソラク戦闘力ハ変ワラナイ。我々ハ、戦イ方ニオイテ、アマリニ未熟ナノダ」

 

 コキュートスがうなだれ、答えた。

 武人としての在り方に最もこだわる彼の、その姿にユリも目を丸くする。

 

「……私も、そうした戦い方を身に着ける必要がありそうですね」

 

 アウラたちの様子も見て、ユリも頷いた。

 

「やっぱ、ユリ姉は真面目っすねー。ナーちゃんもせめて人間に愛想よくできれば、地上の仕事を割り振れるんすけど……」

 

 そんな会話に、ルプスレギナが割って入る。

 茶化したように見えても、実際には妹であるナーベラルについてだ。

 ナザリック地上部やカルネ村の防衛陣地構築を任されたシズ。

 デミウルゴス、ニューロニスト、恐怖公らの補佐として忙しく各地を巡るエントマ。

 それに対し、ナーベラルの任された任務は臨時メイド長である。

 ペストーニャがカルネ村やニグンたちといった、人間の世話に専念するための人選だった。

 はっきり言って、一般メイドの一人を代表に据えてもかまわぬ立場である。

 

「あなたの傍に置くのは無理なの?」

 

 長女として、ユリも気にしていたのだろう。

 栄光ある側仕えに選ばれたルプスレギナに、軽く側仕えに加えられないかと聞くが。

 

「やー、無理っすよ。ユリ姉と同じで……ナーちゃん真面目すぎっす。別の意味で、シズちゃんの方がまだ、チャンスあるんじゃないっすかねー」

 

 ルプスレギナとしては、あのドロドロした堕落の坩堝にユリやナーベラルが参加するのは無理がありすぎると判断していた。これは他の面々でも同様である。

 

「えっ……本当?」

 

 (いやがる)森の賢王と(一方的に)戯れていたシズが聞きつけ、食いつく。

 

「おっ? おおっ? シズちゃんやる気っすね! モモンガ様、エッチな意味じゃなくかわいいの大好きっすからね! アルベド様がいないご飯の時はエクレアを抱きしめたりしてるし。私が狼の姿になった時も、すっごい撫でてかわいがってくれたっす!」

 

 その時にどこをどう舐めたなど、余計なことは言わない。

 

「詳しく」

 

 ずい、とシズが近づく。

 

「あのペンギン、そんなことしてるの!?」

「ルプスレギナさんも、ず、ずるいです……」

 

 シズでなく、アウラとマーレも食いつく。

 まだまだ子供の二人も、モモンガにもっと触れたいのだ。

 シャルティアが性的な方面で発言しようとするのを、コキュートスが押さえていた。

 彼は今回の戦いで、互いの行動を予測する重要さを学習したのだ。

 

「えっ。モモンガ様、お二人にも甘えてほしいけど、二人には避けられてるみたいだーって言ってたっすよ? エンちゃんはこの前、普通に抱っこされてたし」

「うぇっ? だ、だってあの時のモモンガ様、シャルティアのよだれまみれだったし……」

「そ、その、すごくエッチで……」

 

 双子は衝撃を受けていた。

 初日、シャルティアの遠慮せぬアレコレに、近づき難くなっていただけなのに。

 

「アウラ様、マーレ様」

 

 つんつん、とシズが二人の裾を引っ張る。

 

「この子、モモンガ様きっと気に入る。ご覧に入れるべき」

 

 森の賢王の首元に身を擦り付けながら、言う。

 

「えっ? こいつ見た目はかっこいいけど、弱いよ?」

「か、かわいいとは違うと思います……」

 

 二人としては、この魔獣を御方に見せる意味がわからない。

 

「かわいい」

 

 シズが薄い胸を張って断言し。

 その首元にぎゅーっとしがみついた。

 

「く、首が締まるでござる! 離してくだされー!」

 

 魔獣の悲鳴に耳を貸す者は、守護者たちの中にはおらず。

 ニグンとカジットらのみが、この魔獣に同情の視線を向けるのだった……。

 





 ザイトルクワエ戦はさらっと終わらせました。
 モモンガさんの相手で忙しかったアルベドやシャルティア以外の守護者たちは、ニグンさん勧誘時の言葉を聞いて、戦術面を付け焼刃ながら自主学習してます。連携訓練とかもちょいちょいしているでしょう。コキュートスは個人的にニグンたちと非殺傷模擬戦とかもしてます。
 総じて、連携面は原作よりかなりマシになってる想定。
 そしてシャルティアのみ、戦闘では原作そのまま……いや、より酷いです。アルベドが御方に机下奉仕プレイしてもらってるので、イライラしてましたから。

ナザリック地上部、転移当初に土で隠さず、周囲も丘陵にしてないので、そのまま都市化する想定で動いてます。そこそこの数の人間を確保してるんだからそういうことなんだろうと、アルベド&デミウルゴスも判断。
 あくまで維持費を収益として得るためと、確保した人材を活かす一手段として。
 カルネ村は既に領土扱い。
 シズがギミック仕込んで魔改造してるので、カルネ村の防衛は原作以上になってるでしょう。


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25:ワールドイズマイン

 そんなわけで、それぞれの論功行賞です。



 ナザリック地下大墳墓、第十階層、玉座の間。

 ナザリック主要NPCのほぼ全てが集結していた。

 ここに彼らのが集合するは、モモンガがギルドの成り立ちやリアルについて語った時以来である。

 というか、モモンガに至っては別の階層に来ること自体が久しぶりだ。

 

 今回も、モモンガは玉座に座り。

 左右に侍るのは、アルベドとソリュシャン。

 シャルティアとルプスレギナは、玉座前の面々の中に控えている。

 一方で、モモンガの膝の上には、ペット扱いで撫でられるエクレア。

 “決断”の時以来、モモンガから彼は大いに寵愛を受け。かつてとは別の意味で、一般メイドたちから様々なマイナス感情を受けていた。

 

「――といった状況でございます。モモンガ様」

 

 各方面の現状報告を述べて、デミウルゴスが一礼した。

 

「ふむ……さしあたり、最も気になる点について問おう。シズ・デルタよ」

「はい」

 

 無感情だが即答で、シズが答える。

 プレアデスの面々は、シズのテンションがいつになく高く、自信に満ちるとわかる。

 

「その巨大なハムスターはどうした?」

「……かわいい」

 

 シズが撫でてしがみついて見せる。

 確かにのどかな光景だが――他の面々は地上の魔獣を勝手に連れ込んで、御方の怒りを買うのではと、戦々恐々である。

 周囲の威圧に怯えていた魔獣が、注目に気づき、なんとか胸を張る。

 

「そ、それがし、森の賢王と――ひっ!」

 

 もっとも、アウラがぴしりと鞭で床を叩くと、その覚悟もたちまち砕けた。

 

「す、すみません、モモンガ様っ! 森で見つけた、一応森ではレベル高めで知能も高い魔獣です! 30レベル程度ですが……」

 

 代わって、アウラが説明する。

 

「表情も多彩で、声も含め実に愛らしいな」

「えっ?」

 

 モモンガの言葉に、アウラが呆気にとられる。

 いや、他のナザリック勢もだ。

 彼の魔獣は、実力はともかく外見においては凶暴そうで、フェンリルより物騒な外見をしている。

 正直、どこが愛らしいのか、わからない。

 ただ、シズだけが、うんうんと深く頷く。

 

「アウラが支配下に置いたのだな。魔樹討伐の指揮といい、今回のお前の功績は高いぞ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 思わぬことで褒められ、アウラが戸惑うのも仕方あるまい。

 だが、モモンガは執拗にこの魔獣について問う。

 

「ところで、その魔獣は第六階層で飼うつもりか?」

「え? いえ……人間とも交流できるので、地上に配置しようかと」

 

 ネームバリュー、森の土地勘、手ごろな戦闘力などから割り出された結果である。

 

「ほう……確かにそうだな。ふむ。では、少し今だけ借りていいか?」

「か、かまいません! なんでしたら、モモンガ様にペットとして献上いたします!」

「え、ええっ!? 殿!?」

 

 予期せぬ言葉に、アウラは戸惑いつつ下僕として言う。

 だが、それに対しモモンガは少し考えこんだ。

 

「……いや。地上部への配置はお前たちが考えて決めたことだろう。私の些細な我儘(わがまま)で、その決定を変えるわけにはいかん」

「ああ……ありがとうございます!」

「「なんと慈悲深い……」」

 

 望むままに振舞ってくれてかまわないというのに。

 己たちを考慮し、尊重してくれる言葉に、その場の全員が感涙する。

 アルベドのみ、自分についても少し考えて欲しいと内心、思わぬでもなかったが。

 

「森の賢王と言ったか? こちらへ来るがよい。アウラとシズもな」

「はい(でござる)!」

 

 逆らうことなく三者が前に出る。

 

「うむ、その名は少し大げさだな……地上では好きに名乗ってかまわんが、私からはダイフk……いや、ハムスケだな。ハムスケと呼ばせてもらっていいか?」

 

 賢王の頭を撫でて言う、モモンガ。

 

「ははーっ! 大殿から名を(たまわ)るとは、この上なき名誉! これよりそれがし、ハムスケと名乗って生きていく所存でござる!」

「よしよし。愛らしいな、ハムスケ。では、ここで仰向けになってくれるか」

「あの、モモンガ様、動物の毛が玉座に」

 

 モモンガが玉座を立ち、ハムスケを玉座の足元へもたれさせた。

 栄光ある玉座に魔獣が触れるとあって、NPCらがざわつく。

 抱えられ、おっぱい置き場にされるエクレアも、清掃係として軽く抗議するが、聞く者はいない。

 

「うむ……よいな。やはり腹側はより柔らかく暖かい。少し重いかもしれん。苦しくなれば言え」

 

 そう言ってモモンガは、ハムスケの腹に身を沈めた。

 人をダメにするソファーに寝転ぶスタイルだ。

 

「平気でござるよ! それがし、力は強い方でござる!」

「では、アウラとシズも来るがよい」

 

 元気よく答えたハムスケに頷き、二人に両脇を示す。

 

「い、いいんですか!」

「うれしい……」

 

 いそいそと二人がさらに、モモンガの両脇に身を寄せた。

 小さな二人の体を抱えるようにし、モモンガが二人を撫でる。

 嬉しそうに、二人が目を細めた。

 マーレがうらめしそうに見ているが、魔樹討伐での指揮を考えれば仕方ないと首を振る。

 

「ああ……やはり、この御姿こそ、モモンガ様にはふさわしい……!」

 

 巨大ハムスターベッドに身を沈め、二人の少女を両脇に置き、ペンギンを抱える姿は、実にのどかで母性に溢れて見える。

 色ボケした雌顔ばかり見せられていたデミウルゴスは、尊い光景に涙した。

 セバスやユリといった良識派、母上と慕うパンドラズ・アクターも同様である。

 

「ああ、心地よいな。地上に人間の居住区を築いているならば、彼らに指示を出し、報告を聞く機会もあるだろう。その際には、このハムスケを玉座として使おう」

「ひょおおう、くすぐったいでござるよ、大殿~」

 

 ふかふかした腹の毛皮に、モモンガが頬ずりする。

 変な声を出すハムスケが、NPCらとしてはうっとうしいが。

 主が地上に関心を向けてくれたのは、ありがたい。

 特にアルベドは、内心で安堵の溜息をついていた。

 地上で活動するNPCらも、己の活躍を褒めてもらえると、気合が入っている。

 

 

 

 しばし、ハムスケを堪能して、改めてモモンガがNPCらを見る。

 

「さて……では、少々話がずれたな。恐怖公よ、王国での活動は見事だ」

「ハハーッ! 王国については、ほぼ問題なく進んでおります!」

 

 満足げにモモンガが頷く。

 

「お前の推挙する王女に会ってみたいが……当人は、こちらに来そうなのか? それとも、王都に留まりたがっているのか?」

「はっ、ラナー王女はこちらへの亡命を望んでおります。知性においてデミウルゴス様にも比肩し、政治能力が高く、知識も豊富……現地では最上級の人材かと」

 

 チラ、とデミウルゴスとパンドラズ・アクターを見るモモンガ。

 二人も深々と頷いて見せた。

 彼女についての評価を保証する、ということだ。

 

「ほう、今まで人間にろくな評価をしなかったお前たちが、それほど誉めそやすとは興味深い。いいだろう、丁重に迎えよ。こちらに着いたならば、私も会わせてもらう」

 

 恐怖公が深々と礼をした。

 

「承知いたしました。現地のアダマンタイト級冒険者“蒼の薔薇”――現地では相当の実力者を手土産にもできましょう。それらも連れて参りましょうか?」

「ふむ……? 当人らの意志によるな。来てからトラブルを起こされても困る。恐怖公、セバス、お前たちの目と耳における評価を教えてもらえるか?」

 

 報告と風聞を興味深く聞くモモンガだったが……。

 

「同性愛者として有名な女盗賊だと?」

 

 およそ、どうでもいいところに注目し、彼女らも王女と共に来させるよう指示を出した。

 双子忍者の片割れを理由に、彼女らは過酷な運命に陥る。

 

 そのままセバスに英雄として振舞い、王国戦士長との再会を勧めて。

 ユリとシズに、カルネ村をナザリック領として進めるよう指示する。

 パンドラズ・アクターには、帝国での情報収集と人材確保を認めた。

 フールーダとの面会は、地上部建設が整ってからとして、保留した。

 そして。

 

「なるほど、そこまで腐り、非道を働いていたか……ニューロニストよ、貴族や犯罪者は好きに使い潰せ。特に非道な連中、己の罪すら自覚せぬ輩は、念入りに苦しめろ」

「もちろんよん、モモンガ様」

 

 アルベドに色目を使ったというバルブロ王子の話に、モモンガが怒りをにじませる。

 御方の覇気に、ニューロニストはぞくぞくと身を震わせ、甘い溜息をついた。

 直接触れるハムスケは全身の毛を逆立たせ、かろうじて失禁を耐え。

 エクレアは気を失い。

 アウラとシズすら、不安げに怯える。

 

「そして、デミウルゴス。その被害者らを種族変化させ、成長させる試みは見事だ。彼女ら自身に報復の機会を与えてやった点も大いに評価するぞ。リアルで苦しむウルベルトさんも、お前を褒め讃えるに違いない」

「ありがたき幸せ!」

 

 デミウルゴスが満面の笑みで礼をした。

 御身に褒められるは最大の喜びだが、創造主の名を出されれば格別。

 今も“りある”で創造主を苦しめる連中の同類に……できる限りの苦痛を味わわせるこそ、不在の創造主に対する最大の賛歌なのだと。デミウルゴスは、再認識する。

 

「被害者は探せばまだまだ出て来るだろう。彼女らを女淫魔(サキュバス)に変え、彼女ら自身に堕落の種子を作成させて……数を増やしておくがいい。十分に成長した女淫魔(サキュバス)はナザリック地上部に配置せよ。配置の折には、私も直接会ってみたい」

「ははっ、承知いたしました!」

 

 誇りと共に礼をする。

 嗜虐者として育てられた彼女らは、モモンガの愛人としても十分な候補たりうるだろう。

 アルベドへの偏愛が、当人にもナザリックの風紀にもよからぬ影響を与えている以上、デミウルゴスとしても対処が必要なのだ。

 実際、今も玉座の横にいるアルベドの視線には、感謝の色がある。

 一人で受け止めるには、モモンガの情欲はいろいろと重いのだ。

 アルベドからすれば、もっと浮気性になってほしい。

 

「さて……アウラよ、魔樹討伐ご苦労だった。無事に森林内自体も掌握できたようだな」

「あ、ありがとうございますっ、ううっ」

 

 ぽんぽん、と脇にいるアウラの頭を撫でる。

 実際の苦労もあり、泣いてしまうアウラ。

 

「たいへんだったか。無理はするなと言ったろうに」

 

 やさしく撫でられ、さらに泣いてしまう。

 

「コキュートスとマーレにも、いい経験になっただろう」

「ハッ、己ノ至ラナサ、自覚イタシマシタ!」

「つ、次はもっとちゃんと戦えます!」

 

 モモンガは、二人にも深く頷いて見せる。

 

「はは、そう言えるならばお前たちは立派に戦ったぞ。己の改善点がわかっているなら、次は今回よりもうまくいく」

 

 優しく微笑みかけられ、二人は歓喜に打ち震えた。

 

「ルプスレギナよ。レベル差もある中、回復役を任せてすまなかった」

「い、いえ。でもやっぱり似たレベルで組むべきっすね……」

 

 ルプスレギナは、二人のような改善点すら見いだせてない。

 少し消沈した様子で、自嘲的に答える。

 

「これは高レベルの回復役を作っていない我らの責任だ。お前が気に病むことはない。ある程度は回復やバフのタイミングを考慮すべきだが……お前の言う通り、レベル差の問題が大きい。今回の采配については、お前が私を責めるべきなのだ」

「い、いえそんな……ふふっ、はい。わかりました」

 

 最後に艶っぽく片目を閉じて見せたモモンガに、ルプスレギナも冷たく嗜虐的な笑みを返す。

 そういう“詫び”をプレイとして求められているなら。

 褒美でも罰でも、ルプスレギナは望むところだ。

 

「最後にシャルティアよ」

「は、はい! わらわも、ルプスレギナと――」

 

 声をかけられると同時に、シャルティアが粘つく飢えた視線でモモンガを舐めまわす。その卑猥な視線は、アウラとシズに、主の肌を手で隠させるほどだ。

 このまま、また性的な方向に進むのだろうなと、一同が内心で諦観の溜息をつく中。

 

「お前は今回、皆の活動の中で唯一、私を失望させた」

 

 冷たい、突き放すような声で、モモンガが断言した。

 

 シャルティアが凍り付き、ぱくぱくと無様に口を開こうとするが。

 言葉が出ない。

 世界が止まってしまったようだ。

 

 他の全てのNPCが、殺意すらこもった目でシャルティアを見る。

 あの奉仕を受けたアルベドへの敵意すら上回る、真の殺意を込めて。

 




 さんざん雌顔を見せられてきたデミウルゴスたちは、非エロモードのモモンガさんを見るだけで感動します。アルベドさんとしても、できればこっちでいてほしい。

 蒼の薔薇、ティアのせいでナザリックと会見決定。

 エクレアを愛でる仲として、エロ以外でTSモモンガさんと仲よくなれる素養のあるシズちゃん。
 ハムスケを介して、御方と健全に距離を近づけます。


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26:いのちをだいじに!

間が空いてすみません。
イベント後の疲れと、急に上がった気温で死んでました……。



「シャルティア・ブラッドフォールン、お前は私が失望する理由がわかるか?」

 

 モモンガが、冷たく問う。

 

「わ、私の戦い方が(つたな)かったせいでしょうか」

 

 主の冷たい視線、仲間の憤怒の視線を浴びるシャルティアは、カタカタと震えながら答える。

 絡みつく絶望に、設定された口調さえ紡げない。

 

「違う」

 

 モモンガは断じた。

 

「で、では御身の気に入られた人間に害を与えたため?」

「違う」

 

「さ、先ほど反省の言葉もなく御身を求めたため?」

「違う――」

 

 モモンガが、深々と失望の溜息をついた。

 至高の御方の失望は、NPC全ての絶望である。

 玉座の間に集った全員が恐怖に青ざめ、またシャルティアに怒りを抱いた。

 

「……もうよい。お前は本当に何もわかっていないのだな」

 

 傍らのアウラとシズの頭を軽く撫で。

 エクレアをシズに手渡し、モモンガは立ち上がる。

 絶望のオーラなど一切発していないが……それだけに、NPCは恐怖を感じる。

 部外者のハムスケも空気を読んで黙っていた。

 カツカツと歩き――デミウルゴスの前に立つ。

 

「お前たちは、見事に働いてくれている。私が何を求めたがゆえ、働いているか……覚えているか?」

「ハッ、至高の御方たるモモンガ様の安住の地ナザリックを、永劫に維持すべく働いております!」

 

 モモンガは微笑み、頷いて――次に、セバスの前に立つ。 

 

「お前には最も危険な任務を任せている。私がお前に下した最優先の命令を、覚えているか?」

「真なる脅威、未知数の力に出会ったならば、撤退こそ優先いたします」

 

 満足げに頷き――続いて、マーレの前に立つ。

 

「今回の魔樹討伐、お前には討伐以外にも重大な任務があった。首尾はどうだった?」

「は、はい。あのモンスターの重要そうな部位は全て採取しました。残る肉体も、コキュートスさん配下の力も借りて運搬中です」

 

 微笑み、マーレの頭を撫でる。

 姉を妬んでいた少年の顔がゆるみ、赤らむ。

 しばし、マーレの髪に指を絡めてから、アルベドの前に立った。

 

「さて。アルベドよ、ナザリックの現ギミック稼働率はいかほどだったかな」

「現在、稼働中のトラップその他はありません。また、ダンジョン内での戦闘訓練は第一層以外では禁止となっております」

「この会議中の浅層部守護はどうしている?」

「各階層の自動配置モンスターの位置をいじっておきました」

 

 アルベドの答えに、少なからぬNPCがざわめくが。

 高い知性を持つ者らは頷き、モモンガもまた微笑んだ。

 配偶者たる守護者統括の頬に軽くキスをし、離れ――玉座の間の隅、一人離れた場所にいたナーベラルの前に立つ。

 

「ナーベラル・ガンマ。この世界に来て最初に、私を失望させたのはお前だった」

「……はい。その通りです」

 

 ほぼ全員が初耳だったのだろう。

 無数の視線が黒髪ポニーテールのメイドに突き刺さった。

 姉妹たるプレアデスの面々、上司たるセバスも、目を見開いている。

 ナーベラルは震え、消え入らんばかり。

 同じNPCならば、姉妹とて許してはくれまいと、彼女は黙っていたのだ。

 

「なぜ、私を失望させたのだったか?」

「……私が、死んで詫びると申し上げたから、です」

 

 デミウルゴスが「愚かな」と吐き捨てるように呟く。

 アルベドとパンドラズ・アクターも頷いた。

 とはいえ、他の多くは困惑するばかり。

 失望させた意味のわからぬ者が圧倒的に多いのだ。

 

「では今、改めて詫びてみせよ」

「っ……この身は御身の財が一つ。でありながら、御身を損なわせる言葉を謝罪として吐いた罪、魂に刻みました。どうか、至らなかった私にお慈悲を」

 

 息を飲み、跪いて、言葉を搾りだすナーベラル。

 

「よかろう。お前の全てを許す、ナーベラル・ガンマ。以後は決して、己の価値を見損なうな」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ひれ伏し、床に(ひたい)を擦り付けた。

 プレアデスの他の面々も安堵する。

 この罪ゆえ、他の姉妹らが名誉ある仕事を与えられる中……ナーベラルは一人、閑職に追いやられていたのだ。

 

「他の者も、以後はナーベラルの罪に言及すること禁じる。また、死を詫び代わりに使う者は、彼女と同様に我が失望を受けると知れ」

 

 言いつつ、ナーベラルの手を取り、立ち上がらせた。

 抱擁し、髪を撫でる……ナーベラルの瞳から涙がこぼれた。

 そして、モモンガは再び歩を進め、シャルティアの前に立つ。

 

「モ、モモンガ様……」

 

 シャルティアが渇いた口で、必死に言葉を紡ぎ、慈悲を乞わんとする。

 

「お前の罪はわかったか?」

「こ、コキュートスを、ルプスレギナを、アウラの魔獣を……危険に晒した、からかと……」

 

 モモンガが、再び歩き始める。

 ルプスレギナの前へと。

 

「仮にコキュートスが死んでいたなら、その蘇生には金貨5億枚が必要となる。ルプスレギナも相当額が必要だ。アウラの魔獣には、補充の効かないものも多い。傭兵モンスターとして雇いなおすしかあるまい。ルプスレギナがいれば、ペナルティ覚悟の即時蘇生もできたろうが……今回、最も危機的状況にあったのは彼女自身」

 

 人狼メイドを抱えるように抱きしめ、撫でる。

 目を細め、緩みそうになる顔を引き締める、ルプスレギナ。

 そして一方で、モモンガは別の守護者へと振り向き、尋ねる。

 

「パンドラズ・アクター――我が子よ、この世界で億単位のユグドラシル金貨を獲得する方法の目途はついたか?」

「いえッ! あーらゆる物資を試しておりますが、換金率に優れた品は見つかっておりませんッ! 目下の現地で獲得した最大額物資は霜の竜(フロストドラゴン)の皮。しかァーし、換金額は100金貨~前後ッ! 今回の魔樹の素材による換金は期待しておりますッ! もっとも、生命体やモンスターの直接換金は……不可能かと」

 

 最後に憂いに俯き、視線を主に向けて言う。

 モモンガは眉を寄せ、憂鬱な顔で、頷いた。

 この失望はパンドラズ・アクターの責任ではない。

 元は中級以上のアンデッドを直接、換金すれば……と思っていたが不可能。スキルで作成したアンデッドらは死後に消えてドロップ品を残さない。土台に人間の死体を用いれば永続化できるとわかったが……データクリスタルや金貨を落とさぬ以上、収入とも呼べない。

 ナザリック・オールド・ガーダーの装備を剥いでもみたが、ユグドラシルでも下級アイテムゆえだろう。さしたる金額とはならない。

 定期的な金貨獲得手段は、ナザリック全体の最優先課題だった。

 

「幸運にも全員が無事に帰れたが……誰か一人でも欠けていれば、ナザリックの財政は相当の痛手を受けていた。だからこそ、私は生還を至上命令としたのだ。わかるか?」

 

 全員を見回し、言う。

 

「死とは何だ? 少なくともお前たちのそれは、私に対する嫌がらせに他ならん。お前たちはナザリックを放棄し、外でだけ生きたいのか? お前たちの多くは外で強者かもしれんが……一般メイドたちやエクレアはどうなる? 私は外で風雨に晒されるのが似合いか? ナザリックが維持できぬとはそういうことだぞ。死を以て詫びる愚かさが、わかるか?」

 

 ナーベラルと同じ言葉を、ともあれば口にしかねぬ者は多かったのだろう。

 全員がひれ伏し、地に頭を擦り付けた。

 

「ならば、私が現地の戦力を重視し、彼らを重用する理由もわかるな? お前たちがいかに強かろうと使い潰したりはできぬ。我らにとっては、彼らこそ真の兵力たりうるのだ」

 

 全ては己たちへの優しさと知り、NPCたちは全員がむせび泣いた。

 

「再び言っておこう。召喚や作成系のスキルや呪文で呼び出したモンスターはかまわんが……ナザリックの者は誰一人として欠けるな。死は、私に対する最大の反逆と知れ」

 

 再び、全員が床に頭を打ち付けんばかりにひれ伏す。

 そして、モモンガはシャルティアに目を向けた。

 

「ゆえに、同じナザリックの仲間を殺す以上の罪はない。釈明に値する理由もなければ、なおさらにな」

 

 冷たく見据え。

 そして、断罪は為される。

 

 

 

「で、そいつに延々と戦闘訓練させてるわけかい」

 

 ヒルマが呆れたように溜息をついた。

 

「うむ。まあ、アルベド様を始め、他の守護者にも交代でするよう言っているし……私が細かく指示するより、自主的に戦術を習得してほしいからな」

「んっ……もうちょっと体重かけていいよ」

 

 モモンガはヒルマにのしかかり、圧力を強める。

 

「こうか?」

「そうそう……加減はしっかりね。力を入れすぎてもいけないよ」

 

 モモンガは、ヒルマに指導されつつ、マッサージの習得に余念がなかった。

 性的な奉仕よりも、日常に疲れをねぎらう方向で技巧を入れた方がいいと言われたのだ。

 

「アンタのことだし、アルベド様にするつもりなんだろう?」

「そうだ」

「回数はアルベド様優先でいいけど、他の奴にもやってやりなよ」

「む……? ねぎらいとして、か?」

「そうだよ。特にそのシャルティアって子は、みんなの前で叱ったんだろ? 恥もかかせたし、放っておくと妙な遺恨になるかもしれないからね」

 

 NPCというシステムと、その服従性を知らないヒルマにとってみれば、人前で叱りつけた従僕など、いつ裏切るとも知れぬ存在だ。それも利害ではなく、古い遺恨からの逆恨みで、行動を起こす。

 妹分のようなこの娘――モモンガが、そんな部下を扱いきれるとは思えない。

 逆に、周りの忠誠心によっては、シャルティアとやらが他の部下から虐待じみた目に合わされる可能性だってある。早めに、(みそぎ)は終わらせるべきだと……ヒルマは考えた。

 

「あいつにはもっと反省させたいんだが……」

「そりゃ、すぐにしてやる必要はないさ。他の連中も順番にマッサージしてやって、最後にするくらいでいいだろうよ。アルベド様にと、他のやつに一回、そうして毎日してやればいいんじゃないかい?」

「なるほど……皆の前では恥ずかしい奴もいるだろう。各自の部屋を回ってしてやるべきかな」

「ああ。それがいいね。とはいえ、性的なマッサージは控えておきなよ」

 

 先日の机下での奉仕を聞いて、死すら覚悟したヒルマである。

 釘を刺すのは忘れない。

 

「む……アルベド様とも、か?」

「そうだよ。むしろアルベド様にこそ、しない方がいい」

 

 モモンガに衝撃が走る!

 

「なぜ……だ?」

「がっついて見えないようにだよ。さりげなく触れるに留めておきな」

「う……でも……」

「がっついてくより、アルベド様から求められたくないかい?」

 

 ぶんぶんと、何度も頷くモモンガ。

 

「だったら、アルベド様にも普段はさりげなくアピールするだけにしときなよ。仕事の時間、ねぎらう時間、愛し合う時間、としっかり切り替えるんだ」

「き、切り替えか……私もがんばっているつもりなんだが、アルベド様との時間はなるべく触れあっていたいというか……」

「アンタ自身が辛抱できないなら、それこそ他の子を使っちゃどうだい。私だっているだろ」

「そ、そうだな……じゃあさっそく……頼んでもいいか?」

 

 いそいそと、ヒルマに顔面騎乗を始めてしまうモモンガだった。

 




 資産管理的に考えて、NPC死亡とか悪夢……というモモンガさん。
 保身より維持、なのでアイテム消費は無論、お金の消費にもうるさいです。
 ポーションもスクロールもなるべく使わせてません。
 目下の目的は換金率よくて、定期的に手に入る品を見つけること。

 なお、まだまだゲーマー脳も残ってるモモンガさんからすれば、ヘイト管理もできないアタッカーが失望されるは当然。開幕ぶっぱしてフレンドリーファイアする戦犯シャルティアが晒されるは道理。
 その後、守護者やプレアデスはみんな戦闘連携訓練を命じられてます。
 アルベド含めNPC組がモモンガさんの傍にいる率、下がりました。
 クレマンティーヌとヒルマが、臨時側仕えになってます。


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27:みんな いっしょうけんめい たたかっている!

 連携はクラス能力じゃない、プレイヤースキルなんで、全員身に付けられるはずと想定しています。もちろん、リアルと同じく個人差はあるでしょうが……。



 ナザリック地下大墳墓、第六階層。

 円形闘技場(コロッセウム)

 

「うう……負けたぁ。納得いかなぁい」

「まー、二人で組んだら、こんなもんだよねー♪」

 

 プレアデスの一人、エントマがHPを半分以上削られ、敗北を宣言した。

 にやにやと勝利宣言したのは、クレマンティーヌだ。

 

「うぐぐ、エンちゃんまで……」

「ぶい」

 

 先に敗北したルプスレギナがショックを受け、姿を現したシズも勝利宣言をする。

 連携を意図したタッグマッチだった。

 

「今の状況を見たか? 少々意地悪な組み方をさせたが、これが連携の意味だ」

 

 観客席で、モモンガが目の前の面々に説く。

 外での活動が予期される面々と、モモンガの側仕えらがそろっていた。

 また、アドバイザーとしてニグンも参加を許されている。

 

「お前たちは個々において優秀な戦力だが、連携を知らん。これは大きな問題だ。事実、外部の人間と組んだシズが勝利し、プレアデスの姉妹同士で組んだルプスレギナたちが負けた。その理由が……コキュートスよ、わかるか?」

 

 NPCらを見回した後、もの言いたげなコキュートスへと問う。

 

「ハッ、シズハ戦闘開始カラ距離ヲ取リ、人間ハ前デ壁トナリ近ヅカセマセンデシタ。サラニ、勝者側ハ回復役ノルプスレギナヲ徹底的ニ狙イ、最初ニ撃破。エントマ、ルプスレギナ共ニ、完全ナ前衛デナク、カトイッテ後衛ニモナリキレズイタ点ガ、最大ノ敗因カト」

「おお、見事だ。コキュートス、よくまとめたな」

 

 機嫌よく頷く主に、他の面々も安堵する。

 連携の不手際で人間に後れを取り、さらなる失望を受けてしまうのでは……とNPCらは戦々恐々だったのだ。

 

「連携とは、生まれ持って得られる才能や能力ではない。お前たちはこれから戦いを経験し、最低限の連携を身に付けねばならん。その重要さは、先の魔樹討伐で身に染みたはずだ」

「オッシャラレル通リデス」

「魔獣の統率みたいにはいかないんですよねー」

 

 コキュートスに続き、アウラが唇を尖らせる。

 

「そうだな。多様な戦力を率いた集団戦術において、アウラは私より高みにいるだろう」

「い、いやっ、そんなつもりじゃっ」

 

 あたふたと否定するアウラだが。

 

「よせ。お前たち守護者は、各自の得意分野において私を凌駕する存在だ。でなくば、私がお前たちにナザリックを任せる意味もない」

「「あ、ありがとうございます……!」」

 

 階層守護者たちが感涙にむせぶ。

 

「より大きなスケールでの戦略において、デミウルゴスは私より遥か高みにいるだろう。個人戦闘における戦術の巧みさでは、私よりパンドラズ・アクターの方が優れるはずだ」

 

 それぞれが誇りを胸に、顔をゆるめる。

 

「だが、均一の兵力を率いるならば、ニグンはここの誰よりも優れるだろう。チェスのようなゲームならデミウルゴスが上だろうが、人心掌握も必要な実際の将としてならば、な」

「ありがとうございます!」

 

 ニグンがぴしりと立ち、頭を下げる。

 NPCらは嫉妬の目を浴びせるが、モモンガの評価こそ最重要と知っていれば、以前ほどは怯えずに済む。

 

「だが、連携では現状、私に勝てる者はいない……いや、先日の様子を見れば、連携以前の問題だな。お前たちも連携について知識だけでなく、身に着けた技術とせねばならん。私なりのねぎらいもさせてもらう。各自、メンバーを常に入れ替えて訓練をせよ。施設の過度な破壊は避けるように」

 

 全員に命じ、メンバーを固定せずに戦術を自ら編み出せるようさせる。

 

 

 

 回復魔法を受けたクレマンティーヌが戻れば、モモンガは人間二人に問うてみる。

 

「二人には、どう見えただろう?」

 

 闘技場ではNPCたちがいくつかのチームを作り、対戦訓練をしている。

 

「何と申しますか……法国の漆黒聖典に似ております」

「そーだーねー。特に新入りってあんな感じだよー。隊長も昔はやんちゃだったーって聞くしぃ……あー、あの番外ちゃんは今もそーかなー?」

 

 遠回しに、能力に振り回されている感を述べる。

 

「なるほどな。せめて、話に聞く冒険者のような動きを身に着けてほしいものだが」

 

 思案する。

 

「守護者の方々は自身の専門分野もお持ちです。現場の連携まで習得するは困難とも思いますが」

 

 ニグンが進言する。100レベルという高みにある守護者たちは、確かに強いが、それ以上に知性や人望を武器とすべきでは、と見ているのだ。

 

「確かにデミウルゴスやアルベドはそれでもいい……だが、問題のシャルティアらの存在意義は戦闘力だ。少なくともシャルティアとコキュートスは、連携を身に付ける必要がある。法国や竜王が接触してきた折、侮られてはならんからな」

 

 溜息をつく。

 

「モモンガちゃん真面目だねー……っても、風花聖典は動いてるんだっけー。様子見が終わったら、接触してくるよー」

「ええ。少なくともセバス様とユリ様には間違いなく……カルネ村で箝口令を出してもいない以上、地上部にたどり着くのも時間の問題でしょう」

 

 クレマンティーヌの馴れ馴れしい態度に眉をひそめつつ、ニグンもまた頷いた。

 

「漆黒聖典や竜王に比較して、我らはどう見える? 世事はいらん」

「いやー、少なくとも番外ちゃん以外、相手にもなんないよー。ここに来た時の私と同格の連中ばっかだもん。あのメイドちゃんたちで十分だと思うけどー?」

「そうですね。私も漆黒聖典の強さを見ていますが、アルベド様たちなら一人でも蹂躙できるかと。番外席次のみ警戒すべきですが……そもそも、接触時点で漆黒聖典が直接来る可能性は低いでしょう。それらしき集団の警戒に当たれば十分と考えます」

 

 多少不安を抱えつつ、モモンガは頷く。

 

「そして、竜王については、わからんか……」

 

 二人が黙って頷いた。

 実際、人間の中にそれを知る者はまずいないのだろう。

 王国の者たちも、フールーダなる帝国の魔術師も、知らないという。

 

「そういえば、蒼の薔薇という冒険者らを呼び寄せることになったが……知っているか?」

「蒼の薔薇……ですか」

「アダマンタイト級冒険者だねー。まあ、今じゃたいした連中とは思えないかなー。今の私でも二人くらいは相手にできると思うよー?」

 

 言葉を濁すニグンと対照的に、クレマンティーヌが快活に答える。

 チラ、と見る闘技場ではセバスとコキュートスが激突し、シャルティアとマーレの魔法支援が飛び交っている。神話の如きこの戦いに比べれば、漆黒聖典など棒を振り回すだけの子供だ。

 

「ニグンは何か因縁があるのか? 彼女らが来る間、離れておいてもらってもいいが……」

「実はこの顔に傷を付けられた縁でして……元は法国の部隊としての任務中のこと。彼女らが私に思う所なくば、問題はないのですが……」

「あー、どっちにしても変な気、使いそーだよねー。陽光聖典は席を外してもらった方がいいんじゃなーい?」

 

 陽光聖典全体となると厳しい。

 何と言っても現状、ナザリック地上部の住人といえばニグンたち陽光聖典、カジットとその弟子、六腕(の5人)、そしてハムスケしかいない。増やすとしても、クレマンティーヌとデミウルゴス配下の女淫魔(サキュバス)程度。おそらく増やした方が、あやしい集団になる。

 

「……いや、件の王女殿とは腹を割って話をするつもりだ。護衛たる彼女らにも、しっかりと現状を見てもらった方がいいだろう。変に隠せば、後々のためにもならん」

 

 少し考え、決断する。

 蒼の薔薇の一人とは、既にクレマンティーヌ同様近づくつもりでいる。

 いらぬ秘密を抱えてはよくない。

 

 しばらくそのまま、二人の助言を聞きつつNPCらの戦いを分析すると。

 モモンガは〈転移門(ゲート)〉を開き、ニグンを地上へと送った。

 そして。

 

 

 

「モモンガちゃんって、ちょーっと、かーっこいーかなーって思ったのに……ほーんと、相変わらずだねー」

「な、なんのこと、だっ」

 

 私室に戻るのかと思いきや、闘技場の通路で魔法を使い、音を消し。

 モモンガは壁に手を突いて、腰を突き出してきたのだった。

 既にさんざん関係を持ち、50レベルに近づいたクレマンティーヌである。

 期待される行為がわからぬはずもない。

 何より、モモンガの白い尻が誘うように自ら揺れている。

 

「アルベド様が訓練してる間に、モモンガちゃんはナニしてるってわけー?」

「だ、だってぇ、あんまりするとアルベド様に迷惑ってぇっ」

 

 許可も求めずローブをめくる、クレマンティーヌ

 容赦なくねじ込んで、激しい粘液音と共にいじめてやれば。

 モモンガの声は蕩け、支配者の振る舞いも崩れる。

 

「こぉーんな雌の匂い、ぷーんぷんさせてさぁー♪」

「ひぎゅっ! ひぎゅぅっ♡♡♡」

 

 簡単に身を跳ねさせる。

 ひたすら性的経験値でレベルアップしているクレマンティーヌは、性的クラスを多数極め、ナザリックで随一の色事師となりつつあった。

 人間経験こそ低いが、小手先の技巧ではヒルマを超えている。

 特に、何度も相手したモモンガを絶頂させるのは、手慣れたものだ。

 

「まー、このギャップがかわいいんだけどねー。あのアルベド様より偉いって聞いた時は慌てたよー? モモンガちゃん、もっとこのギャップを武器にしてもいいのにねー♪」

「武器? 武器ってぇ、へぇぇっ♡♡」

 

 腰を突き出すモモンガに覆いかぶさり。

 長い舌で、びちゃびちゃと耳朶を舐めてやりながら囁く。

 

「すっごく偉くてかっこいいのにさー、実はどーしよーもない……クソマゾ雌ってことだよ」

「いっぎぃぃぃぃぃぃぃ♡♡♡」

 

 最後に冷たく罵り(なじ)りながら、敏感なところをきつく抓れば。

 モモンガは膝を震わせ、ちょろちょろと尿を漏らし、絶頂するのだった。

 

「ほーら、汚れた床にへたりこんじゃダメだよー♪」

「ゆ、ゆるしてぇ、クレマンティーヌ様っ♡」

 

 そのままずるずるとへたり込みそうなモモンガを、抱え支えて。

 クレマンティーヌは、にやにやと、そのまま攻め続ける。

 

「はー、まーったく、みんな訓練で大変な時にナニやってんすかー?」

 

 ルプスレギナが、いつの間にか横にいた。

 嗅覚に優れた彼女は、モモンガの淫臭を嗅ぎつけてやってきたのだ。

 

「あはっ♪ さっきはごめんねー、ルプー先輩。前の方は差し出すから許してー♪」

「ふぇっ!?」

 

 しかし、クレマンティーヌは取り乱さず。

 モモンガを抱え、差し出すようにする。

 二人は、ベッドでの嗜虐心を通じて仲良くなっていた。

 

「ほーん、これは美味しそーっすね。じゃあ後輩の差し入れをいただくとするっす♪」

「ひゃっ!? る、ルプスレギナ様っ?」

 

 失禁した直後のそこに顔を近づけるルプスレギナに、狼狽する。

 脚を閉じようとするが。

 

「ほら、先輩どうぞー♪」

 

 クレマンティーヌが逆に広げてくる。

 

「ひやあああっ♡」

「うひひひ、絶景っすねー♪」

 

 二人がかりの攻めに、鳴かされ続けるモモンガだった。

 

 そしてもちろん、この間もナザリックの守護者たちはがんばって連携訓練を続け。

 地上に戻ったニグンも、蒼の薔薇の対処に悩みつつ、守護者らの邪魔にならぬよう陽光聖典全体での訓練を始めていた。

 




 そろそろNTR性癖くらい目覚めててもおかしくないですね……アルベドさん。

 アルベドさんが「様」付けを受け入れて以来、ベッド組では「様」呼びされてもプレイの一環ですまされています。
 アルベドとソリュシャンは、微妙な気分で呼ばれてますが。
 シャルティアとルプーは、ノリノリです。
 そのへんもあって、シャルティアは原作以上に調子に乗ってました。

 クレマンティーヌは、モモンガさんがトップと聞いて驚きましたが、王=最強ってものじゃないので、そういうもんかと思ってます。モモンガさんがオーラ全開にするだけで即死させちゃうようなヤバイ人ととは知りません。

 ニグン&カジットは地上で、健全なスローライフしてます。

 そして、このモモンガさんは目的こそアレですが、ガチで100年後とか1000年後を見越して行動してます。全てはアルベドさんとの幸せな生活のために!


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28:古事記にもそう書いてある

 わかんないので広間ってしましたけど、アニメ一期でアインズ×シャルティア戦を、守護者らが観戦してた部屋です。



 ナザリック地下大墳墓、第十層。

 玉座の間。

 ――で、いろいろと済ませた後。

 

 ナザリック地下大墳墓、第九層。

 ロイヤルスイート、広間。

 ソファに向かい合って二人は座っていた。

 人払いはなされ、メイドすらいない。

 

「いや、今回は遠方からすまなかったな。与えた部屋に問題はなかったか?」

「いえいえ、思っていた以上の場所と戦力でした……それに、半信半疑でしたが、私たちとてもいい友達になれそうですね」

 

 リ・エスティーゼ王国第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフが微笑む。

 まさに太陽のように、この地下深くでも輝く美貌。

 蕩かし堕落させるような、モモンガの色香とはまた違う。

 清純で無垢な、少女の笑み。

 蠱惑的で淫らな、雌の笑み。

 比較してどちらかを選べるものでもあるまい。

 

「愛や恋は、他の者が抱えていても、容易に感じ取れるのだな。しかし――これはある種の共感性なのだろう」

「ふふ、そうですね。まさか、ああも簡単に見破られるなんて」

「仕方あるまいよ」

「ええ、まるで鏡を見ているみたい」

 

 二人の美しい笑みが溶け崩れるように、グロテスクな病んだ笑みとなった。

 互いが互いに共鳴し、理解し合う。

 力も才能も関係ない。

 力が弱いからと、モモンガがラナーを軽んじはすまい。

 知恵浅いからと、ラナーがモモンガを軽んじもすまい。

 同じものを、別のものに、抱く。

 志を同じくする……同志だ。

 ああ、と互いに同時に溜息をつく。

 

「「愛する人がいる幸福」」

 

 普段、互いの想い人の前では決して発しない声で、二人笑う。

 笑いながら握手を交わす。

 

「二人の場では、気楽にモモンガと呼んでくれ。ラナー」

「光栄ね、モモンガ」 

 

 笑みを深め、手を離した。

 

「ふっふ! ああ、真に友人ができた気がするな。あの少年――で合っているかな? お前たちは“まだ”なのだろう? ナザリックにいる間、貸してほしい手があれば、いつでも言うがいい」

「ありがとうございます。モモンガ様も――彼女とは既に成し遂げても“迷い”があるのですよね? 私自身の将来の参考のためにも、愚痴を含め聞かせてください♪」

 

 そう言われて、モモンガは重々しく頷く。

 

「さすがだ、わが友よ。シモベらは、私を知恵者だ支配者だと言うが、心の機微について、私は疎い。ラナーの知恵を貸してほしいのだ」

「あら。これほどの勢力をまとめるモモンガに教えることなんてあるのかしら」

 

 いつもなら、内心で相手を嘲笑うなり、利用価値を考えるだろうが。

 ラナーは真剣に、モモンガの言葉に耳を傾ける。

 モモンガに起こりうる問題は、いずれラナーも迎えるかもしれない問題なのだから。

 先達の得た教訓は生かさねばならない。

 

「ふふ、恋と支配は違うのだろうな。その点、ラナーは見事だ。彼を、実に理想的に仕上げている」

「まあ――ふふ、“そこ”を褒められるなんて、初めてです。本当に嬉しい……」

 

 どろりとした笑みを深め、濁り狂った眼光を強めるラナー。

 

「詳細はそちらと異なるのだろうが。私は、アルベドを……いや、違うな。アルベド様のモノになりたいのだ」

「……それは……確かに、少し困った状態ね」

 

 ラナーが唇に手を当て、思案する。

 部下、忠犬としてなら、彼女はよく仕込まれていた。

 能力に至っては、おそらく目の前のモモンガと同じかそれ以上だろう。

 だが、彼女をモモンガのモノとするならともかく……逆は。

 

「私はアルベドが欲しかった。そして、婚姻する約束を彼女の保護者とも交わしていた。そして結婚して……全ては成就したと思ったのだがな」

「不一致があったのですか」

 

 沈痛な面持ちでモモンガが頷いた。

 

「その通りだ。私なりの愛情は、アルベド様に負担を強いているらしい。私は彼女の奴隷となりたいが……彼女としては、私の奴隷になりたかったのかもしれん」

「甘酸っぱい恋人の振る舞いを求めたりはされていませんか?」

 

 恋人の過程を飛ばし、体ばかりの関係になっていないか問う。

 

「――いや、お互いないと思う。種族のせいかもしれん。体を貪るに飽きる様子はない。ただ、アルベド様はどうにも、居心地悪そうに思えてな。他の女をあてがってもくるし……」

「モモンガを、己だけでは満たせないと思っているのでは……?」

 

 一時考え、首を横に振るモモンガ。

 

「いや。私はアルベド様のみで満たされる。言葉でも何度も伝えている……ただ、悪魔という種族は寝食不要だからな。始めると幾日も没頭してしまい、彼女の仕事を妨げるのが問題やもしれん」

「まあ……羨ましい……それで、他の女性を、ですか」

 

 幾日もクライムと……己がそうする光景を想い、身を熱くするラナー。

 どろりとした黒い欲望を溢れさせつつも、冷静に考える。

 アルベドは、モモンガに愛人をあてがい、仕事中の無聊を慰めようとしているのか?

 とすれば、アルベドの抱く感情は……。

 

「残酷なことを申し上げるようですが――」

 

 同志だからこそ。

 ラナーは、一切の慈悲も媚びもなく、言うことにした。

 

 

 

 蒼の薔薇の面々も、ナザリックに通され……客室を与えられた。

 しかも、個別の部屋を半ば強制的に与えられている。

 クライムのみ、護衛としてラナーと同室を許された形だ。

 これはクライム自身が希望した結果だったが……無論、ラナーとモモンガ、さらには恐怖公の仕込みでもあった。

 

 蒼の薔薇としては、集まって話し合いたかったが。

 部屋の豪華さ……そして何より、玉座の間に集まっていた異形どもの難度を考えれば。

 暴れ出すのは無論、偵察すら自殺行為に思えた。

 

 そして今、彼女らの部屋の一つがノックされ。

 緊張と共に、扉は開かれた。

 

「……鬼リーダーかイビルアイに何かした?」

「いいや。蒼の薔薇で用があるのは、お前だけだ」

 

 あの玉座に座っていた美しい女淫魔(サキュバス)が、蒼の薔薇の双子忍者の一人――ティアの目の前にいた。

 なぜか他と違って圧力を感じられず、ティアとしては露出された体にむしゃぶりつきたいと思っていた人物である。

 

「予想外」

「部屋の中に入っても?」

 

 首をかしげて問うてくる。

 護衛の姿すら見えない。

 この恐るべき場所のトップが、なぜ己の部屋に来るのか……何か妙な幻術でも使われているのではと、相手を観察してみる。

 

(表情は――色っぽい。種族ゆえでもあるだろうが、目は潤みがち。周りを気にする視線はなし。唇も自然体。緊張していない。嘘をつこうとする様子もない。少し上気した顔色。こちらを露骨に伺う目。胸や腰を見ている? 女同士なのに性的対象と見ている? そういう誘い?)

 

 顔だけではわからないので、下を見る。

 

(前半身ほぼ丸出し。下着をつけていない。乳首がかろうじて隠れてる。柔らかそう。首をかしげただけで、少し揺れた。あれは、さんざん誰かに揉みまくられてる胸。私にはわかる。今、ぴくっとした。乳首が勃ち始めてる……私の視線に反応している?)

 

 胸は寸分違わず、さっきの玉座で見たものと同じ。

 念のため、もう少し下も確認する。

 

(へその下もガードが薄い。この下もおそらく下着なし。ローブで脚が見えない……減点。けど、このままへその下に手をつっこめば、直接いじれる。敏捷性を考えれば、できなくはない――!? 下腹部が震えた。ローブの中で脚を擦り合わせてる。観察されながら濡れてる? これは重大な秘密が隠されているかもしれない。部屋に入れれば、事故と称して手を入れる機会はいくらでもある。というか、宿の個室に敵ボス自ら乗り込んで来たら、何もしないのは実際シツレイ。ミヤモト・マサシだか古事記だかも言っていた気がする)

 

「……ふぅ。わかった。入っていい」

 

 この間、およそ3分。

 延々と舐めまわすような視線で視姦され、モモンガの体は出来上がってしまっていた。

 ティアも、ひとまず当分はオカズに困らないと一息ついてから、モモンガを部屋に迎えた。

 どうせ、敵対するだけ意味のない相手である。

 馴れ馴れしく肩を抱いてみたりもするが。

 モモンガは抵抗しない。

 

 ティアは心の中でガッツポーズをした。

 

 そして、なぜか三時間後。

 

「それで何の用?」

 

 十分満足するまで、モモンガの体を味わい尽くし、今夜は泊まると約束した。

 少し休憩の間。

 二人、ベッドで裸で密着しつつ。

 まさか抱かれるためだけに来たのではないだろうと、モモンガに聞いてみる。

 ティアを殺すなり洗脳するなりする様子もない。

 

「ティアは、その最高位の冒険者でそれなのだから……モテるんだろう?」

「え……そう。モテる」

 

 意外過ぎる質問に、戸惑う。

 別にモテないとは言えない。

 童貞のように、見得を張って答えるティア。

 リーダーからして処女なのだ。

 

「女性同士の恋愛について、相談があるのだ……」

「恋愛」

 

 ティアとしては、女性同士のセックスには詳しいが。

 恋愛……となると難しい。

 欲望はあっても、恋はろくにしていない。

 はっきり言ってしまえば素人童貞?のような身。

 ここは素直に断るべきだろうと、口を開きかけるが。

 

「寝食不要、疲労無効の指輪を用意した。これを報酬として渡すし……今夜は好きなだけ私としていいから……相談に乗ってくれないか」

「任せてほしい」

 

 即答した。

 そして、一瞬で差し出されたリング・オブ・サステナンスを装着。

 その効果を感じるより早く、相談も聞かず。

 

 このあと滅茶苦茶セックスした。

 

 

 

「いや、うまくいったようで何よりだね」

「コレデ王国ノ浸透モ終ワリカ」

「この近隣都市エ・ランテルの割譲を引き出すのも容易でしょうな。モモンガ様も王女殿下をいたく気に入ってくださった様子。我輩も組んで来た甲斐がありましたぞ」

 

 デミウルゴスとコキュートス、そして恐怖公が、バーで祝杯をあげる。

 ラナーはナザリックに亡命した。

 王国ではセバスが英雄として活躍している。

 これより、ナザリックはセバスの主たるモモンガを王とした、独立国として宣言するのだ。当人からも、仕事を回さず、余計な敵を作らなければよいと許可を得ている。

 既にアンデッドによるプランテーション計画も進められ、周辺地は大規模農場に変わりつつある。滅んだ村の難民を吸収したカルネ村の防備も、ゴーレムとアンデッドによって強化され、都市と化す日も近い。

 そうなれば、平和的にエ・ランテルを王国から奪えるだろう。

 交通の要衝を手に入れれば……労せず、財貨や物資を獲得し、ナザリックの維持にもつながるわけだ。

 

「「ナザリックに栄光あれ」」

 

 マスターも共に、グラスを鳴らした。

 

「これで浄化された王国を、セバスに英雄として立て直してもらう。彼は後ろ暗い仕事には合わないからね」

「仕方アルマイ。堂々ノ戦ヲ求メルハ戦士ノ常」

「コキュートス殿も、アウラ殿と共に支配地を拡げてらっしゃる様子。トブの大森林ではトロール、アゼルリシア山脈では巨人にドラゴン、いずれも重要な物資をもたらしたと聞いておりますぞ」

 

 恐怖公がコキュートスを讃える。

 事実、トロール、ドラゴン、巨人の皮によってスクロール供給が為されたのだ。

 

「ダガ、弱敵シカイナイ。広イタメ、地盤固メデ次ニ進メヌ」

 

 コキュートスが凍気の溜息をつく。

 

「そういえば、王女殿下はしばらくこちらに住まわれる様子。蒼の薔薇も、同じく逗留でしょう。我輩は――パンドラズ・アクター殿のいる帝国へ? それとも待機ですかな?」

 

 二人の会話を聞いてから、デミウルゴスが笑みを浮かべた。

 

「それだがね。あの人間らから得た情報をそろそろ調査しようと思う。恐怖公には、潜在力において最大と思えるスレイン法国の調査を頼みたい」

「ほう!」

「オオ!」

 

 二人が興奮した声を発した。

 

「恐怖公の調査結果によっては、コキュートスにはアベリオン丘陵なる亜人種の坩堝を征服してもらう。アウラとマーレにはエルフの国を侵略してもらうつもりだよ。そうして三方向から挟撃し、法国を締め上げて……もらえるものはもらおう」

 

 連中が非道を働いていなければ、殺戮はすまい。

 人材を引き抜き、アイテムを徴収するのだ。

 デミウルゴスとしては……王国のように、相当に下劣な上層部であって欲しいのだが。

 

 こうして、モモンガが女忍者に鳴かされる夜。

 

 バーでは、ナザリックの新たな陰謀が始まっていた。

 




 モモンガさんがノータッチかつ興味を示してないので、政治的なアレコレはかなりカットしつつ進めます。あくまで、モモンガさんとアルベドさん、その他ネームドキャラのメンタル的なあれこれを追っかける話ですので……。

 ちょっと忙しくなってきています。
 更新、2~3日に1回になりそう(汗)。

 あと、先日にR-18の方、久しぶりに投稿しました。


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29:……なん……だと……

 時系列、少しさかのぼります。



 ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは言った。

 

「アルベドさんは、モモンガを恋愛対象と見ていないのでは?」

「そんなはずはない!」

 

 思わず、机を叩く。

 呼吸が乱れ、目が紅く光る。

 

「落ち着いてください。嫌われているという意味でも、愛されていないという意味でもありません」

「では……どういう意味だ?」

 

 圧倒的強者のすがりつくような目に、ぞくぞくと甘美な感覚を味わいつつも。

 ラナーは毒を注がない。

 いずれ自身も、モモンガにすがりつかねばならないのだ。

 壊すわけにはいかない。

 

「アルベドさんにとって、モモンガは恋人や伴侶である以前に、主君ということです」

「SYUKUN!?」

 

 妙な発音で叫んでしまう。

 

「支配者でも神でもかまいませんが。仕えるべき主であり、対等で肩を並べられると思っていないのでは?」

「……なん……だと……」

 

 モモンガとしても覚えが……ありすぎた。

 いや、そもそもNPCとは、そういうものではないか。

 アルベドは今も、内心ではデミウルゴスやコキュートスと変わらない意識であり。

 己はただ、伴侶になれ、愛しろ、奴隷扱いしろと、命令したからしているだけなのか。

 だとしたら。

 

 

 

 シャルティア・ブラッドフォールンは言った。

 

「ぺロロンチーノ様いわく、SはサービスのSでありんす」

「なに?」

 

 モモンガは口を開けたまま硬直する。

 主の知らないことと知り、シャルティアは胸を張ってドヤ顔で説明を続ける。

 

「モモンガ様こそ至高の御方。ナザリック地下大墳墓の絶対なる支配者にして、美の結晶の結晶。ナザリックの――否、世界の全てはモモンガ様の意のままとなるべきでありんす」

「はあ」

 

 他人事のように頷く。

 よくわかっていない。

 モモンガ様ってすごいなーと聞くばかりである。

 

「そして、我が創造主ぺロロンチーノ様はおっしゃったでありんす。地位ある人こそ、内心で奴隷のように犯されたがっていると! さすが我が創造主、慧眼でありんした!」

「何教えてるんだよ、あの鳥」

 

 転移以来、久しぶりに素に戻ってしまった。

 

「高い地位、重い責任を持つ者が、ベッドでは雌豚と蔑まれ踏みにじられ、ドロドロのぐちゃぐちゃにされたいのは道理! 実は私も、時折シモベの吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)たちに攻めてもらって……」

「それはいいから」

 

 もじもじと恥じらいながら、酷い告白を聞かされる。

 もう聞くのやめようかなと思い始めた時。

 

「しかし、ルプスレギナはわかっておりんすけど、アルベドもソリュシャンもわかっておりんせん! シモベとして、主に求められた以上、喜んで奉仕として攻めさせてもうらうべきでありんすに!」

「ん? おい――」

 

 違和感を感じた。

 問いただそうとするが。

 

「と、ところで、こうして二人で会ってくれたということは、私の失敗も許してくれて、これからまたねっちり攻めさせてくれるでありんすよね!」

「まだ駄目だ」

 

 飛びついてきそうなシャルティアに危機感を覚え。

 モモンガは、ギルドの指輪の効果で、転移した。

 

 

 

 ルプスレギナ・ベータは言った。

 

「――モモンガ様は、それを望まれておられたはず」

「そうだ。お前は間違っていない」

 

 いつもの軽い調子でなく。

 妖艶で、冷酷な顔で、彼女は答えた。

 

「あれらは、モモンガ様への奉仕と考えておりました。私自身、楽しませていただいたことは否定しませんが。アルベド様やソリュシャンは、楽しみきれていなかったようです」

「……そうか。お前は優秀だな、ルプスレギナ」

 

 人狼メイドは深々と頭を下げた。

 

「御身に斯様な行為をすること、酷く冒涜的に思えるのです。私とシャルティア様は、冒涜に悦びを見出しました。冒涜に恥を感じる方こそ、正しいのでしょう」

「私のあの振舞いに乗じるは、冒涜か。私が許しても、か」

 

 返答として頷き。

 

「――我々、プレアデスでもユリやナーベラルを側仕えに勧めずいるのも、アルベド様ら以上に、こうした冒涜に傷つくからと思っていただければ」

「傷つく、か」

 

 モモンガは目を閉じ、思う。

 乾いた笑いが漏れた。

 

「なぁ、ルプスレギナ……やはりお前たちは私の子だな」

 

 本来なら喜びに身悶える言葉だが。

 主の口調と表情が、それを許さない。

 

「私も……お前たちも。本当に我儘で……己のことしか考えない」

「モモンガ様――」

 

 釈明の言葉を紡ごうとしたが、モモンガは手で制した。

 

「訓練中、邪魔をした。また、かわいがってくれ」

 

 そのまま、転移して立ち去った。

 今は誰もいない私室に戻って。

 モモンガは己の頭を殴り、頬をはたいた。

 何もわかっていなかった自分がひどく、苛立たしかったのだ。

 だが、種族として得た再生能力が、すぐに頬の腫れを引かせ。

 殴った頭の痛みさえ消えた。

 

 NPCには会う気になれない。

 モモンガは予定を早め、初対面の人物の元へと……供も護衛も連れず、向かう。

 相手は今、同じナザリックにいるのだから。

 

 

 

 ティアは言った。

 

「相手はモモンガに欲情してる?」

「…………」

 

 モモンガは、こくりと頷いて返す。

 事情を聞いても、ティアはまるで気に掛ける様子すらなかった。

 それが、今はとてもありがたい。

 

「なら何も問題はない」

「どうしてだ?」

 

 言いきられても、わけがわからない。

 

「恋とか愛とか信頼とかは、突然に生えたりしない」

「え?」

 

 目を見開いた。

 劇的な何かがあって、劇的に生まれるのではないのか?

 

「突然生まれる時もある。でも、たいていは、ゆっくり育まれる」

「そうだろうか?」

 

 たっち・みーに助けられた時。

 アルベドと結婚した時。

 それらは、劇的に生まれたのに。

 ニグンもカジットも、劇的な変化を受けていたように思う。

 

「私とティナは、ラキュースを暗殺に来て返り討ちにされた」

「そうなのか? でも……」

「なぜか許されて仲間にされた。最初は隙を伺って殺そうとしてた」

「よく殺さず傍に置いたなぁ」

 

 素直に驚く。

 モモンガなら、即始末するだろう。

 

「私たちもそう思った。けど……いろいろあって、暗殺対象から仲間になった。特に大きな何かがあったわけでもない。だんだん、関係が変わった」

「…………そうか」

「人間は変わる。人間関係も変わる。いい方にも、悪い方にも。変える努力をして、相手をよく見ていれば、きっと恋人同士になる」

「……そうだな」

 

 モモンガは考える。

 

 ギルドとしてのアインズ・ウール・ゴウン……いや、その前身たるナインズ・オウン・ゴールはどうだったろう。ぺロロンチーノやウルベルトと、劇的なドラマはあっただろうか。むしろ、たっち・みー以外の誰とも……そんなものはなかった。

 NPCについても、最初はギルドメンバーの残滓、身代わりのように見ていた気もする。

 だが、今では個々の個性を知っているし。

 それぞれに信頼もしている。

 信頼とは、盲目的に従うことではない。

 シャルティアは外に出せば失敗しそうだなと、送り出す前から思っていた。

 そして彼女は実際に“信頼”に応えて失敗する。

 さしたる失敗でなくとも、外で何か問題を起こせば、言及するつもりだった。

 彼女だけ、明らかに自主的には仕事も鍛錬もせず過ごしていたからだ。

 己を棚に上げた判断だが――

 

「――っあっ♡」

「慰め目的でも、目の前で他の女について考えこむのは失礼」

 

 ティアが指を滑り込ませ、思考を中断させた。

 

「す、すまない、ティアっ♡」

「ダメ。朝までは許さない♡」

 

 そのまま唇も塞がれ。

 快楽の坩堝に突き落とされてしまう。

 

(ああ……けれど、私はアルベドを……信頼していただろうか……)

 

 独りよがりで求めるばかりだったのでは。

 と、思いながら。

 女忍者の指によがり鳴かされていくのだった。

 

 朝。

 地下なのでわからないが、ぶくぶく茶釜さんのロリ声が朝を知らせる。

 朝食で仲間と顔を合わせる前に、と。

 二人は浴室で身を清め(当然、そこでもいろいろしたが)。

 モモンガは転移で姿を消し、ティアの部屋を去った。

 

 

 

 パンドラズ・アクターは言った。

 

「おお、我が偉大なる母上! なんと、斯様な次第で私に声をかけてくださるとはッ!」

 

 深々と礼をする。

 

「ハイ、もォ~ちろんでございますッ! 彼の場所に納められたる、すぅべぇてッ! 母上のものッ! ご随意にお使いくださいッ!」

 

 くるくると回ると、手に持ったそれはブンブンと振り回される。

 うめき声をあげているが、生きているなら問題ない。

 

「ハッ、帝国にも数は少なくともゴミを見つけましてッ! ハイ、保護した子らは、デミウルゴス様の元にッ! あァ~りがとうございますっ! その言葉だけで、私、天にも昇る心地ッ!」

 

 彼が回り、踊るごと、手の中のそれは、ゴッゴッと周囲にぶつかる。

 〈伝言(メッセージ)〉が切れ、優雅に弧を描いて踊りが止まる。

 

「――はぁ。なんと素敵な朝でしょう。母上直々の激励、何よりも私如きに守護領域だからと立ち入りの断りをくださるとは。本当に、慈悲深いッ! ありがたいッ! こォーんなゴミを見て、私の心も荒んでいたと思い知らされますねェ~」

 

 理性の強い彼は、首を折ってやりたい気持ちを抑え。

 腕と脚を丹念に折るに留めた。

 

「さァ、そちらのエルフのお嬢様方。どうかついて来てください。この人を好きなだけ拷問させてあげますからねェ♪」

 

 片隅で怯え震えていたエルフたちが、その言葉で目に光を取り戻す。

 そして、パンドラズ・アクターはかつての主――死の超越者(オーバーロード)たるモモンガの姿に変わると、〈転移門(ゲート)〉を作りだし。

 三人のエルフと。

 ぴくぴくと動くばかりのそれ――エルヤー・ウズルスなる男と共に。

 上機嫌な足取りで、デミウルゴスの施設へと向かう。

 

 

 

 ナーベラル・ガンマは言った。

 

「わ、私がですか! いえっ、承知いたしました! すぐ向かいます!」

 

 廊下で一人、突然の大声である。

 

「どうなさいました、ナーベラル様」

 

 偶然、側で作業していた一般メイドのインクリメントが問う。

 

「御方からの〈伝言(メッセージ)〉による呼び出しです。最優先で向かいますから、何かあったらエクレアに聞いてください。他の一般メイドにも通達を」

「了解いたしました。いってらっしゃいませ」

 

 答えつつも、既にナーベラルは足早にその場を離れつつあった。

 

 先日、皆の前で罪を晒されて以来、ナーベラルへの風当たりはよくない。

 御方が言及を禁じても、隔意は残る。

 最も親しいプレアデスも大半は外での仕事を任され。

 連携訓練でも、当番の優先順位は最も低い。

 ペストーニャに代わってのメイド長代理という仕事も、いてもいなくとも問題ないような内容であった。

 それだけに、彼女は追い詰められたような、期待と不安の混じった顔で。

 モモンガの呼び出した場所に向かう。

 

 領域守護者、守護者統率すら、許可なく近づくことは許されぬ場所。

 

 ナザリック地下第十層、宝物殿の入り口へと――。

 




 次回、ナーベラルを待ち受ける運命とは!?
 堂々たるヒロインとしてついに、彼女が(やっと)活躍!

 そして、セリフすらなくマゾ豚経験値ATMとして消えたエルヤーさん。
 エルフたちは、エルフの国について事情聴取後、サキュバス化させてもらえます。

 ティアは、リング・オブ・サステナンスをもらいました。
 翌朝、朝ごはんにて蒼の薔薇の中、一人だけツヤツヤしてます。
 (全員、初ナザリックで眠れなかったり警戒しまくったりだったので)

 ようやく着地点が見えてきました。
 あと10話以内に終わるはず……。


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30:続けよ

 ナーベラルヒロイン回。



 モモンガは宝物殿の前で待っていた。

 ナーベラル・ガンマはぴしりと足をそろえ、深々と礼をする。

 彼女には大きな引け目があった。

 軽はずみに“死を以て償う”などと口にし、御方を失望させてしまったのだ。

 今にして思えば、ギルドから除名されてもおかしくなかった。

 何にも属さず、居場所もなく、ただ彷徨い続ける。

 それはナザリックのシモベにとって、何より恐ろしい、絶望の奈落だ。

 

「ナーベラル、私を失望させるなよ」

「ハイ、もちろんです!」

 

 釘を刺され、緊張と共にもう一度、礼をする。

 

「ついて来るがいい」

 

 毒無効化の指輪を装備し。

 二人は宝物殿へと、踏み入った。

 

 

 

 宝物殿の中、凄まじい財宝の間を進むモモンガの後に従うナーベラル。

 本来なら、目もくらむ品々に驚嘆し、己の創造主たる弐式炎雷について問うなどもしたろうが。

 今の彼女は身をこわばらせ、主に付き従うばかり。

 主の背、主の一挙一動しか見ない。

 ただただ、主の失望を買うまいと、必死なのだ。

 そして、モモンガの足が止まる。

 

「……強欲と無欲、か。今の私は強欲ゆえにこれを使うのだな」

 

 深々と溜息をついて、手を伸ばす。

 それは白と黒……天使と悪魔を思わせる装飾の籠手(ガントレット)

 

「私はこれより、このアイテムを使った実験を行なう。使用は既にパンドラズ・アクターにも言ってあるが……お前には立会人となってもらう」

「ハッ! 光栄です!」

 

 モモンガは目を閉じ、己のしようとする行為について、もう一度己に問い返す。

 蓄えた経験値を消費していいのか?

 経験値消費内容はこれでいいのか?

 実験材料はナーベラルでいいのか?

 一つ一つに再考しながら。

 モモンガは、世界級(ワールド)アイテム“強欲と無欲”を装備する。

 本来ならば100レベルと化せば、それ以上取得できぬ経験値。

 これは、経験値を余分に蓄えておけるアイテム。

 経験値を消費するアイテムや、蘇生時のペナルティ軽減にも役立つ品だ。

 

 ナーベラルが、緊張から息を飲む。

 彼女は、主が何をしようとしているか……彼女は何も知らない。

 

「ナーベラル。これから行う全てについて、お前は姉妹を含む全てに対し秘密を守らねばならない。これは最優先の命令だ。できるか?」

「もちろんです。至高の御方たるモモンガ様の命とあらば!」

 

 モモンガは頷き、ある超位魔法を発動させる。

 周囲を無数の魔法陣が取り巻いた。

 そして、かつてユグドラシル時代に蓄えていた経験値を消費して。

 モモンガに今の姿を与えた、彼の呪文を唱える。

 

「〈星に願いを(ウイッシュ・アポン・ア・スター)〉!」

 

 ユグドラシルとは違う、遥かに多くの……いや、無限の選択肢。

 おそらく、望むならばいかなる願いとて叶いうるほどに。

 モモンガはより安易な――愛する人の心を書き換えるという願いに一瞬手を伸ばしかけるが……振り払う。

 愛とはそうして得るものではない、はずなのだ。

 だから、本来の予定で唱える。

 

「我に第5位階呪文〈上位変身(グレーター・ポリモーフ)〉を追加取得させよ!」

 

 呪文の追加取得は、第6位階魔法以下ならば、以前も可能だった。

 モモンガは、己の中には明らかに、新たな呪文が備わったとわかる。

 蓄えられていた大量の経験値が、みるみる消費されていくが、かつて唱えた際より少ない。

 第五位階という、やや低めの位階の呪文だからだろうか?

 経験値はまだ、もう一回分は蓄えられている。

 

「これは予定通り。そして次だ――〈星に願いを(ウイッシュ・アポン・ア・スター)〉」

 

 未知の領域に、モモンガ自身にも緊張が走る。

 何が起こるかわからないのだ。

 クラス取得や種族構成に影響が生じる可能性すらある。

 

「我が取得呪文〈第1位階悪魔召喚(サモン・デーモン・1st)〉を第1位階呪文〈清潔(クリーン)〉に変換せよ」

 

 自身の記憶の中から呪文が消え、新たな呪文が与えられる。

 転移直前の種族変更によって取得した、モモンガにとっては死に呪文。

 一方で覚えんとするのは、この世界で発見された、ユグドラシルにはなかった呪文だ。

 第一位階呪文を別のものに交換――つまり、呪文構成をリビルドしたのだ。

 そして。

 

「おお……」

 

 経験値の消費量は明らかに少ない。

 安いとは言えないが、先の半額以下だ。

 さらに追加で、実験してみる。

 

「我が取得呪文〈第2位階悪魔召喚(サモン・デーモン・2nd)〉を第1位階呪文〈無臭(オーダレス)〉に変換せよ」

 

 敢えて、より低い位階の呪文と交換した。

 消費量はさらに少なくなる。

 

「すばらしい! 経験値さえあれば、いくらでも取得呪文を変更できるわけか!」

 

 久しぶりの、色恋と関係のない興奮。

 他系統呪文やスキルについても検証したかったが、残る経験値が心もとない。

 

「おめでとうございます」

 

 ナーベラルがよくわからないまま、上機嫌な主に拍手する。

 そんな彼女に、モモンガの目が向けられた。

 

「ありがとう、ナーベラル。もう一つの実験に移るとしよう……〈上位変身(グレーター・ポリモーフ)〉」

「…………」

 

 モモンガが肉体変身の呪文を唱えるが……変化した様子は見られない。

 ナーベラルとしては、指摘してよいものかわからず。

 押し黙って立ち尽くすしかない。

 

「ああ……なつかしい感覚だな。そして、これも淫魔の特性か……」

 

 モモンガは満足げにうなずき、じっとナーベラルを見ている。

 

「あ、あの……モモンガ様……?」

 

 主の視線に困った顔をする彼女だが。

 

「ああ、そうだったな。ナーベラル……『(ひざまず)け』」

「ハッ!」

 

 かつて転移前から幾度と受けた命令(コマンド)だ。

 きびきびとした動きで主の前に跪き、俯いて控える。

 主の足音が近づく。

 ばさりと、ローブをはためかせる音がした。

 

(おもて)を上げよ、ナーベラル」

「ハッ……あ、え……?」

 

 目の前に、ローブの前面を完全に開き(あらわ)にした主がいた。

 そして、女淫魔(サキュバス)となったはずの彼女のそこには……。

 

「あ……あ……」

 

 玉座でアルベドに即イキさせられていた時、なかったはずのモノが……ある。

 ナーベラルが顔を赤くし、ポニーテールをぴょこぴょこと跳ねさせる。

 

「最初に試すのはお前だ。奉仕せよ、ナーベラル」

「は、はいっ!」

 

 しかし、ナーベラルはこうした色事に疎い。

 どうすればいいかわからず、頬ずりしたり、唇でキスしてみたりする。

 

「お、大きくなってきました!」

「続けよ」

 

 取り乱すナーベラルに、モモンガは落ち着いた声で言う。

 そのまま必死に、彼女なりの奉仕を繰り返すが。

 

「ふむ……他は知らないか。口を開け、ナーベラル」

「申し訳ありませ――はいっ!」

 

 慌てて口を開く。

 籠手をはめたままの手が、頭をがっちりと掴んで来る。

 

「苦しいかもしれないが、噛むなよ……っ」

「はひ――んんんぐううううううう!?」

 

 そのまま、ねじこまれた。

 

 

 

 数分後。

 

「そのまま飲めッ!」

「んんーーーっ、んぐぐぐぐぐ!!」

 

 至高の御方の命令は絶対である。

 何より、賜ったメイド服を汚すなど、ナザリックのメイドとして許されないのだ。

 

 

 

 さらに数分後。

 

「立つがよい。そして、後ろを向いて壁に手をつけよ」

「こふっ、けほっ……こ、こうでしょうか?」

 

 まだ喉に痛みと、粘つく感触を覚えつつ。

 言われるままに尻を向ける。

 御方に失礼に当たらないかと心配しながら。

 

「どれ……ほう――ナーベラルは優秀だな」

「あ、ありがとうございます」

 

 スカートをめくり上げられ、褒められる。

 何が褒められているかは、よくわかっていない。

 

「奉仕中に準備ができているではないか。〈油膜(グリース)〉の呪文を使わねばならぬかと思ったが、これなら不要そうだ」

「お褒めにあずかり、光栄で――あ……」

 

 下着をそのまま下ろされる。

 何をするのか、うすうす察しても。

 詳細な知識のないナーベラルにはどうすればいいのか、何が無礼で何が作法か、まるでわからない。ただ、主を失望させないよう、脱ぎやすいよう脚を動かし。不浄な場所を(あらわ)にされても、じっと耐えるしかない。

 後ろから、腰を掴まれる。

 籠手をつけたままの手は、少し痛い。

 

「では、ゆくぞ」

「も、モモンガさ――っ~~~~~!」

 

 守護者不在の宝物殿の中、ナーベラルの悲鳴が響いた。

 

 

 

 二時間後。

 ナーベラルは再び、跪いていた。

 

「さて……〈清潔(クリーン)〉に〈無臭(オーダレス)〉と。なるほど、便利な呪文だな。そして確かに、経験値も獲得できた。つまり、私も屈するごと少なからぬ経験値を生じさせていたわけか……。今度、ルプスレギナにでも装備させてみるとしよう。有益な検証だった。礼を言うぞ、ナーベラル」

「っ……ちゅっ、んちゅっ……♡」

 

 ナーベラルは一心に、主の穢れを清めている。

 主の手が黒髪を撫でる時、わずかに目を細める程度だ。

 あふれ出した体液が、メイド服を汚しても、気にしない。

 否、これは汚れなどではなく。

 寵愛の証なのだ。

 

「もういいぞ。まだお前を()でてやりたいが、これ以上はあやしまれるだろう」

 

 ナーベラルの唇から引き抜き、唾液にまみれたそれで顔を撫でてやる。

 

「はい……モモンガ様……♡」

(めでる――愛と書いて「め」と読む……御方から、愛されている……私が……)

 

 ぼうっとしたまま、頬ずりするナーベラル。

 彼女は浮足立ったまま蕩けている。

 わずかに残る痛みも、幸福感しかない。

 

「大丈夫か? 私の部屋……はまずいな。とりあえず宝物殿から出るか」

「あ……♡」

 

 手を取って立ち上がらされ……抱きかかえられる。

 お姫様だっこである。

 モモンガは、アルベドにされてこそいたが。

 モモンガにされた者は、ナザリックにもほとんどいまい。

 

「いいか、ナーベラル。お前は私の秘密の愛人だ。誰にも関係を教えてはならない。お前の姉妹にもだ。今後は、〈伝言(メッセージ)〉で連絡する。可能なら私の言う場所に来い」

「あいじん……しょ、承知いたしました! 身に余る光栄ですっ!」

 

 ナーベラルは歓喜のあまり、モモンガにしがみつく。

 最後にもう一度〈清潔(クリーン)〉と〈無臭(オーダレス)〉を唱えるモモンガ。

 メイド服が清められ、床にわずかにこぼれた痕跡も消える。

 周囲の香りがまた消えた。

 しかし。

 ナーベラルの中には、たっぷりと注がれたぬくもりが残っている。

 歩むごと、満たされた中が揺れる感覚。

 さらには、太腿を伝う生々しい感触――これが夢でないと示していた。

 

 

 

「……うまくいったようだな」

 

 浮かれたまま、ふらふらと立ち去ったナーベラルを見送り。

 時間差を稼ぐため、少し待つ。

 

(これで本当の意味で童貞喪失か……そう思うと感慨深いな。さて、これからはあいつで支配者ロールを練習していかねば。喜んでたみたいだし、アルベド様……いや、アルベドもああされたかったのか? 自身がされたいことをしただけだが……みんな、主人より奴隷になりたいのか? シャルティアやルプスレギナ、クレマンティーヌは喜んでやってるっぽいのにな。人によるのか。アルベドが私の主人になりたくないなら、がんばって私が主人にならないと……きっと、私が奴隷扱いされたがるのが嫌なのだろうし。でも私自身、元々は一介の社畜だぞ。ギルドでも仲裁役だったし……できれば奴隷扱いもされてたいよな。とりあえず、他にも試してみるか? でもユリは、やまいこさんの印象が強いんだよな。ペストーニャもだけど、女性メンバーが作った女性NPCって遠慮しちゃうんだよ……弐式炎雷さんは黒髪ポニテがーって騒いでただけだから、遠慮なくできたんだけどなぁ。アウラ、ユリ、ペストーニャあたりはひとまず外すか。マーレはどうだろ。男への欲求って感じないもんな……種族に引きずられても、そこまではいかないか。デミウルゴスに適当なサキュバスを連れて来てもらって、試してみるかなぁ。元がノーマルの子が、私に簡単に屈するなら、私自身も男に屈するかもしれないし……こわっ(汗)。そしたらアルベドもなのか……マーレに手出しして、アルベドと揃ってマーレに堕とされたりしたら、目も当てられない……やめとこ。外にもなるべく出ないぞ! アルベドも出さない! とりあえず、ナーベラルで支配者っぽいプレイを練習して、いやがる境界線の見極めと……アルベドの好きそうなプレイを見極めないとな。現状が命令されていやいや相手してるって言うなら、もっと喜んでしたくなるようにしなきゃ! ナザリックが私のために在るというなら、私がアルベドのために在る以上、ナザリックも全てアルベドのために在るんだから!)

 

 ふんす、と鼻息を噴き出して。

 決意も新たに、ご主人様ロールを磨く決意をしたモモンガ。

 本人に浮気しているという意識はない。

 

 なお、アルベドとしては「様」をあまり付けられなくなって、少し安心していた。

 




 恋人のため、ドSご主人様を目指す決意したクソマゾさん。
 踏み台に選ばれたメイド。
 というわけで、別の相手に自分のされたいプレイをガンガンやってみようとしてます。
 舞い上がってるナーベラルですが、あくまで練習台です。
 ご主人様ロールを鍛えて、アルベドさんで実践するつもり。
 もちろん、シャルティアやルプーやクレマンには、今後もいじめてもらうつもり満々です。

 強欲と無欲について、アルベドさんが提言した時には。
 「経験値目的で抱かれるなんてやだい!」って言ってたモモンガさんですが。
 本音では「お前なんか経験値しか価値ないんだよオラッ!」って言われながら、メタクソにされたがってました。
 でも、乙女心的に解釈したアルベドさんは「ですよね、変なこと言ってすみません」で終わっちゃいました。
 実は、モモンガさん的にはけっこう根に持ってる事案です。

 今回は原作にない呪文が複数出てますが、D&Dやパスファインダー準拠です……。


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31:できる。できるのだ。

デミウルゴスヒロイン回です。



 知識は、経験(EXP)ではない。

 知識は、技術(スキル)ではない。

 知識は、魔法(スペル)ではない。

 だが、身に着けた知識を真に活用するには“技術”が必要らしい。

 

 モモンガが、気づいたきっかけは“料理”だった。

 アルベドに手料理を振舞おうとしたが、料理人のクラスを取得していないせいか、まるで作れなかった。味音痴とか料理下手というものでなく、物理的に不可能だったのだ。

 武器を持ってみても、同様だった。

 だが、性的な行為は経験を積めばできる。

 できるのだ。

 

「――だがな、デミウルゴス。一方で私は思うのだ」

 

 周囲には罵り声と、野太い嬌声が響く。

 ここは悪魔が運営する淫魔たちの訓練施設(パワーレベリングセンター)

 デミウルゴスは真剣に、主の言葉に耳を傾ける。

 モモンガは、彼の用意した骨と皮の玉座に座していた。

 

「思えばエクレアや一般メイドたちは1レベルなのに家事をしている。彼らが持つはバードマンやホムンクルスといった種族レベルのみであり……職業レベルは持たない」

「おっしゃる通りです。しかし、彼らはかくあるべしと造られたがゆえ――」

 

 デミウルゴスが、口を閉じ、首を傾げた。

 

「さすがだな。私は先ほど、ようやく気づいた。おそらく、私やお前がどれほど努力しようと、新たな呪文やスキルは習得はできまい。いや、ナーベラルのような100レベルに満たぬ者であっても同様だろう」

「……レベルの外にある技術、ですか」

 

 モモンガは深々と頷く。

 

「おそらく技術によるのだろうな。100レベルに至って、真に何も獲得できないならば……我々は完全な停滞に至り、記憶すらできず、何の刺激も得られぬまま狂ってゆくだろう」

「しかし、そうはなっていない」

 

 意を得たりと、モモンガが再び頷いた。

 

「データが全てを示すなら――知力という数値がわかりやすいな。数値のみ比較すれば、アルベドはお前より遥かに愚かで、シャルティアはお前に比肩する知性を持つだろう。だが、少なくとも私には、そのように見えん」

「ありがたき御言葉」

 

 礼をするデミウルゴスに、モモンガがひらひらと手を振る。

 

「お前は“ナザリック随一の知恵者”と定められたゆえ、高き知性を得た。さらに、“日曜大工が趣味”と定められたがゆえ、製作系職業レベルを持たぬ身で、私に玉座を造ってくれた。そうだな?」

「おっしゃる通りでございます!」

 

 玉座を撫で、褒めながらの言葉に、デミウルゴスは歓喜する。

 甲殻に覆われた尾が、ゆらゆらと揺れた。

 

「そうだ。アルベドもパンドラズ・アクターも、知恵者と設定された。セバスは“完璧な執事”と設定され。恐怖公は“完璧な貴族”と設定された。貴族として策略や智謀に長ける――ともな。一方で、シャルティアは性格や嗜好こそ細かく設定されたが、能力に関する設定はほぼなかったはずだ」

「おお……」

 

 至高の御方のみ為せる、御業の秘密。

 誰あろう己にそれが明かされる事実に、デミウルゴスは感激した。

 

「“設定”は種族やクラスにもある。私の性的な面も、多くは女淫魔(サキュバス)としての“設定”に違いあるまい」

「なんと。御身もまた“設定”に縛られるのですか」

 

 疑問を呈する。

 

「ああ。ユグドラシルでは、このような影響はなかった。逆に言えば、お前たちも“設定”に定められたからと、何もなかったはずだ。防衛指揮官とはいえ、お前の“智謀”は一切活かされず。日曜大工の作品もなかったろう」

「た、確かに……」

 

 おぼろげな記憶の中。

 かつての転移前、あの衝撃的な“婚礼”の時まで。

 デミウルゴスはただそこにいて、命令のまま動き、戦うだけだった。

 では、今は……。

 

「レベルとは戦闘力に過ぎない。真の意味での有能性は、記された“設定”によって定められるのだろう」

「あ、あ……ありがとうございます!」

 

 モモンガのこの言葉はすなわち。

 “お前は有能だ”

 “その設定を書き込んだお前の創造主はすばらしい”

 ――そう、真正面から褒められたのだ。

 一対一で。

 至高の御方として、支配者として。

 モモンガが、デミウルゴスと創造主ウルベルトを褒めたのだ。

 感涙し、尻尾が激しく揺れ、床を打ち叩かぬよう抑えるに必死だった。

 主の言葉はまだ続くのだ。

 己の感情で、言葉を妨げるわけにはいかない。

 

「私もお前も、ここに来てからさらなる成長をしている。皆の“連携”もその一つであるし――他の者も、己の“設定”の範囲でがんばっているはずだ」

「ハッ! 鋭意精進いたします!」

 

 涙で震えぬようにと、叫ぶような声になってしまう。

 かつての時が何であろう。

 今、自ら進化し、主に褒められ、使ってもらえる以上の喜びなどありえない。

 

「よい。根は詰めるな。リラックスし、休憩する時間を必ず作れ」

「しかし……」

 

 モモンガは休憩を推奨していた。

 命令したと言ってもいい。

 だが、NPCとして、主に仕え働く以上の喜びはない。

 多くの者にとって、休憩とは未知の時間であり、混乱だった。

 

「常に張りつめていては同じことしかできぬ。意識を緩め、とりとめなく過去を想い、未来を想え。お前の創造主ウルベルトさんのことでもいい。その中でこそ、私すら予期せぬ新たな成長の種子が、お前の中で芽生えるはずだ」

「そ、そのために休憩の推奨を――!」

 

 デミウルゴスは驚愕した。

 主の命令はすなわち。

 「できることだけをするな」だ。

 「できないことを、できるようになれ」だ。

 直接言われれば、無茶なと反論しただろう。

 だから、主は休憩という無駄とも思える時間を与えた。

 無駄な中で、無駄にすまいという想いから生まれる――そんな、新たな知識や技術を求めておられたのだ。

 なんと、途方もない、そして己らへの愛に満ちた命令だったのか。

 

「よいか。焦るな。新たな道が見えずとも気にするな。我々はいつまでも待てるのだ。お前の新たな一歩が明日であろうと、百年後であろうと、私は気にしない」

「あ……あ……」

 

 言葉にならない。

 そんなデミウルゴスを、モモンガは子供にするように撫でる。 

 

(何と厳しく……そして慈悲深いことか)

 

 眼窩に溜まっていた涙が。

 ついに、眼鏡の下から流れた。

 これほどの主に仕えられる至福。

 そして直々の慈愛に触れられる歓喜。

 

「この女淫魔(サキュバス)たちも、レベルが行き詰まればナザリックに送れ。彼女らにも休憩を与え、レベル以外の能力もよく調べておくようにな。家事や料理とて知識であり技術だ。レベルとは異なる“何か”を持つ者もいるだろう」

「は……はい。承知、いたしました」

 

 震え声で答える悪魔の頭を、撫でながら。

 モモンガは玉座を立ち……軽く抱擁する。

 

「ではな、デミウルゴスよ。期待しているぞ」

「はいっ!」 

 

 デミウルゴスは、激しく奮起した。

 偉大なる主は慈悲深く微笑み。

 転移によってナザリックに帰った。

 

 

 

 ナザリック地下第九層。

 ロイヤルスイート……廊下。

 

(ふむ……直接、男と交わっている者もいたが、問題はなさそうだったな。会話中にそのまま淫魔同士でも戯れていたし……男性偏向になるわけでもないのか)

 

 実のところ、モモンガとしてはそれを確認したいだけだった。

 

(なら、マーレに少し早く性教育をしてもよかろう)

 

 変身魔法を取得して以来。

 ナーベラルを実践対象とする一方で。

 より自然さを教授してもらうべく、ヒルマに“雄”としての鍛錬を受けている。

 大きすぎてはいけない、など。

 モモンガとしては知らなかった知識も多く、勉強になる。

 

(ヒルマは男の方がいい、生やしただけの私では物足りないと言っていたしな。元男の私とは異なるだろう。といって、セバスやデミウルゴスの相手をさせるのもな……マーレなら問題あるまい)

 

 ヒルマには随分と世話になっているのに、ろくな礼をできていない。

 女淫魔(サキュバス)への種族変更は、こちらの都合による実験だ。

 より然るべき礼をせねばと常々思っていた。

 

(それにヒルマがマーレから経験値を得てレベルアップすれば、ナザリックでも準幹部として認められやすいだろう。彼女は人心掌握、組織経営、人脈形成、それに房中術にも長けている。十分に有能だ。一般メイドとは既に仲良くしていたからな。あのコミュ力は私も欲しい……何より、彼女が出世すれば、他の人間にも種族変更への憧れが生まれるかもしれん。できればクレマンティーヌ様も近く種族変更したいからな。自主的に望んでくれればいいのだが。さて、彼女の場合は悪魔にするか淫魔にするか……吸血鬼にするのも悪くないが……いや、まずはマーレだ。何と言ってもアルベドさ――ととと、アルベドが男と関係した場合に去ってしまわないか心配だ。マーレを側仕えに加えて、二人でアルベドの相手をしてもいい。マーレなら、私も抵抗は少ないからな。アルベドにされたように、両方に挿入もできるだろう。男相手も馴れておけば、今後のプレイの幅も広がるはずだ)

 

 そんな風に考えをまとめながら、ヒルマの部屋に向けて歩く中。

 久しぶりに、〈伝言(メッセージ)〉が来た。

 

(モモンガ様。緊急事態ゆえ失礼します)

 

 セバスの声だ。

 掃除の終わった王国で、冒険者にもならぬまま英雄になっている。

 自由契約の客将のような立場だ。

 

「よい。漆黒聖典がついに来たのか?」

 

 予想される緊急事態について問う。

 だが、セバスの返答はモモンガの予想とは大きく異なっていた。

 

「アーグランド評議国永久評議員“白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)”ツァインドルクス=ヴァイシオンと名乗る者が、モモンガ様との面会を求めております」

 




 当初はナーベラルにいろいろしながら、モモンガさんが一人ぶつぶつ頭の中で考えてる想定でしたが。
 明らかにR18になると途中で気づき自主没。
 メイン回が今のところなくて、苦労話ばっかりさせてるデミウルゴスをピックアップしました。

 このデミウルゴス、特に勘違いはしてません。
 ただ、モモンガさん視点では、そこまで感動しなくても……という反応。
 世界征服しないんだから、みんな可能性を探ろうねって話です。
 スローライフで趣味探ししよう程度。
 頭撫でたり抱きしめたりは、なんか泣いてるから母性を刺激されただけです。
 モモンガさんはアルベド以外のNPCを(血縁のない)子供みたく感じてます。
 パンドラだけ血縁あり。
 子供のルプーやソリュシャン、シャルティアとも平気でアレコレしてるので、性的価値観はサキュバス脳で歪みきってます。

 ところで、よく考えたらタイトルのアルベドさんが、最近出てない気が……。


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32:一年分は働いた

 この話はほぼ全て、モモンガさんの精神的成長や突発的衝動で進んでいます。



 

 ナザリック地下大墳墓、第十層。

 玉座の間。

 

「アルベドよ。お前を伴って未知の相手に会うのは心苦しい。だが、防御力において随一のお前は必須だ」

「いえ。どうかこの身を盾とお使いください」

 

 ガシャリと、甲冑に身を包むアルベドが跪いた。

 その姿は、モモンガと退廃的な日々を過ごしていた時以上に、やる気に満ちて見える。

 

「……ありがとう」

 

 複雑な思いで、モモンガは頷いた。

 やはりこれが、彼女自身の望む立ち位置なのだろう。

 

「コキュートス、シャルティア。お前たちは相手の左右を挟む位置にいろ。連携を学んだのだ。理由は言わずともわかるな?」

「承知シテオリマス」

「妙な動きを見せたら討ち取って見せるでありんす」

 

 シャルティアも赤い甲冑をまとい、完全武装。

 

「いや。なるべく様子見に徹しろ。とはいえ、奴の攻撃が予想以上なら、遠慮せずやれ。判断は二人に任せる」

 

 アウラとマーレ、プレアデスは地上に。

 戦闘力に劣るデミウルゴスは、ニグレドの元で監視と分析に専念。

 別動隊襲撃の可能性を見越しての配置だ。

 

 この場で戦闘に突入した場合に備え、ルベドとヴィクティムも同じく第十階層、最古図書館(アッシュールバニパ)にて待機させている。

 

 パンドラズ・アクターは〈転移門(ゲート)〉で迎えに行った。

 彼とセバスが“奴”の背後を固める。

 そして。

 念には念を入れて、と呼んだ者たちも訪れる。

 

「すまないな。竜王について私は何も知らん。助言役を引き受けてもらえてありがたい」

「いえ。私とてさしたる知識は……ですが、蒼の薔薇のイビルアイ殿は縁があると聞いております」

 

 緊張した様子の面々の中、訪れたラナー王女が軽く会釈する。

 後にクライム、そして蒼の薔薇が続く。

 彼らは交渉のカードでもある。現地人を丁重に扱っているという証だ。

 

「言っておくが、こいつらと竜王が戦い始めたら、我々は一瞬で塵になるぞ」

 

 憮然とした様子のイビルアイ。

 

「すまないな。防御魔法を私が施してもいいが……人質扱いに見られかねん。代わりに、私としてはお前たちの言葉を妨げるつもりはない。私を悪と断じるならば、その旨を竜王に告発してくれてかまわん」

「それで、あいつごと我々の口も封じるのか?」

「イビルアイ!」

 

 不敵に言い返すイビルアイを、ラキュースが抑えるが。

 

「「あんのガキぃ……」」

 

 アルベドとシャルティアは凄まじい怒りを発している。

 

「やめよ。我々は、竜王が暴れ出さねば何の攻撃もせん。対話がどう終わろうと、攻撃さえせねば、竜王は無事に返す。第一、お前たちに他意があれば、とうに手を出しておる」

「……むしろ、こちらが出してしまった」

 

 ぼそっと言うティア。

 感度に比例して、女淫魔(サキュバス)の耳はとても鋭い。

 ぼっ、とモモンガの顔が赤面する。

 

「えっ? マジか」

「これは衝撃的」

 

 色恋を知るガガーランとティナが、モモンガの反応に気づき、目を見張る。

 やたらとティアがツヤツヤしていたが。

 一般メイドに手を出したのだろう程度に考えていたのだ。

 この凶悪かつ強大な勢力の支配者と、そんな関係になるなど、予想の範疇外。

 ティアは一人、ドヤ顔である。

 これに、他の二人もようやく察した。

 

「何やってるんだ、貴様ー!」

「えええ……えええええー!?」

 

 イビルアイが焦った様子で怒りを見せ。

 ラキュースは、あたふたとしかできない。

 騒がしくなった蒼の薔薇に、周りが胡乱な目を向ける中。

 

「と、とにかく、よろしく仲介を頼む。私は地上も諸君も、傷つけるつもりはないのだ」

 

 気まずそうに咳払いしたモモンガに、ひとまず蒼の薔薇は黙るが。

 チラチラと、皆がティアを見ている。

 モモンガも、チラチラとアルベドの反応を探っていた。

 今のアルベドはフルフェイスの兜に包まれており、その反応は不明である。

 モモンガは竜王すら忘れ、不安に苛まれつつあった。

 

「はい。私たちの友好は確かなもの。戦力差は自覚しておりますが、モモンガ様との友情は私にとっても宝です」

 

 ラナーがそう言って、ようやく全員が意識を切り替える。

 

「そうだな。私はラナー王女を決して害しない。クライムくんや蒼の薔薇においても同様だ。その点を、我が栄光あるアインズ・ウール・ゴウンの名のもとに誓おう」

 

 頭上にはためく、その旗を指し、モモンガが宣言した。

 それを待っていたかのように。

 玉座の間の扉が叩かれる。

 

 直接転移のできぬこの部屋に、パンドラズ・アクターとセバスが来たのだ。

 “白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)”ツァインドルクス=ヴァイシオンを伴って。

 

 

 

 竜王の甲冑姿に、イビルアイ以外は驚いた一幕もあったが。

 遠隔操作と聞けば、なるほどと頷く。

 当人が自ら、敵の本拠地に来るよりわかりやすい。

 

 モモンガが思っていた以上に、竜王の態度は温和で。

 対話もまた、およそ(なご)やかに進んだ。

 百年ごとの転移、過去のプレイヤー、その影響。

 プレイヤー側の視点、同じ時期に転移しつつも百年の空白の存在等。

 モモンガにとっても、また竜王にとっても、重要な情報が得られたと言えよう。

 

「――こちらの状況はこんなところだな。ツァインドルクス殿」

「ツアーでいいよ。私としても王国への行動は、特に咎めない。国もまあ、君が表に立つんじゃなく……」

 

 白金の鎧がちら、と人間種の少女に目を向ける。

 少女は微笑み、礼をした。

 

「ラナーです、竜王様」

「ああ、失礼したね。王族のラナーを立てるならいいんじゃないかな」

 

 人間の国家事情におよそ無関心なのだと知らせながら。

 竜王――ツアーは言った。

 

「それはよかった。私なりに、近隣を住みやすくしたつもりだったからな。ツアーを不快にさせていなければ幸いだ」

「では、モモンガ。君はこの世界を害するつもりはないのかい?」

 

 ごく軽く、今までの会話と変わらぬ様子で、竜王は言う。

 だが。

 

「断言はできん。そうする必要があれば、するかもしれん」

 

 モモンガのその返答に、甲冑ごしの威圧感が放たれた。

 手が、剣に伸びる。

 

「どういう意味だい?」

「そのままの意味だ。特に侵略する気も、破壊する気もない。ラナーに地上部を任せるし、彼女が多少私腹を肥やそうと、私情を優先しようと、咎める気もない。私は根本的にここを出る気がないのだからな」

 

 それに応じ、飛び掛からんばかりの配下を抑え。

 モモンガは両手を軽く上げ、ひらひらと振って見せる。

 敵意はないと示す仕草だ。

 

「実にありがたいことだよ。なら、何があれば害するというのさ」

「むしろ、何もなければ、だな。ツアーの主観において、害すると見える行動をせねばならん可能性は高い」

 

 怪訝そうに、軽く首をかしげる。

 イビルアイやラキュース、またラナーも同様だ。

 

「何かを探しているということかな?」

「私の目的にも関わる……正直、聞くなら私が世界を害さず済むよう、協力してほしい。情報次第で、我々が世界を害する理由は消えるかもしれんし……増えるかもしれん。協力してくれれば、私もツアーに協力しよう。次の100年後に敵対的なプレイヤーが来たなら、私が始末してもいい」

 

 ツアーが沈黙する。

 

「スレイン法国について探っている状況でもある。何かわかれば、情報を全て共有してもいい。そちらで手出ししてほしくない人物や勢力があれば、何もしないよう最大限配慮しよう。そちらのイビルアイ殿について、ツアーの来訪を知らずとも手出しはしていなかったとは、既に言った通りだ。証明せよと言われても困るがな」

 

 その間にも、モモンガは言葉を並べる。

 

「……引きこもっている割に、饒舌だね」

 

 溜息をついて、ツアーから威圧感が消える。

 

「少なくとも、私に仕えてくれる者たちを失望させたくはないのでね」

 

 NPCたちを見れば、それぞれに誇らしげに胸を張った。

 

「いいよ。私も可能な範囲なら協力しよう。君の目的とやらを教えてくれ」

「すまないな。まあ、たいした目的じゃない」

 

 深く玉座に座ったまま、けだるげにモモンガは言った。

 

「私はこの、ナザリック地下大墳墓を維持したいのだよ」

 

 

 

 ツアーを〈転移門(ゲート)〉で送り出させ。

 ナザリック内に魔法の仕掛けも残されていないと確認後。

 

「……ふぅ。やれやれ、少なくとも一年分は働いた気がするぞ」

 

 モモンガは、ぐったりと玉座に身を沈めた。

 NPCは対等の力があろうと、彼を立ててくれた。

 人間は勝手に彼にひれ伏した。

 転移後で同格あるいは格上かもしれない相手と会話するのは、初めてなのだ。

 精神的に疲れ果てていた。

 リアルの取引先、それも格上を相手にした気分。

 

 転移直後とて、すぐにアルベドに溺れ続けたのに。

 今はそんな気力もない。

 

「あ」

 

 ふと、気づいた。

 知ったわけでも、出会ったわけでもなく。

 ずっとあった違和感と答えに、やっと気がついた。

 腕時計をしながら、時計を探して走り回っていたようなものだ。

 理屈ではいくらか答えに近づいていたが。

 ようやく、はっきりと“気づいた”。

 

「ふ……ふふ……はは……」

 

 自嘲的な笑いがこぼれる。

 横でアルベドが心配する声が聞こえるが。

 最愛の声すらひどく空虚で、無意味に聞こえた。

 周囲からの心配する目、不審そうな目、警戒の目。

 そんな中、ラナーとティアは、何か悟った目をしてくれている。

 なるほど。

 

(私には人の友が必要だな)

 

 内心で二人に感謝しつつ。

 

「……そうか。そういうことか」

 

 呟く。

 

(結局のところ。私自身がアルベドを対等と見ていなかったのだな。内心では下に見ながら、矛盾した頼みごと――いや、命令をしていた、か。嗜虐心でプレイとして楽しめるシャルティアやルプスレギナが……特殊なのだ。アルベドもソリュシャンも、理性的だからな)

 

 竜王など、忘れ去っていた。 

 

(ならば愛を育むには……やはり私は、本来の私らしくある必要があったか)

 

 目を閉じる。

 

(かつて、たっち・みーさんがギルドマスターの地位を、私に譲った時。大いに取り乱したものだ。たっち・みーさんは、ずっと憧れで、遥か上にいる人だった。PVPでも勝てなかった。そんな彼の上に、私が立つなんてと……ああ、そうだな。それに他の人も……私よりずっとすごかった。私なんかが、なぜギルドマスターにって思ったんだ。それを私は、ギルドマスターのまま、アルベドにしていたわけか。なるほどな……るし☆ふぁーさんやぺロロンチーノなら、ある種のジョークと受け取って楽しめたろう。でも……私だったら困るしかない。アルベドは私と同じで真面目だものなぁ) 

 

 深呼吸し、息を吐いた。

 

(変わらなくては)

 

 いけないのだ。

 主人は奴隷ではない。

 奴隷の真似事は許されても。

 奴隷にはなれないと、自覚しなければ。

 

「皆、ご苦労だった。アルベドとシャルティアは、装備を戻して来るがいい。いつまでも、物々しい空気では、客人に悪い」

 

 二人が礼をし、下がる。

 

「コキュートス、しばしの間だが、我が護衛をお前に任せる」

「光栄ニゴザイマス」

 

 コキュートスが玉座の横に控えた。

 その歩調には隠し切れぬ喜びが見える。

 思えば、彼を傍に配置するのは初めてだ。

 常にアルベドやシャルティアを侍らせるようにしていた。

 

(アルベドを正妃とした以上、もう少し彼に護衛役を任せるべきか……その方が、アルベドも喜ぶだろう)

 

 それに。

 

「〈伝言(メッセージ)〉――ナーベラルよ。プレアデス各員とアウラ、マーレ、ペストーニャ……あと、ハムスケとニグンとカジットにも、玉座の間へと向かうよう伝えてくれ。ああ、カルネ村にいるユリもだ」

 

 筋は通すべきだろう。

 

「〈伝言(メッセージ)〉――恐怖公、任務中にすまない。一度、ナザリックに帰って来てくれ。ああ、玉座の間だ」

 

 さらに監視や待機していたNPCも、呼び。

 竜王を送り出したセバスとパンドラも呼び戻す。

 他のNPCや、クレマンティーヌとヒルマも呼んだ。

 名と設定を持つ全員。

 また、モモンガ個人を知る人間も全員呼んだ形となる。

 

「さて……これからするのは内輪の話だ。今回の報告も兼ねている。興味があれば同席してもいいし、なければ自室で休んでもらってもいい。ラナー王女、それに蒼の薔薇の諸君には、随意に決めてほしい」

 

 残っていた客人らに目を向ける。

 

「私は同席させていただこうかと思っております」

 

 ラナー王女が微笑み、言う。

 その目には、同志を応援する光があり。

 これからの出来事を、ある程度は読み取っている風でもあった。

 

「ありがとう、ラナー。私の好感を得た人間はそれなりにいるが、真の友情を得た人間は貴女だけだ」

 

 モモンガも飾らず、素直に礼を言った。

 

「私も、見届けさせてもらう」

 

 ティアがしっかりとモモンガを見て、言う。

 

「思っている形とは違うかもしれないぞ? 私は何せこのような種族だからな」

 

 苦笑し、ティアに頷くモモンガ。

 

「ほ、本当にティアがあの人と?」

「というか……こういう場合、私が伏線的に重要な立場じゃないのか?」

「あれは嗜好の問題」

「巻き込まれなくてむしろよかったじゃねーか」

「ラナー様は大丈夫なんでしょうか……?」

 

 残った面々があれこれと言う間も、ラナーとティアはそれぞれ、モモンガと目で語り合う。

 モモンガにとって、この二人は大切な友人となっていた(片方はセフレだが)。

 時間こそ短いが、重要な……己を後押ししてくれた人物。

 ゆえに、これからの決断について、見て欲しかった。

 

 アルベドとシャルティアが、いつもの衣装で戻る頃。

 すでに、玉座の間には多数のNPCが集まっていた。

 

「アルベド、シャルティア。今回はお前たちも他の階層守護者と共に我が前に並べ」

「は、はい」

「ええっ!?」

 

 玉座の横に侍ろうとした二人が、明らかにうろたえている。

 シャルティアはともかく、アルベドにはやはり無理をさせていたのだなと、溜息をついた。

 

「デハ、コノ身モ下ガラセテイタダキマス」

「いや、お前はそこにいろ」

 

 同じく前に控えようとするコキュートスを留める。

 

「お前は守護者の中で最も公平な視点を持つ。今回はお前こそ、我が供にふさわしい」

「オオ……過大ナ評価、アリガタク! 妃様ニハ至リマセヌガ、御身ノ盾トナラセテイタダキマス!」

 

 奮起する彼に、モモンガは頷く。

 コキュートスは、直接に褒めた機会も少ない。

 今後はより多く接してやらねばと定め。

 そんな間にも、無数の異形が玉座の間へとやって来る。

 彼らは自由に挨拶し、いくらかは雑談もしている。

 

 主だった面々がそろったと見て。

 モモンガは玉座に深く座したまま、片手を上げた。

 全員がしんと、静まり。

 NPCらは跪く。

 

「では、今回の竜王との会見結果と、今後の方針、そして人事について伝える」

 

 じっと、これまで関係を持った者たち。

 そして、友情や恩義を育んだ者らを見る。

 

「まず要点を言おう。我々はこれより、スレイン法国上層部解体と、同神殿勢力消滅に向け、活動を開始する」

 

 血気盛んな者らが腰を浮かす。

 

「ただし! これは侵略でも支配でもない。王国同様、諜報活動と人材獲得の結果だ。派手な戦争はしない。可能なら別宗教による塗り替えが最も好ましい。詳細は追って合議し、私に報告せよ」

 

 既に手を進めていたデミウルゴスと恐怖公が、恭しく礼をする。

 

「そしてもう一つの要点だ。人員配置について変更がある」

 

 居住まいを正し、少し間を置いた。

 モモンガ自身にとっても、勇気のいる発言だったがゆえに。

 

「……我が最愛の正妃たるアルベドよ。お前に無断となったが――正式な我が側室を定める」

 

 アルベドは少し緊張は見せたが、普通に頷いて見せた。

 やはり、アルベドは己に執着はしていないか、と諦めにも似た感情が湧くが。

 仕方がない。

 モモンガが勝手に執着し、勝手に愛憎を募らせていたのだ。

 

「ナーベラル・ガンマよ。お前を我が側室とする。今後、我が床にはアルベドとナーベラルのみを迎える。よいな」

 

 一呼吸後。

 

 ナーベラルは茫然としたまま止まり。

 ルプスレギナとソリュシャンが俯き。

 クレマンティーヌが肩をすくめる中。

 シャルティアは絶叫した。

 





 このままだと、ナーベラルが一人だけ妊娠しちゃうかもですしね。

 それにしても、蒼の薔薇の他の面々やクライムくんを活躍させる機会がない……。


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33:感謝っ……! 圧倒的感謝っ……!

 ちょっとだらだらしますが、人員配置と各キャラとモモンガさんの関係に触れたかったので。



 

「――と、報告はこんなところだ。同席した者には退屈な話だったろうが、齟齬はなかったかな?」

 

 竜王との会見結果について、連絡する。

 百年ごとに現れるプレイヤー、法国の予測戦力、エリュエンティウといった情報は特に重大だ。

 アルベド、ラナー、イビルアイに目を向ける。

 それぞれに態度は異なるが、頷いて見せた。

 己の理解に問題がなかった様子に、モモンガは内心で安堵する。

 ツアーが腹を探り合うような人物でなくて、本当によかったと。

 

「私は竜王との衝突を望まん。勝てぬ相手ではなかろうが、相応の犠牲が出るだろう。スレイン法国を操り、ぶつければ消耗は最低限に抑えられるかもしれんが……そこまでするメリットは薄い。多くの種族を内包する評議国のシステムは、我々の今後の国家運営においても、大いに参考となるだろう」

 

 デミウルゴスに目を向ける。

 

「では、現状では友邦として接するという形で……?」

「ああ。誠意として、最低限の諜報活動にせよ。まずは法国だ。我らが法国を相手取る間に、手を出して来るようなら、大義名分も得られるだろう。そうでなければ、友邦として扱う」

 

 悪魔は深く頷き、一礼した。

 恐怖公がその後ろに従う。

 彼らは既に、法国に対する諜報活動を始めているのだ。

 

「法国を抑えた後、最終的にはエリュエンティウを攻めたい。都市守護者とやらは、間違いなくNPCだろう。主を失った奴らの財を、放置しておく意味はあるまい」

「無論でございます」

「全ては栄光あるナザリック維持に」

 

 デミウルゴスとアルベドが、共に笑みを浮かべる。

 有限とは言え、維持費の当てができたなら、これに勝る喜びはない。

 何としても手に入れねばならない。

 ナザリックの資産を、なるべく消費せずに。

 

「パンドラズ・アクターよ。帝国について新たな発見はあったか?」

「ハッ、現状で~は、母上のお眼鏡にかなうもの、わずかな人材のみッ! 国力こそ王国より上ながらァ、根本的な技術水準、変わりッ、ありまーせんッ! ただ、独自の呪文開発が盛んに行われ、我々の知らぬ呪文やアイテム活用が多々見られますッ! ……残念ながら、換金時は同位階呪文と扱われますが」

 

 モモンガは少し思案する。

 

「ラナー殿、貴女から見て、帝国には特別な国家運営の知恵があるか?」

「いえ、基本的には腐敗貴族や腐敗官僚がいない状態での、健全な国家運営の結果です。優等生ではありますが、特殊な運営を行っているわけではないかと」

 

 ラナー王女が微笑み、断言する。

 

「……では、パンドラズ・アクター。お前は帝国にて人材、呪文、アイテムの収集を続けよ。王国との戦争を抑える以外、政治的介入は不要だ。適当に現地協力者に任せ、竜王国や聖王国に足を伸ばせ」

Wenn es meines Gottes Wille(我が神の望みとあらば)!!」

 

 勢いよく敬礼する己の子に、モモンガは苦笑する。

 クライムや蒼の薔薇が、呆気にとられた顔をしていた。

 クレマンティーヌやヒルマ、ニグンなどもだ。

 さすがに外部の者の前では、我が子ながら少しばかり恥ずかしい。

 

「対外活動は基本的にデミウルゴスの指揮に任せる。人員は、ナザリックの者を消費せぬ範囲で用いよ。スレイン法国が世界級(ワールド)アイテムを所持する可能性を忘れるな。それを手に入れる算段もな」

「御身を失望させぬ働きを、必ずや!」

 

 甲殻に覆われた尻尾が揺れる。

 

「では、人員の配置となるが……ラナー殿、貴女に地上部の執政官となってもらいたい。カルネ村を含め独立宣言する。人員配置は、私が配置した者以外、好きにしてくれていい。移民募集も随意に行ってくれ」

「承知いたしました。及ばぬ身と思いますが、どうかよろしくお願いします」

 

 嘘である。

 裏でラナーは名のみの執政官となり、実際の統治はほぼアルベドとデミウルゴスが行う。

 そのさらに裏で、ラナーは監禁という名目でクライムと二人誰にも邪魔されない時間を、仕事もせず過ごすのだ。

 また、クライムを説得なり言いくるめるなりすれば、二人セットで種族変更する約束も為された。

 そのためなら、クライムに対しモモンガやナザリックをどれだけ悪役扱いしてもよい、としている。

 結果、ラナーが少年に何を求め、いかなる関係に至るか……既に絵図面はできているのだろう。

 

「何、ラナーならばきっとできる」

「がんばります!」

「ああ、私もがんばらねばな」

 

 ふんすと、気力を込める仕草は微笑ましくも見えるが。

 モモンガと交える視線は、唯一無二の信頼を込めたもの。

 二人が何をがんばるか気づいたのは、ナザリックですらわずかである。

 

(出会ってはいけない二人を、会わせてしまった気がするわ……)

(これほど盤石の信頼関係を築けるとは、さすがモモンガ様!)

(我輩も紹介した甲斐があったというもの。お連れして正解だった)

(欲に溺れェる他に友人ができましたか、母上ッ!)

 

 二人の視線が熱く交わり、離れた。

 

「さて、蒼の薔薇の方々は、ここに残ってもらっても、王都に帰ってもらってもかまわん。今回は妙な場に立ち会わせて、すまなかったな」

「一応、王国貴族ですし、しばらく様子を見たら王国に帰ろうかと――」

「私は、ここに永住したい」

「ショタがいれば、私も考えた」

「メシが美味くて、手合わせの相手にも困らねーからな」

「バカなこと言ってないで帰るぞ!」

 

 普通に王都へ帰る次第となった。

 イビルアイにとってみれば、“ぷれいやー”の拠点に住むなど正気の沙汰ではないのだ。

 相手を貶める言葉を吐かないのは、周囲にいるNPCらが心底恐ろしいからだ。

 

「訊ねて来れば客として歓迎しよう。定住を望むなら、それもありがたい」

 

 そんな彼女らを、モモンガは特に引き留めもしない。

 ティアには事前に、引退後の住居にでも考えておくよう言ってあるし。

 彼女も、その気は十分にありそうだった。

 

 さらに、ニグンに軍司令官、カジットに宮廷魔術師の職を与える。

 ニグンには元六腕、ハムスケの指揮権も預けられ。

 カジットらは独自呪文開発とスクロール作成を命題とされた。

 そして、もう一つ……地上部に大きな変更がもたらされる。

 

「かつて王国で奴隷扱いされた女性らを、地上部に配置する。併せて彼女らの統括および、別地に構えた保護施設の管理は、ヒルマに任せる」

「えっ……大丈夫かい?」

 

 驚きよりも、むしろ心配そうにヒルマが言う。

 己ではなく、モモンガを心配しているのだ。

 

「……まあ、お互い問題があれば連絡するということで」

「はいはい。管理自体は了解したよ。客は取らせるのかい?」

 

 このやり取りに、蒼の薔薇から剣呑な視線が向けられた。

 保護した娼婦にまた、身を売らせるのかと。

 二人は気にも留めず、ラナーも落ち着いたものだ。

 

「ヒルマ自身も含め、当人の希望次第だな。無理はさせるな。戦闘を望めばニグンの配下に配置してもいいし、人間への忌避感が強ければ、ナザリック内配置としてもいい。まだ増えるだろうから、振り分けは自由にしろ」

「はいよ。モモンガ“様”こそ、しっかりね」

 

 ヒルマなりの激励に、モモンガは黙って頷く。

 なお、ラナーも蒼の薔薇も、ヒルマが元六本指とも、元人間とも知らない。

 

「さて……ナザリック内についてだが。ソリュシャン、お前は引き続き私付のメイドとなれ。浴室の世話は任せる。私の部屋に限り、一般メイドらの指揮権も与えよう」

「全てはモモンガ様の御意志のままに」

 

 あくまでメイドとして、ソリュシャンが頭を下げる。

 今までより、少し距離を置くという意思表示。

 仕方あるまいと、モモンガは頷き返す。

 

「ルプスレギナ、クレマンティーヌ。お前たちは第九階層に引き続き詰めよ。私の個人的護衛として、ナザリック内や地上を視察する折、付き従ってもらう」

 

 二人がチラ、と目を合わせる。

 目を細め……狼と猫、相は違えど似た嗜虐の笑みを浮かべた。

 そして深々と礼をする。

 

「「承知いたしました」」

 

 その表情に、少し濡れた目で微笑み、頷くモモンガ。

 寝室以外ではいつも通りということだ。

 むしろ、モモンガが二人の部屋に来るなら……おねだりという意味。

 二人としては、切り替えやすい望ましい形でもある。

 ヒルマから遊び相手――女淫魔(サキュバス)の割り振りもあるだろう。  

 

「シズはナザリック地上部とカルネ村の防衛構築を引き続き行え。マーレの仕事はほぼ終わった以上、お前がナザリック地上部に出向する最高責任者だ。アンデッドとゴーレムの指揮も任せる。私は地上に出ぬことに決めたからな。せめてもの支援として、明日……いや、これからでも〈要塞創造(クリエイト・フォートレス)〉で地上を増強しよう。適した建造物配置やおおよその形については、以前から言った通り考えてあるか?」

「……」

 

 シズが小さく頷く。

 

「よろしい。築いた要塞は地上部の人員で随意に使わせよ。私に気遣う必用はない。軍事面での防衛性も重要だが、生活の利便性も忘れぬようにな。このあたりは、ラナーとユリ、ヒルマの意見を取り入れるのだぞ。彼女らの言葉を決して軽んじるな。それから、ハムスケをあまり乱暴に扱ってはならん。エクレアに対してもそうだが、少し力加減を考えろ。あくまで優しく扱うのだぞ」

「……了解」

 

 一人だけ、やたら細かい指示を受ける。

 モモンガとしては、彼女が失敗などしないよう、精一杯の支援でもある。

 ラナーたちにも、フォローを頼んでいる。

 外見が子供らしく、実直で、かつ同じセンスのかわいいもの好きとして、モモンガはシズをかなり贔屓していた。

 先日のシャルティアとは、随分な違いである。

 いや……先日のシャルティアの失敗ゆえ、随分と細かく言っているのだが。

 そんな妙に丁寧な扱いに、他の守護者やプレアデスから、いくばくかの嫉妬が浴びせられるが。

 シズは胸を張り、誇らしく己の任務を受け入れた。

 いつもの彼女との違いに気づいたのは、姉妹たるプレアデスの面々のみだったが。

 

 セバスは王国駐留から、状況により竜王国へ。

 ユリはその後も、カルネ村の守護。

 ペストーニャは地上部で人間の回復役。

 また、資産節約のため、料理長と副料理長には地上の食材使用への順次切り替えが義務付けられた。

 

「――以上となる。他の者は本来の持ち場に待機しつつ、デミウルゴスの要請に従え」

「あ、あの、モモンガ様」

 

 おずおずと発言する声がある。

 

「どうした、シャルティアよ」

「私はその、どのように……」

 

 すがりつくように言うが。

 

「お前は本来の階層守護者に戻れ。他の者にも言えるが、デミウルゴスの第七階層はほぼ留守となっている。また、他の階層も留守となる可能性は高い。そうした際には、残った階層守護者で分担し、全階層をカバーせよ」

 

 モモンガの返答は無情である。

 

「承知イタシマシタ」

「はい! わかりました!」

「が、がんばります」

 

 さらに、他の守護者の言葉が続く。

 

「……りょ、了解でありんす」

 

 魂の抜けた顔で、シャルティアは頷いた。

 

「いずれにせよ、ここにいる全員のおかげで、我らは新たな一歩を踏み出せる。お前たち全員に感謝しよう!」

 

 高らかにモモンガが宣言した。

 魂の抜けた約一名を除き、ナザリックのNPC全員、ニグン、カジットらが喝采する。

 その熱気に、残る人間や元人間は戸惑っていたのだが。

 

(私も感謝します! 感謝っ……! 圧倒的感謝っ……!)

 

 ただ一人、微笑みの中で、NPCらにも負けぬ熱い感謝を送る王女もいた。

 

 

 

 その後、一同で地上に出て。

 モモンガはMPの半分程度を常時維持に割く形で〈要塞創造(クリエイト・フォートレス)〉を用い。

 漆黒の城塞と、それを囲む三本の巨塔を築いた。

 現地の人間らは第10位階魔法に驚嘆し。

 ニグンやカジットは忠誠を新たにし。

 イビルアイは絶叫する中。

 扉がモモンガ以外に開けないというハプニングもあったが、扉を破壊して新たな門を急造し、何とか形を整える。

 シズは城塞と塔を中心に、堀や城壁を築くと意気込んだ。

 

 デミウルゴスの施設から多数の女淫魔(サキュバス)が来た折、蒼の薔薇や魅了された人間らで、いろいろと悶着もあったが。

 新たな地上部――ナザリック魔導国と命名された地の独立宣言は、即日で為された。

 そして各国へと、影の悪魔(シャドウデーモン)により通知が即座に届けられ。

 王国と帝国はこれを黙認し。

 法国は警戒を強め。

 聖王国は悪魔の使役に敵意を見せた。

 返答には、およそ一週間程度がかかったものの。

 

 シャルティアの抜けた魂は、まだ戻っていなかった。

 





 またオチ要員に使っちゃってごめんよ、シャルティア……。
 あと、アルベドさんが空気。

 最終目標はエリュエンティウ略奪。
 他のプレイヤーの痕跡やアイテムもガンガン奪ってくつもりでいます。
 100年後にも拠点ごと来たら、それも襲うつもり満々です。

 なんだかんだで50レベルオーバーになったクレマンティーヌは、ルプーと普通に仲良くなってます。
 性格けっこう似てますしね。
 立場的にはルプーの後輩。
 シャルティアとも、そこそこ仲良し。
 他のプレアデスとは、さほど仲良しでもないです。

 エクレアとハムスケを通じて、シズはかなり特別扱いされてます。
 原作アインズさんが、アウラやマーレに向けてた保護欲が、主にシズへ。
 理由は、モモンガさんがろくに外に出ずいて、一部の姉と肉体関係を持ってるせいです……。

 ギルメンへの執着を失ったので、アインズ・ウール・ゴウンの名前はほとんど出してません。
 他プレイヤー引き寄せたいわけでもないので、魔導国の名前はナザリック。
 名目上はラナーが女王。
 とはいえ、モモンガさんの心の友になったラナーは、統治しません。
 君臨すれど統治せず、代理はドッペルゲンガーに任せます。
 ナザリック内に幽閉されたというシナリオで、第六階層辺りでひたすらクライムといちゃいちゃして暮らすつもりです。幽閉されたら慰めが必要だから……!


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34:封建社会の完成型は

 もう10年後にスキップしようか迷いましたが、法国編も一応します。



 一か月が経つ頃までに。

 モモンガは毎日、夕暮れから夕食まで執務室で指示を出すようになった。

 もっとも、伴侶たるアルベドは決して離さず。

 彼女は日々、モモンガの膝上で報告をした。

 

「あっ♡ あっ♡ アウラとマーレがっ、エルフ国を掌中にしました……っ♡」

「例のエルフ王は訓練所に送れ。エルフの一部は種族変更しろ」

 

 エルフ王とその装備、宝は全て徴収された。 

 

「おっ、お♡ お、王国大使の、言動が目に余る……そうですぅっ」

「警告し、聞かぬなら貴族らと同じ場所に送れ」

 

 王国の根本的意識改革は、まだ長かった。

 

「帝国っ、ひ、筆頭宮廷魔術師が来て、騒いでいる、とぉぉっ♡」

「カジットで不足なら、ティトゥスに相手させろ」

 

 カジットはアンデッド相手のレベリングし、30レベルを超えていた。

 

「か、カルネ村が、判断力あるシモベ、を、要請ぃひぃっ♡」

「実験を兼ねて村の代表に、これを使わせよ」

 

 カルネ村にゴブリン部隊が配置された。

 

「アベリオン、丘陵の制圧、ほぼ完了しまし、たぁっ♡」

「予定通り、法国に圧力をかけよ」

 

 開拓と移民による消極的な国境侵食を三方から行うのだ。

 

「ひゅっ、ひゅレイン法国が接触してきましたぁ♡」

「周辺監視を強化せよ。ニグンたち陽光聖典は一応、隠せ」

 

 移民はエルフ、帝国のワーカー、アイテムによる召喚モンスターである。

 

(深謀恐れ入ります。法国の部隊を確認しました)

「パンドラズ・アクターとアウラ、マーレ主導で、拉致せよ」

 

 緊急性ゆえ、デミウルゴスから直接〈伝言(メッセージ)〉が入る。

 

「っ、あっ♡ あっ♡」

「おや、思案中でも随分と感じてくれるものだな」

 

 考えながらも、モモンガはつい、両手でアルベドの尻を握りしめていた。

 握り弄る都度、膝上に向かい合って座る彼女の身が跳ねる。

 

「っ~~~~~♡♡♡」

「んむ、んっ……相応の精鋭を向かわせてくれていれば話が早いが」

 

 目の前の乳房に顔を埋めながら。

 しばし、愛する伴侶の体に溺れる。

 

 残念ながら、溺れていられる時間は思いのほか短かった。

 

(はははは母上ぇッ!! たァー大変でェーーーすッ!!)

「……ぉ、っ、ど、どうしたぁぁぁぁっ!!!?」

「ぁっ、ひっ、も、モモンガ様ぁぁぁっ♡♡」

 

 突然の我が子からの〈伝言(メッセージ)〉に、堪えていたものが決壊する。

 のけぞるアルベドを、しがみつくように抱き寄せながら、何とか問い返した。

 パンドラズ・アクターが取り乱すなど、普通では考えられない事態だ。

 

(わ、世界級(ワールド)アイテムをォ~2個ッ、入手いたましたッ!!)

「なにぃぃぃぃぃ!!!!」

「っあっ♡」

 

 がたっ、とモモンガは思わず立ち上がる。

 アルベドをきつく抱きしめたままに。

 

 

 

 ナザリック地下第十階層、玉座の間。

 

「傾城傾国に、聖者殺しの槍(ロンギヌス)だとぉ!?」

「「…………」」

 

 パンドラが既に分析した品を、モモンガ自らも再度分析し。

 机を叩く。

 絶対の精神支配を為すアイテムと。

 絶対の存在消滅を起こすアイテム。

 およそ世界級(ワールド)アイテムの中でも、最悪のものだ。 

 

「……こいつらのレベルは?」

「一人だけ70超え、他は高くても30程度です」

 

 モモンガの問いに、パンドラズ・アクターが困惑したように答える。

 戸惑いゆえか、オーバーアクションもドイツ語も忘れている。

 

「む……70超えは男のようだが……誰が傾城傾国を?」

 

 モモンガの記憶では、女性専用装備だったはずだ。

 

「……この10レベル程度の老婆でございます」

「何ぃ?」

「ええっ、あれが……このドレスを?」

「我々の知る戦術、装備適用と異なりすぎでは……」

 

 理解しがたい、と言いたげに頭を押さえるモモンガ。

 デミウルゴスとアルベドも、驚愕する。

 

「ともあれ、これらは我らに恐るべき損害を与えうるアイテムだった……使用前に奪えたのは幸いだな。切り札ともなりうる。保管し、換金はするな。他は神器級(ゴッズ)は残し、全て換金だ」

 

 特に珍しい品もない。

 セーラー服だって、シャルティアのクローゼットにもっと特殊な品がいくらでもある。

 

生まれついての異能(タレント)持ちかもしれぬし……ニューロニストにも悪いが。今は拙速を尊ぶべきだ。我が子よ、タブラさんの能力でこの老婆の脳から直接情報を奪え」

「承知いたしましたァッ!」 

 

 グロテスクな惨状が始まる横で、矢継ぎ早に指示を出す。

 

「終わり次第、他は訓練所に送ってヒルマに管理させろ。女もしっかり壊すまで種族変更はするな」

「……」

 

 じゅるじゅると音を立てつつ、脳食い(ブレインイーター)が頷く。

 

「デミウルゴス、お前とお前の配下で召喚モンスターによる軍勢を編成し、法国の神都とやらにぶつけよ。派手に暴れはさせても、被害はなるべく出すな」

「ハッ、即座に!」

 

「〈伝言(メッセージ)〉――恐怖公よ、これより威力偵察に入る。その身の安全を確保し、眷属は潜伏させておけ。異常はあるか?」

(例の番外席次が動き始めております。武装して宝物庫らしき場所を離れました)

「わかった。番外席次その他、大きな動きがあればデミウルゴスに伝えよ」

(お任せあれ)

 

「〈伝言(メッセージ)〉――コキュートス、適当な亜人をまとめ法国に進軍させよ。威圧目的だ、あまり荒らさせるな」

 

「〈伝言(メッセージ)〉――アウラよ、法国の駐留部隊および砦に襲撃をかけよ。殲滅はしなくていい。法国の戦力を乱すべく動け」

 

「吸収いたしましたァッ! どーうやら彼らの所有する世界級(ワールド)アイテムは、今回の二つのみッ! 漆黒聖典は彼の番外席次と、この70レベル代が最大戦力の様子かとォ!」

「ふむ……つまりだ」

 

 モモンガの目が紅く光り、〈絶望のオーラV〉が噴き出す。

 

「奴らは己の最高級の戦力を刺客として私を消滅――ないし精神支配せんとしていたわけだ」

「「……その通りかと」」

 

 パンドラズ・アクター、デミウルゴス、アルベドも、憤怒と共に頷く。

 達成不可能だったろうが。

 至高の御方に、そのような意図を持って訪れただけで。

 万死とて生ぬるい。

 

「お前たち三人にシャルティアとマーレを加え、出陣せよ。包囲軍による混乱をついて突入し、法国中枢を叩き潰せ。全てのアイテムを接収した後、神殿は跡形もなくしろ。戦力は可能なら捕縛して拉致、困難なら殲滅だ。一般市民には手を出すな。崇める神の死を見せてやれ」

 

 全員が本来の、悪のギルドの守護者として頷いた。

 

「〈無臭(オーダレス)〉〈清潔(クリーン)〉――アルベドは傾城傾国を着用し、姿を隠して向かえ。番外席次とやらを精神支配できそうなら、用いよ」

「ありがとうございます!」

 

 老婆の痕跡を念入りになくしてから、アルベドに世界級(ワールド)アイテムを渡す。

 名目こそ与えたが、実のところ他の世界級(ワールド)アイテムへの備えを、アルベドに与えたのだ。

 聖者殺しの槍(ロンギヌス)は、召喚した者か、この世界の者に使わすべき品。

 また宝物庫にある他の世界級(ワールド)も、奪われる可能性を考えれば、持たせてよい品ではない。

 

「万一の際は撤退を第一とせよ。誰一人として欠けること許さん」

 

 三人がそれぞれ礼をし、急いで準備を始める。

 漆黒聖典の壊滅を知ろうと知るまいと……この機会を逃さぬように。

 

 

 

「…………〈伝言(メッセージ)〉ルプスレギナよ、クレマンティーヌと部屋で待機せよ」

 

 モモンガは一人、円卓の間に立ち寄る。

 少し、落ち着かねばならない。

 三人が去るまでどうにか抑えたが、モモンガの動悸は激しい。

 ツアーに連絡する余裕もない。

 なぜと言って。

 ナザリックの地上部に。

 魔導国に、最も多くの時間詰めているのは。

 他ならぬアルベドだったのだ。

 

「クソがああああああああああ!!!!」

 

 奴らによって最も消滅の危機にあったのは。

 最も精神支配の危機にあったのは。

 モモンガではなく――

 

「よくも! よくも! よくも、私のアルベドを!!!!」

 

 絶望のオーラが噴き出し、執務室中を吹き荒れる。

 一般メイドが控えていたなら、即死しただろう。

 どろりと瞳が濁り、深紅の光が炎となって噴き出す。

 

「ああ、ああ……クソッ! 甘かった! ああああああ!!!!」

 

 アルベドは世界級(ワールド)アイテム、真なる無(ギンヌンガガプ)を装備している。

 それらの効果を無効化できるだろう。

 そんな事態に、容易に陥るはずはない。

 だが。

 地上で許した“遊び”の状況次第では。

 

「あんな遊びを認めるべきではないのか? しかし……しかし!」

 

 アルベドは地上部で一介の女淫魔(サキュバス)のふりをし、たびたび遊んでいる。

 モモンガが、息抜きとして許したのだ。

 そして、どう遊んだか、抱かれたか、報告させながら……彼女を貪るのだ。

 己がしていることを思えば、アルベドをどうして咎められようか。

 

「万一、今回にあれを奪えねば……」

 

 漆黒聖典の男に騙されて抱かれた上、消滅させられたり、精神支配されたりする。

 そんなアルベドの姿を想像するだけで、心がドス黒く染まっていく。

 法国が憎い。

 人間が憎い。

 自身が憎い。

 世界が憎い。

 

「ああ…………それなのに」

 

 アルベドが愛しい。

 ぐったりと放心して、モモンガはしばらく天井を眺めた。

 

 数分か。

 数十分か。

 数時間か。 

 誰の〈伝言(メッセージ)〉も来なかった。

 

「……せめて、憎い一つだけでも、自分でめちゃくちゃにしよう」

 

 ゆらりと立ち。

 円卓の間を離れる。

 

 そして思いつめた目で、ルプスレギナとクレマンティーヌのいる部屋に向かい。

 憎い憎いモモンガ自身を、二人にめちゃくちゃにしてもらうのだ。

 別に、ご主人様ロールで疲れたから行くわけではない。

 たぶん。

 




 封建社会の完成型は少数のサディストと 多数のマゾヒストによって構成されるのだ。
 (ただし、トップがサディストとは限らない)

 サキュバス大量に住み始めたので、魔導国首都は一部が水龍敬ランド並みのサキュバス特区と化してます。アルベドさんは毎日、地上に通って仕事したり、ビッチ本性出したりしてます。日暮れには帰宅して、モモンガさんと夫婦の営み。
 アルベドさんの仕事中、モモンガはナーベラルの相手したり、ソリュシャンと長風呂したり、ルプー&クレマンにいじめてもらったり、たまにシャルティアの部屋に行ったりしてます。
 エロしかしてません。

 そして、アルベドさんが実際に消滅したり精神支配されたりは、まずありえません。

・漆黒聖典が魔導国首都に潜入(ありえなくもない)
・一介のサキュバスしてるアルベドと会う(幸運判定)
・アルベドの実力を看破する(探知阻害の指輪してるので超困難)
・アルベドがワールドアイテム持ってると見抜く(困難)
・アルベドをナンパする(できなくもない)
・ワールドアイテム装備解除させる(ほぼ無理)
・解除状態でカイレ突入か、ロンギヌス使用(ほぼ無理)

 以上をクリアしないと無理。
 でも、NPCが至高の御方に殺意向ける奴にキレるのと同じく。
 アルベドに殺意(しかも脅威的)を向けたら、モモンガさんはガチでキレます。

 一方この頃、ラナーはナザリック第六階層にいます。
 原作のような保護されエルフが地上その他にいるので、二人きりです。
 被害者面してクライムとひたすらいちゃつつき、遭遇した魔獣に怯えて守ってもらったり。体でお礼するプレイしたり。他に人間がいないからとアダムとイブごっこしたり。めいっぱい楽しんでます。
 そんなラナーを、モモンガさんは心から応援してるし、不測の事態にもフォローするでしょう。


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閑話:ラナーさん大勝利ぃ!(前編)

 ラナーさん大勝利になってるし、今後何があっても状況変わらないので、先に後日談を兼ねて。



 ラナーがナザリック魔導国執政官となり数日後。

 蒼の薔薇を送り出した次の朝。

 

「ラナー様! ラナー様、どうか起きてください!」

「ん……あら? クライム、どうしたの? 寝室に……えっ?」

 

 愛する従者の声で機嫌よく目を覚ませば。

 二人はうららかな木漏れ日の差し込む、森の中。

 少し暑めの気温。

 ラナーが寝ていたのは、ふんわりとした苔の上。

 

「こ……ここは?」

「わかりません……しかし、いつの間にかこの森に」

 

 クライム自身も、目覚めたばかりなのだろう。

 ここは、木々の間にできた苔の野原。

 太陽は差し込む程度、湿った甘い匂いが立ち込める。

 少年の避けるような視線に気づき、己の姿を見れば。

 ラナーは、薄い寝着のまま。

 クライムも鎧は着けず、短衣しか着けていない。

 まるで、ベッドの中から己だけ転移したような状態。

 

「私はモモンガ様が魔法で築いた城に寝ていたはずですが……クライムは何か気づきましたか?」

「いえ、自分もラナー様の隣の部屋にいました。鍛錬後は、いつものように就眠を……」

 

 思案するふりで、クライムの困惑した顔に視線を這わせる。

 

(いかにもな塔の上や、牢獄を想像していましたが。健康を考慮してくださったのかしら?)

 

 全てはラナーが、モモンガと話し合った、計画通り。

 二人は幽閉されたのだ。

 ナザリック駐留時から、クライムとの距離をじっくりと近づけている。

 あの頃は、同じ部屋で扉の前に立ってくれていた。

 初日は不寝番までしてくれて。

 その後も立ったまま、時折ラナーの寝姿を確認しつつの立ち寝。

 ラナー自身はナザリックから報酬として、寝食不要・疲労無効の指輪を得ている。

 そう。

 時折、布団をはだけて寝着が露になるごと。

 クライムが慌てた顔をしたり、視線をそらすのも。

 愛しい忠犬が、稀に欲望の視線で炙ってくるのも。

 ラナーは眠ったふりで、ずっと見て、感じていた。

 彼の寝顔も、決意も、抑制も、戸惑いも。

 夜通しずっと、ラナーは見ていたのだ。

 あれは本当にいい時間だった。

 

 おかげで、クライムは逗留中、常に何者かの視線を感じ続けた。何らかの魔法的手段で、ラナーの部屋が覗かれていると考えるも無理はない。

 無邪気にモモンガを友と呼ぶラナーが、狡猾な淫魔に操られるのではと警戒したのだ。

 とはいえ、だからといって何もできず。

 警告しても、ラナーはまともに取り合わなかったが。

 

「やはり、あの魔導王を名乗る女淫魔(サキュバス)の仕業では……」

「そ、そんなはずがありません。きっと何か、魔法事故の類ですよ」

 

 怯えつつも気丈な――そんな声色と表情を作って見せるラナー。

 クライムは何か言おうとしつつも……不安にさせまいと口を閉じる。

 

 だが、無情なるかな。

 二人の不安を煽るかのように。

 甲高い声をあげ、異様な魔獣が飛ぶ姿が、上空に見える。

 虹色の翼を持つ、大蛇。

 比較的低空を飛ぶその様子は、己の威容を見せつけるようだ。

 事実、クライムには、話に聞くドラゴンと同じかそれ以上の怪物に思えた。

 木々のすぐ上を、大蛇の腹が這いうねる。

 いくつかの枝葉が当たり揺れ、強風が吹き荒れた。 

 

「きゃっ!」

「ラナー様!」

 

 細い体を風に飛ばされまいと。

 ラナーが、クライムにしがみつく。

 少年は、か弱い姫を守るべく抱きしめ。

 己らを見もせぬ魔獣を威嚇するように立つ。

 空を舞う大蛇は、二人など眼中にないかの如く、飛び去る。

 それでもしばらくは、警戒を解けず。

 クライムは、姫を抱きしめ続けた。

 

「あ……す、すみません、ラナー様っ!」

「いえ……どうか、もう少し、このままで」

 

 ようやく、柔らかく暖かいラナーの感触に気づき。

 慌てて離れようとするクライムだが。

 不安そうな、怯えた顔の姫に懇願され。

 立ちすくむ。

 

(うふふふ、本当にかわいい!)

 

 もちろん、ラナーは最初から怯えてなどいない。

 だが、せっかくの機会は活かす必要がある。

 魔獣への恐怖と不安で冷えていた、少年の体が。

 己の肢体を意識して、熱く火照り始めているのだ。

 それを全身で感じるのは本当に楽しくて、嬉しい。

 彼が男として反応しているか、直に調べたくもあったが。

 今はまだその時ではない。

 肌で堪能するだけに留める。

 粘膜部分はお預けだ。

 ラナーはCOOLに、己の火照りをわずかに察させる程度で離れた。

 

「ごめんなさい、クライム。どうしても不安で……」

「いえ、ラナー様が謝られることでは!」

 

 勢いよく頭を下げるクライムの腰が、少し引けている。

 反応してしまっているのだ。

 

(あら、これは思ったより早く……してしまいそう♪)

 

 音を立てず、口の中で舌なめずりした。

 

 

 

 その後、二人で周囲を探索する。

 不安だから、はぐれてはいけないからと。

 手をつないで。

 緊張するクライムに、無垢な姫として身を依り添わせる。

 野歩きに馴れないのだから、不自然ではない。

 少しハプニングもあったが……。

 

(はぁ……ふふ、お互い姿の見える場所、音も聞こえる場所で……。

 クライムのあんな音を聞くなんて、本当に思っていませんでした。

 私の音も聞かせてしまいましたが……相当、意識してましたね♪)

 

 森なのでトイレもない。

 危険だからとお互いに姿の確認できる場所で……。

 小用をしたのだ。

 クライムの慌てようは酷く。

 終えた後に見せた顔は真っ赤だった。

 じきに大きな方も互いに聞かせ、聞くのかと思えば。

 ラナーは正直、期待せざるをえない。

 

(これだけでも、取引した甲斐がありました!

 ゆくゆくは恥じらうクライムに、目の前でさせましょう!)

 

 ともあれ。

 

 二人のいるのはまばらな木立で、十分に歩き回れる。

 小川。泉。小さな岩山と洞窟。

 洞窟の奥からは冷気ではなく熱気があり、温泉があるかもしれなかった。

 寝室も寝具もないが、目覚めた場所のような苔や草花の野原が、点在する。

 果実の実った樹も、多数。

 気温も高め。

 添い寝させる理由は、いくらでもある。

 

(ふふ、わかってらっしゃいますね!)

 

 心の中で、モモンガとハイタッチするラナー。

 途中で疲れたからと、抱きかかえさせたり。

 おぶさったりもする。

 ラナーの体に触れるごと、少年の見せる反応が楽しい。

 着ている寝着は、ネグリジェだ。

 木々の枝や茂みに引っかかる。

 はだけもすれば、端々が裂けもする。

 一週間もすればボロボロになって、きっと裸同然になるだろう。

 わざと元気に野を散策すれば、数日だ。

 鎧下のような丈夫で実用本位の、クライムの短衣は無事だろう。

 そうなった時、彼は……。

 己のそれを脱いで、ラナーに着せようとするのか。

 木の葉で服でも作ろうとするのか。

 あるいは、我慢できずに自らラナーの衣装を引き裂き……

 

(私、本当に楽しみです!)

 

 おぶさられ、レースが今も枝に裂かれる音を聞きながら。

 ラナーは満面の笑みを浮かべていた。

 

「っ……これは……!」

「まあ……」

 

 密集した木々が壁のように立ちはだかる。

 張り巡らされた蔓草は檻のよう。

 しかも、その先だけ不自然な霧が蠢きながら立ち込めている。

 明らかに魔法的なものだ。

 試しに霧に触れてみれば、指が痺れる。

 たとえラナーがおらずとも、中に入れば……麻痺状態に陥るだろう。

 左右を見れば、霧はずっと続いている。

 ゆるく、弧を描いて。

 おそらくは円の中に二人を閉じ込めるように。

 

「まさか……」

「これは、魔法でしょうか?」

 

 上空。

 嘲笑うように声をあげ、頭上を再びあの大蛇が飛ぶ。 

 おそらく樹を登っても、無駄なのだ。

 あの大蛇の餌になるだけ。

 クライムは呆然と立ち尽くした。

 

(なるほど、まさにバカンスのための監禁場所ですね♪)

 

 ラナーは、内心でさらに感心し。

 モモンガへの感謝を新たにしていた。

 持つべきものは同志であり、友情だ。

 相当な広さがある。

 事実上、二人きりで無人島に遭難したようなもの。

 

(けれど、食事はどうするのでしょう。果物だけで暮らしていけるとは……)

 

 内心少しだけ疑問に首をかしげる。

 そんな時、背後から冷たい声がかけられる。

 

「手間をかけさせるな、下等生物(ボウフラ)」 

 

 何の気配もなく――突然に。

 振り向けば、黒髪ポニーテールの美しいメイドが、そこにいた。

 





 書いてみたら一話で終わらなかったので前後編です。


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閑話:ラナーさん大勝利ぃ!(後編)

 伸ばさずこれで終わらせようと思ったら、長めになりました……。



 

「動き回るな、下等生物(ゴミムシ)

 

 メイドはそう言って、冷たく二人を睨みつける。

 クライムが、ラナーを庇うように立ちはだかり、睨み返した。

 

「っ! ラナー様、お下がりください!」

下等生物(カマドウマ)が騒ぐな」

 

 必死の形相になる少年に、メイドは淡々と言う。

 

「あ、あなたは、モモンガ様の側室になられた――」

「…………」

 

 かぁっと、冷たい美貌が紅くなり、恥じらいながらこくんと小さく頷く。

 

(乙女かよ)

 

 ラナーは思わず、素で突っ込みかけた。

 緊張と疲労……そして空腹でもあるクライムは気づかなかったようだが。

 このメイドに演技は求めない方がいい。

 幸いクライムは動転している。

 今のうちに“手続き”を済ませてしまおう。

 

「ナーベラル様! これはどういうことです!」

「…………」

 

 メイド――ナーベラルは冷たい目で二人を見た。

 その目は値踏みするようにも、射抜くようでもある。

 クライムがさらに警戒を強め、徒手空拳でも抗おうと構えるが。

 人間観察において超越的能力を持つラナーにはわかる。

 

(あ、これ何も考えてないというか、意味わかってない……)

 

 ラナーが全てフォローするしかない。

 

「私はナザリック魔導国の執政官となったはず! どうして森にいるのですか!」

「……ふ、ふん、お前たち下等生物(シロアリ)には過ぎた住まいだ」

 

 ナーベラルの目が一瞬、踊った後。

 冷たい声で言い放たれる。

 これまたクライムは気づいていないが……棒読みである。

 表情の変わらぬ冷たい美貌がなければ、少年も普通に気づくだろう。

 

(もう少し有能な人を送ってほしかったわ……モモンガ)

 

 朝から初めて、モモンガに失望した。

 

「住まいとは……どういうことですか」

「お前たちはこれから、ここで暮らせ。執政官の仕事は、我々の配置した二重の影(ドッペルゲンガー)が、モモンガ様の思う通りに行う」

 

 淡々と言うナーベラル。

 抑揚も煽りも何もない。

 ラナーとしてはじれったい。

 だが、クライムはそれゆえ、不気味さと怒りを感じた。

 

「やはり、お前たちラナー様を……!」

「〈人間種束縛(ホールド・パーソン)〉……下等生物(マダニ)風情が」

 

 飛び掛かろうとしたクライムの動きが、封じられる。

 

「く、クライム!!」

 

 とりあえず、攻撃魔法を使っておらず、安心するラナー。

 動けなくなったクライムに身を寄せ、心配そうに体をさする。

 

(早く用を済ませて帰ってくれないかしら。効果時間が過ぎるまで、クライムの体中を堪能したいのだけど)

 

「餌をやる。モモンガ様の御慈悲に感謝して食べろ」

 

 明らかに面倒そうな様子である。

 ラナーにもクライムにも、彼女自身は何の価値も感じていないと、ありありとわかる。

 

(利用価値とか言っておきなさいよ……)

 

 呆れながら、ラナーはナザリックNPCの評価を下方修正した。

 ナーベラルも、さっさと用を済ませたいのだろう。マジックアイテムなのだろう、小さな袋の中から、なかなか豪華な食料を出している。様々なサンドイッチ、クッキー、複数種類の飲み物。フルーツは勝手に森で採取しろということか。

 

(……ちょっと凝りすぎじゃないかしら。もう少し、囚人らしい粗食にしてもらえば、黒パンや干し肉をクライムに噛ませて、口移しで食べさせてもらったりもできたのに)

 

 この辺り、事前に希望をきちんと言わなかったラナー自身の不覚。

 もっとイメージトレーニングを重ねておくべきだったと、少し後悔した。

 

「明日以後の餌は、最初の場所に置いておく」

 

 それだけ言って、メイドは転移し、姿を消す。

 面倒そうに、見下し切った態度のままだった。

 このあたり、人員についてモモンガに相談すべきか。

 金髪の人か、メガネの人は、有能そうだったのに……。

 などと考えながらも。

 

「クライム! クライムしっかりして!」

 

 涙ながらにクライムの体中をまさぐり、そんな己に触れられて硬くなり始めているものも、しっかり握らせてもらうラナーであった。

 

 

 

 三日間。

 クライムに鍛錬させ、ラナーは自ら果実を集め。

 水浴びや入浴の世話をしっかりさせて。

 代わりにクライムの背中を手でこすって洗ってやり。

 寝る時は添い寝で、寒いと言っては抱き着き。

 さんざん楽しい時間を過ごしていた、が。

 四日目の朝。

 

「二人とも元気そうだな。か弱い人間に合わせ環境を整えたが……少々、気遣いが過ぎたか?」

 

 ナザリックの主が、闇をまとって現れた。

 

「貴様っ! ラナー様をよくも騙したな――〈斬撃〉!」

「おっと……元気な犬だな〈不死者の接触(タッチ・オブ・アンデス)〉」

 

 少年の渾身の一撃が、容易に掴まれる。

 丈夫な樹の枝で作った木剣はへし折られ。

 まさに犬を撫でるように、頭に手が乗せられ――

 

「……おとなしくしていろ。今日はお前の主に用があるのでな」

「クライム!?」

 

 びくんと、クライムの体が跳ねて動かなくなり。

 地面に倒れてしまう。

 

「あ……ぉ……ら、らなーひゃま、ろうか、おにげ……くら……」

「よ、よかった、生きてる……クライム……」

 

 麻痺状態となり、動けない体で。

 必死に舌を動かし、ラナーを逃がそうとするクライムだが。

 主は彼のために涙を流し、へたり込むばかり。

 そして淫魔の女王が、その背後に立ち。

 クライムを嘲笑いながら……。

 

「きゃあああっ!!」

 

 ラナーの、ボロボロになった寝着を、一気に引き裂いた。

 下着すら同時に裂かれ、木漏れ日の中、彼女の裸体が露になる。

 申し訳なさと、主の悲鳴を聞くに堪えず、目を閉じようにも。

 麻痺したクライムは、思うように(まぶた)を閉じられない。

 

「ほう。囚われの身になろうと、美しい。さすがは“黄金の姫”」

 

 嘲笑うように、美しい淫魔が、その手をラナーの身に絡める。

 

「っ! どうするつもりですか!」

「何、殺しはせんよ。少し相談事と……楽しませてもらうまでだ」

 

 クライムに見せつけるように、ラナーの頬にキスをするモモンガ。

 気丈に問いただした顔を嫌悪に歪める主に。

 少年の開かれた目から涙が流れる。

 

「では少年よ、しばし主を借りるぞ。何、きちんと返してやるから安心しろ」

 

 まさに魔王と言わんばかりのオーラを溢れださせながら。

 ラナーもろとも転移し、モモンガは姿を消した。

 後に残るは麻痺したクライムと、無惨に引き裂かれたラナーの寝着と下着のみ。

 

 

 

「それにしても、驚いたな。ラナーの言った通りじゃないか」

「それはもう、とってもよく躾けていますから♪」

 

 テーブルを挟んで二人は談笑していた。

 どちらも本性を隠さない顔だ。

 裸体にされたラナーは、渡されたローブを羽織っていた。

 

「まったく、三日間も二人きりで、あれだけ誘惑を受けながら手を出さないとは」

 

 しきりに感心するモモンガ。

 転移して一瞬で手を出され、今も名前を知ると同時にセックスするような関係が多数。そんな彼女にとって、クライムの強靭極まりない理性は、驚異的を超えて変態的なものに見えていた。

 

「あらあら、まだ悔しがって……早く、私がどんな目に合っているか考えてくれないかしら」

 

 テーブル上には、ティーセットの他に遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)が置かれている。

 その中に映るのは、あの森。

 ナザリック第六層の片隅に築かれた隔離領域だ。

 幻惑効果と麻痺効果のある霧を、一部ギミックを解放して発動させている。

 やっと麻痺の解けたクライムが、しきりに地面に拳をぶつけ、涙をこぼしている。

 ラナーとしては、残された下着に視線を向ける様子など見れないかと期待していたのだ。

 

「あの苔や花も、媚薬効果があるのでしょう?」

「さすがに匂いでわかるか。生物の性欲を高める効果がある。三日間も、よく我慢できるものだ」

 

 二人を幽閉した場所は、魔獣の繁殖用区域。

 ユグドラシル時代は、そこに同種の低レベル獣系モンスターを複数配置すれば、上限こそあるが一定確率で数が増えるエリア。POPモンスターの数を増やす場所。

 だが、転移後は生物全般に発情状態を起こさせる、あるいは強める効果を持つフィールドとなっていた。

 残念ながら、悪魔やアンデッドに効果はない。

 モモンガとしてはルプスレギナを散歩に連れて行く場所程度の認識だ。

 

「添い寝してもらった時、クライムに身を擦り付けて私は処理したりしましたが……」

「彼は頑張っているわけか」

「さすがに時間の問題と思うのですが……そろそろ一手進めようかと」

「それで今回の、か。たいした先読みだな」

 

 二人で悪い笑みを浮かべる。

 

「種族変更もまだ早いが……話を匂わされた程度はしておくか?」

「天使、淫魔、吸血鬼……から選ぶのですよね」

 

 迷うように思案する。

 

「そうだな。彼とは別々の種族でもいいぞ。あちらを天使にして、ラナーは淫魔になるのが、お勧めだ」

「どういうことでしょう?」

 

 躊躇などない。

 

「淫魔なら、何をしても種族の本能のせいにできるだろう? 少々おいたをしても、涙ながらに謝れば、何度でも繰り返せるのじゃないか?」

「まあ! 素敵! そして天使になったクライムは、私を淫魔にしてしまった罪悪感を、ずっと抱え続けるのですね!」

 

 当然、クライム本人の意志確認はない。

 

「その通りだ。吸血鬼になって、自ら彼を眷属にする……のも悪くないだろうが。服従関係では飽きそうだからな」

「今と変わりませんし、本能的に服従されては面白みもありませんね」

 

 ラナーの目はじっと鏡の中のクライムを見つめる。

 彼は相変わらず、下着に手を伸ばしたりしない。

 その目は輝きもなく濁り切って、ドロドロと煮込まれた欲望と執着のみがぐねぐねと蠢き続けるよう。

 

「うむ。それに彼を淫魔にして欲望に流されたり、他の女に手を出す可能性も高い」

「手を出してもかまいませんが、私の価値が相対的に低くなりそうですね……」

 

 少しだけ、二人の濁った視線が黒く絡み合う。

 

「そうだな。私もアルベドに手出しされたくない」

「私も天使になる……という選択もありますが」

 

 小首をかしげるラナー。

 仕草は同じでも、今の彼女に愛らしさはない。

 

「止めはせんが、種族変更は性格にも影響が出るぞ。己の所業に後悔し始めるかもしれん。クライムに執着はできても、欲望は抱けなくなったりな。何より、私に隔意や敵意を抱き始めたら、ラナーとて始末せざるをえんかもしれん」

「可能性の話ですが確かに……政治的に利用するなら天使になって見せた方がいいのですが」

「変身の呪文を使えばよかろう。ラナー、受け入れよ――〈上位変身(グレーター・ポリモーフ)〉」

 

 モモンガが、魔法を使う。

 これは同意する相手を、変身させるも可能なのだ。

 

「まあ……!」

「地上で働く二重の影(ドッペルゲンガー)は自身のレベル以上には変身できんが……さらに呪文をかけて、こうして変身させはできる」

 

 神々しい光を全身から放ち、ラナーが輝く翼を得る。

 頭上には光輪。

 まさしく天使――いや、衣装さえ整えれば女神にも見えるだろう。

 

「さすがです、モモンガ!」

 

 本気の歓喜と共に笑みを浮かべる。

 つまり、地上や政治など考えず、クライムと幸せに過ごせと言ってくれているのだ。

 ラナーとしては、本当にありがたい。

 

「とはいえ、種族変更について、彼に自発的に言い出させてくれ。強制的に変えさせると、失敗の可能性があるらしいからな」

「はい。最悪でも先に私が変えられるだけですよ♪」

 

 寒気しか感じさせない笑み。

 見る者を石にするメデューサの逸話も、この場にいれば信じられよう。

 

「時期はどうする? もっと大人になってからにするか?」

「クライムとの子供は産みたいですしね……」

「はぁ、私もアルベドの子を産む側になりたかったな」

 

 少し憂鬱な影が、モモンガに宿る。

 愛する相手のため、己を封じ、別を演じる日々。

 モモンガは、ラナーほどにはまだ割り切れていないのだ。

 空気を察し、元王女は巧みに話題を変える。

 

「ところで、淫魔や天使になれば、クライムを孕ませたりもできるのでしょうか?」

「おお、どうだろう。ぜひ二人で実験してみてほしいな」

「ええ、ぜひ。うふふ、楽しみ♪」

「そうだな。ふふ……私もアルベドをうまく誘導せねば」

 

 ヘドロのように、にこやかに。

 二人は談笑する。

 

「さて、お風呂には入って帰りましょうか。次はまた三日後ですね♪」

「ラナーがしたければ、実際に相手をしてもいいが……初めては彼との方がいいのだろう?」

「もちろんです♪」

 

 そしてラナーは、心から友と呼べる人物と、本音での楽しい語らいを終え。

 一般メイドたちにその身を磨かれ。

 わざと甘い香りの石鹸や香油をたっぷりと使い。

 いかにも事後といった姿で、何もまとわず。

 モモンガの腕に抱かれて、クライムの元に帰るのだった。

 

 

 

 その夜。

 

「クライム……純潔こそ守り切りましたが、私は汚されてしまいました」

 

 酷く明るい月光の下、主の言葉に少年は息を飲む。

 

「次に呼ばれれば、純潔も奪われるでしょう。私たちはこのまま、永遠に閉じ込められるそうです」

 

 ラナーの声は、淡々としているが。

 嗚咽を堪える気配が、抱えた痛みを伝える。

 

「本来なら私一人が囚われるだけだったのに……巻き込んでごめんなさい。あんな悪魔を信じたばかりに……お詫びにもなりませんし……私自身の我儘ですが。でも、あのような魔物に奪われるより、私はクライムと……」

 

 これを拒む術も知恵も。

 少年にはなく。

 ただ、その夜に彼は男になった。

 そして、彼は誓いを立てる。

 今度は必ず、あの下劣な淫魔を打ち破り、愛する主を自由にするのだ、と。

 

 三日ごとに破られる誓いを……。

 

 

 

 数か月後。

 

「ふははは、あれほど抱いてやったというのに。従者と随分楽しんでいる様子ではないか。黄金の姫とやらは、随分と淫乱だなぁ!」

 

 二人の様子を魔術で覗いたのか。

 哄笑と共に現れたモモンガが、ラナーを抱え、まさぐる。

 二人の衣服は既に失われ、裸体で暮らす状態だ。

 クライムも何度も抱いた彼女を、淫魔の手が弄んだ。

 

「喜ぶがいい。この娘は、子を孕んだぞ。お前の子だ。腹の膨れたこやつで遊ぶのは楽しかろう」

「貴様ぁ!!」

 

 少年は激昂し……叩きのめされ。

 目の前で愛する人を連れ去られる。

 数時間後、疲れた顔で帰ってくる彼女を……彼は、慰めるしかできない。

 

 

 

 一年後。

 

「ククク……子供が生まれたぞ。産んだ直後から回復魔法で体を戻し、さんざん楽しませてもらったがなぁ!」

 

 赤子を抱いたラナーがぐったりと、モモンガに寄り添っている。

 

「な……ラナー様!!!!」

 

 駆け寄り、クライムは涙を流した。

 もう既に何の涙かよくわからなかった。

 

 

 

 二年後。

 いつものようにモモンガが消えた後。

 二人の子供をあやすクライムに、酷く真剣にラナーが言った。

 

「クライム……私は……もうすぐ、あれと同じ淫魔に変えられるそうです」

「そ、そんな!」

 

 ラナーの目に、絶望が濃い。

 いつも気丈に、むしろ落ち込むクライムを慰めてくれたのに。

 

「淫魔になって永遠にここで……あれの仲間になって生きる、そうです。そうなれば、クライムも先に老いて……死んでしまう……この子たちも……」

「ラナー様、せめて自分も共に!!」

「ああ、クライム!!」

 

 ひしと抱きしめあう二人。

 一歳児は、意味も分からずぼんやりと見ていた。

 なぜか母が、父の背中で……どこかに向かってVサインしている姿を。

 

 

 

「ラナー大勝利じゃん! 羨ましいなぁ!!」

 

 そんな友の勝利を、モモンガはハンカチを噛んで見ていた。

 

 

 

 そうしてお姫様“は”、愛する騎士といつまでも幸せに暮らしましたとさ。

 めでたし めでたし。

 





 ……困った。
 アルベドさんがこれ以上の勝利を得られる案がない……。

 ラナーさんはその後、物心ついた子らは普通に地上で育てるようにします。
 天使化したクライムは、淫魔化したせいでエロエロになった(という設定の)ラナーさんに搾られつつ。事後で正気を取り戻した(という設定の)ラナーさんに謝られて。モモンガ絶対殺すマンとして、レベルアップは許されないまま永遠に生きていくでしょう。
 連れて行かれるごと、すごい酷いプレイされてるという設定ですが。もちろん、モモンガと駄弁ったり相互相談してるだけで、教えてもらった性生活をクライムと実行してるだけです。
 本編で接点出せてませんが、原作通りデミウルゴスとも仲良くなってます。
 国際戦略について、普通に幹部会議に出たりも(連れ去られた時)してます。

 クライムは、最中を見たことないのにNTR性癖を植え付けられます。
 彼の精神状態が心配ですが、原作での無駄に折れない心を考えれば大丈夫でしょう……天使化したら、下級の信仰系呪文も使えるでしょし……〈獅子の如き心(ライオンズ・ハート)〉とか無駄に使ってるはず。

 餌やりメイドはその後、ソリュシャンに代わりました。ラナーさんは、同じ演技上手い系女子として、ソリュシャンとはすぐ仲良くなりました。モモンガとラナーの、おぞましい談笑にもたまに立ち会います。

 ナーベラルが選ばれたのは、モモンガ的に少しは仕事あげたかった様子。
 目下、アルベドがいない間の、支配者ロールの練習台で、それもたぶんアルベドに実践始めたらおざなりだから……。地上のお仕事も一時させてみて、アカンってなったのでしょう。
 たぶん、入り口でリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン預かり係とかしてます……。それも、クレマンさんとか、ルプー同伴じゃないと見分けられなくて苦情多そう(汗)。
 ほんと、ポンコツにしちゃってごめんよ、ナーベラル。


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35:最後の命令

 セバス以外の100レベル守護者全員による総攻撃を受けたスレイン法国(世界級アイテムはもうない)の運命やいかに!



 ナザリック地下大墳墓、第六層、円形闘技場(コロッセウム)

 

「……無事に終わったか。犠牲や損傷もなかったようだな。よくやった」

 

 転移門(ゲート)で帰還する守護者たちを、モモンガはそれぞれ抱きしめ、出迎える。

 最後に、抱きしめたアルベドを傍らに侍らせ。

 哀しそうに視線を送るシャルティアを、モモンガは敢えて無視した。

 チャイナドレス姿のアルベドの髪を撫で、帰還した守護者らを見やる。

 法国襲撃で確保した人材と物資は各施設に送り済だ。

 ただ一人、見知らぬ少女がいた。

 その目は光を失い、ただぼんやりと立っている。

 

「番外席次とやらも、無事確保したか……我が子よ、これの戦力はどれほどだった?」

 

 アルベドの着る傾城傾国で精神支配された少女を指さしつつ、パンドラズ・アクターに問う。

 抜け目ない彼ならば、その戦力構成を既に分析しているだろう、と。

 

「レベル約90の回避型戦士ッ! ただーし、合理的クラス構成ではありませんッ! 超位魔法、世界級(ワールド)アイテムなしッ! 複数の神器級(ゴッズ)を装備ィッ、衣装に鎧を重ね着ッ、アクセサリ多数ッ、各種対策と耐性ありッ! 生まれながらの異能(タァーレント)を持つ可能性大ッ。さァ~らにッ、我々の魔法やスキルを無策で受けッ、ダメージを受けて驚いておりましたッ! ――おそらくは耐性と無効化系スキルによる、ごり押しに頼っていたのでは」

「……ほう。実戦経験は薄そうだな」

 

 興味深く少女を見る。

 

「容易に精神支配できたため、戦闘データはあまり引き出せておりません。首都守備の軍は全体的に、士気こそ高くとも、実戦経験少なく、連携も取れていなかったかと」

 

 デミウルゴスが追加の情報を述べる。

 

「なるほど。アルベドよ、精神支配を解いてみよ」

「いけません! せめて武装解除と拘束を!」

 

 慌てて反論するアルベドに、他の守護者も頷く。

 

「いや。お前たちを玉座の間でなく、ここで迎えた理由でもある。精神支配中の記憶、この者の在り様など、知りたい案件は多い。何より……私も、たまには実戦をせねば、なまってしまうだろう」

「しかし……」

 

 なおも抗弁しようとするNPCらだが。

 モモンガが、ナザリック最強の武器を取り出すを見ると、口を閉ざす。

 ギルド武器たるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

 至高の御方らの努力の結晶、世界級(ワールド)に比肩する逸品。

 

「私が危なければ割って入るがいい。さあ、下がっていろ」

 

 嗜虐的な笑みを見せる主に……ここ最近は性奴隷めいた扱いを受けているアルベドが、何を言えようか。

 

「……わかりました」

「な……おやめなさい、アルベド!」

 

 デミウルゴスが止めようとするが……。

 少女の体から、光の竜が離れ、チャイナドレス――傾城傾国に吸い込まれる。

 

「はぁ……ほんっとに、舐めた真似してくれるじゃない……」

 

 少女の目に、光が戻った。

 ゆらりと下から睨みつけるようにし、手の中に戦鎌(ウォーサイズ)を出す。

 

「精神支配中の記憶はあるようだな」

「あなたが親玉なんでしょ? 随分見下してくれるじゃない」

 

 白と黒のオッドアイが、殺意でぎらつく。

 

「なら、見上げさせてみるがいい。お前の同僚だったクレマンティーヌは、少なくとも私に並んで見せたぞ」

「あんなザコに勝った程度で――」

 

 モモンガから噴き出した絶望のオーラに、少女が怯んだ。

 

「あいつはお前より、よほど強いぞ」

「ッ――」

 

 恐怖を抑えごまかすように、漆黒聖典番外席次〈絶死絶命〉が飛び掛かった。

 モモンガも今ばかりは。

 少しばかり大人げなく、戦うことにした。

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓、第九層、大食堂。

 アルベド以外のNPCが揃って戦勝祝いの最中である。

 

「まったく、実にすばらしい勝利だったよ!」

「御方の戦う姿に、濡れ濡れだったでありんす!」

 

 デミウルゴスの報告を兼ねた熱弁。

 特に頼まれていないのに合いの手を入れるシャルティア。

 そんな二人の話に、NPCらが身を乗り出す。

 

「あたしたちのいない間に、ずるいなぁ」

「武人トシテ、ゼヒ見タカッタ……」

 

 アウラとコキュートスが不平を漏らす。

 セバス、プレアデスその他も黙ったまま頷いている。

 

「安心したまえ。御身の戦いは、パンドラズ・アクター殿が保存してくれた」

「ハイ! 母上のォご活躍ッ、一切見逃しておりませんッ!」

 

 モモンガが、番外席次とのPVPで圧倒する動画が何度も流され。

 彼らは感涙と喝采を繰り返す。

 

 白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)と、事実上の同盟を結び。

 スレイン法国は今回、完全に降した。

 御方の希望――ナザリック維持における脅威はほぼ退けられたのだ。

 エリュエンティウ攻撃は、数十年か百年規模で戦力準備した後でもいい。

 今回の収穫でも、百年はナザリックを維持できるだろう。

 

 知恵者たるデミウルゴスとパンドラは、特に浮かれていた。

 二人とモモンガしか知らない情報として、ザイトルクワエの素材による多額のユグドラシル金貨を既に得ている。

 最悪でも100年後……次に来たプレイヤーを、略奪すればいい。

 モモンガの希望はほぼ叶えられたと言えよう。

 NPCとして、これより嬉しいことはない。

 

 その空気は他のNPCに伝わり。

 単なる戦勝パーティーでない、お祭り騒ぎとなっていく。

 滅んだスレイン法国と裏腹に、ナザリックは大いなる歓喜に包まれた。

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓、第四層、地底湖。

 天然洞窟を思わせるそこは、自我を持つ守護者がいない階層。

 湖に沈む巨大ゴーレム、ガルガンチュアは起動させねば動かない。

 配置モンスターもゴーレム系であり……ナザリックで最も人目のない場所だった。

 そんな洞窟に、モモンガの声が響く。

 

「だから事後報告になって悪かったと言っているだろう。こちらとしても、あのように強力な刺客を送り込まれては黙っておれんのだ。中枢の神殿以外は破壊しておらんし、一般市民にも犠牲は出していない」

 

 何度目かの弁明。

 

(それにしたって、やりすぎだよ。私がどれだけ他の竜王をなだめたと思ってるんだい。漆黒聖典も全滅させたんだろう?)

 

 〈伝言(メッセージ)〉越しの竜王の口調は、本気で怒っているというよりも、頭を抱えているといった風。

 

「殺したのもいるかもしれんが……基本、レベルの高い奴は確保した。我々の戦力の底上げに使っている」

(戦力の底上げって……それ以上強くしてどうするのさ)

 

 呆れかえった口調。

 

「先日、法国から送られた刺客はまずかった。一手間違えていたら、取り返しのつかん事態を引き起こしたかもしれん」

(……それほどだったのかい?)

 

 ツアーも真剣になる。

 ならざるをえない。

 モモンガは、漆黒聖典が所有していた世界級(ワールド)アイテムについて説明した。

 

「――というわけだ。これはお前も防げん。不安なら、お前には使わないよう、誓約してもいいが」

(いや……いい。それに番外席次についても、エルフ王についても……キミに任せるよ。私が思っていた以上に、人類は愚からしい。少なくともキミの方がマシに思える。本拠地から出さずにいてくれるなら、それでいいよ)

 

 ため息交じりの返答。

 スレイン法国の所業について、ツアーもいろいろと思うところがあったのだ。

 

「わかった。今回は急だったため相談できなかったが、今後これらを用いる状況があれば、その前に相談すると約束しよう」 

(頼んだよ)

 

 疲れきった言葉を最後に、通話が切れる。

 

「はぁ――待たせてすまんな、アルベド。まったく、法国のせいで余計な苦労が増えたものだ」 

 

 モモンガも、疲れた溜息と共に言う。

 疲れの元は、法国でもツアーでもないが。

 

「幸い、これで完全に禍根を断てたかと」

 

 甲冑姿のアルベドが、すぐ横に侍っている。

 傾城傾国を宝物庫に保管し、完全武装で来るよう、命じられたのだ。

 そんな彼女に、モモンガが寂しげに笑う。

 

「そうか。だが、私は最大の禍根を断てていない」

 

 ぴったりと寄り添うアルベドを振りほどき、突き離す。

 

「モモンガ様……?」

 

 突然の思わぬ行為に、アルベドが戸惑う声を発した。

 

絶対なる無(ギンヌンガガプ)は置いてきたな?」

「は、はい」

 

 傾城傾国と共に、宝物庫に置いてくるよう言われていた。

 ゆえに、今の彼女は世界級(ワールド)アイテムを装備していない。

 なぜその有無をと、問い返す間もなく。

 モモンガは酷く儚い微笑を浮かべて、言葉を続ける。

 

「アルベド。私はいろいろと無理もして……お前に愛されようと努力した。お前もお前なりに、私に応えてくれていたと思う。私が気づかぬ間に、お前に無理もさせていただろう」

「…………」

 

 どう答えればいいかわからず、戸惑うしかないアルベド。

 だが、モモンガは構わず、独り言のように続ける。

 

「以前も言ったがな。私はとても自分勝手で独りよがりだ。その点、お前たちも変わらないと思うし……同じように自分勝手なこの世界の人間たちに、ある種の共感も抱いた」

「あのような者どもに、モモンガ様が共感など――」

 

 軽く手を広げ。

 モモンガは、アルベドの言葉を封じる。

 

「アルベド。やはり私たちは夫婦としてもっと、対等の関係になるべきだろう。お前も私も、互いに知らない点が多すぎる。ラナーを倣って、お前をずっと騙し続けようと思ったのだが。私にはどうやら、無理らしい」

「……モモンガ様?」

 

 冷たく落ち着いた声。

 儚い微笑。

 その様子にただならぬ、不穏なものを感じる。

 

「結婚し、交わり、奴隷になり、奴隷にした。随分といろいろ回り道をしたが……お互い、最も大事なものを忘れていたな。相変わらず相談もせず一方的ですまないが……」

「モモンガ様?」

 

 問いただしても、主は淡々と冷たく、無機的に、人形になったように、言葉を続ける。

 

「幸い、婚礼の折に使った流れ星の指輪(シューティングスター)は、あと1回使える」

「お待ちください、モモンガ様!」

 

 叫ぶアルベドにも構わず。

 モモンガが、片手を高らかに上げた。

 その指には、指輪がある。

 この先はいけない、そう思って止めようとするが。

 

()()の命令だ、アルベド。“(ひざまず)け”」

「あ……あ……どうか、やめて……」

 

 ユグドラシル時の最初のプログラムにもあった、原初の命令に。

 アルベドは逆らえない。

 どれほど力を入れようとも。

 100レベル戦士職の筋力があろうとも。

 根源に根差したNPCという枠が、反抗を許さない。

 最後。

 最後。

 最後の、命令。

 アルベドは震え、涙を流しながらも、跪くしかないのだ。

 

「さあ、これが私たちの決着だ、アルベド。〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉――守護者統括アルベドを人格と記憶をそのままに()()()()()()()へと変えよ」

「――――!!!!」

 

 流れ星が走る。

 声にならないアルベドの悲鳴が響く。

 

 そして。

 アルベドの中と、ナザリック全体で。

 何かが大きく変わった。

 




 次回、最終回。

 番外席次ちゃんは、種付けおねだりしましたが、シャルティアとPVPで勝ったらなって言われてます。シャルティアも、殺さず勝利するごと、モモンガさん一晩ゲットの条件もらえたので、ご機嫌です。


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最終話:このあと滅茶苦茶セックスした

 いよいよ最終回です!



「どうだアルベド。これで私と真に対等の――おぼぉ!?」

「このクソ骨ぇぇっ!!!!」

 

 アルベドの拳で、顔を撃たれモモンガは吹き飛んだ。

 ギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが手放され、中空に浮かぶ。

 地底の岩場にその身がぶつかった。

 

「おま、ちょ、そこは平手だろ。今までで一番ダメージ受けてる!」

「あ゛ぁ゛?」

 

 一瞬、顔と首がかなりまずい状態になったが。淫魔の再生能力は、こと外見についてだけは無駄に高性能だ。血反吐を吐いた口の中が即座に治り、首も元に戻る。HPはかなりの量が減っていたが……。

 アルベドは兜を解除し、モモンガが見たことのない顔で睨んだ。

 

「こわっ!」

「おのれの所業の方が怖いわ! このメンヘラがぁ!」

 

 全身から紫のオーラが立ち上り、口は裂け、まさに般若の顔。

 ドスドスと、地響きすら立てながら歩み寄ってくる。

 モモンガは身をすくめるしかできない。

 

「待って、いやちょっと待って! 話し合お――」

「待つか!」

 

 襟首を掴み、持ち上げる。

 そして希望通りの平手打ち。

 神器級(ゴッズ)の全身甲冑で、篭手(ガントレット)のまま。

 一度では終わらない。

 

「ぶごっ! おばっ! ぢょ、ぢが! これ、ぢが!」

「クソマゾを喜ばすと思ってんか? あ゛?」

 

 抗議するモモンガの腹を膝蹴りして、手を離した。

 

「あっ、がっ……おっ……おっ……お前なぁ! 大事なところっ、をっ、赤ちゃんが、いたらっ……」

「さんざん種付けされたのはこっちじゃ、ボケぇ!!」

 

 うずくまったモモンガを蹴り転がす。

 仰向けになったその身は、髪も乱れ、ローブもはだけている。

 100レべル戦士職の攻撃によってできた痣のいくつかは、まだ再生しきっていない。

 その凌辱直前と言わんばかりの媚態に、アルベドは思わずごくりと喉を鳴らしかけるが。

 

「あ、こ、これは、そうじゃなくて……」

 

 事前にモモンガは〈上位変身(グレーター・ポリモーフ)〉を使っていた。

 しっかりと〈魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)〉も併用している。

 アルベドを“変えた”後――するつもりだったのだ。

 それは、さんざん殴られ蹴られて硬くなり。

 ローブからはみ出していた。

 

「………クソマゾがっ!!」

 

 舌打ちと共に、アルベドが踏みつける。

 

「ひぎゃっ! いっ! あっ!」

「踏まれてッ! 脈打たせてッ! 恥を、知りなさいッ!」

 

 げしげしと踏むが、むしろモモンガの吐息には艶が混じり。

 アルベドも、己の吐息が熱くなっていると自覚した。

 

「だ、だってっ」

「やかましぃ! いつもいつも、勝手な決めつけで動いてっ!」

 

 一際、強く踏みつける。

 

「いぎぃぃ!」

「勝手に結婚しといてっ! なんで奴隷になりたがってるの! クソマゾがぁ!」

 

 踏みつけたままギリギリと、踏みにじる。

 

「っくぅぅ、だ、だって……ぇぎぃ!」

「しかも、何が奴隷として奉仕よ! 仕事の邪魔ばっかりして! 頭おかしいんじゃないの!」 

 

 抗議しようとしては踏みつけられ、言葉を封じられるモモンガ。

 そこからは、ひたすら言葉と足の連撃。

 

「仕事自体、あんたがしないから、私がしてたんじゃない!」

「あの邪魔でどれだけ、私がハブられたかわかってる!?」

「奴隷とか言って、勝手なプレイ要求ばっかり!」

「急に生やして、逆に奴隷になれって言いだして!」

「私が混乱しても、お構いなしで犯してくれて!」

「ルプスレギナとクレマンティーヌにいじめられ続けてるの気づいてないと思ってるわけ!?」

「他の女にも手出して! 誰にでも股開くクセに、私には勝手に嫉妬して!」

「ついには私を書き替えてっ!! 洗脳でも何でもすればよかったじゃない!」

 

 言いたいことが溢れてくる。

 

「本ッ当に大っ嫌い!!」

「っ~~~~!!」

 

 吐き捨てるように言うと同時に、甲冑のブーツが白く汚れた。

 

「そういう、ところが本当に嫌い! この変態がッ!」

 

 もう一度踏みつけようとした時。

 足の下からモモンガが身を翻し、素早く立ち上がる。

 そんな動きをすると思っておらず、アルベドはたたらを踏んだ。

 一つだけ。

 モモンガは呪文を唱える。

 

「……〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉」

 

 逃走ではない。

 対象はアルベド。

 

「え?」

 

 突然だったせいか。

 NPCとしての名残か。

 他の理由か。

 アルベドは抵抗しなかった。

 

「同意ある時のみ可能な裏技だが……抵抗しなかったな」

「なッ」

 

 アルベドは“肉体のみ”転移し。

 モモンガの腕の中にいる。

 装備は全て、地面に転がっていた。

 裸体の、雌の匂いを立ち昇らせる体に、手が這い。

 モモンガをいたぶり、発情していた場所へ、無遠慮に這い込む。

 

「私も言いたいことを言わせてもらうぞ、このビッチが!」

「んにゃっ、ちょ、やめなさ、ひぃっ」

 

 同じ淫魔の指が、アルベドを攻める。

 反論を抑え、モモンガも言う。

 

「お前が結婚式のキスで変なことしてくるから、おかしくなったんだろうが!」

「最初はもっと普通に恋愛とかしたかったのに!」

「しかもあの後、シャルティアが絡んできても抑えもせずにっ!」

「私はお前に一途でいたかったのに、ソリュシャンやルプスレギナも呼んでっ!」

「仕事なんか、最初から私に回してこなかったじゃないか!」

「クレマンティーヌに襲われたのも、お前の手引きだろうが!」

「勝手に裏で他の女ばっかり連れて来て! 二人っきりになりたかったのに!」

「主らしく振舞えっていうから奴隷扱いしたらしっかり感じてたクセに!」

「だいたい地上で休暇して、なんで男漁りするんだ!」

 

 ひとしきり言い切って。

 深呼吸して。

 きっ、と正面からアルベドを睨む。

 モモンガの目に、涙がにじむ。

 

「私だってな! 私だって、お前のそんな所は、大っ嫌いだ!」

 

 しかし。

 肩を掴んだまま離さない。

 指はもう、そこから離れているが。

 アルベドも、振り払わない。

 

「けれどな、それでも……私は……アルベドが好きなんだ」

「私は嫌い、だけど。好きじゃないわけじゃ……ないわ」

 

 互いに目をそらし。

 少しだけ互いを見て。

 目をそらす。

 

 少しずつ、互いを見る時間は増える。

 

「嫌いだが……愛している、アルベド」

「私は……あなたを……」

 

 モモンガは、返事を聞かなかった。

 その勇気がなかったし。

 さんざん痛めつけられた股間も、再生を終えた。

 

 だから。

 とりあえず。

 このあと滅茶苦茶セックスした。

 初めて、対等に。

 

 

 

「やっぱり、なんだか納得いかないんだけど」

「なら、言ってくれ。私たちは……これからずっと、喧嘩していくんだからな。もう遠慮はなしだ。本音でちゃんと話し合おう」

 

 地底湖の湖岸。

 二人、裸で寝そべる中。

 アルベドが唇を尖らせた。

 

「他の守護者にどう顔を合わせればいいの? 私、あなたと同じ立場になったのでしょう?」

「……なんとかする」

 

 いぶかしげな横目で見るアルベド。

 

「対等なんだから、デミウルゴスの報告、これからはあなたが読むのよね?」

「……なんとかする」

 

 モモンガが目をそらす。

 

「ソリュシャンはともかく、クレマンティーヌとルプスレギナはどうするの?」

「…………なんとか、する」

 

 今度は明らかに間がある。

 

「ねぇ、あなたって――」

 

 高々と音を立て、モモンガの頬を平手で叩いた。

 

「何も考えてないんじゃない!」

「な……わ、私は元々、ただの社畜だぞ! ちゃんとあらいざらい説明しただろ!」

「それでも、家庭作るつもりなら責任感持ちなさいよ!」

「持つつもりだったんだ!」

「結果、毎日毎日だらだらと色に溺れて! 仕事しなさいよ!」

流れ星の指輪(シューティングスター)は私の仕事の結晶そのものだぞ!」

「そういう意味じゃないわよ! バカ!」

「バカって言う方がバカだろ!」

「バカバカバカバカバカ!!!!」

 

 さっそく喧嘩が始まり、二人で裸のまま転げまわるように叩き、髪を引っ張る。

 その様子は、さっきよりは和やかで。

 じゃれあう猫のようでもあり。

 どこか嬉しそうにも見え。

 やがて、ぜぇぜぇと、疲れ切った状態で息荒く互いを見つめ合い。

 このあと滅茶苦茶――

 

 

 

「きぃー! まーた、おっ始めやがったでありんす!」

「ちょっとぉー! アルベドのブスだけ優遇されすぎよん!」

 

 地団太を踏む二名はともかくとして。

 

「まさに雨降って地固まる、ですな」

「母上ェッ、よう~やくっ、わかり合えたのですね……なんとめでたい日でしょうッ!」

「隠れて何してるかと思ったら、子供みたいなんだからもー」

「統括殿が四十二人目の御方として取り立てられるとは……私も忠義に励まねば」

「つ、次はやっぱりデミウルゴスさんかなぁ」

「話題ニ名前ガ出テイルノハ、アノ人間ト、ルプスレギナダナ」

「んー。でも、しばらくはクーちゃんと外仕事に出た方がいいかもっすねー」

「私も側付をしばらく辞退し、扉の外で待つべきかしら」

「あの、側室の私の名前が、御方の会話に出てこないのですが……」

 

 フレンドリーファイアを恐れ、攻性防壁を止めたモモンガ。

 浮かれ祝う中とはいえ。

 ニグレドがおり、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)がある以上、他のNPCらから見られぬはずもなく。

  

 

 

 何度目かの喧嘩と交わりの後。

 モモンガが――そろそろベッドのある私室に戻ろうか。でも装備の回収とか面倒だし、このままでもいいかなぁ……などと考えていた頃。

 

「はぁ……ところで、あなた気づいてる?」

「ああ、もちろんだ! おまえに、そう呼んでもらえてうれしい!」

「はぁ?」

「ずっとモモンガ様って呼んでただろ? “あなた”って呼ばれると、夫婦って気がするじゃないか」

 

 本当に嬉しそうに、モモンガが笑った。

 

「ばばばば、バッカじゃないの!」

「これについては、バカでいい」

 

 さんざん喧嘩して、愛し合った相手を抱きしめる。

 

「バカ……って、そうじゃなくて。例の鏡はプレアデスに持たせてるし、姉さん――ニグレドも報告会にいたのよ? これずっと……たぶん最初から、見られてるわよ」

「………………あーーー」

 

 モモンガは、間の抜けた声しか出せなかった。 

 

「そのくらい、最初に気づきなさいよ」

「おまえは最初から気づいてたのか?」

「当たり前じゃない」

 

 自信たっぷりに胸を張るアルベド。

 その貌を見て、モモンガは微笑んだ。

 

「なら、いい。おまえが恥ずかしくないなら、私がすることもされることも……恥ずかしいわけがないだろう」

「ちょっ、恥ずかしくないとか言ってないでしょ!」

「よーし、じゃあさっそくもう一回仲良く……」

「このバカッ……ぁっ♡」

 

 平手打ちの音が響くが。

 すぐに甘い声が漏れ始める。

 

 もちろん、このあと滅茶苦茶セックスした。

 

 

 

 ナザリックは平和である。

 きっとずっと、おそらくは、とこしえに。

 




 36回、D&Dクラッシックにおけるカンストレベル「36」で終わらせようという、目的が達成できて幸いでした。

 最初からアルベドさんの勝利条件は「対等な恋愛関係になる」。
 どちらかが、一方的に都合いい関係にはしたくなかったので。
 お互いに言いたいことを全部吐き出して、ちゃんと喧嘩して、毎回普通に仲直りっクスできる関係になるのがゴール。
 たぶん二人とも、これからも浮気しまくりますが、毎回喧嘩して元鞘で同じベッドに寝るでしょう。
 明らかにいちゃついてるじゃん……ってやり取りも、場所を問わずするようになります。今までのは、いちゃつくというより、露出プレイでしたからね。

 モモンガさんが陥りかけてた暗黒面の到達点が、先日の「ラナーさん大勝利」ですね。ラナーさんは、“対等の恋愛”とは逆ベクトルのゴールとして、完結前に見せる必要あると思ってました。
 ラナーさんは元より「対等の恋愛」なんて望んでないので、あれで大勝利なのですが。
 モモンガさんは、一方的な奴隷になろうとしても、主人になろうとしてもうまくいかず。
 今回の結末を選んだ形です。
 なお、「願い」が問題あってアルベド消滅したりしたら、モモンガさんは即自殺してました。

 ともあれ二か月ほどの連載でしたが、読んでくださった皆様、感想や評価くださった皆様、誤字脱字報告くださった皆様には、本当にありがとうございます!
 しばらくは本来のお仕事の原稿の方に専念し、一段落するか……気分転換したくなったら番外編か新しい話を投稿しようかと。それでは、ひとまず本作、完結とさせていただきます!


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後日談1:諸国の反応

 自主没にした、最終話ちょっと前の話を加筆しました。
 法国がやられた直後です。
 エロ分は皆無です。



 リ・エスティーゼ王国、王都リ・エスティーゼ、ロ・レンテ城にて。

 

「あのバケモノは、事実上……スレイン法国を支配下に置いたそうだな」

「……そうなりますな」

 

 疲れ切った声で、二人の男が話し合っていた。

 リ・エスティーゼ王国、国王ザナック。

 同じく宰相、レエヴン候。

 彼の王国における最高の地位を得た二人だが。

 憔悴の色のみがあり、日々を不安の中で過ごしていた。

 

「事実上、あれが女王と思うべきだろうな」

「公的な場に、名目上の国家元首たるモモンガ殿は姿を見せていませんからね。おそらくモモンガ殿はパトロンというか……名前を貸しておられるだけなのでしょう。とはいえ多数のゴーレムやアンデッドは貸しているようですが」

 

 全ては出奔したラナー王女にある。

 恐怖の対象でもあった彼女の失踪に、最初こそ喜んだ二人だが。

 突如、ナザリック魔導国なる国が独立宣言をし。

 その独立宣言の親書に、執政官ラナーという名を見て。

 天を仰いだのだ。

 

「せめて、セバス殿が無関係なら、恩の着せようがあったのだが」

「彼の言う通り、帝国の逸脱者以上の大魔道士なのでしょうな」

 

 先代王ランポッサⅢ世逝去後も、戦士長ガゼフ・ストロノーフがザナックに剣を捧げる理由はセバス氏の提言ゆえ。また、セバス氏が弟子として連れて来たブレイン・アングラウスは、戦士長にも匹敵する最高の剣士。

 セバス氏が王国を離れるならば、二人も離反しかねない。

 何より、セバス氏自身が二人以上の戦士である。王国戦士団や冒険者を積極的に指導し、人望も厚い。

 はっきり言えば、国王や神殿などより、よほど支持を得ている。

 

「神殿勢力自体を拒んでいる形か……」

「亜人や悪魔も多数住んでいるそうで。回復魔法の使い手も、神殿と関係なく国営で無償化しているとか」

 

 それゆえ、スレイン法国との衝突は必然であったし。

 王国内の神殿勢力も、ナザリック魔導国をしきりに否定していた。

 王国の出奔した王女。

 政治は全て彼女が行い、親書も全てラナーによるもの。

 つまり、他国の目から見れば……これは、王国内部の問題なのだ。

 

「あれの狡猾さを、もっと信じるべきだったな」

「まさか法国が、ああもあっさり屈するとは……予想できませんよ」

 

 魔導国、法国、両方との外交に神経をすり減らしてもいた。

 当分はにらみ合うだろうと、両国に対して中立の姿勢をとっていたのだが。

 この現状では、次に食われかねない。

 

「一部貴族に言われるままに、討伐軍など出さずにいたのが幸いか」

「抗議文も出さず、黙認して正解でしたな。炙り出しもできましたし」

 

 王国は既に、貴族の大半が原因不明の失踪をし。

 人材面において死に体も同然である。

 腐りきっていても、貴族や官僚は国家運営に不可欠。

 だが、今や貴族制度は事実上崩壊し。臨時採用や代行という形で、才気ある平民、引退した冒険者を積極的に登用せざるをえない。

 そんな中、一部の“無能すぎる”貴族は、他の貴族を扇動してセバス氏に不埒を働き。文字通りの鉄拳制裁を受けて、国外に逃亡した。

 

「おかげで、風通しはよくなったが……人材面はさんざんだ。セバス殿曰く、法国はモモンガ殿本人の怒りを買ったそうだな」

「……執政官の彼女に、誘導された可能性もありますが」

 

 怒りの結果が、神都における大神殿消滅だ。

 古き叡智、数多の至宝、恐るべき英雄の集団を抱えると言われた法国。

 その中枢が、完全に消滅したのだ。

 

「つまり、我が国の未だ潜む愚かな貴族の生き残りが、モモンガ殿を怒らせれば……」

「この城ごと、消されるかもしれませんな」

 

 深々と二人、溜息をつく。

 税収よりも今は人材。

 そして、外部の敵をなくすべきなのだ。

 

「やはり、エ・ランテルは割譲すべきか」

「……今ならば、魔導国による外交的威圧を受けたと、周辺国も考えるでしょう」

 

 何より、彼の都市は帝国と接する要衝でもある。

 エ・ランテルが魔導国領有となれば。

 

「帝国も、あれの機嫌を損ねる危険は冒すまい」

「例年のような、カッツェ平野での戦争は無理でしょう。あれが完全な新興国なら取り込むでしょうが……」

 

 そこで、ラナーの存在が重要になる。

 王都において、ラナーが蒼の薔薇に護衛を頼み、従者と駆け落ちしたという物語は……痛快な恋物語として吟遊詩人らにも盛んに歌われている。貴族の子女にも、羨ましい物語と語られるほど。

 いや、帝国でも既に歌われているだろう。

 そんな彼女が、英雄セバスの主に保護され、自ら(事実上の)女王となる。

 しかも、英雄を率いて(彼女は動いていまいが)スレイン法国を打ち破ったのだ。

 回復魔法の利権を占有する神殿勢力は、元より下層民からの支持を失いつつあった。

 実によくできた展開だ。

 それだけに、攻め込む大義名分を作りづらい。

 彼女の行いを弾劾するのは……信徒の多い聖王国くらいだろう。

 それとて、国境を接しておらぬ以上、たいした動きはできまい。

 

「つくづく、恐ろしいものを解き放ってしまった……」

「パナソレイは有能です。混乱の続くリ・ブルムラシュールを任せましょう。官僚ごと手に入れば、今の我々には十分すぎる利益です」

 

 多くの民や貴族が、一目でも彼女を見ようと、魔導国とやらに向かっている。

 王国民の流出も増えるだろうが、帝国も流出するはず。

 

「そういえば、あの同情しかできん従者が……あれと結婚したそうだな」

「ええ。わが子が毒牙にかからず、不幸中の幸いでした」

 

 二人で乾いた笑みをこぼす。

 まさしく不幸中の幸いだ。

 

「なら、戦勝祝いと婚礼祝い……ということで。国民には気前のいい兄をアピールするか」

「そうですな……」

 

 乾いた笑みはそのまま空ろなものとなった。

 ラナーが自ら女王をならず。

 出奔して妙な新興国を始めた理由を、二人は日々嫌というほど味わっているのだ。

 正直言えば、王国での立場を投げ出して、その魔導国とやらで隠居したい。

 

「で、セバス殿に使節の護衛を頼むとして……お前が行ってくれるのだろう?」

「は? そこは兄として直接向かうべきでしょう!」 

 

 どちらが代表として向かうか、しばらく二人で押し付け合うのだった。

 

 

 

 バハルス帝国、帝都アーウィンタール、皇城にて。

 

「は? 法国首都で大神殿が消滅? 内部分裂ということか?」

「いえ、文字通り消滅だそうです。大神殿は完全にこの世から消えました」

 

 皇帝ジルクニフは意味がわからず問い返した。

 秘書官ロウネ・ヴァミリネンが、何とも言い難い表情で情報を補う。

 

「……魔法で、ですかな?」

 

 ギラリと目を光らせた、主席宮廷魔術師フールーダが問う。

 

「不明です。神都は悪魔の群れに包囲されていたとのこと……異様な炎の壁も発生していたそうです。しかし、神都自体は一応無事。大神殿一帯のみ、完全に塵と化した、と」

 

 ロウネ自身、信じがたいのだろう。

 しかし、優秀な帝国隠密部隊の報告書にはそう書かれているのだ。

 

「アベリオン丘陵の亜人やら、戦争中のエルフやらも押し寄せてたんだろ? そいつらはどうしたんだ?」

 

 帝国四騎士、“雷光”バジウッド・ペシュメルが重ねて問うた。

 ロウネは別の書類に視線を走らせる。

 

「神都に起きた災いを恐れたのか、あるいは何らかの呼応があるのか。大神殿消失とほぼ同時に撤退した様子です」

 

 バジウッドが違和感を感じたように首をかしげた。

 皇帝も同じ違和感を感じたのだろう。

 

「待て。同時に撤退だと? そいつらは、神都に肉薄しつつあったのか?」

「いえ、国境線です。これは別の隠密部隊からの……あっ!」

 

 同時に、フールーダや他の四騎士も気づき。

 遅れて、他の秘書官らも声をあげる。

 

「お前にしては間が抜けていたな……」

「申し訳ありません!」

 

 皇帝の言葉に、ロウネが頭を下げる。

 普段の彼なら即座に気づくはずのこと。

 それだけ、大神殿消滅という異様な事態に気をとられていたのだ。

 

「神殿消滅とやらはひとまず置いておけ。とりあず、スレイン法国は負けたと考えてよい。それより、これが最も重要な情報だぞ」

 

 ジルクニフが唸った。

 

「法国は決して狭い国ではありませんからな。城塞攻略の情報もなく、丘陵と森からの軍が平野部に攻め込めるとも思えませぬ。国境で戦争している軍からすれば、首都の異変など見えるか見えぬかのものでしょう。そして仮に見えていたとすれば、そんな神話級の余波を前に、神都周辺が無事で済むはずがありません」

 

 長い白髭をしごきつつ、フールーダが呟く。

 

「そうだ。にも関わらず、丘陵の亜人どもも、森のエルフも……神都が落ちると、ほぼ同時に撤退した」

「魔導国と呼応……最悪の場合、魔導国の属国同然の可能性もあります」

 

 ジルクニフの言葉を、ロウネが継ぐ。

 だが、皇帝はさらに最悪の状況を口にした。

 

「それは最悪ではない。もっと状況は悪い」

 

 苦り切った顔で、ジルクニフは吐き捨てた。

 

「そりゃあ、魔導国執政官殿が、陛下の苦手な女だってのはわかってますが……」

「そんな話はしておらん」

 

 和ませるように言ったバジウッドを、ぴしゃりと断じる。

 

「我が国の立地の問題ですか……」

 

 ロウネの言葉に、ジルクニフは頷いた。

 

「魔導国の首都とやらは、エ・ランテル近郊、我ら帝国寄りの場所。アベリオン丘陵も、エイヴァーシャー大森林も、まったく奴らとは接しておらん。つまり、相当の転移魔法か高速移動の使い手がおり。しかも、亜人の友好を勝ち取るか、あるいは隷属させうる者がいる。じいよ、他の可能性はあるか?」

「……エルフ王については、魔導国の元首殿が元より通じていたやもしれませぬな」

 

 少し思案し、フールーダが答える。

 

「だが、アベリオン丘陵についてはありえぬ。あれらは統合すらされておらん。実際、攻めて来た連中の種族もバラバラだったというではないか」 

「少なくとも20種族。白い昆虫型種族の戦士に率いられていたと報告があります」

「そうだ。そして、そんな能力のある連中が、だ。トブの大森林やアゼルリシア山脈に、何もしていないと思うか?」

 

 全員が黙り込んだ。

 その二か所を掌握されるか、あるいは主要な居住種族を操れるだけで……帝国は多数の戦線を抱えることとなる。

 魔導国の執政官は、長年戦ってきた王国王女。

 法国の次に、目をつけられる可能性は高い。

 

「……とりあえず、どうすりゃいいんで?」

「行くしかあるまい。どのみち使節は出さねばならんのだ」

 

 ジルクニフは不快感を隠さず、深々と溜息をついた。

 

「おお、それなら儂も行きますぞ! 大神殿消滅の詳細も知りたいところですが、彼の竜王の始原の魔法(ワイルド・マジック)を思わせる術、知らねばなりますまい! 儂以上の使い手もおるやもしれませぬ!」

 

 興奮しながら同行を求めて来るフールーダ。

 

「いずれにせよ、この場にいるほぼ全員で行く他あるまい……法国が負けた以上、エルフの解放は必須だな……用意しておけ」

 

 絶対会いたくないラナーの顔を思い浮かべ、再び深々と溜息をつく皇帝であった。

 




 この後、結局ザナック&レエヴン候が二人で来たり、皇帝一行が来たりして。
 魔導国っていうより、淫魔国じゃねーかって思われたりします。

 なお、魔導国の外交関係はデミウルゴスがしており、ラナーはノータッチです。
 (彼女は目下……というか、ずっと忙しい日々を過ごすので!)

 ぜんぶラナーのせいって思ってるし、超位呪文大虐殺も起きてないので、現状ではみんなそこまで胃痛案件になってません。ジルクニフの毛根も無事です。

 フールーダはがっつりナザリックと手組んでますが、皇帝にはデスナイト1体の制御に成功としか報告してません。パンドラからもらった、デスナイトとソウルイーターは隠してます。ゲートでナザリックに来たこともあるので、地上部には既にしょっちゅう転移してきてたり。カジット&デイバーノックと、普通に共同研究したりしてます。


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後日談2:その後のカジットさん

 なんか、さらっと書けてしまったので連日投稿……。
 商業原稿やれよ……。

 最終話のちょっと後。
 まだザナックやジルクニフは来てません。
 ラナーはまだ人間で、クライムと子作りしてる頃です。



 ナザリック地下大墳墓。

 第九層、モモンガの執務室。

 主だった階層守護者やプレアデスらが集まる中。

 男が一人(ひざまず)いている。 

 頭髪こそ復活していないが、彼の肉付きや顔色は十分に健康的だった。

 

「おお、かなり血色がよくなったではないか。レベリングもしてもらったが、状況はどうだ? 報告があるのだろう?」

「ははぁーっ、おかげさまで新たな呪文も多数習得し、独自の呪文も編み出しました!」

 

 男――カジット・デイル・バタンデールが、ひれ伏した。

 その姿に、媚びもへつらいもない。

 絶対的な感謝と敬意が溢れている。

 

「ほう、独自の呪文! 教えてくれ、どのような呪文だ?」

 

 取得呪文数では、ユグドラシルでも最多級だったモモンガ。

 聞いたこともない呪文とあらば、今も好奇心が刺激される。

 カジットやデイバーノックに、最も期待している分野なのだ。

 

「はい。母の蘇生において、まずは失われた母の霊魂を呼び出す必要があると感じました。よって、死者の霊魂を呼び寄せ、対話する第3位階呪文――〈亡霊対話(スピーク・ウィズ・デッド)〉を編み出しました」

「具体的にはどんな効果だ?」

 

 好奇心から身を乗り出す。

 

「は。死者の魂を肉体に呼び戻し、質問に答えさせる呪文です。腐敗していない遺体、少なくとも口が必要なため、遥か過去の霊魂を呼び戻すには至りませんが。呼び出した霊魂は基本的に下位霊体アンデッド。容易に支配し、秘密を――」

「なんだと!」

 

 モモンガの目が紅い光を放った。

 興奮からか、黒と紫の入り混じったオーラを放つ。

 

「も、もしやご無礼が……!」

「ご不快に思われたのでしたら、この男、処分いたしましょうか」

 

 カジットが恐怖にうずくまり、控えていたナーベラルが殺意を見せる。

 

「いやいや、すまない。逆だ。お前たちも有用性は、わかるだろう?」

「ええ。これは画期的な情報収集手段だわ」

 

 アルベドが笑みを浮かべ。

 デミウルゴスとパンドラズ・アクターも頷く。

 

「ど、どういうことでしょう?」

「わからないかな、マーレ。これまでは殺してしまったり、勝手に死んでしまった場合……蘇生させた上、支配したり拷問したりしなければ、いけなかったろう?」

 

 おかげで、情報を抱えたまま死者が出たら、様々な人員が呼ばれ、魔法やスキルを使う必要があったのだ。

 

「はい、いつもペストーニャさんかルプスレギナさんを……」

「だが、この呪文なら、頭部さえ残っていれば必要な情報を抜き出せる。とりあえず殺して首だけ保存しておき、必用な時に必用な情報を聞き出してもいい。不要な人間に餌をやる必要はなく、体はエントマたちが食べるのもいいね。蘇生と違ってレベルによる蘇生不可も起きない。実に画期的でありがたい呪文だよ!」

 

 おずおずと聞くマーレに、嬉々としてデミウルゴスが説明する。

 デミウルゴス自身、簡単に死に過ぎる人間には悩まされていた。

 満面に笑みを浮かべた顔には、カジットへの感謝すら見える。

 

「あっ、じゃあうっかり殺しちゃっても大丈夫なんですね!」

「王国貴族ハ、スグ死ヌカラナ」

「それは助かるでありんす!」

 

 王国貴族粛清や法国攻撃において、今まで“殺さないよう”かなりの注意を払って来た。

 それでも、ショックやストレスで死ぬ者は少なくない。

 ほんの少し、力を入れ過ぎて殺してしまう場合もある。

 至高の御方が、それを叱ったり失望したりはしないが。担当者にとっては、己の至らなさ、情けなさとして、心を痛める要因なのだ。

 

 

 

 そうして、即座に運ばれて来た貴族の死体により、御前実験が為された。

 かつての王国貴族浄化初期、あっさりと死んで氷漬けにされていた死体だ。

 

「お前の名を言え」

『私はチエネイコ男爵、誇り高き王国貴族ですぞ』

 

「お前の望みを言え」

『ラナー王女を嫁に迎えて、七番目の六大貴族となるのです』

 

「お前の最も隠したい秘密を教えよ」

『バルブロ王子を八本指の娼館に連れて行き、黒粉の味を教えました』

 

「お前が最も愚かだと思う貴族を言え」

『バカの中のバカ、フィリップ。下級貴族の三男坊の分際で――』

 

 長くなりそうなので、カジットは咄嗟に別の質問をする。

 

「魔法についてどう思う?」

『くだらん手品です。歴史ある貴族には通用しませんな』

 

 効果時間が切れたか、間抜けに『な』で口を開けたまま死体は硬直した。

 魔法で操られながらの最後の答えに、NPCらも笑いが漏れる。

 

「すばらしい! こんな漠然とした質問でも答えるのか!」

「当人ですから……ただ、本人の主観が混じり、偏見や嘘もそのままですので、ご注意ください」

 

 モモンガの称賛に、カジットは恐縮する。

 彼としては、あくまで母を蘇生させる前準備の――学術的価値はともかく、戦闘にも役立たない、評価されない呪文のつもりだったのだ。

 パンドラズ・アクターが、拍手する。

 

「第3位階魔法なら、使い手も増やせるでしょうッ。これは各種情報収集や諜報活動、犯罪予防などなどッ! すっばらし~い、価値を持ちます!」

「ありがとうございます!」

 

 遥か格上、神にも等しい者たちから誉めそやされ。

 カジットとしては、それだけでも過大な褒美だ。     

 

「カジットよ、よくやった! これは我らナザリックにおいて、画期的な呪文となるだろう! 有望な弟子、魔法職系の女淫魔(サキュバス)らにも伝授せよ!」

「おお!」

 

 カジットが、歓喜の色をさらに強める。

 モモンガとしても、攻撃・防御・移動・探知などといったユグドラシルで既知の呪文より、この世界ならではの“便利”な呪文こそ高く評価している。

 

「そして、上位呪文を研究せよ! 遺体なしで霊魂を呼び出せれば、ホムンクルスやクローンの肉体を使って、疑似的な蘇生や不死化も可能となるだろう! お前の母の蘇生も叶うはずだ!」

「承知いたしました!」

 

 遥か高みにありながら己を信じ、褒め、また生涯の目的を讃えてくれるモモンガに。

 カジットは心酔しきっている。

 有用性を証明し、狂信じみた忠誠を示す彼には、NPCらの目もやさしい。

 

「さて……カジット。お前は私の予想以上の成果を上げた。そして、私の言った通り、健康も取り戻しつつあるようだ。よって、お前に褒美を与えよう」

「ありがたき幸せにございます!」

 

 額を床にすりつける。

 

「我らは多くの人間――王国貴族の犠牲者を女淫魔(サキュバス)に変えた。しかし、お前を悪魔やアンデッドに変えては、申し訳ない。よって我らにも補充の効かぬこの“昇天の羽”を以て、お前を天使に変える」

「なんと――! よ、よろしいのですか!」

 

 それほどの褒美をもらえるほど、評価されるとは思っておらず。

 カジットは喜びより、戸惑いの声をあげてしまう。

 

「よい。お前は己の有用性を証明した。今の命令を遂行するためにも、不死の肉体を得るべきだ。研究中に事故や病で命を落とされては、我らの喪失。この決定は、私自身のためでもある」

「おお……私如きをそこまで……もったいなや……!」

 

 感涙するカジットに、NPCらも羨望の視線を送る。

 狂人、悪人、背教者、利用物――過去のカジットに向けられた目は、そんなものばかり。

 だが、今こそカジットは、遥か雲の上の存在に讃えられ、羨まれている。

 法国の大神殿を消滅させ。

 腐敗した王国を清めた神。

 そう、まさに神によって、カジットが認められ讃えられているのだ。

 事実、NPC全員が認める形、能力で成し遂げた功績で、彼はこの世界で初めて讃えらえた人間なのだ。

 少なくともシャルティアやマーレにも褒められた人間は他にいない。

 

女淫魔(サキュバス)たちもそうだったが……彼女らは己の理想の年齢、最も美しい姿となっている。天使とて同様だろう。さあ、カジットよ受け取れ。そして思い描くのだ。お前が母に出会う時の姿を」

 

 モモンガの手にいつの間にか現れた、神々しく輝く羽根が……カジットに差し出される。

 

「あ……あ……」

 

 両手を差し出し、恭しく受け取れば、神聖な光が彼を包んだ。

 母を思い描く。

 かつての母の姿。

 そして母の傍にいた頃の己。

 母の死を知った日の、蘇る母の記憶の中にあるであろう姿。

 まだ外で走り回っていた少年の……。

 

「ほう、そうか……それがお前が母を失った時の姿か」

「時の流れは残酷なのね」

 

 モモンガが、どこか感慨深く頷いて。

 アルベドが、酷くしみじみと言った。

 

「ああ……これは……」

 

 喉から出るのは甲高い、声変わり前のもの。

 魔法化されたローブは体格に合わせて変わっているが。

 目の前に広げた手は小さく、柔らかい。

 顔に触れれば、瑞々しい、まるで子供のような……。

 

「どうぞ」

 

 戸惑うカジットに、ソリュシャンが鏡を見せる。

 

「おお……あの日の、あの頃の、姿……!」

 

 背中から輝く翼こそはえているが。

 あどけなく、活発な……幼い少年時代。

 背後には、母の姿が幻視される。

 感謝と感動と感激で、カジットはとめどなく涙を流した。

 

 

 

 しばらくして。

 スレイン法国に勝利したナザリック魔導国へと、隣接するリ・エスティーゼ王国の国王ザナック、バハルス帝国の皇帝ジルクニフが、多くの供を連れて訪れた。

 地上部は対応のため、多忙を極める状況。

 そんな中、カジットはなぜか地下に呼ばれていた。

 多忙な状況ゆえか、NPCらはおらず。

 モモンガの横には、アルベドではなく見知らぬ女が1人いるのみ。

 魔導国でも墳墓でも見たことのない人物だった。

 

「研究の邪魔をして、すまないな。ラナーやニグンは来賓の相手に忙しく、お前にも歓待を頼まざるをえないのだ」

「いえ、モモンガ様のお呼びとあらば。しかし、私は学究の徒。来賓の相手には礼節の類も……」

 

 そんなカジットに、モモンガは気まずそうな顔を見せる。

 

「いや、礼節は特に問わん。ただ、お前はその……地上では、相当な女淫魔(サキュバス)に誘われても、応じておらんようだな?」

「は。今までもこれからも、研究に打ち込むため、色に溺れぬよう努めております!」

 

 そんなカジットの答えに、モモンガは苦笑する。

 

「いや、長き時をそのように気を張って過ごしてはならん。百年千年をかけても、望みを叶えるべく歩む力を得たのだ。あまり気を張っては、叶った後に腑抜けてしまうぞ」

「それは……」

 

 確かに、ありえる話だった。

 母が実際に復活し、可能ならば母も天使か……吸血鬼や淫魔にでも変えてもらったとして。その後の日々をどう送るのか、カジットには思い描けない。目的を達成した後は、魂の抜け殻にもなりうる。

 

「心に余裕を持つためにも、少しは女淫魔(サキュバス)らに応じてやれ。今回のお前に頼みたい件も、その前の……まあ、練習と思うがいい」

「は?」

 

 首をかしげる。

 

 だが。

 

 しかし。

 

「すんすん……はぁはぁ……瑞々しい匂い」

「なっ!」

 

 いつの間にか背後に現れた女が、カジットを羽交い絞め……いや、抱きすくめていた。

 モモンガの横にいる女とほぼ同じ衣装、同じ顔。

 双子だ。

 女はそのまま、カジットのうなじに顔を押し付け、すうはぁと荒く深呼吸する。

 

「神聖な味……さすが天使……しかも童貞」

「や、やめぬか!」

 

 さらに頬や首筋を舐めて来た。

 未知への嫌悪感と不安に、カジットはぞわぞわと震える。

 身をよじるが、魔法職専業のカジットでは、相当にレベルアップしていようとも、忍者の拘束を振りほどけない。

 

「だいじょうぶ……ちゃんと反応してる……」

「どこを触っておる!」

 

 咄嗟に魔法を唱えかけるが。

 

「カジットよ、彼女は我が恩人の姉妹だ。相手をしてやれ。お前にとってあまりにつらいなら、一晩で止めるようにしよう。とりあえず、明日の朝までは、彼女の伽の相手を(つと)めよ」

「な……は、はい……わかり……ました」

 

 初めて、モモンガの言葉に即答できなかったカジット。

 一方、彼に絡みつく女忍者――ティナは満面の笑みを浮かべた。

 

「よいではないかよいではないか……カジッちゃんも、気持ちよくなる」

「その呼び方はやめよ!」

 

 わめくカジットを抱き上げ、ティナは連れ去る。

 二人のための客室は、すでに用意されていた。

 残された二人が、顔を見合わせる。

 

「これでいいのか?」

「ん。あれでティナも満足する」

 

 ティアは既に、モモンガに身をすり寄せ、指を絡め始め。

 

「それなりのアイテムを礼に渡そうと思っていたのだが……」

「いい。あれが最高の礼。それに……私はモモンガを抱けるだけで十分」

 

 横からキスをし、くいくいと手を軽く引くティア。

 この場でするか、部屋に移るかと誘っているのだ。

 

 そんなティアに甘えるように、もたれつつ。

 モモンガは、夫婦用とは別の寝室へ転移するのだった。

 




 カジットさんが、おねショタ逆レの結果、トラウマを負うのか、性に目覚めるのか、そのあたりは読者諸氏の想像にお任せします。マーレを差し出すのもなぁってことで、ティナへのプレゼントはカジットになりました。
 その後、犠牲者ないし同好の士を増やすべく、カジットがニグンさんをそそのかす可能性があります。その場合、ショタ天使になったニグンさんが、またまたティナにいただかれるでしょう。

 「スピーク・ウィズ・デッド」はD&Dでは最初版からある呪文です。メカニズムやルールは版によって違うのですが、今回はカジットさんの目的に合わせてます。死者の証言が聞けるので、拷問も探偵も不要になる、けっこうなチート呪文です(オバロだと特に)。殺して口封じが不可能になるため、陽光聖典が受けてた呪いとかも、死んでからじっくり聞くし別にいいよって言えるようになります。
 位階も高くないから、伝授していけば使える人数も普通に増えるし……。
 でも、カジットさんの目的を考えると、これは避けられない呪文なんすよね。

 あと、フィリップは、賢い父と兄のおかげで表に出ておらず、粛清を免れていました。今回のチエネイコ男爵の友情により、きっちりパンドラが処分してくれます。あと、他の家も次男三男にバカが残っていないか、チェックが入りました。おかげで他の国への浸食&諜報が少し遅れます。
 各国はチエネイコ男爵とフィリップに感謝すべき。


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