アルベドのお食事 (dolph)
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はじめ
プロローグ


 その日、ナザリック地下大墳墓はちょっとした騒ぎになった。

 

 アインズが介入した帝国と王国の戦争が終わり、魔導国建国にあたって慌ただしかったのは確かだ。しかし、その程度で平常心を無くす下僕はナザリックにいない。全く別の要因である。

 あろうことか、アルベドが人間を飼い始めたと報告したのだ。

 アルベドが、である。

 多種多様な異形種を抱えるナザリックのシモベたちは人を下等な種として蔑視しており、アルベドはその筆頭と言って過言ではない。

 そのアルベドが人間を飼い始めたと言うのだから、アインズは元よりその場に居合わせた面々の驚きは相当なものであった。

 アインズが聞いたところによると、セバスのように保護したのではなく、シャルティアのように玩具としてでもなく、食用である。出来心でつまみ食いしたところ意外に美味しかったので飼う事にしたが些事であると思われ書面ではなく口頭で報告したとのこと。

 納得する一同。

 しかしアインズがアルベドの種族を思い出すと同時に不可視の閃光が迸る。

 

 アルベドの種族はサキュバスである。サキュバスと言えば、触手モンスター・オーク・エロフを凌駕するエロモンスターである。

 そんなサキュバスの食事と言えばあれがあれしてナニをするのかと再度の感情抑制。

 

 アルベドはギルドメンバーであるタブラ・スマラグディナが創造したNPCであり、アインズにしてみれば娘同然。その娘がいつの間にか知らない内に男をこしらえてあれをナニするとはお父さんは絶対に許しませんよ連れてきなさい!

 

 果たして連れて来られたのは思った通りに男であった。しかも人外の美を誇るナザリックの面々をして「へぇ」と感心させる輝かしい美男であった。

 その顔で娘を誑かしたのか絶対に許さんこのリア獣め!

 

「いいえ、私は自分を美しいと思ったことは一度もありません」

 

 人間の男は物怖じせずに答えた。

 ここでアルベドが補足した。

 初めて見た時は右目を除いて顔面が醜く焼き爛れ、とてもではないが見れた顔かたちではなかった。ポーションで古傷は治るのものかと試したらこのような顔貌であった。

 

「幼少期に煮えた油で顔を焼かれました。適切な治療を受けられなかったため、以来十余年断続的に続く苦痛と共にありました。元は王国民に多い金髪でしたが、顔が焼けた痛みのショックで色が抜け落ちたようです。左目は長く塞がっておりました。ポーションで回復して頂き開くようになりましたが、血の色が浮かんだようで赤く染まっております。以前は右と同じように青い目でありました」

 

 人の不幸話に同情する者はナザリックに余りいない。但しこの場にはカルマが善であるセバスとユリ・アルファがいる。セバスが保護した外部の人間であり現在はメイド見習いであるツアレは自身の過去を思い出してか顔を青くした。

 人としての感性を僅かながらも持ち続けるアインズも同情しなくはなかったがそれはそれ。大切な娘を任せられるかどうかは別問題である。

 食事とはどのようにするのか、エントマのように噛り付くのか、シャルティアのように血を啜るのか。感情を悟らせない骨の顔でなければ盛大に引きつっていたと思われた。

 

 それでは御前にて失礼を、と言ってアルベドが実演した。

 ナイフとフォーク以外持ったことがないような華奢な腕を持ち上げ、白魚の如き指を男へ向けて開く。魔力とは違う何かが男からアルベドへ流れていき、男は白い顔を青く、アルベドは満足そうに微笑む。アインズが魔法で男の生命力を調べるとぐんぐん減っている。

 アルベドの説明によると、種族特性により生命の素を直に吸収できるらしい。

 魔法やスキルのほとんどを把握しているアインズであっても、ゲームであったユグドラシルではフレーバーテキストに過ぎないそれぞれの特性が異世界に来たことでどのような変化を遂げているのかつかみ切れていない。目の前で見せられればそういうものかと納得せざるを得なかった。

 こうして吸収した生命力がとても美味しいのだと言う。

 

 何時からいたのかシャルティアが、ちょっと味見させて欲しいでありんす。

 少しだけよとアルベドは許可するが直飲みさせると吸血鬼化待ったなし。これまたどこから取り出したのかグラスとナイフを男に手渡す。

 躊躇なく手首に突き立て、アインズはちょっと引いた。男を除けば唯一の人間であるツアレは卒倒寸前。

 手から滴る血をグラスで受け、跪いてシャルティアへ捧げる。

 中々わかってる人間ねとシャルティアは優雅にグラスを受け取って一飲み。見開かれる瞳。落ちるグラス。砕ける音。真顔になって男へ飛び掛かり、セバスとアルベドに取り押さえられた。

 

「わっ私に欲しいでありんす! ちょっとだけちょっとだけでいいから!」

 

 生命力だけでなく血も美味であるらしい。

 これはアルベドのだからシャルティアは諦めなさい食べ物の恨みは恐ろしいのだぞとかつてを思い出して至言を口にされる至高の御方。

 己の創造主であるペロロンチーノが幼い日に姉にプリンを奪われたことを昨日のことのように何度も口にしていたことを思い出し、シャルティアはしょんぼり諦めることにした。

 

 ナニをあれするのでないのなら何の問題もない。アインズは寛大な心でアルベドが人間を飼う事を許可した。

 一礼をして退室するアルベドに付き従う男をふと呼び止める。

 男は最初から最後まで物怖じすることなく、アインズ達に敬意を払い、自らを傷つけることも躊躇わなかった。一体何がそうさせるのか、自分たちが怖くないのか。

 

「恐怖とは死の予兆です。死が近付くと人は恐怖します。ですが私の命はアルベド様のもの。私が死ぬときはアルベド様が望まれた時になります。アルベド様のお望みを妨げることなど出来ません」

 

 人間にしては出来ていますね、とは激辛評価に定評があるデミウルゴス。ちなみにシャルティアとは違って最初からいた。

 

 最後にアインズがその場をまとめる。

 

「私は食事をとることは出来ないが食事の喜びは知っているつもりだ。うまいものを食えばやる気も出てくる。飼うことを許可しよう。折角だからいくつかアドバイスをしてやろう。家畜の味を良くするには良好な栄養状態とストレスがない生活が必要だ。ストレスは肉の味を悪くするからな」

 

 別にお肉をむしゃむしゃ食べるわけではない。

 しかし、一同感激。さすがアインズ様。シモベを気遣うお優しいアインズ様。何でも知ってるアインズ様。流石のアインズ様である。万歳。

 

 こうして男はアルベドの食餌となったのである。



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いつものお食事 ▽アルベド♯1

 アルベドのご飯なのだから近くに住まわせる必要がある。アインズはあっさりとナザリック第9階層に置くことを許可したが当のアルベドが大反対。シモベ達も良い顔をしない。曰く、人間を住まわせるなんてである。それじゃ好きにしなさいと、アルベドはエ・ランテルに屋敷を用意した。

 屋敷の大きさも調度品の素晴らしさも人間の男を住まわせるには度が過ぎるとの声が多数出そうだったが、男の住居と同時にアルベドのお食事処である。それなりの格が必要と他でもないアルベドが認めるのだからシモベ達が意見出来ようはずがない。

 ここでさすアイ発動。

 折角の食事がエ・ランテルに行った時しか取れないのは可哀そう。二点間を繋ぐマジックアイテムを下賜。流石アインズ様お優しいアインズ様のアインズ様賛歌は聞き飽きてるアインズ様である。実のところ大したものではない。ゲートのように扉を開くのではなく移動できるのは一個人。位置は完全固定で融通が効かず、ユグドラシル時代の初心者に恵まれる初心者セットの一つである。とっておいたが使い道がない上に何故かいっぱい持っていたりするが捨てるのも勿体ない。

 マジックアイテムに登録されたのはナザリックのアルベドの部屋とエ・ランテルの屋敷のお食事部屋となった。融通が効かないのは伊達ではなく、登録された二点のいずれかにいなければ使用できない。どこからでもナザリックの自室に戻れるわけではない。エ・ランテルの屋敷の登録された位置からでないと発動しない。もちろんアルベド以外に使用できず、これを利用して何者かがナザリックに侵入する恐れはゼロである。

 実用性はあまりない。

 使用するアルベドの体感としては自室にお食事部屋が増設されたようなもの。これがとっても便利で流石アインズ様(以下略)。

 

 

 

 

 

 

 食事は一日一回寝る前に。

 特別な食事でない食事は普通にとっている。出来るならば特別な食事を三度三度どころか一日三十時間ずっととり続けたいのだが男の体力が持たなかったのは残念極まりない。

 今日この日も就寝前にお食事部屋を訪れた。

 

「お待ちしておりました。何かお飲み物をご用意いたしましょうか?」

「必要ないわ。準備しなさい」

「かしこまりました」

 

 お食事部屋は広い部屋。四方は分厚い石壁に重厚なドアが一つで窓はない。一応のテーブルは黒曜石を削り出した逸品で椅子は二脚。部屋の隅にポツンとある長椅子は革張りでクッションは上等で寝心地も上々だがテーブルセットと同じで未だ未使用。

 永遠に輝き続ける魔法の灯が一つだけの広いくせして何もない部屋の主役は大きな大きな寝台であるのだ。

 五人は同時にゆったり眠れるベッドは固すぎずやわらか過ぎずの極上マットにして絹どころではない滑らかさの寝具に美しい天蓋付き。この天蓋はなんと、簡易ではあるが各種覗き見防止の魔法が掛けられたマジックアイテムだったりする。入念な魔法調査でもしない限り天蓋の内側で為される秘め事は文字通りの秘め事となる。

 

 男が靴を脱いで紗で封じられた天蓋を潜りベッドの上へ。待つことしばしアルベドが続く。

 寝台には男が横になっていた。衣服は下着すら着けていない。そこへアルベドが入った。同じベッドの上にいる。

 意味することは一つであれをあれするのだ。あれをナニまではしていないのは現段階のお食事でアルベドが満足しているからである。

 

 アルベドはアインズへ何一つ虚偽を申していない。

 男は食餌である。

 アインズはアルベドがサキュバスと知っているのだから正しいお食事方法がどのようなものであるのかは当然知っている、とアルベドは確信している。なにせアインズ様は大海の如き深く広い知識をお持ちであるが故。

 なのに実演して食べてみせよとはこれはあれだな他の食べ方を出来るんだろ忙しい時用の食べ方があるんだろ的なものと思うのは論理的に見て明白な結論であった。

 お腹が減ってるけど忙しくて、なんて時はサキュバス的に雑な吸精をしてしまうけれど時間がある時はたっぷり時間を掛けて焦らして高めてピュッと来たところをじっくり味わうのがサキュバス的な作法である。

 生憎ナザリックに同種はいない。サキュバス談義を交わせないのは残念である。しかしいたらいたでこの男の奪い合いになるのは火を見るよりも明らか。自分一人で良かったと安堵するアルベドである。

 

「目は閉じていなさい。許可なく開けたら殺すわ」

「仰せのままに」

「口も閉じていなさい」

「…………」

 

 男の裸身を見下ろしてぺろりと舌なめずり。

 食欲に負けて美貌がだらしなく歪む。性欲が混じっているのは否定しないが食欲が勝つ。

 

 首から上はまあまあ。

 胸や腹など胴体に用はないがそれなりに鍛えているようで引き締まっているのはまあ悪くない。首から上同様にナザリック謹製ポーションの効果は抜群で醜い火傷痕はおろか染み一つかすり傷一つない。と感想を抱く当人が現在進行形でとあるところに染みを作りつつあるのは今回はまだ関係ない。

 胴体と一緒で脚もさして太くないが贅肉は皆無。

 用があるのは脚の間。すわ三本足かと思わせる肉の棒。

 もう一度舌なめずりをして唇を唾液で濡らし顔を近付ける。ほんのりと香ってくる男の臭いがサキュバスの本能をダイレクトに刺激。

 萎れている男性器は可愛らしいがすぐさま凶悪で凶暴な凶器になる。

 そのための魔法をアルベドは熟知していた。

 

 ふうと息を掛ければピクリと震え、はあと息を掛ければ血が通う。三度吹き掛ければ一回りも太くなって長さは倍増。

 皴すら美しいバラ色の唇からチロリと舌を出し、チョンと触れれば跳ね上がった。

 

「くふふ……」

 

 これから美味しい美味しいミルクを味わうのだ。ご馳走を前にして笑み崩れてしまうのは当然である。

 完全に勃起して天を向くよりもやや角度がついて反り返った逸物は、アルベドの食欲その他をこれでもかと刺激した。

 サキュバスなのに未だ未通のアルベドではあるが、男性器の比較対象は不足しない。デミウルゴスの牧場繁殖エリアでは幾らでも見学出来るのである。そこで見たいずれのものよりも大きい。人間の女では咥えることは出来ても根元までいくのはとても厳しい。

 アルベドには出来る。喉奥まで咥え込んでも苦しさを感じることはない。なにせ悪魔でサキュバスなのだ。

 出来るとは言えいきなりはサキュバス的にちょっと下品。

 少しずつ、少しずつである。

 少しずつ始めるため、ほっそりと白い二本の指で根元を押さえ自分の方を向かせる。肉棒には幾本もの筋が走り、中でも最もはっきりと現れている裏筋を指で撫でた。

 スプーンより重いものを持ったことがありませんと言わんばかりの優雅な指は、岩だろうと鉄だろうと容易く粉砕する力を秘めている。と同時に見た目通りの繊細な動きもお手の物。

 優しく優しく愛おしさを込めて、美味しくなあれ美味しくなあれとおまじないのような優しい愛撫。

 指先で裏筋を撫でてやれば、少し上の小さな亀裂、尿道口にプックリと透明な汁が玉を作った。

 おちんぽがミルクの前に出してくる先走りの男汁で、アルベドはこちらも好物である。

 真っ赤な舌を伸ばし、舌の腹をべったりと尿道口に押し当て、レロリと舐め取って口に運んだ。

 

「あっはあ……」

 

 記憶に違わぬ甘露である。

 先走りの汁では我慢できない、もっと欲しい。濃いのが欲しい。熱くてねとねとしてゼリー状の粘塊が混じる濃ゆいミルクが欲しい。

 シャルティアに大口と揶揄される口を大きく開いて、男の性器を咥え込んだ。

 完全に勃起して焦らしてやった逸物は、獣欲に逸ったアルベドの口内よりよほど熱かった。アルベドは口の中で男の熱さを感じた。肉の硬さと弾力を感じた。

 口を思い切り窄め、口内の粘膜が隙間なく男のものと密着する。

 

(おちんぽがこんなに美味しいなんて。ああ、なんて熱いおちんぽなの。おちんぽ、美味しいおちんぽ、私だけのおちんぽ……)

 

 アルベドはサキュバスで、その本性は淫蕩。卑猥な言葉を脳裏に浮かべながら男の股間に顔を埋め、頭を激しく上下に振る。滑りを良くするためにたっぷりと唾を絡め、吸いつくすために強く吸っているのでじゅるじゅるじゅちゅじゅぽと水音が絶え間ない。

 男の長い男根は根元までアルベドの唾液に濡れている。アルベドが根元まで咥え込むからで、そこまで咥え込むと亀頭が喉奥を突く。

 人間の女なら吐き気を覚えるかも知れないが、アルベドはサキュバスだ。体がそのように出来ている。喉奥まで突かれて快感を覚えることはあっても痛みを感じようはずがない。

 

「んっちゅっじゅる、ちゅる、……ぁ」

 

 喉奥まで咥え込むので根元を押さえる必要はない。

 左手は男の陰嚢を、つまりはやわらかな玉袋を優しく揉み解している。そこにみるくが溜まっているのだから優しく愛撫していっぱい出してもらわなければ。ふにふにで柔らかい感触は悪くなく、何となくずっと触っていたくなる。

 右手はアルベドの染みを広げる助けをしていた。ちょっぴり声が出た。

 サキュバス的に食欲は性欲とセットのようなものなのだから仕方ないと言ったら仕方ないのである。

 

 頭の上下運動が一層激しくなる。人間の女ではとても出来ない高速運動。

 吸い付きも、口内の柔らかさも、口内の熱さも、喉奥まで咥え込む深いフェラチオはアルベドにしか出来ない超絶技法である。男がいつまでも抵抗できるわけがない。むしろ無抵抗で全てを委ねている。

 アルベドの美しくも敏感な唇が、逸物が僅かに膨らんだことを捉えた。射精の前兆である。

 根元まで咥えていたのを瞬時に引き抜き、唇でエラの張ったカリを挟む様にして射精に備えた。喉の奥で射精されても苦しくはないが、それでは味わうことなく直接お腹に入ってしまう。それはいささか以上に勿体ない。

 

 どぴゅっ、ぴゅるる、ぴゅっ、と。

 おちんぽみるくがアルベドの舌の上に吐き出された。

 勢いはよく、量も多く、熱くて濃くて、アルベドの期待通り。一滴だって零さない。

 長い射精を、アルベドは恍惚と目を閉じながら受け止めた。

 終わってからもちんこから口を離さず強く吸う。尿道口に残っている精液を余さず吸い取るためだ。

 

 口を離してもすぐには飲み込まない。口内の精液を舌でかき混ぜてじっくり味わう。いつまでも味わっていたいのに、口の中で遊んでいると少しずつ量が減っていく。無意識に飲み込んでいるのか、サキュバス的な特性で吸収してしまうのかは定かではない。

 全部飲み込んでしまってからアルベドはナザリックの自室に転移する。

 

 

 

 

 

 

 部屋に静寂が戻り、アルベドがいないことを確信してから、男はやっと目を開いた。

 広い部屋の大きな寝台には男一人である。

 アルベドがいた痕跡はベッドに残った僅かな窪みと温もりと、シーツについた汗ではないと思われる淫靡な染みだけであった。



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おかわりないの? ▽アルベド♯2

 アルベドはレロレロごっくんして口中の余韻を楽しみ終わると一言もなくさっさとナザリックに帰還してしまう。滞在時間はどんなに長くても精々10分。男が早いのではなくアルベドの超絶技巧が凄まじい。そんな毎日だったがその日は違った。

 アルベドが帰らない。

 何故と問うことは許されない。口を閉じていろと命じられている。目を開くことも許されない。開けたら死ぬ。しかしまる出しのままでいるのも決まりが悪い。どうにかしたいが主導権も生殺与奪権もアルベドにあるのであって出来ることは何もない。濃厚な射精直後ゆえにしおしおと逸物がしぼんでいくのを実感するばかりである。

 

「どうしてお前のはすぐ縮んでしまうの?」

 

 これは許されたのかと命を賭して目を開けば美しいお方は忌々しそうに股間の逸物を睨んでいた。

 

 男というものは一度出してしまうとこうなるのが当たり前でアルベド様に与えられる快楽は強烈で何もかも絞り出されてしまってそうなってしまうと再び力を取り戻すにはどうしても時間が必要となってしまい云々。

 

「そんなことは知ってるわ。だけどお前はあの女と三回も続けてしていたじゃない」

「あの女とは?」

「私にとぼけるとは大した度胸ね。王国の小娘、ラナーのことよ」

 

 男は目を丸くして瞬いた。

 

 

 

 

 

 

 重度の火傷を負っていた男が今日までどのように生きてきたか。リ・エスティーゼ王国の第一王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフとやたら長い名前を略してラナーと呼ばれる女に保護されていた。

 「あんなにひどい火傷をしてなんてかわいそうなのわたしが助けてあげなければ」、だったらとても心が美しい王女様であるが、「あんなに醜い男を助けてあげるなんてわたしはなんて優しいのでしょう私は優しいのよ皆様わかって?」、ならばまだ救いはある。性悪との評価は不可避であるが。

 幼い日の男を見初めたラナーが事故を装って男の顔に煮え油を浴びせて顔を灼いた、と言うのが事実である。「これでこの顔は私だけのものずっとずっと永遠に、うふふふふふ」なのだからやられた方は堪らない。

 美貌を黄金と称えられる美姫ラナーは病んでいた。金色の病みちゃんである。火傷の苦痛は王国に広く流通していた麻薬の黒粉で一時だけ取り除きはしたが根治治療はしなかった。

 と言うことを男は全て知っていた。知られていることをラナーは未だに知らないでいる。

 

 男にとってのラナーは憎悪の対象であるが庇護者でもある。まして醜く爛れた顔では真っ当な仕事に就けるわけがなく、それ以前に襲い来る苦痛は激しいものだった。ラナーの手を離れる選択肢はなく、命令に諾々と従う日々であった。

 命令の一つがラナーを体でもって慰めること。異形の精神であるラナーが入念に時と場所を選んできただけあって二人の関係を知っているのは二人しかいないはず。

 

 それをアルベドが知っていた。

 なぜならばその目で見ていたからだ。透明化の魔法を使わせて二人が背中が二つある怪獣ごっこしているのを間近で何度も何度も唾を飲み込みながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

「ご存じでしたか。流石は全てを見通すアルベド様です」

「御託はいいわ。あの時のお前は抜かずに三回もあの女に精を放っていた。あの女には三回。私には一回。どういうつもりかしら?」

「……これはアルベド様にこのようなことをして欲しいと思っているのではなく、また私という男ではなく、あくまでも男というものを一般的な面から語りますとすれば」

「能書きもいらない。さっさと本題に入りなさい」

「それでは説明いたします」

 

 男は男が性的に興奮して大きくしちゃうのはどのような時かを語った。

 

 目に映るものは重要である。顔が美しいに越したことはないが絶対ではなく可愛い方が元気になる場合もある。顔よりも体が重要でメリハリが効いたワガママボディだとチラ見しただけで大きくなる。

 耳に入るものも重要である。気持ちよくなっちゃってる可愛い声で可愛いことを言われれば勃起不可避は経験的に明らか。

 鼻で嗅ぐものも重要である。発情した女体の芳しい香りを嗅げばすれ違っただけで発情可能。

 手で触れるものは特に重要。柔らかでメリハリの効いた女体に触れるだけで。更には手だけでなく全身で女体を感じることでますます高ぶることが可能である。

 舌での味わいも重要となる。舌は手よりも敏感で繊細な器官であるため微妙な感触を楽しむことが出来、文字通りに甘い女体を味わうことだって出来る。

 五感全てが重要である。

 

 聞かされたアルベドは美貌を真っ赤に染めた。もう滅茶苦茶恥ずかしくて真っ赤っかである。

 そんなことは言われるまでもなく知っていた。それ以上のことも知っていた。サキュバスであるので生まれながらに男を悦ばせる媚態が身に付いているというのに聞いてしまった。

 もしもそんなことを同族に聞こうものなら「なにそれジョーク? えっうそホントに知らない? 大丈夫? お薬いる? ホントに知らなかった? え、マジでマジ知らない? ぷぷぷっ、うっそだー、えーほんとに~? みんなきいてー! アルベドちゃんがねーー!!」と言うところまで想像してアルベドの精神は死にかけた。

 しゅわしゅわした飲み物を飲んだらげっぷが出て乳首を摘まめば気持ちいいのと同レベルで知らないとヤバいことを知ってたはずなのに聞いてしまった。

 

「そそそそそそそんなの知ってたわよ!? 知ってたんだから! 嘘じゃないんだからね!」

 

 アルベドはツンデレ属性を手に入れた。

 顔を真っ赤にした涙目は余りに可愛らしく男の男が復活した。

 

 

 

 

 

 

 ぶっすーとジト目で睨むアルベドと目が合った。目に映るものが重要と言った直後だけあって今回は目を瞑れと言われていない。アルベドのお食事風景を観察してよい許可がでている。

 美貌を羞恥の赤に染めて涙目で睨んでくるアルベドはいつもと違ってとても可愛らしい。眼福であって男であれば立たせて当然。

 睨みながらも脚の間にちょこんと座ってシコシコと逸物を扱く。玉袋も優しく包んでいる。

 長い髪をかき揚げて形の良い耳に掛け上目遣いに睨みながら体を倒す。顔を股間に近付けて艶やかな唇をまるく開いて伸ばした舌からとろとろのよだれが滴り唇と亀頭を繋ぐ架け橋となった。

 二度目はパクリとじゅるっと根本まで。

 両頬が窪んで強く吸い付いているのがよくわかる。アルベドの口の中はとても柔らかくて満遍なく包まれてとても気持ちいい。そこへ長い舌が絡みつく。

 美貌をたたえる如何な形容とてアルベドの美貌には不足が過ぎる。その美貌が瑞々しい唇を開いて肉棒を咥えている。睨んでいた目からは険がとれて熱心に頭を振る。

 

「じゅるじゅちゅ、ちゅっちゅううぅっ、んふふふっ」

 

 いつもの粘着質な水音とアルベドのくぐもった声と興奮した鼻息が暗い部屋に響いている。

 逸物がアルベドの口内に溶けて体の芯から吸い込まれるような快感と刺激的な光景を、男は恍惚と見下ろした。

 実際、アルベドのドレスは刺激的で男心を引きつけて止まない。裾こそ長い純白のドレスは太股が全く隠れていないし細い肩は剥き出しで豊満な乳房は上乳を見せつけて谷間をアピールしている。正面から見るだけで立たせてしまうのは男としての礼儀であった。

 

「んっんっんっ、ちゅぷ……ぁん、うふふ」

 

 太股が剥き出しと言うことはそこに隙間があるということであって隙間へ差し込まれているアルベドの手が何をしているかはドレスに隠れているし男の視界には突き上げた大きな尻しか見えないので全くの不明。

 しかしヒントはある。

 疲れたのか息継ぎなのかアルベドの頭が止まったり、唾を垂らすために逸物から口を離している僅かな時間に、それでも小さな水音が続く。小さな小さな水音がくちくちくちゅくちゅと続いている。

 

 手を伸ばしてアルベドの頭を押さえつけたくなる。頭から生える山羊のように丸い角を掴んで前後に振りたくなる。しかしやった瞬間に惨殺一直線。代わりにアルベドが頭を下ろすタイミングを見極めてほんの少しだけ腰を浮かせる。

 

「んんっ!?」

 

 想定よりも喉深く突かれて驚きの声を上げた。男の悪戯に気付いたかどうかはわからない。

 

 本日二度目なので一度目より時間が掛かっている。とは言え一時間や一〇時間ぶっ通しでしゃぶり続けても疲れるアルベドではない。むしろ長時間の口淫は大歓迎で頭の中では「おちんぽおちんぽ」と連呼中。

 しゃぶるだけでなく頬ずりもする。自分の唾と亀頭からにじみ出る先走りの汁で美しい顔が汚れようとお構いなし。

 

「ああ、私のおちんぽ……なんて逞しくてなんて美味しいの。どろどろのねちょねちょで白くて熱くてとっても濃厚なおちんぽみるく、私のお口にいっぱい飲ませて♡」

 

 サキュバス的本能とアルベドの願望とついさっき確認した男を興奮させる諸々が結合。アルベドは淫蕩に目を輝かせて深い笑みを作り、小首を傾げながら可愛らしくおねだりした。両手で大切なおちんぽを大切に包みながら。

 アルベドの輝かしい笑顔に出してしまいそうになったが必死に耐える。お口に出さなければならない。

 両手の中のおちんぽが脈打ち始めたので、アルベドは男の射精が近いことを知った。宣言通りお口に出してもらうためぱくりと咥える。

 その瞬間、サキュバスのシークレットスキルが発動。

 

 サキュバス流淫術アルベド奥義・秘技エネマである。

 

「!?」

 

 ドレスの隙間から入り込んでくちくちしていた右手の中指をピンと立てる。ふにふにと揉んでいた玉袋と蟻の門渡りを挟んできゅっと締まった色づく窄まり、菊門に根本まで突き立てた。

 内部でくいっと指を曲げた瞬間に迸るおちんぽみるく。

 亀頭にふっくらした唇を押し付けてちゅうちゅうするお掃除フェラまで無意識に行う。一度目より薄くて少しだけさらさらしているのが爽やかな飲み心地でやはり非常な美味であった。

 最後の一滴をすするまで中指はずっと男の菊門に突き立てられていた。根本まで。

 

 

 

 

 

 

「あなたのおちんぽみるく、とっても美味しかったわ。御馳走様」

 

 アルベドは初めて御馳走様をしてからナザリックに帰還した。

 後には精も根も搾り取られた男が死んだように横たわっていた。



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全てを呑み込む昏い穴 ▽ソリュシャン♯1

 男が住んでいるのはエ・ランテルで一等上等なお屋敷である。

 しかし、無職。

 その正体はアルベドの食餌であるが表だっては秘密であるが故に表面上はただの無職。女に養われるヒモ野郎である。

 ずっと屋敷に閉じ込められているならどうでもいいがアインズ様のお言葉によりストレスフリーな生活が認められているため、屋敷に詰めるメイドを伴って外出することしばし。エ・ランテルの住人からその存在を認知されている。

 

 あれは誰だ、いい生活しやがって、やっぱり顔か、イケメンは人生イージーモードだよなぁけっ、との声多数。

 

 これはいけない悪目立ちしてしまう何かカバーストーリーを作らなければと冒険者モモンが思った瞬間にアルベドが一晩でやってくれました。エ・ランテルには帝国からやってきた商家の我が儘お嬢様の存在が深く刻まれており、彼の男はお嬢様の遠縁で療養のためにやってきたと言うことになりました。

 

 

 

 

 

 

「お前がアルベド様が飼い始めたという食用人間ね」

「初めまして、ソリュシャン・イプシロン様」

 

 一応遠縁と言うことにしたのだからソリュシャンお嬢様と顔合わせしないわけにはいかなった。

 ソリュシャンお嬢様は金髪縦ロールでたゆんたゆんのおっぱいがアピールポイントのゴージャスな美女でしたが口が悪い。ナザリックのシモベは人間に対してこんな感じがデフォである。それでもソリュシャンは割と丁寧な方なのだがアルベドの若いツバメと言うことはナザリックの配下も同然であって遠慮も演技も何もない。

 「ふーん」って感じで上から下まで頭のてっぺんからつま先までジロジロと品定め。人間相手に失礼も何もないのがナザリックのシモベのデフォである。見た目は整っていると思っても人ならざるソリュシャンの本性はスライムであって人間の感性とは隔絶している。見た目よりも味の方がずっと気になる。アルベド様が食餌になさるということはお肉も美味しいのかしら。

 そんなことを考えながら男が差し出した手を握ったのがまずかった。

 

「…………あるべどさまからきょかをえているのですか?」

「え?」

 

 我に返って男を見れば顔面蒼白脂汗たらたら。眉間には深い皺。口は固く結ばれている。

 

「え?」

 

 握っていた手を見ればなかった。比喩ではなく本当になかった。男の手は消えていた。男の手は手首までソリュシャンの手に沈んでいた。ソリュシャンは豪奢な美女の姿をしていてもその本性はスライム。全身不定形の粘液。口だけでなく身体中のどこからでも溶解吸収を可能とする。

 無意識に捕食しちゃうくらい男は美味しかったが大ピンチ。男はアルベド様の食餌なのだ。うっかり食べちゃいましたテヘペロが通用する御方ではない。お仕置き不可避である。そこへ至高の御方の至言が脳裏を走った。

 

『食べ物の恨みは恐ろしいのだぞ』

 

 明日も明後日も来年も再来年も十年後も百年後も、「そう言えばソリュシャンはあの時私のご飯を横取りしてくれたわよね? 美味しかったかしら? ねえ、私からかすめ取ったご飯は美味しかったかしら? 美味しかったはずよね。あれは私のだって言っておいたのに黙って勝手に無許可で食べちゃったんだから。どうなの? 答えなさいよ。答えなさい、ソリュシャン・イプシロン!」とかやられた日にはどうすればいいのだ。誰に助けを求めればいいのだ。アインズ様からの至言を忘れて摘まみ食いなんて信じられないとみんなから石を投げられる未来が見えた。

 

「ちょちょちょっと待って! すぐに回復させるから!」

 

 こんなこともあろうかと体の中に治癒の魔法を納めたスクロールを収納している。いざという時のために与えられたスクロールだ。いざって何時さ。今以上のいざなんてあり得ない。

 

 手首まで骨になった男はソリュシャンが使用したスクロールの効果で無事に元通りの姿を取り戻した。

 問題万事解決。めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

「アルベド様には黙っていてちょうだい」

 

 しかし元通りにはなってもあったことがなかったことになるわけでなし。ついうっかり食べちゃった事実はソリュシャンと男の記憶にこれでもかと深く焼き付いた。ソリュシャンに記憶を操作する魔法は使えない。アインズ様なら使用できるがお願いできるわけがない。よって男への口止めを行った。口封じしたいところだがそれをしてしまえば本末転倒。

 

「お断りします」

「……お前は私からの要求を断れるほど偉くなったつもりなの? 自分の立場を弁えていないんじゃないかしら?」

 

 ナザリックのシモベにとって、『シモベたち>>>>>(越えられない壁)>>>>>人間』が如何なる時も成立する。太陽が東から昇って西に沈み、太陽を追いかけるように月が東から昇って西に沈み、アインズ様は偉大で海よりも深く山よりも高い知恵と知力と魔法と魔力とその他諸々をお持ちであると全く同じ普遍的真理。

 人間が自分たちの要求を断るなんて天が裂けて地が沈み大海が虹となる言語道断。

 

「ソリュシャン様はアルベド様に嘘を吐けと仰るのですか?」

「うっ……」

 

 ソリュシャン一撃轟沈。守護者統括様のお仕置き待った無し。「あなたは私のご飯と知っていながら(以下略)」が明日から千年後まで。

 

「何でもするわ! 何でもするからお願いだからアルベド様には内緒にして」

「何でも? 今何でもするって言いましたね?」

 

 男の目がギラリと光った。

 

「ええそうよ。あなたに何でもしてあげるわ」

 

 にっこりと微笑んだ。

 本日のソリュシャンはお嬢様ルック。ピンクの突起がギリギリ隠れるセクシードレス。しかしながらスカートが長いため肌色率的にはメイド服装備よりも下がっている恐ろしい。

 胸の下で腕を組んで軽く揺するとたゆんたゆんのおっぱいがたぷんたぷんと揺れる。男なんてどうせエッチなことしか考えてなくておっぱいに夢中で澄ました顔してどうせおちんちんをかたくしちゃってるのでしょう私わかってるのよ。美しい私のおっぱいを好きにしていいのよおっぱいで挟んでぴゅっぴゅってしてあげてもよくってよ?

 

「どんなに恥ずかしいことでも……なんでもしてあ・げ・る♪」

 

 大きく開いたドレスの襟をちょっぴり引っ張ってピンクの突起周りのピンクエリアをちょっぴりアピール。ふっくらした唇を開いて真っ赤な舌を蠢かせる。

 完全完璧に決まった。私のエロエロアピールに勝てる男が人類に存在しないのは王都潜入班として他のシモベたちより長く人間を観察してきた私にはわかっているの。

 

「それでしたら私の直腸洗浄をしていただけますか?」

「……………………はあ?」

 

 

 

 

 

 

 先日、アルベドはシークレットスキルを習得した。スキルの効果により爪が長く尖っていても対象を傷つけることなく的確な刺激を与えることが出来る。

 スキルを使用して御馳走様をした後、アルベドはスキルに使用した指に鼻を寄せて「少し臭うわね」。パクンとやって「少し苦いわね」。

 アルベドが立ち去ったことを確かめてから男は絶叫した。

 

「うっがああああぁああぁぐオオオオオぉおあぁああ! ぐっぎゃああああああぁあぁあ! ナゼナゼナゼアルベド様は私にこのような試練を与えたもうのかあああああああああっーー!」

 

 さすがのサキュバス略してさすサスの天然羞恥プレイは男へ狂乱のバットステータスを付与した。しかし男は知らなかった。アルベドの態度は有情である。アルベドがその気になれば聖母の如き優しい微笑をあどけない童女の大輪の笑みに変えて真言を紡ぐ。

 

『くっさあーい♡』

 

 効果は悶死。トゥルーデスを越えた完全なる死を与えるのは約束された結末である。約束された死を回避するために必要なこととは。

 

 

 

 

 

 

「この私に臭くて汚いうんち穴を舐めろって言うの!?」

「ソリュシャン様ならわざわざ舐めなくても可能なのでは?」

「同じことよ!」

 

 全身不定形の粘液であるソリュシャンなら小さな隙間でも進入可能。入り込んで内側のお掃除なんてティーブレイク中に完了可能な簡単なお仕事です。プライドに目を瞑れば。

 

「お前は私にうんち穴を見られてベロや指をぐいぐいねじ込まれたい変態だったのね」

「お願いしたいのは老廃物や排泄物の除去です」

「同じことよ! 私にそんなことをさせて恥ずかしくないだなんて」

「ふっ」

「!?」

 

 男は鼻で笑った。アルベドからスキルを受けて臭いとか苦いとか言われるのに比べたら小さい小さい。ドラゴンとカタツムリだ。

 

「出来ないならそれでも構いませんよ? 私は今日一日のことを隠すことなくアルベド様にご報告するだけなのですから。ソリュシャン様に何か不都合がおありでしょうか? 申し訳ありませんが私にはわかりかねますね」

「ぐぬぬ」

 

 ソリュシャンは確信した。この男は悪い男だ。悪魔であるアルベド様が気に入る男なら悪魔のような男に決まっている。

 

「そういうあなたは自分が言ったことを実行できて? 自分には出来ない無理なことをさせようとしているのではないの?」

「私は人間ですからショゴスであるソリュシャン様のように奥深くへ浸入して綺麗にすることは種族的に不可能です」

「違うわ。うんち穴を舐めることよ」

「出来ます」

「即答!?」

 

 見た目だけは清楚可憐で無垢そのものである王国の麗しき黄金の美姫に何度もしてきた。うんちの直後でろくに拭いてないきったなくて臭い穴を何度もしてきた。この穴を拡張してだだ漏れにしてやろうと何度思ったことか。実際にやってラナーは意志に反してお漏らししちゃう体になった。なおゆるんだ穴はラナーの友人である神官戦士の回復魔法で元通りに。あの日何を癒したのか神官戦士はまだ知らない。

 

「だったら私にしてみせなさい!」

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 場所は男の寝室。上等なお屋敷なのでアルベドのお食事部屋ほどでなくてもそこそこ広い。エ・ランテルの街並みが見下ろせる窓にはカーテンが閉められている。ドアは施錠済み。

 どうしてこうなったのか男にはさっぱりわからなかったが確かな現実は目の前にソリュシャンの尻が突き出されていること。

 ソリュシャンは机に手をついて男に向かって尻を突き出している。セクシードレスの長いスカートは完全にめくりあがりたゆんたゆんのおっぱいと対になるに相応しい大きな桃尻が丸出しになっている。

 

「ほらあ、はやくしてぇ」

 

 肩越しに男を振り返って微笑む。大きなお尻を左右に振って早く早くと訴える。

 

「私のうんち穴を舐めるんだからあ、ちゃあんと脱がしてくれないとなめなめ出来ないわよ?」

 

 尻は生地面積がとても小さい真っ赤な下着に包まれている。桃尻を包む部分の生地はピンと張っているが生地の幅が細くなっている股間の部分はふにっとして柔らかそう。

 男の手がパンツに掛かるのを見て、ソリュシャンは「うふっ」と笑った。

 

「ずり下げるだけじゃなくて全部脱がさないとお股が開けないの」

 

 薄くて小さい真っ赤な布がむちむちの太股を窮屈に通り抜け、膝を越えたらすとんと落ちる。右足も抜いて左足も抜いて、真っ赤なパンツは男の手の中に。

 

「それは今日の記念にプレゼントしてあげる」

「いえ、お返しします。汚れてないようですので履いてお帰りください」

「もう!」

 

 ソリュシャンは前屈みになって尻を突き出し、閉じていた足を大きく開く。スカートはめくれあがってパンツも脱いで、うんちの穴も雌の穴も男からは丸見えだ。

 肉体を制御し、尻穴をちょっとだけ広げてきゅっと閉じる。こうした方が男は興奮するんでしょうと雌穴からは透明で粘性の高い汁を分泌。太股の内側をつつーっと垂れていく。

 

「ねえ、はやくぅ」

 

 尻に男の手が触れたのを感じてソリュシャンは勝利を確信した。

 美しい私のお尻と一回もうんちをしたことがない綺麗な尻穴とサーモンピンクでてろてろで美味しそうなおまんこを見れば食べたくなっちゃうでしょう? 食べていいのよ。おちんちんに我慢させなくてもいいわ。カチカチになっちゃってるおちんちんを私がぜえんぶ食べてあ・げ・る。いっぱいいっぱい気持ちよくして上げるわ。私の中で好きなだけぴゅっぴゅってしていいんだから。

 ソリュシャンの罠であった。男がおちんちんを固くしてじゅぷってして来たら「アルベド様に黙ってて欲しい? どうしようかしら。あなたはどうしたら私が黙っていられるのか知ってるんじゃなあい?」とやるつもりである。アサシンクラスは伊達ではない。アサシンは忍者と兄弟だ。忍者は汚いと神話の時代から決まっている。

 しかし男の手はすぐに離れてしまった。

 

「ソリュシャン様の手で尻を広げてもらえませんか?」

「そんなのってわたし恥ずかしいわ。でもあなたのお願いだからあ、特別よ?」

 

 上半身を机に預け、後ろ手に尻を掴む。きゅっとしているお尻の穴とぬるっとしているおまんこがよく見えるように尻たぶを左右に開いた。

 勝利を確信しているソリュシャンは男が自分の手を見ていることに気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 ソリュシャンの大きな尻に手の平を乗せた瞬間、尻肉の感触を味わう間もなく何だかぬるっときた。尻も手も濡れていない。手を見れば指紋が消えかけている。溶かされたようだ。くぱあと開いたおまんこからぬるぬるした液体が垂れ流れているが、あれはもしかして溶解液か何かだろうか。

 いきなり口をつけると不慮の事態が起こりかねない。まずとりあえずは唾を垂らす。

 ちいさなあぶくが幾つも混じった唾は尻の割れ目をゆるゆると伝っていき、無着色の綺麗な窄まりに溜まって、消えた。じゅずずっと音がして尻の穴に吸い込まれていく。

 

「はやくしてぇ」

「え、ええ」

 

 もう一度垂らす。またも吸い込まれる。尻穴がにゅうっと広がってきた。指一本分なら使い込まれているで済むところを拳が入りそうなくらい広がっていく。触れずにここまで広がるのは往時のラナーでも不可能だ。

 愕然と見つめる間も広がっていき、頭すら入りそう。尻穴の内側は肉の色をしているが奥までは見通せない。暗闇が潜んでいる。ソリュシャンの美しい姿は擬態。その本性はスライム。人間の女とは何から何まで違う。

 

「ほらあ、はやくぅ。焦らさないでぇ」

「……………」

 

 もしかして俺は尻の穴に食われるのか。しかしこの身はアルベド様のもの。食われるわけにはいかぬ。

 ここまでにしましょう。今日あったことは全て忘れますからご安心ください。ソリュシャン様と私は全く何の問題もなく顔合わせを完了しました。それでいいじゃありませんか。そうしましょうよ、ね?

 

 男がそう提案しようとした瞬間である。聞くだけで至福をもたらす美しい声が響いた。

 

「何が早くと言うのかしら?」

 

 いつからいたのか。金色の光彩を縦に裂いて二人を睨みつける美の化身。

 

「アルベド様!」

 

 常にたたえる微笑を完全に消したアルベド様が佇んでいた。



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全てを呑み込む赤い穴 ▽アルベド・ソリュシャン

「お手本を見せようとしていた?」

「その通りでございます。アルベド様に不快な思いをさせてはいけないと考えましたが私一人の手ではどうにも出来ずソリュシャン様にご協力を請いましたところ快諾していただきますも具体的にどのような手段を用いるのかやってみせよと仰いましたので不肖な身なれど私からあくまでも参考としてソリュシャン様のお体をお借りしようと言う時にアルベド様がいらっしゃった次第でございます」

「ソリュシャン」

「はい。その者が申す通りでございます」

 

 床上にひれ伏すバカ二人。一瞬だけ視線を交わす。

 なんとかなりそうですね。ふん礼は言わないわ。あれそんなこと言っていいんですか私は全部話しても構わないんですよ。くっお前はアルベド様をたばかるつもりなの。いいえ私は何一つ嘘は申していませんただ全てをお知らせする必要はないと言うだけで。借りにしておいてあげるわありがたく思いなさい。感謝の極み。

 メッセージの魔法を使用しなくても二人は言葉を交わすことが出来た。ショゴスと人間、種族が違っても気持ちが一つになれば出来ないことなんて何もない。二人の気持ちはアルベド様のお仕置きを如何にして逃れるか、その一事。

 

「そう。私のためなのね。一応は誉めてあげるわ」

 

 二人の心を感動の嵐が吹き荒れた。さすがはお優しいアルベド様はナザリックにおける慈悲と慈愛の聖母であられる。

 ちなみに三者がいるのはアルベドのお食事部屋。男の寝室は100レベル物理職による開錠(物理)を受けて施錠不能になった。

 

「それにしても人間のお尻の穴を舐めるだなんて、よくそんな気になったものね?」

「思わないところがないとは申しませんが、アルベド様のお食餌を綺麗にするのは当然のことかと」

「ふふ、言われなくてもちゃんとわかってるのね」

 

 無表情だったアルベド様に聖母の微笑が戻った。釣られて安堵の表情を見せる二人を真顔で見下ろす。

 

「でもさっきのソリュシャンの態度は何?」

 

 尻に大口を開けて捕食寸前だった。これは男にはとんとわからぬ。唾を垂らしただけである。唾が美味しかったのかと思いはしても唾の味など己にとっては無味無臭。しかし果たして美味であった様子。美味しいおつゆが垂らされて無意識に捕食形態になったと正直に告白。そう言えばシャルティアは味見直後に飛びついた。人血人肉嗜好皆無のアルベドには理解不能。けども唾ならぎりぎり理解可能。この男は唾まで美味いのか未だ味わったことはないがひとまず保留。

 美しいおみ足を組み直してソリュシャンへ立ってよし。ソリュシャンは許されたもうた。ソリュシャンはたゆんたゆんのおっぱいを撫で下ろして立ち上がった。

 続いて視線は跪く男へ。

 

「お前はお手本としてソリュシャンの尻を舐めようとしていた。……正直に答えなさい。おちんぽは固くなったかしら?」

「いいえ全く」

「即答!? お前は私の完全未使用のうんち穴とくぱあしたおまんこをハアハアしながら見ていたのに全く無反応だったというの? もしかして不能? あ、いえ、その、アルベド様の前で取り乱してしまい」

 

 このアマ言うに事欠いて不能だとゴルァ言っていいことと悪いことを知らんのかと思いはしてもアルベド様の前である。おくびにも出さなかった。

 

「こう言っているけれど?」

「ソリュシャン様はアルベド様に一歩及ばずと言えど大変美しい御方です。ピクリとも反応しなかったとは申しませんが、腕どころか頭すら入りそうな穴に興奮しろと言われましても」

 

 フィストファックを越えたヘッドファックは男の理解を超えた。ラナーにフィストファックしたことはあれど頭は考えたこともない。精神の異形であるラナーをしてヘッドファックは想像すら出来ない行為であった。

 

「ふふふ、それもそうね。ナザリックは美しい者達ばかりだからお前が反応してしまっても仕方ないわ。でもみるくを出してはダメ。それは私のものよ」

「はっ。かしこまりました」

 

 聖母の微笑が笑み崩れ、男も許された。アルベド様はとてもお優しい御方である。ソリュシャンは「みるく?」と首を傾げた。

 

「話し込んでしまったわね。そろそろ食事にするわ。準備なさい。折角ソリュシャンがいるんだから手伝いなさい」

「はい、直ちに」

 

 ソリュシャンはもう一度「みるく?」と首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 今までは夜が深まってからだが今日はまだ宵の口。空に星が瞬き始めたばかり。夜はまだ長い。

 

「アインズ様はご存じなのでしょうか?」

 

 少しだけ表情を固くしたソリュシャン。

 三者は天蓋の中に。アルベドはいつもの白いドレス。ソリュシャンは先と変わらぬお嬢様ルック(パンツ未着用)。男は衣服を全て脱ぎ捨てた全裸だった。

 寝台の上に裸の男が、と来ればあれがあれでナニに決まっている。他者の性的嗜好はお好きにどうぞのソリュシャンだがアルベド様はアインズ様の正妃に立候補中。かような真似は果たして如何に。場合によってはアインズ様正妃レースのアルベド派閥からシャルティア派閥への鞍替えも考えなければ。

 

「アインズ様は全てをご存じよ。御前で食事の実演もしたわ。その上で飼うことをお許しになったの」

「なるほど……さすがはアインズ様です」

 

 さすがのアインズ様はレベルが高かった。ソリュシャンから迷いの霧は綺麗に消えた。

 

 いつもは寝そべるところを今日はソリュシャンがいるので寝台の上に仁王立ちしている。柔らかすぎず適度な固さのマットは立ち上がっても抜群の安定感。

 

「臭うわね。おちんぽの濃い臭いがするわ」

「今日はお越しになる時間が早かったものですからまだ湯を使っておりません。ご不快でしたら少々お待ちいただければ」

「別に嫌いじゃないわ」

 

 アルベドは男の前に陣取る。足を崩して座っている。目と鼻の先より更に近く、鼻で男の逸物に触れ深く息を吸い込んだ。吸い込んだ息はハァと熱く吹きかけられ、たちまちへそまで反り返る。「あはっ」と嬉しそうに笑った。

 

「優しくお願いしますよ、本当に」

「わかっているわ。アルベド様の前で粗相するわけないでしょう?」

 

 ソリュシャンは後ろに陣取っている。こちらもぺたんと足を崩して座り、顔の前には男の尻。柔らかな女の尻とは違って男の尻は締まっている。ソリュシャンは上を向き、高さを合わせて口を開く。開いた口は男の尻に押し付けられた。そこから赤い舌を伸ばす。目指すは男の尻の穴。

 

「っ」

 

 男が小さくうめいた。

 ソリュシャンは目を閉じて舌を伸ばす。人の形はしていてもソリュシャンの本性はスライム。基本の形から大きく外れることは出来ないが、体の一部を伸び縮みさせるのは簡単なこと。伸びた舌は男の肛門から内部へ入り込み、老廃物や排泄物を舐めとり吸収した。

 私にうんち穴を舐めさせてうんちまで綺麗にさせるなんてなんて屈辱、こんな事をさせておちんちんを固くするなんてなんて変態、でもおちんちんを固くさせたのはアルベド様……、いいえ私だって。

 尻の穴を舐めながら、ソリュシャンは男の前に手を伸ばす。伸びた先は男の逸物。両手で優しく握ってやった。両手で余る長さだった。

 

「続けなさい」

 

 アルベド様のご命令によりかたいおちんちんを扱き始める。手からは無色透明無味無臭で人間にも完全無害の粘液を分泌。滑りをよくしてすこすこと前後に扱く。

 アルベド様はふにふにの玉袋をふにふにと。膨らんだ亀頭には玉の滴が湧き始め、白い指先ですくい取って口に運んだ。今日もいい味と思ったが、洗ってない臭いおちんぽを味わい忘れたと少し後悔。今やソリュシャンローションでテカテカだ。

 それは今度のお楽しみにとっておき、もう一つ味わうべきものを思い出した。

 

「こっちを見なさい」

 

 上を向いてソリュシャンの責めに耐えていた男は無礼と思いながらもアルベド様を見下ろす。アルベド様は上を向いて優しく微笑まれ、大きく口を開いて赤くぬめった舌を伸ばした。

 

「お前の唾を飲ませなさい」

「それは……」

「早くしなさい」

「かしこまりました」

 

 もごもごと舌を動かし唾を溜める。下を向いて口をすぼめ、男の唇からあぶくが混じった粘液が垂らされた。狙いは外れることなく、唾はねちょりとアルベドの舌へ。アルベドは口中で自分の唾と男の唾を舌でもって混ぜ合わせ、喉を鳴らして飲み込んだ。

 

「もう一度」

 

 繰り返されて、

 

「もう一度」

 

 両手はドレスの隙間に入り込み、吐息は一層熱くなって。

 

「申し訳ありません。口の中が乾いてしまいました。何か飲み物がないとこれ以上は」

「それなら私の唾を飲ませてあげるわ」

「え?」

 

 アルベドが立ち上がっても男の方が背が高い。淫靡な汁で濡れた手で男の頬を包み、男に覚悟を与えることなく唇を押し付けた。

 男の口へぬるりと官能的な柔らかさが入り込み、無味にして甘美な液体が送り込まれる。こくりこくりと飲み込んでもアルベドの唇は離れない。誘うように舌は口内を舐め回し、男も小さく舌で応えた。答えを得たアルベドは強く吸う。男の唾と、男の舌が入ってくる。

 ぬちゅぬちゅくちょくちょ。ねばつく水音は舌が絡む音。唾は一滴だってこぼさない。アルベドの強い吸いつきが許さない。アルベドは男の頬を包んだまま、熱心に唾液を交換する。自分の唾を男に飲ませ、男の唾は一滴残さず飲み込んで。

 男の手が迷うように宙をさまよい、しかしアルベド様を抱きしめる非礼を許さなかった。後ろに回してソリュシャンの頭を掴む。金色の髪はソリュシャンの擬態。男の指に絡みつき、甘い粘液を分泌した。

 奉仕を続けるソリュシャンは何を思ったのか、ちょっとだけ強く握ってペースを速める。

 

「アルベド様、そろそろ」

「え? ええ、そうね」

 

 男の唾を夢中でむさぼっていたアルベドはソリュシャンの言葉で我に返った。

 ソリュシャンの指は逸物の根本で輪を作っている。アルベドが咥えると同時に輪を開いた。寸止めされていた逸物は解き放たれ、勢いよくアルベドの口の中へ射精した。

 

 みるくはやっぱりおちんちんのみるくのことだったのね。アルベド様、あんなに美味しそうに飲んでそんなに美味しいのかしら。お肉は美味しかったけれどもう一度やったら間違いなくばらされる。でも唾は美味しかったわ。アルベド様もお気に召したようだし、私ももう一度飲んでみようかしら。唾くらいならお叱りは受けないはず。……それにしても美味しそうに飲まれるのね。まだおちんちんからお口を離してない。おちんちんのみるくがそんなに美味しいの? 私も味見してみたいけどみるくは私のものだと仰っていたし。

 

「御馳走様。今日も美味しかったわ」

 

 じっくりとお掃除フェラをしてから口を離した。

 

「で・も、今日もおかわり出来るんでしょ?」

「……ほんの数分休ませていただければ」

「その数分ももったいないわね。私はあなたと違って忙しいのよ? そうだわ。ソリュシャン、こっちに」

「……? はい」

 

 後ろにいたソリュシャンも男の前に。

 

「ほら、これで元気になった?」

「あ、アルベド様!?」

 

 ソリュシャンの叫びは完全無視。

 アルベドはソリュシャンのセクシードレスの大きく開いた襟を強く引っ張った。ピンクの突起周りのピンクエリアどころではない。たゆんたゆんのおっぱいが完全にさらけ出された。

 

「立たせなさい」

「っ……、はい」

 

 命じられ立たせたのはピンクの突起。男が見守る中で、ソリュシャンのピンク色の乳首はむくむくと膨らんで立ち上がった。

 

「だらしないおっぱいだけど悪くないでしょう? おちんぽもぴくぴくしてるわ。よかったわね、ソリュシャン。反応してもらえて」

「っ……、はい」

「おちんぽも元気そうだし続けるわよ」

「あ……、いえ、その……」

「何よ?」

「少々催してしまいました。少しだけ中座させてください」

 

 大の方はソリュシャンが完全完璧に綺麗にした。催したのは小の方である。

 

「ソリュシャン、飲みなさい」

「…………かしこまりました」

 

 ナザリックのヒエラルキーで割と上位にいるプレアデスの一員であってもアインズ様に次ぐ地位にいる守護者統括の言葉には逆らえない。男の前に座る。見上げる視線には殺意が乗った。

 

「それでは失礼をして」

 

 ソリュシャンは目を閉じない。男を睨みながら赤い唇を大きく開く。開いた口めがけて、男の逸物から金色の放物線がじょぼじょとほとばしり、ソリュシャンの口へぱしゃぱしゃと掛けられた。

 男はソリュシャンの美しい顔めがけて放尿した。この程度のことは何度もラナーにしているし、されてもいる。縮こまって出てこなくなるやわな精神はしていない。

 

「すっきりした?」

「はい」

「これでおちんぽがおおきくなれるわね?」

「はい」

 

 アルベドは男の耳へ口を寄せ、優しく囁く。アルベドの口からは精臭が漂うことなく、芳しい香りを男の鼻へ届けた。

 

「うふふ、いい子ね」

 

 キスをする。たっぷりと唾を飲ませる。ねだるように舌を差し込む。男の首へ腕を回し、むさぼるようなキスをする。

 

「ソリュシャン、ご褒美よ。二回目のおちんぽみるくはお前に譲ってあげるわ」

「ありがとうございます」

 

 元より男に拒否権はない。

 おちんぽみるくはとっても美味しいんだけど唾が美味しいことを教えてくれたソリュシャンにもご褒美をあげなくてはね。私は明日もあるんだし一回くらい。ああでもどっちも美味しいわ。おちんぽみるくと唾を一緒に味わう方法が何かないかしら? え?

 

 アルベドは男に横を向かせて唾を味わっている。正面にいるとおちんぽを咥えているソリュシャンの邪魔になるからだ。ソリュシャンはおちんぽを咥えているはずだった。あるいはさっきのように扱いているはずだった。

 

「ソリュシャン? あなた、いったい何をしているの?」

「私はショゴスですので口以外でも吸収が可能です。手でも、胸でも、足でも、尻でも。そして……おまんこでも」

 

 ソリュシャンは男へ背を向けていた。

 突きだした尻は男の股間にぶつかっている。男の逸物が大きいのはアルベドがよく知るところ。あんなに大きいものが一体どこへ。

 

 

 

 

 

 

 男がソリュシャンの体内へ二度目の精を放ち、ソリュシャンは恍惚と受け止めた。おちんぽみるくもソリュシャンの口にあったらしい。

 なおソリュシャンの姿は擬態。その本性はスライム。であるのだから体の構造は人間と全く違う。人間を模しているのは外見だけで内部は不定形の粘液そのものである。口だろうと手だろうと胸や足や尻におまんこだろうと、男へ与える刺激はどこであっても同じ。ソリュシャンの加減次第。おまんこに該当する部分でおちんちんを咥えたのは視覚的効果により男を興奮させようと思ってのことである。

 

 しかしそれを見たアルベドが何を思ったのかまではソリュシャンの関知するところではなかった。



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美姫ナーベはやりすぎた ▽ナーベラル♯1

 ヨウヨウ姉チャン美人サンダナチョイトオイサンニ触ラセロヤペロッ。

 

「このガガンボ共が私に触れるなーーっ!!」

 

 ドカドカバキッ! ウギャーグワーグワワー!

 漆黒の英雄モモンは天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

「まあ! モモン様にお越しいただけるなんて光栄ですわ。ご無沙汰しております。エ・ランテルではモモン様のお名前を聞かない日は一日としてありませんわ。どうぞゆっくりとおくつろぎくださいませ」

「こちらこそお久しぶりです。近くまで来たものですから寄らせていただきました」

 

 エ・ランテルには帝国から来た商家の我が儘お嬢様の大きなお屋敷がある。お嬢様の実家は冒険者のモモン、今や漆黒の英雄と称えられる双剣の戦士を早くから支援してきた。そのためお嬢様と冒険者チーム「漆黒」はそれなりに親しい関係にあった。と言うストーリーである。

 

「モモン様にご紹介いたしますわ。私のお兄様ですの」

「救国の英雄であられるモモン様にお会いすることが出来、光栄です」

 

 ソリュシャンお嬢様が腕を胸に抱くようにして引っ張って来た美男はお嬢様の兄ではなく遠縁。健康を損ねていたのでエ・ランテルへは療養のためにやってきた。と言うストーリーである。

 

「……とても仲が良さそうですね。ご兄妹ですか?」

「血の繋がりは遠いのですけれど、わたくしお兄様は本当のお兄様のように思っておりますわ」

 

 ソリュシャンお嬢様は輝く笑みを見せた。英雄モモンの顔はフルフェイスの金属鎧に隠れている。男は透明な微笑。

 

「モモン様は騒がしくされるのがお好きではなく、かしづかれるのも好まれない謙虚な御方だ。私たちがお持て成しするのでお前たちは下がっていなさい。私が声を掛けるまで邪魔してはいけないよ?」

 

 男がメイドたちを下がらせる。応接間には英雄モモンの真実を知る者だけが残された。念のためにソリュシャンが体内からスクロールを取り出して外からの目を阻む魔法を掛ける。一通り終えた後、二人がソファから立ち上がって跪こうとするのをモモンが手を上げて制した。

 

「よい。漆黒のモモンはかしづかれるのを好まない男なのだろう? 着席を許す」

「はっ。ありがとうございます」

 

 客であるモモンが上位者のように振る舞う。それもそのはず、モモンの正体はナザリックの偉大なる支配者アインズ様なのであった。ソリュシャンはナザリックの戦闘メイド・プレアデスの一員で、男はナザリックの守護者統括アルベドのご飯である。アインズ様は遙か遠くに仰ぎ見る至高の御方であられる。

 

「それにしても本当に仲が良さそうだな。ソリュシャンと気があうのか?」

 

 ソリュシャンはナザリックのシモベ達同様人間蔑視の価値観を持つ。だと言うのにアインズの目からは演技ではなく本当に親しくしているように見えた。お前もしかしてソリュシャンに迫ってあれをあれしたんじゃないだろうな。いやでもいくら見た目がよくても人間に迫られてソリュシャンがどうにかなるか? そもそも人間の美醜ってショゴス的にどうなんだ?

 男は透明な微笑を疲れ切った乾いた笑みに変え、シャツの袖をめくり上げた。

 

「……それは一体どうしたのだ?」

「ソリュシャン様に溶かされました」

 

 男の白い腕は帯状に広範囲が赤くなっており、軽く爪でひっかくと血が滲み始めた。

 

「皮下の肉までは浸透していませんが皮膚はこの通りです。どうやらとても美味しく感じられるようで。故意ではなく気を抜くと溶かしてしまうそうです。日に一度は回復してくださいますが、それなりに痛みます。かつて負っていた火傷に比べれば大した痛みではありません」

 

 ソリュシャンは全力で明後日の方向を向いた。

 今や死の支配者となり異形種を束ねるアインズは人間が傷つこうと死のうと何とも思わない。脳髄ドバーだろうと心臓グシャーだろうと蚊が潰れるのと大差ない。しかしかつては人間であった。当時を振り返っても心臓を貫かれる痛みなど全く想像できないが皮膚がかぶれて赤くなったことは何度もある。つまりは村娘が背中を切りつけられる痛みはわからなくとも、タンスに小指をぶつける痛みには共感できる。男の症状はアインズにも想像できる身近な痛みだった。

 

「まあぐっとやりなさい」

「お慈悲を感謝いたします」

 

 お優しいアインズ様は神の血の如き深紅のポーションを下賜なされた。なんとお優しいアインズ様。全ナザリックが感涙するのはいつものことである。

 

 

 

 

 

 

 アインズにとって男との会話は驚くほど気が休まるものだった。敬意はしっかりと払われているが忠誠心が天元突破しているナザリックのシモベ達のように過剰反応されることがない。モモンとしてなら兎も角、アインズとして気楽に相手が出来るのは帝国の皇帝をやってるジルくらいだ。そのジルとて政治が絡むので気を抜きすぎるわけにいかない。自分の死はアルベドに預けたと言うだけあり「このシデムシがアインズ様と同じ視線で馴れ馴れしいにもほどがある!」と殺気がこもった視線に物怖じしないのも高評価。

 

「ナーベラル・ガンマ様、それとも美姫ナーベとお呼びすべきでしょうか?」

「お前のようなカトンボに名前を呼ばれる筋合いはないわ」

 

 アインズ様は天を仰いだ。

 アインズは冒険者としてのパートナーであるナーベを伴い訪れていた。アルベドが飼い始めた男の様子見もあったが本題はナーベのこと。先日起きたトラブルを話した。すると男はナーベを支持する。親しくない女性に気易く触る愚者は制裁されて然るべき。それはそうだが限度がある。お優しいアインズ様はショック死しそうなナーベに庇ってやれずにすまなかったとフォローをいれ、ナーベラルの忠誠の儀によって流れが一時中断。

 ナーベラルの人間嫌いは今更だがもう少し何とかならんかと白羽の矢が立ったのが男だった。モモンの真実を知っており、裏切りの心配がなく、ナザリックの配下として自由に使え、手が空いており、一番重要なことだが人間の男であるとの消去法によって選ばれた。

 

「せめて手が出ないくらいにはなって欲しいものだ」

 

 哀れなナーベラルは床の上で顔面蒼白。英雄モモンがアインズ様となってからずっと床上に跪いている。

 

「……試してみてもよろしいでしょうか?」

「構わん。ナーベよ、立て」

 

 立ち上がったナーベラルの周りを男が一周二周。ナーベラルの整った顔は眉間に深い皺が刻まれる。後ろに回ってお尻をペロッとタッチ。ナーベラルは拳をぎゅっと握りしめた。御前なのだ。最大限の自制心を発揮して何とか耐える。今度は前に回ってお胸をムニっと。

 おまいきなりか俺がアルベドの胸に触ったときはもっとこう慎重だったのにああくそっこの体のせいで全く羨ましくないぞ。そんな気はしていましたがお兄様はかなり女体慣れしていますわねアルベド様とは思えないし一体誰が相手だったのかしら。固すぎず柔らかすぎず柔らかいだけのソリュシャンと比べると張りがあるただの擬態とは違うのだろうかこれはいいおっぱいだ。

 ムニが五回目に達し、ナーベラルはキレた。

 

「死ねえこのニンゲンムシがーーーーーっ!!!」

 

 ボグァグフ、キャーお兄様!、おい大丈夫か傷は深いがしっかりしろ、アインズ様まずは回復を、まずいアルベドに怒られる、なんてことスクロールの補充が、ポーションがある飲めるか?、私が飲ませますお兄様しっかり、リザレクションをいやトゥルーリザレクションが必要か?

 幸いなことにリザレクションを使わずに済みました。

 

「私一人では荷が重いです。ソリュシャン様にご協力いただいてもよろしいでしょうか?」

「いいぞ。ソリュシャン、この者に協力しナーベラルの矯正に尽力せよ」

「拝命いたしました」

 

 アインズ様はナーベラルへお前に不満があるわけではないと慰めのお言葉を掛けられてから屋敷を退去されました。「漆黒」はちょっぴり休業です。

 後にはアインズ様の無茶振りに天を仰ぐ男と床に崩れ落ちしくしくと泣く女と妹を優しく見下ろす姉が残されました。

 

 

 

 

 

 

「アインズ様のご要求はナーベラル様が人間から多少のスキンシップを受けても手が出ないように、ですか」

「お兄様? ナーベラル様ではなくて冒険者のナーベですわよ?」

「……下等な人間如きに気易く呼ばれたくないわ」

「ナーベ、あなたのその態度がアインズ様へご迷惑を掛けているのよ。シモベとして恥ずかしくないの?」

「うっ……。うっうう……」

 

 顔面蒼白でまたも床に崩れ落ちる。これは一体どうすればいいのだ。男はこっそりとため息を吐いた。

 

「お兄様は何か考えがございますか?」

「ナーベの心掛け次第、と言っても無理だろうから習うより慣れろ以外に思いつかないね」

「私も同じことを考えましたわ。ナーベ、ほらちゃんと立って。私の肩に掴まって」

 

 優しい笑顔のソリュシャンに肩を借りてナーベラルは立ち上がった。

 

「ソリュシャン?」

 

 ソリュシャンは笑顔である。ただし邪悪な笑顔である。ナーベラルの手はソリュシャンの肩に沈み込み押そうと引こうと動かない。

 

「習うより慣れろよ。それではお兄様、お願いします」

「まだ足が出そうだ」

「あら? そうですわね」

「ソリュシャン? 一体何を?」

 

 一歩近づきナーベラルの足を踏みつける。踏みつけた足は形を失いナーベラルの足を縛り付けた。

 

「それでは失礼をして」

 

 ナーベラルは冒険者の美姫ナーベとして訪れたため、プレアデスの正装ではなく冒険者姿。丈夫なシャツとズボンに外套を羽織う。烈火の罵倒を聞き流しながら外套を脱がせた。

 

 

 

 

 

 

 ソリュシャンがゴージャスな美女ならナーベラルはクールな美女。

 青光りする長い黒髪は後頭部でまとめたポニーテール。今は嫌悪と怒りで目がつり上がっているが、切れ長の目も眉も鼻も唇も完璧な配置。マジックキャスターのナーベではなく、美姫ナーベの名に相応しい。

 

「習うより慣れろ、ですよ。ナーベラル様。今はナーベでしたか」

「貴様私に何をするつもりだ!」

「こうするんです」

「!!?!?!?」

 

 ナーベラルの背後に回った男は手を伸ばし、ナーベラルの胸に優しく触れた。

 大きすぎず、と言ってもそれはアルベド様やソリュシャンと比べた場合で十分豊かな双丘だ。厚手のシャツ越しではあるが指に艶めかしい柔らかさを伝えてくる。

 怒りで頭が沸騰しそうなナーベラルは、男が知る僅かな時間でも落ち込んだり泣いたり怒ったりブチ切れたり、様々な表情を見せる。笑みを張り付けたソリュシャンよりもよほどに表情が豊かだ。

 

「ナーベの手が出なくなるまで、手を出すのを諦めるまで、ずっと続けさせていただきます」

「なっ……この……!」

「ナーベは知らなかったかもしれないけど、お兄様はアルベド様のお食餌なの。もしも傷つけたら、ましてや死なせようものならとてもとても大変なお叱りを受けてしまうわ」

 

 目を見張るナーベラルへ、ソリュシャンはくつくつと嗤った。

 人間の男に触れられる嫌悪。殴りつけたくなる衝動。しかしそれを許されない葛藤。絶望に顔が白くなっていく。

 小刻みに震えるナーベラルの肩を見ながら男は指を動かしていく。乳房を乱暴に鷲掴みするのではなく、脇と下部から支えるように包み、揺するように撫でるように繊細な刺激を送っていく。ラナーの胸がちっぱいからおっぱいになるまで揉み続けた指である。多数の女性とではなく、一人の女を極めたが故の技があった。

 

 一時間が経ち、手は乳房全体を包むようになった。罵倒を繰り返したナーベラルは静かになり俯いてしまった。

 更に一時間が経ち、手指は乳房をわし掴みしている。柔らかくも張りがある乳房の形が歪む程度には力が込められている。ナーベラルは俯いたまま。偽の兄妹は一言も口を開かない。静寂に包まれているはずの応接間には不規則な息遣いが響く。

 そこから数分。ソリュシャンは俯くナーベラルの顎に手を添え上を向かせた。ナーベラルの頬は赤らんでいた。

 ソリュシャンはショゴス。形こそ美女の姿をとるが中身は不定形の粘液。ナーベラルはドッペルゲンガー。人間よりも遙かに頑健な体を持つが、体の内部も人間を模している。人間の女と変わらない。

 

「ナーベ……、顔が赤いし息も荒いわ。大丈夫?」

「……大丈夫、だから。もう、離して」

「ダメよ。そんなことしたらお兄様に殴りかかるんでしょう?」

「しないから……」

 

 気弱なナーベラルをソリュシャンは美しい笑みで返した。

 

「まだだあめ。お兄様、その調子でお願いしますわ♪」

「くっ……、私はこんな辱めにはけっして屈したりしない!」

「辱めって。ナーベは趣旨がわかってないな?」

「お兄様はお優しいから。もう少し荒療治が必要とソリュシャンめは愚考しますわ」

「っ!? ソリュシャン! 止めて!」

 

 ナーベラルの両手はソリュシャンの体に沈んでいる。ナーベラルの正面に立つソリュシャンは両手を自由に使える。ソリュシャンはお兄様を手伝うべく、澄ました妹を虐めるもとい素直にさせるべく、ナーベラルのシャツのボタンに手を伸ばした。

 ナーベラルが泣こうと喚こうと、ボタンは一つずつ外されていく。一番上から一番下まで。一片の情けも掛けずシャツを開いた。乳房を包むのは飾り気のない白い下着。現地では流通してないナザリック謹製ブラジャー。やめてやめてと訴える妹を愛らしく思いつつ、ホックを外し肩紐を外し、粘体であるショゴスの利点を十二分に活用してブラジャーを外してあげた。ナーベラルの白い乳房が露わになった。ナーベラルの目に涙が浮かんできた。

 女の姿は擬態であるとソリュシャンは強く思っているが、ナーベラルにとって女の姿は自分そのもの。

 

「うふふ、ナーベはあんなに止めてって言ってたのに。……かわいい乳首が立ってるわよ?」

「っ!」

 

 背後の男からは何も見えない。ボタンを外しているときから手も離れている。ソリュシャンから視線の合図を受け、もう一度手を伸ばした。上質だが硬い布地ではなく、きめ細やかな温かさに触れた。

 ナーベラルの感度は十分に高まっている。段階を踏む必要はなく、乳房を鷲掴みにした。指が乳肉に埋まった。

 

「ああっ!?」

「まだですわよお兄様。もっとナーベに慣れてもらわないと」

「ふああっ!?」

 

 鷲掴みにした指の隙間から逃れた突起。親指と中指でナーベラルの乳首を摘まんだ。立たせようとも柔らかかったソリュシャンとは違う。柔らかくも弾力があった。

 荒い吐息が熱くなり、吐息にはかすれた声が混じり始める。

 

「はあ……はあ……、んっ……」

「どうしたのナーベ? だいじょうぶ?」

「ああ……、そりゅしゃん……、もう、やめ……」

「気持ちよくなってきたの?」

「え……」

「人間の男におっぱいを触られて、物欲しそうに乳首を立たせちゃって」

「ちが……あっ……」

「違わないでしょう? 正直に言ってごらんなさい」

 

 頬は赤く、瞳は潤んで、半開きの口からは荒い息がこぼれている。摘ままれた乳首がこねられると耐えるように眉間にしわを作った。

 

「あっあっあっ……」

「もうお兄様ったら! ナーベと話してる最中でしてよ?」

「そうは言ってもね」

 

 とがった乳首の先端を擦っていた。

 

「あなたはよく頑張ったわ。でも我慢する必要はどこにもないの。お兄様におっぱいを触られてどうだったか。私にだけ教えて」

「……」

 

 半開きの口から涎が垂れそうになって、ナーベラルはこくりと飲み込んだ。おっぱいは触られたままだがさきっちょはいじられてない。数秒迷うもとろけかかった頭は何も考えられず、体が感じるものを話そうとして口を開いた。

 

「おっぱいをさわられて……」

「さわられて?」

「……きもちよかった」

「一体何が気持ちよかったというの?」

 

 

 

 

 

 

 一度目があるなら二度目もある。

 

「アルベド様!?」

 

 いつもの微笑は浮かべてない。代わりに心底呆れたといわんばかりのアルベド様が、半目でちちくりあう三人を見やっていた。




毎日はしんどい適度にやすむ


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お楽しみはまた今度 ▽アルベド♯3

 拘束が解かれるなりナーベラルはその場にうずくまって守るように胸をかき抱いた。

 モモン様アインズ様弐式炎雷様申し訳ありませんナーベラルはナーベラルは汚れてしまいました、人間の男にあろうことか人間の男におっぱいを触られてしまいましたいっぱい揉まれてしまいましたそれも肌に直接です、下等な人間にイヤだったのに何度も止めてと言ったのに何回も何回もずっともみもみされて、それがそれがいやではないと思ってしまったのです、くすぐったいだけだったのが何だか何というのかキュンと来てしまいました、おなかの奥深くが熱くなってしまいました、ナーベラルは知られざる魔法を掛けられてしまったのでしょうか、ああそれだけでなくあの男はおっぱいの尖ってしまったところを、わたしのち……乳首まであんなにくにくにして、ソリュシャンがいなければもちろん抵抗していました、けっしてもっとして欲しかったなどとは思っておりません! ああそれなのに。

 ナーベラルの呟きは誰の耳にも入らない。

 

「この前はソリュシャンのお尻。今度はナーベラルのおっぱい。お前は一体何をしているの?」

「アインズ様からのご下命です」

「先ほど漆黒の英雄モモン様として美姫ナーベを伴い御来訪されました」

「アインズ様が?」

 

 ナザリックのシモベ達がアインズ様の御名を騙ろうはずがない。騙ろうにも出来ない、心と体が拒否する。そもそも思いつくことすら出来ない。男はナザリックのシモベとは毛色が違うので可能かもしれないがソリュシャンも同じことを言っている以上嘘はあり得ない。

 ぶつぶつと何事かを呟いているナーベラルは放置して二人は今日の経緯を語った。

 

「冒険者のナーベが人間から多少のスキンシップを受けても過剰な反応をしないようにせよとのことです。人間の男である私が適任として選ばれました」

「そのためにおっぱいやお尻を触られても嫌悪を抱かないように、むしろ気持ちよくなれるようにナーベラルの性感を開発していたところでございます」

 

 それはちょっと違うんじゃないかなと思ったがそんな触り方をしていたのは確かなので何も言わなかった。

 

「つまりナーベラルに女の悦びを教えよと言うことなのね」

 

 さすがのサキュバス的思考はぶれがなかった。そこまでいくと大分違うと思ったがアルベド様のお言葉に異を唱えられようはずがない。

 

「おっぱいとお尻でいけるようにして、最後はおまんこにするのかしら?」

「いえ、今のところはそこまで考えてはおりません」

「それじゃあナーベラルがかわいそうでしょう? でも仰せつかったのはお前だから思うとおりにやりなさい」

「かしこまりました」

 

 アルベドは、はあと物憂げな息を吐いた。ナーベラルを見て、ソリュシャンを見る。

 

「いつまでもそんな格好をさせてないで着替えさせなさい」

 

 ソリュシャンは恭しく礼を返し、未だ胸を抱きながら何事かを呟くナーベラルを伴って退室する。待機していたメイド達へ、新たな来客があったのでもうしばらくは近付かないようにと言い置くのを忘れない。

 応接間には二人が残された。

 

 

 

 

 

 

 アルベドはもう一度物憂げな息を吐いた。

 

「お疲れでしょうか?」

「違うわ」

 

 今日の来訪は前回より更に早く外はまだ明るい。まさかお仕事をサボっているわけではない。お優しいアインズ様から定休を与えられている。安息日のごとくその日はお仕事禁止である。まさに今日がそれだった。いつもよりじっくりと時間を掛けてサキュバス的にきちんとお食事にしようと思っていた。しかし男にはアインズ様からの命令が下されていた。楽しいお食事タイムとアインズ様からの命令を秤に掛ける愚か者はナザリックに存在しない。

 楽しくて特別なお食事タイムはナーベラルの訓練が終わってからのお楽しみにとっておき、今日はいつものみるくで我慢することにした。がっつりステーキと思ってたのにミルクでは些かがっかり。とても美味しいみるくだけれど。

 

「来なさい」

「はい」

 

 男の顔を優しく撫で回し頬を包んで目を合わす。薄く唇を開けば男も同じように。舌を伸ばせばあちらも舌を伸ばす。唇が触れるより先に舌同士で触れあった。男の舌が入り込んでくる。同時に唾が流し込まれてくる。アルベドも唾を湧かせて男の口へ流し込む。流し込む前に生意気にも強く吸われる。二人の唾が混ざり合って、互いの舌で熱心にかき混ぜて、アルベドが全部飲み干した。二回目は半分だけ男に飲ませてやった。

 

「うふふ。ちゃあんとおちんぽが大きくなってきてるわね」

 

 唾を飲むため、キスをするために二人の体は密着している。アルベドは下腹に男の反り返った逸物が当たっているのを感じていた。

 

「ソリュシャンの穴を見てもナーベラルの生おっぱいを揉んでも大きくならなかったのに、どうしておちんぽは大きくなったのかしら?」

「……お二人とも魅力的な方ですが私にそのようなつもりはございませんでした。ですが、アルベド様の……そのお体の感触が」

 

 密着しているのだからアルベドの体も男に押しつけられている。男の体にアルベドの大きなおっぱいが押し付けられて、柔らかな毬のように潰れている。白いドレスを着ているアルベドはナーベラルのようにブラジャーを着けていない。極上の薄布一枚隔てたそこにはアルベドの極上おっぱいがある。

 

「私のおっぱいを当てられただけで興奮してしまったの?」

「……はい。その通りです」

「素直な子は嫌いではないわ」

 

 大きなお屋敷の立派な応接間に相応しい広いソファに押し倒す。数刻前は誰が座っていたか。

 アルベドが上。男が下。雌豹のように覆い被さりバラ色の唇を紅い舌で一舐め。拍子によだれが滴って、男の唇に落ちた。男は舌をのばして舐めとった。

 

「私のおっぱいがそんなに良かった?」

「はい」

 

 うふふ、かわいい子。おちんぽをあんなにビンビンにしちゃって。ああ、早くおちんぽみるくを飲みたいわ。五日も我慢してしまったのだし。こんなことなら我慢しなければよかったわ。でも我慢させたのは私も同じね。きっとおちんぽみるがいっぱい詰まっているわ。早く出してあげたいけれど我慢させたのだしご褒美をあげてもいいかしら?

 

「私のおっぱいを見たい?」

「! それは……」

「遠慮しなくていいわよ? ちゅっ、正直に言ってご覧なさい? ちゅっ」

「見たいです」

 

 目を反らすことなく真っ直ぐにアルベドを見つめ、真剣な声で答えた。

 

「いいわ。見せてあげる……」

 

 ドレスは上下セパレート。細いストラップを肩から外せば簡単に脱ぐことが出来る。男の目の前に、アルベドの白く美しい乳房がさらけ出された。

 大きいのはもちろん。形が良いのももちろん。見るからに柔らかそうで、白い肌はきめ細やかで、先端にはどのような奇跡がかような色を作り出したのか赤み差す突起が目を引きつけて止まない。

 

「触ってもいいわよ?」

 

 男は感動で言葉もなく、おそるおそる手を伸ばした。ナーベラルの時のように段階を踏む余裕はなく、正面から鷲掴みにした。柔らかさも、張りも、温かさも。指はナーベラルにした時よりも深く乳肉に埋まる。

 

「吸いなさい。ああん♡」

 

 言うや否や吸いつかれた。

 ああ、そんなに強く吸わないで。噛んじゃダメぇ。乳首が立って来ちゃってるのがわかるわ。乳首じんじんする……。ダメダメ、もっと吸って。ちゅうちゅうしてぇ。乳首でこんなに感じちゃうなんて。なんで今日は時間がないの? でもモモンガ様のご命令が。いやぁ乳首がきもちいの。ダメよアルベド、これはご褒美なんだから。今日はそれよりごっくんしないと。

 乳首を吸われながら、アルベドは男の股間に手を伸ばす。逸物はとうに屹立している。握ると肉の熱さを感じた。

 

 余談だがズボンと下着を下ろしたのは男自身。アルベドに任せるとメイドたちの裁縫仕事が増えて若旦那様は特別な嗜好をお持ちでと噂される。前者は兎も角後者はすでに手遅れである。

 

「んっんっあんっ! 今度はこっちよ。んちゅっじゅるちゅっんんっ……ぷはっ。あん♡ すぐにおっぱい吸わないでぇ♡」

 

 先走りの汁があふれてぬるつくおちんぽを扱きながら、おっぱいを揉まれて勃起したピンクの乳首を吸わせる。熱くて固くて大きくてたくましいおちんぽから手を離したくなくて、先走りのおつゆが味わえない。代わりに何度かキスをして、くちゅくちゅと唾液を交換する。

 

「そろそろおちんぽが我慢できないみたいね」

 

 ごっくんするのだからアルベドは男の股間に顔を寄せる。ただし移動したのではなく体の向きを変えた。

 

「はむっ……んっ、んーー。どぴゅってするまであとちょっとね。おちんぽのおつゆも美味しいわ。うふふ、聞こえてるかしら?」

 

 ドレスのスカートはタイトだが、そこは至高の御方々がデザインしたもの。見た目の美しさだけでなく性能も素晴らしい。多少脚を開こうと行動を阻害しない伸縮性がある。だけどもロングだった。裾が床まで届くフロア丈。男の顔を跨ぐのに不足はなくても、男の目も鼻も耳も顔の全てが白い布に覆われた。

 

「もしも聞こえていたらもう少しだけご褒美あげる。……好きなところを触っていいわぁ」

 

 ちゃんと聞こえていたらしい。スカートはタイトだが、太股が丸出しで大きな透間が空いている。男の手は躊躇することなく隙間から入り込んできた。

 スカートが邪魔してるし下からだと位置が悪いのかしら。でもお尻はいっぱい撫でるのね。むにむにされるのも悪くないわ。もしもおまんこまで触られちゃったらくちょくちょになってるのを知られちゃうわ。知られちゃう前におちんぽみるくをごっくんしなくちゃ。太いからお口いっぱい。ごっくんもしたいけどずっとはむはむもしてたいのよ。あっ? そんなところを!

 

「いやん♡ お尻の割れ目撫でないでぇ、うんちの穴さわっちゃだめぇ♡」

 

 甘い声を漏らしながらアルベドは上下に頭を振った。強く吸いつき舌を使うのも忘れない。ああ、おまんこがびしょびしょなの知られちゃう、知られちゃうわ。早く、早くごっくんしないと。

 口だけでなく手も使い、唇で怒張が膨らむのを感じ取って、どぴゅどぴゅっと舌の上に熱い粘液が吐き出された。

 

「んっ……こく、こく……んっ……」

 

 長い射精が終わるまでアルベドは口を離さない。粘塊も混じる搾りたての精液は量が多くて一度の嚥下では飲み干せない。

 精液を飲んでいる間も、尿道に残る僅かな精液をちゅうちゅう吸ってる間も、男の手はアルベドの尻を撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 美味しくて大好きな精液をたっぷり味わったはずなのに、アルベドの顔には不満が刻まれていた。

 

「五日も溜めてたのに量がいつもと同じだったわ。まさかソリュシャンにぴゅっぴゅしたんじゃないでしょうね?」

 

 もしもそうならお仕置き不可避。但しされるのはソリュシャンだけ。非力な男がソリュシャンに襲いかかっても返り討ち確定。ならばソリュシャンがおそったのに決まっている。アルベドの明晰な頭脳は瞬時に真実を探り当てようとしていた。

 

「お恥ずかしいことですが……」

 

 金色の瞳孔が縦に裂ける。

 

「夢精をしてしまいました」

「…………………………ああ」

 

 腰から生える一対の黒翼が力なく垂れた。

 アルベドはサキュバスである。サキュバスは淫魔にして夢魔でもある。夢精への理解は深かった。

 

 

 

 

 

 

 アルベドがナザリックへ帰還する際、男に加えてプレアデスの二人も見送りに立ち合った。

 

「ナーベラル、私の大切なご飯だけれどしばらくお前に貸してあげるわ。人間にしてはまともな男だから言うことをよく聞いてアインズ様からの課題をきちんとこなしなさい」

「……はい。わかりました」

「ソリュシャン」

「はい」

 

 艶やかな唇をソリュシャンの耳に寄せて、

 

(あなたがあの子のおちんぽみるくを摘まみ食いしてたのかと思ったのだけど誤解だったみたいね。疑って悪かったわ)

 

 ソリュシャンは美しい笑みを張り付けたまま一礼した。

 アルベド様はナザリックへお戻りになられた。

 ナーベラルが難しい顔のままお食事部屋を離れ、男はソリュシャンへそっと耳打ちした。

 

 知ってますか? 借りたものには利子がつくんですよ? いずれ返していただきますから。

 

 ソリュシャンは美しい笑みを張り付けたままぷるぷると震え始める。その様はまるで「わたしは悪いスライムじゃなくてよ本当なんだから!」と言わんばかりだった。




ストラス降臨戦周回してファングほらにゃならんのに


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美姫ナーベは修行中

「ともあれ、短い期間になると思いますがよろしくお願いします」

「ふん……アインズ様とアルベド様のお言葉がなければお前のような下等生物の手を取ることなんて絶対にあり得ないわ。よく覚えておきなさい」

「心得てますよ、ナーベさん」

 

 ナーベラルは清らかな乙女がぬめつくナメクジを触ってしまった時の顔で男が差し出す手を取った。

 メキャァ、ギッ!、まあ大変応急処置は私にお任せを、痛みが引いてくけど痺れるような?、うふふ麻痺毒を応用した麻酔ですわ、色々なことが出来るんだね、うふふお任せあれですわ、痛みは引いたしそろそろ治療をお願いしたいのだけど、うふふ、ソリュシャン?、うふふお兄様の血もお肉もとっても美味しいですわ!、ちょ溶けてる溶けてる、ああお兄様お兄様ずっとソリュシャンの中に……、ナーベさんソリュシャンの気付けをお願いします、わかったわライトニングランス!、ピギィ!

 こんなこともあろうかとアインズ様は幾つものポーションを置いていきました。アインズ様は未来をも見通す端倪すべからざる御方。さすがはアインズ様です。

 

「ナーベラル様は戦闘メイド・プレアデスの一員と伺っております。今でこそ冒険者を装っていますが本来の仕事はメイドであるとか」

「その通りよ。お前如きでは決して足を踏みいることが許されないナザリックの第九階層ロイヤルスイートにて至高の御方々へお仕えすることこそ私たちの役目」

「そうですか……」

「なによ」

 

 男は難しい顔をして顎をさすった。もしかしてナーベラル様は、

 

「ドジっ娘メイドですか?」

 

 ナーベラルは静止した。小突けばビキィとひび割れそうである。反対にソリュシャンは美しい笑みを張り付けたままビクンビクンと震え始める。かなり怖い。

 再起動したナーベラルは真っ赤な顔でドジっ娘を否定。ソリュシャンはずっとビクンビクンしていた。

 

 

 

 

 

 

 メイドたちへ冒険者のナーベ様がしばらく御逗留されることを告げ、夕食を挟んで夜。ちなみにメイドたちは現地で雇った者が多数、ナザリックで行儀を習った者が少数。

 男の部屋は開錠(物理)を受けたため施錠不可能。アルベド様のお食事部屋は論外。ソリュシャンお嬢様の寝室も考えられたがナーベ様に逗留していただく客室で行うことになった。行われるのはナーベラルの性感帯開発の一歩手前、兎にも角にもタッチされても手がでないようにすることが先決である。

 

「それでは早速始めましょうか」

 

 昼とは違って薄手のシャツにピッチリしたズボンのナーベラル。その周りを昼と同じように男が一周二周。後ろに回ってお尻をペロッと。ナーベラルはむっと眉間に皺を寄せる。二回目のタッチでむむっとなる。む、むむ、む、むむ。下がった手が拳となるも振り上げられない。昼の訓練で耐性が出来たのか順調である。それなのに物言いがついた。

 

「後ろからだと誰に触られているのか見えませんわ。私も何度か触ったけれどナーベは気づいたかしら?」

「えっ?」

 

 むむっと来たのがソリュシャンタッチ。呆けるナーベラルへ男は微苦笑。提言を受けてナーベラルの前に立った。

 

「おかしなことをしたら殺……ころ……ただじゃおかないわ!」

「ナーベさんの訓練です。お忘れなきよう」

「!!」

 

 殺意たぎる視線を間近で受けて、男はナーベラルに抱きついた。両手はナーベラルの背後へ回り、尻肉を掴むのではなく腰を抱くのでもなく、その中間へ手の平を押し当てた。きゅっと力を入れればナーベラルの体がかすかに跳ねる。手の平の温度がナーベラルへ伝わり、ナーベラルの温度が手の平に伝わってきてから手はゆっくりと下がった。胸の時とは違って最初から無遠慮に尻肉を掴む。ナーベラルの体がかすかに跳ねる。こね回し撫で回し、ナーベラルの視線は強くなる。熱を帯びる。

 尻は胸より遙かに鈍感。撫でた程度では刺激が薄い。代わりに今は抱きしめられてる。暖かい吐息が顔にかかって、ナーベラルは顔をしかめた。射殺すように睨みつけても男の笑みは変わらない。諦めて顔を伏せた。男の胸に顔を預けた。

 

 こんな下等生物に体を触られるなんてお尻を撫でられるなんて、アインズ様のご命令でなければアルベド様のご飯でなければ八つ裂きにしてくれるのに、お尻を撫でられてるだけなのにお尻はくすぐったいだけなのにどうして力が抜けていくの?、きっとおかしな魔法を使ってるなんて卑怯、体が熱いのもきっとそのせい胸がきゅんとするのもきっとそのせい、見苦しい顔じゃないけどこんな近くにあるなんて、誰か誰か助けて、ナーベラルはナーベラルは、!?、おなかにかたいものが押し当てられてる、熱くて固くて大きくて、熱いのはきっとこのせい、こんなよくわからないものを押し当てて、ひゃぁっ!?

 得意とする電撃系の魔法が背筋を貫いた。痛みは皆無でも衝撃は大きく、ナーベラルは背筋を大きく反らせた。

 

「ナーベ様はとっても敏感でいらっしゃるのね。背筋を撫でただけであんなに大きなお声を出して。お兄様に抱きしめられるのがそんなによかったのかしら?」

 

 ソリュシャンはくつくつと嗤い、反射的に距離をとったナーベラルの代わりに男を抱きしめた。

 

「お兄様もいけないお方。ナーベ様を抱きしめてこんなに固くしてしまって」 

 

 男の胸へしなだれかかり、繊手は男の股間へ伸びた。男が着るのは夜着にしているガウン一枚。合わせから中に忍び込み、

 

「さ……さっきから私に当ててたものは何だ!? 一体何を隠している!」

「えっ」

「えっ」

「……二人とも何だその顔は」

 

 そんなつもりはなかろうとも、ナーベラルの甘い吐息と甘い感触、そこへ加えて弾力ある尻肉、顔を赤くして睨みつける様子は可愛らしく、ついには力を抜いて体を預けてくる様子は非常にそそった。ついと言う奴だったのだけど、ソリュシャンに握られる前に力を失ってしまった。

 

「作戦タイムを要求します」

 

 どういうことでしょうか、そんなこと私に言われても私たちはかくあれと創造されたのであって、知識に差があると、そういうことよ、私の手には余るんですが、でもアルベド様のお言葉が。

 本日の訓練は一先ず終了。

 二人が退室するとナーベラルは胸をかき抱いたままその場は崩れ落ちた。赤い顔のままずっと胸を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 男はアルベド様の食餌であるが表面上は高等遊民。食っちゃ寝して時々メイドのお尻をペロッとしていやん若旦那様のエッチ!、と言う毎日。

 それでは流石に暇すぎて日中は読書に勤しんでいる。読んでいるのは帝国の風俗史。慣習・習俗・伝統などをまとめた書籍である。ペラペラと読み進み、数ページ毎に内容を要約して口にする。ソリュシャンに聞かせるためである。ソリュシャンお嬢様は帝国から来たお嬢様というストーリーなのだから知っておくべきだった。

 長椅子の前に書見台を置き、二人は並んで座っている。今日はそこへナーベラルも。男を挟んでソリュシャンの反対側に。冒険者として知っておいて損はない。そんな間も訓練継続。男の手に手を重ね、嫌々ながらに握っている。ナーベ様は力加減があれなのでソフトタッチを覚えるためである。

 始めは手の甲に手の平を重ねるだけ。それが手の平に手の平を重ね合う。指が絡んで握りあい、横目で覗いたソリュシャンお嬢様がはしたなく脚を上げました。

 

「飽きてしまいましたわ」

 

 書見台をどけて、はしたなくもスカートをたくし上げて股を広げ、苦笑する男の膝に乗り上げた。

 

「少し休憩にしましょう? ちゅっ」

 

 男の頬を捉え、紅い唇を合わせた。じゅるじゅると鳴るのは唾をすする音。たっぷり10秒間鳴り響き、顔を離したらサイドテーブルのグラスに手を伸ばす。口に含んで口移しに。そうしてもう一度唾をすする。ナーベラルの驚愕の目に挑発的な笑みで応え何度も何度も唾をすする。

 休憩終了読書再開。

 二人が何もなかったかのように読書を続ける横でナーベラルは赤い顔を俯けていた。

 

 

 

 

 

 

 本格的な訓練は夜になってから。今日は男の寝室で。

 

「ソリュシャンは?」

「ソリュシャン様はセバス様に報告があるとかで先ほど屋敷を離れました。今夜は二人だけです」

 

 呆然と立ち尽くすナーベラルへガウン一枚の男は近付いた。昨日と同じにナーベラルの周りを一周二周。正面から距離を詰め、

 

「ひっ」

 

 左手が背中で右手は前へ。左手が尻を撫で右手は胸に触れる。

 初めては五度で手が出た。今は五度で強ばりが消えた。十度で体のどこかが熱くなり、二十で吐息も熱くなった。昼のソリュシャンを思い出す。何度も何度も唇を合わせていた。キスくらいは知識にある。男の顔が目の前にある。視界に入れても見苦しくはない。笑ってない。真っ直ぐに見詰めてくる。右と左で色が違う。目線を下げれば唇がある。温かい息が顔にかかる。人間だけれどイヤな匂いではなかった。

 ソリュシャンのようにするべきか。視界は男の瞳だけになって熱い吐息が唇を撫でて、ナーベラルは思考を放棄して、

 

「合格よナーベ」

「!?」

 

 ソリュシャンの声で我に返った。

 

「昨日手が出なかったのはソリュシャンがいた影響と思って今夜は席を外してもらったんです」

 

 とは言え不慮の事態に備えて物陰に隠れていた。けしてナーベラルをからかいたかったわけではない。

 

「アインズ様からのご要求は多少のスキンシップを受けても手が出ないようにです。さすがはナーベラル様、たった一日で課題をこなすとはお見事です」

「え……」

「これで美姫ナーベとしてモモン様の元へお戻りになっても何の問題もないでしょう」

「え……」

「ふふふ、よかったわね、ナーベラル」

「……これで……終わり?」

「そうよ。残念かしら?」

「そんなわけないわ。モモン様の元へ戻れるのに喜ばないわけがないでしょう!」

「それもそうよね」

 

 ふふふと嗤う。

 

「でも残念ね。訓練期間はまだ終わってないわ。今戻ってもモモン様にご迷惑をお掛けするだけよ」

 

 与えられた訓練期間は数日あった。その数日の間はモモンなりの予定が詰められている。予定とは予定通りに進むのが一番好ましく、ナーベの都合でモモンの予定を左右するのは許されない。

 

「それにアルベド様のお言葉もあるし、なによりも……」

 

 擬態に張り付けている微笑を取り払い、真剣な顔でナーベラルを見た。

 

「お兄様の熱くて固くて大きいものが何かもわからないなんて姉として恥ずかしいです」

「姉!? 私たちは二人とも三女でしょう!」

「知らないから妹です」

「何を知らないって言うのよ」

「ナニです」

「何って何!?」

 

 言い合う姉妹を尻目に男は嘆息した。出来れば避けたい流れであった。ナーベラルはきっと力加減が不得手なドジっ娘メイド。万一竿をメキャァとか玉をグチャァとかされたらと思うと背筋が凍る。立つものも立たなくなる。しかし拒否権はない。ソリュシャンのお兄様でお屋敷の若旦那様は所詮フェイク。実態はアルベド様のご飯である。




性格上準備会が省けなかったよ


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修行継続 ▽ナーベラル♯2

 ベッドに腰掛けガウンを開く男の前に美女姉妹が陣取った。

 ただの美女ではない。一度返り見れば城が落ち、再び返り見れば国が滅び、三度返り見れば世が傾く傾世の美女である。男であれば垂涎必至の人外魔境。

 

「これが私に当てられていた? 大きさが違うと思うのだけれど? それに下を向いているし」

「これから凄く大きくなるのよ。お兄様ったらお顔はとても整っているのにここはとっても凶悪なの」

 

 ただしメキャァとかグチャァとかの可能性がなければの話である。何かあっても大丈夫。お優しいアインズ様がいくつものポーションを下賜なさってくださった。男はちょっぴり心で泣いた。

 

「ナーベラル、あなたの訓練よ。あなたは力加減が上手でないわ。お兄様に協力してもらって繊細な指使いを覚えなければダメ」

 

 やはりそうなるのか。男は天を仰いだ。

 己の逸物は二人の玩具。何かあってもポーションがある、わあい嬉しい。代われるものなら代わって欲しかったが誰も思い浮かばなかった。唯一知人と言えるのは子犬のような騎士見習い。虫酸が走って小さく舌を打った。

 

「こんな芋虫みたいなものを触る?」

「こんなとは失礼な! 男なら誰しも持ってる男性器です。呼び方は色々ですがちんこと呼ぶことが多いですね」

「ちんこ……」

「はしたないわよ。ちゃんと『お』をつけなさい」

「おちんこ……」

 

 ナーベラルはまじまじと男の股間を覗き込んでいる。うっすら頬が赤いのは合格をもらった試験で受けた愛撫によるものか。

 

「お兄様に痛みを与えることなくおちんちんを刺激して大きくすること。それが次の課題よ。優しく丁寧に触るの。ロイヤルスイートのラウンジでホワイトクリームパフェロワイヤルをスプーンで少しずつ崩すような繊細な手つきで」

 

 美女二人は床の上に座っているが、ふかふかのカーペットと毎日のお掃除のおかげで裸で寝ころんでも問題ない。

 ナーベラルは男の顔と股間へ交互に視線を送り、おそるおそる手を伸ばす。

 

「やわらかい。下の肉袋はふにゃふにゃしてる」

「そこは特に慎重にお願いしますよ。ちなみに金玉とか玉袋を呼びますね」

「玉? 本当。玉のようなものが二つ入ってるわ。ゆで卵よりやわらかい」

 

 冒険者をしているとは到底信じられない美しい二本の指で玉を摘ままれ、男の背筋に冷たい汗が流れた。優しくさわさわとしているのはよくわかるのだがもんのすごくスリリング。おっかなびっくりなので刺激も弱く、立たせるどころではなかった。ソリュシャンは手を出すつもりがないらしく、いつもの美しい笑みを張り付けてナーベラルの悪戦苦闘を見守っている。

 

「……どうすれば?」

 

 ピクリともしない男の逸物にナーベラルは困った顔で問いかけた。

 

「仕方ありませんわね。私が一肌脱ぎますわ」

「ソリュシャン!?」

 

 文字通り一肌脱いだ。ソリュシャンが着ていたのは薄いネグリジェ一枚で、一枚脱げば全裸になる。スタイル抜群でたゆんたゆんのおっぱいを惜しげもなく男へ見せた。

 

「とても綺麗だよ、ソリュシャン。君ほど美しい女性はアルベド様を除けばそうはいないだろう。胸もとても大きいし。…………でも見飽きた」

「その言い方はないんじゃありませんか!? いくらお兄様でも言っていいことと悪いことがございますのよ!」

「一日何回裸を見せる?」

「うっ」

「目に楽しいのは確かだけどね、希少性と言うものがだね。いつものドレスも露出が激しいし」

 

 肉を持つ女性ならまだしも思うところがあったろうがソリュシャンはショゴスであり美しい姿は擬態。姿形こそ美しいが内部は粘液。そして日に何度も裸を見せられる。風呂にはいる時はついてきてソリュシャン風呂になる。眠るときもベッドに忍び込んで絡みついてくる。視覚で興奮できるのは唯一トイレ時のみ。全裸のソリュシャンがペタンと床に座って上を向き、口を大きく開く。こぼさないように手は口の前で皿を作り、そこ目掛けて放尿する。小便がソリュシャンの美しい顔に降り注ぎ、口へ溜まっていく様子は倒錯的な嗜虐欲を刺激した。

 ソリュシャンは人間の丸呑みが大好きで体の中で生きながら溶かし苦痛の叫びを楽しむ残虐スライムだが、だからこそなのかソフトMの資質があった。アルベド様が扉を開いてしまったのだ。

 

「ナーベラル!」

「きゃっ!? 何するの!」

 

 理不尽な仕打ちである。ソリュシャンはナーベラルの服を下着諸共はぎ取った。ナーベラルは手練れなのだが変幻自在のスライムには分が悪い。

 脚を閉じて胸を抱く。冒険者姿もメイド姿も露出は皆無の服装で、肌を晒すことになれてない。恥ずかしがる様はとても初々しい。

 スライムではないのにぷるぷる震えるナーベラルに、ソリュシャンは焦れったいと言わんばかりに腕をとる。いささか可哀想だが姉妹のこと。それ以前に力で敵うわけがない。

 ナーベラルの裸身は美しかった。ソリュシャンに比べれば控えめに見えるおっぱいだが、ナーベラルのおっぱいを見ればソリュシャンは大きすぎる。さわり心地も抜群のいいおっぱい。腰は折れそうなほど細くて股間には陰毛が僅かに見えた。

 ちゃんとしなさいと捉えた手は男の逸物へ。ぴくりぴくりと血が通い、少しだけ大きくなった。優しく握って扱きなさいと言われてその通りに。痛みを与えないよう慎重に、男の顔を伺いながら逸物を扱く。段々太くなり長くなり、握る手にソリュシャンの手が重ねられた。きゅっと強く握られて、力加減を教えられたと知った。

 

「痛くはない?」

「大丈夫です。そのまま続けて」

「……わかったわ」

 

 美しい笑みを淫蕩に崩したソリュシャンが見守る中、ナーベラルは頬こそ赤いが真剣な顔で逸物を扱き続ける。手の中で熱く固くなっていくのを感じている。

 どうして私が人間の男のこんな汚らわしくて悍ましいおちんこを握っているの、私のおっぱいをイヤらしい目で見てホントいやらしい、少しくらい見た目が良くて他の下等生物よりましかも知れないけどいやらしい、それなのにソリュシャンはどうしてあんなに楽しそうなのかしら、おちんこがそんなにいいの?、昼もいっぱいキスをして何がいいのかしら、アルベド様のお気に入りと言うのだからまだまともな男なのでしょうけど、それにしてもあまり固くならないわね、昨日私に押しつけてきたときはあんなに熱くて固くなっていたのに。

 

 真剣な表情の中に若干の焦燥が見え隠れするのを男は見た。

 二人の美女の裸身を見て、内一人から逸物を扱かれていると言うのに未だ半立ち状態。男というものはおっぱいをチラ見したりちんちんをさわさわされたりすれば簡単におっきしてしまう単純な生き物、と同時にとってもデリケートな生き物でもある。抵抗不可の絶対強者が相手というのは今更だが、ナーベラルの手技は拙いしくちゅくちゅではなくクチヤァの幻視が消えてくれない。しかしこのままではナーベラルが思いも寄らない手段に出るやも知れぬ。課題未達で自信を失い、生真面目優等生ちゃんのナーベラルは落ち込んでしまうかも知れない。それは望む未来ではない。大きくしなければならない。

 

 アルベド様、どうか私にお力を!

 

 目を閉じて天を仰ぎ、アルベドの美貌を思い起こした。美の化身としか言いようがない整った顔。メリハリの効いた体に極上おっぱい。乳首の美しさは言葉に尽くせぬ。舌で味わった唇の感触。飲まされた甘露。脳髄を痺れさせる甘い声。そしてなによりも逸物へ与えられた至高の快楽。

 

「あっ!」

 

 ナーベラルが喜色も露わに声を上げる。手の中のおちんこが一層熱く固くなり、太さも長さも増しながらへそに届くほど反り返った。

 

「良くできたわね、これで今日の課題はお仕舞い。あとは私に任せて」

 

 邪魔とばかりにナーベラルを押しのけ、ソリュシャンが男の前に。そそり立った逸物を口に咥えた。

 静かな部屋でじゅるじゅるちゅるちゅると粘着質な水音が響くこと数分。男が小さな声で呻き耐えるように目をきつく閉じた。

 男の股間から顔を上げたソリュシャンは満足そうに微笑んで、とっても美味しかったですわ。抱きついてキスの雨を降らせる。唾液をすすってソリュシャン汁を飲ませてベッドに押し倒し、ナーベラルの視線に気がついた。

 

「まだいたの?」

 

 ナーベラルは頬を張られたお嬢様が床に倒れ伏すポーズで呆然とソリュシャンのすることを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 ソリュシャンはお仕置きのリスクも顧みず、借りが増えて利息で膨らむのもいとわず、摘まみ食いを止めなかった。先日アルベドが訪れるまで毎日していたのだから急に止められるものではない。しかし今回はソリュシャンの中ではセーフ。課題の一環でナーベラルがおっきさせました。私が辛そうなお兄様をお慰めしました。以上、完璧な言い訳である。

 どこまで搾り取れるかも把握済み。朝起きてベッドの中で、日に数度立つおトイレで、ソリュシャン風呂で、再びベッドの中で。男としても気持ちいいし、こちらを与えておけば満足するようでうっかり溶かされてヒリヒリすることもなくなる。win-winである。

 ちなみに搾取とは一方的ではなく双方の合意によって成り立つものであり、暴力を背景として一方的なものは収奪と呼ぶ。ナザリック第10階層にある最古図書館の最奥の書架に眠る社会の教科書に書いてある。本当である。

 

 

 

 

 

 

 日中は昨日と同じように長椅子に仲良く並んで座ってお勉強。ナーベラルにとっては兎も角残り二人にとってはちゃんとしたお仕事なので真面目にこなす。ノルマは一日三冊。得た情報はソリュシャンが文書にまとめてきちんと報告。そこまで男にさせたかったけど神聖文字未修得なので断念残念。

 読書中も一段落つく毎にソリュシャンは男の膝に乗ってちゅっちゅと飽きない。ナーベラルと手を握り合ってるというのに。

 

 ナーベ様がじっと見ていらっしゃいますわ、隣でこんなことをされればね、もしかしてキスしてみたいのかしら、それはないだろう、どうして?、人間全体がお嫌いなようだからね、でも私はあなたとキスするの好きよ、食欲的な意味で?、食欲的な意味で、ナーベラル様にそのような嗜好はないでしょう、なくても訓練の一環になるわ、と言うと?、ナーベラルは不意を突かれると慌てる癖があるのそこも矯正しないと、モモン様はそこまで求めていませんでしたが、求められた以上の成果を出すのはシモベとして当然よ、左様でそれにしてもあなたはプレアデスのソリュシャン様なのか商家のソリュシャンお嬢様なのかブレが激しいですね、うるさいわね早くやりなさい、何かあったら骨を拾ってください、バカ言わないで髄まですするわ。

 

 小声とは言えすぐ隣で且つ聴覚は鋭いナーベラルだが、心は何処へ飛んでいるのか二人の内緒話が耳に入らない。

 男は数分後の未来を幻視して嘆息し、ソリュシャンお嬢様は美しい笑みをたたえながら隣に座り直した。男はナーベラルの方を見て軽く首を傾げる。

 

「ナーベ様、シャツの襟に糸くずがありますよ。取りますので少しじっとしていてください」

「そ、そう?」

「まつげにもゴミが。目も閉じてください」

「……早くしなさい」

「かしこまりました」

 

 襟へ伸びた手は肩をつかみ、目を閉じるナーベラルへ唇を重ねた。

 驚愕に見開かれる瞳。映るのは左右で色の違う瞳。唇を柔らかな何かが割って入る。口は閉じても歯まで閉じていなかったのが災いしてぬめる肉が口内に忍び込む。口を閉じることは出来ず、反対に口を開いてしまって更なる侵入を許し、舌に触れる肉が男の舌であることにやっと気付いた。唇を合わせている。キスをしている。舌を入れられている。何が起こっているのか把握すると同時に茹だる頭。

 ほんの数秒を十数回繰り返すほどの時間。舌の表も裏も、唇の裏側も、口内の粘膜全てを男の舌が舐め回してから唇が離れた。二人の唇を細く光る糸が繋ぎ、千切れた。

 それから数秒が数回。ナーベラルが再起動した。

 

「この口吸い虫がーーーーーーっ!!」

 

 正統派ツンデレヒロインの如き理不尽な暴力が男を襲う。

 

 ちなみに口吸いはチュウと読み虫もチュウと読む。

 飛び散った鮮血はソリュシャンがキレイキレイしてポーションの出番となりました。




なーちゃんが真面目に修行するのでおわりませんでした


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ナーベラルは大変なものを ▽ナーベラル♯3

 そして迎える再度の夜。繊細な手付きは昨日修得したので今夜は初心に返ります。アルベド様のお言葉を無下には出来ないのです。

 

「ふう……はぁ……はふぅ……」

 

 噛み殺そうとして殺しきれない声はナーベラル。今夜は床上ではなくベッドの上に座っている。その後ろに男が。さらに後ろにソリュシャンが。それぞれ前にいる者を抱きしめている。

 ソリュシャンは男の胸を撫で案外引き締まっている腹を撫で下腹に行きたいところだがそこから先はナーベラルの尻に押しつけられている。

 男の手はナーベラルの胸に。美乳をわし掴みにして柔らかさを楽しんでいる。

 

「あっ! ……乳首、つままないで……」

 

 ソリュシャンは何も着ていない。男もガウンを脱いでいる。ナーベラルは飾り気皆無の白いパンツだけを履いている。

 その状態でかれこれ一時間。ナーベラルは胸だけを責められる。乳首はとっくに勃起して何度も何度も摘ままれて、その度に殺しきれない声を漏らす。

 

「とても触り心地がいい乳首ですよ。固くなってるから摘まみやすいです。摘まむだけじゃなくて口にも含みたくなる」

「お兄さまぁ、それじゃあ私のおっぱいは?」

「枕にはいいけどちょっと柔らかすぎて」

「こう言うときは嘘でも誉めるのが礼儀でしてよ? ちゅっ」

 

 軽口を叩き合い振り向かせてキスをする。ナーベラルが最早聞き慣れてしまったじゅるじゅると響く水音。キスの最中だけは男の手が止まる。ナーベラルは荒い息を落ち着かせて肩越しに背後を覗き見る。

 二人がキスをしている。唇を合わせて舌が絡み合っている。どんなものかは想像できる。自分もしてしまったのだから。

 

「ナーベ様が物欲しそうなイヤらしい目で見ていますわ」

「べっ……別にそんなつもりは……」

 

 板挟みと言う奴である。アルベド様のご飯と言う例外的な立場であってもヒエラルキー的には三者の中で一番下。お二人は同格のプレアデス。けどもどちらをとるかは決まっている。

 

「んんっ、やめ……」

 

 ナーベラルの唇を奪った。嫌なら前を向けばよい。両手は胸を掴んでいる。

 

 ああ私はどうしてしまったというの、おっぱいをいじられて乳首をいじめられてそれなのに、キスまでされて舌まで入ってきて汚い唾まで入ってくる、いやなのにいやなのに男の手がおっぱいから離れない乳首もくりくりされて触られるだけでピリピリするのにそんなにされると、触られたくないのに触って欲しい、触るだけじゃなくて口に含むだなんて、ちゅうの時に入ってくる舌でれろれろされてしまうの?、どうなってしまうの?、私はどうなってしまったの?、どうしておなかの奥が熱くなるの?、ああおっぱいもおなかもキュンと来ちゃう、きっと熱いのを押しつけられてるせい、おちんこが固くなってずっとお尻にぶつかってる、おちんこを昨日みたいにしこしこしなければならないの?、ソリュシャンみたいにお口でするの?

 

 ナーベラルが聴覚に優れていればソリュシャンは嗅覚に優れている。閉じた部屋にナーベラルの匂いが濃くなっていくのを捉えた。ナーベラルの雌の臭い。ナーベラルの擬態は人間そのもので嘘偽りなくナーベラル自身と言ってよい。そのナーベラルの雌の臭い。発情した女の臭い。欲情して体が男を求めている。

 白いパンツの股間に大きな染みを作っているのを、ナーベラルはまだ気付いていない。ソリュシャンも気付かせるつもりはない。気付かせたら大好きなお兄様のおちんちんのみるくが取られてしまう。

 

「お兄様、そろそろお辛いでしょう? 私がお慰めしますわ」

「あ……」

 

 残念そうな声はナーベラル。ソリュシャンは男をナーベラルから引き剥がし、ベッドに転がせた。股間の怒張だけが雄々しく天を向いている。

 食欲で美しい笑みを深め、今日はお口がいいかしらおまんこがいいかしらそれともお尻の穴?

 皮膚上のどこからでも吸収できるが、体表に空いた穴からの方が効率がいい。与える刺激はどこでも同じの変幻自在。どうすればいっぱいみるくを出してもらえるか。どうするとお兄様は興奮するのか。ナーベラルの目の毒にならないよう今日も大人しめにお口を使って、

 

「きゃっ?」

 

 不意に突き飛ばされた。下手人はナーベラル。茹だりきった真っ赤な顔で、だけども瞳は真剣そのもの。

 

「今日は私がする」

 

 返事を待たず、男の股間に顔を埋める。

 

「歯はけして立てないように。全体に吸いつくようにして舌の動きも意識して」

 

 咄嗟に男が作法を伝授。まかり間違って歯と歯がカチンとなったらポーションが活躍しても今夜は役に立たないだろう。

 ナーベラルは目で応え、傾世の美貌を彩る美しい唇で膨れ上がった男の亀頭を口に含んだ。

 やり方は知らない。昨日ソリュシャンがしているのを見てしまっただけ。だから一息に根本まで咥え込む。亀頭が喉奥を突いても苦しむほど柔な体ではない。言われたとおりに強く吸いつき、逸物の熱を舌で感じる。

 変な味、汗でしょっぱい?、少しぬるぬるする、熱くておおきい、おちんこの臭いがする、臭くはないけど、嗅いでいたくないわけではないけど、おなかがキュンとするのはどうして?

 

「じゅっじゅっじゅる、んっ♡ ちゅっ……」

 

 ソリュシャンは根本まで咥えた後、内部の粘膜を操作して刺激を送るがそれはソリュシャンにしか出来ない技。しばらく咥えたままだったが手で扱いたことを思い出し、吸いつきながら頭を上下に振り始める。真面目で優等生なナーベラルは優秀だった。

 

「はむっ……んっ、ちゅ、ちゅる、じゅる、あん♡ ちゅっ、乳首だめぇ……ちゅうぅ」

 

 体を起こし、ナーベラルの身体の下に手を差し込む。立たせっぱなしの乳首を摘まむと、何かの枷が外れたものか素直に甘い声で鳴く。頭を撫でると吸いつきは強いままで動きが大人しくなる。もっと撫でろと言うように。

 おちんこからぬるぬるのおつゆがいっぱい出てくる、わたしこんなの舐めちゃってる、撫でられるのが気持ちいい、乳首ももっと摘まんで欲しい、おなかが熱い、おちんこを舐めると熱くなるの?

 

 一生懸命で真面目に取り組んでもナーベラルの舌技は拙い。言うまでもなくアルベド様とは比べるべくもない。そしてアルベド様ほど遠慮する理由はない。深くなるのに合わせて腰を浮かし、喉奥まで突く。驚いたのか苦しいのか、少しだけ呻くも口は逸物から離れない。艶やかな髪を撫で、両手で頭を押さえつける。上目遣いで問われるが抵抗はない。ゆっくりと頭を押しつけ、ゆっくりと持ち上げる。以心伝心、何をするのかわかったらしい。ナーベラルは強く吸いつきながらも力を抜いた。ナーベラルの頭を上下に振り始めた。

 

「んっんっんっじゅっんんっ!」

 

 喉の奥から声が漏れる。苦しそうな様子はない。逸物に熱が集まり、射精が近いことを知った。

 

「っ、出すぞ!」

 

 ナーベラルには何が起こるのかわからない。出すというのだからおちんこから何かが出るのか。何があろうと受け入れるしかない。

 どぴゅっどぴゅっ、ぴゅっぴゅる。

 喉奥から僅かに引き抜き、亀頭をナーベラルの柔らかな舌に包まれながら射精する。口から引き抜いても射精は終わらず、ナーベラルの美貌を熱く粘ついた精液が汚した。

 

「なによこれ? ねとねとする。おちんこから出てきたの?」

 

 口内に吐き出された汁は飲み込んで、顔を汚す粘液に手で触れる。唾よりも遙かに粘りけが強く、指と指の間で糸を引く。ゼリー状の白い粘塊が指先に乗って、口に含んだ。

 

「ああっ!? お兄さまのおちんちんみるくがぁっ! ナーベラル飲んじゃったの!?」

「……飲んだけど」

「私が飲みたかったのにぃ!」

「ちょっ、ソリュシャン!」

 

 ソリュシャンがナーベラルに襲いかかる。目当ては顔と手を汚す白い粘液。口を付けて一滴も逃がさずと全力で吸収。何が何やらのナーベラルは適度に抵抗。突如始まる美女姉妹によるキャットファイト。

 とても素晴らしい光景なのだが、男は深い息を吐いてベッドに倒れ込んだ。

 現在は賢者にジョブチェンジ中である。

 

 

 

 

 

 

 翌日は早くも最終日。ナーベラルの修行期間は今日までで、明日になれば美姫ナーベとして出立する。

 ちょっとお触りされても反射的に手が出ない。繊細な力使いを修得。不意を打たれても慌てない。完璧である。

 本日は訓練をすることなくナーベ様にはゆっくりと心身を休めていただくことになりました。

 

 夜はちょっとした送別会。ナザリックから送られてきた超高級な食材をふんだんに使ったご馳走です。お酒もいつもよりちょっと多目に。

 なお、送られてきた食材には精力増強効果のあるものが多く含まれているのは手配したアルベド様だけが知る真実です。

 

 その夜半。男は月を肴に寝酒を楽しむ。

 珍しいことにソリュシャンは忍んでこなかった。本日の摘まみ食いも一度だけで、その理由がわかる男としてはソリュシャンの現金さに笑うしかない。

 夜も深くなってメイドたちも眠りにつく。屋敷全体が静まり返り、そろそろ寝ようかと言うときにドアが小さく叩かれた。

 

「ナーベラル様?」

 

 入ってきたのはナーベラル。灯りは落としたので顔は見えない。

 

「どうされました?」

 

 訓練は全て終え、今のナーベラルはナーベではなくナーベラル・ガンマ様。

 何も言わず、男の胸を押す。力は強く、押されるままに後ろへさがる。足を取られて倒れ込んだのはベッドの上。男の上にのしかかった。

 

「あなたはアルベド様が仰ったことを忘れたの?」

「忘れるわけがありません」

「いいえ、忘れてるわ」

「……何をでしょうか?」

「おまんこにしないとナーベラルが可哀想。あなたは私を可哀想な扱いにするつもり?」

「それは……」

 

 女の悦びとおまんこが結びついて、ソリュシャンがいない二人きりだと行き着くところはただ一つ。

 ソリュシャンのように匂いを感じ取ったわけではないが、無抵抗で胸を揉まれ、甘い声を漏らして唇をねだる。自分から積極的に口淫を行う、これらから推論を立てるのは容易い。

 ナーベラルは素直で真面目で表情豊かで、ソリュシャンよりもずっと魅力を感じる。痛い思いを何度かさせられたが。

 しかし、今、そこから進めることは出来ない。

 

「出来ません」

「……何故?」

「ナーベラル様はアインズ様からのご命令で訓練を受けました。目的はすでに達しています。これ以上は必要ありません」

「…………そう」

「ですが、もしもこれ以上と仰るなら、その時はご命令とは関係なくお越しください」

「…………」

「お待ちしています」

 

 ナーベラルは無言で一瞬だけ唇を合わせ、立ち上がった。

 

「邪魔したわね」

 

 そして静かに退室した。

 残された男は軽く息を吐く。ナーベラルに求められて嬉しくないわけがないのだが今日だけは不味い。明日はアルベド様がお越しになるのだ。量が少ないとか薄いとか言われたら。それを見越してソリュシャンは一度にとどめた。

 アルベド様のお仕置きは恐ろしくないが、見放されるのは恐ろしい。

 お目こぼしには限度があると弁えなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

「ナーベラル・ガンマ、御身の前に。訓練を終えただいま帰還いたしました」

「ご苦労だったな、ナーベラルよ。訓練の成果はどうだ?」

「ソリュシャンの協力とアルベド様の助言がありつつがなく完了いたしました」

「そうか。ならば再び漆黒のナーベとしてつき従え」

「仰せのままに。ですが、ナーベとなる前に一つだけ申し上げたいことがございます」

「ほう? なんだ? 申してみよ」

「では……、ナーベラルはドジっ娘メイドではありません!」

「………………そうだな。メイドとしてよく働いているのを知っているぞ」

「恐れ入ります」

「さて、早速で悪いんだが私は少しだけあれがあれな所用がある。すぐに追いつくから先に冒険者組合に行っていてくれ」

「かしこまりました」

 

 ナーベラル退場。アインズ肩を震わす。

 

(うおお、今のはやばかった。感情抑制がなかったら吹き出すところだった。誰だドジっ娘メイドなんて吹き込んだのはぴったりじゃないか!)

 

 深呼吸出来るわけではないが数秒視界を閉じて心を落ち着ける。

 虚空から取り出したのは大きな鏡。映るのは今まさに冒険者組合の扉を開いたナーベラル。遠く離れた場所の映像を映し出すマジックアイテムである。遠隔視可能だが音声は聞き取れない。

 ロビーの片隅に佇むナーベラルの後ろ姿。その背後から如何にも柄が悪い男が近付く。おもむろにペロッとタッチ。

 漆黒の英雄モモンのパートナーである美姫ナーベにちょっかいを出そうというバカは滅多にいない。前回はたまたま流れてきたばかりの余所者だった。しかし折角訓練を終えたというのだから試したくもなる。ナーベラルに絡んでいるのはアインズ様が第三者を幾人も経由して雇った与太者である。

 映像の中のナーベラルはお尻をさわさわされているのに微動だにしない。

 

(どうしたんだナーベラル! 確かに手は出ないようにと言ったがそれは無抵抗で受け入れろって意味じゃないぞ!)

 

 

 

 

 

 

 ナーベラルは、はあと憂いのこもった息を吐いた。

 ナーベラルは傾世の美女である。美姫との称号はけっして過分ではない。そのナーベラルが憂いの表情で深い息を吐く。

 美しいだけでなく、香り立つ色香がある。男も女も、ナーベラルの姿を盗み見た者はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

(アインズ様のお側に侍ることは至上の喜び。そこに一片たりとも偽りはない。この身を包む歓喜は心よりのもの。なのにどうして何が足りないというの? 私は何が物足りないと思っているの? アインズ様のお側に侍る喜び、シモベなら誰もが羨んで止まない立場。それなのにこれ以上何が欲しいと言うの!? 私はそんなに欲深になったと言うの? 私はいったいどうしてしまったというの……)

 

 もう一度はあと息を吐く。

 物思いに耽っていたからか、尻に何かが触れているのに気が付かなかった。

 振り向けば下卑た男。

 

 ヨウヨウ姉チャン美人サンダナオイサンノテクハ凄カッタダロヒイヒイ言ワセテ……

 

 男を貫く視線に怒りはない。侮蔑も嫌悪も何もない。あるのは徹底的な無関心。視界に偶々入った路傍の石ころを見るが如き。

 怯んだ男へナーベラルは言った。

 

「ヘタクソ」

 

 男は完全に固まった。小突けばグシャアと崩れそう。

 

「ヘタクソな上にそんな粗チンのお前が男でいる価値はないわ。死になさい」

 

 視線を男から外し、物思いに耽り始める。既に男のことは綺麗に忘れていた。

 

 男の男は死んだ。死ぬまで立つことはなかった。

 

 なお、あれな言葉はソリュシャンとのガールズトークで仕入れました。ソリュシャンは姉妹がアインズ様のご迷惑とならないよう蛮人のあしらい方を教えていたのです。

 ソリュシャンは隙あらば全力で煽るスタイルで保身のためなら姉妹を巻き込むことをいとわない悪いスライムですが、姉妹愛は本物です。

 遠く離れていてもプレアデスは仲良しです。




次回の登場完全未定!
全てはアルベド様が優先されます
ちなみにストラス周回終了ファングはあと100個くらい


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食事ならず或いは初めての敗北 ▽アルベド♯4

 その日、アルベドは朝から機嫌が良かった。

 ナーベラルの特別訓練が終了したのであちらの時間や都合を気にすることなく美味しいご飯を食べることが出来るのだ。一日の終わりにご褒美のごとく特別なご馳走が待っているのだから機嫌も良くなろうというものである。前回とは違って休日ではないが、そこは優秀なアルベドのこと。どんなに忙しかろうとも2・3時間くらい作ることは不可能ではない。

 中にはそうして作った時間に新たな仕事をねじ込み、さらには第10位階魔法タイム・ストップまで駆使して一日30時間の矛盾を可能とする悪魔もいる。目を爛々と輝かせて一日30時間労働を嬉々として続ける配下へ寛大にして心優しい慈愛のアインズ様が「もういい…! もう…休めっ…! 休め…っ!」と嘆かれたのはナザリックの全シモベを感動と感涙の嵐に叩き込んだ。

 思えばそこから始まった。

 時は王都を舞台にしたゲヘナ作戦の直前。王国にて知謀を隠していた王女が目に留まり、言葉を交わす価値があると判断された。担当者は強制休暇。頭脳労働が可能であるアルベドに回ってきた。王女の頭の出来は人間にしてはそれなり。それよりもアルベドは王女から漂う得も言われぬ芳香に注意が向いた。時間を伝えておいたので身を清めてから対談に臨んだのだろうがサキュバスであるアルベドの鼻は誤魔化されなかった。

 

 精臭。

 女ではない男の臭い。この匂いは一体誰から。

 

 探りを入れ、男を見つけ、火傷を癒し、忠誠を得た。

 

 

 

 

 

 

「何かお飲物をご用意いたしましょうか?」

「そうね。適当に用意しなさい」

「かしこまりました」

 

 エ・ランテルにあるお屋敷のお食事部屋。薄明かりの中にはアルベドと男の二人。

 寝台ではなく座り心地も寝心地も抜群の長椅子にアルベドは腰掛けている。腰から生える一対の黒翼を邪魔しないよう椅子には背もたれがない。

 男はてきぱきと手際よく給仕を担う。数本のボトルから無色の液体をグラスへ注ぎ、瑞々しい黄色い果実を絞って細長いスプーンで一混ぜ。

 恭しく差し出されたグラスを受け取り一口二口。

 

「薄いし単純な味ね。でも悪くはないわ」

「光栄です」

 

 ナザリックで飲食し天上の美酒を知るアルベドを満足させる酒はこの世にない。なので素材の味で勝負。雑味を極力排除したシンプルなカクテルである。ちなみにベースは屋敷内で蒸留と濾過を何度も繰り返したオリジナルの蒸留酒。ボトルに布切れを差し込んで火をつければ火炎瓶に早変わり。

 三度口を付けたアルベドは、こうして気分を高めていくのも悪くないわね、と思った。数日振りのお食事なので早く味わいたいがじっくり楽しみたくもある。今日はじっくりの日でそのために時間を作った。

 数日空いてしまったのはアインズ様からのご命令で男はナーベラルに掛かり切りで手が放せなかった。これは仕方ない。

 しかし前々回と前回の間に五日も空いたのはアルベドの都合、と言うより気分、と言うより自己嫌悪と羞恥とアイデンティティがその他諸々であった。

 

 アルベドはサキュバスである。サキュバスの食事とくれば吸精に決まってる。食事なので口から摂取していたが、ソリュシャンがおちんぽみるくを何処から飲むのかを見て自分が何者かを改めて自覚すると同時にどうしてそうしてこなかったのかと激しく自己嫌悪やら己の無様が恥ずかしかったやら。

 もう一つの口からとるのがサキュバス的に正当な作法。つまりは体を交わす。そこへ何の抵抗もない。

 アルベドはサキュバスである。サキュバスとは淫魔である。淫魔に貞操観念と言うものは存在しない。例えるなら貞操観念を口にするサキュバスとは、土中で生まれ一生を土中で過ごすモグラが空を眺めて「今日は南風が軽やかにイケてるぞ。絶好のファーナエイ日和だぜ。アゼルリシア山脈までひとっ飛びさ!」と言うくらいあり得ない。そもそもお前は飛べねーだろ。空飛ぶモグラは最早モグラではない、別の何かである。貞操観念を口にするサキュバスも同様にサキュバスではない。そしてアルベドはサキュバスである。

 とは言え好みはある。誰彼かまわずのゲテモノ食いは御免なのだ。

 だけども美味しい男を見つけてしまった。

 

 アルベドはグラスの中身を半分ほど残し、

 

「隣に座りなさい」

 

 

 

 

 

 

「隣に座れとはこういうことよ」

 

 一人分の空いた隙間はアルベドから詰めた。アルベド様のすぐお隣にだなんて何と不敬、との思いはなきにしもあらずだがアルベド様の翼に触れないための配慮である。

 アルベドは翼を大きく広げ内側に男を座らせる。隣り合って座り、肩も太股も触れている。

 

「あら、折角のお酒をこぼしちゃったわ。勿体ないからお前が飲みなさい」

「かしこまりました」

 

 左腕で両の乳房を下から抱いて深い谷間を作り、そこへグラスを傾けた。おっぱいの谷間に無色の酒が溜まる。アルベドの乳圧は一滴たりともこぼさない。

 

「じゅるじゅるすするのははしたないわ。舐めとりなさい」

「はい」

 

 男が胸に顔を埋め、そこからピチャピチャと響いてくる。

 華奢なグラスで半分はアルベドが飲み干している。おっぱい酒はたちまち飲み干された。それでも男の顔は離れない。れろれろとアルベドの柔肌を舐め回す。アルベドが谷間を作っていた手で優しく男の頭を抱いて言葉を用いず続けろと命令する。右手は男の髪を撫でる。銀色の髪は久しく会わない妹を思い出させた。

 

「うふふ、私のおっぱいがそんなに好きなの?」

 

 言葉はなく、強い吸いつきとドレスの裾から忍び込む手が答え。おっぱいを両手で包まれて揉みしだかれながら伸ばした指先で乳首をこすられる。あっという間に勃起してドレスの上からでも自己主張するに違いない。ドレスを少しだけずり下げれば案の定。白いおっぱいで痛々しいほど真っ赤に膨れた乳首が顔を出す。

 

「ああ、私の乳首がこんなに腫れちゃってるわ。ちくびかわいそう……。お前が舐めて癒しなさい。あん♡」

 

 尖った乳首をれろりと舐める。勃起乳首はぬるりと逃げる。もう一度舐める。赤い乳首は唾は塗れて妖しく光った。

 

「いやん、そんなに私の乳首ちゅっちゅして……、そんなにおいしいの?」

「もちろんです! アルベド様以上の乳首は世界に存在しません」

「それなら仕方ないわね。私のおっぱいを好きなだけちゅうちゅうしていいわよぉ? あはっ♡」

 

 優しく男の頭を抱き、髪を撫でてやる。抱く力が弱まるとちゃんと心得ていて乳首から唇へ。じゅるじゅると唾を交換し、れろれろと舌で舐め合う。

 

(乳首ピリピリするぅ。お腹がキュンキュンきて子宮が疼いちゃってるわぁ。それなのにどうして私は今までおちんぽみるくををお口で飲んでいたのかしら、ちゃんとおまんこで吸い取ってあげないといけないのに。この子ったらおちんぽギンギンにするくせにおまんこには入れたがらないのよね。あの女には何回も入れてじゅぽじゅぽしてたのに。でもあんな乳臭い小娘のおまんこじゃなくて私のおまんこでちゃあんと全部食べてあげるわ。うふふ、私のおっぱいであんなにおちんぽを固くして。食べて欲しいんでしょ? 私のおまんこも食べたがってるわ♡)

 

「そろそろ食事にするわ」

「かしこまりました」

「あら?」

 

 男はアルベドの膝裏と背中に腕を通し、軽々と抱き上げた。

 

「意外と力があるのね」

 

 アルベドは女性としてはやや背が高いかも知れないが見た目より重いと言ったことはない。見た目通りの体重である。それなりに体を絞っていれば抱き上げるのは問題ない。金属鎧フル装備だと絶対不可能だが。

 

「アルベド様を煩わせないよう鍛えております」

「いい子ね、偉いわ」

 

 首に腕を回してちゅっと頬へ。

 ここでもしもアルベド様には及びませんとか言おうものなら某吸血鬼による揶揄を思い出してご機嫌が急転直下、秘技エネマにより強制的に搾り取られる未来が待っていたがそんなことにはならなかった。

 

 天蓋の紗はアルベドが開き、二人は閉じた世界に踏み入った。

 寝台の上にゆっくりとアルベドを下ろす。腰の翼が下になるが、その程度は何の負担にもならない。むしろバトルアックスで斬りつけても羽一枚散らすことはないのは余談である。

 

「脱がせなさい」

「はい」

 

 ドレスの裾に手をかけずり上げていく。脱がしやすいようにアルベドは万歳と手を上げる。ほどなく白いドレスの上衣が脱がされ、美の化身たるアルベドの裸身が男の前に現れた。

 仰向けなので柔らかな乳房が緩くつぶれ、けどもだらしなく開くことはない。たぷんたぷんの綺麗なおっぱいを美しい乳首が彩る。

 男は小さく喉を鳴らした。

 

「脱がせなさいと言ったでしょう?」

「……!? それは……」

「早くしなさい」

 

 妖艶に笑って指をしゃぶり、糸を引いて垂れる唾を乳首に塗りつける。自分の乳房を自分で揉んで、尖った乳首をこねくり回す。

 男の手がスカートに掛かったので軽く腰を浮かせてやる。滑らかな肌触りのスカートは抵抗なくするりと脱がされた。

 白くてむちむちとして光を放つような艶めかしい太股。その付け根には光沢ある黒い布。生地面積はとても小さくて繊細な刺繍が幾つも施されている。

 

「それも、よ」

「……はい」

 

 脱がしやすいように脚を閉じ腰を浮かせ、エッチなパンツが太股を膝を足首まで抜け男の手に収まった。脱がしたてなので温かい。湿り気がある。広げてどこがどう湿っているのか確かめたかったがアルベド様を疎かにしてはならない。未練を断ち切るようにパンツからアルベドへ視線を戻せば、一糸まとわぬ美の化身。

 膝を立て脚を大きく開いているのでアルベドの全てを見ることが出来た。

 形よいへそ。白くまぶしい下腹。黒い陰毛は丁寧にカットされて整えられている。そのさらに下。アルベドは両手を使って広げた。

 

「どお? 私のおまんこ……きれい?」

 

 男の目は釘付けになってバカのようにコクコク頷いた。

 

(うふふ、サキュバスなのに一回も使ったことない新品おまんこだって知られちゃったら恥ずかしいけどあの様子だと大丈夫みたいね。あんなにじっと見てる。私のおまんこ見られちゃってる。見られるだけでおまんこが熱くなっちゃう。あっ……おまんこの涎が垂れちゃうぅ。でも見られる前からおっぱいをいっぱいいじられちゃってるんだから仕方ないわ。見られるだけでキュンキュン来ちゃってる。おまんこがすっごく欲しがってる早くおちんぽを食べたいって)

 

 白い柔肌の美しい裂け目は血と肉の色をして獣欲に直結する食欲を刺激する。

 陰唇が伸びているわけもなく、黒ずんでいることもない綺麗なピンク。ぬるつくアルベド汁でぬらぬらと濡れ光っている。とろとろと涎を垂らす雌穴を薄い肉ひだが狭めている。肉ひだは処女膜だと男は知っていた。

 

「今日はわたしのおまんこでぇあなたのおちんぽみるくを食べたいの」

 

 男は弾かれたように顔を上げた。切迫感すらある顔だった。

 

「でもまだだぁめ。あなたは私のお口でおちんぽをちゅぷちゅぷ食べられてとっても気持ちよかったんでしょう?」

「……はい」

 

 喉が渇ききって掠れた声だった。

 

「だから今度はあなたの番よ。私のおまんこをいっぱいペロペロして私を満足させたら……おまんこでおちんぽを食べてあ・げ・る♪」

 

 ゆらゆらとその場へ跪き、むっちりと弾力ある太股に手を添えて、口を開いて舌を伸ばし、肉芽に触れた。

 

「あぁん……、最初はくりちゃんだなんて、わかってるわね」

 

 鼻先で柔らかい陰毛を感じながら包皮をかぶったクリトリスを舌で数度つつけば顔を出す。ちんこのように勃起するクリトリスを舌全体で味わい、両手も忘れず仕事をさせる。片手は胸に、片手はクリトリスを根本を優しく扱く。

 

「あっあっ……やぁん♡ いい、いいわぁ、その調子よぉいい子ね。ご褒美に私のおまんこのエッチなおつゆ、いっぱい飲んでいいわあ」

 

 じゅるじゅると卑猥な水音が響き、吸われた分だけアルベドの膣口は愛液を溢れさす。

 アルベドは淫蕩に笑み崩れ、唇の端から涎がこぼれるのも気付かない。もっと強くもっと激しくと腰を浮かせて股間を男の顔に押しつける。乳首を弄んでいた両手まで使って男の頭を押さえつけるのだから。

 クリトリスを吸いながら舐め、舐めながら吸い、飲みきれないアルベド汁が顎まで汚す。ゆっくりと雌穴に指を侵入させると指全体が舐められて柔らかくも強く締め付けられて、奥深くから湧き出る愛液が指にまとわりつく。頭を押さえつけられる。とても気に入られたようだ。

 

「あっ? やっやっ! まってらめぇ♡」

 

 つまりもっとと言うことだ。舌を動かし指も動かし中で曲げて膣壁をこすり、伸ばした手は下腹の子宮の上を何度もさする。

 

「まってまって、だめよだめもっとして! いやいやだめなのホントにだめぇ、おまんこがおまんこがぁっ、あっあっあああああああーーーーっ!!」

 

 入っている指をきゅっと強く締め付ける。浮かせていた腰ががくがくと震え、つま先にまで力が入る。顎はこれでもかと仰け反らせ、唇から紡がれるのは甲高くも甘い絶叫。アルベドのアルベドからぷしゃぁっと無色の液体を噴き出して、口をつけていた男の顔を多いに濡らした。

 浮いていた腰は力なくベッドに落ち、雌穴がひくひくと痙攣する。はあはあと荒い息。顔は横を向いているので口の端から涎が垂れる。閉じた瞳には涙が滲み、こちらもつつぅと流れていく。

 

 アルベドは絶頂した。

 サキュバスの倣いでオナニーはほぼ日課。ちゃんと自分の手でいけている。だと言うのに、視界を真っ白に焼いて自分が何処にいるのかすらわからなくなる絶頂は経験したことがなかった。数秒とは言え意識が途切れた。いかされて、失神した。

 ラナーの小便臭いおまんこが一本筋だった時から使ってきた舌である。累計で何千時間舐めさせられてきたことか。一人の女を極めたのは伊達ではなく、磨いた舌技はアルベドにも通用した。アルベド様の熟れ熟れなのに未使用で世に二つとない美しいおまんこが相手なのだから気迫も心もこもろうというもの。

 

 

 

 

 

 

 快感の余韻に浸っているのか単に放心しているのか何かしらを考えているのか、横たわったままうつろに宙を見上げていたアルベドが気怠げに体を起こし一言。

 

「……帰るわ」

「え?」

 

 と言う間もなくマジックアイテムを起動してナザリックに帰還した。

 寝台には男が一人残された。

 

「……嘘だろ?」

 

 ズボンの中で逸物が窮屈そうに大いなる期待でかつてないほどギンギンに勃起している。しかしアルベド様はお帰りになられた。

 

「嘘だろ……」

 

 男はもう一度呟いた。呟きを耳にした者は一人もいなかった。

 

 なお、ベッドのシーツをびしょびしょにしてしまったアルベド汁はソリュシャンが一滴残らず吸収した。

 口当たりは軽やかにして爽やか、それでいて芳醇で力強い、間違いなく超一級品。であるらしい。

 

 

 

 

 

 

(おちんぽを入れてないのにいかされちゃった。すごくすごくいかされちゃった。おちんぽじゃなくて指だったのにペロペロだけだったのに。わたしサキュバスなのに人間の男にいかされちゃった。真っ白になっちゃった。すごい気持ちよかったあんなにいいなんて初めて。でもおちんぽ食べてないのにいっちゃった。わたしサキュバスなのに……。人間の男に負けちゃったの…………?)

 

 アルベドがふらふらと力ない足取りで歩いているのをナザリックの一般メイドが気遣わしげに、どこかお加減がよろしくないのでしょうか。

 アルベドは儚く笑い、

 

「人間の男に負かされたわ」

 

 ナザリック地下大墳墓に激震が走る。

 アルベドは100レベルの守護者統括である。負けることなど想像も出来ないが傷一つないので戦闘での敗北ではないのは明らか。ならば知力を競う知的ゲームかと思われるのだがアルベドの知謀はナザリックにて群を抜き、偉大なるアインズ様を除けば3本の指に入る。

 一体何が起こったのか。皆の興味を引いて止まなかったがアルベドなりにプライドが傷ついたようで頑として口を開かない。その流れでシャルティアとキャットファイトが勃発するのはいつもの流れである。

 結局、些細な盤上遊戯での勝ち負けであったが人間に負けたことがアインズ様のお耳に入ると不要なご心痛を抱かれるやも知れぬのでけして口外しないようにと箝口令が敷かれることになった。

 

 

 

 

 

 

「盤上遊戯とは言えアルベドを負かしましたか。興味深いですね」

 

 変なフラグが立ったかも知れません。




どんなフラグかは知りません


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いやん若旦那様はエッチですぅ ▽シクスス♯1

 下半身にはアルベドが乗り一心不乱に腰を振りながら歓喜に泣き叫んでいる。顔の上にはソリュシャンが跨がって狂ったようにお兄様お兄様と囁く。ナーベラルは胸に顔を埋めて乳首を吸う。右手を独占するのはシャルティア、自身の股間へ導いてよがり狂う。

 ソリュシャンの尻に視界を塞がれながら周りを見渡せばユリ・アルファが全裸で待機。ユリだけではない。屋敷に詰める全てのメイドがあられもない姿で物欲しそうに自分の番を待っている。

 アルベドの動きがより激しく声はより甲高く、強く締め付けられて一滴残らず搾り取られた。

 そこで目が覚めた。

 

「夢か……」

 

 淫らな夢を見るのは初めてではない。ソリュシャンに寝込みを襲われあれやこれや。夢の中で射精してそれを美味しくいただかれる。

 しかし目を開くと誰もいない。窓から入る朝の光が美しい。昨夜アルベドのお食事が未遂に終わった無念が見せた夢か。夢だけならよかった。股間に感じるねっちょりと湿った感触。夢の中の射精は肉体の射精を伴ったらしい。夢精というやつである。

 

「…………うそだろ」

 

 一昨日にソリュシャンから摘まみ食いされたため、射精しなかったのはたったの一日。たったそれだけ我慢しただけで夢精。正確な年齢はわからないがおそらく20前後の元気な盛りで自分なりに精力は強いと思ってはいたがたったの一日で夢精。

 アルベドのアルベド汁を浴びた影響か、ナザリックから提供される超高級食材に知られざるバフ効果でもあるのか、かつては一週間掛かっていたのがたったの一日で夢精。

 男はがっくりとうなだれ、しばらく動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルのお屋敷は当初と少しだけ様相が変わってきた。

 男が住まう屋敷であるがナザリックの守護者統括であるアルベドのお食事処でもあるため木っ端貴族の本邸より大きくて豪奢。大きいと言うことは人手が要ると言うことで、ナザリック内で行儀見習いを終えたメイドや現地で雇ったメイドが多数。

 ところでここエ・ランテルは魔導国の所領、と言うことはアインズ様の領地でありアインズ様の居館があるのだ。アインズ様がおられる館を維持管理するにはやはり相応の人手が必要なのだが下手な者を使うわけにいかぬ。入り用な人出は全てナザリックから派遣したいところであるがナザリック自体も維持管理にメイドが必要。

 と言うことで、エ・ランテルのお屋敷はメイド研修場になりつつあった。我が儘でちょっぴり癇癪持ちのお嬢様と春風駘蕩で時々お尻をペロッとするエッチな若旦那様で練習のご主人様役としてバランスもいい。

 研修なのだから指導教官がいる。ナザリックの第9階層ロイヤルスイートにて至高の御方々へ仕えるメイドである。

 

 

 

 

 

 

「そこの君、ちょっといいかな?」

「私でしょうか?」

 

 メイドが振り返るなり男は罰が悪い顔をした。彼女は人間ではなくホムンクルス。ナザリックから派遣された日替わりメイド教官の一人。他のメイドと同じようには扱えない。

 

「失礼しました、シクスス様」

「様は止めてください。あなたは人間でも一応このお屋敷の若旦那様なんですから。他の子たちに見られたらおかしく思われます」

 

 まとうメイド服は長袖のロングスカートだが胸の部分だけ生地が切り替わり大きなおっぱいをやたら強調するデザインでエッチ度的にはソリュシャンお嬢様の肩むき出し上乳見せドレスといい勝負素晴らしい。長い金髪は腰まで届き愛嬌ある可愛らしい顔立ちながら表情は冷めている。ナザリックのシモベが人間を相手するときのデフォである。

 

「承知しま……、いやわかったよ。ここではシクススと呼ばせてもらうよ」

「本当なら人間に呼び捨てされるなんてすっごく嫌なんですけど、あなたは一応ご主人様役の一人ですから」

「勘違いはしないよ。邪魔したね。行っていいよ」

「待ちなさい」

「何か?」

「何かはこっちの台詞です。何か用があったから呼び止めたのでは? 私は教官であなたは代役のご主人様ですがご主人様であることに代わりはありません。察するところ後ろに隠し持ってるものが関係してるのでは?」

「うっ」

 

 2・3度同じ問答し、泣く泣く布袋を差し出した。受け取り開くなり可憐な顔が嫌悪に歪む。中身はぬちゃあとしたパンツである。

 自分で洗う選択肢はなかった。どこであれ誰かに見つかる。見つからなくても干す場所がない。こっそり干してもやはり誰かに見つかる。堂々と洗い物として出せば多数の目に触れる。それは流石に恥ずかしい。よって誰かにこっそり然るべく処理をお願いしようとしていたところ。

 

「若旦那様……パンツ汚しちゃったんですか?」

「まあ、その、……はい」

「これって精液ですよね? どうしてパンツを脱いで出さなかったんですか?」

「いえその不可抗力でして、夢の中で」

「夢を見ながら出しちゃったんですか?」

「………………はい」

 

 なんだこの羞恥プレイは。単なる事実確認にすぎないのにどうしてこうも恥ずかしいのか。叫びたくなるほどではないが、かあっと体温が上がっていく。

 責めるような蔑むようなシクススの声。顔が見れなかった。

 

「これをどうして欲しいんですか?」

「……普通に洗って欲しいです」

「私の手を若旦那様の精液で汚せと仰ると?」

「……ほかに方法があるならそちらで」

「ないです」

「…………そうですか」

「若旦那様はメイド見習いの子たちにも評判が良かったんですけど、私には精液にまみれろって仰るんですね?」

「いえけっしてそのようなわけでは」

「でもそう言うことですよね?」

「……結果としてはそうなるかと」

 

 ソリュシャンに尻を舐めさせるのに何の抵抗もなかったが、純情可憐に見えるシクススから責めるように事実を指摘されるのは心に来た。

 一方のシクススは嫌悪に顔を歪め若旦那様が頬を赤らめるのを見ながら、ヤダ何これ楽しい!

 

 

 

 

 

 

 シクススはナザリック第9階層で働く一般メイドの一人である。ロイヤルスイートを完璧な状態で維持管理し日替わりで回ってくるアインズ様のお側付きを何よりの喜びとしている。お掃除もお片付けもお洗濯も整理整頓も大好きで、美味しいご飯を食べるのも大好きである。お仕事大好きホムンクルスであるが、ある時アインズ様が定休制度を導入なされた。

 定休。すなわちお休み。働くのが大好きなのにお休み。働いてはいけない日。一体何をすればいいのか。

 毎日充実したお仕事をこなしていたのに何もしてはいけない。一体これはどんな罰か。

 メイド達全員の嘆きであったが、お優しいアインズ様は仕事以外に何か楽しみを見つけるべしと、娯楽施設を開放なされた。その中にあらゆる英知が集められた最古図書館も含まれる。至高の御方々語録はシモベ達に大人気。

 

 その片隅に至高の御方のお一人である爆撃の翼王ペロロンチーノ様が異界にて入手された書籍群がひっそりと存在した。その名はウース異本。あらゆる検閲をかいくぐり、或いは異世界に転移した影響で真なる姿を取り戻したのか。メイド達が異本を開けば例外なく狂乱や幻惑のバッドステータスを付与する冒涜的な内容。しかしながらどのような魔法が込められているのか、絶対にもう二度と読まないと誓っても気付けば本を開いてしまう。シクススもまた異界の書物に見入られた一人。

 

 お気に入りは『お姉さんメイドの内緒の昼下がりは素敵な秘密でいっぱいですぅ♡』である。

 

 

 

 

 

 

 こっちに来て下さいと連れ込まれたのは客間の一つ。入るなり施錠して壁際に追い詰められる。体はほとんど密着して険のある目で見上げてきた。

 

「若旦那様は人間のメイド達にも割と評判がいいんです。時々お尻をタッチしても笑って許すくらいに。でも若旦那様の暴れん棒がメイド達にやんちゃするのは困るんです。あの子達はこれからアインズ様の居館でお勤めするんですから」

 

 そんなことはしないと言ってもこれは何ですかと夢精の証。むむむと可愛い顔がより険しくこれは何ですかと股間にタッチ。密着されて女体の柔らかさを全身で感じて良い匂いが鼻をくすぐり暴れん坊が元気になってきた。

 シクススのメイド服もよろしくない。ソリュシャンのせいで生おっぱいは見飽きてしまったが露出皆無のくせして巨乳アピールのメイド服はかなりエッチ。

 

(若旦那様って人間だけど顔は中々いいのよね。いつもはぽやっとしてるのに顔赤くしてかーわいい♪ お姉さんメイドは後輩メイドが困ったことにならないように若旦那様をしつけてあげなきゃ)

 

「ここに隠してるのは何?」

「いえ別にその何も隠しては」

「私の手の中で大きくしてるでしょ?」

「それはシクススが触るからで」

「触るだけで大きくなるのが問題なの!」

 

 ズボンの上からさすられて逸物が一層固くなる。

 

「正直に認めなさい。若旦那様はおちんちんを大きくしちゃってるでしょ!」

「……その通りです」

「こんなに大きくしちゃって他の子達には見せられないわ。小さくしなさい」

「……そう仰られても」

「小さくするやり方がわからないの?」

「………………」

「仕方ないわね。お姉さんが協力してあげるわ」

 

 打って変わって優しい声。

 シクススは股間を撫でていた手を止めると、男のズボンを脱がし始めた。メイドとして衣服の構造を熟知しているからか淀みない手つきだった。

 

(うわうそこんな大きいんだ!? 異本で読んだのはもっと小さかったのに。でもシクスス頑張って。私がここで頑張らないとあの子達がウース異本みたいなひどい目にあっちゃう。若旦那様は夢精しちゃうくらいに溜まってるんだからここでぬきぬきしてあげないと。こんなの初めてだけどこれもメイドのお仕事よ。ペロロンチーノ様の御本にあるんだから間違いないわ)

 

 体を寄せたまま逸物を握り薄い本にあったように扱き始める。自分の行為に興奮してか漂い始めた男の臭いにあたってか、頬がうっすら染まっている。

 逸物は熱くて固くて見るのも触るのもこれが初めて。熱が手のひらから体に伝わって、吐く息が熱くなった。

 

「若旦那様……気持ちいいですか?」

「……ええ。出来ればもう少し強めに握って」

「えっと……、こう?」

「もう少し……そのくらい。ペースを速くして」

「こうかな……、きゃっ?」

 

 体はずっと密着中。シクススの目はずっと逸物へ。シクススの尻を男が撫でた。

 

「ちょちょっと何するんですか!」

「お尻をタッチするくらい笑って許してくれるのでは? それにこうした方が興奮して早く出せます」

「…………特別ですからね」

「特別ならこちらも」

「あっ……やぁん! おっぱいまではダメェ!」

 

 左手は尻に右手は胸をわしづかみにした。触っても見た目に違わぬ巨乳で手が幸せになる。

 

(お尻だけなら我慢してあげるけどおっぱいまで触るなんて。やっぱり若旦那様はみんなが言うようにエッチなご主人様。んっ……、なんか変な気分。でもおちんちんが膨らんできた気がする。おちんちんがいくと精液が出るのよね? パンツについてたねちょねちょして変な臭いの。あれを私の手に出すの? 確か精液って……。おちんちんの先からぬるぬるしたのが出てる。んんっ、おっぱいもお尻も好き勝手に触って、お姉さんメイドは優しいから許してたけど私は)

 

「……あ、あまりもみもみしないで。おちんちんに集中できなくなるから。ひゃあっ!? 乳首もダメ!」

 

 露出こそ皆無でも生地は薄い。ブラジャーを着けていてももまれ続ければ快感が溜まってくる。服の上から擦られただけでシクススは敏感に反応した。

 今や男の腕の中。尻を揉まれて乳首を擦られ、体を熱く染めながら謎の使命感で逸物を扱き続ける。

 金色の髪に顔を埋めて芳しく甘い体臭を胸一杯に吸い込み、もっと速く、これくらい?、裏筋もこすって、えっとどこ?、ここを指で、これでいい?、気持ちいいです、おちんちんが?、そうですよ、若旦那様のおちんちん大きい……、比べたことないな、異本で見たのより大きいよ、異本?、禁書よ。

 

 手の中で脈打ち始め、射精など見たことはなかったけれど前兆と予感した。そろそろなのかと問うように見上げれば赤と青の瞳が見返して近づいて、

 

「んんっ!?」

 

 唇が降ってきた。

 同時に亀頭を覆った手の平にどぴゅどぴゅと吐き出される。逸物と同じ温度。繊手を汚す粘液は熱くて重かった。射精は長く、ぴゅっぴゅと手を汚し続ける。たおやかな手では貯めきれず、ぬるりとこぼれてエプロンを汚した。

 その間も唇は重なっている。遠慮もためらいも何もなく、最初から舌を差し込む。シクススの唇はふっくらとして、舌はとても柔らかい。アルベド様やソリュシャンとのキスが脳裏を過ぎり、たっぷりと唾を注ぎ込んだ。シクススは目を見張りながら喉を鳴らして飲み込んだ。

 射精が終わり、シクススの手の中で力を失い始める。

 キスも終わり、唇を離せばたっぷりと飲ませた唾が糸を引いた。

 

 

 

 

 

 

「ぐふっ」

 

 呻いたのは男。体が離れると同時に鳩尾を肘で突かれて無様にその場に倒れた。丸出しの状態で、逸物を精液に濡らしたままで、無様の見本のような有様である。

 シクススはきっと男を睨みつけると、手の平に残った精液に柳眉を寄せながら顔を近付け、口を付けた。じゅずずと鳴らしてすすっている。

 

(苦い。美味しくない。本当にこんなのが美容にいいの? でもペロロンチーノ様の異本には。それにしてもこの男、私に勝手にきききすスルなんて!)

 

 そんなこと言われても嫌われていると思ったのに空き部屋に連れ込まれてこっそりちんちんしゅっしゅされればもしかしなくても好かれてると思うのはやむを得ず気分が高まってしまってそんな時にエッチな顔で見上げられればキスしたくなるのは男の真理である。

 

(こんなことフォアイルやリュミエールには絶対させられないわ! 私が若旦那様の射精管理をしてあげないと。でもでもウース異本みたいにその内お口やおおおおおおまんこもさせなきゃいけないの!? そんなのって。でも若旦那様の暴れん棒が暴れ始めたら……。ダメよシクスス、私が頑張らないと!)

 

 シクススは謎の使命感を胸に誇り高く立ち去った。

 ねっちょりしたパンツは持って行ってくれなかった。




次回登場やはり未定
一月半振りに他の書いたら文体がそっちに引き寄せられる
素人だしまあいいやの精神で


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憂鬱な日々

エッチな話は多分次の次あたりに


 最近ソリュシャンがとても鬱陶しい。

 

「うふふ、お兄様。お・に・い・さ・ま♪ お兄様が淫らな夢でうなされて苦しまれる前にソリュシャンが楽にして差し上げますわぁ」

 

 ソリュシャンの中では既に貸し借りゼロ。損益分岐点を越えてボーナスステージに突入。命の泉に口を付けてこっそり摘まみ食いするのは悪いことかもしれない。しかし泉から命の素が溢れこぼれて無駄になってしまうのはとても勿体ない。アインズ様も時折勿体ないと呟かれて倹約精神を発揮されるのだからナザリックのシモベであるソリュシャンもそれに倣わなければならないのだ。

 

「昨夜もあんなに私の中でお出しになったのにもうこんなに。夢の中には私も出てきましたか? 夢の私と今の私、どちらがお好き?」

 

 朝一で人のベッドに潜り込んでくる。ベッドの傍らにはスケスケのネグリジェが落ちている。

 男の夜着はナイトガウン一枚で腰紐を解いて前を開けば全裸と変わらない。

 

「っ!」

 

 逸物が暖かいもので包まれる。薄手の毛布は腰のあたりで大きく丸く膨らんで、耳を澄ませばじゅぷじゅぷと水音が聞こえてくる。

 響きわたること数分。解き放つ快感とともに襲ってくる虚脱感。

 しばらくして、全裸のソリュシャンが毛布の下から現れた。いつも張り付けている美しい笑みは輝かんばかり。

 

「お兄様の今日最初のファーストショット、とっても濃厚で美味しかったですわ♡」

 

 精液を飲み込んでも完全に吸収するのか、口から精臭を漂わせることはない。甘く芳しくとても良い匂いがする。ちゅっとキスをするついでにたっぷりとソリュシャン汁を飲ませて唾液をすすって、朝食の時間になるまでお兄様に女の体の柔らかさを存分に堪能してもらう。その間にもう一度大きくなってしまったらこれはもう仕方ない。お兄様ったらとってもお元気なのねと微笑みながらもう一度。

 

 ソリュシャンお嬢様から遠慮がなくなったのは夢精がばれたからです。

 お兄様が夢精をしてしまうほど悶々と溜めてしまったなんて私の不甲斐なさが全ての原因です。これからは私が責任をもってお慰めしますわ。

 と言う大義名分をもって堂々と、それでも流石にメイド達の前では控えて摘まみ食いをするようになりました。例えアルベド様がいらっしゃっても丸一日でフル装填可能なら数時間休んでいただくだけでご満足なさる十分な量を確保できるのです。もちろんソリュシャンは抜かりなくそのことも確認済みです。

 

 こんなことになったのもシクススがぬちゃあとしたパンツを回収してくれず多数の目に触れてしまったからであり、人の口に戸は立てられずメイドネットワークにより全員の耳に入ってしまったからであり、当然のようにソリュシャンにも知られてしまったからである。

 全てはシクススのせいである。シクススのバカもう知らない!

 

 

 

 メイド教官は日替わり制。数日おきにシクススがやってくる。

 

「ちょっと触っただけでもうこんなにして……。どうして若旦那様はこんなに節操がないんですか?」

 

 物陰に押し込まれ体を密着されながらたっぷり30秒も優しく股間をもみもみされればその気がなくても立ってしまうのは男の性。手だとこの前みたいにエプロンを汚してしまいますからと言ってその場に跪き、ズボンを下ろして跳ね出た逸物を口に含む。

 口が塞がれているからか頭を撫でても文句は出ない。長い金髪をかきあげ耳を撫でる。耳たぶはふにふにで柔らかい。頭の振り方が激しくなる。たっぷり10分は口淫を続け、吐き出されたものはさもイヤそうに渋面を作って全て飲み込む。

 

「私が教官当番の時はぬきぬきしてあげますから他の子には手を出さないで下さいね」

 

 色々とシクススのせいだけどシクススは優しいようでやっぱり厳しい。

 

 

 

 にっこにこしているソリュシャンとお茶をしてふうと一息吐けば、

 

「私が仕事している横で覇気もやる気も何もない怠そうなため息を吐かないでいただけますか? そんなところを見習いの子達に見られると士気に関わります。どうか人目につかないところに引きこもっていて下さい」

「………………はい」

 

 シクススはとても厳しい。憂鬱なのはシクススのせいなのに。

 シクススのせいで夢精してしまったのが知れ渡ってしまった。そのせいでメイド達が「若旦那様は……夢精されてしまったのですか?」と頬を赤らめながら訊いてくる。人並みの羞恥心は捨て去ったと思った男だが、年若い少女たちからそのようなことを何度も訊かれるのはカリカリと精神を削られる。

 

 しかしそれは理由の一割。真の理由はアルベド様である。アルベド様がいらっしゃらなくなった。

 ここ数回は長居されたが短いときは10分足らず。お忙しい時は数日空く時があったが今回はそれ以上の日数が空いている。たった10分の時間もとれないほど忙しい期間がこれほど続くことはかつてなかった。ソリュシャンやメイド教官達から伝え聞くところによるとナザリックや魔導国の運営では何の問題も生じておらず全ては順調であるらしい。にもかかわらずお出でにならない。

 考えたくないことだが、アルベド様は足を運びたくないと思っているとの結論が出た。

 原因は間違いなく前回の訪問。満足させよとのご命令に誠心誠意応えた。ご満足なされたと感じたのだが直後に帰還。何かが不味かったようである。

 指の使い方が荒かったのだろうか。激しくではなく、口中のあめ玉がゆっくりと溶けていくようなやわらかさを望まれていたのだろうか。王城を離れてから女性器に触れたのは初めてだったため勘や感覚が鈍ったのかも知れない。

 練習したいと思ったが相手がいない。

 メイド、全員不可。シクスス、おっぱいまで。ソリュシャン、お兄様は私の体の隅から隅まで触ってはいけないところはどこにもありませんのよ、なのだけど中身はスライム、全くあてにならない。

 はあとため息を吐きながら虚空に手をかざし、エアペッティングに励んだ。

 

 アルベド様の食餌と言うことで特別な立場であり一応はお屋敷の若旦那様。けどもヒエラルキー的にはソリュシャンはもとより一般メイドのシクススより下。現地で雇ったメイド達よりは何とか上。しかしアルベド様のご飯という立場がなくなれば要らない子である。

 

 

 

 

 

 

 部屋にはナザリックのシモベだけ。メイド達は仕事へ駆り立てられた。

 

「ソリュシャン様……。若旦那様のあれはわざとやっているのでしょうか?」

 

 苦いを通り越して忌々しいと言わんばかりのシクスス。

 

「それはないと思うわ。アルベド様がお兄様を見つけたとき、右目を除いて面貌の全てが醜く灼き爛れていたそうよ。火傷を負ったのが約10年前。自分がどのように見られているのか全く自覚がないようね」

 

 笑みこそ美しいが微動だにしないソリュシャン。それなりの付き合いがあれば内心面白くないであろうと察せる。

 彼の顔が灼かれたと聞いてシクススは眉間にしわを寄せ、はあと色々吐き出した。

 

「若旦那様の物憂げな様子に見とれている子が多くて困ります」

「お兄様はお顔がとても整っていらっしゃるから。私から見てもそう思うもの。ナザリックには私を含めて美しい女は多いけれど美しい男はいないし」

 

 ナザリックに人の形をした男自体が少ないのもある。セバス様は渋い。デミウルゴス様はジャンルが違う。マーレ様は100年後に期待。アインズ様はとっても偉大なのだけどお骨である。

 

「人間の女たちが見とれるのも無理はないわ」

「……ソリュシャン様は若旦那様を高く評価していらっしゃるのですね」

「脆弱な人間だけれどアルベド様への忠誠心は本物よ。アインズ様の偉大さもよくわかっている。隔意を抱く理由はないわ」

 

 それにとっても美味しい方ですし、との言葉は口に上らなかった。

 

「左様ですか。その他にも例の件以降、お相手いたしましょうかと言う子もいます。若旦那様は全く気付いてないみたいですが」

 

 例の件とは夢精の件。お相手とは夢精しないようにすっきりさせましょうかとの申し出である。

 

「それどころかからかわれていると勘違いしてるようです。顔を赤くして困っている様子がとっても可愛らしくて♡ 止めない私も悪いとは思うのですけど」

「あら、そうなの? 私と一緒に本を要約しているときはとても真剣なお顔よ♡ 報告に上げた文書はとてもよくまとまっていてセバス様にもお褒めいただいたわ」

「………………」

「………………」

 

 静寂が降りることしばし。

 

「お兄様が恥ずかしい思いをなさらないように私がお慰めしないと」

「若旦那様が見習いの子達に惑わされないように私がお鎮めしないと」

「…………え?」

「…………え?」

 

 真っ正面からぶつかり合う視線と視線。

 ソリュシャンとシクスス。ショゴスとホムンクルス。どちらも目から光線を撃てる種族ではない。そもそもそんな種族はいない。

 だと言うのに、視線がぶつかる空間は何者も存在できないキリングフィールド。

 

 

 

 

 

 

 ソリュシャンにメッセージの魔法で伝言があり、膠着は途切れた。

 あるお方が来訪の意を伝えられた。

 遊んでいる場合ではなく、お迎えの準備をしなければならない。

 現地で雇ったメイドは使えず、ナザリックに縁あるメイドだけで準備する必要がある。

 その前に追い払われたお兄様を引っ張り出さなければならない。まだぼんやりしてるようなら腕の一本や二本溶かして気付けを行うのも止むはなし。

 

 デミウルゴス様がいらっしゃる。



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正面突破ァ!

「チェックです」

「おや? 負けてしまいましたか」

「お戯れを。賽の目で決めた勝敗です」

 

 ソリュシャンお嬢様はお嬢様ルックのままだけどソファには座らず給仕役。シクススはこれでもかと背筋を伸ばして直立不動。ホストはお屋敷の若旦那様。ゲストはナザリックからの賓客です。

 ナザリックの階層守護者であるデミウルゴス様。風変わりで品の良い衣装を身につけた知的な男性であるが正体は悪魔。ソリュシャンやシクススより地位も強さも遙か上のお方である。

 二者は言葉を交わしながら王国や帝国の知識階級に広く知れ渡る盤上遊戯で腕を競った。幾つもの升目にそれぞれ交互に駒を置き敵将を討ち取る戦場を模したゲーム。

 

(至高の御方のお言葉をお借りすればこれは完全情報ゲーム、最適手を打ち続ければ勝敗は初めから明らか、これに運が絡むゲームならアルベドが負かされたと言うのも頷けますね)

 

 交わす言葉もデミウルゴスを満足させた。

 王国衰退の要因。それを挽回する方策。帝国が王国を支配した後に取り得る政策。金と領土と忠義の話になり今は亡き王国戦士長の名があがった。忠義と正義。正義とは何か。思わずセバスに聞かせてやりたいですねとこぼす。王国最大の失敗はこの男を虐げ翼を毟ったからとさえ思わされた。

 

(アルベドが自分の楽しみのためだけに人間を飼うとは意外でしたが、なるほど)

 

 と思われているのも知らず、デミウルゴス様はお疲れなのだなあと春風駘蕩と揶揄される若旦那様は思いました。

 このゲーム、実はラナーと何度もしたことがあった。初めの内は駒の動かし方しか教えて貰わなかったため連戦連敗。その度に「お前は醜いだけでなくとっても愚かしいのね」と嘲笑される。心の奥底に僅かながら存在する自尊心が大いに傷つき、どうすれば勝てるのか考え続けた。たどり着いた結論は、最初から適切に駒を動かし続ければ帰結は明らかであること。つまりは全てのルールを知らずに競っていたようなもので「このアマふざけやがって!」と大いに憤ったのも良い思い出。勝ち負けは最初から決まっているのでゲームとしては今一だが手と頭を使うので思考の整理のお供にはちょうど良かった。

 

「それらの知識はどこで身に付けましたか?」

 

 と言われても困りもの。読み書きは幼少時に盗み習った。昨今の王国内の動きはラナーから聞かされたこともあった。しかしデミウルゴス様と語り合った内容は全て自論。どこかで身に付けたのではなく、僅かながらに得られた情報を整理し抽出した論理である。

 

「ご存じと存じますが、かつては火傷の痛みで眠ることさえままならない苦痛の日々を送ってきました。黒粉は常に使用できたものではなかったので苦痛から逃れるには思索の海へ深く身を沈め記憶の宮殿に遊ぶしかありませんでした」

「考え続けた末にたどり着いたわけですか。記憶の宮殿とは?」

「今まで見聞きしたものを宮殿を模した場所に置いてあります。宮殿があるのは私のここですが」

 

 とんとこみかめを叩いた。

 ふうむとデミウルゴス。まこと稀有なことに人間相手へ初めての感心。

 

「そこへ潜っていれば痛みを忘れると?」

「はい」

「試しても?」

「事の後に回復していただけるなら」

「それは約束しましょう。あなたはアルベドの大切な子飼いですから」

「それでしたら」

「汚れるといけませんからシクススは退室することをお勧めしますよ?」

「は……はい」

 

 退室するまでに三度振り返った。

 

「それでは」

 

 

 

 

 

 

「顔色はさすがに悪くなりましたが眉根一つ動かさないとは。トーチャー泣かせですね」

 

 ふうむと二度目の感心をしながら手を拭う。コップ10杯分の血溜まりはソリュシャンがキレイキレイしました。役得です。

 

「突然だと驚きますが事前に痛むとわかっているのなら。何の役にも立ちません」

「いや、大したものです」

「恐れ入ります」

 

 デミウルゴス様が人間をお褒めに!? とソリュシャンの驚愕はどこにも伝わらない。

 

「ですが戦闘に使える特技ではないでしょう。けども戦闘を伴わない戦場もあります。その頭脳、アインズ様のお役に立てるつもりは?」

「アルベド様のご命令があれば」

 

 数瞬、熱い殺意が現実世界を浸食した。

 

「君がアルベドの子飼いでなければ殺すしかないところでしたが、まあいいでしょう」

 

 無言で一礼。ふと思いついたように、

 

「そう言えばアルベド様はいかがお過ごしでしょうか?」

 

 知謀の悪魔、ピンと来た。

 

「今の私は別件でナザリックを離れていますのでアルベドに負担が掛かりすぎていないか心配しています。どこかに補佐をする者でもいれば彼女の負担も減るのでしょうが」

「なんなりとご命令下さい」

「その言葉を待っていました」

 

 さすがはデミウルゴス様。安定のさすデミ。一瞬で男の操縦方法を完熟。とは言っても即戦力とはなり得ない。頭は中々冴えているが法国や聖王国への言及は一度もなかった。歪みきった人生を送ってきたため知識に不足がありすぎる。政務などは到底任せられず、当面はしっかり勉強するようにと言い置いた。

 期待していますよと言ってデミウルゴス様はお帰りになりました。

 

 

 

 

 

 

「つ……つかれた…………」

 

 デミウルゴス様の内緒の採用試験を正面突破した男はその場に崩れ落ちた。

 痛い思いはナーベラルのボグァとかメキャァの方が上だったし覚悟の時間も与えられた。盤上遊戯は頭の整理で交わす言葉はとても楽しかった。しかし最後のプレッシャーはひどかった。意志に反して身体が現場放棄したがるのだからどうにもならない。立っているのがやっとである。

 

「デミウルゴス様が人間に期待するだなんて……」

「うう……ソリュシャン、何か甘いものが欲しい……」

「お兄様ったら仕方ありませんわね。でもデミウルゴス様と対等に言葉を交わされるなんて凄いですわ」

「そうかな?」

 

 男が今まで触れあった人物は非常に少ない。アルベドに解放されるまで、直近10年で言葉を交わした者は片手の指で足りてしまう。よってラナーの頭脳が基準である。しかして男から見ればラナーは知らないことを知ったつもりでいる愚か者。但し自己愛の怪物で保身の天才であることは認めている。

 

「そうですわよ。ご褒美に私のおっぱいは如何です?」

「ソリュシャンはおっぱい出ないだろう?」

「そうお思いでしたらお試し下さいな」

 

 床に寝転がる男の傍に座って膝枕。両手を使ってドレスの襟をずり下げればたゆんたゆんのおっぱいがぷるんと現れる。大きなおっぱいは少し身を屈めるだけで男の口へと近付いた。

 ピンク色の突起が口に含まれ、ソリュシャンはうふふと笑った。

 

「そのまま強く吸って下さい。ソリュシャンの特製おっぱいをたあんと召し上げれ」

 

 くどいようだがソリュシャンはスライム。体の至る所から補食可能だし至る所から様々な粘液を分泌可能。スクロールがそうだったように体内に収めたものを好きなところから取り出すことが出来る。それらを応用するとどうなるか。飲食したお茶や飲料、あまあいお菓子。それらを吸収しきらず体内に留めておけば、そこへソリュシャン汁を適宜ブレンドして好きなところから分泌することが出来る。

 

(ああ、お兄様が私のおっぱいをちゅうちゅう吸っているわ。うっとりと一生懸命吸っちゃって。シクススがお兄様は可愛らしいと言っていたけど本当ね。いつもは私が吸ってばかりだから今日は私のおっぱいをお好きなだけご馳走しますわ)

 

 愛おしげに髪を撫でながら吸わせる。ふと先ほどの会話を思い出し、気になることを尋ねた。

 

「正義の話をしていらしたけど、そこではアインズ様の正義はどのようになるの?」

「アインズ様の正義は小さい正義だね」

 

 言い終えるなり先のデミウルゴス以上の殺意が舞った。

 

「いくらあなたが私のお兄様でアルベド様のご飯でもアインズ様を愚弄することは許さない」

「あなたは私たちの話を聞いていましたか? 聞いていたはずですよねすぐ傍にいたんだから。まさかソリュシャンお嬢様からソリュシャン・イプシロン様に変わると聞こえなくなるってわけじゃないでしょう。聞いてたのにどうしてそんな言葉が出てくるんですか。正義の大小は優劣とも善し悪しとも全く関係ありません。ソリュシャン様の言葉は料理の腕を足の速さで競うに等しい。或いは見上げるような泥山と拳大の綱玉のどちらが高価なのか、もしかしたら泥山には鉱脈があるかも知れないけどそんなものはわかったものじゃない。大体お兄様ってのは偽装でしょうが」

「そんな! 私はお兄様を本当のお兄様と思っているのに……」

「なに話を逸らしてるんだ」

 

 いいですか? との言葉からデミウルゴス様との会話の解説を装ったお説教の振りをした鬱憤晴らしが始まった。アルベド様がいらっしゃらない憂鬱とメイド達から夢精トカプークスクスされる恥ずかしさをここぞとばかりにぶつける。しかしソリュシャン様の不見識を正すという立派な理由があるのだから仕方ない。しかしおっぱいを吸いながら吸わせながらなのでまことにシュール。

 あーだこーだうーたらどーたら、もしかしてソリュシャン様は、

 

「おバカなんですか?」

「違うわ! それはシャルティア様の担当よ!」

 

 きっとそんなことを言ったのが悪かった。

 

 

 

 その夜。

 壁を血飛沫が汚す若旦那様の寝室にて。渋面を作る男と天を仰ぐソリュシャンの前に。上から下まで赤と黒に統一したドレス姿。

 鮮血の戦乙女が土下座を敢行していた。

 

 

 

 

 

 

 シャルティア・ブラッドフォールン。

 デミウルゴスと同じくナザリックの階層守護者。少女と女の美しさを併せ持つ十代半ばの美しい少女に見えるが本性は始祖の吸血鬼にして戦闘力はアインズ様をも凌駕するナザリック防衛の要の一つ。

 シャルティアは彼の男の血液がとっても美味しいのにアルベドが独り占めするのは許し難い蛮行であると考えた。喜びは皆で共有するべきなのだ。皆には自分も当然含まれる。よって吸血鬼らしく夜襲を決行。

 お屋敷はアルベド様のお食事処であり現在はメイド研修場も兼ねる。アルベドご飯やメイド教官たちは戦闘力皆無であるため防備は完璧である。百万匹のビーストマンが襲ってきても返り討ち余裕、エ・ランテルの5年分のお肉が備蓄できます。しかしシャルティアはナザリック所属。警戒をあっさりスルー。ゲートの魔法を使用してお屋敷に侵入楽勝でした。そうして見つける美味しい血袋。

 一応はアルベドご飯であるためシャルティアは全ナザリックが驚く優しさを発揮して、ちょいと血をおくんなんし。

 

『お断りします』

 

 シャルティア激高、人間如きが私の要求を断っていいと思ってるのか!

 小突かれ吹き飛び壁のシミ一歩手前。

 折悪しく、デミウルゴス様との対談でお兄様はお疲れでしょうから、と言うことでソリュシャンはベッドを別にしていた。しかし轟音に驚き急行。

 

『シャルティア様!? その者はアルベド様のお食餌なのですが』

『ああ!? 大口ゴリラのことなんて知ったことか、こいつは人間のくせに私の要求を断った!』

『ですがデミウルゴス様もこの者には期待しているとお言葉を残されたばかりでして』

『えっ』

『それだけでなくモモン様もこの者との会話を楽しまれていたようです』

『アインズ様が!? ちょ、ちょ、ソリュシャン! これの回復をしておくんなんし!』

『直ちに』

 

『このことはアインズ様には内緒にして欲しいでありんす 』

『お断りします』

『あ゛あ゛!?』

『私の保身でもシャルティア様への意趣返しでもありません。虚偽の報告は出来ないと言うだけです。確かにアインズ様は偉大です。どんなに小さな嘘でもお見通しでドラゴンがカタツムリに噛まれた程度の痛痒しか感じないでしょう。ですが間違いなくお心を痛めるに違いありません。なにせナザリック一の忠臣であられるシャルティア様が嘘を吐けと仰るんですから。それは裏切りの萌芽ですよ。まさかアインズ様はシャルティア様に裏切られるとは思ってもみないに違いありません。だと言うのに……くっ……、アインズ様のご心痛を思うと……くっ!』

『そ、そんな……! 私は……!』

 

 過日、操られたとは言えアインズ様に刃を向けてしまったシャルティアには効果覿面だった。アルベド様が聞けばざまぁでもちょっとかわいそう、アインズ様が聞けばそこまでいくと言い過ぎだぞ。しかし男はそんなことをつゆとも知らない。

 横で聞いてるソリュシャンはシャルティアを庇ってやりたかったが痛い思いをしたのは男だし下手に口を出すと飛び火しかねない。すごくデジャヴを感じる。アルベド様のお気に入りでデミウルゴス様と話が合うんだから悪魔のような男であるのは間違いなかった。

 

『ど、どうすれば許してくれるでありんすか?』

『許す許さないではありません。シャルティア様のお心の問題です』

『うう…………』

 

 古き善き日々。己の創造主であられるペロロンチーノ様が度々為されていた最大限の謝意を示すポーズを敢行。

 

 

 

 

 

 

 もちろん意趣返しである。

 壁のシミにさせられかけたことではなく、アルベド様をこともあろうか大口ゴリラ呼ばわりしたことへの怒りである。お美しいアルベド様へ対してなんたる不敬! いくら親しかろうと言って良いことと悪いことがあるのだ。

 しかしポロポロと涙を落としながらアインズ様アインズ様と唱えるシャルティアはちょっとだけかわいそう。良心などとうに投げ捨てたつもりの男だがアルベド様との不和の芽となり後に尾を引くのは困りもの。

 シャルティア様のお心はよくわかりました、やはりシャルティア様はナザリック一の忠臣であるに違いありません、アインズ様もきっとお喜びであることでしょう、私の胸に収めておくのは少々重い一事ですがシャルティア様のためとなるならこの重みにも耐えましょう、どうか頭をお上げ下さい。

 

 男がそう提案しようとした矢先だった。

 いつかのようにアルベド様がお越しになるのなら問題万事解決めでたしめでたし待った無しだったのだが、残念なことにそうはならなかった。目元をさっと拭ったシャルティアが覚悟の面持ちで顔を上げた。

 

「お前がわたしを殴りなんし! それでおあいこでありんす!」

 

 いやいやいやおあいこになるわけないでしょうとソリュシャンは思ったのだがシャルティア様が聞き入れるわけがないのはわかりきっていた。



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シャルティアはナザリックの一番槍でありんす! ▽シャルティア♯1

 スーパームテキングドラゴンがカタツムリを踏みつけた。殻は粉々中身グチャァ。

『ゴメンゴメンうっかり踏んじゃったけど代わりに噛みついていいからそれでおあいこにしよう』

 

 えっそれでおあいこになると思ってるのドラゴンてそんな頭悪いの、所詮は図体がでかいだけのトカゲね、ドラゴンがまさかここまで愚劣とは、違いますよもっとちゃんとしたドラゴンいますから、えっとお姉ちゃんの言うとおりだと思います、全クフェアデハナイナ、等と様々な意見があがった上で『お前ふざけんな』にまとめられる。全ナザリックが賛同する。ソリュシャンだってそう思う。人間たちもビーストマンもリザードマンも、およそ知性がある存在なら間違いなく同意見。

 しかし中には、ふええドラゴンは潔いでありんすねぇ、と思う者がいる。

 その名はシャルティア。ナザリックの切り込み隊長、最強の一角、抜群の戦闘センス。しかしながらステータスの偏りが激しいのかおつむがちょっとあれなのかも知れない。

 それがシャルティア・ブラッドフォールン。美しき始祖の吸血鬼である。

 

 混じり気のない真剣そのもののシャルティアを余所に、男とソリュシャンは視線を交わした。

 この人なに言ってるんですか、人じゃないわ吸血鬼よ、いやそう言うのいいから、真剣に仰ってると思うわ、真剣に?、真剣に、もしかしてシャルティア様は、それ以上言ってはダメ、皆さんそういう認識なんですね、ご自身はそれほどでもないと思ってらっしゃるから、どなたも何も仰らない?、言ってもどうにもならないもの、マジか。

 

「ソリュシャンは出て行っておくんなし! 人間に殴られる無様なところを見せたくないでありんす」

 

 細い腰に手を当てて真剣な顔。本気であるらしい。

 

「……かしこまりました。どうかお気をつけて」

「心配はいりんせん。人間に殴られた程度で傷一つ負わないでありんすから」

 

 ソリュシャンは、ああそれはわかってるんですねと目が死んだ。

 勿論愛しのお兄様に向けた言葉。シャルティア様なりに反省したようなので無体なことはしないと信じたいが信じきれないところがシャルティア様。万一に備えて回復魔法を収めたスクロールを用意し近くの部屋で待機することにした。

 部屋には部屋の主とシャルティアだけが残されてドアが閉められた。

 

 

 

 

 

 

 まじまじとシャルティアを観察する。

 年の頃は14かもう少し下。年若であるため背が頭一つ以上低い。赤と黒を基調としたポールガウンにドレスグローブ。同色のヘッドドレスで銀色の髪を包んでいる。ナザリックの女性の例に漏れず長ずれば傾世の美姫となるのは間違いない。しかし血の通わぬ白蝋じみた肌と真紅の瞳がそれを否定。彼女は吸血鬼。既に完成された存在。少女から女へ至る過程の完成された不完成。

 なお、ドレスの胸部を大きく盛り上げる双丘は詰め物であると一目で見抜いた。シャルティアの背筋は真っ直ぐすぎる。おっぱいというものは重いのだ。そのため、おっぱいが大きいシクススが背筋を伸ばすとやや後ろに反った姿勢になる。真っ直ぐ立つと重心が前に傾いてしまう。

 

「早くするでありんす」

「いいんですね?」

「ふん。お前如きに殴られて傷を負うものか!」

 

 目をつり上げ睨みつける。

 男は大きく腕を引いた。手は開かれたまま。シャルティアは目を開いたまま。

 直後、男は腕を振り抜き快音が鳴り響きシャルティアの端正な顔が少しだけ右を向いた。

 間髪入れずに右の頬も張る。壁のシミにされかけた分、アルベド様を侮辱した分!、続いて板挟みにされたソリュシャンの分、部屋の掃除が大変になるメイド達の分、ついでにもう一発!、無呼吸の5連発。

 少女の頬を張る気後れも遠慮も何もない全力のビンタであった。

 

「っ……」

 

 シャルティアは打たれた頬を細い指でそっと押さえた。両の頬が微かに赤らんでいる。

 

「お言葉通り打たせていただきました。痛みますか?」

「……お、お前ていどに殴られて痛いわけがないでありんす。こんなの何万発打たれてもぜんぜん平気でありんす。わたしの気が済むまでもっと殴っておくんなし」

「えっ」

 

 呆気にとられてシャルティアを見る。少々頬は赤いが先と同じの真剣な顔。これで手打ちと思うがご所望ならもう一度。

 頬骨や顎など硬いところを打つと手が痛む。目測あやまたず再度頬へ張り手を送った。

 

「こんなのぜんぜん平気でありんす!」

 

 もっともっとと言われるままに張り手を送る。シャルティアの頬は赤みが増していくが平手とは全く無関係。むしろ男の手が痛み始めた。

 

「そ……それなら足を使うでありんす!」

「……そう仰るなら遠慮なく」

「あうっ」

 

 後ろから人体で最も肉厚な尻を蹴りつけた。シャルティアは風に吹かれた小枝のようにふらりとよろめき両手両膝を床につく。

 

「大丈夫ですか?」

「う……うるさい。これはわたしのバツでありんすから……」

 

 息が荒く頬はより赤く。蕩けた目で男を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 シャルティアの創造主はギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のメンバーの一人ペロロンチーノである。ペロロンチーノの異名を爆撃の翼王、またの名をエロゲーマスター。シャルティアはペロロンチーノがあらゆる性癖を込めて創られた存在である。同性愛・ネクロフィリア・嗜虐趣味等々。そこへ被虐嗜好が入らないわけがない。アインズ様からの罰として人間椅子ならず吸血鬼椅子を命じられてハアハアしていた上級者。

 しかしそれ以外に被虐嗜好が満たされることはなかった。アインズ様は及び腰。眷属のバンパイアブライド達に命じても恐る恐るで全然駄目。戦闘でダメージを受けるのは全く違う。単に暴力を振るうのではなく思い遣りを持って、しかし容赦なくやってもらわなければ駄目なのだ。

 男の平手打ちでダメージを負うわけがない。たかが人間に打たれるのは屈辱だ。しかし何かが刺激された。屈辱なのに痛みもないのに繰り返されるごとに何かが顔を出してくる。蹴られたときは腰に来た。勿論ダメージ皆無。けども立っていられなくなり膝を突く。人間の前で。屈辱以外の何物でもない。同時にもっと蹴って欲しいと思った。いや蹴るべきだ。まだまだ罰は足りていない。

 

 

 

 

 

 

「はあはあ……、人間の前で膝を突くなんて……こんな屈辱……くうっ……」

「手をお貸ししましょうか?」

「うっうるさいでありんすねぇ……。お前はもっと蹴らないと、わたしのバツになりんせん……」

 

 とろりと情欲に駆られた瞳。デジャヴを感じて男は天を仰いだ。ラナーに似たようなことをしたことが何度もあった。足蹴にされたラナーは「この私がこんな醜い男になんて屈辱!」と怨嗟をまき散らして大いによがった。床に伏せたまま尻を突き出すシャルティアはそれにそっくり。

 

「あうっ!」

 

 育ちきらない薄い尻に足を置く。

 

「つまりシャルティア様は私にもっと虐げて欲しいと言うことですか?」

「そんなわけ……ふうぅっ!」

 

 置いた足に体重を掛ける。過重が増すごとにシャルティアの声は艶めいていく。

 

「それならここまでにしましょう。シャルティア様は十分すぎるほどに罰を受けました」

 

 掛値ない本心。幼い日のラナーに同じ事をしてきたので良心は咎めなくてもシャルティアはナザリックの階層守護者。これ以上は面倒と言うかそもそも初めからしたくはなかった。しかしシャルティアの言葉を否定するのはもっと面倒になりかねない。

 

「ダメッ! もっと……もっとして欲しいでありんす!」

 

 情欲を隠そうともしないシャルティアに、ふと思いついた事があった。吸血鬼であっても肉持つ女性。ソリュシャンとは違う。しかしこれを提案したら首と胴がおさらばしかねない。いいや構うものかアルベド様のために技を磨かねばならぬ。ここで果てるならそれも運命。

 

「シャルティア様に一つお願いがございます。これを聞き入れようと聞き入れまいと今夜の件は決して口外しないとお約束します。お怒りになり私を罰しても構いません」

「……言ってみなんし」

「手マンの練習をさせてくれませんか?」

「すぐ始めるでありんす!」

「即答!?」

 

 

 

 

 

 

 ふわりと膨らむ長いスカートに手を差し入れ自分から下着を脱いだ。背伸びした黒いパンツはとっくにぐっしょり。

 

「さあするでありんす!」

 

 男の前に足を開いて仁王立ち。スカートは自らたくし上げ無毛の股間を晒す。頬は期待に紅潮して良い笑顔。とても美しい少女なのだがとても男らしい振る舞いである。

 

「それでは失礼して……」

 

 シャルティアの前に屈み込む。目の前にはシャルティアの白い下腹。腰を突きだしているので幼い割れ目が目に映る。つるつるの無毛の秘部へ両手を伸ばし、開き掛かった割れ目をぴらと開く。

 思わずほうと唸った。白蝋めいた白い肌だが血が通わぬ訳ではないようで、内側は美しいバラ色がてらてらと濡れ光る。鑑賞する間も透明な粘液がとろりと糸を引いてぽたりと床に落ちた。

 一旦手を引く。しないでありんすか?、いいえこちらに。ベッドに座らせ、男は後ろから覆い被さる。小柄なシャルティアは腕の中。スカートは大きくめくられ、シャルティアは下腹の上で手を重ねけして動かさないようにと頼み込み、男の手がシャルティアの太股を撫でた。

 吸血鬼だけあって見た目に違わぬ冷たい肌。手触りは滑らかで柔らかさよりも若々しい弾力が勝つ。

 中指を伸ばして割れ目にそっとあてがった。

 

「うう……早くして欲しいでありんす……。もっとくちゅくちゅって」

「お忘れですか? 練習ですのでゆっくりとさせて頂きます」

「おまんこもうくちゅくちゅでありんす……、もっと激しくしておくなんし……」

 

 耳を貸さず、少しずつ割れ目に指を埋めていく。

 

 焦れったい、早くして、もっと激しく、中でも平気、クリもして……。様々な訴えは時間を追うごとに減っていった。代わりに荒い息が目立つ。男の胸に体重を預け、下腹の上で重ねた手は握られている。

 割れ目に潜った指が肉芽に触れるまで5分。触れてからも一向に動かさずシャルティアは腰を疼かせて、気付いたときにはクリトリスの包皮をむかれていた。男の指から熱が伝わり肉芽になじみ、触れているのかいないのかわからなくなって、気付けばクリトリスを勃起させていた。

 指を押し当ててるだけなのに、押し当ててるだけではないのか、甘い疼きが高まっていく。

 

「あー……あー……、あうぅ……」

「お辛いですか?」

「へ……平気で、ありんす。もっと、もっと……」

「こうですか?」

「あはっ♡ そうでありんす、おまんこにもっとぉ」

 

 つぷりと指が入ってきた。ゆっくりゆっくりと、シャルティアを傷つけないように。

 

(わたしのおまんこにぃ、わたしの処女おまんこにぃ、人間の指が入ってるでありんす……、おまんこの中をくちゅくちゅされてるぅ、おつゆがいっぱいぃ、もっと、もっと奥まで、人間の指なのに、おまんこきもちいいのぉ……)

 

 シャルティアの処女肉をかき分けてゆっくり入っていく。根本まで入りきると抽送はせずに優しく指を折り曲げて、何かを探すようにシャルティアの膣壁を擦り始める。

 

「あっはあっ! そこ、そこでありんすぅ♡ くにくにってして、おっぱいもぉ!」

 

 動かさないよう言われた自分の手でドレスの上から胸を揉み始めた。しかしそれは偽乳。パットの形は完璧ゆえに厚さがあった。男の腕の中にあるのもお構いなし、苛立ち紛れにドレスを脱ぎ捨てる。パットもろともブラジャーも。

 華奢な肩越しに見える胸は思った通りに可愛らしい。膨らみは手の平で包めるほどでも初めて揉んだラナーより上。

 

「乳首がピンピンにぃ、摘まんでおくんなし」

 

 振り向き見上げる顔は淫蕩に蕩けて紅い唇が唾液に濡れ光る。

 突然胸ぐらを掴まれて、抵抗できない力で引き寄せられた。

 

「んんっ、ちゅーーっ……。むぅ、お前も舌を出すでありんす!」

「……噛まないで下さいよ?」

「そんなんしんせんから安心しなんし」

 

 赤い舌と紅い舌。冷たい唾と温かい唾が混ざり合って、隙間なく合わされた唇の中、互いの舌でかき混ぜあう。口内を舐めあって舌を絡ませて、異なる温度が溶けていく。

 いつの間にか男が下でシャルティアが上。

 抱きしめようにも躊躇われ、シャルティアは男の顔を離さない。

 

「くふぅ……、おまんこにぃ、もっと深くぅ……指よりもっともっと深くでありんすぅ、おまんこにぃ、奥までぇ」

「それはっ」

 

 言葉を紡ごうにもすぐに口を塞がれる。

 シャルティアはズボンに手を掛け、残念なことにアルベド様より遙かに不器用だった。メイドが裁縫仕事をしてもどうにもならない。下着も一緒に破かれて逸物が外気に晒された。

 

「おちんぽがまだおっきくなってないぃ! ふふっ、でもこーすえばすぐにおっきするでありーんす♡」

 

 腰の上に跨がった。逸物へ開きかかった割れ目を押しつけ腰を前後に揺する。

 

「こーしておまんこから出てきたおつゆをぬりぬりしてぇ、あはっ♡ だんだん固くなってくのがわかるでありんすよぉ?」

 

 淫蕩な笑みで何度も舌なめずりをし、口の端から涎がこぼれて男の胸に落ちる。シャルティアの舌は自分の唾を追いかけて、男の乳首を舌でつつく。男と言えども立つもので、乳首を舐めながら固くなりつつある逸物を扱く。

 

「シャ、シャルティア様! これは私の練習で」

「ううるさいぃい! お前がわたしのおまんこをいじいじするからおちんぽが欲しくなっちゃったんでありんす!」

 

 それを言われると全く返す言葉がなかった。

 

「ああ、おちんぽおっきいぃ……食べきれるでありんしょうか?」

 

 美しいドレスグローブに包まれて、逸物はそそり立った。

 シャルティアの裸身は美しくもいまだ幼い。守備範囲外と言いたかったがこれより幼いラナーを知ってる。どこで覚えたのかシャルティアの手技は巧みだった。アルベドはサキュバス故だったがシャルティアは創造主がそうあれと望んだから。男がそんなことを知るわけがない。

 確かなのはシャルティアが情欲にたぎって割れ目を開いて大いに濡らし、男はシャルティアのおつゆまみれになって固く勃起させている。

 力での抵抗は全く不可能。反論は完璧に封殺された。

 

「シャルティアはおちんぽ入れたことなくてぇ、処女おまんこなのぉ。お前のおちんぽがわたしの処女おまんこの初めて……。うれしいでありんすか? 感激しなんし」

「……いやそーいうこと言われるとプレッシャーが」

「おちんぽおっきさせればいいの!」

 

 再度男の腰に跨がった。

 反り返った逸物の竿に割れ目を押しつけ、先とは違う固さと熱さを粘膜で感じる。

 腰を浮かせて逸物を摘まみ、上を向かせた。開きかかった割れ目を亀頭で数度撫で、位置を合わせる。合わせたところはシャルティアが涎のように愛液を垂れ流しているところで、小指ほどの小さな穴があいている場所で、シャルティアはいじるのもいじられるのもとっても好きで、まだ処女膜がついていて、指しか入れたことがなく、んっと声を漏らして熱く膨らんだ亀頭が処女膜をぐいぐい押して膣に入り込むと、一息に腰を下ろした。尻が男の太股にぶつかった。

 

「あっ…………はあぁあああぁぁ! あぁ……シャルティアの初めてがぁ、処女おまんこだったのに、おちんぽが入ってきたぁあ!」

 

(おちんぽ熱い大きいぃ! 子宮まで来てるぅ、シャルティアのおまんこにおちんぽ入ってるでありんすぅ、おちんぽがあおちんぽがあ……)

 

 処女肉が裂かれる痛みさえ快感で、シャルティアは達した。

 

「ああっ!? 動かないでくんなまし……、だめもっと動いておくんなし!」

 

 男は下から突き上げて、物覚えがよいシャルティアは動きを合わせて腰を振る。

 処女肉に刺さった逸物はシャルティアの愛液と、破瓜の血に塗れている。

 

「もっともっとぉ、おまんこ擦ってぇ♡ あっあっあん! キス、キスもするでありんすぅ!」

「っ!」

 

 抱きしめる背中に爪を立てられ、鈍い痛みが走る。

 シャルティアは小さな体全体で男にしがみつき、唇をねだりながら腰を振った。結合部からグチョグチョと鳴るのはシャルティアの愛液が多すぎるからで、腰を落とす度に鳴った。

 

「おちんぽきもちいいのぉ! シャルティアのおまんこでぇ、子宮にいっぱい熱いのほしいぃ!」

 

 シャルティアの狭い膣が何度も逸物を締め付けて、痙攣を伴う締め付けは何度も達していると男に教えた。

 狭くきつくて食いつかれたようで、愛液は十分すぎて冷たかった膣内はいまや熱い。

 らめらめもうらめと呂律が回らないにも関わらず、シャルティアはずっと上のままで腰を振り続けた。

 何百度目か、シャルティアが腰を下ろして一番深くつながって、

 

「あああああっーーーっ!!」

 

 シャルティアの絶叫と共にどぴゅどぴゅと熱い精液を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

『かっ…………帰るでありんす!』

 

 事を終え、荒い息を整えるとシャルティアはさっさと帰ってしまった。ゲートの魔法による即時帰還。見送りも何もあったものじゃない。

 男は衣服を整えソリュシャンにシャルティア様のお帰りを伝える。ソリュシャンは安堵の気配を漂わせたが、服が違うことに気づき、男の寝室を検分して何があったかを把握してお兄様サイテー。

 しかしあんなのどうにもならない。ナザリック単騎最強にただの男があらがえるわけがない。ソリュシャンは何とか納得したが、元はと言えば手マンの練習が発端とは知らないでいる。




このあとノープランです


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もつれた糸は

 男がいる書斎の扉を開けたとき、アインズは感情抑制が発動しかねないほどの動揺に襲われた。

 発動しなかったのが災いして体が小刻みにわなわなと震え始めた。

 

 

 

 

 

 

 その前日、お屋敷の若旦那様はソリュシャンお嬢様と一緒にエ・ランテルの街に繰り出しました。お屋敷の食事はとっても美味しいけれど気分転換にお昼を食べに出掛けたのです。

 一悶着ありましたが、エ・ランテルで一等高級な宿屋「黄金の輝き亭」でのランチは一流のコックを擁すると言うだけあって急激に舌が肥えつつある若旦那様も大変満足なさいました。帰り道に「紫の秘薬館」なる店ではどのような秘薬を売っているのかと興味をそそられ、ソリュシャンお嬢様から肘打ちを受けて悶絶したのは当然の報いです。ちなみに若返りの秘薬を売っています。別名を「春」と呼びます。

 楽しい一時を過ごしてきました。ところが帰宅するとアルベド様が先ほどまでいらしていたとメイドから告げられました。まだ昼日中、かつてなかったことです。これには大いに悔やみました。

 お兄様があんなちびっ子仮面を構うからですとソリュシャンお嬢様は辛辣です。

 幸運なことに明日訪れるから必ず在宅でいるようにとの言付けがありました。全裸待機です。それなら今夜は問題なしねとソリュシャンお嬢様は摘まみ食い決行。予定がわかっていると助かります。明日は出来ないのですからその分多めに。

 

 他方、ナザリックが誇る知謀の悪魔デミウルゴス様はナザリック第10階層の最古図書館で思案していました。彼の男の教育方針についてです。アインズ様のお役に立てるため高度な教育を施す許可は既にアインズ様から得ています。

 教育を施すことは決まったのですが現地の書物はとてもレベルが低いのです。そのため最古図書館から適切な書物を選び与えて自主学習させようと思ったのですが、書物に用いられているのは全て神聖文字です。彼は読み書き出来ません。直々に教える暇はありません。現在のデミウルゴス様は魔王ロールの真っ最中で、こうして書物を選ぶ時間さえ惜しい身の上です。

 ソリュシャンに任せますか、と思ったところで珍しくシャルティア様が最古図書館に遊びに来ました。現在のシャルティア様はいつぞやの失態が尾を引いてちょっと暇なのです。

 軽く近況を話し合ったところ、シャルティア様が文字習得の先生役に強く立候補しました。デミウルゴス様はシャルティア様の心境がとてもよくわかってしまいました。

 シャルティア様はちょっとあれなのです。ご本人もちょっとそんな自覚があります。そのため知的なお仕事に強い憧れを持っているのです。

 読み書きを教えるくらいシャルティアでも問題ないでしょうとデミウルゴス様はゴーサインを出してしまいました。

 

 そして我らが偉大なるアインズ様は、魔導王と漆黒の英雄の一人二役で忙しい毎日を送っています。影武者がいい仕事をしていますが忙しいものは忙しいのです。最近はずっと魔導王で、たまには冒険者のモモンになって骨休めしたいなあと思いました。骨だから骨休めなのではなく、骨休めという言葉があるのです。

 いつだったかナーベラルの矯正を任せた男がデミウルゴスが感心するほど頭がよいと聞き、ちょっぴりびびりました。帝国の皇帝ジルクニフも優秀な頭脳を持っており、この世界はイケメンほど頭がいいのかと思ったものです。それはそれとして話していて気疲れしない相手なのは確かです。過度な忠誠心もなく、同性の気安さもあり、出来れば時々一緒にお茶でもして茶飲み話につきあって欲しいと思うくらいです。

 そうして久々モモンとなり定宿としている黄金の輝き亭に戻ると、昼に彼の男とソリュシャンがお昼に来ていたと宿の雇人から聞きました。

 これも何かの縁と思い、翌日の夕刻に訪れてみることに決めました。パートナーのナーベに伝えると心持ち嬉しそうです。姉妹のソリュシャンと会えるのが嬉しいのかも知れません。

 アポイントメントはどうしようかとちょっと考えましたが面倒だからまあいいやとサプライズで行くことにしました。

 

 

 

 様々な意図がもつれた糸のように絡まりつつ迎えた翌日の夕刻。モモンはナーベを伴いエ・ランテルでアインズ様の居館に次ぐ大きさを誇るお屋敷へ足を運んだ。その様子をこっそり見ていたちびっ子仮面が絶望に膝を折って動けなくなったのは今は全く関係ない。

 空には夕日の残光。

 夜通し語り合うのはあちらの体力やこちらの都合で難しいが、前回訪問時以上の時間がとれるのは間違いない。屋敷にこもっている男が喜ぶであろう土産話もいっぱいある。意気揚々と屋敷の門を潜った。出迎えはきちんとあったが何だか慌ただしい。怪訝に思っていると、現地で雇ったメイドではなくナザリックの一般メイドが些か慌てた様子で現れた。どうにも顔色が悪い。何かあったのかと尋ねても口ごもる。

 今のアインズは金属鎧フル装備の漆黒の英雄モモンであるため、モモンには話しがたいことなのかも知れない。

 とりあえず屋敷のお嬢様と若旦那様に挨拶したいと告げればメイドの緊張はいや増して、他のメイド達を遠ざけて自ら案内を買ってでた。

 案内されたのは若旦那様の書斎。

 こちらですと告げるも扉を開こうとしない。ナーベがモモン様のお手を煩わせるのかと視線をきつくするがメイドは顔を白くして固まるばかり。

 扉の前に立っても不自然なほど物音が聞こえてこない。立派なお屋敷にふさわしく重厚な扉であるが不自然すぎる。まるで魔法で音を消しているような。

 メイドの緊張。

 不自然な現状。

 アインズの警戒を駆り立てるのに十分すぎた。

 

「何かが起こっているのかも知れない。ナーベラル、警戒せよ」

「はっ」

 

 現地で雇ったメイドが周囲にいないことを確認し、魔法で創った金属鎧を解除。

 魔導王であり偉大なる死の支配者アインズ・ウール・ゴウンの姿となってアインズは書斎の扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

「この子は私のなんだから離しなさい!」

「これからわたしと勉強するんでありんす!」

「そんなの私が教えるわよ!」

「守護者統括様は忙しいでありんしょう!」

「ともかくこれから私はご飯なの!」

「夜は吸血鬼の時間でありんす!」

 

(……………………うわあ)

 

 アルベドとシャルティアが綱引きをしていた。綱は男の腕である。顔面蒼白で目はうつろ。引かれる度にがっくんがっくんと首が揺れる。部屋の隅ではソリュシャンがプルプルしていた。

 デミウルゴスから言われたでありんす!、余計なことをしてくれて!、さっさと離して帰りなんし!、帰るのはそっちでしょう!?、わたしが先に来たでありんす!、私は昨日から来るって言ってたわ!、そんなの知るか色ぼけババア!、なんですってこの偽乳小娘!、あ゛?、あ゛あ゛?、吐いた唾飲めんぞこの大口ゴリラ!!、んだとこのヤツメウナギ!!

 

(美女と美少女から取り合いされてるのに全く羨ましくないな。もしも俺が人間のままだったらあんな風に取り合いされてたのか? ヤバいな死ぬわこれ。モテる男が辛いってのはほんとだったんだな。食欲的な意味だけど。ってかそろそろ不味いぞ。あいつの腕がプチプチ言ってるし肩とか肘とか思い切り伸びてるな。お前らいい加減俺が来たことに気づけ!)

 

「オッホン!」

「「アインズ様!?」」

 

 腕を引きながら同時に振り向く二人。

 ブツンと鳴って倒れる男。舞う血飛沫。アルベドとシャルティアへ降り注ぐ。そして発動する血の狂乱。ちいいいぃいいおいしいいいいぃいい!

 

「うおおお!? アルベド取り押さえろ! ナーベラルは援護! ソリュシャンはそいつを回収すぐに回復させろ!」

 

 

 

 この世界において異端とも呼べる100レベル三人ぷらすアルファによる乱闘。前もってシャルティアが静寂の魔道具を使用していなければエ・ランテル中に鳴り響いていたことでしょう。

 狂乱したシャルティアが狙ったのはあくまでも男の血でありアインズ様へ引く弓はなし。アルベドが優秀な前衛であることもあって、お屋敷が崩壊することもなくシャルティアの沈静化に成功。

 但し若旦那様の書斎はえらいことになりました。

 

 

 

 

 

 

 何とか平穏が戻った書斎では、アインズの前にアルベドとシャルティアがひれ伏していた。

 

「アルベドよ、うまい食事を楽しみたいのはよくわかる。私は食事をとれないが食事の大切さはわかっているつもりだからな。しかし幾ら美味しいからと言って食べすぎはよくない。ご馳走は偶にだからこそ価値があるんだ。これからは週に一度に抑えるように」

「……はい、かしこまりました」

 

 一週間どころかもう一週間以上食べてないのにいいぃ!、でもアインズ様のお言葉を違えるわけにいかない……。アインズ様は私の健康を思ってお言葉を掛けてくださっている。ああ、アインズ様アインズ様、なんとお優しいお方、愛しいお方。それに比べて意地汚いこの偽乳小娘は!

 

「シャルティア、デミウルゴスから報告を受けている。あの者に日本語の読み書きを教えるそうだな。お前が自分に出来ることを率先してやろうという姿勢はとても尊いものだ。しかし無理強いはよくないぞ。嫌々やらせるより伸び伸びと学ばせた方が成果が高いとやまいこさんも言っていたからな」

「あ゛い゛…………、ぼうじわ゛けごじゃい゛う゛ぁぜん…………」

 

 何言ってるか全然わかんない……。すっごく泣いてるから反省してるのはわかるんだが、そんなに教師役がやりたかったのかな?、あーシャルティアだからなあ、皆からおバカ扱いされてたの割と気にしてたのかも。俺もそんなこと思っちゃったことあるし。

 

「コホン、ひとまず勉強は明日からにして、今日みたいなことになると困るから必ずソリュシャンに付き添ってもらうように」

「あ゛い……」

「それでは今夜はここまで。私は折角だからエ・ランテルの館で執務に戻る」

 

 男との会話は諦めざるを得なかった。ソリュシャンから無事に回復したと報告があったがめっちゃ気まずい。自分のせいでというか自分の部下のせいで半死半生の目に合わせてしまったのだ。さすがに顔を合わせ辛い。ほとぼりが冷めるというのも変な言い方だが、茶飲み話はしばらく我慢するしかない。

 

「アインズ様、私はどういたしましょうか?」

「ナーベラルか。黄金の輝き亭に戻ってもいいが、一人で戻るのも不自然だな。明日になったら迎えに来るから今夜はここに泊まるといい」

「はっ、かしこまりました」

 

 

 

 

 

 

 客室に案内され冒険者姿を解いたナーベラルは、男の寝室の前で固まっては行ったり来たりを繰り返していた。

 扉を叩くべきか否か。

 今夜一晩世話になる、先ほどの怪我は大丈夫か、前回会ったときから今日までの間に何か変わったことはなかったか。

 どう言う名目で扉を叩くのがよいのか。それとも叩くべきではなく客室に戻るべきか。大体ソリュシャンはどこにいる。折角会いに来たのに顔も見せないなんて。

 扉を叩こうと持ち上がった腕はその度に下ろされて、逡巡に眉間のしわが深くなっていく。

 

「あら? 何してるのかしら?」

「ソリュシャン!」

 

 内側から扉が開き、出てきたのは探し人。否、探しスライム。

 わざとらしく目を瞬かせたソリュシャンは、ナーベラルの姿をふーんと上から下まで下から上まで。

 なるほどなるほどとしたり顔。

 

「心配しなくてもお兄様のお体は何の問題もないわ。今はお目覚めになってぼんやりしているところよ。で、ナーベラルは何しに来たの?」

「何しにって……別に……なんでもないわ」

「あらそうなの? アルベド様とシャルティア様はお帰りになって、アインズ様は知っての通り執務に戻られたわ。私はもう少しお兄様と一緒にいたかったのだけど、あんなことがあったばかりだから今夜はお一人で休んでもらおうと思ったところよ」

「……そう」

「今はお兄様はお一人よ」

「…………だから何?」

「お体には何の問題もないわ。アインズ様がくださったポーションのおかげでむしろ調子がいいみたい」

「………………」

「私はもう部屋に戻るわ」

「……おやすみなさい」

 

 去り際に、ソリュシャンはナーベラルへそっと耳打ちした。

 

 お楽しみに。

 

 意味が浸透すると同時にナーベラルはうなじまで赤く染め、何かはわからないが何かを言ってやろうと振り返ったが、既にソリュシャンの背中は遠くになっていた。

 数度深呼吸して、ナーベラルはドアをノックした。

 どうぞと聞こえ、ドアを開いた。

 中に入った。

 

 

 

 ソリュシャンはご機嫌である。

 アルベド様のお食事が週に一度と決められたのだ。

 食事と食事の間の一週間はフリーダム万歳!

 超勝ち組が持てる余裕でもって、愛しい姉妹へ一晩譲ることに何の躊躇いもなかった。




シャルティアがなんか濃かったので甘めにいこうかと


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叶う約束 ▽ナーベラル♯4

 部屋に通されて男を一瞥するなりナーベラルは、つまらない顔してるわね。

 

(違うでしょおお! 貴女が言いたかったのはそんな言葉じゃないはずよナーベラル! お兄様も「昔は面白い顔だったんですよハハハ」じゃありません。ナザリックジョークのつもりですか? でもさり気なく長椅子に座ったのは偉いわ、そうすればお兄様は隣に座らざるを得ない。隣に座れば顔を見なくて済みますねとかそういうのじゃありませんから!)

 

 

 

 

 

 

「……力のない顔をしていると言うことよ」

 

 すぐ隣から聞こえる美声に男はそうかなと自分の頬を撫でた。そんな顔をしているつもりはなくてもそんな顔になってしまう理由はあった。

 

「ナーベラル様の前で失礼かも知れませんがアルベド様がお帰りになったのが残念で」

「アルベド様はいずれアインズ様の正妃となるお方よ」

 

 反射的に口をついた言葉にナーベラル自身が驚いた。どうしてそんなことを言ってしまったのか。皮肉や当てこすりではなく単なる事実だというのに、どうして言ってしまったことを驚くのか。並んで座っていて良かった。彼の顔を見ることも顔を彼に見られることもない。

 

「知っています。正しくはアルベド様とシャルティア様で正妃の座を競っている。現在のアインズ様は覇道の真っ最中なので歩み続けている間は保留だとか。ソリュシャンから聞いてます。もちろん私はアルベド様を応援しています」

 

 ナーベラルは隣へ顔を向け、あちらもこちらへ顔を向け、見つめ合った。

 

「……あなたはそれでいいの?」

「いいも悪いもアルベド様のお望みを応援するのは当然でしょう? 今日もそのことを喧伝してきたところです」

 

 尤もアインズ様ではなくモモン様でアルベド様のお名前は伏せましたけれど。

 

「アルベド様をお慕いしていたのではないの?」

「……何か誤解があるようですね。ナーベラル様が私のことをどれだけお聞きになっているか存じませんが、かつての私はとても狭い世界に閉じこめられていました」

 

 自由に動けたのはせいぜいこの部屋の広さ程度。それが十余年。空を見るのも稀でした。完全に閉ざされた狭い世界を切り開き新たな世界へ連れ出してくれたのがアルベド様です。創造主ですら足りない、私にとっては創世の主です。アルベド様がお望みになることを妨げられるわけがない。いずれアインズ様の正妃となれば私が不要となり然るべく処分するのかその先があるのかはわかりかねますが、全てはアルベド様のお望みの通りに。

 

「……捨てられてもいい、そう言うつもり?」

「捨てられたいわけじゃありませんよ。ただお望みのままに。ナザリックの方々はアインズ様へそのように忠義を抱いているのではないのですか?」

「…………」

 

 ナザリックから去っていった至高の御方々が脳裏をよぎる。残ってくださったのはアインズ様だけ。そのアインズ様が自分たちを残して旅立つことを望まれたら。シモベの誰しもが一度は考えて恐怖に身を凍らせ、二度と考えないことを誓う。

 

「考えようと考えまいと、耐えられようと耐えられまいと、その時がいつか来るのか来ないのかはアルベド様次第です。私はアルベド様のものですがアルベド様は私のものではない。そんなことは考えることすら憚られる。ナーベラル様は違うのですか?」

「私は……」

 

 そんな話をするつもりはなかった。いつしか覚えた物足りなさ、それを埋めてくれるのではと思った。体を色々触られて気持ちよかった。もう一度と思った。至高の御方々が去ってしまった空虚。お残りになってくださったアインズ様の慈悲深さ。それを失ってしまったらどうすればいいと言うの? あなたは耐えられるの? どうすればそうなれるの?

 

「私はそんなに強くなれない……」

 

 昼ならともかく就寝前の今は簡素な部屋着でポケットを探してもハンカチは出てこない。まさか服の袖を使うわけにはいかない。すぐ隣で放っておくのも決まりが悪い。嫌なら跳ね退けるだろうと手を伸ばし、ナーベラルの目元を指で拭った。

 空虚が少しだけ埋められた気がした。

 

「……あなたの強さを教えて」

 

 

 

 

 

 

「アルベド様が仰ったことを覚えてる?」

「勿論です」

「それなら自分で言ったことも覚えてる?」

「全てとなると自信はありませんが、ナーベラル様への言葉なら」

「今日はアインズ様のご命令でここにいるわけじゃないわ」

 

 頬に触れる男の手をそっと押さえた。

 

「私を可哀想な扱いにするつもりはないでしょうね?」

「とぼけるつもりはありません。ですが、ナーベラル様はどこまでご存じですか?」

「全部知ってる。ソリュシャンに教えてもらったわ」

「具体的には?」

「……あなたのおちんこを……私のおまんこにいれるの」

 

 手を押さえたままナーベラルから距離を詰めた。

 

「私に女の悦びを教えて」

 

 ちゅっと男へキスをした。

 続いてのキスは男から。抱き締めて長椅子の上に押し倒す。ナーベラルは美麗な顔を薄く染め潤んだ瞳で見返してくる。互いの吐息が嗅げる距離になるとナーベラルは舌を伸ばして男は唇で甘く食む。ソリュシャンとの勉強中にしたキスを覚えていたようで、ナーベラルも男の口内へ舌を差し込んだ。強く吸って唾を飲んだ。

 

(ああ、またこの男とキスしてる。私からキスしちゃった。人間なのに。でも嫌じゃない。ソリュシャンもしてたから? 私がしたい? ううん、私がしたい。もっとキスしたい。唾も飲んであげたい。余り美味しくなかったけどあのねっとりしたのも飲んであげたい。んっ……おっぱい触られてる。何だか安心する。っ! 生おっぱい触ってる?)

 

 ナーベラルの部屋着は簡素でも仕立てがよいシャツとズボン。シャツのボタンは外されて、ブラジャーを着けていない柔肌は男の手が包んでいる。絞るような揉み方で快感が先端に詰まっていく。ナーベラルは男を抱き締める力をちょっと弱めて、体と体の間に隙間を作った。

 

「ぁん……、乳首が……んちゅっ……ちゅう……」

 

 摘ままれている。桜色の突起が指と指の間でくにくにと弾力を発揮している。

 その間もキスは続く。唾液を飲むだけではなく男にも吸われて飲ませて、時々どちらかの喉がこくりと鳴った。

 

「ねえ……あなたは私の乳首を、口にも含みたくなるって言ってたわね?」

「よく覚えてらっしゃる」

「うるさい。……していいわ」

 

 赤い顔を背けた。

 体を起こし、ナーベラルのシャツのボタンを全て外した。シャツを開けば仰向けになっても崩れないきれいなおっぱいがつんと上向いている。先端には小さめな乳輪と弾力ある桜色の突起が自己主張する。乳首もナーベラルも吸って欲しいと訴えた。

 吸いつく前に舌で舐める。舌で転がしても弾力ある乳首はすぐに元の位置へ戻ろうとする。口に含んでもソリュシャンと違って甘い汁が出てくるわけではない。だけども強く吸って、甘い鳴き声を楽しんだ。

 

「あっ! あんまり噛まないでぇ……、乳首じんじんするから……。えっ……ええっ!? ど、どこに手を入れてるの!? そこだめえ! パンツの中に手を入れないで!」

 

 乳首を吸いながらズボンを脱がせるのは無抵抗だった。一度長椅子を降りてもう一度乳首に吸いつく。右手はナーベラルの手を握った。左手は下腹を撫で柔らかくきめ細やかな肌を下へと滑っていく。

 指先がパンツの縁へ届き、その内側へ。繊細な生地とナーベラルの肌の間を這っていく。内側は熱く蒸れている。指先が柔らかな陰毛に触れる。指はさらに進んで、

 

「待って……、触っていいから……優しくして」

「ナーベラル様……」

 

 顔を赤くして目に涙をため、ナーベラルは切に訴えた。

 もう何十度目のキスをして、指はナーベラルの女に届いた。

 

(おまんこ触られてる……、おなかがきゅんきゅんしておまんこ濡れちゃってるのがわかる、私はどうしてしまったの? 怖い、でも嫌じゃない、もっと触って欲しい、キスももっとして欲しい、乳首ばっかじゃなくてこっちにもキスして欲しい、きゅんきゅんしてうずうずしてる、すごく気持ちいいのに何が足りないの? あっ)

 

「ふぅっ……、指、入ってる? 私のおまんこにあなたの指が入ってるの?」

「入るのは指だけじゃありませんよ」

「……知ってるわ」

 

(そうよ、ソリュシャンから聞いてたのに、おちんこが入るのよ、あんなに大きいおちんこが私のおまんこの中にっ!?)

 

「きゃうっ♡ いまなにしたの!?」

 

 クリトリスをきゅっと摘まんだ。驚いた顔が可愛らしい。

 指はもう一度ナーベラルの膣へ。ほんの指先だけ出入りさせる。ナーベラルの膣口には処女膜があるのがわかった。男性器すら知らなかったナーベラルなのだ。ないほうがおかしい。実のところ、ナザリックの女性NPCは設定如何に関わらず全員処女であることを男は知らない。彼女らを創造した至高の御方々がそう定めた。

 シャルティアで復習したばかりの手技で優しく愛撫を続けると手指をナーベラルがぬるつく汁で濡らしてくる。ナーベラル自身は男の頭を胸に抱き甘い声で鳴いた。

 中指の第二間接まで潜らせているだけで動かしてはいない。目が合えばはあはあと色づく吐息に潤んだ瞳で訴えてくる。

 

「キスして……」

 

 ちゅっとして離れ際に頭を抱かれた。耳元で囁かれた。

 

「そろそろあなたの……おちんこいれて♡」

 

 立ち上がるとナーベラルも長椅子に座り直し、男のシャツを脱がせてズボンを下ろした。逸物が跳ね上がってへそまで反り返っている。

 躊躇なく口に含んだ。前にした時のように歯は立てず唇だけで挟むようにして強く吸いつき口内の粘膜と熱い逸物とを隙間なく密着させる。頭を前後に振る。振りやすいようにたっぷりと唾を絡めた。たっぷりと唾を飲まされていた。

 ちゅぽんと鳴って離れたとき、膨らんだ亀頭から唾液の糸が引いた。根本まで唾がたっぷりと絡められ、ナーベラルは逸物から湯気が上がっているように思えた。

 

「ベッドに行きましょうか」

「……ええ」

 

 ベッドへ上る前に裸で抱き締めあう。ナーベラルの豊かな乳房は男の胸板でゆるくつぶれ、男の逸物はナーベラルの太股に挟まれて割れ目を撫でた。

 唇をむさぼり、尻を撫でもみしだき、ベッドへいざなう。

 ナーベラルが下。男が上。心得たようにナーベラルは脚を開いた。のぼせた顔は背けて、きゅっと目をつむって待ち受ける。太くて固くてだけども肉の柔らかさがあってとても熱くて、さっきまでしゃぶっていたものが割れ目を撫でるのを感じた。薄目を開けると男が自分に覆い被さっている。

 

(おちんこでおまんこ撫でてる、おまんこはいっぱい濡れちゃってるし指も入れられたんだからちゃんと入る……わよね? おちんこあんなにおっきいのにホントに入っちゃうの? つっ……、少し入ってきた? あっあっあっ……入ってきてる……。少し、少し痛いけど……大丈夫……)

 

 ナーベラルの中にゆっくりと入っていく。

 処女肉は侵入を拒もうと強い弾力で押し返してくるが、それ以上の力で押し込む。処女膜は引き裂かれて血を流し、男の太い逸物で無惨にも押し広げられていく。亀頭がぶつかった壁は子宮口。根本まで少し残す。ナーベラルの様子をうかがいながら更に進んでいく。子宮を押し上げられ美貌が歪む。根本まで入りきると涙を流した。

 

「私のおまんこに、おちんこ全部入ったの?」

「入りましたよ」

「入ってるのがわかるわ……」

 

(あんなに大きかったのに本当に入っちゃった。少し、苦しい。でも嬉しい。私のおまんこはこの人のおちんこを入れるためにあったのね)

 

「……これからどうするの?」

「しばらくはこのままで。痛いでしょう?」

「このくらい平気よ」

 

 それでも動かず挿入したままキスを繰り返す。ナーベラルの体から少しずつこわばりが抜け、膣が逸物の大きさに馴染んでいく。

 馴染んでからは固いきつさから強い締め付けになった。ゆっくりと抜き、ゆっくりと一番奥まで進める。怒張で処女肉を抉るのではなく、亀頭で膣壁をこするように。

 亀頭が子宮口にぶつかる度に二人もキスをする。唇を合わせるだけでなく舌も絡めて互いの柔らかさを味わう。

 

「ナーベラル様」

「……なに?」

「先のことはわかりませんし定命の私の言葉には何の重みもないかも知れません」

「…………なに?」

「だけども今は、あなたの傍にいます。こうしてあなたと愛し合ってる」

「なっ…………」

 

 言葉が出なくなったし頭は真っ白になったしだけども今までと比べものにならないほどキュンキュンと来て、ナーベラルの女が歓喜に震えて男の逸物を咥え込んでる事実が加速させて。

 

「動きますよ」

「やっやっまっ、待って! あっあっぅあっ! はあっ!? ああっ! ああーっ!」

 

(なにこれなにこれなにこれ!? だめだめなにこれ!? 胸がいっぱいで胸もおなかもキュンキュンしておまんこがよろこんじゃってる!? おちんこがおちんこがあぁ、おまんこぐちゅぐちゅして)

 

 膣の潤いは十分だったが十二分になって、深く入る度に愛液が逸物へ絡みつき外へと押し出されていく。抜くときは離れたくないと言うように強く締め付けてくる。ナーベラルが流した破瓜の血はとっくに流されてシーツのシミになっている。

 体位はずっと正常位でナーベラルは男の首に腕を回したまま。

 キスをせがみたいのに男の動きは激しくて唇を合わせられない。

 それならそうと言えばいいのに口を開いても出てくるのは甘い叫び。

 

「あっあっあっんああん♡ もっとして! いっぱい愛して!」

 

 

 

 この日はアルベド様がいらっしゃると前もって報せがあったためソリュシャンは摘まみ食いを控えていた。ナーベラルが来室する前はチャンスだったが、彼は情けないことにアルベド様が行っちゃったと嘆いていた。

 つまりは一度も出してない。

 抜かずに三度もどぴゅどぴゅと膣内で射精され、ナーベラルの子宮は男の精液で満たされた。

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 間もなくモモン様がナーベを迎えにいらっしゃる。ナーベの支度はとうに完了。今はソリュシャンとお茶をしながらお話中。女の子だけのお喋りなのでお兄様は追い払われました。

 ナーベがお茶を含んだのを見計らい、ソリュシャンはとっておきの言葉を口にする。

 

「夕べはお楽しみでしたわね」

「!」

 

 ナーベ硬直。顔は赤くなるが澄まし顔は変わらない。勿論お茶を吹き出したりもせずきちんと飲み込む。

 望んだ反応を得られず、ソリュシャンは口を尖らせた。

 

「そうね。悪くなかったわ」

「ふーん?」

 

 余裕を見せるナーベに、ソリュシャンは深い笑みを向けた。

 

「あなたの強さを教えて」

 

 ガタン! ナーベが椅子を蹴って立ち上がる。顔が赤くなり青くなりもう一度赤くなった。

 ソリュシャンはソリュシャンが知ってはいないはずの言葉を口にした。それが意味するのはただ一つ。

 

「……見てたの?」

 

 ソリュシャンは笑みを深めるばかり。そんなことは答えるに値しない。もちろん最初から最後までばっちり聞いてた覗いてた。

 昨夜、ナーベラルがお兄様の寝室に入ったと同時にとって返して隣室に入り、こんなこともあろうかと作っていた覗き穴から事の終始を鑑賞していた。ナーベラルがうさ耳を着けていたら気づかれたかも知れないがそんなことはなかった。アサシンスキルは優秀だった。思わずほっぺたを押さえたくなっちゃうあまぁい睦言も聞いてしまった。

 ソリュシャンは悪いスライムなのだ。隙あらば愛しい姉妹であろうと全力で煽るスタイルである。そのための恰好のネタが目の前に転がっていたらこれはもうどうにかしないのは相手に失礼。

 

「……許せないわ」

 

 ナーベはソリュシャンに飛びかかった。

 

 

 

「あの二人は何をしているんですか?」

 

 屋敷の中から漆黒の金属鎧に身を包んだモモンが現れる。

 モモンは昨夜この屋敷に泊まったことになっているので、アインズ様は屋敷内に転移してからモモンとなり出立する形となる。

 

「鬼ごっこのようですね。楽しそうで何よりです」

 

 中庭のテーブルでお茶をしていた若旦那が答える。

 待ちなさい!、きゃーおたすけー。

 二人ともとても楽しそうである。

 

「ソリュシャンはナーベ様に相手をしてもらうのがよほど嬉しいのでしょう。モモン様がお急ぎでなければもう少し付き合わせて頂けませんか?」

「まあ……少しくらいなら」

「お食事はお済みのようですから、せめてお茶の香りくらいは楽しんでください」

 

 軽い茶飲み話をしている間に二人はモモン様がいらしたことに気付いたようで笑みを張り付けながら仲良くぷるぷるしていた。

 そんな二人にモモンは気付かず、先日思った通りに話が弾んだ。盛り上がるのはやはり冒険譚。モモンの実体験なので迫力があるし狭い世界しか知らない男は嘘偽りなく引きつけられた。

 今度来たときは森の賢王を連れてくると約束して出立となった。




ハムスケ出てくるかどうかは知りませんというかわかりません


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教えてシャルティア先生! ▽シャルティア♯2

『今日からわたしがお前に神聖文字を教えることになりんした。わたしのことは最大限の尊敬と敬意と尊敬をもってシャルティア先生と呼びなんし!』

 

 飾っておきたくなるドヤ顔でシャルティア様が言い放った直後にデミウルゴス様からメッセージの魔法が届く。思うところはあるかも知れませんがシャルティアに付き合ってやりなさい、後日初歩的なテキストを届けさせますからそれを使って自主学習に励むように。つまりは子守なんですねわかりました。

 ひとまず書斎に移動したところ、どうしてシャルティアがいるのかしらとアルベド様。その後のことは血と涙なしに語れない。昨日のことである。

 

 本日はきちんとお勉強が始まった。吸血鬼に合わせて暗くなってからの授業である。

 但し書斎は改装工事中なので教室は幾つもある客室の一つ。シャルティア様の希望によりソファの前に低いテーブルを移動させそこへ本やら紙やら筆記具を並べる。

 

「始める前にこれと同じものをここに書いてみなんし。どれだけ文字が上達したか目安になりんす」

 

 シャルティアが書いたものは男の目には文字ではなく記号の羅列にしか見えぬ。どれも画数は少なく丸みを帯びている。単純な記号で写すのに苦はなかった。文末に日付と署名を此方の文字でよいからと付け加える。

 ふむふむよろしい。くひひとほくそ笑みながらどこぞへ紙片を仕舞うシャルティアに言いしれぬ不安を覚えるが後の祭り。自分はいったい何を書かされたのだろうか。

 

 アインズ様の言いつけ通り付き添っているソリュシャンは今し方の文章を読むことが出来た。シャルティアの恐るべき悪行に戦慄が走った。おバカおバカと言われてるのにどうしてこんな悪知恵が回るのか、これは是非見習わねば。

 授業が終わった後で、お兄様これと同じものを書いていただけませんか?、何が書いてあるんだ変な事じゃないだろうな、予習と思ってくださいな本日の授業であったのは簡単な仮名文字ですがこれは漢字と呼びます複雑な造りをしているでしょう、絵のような記号のような、こんなものも良い記念になりますわ、わかったよ。

 

 

 

 シャルティアが男に書かせた文章は、『わたし は しゃるてぃあ さま の しもべ です』である。

 これがあれば男の所有権を主張できる。最近の年増は出番が少ないしこれで「アルベドのお食事」は終了でありんすねこれからは「シャルティアのデザート」が始まるでありんす♪ 色ぼけババアざまあヒャッハー!

 早速アルベドに突きつけるとアルベドはこれは無効であると主張。デミウルゴス裁判官は原告の訴えを認め被告シャルティアに私文書偽造の罪で禁固5日執行猶予100年の有罪判決。100年とか長すぎでありんしょう!?、もう二度とするなと言うことです私は忙しいんですよこんなことで呼びつけないでください!

 アインズ裁判長に泣きつき謹慎三日で許してもらった。偽乳小娘ざまあとアルベド様はご満悦です。

 これらはこの日の夜にシャルティアを待ち受けている未来であり、現在は授業が始まるところである。

 

 

 

 

 

 

 大きなお屋敷の客室はやはり広くて豪奢である。壁紙や柱や天井の装飾は見事なもの。調度も一流。アルベド様が滞在なさっても、まあこんなものかしらねと仰るほどに質が高い。帝国や王国の宮殿すら優に凌ぎこれ以上を求めるなら神域であるナザリックのロイヤルスイートを目指すしかない。

 男が座るソファも固すぎず柔らかすぎずうっかり腰を下ろせば立ち上がれなくなる魔法の如き魅力がある。

 

「シャルティア様」

「ソリュシャンの役目はわかってるでありんす。これならわたしがそのつもりでも簡単に手が出せないでありんしょう?」

「……仰るとおりかと」

「視界にはいると気が散るから後ろに下がっていなんし」

「……かしこまりました。ですがアインズ様のお言葉通り室内で見守らせていただきます」

「好きにしなんし」

 

 俺の意見は必要ないんですねわかってました。シャルティアの背後で男は苦笑した。

 シャルティアはソファに座る男の膝の上に座った。絶対強者である吸血鬼であろうと華奢な少女であるシャルティアが乗っても重いことはない。身長差がかなりあるので視界が遮られることもない。鼻先をヘッドドレスに包まれた銀色の髪がくすぐって、少女の甘い体臭を届けた。

 

「これからわたしが本を読んで聞かせるからお前はしっかりと聞きながら文字を追いなんし。わかりんしたか?」

「……はい、シャルティア先生」

 

 シャルティアが持ってきた薄い本(異本ではない)を男がシャルティアの膝上で開き、シャルティアがページをめくる。

 シャルティア先生の読み聞かせ教室が始まった。

 

 

 

『むかしむかしあるところにおじいさんとおばあさんがおりました。おじいさんはやまへしばかりに、おばあさんはかわへせんたくにいきました。おばあさんがかわでせんたくをしているとおおきなモモがどんぶらこどんぶらこ(注:どんぶらことはオノマトペア、つまりは擬音語であり音声を真似て作った言葉)とながれてきました。おばあさんはビックリしてモモをもちかえり、おじいさんとたべました。するとおばあさんはおまんこびしょびしょ、おじいさんはおちんぽぎんぎんになり、ふたりはこづくりをしました。そうしてうまれてきたのがモモタロウです』

 

 

 

「なるほど、モモとは回春作用がある食べ物なんですね」

「よくわかりんせんがこれはペロロンチーノ様がお書きになった真モモタロウ伝説でありんす。間違いはありんせん」

 

 ソリュシャンは何も言わなかった。

 ちなみにこの後のストーリーは、成長したモモタロウはケモ耳を着けたおっとり巨乳・ツンデレロリっ子・クーデレつるぺたの三人娘をお供にして鬼ヶ島へ攻め込む。股間の剣でもって鬼娘たちを調伏し鬼ヶ島の王となって幸せなハーレム生活を営むめでだしめでたし。

 

 聞こえる内容とおそらくは表音文字と思われる記号の字数と何かかみ合わないと思いつつ、シャルティア先生の音読を聞き続ける。数ページ進むと、ページをめくっていたシャルティアの手が本を保持していた男の右手をとらえる。両手で持っていたので本が倒れることはない。

 シャルティアは頭を男の肩に預け、小さな声で囁いた。

 

(すこぅしお前の手を貸しなんし)

 

 

 

 

 

 

 シャルティア様!?、しっソリュシャンに気付かれんす、しかし、いいから手を出しなんし!

 今日もシャルティアは赤と黒を基調とした装い。手にはドレスグローブではなく腕全体を包む付け袖。肝心のドレスは非常に露出過多だった。ビスチェにミニスカートを合わせたもので、細い肩から背中はほとんどむき出し。スカートは股下指数本。膝上まである黒いロングブーツを履いているのが余計に白い生太股を強調する。

 シャルティアが誘ったのはスカートの中。

 

(この前みたいにわたしのおまんこを触りなんし。お前の指が忘れられなくて疼いてたまりんせん……)

 

 切ない吐息を伴って美しい眉を下げた。太股に置かれた男の手を人差し指でつつつと撫でる。ソファの後ろにいるソリュシャンから見えないのをいいことに、大胆にも脚を大きく広げた。

 

「わたしが本を持つでありんすからお前が読みなんし。読めないところはちゃんと聞きなんし」

「……わかりました」

「ちゃあんとするんでありんすよ♡」

 

 指先が触れる滑らかな感触はシャルティアの下着。太股に挟まれた魅惑の股間はふにふにと柔らかい。中指で少し押し込めば割れ目に沈み、ゆっくり上下に撫で始める。割れ目の上端にある柔らかな突起を見つけ指の腹を当てて小刻みに動かし小さな刺激を与えた。空いた左手もスカートの中に差し込んで、こちらは三本の指をそろえて割れ目の下側へ。ほぐすように優しく撫でる。

 

(ヴァンパイアブライドたちの冷たい指よりこれの温かい指の方がいいでありんすね。おまんこが湿ってくるのがわかりんす……。パンツにシミが出来ちゃうぅ)

 

 湿り気は下着に吸い込まれ、吸いきれない分は表面に滲み始めて男の指にまとわりついた。

 切ない吐息は熱くなり、シャルティアは手を上げて男の頬を撫でた。肩に顎を置かせ、温かい頬へ頬ずりする。ソリュシャンの目に余った。

 

「シャルティア様、その行為は授業に必要ないと存じます」

「ただのスキンシップでありんすよ。血が流れるようなことはしんせん」

「……わかりました」

「ソリュシャンは暇でありんしょう? 終わったら知らせるでありんすから出て行ってかまいんせん」

「アインズ様のお言葉ですのでこの場にて」

「ま、いいでありんすけどぉっ!?」

「シャルティア様?」

「な、何でもありんせん……」

 

 パンツの上からでもわかるほど膨らんできたクリトリスを摘ままれた。肉芽から響く快感が腰に来て体を震わせる。湿り気どころではなく溢れたのがわかった。自分はこんなだと言うのに尻に感じる男の逸物は大人しいまま。お返しにより深く腰掛け尻を左右に小さく振る。刺激に反応したのがわかって蕩けた笑みを作った。

 

(直にしなんし……。そうそう、そうでありんすよぉ)

 

 パンツの隙間から指が入ってくる。とろけた媚肉に埋まり小さな雌穴へ入り込んできた。この前と同じように中で曲げられ肉ひだをこする。シャルティアはぴっちりと指を咥え込んで離さない。

 

「ずぅっとおんなじ姿勢だとちょぉっと疲れんす」

 

 ソリュシャンに聞かせるように口にして深く座った腰を少しだけ前に進めた。シャルティア様!、だからソリュシャンに気付かれるでありんしょう?、確実に気付かれますよ、いいから黙って続けなんし。

 背後に伸ばした手で男の股間をまさぐり始めた。今日こそはソリュシャンに気付かれないようズボンを破くことなく繊細な手付きで男の逸物を取り出す。まだ勃起しきっていない半立ち状態。尻を隠すスカートをさっとめくり上げて尻の割れ目に逸物を挟み込んだ。

 小振りで肉付きも薄く育ちきってない尻とは言え稀なほどに美しい少女の尻肉で、自分にだけ聞こえるよう小さなあえぎと切ない吐息は否が応にも興奮をかき立てる。

 

(おちんぽが立って来たでありんすね。わたしのお尻で興奮しんしたか?)

(しましたからここまでにしましょう)

(バカを言いなんし。ぬれぬれのおまんことぎんぎんのおちんぽと来ればすることは一つでありんしょう?)

(ですからソリュシャンが)

(ソリュシャンソリュシャンうるさいでありんすね。脱がせなんし)

 

 言葉では抵抗するも素直にパンツをずり下げた。シャルティアにはおまんことパンツの間で糸を引くのが見え、パンツのクロッチがべったりと濡れているのも見えた。太股までずり下げられ、そこから先はシャルティアが脱いだ。後ろにいるソリュシャンからは見えないように脚をピンと伸ばして折り曲げ持ち上げ右足を抜いたら左足からは抜かず、足首で結んだ。

 ふうと男が疲れたように背もたれに体を預け、座り方を少しだけ浅くする。シャルティアは座り直すようにさり気なく体を前に倒す。腰を浮かせて尻を突きだし、位置は男が合わせてシャルティアは両手で口を押さえ、腰を落とした。

 

「~~~~~っ!」

「シャルティア様?」

「なぁんでもありんせん。本を読みすぎてすこおし疲れたんでありんす。休憩にしんすからお茶の用意を頼みんす」

「……かしこまりました」

 

 絵本をちょっと読んだだけでお疲れになるなんてと思われているのを知らないのは幸せなことである。

 ソリュシャンが退室してドアが閉まるなりシャルティアは男の胸に体を預けきった。

 

「くふぅ……、お腹がお前のおちんぽでいっぱいでありんす、おまんこの中がとっても熱いのぉ」

「……ご満足いただけたなら」

「まだだあぁめ! おまんこをいっぱいこすって気持ちよくしなんし♡」

「っ!」

 

 シャルティアは体を横に向けた。挿入が少し浅くなったがそれでも長い逸物はシャルティアの一番奥まで届いている。

 見た目の年に見合わぬ妖艶な笑みを男に向けて紅い唇を濡れた舌が一周する。薄く開いた唇からは芳しい香りが立ちのぼり、男の鼻孔をくすぐった。

 

「きすぅ……あむ……ちゅっ……ちゅうっ、あふぅ……くふっ」

 

 むき出しの背を腕で支え、シャルティアの望むとおりにキスを送る。

 シャルティアが逸物を受け入れたのはまだ二度目で、一度目ほどでなくとも狭くてきつい。男が大きいのと育ちきれない体ゆえに仕方ないかも知れない。それでも受け入れられるのはシャルティアの体の強靱さと糸を引くほど粘性が高い愛液がたっぷりと満ちているから。

 

「お前のおちんぽ……んんんっ、いいでありんすよぉ。おまんこいっぱいぃ、シャルティアのおまんこはぁっ……お前のおちんぽしか入れたことないのぉ……!」

 

 男の首にすがりつき、耳元で熱く囁いた。耳孔に紅い舌を差し込んで、ふぅと甘い吐息を吹きかけ、耳たぶを唇で食み、もう一度キスをして、うっとりと男の胸に頭を預けた。

 膝裏にも手を差し込まれて体が持ち上がる。下ろされて逸物が子宮を突くと声を抑えられなかった。

 

「あっあっあっ、ううっ、うはあぁっ♡ もっと、もっと突くでありんす! シャルティアのおまんこぉおちんぽでもっとぉ!」

 

 お目付役がいないのをいいことに、シャルティアをソファの上に組み敷いた。シャルティアは、きゃん♡ と嬉しそうな悲鳴を上げて男を受け入れる。

 食いちぎられそうなほど締め付けはきつく、淫らな肉ひだが隙間なく逸物に絡みつく。太く長い逸物をシャルティアの小さな体が受け止めている。まだまだ未成熟な少女の痴態は背徳的で熱っぽい。冷たかった膣内が温度を持ってくる。

 

「このまま中で出しますよ?」

「おちんぽよりあっつい精液ぉっ、シャルティアのっ、あん……ああん♡ おまんこにぃ、おまんこいくのぉ!」

 

 しなやかな脚は男の腰に回って足首同士を引っかけるペロロンチーノ曰くだいしゅきホールド。

 膣内で男の怒張が膨らみ射精の前兆をつかむとホールドをぐっと絞めた。

 亀頭が子宮口へこれでもかと押しつけられ、シャルティアの一番深いところで熱い精液がどぴゅどぴゅと吐き出された。同時にシャルティアの膣は独立した生き物のように蠢いて男の精液を一滴残らず搾り取ろうと蠕動する。

 

「あっあっあああっ! おちんぽがっ、イクうぅっ、おまんこイクのぉお! らめぇええええええぇっ♡」

 

 背を弓なりに反らしてシャルティアは絶頂した。

 大きく開いた唇からは甘い叫びが上げられ、重厚な扉でありナザリックからの賓客であるため最奥の客室でなければ誰に聞かれるかわかったものではない。

 シャルティアは全身を駆け巡る快感に陰部だけでなく身体中を小刻みに痙攣させた。

 

「ふああぁ……、熱いのいっぱいぃ……、おちんぽがぴくぴくしてるのがわかるでありんす。……ほら、ぼうっとしてないでキスするでありんす!」

 

 餌をねだる小鳥のように小さな唇を突きだしキスを求める。

 それから優しく抱き締めろ、頭を撫でろ、とっても心を込めて最高だったと言え、キスはあと3回等々要求が厳しい。一通り終えてようやく離れた。

 

 

 

「パンツが少し気持ち悪いでありんすが仕方ないでありんすね」

 

 子宮に精液を収めたまま濡れたパンツを履き直す。100レベル物理職は膣まで鍛えられているのか固く閉められて精液は一滴もこぼさない。

 男が濡れた逸物を拭って仕舞い、並んで座り直したところでドアがノックされた。

 

「コホン。お茶の用意が整いました」

「ご苦労でありんす」

 

 現在のソリュシャンはソリュシャンお嬢様でなくプレアデスのソリュシャン・イプシロン。メイドとなって黙々と給仕を行う。

 

「いでっ!」

 

 シャルティアの次に男の前にお茶を置くとき、男の太股を痣が出来るほどきつく抓った。

 お茶を楽しみお勉強を再開。この日は絵本を一冊読んだだけで終了となった。後日、自主学習を励まなければならない。

 去り際にシャルティアは、

 

「アルベドに飽きたらわたしのところに来なんし。大切にするでありんすから」

 

 美しい笑みを張り付けて微動だにしないソリュシャンが見守る中で、男の胸ぐらをつかんで背伸びをして唇を奪った。

 帰りも来たとき同様ゲートの魔法。二人が見守る中お帰りになった。

 

「飽きる飽きないではありませんよ」

 

 男の言葉はソリュシャンだけが聞いていた。

 

「お兄様サイテー」

 

 

 

 

 

 

 一日が終わり自室に戻ったソリュシャンはお兄様の寝室へ夜襲を掛けることなくネグリジェ姿のまま化粧台の前に座る。

 胸の谷間から二つ折りにした紙片を取り出す。

 開いた紙には数刻前にお兄様に書かせた文章が踊っている。文末にはシャルティアのものと同じで署名付き。

 

『私はソリュシャンを愛している。私の心はソリュシャンと共に』

 

 愛でるように細い指で文字をなぞり、短い文章を何度も読み返した。

 丁重に二つに折って、大切に大切に体の中へ仕舞い込んだ。




ユニイベが始まる
何の因果か参謀である
たぶん一週間お休み


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すらいむとらっぷ ▽ソリュシャン♯2

 最近ソリュシャンが何かに気付きつつある。

 

 シャルティア先生の読み聞かせ教室が二日目にして早休講、謹慎三日とのことでソリュシャンにお鉢が回ってきた。デミウルゴス様さえお認めになるお兄様なら文字の発音表と辞書に文法のテキストを与えておけば問題ないでしょうと考え、実際に問題なく順調に神聖文字を習得しているため空いた時間はフリーダム!

 食事とそこそこのお勉強タイムを除いてずうっとべったべたしてきたのだが、しばらく前から薄々と感じつつあることがはっきりと現れつつあった。

 おちんちんみるくの量が減ってきた。

 アルベド様のお食事を気にしながらもほぼ毎日絞ってきたので変化には敏感である。時々シクススもしゅっしゅとしているらしいからそのせいかと思いたかったがどうやら違う。一昼夜でフル装填可能であり自分が絞るのはシクススより早い時間であるため残弾が尽きかけているというのはあり得ない。同じ時間帯の同じシチュエーションで同じように絞っているのに減ってきている。

 何故か。

 ソリュシャンはシャルティアとは違って結果から原因を追究する頭がある。少ないと言うことは以前ほど興奮しなくなったということであり、刺激にも鈍感になってきたという事。つまりは慣れた。言葉を悪くすれば飽きた。

 その事実に思い至ったとき、ソリュシャンはくらりと来た。この私があんなことをしてあげてるのに飽きただなんて許せない! 朝立ちを鎮めてあげるしおしっこだって飲んであげるしお風呂では全身くまなく綺麗にしてあげてるのになんてヒドい仕打ちなのだろう。いくら愛しのお兄様とは言えたかが人間に何という屈辱!

 しかしそこで頭に来てモニュモニュ溶かしてしまうのは負けを認めたも同然であり、何よりもアルベド様からのお仕置き待った無しで、デミウルゴス様に期待していると言わしめた人間で、どう言うわけかシャルティア様のお気に入りになってしまい、あまつさえアインズ様が次に会えるのを楽しみにしているとのお言葉を残され、こうして列挙してみるとお兄様ずるいとしか言えなくなる。

 ナーベラルが随分気に入ったようなので愛しい姉妹を悲しませることは出来ない。かく言う自分も彼を失ったらとても残念な気持ちになるだろう。

 実力行使は不可。正攻法でいくしかない。

 我が儘お嬢様スタイルで目をつり上げながら爪を噛み、あっちをうろうろこっちでうろうろ。メイドたちをビクビクさせながら考え続けた末に気付いた。簡単なことである。

 慣れたなら変化を付ければよい。

 

 

 

 

 

 

「お兄様」

 

 寝室のドアを閉めるなりすぐ隣から聞こえる声。そこには案の定ソリュシャンがいた。豊満な肉体をスケスケのネグリジェに包んでいる。とても魅惑的で男であれば興奮せざるを得ない美しい情景なのだが悲しいかな最早見慣れてしまった。

 

「今日はアルベド様はいらっしゃらないのに我慢しましたの。お兄様は寂しく思ってくださったかしら?」

「……いつ襲われるのかとハラハラしてたよ」

「もう!」

 

 ムードも何もない。正直は悪徳であるとソリュシャンは悟った。

 いつものようにベッドに突き飛ばし、下腹の上で馬乗りになる。ネグリジェの肩紐を外してたゆんたゆんのおっぱいを外気に晒す。男の目がちらとおっぱいに注がれるがそれだけ。とても大きくて形が良くて手触り抜群のたゆんたゆんおっぱいなのに見せすぎてしまったのが仇となった。この頃は裸を見せてもほとんどおちんちんが反応してくれない。そこはスライムテクニックでどうとでもなるのだが前述したようにみるくの量が減ってきている。

 しかし今日のソリュシャンは一味違う。うふふと笑いながら男の手を取り、自分の胸へ押し当てた。男の目の色が変わるのがわかった。

 

「こ、これは……!」

「ソリュシャンのおっぱいは如何ですか? あん……、お兄様ならどんなに乱暴にしてくださってもいいんですよ?」

 

 白く美しい柔肉に指が埋まる。スライムなので文字通り指が埋まるのではなく、乳肉に指が埋まる。今日まで何度もしてきた。はっきり言って飽きるほど毎日毎日してきた。触ったところで手触りがいいなくらいにしか思えなくなってきたソリュシャンのおっぱいなのだが、今日は違った。導かれた右手だけでなく左手も自然とおっぱいに伸びてしまう。下から見上げる巨乳はすごい迫力でむにむにと指の動きに合わせて形を変える。

 

「乳首もしてくださいませんか?」

 

 手を離せばピンク色の可愛らしい突起がむくむくと立ち上がっているのが見える。まさかと思いながら親指と中指で摘まんでみた。いつもとは違う官能的な弾力が返ってきた。

 

「うふふ……、ソリュシャンの乳首もお気に召してくださったようですわね」

 

 言葉はなくとも絶えずくにくにと摘ままれ転がされれば答えたも同然。

 

「これはいったい……」

「お兄様が知らない私もあると言うことです」

 

 後ろへ視線を落とすとズボンの股間が張りつめていた。その事実に満足したソリュシャンは、今日初めて愛しのお兄様へキスを送った。

 

 ソリュシャンは美しい女性の姿をとるが中身はスライムで不定形の粘液。体はとっても柔らかい。どこもかしこも水を入れた毬のように柔らかくなれる。指先を手の甲につける事も出来る。しかし常に柔らかいままだと不都合が多いので人の骨格を模した固さをとっている。つまりはある程度の範囲で固さの調整が出来る。肌の張りや弾力の調整だって可能。

 やったことはとても簡単。ふんわりと柔らかいだけだったおっぱいに適度な張りと弾力を、そこへ加えて乳首には固さを取り入れたのだ。なお、参考にしたのはナーベラルのおっぱいである。

 こんな単純なことでこんな簡単におちんちんをおおきくするんだからお兄様って単純ね。先刻まで覚えていた屈辱はきれいに忘れ、ソリュシャンをして美貌と思える男の唇へ、出会ってから今日までに何百と交わしてきたキスを送る。

 唾液をたっぷり吸ってあまぁいソリュシャン汁も飲ませ、キスをしながら適当におちんちんを体の中に入れて刺激して、というのがいつもの流れ。

 今日は違う。調整したおっぱいの威力を確かめたくなった。

 

「今日はこのような趣向で如何でしょう?」

「おお……」

 

(いつもは口だったり適当に取り込んだりしてしまうけど、こうしてみるとお兄様のおちんちんて本当に大きいわ。私のおっぱいでも挟みきれないもの。おっぱいの隙間からおちんちんが顔を出してる。こんなに凶悪なのになんだか可愛い)

 

 おっぱいの両脇に手を添え、深い谷間に逸物を挟み込んだ。浮かべる笑みは美しくもいやらしい。赤い唇から長い舌が割って現れ、舌先からぬるつく涎がとろりと垂れ落ち谷間から顔を出す亀頭へ滴った。体を前後に揺らしておっぱいで逸物を扱き、垂らした唾を塗りたくる。数度繰り返し、太く長い逸物はソリュシャンの涎にまみれた。いつもならおっぱいから直接ソリュシャン汁を分泌するのに今日は一手間。効果は確かで、谷間の逸物が乳圧に負けじと張りつめていく。

 手とも口とも膣とも違う滑らかな感触。亀頭が顔に近づくと舌で触れる。次はちゅっと唇で触れる。その次はたっぷりの涎で糸を引く艶やかな唇を開いて先端を甘く食む。

 愛しのお兄様の美顔が快感に緩んでくるのをソリュシャンはうっとりと見つめながら乳房を揺らす。体の中でなくてもおっぱいで包んでいれば射精の前兆は手に取るように。

 全てを顔で受け止められるよう目を見開いて出てくる瞬間を見逃さない。

 まさに目の前で、大きいけれど可愛らしいおちんちんのおしっこも出てくる尿道口から、どぴゅどぴゅっと熱い粘液が吐き出される瞬間を目にとらえた。

 

「ああ……おちんちんのみるくがこんなに……」

 

 頬にも鼻にも唇にも、ソリュシャンの美しい顔を白濁した精液がべったりと汚した。ゼリー状の粘塊が重みで頬を流れ、顎から滴る前にソリュシャンは指ですくって唇へ運んだ。

 

「ソリュシャンのパイズリは如何でしたか?」

「とっても良かったよ。少し固さが違うだけでこんなに変わるとは思わなかった」

「うふふ、お兄様のために工夫したんですよ?」

 

 男の体を這い上がり唇を貪った。顔中を汚し、勢いがよくて髪にまで掛かった精液はすでに全て吸収されている。

 互いに全裸で体を重ね、ソリュシャンはキスのために男の頬を離さない。されるがままの男の手はソリュシャンの大きな桃尻を撫でた。今まではおっぱいと同じ柔らかさの尻だったが今日は違う。柔らかさの中に張りがある。

 ナーベラルのお尻だけでなく、お兄様と同じくメイドたちのお尻をペロッとタッチして研究したお尻である。男の手が飽きずに尻肉を揉みしだき、乱暴に尻たぶを開いて、今まで一度も使ったことがない未使用のうんち穴に指が入り込んでくるときゅっと締めてあげた。

 

「お兄様ったらいやらしいいたずらをして」

「この穴があんなに開いてたなんて」

「溶かしますよ?」

 

 ぱっと指を引き抜いた。今こそキュッと締まった肛門だが、初めて見たときは頭が入りそうなくらい開いたのを見ている。

 一々ムードを壊すお兄様にむっと来たが、下腹に熱く固い感触を得て相好を崩す。続けての二回目確定。一日我慢したご馳走は格別である。

 

「もう一度出来ますわよね。今度はソリュシャンのとろとろおまんこを召し上がっていただきます♡」

 

 顔を膝立ちに跨がって召し上がっていただく部分を見せつける。もちろんきちんと指で広げて。てろてろに濡れ光るサーモンピンクのおまんこ。白い肌に赤く輝いている。とても柔らかそうな内側の肉は食欲すら刺激するのか、男は思わず喉を鳴らした。ひくひくと蠢く膣口から透明な粘液がとろりと唇へ落ちてきた。舐めとるとかすかに甘い。間違っても溶解液ではない。

 互いに期待を高ぶらせ、ソリュシャンはそろそろと男の股間に跨がる。しなやかな指で反り返る逸物を上に向かせて位置を合わせ、剛直めがけて一息に腰を下ろした。逸物は根本までソリュシャンの中に飲み込まれた。

 

「お兄様のとっても大きくてとっても熱いおちんちんがソリュシャンの中に全部入りました。おまんこもいつもと違うでしょう?」

「……ああ」

 

 ソリュシャンにとって体の内部、膣壁をちょちょっと操作するくらい何でもない。肉ひだを増やして無数の舌で逸物を舐め上げるような感触を与える。内部へより深く取り込むように蠕動させ根本から竿も裏筋からカリに亀頭までぴったりと隙間なく吸いつく。

 ここで内部の操作だけで射精に導いてしまったのが今までの失敗。今日はきちんと腰を振る。腰が前後する度に愛しのお兄様が小さく呻くのが可愛らしく、もっと快感を与えたくなる。気持ちよくなってくれればくれるだけみるくの量も濃さも高まっていく。

 

「お兄様はご存じなかったかも知れませんけど、私が殿方のおちんちんをおまんこで咥え込んだのはお兄様が初めてでした。お兄様は私の処女も奪ったんです」

「そーいうことを今更言われても……」

「聞きません。事実ですわ」

 

(お兄様のおちんちんが私の体の中に入ってる。熱い、大きい、とっても固いし。体の中がかき混ぜられてる。シャルティア様はこんな大きいのをあの小さなお体で……。あっおちんちんからネバネバのおつゆが出てきてるわ。うふふ、さっきのパイズリも量が多かったし私のおまんこでおちんちんを気持ちよくしてるのね)

 

 ソリュシャンが腰を下ろし再度上げるとにちゃりと粘着質な音が響くようになった。ほんのり甘くてとろとろしているソリュシャン汁が溢れ、ソリュシャンの尻も男の下腹も濡らしていた。

 腰を振る度に大きく揺れるソリュシャンのおっぱいを、男は支えるように手を伸ばす。ソリュシャンは男の手に手を重ね、腰の動きを加速させる。

 

「あん♡ あん♡ ソリュシャンのおまんこでいっぱい気持ちよくなってください♡」

 

 残念ながらスライムのソリュシャンには肉の快感はいまいちわからぬ。しかーし学習能力はきちんとある。こっそり覗いていたナーベラルやシャルティア様との情事で、どんな反応がお兄様を興奮させるかを学んでいた。乱れる演技などお手の物。体の深いところで精液を受け止める期待に偽りはなし。

 お兄様を悦ばせるためなら、美味しいみるくをいっぱい絞るためなら。

 

「ぁっあっあっああん! お兄さまお兄さま私のおまんこにいっぱいおちんちんみるくを出してください!」

 

 ソリュシャンに合わせて男も下から腰を突き上げて、ソリュシャンは体の中で逸物が僅かに膨張するのを感じ取った。直後、体の中へ直接熱い精液が注ぎ込まれた。続けての二回目なのに量はたっぷり、濃さは特濃。

 快感ではなく甘美な美味に、ソリュシャンは恍惚とあえいだ。

 射精したからと言って抜いたりしない。

 

「初めてお兄様のみるくをいただいたのがおまんこだったせいかしら? 口よりおまんこの方が美味しく感じられます」

「……美味しいようで何よりだ」

 

 

 

 

 

 

 シャルティア先生の読み聞かせ教室がなくても、ソリュシャン臨時講師がサボタージュでも、神聖文字の習得には不思議なほど問題がなかった。

 神聖文字の単語や文章を見ても何を意味するのかさっぱりわからない。しかし発音だけは習ったので声に出して読んでみると、耳から入る言葉は何故か馴染みがある言葉となって意味を捉えることが出来た。

 さてこれは一体何故だろうとの考察は後回し。

 表音文字と発音を覚え、表意文字はやたらと数があり文字の形と意味がリンクしないので手こずるが辞書を丸ごと覚えることで何とかクリア。デミウルゴス様に語った記憶の宮殿に辞書を置き、必要に応じて辞書を開く。ただしこのやり方だと紙の辞書を引くよりは早いがどうしても文章の解読に時間が掛かる。何度も繰り返して辞書へのアクセスを早くするしかない。

 こうして読む方は問題なかったが、書く方でつまずいた。単語レベルなら合格点でも長い文章となると奇天烈なものに成り下がる。自分で読んでもそう思う。不思議である。読むのに比べればまだまだ時間が掛かりそうだった。

 とは言っても数日で読みをマスターしたのだから、ソリュシャンの目からすれば驚異的な上達である。

 

「ところでソリュシャンに聞きたいことがあるんだけど」

「あら、何のことでしょう?」

「神聖文字を学び始めた日に俺に変なことを書かせただろう?」

「あら、何のことでしょう?」

「シャルティア様がお帰りになった後でこんなのも記念になるからと書かせたやつだよ」

「あら、何のことでしょう?」

「ソリュシャンが手本を書いて、俺が同じものを書いた。ソリュシャンの手元にあるはずだ」

「あら、何のことでしょう?」

「何のことでしょうって覚えてるだろう?」

「申し訳ありませんが覚えにありません。お兄様の勘違いではなくて?」

「勘違いだったら嬉しいが確かに書いた。誰かに見られると変なことになりかねない」

「全く心当たりがございません。ですが変なこととはどういうことでしょう? お兄様は一体何を書いたんですか?」

「…………」

「書いたことを覚えていらっしゃらないならやはりお兄様の思い違いでは?」

「…………私はソリュシャンを愛している。私の心はソリュシャンと共に」

「あなたから告白されてもあなたは所詮人間、私は栄えあるナザリックのシモベでありプレアデスのソリュシャン・イプシロン。間違っても釣り合うなんて思わないことね。でも、そうね。人間だけれど、こうして長く一緒にいると愛着のようなものを感じてきてるわ。捨てられたら拾ってもいいくらいに」

「…………………………あっそう」

「あっそう!? あっそうとはなんですか! そこは感激ですとか嬉しいですとか光栄ですとか何かあるでしょう?」

「こうえいです」

「……シズが感心するくらいの棒読みね。もっと心を込めて言いなさい。シャルティア様へはそうしていたでしょう?」

「やっぱり覗いてたのか」

「いいから早く」

 

 結局うやむやにされた。彼の書面は所在不明。

 

 ソリュシャンは、この男にはロマンスが足りなすぎると悟った。これも教育しなければならない。




この前今更アンケートのやり方覚えたのですごい気が向いたらなんかアンケートするかもです
でも何きけばいいんだ


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久々のお食事 ▽アルベド♯5

 アルベドはナザリック第10階層の最古図書館にいた。ナザリックのより効率的な運営を求めてである。現在でも過不足なく回っているがアインズ様はシモベ達の成長をお望みであるが故。

 ナザリックを捨ててモモンガ様を一人置き去りにしたアインズ・ウール・ゴウンのメンバーには憎悪を抱くが彼らが集めた英知は本物。静寂に包まれた最古図書館を歩くと知が研ぎ澄まされていく。静寂があるとは言え無人ではない。アインズ様がシモベ達へ定休制度を導入され、同時に最古図書館も解放なされた。貸し出し閲覧禁止のエリアはあるが、シモベ達が利用できる書物は相当な数。至高の御方々語録は階層守護者たちにも大人気。アルベドは一度も読んだことがない。

 広い読書室に一般メイドの姿がちらほら。一人のメイドがアルベドの目に留まった。

 

「そこの貴女、それは貸し出し制限を越えているのではなくて?」

 

 ナザリックのシモベは貸し出しカードを作れば貸し出しOK。しかしメイドは抱えるほどの本を持っている。明らかに制限を越えていた。

 

「はい、アルベド様。アインズ様と司書長のご許可を得ております」

「アインズ様が?」

 

 司書長の許可を得るのは当然だ。そこへ何故アインズ様のお名前が上がるのか。アインズ様がわざわざ本の貸し出しに口を出す必要はない。

 

「それだけの本を貴女が読むわけではないでしょう? 一体どうするつもりなの?」

「ソリュシャン様からのご要望です」

「見せてもらってもいいかしら?」

 

 メイドの了承を得て運んでいる本を数冊確認する。どれも娯楽小説。甘ったるいラブロマンスしかない。全てを把握したアルベドはメイドへ退去の許可を出した。

 エ・ランテルに滞在しているソリュシャンはこれといった命令を受けておらず、現在は商家のお嬢様としての立場を固めている。エ・ランテルは魔導国の所領となったがナザリックと比べれば何もかもが劣る。大した娯楽もない。故に楽しみを求めて最古図書館から娯楽小説を望むのは理解できる。しかしソリュシャンが望むのは理解できない。ソリュシャンが自らの楽しみのためだけに、如何に複製可能とは言えナザリックの書物を持ち出すことはあり得ない。考えつきもしないだろう。故に自分のためではない。

 ソリュシャンの傍にはナザリックの出身ではないのにナザリックの書物を目にしたことがある者がいる。その者への教育に用いると知れる。日本語を勉強するなら日本語で書かれた小説は恰好の教科書になるだろう。

 しかし何故にラヴロマンス。

 あれがソリュシャンに染められていくようで少しだけ面白くない。

 

 面白くないと言えばシャルティア。間違いなくあれを騙して書かせた誓約書は無効と断罪、謹慎三日ざまあ。

 しかしシャルティアが漂わせる香りは何があったかをアルベドに教えた。

 

『これは無効になってしまったでありんすが、もぉしあれがわたしのものになりたいと言ったら。アルベドはどうしんすか?』

 

 くつくつと挑発的に嗤った。

 

『あれは私に任せて守護者統括様は蜘蛛の巣が張ったおまーーっ!!』

 

 会話はそこで途切れた。アルベドがぐーを出してシャルティアがぱーを出したからだ。ジャンケンならシャルティアの勝ちだがこの時は痛み分けの引き分けになった。

 謹慎が解け、再びエ・ランテルの屋敷へ向かい戻ってくる度に同じ香りをまとう。その度にわざわざアルベドの前に現れて、言葉を用いずして何があったかを知らしめる。

 あれは私のご飯なのに私はお預け、シャルティアは毎日。

 アルベドはソリュシャンとシャルティアへ嫉妬した。

 己に懐くあれを可愛いとは思う。愛だ恋だなどは存在しない。

 嫉妬とは、己の物が奪われる予兆への怒りである。ソリュシャンとシャルティアの振る舞いはアルベドを嫉妬させるに十分だった。

 

 そして先の綱引き騒動から一週間。

 アルベドのお預け期間が終わった。

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの大きなお屋敷にて。

 魔法の灯りが幽かに照らす秘密のお食事部屋でアルベドは椅子に座り形の良い脚を組んでいた。気が済むまで足置きをグリグリと踏みつけて口を開く。

 

「デミウルゴスが来たそうね」

「はい」

 

 足置きから声が聞こえる。足置きは男の頭である。

 この日はお預け明けでアルベドの定休日であり、昼前から訪れていた。

 男を呼びつけるなり、来なさい、跪きなさい、頭を下げなさい。そして靴を履いたまま男の頭を足蹴にする。

 

「何故隠していたの?」

 

 こちらからアルベド様へ連絡する方法はない。アルベド様が仰っているのはデミウルゴス様が来たことではなく来た理由。気晴らしのゲームと会話に付き合わされた。気晴らしに己が選ばれたのは、デミウルゴス様のお言葉から察すると頭の出来。

 

「隠していたつもりはございません。デミウルゴス様は私の頭脳をお褒めくださいましたが、今になっても自分が優れているとは思えません」

 

 十年余りの幽閉生活。比較対象がなければ優劣を語れようはずがない。アルベドにもわかっている。

 

 一週間前の昼日中にここを訪れたのはデミウルゴスの言葉があったから。

 良い拾い物をしましたね、何の事かしら、隠さなくてもいいでしょうあれは使い物になります、そうかしら、私の補佐をさせたいところですがアルベドの下以外では動かないでしょう私に出来ることは精々道を作る程度、余計なお世話よ私が面倒見るわ、お節介程度はさせてください。

 心がざわつき、事の真偽を確かめるために出向けば留守。翌日に訪れてみればシャルティアとはち合わせる。そしてお預け一週間。

 

 ふうとため息を吐く。

 元をたどればこの男に負けたと自分が口にしてしまったから。どこかでそれを聞いたデミウルゴスの興味を引いたのだろう。

 男の言葉にも嘘はない。

 自分がこれの出来を見抜けなかったのは悔しいが、この件は不問にせざるを得なかった。

 

「っ!」

 

 足に力を加える。アルベドの脚力を持ってすれば人の頭蓋なぞ卵の殻と大差ない。このまま踏みつぶすことは容易である。

 

「シャルティアを抱いたわね?」

 

 疑問の形をとった確認であり答えは求めていない。答えようにも潰れかかった顔では声を出せないだろう。

 

「シャルティアさまがおもとめになり、わたしにていこうするすべはありませんでした」

 

 喘鳴混じりだが驚いたことに答えがあった。

 

「……シャルティアは淫乱吸血鬼だけどお前の血なら兎も角いきなりおちんぽを欲しがったりしないでしょう? お前は何をしたの?」

「それは……」

 

 足の力が少し弱る。アルベド様は答えよと仰せだ。包み隠さず全てを話した。

 シャルティアが己の血を求めたこと。拒否したら激昂。壁のシミにされかけ、それを黙っている代価として、アルベド様にご満足していただくための協力を求めた。先にいらしたアルベド様は満足させよとお命じになり、誠心誠意応えたつもりなのだがご不満があった様子。何が悪かったのかどうすれば良かったのか、ご満足していただくために練習したかったが相手がおらず、シャルティア様へ協力を求めたらご了承なされた。その最中に欲情なされてしまい、抵抗空しく及んでしまった。以降は味を占めたようでいらっしゃる度に。

 

 床とキスをしている男からは見えないが、アルベドは真っ赤になった顔を両手で覆っていた。

 前回、盛大にいかされてしまったのを覚えている。わたしサキュバスなのに人間の男にいかされちゃった。悔しいやら情けないやら気持ちよかったやら。サキュバスの自負が敗北を認められなかった。その日から次までに時間が空いてしまったのは鍛えていたのだ。オナニーである。

 アインズ様を思ってのオナニーに、この男に負けないためのオナニーも加わった。それは性感帯を開発するだけでむしろイきやすくなるだけとすぐに気付いたが、サキュバスの本能は続けるべしと囁いた。今ではあの時の指使いを思い出すだけでじんわりしてくる。中よりクリ派だったが今では両方。

 

「………………そうだったの」

 

 足から力を抜いて乗せるだけに留め、男の頭にどぼどぼとポーションを掛けた。潰れた顔より整った顔の方が好ましい。

 

「でも昨日。そう、昨日もシャルティアにおちんぽみるくを注いだでしょう! お前は私に薄いみるくを飲ませるつもりなの!?」

 

 照れ隠しの抵抗とアルベド自身が一番よくわかっている。

 若い男だ。数日溜めればそれなりに量も濃さも増すだろうが、一晩眠ればそれなりに回復する。以前は連日連夜訪れていたアルベドはそのことを知っている。

 

「それが……、その……」

「何を隠しているの? はっきり言いなさい」

「おそらくはアルベド様のお力が私に与えられたのだと思われますが」

「……続けなさい」

 

 男へ力を与えた覚えはない。

 

「先にアルベド様がいらして以降、一日空けるだけで夢精するようになりました」

「……………………は?」

 

 アルベドは今一理解が及ばなかったが男は続けた。

 たった一日で夢精するようになった。不幸な事故でメイド達に知られてしまった。時々そのことでからかわれる。いささかながら恥ずかしい。

 

「…………恥ずかしいご主人様は考え物ね。仕方ないわ、時々ソリュシャンに搾ってもらいなさい。ソリュシャンもお前のみるくが気に入ってるようだから」

 

 今までも搾られている。そこへアルベド様の公認となればどうなるか目に見えている。お二方へは何も言わずにいることを決めた。わざわざ御心労の種をまく必要はない。

 

 アルベドは、はあと何度目かのため息を吐き、男の頭から足を下ろした。

 

「顔を上げなさい」

 

 

 

 

 

 

 跪いたまま顔を上げる。

 アルベド様は椅子に座ったまま脚を組んでいる。屋敷にいらした時はいつもの白いドレスだったが、顔を伏せている間に着替えたようだ。いつもと違う純白のドレスをまとっている。

 露出は少ない。むき出しになっていた太股は完全に白い布地に隠されている。ドレスは爪先まで伸びている。靴を脱いだようで、脚を組んでいなければ足先までドレスに隠れたと思われる。肩こそ見えるが大きな乳房は完全に隠されている。先ほどまでのドレスなら深い胸の谷間が覗き見えたが今は白い布地を丸く盛り上げているだけ。一対の黒翼はドレスの外で小さく上下する。ドレスの生地には刺繍もなくフリルもない。装飾は何もない。

 上も下も同じ布地。材質が同じなのではなく一枚の布地。

 ドレスの別名をシーツのドレス。全裸にシーツを巻き付けただけ。そのつもりでここを訪れた。サキュバス的にきちんとお食事にするのだ。

 ふふと妖艶に笑い、男の顔の前に脚を突きつけた。

 

「舐めなさい」

「かしこまりました」

 

 柔らかなふくらはぎとスベスベしている踵に手を添えて、右足の親指を口に含む。アルベド様は足指であろうと滑らか。太い親指を舌で包んだ。

 指だけでなく、指の股にも舌を這わせる。アルベド様のお体に汚れているところなど微塵もない。足指さえ良い匂いがする。親指から順繰りに小指まで。足指の全てが唾液に塗れ、続いては足の甲へ。

 アルベド様は何も仰らない。続けよとお命じである。

 脛へ移るとき、シーツをめくるべきか己がシーツに潜るべきか考え、後者をとった。

 

「続けなさい」

 

 膝まで来た。

 アルベドは組んだ脚を解き、椅子に浅く座り直す。脚を大きく開いた。膝と膝の間でシーツが丸く膨らんでいるのは男の頭。シーツ越しに優しく撫でてやる。膝から太股へ、導かれるように内股へ。時々軽く吸いながら進んでいく。

 

「……続けなさい♡」

 

 最奥まで来た。

 ただでさえ暗い部屋で、シーツの中は視界ゼロ。

 シーツの中は暑く蒸れている。アルベド様の匂いが充満しきっている。その濃さは空気に味がついているかのよう。命じられるままに唇を進め、たどり着いた場所。口付けた秘所は唇よりも柔らかい。前回の反省もあり、舐めよとのご命令なので手は使わない。とろけるように柔らかい肉を唇で食む。舌を伸ばせば汁気はたっぷりでアルベド様の味がする。

 舌先で膣口を狭める処女膜を確かめる。その奥から止めどなく温かくもぬるつく甘露が溢れてくる。口を付けてじゅるじゅると吸った。頭を優しく撫でられる。

 

(手を使わないで舌だけでこの前と舌遣いが違うわね。手加減されてるようで気に入らないけど……でもやっぱり上手ね♡ おまんこきもちいいわぁおまんこのおつゆがどんどん溢れてくるのがわかるもの、じゅるじゅる吸われてる音もするし。私のエッチなおつゆってそんなに美味しいのかしら? あっ、おまんこの入り口つんつんされてるぅ。私のおまんこがおちんぽいれたことない新品おまんこだってわかっちゃうかしら? 大丈夫よね、わかっちゃったら恥ずかしいもの。ああ……乳首も立っちゃってるわぁ)

 

 男諸共下半身はシーツに覆われている。上半身は男の顔がシーツに隠れてまもなく解いていた。

 自分の大きな乳房を自分の手で揉みしだき、片乳を持ち上げると舌を伸ばして自らの乳首を舐める。アルベドくらいのおっぱいならセルフパイ舐めは普通に出来る。毎日している。

 己の唾で塗れ光る乳首は舐める前から立っている。摘まめば唾のぬるつきが良い感じで滑る。勃起していた乳首が一層固くなり破裂してしまうのではと心配になるほど。心配になったのでもう一度舐めた。熱が溜まり体が熱くなり子宮が疼く。

 

「ああ……、いいわぁ……、もっと舐めておまんこ舐めて、私のおつゆもいっぱい飲んでぇ! ああんっ! 優しく舐めてぇ♡」

 

 下半身のシーツも解く。

 男が股間に顔を埋めている。くちくちじゅるじゅると鳴っている。銀色の髪を撫でてやる。閉じていた赤青の瞳が開き、目が合った。

 

「おつゆをいっぱい吸ったままキスしなさい。あんっ」

 

 じゅるるぅと強く吸われ、男の頬が僅かに膨らむ。

 立ち上がり、唇を合わせた。唇は薄く開き、口内の汁をアルベドに飲ませる。アルベドも口を開いて素直に飲まされた。自分の秘部から垂れ流したばかりの愛液を啜り、男の舌と一緒に味わう。喉を鳴らして飲み込んだ。

 飲み込んでも唇は離れない。アルベドも立ち上がりシーツがはらりと床に落ちた。男の手を取る。自分の尻と背中へ導いて抱きしめさせた。アルベドの手は男の股間に。勃起した逸物をさする。まさに肉の棒で、ズボン越しでも棒の形をしているのがよくわかる。

 アルベド様のお食事なので、男の服装は肌触りこそ良いが簡素な仕立てでゆったりゆるゆる。ズボンの縁を少し引っ張れば簡単に脱ぐことが出来る。

 熱い逸物を直に握り、アルベドは少しだけ味見をすることにした。

 床に落ちたシーツの上に膝を突き座り込み、男の両足を抱く。太く長い逸物は口で受け入れた。

 亀頭で喉奥を突かれても構わず根本までくわえ込む。最初から強く吸いつきながら激しく頭を振る。男がわずかに呻き、たちどころに高まっていくのを感じる。

 じゅぷじゅぽと卑猥な水音を立てながら口淫を続け、太い逸物が少しだけ膨らみ舌の上にどぴゅどぴゅと熱い精液を吐き出された。

 射精は長かった。多量の粘塊を吐き出した後でもぴゅっぴゅと断続的に吐き出される。

 

 

 

(久しぶりだからぁ、すごい久しぶりだからすごい美味しいい! とっても濃くて熱くてたっぷりで、おちんぽみるく美味しいのぉ♡ 一日で夢精しちゃうのって本当なのね、今までもこんなにいっぱい出たことなかったし。こんなの飲まされたらおまんこが疼いちゃうわ。こんなに熱くて濃いのおまんこに出されちゃったらきっと凄く美味しくて凄く気持ちよくて。あはっ♡ お口の中でまたかたぁくなってるぅ。やっぱり私のお口が気持ちいいのね)

 

 勃起した逸物へお掃除フェラもしてからぷはっと口を離した。

 アルベドの唾液にまみれた逸物は固くそそり立ったまま。へそまで反り返っている。アルベドは立ち上がり、弾力ある亀頭をふにふにと優しく揉んでやった。

 

「おちんぽみるくがいっぱい出たわね? 私のお口はそんなに気持ちよかったかしら?」

「はい」

「うふふ、素直でいい子は嫌いじゃないわ。こんなに固くしてるんだしまだまだ出せるんでしょう?」

「はい」

「元気な子ね、偉いわ。今度は私のおまんこで気持ちよくしてあ・げ・る♪」

「……はい」

 

 掠れた声で返事をした。

 

「なあに? 嬉しくないわけじゃないでしょう?」

「いえ……、感激に胸が詰まり……」

「もっと楽にしなさい。緊張していると立つ物も立たなくなるわ。ちゅっ」

 

 男へ寄りかかり、豊満な乳房を男の胸板へ押しつけ、甘いキスを繰り返す。

 手の中の逸物はずっと固いまま。下の玉袋も繊細な手付きで撫で、逸物は扱きながら敏感なところを刺激する。時折びくりと跳ねた。

 

「私のおまんこに……あなたのおちんぽみるくを、いっぱい飲ませて」

 

 囁くような声で甘い誘惑を注ぎ込む。

 注ぎ込まれた男は無言で頷き、アルベドの手を恭しくとった。

 二人が連れ立つのは天蓋に覆われた寝台の中。

 まずアルベドがシーツの上に横たわった。豊満な乳房が緩く潰れ、柔らかく甘美な乳房だと見るだけで教えてくれる。

 腰の下に枕を差し込み軽く浮かせて脚を広げる。爪先までピンと揃える。肛門までよく見えた。白い肌の中できゅっと締まった窄まりはうっすらとピンク色に染まっているように見える。

 その少し上。アルベドの女。秘裂。指で広げている。汚れなき白い肌に、例えようがなく美しくも淫らな媚肉が開いている。濃いピンクか赤か。アルベドの愛液でてらてらと濡れ光る。雌穴が小さく開いて奥を覗かせる。物欲しそうに涎を垂らしている。

 アルベドの美しい顔は妖艶に微笑んでいる。頬をうっすらと染めるのは欲情か。頬のみならず全身を淫靡に染めている。

 

「来なさい」

 

 ふらふらとアルベドに覆い被さった。

 顔の横に手を突いて、徐々に近づけていく。鼻がぶつからないよう首を少しだけ傾げてふっくらとした艶やかな唇に唇で触れた。申し合わせたように舌で触れ合う。何物も高きから低きへ流れ、アルベドの口内へ唾を流し込む。アルベドは熱心に吸った。喉を鳴らして飲み込んだ。

 アルベドの手が頭を抱いた。引き寄せられ、耳元で囁かれる。

 頬を撫でる吐息は芳しく、耳へ掛かる吐息は熱かった。

 

「いれて♡」

 

 男が腰を落とした。

 

(おちんぽがおまんこ撫でてるぅ! あんっ……、クリちゃんこすったぁ。私のおつゆをおちんぽに塗ってるのかしら? 早く欲しいのに! まさかどこに入れればいいかわからないわけじゃないわよね? あの人間の女にもシャルティアにも……よしましょう不毛だわ。んっ……動きが止まったわね。ああっ!? ぐいぐい押されてる、入ってこようとしてる。私の処女おまんこにおちんぽ入れようとしてる! あんなに大きなおちんぽをおまんこに入れちゃったら私どうなるの? 指だけでもあんなにイっちゃったのにおちんぽになったら……)

 

「入れます」

「早くぅ、早くおちんぽちょうだぁい……。あなたのおっきくて太いおちんぽ、私のとろとろおまんこに奥まで欲しいの♡」

 

 亀頭の半分ほどが膣口に入り込む。アルベドの媚肉は融けそうなほどに熟れている。雌穴が亀頭で完全に塞がれ、腰を押し進めようとしたその時。

 

 

 

 

 

 

 ドンドンと激しくドアがノックされ、アルベドの美顔が険悪に歪んだ。

 

 お食事中である。

 何があろうと絶対に入ってくるなと厳命してある。

 誰であろうとどんな用件だろうと首を刈ることを決め、最後の言葉に耳を傾けた。

 

「モモン様がお出でになりました」

 

 アルベドはもたげた頭をばったりとベッドに落とした。




メガネ新調したら度が合わない頭痛い目も痛い
週末に眼鏡屋再訪予定


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まだセーフ!

「出迎えが遅くなり申し訳ありません。ようこそお出でくださいました」

「もしかして取り込み中でしたか?」

「来客がありました。ですがモモン様のご来訪に優先すべきものは何もありませんよ。この際ですからエ・ランテルでの滞在場所を本邸に移されては如何です?」

「ありがたい申し出ですが私にも色々付き合いがありまして」

「差し出がましい事を申しました」

「いえいえ。それより来客というのは……アルベド、お前か」

「モモン……どうして貴方がここに。いえ、それは野暮なことね」

 

 お屋敷の客間にて。

 漆黒の英雄に歓迎の意を伝えた若旦那に続いて現れたのは黒髪黒翼の美の化身。アルベド様である。

 

 

 

 

 

 

 アインズとアルベドの関係は言うまでもなく主従である。アインズの姿を認めたアルベドの心中は、くふーーーーっ!! アインズ様はわざわざ私に会いに来てくださったのね! これは偽乳小娘なんかよりも私をお選びくださるという意思表示に違いないわ! ごめんなさいシャルティア、アインズ様のお心はもう私でいっぱいなのよ、ああアインズ様アインズ様、言ってくださればこのアルベドたとえ火の中水の中、いいえ違うわよアルベド、アインズ様はわざわざ私にこの私に会いに来てくださったのよ、そう! 会いに来てくださったの! 殿方に恥をかかせてはダメ、アインズ様がこれほどまでに私を求めてくださるという事は二人が結ばれるのはこれすなわちU・N・ME・I☆ アインズ様アインズ様アルベドの準備はもう整っております!

 飢えた獣の如くマジでアインズに飛びかかる5秒前なのだが獣は鎖で繋がれている。今のアインズ様は漆黒の金属鎧に全身を包むモモン様であるのだ。

 モモンとアルベドの関係は少し面倒くさい物になる。

 

 その前に、若旦那様が住まうエ・ランテルのお屋敷の役割を振り返ります。

 アルベド様のご飯である男を囲う屋敷であり、アルベド様のお食事処。ナザリックのシモベ全体に周知されているわけではありませんが、隠されているわけでもありません。少なくとも、アルベド様にとってそこそこ大切な場所と言うことは知られています。お屋敷の真の役割は表だっては完全に秘されています。

 次にエ・ランテルのアインズ様の館へ送るメイドたちの研修場。表立って振れ回っているわけではありませんが、ある程度の頭があり目端が利く者なら見当がつきます。

 最後に公的な役割。

 お屋敷の女主人であるソリュシャンお嬢様の実家は早くから冒険者のモモンを支援してきました。当然、モモン様とナーベ様とは懇意にしております。一方、エ・ランテルに大きな屋敷を構え拠点としてることから、当然の事ながらエ・ランテルの主に話を通しています。エ・ランテルは魔導国の所領であり、魔導国の王はアインズ様です。ここで問題が一つ。アインズ様は人間ではないのです。人間ではないため、住民である人間たちからは畏怖や戸惑いを抱かれているのです。アインズ様はアンデッドであり、アンデッドは命ある者を憎むとされています。住民たちの懸念は尤もなのです。

 そこの緩衝材、あるいはカウンターとして、人間たちの大英雄漆黒のモモンが登場します。

 もしもアインズ様が人間たちに牙を剥こうものなら、漆黒の大英雄が命に代えても討ち取る。そのような了解があるため、住民たちは安心して日々を送ることが出来るのです。

 そしてアルベド様は魔導国の宰相としてエ・ランテルの住民たちに知られています。

 つまりまとめると、エ・ランテルのお屋敷は人間たちの希望であるモモン様と魔導国の支配者たちの間に立つ政治的に絶妙なポジションにあるのです。

 そのため、アルベド様が屋敷を歩いても不審に思われないし、モモン様が来訪されてもおかしなことではないのです。

 

 

 

 

 

 

 モモンとアルベド。ナザリックの者たちからすれば我らが支配者であり何の変哲もない光景であるが、モモンとアインズが同一人物であると知らない者たちからすれば敵対とまではいかないものの対立関係にある雲上の上位者二人であり極度の緊張を余儀なくされる。目に見えてメイドたちの表情が強ばっていった。

 

「私は昼食がまだなんだ。軽いものでいいから用意してくれないかな。手が汚れないものがいいな。でもって美味しいの」

 

 モモン様とナーベ様にアルベド様まで微妙に緊張している中で若旦那様だけはマイペースです。春風駘蕩と言われるだけはあります。

 現地で雇ったメイドたちに命令を下し、給仕にはメイド教官だけが残った。

 ナザリックの者だけになった客間にて、さりげなく口を開いた。

 

「そう言えばアインズ様?」

「なんだ?」

「やはり今日はモモン様ではなくアインズ様としていらしたのですね。アルベド様にお会いに来られたのだとお察しします」

「んなっ!?」

「くふーーーーっ!! (以下略)」

 

 獣が解き放たれた。

 アインズに飛びかかるアルベド、にこやかな若旦那、ソリュシャンとナーベラルは思わず顔を見合わせてから男の様子を窺った。シクススははらはらと様子を見守っている。

 

「すげぇモモン様の鎧がギチギチ言ってる……。失礼しました。私たちはあちらで過ごします。ナーベラル様、森の賢王に会わせていただけませんか?」

「え? ……ええ」

「いやいや待て待てアルベド控えよ! 私はこんなことをしに来たわけでは」

「アインズ様のお心はわかっております全てを仰る必要はございませんわ全てアルベドにお任せくだされば万事つつがなくですのでアインズ様は楽になさってくださってもむしろアインズ様から求めてくださってもアルベドは全てを受け入れますゆえに(以下略)」

 

 美女姉妹を伴って退室しようとする若旦那へメッセージの魔法が届いた。待て! アルベドをどうにかしろ! 私は本当にこんなことをしに来た訳じゃないんだぞ!?、ですが私たちにアルベド様をお止めするのは不可能かと、頭を使え頭を! お前なら出来ると信じてるぞ!、アルベド様の行動を妨げるのは心苦しいのですがかしこまりましたアルベド様はシャルティア様に非常に強い対抗心をお持ちのようですのでシャルティア様を評価するかいつぞやの失態を挽回する任務を与えると仰せになれば冷静さを取り戻されるかと、それだ!

 

 シャルティアの名を口にした瞬間にアルベドの瞳が凄絶に光り、間近で見ていたアインズは思わずぞっとした。ともあれアルベドに冷静さを取り戻させることに成功し、アインズはモモンに戻ることが出来た。

 

(そう言えば何でこいつはシャルティアの失態を知ってるんだ? ソリュシャンかシャルティアが話したのか?)

 

 

 

 

 

 

 中庭のテーブルに用意されたサンドイッチをパクつく。ささっと食べ終えると厩舎に回しておいた森の賢王がモモンに連れられてやってきた。アルベド様は別室に向かわれたのでメイドたちも安心して偉大な魔獣を鑑賞する。皆が皆偉大な魔獣の姿に感嘆の声を上げた。

 

「これは可愛いですね!」

「むむむ! 殿と同じ事をいう人間でござるな」

 

 現地の魔獣にしてはそれなりだけど可愛いかしら、とは屋敷の窓から覗いているアルベド様。

 アウラ様のペットに及ぶわけがないにしても可愛い?、モモン様と同じ事を!?、あんな凄そうな魔獣を可愛いだなんて若旦那様はやっぱりどこかずれてるわねそんなところも可愛いんですけど。

 アインズは一度感情抑制を発動させてしまってから声が震えないように気を付けて口を開いた。

 

「可愛いですか? どこが可愛いと思います?」

「まずでかいのに丸いところですね。目もまん丸で愛嬌がありますし」

 

 そこまで言って自分に突き刺さる視線に気が付いた。照れ臭そうに頭を掻いて弁明する。

 

「長く病床にあったものでどうやら美醜などの感覚が一般からずれてるみたいです。勿論勇壮な魔獣と思います。大きいし尻尾長いし」

「いやいやいやそうですよね可愛いですよね! 良かったなハムスケ! お前のことを可愛いと言ってくれる人がいたぞ!」

「殿が喜んでいるとそれがしも嬉しいでござる」

「触ってもいいでしょうか?」

「好きなだけ触ってください!」

 

 森の賢王。偉大な魔獣として王国では広く知られているが、アインズから見れば大きいジャンガリアンハムスターであり可愛いとは思うものの偉大とか強大とか言う言葉とは無縁。なのにナザリックのシモベを含めて誰しもが「凄い! 強そう! 理知的!」などととんでもない感想を抱く。美的感覚が周囲と違いすぎることにがっくり来ていたアインズだが、遂に同じ感想を抱く者に巡り会えたのだ!

 

「それではハムスケさん、少し失礼を」

 

 感情抑制を発動するほどはしゃいでいるアインズを余所に、ハムスケに触るなり男の目が死んだ。

 

「硬い……。もふもふだと思ってたのに硬い……」

 

 ふわふわの毛皮に見えるハムスケだが触ると硬いのである。

 目が死んだのは数瞬。顔を上げた男の目には決意があった。

 

「モモン様、ハムスケさんの毛を何本かもらってもいいでしょうか? 何とかして柔らかくなるように研究したいと思います」

「そんなこと出来るんですか?」

「わかりません。ですがやってみせます。この見た目で毛が硬いなんて裏切りですよこれは!」

「裏切りとか何を言うでござるか! それがしが殿を裏切るわけがないでござる!」

「ハムスケさんの存在が裏切りなんですよ!」

「人間! 貴様はそれがしの敵だったのでござるな。覚悟するでござる!」

「待て待て待て!」

 

(アウラもハムスケの毛皮が硬いのに面食らってたよな。今度引き合わせてみるかな?)

 

 

 

 

 

 

 色々あったりなかったり。

 アルベド様はモモン様へ一言残してからお帰りになりました。

 モモン様とナーベ様も日が落ちる前に。

 お屋敷の若旦那様にぶつくさ文句を言うハムスケをモモン様が宥め叱っている間に、ナーベ様は真顔で若旦那様を物陰に引き込み熱い抱擁と熱い口付けを。

 

 いつものお屋敷に戻り、夕食を終えて人心地付いている時、ソリュシャンはアインズ様から確認するよう命じられたことを尋ねる。

 

「あなたはどうしてシャルティア様の失態のことを知っていたの? 私が知る限りシャルティア様はそんなことを口にしていなかったわ」

 

 言われた男は二度まばたきした。

 

「聞いてはないけれど違いましたか?」

「違わないわ。どうして知ってるのか聞いてるの」

「見たらわかりました」

「……どうしてわかったの?」

 

 現地の人間にはタレントと呼ばれる異能がある。もしや見ただけで何かを看破する異能を持っているのではとソリュシャンの目が細まった。

 

「大したことではないと思いますが」

 

 そう前措いて語った。

 現在のシャルティア様は少々時間を持て余している様子。ナザリックの方々を見るに少々不自然。シャルティア様の活用に慎重にならざるを得ない事態があったと推測できる。シャルティア様は知識労働を好まれないようなので与えられる任務は戦闘に絞られる。シャルティア様はご自身に自信を持っている方なので油断を突かれ不測の事態があった。

 

「と思ったのですが違いましたか?」

「…………その通りよ」

 

 デミウルゴス様がお認めになるのは伊達ではない。ソリュシャンは改めて男を見直した。

 

 そのシャルティア様の活用をアインズ様に提案するに至った流れは計画通りである。

 アルベド様の望む通りにしたかったが、アインズ様がモモン様の時は都合が悪い。二人が一室にこもればよからぬ噂が流れないとも限らないし、そうなるとエ・ランテルにおけるモモン様の魔導王への抑止としての役割に疑問符がついてしまうかも知れないのだ。

 シャルティア様が読み聞かせ教室にかこつけてあれこれしたがるのは欲求不満に鬱憤が溜まっていると思われる。アインズ様からのご命令で功績を立てる機会を得られれば満足されるだろう。

 シャルティア様と事に及ぶのは、あちらはよいかも知れないが、きついと言うよりも狭い。締め付けがきつすぎて痛みがある。頻度を落としてくれると大変ありがたい。

 あちらを立ててこちらも利を得る。アインズ様に不利益はなく窮地を逃れることが出来、アルベド様は自身の子飼いが自分推しであることを確認できた。

 一石四鳥である。

 

 

 

 

 

 

 その夜半。

 男は一人で床につき深い眠りに落ちていた。

 ソリュシャンはいない。今日はアルベド様にたっぷり絞られているはずなので、薄くて量が少ないみるくを味わうより一晩眠って回復したところをいただこうと思っている。一日くらい我慢できる。

 

 夜が深まり日付が変わる。

 街は眠り、屋敷は静まりかえっている。

 幽かな音を立てて男が眠る寝室のドアが開いた。開錠(物理)である。

 そっと忍び込んできたのは黒髪黒翼の美の化身、アルベド。

 

 アルベドがアインズ様から賜ったマジックアイテムはユグドラシルでは初心者に配られただけあって面倒な使用制限があった。使用できるのは一日一往復だけである。一度使用するとユグドラシル時間で日をまたがないと再使用できない。時間はこの地でも同じに進んでいる。

 しかし日をまたいだとしても夜が明ける前ならまだ同じ日であるというアルベド理論。週に一度と言うアインズ様のお言葉を違えない。

 

 男はよく眠っている。

 あどけない寝顔を見下ろし、アルベドはくふふと淫蕩に笑った。

 サキュバスとは夢魔でもある。

 夢魔らしく男が夢を見ている間に美味しくいただこうと考えた。

 夜這いである。




台風のせいでメガネとかSSとか言ってられんかった
生まれて初めての大雨特別警報に避難勧告
被害にあわれた方、お見舞い申し上げます


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お兄様殺人未遂事件 ▽アルベド♯6

 アルベドは窓に掛かるカーテンを少し開けてからベッドの枕元に腰掛けた。極上のベッドはキシリとも言わない。柔らかくアルベドを受け入れる。

 男の寝顔を見下ろす。すうすうと健やかな寝息が聞こえた。よく眠っているようだ。頬を撫でてやっても身じろぎ一つしない。手つきは意外なほど優しく、慈しみが込められていた。

 アルベドはナザリックのシモベたちの例に漏れず敵対者にはけして容赦しない苛烈さを持ち、そこへアインズ様が絡もうものなら理性全てをかなぐり捨てて一匹の獣になるが、同胞であるナザリックの者たちへは慈しみの感情を持つ。時にいがみ合うシャルティアであっても例外ではない。常に浮かべている慈愛の微笑みに偽りはなかった。

 この男もそこへ加わりつつある。

 始めはただのみるく製造機。視界に入り飾っておいても悪くない程度の顔貌。自らの死を預けるとまで言い放った忠誠は、例え脆弱な人間だとしても不快ではない。

 他の女たち。例えばシャルティア、ソリュシャンやナーベラルにナザリックのメイドたちは至高の方々が創造されただけあって誰もが美しい。アルベドの目からしてもそう思う。しかし他の女たちと自分を見る時の目は明らかに違う。

 忠誠なのか思慕なのかそれ以上なのか、いずれであろうとこの男は己が分を弁えている。

 

「モモンガ様のお気持ちを確かめたことは誉めてあげるわ」

「ん…………、アルベド……様……」

「…………」

 

 起きたかと思ったが寝言のようだ。

 厚かましくも夢の中に登場させているらしい。さてはてどんな夢を見ているのか。

 夢さえ越える快楽を与えてやろうとアルベドは上唇を舐め、下唇を舐めた。赤い唇が唾液で妖しく濡れ光るのを誰も見ていない。

 誰にも邪魔されず美味しくいただく。

 美味と快感の予感に、アルベドは美しい顔を淫靡に歪ませた。

 

 

 

 

 

 

 男を覆う寝具を剥ぐ。夜着は着心地の良いナイトガウン一枚。腰で留める紐を解いて前を開けば男の裸身が露わになった。

 上背があり手足もそれなりに長い。無駄な贅肉は皆無でそれなりに引き締まっている。もしもぶよぶよと醜く肥え太るようなら鞭をくれてソリュシャンに余分な肉を溶かさせるところだ。

 股間の逸物は力なくうなだれていた。眠っているからか外気にさらされたからか、玉袋がいつもより小さく見える。指で触れるとひんやりとして、張っているように感じた。ここでおちんぽみるくが出来るのねと優しく揉みほぐしてやる。

 ほんのりと暖まり張っていたのが弛んでくる。逸物にも血が通い、少しだけ大きくなった。まだ立ってはいない。

 

 にまにまと頬が緩む。

 まだ日付が代わったばかりで、夜明けまで時間はたっぷり。たっぷりと味わうことが出来る。

 

 根本を二本の指で押さえて上を向かせる。すぼめた唇から泡立つ唾がとろりと垂らされ、狙い違わずねちゃりと亀頭に落ちた。

 二度三度と続け、唾は重みで垂れ流れていく。亀頭から鋭角なカリ部を越えて竿を伝い根本にたどり着く前に、アルベドは逸物を優しく握って上下に振る。美しい繊手を汚し、唾を塗り広げる。

 五回は扱いてない。なのに手の平に伝わる熱さが変わってきた。固さも違う。太さも違う。逞しく勃起している。手を離せばうなだれるどころか強い力で反り返る。

 思わず喉が鳴った。

 男は深い眠りの中。目を閉じたまま動かない。おちんぽみるくを絞り始めた頃はいつもこうだったわ、そう昔のことではないのにアルベドは懐かしさに微笑した。

 一度ベッドから降りて、ドレスを脱いだ。脱いだドレスは丁寧に畳んでサイドテーブルの上に。急いで戻り逸物を握った。まだまだ固い。

 ゆっくりと扱きながらどんな風に食べようかしらと思案する。

 

(最後はおまんこで食べてあげるけど最初はどうしようかしら? いつものようにお口を使ってもいいしこのまま手でしてあげるのも悪くないわね。それともおっぱい? うふふ、私のおっぱいを一生懸命吸ってたわね。ちゅうちゅう吸っていっぱいなめなめして。……触ってないのに乳首立ってきちゃったぁ。私のおっぱいが吸われたいって言ってるの? おっぱい吸われるのも揉まれるのも良かったけど……。んっ、乳首きもちいわぁ。乳首かたくなってこりこりしてるぅ。起こしちゃおうかしら? 起こしたらきっとおっぱいをいっぱい触られて舐められて乳首もちゅうちゅうされちゃって……。おまんこにも絶対いろいろされちゃうわ。あの時みたいに指を入れられて昨日みたいに舐められてじゅるじゅる吸われて。やだぁおまんこ濡れてきてる……。ダメよアルベド、まだ我慢しないと)

 

 フェラチオだと手が空いてしまう。手コキでも片方の手がお留守になる。空いた手は絶対におまんこを触ってしまう。そうすると絶対に我慢できなくなる。両手を使わざるを得ないやり方。

 男の脚を開かせ膝の間にぺたんと座る。前のめりに体を倒し、大きな乳房の間に逸物を迎え入れる。両脇から押さえて柔らかなおっぱいで逸物を挟み込んだ。アルベドの選択はパイずりだった。

 ゆるゆると体ごとおっぱいを動かして逸物を扱く。滑らかな柔肌に柔らかな乳肉。そこへ唾まで垂らして更にすべりをよくしていく。

 一扱きする度に亀頭が顔に近づいて、アルベドは舌を伸ばした。

 両脇から押さえるだけだった手指は伸びて自身の乳首を摘まんでいる。

 

「はあ……はあ……、ちゅっ……れろ……。あぁ……おちんぽ熱いわぁ。乳首きもちい♡」

 

 亀頭の先端、尿道口からにじみ出る先走りの汁をなめとる内に我慢が利かなくなり逸物を深く咥えた。

 頭を上下に振りながらくにくにと乳首を弄り回す。

 ぺたんとベッドに座っていたはずがいつの間にか足を伸ばして寝そべって。男の太股を枕に横を向く。

 目の前には愛しくも雄々しい男。頬ずりをして鼻をつけて男の匂いを胸一杯に嗅ぎ取り、一方の手は相変わらず乳首を摘まみ、一方の手は股間に伸びた。

 

「おまんこがぐちょぐちょになっちゃってる……。まだぜんぜん触ってないのにぃ。ああっ……指がぬるって入っちゃった。おっぱいもおまんこもあっついぃ。おちんぽはもっと熱いわ……。あんっ……あっあっあっ、おまんこからおつゆいっぱい……私のおまんこがおちんぽ食べたいって言ってるわ。処女おまんこなのにおちんぽ食べたいだなんて……。でも私サキュバスだし当然よね」

 

 男の逸物を舐めしゃぶりながら、アルベドは自分を慰め始める。

 以前はおっぱいを揉みしだき乳首を摘まんでクリトリスを擦るのが多かったのに、男の指で膣イきを覚えさせられた。それからは指を必ず入れるようになった。

 指を入れて膣壁を擦り、もう一方の手で勃起して包皮が剥けたクリトリスを扱く。男のことも忘れていない。玉袋に熱い吐息を吹きかけ、勃起して反り返る逸物を根本から亀頭まで赤い舌で舐めあげてやる。先端まで来ると口に含んだ。

 

 暗い部屋でアルベドの艶めかしい吐息と、くちくちくちょくちょと粘着質な水音だけが響いている。アルベドの膣口から溢れる愛液は太股を濡らし、ベッドのシーツにまで染みを作る。

 当初の予定は大幅に狂っていた。最初はおっぱいでぴゅっとさせて口で味わうつもりだったのに、体の方が我慢できない。

 サキュバスなのだから精液を求める食欲は性欲とほぼ一体。

 男の濃厚な精液を飲みたいし、男の逞しい逸物を体の中に受け入れたい。

 はあと熱い息を吐きながら男の下腹に跨がった。体を少し下げると尻に勃起した逸物がぶつかる。軽く腰を上げて座り直す。

 

「はぁ…………おちんぽがあっついわね」

 

 奇しくも初体験時のシャルティアと同じ体勢。潤み開いて愛液を溢れさせる割れ目に逸物をすり付ける。

 男の下腹に手を突いて、腰を前後に揺する。秘部で逸物を愛撫するのか愛撫されているのか。

 剛直はたちどころにアルベドの愛液にまみれ、先走りの汁と混じり合う。

 柔らかく繊細な部分を擦り付けているからか、いつもより固さと逞しさを感じた。

 少しだけ前傾姿勢になり、とうに勃起しているクリトリスで刺激するときは声が漏れた。

 二度三度、五度十度と擦り付け、アルベドは軽く達した。

 おとがいを反らせて細い声を上げる。

 膣口がはしたなく涎を垂らし、物欲しそうに口を開く。自分のすぐ下にあるものを奥まで食べたいと訴えている。

 

「あぁ……はぁ……はぁ……、おちんぽほしいぃ……。おまんこが欲しがってるわ。私のおまんこがおちんぽ入れたがってる……。おちんぽみるくをおまんこの一番奥で出して欲しいの。私の子宮にあなたのおちんぽみるくいっぱい出してぇ……」

 

 いまだ眠り続ける男に語りかける。

 答えはない。期待していない。

 アルベドが一方的に男の精液を搾り取るのだ。

 

「今まで一回も使ったことがないアルベドの新品おまんこであなたのおちんぽを食べてあげるわ。私サキュバスだけどまだ処女おまんこなのよ。おちんぽ入れるのはあなたが初めて。大丈夫よ。処女でも私はサキュバスだもの。ちゃんとわかってるわ。奥までおちんぽを入れてあげる。あなたのあっついおちんぽみるくで私の子宮をいっぱいにして。とっても濃厚で量もたっぷりで、とっても美味しいおちんぽみるく。あぁ……ようやくおまんこで食べられると思うとたまらないわ……」

 

 男が眠っているのをいいことに、自らの未経験を告白する。

 淫蕩に笑って腰を持ち上げた。

 それに連れて押しつけられていた逸物が上向いていく。

 アルベドは細い指を股間に伸ばして自らの愛液に濡れそぼる逸物を摘まんだ。

 昼間、挿入直前の時に男からされたようように逸物を前後に振って亀頭で割れ目を何度も擦る。

 アルベドの女も男の男も十分すぎるほどに濡れ解れ熱く勃起している。

 何度か前後に振ると、自然と沈み込もうとする場所があった。

 そこはアルベドの女の穴。

 男を受け入れる体の入り口。

 快感の予兆に胸が高まっていく。

 

「あなたのおちんぽが私のおまんこを満足させたら。………………モモンガ様の次くらいにお前を好きになってあげるわ」

 

 しかしその間にはけっして越えられない高い壁がある。

 越えられるわけがない。アルベドはそのために生まれたのだから。

 

「それでは……」

 

 獣欲にとろけた顔をこの時ばかりは整えた。

 

「いただきます」

 

 ご飯の前にはいただきますをしなければならない。

 モモンガ様か、至高の御方々のいずれか、どこかで聞き知ったものか。

 サキュバス的にきちんとお食事するのだ。

 アルベドは礼儀正しくいただきますの挨拶をした。

 腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

「あ……あれ?」

 

 しかし入らない。

 処女膜がぐいぐい押されているのはわかるが、膣内に入って来ようとしない。

 未だ男を受け入れたことがない処女なのだから、初貫通は多少の抵抗があるとは思っていたが、あくまでも多少だ。

 さっき指を入れたときのようにぬるりと入り込んでくると思っていた。

 なのに入らない。

 位置は合ってる。

 腰を前後左右に振って入れようとするが入ってこない。

 アルベドの女が早く早くと期待に急かすも、ままならない現実にアルベドは焦り始めた。

 

 

 

 

 

 

 突然ですが算数のお時間です。

 円穴と細長い円柱があります。穴の深さと円柱の長さは同じで直径は円柱の方が少しだけ細いと仮定します。この寸法なら円柱は穴の中にすっぽりと入るはずなのです。

 当然の事ながら、入れるには円柱の一端が穴の入り口と合っていないと入りません。

 もう一つ必要な条件は角度です。穴と円柱が水平でなければ入りようがありません。角度が重要なのです。

 仮に両者を剛体(簡単に言えば曲がったり縮んだりしないという事です)と仮定すれば、位置と角度がしっかり合っていないと入りようがないのです。

 そこへ無理に力を加えると強度が弱い方が損壊する可能性があります。

 寸法的にするっと入るはずなのに入らないという事は、入れ方が悪いのです。けっして無理に力を込めたりしてはいけません。

 

 

 

 

 

 

 何度試しても上手く入らない。

 考えてみれば当たり前のこと。

 アルベドはサキュバスで如何に超絶の舌技や手技に極上の媚肉を持っていようと、やはり一度も経験がない処女である。

 処女に騎乗位はハードルが高すぎた。

 

 シャルティアは処女の身でありながら初体験は騎乗位で楽しんだが、あの時は男の意識があった。男の方でちゃんと入るように位置と角度を合わせて、シャルティアが腰を下ろすに合わせて下から突き上げた。

 しかし現在は熟睡中。

 アルベドの技で逸物を固く勃起させていようと意識は夢の中で遊んでいる。

 

 何度試しても上手くいかない。

 アルベドは一つの事実に気付いた。

 自分は100レベル。

 男はナザリックから運ばれる食物を口にした効果か、初めて会った時よりも若干逞しくなっているような気がしないではないが、どんなに高く見積もっても10レベルには届いていない。

 10レベルのおちんぽでは100レベルの処女膜は貫けないのではと推測した。ならば自分が力を貸すしかない。

 

 もちろんそんなことがあるわけがない。

 反り返るほどに勃起しているのできちんと上を向かせて角度を合わせなければ入っていかないのだ。

 アルベドが一度でも経験があれば。

 あるいは男が目覚めていれば。

 しかしサキュバスのプライドが男の手を借りることをよしとしなかった。

 上手く入らないから手伝ってちょうだいなんて台詞を同族に聞かれようものなら「えっ…………………………。アルベドちゃん何て言ったの? ごめん良く聞こえなかったもう一度言って。なんかアルベドちゃんがおまんこにおちんこ入れられないとか言ったように聞こえちゃって。でもそんな事あるわけないよね私たちサキュバスだもんね。おちんこなんて100本単位で食べた事あるもんね。アルベドちゃんはサキュバスから見てもスッゴい美人だから何百本も食べた事あるもんね。サキュバス的に考えて入れ方がわからないなんてあり得ないし。まさかチョー美人なアルベドちゃんがまさか処女なわけないし。騎乗位なんてサキュバス的スタンダードだし。入れ方がわからないなんてあり得ないわよね、サキュバス幼稚園で習うもんね。で、何て言ったの?」とか言われてアルベドの精神は死ぬ。

 誰の手も借りず騎乗位を成功させなければならない。

 

 アルベドは、えいと力を込めて腰を下ろした。

 100レベル物理職が力を込めて腰を下ろしたのだ。

 何が起こったのか、残酷すぎて記すことすら憚られる。

 結果としては、男が目を覚ました。

 

「あwせdrftg!? :・'.::・Σ====Σ≡つ)゚Д゚):∵ ☆彡 ………………」

 

 いくら痛みに強かろうと、気持ちよい夢で遊んでいたところへ突然の惨劇。覚悟は全く完了していない。

 男の絶叫は突然途切れた。アルベドが速やかに口封じを行ったのだ。アルベドとしては叫び声を止めようと咄嗟に口を押さえたつもりだった。

 しかしいっぱいいっぱいだったところに失敗したと言う現実が焦燥に拍車をかけ、突然の絶叫に驚かされ、力加減を間違えた。

 

 寝室には血肉が飛び散り、床で小さく白く光るのは歯か骨片か。

 男の顔は目を当てられない様になり、どくどくと枕を血で汚していく。

 

「あわわわわわわ!!」

 

 アルベドは焦った。

 焦ってもどうにもならないが兎も角焦った。

 男は間違いなく致命傷。このままだと死ぬ。何とかしなければならないが自分にその手段はない。

 幸いにも屋敷にはソリュシャンがおり、ソリュシャンは治癒のスクロールを持っているはず。

 しかしソリュシャンを呼べば自分が騎乗位を失敗したことを知られてしまう。

 そんなことはサキュバスのプライドが許さない。知られてしまうくらいなら死ぬ。

 しかしこのままでは男が死ぬ。結果として色々あった末に自分も死ぬ。

 絶対に避けたい結末である。

 何とかしなければと部屋を見回し、見つけたのはナザリック謹製ポーション!

 

 こんなこともあろうかと、男はアインズ様から下賜されたポーションを枕元に置いていた。

 アルベドに攻撃される可能性を考えたわけではない。

 ベッドに忍び込んできたソリュシャンからうっかり溶かされた時のためである。

 

 ポーションの封を開け、中身を男の顔へ振りかける。

 見る間に元通りの美貌が取り戻されていく。

 命に別状はないようだ。

 

 如何に高ぶりまくったアルベドとはいえ、これ以上続けるつもりになれなかった。

 むしろ一刻も早くこの場を離れなければならない。自分が騎乗位を失敗したことは誰にも知られてはならないのだ。

 ベッドから飛び降りドレスを回収する。大急ぎでお食事部屋に向かいマジックアイテムを起動してナザリックへ帰還した。

 

 男は何もわからず眠り続けた。

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 お兄さまの朝一のファーストショットを味わおうと、ソリュシャンがこっそり訪れる。

 部屋の鍵が壊されていることに美しい笑みを消し、中へ入る。

 そこでは凝固つつある血の海の中で、愛しいお兄様が健やかな寝息を立てていた。




肘間接を痛める
間接は長くなると聞いたが本当に良くならないorz


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メイドの決意

「はあああぁぁぁ………………」

 

 アインズ様はくそ馬鹿でかいため息をお吐きになりました。

 

「お前には心底呆れたぞ……」

 

 頭痛が痛い幻痛すら感じています。痛みは感じないはずなのに痛い三重奏です。

 

「お恥ずかしい限りです」

 

 跪いたままぽりぽりと頭を掻くのはエ・ランテルのお屋敷の若旦那様。

 もしもナザリックのシモベたちがアインズ様に呆れられようものなら自裁待った無しですが、若旦那様は違います。誰彼からもかしづかれ最上級の敬意を一身に浴びるアインズ様にとっては好ましい態度です。だからと言って呆れが止むわけではありません。余りの馬鹿馬鹿しさに感情抑制が発動して欲しいなあと思うくらいです。

 

 今朝方、アインズの元へソリュシャンからメッセージがあった。数量が限られている魔法のスクロールを用いての報告である。かつてソリュシャンからのメッセージでセバスに裏切りの可能性があることを報告されたことがあり、大いに身構えた。

 もしもあの男が裏切ったのだとしたら。

 デミウルゴスを感心させるほどの頭脳が敵に回れば面倒なことになるのは間違いない。ナザリックが彼の男を受け入れてから今日までの間にどれほどの災厄の種が蒔かれたことか。考えるだけで身が震える。

 しかし報告の内容は全く違った。

 屋敷内にて流血事件が発生。被害者は屋敷の若旦那様。ただし無傷。文書で報告するほどの事ではないと思われますが一応はお耳に入れるべきと判断した次第でございます。

 大きな問題ではなさそうなので後回しにし、空いた時間でとりあえずアルベドに伝えた。生きているのなら何の問題もございません、このようなことでアインズ様のお手を煩わせてしまい大変申し訳ございません、私から厳しく伝えておきます。

 アルベドにとっては大切なご飯だろうに案外ドライなんだな、やっぱり人間だからだろうか。

 

 問題はないようでも聞いてしまった以上お優しいアインズ様は無視出来ませんでした。

 何があったかちょちょっと聞く位なら大した時間はとられないだろうと魔法で屋敷に移動してみると、若旦那様はソリュシャンお嬢様に足蹴にされていました。

 とりあえず流血事件について聞いてみたらかくの如し、頭痛が痛くなりました。

 

「メイドに手を出して返り討ちにあうとか……もうお前という奴は…………」

 

 メイド見習いを寝室に引っ張り込み、ベッドに押し倒したら鼻を痛打され昏倒。鼻血でベッドが血の海になったとのこと。あまりにもアホすぎる。

 ちなみにアインズ様が訪問されたときに足蹴にされていたのはそれとは別件であり、ソリュシャンやメイドたちの前で、おっぱいが揉みたいと呟いたとか何とか。

 アインズ様は人間であった時分に魔法使いとなり、いまやお骨となって大魔法使いとなり、同時に性欲もゲットアウトしてしまったが女性の前でそんなことを言うのが不味いことくらいわかる。しかしこの男にはわからなかったらしい。

 

「まあ……なんだ。メイドに手を出すのはいけないがお前も若い男だからそういう欲求があるのはわかる。しかしエ・ランテルには男の欲求を発散できる場所があるだろう?」

 

 アインズ様は冒険者モモンをしているときに、そのような場所へ連れて行かれたことがありました。もちろん何もありませんでした。

 

「ソリュシャン様に話したらしばかれました」

「いやお前それはダメだろう。どうしてわざわざ話すんだ?」

 

 ソリュシャンはナザリックのシモベであり、その正体はショゴス。しかし女性である。女性の前で娼館がどうこう言うのが不味いのは大魔法使いであるアインズでもわかる。

 

「私一人での外出は許可が出ませんし、財布の紐を握っているのはソリュシャン様で私が自由にできるお金は銅貨一枚ありません」

「財布の紐って夫婦か! あ、いや、言葉の綾だから気にするな」

 

 ソリュシャンは跪いたまま無言で一礼した。

 

「はあ………………」

 

 アインズはまたもでかいため息を吐いた。

 この男、頭はよくても、もしかしたらバカなのかも知れないと思い始めた。

 しかし、アインズとて男であり、かつては人間の男であった。男の欲求には理解がある。

 若い男を屋敷に閉じこめ美しいメイドたちを侍らす。けども手を出すのは許されない。欲求不満が溜まるのも無理はないだろう。

 

「まあ……なんだ。エ・ランテルの治安に問題はない。子供が夜道を歩いても何の心配もない。アルベドの命令なのはわかるが大の男が一人で歩いても心配することは何もない」

 

 エ・ランテルは魔導国の所領であり、治安維持のためにデスガードなるアンデッドが警邏している。王国最高峰の冒険者チームが男の誘拐を企てても絶対に不可能。

 

「それにお前はタダ飯食いと言うわけでもない。セバス経由で帝国の書物を要約したものは私も目を通している。十分役立っているぞ」

「光栄です」

「それが無給というのは私の沽券に関わる。アルベドの食餌の対価がここでの生活なら、お前の働きへは私から報酬を出そう」

「アインズ様、それでしたら私から必要なお金を渡すようにいたします」

「そうか。小遣い制ってますます夫婦みたいだな……」

 

 ソリュシャンが伏せた目をキラリと光らせたのをアインズ様は気が付きません。

 

「まあ……そういうことだ。これからは適度に発散してバカな事をするんじゃないぞ?」

「はっ、かしこまりました」

 

 殊勝に返事をするも、小さな声でやったぜとガッツポーズ。

 ソリュシャンの目がギラリと光り、アインズはあっちゃーと額を押さえた。

 

「ああ、その、なんだ。ソリュシャンよ、気持ちはわかるぞ。だがそいつはアルベドのだから…………、最後にはきちんと回復させておけ」

「かしこまりました。……お兄様、少しこちらへ」

 

 ソリュシャンがドレスの襟を引き下ろし、豊かな乳房を露わにする。アインズ様の御前であるが、アインズ様にもソリュシャン風呂を味わって頂いたことがあり、そもそも人前で裸を晒すことに抵抗は少ない。

 半裸を晒し、愛しいお兄様の手を自らの乳房に導いた。

 触れた手はソリュシャンの乳房に沈み込み、腕まで飲み込み、肩まで来ると頭も消えて、上半身がソリュシャンの体と一体化したかと思えば下半身も。

 男の体全てを自身の体に飲み込んで、ソリュシャンはドレスの襟を上げた。

 成人男性一人を飲み込んでもソリュシャンの外見には全く変化がない。

 

「うふふ……、お兄様ぁ、ソリュシャンの中は如何ですか? ずっとソリュシャンの中にいてくださっても構いませんわよ?」

 

 胸を撫でながら語りかけるソリュシャンに、アインズ様は率直にソリュシャンこえぇと思いました。

 

 

 

 

 

 

 血の海で眠るお兄様を発見し、無傷であることに胸をなで下ろし、アインズ様へご報告する前に事情を問いただした。

 残念ながら何も覚えていなかった。

 けども男から提案があった。

 この屋敷へ外部からの侵入は不可能。間違いなく内部犯。メイドたちに寝室の扉を解錠(物理)は不可能。ナザリックに属する何者かに限られ、二者に絞られる。どのような事情があったのかわかりかねるが無傷であるため大事にしたくない。

 

 しかしながらもしもシャルティア様であれば出血量が多すぎる。シャルティア様ならこぼさず飲んでいると思われた。となればアルベド様しか考えられない。良い夢を見たような気がするが全く覚えていない。何かご機嫌を損ねることでもしてしまったのか。だとするとわざわざ回復させるのが少々疑問。との推理は話さなかった。

 

 ソリュシャンは全てをお話しすべきと主張したが再度の提案。

 デミウルゴス様も小さな失敗を幾つもしているはず。失敗が言い過ぎであれば計画の修正。それら全てをアインズ様に報告して判断を仰いでいるだろうか。いいや、アインズ様のお手を煩わせることなく、自らの判断で軌道を修正しているはず。デミウルゴス様にはその能力がある。自らの裁量と責任でもって行動しているのは間違いない。だと言うのになんの損失もない小さな事柄でアインズ様の判断を仰ぐのは責任の放棄にほかならない。もしもソリュシャン様が本件を丸めて報告することに重みを感じるとすれば、それは責任の重さである。重みを背負うのが嫌だからアインズ様に背負わせようと言うのか。

 

 ソリュシャンはかつてセバス様の裏切りの可能性をアインズ様に報告したことがある。

 今もって報告したことは正しいことだと思うし、デミウルゴス様の知謀により結果としてアインズ様が大きな果実を得られたのは間違いない。しかし、お手を煩わせてしまったとも思う。男の言葉通り、ナザリックに弓引くような大それた問題ではないのは確か。しかしながら男が傷ついたことを面白くないと思う気持ちは伝わらなかった様子。

 

 結局、男の提案通りに大した問題ではないとご報告した。

 結果、アインズ様がいらしたのは思いも寄らないことだった。

 そこでまさかお兄様が娼館通いの許可をもぎ取ろうとは想定外。

 もしかしたら、そこまで読み切った上で泥を被ったのではないか。

 アインズ様のお言葉で素晴らしいアイデアを閃いたが割と頭に来た。

 

 

 

 

 

 

「うう……、ヒドい目にあった」

「お兄様がおかしなことを言うからいけないんです」

 

 たっぷり半日はソリュシャンの中で溶かされ、ようやっと吐き出されたときは頭と胴体しかなかった。

 そんな様でも治癒のスクロールを使用すれば元通り。

 もしかして回復さえさせれば定期的に溶かしてしまっても問題ないのでは。

 

「おかしなこと考えてるね。そんなことになったら配置換えしてもらうから」

「……私はこの屋敷の女主人として留まっているのよ? 代えようがないわ」

「俺が違うところにいけばいい。エ・ランテルでアインズ様の館に勤めるよう願えば」

「無断で溶かしたりしませんからそんなこと仰らないで」

「許可があれば溶かすのね……」

 

 半死半生の目に遭わされたと言うのにソリュシャンと交わす言葉に気負いはない。

 そうでなければ壁の染みにされかけたシャルティア相手に、この淫乱吸血鬼めもっと蹴って欲しいのか、とかやれるはずがない。

 色々と無神経な男だった。

 

 今日はみるくを味わってないけども、半日もお兄様のお肉をトロトロ味わったおかげでソリュシャンお嬢様はご機嫌です。

 けどもご機嫌でない者もいます。

 神経が無いのか死んでるのか、何を考えてるかわからないようで何も考えてない若旦那様ではありません。

 アインズ様がいらした時、人払いをして屋敷のメイドたちは一人も同席していませんでした。しかしナザリックのシモベなら同席させることに何の問題もありません。

 静かに佇み、流血事件の顛末を聞いていたメイド教官がいました。

 

 

 

 

 

 

 少々よろしいでしょうか、と連れ込まれたのはいつもと同じで客間の一つ。一度も使われたことがない客間であっても掃除や調度品の手入れは完璧である。

 

「なにかな? シクススも聞いてたとおりアインズ様から花遊びのお許しが出た。今までみたいなことはしてもらわなくても大丈夫だよ」

「………………」

 

 シクススは答えない。

 代わりにドアを施錠して窓にはカーテンを二重に閉める。

 外はもう薄暗い。全ての部屋に備えられている魔法の灯りをともす。

 

「……なにかな?」

 

 シクススは無言無表情で男へ詰め寄った。

 たちまち壁へ追い詰められる。

 

「……私がいるのに……」

「?」

「私がいるのにどうしてメイドの子たちへ手を出したりしたんですか!?」

「!」

 

 美しい顔を赤い怒りが彩った。

 

 シクススは知らないのだ。

 男がメイドに手を出して返り討ちにあったというのは、男とソリュシャンで作り上げたストーリーである。それというのもアインズ様へ余計な面倒をお掛けしないため、アルベド様を庇うため。

 しかしシクススは知らない。

 知らなければ、若旦那様がメイドに手を出したのが真実となる。

 

 今までいっぱいおちんちんをしゅっしゅしたりぺろぺろごっくんしてあげてたのに、若旦那様はメイドへ手を出した。

 ベッドに引きずり込んだ。

 エッチなことをしようとした。

 私がいるのに。手でしてあげたのに、お口で咥えて飲んであげたのに、キスまでされちゃったのに、お尻を触られておっぱいまで揉ませてあげたのに。

 だと言うのにメイドへ手を出した。

 これは、裏切りだ。

 

「わっ……わたしに、あんなに……、色々させたのにぃ……」

 

 ソリュシャン様ならいい。プレアデスのお一人でありとても美しい方だ。

 しかし人間のメイドへ手を出すのは訳が違う。それでは自分が人間たちより劣っているようではないか。

 あまつさえ娼館へ行けることを喜んでいる。

 悔しくてたまらない。 

 

「……私の何がダメなんですか?」

 

 目元を拭わず正面から訴えた。

 訴えられた男は困った顔をした。

 ダメも何も、メイドに手を出したというのは偽装である。娼館へ行くのは男の欲望的なものではなく、様々な女性を知って経験を詰みアルベド様にお喜びいただくための修行である。

 正直に理由を話すことはやぶさかではないのだが、今日だけで何度も無神経やらデリカシーがないやらと、アインズ様とソリュシャンから散々叱られた。言っては不味いような気がした。

 

 男の無言にシクススはダメな理由を確信した。

 男からは言えないことに、シクススは心当たりがある。

 

「………………わかりました」

 

 濡れた頬と目元をハンカチで拭い、男の手を引く。

 靴を脱ぎ、ベッドに上がった。

 

「いつかこんな日が来るかなって思ってたんです」

 

 男の手を強く引く。

 シクススを潰さないよう男はベッドへ手を突いた。手と手の間にシクススの顔がある。目元がほんのり赤く、頬もほんのり赤い。

 

「今日は…………」

 

 顔を見ながらでは恥ずかしく、シクススは男の頭を抱いた。

 ふっくらとした唇を男の耳へ寄せ、小さな声で囁く。

 

「今日は……私のおまんこを使ってください」

 



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若旦那様→ご主人様 ▽シクスス♯2

「……いいんだな?」

「い……いいですよ?」

 

 シクススは上擦った声で答えた。

 いつもよりグッと低い声。耳に吐息が掛かっている。全身に男の重みを感じて、シクススはゾクリと来た。

 

(なっ…………なに!? 若旦那様いつもと違う? いつもはぽやぽやして可愛くてのんびりしてるのに何でこんな時だけそんな声出すの!? あっ……目がコワい……。ギラギラしてて顔も違う。なんでそんな顔するの? 何で私はドキドキしちゃうの!? 若旦那様のくせに人間のくせにいつも私にぬきぬきされてるくせに……。私は何をされちゃうの? おまんこを使っていいって言っちゃったけど……どんなことされちゃうんだろ? やっぱりキスとかおっぱいとか、異本のお姉さんメイドみたいなことされちゃうのかな……。若旦那様にあんなことされちゃったらわたし……)

 

「やん……、おっぱい優しくしてっ! ちゅぅ……んんっんっんんっ……ちゅる……」

 

 メイド服の上からシクスス自慢の大きなおっぱいを鷲掴みにされた。キスもされた。最初から舌が入ってくる。舌を伝って男の唾も入ってくる。

 シクススは抵抗しない。抵抗する余裕がない。動悸が激しく胸の高鳴りに支配され、自由に動くことが出来なかった。

 無抵抗をよいことに男の手は荒々しくシクススの体をまさぐり、直に触れるべくメイド服に手を掛けた。

 

「…………」

「……あの……どうしたんですか?」

 

 男の手が突然止まる。

 唇を互いの唾で濡らしたシクススは、怪訝に思って問いかけた。

 男は難しい顔をした。

 

「脱がし方がわからない」

「今スッゴいドキドキしてたのにムード台無しですね!? あなたは臨時で間に合わせの仮初めでも一応私のご主人様なんですから、そこは『脱げ』とか言ってくれればよかったのに!」

「脱げよ」

「もう遅いですよ!」

 

 シクススはナザリックの一般メイドであり、メイド服のデザインは至高の御方のお一人。とても凝った形をしている。上から下まで露出皆無なのだから慣れてないと着脱は難しい。

 ちなみに魔法が掛かっているので着てしまえばサイズが違おうとも自動で合わせてくれる。

 

 

 

 

 

 

 シクススが重装備のメイド服を一枚一枚脱いでいく。エプロンを外し手袋を脱ぎ、リボンタイを解いて上衣のボタンを外して。

 とても面倒そうで、自分で脱いでくれて良かったと心底思った。

 少しずつ素肌をあらわにするシクススを眺めながら、先のやりとりを振り返る。どうやらシクススは荒っぽく、或いは男らしく振る舞われるのが好きなようだ。

 

「キャッ!? まだ全部脱いでないのに……」

「そのくらい俺が脱がしてやるよ」

「…………はぃ……」

 

 下着姿になったシクススを抱き締めてベッドに押し倒せば、顔を赤くして受け入れた。

 視線を部屋にあちこちに彷徨わせながらも、ちらちらとこちらの顔を見てくる。

 

「シクススは俺におまんこを使っていいって言ったな?」

「……はぃ」

「つまりどういうことだ?」

「えっ…………それは、その…………。あの……。ご主人様のおちんちんを私のおまんこに入れてもらって……ぬきぬきすることです……」

「ぬきぬきって事は中に出して欲しいのか?」

「っ!? …………そう……です……」

「ここに欲しいんだな?」

「あぁっ!」

 

 男の指がシクススの股間に伸びた。

 見た目も肌触りも抜群の白いパンツ。陰毛がふんわりと盛り上げる少し下。ふっくらと盛り上げている真ん中に指が押し当てられる。

 指は優しく上下に動く。薄布がシクススの陰部に張り付いていく。

 

「どうなんだ?」

「そう……です……。……あっ」

 

 ブラジャーのホックがいつの間にか外されていて、乳房を包むカップをずり上げられた。

 シクススの丸く盛り上がったおっぱいは仰向けに横たわって軽くつぶれようともやはり大きくて、男は舌なめずりしてから直に触れた。

 白い乳肉に指が埋まった。

 指が幸せになった。

 

「胸も触っていいんだろ?」

「はい……触ってください……」

 

(ええとええとお姉さんメイドはこんな時に……)

 

「ちっちち乳首もっ! ……吸って、ください……。シクススの乳首をご主人様にいっぱい吸って欲しいんですっ……ああっそんなに強く吸っちゃだめぇ!」

 

 言い終わる前に吸いついた。

 柔らかかった色づく突起は舌の上で固く尖って自己主張する。

 吸われるためにあるのだから吸わないわけにいかない。吸うだけでなく歯も立てて、シクススを鳴かせた。

 その間もシクススの股間を愛撫している。指で割れ目をなぞったり、揃えた指の腹を当てて陰部全体を優しくもみほぐしたり。

 続ける内にパンツが湿ってきたのが見ずともわかった。

 体を熱くして汗をかき蒸れてきたのではない。シクススが濡らしている。女性器から愛液を分泌している。男を受け入れるために潤わせている。

 

「シクススもしてくれよ」

「は……い……」

 

 シクススが脱いでいる間に男も服を脱いでいた。

 体を起こしてベッドの上に足を伸ばして座る。シクススも続いてのろのろと体を起こし、男の前にちょこんと座る。

 いつもは重装備のメイド服を着ているから余裕があった。今はブラジャーも外されてパンツしか履いてない。防御力はほぼゼロ。無防備なのが心細くて、いつもの大胆さは影も形もない。

 恐る恐る男の股間へ手を伸ばした。

 逸物は完全に勃起している。

 手袋越しではなく、素肌で、直に触れた。熱かった。

 

「あの…………気持ちいいですか?」

「ああ。いつもさせてやってるからな。上手いぞ」

「あっ……ありがとうございます……」

 

 両手で包み、上下に扱く。

 異本で学んだことと今までの実践経験で、シクススはちょっとずつ上手になってきた。

 ただ扱くのではなく裏筋を指先で撫でたり、亀頭を唾を垂らしてぬるぬるにした手の平で擦ったり、ご主人様のおちんちんが気持ちよくなれるように工夫を凝らしてきた。

 

「ちゅっ……ご主人様のおちんちん……とってもおおきくてとっても固くて……とても男らしいです。……あん……♡」

 

 扱きながらキスもする。

 ちゅっちゅとキスを繰り返し、おっぱいを優しく揉まれる。頭を優しく撫でられる。上手になったとか気持ちいいとか言われると胸が暖かくなって熱くなった。

 

「口でもしてくれよ」

「はい。シクススのお口で気持ちよくなってくださいね」

 

 体を倒して長い髪をかきあげる。膝立ちの四つん這いになって男の股間に顔を埋めた。

 唇を開いて亀頭だけを咥える。口の中では舌を激しく動かし、今日までに覚えてきたご主人様が気持ちいいところを何度も舐めた。

 口の中でピクピクしている。

 頭を撫でられて、もっともっとしなければと使命感を覚えた。

 頭をぐいと押されて、シクススは力を抜く。ご主人様の手に任せて、逸物を喉奥まで深く迎え入れる。

 喉が突かれて少し苦しい。だけどご主人様のためなら我慢できる。

 苦しくて涙目になって、じゅっぽじゅぽと音を立てて逸物をしゃぶる。

 頭を押さえる手がどいてようやく解放されたときは溜まった涙がちょっぴり流れた。けほけほと咳をしてしまった。

 

「とても良かったよ」

「あ…………はい……♡」

 

 苦しかったけどぎゅっと抱き締められてそんなことを言われると、許してしまうどころかして良かったとすら思ってしまう。

 お腹の奥はとっくにキュンキュンしている。

 ご主人様が喜んでくれるとシクススも悦んでしまう。

 

「さて、そろそろ……」

「……はい!」

 

 シクススの番だ。

 ベッドに寝ころんで腰を浮かせる。パンツはご主人様が脱がせてくれた。

 

 男は手の中にあるパンツを広げてみた。

 

「シクスス、ちょっと見てみろよ」

「はい?」

「パンツがこんなになってる」

「!!?!?」

 

 パンツのクロッチは大きな染みを作っていた。

 生地が二重になっているクロッチでも吸いきれていない。透明な粘液で筋状にべったりと塗れていて、指で触れると糸を引く。

 

「ずいぶん濡らしたな?」

「……」

「返事」

「……はい」

「俺のちんこをしゃぶりながら濡らしてたのか?」

「…………そう、です……」

「シクススはちんこをしゃぶるのが好きなのか?」

「っ!? …………嫌いでは……ないです……」

「俺は好きかどうか聞いてるんだ。どっちだ?」

「……好きです。…………くすん……」

 

 あまりの恥ずかしさにシクススはちょっぴり涙が出た。

 

(ご主人様はどうしてそんなこと聞くの!? だってだって勝手に濡れちゃったんだもん! ……ご主人様のおちんちんをぺろぺろしてご主人様がぴゅっぴゅしてくれると嬉しいし、してあげた日はちょっぴりそんな気分になって自分で触っちゃったりするけど……。でもぺろぺろしてるときに濡れちゃうことなんてなかったのに。わたしエッチになっちゃったの? エッチなメイドはダメなの? でもでもお姉さんメイドはもっとずっとエッチだったし、オナニー何て毎日してるみたいだし、私は週に二回しかしてないのに。うぅ……すごい恥ずかしいよぉ……。ご主人様のばかあ……)

 

 ぐすんと涙ぐむシクススを見て、男はいつぞやの復讐が成されたことを確信した。

 

 いつぞやのことである。

 夢精してヌチャアとなったパンツを洗ってもらおうとシクススに声を掛けたら、どうしてパンツを脱いで射精をしないのだとか散々辱められた挙げ句になぜか屋敷中に夢精が知れ渡ってしまったのだ。

 

 復讐するは我にあり!

 ソリュシャンから渡された小説にあった一節だが、しても楽しいものではなかった。

 それはそれとして、ぐすぐすとしているシクススはとっても可愛い。

 おっぱいをぷるんぷるんさせながら手の甲で目元を拭う姿は庇護欲と劣情を刺激する。優しく慰めたくもなり、もっと泣かせたくもなった。

 

「嬉しいよ」

「…………ごしゅじんさまぁ……、くすん。エッチなメイドはだめなんですか?」

「嬉しいって言ったろ?」

「……はい♡」

 

 抱き締めればシクススも腕を背に回してきた。

 互いの体を素肌に感じ、シクススは男の逞しさを、男はシクススの柔らかさを。

 見つめ合い、唇を交わし、シクススはベッドに押し倒された。

 下腹に男の逸物が押し当てられている。

 さっきと同じように男の手が股間に伸びていく。

 つぷりと入ってきた。

 

「ん?」

「あっ!」

 

 中指だけを伸ばし、第二間接までシクススの中に埋めた。

 思った以上に狭く、肉の圧が指を締め上げる。

 引き抜いて膣口を優しく触った。薄い肉ひだがあった。

 

「もしかしてシクスス、処女?」

「……ダメ、ですか?」

 

 涙目の上目遣いで聞いてきた。

 

 ダメと言うことはない。

 しかし処女とは思わなかった。

 シクススは率先して手コキにフェラチオで抜いてくれた。胸を揉めば感じてくれた。今日もおまんこを使っていいと言ってくれた。経験豊富だと思っていた。

 アルベド様には出来ない技を試し、感想を聞きたかった。

 しかし処女だったとは。

 

「処女なのに俺におまんこを使って欲しいって?」

「…………ダメ……でしょうか?」

 

 シクススの顔は紅潮しながらも不安そうで、自信たっぷりのメイド教官の時とは全然違う。

 

「ダメってことはないけど……。シクススのお願いの仕方次第かな?」

「……それって?」

「使って欲しいんだろ? 俺がどうしても使いたくなるような事を言ってみろ」

「え…………、~~~~っ!?」

 

 シクススの顔も体も赤く染まった。

 つまり、おねだりである。

 ご主人様にエッチなことをしてもらうためのおねだりである。

 エッチなことを言わなければならない。

 そんなこと出来ない何を言えばいいのかわからないご主人様が言ってることがわからない、なら良かった。

 しかしシクススは知っている。

 至高の御方のお一人であるペロロンチーノ様が遺されたウース異本に書かれていた。お姉さんメイドはエッチなおねだりをいっぱいしていた。異本に魅入られているシクススはそれらを何度も読んでいた。

 

「あ………………」

 

 口にしようと考えただけで顔が熱くなった。

 ご主人様の顔を見るのが恥ずかしくて目を伏せると、大きくなったおちんちんが視界に入って目が釘付けにされた。

 見ているだけで、今度は体が熱くなった。

 あれが、入ってくる。

 

「ご主人様のおちんちんが欲しいんです。シクススのおまんこに入れてください。ご主人様のことを考えてるだけでシクススのおまんこはとろとろになってしまうんです。シクススはエッチなメイドなんです。ご主人様のそばにいるだけでおまんこ濡らしちゃうエッチなメイドなんです」

 

 ご主人様のおちんちんをそっと手に握る。

 

「ご主人様のおちんちんすごい……。シクススのおまんこはもうとろとろになってて、いつでも大丈夫です。おちんちん入れてください……」

 

 潤んだ瞳でご主人様を見る。

 間近で見る赤と青の瞳は神秘的でくらりと来た。

 言わないでおこうと思ってことを言ってしまった。

 

「ご主人様だいすきです……。大好きなご主人様のおちんちんが欲しいんです。私も私のおまんこも欲しがってるんです。ご主人様のおちんちんでシクススをいっぱい可愛がってください♡」

 

 そこまで言われて、処女だからと止めるわけにいかない。

 受け入れようと股を開くシクススに覆い被さる。きゃっと嬉しそうな叫びを上げて抱きついてきた。

 瞳を合わせながら、唇を掠めさせながら、シクススの膣口に亀頭を合わせる。

 押し込もうとも処女肉は強い弾力で押し返してくる。

 シクススは、はやくはやくと熱い息を吹きかけてくる。

 一息に腰を打ち付けた。

 

「~~~~~~~~~~っ!!!」

 

 背が大きく跳ね、抱き締める腕に力が入る。

 貫かれる痛みに息も出来ない。

 

「いっ……つぅ……、いたいぃ……。おまた痛いよぉ……」

 

(おちんちん入ってきた? ちゃんと入った? 何でこんなに痛いの!? お姉さんメイドはあんなに気持ちよさそうだったのに痛いなんて聞いてない! 私のおまんこおかしい? もっと触ったりぺろぺろしてもらわないとダメだった? うぅ……おちんちんがこんなに痛いなんて聞いてないよぉ。おまんこ壊れちゃう……)

 

「ダメ!! 動かないで……」

 

 動かれないよう男にしがみついた。

 

 シクススはホムンクルスである。別名を瓶の中の小人。錬金術で生まれた命。

 しかし生まれ方が特殊なだけで体は人間の女の子と全く同じ。強いて言うなら美味しいご飯をいっぱい食べられることが違うくらい。

 レベルも1で戦闘などとは無縁のメイドさん。痛みへの耐性は皆無である。

 処女肉を切り裂かれる破瓜の痛みはシクススの想像を超えた。

 そもそも痛いものとは全く思っていなかった。

 

 腕の中で痛みに耐え、涙を流すシクススは哀れであり可憐であり美しかった。

 欲望の赴くままに腰を振って泣き叫ぶ様を見たいと思う気持ちは少しはあったが、それはたっぷりラナーにしていた。破瓜の血を潤滑液にして、何度も何度も腰を打ち付けた。当時のラナーは初潮前。未成熟な性器は血にまみれた。

 裂けた女陰は処女膜ごとポーションで回復し、ラナーは何度も破瓜の痛みに泣き叫ぶことになった。もちろんのこと、全てラナーが望んだとおり。ラナーは上級者だった。

 

 シクスス相手にそんなことを出来るわけがない。

 

「やあっ! 動いちゃダメ!!」

 

 抵抗を押さえ、逸物を引き抜いた。血に塗れている。

 シクススの性器は真っ赤に充血して、処女膜は切り裂かれ血を流している。大きなものを受け入れて、少し裂けたのかも知れない。

 シクススが恐る恐る自分の股間へ手を伸ばす。指で触れ、目を落とす。指は血に塗れていた。

 痛いのと本当に壊れちゃったのかもと心配になって、シクススはまた泣いた。

 

「ひぐぅっ!?」

 

 それなのにまたも挿入された。

 今度も一番奥まで。

 貫かれた衝撃で涙がこぼれる。

 

「ご主人様のばかぁ、痛いって言ったのにぃ。おまんここわれちゃう……壊れちゃったらどうするんですかぁ!」

「壊れたら治せばいいだろ?」

「むっかーーーっ! ご主人様は気持ちいいかも知れませんけど私はすっごく痛いんですよ! ずどんって体全部が貫かれたみたいでぜんぜん動けなくて息も出来なくて!」

「今は?」

「へ?」

「もう痛くないだろ?」

「あれ? …………おちんちんちゃんと入ってますよね? うん入ってる、入ってるの感じます。あれ? なんで?」

 

 シクススに親指大の小瓶を見せた。赤い液体がわずかに付着している。

 それはアインズ様から下賜されたポーションであるとシクススにはわかった。

 

 こんなこともあろうかと思ったわけではない。

 アインズ様はポーション一本を贅沢にも一度で使い切ってしまうが、日常で使う分には過分である。そのためちょっとした切り傷やソリュシャンにうっかり溶かされた時のために、ポーションを小分けしていた。皮膚を溶かされたり指がとれかかった程度の傷ならポーションをちょっぴり塗るだけで回復する。

 ポーション一本で小瓶が20ほど。

 その内の数本を常に携帯していた。

 シクススの性器にポーションを垂らし、処女膜が回復する前に再挿入。

 

「回復してくれたのは嬉しいですけど……。私のおまんこがご主人様のおちんちんの形になっちゃったんですか? ご主人様専用のおまんこにされちゃった……。責任とってくださいね!」

「シクススがセックスしたくなったらいつでもしてあげるよ」

「そういうのじゃなくて! あっ!?」

「今度は痛くない?」

「はいっ……だいじょうぶ、です。あっあっ……ああん! やだぁ……、エッチな声でちゃうぅ♡」

 

 一度切り裂かれてしまったシクススの処女肉は、男の逸物を受け入れる最適な形で回復した。

 大きくて圧迫感はあるけれど痛くはない。

 痛みでちょっと乾いてしまったが、入れられているのを感じるだけで湿ってくる。

 ゆっくりと膣内をかき回される内に量が増えて、腰がぶつかる度にくちくちと小さく鳴り始めた。

 

「あっあっあっ、おちんちんすごいぃ、あうっ……おちんちんきもちいいですよ。ご主人様もシクススのおまんこきもちいですか?」

 

 聞くだけ聞いて、シクススはキスをしてきた。

 その間も腰を打ち付ける。

 シクススが自分で言ったとおり、専用のおまんこに作り替えられてしまった。緩いわけがなくきつさは丁度よくて、そこをシクススが締め付けてくる。

 愛液も多い。

 経験豊富と思わされたくらいなのだから敏感なようで、もっともっととせがんでくる。

 

「シクススは感じやすいんだな?」

「はぃ……、はあっああん……。だっていつもお口でしてるおちんちんが、おまんこに入っててぇ。ご主人さまぁ、シクススのおまんこもっとぐちゅぐちゅしてください♡」

 

 ご要望通りにシクススの細い腰を押さえて固定し、腰を激しく前後に振った。

 体が離れてキスが出来ない姿勢に不満のようだが怒張で膣壁を深く抉られ、美しい顔を淫らに蕩けさせた。

 再挿入してからは一度も視線を逸らさずまっすぐに見つめてくる。

 

「シクススはっ、ご主人様のおちんちんをぬきぬきした日はいっつもオナニーしてるんです♡」

 

 喘ぎながら告白する。

 

「ご主人様のおちんちんがおまんこに入っちゃったらどうなるんだろうなって想像してオナニーするんです♡」

 

 きゅうと逸物を締め付ける。

 軽く痙攣するように緩んでは締まり緩んでは締まり、淫らな告白に興奮して軽く達したようだ。

 

「あはっ、ご主人様のおちんちんとっても素敵ですよ? シクススのおまんこでもっともっと気持ちよくなってください♡」

 

 告白を終え、唇をねだってきた。

 シクススからも舌を伸ばし、音を立てて唾をすする。

 抱き締める腕に力が入って、ほとんどしがみつくよう。

 耳元で甘い嬌声が高く上がった。

 

「ご主人様ごしゅじんさまぁ! シクススで、シクススのおまんこで! ダメダメまたいっちゃうううぅ! あっあっあっああっ、ひゃああーーーっ!」

 

 熱く融けた媚肉が逸物を締め付けた。

 大きく開いたシクススの足はつま先まで力が入ってピンと伸びている。

 

「おまんこにおまんこに! シクススのおまんこにいっぱい出してください♡」

 

 情熱的な告白にこみ上げるものがあった。

 最後の一突きでシクススの一番奥に亀頭を押し当て、男の欲望をどぴゅどぴゅと吐き出した。

 シクススは膣内で男の逸物が小さく震えているのを感じている。

 体の中で射精されているのがわかった。

 子宮に流れ込んでいる。

 お腹の中の小さな小部屋に熱い精液が満ちていく。

 

「あっ……おちんちんぴくぴくしてます……。シクススのおまんこの中で……。まだ出てる、すごい量……。いつもより多い? ふあぁ……、おちんちんすごかったです♡ セックスって……オナニーよりきもちいかも」

 

 

 

 シクススの中から引き抜かれた逸物は、シクススがお掃除フェラをしてくれた。

 丁寧にちゅうちゅうと吸って、尿道に残るわずかな精液まで飲み込んだ。

 竿や亀頭に、シクススの愛液で塗れた玉袋まで丁寧に舐め上げる。

 ご主人様のおちんちんからはちょっぴり血の味がした。

 シクススの初めての証。

 しちゃったことに嬉しくなって、丁寧に舐め続ける。

 続ける内にまた大きくなった。

 しゅっしゅと扱き、期待に目を潤ませてご主人様を見上げる。

 抱き寄せられ太股を抱えられて、あはっ♡ と笑み崩れた。

 

 二度目は対面座位で。

 座る男の上にシクススが乗って向き合う形で抱き締めあう。

 ゆっくりと抽送しながらシクススは、私のこと好きですか? 気持ちいいですか? 私のこと好きですか? 私へんじゃないですよね? 私のこと好きですか?

 ちょっとメンドクセと思ったが黙っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 二度目も終えて、二人はベッドの上で絡み合う。

 シクススは幸せだった。

 アインズ様当番で、アインズ様からお褒めの言葉を授かる次くらいには幸せだった。

 美味しいご飯をお腹いっぱい食べるのとご主人様とこうしているのだったら、ギリギリこっちの方がいいかも知れないくらいに幸せだった。

 

「これからも私がエッチしてあげますから、ご主人様はいやらしいところに行ったりしないですよね?」

「………………ああ」

「答えるまで間がありました。本当にいかないですよね? メイドの子たちにエッチなこともしないですよね?」

「しないよ。俺にはシクススがいるんだ。シクススを悲しませることはけっしてしない。シクススの愛がなくなればこの世は真っ暗だ。俺には太陽を吹き消す大罪なんて犯せようはずがないさ」

「ご主人様ったら♡」

 

 胸にシクススの重みを感じながら男はそっと息を吐く。

 今し方の台詞はソリュシャンから勉強しなさいと渡されたロマンス小説からの丸パクリである。

 幸いにもシクススは気付かなかったようだ。

 娼館に行くのはシクススがメイド教官ではない時にすればいい。

 シクススが邪推するようないやらしいことをしに行くのではなく修行に行くのだ。たぶん問題ない。ばれてもおそらく許してくれる。きっとそうに違いない。

 

 

 

 ソリュシャンは気付かない。

 この男の顔と学習能力に、女性受けする言葉を教え込めばどうなるのか。

 しかしながら自己評価は皆無で他者からの評価にも興味がない男である。

 娼館では人気者になれるかも知れなかった。



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乱立する何か

 エ・ランテルにある豪華なお屋敷の一等豪華な食堂ではお屋敷の若旦那様とお嬢様が真剣勝負さながらの真剣な表情で向き合って一触即発の空気を醸し出しておりました。

 

 アインズ様に立ち会っていただいた際に交わした約定を果たしてもらうべく男は口を開いた。

 

「ソリュシャン、少し出かけてくるからお小遣いちょーだい」

 

 ソリュシャンはピキッと来た。

 

 宵の口である。

 美味しい夕御飯を食べた後である。

 お小遣いを欲しがるということはソリュシャンの同席を求めず一人で出かけるということ。

 暗くなってから男が一人で小遣いもって出かけるとなれば、飲みに行くか遊びに行くか。

 屋敷には男がアルベド様をもてなす為に美味しいお酒を造ろうと蒸留器まで備えている。間違いなくエ・ランテルで一番多種多様なお酒が揃っている。断じて飲みに行くのではない。

 遊びに行くのだ。

 どんな遊びに行くのか。

 

「構いませんが、どちらへお出でになるのかうかがってよろしいかしら?」

「秘薬を扱ってるところだね」

 

 ソリュシャンはカチンと来た。ソリュシャンはスライムなので体の硬度を変えることが出来る。たゆんたゆんでぷるんぷるんのおっぱいがアダマンタイトより固くなった。

 エ・ランテルには『紫の秘薬館』なる娼館があるのだ。

 

 お兄様のお給料をお小遣い制にしたのは、入り用になったときに自分からお金をねだるのは心理的抵抗があるだろうと考えてだった。

 無駄だった。

 流石のお兄様は無神経でデリカシーがなくて心臓に毛が生えてる怖いもの知らずである。

 

「誤解してるようだけど遊びに行くんじゃない。ソリュシャンとの愛を確かめに行くんだ。どんな女性が現れても惑わされないことを確かめてくる。何物を持ってしてもソリュシャンとの愛は砕けないことを証明してくるよ」

「お兄様………………それ、マリアージュの引用ですわね?」

「なんだ知ってたのか」

 

 ネタがバレても悪びれもしないお兄様にビキッと来たが、ロマンス溢れる言葉に幾分気を良くした。

 今し方の台詞はソリュシャンがロマンチックな言葉を覚えるようにと教科書代わりに渡したラヴロマンス小説からの引用である。タイトルは「偽りのマリーアージュ~伯爵夫人が背負いしローゼンクロイツ~」。美魔女で流されやすい伯爵夫人が様々な男性に誘惑され続けた末に真実の愛に目覚めようとしたところで悲劇的な死別を迎えるストーリーである。

 当然、ソリュシャンも読んでいた。

 

「約束ですから仕方ありませんね。いかほど入り用ですか?」

「全く見当がつかないな。とりあえず金貨10枚くらい?」

「足りないのではなくて? 食事処ならともかくそんなところから請求が来るなんて、私いやですわ。100枚ほどお持ちください」

「100枚なんて重いよ」

「貧弱ですわね」

「かさばって嫌なんだ」

 

 金貨は重いしかさばる。持ち運びには非常に不便。

 エ・ランテルのみで通用する域内通貨か金貨との兌換紙幣があれば便利だなと男は考えた。そうすれば今以上にスムーズな経済活動が出来るはず。書面にまとめてアインズ様に提案してみることを決めた。

 なお、これらのアイデアはデミウルゴス様から貸し与えられた日本語辞書を飽きずに繰り返し読んだ末に得られたもの。

 出てきたアイデア、或いは気付いてしまったことは他にも多数。自分が読んで良いものだったのかと思ったが読んでしまったのだから仕方ない。

 

「お帰りはいつごろに?」

「初めて行くからさっぱりわからないな。遅くなってもエ・ランテルの治安は魔導王陛下が保証してくださっている。心配ないよ」

「そうですか。お帰りになったらご相談したいことがありますの」

「なんだろう?」

「とっても素晴らしいことを思いついたんです。実現するためにどうすればいいのか、お兄様のお知恵をお借りしたいのです」

 

 何を思いついたかは話さなかった。

 ソリュシャンはとってもいい笑顔でお兄様を送り出した。

 

 若旦那様とお嬢様は金銭感覚がおかしいと固唾をのんで一部始終を見守っていたメイドたちは思いました。

 

 

 

 

 

 

 同日同刻。

 ナザリック第9階層にはマイコニドのピッキーが腕を振るうバーがある。

 現在は常連のデミウルゴスが出張中であるため、同じく常連であるコキュートスは足を運ぶ頻度が落ちていた。メイドたちにはいささか敷居が高い場所であり、来客ゼロも珍しくない昨今。

 今日は違う。

 ピッキーがシェイカーを振る音だけが響くバーのカウンターにうなだれている影が一つ。

 

「スクリュードライバーです」

 

 ウォッカをベースにしたアルコール度数が高いカクテルの代名詞。オレンジジュースを使うので口当たり爽やかにして甘いお酒。女性にも大好評。

 

「ありがとうぉおー」

「……差し出がましい口とは存じますがそろそろお止めになった方がよろしいのでは」

「うぅるさいわねぇえ……」

 

 引ったくるようにグラスを掴み、ピッキー渾身のカクテルを味わうことなく喉へ流し込む。一飲みである。

 

「うすいわよー? うすめないですとれーとでちょうだい」

「……かしこまりました」

 

 飲み干すとまたもうなだれる。

 彼の御方がこのような醜態を見せるとはよほどのことがあったに違いない。もしやアインズ様からお叱りの言葉を受けたのだろうか。だとすれば傷心なのも頷ける話。傷ついた心を一時なりとも慰めるのにお酒は有用。ピッキーはウォッカに角砂糖を落としたものを出した。

 またも一瞬で飲み干され、瓶ごとご所望。

 

「お酒だけだしてくれればいいわ。あとはほっといてちょうだい」

「かしこまりました。何かございましたらお声かけください」

 

 ひらひらと手を振って追い払う。

 手酌でぱかぱかとグラスを空けるのは、ナザリックのみならず世界が認める美の化身、アルベド様であった。

 頬には朱が差し呂律が回らないほど強かに酔っている。

 本来なら泥酔できるアルベドではない。酒の味は楽しめても高レベルによる状態異常耐性が深酔いを防いでしまう。どんなに飲んでもほろ酔いが精々。それとて一瞬で醒める。

 わざわざシモベに状態異常耐性ダウンのデバフを掛けさせてからバーを訪れた。

 飲みたかったのだ。

 酔って忘れたかった。

 先日、挿入を失敗したのはアルベドの精神に尋常でない動揺をもたらしていた。

 サキュバスなのに挿入失敗。

 アイデンティティが砕けかねないほどの衝撃。

 酔って正体を忘れたくなるのもむべなるかな。

 

(ちゃんとおちんぽおっきできたのにわたしおまんこぬれぬれだったのになんではいらなかったの? なにがだめだったのぉおお!? わたしサキュバスなのにいいいいぃいい!!!)

 

 飲みながらアルベドは考えた。

 あの子は自分のものであって間違ってもシャルティアやソリュシャンのものではない。だと言うのにシャルティアはいつもいつもじゅぽじゅぽヌプヌプした痕跡を見せつけてくる。ソリュシャンがナニをした証拠は挙がってないがあの子と一緒に住んでるのだから間違いなく毎日毎日おちんぽミルクを絞っているに決まってる。そして自分は飲んだくれている。こんなのっておかしいわよ!!

 この前行ったばかりだから一週間のお預けが終わるまであと五日も待たなければならない。

 後五日。何回数えてもあと5日。片手には五本の指があって、それと同じだけの日数。

 長い長すぎる。アインズ様がお決めになったことであるが、長すぎる。アインズ様は私の健康を思いやってくださって週に一度とお決めになられた。しかしアインズ様はサキュバスではない。サキュバスがどんなに精液をごっくんしたとしても体調を崩したり食べ過ぎでお腹が出ちゃったりするわけがないことをご存知ないに違いない。

 ああしかし偉大なるアインズ様へ不見識を正せようものか。

 もしかしたら私には理解できない崇高なお考えの元に一週間とお定めになったのかも知れないのだ。そこへ苦言を申し上げてしまえば私の愚かさに失望なさってしまうかも知れない。

 アインズ様が仰った通りにご馳走は偶にであるからこそご馳走と言うのもその通りであることであるし。

 でもでもごっくんばかりじゃないし……………………!?

 

 アルベドは閃いた。

 バーカウンターに突っ伏していた体をバンと跳ね上げた。

 体を起こす際にカウンターを両の拳で叩き、叩かれたところが窪んだことには気付かなかった。気付いたピッキーは何も言えなかった。

 

「そうよ…………。そうだわ……。そうすればよかったのよ!」

 

 泥酔しているとは思えないほどの機敏な動きで立ち上がり、ピッキーには一言も残さず嵐のように去っていった。

 

 アルベドは気付いた。

 アインズ様が仰せになったのはご馳走は週に一度。

 ごっくんでなければいい。お食事でなければいい。

 

 セックスなら問題ない。

 先日は失敗してしまったが、あの子は私のものであって私があの子のものではない。自分からするのではなくあの子にさせればいいのだ。

 素晴らしいアイデアを実現すべく、アルベドは自室にダッシュで戻り、エ・ランテルのお食事部屋へ通じるマジックアイテムを起動した。

 

 

 

「アルベドいるー? あれ、いない?」

 

 アルベドと入れ違いでバーに現れたのは褐色の肌に金髪が映える美少年。耳がとがっているのはエルフの証。左右で色が違う瞳がチャームポイント。ナザリック第6階層の守護者であるアウラ・ベラ・フィオーラ。

 男装だが実のところ女の子である。創造主の趣味で男の子の格好をしているのだ。

 

「ようこそお出でくださいました、アウラ様。アルベド様は先ほどまでいらしたのですが、急にお席を立たれました」

「ありゃ、入れ違いになっちゃったか。まあ急ぎでもないしいっか」

 

 アウラは凹んだバーカウンターを胡乱な目で眺めてから背の高いスツールに座った。

 外見年齢は10歳程度のアウラだが、レベルは100で身体能力もそれ相応。スツールに飛び乗るくらいわけないことである。

 

「せっかく来たから何か飲んでこうかな。ピッキー、美味しいのお願いね。お酒が入ってないやつで」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 ノンアルコールカクテルだってお手の物のピッキーである。

 色が赤青緑の三層に分かれている鮮やかなカクテルにアウラはわおと目をまるくした。

 

「これってどうやって飲むの?」

「そのままお飲みください。最後の一滴まで飽きずに楽しんでいただけるものと思います」

 

 ピッキーの言に違わず美味しいカクテルだった。

 綺麗なカクテルだったので少しずつチビチビ飲んでいたのにいつの間にかグラスが空になっている。アウラはすぐさまお代わりを頼んだ。

 

「そう言えばピッキーってハムスケのこと知ってたっけ?」

「存じております。白く大きな魔獣で、羨ましくもアインズ様のペットを仰せつかっているとか」

 

 ピッキーは副料理長でもある。そしてアウラが管理する第6階層は広大なジャングルで一画には農園がある。ピッキーが食材の調達に第6階層に赴くことは希ではなかった。

 

「ハムスケってさ、見た目はもふもふなのに触ると毛が固いんだよね。フェンは見た目通りにもっふもふなのに。それでね、ハムスケの毛皮を柔らかくしようって考えてる人間がいるんだって。アインズ様が良かったらそいつと会ってみないかって。その人間はアルベドが飼ってる奴らしいからどんなのか聞いてみようと思ったんだけど。ピッキー何か知ってる?」

「アルベド様がお飼いになっている人間……。聞いたことがあります。何でもゲームでアルベド様を負かしたとか。デミウルゴス様が興味を持たれ、試したところ中々優秀な人間であったそうです。先日ナザリックに一時帰還為された際、ここを訪れていただき楽しそうにお話になっておりました」

「へーーーーーーっ! デミウルゴスが認めるなんてよっぽどだよね?」

「私もそのように思います」

「どんな奴なんだろ? デミウルゴスが認めるんだからやっぱり頭いいのかな?」

「アルベド様とゲームの腕を競うことが出来る程度には良いのかも知れません」

「うーーーー、会ったらバカにされないよう気を付けなくちゃ!」

 

 

 

 

 

 

 ナザリックからエ・ランテルの中枢に戻り、今度はアインズ様の居館。

 広い執務室ではアインズ様がせっせと書類を処理しておりました。アルベドを筆頭に優秀な配下がいるのでゴーサインを出すだけの簡単なお仕事です。けどもエ・ランテルが魔導国の所領となってから日が浅く、処理すべき書類は山のようにありました。

 かつて人間であったアインズ様はブラックな職場におりましたが、現在は24時間片時も休むことなく仕事に追われています。飲食睡眠その他諸々が不要な骨の体でなければ到底持ちません。最下級平社員から絶対君主へチェンジしたはずなのに何故か今の方が遙かにハードワークです。

 不思議なものです。

 

 小難しい書類群の処理が一段落ついて、気分転換に別ジャンルの報告書や要望書に手を伸ばした。

 

「………………こいつは本当に王国が嫌いなんだなあ。って言うより王女が嫌いなのか? 王女が施行した法を全否定だな。セバス、お前もこれには目を通したんだろう? どう思う?」

「はっ、一理あるとは思われます。ですが急な政策転換は動揺をもたらすかと」

「その通りだ。王国だったら奴隷制復活もいいだろうが魔導国では不要だ。暇な奴にはちゃんと仕事を与えてやる」

 

 セバスは無言で一礼した。

 アインズが読んでいるのは、エ・ランテルのお屋敷で若旦那様として収まっているアルベドのご飯からの提案である。

 

 一、奴隷制の復活。

 奴隷制が悪いのではなく、奴隷への虐待や奴隷確保のための人攫いが悪い。これらを解消し、奴隷達にいずれ自分の身を買い戻す道を与えれば奴隷制を止める必要はなかった。王国では廃止されたが、あれは現実を見たことがない愚か者の政策である。自由を与えられても盗むか野垂れ死ぬかの二択しかない者もいる。犯罪に走らせるくらいなら奴隷として労働力にした方がよい。

 と言うようなことが丁寧な言葉遣いで書かれている。なお、王国の奴隷制を廃止したのは王女であるラナーである。

 

 かつては貧困層であったアインズには糧を得る手段がない者達の境遇を想像できた。

 それらを解消するため、魔導国では職業訓練や新たな職業の創設を賢いシモベ達が色々考えている最中である。

 

「あと黒粉かあ。言われてみるとその通りなんだよな。……セバスがいい気持ちしないのはわかるが」

「私如きの私情でアインズ様のお考えを妨げるわけには参りません」

「……悪い考えではない。しかしこれもすぐには無理だ」

「仰るとおりかと」

 

 二、黒粉の流通。

 黒粉は精神に作用し安寧をもたらす良薬である。中毒性もなく長期間の服用による後遺症も認められない。これを麻薬と断じて禁じたがために犯罪組織の資金源となった。優れた商品作物を投げ捨て腐敗の温床にするとは愚策ここに極まれり。帝国が黒粉の流入を嫌ったのは自国領土で栽培した黒粉より王国産の黒粉が高品質であるため資金の流出を嫌ったからである。

 黒粉を禁じたのは王国の法であり、ラナーはアダマンタイト冒険者である蒼の薔薇へ依頼して黒粉の流通を阻止しようとした。

 黒粉は犯罪組織「八本指」の資金源の一つとなっており、セバスが救った人間の女性ツアレは八本指に虐げられていた。セバスが面白くないと思うのは仕方ないが、こうして文書をアインズの目に触れさせたのだから一理あると考えたのかも知れない。

 

 どちらも大胆な提案である。

 前者は却下、後者はひとまず保留で支配下に置いた八本指を使って試してみるのは悪くはないと考えた。

 

「それとこれは…………あいつも苦労してるんだな……」

 

 アインズは側に控えるセバスに聞こえないよう小さな声で呟き、虚空を見上げた。

 こちらはソリュシャンからで、ポーションと治癒のスクロールの補充要請だった。

 

 ついこの前、アインズが許可を出してソリュシャンはあの男をトロトロしてしまった。

 回復するには当然ポーションなり治癒のスクロールなりが必要となる。

 ポーションとスクロールの補充要請が来たということは、それなりに大変な目にあっていると想像できた。

 

 ここで問題が幾つか。

 まず、治癒のスクロールは安定供給の目処が立っていない。必要なのはわかるが、無尽蔵に提供できるものではない。

 ポーションは大量にある。特に男が使うには最下級の回復ポーションで事足りる。こちらはナザリック内で安定して生産が出来ているし、現地の薬師を確保して新たなポーションの開発に取り組ませてもいる。提供するのはやぶさかではないのだが、アインズ様は締まり屋だった。

 

 ポーションが一万個あります。一日100個生産できます。一日に10個消費します。毎日90個増えるわけです。だけれども、もしもその10個を消費することなく貯蔵することが出来れば一日100個増えるのです。

 しかし、です。もしかしたら一万個のポーションを一度に消費してしまう大事件があるかもわかりません。その時になって、あの時に10個も使わなければ助かったのにと思わないとも限りません。

 そんな可能性は非常に低いとわかっています。低いどころか皆無でしょう。でも考えてしまうのです。

 何故ならば、アインズ様は貧乏性なのでした。

 

(ポーションやスクロールを使うと減るんだよな)

 

 当たり前です。

 

(治癒の魔法を使えるのは……、いやでもペストーニャを人間の街に置くわけにもいかないし)

 

 ペストーニャ・S(ショートケーキ)・ワンコ。ナザリックの一般メイド達を管理するメイド長である。

 ナザリックでは実に珍しく慈悲深い性格で、人間達へ侮蔑どころか積極的に救いの手を差し伸べる。

 その上、守護者に次ぐ高レベルの神官であり、回復魔法はばっちりである。人間の男の回復役としてはあまりにも役不足が過ぎて勿体ない。

 勿体ないに目をつむっても、ペストーニャをエ・ランテルに置くわけにはいかなかった。

 ナザリックのメイド長であるし、外見が二足歩行するわんこなのだ。

 ちょっとダメである。

 

「回復魔法が使えて手が空いているとなると……」

「ルプスレギナは如何でしょうか?」

 

 ルプスレギナはカルネ村の守護を命じられている。カルネ村は王国に属する開拓村だった。現在は魔導国に属する。

 カルネ村が隣接するトブの大森林はアウラがシメたし、アインズが最初に接触した人間の居住地ということで多数のシモベが置いてあるし、なにやら要塞化してしまっているし、エンリ大将軍がいるし、と言うか王国の正規軍を追い払ったことあるし。

 プレアデスの一人であるルプスレギナ・ベータを常駐させているのは、現状でははっきり言って過剰だった。

 

「(回復できるからって滅茶苦茶やりそうな気がすっごくするが)そうだな。セバスの案を取り入れよう」



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さらに立つ何か

 彼が店に踏み入るなり客の男達は静かにどよめき夜蝶たちは感嘆の声を上げ店の雇人たちは声こそ上げなかったが目を見張った。

 

 最近になってエ・ランテルで知られ始めた人物だ。

 珍しい銀髪に異色光彩。天上の美を知るナザリックのシモベ達をして唸らせる美貌。彼が外を出歩く際には必ず美しいメイドを侍らせ、中でも王国に残された唯一の至宝と名高い美姫ラナーに匹敵する美貌の令嬢を連れ歩くこともある。

 政治に携わるものなら彼の男が漆黒の英雄モモンと、そして魔導国の中枢とも繋がりがあることを知っている。

 そんな男が一人で現れた。

 

「こういうところは初めてなんだ。紹介状とかはないけど遊ばせてくれるかな?」

 

 早速揉み手で店の使用人が近付いていく。渡されたのはずしりと重い布袋。

 

「これで足りるだろう?」

 

 開けば現れる金貨の山。誰かを身請けするのかそれとも店ごと貸しきるのか。

 

「余るようだったら預けておくよ。また来るから」

 

 紫の秘薬館は一階が高級酒家に似た作りをしており、商品の展示場と待合室を兼ねる。酒食を楽しむことも出来る。

 店に否があろうはずがない。

 極上の大輪が来たと、夜蝶たちはわっと男を取り囲んだ。

 

 

 一方そのころ、ソリュシャンはプルプルしていた。

 

「はあ? いない? どうしていないの? わたしが来たのよ!? おかしいでしょう!!」

「仰るとおりでございます」

 

 そうとしか言えなかった。

 アルベド様がいらしてしまった。訪問される日までまだ幾日もあるはずだった。お食事が週に一度と決められた場にはソリュシャンも同席していた。しかし訪問を禁じられたわけではない。

 

「どこへいったの……?」

「あ……アインズ様からお許しを得て街を散策しています」

「そう……アインズ様が……」

 

 嘘は一つも言ってない。全てを話していないだけ。

 もしもバカ正直に娼館へ行ってるみたいですなんて言おうものなら何が起こるかわからない。

 アルベド様はナザリックにおける慈悲と慈愛の聖母であられる。ナザリックのシモベたちへ理不尽に無体な真似は一度としてしたことがないのだが、今のアルベド様をそこまで信じることがソリュシャンには出来なかった。

 アルベド様はお顔が真っ赤である。足取りが怪しい。口調も怪しい。めっちゃ酒臭い。信じがたいことだが酔っているらしい。

 正直に話してお兄様が痛い目にあうくらいなら構わないが、今のアルベド様に迂闊なことを申し上げると飛び火しかねない。お兄様を庇っているのではなく保身である。

 

「待つわ」

 

 アルベドは背もたれがない長椅子に腰を下ろして足を組む。

 

「帰りがいつになるかわかりませんが」

「待つわ」

 

 目が据わっている。何を言っても無駄であるらしい。

 

「待ってるあいだひま。お酒をちょうだい」

「ここには現地のお酒しかございません」

「おいしいお酒ちょうだい」

「……かしこまりました」

 

 ソリュシャンは涙目でアルベド様のお食事部屋を飛び出た。美味しいお酒とくればお兄様が色々工夫して作ったカクテルはそこそこいけると思ったが生憎自分はレシピを知らない。ならば出来る限り質が高いお酒を。

 長い廊下を駆け抜けるソリュシャンが目指すのはお兄様のアトリエ。白い魔獣の毛を柔らかくする研究や美味しいお酒のブレンドなどを試している工房である。錬金術は台所から生まれたと言うだけあって、似たようなことをするのだからと一緒くたになっている。ソリュシャンも足を踏み入れお手伝いをしたことがあった。

 その中に人間には出せない物凄いお酒があることを知っていた。お兄様オリジナルブレンドである。

 ソリュシャンも味見したことがある。ナザリックのお酒とは違う方向で美味しいお酒で、飲めば気分が高揚し知覚が鋭敏になる。尤も、ナザリックの食材のようなステータスへのバフ効果があるわけではない。

 もしも人間に出すとすればスプーンに一匙が限度とお兄様は言っていた。二匙で精神が彼岸へ旅立つとか。

 

 メイドで試すと怒られそうなので、エ・ランテルに流れてきた冒険者っぽい男を適当に拉致って飲ませてみた。

 飲んだ男曰く、グラスも机も椅子も壁も全てが虹になり太陽が灼熱の大地に落ちて銀色の悪魔に変わり舌を出して歩き回ると自分の体を含む全てが融けて世界と一体化。そこで男の精神は旅立ってしまった。

 蒸留と濾過を何度も繰り返して精製したお酒に様々な薬草毒草にハーブから抽出した薬効成分とソリュシャンが提供した種々のエキスを適宜調合。黒粉の効用を遙かに越える魔酒が生まれた。

 そんな魔酒をお兄様は平気な顔で一瓶空けて、癖になるから止めようと封印した。

 

「ふうん、香りはいいわね」

 

 ソリュシャンが細長いグラスに注いだお酒は無色透明。

 赤青緑に紫色の小さな気泡がグラスの底で生まれて立ち昇り、水面に顔を出して弾ける前に酒の中で溶け消える。

 光が当たるとキラキラ光って星々が瞬いているように見えた。

 

「お兄様がアルベド様のためにブレンドしたお酒でございます」

 

 これは本当。アルベド様へ振る舞うカクテルのベースにしようと一本だけとってあった。

 

「おにいさま、ねえ? ずいぶんとなかよくなったのねえ?」

 

 アルベドはちろりとソリュシャンを見てから白く美しい指でグラスの足を摘まみ、ピッキーのカクテルを味わうときよりもゆっくりと喉に流し込んで、

 

「きゅう…………」

「アルベド様!?」

 

 一発で昏倒した。

 今のアルベドは酒に酔うために状態異常低下のデバフを受けている。ここに来るまで散々飲んで酔っぱらっている。そこへたった二匙で常人を廃人にする魔酒。

 100レベルとはいったいなんだったのか、ついと酔いつぶれてしまった。

 

 床に倒れるアルベド様。

 想定外の事態に慌てるソリュシャン。

 

 そんなことになってるとはつゆ知らず、お兄様は二羽の夜蝶からサンドイッチされていた。

 

 

 

 

 

 

「ラナーへの報告はこんなものでいいかしらね」

 

 リ・エスティーゼ王国の美しき王都の一番高級な宿の一室でラキュースは独りごちた。王国の王女ラナーの依頼で魔導国の所領となったエ・ランテルへ視察に赴き、得た情報をどのように報告すべきかまとめていたところだ。

 王都との差は歴然。あちらは治安もよく活気もあり、塵一つ落ちてない清潔な街並み。魔導国からの商品や技術供与によりかつてない賑わいを見せている。ところどころにアンデッドや亜人がいるところに目をつむればとても素晴らしい都市だ。

 一方の王都は歴史ある街並みは美しいが寂れている。まるで死病にとりつかれた老人だ。

 

 王国は史上最悪の愚王を迎えてしまったが故に近年は衰退の一途にあった。王女だけが未来を憂え様々な政策でもって応急処置を施してはいたが所詮は対症療法。根治には至らない。

 そこへ魔王ヤルダバオトの来襲。帝国との戦争では魔導王の魔法で王国軍は壊滅。

 王国は滅亡の縁にある、とは生ぬるい表現だ。既に極刑が宣告されており、今は執行を待つばかり。もはや滅んでいるといって過言ではない。挽回の目は絶無。

 ここまで来れば如何にして負けるかが主題となる。しかしそれは心配無用。

 王国を滅ぼすために魔導国の手を引いているのは、王国の第一王女ラナーなのだ。後の絵は既に描かれている。

 

 ラキュースは知らない。

 ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。

 王国が誇るアダマンタイト冒険者チーム蒼の薔薇のリーダーでありながら未だ19歳の美しき少女。貴族の出であるが本人の並外れて優れた資質により王国最高峰の実力を持つに至った。

 ラキュースは少し年下のラナーのことを親友だと思っている。ラナーはラキュースを便利な駒だと思っている。

 笑えるすれ違いである。

 

「姫さんへの報告書は出来たのか?」

 

 階下に降りればチームメンバーたちが酒盛りしていた。

 声を掛けてきたのはガガーラン。ナザリックで随一の肉体派であるセバスの向こうを張るほどの屈強な肉体を誇るが、女性である。

 

「まあね、明日にでも行ってくるわ」

 

 ラキュースも席に着き、はあと息を吐いた。王都とエ・ランテルとの落差を思えば溜息しか出ない。

 

「溜息吐きたくなるのもわかるぜ。あのお嬢様はぜんっぜん変わってなかったよな」

 

 そっちではないが、ガガーランの言葉はラキュースも同意するところ。

 エ・ランテルで一等高級な宿である黄金の輝き亭にて、いつぞや遭遇したことがあった商家のお嬢様と再会してしまったのだ。黄金と名高いラナーと伍する美貌の令嬢。見た目はとってもいいのだが、口がとっても悪かった。

 

『魔導国の所領になって少しはましな料理を出すようになったと言うのにあんなむさくるしい冒険者を入れるなんていったい何を考えてるのかしら!』

 

 あんたらが大好きなモモン様も冒険者だぜとガガーランが言い返せば、

 

『私は冒険者がむさくるしいと言ったのではないわ。むさくるしい冒険者と言ったのよ。言葉もわからない野蛮人は救いがないわね。でも自分がむさくるしい冒険者である自覚があるだけましなのかしら?』

 

 オーホッホッホ!! と高笑いの幻聴が聞こえてくるようなドヤ顔であった。

 

「それを言うなら連れてる男も最悪だった」

「人は見た目じゃないとよくわかりました」

「お兄様とか言ってたけど絶対嘘」

「全然似てない、きっと金で囲った男」

「嫉ましい」

「羨ましい」

「十年前なら」

「女だったら」

 

 続くのが双子忍者のティアとティナ。隠密職らしく華奢な女性である。

 お嬢様が連れていた男はショタコンとレズビアンの二人に目を見張らせる美貌の男であったが、お嬢様に輪をかけて口が悪かった。

 

『ソリュシャン、そんなことを言ってはいけないよ。彼女たちは王国の冒険者だ。王国には黄金だろうとアダマンタイトだろうとあまねく全てを石ころに変える大魔法が掛かってる。彼女たちが貧相な石ころ冒険者なのは彼女たちの責任じゃない。尤も、王国に留まって石ころ冒険者でいたいって言うのは彼女たちの意志みたいだけどね』

 

 侮蔑も嫌悪も何もない淡々とした言葉は単に事実を並べているようだった。王国の腐敗と衰退はこの場の全員が共有している。悔しいことに何も言い返せなかった。

 あの時、お嬢様がプークスクスでもオーホッホッホでも笑ってくれたらまだ良かった。しかし秀美に浮かぶ表情は憐憫。お嬢様だけでなく、店内にいた全ての客が同じ顔をした。エ・ランテルは魔導国の所領となったがそれ以前は王国の都市だった。市民は王国と魔導国の双方を知っている。口にこそしないが誰もが男の言葉に賛同していた。

 あれほど屈辱的でいたたまれない経験を、蒼の薔薇の面々は一度たりともしたことがなかった。

 

 屈辱を思い出し、酒杯が止まった。しばしの沈黙の中で、ぶつぶつと呪詛のような呟きだけが続いている。

 

「モモン様モモン様モモン様モモン様嘘だ嘘だ嘘だモモン様に婚約者がいるなんて嘘だ嘘に決まってるモモン様モモン様どうか嘘と言ってくださいモモン様モモン様モモンさまあ……」

 

 ラキュースとガガーランは顔を見合わせた。

 

「彼の御仁は美の化身」

「美とはあの方を指す」

「美しいとはあの方に似ている部分があると言うこと」

「あの方を知らぬ者に美のなんたるかを語る資格なし」

「まさに慈悲と慈愛の象徴であられる」

「余りのお優しさに天すら涙を落とす」

「言うなーーーーーーーーっ!!!!!!!!!」

 

 絶叫したのは今まで無言でいたちびっ子仮面。

 飲食不要の体なので酒盛りに加わらなかったのではなく、精神を砕きかねない衝撃が未だ去らずに心身を打ちのめしている最中だった。

 ちびっ子仮面も蒼の薔薇の一員にしてパーティーの要。他のメンバーとは一線を画する実力を持ち、魔王ヤルダバオト襲来時には仮面の魔王メイドを撃退してみせた。

 そんなちびっ子仮面は窮地をモモン様に救われて好きになっちゃったのである。

 

 けども過日、エ・ランテルで遭遇してしまった美貌の男からモモン様には婚約者がいると衝撃の事実を告げられた。

 広く名が知られていなくともモモン様が偉大な戦士であり時代の英雄となるのは最初からわかっていた、そんなお方が何方の目にも留まらないと思うのか、モモン様は遠方のさる高貴な御方と結婚のお約束をしている、現在はエ・ランテルにおける諸処の問題があり落ち着くことは出来ないがいずれ婚儀をあげられる、時折であるが私の屋敷にて逢瀬を重ねられている。

 人間達からの屈辱など意に介さないちびっ子仮面は男に噛みつき、そっと伝えられたのだ。その後、モモン様が本当に男の屋敷に足を運ぶのを覗き見てちびっ子仮面は絶望に膝を折った。

 

「あの坊ちゃんだけならともかくあのお嬢様まで頷いてたしな。マジでとんでもない美人かも」

「イビルアイには残念だったけど…………その、ね?」

「ううううぅるさああぁあい!! ああモモン様モモン様モモン様モモン様モモン様モモンさまあ……」

「イビルアイうるさい」

「モモン様がモンモン様に聞こえる」

 

 イビルアイはしくしくと泣いた。

 ちびっ子と呼ばれるくらいなのだからおチビで背の高さや甲高い声音から察すると精々十代前半。その実二百年以上を生きた吸血鬼である。

 250年の吸血鬼生で初めて好きになった男の人なのに、想いを告げる前に終わってしまった。

 身の程知らずの恋だった。

 

 イビルアイがどれほど処女をこじらせているか知っている面々は下手な慰めを掛けなかった。これを仲間の絆ととるか面倒だから放置したととるか。

 

「それにしてもあの男の人……どこかで見たような気がするのよね」

 

 印象深いのは美貌よりも左右で色が違う青い瞳と赤い瞳。

 青い瞳は澄みきってどこまでも深く見通せるようで、その反面何も映さない空虚のようで。

 赤い瞳は煮えきって内側から血潮が吹き出すような情念を感じさせた。情念が何を意味するのかはわからない。

 あれほどの美貌なら一度でも会ったことがあれば絶対に忘れられないはず。しかし一体どこで会ったのか。

 

「おいおいラキュース、あれは止めとけよ。あいつ間違いなくやりチンだぜ。ぜってーやり捨てされるって」

「そんなんじゃないわよ!」

「やりたいだけならいいかも」

「鬼リーダーがヴァージン・スノーを脱ぐ日が来た」

「だから違うって言ってるでしょ!!」

「ああモモン様モモン様モモン様モモン様…………」

 

 自分たちが属する王国は滅亡待った無しなのに蒼の薔薇のみんなはマイペースです。

 

 

 

 

 

 

 アルベドは寝台の上にいた。エ・ランテルのお食事部屋だ。

 大股を開いて男の上に跨がっている。

 じゅぽじゅぽと淫らな水音が響く。男がアルベドの中を出たり入ったりしている音。

 太い陰茎がアルベドの膣を押し広げている。太さだけでなく長さもあり子宮まで届いている。

 ガンガンと下から突き上げられ、何度も何度も子宮口を叩かれる。

 後ろからも突かれていた。

 尻の穴にも入っている。ぶっといおちんぽが両穴を貫いて圧迫感が凄い。

 抵抗を許さず乱暴に突かれて体全てをおちんぽに支配されているようだ。

 両穴を犯しているのは同じ男。弐式炎雷に分身の術でも習ったのか。くだらないと思っていたアインズ・ウール・ゴウンのメンバーもたまには役に立つことをする。

 口も犯されている。

 今まで何度もしゃぶってきたおちんぽを咥えさせられ、頭に生える悪魔の角を掴まれ荒々しく前後に振られる。逸物は容赦なく喉の奥まで突いてくる。

 アルベドに自由はない。両手だって使われている。左右それぞれの手が男の逸物を握って扱いている。

 数度扱けばどぴゅどぴゅと熱い精液を掛けられた。

 喉の奥で吐き出された。

 膣でも肛門でも射精された。

 むせかえるような男の臭い。

 たっぷりと射精させても男は力を失わず、休む間もなく犯され続ける。

 

 精液だけでなく小便も掛けられた。顔にも髪にも胸にも腹にも。

 精液同様たっぷりと口にも注ぎ込まれる。

 小便も極上の甘露でアルベドは全てを一滴残らず飲み干した。

 

 アルベドが達した回数は両手両足の指では数え切れない。

 一突き毎に達して、掛けられては達して、飲まされては達して、膣と肛門に射精されたときはあの時と同じように視界全てが白く染まった。

 何度も失禁した。

 漏らしてしまった自分の小水を舐めさせられた。

 位置を変えるために逸物を引き抜けば、膣からも肛門からも白濁した精液がどぷりとこぼれてくる。

 こぼれたものも舐めさせられた。

 犬のように四つん這いになって、尻を高く持ち上げて誘惑して。

 そしてまたも犯され続けた。

 

 止むことがない快楽の海。

 どこまでもどこまでも深くへと沈んでいき、男の姿が骨に変じた。

 輝ける白い骨はアインズ様。

 しかしアインズ様におちんぽはない。

 ならば今入っているものは。

 

 

 

 

 

 

 そこでアルベドは目が覚めた。

 目を開けば見慣れた天蓋。夜空に浮かぶ青い月と赤い太陽をモチーフにした意匠が施されている。

 今し方見ていたのは夢であるらしかった。どんな夢だったかはっきりと覚えている。目覚めた今になっても精液の熱さと逸物に体を貫かれる感覚が残っている。

 

「…………」

 

 夢の名残は急速に消えていき、現実の感触に眉をひそめた。

 ドレスがびっしょりと濡れている。汗と諸々のアルベド汁だ。寝台のシーツにも大きなシミを作っている。夢の中でしてしまった失禁は現実の肉体にも同じことを強いたらしい。

 とってもいい夢で爽快な目覚めだったのに最悪だ。

 のっそりと起きあがった。

 今の自分は人目に触れさせられない。まず顔を洗って、それよりも湯浴みをして身を清め、それから着替えて。

 寝台を封じる繊細な紗を開いた。

 

「お目覚めですか? 簡素なものではありますがお食事を用意しました。よろしければご賞味ください」

「……………………!?」

 

 昨夜会いたかった男が爽やかな笑みでこちらを見ていた。

 見せられない自分を見ていた。

 長い髪が乱れに乱れた寝起きの顔で、おねしょの跡も盛大に残っている。こんな様を男に見られて何とも思わない女は女ではない。

 

「ーーーーーーーーーーっ!!!!」

「うおっ!?」

 

 アルベドは手近にあったものを全力で男に投げつけた。

 100レベル物理職による全力投球。

 しかし投げたのはふわっふわの枕であり、男は尻餅をつくだけで済んだ。

 顔にめり込む枕を取り除き寝台に目を向けると、アルベド様の姿はどこにもなかった。

 

 なお、寝台に残されたアルベド汁は今回もソリュシャンがキレイキレイしました。

 お酒をたっぷり飲んだせいか、前回よりも色々と濃かったそうです。




初めてのアンケートしようと思ったけど面倒なので止めときます
感想を見るとルプーが期待されてるような気がしなくもないです


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スライムの野望 ▽ソリュシャン♯3

 さらさらとペンが紙面を滑る音だけが響いている。

 お兄様が隣にいるのにソリュシャンはお行儀よく椅子に座ってお兄様の仕事振りを眺め、出来上がっていく文書をチェックしていく。

 

 エ・ランテルにある大きなお屋敷の立派な書斎は血と涙の惨劇により崩壊した。それがようやっと元通りの姿を取り戻した。

 大規模改修工事は、もう二度とあんなことにならないようにとアインズ様が監修なされた。書斎としての機能はもちろん、光量を調整できる魔法の灯や外部からあるいは内部からの音を防ぐ防音性にちょっとした魔法が暴発しても壊れない丈夫な壁や天井。男の仕事への期待と、書斎の設計とか面白そうと思ったアインズ様の稚気である。

 壁の一面全てを覆う大きな本棚には分厚い本がびっしりと。残る三方は作成した文書の保管棚や窓に出入り口。毛の長いカーペットに壁紙は落ち着いた色彩で、書斎に入るだけで何となく気が引き締まる。

 厳粛さすらある書斎なのに、ソリュシャンがちょこっと動いただけで桃色の瘴気が充満した。

 目配せをするまでもなく室内に控えていたメイド達は退室する。

 わかっているメイド達に、ソリュシャンはにっこりと微笑んだ。

 

 屋敷の若旦那として収まっているアルベド様のご飯であるお兄様のことを、ソリュシャンはことのほか気に入っている。とは言え人間全体への好感度が上がったわけではなく、依然としてとるに足らない下等生物と思っている。お兄様のような例外がいるのは確かでもやはり例外である。

 そんなソリュシャンだが、屋敷のメイド達はまあまあと思っていた。

 メイド教官が厳しく仕込んでいるので仕事が出来ているのは当たり前。それとは別の要因。メイド達の噂話を耳にしてからだ。

 

『お嬢様と若旦那様はどちらも溜息が出るようなお美しいお二人でとてもお似合いでいらっしゃるわね』

 

 初めて聞いたとき、ソリュシャンは思わずぷるんとした。

 

 

 

 

 

 

「お兄様? この前した話を覚えていらっしゃいますか?」

「何か相談があるって言ってたね。素晴らしいことを思いついたとか」

「そのことです」

 

 二人はベッドほどの大きさがある机の前に並んで座っていた。机の上には筆記具やら書見台に何冊も積み重ねられた書籍群。男が持っていたペンはソリュシャンに奪われ、それらと共に机の隅へ避難させられた。

 空いた空間、男の真ん前にソリュシャンは大きなお尻を乗せた。

 

「我ながら素晴らしい考えだと思うのですが、前例のないことなのでどうすれば実現できるかお兄様のお知恵をお借りしたいのです」

 

 屋敷にいるときのソリュシャンは常にお上品なお嬢様ルック。今日も長いスカートと上乳見せのセクシードレス。出来れば戦闘メイド時のような短いスカートをはきたいのだが、お上品なお嬢様にはちょっと合わない。奔放なシャルティア様がちょっと羨ましい。

 ソリュシャンはスカートの留め具を外し、尻を浮かせてスカートを脱いだ。むっちりとした太股からするりとスカートが抜け落ちた。

 今日のパンツは黒。限りなく薄い生地は内側をうっすらと覗かせる。

 

「お仕事でお疲れでしょう? 良い知恵を出していただくために少し休まれてはいかが?」

 

 お兄様の頭を優しく抱く。ソリュシャン自身は机に寝そべって、ひっくり返したカエルのように大きく脚を開いた。

 

「疲れを癒すために……、ソリュシャンのおつゆをたっぷり召し上がってくださいな♡」

 

 ソリュシャンはスライムなので体の形を変えることが出来るし、体のどこからでも様々な粘液を分泌することが出来る。しかし最近のソリュシャンはスライムテクニックを封印していた。お兄様の全身を包み込むソリュシャン風呂だってしていない。体の形を崩さず、ちゃんとした女の体で接した方がお兄様の興奮が高まると気付いたのだ。

 鼻息を股間に感じ、ソリュシャンはお兄様の頭から手を離す。お兄様にお手数かけないよう、自分の手で秘部を覆うパンツをずらした。

 何回使っても新品同様のてろてろなサーモンピンクのおまんこ。

 お兄様の舌が差し込まれたのを感じて、ソリュシャンはソリュシャン汁を分泌した。

 

「お兄さまぁ、ソリュシャンのおまんこのお味はいかがですか?」

 

 口は塞がっている。

 答えの代わりにじゅるじゅると鳴った。

 

「ああん……、お兄様はおっぱいがお好きですわね」

 

 上乳見せドレスなので少しずり下げればおっぱいがポロリ。大きなおっぱいに男の手が乗って強く握られ乱暴に揉まれる。ピンク色の綺麗な乳首が固くなって、意図せず膣から溢れるソリュシャン汁が多くなる。

 男の喉が鳴った。

 ソリュシャンはもっとおつゆを飲ませたくなって、肉惑的な脚を男の後頭部で組み、ちょっぴり力を入れて自分の股間へと押しつける。

 

「お兄様の舌がおまんこの中に入っているのを感じます。ソリュシャンのおまんこは美味しいですか? ああお兄様、もっともっと飲んでください……。ソリュシャンのおつゆでお腹いっぱいになって。ソリュシャンにもお兄様のミルクをいっぱい飲ませて」

 

 体の中で蠢いていた動きが止まり、男は上を見て、ソリュシャンは下を見た。目が合った。

 ソリュシャンが脚を解くと男は立ち上がってシャツの襟に手を掛ける。

 愛しのお兄様の裸身が現れるのを、ソリュシャンはうっとりとした目で見つめていた。

 一言もなくソリュシャンの上に覆いかぶさってくる。

 顔が近づき、唇を合わせた。

 男はソリュシャン汁でたっぷりと喉を潤わせている。ソリュシャンの口の中へとろとろと唾が注ぎ込まれた。ソリュシャンは一滴残らず飲み干し、せがむように舌を伸ばした。舌と舌が絡み合って、唇も歯も舌も、口内の粘膜を余すことなく舐めあげた。

 

「はぁんっ♡ お兄様のおちんちん今日もとってもおおきいですわぁ」

 

 焦らされることなく、ずぶりとソリュシャンの中へ入ってきた。パンツを脱がさないずらし挿入である。

 何十度も交合を重ねているからかソリュシャンの体の頑強さを知っているからか、シクススや娼婦達へとは違って遠慮も容赦もなく腰を打ち付ける。

 太い逸物が膣を押し広げているのをソリュシャンは感じていた。お腹の中を乱暴に抉られている。

 

「あんあんあぁん、お兄様もっともっとソリュシャンのおまんこをいっぱいかき回せてください♡ お兄様もソリュシャンのおまんこでいっぱい気持ちよくなってください♡」

 

 嬌声をあげ、乱れた振りをしてもソリュシャンには肉の悦びがいまいちわからない。シャルティア様やナーベラル、最近ではシクススが乱れているのを盗み見てお兄様が興奮するような淫らな振る舞いを学習してきた。

 代わりに感覚は鋭い。お腹の中に入っているおちんちんの熱さや大きさ、固さに弾力。それ以外にも味や匂いも。

 おまんこに挿入されながらも、尿道口からにじみ出ている先走りの汁の味や匂いを楽しむことが出来る。

 とっても美味しいおつゆが体の中に注がれて、肉の快感とは違う感覚でソリュシャンは陶然としていた。

 射精に至って体の深いところに熱い精液が吐き出される時は陶酔感すら覚えてしまう。お兄様が射精すると同時に体を震わせて感極まった声を上げてしまうのは演技ばかりではなかった。

 しかし、今日はおちんちんミルクに夢中になってる場合ではない。

 いつも以上に感覚を鋭くし、機を窺っている。

 

 

 

 お兄様はアルベド様が関わらない限り春風駘蕩で呑気な人で、大抵の要求は飲んでくれる。渋ってはいたけれど、しつこくお願いすれば腕の一本くらいトロトロさせてくれるような気がする。

 しかし、アルベド様が関わると色々と酷い。どれくらい酷いかと言えばシャルティア様をガン泣きさせるくらい酷い。

 痛みには滅法強い。デミウルゴス様の「試し」を涼しい顔でくぐり抜け、先日は自分の中で半日もトロトロしたけど「酷い目にあった」の一言で流してしまった。以前、盗賊崩れの男を溶かしたときは一時間もしない内に発狂し悲鳴を上げるだけの存在になったと言うのに。

 脅しても無意味。プレアデスである自分ですら震え上がるデミウルゴス様の威圧を事も無げに受け流し要求をはねのけた。

 ここまで来るとちょっとどうすればいいかわからない。

 お兄様にお願いしようとしていることはアルベド様の益不益とは関わらないことであるため、協力してくれる可能性はかなり高い。しかし絶対ではない。

 絶対とするため、機を見計らっている。

 

 お兄様のおちんちんミルクを今日までに何十回も絞ってきた。お兄様の様子を窺ってきた。

 観察を続けた結果、お兄様が一番無防備になるのは射精の直後。そして最も我慢が弱くなるのは射精の直前であると知った。

 

 

 

 じゅぽじゅぽと鳴らしているのはソリュシャンが垂れ流す愛液を模したソリュシャン汁。亀頭からにじみ出ているぬるつく粘液はソリュシャンが一滴残らず吸収している。

 キスはしていない。男の手はソリュシャンの括れた腰を押さえつけ、動かないよう固定している。

 お兄様を興奮させたい一心で、ソリュシャンは自分の手で豊満な乳房を揉みしだく。たゆんたゆんのおっぱいは自在に形を変え、あるいは腰を打ち付けられる度に大きく揺れる。

 

「おにいさまぁ……」

 

 切なげに鳴いてあーんと口を開くと、ねちゃりと唾が落とされる。舌で受け止め、じっくりと味わってから飲み込んだ。

 唇にも滴が落ちた気がして、赤い舌で舐め回した。

 その仕草が思いの外艶めかしかったのと、何度も何度もソリュシャンの中を往復して感度が高まっていたのとで、股間に溜まった快感が解き放たれようとしているのを男は感じた。

 ソリュシャンも感じた。体の中に入っている逸物が快感に打ち振るえ、熱を解き放とうとしている。

 その瞬間を待っていた。

 

「なっ…………、ソリュシャン?」

 

 ソリュシャンは男の腰に足を回し、足首同士をがっちりかみ合わせてロックする。これぞ膣外射精を許さず中出しを強いる大好きホールドである。

 しかし膣内射精はいつものこと。それより先があった。体を自在に制御できるスライムの特性を活かし、体の中に入っている逸物の根本だけをきゅっと締め付けた。

 大好きホールドにより腰を動かせない。根本を押さえて射精を許さない。

 スライム奥義「寸止め」である。

 

「さっきの話の続きよ。あなたには私の計画に協力してもらうわ」

 

 ソリュシャンは本気であった。ソリュシャンお嬢様としてではなく、プレアデスのソリュシャン・イプシロンとして協力を要請している。

 

「その話は終わったあとで、っ!」

「今返事をして」

 

 射精を許さず、尚も男を責め続ける。

 封印していたスライムテクニックをここぞとばかりに解放。おまんこに入ってるおちんちんをきゅっきゅっと締めるだけでなくぬるぬるレロレロと擦り続ける。サキュバスであるアルベド様にも出来ないスライムの秘技である。

 全ての男たちにとって、射精をしたいのに出来ない状況は本当に辛いのだ。ソリュシャンは知らない内に男の急所を攻める技を身に付けてしまった。

 しかし責め続けるだけではいけない。生き地獄へ甘い毒を垂らすからこそ人は考えなしに飛びつき惑わされてしまう。

 

「安心して。アルベド様に害があることではないわ」

「わかっ……た。……うっ!!」

 

 返事と同時に締め付けを緩めた。間髪入れずに吐き出される男の欲望。膨れ上がった逸物からソリュシャンの中へとどぴゅどぴゅと熱い精液が注ぎ込まれた。

 

「あああーーっ!! すごい……お兄様のおちんちんみるくいっぱいぃ……。こんなのはじめて……。あぁおにいさまぁ♡ お兄様もお兄様のおちんちんもとってもすてきですわ」

「…………今のは……いつもより良かった」

「うふふ、またしてさしあげますわ」

 

 くたりと力が抜けて覆い被さってくるお兄様の重みを、ソリュシャンは心からの慈しみを込めて抱き止めた。

 

 

 

 

 

 

 ソリュシャンの計画とは、人間達の社会制度をナザリックの一部に取り込むこと。

 活動がナザリック内で完結している者達は現状では対象外。まずとりあえずは人間社会に溶け込んでいる、あるいは関わっている者達を対象にして実施する。

 これといって何かが変わるわけではないイニシエーションのようなものだが、支配下におく人間達が自分たちへ親しみを持てるように、また自分たちの気分を前向きに変える効果が期待できる。

 

 一通り聞き終えて、なんだかなあと思わないでもなかったが、特に反対する要因はなかったし、協力すると言ってしまった手前、あっその一言で終わらせるわけにはいかなかった。

 ともあれ、最終的にはアインズ様の御裁決が必要になる。

 アインズ様は現状維持や緩やかな変動を好まれ、新たな試みや飛躍的な変動には慎重になられる。ただし賛同する者が多ければその限りではなく、積極的に取り入れる寛容さをお持ちである。中でもアルベド様とデミウルゴス様の同意が得られれば間違いない。

 しかしながらお二方は人間の社会制度に格段の興味をお持ちではないだろうし、そもそもアルベド様はシモベたちのことよりもご自身のことを優先されると思われる。自分の先を行かれるのは面白くないと感じる可能性がないとは言えないが、それで自分の悲願に弾みがつくとお考えになるとも思われる。

 結論として両者は中立もしくは消極的賛成。

 

「お二方を説き伏せるのは遠回りだろうね」

「それじゃあどうすればいいの?」

「セバス様だ。セバス様は人間の女性達を助け、ご自身の副官として置いていると聞いている。セバス様がどのようにお考えかは想像するしかないけれど、彼女たちの身分を確かなものとする方策があると聞けば無下になさることもないだろう。その上現在のセバス様はアインズ様のお側にいる。セバス様のお声はアインズ様へ伝わりやすいはず」

「……そうね。確かにセバス様なら賛同してくださるかも。それで?」

「今言えるのはここまでだよ。まずはセバス様にお話ししてからだ」

「違うわ。お兄様が、あなたがどう思っているかよ」

「…………正直なところどうでも」

「どうでもいいなんて言ったら本気で溶かすわよ!」

「光栄の至りだよ」

「もう! お兄様はもっと勉強してください! 課題図書は全部お読みになったのでしょう?」

 

 ソリュシャンが頬を膨らませたところで書斎のドアが叩かれた。

 ソリュシャンに来客であるらしい。

 男は一人残された。

 

 

 

 ソリュシャンの提案は、ぶっちゃけてしまうとどうでもよかった。アルベド様が関心を抱かれないと思うのでそう思わざるを得ない。

 しかしまあ、それでソリュシャンの気持ちが満足するならやぶさかでもない。一緒に暮らし始めて長く、時々溶かされたりもするけれど気持ちのいいことをしてくれるし感謝を覚えないでもないのだ。中身スライムだけど。

 アインズ様はどうやら押しに弱い傾向があり、これと言った反対意見がなく積極的に賛成する者が多数出るなら同意してくださることだろう。

 先日の書斎改装の件を見るに、いざ同意すれば積極的に様々な催しを考えつかれると思われる。

 出来ればほどほどにして欲しいと思うが、アルベド様の望みに弾みがつくと考えれば意外な妙案かも知れなかった。

 

 しばし考えにふけっていると、またもドアが叩かれた。

 再度の来客であるらしい。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 ソリュシャンは跪いたまま一言もない。歓迎の言葉を口にしてから無言である。

 自分から口を開くことは許されない。どのようなご用件でしょうか、なんて用があるから来たに決まっているし、たとえ用がなくても咎められる身ではない。

 

「………………少し時間が空いたから来たのよ」

「はい」

 

 いらしたのはアルベド様である。いつになく歯切れが悪い。それを指摘して先を促すことは出来ない。アルベド様はナザリックの守護者統括であり、プレアデスのソリュシャンからすれば仰ぎ見る上位者である。

 ソリュシャンから何か言うことは出来ず、アルベドは口を開き掛けては言葉にならず、再度閉じてしまう。

 沈黙は長かった。

 

「…………あの子は私のことを何か言ってたかしら?」

「……は?」

 

 アルベドが何を言ったのか、ソリュシャンはすぐには飲み込めなかった。

 言ってることの意味はわかる。どうしてそれを言うのかわからない。

 用があるなら本人を直接呼びつけて問いただせばいいし、アルベド様はそれをなさる資格も地位も何もかもある御方。それをどうしてわざわざ自分を経て尋ねられるのか。

 

「失礼しました! 昨日は用意した食事をお取りもせずにお帰りになられたので何か御気分を害してしまったのかと案じておりました」

「………………そう」

 

 想像はできる。

 昨日のアルベド様はベッドを様々な液体で濡らしたところをお兄様に見られている。見られてどう思われたのかを聞いていると思われるのだが、それを言うなら自分はベッドに染み込んだ様々な液体を吸いとってそれらがどのような液体であるかを知っているし、その前日は強かに酔ったアルベド様の姿を目にしている。

 気にするなら自分がどう感じたのかであると思うのだが、何故かお兄様の態度を知りたがっている。

 しかも本人に直接ではなく自分経由で。

 

「他には?」

「これと言って特には。強いて申し上げるなら、アルベド様がいらした時に他行していたことを悔やんでいる様子でした」

「……そう。そうよね。せっかく私が来たのにあの子ったら留守をして!」

「今は在宅しております。お呼びしましょうか?」

 

 お会いできればきっと喜ぶことでしょう、との言葉は飲み込んだ。

 

 お兄様のアルベド様への忠誠はガチである。

 身も心も生も死も全てをアルベド様に捧げている。行動の基準はアルベド様の為になるか否か。自分の体を健やかに保つのだってアルベド様の食事を気にしてのこと。アルベド様がよしと仰らなければ、シャルティア様やデミウルゴス様の要求すら拒否する。考えるも恐ろしいことだが、おそらくはアインズ様のお言葉にも頷かないだろう。アルベド様がアインズ様のお言葉をよしとしないとは考えられないが。

 お兄様は完全にアルベド様のものである。

 アルベド様もお兄様をご自身のものとお考えである。

 しかし、そこからこぼれ落ちるものもある。

 アルベド様の手が届かないものがある。

 

 形のないものとお笑いになるかも知れません。

 ですがアルベド様が取り落とされたものは、このソリュシャン・イプシロンが頂戴いたします。

 

 

 

 

 

 

 まだ昼日中であり、アルベド様はお仕事中。

 けどもちょっとだけならと言うことで、ソリュシャンはアルベド様を伴ってお兄様がいるはずの書斎に取って返しました。

 書斎の扉前では本日のメイド教官が青ざめた顔で立っていました。ちなみにシクススではありません。かわいいショートカットの女の子です。

 いやあな予感がしたソリュシャンは、アルベド様がいるにも関わらず勢いよく扉を開け放ちました。

 

「あっ、ソーちゃんお久しぶりっす! あれ? アルベド様?」

「ななななななっ」

 

 扉の向こうにいたのは褐色の肌をした快活な美女。プレアデスの次女ルプスレギナ・ベータ。

 ルプスレギナの足下には見る間にも血溜まりが広がっていき、ルプスレギナのお洒落な靴の下には男の頭。

 

「ルプスレギナアアアアアアアアアァッ!!!」

「ひゃいっ!?」

 

 

 

 後にルプスレギナは語った。

 あの時のアルベド様の怒声に、ちょっぴり出ちゃったと。



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泣いた赤犬

 ほんの数分前まで余命15分の重傷だった。

 具体的には腹部と胸部を強打され中身がグチャグチャのボキボキになり一部が体表から飛び出る有様。とっても酷い目にあわされたが下手人に対して恨みも怒りもなにもない。アインズ様風に言うなら「ルプスレギナよ、お前の全てを許そう」ってやつである。

 ソリュシャンとて愛しのお兄様に手を挙げた姉に思うところはあったが視線は姉ではなくお兄様に向いている。「私にはあんな顔見せたことないのにだらしない顔をして!」である。

 どうしてそうなっているかと言うとアルベド様に膝枕されているからでした!

 ああ天国はここにあったのだ、アルベド様のお膝が天国だったのだ。さわさわと優しく髪を撫でてくれて心がぽわんとなり顔がほにゃんとなる。天国に通じる扉を開いたルプスレギナを恨もうはずがなかった。

 

 そのルプスレギナは床の上でひれ伏している。首には指の痕がくっきりと。

 

 

 書斎の扉を開けるなりアルベドは中へ飛び込んだ。私のものに何をしている!

 勢いよく手を突きだし呆然と立ち尽くすルプスレギナの首を握りしめた。気道にあった空気が押し出され、きゅっと鳴った。

 高く吊り上げそのまま握りつぶすのか床に叩きつけるのか。ソリュシャンが「まず回復を!」と叫ばなければ改修したばかりの書斎が酷いことになるところだった。

 激しく咳き込むルプスレギナを急かし、男を回復させた。無事に元通りの体を取り戻し意識もはっきりしていたが体に力が入らないようでしばらく寝かせておくことにした。カーペットでふかふかでも床の上ではちょっとあれなので長椅子に。アルベド様も長椅子に。折角なので膝枕。

 アルベド様の為されようにルプスレギナは目をまるくして、今更ながら不味いことしたのかもと思い始めた。

 

 

 この子は私の大切なもの、あなたはいつも考えが足らない、結果を見据えて行動するべき、そもそもどうしてここにいる等々、アルベド様からのありがたいお説教。

 男を膝枕しているので厳しい顔をしていてもあんまり威厳がないのだが、もしも男がいなかったら腹パンくらいあったかも知れない。

 ルプスレギナがやっちゃったことは事実であるし、守護者統括であるアルベド様への抗弁は許されない。しゅんと耳を垂れてひれ伏すばかりである。

 アルベドはよほど腹が据えかねたのか同じ話を二度ループしてから、どうしてあんなことをしたのかとルプスレギナへ釈明の機会が与えられた。

 

「は……はい。申し上げます」

 

 ルプスレギナが事の経緯を語る。やがてアルベドとソリュシャンのじっとりとした視線が男へ向けられた。

 どんな目で見られているか知らない男は、アルベド様の太股はとっても柔らかくてとってもいい匂いで、

 

「ぐえっ」

 

 アルベド様のお膝から床に落とされた。

 

「お前もルプスレギナの隣に座りなさい」

「はい」

 

 わけがわからないがアルベド様のお言葉には逆らえない。ルプスレギナと同じように床の上に跪いた。

 よくわかってない顔をしている男へアルベドは指を突きつけ、

 

「あなたにはデリカシーが足りないわ!」

「!?」

(どうしてショックを受けてるんですか。アインズ様と私から散々言われたではないですか)

 

 ルプスレギナは一見友好的で誰に対してもいい顔をしているように見えるが、実は人間を痛めつけるのが大好きな悪い人狼である。しかし初対面の人間をいきなりぶちのめすほど考え足らずではない。しかもアインズ様から「傷ついたら回復してやれ」と言われている人間なのだ。

 それなのに手を出してしまったのは相応の理由があった。

 

 

「ルプスレギナ・ベータ様ですね。アインズ様からお聞きしております。回復ポーションの代わりに派遣されたのですね」

「…………私をポーション呼ばわりっすか?」

 

 満面の笑みから突然ご機嫌斜めになったルプスレギナ。

 ルプスレギナは高位の神官職と聞いていた。怪我の回復しか出来ないポーションよりも凄いことが出来るに違いない。

 

「失礼しました。薬箱ですね」

「………………はっはーーん? これはつまりあれってやつっすね? 私は舐められてるんすね?」

 

 

 デリカシーが足りない、気遣いも足りない、思ったことを素直に言い過ぎ、色々と無神経。マナーや品位ある所作だけは一級品なのに、と思ったところでおそらくはラナーから教え込まれたのだろうと察してアルベドの機嫌はいっそう悪くなった。

 男はひたすらに頭を低くし、アルベド様からの金言に耳を傾けた。

 アルベドにはまだまだ言いたいことはあったが時間が押している。仕事中なのだ。最後に三日後は外出しないで待っているようにと言いおき、ナザリックへ帰還した。自室に戻った後で、三日後じゃなくて今夜日付が変わった後にすれば良かったと悔やんだが後の祭り。大急ぎで仕事に戻った。

 

 アルベド様がお帰りになった後も、若旦那様は床に両手両膝を突いていました。

 

「なんてことだ……。俺はデリカシーがなかったのか……」

「今更何言ってるんですか。アインズ様からも指摘されましたのに」

「気を付けてるつもりだったのに」

「はっきり言いましょう。全然ダメです」

 

 ソリュシャンお嬢様が厳しいのではなく若旦那様が本当にダメなのです。監禁されていた身の上での寝たきり生活が長かったので圧倒的に対人経験が不足しているのです。これからに期待しましょう。

 

「ルプスレギナ様に失礼を働くつもりはなかったのですがどうやらそうなってしまったようで申し訳ありません」

「別にいいっすよ。それにしてもおにーさん軽いっすね~」

「そうですかね?」

「そうっすよ」

 

 致命傷を与えた自分に対し全く負の色がない。

 ルプスレギナは人を痛めつけるのが大好きなサディストで、痛めつけては回復し更に痛めつけてはとかやったことが何度か。完全に回復してやっても自分に怯えない人間は一人としていなかった。

 

「そーいうの嫌いじゃないっすよ♪」

「それはどーも」

「そこはもっと喜ぶとこっす! アルベド様が言ってたデリカシーとかってそういうとこっすからね?」

「うっ」

 

 胸を押さえた男へケタケタと笑う。初対面時はなんだこいつと思ったが割と面白い男のようだ。

 

「それじゃ仲直りの握手っすね!」

 

 難しい顔をして手を出す男に再度笑う。

 

「一緒にアルベド様から怒られた仲っすから。いや~~~さっきのアルベド様超恐かったっすねー」

 

 ソリュシャンはやばっと思った。

 

 

 

 

 

 

 ルプーは深い考えがあって口にしたわけではないのでお手柔らかに、私は必要最低限と思われることをしようとしているのにお手柔らか? するなと言うことかなソリュシャン様はルプスレギナ様の成長の芽を摘みたいのですかルプスレギナ様がお嫌いなんですね仲麗しい姉妹だと思ってたのに内心では見下してるなんてことを他の方々が知ったらなんと思われるか、……ごめんなさい、ごめんなさいというのは罪を免じてください許してくださいと言うことつまりご自身が悪いことをした自覚がおありとはやはり、もう余計な事は申しませんから。ルプスレギナは脳がお天気であっても愛しい姉であるので一言口を挟んだが直後に後悔。

 

「あっ?」

 

 ルプスレギナは握手のために差し出した手が打ち払われた瞬間、一体何をされたのかわからなかった。

 何をされたか理解した直後、剣呑な目で打ち払った男を睨みつけた。

 

「……何のつもりっすか?」

「申し訳ありません。ついビックリしてしまいました。まさかルプスレギナ様がそんなに恐がりだったとはつゆとも知らず」

「…………あ?」

 

 睨む目に殺意が乗った。なのに男は苦く笑うきり。笑った顔で言葉を続けた。

 

「かくもお美しいアルベド様へ恐いだなんて思えるのですからこれを恐がりと言わずになんと呼べばいいのか」

「……あんな目にあえば恐いのが当たり前っすよ」

 

 ルプスレギナはぎゅっと拳を作った。そのまま振り上げて殴りつけたくなる衝動をぐっと押さえる。アルベド様に釘を刺されたばかりでなければ確実に男を打ちのめしていた。

 

「私はルプスレギナ様からもう少し痛い目にあわされましたがとても恐いとは思えません。ルプスレギナ様は恐がりなだけでなく痛がりでもあるようで。ルプスレギナ様は戦闘メイド『プレアデス』のお一人と伺っていましたが戦闘は痛いのも恐いのも付き物でしょう。ご本人から言い辛ければ私から戦闘メイドではなくただのメイドにしてもらえるよう具申しましょうか?」

「…………弱っちい人間のくせによくも私に」

「弱っちいから脆弱だから人間だから。だから強い自分には媚びへつらえと? それは想像もしたことがなかったですね。人は想像も出来ないことは思いつきもしないものですから」

 

 人ではないわ人狼よ、今は本当にそういうのいいから。

 

「逆から見れば、ルプスレギナ様は自分より強い者には媚びへつらうんですか? 尻尾を巻いて恐くて痛い目にあわせないでくださいとお願いするんですか?」

 

 ルプスレギナの金色の瞳で瞳孔が狭まった。目に入る光量を調整し目的だけを見据えるために。目的とは男をぶちのめすこと。アルベド様からの叱責は頭から消えていた。

 ソリュシャンは不味いと思った。このままではルプスレギナがお兄様を殺しかねない。流石に言い過ぎと思ったので少しくらい痛い目を見せてもと思うが、今のルプスレギナからは日頃の嗜虐心が見えない。一撃で命を奪う攻撃を繰り出すかも知れない。お兄様とルプスレギナ、どちらを止めるのが楽かと言えば間違いなくルプスレギナ。アルベド様を侮辱されたお兄様が、何があろうと止まるわけがない。

 

「アルベド様からのお言葉を忘れていらっしゃる。どうやら今までも同じ間違いをしたことがあるようですね。おや、顔色が変わった図星ですか。何方の命令を無視しました? プレアデスの上役はセバス様、違うアインズ様ですか。ああ信じられない……なんてことだ……。まさかナザリックにアインズ様のご命令を無視できるものがいただなんて」

 

 ルプスレギナは飛びかかれなかった。

 命令無視とまでは行かないかも知れないが近いことをしてしまったことがある。先まで派遣されていたカルネ村にて、村の危機を知りながら見過ごしアインズ様への報告すら怠った。アインズ様のお怒りを思い出してしまった。

 

「アルベド様が仰っていましたね、考えが足りないと。愚かなだけなら救いがあるのに言われたことすら出来ない。アインズ様のご命令を理解出来ない。目の前のことにだけ飛びつきその先にある危険に思いを巡らすことが出来ない。おわかりですか? あなたが危険に飛び込むだけならお好きにどうぞで済みますが、あなたはナザリックの一員だ。ナザリック全てを危険に晒しかねない。アインズ様は間違いなく危険の除去に動かれることでしょう。あなたのためにアインズ様が危険な目にあうのですよ!」

「………………ぅ」

(うそ! ルプーが泣いた!?)

 

 ソリュシャンの驚愕は二人へ伝わらない。ルプスレギナはソリュシャンと同じ性向を持ち、どちらも他者を虐げる事が大好きな極悪姉妹である。そのため、真面目ちゃんなナーベラルやお堅いユリ姉よりも話が合う。ルプスレギナの色々な面を知っているつもりでいたが、怒りと悔しさで歯を食いしばり大きな目に涙を溜める姿は初めてだ。

 ルプーかわいそうとちょっとだけ思うが、涙目ルプーかわいいと思うソリュシャンはやっぱり性悪スライムだった。

 

「だからこそアインズ様はルプスレギナ様に期待しているんです!」

「………………え?」

 

 ルプスレギナは目を瞬かせた。溜まった涙が頬を濡らしたが気にならなかった。

 

「カルネ村は辺境の開拓村です。田舎の聖人伝説を信じるほどうぶではありませんが、それでもやはり純朴な人が多いことでしょう。ルプスレギナ様には狭い。もっと広く大きなものを見よとアインズ様は仰っておられるのです。ルプスレギナ様がアインズ様にご迷惑をお掛けしたのは誉められたことではありませんがアインズ様は大きな御手で受け止めてくださったに違いありません。あなたはアインズ様の愛し子です。愛しい子の成長を楽しみに、アインズ様は慈父のごとき温かい目でルプスレギナ様を見守っておられますよ」

 

 もう一度ポロリと涙を落とす姉を見て、お兄様はアルベド様やデミウルゴス様が気にかけるだけある悪魔のようなお人だと再認識した。傍らで見ていると物凄く悪辣である。

 

 ルプスレギナはシャルティア様とは違い、立場的にアルベド様よりも下にいる。アルベド様とシャルティア様の不和は困りものだが、ルプスレギナがアルベド様へ少々の反感を抱いても困りはしない。命令を下すだけで済む。その命令とて守護者統括であるアルベド様とプレアデスのルプスレギナとでは別系統になる。

 もっとやっつけても良かったのだが泣くまでいったのでひとまず満足。ここではアルベド様を侮辱する者は許されないのだ。

 

「……アインズ様は私に期待してるっすか?」

 

 迷子のわんちゃんのように心細げなルプスレギナを言葉を尽くして慰める。ソリュシャンからの白い目にも負けずに誉めちぎる。ソリュシャンから課題図書として渡されたラヴロマンス小説からも多数引用。スライムなのにギリギリと歯ぎしりをたてるソリュシャンには気付かない振り。

 人間からの美辞麗句など聞き飽きてるルプスレギナだったが、男の言葉は皹の入りかけた心を潤した。青ざめた頬には赤みが差し、照れ臭そうな誇らしげな笑みが戻る。元々切り替えが早いというかすぐ忘れるというか懲りないというか、天真爛漫を形にしたようなルプスレギナは立ち直りが早かった。

 

 

「わかってるならいいんすよ!」

 

 泣いたカラスがなんとやら。ルプスレギナは人狼だけれど。

 えっへんと胸を張る。ちょっと悔しい思いをしたけれど自分のためを思ってアインズ様のお考えを伝えてくれたのなら許してやらなくもない。でもしてやられてばかりはやはり悔しい。

 悪戯な笑みを浮かべ、大きくとられた襟元をちょっとだけ引き下げた。

 

「おにーさんにはちょっち迷惑かけちゃったっすからね。お礼にちょっとだけならおっぱいさわらせてあげるっすよ?」

 

 くひひと悪そうに笑う。

 「おっぱいを触るなんてそんな!」と、どぎまぎする男をからかってやろうと思った。もしも本当に触ってきたら、「いやんエッチっすね!」とからかってやろうと思った。

 ルプスレギナはこの期に及んで未だ男を舐めていた。しかし無理もないことと言えよう。ルプスレギナが先までいたのはカルネ村だったのだ。身近な人間は色恋のなんたるかを知らない田舎娘のエンリちゃん、純情根暗童貞のンフィーレア少年。村人たちはルプスレギナの美しさに冒しがたいものを感じて必要以上に近付いてこない。カルネ村に立ち寄った冒険者の中には言い寄ってきた者もいたが、本気ではなく形式的なものだ。

 目先のことばかり考えてと言われたばかりなのにルプスレギナはルプスレギナだった。

 

 ルプスレギナの装いはプレアデスの正装。しかしナーベラルたちとは違ってゴテゴテした金属部はなく改造メイド服の範疇。そしてソリュシャンの正装の次にセクシーだったりする。

 谷間が見えるほど襟ぐりが広いわけではないが鎖骨や乳房への柔らかな曲線の始まりは覗き見える。スカートが股間から指数本と言うわけでもなく足首まで隠しているが深いスリットが入っている。ともすればパンツのサイドが見えそうなほど深い。

 そんなメイド服を着ているルプスレギナは、プレアデスの例に漏れず美しい女性だ。

 ソリュシャンがゴージャスな美女でナーベラルがクールな美女なら、ルプスレギナは野生美に溢れる美女である。天真爛漫、快活、笑顔を仮面のようにいつも張り付けている。さっきは男にやりこめられてしまったが笑顔でないときの方が珍しいくらいである。

 普通の男なら、ルプスレギナの美貌に気圧されてしまう。普通の男なら。

 

「それじゃ遠慮なく」

「へ?」

 

 男は左手を上に右手を下に構えた。別に天地魔闘の構えではない。攻撃のための構えと言えばそうかも知れない。

 ルプスレギナは襟を引き下げて谷間を見せた。つまり直に触っていいと言うこと(違います)。

 おっぱいがいいならお尻もオーケーとシクススに教えてもらった(教えてません)。

 

「!?!?」

 

 男の手がルプスレギナに触れた。

 左手は開かれた襟元から中へ入り込み、ナーベラルより大きなおっぱいを直に握りしめた。指先はおっぱいの先端にあるかわいい突起にも届き、人差し指と中指でちょんと摘まんだ。

 右手は深いスリットの内側へ。むちむちの尻肉をむんずと掴み、長い指は尻の割れ目にまで届いた。いやらしくさわさわと前後に撫でた。

 

「~~~~~~~~~~~っ!!!!!!」

 

 ルプスレギナは叫んだ。防音処置が施されている書斎でなければちょっとした騒ぎになったかも知れない。

 

「なにするんすか!」

 

 咄嗟に男から離れ、両手で胸を抱いてその場にうずくまった。蠱惑的な仕草で男を誘惑しようとも、所詮は田舎者に囲まれてきた生娘である。

 

「ちょっと聞いてるんすか!?」

 

 ルプスレギナの叫びを、男は黙殺。じっと手を見る。ルプスレギナの尻を握りしめた右手である。おもむろに鼻先へ近づけた。

 うわぁ……、とソリュシャンはドン引きした。

 それはちょっと変態ちっくっすね、と言いながらもルプスレギナは嬉しそう。

 

 男は懐から取り出したハンカチで指先を拭い、ソリュシャンへ目を向けた。

 

「メイドたちに命じて風呂の用意を。着替えもだ」

「言いたいことはありますが、確かにお兄様の服はボロボロになりましたからね。わかりました。すぐに用意させます」

「違う。俺じゃない。ルプスレギナ様だ」

「え?」

「私っすか?」

「ルプスレギナ様はおもゲフンゲフンをしてしまったようだ」

「………………はい?」

 

 ソリュシャンはわけがわからない。

 一方、ルプスレギナはわかってしまった。バッとスカートの上から股間を押さえつけた。

 

「ルプスレギナ様はおしゲフンゲフンでお召し物が不快なことになっているようだ。だからすぐに風呂と着替えが必要なんだよ。おっと、これ以上聞いてくれるなよ? 俺はデリカシーを覚えたんだ。ルプスレギナ様がどんなことになっているのか俺の口からは話せない」

 

 ソリュシャンは呆然と姉を見た。

 姉は真っ赤な顔でぷるぷると震えている。

 ソリュシャンは言った。

 

「もしかしてルプー………………おもらし?」

「うわあああああああああああああああああああああああーーーーーーーっ!!!!」

 

 ルプスレギナは泣いた。



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もしかしてVIP?

 ルプスレギナ様がおもらし!

 思いもよらない事態にソリュシャンお嬢様はビックリしてしまってフリーズしてしまいました。動かなくなってしまったソリュシャンお嬢様の代わりに若旦那様がお風呂の準備の陣頭指揮をとりました。

 

「みなのもの急いで風呂の用意をするのだ! カルネ村からお越しくださった守護女神ルプスレギナ様がおもゲフンゲフンらしをしてしまいお召し物をおしゲフンゲフンっこで汚してしまったのだ!! 急げ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ルプスレギナは自室となった客間のベッドに突っ伏していた。湯上がりでいい匂いをさせて服も洗い立てのさらさらなのに気分は最悪だった。

 

「カルネ村に帰りたい……」

 

 山から出てきたばかりの田舎娘が都会の洗礼を受けて心が傷つき望郷の念に駆られたようなことを言う。

 

「だってアルベド様超こわ……すごい迫力だったんだもん。びっくりしちゃったんだもん」

「ルプー……元気だして」

 

 ソリュシャンが優しく慰める。麗しい姉妹愛ではない。後でルプスレギナをからかうためのネタ集めである。

 

「ソーちゃんはよくあんな奴と一緒に暮らせるっすね。あいつ滅茶苦茶性悪っすよ」

「お兄様はアルベド様を悪く言わない限りとても温厚な人よ。根は悪い人だと思うけど」

「それってダメじゃないっすか!?」

「そうかしら?」

 

 一部例外はあるが基本的に極悪集団のナザリックである。どちらが好ましいか意見は割れるが、好ましいと思う者は存在していた。

 

「アルベド様が大切にしているし、デミウルゴス様も随分とお気に掛けていらっしゃったわ」

「デミウルゴス様が!?」

 

 噂をすれば影。

 魔王の話をすれば魔王がやってくる。

 

 

「聞きましたよ。すでに神聖文字の読み書きをマスターしたとか」

「恐レ入りマス。察すルニ魔法の言語であルラしく意味ノ理解に障害はありマセンでした。表意文字の豊富さト伝統的表現の多様さに手間取ったテイドです」

 

 跪くソリュシャンとルプスレギナは何故に片言と内心で首を捻ったが、デミウルゴスはほうと小さく感嘆の声を上げた。

 

「少々違和感を覚えますが及第点です。読み書きだけでなく話すことも覚えましたか。一つ指摘をするなら伝統的ではなく慣用的とするべきですね」

「ご指摘、感謝いたします」

 

 この地では言葉に魔法が掛かっており、知らない言語であっても日本語に訳して聞こえる。日本語を知らなくても知った言語に聞こえる。アインズ様曰く、ホンヤクコンニャクなるものが使用されたとか。

 男が話したのは紛れもなく日本語だった。

 

「これもシャルティアの教育の賜物でしょう」

「シャルティア様の読み聞かせ教育には非常に得るものがありました」

 

 若旦那様はそっと目逸らし。デミウルゴス様もそっと目逸らし。ソリュシャンお嬢様は跪いたまま床を見て、ルプスレギナは「シャルティア様が日本語教育?」と混乱した。

 

「言葉がそれだけ出来るなら十分です。本格的な教育に入りましょう」

 

 ドスンと机に置かれたのは十数冊の書籍。凄く分厚い。ルプスレギナが親指と人差し指を目一杯開いた幅と同じくらいの厚さがある。本に使われている紙が厚いのではなく単にページ数が多い。一冊あたりざっと5000ページ。

 

「死獣天朱雀様が残されたメモによれば本来なら六年掛けて学ぶものだそうです」

 

 死獣天朱雀はアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーの一人でギルド最年長にしてリアルでは大学教授である。

 

「ですがそこまで時間を掛けるわけにはいきません。私の任務が終わるまで。長くとも半年。短ければ一ヶ月。それまでの間にそれら全てを読み解き……そうですね、私にレポートを出しなさい。出来ますね?」

 

 ルプスレギナは震え上がった。自分には絶対出来ない。六年が六十年になろうとも出来る気がしない。男がデミウルゴス様に断ってから本を開き、覗き見えたページには小さな文字がぎっしりと。見るだけで目眩がした。大体六年分を一ヶ月でなんて出来るわけがない。デミウルゴス様は鬼か悪魔に違いない。そう言えば悪魔だった。

 

「……産業モデルを想定し人口動態を予測した上で都市計画を作成せよと?」

 

 男は不思議な呪文を唱えた!

 ルプスレギナは混乱した!

 デミウルゴスは笑みを深めた。

 

「軽く見ただけでそこまでわかるなら上々です」

「レポートの執筆に時間が掛かります。口頭での報告になってしまうかも知れませんがよろしいでしょうか?」

「それは出来ると言うことですね?」

「一ヶ月も必要ありません。十日で足ります」

 

 男に自覚はないが史上類を見ない優れた頭脳を持つ。しかし長く情報を制限された生活を送っていた。そのため、知的な飢餓状態にあった。目に耳に入るもの全てが面白い。体を自由に動かせるのも楽しい。あらゆるものを余すことなく吸収して練り上げている。ぼうっとしているように見える時も頭は片時も休むことなく動いている。

 デミウルゴス様から与えられる知恵と知識は何千年も掛けて磨かれ洗練されたもの。前回訪問時はデミウルゴス様の提案を蹴ってしまったが、このように素晴らしい英知を与えられると知っていたならアルベド様を説き伏せてでも受け入れるべきと思ってしまうほど。

 

「頼もしいですね。期待していますよ」

 

 デミウルゴス様は忙しい最中にわざわざお越しくださった。双方ともに名残惜しいと思いつつ、デミウルゴス様は帰還為された。

 

 

「そんなの本当にわかるんすか?」

「わかりませんよ。だからこれからわかるようにするんです」

 

 ルプスレギナは理解出来ない怪物を見るような目で男を見た。

 なお、ソリュシャンはそちら方面への理解をすでに投げ捨てている。

 男は新しい玩具を与えられた子供のように目を輝かせて本を取る。

 

「………………重い」

 

 手に持って読むことが不可能な重量だった。

 

 

 

 

 

 

「もしかしてあのおにーさん凄い人なんすか?」

「デミウルゴス様が期待される程度にはそうみたいね」

 

 自分の野望を実現するためにすべき具体的な行動を提示できる程度には優れていると思ったが、ルプスレギナにもまだ内緒である。

 

「それにお顔がとても整っていらっしゃるし、血がとても美味しいらしいのよ。シャルティア様のお気に入りになってしまって自分のものにしたいとお考えみたいよ。アルベド様は拒否なさっているけれど」

「シャルティア様が!?」

 

 本日は色々あって外はもう暗くなった。

 夜は吸血鬼のお時間です。

 

 

「この度アインズ様からの勅命によりアインズ様の遠征の随伴を命じられんした! 私の栄誉を誉め讃えなんし!」

「おめでとうございます」

 

 シャルティア様が細い腰に手を当て薄い胸を張る。この場にはアインズ様がいらっしゃらないし男には色々知られているので詰め物をしておっぱいを盛るのはやめているらしい。そんなものがなくてもシャルティア様はとても可愛い。

 とても可愛いを超可愛いにするべく、今日のドレスはミニスカビスチェのセクシードレス。ボールガウンに比べればずっと動きやすいし脱ぎやすいしむしろ着たままでばっちこい。

 

「お前には残念なことと思いんすがしばらくここにくることが出来んせん。そのぶん今日はたーーーーーっぷり可愛がってあげんす♡」

「……ありがとうございます」

「くふふ……もっと喜んでいいでありんすよぉ?」

 

 読み聞かせ教室が終わってもシャルティアとの関係は続いていた。

 男から遠回しに関係の打ち切りをほのめかしたが、シャルティアは男に書かせた文書をチラ見させてから、『本当なら? これでお前の所有権を主張してもいいでありんすが? アルベドからお前を取り上げるのはかわいそうに思いんすから? 止めてあげりんすよ? だから代わりに? アルベドがいないときは私の命令に従いなんし』。

 無効と裁かれた彼の文書を盾に言い張る。悪知恵だけは不思議なくらい回る吸血鬼である。

 

「さあ行くでありんす!」

 

 ぴょんと飛びついて横抱きにされ、男の首筋に細い腕を回した。赤い舌で男の顎を舐め、指し示すのは男の寝室。

 

「たまにはソリュシャンも一緒にどうでありんすか?」

「過分な申し出ですがルプスレギナと話すこともありますので、お二人でお過ごしください」

「ルプスレギナは?」

「ソリュシャンと同じくでございます」

「ふぅん……。ま、そっちはそっちで楽しみなんし。夜はとっても長いでありんすから」

 

 若旦那様にお姫様抱っこされたシャルティア様は淫蕩な笑みを浮かべながら舌なめずりをした。

 

 二人は退室。プレアデスの姉妹が残った。

 

「……一体どうなってるんすか?」

「ルプーは知らなくていいわ」

「ちょっとどこ行くんすか?」

「ついてこなくていいわよ」

 

 

「ついてこなくていいって言ったのに」

「そんなこと言われたら余計に気になるじゃないっすか」

 

 はぁっ……着たままするなんてお前も好きでありんすね。

 

「シャルティア様の声?」

「しっ! 声を立てないで明かりもつけないで」

 

 ほぉらよーっく舌を伸ばしてしっかり舐めなんし。私のおまんこは美味しいでありんしょう? おつゆは一滴残らず飲むでありんすよぉ。私もお前のおちんぽを舐めてあげりんすからぁ……ああっ……。

 

「お兄様のお顔の上に座るなんて……。お兄様ったらあんなに大きくさせて」

「ちょっとちょっとホントに何してるんすか!?」

 

 こーしてお前の顔に座るのを顔面騎乗って言うでありんすよ? シャルティアのお尻が柔らかくてお前のペロペロも気持ちよくてぇ。二人とも幸せになれるでありんすぅ♪

 

 物陰に落ちる覗き穴は普段は塞がれており、部屋の主が気付いている様子はない。しかしシャルティアはあっさりと見破って覗いているソリュシャンに向けてウインクをして見せた。

 

「あれ………………もしかして交尾してるっすか!?」

「犬や猫じゃないんだからセックスって言いなさいよ」

「セックス…………。でもシャルティア様はアインズ様の后に立候補なされて……。アインズ様はご存じでいらっしゃるんすか?」

「今更何言ってるの。シャルティア様はご自身の眷族とあれだけ戯れていらっしゃるじゃない」

「そう言えば……確かにそうっすね」

 

 ああ…………おちんぽきもちいのぉ……。ほらぁ、シャルティアのこと愛してるって言いなんし。シャルティア様最高って言いなんし。安心しなんし、ここでのことはお前と私しか知りんせんから。……あはっ♡ 私もお前のことをとーーっても気に入ってるでありんすよぉ。

 

「さすがはシャルティア様ね。お兄様を完全に操縦なさっているわ」

「………………うわあ」

「ルプーまだいたの? 何してるかわかったんだからもういいでしょ?」

「それはそうっすけど……、でもあんなの気になるじゃないっすか」

「……ルプーやらしい」

「堂々と覗いてるソーちゃんの方がやらしいじゃないっすか!」

「ちょっ……静かに!」

 

 覗き穴越しにソリュシャンとシャルティアの目が合った。

 シャルティアは上に乗る男には見えないよう親指だけを立てて拳を作り下へ向けた。

 

「げっ…………。急いで離れるわよ。これ以上ここにいるとシャルティア様からお叱りを受けるわ」

「わ、わかったっす」

 

 覗き穴を閉じて二人は逃げるように部屋を後にした。

 

 だめっ! そっち違うのぉおお! 入らないからあぁ!

 ソリュシャンと協力していい潤滑液を作りましたからご安心ください、シャルティア様はこちらの穴もとてもきれいですよ。

 ふあああぁっ! 違うのにかんじちゃうのおおぉ! んあああああーーーーーっ!!

 

 

「もしかしなくてもあのおにーさんって…………割と重要な人物だったり?」

「もしかしなくてもそうよ。わざわざこんな屋敷を用意してアルベド様が囲っているんだもの。それと気付いてないようだから言っておくけど、ルプーがお兄様と会ったお部屋はアインズ様が設計為された書斎なのよ?」

「あ……アインズ様……が……」

「冒険者のモモン様として時々いらっしゃるわ。お兄様との会話を楽しまれているご様子ね」

「………………ソーちゃんどうしよう?」

 

 ルプスレギナはようやっと自分がしでかした事の大きさを感じつつあった。

 アルベド様が大切にしており、守護者各位どころかアインズ様の覚えすら良い。そんな人間を半死半生の目にあわせてしまった。

 

「お兄様にしてしまったこと? もう気にしてないと思うけど」

「確かにそう言ってたっすけどだって半殺しにしちゃったんすよ? 絶対恨んでるっすよ!」

「お兄様に限ってそれはないと思うけど」

「ソーちゃあああぁあん!」

「鬱陶しいわね……。わかったわ。私から聞いてみるから」

「お願いするっす!」

 

 

 

 

 

 

 シャルティア様は東の空が白むまで居座っていたため、ずっとお相手をしていた若旦那様がのっそりと起き出したのは昼近くになってから。裸のランチをとって部屋でぐずぐずとしていたところ、ソリュシャンお嬢様がいつものようにやってきました。

 明後日はアルベド様がお越しになるため明日は禁欲日なのです。今日はお兄様のためにもたっぷりと絞ってあげなければならないのです。

 早速いたしたいところを、ソリュシャンお嬢様はルプスレギナ姉様との約束を忘れていませんでした。

 

「お兄様はルプーがお嫌い?」

「急にどうしたのかな?」

「だって昨日はあんな事があったし、今日もろくに言葉を交わしてらっしゃらないでしょう?」

 

 昨日はシャルティア様のお相手でそんな時間はなく、今日は起きたばかりなので朝の挨拶を交わしただけである。

 

「別に気にしてないし嫌いでもないよ。それを言うならナーベラル様の時の方が危なかった」

 

 ルプスレギナに打ちのめされ余命15分の身にされた。しかしナーベラルからはお胸をむにっとした時に胸を強打された。胸骨が陥没して非常に不味いところが損傷し、かろうじて即死を避けられた有様。アインズ様がいらっしゃらなければリザレクションのお世話になっていた。

 

「それならお好き?」

「極端だね。会ったばかりで好きも何もないよ」

「嫌いではない。好きでもない。それなら?」

「興味がない」

「うわぁ………………」

 

 嫌い嫌いも好きの内。好きの対義語は嫌いではなく無関心である。

 

「嫌いならもっと違うやり方をするよ。たとえば……、ナザリックから放逐するとか」

「っ……」

 

 ソリュシャンは息を呑んだ。

 それはナザリックのシモベ全てが想像しうる最悪の未来。アインズ様から死を賜る方が遙かにいい。

 

「そんなこと……アインズ様がお許しになるわけがないわ!」

「その通りだ。アインズ様はルプスレギナ様を愛していらっしゃる。ルプスレギナ様だけでなくアルベド様もシャルティア様もデミウルゴス様も、もちろんナーベラル様もソリュシャンも」

「どうして私だけ様を付けないのよ!」

「……ソリュシャンへの親愛の現れと思って欲しいな」

「もう! 仕方ないわね」

 

 ラヴロマンス小説からの引用ではない。応用技である。

 

 アインズ様はナザリックのシモベ全てを愛している。言い換えればナザリックを愛している。ではアインズ様はルプスレギナ様とナザリックを天秤に掛けられるだろうか? 掛けるとすればどちらへ傾くだろう? アインズ様は度量の広い方だ。一度や二度の失敗はお許しになる。五度や六度になってもそうだろう。しかしアルベド様はお許しになるか? デミウルゴス様は如何される? アインズ様がいかにルプスレギナ様を愛そうとルプスレギナ様の存在がナザリックの存続に害があると見なされればどうだろう? 俺よりソリュシャンの方がよく知ってるだろうがルプスレギナ様は直情的で深く考えることがお得意でない。誘導するのは簡単なことだよ。手っ取り早いのはアルベド様の前で俺を惨たらしく殺させることだろうね。

 

「そんな…………しないわよね?」

「しないよ。そんなことをしてる暇はないし興味もない」

 

 ソリュシャンはどこかで何かがピシリとひび割れる音を聞いたような気がした。

 淡々と語るお兄様はどこか苦い顔。出来はするのだろうがするつもりはなく、きっとしたくないと思われた。

 本当のところは少し違う。今語った内容は、かつてラナーが幾度となくやってきたことなのだ。あの女の真似事をするのを苦々しく思っている。

 

「アルベド様のご命令があれば致し方ないけど、きっとそんなことに俺を巻き込むのをよしとされないだろう。そもそもそんなことを考えつくとは思えないし」

「……それならルプーの見た目はどう思う? 私の姉だけあってとても美しいと思うのだけれど」

「そうだね。王国では見たことがない情熱的な美人だ」

「…………ん? それなら性格は?」

「裏表がない素直な性格でいらっしゃる。ルプスレギナ様なら一々前のことを持ち出したりしないと思うな。好ましいと思うよ」

「……んん? そう思ってるならどうして興味がないなんて言うのかしら?」

「ソリュシャンも知ってるだろうに。デミウルゴス様から貸与された書物が最優先だ! それ以外を見てる余裕なんてないよ」

「はぁ………………」

 

 ソリュシャンは大きな溜息をついた。

 だってお兄様がおバカだったのだから。

 

「でしたら興味がないと言うのではなくて、他のことが目に入らないくらい夢中になってるものがあると言うのではなくて?」

「それはつまり興味がないという事では?」

「違います」

 

 色々勉強させてましにはなってきたけれど、お兄様は肝心なところでお兄様だった。

 

「アルベド様が仰っていた気遣いってそういうところよ」

「うっ」

 

 胸を押さえたお兄様をソリュシャンはくすくすと笑った。

 お兄様はルプーを嫌っているのではなく興味がないのではなく、デミウルゴス様からの課題を優先しているだけのこと。言わば時間の問題である。隣室で覗いているルプーの懸念もこれで晴れることだろう。

 姉との約束を果たしたソリュシャンは胸をはだけてお兄様に抱きついた。

 

「昨晩はシャルティア様とお楽しみだったようですけれど、おっぱい成分が足りなかったのではと存じますわ。今日はソリュシャンのおっぱいをたっぷりと堪能してくださいませ♡」

 

 胸に顔を埋めるお兄様の頭を、ソリュシャンは優しく抱きしめた。

 おっぱいをちゅうちゅう吸われたので特製のソリュシャン汁を飲ませてあげた。

 これからいっぱいみるくを味あわせてもらうのだから美味しくて栄養があるものをとってもらわなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 ルプスレギナは自室に戻っていた。

 二人の会話は最後まで聞いていない。

 二度目の「興味がない」を聞き、それ以上を聞き続けることが出来なかった。

 ベッドに突っ伏すルプスレギナしかいない部屋で、カチカチと小さな音が響いている。

 ルプスレギナが歯の根を鳴らす音だった。



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人狼の生態

「帰りは遅くなりますので後のことはよろしくお願いします。ルプー姉様、お兄様と仲良くお願いしますね。それでは行って参りますわ」

 

 心にもないことを言ってソリュシャンお嬢様はメイド教官を伴ってお出かけになりました。

 目的地はエ・ランテルにあるアインズ様の居館です。常駐しているセバス様に例の件を相談しようと思っているのです。お兄様をお連れした方が話は早いのですが事はナザリックの内側に関わることです。お兄様もナザリックの身内と言えるのですけれど先ずは然るべき者から話をするべきなのです。

 

 ソリュシャンお嬢様とメイド教官がいなくてもお屋敷は平常運転です。厳しい人たちがいないからと言って手を抜こうものなら後がとっても恐いのですから。

 若旦那様も平常運転です。ソリュシャンお嬢様を見送るなり書斎に籠もってぼーっとし始めました。

 

 そしてルプスレギナ様。平常運転も何もお屋敷に来たばかりですので、これと言ってすることがありません。一番の仕事は若旦那様が傷ついた時の回復役ですが、ソリュシャンお嬢様やナザリックからの賓客がない限りそんなことは滅多にありません。ですのでメイドたちの邪魔にならないよう好きに過ごせばよいのです。しかしルプスレギナ様にそんな余裕はありませんでした。

 原因は若旦那様です。

 若旦那様を何とかしないと自分の未来には無限の暗黒しか広がっていないと思い込んでいます。

 好きでもない嫌いでもない興味がない、破滅に追いやるのは簡単なこと。こんなことを言われて放っておけるほどルプスレギナ様は図太くありませんでした。今はまだ興味がないとしても、もしも嫌われたらナザリックからの放逐が待っているのです。つい先日半殺しにしてしまったばかりなのですからマイナス印象に決まっています。ゼロどころかマイナスからのスタートです。

 いつぞやのソリュシャンが考えたのと同じように物理的に喋ったり動いたりしないようにしたいところですがやってしまったら最後、破滅どころか消滅確定です。何とかして若旦那様に取り入るしかありません。

 ルプスレギナ様は薄氷を踏む思いで書斎の扉を開きました。ちなみに薄氷を踏み抜くと下には地獄が広がっている思い込んでいます。

 

「お邪魔するっすよー」

「はいどーぞ」

 

 控えていたメイドを追い払い、ルプスレギナ様は若旦那様と二人きりになりました。

 

「この前はビックリしちゃったっすけど、今日はじっくりおっぱい触らせてあげるっすよ?」

「間に合ってます」

 

 ルプスレギナ様は早くも挫けそうになりました。

 

 

 

 

 

 

 大きな机に向かって座り心地の良い椅子に深く腰掛け、ぼんやりと虚空を見上げている。デミウルゴス様から貸与された書物は開いていない。机の片隅に積まれている。ただし山の高さは一昨日の半分になっていた。

 昨日、夢中になって読み過ぎたのだ。ソリュシャンといちゃいちゃした後、6時間ぶっ通しで読み続けていた。気付けば山の高さが半分になり、休む間もなくページをめくっていた右手は酷使されすぎて炎症を起こした。40000ページは読んだのでその半分の20000回はページをめくっていた計算になる。炎症を起こすのも無理はない。

 ポーションを使うまでもなく、よく冷やして適切なマッサージで無事に回復したわけだが、ソリュシャンから「あなたって頭がいいのかバカなのか本当にわからないわね」と言われてしまった。

 それよりも問題なのは半分も読んでしまったことである。

 

「おっぱいだけじゃなくてお尻もいいっすよ?」「だから間に合ってます」

 

 読書とは人であれば誰しもが持つ好奇心を満足させてくれる。危険を冒さずに未知を征服する冒険に似ているのだ。冒険とはとても心躍るものである。夢中になって読んでいた時間は至福の時であった。

 しかし気付けば半分に。無限にも思えた未知の世界が半分に。心躍る冒険を半分も終えてしまったのだ。

 これでは十日どころか今日中に読み終わってしまいそうである。流石にレポートの執筆には時間がとられるだろうが、それとて半日あれば済んでしまうだろう。

 もう少しゆっくりと、せめて一日一冊で我慢しなければならない。それにまたも読み過ぎて手指に炎症を起こそうものなら、ソリュシャンにバカにされるくらいなら兎も角、アルベド様を御満足させる手技を発揮できないかも知れない。最悪である。

 

「……直にいいっすよ?」「結構です」

 

 これらの書物は、どうやら一人の人物が複数人物からなる著作を編纂したものであるらしい。分野を大雑把にくくれば人の営み。日本語辞書から言葉を拾えば社会科学とでも言うべきか。

 書物には抽象的な論理だけでなく、論理を導くに至った具体的なエピソードが多々散りばめられている。

 さて、これらのエピソードが意味するものとは何か。辞書を読んだ際に至った考えを補強してしまった。

 デミウルゴス様はそれらをご存じなのだろうか。それとも知らずして読めと仰ったのか。おそらくはどちらでもない。

 いずれであろうと何が変わるわけでなし。ただし好奇心が刺激され、考えを推し進めることは出来る。何がわかったとて何もする気はないわけであるが。

 

「…………色々しちゃってくれてもいいっすよ?」「ふん」「!?」

 

 かような書物を簡単に貸与してくださる。

 ソリュシャンから課題図書として渡された小説。シクススが言っていた異本も気になる。分野がてんでばらばらなそれらの書物がもしも一カ所からもたらされたのだとすれば。そこはとんでもない蔵書量を誇っているに違いない。

 そこを自分が自由に利用できるとは思えないし、いずれそうなるとも思えない。しかし今回のような機会がないとも限らないのだ。

 

「くっくっく……」「ヒッ……」

 

 

 若旦那様はルプスレギナ様の言葉を聞いているようで聞いていませんでした。

 考えに没頭して、傍目からはぼーっとしているように見えるのです。

 こんな時、メイドたちは「また若旦那様がぼーっとしていらしゃってるわ」と微笑ましく思っています。メイド教官はちょっぴり厳しい目を向けます。中でもシクススは「若旦那様にはお耳がないんですかー? これはなんですかー?」とか言いながら耳を引っ張ります。ソリュシャンお嬢様はもっと酷くて、「ぼーっとしてる今なら溶かしても気付かないのでは」と考え麻痺毒を応用した部分麻酔を掛けつつのトロトロに成功。そんなことをするからポーションやスクロールが枯渇するのです。

 しかしルプスレギナ様はそんなことを全く知りません。せめてメイドたちから「あれはいったい何やってるの?」とでも聞けば答えが得られたでしょうが、そんなことにまで気が回りませんでした。目の前のことにばかり気を取られてと叱られたばかりなのに全く活きていません。

 

(これはイジメっすか? イジメっすよねやっぱり怒ってるじゃないっすかソーちゃんのうそつき!)

 

 とても人聞きが悪いことを思っています。

 自分に怒っているから無視されて苛められていると思い込んでしまったルプスレギナ様は捨て身の策に出ました。

 

「私のことを好きにしていいっすよ!」

「えっ?」

 

 

 気が付いたらルプスレギナが隣に立ってとんでもないことを口走っていた。

 何を焦っているのか、顔が強ばっている。

 考えに没頭しながらも受け答えをした記憶がある。言葉を思い返すと、おっぱいやお尻を触って欲しいらしい。断り続けていたら自分のことを好きにしていいと仰った。

 

「それはルプスレギナ様の体を自由にしていいと言うことですか?」

「そ……そそそ、そう言うことっすよ?」

 

 おっぱい、お尻、体全てを自由に。つまりはいやらしいことをして欲しいようである。

 突然どうして、と思ったところで気が付いてしまった。ルプスレギナは快活な人間の美女に見えるが、人ではなく人狼である。人狼特有の生理があると察せられた。いやらしいことを求める本能。

 

 おそらくそれは、発情期。

 

 男はそっと嘆息した。ポーションは量産出来ていると聞いているのに、高位の神官であるルプスレギナが派遣されたことはいささか疑問だった。どうやら発情してしまったルプスレギナを鎮めよと言うことだったようだ。さすがのアインズ様は無駄なことをなさらない。

 明日はアルベド様がいらっしゃるのでソリュシャンも禁欲日に設定しているというのに。しかしそのために配置換えされたルプスレギナに帰れとは言えない。適度にお相手をして発散していただくしかなかった。

 

「それでは私の寝室でよろしいでしょうか?」

「よろしいっすよ!?」

 

 

 

 

 

 

 部屋に入るなり、ルプスレギナは帽子を壁に引っかけて覗き穴を塞いだ。ソリュシャンがいないので覗かれる可能性はないのだが気分の問題である。

 

「ああ、その帽子は耳隠しだったのですね」

 

 ルプスレギナの頭にはふわふわの赤毛に覆われたケモ耳がピョコンと立っている。普段は人間に偽装しているので、人外と知られないよう帽子で隠していた。

 

「ハムスケさんと違って見た目通りに柔らかい愛らしい耳です」

 

 断りもなく耳を撫でた。誰とも知らない人間の男にそんなことをされたら撲殺待ったなしのルプスレギナだが、そんなことを出来るわけがなく、好きにしていいと言ったばかりである。何をされようと涙をのんで耐えるしかない。

 

「それでは早速始めましょうか」

 

 男はペロリと右手の中指を舐める。第二間接まで滴るほどに唾が塗りつけられた。

 唾に濡れた汚い指でどうするつもりなのか。まさかその指で触るつもりなのか。

 

「!!」

 

 ルプスレギナはプレアデスの正装である自らの改造メイド服を誇りに思っている。至高の御方々がデザインされ、己が創造主である獣王メコン川様が選んでくださったものなのだ。しかし今日初めて、このようなデザインであることを恨めしく思ってしまった。

 男の手は、サイドに深く入ったスリットから内側へ忍び込んできた。

 一昨日のように尻を撫でられるのかと思ったが違った。後ろではなく前。

 男の手は器用にも薬指だけパンツに引っかけてずらし、濡れた中指をルプスレギナに突き立てたのだ。

 

「あ……ぁ…………」

 

 体の中心に異物感。何かが入ってきた。男の指に決まっている。汚い唾を体の内側に塗りつけられている。

 

(これ……おまんこに入っちゃったっすか!? ばっちい唾をおまんこの中に…………。うぅ……、ひどいっす……。私はじめてなのにいきなりこんな……ぐすっ……。でも泣いちゃダメっす! ここで言っとかないともっとひどいことされちゃうっすよ!)

 

「ゆ……指は、いいっすけど……。その……ちんちんは入れないで……欲しいっす……」

 

 涙目のルプスレギナを、男は正面から見た。

 表情はいまだ硬い。もっと固いのが指が入っている場所。

 発情して慰めて欲しいというくらいなのだからとっくに濡れていると思ったが、ルプスレギナは乾いていた。それに加えて狭い、きつい。まさかと思ったが処女であるらしい。

 処女なのに男を求めてしまうほど発情期による欲情は強いのだろうか。

 

「構いませんが……、ルプスレギナ様はそれで満足できますか?」

「!」

 

(それって指じゃ満足できないってことっすか……。一昨日はシャルティア様とあんなにしてたのに今日は私となんて! ……こいつは人間じゃない色魔かなにかっすよ! はっ!? だからサキュバスであるアルベド様はこいつを大事にしてるんすね!? アインズ様が私をここに派遣したのもこいつの相手をせよと……。でもちんちん入れちゃったら……赤ちゃん出来ちゃう…………)

 

「どうなんですか?」

「…………ちんちんも……入れて……欲しい……です」

 

 ルプスレギナは、はらりと涙を落とした。

 心を絶望に食われてしまったのだ。この男に処女を捧げて満足させなければならないのだから。それがアインズ様のお望みであるのだから。

 

(ルプスレギナ様……。涙を流すほど発情期とはお辛いものなのですか……)

 

 こちらもこちらで勘違いしていた。

 明日はアルベド様のお食事日。出来れば指だけで済ませたかったが、泣くほど辛いのを放置できない。ルプスレギナ様は自分の回復役としていらしたのもそうだし、密かな同士でもある。

 アルベド様に叱られた同士。そして恥ずかしいことを屋敷のメイドたちに知られてしまった同士。夢精プークスクスとおもらしプークスクスである。メイドたちにルプスレギナのおもらしを触れ回ったのはわざとだった。

 ソリュシャンに語った通りルプスレギナ様にこれと言って興味はなかった。ところがデミウルゴス様からの課題図書はちょっとお預けにしなければならず時間が空いてしまった。しかし目の前にあれば読んでしまう。空いた時間の暇つぶしというのは流石に失礼が過ぎるが、今日一日たっぷりと時間を掛けてルプスレギナ様を満足させるのはやぶさかではない。

 明日のアルベド様に備えた練習にもなる。

 

(全力でご満足させましょう)

 

 男はデリカシーを覚えたのでルプスレギナへ「発情期辛いですね」なんて無神経なことを言わなかった。

 ルプスレギナは何度も叱られたりきついことを言われたりで珍しく頭を使い、口には出さない男の要求を察してみせた。

 

 バカにバカを掛けても利口にはならず、喜劇しか生み出さないようである。



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駄犬調教 ▽ルプスレギナ♯1

長くなった……


 ルプスレギナはこう言った。

 

『色々していい』『好きにしていい』『自由にしていい』

 

 これらから『大切に仕舞われている壊れ物を扱うように優しく丁重に抱かなければならない』との解は得られない。むしろ真逆。荒々しくケダモノのように犯して欲しいと導かれる。処女だと云うのにさすがの人狼はワイルドネスである。

 期待に応えるべく、ルプスレギナの細い首に手を当てた。黒いチョーカーを褒め、露わな鎖骨を撫で、白いフリルのついている大きく開いた襟口に指を引っ掛ける。

 引っ張り、一思いに引き下げた。

 

 

「ひっ」

「おや? ルプスレギナ様はおっぱいを見られるのが恥ずかしいんですか?」

 

 改造メイド服は良く伸びた。肩まで広げられた襟は乳房の下まで下げられた。目いっぱい膨らませた毬のように大きなおっぱいは丸出しにされた。

 ルプスレギナは反射的に胸を隠そうとしたが、腕はメイド服が引っかかって動かせない。

 

「う……恥ずかしい、です」

「では触られるのはお嫌ですか?」

「え……。いやじゃ……ないっす……」

「では舐められるのはお嫌ですか?」

「うぇっ!? ……い、いやじゃ……ない……です……」

 

 顔を真っ赤にして答えた。

 

(なるほど。ルプスレギナ様はそちらですか)

 

 激しいプレイは散々ラナーにやってきた。最近ではシャルティア様もそのような交わりを好まれる。ルプスレギナもそうかと思ったが少し違うらしい。恥ずかしがりながらも答える様子から察して、どうやら辱められるのが好きなようだ。

 ソリュシャンの姉だけあってソフトMだった。

 

(そんなの他に答えようがないじゃないっすか! 触るだけじゃなくて舐める!? ペロペロっすか!? 人間の交尾ってそんなことするんすか!? ……そう言えばこの前のシャルティア様もいっぱいぺろぺろしたりされたりしてたような……。ひゃっ!)

 

 大きく突き出したおっぱいを正面から鷲掴みにする。

 肌触りはすべすべ。少し汗ばんでいるので手に馴染む。見た目通りに柔らかさだけでなく張りもあった。やたらと柔らかいソリュシャンの素のおっぱいよりいいかも知れないと口にすると溶かされるので誰にも言わない事にした。

 肌が褐色なので乳輪はほとんど色付いていない。その代わりに赤みさす先端の突起が良く目立つ。

 

「こういうことをされたいんですね?」

「そ……そうです……」

 

 如何にルプスレギナが荒々しく抱かれたいと思ってもそこはやはり処女である。経験者がリードしなければならない。乱暴に揉みしだくのではなく、乳房を包む様にしてリズムよく刺激を与える。完全な未経験であったナーベラルの性感を掘り起こしたのは伊達ではない。両の乳房を揉み続けるうちに一度も触れてない先端の突起が充血してきた。

 

「顔は伏せないでください。こちらを見て」

「う…………」

 

 頬を染めて俯けるルプスレギナを注意する。

 自分が何をされているのか自分の目で見てもらうことも重要なのだ。

 そこで閃いてしまった。

 

「お掛けください」

 

 ルプスレギナをベッドに座らせた。

 ルプスレギナはメイド服から腕を抜き、上半身は裸になる。

 その間に、ベッドの脇に姿見を移動させた。

 

「これならご自分の姿がよく見えるでしょう」

 

 大きな鏡にはルプスレギナが映っていた。

 自慢のおっぱいをさらけ出し、いつもの快活な笑顔は消えて弱気な涙目で、青ざめていると思った肌は意外にも血色が良かった。

 

「あぁ……いゃあ…………」

「お嫌ですか?」

 

 後ろから男の手が乳房に伸びた。耳元で囁かれる。本当に嫌だと言いたいのに言ってはいけない。

 

「鏡を見てください。ルプスレギナ様の乳首はどうなってますか?」

「え…………? あ」

 

 愛らしい乳首は痛々しいほど張りつめていた。

 水風呂に入った時よりもふざけて氷を当てた時よりも尖っている。自分の乳首がこんなにも膨らむことをルプスレギナは知らなかった。

 

「立ってるでしょう?」

「……立ってるっす」

「どうして立ってるかわかりますか? 吸われたいから立ってるんですよ」

「えっ! でも私そんなつもりじゃ……」

 

 反射的に否定した。本当にそんなつもりはないのだ。男の機嫌を損ねたかと思ったが、柔らかく言葉を紡がれる。

 

「ルプスレギナ様がそう思っても体の方は違うのでしょう。だからこんなになっている」

「ああぁ! ちくびがっ……だめっすよぉ……」

 

 きゅっと乳首を摘ままれて、ルプスレギナは高い声を上げた。

 首筋に顔を埋められてすんすん嗅がれているのも気にならず、神経の全てが乳房の先端に集中してしまったかのよう。

 ルプスレギナは人間の男にこんな事をされてこんな反応をしてしまう自分が信じられなかった。

 指が動くたびに熱い息を漏らして、鏡に映る自分を凝視する。

 鏡を見ていたから気付けた。男の左手がウエストを締める編み込みを解いている。

 脱がされる。

 案の定、腰を上げてと囁かれ従ってしまった。

 

 メイド服はするりと床に落ちて、艶やかな太ももが現れる。

 黒いガーターベルトとガーターストッキング。股間を覆っているのも色を合わせている。

 

「ここも触ったり舐めたりして欲しいですか?」

「きゃぅっ……」

 

 脚を広げさせられ、男の中指がパンツの上に置かれた。指は少しだけ繊細な生地に沈んだ。

 

「し……して欲しいっす……」

 

 他の答えは許されないのだ。

 答えてしまったルプスレギナはパンツも脱がされた。

 足をベッドの上に乗せるよう言われて、またも大きく股を開かされる。異本が伝えるところのM字開脚である。

 目を逸らしたかったがそれも許されない。

 ルプスレギナは鏡に映る己の姿を見た。

 ストッキングと付け袖は身に着けているけれど肝心なところは何も隠れていない全裸も同然。その上で股を開かされている。

 背後から男の手が伸びて、ルプスレギナの大切なところへ両側から触れてきた。

 そこもまた、開かれてしまった。

 にちゃっと幽かな音がした。

 

 肌は褐色でも内側は鮮やかなピンク色。

 窓からの明かりを反射して光っているようにも見えた。

 

「おや?」

「なんなんすかあ……」

 

 ルプスレギナはほとんど涙声。

 誰にも見せたことがない大切なところを無遠慮に広げられて見られているのだ。

 見られるだけでなく触られるし舐められるし、更にその先が待っている。

 

「よく見てください」

「っ…………」

 

 開かれた割れ目に男の指が少しだけ触れて、ルプスレギナの目の前に突き出された。

 

「私の唾じゃありませんよ。ルプスレギナ様のです」

「……私のっすか?」

「そうです。指先がちょっとだけ濡れてるのがわかるでしょう?」

「わかるっすけど……?」

「ルプスレギナ様が濡らしたんですよ。どうして濡れてるかわかりますか?」

「え……」

「ルプスレギナ様のここが早くちんこを入れて欲しいって言ってるんですよ」

「ええ!?」

 

 そんな事は全く思っていない。しかし男の指は濡れている。男の手に広げられた自分の秘部も濡れ光っているのが見える。どうして濡れてしまうのか、ルプスレギナは妹のナーベラルより知識があった。

 

(え? え? ええ!? わたしおまんこ濡らしちゃったっすか!? ちんちん欲しくなっちゃったんすか!? た……たしかに体はちょびっと熱くなっちゃったっすけど……。本当の私は交尾したいって思ってるんすか? ちんちん入れて欲しいって……)

 

 執拗に胸を揉まれて感じなくはなかったが、乱れてよがるほどでもない。

 濡れているとまではいかず、僅かに湿っている程度。それも放っておけば乾いてしまう。だけどルプスレギナはそこまで知識がない。

 追い打ちを掛けるように後ろから抱きしめられ愛を囁かれた。

 

「愛しています、ルプスレギナ様」

「ふえぇえっ!?」

「貴女ほど素晴らしい女性はいない。一目で心を奪われてしまった」

「なっ…………なななな……」

「どうか私の愛を受け取ってください」

「ぅ……………………」

 

(うええっ!? 私を愛してる!? 興味がないんじゃなかったんすか!? 昨日はソリュシャンとあんな事を話して………………はっ!! もしかして私がこうするって読んだんすか!?)

 

 ルプスレギナは珍しく頭を使ってしまった。

 

(私を愛してる。私と交尾……じゃなくてセックスしたい。だから私を脅すようなこと言ってこうなるように誘導したんすね。なんて卑劣! さすがはデミウルゴス様から認められるだけあるっすよ! てことは……えーとえーと…………。私も楽しまなきゃ損ってことっすね!)

 

 珍しく頭を使ったせいか、途中で止まってしまった。

 過程と結論におかしなものが混じったかも知れないが、ルプスレギナはその気になって体は心を映した。

 開かれた部分から蜜のように垂れてきた。

 

(こわばりがとれた。まさかシャルティア様の講義が活きようとは……)

 

 心にもない事を心を込めて言うのはシャルティア様に習った事である。

 娼婦達からもベッドの上の睦言は気持ちを盛り上げるために必須と教えられた。

 男は知らないが、実は異本にも書いてある。作中のご主人様は愛メイドたちへ『孕め! 俺の子を産め!』と叫びながら射精しているが本当に妊娠したら困るだろう。

 ベッドの上で交わされる言葉は夢幻である。

 

「あんっ!」

 

 ベッドに押し倒された。

 男が覆いかぶさってきた。

 唇を唇で塞がれた。

 

「ん…………ちゅ……んぁあ……んっんっ……ちゅう……」

 

 男が上でルプスレギナが下。

 唇が合わさっているだけでなくぬめる舌が入ってきて口を開かされる。汚いと思っていた唾が流し込まれてくる。

 唇が重なっているので吐き出しようがなく、ルプスレギナは口内に流し込まれた唾を飲み込んだ。

 

(キスしちゃってるっす……。ベロが入ってきてるし唾も……。飲んじゃったっす……。嫌な味じゃないっすけど。あ……おにーさんいい匂いするっす。おっぱいもみもみも……まあ嫌じゃなかったっすけど。でもおっぱいペロペロはまだしてないっすよね。…………これからしてくれるっすか?)

 

「ああっ! おっぱいがぁ……そんなちゅうちゅうしちゃダメっすよぉ。はぁあっ……やっ……ちくびが……ちくびとれちゃう……。そんなに吸って、ルプーの乳首おいしいっすか?」

 

 応えずに強く吸った。

 尖った乳首は弾力があり、唇で挟んでも強く吸っても舌で転がしても歯で甘く噛んでも、何をしても楽しい。

 

「どっどこ触ってるっすか!? 指入れちゃだめっす! ルプーはまだ初めてなんすよぉ。処女なんすからぁっ。あっあっあっああっ!」

 

 さっきとは違って今度は指を唾で濡らすまでもなく抵抗なく根元まで受け入れた。

 ルプスレギナの処女肉は熱かった。

 

 

 

 ルプスレギナはよく鳴いた。

 途中何度かキスで黙らせ指を抽送する。愛液が滴って手指を濡らしシーツにも染みを作る。

 二本に増やしても問題なく受け入れる。

 最初のように鏡の前で股を開かせ、股を濡らしている様を見せつけると、いやいやと首を振って涙を流した。

 指の動きが激しいのとルプスレギナが良く濡らしたのとで、飛沫は鏡にまで届いた。

 愛液だけでなく潮も吹いて、シーツはいつぞやのアルベド様がおねしょをしてしまった時のようにびしょびしょになっている。

 

「あ………………。ちんちん……入れる?」

 

 ルプスレギナへの愛撫は二時間余りも続いていた。

 ルプスレギナは何度も達した。五回までは数えていた。それ以上はわけがわからなくてとても気持ち良くて何も考えられなくて、男に全てを委ねてしまった。

 

「わたしは……何回もおまんこいっちゃったっす……。おにーさんのちんちんはまだっすよね?」

 

 おまんこいくと言わされた。

 初めて口にした時は恥ずかしかったが、イってしまったのは本当だ。二回目はすんなりと口から出て、口にするたびに快感が強くなった気がした。

 

「そろそろ入れて欲しいと思いまして」

「そろそろじゃないっすよ! 何回も入れて欲しいって言ったっす!」

 

 何回も言っていた。言わされたのではなく自分から口にした。本当に欲しかった。

 底のない快楽の海が恐ろしくて終わりにして欲しかったのか、それとも逸物を受け入れたらもっと強い快感が得られそうで欲しくなったのか、はたまた男を満足させたくなったのか。

 

「おおー! おにーさんちんちんおっきいっすねぇ! ……あ、でもルプーがちんちん見るのはおにーさんのが初めてっすよ!? 初めてでもおっきいと思っちゃうくらいおっきいってことっすから!」

「……ありがとう」

 

 よくわからないがとりあえず礼を述べた。

 逸物はとっくにいきり立っている。立たせながらルプスレギナへ愛撫を続けた。途中で入れたくならなかったと言えば嘘になる。それでも耐えた。ナーベラルの生おっぱいをもみもみしても立たせないほどの自制心を持っているのだ。

 これがもしもアルベド様の艶姿であれば暴発してしまったかも知れない。明日に備えてのいい鍛錬になった。

 ルプスレギナの視線は股間にくぎ付けになっている。

 股間では逸物が臍まで反り返っている。

 ルプスレギナが確かめるようにそっと触れてきた。

 

「これが私のおまんこにはいっちゃうんすね……。あむ……ん……ちょっとしょっぱい?」

 

 おもむろに咥えて口の中で舐め上げた。

 唾をたっぷり絡めたようで、柔からな唇で啄まれた亀頭だけがとろりと濡れている。

 湯気が立つようだった。

 

「熱くてかちかちっすよ……。ここから精液がぴゅっぴゅって出て私に種付けしちゃうんすね……」

 

 初めてという癖してどこで覚えたのか、ゆっくりと扱く。

 ベッドにぺたんと座るルプスレギナは扱きながら男を見上げて、ベッドに立っている男はルプスレギナを見下ろした。

 手を離すとベッドに横たわる。

 きちんと脚を広げて、未使用の膣口はひくひくと閉じたり開いたりを繰り返して物欲しげに涎を垂らす。

 太ももに手を添えて付け根へ滑らす。小さな陰唇は指で広げるまでもなく開いている。小さな暗い穴にぴったりと亀頭を押し付ける。

 

「ルプーはおにーさんの女になっちゃうんすね♡」

 

 興奮よりも陶酔が強いのか、ルプスレギナは穏やかに微笑んでいる。男の腰が進むにつれて、あっあっと口を開き、互いの陰毛が擦れて抱きしめられて大事なところが押し広げられて奥まで届いて、ルプスレギナの秘部は破瓜の血を流し、男へ処女を捧げた。

 

「あああああぁあぁぁ…………。おまんこに……お腹の中に……入ってるっす……。おにーさんのちんちん、おまんこの中でぴくぴくしてるのがわかるっすよ……」

 

 指を入れた時もそう思ったが、ルプスレギナの膣内は驚くほど熱かった。

 一昨日はシャルティアと交わり、吸血鬼の冷たい膣を味わっていたから余計にそう感じるのかも知れない。

 

「愛してますよ」

「ひゃうん……。わ……私も、おにーさんのこと大好きっすよ! あっあっんんんぅぁぁあーーっ! おまんこきもちいっす! ちんちんも大好きっす!」

 

 処女だったが挿入の前に十分すぎる愛撫を受けている。破瓜の痛みはなく、指の何倍も太い逸物を根元まで咥え込んで乱れ始めた。

 男の背に腕を回してしがみつき、開かれ持ち上げられた脚はつま先まで力が入っている。

 媚肉を抉る逸物を何度もきゅうきゅうと締め付けて、内部を往復する度に愛液が押し出される。ルプスレギナの汁気は多く、互いの陰毛が濡れて肌に張り付く。

 

「おにーさんおにーさん! はああっあ、あんっ、おまんこいいのっ! やああっおまんこまたいっちゃうっすよぉ!」

 

 高く鳴いて強く締め付け、歓喜に涙を流した。

 人狼だからか素質があるのか、ルプスレギナは理性を放棄して肉欲に溺れ切っている。

 達したと宣言しても逸物に絡みつく肉襞は怪しく蠢き、もっと虐げて欲しいと訴えるようだ。

 

「はあ……はあ……こーするともっときもちいっす……。おにーさんが二人いてもっとして欲しいっす。でもでも私が好きなのはおにーさんだけっすよ♡ 」

 

 ルプスレギナは股間に手を伸ばし、愛液に濡れた陰毛をかき分けて割れ目の上端を揃えた指先で擦り始めた。

 何度も擦って舐めてやったクリトリスを自分で愛撫し始めた。

 小さな肉芽は充血して包皮から顔を出している。

 直に触れてもルプスレギナの愛液で滑りは十分。

 

「おまめさんもちんちんもとってもきもちいいっす。あぅ……やっやっ……お腹の中ごりごりされてるぅ。……おにーさんもルプーのおまんこ気持ちいいっすか?」

「もちろん最高だよ」

「えへへ……、おにーさんのちんちんも最高っすよ♡ あんあん、ひぁっ、あっあああっ!」

 

 ルプスレギナがクリトリスをいじるならこちらは乳房に手を当てた。

 挿入しながらのおっぱいタッチが重要なのは、忸怩たる思いだがラナーとの経験から学んでいた。ナーベラルやシャルティア、それに娼婦達からも確認できた。

 今度は性感を高める優しいタッチではなく遠慮なしにむにっと掴む。手のひらに余るおっぱいに指が吸い付く。

 

「ルプスレギナ様は――」

「ルプーって呼んで欲しいっす!」

「……ルプーはどこで出して欲しい?」

「出すって……精液っすか?」

「ルプーの中は最高でそろそろ出てしまいそうなんだ」

「ちんちんからぴゅぴゅって出るんすよね。ルプーのおまんこに入ってるちんちんから……。はうぅ……そんなの言われたらお腹が熱くなっちゃったっすよぉ……」

 

 切なげに眉を下げ、愛撫していたクリトリスから手を離し、離れるのは許さないとばかりに男へ抱き着いてきた。

 

「そんなのおまんこの中に決まってるっす! おにーさんのあっつい精液をルプーのおまんこにいっぱい出して欲しいっす! ……やっ…………やあぁっ、やっあっああぁ……イく、イっちゃうっす! あああ…………。ルプーのおまんこまたいっちゃったぁ……。おにーさんがそんな事言うからいっちゃったんすよぉ? ルプーがやらしいわけじゃないっすからね?」

「わかってるよ、可愛いルプー」

「えへへ……。ルプーはぁ……おまんこに出して欲しいっす♡」

 

 一点の曇りもない愛らしい笑顔で訴えた。

 ちゅっとキスをしてから男の首筋に顔を埋めてすんすんと鼻を鳴らす。男の体臭を胸いっぱいに吸い込んで、それがまたルプスレギナの体を熱くした。

 

「……出すぞ」

「はい! ルプーのおまんこでいっぱい出して! ああああっ、ちんちん熱いっす! もっとおっきくなってるっす! イクぅ、またおまんこイッちゃうっすよぉ!」

 

 男の逸物は根元までルプスレギナの膣に包まれて、最奥の子宮口に亀頭を押し付けてどぴゅどぴゅと熱い精液を吐き出した。

 愛撫していた時間と挿入していた時間に比例するかのように射精は長く、精液も多かった。

 粘塊も混じる白濁した精液は半刻前まで処女だった女の子宮に注がれた。

 

 

 

 膣内で脈打つ逸物を感じて、ルプスレギナは男が射精したことを悟った。精液が子宮に流れ込んでくるのを幻視した。

 女なら誰もが持つ赤ちゃんの小部屋に子種が注がれている。

 

「おにーさんの精液が私のお腹の中に…………。赤ちゃん出来ちゃうぅ……。おにーさんとの赤ちゃん出来ちゃうっす♡」

 

 甘えて抱き着いてくるルプスレギナの言葉に、人と人狼の間に子供が出来るのだろうかと男は生命の不思議に思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 たっぷりと前戯をしたのは一度の射精で満足してもらうためだった。

 しかしルプスレギナはもう一度したがった。

 今度は後ろからのわんわんスタイル。

 ルプスレギナの美しい背中を見ながら尻を打つのはとても素晴らしかった。

 三度目もしたがった。

 疲れてしまったからここまでと終了を宣言したが回復呪文で体力回復。

 物の試しで三度目に及んだら、まさかの精液の量まで回復。回復呪文が失った血液を補う事を考えれば、放出してしまった体液である精液も回復させることはおかしいことではないのかも知れない。

 しかし、まずい。

 これをソリュシャンに知られたら間違いなく酷いことになる。

 今までは一日二回。時々三回。最大で五回だったのが、一日五回がスタンダードになりかねない。そして時々七回。最大十回になるのだ。

 ルプスレギナに口止めを行おうと思ったが、幸せいっぱいの輝かんばかりの笑顔ですり寄ってくるのを見ると、何を言っても頭に入らなそうで諦めた。

 もしもそんなことになったら時間制限にすればいいのだ。

 

 とりあえず、アルベド様をお迎えするときは回復してもらう事にした。




ちょっと今までの話を読み返して思いました
くどくなってる!
初心に返ってサクッとなるよう善処します


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L'amour est la guerre!

 夜が深くなった。しかしエ・ランテルの街が暗闇に包まれることはない。主要な通りには一定間隔で魔法の明りを灯す街燈が立てられている。昼夜を問わずして街の治安を守るデスガードが警邏している。偉大なるアインズ様がもたらしてくださった恩恵である。他国には恐れる者がいるやも知れぬが魔導国の国民たちは最大限の敬意を払って止まない。ナザリックに属する者達だけでなく、人間の国民からもである。

 故に女だけで街を歩いても危険に晒されることは決してない。アインズ様の居館を辞したソリュシャンお嬢様は、メイド教官を引きつれて帰路についていた。尤も、たとえ治安が悪い土地であろうとも夜道に臆するソリュシャンではないが。

 

 歩みは非常に遅い。それと言うのも十歩と歩かない内にメイド教官がソリュシャンお嬢様を小突いて歩みを止めるからだ。

 偽装である女主人と召使の関係であるが、偽装を抜きにしてもプレアデスのソリュシャンと一般メイドとではソリュシャンの方が格が上になる。建前としてはナザリックのシモベは全て平等となっているのだがそれはそれ。

 メイドの態度は不敬であるが、ソリュシャンは咎めるどころか礼を言った。

 

「ソリュシャンお嬢様」「……ありがとう」

 

 またも繰り返す。

 十歩も歩くとソリュシャンの輪郭が崩れてしまい、メイドはそれを注意していた。

 ソリュシャンは美しい女性の姿をしているが正体はスライム。余りにも気を抜き過ぎるとスライムの本性を取り戻し人の姿から不定形のスライムとなってしまうのだ。

 滅多にあることではない。なのに十歩ごとにふにゃふにゃしてしまうのは、心がビュンビュン! して多幸感に包まれているからだった。

 

 今日のソリュシャンはとても充実してとても実りある一日を過ごせていた。

 まず、現在はアインズ様の居館からの帰路であるが、そのちょっと前まではナザリックにいた。なんと、アインズ様がついでだからと送り迎えしてくれたのだ!

 ソリュシャンはずっとエ・ランテルにいて偶にはナザリックに戻り他の姉妹たちに会いたいだろうとのアインズ様心である。

 ソリュシャンは感激した。泣いた。同席していたメイドたちも泣いた。セバス様はぐっと涙をこらえた。

 ああなんとお優しいアインズ様アインズ様偉大なるアインズ様と始まるアインズ様賛歌は5番まである。

 

 ナザリックでは久しく会っていない姉妹と語らうことが出来たし、ナザリックでしか飲食出来ないとても美味しい食事をとることも出来た。とても美味しかったけれど、お兄様と一緒に食べられたらもっと美味しいに違いないとソリュシャンは思った。

 

 しかしソリュシャンがフニョンフニョンしている最大の理由はセバス様との会談である。

 お兄様が読み切った通り、会談は大成功を収めた。

 セバス様はソリュシャンからの言葉を一々頷きながらお聞きくださり、賛成してくださったのだ。

 

『とても良いアイデアであると思います。そのアイデアはあの青年からでしょうか?』

『いいえ、私からの発案でございます。何かと頼りになる方ですが、ナザリックに関わることに口は出させません』

『なるほど、ソリュシャンからの……。まさかソリュシャンが人間の男性と結婚を考えるとは思ってもみませんでした』

『私のことではございません。ナザリックのシモベ全ての事でございます』

『そうでしたね』

『ナザリックのシモベと人間とで婚姻関係を結ぶ。誰しもが望めば適用される。そうなればと考えております。但し、ナザリック内部から余り出てこないシモベにはそれほど関係のないこととなってしまいます。そのため、まずは人間と接する機会が多い者達がどのように考えているか。アインズ様へ上申する前に皆の意見を参考にしたいと存じます。寄せられた意見の結果次第では取り下げるべきかと』

『希望者だけに適用される制度なら止める必要はないのではないでしょうか?』

『プレアデスの私が大それたことを考えているのですから当然であると存じます』

『私はそうは思いません』

『ありがとうございます。セバス様のお言葉を頂き、力が湧いてまいりました』

『私の言葉でよいのなら幾らでも。言葉だけでなく積極的に協力したいとさえ思います』

『ありがとうございます。それではお手数ではございますが、エ・ランテルに滞在している一般メイド或いはナザリックでメイド教習を受けた者達がどのような意見を持つかセバス様からお聞き頂けないでしょうか?』

『その程度は何の苦でもありませんよ』

 

 まさに狙い通り。

 セバス様から尋ねられれば、セバス様とセバス様が救った人間の女ツアレとの婚姻であると誰もが思うに違いない。

 ナザリックのランドスチュワートの望みを妨げるメイドがいようものか。ただでさえペストーニャ様は、ツアレはセバス様がご自身の伴侶とすべく連れ帰ったと思っていらっしゃる。

 言わば形に名を与えるようなもの。反対意見は絶対にない。

 そうして情報の共有、つまりは根回しを終えた後でアインズ様に上申すればお認め下さるのは間違いない。

 そうなったら適用される第一号はセバス様とツアレだろうか。

 別に何番目でも構わない。

 しかし遠からず自分の番がやってくる。

 その時になったら『お嬢様と若旦那様』から『旦那様と奥様』へ。

 お兄様はアルベド様のものであることは間違いないけれど、形の上では私の夫となる。

 

 上手くいきすぎて心がピョンピョンしている。お兄様のお知恵のおかげで勝ち確なのだ。

 これほどまでの幸福感はアインズ様からお褒めの言葉を頂いたときに匹敵する。上回っているかも知れない。これ以上となればヘロヘロ様にご帰還して頂かなければ得られない。

 しかし確実に今以上が待っている。

 お兄様と結婚するときはもちろん結婚式を挙げるつもりだ。

 ソリュシャンは花嫁さんになるのだ。

 ウェディングドレスを仕立てて袖を通す。

 お兄様のお嫁さんになるのだ。

 確実に到来する未来を思うとふにゃふにゃになってしまう。

 これはいけない。ふにゃふにゃの花嫁さんでは格好がつかない。幸せいっぱいの美しい花嫁さんにならなければ。

 

「うふふ……」「ソリュシャンお嬢様」「……ええ、ありがとう」

 

 スライムであろうとソリュシャンはやっぱり女の子。

 お嫁さんには憧れがあった。

 

 

 ルプスレギナが来ると聞いて少し心配していたが杞憂だったのも安堵の材料。

 ルプスレギナの性格なら絶対にお兄様にハマってしまう。どうやって嫌わせようかと考えていたくらいだ。

 それが何をするまでもなく、互いに距離を置いてくれた。

 

 ソリュシャンの野望を阻むものは何もない。

 

 

 

 

 

 

 幸せいっぱいるんるん気分でエ・ランテルの大きなお屋敷に戻ったソリュシャンだったが、戻った直後に打ち砕かれた。

 

「ソーちゃんソーちゃんお帰りっす! あのおにーさんのことっすけど、すっごい性悪でデミウルゴス様がお認めになる悪魔みたいな人間っすけど、頭はすっごい良いし顔もすっごい良いしセックスがもう滅茶苦茶上手くてメロメロになっちゃったっすよ! だから私のお婿さんになってもらうっす! 丈夫な赤ちゃんいっぱい産むっすよーっ!!」

「ふざけないで!!!!」

「のわっ!? …………ちょっと今のはシャレにならないっすよ?」

「シャレにならないのは貴女の方よ!」

「へえ……? やる気っすか?」

 

 ソリュシャンとルプスレギナは激突した。

 これは姉妹喧嘩ではない。

 女の闘いすら超えている。

 恋は戦争である。

 

 

 突如始まったプレアデス同士のマジバトルにメイド教官は慌てふためいてしまいました。

 しかしこんな時であっても若旦那様は平常運転です。

 

「メイドたちへ外に出ないよう指示してください。何か聞かれたら冒険者へ中庭を貸して夜間訓練でもしていると言っておけばいいでしょう」

 

 元凶なのに自分には関係ない他人事とか思っているので冷静でいられるのです。

 たとえ関係あると思ってもアルベド様からのご命令以外はガン無視するつもりです。

 

 

 

 

 

 

 ソリュシャンはショゴスにしてアサシン。

 ルプスレギナは人狼にして神官。

 どちらもサポートに徹するクラスであり、攻防は一進一退。

 ソリュシャンが多少のダメージを与えてもルプスレギナは一瞬で回復してしまう。ではルプスレギナが有利かと言えば違って、神官であるルプスレギナは攻撃魔法に乏しく攻撃手段は物理攻撃が主だったものになるが、ショゴスであるソリュシャンには物理耐性があり有効打を与えられない。

 

 屋敷にいるメイドたちに二人を止める手段は皆無。

 若旦那様はすごいなあと見てるだけ。

 何だ何だとデスガードが集まってくるが争っているのはナザリックのシモベ二人。手の出しようがない。

 延々といつまでも続くかと思われた争いは突然途切れた。

 

「何をしている!」

 

 偉大なる御方の気配を感じたからである。

 ソリュシャンとルプスレギナは装いこそボロボロになってあちこちが薄汚れているが、共にダメージらしきものは負っていない。

 瞬時に争いを止めてアインズ様の前に跪いた。




恋は戦争をグーグル翻訳でフランス語にしたらサブタイのが出てきました
読めません

感想よりラムール・エ・ラ・ゲールとのこと
感謝です


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ナザリックにようこそ

「…………それで、お前たちはどうして争っていたのだ?」

 

 アインズ様の前にひれ伏すバカ二人。深く首を垂れ、しかし小さく肩を震わすばかりで答えようとしない。

 

「アインズ様ノゴ質問ニ答エヌカ!!」

「……全ては私たちの愚かさゆえでございます」

「いかな罰とて甘受いたします」

 

 神妙な二人へアインズ様は溜息を吐きたくなりました。もしも溜息を吐こうものならコキュートスが八つ裂きにしてしまいかねないのでぐっと我慢です。コキュートスのみならず、他のシモベ達も厳しい視線を二人へ送っています。さてどう裁いたものかと困り果てておりました。

 迂闊な裁きは下せません。

 もしも二人が争っていた原因がエ・ランテルに置いているあの男の取り合いだとしたら、アルベドが大切にしているご飯で、話していて楽しい男であっても処分しなければならないかも知れません。しかし二人がガチバトルをするほど想っている男を処分してしまえば悪影響があるに決まっています。それにソリュシャンは兎も角、ルプスレギナが男と会ったのはほんの数日前なので、幾らなんでもそんな事はないんじゃないかと希望的観測にすがっています。

 もっと最悪なのは、争いの原因が深いところにあった場合です。それは内紛の兆しに他ならないのですから。もしもこちらであったら、シモベ達が自分へ忠誠を抱いていようといずれ大きな争いが起こる可能性を否めないのです。

 アインズ様は今でこそ大魔法使いですが、かつては人間の魔法使いでした。女心の機微などわかりませんし、多数のシモベを従えることだって自分には分不相応と思わなくもないのです。

 最悪の最悪の場合はナザリックを捨ててどこかへ隠れ潜むことすら考えています。

 玉座に腰かけ肘置きに頬杖を突いて睥睨しているように見えても内心は物凄くガクブルなアインズ様でした。

 

「それではお前はどうだ? 二人がどうして争っていたか何か知っているのだろう?」

「……………………」

「どうした? 答えられないのか?」

「人間ノ分際デアインズ様ノオ問イ掛ケヲ無視スルトハ許セヌ」

 

 シルバーメタリックの蟲王が怒気と共に冷気を吹き上げます。

 寛大なアインズ様ですが真っ向からの質問を無視されれば面白くありませんし、これ以上はシモベ達の怒りを抑えきれません。

 非常に残念なことですが、止む無しです。

 

 しかしその時、何かに気付いたソリュシャンがハッと頭を上げて自分たちの後ろに跪いている男を振り返りました。

 

「体が凍り付いて動けないようです。話をさせる為に回復の許可をお願いいたします」

 

 伏して願い出ました。

 

 

 

 

 

 

 たかが人間がなんて図々しいと言う嫌悪の目、あれがアルベド様の子飼と言う好奇の目。

 

「皆さま、お初に御目文字致します。かくも偉大なる地に身を置ける光栄を与えられましたことを謹んでお礼申し上げます」

 

 男が立っているのはエ・ランテルのお屋敷ではなく、ナザリック地下大墳墓にて最も荘厳な場である玉座の間。

 階上の玉座にはアインズが深く腰掛け、傍らにはアルベドが静かに佇む。

 その両脇には守護者各位が並んでいる。ソリュシャンとルプスレギナの上司であるセバスも階上に。デミウルゴスだけは遠くへ出張中でありこの場にない。

 更には多数のシモベ達がひれ伏すソリュシャンとルプスレギナと、そして立ち上がった男を囲んでいた。

 アインズが本件をどれだけ重要視しているか知れると云うものである。

 そのような場において、男は臆することなく口上を述べた。仰々しく腰を折るも、荘厳な玉座の間では過剰には映らず相応しい所作に見えた。

 

「お二方の心全てをわかっているとは申し上げられませんが、察するところはございます。お二方がアインズ様へ何も申し上げられないのは、アインズ様にご理解いただくことが困難であると考えているからと存じます」

「アインズ様ヲ愚弄スルカ!!」

 

 猛るのはヴァーミンロードのコキュートス。他のシモベも似たり寄ったり。アインズ様を侮辱されて許せるものはこの場にいない。アインズが指を振れば直ちに然るべき運命を与えてやろうと意気込んでいる。

 瞬きする間に己を千殺する殺意を向けられても男の態度に揺るぎはない。初めてなら面食らったろうが、幸か不幸か今を凌駕する灼熱の殺意を間近で浴びたことがあった。

 

「コキュートス様でいらっしゃいますね。コキュートス様は剣を得手としていると伺っております。アインズ様の剣として日々弛まぬ鍛錬に励んでおられると推察します。ではアインズ様から剣術の指南を受けたことがおありですか?」

「ム……、アルワケガナカロウ」

「何故です? コキュートス様が思うアインズ様は全てをご存知なのではないでしょうか? であれば剣理にも深く通じておられるはず」

「アインズ様ハ魔法ヲ使ワレル。剣デハナイ」

「その通りです!」

 

 男は大仰にコキュートスの言葉を肯定した。

 

「アインズ様に剣は必要ない、或いは必要なかった。アインズ様の英知が他に類するものがないことは私もよく知るところでありますが、アインズ様に必要ない知恵も知識もまた存在するのです。それら全てをアインズ様に知っていて欲しいと言うのはコキュートス様の我儘に他なりません」

「ムウ……、確カニソノ通リダ」

「お判りいただけたようで幸いです。お二方が話せないのはアインズ様にご理解いただくには余りにも愚かしい事が原因だったのです」

「フム…………。マルデデミウルゴスト話シテイルヨウダ」

「デミウルゴス様であれば一言二言で伝えられることを、私は十や二十も重ねなければなりません。私が及ぶべくもない方です。ですが、これ以上の評価はありますまい。ありがとうございます」

「ウム、続ケヨ」

「はっ」

 

 守護者の一であるコキュートスをあっさりクリアー。

 男は滔々と話し始めた。

 

「例えるならば、片や足の速さを誇り片や絵の上手さを誇る。そして両者が競いたいのは料理の腕でした。しかし足の速さと絵の上手さで競えるものではありません。そのくらいはお二方にもわかっています。わかっていてなお競おうと思ってしまいました。それが原因です」

「………………なんだそれは?」

 

 アインズのみならず、聞いている者全員が同じ感想を抱いた。

 

「それがどれほど愚かしく理解しがたい事か、アインズ様にお伝え出来たかと存じます」

「理解出来ないのはわかった。しかしそれでどうして争うことになる?」

「女のプライドです」

「………………………………………………」

 

 それは問答無用で男を黙らせるパワーワード。

 

(お姉ちゃんわかる?)

(まあ……、わからなくもないけど……。シャルティアだってもちろんわかってるわよね?)

(わわわわかるでありんすよ? 女には譲れないものがあるでありんすからにして女のプライドが掛かった戦いなら仕方ないでありんしょう?)

 

 そして女を納得させてしまうマジックワード。

 

 

 

 

 

 

 今や御骨となった大魔法使いであり、かつては人間の魔法使いであったアインズ様には手も足も出ない分野でした。

 しかしここで「はいそうですか」とは言えません。

 そんな事を言おうものならこんな場を設けてしまった自分の沽券に関わりシモベ達に呆れられてしまうかも知れないと考えています。

 

「そもそもお二方は自分たちの争いがこのような騒ぎになるとは思ってもみなかったのだと存じます。私が知る限りでも、アルベド様とシャルティア様は度々意見を異にしておられます。その結果、相互理解のためにぶつかることが少なからぬかと。ソリュシャン様とルプスレギナ様の衝突はその範疇。お二方は姉妹喧嘩の域を出ていないと思っておられるでしょう」

 

 アルベド様とシャルティア様はそっと目逸らし。

 アインズ様も守護者各位もプレアデスも一般メイドもその他のシモベ達も、この場にいる全員がアルベド様とシャルティア様のキャットファイトを一度ならず目撃していました。

 それを言われてしまうと、あれはよくてどうしてこっちはダメなんだとなってしまいます。ダブルスタンダードはよろしくありません。

 あちらは偉い方たちだからと言う事にしても、偉い人の真似をした初めての過ちで厳罰を与えるのは誰が見ても行き過ぎです。

 

「…………アルベドとシャルティアのは単なるじゃれ合いだろう。しかしソリュシャンとルプスレギナはスキルも魔法も使用していた。同列には扱えん」

 

 アインズ様がご覧になっていた僅かな時間でも、ソリュシャンとルプスレギナはスキルと魔法をフル活用した全力全開のバトルを繰り広げていました。あれは間違いなく相手を殺傷するための攻撃です。

 男の言葉に納得しかけましたが見逃せません。

 

「それこそが互いを深く理解し信頼し合っている証左に他なりません。例え相手を全力で攻撃しようと傷つけることが出来ないと理解した上での争いです。もしも本当に傷つけようと望んだとしたら違う方法を考えたことでしょう。例えば、エ・ランテルにはナーベラル様が滞在しておりました。ナーベラル様の助力があればどちらへも転び得ます」

「…………お前はただの姉妹喧嘩と見做すのか?」

「喧嘩と呼ぶよりはより深い相互理解のための衝突と思っております。現にお二方には傷一つありませんし」

「………………ふむ」

 

 一々尤もで反論のしようがありません。だけれども、何かが引っかかるのです。

 アインズ様は石橋を叩いて渡るどころか、安全マージンを十分とった橋を新設して他の誰かに試しで渡らせてから自分が渡るくらい慎重な御方です。

 性格的に気掛かりを放っておくわけにいきません。

 そしてその気掛かりは男の口から得られました。

 

「ただ…………、もう少し周りを見て欲しかったと言いましょうか場所を選んで欲しかったと言いましょうか、屋敷の庭が……まあ、それは酷い有様になってしまいまして。メイドたちには冒険者に場所を貸して夜間訓練を行っていると言い含めてきましたが……。夜間であることが幸いして目撃者はおりません。ですが中庭の復旧作業が夜明けまでに終わるかどうか。そこだけは私から注意しておくべきだったと反省しております」

 

 アインズ様の気掛かりはそれだったのかも知れません。

 ルプスレギナが人狼パワーで暴れた結果、立派な庭木が何本もへし折れてしまいました。

 ソリュシャンがスライムスキルを惜しげもなく発揮したおかげで小さな毒沼が幾つも生まれています。

 現在、デスナイトの方々が夜通しの復旧作業に勤しんでいる最中です。

 アルベド様とシャルティア様がキャットファイトをしてもメイドがちょちょっと掃除をすれば済みますが、こちらはその比ではありません。

 

「そうだな。姉妹喧嘩もいいが後の事を考えよ」

 

 バカ二人、首を一層深く垂れて元気よくお返事しました。

 お許しの言葉やったぜでございます。

 

「後の事はアルベドに任せよう。女同士の方が話しやすいこともあるだろう」

「かしこまりました」

 

 そして地獄行き決定の裁決が下されました。

 

 アルベド様はアインズ様のお傍に侍っているのでたおやかな笑みを浮かべてはおりますが、内心は煮えたぎっていました。

 本日は特別なお食事の日だったのです。

 当初の予定では、今頃エ・ランテルのお食事部屋でエロエロでれろれろのぐっちょぐっちょに濃厚なすぺっしゃるディナーを楽しんでいたはずなのにこのような沙汰になっているのです。

 ナザリックにおける慈悲と慈愛の聖母であられるアルベド様であってもちょっと許せません。

 でも大丈夫です。多少やり過ぎてしまっても回復魔法のエキスパートであるペストーニャがいます。

 リザレクションが大活躍です。

 

 

 

 

 

 

「ところでお前がナザリックに足を踏み入れるのは初めてだったな。何か感想はあるか?」

 

 アルベドの心中を知らず、心で泣いてるソリュシャンとルプスレギナも知らず、アインズ様は男へ問いかけました。

 蓋を開けてみればただの姉妹喧嘩だったのに大袈裟にしてしまった照れ隠しです。ナザリックは素晴らしいところだろうと自慢したい気持ちも大いにあります。

 

「ここは人が足を踏み入れてよい場所ではありません。ナザリックからいらした方々から話だけは聞いておりましたが、私の想像からは隔絶しておりました」

 

 実を言うと玉座の間に連行されて最初に思ったのは「天井すげえ高いな」だったのですが、さすがにそれは子供っぽすぎる感想と我ながらに思うので言い繕いました。

 

「私は王都に長く、王城や宮殿を見知っております。ですがナザリックとは比較になりません。広い、その一事であっても人が作り出せるものではありません。ナザリックの素晴らしさは言葉に尽くせるものではないでしょう」

「うむうむ」

 

 ナザリックを愛しているアインズ様です。

 とりあえずナザリックを褒めとけば好感度だだ上がりなちょろいお骨なのです。

 

「しかしだからこそ! 美しく荘厳であり、これまでに、そしてこれからも二度と存在することがないであろう素晴らしい場所であるだけに、決定的に欠けているものがあると愚考します」

 

 

 

 場が静まり返った。

 アインズ様のご裁決により落ち着き始めた空気がたちどころに張りつめた。

 破裂寸前まで充満されたのは怒りである。

 ナザリックを侮辱されて許せるものはこの場にいない。

 しかし、シモベ達の怒りは形をもって振るわれることなく張りつめたまま。

 

「………………何が足りないと言うのだ?」

 

 アインズ様である。

 ナザリックを愛しているアインズだ。

 しかしだからこそ、ナザリックを侮辱するものは誰であろうと許しはしない。

 ナザリックは、今はもう会えない掛け替えのない友たちと創り上げた青春の結晶なのだ。

 ナザリックへの侮辱はアインズへの侮辱を遥かに超え、ギルメンたちへの友情と青春の年月を汚すに等しい。

 あれがアルベドが大切にしていようがソリュシャンとルプスレギナが惚れ込んでいようが知ったことではない。

 死が慈悲となるほどの苦痛に叩き込まなければ気が済まない。

 せめて最後の言葉を吐かせてやろうと猶予を与えた。

 

「これが王宮や帝都の宮殿であればただ素晴らしい美しいで終わりです。しかしナザリックは違います。存在しうる最上の美を擁するべきなのです!」

 

 静かに最後の言葉に耳を傾けるシモベたちの中で、ソリュシャンだけはまさかと思った。

 

「……ほう? お前が考える最上の美とは何だ?」

「アルベド様の像です!!」

 

 男は力強く言い放った。

 ソリュシャンは、お兄様ってほんとお兄様と天を仰ぎたくなる気持ちを押さえた。

 

 アインズは何も言えなかったし何も出来なかった。

 誰も動かない何も言わない。ああそうか誰かがタイムストップを使ったんだな俺は時間耐性あるから皆が止まってるのはおかしくないし。

 

「ナザリックに欠けている最後のピース。それはアルベド様の美神像です!!」

 

 止まっているはずの時間の中で、男の声が高く響き渡った。




今回のユニイベは俺一人で良かったんじゃないかくらい頑張ってました
前回ちょっとさぼったもので


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ゲットだぜ!

 不朽のナザリック史に残る大演説が始まってしまった。

 

「私はアルベド様がおわす場で『アルベド様は美しい』と口にするのは大変愚かしいことだと思っています。それは太陽を指してあれは太陽だと言うのと同じことだからです。皆様方には理解しがたいことかも知れませんが、この地において美しいという言葉は仮初めの物でした。アルベド様が降臨なさったその時に初めて真の意味を与えられたのです。故に『アルベド様は美しい』とは『美しいは美しい』『アルベド様はアルベド様』と言うも同然。ああなんてことだ……。物の本に寄れば物事を突き詰めればトートロジーになるとありました。アルベド様はまさにお名前だけで真理を体現しておられるのです!」

 

 初っ端から誰もついていけない全速力。そもそもトートロジーの意味がわかったのはアルベドと最古図書館の司書達だけ。ちなみにトートロジーとは同語反復のことで、例文として「青は青」「良いことは良いことだ」「アルベド様はアルベド様」などがあげられる。

 しかしナザリックのシモベには敵が不可解であろうと臆する者は一人もいない。ナザリックの一番槍が果敢にも切り込んだ。

 

「それじゃあアルベドと私とではどっちが綺麗でありんすか?」

「月が太陽になれないと同じで太陽もまた決して月にはなれません。シャルティア様は夜空に輝く銀月でありますゆえに」

「くふふ……、わかってるでありんすねぇ!」

 

 一合と噛み合うことなく打ち払われた。

 暗に『シャルティア様ではなくアルベド様』と言ったのだと気付いた者は多かったが、ご機嫌になったシャルティアへ水を差せようはずもない。

 

 男の演説は更に続く。

 

「おわかりいただけますか? 美しいと云うことはアルベド様のようだと云うことなのです。しかしみだりにアルベド様のお名前を唱えるのは余りにも不敬。故にこの地に住まう者達は劣った表現と知りながらやむなく『美しい』と云う言葉を使っているのです」

 

 讃えられているアルベドは階上から醒めた目で見下ろしている。しかし、腰から生える一対の黒翼はバッサバッサと羽ばたいて、隣に立っているシャルティアは鬱陶しそうに距離をとった。

 

「少し昔のことです。ある日のこと、私が眠りから覚めると目に映る全てが少しだけ明るくなっていることに気が付きました。これは一体どうしたことだろう、一体なにが起こったのだろうと疑問に思いましたが、アルベド様に拝謁叶った時に全てを知りました。この方が世界に光をもたらしたのだと。またある時には床が点々と光っているのを目にしました。この時ばかりは我が目を疑ったものです。なんと、アルベド様の足跡が光り輝いていたのですよ!」

「さすがにそれは嘘でしょ」

 

 思わず突っ込んでしまったアウラへ、ギロリと鋭い視線を送った。アウラが思わず身構えるほどに強い視線だった。

 ナザリックのシモベ達がアインズ様を賛美しているときに邪魔されると、9割以上のシモベは邪魔した者を誅殺する。アウラは1割弱に入るが、それでも余計なことを言えない体にするくらいはするだろう。

 それと同じである。誰であろうとアルベド様への賛美を邪魔するのはかなり許されない。

 

「アウラ様でいらっしゃいますね。私は私、あなたはあなた。共に同じ物理世界に存在していますが、鳥の目・犬の耳・猫の鼻は同一の対象をそれぞれ違うやり方で知覚しています。優れたレンジャーであるアウラ様が観る世界を私が観ることは叶いませんが、私が観ている世界をアウラ様が捉えることも困難でしょう。知らないことを知っているとうそぶくのはとても危険です。ナザリックの末席を汚している私にすらアインズ様がどれほど情報を重要視しているか耳に入っています。アウラ様は情報の真偽を確かめることなく確かなことであるとご報告されないでしょう?」

「う……うん……」

「そのように自らの過ちを直ぐに認められるアウラ様だからこそ皆に慕われアインズ様も信頼なさっておられるのでしょう」

「………………どーも」

 

 男の演説は一瞬たりとも止むことなく続き、アウラは隣に立つマーレの背にそそくさと隠れた。

 100レベルのアウラであっても論戦で知の怪獣に立ち向かうのは無謀が過ぎた。

 

 勝ち目があるのは、まずデミウルゴス。男が密かに心の師と敬うお方である。しかし現在出張中。

 次にパンドラズ・アクター。アインズが創造したNPCであり、デミウルゴスとアルベドに匹敵する頭脳を持つ。しかしこちらもエ・ランテルでアインズの影武者として出張中。皆の前に出すのがちょっと恥ずかしいと思うアインズの意向も大いにある。

 

 そしてアルベドはと云うと、少し前から黒翼は羽ばたくのを止めていた。翼は力なく萎れ、先端が床に落ちている。澄ました顔こそ変わらないが僅かに俯け、頬が少し赤くなっている。時折上目遣いに男へ恨めしそうな視線を送った。

 そんなアルベドをアインズは横目で見やり、大喜びしていた。

 

(ふははははははっ! どうだアルベドよ、褒め殺しはきついだろう! お前たちがいつも俺にやってることだからな? 俺がどれほど苦しんできたか思い知るがいい!)

 

 アインズのカルマ値は-500。配下の苦しみにすら愉悦を覚える極悪である。

 

「アインズ様が偉大なのは皆様もご存じの通りです。しかし偉大であることよりも偉大であり続けることの方が遙かに難しい。アインズ様がかような難事を容易く為されるのは何故か? アルベド様が支えているからです。これは内助の功と云うものです」

 

 ちょいちょいアインズ様上げも入るため、シモベ達は心地よく聞いていられる。

 

 面白がって聞いていたアインズだが、いつまでも喜んでいるわけにいかなかった。演説の内容がおかしな方へ向かっている。

 

「画竜点睛と云う言葉があるそうです。とある画聖が壁画に白竜を描き目に瞳を入れたところ、壁画の竜はたちまち本物の竜に変じて天に上ったそうです。ナザリックも同じです。現在のナザリックはまさに画竜点睛を欠いている。そこへアルベド様の像があればナザリックはたちまち天に上ることでしょう。地下大墳墓ではない、天空の大宮殿ナザリックになるのです!」

 

 そんなわけねーだろと誰しも思ったのだが、ナザリックで随一の純心を持つ者が応えてしまった。

 

「す……すごい……。ナザリックが飛ぶんですか!?」

 

 マーレ・ベロ・フィオーレ。アウラの双子の弟であるが、創造主の趣味により女装をしている。とても可愛い。

 

「マーレ様でいらっしゃいますね。ナザリックが天空の大宮殿となるのを見たくありませんか?」

「み……見たいです!」

「アルベド様はお美しいでしょう?」

「はい! アルベドさんはとっても綺麗です!」

「そうでしょうそうでしょうそうでしょうとも!」

 

 マーレもまた、姉と同じく階層守護者である。ゆえに格がそれ以下の者は突っ込めなくなってしまった。

 アウラは戦意を喪失し、シャルティアはナザリックが天空の大宮殿になるならアルベドの像を飾るのも悪くないでありんすねと考え始めている。

 アインズは適当なところで却下するつもりだったが、不味い流れになってきた。

 

(このままだと不味いな。セバス、行け!)(かしこまりました)

 

「アルベド様の像を飾るのは中々のアイデアだと思いますが一体誰が製作するのですか?」

「私が造ります」

「あなたが? 失礼ながら、あなたに彫刻の経験があるとは思えません」

「彫刻どころか絵筆すら握ったことがありません。しかし、アルベド様の像を造るのならたとえどんな凡夫が手掛けようと空前絶後の傑作になることは明らかです。もしも駄作を造ろうものなら目が開いていようとアルベド様のお姿を全く映してないのと同じこと。その時には我が目を抉り、アルベド様に返上いたします」

「そ…………そうですか。……その、返上とは?」

「私の血肉はアルベド様のもの。私が有効に活用できないならばアルベド様へお返しするのが道理です」

「………………なるほど」

 

 セバス、敗退。

 王都で出会った騎士見習いとは何もかも違う。元が同じ王国民とは思えない。

 

(ぬぬ……。コキュートスよ、行くのだ!)(承知イタシマシタ)

 

「像ガ完成シタ暁ニナザリックガ飛バナカッタラドウスルノダ?」

「コキュートス様は剣を扱われるのですから、きっと様々な剣術の型に通じておられるでしょう。しかし時には刃を己自身と為し全身全霊全能力全生命を掛けた一刀を繰り出すこともおありでしょう?」

「ム……アルガ、ソレハ関係ナカロウ」

「大いにあるのです。刃を振り上げたときに世界が始まり、振り下ろしたときに世界が終わる。そのような一太刀を使うときに、避けられたら受けられたらなどと考えますか?」

「ソレハ剣ノ極致ダ」

「アルベド様の像を作るときも同じなのです。コキュートス様の問いかけは駄作を造れと云うに等しい。けして答えてはならないものと愚考します」

「ムウ…………、ソウダナ。許セ」

 

 あろうことか、守護者が全て破れてしまった。

 

「皆様もアインズ様が地の支配者に留まるのは不足だとお考えのはずです。アインズ様は地のみならず天すら統べるに相応しいお方。ナザリックは地下ではなく天上にあるべきなのです!!」

 

 アインズ様の御前であるため、声を上げる愚か者は一人としていなかった。

 しかしそれでも、シモベ達が高揚しているのは玉座に座るアインズにまで伝わってきた。

 誰もが期待を込めて己の偉大な支配者へ視線を送っている。

 

(な……なんだこいつら、さっきまで八つ裂きにしてやろうみたいな雰囲気だったのに。こいつの人心掌握術が凄すぎるのか? ギルメンにもこんな奴はいなかったな。くそう、そんな能力が欲しかったぞ! もしも俺がこいつみたいに…………あーあーやめやめ!)

 

「アインズ様!」

 

 男は伏して願い出た。

 

「どうかナザリックを天に上らせる許可をお与えください!!」

 

 

 

 

 

 

 男の動きがピタリと止まった。

 守護者達を筆頭に時間耐性がある者達は第十位階魔法であるタイムストップが使用されたことを悟った。使用者はどうやらアインズ様である。アインズ様のなさることに間違いはない。苦言を申し上げるわけがなく、アインズ様のなさることを見守るのみ。

 中でもアルベドはあどけない少女のように瞳をきらきらと輝かせてアインズ様へひたむきな視線を送っている。

 

 アインズ様はタイムを要求したのでした。

 シモベ達の気分が盛り上がっているし、もしも像が完成してもナザリックが飛ばなかったら笑い話にするとして、製作の許可を出そうと考え始めていました。

 しかし男から急に名前を呼ばれてビックリしてしまい、感情抑制が発動。冷静になることが出来ました。そして男の巧妙な罠に気付いたのです!

 天空の大宮殿とかアルベド像とか言ってますが、ことの始まりはナザリックに相応しい最上の美。アルベド像の製作許可を与えると云うことは、アルベドが最上の美であることを認めることに他なりません。

 アルベドが凄い美人であることはアインズ様も認めるところですが、最上の美かと云われると自信がありません。それにもしもそれを認めようものならアルベドとシャルティアの正妃争奪戦に決着がつきゴールイン待ったなしになりかねません。

 それはちょっと困るのです。

 まだまだ自由でいたくてもっともっと冒険したいのです。結婚とか大それたことはちょっとまだ早いというかあれがあれで兎も角困るのです。

 しかしここからどのようになしの方へ持って行けばいいのか。

 シモベ達はどうやら大賛成。

 主である自分を守護するはずの守護者達は全敗して本当なら戦ってはいけないはずの自分の番がやってきてしまいました。

 アインズ様は考えて考えて、タイムストップの効果時間が切れたときに閃きました!

 

 

「お前の言う通りアルベドは美しい。勿論シャルティアも美しい。アウラもマーレも、コキュートスもセバスも、ナザリックのシモベ達は全てが美しい。私の仲間達が創造した掛け替えのない愛し子達なのだ。アルベドの像を飾り、ナザリックをより美しい場所にするのも良いだろう。しかしそれでいいのか? 今のナザリックだからこそ皆の美しさが際立っている。ナザリックが美しいのではない。ナザリックにいる者達が美しいのだ! お前の言うことは絵の額縁を飾りたてるようなもの。ナザリックは今のままでよい。ナザリックは美しい者達で満ちているのだから」

「なっ……………………」

 

 男は跪いたまま、大きく目を見開いてアインズを見た。

 

(やったか!? やったよな!? 頼む反論しないでくれ!)

 

 アインズを見つめていたのは数瞬、男は深く頭を垂れた。

 

「…………感服いたしました」

 

 男が敗北を宣言すると同時に、シモベ達は天空の大宮殿の望みが絶たれたというのに割れんばかりに手を打ち鳴らした。アインズの栄光を讃える歓声も止まない。

 己の偉大なる支配者がお前たちは美しいと言葉を尽くして讃えてくれたのだ。

 シモベ達は涙を流しながらアインズ・ウール・ゴウンの栄光を讃えた。

 

 歓声はアインズの栄光を讃えるものだったが、アインズには熱弁を振るっていた男を讃えているようにしか思えなかった。

 

 

 

 

 

 

(もしかしてこいつがやろうと思えばナザリックを乗っ取れるんじゃないか? デミウルゴスが随分と評価しているしもしも二人が手を組んだとしたら……。いやいやデミウルゴスが裏切るわけがない!)

 

 慎重すぎるアインズは男が危険であるとの思いを脳裏から振り払えなかった。

 勿論杞憂である。男にとって、ナザリックの乗っ取りや世界征服よりも夕飯にポテトサラダがついているかいないか、ついているとしたらリンゴが入っているかいないかの方が重要である。

 しかしアインズは知らない。

 精神支配して尋ねれば済むことだが、今この場では出来ない。後でやろうにもどういう名目で呼び出せばいいのか。出来れば今この場で安心が欲しい。

 アルベドへの心酔振りから裏切りの可能性はゼロに等しいだろうが、完全なゼロにしたい。

 そのためにはナザリックの一員であることの益を与える必要がある。

 

「中々面白い話だったぞ。褒美を取らせよう。何か望むものがあるか?」

 

 シモベ達の歓声がピタリと止んだ。今までの喜びようとは打って変わって男へ憎悪すら入り交じる羨望の眼差し。

 

 これによって男を密かに抹殺する選択肢が消えた。男が演説を始める前なら何とでもなったが、アルベドとナザリックへの忠誠をこれでもかと主張し、アインズが直々に褒美を取らせるほど評価している男を処分しようものなら必ずや疑念を抱かれる。特にデミウルゴスあたりは男の頭脳故に手を下されたと察するだろう。忠誠心があっても有能であらば処分しかねない主君と思われてしまう。

 居並ぶシモベ達は男を脆弱な人間と蔑視するも、自分たちがあれほどまでアインズ様を崇拝しているかと言えば、言いたいのだが、忠誠心の深さで敗北感を覚えたものも、人間なのに中々出来ていると思うものもいる。

 激辛評価に定評があるデミウルゴスから、人間にしては出来ていると言われたのは伊達ではない。

 アインズがしまったと気付くのは翌日のことである。

 

「すでに十分すぎるほどの給金をいただいております。これ以上を望むのは過分であるかと」

 

 そのお給料は全額を娼館につぎ込んでいる。他に使い道がないわけだが、字面を見るともの凄くダメな男である。

 

「それはお前の仕事への対価だ。褒美と言ったぞ? 私に恥をかかせるつもりか?」

 

 ずるい言い方である。それを言われると配下は受け取らざるを得ない。

 

「アルベド様が望むものが私の望むものでございます」

 

 ナザリックのシモベ達とて同じことを言うだろう。

 アインズが隣に立つアルベドをちらと見ると、アルベドは小さく頷いた。

 

「アインズ様はお前の望みを言えと仰せよ。私に関わることではないお前だけの望みを言いなさい」

 

 アルベド像が却下されてちょっぴり気落ちしているアルベドだが、心はなんだかぽわぽわしていた。

 

「それでしたら……」

 

 ここで素直に自分の望みを言えるところがナザリックのシモベ達とは違うところである。

 

「ナザリックにある大図書館を利用させていただけたらと存じます」

 

 制限はあるものの、ナザリックのシモベであれば図書カードを作れば誰でも利用可能である。

 そんなことかとアインズは拍子抜けし、一応念のために閲覧させられない書物もあると言いおいた上で許可を出した。

 

「いよっしゃーーーーっ!! やったーーーーーーっ!! ……………………はっ!? 嬉しさの余り無礼な真似を」

 

 両拳を突き上げての快哉の雄叫び。何をしたかに気付いて慌てて跪いた。

 

「よい。そのくらい素直に喜んでくれた方が私としても嬉しいぞ」

「ありがとうございます!」

 

 頭はいいのだろうが、こうも素直に感情を表す男が裏切るとはさすがに思えなかった。

 

 

 男は図書館利用権をゲットした!



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女たちの法廷

 そして夜が明けた。

 

 ナザリックはアインズ様の遠征のための準備に戻り、エ・ランテル組もアインズ様の居館へ或いはメイド研修所となったアルベド様のお食事処へ戻っていった。

 ソリュシャンやルプスレギナら異形種は数日程度は不眠不休で活動可能だが人間はそうもいかない。

 連行された三人の内唯一人間であったお屋敷の若旦那様は屋敷に戻るなりベッドに直行し、起き出したのは昼近くになってから。一昨日と全く同じパターンで生活リズムが夜型になりつつあるのを気にしている。

 食事をとったら書斎で読書。デミウルゴス様からの課題図書を一息に片付けるつもりでいた。

 提出するレポートの作成に一日かかるとして、明日は一日ずれたアルベド様のお食事日となったので明明後日にはナザリックの最古図書館に行けるはずである。

 物凄くワクワクしながら右手の指が腱鞘炎になるのも構わず凄い勢いでページを捲っている。もしも腱鞘炎になったらルプスレギナに回復してもらえばよい。ルプー最高愛してる。

 

 ちなみに荒れた中庭の復旧はちょっぴりイメチェンしたがなんとか夜明け前に間に合った。いい仕事をしたデスガードの方々へ特別手当を出したいところであるが彼らはアンデッドであるためそのような気遣いは無用であった。

 

 

 ルプスレギナは、若旦那様のすぐ傍でにっこにっこしながら読書風景を眺めている。

 お婿さんになってもらって赤ちゃん産むっすよーと宣言するくらいなのだから好感度は非常に高かったがこのたび上限に達した。

 セバス様に根回ししてお兄様のお嫁さんになろうと考えていたソリュシャンなどは限界突破してしまった。

 

 昨夜の一件の影響である。

 派手に姉妹喧嘩をしてアインズ様に止められ、事情聴取のためにナザリックへ連行される寸前、お兄様は「私もいた方がいいでしょう」と手を挙げたのだ。それだけでなく、アインズ様からは見えないように二人へ向けて目配せし唇の前に人差し指を立てた。

 自分が弁明するので二人は黙っているようにとのジェスチャーであると誤解することなく受け取った。

 二人はアインズ様へ偽りを申し上げるつもりは微塵もなかったが、自分たちよりも頭が良ければ口も上手いお兄様にお任せした方が誤解のない正しい情報を伝えられると判断した。

 その結果、アインズ様からお許しの言葉を与えられた。

 アルベド様からは厳しい叱責を与えられると覚悟していたが、こちらも「姉妹喧嘩をするならあの子に迷惑を掛けないようにしなさい」と非常にお優しいお叱りの言葉で終わってしまった。その時のアルベド様がどれほど優しかったかと言うと、色々あってアウラ様とのキャットファイトに敗北したシャルティア様がその様子を見て、「気味が悪いでありんすね」とこぼされるほど。

 その後にアルベド様とシャルティア様の戦いが始まるのはいつもの流れである。

 

 喧嘩の原因となったのは兎も角、わざわざ二人の弁護をする必要はなかった。

 アルベド様が大切にしている御食餌であろうと、無力な人間であるお兄様にはソリュシャンが気付いただけでも5回以上は命の危険があった。

 そんな危険を冒してまで自分たちの弁護をしてくれたのだ。

 人狼であってもスライムであっても胸キュンしちゃうのは無理もない。

 

 ちなみに大演説が終わった後、回復魔法のお世話になっていたのを姉妹とお茶をしていた二人は知らないでいる。

 誰かに危害を与えられたのではなく、ナザリックにはそこにいるだけでダメージを負ってしまう場所が幾つもあるのだ。男を連れ回していたコキュートスとマーレがペストーニャから叱られてたりするのは余談である。

 

 

 ソリュシャンは、ぽーっとしながら愛しのお兄様が本のページを捲っているのを眺めている。

 本なんかではなく自分を見ていて欲しいが邪魔をしたくないジレンマ。

 しかし、己のつまらぬ葛藤よりアインズ様からのご命令を優先しなければならない。

 お兄様につまらないことを訊かなければならない。もちろんアインズ様のご命令がつまらないわけではなくてどうして今になって自分がそれを訊かなければならないのかと言う事だが自分がお兄様と一番親しいと思われているからこそ自分に下った命令であって云々。

 意を決して尋ねた。

 

「お兄様は人間をどう思っていらっしゃるのですか?」

「人間は人間だと思ってるよ」

 

 安定のお兄様クオリティ。ルプスレギナは思わず顔を引きつらせたがソリュシャンはこんなことで負けはしない。

 

「もう少し詳しくお願いします」

「牛馬や犬猫と同じ生き物の一種だと思ってるよ」

 

 ページを捲る手は止まらず、問いかけてるソリュシャンの方を見もしない。しかしソリュシャンはまだめげない。

 

「それでは人間に好意を持っていますか?」

「相手によるね。メイドの子たちには世話になってるし、この前店を開いたパン屋のウィットニーさんは尊敬に値する。あんな質の低い小麦粉であれほど美味しいパンを作れるんだから。魔導国から提供される上質な小麦粉を使えばどんなのが出来るのか楽しみにしてるよ」

「ああ、あのパン屋の。確かに王都で食べたものよりも……いえそうではなくて、ああもうなんて聞けばいいのかしら……」

 

 質問力は非常に重要。疑問とは知識の山に突き立てるスコップのようなものである。

 

「それじゃ人間が苦しんでたらどうするっすか?」

「それも相手によるね。さっき言ったようにメイドの子たちだったら何とかしたいと思うよ。そうでなければ別にどうでもいいかな」

 

 ルプスレギナにバトンタッチ。しかし相変わらず木で鼻を括ったような素っ気ない返事。

 割と二人が望んでいる答えに近いような気がしなくもないがなんか違う。

 

 

 二人へこのように面倒な命令をアインズ様が下したのは昨夜の大演説の後が原因です。

 ソリュシャンとルプスレギナは姉妹とお茶をして長女のユリ・アルファ様からお小言をもらったりしていましたが、若旦那様はシャルティア様に拉致られようとしたところをアウラ様に助けられマーレ様に匿われコキュートス様と意気投合してナザリックを案内してもらっていました。

 ちなみにシャルティア様が拉致ろうとしたのは配下のヴァンパイア・ブライド達へ若旦那様から舌や指のテクを教えさせようと思ったのですが、吸血鬼がねぐらへ人間を連れこむとなれば吸血するに決まっていると思ったアウラ様によって「あんたなにやってんのー!」と正義のドロップキックによって阻まれたのでした。

 若旦那様はコキュートス様とマーレ様の案内でコキュートス様が守護しているナザリック第5階層「氷河」に連れていかれて凍死しかけ、ペストーニャ様のお世話になったのは先述したとおりです。

 なんとか事なきを得て、凄い凄いと連発する若旦那様にコキュートス様とマーレ君もにっこりでした。マーレ様からマーレ君になったのは、ここから若旦那様がマーレ君を肩車したからです。「子供扱いは止めてください!」とマーレ君からクレームがありましたが、「マーレ様が大人でもしましたよ」とあっさり受け流します。大人が肩車されていけない法はナザリックにもないのです。

 そういうことならとマーレ君は受け入れて、いつもより高い視線に割とはしゃいでいました。なんだかんだとカルマ値が中立よりなマーレ君ならではです。

 先導しているコキュートス様はヴァーミン・ロードの凶相にも関わらずカルマは中立から善よりです。なんだか楽しそうだなとほっこりしながら眺めていました。

 そこで事件、というほどのものではないのですが、あるものを若旦那様が目撃したのが発端です。コキュートス様の守護階層には先だってゲヘナ作戦の折りに捕獲した王国民を冷凍保存してあったのです!

 それを見て若旦那様は一言。

 

『衛生的でいいですね』

 

 嫌悪も恐怖もない言葉で、むしろ感心した様子でした。

 コキュートス様とマーレ君は若旦那様の態度にこれと云って何も思いませんでしたが、報告を受けたアインズ様は違いました。あいつは人間なのに一体何を考えているんだ。

 若旦那様の真意を探るべくソリュシャンとルプスレギナに命令を下したのでした。

 

 

 二人がどう聞くべきか思いあぐねているのをシクススがじとーっとした目つきで見つめている。

 数日振りにメイド教官が回ってきたと思ったら何故かルプスレギナ様がいて、若旦那様にとても馴れ馴れしい。昨夜の顛末をほとんど知らないシクススからすればとても不思議と云うより不審である。

 若旦那様が恥ずかしい思いをしないようにお手伝いを始めたのは遊び半分好奇心半分だったというのに、意外と一途で重い女の子なのかも知れない。

 

 三者がそんなことになっているのを知らず、知ったとしても構わずに本を読み続け、最終ページを読み終えた男はようやっと視線を机から上げた。

 読書中だったので生返事だったが、何を聞かれたかは記憶にある。折角目を上げたのでもう少し詳しく話すことにした。

 

「俺は子供の頃に酷い火傷を負わされずっと狭いところに閉じこめられていた。そんな生活が続いて色々と諦める羽目になったけど子供の頃は助けて欲しいと思ってたよ。窓の外にも壁の向こうにも人がいっぱいいるのは知ってたから。でもそんな日は来なかった。今振り返ると俺は奥深いところに隠されていたから仕方ないとは思う。しかし仕方ないからと言っても考えが変わるわけじゃない。だから、俺は人間になんの期待もしてないよ。何か期待されても応えるつもりはない。こんな答えでいいかな?」

 

 いつものルプスレギナなら、へーっと流すところだが、未来のお婿さんがそんな目にあわされていれば許せない。

 

「誰がやったんすか?」

「アルベド様はご存知だよ」

 

 アルベド様のお名前を上げたと言うことは全てはアルベド様にお任せしていると言うこと。ルプスレギナが出る幕はない。

 

「憎くはないのですか?」

「ないことはないけれど、もしも復讐なんてしたら、あれは何をされても喜ぶだろうし余り興味ないかな。そんなつまらないことよりもどうしたらアルベド様にもっと喜んでいただけるかの方がずっと大切だよ」

 

 アルベド様のお名前を上げられると何も言えない。ソリュシャンとて自身の復讐心よりアインズ様がお喜びになることを選ぶのは間違いないのだから。

 

「ありがとう」

 

 シクススが出してくれた甘いお菓子を口に運び、次の一冊に手を伸ばした。

 

「そのおかげでアルベド様にお会いすることが出来たし、アルベド様にお悦びいただける技術も身に付けられた。悪いことばかりじゃなかったかな」

 

 本を開き始めた若旦那様は空気が一変したのに気付きませんでした。

 お兄様がアルベド様にお悦びいただくために何をしているのか見てはいないが察してはいるソリュシャンお嬢様です。

 

「女性だったのですか?」

「そうだよ」

 

 読書に戻ったので深く考えることなく生返事。

 

「……美人だったんすか?」

「まさか。アルベド様とは比べるべくもない貧相な小娘だよ」

 

 比較対象にアルベド様が上げられる時点で相当な美貌なのだと察せてしまう。

 

「閉じ込められていたのはどのくらいの期間だったのでしょうか?」

「十年はあったと思うな。子供の頃は暦なんて知らなかったから正確じゃないけど」

 

 三人は若旦那様から離れてひそひそと若旦那様の罪について話し合った。

 

 ソリュシャンはお兄様がかなり女体慣れしていることを随分前から気付いていた。

 ルプスレギナはおにーさんの滅茶苦茶上手なセックスでメロメロになってしまった。

 シクススはそうでもないかも知れないけど、挿入してちょっと裂けちゃったところへポーションと一緒に再挿入されて若旦那様専用に作り替えられてしまった。

 

 三人寄れば文殊の知恵。知力がそれなりでも三人集まればいい知恵が出てくるという意味である。

 三人がたどり着いた結論は、この男は何年間も絶世の美少女とセックスしまくりだったと云うこと。

 

 こいつはかなりのギルティである。

 

 

「お兄様」

「なにかな?」

 

 書物に目を落としたまま、振り返りもせずに答える。

 しかし今度は読書を続けさせてくれず、ソリュシャンに肩を掴まれスライムパワーで椅子から立たされた。

 ソリュシャンの美しい微笑を見て、ドレスを脱ぎ捨てた一糸まとわぬ姿でいるのを見て、何をしようとしているのか察してしまった。

 

「待て! 止めてくれ! 俺が悪かった! 謝るからそれだけは止めてくれ!」

「聞きません。お兄様はアルベド様からあれだけお叱りの言葉を頂いたのに何も反省なさらないのですね」

「くそっ、ソリュシャン謀ったな!? ルプー! シクスス! ソリュシャンを止めてくれ!」

 

 若旦那様の必死な様子にルプスレギナとシクススは思わず顔を見合わせて、ソリュシャンに溶かされるのがどれほど痛いのか昨日味わったばかりのルプスレギナはちょっと可哀想かもと思ったが時遅し。

 

「うわーーーーーー………………」

「うふふ……、お兄様はソリュシャンの中でしばらく反省してくださいな♪」

 

 若旦那様はソリュシャンお嬢様の体に丸飲みされてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 ソリュシャンがお兄様を吐き出したのは日が落ちてから。

 いつぞやと同じように頭と胴体だけの体にさせられ、回復のために同席したルプスレギナはかなり引いた。ちょっとショッキング映像なのでシクススには遠慮してもらっている。

 そんな様でも回復魔法で元通り。

 しかし、完全に元の姿に戻ったというのにお兄様は床にうずくまったまま動こうとしない。

 やりすぎてどこか壊れちゃったのかもとルプスレギナは心配になったがやっちまったソリュシャンは動じない。

 

「うう…………、今日は一冊しか本が読めなかった……」

「それっすか!?」

「一日一冊しか読めないと死ぬまでに100万冊しか読めないんだぞ!」

「いやそれ何年生きるつもりなんすか……。そりゃ長生きしてくれたら嬉しいっすけど」

「反省なさいましたか?」

「…………………………はい。反省しました」

 

 心の中では俺は絶対に悪くないと思っているが、女心にそんな道理は通用しないと気付き始めていた。

 

 そんな風につつがなく一日を過ごし、夜を迎えた。

 回復魔法で万全になったが体調は最高に整えておく必要がある。

 美味しい夕食をとり、食休みをして、しばしとろとろとうたた寝し、湯を浴びて身を清める。洗い立ての清潔なナイトガウンを羽織り、その時を待つ。

 

 

 

 

 

 

 そして日付が変わった。

 アルベド様がいらっしゃる夜である。

 

「お待ちしておりました」

 

 日付が変わってから十も数えていない。

 エ・ランテルの大きなお屋敷の一等豪華なお食事部屋に、影すらも美しいお方がお出で為された。




モモンに扮したパンドラがとか考えましたがそれやると今度こそ人死にが出そうなのでやめました


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アルベドのお食事 ▽アルベド♯7

 エ・ランテルにある大きなお屋敷はナザリック守護者統括であるアルベド様のお食事処でありお屋敷の若旦那様はアルベド様のご飯である。

 お食事処のお食事部屋は屋敷にて一等豪華な部屋であるが調度品のたぐいは少なく、部屋の格調を高めているのは豪奢な天蓋に覆われた大きな寝台である。なにせ寝台はアルベド様がお食事を為される食卓であるのだから。

 その寝台の上に男が一人。アルベド様は紗の向こう。先にベッドに行きなさいとお命じになられてからそれなりに時間が経っているが入ってこようとしない。

 アルベド様のなさることに異論があろうはずがない男は只々待っている。寝台でありお食餌であるので寝ころんでいるが寝ころんでいると立ってしまうと云う矛盾。

 美の体現であられるアルベド様のお姿が目に入り、芳しくも官能的な甘い体臭に鼻腔を擽られ、アルベド様のお食事がどのようなものであるのか体験していれば寝ていても立ってしまうのは世界の真理である。

 しかし如何にお食事の内容がそのようなものであるとしてもちんちんおっきさせながら主人を待つのは如何なものか。

 鎮めるために精神を落ち着けるのに有効とされる素数を数え始めた。素数とは1と自分自身以外では割り切れない自然数のことである。40番目までは難なく数えられたが、数字が大きくなるに連れて難易度が激高に。特に素数同士の積は間違えやすく何度も検算をして確かめなければならなかった。なるほど確かに素数を数えるのは心を落ち着けるのに有効であると認識し、1069が素数であることを確かめられたとき、天蓋の繊細な紗が開かれた。

 

 アルベドがお食事部屋を訪れてから優に一時間が経過していた。

 

 

 

 

 

 

 アルベドが寝台に上るまで時間が掛かったのは何故か。

 男が紗の向こうに隠れるなり、アルベドは頭を抱えて奇声を上げた。

 

(あーーーーー~~~~………………、どうしてあの子はあんなにキラキラした目で私を見るの!? 確かに私より美しい女なんてこの世にいないでしょうけど私の存在が世界に光を溢れさせたとか美しいの真の意味をもたらしたとか、もしかしたらそうなのかも知れないけど言い過ぎでしょう! あの子の目は絶対に自分の言葉を疑ってないわね。本気で私が美の支配者とか慈悲と慈愛の体現者とか思ってるのは間違いないわ。だからそれは言い過ぎでしょう! 本当にそうかも知れないけど! なんてことなの…………あの子に見られるのがこんなに恥ずかしいなんて……。確かに私は凄い美人だけど。でも恥ずかしいものは恥ずかしいのよ! ……………………はっ!? モモンガ様も時々ご自分の部屋にお一人で過ごされている……。もしかしてモモンガ様もシモベたちからの讃辞に……照れていらっしゃるの!? ああなんてことなの、モモンガ様はなんて可愛らしいお方なの。モモンガ様のお心がわかったことだし今日はもう出直そうかしら。……いいえダメよアルベド絶対ダメ! 今日を逃したら次に来たときは絶対に邪魔が入るに決まっているわ!)

 

 男が昨夜ナザリックを去るときにアウラへ「ハムスケさんの毛皮を柔らかくする算段がつきましたので、ご都合がよろしければお出でください」と伝えており、アウラはどうしよっかなーと検討中である。アルベドの次回訪問時にアウラとはち合わせる確率は不思議な運命力の作用によりコインを投げたときに裏か表がでる確率と等しい。

 優秀な頭脳を持つアルベドは自身に絡みつく不思議な運命力をおぼろげながら察知していた。

 

(だいたい何で私が恥ずかしがらなければいけないのよ。あの子は、それは見た目はいいし素直だし頭は回るし私になついてる可愛い子かも知れないけど人間の男なのよ! どうして私が人間の男に照れなければいけないの! そんなのっておかしいわ! 私は堂々として、あの子に任せればいいの。………………でもこの前みたいにもの凄く気持ちよくなってイカされちゃったらどうしよう? あの時だって本当は帰るつもりなんてなかったのに、おまんこに入れて欲しかったのに。やっぱりあの子には何もさせないで私からしなければ。………………でもこの前みたいに失敗しちゃったらどうしよう? またあんな失敗しちゃったら私サキュバス失格よ……)

 

 夜這いを掛けて失敗した事実はアルベドの心に傷を作った。心の傷を癒すにはぶっといお注射を受けてとろとろでねばねばの濃厚なお薬を出してもらわなければならない。

 

(あっ…………そんなこと考えてたら濡れてきちゃった……。私の心はこんなに乱れているのに私の体はおちんぽを欲しがってるのね。そうよ、私はサキュバスだもの! …………そうだわ!)

 

 

 

 

 

 

 アルベドはおもむろにドレスを脱いで丁寧に畳み、黒曜石を削りだして作ったテーブルの上に置いた。

 ブラジャーは着けていない。ボリュームたっぷりの至高のおっぱいはそんなものがなくても形が崩れることはけっしてない。心と体が期待に高まって、外気に触れるだけで乳首がむくむくと立ち上がった。

 パンツは純白で黒い陰毛が透けて見え、恥部を隠すだけの極小である。脱ぐときはアルベドと生地の間に大いに糸を引いた。

 

 アルベドは全裸となり、長椅子の上に戻った。

 横たわり、両足は椅子を跨ぐ形となって大きく開く。

 誰の目をも釘付けにするたわわな美乳には触れず、両手は股間に伸びた。長く繊細な指は整えられた恥毛をかきわけ、潤み開いた割れ目に届く。

 

「はああ……もうおまんここんなに濡れちゃってるわ。指がぬるって入っちゃうぅ。うふぅ……、あっあっ……おまんこきもちいのぉ……。うぅ、でもあの子の指の方が気持ちいいのよ……。おちんぽだったらきっともっと気持ちいいわ……」

 

 左手は人差し指中指薬指の三本の指を揃えて下の口から垂れ流すとろりとした涎をすくい取り肉芽に押し当てた。数度こするだけで勃起して包皮がむけ、剥き出しになったクリトリスはとても敏感で一撫でするごとに足腰を震わせる。

 右手は中指をピンと伸ばし熟れた女の雌穴に、しかし未使用の乙女の純潔へと入っていく。爪が長かろうと以前習得したシークレットスキルの恩恵で繊細な媚肉を傷つけることはない。中は熱く、柔らかな肉が指に絡みつくも指の動きを阻害しない。

 指はリズムを付けてクリトリスを擦り、膣内を往復する。

 

 あっあっと声を上げながらアルベドは自慰をした。

 毎日していることなので全てはスムーズに運んでいく。

 目の前にもっとすごい快楽と美味しいミルクが待っているのにオナニーしている自分が切なくて、アルベドは涙を流した。

 泣きながら達した。

 男には何もさせないで受け入れる準備を自分でしようと思ったのに、いつものように気持ち良かったのに、何故か悲しかった。

 

 

 

 

 

 

「アルベド様!? いかがなさいましたか!?」

 

 紗をくぐって寝台に現れたアルベドは何も身に着けていなかった。

 全身がうっすらとピンク色に上気して、大きな乳房を飾る美しい乳首は固く勃起して自己主張し、足の付け根から太ももへ掛けて透明な汁を流して淫靡な香りを強く漂わせる。

 そこまでなら期待に胸を高まらせるだけだが、アルベドの美顔は頬を清らかな雫が流れた跡があった。そして目元は赤い。

 鈍感とか無神経とか散々言われてきた男であっても、アルベドが泣いていたことは一目瞭然であった。

 

「なんでもないわ」

「………………はい」

 

 何かあったに違いないが、アルベド様が何でもないと言うならば何でもないとしなければならない。

 

「……あら? あなたはまたおちんぽを大きくしていないの?」

「……アルベド様をお待ちしておりましたので」

「…………そう。それなら私が大きくしてあげるわ」

 

 さっきまで涙を流していたとは思えないほどに、美しく淫らで、悦びに満ちた笑みを見せた。

 

 アルベドは体を起こしかけた男を再びベッドに押しやった。

 大きくさせるには手や胸でもいいし少し体をくっつけてやれば、息を吹きかけるだけでも勃起すると知っているが、先ずは口で味わいたかった。

 長い髪が邪魔にならないよう片手で押さえ、舌を伸ばしてちょんと触れればそれだけで血が通ってくる。

 

「くふふ……、本当に大きくて素敵なおちんぽね。ちゅっ……うふ♡ ちょっとキスしただけで立っちゃったわよ? 舐めちゃったらどうなっちゃうのかしら? あむ……ん……んっんっ……れろ……ちゅうぅ……」

「あ…………アルベド……様……」

「んう? ……なあに?」

「それが……その……」

「うふふ、変な子ね」

 

 男がごくりと唾を飲み込む音を聞きながら、アルベドはもう一度口を落とした。

 うなだれていた逸物は、今や逞しく勃起している。熱い血が通って固くなり、雄々しく天を向いている。口を離せばへそまで反り返るだろう。

 両手で包んでも余る長さの逸物を、アルベドは苦も無く根元まで咥えた。

 根元を紅い唇で包むと亀頭は喉奥を突いてくる。それでもサキュバスであるアルベドは苦しさを感じることなく逸物の逞しさに悦びを覚えられる。

 口をすぼませて口内の粘膜と脈打つ逸物を隙間なく密着させ、その状態で頭を上下に振ってやれば男が快感に耐えてシーツを掴むのがわかった。

 ストロークを止めて、今度は亀頭だけを咥えて柔らかな舌で尿道口を舐めてあげると透明な粘液が先端から滲み出てくる。

 精液ほどではないが、先走りの汁だってアルベドは大好きなのだ。

 

(おちんぽがこんなに美味しいなんて……。おちんぽみるくが出なくてもずっとしゃぶっていたいの……。だっておちんぽが大きくて熱くってぴくぴくってしてて可愛いしぃ。ああでも上のお口だけじゃなくて下のお口でもちゃあんと食べないと。今日こそはちゃんとおまんこで食べるんだから! 泣いちゃうくらい切なくなってまでオナニーして準備したのよ!? 今日はもう絶対におまんこに入れるんだから! …………ん……、おまんこから垂れちゃってる。私のおまんこがおちんぽ欲しいってエッチなよだれ出しちゃってるわ。うふふ……、ちょっと悪戯しちゃおうかしら?)

 

 アルベドは男の逸物へ口淫している。男の股間へ顔を埋めているのはいつも通りだが今は一度だけやったことがある姿勢で、アルベドの脚は男の顔を跨いでいた。

 パンツも何も着けていない全裸で、男の顔を跨いで、事前に何度も達するほどオナニーをした熟れ熟れで、フェラチオをしながら逸物の逞しさに感じ入って、サキュバスの本能が男を欲して、充血して、開いて、雌穴をひくつかせ、アルベドは僅かに腰を落とした。

 

「っ…………」

 

 鼻先が触れそうな距離にアルベドの秘部があった。

 いつもは閉じているであろう割れ目は開き、濡れ光る内側の肉色を覗かせて、小指の先ほどに小さな膣口は目に見える速度でとろりと透明な粘液を垂らし、短いけれどふわふわと柔らかい陰毛を湿らせていく。

 アルベドの濃厚な雌の匂いが脳髄を侵してくる。

 少し頭を上げれば届くのだ。舌を伸ばせば味わえるのだ。

 しかし、してよいとは言われていない。お望みであるだろうとは思えるが、自分勝手に判断していいものではない。

 相手はシャルティア様ではなく、ソリュシャンやルプスレギナやナーベラルやシクススではなく、アルベド様なのだ。

 

「いいこと? 激しくしてはダメ。優しく、優しくするのよ? あんっ……いやぁん♡ じゅるじゅるさせながら吸ったらだめぇ。エッチなよだれがいっぱいで恥ずかしいわぁ。あっあっ……それなら私もじゅるじゅる吸っちゃうだからあ。あーんっ……じゅっ……ちゅる……あぁんっ」

 

 お許しの言葉が出たと同時に舌を伸ばしてアルベドのアルベドへ口をつけた。

 舌よりも柔らかい媚肉の中に現れる官能的で小さな弾力はアルベドが勃起させたクリトリスで、言い付け通りに強く吸ったり激しく舌で転がしたりはせずにゆっくりと舌先を押し付けてゆっくりと円を描いた。

 口を開けば膣口が垂れ流す愛液が直に入って来る。クリトリスと同時に味わい喉を鳴らして飲み込んだ。

 股間はアルベドの温かな口に包まれている。

 許されているのかフェラチオに夢中になっているから気付かないのか、手はアルベドの尻肉を掴んでいた。

 アルベドの肌はどこもすべすべで染み一つない。大きな尻をくまなく撫で、指先は尻の割れ目に届いて肛門を掠めてもアルベドは何も言わない。逸物を深く咥え込んでくぐもった嬌声を上げるのみ。

 少し力を入れて官能的な弾力を楽しみ、秘部への口付けは肉芽からアルベドの女の穴に移っていった。

 

「やあああっ……優しいけどぉ……どこにベロ入れてるのぉ? おまんこにベロ入れちゃダメだったらあ……。でもちゃあんときもちいいわよ? でもわたしはベロよりもぉ…………おちんぽが欲しいの♡ やんっ! だかららめぇ! うぁあ……んんっ……はあっ! やぁっ、おまんこきもちいわ。あなたのおくちでおまんこきもち良くなっちゃってるぅ♡」

 

 ダメと口にしながらもアルベドは離れない。

 それどころか逸物から口を離して男の引き締まった下腹に手を突き、浮かせていた尻を下ろす。下ろしたのは男の顔。

 黒翼は先端まで力が入ってピンと開き、両手を使って自身の乳房を揉みしだいた。

 揉むだけでは下半身を襲う甘い刺激に釣り合わず、キュンキュンして固くなっている乳首を強く摘まんだ。

 甘い声を漏らして、乳首を苛めるだけでは可哀そうになって、乳房を持ち上げて舌を伸ばし、自身の乳首を赤い舌で舐め上げた。

 アルベドくらいになるとセルフパイ舐めが出来るのだ。

 

 男の顔に跨ってクンニされるのは、奇しくも先日のシャルティアがしたのと同じ顔面騎乗。

 

 

 

「あっ………………」

 

 細い声を上げ、アルベドは達した。

 男の口の中へ直にアルベドのアルベドからアルベド汁を垂らして一滴残らず舐め取られる。

 達したアルベドはくたりと力を抜いて男の体に倒れ込み、はあと熱い息を吐いた。

 優しい愛撫だったが、事前のオナニーで敏感になっていたのがあだとなったか、またもイかされてしまった。

 しかし、忘我となって失神してしまうほどではない。

 目の前で勃起している逸物も気付けとなった。精液だって味わってないのにここで帰る選択肢はない。万が一にもそんな事をしてしまわないようマジックアイテムは寝台の外に置いてある。

 アルベドは男の体から滑り落ち、ころんと寝転がった。

 足は適度に膝を立てて、適度に開いている。

 

「来なさい」

「はい」

 

 アルベドが開いた足の間に男は両膝を突き、体を倒した。

 アルベドの正面から覆い被さる姿勢。

 

「今日はちゃあんとあなたのおちんぽを食べてあげるわ」

「はい」

 

 サキュバス的に正しい作法でお食事をするのである。

 

「ちゅっ……。ふふ、今日はまだキスをしてなかったわね。あなたのおちんぽは美味しいけど、唾も美味しいのを忘れていたわ。ちゅっ……れろ……んっ……んっ……、あ、おっぱい……んんっ……。悪い子」

 

 唇を交わした。

 唾を飲むのだから、柔らかな唇を合わせるだけでなく唇を開いて舌を絡める。唇同士は隙間なく合わされ、互いにたっぷりと唾を絡めた舌で相手の舌を舐め上げる。合わされた口の中では舌がうねって絡み、口内に溜まった唾液をかき混ぜて、分け合って飲み込んだ。

 アルベドの腕は男の頭へ優しく回されて、キスをもっともっととせがむように離さない。

 男の手は二人の体の隙間に入り込んで、アルベドの豊満な乳房に指を埋めた。むにむにとこねくり回し、柔らかな乳房は男の手の思うように形を変えた。

 アルベドは男の頭を抱きしめた。キスに飽いたわけではない。男の忠誠と健気さと愛おしさと、美味しいお食事を提供してくれることへご褒美をあげようと思ったのだ。

 

「アルベド様?」

「そのまま。あなたにご褒美をあげるわ」

 

 抱き合いながらも男は腰を動かして、位置を合わせている。

 アルベドは割れ目に押し付けられていた熱い肉棒が離れて固いながらも弾力ある亀頭が撫でるのを感じた。

 

「私に褒美などと」

「あなたにあげたいの。それともなあに? 私からのご褒美いらないの?」

「そんなことはありません。アルベド様から頂けるのでしたらどのようなものでも宝です」

「……大袈裟ね。でも、そうね。世界に二つとない大切なものをあなたにあげるわ……」

 

 位置が定まった。

 亀頭の先端から滲む先走りの汁と小さく開き始めた膣口から溢れる愛液が混じりあっている。

 

「そのような大切なものを……」

「いいから受け取りなさい」

 

 言葉が止めば無音の室内。

 お食事部屋の壁は分厚い石壁でドアも分厚く重厚なもの。廊下にいても、ドアに耳を付けていても中の音は聞こえない。ただでさえ屋敷のメイドたちは近付くことが許されない秘密のお食事部屋である。

 と同時に、外の音も中には届かない。その上二人がいる寝台を覆う天蓋は各種覗き見防止の魔法が掛けられたマジックアイテム。

 意志ある者がドアを叩かない限り、二人の世界は完全に二人だけの静謐な世界。

 互いの声と、微かな吐息と、シーツが擦れる幽かな音と、淫らな粘液が蠢く小さな水音だけが響いている。

 アルベドはサキュバスらしく妖艶に、童女のようにあどけなく、恋する乙女の情熱さえ伴って嫣然と微笑んだ。

 

「私はサキュバスで、今まであなたのおちんぽみるくをいっぱい絞って来たわ。お口でいっぱいじゅぷじゅぷしてあげて、あなたはとっても気持ち良かったでしょう?」

「はい」

「手でもしてあげたわ。あなたは私がおちんぽを扱いなれてるって思ったでしょう?」

「それは…………はい」

「まったくあなたと来たら聞かれたら何でも答えちゃうのね?」

「アルベド様のご質問に答えない術はございません」

「ん…………まあ、少しは褒めてあげるわ」

 

 男の耳朶を唇で甘く噛んでから抱きしめる力を緩めた。

 正面からご褒美をあげるのは恥ずかしかったけれど、ご褒美をもらう男がどんな顔をするのか見たかった。

 ちゅっと唇を合わせ、やはり合わせるだけでは済まずに舌を絡め、唇と唇を唾液の糸を繋いで、切れた。

 アルベドは言った。

 

「私…………………………処女なの。サキュバスだけどおまんこにおちんぽ入れたことは一度もないの。でもあなたのおちんぽが欲しいのよ。あなたのおちんぽをおまんこで食べたいの。おまんこに入れて欲しいの。わかるでしょ?」

「そ…………それは…………」

 

 知ってた。

 しかし、アルベドが自らの未通を告白するとは思わなかった。

 驚きが胸を刺し、目を大きく見開いた。

 

 

 

「私の処女をあなたにあげるわ」

 

 

 

 満面の笑みでご褒美を口にした。

 眉根がわずかに寄って、閉じた口が小さく開いた。

 男の逸物を受け入れようと目いっぱい口を開けていた膣口が亀頭に押し広げられて、薄い膜が破られていく。

 

「あなたのおちんぽが入ってきてるわ……。逞しくて大きくて熱くてとっても素敵なおちんぽ……。あ……………………。感じたわ。私の処女膜があなたのおちんぽに破られちゃったのを……」

 

 亀頭が完全にアルベドの膣へ入った。

 熱い肉襞は亀頭に吸い付き奥へ奥へと取り込むように蠕動している。

 アルベドに導かれるまま、ゆっくりと腰を進めていく。

 アルベドの中は素晴らしかった。

 熱くとろけるようで、入っていくのか溶けこんでいくのか曖昧になっていく。

 

「入ってきてる……。私のおまんこにあなたのおちんぽが入ってきてる。処女なのに全然痛くないの。とても気持ちいいの……」

 

 ゆっくりと入れているつもりなのに、気付けば竿の中ほどまで突き立てていた。

 一息に奥まで入れるのはアルベド様であっても負担があるかも知れない。一度抜いてもう一度ゆっくりとと思ったのだが、アルベドが目に涙すら浮かべた切ない顔で見返してきた。

 

「抜いちゃだめ……。奥まで来て。あなたのおちんぽ全部入れて……。入れなさい……。私を愛しなさい」

「アルベド様…………。かしこまりました」

「んっ…………あっ…………ああっ……ああああっ!」

 

 男の陰毛がアルベドの陰毛に擦れて、これでもかと勃起した逸物はアルベドの膣に根元まで咥え込まれた。アルベドの媚肉は男を優しく包み、淫らに蠢いて妖しく愛撫している。

 

 顎を反らせて高い声で鳴いたアルベドは、歓喜に涙を流した。

 今まで何度もしゃぶってきたおちんぽが体の中に入っているのを感じている。

 処女膜を破り、処女肉を切り裂いて、最奥にまでたどり着いた。

 何度も自慰をして男の舌でもイかされて、快感に下りてきた子宮に口付けしている。

 逸物は根元まで入っている。

 アルベドの膣にぴったりの長さと太さ。

 固さは十分で膨らんだ亀頭は丁度気持ちいいところを擦ってくれる。

 

 アルベドは処女を喪失した。

 

「うふふ…………、私の処女を奪っちゃったわね♡」

「……はい、頂戴いたしました」

「あなたは私のもの。絶対に離さないわ」

「はい。けして離れません」

「いい子。…………動いて。あっあっあんあぁん! やっあっ、おちんぽいいのぉ!」

 

 腰を振り始めた。

 抜けるギリギリまで引いた逸物を再度打ち付ける度にアルベドが溢れさせる愛液が逸物に絡むのを感じられ、根元まで入り切るとぷしゃっと飛沫となって周囲に舞った。

 アルベドは汁気が多く、じゅぽじゅぽと絶え間なく鳴り響く。

 

「いいのいいの、おちんぽいいの! ああああーーっ! もっとじゅぽじゅぽして! おまんこよくしてっ!」

 

 激しい水音が聞こえないくらいにアルベドは鳴いた。

 サキュバスらしい淫蕩さを隠しもせず男を抱きしめ欲望を口にする。

 

「おっぱいもして! ダメ、キスもして! いっぱいキスしていっぱいおまんこして!」

 

 抱き着いて押し倒し、アルベドが上になった。

 心の傷を癒すための騎乗位である。

 

「うふふ……わたしだってちゃあんと上になれるのよ? ねえ、私のおまんこは気持ちいでしょう?」

「はい……」

 

 サキュバスの本能全開で腰を振る。

 たわわなおっぱいがぷるんぷるんと揺れる。揺れるおっぱいを眺めるのは壮観だが触りたくもなるジレンマ。

 

「愛しなさいと言ったでしょう? 私にだけさせるのはダメよ。お前からもしなさい」

 

 アルベド様がお望みである。

 上半身を起こして、ほっそりとしているのにふくよかな矛盾を同居させる至高の女体美に抱き着いた。

 良い匂いがして柔らかなおっぱいに顔を埋め、乳首を口に含む。母乳が出るわけではないのに、アルベドの乳首からは甘い味がするようだった。

 勃起して尖った乳首は見るだけでも楽しく、触ればもっと楽しく、口に含めばもっと幸せになれるのだ。

 舌で転がすだけでもアルベドは敏感に鳴いて、吸われればダメダメと叫びながら男の頭を胸に抱きしめた。

 

「あっあっあっあっ……、おっぱいもおまんこもすごくいいわ♡ あなたのおちんぽは私のおまんこにぴったりなんだもの。入れてるだけでもすごくいいわ」

 

 アルベドを押し倒し、もう一度上になった。抱きしめて、唇が触れる距離で見つめ合いながらアルベドの中を抽送する。

 美貌が歪み、快感を吐き出すように声を出す。

 アルベドはサキュバスだが初体験であり、ソリュシャンとは違って男の歓心を買うために演技をする必要がなければ意味もない。

 演技でないとすれば、逸物の締め付けや緩急から、それに高い鳴き声と溢れる愛液から、挿入してから数度達していると察せられた。

 

「おちんぽがこんなにいいなんて……。もっと早くしてればよかったわ。ねえ、あなたも私とセックスするの気持ちいい?」

「もちろんです」

「……よかった。そうよね、私とセックスしてるんだもの、気持ち良くないわけがないわよね。あなたは私を…………」

「アルベド様?」

「何でもないわよ? それよりぃ……そろそろ一回くらいどぴゅどぴゅして? アルベドのおまんこにおちんぽミルクいっぱい出して♡」

 

(私のこと愛してるなんて聞きそうになっちゃったじゃない! おちんぽ気持ちいいし私のおまんこにぴったりだけど、私はサキュバスでこれはお食事なんだから! それにこの子が私を愛してるのなんて決まってるわ。私が助けてあげて、私をあれだけ美しいって言ってたんですもの。そうよね? そんなの聞くまでもないわよね? …………ラナーに、あんな人間の小娘になんか絶対に返さないわ! この子は私を愛していて私だけのものなんだから!)

 

「出します!」

「来て♡」

 

 宣言するなりアルベドの一番奥深くへ突き立てて、亀頭は子宮口に押し付けられた。

 アルベドは愛しい男の愛しいおちんぽが膨らむのを感じた。

 どぴゅどぴゅっと、白濁した熱い男の欲望が吐き出され、それはアルベドの大好きなおちんぽミルクで、女を孕ませる子種をたっぷりと内包した精液で、アルベドの無垢であった子宮は満たされた。

 

「ああ………………出てる……。私の子宮にあなたのおちんぽみるくがいっぱい出てる。すっごく濃厚でねっとりしてるのがわかるわ。おまんこで食べるのがこんなに気持ち良くてこんなに美味しいなんて。……おちんぽがぴくぴくしてる、ぴゅっ……ぴゅってまだ出てるの。私の赤ちゃんの部屋に入ってくのを感じるわ。うふふ……、サキュバスはここからおちんぽミルクを吸収できるのよ♡ おかしな心配しなくていいわ♡」

 

(でも私がその気になったらそんなことになっちゃうかも知れないけど♡ そんなのするわけがないけれど。………………でも練習にはなるかも。……モモンガ様のお世継ぎを授かった時に初めてで失敗しちゃったら? 一度くらいは子供を作った方がいいのかしら? お腹が膨らんでも鎧を着たり、体形を隠す魔法が掛かったドレスなら……。と言うか私がいつも着てるドレスがそうだし。でもダメダメ! いつかは必要かもしれないけど今じゃないわ。仮にするとしてもモモンガ様が世界を征服為されてからで、そうしたら予行練習で一人くらいは……………………、ふあっ!?)

 

 初めてのサキュバス的作法による正しいお食事に酔ってしまっていたアルベドは思考を千々に散らせ、外部からの刺激で現世に戻って来た。

 シャルティア様からの教育によりしかと学んでいた。

 射精した後はたっぷりと愛をささやいて褒めたたえなければならないのだ!

 

「アルベド様、愛しています」

「ふえっ!?」

 

 黒翼がぴょこんと跳ねた。

 

「貴女の素晴らしさは言葉に尽くせるものではありません。このような素晴らしい体験は一度としてありませんでした。そしてこれからも二度とあり得ないと存じます」

「…………それって」

 

 秀眉に険が宿る。もう一度自分とセックスをしても今回以下にしかならないと言う事か。

 サキュバスとして以前に女として、そんなことを言われようものなら許せない。

 

「あり得るとすれば、アルベド様との逢瀬のみ。アルベド様と愛を交わす度により素晴らしいものになっていくと知っています」

 

 信じているのではなく知っている。それは既知である。確実に訪れる未来である。

 

「そっ…………そうよね。そうよ、私以上の女はいないもの。ふふ……、その通りよ。これからも、何度でも、あなたとセックスしてあげるわ。でもこれからよりも…………あっ♡ おちんぽがまた固くなってるわ♡」

「もう一度よろしいでしょうか?」

「もちろんよ。私のおまんこにまだまだいっぱい出して♡」

「はい。アルベド様のお望みなだけ」

 

 

 

 アルベドの熱い膣よりも更に熱い逸物が射精直後にも関わらず先と変わらぬ固さを取り戻した。

 

 二度目なので味わうようにゆっくりと。

 男が上でアルベドが下。

 今度は抱き合わない。

 右手は左手で、左手は右手で握り合う。手の平をピッタリと合わせて五指を絡める。

 そして、キスをする。

 男はたっぷりとアルベドの口内へ唾を注ぎ、アルベドもたっぷりと男へ唾を吸わせる。

 アルベドの肉襞は独立した生き物のように男の逸物を亀頭も裏筋も竿の隅々まで絡みついて、相性もサイズもピッタリの逸物はアルベドの気持ちいいところをじっくりと擦っていく。

 体を密着させて汗と体温が混じりあう。

 互いの頬を擦り合わせ、耳元で愛をささやく。

 この場限りで消える真実の愛。もしくは偽りの愛。

 アルベドからも愛をささやいた。

 この時限りと口には出さずに了解し合い、あなたを愛してるわと口にした。

 キスの度に口にした。

 二度目の射精時は腕と足とで全身で男にしがみつき、最奥での射精を強制した。

 

 三度四度と数え、五度目で夜が明けた。

 一度も抜かれることがなく、アルベドは一滴残らず吸収した。




タイトル回集回
回の字が並んでなんかゲシュタルト崩壊
回が漢字じゃなくて模様に見える

良いお年を


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つづく
もう大人です ▽アルベド♯8


タイトル回収したのでえたる気満々でしたが続きが望まれてるっぽいのでたまに書きます


 アルベドが念願の初体験を迎えた翌々日。エ・ランテルの大きなお屋敷には午前の内からアルベドの姿があった。

 

「この前の休みはソリュシャンとルプスレギナのせいで潰れちゃったからアインズ様が休みをずらしてくださったの」

「アインズ様はいつでもアルベド様のことをお心に住まわせていらっしゃいます」

「ええ、その通りよ。アインズ様はいつでも私の事を考えてくださっているの」

 

 言い訳じみた言葉は即座に肯定されアルベドがこの場にいる理論武装は完璧となった。

 

 お食事は一週間に一度とアインズに言い渡されているアルベドだが、エ・ランテルの屋敷を訪れることまで禁じられているわけではない。そもそもお屋敷の真の主はアルベドだ。魔導国の宰相でもあるのだからエ・ランテルに常駐しても不自然ではない。

 ではお食事はどうか。

 アルベドはフフフと妖艶に笑って首を横に振る。お食事はもう卒業したのですよ。優秀な頭脳を誇るアルベドは、先々日の秘め事がお食事かどうか答えを出していた。

 

 あれは食事などではない。セックスである。

 

 アインズ様は偉大なる英知をお持ちであるがゆえにサキュバスの生態も熟知していらっしゃるに間違いない。その全てを知るアインズ様がサキュバスにおセックスを禁じようものか。我らが偉大なるアインズ様はけしてかような残酷をお命じになるわけがないのである。

 

 お屋敷に来客の予定はなかったとは言え、仮初のご主人様である若旦那様はきちんと身なりを整えて、品の良いシャツにズボン、そこへ軽く朱色のマントを羽織っています。中々いけてます。メイドたちの視線が熱くなったりするのですが、未だに夢精プークスクスの幻聴が聞こえています。最近は収まっていたように思っていたのですが、昨日から急に聞こえ始めた気がしてならないのです。

 

「あなた……少し痩せた?」

「ご心配、痛み入ります。昨夜は少し遅くまで起きていたため、睡眠時間が足りていないのかも知れません。ですが体調に問題ありません。お心遣い、感謝いたします」

 

 跪いたまま、額が床に触れるほど深く首を下げました。

 

「無理をしてはダメよ。あなたの体はあなただけのものじゃないんだから」

「はっ、承知しております。私の全てはアルベド様のものでございますゆえに」

「うふふ、わかっているならいいのよ」

 

 ルプスレギナは何も言えませんでした。

 昨日は特に問題なかったのですが、一昨日は大問題でした。具体的には、若旦那様は一日中生死の境をさまよっていたのです!

 

 一昨日の朝、アルベド様がお帰りになっても若旦那様は床から起きることが出来ませんでした。

 初体験を完了した100レベルサキュバスの本気の吸精により、若旦那様は深い夢に囚われてしまったのです。夢の中では休むことなく美の化身に責められ続けました。

 腰の上にアルベド様。顔の上にアルベド様。右手にも左手にもアルベド様。背中の下までアルベド様。都合五柱のアルベド様は淫蕩な笑みを浮かべて若旦那様を貪り続けました。

 いつぞやのアルベド様が夢の中での失禁を現実の肉体にも強いられたように、夢の中での刺激は現実の肉体へ影響を及ぼしました。

 具体的には、数分に一度のペースでどぴゅっと。

 それが十数時間。

 人間の限界を遥かに超えた桃源郷であり、ルプスレギナが献身的に回復呪文を唱え続けなければ骨と皮だけの干物になっていたのは間違いありません。

 

 アルベド様へご心配をかけるのをよしとしない若旦那様は、そのようなことがあったことをおくびにも出しません。もちろんの事、ルプスレギナとこの場にはいないソリュシャンに口止めをしています。

 とまあ、一日中夢精を続けてしまった若旦那様は、メイドたちを見ると自分の噂をされているようでとても恥ずかしいのです。

 

「ソリュシャンはいないのかしら?」

「現在、食中りで休んでおります」

「はあ? 食中り? ソリュシャンが? ショゴスなのに?」

「はい。ですが大事ではないため行動に支障はなく、念のために休んで頂いているところでございます。お呼びいたしましょうか?」

「別にいいわ。でもどうしたらソリュシャンが食中りになんてなるのよ?」

 

 アルベド様の疑問は尤もです。

 ソリュシャンは見目麗しい傾城の美姫の姿をしていますが、その正体はショゴス。中身は粘液のスライムです。

 これがルプスレギナなら、道に落ちてた骨をかじってお腹を壊すのはわかるのですが、お腹を壊すスライムと云うのは全てを見通すアルベド様であっても想像し難いものがありました。

 

「どうやら食べ過ぎたようでございます」

「食べ過ぎ……。一体何を食べたのよ?」

「エ・ランテルの住人ではないため、問題になることはあり得ないと愚考します」

「…………そう。それならいいわ」

 

 若旦那様がアルベド様へ嘘を吐けようはずがありません。嘘は言っていません。何を食べたかをその目で見たわけではないのでこれ以上言いようがないのです。

 ですが、ルプスレギナの言葉から察しがつきました。

 一昨日寝込んでいた際、ルプスレギナが回復呪文を唱え続ける傍らで、ソリュシャンはずっとつきっきりで介抱をしていてくれたそうなのです。体が汚れないよう奇麗にしていてくれたそうです。

 数分に一度のペースで十数時間続いたものを奇麗にしてくれたのだそうです。

 奇麗にとは言っても、拭き取ったりしたわけではないでしょう。きっとソリュシャンがスライムスキルで吸収したに決まっています。

 ソリュシャンが大好きなお兄様のおちんぽみるくです。それも優に百回以上。

 食べ過ぎです。

 そのせいで昨日は一日中ぼうっとしておりました。今日になってもぽけぽけしております。

 そんな無様をアルベド様にお見せできるわけがなく、ルプスレギナと相談したうえで休んでいてもらおうということになりました。

 

「ところで…………」

「はい」

 

 若旦那様は顔を上げて、アルベド様の美しいお姿を仰ぎ見ました。

 

「はあ……、あなたにこういう事を期待するのは間違っているのかしらね。私の服を見てどう思う?」

 

 アルベド様はさらさらと流れる美しい黒髪をかき上げます。

 大変美しい所作ではあるのですが、若旦那様の右斜め後方に跪いているルプスレギナは、アルベド様それ聞いちゃうっすか!? と戦慄しました。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 今日のアルベド様は完全オフな日だからかいつもの白いドレスとは違う服装をしています。

 トップスは白いチューブトップ。幅広の帯状の生地が胸部を覆う形状で、特にアルベドが着けているものは中央部が紐になって胸の谷間が丸見えになっており、背面は細い紐がクロスして繋いでいる。

 ボトムはミニスカート。マイクロミニとか言うちゃちなものではない。超マイクロミニ。そのスカート丈は、股下指一本。普通に歩くだけならセーフ。10センチ以上の段差を越えるとアウト。ぱっつんぱっつんで大きなお尻の形が丸見えである。だけど魔法が掛かった超マイクロミニスカなので履き心地抜群。

 色はどちらも白。大変セクシーな出で立ちである。

 超イケイケである。

 むしろイケイケ過ぎている。

 これがシャルティアであれば微笑ましくも思えるがアルベドである。

 お子様ではなく、色々なところが大人のアルベドである。

 

 アルベド様それはちょっっっっっっっっっちきついっすよ、とルプスレギナは思うだけで口には出さなかった。口に出そうものなら見た目は白いのに中身真っ黒なおにーさんから精神攻撃を受けて心を殺されかねない。もしもシャルティアがいたら容赦なく「年増は無理すんな」と言って最終戦争が発動したことだろう。幸運に感謝。

 

「アインズ様にお見せしたらとても似合っていると褒めてくださったわ」

 

 アルベドは着替えてから、お披露目がてらに休みに入ることをアインズへ報告した。

 アインズはたっぷり30秒はアルベドの姿をじっくりたっぷりねぶるあぶるように凝視してから『………………………………………………うむ』と仰ってくださったのだ。

 アインズの沈黙は自分に見惚れていると思ったアルベドは襲い掛かりたくなるのをそこそこ余裕に我慢することが出来た。大人になったのだ。

 

 

 

 そのアインズは、遠征に赴く最終確認をしてから、おもむろに大きな魔法の鏡を取り出して、エ・ランテルの屋敷を映した。

 勝手知ったる部下の御屋敷。すいすいっと操作して捜査して目当ての場所に辿り着く。

 アルベドが何をしているのか探っているのだ。

 部下の、しかも女性のプライベートを探るのは大変心苦しい。かつてはブラックな職場にいたアインズは、上司が部下のプライベートに口を出すのは大変によろしくないことだとわかっている。

 しかしだ。

 アルベドはお洒落をして出かけた。出かけた先はエ・ランテルの御屋敷と云う事はあのイケメンに会いに行くと云う事で、アルベドの食事がどのようなものかその目で見たことがありはするがアルベドはサキュバスであってイケメンに会いに行くとなればあれがあれしてても可笑しい事ではないのではないかと思ったらもう気になって仕方ない。

 もしもあれがあれになってたら次に会った時めっちゃ気まずいと言うか仲間の娘に何してんだゴルァってなればいいのか、つーか間違いなくアルベドからなにがなにしているに決まってるんだからあいつに怒るのは違う気がしてならないのだが俺は一体どうすればいい!

 そして、遠隔視の鏡は二人を映し出した。

 

『こ……これ……は………………!!』

 

 アインズは人の身から肉のないオーバーロードとなり、その身体に臓腑はない。

 しかし鏡が映す光景を見た瞬間、失った臓腑がズキズキと痛むような幻痛を感じてしまった。

 

 

 

 

 

 

「お言葉ですが、そのお姿で衆目の前に現れるのは控えた方がよろしいかと」

 

 うわーーーーーーおにーさん言っちゃったっすか!? どーするんすかアルベド様固まってるっすよ!?

 

 アルベドはビキリと固まった。完全不可知化の魔法で潜んでいた上位エネミーが石化の魔法を使ったに違いない。しかし、この場にはアルベドとルプスレギナと可愛いお食餌の三者のみ。すでに逃亡したらしい。と、ルプスレギナは現実逃避するが実は違う。

 アルベドも、ちょっとイケイケで厳しいかなと思っていたのだ。それでも大丈夫いけるいけると自己暗示しアインズ様からの絶賛(してない)もあって、ご褒美のつもりでいつもと違うドレスを見せてあげたのだ。

 それなのに何という事か。

 

「アルベド様はご自身のお力を十分ご理解していらっしゃいません」

「………………え?」

「拙い言葉をお許しください。美の化身、否、美を司る美神たるアルベド様がそのようにお美しい肢体をあらわにしていらっしゃいますと、万物が万難を排して一目見ようと命を懸けるのは明らかです。飛ぶ鳥は地に落ち、海の魚は陸に上がることでしょう。花々は己の醜さを恥じて枯れ腐り、太陽と月は嫉妬してアルベド様のお姿を照らしてなるものかと永久に地に沈むことでしょう。世界は暗闇に包まれ、アルベド様だけが唯一の光となる完全なる世界が訪れます。私は歓迎しますが、私の希望で千億の命を送るのは如何にも傲慢であるかと」

「そ…………そうよね。そうよね! そうに決まってるわよね!」

 

 へなりと床に落ちた一対の黒翼が、空を飛びかねんばかりにばっさばっさと羽ばたいている。

 

「仕方ないわね。この恰好をするのはあなたの前だけにするわ」

「ああ……何という事を! 光栄です!!」

「うふふ、いいのよ?」

 

 アルベド様は慈悲と慈愛と性愛の象徴に相応しく、優しく淫靡な笑みを男へ許した。

 

 ところで、三者がいるのはお屋敷の書斎である。

 屋敷には応接間があるが、あれは一応表用。

 ナザリックからの賓客を持て成す裏側の応接間もあるにはあるが、お屋敷で二番目に豪華な部屋はアインズ様が現場監督を為された書斎なのだ。とても広いし一等豪華な応接セットが備わっている。言うまでもなく、一番豪華なのはアルベド様のお食事部屋である。

 

「今日の私はお休みだけど、一日中付き合えなんて言わないわ。あなたがどう過ごしているのか見させてもらうつもりよ」

 

 お宅拝見或いは家庭訪問或いはお仕事参観だろうか。

 もちろん合間合間にいいことをするつもりだが、アルベドは大人になったのだ。がっついたりしないのだ。

 じっくりイチャイチャウフフして高めていくとその後がとってもいい感じになるとサキュバスの本能が囁くのだ。

 

「かしこまりました」

 

 若旦那様は早速大きな机に向かいます。

 広げるのは昨日仕上げたレポートです。

 生死の境から復活してパワーアップでもしたのか、一昨日は一日中夢の中に居ましたが、昨日は怒涛の勢いでデミウルゴス様からの課題図書を読破し、提出するレポートまで仕上げたのです。

 それも三部も。

 

「ふぅん? 私は何も聞いてないけど、これはデミウルゴスからの課題ね?」

「仰る通りでございます。これらの本を読み、都市計画を立てよとの課題を頂きました」

「見させてもらうわ」

 

 

 

 

 

 

「あいつらマジかマジなのか。どうして休みなのにそんな本読んでるんだ! うおおお字が滅茶苦茶ちっちゃいぎっしり書いてあるう!! 何あれ本なの? 模様とかじゃなくて? うう頭が……」

 

 遠くから書斎を覗いているアインズ様は頭痛が痛くなりました。ちょっとした防御魔法を掛けている書斎を覗き見するのはちょっと手間なのです。

 

 アインズ様は気付いてしまいました。

 アルベドが物凄く頭がいいのは知っています。あの男がどうやら頭がいいらしいのも聞いています。こうして見せられると本当ぽいです。時折アルベドと何かを話しているようです。広い机に所狭しと置かれた本をネタに話しているであろうと思われます。遠くから見るだけで頭痛が痛くなる魔法が掛けられた本を、あの二人は読むことが出来る様なのです。

 もし万が一、あの本のこの部分はこう言う事でしょうかとか聞かれようものなら悪夢です。全くわかりません。

 普通ならそんなことを聞いてくるとは思わないのですが、アインズ様はどういうわけかナザリックのシモベ達から端倪すべからぬ英知を持っていると思われているのです。

 一体どうすればいいのでしょうか。

 

「………………………………ふっ」

 

 アインズは無言で鏡の映像を消した。

 見なかった事にした。

 部下のプライベートを覗き見るなんていけない事だ。

 俺は、何も、見なかった。

 

 これからは何があろうと絶対にあいつらを覗き見たりしないぞと決意して、遠征に持っていくアイテムをもう一度確認し始めた。

 何回確認しても、あれは持ったかこれは要らないかもと思い、確認しすぎることはないのだから。

 

 

 

 

 

 

 アルベドと男の二人きりである。

 ルプスレギナは、歓談のお邪魔でしょうから、と退室していった。まかり間違って二人が話してることを振られでもしたら頭痛が痛くなった末に結局何も答えられないのが目に見えている。緊急避難である。

 

 机の前にある一人用の肘掛椅子をどけて、背もたれのないふかふかの長椅子を置き、二人並んで座っている。

 アルベドはレポートを読み進めながら時折ダメ出しをする。

 聞いている男はメモを取らない。代わりに全てを頭に放り込んでいる。貴重なアルベド先生の時間なのだ。そうでなくてもアルベドの言葉は全て記憶している。

 

「……? アルベド様?」

「なにかしら?」

「いえ、その……。申し訳ありません。何でもありません」

「そう? 今日の私は一日オフよ。たっぷりあなたに付き合ってあげるわ」

「……ありがとうございます」

「ふふ……」

 

 男へ妖艶な流し目を送ってから、アルベドは手元に目を落とす。

 レポートは机に置き、右手でページを捲っている。左手は机の下。

 足を伸ばせば相手の脚に届く距離を置いて座っていたが、二つ目のレポートに手を伸ばした際に詰めていた。太ももが触れ合って、ズボン越しに男の体温を感じている。

 机の下に潜っている左手は男の硬い太ももに乗せた。さわさわと撫で、登っていく。

 白く細い汚れなき指を広げ、優しく包み込む様に膨らんでいる股間に乗せる。撫でもしないし擦ったりもしない。段々と熱を帯びてくる。膨らみが大きくなってくる。

 

「窮屈そうね?」

「……はい」

「この前はあなたに色々させたから、今日は私があなたに色々なことをしてあげるわ」

 

 横を向き、耳元へ芳しい吐息を吹きかけながら囁いた。

 うふふと笑って、ズボンの裾に手を掛ける。男は窮屈と言ったのだ。色々なことをしてあげると言ったのだから楽にしてあげなければならない。

 男が腰を上げるのに合わせて膝まで引き下ろした。

 今のアルベドはかつてのアルベドとは違う。大人になったのだ。早く早くと心が逸って手がもつれ、ズボンを破いてメイドたちの裁縫仕事を増やすようなことはもうしない。

 アルベドは男の男を握ってあげた。

 

 ああ……おちんぽが大きいわぁ。でもだあめ。がっついてはダメよ? 今日の私は色々してあげるんだから。うふふ……、本当はしてあげるんじゃないの、してあげたいの♡ この前はあんなに気持ち良くしてくれたんだから少しくらいお返しにお礼してあげなくちゃ。ああでも私ったらこの子に処女をあげちゃったのよね。私が大切にとっておいた女の初めて……。熟れ熟れのサキュバスおまんこだったのに一度も入れたことがなくて。このおちんぽを入れてあげたのよね。それとも入れてもらった? ううん、入れてあげたのよ入れてあげたんだから!

 

「どぉう? 私の手。気持ちいい?」

「はい……とても……」

「あは♡ 声が掠れちゃってるわよ? 私の手でおちんぽをしゅっしゅってされるのがそんなに気持ちいいの?」

「はい……」

 

 淑女の繊細な手付きでそそり立つ怒張を握り、小指を立てながらしなやかに上下に扱く。

 右手はもうレポートをめくっていない。左手のすぐ下で働いている。

 

「おちんぽはこんなに固いのにこっちはとってもやわらかいのね」

「アルベド様の手が……暖かくて……」

「金玉って呼ぶのは何だか下品ね。シャルティアが好きそうな言い方だわ。玉袋の方がいいかしら?」

「アルベド様の、お好きなように」

「ふふ、そう? それじゃ、金玉って呼ぶわ。あなたはおちんぽだけじゃなくて金玉の方も大きいのね。おちんぽみるくがいっぱい詰まっているからかしら?」

 

 金玉なんて言うのはやっぱり下品かしら? でも誰も聞いてないしこういう時は下品なくらいの方が男は興奮するのよね。でも本当に不思議。ここでおちんぽみるくが作られておちんぽからぴゅっぴゅするのよね。私の中でぴゅっぴゅしたのよね。このおちんぽが私のおまんこの中に入っておちんぽみるくをいっぱい飲ませてくれたのよね。ああ……私のおちんぽみるく。私のおちんぽ。私だけの可愛い子。

 

「こらぁ。あなたはダメよ? 私がしてあげたいの♡」

 

 おいたしようとした手を優しくぺちんと叩いた。

 

「申し訳ありません」

「怒ってないわ」

 

 憔悴しているような男へ、アルベドはにっこりと慈悲と慈愛と性愛の笑みを向けた。

 

 わかってるわ。私が隣にいておちんぽをしゅっしゅされてたら触りたくなるのは無理もないわ。でも今のはどこを触ろうとしたのかしら? おまんこだったらちょっとがっかりよ? いきなり触るだなんて。ちゃんと順序を踏んでもらわないと。ふふ、もうぐしょぐしょなのだけど。この子はそこのところをちゃんとわかってるはずだからやっぱりおっぱいかしら? そうよね……。私のおっぱいを触りたくなっちゃうのは宇宙の真理よね。触りたいのに触れないなんてかわいそう……。そうだわ、おっぱいで触ってあげればいいのよ。べ、別に私が触って欲しいわけじゃないんだからね!

 

「今日はあなたに色々なことをしてあげるって言ったからぁ……。あなたにだけ特別なことをしてあげるわ♡」

 

 アルベドは玉袋を揉みしだいていた手を背中に回した。

 長い爪で引っ掛け軽く引くだけで、暴力的な乳房を押し込めているチューブトップははらりと外れた。

 スイートデラックスシルクメロンの形容でも不遜な白い美乳。形容を不足と断じる巨乳。たわわな乳房は拘束を解かれてぷるんと揺れた。ぷるぷる揺れるプリンより柔らかい至高のアルベドおっぱいである。

 

 アルベドは椅子から降りて、床の上に膝を突いた。

 お屋敷で一等豪華な書斎の床はつるつるに磨き上げられた石床の上にふわふわで毛の長い絨毯が敷かれている。机周りは二重になっており、エ・ランテルにある高級宿『黄金の輝き亭』の寝台よりふかふかだ。

 アルベドのたわわな乳房は持ち上げなくても重力に負けることなく柔らかさを保ったまま張りつめている。

 男はアルベドのすることを察してズボンを脱ぎ捨てた。椅子に浅く腰掛け、足を大きく開く。開いた隙間にアルベドは身を寄せた。

 男の下半身へ抱き着くように、けども両手は乳房の脇に添えている。

 重力にも負けないアルベドおっぱいはドレスや下着がなくとも見事な谷間を作り出す。その谷間へ、反り返った逸物を迎えた。乳房に添えた両手を押し付け、脈打つ肉棒を挟み込む。

 

「私のおっぱい……いいでしょ?」

「は……い」

「うふふ……、あなたのおちんぽって本当にすごいわ。私のおっぱいは大きいつもりなのだけど、挟んであげてもこんにちわしてるもの♡」

 

 柔らかな巨乳に包まれてなお、谷間から亀頭が顔を覗かせている。

 アルベドは口内でくちゅくちゅと鳴らし、口を開いた。伸ばした舌にあぶくが混じる唾が乗っている。下を向き、唾を垂らす。

 アルベドの赤い舌から落ちる唾は狙い違わず亀頭に落ちた。

 もう一度唾を垂らす。

 

「あぁん……。何回も唾を垂らしたら喉が乾いちゃったわぁ。あなたの唾を飲ませて」

 

 あーんと口を開いて男を見た。

 男もアルベドがしたように口内へ唾を溜め、アルベドの口目掛けてトロリと垂らす。量があり重たい唾はアルベドの舌に落ち、にちゃりと鳴った。アルベドはすぐには飲み込まない。口を閉じ、舌を動かし、十分に味わってから嚥下する。

 男の目を見つめながらうふふと笑い、体を上下に動かし始めた。

 

 アルベドはこんなプレイをしたことがなくても、サキュバスの本能で知っている。

 勃起したちんこをおっぱいで挟んで扱くことを『パイずり』というのだ。

 

 上下に動かすのだから先端が顔の近くまで来る。近くまで来る度に、チュッと亀頭にキスをした。

 何度目かの時にふっくらとした唇を開き、先端だけを咥え込んだ。咥えている時間は数秒だったがレロレロと舌先で舐め回し、離れる時は亀頭に付着した唾液が唇との間で糸を引いた。

 

「んっ……んっ……んぅ……、私がパイずりしてあげるだなんてあなただけなのよ?」

「光栄です」

「いいのよ、私もしたいんだから。おちんぽがとっても熱いのがおっぱいで感じられるわ……。んっ……」

 

 アルベドは頬を上気させ、けども淫蕩な顔ではなく夢見るように忘我の表情。

 男から、人間の男から見下ろされているけれど、今はそれが当然の事。

 乳房で挟んで下半身に押し付けているので、乳房の先端が男の下腹に触れることがある。男の陰毛にくすぐられることもある。

 直接的な刺激とは違う得も言われぬ感触は、乳首を立たせるのに十分だった。

 おちんぽを挟むのではなく乳首を摘まみたいと思ったが、我慢した。おっぱいで気持ち良くしてあげてる最中なのだ。

 

 亀頭だけを何度も咥え、その度に唾を塗り付ける。

 喉が渇いて男の唾をねだる。その間は上下運動を止め、左右からおっぱいをこねくり回して逸物を擦ってあげる。

 

 アルベドの奉仕は長かったのか短かったのか、二人とも時間の経過を感じていない。

 アルベドの乳房は、亀頭から滲む先走りの汁とアルベドが垂らした唾でとっくにぬちゃぬちゃになっている。

 柔らかくぬめる乳房に挟まれた逸物が強く脈打つ。大人になったサキュバスのアルベドが逃すわけがない。

 顔を下げて亀頭にしゃぶりついた。

 しわすら美しい紅い唇は凶悪な逸物のカリに引っ掛けて、亀頭全てはアルベドの口の中。同時に口の中へ熱いものが放出される。

 どぴゅどぴゅ……どぴゅっと、口の中へ射精された。

 濃厚な精液は舌に重たかった。

 口の中にたっぷりと精液を収めながら亀頭をちゅるちゅると吸い、尿道に残っている精液まで吸い上げてあげる。

 すぐには飲み込まない。うっとりと頬を緩めながら舌を使って口内でかき回し、少しずつ飲み込んでいく。

 鼻先へ精臭が抜ける。

 雄の臭い。

 雌を発情させる臭い。

 

 アルベドの短いスカートでは下着は隠せても太ももは根元までほとんど丸見え。

 アルベドの内股を汗らしからぬ液体がつつつと流れた。

 アルベドは精液を嚥下する。サキュバスの吸精は精液を完全に吸収する。ほうと吐いた息に精臭は混じらず、甘く芳しい。

 

「出したばかりなのに……すごいわ♡」

 

 大量に射精したばかりなのに、乳房に挟まれた逸物は全く固さを失っていなかった。

 まだ一日は始まったばかりである。



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そこではお食事できません ▽アルベド♯9

 アルベドは、それはもうとろとろと涎を垂らすレベルで欲情していた。

 

 パイずりをしている時に乳首が擦れてじんじんと焦れったい刺激に手が伸びそうになっている。

 お口いっぱいに吐き出された精液は濃厚にして芳醇、記憶にあるどの味よりも間違いなく美味しくなっている。アルベドは目の前の男専門のおちんぽみるくソムリエールマスターなのだ。おちんぽの味を覚えている舌はけっして間違えない。

 射精直後なのに雄々しく聳える男根には逞しさを感じざるを得ない。アルベドの女がずきゅんと打ち抜かれてくらくらしてしまう。

 お股はもうトロトロである。割れ目と尻穴の最小限しか覆っていない純白の下着では泉から溢れる蜜を留めることが出来ずに太股をつつつと伝っている。

 

「ああ……」

 

 無意識に顔を近づけ、鈴口に鼻を寄せてすんすんと臭いを嗅げば胸一杯に雄の臭い。

 これまた無意識に唇を開いて裏筋にキスをした。舌を伸ばしてレロレロと。そのまま舐め上げて臭いを嗅いでいた尿道口にたどり着けば早くも先走りの汁がにじんでいる。

 あむ、と先端だけ咥えてちゅるちゅると吸い、深く咥えようとしたところで、止まることができた。

 アルベドは処女を卒業して大人になったのだ。がっついたりしないのだ。

 

 ダメよアルベドそれ以上は本当にダメ我慢できなくなっちゃうわ! 今日の私はこの子の邪魔をしに来たんじゃないのよ。セックスはするつもりだけど私は来たばかりじゃない。いきなりなんてはしたないわ。私は盛りがついた吸血鬼でも処女を卒業したくて焦ってる年増でもないんだから。でもどうすればいいの? この子はこんなにおちんぽを腫らしちゃってかわいそう。これも私が美しすぎるのがいけないのね。ああ、美しさが罪だなんて。私はなんて罪深い女なのかしら。私が大きくさせちゃったんだから私が何とかしてあげないと。でも私からすると今度こそ我慢できなくなってしまうかも知れないわ。おセックスは夜からって決めてるのにまだまだ明るい時間なのよ? 考えなさいアルベド。この子のおちんぽを楽にしてあげる、でも私からするのはダメ。…………あは、簡単なことだわ。

 

 ちゅぷんと音を立てて、アルベドの唇は亀頭から離れた。つまりちんこを咥えて舌で亀頭の弾力を楽しみながら黙考していたことになる。全くの無意識だった。

 アルベドは跪いたまま男を見上げた。頬は初恋の人を前にした乙女のように薄く染め、目は慈愛の象徴に相応しく優しい笑みを湛え、濡れた唇は淫靡なサキュバス。

 

「あなたのおちんぽはこんなに固いままなのに私はもうしてあげられないわ。だってまだ明るいし、おまんこで愛してあげるのは暗くなってからじゃなきゃいやよ」

「っ! ……かしこまりました……」

「そんなにガッカリした顔しないで? 私からはしてあげられないの。さっき一度出してあげたんだし。でも……」

 

 紅い唇を朱い舌が一周した。

 艶やかな唇は唾でテラテラと濡れ光り、サキュバスの淫靡な唇に相応しい言葉を紡いだ。

 

「私の体を好きにしていいわ」

「!?」

「私の体を自由にあなたが使っておちんぽを気持ちよくしていいの。でも条件があるわ。おまんこに入れちゃダメよ? おまんこは夜までお預けね」

「それは………………よろしいのですか?」

「ええ……、よろしいのよ? 好きにしていいわ。さっきみたいにおっぱいを使ってもいいし、握らせてしこしこさせてもいいの。それに……」

 

 唾をねだったときのように、あーんと大きく口を開いた。

 

「お口を使っても……いいわよ♡」

 

 自分からしてしまうと我慢できなくなっておまんこに欲しくなってしまう。しかし自分からではなく男にされるならたぶんおそらくきっと大丈夫なような気がする。

 しかしである。

 勃起しているのが辛そうなら一定時間放置すれば萎える。

 しかしである。

 そんな愚考がサキュバス的思考に上がるわけがなかった。

 

 

 

 豊かな美乳をたぷんたぷんと揺らしているアルベドを見下ろして、男は深い思考に沈んでいた。

 これは試されている。

 

 今こそ忖度の時!

 

 下僕は主人の望みを察して叶えなければならないのだ。

 アルベド様にはなにかしらのお望みがある。しかしそれは口にし難いことのようだ。おそらく立場的に口にすることが出来ない内容。秒に満たない時間で答えを得た。

 もしもそれがアルベド様のお望みでなかった場合、間違いなく死を賜る。しかしその程度をどうして恐れようものか。

 死の恐怖に萎縮してアルベド様のお望みを図り損なう愚か者に生きる資格などない。

 すべきことが決まった。

 

「あんまり待たせちゃいやよ? あ……」

 

 男の手はアルベドに伸び、優しく頬を包んだ。

 アルベドはされるがまま。不躾を咎めもしない。夢見る乙女の眼差しで男を見つめながら、何をされるのか心待ちにしている。

 頬を撫でた手は少しずつ上がって耳を撫でた。耳でも止まらず頭の上へ。更に上へ。

 

「え……。きゃっ!」

 

 どこを触られているのか。頭から生える捻れた悪魔の角。角を両手でしっかり握られ固定され、強い力で頭を引き寄せられた。

 

「んぐうぅっっ!!」

 

 口を目掛けて勃起した逸物が近付いてくる。否、自分の口が近付けさせられている。直後、容赦なく口へ突き込まれ、先端が喉奥に届いた。

 

「んむっ! んっんっんっうぅっ! ん~~~~~っ!!」

 

 無理矢理咥えさせられた。角は掴まれたままで乱暴に頭を振られる。同時に逸物が口内を行き来する。何度も何度も喉奥を叩かれた。

 逸物を咥えさせながら女の頭を掴んで力任せに振って口を犯す行為をイラマチオと言う。女の意志を微塵も考えず気持ちよくしてくれる道具扱いする鬼畜行為は彼我の上下関係を叩き込み、口だけでなく尊厳すら徹底的に蹂躙する。

 アルベドは驚愕に大きく目を見開いた。喉を突かれて苦しくなり、うぐぅっうぐぅっと喉の奥から呻き声が湧いてくる。目には涙が溜まって訴えるように男を見上げるが、頭を乱暴に振り回されるのが答えとなった。

 

(アルベド様……なんとおいたわしい…)

 

 しかしこれがアルベド様の望みなのだ!

 イラマチオを強いても生きている自分がその証拠である。

 思えばシャルティア様もそうだった。中々素直に希望を口にされなかったが仕舞いには自らを嬲るようにと仰られた。

 ラナーもそうだ。あの変態女は回復魔法を修めた神官が知己にいることをいいことに、体が傷つくことをいとわず様々な行為を求めてきた。

 アルベド様も同じであるようだ。上位者として君臨する様々な重圧を物ともしないアルベド様であろうが時には溜まったものを発散したくなるのだろう。

 美神アルベド様でありナザリックの序列二位であり魔導国の宰相であり己の愛しき女主人である。アルベド様がお望みであろうと苦しむ姿は肺腑を抉られるような痛みを覚える。

 と同時にめっちゃ興奮する!

 美顔を犯す恍惚感。大きな目に溜まった涙ははらりと零れ、頬を濡らしながらの上目遣いには支配欲やら嗜虐心やらを刺激され興奮せざるを得ない。なんだかんだとアルベド様がお望みのプレイであり、口をすぼめて頬の内側の軟らかい肉をぴったりと逸物に密着させている。歯が当たらないよう口をフェラチオに最適な具合に開いているのは流石の一言。

 裏筋にぬるりと痺れる快感を走り何かと思えば、アルベド様は舌を伸ばして逸物を包んでいた。

 逸物が前後する度に口内の唾液が掻き出され、アルベド様の美しい顎を伝っていく。頬を濡らし続ける涙と合流し、絨毯にぽたりと滴り落ちた。

 

 腕を使ってアルベドの頭を振るのをやめた。アルベドはされるがままなので抵抗はなく、疲れたわけではない。もっと激しくする方法があるからだ。

 羊のように捻れた角を掴み直し、頭が動かないようしっかりと固定する。固定しながらゆっくりと腰を引く。美しきアルベドの美しき唇から湯気が立ちそうなほど熱を持った剛直が引き抜かれる。

 まだ終わってないのにどうして? とアルベドは上目遣いに男を見上げ、男は美神を崇拝する敬虔な信者の目で見返した。

 

「んっんぅ……? うぐっ、うぐぅっ! ふぐぅぅううーーーっ!」

 

 角をしっかりと握って頭が動かないよう固定する。そして勢いよく腰を打ち付けた。

 頭を振っていたときの比ではなく、アルベドの口を激しく蹂躙した。長い逸物を根本まで突き入れ、喉のその奥まで何度も叩きつける。アルベドの苦鳴には心が痛みながらも興奮させられる。

 口を犯されているアルベドはされているだけではない。きちんと男の逸物に吸いついて気持ちよくなれるように頑張っている。

 

「んぅ~~~~~~~っ!!」

 

 協力プレイの甲斐あって、男が一際深く突き入れた喉の最奥にて、どくどくと発射された。

 射精は一度目と同様に長かった。

 全て出し切るまで逸物はアルベドの口に収めたままだった。

 アルベドの口から逸物を引き抜くと、艶やかな唇と二度目の射精で少し固さを失いつつある逸物とで、長い糸を引いた。糸の成分はアルベドの唾液と男の精液である。

 

「げほっ……けほけほっ……」

 

 げほげほうえぇとえずき、紅い唇から大小のあぶくと粘塊が混じる白濁した粘液を垂れ流す。

 100レベルサキュバスのアルベドなので喉奥を突かれて苦しくなったわけではない。喉奥で射精されたので精液を味わえなかったからだ。

 吐き出した精液は全て手の平に溜め、改めて口を付ける。

 ジュルジュルと音を立てて吸いとり口の中ではくちゅくちゅと味わう。最後には喉を鳴らして飲み込んだ。

 はあぁと熱い息を吐く。

 思ってもみなかった乱暴なプレイで、凄く興奮していた。うぶな小娘のように胸がドキドキと高鳴っている。

 

「アルベド様、まだこれからでございます」

「え…………」

 

 ぺたんと床にへたりこんでいるアルベドの頬を、ぴたんと熱いものが打った。

 

「あ……あ……、二回も出したのに、まだこんなに♡」

 

 頬を打ったのは、さっきまで咥えさせられていた逸物。アルベドが精液を味わっている僅かな時間で回復したようだ。一度目と比べて全く衰えが見えない。

 

「こんどはわたし……、なにされちゃうの?」

「アルベド様のお体を自由に使わせていただきます」

「ええ……いいわよ。いっぱい使っていいわぁ……」

 

 涙に濡れた目は期待に高ぶるサキュバスの目。

 男は貴人へ差し出すに相応しい所作で恭しく手を差し伸べた。

 美神は優雅に手を取り淑やかに立ち上がる。

 

「こちらへ」

「ええ」

 

 二人は机から離れて窓際へ。

 外は良い天気である。立地最高のお屋敷の書斎からはエ・ランテルの町並みが見下ろせる。

 窓際に立たされて、アルベドは思わず胸を隠した。外からおっぱいが丸見えになってしまう。

 

「窓枠に手をおつきください」

「え……でも……、おっぱい見えちゃうわ……。わたし、あなた以外におっぱい見られちゃうのいやよ?」

「ご安心ください。このような時のためにアインズ様が覗き見防止の魔法を掛けてくださっています。外からは何も見えないことを確認しております」

「ああ……流石はアインズ様……。何でもお見通しなのね」

 

 違います。

 防諜のために様々な魔法が掛けられた書斎なのは確かですが、間違っても露出プレイのためではありません。しかし露出プレイのために使えるのも確かなのです。

 

「あん……おっぱいぃ……そんなにもみもみしてぇ。本当に見えないのね? あなたにおっぱいもみもみされてるの見られちゃったら恥ずかしいわ。あんっ」

「もしも覗き見る者がいたら、アルベド様の余りの神々しさに魂が抜けることでしょう」

「あっあっ……わかったわ。だから、乳首もくりくりしてぇ……。んっ……そうよぉ、もっともっとぉ……」

 

 背後から豊かな乳房を揉みしだかれながら、アルベドは窓際に立った。外の景色がよく見える。お屋敷の見事な庭園も見える。何人もの使用人たちが手入れをしている。振り向いて、書斎の窓を仰ぎ見る者がいた。

 

 ほ……本当に見えてないのよね? でもこっち見てる……。アインズ様の魔法なら間違いないけれど本当にそんな魔法が掛かっているの? おっぱいが見られちゃったら、下々の人間にエッチな顔を見られちゃったら……。ああん、そんなにもみもみされたら気持ちよくて恥ずかしいわ……。っ……、乳首もくにくにされちゃってる、触られてるだけで気持ちいいのにぃ。………………あっ? お尻? ああいやぁ……、この子ったらスカートの中におちんぽいれてるのね? お尻の割れ目でおちんぽ挟んじゃってるぅ♡ 二回も出したのにどうしてこんなに凄いの? この前この子とセックスしたときは抜かないで五回もぴゅっぴゅってしてくれたけど、出しちゃってしばらくは柔らかくなったりしたのに。ああ……お尻におちんぽをこすりつけられちゃうと思い出しちゃう。わたし、この子とセックスしちゃったのよね。おまんこにおちんぽを入れてもらって、この子に処女膜を破いて貰って……。わたし初めてだったのにあんなに気持ちよくて。

 

「アルベド様」

「…………わかったわ」

 

 あっ……おっぱいから手が離れちゃった……。でもこんなところに手を突かせてどうするつもりなの? んっ、腰を持ち上げられてる? お尻突き出しちゃってる。今日はスカートが短いからお尻が丸見えになっちゃってるわ。パンツはまだ履いてるけどおまんこが濡れちゃってるのも見られちゃう。もしかしておまんこに入れちゃうつもりなの? ダメって言ったのに入れちゃうの? セックスは暗くなってからって言ったのに! でもでもこの子が入れたくなっちゃったなら仕方ないわ。自由にしていいって言ったんだからわたしが責任を持って気持ちよくさせてあげなくちゃ♡

 

 アルベドのスカートは超マイクロミニ。尻を突き出せば大きな桃尻がほとんど丸出しになる。尻の割れ目には申し訳程度の細い布地が覆って秘部を隠している。細いだけでなく超ローライズ。

 正面から見れば整えられた黒い陰毛が全く隠れておらず、割れ目の上端すら覗かせている。後ろの方は大きな尻の半分ほどのところまで。尻の穴がなんとか隠れていると言えるかどうか。

 

「あっ!」

 

 男は、アルベドの短いスカートを更にめくりあげた。大きな尻は完全にあらわになった。

 両手で恭しく桃尻に触れ、紐と見紛うパンツを引き下ろす。むちむちの太股まで下ろされて限界まで引っ張られているのに切れたり生地が傷んだりする気配はなくよく伸びる。紐のようでも魔法が掛かったパンツなのだ。

 

「ああ……、私のお尻を出しちゃってどうするつもり? おまんこに入れちゃダメって言ったのは忘れてないでしょうね?」

 

 言葉こそ厳しいが、声音は愛欲に爛れ、振り向く顔には期待が隠れない。

 

「もちろんです」

「……………………そう」

 

 声には僅かな失望があった。

 

「どうぞ前をご覧になっていてください。それとも私の自由にはさせず、アルベド様のご希望がおありでしょうか?」

「ないわ。自由にしていいって言ったでしょ?」

 

 つんと前を向く。窓に映るアルベドの顔は不満そうだった。

 不満そうな顔も尻を撫でられればほぐれてくる。

 さわさわと始まって、むにむにと揉み始め、尻たぶを掴んで左右に開く。肉厚の尻に隠されていた割れ目が露わになる。

 アルベドの性器はぐっしょりと濡れていた。ピンク色の淫靡な内側を覗かせて、小さな入り口が物欲しそうにひくついている。獣欲と食欲すら刺激する雌穴は自然と口を近付けたくなる。

 欲望に逆らわず口を付けた。しかし、決してアルベドの言葉を忘れたわけではない。次の段階に必要な処置なのだ。

 

「ああんっ♡ おまんこはだめって言ったのにぃ。そんなに吸っちゃ…………? ……!? だめよだめ! どこをなめなめしてるの!? そこはうんちの穴なんだからぁ!!」

 

 前回の逢瀬でアルベド様とシックスナインをした際、尻を撫でながら指先で肛門を撫でていた。その時の感動はいまも鮮やかに思い出せる。

 アルベド様の肛門は、見た目はキュッとしてるのに触るとぷにっとしたのだ。ぷにぷにである。とても柔らかくて、指を入れればどこまでも入っていきそうだった。

 流石のアルベド様はこれすなわち全身性器。熟れ熟れのおまんこは言うに及ばず、至高の美巨乳も、処女だった時から絶技を放ったお口も、指先でちょちょっと撫でるだけで勃起させるお手ても。

 なれば肛門が性器でないわけがない。

 口に含んだアルベド汁を舌で塗りつけてから、ピンと伸ばした中指を恐る恐る差し入れる。アルベド様はあうぅぅぅとお鳴きになるが、指はぬぷぬぷと飲み込まれていった。

 

「あうぅっ……、指ね? わたしのお尻の穴に指を入れてるのね!? わたしだって入れたことないのよ!? ダメよダメそんな汚いところ……うぅ……」

「アルベド様のお体は全てが美しく輝いておりますよ」

 

 本当である。

 ラナーの尻穴は魔法で回復しても長の年月を使用し続けたため色素が沈着し、尻自体は純白に桃汁を絞ったような美しい色をしているのに、その周囲は薄茶色に染まっていた。

 シャルティア様は吸血鬼であるからか肛門まで真っ白だった。

 アルベド様は、なんとピンクである。

 ぷにぷにでピンク色の肛門で、突っ込んだ指は根本はきゅっと優しく締められて奥は広がっている。こんなの絶対に気持ちいいに決まっている。

 

「いやいやいやぁ……、わたしのうんち穴におちんぽを入れるつもりなのね!? 指だって入れたことなかったのよ! おまんこの処女はあなたにあげたけどお尻の処女まで欲しいの!?」

「心配なさらないでください。全てわかっております」

「なにが!?」

 

 アルベド様のお望みが、である。

 アルベド様はこう言った「おまんこに入れちゃダメ」。つまり別の穴に入れろと云う事。

 

「ひっ」

 

 アルベド様の腰を掴み尻の割れ目に逸物を挟み込む。このまま尻肉で挟みながら扱くのも気持ちいいに決まってる。尻コキとでも呼ぶのだろうか。しかしそれでは自分が気持ち良くなってもアルベド様への刺激はそれほどでもない。アルベド様に楽しんで頂かなければならないのだ。

 

「ひうっ……、う……うう……」

 

 亀頭をピンク色の肛門にあてがう。舌を使ってたっぷりとアルベド様のアルベド汁を塗りたくったので潤滑液は十分だ。このぷにぷに具合ならなくても大丈夫かも知れない。

 

「ひぎぃっ!」

 

 窓枠を掴む手に力が入っている。アインズ様が強化してくださった書斎の窓枠はアルベド様が掴んでも罅が入るだけである。

 足腰がぷるぷると震えている。股の間からはぽたりと雫が。

 大きく広げられることによって窄まりの皴が伸ばされていく。処女のお尻に亀頭を飲み込みこまれた。

 

「おっ……お尻の……私のお尻に……あっ……あうううぅぅっ!」

 

 下腹がアルベドの大きな尻をパァンと打った。

 入り口の向こうは奥が広がっている肛門で、一番太い亀頭が入り切れば残りはほとんど抵抗なく根元まで飲み込んだ。

 入りきると根元がキュッと締められる。そのくせ奥はふんわりと柔らかい。アルベド様は、やはり肛門まで名器だった。

 

「私のお尻におちんぽがぁ……いやっだめっ、動いちゃらめぇ! おまんこじゃないのにっ……お尻の穴なのにっ……、違うのにかんじちゃうのぉおお!」

 

 ぱんぱんと尻を打つ音がリズム鳴り始めた。

 小指すら入りそうになかった締まった尻穴に極太の肉棒が出たり入ったりを繰り返す。

 

 いやっなにこれ違うのに気持ちいいの! お尻の穴なのにどうして!? ああ、お尻に入れたままぐいぐい押さないで。ひゃん! おっぱいが窓にぶつかってるぅ、本当に外からは見えないのよね? こんなの見られちゃったらわたしわたし……。あぁ……、おっぱいぐにぐにされちゃってるぅ。わたしの体を自由にして言ったけどこんなのってこんなのって……。お尻の処女までこの子にあげちゃうなんてぇ!

 

「アルベド様は肛門まで素晴らしい名器でいらっしゃいます」

「あぅっあぅっ……、それ、ほんとう?」

「本当の事でございます」

「あっ……はっ……、私も、おちんぽ……きもちいいわ。あっあっあんああん♡」

 

 窓ガラスに押し付けられたアルベドの乳房を奪い返すように、後ろから手を伸ばして鷲掴みにした。乳肉に指が埋まり、たわわな乳房をぐにぐにと形を変える。

 奪われたものは奪い返されるのが常で、右の乳房を揉んでいた手にアルベドの手が重ねられた。譲るとアルベド自ら胸を揉み始める。

 左の乳房の可愛い乳首は固く尖って、きゅっきゅと摘まむと可愛い鳴き声に肛門の締め付けが重なった。

 以心伝心、或いは極まりつつある忖度力。

 おっぱいを下から包む様に持ち上げて、きゅっと摘まんだ乳首を強く引っ張る。アルベドは俯いて舌を伸ばし、自らの乳首を口に含んだ。お掃除フェラのようにちゅうちゅうと吸って、離れた時は唾液の糸どころではなく、口からも乳首からもとろりと垂れた。

 

「ああそんなくりちゃんもするなんてぇ♡ ひゃうっ……、お尻も、いいの……、お尻もクリちゃんももっともっとぉ」

 

 右おっぱいを奪われた男の右手はアルベドの股間に伸びていた。

 ふわふわの陰毛の感触を味わってからその奥へ。逸物が入っているのはアルベドの尻穴で、何も入れられていない雌穴は寂しそうだ。食べたくて涎を垂らしているのか寂しくて泣いているのか。触れた陰毛は愛液で濡れそぼっている。

 指を濡らしながら割れ目に触れる。見えなくても触れば、アルベドの肉芽は包皮が剥けて興奮に勃起しているのを感じられた。

 中指の腹で押し付けると、愛液に濡れた陰核はぬるりと逃げる。追いかける。逃げられないよう強く押しつけながら擦り始めた。

 アルベドの鳴き声が甘く高くなり、雌穴が垂らす愛液が、ぽたりぽたりからぽたぽたぷしゅっと増えていく。

 失禁したわけでもないのに足元には水たまりが出来そうな有様。

 

 腰はずっと振り続けて肉を打つ音が響いている。

 射精が近付いてくるのがわかった。アルベド様のご飯を担っている以上、ある程度のコントロールが出来なければ話にならない。

 

「ひゅっ!?」

 

 アルベドの喉が鋭く鳴り、細く息を吸い込んだ。

 ひと際パアァンと強く尻を打つ。逸物がアルベドの尻穴で届く限りの一番深いところへ届き、同時に乳首をキュッと摘まみ、クリトリスの方は愛液で逃げられないよう強い力で捻り上げた。

 アルベドは美しい背中を弓なりに反らし、のけ反るように顎を上げて、

 

「あああぁぁああぁあぁ~~~~~~~~~~っ!!!」

 

 美しい声で絶叫した。

 尻穴の深いところで男の欲望がどくどくと吐き出された。

 

「あ……………………あぁ…………」

 

 最後まで窓枠は砕けず、されど自分の体を支えきれなくなったアルベドはくたりと力を抜いて、床に倒れ伏す前に男に抱き止められた。

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……、お尻に出すなんて。自由にしていいって言ったけどお尻に入れられるなんて思わなかったわ」

「尻穴の処女まで頂戴いたしました」

「あなたには私の処女を二つもあげちゃったのね。ううん、お口の処女もあなたよ。おっぱいだってそう。キスしたのだってあなたが初めてだわ」

「光栄です」

 

 キスと口にしたので、アルベドはキスがしたくなった。

 男は後ろから抱きしめたまま。お尻の穴にも入ったまま。

 出すところなのに入れられるのは、おまんこと違って異物感が大きいけれど反対にそれがいい。冷静になると良さがよくわかる。

 振り向いてキスをするよりしっかりと向き合って。

 下腹に回された男の手を解けば、何を欲しているのか伝わっているようで男が離れた。

 

「あ…………」

 

 肛門に入れられていた逸物もぬるりと抜ける。

 愛液だか腸液だか精液だか何かに濡れて、三度の射精で流石に項垂れている。先端から何かの液体がぽたりと垂れた。

 舐め取ってやりたくなったが今はキス。

 キスをしてまた固くしちゃったら今度はどうしてあげようと少しだけ考えるもとにかくキス。

 考えれば今日はまだしてない。

 唾は飲んだけど直飲みはまだだ。

 アナルセックスは凄く良くてイっちゃったけどキスが抜けては片手落ち。

 抱擁のために腕を開く男へ近付けば腕は優しく閉じられ閉じ込められる。

 アルベドも抱き返す。翼も伸ばして男を覆う。

 アルベドは上を見て男は下を見て、互いに反対側へやや首を傾けて、開いた唇が重なる前に互いの吐息が混ざり合って、ぶひょっと小さな破裂音が響いた。

 

「…………………………」

「……如何しましたか?」

 

 アルベドはサキュバスである。

 サキュバスなのでおまんこから精液を吸収できる。

 男からは全身性器と言わしめたが、尻穴で快感を与えることは出来ても精液を吸収することは出来ない。

 そして肛門とは入り口ではなく出口である。

 おまんこと違って入っていくところではなく出て行くところ。

 入ったものは、出て行くのだ。

 激しく抽送されていたため、空気も入ってしまっている。

 それらが、吐き出された精液と共に外へ出てきた。

 

「アルベド様?」

「…………………………」

 

 尻穴からはしたない音を立てて精液が吐き出されていく。

 アルベドは顔を伏せた。上げられなかった。伏せた顔には熱が溜まっていく。カロリックストーンでも埋め込まれたのか熱は排出されずに溜まる一方。限界に達した。

 

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

「っ!」

 

 先の尻イキを遥かに凌駕する絶叫!

 

 お尻から出してしまうおかしな音を聞かれて平気でいられるのは乙女ではない。

 アルベドは乙女なのだ。

 

 直後、男は宙を舞った。地面と平行に飛ばされた。

 ソファーとテーブルの応接セットを巻き込んで壁に激突した。

 一瞬の事だったので体に痛みはなかったが、あちこちが折れ曲がっているのを感じた。

 何もわからず、男の意識は闇に閉ざされた。

 闇に閉ざされるまでのほんの数瞬。美顔を真っ赤に染めるアルベド様はとても可愛らしかった。

 我が人生に悔いなし。

 

「あ……あ…………。ルプー! ルプスレギナはどこ!? 早く急いで!」

 

 書斎には防音の魔法が施され、外部に音が漏れないことにアルベドはいつ気付くのか。

 

 麗しい夢を見ているかのような安らかな顔をしている男に、ルプスレギナが顔をしかめながら回復魔法を掛けたのは10分後だった。



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出張前でありんすから?

 目が覚めたらとっぷりと日が暮れておりました。

 あれおかしいなアルベド様がいらっしゃったのは日が登り切らぬ時間帯で書斎で幾ばくか過ごしたけれどお昼ご飯はまだ食べてないはずなのにどうして窓の外は暗いのか。

 

「あー、ようやく起きたっすねー。いやーよく寝てたっすよー」

 

 ベッドから身を起し、振り返ればからからと笑うルプスレギナ。ルプーはどうでもいいのです。

 

「アルベド様は?」

「とっくにお帰りになったっすよ」

「なん・・・だと・・・」

 

 記憶にある最後のアルベド様はお顔を真っ赤に染められてとても可愛らしいご様子でした。そこから今に至るまでがごっそりと抜け落ちています。一体何があったのかさっぱりわかりません。

 

「アルベド様は何か仰っておりませんでしたか?」

「………………」

 

 笑っていたルプスレギナは、この時ばかりはキリリと表情を引き締めました。真面目顔のルプスレギナはとってもレアです。

 

「いいっすか? 気をしっかりと持って聞いて欲しいっす」

「……わかりました」

 

 ルプスレギナは、あーあーと発声練習してからアルベド様からのお言葉を伝えました。

 

「『バカバカバカバカバカバカ! あなたはちっともデリカシーを覚えてないじゃない! 最低よバカバカバカ! もう顔も見たくないわ!!』」

「……………………………………」

 

 割と上手な物真似でした。

 上手であろうとなかろうと、アルベド様からの言伝を聞いた若旦那様は完全にフリーズしてしまいました。

 

 ルプスレギナは、アルベド様とおにーさんとの間に何があったのか知りませんが、おにーさんの方は何があったかを思い出していました。

 アルベド様のおっぱいで気持ち良くなった後、アルベド様の口には出せないお望みを叶えるためにイラマチオとアナルセックスをしたのです。そしてキスをしようとしたら、アルベド様はお尻から…………。

 

 若旦那様は魂を抜かれた幽鬼のようにベッドから立ち上がりました。ゆらゆらとよろめきながら窓辺に近付き、窓を開きました。

 夜の風が髪を撫でます。

 二階の窓なのですが、大きなお屋敷なのでそこそこの高さがありました。

 

「なにしてるんすか?」

「アルベド様に不要と断じられた私に生きる意味はありません」

 

 身投げするつもりなのです。

 

「なにアホなこと言ってるんすか」

「アホだとこのアマ!」

 

 このアマ呼ばわりされてルプスレギナはビキリと来ましたが、憔悴しきって美顔を歪めるおにーさんはとってもレアで初めて見ました。こんな顔も出来るのかと感心しました。大変な美貌なので怒りの表情は滅茶苦茶迫力があるのです。

 

「そのくらいで死ななくていいって言ってるんすよ。おにーさんがアルベド様に捨てられたなら私が飼ってあげるっすから」

「え、やだ」

「………………」

 

 即答されて、物凄くビキビキって来ました。

 これが名も知らないそこいらの人間だったら撲殺待ったなしです。しかしこのおにーさん相手にそんな事をしてしまうと色々なところからお叱りを受けてしまいます。きっとお叱りでは済みません。

 それなら痛い目に合わせたいところですが、このおにーさんは痛みにめっぽう強いのです。この前何てソリュシャンの中で半日以上もとろとろされていたのに平気な顔をしているのですから。あれをやられたらルプスレギナだって十分で泣きが入ります。

 このおにーさんには手も足も出ません、と言うのは過去の事。

 おバカを担当しているのはシャルティア様であって、普段は使わないだけでルプスレギナにはそこそこの知力があるのです。

 おにーさんの急所は把握済みです。

 

「そこでそーゆーこと言うからアルベド様にデリカシーがないって言われるんすよ!」

「うぐぅっ!」

 

 クリティカルヒット!

 おにーさんは胸を押さえてその場に崩れ落ちました。

 人狼であるルプスレギナは、獲物が弱ってきたら攻撃を繰り返して止めを指すべきと本能に刷り込まれておりました。

 

「だから私がおにーさんがちゃーんとデリカシーを覚えられるように色々教えてあげるっすよ?」

 

 獲物を前にした狼がするように、ぺろりと唇を舐めました。

 人狼の体力でもってそれはもう色々なことをして、未だにぽけぽけしてるソリュシャンから一歩も二歩もリードを奪うつもりなのです。

 

「いや……しかし俺はもう……アルベド様から顔も見たくないと………………うぅ……」

 

 弱気な若旦那様もレアです。シクススなら優しく励ましてくれるかも知れませんが、ルプスレギナにそーゆー優しさはありません。鬱陶しいだけです。さっさと元に戻って欲しいのです。そこでじわじわ行かないからソリュシャンに後れをとっていると気付けません。

 

「おにーさんて頭いいのに肝心なところでバカっすね。アルベド様が本当に要らないって思ってたらわざわざ回復させるはずがないっすよ」

「!?」

 

 回復したと云う事は回復する必要があったということ。

 意識が途切れる直前に何があったのかを思い出しました。アルベド様がとっても可愛らしかったその直後、強く突き飛ばされて壁に激突し、あちこちがぽきぽき折れていたのでした。

 

「おにーさんはまず私に感謝しなきゃいけないんじゃないっすか?」

「あ……あ……ありがとう、ルプー……」

「私に色々教えて欲しいっすか?」

「欲しいです」

「むっふー! それじゃ早速」

「いやその前に食事をとりたい」

「……仕方ないっすね」

 

 肉体の損傷は回復してもお腹が膨れるわけではないのです。

 ベッドに引きずり込もうとしたルプスレギナはちょっと我慢することにしました。

 

 ちなみに、アルベド様からのお言葉は全て伝えたわけではありません。伝言として残されたわけではないのであえて伝えてないのです。

 アルベド様はこう仰っておりました。

 

『睡眠不足と言っていたからしばらく寝かせておきなさい』

 

 もしも若旦那様が聞いたら感激にむせび泣く事でしょう。

 だとしても、アルベド様が帰っちゃったことに変わりはありませんが。

 

 

 

 

 

 

 アルベド様が克服した不思議な運命力はルプスレギナの下へ巡って来たのかも知れません。

 

「もうじき私はアインズ様のお供で遠征に行くでありんすから? その前に英気を養いに来たでありんす」

 

 美味しいご飯を食べてもっと美味しいルプスレギナを食べようとしたらシャルティア様がいらっしゃってしまいました。夜は吸血鬼のお時間です。

 ルプスレギナは伏せた顔を思いきし面白くなさそうに歪めています。

 

「アルベドが今夜はお前を貸してくれると言ったでありんすよ」

「アルベド様が……なんとお優しい……」

「……まあ私とアルベドの仲でありんすから? まあそのくらいは?」

 

 嘘です。

 本当は、今日はお休みでエ・ランテルに行ってるはずのアルベド様をナザリックで見かけたため、今夜はあの男は空いてると察してそれじゃ私が、となったのでした。

 おバカおバカと言われようと悪知恵は働く吸血鬼なのです。

 

 今夜のシャルティア様は如何にも吸血鬼な装いでした。

 いつもなら美しい銀髪をリボンやヘッドドレスでまとめているのですが、今日はアップにすることもなく下ろしています。

 服装はシンプルの一言。漆黒のマントで首から下を足元まで覆っています。襟元を金の飾り紐で留めているのがお洒落です。マントから伸びる腕は肘まで覆うドレスグローブ。こちらも漆黒ですが、マントとは違って光沢があり手触りが良さそうです。

 赤い目と赤い唇がてらてらと光っています。唇から覗く牙は冷たい光が。

 今夜のシャルティア様は、吸血鬼が吸血に行くに相応しい正統派吸血鬼スタイルでありました。

 

「それじゃあ……」

 

 若旦那様にぴょんと抱き着き、しっかりと首筋に腕を回します。

 抱き着かれた若旦那様はシャルティア様の背中と膝裏に腕を差し入れてお姫様抱っこ。マント越しに感じるシャルティア様の感触は、なんだか不思議なものでした。見た目よりも分厚いマントなのか、触ってもシャルティア様の御身体がよくわかりません。

 それもそのはず、シャルティア様が着けているマントは魔法のマントでした。というか、ナザリックの衣服はメイドが着るメイド服であろうと全てに魔法が掛かっています。シャルティア様のマントは装備品を見えにくくする効果があります。そのため、マントを開いてもその下にどんな服を着ているのかわからないのでした。いわゆるロールプレイ用です。

 シャルティア様は吸血鬼の蒼白な頬を薄っすらと染め、若旦那様の耳へ唇を寄せました。

 

「今日のシャルティアはぁ、おにいちゃんにいっぱい可愛がって欲しいの! シャルティアのえっちなおまんこにぃ、おにいちゃんのとってもえっちなおちんちんをいっぱいハメハメして欲しいなあ♡」

 

 シャルティア様の告白に若旦那様とルプスレギナはフリーズしてしまいました。

 

 あのこれいやこの人じゃなくてこの吸血鬼と云うかシャルティア様はどうしちゃったんですか? そんなの私は知らないっすよいっぱいハメハメしちゃえばいいんじゃないっすかー? ルプー怒ってる? 怒ってないっすよー。じゃあいいや。かーーーーーーーっだからおにーさんはダメなんすよ怒ってると思ったんならなんかフォローするべきっす! だって怒ってないんだろ? 怒ってないけど楽しくもないっすよ! シャルティア様を優先するしかないだろう。そんなのわかってるっすよ!

 

 ナザリックのシモベ達は建前上皆平等となっていますが厳然たる階級があり、中でもシャルティア様は特にうるさ型の御方です。プレアデスのルプスレギナが遮ることは許されません。

 

「二人で何をこそこそと話してる? ……もしかして今の言葉遣いおかしかったでありんすか?」

 

 自身の創造主であるペロロンチーノ様の姉上であられるぶくぶく茶釜様が稀にそのような言葉遣いでいたのを覚えていました。ペロロンチーノ様は泣いておられましたが、喜んでいらっしゃる方々もおられたのです。

 

「いえ……。シャルティア様が余りにも可愛らしくて驚いてしまいました」

「えっへへ♡ 今日のシャルティアはおにいちゃんにいっぱい可愛がってもらうの♡」

 

 いっちゃいちゃし始めて二人にルプスレギナはおもいっくそ面白くありませんでした。

 ふん、やればできるじゃないっすか。あんなので良かったのか。よかったみたいっすねー。今日は無理だけど明日はルプーのために時間をとるよ。絶対っすよソーちゃんより先に私っすからね? わかったよ。

 

「さあ行くでありんす! あ、今日はルプーは遠慮しておくんなんし」

「かしこまりました。どうぞごゆっくりとお楽しみくださいませ」

「もちろんでありんすよー。じゃあおにいちゃん、行こう?」

 

 おにいちゃんの頭をホールドして頬っぺにちゅっちゅ、耳たぶはむはむ。

 

 あれいいなあ明日になったら私もやるっす! と意気込むルプスレギナは、明日がなくなることをまだ知らないでいた。



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吸血鬼の夜 ▽シャルティア♯3

 実を言うとシャルティアはナザリック内で割と偉い吸血鬼である。なにせ階層守護者であり、序列は上から数えた方が早い。いずれはアインズ様の正妃となり、アインズ様に次ぐ地位となることが約束されている、とシャルティアだけは思っている。

 強者らしく傲慢な性格なのでそれで困ることは特にない。なかった。

 

 ところで、至高の御方々に創造されたナザリックの者たちは創造主の性格を反映することがままある。悪を標榜する「ウルベルト・アレイン・オードル」が創造した炎獄の造物主デミウルゴス、正義を掲げる「たっち・みー」が創造した鋼の執事セバス・チャン等はその傾向が強いことをアインズ自身が把握している。

 ではシャルティア・ブラッドフォールンはどうか。創造主である爆撃の翼王「ペロロンチーノ」は己の性癖を一切隠さずシャルティアを創造した。シャルティアはエッチな女の子として創造されたのだ。

 しかしそこへもう一つ。ペロロンチーノは薄々自覚しつつ見て見ない振りをしていたもの。

 ペロロンチーノはぶくぶく茶釜の実の弟であり、姉には色々と逆らうことが出来なかった。被虐性癖のことではない。それは隠れることなくシャルティアの中に存在する。

 弟、と言うことである。つまりは末っ子属性。

 シャルティアはペロロンチーノに似て末っ子属性が、ちょっぴり甘えん坊さんなところがあったのだ。

 

 ちょっぴりなのでいつもは意識しないでいられる。ときたま表に出てくるときはアインズ様におねだりしちゃう。割と偉いシャルティアは甘えられる対象がアインズ様以外にいないのである。

 だけどもアインズ様はとっても偉大なお方なので甘えたいときに甘えていいものではない。

 これからシャルティアはアインズ様の随伴として遠征に赴く。もし万が一遠征中にアインズ様に甘えたくなってしまった末にアインズ様を危険な目にあわせてしまおうものなら今度こそ自分で自分が許せなくなる。甘えん坊さんは絶対に封印しなければならない。

 よって、甘えん坊さんを満足させて封印するべくエ・ランテルを訪れたのであった。

 しかし……

 

「シャルティア様、場所はどこに致しましょうか?」

「シャルティア様、私の寝室でよろしいのですね」

「シャルティア様、部屋に着きました。ドアを開けるので右手を使います。落ちないようしっかりと掴まっていて下さい」

「シャルティア様、ベッドの上でよろしいですか? たまには気分を変えてソファーにいたしますか?」

「シャルティア様、月の光を浴びられるよう窓の近くでいたしましょうか?」

 

 シャルティアはキレた。

 

「ちっがあああぁぁうぅっ!! シャルティア様シャルティア様うるさいでありんすよ! よく聞きなんし。今のお前はシャルティアのおにいちゃんでありんす。おにいちゃんは妹に様をつけて呼んだりしんせん。もっとおにいちゃんぽく呼びなんし!」

 

 シャルティアをお姫様抱っこしたままなので耳元で轟く叫び声はうるさかったが、アルベド様の絶叫に比べたら大したものではない。ほっぺたを膨らませてぷんぷんしているシャルティアへお兄ちゃんらしく優しい声をかけた。

 

「わかったよシャルシャル」

「………………シャルティアって呼びなんし」

「シャルティアだね」

「……わかってるでありんしょうが、シャルティアって呼ばせるのは今だけでありんす。もしも勘違いして外で呼んだりしたら肉団子にしてエントマのおやつにするでありんすからよく覚えておきなんし」

「きっとソリュシャンも欲しがると思うよ。エントマ様は会ったことないけど、そんなことになったら喧嘩しないよう仲良く分け合って欲しいな」

「お前は中々いい度胸してるでありんすね……」

「こら、おにいちゃんをお前なんて呼んじゃダメだぞ?」

「……はあい」

 

 おにいちゃんになっても主導権はシャルティアにある。

 小さな手で頬をしっかりと挟まれて、今度は頬や顎ではなく唇へキスをされた。

 シャルティアは紅い唇を薄く開いて、男の唇へ重ねると軽くついばむ。唇で上唇を挟んで、次は下唇を挟んで、上下五回ずつしてから舌を差し入れた。

 人間の体は吸血鬼に比べるとずっと温かい。体温を舐めとるように上唇の裏側へ、下唇の裏側へ、舌先を尖らせて歯や歯茎をなぞり、男の舌へ。柔らかくて温かかった。

 牙で舌が傷つくのを嫌ってか、男の方からは余り舌を伸ばしてこない。シャルティアは強く唇を押し付け、強く吸った。

 温かい舌が口の中へ入ってくる。温かい唾も口の中へ流れ込んでくる。

 口内に溜まりつつある唾は、二人の舌が絡み合って念入りにかき混ぜて、シャルティアが全て飲み込んだ。

 生温かい唾が喉を通り胃に落ちて、体中が熱くなってくるような気がした。

 冷めた気分が温まってきた。

 

 

 

 

 

 

 シャルティアはベッドにおろされ、男が覆い被さろうとしてきたのを押し止めた。ヒールの高い真っ赤な靴を脱ぎ捨ててベッドの上に仁王立ちする。

 

「今日のシャルティアはぁ、おにいちゃんのために特別な恰好してきたの♪」

「それは楽しみだな」

 

 口ではそう言ったものの余り楽しみにはしていなかった。今日お見せいただいたイケイケのアルベド様に比べたら太陽であろうと陰が差す。シャルティアも長すれば傾城の美姫となろうが、アルベド様が相手では分が悪すぎると云うもの。

 

「じゃーん!」

「………………」

 

 シャルティアは勢いよくマントの前を開いた。何も見えなかった。魔法のマントの効果であるようで、マントの内側には闇が籠り何も見えない。

 目を瞬かせる男を前に、シャルティアはにんまりと悪戯な笑みを作って、襟を留める飾り紐を解いた。

 

「!」

「ふふふ、どう? シャルティアきれい?」

 

 飾り紐を解くことによってマントの特殊効果が消えた。シャルティアの姿が露わになった。

 腕を覆う漆黒のドレスグローブは二の腕まである。シルクを染め上げたのか特別な素材なのか、光沢があって如何にも滑らかそうだ。縁は上品なレースが飾り、一等のドレスに合わせるのが相応しい。

 しなやかな脚はグローブと同素材らしきストッキングが包む。細い腰を飾るガーターベルトから伸びる紐がストッキングを留めている。

 本来ならガーターベルトの上にショーツを履く。そうしないとトイレの度にガーターベルトを外す必要が出てくる。しかし、シャルティアは下に履いていた。付け方を知らないわけではないようだ。レース編みの透け透けショーツには中央部に真っ赤なリボンがあった。ショーツのアクセントにしては大きいリボンで、下腹よりも下にある。リボンは留め紐なのだ。小さなショーツの只でさえ狭い股間の部分が開かないように留めている。シャルティアが履いているのは股間に小さな窓が付いているオープンショーツ。

 パンツがオープンならブラジャーもオープン。面積はハーフカップの半分もない。バストを下から包んでいるが、隠すべき愛らしい突起は隠れていない。吸血鬼の蒼白の肌で輝くように紅く色付いている。

 細い首にはチョーカー。ブラジャーやショーツとの調和を壊さないレースとフリルのゴシックデザイン。

 

 シャルティアの未成熟な裸身は、物凄くセクシーな下着に包まれていた。

 もしもアルベド様がいらっしゃったら「小娘が背伸びするな」と仰って最終戦争が起こる。残念ながらいらっしゃらない。

 

「じっくり見ていいよぉ♪」

「………………」

 

 男は目を見開いて仄白いシャルティアの裸身に見入っていた。

 

(……どうして何も言んせんのでありんすか? まさかやりすぎたでありんしょうか!? いやでもヴァンパイアブライド達は凄くお似合いでって……、まさかあいつらお世辞で言ってたのか!? くそっ! 帰ったらあいつらは………………? くふふ……♡)

 

 脱ぎ捨てたマントはひらひらと舞って部屋の隅にあるコート掛けに引っかかった。

 シャルティアはベッドの縁に腰を掛け、妖艶に笑って脚を組んだ。

 右足を下にして左足を上に。組み替えて左足を下にして右足を上に。組み替える度に股を大きく開いて股間を見せつける。何度か組み換え、右足を伸ばした。

 

「っ!」

「おにいちゃん? ここがこんなに膨らんでるよ?」

 

 右足のつま先で男の股間にそっと触れた。足裏でも固くなっているのがはっきりとわかる。

 

「シャルティアのエッチな下着を見て興奮しちゃった?」

「………………ああ」

 

 屈辱であった。

 

 シャルティアの手の平に包める未成熟なちっぱいや折れそうなほどに細い腰に肉付きの薄い尻は、ラナーを思わせるのだ。

 新たな生活を手に入れて最早復讐心はないが、未だあのクソアマと憎む心は消えていない。しかし何度も交じりあった仲である。

 民草から搾り取った税金でエッチな下着を仕立て上げ、着けたところを見せられたことは何度もあった。

 アルベド様の庇護下になって尚忘れられないとでも言うのか。アルベド様に比べたら比較にならないほど貧弱な体だと云うのに。

 悔しい。でも勃起しちゃう。

 しかしここにいるのはラナーではなくシャルティアだ。シャルティアの英気を養うために尽力しなければならない。

 勃起させるのは必要なことなのだと自分に言い聞かせた。

 

「うふふ……。それじゃあ……」

 

 シャルティアは伸ばした人差し指で唇を撫でながらベッドの奥へ。吸い寄せられるように男もベッドに上った。服はベッドの下へ脱ぎ捨てた。

 

「あぁ……おにいちゃんのおちんこすごい立ってる。おにいちゃんがそんなになってるとシャルティアもエッチな気持ちになっちゃうよぉ♡」

 

 脚を大きく開いて膝を立てるM字開脚。上半身をやや後ろへ傾けてリボンに閉じられた股間を見せつけた。

 

「おにいちゃんがほどいて」

 

 体を伏せて股間に顔を近付ける。リボンを引っ張るとあっけなくほどけた。

 血のように紅いリボンを白いシーツの上に放り、シャルティアの小さな窓を開いた。

 

「シャルティアはおにいちゃんとはめはめしたくてぇ。おまんこ濡らしちゃったの。シャルティアはいけない子なの……」

「ああ、いけない子だ」

「きゃん♡」

 

 今度こそシャルティアを押し倒した。

 シャルティアには割とかなりサドっ気がある。聞くところによると戦闘や配下のヴァンパイアブライドとの行為で解消されるらしい。

 同時にかなり凄くマゾっ気もある。アインズ様がお仕置きしてくれない以上、マゾっ気を解放する機会は今を措いて他にない。

 

「あんっ、おにいちゃんおっぱいちゅっちゅして赤ちゃんみたい」

「赤ちゃんはこんなところをいじらないだろ?」

「あふぅっ……、おまんこにゆびぃ、んっはぁんっ……、シャルティアはおにいちゃんの指……好きなの」

 

 吸血鬼の冷たい肌でも愛撫を重ねれば血が通ってくる。乳首は採りたてのさくらんぼのような艶と張りを持ち、唇で優しく挟む。強く吸いながら舌でもって弾力を楽しみ、歯を立てる。シャルティアは強めにされるのが好きで、舌では柔らかな弾力を、歯では肉々しいかたさを感じた。

 開かれたショーツの窓には最初から中指と薬指の二本を指し込む。抵抗なくぬるりと飲み込まれた。

 

「はうぅ……、おまんこ気持ちいの、おにいちゃんの指だいすきぃ♡ はうぅあうぅ……おまんこくちゅくちゅ言ってるよぉ。シャルティアもおにいちゃんのおちんぽしこしこしてあげるね」

 

 乳首をちゅっちゅされてると手が届かない。キスは乳首ではなく唇に来てもらった。

 膣内をかき混ぜられて甘く鳴きながらシャルティアは男の股間に手を伸ばす。シャルティアの小さな手では握り切れないほど太くて硬くなっている。吸血鬼の冷たい手では、勃起した逸物は火傷をするほど熱かった。手の平で脈打っているのを感じられる。

 

「あっあっ、そんなっはげしくしちゃうとっ、シャルティアのおまんこおかしくなっちゃうぅ!」

 

 指での抽送を段々と激しくしていく。

 シャルティアの膣は何度か男を受け入れていたが、やはり狭い。入念にほぐしておかないときつすぎて挿入時に痛みがある。よく濡らしてよくほぐさないといけない。

 指を受け入れて、膣内の温度が上がってきた。愛液の量も増えて指の動きに伴って飛沫をあげる。シーツに飛び散り、点々と小さな染みを作った。

 

「手が止まってるぞ。シャルティアはこれが欲しいんだろ?」

「うん……。おにいちゃんのおちんぽ欲しい……」

「まだ駄目だ」

「そんなぁ……、ふあああっ! ううん、シャルティアのおまんこいじめないでぇ」

 

 シャルティアの瞳は潤み、頬ははっきりと上気している。

 与えられる刺激が強すぎるのか手がお留守になってきた。代わりに発展途上の太ももに擦りつける。ひんやりとした肌が気持ちいい。

 

「ひゃあああぁ!」

 

 ぴぴっと飛沫をあげてシャルティアはつま先までピンと伸ばした。無意識だろうか、腰を浮かせたので指が抜けた。

 シャルティアのオープンショーツはフロントからバックまで、中央部は全て開く作りになっていた。とろけた秘部から溢れる愛液は尻の割れ目へと伝っていく。

 ぴくぴくと腰を痙攣させ、ぽすんとベッドに落ちた。

 

「はうぅ……、もう、おちんぽ欲しいでありんすぅ……」

「シャルティアからシャルティア様になっちゃったのかい?」

「いじめないでくんなんし……」

 

 達したところを見られたのは何度もあるのに、妹になりきっていたところで素を見せたのが恥ずかしいのか、シャルティアは快感と羞恥に頬を染めて顔を逸らした。

 シャルティア様ならば兎も角、おにいちゃんとしては強引に行かなければならない。

 細い肩に手を掛け、こちらを向かせた。

 

「シャルティアはどうして欲しいのかな? 上手におねだりできるかい?」

「うぅ…………」

 

 達した熱が冷めないようにシャルティアを抱き寄せ、ガーターベルトとオープンショーツの間に挟まれた下腹を撫でる。冷たくもすべすべの肌は手触りが良くて撫でているだけで気持ちいい。

 時折ぴくりと震えるのは、達した余韻が未だくすぶっているということ。

 

「シャルティアはおにいちゃんのおちんぽが入れて欲しくて、いつもいつもおちんぽのこと考えちゃうの。シャルティアのおまんこはもう濡れ濡れでとろとろだからぁ……、おにいちゃんもおちんぽぎんぎんだしぃ……、おちんぽちょーだい♡」

「よしよし、いっぱい入れてあげるからな」

「えへへ、おちんぽだあい好き。おにいちゃんのおちんぽだから大好きなんでありんすよぉ?」

 

 全身を愛欲に染めているシャルティアは、シャルティアなのかシャルティア様なのか曖昧になっていた。

 

 蕩けた笑顔と体のままで、股を開いた。

 おっぱいは大きくないけれど、シックな黒のオープンブラが細やかな膨らみを強調している。ショーツは肝心なところに窓があって、開かれている。性器も潤んで開いている。ドレスグローブに包んだ両手で自らの性器をくぱあと開く。

 人間の男にこれ以上ないほどの無防備な姿を晒し、シャルティアは身も心も快感と陶酔への期待で開き切っている。

 

「あはっ♡」

 

 大きな体が覆い被さってきた。

 下を向くと凶悪なまでにそそり立った逸物が見えた。あれが体の中に入って来るとどれほど気持ち良くなれるのか、シャルティアは知っている。

 指よりもずっと太くてずっと熱い怒張がショーツの窓を開いた。愛液を馴染ませるように亀頭で割れ目の内側を撫で始める。

 何度か撫で、自然と沈み込む場所がある。

 つぷりと熱い肉の塊が入り込み、シャルティアは快感を逃がさず捕らえるべく反射的にきゅうと締め付けて、

 

「はえ?」

 

 ぐいと押されて男の顔が遠くなった。

 両の太股を掴まれて下半身を持ち上げられている。性器を真上に突き出す姿勢は女の子が隠さなければならない部分を主張させられるようで、羞恥心を煽ってやまない。異本の用語でまんぐり返しと言う

 くちゅくちゅもぺろぺろもじゅぽじゅぽも経験済みのシャルティアなので、今更まんぐり返しで恥ずかしがったりしない。

 

「まだぺろぺろをしてなかったね」

「ふえっ? わたしはぺろぺろじゃなくておちんぽがっ!?」

 

 小窓を開き、シャルティアに口を付けた。

 使いすぎたせいで色素が沈着し陰唇が伸びてきたラナーと違ってシャルティアの秘部はとても綺麗だ。青白い肌の中で赤く咲いている。舌触りは絹よりも遙かに滑らか。そこは女が秘める内側なのだ。

 度重なる刺激で包皮が剥けてきた肉芽に吸い付く。ほぐれてきた膣には二本の指を左右から差し込み、許す限りに引っ張った。とぷりと愛液が湧いてきた。

 

「にゃ~~~~~~~~~~~~っ!!!」

 

 シャルティアは鳴いた。

 

 ここが折り返し地点である。

 シャルティアの膣は愛撫でほぐれてよく濡れているが、それでもまだきつくて狭い。全身が粉々になるほどに脱力させなければならない。指と口であと5・6回は達してもらい、愛液でシーツに水たまりが出来るくらいになれば大丈夫。

 

 

 

「はひゅ……ふぅあ? はあ……、はあ、あうぅ……」

 

 一時間はたっぷりと前戯をこなした。

 シャルティアは全身を弛緩させてベッドに横たわり、目はうつろに天井を見上げている。

 解放されたばかりなので膣口は緩み、ぱくぱくと喘ぐように開いている。開く度に、閉じる度にさらりとした愛液を流した。尻の下以外にもシーツのあちこちに染みを作っている。

 

 弛緩しきったシャルティアの脚を掴み、大きく開かせた。何度も達したおかげで冷えていた膣内がようやっと温まってきた。それでも人肌には届かないけど。

 

「あう? ……おちんぽまらあ?」

「今度こそちゃんと入れてあげるよ」

「……あっ……あっ……入ってきてるぅ」

 

 シャルティアの膣口にぴったりと亀頭を押し当て、ゆっくりと挿入していく。十二分にほぐしてシャルティアの力は抜けているけれど、やはり膣圧がすごい。シャルティアは入れて欲しいと思っているのに膣の方は強い圧力で押し退けようとしてくる。

 入りきってしまえば抜けないように取り込む力となるが、半分も入ってない段階だと挿入を阻んでくる。

 となれば、ゆっくりではなく一息に押し込むべき。シャルティアは激しい方が好きなのだ。

 

「かッ……――――――――――ハッ」

 

 全身を貫く衝撃にシャルティアは弓なりに背を逸らして喉に詰まった息を吐き出した。

 まるで股間から頭頂まで灼熱の杭に穿たれたよう。股間から生じた熱と衝撃が下腹から体の真芯を通って頭の天辺にまできた。頭の中で火花が散って、視界がチカチカと白む。

 痛みはまったくない。たとえあったとしても、破瓜の痛みさえ快感だったシャルティアだ。

 男の逸物を握ったこともしゃぶったこともあるシャルティアは、大きさも太さも固さもよく知っている。あれが体の中に入ってきて、押し広げられるような圧迫感がある。

 痛みはまったくないのだ。

 五指で数えられるほどだが、入れさせたことは何度かある。そのどれもが、これほどの衝撃を伴ったことは一度もなかった。

 

「はっはっはっ……、今日のおちんぽはっ、いつもより…………んああああぁあっ!!」

 

 取り込もうとする媚肉の動きに反して引き抜き、再度奥まで挿入する。深く入った亀頭が壁にぶつかり、なお押し上げる。シャルティアは強くされるのが好きなのだ。

 

「も……もっと、もっとゆっ…………、ふあーーっ!? あっんっあああぁっ!!」

「わかってるよ。もっと激しくだね」

「ちがっ! らめぇ! おまんここわれちゃうシャルティアおかしくなっちゃうぅう!」

 

 優しい笑みで見下ろされ、大きな手で腰をしっかりと掴まれる。動かないように固定されて何をされるのか。シャルティアは怖気にも似た何かを感じた。

 止める間もなく激しく腰を打ち付けられた。

 肉が肉を打つ音に、固い剛直が柔らかな媚肉を抉って愛液を掻き出す音。

 押し止めようと伸ばした手は宙を掻くだけで男の体に届かない。

 子宮を打たれる度に頭の中で白い光が炸裂して何もわからなくなる。自分が自分でなくなってしまう恐怖は、このままでいいような気がした。

 だってとても気持ちいい。熱い肉棒が体の中へ直に熱を伝えてくる。感じきって子宮が下り、そして亀頭で押し上げられる。

 

「あんっ、あんっ、あんっ……、おちんぽあつくて、おっきくて、おまんこの中で暴れてるぅ♡」

 

 シャルティアの美貌が蕩けきっている。半開きの唇から涎がこぼれているのに気付いてない。

 温まってきた膣内は挿入されている逸物の温度と混じり合って熱くなってきた。狭いながらも程良く力が抜けて、亀頭から裏筋も竿も満遍なく肉ひだが絡みついてくる。こうなってくると狭さはデメリットのきつさよりも密着感のメリットの方が大きくなってくる。

 

「もっともっとぉ、あん♡ ちゅーもするでありんすよぉ。んっ……ちゅっ、じゅる……ちゅぷ……、ぷはぁっ」

 

 体を離していたのは初めての時のように背中を引っかかれては堪らないと思ったからだが、繊細なドレスグローブに見えてシャルティアの爪で破けない強さがあるらしく、これならばと体を近付けた。

 全力で抱きしめられると体が折れる。幸いにも見た目よりも強い力程度で押さえてくれた。

 シャルティアのちっぱいが胸板に押されて形を変え、乳首同士で擦れあった。擦れた刺激がよかったらしく、シャルティアは自分で手を伸ばして色づく乳首を強く摘まんだ。

 紅い唇が大きく開き、唇と同じくらい紅い舌を目一杯伸ばす。こちらからも舌を伸ばし、舌先だけで触れ合った。

 

「シャルティアはいっぱいイっちゃったのにおにいちゃんはまだでありんしょう? シャルティアのおまんこにぃ……いっぱい出していいでありんすよぉ」

「シャルティアは出して欲しいんだろ?」

「そうでありんすぅ♡ あつあつのおちんぽみるくがいっぱい欲しいのぉ。あんっ……おちんぽぴくぴくしてきたでありんすよ?」

 

 吸血鬼の吐息は血生臭いことはなく。甘く芳しく紅い花の香りがする。

 シャルティアの小さな体を抱きしめ、鼻先が触れる距離で見つめ合う。シャルティアは大きく開いた脚をこちらの腰の回し足首同士を引っかけてロックする。

 

「あっ♡」

「出すぞ」

「あああーーーー………………、んっちゅうぅ、んむっ……」

 

 シャルティアの一番深いところへ焦らしに焦らして高めきった欲望を吐き出し、シャルティアの絶頂の叫びを唇で塞いだ。今日何度もしたように、ねちっこく舌を絡められる。

 絶頂の締め付けに誘われて逸物がどくどくと脈打ち、断続的にどぴゅどぴゅと吐き出している。今日はアルベドへ三度射精していたが、ルプスレギナの魔法で回復しきったらしい。射精は長く、量も多かった。

 

「シャルティアのお腹がおにーちゃんのおちんぽみるくでいっぱいになっちゃったでありんすよ? いっぱいすぎてシャルティアのおまんこに入りきらないでありんす♪」

「入りきらないならもうお仕舞いにするかい?」

「まだだめえぇ。おちんぽまだこんなに固いんだもん。もっとしよ? ね?」

 

 可愛らしい上目遣い。

 突然切り替わった甘えん坊さんモードにほんのちょっとだけときめいたのは内緒である。

 

 アルベド様が「シャルティアの英気を養うために一晩付き合うように」と仰ったらしいのだ。期待に応えるべく、シャルティア様を満足させなければならない。ときめいている場合ではないのだ。

 シャルティアが口から垂らした涎を舐めとりながら、もう一度腰を振り始めた。

 吸血鬼の嬌声は闇夜に心躍る音楽のようだった。



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再訪ナザリック!

 うにゃあお腹いっぱいでありんすぅ、と幸せそうに呟くシャルティアを丁寧に拭き清める。色々な匂いをさせているのでタオルには香水を一滴だけ垂らした。こんな時ソリュシャンがいるとシーツの染みまで奇麗にしてくれて便利なのだが。

 ふにゃふにゃになってるお顔は耳の裏まで奇麗にする。ベッドシーツの交換はシャルティアが寝転んでいるため後回し。

 一仕事終えて夜着に着替えた。裸身にガウンを引っ掛けるだけである。

 

 窓辺の椅子に腰かけ外を眺める。まだ月が高い。

 見下ろせば月光に照らされた庭園が美しい。おそらくは見えないところにナザリックからの護衛が数多配置されているのだろう。

 何度も精を絞られた気怠さから呆然と物思いに耽った。自分の体は一体どうなってしまったのだろうか。

 

 シャルティアは何度も達した。それは自分もだ。堪らずに達したわけではない。男であれば射精はある程度コントロールできる。ただし、男の射精は女の心を満足させる。飲むわけではないのにシャルティアがそう望んだのだ。

 何度射精を繰り返しても量は変わらなかった。

 アルベド様からお力を頂いてからは目に見えて回復力が増したし一日にこなせる回数も増えていたが、ある程度の時間を置かない限り回数を重ねる度に量は確実に減っていった。それが今日は明らかに違う。

 心当たりはやはり一昨日の事。

 一日中生死の境をさまよっていた。それが何の影響もないとは考えられない。

 しかし、死に掛けた原因は夢精である。夢の中でアルベド様にもてあそばれていたとは言え、夢精である。夢精で死にかけたのだ。

 昨日はあえて考えなかった。デミウルゴス様からの課題があったし考えたくなかった。しかし思い返せば凄く酷い。

 これはあまりにもあまりにも言葉を尽くそうにも言葉にならずあんまりにも酷過ぎる。

 

「ぐっ…………」

 

 こみ上げるものを押さえようと目頭を押さえた。あまりにも馬鹿らしすぎてちょっぴり涙が出てきた。

 

 

 

 アインズが知れば男の身に何が起こったのか気付いたことだろう。男はレベルアップしたのだ。

 

 古来より、弱者が強者を打ち倒すと経験値がっぽがっぽと決まっている。高レベルの処女膜を幾つも破り、アルベドのアルベド汁を浴び、ついには100レベルサキュバスの処女膜を貫いた。これでレベルが上がらないわけがない。

 

 もう一つ。

 古来より、死の縁から復活した者はパワーアップすると決まっている。死にかけた原因がなんであれ、見事試練に打ち勝った男へ美神の恩寵がないわけがない。

 

 更に一つ。

 古来より、イメージの力は本当に重要であると伝わっている。筋トレする際に目標とする肉体をイメージするか否かで結果に有意な差が出てくる。アルベド様にお悦び頂こうとエアペッティングに励む男が精力増強を思わないわけがない。過程は色々酷かったが。

 

 涙が出ちゃうくらい辛い経験ではあった。それもアルベド様のためと思えば大したことではない。快感より痛みが勝ったシャルティアとの一時も楽しめるようになったことであるし。

 再度月を見上げる顔からは陰りが消えていた。

 

 

 

「お前はナザリックに来るつもりはないんでありんすか?」

 

 ベッドでぐったりしていたシャルティアは快感と多幸感に全身を浸らせていただけで動けなくなったわけではない。曲がりなりにも100レベルである。むしろお肌艶々気力満タンの絶好調。

 

「近々訪問する予定です」

 

 住まいを移さないかとの問いであるとは察せられたが、素直に答えると色々と面倒である。

 

「シャルティア様もお聞きになっておられた通り、アインズ様からナザリックの大図書館の利用許可を頂きました。明日にも申請を出そうと考えています」

「申請?」

「ナザリックの訪問についての申請書です」

 

 立場的にはアルベドの配下であり、ナザリック所属と言える。しかし、ナザリックで生まれたわけではないため、明確な線引きがある。高い地位にいるわけでもないので自由に出入りすることを許されたわけではない。地下大墳墓ナザリックへ訪問するには幾つもの手順を踏まなければならない。

 まずはエ・ランテルのアインズ様の居館へ「ナザリックに行きたいです」と申請書を出す。申請書は然るべき方のサインをもらってアインズ様へ。アインズ様が「いいよ」と言うとその旨が記された書面が返ってくる。アインズ様がいらっしゃらない時は然るべき方のサインでOK。それをもって出発である。

 エ・ランテルから馬車に揺られてカルネ村へ。カルネ村で一泊してからナザリックへ。「いいよ」の書面を見せてようやっと訪問することが出来る。

 申請書を出してから三日以内に訪問できれば御の字である。

 

「面倒でありんすね……」

「大した手間ではありません。必要な手続きと愚考します」

「でもアインズ様はお前が来ることをお許しになったでありんしょう?」

「はい。ありがたいことです」

「だったら問題はありんせん。私が連れて行ってあげんす」

「え?」

 

 反論する時間はなかった。

 ベッドから飛び降りたシャルティアは魔法のマントを掴み、もう一方の手で男の腕を掴んだ。変な方へレベルアップした男に吸血鬼の怪力に抗う力はない。シャルティアが唱えるのはゲートの魔法。暗がりが球形に広がり闇の門が生成される。

 シャルティアは壁に隠された覗き穴へ向かって妖艶な笑みを向け、男を捉えたまま闇の門を潜り抜けた。

 

 

 

 

 

 

「ソーちゃん起きろーーーーーーっ!!」

「ピギィ!」

 

 ソリュシャンの部屋に駆け込んだのは改造メイド服を乱したルプスレギナである。駆け込むなり、未だベッドの上でぽけーっと虚空を見つめるソリュシャンへ全力のぐーぱん。

 ソリュシャンはショゴスであり、物理攻撃に耐性がある。しかし、愛のこもった拳がゴム人間に効くように、愛のこもったルプーパンチは妹を正気に戻す効果があった。

 

「な、なに!? 何するのよルプー!」

「それどころじゃないっすよ! おにーさんがシャルティア様にさらわれたっす!」

「シャルティア様に? どうして!?」

 

 ルプスレギナがどうしてそんなことを知っているのか。ずっと覗いていたからである。

 おにーさんとシャルティア様がいいことしていたのを最初から最後までずっと覗き見ていた。シャルティア様のテクニックを学ぶためであり、本日の甘えん坊モードはとても参考になった。

 それはそれとして、二人の交わりを見て聞いて、ずっと一人で慰めていた。さっきまでメイド服の襟ぐりを引っ張っておっぱいを出していたし、スカートの下はパンツを履いてない。ソリュシャンの鼻ならルプスレギナから雌の匂いを感じたかも知れない。股間や太ももを拭う暇もなかった。

 幸いなことに飛び込んできたニュースが大き過ぎてソリュシャンは気付かなかった。

 

「どうしても何も突然だったんすよ! おにーさんがナザリックの最古図書館に行きたいって言ってそれなら自分が連れてくって」

「……………………まずいわね」

「まずいっすよ。だからソーちゃんのとこに来たんじゃないんすか」

 

 人間の男が吸血鬼のねぐらに囚われて、ぐっちょぐっちょになるならまだしもぐっちゃぐっちゃになりでもしたら目も当てられない。

 生きてさえいればあのお兄様の事だからなんとでもなるだろうが、もしも吸血されてレッサーヴァンパイアに転化してしまったら。

 ないとは言えない。

 お兄様の血はシャルティア様が我を忘れるほど美味しいと聞き及んでいる。

 

「私たちの手には余るわ。至急アルベド様にご連絡をして」

「あーーーー、アルベド様はちょっち不味いっす」

「どうして?」

「ソーちゃんが寝てる間に色々あったんすよ」

「寝てたわけじゃないわ。ちょっとぼんやりしてただけじゃない」

「そーっすね」

 

 ソリュシャンはアルベド様に隠れてお兄様の精液を絞ってきた。今は公認となっているが、ソリュシャンはまだ知らないでいる。

 一日最低1回。最大5回。平均3回。アルベド様がいらっしゃる前日と当日の二日間は禁欲日。週に五日は絞ってきた。月に約二十日と言う事は大体計60回となる。

 それが一昨日は一日で100回以上。二か月分を一日で。

 ソリュシャンは急性精液中毒になってしまったのだ。アルベド様にお見せすればたちどころに回復したかも知れないが過ぎた話。愛のこもったルプーパンチで元に戻ることが出来た。

 

「アインズ様に…………、駄目だわ。アインズ様は遠征の準備に掛かりきりになっていらっしゃる。このようなことでお手を煩わせるわけにいかないわ」

「でもアインズ様もおにーさんのことは割と気に掛けていらっしゃって…………うーん、やっぱだめっすよね」

 

 アインズ様が御手隙で暇を持て余している時なら一考してもよいが、今はお忙しいと知っている。それにシャルティア様に拉致られたのは確かでも、まだ問題らしい問題が発生したわけではない。発生する可能性はそれなりに高いと思われるが。

 

「気に掛けていらっしゃるとなると……、マーレ様ね」

「それっす!」

 

 先にナザリックを訪問した際、マーレ様を肩車してナザリック見学をしていたと聞いていた。

 マーレ様はアウラ様の双子の弟であられ、アウラ様はシャルティア様と喧嘩するほど仲が良い、と聞かれようものなら双方からどうしてそう思ったのかと詰問されると思われるので口にはしないが暗黙の了解である。

 アウラ様ならシャルティア様を抑えることは十分可能と思われた。

 

「あっ…………」

「どうしたんすか早く連絡するっすよ!」

 

 ソリュシャンは胸元、というか胸から体の中へ手を入れて顔を歪めた。

 

「メッセージのスクロールがないわ……」

「なんでないんすかーーーーーっ!」

 

 お兄様殺人未遂事件の折にアインズ様へ連絡したのが持っていた最後である。

 補充要請はしていたが、在庫がないのか緊急ではないので後回しにされているのか、ソリュシャンに詳しい事はわからない。確かなことは、メッセージのスクロールを持っていない事。遠く離れたナザリックにいるマーレ様へ連絡する手段がないという事。

 

「一体どうすれば……、走ってナザリックへ? そんな時間ないわ。ああどうして私は魔法が使えないの!」

「魔法! 魔法ならナーちゃんっすよ! ナーちゃんは今どこっすか? エ・ランテルにいるはずっすよね?」

「そうよ、ナーベラルがいたわ。黄金の輝き亭にいるはずよ」

 

 アインズ様が遠征に行くという事は、英雄モモンは影武者が勤める。故に大きな活動はせず、エ・ランテルの近郊でぼちぼちやってるはずなのだ。

 外は未だ暗い。人の身に扮しているのだから黄金の輝き亭でドッペルゲンガー談義にでもふけっているかも知れない。

 

「急ぐわよ!」

「いくっすよーっ!」

 

 ルプスレギナはメイド服を着崩したまま。ソリュシャンは透け透けのネグリジェのまま、では流石にまずいのでガウンを羽織った。

 二人は窓を開け放ち、飛び出て行った。

 

 エ・ランテルの夜道を美女姉妹が駆け抜ける。

 果たして二人は間に合うのか。

 

 

 

 一方その頃、二人が助けようとしている男はヴァンパイアブライド達の凍てつく視線に晒されていた。




知る人ぞ知るかつての5万文字チャレンジが今は27万文字
そろそろ届きそうだけどR18で申請する度胸も勇気も根性もない


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クラスはたぶん建築士

でも立てるだけ


 ヴァンパイアブライドとは名前通りの吸血鬼である。

 ナザリックのモンスターでは珍しく非常に美しい成人女性の姿をしている。吸血鬼であることからわかるように、真祖の吸血鬼であるシャルティアのシモベである。シャルティアとは対照的に胸も尻も豊かである。そのことを指摘するとシャルティアによる大虐殺待った無しなのでアルベド以外に口にする者はいない。

 彼女たちもナザリックの一員ではあるが、至高の御方々に創造された存在ではなく地下大墳墓ナザリックの不思議な力によって自然と発生する存在であるため扱いは割と酷い。それでもナザリックのシモベであることに変わりはなく、彼女たちは至高の美の何たるかを知っている。先だってアインズ様が仰せになられたように、ナザリックは美しいもので満ちているのだ。

 

 そんな彼女たちの目からしても、シャルティアが連れてきた男は鑑賞に耐えうる。造形の妙を感じざるを得ない艶やかな美貌は、許されるならば時を忘れて見入っていたくなるほど。剥製にするにせよ氷像にするにせよ、美貌を保ったまま飾っておけば部屋の豪華度が100単位で上がるのは間違いない。

 飾るのではなくシャルティア様がご褒美の血袋として持ってきたのならば、彼女たちの忠誠心は容易く三段階は限界突破する。近くにいるだけで美味しそうな好い匂いが漂ってくる。あの美しくも瑞々しい肌に牙で傷を付け、滲み出る鮮血に舌を這わすことを想像するだけで口内に唾が湧いてくる。あんなの美味しいに決まってる。

 しかし、である。

 

『この者共へお前の手マンとクンニを教えてやってくんなまし』

 

 ヴァンパイアブライド達はシャルティアのシモベであると同時に、同性愛者でもあるシャルティアの愛妾でもあった。

 シャルティア様のお言葉は人間の男へ肌身を許し、体を任せよと云うこと。シャルティア様のご命令に抗ってよい法はない。命令には従わねばならない。しかし下等な人間の男なのだ。栄えあるナザリックの一員として屈辱は甚だしい。もしや何か御不興を買ってしまったのではと勘ぐってしまう。

 この場にいる六名のヴァンパイアブライド達はアインズ様の遠征に付き従うよう命じられた、謂わばエリートヴァンパイアブライドである。シャルティア様からのご命令による困惑は即男への反感となって、殺意寸前の鋭い視線を男へ投げ掛けさせた。

 

 

 

 どうしてこうなっていると言わざるを得ない。きっと誰もが賛同してくれることだろう。

 

 エ・ランテルの屋敷からシャルティアの魔法によって連れられた場所は、カルネ村から北東に少し離れたナザリック表層部。出迎え用のログハウスから慌てて顔を出す美しいメイドへシャルティアは軽く言葉を交わし、徒歩でナザリック内へ。

 しかし男はガウンを引っかけただけの姿。素足である。シャルティアに抱っこされ、内部へ入ったら再度ゲートの魔法。そこはナザリック第二階層にあるシャルティアの居室「屍蝋玄室」であると聞かされた。

 古い時代の神殿を淫靡に染め上げた空間はナザリックの階層守護者に相応しく豪奢であった。むせかえるほどの甘い香りに少々目眩を感じたものの、すぐに慣れることが出来た。

 そこで迎えたのはシャルティア同様の青ざめた肌を持つ女性たち。おそらくは吸血鬼。十数名はいたであろう彼女たちは跪いて恭しくシャルティアを迎え、内の六名を残して後は部屋の外へ追い出された。

 はて何だろうと思ったら手マンとクンニリングスと来た。彼女たちの視線が鋭くなる。当然である。

 如何に上位者からの命令であろうと、見知らぬ男からそんなことを教えられたくないだろう。言葉で教えられるものではないため実技が必要となる。と言うことは実技の対象に彼女たちのいずれかが選ばれると言うこと。

 彼女たちはされたくないだろうし自分だってしたくない。さっきまでシャルティア相手に散々やってきたばかりで、美しい女性を見ても中々そんな気分になれない。

 よって、シャルティアを説き伏せることにした。

 

「お言葉ですが、此方の方々よりも私の技術が優るとは思えません。技術の伝達は必要ないと具申します」

「あ? どうしてお前にそんなことがわかる? された私がそう言ってるんでありんすよ?」

 

 跪くヴァンパイアブライド達はされてんのかよと思ったが口にはしなかった。

 

「技術ではなく知識が必要なことだからです。私は今までの経験からシャルティア様がお悦びになるところに見当がつきました。此方の方々はシャルティア様と過ごされた時間が私よりも長く、また女性であることから繊細な手付きでシャルティア様に触れるのだと思えます」

「……………………ふむ。じゃあどうしてお前の指の方が気持ちいいでありんすか?」

「知識の他に必要なことがもう一つ。それは、心遣いです。どのようにしてお悦びいただくか、真摯に考え続ければ自ずと手付きが変わってくるものです。おそらくはそこが一番の違いかと愚考します」

「…………つまり、こういうことでありんすか? こいつらは、私への心遣いが足りないと? 私を悦ばそうと思ってないと? こいつらは、私を、軽んじていると。………………そういうことでありんすね? 貴様ら……、よくも私をおおおおおぉおおぉお!!!!」

 

 ヴァンパイアブライド達は深く平伏し、額を床に擦り付けた。とんでもないことを言ってくれた男へ怒りを覚えるどころか、シャルティア様の殺意を伴った怒りに体が勝手に震え始める。

 自分たちは間違いなくシャルティア様から殺される。せめて殺される前に誤解を説きたいのだが殺意に絡め捕られて舌が回らない。

 

「シャルティア様、それは全くの反対です。彼女たちの忠誠が揺るぎないのは初めてお会いした私にもわかります。彼女たちの心ではなく、シャルティア様のことなのですよ」

「………………ほえ? ど、どういうことでありんすか!?」

 

 シャルティアの怒りは霧散し、代わって困惑を誤魔化す咎めの声が男へ向けられた。

 

「少したとえ話をしましょう。アインズ様がおじいちゃんになってシャルティア様に肩叩きを頼んだとします」

「お前は知りんせんようでありんすが、アインズ様のお骨はとっても若々しいでありんすよ?」

 

 ネクロフィリアでもあるシャルティアは骨だけの姿であろうと骨密度から大体の年齢を察することが出来るのだ。お骨だからおじいちゃんと思うのは素人である。

 なお、肩叩きは「君クビね」の隠語である。アインズが聞いたら遠い目をしてお空の彼方を見つめたことだろう。

 

「そんな元も子もないことを言わないで下さい。たとえ話と言ったでしょう。それともなんですか? シャルティア様はアインズ様とのスキンシップを放棄して肩こりは魔法で癒せばよいと仰いますか?」

「そそそそんなことは言ってないでありんしょう!?」

「でしたらもう少し聞いていて下さい。シャルティア様はアインズ様の肩叩きをします。ところが力加減が強かったようでアインズ様からお叱りの言葉を受けてしまいました。では問題です。次に肩叩きを頼まれたとき、シャルティア様は強く叩きますか? それとも弱く叩きますか?」

「お前はバカでありんすね。弱くするに決まってるでありんしょう」

「ぶー。不正解です」

「なんだと!?」

 

 男はやれやれと言わんばかりに首を振った。

 自信を持って答えたのに不正解と言い渡されたシャルティアは色々なボルテージが上昇している。

 

「重ねてお聞きします。シャルティア様が弱く叩こうと思ったのは何故ですか?」

「アインズ様は強く叩かれるのを好まれないからでありんす。叱られたくないでありんすから」

「そう。そこが問題なのですよ!」

 

 男は大仰に手を振った。芝居じみた言葉と仕草にヴァンパイアブライド達も思わず頭を上げる。

 

「アインズ様のお望みは弱く叩かれることではなく肩凝りの解消です。そこでシャルティア様が勝手に萎縮して弱く叩くのではいつまでたっても肩は凝ったままです。おわかりでしょうか? お叱りの言葉を恐れるのではなく、アインズ様が真にお望みのことを考え続けることが正解なのです」

「なん・・・だと・・・。でも、それじゃアインズ様にまた叱られちゃうでありんしょう!?」

「それを恐れるなと言っています。ですが、何度も叱られれば萎縮するのは道理。シャルティア様の先の振る舞いから、此方の方々を厳しく指導するのは頻繁であると推察します。それでは思い切ったことが出来なくなってしまいます」

 

 おそらくはアインズも男の言葉に賛同する。曰く、部下は誉めて伸ばせ、である。

 

「我が事になりますが、私もアルベド様へのご奉仕に決断した事が幾度かあります。無論熟慮の上ですが、まかり間違えば死を賜ったことでしょう。いえ、正直に申しましょう。もしも間違えたとしても、お優しいアルベド様ならば厳しい罰は下されないであろうと甘えがありました。私がアルベド様を信じることが出来たのはアルベド様がいつもお優しかったからです」

「むむむ………………」

 

 おバカおバカと言われるシャルティアであっても、ここまで言われたらわからざるを得ない。

 つまり、シモベをもっと優しく扱えと言うことである。

 シャルティアは自身の気性が激しいことを自覚しているし、ヴァンパイアブライド達は例え死んでも勝手に湧いてくる。自然、扱いはかなり荒くなった。

 

「シャルティア様が寛恕をほんの少し示すだけで彼女たちの手付きは自ずと変わってきます。わざわざ私が指導する必要はありませんよ」

「………………むう」

 

 シャルティアは完全に言いくるめられていた。色々と自覚があったからこそ納得してしまった。

 

 どうやらこれで一件落着。

 それじゃ図書館に連れてってもらおっかなーと男が考え始めた矢先である。跪くヴァンパイアブライドの一人が決意の眼差しで顔を上げた。

 

「恐れながら申し上げます。その者の言葉は尤もであるかも知れません。ですがシャルティア様が私どもを不足と思われたでしたら、それもまたその通りであると思われます。私どもの技術を磨くために、どうか手マンとクンニの実技指導を賜りたく。先ずは私の体にお願いいたします」

(なにぃ!?)

 

 それもまた道理である。

 シャルティア様から惨たらしく殺されることを覚悟していたら免れる事が出来た。さらには自分たちの扱いをもう少し優しくすべきと具申し、シャルティア様は一考しているご様子。

 そこまでされたらつまらないプライドで、たかが人間の男に、と吐き捨てることは出来ない。シャルティア様は、この男は自分たちより上手であると思っておられることでもあるし。

 

 男はシャルティアを宥めることだけを考えていたため、その過程でまさかヴァンパイアブライド達からの好感度を稼ごうとは思ってもみなかった。だから頭がいいバカと呼ばれるのだ。

 

「そっ……そうでありんすね。それはそれでありんす。そうだったとしても練習は必要でありんすから!」

「……かしこまりました」

 

 シャルティアに促され、先ずはヴァンパイアブライドの一人が十人は同時に眠れるような広い寝台に上がり、続いて男が。

 ヴァンパイアブライド達は誰もが似た薄衣に身を包んでいる。簡素でありながら美しく扇情的な装いで、乳房の中央部を帯が覆い、下半身はスカートではなく前後に幅広の帯を垂らした形。帯は腰から前後に分かれているため、横から見れば太股どころか腰まで見える。もちろんへそも見える。肩に鎖骨はむき出し。服と言うより帯とか布と呼びたくなる。

 どこから見ても下着らしきものは見えない。着けてないようである。

 

「……お願いします」

 

 仰向けに横たわって両膝を立てるM字開脚。自分の手で股間を隠す前垂れをめくり上げる。やはり着けてなかった。

 蒼白の肌をこの時ばかりはうっすらと染め、真紅の瞳はぷいと逸らした。

 

 やるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「火急にて斯様な無礼をお許し下さい」

 

 窓から飛び込んできた二人の姉妹にナーベラルは面食らった。

 ここにいるのは漆黒の英雄モモンと美姫ナーベ。しかし、二人の前でプレアデスのソリュシャンとルプスレギナが跪いている。

 

「……モモンとナーベではなくパンドラとナーベラルに用がある。そう言うことですか」

「はっ」

 

 この場にいるのはモモン扮するパンドラズ・アクター。アインズが直々に創造した存在であり、ナザリック内にてアルベドとデミウルゴスに伍する頭脳を持つ。二人の振る舞いようからある程度のことを察していた。

 パンドラの推測を補足するようにソリュシャンが説明する。

 

 エ・ランテルに囲っていたアルベド様のお食餌がシャルティア様に連れられてしまった。もしも吸血されて転化してしまえばアルベド様のお食餌としての役割を果たせなくなる。何としても避けたい事態であるため、マーレ様に連絡をして男の保護をお願いしたい。

 

「私はその者に会ったことはありませんが、アインズ様から中々に面白い男だと聞いております。アルベドが大切にしているとも聞いていました。シャルティアが目を付けたのならきっと血液も美味なのでしょう」

「かねてアルベド様が味見を許した際に、自分に欲しいと飛びかかったと聞いております」

「……アルベドとシャルティアが対立したら割って入るのはかなり骨です。何とかして防がないと面倒なことになりますね」

 

 モモンの姿のまま思案するパンドラを余所に、彼の男の危機と聞きナーベラルは落ち着かずに体を揺らした。あの男はナーベラルも割とかなり気に入っているのだ。

 

「私からアウラにメッセージを飛ばしましょう。ナーベラルはマーレへ、アウラに従ってその男を匿うよう伝えなさい」

「はっ、直ちに」

 

 何とかなりそうな目途が付き、ソリュシャンとルプスレギナは一息付いた。しかし、まだ予断を許さない。

 二人はパンドラの指示の元、連絡係としてナーベラルを伴い屋敷に戻ることになった。

 

 

 

 一方そのころ、四人が助けようとしている男は四人目のヴァンパイアブライドをよがらせていた。




さぶたいてきとうですんません


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六階層へ ▽ヴァンパイアブライド

 6名のヴァンパイアブライドへ一通り実技を体験してもらった後、男は根本的な疑問を口にした。

 

 優れた頭脳に貪欲な知識欲を持つ男は己の頭脳が優れているとは思っていない。プライドは犬の餌になるほども持っていないため、わからないことはわかりそうな人へ素直に聞くことが出来た。しかしそれが裏目に出ることもある。正直は悪徳なのだ。

 ところであのシャルティア様、ん?、この人たちって、人ではありんせんヴァンパイアブライドでありんす、……このヴァンパイアブライドの方々は、長ったらしい言い方でありんすね、……人の姿に近しいので今は便宜上「人」と呼ばせて下さい、わかったでありんす、この人たちって処女ですよね?

 

 一人目の時にあれと思った。二人目も三人目も、全員がそうだった。シャルティアの愛妾であるらしいのにシャルティアは破らなかったようだ。全員が処女だった。ナザリックの女性は全員処女なのだ。至高の御方々がそうお決めになったのである。

 指を入れる際は処女膜を破かないよう気をつけた。しかし膜の形状は人によりけり。完全に塞がっていることは希でも、指を入れる隙間がないものもある。処女であるなら膣内に指を挿入してあれやこれやが今一つなのは無理もない。

 なお、一人一人にじっくりと愛撫をしたわけではない。6人もいるのだ。軽く実技を味わってもらい、早速隣の者やシャルティア相手に復習をさせている。

 

「それじゃお前がおちんぽを突っ込んでやりなんし」

(なん・・・だと・・・!)

 

 どうして処女なのか聞きたかっただけなのにどうして処女卒業の相手になってしまうのか。これを正しく藪蛇と言う。

 

「お前たちもそれでいいでありんすね?」

「はい」「よろこんで」「シャルティア様のお心のままに」「是非お願いいたします」「疼いて堪りません」「シャルティア様のお慈悲に感謝いたします」

 

 この主人にしてこのシモベたち。

 ヴァンパイアブライド達は揃って膝立ちとなり、前垂れをめくり上げる。立ちこめる甘い香りが強くなった。

 

「!」

 

 官能的を越えた倒錯的な光景に、男は息を飲んだ。その隙にシャルティアが背後からガウンの腰紐をするりと解き、合わせを開いた。

 

「あれが……」「初めて見たわ」「思ったより小さいのね」「柔らかそう」「美味しそう」「可愛いわね」

 

 ガウンの下には何も着ていない。吸血鬼と言えど、6人の美女から股間を凝視されるのはいささかながら恥ずかしく、シクスス好みに顔を赤らめた。

 

「今回は特別に私がおっきしてあげりんす。お前たちはよーっく見てちゃあんと覚えるでありんすよ?」

 

 シャルティアはドレスグローブを填めた手に唾を垂らし、男の後ろから陰茎に手を伸ばす。唾とドレスグローブの滑らかな生地が手伝ってするすると扱き始める。シャルティアの手の中で段々と熱を持ち始めた。

 

「お前たちも唾を垂らしなんし」

 

 シモベたちにも協力させてやろうというシャルティアのシャルティア心である。

 ヴァンパイアブライド達は紅い唇をすぼめ、順々にシャルティアの手に乗った逸物へ唾を垂らす。ぺちゃりぺちゃりと鳴り、一人が唾を垂らすごとにシャルティアは根本から先端まで塗り伸ばす。逸物は滴るほどの唾にまみれた。

 唾を垂らす間も前垂れはたくし上げたままで股間を晒し、乳房を覆う帯もずらして大きな胸を見せつけている。シャルティアが覚えつつある繊細な手淫と扇情的な美女たちに、手マンとクンニの実技中もうなだれていた逸物が鎌首をもたげ始めた。

 

「……すごいわ」「全然形が変わってる」「あんなに大きくなるなんて」「すごく固そう」「美味しそう」「流石はシャルティア様ね」

 

 今夜はシャルティアに何度も放った。多少の時間を置いたとは言え、回復魔法やポーションを飲んだわけでもない。にもかかわらず、股間に滾る力は快食快眠した後にアルベド様からお誘いいただいた時と同程度だ。抜かずに五度や六度は出来そうである。

 己の体は一体どうなったんだと激しく思う。おそらくはアルベド様が望まれる通りの改良処置を施されたと思われるので受け入れるしかない。

 

「くふふ……、シャルティアのお手てでおっきしちゃったでありんすね? お前たちも……、早いでありんすね」

 

 シモベたちに受け入れる準備を促そうとしたところ、すでに受け入れ体勢が整っていた。

 皆同一種族であり容姿は非常に似通っている。それでも色々な人間がいるのと同じでそれぞれの個性があるらしい。

 ある者は仰向けに寝ころんで大きく脚を開くM字開脚。ある者は太股の裏へ腕を通して持ち上げている。ある者は背を向けて両膝をつき尻を突き出す。ある者は顔をベッドに埋め尻だけを高くする。ある者は寝ころんだM字開脚だが自分の乳房を揉みしだいている。ある者はそれに加えて首をもたげてセルフパイ舐め。

 全員に共通しているのは、片手或いは両手を股間に伸ばし、割れ目を広げていること。血の通った赤い内側を見せ、受け入れる部分を露わにしている。実技指導と練習で、秘部は潤っている。

 

「ほら、こいつらのために入れてやりなんし。6人もいるから一人につき三擦り半まででありんすよ?」

「……わかりました」

 

 この期に及んで最早どうにもならない。そんなつもりで来たわけではないのだが、扇情的な美女の痴態に興奮しなかったかと言えばそうでもない。逸物は期待に震えて猛っている。

 一人目の傍に寄る。

 クンニリングスをする時は屈辱だか羞恥だかで顔を逸らされた。今は染まった頬を隠そうともせず正面から見つめられる。紅の瞳は兎も角、人の目で言う白目部分が黒い。おそらくは眼球が黒いのだと思われる。不思議な目だがこれはこれで美しい。長く焼け爛れた顔でいたため、この程度はなんとも思わない。

 

「お願いします」

「初めては少し痛むかも知れません。気を楽にして力を抜いて下さい」

「はい」

 

 当初の殺意混じりの視線はどこへやら。男の言葉に素直に従った。

 

「お前たちは待ってるだけじゃなくて手伝いなんし」

 

 シャルティアの命令の下、受け入れる体勢でいたヴァンパイアブライド達は起き上がり、M字開脚で待っている一番目の女に近付いた。励ますように右手を握り左手を握り、一人は膝枕する。残る二人はそれぞれ内股へ手を伸ばして入れやすいよう股を開いた形で固定する。

 流石は選ばれしエリートヴァンパイアブライドである。抜群のチームワークだった。

 

「入れますよ」

 

 女は無言で頷く。

 愛液にぬかるんだ割れ目を熱い亀頭が撫で、小さく開きかかった膣口で止まる。

 皆、目を大きく見開いて結合する部分を凝視する。見守る中、亀頭が沈み込んだ。誰かが唾を飲み込んだ。

 くふふ、と。背後でシャルティアが悪そうに笑った。

 

「シャルティアが手伝ってあげんす♪」

「!?」

「つぁっ…………」

 

 シャルティアは後ろから男に抱きつき強く押した。破瓜の痛みを和らげようとゆっくりと腰を進めていたのに、一息で押し進められた。股間が女の股間にぶつかり、長い逸物は根本まで女の中に埋まった。亀頭はあっさりと処女膜を破って女の最奥へ、子宮口まで届き、更に押し上げた。

 痛みに対する防衛反応か、女は反射的に体をこわばらせ、深く咥え込んだ逸物をきゅうと締め付ける。痛みを吐き出すように小さく喘いだ。

 

「くふふ……、これでお前は処女を卒業出来たでありんすね。処女を奪ってもらったでありんすからちゃんとお礼を言いなんし」

「は……はい。私めの処女を散らしていただき、まことにありがとうございます」

「…………どういたしまして」

 

 精一杯の笑みを作って礼を述べるヴァンパイアブライドは健気だった。

 健気な美女に反応するのは男の性。女の中でピクリと震え、悩ましい声をあげさせた。

 三擦り半で終わらせるのは惜しく思った。処女貫通が半だとして、あと三往復。但し、時間制限は設けられていない。とはいえ、シャルティアに急かされるに決まっている。せめて最初の一往復はゆっくりと。

 ゆっくりと腰を引くと、押し広げられた膣が閉じていくのを感じる。逸物全体で女の中を舐めるように進めていけば、閉じた膣が開いて迎え入れてくれる。シャルティア同様に温度の低い膣内で、けどもシャルティアと違って成人女性であるため、こちらの方が具合が良いと口にしようものなら殺戮空間が現出するので何も言わない。

 

「あ……胸……」

 

 挿入時は腰を押さえていたが入りきれば不要となる。たわわな乳房に両手を置き、シャルティアが何も言わないのをいいことに二度目もゆっくりと。

 誰かが唾を飲み込んだ。

 挿入している女から視線を巡らせば、女を押さえている同胞たちは空いてる手を股間に差し込んでいる。膝枕をしている者だけは出来ないので、自分の胸を揉んでいる。男と目が合うと妖艶な笑みを浮かべ、乳房を持ち上げて乳首へ舌を伸ばした。唾に濡れた乳首を摘まんで引っ張る。しばし見とれた。

 

 

 シャルティアも大きなおっぱいは好きなので見とれたくなる気持ちはわかった。しかしまだ一人目だ。巻いていかなければならない。

 さっさと次へ、と言おうとしたその時である。扉の向こうからざわめきが響いてきた。

 楽しいことをしてご機嫌だったのが一瞬で急転直下、可愛い顔に狂相が浮かぶ。膝枕をしていたヴァンパイアブライドがこれは不味いと判断し、衣服を整えてから扉の側へ。ヴァンパイアブライドの戦闘能力はナザリック内では下位に位置するが、只人から見れば凄まじい身体能力であり、寝台の上から一跳びで扉の側に着地した。

 

「何事ですか! シャルティア様が――」

 

 誰何の声はかき消された。

 扉が勢いよく内側へ開かれて巻き込まれた。バタン! キャーである。

 

「オノレナニヤツ!? 皆の者出合え侵入者だ!」

「何バカなこと言ってんの」

 

 現れたのは幼いダークエルフ。アウラである。ソリュシャンの願いは聞き入れられ、彼の男の救出部隊として出動したのであった。

 

 アウラサマオカクゴ! ヒョイ、キャー。トモノカタキ! ヒョイ、キャー。ココハトオセマセヌ! パン、キャー。ツギハワタシノバンナノニ! ペシ、キャー。

 

 アウラ無双である。幼く見えようとも100レベルの階層守護者にヴァンパイアブライドが勝てるわけがない。お色気では圧勝しているが。

 

「………………シャルティアのとこのシモベってこんなに面白かったっけ?」

「ええい、今のは我がヴァンパイアブライドエリートシックスで最弱。調子に乗るなあっ!」

「なんで最弱が5人もいんの……」

 

 最後に残った最強の一人は突撃せず、男を逃がさぬよう捕らえている。

 

「まったく何しに来たでありんすか! お子様に用はないでありんすよ! さっさと帰りなんし!」

「シャルティアこそ変な格好して何してんのよ。っと、そうじゃなくて、そっちの男に用があるの。あんた、勝手に連れてったでしょ?」

「うっ……、別に勝手じゃないでありんすよ? こいつがナザリックへって…………いない!?」

 

 シャルティアが振り返ると男の姿は既になく、最強のはずのヴァンパイアブライドが倒れ伏していた。

 

「ふふん、ミッションコンプリートってね!」

「くそっ、いつの間に!」

「あれアルベドのでしょ? 勝手なことばかりして怒られても知らないよ?」

「私はいいんでありんす。お子様にはわかりんせんことでありんすから」

「……次言ったら怒るから」

「おやおやおやあ? お子様にお子様って言うことのどこが悪いんでありんしょう? お子様でないならお子様と言われても怒りんせんはずでありんすのにアウラはお子様でありんすか?」

「むっかーーーーっ!!」

 

 大きな寝台の上で100レベル階層守護者同士による枕投げ大会が始まった。

 

 

 

 

 

 

「ここまで来れば大丈夫です」

「…………………………ありがとうございます」

 

 長距離の全力疾走で乱れた息を整え、絞り出すように礼を述べた。

 

 ヴァンパイアブライドに囚われていた男を助け出したのはアウラの双子の弟マーレである。アウラが陽動としてシャルティアを引きつけ、その隙にマーレが回り込んで救出したのだ。

 現在、二人が歩いているのはナザリック第四階層。第二回層にある屍蝋玄室を抜けて、その奥にある転移門を潜ると第三階層から第四階層へ移動することが出来る。

 マーレが手を引いてここまで駆け抜けてきた。幼い姿ながらも階層守護者であるマーレは体力十分。多少鍛えた程度の人の身でついて行くのは先ず不可能。半分引きずられての逃避行である。

 

「大丈夫ですか? シャルティアさんから酷いこととかされませんでしたか?」

 

 心配そうに男の顔を見上げる。ナザリック限定でとても優しいマーレ君である。

 

「歯形一つ付けられていません。僭越ながら、ヴァンパイアブライドの方々へ従者としての心遣いを教示していたところでした。問題になるようなことは何一つありませんでしたよ。マーレ様はどうしてシャルティア様のところに?」

「えっと、ナーベラルさんが――」

 

 事の経緯を簡単に説明する。

 エ・ランテルにいるナーベラルからメッセージの魔法が届いた。彼の者がシャルティアに連れ去られてしまったので吸血される前に奪還して欲しい。

 アウラへはパンドラズ・アクターから同様のメッセージが届き、協力して事に当たった。

 

「シャルティア様に急かされてしまいまして、置き手紙でも残せればよかったんですが心配させてしまったみたいですね。戻ったら謝罪とお礼を伝えます。マーレ様もありがとうございました」

「い、いえ。あの、どーも……。でも本当に大丈夫ですか? なんだか血の臭いがするんですけど?」

 

 男の体に顔を寄せ、すんすんと鼻を鳴らした。男の背を冷たい汗が流れた。

 

「血の他にもなんだか変な臭いが…………なんだろ?」

 

 血の臭いは破瓜の血である。変な臭いは手や顔を濡らした愛液である。純粋で無垢な少女に教えてよいものではない。

 

 部屋にアウラが乱入する直前、ヴァンパイアブライドから己を引き抜きガウンの前を閉じた。男だけでなくヴァンパイアブライド達もずらした衣服を戻し、シャルティアは魔法のマントを羽織った。皆の努力は見事に実り、アウラとマーレに見られることは避けられた。

 挿入していた逸物はこれでもかと勃起していたが、全力疾走すれば流石に萎える。

 

「シャルティア様に怪我をさせられたわけではありませんよ。あれです」

「あっ!」

 

 来た道を振り返ると、点々と赤い足跡が付いていた。

 

「着の身着のままでしたから」

 

 裸身にガウンを羽織っただけで、靴を履いてない裸足である。裸足のままここまで駆け抜けてきた。

 ナザリック第四階層は「地底湖」であり、通路は天然の洞窟を模している。通路が均してあるわけがなく、鋭角な石があちこちに転がっている。間違っても裸足で歩く場所ではない。

 裸足で駆け抜けると足裏をざくざくと切り、今の男のように血の足跡を付ける羽目になる。

 

「ごっごめんなさい!」

「大して痛くありません。ですが肩車をするとバランスを崩してしまいそうです」

「うぅ……」

 

 恥ずかしそうに俯くマーレに、頬を弛める。恥じらう美少女はとてもいいものなのだ。

 

「寝ようとしたところをシャルティア様に連れられたのでこんな格好ですし」

 

 ガウンの合わせをちょっぴり開く。鎖骨と逞しくなってきた胸板が覗いた。

 美しい成人男性の裸身は、マーレの目にちょっとだけ毒だった。ちょっぴり頬が赤くなる。何を思ったかぶんぶんと顔を振る。

 男とて、長じれば絶世の美女となろうが未だ幼いマーレを誘惑しようとは夢にも思わない。開いた襟を直し、腰紐を縛り直す。

 

「えっと、それじゃ、僕の服貸します!」

(なん・・・だと・・・)

 

 しかし汚れなき美少女の純粋な厚意を無碍に出来ようものか。

 社交辞令的に一度断り、二度目で承諾した。

 

 

 

 

 

 

 ところでお気付きであろうか。

 この男、マーレ君をマーレちゃんだと思っている。

 と言うことはアウラちゃんをアウラ君だと思っている。

 美貌の双子は未だ幼く、体つきや声から性別を判断するのは不可能に近い。

 

 階層守護者であるアウラとマーレはソリュシャンから事前に紹介されていたが、双子の姉と弟と聞いただけでどちらが姉でどちらが弟かまでは聞いていなかったのだ。ナザリックの者であれば姉がアウラ、弟がマーレと周知のことであり、そこまで思慮が及ばなかったソリュシャンの不手際と言えた。

 知らなければ活発で男装をしているアウラを少年と思い、控えめで女装をしているマーレを少女と思っても仕方ないことである。

 

 男の誤解がどのような悲劇を生むか。

 知る者はどこにもいない。




マーレちゃんフラグはないです
本当にないです
必須タグは増えません


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不名誉な称号を得る

 ナザリック第六階層は大森林である。鬱蒼とどこまでも樹木が広がっており、見上げれば青い空。どこか未開の原野にでも迷い込んだ気持ちになるが紛れもなくナザリック地下大墳墓内の一階層である。敷地面積はナザリック内で一番である。森林であることから空気は澄んでおり、とても過ごしやすい環境である。

 故に、ナザリック外から連れてこられた者が多数暮らしている。なんと、第六階層には村があったりする。地下の屋内なのに村である。ナザリックで一番広い場所なのは伊達ではない。

 居住者は、アインズが連れてきたドライアード等の森の精或いは森の妖怪。これらは畑の管理をしている。

 他にコキュートスが鍛えているリザードマン。選ばれし十人のリザードマンである。ハムスケと一緒に訓練の日々を送っている。

 そしてもう1グループ。

 

 第六階層「ジャングル」はダークエルフの双子アウラとマーレの守護階層であり、二人が寝起きする家がある。見上げるような巨大樹をくり抜かれて作られた住居だ。

 そこには二人を世話するエルフメイド達がいる。

 三人のエルフの女はかつて奴隷であった。奴隷として筆舌に尽くしがたい凄惨な環境に置かれていた。希望など一切ない絶望の日々であったが、ある日彼女らの主人がナザリックに侵入。ハムスケの練習相手であっさり死亡。残された彼女たちは敵意も害意もない抜け殻同然であったところを、偉大な方々の気まぐれによって助けられた。

 命を助けられ、奴隷の証として切り取られた耳を回復してもらい、彼女たちの忠誠心は天元突破するに至った。

 今や奴隷であった日々を忘れ、彼女たちの生き甲斐はナザリックに忠誠を捧げ、アウラとマーレによく仕え、二人を立派な紳士と淑女にする事である。実はちょっと迷惑かなと思われたりすることも希によくある。しかし二人の情操教育のためにアインズ様が配置したため、二人に拒否権はない。

 

 幸福感に満ちた充実した日々を送っていた彼女たちであったがその日、異変が起こった。

 異変の始まりはアウラとマーレが日が昇りきらない暗い時間に飛び出していったことだった。

 何があったのかは知らされていない彼女たちだったがすぐ戻ると聞き、いつものように朝食の準備を始めた。私たちのアウラ様とマーレ様に美味しい食事を振る舞うことも生き甲斐の一つである。

 

「ただいま戻りました」

「「「お帰りなさいませ!」」」

 

 三人のエルフメイドは愛しき主人の帰還に歓喜をもって斉唱する。取るに足りない自分たちへわざわざ挨拶をしてくれる可愛い主人達が、彼女たちは大好きなのだ。

 今日の朝食も心を込めて作りました。マーレ様がお帰りになるのを今か今かとお待ちしていました。アウラ様はまだいらっしゃらないのですか、今日はまだおぐしを解かしておりませんのに。

 伝えたい言葉はいっぱいある。もしもそれらを伝えようものなら面倒に思われるだろうし、何よりも押しつけがましい。ぐっと我慢して、マーレ様が昨日より充実した一日を過ごされるよう誠心誠意お仕えしなければならない。

 しかし……。

 

「あの……お風呂の準備をお願いします。あと着替えの用意も」

「…………はい。かしこまりました。ところで、その、そちらの方は?」

 

 帰ってきたのはマーレともう一人。もう一人はアウラではなかった。

 

「マーレ様のご厚意により、短い間ですがお世話になります」

 

 それは、彼女たちがナザリックの一員となって初めて見た存在である。聞くところによればナザリックの深い階層には帝国の人間がいるらしいのだが、それらがここまで上がってくることは一度もなかった。まさかここでこんなものを見ることになるとは。

 

「僕のお客さんです」

 

 それは優雅に一礼した。

 それは、人間の男だった。

 

 

 

 

 

 

「これは美味しいですね! エ・ランテルの屋敷にも様々な方のご厚意でナザリックから食材が送られてくることはありますが、これほどのものは中々。鮮度はもちろんのこと、食事をする環境がいいのですね」

 

 それはつまり私たちの料理の腕はどうでもよくて単に食材がいいと言うだけか。

 エルフメイド達は内心を努めて表に出さないよう給仕をする。歓喜にはほど遠く、無心になるのも難しかった。

 

「そうなんですか? 僕たちはいつもこれが普通なんですけど」

「マーレ様も時には違う経験をしてみると日々の食事がどれだけ素晴らしいか感じられるかも知れませんよ?」

「でもアインズ様が……」

「アインズ様であればマーレ様が色々な経験をしてみることに反対はなさらないと思います。尤も、大切なマーレ様をお一人にするのはご心配でしょうから難しい判断を迫ってしまうかも知れませんね」

「マーレ様の教育は私どもが仰せつかっております。余計なことは言わないで下さい」

「それは失礼を」

 

 この男は図々しくもマーレ様と一緒に食事をとっている変態だ。私たちからマーレ様を奪おうとする敵だ。

 こちらがどれほど冷たい目で見ても穏やかな微笑を崩さないが絶対に心を許してはならない。許そうものなら骨の髄までしゃぶり尽くされるに決まってる。なにせ人間の男なのだ。

 にもかかわらず、マーレ様はこの男と和やかに会話をしていらっしゃる。自分たちが相手をするときは僅かながらの緊張を感じてしまうのに、今は心底からリラックスしているようで自然な笑みを浮かべていらっしゃる。

 確かに見た目はよいと思われるがどうしてこの男へそんな表情をお見せになられるのだろうか。マーレ様に気安くお声掛けして無礼千万の不忠者にして鞭打ち兆回でも足りないと思われるのに。

 

 三人のエルフメイドが思うことは誰も似たり寄ったり。

 兎も角一刻も早く出て行って欲しい。なのに出て行く気配は全くない。

 生意気なことにマーレ様と一緒に食後のお茶を楽しんでいる。

 いつもなら朝食を終えたマーレ様は早々にどこかへ行ってしまうのに、どうしてこんな男とお喋りを楽しんでいるのだろう。話し相手なら私たちがいるのにどうしてこの変態がそこにいるのだろう。

 

 現状に耐えきれなかった一人が空になった皿を下げるために食堂を離れた。

 皿を下げて戻ったらいなくなっていればいいのにと祈りながら。

 

「!?」

(声を出すな)

 

 食堂から見えない位置に来た途端、強い力で口を押さえられた。硬直して皿を落としてしまう。しかし、皿が割れ響く音はしない。それどころか何がどうなったのか、いつの間にか厨房の奥に移動していた。

 

(魔法を使ってお前に語りかけている。手を離すが声は決して出すな。心で念じれば私に声が届く。わかったか?)

 

 バカのように頷いた。

 彼のお方の言葉には絶対に従わねばならない。

 彼女の口を押さえたのは、地下大墳墓ナザリックの偉大なる支配者アインズ様だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 アインズは遠征の準備を終えていた。あとはもう出発するだけなのだが、出発する前に出兵式だか壮行式だか何かしらをしなければならないらしい。現在、アルベドが最終確認をして、今夜にも何とか式が行われるらしい。

 少し時間が空いてしまった。遠征の事以外にもする事はそれなりにあるのだが、来る遠征に向けて心が少し逸っている。遠足前夜の子供が中々寝付けないのと同じで、他のことをする気になれなかったのだ。

 それなら守護者達の顔を見ていこうと思ったところである。遠征に出立すればしばらく皆の顔を見ることが出来なくなるのだから。

 先ほどまで第五階層のコキュートスのところにいた。シャルティアは一緒に遠征に行くので必要なく、デミウルゴスは出張中。

 残るはアウラとマーレで、食事の邪魔をしてはいけないと、朝食の時間が終わるのを見計らって第六階層を訪れた。

 時間を措いたつもりだけど、もしも食事中だったら二人は絶対に食事を止めてこっちを優先するに決まってる。育ち盛りの双子にそれは酷だ。気付かれないよう姿を消して食事が終わったかどうか確認したのだ。気遣いのアインズ様である。

 こっそり覗いたと同時に感情抑制が発動した。

 

 エ・ランテルにいるはずのあの男がどうしてここにいるのかとかチャチな疑問はどうでもいい。

 感情抑制が発動して落ち着いた心でもう一度覗いた。

 もう一度感情抑制が発動した。

 強制的に落ち着かされた心で再チャレンジした。

 もう一度感情抑制が発動した。

 感情抑制が発動すると強制的に感情の起伏が抑えつけられ冷静な精神状態になる。しかし、感情抑制が発動したからと言って感情を揺るがした対象への耐性が出来るわけではないらしい。何度繰り返しても、それを見る度に大いに感情が揺さぶられてしまった。

 思い出すだけで発動しかねない。努めて心を押し殺し、名も知らぬエルフメイドに問いかけた。

 

(あいつはどうしてあんな格好をしているのだ!!!!)

 

 全然冷静になっていなかった。

 問いつめられたエルフメイドはガクブルで声も出ないが、本来なら気遣いのアインズ様には気付く余裕がなかった。

 

(ま………………)

(ま!? マジでおかしくなったのか!!?!?)

(ひっ……、ち、違います。マーレ様がお貸しになったのです。ご自分の衣装からあの者へ着替えを用意せよと仰せになりました。私どもは他の衣服や、叶うならばアウラ様のものをと申しましたが、勝手には出来ないと仰いました)

(マーレかあ…………………………!!!)

 

 人間のあの男は、マーレの服を着ていたのだ!

 男の子なのに創造主の趣味で女の子の格好をさせられているマーレの服である。

 これが通常の衣服であれば人間換算外見年齢が10歳ほどのマーレの服を成人男性が着れるわけがない。しかし、メイド服にまで魔法が掛かっているナザリックの衣服であり、階層守護者であるマーレの服に魔法が掛かっていないわけがない。サイズ違いは魔法の力でジャストフィットしてしまうのだ、残酷なことに。

 男はひらひらのブラウスにふりふりのフリルいっぱいのボレロを合わせていた。下に掃いているのはふわふわに広がるスカート。

 色は白とピンクで、マーレが着るならとても可愛らしいことだろう。

 しかし男である。

 逞しくなってきた成人男性である。

 アインズが感情抑制を発動してしまうのもむべなるかな。

 悪夢だった。

 

 アインズ様に詰め寄られたエルフメイドはガクブルである。

 なにせ、服を選んだのは彼女たちなのだ。

 マーレは自分の服からと言っただけで、具体的に指定したわけではなかった。マーレの所有する衣装には性別を感じさせないユニセックス的なものも含まれている。それなのにあえて女の子女の子した可愛い服を選んだのは、私たちのマーレ様を惑わした男への復讐であった。彼女たちはもう善良なエルフではない。極悪集団ナザリックに染まって悪に墜ちている。

 女装した男を笑ってやろうと思ったのだが、笑う前にマーレが「ちゃんと着れたんですね、よかった」と言ってしまった。一緒に笑ってくれたら復讐が完了したのにどうにもならない。

 そもそもあの男はどうして抵抗なく用意した服を全部着たのか。変態だからに決まっている。

 あの男は変態です変態なんです! と、アインズ様に直訴できればよかった。

 しかし、ただでさえ虚ろな目を更に空虚にして虚空を見上げるアインズ様へ一体何を申し上げればよいというのか。

 

『ん? ナーベラル様ですか? はい、怪我一つしておりません。今はマーレ様と一緒に食事を終えたところです。はい、はい、ありがたいお話です。ではその前に、ナザリックへの訪問が叶いましたので大図書館へ、ああ、最古図書館と呼ぶのですね。ご指摘ありがとうございます。最古図書館へ訪問し、本を借りていこうと思います。いえ、帰りまでお手数掛けるわけにいきませんので通常の……はい……はい…………』

 

 男の声が食堂から聞こえてきた。

 

「ひっ」

 

 アインズに睨まれ、エルフメイドは思わず怯えた声をもらしてしまった。万死に値する所業であるが、おそらくは守護者達であろうと声を漏らしてしまったに違いない。

 それほどまで、アインズからは何かしらの大きな感情のうねりが感じられた。

 

(絶対にあいつをあの格好で出歩かせるな。これは絶対命令だ。わかったな?)

(は、はい。かしこまりました。ですが、アウラ様の衣装を勝手にお借りするわけにも……。マーレ様の衣装は、その……)

(ああくそっ! 恨みますよ茶釜さん………………。セバスの配下に男性使用人がいる。話は通しておく。後で取りに来い)

(はい、仰せの通りに致します)

(よし。私がここにいたことは誰にも話すな。勿論マーレにもだ)

 

 

 

 アインズは来たときと同じように姿を消した。

 エルフメイドが一人残された。

 気が抜けて膝を突きたくなったが、そんなことをすればメイド服を汚してしまう。気力を奮って足を動かした。

 気力を奮っても濡れた下着はどうにもならない。

 女性は男性に比べて尿道が短く、驚いたり何かあったりすると、ちょっぴり出てしまうのだ。いつぞやのルプスレギナがそうだったように。

 泣いてる時間もパンツを換える時間もない。

 急いで食堂に戻った。

 

「早かったわね」

 

 怪訝な顔をした同僚に声を掛けられた。ゆっくりしたように思えたがそうでもなかったようだ。実際はアインズが時間を停止させていたわけだが彼女は知らないでいる。

 同僚に気を掛けている場合ではない。アインズ様からの勅命を果たさなければならない。しかし困ったことに、彼女には第六階層以外へ移動する権利は少しあるかも知れないが手段がない。

 

「マーレ様。この者を最古図書館へお連れする際は他の服へ着替えさせた方がよろしいのではないでしょうか?」

「えっ、このままじゃダメですか?」

 

 びっくりしたようにマーレが言う。

 二人の同僚は、どうして着替えさせるのこのままでうろつかせて笑い物にしちゃおうよ、と声なき声で言ってくるのを、うるさいバカ言わないで絶対に着替えさせるの! と声なき声で答える。

 彼女もこの男を晒し者にして笑い物にしたい気持ちは十二分にあるのだが、アインズ様の勅命に逆らえる者はこの世にいない。

 

「私たちはよいと思うのですが、他の方々を驚かせてしまうかも知れませんので。セバス様の配下の男性使用人の方々からお借りできないでしょうか?」

「うーん……。セバスさんは今いないから……、大丈夫かな?」

 

 大丈夫なんですアインズ様が話を通してくださってるらしいのですと言うか勅命なんですと言いたいのに言えない。

 先のアインズを思い出し、額から頬から背筋から脇からあちこちからダラダラと汗を流した。

 同僚の尋常ではない様子に二人のエルフメイドも何かを悟ったらしい。似合っていますが着替えさせた方が、マーレ様の衣装はこの男に贅沢すぎる等々。援護射撃の甲斐あってマーレは頷いた。

 

「わかりました。じゃあ一緒に行きましょう」

「いえいえいえ私がお付き合いします後学のためにどうか同行をお許しください美しきナザリックを素晴らしいマーレ様と一緒に歩く光栄をどうかどうかお許しくださいませ!」

 

 絶対に出歩かせるなと言われている。着替えるために外に出したら本末転倒である。

 

「マーレ様にはご足労願ってしまいますが、私がマーレ様の衣装をお借りしていることを妬ましく思う方もいるかも知れませんから」

「そんなことないと思うんですけど……」

 

 ともあれ、エルフメイドの必死の説得の甲斐あって、マーレはメイドを一人連れて第九階層へ向かった。

 

 

 

 二人が姿を消した直後である。

 

「ちょっとあなた。座ってないでそこに立ってくれるかしら?」

 

 表情の険しさを隠そうともせず、茶色の髪をショートに整えたエルフメイドが表情に相応しい声で言った。

 言われた男は片眉を跳ね上げた。

 

 なお、アウラはシャルティアとの枕投げで決着がつかず、枕チャンバラに移行しているのはどうでもよいことである。




いまNARUTO全巻読み放題なんですね出遅れました
期日までに読み切る自信ない


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もしかしてエロフ

 マーレとお供のメイドエルフはナザリック第九階層「ロイヤルスイート」を歩いていた。ナザリック内で最も豪華絢爛たる神域である。マーレは何度も来たことがあるがエルフメイドは初めての場所。山から下りてきた未開の野人が初めて石造りの街を見たかの如く、キョロキョロとあちこちを見回している。

 二人が長い廊下を幾らも行かない内に、向こう側から数名の男性使用人がこちらへ向かってくるのが見えた。

 彼らはマーレの姿を認めると廊下の脇へ整列する。マーレは階層守護者であり、ナザリックを守護する存在なのだ。彼らが敬意を払わない理由はどこにもない。

 

「ちょうどよかったです。あの、お願いしたいことがあるんですけど」

「はい、なんなりとお命じください」

「大人の男の人用の服ってありますか?」

「はい、ございます。マーレ様が仰る通り丁度よいところでした。偶々私どもの制服を整理していたところ、偶々一人分余ってしまいました。こちらでよろしいでしょうか」

「わあ、ありがとうございます!」

 

 偶々余っていた服を偶々使用人の一人が持ち歩いていた。マーレの日頃の行いがよいからスムーズに事が進むのだ。

 服はエルフメイドが受け取った。早くもミッションコンプリートである。

 マーレはぺこりと頭を下げて使用人達を恐縮させ、さあ第六階層に帰ろうとしたところで足が止まった。

 エルフメイドが受け取った服と男性使用人達をちらちらと見比べる。制服というだけあって同じデザインの衣服であるようだ。上下黒のスーツで、ジャケットの裾が燕の尾のように長くなっている燕尾服。セバスの着てるものと似ている。細部が微妙に違う程度。

 それなりに格好いいし、そこそこお洒落だし、何よりも成人男性用の衣服ではあるけれど、マーレの目にはちょっとシンプルに映った。ジャケットもスラックスもシャツも黒でネクタイだけが白。袖のカフスボタンやジャケットのボタンは銀色で色彩に乏しい。

 ぶくぶく茶釜様から与えられた色とりどりの衣装に比べてしまうと、ぶっちゃけ地味だった。

 

「……これってかっこいいですか?」

「!?!?!?」

 

 男性使用人達一同へ、魔法最強化に魔法抵抗難度強化を付加したチェイン・ドラゴン・ライトニングを受けたかの如き衝撃が走った。

 

 彼らはアインズ様からの密命により、マーレ様が来たら男物の服を貸すべく既に準備を整えていた。何とも浅はかであった。

 マーレ様が誰に服を貸すのか見当がついている。先にナザリックで大演説を行ったあの男だ。彼らの中には彼の男を見たことがある者もいた。人間にしては堂々たる大層な美丈夫。

 その男がこの期にナザリックを訪れたのは何故か。アインズ様の出征式に参加するために決まっている。ナザリックのシモベとして、出征式に参列が許されたのは嬉しい限りだろう。

 その栄えある舞台に自分たちのお仕着せを着せてよいのだろうか。決して悪いわけではないだろう。しかし、彼の男はナザリックの仲間であっても自分たちと同じ使用人ではない。アルベド様直属の配下である。

 彼の男へ使用人のお仕着せを着せてしまうのはアルベド様の顔に泥を塗り、アインズ様の栄誉を汚すに等しい。万死に値する大罪である。

 幸いなことにマーレ様のお言葉でアインズ様の真意に気付くことが出来た。挽回する目は残されている。

 

「失礼いたしました」

「あっ」

 

 エルフメイドに渡したお仕着せをやんわりと取り返す。

 

「お許し頂けるのでしたらどのような衣装がよいか再考いたしたいと存じます」

「え、えっと……?」

 

(私に聞かないでくださいマーレ様! 私としては女装でなければ何でもいいと思います! って言いたいのに言えないジレンマ! アインズ様、私はどうすればいいのですか!? 無難に行っていいですか!?)

 

「マーレ様も一緒に選んでいただければあの男は泣いて喜ぶと思います」

 

 エルフメイドは何とか笑みを作り、無難を選んだ。

 マーレが頷くと同時に、男性使用人達は一人を残して急いでないように見える最大限の速度で歩き去った。セバス様とデミウルゴス様に連絡を取り、衣服や装飾品の貸与を打診するのだ。アインズ様の栄誉のためにアルベド様の配下を飾ると言えば色よい返事がもらえると考えた。

 

 マーレの午前中はこのようにして慌ただしく去っていくことになる。

 

 

 

 

 

 

 一方、第六階層に残された者達も緊迫した空気にあった。

 

「聞こえなかったかしら。私は立ちなさいと言ったのよ」

「それとも立てない理由があるの?」

 

 二人のエルフメイドが苛立ちを隠そうともせず、テーブルに着いたままの男へ言い放つ。言いながらも、二人は男が立てない理由に察しがついていた。

 隣に座っていたマーレ様は気が付かれなかっただろう。マーレ様をお見送りする時も男は座ったままで、やはりわからなかったと思われる。

 しかし、家政婦(エルフメイド)は見ていた。

 男の手が、時々テーブルクロスの下に潜るのを。その度にナプキンで手を拭っているのも。

 食後のお茶を飲んでいるときなどは左手がずっとテーブルクロスの下にいた。後ろから見ていたエルフメイド達は、男の手がもぞもぞと妖しく動いていたのを知っている。

 エルフメイド達はわかってしまった。

 

 この男は、いじいじしていたのだ!

 

 マーレ様の服を着て、マーレ様とお喋りをして、いじいじしていたのだ。

 立っているから立てないのだ。

 何という変態なのだろう。マーレ様の為を思えばここで誅するべき。しかし自分たちの戦闘能力はザコである。ならば何としてもここで厳しく警告をしておかなければならない。

 

「いいんですか、私が立っても。大変なことになるかも知れませんよ?」

「なっ……なにを……」

 

 金髪のエルフメイドが後ずさった。髪の長さはもう一人よりやや長い。三人の中で一番素直な髪質である。

 男がエルフを見るのは、ダークエルフの双子を除けば三人が初めてである。見慣れないため、はっきり言って髪型以外では区別が出来なかった。エルフは見目麗しい者が多いと聞くがその通りで、よく言えば整った顔立ち、悪く言えば没個性に見えた。それでも感情はわかる。

 明確な敵意といやらしさ、或いは卑しさを感じた。

 良くも悪くも純粋な方が多いナザリックの方々の中では、表情に深みがあると言ってよいかも知れない。

 

「立ちなさいと言ってるのよ!」

 

 茶髪のエルフメイドは臆せず言った。

 

「……わかりました」

 

 すっと椅子から立ち上がり、二人に向き直った。

 二人は息を飲んだ。

 

 上半身は、よい。マーレ様のブラウスとボレロを着て、インナーにショートスリップを着ている変態だが、よいことにする。

 下半身はふわりと広がるロングフレアスカート。こちらが大問題なのだ。

 

「そそそそそそれ! 一体何を入れてるのよ!?」

「何も入れてませんよ」

「嘘よ! そんなに大きいわけないわ!」

 

 スカートの一部分が膨らんでいた。女のエルフは持ち得ない第三の器官があるかの如く。不自然に、股に太い棒でも挟み込んでいるかのように膨らんでいた。

 彼女たちはそれが何であるか見当が付いてはいたが、信じがたかった。

 かつては奴隷であった彼女たちは、性暴力を受けたこともあった。男のそこにそのようなものがあると知っている。しかし彼女たちが知っているそれは、親指を少し膨らませた程度のもの。同じものとは思えない。

 

「そう仰るならどうすればよいでしょう?」

 

 嘘と言われてもどうにもならない。これは本当に肉体の一部であるのだから。

 恥ずかしいことに、男はマーレの服を着て、勃起していた。

 とは言ってもまさか女装をして興奮しちゃっておっきしちゃってるわけではない。パンツがキツいのである。

 上半身のインナーが女児用のスリップなら、下半身は女児用のパンツだった。マーレ様が用意してくださったのだから履かないわけにいかない。魔法のパンツはサイズが違っても履けてしまった。残酷なことに。

 しかしそれでも女児用である。収めるものを収めるべきスペースがなく、おかしな具合に締め付けられておかしな刺激を受け続けてしまう。

 食事を終えてほっと一息付けば、ふと先ほどのことを思い出す。妖艶なヴァンパイアブライド達に囲まれ、挿入までしたのだ。

 この場に妖艶な者はいないが、あまやかな女の匂いが鼻孔をくすぐる。

 ちょっと反応してしまって、座ったままテーブルクロスの下に手を潜らせてポジションを直していた。彼女たちがいじいじしてたと思ったのは全くの誤解でもなかった。

 

 まさかあれが本当にアレなの、そんなの嘘に決まってるわ、そう思うならあなたが確認してきて、えっ私が、私レンジャーあなたドルイドあなたに何かあったら私が走って助けを呼んでくるから、だったら私が声を上げればザリュースさんたちに届くと思うわ、仕方ないわねそれじゃ私が、何よもしかして見たいの、そんなわけないじゃないそれじゃあなたが行ってよ、仕方ないわね、あなたの方が見たいんじゃない。

 

 二人の内緒話に聞き耳を立てると、ショートヘアの茶髪がレンジャーでさらさら金髪がドルイドであるらしい。どうやら二人とも興味津々のようだ。いっそスカートをめくり上げようかと思うが、ブライドを捨てた男であっても男としては中々取り難いポーズである。

 しばし待たされ、話が決まったようだ。茶髪の方が一歩進み出た。たれ目がちな目がつり上がっている。

 

「手を上げてなさい。何かしたら彼女が大声を出して助けを呼ぶから」

 

 言われた通りに両手を上げて、手のひらを見せた。

 

(マーレ様のためマーレ様のため。この男をここでどうにかしないと私たちのマーレ様が!)

 

 しゃがみ込んでスカートの中に潜り、飛び退いた。

 両手で口を覆ってふるふると頭を振る。

 

「どうだったの?」

 

 同僚の声にも答えられない。

 彼女が何を見たのか確かめるべく、今度は金髪のエルフメイドがしゃがみ込んだ。切れ長の目はつり上がってさえいなければ怜悧な魅力があるだろう。

 

「む……」

 

 彼女がスカートの中に潜るなり下半身に開放感があった。中で何をしているのか、中々出てこない。スカートの中に熱がこもりつつある。下半身に熱い息が吹きかけられているようなこそばゆさがある。

 出てきたエルフメイドは、少しだけ頬に赤みが差していた。

 

 あなた中で何してたの、何もしてないわ、じゃあどうしてあんなに時間がかかったのかしら、考えてたのよ、考えるって何を、あの男のあれをどうにかしないといけないわ、どうして!?、どうしても何もどうにかしないとマーレ様が汚されてしまうわあなたそれでいいの?、うっ、こんなことやりたくないけど出来ないわけじゃないしやったこともあるし仕方ないわね、……何よあなたやりたいの?、違うわマーレ様のためよ私が大人しくさせるからあなたは見張ってて。

 

 

 

 

 

 

 同僚を見張りに立たせ、金髪のエルフメイドがしゃがみ込んで再度スカートの中に潜った。

 スカートの中なのに視界は意外なほど明るい。透け感のある生地で作られていて、光があたるとシルエットが露わになる大変セクシーなスカートなのだ。マーレ様が着ればだけれど。

 ゴクリと唾を飲み込んで見上げる。

 皺のある柔らかそうな玉袋の上に、男の性器があった。真っ直ぐに上を向いて立ち上がり、スカートの生地を押し上げている。

 

 彼女は男の体を知らないではない。奴隷であった時分に教え込まれてしまった。そんなことを望んだわけがない。嫌悪と絶望に泣きながら教え込まれた。ゆえに、人間の成人男性には嫌悪と恐怖があった。それは今も変わらない。男から性的な目で見られると怖気が走る。

 しかし、この男は違った。

 女装して美少年に興奮する変態なのだ。変態が女に欲情するわけがない。

 自分の身に危険がないと知れば好奇心が勝る。美しい男へ命令を下し、意のままに出来る倒錯的な優越感もある。

 そして、性欲もある。

 満足したことは一度たりともなかったが男の体を知っている体だ。とても可愛い二人の主に仕えて充実した日々を送ってはいるが、持て余すことがなきにしもあらず。皆に隠れてこっそりと慰めることがあった。

 

 マーレ様の貞操を守るためだけではない。間違っても男の欲望のためではない。

 これは、自分の為なのだ。

 人間の男への復讐と、己の心の傷を克服するため。

 男の無様を嘲笑って、尊厳を取り戻さなければならない。

 

(…………熱い)

 

 根本を握れば親指と小指で作った輪に余るほどの太さがあった。

 上を向いているそれを自分の顔に向け、薄い唇を開いて、スカートの中に茶色い頭が潜り込んできた。

 

「どうしてあなたまで来るのよ、見張りはどうしたの?」

「……一人じゃ心配だったの。見張りは、大丈夫よ。この男は何も出来ないわ」

「………………」

「………………」

「……やるわよ」

「…………ええ」

 

 

 

 

 

 

 ずっと上げていた両手をおろし、軽く振る。見下ろせばスカートに二つの山。エルフメイド達の頭だ。撫でてやりたくなったが、そんなことをすれば叫ばれるかも知れない。

 二人の話し声はスカートに遮られてよく聞こえない。話がまとまったようで動きがあった。

 逸物が温かく柔らかいもので包まれた。おそらく両側から唇で挟まれている。ぬめる感触は舌を這わせているのか。

 扱かれ舐められ、先端だけをしゃぶられる。射精を促す激しさはなく、好奇心に任せて色々と試しているような緩やかな愛撫。

 

 敵意満々だったのに、どうして二人はこんなことをしてくれるのか。今までのナザリックでの経験から、一つ推測があった。

 アルベド様は食餌として求められるので除外するとして、シャルティア様は間違いなく性欲のために求めてきた。ソリュシャンは食欲のためなのでやはり除外して、ルプスレギナは発情期の解消のために相手をすることになった。

 先ほどまでいた第二階層のヴァンパイアブライド達はいずれも妖艶な美女なのに全員が処女だった。

 これらから、ナザリックは男不足であると推測できる。

 思えば人の形をした男性をほとんど見かけない。セバス様やデミウルゴス様はそうなのだが、メイドである彼女たちがお相手願うのは無茶な話だろう。

 衣食の世話になっているのだから、彼女たちの欲求不満を解消するのはやぶさかではない。

 さっきはギンギンになったところで挿入までしてそれきりだったため、願ったり叶ったりでもある。

 

「はい? どちら様ですか?」

 

 どこかから語りかける声があった。

 スカートの中の二人は凍り付いたように動かなくなった。

 

「マーレ様からの言伝ですか? はい、はい、私にそのようなことを……。光栄です。感謝に堪えません。勿論です。いつまでもお待ちしております。はい、わかりました、そのように」

 

 メッセージの魔法で会話している間に二人のエルフメイドはスカートから出ていた。

 二人揃って口元をハンカチで隠し、鋭い視線で問いかけてくる。

 

「マーレ様から伝言がありました。私の衣装を選ぶのに時間が掛かるそうです。昼までには戻るのでここで待っているようにとのことでした」

 

 まだ朝食を終えて間がない時間である。

 昼までとなると相当の時間が空くことになる。

 二人のエルフメイドは顔を見合わせた。金髪のエルフメイドが切れ長の目を細めて口を開いた。

 

「……この男を終わらせるのに口では時間が掛かりすぎるわ」

「あの男は三擦り半で終わったというのに、この男はおかしいんじゃないかしら?」

「いえ正常だと――」

「「あなたは黙ってて」」

「……はい」

 

 どうする?、どうする?、マーレ様は時間が掛かりそうなのね、その間に私たちがどうにかしろと言う事よ、……提案があるわ、なにかしら?、一つ考えがあるけれどあなたにしろって言ってるわけじゃなくて私がするからどうかなって思ってるだけで、だから何よ?

 

 金髪のエルフメイドは険のある表情ながらも顔を赤らめ、男をちらと見てから同僚の長い耳に唇を近付けた。そして言った。

 

「おまんこを使うわ」



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エロフ(確定) ▽エルフメイド

 純白のシーツに落ちた赤い花びらを、幼き美貌のダークエルフが呆然と見つめていた。

 青と緑の異色光彩は濡れている。体の震えに合わせて頬を伝い、顎に溜まってシーツに落ちた。涙の滴はシーツの染みに溶け混じり、すぐにわからなくなってしまった。

 すすり泣きの声が響いた。

 

『うっうう……、ぐすっ……ひぐっ……。こ、こんなの……ひどい……』

 

 小さな体をきつく抱きしめる。そうすれば何者も自分に触れられないと信じているかのように。しかし細い肩をぽんと叩かれ、小さな悲鳴を上げた。

 

『ひっ』

『酷いとはあんまりな言いようですね。あなたが望んだことでしょうに』

『なっ……何言ってるんですか! ぼくは……ぼくはこんなことしたいだなんて――』

『あなたは階層守護者だ。本気で抵抗されたら何も出来ませんでしたよ? あなたは抵抗しなかった。それが全てです』

『そんな………………』

 

 美しい瞳が揺れている。それとは対照的に赤と青の異色光彩は喜色を湛えている。

 

『もう一度しましょうか』

『やっ…………いやです! もう、あんなことっ……絶対にやだあっ!』

『おやおや……、我が儘を仰いますね。それでしたらアウラ様に伺ってみましょう。マーレ様が本当にお望みなのは一体何なのかと』

『え…………。お姉ちゃんには言わないでください!』

『聞かないとわからないでしょう? それともマーレ様のお望みは聞くまでもないということでしょうか?』

『それは…………』

『それは?』

『………………もう一度、お願いします』

『よく言えました』

 

 青と緑の瞳は絶望に陰り、もう何物も映すまいと固く目を閉じた。

 幼いダークエルフは再び鳴き始めた。

 

 

 

 

 

 

 二人のエルフメイドの脳裏を絶望的な未来妄想図が過ぎった。絶対に避けなければならない。避けるためだったら何でもする。たとえ、自分の体を使おうとも。

 頭に血が上った二人は男の両腕を捕らえて連行した。

 

 主人のために献身を厭わぬエルフメイドはシモベの鑑である。シモベとはかくあるべしと、千年の後にも語り継がれるべき。

 しかし、ああ、何と言うことだろう。ナザリックの瘴気は善良なエルフを悪に落としただけではなかった。

 腐らせてしまったのだ。

 

 男が連行された場所はツリーハウスの三階にあるゲストルーム。

 あれよあれよと言う間に服をはぎ取られ、ベッドに寝かされた。寝かされるだけでなく両腕を縛られてベッドの支柱に固定される。抵抗はしなかった。

 アルベド様を筆頭に、高い地位にあり配下を使う立場の方は虐げられるような行為を好まれる。反対に、使われる立場の者はこんな時こそ自分が上位に立ちたいものであるらしい。実はシクススもその傾向がある。お姉さんぶるし、ご主人様とメイドになってもいつの間にかリードを奪われる。特に、「好きだよ、シクスス」と言わないと露骨に機嫌が悪くなり、いつだったか生ぬるくてしょっぱい紅茶を出されて辟易したこともあった。ふと、思ってしまった。もしや、生ぬるくて塩気が強い黄金色の紅茶は、シクススの小水ではなかろうか。今度聞いてみようと心にメモする。そして泣き顔でビンタされるのだが残念ながらそこまで思い至れなかった。

 

 エルフメイドにはお世話になったことだし、そもそも慣れっこである。今でこそお優しいアルベド様だが、最初の頃は「動くな」「喋るな」「目を開くな」であった。それに比べたら縛られるくらい大したことではない。

 

 

 

 

 

 

(縛られてるのにこんなに立たせて……。やっぱり変態よ)

(変態でも私たちが何とかしないとマーレ様が……)

 

 全裸の男をちらちとと盗み見る。軽蔑を隠そうともしない表情は段々と赤らんでいく。

 股間にそそり立つ男性器は彼女たちの知識からすると余りにも立派すぎて、本当にどうにか出来るのかと考えてしまう。しかし、やらなければならない。

 二人は頷きあって、男の様子を注視しながらメイド服に手を掛けた。

 

「これからあなたが嫌いな女の体を見せてあげるわ」

 

 金髪のエルフが声と表情を強ばらせて言う。

 嫌いとは何のことだかわからないが、ここは彼女たちのペースに合わせて黙ってみていることにした。

 

「!」

 

 メイド服が床に落ちる。緊張からか、震える手でブラジャーのホックを外し、肩紐を外し、華奢なエルフらしい慎ましやかな乳房が露わになった。

 エルフの裸身が目に入った瞬間、男は眉間に皺を寄せ、目を逸らした。

 

「ふ……ふふ…………。ふふふ、ほぉら。これが女の体よ?」

 

 エルフの顔から僅かな脅えと緊張は消え去った。代わりに余裕めいた態度で男に裸身を見せつけ、ベッドに上がった。茶髪のレンジャーのエルフも続いてメイド服を脱ぐ。こちらはベッドの縁へ、男の顔の側に腰を下ろす。

 裸身を晒して、もしも男から好色めいた視線を感じれば、かつて体に刻まれた痛みと屈辱を思い出していたことだろう。しかし、この男は美少年に興奮して勃起する変態の男色家なのだから女の体を嫌っているはず。

 あちらから手を出されない安心感が強者の余裕となって、女たちへ己の優位を再確認させた。これで安心して安全に搾ることが出来る。

 

 二人の認識とは違って男色家ではない男は、極当たり前に女体に興奮する。

 それなのに二人のエルフから目を反らしたのは、屈辱だったからだ。

 シャルティアがそうだったように、華奢な体はラナーを思わせる。エルフ達はシャルティアと違って血色がよく、思い出したくもないのに思い出してしまう。

 慎ましいのに張りのある乳房とか、華奢な体に相応しく折れそうなほどに細い腰とか、肉付きの薄い尻とか。そして王族であることから良好な食生活による健康的で日に当たらない白い肌。どうしてあんな貧相な小娘を思いだしてしまうのか。

 俺はちっぱいよりおっぱいが好きなんだ!

 ソリュシャンの爆乳に挟まれて一体何度出したことか。飽きるほど出したせいで、ソリュシャンのおっぱいでは中々興奮出来なくなった弊害もあるが。

 心で何と思おうと、エルフの裸身は非常にそそられた。思い出したくもないものを思い出してしまったので咄嗟に目を反らしたが、体は素直に反応している。

 

 もしもこの男が本当に女体嫌いであれば、裸の女が近付けば力をなくしてもおかしくない。

 実際には、目を反らしながらも脈打つほどに力強く勃起している。その矛盾にエルフ達は気付かない。裸を見せることが男への嫌がらせになると思って、積極的に見せつける。二人して男の顔の両脇にぺたんと座り、嘲笑を浮かべて男の顔を見下ろしている。男が目を閉じれば手を伸ばして瞼を開かせる。

 男が横を向いたときは、無理に正面を向かそうとはしなかった。頬を押さえて顔の向きを固定し、崩して座っている脚を僅かに開いた。脚の付け根までよく見えるように。

 

「………………わ、私からしてもいいかしら?」

「え?」

 

 口火を切ったのはレンジャー。

 

「ほら、私はレンジャーだから最初に様子見するのが仕事だしドルイドのあなたより体が丈夫だから何かあっても大丈夫と思うからしたいわけじゃないんだけどこういう時は私が先に行った方がパーティーの為だと思うし…………だめ?」

 

 ジト目で見られ、男の前では繕ってきた強気が崩れて生来の気弱さを覗かせた。

 

「別に、いいけど……。マーレ様のためなのを忘れないでよね」

「わかってるわ」

 

 膝立ちになって男の体を跨いだ。

 

「ん……」

 

 股間に指を伸ばし、薄い陰毛をかき分けて割れ目に触れる。いつからそうだったのか、もう濡れ始めていた。何度もしてきたようにクリトリスを擦り、増えてきた愛液を指にまとわせて膣口に差し入れる。二本の指はぬるりと入っていった。

 指は五回往復した。

 

「これだけ濡れてれば……」

 

 そろりそろりと男の股間の上へ移動する。体を支えるために左手は男の下腹に突いて、右手は勃起している逸物に触れた。へそまで反り返っていたのを上を向かせて割れ目にあてがう。

 彼女たちは処女ではなく、騎乗位をしたことがあった。誰かさんとは違うのだ。

 

「あっ……」

 

 ゆっくりと腰を落とす。亀頭が入り口に沈み込み、目一杯に押し広げてくる。

 

「大丈夫?」

「だっ……だいじょうぶ……。いくわ」

 

 心配そうに見守られる中、肉棒が少しずつ女の体へ埋まっていく。

 

「きっつ……。でもこれくらい! んっんっ……」

 

 入りきる前に腰を浮かせ、女の体に消えた肉棒が現れた。入ったところまではてらてらと濡れ光っている。

 三分の一ほど入ったので肉棒に添えていた手も下腹に突いて、荒い息を数度吐き、前傾していた体を真っ直ぐにして、ひと思いに腰を落としきった。尻が男の太股についた。長い逸物は、根本まで女の秘部に咥え込まれた。

 

「はうぅっ! ……ふうぅぅ……。すごい……。奥まで届いちゃってる。お腹がすごい圧迫されて……。くぅ……」

 

 凄いと思ったのはされている方もだった。

 娼館通いもあってそれなりの人数を経験してきたが、根本まで全て入る女は少ない。入れようと思うと無理をさせてしまう。それにも関わらず、華奢なエルフの膣は逸物を全て受け入れてしまった。包み込まれるような深い膣だ。彼女だけがそうなのか、それともエルフの体とはこのようなものなのか。

 考察するに、おそらく後者。

 エルフの寿命はざっと人の十倍。もしも人と同じ頻度で妊娠してしまうと、この世はエルフで埋め尽くされる。しかし、そうはなっていない。そのためには人口が均衡する程度に死ぬか、そもそも妊娠しづらいかのどちらか。基本的にエルフは人より優れた種族なので、妊娠しづらいと思われる。

 それがこの深い膣なのだろう。深い膣を征服して奥まで到達できる強い胤を選ぶために。

 哀れにも短かったり細かったりすると満足できないかも知れない。

 

「あなたの凶暴なちんこがどこに入ってるか見せてあげるわ」

 

 ゆるゆると、それでも懸命に腰を振る茶髪のエルフを余所に、もう一人は男の顔に跨がった。

 顔を逸らせないように両手で固定し、こちらも腰を落としていく。男の顔に、匂い立つ秘裂を近付けていく。指で広げ、目の前で雌の内側を見せつけた。

 ピンク色のきれいな内側は淫液に濡れている。内側の雌肉はとても柔らかそうだ。食欲にも似た性欲を、獣欲をあおり立てる。

 まさに目の前で、女は膣口へ指を入れた。白い指がピンク色の肉に埋まり、抜かれるときは愛液を伴って男の顔へ滴った。

 

「女のおまんこを見たことがある? これがおまんこよ。お尻の穴よりずっと柔らかくてずっと気持ちよさそうでしょう? 今度はここに…………って」

 

 後ろを振り返る。

 腰の上に跨がっている同僚は、上下運動を諦めて顔を伏せていた。

 

「ちょっと何してるの。頑張ってよ」

「だっ……だって……。すごくて……」

 

 たれ目が弱気を強調した。

 荒い息を吐き出し挿入されたままそんな顔をしていると、気持ち良くなってしまって動けなくなったように見える。男を搾ってマーレ様に手を出させないようにしなければならないのに、それでは男のちんこに負けたも同然。

 

「支援するわ!」

「…………え?」

 

 ドルイドがかざした手に魔法の光が現れる。

 

《感覚鋭敏》

 

 ドルイドの支援魔法がレンジャーを直撃した!

 同時に浮かせ気味だった女の腰を男が下から突き上げた。雄々しい逸物が女の中をかき分けて最奥に届き、亀頭が子宮口を叩いた。

 

「ひゃああああああああぁぁぁああああぁああぁぁぁあ!?!?!?」

 

 あられもない叫び声。

 女は限界まで背を弓なりに逸らせ、おとがいを高く上げて絶叫した。女の意志によらずして膣壁が蠕動し、体を深く貫く逸物を締め付ける。

 二人の結合部から広がる液体は愛液か小水か、精液でないのは確かだ。

 女はそのままぱたりと後ろへ倒れ、びくんびくんと体を震わせた。倒れた拍子に挿入されていた逸物が抜けて、限界まで広げられていた膣口は体の震えに同期して口を開いては閉じ、その度に白く濁った淫液をたれ流す。男の逸物は未だ湯気が出そうなほど熱くそそり立っているので精液ではない。深すぎる絶頂がもたらした本気汁だった。

 

「ご、ごめんなさい……」

「あ…………あぅ……? あ……ああ……」

 

 ドルイドが使った《感覚鋭敏》は知覚を研ぎ澄ませて敵の攻撃を察知出来るようにする支援魔法であるが、今回は裏目に出た。

 セックスは男と女の戦闘行為と言えなくもないかも知れないが、感覚が鋭くになれば感度も増す。今まで味わったことがない奥まで届く大きな逸物を受け入れて、初めての快感に悶えながらも頑張っていたところに感度倍増。

 これは裏切りなのかフレンドリーファイアなのか。

 女は無様な敗北を喫した。

 

「彼女は負けちゃったけどまだ私がいるわ!」

 

 金髪を靡かせ、ドルイドが必勝を宣言した。

 

 

 

 

 

 

「ただいまーっと」

 

 ツリーハウスの一階では、アウラが恐る恐る扉を潜った。

 シャルティアと遊びすぎて大分遅くなってしまった。勝負は勿論完勝。枕チャンバラでは決着つかず、口喧嘩へ移行した。語彙に乏しいちょっとおバカなシャルティアではアウラに勝てるわけがない。シャルティアにべそをかかせ、アウラは気持ちのよい勝利を収めた。

 その代償として、朝食の時間をかなり過ぎてしまった。

 エルフメイド達は自分たちによく仕えてくれているのだけれど、割と小うるさい。小言を言われるのはやだなあと思いながらただいまの挨拶をするが、応えはなかった。

 いつもなら誰かしらが返事をしてくれるのに迎えたのは静寂である。

 怪訝に思いながら足を進めて一階にある食堂に来た。大きなテーブルには一脚のティーセット。誰かがいた形跡はあるのだが誰もいない。

 これはマーレが飲んでいたお茶だろうか。そのマーレはどこにいる。

 マーレが連れて行った筈の男はどこへ行った。

 常駐しているはずのエルフメイドがいないのもおかしい。

 

「これは……?」

 

 エルフメイドより遙かに優秀なレンジャーであるアウラは、床に落ちていた小さな布切れを見つけた。拾い上げて広げる。白い生地に水色の花模様が散らしてある。

 

「…………………………マーレのパンツ? なんでこんなところに?」

 

 アウラは知る由もない。エルフメイド達も気が付かなかった。

 男はエルフメイド達がスカートの中に潜ったとき、膝までパンツを下ろされていた。そのまま連行されると足が動かせなくて転んでしまう。転ばないためにパンツをその場に脱ぎ捨てていたのだ。

 

「アウラ様、お帰りなさいませ!」

「うぇっ!? ……う、うん。ただいま」

 

 不意の声に驚き、慌ててパンツをポケットに仕舞った。

 アウラを迎えたのはエルフメイドの一人。かつてはレンジャーをしていた茶髪のエルフだ。

 

「お食事になさいますか? 少々お待ちしていただくことになってしまいますが」

「うん、お願いしよっかな。…………ところでマーレはどこ? あとマーレが連れてきた奴も」

 

 エルフの瞳がキラリと光り、意味が分からない決意と覚悟にアウラはちょっぴり仰け反った。

 

「ご安心ください。マーレ様は私たちがお守りいたします。あの男には絶対に手出しさせません!」

「うっ……うん? えっと、どういうこと?」

「それが…………いえ、アウラ様のお耳に入れるには余りにも汚らわしく、どうかご容赦ください。アウラ様はどうか安心してお過ごしくださいませ」

「…………よくわからないけどわかったよ」

 

 わからないけどわからない方がいいであろうことをアウラは直感した。

 ポケットのパンツが何だか重たかった。

 

 

 

 

 

 

「ほ……本当に、キツいわ……。こんなに大きいなんて、信じられない……」

 

 ダウンしていたエルフメイドは衣服を整えて部屋から飛び出ていった。

 今度はもう一人が跨がっている。やはり膣が深く、全て包み込まれた。

 

「お腹がいっぱいになってる……。こんなの初めて。おまんこの奥まで届いちゃってる。んっ……あっ……、そこ……」

 

 彼女は上下に動くだけではなかった。体を前後左右に揺らしている。逸物で膣壁の様々なところを擦って、気持ち良い部分を探っている。前の浅い部分も良かったが、奥の裏側もかなりの快感が得られた。そこを擦るには体を前に倒さなければならない。

 先にしていた同僚も前傾姿勢が多かったので、感じるポイントは同じらしかった。

 

「あっ……あなたも……。マーレ様の為を思うなら協力しなさい!」

「……私から動いても?」

「絶対に手は動かさないで」

「動かせませんよ」

「ふん。……あっあっあっ、そこ、そこいいわ。もっと突いて。もっと私のおまんこかき混ぜて」

 

 下から突き上げられ、ついと男の下腹に突いていた手が崩れてしまった。男の体に倒れ、手の平で包めてしまう慎ましい乳房が男の胸板にぶつかって形を歪めた。

 

「くっ……うっ、あっ……あんっ。…………こんなちんこに、負けないからぁっ」

 

 体を起こそうにも力が抜けて起こせない。逃げるのは論外。抜けてしまわないように、突き上げられて尻が持ち上がらないよう意識する。自分で動いている時よりもストロークが激しくなり、体の中心を男が我が物顔で行き来しているのを感じてしまう。

 あえぎながら男の体にすがりつく。

 一突き毎に快感が深まっていく。

 耐えるだけではなく迎え撃とうと目を見開けば男の顔がすぐそこに。

 ナザリック生まれのシモベ達すら惑わす美貌は、悔しいことに彼女も認めざるを得ない。

 そして、青い瞳と赤い瞳。

 エルフの世界において、異色光彩は王の証。異色光彩のアウラとマーレに忠誠を誓ったのは、そこへ王の徴を見たことが皆無とは言えない。

 

「んっちゅっ………………。あむ、んっんっ、ちゅる……れろ……んっ」

 

 高きが低きに落ちる自然さで、男の唇へ唇を落としていた。

 何に飢えているのか、必死に男の口内を舐め舌を絡める。貪るように唾を啜って、両手は逃がさんとばかりに男の頬を包んでいる。

 何度か喉を鳴らして唾を飲み込み、弾かれたように顔を上げた。顔も体も真っ赤に染めて、怜悧な目は険しく、眉間に深い皺を作る。

 自分はいったい何をした。自分から人間の男の唇を求めたのか。

 人間の男から与えられた屈辱は未だ忘れられないと言うのに。

 

「うっうっんぁああっ! あんああんっ! くぅっ、このままっじゃっ!」

 

 体の中で男が蠢き、間断なく快感を与えてくる。

 このままでは無様に負けてしまう。気持ち良いところを擦られていってしまう。

 体は起こそうにも起こせない。気力を振り絞って腕を伸ばした。

 手の平に集う魔法の力。

 

《感覚鋭敏!》

 

「うおっ!?」

「あっ………………あああああぁぁぁぁあぁああああっ!!!」

 

 マス・ターゲットを指定したわけではないのに、体を繋げたまま密着しているせいか、支援魔法は二人の体へ降り注いだ。

 快感が何倍にもなって襲いかかってきた。

 体の中心を貫く男が全身のそこかしこで暴れている。体の内側も外側も敏感な粘膜になって甘く激しい愛撫を受けているかのよう。自分の体が男の体へ溶け込んでいく。男の体全てが自分の中に入ってくる。

 世界全てが真っ白に焼かれ、自分もこの男も、肉体全てが粉々に砕け散り、混ざり合って溶け合って。

 しかし最後に残された小さな一粒。

 ほんの一瞬だけ、愛しき主人のあどけない笑顔が浮かんだ。

 

「まっ……まけない!」

 

 使命が体を動かした。

 肉体の境界すら曖昧な忘我の快楽の中で、腰を僅かに持ち上げる。

 

「んぁああぁああっ!!」

 

 自分の膣から男の逸物が引き抜かれ、攪拌されて泡だった愛液が淫らな音を立てた。すぐ耳元でずりゅずりゅと粘着質な音が鳴り響いている気がする。まるで体全体が性器になってしまったかのよう。

 

「で、でも……、これで、私の…………」

 

 止むことがない絶頂の渦の中、虚脱した体はなすがままに任せた。

 すなわち、重力に従って落ちていく。

 

「っ!!」

「あっ……っ~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」

 

 体の最奥が熱い奔流に汚されるのを感じたのを最後に、意識が落ちた。

 

 

 

 

 

 

「今の何!?」

 

 スイートクリームに甘々とろとろシロップたっぷりの出来立てフルーツホットサンドにかじり付いていたアウラは、階上から聞こえてきた叫び声に尖った耳をピンと立てた。

 青と緑の瞳は鋭く天井を睨み、一瞬で臨戦態勢となって椅子から立ち上がった。

 

「何か聞こえましたか? 私にはわかりませんでしたけど」

「絶対聞こえたって! 今のメイドの子の叫び声だよ! 助けに行かなくちゃ!」

「助けに、でございますか? アウラ様とマーレ様の守護階層には何の危険もないと思いますが? 大方タンスの角に小指でもぶつけたのだと思います。アウラ様がお気になされるのであれば私が様子を見て参りますので、少々お待ちくださいませ」

「え、でも危ないことがあったら」

「アウラ様がお留守の間には何もありませんでしたので、そのようなことは何も……。マーレ様!」

「ただいまです。あ、お姉ちゃんもお帰りなさい」

「マーレ! 今までどこに行ってたの? それにあいつは?」

「えっと、あの人の服がないからセバスさんの部下の人たちに借りてきました。僕の服じゃダメみたいで」

「あいつにマーレの服貸したの? 着たの!?」

「ちゃんと着れたよ」

 

 アウラは二人のエルフメイドに視線を向ける。二人はマーレからは見えないように、ぶんぶんと顔を横に振った。

 

「そ、それは、私は見たくない、かな?」

 

 あははと乾いた声で笑いながらアウラは言った。

 そして、気付きたくないことに気付いてしまった。

 ポケットに入ってるマーレのパンツは、あの男が履いていたのだ。

 男の股間を覆っていたパンツがポケットの中に。

 ポケットのパンツが得体の知れない何物かに変わったかのようで、一刻も早く放り出したくなった。しかし、この場で取り出せよう筈がない。

 パンツから生じる何物かに体を侵されていく錯覚を感じながら食事を続ける。

 アウラは何だか泣きたくなった。




あれな都合によりアウラちゃんは遠征に行かないでお留守番です
とヴァンパイアブライドエリートシックスがシャルティアのサポートを頑張るはずです


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メイドのおもちゃ

(どうしてこうなっている……!)

 

 ひょんなことからナザリックを訪れているエ・ランテルの大きなお屋敷の若旦那様は、成り行きの不可解さに頭を悩ませました。

 昨夜目が覚めてから何度目になるものか、しかし今度ばかりはやや切実です。

 

「あの……」

「なにか?」

「どうかなさいましたか?」

 

 一言口を開けば突き刺さる視線。怯まず言葉を続けました。

 

「この飾緒は少し派手ではないでしょうか?」

 

 飾緒とは飾り紐のことです。主に金糸や銀糸を結って作られていて、肩から前面に掛けて垂れ下がるように飾ることが多いです。

 

「やはりそう思われますか。私共もいささかばかり奇をてらい過ぎていると思っているところでした。男の正装とはフォーマルが王道。余計な飾りを付けてしまうと統一感を乱してしまいます」

 

 すらすらと若旦那様の言葉を肯定するのはセバス様の配下となる男性使用人たちです。しかし他方、異議を唱える方々もおりました。

 

「わかっていませんね。男女を問わずファッションの王道とは立体感から始まります。あなたの肉体は均整がとれてはいますが、セバス様や私とは違って肉体の盛り上がりに乏しいと言わざるを得ません。足りないものを補うことのどこがおかしいのですか」

 

 こちらは一見ダンディーマッチョなおじさまに見えますが、頭から生える角と蝙蝠の翼から悪魔であると窺えます。デミウルゴス様配下の悪魔のお一人です。

 双方は互いに鋭い視線をぶつけ合い、鋭い視線はそのまま若旦那様へ向けられました。

 

「こちらにしましょう」

「いいえ、こちらがよいかと」

 

 どうすればいいっちゅーねんです。

 あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たず、中立意見を述べようものなら双方からフルボッコです。中庸とはかくも難しいものなのです。

 こんな事になっているというのも、マーレ様のせいなのかアインズ様のせいなのか、はたまたアルベド様か、もうさっぱりわかりません。

 

 

 

 

 

 

 数刻前のことです。ちゃんとした男性用の衣服をマーレ様が借りてきてくれました。これで女装とはおさらばです。

 微妙な時間帯だったので第六階層でしばらく時間をつぶし、アウラ様から訝しげな視線を向けられながらお昼ご飯を済ませ、軽くお昼寝でもしようとしたらマーレ様に第九階層へ連れてこられました。

 現在着ている服、使用人用のスリーピースのスーツは暫定の衣装であるらしく、きちんとした正装をあつらえるために本人を連れてくることになったのだそうです。

 第九階層の衣装部屋で待っていたのはセバス様の配下である男性使用人たちでした。男もちゃんといるんじゃないかと思ったものでした。

 それと、彼らが声を掛けたらしいデミウルゴス様配下の悪魔達です。デミウルゴス様へお声かけしたら快く装飾品の貸与をお許しになったそうで、デミウルゴス様の代理として悪魔達がやってきたのです。

 

 始めのうちは平和でした。

 フォーマルスーツを基本に細かなアクセントをどうすべきかと双方がそれぞれの意見を上げて少しずつ細部が決まっていきました。

 スーツの生地からカフスボタンの色からベルトの色とバックルの拵えからシャツやネクタイの色に、ポケットチーフの色と柄を最後に決めようとしたそのとき、アインズ様がいらっしゃったのです。

 

『うむ、存分に飾ってやってくれ』

 

 女装でなければ何でもいいアインズ様でしたが、完全に余計な一言でした。くすぶっていた火に油を掛けたようなものです。

 男性使用人たちと悪魔達は、アインズ様の期待に応えるべく、それぞれが最もイケてるファッションを主張し始め、全く譲らなくなりました。

 その様子をアインズ様は満足そうに御覧になられています。

 

 今や詳しく知るのはアインズ様だけですが、セバスとデミウルゴスの創造主である「たっち・みー」と「ウルベルト・アレイン・オードル」はとても仲が良く、ことある毎に喧嘩していました。創造主の性格はシモベたちに受け継がれ、セバスとデミウルゴスもことある毎に反目し合っています。そんな二人を見ていると往事を思い出し、アインズ様は楽しくて仕方がないのです。

 主人がそれなら配下も同じで、セバスの配下である男性使用人たちとデミウルゴスの配下である悪魔達は中々反りが合わないようです。

 意見をぶつけ合う両陣営をアインズ様は楽しそうに御覧になられ、もっとやれもっとやれとはやし立てます。

 双方は完全にヒートアップしてしまいました。

 挟まれている若旦那様は堪ったものではありません。

 

 なお、マーレ様は第九階層に着いて早々にどこかへ行ってしまいました。なんと無責任なことか。

 

 

『あら?』

『アルベド様!』

 

 アインズ様が移動された後にいらしたのは世界で唯一人だけ美の神秘を知る美神アルベド様です。

 アルベド様は胡乱な目で一同を眺めた後、

 

『好きなようになさい』

 

 若旦那様をあっさりと見捨てました。

 ショックを受けてる若旦那様は措いといて、彼の直接の上役であられるアルベド様がゴーサインを出したのだから両陣営はますます遠慮しなくなりました。

 ファッションはいいとしても、肉体改造までしてしまうとアルベド様に怒られてしまいそうなので、それだけは阻止しました。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなであれやこれやと取っ替え引っ替えしているところです。

 何かしらの意見を述べると必ずやどちらかの陣営から、あるいは両方から異論が飛んできます。

 若旦那様は、正直なところをぶっちゃけてしまうと、マーレ様の服を着ちゃうくらいなのですから服なんて見苦しくなければ何でもいいと思っています。しかし双方が真剣に意見をぶつけているのを見るとそんな事は言えません。しかしどうでもいいことに付き合わされるのは割と苦痛です。

 そもそも何時の間にアインズ様の出征式に参加することになったのでしょうか。

 このままでは出征式が始まるまで延々と精神がすり減る羽目になりかねません。

 ああ、どこかに救いはないだろうかと思ったその時です。

 

「双方そこまで! ……わん」

 

 生けるマネキンと化している若旦那様を除く一同は直立不動となり深々と頭を垂れました。

 

 ナザリック第九階層に於いて、このお方に逆らうことは決して許されません。階層守護者であっても素直にごめんなさいします。守護者統括であられるアルベド様であろうと例外ではなく、アインズ様とて彼の者の意見を無碍にすることは出来ません。

 彼女の姿は犬面人身。可愛いわんこの頭にセクシーな女体をメイド服に包むこのお方こそナザリックに数多いるメイドを従えるメイド長。

 カルマは極善にして付いた異名はナザリック最後の良心。同じくカルマ極善でもすぐにグーパンが出るセバス様とは違います。本当に慈悲深いお方で、かつて王都で実施されたゲヘナ作戦の折りには拉致した子供たちの助命をアインズ様に訴えたこともあります。

 万人が額に明かりを灯して唱えるべきこのお方の名は「ペストーニャ・ショートケーキ・ワンコ」様です。

 わんこの時代なのですよ。にゃんこなぞお呼びでないです。

 

 若旦那様は先にナザリックを訪れた際、コキュートス様の守護階層で凍死しかけたのをペストーニャ様に助けられたことがありました。

 ああ、なんと慈悲深いペストーニャ様、ワンコ様。ワンコ様にペロペロされたら地獄も天国。ワンコ様にお尻カジカジされたら冥府も極楽。そうだ、ワンコ様賛歌を作ろうと若旦那様は決心しました。

 

「アルベド様の配下なのですから、アルベド様に合わせた衣装にしなければなりません、わん」

 

 よく考えたら自分に作詞の才能はないのでペストーニャ様賛歌を作るのは諦めました。

 

「私たちにお任せくださいわん」

 

 ペストーニャ様が合図すると、広い衣装部屋が狭く感じるほどにわらわらと見目麗しいメイドたちが入ってきました。

 どうやら救いの光は潰えたようです。

 

 

 

 

 

 

 男性使用人たちと悪魔達は部屋の隅っこで小さくなって目の前の羨ましい光景を眺めています。羨ましいと思っても、あんなの自分は絶対御免だと思っています。

 まず、若旦那様は素っ裸に剥かれました。パンツは装備したままです。それからあれやこれやと片っ端から様々な衣装の着せかえをさせられています。

 

 何メートルもある大きな布地を畳んで体に巻き付けるトーガや金銀の装飾が煌めかしいアラベスクの衣装。

 アインズ様が思わず仰け反ってしまう黒い軍服。

 お伽噺の王子様が着てるような体のラインがくっきり出てしまう白タイツとふりふりのシャツ。白タイツを履くと下半身の一部がもっこりと強調されてしまい、頬を赤らめながらも凝視するメイド多数。

 

 着せ替えをするため、メイドたちはボディタッチが非常に激しいです。周りからはわかりにくいようにおっぱいを押しつけてくる子もいます。採寸のためと言い張って正面から抱きついてくる子もいます。魔法が掛かった服は自動でジャストフィットのはずなのですが。香水を選ぶための体臭確認とか言って、首筋に顔を埋めてすんすんしてくる子とか、本当にもうあれです。

 女の子にタッチされておっきしちゃうどころではありません。これは断じてハーレムなどではありませんでした。

 これは、おもちゃです。

 メイドたちにおもちゃ扱いされているのです。男性使用人たちと悪魔達が羨望ではなく憐憫の眼差しを向けてくるのも当然でしょう。

 

 実を言うと、ペストーニャ様は狙ってました。

 若旦那様の美貌に興味を持ったメイドは割といたのですが、接点は皆無です。それにお話したりいいことをしたいのではなく単に鑑賞したいだけでしたから、遊びに来てもらっても相手をするのは面倒です。黙って突っ立っていてくれればいいのです。まさかアルベド様直属の配下へ、目の保養のために置物になってくださいとは言えません。

 そこへ絶好のチャンスが巡ってきました。

 虎視眈々とペストーニャ様が様子を伺っていると、当のアルベド様から「好きなようになさい」とのお言葉が。ここで行かなきゃメイド長の資格なしです。日頃頑張っているメイドたちへのご褒美として、若旦那様を生け贄に捧げたのです。

 ナザリックの瘴気は極善のペストーニャ様にさえ利己的な行動をとらせてしまうのです。

 

 メイドたちは顔を輝かせて若旦那様で楽しんでいます。

 反対に若旦那様は捨てたはずの男のプライドとか羞恥心とか精神力とか色々なものがゴリゴリと削られていきます。お昼寝しようと思っていたところへこのような沙汰となり、フラフラしてきました。

 

《大治癒!》

 

 ヒールの魔法が若旦那様を癒しました。ペストーニャ様の魔法です。ペストーニャ様は高レベルの神官で回復魔法マスターなのです。

 棺桶に片足どころかきちんと納棺され埋葬直前であり、瀕死を越えて1000分の1秒後には物言わぬ死体となる肉片すら完全回復してしまう回復魔法の秘技がエナジードリンク扱いです。これぞナザリッククオリティ。

 

「……ありがとうございます」

「どういたしまして、わん!」

 

 眠気覚ましの大治癒でシャキッとしましたが現状は変わりません。

 そもそもメイドたちは出征式の準備をしなくていいのでしょうか。自分を構うよりも他にすべき事があるのではないでしょうか。

 しなくてもいいのです。すべきことは全て終えているから遊んでいるのです。

 アインズ様の出征式と言っても、シモベたちが並ぶ順番は決まっているので事前の練習は必要ありません。

 式のプログラムは、アインズ様が遠征の意義を述べられ、遠征に随伴する者達を紹介し、アルベド様がアインズ様を言祝ぎ、8番まで出来たアインズ様賛歌を合唱して終了です。

 

 

 

 

 

 

 途中で夕食を挟み、アインズ様の出征式直前まで着せ替えごっこは続きました。

 最終的に選ばれた衣装は、ジャケット・スラックス・ベストのスリーピースを基本に、デミウルゴス様から貸与されたアクセサリを幾つか飾ったものになりました。

 あんなに色んな衣装を試したのはいったい何だったのかと嘆きたくなりました。

 誰に問うまでもなく、メイドたちの遊びであり玩具であった、と答えが出てきます。

 ペストーニャ様からは、メイドたちの玩具になってくれてご苦労様と言うことなのか、耐炎と耐氷の効果がある魔法のブレスレットをプレゼントされました。これでコキュートス様の守護階層に遊びに行っても凍死することなく、デミウルゴス様の守護階層に遊びに行っても消し炭になることはありません。

 

 夜遅くに始まった出征式は厳粛な雰囲気の中つつがなく始まってシモベたちがアインズ様万歳をして終了しました。

 アインズ様は遠征に出立されました。深夜に出発するのはどうなんだと思わなくもないかも知れませんが、アンデッドの軍勢が朝一で出かける方がおかしいです。

 

 余談になりますが、アインズ様賛歌を知らない若旦那様はペストーニャ様の指導の元、事前にちょこっと練習しました。歌詞は一発で覚えたのに、音程が今一つ外れていました。甘いテノールボイスが台無しです。メイドたちからクスクス笑われ、割と恥ずかしい思いをしていました。

 

 

 

 

 

 

 アインズ様とシャルティア様が不在のナザリックは防衛シフトを一部変更した臨時体制になりました。

 不在のアインズ様の代理として様々な仕事を終えたアルベド様は、アルベド様だけに特別に与えられた第九階層「ロイヤルスイート」の自室で羽を休めています。

 帝国の皇帝の寝室より豪華なエ・ランテルのお屋敷の書斎より豪華なアルベド様のお食事部屋よりも素晴らしいアルベド様の私室です。

 アルベド様は繊細な細工が施された椅子に腰掛け、目の前に跪く若旦那様を見下ろしています。

 

「どうしてお前がここにいるのかしら?」

 

 美しい瞳は冷ややかな光を湛えておりました。



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サキュバススタイル ▽アルベド♯10

 冷徹にして酷薄な眼差しに慈悲はない。残酷な未来を突き付けるアルベドはまさにナザリックの守護者統括に相応しい。しかし、内面は外面とかけ離れ、心は乱れていた。

 

「ルプスレギナからアルベド様のお言葉を伝えられました。アルベド様に見放された私に価値はなく、身投げしようとしましたがこうして御身の前に無様を晒しております」

 

 昨日エ・ランテルにいた男が今日はナザリックにいる。誰かの助力が不可欠で、それはおそらくシャルティア。シャルティアと一晩過ごしたのは間違いない。

 今までに何度かあった事で、それをアルベドは知っていたし認めてもいた。自分の食事に影響なければ良しとしてきた。ルプスレギナに残した言葉から、自分がすぐにエ・ランテルを再訪するとは思わなかっただろう。

 罪に問えるものではない。

 

「ご不興を感じましたらいかようにもお裁き下さい」

 

 斬首を待つ咎人のように頭を垂れる男を前に、アルベドは言葉を発しなかった。

 

 裁くも何も、残した言葉は恥ずかしくてつい言っちゃっただけであってどうこうするつもりは全くない。強いて言うならば、あれの直後に複雑怪奇骨折したのが罰と言えなくもない。

 それはそれとして、シャルティアとあれこれしてたのは少しだけ面白くない。

 アルベドはサキュバスであり、サキュバスに貞操観念なぞは存在しないのだから、誰が誰と何をしようが構わないはずなのに何故か面白くない。

 シャルティアはナザリックの守護者であり、ナザリックに相応しく美しい少女であることが、どうしても面白くない。自分の方が美しく魅力的であると知っていても。

 一体何がどうして面白くないと感じるのか、アルベドの優秀なはずの頭脳は答えを持たなかった。

 

 男の所業は罪に問えるものではないと理性では答えが出ている。

 恥ずかしくてつい出ちゃった言葉なので真に受けてくれても困る。しかし無視されるのは沽券に関わる。無罪放免とするわけにもいかない。

 だからと言って死なれるのはとても困る。何物にも代え難いとても得難い男なのだ。

 色々と美味しいし、色々としたりさせたりするのは気持ちいいし、声を聴くだけで心地よいし、ナザリックにも存在しない男の美貌は目に楽しい。

 はたと気付いた。

 ナザリックを愛しているアインズ様は、もしかするとシモベ達の不手際を叱りたくないのではないだろうか。

 アルベドからすれば、操られたとは言えアインズ様に槍を向けたシャルティアは万死に値するが、アインズ様は謹慎処分で済ませてしまった。

 アインズ様のお言葉を忘れて報告を怠ったルプスレギナはやはり万死に値するが、アインズ様はお叱りの言葉で済ませてしまった。

 ああ、なんとお優しいアインズ様アインズ様、偉大なるアインズ様、私共はアインズ様の御心を計りかねておりました。アインズ様のお優しさはまさに海よりも深く天よりも高く。アインズ様賛歌の第九番の出だしはこれで決まり。

 

 偉大なるアインズ様の御心にまた一歩近づけたのは喜ばしい事だが、それはそれとして目の前の男をどうにかしなければならない。

 一体どんな罰が適当だろうか。

 

 アルベドはテーブルに片肘を突いて何度か足を組みかえ、一言も発さず考える。

 跪く男は脚が痺れてきて、立てる膝を左から右に換えたくなったが黙って待ち続けた。

 

「これに座りなさい」

 

 ふかふかのクッションを投げ付けられた。言われた通りに座る。するとアルベドは後ろに回って男の腕をとり、白いレースのリボンで縛り付けた。男の腕が動かせない事を確認し、今度は白いシーツを頭から被せる。男の視界は遮られた。

 

 さらさらと、木々の間を微風が通り過ぎるような衣擦れの音が聞こえる。

 シーツが取り払われた時、アルベドは漆黒のマントを身にまとっていた。

 

 

 

 

 

 

 アルベドが装備したマントは昨夜のシャルティアが着けていたものと同じである。魔法のマントだろうと所詮はロールプレイ用。ユグドラシルでは幾らでも入手できた。幾らでも入手できるならもらえるだけもらっとこうと思った誰かさんのおかげでいっぱいある。

 その誰かさんのグッズがアルベドの部屋にはいっぱいある、はずだった。

 こう見えてお裁縫が得意なアルベドは、抱き枕やぬいぐるみをいっぱい作って部屋のそこかしこに飾っていたのだが、今は一つもない。男を招き入れる前に全て隠していた。

 もしも各種グッズを見られ、

 

『アルベド様はお可愛いのですね』

 

 とか言われたら恥ずかしくて堪らない。

 その甲斐あって、今は白を基調とした豪奢ながらも落ち着いた雰囲気が漂う品の良い部屋になっている。

 

「これが何かわかるかしら?」

 

 アルベドはテーブルに置かれた小瓶を手に取った。

 ナザリック製のガラス瓶はポーションの瓶と同じく繊細な細工が施され、それだけでも芸術的な価値を認める者は多いだろう。

 小瓶は黄金色の液体に満ちている。小瓶を傾けると中の液体がゆっくりと揺れ、かなりの粘性があるとうかがえた。

 小瓶の蓋を開け、皴すら美しい人指し指を入れる。金色の液体はまるで蜂蜜のように指にまとわりついた。おもむろに男の口へ突っ込んだ。

 

「しっかりと舐め取りなさい」

 

 舌に包むアルベドの指は甘かった。唇で挟んで吸い付き、丹念に舐め上げる。

 指先から伝わる官能的な柔らかさと温かさ。アルベドはうっとりと感じ入って、自分の頬を撫でながら指に吸い付く男を見下ろしている。

 アルベドが指を引き抜くと、ちゅぷんと鳴った。指は男の唾液で濡れている。濡れた指を、アルベドは自身の口へ運んだ。

 

「蜂蜜のように思えましたが甘さが違います。私にはわかりません」

「わからなくて当然よ。これはナザリックにしか存在しない薬なんだから。薬と言っても飲むためのものじゃないわ。口に入れてもただ甘いだけ」

 

 アルベドは小瓶をテーブルに戻した。

 何の薬かわからないが、アルベドが言った通りに口にしても甘いだけで体調に変化はない。

 

「脱毛剤よ」

「!?」

「ただの脱毛剤じゃないわ。毛根を溶かし、毛が抜けると毛穴を塞いでしまう。これで脱毛するともう二度と生えてこなくなる。危ない薬だから一回分だけ調合させたのよ」

 

 ああ、なんと恐ろしきナザリック。

 なんと恐ろしい薬を作ってしまうのだろうか。

 もしも人間であったころのアインズがこの薬を突き付けられたら死んでも使う事を拒否したことだろう。今や毛穴は一つもない体だが。

 

 男であれ女であれ、何者であっても恐怖のどん底へ突き落とす薬を前にして、男の心は凪いでいた。

 かつては面貌が醜く焼き爛れていた。それに比べればハゲになることなどどうと言う事もない。その程度でアルベド様の御心が癒されるなら歓喜と共に受け入れよう。

 

「かしこまりました。私の腕は動かせませんので、どうかアルベド様の手で私の頭に注いでください」

「違うわよおバカ」

「……え?」

「お前は自分の事がよくわかってないようね。折角とても奇麗な顔をしてるのだからそんな勿体ない事をするわけないでしょう」

 

 かつては金色だったらしい髪は色が抜け落ち、暗がりに輝く銀色となっている。

 

「私が美しいとは……、光栄です」

 

 未だに自分の容貌が優れているとは思っていない男だが、美を司る美神アルベド様が仰せならばきっと美しいのだ。そう思う事にした。

 

「しかし私に用いないのなら一体……?」

「ふふふ……」

 

 アルベドは妖艶に笑い、マントの襟を留める飾り紐を解いた。

 

 

 

 

 

 

「おお……!」

 

 男の口から思わず感嘆の声が漏れた。

 

 マントを脱ぎ捨てたアルベドは、マントと同じ黒い衣装をまとっていた。

 上半身はホルターネックの三角ビキニ。首の裏を紐が通り、三角形の生地が乳房を覆う。生地が小さいのかアルベドの乳房が大き過ぎるのか。慈悲と慈愛と優しさと、夢と性愛がいっぱい詰まった大きなおっぱいはほとんどが露わになっている。

 光沢がある黒い生地はなめし革のように見えたが三角形の中央部には小さな突起が現れており、とても薄くとても柔らかい素材と知れる。

 下半身も同素材で作られたビキニショーツ。昨日と同じスーパーローライズ。ギリギリ秘部は隠れているが、黒々とした陰毛は全く隠れていない。

 へその下のぬめる下腹。白い肌を飾る陰毛はとても淫靡だ。

 間近に立っていることもあって、鼻をくすぐる距離にある。陰毛から立ち昇る雌の匂いが鼻腔をくすぐり、否応なく下半身に熱が溜まった。

 アルベドの姿は、まさに正当なサキュバススタイルであった。

 男の興奮に満足し、アルベドは小瓶を手に取る。

 

「こうするのよ」

「あっ!!」

 

 アルベドは黄金色の液体を自らの下腹に垂らした。

 とろりとした液体はゆっくりとアルベドの白い肌を流れていき、豊かな繁みに届いた。薬の効果は劇的だった。ふさふさとした毛が立ち切られたように倒れていく。

 アルベドが指で隅々にまで塗り伸ばす。本当に抜けてしまったらしい。指には幾本もの縮れた陰毛が張り付いている。

 

「舐め取りなさい」

「……はい」

 

 陰毛が絡みついた指を男の口へ差し入れた。

 細い指と、髪よりも太い縮れた毛を舌に感じる。噛み切ることなく喉を鳴らして飲み込む。

 

「こっちのお毛けも舐め取りなさい。これがお前への罰よ」

「……かしこまりました」

 

 アルベドは男の目の前に立ち、腰を突き出した。

 男は舌を目いっぱい伸ばしてアルベドに触れる。肌の柔らかさよりも陰毛の硬さを感じた。太い縮れ毛が歯の隙間に挟まったり喉に絡んだりしないよう一舐め毎に舌を口に戻し、唾と一緒に飲み込んでいく。

 アルベドの陰毛は性器や肛門の周囲には一本も生えてない。魅惑の三角地帯にだけ整った形で生えている。しかし豊かな黒髪から察せるように、陰毛もまた豊かだった。男が知る幾人もの女たちと比べると、かなり濃い方に分類される。普通のパンツを履くと盛り上がってしまうくらいに。

 それもまた魅力的なのだが己の舌で失われていく。残念なような悲しいような、アルベド様の御心を計りかねた。

 

「何度も飲み込んで喉が渇くでしょう?」

 

 アルベドは男の頭を優しく包んで上を向かせた。

 

「私の唾を飲ませてあげるわ」

 

 妖しく赤い唇をすぼませ、泡立つ唾を垂らした。唾は男の舌へ滴り落ち、ぺちゃりと鳴った。

 男は口を閉じ、アルベドの甘い唾を飲みこむことなくじっくりと味わう。

 三度垂らしてから舐め取る作業に戻らせた。銀色の美しい髪を撫でながら、水差しからグラスへ注いだ水で喉を潤す。

 

 陰毛の量は多く、舐め取るのは少しずつであったが、確実に終わりへ近付いていく。

 薬の効果は確かなもので、舌が這った後には毛穴すら見えないつるりとした柔肌が現れていく。

 肌が薄っすらと赤くなっている部分があるのは薬の効果が強すぎたせいなのか。アルベドは何も言わない。

 やがて、全てを舐め取り終わった。アルベドの黒々とした陰毛は全て胃の腑に落ちている。下腹には何の痕跡もなく、ただただ美しく白い肌となっている。無毛の股間は、熟れた肉付きがなければ子供のように思えなくもない。

 

「よくできたわね。偉いわ。これでお前への罰はお仕舞いよ。飲みなさい」

 

 アルベドは冷水を口に含んだまま男へ口付けをした。唾と混じり合った水が男の口へと注がれる。隙間なく合わされた唇からは一滴も零れない。三度口付けをしてグラスに注いだ水が空になった。

 男の膝に座る。柔らかな銀髪を優しく抱き寄せ、豊かな乳房の谷間に男の顔を迎え入れた。三角ビキニを少しだけずらす。隠れていた突起が現れる。何を言うまでもなく、男は突起に吸い付いてきた。

 

「うふふ、可愛いわ。私のおっぱいをいっぱい吸っていいのよ。あなたに吸って欲しくて私の乳首はこんなに固くなっちゃってるの。いっぱい吸わなきゃダメよ?」

 

 吸いながらなのでくぐもった声が返ってくる。

 アルベドは優しい微笑を淫靡に染めて男の頭を優しく撫でてやる。もう一方の手で吸われていない乳首を摘まむ。充血して赤く弾けそうな乳首は、きっと吸われている方がもっと勃起している。

 

「ちゅうちゅう吸うだけじゃなくて優しく噛んで。んっ、もっと強く、あんっ、そう、そうよ。私の乳首をいっぱい虐めて」

 

 乳肉に歯を立てられ、痛みと快感にアルベドの愛欲が深まっていく。

 股はとっくに濡らしている。いつもだったら手が伸びるところ。代わりに男の股間を撫でた。ナザリック製の仕立ての良いスラックスの中で窮屈そうに張りつめている。

 

「あ……アルベド様……」

「うふふ、なあに? 何をして欲しいのか言ってごらんなさい」

「直にして欲しいです」

「いいわよ♪」

「っ!」

 

 アルベドの白い繊手がスラックスの中に潜り込んできた。美しい指は優しい手付きで男を包む。熱が溜まった剛直にはそれだけでひんやりと心地よい。

 

「あなたのおちんぽがこんなになっちゃってるのは私の責任ね。私が責任を持っていっぱい気持ち良くしてあげるわ……」

 

 形の良い唇を耳元に寄せて甘く囁いた。

 

「私の手でおちんぽをしこしこされるの気持ちいいでしょう? とても大きくて逞しいのにとっても可愛い私のおちんぽ。こんなに固くして、こんなに勃起させちゃって。ああ……」

 

 包んだ手を根本から先端までゆっくりと上下に動かす。

 

「あなたは私を愛してるって言ってくれたわよね。今日も私をいっぱい愛して欲しいの。おまんこの奥まで入れられてぐちょぐちょにかき混ぜられたいの」

 

 手付きは依然と穏やかなまま。握るのを止めて指の腹で愛しむように撫でている。

 

「ここが気持ちいいの? おちんぽがピクピクしてるわ。うふふ、おちんぽからおつゆが出てきてるわよ?」

 

 男の耳朶へ息を吹きかけ、耳孔へ赤い舌を差し入れる。

 

「ああ……、おちんぽを触ってるだけなのにおまんこが濡れてきちゃう。私のおまんこがあなたのおちんぽが欲しいって言ってるの。ほら、見て……」

 

 男の顔を跨ぐようにして立ち上がった。男に股間を見せつけながら、先走りの汁で汚れた指を口に含む。丁寧に舐めとって飲み込んだ。

 

「私のおまんこ、こんなになっちゃってるの……。私のおまんこは、アルベドのおまんこはとってもエッチなのよ……」

 

 ビキニショーツは伸縮性に優れているらしい。アルベドはショーツに指を引っかけてずらした。アルベドの淫らな雌肉が目の前に放り出され、しかしすぐに隠されてしまった。

 男がゴクリと唾を飲み込む音を聞き、アルベドは満足そうに微笑んで男の腕を縛るリボンを解いてやった。

 

「ベッドに連れて行って」

「……かしこまりました」

 

 数歩の距離を、アルベドは男に抱き上げられて移動した。



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高らかに讃えよ! ▽アルベド♯11

 優しくベッドに下ろされたアルベドは努めて興奮を隠し、優雅にして淫蕩な女主人の笑みを浮かべた。沸き上がる高揚はお食事への期待ではない。アインズ様に命じられた週一回のお食事をアルベドが破るわけがなかった。

 かと言っておセックスでもない。これは、儀式なのだ。

 男を知らなかった時分の己はサキュバス見習いでしかなかった事を今はわかっている。男を知ることでようやくビギナーサキュバスになることが出来た。

 これから淫靡と神秘に包まれた厳かな儀式を執り行うことによって次の位階に進むことが出来る。自分が新たな存在へ昇る高揚感に心を震わせている。

 そのためには、逃げることなく儀式を最後まで行わなければならない。いつぞやのようにマジイキさせられて敗北感から逃げ出したり、つい昨日のようにお尻にあれこれされて恥ずかしくて手が出たりしてはいけない。退路を断つ必要がある。

 

「私の腕を縛りなさい」

 

 先ほど男の腕を縛っていた白いレースのリボン。受け取った男は言われた通りにアルベドの腕を優しく簡単に解けるきつさで縛った。

 縛ると同時にアルベドの全身から力が抜けた。

 

「これはただのリボンじゃないわ。私のスキルで作り出したエンゲージリボン・ウィズサキュバスブレッシングよ」

 

 シークレットサキュバススキル・サキュバスクリエイトアイテムである。

 エンゲージには「婚約」以外に「拘束」の意味がある。さしずめ「サキュバスに祝福されし拘束リボン」だろうか。

 

「男には何の効果もないけれど、これで縛られた女は股を開く以外にまともに動けなくなるの。リボンを解くにはおちんぽミルクが必要なのよ」

「そのようなものを……」

 

 男の前で自由を失い、生殺与奪の全てを任せる。深い信頼と信用がなければ出来ようはずがない。

 アルベドからの信頼に、男は胸が熱くなった。今まで以上によく仕えることを決意した。

 

「あなたのもてる全てで私を好きなようにしなさい。何をされても私は抵抗できないわ」

「そう仰られても……」

「なあに? あなたは私の体を好きにしたくないの? まさかシャルティアなんかで満足したわけじゃないわよね?」

「そんなことは決して」

「もう! 男ってこういう時こそはっきり言わなきゃダメ。私があなたの好きにされたいの。私が『ダメ』とか『やめて』って言っても絶対に止めちゃダメよ?」

「かしこまりました」

 

 こうまで言われて何も出来ないでは男がすたる。何より愛しき主人からの御命令だ。否は許されない。

 男は衣服を脱ぎ捨てベッドに上がった。

 

 

 

 

 

 

 配下は主人の意を汲まねばならぬ。好きにせよと仰るときこそ主人の望みを察するべき。忖度である。

 前回はおおむね成功したと思ったが、何故か最後に御不興を買ったらしい。同じ轍を踏んではならない。

 しかし今回こそ大丈夫。お優しいアルベド様はヒントをくださっている。アルベド様は両腕を上げて頭の上で手首同士を縛られている。いつもは隠している部分を露骨に晒しているのだから気付かない方がおかしい。

 男はそこへそっと顔を寄せ、すんすんと鼻を鳴らした。

 馥郁たる芳醇な芳香が胸に満ちた。

 

「アルベド様の体臭はとても芳しいと知っていますが、ここはいっそう奥深い香りがします」

「な……ななな、なに言ってるの?」

「どれ、お味の方は」

「ひゃうっ!?」

 

 敏感なところを男の舌が舐め、アルベドは思わず声を上げた。覚悟も期待も全くしていなかった場所だった。

 

「あ……、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!?」

 

 絶叫。或いは絶笑。

 防御メインのスキル構成をしているアルベドをして堪えきれない急所。

 脇の下である。

 毎日長時間お風呂を使って足の裏までお顔のようにきれいにしているアルベドだが、脇の下とは汗をかきやすい部分である。おかしな臭いはしてないはずだが、奥深い香りとは一体何なのか。

 それだけならちょっぴり恥ずかしいだけで済んだろうが、舐められている。

 

「や……やめなさい!」

 

 やめろと言われても絶対に止めるなと言われたばかり。舌は止めず、もう一方の脇の下でもこちょこちょと始めた。

 

「うひゃあぁ!? ひゃっ…………ひゃああああああーーーーっ!!」

(ああ、アルベド様がこんなにお笑いになっている。お喜び頂けているのだな。よし、もっとやろう)

 

 全然違う。「笑っている=喜んでいる」は間違いである。くすぐったいのだ。

 アルベドはあまりのくすぐったさに息も出来ずに笑い続け、腹筋がぷるぷると痙攣し始めた。痛みはない。しかし地獄の苦しみ。くすぐりは拷問に使われるほど苦しいのだ。

 だと言うのに、笑っているから喜んでいると思っている男は舌技に手技を加速させた。脇の下だけでなく脇腹に足指の股。形の良いへそだって見逃されない。指を突っ込んでぐりぐりと始める。

 拘束されていなければ俎上の鯉のごとくピチピチとのたうち回っていたことだろう。

 

「あひゅーーー……。かひゅーーー……」

 

 アルベドに笑う体力もなくなった頃、責め苦は終わった。

 全身は汗に濡れている。黄金の瞳は何も映さず水晶よりも澄んだ滴をこぼす。

 

「っ!?」

 

 責め苦からの解放で全身を弛緩させてしまったのがいけなかった。アルベドの体に大変な異変が訪れた。

 アルベドは100レベルである。鉄壁の防御力を誇っている。常ならば何の問題もない。しかし、たとえ蟻の一穴ほどであっても、綻びが生じてしまってからでは押さえきるすべはどこにもない。

 

「ほ、ほどいて!」

 

 余裕皆無のせっぱ詰まった表情。そこに美しい笑みはなく、顔色が悪い。

 男はしばし考えた。

 止めるな続けろとは言われているが、解くなとは言われてない。それなら解くべきかと時間をかけて結論を得た。

 優美なリボンを摘まんで引っ張った。不思議なことに解けない。アルベド様の美しい肌に跡が残っては一大事と、ゆるゆるで縛ったはずなのに解けない。

 

「解けません」

 

 アルベドがスキルで創り出した拘束具だ。正規の方法でなければ解けないようになっている。それには精液が必要である。

 悶えるアルベドをおかずにシコシコとすればよいのか。

 

「も……もう、だめ……!」

「何がダメなのでしょう?」

 

 悠長に返事をする男が、アルベドは憎たらしくなったがどうにもならない。プライドを捨てて叫んだ。

 

「おしっこでちゃうの!」

 

 100レベルであっても尿意の猛攻は凌げなかった。

 女とは男の比べると尿道が短く、我慢が効きにくいようになっている。冷たい水を飲んだところに笑い死にするほどくすぐられて、全身を脱力してしまったのがいけなかった。それとも過日、ルプスレギナを叱りつけてお漏らしさせてしまった報いなのか。

 アルベドは必死に股を閉じ、いやらしく身悶えしている。男は納得してアルベドの小さなショーツを脱がせた。小さな小さなショーツは湿っている。汗か愛液か、はたまた。

 アルベドの抵抗むなしく、容赦なく脚を開かされた。リボンの効果は確かなもので、力を全く入れられない。

 

「ご安心ください。私が全て飲み干します」

「バカッ!! そんな事したら絶対に許さないわ! 絶対に絶対に絶対に……! ああもうだめ出ちゃうーーーーーっ!!!」

 

 ラナーは人の顔に跨がって放尿することが何度もあったのだが、さすがにアルベド様は品が良く淑やかでいらっしゃる。

 感心している場合ではない。

 咄嗟にアルベドの腰を持ち上げ、脱毛された無垢な割れ目を指で広げた。

 湧き水のように滲み出るのではなく、勢いよく美しき金色の放物線が生み出された。

 

「あ…………ああ………………」

 

 100レベルの守護者統括で現在は不在のアインズ様に代わってナザリック最高責任者なのに男の目の前で放尿。

 絶望は得も言われぬ快感だった。

 

「その調子です。最後の一滴まで気を抜かないでください」

 

 殺意すら湧いてこない。アルベドは絶望に浸りきっている。

 光を映さぬ瞳からは涙がはらりと流れた。

 涙は止まらないがおしっこは止まった。

 全部出してしまった。

 

「大丈夫です。シーツには一滴もこぼれていません」

「…………………………え?」

 

 男は、先ほどのアルベドが傾けていた繊細なグラスを手にしていた。

 グラスの内部は神秘の液体で満ちている。その輝きは水晶に溶かし込んだ黄金を淫火にくべたかのよう。

 グラス上部の内側は僅かに曇って、黄金水が目に見えない程度の湯気を立てていると知れる。

 

「アルベド様はおしっこであってもこんなにも美しいのですね」

 

 アルベドは泣いた。

 どうして漏らしちゃったおしっこを嬉々とした笑顔で誉められなければならないのか。オークに捕らえられた姫騎士だってこんな辱めは受けないに違いない。

 

「あんっ! ペロペロする前に拭いてよぉっ!」

「アルベド様に汚いところはどこにもございません。このほんのりとした塩味がアルベド様のおしっこの味なのですね」

「いやぁ……!!」

 

 アルベドは泣いた。

 おしっこしちゃったところを見られて、自分のおしっこを見せつけられて、挙げ句におしっこの味さえ知られて誉められる。こんなにも恥ずかしいことが存在するとは想像することも出来なかった。

 羞恥と屈辱に全身が溶けるように燃える。しかし、己を辱めている男への怒りは生まれてこない。

 

(こんなに恥ずかしいのに。恥ずかしくて泣いちゃってるのに。それなのにどうして? どうしてなの!? どうして私は気持ち良くなってるの? この子のペロペロが上手だから? ううん違うわ。確かに凄く上手で自分でくちゅくちゅするより気持ちいいけどそれだけじゃない。ああなんてこと……。私は恥ずかしいのが気持ちいいって思ってる!)

 

 サキュバスの種族特性として、羞恥心が薄いことが上げられる。アルベドも例に漏れず、肌面積の7割以上を見せつけるイケイケな服を平気で着てしまう。

 しかし、どこでも露出して何も感じないのはただの露出狂。低位のレッサーサキュバスだ。

 もちろんアルベドは違う。

 イケイケではあるのだが、きちんと羞恥心を持っている。そして得られた羞恥心を快感に変えることが出来る。

 今まで知らなかった己を知り、アルベドは着々と階位を昇っていることを実感できた。

 

「んはああぁっ!? だめだめクリちゃんとおまんこを一緒に責めないでぇっ! そんなのされたらすぐイっちゃうんだからあああっ」

 

 猫が水を飲むような音が鳴っている。

 アルベドが動かない体をむち打って何とか頭をもたげると、股間に銀色の頭が見えた。

 視線に気付いたのか、男が顔を上げる。目があった。濡れた唇は男のくせに艶やかに赤く、サキュバスの目にもなまめかしい。あの唇にしゃぶりつきたい。舌を絡めてたっぷりと唾をすすりたい。それからおっぱいを乱暴に鷲掴みにされて、もうトロトロになっちゃってるおまんこに入れて欲しい。お腹の中にたっぷり欲しい。

 言葉がなくても心は通じる。蕩けたアルベドの顔を見て、男はにっこりと笑った。そして顔を伏せた。

 

「あん、あん、うあぁっ、お尻の穴も一緒だなんてぇっ! 中でぐりぐりされちゃってるぅ♡ どうしてそんなに上手なの、うっくぅうっ、わたしのきもちいところばっかりぃ!」

 

 包皮がむけてふっくらとしてきたクリトリスに吸い付き、舌先で転がしていた。アルベドのクリトリスは先に吸った乳首のように固く尖り、媚肉の中で玄妙な味わいを見せる。

 とっくに濡れそぼっていた膣からは蜜のように愛液がとろりと。右手の薬指と中指をそろえて挿入した。抽送はせず中で折り曲げて、クリトリスは舌の腹で強く押しつける。内側と外側の両方から責められて、アルベドは大いに悦んだ。

 さらにもう一手。溢れた愛液はピンク色の窄まりに溜まっている。そこへは左手の中指を。中に入っている右手と左手を向かい合わせた。

 膣に入っている指と肛門に入っている指が、アルベドの中で擦り合わされる。

 リボンの効果でろくに動けないアルベドは、ベッドから腰を浮かせた。

 

「あっあっあ゛っあ゛ぁっ、イく、イッちゃう! おまんこもお尻もクリちゃんもぉっ、全部イッちゃうのぉ♡ ひゃうううぅううぅううぅ♡」

 

 アルベドのアルベドからアルベド汁がプシャッと吹き出した。

 つま先まできゅっと力を入れ、浮かせた腰はガクガクと震え始める。膣口も肛門も、呼吸を忘れていたのを思い出したかのようにぱくぱくと口を開いた。開く度に奥から湧き出る淫液が、閉じる度にトロトロと押し出される。尻の割れ目を伝って流れ、ポタリとシーツに落ちて染みを作った。

 絶頂の余韻は長かった。やがて、震えていた足腰は力尽きたようにベッドに落ちた。

 美しい黄金の瞳に溜まる涙は何がもたらしたのだろう。

 美しい唇から垂れる涎は快感の深さを物語っている。

 

「これからですよ」

「あう……? あうぅっ! だめっ……、イッたばかりで敏感だからぁ、おちんぽ入れちゃだめなんだからぁ♡」

 

 アルベドの腰を掴み、今度こそ勃起している逸物を挿入した。

 絶頂した直後なので十分に濡れほぐれて、一息に最奥まで挿入しても何の抵抗もない。かと言って緩いわけがない。肉ひだが隙間なく逸物に絡みつき、奥へ取り込むべく蠕動している。エルフの膣内は深くてそれなりに良かったがアルベド様に敵うわけがない。

 

「あむっ、あんっ♡ んちゅぅ、んっんっ、あん、もっとキスして♡ もっと動いて♡ アルベドのおまんこをぉ、あなたのおちんぽでいっぱい気持ち良くして♡」

 

 アルベドの腕は拘束されたままで男を抱き締めることが出来ない。代わりにアルベドの分も、男から強く抱擁した。

 背に腕を回し、後頭部を押さえて唇を合わせる。

 陰毛を舐めとっている前後に水を飲ませてくれた返礼として、口中に湧いた唾をアルベドの口へ注ぐ。アルベドは強く唇を合わせたまま、喉を鳴らして美味しそうに飲み込んだ。

 おっぱいもぉ、と言われたので体を起こし、アルベドの豊かな双丘に手を突く。ピンク色の乳首は充血しきって赤くなっている。固くなった乳首の弾力を楽しみ、乳肉の柔らかさを握りしめる。

 アルベドに請われてつけた歯形は消えていた。再度つけるのは体勢的に難しい。アルベドの様子を見ながら慎重に握る手に力を加えた。

 

「やあぁん、おっぱいつぶれちゃうぅ! あなたのおっぱいだからいっぱいにぎにぎしてぇ♡」

 

 100レベルのおっぱいは強かった。

 

(ん?)

 

 密着していた体を離したからこそ気付けた。

 ぐちょぐちょと卑猥な音を立て続ける二人の結合部から少し上。黒々とした豊かな陰毛が生えていたアルベドの下腹。染みも毛穴も着色も皆無だった白い肌に、うっすらと赤いものが浮かびつつあった。

 脱毛した直後は薬が強すぎて肌にダメージがあったのかと思った。しかしアルベドの下腹にうっすらと浮かぶ赤は線や曲線を描き、痣や薬の痕とは思えない。

 薬の効果なら塗布した部分全体が赤くなるはずだ。

 

「もっともっとぉ、アルベドの乳首をいっぱいいじめて♡ おまんこもいっぱいいじめて♡ アルベドのおまんこであなたのおちんぽもいっぱい気持ちよくなって♡」

 

 乳房に置いていた手が腰を掴んだ。

 しっかりと固定して腰を叩きつける。

 アルベドの膣はちょうど良い深さで、根本まで入れると先端が壁にぶつかってちょっとだけ押し上げる。

 根本まで入りきるとアルベドの中はいっぱいになって、中で溢れている愛液が逸物に絡み付きながら外へと押し出され、飛沫を立てる。

 激しく腰を掴いながら、ゆっさゆっさと激しく揺れるアルベドの豊かな乳房より、ぬめるように艶めかしい下腹を注視していた。

 朧気だった赤い線が段々とはっきりしてくる。

 線や曲線は複雑に混じり合い、何かしらの意味を持つ図像を表しているのではと思われた。

 

「おまんこに出てるぅっ! アルベドのおまんこの中におちんぽミルクがピュッピュしてるぅ♡」

 

 世界で一番のおまんこに締められれば出しちゃうのは宇宙の法則。

 アルベドの一番奥で、亀頭を子宮口に押しつけてどぴゅどぴゅと射精した。

 

「おまんこイクうううぅううっ♡ 子宮におちんぽミルクかけられてイッちゃううのぉおおおおおぉぉお♡」

 

 甘く淫らな絶叫。

 アルベドは腰を浮かせて自分の股間を男の股間に押し付け、激しく絶頂した。

 始めのうちは達した回数を足の指を使って数えていたが数え切れない回数になっていた。

 

 アルベドの膣内に熱い粘塊を放ってもすぐには治まらない。断続的にぴゅ、ぴゅっと続いている。

 奥へ奥へと取り込むように波打つアルベドの肉ひだが強いているのかも知れない。

 射精の快感も余韻も深いものだった。

 ここがどこで自分が誰だか忘れるほどの快感だが、男の目はアルベドの下腹から離れない。

 だから、アルベドの腕を縛っていた白いリボンがピンクに染まり、するりと解けたことに気が付かなかった。

 

「おお……、これは!」

 

 アルベドの下腹からピンク色の光が現れ、部屋の隅々まで照らすほどの光量になった。

 眩しくて目を開けていられない。

 光に耐えようと、限界まで細めた視界の中で、赤い輝きが誕生する。

 

 

 

 

 

 

 光が治まったとき、変化は如実だった。

 アルベドの下腹にあった朧気な線ははっきりと形が浮かび上がっている。

 赤い線だ。

 ブラッドルビーを淫水に溶かして燃やしたような赤い線。

 王冠をかぶっているようにも見える。かぶっているのはハート模様。

 ハートには茨が絡みつき、悪魔の翼を広げているようにも燃えさかっているようにも見える。

 ハートの下端は開き、下へ下へと伸びている。剣を刺したようにも、底が抜けているようにも、或いは何かをハートへ導くようにも見える。

 そしてハートの中央部。

 神秘的な魔法円は人類では計り知れない大いなる奇跡を表しているに違いない。

 

「ふ……、ふふ……、ふふふ…………」

「あ……、アルベド……様?」

 

 未だ繋がったまま、アルベドは妖しく笑う。

 愛おしげに下腹を撫でた。深紅の紋様がピンク色に輝く。

 

「あなたのおかげよ♡」

「っ!」

 

 アルベドの膣壁が蠢き、射精直後で力を失いつつあった逸物へ絶妙な快感を与え、石のように固い勃起を強制する。

 

「あん♡ またこんなに固くなっちゃったわ♡」

「うおっ!?」

 

 くるりと反転した。

 アルベドが下、男が上だった。一瞬で上下が逆転する。

 上下が入れ替わった瞬間に二人の結合は解かれたのだが、アルベドは空中で姿勢を制御して着地時に見事な挿入を決めた。騎乗位が上手くいかなくて逃げ出した時と比べる余りにも違いすぎる。

 アルベドが得た力である。

 

 アルベドの下腹に刻まれたのは、由緒正しきサキュバスエンブレム。

 淫紋がないサキュバスなどサキュバスではない。

 処女を捨て、名残惜しくも豊かな陰毛を捨て、濃厚なザーメンをたっぷり注いでもらい、且つ同時イキ。

 厳しいような厳しくないような条件をクリアして、アルベドは、今まさに、覚醒した。

 

 

 

   《淫化☆覚醒》である!

 

 

 

 海を泳ぐ魚よ、地を走る獣よ、空を飛ぶ鳥よ、天空の遙か彼方に満ちるエーテルに舞う星獣たちよ。

 偉大なるサキュバスがさらにエッチで感じやすい真サキュバスに登りつめたことを言祝ぐがいい。

 

「あはっ、いっぱいぴゅっぴゅしたのにあなたのおちんぽはとっても元気なのね♡ まだまだ時間はたっぷりあるわ。アルベドのとっても感じやすくてエッチなおまんこでいっぱいいっぱいかわいがってあげ…………………………」

 

 ベッドに臥せていたときは気付かなかった。

 騎乗位となり、視界が広がったことで気付いてしまった見てしまった。

 テーブルの上にあるグラスが空になっている!

 

 アルベドの神秘の黄金水で満ちていたはずのグラスが空になっている。

 中身は一体どこへ行った。

 蒸発したのか。

 それとも男は実は念動力みたいなスキルを隠し持っていて中身だけどこかへ移動させたのか。

 無難なところでこぼれたのかと思いたかったが、テーブルも床も濡れていない。

 中身は一体どこへ行った。

 

 アルベドは、聞いてはいけないと思った。

 聞いたら絶対恥ずかしい。

 淫サキュバスに覚醒した自分でも絶対に耐えきれないほど恥ずかしいに違いない。

 

「うおおおおおっ!?」

 

 無言で腰を振った。

 自身の絶頂と引き替えに射精を強いる淫紋の力は初めてでも自在に使いこなせる。

 ビクンビクンと絶頂に体を震わせながらも腰を振る。

 何回達してもすっごく気持ちいい。もう気絶したりなんかしないのだ。

 同時に、アインズ様にもお見せしたサキュバス式エナジードレインも使って吸精する。

 男の顔色が見る間に悪くなっていった。

 

 アルベド様が上になってからの快感は、今までとは次元が違った。

 魔法を使ったエルフすら比較にならない。

 背骨も臓腑も何もかも引きずり出されるような快感。

 しかし、引きずり出されたはずの体は依然とそこにある矛盾。

 存在し得ない快感は夢幻の境地。

 一瞬たりとも休むことなく射精を強いられる。

 時間を掛ければ五回程度ならこなせる自信があったが、数秒に一度。残存量は既に尽きた。にもかかわらず搾られている。

 無から有は生まれない。

 生み出すには何かしらを費す必要がある。

 生命力である。

 このままでは間違いなく死ぬ。

 しかし、アルベド様がそれをお望みなのだ。

 アルベド様に搾られながら命が尽きるのは本望である。

 遺言が役に立ったかと思ったその時、口から命が吹き込まれた。

 

 騎乗位中のキスは王道である。

 アルベドは吸うだけでなく、与えたのだ。

 エナジードレインが出来るならエナジーゲインだって出来る。覚醒したアルベドは房中術もまた身につけたのだ。

 

 精を吸い、命を与え、また精を吸い、命を与える。

 精気と命が循環し、二人の体で絶え間ない快感が増幅される。

 その様は己の尾を飲み込むウロボロス。全にして一の体現である。

 

 アルベドは、自分のおしっこが飲まれたかも知れないことを忘れるために夢中で腰を振った。

 絶頂と引き替えに射精を強いる淫紋スキルを多用したおかげでわけがわからなくなった。

 あへあへあひゅあひゅと、意味をなさない喘ぎ声を涎と一緒に垂れ流し、男の胸にすがりつく。

 繋がったまま一晩を過ごした。




ANTなので


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おもちゃの準備

『次はエ・ランテルで』

 

 色々なものが満タンになりお肌艶々になったアルベドはそう言い残し、アインズ様の代理としての職務を遂行するため執務室へ赴いた。

 長い廊下の向こうへアルベドの姿が消えるまで深く頭を下げていた男は、頭を上げることなくそのままパタリと倒れた。一応、生きている。

 

 覚醒して淫紋の力に酔いしれるアルベドの欲望を一晩中一身に受けていた。エナジードレインと併せてエナジーゲインによって生命力を戻されていたので肉体に問題はないが精神は別である。

 快楽とは悦楽とは法悦とは幸福とは苦しみとは悲しみとは喜びとは悦びとは歓びとは、一周どころか何十周も巡り続け、肉体や物質を越えて形而上に至る究極の快楽は、人の身には劇薬過ぎた。常人であれば、否。人類史上最高の英雄であっても、千年の修行を積み植物と同等の精神を手に入れた高僧でさえ廃人にしてしまう魔境である。

 幼い頃から黒粉を常用し、火花一つで爆発炎上する薬なのかアルコールなのかわからない蒸留酒を水のように飲み、常人をたった二匙で精神の彼岸へ追いやる魔酒を平気な顔で一瓶空け、ナザリックからもたらされる超高級食材でステータスアップし、アルベドのアルベド汁を浴びて祝福を与えられ、高レベルの処女膜を幾つも貫いて経験値を獲得し、美神アルベドの処女を下賜されついとレベルアップし、サキュバス十八番の淫夢に囚われて一晩中生死の境を彷徨った末に奇跡の生還を果たした男をして、愛しき主人の前で無様を晒さないのが精一杯だった。

 お仕事へ向かわれるアルベド様を何とかお見送りすることが出来たがそこで力尽きた。地下大墳墓ナザリック第九階層「ロイヤルスイート」にて史上初の行き倒れである。

 

 倒れ伏し寝息を立て始めた男を見下ろす影が一つ。

 

「お慈悲を賜ったようですね、わん」

 

 ペストーニャは細い腕で軽々と男を持ち上げた。高位の神官であるペストーニャは高レベルに相応しく見た目によらず力があり、成人男性を持ち上げるくらい軽いもの。

 

 昨夜のことである。

 男がアルベド様の部屋へ向かう前に、ペストーニャはもしもの時のための遺言を預かっていた。

 

『昨日のことです。私の不手際によりアルベド様から大変な御不興を買ってしまいました。もしやすると死を賜るかも知れません。その時はアルベド様がなんと仰せであろうと復活などさせないようお願い申しあげます。私のせいでアルベド様がお言葉を翻す事などあってはいけません。私の死体は上下二つに分けて、下はエントマ様のおやつに、上はエ・ランテルのソリュシャンに届けてください。ペストーニャ様には大変にご迷惑をお掛けしてしまいます。最後の我が侭をどうかお許しください』

 

 人間を下等な生き物と見るナザリックのシモベ達をして、人間にしては出来ていると言わしめる男である。中でもペストーニャはナザリック最後の良心と言われるほど善良な心を持つ。

 ペストーニャは男の覚悟を受け取り、遺言を果たすことを約束した。

 そして夜が明けた。

 男は生きてはいるが疲労困憊と言った様子で、廊下の真ん中で倒れて寝息を立てている。

 

「かなり衰弱してるように見えますが生命力やステータスに異常はありませんね、代わりにたっぷり絞られたようですけれど……わん」

 

 油を絞る方の「絞る」である。別の何かを絞る意味で「絞る」と言ったわけではない。

 ペストーニャ様はぴゅあなのだ。

 

 寝転んでも埃一つ付かないほどに磨き上げられているロイヤルスイートの廊下だが、そんなところで寝かせて置くわけにはいかない。ペストーニャは男を使用人達の控え室の一つで休ませることにした。

 ナザリック第九階層は、広さを示すのにキロメートルを使わなければならないほど広い他の階層と同じくやはり非常に広い。基本的にはギルド「アインズ。ウール・ゴウン」のギルドメンバー達の居住空間である。ギルメン達の私室に、大浴場・バー・ラウンジに各種ショップ。階層の一つと呼ぶより街と言った方が相応しい。

 そこには九階層の各種設備を維持する使用人達が多数いる。当然の事ながら、彼ら彼女らの生活する空間も存在している。ペストーニャが連れて行ったのはそんな部屋の一つだ。とは言え、使用人達が寝起きするプライベートな場所ではなく、銘々がくつろぐ休憩所のような部屋である。

 九階層には空いてる客室も多々あるが、ほんの少し休ませるだけでロイヤルスイートの客室を使わせてよいものかどうかと悩んだ末の選択である。ナザリック第九階層「ロイヤルスイート」は人が立ち入ること叶わぬ神域であるがゆえに。

 

「ペストーニャ様。その者をどうかされるのですか?」

 

 部屋には先客があった。数名のメイドが卓を囲っている。彼女たちはペストーニャの姿を認めるなり起立して、抱っこしている男の扱いを訊ねた。

 

「疲れているようなのでしばらく休ませます。アルベド様直属とは言え客室を貸し与えるのは過ぎた扱いに思えましたので、そこのソファに寝かせておきますわん。目が覚めたら……一応知らせてください。……わん」

「かしこまりました」

 

 メイド長のお言葉は絶対である。メイド一同、深々と頭を下げてペストーニャを見送った。

 休憩室のソファに寝かされた男は健やかな寝息を立てている。

 男にとって幸いなことに、「人間の男が同じ空間にいるなんて!」とまで思うメイドはいなかった。人間の男にしてはまあ出来てる人間であるらしいし、ナザリックにも珍しい美貌の男は寝顔であっても目に楽しい。

 彼女たちは男の顔を鑑賞してお喋りの種にして楽しみ、仕事へ戻っていく。入れ替わるように他のメイド達が訪れる。彼女たちへもペストーニャ様からの言葉をきちんと伝える。

 その彼女たちが一休みするとまた別のメイド達が。

 

 ナザリックには41人の一般メイドが存在している。

 その内の十数名はエ・ランテルにいるため、残りの人員でロイヤルスイートと第十階層の維持管理を行わなければならない。それでは仕事がキツくなると思われるが、実のところ真逆である。

 彼女たちの最大の仕事は至高の御方々へ仕えることである。しかし、現在はアインズ様を残すのみ。アインズ様当番が如何に大切で重要で至福をもたらす仕事であるか知れるものである。

 そのアインズ様は遠征に行ってしまった。

 アインズ様がご不在だからとは言え仕事に手を抜くメイドはナザリックに存在しない。存在しないのだけれど、その仕事の絶対量が少ないのである。

 結果、手が空く時間が割と出来てしまう。

 

 休憩するメイドたちが何度か入れ替わって、今は三人のメイドが休憩に入った。アルベドの私室を整えてきたメイド達だ。

 一般メイド達は一人の例外なく誰もが見目麗しい女性である。三人も美しい女性であり、同じ一般メイドであるシクススがあどけなさを感じさせるのに対し、大人びた印象があるのは落ち着いた表情からか。

 彼女たちは他のメイド達のようにお喋りに興じることなく、じっと男の寝姿を見つめている。

 誰かが言った。

 

「…………………………こんなところで寝かせておくよりベッドがいいんじゃない?」

「そうね」

「私もそう思ったわ」

 

 41人の一般メイド達は三人の至高の御方々によって創造された。メイド達は創造主を同じくする者達と行動することが多い。この場にいる三人のメイドもそうである。その中でも姉妹のように似通っている三人だ。

 三人一組で仕事をすることも多い。メイド長であるペストーニャがメイド達の仲を配慮したわけではなく、チームを組んで仕事に当たった方が効率的だからだ。ゆえに、三人は一緒にアルベドの私室を整えてきた。

 その他にも、声を大にして言えない共通点がある。

 

「……廊下には誰もいないよ」

「ここから一番近い空き部屋は……」

「出来れば私たちの部屋がいいわよね?」

 

 二人が男の腕を自分の肩に回して持ち上げる。ホムンクルスである彼女たちは同じ体格の人間の女性より力がある。二人掛かりなら成人男性を持ち上げることくらい苦ではない。

 ドアから外を覗いていたメイドが手招きする。

 三人のメイド達は誰にも見つかることなく、男を自分たちの部屋に連れて行くことに成功した。

 ソファで寝かせておくより、ちゃんとベッドに寝かせた方が疲れがとれると判断したのだ。

 

 メイド達の部屋は一人部屋から五人以上が寝起きできる大部屋まで様々。彼女たちの部屋は三人部屋で、三つのベッドが衝立で仕切られて並んでいる。

 至高の御方々が過ごされる部屋やアルベドの私室に比べたら質素な部屋であるが、使用人が使うには過ぎた広い部屋。調度品の数は少なく華美ではないが、いずれも格調高い。

 男は真ん中のベッドに寝かされた。

 ここに至るまでほっぺたをつんつんされたり、頭を撫で撫でされたり、胸板をさわさわされたり、腕を捕まれ足を引きずって連れてこられたのに全く起きる気配がない。

 過日、夜襲を敢行したアルベド様に色々されてもスゴく痛い目を見るまで目が覚めなかったことからわかるように、一度寝たら簡単なことでは起きない男だった。原因は体質である。

 体を休めるのに必ずしも睡眠は必要なく、横になるだけで疲れは癒されていく。それでいて睡眠を必要とするのは、起きているときに得た情報を記憶として整理し定着させるために必要だからだ。特にこの男は、起きているときは必ず何かしらのつまらない事を考え続けている。考えすぎてぼうっとしているように見え、ソリュシャンからこっそりとトロトロされることもあるくらいに。

 そんな男がナザリックを訪れた。

 ナザリックは人の世とは隔絶した神域であり、情報量が非常に多い。慣れなければナザリックにいるだけで目眩がするだろう。そして、一昨日の夜にシャルティアに連れてこられてから一睡も出来ていない。お昼寝したかったのに色々あって出来なかった。物凄く眠かったのだ。

 滅多なことでは起きないほどの深い眠りに落ちていた。

 

 ベッドに寝かせた男の頬を、黒髪を肩口で切り揃えたメイドがつんつんとつつく。起きない。唇を摘まむ。起きない。肩を揺すって声を掛けてみる。ううん、と唸りはしたがやはり起きない。

 完全に寝ている。

 

「よく寝てるわ」

「……うん」

「………………えっと、それじゃ」

「待って。もしも起きたときに驚かせないように目隠ししないと」

「それなら寝ぼけてベッドから落ちないように縛ってあげた方がいいかも?」

「あっ! こんなところに何故か紐が!」

 

 男はスカーフで目隠しされ、両腕は広げられて手首を縛られ、紐はベッドの支柱に固定された。

 

「これは私たちが真理を追究するために必要なことなの」

 

 黒髪メイドのクールな言葉に残る二人は頷いた。

 

「ペロロンチーノ様が遺された異本は真実を伝えてるに決まってるけど」

「でも確かめなきゃ。アインズ様は情報の精度を殊の外重視しておいでなのだから」

 

 三人が声を大にして言えない共通点。

 それは、ペロロンチーノがもたらした異界の書物「ウース異本」に魅入られてしまったことである。

 

 

 

 

 

 

 彼女たちが行動するに至った心理を辿るため、性別を逆転させて考えてみよう。

 

 彼ら男性使用人達はナザリックによく仕える忠義の徒である。彼らは経験はなくても性の何たるかを知識として持っていないではない。

 上役の方々、或いは立場を同じくするメイド達には美しい女性ばかり。しかし彼女たちへ欲望を抱くのは天に唾するも同じ。彼女たちは至高の御方々が創造なさった存在なのだ。汚れた目で見ることは許されないし出来ないし、そもそも家族同然であるためそのような目で見ることは例え命じられても難しい。

 しかし、知識はある。興味はない。しかし、刺激されれば興味が湧いてくることがあるかも知れない。

 

 至高の御方へ仕える日々を送っていたところ、一番偉い上司が人間の女性を連れてきた。ナザリックでも希と言って差し支えない美しい女性である。

 彼女が上司の恋人や愛人であったら恐れ多くて触れることすら叶わないだろう。

 しかし生命力を吸うためだけに使っているようで、大切にしているのかも知れないが扱いは割とぞんざいである。用が済めば放置して廊下に寝かせておくくらいに。

 そんな美しい女性が目の前で無防備に寝ている。

 何をしようと一向に起きる気配がない。

 

 むくむくと興味が湧いてくるのは必至である。

 これで何も感じないようなら精神が死にきっているか、己の無知すら知らない白痴に過ぎない。好奇心は生きる上でとても重要である。全てを手に入れ至上の力を持ち不死であるアインズ様も好奇心をとても大切にしているのだから。

 

 ちょっぴりつんつんしたくなってしまう。

 絵でしか見たことがない秘密の部分が本当はどうなっているのか確かめたくもなってしまう。

 しかし、寝ている者相手へそんな無体をするのを良心が許すのか。

 そんなものは最初から持っていなかった。

 

 極悪集団ナザリックである。

 いきってる殺人鬼だって泣いて許しを請い願った末に愉快なオブジェにされてしまうナザリックである。

 

 チャンスがあれば誰だってそうするだろう。

 アインズ様だってもしも僅かばかりの興味を抱くことがあれば、そして誰にも知られないことが担保されているならば、きっとつんつんしたりペロリとしたりしてしまわれることだろう。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ………………」

 

 三人とも髪型は同じ。色が白黒金と分かれている。

 月夜に湧く霧のように白い髪をしたメイドが男のシャツのボタンを外す。

 金と呼ぶより太陽のような明るい髪をしたメイドが脱がしておいたジャケットとベストをハンガーに掛ける。

 黒髪のメイドはドアの施錠を確かめて、念のための時間稼ぎように衝立の一つをドアの前に移動させた。

 

 メイド達による真実の追求が始まった。




今更ですがあれこれねつ造しています(テヘペロ
色々出てきたモブが再登場することがあれば名前だします


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メイドのおとなのおもちゃ ▽一般メイド×3

 白いシャツが開かれた。

 

 ナザリックには半裸を晒して己の筋肉を見せつける男性型の悪魔がいる。メイド達は彼らの体を見たことがあった。しかし、目の前で横たわる男はそれらのいずれとも違う。

 人間の男だ。筋骨隆々のセバス様や悪魔達に比べれば随分と貧相。それでも脱がせてみると思ったより逞しい。胸板には筋肉の盛り上がりがあり、その下の腹筋は見事に割れて余計な肉は一抓みもない。均整のとれた美しい肉体だ。

 

「……男のくせにどうしてこんなに肌が綺麗なのかしら」

 

 黒メイドの憎まれ口に二人も相づちを打つ。

 メイド達は知る由もないが、時々ソリュシャンに全身を溶かされてから完全回復してもらうので、その度に全身の肌が生まれたての赤ちゃんのようにつるつるで綺麗になる。前回溶かされてからまだ一週間も経ってない。肌が綺麗なのは当然と言えば当然だった。なお、ソリュシャン風呂も同様の効果がある。

 

「肌が白いから乳首がピンクだよね」

 

 白メイドが恐る恐る男の胸へ手を伸ばす。

 肌が滑らかなのを意外に感じ、想像以上の固さに驚く。女の体とは違って男の体はこんなにも固いものなのか。

 

「私たちより小さいわね? あっ、立ってきた!」

 

 一番手に続いて二番手は少し大胆。

 金メイドは白メイドが遠慮していた男の乳首に触れた。指で摘まんで大きさを確かめ、指の腹で転がす。転がしていると指に伝わる感触が変わってきた。

 自分の乳首もこんな風に触られると立ってくるのを思い出した。動悸を抑えるように、豊かな自分の胸を押さえた。

 

「二人とも本命はそっちじゃないでしょ?」

 

 何時からそうなったのか、脱線しがちな二人を締めるのが黒メイドの役割。そう言う彼女も、男の腹に触れて皮下の筋肉のうねりを堪能している。指は割れた腹筋をなぞって下へ下へ。へそへ辿り着くや否や黒いスラックスにぶつかった。

 誰かがごくりと唾を飲み込んだ。

 黒メイドは二人を振り返ることなくベルトを解きにかかった。仲間の顔を見てしまえばためらってしまうに決まっている。意思を貫くには勢いも必要だ。

 ベルトは簡単に解けた。スラックスの留め具を外し、ジッパーも下ろし、腰部分の両側を掴む。

 勢いよく脱がせてしまうと起こしてしまうかも知れない。ゆっくりとずり下ろしに掛かった。慎重を要したのは始めだけで、太股まで来ると後は簡単に脱がせた。ナザリックのメイドらしく、脱がせたスラックスは丁寧に皺を伸ばしてハンガーに掛けた。

 上半身は大きくシャツの前を開かれて、下半身はパンツ一枚。女物のパンツとは違って肌に張り付くことなくゆったりしている。それでも股間の部分に膨らみがあるのは見て取れた。

 

「い、いきなり見ちゃうのは、ちょっと心の準備が……」

「このままちょっと触ってみる?」

 

 及び腰な白メイドに先んじて、金メイドが目一杯手を伸ばして男の股間に触れた。

 実物を生で見たことは一度もないが、どうなっているかは異本で予習している。金メイドはパンツの皺に惑わされなかった。

 

「立ってないからまだ柔らかい、かな?」

「ホントだ」

「……そろそろいいかしら?」

 

 二人は気まずそうに笑って黒メイドに場所を譲った。

 二人が触る前に比べると股間の膨らみは幾分大きくなっているように見えたが、パンツを脱がすのに支障が出るほどでもない。脱がすのはスラックスよりずっと簡単だった。

 男の下半身が三人のメイド達の前にさらけ出された。三人ともうっすらと頬が染まってきた。初めて見る生の男性器だ。

 脚の付け根の真ん中にある生々しい肉で出来た棒状の器官。そのすぐ下に柔らかそうな丸い包み。男性器は二人につつかれて少しだけ膨らんできたが、まだまだ立っているとは言えない。

 三人が読み込んできた異本に描かれている男性器は必ず大きく勃起する。これも同じように勃起する、はずである。

 

「…………触る?」

「異本が真実を伝えているかどうか、私たちは確かめなければならないのよ」

「それって立たせるってことだよね?」

 

 今度も金メイドが率先して手を伸ばした。

 今度はつつくのではなく、まだ柔らかい男性器を手の平に乗せた。手の平に伝わる肉の柔らかさと温かさ。そっと握って上下に扱き始める。

 

 彼女たちお気に入りのウース異本は『メイドの献身』シリーズ全25巻。薄い本でもそれだけあるとかなりの量である。

 異本では様々なメイドがそれぞれのやり方でご主人様に奉仕している。ご主人様の欲望を解放するために、まだ小さいおちんちんを如何にして大きくするかも克明に描かれている。

 彼女たちは実際にしたことは一度もないが、想像したことくらいはある。イメージトレーニングをしたこともある。

 金メイドは逸る心をなるたけ落ち着かせるようにして、イメージしてきた通りに手指を動かした。乳首を転がした時と同じで、扱き続ける内に手の中の男性器が熱を持ち始めた。太さも固さも変わってきた。余裕で握れた太さだったのに今や親指と中指で作る輪に余る。固さも全然違う。確かになまめかしい肉の弾力はある。それと同時に決して折れない強さを感じる。

 それ以上に違ってきたものがあった。

 

「あ……ああ…………」

 

 畏れを抱くような声が漏れた。

 うなだれていた男性器が持ち上がってきた。

 「立つ」とは文字通りに立つことで、太さも固さも遙かに増した男性器が、金メイドの手の中で立ち上がっている。

 肉棒は根本から均一な太さで伸び、あるところで色が赤みを帯びる。そこには鋭角なエラがあり、丸みを帯びて、先端にはぴったりと閉じた小さな割れ目がある。その割れ目から排泄したり精液が出たりすることを、彼女たちは知識として持っていた。

 所詮は知識だった。

 雄々しく勃起した逸物は凶悪で暴力的で、思わず膝を突きそうになる。

 これが女の体に、自分たちの体に入ってくるなんて想像も出来ない。知識としては持っているのに、現実の脅威は想像以上だった。

 

「すごい……おっきい……」

 

 白メイドは誘引されるように逸物を握った。

 扱く手が止まり、それでも逸物から離れない金メイドの手と白メイドの手。二人の手で握られても余りある長さがあった。

 二人は靴を脱いでベッドに上がり、一緒に逸物を扱き始めた。

 

 

(…………私だって触りたいのに)

 

 一人用のベッドに三人が並ぶのは、ナザリックのメイドが使うベッドであっても狭かった。

 二人が下半身に陣取ってしまったので黒メイドが入る隙間はない。ベッドサイドからなら届くだろうが、それでは自分が余り者のようでなんだか嫌だ。

 ちょっぴり唇を尖らせて、彼女は二人に背を向けてベッドに上る。長いスカートの裾を持ち上げて男の体を跨ぎ、腹の上に馬乗りになった。体重を掛けてしまうと起こしてしまうかも知れないのでそこは気を付けて尻を浮かす。

 不自然な体勢ではバランスをとるのが難しい。左手をベッドに突いた。男の顔のすぐ脇だ。右手は男の目を覆っているスカーフを解く。

 二人がそっちなら自分はこっち。下半身に興味津々で部屋に連れ込んだわけだが、男の美貌にだって興味がある。

 ほうと溜息を吐いて男の顔を見下ろす。ハンサムだとか綺麗だとか言うのはこのような顔なのか。

 頬を撫でるとややひんやりとして柔らかい。顔の真ん中で堂々としている鼻をつんとつつく。目が閉じているのは少し残念だ。アウラ様とマーレ様と同じ異色光彩は遠目に見ても神秘的で、出来れば近くで見たいとも思っていた。

 指は唇も撫でた。

 艶やかに赤い唇はふにふにと柔らかい。白い指は唇を割って中に入ろうとして、止まった。

 男から離れた指は女の口の中へ。人差し指をしゃぶってたっぷりと唾を付ける。再度現れた指は唇との間で糸を引いた。

 滴るほどの唾にまみれた指を男の唇へ運んだ。今度は唇を割って中に入っていった。歯は閉じられていなかった。柔らかな舌に辿り着き、指に付いた唾を擦り付ける。何度も繰り返した。

 美しい男に自分の唾を飲ませる倒錯的な快感。自分の思い通りに出来る優越感、と彼女は思っていた。

 

 何歩か進んで考えてみると、唾とは言え体液の交換。間接的でありながら、口内の柔らかな粘膜による接触。

 男と混じり合いたい気持ちの発露であると、彼女は知らなくても体は薄々気付いていた。気付いた体は着々と準備に取りかかる。

 体が準備を始めたことに彼女も気付いた。

 肩越しにちらと振り向く。二人の横顔が見えた。こちらへ注意している気配はない。

 彼女は膝で踏んでいたスカートを抜いた。

 左手だけを使ってスカートの裾を手繰り上げ、スカートの内側に辿り着いた左手は真っ直ぐに股間へ向かった。

 白くて薄い小さな布地越しに、女の体で一番柔らかい部分に触れる。

 

(濡れてる……)

 

 もう一度振り返る。

 二人の横顔がちらと見える。

 

「んぅ……」

 

 指を少しだけ沈ませて前後に動かした。

 声が少しだけ出てしまう。

 二人のことは、もう頭になかった。

 黒メイドは男の顔を見下ろし、腹を跨いで膝立ちになりながら、自分の女を慰め始めた。

 

 

 白メイドと金メイドの二人はいつまでも扱いていなかった。二人とも異本でたっぷりと予習している。異本のメイド達がどのようなご奉仕をしているか知っている。

 目的は射精させることで、そのための手段が色々あることを知っているのだ。

 手淫止まりは初心者。彼女達は初心者なのだが、いつまでも初心者でいることをナザリックのメイドは良しとしない。

 『メイドの献身』シリーズではどの巻でも必ず行われているご奉仕があった。

 

「大丈夫? 変な味しない? どんな感じ?」

「ちょっと汗の味? それだけだから平気よ。匂いも嫌な感じはしないし」

 

 白メイドが根本を押さえて上を向かせ、金メイドが伸ばした舌先でちょっぴり触れる。何度か触れてから思い切って舌の腹で触れ、舐めあげた。たっぷりの唾にまみれた舌で。

 同僚に毒味を任せてから白メイドも舌で触れた。

 交互に舐めあい、竿が唾に塗れていく。舌で触れると手で触るよりも繊細に逸物の形が感じ取れた。単に真っ直ぐな棒ではなく、細かな凹凸があるのがわかる。

 ある程度舐めて滑りをよくしてから二人で扱く。そしてまた舐める。

 

「あっ!」 

 

 何度も繰り返す内に、先端の閉じた割れ目から透明な滴が浮かんできた。二人ともまだ口を付けていない部分だ。二人が舐めていたのは竿部だけで、亀頭はまだ手付かずだった。

 何事も率先するのが金メイドのポジション。中指で滴に触れた。思いの外、長い糸を引く。親指と擦り合わせると粘りが強い。最後に口へ運んだ。

 

「平気よ」

「……うん」

「直に行くんだ……」

 

 白メイドは直に行った。指ではなく顔を近づけて、小さな唇で亀頭を挟む。唇の中では舌を動かし、滴が浮いてきた尿道口を丹念に舐めた。

 異本によると、これらの液体は美容によいとされている。飲むのはもちろん、顔に掛けられて塗りつけたり、体に掛けられて伸ばされたり、他の部分でも。メインは精液だが、先走りの汁も無駄には出来ない。

 亀頭の先端だけに触れていた唇は徐々に開かれていく。白い頭も下がっていく。亀頭は完全に口の中へ隠れた。なおも下がり、長い逸物の三分の一まできた。

 口の中に含むと、舐めるだけより匂いも熱さも強く感じる。頭を上げるときは口をすぼめて逸物に吸い付きながら。唇が亀頭の始まりである鋭角的なカリまで来ると、もう一度頭を下げて逸物を口の中へ迎え入れる。

 何度も繰り返す内に半分まで咥えられるようになった。

 

「ぷはっ」

 

 亀頭から根本までたっぷりと唾に濡れた逸物は湯気が立ちそうなほど熱い。

 

「こ、今度は私が……んむっ……」

 

 焼き直したように金メイドもしゃぶりついた。

 

 口淫。

 すなわちフェラチオは必須のご奉仕なのだ。

 

 舐めた時と同じように交代しながらしゃぶりつく。

 同僚の唾を舐めることになるのは全く気にならない。そもそも気付いていない。しゃぶることに夢中になっている。

 ただし、交互にしゃぶっているのでどうしても間が空いてしまう。刺激が途切れればそれだけ射精も遠のいていく。異本にはそこまで書かれていないが、実際にしてみると何となくそうではないかと感じるものがあった。

 

「ねえ……。『メイドの献身』シリーズの第11巻。覚えてる?」

「!?」

 

 白メイドの恐るべし提案に金メイドはおののいた。

 

「お、覚えてる、けど……」

「……あれはすぐに出ちゃってたよね?」

「それは……そうだったけど……でも……」

 

 これまで率先してきた彼女が戸惑うにはわけがある。

 メイドの献身シリーズ第11巻「あなたとわたしのご主人様♡」では、これまで別々に登場してきた二人のメイドが力を合わせてご奉仕するのだ。今の二人と同じである。

 そのご奉仕方法と言うのが、手と口と、もう一つ。

 

「恥ずかしいなら私一人でするけど?」

「べ、別に平気よ? 見たことも見られたこともあるし」

「それじゃ一緒に、しよ?」

「う…………うん」

 

 二人はしばらく相手の様子を伺って、首元を飾る鮮やかなリボンタイを解いた。さらさらと衣擦れの音が響き、脱いだ服はやはりハンガーへ。

 スカートとエプロンはそのまま。両手は胸元へ。いずれ見られるにしても、せめて今は先端だけでも隠したい。

 

「私はこっちからするから」

「わ、わかったわ」

 

 上擦った声で答える。

 腹の上には背を向けて黒メイドが座っているため、一人が下からするともう一人が入る場所がない。二人は横からベッドに上った。手狭なので上半身だけ。

 

「んっ……、胸で触っても熱いよ」

「ほんとう……」

 

 白メイドは乳房を寄せて谷間を作り、逸物へ押し付けた。金メイドは男の下腹に手を突いて、やはり逸物へ乳房を押し付ける。押し付けられた乳房は頼りなく形を変えた。向き合って押し付けているので、時々乳首同士が擦れる。男の乳首より大きいと称した乳首は二人とも立たせていた。

 ヘロヘロが創造したメイド達はソリュシャンを見ればよくわかるように胸がとても大きい。その大きな乳房でも包みきれない。顔を出している先端には双方から口付けをする。

 乳房を揺すって挟んだ逸物を上下に扱く。その度に乳首同士が擦れるのは快感で、二人ともわざと相手の乳首に擦れるように動かした。

 口付けしている亀頭へは熱心に舌を使う。

 ちゅっちゅと唇でついばみ、レロレロと舐めあげる。舐めるときは亀頭まで舐めてそのまま咥える。ついでに先走りの汁もちゅっと吸い取る。

 逸物は二人の唾が滴るほどに濡れ、竿を伝って流れ落ちていく。それが更に乳房で塗りたくられる。乳房を揺する度に、ニチャニチャと淫猥な水音を立てた。

 

 異本が伝える必殺技。二人のメイドが協力して繰り出すWパイズリにご主人様はあっという間に達してしまう。

 二人のおっぱいに、四つの乳房に包まれた逸物もまた限界が近いらしい。熱さと太さに微妙な変化があり、脈打ち始める。

 

「あっ!」

「やった!」

 

 まさに二人の目の前で、熱い逸物からもっと熱い精液が吹き出した。どぴゅどぴゅっと勢いよく吐き出されていく。

 咥えようとしていた白メイドの顔にはたっぷりと。その甲斐あって髪に掛からなかったのは幸いだった。

 可愛らしい顔は精液で汚され雄の匂いに酔ったのか、夢中になっていた行為に興奮していたのか。白メイドは熱い息を吐いて唇に掛けられた精液を舐めとった。

 頬にはべったりと粘塊が付着している。白い頬に汚らしい跡を残して精液が流れ落ちていく。落ちきる前に金メイドが舐めとって飲み込んだ。

 

「美味しくはないけど不味くもない、かな?」

「……そう? 私はもっと欲しいなって思うわ。飲めば飲むほど綺麗になるって言うし」

 

 顔に付着する精液を指ですくい取っては口に運ぶ。一通り綺麗にしてから、指をしゃぶりながら物欲しげに力をなくしつつある逸物を見つめた。異本でも、一度射精した逸物は萎れてしまうことがあった。

 

「出しちゃったの?」

「「あっ!」」

 

 男の腹に跨がっていた黒メイドが振り向いた。

 二人とも彼女のことをきれいに忘れていた。

 

 

 彼女は心配になるほど顔を真っ赤にしていた。

 

「顔赤いけど大丈夫?」

「大丈夫よ。それより二人ともおっぱい出しちゃって」

「うっ……。でもこの人よく寝てるし見られてるわけじゃないし?」

 

 ボールを打ち返された白メイドがしどろもどろに答える。

 男はここまでされてもよく寝ている。

 黒メイドはもの言いたげに口を何度か開閉して、男を見ながら言った。

 

「次は私がもらうから」

 

 有無を言わさない口調。

 順番である。

 しかし最初からで、射精直後の逸物は最初見た時と同じようにうなだれていた。

 

「えっと、大きくするには……」

「異本にあった通りよ。手でシコシコしたり、お口でペロペロしたり。ザーメンが出たのはおっぱいでしてからね」

「あれ? スペルマって言うんじゃなかったっけ?」

「どっちも同じ意味よ」

 

 ザーメンと言ったのが金メイド。スペルマと言ったのが白メイド。ちなみにスパームとなると精子を指す。

 二人は躊躇いがちにしゃぶり始めたのだが、黒メイドは最初からぱくりと咥えた。

 舌使いは拙くても温かくて柔らかい口内に包まれればあっという間に大きくなる。勃起しきると、彼女は二人に逸物を扱き続けるように言って自分はスカートの中に手を入れた。

 

「な……何するつもり!?」

 

 叫ぶような白メイドの言葉に耳を貸さず、スカートの中に入れた手を足下まで下ろす。右足左足と交互にあげて、手には小さくて白い布切れ。二人に見せることなくエプロンドレスのポケットに仕舞った。

 

「………………入れるの」

「「!?」」

 

 入れるの意味がわからない二人ではない。

 異本のメイド達は、ただの一人の例外なくご主人様のおちんちんを入れていた。

 どこに入れるのか。

 

「無理だよ入らないよ、大きすぎるって!」

「そうよ。あんなの入れちゃったら裂けちゃうよ!?」

「でも……。指なら二本まで入れたことあるわ」

「その倍以上太いでしょ」

「そっ……そうだけど。こんなチャンスもうないもの。それに、もう……、その……、すごく、その……、濡れちゃってるし……」

 

 真っ赤な顔を俯かせる彼女を見て、二人は顔を見合わせた。

 その時である。うーん、と小さな唸り声が聞こえた。

 三人は弾かれたように眠る男を見た。

 

「はい……、ペス……様、ありが……。ポーションはジャケットの外ポケットに……」

 

 都合のいい寝言に、二人のメイドは気が付かなかった。

 男の手を縛る紐が巻き付けているだけになっていることに。男の右手の、特に中指が根本まで何かしらの液体に濡れていることに。目隠ししていたスカーフが結ばれることなく乗せているだけになっていることに。

 

「勝手にいいの?」

「いいのよ。有効に利用した方がペストーニャ様もお喜びになるわ」

 

 男性使用人用のジャケットはナザリック製。自動でサイズを調整する魔法以外にポケット内の空間を拡張する魔法も掛けられていた。あれこれと持ち運びしなければならない使用人達だが、ポケットが膨らんでいるのは見苦しい。ジャケットのポケットは見た目以上の容量がある。

 黒メイドがポケットからポーションを取り出した際、ピンク色のリボンが床に落ちた。幸か不幸か誰も気付かない。

 

 スカートを踏まないように注意して男を跨ぎ膝を突く。尻の位置は男の股間の丁度真上。ゆっくりと腰を落とし始めた。どこがどうなっているのか、二人の下半身はスカートに隠れている。

 

「私からじゃ見えないから……位置を合わせて欲しいの」

 

 初心者がいきなり騎乗位はハードルが高い。するならば補助がいる。二人から見えるようにスカートをたくし上げた。

 スカートの中では、逸物が尻の割れ目に触れている。

 

「もう少し後ろ。……そう、そのあたり。えっと、…………ここ?」

「ここって何よ?」

「だから……入るところよ」

「うっ…………、私からは見えないんだもん!」

 

 金メイドが誘導し、白メイドが逸物を摘まんで角度を合わせる。スカートの中は暗いのでよく見えない。シルエットから何となく判断する。

 

「少し腰を落として」

「…………こう? おちんちんがぶつかってるのはわかるんだけど……」

 

 横方向はばっちり。縦方向はいまいち。逸物を前後に振って、割れ目に隠れた小さな入り口を探しだす。

 股を開き、すごく濡れてると言うだけあって、割れ目は男を受け入れるために開いている。

 白メイドも自慰をしたことは何度となくある。位置が同じと仮定して、およその位置へ亀頭を導いた。先端がさっきより潜り込んだ。

 

「たぶんここ。見てて上げるからゆっくりと腰を下ろして」

「……うん。あっ……、わかるわ。たぶん……、ここ」

「こっちからも見えてるよ。さきっちょの半分くらい入ってる」

「いっ……! ひぎぃっ!」

「ゆっくりで大丈夫。そのまま」

「痛い? ポーション飲む?」

「まだ……だいじょぶ……。いっ………………たぁい……」

 

 スカートから手が離れ、二人の下半身はまたも隠された。

 さっきと違い、浮かせていた腰が男の股間の上に乗っている。

 黒メイドは男の下腹に両手を突いて、痛みと熱を吐き出すように深い息を何度か吐いた。

 

「入ったわ……」

 

 あれが本当に体の中に入ったのか。

 二人は畏敬の目で、男に跨がる黒メイドを見た。おっぱい丸出しのままで。

 

「ポーション飲んでおく?」

「うん……。結構痛い。たぶん血も出ちゃってる」

 

 初体験で出血するのは不思議ではない。膣口を狭めている処女膜が破れて血が出る。自分ですら一度も触れたことがない膣の最奥にまで男が届き、こじ開けられた痛みがあった。

 しかし、正常の範疇である。メイドの細い指の何倍も太い凶悪な逸物。けども膣はいずれ産道となってそれよりずっと大きな赤子が通ることが出来る。

 破瓜の痛みは確かにあっても痛みに悶えるほどではないし、すぐに気にならなくなるはずなのだ。

 にもかかわらず、痛み止めにポーション。

 ただのポーションではない。ペストーニャがもしもの時のために男へ渡した上級ポーションである。男が瀕死でも完全回復。男より遙かに高レベルなナーベラルが瀕死でも完全回復。代わりにアインズが使うと大ダメージ。

 間違っても初体験の痛みを和らげるために使ってよいものではない。もしもこれが現地の国家にあれば、万が一、兆が一のために秘蔵される至宝となるのは間違いない。

 それが、初体験の、痛み止め。

 これぞナザリッククオリティである。

 

「もう大丈夫。全然痛くないわ。おちんちんが入っちゃってるのがわかる」

 

 さっきは痛みで顔色が少し悪かった。今は上級ポーションを飲み干したおかげで顔色も肌の艶もよい。婉然と微笑んだ。

 

「入ってるのってどんな感じ?」

「やっぱり気持ちいい?」

「気持ちいいってのはまだないんだけど…………、私は一人じゃないんだなって」

 

 男へ愛しげな笑みを向ける。

 

「一人じゃないって何よ! 私たちがいるじゃない!」

「そうよ。アインズ様だって残ってくださったわ!」

「違うわ。ごめんなさい。そういうんじゃないの。なんて言うか……。足らなかったものが満ちたって言うか、別々のものだったのがやっと一つになれたって言うか。…………んっ……はぁ」

 

 ゆっくりと腰を上げ、落とした。

 男へ向ける表情が変わってきた。優しそうな顔をしていたのがどこか苦しそうに、耐えるように。

 ベッドのスプリングを利用してリズムよく上下に動く。メイド服に包まれた大きな乳房がゆっさゆっさと揺れる。目は閉じて、口からは艶やかに愛を歌う鳴き声。

 

「あっあっあっだめっ、きもちいっ、おちんちんがっ、はいってるっ、はいってるのわかるわっ、あっあんっ!」

 

 段々と体を倒していく。

 男の下腹に突いていた両手は胸へ。伸ばしていた腕が崩れて男の胸にすがりつく。それでも腰は止まらない。ポーションで過剰回復した影響だろうか。男の上で腰を振り続け、スカートに包まれた大きな尻が休むことなく上下に動いている。

 二人のメイドは生唾を飲み込んで同僚の艶姿に見入った。いやらしい表情や止まらない腰つきから本当に気持ちいいのだと伝わってくる。

 

「やだっ! みないでぇ!」

「ごっ、ごめん。どうなってるか気になって」

「謝ることないわ。異本のメイド達は見られて喜んでたでしょ?」

「私はちがうからぁ!」

「ほら、あんなこと言ってるのに腰は止まらないし」

 

 せっかく金メイドが謝ったのに白メイドがそそのかした。

 男を受け入れているメイドは二人を止められない。腰の動きも止められない。快感を貪ることと、男を受け入れている事実をより強く感じるために体が勝手に動いている。勝手にではなく、彼女自身の意思かも知れない。

 

「うわぁ……」

「すごっ……」

「やだぁ……。あっあっああん♡」

 

 繋がる二人の後ろに回った二人は、大きな尻を隠すスカートをめくり上げた。

 黒メイドの大きな尻が見えた。丸くて染み一つない白くて綺麗な桃尻。尻の割れ目には少しだけ色づきキュッと締まった小さな窄まり。そして、そのすぐ下。二人が繋がっている部分。

 二人がしゃぶったりおっぱいで挟んだりした大きな逸物が、メイドの女へ突き立てられている。

 肉棒が女の中に隠れ、ぬめる液体を伴って現れたかと思うとまた女の中に入っていく。

 多少の出血があったようで、少しだけ赤いものがあった。それは見る間に流されていく。結合部から溢れる淫液は腰を振る度に飛沫となった。

 響きわたる嬌声に、初めて見る生々しい男女の結合。見られていることを忘れているかのように腰を振っている。大きな男性器が女性器の中へ出たり入ったりと。

 二人は唾を飲み込んで魅入っている。

 あんな風に男を受け入れる部分が自分たちにもあることを知っている。

 二人は気付かない内に体を寄せていた。大きな乳房がぶつかり合っても気付かない。

 操られるように自分のスカートをめくり上げ、指を揃えて股間に触れる。湿っていた。

 揉みほぐすように撫で始めた。

 

「あっあっもうだめっもうイッて! 精液だして! おまんこにだして!」

 

 涙ながらに腰を振り続け、直に動けなくなることを直感した。

 体の奥に渦巻く熱が溜まりに溜まりきって解放されようとしている。今も全身を侵している淫らな悦びがもっとずっと強くなって。

 

「おまんこにだしていいからっ! ダメなのイッちゃうの! あっやっやあぁっ! あーーーーーーーーっ!!」

 

 一際高く鳴いた。

 二人のメイドが咄嗟にスカートをめくり上げると、尻がびくんびくんと痙攣している。

 見続ける内に、結合部から溢れる液体が増えてきたように思えた。

 二人が手伝って脱力している黒メイドの腰を持ち上げてやった。膣に入っていた逸物がずるりと抜ける。

 大きな逸物にこじ開けられた膣口はぽっかりと口を開いている。やがて、暗い穴からとろとろと白濁した粘液が流れ出てきた。

 

 

 

 

 

 

 三人のメイドは丁寧に体を拭いてから身だしなみを整えた。

 残る二人も黒メイドに続きたかったのだが、いつまでも休んでいるわけにはいかない。お仕事が待っている。

 初体験とお仕事を秤に掛ければ言うまでもなく後者が圧倒的に重い。

 

「あ、ハンカチを忘れちゃったわ。取ってくるから二人は先に行ってて」

 

 黒メイドだけが部屋に戻った。

 ベッドの上には、男がちゃんと衣服を着せられて横になっている。

 メイドは目つきを鋭くして、男の耳へ顔を寄せた。

 

「おまんこを好きなだけ触らせてエッチもしてあげたんだからここであったことは絶対誰にも話さないで」

 

 男は片目を開いてメイドを見た。

 確かによく眠ってはいたが、途中で目が覚めた。

 男の上で自慰をしていたメイドは騒がれてはまずいと、口止め料代わりに自分の体を触らせて、そこまでするつもりは余りなかったのにエッチまでしてあげたのだ。

 

「しばらくここで眠っていてもいいでしょうか?」

「ちゃんと答えて」

「最初から誰にも話すつもりはありませんでしたよ。私はずっと眠っていました」

「…………そう。好きなだけ寝てていいわ。起きたらペストーニャ様に報告して」

「わかりました」

「ふん。じゃあ仕事に戻るから」

「はい」

「…………」

 

 去り際に男の頬へ口付けし、耳元で小さく自分の名前を囁いた。

 さっときびすを返したので赤くなった頬は見られていないはず。

 上機嫌に仕事へ戻った。

 男は欠伸をしてから手足を伸ばし、もう一度夢の中へ。

 

 

 

 

 

 

 男が目覚めたのはそれからどれほど経ったろうか。

 物凄くよく寝た気がした。一週間瞑想を続けたような爽快な目覚めである。かつては火傷の痛みに全身を犯されて、一週間ずっと記憶の宮殿に潜ることはよくあった。

 壁に掛けられた時計を見るとまだ昼過ぎだった。まさか日を跨いだわけではあるまい。

 眠っていたのはナザリックのベッドだ。快眠の魔法が掛けられていても不思議ではなかった。

 うっそりと体を起こしてこれからのことを考える。

 

 アルベド様は「次はエ・ランテルで」と仰った。

 週に一度の食事と仮定して、遅くとも一週間後にはエ・ランテルの屋敷のお食事部屋にいなければならない。

 その前日にはエ・ランテルに戻っている必要がある。

 ナザリックからエ・ランテルまでの道程は、カルネ村で一泊することを考えて、出発はさらにその前日。

 と言うことは、ナザリックを離れるのは四日後。

 丸三日はナザリックに滞在することが出来るのだ。

 丸三日も最古図書館にこもることが出来る!

 

 アインズ様が利用許可をくださったのだ。ああなんとお優しいアインズ様アインズ様偉大なるアインズ様と始まるアインズ様賛歌は昨日全曲覚えさせられた。アルベドが第九番を作詞中である。

 

「ふっふっふ……」

 

 思わず含み笑いを漏らす。

 そこだけ切り取れば美貌の男なので、深遠な真理を悟った賢者にも見えたのだが、すぐさま現実が幻想を打ち砕いた。

 腹の音がぐうと鳴ったのだ。

 昨夜、アルベド様の私室を訪れる前にしっかりと食事をとって、それきりである。今日は朝からずっと寝っぱなしで何も食べていなかった。お腹が減っている。

 その前にペストーニャ様へ目が覚めたことを報告して。

 

「…………起きたなら助けて」

「?」

 

 どこかから声が聞こえてきた。

 やや幼さを感じる女性の声。少女の声であるようだ。

 声は近い。声の主はこの部屋のどこかにいる。

 

「ここ」

 

 ベッドから下りれば声の主はすぐそこにいた。

 メイドが使うのにとても広いナザリッククオリティの部屋は、メイド達が衣服を整えるときに利用する大きな姿見がある。

 その前に一人の少女が仰向けに倒れていた。

 腰まで届く赤金の髪。いっそ作り物めくほどに整った容貌は繊細な芸術品を思わせた。目を引くのが左目を覆う金属色を放つ眼帯。

 メイド服ではあるのだが、一般メイドたちの衣装とは意匠が異なる。ソリュシャンの姉妹であるプレアデスと察した。

 そして、特に目を引いたのが彼女の首。

 

「あーーっ!」

「……うるさい。なに?」

 

 彼女の側には迷彩柄のマフラーが落ちている。おそらくは彼女の首に巻き付いていたマフラー。

 倒れ伏す彼女の首にはマフラーの代わりに、繊細な刺繍が施された白いレースのリボンが飾っていた。




どうすべきか迷ったので初めてアンケートを2・3日前に追加
現在、6:5で見事に割れている
結果を反映するのはたぶん次の次の次くらい
次かその次を投稿するまで出しときます


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秘密のスイッチ ▽シズ♯1

 正式名称「CZ2Ⅰ28・Δ」、略称シズ・デルタはプレアデスの一員である。五女あるいは六女で、どちらが姉であるかを日々エントマ・ヴァシリッサ・ゼータと争っている。

 そのエントマは羨ましいことにデミウルゴス様と一緒に出張中で、魔皇ヤルダバオトに従うメイド悪魔に扮している。

 他の姉妹たちもあちこちへ出張したり何かしらのお仕事が割り振られているのに、シズだけはずっとナザリックでお留守番。

 シズの創造主はナザリックのギミックを考案した「ガーネット」であるため、シズの頭脳にはナザリック内の全ギミックとその解除方法の全てが収められている。外に出たシズに万が一のことがあり情報流出に繋がるとナザリックの存続に関わる事態に発展しかねない。不慮の事態を恐れるアインズ様の意向により、ナザリックがこの地に転移してから今日まで、シズは外に出ることが許されていなかった。

 アインズ様からのご命令に不満はない。

 不満はないのだけれど、時間を持て余しているし他の姉妹みたいに外へ出てアインズ様のためにお仕事をしたい。アインズ様はその内出られるようにしてやると仰っておられるのでその日まで我慢の日々である。

 

 それはそれとして、シズは可愛らしい外見から想像される通りに可愛いものが好きである。

 時々ナザリックの第六階層へ遊びに行ってハムスケと戯れることも多々。いつでも無表情のため本当に楽しいのだろうかと思われたりもするがシズ本人は楽しいのである。

 そして今日。

 第九階層をふらふらお散歩していたら廊下に何かを引きずった跡があった。

 すわ事件発生か妹探偵の出番待った無し。

 跡を辿るとメイド達の部屋。そっと中に入ると男がベッドで寝息を立てていた。知らないでもない男だ。以前、ナザリックで演説をしたそうだが、シズは聞いていない。昨夜の出征式では遠目に見かけた。

 人間の男の美醜に興味があるシズではない。しかし、出征式への参加を許されたのならアインズ様に認められたナザリックに有益な人間なのだろう。

 しばし見下ろし、ただ寝ているだけなのを確認。

 事件はあっさり解決してしまった。

 

 事件が解決したのでお散歩任務に戻ろうとしたシズは、床にピンク色のリボンが落ちているのを見つけた。

 繊細な刺繍が施されたレースのリボンである。リボンを拾い上げたシズは、シズの姉妹であるプレアデスならわかる程度に目を輝かせた。シズの可愛い判定をクリアする綺麗なリボンだったのだ。

 メイドの部屋に落ちていたのだからメイドのものだろうか。

 ちょっとだけ借りてみることにした。だってとっても可愛いんだもん。

 姿見の前に移動してマフラーを外し、リボンを首に巻き付けて蝶々結びにした姿が似合うかどうか鏡をのぞき込んだところでバタンと倒れた。

 

 そして今に至る。

 

 

 

 

 

 

「…………リボンを解くにはそれが必要?」

「はい」

「…………そう」

 

 起きた男と名乗り合い、体の自由を奪うリボンを解く方法を聞き出したシズは静かな怒りに燃えた。

 

「入手に心当たりがありますか?」

「ある」

 

 シズの即答を意外に思った。メイド達は男不足であるようだがプレアデスのシズは違うらしい。しかしそうすると同じくプレアデスであるルプスレギナの発情解消に己が選ばれたのは少々疑問だが、自分が関与することではないと考えるのを止めた。

 

「でも動けない。そこまで連れて行って欲しい」

「わかりました」

 

 抱き上げると意外に重い。素直に口にしたらお前失礼と怒られた。女性に重いと言ってはいけないと誰からも教えられていなかったのだ。これでもう同じ間違いはしないはずである。

 

「私はオートマトン。至高の御方のお一人ガーネット様に創造された」

 

 オートマトンとは精巧な絡繰り仕掛によって自律運動を可能とした自動人形のこと。

 そう聞かされても想像より重たかっただけで体の柔らかさや温かさは人間と変わらない。美しい少女である。この美しい少女を愛する幸運な男はいったい誰だろうか。そんな益体もないことを考えた。

 

 道すがらペストーニャと出会った。

 

「ご心配をお掛けしました。体はこの通り問題ありません。ご配慮、ありがとうございます」

「どうやら問題ないようですね、わん。ところで……」

「シズさんにナザリックを案内してもらっているところです」

 

 シズをおんぶしながら歩いていた。目を引かないわけがない。

 

「私が案内する」

「そうですか……わん」

 

 過日、この男はマーレ様を肩車してナザリック内を案内してもらっていた。

 今日はシズ様をおんぶして案内してもらっているらしい。

 小さな子が好きなのですね、とペストーニャが思うのは当然であった。

 

 ペストーニャの温かい目に見送られて辿り着いたのは使用人たちの居住エリアの端っこ。行き止まりである。このあたりの壁は化粧が施されておらず、煉瓦がむき出しになっている。ナザリック第九階層でまさか建設予算不足だったり手が回らなかったりしたわけではない。デザインの一環である。白い煉瓦の壁は高く、ここだけ抜き出してどこかへ放り出せば聖遺物として信仰を集めそうな厳かさがあった。

 

「どれか適当にブロックを触って。……そこから下に6、右に23。そこが上。上上下下LRLRBAの順に触る。Lは上の左。Rは右。Aは下の右でBは更に右」

 

 シズを落とさないように注意して屈み、言われた通りの順に煉瓦に触れる。

 すると二人の体を光が包む。

 転移の光である。光が止んだとき、二人がいたのは今までとは全く違う場所だった。

 

 

 

 

 

 

 白く細長い部屋である。華やかな第九階層とは打って変わって殺風景な部屋だ。壁の片側にはパイプで出来たベッドが並んでいる。ところどころに取っ手がついた白いボックス。冷蔵庫を模しているのだが男は冷蔵庫の存在を知らなかった。

 部屋のずっと奥には白い扉がある。振り返るとベッドが並んでいるだけであちらの壁には何もない。

 ここでシズは男と逢瀬を楽しんでいるのだろうか。

 とりあえず手近なベッドにシズを寝かせた。これでお仕事は終了である。ご飯を食べたら最古図書館が待っている。

 

「そのリボンは私のですから、無事に解けたら後で返してください」

 

 言うまでもなく、シズの体を拘束しているリボンはアルベドがスキルによって作成したエンゲージリボンである。男はアルベドからリボンを下賜されていた。

 アルベドが好きに使いなさいと言ったのは、リボンを使って気になる女を拘束し犯してしまいなさい、と如何にもサキュバス的な思考によるものだったが、男が考えていた使い道はソリュシャン封じであった。

 お仕事や読書の邪魔をしてチュッチュちゅぱちゅぱしたがる淫乱スライムを封印するのだ。

 封印を解いた後、怒り心頭のソリュシャンに丸呑みされる未来が見えるが先の丸呑みより目先の読書。近視眼的な男である。

 

「………………」

 

 シズは何も答えない。

 男は無機質な部屋を奥へ進む。並ぶベッドは20もあった。

 

「あれ?」

 

 部屋に唯一の扉を開くと、そこには簡素なシャワールームとトイレ。

 他に扉がないことを確認し、シズのところへ戻った。

 

「出口がどこにあるか教えていただけますか?」

「そんなものはない」

「は?」

「ここから出るには特定のギミックを作動させる必要がある。それは私しか知らない。ここから出たかったらリボンをほどいて」

 

 シズは男の言葉を全く信じていなかった。

 女の自由を奪い、拘束を解くには男の精液が必要なアイテムなんて聞いたことがなかった。入手先を訊いても、「お答えする必要はありません」とばっさり。

 男の言葉は嘘。自分を拘束しておくためだけの方便。

 なのだからシズの言葉も嘘。精液の入手にあてなどあるわけがない。嘘を吐いて誘導した。

 ここはナザリック第九階層のどこかにあるセーフティルーム。敵がナザリックの第九階層まで侵入してきたときにメイド達を避難させる場所の一つである。出入り口はなく、出入りするにはギミックを作動させて転移しなければならない。

 それを知るのは自分だけ。

 ここから出たければ本当のことを話して自分を解放しなければならない。

 男の嘘を見破ったシズの策略であった。

 

「リボンを解くには先に申し上げたとおり男性の精液が必要です」

「…………精液。男の生殖器から分泌される精子を含んだ粘液。性的興奮と刺激によって分泌される」

「その通りです」

「…………嘘」

「嘘ではありません。本当です」

「…………そんなアイテム聞いたことない」

「現にここに存在しています」

「……信じられない。他に解除方法があるはず」

「あったとしても存じ上げません」

「…………」

「もう一度お伺いしますが、精液の入手にあてはありますか?」

「…………」

 

 シズは押し黙ったまま答えない。

 男は、はあと溜息を吐いた。

 

「お前失礼」

「失礼しました」

 

 シズは何も言わなくなった。

 怒られたばかりなので溜息を吐くのは我慢した。

 シズが右目のみ露わにしている翠玉の瞳で睨まれながら、男は白いボックスを開いた。

 手の平サイズの四角い銀色の包装が幾つも重なっており、取り出して開いてみると細長いクッキーのようなものが現れた。匂いを確かめかじってみる。ぼそぼそしているが割と美味しい。かなり甘い。案の定食料だった。

 部屋の様子から一時避難する場所だと察した。どうやらその通りであるらしい。

 種族ペナルティによってお腹が空きやすい一般メイドたちをも満足させるレーションである。それを二つも食べてからシズが横たわるベッドに戻った。ちなみに消費した分は自動で補充する魔法の冷蔵庫である。

 

「…………何するつもり?」

 

 

 

 

 

 

 シズに相手がいるならそれが一番なのだが嘘であったらしい。

 この場にいるのはシズと自分の二人だけで、精液を提供できるのは自分だけ。

 かなり気が進まないがやるしかなかった。

 もしも自由を取り戻したシズにくびり殺されたとしてもそれはそれ。二人ともここで朽ち果てるよりましである。

 これが憎い相手であれば、朽ちた相手を見ながら自分が朽ちるのを待つのもやぶさかではないが、シズはナザリックのシモベでソリュシャンの妹である。だったらせめてシズだけでも自由にしたい。

 

「……どうして目隠しする?」

 

 リボンの上に巻いていたマフラーを外してシズの目を覆った。

 ベッドの中央にあったシズの体を端っこに移動させて、枕を使って横を向くように体を固定する。

 桃色のふっくらした唇を見下ろしながらスラックスのジッパーを下ろした。

 ごそごそと取り出した逸物は力がない。昨夜たっぷりとアルベド様に絞られ、今日はメイド達の玩具になって二回出している。シズは美しい少女であるが、体は凹凸に乏しく幼さを感じさせるし表情に乏しいし色気よりも可愛らしさが勝ち、見ているだけでは中々元気にならない。

 男は神に祈った。

 

(アルベド様! どうか私にお力を!)

 

 想起するのは美神アルベドの艶姿。

 柔らかくておっきい究極のおっぱい。言葉に尽くせぬ美しい乳首。ぬめる下腹を飾る淫らに美しくも神秘的な紋様。そして、アルベドの雌の穴。そこへ思うさま突っ込んだ事を思い出せばたちどころに立ってくる。

 

「…………何これ?」

 

 シズの手を取って勃起した逸物を握らせた。シズは力を入れられないため、シズの小さな手に自分の手を重ねて握らせている。

 熱い逸物に、冷たくて小さな手が心地よい。

 

 実を言うと、生まれてこの方一度も自慰をしたことがない男である。

 ラナーに囚われたのは精通前。以降は自分の体なのに自由に動かせず、ラナーの気の向くままに絞られてきた。

 健康な肉体を取り戻してからはアルベド様のお食餌である。勝手に出したりしたら酷く怒られる。と言うかそんな隙も暇もなくソリュシャンに絞られている。乾く暇がないと言う奴だ。

 経験がなくても、アルベド様やシクススに扱かれてきた経験からどの程度の力加減でするのが良いのか知っている。

 

 目を閉じて脳裏に描くのは美神が乱れてよがる様。

 シズの手に重ねた手は動きを加速させ、意外に早く射精の兆しを感じた。

 シズの頭を押さえ、膨らんだ亀頭を桃色の唇に押しつける。逸物で小さな唇をこじ開け、飛び散らないように亀頭全てをシズの口の中へ。

 無抵抗な美少女の口を犯すのは冒涜的な快感があった。

 逸物に触れる艶やかな唇。このまま奥まで突き入れて口内を蹂躙したくなる。

 そんなことを出来ようはずがない。己の欲望のためにシズの口を犯しているのではなく、シズを自由にするためなのだ。

 

「んっ、んっ、ひゃにこえっ……。うぷっ……」

 

 亀頭を咥えさせられたまま喋ろうとするので、吐息が掛かってこそばゆい。

 荒くなった鼻息が下腹を撫で、ついと達した。

 無垢な少女の口の中へ、ぴゅぴゅっと精液が吐き出された。

 

 ぴゅぴゅっである。これがもしもアルベド様がお相手であったならば、「薄い少ない。私の知らないところで何をしてきたの?」とぶち切れ確定の量である。

 少量でも精液は精液だった。

 短い射精が終わるとシズの口から逸物を引き抜く。尿道口がちょっぴり濡れていたので唇に塗りつけることを忘れない。

 吐き出さないようシズの顎を押さえて口を閉じさせた。

 

「飲み込んでください」

「んっ…………こく………………」

 

 細い首に結ばれた白いリボンにピンク色が戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 シズは体を起こし、目隠ししていたマフラーを解いた。

 首に手をやる。リボンはなかった。男の手にある。スラックスはきちんと履いている。

 

「…………動物性タンパク質」

「まあ……そうですね」

 

 シズの体は機械であるが食事を必要としている。燃費は悪く、コップ一杯で何千カロリーもある甘々ドリンクを常飲している。今しがた飲まされたものは今まで味わったことがない味だった。

 

「苦い。不味い」

「……そうですか」

 

 精液の味の感想を聞かされてなんと答えればよいのだ。美味しいという人もいますよと言っても何の慰めにもならない。

 

「でも濃厚だった」

「…………そうですか」

 

 手をぐっぱして体が自由に動かせることを確かめる。男は嘘を言っていなかった。

 

(精液。男が性的な興奮と刺激によって生殖器から分泌する液体。この男は私に興奮した? 私はプレアデスのCZ2Ⅰ28・Δ。私はオートマトン。私は戦闘メイド。メイドは女と決まっている。だから私は女の体)

 

 自由を取り戻したシズに、殺されるまではないと思いたいがプレアデスのスゴいパンチ力で一発くらい殴られると身構えていた男だったが、当のシズはベッドから上半身を起こしたきりで動かない。リボンは解けたので体が動けないわけではないはずである。

 それにしても精液を飲ませるだけでリボンが解けたのは幸いだった。無抵抗な女性に何をしても罪悪感は覚えないだろうが、ソリュシャンの大切な妹である。無理に犯したら何を言われて何をされるか知れたものではない。

 

「リボンが解けたのでここから出る方法を教えていただけますか?」

「………………」

 

 返ってくるのは沈黙。

 シズは男に答える余裕すらなくして深い思索に囚われていた。

 

(私はオートマトン。私の体は女の体。どうして女の体? メイドだから女の体。でも女の体が必要なだけなら外性器は必要ない。エントマは女の体をしているけどアラクノイドだから私のような外性器は持ってない。オートマトンの私はどうして持っている? 至高の御方がかくあれと創造なさったから。私には必要であると創造してくださった。オートマトンに妊娠出産は不可能。ならば私に必要であるとされた外性器の使用方法は……)

 

 

 シズがなんだか遠いところへ行ってしまった。

 ひとまずシャワールームで水を飲んで喉を潤す。外へ出たら目の前にシズが立っていた。

 

「こっち」

「ぐえっ」

 

 強い力で襟を捕まれ引きずられる。この力でパンチされたらいつぞやのナーベラルにパンチされたときのように陥没するだろうなあと儚く考えた。

 

「ここ」

「……はい」

 

 さっきまでシズが横になっていたベッドである。促されて座った。

 シズもゴツいブーツを脱いでベッドに上がってくる。何を考えているのか、表情に乏しい美貌からは全く読みとれない。

 

「あっ! 返してください!」

 

 ジャケットのポケットに手を突っ込まれ、ピンク色に戻ったリボンを奪われた。

 

「お前一体何してんの!?」

「お前言うな。お前失礼」

「………………失礼しました。それで? 一体どういうおつもりで?」

 

 シズは奪い取ったリボンを再び首に巻いて結びつけた。

 結ぶと同時に身体中から力が抜けて、コテンとベッドに横たわる。

 

「…………ほどくには精液が必要だった」

「……そうですね。嘘は言ってなかったでしょう?」

「……私を自由にしないとここから出る方法は教えない」

「それ、さっきもやりましたよね」

 

 寝ころぶシズを真上から見下ろす。翠玉の目が真っ直ぐに見つめてきた。

 

「もう私は口を開かない。経口摂取以外の方法で精液を与える必要がある」

「…………ご自分が何を仰ってるかおわかりですか?」

「わかってる」

 

 初体験を果たして一人前になったアルベドが開眼したシークレットサキュバススキルで作成したサキュバスアイテムである。

 効果はリボンを結んだ女の自由を奪うこと。解放するには精液を与える必要がある。口から飲ませてもリボンは解けるが、サキュバス的にはもう一つの口からが望ましい。

 それを促すための仕掛。リボンに女を欲情させる効果があってもおかしくない。男には効果がなく、シズには初めての感覚であるため確かなことはわからない。

 

「私はオートマトンだけど女の体。女が持ってる外性器もちゃんと持ってる」

 

 覚醒したサキュバスの寵愛を受けて男の体質に変化があった。やたらと増して持て余している精力もその一つ。

 おいしくなあれこゆくなあれとおまじないを受け続け、精液の質も変わりつつあった。アルベドの好み通りに美味しく濃くなってきている。

 サキュバス好みの精液が女へ何の影響もないとは考えにくい。

 

「私の女性器に男性器を挿入して欲しい」

 

 双方が絡み合い、シズの奥深くにあったスイッチを入れてしまった。

 無表情なのは変わらない。それでも、見開かれた翠玉の瞳は期待に濡れているように思えた。




ここまで差が付けばひっくり返ることはなかろうと投票終了
初のアンケートを設置して隠れた効果に気付きました
感想がなくても読んでる人はちゃんといるんだわあい( ;∀;) ってなります
とか言いながら自分が最後に書いた感想は二ヶ月前
その前はその半年前
更にその前は2017年になっておった……


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愛人形 ▽シズ♯2

 じっとシズを見る。シズもじっと見てくる。おもむろに胸へ手を乗せた。シズは相も変わらぬ無表情。乗せた手をさわさわと動かした。おんぶしていた時に背中で感じた慎ましい柔らかさは、ナザリック謹製の割と防御力があるプレアデスのシズ専用メイド服越しではよくわからなかった。

 

「……小さすぎてよくわからないな」

 

 思わずこぼれた呟きはシズの耳に届いてしまった。シズの心に黒い炎が燃え盛る。自由を取り戻した暁には必ずや復讐を果たすと決意した。

 シズはやはり無表情のままだったが、ずっと見ていれば目の色から感情の変化があったと察せるようになる。

 

「シズさんの服を脱がせて直に触ることになるんですけどいいんですか?」

「……必要なら構わない」

「隅々まで色んなところを触りますが?」

「構わないと言った」

「舐めたりもしますよ?」

「…………舐める?」

「舐めます。それはもう色んなところを舐めます。シズさんの女性器を広げて内側をペロペロするんですよ」

「………………」

 

 ついさっき精液を無理矢理飲まされた。その時、口に含まされたのがおそらくは男性器。想定以上の太さがあったと感じた。自身の体に女性器が備わっていることを認識しているが、未使用であるため詳しい仕様は不明である。あの太さを挿入するには潤滑液があると望ましい。

 無言のシズはペロペロの必要性を考察していた。それを怯んだと勘違いした男は余計な言葉を付け加えた。

 

「あれあれ、怖いんですか? 怖いなら無理する必要はありません。他の方法があるんですから」

「む……。怖くなんかない。ペロペロだっていっぱいしていい!」

「………………あれ?」

 

 脅して別の方法へ誘導しようと思っていた。しかしやぶ蛇なのか火に油なのか、シズの闘志を煽っただけだった。悲しいすれ違いである。

 論理的思考をさせれば凄まじい冴えを見せる男の頭脳だが、感情の機微が絡むと途端にポンコツになってしまう。女主人である究極美神アルベドであっても未だに矯正しきれていない。感情は感情であるが故に論理からかけ離れているのが問題なのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

「……それでは脱がせますよ?」

「一々断らなくていい」

「……そうですか」

 

 ベッドに横たわるシズちゃんはクールである。

 自由を失った体で、これから男に服を脱がされて色んな事をされると言うのに照れや恥じらいが全くない。シャルティアにもなかったが、あちらには色香があった。こちらには全くない。

 迷彩柄の靴下を脱がされ、驚くほど繊細な刺繍が施されたコルセットベルトを外され、黒いワンピースのボタンが一つ一つ外されていくのに、シズは男の手つきをじっと見守っているだけで表情の変化は全くない。

 これが頬を染めたり目線を逸らしたりすれば可愛げがあり興奮も増していくだろうに。

 眼帯とヘッドドレスには手をつけず、ワンピースとその下に着ていた白いブラウスを脱がす。ワンピースの上からではわからなかったささやかな膨らみは、白いブラウスに色が透けないよう白いブラジャーに包まれている。小さいけれど、乳房と呼べるだけの膨らみは確かにあった。

 

「むう…………」

「……?」

 

 ブラジャーも外し、シズの乳房が露わになる。ただでさえ慎ましい膨らみは仰向けになっているために余計に小さく見える。手の平で隠れてしまう乳房は、おっぱいよりちっぱいの名が相応しい。腰はきちんとくびれている。シズはシャルティアと同じくらい背が低いからと言って幼児体型ではない。女になりつつある少女なのだと主張している。くびれから腰つきへの曲線はまだまだ未成熟で華奢だ。ここに男を受け入れる器官が本当にあるのかと不安になる。

 女未満で幼さを色濃く残す少女の体は、美しかった。

 シズと身長も体型も似ているシャルティアは、シモベのヴァンパイアブライド達と乳繰り合うのが日課なだけあって年不相応の色香がある。シャルティアに比べれば無垢そのもので性の何たるかすら知らないであろうシズの裸身は、悔しいことに美しいと評せざるを得ない。

 オートマトンとはどのような種族なのか詳しいことはわからないが、吸血鬼であるシャルティアよりも血色がよい。触れる肌は柔らかく、そして温かい。

 

 ことここに至り、シズのような華奢でちっぱいも大好きなのだと認めざるを得なかった。おっぱいが好きなのに、ソリュシャンの爆乳に何度も放ったというのに、アルベド様の究極おっぱいでも記憶と体に刻まれた忌まわしきちっぱい嗜好は消せないとでも言うのか。

 アルベド様のお力を借りるまでもなく、股間が張りつめてくるのを感じた。

 

「……パンツは脱がせない?」

「まだ必要ありません。順番です」

「…………そう」

 

 パンツまで脱がせてしまったら直ぐにでも突き立てたくなってしまう。

 逸る心を抑えて、さっきも触れた乳房へ、今度は直に手を乗せた。握るほどはない。揉めるくらいならある。しかしいきなり揉んだりはせず、触れるか触れないかの絶妙なタッチでさすり始める。

 

(胸を触って何が楽しい? くすぐったくもない。触ってるのはわかるけど何も感じない? …………? くすぐったい? …………かゆい? かゆいのはどこ?)

 

 シズの腹の上に馬乗りになり、乳房の両脇を包むようにして撫で続ける。指が少しだけ乳肉に沈み、脇から中央へ絞るように。愛らしい突起には一度も触れない。指先は乳輪を掠めると下がってしまう。

 体を動かせないシズだが、頭の下に枕を敷いてくれたおかげで目線を下げれば自分の体が見えた。男がしきりに触っている乳房も見える。その中心にある突起、瑞々しいさくらんぼのような艶がある乳首は男が触り始める前と形を変えていた。

 

(乳首があんなに立ってる! かゆくてムズムズしてるのは乳首? どうして乳首を触らない? くすぐったくてかゆいから掻いて欲しい……)

 

 物言いたげに男を見る。男は真面目な顔をしてシズのちっぱいをさすっている。男の手つきが、己の楽しみではなく、女の性感を掘り起こすマッサージだとシズは知らない。

 

「……、……、……。……乳首も触って欲しい」

 

 顔を上げた男と目があった。シズは余計な提案をしてしまった気がして目を逸らした。

 

「ひうっ!?」

 

 突然襲いかかってきた刺激に驚き、声が漏れる。口を押さえようにも体は自由に動かせない。触って欲しかった部分を触られる度に、口からは意図しない声が上がってしまう。

 触ってもらえればくすぐったい痒みが解消されると思ったのに、甘美な刺激は乳首だけでなく胸の奥まで響いてきた。

 

「強かったですか?」

「あ……う。…………平気。驚いただけ」

「もう少し優しくしますね」

 

(あ…………。……? 優しいより強い方がいいと思った? 乳首をもっと強くして欲しい? くすぐったかっただけなのにどうしてあんなに……。ん……? 今度は柔らかい? さっきより温かい。あ、舐めてる。私の乳首をペロペロしてる。ちゅうちゅう吸って、いっ!)

 

 小さかった乳首は赤く染まって破裂しそうなほど固く尖り、舐めて癒してからでないと歯を立てられない。甘く噛めばシズは鳴いた。

 

「痛いですか?」

「い、痛くなんか、ない。んくっ!」

 

 無表情が常態のシズだったが鈍感ではなかったようだ。むしろ感覚は繊細で、初めての感覚に戸惑いながらも素直に受け止めている。

 華奢な体を這い上がって間近で顔を合わせる。「なに?」と抑揚のない声で問いかけられるが、僅かながらも感情のうねりを感じられた。少なくとも、乳房を触られ、乳首を吸われて噛まれても嫌悪は感じていない。それだけわかれば十分だった。

 シズがきちんと感じられることを確かめられたので、これからはこちらの気分も高めていく。

 

「んっ……。んんっ? ん………………。今の、キス? 舌が入ってきた」

「体が動かせなくても舌は動かせるでしょう? シズさんも同じようにしてください」

「…………それは必要なこと?」

「もちろん必要です」

「………………。わかった。んぅ……ちゅっ……、れろ……」

 

 小さな口を口で塞ぎ、桃色の唇を赤い舌が割って入っていく。小さな舌がおずおずと、それでいて嬉しそうに応えてくる。

 

(これがキス。舌が入ってきてる。私の口の中を舐め回してる。私も同じようにしないといけない? 舌が舌に触って、柔らかくて温かくて、変な感じがする……。わからない。わからないけどいやじゃない。あ……、唾が入ってきた。ぬるぬるして少し温かい? 味しない。不味くないけど精液より薄い。私の唾も吸われてる。じゅるじゅる言ってる。あ、喉が鳴った。私の唾飲んでる。私も唾飲んでる。二人で同じの飲んでる。……んぅっ! キスしてるのに、乳首摘ままれると、集中できない……)

 

 シズの小さな体にのし掛かり、胸を這っていた手はすべすべした腹を通って下腹も通り過ぎ、純白のパンツにまで下りていった。

 

「脚を開いてください。リボンで拘束されていても脚は開けるはずです」

「わ……わかった。女性器を触る?」

「触ります。触りますが、シズさんは女性器の通称をご存知でない?」

「……? 知らない」

「まんこ、と言います」

「……まんこ?」

「接頭語に『お』を付けると丁寧になります」

「……おまんこ。男性器にも通称がある?」

「あります。ちんこと呼びます」

「……ちんこ。おちんこ?」

「そうです」

 

 いたいけな少女に性的な知識を教え込むのは未開の処女地を踏み荒らす征服感があった。無知だったナーベラルに色々と教え込んだとき以上に。

 口中で「おちんこ……おまんこ……」と繰り返すシズはゆっくりと股を開いた。開かれた脚の付け根に男の手が伸びる。

 

「あ…………。私のおまんこ、ほぐしてる?」

「そうですよ。ちゃんと準備しないと入りませんから」

「…………うん」

 

 シズの股間に手の平をあてがう。手の平の熱が股間に馴染んだところで小さな円を描き始める。

 甘い唇を貪りながらシズの股間を揉みほぐし始めた男は、内心で小首を傾げていた。

 シズのパンツはさらさらだったのだ。

 

 白く細長い密室は熱くも寒くもなく、空気は乾燥して快適だ。

 シズの体は人とは違うオートマトンと言えど、体内の熱を効率的に排出するために人体を模した発汗機能がある。未体験の刺激に体が熱を持ち、白い肌はうっすらと汗ばんでいる。

 その範疇で、純白のパンツには湿り気があった。それ以上の湿り気は感じられない。

 乳房への愛撫で甘く鳴き、キスの楽しみを覚え、秘部を優しく撫でられているのに、シズは全く濡れていなかった。

 

「あっ!? いまどこを触った? すごいピリってきた」

「痛かったですか?」

「……平気。……平気だけど……、ただ……」

「ただ?」

「…………わからない。なんでもない。それよりどこを触った?」

「クリトリスです」

「クリトリス…………。陰核のこと?」

「そうですよ」

「あっ……あっ……、くち、おさえてっ……あんっ」

 

 揃えていた指は離れ、中指だけが上下に動いている。パンツ越しにシズの割れ目に沈み込み、上端のあたりで柔らかな突起を見つけた。優しく、けれども執拗に擦り続ける。

 請われたのでシズの口は口で塞ぐ。離れれば甘い鳴き声。段階を踏んだ準備が功を奏して、シズが快感を覚えているのに間違いはない。それなのにパンツに湿り気は全く現れない。まさかシズが演技をしているとは思えない。疑問は深まるばかりである。

 謎を解くべく、ついとパンツに手をかけた。

 さらさらのパンツはするりと脱がされていく。シズの股間は無毛だった。パンツ越しに指が沈んでいた割れ目は無垢な一本筋。触って感じたとおり、濡れた様子は全くない。

 

(脚を開かされてる。私の女性器が……、おまんこが見られてる。……これはなに? お腹の奥で何かが動いてる気がする。何が動いてるの? 乳首の時と感じが似てる。くすぐったいようなかゆいような。どこがムズムズしてる? お腹? ううん、お腹の奥。そこはどこ? おまんこの深いところ? そんなところをどうやって触れば……)

 

 一本筋を指で広げた。

 内側は乳首よりも鮮やかな色に満ちている。乳首の赤みが内側から滲み出る色だとすれば、こちらは肉そのものに色が付いている。

 パンツ越しに触れていたクリトリスは包皮をかぶったまま可愛らしく膨らんでいる。舌でつつくと女の柔らかさと淫らな弾力。唇と舌で包皮を剥き。クリトリスに吸いつけばシズの口から耳に心地よい音がこぼれる。

 それなのに、シズの肉芽からは女の味がしなかった。ここまでの反応で、オートマトンとは人でなくても限りなく人を模した種族だと思ったのだが、ここだけは違うのだろうか。

 検分するように割れ目を広げる。今度は上端ではなく中央部。媚肉に潰された小さな小さな尿道口が見える。ここも舐めた。ほんのりと甘い気がした。

 そして下端。男性器を挿入する部分。スラックスを盛り上げている逸物は、ここへ入りたくて疼いている。

 

「これは………………!」

「……なに? 私のおまんこ……、へん?」

「変と言うか……、珍しくはあります。見てみますか?」

「…………見る」

 

 シズの上半身を後ろから抱き支えて起こし、開いた股の前には部屋を探索していたときに見つけた手鏡をかざす。

 

「見えますか? ここがクリトリス。私が舐めたところですね。そして見えにくいかも知れませんが、ここに尿道口があります。そしてここ」

「……おまんこ。おちんこを挿入する部分。部位名を膣。別称をヴァギナ。入り口だから膣口」

「その通りです。で、入り口の少し奥に白い膜があるのがわかりますか?」

「ん……見える。あれはなに? あれは知らない」

「処女膜です。通常は入り口を狭める程度で、全体を覆っていても裂けていたり穴が空いているものです。シズさんの処女膜は完全に塞がっています」

 

 秘部を潤す愛液は膣から分泌される。その膣が完全に塞がっているなら濡れるわけがなかった。

 処女膜が完全に塞がることは人間でも希にある。その場合、経血などが排出されずに溜まっていき体を悪くする。切開して破る必要がある。

 オートマトンであるシズに妊娠の準備である生理はない。膣が塞がっていても問題はなかった。

 改めて、シズは人ではないと認識した。

 

「……未開封証明シール?」

「………………」

「新品です」

「……まあ、……そうですね……」

 

 無表情でもわかる。シズは何故か得意げだった。

 手鏡を置いて処女膜に触れてみる。余りにも頼りない薄さで簡単に破けてしまいそう。今日まで破けなかったのが不思議なくらいだ。女の子の大切な部分は大切にガードされているという事か。

 

「指はダメ。入れるのはおちんこ。おちんこでないときっと届かない」

「届かない?」

「……わからない。お腹の奥でムズムズしてるところ」

 

 もっともな気もするが、奥がどうなっているかわからないのに挿入するのは不安があった。なによりも、潤滑液たる愛液がないと挿入時の摩擦が激しい。華奢なシズの膣は狭くて浅いだろうし、処女の固さもあるはず。出来るならばよく濡れているのを確認してから挿入したい。それが叶わないなら、される方ではなくする方をよく濡らす必要がある。

 シズをベッドに寝かせ、男も衣服を脱いだ。脱がせたメイド服は丁寧に畳んで隣のベッドに置いたのに、自分の衣服は皺も伸ばさず放り投げる。

 シズの視線を感じながらスラックスを脱ぐ。股間の逸物はとっくにいきり立っている。シズの体にのし掛かっているとき、太股に擦り付けていたのに気付いていただろうか。

 パンツを下ろせば逸物が跳ね上がって、下腹をペチンと打った。へそまで届く男そのものは、淫乱スライムが舌なめずりしながら凶悪と囁くほど。

 

「それがおちんこ……。初めて見た。…………なに? 口からは飲まない。おまんこでないと拒否すると言った」

「そうじゃありませんよ」

 

 シズの頭の隣に腰を下ろす。シズの顔をこちらへ向かせ、勃起した逸物を可憐な唇に触れさせた。シズはぷいと反対を向く。アルベドが頭をもたげたように、首から上はそこそこ自由に動かせるらしい。

 

「挿入するには潤滑液が必要なんです。だけどシズさんのおまんこがどれだけ濡れているかわからない。だったら挿入する方を濡らさないと。シズさんが舐めて濡らしてくれませんか?」

「…………わかった。精液を飲ませてもちゃんと挿入しないと部屋から出る方法は教えない」

「わかってます」

 

 始める前に潤滑液の必要性に気付いたシズである。否はなかった。

 男の方へ向き直り、可憐な唇をまるく開く。開いた口に熱い肉棒がゆっくりと差し込まれてきた。

 

「苦しかったら……、声は出せないでしょうから目を開けてください」

「わはっは……。はむっ……、んっ……んっ……、んむっ!?」

 

 シズにしゃぶらせながら、開かれたままの股へ手を伸ばした。指は割れ目に潜ってクリトリスへ。人差し指と薬指で挟んで包皮を剥き、たっぷりの唾に濡れた中指で剥き出しになった肉芽を優しくノックする。指が柔らかな締め付けを求めているが、我慢しなければならない。

 

(これがおちんこ……。精液を飲まされたときより熱くて太くなってる。何かぬるぬるしてるのが出てる。これは精液とは違うもの? もっと深く入れても大丈夫なのに半分くらいしか入れてこない。これが私のおまんこに入るんだ……。私の体にこんな大きなものが……。至高の御方が授けてくださったおまんこなんだからきっとちゃんと入る。ああっ! クリトリス擦ってる! 集中できなくなる! お腹の奥がじんじんしてくる! ……おまんこが使われたいって言ってるみたい。私は使いたい? 性能評価じゃない。試用じゃなくて使ってみたい。おちんこを入れて欲しいの? 入れて欲しい。入れるとどうなるのか知りたいと思ってる)

 

 目を閉じてうっとりと逸物をしゃぶるシズは、口内を犯す男がゆっくりと前後に動いていることに気が付かない。少しずつ深く入れられていることは気にならない。姿勢さえしっかりしていれば根本まで咥えられると思っている。

 唾を塗りつけるだけだった舌は、妖しく蠢くようになった。塗りつけなければならないのに、ちゅうと吸い始めた。もっと深く突き入れろと言わんばかりに。

 

「シズさん。そろそろ」

「!」

 

 下半身から上ってくる甘美な刺激が頭にまで届いていたらしい。シズは吸うのを止めて、慌てて唾を塗りつけた。

 逸物が口から引き抜かれると大いに糸を引き、千切れた糸は枕とシズの唇を汚した。

 シズの唇を指で拭って、濡れた指はシズの口へ。口淫の続きとばかりに、指は柔らかな舌で包まれちゅぱちゅぱと吸われた。

 

「…………挿入する?」

「ええ」

 

 股を開かせ、肉付きの薄い太股を抱えもって引き寄せる。入念にほぐしたつもりでもシズの割れ目は筋のままだ。指で広げて入り口を再確認してから亀頭をあてがった。たっぷりと塗りたくられた唾液がにちゃりと鳴る。

 咥えさせた時に感じたシズの口は熱かった。体温が高くなっている。口がそれならこちらも期待が持てそうなものだが、華奢で細すぎる腰つきからは挿入が可能かどうかも怪しい。

 狭い膣口に潜り込んだ亀頭はすぐに処女膜にぶつかった。軽くつつけば破れそうなほど頼りない処女の証。ずれないように右手で逸物の位置を合わせ、左手はシズを逃がさないよう腰を掴む。ゆっくりと腰を進め、あっさりと処女膜を貫いた。

 処女膜を貫く感触よりも、ぱしゃっと水が弾けて下腹を濡らす感触。処女膜で封じ込められていた愛液が一気に溢れ出てきた。シズは濡れないではなかった。

 シズを女にしてから、尚も狭い膣を進んでいく。半分も入りきらない内に壁にぶつかった。小柄なシズならここまでが限度と思われた。

 

「…………あれ?」

「な…………なに?」

「いえ……」

 

 狭くて浅い膣は処女の固さがあり、逸物をぎちぎちと締め付けてくる。押し返してくる弾力に負けず、引いた腰を再度進めれば一度目よりも深いところまで入っていった。

 二度目よりも三度目。三度目より四度目。もしやと思いながら亀頭にぶつかる壁を押しやると際限なく飲み込まれていく。

 最終的に、根本まで入ってしまった。シズの体のどこまで届いてしまっているのか。

 

「…………届いた」

「届いた?」

「うん。おちんこがむずむずしてるところまで来てる。挿入だけじゃなくていっぱい擦って欲しい」

 

 体の下で可憐な少女が訴えている。

 逸物を根本まで受け入れた膣は固さも変わってきた。狭く固いだけだったのがふんわりと柔らかく締め付けてくる。

 初めて使用されたシズの体が受け入れた男に最適化していく。形が定まらなかった物が成形されていくかのように。シズがきちんと悦べるように。

 

「うっ……あっあんっあんっ、こえっ、かってにでるぅっ」

 

 貧相なパイプベッドがキシキシと鳴った。

 シズの体は男にしっかりと抱きしめられ、開かされた股の中央は男の逸物で繋がっている。股間と股間がぶつかって水音を立てる。

 

(むずむずしてるのがとれてく。おちんこで擦られてる。私のおまんこにちゃんと入ってる。私のおまんこはこうするために存在した。こうするためにガーネット様はオートマトンの私におまんこをつけてくれた。おまんこが気持ちいい。撫で撫でされるよりずっと気持ちいい。おまんこだけじゃなくて体全部が気持ちいい。もっともっと擦って欲しい。キスもいっぱいして欲しい)

 

 自由を失ったシズはされるがまま。小さな膣口はめいっぱいに広げさせられ、儚く処女を散らされ、未開の処女地を大きな逸物に成形される。

 どれもシズが望んだこと。

 未使用だった女性器を試用するだけのつもりだったのに、本使用になっている。女性器が持つ機能を完全に引き出されてしまっている。

 

「だめぇ……、わたしだけじゃだめえっ!」

 

 いやいやをするように首を振る。

 シズの体が想像以上に具合が良く、シズもまた受け止めてくれていたので激しく抽送していた。温かい膣から引き抜くのが惜しくて、根本まで突き入れた状態で動きを止めた。

 

「私のおまんこは、おちんこを入れるためにあった。私をとても気持ちよくしてくれる。でもおまんこの機能は他にもある」

「……なんでしょう?」

 

 じっとしていることすらもどかしい。シズの中をもっと味わいたい。

 

「おちんこを気持ちよくすること。それくらい知ってる。…………あなたも、……きもちい?」

「もちろんですよ!」

「あっあっんあっ、おまんこ、いっぱいこすれてっ、きもちっ、いっ、すぎるぅ! あああっ!」

 

 シズの表情に動きは少ない。

 それでも姉妹にはわかるように、間近で見続けていれば何となく感じるようになる。

 そして声が美しい。幼い声が奏でる嬌声は音楽的で、興奮を煽って止まない。

 シズの求めに応じて腰の動きを加速させた。人間の少女であれば壊れてしまうかも知れない激しさは、オートマトンであり、高レベルであるシズには何の痛痒ももたらさない。むしろ全身を侵す甘美な悦びが深くなるばかり。

 

「あっあっあうぅっ! なにかっ、くるぅ! おくから、あついのがっ……。~~~~~~~~~~っ♡」

 

 体の最奥を乱暴に叩かれ、シズは未知の感覚にからめ取られた。一切の抵抗は無意味で全てを奪い取られる。

 甲高い叫び声は長く尾を引き、やがて部屋に静寂が戻った。

 

 

 

 自意識を取り戻したシズは、体の中で男の逸物が熱く脈打っているのを感じた。

 今まで存在を気にも留めていなかった女性器がきちんと機能して十分以上の性能を持っていることが嬉しくなり、もしかしたら体を委ねた男がちょっとだけ悪くないと思えて、シズは男の背に腕を回した。

 

「……動かせる」

 

 首に巻いた白いリボンはピンクに染まっていて、するりと解けた。

 意識するとお腹の中がいっぱいになっている。嬉しくなった。

 男と目があった。シズは餌をねだる小鳥のように唇をつきだした。

 さっきよりもずっと小さな、それでいていやらしい水音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 シズの体にたっぷりと精液を放った。ぐったりと体から力が抜け、甘い口づけを交わしながら余韻に浸る。

 自身を引き抜いたシズの体は、さっきまであんなに太い物を受け入れていたのに元の一本筋に戻っていった。股間はシズが溢れさせた淫液に濡れてはいるものの、たっぷり放ったはずの精液は一滴もこぼれていない。全てシズの中に収められたまま。人ではないオートマトンだからだろうか。謎である。

 

「約束通り挿入しました。部屋を出る方法を教えてください」

「む………………」

 

 直前まで体を重ねていたのに何と面白味のない言葉だろう。男女の機微や色恋をすっ飛ばしてエッチをしてしまったシズであるが、男の言葉は些か以上にカチンと来た。

 挙げ句、濡れた逸物をシーツで拭ってからベッドを下り、服へ手を伸ばしている。これは許していいものだろうか。

 

 シズの知識にはなかったが、射精を果たした男という物は冷静さを取り戻すのである。山高ければ谷深しと言うべきか、先の情熱と落差がありすぎた。

 これを賢者タイムと言う。男であれば誰しもこうなる。

 

「わかった。教える」

「っ!?」

 

 男の腕をとってベッドに引きずり込んだ。

 取った腕は逃がさず、ピンクのリボンで縛り付けベッドのパイプに結びつけた。

 未だ全裸の男は右腕を封じられ、左腕はシズに押さえつけられた。腹の上には見た目よりもちょっぴり重いシズが馬乗りになり、体は全く動かせない。

 

「6時間経過すると出口が開く」

「なん・・・だと・・・!」

 

 外敵が侵入してきた時に避難するセーフティルームである。逃げ込んだ一般メイド達がパニックになって戻ったりしないよう、一定時間を経過しないと出られないようになっていた。

 

「それまでもう一回試す。道具は使い込むほどいい味が出る。えらい人もそう言った」

 

 偉い人とは一体誰か。至高の御方々の誰かなのか。それともどこぞで要らん知識を仕入れたのか。

 

「勃起のさせ方はさっき覚えた」

 

 口に飲まされたとき、動かない手で握らされ扱かされた。力加減は覚えている。

 

「くっ……、あんなに出したばっかりでそんな扱き方で立つとでも……」

「立ってきた。…………ふっ」

「!?」

 

 可愛いシズが邪悪に笑った!

 後ろへ回した手でうなだれた逸物をさすってやれば条件反射のように立ち上がる。

 

「ぶたのようになけ」

「!?」

 

 可憐に潜む邪悪。

 幼気な美少女に嬲られる屈辱。

 どちらも男のトラウマをダイレクトに刺激した。

 

 シズが終始上になっていた三回目は、たっぷりと放った二回目より多かった。

 シズは復讐を果たしたのだ。




悟った( ˘ω˘ )
でも次話未定
ちょっと日が当たるとこにいってきます


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すごい図書館

 見る者が見れば大満足していると知れるシズの後ろをとぼとぼとついていく。色々と屈辱の時であった。

 

 ナザリックの方々は良くも悪くも正直だ。下手な奸計を巡らすことなく、欲しいものがあれば力でもってもぎ取っていく。愚かなのではない。知恵とは弱者が強者に抗う術なのだ。だと言うのに、シズには一体何度騙されたことか。

 精液の入手に当てがあるというのは嘘。脱出不可能のセーフティルームへ誘導された。

 セーフティルームからの脱出方法を知っていると言うのも嘘。6時間経過しないと出られない。

 しかし6時間経過しないと出られないのも嘘。4時間経過したところでシズがギミックを操作し、出ることが出来た。ギミックが操作を受け付けるのは入室から4時間経過してからと言うことだった。

 ところがこれも嘘。実は三時間経てば操作を受け付けるらしいのだ。

 余計な一時間で何をしていたかと言えばその前の三時間と同じくナニをしていた。ずっとシズ上位で。

 

 騙されていたのが屈辱なら拘束されてシズに好き勝手されたのも屈辱だ。あちらから素直にこういうことがしたいと言ってくれば受け入れなくもなかったが、騙されていいようにされるのは、とっくになくしたと思っていたプライドが大いに傷ついた。

 

「……シズさんとはもうしない」

「!?」

 

 小さな呟きを耳敏く拾ったシズは電光石火の速度で振り向いた。

 

「…………何故?」

「何度も嘘を吐かれて心が傷ついたからです」

「じゃあもう嘘を吐かない」

 

 じゃあってなんだじゃあって! と言いたいのをぐっと堪え、大きく息を吐いた。疲れ切った溜息だ。メイドのベッドで快眠して回復した体力と精力は全て吸い取られていた。

 

「嘘を吐かなくても嫌です。シズさんは自分勝手すぎます。加減を覚えてもらわないと体が持ちません」

「じゃあ加減を覚える」

 

 だからじゃあってなんだじゃあって! と言いたいのを歯を食いしばって堪えた。

 

「嫌なものは嫌です。大体したいならそう言ってくれればいいものを、人を閉じこめて縛り付けて」

「む…………。それを言うなら最初はそっちが私を縛った」

「私がしたわけじゃありません。私の意思が全く絡んでない以上、不可抗力です」

「過失を主張しても結果が全て。私を拘束したことに変わりない」

「ですから滞りなく解放に導いたでしょうが。その後のことは私に一切の非はありません」

「私は悪くない。やられたことをやり返しただけ」

「ああそうですか。だとしてももうしません」

「むう…………。それは困る」

「私は困りません」

 

 見る者が見れば焦燥しているとわかる無表情のシズ。見てもわからないが言葉からそうではないかと察せられるが、それはそれ。シズが困っても自分は困らない。自分が困るのはアルベド様が困るときだけだ。

 二人が言い争っているのは第九階層のロイヤルスイート。広い広いナザリックなので常に誰かが行き交っていることはない。けどもこの時は二人に掛けられる声があった。

 

「ここにいましたか。あら、シズも一緒にいたのね」

「ユリ様」

「ユリ姉」

 

 プレアデスの長女ユリ・アルファだった。プレアデスの例に漏れず幻想的なまでに美しい。長い黒髪をまとめて留めた夜会巻きとメガネがチャームポイントの知的な女性である。シズの姉であることから、シズがなんだか困っているらしいことに気が付いた。

 

「まずはアルベド様からのお言葉を伝えます。あなたがナザリックに滞在中は私どもプレアデスが世話をせよとご命令を受けました」

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」

 

 ユリと顔を合わせるのは初めてではない。先日にナザリックの玉座で行った演説と昨夜の出征式を除き、一昨日の夜シャルティアにナザリックへ連れてこられたとき表層部のログハウスで出迎えられた。その前はアルベド様に連れられアインズ様にお目通りしたときに同席していた。己の身の上を語った際、他の方々と違って痛ましく悲しそうな表情をしていたのが印象に残っている。

 それもそのはず。ユリのカルマ値は150。ナザリックでは珍しく明確に善に属している。見た目は白いのに中身真っ黒なこの男よりも遙かに善性を持っているユリは、やんちゃな次女やサディスティックだったり毒舌だったりする三女たちとは比較にならないほど優しく思いやりに溢れている。妹が困っているらしいのを放っておけない。

 

「お二人は何か言い争っているようでしたが何かお困りですか?」

「ユリ姉、聞いて欲しい。この男が酷いことを言う」

 

 ユリの目がキラリと光った。善に属するユリだが、アルベド様直属の配下であっても人間の男と大切な妹を天秤に掛ければ圧倒的に後者へ傾く。

 

「私をマジックアイテムで拘束しておかしなことをした」

「………………本当ですか?」

 

 ユリの声から温度が消えた。もしもシズの言葉が本当だったら創造主のやまいこ譲りの鉄拳制裁をしなければならない。なお、ユリの創造主でアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーであった「やまいこ」は女教師であった。

 

「そこへ至った過程が抜けています。まず、拘束したのは私の意思ではありません。シズさんの不注意です。それに拘束はすぐに解けました。それなのにシズさんときたら私を密室に閉じこめて縛り付けて、何時間も好き放題したんです」

「あれは正当な報復。そっちも悦んでた」

「それはシズさんの勝手な解釈です。私が何度解放を訴えたか数えてましたか?」

「そんなの一度も聞いてない」

「……こんのちびっ子がぁ……!」

「ユリ姉助けて。この男がいじめる」

 

 シズはさっとユリに駆け寄って後ろへ回り込んだ。背中にすがりつき、姉の顔をじっと見上げる。困ったことに、ユリにはどちらに非があるかわかってしまった。

 

「ボクは表層部のログハウスに詰めていないとだから彼の相手はシズにお願いするつもりよ。悪いことをしたならきちんと謝って仲良くしなさい」

「…………はい。ごめんなさい」

「よくできました。シズが色々したくなっちゃうのはわかるけどほどほどにしないとダメよ?」

「!?」

 

 傍らで聞いていた男はユリの言葉に衝撃を受けた。ユリはほどほどのエッチなら構わないと言っている!

 思えば、次女は発情狼。三女は淫乱スライム。もう一人の三女であるナーベラルは知識が少なくそれほどでもなかったが知らないだけなのだろうか。末妹のシズは搾精人形で、彼女らを束ねる長女のユリも相応の存在なのかも知れない。未だ一度も会ったことがないプレアデスの最後の一人、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータはアラクノイドと呼ばれる人の形をした蜘蛛であるらしいからそのようなことはないと思われるが以上を振り返ると全く自信がもてない。人肉が大好物であるらしいのでそちら方面への欲求はないと思えるのだけどソリュシャンの例がある。

 実のところ、エントマとはプレアデスの誰よりも固い絆で結ばれエ・ランテルのお屋敷を恐怖のどん底に落とすことになるのだが、それはアインズすら見通せない未来の話である。

 

 勿論のこと、男がユリに対して思うのは誤解である。ユリもまた誤解していた。

 ユリは、シズは可愛いものが大好きだと知っている。そしてこの男は、ユリであってもじっくりと鑑賞したくなってしまう美貌の男。シズがちょっぴりやんちゃして撫で撫ですりすりしたくなるのは頷ける話。

 

「無理のない範囲でシズに付き合ってあげてください」

「……はい。……かしこまりました」

「私にかしこまる必要はありません。プレアデスと言えどメイドであることに変わりありませんから」

「……はい。……わかりました。ユリさんとお呼びしてよろしいでしょうか?」

「構いませんよ」

 

 ユリは艶やかに笑ってその場を離れた。シズは見る者が見ればわかるドヤ顔で胸を張った。

 

「私が案内する」

「……お願いします」

「どこへ行きたい? また休憩する?」

 

 誰がするかと言いたいのをぐっと堪えた。今は避けられても就寝時にはまたシズに絞られると思うと肩が落ちる。絞り出すように言った。

 

「最古図書館へお願いします」

 

 

 

 

 

「………………お…………おお……おおお…………おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 ナザリックが誇る知の集積場、最古図書館「アッシュールバニパル」は第十階層にある。一歩足を踏み入れるなり、男はわけのわからない声を上げて跪いた。感極まって精神と肉体が制御できなくなったのだ。

 どこまで続くのかと思うほどに広い回廊は、壁の全面が書架になっており無数の本に埋め尽くされている。天井は高く、仰ぎ見ればアーチ状の天井には見事なフレスコ画と細工の数々。そんなものよりも二階層部分だ。ざっと目算で高さ三メートルはある書架の上にはバルコニーが突き出しており、そこもまた一階層部と同じ高さの書架が果てしなく並んでいる。

 しばし放心していた男はおもむろに立ち上がって書架に近付き、一冊抜き出した。文字が書いてある。シャルティア様に習い、九割九分は自主学習で修得した日本語で書かれている。ぱらぱらとめくってみる。ここではないどこか遠い国の服飾について書かれている。隣の本を抜き出す。内容はさっきの本の前編であるらしい。

 無数の書物は飾りではなかった。数えるのもバカバカしい程の書物は飾りではなかった。どれもが自分の知らない知識を静かに抱えている。

 

 

 

 

 

 

 男は勿論、ナザリックのシモベ達も知らないことであるが、最古図書館の完成には曲折があった。

 男の心を震わせたように、最古図書館は非常に広い。収容可能な書籍数は無限といって良いほど。

 しかしながら、ナザリックがかつて存在していたユグドラシルでは非常に本が少なかった。本の形をしたアイテム、或いは魔法やスキルについて記された魔道書や武芸書などいわゆるスキルブックの類を全て網羅しても確実に五千を切る。たった五千冊で図書館を名乗るなど烏滸がましいにも程がある。個人レベルの書斎なら大した量だがここは図書館だ。全く持って話にならない。

 ならばと言うことでユグドラシルでの映像記録などを書籍の形にして保存することにしたが、それでも到底万にも届かない。仮に届いたとしても、蔵書数が一万冊で図書館を名乗るなんて恥ずかしいと言うより勘違いしている。それは、図書室のレベルだ。

 ここにいたり、ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルドメンバー達のやる気に火がついた。ガチ勢のギルメン達だが、そんな時こそ盛り上がる遊び心を持っている。各々が自分が持ってる本を提供した。今はアインズと名乗るモモンガも仕事を覚えるのに必要だったビジネス本などを提供したものだ。

 ペロロンチーノも頑張った結果、メイド達を惑わせることになったのは措いておく。ペロロンチーノが提供した書籍群はユグドラシルでのR18規制に引っかかるものばかりだったのだが、そこは暗号化することで規制をすり抜けていた。書籍のページを開いても文字化けした意味不明のものばかり。そんなものを一々解読するほどユグドラシルの運営は暇ではなかったのだ。まかり間違えばBANの危険があったというのに、シャルティアの創造主であるペロロンチーノがどれほど勇気に溢れた人物であるか知れると言うものである。

 41人のギルメンが頑張った結果、そこそこの数が集まってきた。多量の資料を持っている漫画家や現役教授がいたので、集まった本はなんと5万に届いた。

 5万冊あれば立派な図書館である。しかし、最古図書館をいっぱいにするにはあと三桁くらい足りない。人力でどうにかするには不可能と悟り、ヘロヘロを筆頭にプログラミングの技術がある者が何とかしてしまった。WEB上から無料公開されている書籍データを自動でダウンロードして最古図書館へ追加するプログラムを組んだのだ。

 1000万冊に届いたときは花火を上げ、ギルメン達は自らの勝利を祝った。アインズの心を仄かに照らす思い出だ。

 ギルメン達がユグドラシルから離れた後もプログラムは動き続け、総数が幾つになったのかはアインズも知らない。全てを知っているのは最古図書館の司書長だけである。

 

 

 

 

 

 

「閲覧禁止の本もある。立ち入り禁止の場所にあるから、見える範囲の本は全部読んでいい」

 

 シズはここへ案内しただけだ。最古図書館の利用はアインズ様から許可されている。だと言うのに、男はシズから散々弄ばれたことも忘れ、心の底からの感謝をシズに捧げた。シズちゃんはとっても可愛いしエッチは淡泊だったけどなんだかんだでいっぱい出ちゃってつまるところシズちゃん最高!

 

「貸し出しには図書カードが必要。詳しいことは司書長から聞いて欲しい。案内する」

「はい、お願いします」

 

 引き合わされた司書長は小柄なお骨であった。人の骨とは違い、頭蓋から二本の角が伸び、緋色のローブから覗き見える手指は四本だ。

 

「よろしくお願いします」

 

 そんなことで臆する男ではなかった。にこやかに挨拶をして、握手のために手を差し伸べる。これには司書長も困惑した。最古図書館には帝国から来た人間が利用することもよくある。魔法に狂って何も見えなくなった老人を除いて誰もが自分へ恐れを抱いた。人間からこうも友好的な態度を示されるのは初めてだ。

 司書長ティトゥス・アンナエウス・セクンドゥスは気を取り直して男の手を握った。図書館の地理や利用方法などを説明して男の名前を登録した図書カードを作成する。物凄く広い図書館なのでどこにどの本があるかは案内板や目録カードを参照。数名いる司書へ問い合わせても良い。

 一通りの説明を受け、男は晴れて最古図書館を利用することが出来るようになった。しかしがっつくのはまだ早い。欲望に身を任せるのはすべきことを終えてからだ。

 

「ティトゥス様にお願いがあります。口述筆記が可能な方を紹介していただけないでしょうか?」

「司書であれば誰でも可能です。もちろん私でも。何故ですか?」

「デミウルゴス様へ提出するレポートの清書をお願いしたいのです」

 

 過日、デミウルゴス様に課されたレポートは完成し、三部のうち二部まではアルベド様に添削されて完成度は完璧である。しかしながら字が下手だった。日本語を書くのに慣れていないし、頭の中で瀑布の如く湧き出る文字を一字一字手で書いていくのは非常にじれったく、のたうつミミズの様なとまでは行かなくも速記のような崩し文字になった。アルベド様にも下手ねえと笑われるほど。

 頑張って丁寧に書いてもたかが知れている。日本語の読み書きが完璧になった今でも、アインズ様へ提出する書類はソリュシャンが清書しているのだ。

 そんな字で書かれたレポートをデミウルゴス様へ提出するのは大変に心苦しい。であるならば、本職の方へお願いした方がいいに決まっている。

 

「レポートの作成に参考にした書物はありますか?」

「はい。デミウルゴス様から貸与されたもので、タイトルは……」

 

 高度な専門知識を要する書籍で、内容を把握しているのは司書長であるティトゥスだけだった。口述筆記するだけなら他の司書でも可能だが、内容を把握していなければスムーズな筆記は難しい。

 

「デミウルゴス様からの課題となれば無下には出来ません。私が行いましょう」

「よろしいのですか?」

「構いません。他行中は他の司書へ任せますから」

「ありがとうございます。と言うわけで、シズさん。しばらくの間、ティトゥス様に付き合って頂きます。おそらくシズさんには退屈と思われますので」

「……わかった。終わったら一緒に本を選ぶ」

 

 シズはふらふらと何処かへ歩き去り、男はティトゥスに案内されて静かな閲覧室へ連れて行かれた。

 

「ではお願いします」

 

 男の口から淀みなくエ・ランテルを発展させるための都市計画が流れ始めた。




ここ十日で寿命が十年縮まり五年回復するようなことがあり、ちょっと他のを書いてたところ何を書こうとしてたか綺麗に忘れたので書きやすいところに戻ってきました
今週中にはカルネ村にいけるといいなあと思います


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それは無情な

 二時間は休みなく喋り続けた。途中で話し疲れても、仄かな甘味と爽やかな酸味がとても美味しいナザリック製清涼飲料で喉を潤せば体力回復、舌の回転速度も上がっていく。ちなみにシズが持ってきてくれた。やっぱりシズちゃんは最高である。

 

「以上になります」

 

 参考にしたテキストはティトゥスも読んでいたので最初から最後まで滞りなく口述筆記を終えることが出来た。頭の中にレポートの文章を全て仕舞っていた男もさることながら、段々と早口になっていく男の口述について行き完璧に筆記を完了したティトゥスもまた最古図書館の司書長に相応しい。誤字は一字もなく、文字は篆刻を押したかのように美しい。

 長々と語っていたので流石に疲れたのか、男は大きく口を開けては閉じ、百面相をして顔面の体操をしている。ティトゥスは男の奇行に目を向けず、たった今筆記したレポートに目を落としていた。

 三部あるレポートは一つのレポートを三章に分けたのではなく、三つのアイデアをそれぞれ独立させたもの。外部性を考慮しない荒削りで、細かな粗は幾つもあるが、政策立案ではなくテキストの理解度を計るのが目的なのだから十分と言えよう。ティトゥス以外の他の司書達の査読にも耐えうる出来。これならばデミウルゴス様に提出しても男が恥を掻くことはないと思われた。

 しかし、と言っていいものかどうか。

 一案は現地の技術だけを活用した都市計画案。

 二案はナザリックからの技術をローカライズして提供。当然のことながら、こちらの方が一案よりも遙かに発展していく。

 三案が問題作だった。一・二案より遙かに荒い。これはアルベドの添削を受けていないので当然だが、そのような次元ではなかった。ここまで大胆なアイデアは極悪集団ナザリックからも出てこない。

 ティトゥスは男の正気を問うた。

 

「三番目のレポートについて伺います。これをデミウルゴス様に提出するのですね?」

「はい。課題の趣旨とは少し外れるかも知れませんが、この程度の遊び心ならデミウルゴス様は笑って受け入れてくださるものと思っております」

「仮にこの計画がアインズ様へ上申され実施されることになったらどうしますか?」

「光栄です。私のアイデアがどのような形を作っていくのかとても楽しみです」

「序章の部分です。あなたの親しい人が巻き込まれたらどうしますか?」

 

 ティトゥスの問いかけに、男はぱちぱちと瞬いた。とても不思議で思いがけないことを言われた顔。

 

「実行するのは発案者である私ではなく、適切な人員が当てられると存じます。私がどう思おうと実行者は適切な行動をとるでしょう。始まった計画を私の気分で左右することなどあってはいけません」

「……、そうですね。愚かなことを聞いてしまいました。謝罪しましょう」

「いえ、謝罪などとんでもないことです。愚者はどこまでいっても愚者ですが、賢者は愚者にもなれると知っています。ティトゥス様でなければ出来ない問いかけでしょう」

「そ、そうですか」

 

 繕うことを知らない素直な男である。デミウルゴスを感心させ、ソリュシャンに理解を諦めさせるほど優れた頭脳を持つ。そのため、匙加減をちょっと間違えるとソリュシャンを感心させるほどの毒舌が流れるように出てきてしまう。幸いにもティトゥスは賢者だった。

 

「いずれにせよ私に親しい人間は一人もおりません。ご心配には及びません。お気遣い、ありがとうございます。………………あのね、シズさん。いますごい真面目な話をしてるんですよ?」

「終わった?」

 

 膝上のシズに声を掛けた。

 時々様子見に来てフレッシュジュースの差し入れをしてくれていたシズは、ティトゥスが無言でレポートに目を落として男が百面相しているのを見て、口述筆記は終わったのだと判断。男の膝によじ登り、男のくせに傷も染みもない繊細な手を弄び始めた。

 

「終わりました。誤字はないと思われますが、念のために一読してもらった方がいいでしょう」

 

 ティトゥスがレポートの束を整え男へ差し出す。男は一礼して手を伸ばし、ピタリと止まった。如何にも不審な様子にシズとティトゥスは揃って首を傾げた。

 

「今は最古図書館におります。いえ、決して遊んでいたわけではありません。むしろ自由な時間は一時たりともありませんでした。これからようやっと本を選ぼうと……」

 

 なにやらおかしな独り言を言い始めた。シズとティトゥスが傾げる首の角度が深くなる。男は明後日の方向を見ながら机の上に手を伸ばし、ティトゥスが筆記に使っていた羽ペンを掴んだ。ティトゥスが気を利かせて未使用の紙を渡すとペンを走らせた。

 

(ナーベラルさまからメッセージのま法がありました)

 

 下手な字である。ティトゥスは男が代筆を頼んだ理由に心の底から納得した。

 

「今から!? 無茶を仰らないでください。私は最古図書館に来たばかりでまだ一冊も読んでないんですよ! ですから遊んでいたわけでは。アインズ様の出征式に参加することを許されたのです。はい、アインズ様のお言葉は一字一句覚えておりますから」

 

(早くエランテルにもどってこいとおおせです)

 

 メッセージの魔法でナーベラルと会話しながら文字を書いている。器用な男である。

 シズは男の手からペンを奪い取り、紙に一文を書いた。

 

(メッセージの魔法は喋らなくても相手に伝わる)

 

 男は頬を赤らめた。変な見栄を張らず、素直に感情を表すところがエ・ランテルのメイド見習い達に評判がよいと知らないでいる。

 

「………………、いえそんなつもりは。けっして誤魔化そうなどと思っているわけではありません」

(早口すぎて何言ってるかわからないとおこられました)

 

 思考の速度がそのまま相手へ伝わるメッセージの魔法は、相手にも同等の思考速度が要求される。ナーベラルが遅いのではない。こちらが早すぎるのだ。

 

「………………、そ、れ、は。急ぎではないのではないでしょうか?」

 

(私の仕事がたまってるそうです)

(それはいけませんね)

(いえですが急ぎの仕事はないはずです。アインズさまへのごほうこくも今はえんせいに赴かれておりますし)

 

「うっ………………。それを仰られると……、はい、申し訳ありません。パンドラズ・アクター様へお礼申し上げます。……直接言えと? はい、そのつもりですが……」

 

(急にいなくなった私の不在を不しんに思われないようパンドラズアクターさまがお姿を変えてくださってるそうです)

 

 生来の病弱でエ・ランテルに療養に来たところを魔道国から秘薬を与えられて回復したと言う微妙に真実が混じっている設定になっている。数日なら寝込んでいてもいいだろうが、全く姿を見せないのは不審極まる。グレーター・ドッペルゲンガーのパンドラズ・アクターが男に化けてメイドたちの不審を拭っている様子。

 

「カルネ村を訪れないわけには行きません。これから何度も訪問することになるのですからこの期に顔見せを……」

 

(まっすぐよりみちせず帰ってこいと言ってます。子供あつかいですよ)

 

 シズは気分良さそうに鼻を鳴らした。エントマと末妹争いをしているシズはいつも子供扱いされる。子供扱いされる男を見て、同士を得た気持ちになった。

 

「それにカルネ村には会ってみたい女性が…………~~~~~~っ!! あたまに、響くので……。は? エンリ? 大将軍の? 男性ではなかったのですか? いえ、大将軍と伺っていたのでてっきり男性なのかと」

 

(エンリ大将軍って女せいだったのですか?)

(アインズ様が初めて会ったこの地の人間。ゴブリンを従えてるのでルプーがふざけて将軍と言っている)

(ルプーにからかわれてたんですね私は)

 

「いやだって一冊も……。アルベド様はあと三日は滞在して良いと……、ええ…………。そんな……だって……、それはそうですけど初めて来たんですよ!?」

 

(早くもどれの一点張りです。ソリュシャンがうるさいらしいです。どうすればいいでしょう?)

(諦めては?)

(ティトゥスさまひどい)

(私がいるから帰れないと言えばいい)

 

「シズさんがいるので帰れません。~~~~~~~~~っ!!! ……………………はい。そう言えと言われただけです」

 

(めちゃくちゃどなられました)

(お前馬鹿すぎ)

 

「なんだと!? ……申し訳ありません! けっしてナーベラル様へ申したわけでは。……はい、申し訳ありません……。いえ、ユリさんは適度に相手をせよと仰っておりましたので。はい、そうです。ユリ様のお言葉なんです、はい」

 

(シズさんに言ったつもりなのになーべらるさまへ伝わってしまったらしいです)

(私は仕事へ戻ります。こちらは封をしてデミウルゴス様配下の方へ届けておけばよろしいですか?)

(はい、お願いします)

 

 ティトゥスはレポートの束を丸めて筒にいれ、蓋に封蝋を垂らして封印した。封蝋には司書長の印璽を押す。これで封筒を開けるのはアインズ様を除けばデミウルゴス様のみとなる。

 本来なら最古図書館の次に第七階層を訪れてデミウルゴス様配下の悪魔へ渡す予定だったのだが、そんな時間はなくなりそうだ。

 

(ちょっとシズさんなにしてるんですか)

 

 ティトゥスが閲覧室から離れるなり、膝上に座っていたシズは立ち上がった。男の胸に背を預けて座っていたのを互いに向き合うように座り直す。

 

「すぐ帰らないといけないなら今の内にしておく」

 

 シャツのボタンを外して胸をはだけさせる。男の耳へ唇を寄せ、小さく囁いた。赤い舌が耳朶を舐め、首筋へと這っていく。

 

(まったまじで、かえる前に時かん作りますから今はほんとうにまって)

 

「わかりました。明日です。明日、ナザリックを発ちます。カルネ村の滞在はたとえ一日でも今後のために必要です。エ・ランテルに戻るのは明後日になるかと。三日を一日に短縮するのですよ? ナーベラル様はいらっしゃいませんでしたが、そこのお二方はご存知のはずです。アインズ様から許可を頂いたのですから。…………はい、そのように」

「うわぁ」

 

 シズを巻き込んで机に倒れ込んだ。

 長い長いメッセージの魔法がやっと終わった。そしてナザリックの滞在も終わってしまう。ちょっぴり涙が出そうになった。

 

「シズさん、降りてください。ナーベラル様と話がつきました。明日の昼過ぎにナザリックを離れます。それまでに時間をとりますから今は本を読ませてください」

「……わかった。約束。…………、ナザリックにはまた来る?」

「勿論来ます。何度でも。借りた本を返さなくてはいけませんし」

「ん」

 

 シズは男の膝から飛び降りた。

 

 最古図書館に来たときと同じように、満足そうなシズの後ろをとぼとぼとついていく。

 ソリュシャンとルプスレギナとナーベラルの三姉妹に責められてナザリックの滞在が終わってしまった。これから三日間は寝食を忘れて読書に耽る予定だったのに。ナザリックの方々はいつもこうである。しかし、今回の訪問は急だったので色々なところに無理が生じてしまった様子。次回以降は正規の訪問許可を得て滞在すればよい。

 本の貸出期間は二週間で一回の延長が可能。月に二度、少なくとも一度は訪問出来るはずである。今回は過ぎたこととして色々諦め、次回以降の訪問に胸をときめかせた。

 シズの先導で図書館の地理を示す案内板の前に立ち、意外な人物に会った。

 

「珍シイ処デ会ウナ」

「コキュートス様」

 

 メタリックブルーのヴァーミンロード。身長が250センチもあるので梯子を使わなくても書架の最上段に手が届く。代わりに最下段へ手を伸ばすのは割と大変。

 ここでコキュートスに遭遇したことが男の運命をちょっぴり曲げることになる。結果として苦しむ人がでるやも知れぬが今は誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

「話がついたわ。明日、ナザリックを出発するそうよ」

「はーーー。まったくなにやってたんすかねー。あのおにーさんは」

「全くよ」

 

 エ・ランテルの大きなお屋敷の書斎ではプレアデスの三姉妹が揃っていた。主不在の書斎であるが、屋敷で二番目に強固な防諜処置が施されている部屋であるため、内々の話をする時に使われることが多かった。なお、一番の部屋はアルベド様のお食事部屋である。

 

「エ・ランテルに戻るのは明後日だそうよ。一人で帰らせるわけにはいかないから私が迎えに行ってくるわ」

 

 ナザリックとエ・ランテルの間には相当の距離があり、徒歩では途中で野宿を挟む必要が出てくる。カルネ村が隣接するトブの大森林はアウラがしめたのでおバカな野良モンスターは少ないはずだが絶対安全とまでは言えない。無力な男を一人歩かせるわけにいかず、ナーベラルの提案は尤もであった。

 

「駄目に決まってるでしょう」

「そうっすよ。何言ってるんすか?」

「どうしてよ!」

 

 しかし姉妹二人から即座に却下された。

 

「貴女は漆黒のナーベなのよ? 貴女が動くとモモン様も同行しなければならなくなるわ」

「ナーちゃんの我が儘にパンドラ様を付き合わせるつもりっすか? ナーちゃんはいつからそんな偉くなったんすかねー?」

「くっ……」

 

 正論である。ナーベラルは悔しそうに顔を歪めた。

 

「だから私がお兄様のお迎えに行ってくるわ!」

 

 ソリュシャンが顔を輝かせて宣言した。愛しのお兄様をお迎えするのは自分以外にあってはならない。お兄様成分が欠如しつつあるソリュシャンは一刻も早く補給しなければならないのだ。

 

「残念でしたー。ソーちゃんも駄目っすね。お屋敷のお嬢様に一人旅なんてさせるわけにいかないっすからねー」

「自分の立場を弁えなさい。ソリュシャンが屋敷を留守にしたら主人が不在になるわ」

「くっ……」

 

 ソリュシャンも正論でもって却下された。

 

「ってわけで私が行ってくるっすよ! 私はカルネ村をよく知ってるし? 道もよく知ってるし? 私以上の適任はいないから仕方ないっすね! 二人は大人しく留守番してるっすよ。私がちゃーんと連れてくるっすから」

 

 正論である。

 三者の中でルプスレギナ以上の適任はいない。しかしながら姉の提案を素直に通すほど寛容な妹たちではなかった。

 

「…………駄目よ」

「…………抜け駆けなんて許さない」

「二人とも何言ってるんすか。私が行かないで誰が行くって――」

「駄目なものは駄目と言ってるのよ!」

「そうよ。ソリュシャンの言う通りよ。ルプスレギナに任せたら絶対に真っ直ぐ帰ってこないわ」

「むむ……、真っ直ぐ帰ってこないのは二人の方じゃないっすか!」

 

 睨み合う三姉妹。

 ソリュシャンとナーベラルは姉の横暴を阻止出来るのか。

 ルプスレギナは妹二人の無茶を正すことが出来るのか。

 実にくだらない姉妹喧嘩が勃発してしまった。麗しい姉妹愛を持つ三者なのだが、男が絡むと話は別になるらしい。

 

 男の帰路に暗雲が立ちこめていた。



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立ち塞ぐのは

 立ちこめた暗雲は夜になって雨を降らせた。大気中の塵が洗い流され翌日は素晴らしい晴天になった。空は天が抜けたと思うほどに青く雲が目映い。

 ナザリック地下大墳墓表層部の霊廟を仰ぎ見る。荘厳な巨大建築物は慈雨に清められ雲よりも白く輝き、さながら支配者の玉体の如く。

 周囲はどこまでも草原が広がっている。緑の原を通る風が爽やかな涼風となって吹き抜ける。ここでピクニックしたらさぞや楽しいことだろう。事実、かつてナザリックを訪れた帝国の皇帝をこの場でもてなしたことがあった。

 振り返ると大きなログハウスの隣に、これまた大きな馬車が停まっている。四頭だての立派な馬車で、御者台にはメイド服の麗人。

 

「今日明日の二日間、よろしくお願いします」

「はい、任されました」

 

 御者台のユリは晴れやかに笑った。

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルにいる三姉妹が争っていた男の迎えは朝方になって決着がついた。ソリュシャンとナーベラルは諸事情により不可。ルプスレギナがやっとのことで勝利を収めた。

 ご機嫌になって早速お屋敷を飛び出ようとするルプスレギナを悔しそうに見ていたナーベラルは、寄り道せず真っ直ぐ帰るように釘を刺すべく男へメッセージの魔法で連絡をとったところ、ナザリックからエ・ランテルまではユリが送ってくれることになったので心配無用と答えがあった。ルプスレギナは遅すぎたのだ。

 男の安全を一番気にかけているのは誰あろうアルベド様である。着の身着のまま歩いて帰らせるわけがなかった。護衛としてユリを付け、馬車を用立てたのだ。ちなみに、王国基準では物凄く立派で王侯貴族専用と思われるほどの馬車だが、ナザリック基準ではまあこれくらいなら恥ずかしくないかなレベルである。馬もユリが操れるようアンデッドである。目元以外は馬具で隠れているのでぱっと見にわからない。

 

 

 

 

 

 

 ログハウスの前で手を振るシズへ手を振り返し、馬車の旅が始まった。

 男は馬車の中に入ることなく、御者台のユリの隣に座っている。立派な馬車で一人きりなのは心苦しいとか思うほど繊細な心は持ってない。美しいユリの隣に座っていたいとの下心もない。ナザリックでは色々あってお腹いっぱいである。

 それでも御者台に座りたがるのは馬車の旅が初めてだからだ。

 自分の足で歩くことなく移動できる面白さ。頬を撫でる風が心地よく、鳥の囀りも耳に楽しい。身を乗り出して後ろを振り返れば、あれほど大きかった霊廟が手の平に乗るほど小さくなっている。

 

「危ないですから立ち上がらないでください。本当なら中で座っていて欲しいのですが」

「ご配慮、痛み入ります」

「そう仰るなら何度も同じことを言わせないでください。今度同じことをしたら縛って中に放り込みますよ?」

「立ち上がらなければいいのですね」

「そうじゃなくて……、ああもう!」

 

 背もたれを掴んでアクロバティックに身を捩る男の襟を引っ張って座らせる。馬車が動き始めてからずっとこれである。馬車の旅がよほど楽しいのはよくわかるが、もしも落っこちて怪我でもされたらアルベド様からお叱りを受けるのは自分である。出来るなら本当に縛り付けておきたい。しかし、目をキラキラさせている男の顔を見ると苦笑を止められない。まるきり子供である。

 

「後ろよりも前をご覧ください。カルネ村が見えてきました」

「…………あれは村の規模ではありませんね」

 

 馬車が行く先には、視界の端から端までを長い城壁が覆っていた。

 

 カルネ村は数奇な運命を辿っていた。

 何事もなければ今日も昨日も明日も、百年前と同じ時間が流れていた辺境の農村だったはずである。しかし、政争に巻き込まれ虐殺の憂き目に遭い、この地に転移してきたばかりのアインズに救われ、色々あって村娘のエンリがゴブリン軍団を手に入れ、戦争に巻き込まれ、さらに色々あってエンリがゴブリン大軍団を手に入れ、大軍団の尽力とナザリックの支援により劇的な発展を遂げていた。

 魔導国の拠点がエ・ランテルなら、ナザリックが現地で初めて手に入れた橋頭堡がカルネ村である。このカルネ村の守護をルプスレギナはサボってしまってアインズ様からお叱りを受けたのである。

 

「聞いていた通りゴブリンの村なのですね」

 

 ナザリックの馬車の行く手を閉ざす城門は存在しない。

 中に入れば好奇の視線があちらこちらから飛んできた。人間もいるが、エンリがマジックアイテムを使って総数5000以上ものゴブリンを召喚してしまったため、ほとんどがゴブリンである。

 村なのに馬車がそのまま通れるほど整地された大通りを進み、馬車が止まった屋敷の前には一人の少女と少女未満の幼女が一人と、矮躯だが屈強な体つきのゴブリン数人が待ち構えていた。

 好奇と警戒と畏怖の視線を物ともせず、ユリが止める暇もなく男は颯爽と御者台から飛び降りた。

 

「今日と明日の二日間をカルネ村に滞在します。カルネ村を束ねる方に引き合わせて頂けますか?」

「ひゃいっ!?」

 

 幼女とゴブリンたちは一瞬で悟った。辛く厳しく悲しい事であるが、薬屋の少年の恋が散ったであろう事を。

 

 

 

 

 

 

 ナザリックから馬車が来たとの報告を見張りから受けたエンリは、慌てて身繕いを整えてから妹のネムと護衛のゴブリンたちと一緒に賓客を出迎えた。

 お一人は何度かお会いしたことがあるユリ・アルファ様。先日までカルネ村に滞在していたルプスレギナ・ベータ様のお姉様であるらしい。雰囲気からとても優しいお方であると伝わってくる。当然の事ながら、世界にはこんなにも綺麗な方がいらっしゃるのかと思うほどお綺麗な女性である。

 もうお一方は初めてお会いする。男の人である。驚くべき事にユリ様が隣にいても全く見劣りしない。絶対にどこかの貴族様か王子様に違いない。それどころか伝説や神話の男神様が衆生をお救いになるために顕現為されたと言われたらははーっと跪いてしまうだろう。だと言うのに。

 

「商家の一族の末子です。本家が支援していた縁があってモモン様と誼を結び、現在はエ・ランテルで魔導国と市民の仲介役のようなことをしております。恥ずかしながら政治には疎く、時折つまらない事を上申する程度しかしておりません」

 

 エモット邸の客室にて、頑丈なだけのテーブルを挟んで対面している方は声すら音楽的で美しかった。

 ナザリックのシモベ達ですらほうと唸る美貌は、恵まれた生活と美神の寵愛によってますます磨かれ、いよいよ魔性を帯びつつあった。純朴で年若な田舎娘には刺激的どころか毒でしかない。

 

「そそそそっ……そうなんですか」

 

 思い切り舌を噛み、涙目になって答えた。彼の御人はくすりと笑った。エンリは真っ赤になって俯いた。視界の端では一応の建前の護衛として付き添ってくれているゴブリンのジュゲムがあっちゃーと言わんばかりに額を押さえている。

 だが仕方ない。エンリはゴブリン大軍団を率いる軍団長の大将軍でありゴブリン一族をまとめる族長でもあり、且つかつてとは比較にならないほど強大になってしまったカルネ村の村長に担ぎ上げられてしまったが、中身は純朴な村娘である。指揮能力や胆力は中々と思われることがあっても、貴人と会合を持った経験は皆無である。ガッチガッチに緊張しきっていた。尚、アインズ様達は貴人と呼ぶより救世主の神様のすごい方なので緊張の仕方が違う。

 

「エンリさんならご存知でしょうが、魔導国の最重要拠点はカルネ村近郊にあります。私はエ・ランテルと彼の地を行き来する必要があるため、今日のように時折カルネ村に滞在することになります」

「そっ……うなんですね。好きなだけ滞在しちゃってください!」

「ありがとうございます。ご厚意に甘えさせていただきます」

 

 エンリは赤い顔のまま、何度も何度も首を縦に振った。こんな無様を晒すくらいならジュゲムが代わってくれればいいのにと思うのだが、カルネ村の村長である自分が出ないわけにはいかなかった。

 もしも二人きりだったら絶対に会話にならない。馬鹿のように見とれて何も言えないに決まっている。お目付役としてジュゲムと、あちらの付き添いとしてユリがいるから何とか自意識を保っていられる。と同時に気が気ではなかった。

 

「お兄ちゃん結婚してるの?」

「ネムッ!!」

「してないよ」

 

 彼は下を向いて答えた。あろうことか、膝上に妹のネムを乗せているのだ。

 家の前で挨拶と簡単な自己紹介を交わした後、彼はにっこりと笑ってネムを手招きした。夢遊病者のようにふらふらと近づくネムを、彼はあろうことかさっと抱き上げたのだ。それどころか、目を白黒させているネムへ「抱っこと肩車はどっちがいいかな?」と尋ね、ネムはあろうことか元気な声で「抱っこ!」と答え、以降ずっとくっついている。椅子に掛けるときもネムを膝上に乗せた。エンリは妹が失礼をしないかと怖くて仕方がない。

 

「それじゃお姉ちゃんは? 村では一番美人で結構人気があるよ?」

「ネムーーーーーッ!?」

「私は自分で結婚相手を選べるほど偉くないからね。でもエンリさんはとても素敵な人だと思うよ」

「あうぅ………………」

 

 エンリは穴を掘って埋まりたかった。素敵な人とか言うのはどうせ社交辞令に決まっているとわかっているのに嬉しいやら恥ずかしいやらでわけがわからない。

 

「まあ結婚と言っても、所詮は夫が妻を家庭に縛り付けて拘束したいだけで国家からすれば個人単位より家庭単位で管理した方が楽って意味しかないけどね。そこのところ女性はどう思うんだろう?」

 

 幸いなことにソリュシャンはこの場にいない。ユリがわざわざ伝えることもない世間話。もしもソリュシャンが男の結婚観を聞いた場合、怒りのソリュシャンズームパンチが男の土手っ腹に風穴を空けることだろう。

 

「それはそのあのそのええと……」

 

 エンリは視線を彷徨わせた。ユリを見た。苦笑している。ネムを見た。輝かんばかりの笑顔。男の顔は見れない。見たらのぼせて何も言えなくなる。ジュゲムを見た。厳めしい顔をして重々しく頷いた。さすがのゴブリン隊長は頼りになる。

 

「あっしから旦那さんにお一つ聞いてもいいでしょうか?」

「エ・ランテルでは若旦那と呼ばれてるよ。旦那にはまだちょっと届かないかな」

「それでは兄さんと呼んでも構いやせんか?」

「構わないよ」

「それでは……」

 

 エンリの後ろに控えていたジュゲムは一歩前に出た。

 ジュゲムはゴブリンだ。人間の子供並の身長しかないが横幅は成人男性ほどもある逞しい体つき。潰れた鼻に尖った耳。下顎から生える二本の牙が口の外に突き出ている。一番の違いは木々の緑で染め抜いたような緑色の肌。

 

「あっしらはゴブリンです。それなのに兄さんは全然気にした様子がない。ゴブリンが怖くないんで?」

 

 エンリ達の表情が動くが、ジュゲムは男だけを注視していた。

 こんな美貌の男が只の人間とは思えない。強さは全く感じないが、何かしらの方法で隠しているのかも知れない。ナザリックの方々のように自分たちを虫けら程度にしか思えないほどの力があるのなら恐れる必要は全くないだろう。そしてそうであるなら我らが総大将であるエンリの姐さんに近付けるわけにいかない。

 内心では決意を秘めたジュゲムを余所に、男は懐かしさに思わず微笑んだ。

 

「前も同じ事を聞かれたな……。恐怖は死の気配に触れると自然に湧き出る感情です。平和なカルネ村で誰に会おうとそんなものを感じる訳がありません。それにジュゲムさんはエンリさんの護衛なんでしょう? 何かあったらついでに私のことも守ってくれるんじゃないかくらいに思ってます」

「……そうですか。失礼なことを聞きやした。失礼ついでに同じ事を聞いたのはどちらさんです?」

「アインズ様ですよ」

 

 その場にはユリも同席していた。

 エンリとネムにとっては救世主であるアインズだが、ジュゲムは言葉の裏を嗅ぎ取った。この男はアインズに同じ事を聞かれた。つまり、アインズを恐ろしくないと思っていると言う事。

 驚愕しているジュゲムを、男は笑った。ジュゲムを嘲笑っているのではない。嘲笑の対象は他にある。男と暮らして長いソリュシャンも見たことがない暗い笑みだった。

 

「ジュゲムさんの質問にはある前提ある期待があります。ゴブリンを恐れないのか、裏を返せば人間は人間を襲わないと言う同意がある。でもね、俺は口が裂けてもそんなことは言えない」

 

 エンリとネムは人間の手で両親を失った。辛い言葉を引きだしてしまったジュゲムは息を呑む。場の空気を沈鬱な物に変えてしまった男は空気を読む能力に欠けている。コホンとユリが咳払いした。

 

「私は屋敷の片付けに行って参ります。ずっと傍に付いているわけにはいきません。カルネ村に危険はありませんが、くれぐれも、いいですか? どうかくれぐれも自重なさってください。あなたに万一の事がありますと私の首が飛びかねません」

 

 この男が思った以上の重要人物であることにエンリとジュゲムは驚愕し、まだお子様なネムはよく分かってない様子。注意された男はぷぷっと吹き出した。

 

「ははは、それはユリさんにしか出来ないユリさん一流のジョークですね」

「違います! 本当に違いますからね!」

 

 ユリの種族はアンデッドのデュラハン。別名を首なし騎士。ユリの首は取り外し可能なのだ。それを踏まえて冗談と判断したのに、何故か怒られた。

 危ないところに近付かないように。井戸を覗き込んで落ちないように。落ちてる物を食べないように。勝手に村の外へ出ないように。等々。お子様のネムですら最近は滅多にされなくなった子供向けの注意事項をこれでもかと並べ立て、ユリはプンプンしながら出て行った。

 シリアス気味だった空気はもはやどこにもない。

 

「カルネ村で行ってみたいところがあります。どなたかお手すきの方に案内願えますか?」

「それではあっしが」

 

 ジュゲムに村を案内してもらうことになった。

 

 

 

 

 

 

 ネムとお夕飯を一緒に食べる約束をしてエモット邸を出た。

 ついこの間まで都市の発展について学びレポートを書いていた男にとって、現在進行形で発展しつつあるカルネ村は非常に興味深かった。政治・工業・商業・住居などの区画分け以外にもどのような建物をどのように建てているかを一々ジュゲムに尋ねながら歩く。

 男の質問が一段落ついたところで、今度はジュゲムから質問した。

 

「本当のことを話してくれませんか?」

「本当のこと?」

「兄さんの出自についてです。帝国から来た裕福な商家の坊ちゃんからあんな言葉が出てくるわけありやせんから」

 

 人間は人間を襲わないわけがない、である。それだけでなく、人間とは美醜の感覚が微妙に違うゴブリンですら惹きつけて止まない美貌は、とてもではないが只の人間とも思えない。ユリの言葉からも非常に重要な人物であると察せる。悪い人間ではないと思いたいが、もしもナザリックから来た方であるなら色々と考えなければならない。

 

「エンリさんに話したのは表側の話。一応はそういうことにしています。これから話すことをエンリさんに伝えるかどうかはジュゲムさんにお任せします」

「さんってのも止めてくれやせんか? どうにもむず痒くって仕方ねえです」

「わかったよ。私は王都の出身だ。ちょうどネムちゃんくらいの年頃に煮えた油で顔を焼かれてね。それからついこの間までずっと監禁されてたんだ。そこを救ってくださったのが彼の偉大なお方と言うわけだ」

「嬢ちゃんの年から、この間まで。……ずっとですかい?」

「ずっと。十年はあったろうね」

「…………」

 

 軽く言ってくれたが軽いわけがない過去だった。間違ってもエンリやネムには伝えられない。エンリの心を惑わさないように出来るならさっさと出て行って欲しいと思っていたのに、こんなことを聞いてしまったら幾ら何でもかわいそうに思ってしまう。

 

「それよりまだ着かないのかな?」

「あっ……、ああ、もうすぐです」

「ふふふ、カルネ村にはあの人に会いたくて来たんですよ」

 

 二人が目指しているのはバレアレ家の工房。男が会いたかったのはリィジー・バレアレである。

 

 

 エ・ランテルのお屋敷に工房を設け、錬金術師の真似事をしている男としては、エ・ランテル最高の薬師であるリィジーは一度は会ってみたかった人物だ。尤も、あちらと違ってこちらには魔法の才能が全くない。アインズ様から太鼓判を押されるくらいない。

 それでもポーションの製作過程には魔法を用いないところも多く、何かしらの参考になるのではと思っていた。

 

 まずは正面から乗り込み仕事の見学をさせて欲しいと頼めば、気が散るから出て行きなと追い出された。

 次にジュゲムに肩車してもらって窓から覗き込めば、怒鳴り声と共にキツい刺激臭をさせる液体を掛けられた。

 いつもはもうちょっと穏やかなんですがと首を傾げるジュゲムと一緒に村の井戸まで一時退却し、服を着たまま頭から水を被っているところでおどおどした少年を発見。ジュゲムによるとリィジーの孫のンフィーレア・バレアレであるらしい。

 将を射んと欲すればまず馬を射よ。バカ正直におばあちゃんに取り次いで欲しいとは言わない。錬金術に興味があるのでンフィーレアの仕事風景を見せて欲しいと頼み込む。実際に、ンフィーレアは若いながらも天才錬金術師との異名を持つ。全く持って不足はない。

 

 ンフィーレアにとっても男との対話は得る物が多かった。

 残念ながら魔法は全く使えないようだが知識が抜群に豊富である。中でも魔力を用いない薬効成分の抽出法は大量生産のヒントがあり、苦々しく二人を睨んでいたリィジーも認めざるを得なかった。それらの手法をどこから見つけたのかと訊けば考え抜いた末に思い付いたと言う。ンフィーレア少年は感心しきりだ。

 そして物凄く器用だった。懐から取り出した短剣で細い髪の毛を二つに裂き、さらに二つに裂いたのを見せられた時は前髪に隠れた目を見開いた。男は繊細な指遣いが必要な生活を送っているのである。

 興味の対象を同じくする年が近い男同士の時間は互いに楽しく、日の傾きがきつくなった頃に明日も会うことを約束して別れた。

 

「どうして追い返したりしちゃったのさ。話してみれば凄い人じゃないか」

「ふん。あんなのが側にいたら気が散って仕方ないよ。まったく……あたしがあと十年若ければねえ……」

「十年………………。五十年の間違いじゃ」

「なんだって!?」

「な、なんでもないよ。……それにしても凄く綺麗な人だったなあ」

「ンフィーしっかりおし! ありゃ男だよ!」

「わかってるよ!」

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルとは違って、急速に発展しつつあっても農村の色が未だ濃いカルネ村は夜が早い。西の空が茜色に染まる時間はもう夕飯時である。それは村長が暮らすエモット邸でも変わらない。

 いつもならゴブリン達や幼馴染のンフィーレアと一緒に夕食をとる。今日はエンリとネムの二人で特別なお客様をお迎えする。

 ネムに発破を掛けられたエンリは、腕によりをかけてご馳走を作った。以前とは違ってゴブリン達が森で獲物を穫ってきてくれるし、ナザリックの支援もあって、食事事情は格段に良くなった。それでも高貴な方々がお召し上がりになるような上品な食事は作れない。カルネ村のエンリ的ご馳走である。

 ネムとの約束通りにいらしてしまったお客様へ戦々恐々とお出しした食事は意外なほど高評価だった。これまた社交辞令の演技かと思ったが残さず平らげたし、食材や調理方法まで詳しく聞かれた。

 もしかしたら食前酒の効果だったかも知れない。

 エンリは酒を嗜まないが、覇王()への貢ぎ物として色々な物が届けられる。お酒の類は村人やゴブリン達に全て任せてきたのだが、これは甘めで飲みやすいから試しにどうぞ、とジュゲムから押しつけられていた。結局エンリは一滴も飲まなかったわけだが、有効活用できたので問題なしである。

 貴族然としたとても綺麗で上品な方なのだが、その反面庶民や貧しい者達の暮らしに詳しい。同じ視線で語らうことが出来た。語ったことはもっぱら料理のことばかりだったけれど。

 それでも自分が会話を主導出来て、エンリはとても楽しい時間を過ごせた。

 

 明日、エ・ランテルへ向けて出発するらしい。

 朝食を一緒にするのは流石に慌ただしいので、昼食を一緒にする約束をネムが取り付けた。

 

 

 エモット邸を辞した男は、ユリからここで宿泊するよう言われた家に向かった。初めての村の暗い夜道だが地理は頭に入っているし、治安はエ・ランテル以上に良い。

 ユリはいなかった。エモット邸へ向かう前に一度寄った時、一旦ナザリックに戻り明日迎えに来ると言われていた。ナザリックとカルネ村は馬車で一時間の距離。ユリが駆ければその半分も掛からない。

 日中、ユリが片付けてくれたので寝室も浴室も直ぐに使えるよう整っている。農村なのに風呂があるのかと思われるが、以前はルプスレギナが住んでいた家だ。風呂は必須である。

 軽く湯を浴び、夜着ではなく日中のスーツ姿を少し崩した平服に着替えた。

 カルネ村ではもう夜だが、エ・ランテルではまだまだ早い時間である。しかし遊びに行く場所はない。カルネ村はまだそこまで手を着けていないのだ。

 遊びではなく仕事である。

 ナザリックでは色々と慌ただしかったため、カルネ村ではゆっくりと休めるかと思ったのだがそうも行かない様子。

 

 家を出た。

 夕日の残光はどこにもない。月も薄い暗い夜である。

 立ち並ぶ家々は、明かりを漏らしている方が圧倒的に少ない。カルネ村の住民達は夜眠り、太陽が顔を出す前に目覚める。

 目的地は先ほどまでいたエモット邸。帰るときは十分ほど掛かった。今度は足下に気をつけて歩いているのでその三割り増しほど。

 ゆっくりと食休みをして風呂を使い、行き来の時間を合わせても二時間は経たない内の再訪問である。

 

 エモット邸も明かりが落ちていた。エンリは幼い妹を寝かしつけているのだろう。

 これからの一時を思い、気を引き締めてエモット邸に至る小道に足を踏み入れた。

 その時である。

 

「そこまでにしてもらいやしょうか」

 

 暗がりから姿を現したのは逞しい矮躯。見ずとも声だけでわかる。今日一日、カルネ村を案内してくれたジュゲムである。

 ジュゲムだけではなかった。次から次へと小さな影が現れ道を塞ぐ。

 前方だけでなく周囲にも背後にも、幾つもの気配を感じた。

 

「あの方々と違って兄さんが怖いお人じゃないのはわかりやす。ですがここを通すわけには参りやせん。どうかそのままお帰りくだせえ」

 

 男の行く手をゴブリン軍団エンリ親衛隊が立ち塞がった。




当初、カルネ村のメインはエンリではなくリィジーだったため、方向転換に伴って散らかったり端折ったりしました
よって掟破りの各人の所感解説

エンリ:素敵だけど私なんて
ネム:お姉ちゃんワンチャンあるよ!
ジュゲム:姐さんが喰われちまう!

リィジー:十年若かったら……
ンフィー:色々すごいなあ

ユリ:これだからソリュシャンやルプーと気が合うのね

若旦那:ここでも仕事か……


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VSゴブリン大軍団最精鋭エンリ親衛隊隊長ジュゲム

 ジュゲムはゴブリンである。ゴブリンと人間との差異は幾らでもある。しかし、ゴブリンは亜人種に数えられるだけあって生態は人間と非常に似通っている。

 夜が更けてから、若い男が若い女のところに足を運ぶことがどのような意味を持つか、ジュゲムはよくよく承知していた。

 

「ここを通すわけには参りやせん。どうかお帰りくだせえ」

 

 語気強く言い放つ。男を囲むゴブリンたちも輪を狭める。

 なのに男は一向に臆した様子がない。感心したように周囲をぐるりと見回し、正面のジュゲムで視線を止めた。

 

「子供じゃないんだ。帰れと言われてはいそうですかとは言えないね」

「……兄さんがこんな事をするお人だとは思いやせんでした」

 

 思わなかったが、今までの倣いで新たに現れた人物の監視を怠らなかった。男を警戒したのではなく、5000以上にも増えてしまった新入り達へ仕事を与える意味合いの方が大きい。

 仮に男の監視を行わずとも、我らが総大将のエンリの姐さんには陰に陽に常に護衛を配置している。こんな時間に誰かが近付いてくれば必ずや発見出来ていたことだろう。

 

「兄さんほどのお人なら相手は選り取り見取りのはずです。それこそあの…………。遊びで姐さんに手を出させるわけにいきやせん」

 

 言外に都会の男はこれだから油断ならねえと付け加えた。

 ジュゲムの推しはンフィーレアだ。エンリにはンフィーレアと結婚して幸せになって欲しいと思っている。と云うか、近隣にはエンリと年が釣り合う独身の若い男がンフィーレアくらいしかいないとも言える。

 最近のエンリは、自分に見合う男はンフィーレアだけとようやく気付きつつあるところ。あと一押しか二押しか、もしかしたら十押しくらい必要かもしれないが、ようやっと何とかなりそうな目が見えてきたのだ。

 それなのにこんな男が割り入ってしまったら台無しだ。何としてもお帰り願わなくてはならない。

 

「……二つ訂正しよう。一つ、俺はユリさんとそんな関係はないよ。現に今はカルネ村にいない。彼の地に戻っている。そしてもう一つ。俺は俺の楽しみのためにここに来たわけじゃない。エンリさんに招かれてここにいる」

「…………」

 

 決して小さくないどよめきが湧いた。

 ジュゲムは誰にも聞こえないよう小さく舌を打った。もしかしたらそんな事もあるかも知れないと考えていた。

 それでもあのエンリが男をベッドに呼ぶとは考えにくい。しかし、誰をも一目で魅了するこの男ならそんな事があってもおかしくないかも知れない。

 目の前の男が嘘を言ってるとも思えない。誤魔化してる様子はなく、堂々とした態度。

 

 ジュゲムの推察に間違いはなかった。男は嘘を言っていない。本当にエンリに誘われた、と思っている。

 

 夕食に出された食前酒である。王国にも帝国にも、おそらくは法国にも広く流通している葡萄酒の一種である。これを夕食で異性に奢るのは夜の誘いを暗示するのだ。

 帝国・王国の書物を要約してアインズへ報告している男は両国の風習に詳しくなった。もしも上流階級のみに通じる風習なら誤解しなかった。しかし冒険者間でも通じるものであるらしい。ならば、かねてから冒険者が訪れるカルネ村で、村長にもなったエンリが知らないわけがないと思われた。

 ジュゲムがあの酒をエンリに渡さなければ、エンリが奮発して食前酒を夕食に出さなければ、男がエンリの真意をきちんと確かめていれば。いずれかが違えばこうはなっていなかった。

 しかし、ジュゲムはエンリに酒の美味さを知って欲しかったし、エンリは賓客へ美味しいお酒を出したかったし、男はエンリの決意を確認する野暮をしなかった。必然だったのかも知れない。

 

「……だとしても! だとしてもです。どうかお帰り願いやす。どうしてもって言うなら…………仕方ねえ。手荒な真似をしなきゃなんねえ。わかってくだせえ! あっしらは本当にこんな真似をしたかないんです! どうか、どうかお帰りくだせえ!」

 

 カルネ村やエンリに害意はなく、ンフィーレアとも親しくなった男だ。その上、あの恐ろしいメイドが「何かあったら自分の首が飛びかねない」と言っていた。メイドの首が飛ぶなら自分たちは皆殺しになってもおかしくない。絶対にとりたくない手段なのだ。

 

「…………」

 

 人間とゴブリン。種族は違えどジュゲムの誠意は男へ伝わった。

 

「わかったよ」

「それじゃ――」

「手荒な真似をしてもらおうか」

「!?」

 

 ゴブリンたちが色めきたった。この男はゴブリン大軍団最精鋭エンリ親衛隊の自分たちを蹴散らしてエンリのところへ行くというのだ。

 男が強いとは思えない。しかし強さを隠しているのかも知れない。しかし自分たちは弱くない。例え敵わないとしてもここで退く選択肢はない。

 誰も彼も武装している。光物は抜いてない。それがもしも必要となってしまったら。

 

「腕の一本でも折れば申し開きが立つだろう。ああでも、如何にも殴られて出来た傷じゃ流石に不味い。転んで骨折したのを装うから手首のここの尺骨をぽっきりやってくれないか? 勿論誰にも話さないから安心してくれ。俺のことなら心配ないよ。自慢にもならないが慢性的な痛みには強くてね。骨が折れても熟睡できる自信がある。明日になったらンフィー君のところでポーションもらうから」

「なっ…………何言ってんですか! あっしらはそれをしたくないって言ってるでしょう!」

「だって帰って欲しいんだろ?」

「兄さんにその気がないならこのまま帰ってくれればいいだけで!」

「だから…………。ああ、そういう事か……」

 

 自分とジュゲムの間に横たわる大きな齟齬に気が付いた。

 人間とゴブリンでは生態が近くても様々な風習に違いがあって当然だ。ジュゲムたちは知らないのだ。

 

「ジュゲムたちは知らないんだな。男が女性に招かれ、承諾したにも関わらず訪れなかったらどうなるかを」

「……どうなるって言うんです?」

 

 吐き捨てるように言った。都会に暮らす男だ。どうせ女から恨み言を言われる程度だろうと軽く考えて、

 

「手足をもがれる」

「もがれるんですかい!?」

「俺は何度ももがれてきた」

「もがれてるんですかい!?」

「俺の手を見るがいい!」

 

 男は両手を突き出した。暗い夜にも輝くような白い手だ。染みも僅かなかすり傷も一つもない奇麗な手。

 

「昼間一緒にいたジュゲムは知ってるはずだ。俺が錬金術の真似事をしていることを。素材を刻むときに怪我する時もある。強い薬品がかかって爛れることもある。それなのに俺の手には傷一つない。どういうことかわかるか? 根元からもがれた後、ポーションや魔法で回復されてるからだ!」

 

 本当である。ソリュシャンに何度もされてきた。

 見た目は美しい令嬢なのに恐るべき力を秘めているソリュシャンである。一見、純朴で可愛らしいエンリが恐ろしい力を秘めていないとは限らない。男は自分の人を見る目を全く信用していなかった。

 

「だっ………………だとしても、です。姐さんに限ってそんな事をするわけが……」

「…………血塗れ」

「!?」

 

 男の小さな呟きは、夜の静寂を掻き消す雷鳴の如くゴブリンたちの間に轟いた。

 

「エ・ランテルにいる俺にもエンリさんの異名は聞こえてるよ。ゴブリンの大軍を従えるエンリ大将軍。何物をも打ち破る覇王炎莉。そして………………、血塗れのエンリ」

「そっ……それ、は……」

「オーガの首を素手で引っこ抜き、頭蓋をかち割って作った盃に縊り殺したナーガの血を絞り、勝利の祝杯を挙げたとか」

「いやそこまでは……」

「真に受けるほど馬鹿じゃないよ。間違いなく誇張表現だろう。でもジュゲムの様子を見る限りまるきり事実無根ってわけでもなさそうだ」

「う………………」

 

 事実無根なのだ。

 血塗れのエンリとは、ジュゲムが新入り達を脅すために作りだした与太話である。

 

「そしてエンリさんはンフィー君と親しい。両手両足をへし折ったあと、新作ポーションの実験に使われるかも知れない。俺は痛みには強いが、決して痛い思いをしたいわけじゃない。両手両足を捥がれるくらいなら腕の一本でも折って、怪我をしたから行けなかったと言った方が申し開きが立つ」

 

 ゴブリンたちの様子が変わってきた。

 依然、ジュゲムと同じように何としてもここは通さないと思う者はいるが、腕の一本を覚悟している男が只の遊びで来ているとは思えず、そこまで覚悟しているならばと許容する者が出始めてきた。

 

「浮足立つな!!」

「!!」

 

 ジュゲムの一喝がゴブリンたちの動揺を抑えた。

 

「全くの事実無根とは言いやせん」

 

 男へではなく、周囲の仲間たちへ聞かせる言葉だ。新入り達もエンリへ忠誠を誓っているが、畏怖の念を強くしておくのは悪い事ではない。

 

「ですが安心なさってくだせえ。そんな事には絶対になりやせん。あっしの首を賭けやす。もしも明日になって姐さんが兄さんの手足をへし折ろうものなら、どうかあっしの首を跳ね飛ばしておくんなせえ」

 

 おおお、と騒めいた。

 隊長は姐さんの一夜を阻むために自らの首を賭けている。それが良い事かどうか全くわからないが、とりあえずジュゲムの覚悟はこの場の全員へ伝わった。

 

「………………わかった」

「それじゃ!」

「但し、条件がある」

「何でしょう?」

 

 下げた頭を上げ、ジュゲムは安堵の息を吐いた。

 こちらは首を賭けたのだ。どんな条件であれ、それ以上の大きなものはあり得ないと思った。

 

「ジュゲムの要求を呑んでこのまま帰るよ。但し明日になったら、俺がエンリさんのところを訪れなかったのはジュゲムに止められたからだって証言して欲しい」

「んなっ………………!!」

 

 絶句した。

 昼日中、エンリが男をどんな目で見てたか知っているジュゲムである。

 エンリが男をベッドへ招いた。これがもしかしたら何かの誤解であったとしても、エンリの元へ訪れた男を追い返したことが知られたら。

 落胆されたら申し訳ない気持ちになる。怒られたら少々きついが大したことではない。しかし、もしも、恨まれたら。

 忠誠を捧げた我らが総大将のエンリの姐さんから恨まれたら。

 針のむしろどころの話ではない。生き地獄ですら生ぬるい。生きてるだけで申し訳ない気持ちになってしまう事だろう。

 冷たい汗が全身からぶわっと噴き出てきた。

 

「いやそれは言わなくても……」

「俺は両手両足を賭けた。ジュゲムの言葉を信用しないわけじゃないが最低限の担保は欲しい。それが飲めないなら引き下がるわけにいかない」

 

 ジュゲムの首が飛ぼうが飛ぶまいが、痛い目に遭う可能性は変わらない。ならばその目を潰すための担保が欲しい。どのみち首を賭けるなら一言添えるくらい大したことではないだろうと考えた。

 しかしジュゲムにとっては大したことなのだ。

 

 ジュゲムの脳裏で目まぐるしく天秤が左右に傾く。

 男の骨を折るのは論外。自分が追い返したと証言するのは生き地獄。元はと言えばエンリが男を招いたのが発端で、だとしたら自分たちは何もせず静観した方がいいのではないだろうか。

 

「………………わかりやした。どうぞお通りくだせえ」

 

 ジュゲムは日和った!

 仲間たちから非難の眼差しが突き刺さる。同情の視線もある。誰であれ、自分の立場になったらこうせざるを得ないだろう。

 

「その代わりと言っちゃなんですが、もしも姐さんが寝てた場合はそのままお帰り願いやす」

「…………そのつもりだよ」

 

 男の視線も胡乱である。散々問答したのにお通り下さいなのだ。

 

 

 ジュゲムが脇へ退き、男は小道を通ってエモット邸のドアを叩いた。

 一つ、二つ、三つ。五つ、六つ。十を数えて、ジュゲムがエンリは寝ているのだと胸を撫でおろした時、ドアの内側から「どなたですか?」と誰何の声があった。

 男が名乗ると、ドアを留める閂が抜かれる音が響く。

 人一人分だけ小さく開いたドアの隙間へ男の姿が消えた。

 

 ゴブリンたちの間に酷く微妙な空気が漂っていた。

 

「野郎ども! 今日は姐さんが女になる目出てえ日だ! 俺たちが祝わなくて誰が祝う!?」

 

 半ばやけっぱちになったジュゲムが叫び、夜半の酒宴が始まった。

 

 

 

 

 

 

「何やってるんだろう?」

 

 エンリは寝ていた熟睡していた。

 ネムと一緒に床へ入り、今日一日を振り返って心地よい眠りに落ちていた。

 それなのに、眠りが深くなろうとしたところで外が騒がしい。カルネ村はゴブリン達やアインズ様のシモベが守って下さっているので危険な事とは思わなかったが、家のすぐ外で叫ばれたら目が覚める。

 ネムも目覚めて何とか寝かしつけている間にすっかり目が覚めてしまった。

 そこへドアが叩かれた。何かしらが起こったのをジュゲムが報告しに来たのだと思った。

 やって来たのは今日会ったばかりの美貌の男。

 ドギマギしながら招き入れた。

 エンリは純朴な田舎娘だが、こんな時間に男が女を訪れる意味が分からないほど子供ではない。けども、もしかしたら何か大切なものを忘れて取りに来たのかも知れない。

 

「何でしょうか?」

 

 訊きながら、エンリは精神防壁を張り巡らせた。もし万が一だった時に拒むためだ。

 昼間に聞かされた結婚観から結婚について軽く考えていそうだし、とても奇麗で素敵な人だけど一夜の遊びでいいようにされるほど軽い女ではないつもりだし、そもそも自分はこんな人が相手をしてくれるほどきれいでもないし。

 

「君に会いに来たんだ、かわいい人」

「ふにゃぁっ!?」

 

 エンリの精神防壁は耐性無視防御貫通必中致命確定臨界攻撃であっけなく打ち砕かれた。

 真正面から抱きすくめられ、エンリの頭は一瞬でのぼせた。

 

「寝室に案内してくれるかい?」

「は………………………………はぃ……」

 

 エンリの夜着は簡素なシュミーズだ。肌触りと寝心地優先で余計な装飾は全くない。インナーなので人前に出るのは恥ずかしく、大きいだけが取り柄の装飾皆無のストールを羽織っている。太陽のように明るい栗毛色は昼間とは違って三つ編みではなく解いて流している。

 ストールがはらりと落ちた。

 薄布越しに男の逞しい手で腰を抱かれ、エンリは砕けそうになる足腰にカツを入れて客間へと案内した。

 客間のベッドは整っている。

 何かしらの理由があって、ルプスレギナが滞在していた家が使えないかも知れないと考えて用意していた。

 予感があったのかも知れない。願望だったのかも知れない。

 

 エンリは一度も使われたことがないベッドに押し倒された。




テンセグリティって流行ってるんですかね?
どういうわけか続けざまに目にしまして


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エモット姉 ▽エンリ

 エンリは混乱の極致にあった。何をどうすればいいのか全くわからない。どうしてこうなっているのかもさっぱりわからない。そもそもどうなりたいのかすらわからない。

 

(なになになになに!? いったい何がどうしてこうなってるの!? ああ誰か助けて! うひゃあああああああ! かおっ! かおちかっ! 息かかってる! ……なんかいい匂い…………じゃなくて! …………結婚もしてないのにこんなことしちゃ駄目なんだから!! ……でも…………でもでも。ううううううぅぅうう~~~~~~っ!!!!)

 

 ネムやジュゲム達が側にいても見とれてしまった美貌がすぐそこにある。

 窓からの星灯りしかない暗い部屋なのに輪郭が燐光を放っているような、エンリの語彙では美しいとしか言いようがない顔形は直視するのが毒なら間近で見るのは致命的だった。現実感が薄れていく。只でさえ混乱状態で手足の力が萎えているのに、神秘的な赤と青の瞳で見つめられると何もかも溶けてしまいそうになる。

 

「君が心に誰を棲まわせていても構わない。今は私だけを愛しておくれ」

「あ………………」

 

 美貌が陰り、小さな声で囁かれた。胸がきゅうと締め付けられた。

 思えば昼に聞かされた結婚観。自分は結婚相手を選ぶほど偉くないと言っていた。政略結婚によって、意に添わぬ相手と結婚させられるのかも知れない。恋しい人とは離ればなれになって。一時の寂しさを紛らわせたいのかも知れない。

 こんな綺麗な人にこんな顔をさせてはいけない。何としても慰めなければならない。自分が慰めになるなら是非もない。エンリの胸に使命感が湧いてきた。

 

「………………はい。あなたを………………愛してます」

「嬉しいよ」

「んっ……、ちゅっ……」

 

 初めてのキスは例えようもなく甘かった。

 

 エンリが混乱している一方で、男の方も少しだけ困惑していた。

 節穴を自認する己の目であっても、エンリが男慣れしていない処女であろう事は見当が付いた。そのエンリが男をベッドに呼ぶだろうか。いささか疑問である。しかしここまで来てしまった。

 もしもソリュシャンのベッドを訪れ、やっぱ気が乗らないから止めたとか言おうものなら全身丸飲みされて三日は出してくれない。

 ルプスレギナだったら全身複雑怪奇骨折させられるに違いない。頭蓋骨以外の骨全てを丁寧に一本一本へし折ってくると思われる。

 ナーベラルは少し読み辛い。悲しそうな顔をして納得するかも知れないが、いつぞや喰らったハートブローが今度こそ胸骨陥没に治まらず背中まで突き抜けるかも知れない。

 エンリはどうか。一見純朴な少女であるが血塗れの異名を持つ。凄まじい力を秘めているのは間違いない。また、そうでなければ数千ものゴブリンを従えることが出来るわけがない。もしもここで引こうものなら、よくも恥を掻かせてくれたわねとそれはもう酷い目に遭わされることだろう。

 ならば押しの一手。ソリュシャンから課題図書として押し付けられたロマンス小説から引用すると、揺れていた瞳が定まり愛欲に濡れてきた。

 心の中でちょっぴりソリュシャンに感謝しながらエンリの唇を唇で塞いだ。合わせるだけの拙い口づけがこれからどのように染まっていくのか、好色な期待に高揚してきた。

 

 悲しいかな、男はエンリが従えるゴブリン達はマジックアイテムによって召還された事を知らなかった。知らなければ腕っ節の強さでゴブリン達の忠誠を得たとしか思うしかない。

 結婚観もエンリが思うようなことは一切思ってない。所詮、名札に貼るシールが一つ増える程度しか感じてない。故に相手が猫だろうが犬だろうがはたまたムササビだろうが構わないとすら思っている。そんなことをソリュシャンに知られようものなら。

 

 

 

 

 

 

 横たわるエンリの上に覆い被さってキスを送る。ちゅっちゅと合わせるだけのキスは段々深くなっていった。唇の合わせ目に舌を入れて軽く舐める。三度繰り返すとエンリは薄く唇を開いた。開いた唇へ舌を差し込む。伸ばした舌はエンリの舌に届いた。寝た子を起こすように優しくつつく。

 

「エンリも舌を出して」

「はぃ……。あむぅ、んっ……ちゅ…………。ちゅうっ……ちゅる……じゅ……」

 

 伸ばされた舌に舌が絡み、舌を伝って上から下へと唾が流れていく。

 自分がされているのと同じように、エンリも差し込まれた舌を吸った。注がれてくる唾もすすった。味も匂いもない唾なのに、甘いと感じた。美味しいと思った。もっと飲みたくなって強く吸った。吸うだけでなく、舌も動かす。柔らかくてぬめる舌は温かく、温かいだけでなく何かが熱くなっていく。

 

(うわあああああああ!! わたしキスしちゃってる! 初めてのキスなのにこんな……。舌が入ってきて、わたしも舌を入れちゃって……。こんなエッチなキスしちゃってるぅ! でもだって舌だしてって言われたんだもん! それに…………なんか……、悪くないし……。キスしてるだけなのになんで美味しいって思うの?)

 

 唇が離れると、絡み合っていた舌と舌の先端を唾液の糸が繋げていた。千切れた糸はエンリの唇に落ちて、エンリは舌を伸ばして舐めとった。

 

「うひゃあっ!? …………いまの……なに?」

 

 思いがけない感触に驚きの声を上げた。

 何のことはない。エンリの頬を男が撫でただけだった。それだけのことなのに、エンリには生まれて初めての感触だった。

 頬から首筋を撫でる男の手が、何かぬめる液体に濡れているようでなめらかに滑っていく。触るか触らないかの繊細な手付きのはずなのに、体の内側を撫でられているようなこそばゆさを感じる。繊細な指が溶けて自分の中に入ってきているような。

 

「あっ、あわわわ……!」

 

 初めての感触に戸惑いはあるが甘い期待もある。なにせただ触られているだけなのに心地よい。日中、ネムが撫でられていたのを思い出してずるいとすら思った。

 今はそんなことは問題にすらならない大問題が横たわっていた。

 シュミーズに指が掛けられたのだ。脱がされる。裸にされる。それはいいのだけど、良くないかも知れないけれど、シュミーズが問題だ。人目に触れることを全く考慮してない簡素な夜着は清潔で垢じみてはいないものの補修のあとがそこかしこに。

 脱がせようとしている人が着ている服は綺麗なシャツとズボン。光沢や滑らかな手触りや細部までしっかりした作りから間違いなく超高級品。対する自分が着ているのは。こんな事になるなら裸で待っていれば良かったとすら思い始めた。

 

「じっ…………自分で脱ぎます!!」

「…………ああ」

 

 火事場の乙女力とでも言うべきか。エンリは力を振り絞って男を押し退けた。ばばっと跳ね起き背を向けてシュミーズを脱ぐ。寝心地重視の大きな襟から肩が抜ければすとんと脱げた。

 自分の裸を見下ろす。ブラジャーとか言う高級下着はつけてない。ほどよく育った乳房がつんと上向いている。暗がりにも先端が尖っているのがよく見えた。触ってもいないのに寒くもないのに尖っている。物欲しげに尖っている。自分が淫らな期待をしているように思えて、今更ながらに恥ずかしくなった。

 

「ああっ!? むっ、むね…………。あの……おっぱいが……、あんっ」

「素敵な胸だよ」

「え? え? そんな……、あっ……んん。はうぅ。あっ、あっ、こえでちゃ……、あうぅ……」

 

 後ろから手が伸びてきた。両方の乳房が鷲掴みにされ、乳肉に指が埋まる。柔らかな乙女の肉は男の思うままに形を変え、エンリは声を抑えられなかった。自分の口からこんな声が出るとは思ってもみなかった。自分でも初めて聞く声だ。

 

 エンリの胸はそれなりにある。男の広い手の平でも包みきれない。柔らかさの中に瑞々しい張りがある。おっぱいの柔らかさと弾力を感じ、先端にも指を伸ばした。押しても直ぐに元通りになる弾力から、見なくても立たせているのがよくわかる。揉みながら乳首を摘まみ、コリコリとした弾力を楽しんだ。エンリは顎を反らせてよく鳴いた。

 乳房を揉みながら首筋に顔を埋め舌を這わせる。深く息を吸ってエンリの体臭を味わった。汗の臭いはさせていない。代わりに濃い。香料などではない甘く濃い女の臭い。

 

 カルネ村は生活用水を井戸に頼るくらいだ。上水道は存在しない。水を確保できても湯を沸かすには火を焚く必要がある。風呂に入るのはこの上ない贅沢である。今夜のエンリは一応の念の為の身嗜みとして、桶いっぱいに沸かした湯を使って全身くまなく綺麗に拭っている。それでもふんだんに湯を使う風呂に浸かるのと比べれば及ぶべくもない。濃い女の臭いをさせている。

 それがまた芳しく、獣欲を煽った。

 

「ここここここ…………、これって……」

 

 エンリが突然ニワトリの霊に憑依されたわけではない。

 

(これって……、その、あの…………あれだよね? 男の人の……おち……おち……おちんちん? え? え? えええええええ! ええ!? うそうそこんなにおっきいの!? だってこんなのズボンに入りきらない……!)

 

 後ろから抱き締められて乳房を揉みしだかれている。背中と尻に男の体を感じている。逞しい胸板と尻に当たっているもの。尻で感じていたものが熱くなってきた。尻の割れ目で挟みきれない。どこまでも高く起き上がっている。

 

「君の魅力がこうさせるんだ」

「はううううぅううぅ………………」

 

 耳に吐息を掛けられいやらしく囁かれ、エンリは何も言えなくなる。挙げ句、所在なげに宙を掻いていた手を捕られ後ろへ回された。手に触れるもの。手の平で包むもの。

 エンリに性体験はない。ンフィー少年には残念なのか嬉しいことなのか恋愛経験もない。男性器は未知の存在だ。見たことも触れたこともない。人づてに何となくの形状は聞き知っている。それを今、握らされた。

 焼けるように熱かった。熱が手の平へ染み込んで身体中を荒れ回っている。固い。男の体とは固いものなのだと教えてくる。太さもあって、一番太い部分はエンリの親指と人差し指で作る輪に余った。女の本能が上から下まで自然と扱かせ、長さもあると知った。

 動かしづらい後ろ手で、エンリは勃起した逸物を扱き始めた。

 

「こんな……こんな、おっきぃ……。あんっ、あっやっ、おっぱいがぁ! そんなに摘ままないでぇ!」

「物欲しそうに立たせてるのはエンリだろう? 乳首がこんなに」

「やああぁあああああぁ! 言わないで! だってだって乳首たっちゃってぇ! ひゃううん!」

 

 我ながらはしたないと思っていたことを言われてしまった。恥ずかし過ぎて涙が出る。両手を使いたかったが右手は塞がっているので、左手だけで顔を覆った。

 

「あ……あ……ああ…………!」

 

 羞恥に悶えている場合ではなかった。乳房を揉んでいた手が下りてきた。下腹を撫で、腰をキュッと包んで更に下へ。ぴったりと閉じた太股まで来た。太股の内側へ入り込んでくる。

 

「脚を開いて。…………かわいい人」

「はいぃ…………」

 

 抵抗は一瞬。なすがままに脚を開かされた。エンリはパンツを脱いでいないことを思い出してしまった。

 エンリのパンツはやはり実用重視。股間と尻を布が覆い、腰で紐を留めるタイプ。アインズが見れば「ふんどしか!」と叫んで膝を打つかも知れない。

 飾り気もかわいげも皆無。シュミーズと同様にいつも清潔にしているが年季が入っているのは物が手には入りにくい辺境の農村だから仕方ない。秘部を覆う内側の生地が、本当にほんのちょっとだけ、うっすらと黄ばんでいた。

 そんなところを見られでもしたら堪らない。きっと死んでしまう。エンリは必死の思いで自分から腰紐を解いた。するりと脱げると思ったのに何故か股間に貼りついている。兎も角、さっと腰を浮かせてパンツを抜き取り、遠くへ放り投げた。

 男の指は焦らさなかった。エンリの下穿きが取り払われると、太股を撫でていた手がすぐに這い上がってきた。止めるものは何もない。脚の付け根に触れた。

 

「あああっ!! そんなっ! きたないですっ!」

「エンリに汚いところはどこにもないよ」

「でもでもでもっ!」

「気を楽にして」

「うう…………、はぃ。うっ……んん……」

 

 エンリの股間を飾る茂みは手入れがされてない自然のまま。濃くはないが長さがあった。指に巻き付ければ軽く二周。割れ目の周囲もうっすらと生えている。陰毛をかき分けて奥に触れれば濡れていた。割れ目はうっすらと開き、潤っている。中指を這わせれば抵抗なく沈んでいく。何度か上下させてぬめる液体を絡ませた。少しだけ下げて指先が入り口を探り当てた。第二間接で曲げ、中へ潜らせた。

 

「あっあっあのっ! あのっ! あの…………。ゆび……。ゆびが……」

「指が?」

「私の中に…………。入って……あぅっ……。あっあっ、ゆびがぁっ、うあぁぁ……」

 

 中指は根本まで入りきるとすぐに出てきた。しかし間をおかずに再度の挿入。今度は中指と薬指の二本がエンリの処女穴をこじ開けてきた。無遠慮に根本まで入って、中で妖しく蠢きだした。

 

「あっあっあっ、ああっ、あっやっ、ゆびっ、……お腹のなかでぇ! おなか熱くなって、あんっ、あんっ、だめっ! だめですぅ……。やぁぁ……」

 

 美神に初めての敗北を与えた指技である。膣壁の様々なところを刺激し、指先で感じる反応からエンリが好む場所を探り当て、執拗に刺激する。

 

 エンリは自慰すらしたことがない。何かの拍子に股間が擦れてこそばゆいようなもどかしいような気持ちを味わったことがあっても、快感を得ようとして触ったことは一度もない。そんなことは想像したこともなかった。当然の事ながら、膣に何かを入れたことなど一度もない。指が入ってきたのは初めてだ。

 体調によって股間がうっすらと湿ることがあっても、はっきりと濡れたことは一度もない。それが今は滴るほど濡れている。初めての刺激に惑わされて驚いているから気付かないが、もしも自分が股間を濡らしていることを知ったら慌てふためくことだろう。

 

 媚肉に包まれた指が何度も締め付けられる。締め付けられる度に固さがとれて柔らかくなっていく。

 閉じていた割れ目は開かれ、肉色の内側を覗かせる。

 愛液は滴って流れ落ち、一旦尻の窄まりに溜まってからシーツに染みを作っていく。

 

 今はもう後ろから抱き締めてはいなかった。最初と同じように、エンリはベッドに横たわっている。違うのは全裸なところ。張りのある乳房は仰向けになっても形が崩れない。荒い呼吸に合わせて下腹が上下している。

 明るいところで見れば髪と同じ栗毛色と知れる陰毛には、男の鼻が埋まっていた。割れ目には口が付けられている。

 

「そんなとこなめたりしちゃああぁっ! だめれすぅっ! あぁぁああ……だめぇ……、だめなのにぃ……。やあぁ……、あうぅっ!」

 

 柔らかな割れ目を柔らかな舌が押し広げ、内側を舐められていた。ついさっきまでキスをしていたあの唇が自分のいやらしいところを舐めている。音を立てていやらしい汁をすすっている。指は中に入り込んで蠢いている。どこをどうされているのか全くわからない。自分がどうなっているのかもわからない。股を開かされているのはわかる。股にあの美しい顔が口を付けて。特に敏感な部分がクリトリスであることをエンリは知らない。強く吸われて何度も舐められ、甲高い声で何度も鳴いた。

 初めての性的快感をエンリは言葉に出来なかった。これが気持ちいいと言うものなのか。少なくとも不快ではなくて、とてつもなく恥ずかしい。

 されるがままに股を開いて淫らなところを触られて舐められて、頭の中でチカチカ瞬く白い光が理性を灼いていく。これでいいと思ってしまう。これがいいと思ってしまう。

 気付けばこれでもかと大きく脚を広げ、腰を浮かせて股間を押し付けていた。

 恥ずかしくて恥ずかしくて堪らなくて両手で顔を覆っていたのに、いつの間にか手は股間に伸びて男の頭を押さえつけていた。

 

「胸が……きゅんきゅんしてぇ……、あんあんっ! あっあっぁ……ああああっ! まただめぇ!」

 

 叫びながら頭を押さえる手に力が入り、数瞬震えると浮かせていた腰がベッドに落ちた。

 男が顔を上げて指を引き抜くと、開ききった膣口が荒い呼吸をしているように閉じては開き、閉じる度に愛液を垂らした。

 十分だと思った。

 

「…………あう? ……あ……、おちんちん……?」

 

 下の口と同じように荒い息を吐くエンリを見下ろす。開いた足の間に入り、よく締まって健康的な太股を抱え持った。

 暗がりに慣れてきた目でも細部はわからない。くぱあと開いたエンリの割れ目に亀頭をあてがって、上下に動かせば沈む込む場所がすぐにわかった。

 

「あ…………あうっ! あ……ああ……いぎぃ…………」

「体の力を抜いて」

「はい……、いつぅ……うっうぅ…………あああああ! …………あ…………。ちゅ……あむ……んっ……んんっ……」

 

 十分にほぐしていてもエンリは処女だ。男を受け入れたことは一度もない。初めて受け入れる男は大きくて太くて、狭い膣を暴力的に突き進んでくる。貫かれる痛みに力が入って爪先をキュッと折り曲げた。

 半分まで入ったところで太股から手を離し、エンリの体を抱き締めた。キスをして、尚も入っていく。先端が壁にぶつかり、根本までは少し余った。快感を得るのに十分な深さ。

 

「楽にして。ゆっくりと息をして」

「はいっ……でも……、痛くて……っつぅ……、動かないで!」

 

 返ってきたのは優しい口づけ。

 体の中に入っているのが嫌でもわかる。真ん中を貫いている。押し広げられているのがわかった。

 

(ああ…………。入っちゃってる。わたしのおまんこの中に入っちゃってる……。おちんちん、だよね? おちんちんがはいっちゃってるんだよね? さっきはあんなに…………気持ちよかったのにこんなに痛いなんて……。だって大きすぎる。こんなに大きいのが入って……。わたしの中に……。わたし結婚してないのにこんな事しちゃってる! 本当は夫婦ですることなのに……。でも…………。この人がわたしを欲しいって思ってくれたのは…………嬉しい、かも?)

 

 エンリは目を閉じて息を整えている。

 閉じた瞳は何を映しているのか、逸物を包んでいるエンリの膣から少しずつ固さが抜けてきた。ゆっくりと引き抜かれた逸物はエンリの破瓜の血に濡れている。血まみれの逸物は再びエンリの中に。抵抗は一度目よりずっと小さい。奥まで入り込んだ逸物はエンリの媚肉に隙間なく包まれている。柔らかな肉ひだが微妙に蠢いている。きゅうと締められたかと思うとふわりとゆるんだ。

 もう一度引き抜いて奥まで届かせる。エンリはまたもきゅっと締め付けてきた。熱い膣だ。柔らかく溶けてきた。

 エンリの息は落ち着いている。うっすらと目を開く。エンリの腕が伸びて男の背に回された。強く抱きついてくる。

 

「うごいて……、へいきです。なれてきて……。あっあっあん、あんっ! あんっ! もっと、ゆっくりっ! あひぃっ!」

 

 引き抜く度に亀頭のカリ部がエンリの愛液をかき出して、突き入れる度に幾らでも湧いてくる愛液が絡みついてくる。

 それだけなら汁気が多いで済むところだが、エンリは突き入れる度に膣を締めてきた。入ってきたものを逃がさないとでも言うようで、奥へ奥へ取り込もうとしてくる。反対に抜くときは締め付けを弱める。緩急つけて締め付けてくるのだ。

 そんなことは教えていない。処女だったエンリが知っているわけもない性技。

 女の本能なのだろうか。どうすれば互いに快感を得られるのか、エンリは短い時間で急速に体得しつつあった。

 

「ふぁんっ! あっ、あっ……ああんっ! あんっ、あんっ、こえでちゃうっ! やあん!」

「構わないよ。もっとエンリの声を聞かせておくれ」

「あっやっ、らって、こんなっ、いやらしいこえっ! ああんっ、…………はぁ……はぁ……。わたしのこえ、ききたいですか?」

「……ああ。もっと聞かせて欲しい」

「はい♡ あっあっあん、んぁああっ! あっ、イイ! イイですぅ! ひぅっ……、そこ、すごく……。あはぁあああああっ♡」

 

 動物的に突き入れるだけでは芸がない。微妙に角度を変えて内側の様々なところを擦り付ける。指とは違って奥の奥まで届くのだ。エンリは下腹の裏側と浅い内側。感じるところが幾つかあって、意識的に擦ってやるとしがみつく手に力が入る。膣もきゅうと締まって腰を震わせる。

 溢れる愛液は一向に量を減らさずシーツの染みは大きく広がって、逸物を濡らした破瓜の血もとっくに洗い流されている。明るいところでよくよく見れば、シーツの染みに溶け込んだ微かな血がわかるかも知れない。

 今は無明の中。

 エンリの嬌声と、エンリの雌の匂いが立ちこめている。

 

 性的快感を初めて感じるエンリなのに、乳房を揉まれて乳首を弄られるだけで大いに感じていた。乳首は痛いほど勃起して、抱き合っていると胸が擦れて意図しない快感を与えてくれる。

 エンリの女は指でも口でも、大きな逸物で暴力的にこじ開けられても、女の悦びをエンリに与えてくれる。体が粉々に砕けて視界が白く焼けるような強烈な快感を何度も感じた。エンリは絶頂の言葉も意味も知らず、何度も達した。

 余程の素質がなければ初体験でこうも感じない。

 幸か不幸か、エンリには素質があった。美神を満足させる男の技も世に希な域。しかし、それだけではなかった。美神の寵愛を受け、覚醒したサキュバスと愛を交わしあった男なのだ。無垢な少女が受け入れるには過ぎた存在。エンリの何もかもを塗り替えていく。

 

「あっぁっあああんっ! おまんこイイですぅ♡ おちんちんはいってきてぇ。あんっ、あむぅ……んっんっちゅる……れろ……。んっ……。もっときすぅ……ちゅぅ……」

 

 結合部から溢れる愛液は止め処ない。互いの股間を大いに濡らしている。シーツの染みは失禁でもしたのかと思うほど。

 エンリの反応の良さに、突き入れる強さが増していく。亀頭は最奥にまで届いて下りてきた子宮を押し上げる。動きも加速して水音が激しくなった。

 エンリは背を反らせて叫んだ。全身にかいた汗がつつと流れていく。

 何度目かの絶頂にベッドに落ちたエンリは、荒い息を吐きながらも嫣然と微笑んだ。逸物を受け入れている膣をきつく締め付ける。大きく開いていた脚は宙を掻いてから男の腰に回ってきた。足首同士を絡めて輪を作る。

 快感の渦に引き込まれたエンリが理性的な思考を出来るわけがない。女の本能がさせたに違いなかった。

 

「わたしのおまんこ……きもちいいですか?」

「ああ、最高だよ」

「うれしい……♡ でも…………、まだ、ですよね?」

「まだって?」

「その…………男の人って……。出るんですよね?」

「出る?」

「あの……よくわからないんですけど……。初めてだし……。おちんちんから……?」

「そこまでしか知らないのかな?」

「はい……。村に来た冒険者の人が俺のあついのがーとか言うのを聞いた事ありますけど……」

「熱い……。確かに熱いのかも知れないね。エンリの中に入ってる俺のちんこから精液が出るんだよ」

「精液……。気持ちいいと精液が出ちゃうんですか?」

「そうだよ」

「でもそれって………………。ううん、わたしの中に出してください。おまんこの中にいっぱい。あなたの精液を……。わたしのおまんこ、好きなだけかき混ぜていいですから。おちんちん気持ちよくなってください……♡ あっ……、あっあっあっあんああん♡」

 

 エンリの華奢な肩を抱き、腰を打ち付けた。

 逸物がエンリの膣を何度も往復し、その度にエンリは惜しげもなくいやらしい声で鳴く。膣を締めるのも忘れない。ほとんど無意識でやっていると思われた。

 柔らかな肢体にほぐれて絡みつく膣肉。嬌声は耳に心地よい。

 

「おまんこイイです♡ すごくすごくてぇ、お腹もおっぱいもきゅんきゅんしてますぅ……ああっ♡ おちんちん……イイですか? あっあっ、わたしっ、きっ、気持ちいいですぅ……。はうぅううぅう……」

 

 もつれた舌で拙い言葉で、自分がどれだけ気持ちいいか訴えてくる。

 熱に浮かされた情事の中、頭の片隅にある冷静な思考はエンリのよがり様を観察していた。再び声が高くなり、背に回された手に力が入り、膣がキュウと締まって愛液がプシャッと飛び散り、瞬間を捉えた。

 

「ああああああぁぁぁああああ!? ……出てる、熱いの出てる……。おまんこに熱いの出てるのわかります……。ああ……、わたしの中に……熱い精液が……。わたしのおまんこで気持ちよくなってくれたんですね♡」

 

 エンリは嬉しくなって男に抱きついた。繋がったままキスをした。

 と同時に、膣の中で精液を出される意味を思い出した。

 子供が出来てしまうかも知れない。

 結婚もしてないのにこんな事をして、子供まで出来てしまったら。

 しかし、今この瞬間の幸福感と充足感は何物にも代え難い。間違いなく一生の思い出、汚れることのない永遠の宝物になる。

 

「あ………………また♡」

 

 膣内でピクピクと脈動していた逸物が力を取り戻し、エンリの中を押し広げてきた。

 

「……もう一度、いいだろう?」

「はい♡ 何度でも出してください♡」

 

 膣内にたっぷりと精液を収めたまま、エンリの中で男が再度の蹂躙を始めた。

 

 エンリは一度目以上によく鳴いた。

 一度も抜かれることなく、三度目まで始まった。




一度さくっと書いたところ貴重な一般人枠と気付いて書き直したら長くなりました

エンリは割とすごいとどっかに書いてあったんです


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エモット妹 ▽ネム

魔が差した


「あぅ……。ぅあ……? あ…………。んん…………スゥ…………」

 

 寝息を立て始めたエンリを見下ろす。

 エンリは十二分に満足したようで、最後は涙を流しながらどれだけ気持ちいいかを叫びながら絶頂した。そしてそのまま失神した。起きる気配はない。

 初体験だろうにエンリは手強かった。三回も絞られてしまったのだ。流石は血塗れのエンリ恐るべし!

 股間はたっぷりと中に出した精液が溢れてどろどろになっている。抜かずに三回射精したのでそれなりの量だ。一度くらいは口に出したいとも思ったが躊躇われた。

 口淫は気持ちいい。拙くても教える喜びがある。それでもしなかったのはエンリにリードを奪われないためだった。昨日、シズにいいようにされた屈辱が鮮やかに残っていた。故に最初から最後まで、自分の楽しみは一旦脇に置いて、責めて攻めて責めてエンリを快楽の渦に引きずり込んだのだ。

 

 そもそもで言えば、ソリュシャンから事あるごとに理由を付けてトロトロされていなければエンリに誘われようと断っていただろう。女体に餓えてるわけではないのだ。

 純朴で朗らかで可愛らしいエンリが手足をもぐとは思いたくなかったが、ルプスレギナから吹き込まれた血塗れのエンリ像が消えてくれない。痛みに強かろうとも痛い目に遭うのが好きなわけではない。

 大体にしてナーベラルから早く帰れと急かさなければもっと余裕を持ってカルネ村を訪問できた。突然の訪問ではなく先触れも入れられたはず。間違いなく今回の訪問とは違う形になっていた。

 そして、ユリ。カルネ村に危険はないからとナザリックに戻ってしまった。もしもユリがいれば、どんな理由があろうとエンリへの夜這いを阻んだはず。血塗れのエンリや手足をもぐやらは一笑に付したことだろう。でもナザリックに戻ってしまって不在だった。

 

 結果から見ればプレアデスの姉妹が結託して男とエンリを罠に掛けたようなもの、に見えるかも知れない。こうなることを誰も望んでいなかった。しかし、エンリが初めてのセックスを大いに楽しんだのは事実だ。

 美神を満足させる絶技に覚醒したサキュバスの寵愛を受ける男の精液をたっぷりと注がれて、エンリは魔境の如く人が立ち入れない領域の快楽に身を浸すことになった。純朴な村娘が一生掛けても存在すら知ることのない悦楽の極地である。

 

 手強くはあったが、エンリの乱れっぷりを思いだして男は頬を緩めた。ああまで乱れてくれると男冥利に尽きる。我ながらいい仕事が出来たと満足感があった。

 服を着てから部屋を出て、見つけた桶に水瓶から水を汲み、エンリの元へ戻る。ハンカチを絞ってエンリの体を拭き始める。シーツはどうにもならないのでそのまま。ある程度拭き清めたら体を冷やさないよう毛布を掛けた。残りは明朝目覚めたエンリに頑張ってもらうことにする。

 今度こそ客間を後にした。

 

 

 

 

 

 

「あっ!」

「ん?」

 

 エ・ランテルのお屋敷と違ってエモット邸には魔法の灯りなどない。エモット邸の構造は昼間訪れたときに記憶したので暗くても移動に支障はなかった。暗がりに慣れてきたがけっして夜目が利くわけではない。声を出されるまで気付かなかった。

 

「ネムちゃん?」

「!」

 

 部屋を出た廊下の端にエンリの妹のネムがいた。床の上でうずくまっている。一歩近付くと押されたように後ずさった。

 

「まだ起きてたのかい?」

「!」

 

 ぶんぶんと首を左右に振る。暗いので顔は見えない。それでも気配くらいはわかる。昼間とは違ってどうにも様子がおかしい。こんな時間にこんなところで。

 客間に通じる廊下だ。もしかしたらエンリとしていたことを見ていたのかも知れない。

 

「エンリさんはよく寝てるよ」

「!」

「何か心配なことがあるなら起こしてこようか?」

「だめっ!」

 

 耳に痛い金切り声。エンリが寝ているのだ。どんな事情であれ、落ち着かせなければならない。

 

「そっちに行っていいかい?」

「……………………うん」

 

 近付いてもネムはうずくまったまま。どこか痛むのかと思ったがそんな素振りも見せていない。上げた顔は目元が赤い。泣いていたようだ。

 

「お姉ちゃんには内緒にして」

「わかったよ」

「本当に? ぜったいのぜったい?」

「約束する。絶対に誰にも話さないよ」

「…………うんとね。あのね、えっとね…………」

 

 屈んだ男の耳に口を寄せ、ネムは小さな声で囁いた。

 

「………………………………おもらし」

「……ああ」

「起きたらお姉ちゃんがいなくて、探したらお兄ちゃんと一緒にいて、何してるんだろうって思ったけど暗くてよく見えなくて、お姉ちゃんが聞いたことない声出してて、えっとね……、なんだかどきどきしてきて…………ぐすっ……」

 

 ベソをかき始めた。

 何となくわかるような気がした。

 

「もしかしたらお漏らしじゃないかも知れないよ?」

「だって……。ぬれてるんだもん……」

 

 ネムはお漏らししてしまったと信じて疑わないようだ。

 

 エンリとネムの二人は両親を失っている。その時のネムは今よりも幼かった。年齢的に母から教えられるべきことを教えられていないのかも知れない。ならばエンリが教えるべきだが、激変した生活に手一杯でそこまで気が回らないのだろう。

 

「ネムちゃんは赤ちゃんがどこから来るか知っているかい?」

「……? お母さんのおなか?」

「正解。どうしたらお母さんは赤ちゃんを授かると思う?」

「………………わかんない」

「ネムちゃんに月のものは来てる?」

「……お月さん?」

 

 知らなかったようだ。

 ネムの年の頃はマーレ様やアウラ様と近く見える。あちらは長命なダークエルフなので実年齢は措いておいて、ネムは十歳かそこらだろう。子供の体から女の体に変わる兆候が見え始める年頃である。

 変化に備えての心構えと知識。すなわち性教育が不足していると思われた。

 

「こんな時間にこんな所にいたら体を冷やすよ。とりあえず寝室に戻ろう」

「でも…………あっ」

 

 尚もぐずつくネムを強引に抱き上げた。

 お漏らしをしてしまったと思っているネムはお兄ちゃんの服を汚しちゃうと心配になったのだが、抱き上げてる方は全く気にしていない。本当にお漏らしだったとしても気にする男ではなかった。服にくっつくどころか掛けられたことさえ数知れずなのだから。

 

 

 

 

 

 

 ネムの案内でエモット姉妹の寝室に入った。暗いので部屋の様子はわからない。そう広い部屋ではないようだ。ベッドは一つ。一人用だ。エンリとまだ小さなネムなら問題ないだろう。

 窓からの星灯りを頼りにベッドへたどり着きネムを下ろした。そのまま自分もベッドの縁に腰掛ける。

 

「ネムちゃんはお漏らしをしてないよ。抱っこしてもおしっこの臭いがしなかったからね」

「……………………あっ!」

「本当にお漏らしだったらパンツや寝間着がもっと濡れちゃってるだろう? でもネムちゃんの服は綺麗なままだ」

「ホントだ!」

 

 ネムはベッドの上にペタンと座り下半身を撫で回した。服が濡れてないことを確かめて声に喜色が乗る。けども、直ぐに困惑と怯えがない交ぜになった。

 

「でも…………、ぱんつ…………」

 

 パンツが湿ってしまったのでお漏らしと思ったのだ。今もちょっぴり湿っている。

 

「それはおしっこじゃないんだ。女の子はおしっこじゃなくても濡れることがあるんだよ」

「……おしっこじゃない? じゃあこれなあに?」

「それをこれから教えよう」

 

 時間的に寝かしつけた方が良い。しかし、ネムは目が冴えてしまって眠そうな素振りを全く見せない。それならば少々時間を拝借し、ネムの不安を解消すべきと考えた。具体的には女の子が赤ちゃんを授かる方法を教えるのだ。

 もしもネムがもう少し年が上なら放置した。しかしマーレへそうだったように、子供には無条件に優しい男だった。これから幾度も世話になるカルネ村の村長の妹の面倒を見れば、今後の滞在にプラスになるだろうとの下心もある。

 

 月のもの、すなわち月経に始まって、女性が子供を授かるために男性から赤ちゃんの素をもらう性行為。性行為も具体的に、女性のどの部分へどうするかも説明する。

 月経を説明するときは大いに苦しんだ。まさか羞恥を覚えたわけではない。幼いネムにあれこれと教え込む罪悪感を覚えたわけでもない。かつてラナーから『これはとっても栄養があるのよ♪』とか言われて経血を流しながらの顔面騎乗をされたことを思い出したからだ。悍ましき苦難の歴史である。グギギギギ!

 

「とても狭いところだから中に入れるには滑りをよくしなきゃならない。そのために女の人は濡れるようになってるんだ。ネムちゃんが濡れちゃったのはきっとそれだと思うよ」

「ネムはまんこにちんこが入るようにってぬれちゃったの?」

「……おまんことおちんこって言おうね」

「おまんことおちんこ」

「………………」

 

 幼いネムの口から性器の名前が上げられるのは何とも微妙な気持ちになった。

 ともあれ、自分の体に何が起こったのか知ったネムは元気いっぱいである。夜も遅いので元気いっぱいでは困るのだが。

 

「お漏らしじゃないってわかったかな? これで安心して眠れるね」

「うん!」

 

 本当に元気いっぱいである。ちゃんと寝付けるのだろうか。しかし、寝かしつけるところまでは面倒を見てられない。

 

「ネムちゃんが安心したところで帰るよ。おやすみなさい」

「…………………………お兄ちゃんはお姉ちゃんと赤ちゃん作ってたの?」

 

 腰を上げ掛けたところで、ネムは核心を突いた質問をした。

 話の流れはどうしてネムが濡れてしまったかだ。濡れるメカニズムは話したが濡れた原因については飛ばしていた。

 

「どうしてそう思うんだい?」

「だって……。ネムのおまんこはおちんこが入るようにぬれちゃって、ぬれちゃったのはお姉ちゃんがおかしな声を出してたからで、じゃあお姉ちゃんはおまんこがぬれるようなことしてたのかなって」

 

 ネムは聡明だった。

 エンリの声にあてられて自分がそうなったのだから、そんな声を上げていたエンリは、となるのは至極真っ当な疑問である。

 

「お兄ちゃんがおちんことか言うのお姉ちゃんのおまんこに入れてたの? 赤ちゃん出来る?」

「…………それはね」

 

 数瞬考え、全部教えることにした。遅かれ早かれいずれ知ることである。

 

「赤ちゃんを作ってたんじゃないよ。出来るかも知れないけど出来るとは限らない。エンリさんがとても気持ちよくなれるようにしてたんだ」

「気持ちいいの?」

「エンリさんはとても悦んでくれたよ」

「じゃあネムも気持ちよくなれる?」

「なぬ?」

 

 純真なネムの曇りなき眼は暗い部屋でもキラキラと輝いていた。

 急速に発展しようとも娯楽が少ない辺境の村であることに変わりはない。気持ちがいいらしいことに好奇心いっぱいの子供が食いつかないわけがなかった。

 

 

 

 

 

 

「ネムちゃんはまだ体が小さいからちんこまでは入れられないよ。でも濡れたのなら気持ちよくなれるかも知れないね」

「うん。おまんこが気持ちよくなるんだよね? でもおまんこの穴がどこだかわかんない……」

「それもこれから教えるよ」

 

 毒喰らわば皿までの精神で性教育を実習することになった。ネムがどこまで気持ちよくなれるかはわからないが、試してみれば好奇心が満足して寝てくれるだろうと思ったのだ。ここでネムちゃんにはまだ早いから、と誤魔化さないのがこの男の駄目なところである。

 ラナーがこれくらいの頃にはもう一通りのことをしていたのだ。挿入も果たしていた。尤も、あの頃は男も少年だった。ネムにも同じことをするのは不可能だし欲情も出来ない。

 

「くんくん……。お兄ちゃんからお姉ちゃんのにおいがすごくするよ?」

「今のネムちゃんと同じくらいくっついてたからね」

「そっかあ!」

 

 男はベッドの真ん中に座って、ネムは男の膝の上に座っている。小さなネムなので、後ろから男が覆い被さると完全に包まれてしまう。

 

「それじゃネムちゃんが気持ちよくなれるように色々試してみるよ。痛かったりしたらちゃんと言うんだよ?」

「はーい!!」

「……もう遅い時間でエンリさんは寝てるんだから大きな声は出さないように」

「…………」

 

 ネムは両手で口を押さえ、こくこくと頷いた。

 先ずは優しく後ろから抱き締めた。しかし、この程度は日中もやっている。ネムはまだしないのかと頻りに振り向く。子供は我慢が利かないように出来ている。苦笑しながらネムの服に手をかけた。

 ネムが寝間着にしているのはエンリのシュミーズより更にシンプルなチュニックだ。肌触りの良い大きな布を合わせて頭と手を出す穴を開けただけ。貫頭衣と言っていいかも知れない。一応、腰の部分で切り替えるための紐が結ばれている。辺境の子供が寝間着にするのだからこの程度で十分なのだ。ネムが成長してもあと数年は着られそうなゆったりしたチュニックである。

 腰紐を解いてから裾をたぐり寄せ、内側へ手を這わせた。子供なので肉付きはまだまだ。それでもやはり女の体で、色々と柔らかい。

 

「お兄ちゃんの手、あたたかい」

「そのまま体を楽にしててね」

「うん……。でも汚くない? そこ……、おしっこ出るところ……」

「汚くないよ。おしっこくらい平気だから出したかったら出してもいいよ?」

「む……。ネム、それくらい我慢できるもん!」

「しーーーっ」

「…………ごめんなさい」

 

 膝上に座るネムは、男の太股を跨ぐように脚を開かされている。服の内側に入ってきた手は下腹と、パンツの上から股間に当てられている。優しくさすられるのは頭を撫でられるより心地よかった。

 ネムにとっては、とっても綺麗で優しいお兄ちゃんだ。体を触られることに嫌悪感は全くない。もっとくっついていたいくらい。それがとっても気持ちよくなると言うのだからやってみたくて仕方ない。強いて言うならば、おしっこが出るところを触られているのでお兄ちゃんの手が汚れちゃわないかと心配している。触っている当人が気にしていないらしいからネムも気にしないことにした。

 

「今のネムちゃんは髪を解いてるんだね。昼間とは雰囲気が違うな」

「ネム、自分で髪をくくるんだよ?」

「そうなんだ。えらいね」

「……うん」

 

 姉よりも濃い茶色の髪は二つに分けて括っていた。如何にも快活そうな髪型で、それが解かれるとやや大人びた印象がある。

 

「髪も自分で梳かす?」

「……うん。おねえちゃんにしてもらうときも、あるよぉ……」

 

 他愛ない会話をしながらも愛撫は続いている。

 ネムは撫でられているところが温かくなってきた。お兄ちゃんに抱っこされてドキドキしていたのに体の力が抜けてくる。全身が温かい何かに包まれている気がする。気持ちいいとはこういうことなのかと思った。

 

(ポカポカして気持ちいい……。お日様の中でお昼寝してるみたい。お姉ちゃんもこんな感じだったのかな? こんなに気持ちいいのにどうしてあんな声出してたんだろ? 泣いてるみたいでビックリしちゃったのに。お姉ちゃんは恐がり屋さん? お兄ちゃんに触ってもらって怖いことなんてなんにもないのにへんなの)

 

 優しく揉みほぐしている股間が温かくなってきた。子供特有の高めな体温と合わさって、服の内側は蒸れている。ネムの体も汗ばんできた。体にこもった熱を逃がすように時々深い息を吐く。

 

「濡れちゃうと困るからパンツを脱ごうか?」

「……う……ん」

 

 ネムのパンツもエンリと同タイプ。腰で留めている紐を解き、肉付きの薄い尻を浮かさせて脱がせた。

 暗がりの中、温かい小さな薄布を広げて検分する。ネムがお漏らしと勘違いした大きな染みは乾きつつあった。その中心に細い筋状の新しい染み。指で触れるとぬめりがある。

 

「これから直接触るよ。さっきより刺激が強いと思うから驚かないようにね」

「……はぁい」

 

 下腹を撫でると産毛の感触があった。陰毛が生えつつあるようだ。更に手を下げればネムの幼い秘部にたどり着く。パンツの上から十分にほぐしたのに、ネムの割れ目は頑なな一本筋。揃えた指を当てると僅かなぬめりけ。パンツを湿らせた汁はネムの割れ目から湧き出ている。

 濡れたことを教えてあげればひとまず今夜の目的を達したことになる。しかし、おまんこの穴はまだこれからだ。ネムは体の力が抜けきって心地よいように見えるが、気持ちいいところまで行ってるかどうかはわからない。もう少し続けることにした。

 幼くてもやはり女で、女の体の一番柔らかいところ。割れ目が閉じていてもぷにぷにとした感触は手に楽しい。瑞々しい肌も手触りがよく、指に吸い付いてくる。

 パンツの上からしていたように、指先は揃えて割れ目にあてがい、手の平全体で股間を包むようにして小さな円を描く。描いた円が十を数えると、中指だけを割れ目に沈ませた。ネムの内側はとても柔らかい。熱い泥を薄い膜で包んだようだ。中指を包むのは、閉じようとするネムの陰唇と温かい愛液。湿り気ではない。ネムははっきりと濡れ始めた。

 

「苦しくない?」

「……だ……だいじょうぶ、……だよぉ?」

「でもすごくドキドキしてるね」

「…………うん。……ドキドキしてる……。ふわふわしてるのに、ドキドキしちゃうの……。はぁ……。はぁ……」

 

 ネムの股間は右手が覆って、下腹を撫でていた左手はネムの体を這い上がっていった。へそを撫で、プニッとしたお腹を撫で、更に上へ。ネムの胸に手を当てている。手の平には高鳴る鼓動が直に伝わってきた。

 ネムの自己申告を信じて胸を撫でた。膨らみは全くない。育つのはこれからだろう。

 ラナーがネムくらいの年頃だったときはもう少し膨らみがあった。しかし、王族と農村の娘では栄養状態に差があり過ぎる。比較は適切でない。尤も、姉のエンリを見る限りネムもそこそこに有望だ。成長することのないシズと比べれば、と口にしたら酷いことになるので思うだけに留める。

 

「あっ…………あうぅ……、ひゃうっ!?」

「痛い?」

「へっ…………へいき! いたくないよぉ……。いまの……もっとして? あんっ……」

 

 揉む乳肉はゼロ。だけども愛らしい乳首はちゃんとついてる。幼いながらも性的な刺激に反応して立たせていた。突然摘ままれてビックリしたのか、もっととねだるのだから好いものだったのか。

 

「私はネムちゃんのおまんこに集中するから、おっぱいはネムちゃんが自分でしてごらん」

「……うん。じゃあ脱いじゃうね?」

 

 うんしょとチュニックを脱ぎ捨てた。男の膝上に座りながら、ネムは全裸になって自分の体をまさぐり始める。目当てはさっき摘ままれたところ。親指と中指で摘まんだ。始めは摘まむだけだったのが、すぐに転がすようになった。どうすればもっと気持ちよくなれるのか、無意識に様々なことを試している。

 

「あっあっ……、さきっちょがじんじんしてるよ?」

「強くしすぎて痛くしないようにね」

「うんっ、うんっ……」

 

 乳首に夢中になってるネムを見下ろしながら、宣言したとおりネムの秘部に集中する。

 割れ目の内側は十分潤っている。それでも念の為に、ぺろりと左手の中指を舐めた。唾で濡れた指が目指すのは割れ目の上端。何度か指の腹が触れているのをネムは気付いているだろうか。

 

「ひゃっ!? ビリってした!」

「痛かった?」

「…………ちょっとへいき。……でもつよくしたらいたい、かも?」

「優しくするよ」

「うん……。おにいちゃん、ネムのおまんこ……やさしくさわって? あっ……はぁ……あぁ……」

 

 下からすくうように触ったので、包皮の下へ直に触れてしまった。同じ間違いをしないよう今度は上から。クリトリスの根本から扱くように優しく撫でる。包皮越しに小さな肉芽が膨らんでくるのがわかった。皮は剥かないように人差し指と薬指で挟み、折り曲げた中指で肉芽をつつく。

 初めての刺激にネムの腰が跳ねた。乳首を摘まんでいた手が男の腕を掴んだ。止めてとも痛いとも言わない。不規則な荒い息を吐き、小さな鳴き声は艶めいてきた。

 

「おっ、おにい、ちゃん……。ネム……、おかしいよ? はぁ……はぁ……、あっ……ん。あんっ……。おなか、あつくって……。おなかのなか、おかしな気がする……」

「痛くないかな?」

「へいきぃ……。でも……、おなかあっつくってぇ……。……あっ……ふああっ!? ……どこ? おにいちゃんのゆびどこ? ネムのおしり、じゃないよね?」

「違うよ。わからないかな?」

「わかんない……。わかんないけど……。…………おまんこ?」

「正解」

 

 ネムの雌穴はとても小さい。穴を見つけた中指はネムの呼吸と脈動を読み、体が弛むのに合わせて少しずつほじっていった。膣口に第一関節まで入り込み、第二間接まで入ったところでネムが気付いた。

 指で感じるのはとても熱くて柔らかい媚肉。締め付けはきついと言えるほどではないが、未通の穴を抉っているのだ。無理は禁物である。

 

「おにいちゃんのゆび、ネムのおまんこの穴に入っちゃったんだぁ……。あっ……、ここがっ、おまんこっ……。いたくないけど……。ネム、さっきのところがいいなぁ」

「こっちかな?」

「うっ……あんっ……。そこぉ……。そこどこぉ?」

「クリトリスって言うんだよ」

「くりとりす……。ネム、くりちゃんすきぃ……。あぁ……はあぁ……」

 

 アルベドも初めの内は中よりクリ派だった。男を受け入れる体制が整っていないネムなら尚更のこと。中で感じるようになるには成長と修行が必要である。

 

「あっあっあっ…………? どうして手をはなしちゃうの?」

「今日はここまでにしようね。もう遅い時間だし。寝ないと明日起きられないよ? ネムちゃんが濡れちゃったのはおしっこじゃないってわかっただろう?」

「……うん。…………あっ! ネムのおまたこんなになってる!」

 

 自分の股間に触れて、今更ながらに垂れ流している愛液に気が付いた。ぬめった液体は割れ目から溢れて内股を濡らしていた。何もかもが初めてな上に未成熟な体なので流石に姉ほどではない。

 

「おまんこの穴もわかったよね。それに気持ちよさそうな声を出してたよ」

「うん……。なんだか変な感じで、でもいやじゃなくて、おなかがあっつくなって……。あれが気持ちいいことなの?」

「それはネムちゃんじゃなきゃわからないよ。気持ちよかったかい?」

「わかんないけど……。ちょっと……よかった、かも?」

「そう」

 

 拙い言葉に苦笑して、膝の上からネムを下ろした。

 

 血塗れのエンリを満足させ、加えてネムの好奇心を満たしたのは超過労働な気もする。しかし、夜が早いカルネ村だ。まだ日付も変わってないだろう。眠る時間は十分残っている。

 今度こそ帰って寝るぞと腰を浮かせ掛けたところで、

 

「お兄ちゃん! ネム、おちんこも見てみたい!」

「なぬ?」

 

 ベッドにペタンと座っているネムは、目をキラキラ輝かせて男を見上げていた。

 自分の体がある程度満足したから、今度は男の体の不思議に興味が移ったらしい。

 

 数瞬考え、まあいいかとズボンを下ろした。ここでネムちゃんにはまだ早いからと窘めないのがこの男の駄目なところである。

 暗がりに慣れようとも星灯りしかない暗い部屋。ネムはベッドに座り直した男ににじり寄って、股間の前に陣取った。よく見ようとして、ぐぐっと体を前に倒す。

 

「さわってもいい?」

「いいけど優しく触るんだよ。とても繊細なところだからね」

「はーい」

 

 ネムは男の股間へ恐る恐る手を伸ばした。うなだれている逸物を子供の細い指が撫でる。下から持ち上げて軽く握った。柔らかく、人肌よりもやや冷たかった。

 

「ふにゃふにゃしてやわらかいよ? これがおまんこの穴に本当に入るの?」

「入るときは固くなるんだよ」

「……でもやわらかいよ?」

「ネムちゃんのおまんこに入れようとしてないからね」

「………………ふーん」

 

 ストレートに、ネムに欲情しないからと言うのが不味いことくらいわかった。幼くても女は女である。

 

 ネムは、男の言葉の意味が今一つわからない。それでも何故か面白くなくて、乱暴にならない程度に逸物をいじり始めた。

 きゅっきゅと、握る手に力を加えてみる。顔を寄せてすんすんと臭いを嗅ぐ。柔らかな肉の棒がなんだか美味しそうに見えて、ペロリと舐めてみた。上目遣いに男を伺う。よく見えないけど、何も言わないから不味いことをしているわけではないようだ。わからないなりに舐め続けてみる。続ける内に握る手が押されるような気がした。やや冷たいように感じたのが熱くなっている。舌に伝わる感触も、ふにゃっとしてたのが固くなってきた気がする。どうせ暗いからと目を閉じて舐めていたのを、開いてみた。

 

「あっ! お兄ちゃんすごいよ!? おちんこ大きくなってる!!」

 

 ふにゃっと柔らかかった逸物はネムの手で見事に勃起した。

 

(バカな! ナーベラル様の生乳を揉んでもマーレ様の太股で顔を挟まれても立たせなかったというのに、こんな子供に勃起させられただと!?)

 

 少し考えれば当然である。男性器を直に刺激されればその気はなくとも立ってしまうのが男の性。幼いながらもネムの女が匂い立っているのも影響しているかも知れない。

 小さな子に目覚めたわけではないのだが、ネムに勃起させられたのはそれなりに衝撃だった。衝撃だったけどもそれはそれ。立ってしまったなら治めなければならない。美神の薫陶を受けているのだ。刺激から離れて落ち着かせる選択はなかった。

 

「ちんこが大きくなると、赤ちゃんの素を出して小さくしないといけないんだ。ネムちゃんに出来るかい?」

「え…………。でもこんなおっきいの、ネムのおまんこに入んない……」

「おまんこに入れなくても出来るんだよ。握ってみて」

「うん……。こう?」

「もっと強く」

「……このくらい? 痛くない?」

「平気だよ。握ったら上下に動かすんだ」

「うん……。お兄ちゃんのおちんこ、なんだかピクピクしてるよ……」

 

 ネムは両手を重ねて大切に握ってから、言われたとおり上下に扱き始めた。

 男性器を見るのも触るのも初めて。ましてや勃起した物を。だけれども大好きなお兄ちゃんのおちんこ。何か言われる前に舐めてしまったくらいなのだから汚いとは思わない。

 

(おちんこってこうなってるんだ……。すごくおっきくてすごくあっつくて。こんなにおっきいのがネムのおまんこに入っちゃうの? お兄ちゃんは、ネムはまだ小さいから入らないって言ってたけど……。でもお姉ちゃんのおまんこには入ったんだよね? お姉ちゃんすごいなぁ……。いいなあ……。おちんこシュッシュってすると気持ちいいのかな? ネムのこと気持ちよくしてくれたんだから、ネムもお兄ちゃんを気持ちよくしてあげなきゃ!)

 

 ネムは聡明だった。

 ペロリと舐めたら大きくなったのだから、もっと舐めたら気持ちよくなるのではと考えた。

 位置も良かった。互いに向き合った状態でネムが口を使うと、反り返った逸物の裏筋を舐めることになる。丁度敏感なところだ。小さな舌を伸ばして一生懸命舐め上げる。竿と亀頭の合わせ目を舐めると頭を撫でられた。ここだと思った。あーんと口を開け、レロレロと舌を動かす。握る手の平から脈打つ逸物を感じ、亀頭の先端からぷっくりと透明な滴が滲んできた。

 

(あっ! おちんこからヌルヌルしてるの出てきた! 舐めちゃったけど大丈夫かな? 味わかんないけど……。でももっと舐めてみたいな……)

 

 ぱっくりと亀頭をくわえ込んだ。ネムの小さな口では頬張りきれず、先端を唇で包むのが精一杯。

 

「歯を立てないようにね」

 

 しゃぶりながら小さく頷く。ぷにぷにと張りつめた亀頭を舌で舐め回しながら逸物を扱く。頭を撫でられて嬉しくなり、舌と手の動きを加速させた。

 舐めるのに夢中で吸うことに気付かず、亀頭と唇の僅かな隙間からネムの涎が溢れていく。竿を伝い、手まで届いた。尚も扱き続け、にちゃにちゃと卑猥な水音を響かせる。

 

「あっ!? ……お、おにいちゃん?」

「ネムちゃんはそのまま口で続けて」

「うん……。あむっ……れろ……んっんっ……。ちゅうっ……」

 

 ネムは股の間に座っている。そのままでも良かったが、横を向かせた。その方が手が届きやすい。

 男の手はネムの小さな尻を撫で、尻の割れ目に中指を沿わせてさっきまで入っていた肉穴へ入り込んだ。呼吸を読んで挿入した一度目と違って、幼い処女穴はきつく締め付けてきた。根本までは深すぎると思われ、今度も第二間接まで。ただし、一度目よりも抽送を激しくする。

 ネムが扱く逸物がニチャニチャと鳴れば、ネムの股間はクチクチと鳴った。

 

「んっんっ、あむっ、あんっ♡ うぅ~~、あむぅ……。れろ……、ちゅるっ……。おにいちゃん、おちんこ気持ちいい? ネムはおまんこきもちいよぉ……。あむっ……」

 

 言うだけ言って頭を下げた。

 口淫に夢中になっているようでいてちゃんと人の話を聞いている。吸えと言えば吸うし、舐めろと言えば舐める。良く出来たときは頭を撫でてやる。

 亀頭しか咥えられないので包まれる温かさがないのは残念だが、ネムの一生懸命な気持ちはよく伝わってくる。それに、亀頭だけを責められるのも中々良かった。口が小さく舌も小さいので、小刻みな刺激が心地よい。

 ネムへの愛撫も忘れない。狭い処女穴へ入れっぱなしではなく、第二間接まで入れたらいったん抜いて尻の割れ目を撫でる。ネムの粘りが薄い愛液を伸ばしてからもう一度膣の中へ。時間をかけて何度も繰り返す。その内に入っていない時間の方が長くなっていった。入ってない間は尻の割れ目を撫でている。もっと言えば尻の窄まり。ネムのキュッと締まった肛門を撫でていた。

 ネムはどこを撫でられているのか気付いているのかどうか、逸物から口を離さない。自分の小さな体では出来ることが限られているから、その分をフォローしようと一生懸命になっている。

 指先で肛門を撫で回す。そろそろと思い、ネムの尻の割れ目へ唾を垂らした。あぶくが混じる唾が肛門にたどり着いたとき、指を突き立てた。

 

「っ!?!? おっおにいちゃん!? おにいちゃんのゆび、ゆびがネムの……」

「痛い?」

「いたくないけど……ないけど……。でもでも……そこ……。おまんこじゃ、ないよ?」

「痛くないなら大丈夫だよ。続けて」

「うん……。あうっ、あうぅっ! あっあっ……そこ、おしりぃ……」

「もう続けられない?」

「だっ……だいじょぶ……。んっ……んちゅうっ、れろれろ……じゅる……。あひぃっ……」

 

 始めこそ処女穴よりきつかった尻穴は抽送を繰り返す度に柔らかくなっていった。中指を根本まで受け入れている。薬指も追加すると、ネムは逸物を握りしめて動きを止めた。構わずに抽送する。きついのは確かだが、指の動きを止めるほどの締め付けはない。

 実を言えばラナーと初めて交わったのは尻の穴だった。指よりもずっと太いものが毎日通る場所なのだから、適切にほぐせば幼くても太い物を受け入れることが出来るのだ。

 ネムとそこまでするつもりはない。指も一本に戻して締め付けを楽しむだけにする。

 体が楽になり今がチャンスと思ったのか、ネムは必死に逸物を扱いた。舌も使う。亀頭を咥えながら、どこを舐めたときいっぱい撫でてくれたのかを思い出した。舌にたっぷりと唾を乗せ、レロレロと裏筋を舐め回した。

 技術も経験値もいまひとつな舌技だが熱意は百点である。股間から快感が上ってきた。

 

「あっ!」

 

 ネムの手の中で、ネムの顔に向けて、逸物が熱い精液を放った。エンリと三度放ったところなのに量は一向に減ってない。どぴゅどぴゅと噴出する白濁した粘液はネムの顔を汚し、粘塊は自らの重みで垂れていく。

 

「あっ………………でた。これが赤ちゃんのもと? ……飲んでもへいき? 赤ちゃん出来ない?」

「赤ちゃんが出来るのはおまんこに出したときだけだよ」

「わかった……。んっ…………おにいちゃんの味がするよ♡」

 

 頬を流れ落ちる粘塊を指ですくい、唇へ運んだ。ちゅるりと吸って頬を緩める。ネムは体が熱くなってきた。お兄ちゃんを気持ちよくできた自分が誇らしかった。尻の穴に指を入れられているのも忘れ、顔を汚す粘液を舐めとり始めた。

 

「赤ちゃんの素は精液って言うんだよ」

「せいえき?」

「そう。そして、全部飲んだらもう一度ちんこを舐めて綺麗にするんだ」

「はーい!」

「……もう少し小さな声で返事をしようね」

「…………」

 

 無言でこくこくと頷く。

 頷くついでに頭を下げて、もう一度逸物を口に含んだ。

 ネムは後始末も出来るようになった。




いつか来るとは思いましたが非ログイン感想ですごいの(削除済み)湧いてきたので再制限します


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発病

 明くる日のお昼。エモット邸で催されたお食事会はとても賑やかな物になりました。

 エモット家の姉妹は当然として、妹のネムちゃんが約束したエ・ランテルからのお客様。そのお客様が連れてきたバレアレさんちのンフィーレア少年。何故か湧いてきたゴブリン軍団ぷらすオーガ達。

 

 昨日約束した通り、エ・ランテルの若旦那様はバレアレさんのとこへ遊びに行きました。やはり昨日と同じように錬金術の話で盛り上がりました。お昼が近づき、お客様と離れがたく思ったンフィーレア君は昼食を一緒にどうかと誘いました。そしたらエモット家から誘われているのでと断られてしまいました。

 ンフィーレア君は戦慄しました。なぜならば、ンフィーレア君はエモット家のエンリちゃんのことが昔から大好きだったのです。そのエンリちゃんがこのお客様を誘ったのです。同性から見ても見惚れてしまう美貌の男をエンリちゃんが誘ったのです。もしかしてエンリちゃんはこの人と急接近してしまったのだろうかと気が気でなく、気付いたら「僕も一緒に」と口走っておりました。

 ンフィーレア君を招いていいかどうかをお客様が判断できるわけがなく、とりあえず保留しようとしたところを今日も同行していたゴブリン軍団のジュゲム隊長が「わかりやした!」と駆けていきました。

 エモット家に急行したジュゲム隊長はエンリ大将軍へ昼食会を開くことを一方的に告げ、エモット家の庭に大きな竈を作ってバーベキューの準備に取りかかりました。

 竈を作る石はゴブリン大軍団が従えるオーガをこき使いました。オーガはゴブリンと同じく亜人の一種で、縦は人の倍、横は五倍にもなろうかという巨人です。しかしカルネ村では下っ端扱いです。

 お肉は森に入って狩りをしてきたゴブリンレンジャー部隊提供です。

 

 ジュゲム隊長には思惑がありました。

 我らが総大将であるエンリ大将軍は昨日来たばかりのお客様といい関係になってしまったかも知れませんが、ジュゲム隊長の推しはやっぱりンフィーレア少年です。

 バーベキューをして、ンフィーレア少年がエンリ大将軍にちょっと頼りがいがあるところを見せれば好印象になるのではと考えたのです。と同時に、都会から来たお客様は生のお肉を獲物から捌くところを見せれば真っ青になって貧血を起こしてしまうかも、とも考えました。

 あちらを立ててこちらを下げる作戦です。

 

 ところが思惑は大きく外れてしまいました。

 獲物を捌くところで顔を青くしたのはンフィーレア少年で、お客様は貧血どころか懐から取り出した短剣を使って率先してお肉を捌きました。手が血や脂で汚れようともまったくお構いなしです。焼く前に生で食べようとしたのでエンリちゃんから可愛らしく窘められる一幕もありました。

 ちなみに短剣はコキュートス様から頂戴したものです。魔法の効果はなくナザリック的には量産品なのですが、凄い切れ味で硬い骨もスパッと断ち切っていました。

 

 ジュゲム隊長の思惑は外れてしまいましたが、とりあえず参加者の全員がお腹いっぱいになりました。

 ゴブリン達が食事の後片付けをしている間に、エンリちゃんがお客様にそっと声を掛けて連れ出すのをンフィーレア少年は目撃してしまいました。

 一体何をするつもりなのか。一体何を話すつもりなのか。ンフィーレア少年は呆然としながらも二人の後をつけました。盗み見や盗み聞きが悪いとかいう善悪の判断は全く付きませんでした。

 

 エモット邸の裏側で親密そうに話している二人を、ンフィーレア少年は絶望と共に覗いていました。

 ずっとエンリちゃんが好きだったのです。でもエンリちゃんは昨日会ったばかりの格好いい男の人とお話ししています。

 自分とあの人とを無意識に比べ、色々と向こうに軍配が上がった末に、「でも僕は魔法が使えるし!」と僅かばかりの優越感に浸ってみましたが虚しいだけでした。

 距離がある上に声を張ってるわけでもないので何を話しているかは聞こえません。でもエンリちゃんが寂しそうに笑っているのが見えました。エンリちゃんがあんな顔をするのをンフィーレア少年は一度も見たことがありません。

 昨日ぽっと出たばかりの男に愛しのエンリちゃんが奪われてしまうことに、ンフィーレア少年は怒る余裕もありませんでした。全身から血の気と気力とその他諸々がいっぺんに引き、陸に上がったクラゲのような有様になってしまいました。

 視界が霞み、物陰に引っ込んで視界を霞ませる原因を拭って、だから誰かが近づいてくることに全く気が付きませんでした。

 肩をぽんと叩かれ、うひゃあと可愛い叫びを上げました。

 肩を叩いたのはエンリちゃんとお話ししていた男の人です。

 ンフィーレア君は、長い前髪に目元が隠れていることを今ほど感謝したことはありませんでした。

 

「エンリさんが呼んでるよ」

 

 

 

 

 

 

 ンフィーレアはふらつく足に渇を入れながら佇むエンリに近付いた。

 

「どしたの? ンフィー大丈夫?」

「だ……大丈夫、だよ? 僕に何か用?」

 

 大丈夫と言い張るンフィーレアを、エンリは心配そうに見上げた。腰を折って下からンフィーレアの顔を覗き込もうとすると距離をとられた。

 

「ふーん……。まあ大丈夫ならいいけど」

「うん、大丈夫だよ。僕に何か用?」

「本当に大丈夫?」

「大丈夫だって。それで、何?」

 

 何があったか知らないが、エンリの目には大丈夫そうには見えなかった。それでも大丈夫と言い張るなら大丈夫と言うことにして、エンリは用件を告げた。

 

「結婚しよっか」

「……………………………………ああ」

 

 ンフィーレアは何か重大なことを言われる覚悟をしていた。していたが、エンリの言葉は重すぎた。受け止めることが出来なかった。

 

「…………急過ぎない?」

「別に急じゃないわよ。前から考えてたし」

「……………………………………ああ」

 

 前からと言うことは、昨日よりも前に会ったことがあるのだろうか。

 

「なに? イヤなの? ンフィーも同じ気持ちだったんじゃないかなって思ってたんだけど?」

「イヤって言うか…………。やっぱり急で…………。僕も同じ気持ちって言われても……………………。そりゃ凄い人だと思うけど………………さ」

「へ~~~~~~~~? 自分で自分を凄いだなんてンフィーも言うわね。ま、天才錬金術師とか言われてるから凄いのは確かだけど、ンフィーが自分でそういうこと言うとは思わなかったわ」

「天才………………。確かに天才だよ。魔法は使えないのに凄い知識だし、発想も凄いし、それに比べたら僕なんて…………」

「……ん? ンフィー何か勘違いしてない?」

「……………………エンリが結婚するんでしょ?」

「誰と?」

「それは……………………………………。あの人と」

「ちっがああああああああああああうっ!! どうしてそんな勘違いするのよ! 私と、ンフィーが、結婚するの! なに!? ンフィーは私と結婚するのがそんなにイヤなわけ!?」

「え…………。ええええ!? ええええええええええええええええええ!?!?!?!? 僕とエンリが!?」

「何でそんなに驚くのよ。それにどうして私から結婚してって言わなきゃなんないの! こういうのって男の人から言うもんじゃないの!?」

 

 エンリに何を言われたのか、ようやっとンフィーレアはしかと認識できた。出来たと同時に引いた血の気が勢いよく戻ってくる。顔は真っ赤になって湯気が立ちそうなほど熱を持つ。

 エンリが両手を腰に当てて睨んでくる。とても怖いが、とても可愛く思えてならなかった。

 

「で、でも、その、さっきの人は? …………え? 僕と結婚してくれる? え? ホントに? 嘘じゃないよね? 本当だよね? エンリは僕と結婚してくれるって言ったんだよね?」

「言いました。どうしてそんなに信じられないのよ。……あの人は凄く素敵な人だけど私なんかが釣り合う訳ないじゃない。第一昨日会ったばかりなのよ? どうして私があの人と結婚なんて思うの」

「は…………ははっははっは! そうだよね、エンリなんかがあの人と釣り合うわけ……グフォエェッ!?」

 

 エンリちゃんブローがンフィーレアのボディに決まった。

 ンフィーレアは愛しのエンリちゃんと結婚できることになって嬉しくてたまらなくなり、よくわからないことを口走ってしまったのだ。

 以降の夫婦の力関係を暗示する始まりであった。

 

 

 

 

 

 

「私、ンフィーと結婚することにします」

「それはおめでとう」

 

 昨夜あれほど愛し合ったのに、あっさりと祝福の言葉が返ってきてエンリは少し寂しくなった。

 

「結構前から考えてたんです。私、このままじゃ誰とも結婚できないなあって。結婚するならンフィーくらいしか相手がいないし、ンフィーは子供の頃から良く知ってるから悪い相手でもないかなって」

 

 王国の農村ならエンリの年で結婚するのは早いとは言えない。二十歳で子供がいるのもおかしいことではない。

 

「そうだね。ンフィー君は錬金術師として既に名を成しているし、性格も穏やかそうだ。良い相手だと思うよ」

「………………そうですね。でも、私は結婚しても家庭に縛られて夫の所有物に成り下がるつもりはありません」

 

 昨日、男がエンリへ語った結婚観である。

 

「そこはエンリさんの自由意志を尊重するよ。ンフィー君もエンリ大将軍を拘束するなんて大それたことは思えないだろう」

「大将軍…………………………。ともかく結婚します。ですからいつ子供が出来ても大丈夫です」

「結婚して夫婦の営みが行われれば、そうなっても不思議はないね」

「……昨日みたいなことがあっても大丈夫です」

「……………………………………ん?」

「カルネ村にはまた来ますよね?」

「それはまあ、何度も訪問するつもりです。今回はそれに備えての顔見せの意味合いが強いわけですから」

「待ってますから」

「…………………………」

「……子供が出来るようなことがあっても大丈夫ですから」

「……………………そう、だね」

 

 夫は自分たち夫婦の子供が本当に自分の子供なのか、確証を持つことが出来ない。

 妻は自分たち夫婦の子供が本当に自分の子供であることを知っている。

 そのため男と女は性に対する考え方が根本的に異なっている。

 そしてそれゆえに、夢見がちな男とは違って女はとっても現実的に出来ているのだ。

 エンリの宣言は現実を見据えたものだった。

 

 とりあえずエ・ランテルに戻ったら精力増強の薬や食事を研究して、完成した成果はンフィーレア少年へ贈ることに決めた。

 どうか頑張って血塗れのエンリを満足させて欲しい。

 

 エンリに頼まれてンフィーレアを呼んだ後はネムにつかまった。

 昨日のように抱っこして、密着しているのをいいことにこっそり耳打ちされる。

 

(ネムが大きくなったらお兄ちゃんのおちんこをネムのおまんこに入れてね♪)

 

 とりあえずそのようなことは男の人には言ってはいけないと注意する。どうしても誰かの意見を聞きたいときは信頼できる大人の女性にすべきと助言する。

 なお、先のことはわからないので約束は保留にしてもらうつもりだったが、ネムから再三ねだられ、ネムが大きくなってもそのつもりがあったなら、と言うことにしてもらった。

 

 

 

 

 

 

 仮宿に戻って出発の準備をしているとナザリックからユリが戻ってきた。ユリにも手伝ってもらって滞りなく準備を終え、カルネ村を出発した。

 見送りにはエモット姉妹に喜色満面のンフィーレアとジュゲム他。

 ユリに窘められながら御者台から身を乗り出して手を振った。馬車の足は速く、森を切り開いて作られた街道なだけあってすぐに見えなくなってしまった。

 

 今日も昨日に続いて馬車の旅。しかし、ユリの視線は昨日より厳しい。かなり険がある目つきで隣に座る男を睨んでいる。

 

「先に申し上げておきます。もしも何かにぶつけたりしたら取り上げて馬車の中に叩き込みますからね!」

「承知しました」

 

 殊勝に答えはするものの止めようとは思わないらしい。手に持つ得物を矯めつ眇めつ、じっくりと鑑賞する。手にしているのは刃の長さが1メートル近い長剣だった。

 短剣とセットでコキュートス様から頂戴したものである。「欲しいです」と言ったら「コレヲヤロウ」とくださったのだ。

 片刃の剣で、根本から刃先に掛けて指二本分ほどの反りがある。いわゆるカタナブレイドである。

 

 包丁で肉を切るとき、上から押すだけだと肉を潰してしまう。切るには刃を滑らせる必要がある。故に刃が真っ直ぐの直剣は切ると言うよりも叩き切る形になる。漆黒の英雄モモンほどの膂力があれば問題なく切断できる。

 そこで刃が僅かながらでもカーブを描いていると、直剣よりも刃を滑らせやすくなる。カタナブレイドが斬ることに特化した剣と呼ばれる所以はそこにある。

 

 御者台で、しかもすぐ隣で、凄い切れ味のカタナを抜かれたら誰であっても心中穏やかではいられない。むしろ即刻取り上げてグーパンして躾るべきである。

 振り回そうものなら被害ゼロでもボディに喰らわせて黙らせようと思っているユリだが、さすがにそこまで馬鹿ではなかったらしい。今のところは鑑賞するだけに留めている。

 

 剣は暴力の象徴である。剣があれば他者の生殺与奪を自在にすることが出来る。

 男とは本来的に狩猟者として設計されており、基本的には暴力を好むように出来ている。魔法使いなのに剣士の振りをしているアインズを見ればそこのことがよくわかる。

 この男も例外ではなかったらしい。

 初めて手にした長刀がどのようなものであるか、形を見るだけでなく重さや重心を把握し、どのように振ればいいかを脳内で思い描いている。ユリに溜息を吐かれながら。

 

 カルネ村からエ・ランテルまでの道程は、徒歩だと途中で野営を挟む必要がある。馬車を使っても丸一日かかる。両者を繋ぐ街道は石畳で整備されているわけではないのだ。

 それがナザリックの馬車だと半日も掛からない。四頭立てなのでパワーがある。引いている馬は疲れ知らずのアンデッド。悪路であろうと高機能サスペンションは車体へ揺れを伝えない。

 カルネ村を昼過ぎに出発しても、余裕を持って日没前にエ・ランテルに到着する予定である。

 

 たっぷり一時間は長刀を鑑賞していた男はひとまず満足できたのか、鞘に戻して御者台に立てかけた。目を細めて景色を眺める。

 ユリの目には代わり映えしない景色に見えるが、一体何が楽しくて何を見ているのか。流れゆく景色を飽きもせず見つめている。

 御者をしているとは言え、これと言って操作は必要ない。ただただ真っ直ぐ進み、緩やかなカーブは馬が勝手に曲がってくれる。ユリは一応手綱を握っているが持ってるだけである。すべきことは何もなく、はっきり言って暇だった。

 チラチラと隣を窺う。シズが監禁して色々とさわさわしたくなるのもわからなくはない。視線に気付かれ、目があった。

 

「最古図書館ではどのような本をお読みになったのですか?」

 

 ここまでほとんど無言だった。警戒すべきことは何もない旅路なのだから、多少のおしゃべりに付き合ってもらっても悪いことではないだろう。

 

「借りる本はあらかじめ決めていたので、図書館で目を通したのはシズさんやコキュートス様に薦められた本ですね」

「……シズから? シズがどんな本を?」

「主に寓話集でした」

「寓話、ですか……」

 

 寓話は教訓などを読みやすい形にしたものである。子供向けのものが多く、童話に含まれることもある。

 

「意外に面白かったですよ? 優れた書物は様々な解釈が出来ます。一つの解釈しかできない畏まった書物よりよほど得るものが多かったです」

「そうなのですか。たとえば、と聞いても?」

「ウサギとカメはご存知でしょうか?」

「はい。有名な寓話ですね」

「あれはウサギの怠慢を戒め、カメの努力を讃えているように読めます。ですが、そこには疑問が幾つもあって…………」

 

 創造主が教師であるユリには興味深い話になった。

 ユリ自身もいずれ孤児院を開いて子供達の相手をするつもりでいる。子供向けの話は幾つあっても困らない。

 

 会話に花を咲かせながら馬車は進む。

 道程を半分近く消化したところで、突然馬車が止まった。ユリが止めたのだ。

 男が怪訝に前を向くと、少し先に小さな人影が幾つもあった。

 

 街道の中間地点だ。誰かと行き会うことはけっしてなくもないだろうが希だろう。現在のエ・ランテルとカルネ村では往来が頻繁とまでは言えない。

 人影は小柄だ。冒険者か何かだとしても、子供を幾人も連れているとは思えない。

 けども横幅は割とある。そして肌の色は緑色。

 カルネ村では何人にもあったし世話にもなった存在だ。

 

 ゴブリンの集団が行く手を阻んでいた。

 ただし、カルネ村のゴブリン達とは違って身にまとうものがずいぶんと貧相だ。あちらはきちんとした清潔な衣服や鎧などを装備していたが、目の前に現れたゴブリン達はいずれも腰布一枚。それも血と泥と獣脂に汚れきっている。

 表情も違う。

 ジュゲム達は目に知性を宿し、豊かな表情を見せた。ところがこちらは笑っているのか怒っているのか、裂けたような笑みを浮かべている。目にも知性はない。地を這う獣の方がよっぽど知的に見える。

 どこからどう見てもカルネ村出身のゴブリンには見えず、トブの大森林に棲んでいる野良ゴブリンに違いなかった。

 

「こんなところにゴブリンが? ……そこのあなたたち、私たちはナザリックから来たのですよ。わかったなら即刻立ち去りなさい」

 

 ユリの警告にも耳を貸さない。

 下卑た笑みは張り付いたように変わらず、威嚇するかのように手にした得物を振り上げた。粗末な棍棒だったり欠けた短剣だったり、どこで拾ったのか、長く使っているものなのか。

 

「……仕方ありませんね。片付けてきますので少々お待ちください」

「行ってらっしゃい」

 

 ユリは御者台から飛び降りた。プレアデスの長女であるユリはとても強いのだ。野良ゴブリンなど何体いようが物の数ではない。

 このまま馬車を走らせて轢いてもよいのだが、馬具や馬車が汚れてしまうかもしれない。一応、男の安全も気に掛けている。

 一昨日の夜に降った雨は未だ乾かず、道をぬかるませていた。

 ユリは泥が跳ねないように注意しながら、人が走るよりも速く足を進め、接敵した。

 

 文字に起こせば「ぱあん」だろうか。

 接敵したかと思ったらゴブリンの頭が弾け飛んだ。ユリの拳が打ち抜いたのだ。

 そのくせユリには返り血一つついていない。

 

 ユリのやりように、男は思わず苦笑した。

 もう少し綺麗に出来なかったのだろうか。このままだとゴブリンの残骸を馬車で踏むことになる。

 とは言え、派手にやれば残ったゴブリン達は恐怖し萎縮するとも思われる。戦闘には素人の男が出る幕はなく、きっとユリなりの考えがあるのだろうと信じて見守った。

 

 一瞬で仲間がやられたのを見て、残ったゴブリン達はユリから距離をとった。逃げるつもりはないらしい。歪みきった裂けた笑みも変わらない。正気を失っているように見えた。

 ユリが一歩踏む込む度に屠られていく。着々と仲間が減っているのにゴブリン達の行動は変わらない。ユリから距離をとり、ユリから屠られ、ユリが退こうとすると距離を詰める。

 

(誘導されてる?)

 

 如何にも知恵が足りないゴブリン達の行動は異常だった。

 死ぬのがわかっているのに逃げようとしない。我が身を犠牲にユリを引き付けているように思えた。

 ユリがまさかと思って振り向いたその時である。

 馬車のすぐ側の木立からゴブリンよりも何倍も大きな影が姿を現した。成人男性の倍はある巨体はオーガだ。こちらも貧相な身なりで、腰布をまとっているだけ。

 あんな巨体が自分に気付かせることなく隠れ潜んでいたことに、ユリは僅かながらに驚いた。

 どうやって隠れていたかはわからないが、兎にも角にも馬車に戻って男を守る必要がある。

 

 実を言えば、ユリはあまり心配していなかった。

 所詮は頭が悪そうな野良オーガである。

 ナザリック製の馬車の中に逃げ込めば、オーガごときの力では破壊することは出来ないだろう。

 アンデッド馬の存在もある。はっきり言って野良オーガよりも強い。馬車が多少揺れてしっかり掴まっていないと御者台から振り落とされるかも知れないが、馬が後ろ足で蹴りを入れれば野良オーガの体では耐えきれないだろう。

 冷静に行動してもらえば危険はない。

 ユリの目からも知的に見え、アルベド様とデミウルゴス様からその知性を認められる男なら、けっして愚かな真似はしないと思われた。

 

 だと言うのに、男は長刀を掴んで颯爽と馬車から飛び降りた。

 昨日、カルネ村に着いたときよりも様になっている飛び降り方である。実を言うと、どんな飛び降り方が格好いいかを一昨日から考察していたのだ。コキュートス様と一緒に。

 

 誰も知らなかった。

 短い間だったとは言え、ナザリックに滞在していたのだ。

 ナザリックの瘴気は心身を蝕み、自覚症状すら感じさせずとある病を罹患させていた。

 

「どうして降りるんですか!」

 

 ユリの叫びが聞こえたか否か、男は長刀を抜き放ち鞘は御者台へと放り投げた。

 そして、言った。

 

 

 

「我をデスク・ドラゴニオ*1と知っての狼藉か。今宵のティーゲルハッチは血に飢えておる。貴様の血で癒してくれよう。我が秘剣ラウンドムーンキリングテックによって灰燼と帰すがよい。ラウンドムーンの裁きを受けよ!」

 

 

 

 かつてアインズも罹患し、快癒した今となっても後遺症に苦しむ病の名を『中二病』と言う。

 

 馬車に駆け戻ろうとしたユリはメガネがずり落ちてつんのめった。

 ゴブリンとオーガをけしかけ、それでも本当にヤバくなりそうだったら助けてやろうと隠れて様子を見ていたアウラはずっこけた。

 

 咆哮と共に、男の胴体よりも太い棍棒が振り上げられた。

 

「ムーンスラッシュ!」

 

 オーガの振り下ろしを迎え撃つ男の剣は、どうしようもなくヘナチョコだった。

*1
勘違いしないとは思いますが劇中劇の架空の人物です




デスクは英語ではなくドイツ語にしようと思ってました
ですが机をドイツ語にしてカタカナ表記にすると「ティッシュ」だそうで
思わず素で「えーーー」って言ってしまいました

次回、おそらく本作最初で最後の戦闘シーン


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たぶんおいしい

 ラウンドムーンにソウルを捧げることによってラウンドムーンキリングテックを会得した暗黒カタナテックマスターであるデスク・ドラゴニオは世界の敵である。

 盗み殺し犯し、悪の限りを尽くすドラゴニオを討伐せんと、生きとし生けるもの全てが追いかけてくる。

 ドラゴニオは愛刀ティーゲルハッチから繰り出すラウンドムーンキリングテックで全てを斬り伏せ孤独な旅を今日も続ける。

 

 超長編ダークカタナテックジェノサイドノワール小説「グレート・モンド・ダウンヒル」本編122巻、外伝44巻、全166巻!

 

 

 ひょんなことでリザードマンの指導をすることになったコキュートス。しかし、コキュートスは生まれたときから強者であった。指導をした経験はおろか、弱者であった時代すらも皆無である。

 さてどのように指導すべきかとヒントを求めに最古図書館を訪れ、司書長に剣に関する書物をリストアップしてもらった。その中に件の小説が含まれていたのだ。

 コキュートスは軽く一読し、はまってしまった。物語の面白さもさることながら、作中で語られる剣の術理が理に適っているのだ。

 大切に大切に少しずつ読み進んでいたところ、11巻を借りに最古図書館を訪れたとき、見知った人間の男を見かけた。

 

『コレハ面白イゾ』

 

 と薦めてから数時間後、シズを連れて続きを貸してくださいと第五階層に乗り込んできた。11巻はコキュートスの手元にあったのだ。

 一気読みするなもっと大切に読めと訓示を垂れた。知識を蒐集するための書物ではなく楽しむための小説である。

 男は粘ったが、次にナザリックに来るときまでには読み終えて図書館に返しておくからそれまで待てと納得させた。

 そして「グレート・モンド・ダウンヒル」談義が始まった。同好の士が集まればすることは決まっている。

 作中の様々なシーンを語り合い、帰る際にはドラゴニオが持ってるカタナと近い形のカタナブレイドセットを贈ってやった。切れ味はそこそこだが、ナザリック的には数打ちの量産品なので、同好の士に贈るのに惜しくはなかった。

 

 

 

 

 

 

 オーガが棍棒を振り下ろすのを見て、アウラは青ざめた。

 あれは人間の男だが、ナザリックの一員でありアルベド直属の配下である。しかも、アインズ様が直々に褒美を下賜するほど評価されている。

 それをちょっと気に入らないからモンスターをけしかけて潰しちゃったなんてことになりでもしたら、『さすがはアウラね。アウラはこんな風にしてモンスターを操るのかしら?』ペシッ『あうぅっ! や、やめてよぉ……! アグゥっ!』『あら? アウラと同じことをしてるつもりなのに違うのかしら? もっと強くしないと駄目なのね』ビシィッ!!『ひいッ!! ゴメンナサイゴメンナサイ! もうしないから許してください!』『ご免なさい? 許して? どんな罪を免じて何を許せと言うのかしら? あなたはどんな罪を犯したというの?』ペシペシバチィッ!!『あああああああああ…………』

 磔にされ、慈愛の微笑を浮かべているのに目が全く笑っていないアルベドから鞭で打たれるのを幻視した。

 

 オーガが棍棒を振り下ろすのを見て、ユリは反射的に首元を飾るチョーカーに触れた。

 アルベド様はあの男の護衛にと自分をつけたのだ。それなのに護衛対象から離れ、オーガにぺちゃんこにされちゃいましたなんて言おうものなら、『ユリはもう少し周囲へ気を配れると思っていたのだけど私の勘違いだったのかしら?』『申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません』『謝る必要なんてないわ。ユリがもっと遠くまで見れるように手伝ってあげるから』『あのそのあのそれはあああああああああぁぁぁぁぁ……………………』『これなら遠くまで見えるわね。……あら? 残念ね、ユリには聞こえてないみたい。誰かユリをとってきなさい』

 首を外され、アルベド様の凄いパワーで何度も遠投される未来を見た。投げられるだけでなく蹴られたりバルディッシュでフルスイングされたりもあるかも知れない。

 

 戦々恐々ガクガクブルブルの二人を余所に、オーガの棍棒は無情にも振り下ろされた。

 鮮血がぴゅーーーっと噴き上げた。

 

(……………………うっそぉ!)

 

 オーガの振り下ろしは地を叩き、長剣がオーガの左頸部を切り裂いた。切られたオーガと距離があったユリには、長剣が棍棒をすり抜けたようにしか見えなかった。

 優秀なレンジャーであり、間近で見ていたアウラは何が起こったかをその目で見た。男は棍棒にぶつかる寸前に剣を引き、以降は手首の力だけで剣を振ったのだ。

 元から引くつもりで振り上げたのだからへなちょこに見えたのも当然だ。如何に切れ味鋭い剣だろうと手首の力だけで堅い物を断ち切ることは難しい。オーガの皮膚は人間よりも遙かに強靱であり、手打ちでは薄皮一枚切るのが精々。しかし、その薄皮一枚を切り裂いたところに急所がある。

 振り下ろしを受けなかったのも、素早く避けたのではなく振り下ろされるときには当たらない位置に移動していたからだ。速いではなく早いのである。

 

 オーガの生命力は高く頸部の出血はすぐに止まったが、以降の戦闘は一方的だった。

 オーガの攻撃が始まったときには既に当たらない位置へ移動している。オーガの攻撃を誘発するフェイントを交えているため、面白いように空振っている。そして必ずカウンターを決めている。

 攻撃力は大したものではない。オーガからすれば針で突いたような傷だろう。しかし、いずれも急所だった。

 棍棒を振り下ろして頭が低くなれば目や首を、振り下ろしに懲りて薙いでみれば振り切ったところで指を断たれ、あるいは振り始める前に懐に潜られて急所を突かれる。

 

 生命力や腕力を比べれば人間とオーガほどの差がある。

 しかし知力を比べると、ただでさえ頭が悪い野良オーガが狂乱しているのだ。カタツムリの溜息とアインズの超位魔法ほどの隔絶があった。男はカルネ村でオーガを見ている。オーガの肉体の可動範囲を完全に把握していた。行動の始点と終点が手に取るようにわかる。強靱なオーガであろうと鎖で繋がれているのと大差ない。

 ついでに思考速度を比べれば、ナメクジの歩みとサラマンダーの全力飛翔を競うようなもの。オーガが一つ行動する度に周囲の環境を含めて十手以上先を読み最善を選択し続けている。

 猛るオーガに向かう恐怖は全くない。ナザリックのシモベ達から殺意を向けられるのと比べたら何を言わんや。

 かなり乱暴にしても全く怒らないソリュシャンのおっぱいを揉む時よりも気楽である。

 

 そもそもにして、カルネ村の城壁を攻撃するなら兎も角、オーガが人間の男を攻撃するのに武器は過剰どころか不要であって、むしろ邪魔である。武器を使わなくても手で叩けばぺちゃんこになる。只でさえ自分の半分ほどの大きさしかないのだ。下を向き、腰を落として屈まないと攻撃が当たらない。下を向けば視界が狭まる。狭い視界が戦闘にどのような悪影響を及ぼすのか言うに待たない。

 武器を手放すことも出来ない。人間であっても武器を持つと使いたくなってしまう。それが頭の悪い野良オーガなのだから、折角持っている武器を手放そうとは思えない。それが自分に不利をもたらすことになったとしても。

 

 

 

(あっ!)

 

 アウラは思わず手を出しかけた。

 男が真っ直ぐ左に移動して大回りにオーガの背後へ回り込もうとしたのだ。真横に移動してしまうとオーガの薙ぎ払いの攻撃範囲から逃れられない。

 オーガは逃げる男を追いかけて一歩踏みだし棍棒を振り回そうとしたところで、足を滑らせた。ぬかるみに踏み入るよう誘導されていたのだ。その隙を見逃されず、足首を打たれた。

 斬り飛ばすほどの威力はなく、刃が食い込んだのは指一本分。ただし足首の急所である。オーガは絶叫を上げながらどうと倒れ、倒れ込むとそれ以上の絶叫を上げた。長剣をだらりと下げる男に注意を向けず、懸命に背中へ手を伸ばしている。オーガの背中の中央部には短剣が柄まで埋まっていた。

 男が回り込む際に短剣を放り投げたのをアウラは、手を出すべきか否か悩んでいるユリも見ていた。

 

「グオ!?」

 

 舌なめずりしながら近付く男を見て、オーガは初めて怒り以外の声を上げた。

 男はいやらしく唇を歪めていた。

 戦闘に高揚して、とか言う上品なものではない。生物としてもっと根源的なもの。食欲である。

 

 オーガは雑食である。雑食の動物は肉の臭いがきつく、食用とするには工夫して臭いを消す必要がある。しかし、裏技が一つ。

 骨髄である。

 昨日、エンリからご馳走されたメニューの中に、森の獣の骨髄を使ったスープがあったのだ。ハーブなどで香りを整えていたが、それがなくても「癖がある」の範疇に留まる。

 ぷるぷるの骨髄を湯に溶いて塩気を足せばそれだけで濃厚なスープになる。

 焼いて食べるのもいいだろう。

 お屋敷の料理人に頼んで、旬な野菜と合わせて品よくゼリー寄せにするのも悪くない。

 

 オーガのあの巨体を見よ!

 あのぶっとい太股。大腿骨はさぞや太いに違いない。かち割れば濃厚な骨髄がたっぷり詰まっているのは確定的に明らか。

 一人や二人では到底食べきれない。メイドたちに振る舞おうか。それとも黄金の輝き亭に持ち込んで他の客たちに提供するのもいいだろう。

 

 市場で買った野菜より、家庭菜園の不揃いな野菜の方が美味しく感じるものである。

 市場で買ったお肉より、苦労して自分で狩ったお肉の方が美味しく感じるのは道理である。

 すぐそこにあるご馳走に笑みこぼれてしまうのは無理もなかった。

 

 しかし、である。

 王国でも帝国でも法国でも、亜人を食べる習慣はどこにもない。人に似ているから、と言う理由で猿を食べることすら忌避する。亜人であるオーガの骨を調理してくれと言っても確実に拒否されるであろうことを男は知らなかった。

 

 

 

 だらりと下げた長剣がゆっくりと弧を描き始めた。

 

「貴様の汚れたソウル、ラウンドムーンに捧げるまでもない。我が直々に喰らってくれよう!」

 

 

 

 

 

 

 デスク・ドラゴニオがつかうラウンドムーンキリングテックには最終奥義が二つある。

 一つは光が1mmと進まない間に、つまりは完全同時に7兆回の斬撃を出現させる「シュトルム・レーゲン・スパーダ」。至近で受ければ分子レベルで寸断され煙すら残らない。ドラゴニオの斬撃は分子間力を断つほど凄まじいのだ。

 もう一つは愛刀ティーゲルハッチの剣長を20kmまで伸ばしてから繰り出す大斬撃「斬国剣」。剣撃は地核を切り裂きマントル層にまで達する。斬国剣を放つと、早ければ30分後には大地が割れ大噴火を引き起こす。ドラゴニオは一刀で1000万人を虐殺する鏖殺師の称号を持つ。

 どちらの奥義も発動する際にはラウンドムーンの力を引き出さなければならない。そのための儀式が、ティーゲルハッチでラウンドムーンを描くことなのだ。

 

 本編は真っ当なカタナテックストーリーなのに、奥義がぶっ飛んでるのが「グレート・モンド・ダウンヒル」の魅力である。

 ちなみに作中の世界人口は17兆人を越えているため、ドラゴニオが一日一億人斬り殺しても自然増の方が多い世界である。

 

 

 

 

 

 

 男の長剣もドラゴニオにあやかってゆっくりと円を描き始めた。当たり前だがラウンドムーンキリングテックの最終奥義を放てるわけではない。様式美である。

 

「我が秘剣を受けたことを誇るが良い。食らえ! ラウンドムーンキリングテッ…………何故逃げる!?」

 

 オーガは逃げ出した!

 アウラに追われて狂乱していたが、己が食われることへの本能的な恐怖が体を動かした。

 

「逃げるに決まってるでしょう」

 

 逃げ出し始めたオーガの土手っ腹をユリの拳が貫いた。哀れ、オーガは絶命してしまった。

 

 ユリは拳の血を振り払い、死んだオーガを冷めた目で見下ろしてから男へ向き直った。

 意外や意外に善戦どころかオーガを圧倒してしまった男であるが、あそこは自ら立ち向かうのではなく難を避けるべきだった。これはお説教しなくてはと思ったのに、何故かじとっとした目で見られた。明らかに非難の目である。

 

「な、何ですか。ご自分で止めを刺したかったとおっしゃるのですか?」

「いいえ、それはどっちでもいいんです」

「でしたら何でしょうか? 私からも申し上げたいことがございます」

「……ユリさんがお強いのはわかってます。折角強いんですから、もう少しやりようがなかったのですか?」

「………………え?」

 

 オーガの土手っ腹にはネムが潜れそうなほど大きな穴が空いていた。穴にあった部分は消失したのではなく、オーガの向こう側へぶちまかれている。絵的にとってもあれである。

 ぶちまけた部分が部分なので、悪臭も酷い。これは一体誰が片付けるのだろうか。森のお友達が何とかするのだろうか。

 

「………………コホン。こんなところにどうしてゴブリンとオーガが現れたのでしょうか?」

 

 露骨に話題を逸らしたユリに胡乱な目を送ってから嘆息し、男は作業を始めた。

 

「アウラ様ですよ。アウラ様がゴブリンとオーガをここに寄越したんです」

「アウラ様が!?」

 

(ぎっくううぅう!!)

 

 アウラは冷や汗を流しながら二人の会話に耳を傾けた。

 

「どうしてアウラ様と言えるのですか、あなたは自分が何を言ってるのかわかってるのですか?」

「消去法ですよ。他の可能性はありません。ナザリックの支配領域下にあるモンスターが自発的にナザリックの馬車を襲うと思いますか?」

「…………それは……」

「仮にナザリックの支配領域外から来たとしても、大森林を支配するアウラ様の警戒網を抜けてここまで侵入することが出来ると思いますか? ユリさんはどうです? アウラ様の警戒を振り切れますか?」

「………………不可能です」

「よって、アウラ様しか考えられません」

 

 アウラの優秀が裏目に出た。アウラの警戒を抜けてここまでモンスターが侵入することは、アウラの誇りに掛けても絶対にあり得ない。

 

「……どうしてアウラ様がこんなことを」

「そんなの私目当てに決まってるでしょう?」

 

(あわわわわわわわわ!!)

 

 その通りである。

 エルフメイドに何か変なことをしたらしいあの人間をちょっと脅かしてやろうと思ってゴブリンとオーガをけしかけたのだ。脅すに留めるつもりで傷つけるつもりは全くなかったとは言え、実際に剣を交えて危険に晒してしまった。もしもアルベドに知られたら滅茶苦茶怒られる。

 

「現にユリさんはゴブリンもオーガも一撃で倒していました。ユリさんにモンスターをけしかける意味は全くありません。となれば私しか考えられないのですよ」

「ではどうしてアウラ様はあなたに?」

「それはもちろん私のためです」

 

(……………………へ?)

 

「アウラ様はコキュートス様から私が「グレート・モンド・ダウンヒル」を読んだことをお聞きになり、剣を振りたくなったと察してくださったのでしょう。だからゴブリンよりもオーガを相手に選んだのですよ。オーガは力が強くて大きいだけの愚鈍ですからね。でかいだけの的です。初心者には丁度良いと思われたのかと。これがゴブリンだとすばしっこくてオーガ相手のようにはいかなかったと思いますよ?」

「……はあ、そんなものでしょうか?」

「そうですよ。先日お会いしたときのアウラ様はちょっと険があるご様子でしたのでよく思われていないのかと思いましたが、そうでもなかったようで安心しました。お優しい方なのですね」

 

(…………………………バカで助かった)

 

 二人からは見えないよう木陰に隠れていたアウラは胸を撫で下ろした。

 アウラは急いでその場を離れ、ナザリックを目指す。コキュートスと話してグレートなんたらの話を聞き出して口裏合わせをするのだ。

 

 ちなみに王国の冒険者ギルド基準で言うと、ゴブリンよりオーガの方が討伐難易度は高い。

 ゴブリンから殴られても致命傷にはならないが、オーガに殴られたら掠っただけでも砕けかねない。生命力も体の大きさに比例してオーガの方が遙かに上。

 とは言え、当たらなければでかいオーガの方が与し易い。頭もオーガの方がかなり悪い。

 つまるところは相性が良かったのだ。

 

 

 

 

 

 

「ところで……」

 

 オーガに立ち向かったことが有耶無耶になってしまったがこれとは別。ユリは鋭い視線を男へ送った。

 この男は、死んだオーガの体をザッシュザッシュと切りつけているのだ。戦闘時にどのようなことを思ったにせよ、既に命がないものへ過剰な暴力を振るうのはユリの倫理観に反する。

 

「それはもう死んでいます。それ以上は必要ありません」

「何のことです?」

「死体を傷つけるなと言ってるんです!」

「……ああ。違いますよ。骨を取り出してるんです。ユリさんも手伝ってください。腸が破れたから急がないと臭いが移るかも知れません」

「骨を?」

 

 骨とくればデミウルゴス様。趣味で人骨アートをたしなむお方である。

 デミウルゴス様に感化されておかしなことを覚えてしまったのだろうか。

 

「食べるんです」

「………………………………は?」

「食べると言っても骨を丸かじりするわけじゃありませんよ? ルプーじゃないんですから。骨の中の骨髄を料理するんです」

「食べる?」

「食べるんです」

「オーガを?」

「骨になれば牛や豚と一緒でしょう?」

「いやいや違うでしょう。オーガなんて食べませんよ!」

「じゃあ私が食べます」

「駄目ですそんなもの食べさせられません!」

「ご心配なさらなくても大丈夫です。オーガの血肉に毒はありませんから」

「そういう問題ではありません!」

「じゃあどんな問題です?」

「それは…………」

「それは?」

「………………」

「あっ!? ちょ、何するんですか!」

 

 ユリは男を担ぎ上げ、御者台に飛び乗った。

 有無を言わさず馬を駆り立て馬車を走らせる。

 

「ああ…………折角仕留めたのに…………」

 

 ユリに襟首を捕まれ、振り向くことすら出来なかった。

 無情にも馬車は進み、もっと無情にもゴブリンの残骸を轢いていった。

 馬車は進み続け、取れたての食材はあっという間に見えなくなってしまった。



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抜け駆け

 焚き火がパチリと小さな破裂音を響かせる。ユリは何とはなしに小枝を投げ入れた。

 

 見上げれば満天の星空。細い月は完全に姿を消していた。ゆらゆらと揺れる焚き火の炎だけが幻惑的に周囲を照らす。その向こうには闇が落ちている。木々の葉に遮られて星明りも届かない。

 風はない。瑞々しい森の緑に空気は澄みきって芳しい夜の香り引き立つ。

 アンデッド馬の気配を感じてか焚き火の炎を恐れてか、森の獣たちは近付こうとしない。

 とても静かで、とても穏やかな空気が流れている。

 美しい夜だった。

 

 焚き火にあたりながら、ユリはどうしてこうなっているかを真剣に考えた。

 

 

 

 

 

 

 狩り場から馬車を走らせること小一時間。男が休憩を訴えた。オーガとの戦闘は余裕綽々の様子だったがやはり疲れたのだろう。

 停まった馬車の中へ入った男はすぐに出てきて、一人で木立の中へ歩き始めた。馬車の中で休憩すると思っていたユリは小言をこぼしながらついて行く。

 さして歩かない内に水場があった。小川とさえ呼べない小さなせせらぎだ。幅はユリが跨げるほどに細く、水深は精々足首程度。流れは全く濁っていない清水である。地下水が地表に顔を出している部分であるらしい。

 どうしてこんなところを知っているかと聞けばモモン様から伺ったとのこと。

 ともあれ、水があるのはユリも嬉しい。先のゴブリンとの戦闘では返り血すらつけてない。けどもぬかるみを走ったためスカートに少々泥が跳ねていた。慌てて馬車に駆け戻ったせいだ。ユリが着ているメイド服は魔法が掛かっている。泥汚れ程度なんのその、軽く払えば簡単に落とせる。濡らしたハンカチで拭えば完璧である。飲料水の用意はあったがハンカチをすすぐには不足だったのだ。

 

 ユリがハンカチをきれいにしている間に男は火をおこしていた。火付け作業を眺めていたユリは器用なものだと感心した。

 乾いた枝の両側に溝を切り、真ん中に小さい穴を空ける。片側にはくしゃくしゃにした枯れ葉を詰め、もう片側は溝にぴったりはまるよう形を整えた枝を強く擦り付けた。数度擦ると焦げくさい臭いが漂い、それから三度こすると煙があがった。

 枯れ葉を両手で包んで息を吹きかけ火を大きくし、あらかじめ組んでおいた小枝の山に移した。小枝の上にはやや太い小枝。その上にはもっと太い枝。

 火の上には水を張った鍋を掛けた。ンフィーレアから使わなくなった錬金術道具一式を貰っていたのだ。

 鍋の中にナザリックで貰った茶葉を入れ、軽く煮立ったところでポーション用の小瓶で汲んだ。カップの類はなかったらしい。ちゃんとユリの分もある。

 茶葉は極上なのに淹れ方は出鱈目だ。その上カップではなくポーションの空瓶。プレアデスの中で唯一料理が出来るユリからすれば素材が勿体ないと怒るところかも知れないが、意外なことに飲めないものではなかった。

 茶請けには男が貰ったエンリからのお土産。小麦に蜂蜜を練り込んで焼いただけの簡素な焼き菓子。ナザリックで供するスイーツとは比べるべくもない。しかしこちらも食べられないものではなかった。悪くないとすら思った。

 

 気付けば日の傾きがきつくなってきた。ユリがそろそろ出発しましょうと腰を上げると、野営しましょうと提案された。

 ユリは当然のごとく猛反対した。真っ向から反論された。

 今からエ・ランテルに向かうと着くのは日が落ちた後になってしまう。夜間は城門を閉じている。開けさせることは出来なくもないだろうが余計な仕事を増やすことはない。

 ユリはナザリックの馬車を前に閉ざす城門は存在しないと至極真っ当に反論したのだが、

 

『モモン様もここで野営をしたそうですよ。そこにある焚き火の跡がその時の物でしょう』

『仕方ありませんね』

 

 

 

 

 

 

 大して考えもせず迂闊に返事をしてしまったとユリは頬を赤らめた。しかし、ナザリックのシモベが『アインズ様の軌跡を辿りたくありませんか?』と言われたら『はい』と答えるしかないではないか。不可抗力である。

 焚き火に太い枝を放った。火勢は強く、生木でも簡単に火がつく。

 ゆらゆらと揺れる炎を眺めながら、さっきまで男が座っていた場所を見た。今はユリ一人だ。それが残念なようなほっとしたような、なんとも複雑な気持ちになる。

 それと言うのもナーベラルのせいだ。

 

 

 日が落ちる頃になって、ナーベラルから男へメッセージの魔法が届いた。

 そろそろエ・ランテルに着くはずなのに影も形も見えない。何かあったのか。と、心配する内容だったらしい。よく言えば。

 男が色々言い繕っていたのを見るにどうやらかなり追及されたらしいと察せられた。

 直後、ユリの元へもメッセージが着た。

 

『その男はアルベド様が直属の配下になさっているだけあって人の皮を被った淫魔か淫獣の類です。おかしなことをされないように気をつけてください。もしも何かされそうになったら死なない程度に叩きのめせば大丈夫です。生きてさえいればルプスレギナの魔法で回復できるので』

 

 焚き火を挟んだ向こう側で小枝を弄んでいる男をまじまじと凝視した。

 ユリからは声を掛けなかった。男は飽きもせずに小枝を振っている。

 沈黙の時間は長かった。

 長い沈黙に焦れてユリから声を掛けたのだが、返ってくるのは生返事。ソリュシャンがいればこっそりトロトロOKのボーナスタイムになる。シクススなら容赦なく耳を引っ張って現世に帰還させる。

 この男が深い思考に入るとうつろになることをユリは知らなかった。

 やがて、ぽとりと小枝を落とした。呆然と口を開いた。

 

『ラウンドムーンキリングテックには改良の余地がある』

 

 ユリは思わず額を押さえた。何を考えているのかと思えばそんな事である。とは言え、戦闘時のことを振り返って反省するのは戦闘者としては好ましい。

 艶っぽい話ではないのでとりあえず合いの手を入れた。

 剣ではなく拳を使うユリには直接関係ある話ではなかったが、全くの無益でもなかった。

 

 曰く、『剣術は何でもかんでも円を重視し過ぎである。関節を支点に動くのだから円になるのは当たり前。これがただ速度を求めるだけなら角速度を最大限に活かす円が重要になるのは理解できるが、戦闘では速ければよいものではない。速さよりも短時間で目標に到達することの方が重要である。ならば僅かな速度増よりも最短の距離を選ぶべき。必要なのは円よりも直線である』

 

『残念ながらラウンドムーンキリングテックは終わりました。私はここにスクエアホライゾンキリングテックを提唱します』

 

 ユリはちょっぴり頭が痛くなった。もしかしてこの男はバカなんじゃないかと思い始めた。過程はまともそうなのにどうして結論がそうなるのか理解出来なくもないが共感したくない。

 

 

 とりあえず思索は終わったようで、以降はユリの言葉にもちゃんと反応するようになった。

 その時、最後にした質問が不味かったかと反省する。ナザリックのシモベであっても善性を持つユリは、人間の男だろうと彼の気分を害してしまったことにいささかながらに申し訳ない気持ちを持った。

 

『さっきは器用に火をつけていましたね。以前は何をなされていたのですか?』

『ユリさんはご存じだったと思いますが長く囚われていました。何をしていたかと聞かれても困ります』

 

 アルベド様が初めてこの男をアインズ様へ拝謁させた際にはユリも同席していた。

 

『それ以前のことです。囚われる前はどうだったのですか?』

 

 十余年囚われていた。しかしそれが生の始まりではない。それ以前があるはず。自由だった頃は、今の年齢から逆算して十歳になるかどうかだろう。

 男はおもむろに立ち上がり、顎をさすった。

 

『私の背は高いでしょう? 王国の成人男子の平均より大分高いと思いますよ』

 

 王国人の身長など知らないユリだが、女性としては長身なユリよりも高いのは確か。

 

『顎もこの通り細いものです』

 

 例えば故人ではあるが、王国戦士長のガゼフは厳つく張った顎をしていた。それに比べれば確かに細い。とは言っても、ナザリックのシモベ達で人の形をしている者は皆顎が細い。そう言われてもユリには何のことだかわからなかった。

 

『それが何か?』

『成人してからの身長は、生まれよりも幼少期の栄養状態が大きく影響します。顎が細いのは柔らかいものを食べていたからです。幼い頃から栄養がある柔らかいものを食べていたという事です。それなりに裕福な環境で育ちました』

 

 王国に限らず時代と土地を越えて、女が結婚相手に高身長を選ぶのは、それが裕福な家庭で育った証拠だからだ。尤も、食の豊かさが隅々にまで行き渡れば身長で判断することはなくなるだろう。

 例えナザリックが存在せずとも、王国では絶対に辿り着けない未来である。

 

『ただ………………』

『……? どうしました?』

『いえ……、少々催してしまいました。ここでするわけにはいかないので少し失礼します』

『…………わかりました。暗いので気を付けてください。それと遠くまで行かないように。声が届く距離でお願いします。足元を確認してから踏み出してください。それとも松明を持っていきますか? これくらい太い枝なら簡単に消えないと思います』

『日中歩き回ったので問題ありません。枝の張り具合まで覚えてますから。ご配慮、ありがとうございます』

 

 露骨に話題を逸らされて、ユリは失礼だとは思わなかった。それどころか話し辛い事を聞いてしまったのかと罪悪感を覚えるほど。

 人間の男であってもナザリックの一員であることに変わりはない。

 ナザリックで生まれた自分たちは生まれた時から栄光の日々にあった。この地で生まれ今日まで生きてきたあの男にはそれなりの過去があるのかも知れない。

 

 小用を終えて戻った男は、明日に備えて眠りますと馬車の方へ歩き去っていた。

 しばらくして、馬車の扉が閉まる音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 一人残ったユリは残念なような安堵したような申し訳ないような、複雑な気持ちを抱えさせられた。

 繊細なことを迂闊に訊いてしまったのはもう仕方ない。過ぎたことだ。あちらが明日になっても引きずってるようなら素直に謝罪すべきと心の中でけりをつける。

 すると残るのはナーベラルの言葉。

 

『人の皮を被った淫魔か淫獣の類』

 

 男の淫魔と来れば女にいやらしい事をするに決まっている。

 しかしながら、ユリは何もされてない。される気配もなかった。

 昨日今日で何度か胸をチラ見されたが、その程度はいつものこと。なにせユリの胸はとってもおおきい。

 どれほど大きいかと言えば、ルプスレギナから『でっかいっすねえ。そこに何を入れてるんすか? メロンっすか? ……それともスイカ? スイカップってやつっすね!』と言われたことがある。ルプスレギナも十分大きい方なのに。

 とても大きいのでどうしても目を引いてしまうのだ。誰からもチラ見されるので視線には敏感である。

 視線の種類にも敏感である。いやらしい下衆なことを考えていれば気付く。

 向けられた視線はいやらしいものではなかったと思う。

 

 己はやまいこ様から美しく創造されたはずなのに、こうも興味を向けられないのはどういう事だろうか。

 もちろんのこと、おかしな思いを抱かれても困る。手を出されたらナーベラルの助言に従って、叩きのめすまではいかないだろうが昏倒くらいはさせるつもりでいた。

 幸か不幸かそんな気配は皆無だった。

 たまたま自分はあの男の好みではなかったのかも知れないが、ナーベラルがあんな事を言ってきたと言う事は、ナーベラルはそんな目で見られたかそんなことをされたかのどちらかになる。

 ナーベラルはそんな対象なのに自分は対象外であるらしい。

 男への好悪以前にそんな事実を突き付けられると、女のプライド的な何かが荒ぶってくる。

 

「…………ふう。まったく……、ボクは一体何を考えてるんだろ」

 

 つまらない思いを吐息と共に吐き出して、誰もいないのをいいことに素に戻る。プレアデスの姉妹の中では、お嬢様ロール中のソリュシャン以上に淑女然としているユリなのに実のところボクっ娘であった。

 

 焚火の中に枝を放る。

 拾い集めた枯れ枝ではなくユリがへし折った太い生木である。赤々と燃える炎に炙られて、ユリがぼんやりと見ているうちに火が点いて燃え始めた。

 デュラハンであるユリに睡眠の必要はない。疲労もない。このまま夜が明けるまで火の番をして、モモンに扮していたアインズ様に想いを馳せるのも悪くない。

 そう思い始めた矢先である。

 

「――。――――。――」

 

(人の声?)

 

 ユリの耳に声らしきものが届いた。

 護衛対象の男は馬車の中で眠っているはず。馬車の中で喋ってもここまで届くわけがない。ナザリック製の馬車は防音性だって完璧なのだ。

 となればそれ以外。街道を旅している者が焚火の明りに引き寄せられたのかも知れない。

 

「――、――。――?」

 

 しかし、声は近付いて来ない

 そこそこの距離があると思われるので、もしかしたら焚火に気付いてないのかも知れない。

 しかし、この距離ならその内に気付くだろう。

 この辺りに夜盗はいないはず。いたとしてもとっくに駆逐済み。人語を解すモンスターは街道からは遠い森の奥にいる。

 日中現れたゴブリンやオーガの同類ならもっと騒がしいはずである。

 正体がなんであれ、確かめないわけにはいかない。

 デュラハンであるユリは夜目が効く。習得しているスキルによって、近付けば対象の数や強さを把握できる。

 間違っても小枝を踏んで「パキリ」と言わせるお約束をしないように足元に注意して近付いた。

 

(………………馬車の中に入ったんじゃ?)

 

 見る前にわかった。馬車の中で寝ているはずの男がいた。

 木陰に身を隠してそっと覗くと思った通り。暗がりにも輝く銀髪が見えた。

 

(………………あれは!)

 

 そこにいたのは男一人ではなかった。

 

 

 

 

 

 

「野営するそうよ」

「野営!? なんでどうして!? お兄様は私の所に帰って来たくないの!?」

「どーしてソーちゃんのとこに帰るってことになってるんすか?」

「私とふかふかのベッドで寝るより地べたで寝る方がいいって言うの!?」

「……全然聞いてないっすね。大体なんでソーちゃんと一緒に寝ることになってるんすか」

「…………モモン様から冒険の話を伺って一度やってみたかったって言ってたわ」

「つまりナーベラルのせいね!」

「どうして私のせいになるのよ!」

「ナーベラルはモモン様と一緒に冒険してたじゃない! アインズ様と一夜を過ごすなんてずるいわ私と代わりなさい!」

「それとこれとは関係ないでしょう!?」

 

 仲麗しい姉妹のはずなのに、男とアインズ様が絡むと話は別らしい。

 喧嘩を始めた三女たちに嘆息したルプスレギナは、

 

「帰ってくるのは明日ってことで、私はご飯に行ってくるっすよー」

 

 妹たちを尻目に一人でさっさと夕食をとり、風呂を使って体の隅から隅まで念入りに洗った。

 寝室に入ると鍵をかける。

 念のために、丸めた毛布をベッドに乗せて偽装する。

 窓を大きく開け放ち、外へと飛び降りた。

 エ・ランテルの街を駆け抜け、城門は通らず城壁を飛び越える。

 目指すのはエ・ランテルとカルネ村を結ぶ街道。

 街道にはところどころに開けた土地がある。もしも二人が歩いて移動していたらどこで野営しているかわからないが、馬車と一緒なら見逃すはずがない。

 ルプスレギナが全力で走れば、エ・ランテルからカルネ村までの距離を一時間と掛からない。

 街道沿いに停まっている立派な馬車を発見した。その近くに焚火を囲む二人がいた。

 ルプスレギナはにんまりとだらしない笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

(どうしてルプーが?)

 

 男と向き合っていたのは妹のルプスレギナだった。

 向き合ってるどころではなかった。二人の距離はゼロ。ぴたりと密着している。

 幸か不幸か、ユリは夜目が利いた。

 

(……、……、……。…………もしかしてあれ。………………キス?)

 

 顔と顔もくっついている。位置と角度的におそらくは唇が重なっている。

 ユリは妹がキスしている現場を見てしまった。




ルプー推しの声があったので走ってきました


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らんくあっぷ? ▽ルプスレギナ♯2

 文字通りの一寸先は闇。焚き火の明かりに慣れた目では尚更だ。木々の葉に降りた露が朧気に光っているのが見えるだけである。

 

「わっ!」

「…………はあ」

 

 背中に軽い衝撃。柔らかな何かが押しつけられ体に絡みついてきた。

 

「ぶー。全然驚いてくれないっすね。そこはもちょっといい反応するべきっすよ?」

「大きな声を出したらユリさんに気付かれるでしょうに」

 

 抱きついてきたのはエ・ランテルにいるはずのルプスレギナだ。

 焚き火を囲んでユリと話していたら、木立の影からルプスレギナがぬっと姿を現した。ユリとの会話をひとまず打ち切って近付けば、向こうで待ってるから来いとのこと。ユリには就寝するのでと言うことにして夜の森に足を踏み入れた。

 当然の事ながら、ユリから聞かれた事が気に障って離れたわけではない。そんなことを気にするほど繊細な心は持っていない。所詮は遠くに過ぎ去ったことで何の執着もない。

 

「明日になったらエ・ランテルに着くのにわざわざどうした?」

「そんなの決まってるじゃないっすか」

 

 ルプスレギナは男の手を引く。

 焚き火からは馬車と反対方向へ離れ、大きな木の下にたどり着いた。枝振りがよく、日中も日の光が遮られて薄暗い場所。それがために下生えが少なく広い空間がある。

 

「おにーさんがシャルティア様に連れられる前に何をしてたか覚えてないっすか?」

「それは覚えてるけど……、それこそエ・ランテルに戻ってからでいいだろう?」

 

 アルベド様に「顔も見たくない」と言われて傷心中のところを慰められ、ベッドに引きずり込まれる寸前にシャルティア様がいらっしゃったのだ。

 

「エ・ランテルにはソーちゃんもナーちゃんもいるんすよ? ソーちゃんなんてヒステリー起こして凄かったっんすから。 おにーさんが戻ったら絶対に丸飲みされてしばらく出してもらえないっすね!」

「……………………oh」

 

 エ・ランテルのお屋敷に戻ったら最古図書館で借りた本を読み耽ろうと思っていたのだが不可能であるらしい。

 

「だ・か・ら、その前にってことっすね。あの時の続きが早くしたくて……、来ちゃった♡」

 

 暗闇と言っても光源がない密室ではなく屋外である。吐息が嗅げる距離まで近付けばルプスレギナの顔が見えた。

 ルプスレギナの腕は輪を作って男の首に回った。あーん、と。ふっくらとした唇を大きく開く。赤い舌を伸ばして尖らせて、答えがくるのを待っている。

 

「あー……あむぅ、……んっちゅぅ……んふぅ、んっ……♡」

 

 舌と舌とで触れ合ってから唇が重なった。

 

 柔らかな舌が縦横に絡み合う。互いの口内を隅々まで舐め、離れたかと思えば唇を甘く食んで舌でなぞり、尖らせた舌が再び口内へ入り込む。

 ルプスレギナからも強く吸った。じゅるじゅると音を立てて男の唾が流れ込んでくる。口内に溜まった唾は互いの舌で存分にかき混ぜてから喉を鳴らして飲み干した。

 情熱的なキスをしながら、闇夜に輝く金の瞳がそっと動く。人狼であるルプスレギナは夜目が利く。人間の目では真っ暗闇だろうが、ルプスレギナから見て左側の木陰にユリが半身を覗かせているのが見えた。

 

(くひひ……、ユリ姉来てるっすね。私とおにーさんがちゅーしてるの見てるっすね。まったく、ユリ姉ったらどうしょもなくいやらしいんすから!)

 

 この発情狼、ユリが気付いて近付いてくるのは織り込み済みだった。気付かれたくなかったらもっと距離をとっている。わざわざユリに見せようと思ってこの場所を選んだのだ。

 ルプスレギナはろくでもないことを学んでしまっていた。

 前回も前々回も、シャルティアは自分やソリュシャンが覗いているのを承知の上でおにーさんといいことをしていた。覗かれるのがいやなら一言あれば済む話。シャルティアはあれでもナザリックの上位者なのだ。それがなかったという事はあえて覗かせたと言うことである。

 性技において一目も二目も置かざるを得ないシャルティアがしていたことである。何か意味があるのではと考えた。

 考えた末に、見られたら物凄くドキドキして興奮するのではと結論を得た。

 つまりはプレイを盛り上げる小道具としてユリを釣ったのだ。

 とは言っても、ルプスレギナはシャルティアほどの上級者ではない。明るいところでじっくり見られるのは流石に恥ずかしい。

 だから程々に見えるように夜の闇を味方に付けた。この暗さなら人狼である自分にもユリの姿はぼんやりとしか見えない。あちらからもそうだろう。巨木の周囲は開けているので周りの木立とは距離がある。木陰から出てこない限り、ユリは今以上に近付けない。

 じっくりは見られないけど、見られている興奮は得る事が出来る。

 

 しかし、ルプスレギナは所詮ルプスレギナだった。

 

 デュラハンであるユリにはアンデッド基本特殊能力として闇視がある。星明かりすらない真の闇でも視覚に不自由はない。その上、いつもはレンズが入っていない伊達メガネをレンズ入りの物と交換していた。不可視化すら見破る魔法のメガネは距離があってもとってもよく見える。

 

(え? え? え? え? え? ……え? ちょちょ……ルプー何してるの!? うわぁ……ベロとベロがあんなに……うわぁ…………)

 

 ユリの目にはくっきりはっきりと、舌に唾液が絡んでいるところまで見えていた。

 

 

 

 

 

 

 キスが終わると男の胸にしがみついた。

 野営で夜間であることから着込んでいた外套を脱がせ、ジャケットも脱がせ、放り投げて巨木の枝に引っかけてからシャツのボタンを外す。露わになった胸板に頬ずりをして、深く息を吸い込んだ。

 

「んーーー。おにーさんのいい匂い……。ユリ姉の匂いはしてないっすね?」

「匂いが移るようなことはなかったからね」

「ふーん? ユリ姉のおっぱい揉みたいって思わなかったんすか?」

「俺はそこまで好色じゃないよ」

「またまたー。私にあんなことしたくせに何言ってるんすか」

 

 それはルプスレギナが発情期で辛そうだったから。と、正直に言ってはいけないことくらい学んでいる。

 

「ルプーがとっても魅力的だったからだよ」

「えへへっ♪ おにーさんもとってもいい男っすよ♡」

 

 しがみついてくるルプスレギナを強く抱きしめる。昼間と違って夜の森は冷え込む。柔らかな女の体は温かく心地よい。甘い体臭が立ち上ってくる。

 

「ルプーもいい匂いがするね。とても温かくて胸の鼓動が聞こえてくるよ」

「おにーさんに早く会いたくて走ってきたんすよ?」

「それで汗の匂いもするのか」

「うひゃん!」

 

 いつも被っている帽子は着けていなかった。赤毛から飛び出るふさふさの狼の耳に鼻を寄せた。

 

「あん……」

「少し汗ばんでるね。中も蒸れてるし」

「やあ……、そんなの言わないで欲しいっす……」

 

 ルプスレギナのメイド服はスカートのサイドに深いスリットが入ってくる。腰に回っていた手がスリットの中へ入り込んで、大きな尻を撫で始めた。中は熱く蒸れている。尻肉はしっとりと汗ばみ手にすいつくようだ。生尻に直接触り、すぐに気付いた。

 

「ん? パンツ履いてない?」

「だって……。どーせすぐに脱ぐっすよね? おにーさんといっぱいセックスしたらすぐに戻るつもりっすから」

「そんなに俺とセックスしたかったのか?」

「……したかったっす。おにーさんのちんちん凄くて、凄く気持ちよくて、思い出すだけで……、もう……」

 

 耐えかね、こつんと男の胸に頭を預けた。

 

「思い出すだけで?」

「うぅ……、思い出すだけでおまんこが濡れてきちゃうんすよぉ……」

 

 心臓がバクバクと高鳴っている。

 エ・ランテルからここまで走ってきたが呼吸はとっくに落ち着いていた。恥ずかしいことを言わされるのが恥ずかしい。セックスが忘れられなくて体が求めてしまうと告白するのが恥ずかしい。ユリに聞かれているかもと思えばもっと恥ずかしい。

 恥ずかしくて、消え入るような小声で答えた。

 

「もう濡れてる?」

「……濡れてるっす」

 

 内股を何かがつつつと伝っていくのを感じている。ご馳走が欲しくてよだれを垂らしている。それがまた興奮を煽り体が一層熱くなった。

 

「あっ!?」

 

 尻を撫でていた手が前に回ってきた。そのまま股間を触られると思ったのに、手は根本まで来なかった。太股をぐいと持ち上げられた。

 

「そのまま脚をあげて」

「え……でも……」

 

 ちらりとユリが隠れる木陰を窺う。

 

「ルプーなら出来るだろう? それとも寒いかい?」

「そんなことないっすけど……」

 

 持ち上げられたのは左足。ユリが隠れているのも左側。このまま脚を上げると、ユリに向かって股を開く形になる。幾ら何でもそこまで見られるのは恥ずかしすぎる。しかし、暗いし距離があるしで見えないはず。

 きっと見えないと信じて、ルプスレギナは脚を上げた。

 

「おお! さすがルプー、すごいな。つらくない?」

 

 人の目では暗がりに慣れようとも細部まで見えないが、シルエットくらいなら見えるようになっていた。

 

「これくらい軽いもんっすよ♪」

 

 褒められればすぐ調子に乗るのがルプスレギナの可愛いところである。

 倒れないよう右手は後ろ手にして巨木につき、左手で足首を持つ。持ち上げられた脚は脛が頬につくほど高い見事なI字バランス。神官であるくせに格闘戦が得手な人狼は体幹が非常に鍛えられていた。

 生足はスリットから飛び出てスカートは全く役に立ってない。パンツを履いてないので性器を突き出しているよう。

 

「あんっ♡ そんなのされたら恥ずかしいっす。おまんこの匂い嗅いじゃだめっすよぉ」

「脚はそのまま」

「あっ……、息かかって……。ペロペロするんすか? あっ……んっ!」

 

 弾力ある太股に唇をつけた。唇は段々と下がって脚の付け根へ。

 一寸先は闇でも一寸まで近付けば見えるようになる。

 この間まで処女だったルプスレギナの割れ目は男を受け入れることによって女になり、雌穴をこじ開けられている。濃厚なセックスへの期待で潤み、キスをした時には垂れてしまった。そこへ大股を開いたものだから、割れ目もくぱあと開いている。

 暗く深い雌穴は期待にひくついて、温かい愛液をとろりと垂らした。

 栓をするように男の唇が塞ぎ、尖った舌がねじ込まれた。

 

「あ……、おまんこにおにーさんのベロがはいってるの、わかるっす。おにーさんのベロ優しくて、はぁ……。あひゅっ!? いっ、いきなりクリを触っちゃびっくりするんすからぁ……。あっぁ、んあああっ……、あっ、だめぇ、おっぱいもして欲しいっす……」

 

 大事なところを舐められている。前回も恥ずかしい格好で舐められたので抵抗はない。だけど立っていられなくなる。

 右手は木に突いて体を支え、左手は足首を持っているので両手が塞がっている。気持ちよくなってしまって声が出てしまう。口を押さえられない。

 ユリが近くにいるのを忘れていない。遠目にちょっと見られるならいいスパイスだが、感じ入った嬌声を聞かれるのはかなり恥ずかしい。だから一旦落ち着かせたくて、敏感になりきっているところよりも甘やかな刺激にしてもらおうと思ったのだが、

 

「きゃうううううぅぅぅぅううううん♡」

 

 刹那走った鋭い刺激。痛みに上がった叫びは長く尾を引き、いやらしく蕩けていった。

 吸われ舐められ、ルプスレギナは肉芽を勃起させていた。ただでさえ敏感な部分が一層敏感になっている。敏感な部分を守る包皮も剥かれている。そこをキツく噛まれた。肉芽が潰れてしまうとすら思った痛みは直後に霧散し、下半身が溶けて何かが入り込んできたような快感が襲ってきた。

 

「あうぅっ! あうっ! あっぁぁ、あんっ。やっやぁ、おっぱい、おっぱいもぉ! おまんこばっかりぃいいぃ♡ ああああぁ……」

 

 軸になってる右脚の太股を抱えられ、割れ目の内側を舐められている。それだけでも蕩けるような快感なのに、指が入り込んできた。太さからして二本入ってる。

 中で曲げられ、内側を直に擦られている。クリトリスの表と裏を同時に責めるような刺激に、ほんの一瞬意識が飛んだ。

 

「ルプーのここはこんなに悦んでるのに。もっとして欲しいんじゃないのか?」

「そうっすけどぉ、あっあっ……恥ずかしいっすよぉ……」

「恥ずかしいって言うくせにこんなに濡らして。ルプーにも聞こえてるだろ?」

「あうぅ……、聞こえるっす……。ルプーおまんこがくちゅくちゅ言ってるっす……」

 

 全身が鍛えられているルプスレギナは膣も鍛えられている。くわえ込んだ指をきゅうきゅうと締め付けて離さない。それはキツいのであって狭いのとは違う。体が小さなシャルティアよりもずっと具合がいい。

 指で感じる内側のなめらかなざらつきもいい具合である。前回見つけた性感を責めるとよく鳴いた。

 膣壁を擦りながら激しく抽送してやると、指の出入りを手伝うように愛液が増えてきた。ルプスレギナは「くちゅくちゅ」と言っていたが実際は「ぐちゅぐちゅ」である。

 割れ目の上端に舌を這わせているので、鼻先をルプスレギナの陰毛がくすぐった。

 ここまで走ってきたと言ってた。思い出すだけで垂れるほど濡らしてしまうなら一体いつから湿らせていたのか。縮れた毛からはルプスレギナの濃い匂いがした。

 アルベド様は失ってしまったものである。アルベド様の淫紋は神秘的でとても美しいが、これにはこれの良さがあった。

 何とはなしに舌で一本だけより分けて歯で挟み、強く引っ張った。

 

「ひうっ!? ……おけけ引っ張っちゃダメっすからぁ。ちょっち痛かったっすよ?」

 

 舌に赤い陰毛が一本だけ乗っている。吐き出すのも悪い気がする。アルベド様の陰毛は全て飲み込んだが、ルプスレギナのも飲み込むのはちょっとあれ。

 

「あ……あむぅ…………ん? これなんすか? 毛? え? 私のおけけっすか!? んむぅっ!?」

 

 口移しでルプスレギナの口に運んでやった。

 吐き出そうとしたので口で塞ぐ。舌を使い、口内に残るルプスレギナの愛液を唾と一緒に押し込んでやる。やがて、ルプスレギナの喉が鳴った。

 恨みがましい目をするが、すぐに切なそうに眉根を寄せた。

 指はずっと中に入っている。

 

「あうぅ……、もう、立ってらんないっすよ……」

「おっと」

「ひゃん♡」

 

 右手も左手も男の体に回して倒れ込むように抱きついた。

 と同時に、スリットから手が入ってくる。長い指が尻の割れ目をなぞって奥へ届き、またも指を突き立てられた。

 左手はもっと悪いことをしている。スカートをめくり上げて尻を丸出しにさせてから尻肉をむんずとつかみ、指先が違うところの穴をくすぐっている。ルプスレギナの愛液はすぐそばのすぼまりも濡らしていた。ぬめる愛液が手伝ってこちょこちょとくすぐっている。圧力が段々増してきた。

 

「あ……あ……、そこ、違うっす……。そこ、お尻の……あ……」

 

 はっきりとわかった。

 入り口をくすぐっていたのが、肉圧を押しのけてきた。中に入ってきた。中が焼けるように熱い。どうして熱さを感じるのか、ルプスレギナには全く分からなかった。

 

「両方を同時に責めるととてもいいことがあるんだよ」

 

 見上げた男の顔は、とてもいやらしくてとても綺麗でとても魅力的だった。

 見とれてしまった僅かな時間に深くなった。ほんの指先だけだったのが第一関節まで入り込んだ。一番狭いところを通り抜けて、指先は広いところに届いている。

 

 ルプスレギナは、ようやく前回のことを思い出した。

 ルプスレギナはナザリックのシモベの中でも高レベルで、神官のくせして頭脳より肉体派である。体力は抜群にあった。腰が抜けて意識が飛ぶほどの快楽を何度与えられても続きをねだることが出来た。色々なことをされ、それがどれも気持ちよくて、最終的にメロメロになってしまった。

 その色々を具体的に思い出した。メロメロになるまでどんなことがあったのかを思い出した。あへあへにされた。入れて欲しいと何度も言ったのに入れてくれず、執拗に責められた。シーツにぐっしょりと染みを作ってしまった。自分の股間から愛液が飛沫となって飛んでいったのを覚えている。おまんこいっちゃう! と叫んだのは一度や二度ではない。

 その都度、持ち前の体力で復活したわけだが、本当に色々なことをされた。

 今、それ以上の入り口に差し掛かっている。

 

「だ……だめっす! おにーさんのちんちんも気持ちよくなんないと」

 

 両穴をいじられながら、男の股間に手をあてがった。ズボンの中で張り詰めている。

 肉棒をさすりながらメイド服の襟を大きく引き下げた。豊満な双丘がぽろりとこぼれる。

 

「バカみたいにでっかいソーちゃんやユリ姉ほどじゃないっすけど、私のおっぱいもおっきいっすよ? おにーさんにいっぱい揉んで欲しいっす。あんっ!」

 

 潤む目で見上げながら誘惑するも、入り込んだ指は出て行こうとしない。それどころか深くなった。

 

「脚を上げて」

 

 耳元で囁かれる。

 ルプスレギナは、男の腰へ絡めるように左の太股を持ち上げた。右脚だと、左手の指がもっと深くなってしまうかも知れない。

 代わりに右手の指が深くなった。

 立ったままなのでさっきほど激しい動きはない。静かな森の中で、ルプスレギナの股間がくちくちと水音を立てている。

 

「わ……、私の……、ルプーのおっぱいも、して……。おにーさんにして欲しくて、ち……乳首も立っちゃって……」

 

 懇願するように言いながら、ちゃんと立ってるか確かめるために先端を摘まんだ。ひうっと甘い声を上げた。

 

「おまんこも、ちんちん欲しいっす……。おにーさんのちんちん入れて欲しくて……」

 

 異色光彩の瞳を見つめながら言った。

 懇願するだけでなく、今度はルプスレギナからも攻めた。

 ズボンの中に手を入れて、中で張り詰めている逸物を直に握る。冷たい夜の森の中で焼けるように熱く、腰が砕けるほどに逞しく固い。

 両穴を責められるのは驚きと未知への恐怖はあったが、抵抗はなく不快感もなく、気持ちよくて、気持ちよくしてくれることに嬉しくもなって。

 子宮がきゅんと疼き、手の中にある逞しい物を早く入れて欲しくなった。

 ユリが見ていることはもう頭にない。

 

 

 

 涙目のルプーがなんだかとっても可愛かった。

 本当なら両穴をもう少し責めて、根本まで入れた指を中で擦りあわせようと思っていた。違うところから入った指なのに、媚肉を挟んでもう一方の指を感じるのはとても不思議なようで、しかしながら人体の構造からして当然でもある。シャルティア様にはとても好評だった。

 ルプーの反応からして訓練することなくそこへ辿り着けそうな素質を感じたが、こんな可愛い顔をされると自制が緩む。

 

「あ♡」

 

 指を抜き、巨木に両手を突かせた。

 腰を折って大きな尻を突き出させる。スリットがいい仕事をして、容易にスカートをめくれる。尻を丸出しにさせて足を軽く開かせた。

 取り出した逸物を割れ目にあてがう。

 あてがった瞬間、膣口から愛液があふれて亀頭を濡らした。

 

「欲しがりなルプー。どこに何が欲しいんだい?」

「ルプーのおまんこに欲しいっす! おにーさんのぶっとくて固くてあっついちんちんが、ちんこが欲しいんすよぉ! おにーさんのちんこ欲しくてルプーのおまんこぐちょぐちょなんすからあ。あん、焦らさないで早く欲しいっす……」

 

 眠っている森がビックリするほど大きな声で答えた。

 十分ほぐしたので、ルプスレギナの雌穴は小さく口を開いている。亀頭を咥えさせるとぴたりと吸いついた。もっと奥まで欲しいと言わんばかりに蠢いている。

 ゆっくりと奥へ進む。

 激しく突き入れると愛液が跳ねてシャツに飛んでしまう。と考えたが、挿入して動いている内にどうせ飛んでくるに決まっている。汚れてしまったら洗わないとならないが、そのためには屋敷まで戻る必要があって、と考えたところで魔法の服と思い出した。ナザリックで仕立てて貰ったシャツとズボンである。ユリのメイド服同様、濡れたハンカチで拭えば綺麗になる。

 

「あああぁん♡ 入ってきたぁ♡ ずっと欲しかったんすからぁ。あっあっあんっ……!」

 

 一息に一番奥まで挿入した。

 体力お化けのルプスレギナは乱暴に突き入れても問題ない。亀頭が子宮口にぶつかって押し上げても悦ぶばかり。

 やはりルプスレギナの膣は熱くて締め付けの具合がいい。いまだ回数が少ないので固さが残っているが、シズではないが使い込めば固さが抜けきって一層の名器になると思われた。

 ずっと欲しかったと言っていたのは嘘ではなかったようで、逸物を包む膣壁は絶妙に蠕動して奥へ奥へと取り込もうとしてくる。ルプスレギナ自身も犬のように舌を伸ばして喘いでいる。

 

「ひゃん! きゃん! きゃうん♡」

 

 大きな尻をピシャリと叩いた。

 ルプスレギナは太股がむちむちで尻が大きい。残念ながら暗いのでよく見えないが、後ろから見る褐色の尻は凄い迫力なのだ。

 腰ではなく尻を掴んで打ち付ける。下腹が尻を叩いてパンパンと軽やかな音を響かせた。

 ルプスレギナにサービスしようと挿入しながら肛門を責めてやろうと思ったが、今は自身の快楽を優先した。それがルプスレギナにとって良かったことかどうなのか。

 

(おにーさんのちんちんやっぱすごいっす! ルプーのおなかの真ん中まで届いてるみたい! ……っ!! ……うあぁ、またイッちゃったっす……。舐められて二回はイッちゃって、指でいちにい……三回くらいっすかね? 前はその倍はイカされてからちんちん入れてもらったんすよね……。うぁあ、おまんこがぁ……おにーさんのちんちんがぁ、ルプーのどこまで入ってきてるんすかぁ……)

 

「あっ、あっ、またっ、ルプーのおまんこ、またイッちゃってったあぁ♡ おにーさんのちんこなんでこんあにすごいんすかぁ……、あひっ。ルプーの真ん中まで来てるっすよぉ。ルプーのこんなところまで来ていいのおにーさんだけっすからね? ルプーはおにーさんだけっすからぁ♡ あんあんああっ、おっぱいもっとっすよぉ。ルプーのおっぱいもおまんこももっと滅茶苦茶にしていいっすからぁ♡」

 

 ルプスレギナの体を追いかけるように体を倒し、こぼれ出ている乳房を鷲掴みにした。

 後ろから突かれる度にぷるんぷるんと激しく揺れていたルプスレギナの豊乳。大きいので指が埋まり、けども柔らかいだけでなく張りがある。バカでっかいあの人たちとは違うんですと言うだけはあった。

 

(乳首くにゅくにゅされてるぅ♡ おっぱいもいいっすけどやっぱおまんこがぁ。ぜったいぜったい前より凄くなってるっすよ! 前もすっごいよかったすけど、こんな……、ぱんってくる度に頭チカチカして……。だめ……何も考えられないっす。ああ、もう大好きなんすからぁ♡ あの時もルプーの代わりにアインズ様へ言ってくれたし……、ダメ! おまんこじゃなくて、おっぱいじゃなくて、ここどこなんすかぁ……きゅんきゅんしてぇ……。おにーさんが精液出すまでずっと? こんなのずっとされたらルプーおかしくなっちゃうぅ。おにーさんだけのルプーになっちゃうっすよぉ♡)

 

 ルプスレギナに突き立てている逸物は、何度もきゅうっと締め付けられる。

 緩急つけて締めるのではなく、痙攣するような断続的な締め付け方。

 併せて夜の静寂を破る甲高い叫びから何度も達しているとわかった。

 ベッドの上ではなく立ちながらの後背位なのに、激しく突いてもルプスレギナの体は揺るがない。支えてやる必要がなく、両手を自由に使えるのがいい。乞われた通りに乳房を揉みしだく。つんと立ち上がってる乳首を吸いたくなった。胸の谷間に顔を埋め、舌を伸ばして乳首を舐めるのはさぞ楽しいことだろう。

 今は摘まむに留め、右手は二人の結合部へ伸ばした。逸物でこじ開けられている雌穴の少し下。挿入前にたっぷりいじってやったクリトリス。乳首と同様に勃起したままで、敏感な身を守る薄皮は剥けている。撫でてやると逸物を包む媚肉の蠢きが絶妙に変わってきた。

 愛液も増え、中を抉る逸物に絡みつき、奥まで突き入れる度に押し出されて股間を濡らす。ルプスレギナの内股は膝まで淫液が伝っているし、こちらは玉袋まで濡れている。

 

「あうっあうっ、きすぅ、キスもぉ……ん、ちゅぅ、んっんっ……れろ……ちゅる……」

 

 体をよじってキスをねだってきた。

 金色の瞳は愛欲に塗りつぶされている。

 キスの間は腰を振れない。ルプスレギナがきゅうきゅうと締め付けてくる。

 唇が離れてたっぷりと交換した唾液が長い糸を引き、自らの重みで垂れていく。

 ルプスレギナの熱く甘い吐息に鼻をくすぐられ、濡れた瞳に切なさが混じり、ねだるように舌を伸ばされ、引いた腰を勢いよく打ち付けた。

 

「あああ…………、んんぅ……んっ……」

 

 子宮口に亀頭を押しつけ、どぴゅどぴゅと熱い精液を吐き出した。

 同時に叫ばれないよう口を塞ぐ。唾液の糸は千切れる前に二人の口の中へ戻らされた。

 

 ルプスレギナは、体の深いところで逸物がぴくぴくと震えているのを感じた。

 

「ルプーのおまんこの中に…………いっぱい出てるっす♡」

 

 ずるりと抜けても、ルプーは一滴もこぼさない。

 愛しのおにーさんに抱きついて、狂おしく唇を求めた。

 

 

 

 

 

 

 ユリは一部始終を見ていた。

 最初から最後まで見ていた。

 アンデッド基本特殊能力のダークヴィジョンと魔法のメガネはしなくてもいいほどに一生懸命働いた。

 全部見てしまった。

 息をするのも忘れて見てしまった。ユリはデュラハンなので、呼吸をしなくてもちょっと苦しいだけで死んだりしない。

 瞬きするのも忘れて見入ってしまった。デュラハンだろうとずっと目を開けたままだと流石に目が乾く。

 ユリは固く目をつむって、軽く目頭を揉みほぐした。

 目を開けると二回目が始まっていた。

 今度は互いに向き合って、ルプスレギナの左足を男が抱え持っている。

 ルプスレギナは男に抱きついて、体が不自然に上下に動いている。

 下から突き上げられて動いているのが、ユリの目には見えてしまった。

 

 夜はまだ長い。




ちなみにらんくあっぷしたかも知れないのはルプーです


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姉の意地

 ユリは二度目も最初から最後までじっくり見ていた。

 

 ルプスレギナが甲高い声で鳴いた。

 二人はしばし抱き合う。小声で何事かを交わし、ルプスレギナが乱れた衣服を整えた。どうやら終わったらしい。

 しかし終わったと思ったのはユリだけで、ルプスレギナはその場に屈み込むと男の下半身に顔を近付けた。髪と耳を撫でられながら頭を激しく前後に振る。

 やがて男が小さな声で呻いた。ルプスレギナは立ち上がらない。闇視可能なユリには、ルプスレギナの喉が小さく上下するのが見えた。

 今度こそ終わったらしい。ルプスレギナは男の頬にキスをしてから夜闇の中へ消えていった。

 

 ユリは焚き火の側に戻って椅子代わりにしていた大きな石の上に腰を下ろす。

 自分が一体何を見たのか。

 あれはつまりどういうことなのか。

 

 夜が明けるまで考え続けた。

 

 

 

 

 

 

 翌朝の朝食は昨夜の夕食と同じでナザリックで貰った非常食用のレーションである。少ない量でもお腹にたまるのはとてもありがたい。しかも美味しい。流石のナザリックである。

 お茶は夜通し火の番をしていたらしいユリが用意してくれた。

 野営なので太陽の目覚めと同時に活動し始めたため、エ・ランテルにいる時と比べるとかなり朝早い時間である。森の小鳥たちもようやく起き出した頃だろう。静かな森の中で鳥のさえずりだけが響いている。

 昨日と違って会話らしい会話はなかった。ユリと違って空気を読む能力に欠けているこの男は無言が幾ら続いても一向に気不味くならない。気にしないとも言う。アルベド様のご機嫌さえ損ねなければそれでいいのだ。

 しかし、お茶は不味かった。

 一体何時間煮込んだのか。風味は完全に飛び、香りはきれいに死滅して焦げ臭さがある。丁寧に淹れれば澄んだ紅色になるはずだが暗色と言うか真っ黒だ。余りの黒さにどこか遠い異界へつながっているのではと思えるほど。味は言うに及ばず最悪の一言。とても渋い。とても苦い。明らかに茶葉の分量を間違っている。

 もしやこれがユリの好みなのかと思いつつ無言で飲む。お湯に墨を溶いて飲んだ方がまだましと思われた。

 デュラハンなので飲食不要なユリは、昨日とは違ってお茶にもレーションにも手をつけなかった。

 

 焚き火を消して早速馬車の旅が始まった。昨日と同じように二人とも御者台に乗る。

 旅路は順調である。出発時刻が早かったため、このままだとエ・ランテルの住民たちの朝食の時間に着いてしまいそうだ。

 

 馬車の旅が始まってもユリは無言だった。ただし、口の代わりに目で物を言っている。隣をチラチラと盗み見するではなく、じーっと露骨に凝視する。

 おもむろに口を開いた。

 

「………………君はボクのことどう思う?」

「お綺麗な女性だと思いますよ。プレアデスの方々の長女であるだけあって心根が優しく、責任感のある方に見えます」

 

 ユリの口調に内心で首を捻ったが疑問はひとまず脇に置き、思ったことにユリが喜びそうな事を付け加えて答えた。このあたりの加減はソリュシャンからの課題図書で学んでいる。

 

「それじゃ……、胸が大きいのって、どう? 大きすぎるとおかしい?」

「大きいの程度によるでしょうが基本的には好ましいと思います。ユリさんの胸はとても魅力的だと」

「べべべっべべ別にボクのことなんて聞いてないだろ!?」

「失礼しました」

 

 自分のことをどう思うかの次は胸と来た。これはもしかして誘われているのかと思ったが、顔を赤くして違うと言うのだから違うのだろうか。

 そのユリは拳を握って小さく振る。いわゆるガッツポーズである。

 

「じゃあ………………。ボクの胸、触りたいって思う?」

 

 ユリはまっすぐ前を見ている。凛とした表情は崩していないが、頬も耳も赤くなっている。髪は結い上げた夜会巻きにしているのでうなじまで赤いのが見えてしまう。

 とんでもないことを言い出したユリに、男は背筋に冷たい汗をかいた。

 

 

 

 

 

 

 ユリはプレアデスの長女である。

 姉より優れた妹はいないとの格言通り、優秀なのだけどどこか抜けてるところもある妹たちに比べると頭脳明晰である。明晰な頭脳でじっくりと考えた。

 

 この男はルプスレギナとあんなことをしていた。ルプスレギナが人間の男に肌身を許すのは意外に思えたが、妹にいい人が出来たならそれはそれで悪いことではない。ルプスレギナときたら人間はよく鳴く壊れやすい玩具としか思っていなかったのだ。そのルプスレギナが心を改めたのなら喜ばしいことと言って良い。

 

 しかしこの男、好色であるらしい。ルプスレギナが面と向かってそう言っていたし、言われた方も暗に認めていた。

 

 ナーベラルからも忠告を受けている。曰く、人の皮を被った淫魔か淫獣の類。ナーベラル自身の経験から出てきた言葉だろう。この男はナーベラルもそのような対象と見ていたということだ。昨夜のルプスレギナと同じようなことをしていた可能性は高い。

 ソリュシャンは帰還が一日遅れただけでヒステリーを起こしたとか。あのソリュシャンがである。ソリュシャンもナーベラルと同じく人間は下等な生物と言ってはばからず、人間の判断基準は為人や容姿よりも食べていい人間かどうか、食べていいなら美味しいか不味いか、である。そのソリュシャンが人間に強い執着を表した。食べてはいけない人間なのにどうして執着するのか。もしかしてそんな事があって昨夜のルプスレギナのような云々。この男にとってソリュシャンもそんな対象なのだろうと推測するのは容易だった。

 そして、あろうことか、シズ。この男がナザリックにいた期間は短かったが、その間はずっとシズが側にいた。シズはずいぶんと気に入ったようで、監禁して撫で撫ですりすりしたとか何とか。もしかしてもしかしたりすると、シズもそんな目で見られていたかも知れない。小さくて表情がわかりにくいが、ナザリックのシモベの例に漏れずシズはとても美しい少女なのだ。

 デミウルゴス様の出張について行き不在のエントマを除けば、自分以外の姉妹が全員そんな対象であるのかも知れない。

 仮にシズを抜いたとしても、次女と三女二人はその身をもって好色であると知ったに違いない。

 

 これは一体どういう事か。

 

 妹たちはそうなのにどうして自分だけ違うのか。

 ルプスレギナは「ユリ姉のおっぱいを揉みたくならないか?」と訊いていた。そこでの答えはこの際どうでもいい。あんな状況で素直に「揉みたい」と答える剛の者はいない。

 問題は、おっぱいをチラ見されるだけでいやらしい気配がなかったことである。

 もしや自分には女としての魅力が備わってないのだろうか。

 親しい者が相手だと気を抜いて一人称をボクとしたり、少々男の子っぽい口調になることもあるが、そんな面は見せてないはずである。きちんとした淑女であったはず。それなのに何故。

 自問自答を繰り返した。

 最終的には好みの問題として解決を見ようとしたのだが、ほんの一瞬「じゃあシズは?」と思ったらもうダメだった。

 

 問題児ばかりの妹たちの中で、小さくて可愛いシズはユリの癒しである。

 シズちゃんはとっても可愛いのだ。

 しかしそのシズはそんな対象なのに自分は対象外。

 

『ボクの女子力ってシズより下なの!?』

 

 これは、キツい。

 シズは確かに可愛いが、小さなシズよりも女の魅力が劣っていると言われるのはアイデンティティとかレーゾンデートルとかの危機である。

 創造主のやまいこ様は己に女性らしく美しい姿を与えてくださった。

 自分が性的な目で見られないという事は、やまいこ様への侮辱につながるのだ。

 

 どうしてそうなるのか、不思議なことにユリの中でそんな結論が出てしまった。

 結論を得て、それを覆すために直接聞いて誘惑してやろうと思ったのはやまいこ譲りである。

 女教師であるやまいこだが、ユグドラシルではゴツいアバターを使用し「とりあえず殴ってから考える」が信条だった。殴ってみて強そうだったら逃げる、と後のことも一応考えてはいたらしい。

 やまいこの性質はユリに受け継がれ、ユリも殴ってから考える脳筋タイプである。知的な見た目とは裏腹に。

 ゆえに、とりあえずおっぱいを差し出して様子を見ることにしてしまった。

 戦闘時とは違って、その後に逃げられるわけではないのに。

 

 

 

 

 

 

 ユリはまっすぐに馬車が行く先を見つめている。

 街道を包む森は所々に伐採した箇所があり、もう少し進めば視界が開けてくる。エ・ランテル近郊まで近付けば田畑も広がっている。路面は昨日より乾いて馬車は軽快に進む。

 しかし、ユリは前を見ているようで全く見ていなかった。全神経を隣の男に注いでいる。

 その男はと言うと、内心で「これはやってしまったかも知れない」と、見えないところに冷たい汗をかいていた。

 

 朝食に飲まされた不味いお茶。ユリの好みかと思ったが、ユリは飲まなかった。自分に飲ませるために高級な茶葉を大量に使ってあのスゴいお茶のような何かを淹れたのだ。如何に心の機微に疎かろうと、そんなことをされれば怒っているのでは、と推測できないわけがない。

 何を怒っているのか。それはおそらく昨夜のこと。

 昨夜、ルプスレギナが来てしまったのでユリを放置してしまった。しかし、ユリは待っていたのかも知れない。

 一見淑女然としたユリであるが、小さなシズに向かって「セックスはほどほどにね」と注意していたのをその耳で聞いている。ユリは、発情狼や淫乱スライムに搾精人形たちの長女である。

 アルベド様のご命令であろうとわざわざエ・ランテルまでの護衛を引き受けたのはそれなりの思惑があったのかも知れない。馬車を用立ててくれたのなら一人でも可能な道程なのだから。

 それを知らずに放置してしまった。これは怒って然るべきだろう。

 少し考えればその気配はあった。馬車がその証左である。大きくて豪奢な馬車で、昨夜はふかふかの椅子に寝そべって眠ることが出来た。移動のためだけでなく、居住性も抜群なのだ。たかだかナザリックからエ・ランテルまで移動するだけなのにこんな馬車を用立てる必要がどこにある。移動や荷物を運ぶこと以外の目的があると察するべきであった。

 

 本当のところは全く違う。

 お茶が不味くなったのは考え事をしていたユリが無意識に茶葉を放り込んだせいだし、馬車が豪華なのはアルベドがナザリックの名誉を考えたためである。ナザリックから出立する馬車が貧相なもので良いわけがない。そしてプレアデスであるユリがナザリックの序列第二位にある守護者統括の命令に従うのは当然だった。セックスはほどほどにだって誤解である

 

 

 

 

 

 

「それでは失礼をして」

「!?」

 

 人一人分空けて座っていた距離を詰められた。

 

「触るつもり!?」

「え? ダメなんですか?」

 

 言外に「触らなくてもいいんですか?」と付け加えたのだが、そんなニュアンスがユリに伝わるわけがなかった。

 

(ボクのバカバカバカ! そんなこと聞いたら触ってくるに決まってるだろ! どうしようどうしよう男の人におっぱい触らせたことなんてないのに。でもここでダメって言ったらボクはただの変な人じゃないか……。いっそのこと触らせる? おっぱいを触らせるくらい大したことないしルプーに触られたことだってあるし減るものじゃないし。…………き、昨日のルプーは、なんていうか、あれだったけど。でもそれってその、……あそこをされてたからで、おっぱいだけでそんなことになるわけないじゃん!? 大丈夫、おっぱいだけ。おっぱいだけだから。別にルプーが羨ましかった訳じゃないもん! だからボクはおっぱいだけなんだから!)

 

 ユリは深呼吸して背筋を伸ばした。巨乳の常で、背筋を伸ばすと乳房の重みに負けないよう背はやや反り気味になる。背が反ると胸が前へ突き出される。

 ユリが着ているメイド服はナザリックのメイドのお仕着せとデザインが似て、乳房の部分だけ生地が切り替わってエプロンドレスの下に着ているブラウスが表に出るようになっている。そんな服で胸を張られると、乳房の大きさがこれでもかと強調されてしまう。

 

「…………………………いいよ?」

 

 許可を出した形だが、実際のところは触りなさいと言うことだろう。下っ端は上の人たちのお気持ちを察して忖度しなければならないのである。

 とは言え、無力な人間の男と言ってもナザリック守護者統括アルベド直属である。ヒエラルキー的に考えてプレアデス相手にへりくだる必要は特にない。しかし命令系統も役割も全く別になるので、そこのところが上手く組み込まれていない。そのため、こんなおかしな齟齬が出てきてしまう。

 

「へあっ!?」

 

 ユリは右、男は左に座っている。距離を詰めると男の右腕はユリの左肩にぶつかり自由に動かすことが出来ない。だから左手を伸ばしてくると思ったのだが、伸びてきたのは右手だった。

 腰を抱くように、右手は反り気味の背の裏を通ってユリの右側に現れた。

 ユリは一応手綱を握っているので両腕を上げている。無防備な脇の下から顔を出した右手は上を目指し、

 

「!?」

「……なんでしょう?」

 

 右手が到着する前に、ユリは咄嗟に脇を締めた。

 

「今何かスキル使った?」

「スキル?」

 

 今にも自分の乳房に触れそうな右手を凝視していたユリは、男の右手から鮮やかなピンク色の濃密な何かが迸ったのを見た。何かしらのスキルか魔法が発動したに違いない。

 

「何も使っていません。そもそも私は魔法もスキルも武技もアビリティもタレントも保有していませんので、使いたくても使えません。それとも……、ナザリックには胸を触る際に発動するスキルがあるのですか?」

「え、いや……、そんなのない、と思うけど。……見間違いだったのかな?」

 

 確かに見たと思ったが、脇で封じられた右手は光ったりせず綺麗なだけの手である。

 小首を傾げながら脇を緩めた。

 

「それでは改めて失礼をして」

 

 手の平が広げられる。拳で戦うユリよりも大きな男の手。

 

(大丈夫大丈夫、服の上からちょっと触るだけで大したことないしおっぱいだけで昨日のルプーみたいになるわけないし。触るだけじゃなくてもしかしたらももももも揉んでくるかも知れないけどそのくらいお風呂でいつもしてることだろ!? ルプーなんて直接されてたんだからそれに比べたら絶対大したことないって! でもでもまさかあそこを触ったきたりしないよね!? そこは絶対触らせないんだから! おっぱいだけなんだから!)

 

 格闘職であるユリには、右脇から出てきた手が自分に触れるまでの短い時間が焦れったいほど長く感じられた。

 

「!」

 

 背が跳ねた。

 手綱が引かれ、馬が止まる。

 

 ユリの豊かな乳房に男の手が触れていた。




なかなか話が進まないけどまあいいやの精神で
次かその次かその次くらいにはエランテルに着くはずです、たぶん


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ボクはたぶん悪くない! ▽ユリ♯1

 ユリ・アルファとくれば一癖も二癖もあるプレアデスの姉妹を束ねるしっかり者のお姉さん。

 解けば腰まで届く黒髪は一部の隙もなく結い上げて夜会巻きにしており、涼やかな目元は黒縁のメガネが飾っている。お姉さんらしい知的な美女である。

 女性としては高い身長と細い腰から一見スマートに見えるが、近くで見ると印象が覆る。

 胸である。

 白いブラウスに合わせたエプロンドレスは胸の部分で生地が切り替わり、胸部をとても強調する。丸く盛り上がった双球はメロンかスイカでも入れているのだろうか。

 否。

 おっぱいである。ユリのおっぱいはとても大きいのだ。

 ソリュシャンやルプスレギナのメイド服と違って、ユリのメイド服は露出が少ない。首に巻くチョーカーがアクセントになっているので首もとが少々覗く程度。

 しかしおっぱいである。

 ブラウスをこれでもかと盛り上げているおっぱいは、誰であれチラ見せずにはいられない。今やお骨となり性欲がどこかへ行ってしまったアインズさえチラ見してしまうと言えばどれほどのものかわかるだろう。

 なお、シャルティアはガン見する。アウラに「いい加減にしなよ」と注意されるまでガン見する。アンデッドであり巨乳美女であるユリは、シャルティアの好みのどストライクなのだ。ユリはシャルティアを前にすると頻繁に身の危険を感じるため、シャルティアのことが少々苦手である。

 

 

 

 

 

 

 大きなおっぱいにそっと触れた。手の平では到底包みきれない。

 ブラウス越しでもしかと感じる柔らかさ。頼りなさすら感じる柔らかさ。愛と優しさがいっぱい詰まったふんわりと柔らかいユリおっぱい。なのに確かな重量感。大きさに相応の重さがある。

 手の平を押し当てるだけでなく、少しだけ指に力を入れた。むにゅんと乳肉に沈み込んだ。

 白いブラウスは魔法の服なので透けるようなことはない。だけども生地は薄く、指先はブラウスの下を、ユリの乳房を包むブラジャーの繊細な模様を感じ取った。

 感触からして乳房の半分だけを包むハーフカップ。

 シクススに色々教えてもらったところによると、おっぱいが大きいと乳房全体を包むフルカップがいいのだとか。ただし、フルカップだといまいち可愛くならないようだ。実用重視であるらしい。

 ユリのブラジャーはハーフカップと言うことは、実用よりも見えないところまでしっかりお洒落しているという事である。誰に見せるつもりなのか知らないが、さすがはプレアデスの長女である。

 手の平に包んだおっぱいを乱暴に揉んだりはしない。ソリュシャンのおっぱいではないのだ。下から包むように持ち上げて重さを感じ、指先でブラジャーの縁をなぞった。

 

「んぅっ……」

 

 ユリは手綱を握ったまま顔を俯けた。

 触らせる前から赤かった頬は依然変わらず、きゅっと下唇を噛んでいる。何かに耐えているように見えた。声を上げまいと抗っているように見えた。

 ブラジャーの縁をなぞっていた指を折り曲げ、丸く盛り上がっている頂点を引っかいた。

 

「ひぅっ!?」

 

 ほんの一瞬だけ吐息と共に声を上げ、またすぐに口を閉じて下唇を噛む。

 五指を目一杯伸ばし、ユリのおっぱいをむんずと掴んだ。ふんわりとした乳肉はされるがままに形を変えた。

 

「っ!?!?!」

 

 ユリは俯けた顔を更に深く伏せ、咄嗟に左手で口を押さえた。

 

「な……、なにを?」

 

 右手は乳房に触れているので空いているのは左手。 空いている左手がユリの左手に伸びてきた。

 絡め取られ、膝上に置かれる。上から包まれた。手の甲に手の平が合わされ、指の股に指が入ってくる。きゅっと握られた。

 専門用語で言うところの、恋人繋ぎの亜種である。手の甲側から握られるため、握られている方は逃げられない。

 ユリの右手は手綱を握り、左手は握られて、口を押さえるものは何もない。

 

「んっ…………んっくぅ……」

 

 艶やかな唇から艶やかな声が漏れ始めた。

 

 

(な……なに!? ちょっと触っただけなのに!? いったいどこを触って……って。ボクのおっぱい、だよ……、ね?)

 

 ブラウスの上からそっと触られているだけなのに、自分で直に触るときとは比べようがない刺激があった。

 

 男の手に肌身を触れさせるのは初めてだ。それも、胸である。

 胸を触られてとても恥ずかしい。昨夜のルプスレギナを思い出して頬が熱くなる。

 それでも服の上からそっと触れてるだけなのだ。たったそれだけで、声が押さえきれないほどのもどかしさを感じるとは思ってもみなかった。

 何かおかしなことをしていると思ったが、手で触れているだけ。

 自分の乳房を男の手が包んでいるのを見て、一層頬が熱くなった。

 胸の先端を擦られたときは自分でも恥ずかしくなるような声が出てしまった。服の上から丁度ピンポイントで擦られたのだ。ブラジャーの中でむくむくと立ち上がってくるのがわかる。

 

(服の上からされてこんななのに。もしも直接されちゃったらどうなっちゃうの?)

 

 期待とも恐れともつかず、ユリは唇を噛んだ。

 左手に合わされた手の平から熱が伝わってくる。体に染み込むような熱さ。

 早朝の涼やかな風が頬を撫で、熱を奪ってくれるのが心地よかった。

 

 

 

 

 

 

 ユリは知らず、している方の男とて自覚がない。

 

 先日、アルベドと一晩中体を重ね合った。覚醒したサキュバスとの交合は肉体を越えて高次の域に踏み入っていた。

 形而上に至る快楽は言葉に出来るものではなく、意識出来るものでもない。代わりに肉体へ刻み込まれた。アルベドの求めに応じるものが身に付いてしまった。

 相手の感度を高めるわけではない。覚醒したサキュバススキルのような相手の快楽を暴力的に引き出すわけでもない。

 繊細なだけの愛撫である。ただし、形而上に至る愛撫である。肉体を超えた高次の域で触れることが出来るようになっていた。相手の感度などお構いなしに心身の深いところへ触れることを可能とする。しかしながら、深いところへ触れるだけで快感があるわけがない。拙ければ苦痛となるだろう。テクニックが必須である。

 そこへ行くとこの男は、ちっぱいがおっぱいになるまでの長い時間をかけて、一人の女を極めた実績があった。いやらしさの欠片もない凝りほぐしから感度を高めるための性感マッサージに高めた感度を燃やし尽くす激しい愛撫まで、様々な手付きを体得している。

 培った技術はアルベド様からシャルティア様まで、様々な方にお悦びいただいている。

 

 そんな技を身につけてしまった自覚はなく、植え付けたアルベドも知らないことである。

 強いて分類するなら常時発動型のパッシブスキル。名付けるならアストラルフィンガー、或いはイデアルタッチだろうか。不感症特効の魔技である。

 それゆえにオートマンが新たな自分を見つけ、純朴な田舎娘をよがらせ、初潮すらない幼子を惑わしたのだ。

 こうなることもこうなっていることも誰も予想できず知らないことである。とりあえず、直接の上司であるアルベドにとっては有用性が増したと言っていいのだから好いことなのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

「馬車が止まってますよ」

「う……うん。進んで。ゆっくりでいいから」

 

 賢い馬である。ユリの命令通りにゆっくりと歩み始めた。頬を撫でる風が強くなった。

 

 ユリが未知の感覚に悶えている一方で、悶えさせている男も新鮮な感情を覚えていた。なんだこれめっちゃ興奮する!

 大きなおっぱいとくれば、ソリュシャンはスライムなのであっちに置いて、アルベド様は至高にして究極の美乳をお持ちである。生乳をもみもみぺろぺろしたことだってある。シクススだって大きい。いやんいやんと言いながらもいっぱいもみもみさせてくれた。通ってる娼館にだって大きな娘がいる。

 しかし、ユリはいずれとも違う。

 アルベド様を筆頭に、皆は耳に心地よい嬌声を聞かせてくれた。体全体でしっかりと反応してくれた。

 しかし、ユリは違うのだ。

 顔を赤くして下唇を噛み、必死に声を抑えている。膝に乗せた左手はズボンにしわが出来るほど強く握る。体は時折小さく震え、震えると同時に赤い唇から溜息のような熱い声を漏らす。

 ちらと向けられる視線は恨みがましいようで険があり、眉根が下がって切なそうでもある。

 

 ユリは、恥じらっていた。

 

 痴態を晒すまいと必死に耐えている。しかし、拒もうとはしない。視線で何かを訴えているようにも見えるが、止めろとも続けろとも受け取れる。

 これだ、これなのだ。ソリュシャンに足りないものはこれであった。

 さすがはプレアデスの長女ユリ・アルファ。男心をくすぐる術をよくわきまえている。

 イケイケのアルベド様やシャルティア様には望むべくもない。ソリュシャンに至っては論外である。エ・ランテルの屋敷にいるときは服を着ているときより裸を見ることの方が多いくらいなのだから。

 

 何かしらを感じているのにそれを見せまいと必死に耐えている姿は健気であり、美しくもあり、嗜虐心を煽り、劣情を誘った。

 凛とした姿を崩し、乱れる姿を見たくなってしまう。しかし恥じらいがなくなるところまで崩してしまうのは余りに惜しい。なんというアンビバレンス!

 

 

 馬車の歩みは非常にゆっくりだ。

 当初の予定だったらそろそろエ・ランテルについてもおかしくない時間だが、景色からして三分の一進んだかどうか。このままのペースだと、到着は昼に差し掛かるだろう。

 その間、ずっとユリの胸を揉んでいた。かれこれ二時間は経つ。

 

「はあ……はあ…………」

 

 余計な口は互いに利かない。涼やかな風の音と、ユリの熱い吐息だけが聞こえてくる。

 ユリの方から「おっぱいを触っていい」と言ったため、ユリからは止めるよう言えなかった。

 揉んでいる方は飽きずに揉んでいる。こんなにも素晴らしいおっぱいを前に飽きるなんてとんでもない。一日中だって揉んでいられる。

 

「くうっ!」

 

 ユリが爪先までピンと伸ばし、体を強ばらせる。数瞬後には弛緩して男の胸に体を預ける。

 揉み方が始めとは違っていた。右の胸だけではバランスが悪い。今は両方揉んでいる。

 隣に座って抱き寄せるような形だったのが、今のユリは男が開いた脚の間に座っている。背を男の胸に預け、背後から伸びてきた手に両の乳房を揉まれている。ナザリックの馬車は豪華で、御者台の座席も深いからこそ出来る姿勢である。

 

 けっして乱暴にはしない。ゆっくりとゆっくりと力を込める。柔らかな乳房は何の抵抗もなく形を変える。

 根本から絞るように揉む。下から重量を確かめるように包み込む。

 触れるか触れないかの繊細な手付きで撫でる。見ただけではわからないが、優しく触れれば丸みの頂点が張っているのを感じる。大分前からこうなっていた。指先で小さな円を描くと、ユリは体を折り曲げて口を押さえた。

 そんな時は腰を抱く。細い腰だ。下腹に手を当てて上下にさする。へその上から股間の近くまでゆっくりと。

 

「あふぅ…………。そ、そっちは、ダメ。こっちに……。んっんっ……」

 

 口を押さえるのでくぐもった声になる。鼻から抜ける息までは抑えられない。

 ユリは痴態を晒すまいと懸命に耐えている。しかし、耐える姿があられもなく乱れるよりもいやらしいとは気付いていない。

 ずっと気付かないでいて欲しい反面、どこまで耐えるのか見たくなってしまう。

 

 ナーベラルの生乳を揉んでも耐えきったが、あの時はソリュシャンがいた。

 今は二人だけで、ついと針が振れてしまった。

 

「おっぱいを触っていいんですよね?」

「さ……さわってるじゃ、ないか……」

「ユリさんから改めて確認したかったんです」

「いいけど……おっぱいだけだから。それ以上は、させない、から……っ!??! まっ……」

 

 ぷつぷつんと、ブラウスのボタンが外された。

 全部外すまでユリに気付かせないほどの早業である。シクススの協力により、素早く脱がす技を習得していた。

 

 閉じこめていたブラウスのボタンが外されると、解き放たれたおっぱいがぽろりと現れた。上品な薄紫のブラジャーに包まれている。

 一度封印を解くと正規の手順を踏まない限り、大きな乳房の乳圧によってブラウスを閉じることが出来なくなる。

 野外なのだ。

 ユリは反射的に体を丸めて胸を抱いた。こんなところで露出するわけにはいかない。

 

「ひうっ!?」

 

 体を丸めてしまうと、男の胸に預けていた背が離れてしまう。

 背筋を撫でられ、ブラウスと黒いワンピース越しにブラジャーのホックを外された。二つ目の封印が解かれ、おっぱいがぷるんと揺れる。

 なお、言うまでもなくホック外しもシクススから教えられた技である。尤も、アルベド様もソリュシャンもルプスレギナも常にノーブラであるため、シクスス以外で役に立ったのは初めてである。

 

「あっ、だめっ、やめてっ!」

 

 胸を触れなければ下腹を撫でる。

 エプロン越しだろうと、手の平の熱とえもいわれぬ感触はユリに伝わる。胸を揉まれるだけでなく、下腹を何度もさすられている。へその上あたりから股間の近くまで何度も。

 そこは子宮の上。外から体の中心めがけて何度も何度も撫でられている。撫でられる度に体の中心にどろりとした熱が溜まり、とろりと流れていくのを感じていた。

 後から抱きしめられる形なので、体を丸めても逃げきれない。これ以上されまいと、胸を抱く腕を広げ、男の手を掴もうとした。しかし、腕を広げてから掴むのと、手を上げるだけでは後者の方が一行程少ない。

 

「あああっ!?」

 

 下腹を撫でていた手が上がってきた。ブラジャーのカップに指を引っかけずり上げる。

 白く大きなおっぱいがぽろりと現れた。

 大きな乳房だ。ブラジャーのカップをずり下げて元に戻そうとしても、やはり乳圧によって阻まれる。正規の手順を踏まないと仕舞うことが出来ない。

 

「おっぱいを触っていいんでしょう?」

「あっ……あああ……、あっ……くうぅ……!」

 

 ユリの胸に男の手が触れていた。

 ユリはアンデッドであり、外気に触れていることもあって、おっぱいはややひんやりとしている。代わりに先端が熱を持つ。乳房の熱すべてが集まったようだ。

 鷲掴みにしている指の股に、真っ赤な乳首が覗いていた。

 

「乳首をこんなに腫らしてしまって。これは癒さないといけませんね」

「なっ……なにいって……、くううぅ! ……つままないでっ!」

 

 真っ赤に充血してしまった乳首は癒さなければならない。アルベド様の教えである。

 乳房が白いので真っ赤な乳首はとてもよく目立つ。こんなものを見せられたら目指さないわけにいかない。親指と中指で摘まみ、くにくにと弾力を楽しんだ。楽しむだけでなく、ユリも気持ちよくなれるようにと先端だけを掠めるように触れる。勃起していた乳首が一層張り詰めてきた。

 ユリの肩に顎を乗せて覗き見る。乳房の大きさや真っ赤な乳首が目を引きつけるが、形の良さも見逃せない。メロンやスイカに比する巨乳なのに、垂れる気配が全くない。かと言って固いわけがない。下から持ち上げてやればぷるんぷるんと揺れる。プリンのように柔らかいのに乳首は固く尖らせている。

 

「乳首だっておっぱいでしょう? ユリさんはこんなに乳首を立たせてるんですから、乳首をよけて触る方が難しいですよ」

「そうだけ、どっ!」

「ずっと立たせてましたよね。やっと直に触れました。感度がよろしいようで」

「やああぁ……、言わないでぇ……!」

 

 ブラジャーの中でずっと立たせっぱなしだった乳首だ。閉じこめられていたのがようやっと解放され、溜まった熱が燃えるようにユリの体を焦がす。

 乳房の根本から絞るように揉むと、乳首だけが突き出されて異様に強調される。

 

「あ……ああ……ああ……」

 

 自分の体を見下ろし、ユリは恐れるように呻いた。

 あんなになっている。

 初めて見る自分の異様に、自分が作り替えられてしまったように思えてしまう。

 それだけではないから苦しいのか恐ろしいのか。

 触られる度に大きな快感があるのだ。自分ではない自分から、何かが自分の体へと流れ込んでくるような。流れは緩急がついて、大きな時も小さな時も。体の真芯を通って、確かな痕跡を残していく。

 

「ば…………馬車の……中で……」

 

 言ってしまった。

 馬車の中に入ってどうするのか。

 御者台で胸を揉まれて胸を露出させられている。しかし、御者台だからここまでで済んでいるとも言える。

 

「馬車の中で? 馬車の中に入って何をするおつもりです?」

「!??!」

 

 聞かれたくないことを聞かれてしまった。

 こんな事になるなら、さっさと止めさせれば良かったと少しだけ思う。

 おっぱいを触らせるだけだったのだから、最初に触れた時点で止めにしても良かった。

 それなのに続けさせてしまったのは、自分から言い出したことと言うのがなくもないが、もう少しだけと思ったのは否めない。

 触られて、何とも言えない心地よさを感じたのだ。

 それをもう少しもう少しと思う内にここまで来てしまった。

 

「馬車の中で……、おっぱいを……。……おっぱいと……」

 

 下腹にも溜まっている熱はとろとろと流れている。

 昨夜、ルプスレギナとの秘め事を覗いたときよりもひどいことになっているのがわかる。そんなものを見られてしまったら。

 

「おっぱいと? ユリさんのおっぱいの他にも触らせてくれるところがあるんですか? どうせなら触るだけでなく舐めたりもしたいですね」

「なっ、なめっ!?」

 

 おっぱいを舐められたら、絶対に乳首も舐められる。吸われてしまう。想像するだけで外気に冷やされた乳首が熱を持つ。

 もしかして他のところも舐められるのか。

 頭が沸騰しかけて声が出ない。

 

 

 

 後からユリを包むように抱きしめ、首筋に鼻を埋める。両手は豊かな乳房を握っている。中指だけをすっと伸ばして乳首にあて、押し込んだり擦ったりと様々な動きをさせている。

 ユリの言葉に頷き、すぐにでも馬車の中へ入ることはしなかった。

 焦れったい愛撫を送りながら見極めているのである。

 

 ユリが羞恥に悶えているのはわかる。

 快感を得ているのもわかる。

 羞恥と快感と、どちらかへ大きく傾かせることなく、どちらも同時に膨らませているのだ。

 両者が均衡しているからこそ、屋外で胸を露出させても強行に拒否することがない。乱れに乱れて馬車の中でもっと深い行為を、と強く求めることもない。

 恥じらうユリは美しく、とってもいやらしい。エロいと言っていい。今のユリに比べたら、ソリュシャンのエロエロアピールなぞ児戯である。

 こんなにもエロいユリなのだ。もっと見ていたくなってしまう。それにどちらかへ傾くことなく高め続ければ、その後の快感はもっと強いものとなる。

 win-winというやつなのだ。

 

 ユリが口ごもってもお構いなしに胸を揉む。

 ユリは口を押さえながらくすぐったい声を漏らす。

 二人が重なって座っているので、狭くなった広い御者台の中で少しだけ腰を前に進める。

 ユリがぴくりと震えた。

 ズボンの中で張り詰めているものが、ユリの柔らかな尻に触れた。何が触れたのか、ユリは察したらしい。

 潤んだ目でちらと振り返り、前を向いた。左手は左の乳房を包む男の手に重ね、右手は下腹に置いた。何度もされたように、自分の下腹を優しくさする。

 

「おっぱいだけじゃなくて……ボクの…………あそこも……」

「あそこ?」

「っ…………。おまんこのこと……」

「ユリさんのおまんこを?」

「…………触って、いいから」

「触って欲しいと言う理解でよろしいでしょうか?」

「なっ…………!! ………………うん……」

 

 真っ赤な顔で、消え入るような声で、ユリは小さく頷いた。

 

「触るのがよいなら、その先は如何です?」

「え……? 先って?」

「入れてもいいですか、と言うことですよ」

「……入れる? …………!!! ……入れるって、その……あの…………」

「わかりませんか?」

「わかるけど……でも……でも、……………うん。………いいよ」

「ユリさんのおまんこに何を入れていいんですか?」

「えうぅ…………。言わなきゃダメ? きゃうぅ♡」

 

 きゅっと乳首を抓られ、せめぎ合っていたものが一方へ傾ききった。

 

「……おちんちん。ボクのおまんこに入れて……いいよ」

 

 快感と肉欲に傾ききっても羞恥が消え去るわけではない。

 ユリは自分の言葉に恥じ入って、顔を伏せた。

 

「それでは中に行きましょうか」

「…………うん」

 

 

 

 

 

 

 御者台から降りて馬車の中に行くには、一旦馬車を止めなければならない。

 ずっと放置していた手綱を取るべく、ユリは前を向いた。快感に揺蕩っていた瞳が破滅的に収縮した。

 街道のずっと先。人の目では視認不可能な遠方に、小さな点が見えた。小さな点は人の形をしている。と言うか人であった。

 時間はまだ早い。仕事を始めた農夫かも知れない。

 なんであれ、そんなものはどうでもよい。

 屋外だろうと誰もいない二人きりだったからあんなことが出来た。それなのに、自分たち以外の何かがいる。

 見られたかも知れない。

 

 少し考えれば、ユリの目でようやっと視認できた距離なのだから、あちらから見えるわけがない。

 今のユリにそこまでの余裕はなかった。

 反射的に動いていた。

 

 グキャァグエパシャア……。

 ユリの肘鉄が男の腹部にめり込んだ。盛大に吐血した。

 ユリなりに手加減はしたのだ。ルプスレギナなら「痛いっすよ!」で済むレベル。しかしながら、この男はそこまで丈夫でない。

 

 誤解と不幸が重なった。

 オーガを圧倒したのだから強いと思ったのだが、強いのではなく巧いのだ。肉体の頑強は大したものではない。

 夢うつつにいたところを強制的に現実に引き戻されたため、考える猶予がなかった。

 

「…………………………」

 

 ユリの体にもたれかかり、血を吐き続ける男。

 ちょっとあれなところが破れたため、吐血は止みそうにない。吐血よりも、そこをやってしまうと地獄の苦しみ。幸いにも痛みには耐性がある男なので、そこは措いておくにせよ肉体の損傷はどうにもならない。

 ペストーニャからもらった上級ポーションはメイドの破瓜の痛み止めに使わせてしまった。余りはない。

 アンデッドであるユリがポーションを使うとダメージになるため、ユリが持っているわけもない。

 

「…………………………」

 

 ユリは無言無表情で男の体を慎重に抱きあげ、馬車の中へ寝かせた。

 意識はあるらしく、目線と僅かなジェスチャーに従って男の姿勢を直す。自らの血に溺れないようにだ。

 

 男がうつろな目で見上げる中、ユリは思い切ってパンツを下ろした。

 盛大に濡れている。新たな供給は止まって、ちょっぴり冷たくなっている。エ・ランテルには一泊する予定だったので着替えの用意は万全だ。

 昨夜と同じようにパンツを換えて、御者台に戻った。もちろん胸もきちんと仕舞っている。

 

「目標エ・ランテル。全速力!」

 

 アンデッド馬が馬にあるまじき速度で、サラマンダーより速く駆けだした。

 余命のカウントダウンが始まってる状況なのだ。一刻も早くルプスレギナに回復魔法を掛けさせなければならない。

 

 ユリは冷や汗だらっだらである。

 スゴい状況だったがやっちまったことに変わりはない。

 しかし、ナーベラルから言われているのだ。おかしなことをされそうになったら死なない程度にぶちのめしてよいと。

 長女なのに、妹に責任転嫁したくなるほどユリは焦っていた。



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帰還

 カルネ村とエ・ランテルを結ぶ街道に速度制限はありません。仮にあったとしてもナザリックの馬車を阻む事など出来はしないでしょう。

 ユリお姉さんが全速力で馬車を駆った結果、若旦那様は初リザレクションを経験することにはなりませんでした。

 

 お屋敷に到着。ルプスレギナを駆り立てて即座に回復。

 同時に馬車に乗り込んできたソリュシャンお嬢様が丸呑み。トロトロのためではありません。若旦那様は現在お屋敷の中にいるはずなので、外から帰ってくるのはおかしいのです。元から変装して戻る予定でした。

 

 若旦那様が吐き出されたのは、たった数日しか離れていなかったのに懐かしさすら感じるお屋敷の書斎でした。そこで不思議なことに出会いました。

 銀髪に異色光彩の男が自分を見下ろしています。鏡で見た顔です。自分自身が自分を見下ろしていました。

 一瞬で気付きました。

 

「お初にお目文字いたします。パンドラズ・アクター様でいらっしゃいますね。モモン様とアインズ様の影を担う大変お忙しい最中にこのようなご迷惑をお掛けしてしまい、大変ありがたく存じております」

「……ふむ」

 

 グレータードッペルゲンガーのパンドラズ・アクター様が、急にいなくなった己をメイドたちから不審に思われないよう姿を変えてくださっているとナーベラルから聞き及んでいました。

 

「ナザリックでもパンドラズ・アクター様のお話は耳にしました。是非とも一度お目にかかりたいと思っていたところでございます」

「ほう? 私に何かあると言うことですか? 言ってみなさい」

 

 パンドラズ・アクターは、アインズ様からは「アルベドが面白い人間を飼い始めた」としか聞かされていませんでした。

 この数日、モモンとアインズ様とこの男の一人三役をこなし、その間に多少のことは聞いています。物怖じせず、マイペースで、頭はそれなりだとか。その話をしてきたのがお屋敷に残るソリュシャンとルプスレギナ、モモンのパートナーを務めるナーベことナーベラル。いずれも人間を蔑視する者たちです。それなのに高い評価をしているのが不思議ではありました。

 パンドラズ・アクター自身も僅かながらも興味を持ち始めたところです。

 

 今のところは可もなく不可もなく。

 自分と同じ顔を前にしても驚くことなく、一瞬で正体を察したのは、あらかじめ聞かされていたとしてもなかなかの落ち着きよう。

 己の前に跪き、へりくだった言葉を使うのは最低限の礼儀。以前はどこで何をしていたものか、所作はナザリックでも恥ずかしくない程に様になっている。

 初対面であり、こちらが上位者であると知った上で何かしらの願い事をする図々しさ。もしも自分ではなく気性が激しいシャルティアであったら頭と胴が分かたれても不思議ではない。胆力があるのか愚かなのか、こちらの性格を察した上での行動か。

 

「ドイツ語を教えていただけませんか?」

「……………………」

 

 パンドラズ・アクター、無言。

 若旦那様は、これは駄目かもわからんと思いながら、どうして教えて欲しいのか切に訴えました。

 

「アインズ様のご温情により、私は最古図書館の利用を許されました。無数の書物の中にはドイツ語で書かれたものも少なくありませんでした。私はそれらを是非にも読んでみたいのです」

 

 知恵の実がある。手を伸ばせば届くかも知れない。その手段が目の前に。

 

「パンドラズ・アクター様がどれほどお忙しいかは存じております。ですので、せめて発音だけは御教授いただきたいと存じます。辞書は借りてきたのですが、発音記号だけを頼りにするのはいささか心細く」

 

 言語とは時空の融合です。目が捉える空間、耳が感じる時間。耳で聞く言葉と目で見える文字が結びついて一つのモノを指しているのです。言葉と文字は、音と物体に置き換えても構いません。言語は視覚と聴覚が融合した末に生まれたのです。故に、言語を学ぶ上で発音を覚えることは非常に重要なのです。どちらかが欠けても習得は不可能ではありませんが、遠回りになることは間違いありません。

 

「……………………」

 

 パンドラズ・アクター、未だに無言。じっと若旦那様を見下ろしています。

 若旦那様は、これは駄目かもわからんと思いながら、一番大きな理由を挙げました。

 

「ドイツ語って響きがとてもカッコいいです。本を読むだけでなく、ドイツ語で必殺技を叫びたいんです!」

「……………………großartig(素晴らしい)

「おお!?」

 

 パンドラズ・アクターが光った!

 否、変身を解除して真の姿となったのだ。

 しかしその場にはいない。高く跳躍し、ぐるぐると回転しながら天井にぶつかるところを、二本の足で着天井した。

 天井を強く蹴りつけ、勢いよく床に着地する。

 ふわりと舞ったカーキ色のマントが床に降りたと同時に、くるくると宙を飛んでいた制帽が丸い頭に深く被さった。

 ピッと人差し指だけを伸ばして制帽を少し持ち上げる。

 覗く顔はまん丸な卵に三つの穴が空いただけの異相。

 

「………………かっけぇ!」

 

 着地ポーズを決めるパンドラズ・アクター様を、若旦那様は目を輝かせて見つめていました。

 卵に穴三つの異相ではありますが、ナザリックにはもっと凄い方がいっぱいおりました。このくらいでビックリはしてられません。

 

「ドイツ語はカッコいい。そう言いましたね?」

「はい。最古図書館で出会った小説にはカッコいいドイツ語の必殺技がいっぱい出てきました。あんなにもカッコいい言葉なんです。私も使ってみたいです!」

「…………ぃぃぃいよろしいいいぃいいいいぃぃい!!!」

 

 叫んだ。

 マントを跳ね上げて立ち上がり、大きく手を振り上げた。

 

「この私が! このパンドラズ・アクターがぁぁぁ! あなたにドイツ語を教授しようではありませんか!」

「おお! ありがとうございます!」

Falsch(違う)! Danke schön !!」

「ふぁるす? だんけしぇーん?」

「違います! Danke schön ! もう一度!」

「ダンケシェーン」

「Danke schön !」

「ダンケ、Danke シェーン」

「Danke schön !」

「Danke schön !」

「よろしい!!!」

 

 出会ってはいけないモノが出会ってしまった。

 

 書斎には二人以外に、ソリュシャンとルプスレギナとナーベラルとユリの、プレアデスの姉妹が四人も揃っています。

 四人の内、ただの一人もついていけませんでした。

 呆然としながら書斎を退去する段になって、若旦那様をパンドラズ・アクター様にとられてしまったことをようやっと気が付きました。

 気付いたところでどうにもならないことですが。

 

 こうしてアインズ様が遠征に赴いている間、漆黒の英雄モモンと美姫ナーベは、エ・ランテルのお屋敷に時々滞在することになりました。

 

 

 

 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 大きな天幕が張られている。

 内部は広く、調度は豪奢そのものである。王侯貴族が滞在してもおかしくないどころか、ナザリックの賓客を持て成せるほどに。

 当然のことと言えよう。椅子に深く腰掛け何かしらの書面を読み進める男は王なのだから。

 魔皇である。

 ただし、今は仮面を外し、魔皇ヤルダバオトからナザリックの忠実なシモベ、デミウルゴスに戻っている。

 

 不手際と言うほどでもない行き違いが生じていた。デミウルゴスの元へナザリックから封筒が届いたのだ。司書長によって封印されていた封筒を開くと、出てきたのはいつぞや人間の男に出した課題のレポートであった。

 急ぎではない。聖王国での仕事が終わってからで十分だった。

 ところがナザリックに残るデミウルゴス配下の悪魔は、司書長の印璽が押された封筒を重要な書類と受け止めて急遽転送。間もなくデミウルゴスの元へ届けられた。

 折角届けられたので、気分転換に読み進めているところである。

 

 レポートは一部だけで足りるところを全部で三部。

 一部と二部にはアルベドの痕跡があった。代筆した司書長のティトゥスは気付かなかったがデミウルゴスは気付いた。

 構成や言い回しにアルベドらしき癖がある。尤も、アルベドはレポートを提出させる目的は察しているだろうから、必要以上に手を入れていないだろう。文章の書き方は後々覚えさせればいい。要は内容だ。この短期間でよくぞと思わされた。

 短期間だろうと採点が甘くなるデミウルゴスではないのだが、及第点に届くと判断。

 少々実務を覚えさせれば政策立案を任せてもいい。しかし、アルベドの様子を思い起こすと使い物になっても表だっては使いたがらないかも知れない。

 

「これはこれは…‥」

 

 そして、ティトゥスが問題作とした三部。

 思わず苦笑をもらした。

 

「デミウルゴス様は何をお読みになっているのですか?」

 

 ヤルダバオトからデミウルゴスに戻っている今、周囲にはナザリックのシモベしか近付けないようにしている。

 天幕の外では悪魔たちが警邏し、天幕の中ではメイド悪魔に扮するエントマだけが控える。こちらも仮面を外し、メイド悪魔からプレアデスのエントマに戻っている。

 デミウルゴスの楽しそうな様子が気になった。話したがっているように思えた。

 

「エントマはアルベドが人間を飼い始めたことを知っていますか?」

「アルベド様が、でございますか?」

「食用だそうですよ。尤も、血肉ではなく精気を吸うらしいですが。ああ、血も美味しいようですね。アインズ様の御前にも関わらず、血を一舐めしたシャルティアが我を忘れるくらいですから」

「…………」

 

 そこまで血が美味しいならきっとお肉も美味しいに違いないと思ったエントマは、思わず喉を鳴った。唾を飲む音ではなく固いものが擦れる音。

 

「アルベドは己の食事のためだけに飼い始めたわけではないようですね。人間にしては中々優秀です。少しアルベドを手伝おうと課題を出したのがこれです」

 

 紙の束を見せつけた。細かい文字がびっしりと書き込まれている。そちら方面はちょっとあれなエントマはちょっとだけ後ずさった。

 

「魔導国の首都はエ・ランテルです。エ・ランテルを如何に発展させどのように設計するか、その都市計画を立てさせたのですよ。無論、このままでは使い物になりません。これはあくまでも課題図書の理解度を測るためのレポートですから。まあ、及第点を与えても良い出来です」

 

 知識労働におけるデミウルゴスからの及第点がどれほど難しいことであるか。

 

「但し、この三番目のレポート。これは評価が難しい。ナザリックのシモベであれば、理念には誰であれ賛同するでしょう。しかし実行に移すとなると。私は心惹かれるものがあるのですがね」

 

 紙束を三つに分け、内二つを机に戻した。手にしているレポートが三番目であるようだ。先の二つに比べれば厚さは半分以下である。

 

「エントマの意見を聞いてみたいですね」

「い、いえ……、私がデミウルゴス様に意見などと……」

 

 細かい字がびっしりのレポートを読みたくないのである。しかし、ストレートにそんなことを言えるわけがない。

 エントマの胸中を察したデミウルゴスは軽く笑った。

 

「読めとは言いませんよ。要点を簡単に説明しましょう」

 

 

 現在のアインズ様はアゼルリシア山脈へ遠征に赴いています。世界の全てはアインズ様の支配下にあるのが正しい形。ですがそれだけが目的であるならアインズ様御自ら遠征に赴く必要はありません。私たちが聖王国で活動しているように、シモベ達にさせれば済むことです。

 何故アインズ様御自身が?

 アインズ様は新しいものをご覧になりたい、未知をその手にしたい。このレポートではアインズ様のお望みをそう推測しています。アインズ様が漆黒の英雄モモンとして御活動されていることから、このような考えを持ったようですね。アインズ様は予てより「新たな世界を、冒険を」と仰っておられました。それほど的外れな推測ではないでしょう。

 人間とは言えアインズ様のお望みを真摯に考えているのですよ。それを不敬と断じるものではないでしょう。

 新しいもの、未知のもの。アインズ様は魔導国において冒険者の育成を考えておられます。モンスター狩りだけの冒険者ではない、新たな世界を切り開く真の冒険者の育成です。

 このレポートが指し示すのは、方向性は同じでも手段が全く異なっています。

 あの者は「新しいもの・未知のもの」を芸術と捉えています。芸術は代を重ねる毎に細分化し、美術と技術に。またそれぞれも細かく専門化していくでしょう。

 つまり、芸術の都を作るべきと主張しています。

 あまりに青臭い理想です。だからこそ理念としては美しい。

 時を経れば、いずれはアインズ様の無聊をお慰めするものが出来るやもしれません。

 ここまでであれば、セバスであっても賛同することでしょう。

 

 ですが、実現するための手段が問題です。

 ナザリックのシモベであれば誰でも知っているように、ナザリックの文化水準はこの世界に比べると天と地以上に隔絶しています。

 わざわざ劣ったところから育てるのではなく、始めから高度な教育を人間に与えるべきと言っています。

 ああ、エントマの考えることはわかりますよ。ナザリックの文化が下等な人間に簡単に理解できるわけがありません。ゆえに、教育を与える人間を厳選することを考えていますね。

 教育を受ける余地がない者、文化や文明からかけ離れた生活をしている者、それらは全て除外します。

 その除外方法というのが……。

 序章に書いてあります。ここだけでよいので読んでみなさい。

 

 

 

 

 

 

「お肉もったいないぃ!」

 

 エントマは思わず叫んでいた。

 お肉大好きなエントマには到底許せない言語道断な所業。

 

「もしも実行されたらある程度は保存しておくことも可能でしょう。全てを保存するには第五階層が100個あっても足りませんが」

 

 カルマが極悪であるデミウルゴスさえ思いつきもしない悪魔の所業。

 ゲヘナ作戦の舞台となった王都を越える地獄が世界中に現出する。

 確かに手間は掛かる。しかし実行は不可能ではない。魔導国の規模が小さい今だからこそ可能な手段。

 

「アインズ様が魔導王としてこちらへお越しになる前に最終的な打ち合わせが必要です。その際に、人間にはこのような考えを持つ者がいると報告すべきかも知れませんね」

 

 十中八九どころか確実に却下される。デミウルゴスはそうなって欲しいと思う。

 しかし、万が一にも実行を許されたら。どのような光景が出現するかを想像し、胸が高鳴ってしまう。

 

 三番目のレポートの序章において、ティトゥスが男の正気を疑い、エントマが叫び、デミウルゴスが心躍らせる手段とは、古い四騎士の一つを召喚することである。世界に終末をもたらす四騎士の一である。

 騎士の名を飢饉と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 お説教を越えた叱責フラグが立ってしまった。




第二部完!

一部がアルベドのお食事なら二部はナザリック訪問編でしょうか
第三部未定
とりあえずユリの話を出さねばとは思ってます
その後は間が空くかもしれません

察している方がいるかも知れませんが、諸事情により検索・ランキング除外設定にしています
出来ればそんな設定にしたくないんですけどね


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姉の受難

(どうしてこんなことに……!)

 

 ユリは泣きそうだった。むしろ泣きたかった。泣いて有耶無耶にしてしまいたかった。しかし、プレアデスの長女たる己がそんな無様を晒せようはずがない。耐えるしかないのだ。

 

「眼鏡は外すのですね」

「う、うん。邪魔になるといけないから……」

「外しているところを初めて拝見しました。眼鏡がなくてもユリさんはお美しい」

「…………ありがと」

 

 外した眼鏡はベッドサイドのテーブルに置いた。ユリ自身はベッドの上。

 

「脱ぐのを手伝いましょうか?」

「それくらい自分で出来るから」

 

 顔を背け、しゅるしゅるとメイド服を脱いでいく。

 ベッドの上で、服を脱ぐ。

 ベッドの上にはユリだけでなく男もいる。

 男がいるベッドの上で服を脱ぐ。

 

 それだけなら馬車の旅の続きである。おっぱいを揉まれて気持ちよくなっちゃったユリは、続きは馬車の中で、と提案してしまった。

 続きをするのは恥ずかしいが許容範囲だ。

 しかし、

 

「やっぱユリ姉のおっぱいでっかいっすね。服を着ててもでっかいのに脱ぐとスゴい迫力っすよ!」

 

 キッとルプスレギナを睨みつける。睨まれたルプスレギナは悪びれもせず、楽しそうに唇を歪めた。

 部屋にはユリと男と、何故かルプスレギナがいた。

 

 

 

 

 

 

 男の子達がドイツ語教室をしている一方、女達は簡易裁判を開いていた。

 被告はユリ・アルファ。

 被告は彼の男の護衛としてついてきたのに、護衛対象は瀕死の重傷で戻ってきた。速やかにルプスレギナが回復させ血の跡はソリュシャンが綺麗にしたので、その場にいた当事者以外に気付いている者はいない。

 しかし、あったことをなかったことには出来ない。場合によってはアルベド様にご報告する必要が出てくる。

 ソリュシャン裁判長が被告を尋問したのだが、

 

『だってあの人、ボクのおっぱい触ってきたんだよ!?』

 

 あの男は好色なのだと、ソリュシャンもルプスレギナもナーベラルも強く思いこんでいる。おかしな事をされたら叩きのめしてよいと言ったのはナーベラルだ。

 ユリはあっさりと無罪を勝ち取った。

 

 その後、ソリュシャンはお兄様から漂うルプスレギナの匂いから、昨夜何があったのかをユリとルプスレギナに追求した。ルプスレギナがニヤニヤしながら犯行を認め、場は混沌としてきた。

 妹たちが喧嘩を始めたのに、ユリは内心で胸を撫で下ろした。

 おっぱいを触られたのは事実でも、触っていいと言ったのはユリだし、外で揉まれてしまったし、おっぱいを出されてしまったし、感じてしまって続きを提案してしまったし、提案した内容はとてもではないが報告することなど出来ず、とどのつまりは恥ずかしくて誤魔化したのだ。

 姉妹喧嘩を始めた妹たちを放置して部屋を抜け出し、ドイツ語教室が終わった若旦那様に接触。口裏合わせをするためだ。

 知らぬ事とは言え、ユリは致命的に対応を誤った。

 もしも「さっきはごめんねテヘペロ」とでもやっておけば「もうしないでくださいよ」の一言で流したはず。

 しかし、口裏合わせを頼んでしまった。

 

『私がユリさんと口裏を合わせることで、ユリさんにどんな利益があるんですか? 当然の事ながら、ユリさんが得られる利益と同等の物を頂けるのでしょうね?』

『う……、馬車の続き、していいから』

『どうしてそれが対価になるとお考えなのですか。何事もなければそうなっていたでしょう?』

『……それじゃボクにどうして欲しいって言うの?』

『それは、ですね』

 

 そうして要求されたのが、馬車での続きをルプスレギナ同席の上で行うことだった。

 昨夜のユリは二人がいたしていたことを最初から最後まで覗いていた。ルプスレギナは覗かれていることに気付いていたようで、この男も気付いているのかと勘違いしてしまった。強く拒否することが出来ず、かくのごとし。ユリにはどうしてこんな事をしたがるのかさっぱりわからない。もしかしてこの男は見られながらするのが好きな変態なのか。

 しかし、それは少し違う。

 見られようと気にしない男だが見られたいわけではない。ユリを盛り上げるためだ。

 馬車での行為で、ユリは羞恥と快感の境界を行きつ戻りつしていた。それが最終的には快感に傾いた。ベッドの上で行為に及べば行ったきりになるだろう。そうはさせないために、ユリの羞恥を煽るために、ルプスレギナを同席させたのだ。

 

 

 

 

 

 

「あっれれー? ブラジャーとパンツの色が合ってないっすよ? ユリ姉いったいどうしちゃったんすか?」

「うっ、うるさいなあ!」

 

 見られながらなので恥ずかしく、ボタン一つ外すのにも時間を掛けていたユリは、ようやく下着姿になった。

 ブラジャーは上品な薄紫、セクシーなガーターベルトとガーターストッキングも同じ色。しかし、股間を覆うパンツだけは純白だった。女として、ブラジャーとパンツがセットでないのはいただけない。しかも、プレアデスの長女なのだ。上下で色違いとか言語道断である。

 ほんの数時間前、ぐっしょりと濡れてしまったのでパンツだけ履き替えていた。さすがに色の合わせまでは気が回らなかった。

 

「ユリさんは俺のために履き替えてくれたんだよ」

「おにーさんのためっすか?」

 

 要らん助け船がやってきた。

 

「白い下着は濡れると色が変わるからね。濡れたのがすぐわかるように履き替えたんだ」

「へっええ~~? ユリ姉エッチっすね」

「くぅ……」

 

 違うと言ってしまうとどうして履き替えたのかと言われてしまう。真実を告げることなど出来はしない。だからと言ってそんな理由はあんまりだ。余りにも恥ずかしすぎて、目に涙が滲んできた。

 

「あっ!」

「ほら、こうすれば色違いなんて気にならない」

 

 ブラジャーのホックを外され肩紐をずらされた。乳房からカップが離れる寸前に守るように胸を抱く。

 脱がされたブラジャーはルプスレギナに向かって放られ、ルプスレギナはきちんと畳んで机に置いた。そして定位置に戻る。

 ルプスレギナはベッドの隣に置かれた椅子に座っている。椅子は前後を逆にして、背もたれの上に腕を乗せてそこへ顎を置いている。椅子を跨ぐいささか品がよいとは言えない座り方は、ルプスレギナには自然だった。

 

「触れないので手をどかしてください」

「…………」

 

(それとも、さっきはあんなに触らせてくれたのにって言っていいんですか?)

(ずるい!)

 

 ユリは固く目をつむり、体を抱いていた腕をゆっくりと解いた。

 腕が離れるや否や、背後から男の手が伸びてきた。

 

 

 

(お兄様はどうして私よりもユリ姉様にいぃ!)

 

 覗き穴の向こうではソリュシャンが嫉妬に猛っていた。噛み千切ったハンカチは既に三枚。

 

(大体どうしてユリ姉様はお兄様とセックスすることに頷いたの? おっぱいを触られたのがイヤじゃなかったの?)

 

 胸を触られて撲殺寸前までいったのにセックス。殴っちゃったお詫びにと言うことらしいが絶対におかしい。隠された真実があるに違いない。

 昨夜ルプスレギナが抜け駆けしたのも頭にくる。ドイツ語教室が終わりパンドラズ・アクター様がモモン様としてナーベラルを伴って出発なさるので一時休戦となったが納得したわけではない。

 それ以外にもまだある。

 お兄様を撲殺しかけたユリと抜け駆けしたルプスレギナが目の前にいたのでそちらを優先したが、ソリュシャンだけが知る事がある。お兄様を丸呑みした時に気が付いた。シールである。

 お兄様がナザリックで仕立ててもらったジャケットの裾の裏側に、1円シールが貼ってあったのだ。シズがお気に入りに貼るシールである。お兄様はシズのお気に入りになったという事だ。どうしてそんなことになったのか。こちらも追求したかったが、肝心のお兄様はユリとセックス。

 断固阻止して自分との時間を作らせたかった。ところが、

 

『ソリュシャンはとても美しい。おっぱいの大きさも形も柔らかさも自由自在で肌はきめ細かく月光を紡いだセリカよりも滑らかだ。尻の揉み応えだって抜群だ。完璧な女性だけど、足りないところがある。その足りないところをユリさんが持っている。俺とソリュシャンの愛のために、ユリさんから学んで欲しい』

『……学ぶとどうなるのですか?』

『精液の量が増える』

『わかりました』

 

 どうしてそこで頷いてしまったのか。

 そうして二人の行為を覗くことになってしまった。どうやらお兄様は、覗き穴の存在に気付いていたらしい。ルプスレギナが覗かれまいと塞いだときに気付いたのは余談である。

 

 

 

(お兄様ったらあんなにユリ姉様のおっぱいを吸って。ユリ姉様は私と違っておっぱいはでませんのに。ユリ姉様もユリ姉様です。いやって言ってるのにあんなに乳首を立たせて。……こうしてじっくり見るとユリ姉様の乳首は私より小さめですわね。おっぱいが大きい割に乳輪も小さいですし)

 

 ベッドの上の二人は、堂々と見ているルプスレギナと覗いているソリュシャンによく見えるようそちらを向いている。

 ソリュシャンからは二人だけでなく、椅子に座るルプスレギナの後ろ姿も見える。ルプスレギナは、背もたれに乗せていた手を下ろしていた。前からは背もたれが邪魔になり、後ろからでは背中しか見えない。だが、背もたれと体の間に差し込まれた手がどのような動きをしているのか、ソリュシャンには見当がついた。

 

(ルプーやらしい……。あっ、お兄様とユリ姉様がキスを! 私がお兄様の唾を飲みたいのに。ユリ姉様はルプーの事なんて気にせず素直に飲んでしまえばいいのに。お兄様は唾まで美味しいお人なのよ? こぼれてるから舐めとって……。そんなに恥ずかしがるくらいなら最初から飲めばいいのに。……舌を出せなんてお兄様もいやらしいことを仰るわね。そこでルプーがユリ姉様をからかうから素直に飲めないんでしょう? …………素直に飲めない? ルプーがいなければユリ姉様は飲んでいたはず。だけど…………)

 

 執拗に責められた乳首は充血している。腫れた乳首を癒すように口に含まれ、ユリは口を押さえた。

 

(シャルティア様のようにいやらしい声を出してあげればお兄様は興奮すると思ったのだけど、ユリ姉様のように声を抑えた方がいいのかしら? ……ユリ姉様ったら、あれは絶対に感じてるわね。……お兄様の手がユリ姉様の股間に。右手と左手と口と、全部違うことをさせて器用な人。ユリ姉様は脚を閉じてるけど、それでは触れないのじゃなくて? 拒むような仕草がいいのかしら? でも拒んでばかりでは……)

 

 ルプスレギナにはやし立てられながら、ユリは股間をまさぐられている。脚は固く閉じて、むっちりとした太股はぴったりと合わされている。その隙間に男の中指が入り込んだ。

 指の動きはわからない。ユリが何度か腰を震わせ、両手で塞いだ口から声のような吐息のような何かが漏れる。顔は真っ赤で目には滲んだ涙が溜まっている。

 

「ひゃあっ!?」

 

 耳元に口を寄せられ息を吹きかけられたらしい。ユリが頓狂な声を上げた。ビックリして力が抜けたようだ。固く閉じていた脚を開かされた。

 布が濡れると本来の色が出る。色が濃く見えるのは微少な繊維が倒れて光を乱反射しなくなるからだ。濃い色だと濡れても変化はわかりにくい。反対に薄い色だとわかりやすく、はっきりと色が変わる。

 ユリが穿く純白のパンツは股間の中央部だけ色が変わっていた。小指の爪ほどの小さな範囲だが、そこだけまるく色が変わっている。ユリの秘部からにじみ出る汁を吸いとって、白いパンツが濡れていた。

 

「あはっ、ユリ姉ったら濡らしてるじゃないっすか。頭は固いのにお股はゆるゆるっすね。ゆるゆるのお股でおまんこもガバガバだったりしないっすよね? ガバガバでもおにーさんのちんちんおっきいから安心していいっすよ!」

 

 我が姉ながらなんて下品で頭が悪そうな言葉だろう。ソリュシャンは胸が痛くなった。

 覗き穴の向こうでピキリと鳴った気がした。

 

 

 

 ルプスレギナを同席させたのはユリの羞恥を煽るためである。愛撫を受けて快感に傾くユリを適宜煽り、恥ずかしい思いをさせるのが仕事だ。

 しかしながら言葉が過ぎたらしい。

 ユリは全身を硬直させ、こちらの手を乱暴に振り払った。ぷるぷると震えながらベッドの上に仁王立ちする。背を向けているのでどんな顔をしているのかはわからない。ルプスレギナの引きつった顔を見ると、どうやら怖い顔であるようだ。

 

「ルプー………………。覚悟はいい?」

「ひっ……」

 

 昨日のユリは、二人がしていたことを終始覗いていた。それもあって、ルプスレギナがこの場にいることを受け入れたのだ。時々恥ずかしいことを言われたけれど、快感の渦に巻き込まれてしまいそうな己を引き戻してくれた。感謝など全くしないが、淫らに乱れるところを見せずに済んだとは思っていた。

 しかし、さっきの言葉。あれはない。あそこまで言われる筋合いはない。自分はけっしてゆるゆるでもガバガバでもない。昨日のルプスレギナなんて太股を伝うほど濡らしていた。それに比べればパンツにちょっぴりシミが出来た程度で遙かに控えめだ。ガバガバなわけがない。なにせ異物を入れたことは一度もないのだ。広がりようがない。それなのにゆるゆるでガバガバとか言われるのはけっして絶対に許せない。もう怒った。怒ってしまった。姉の務めとして馬鹿な妹を躾なければならない。具体的にはスキル込みの渾身のグーパンである。

 ルプスレギナはガタンと音を立てて椅子から転げ落ちた。床に尻餅をついたルプスレギナは、服の襟がずり下がって乳房をこぼれさせている。深いスリットがはいったスカートはめくれあがり、足の付け根近くまで見えた。座っていた時からめくっていたに違いない。頭もお股もゆるゆるなのはいったいどっちだ。

 ユリは固く拳を握る。ルプスレギナに叩きつけるべく、弓を引き絞るように大きく引いて、

 

「はれ?」

 

 ベッドにぱたりと倒れた。

 

「危ないところだったね。今のは少し言い過ぎだったかな」

「え? え? 動けない? ボクになにしたの!? 元に戻して!」

 

 うつ伏せに倒れたユリは、起きあがるどころか手足もろくに動かせない。何とか顔を横に向けて口を開くことしかできなかった。

 

「アルベド様に授かったお力です。これでもうユリさんは動けません。自由を取り戻すには精液が必要です」

「おにーさんいつの間に人間やめちゃったんすか!? やっぱり最初から人間じゃなくて淫魔か淫獣だったんすね!」

「やっぱりってなんだ。やっぱりって」

 

 スキルやタレントの類ではなく、アルベド様から下賜されたエンゲージリボンの力である。ユリが背を見せて拳を作ったときに、足首に巻き付けたのだ。

 二人ともリボンの存在に気付いておらず、男の力と誤解したようだ。男は誤解をわざわざ正さなかった。

 

「ルプーにはもう少しユリさんを焦らして欲しかったけど、こうなったらのなら仕方ない」

「キャッ! ちょっと何するつもり!?」

 

 抵抗できないユリのパンツを下ろし始めた。パンツは脱がしきらず、片足だけを抜いてもう片方の足首に、リボンの上へ巻き付けた。これで二人ともリボンに気付くことはないだろう。二人には気付かれても良いのだが、覗いてるソリュシャンに気付かれるのは不味いのだ。

 ユリの叫びは黙殺し、ベッドから降りて机に向かう。引き出しを開き、取り出したのは小さなガラス瓶。瓶の中は透明な液体に満たされている。傾けるとやや遅れて中の液体が揺れた。相当な粘度があるとわかる。

 ベッドに戻り小瓶の蓋を開けて中指を突っ込む。粘性が高い液体が珠のようにべっとりとくっついた。

 

「何それ止めて! おかしなところ触らないで変なものくっつけないで!」

「変なものじゃないですよ。ソリュシャンと協力して作った特製ローションです」

 

 毒を始めとする様々な液体を分泌できるソリュシャンの力と、素人錬金術師の無駄に豊富な知識が合わさって、最強に見える魔法のローションが生まれた。

 指先に乗る程度の少量でも全身に塗りたくれるほどよく伸びる。老廃物や排泄物などを吸収分解する。粘性が高い割に簡単に水に溶け、風呂に入ればきれいに流すことが出来る。それは短所にもなり汗をかきすぎると流れてしまう。改良の余地はまだまだいっぱいある。

 ソリュシャン自体はヌルヌルとした液体を体の至る所から分泌可能なので、ソリュシャン以外との行為に用いるために開発された。シャルティア様に用いたところ、ご満足いただけたようである。

 

「そんなこと聞いてるんじゃない! どっ、どこに塗ってるんだ!」

 

 ユリの男の子っぽい口調がいよいよ荒くなってきた。

 塗られたところはユリの想定からかけ離れていた。

 うつ伏せになって投げ出された脚を開かされ、いやらしいところを触られると思った。触られたのは確かにいやらしいところ。尻の割れ目を広げられ、その間に塗られてしまった。思っていたところより少し上。ローションにぬめった指が触れたのは、お尻の穴だった。

 

「触られてるところがわかりませんか? ユリさんの肛門ですよ」

「だからそんなことを聞いてるんじゃ! こんなことして後でひどいからね!!」

 

 ユリの言葉を受けて、男はぷぷっと吹き出した。何を笑われたかわからないユリは、赤い顔を一層怒りで赤くする。

 

「後で起こることをどうして今恐れるんですか。後は後であって今じゃないですよ」

「ええ……?」

 

 この男が何を言っているのか、ユリにはさっぱりわからなかった。助けを求めるようにルプスレギナを見た。ルプスレギナは、やや顔を青くして首を振った。ルプスレギナは、ようやくこの男の本性に気が付いた。

 この男は、恐れ知らずだとか頭のネジが緩んでるとか外れてるとかのレベルではない。頭がおかしい。

 後で酷いことが起きるなら、今何とかして防ごうと思うのが自然だ。考え知らずと言われるルプスレギナだってそのくらいは考える。

 

「ルプー助けて!」

 

 姉の懇願に応えることは出来ない。

 おにーさんの邪魔をしてしまうと精神が殺されかねない。ナザリックから追放するくらい簡単なことと言い切るおにーさんだ。ユリ姉を助けないと後で痛い目に遭うかも知れないが、何が起こるか全く想像も出来ないおにーさんよりずっとましだった。

 

 プレアデスの長女と次女から散々なことを思われている男は、酷いことをするつもりなど全くない。アルベド様に不利益がない限り細かいことはどうでもいいのだ。

 止めろ止めろと言われても、それは始まる前だからだ。それなりに自信がある。ラナーに何度もやってきた。しかし久し振りなのは確かで、アルベド様にお楽しみいただく前に復習しようと考えている。

 アルベド様に後ろの穴を楽しんでいただく前もシャルティア様で復習した。

 

「大丈夫です。気を楽にして楽しんでください」

 

 ユリの耳には、『地獄へようこそ』と聞こえた。

 優しく撫でられていた窄まりに強い圧力がかかった。

 中に入り込んできた。

 ユリは鳴いた。




すごく暑いです
寝てても暑くて必ず一度以上目が覚めます
そのせいで日中朦朧とします
クーラーつけて寝ると喉を痛めてもっと酷いことになるんです


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姉→女 ▽ユリ♯2

ものすごく暑い夏でしたね
涼しくなったので書けました


 如何に固く閉ざされた門であっても、最強に見える魔法のローションを用いて執拗に揉みほぐせば緩んでくる。更にその上、大人になったサキュバスが覚醒時に使用した『サキュバスに祝福されし拘束リボン』で自由を封じている。女の身であれば高レベルだろうとデュラハンだろうと何だろうと抗える道理がない。

 ユリが必死で閉じていた門は、実にあっさりと侵入を許した。あってはならない場所に異物感がある。指を入れられてしまった。これ以上を許してなるものかと力を込めた。

 ユリの抵抗を、男は鼻で笑った。

 

「あうううっ!」

 

 長い中指が根元まで入り、ユリはいい声で鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 指先さえ入れば奥まで入れるのは容易い。

 何かを入れるなど初めてだろうからまだまだ固いが、魔法のローションのおかげで動かすのに支障はない。ゆっくりと前後に抽送する。入り口の肉圧は凄くても、膣とは違って奥は広がっている。根本まで突き入れた指を中で折り曲げ滑らかな肉壁を擦った。

 

「む……」

 

 肛門をいじるのがメインではない。それはもうシャルティア様で練習済み。もう一つの穴に用がある。

 無着色の肛門は皺が伸ばされ指が埋まっている。そのすぐ下にある女性器。ナザリックに属する女性の常で、女性器周りには陰毛が一本も生えてない。ユリは経験が少ないようで陰唇が伸びていることもない。無垢な女性器は幼く見えた。うつ伏せになって脚を広げさせているので、湿り始めた割れ目は少しだけ開き、内側のピンク色を覗かせる。

 良い眺めではあるが、いささか触りづらい。穴には触れられても女性器全体はやり辛い。腰を浮かせる必要がある。

 これに気付いただけでも、アルベド様にお楽しみいただく前に練習した甲斐があったというもの。

 

「ルプー。ユリさんのお腹の下にクッションか枕を敷いて少しでいいから腰を浮かせてくれ」

「わかったっす」

「ルプー!?」

 

 ルプーは姉より男を取った。ユリの惨状を傍観したことで、どうせ後で怒られるなら毒を食らわば皿までの精神である。

 言われたとおりにユリの体を持ち上げ、へその下に厚めのクッションを差し込んだ。ユリの腰が少しだけベッドから浮き、これで下腹まで触れるようになった。

 

「では……」

「っ!!」

 

 右手の中指は尻の穴を熱心に行き来している。

 ユリの女性器には左手が伸びた。割れ目をそっと撫でて指にユリのぬめり気をまとわりつかせ、下端に届いたところで手の平を返す。指が止まったのはクリトリスの上。

 包皮を被ったままでまだ膨らんでいないユリの肉芽は、撫でている内に柔らかさが弾力に変わってくる。雌穴から滲み出てくる愛液が伝ってくる。魔法のローションと愛液の滑りが手伝って、指の動きを加速させた。ユリのクリトリスはたちどころに勃起してきた。滑らかな手触りと生々しい弾力は淫肉で出来た真珠のようだ。

 親指と中指で軽く摘まみ、男は感心したように声を漏らした。

 

「ユリさんのクリトリスはだいぶ大きいです。触り応えがありますよ。それに勃起しただけで皮が剥けます。ピッチリした下着をはくと下着の上からでもクリトリスが立ったのがはっきりとわかるでしょうね。でも皮が剥けてるので擦れて痛くなったりしませんか? 迂闊にクリトリスを勃起させられなくて大変ですね」

「く……クリ……なんて勃起させたりしないよ!」

「でも今はこんなに」

「ひゃうっ! やめ、やっやああぁあ……!」

 

 反論を許さず、現に膨らませている肉芽をきゅうと摘まんだ。魔法のローションがいい仕事をしすぎて、強く摘まむと滑って逃げてしまう。それがいい刺激になるらしく。摘ままれる度にユリの声は蕩けていく。

 しかし、まだ始まってもいないのだ。

 大きなクリトリスを弄られて、ユリの雌穴からは愛液が滲み出て、割れ目の内側全体を潤している。ローションだけでなくユリ自身がここまで濡らせば十分だった。

 肉芽を撫でていた指はゆっくりと閉じた割れ目を撫で、内側の艶めかしい柔らかさを楽しんだ。今度は上端で止まる。閉じているので内側はよく見えないが、指先がわずかに沈み込み場所を教えてくれた。

 ゆっくりと挿入した。

 

「あ……ああ……ああ……」

 

 儚い調べはユリの声。何を思って歌っているのかはユリにしかわからない。確かなのは、こちらにも何かを入れるのは初めてだと言うこと。

 ユリはプレアデスの長女で、二十歳を幾ばくか過ぎた知的な大人の女性に見えるが、処女なのだ。

 おっぱいくらいならお風呂で妹たちに触られたことはあるが、女性器はない。入れられたことがあるわけがない。自分で入れた事すらないのだ。それを今、初めて、何かを入れられた。

 

 締め付けの堅さもそうだし、一度抜いて指で割れ目を広げて見れば処女膜があった。

 ユリも処女だった。処女膜にはきちんと穴が空いているのでシズとは違って指を入れるのに不足はないが、処女である。おっぱいを触らせてくれて、おっぱいを触っただけなのにパンツをぐっしょりと濡らしたのに処女である。あんなにいやらしいクリトリスをしているのに処女である。クリトリスを弄られて割れ目全体が濡れそぼつほどなのに処女である。

 処女のようだが、こんなに濡れてるならまあいいやと、遠慮なく処女地をかき分け中指を根本まで突き立てた。

 

「指が入りました。痛くはありませんか?」

「う……うぅ……ぐす……」

 

 ユリは泣いていた。溜まっていた涙はついと流れた。

 おっぱいを触られて続きを提案してしまったので、あんなことをする覚悟と期待は完了していた。

 しかし、妹が見ている前で、体の自由を封じられて一方的になぶられ、いやらしくて恥ずかしいことを言われるとは思っていなかった。覚悟なんて全くなかったし、こんな期待は全くしていない。

 悔しいのか悲しいのか、怒っているのか、自分のことなのにわけがわからない。

 

 ユリから意味のある答えは得られなかったが、まあいいやと続けた。

 ユリが拒んでも愛撫を続ければ体はこなれてくる。尻の穴に入っている指はいつの間にか薬指と中指の二本になっているし、一度処女地を広げられたユリの膣は抵抗なく指を受け入れて抽送するのに不自由はない。

 両穴を別々に責めていた手は、互いに手の平を向き合わせた。どちらの指も奥まで入っている。そこで指を折り曲げた。

 

 肛門と女性器は近い位置にある。当然、内側も隣り合って、薄い肉で隔てられているに過ぎない。

 頼りなく柔らかな媚肉越しに、互いの指を擦り合わせた。

 ユリの喉がひゅうと鳴った。

 

「あ……、ああああああああああああああぁぁぁあぁぁーーーーー!!」

「如何ですか? 痛みはないでしょう? ……これは聞こえてないかな?」

 

 うつ伏せで顔だけ横を向いた姿勢で、体が動かないなりにもつま先をきゅっと折り曲げ全身を強ばらせ、ユリは高い声で鳴いた。いや、鳴くどころではない。叫んだ。絶叫と言っていい。

 何か切り替わったかのように、ユリの雌穴が潤んでくる。愛液が指に絡み、肉ひだが官能的に蠕動する。尻の方は指をきつく締め付けてはゆるみ、指を三本にしても奥まで受けれいた。

 両方の穴で指の動きを同期させて抽送し、奥まで入れば媚肉越しに擦りあう。違う穴に入っているのに、入ってしまうともう一方の指を感じる面白さは女体の神秘を感じさせる。

 練習したかったのは両穴責めだったのだ。

 

 ユリの叫びは甘さを帯びて、時々大きな尻が小刻みに痙攣した。丸くて大きな尻なのだが、乳房が大きすぎるので全体を見ると尻が小さめに見える不思議がある。

 ユリのおっぱいに思いを馳せたところで、男はしまったと言わんばかりに顔をしかめた。ユリのおっぱいはとても大きいのだ。両手両膝を突いた雌豹のポーズならともかく、うつ伏せにしてしまうとおっぱいが潰れてしまう。ラナーはちっぱいだったのでそこまで気が回らなかった。

 

「あ……ぅ…………」

 

 指を抜かれ、仰向けにひっくり返されたユリは放心したように虚空を見上げている。涙は未だ止まらず、つつつと流れてシーツを濡らした。

 

 そんなユリを見て、ルプスレギナは戦慄した。

 さっきのユリは、ルプスレギナが初めて聞く声で叫んだ。あのユリが叫んだのだ。

 ユリはプレアデスの長女である。どんな痛みを与えられようと、泣き叫んだりは絶対にしない。

 あり得ない仮定として、そんなことはルプスレギナはもちろんアインズ様だって許さないだろうが、もしもユリが敵対勢力に囚われて辱めを受けようと、あんな風に叫ぶわけがないと断言できる。

 それなのに、ユリは鳴いた。泣いて叫んだ。ルプスレギナが仰け反るほどの声で絶叫した。

 痛いわけではない。ユリが痛みで泣くわけがないし、おにーさんが痛いことをするわけがないと言う信頼がある。

 痛みではないなら何なのか。

 ユリはお尻の穴とおまんこの両方に指を入れられていた。そこは気持ちが良いところだ。気持ちが良くてあんなに叫んでしまったのだろうか。

 昨日、おにーさんとセックスしたときにお尻の穴に指を入れられた。なんだか不味い予感がしておっぱいの方をねだってとても気持ちよい思いをしたが、自分が立った入り口の向こうには一体何があったのか。

 ユリは処女だというのに、その向こう側へ連れ去られてしまった。

 

 

 

「おっぱいが潰れて痛くはなかったですか?」

「んっ……やぁ……。も、もう……」

「もう、なんでしょう?」

 

 仰向けになってゆるく潰れたおっぱいは、大きく形が崩れることはない。だからと言って固いわけがない。つつけばむにゅんと指が沈み、ふんわりと柔らかである。いたわるように優しく触れた。

 赤く充血した乳首には触れない。ローションと愛液に濡れた手で撫でるように両方の乳房を交互に揉んでいく。

 両方を同時に揉まないのは、右手には違う仕事があるからだ。

 小指から薬指、中指人差し指と順に折り曲げ、今度は反対の順番で立てていく。準備運動である。目を丸くして見つめるルプスレギナには、わきわきと自在に動く指が蜘蛛の脚のように見えた。

 指は五指を大きく開くと、小指が薬指に添えられた。

 そしてそのまま、ユリの股間に差し込まれた。

 

「ああっ!?」

 

 挿入するとか入れるとか言うよりも、差し込むと言った方が自然なほど何の抵抗もすっとユリの中へ入っていった。

 小指と薬指は肛門へ、中指は膣へ。人差し指はクリトリスを弾いている。

 

「んっ、はっ、あっあっ……はぁっ、んあああっ……」

 

 ユリの赤い唇が薄く開き、甘い声が漏れてきた。

 妹がいるのだ。こんな声は聞かせたくないと思っていたし、始めの内は出来る限り耐えようと思っていた。無駄だった。

 口を押さえようにも体が動かせない。口を固く閉じて歯を食いしばっていても、お腹の奥で生まれた熱が出口を求めて口をこじ開け外へ飛び出ていく。耐えよう耐えようとしていた反動か、酷く叫んでしまった。ついさっきの事なのに夢のように現実感がなく、本当にあったこととは思えない。自分があんな声で叫んでしまったなんて信じられない。

 現実感がなくて、信じられないことが起きているなら答えは一つ。

 これは、夢なのだ。

 心のどこかでは夢ではないとわかっていたが、夢と思わなければ心がもたなかった。

 そして夢ならば、恥ずかしいところを見せてしまっても後に引かないはずである。

 耐えようとしても耐えられないのだから、これは夢なのだから、我慢せずにいやらしい声を出してしまった方がいい。出したくなくても勝手に出てきてしまうのだから。

 触られているところが、自分ではない別の生き物のように感じる。間違いなく自分自身で、触られているのを感じているのに、自分では思ってもみない反応をしている。

 腰が勝手に震える。中に入ってる指を締め付けている。クリトリスは大きくしようと思って大きくしたのではないし、そもそもお尻の穴で感じるわけがないのに感じている。

 自分が自分ではない自分に乗っ取られたようだ。どこから来た自分なのか。自分の中にいた自分なのか。

 

 

 

「ここまでほぐれればどっちでも大丈夫ですね。ルプー、そろそろユリさんに挿入するから準備を頼む。まだ立ってないから舐めてくれ」

「……おにーさん外道っすね」

「どこが?」

 

 ユリの両穴を責めていた男は、まだ勃起させていなかった。

 ユリの艶姿を楽しむより、技術の研鑽と復習がメインだったのだ。

 復習がある程度出来たのでここで終わりにしてもよいのだが、ユリを自由にするには精液が必要である。することをしなければならない。

 

 ユリをなぶりながら自分へちんこを舐めろと言う男に、ルプスレギナはほとほと呆れた。ユリと立場が逆だったら多分キレる。残念なことに、このおにーさんはなにが不味いのか全くわかっていないようだ。

 おにーさんに付き合って事の後のお説教が酷くなるのは御免である。

 しかしこれをやってしまうと。と、ここまで考えたところで、ルプスレギナは考えるのを止めた。面倒になった。まあいいや後は野となれ山となれの精神である。

 

「えい!」

「……うわお」

「っ!? ルプー何するの!?」

 

 ルプスレギナはユリの頭をつかむと、えいやと引っ張った。ユリの頭は、首からぽこんと外れた。

 ユリはデュラハン。首なし騎士である。ユリの首は外れるのだ。

 

 横たわるユリの隣に座る男は、舐めさせるために一旦指を抜いて服を脱いだ。再度挿入した指は、尻穴には入らず中指だけを膣に突き入れている。代わりに親指をクリトリスに押しつけて擦っていた。

 ルプスレギナの手の中で、ユリが鳴いた。首が外れようと、体で感じたことはわかるのだ。

 膣に指を入れられて、クリトリスを表と裏の両側から責められるのは、昨夜のルプスレギナもされていた。あれは意識が飛ぶほど気持ちよかった。ユリも同じようで、甘い鳴き声は止みそうにない。指が出入りしている秘部はぐっしょりと濡れて、尻の割れ目を伝ってシーツを濡らしている。見せつけるように根本を押されて押し出されたクリトリスは、確かに自分のものより大きかった。赤く充血していてとてもいやらしい。

 見入っている場合ではない。

 ユリの頭を、男の股間に近づけた。まだ立ってない。勃起すれば雄々しく反り返る逸物はうなだれている。

 

「ほら、ユリ姉。あーんしておにーさんのちんちんを咥えるっすよ」

「あっあっ、やっ、だってっ、そんなっ」

「往生際悪いっすね」

「んむうっ!?」

 

 あえぎ、半開きになったユリの口を、男の逸物に押しつけた。嬌声をあげてよだれを垂らすだけだったユリの口。形よい唇が歪んで、逸物にユリが垂らしたよだれが擦り付けられる。

 

「ちんちんペロペロしておっきくしないといつまで経っても終わらないっすよ? おにーさんもちょっと手加減しないとユリ姉があーん出来ないじゃないっすか」

 

 手を休め、逸物を摘まんでユリの口元へ運んでやった。ユリは大きく口を開き、ぱくりとやった。赤い唇が亀頭を挟み込んだ。

 ユリは、男性器を咥えることなど想像もしたことがない。自分がそんなことを出来るともしようとも思わないし思えない。しかし、現に咥えてしまった。唇の中に柔らかな男性器がある。舌に触れた。少し塩気があるように感じた。

 

「歯を立てちゃダメっすよ? ちんちんをベロで包むようにしてちゅうって吸うんすよ。ちゅうちゅう吸って、ほっぺたがくっつくようにするっすよ」

 

 ユリは妹の言う通りにした。何も考えられなくて、言う通りにすることしかできなかった。

 口の中の逸物はすぐに熱を持ち始め、膨らんできた。柔らかかった物が固く屹立してくる。固い物が口の中を通って喉奥まで届いた。苦しくなって咳こみたくなる。しかし、口の中から出してくれない。引き抜かれた逸物は口の中から出る寸前にまたも喉奥まで突いてくる。何度も何度も口の中を往復している。夢の中で全てを忘れたユリは、自分の口はこのためにあるのかとすら思った。

 

「おお、これはいいな」

「……やっぱおにーさん外道っすね」

「どこが?」

 

 ユリが逸物を咥え、ルプスレギナがユリの頭を振っている。姉妹の協力によるイラマチオだ。

 ユリは固く目を瞑って逸物に吸いつくことだけに集中している。口をすぼめて強く吸い、柔らかな頬の肉とちょっぴりざらつく舌が逸物に隙間なく密着する。そしてルプスレギナがユリの頭を振ることにより、自分が動かなくても快感が生まれる。

 これが普通のイラマチオだと自分が腰を動かしたり相手の頭を振ってやったりしなければならないところ、何もしなくてもとても気持ちよいのだ。アルベド様のバキュームおフェラにいつか届くかも知れないと思わせる姉妹の絆が為せる協力プレイである。

 ユリの股間からは手を離して、大きな乳房に手を置いた。両穴責めの練習やユリの準備は完了したので、今度は自分が興奮して勃起させなければならないのだ。乳肉に指を埋め、つんと尖った乳首を摘まむ。今朝方たっぷり味わったとおりによいおっぱいである。

 

「……なんすか? …………あっ」

 

 ユリの頭を振っているルプスレギナをじーっと見つめ、おもむろに改造メイド服の襟をずり下げた。爆乳のユリには届かないが、十分豊満な乳房がこぼれ出た。

 

「んっ……、んん……、おにーさんほんと外道っすよ♡」

「そんなことないだろう」

 

 右手はユリの乳房を、左手はルプスレギナの乳房を握りしめた。乳比べである。

 ユリのふんわり柔らか爆乳もよいが、ルプスレギナの張りのある褐色おっぱいもまたよいものである。伯仲というやつだ。姉妹なのでまさに文字通りである。

 

「んっんっんぐぅっ、んんんぅ!!」

 

 ユリの苦鳴をBGMにして、ユリからは見えないのをいいことに、二人はちゅっちゅとキスをした。姉にフェラチオをさせながら男とキスをするのは、少々の背徳感と凄い優越感があった。

 そんなことをしていたからユリの頭を振るのを忘れた。ユリの唇は逸物の根本を挟み、亀頭は喉奥のさらに奥まで突いている。苦しくて涙がぽろぽろとこぼれた。引き抜いてもらったときはげほげと咽せ、口からはよだれを垂らした。

 ユリがそんなことになっているのをルプスレギナは全く気にせず、ユリの鼻先を勃起した逸物に突きつけてやった。

 

「ほーら、ユリ姉がいっぱいペロペロしておっきくなったちんちんっすよー」

「…………」

 

 ユリは無言で見入った。咥えていたのだから固く大きくなっているのは知っている。口の中にあったのだから目にしたのは初めてだ。馬車で胸を揉まれたときに勃起していたらしいのはわかったが、尻に押しつけられただけで見てはいない。あの時、押しつけられていた物が目の前に。

 雄々しく反り返り、湯気が立ちそうなほど熱い。先端から根本までとろとろと濡れているのはユリの唾液だ。

 最初に口に押し込まれたときはわずかな塩気があった。すぐに何の味もしなくなったが、やがて塩気とも何とも言い難い味を感じ始めた。男性器から何か出ているのではと思って先端に目を向けた。亀頭もユリの唾液に濡れているが、その先端の縦に入った小さな割れ目。尿道口の部分に透明な滴が盛り上がっている。あれはおそらく唾液ではない。男性器から出てきたもので、それを自分は舐めとってしまった。飲んでしまった。

 ユリは小さく喉を鳴らした。

 

「ユリさんの頭を戻してくれ。このままだと気分が出ないよ」

「はーいっす」

 

 ぽこんと外れた首はかぽっとくっついた。首に巻いてるチョーカーは分離面を隠すためのようだ。

 

「それでは……」

 

 ベッドに投げ出されたユリの脚の間に入った。すらりとした太股を持ち、自分の方へ引き寄せる。太股のむっちり具合はルプスレギナの方がいいなあと思った。

 逸物がユリの黒々とした茂みの上に乗る。腰を引き、亀頭で柔らかな割れ目を撫でた。魔法のローションはもうお役御免である。ユリの唾液と愛液と、先走りの汁が混じり合った。

 

「ユリさんは肛門も十分ほぐれましたから、そちらでも大丈夫です。どちらがいいですか?」

「…………………………え?」

 

 何を言われたかわからなかった。わからないのだから答えようがない。ただただ困惑した目で男を見上げるだけである。

 

「まんこと尻の穴と、どっちがいいですか?」

「え…………。そんなの……、選べない……」

 

 普通に考えればおまんこと答えるべきだった。しかしこの期に及んで、ユリはそんな言葉を口に出来なかった。

 ユリの逡巡を、男は待ってやらなかった。姉妹の力を合わせた強制イラマチオで、危うく出してしまいそうになるほどいきりたっている。そのまま口の中に出してしまえばユリは自由を取り戻せるわけだが、ここまで来て挿入しないわけにいかないと誰だって考える。ユリの妹のシズはそう考えたことであるし。

 ユリが選べないならこちらが選ぶべき。

 膝が頭の横に来るまでユリの脚を大きく押しやる。ユリの尻が浮き、尻の割れ目に隠れていた窄まりが露わになる。何者も通さないとばかりに閉じているが、さっきまで指を三本も受け入れていた。

 

「えっ……、まさか……、だめやめてそっちはちがっ………………!!」

 

 ダメとかヤメテはヤレを意味する、らしい。

 体を前に倒して角度を合わせ、亀頭を肛門に押しつけた。ぐぐぐと押し込めば僅かに沈む。さらに腰を押しつけ、肉の弾力を突き抜けた。指と同じで、最初の関門を突破すれば奥まで分け入るのは容易い。

 逸物はユリの肛門に入りきった。肉圧が痛いほど締め付けてくる。締め付けが強かろうとも、直腸内に残った魔法のローションが動きを助ける。快感をむさぼるように腰を振り始めた。

 

「うっ……うっ……あうぅっ、ああっ……!」

 

 すすり泣くようなあえぎ声。

 処女を捧げざるを得ないとは思っていたが、処女は処女でもお尻の処女だった。ルプスレギナにお堅いと揶揄されるユリには受け入れがたい。なのに尻穴を犯されている。

 指どころではない異物感。圧迫感。入っている物が焼けるように熱い。体の内側を焼いている。

 とても大きくてとても苦しいのに、出て行くときの開放感は苦しさを軽く凌駕する。開放感を味わいたいがために苦しさを許容し、次の快感を求めてしまう。

 きつく締め付けるだけだったのが、逸物を受け入れるために緩んでくる。お尻の穴が緩くなる事実はとても恥ずかしいに違いない。指摘されたら恥ずかしくて泣いてしまうかも知れない。だけども、誰も指摘しなかった。それが幸か不幸かはわからない。ただし、肛辱を受け入れ、楽しみ、快感を得られるようになったのは、今この場ではよいことだろう。

 

 と、ユリは楽しみ始めていたのだが、している方はそうでもなかった。

 ユリは体を動かせないので全てこちらでしてやる必要がある。肛門は後ろの方についているので正常位では少々厳しいのもある。後背位ならどうとでもなるのだが、体を動かせないユリをうつ伏せにしてしまうと、先述したようにおっぱいが潰れて苦しそうなのだ。

 

「あ…………」

 

 ユリが切なそうに、あるいは物欲しそうに、惜しむようにねだるように幽かな声を上げ、逸物が引き抜かれた。持ち上げられていた脚も下ろされた。今度は大きく開かされる。熱く固い物が股間を撫でた。自分の一番柔らかい大事な所に触れている。お尻の時とは違う。今度はゆっくりと入ってきた。暴力的に貫くではなく、優しく少しずつ中に入ってきた。

 

「はあっ!」

 

 何かが破れたような感触があり、それでも止まらず進んでくる。お尻で感じたのとは違う熱さ。異物感ではなく体に馴染んでくる。

 やがて、奥に届いたのを感じた。

 

「初めてですから、やっぱりこっちの方がいいですね」

「うっ…………、うん。……あっ……あっ……あんっ。あんっ……あぁ……」

 

 今度は素直にうなづいたユリを満足そうに見下ろし、尻穴の時よりもゆっくりと腰を振る。ユリは処女だったが、十分ほぐした甲斐あって膣肉は淫らに絡みついてくる。

 股間で生まれる快感もいいが、見下ろす景色も壮観だった。

 腰を打ち付ける度に、ユリの爆乳がぷるんぷるんと大きく揺れる。とっても目に楽しい。

 ユリは自由を封じられたままなので、自分の逸物がユリを支配したような気分にさせられる。征服欲が大いに満たされ、さすがはアルベド様から下賜されたアイテムだと感動した。

 

「あっ……あっ……あっ! あっ! やっ! ああんっ!」

 

 ユリは処女を奪われた。お尻ではなくて本当の処女。一番奥まで入ってきて、透明な汁を滲ませていた亀頭で何回も突かれている。きっとあの透明な汁が自分の体の中に塗りたくられている。

 お尻の時とはまるで違う。異物感どころか一体感がある。欠けていた何かが埋められ、一つになれた充足感がある。

 快感の渦に首まで浸かりながら、心のどこかでやばいと思った。

 一突き毎に自分が砕かれ、自分ではない自分が這い出てくる。自分がなくなって、新しい自分になってしまう。

 

(だめっ! このままだと……このままだと……。この人のことが…………。もしも抱きしめられたりしたら……)

 

「ふあっ!?」

「ユリさんの中はとても気持ちいいですよ。ユリさんはどうですか? 指では感じてくれたようですが、ちんこではどうです?」

「うん……。おちんちん、んんっ……んあっ……。きもちいいっ。……君のおちんちん、きもちいよぉ……あんっ♡」

 

 太股を抱え、体を離して抽送していたのに。

 今度は体を倒してきた。逞しい胸板に大きな乳房が潰されて、体全体を男に覆われた。抱きしめられた。耳元でささやかれた。

 

「まんこで感じてるんですか?」

「うんっ! あっあっはぁっ……。おまんこがっ、きもちよくてっ……。おちんちんいいよぉ……。ボクのおまんこきもちい?」

「ええ、とっても」

「うれしい♡ あっあっああああーーーっ……。もうやあ……」

 

 突然眉根をひそめ、いやいやと首を振った。

 

「体が動かせないの。早く精液出して。ボクも君のことぎゅってしたいんだ♡」

 

 ユリの美麗な顔に、純朴な少女のように汚れなき笑みが浮かんだ。

 至近で見つめていた男は、ほんのちょっとだけぐっと来た。

 ユリの期待に応えなければならない。ユリの体を柔らかく抱いていた腕は、細い肩をしっかりと捕まえた。

 

「んあっ!? あっあっああっ! まっ……ゆっくりぃ!」

 

 ユリの体を固定して、股間に腰を打ち付ける。肉が肉を打つ音に、ユリの愛液が弾ける音。互いの陰毛はとっくにびしょ濡れになっている。

 ユリは待ってと懇願するが、体はしっかり応えている。手足は動かせなくても、逸物を包む肉ひだが絶妙に蠕動する。男の精液を搾り取ろうと、快感を与えようと。

 サキュバスなら兎も角として、性の知識にすら疎い処女が知る由もない性技である。エンリは処女の身ながら素質があったが、そんな女が何人もいるとは考えにくい。

 

 ところで、アインズだけはよくよく知っていることだが、ナザリックのシモベたちは創造主に似る傾向がある。

 ユリはプレアデスの中でただ一人、41人いる一般メイド全員を含めても唯一の特性がある。それは、創造主が女性と言うこと。ユリの創造主である「やまいこ」はギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の中で三人しかいない女性の一人だった。

 やまいこが女性としてどこまで経験してきたかは、アインズも、ユグドラシルにいた誰も知らないことである。全てを知るのはやまいこ本人のみ。しかしながら、成人した女性で、社会に揉まれて生活を営んでいた。それがなんだと言われれば何のことだかわからない。

 ただし、間違いなく女性である。男よりも女の方が女の体に詳しいのは間違いない。

 

(だめっ! もうだめっ! 来ちゃう! 何かが来ちゃう! 好きになっちゃう! おちんちんも、この人も、好きになっちゃうぅ!)

 

 体が動かせたら必死に男の体にすがりついていた。

 体の真芯を何度も男が行き来して、古い自分が打ち砕かれて、女の体に作り替えられて、男の体がこんなにもよいものだと教え込まれて、体が動かせないからいつもより敏感になって、おまんこに入ってるおちんちんが熱くなり、何かが来るのを直感した。

 一番奥まで入っている。透明な汁が滲み出ていたおちんちんの割れ目が子宮口に押しつけられている。お腹の中で何かが爆発したように熱くなった。

 ユリの体の最奥で、尿道口から白濁した精液がどぴゅどぴゅと吐き出された。朝から今まで焦らされて、射精は長かった。ユリの狭い膣が精液で満たされるほど。

 

 

 射精の余韻を楽しみ、甘えるようにユリの体を抱きしめた。ユリからも抱きしめてきた。

 たっぷりと精液を流し込まれ、エンゲージリボンは効力を失ったようだ。効力を失うとリボンは白からピンクへ色が変わる。ユリの足首からはらりと外れたリボンを回収しようとしたところ、

 

「んーーーーちゅっ♡」

 

 萎えきらない逸物を受け入れたまま、ユリは男の体を抱きしめて半回転した。

 さっきまでとは違って男が下。ユリが上。

 男の顔中にキスの雨を降らせ、腰を前後左右にグラインドする。やまいこが自分も知らない内に伝授した技なのかどうかは今となっては誰にもわからない。

 ユリは腰を動かす内に、体の中で男が力を取り戻すのがわかった。結合部からは中に収まりきらなかった精液が溢れているが、そんなことはユリの知ったことではなかった。

 男の顔の両脇に手を突いて閉じこめ、満面の笑みを浮かべて通告した。

 

「ボクを……んんっ、コホン! …………私をこんな風にした責任、きちんととってもらいますよ♪」



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責任の意味

 ユリは満面の笑みを浮かべているが、中身はガチと書いてマジである。断られることなぞ夢にも思っていない。無垢な乙女にこのようなことをしておいて責任をとらないなんてあってはいけないことなのだ。アインズ様が実は魔法が使えない人間であるのと同じくらいあり得ないことである。

 万が一にも断ろうものならショック症状を誘発した後に本気で真剣を振り下ろすに違いない。

 ユリがそこまで思っていることをこの男は知らない。しかし、見下ろすユリを真剣に見つめ返し、重々しく頷いた。

 

「わかりました。責任をとります」

「うれしい♡」

 

 今度はキスの雨ではなく、頬をとらえて唇へ。

 腰の動きも再開した。前後左右のグラインドから上下運動へ移行。ぱちゅんぱちゅんと肉を打つ音に派手な水音が混じり合い、うおっほん! とルプスレギナが咳払いをしたところで中断した。

 

「盛ってるところ申し訳ないっすけど、おにーさんはどうやって責任とるつもりっすか?」

 

 目の前で姉が男へ愛の告白をした感動的なシーンなのに、妹の目は白い。妹がいるのに何盛ってるんだこの姉は、と思うだけでなく、姉よりもこの男の性格を知っているからだ。

 

「そんなの――」

「そんなの決まっていますよ。ユリさんがセックスしたくなったらお相手するのが私の責任です」

「…………………………………………はあ!?!?」

 

 ユリは盛大に面食らうが、ルプスレギナは案の定とばかりに大きく息を吐いた。

 

「ぜんっぜん違うよ! 責任をとるっていうのはボクと結婚することなの!」

「はあ? どうしてそれが責任になるのですか?」

「どうしてって……、だってボクとあんなことしたでしょ!?」

「ですから可能な限りお相手します」

「だからそうじゃなくて! 責任っていうのは、…………えーと、つまり…………」

「与えられた役割や任務を果たすことです。ユリさんをお慰めする事が私の役割に加わった、そういうことでは?」

「違うわよ!!!!」

 

 真面目そうな話になりそうだったので、言葉の厳密さを求めて現地語から日本語モードに移行していた。

 デミウルゴスに及第点をもらった日本語は上達し続け、今や会話の途中で言葉を切り替えてもユリやルプスレギナでは気付かないほど流暢に話せるようになっている。

 

 『責任』がどのような意味を持っているか、以前貸与された日本語辞書に載っておりきちんと覚えている。辞書にはユリへ話したとおり「引き受けてなすべき任務・立場上負わなければならない義務」とあった。男は責任の意味を正しく知っている。

 しかし問題が一つ。男が貸与された辞書は子供用の辞書だった。字は大きくて漢字には全て平仮名が振ってある。当然、収録語数は少なく、省略されている箇所も多い。日本語を一から勉強するのだから、優しい辞書から始まるのは当然である。

 これが大人用の辞書だと責任の項目には「法的・政治的・道徳的責任」などが追加され、それぞれを解説している。

 

 ユリが言っている責任とは道徳的責任なのだ。

 もう少し詳しく書くと、結婚した男女しかしてはいけない行為を未婚の男女がしてしまうのはよろしくないため、それを正すために結婚しなければならない、ゆえに結婚するのが責任を取ること、となる。

 

 同じ言葉を使って同じ単語を指しているのに、それぞれが捉えている意味が違っている。会話が噛み合うわけがなかった。

 尤も、もしも男が大人用の辞書を熟読してユリが口にした責任の意味をしかと把握していれば、『でもそれってユリさんの気分の問題ですよね』とストレートに地雷を踏み抜き、撲殺されたことだろう。

 

「ボクにあんなに色々したくせにボクと結婚するのはそんなにイヤって言うわけ?」

 

 ユリの目は据わっている。もう笑っていない。しかし、まだ騎乗位で挿入したまま。

 

「うーん……」

 

 こちらの方は煮え切らない。どうしても嫌なわけではないが、どうしてそうなるのか。日本語ネイティブではないため、日本語で言う『責任』は辞書で得た意味以上の物を知らないのだ。

 ユリとてどうして責任が結婚に結びつくのか説明できない。そのあたりのことはわかって当然と思いこんでいる。

 このままではどこまで行っても平行線。どちらかが折れるしかない。このような時、折れるのは弱い方と決まっている。

 

 ユリの媚肉が逸物にきつく絡みつき、勃起を強いて微妙な快感を送ってくるのだ。さっき出したばかりだが、そんなことをされたらもう一度しごいて欲しくなる。だけども、頷かない限りユリは動いてくれないだろう。下から突き上げようにも、高レベル物理職であるユリに抵抗されたらどうにもならない。

 以前ソリュシャンが謀ったように、男が射精を求めるときは非常に意志が弱くなるのだ。

 どうせたかだか結婚まあいいやとばかりに軽いのりで、

 

「わかりました」

 

 と答えた瞬間である。

 ルプスレギナが「おにーさんは私のお婿さんにするんすよ!」と苦言を告げるよりも早く、厳しさを浮かべるユリの顔に笑みが戻るよりも早く。

 とち狂ったナーベラルが室内でドラゴン・ライトニングを使ったかの如く凄まじい威力と轟音を伴って、部屋の窓が木っ端微塵に粉砕された。

 窓とは反対方向にある部屋の出入り口には、秀麗な美顔にデスマスクのような無表情を張り付けたソリュシャンがいた。内心の思いがどうであれ、常に美しい微笑を浮かべていたソリュシャンが無表情である。ただ事ではなかった。

 ソリュシャンはドアを蹴破った脚を静かに下ろす。無表情のまま、ゆっくりと男女が絡み合うベッドに近付いた。

 ユリは、ソリュシャンが放つ異様な圧に押されるように男の上から転げ落ちた。

 姉を見る目は、無表情ながらも鋭く険しい。何も言わず視線を切った。ルプスレギナも一瞥され、ひっと情けない声を上げた。

 ソリュシャンの目が止まったのは、未だベッドに横たわる男。どんな神経をしているのか、ソリュシャンの圧に晒されようと萎縮せず、立たせたままでいる。

 この時ばかりはミルクの誘惑に耐えて股間に目を向けず、射抜くように、刺し殺すように男と視線をぶつけ合った。

 

「あなたは私と結婚すると約束したでしょう? それなのにユリ姉様と結婚するですって? ふざけているのかしら? 馬鹿にしているのかしら? 私をからかっていたのかしら? それともユリ姉様をもてあそんでいるのかしら? 私はセバス様にあの時の話を通しているのよ? それなのに私との約束を反故にするつもりなのね。…………………………プレアデスのこの私をここまで虚仮にするなんて!! ……ごめんなさい。あなたのこと、とても気に入っていたわ。でも駄目。生かしておけない」

 

 ソリュシャンは腕を振り上げた。細く繊細な美しい指が形を失い、不定形の汚れた粘液と化す。同時にスキルも発動する。振り下ろすだけでも即死するだろうが、刹那でも早く死を与えたい。

 

 ソリュシャンは、直属の上司であるセバスへ、ナザリックのシモベと現地の人間との婚姻を果たすにはどうすればよいのか相談している。セバスとツアレの結婚を念頭に置いたものであるが、それは自分と愛しのお兄様との結婚のカモフラージュに過ぎない。セバスもそれは知っている。ソリュシャンが人間の男との結婚を求めていることをセバスは知っているのだ。セバスとツアレ、ナザリックと現地人との融和の象徴等々、様々な建前を置いているが、最奥にはソリュシャンの欲がある。

 だがしかし、自分と結婚の約束をした男はユリと結婚すると言う。

 

 そんなことを許せようものか!

 

 栄えあるナザリックの戦闘メイド『プレアデス』の三女ソリュシャン・イプシロンが、人間の男から結婚の約束を反故される。それだけでなく、自分の姉と結婚すると言う。

 

 絶対に許せない!!

 

 ナザリックの、プレアデスの、女の、ソリュシャンのプライドは跡形もなく打ち砕かれた。そんな恥を晒してはもう生きていけない。恥をかかせた男も生かしておけない。

 この男を殺せばアルベド様から大変なお叱りを受けるのは間違いない。そんなことはもう全く構わない。自分も死ぬつもりなのだ。

 自分はナザリックのシモベであることよりも女であったのか。だから女として恥をかかされたのが許せないのか。

 この男と暮らしていた期間は悪くなかった。まさに蜜月。甘い蜜をたんと飲ませてあげたし、おいしいミルクをたっぷり飲ませてもらった。

 少しだけ胸が痛んだ。

 アルベド様の大切なお食餌を手に掛ける罪悪感か、シモベの命を大切にするアインズ様のお心を慮ってか、それとも、この男を失ってしまうことに対してか。

 ソリュシャンは全ての想いを振り切った。

 

「さようなら、愛しのお兄様。偽りの兄妹だったけれど、あなたのこと、本当に愛していたわ」

 

 事の成り行きに呆然として動けないユリと、妹の暴挙を止めようとするルプスレギナよりソリュシャンの方が早く、ソリュシャンよりも男が口を開く方が早かった。

 

「もちろんソリュシャンと結婚するつもりだ。約束を忘れてはいないよ」

 

 ソリュシャンの腕は振り下ろされなかった。

 ルプスレギナには訳が分からない。

 いち早く我に返ったのはユリだった。

 

「ボクと結婚するって言ったのにソリュシャンと結婚ってどういうことよ!」

「ユリさんとも結婚しますよ?」

「はああああああああああ!?!??!」

「それじゃ私のお婿さんにもなるっすよね?」

「いやルプーとそんな約束は」

「じゃあ今するっす! 丈夫な赤ちゃんいっぱい産むっすよー!」

「じゃあってなんだじゃあって」

「うるさいっすね。シコシコもしてあげるっすから♡」

「うっ……」

 

 固まったソリュシャンを押しのけ、ルプスレギナもベッドにあがった。宣言通りにシコシコし始め、男の体へしなだれかかった。

 射精を前にした男という生き物は(以下略)。

 

「……わかったよ」

「わーい!」

 

 結婚の約束を取り付けたルプスレギナは口も使い始め、手の動きを加速させた。

 デュラハンであるユリと違い、ルプスレギナの口内は熱い。ユリに焦らされたのもあって、股間に集まった熱が放たれようとしたその時である。

 

「いたーーっ!? ちょ、なにするんすか!」

 

 赤毛に包まれる大きな耳を強く引っ張られた。

 射精の予兆はたちまち遠のいてしまった。

 

「私と結婚して、ユリ姉様とも結婚するですって? お兄様は一体どういうおつもりなのですか?」

「そ、そうだよ! 結婚は一人の相手とするものなんだよ?」

「えー、別にいいじゃないっすか」

「「ルプーは黙ってて!」」

「……はーい」

 

 ベッドの上で美女姉妹から詰め寄られようとも、男の態度は変わらない。むしろどうして二人がいきり立ってるのか不思議そうに首を傾げた。

 

「確かに魔導国では重婚を認めていません」

 

 ですが、と続いた。

 

「ですが、ナザリックは魔導国の法に従うのですか? もっと言えば、ナザリックの法は王国の法に倣うのですか?」

 

 明後日の方向から放たれた致命打に、美女姉妹はピキリと固まった。

 

 

 

 少しややこしい話になる。

 エ・ランテルは魔導国の首都である。しかし、魔導国の所領となる以前は王国の都市であった。エ・ランテルは王国の法に従う。魔導国の所領となってもそれは変わらない。現在、アルベドを筆頭にナザリックの文官が物凄い勢いで法の改定を急いでいるが、それが終わるまでは王国の法を流用しているのだ。終わったとしても極端に変わることはない。エ・ランテルに住む魔導国の国民は、かつては王国民であったため、大きく変わってしまえば混乱が避けられないからだ。

 当然のことながら、魔導国の法が新たに施行されても重婚は認められない可能性が濃厚である。

 この男は魔導国の国民なのだから、魔導国の法に従わなければならない。

 しかし、アルベド直属の配下であるため、ナザリックの一員でもある。

 魔導国の法とナザリックの法が完全に同一であるならば兎も角、そんなことはあり得ないとナザリックの誰もが知っている。

 であれば、魔導国の法とナザリックの法のどちらを優先すべきかは知れたこと。当然、ナザリックの法が優先であり、ナザリックのシモベはナザリックの法に従わなければならない。

 ではナザリックでは重婚が可能か否か。

 とても繊細な問題である。

 現在、アインズ様の正妃をめぐってアルベドとシャルティアが対立しているのは周知である。どちらかが勝ってどちらかが負ける。負けた方は第二夫人になるわけだが、もしも重婚が禁止となると敗者は永劫に破れたままになる。

 アルベドもシャルティアも、どちらも自分の勝利を疑っていない。しかし、どちらかは確実に破れるのだ。

 その時、敗者を救う手段がなかったとしたら。

 

 ユリとソリュシャンは顔を見合わせた。

 これはアルベド様案件。いや、アルベド様を越えたアインズ様案件である。プレアデスである自分たちは迂闊に口を出せない領域の話。出してしまうと、上位者二人のどちらかから確実に責められる。そこに見えている虎の尾をわざわざ踏むほど愚かな二人ではない。

 

「いーじゃないっすか別に」

 

 人狼であるからか、ルプスレギナはおおらかだった。

 

「……お兄様は私とユリ姉様の二人をご自分の妻とするおつもりなのですか?」

「ちょっとちょっとソーちゃん、私が入ってないっすよ!」

「三人も娶るつもりですか?」

「三人が俺の妻になると言うより、俺が三人の共有物になるって表現の方が正確だと思うな」

「……ユリ姉様、どうしましょうか?」

「そんなことボクに言われても……」

 

 デリケート過ぎる案件である。

 顔を見合わせた二人は、この場では解決できないことであると悟った。二人は揃って重い息を吐いた。

 その拍子に、ソリュシャンの視線が少しだけ下がった。ユリの裸体が目に入る。見ようとして見たわけではない。ユリが裸のままなのがいけないのだ。

 自分よりもちょっとだけ大きい豊満な乳房。無毛の自分と違って形よく整えられた股間の茂み。ぺたんと脚を崩して座っているため、見えてしまう秘部。割れ目はとろりと粘り気が強い汁を垂らしている。愛しのお兄様がたっぷりと放った精が溢れている。お兄様はシャルティア様に拉致られてナザリックにいたため、もう何日も味わっていない。それがこぼれ落ちシーツのシミになろうとしている。とても勿体ない。シーツのシミにするくらいなら自分が飲んだ方が。

 

「それはヤバすぎっすよ! ソーちゃんしっかりしろーーっ!!」

 

 ふらふらと、うつろに姉へ近付くソリュシャンをルプスレギナがとっさに羽交い締めにした。このままだととても不味いことになりそうな予感がしたのだ。

 

「そっちじゃなくてこっちから直飲みするっす」

「え……、ええ、そうするわ。ルプー、ありがとう」

 

 ユリは、自分の身に迫った危機に気が付かなかった。

 ルプスレギナは、ソリュシャンはおにーさんの精液が大好きなのを知っている。そしてユリは、ついさっきたっぷりと中出しされたばかりだった。

 ソリュシャンを止めないととても不味いことになりそうだった。

 具体的にどう不味いのか、余りに不味いことなのでルプスレギナは考えることを止めた。

 

 

 

 

 

 

「どういうこと?」

「こういうことです」

「ふざけないで!」

 

 グィッ、グェェエ!

 ナーベラルの問いかけはよく分からなかったので適当に返したら胸ぐらを捕まれて吊し上げられた。

 痛みに強かろうと息が止まれば苦しいもの。苦しさに耐えられても肉体は生理反応を抑えられない。首を絞められて男の顔は真っ赤になり、ナーベラルは慌てて手を離した。ケホケホと咳込んだ男が立ち上がってから、要件を告げた。

 

「ユリ姉様とソリュシャンとルプーと結婚するって聞いたわ」

「正しくは、結婚する話が出ている段階です。何事もなければそうなるでしょうが、確定とまでは言えません」

 

 モモンに扮するパンドラズ・アクターがアインズ様ロールをしている間、ナーベラルは黄金の輝き亭で一人でお留守番か、大きなお屋敷に宿泊することになる。お屋敷には姉妹が常駐しているので、大抵は後者である。

 ユリは既にナザリックへ帰還し、ソリュシャンとルプスレギナは勝ち組の余裕でもって快くナーベラルへ時間を譲ってやったのだ。

 もちろん、二人して覗き穴の向こうに控えている。性悪である。覗かれていることをナーベラルに告げないこの男も同罪である。

 

「どうして私がそこに含まれていないの!」

「どうしてと言われましても。ナーベラル様は私と結婚したいのですか?」

「馬鹿なこと言わないで。私が人間の男と結婚したいわけがないわ。でも必要に迫られてやむなくなら仕方ないも言える。……だからどうして必要なのか考えなさい!」

「ええ……」

 

 何という無茶振り。これぞナザリッククォリティ。覗き穴の向こうでは性悪姉妹が爆笑している。笑い声で気付かれないよう互いのほっぺたを抓りあっている。どうしょもない姉妹である。

 

「特に必要では」

「必要な理由がどこかにあるって言ってるのよ。いいから考えて」

「そう仰られても……、そもそもナーベラル様と私とでは接点がありません。ないものを作れと言われても不可能です」

「っ……」

 

 険しさを装っていたナーベラルの顔が痛みを堪えるように歪んだ。

 

「ですが美姫ナーベとなら何とか」

「……それは?」

「ナーベ様はモモン様の冒険者としてのパートナーです。そしてモモン様にはお美しい婚約者がいらっしゃいます。ですが、モモン様はナーベ様と行動を共にしている。男と女が一緒にいれば何かと勘ぐられるものです。そのような風聞を消し飛ばすために、ナーベ様がモモン様以外の男と結婚していると知らしめるのは悪いことではないかも知れません。結婚に至る過程は、顔を合わせ続ける内に想いが深まってとか何とか適当に」

「それよ!」

「ですがそうしますと、魔導国の一国民として結婚する形になるので」

「私がそれでいいと言ってるのよ」

「……はあ」

 

 喜色満面のナーベラルである。

 一番の懸念が解消されたので、ちらちらと男の顔を窺った。同じ頻度でベッドにも視線を飛ばす。繰り返す度に頬が赤くなっていった。

 

「それでは、夫婦となったときの予行練習をしましょうか?」

「え……ええ。それで、いいわ」

 

 二人は予行練習した。

 翌朝、ナーベラルは二人の姉妹から予行練習と散々耳打ちされることになる。真っ赤な顔をパンドラズ・アクター様に心配され、馬鹿姉二人に復讐することを決意した。




本作の着地点だけはなんとなく決めてます(たどり着くかは未定)
でもプロットとか考えたこともないので次話未定
アウラと出番が遠ざかってるシクススとメインのアルベドをどうにかとは思うけど未定
とりあえずよい連休を


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飴の準備

 最近のアルベド様は以前にも増して滅茶苦茶忙しくなりました。

 

 アインズ様の不在時はナザリック全体の運営を担う大任を仰せつかっております。能力的に果たせるのはアルベド様だけでありまして、それ以前に、他の者たちではあまりにも重大すぎる任務にプレッシャーで押し潰されてしまうことでしょう。アルベド様だからこそ可能な大任なのです。

 

 カルネ村も放っておけません。ゴブリンたちがエンリ大将軍を担ぎ上げていい感じに自治が行われていますが、カルネ村はアインズ様がこの地で初めて接触した人間の村であり、ナザリックの橋頭堡とも言えるからです。先の遠征でアインズ様が連れ帰ったドワーフたちを受け入れるのもカルネ村です。お客様ではなく定住するので、寝床を用意したからはいどうぞと言うわけにはいきません。受け入れ体勢を整える必要があります。

 

 エ・ランテルは魔導国の首都なので現時点では一番力を入れているところです。王国の一都市から魔導国の首都となりましたから、司法やら行政やら立法やらなんやらでやることが山積みです。

 極々簡単な例を上げると、AさんがBさんを殴って全治一週間の怪我を負わせました。さて、Aさんの罪は如何に? 単純なようですが、Aさんが殴ったのは物盗りのためか、口論が行き過ぎた喧嘩か、腹の虫の居所が悪かったのか、殴ろうと思って殴ったのではなくたまたまAさんのグーの先にBさんがいたのか、以前やられたのでその報復か、などなど、様々なケースが考えられます。悪いことをしたから兎も角死刑!、なんて馬鹿なことは出来ません。そんなことをすれば誰も彼も破れかぶれになって凶悪犯罪が多発した末に国力が細るのが目に見えています。罪に相応の罰が要るのです。刑法の一つをとってもこれです。どうでしょう、めっちゃ面倒くさそうでしょう。

 魔導国は人治ではなく法治国家です。その時の気分次第で罪状を決められないのです。

 

 アルベド様は王国の法を熟読し、帝国の法も参考にし、エ・ランテルの法を改定しているのです。法律一つとっても要勉強なのです。それ以外にも外交に内政に、内政もあれやこれやで。

 あちらこちらに散見する慣例や伝統も放置できません。それらは、よく言えば長い時間の中で効率化された手法と言えますが、悪く言えば思考停止の前例踏襲です。偉大なるアインズ様が治める地を何となくでやっていいわけがありません。一つ一つ精査する必要があります。

 その間にもナザリックとエ・ランテルの運営をおろそかには出来ません。

 もうめっちゃくちゃ大変です。

 だからといって投げ出すわけにはいきません。自分にしかできないことなのですから。

 自分以外に出来そうなデミウルゴスは出張中、パンドラズ・アクターはアインズ様の影武者中。他に知識労働が出来そうなのは見あたりません。如何に優れた頭脳をもっていようと、絶対的に手足が足りないのです。

 

 エ・ランテルの大きなお屋敷に囲っているあの子なら即戦力になるとは思っています。

 王国や帝国の書物を要約してアインズ様にご報告する能力があり、デミウルゴスの教育によって都市に必要な機能を把握し、亜人にアンデッドに人間が混在するエ・ランテルの人間側の要人として知られるあの子なら、おそらくは自分が求める能力を発揮してくれるだろうとは思っています。

 ですが、それはしたくありませんでした。

 あの子が働いているところを見たくないのです。お屋敷でのびのびと暮らしてくれているだけでいいのです。色々なことを好きなだけ学んでくれて構いません。ですが、それを有効活用させようとは夢にも思いません。言ってしまえば、学習のために手を掛けるだけ無駄です。それでいいのです。

 無駄なことだとわかっているけれど、手間暇掛けて磨き上げる。これぞ贅沢と言うものでしょう。

 勿論のこと、アインズ様が一言仰せになればそんな贅沢と甘えは捨て去って最適効率でもって有効活用する所存ですが、あれはアルベドのだから、と言うことのようで話にも上がったことはありませんでした。

 と言うのは以前の話。今となっては行政などに関わらせるわけにはいかなくなりました。

 

 それはそれとして、お食事の時間は癒しの時です。

 アインズ様の不在時は寝る暇も食事の時間も惜しんで、エ・ランテルに行ってもかつてのように滞在時間十分でした。お仕事を一生懸命頑張りました。

 ところが、お戻りになったアインズ様からお叱りの言葉を受けてしまったのです。ナザリックの為に働いてくれるのはうれしいがきちんと休まないとダメだぞ、なのです。

 ああ、アインズ様はなんとお優しい方なのでしょう。全ナザリックに感動と感涙の嵐が吹き荒れるのはいつものことです。

 

 

 

 

 

 

「どうぞごゆるりとお過ごしください」

「もちろんよ。そのために来たんだから」

 

 エ・ランテルの大きなお屋敷のお食事部屋では、お屋敷の真の主人であられるアルベド様がふかふかのソファに座っています。今日はふわふわのクッションが敷き詰めてありました。大きなお尻が深く沈み込みます。確かに腰を下ろして座っているのですが、体重が絶妙に分散されてまるで水の中に浮いているような不思議な座り心地です。いつも使う椅子がこれだと動きにくくて不都合がありそうです。体を休めるときに偶に使う程度なら面白くていい刺激になります。

 アルベド様をお迎えする若旦那様の趣向であることは言うまでもありません。

 

「はあ……」

 

 アルベド様は空になったグラスをもてあそびながら、憂えた眼差しで小さく息を吐きました。一生懸命働いていたがために、偉大なるアインズ様のお優しいお心を無下にしてしまいちょっぴりお叱りを受けてしまったのが堪えているのです。こんなところを他のシモベたちの前では見せられません。特にシャルティアに見られようものならプークスクスザマァダカラ年増ハ、とかなんやかんやあった末にグーとかパーが繰り出されます。ちなみに、いつぞやピッキーの前で大いに荒れたのは忘れました。あれはノーカンです。

 憂えるアルベド様はとてもセクシーでした。

 ここで「お疲れさまです」なんて言うのは何も知らない素人です。ナザリックのシモベたちがアインズ様のために働いて疲れなど覚えるわけがないのです。中でもアルベド様は100レベル。一日30時間の超過濃密労働が一ヶ月続いてもへっちゃらです。

 そこのところをきちんとわかっている若旦那様は何も言いませんでした。アルベド様の右斜め前に立ち、給仕をしています。美の神秘が世界の壁を突き破って現世に顕現為さった美の具現の憂える姿を一瞬たりとも逃がさんとばかりに見つめています。一瞬一瞬が至福の時です。

 

「隣に座りなさい」

「はい」

 

 腰から生える一対の黒翼を大きく広げます。翼の内側に座れと言うことです。そのあたりのことは一々口で言わなくても伝わるようになりました。

 アルベド様と太股が触れ合う距離に座りました。太股が触れ合えば他の部分も触れ合います。柔らかな感触に甘く芳しい体臭、徐々に伝わってくる体温。

 グラスをテーブルに戻し、男の肩に頭を預けようとしましたが角がちょっぴり邪魔になるので代わりに胸へすがりつくようにしなだれかかりました。

 

「…………私がこうしたら肩を抱くとか頭を撫でるとか、何かあるでしょう?」

「よろしいのですか?」

「言われる前に出来るようになりなさい。恋人にするように優しく」

 

 今日のアルベド様は恋人プレイ気分でした。

 命令したり乱暴なプレイをしたりサキュバススキルで無理に搾り取ったりせず、まったりイチャイチャしてちょっとだけブルーなハートを癒したいのです。

 アルベドからも優しくするつもりです。して欲しいことをしてあげて、たっぷり甘えさせるつもりでした。

 と言うのも、この後ちょっぴり厳しいことを言わなければならないからです。

 

 

 

 

 

 

 アインズ様が遠征からお戻りになって数日後のことでした。アルベドはこっそりアインズ様から呼び出されました。メイドたちを使った伝令ではなく、メッセージの魔法で執務室にこっそり来るよう命じられたのです。

 アルベドはピンと来ました。

 

 プロポーズに違いありません!

 

 アインズ様の遠征に随伴したシャルティアは、まあまあそれなりにきちんとすべきことが出来たようでアインズ様にご迷惑をお掛けすることなく、アインズ様が想像していた以上の成果を上げたそうです。言われたことができた程度で偽乳小娘は有頂天です。調子に乗りまくって鬱陶しいことこの上ないです。

 そんなシャルティアの耳に触れさせないがために、アインズ様はメッセージの魔法で伝えてきたに違いありません。ああ、なんてお優しいアインズ様、とアインズ様賛歌を作詞してしまいそうになったアルベドですが、ぐっと我慢しました。

 なにせプロポーズです。当然お受けします。お受けした後でどのように振る舞えばいいでしょうか。執務室で。アインズ様のお部屋で。シチュも色々考えます。あんなことやこんなことやどんなことがアインズ様のお気に召すのでしょうか。

 脳内で108通りの妄想を考えていたにも関わらず表情にはおくびにも出さずアインズ様の執務室の扉を開きました。

 

 何故かデミウルゴスがいました。どこかしら申し訳なさそうな顔を向けてきます。

 デミウルゴスを同席させてプロポーズするのは、きっと素早くナザリック内に周知させるためだと思ったのですが、

 

『これを読んでみろ』

 

 十数枚の文書を渡されました。

 一目で気付きました。これはエ・ランテルに囲っているあの子のレポートです。

 こんなものが出てくるのですから、どうやらプロポーズは後回しのようです。内心では大層気落ちしながら、命じられた通りに読み進めました。

 

 面白くはありますが荒唐無稽でした。

 レポートでは芸術の都の必要性を訴えています。かなり息の長い計画とは言え、見事に芽吹けば相当の物を築く事が出来ます。種まきに一世代、形になるのにもう一世代、収穫できるのは次の世代から。まず100年から掛かります。しかし、上手く行けば文明を数百年単位で加速することが出来そうです。

 ただし、現在のナザリックはそこまで手を伸ばす余裕がありません。アインズ様が世界征服を達成なさったらこのような都市を造るのも悪くはないでしょう。

 そのように所感を述べたところ、

 

『次はこれだ』

 

 続いての文書はたった二枚。どうやら先に読んだレポートの序章に当たる部分のようです。

 そこには、まずジャガイモの皮を剥きます、のような乗りで、まず人類を絶滅させます、とありました。

 近隣諸国の人口から、世界人口(人間以外にも文明を持つ知的生物を含む)を約4億と推定しています。こんなに要らないので、まず千分の一にします。具体的には田畑を焼き、塩を撒くとあります。一定規模以上の人口を支えるには農耕が絶対に必要で、狩猟採集だけで維持できる人口はたかが知れているのです。

 収穫された麦や米は倉庫に保管してあるでしょうが、田畑はそうはいきません。城壁で囲ってあるわけでもありません。世界は広く、田畑は様々なところに点在しているでしょうが、数年に一度焼けばいいのです。塩を撒けば土地は死に、作物を育てることが出来なくなります。10年としない内に何もかもが滅ぶでしょう。とても効率的です。もしも実行に移されたら、アインズ様が警戒なさっている法国すら簡単に滅ぶことでしょう。

 その作業の傍らに、教育を与えるに値する人物を選別していくとあります。

 

『何が問題かわかるな?』

 

 アインズ様は滅茶苦茶なレポートに、怒っているというか扱いに困っているようでした。

 対象が広いとは言え数年に一度でよいのですから、ナザリックの能力なら決して不可能ではありません。火を放つだけなら力のないシモベにだって可能です。

 しかし、目論見通りに対象が衰退していく前にナザリックがしたことだと発覚すると、ナザリック以外の全勢力が敵対してしまいます。無敵のナザリックとは言え、未知の敵を作るのは慎重なアインズ様の好むところではありません。

 ナザリックのしたことと知られなかったとしても、全てが死に絶えるとは限りません。例えば、アインズ様のようにアンデッドは飲食不要ですし、飲食不要となるアイテムが存在しないとは言い切れません。現に、アインズ様はそのようなアイテムをいくつもお持ちです。

 そして一番の問題点は、多様性が失われることです。ナザリックの文化と文明は確かに素晴らしいのですが、それ一色に染めてよいものかどうか。アインズ様がこの地で初めて見た生活魔法なるものは、ナザリックには存在していません。ナザリックから生まれるとも思えません。それらの芽を全て刈り取ってよいものかどうか。

 アルベドはアインズ様へそのように申し上げました。アインズ様は我が意を得たりとばかりに頷かれました。

 

『これはアルベドも知ってるあの男が書いたものだ。人間が嫌いだとは思っていたが、まさかこんなことを考えてるとは……』

 

 実は少し誤解があります。

 デミウルゴス様に提出したレポートではありますが、課題図書の理解度を計るには他の二部で十分であり、アインズ様がお読みになった物はおまけのお遊びです。実行されたら素晴らしい文明が築けるとは思っても、まず不可能と思っていました。デミウルゴス様ならこんなのも面白く読んでくださるに違いないと思って書いたのです。

 案の定、デミウルゴス様はかなり面白く読みました。やってみたいなあと思ってしまいました。アインズ様にこんなのがありますよとお見せしてしまいました。そしたらかくのごとしです。

 もちろん、デミウルゴス様はレポートの内容を実行に移す際の問題点を把握しています。ですが、やってみたいなと思ってしまったのです。なにせ悪魔ですから。

 

『私が言いたいことがわかるな?』

 

 処分しろとまでは言えません。人類絶滅ヒャッハー! はナザリックのシモベたちのデフォなのですから。

 どうしろとは言えませんが、アルベドに然るべく対処をして欲しいのです。具体的にどうすればいいのかわかりませんが、アルベドならきっと何とかしてくれると信じています。

 

『かしこまりました。私から厳しく指導いたします』

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、厳しく叱らないといけないのです。

 アインズ様のご命令なのでやらないわけにはいきません。でも、なんだか気が進まないのです。厳しいことを言ってこの子の態度が変わったら、とほんの少しだけ懸念があります。

 まさかそんなことはないと思いますが、どうしてか気になってしまうのです。

 そのようなわけで、鞭の前に飴をあげようと考えました。

 

 角が肌を傷つけないよう気を付けながら、固い胸板に頬ずりします。相変わらずの好い匂いでサキュバスの本能を刺激します。押し倒してちゅっちゅしたくなってしまいます。

 肩を抱かれました。アルベドが言いつけた通りの行動なのですが、躊躇うような恐れるような、いつもとは違って手付きから迷いが感じられました。

 怪訝に思って見上げると、ナザリックにも稀な美貌は困ったように眉根を寄せていました。

 

「恥ずかしながら恋人へどのように振る舞えばよいのか。恋人がいたことはありませんので」

「………………は?」

 

 まさかその顔で恋人がいたことないわけが、と思ったところでずっと監禁されていたことを思い出しました。

 自由だった時分はおそらく十歳前後。色も恋もまだでしょう。

 あの女がずっと傍にいたはずですが、この子の前であの女の名前は絶対に出したくありません。

 

「それなら私が教えてあげるわ」

 

 あの女とは肉欲に爛れきった関係だったのでしょう。ただそれだけの関係です。

 この子にはまだ誰も踏み行ったことがない未開の領域があることを知り、アルベドは胸の奥で生まれた優越感で、にんまりとした笑みを浮かべました。




オバロ二次ってチートっぽいオリ主はいても本来の意味のチート(不正改造)は見ないです(正確に言うと見たことはあるがプロローグだけ)
レベル100万のオリ主とか扱いに困るかな?


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サキュバス的乙女心

 偉そうな事を言ったところでアルベドにも恋人がいたことはない。

 

 代わりに妄想はバッチリである。愛しのアインズ様もといモモンガ様とのイチャイチャラブラブ空間に毎日浸りきっている。

 だがしかし、妄想であろうと出来ないことが厳として存在する。モモンガ様は妄想の中であっても俗な事や幼稚なことを決して仰らないのだ。

 例えば、である。

 

『アルベドちゃん好き好きちゅっちゅしよ♡』

 

 などと品性も知性もない言葉をモモンガ様が口にするだろうか。いや、ない。ありえない。絶対にない。もしもモモンガ様がそんなことを言い出したら、それはもうモモンガ様ではない。ただの骨である。モモンガ様はいつだって端倪すべからざる叡智を秘めた至高にして偉大なる絶対的な死の支配者であるゆえに。

 アルベドがちょっぴり期待する俗な言葉をモモンガ様は口になさらない。

 

 隣に座るこの男も妄想には頻出する。モモンガ様と違って俗な言葉を口にさせても問題ない。

 だがしかし、アルベドがこの男を妄想に登場させるときはそんな気分になっている時であり、イチャイチャを通り越していきなりエッチなことを始めている。

 今は違う。まだ始めていない。

 鞭の前にあげる飴と言うことにして、アルベドがやってみたい妄想を形にする絶好の機会であった。

 

 

 

 

 

 

 アルベドはソファに座り直してから男の方へ向き直り、左腕をとって胸の谷間に迎え入れた。

 今日のトップスは以前見せたチューブトップとは違って、ゆったりとした白と黒のキャミソールを重ねている。チューブトップは見た目はとってもセクシーで、寄せられた胸の谷間に棒状の何かを差し込むにはとても都合がいいのだが、ぱっつんぱっつんなので着たままでは生乳に触りにくい短所があった。そこへいくと、おへそがチラチラするキャミソールはとても触られやすい。肩紐を外してよし、たくし上げてよしである。

 

「あなたは私のことをどう思っているのかしら?」

 

 赤青の目がキラリと光った。

 

「アルベド様はいと高き彼方より真の美を衆生に知らしめるために降臨なさったお方で」

「ストップ」

 

 アルベドは真顔で止めた。

 以前、ナザリックでアインズ様や他のシモベたちの前で賛辞された時は割と恥ずかしかった。それを目の前で、一点の曇りもない輝く瞳で、心底真面目くさった真顔で言われたら色々な意味で堪らない。

 

「私の評価を聞いてるのではないわ。あなたが私に向ける感情を聞いてるのよ。今は二人きりで誰も聞いていない。正直に答えなさい」

 

 お食事部屋の壁は分厚く、魔法的な加護もあって、アインズ様であってもちょっと頑張らないと盗み聞きは難しいレベルである。そのアインズ様は、いつぞやアルベドの休憩時間を覗いたときに見てしまった物凄く難しそうなお勉強風景にちょっとだけ心に傷を負ってしまい、アルベドがエ・ランテルで過ごす休憩時間は二度と覗かないと誓っている。

 ドアの向こうでメイドが耳をくっつけていても、室内での会話は全く届かない。

 お食事部屋の防諜は完璧である。

 

「敬愛しております」

「……敬愛」

 

 良い意味ではあるのだが、期待とはかけ離れていた。敬愛とは下から上へ向かうもの。恋人同士が使う言葉ではない。

 

「もっと砕けた言葉を使いなさい。他に言いようがあるでしょう?」

「……お慕いしております」

 

 敬愛より距離が近くなった。それでもまだまだ固い。騎士と王女の宮廷恋愛ではあるまいに。

 アルベドはそう思うのだけれど、男の方から見ればアルベドは世界の創造主にも等しい偉大なる美の女神である。アルベドに向ける感情はあっても、気ままには表現しにくい。ナーベラルがスムーズに「モモンさん」と呼べないのと同じである。

 これは自分から近寄って一から色々と教えてあげなければダメだと察し、アルベドは幾つかのルールを定めた。

 

「今だけは私と対等になったと思って接しなさい。恋人同士に上も下もないわ」

「私がアルベド様と対等に?」

「様も禁止」

「アルベドさ…………、ある……ある……べど、……あるべ……ど……」

 

 大きく目を見開いた後、俯いて何事かを呟き始めた。

 今までは胸中で思うときでさえ敬称を付けて呼んできたのだ。いきなり呼び捨てにしろと言われても難しい。それでもナーベラルよりは遙かにましだったようで、10回ほど繰り返せば様を付けなくても呼べるようになった。

 

「何かを喋るときは……そうね、私だけに聞こえるよう囁いて」

 

 叫んでも外には聞こえないお食事部屋。それでも囁いて欲しいのは、耳元でこしょこしょと話して欲しいからだ。声が小さければ自然と距離も近くなるのだから。

 

「わかりました。それでは……」

 

 腕を抱かれたままアルベドへ向き直り、顔を寄せて言った。

 

「あなたを愛しています」

「…………」

 

 アルベドはもにゃっと来た。

 今のは逃げである。名前ではなく「あなた」と来た。愛していますも初体験の時に聞いている。もっと違う言葉が欲しい。

 アルベド自身、これを口にするのは恥ずかしいのだが、言ってやらないとわからないらしい。

 

「そうじゃなくて……、あなたは私のことが、しゅ、しゅきかしら?」

 

 噛んだ。アルベドだって口にしたことのない言葉なのだ。言い慣れていないのだから仕方ない。

 恥ずかしい言葉を言ってしまったことに加え、噛んでしまった羞恥で赤くなった顔を見られまいと咄嗟に顔を背けた。数秒して恐ろしくなった。彼は何も言わない。もしかして駄目なところ見せてしまったことで幻滅させてしまったのだろうか。

 

 そんなわけがなかった。噛んでしまって頬を染めたアルベドを見てほんの数瞬だけ呆気にとられ、次の瞬間に降りてきたのは歓喜である。

 恥ずかしがるアルベド様がめっちゃ可愛らしい。胸を満たす恍惚感は、さながら主の奇跡を見せられた信徒の如し。

 

「え……」

 

 アルベドに抱かれていた左腕を外し、艶やかな黒髪をかきあげて形の良い耳へ口を寄せた。

 

 耳に触れる吐息と熱。

 幻滅されたかも、呆れたから腕を抱かれるのが嫌になったのかも、と内心ではビクビクしていたアルベドの胸中は耳から伝わる官能に空白が生まれ、

 

「アルベドが好きだよ。とっても好きだ。愛してる」

「くぅ~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」

「あ、アルベド様!?」

 

 生まれた空白に、するりと愛の言葉が滑り込んできた。耳から入ってきた言葉は瞬時に全身を駆けめぐり、体の隅から隅まで至る所へ熱を届けた。下腹の淫紋がうっすらと光った。

 今のはかなり効いた。よくわからないくらい効いた。嬉しくなって恥ずかしくなって、噛んだ時の比ではないくらいに顔が熱くなり、きりっとしていた唇がだらしなく緩んでしまったのを実感して歯を食いしばった。

 こんなところは見せられない。両手で顔を覆い、倒れるようにして顔を伏せた。

 

「……アルベド様?」

「あなた……、魔法か何か使ったかしら?」

「は?」

 

 顔を上げたアルベドは真顔になっていた。

 幾らなんでもさっきの言葉は効きすぎたと思ったのだ。言葉一つで自分をあんなにしてしまえるのはおかしい。精神操作系の魔法を使ったのではないだろうか。そうだとしたら、

 

「いえ、何も使っておりません。そもそも私は魔法の類が何一つ使えません」

 

 アインズ様に太鼓判を押されるくらい魔法の才能がない男である。

 

「仮に使えたとしてもアルベド様に使う理由がありません。使ったにせよ、私の魔法如きがアルベド様へ効果を及ぼすとも思えません」

「……そうね」

 

 三重に否定され納得せざるを得なかった。

 と言うことは、アルベドは言葉一つで悶えるほど嬉し恥ずかしになってしまったという事である。

 

(それもそうよね。この子が魔法を使えるわけがないわ。モモンガ様だってこの子には魔法の才能が全くないと仰っていたし、ソリュシャンからもそう聞いている。魔力がないから薬の調合過程を工夫してると言ってたけれど。

 でもそれじゃ私はどうしてあんなに嬉しくなったのかしら? 好きって言われただけなのに。この子が私のことを好きなのはわかりきったことなのに。

 ……ちょっと疼いちゃってるわね。濡れてきちゃったかも。恋人っぽくするだけでこんなになれるなんて。まだキスもしてないのに、好きって言われただけなのに。このまま続けたらどうなっちゃうのかしら♪)

 

 どうしてそうなったのか、アルベドは途中で考察を打ち切った。サキュバスの本能が更なる快感と陶酔を求めている。

 

「やはり私の言葉がご不快でしたでしょうか?」

 

 言葉を放ったと同時に顔を伏せられ、詰問されればそう思う。

 

「違うわ。気にしないで頂戴。今のでいいのよ。もう一度言いなさい」

「かしこまりました」

「今は対等だと言ったでしょう? かしこまる必要はないし様付けも禁止よ」

「……でしたら私からお願いが一つ。よろしいでしょうか?」

「お願い? 言ってみなさい」

「少しでいいので、命令口調を抑えてくれると助かります。アルベド……から命令されるとどうしても反射的に」

 

 アルベドはパチパチと大きく瞬きした。おでこに豆鉄砲をもらったような驚いた顔。あどけない少女のよう。

 この場この時だけは対等な恋人同士と言うことにしても、態度が変わらなければどうしたって普段の階級を引きずってしまう。アルベドから命令口調で言われれば、ははーっと頭を垂れてしまうのだ。

 

「わかったわ。気を付けるからあなたも出来るだけ砕けて喋るようにしなさい。……砕けて喋って」

「わかりました。それでは、さっきの言葉をもう一度ですか?」

「それもいいけど、それより……私のどこが好き?」

 

 それはアルベド以外は言ってはいけない言葉だった。地雷とも言う。

 美神アルベドに仕える美の信徒である。そんなことを聞いてしまえば、どこが素晴らしいここが素晴らしいこのように素晴らしいこのようなところも素晴らしい、と延々と続いてしまう。賛辞を遮った者は万死に値する。アルベドだけに遮る権利がある。しかし、美神賛美はつい先ほど止められたばかり。他の表現でどこが好きなのか答えなければならない。

 端的に言えば全部好きとなる。それだけでは如何にも幼稚。アルベドの求めるものを満たせないだろう。ソリュシャンから与えられた課題図書のおかげで、このような時はどのように答えればいいかを学んでいた。

 白いスカートの上に乗せられたアルベドの手をそっと握り、指先へ恭しくキスをした。

 

「透き通ったように美しいアルベドの爪が好きです。か細い指は皺すら美しい。手も指も、なめらかな肌触りも好きです」

「……それから?」

「指を支える腕も、私は肘を見ただけでアルベドだとわかります」

 

 撫で、あるいは口付けしてからここが好きだと連ねていく。

 肩から鎖骨へ、首から頬へ、耳へ届いてからは口付けを送らなくなった。

 黒髪をかきあげ、あらわにした耳へ口を寄せて囁いている。

 囁き声は段々小さくなっていった。掠れたような囁き声は、何を言っているのかアルベドにも次第にわからなくなっていった。但し、好きと言われているのだけはわかった。

 

「唇も……」

「んっ……あむぅ……れろ……ちゅっ」

 

 唇を撫でていた指が口の中に入ってきた。躊躇なく迎え入れちゅっと吸いつく。舌で包んで唾をからめ、何度もしてきたようにちゅうちゅうと吸う。

 

「温かくて柔らかい舌も好きですよ」

「れろ……ちゅる……ちゅぅ、んっ……あっ」

 

 強く吸おうと思ったのに、タイミングをずらされて引き抜かれてしまった。唇と指とで糸を引き、男の指はアルベドがたっぷりからめた唾に濡れている。

 

「お顔の美しさは言葉に出来ません」

「あっ……」

 

 唾に濡れた手で頬を撫でられた。手のひらは温かく、唾に濡れた指だけが冷えている。アルベドは男の手に自分の手を重ねた。唾に濡れていても、自分の唾だし、可愛い恋人の指だし、汚いとは思えない。

 

 どこが好きと言われて、最初の内は腰から生える黒翼がパタパタと上下していた。今は静かなもので、翼は磨き上げられた床に下りている。嬉しさと恥ずかしさが閾値を越えて裏返った末に、苦しくなったわけではない。

 いつぞやは恨めしそうな目を向けていたが今は違う。大きな瞳を潤ませて、夢見るような表情で言葉を受け入れている。

 好きと言われただけで嬉しさと恥ずかしさに悶えそうになったのに、好き好きと何度も言われて、完全にのぼせ上がってしまった。

 アルベドは熟れ熟れの肉体をしたサキュバスで、初体験を経て大人になり、覚醒を果たして淫紋を手に入れた。ナザリックではアインズ様に次ぐ地位を持つ守護者統括だ。種族と立場に相応しい肉体と精神と優れた頭脳を持っている。

 だけれども、心は乙女だった。愛しのアインズ様とどうのこうのと毎日妄想を逞しくするアルベドが乙女でないわけがなかった。

 肉体ではなく心が、夢見る少女の乙女心が満たされている。

 嬉しいとか恥ずかしいとか気持ちいいとか、それら全てを内包した幸福感。ここがどこで今はいつで、自分が何だったかを忘れてしまう恍惚感。

 多淫なサキュバスの体は心に引きずられ、キスもされていないのに男を受け入れる準備を始めてしまう。

 準備が始まってることにアルベドは気付いていない。もしも我に返って注意を向ければ、乳房の先端がキャミソールの生地に擦れるのがわかったろうし、ピンク色に輝き続ける淫紋と呼応するように濡らしているのがわかるはず。同時にそこに何も入っていないことに気付いて、一刻も早く埋めて欲しくなっただろう。

 そこまで意識したわけではなかったが、好きと言ってくれた場所を触ってくれるのはわかっていた。

 アルベドは、触って欲しい場所をおねだりした。

 

「それならぁ……私のおっぱいも好き?」

「もちろん大好きです」

 

 あの女に刻まれたスレンダーな体への欲求は未だ拭いがたくも、大きなおっぱいは大好きなのだ。ソリュシャンのおっぱいは毎日毎日朝昼夕晩と何度も見せられて少々飽きと言うか食傷と言うかあれがそれでこうなのだが、アルベドの美巨乳に飽きるわけがない。毎日ずっと顔を埋めていたとしても、初めて見て触った時の感動は全く薄れないだろう。

 

「私のおっぱいも触っちゃう?」

「ええ」

 

 頬を撫でていた手が下りて、キャミソールの内側へ潜った。

 キャミソールの下は当然のようにノーブラである。アルベドの肌を這い上がる手指が柔らかな乳肉に触れ、ピタリと止まった。豊満な乳房を掴むことなく、手は細い腰に回ってアルベドを抱き寄せた。

 

「私はアルベドが好きです。愛しています。ではアルベドは? 今だけの対等な恋人同士として、アルベドは私を好きですか?」

「……え?」

 

 今だけは対等な恋人同士のように、と言ったのはアルベドだ。恋人同士とは想い想われの関係で、どちらか一方の好意だけで成り立つものではない。好き合った二人だけが恋人同士になれる。

 

 この男が嫌いなわけがなかった。

 精気も精液もとても美味しい。

 体質的に筋骨隆々にはなれないだろうが、逞しくなってきた肉体は均整がとれている。上背があり、手足はすらりと長く、中々スタイルがよい。

 どうしてそうなのか考えると憎たらしいが物腰は洗練されており、ナザリックのロイヤルスイートで働かせても問題ない。

 顔立ちはこの上なく整っている。ナザリックでも稀な美貌と言うものがどれほどのものか、言うまでもない。

 自分への忠誠は揺るぎなく、何があろうと砕けることはないだろう。

 一言で言って、とても気に入っている。もしも自分が守護者統括と言うとても多忙な地位になければ、傍に侍らせて四六時中愛でていたくなる。

 

 アルベドが何を言ってくれるのか、胸の鼓動をうるさいほど高鳴らせた。

 抱き締めているのだから、鼓動はアルベドに伝わった。心臓が100回鳴ったのを数えてから、アルベドは慈愛に溢れる優美な笑みを浮かべた。

 

「一度しか言わないからちゃんと聴きなさい」

「……はい」

 

 アルベドも男を抱き締めた。顎を肩に乗せ、赤い唇を耳に寄せる。

 何度もされたように熱い息をふきかけて、鈴の音にかき消されるような小さな声で、女が愛しい恋人へ捧げる想いを囁いた。

 

(す……き……♡)

 

 口にしてからも、しばらくは抱き締めたままでいた。

 何度も言わせたくせして、自分で言うのは恥ずかしかった。頬が熱を持ってくるのがわかる。赤い顔を見せるのは恥ずかしい。照れ隠しなのかマーキングなのか、何となくしてみたくなっただけか、男の頬へ頬をすり合わせ、好い匂いを胸一杯に吸い込んでから離れた。

 アルベドは恋する乙女の顔をしているのに、告白された男は困ったような微笑を浮かべていた。

 

「あの……全く聞こえませんでした。吐息がかかったのは感じたのですが」

「………………むぅ」

 

 アルベドの告白は繊細すぎたらしい。優秀なレンジャーであるアウラだったら聞こえたかも知れないが、そう言った技能を何も持っていない男には吐息しか感じられなかった。

 想っていようと口にしようと、相手に聞こえなければ何も伝わらない。

 頑張ったのが無意味に終わり、アルベドは少々お冠になって頬を膨らませた。子供じみた仕草だ。今のアルベドは恋する少女になっている。

 

「仕方ないわね……。もう一度だけ言ってあげるわ」

 

 一度目より二度目の方が抵抗は少ない。

 今度は抱き締めなかった。隣に座る男の肩に手を置いて身を乗り出し、

 

「あなたのことが好きよ♡」

「!!!!」

 

 言葉に弾かれたようにアルベドを見た。

 アルベドは微笑んでいる。頬を赤く染めている。目が合うと逸らされた。もう一度視線が絡む。また逸らされる。もう一度視線が絡んで、見つめ合った。無言で見つめ合った。またもアルベドから目を逸らして、視線が下がっていく。

 

「あ……」

 

 下がった視線は男の股間で止まった。目が離せなくなった。ズボンは盛り上がっていた。

 

「私に好きって言われただけで大きくしちゃったの?」

「はい……。それにアルベドの表情がとても可愛らしくて」

 

 ナーベラルの生乳を揉んでも立たせなかったのに、アルベドだと一撫でで、あるいは吐息一つで大きくなる。

 それに言葉一つが加わった。初々しい少女のような表情だけでもいけてしまう。

 

「私に好きって言われて嬉しかった?」

「ええ、とても」

「私もあなたに好きって言われて嬉しかったわ」

「アルベドが好きですよ。……好きだよ、アルベド」

「んっ……、そんなこと言われたらキュンってしちゃうじゃない! お返しに私も言ってあげる。あなたが好きよ。大好き♡」

 

 手を握って、互いに好き好きと言いながら距離が詰まっていく。

 唇で相手の吐息を感じる距離になっても言葉は止まない。

 

「ちゅっ……。好きよ。あなたとキスするのも好きなの」

 

 キスの合間に好きと言って、言葉よりもキスの時間が長くなっていく。

 くちゅくちゅと舌を絡める音に、じゅるじゅると唾をすする音。すすった唾を飲み込む嚥下の音。

 一度だけと言った好きが十を超え二十も超えて、触れ合う度に口にする。

 

 

 

 ここに原始の魔法があった。

 アインズたちが使う位階魔法より、この地の竜王たちが使う始原の魔法よりも遙かに古い、言葉が生まれたときから存在する最初の魔法。魔法よりも古いおまじないである。

 口にすればするだけ言葉の意味に引きずられる。たとえ偽りの言葉であっても、心を込めて口にし続ければ命が与えられる。偽りの中に本当が僅かでもあれば、言葉を糧に育っていく。

 アルベドは何度も何度も好きと口にした。愛しい恋人を想って好きと言った。

 

「キスだけじゃなくておっぱいも触って。あなたに触って欲しいの。あなたに触ってもらうの、とっても好きなの♡ あんっ」

 

 キャミソールの中に入ってきた手は、今度こそ他へ目移りすることなく乳房に触れた。五指をめいっぱい伸ばし、柔らかな乳房へ押しつけるように乳房を掴む。

 アルベドよりも大きな手なのに、指を伸ばしても大きな乳房は包みきれない。柔らかなだけでなく滑らかな乳肉に指が埋まり、大きさと柔らかさを確かめるように揉み始めた。アルベドの吐息が荒くなった。

 

「私のおっぱいだけどあなたのおっぱいよ。あなたが触りたいだけ触っていいわ。私のおっぱい、あなたの好きにしていいのよ? でもこの前みたいな乱暴はイヤ。あれはあれですごく気持ちよかったけれど……。今は優しくして欲しいの。あなたと私は恋人同士なんだから」

 

 愛し合う恋人同士はイラマチオとかアナルセックスとかはしない。少なくともアルベドはそう思っている。

 サキュバスであっても、アルベドは乙女であった。

 ただし、優しい愛撫だけでサキュバスが満足できるかどうかは別の話になる。



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お食事の後の ▽アルベド♯12

 ソファにアルベドを押し倒した。

 揉みしだいていた豊満な乳房に顔を埋める。ふんわりとした柔らかさに甘い毒を孕む女の匂い。

 キャミソールをたくし上げた。

 薄い生地を盛り上げていた乳房が露わになった。仰向けになってゆるりとつぶれる白い柔肉。先端はルビーのような輝きを放つ赤い突起。何度触れても何度嗅いでも何度味わっても何度吸っても何度見ても、確実に前見たときより美しくなっている。

 大きさや柔らかさならスライムのソリュシャンが、張りや艶ならルプスレギナが、感度ならちっぱいなのに開発されきってるシャルティアが。一つ一つを取り上げるなら見るべきものは他にもいるが、全てにおいて至高を誇るのはアルベド以外にいない。

 この胸を好きにして良いという。揉んでもいいし先端を摘まんだり引っ張ったりしても良い。もちろん口に含んでも。

 書斎でそのような事になったときも好きにして良いと言われた。しかしその時はアルベドの口には出せない望みを察して、為すべきを為さなければならなかった。

 今は違う。愛し合う恋人のように好きにしていいのだ。

 

 生まれてこの方、性欲の発散に苦労したことはない。

 自由だった幼い頃は、美しい女性にも可愛らしい少女にも心を動かさなかった。美醜より貴賤を見る方が生きるためには重要だ。

 火傷を負いラナーに囚われてからは、ラナーの気の向くままにもてあそばれた。薬が切れて苦痛に耐えているときは記憶の宮殿に潜り、退屈も飢えもなかった。宮殿に潜ったまま外を眺めることも覚えた。痛みに囚われず動けるようになるのだ。五感が異様になり、現実感が希薄になるので常に出来ることではなかったが。

 アルベドに救われてからは精を求められた。肉欲を満たすよう命じられた。

 アルベドがいない時はソリュシャンが勝手に絞ってくれる。

 今、アルベドは精だけでなく、肉欲だけでなく、恋人のように振る舞えと言っている。

 食欲だけではない。肉欲だけではない。心を満たせと言っている。

 

 己は何の取り柄もない人間の男。アルベドは美の神秘を携えて顕現した美の具現。そしてナザリックの守護者統括。この世界において、アインズ様に次ぐ地位にあるお方。そんなお方と対等な恋人同士。

 こんなことはもう二度とない。実際に、この場この時だけと言っている。

 

 性欲を満たしたくて女を求めたこと一度もない。勝手に絞られるものだと思っている。しかし、今、アルベドを欲しいと思う気持ちは何なのか。

 どんなに欲しがっても、自分から求めていいのはこの場この時だけである。

 

「………………」

 

 胸に顔を埋めたまま動こうとしない男に、アルベドは焦れてきた。

 乱暴にしてはダメと言ったけれど、もっとこう揉んだり吸ったり引っ張ったり挟んだり、色々あると思うのだ。そういう事を期待している。して欲しいと思っている。触ってと言ったばかりなのだからもっと色々するべきなのだ。

 またもやこちらから言ってやらないといけないのかしら、と思ったその時。

 

「ずっとこうしていたい」

「あふぅ……!」

 

 掠れた呟きが耳に入った。よくわからない声が勝手にもれ、びくんと下腹を中心に体を震わせた。

 

(この子ったらもうこの子ったら! もうなんて可愛いこと言うのよ! そんなの私だって一緒よ! 私だってずっとこうしていたいわ。抱き合って、おっぱいで癒してあげて、キスをして、それから…………。ああ、今のすごかったぁ……。だってあんなこと言われちゃったら嬉しくなっちゃうわよ。あそこも嬉しいって言ってるもの。絶対すごく濡れちゃってるわ……。せっかくエッチなの履いてきたのに見せる前にこんなにしちゃうなんて)

 

「アルベド? どうかしたかい?」

「な、なんでもないわ」

 

 胸の上から、どことなく悲しそうな申し訳なさそうな顔で見上げられた。

 

「やはり私の言葉遣いが」

「違うわ!」

 

 ぴしゃりと言い切る。

 本当に違うのだ。ちょっと幾ら何でも恥ずかしくて誤魔化してしまったが、おかしな誤解をされるより正直に話す方がましだった。

 

「……イっちゃったの」

「……え?」

「だからイっちゃったのぉ! ずっとこうしていたいって言われて、嬉しくなって、私もって思って、そうしたら……、恥ずかしい……!」

 

 赤くなった顔を、またも両手で覆い隠した。

 アルベドはサキュバスで、サキュバスとしての日課を日夜こなしている。今や中イキ外イキ、教え込まれた後ろの穴で、胸だけでもイケるようになり、濃厚なキスを妄想しながら舌を弄ぶだけでもイけてしまう。

 それが言葉だけでじゅわっとなり、軽くとは言え達してしまった。淫らな体である自覚はあっても、言葉だけでそうなるとは想定外である。

 サキュバスとしての敗北感がある。どうしたこんなに簡単に達してしまったのか、自分の体への不信もある。二重の意味で恥ずかしく思うのに、いつかのように逃げ出そうとは思いもしなかった。

 そこで羞恥で悶えるだけならただの女。アルベドはサキュバスである。大人になって覚醒も果たしている。

 

「うっ」

「あら?」

 

 ソファに倒れ込んだまま、片膝を軽く持ち上げた。太股が男の脚の間に割って入り、股間に触れる。ズボン越しにも窮屈にしているのがよくわかった。

 

「あなたも苦しそうよ? 私が楽にしてあげるわ。私もあなたを気持ちよくしてあげたいの♡」

「アルベド……!」

「あんっ♡」

 

 アルベドの体をがむしゃらに抱き締めた。胸に顔を埋めているので、腕は背と尻に回る。左手はあらわになった素肌を撫で、右手はスカート越しに尻を撫でるはずだった。

 

(なんだこの衣装は!?)

 

 男の驚愕を余所に、アルベドは悪戯めいた顔で笑った。

 100レベルの膂力を発揮して男女の上下がくるりと入れ替わる。男をソファに座らせると、アルベドはキャミソールを元に戻して床に立った。その場でターンを決める。純白のスカートがふわりと舞う。

 

「このスカートどうかしら? あなたに会うために仕立てたのよ」

「とても似合っています。それだけではなくて、なんだか不思議な感じがします。ああ、影がないんですね?」

「ふふふ……」

 

 腰から足首まで覆う純白のロングスカート。淫魔であるアルベドを清楚に飾る。矛盾した美しさが破綻することなく同居している。

 それだけなら似合っているで終わってしまう。

 不思議なのは、スカートのシルエットしか見えないこと。ターンをすればスカートが波打つ。波打った部分には陰影が現れ、どのように波打ったかが見えるはずなのだ。それなのにシルエットしか見えなかった。

 ただ立つにせよ、アルベドの太股に沿って流れるスカートは凹凸を見せるはずなのにそれもわからない。どうやら幽かに発光しており、生地に皺や凹凸が出来てもわからないようになっている。

 シルエットスカート、とでも言うのだろうか。

 

「それだけではないわ」

「あれ?」

 

 太ももに添えたアルベドの手首が消えた。

 太ももから離れると手首が現れる。

 

「ほら、あなたも触ってみて」

 

 アルベドに手を取られ、導かれたのは導かれたのは腰の少し下。スカートには凹凸が見えないため目測になるが、普通のスカートだったらやや窪んで陰になっている部分。

 指先は確かにスカート生地に触れた。そのまま差し込んでいくと生地を抜けて内側へ入り込み、アルベドの太ももに触れた。スカート越しではなく、直に太ももへ触れている。

 さっき尻を抱いたときも、スカートの上から触ったはずなのに、生尻に触れた感触があった。それと同じである。スカートを通り越してアルベドに触れている。

 

「うふふ、驚いた? これなら着たまま触れるのよ」

 

 スカートに伸ばしたアルベドの手のひらには、指ほどの幅しかない細い帯が乗っていた。

 

 一見清純ぽい純白のスカートなのに、実体は細い帯が幾重にも重なって出来た直におさわり可能なエロ衣装であった。発光して陰が見えないようにしているのは帯で出来ていることをわからなくするためだ。きちんと魔法が掛かって、帯が散らばって内側が見えたりしないようになっている。

 アルベドは、男の驚いた顔が見たくてこんな衣装を仕立てたのだ。

 大きく目を見開いて瞬きしているところを見ると、目的は達せられた様子。

 役目を果たしたスカートは、その場でぱさりと床に落とした。

 

 最初に目に付いたのは下腹に輝く深紅の淫紋。ハートの形をした淫紋は下端が開き、下へ伸びている。その先には真っ赤な下着があった。秘部だけを隠すパンツは際どい形をして、V字を潰したように見える。淫紋からしたたる雫を受け止める杯のようだ。

 すでに受け止めていたらしい。小さな布切れはアルベドの雫で濡れている。

 

「ねえ……。脱がせて」

 

 浅く座り直して前のめりになる。両サイドに指を引っかけ、生地を痛めないようゆっくりと下ろした。秘部に張り付いていた部分が離れると、パンツとの間で糸を引いた。

 

「私も脱がせてあげるわ」

「おお!?」

 

 アルベドもソファに上ってきた。

 男の体を跨ぐように両膝を突いた姿勢なのに、どういうわけかシャツとズボンを下着ごと脱がされてしまう。明らかにおかしい。間違いなく魔法的な力が働いている。

 それもそのはず。これはアルベドが覚醒したことによって身につけた新スキル、サキュバス流淫術『脱衣』である。サキュバスにとってエッチは全裸がスタンダードだ。脱がさなければ始まらない。スキルによって対象を一瞬で全裸にすることが出来るのである。もちろんのこと、服は引きちぎったのではない。ほつれ一つなく無傷である。早くミルクが欲しくて、ズボンを破って脱がせた頃に比べると大きな成長だ。

 

「私に触って……。そう、そこよ……」

 

 アルベドは両膝を立てて男の脚を跨いでいる。男の前で股を開いている。触ってと言えば一つだった。

 右の手のひらを上に向け、中指と薬指だけを軽く折り曲げる。手は股の間に触れた。

 

「もうこんなに」

「だって、あなたに嬉しいこと言われて。濡れちゃったの。イっちゃうくらい嬉しかったのよ? んっ……」

 

 指が感じる舌よりも柔らかいアルベドの内側。肉が溶けているのかと思うほど柔らかくて指に絡みつき、熱い淫液を滴らせる。触れるだけでは満足できなくなり、中指と薬指を鋭角に折り曲げた。アルベドの熱い穴は中も十分潤って、ぬるりと抵抗なく二本の指を迎え入れる。

 指が動くごとに、くちくちと小さな水音を立てた。

 

「あなたの指、とっても優しいわ。私もしてあげる。あなたも私の手で気持ちよくなって。一緒に気持ちよくなりましょう?」

 

 アルベドからも男に触れた。

 男と視線を絡ませたまま、両手は男の逸物に絡みつく。雄々しくそそり立つ逸物はアルベドの手よりずっと熱い。左手で竿を握って上下に扱き、右手は繊細な手付きで亀頭を撫でる。裏筋に指を這わせ、手のひらで亀頭をさすり、人差し指で尿道口を押さえた。ぷっくりと滲んでいた透明な雫が潰される。指が離れるときは、アルベドの秘部がパンツとで引いた糸よりも長い糸が出来た。

 先走りの汁は口へ運ぶ。丹念に舐めとってちゅうと吸い取り、口から離れるときは滴るほどに唾をからめる。絡めた唾は逸物へすり付けた。

 ちょっとだけ下を向いて口をすぼめる。赤い唇から垂れるのはアルベドの唾。狙い違わず亀頭に落ちた。両手で扱いて逸物全体に塗り伸ばす。

 

「あんっ……、やっと吸ってくれたのね♡ 私の乳首はあなたに吸って欲しくて立っちゃってるんだからぁ。んふぅ……、っ、ぁ、もっと強く噛んでも平気よ?」

 

 男にまたがる前にキャミソールはたくし上げている。大きな乳房に引っかかって、キャミソールは落ちてこない。

 さっきはしてもらえなかったことをしてもらおうと、アルベドは腰を浮かせて男の顔へ乳房を押しつけた。気持ちは伝わって、乳首に吸いついてくれた。

 

「ああっ……、あなたがおっぱい吸ってくれるの、嬉しいの♡ 私が嬉しいって感じてるのちゃんと伝わってる? 嬉しくておまんこがいっぱい濡れちゃうのよ……。きゅんきゅんしちゃって、んっ……。指で、されてるからじゃないんだからぁ。嬉しくて、気持ちよくて、濡らしちゃうのぉ♡」

 

 逸物を扱くのは左手だけになった。右手は男の頭を抱いて胸に押しつけている。

 息継ぎをさせるように頭を解放すると、今度はもう片方の乳房へ押しつけた。

 見下ろすと、男の口から離れた乳房の乳首だけが濡れ光っている。さっきまで男の舌と歯でなぶられていた乳首。今はもう一方が同じ事をされている。

 熟れた雌穴では二本の指が上下運動して、肉ひだを擦りながら愛液をかき出している。

 淫紋の奥底から広がってくる波に、指の動きが重なった。同時に乳首を強く噛まれた。

 

「あああ~~~~~っ!」

 

 扱くのも忘れて男の頭をかき抱いた。指をきゅうきゅうと締め付け、腰がすとんと落ちる。

 男にすがりつき、肩に顎を乗せて荒い息を吐いた。息は熱かった。

 熱い息を耳へ吹きかけながら、アルベドは自分に何が起こったのか告白した。

 

「また……イっちゃった。おまんこもおっぱいも気持ちよくて。気持ちよくなっちゃった。あなたの指も口も気持ちよくて……あうっ!? 待って今日はそっちは!?」

 

 右手の指はアルベドの膣に突き立てたまま。

 左手は尻肉をつかんだ。更に伸びて尻の割れ目に沿って下り、たどり着いたのはきゅっと締まっているのにぷにっとしているもう一つの性器。中指の第二間接までを、アルベドの肛門に突き立てた。

 

「今日はお尻でしないんだからぁ。触るのはいいけど入れるのは……」

「キスが欲しい」

「……仕方ないわね。ちゅっ……、ちゅっ……、あむっ、んっ、ふぅっ……ちゅっ、じゅる……」

 

 両穴に指を入れられたまま、アルベドからキスをした。

 合わせるだけのキスは三度目に深くなった。頭をやや傾げて鼻がぶつからないようにして、開いた唇を押しつける。互いに開いた唇が合わさり、舌を伸ばした。

 柔らかな舌同士が主導権を取り合うように絡み合って、互いの口内を蹂躙する。キスをする内に湧いてきた唾を相手の口の中へ注ぎ込み、注ぎ込まれる。

 交互に吸い合うので唾は何度も二人の口内を往復した。ぴったりと合わさった唇は一滴の唾もこぼさない。

 舌を絡めながら唾をかき混ぜて、混じり合って撹拌された唾は分け合って飲み込んだ。

 飲み込むまでに、アルベドは二度達した。

 キスの間も体の中に入ってきた指は動くのを止めてくれないのだ。

 達しているときも唾をこぼすまいと、男の頭を強く抱いた。

 顔が離れるときは、唇で糸を引かなかった。唾は一滴残らず飲み干している。

 満足そうな楽しそうな、どこか切ないようにも思える目で、男はアルベドを見ていた。

 

「今度は抱き締めて欲しい」

「ええ……。いくらでも……」

 

 指が引き抜かれて、男からもアルベドの体を抱き締めた。

 

 アルベドの中に入りたいと思った。

 口でも、膣でも、尻穴でも。

 全ての穴に入りたい。逸物をねじ込みたいと思うわけではなく、指でも舌でもいい。アルベドの奥深くへ入りたい。

 奥まで入って、中を食い破ってやりたい。

 そしてそのまま死んでしまえたらどれほど幸せなことか。

 

 

 

 ああ、と、万感の想いが詰まった吐息がアルベドの耳朶を打った。

 想いの欠片がアルベドに伝わった。アルベドは、ほうと息を吐いて男の体を抱き締める。頬を合わせて擦りつけて、首から耳から髪へと鼻をつけた。湯上がりでもその前でも、いつだって芳しい男の匂い。

 互いに全裸で抱き合っているので、直に伝わってくる男の体温。脈打つ鼓動。逞しくて固い男の体。

 ただそれだけでも気持ちいい。

 どこかを触ったり擦ったりしているわけではない。スキルを使って精気を交換しているわけでもない。抱き合って互いを感じてるだけなのに満たされる心と体。

 肉体だけに依存しない高次の快楽。

 心が混じり合って一つになったような幸福感と一体感。

 入れたいと言われ、アルベドは私もと答えた。

 

 男はソファに浅く座り、アルベドは男に抱きついたまま腰を上げる。

 右手だけ股間に伸ばして逸物の位置を自分に合わせてやった。

 アルベドは、挿入するときが好きなのだ。腰をすとんと落とせば一息に奥まで入るのに、ゆっくりと時間を掛けて迎え入れる。

 

「んっ……、入ってきたぁ。私の中を広げて入ってきてる……。入り口に来てるだけなのにスゴく熱いわ。あっあっ、ここ、ここなのぉ。私の……きもちいところ……ああっ……」

 

 十分に潤ったアルベドは抵抗なく逸物を飲み込んでいく。奥まで入りきる前に腰を止め、そこで小刻みに動いた。指を伸ばせば届くそこはアルベドの好きなところで、アルベドの膣を目一杯に押し広げる亀頭を使って擦っている。

 先端で大きく押し広げられても広がりきることはなく、亀頭のエラが過ぎた竿の部分も隙間なく密着して包んでいる。

 心も体も悦んでいるアルベドが乾くことはなく、逸物で栓をされているのに愛液を滲ませる。これで奥まで入りきると、行き場をなくした愛液が逸物に絡みつきながら出口を求めてぷしゃっと小さな飛沫をあげることになる。

 

「入ってる……入ってるわ……。あなたのおちんぽが、私のおまんこにぃ。すごいの……。おちんぽとおまんこでつながって、あなたと一つになってる……」

 

 ゆっくりとゆっくりと腰を下ろす。指二本分下ろすと、一本半上げてしまう。

 サキュバスのアルベドだからこそ可能な精緻な挿入だ。どこまで入ってきているのか、手に取るように、目で見ているように感じることが出来る。

 焦らせば焦らしただけその後が激しいほど気持ちよくなることを知っている。挿入しきってしまえば自分も男も一つに溶け合って、狂おしい快楽の渦に囚われる。

 そこに至るまでは全て前戯だ。よりよいセックスのために必要なこと。

 

「あと少し、あとすこし、よ。あと少しで奥まで届くわ。あなたのおちんぽって私のおまんこにぴったりの大きさね。根本まで入れると丁度一番奥に届くの。その奥にはね。私の子宮があるの。あなたのおちんぽみるくを欲しがってるところ。私はそこに欲しいんだから、出すときは一番奥で……はうぅっ♡」

 

 ズンと下から突き上げられ、指一本分の空隙を埋められた。熱い亀頭が子宮口を叩き、結合部からはぷしゃっと透明な汁が溢れた。

 長い逸物は全てアルベドの中に収まった。

 男はソファに座ったままで、向かい合ったアルベドが上に乗っている。抱き締めあって肌が密着し、挿入によって深くつながった。アルベドが上であるため、主導権を握って腰が振りやすい。

 これが騎乗位だと、主導権を得ることは出来ても今のように抱き合うのは少々面倒だ。

 これは良い体位だ。またやろうとアルベドは思った。

 

「もう……! またイっちゃったじゃない♡」

 

 怒った素振りはスパイスの一つ。

 すぐに妖艶な表情を見せ、始めてあげようと腰を持ち上げようとした。

 

「……どうしたの?」

 

 腰は持ち上げられなかった。しがみつくように体を抱き締められている。

 アルベドの力なら振り切ることは簡単だが、独りよがりなセックスは止めようと決意している。

 

 前回、覚醒を果たした時は新たな力に酔いしれてサキュバススキルを存分に使い、絞りに絞ってしまった。絞った精気はエナジーゲインによって戻しはしたので後遺症はなかったようだが、あれはやりすぎたと我ながら反省したのだ。

 一方的にするより、二人の気持ちを合わせて交じり合った方がずっと気持ちいい。処女をあげた初体験の時はまさにそうだった。

 だから今日は対等な恋人同士になって気持ちを合わせようと思っていた。叱る前の飴のつもりというのは後付けである。

 なお、前回サキュバススキルをフル活用したのは、黄金水の行方を忘れたかったというのが大いにあるのは忘れるつもりだったので最早頭にない。

 

 至高の美神と恋人になり、言葉で想いを確認しあって、アルベドの奥の奥まで挿入を果たし、強く抱き締めている。こんな時間は二度とないことを知っている。

 これからの全てはこれ以下だろうとは想像に難くない。

 

「このままアルベドの胸の中で死にたい」

「なっ……」

 

 アルベドは視界が真っ赤になった。

 

(なんて事いうのよこの子は! 死にたいだなんてバカなことを言って! そんなの絶対絶対絶対に許さないわ!! あなたは私のものよ。心も体も命も、何から何まで私のものなのにそんな勝手なことを……! …………モモンガ様もシモベに似たようなことを仰ってたわね。お前は私のものだから死を選ぶなんて許さないと。そうよ。この子が私の許可なしに死ぬなんて絶対に許さない。ちゃんとわからせないと。…………あ、でも。……今は恋人同士なんだから命令なんてしちゃダメよね? だったら……)

 

 守護者統括としてのアルベドであれば、自分の許可なく死を選ぶことは許さない、と命令していたことだろう。

 しかし、今は恋人である。

 恋人は命令なんてしない。そんなことをするまでもなく男を惹きつけることは十分可能。

 

 アルベドは、いやいやをするように頭を振った。

 目の縁に涙を溜めて悲しそうな顔を作った。

 

「アルベドをおいていかないでぇ!」

「っ………………!!!」

 

 男を惑わす媚態はサキュバスなら生まれながらに持っている。

 効果は抜群だった。

 むしろ効き過ぎた。

 

「アルベドォ!!」

「きゃっ!?!?!?」

 

 男が下。自分が上のはずだった。

 それがいつの間にか、上下が逆になっている。自分が下になるときは翼が引っかかるので気を付けないといけないのに、気付かない内に入れ替わっている。

 

「ひうっ!?」

 

 繋がったまま両太ももを抱えられて脚を大きく開かされた。

 

「あうっ!? ま、まってぇ!」

 

 男が腰を引き、抜けてしまう寸前までずるりと引き抜かれ、一息で一番奥まで突き入れられた。

 背中にはソファの背もたれがぶつかって下がれない。衝撃は全て繋がったところで受け止めている。

 

「あっあっあっあっ、あんっ! あうぅ、あァん! あっはあぁ! やっ、ああっ! おまんここわれちゃうぅ♡」

 

 突かれる度に大きな乳房を激しく揺らした。

 暴力的な抽送に痛みは全く感じない。体の中を逸物が激しく往復する。視界がチカチカと白んできた。ふんわりとしたソファのせいで、全身が空高く飛んでるように感じられる。

 喉を反らして中空を見上げながらあえいでいるのに、サキュバスの本能はどこがどうなっているのか見ているようにわかってしまう。

 愛液に濡れそぼった割れ目の下の方。とろとろにとろけた下の口が大きく口を開いている。開いて飲み込んでいるのは大きな逸物。抜けることなく何度も往復して、入れられているのか、自分から飲み込んでいるのか曖昧になっていく。

 膣内の肉ひだが逸物に絡みついているのがわかる。にじみ出る愛液が絡みついて、逸物は先端から根本まで濡れきって、外に溢れ出ている。男の睾丸も濡らして、後で舐めとってあげなければと少しだけ思った。

 

「あああん♡ あなたのおちんぽっ、すてきなのぉ! いなくならないでぇ……。ずっとアルベドを犯しつづけて! ああぁぁぁーーっ」

 

 気付けばお腹の中が熱くなっていた。

 中で射精され、膣内に精液が満ちている。それなのに固さも勢いも衰えることなく体の中を蹂躙されている。

 このままでは外にかき出されてしまうと思って、子宮から精液を吸収し始めた。

 サキュバススキルを使わないでいると意識が飛ばされるほどの絶頂を与えられると気付いたのは翌日のことで、サキュバスとしてのプライドと女としての満足感がせめぎ合うことになる。

 

「まっ……て、ゆっくりして……。アルベドのおまんこ、やさしくかわいがって?」

「あ……ああ。アルベドが素晴らしくて……」

「もう……、ちゅっ♡」

 

 意識が飛ぶこともあったので正確ではないが、最低でも二度は中で射精された。

 量も多いので一度でも中に出されてから続ければ外にかき出されたのが溢れてくるところ、アルベドが吸収しているので結合部を濡らすのはアルベドの愛液だけ。

 

「起こして」

「ああ」

 

 アルベドが男に抱きついて、男はアルベドの太ももを抱え持ったまま立ち上がった。落ちないように、アルベドからも男の腰で足首同士を絡ませた。

 

「ベッドに行きましょう?」

 

 寝台に掛かる紗はアルベドが開いた。

 ベッドに下ろすときも抜けないようにして、今度こそアルベドが上になった。

 脚をぺたんと開いて男の腰の上に座り、上半身は倒して胸と胸とを密着させた。男の胸で大きな乳房が潰されて、それでもなお隙間を埋めるように抱きついた。

 

「今度はぁ、アルベドがしてあげる♡ ちゅっ♡」

 

 抱きついてキスをして、腰だけを上下した。

 激しくは出来ないけれど、ゆっくりと高めていくのも最高にいい。

 

「やぁん。お尻のあなぁ。そこは入れるところじゃないにぃ♡」

「アルベドはこっちの穴も素晴らしいよ。指が簡単に入ってく。ちんこだって入りそうだ」

「そうだけどぉ、恥ずかしいわ……。でも、あなたにだったら恥ずかしいことしても平気よ♡」

 

 アルベドの大きな尻を掴んで弾力を楽しんでいた手が、またも割れ目に沿って肛門を目指した。

 ピンク色のぷにぷにした窄まりの上は何度も愛液が流れて、潤滑液には事欠かなくなっている。

 アルベドは尻の穴に指を受け入れたまま、腰を降り続けた。

 ゆっくりと腰を振るので水音は小さく、尻穴で立てる音の方が大きいこともあった。

 

「お尻でこんな音をさせて、本当に恥ずかしいの……」

 

 顔は隠さない。快感と陶酔だけでなく、羞恥にも赤くなった顔は頼りなくて自信もなさそうで、けども期待に応えようとしている。

 

「でも……あなたがしたかったら、いいわ♡」

「うっ…………!」

「あっ…………。うれしい♡ またアルベドのおまんこでぴゅっぴゅしてくれたのね♡」

 

 どこまでが演技でどこまでが本当なのか。アルベド自身にもわからない。

 羞恥に耐え、健気に微笑んでみせたアルベドに、何度目かの射精をした。

 亀頭を子宮口に押しつけられて、熱く白濁した粘液をどぴゅどぴゅと吐き出している。萎えてないと代弁するように量は多く、膣内を満たした後に外へ溢れ出かねない。

 アルベドはそうはならない。精液に打たれた子宮口は口を開き、中へ奥へと取り込み啜る。淫紋の真下にある子宮が男の精液に満たされて、アルベドは恍惚感に身を震わせた。

 

「アルベドの子宮がぁ、赤ちゃんの部屋がぁ、あなたのおちんぽみるくでいっぱいになっちゃった♡ ………………ねえ?」

「…………?」

 

 アルベドが表情を変え、何かしらを問いかけてきた。しかし、残念ながらさっぱりわからない。快感と興奮に上気していながら真面目な顔なので、プレイのことではないとは想像できたがそこまでた。

 答えが返ってこないとわかると、アルベドは幼い少女のように唇をとがらせた。

 前はしてくれたのに、今回は自分からしてあげないとわからないらしい。

 アルベドは優しく笑った。少女のような仕草が少しだけ尾を引いている。ずっと繋がったままで、胎に男の精液を受け入れたばかり。全身で淫らな快楽を体現している。

 優しくて幼くて淫らな笑みは、アルベドの笑みとしか言いようがなかった。

 

「あなたを愛してるわ。大好き。好き。す・き。好きなの。好きになっちゃったの♡」

 

 アルベドが処女を捧げたとき、男から言われた言葉。

 今度はアルベドから言ってあげた。

 

「す・き……。ちゅっ。す……ちゅっ……きぃ……♡ すきぃ……、ぁん……♡」

 

 吐息を混じらせながら何度も好きと言って、言う間に啄むようなキスをする。

 繰り返す内に、好きと言い終わる前にキスをする遊びになった。

 

「すきっ! すきなのぉ! あっあっああん♡ すきぃ!」

 

 好きと叫びながら腰を振り、男の上で淫らに舞っているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

「今日のあなたも素敵だったわ……♡」

「アルベドも素晴らしかったよ」

「うふ……嬉しい♡」

 

 優に七回以上は射精した。

 ソリュシャンが丸一日掛けてマークした記録をあっさり超えている。

 しかも、途中でポーションやサキュバススキルで回復したりはしていない。素の精力である。

 こう言っては難だが、もしもソリュシャンと同じ回数を同じ時間でこなそうとすると、確実に途中で飽きて元気がなくなってしまう。アルベドだからこそ可能なのだ。

 

 二人ともベッドに横たわって、アルベドは男の腕枕で抱き寄せられている。

 あれからアルベドが上のまま一度。アルベドが羞恥に耐えて尻の穴でも一度。綺麗にするのもかねてお口で一度。最後に正常位で。

 頑張ればまだいけそうだったが、流石に疲労感があった。

 もしもアルベドが上になると言うのなら是非もなしだが、アルベドも満足したようで幸せそうに男にすり寄っている。

 

 初めての時はちょっぴり余裕がなくて、覚醒したときは暴走してしまって、今度は最初から最後までじっくりたっぷり味わうことが出来たアルベドはお腹いっぱいになった。意識が飛ぶほどだったのだから気持ちよかったのは言うまでもない。好き好きと言って言われて心も満足。

 終わった後でもこうしてくっついているのは至福だった。

 言葉らしい言葉はいらない。良かったとか好きとか言ってるだけで何かに満たされてしまう。

 しかし、そろそろ後にとっておいたおまけの本題を切り出さなければならない。

 したくないからおまけなのだけど、アインズ様からのご命令なので本題なのだ。今日はそのために来たのである。いっぱいエッチしちゃって大満足しちゃったけれどそっちがおまけなのだ。

 だけども急に切り出すのはなんだかあれで、ワンクッション置くことにした。

 

「ええと……、んんっ。……私がいない間に何か変わったことがなかったかしら?」

「変わったこと、でしょうか。大まかなことはご報告に上げている通りです」

「それ以外の事よ」

 

 咳払い一つで甘い時間は終わり。

 そこのところをきちんと察して切り替えられるところが、アルベドが幼げなところを見せられる理由でもある。

 

 男の言う通り、大体のところはアルベドも知っている。

 エ・ランテルの大きなお屋敷は、表だっては商家のソリュシャンお嬢様のお屋敷にして魔導国の人間側の権威の象徴で、手に職を持たない女たちにメイドとしての教育を施して雇ってくれる場所で、と様々な機能がある。

 実際には魔導国の首都エ・ランテルにおけるアインズ様の居館、つまりは魔導国のお城で働くメイドたちの研修所であり、ナザリックにとってはアルベドのお食事処である。

 当然の事ながら、真の主人であるアルベドには日々報告が上がっている。わざわざ聞くまでもないことだった。

 叱責の前に挟める話なら何でも良かったのだ。

 

「それ以外と言いますと……」

 

 

 

 

 

 

 一時間後、左遷が決定した。エ・ランテルからの退去は三日以内。

 

 厳命である。




何を報告したかは次回予定

エランテルに戻ってからは、アウラを男の子と間違えたりセバスにSEKKYOUしたりソリュシャンが性に目覚めたりンフィーを娼館に連れ回したり一般でやろうと思ったシリアルを入れたりとあれこれ考えましたがアルベドを出したらこうなりました
今後はよくわかりません


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おわる
忍び寄るま()の手


何となくわかってるとは思いますが改めて説明しますと、
▼は現在進行形のお話
■は過去のお話です


「……ずいぶんと賑やかでありんすね」

 

 書斎の扉を開けるなり、シャルティアは呆れを滲ませてそう言った。

 

 

 目当てである書斎の主が部屋の真ん中に座っているのはおかしくない。しかし、何故か左腕を水平に伸ばしている。そこそこに筋肉がうねる左腕は肩から先がむき出しだ。何故か半袖を着ている。

 その左腕を、隣に立つソリュシャンが持っている。手の平は開かせて自分の胸元へ当て、手首と二の腕を下から支えるようにしている。このお屋敷では珍しいことにプレアデスの正装をしている。上乳見せのトップスにマイクロミニの魔改造メイド服。普段のお嬢様ルックより露出が凶悪である。

 ソリュシャンの隣にはルプスレギナが。男の肩へチョップでも食らわすかのように右手を振り上げて、左手には小瓶を持っている。よく見れば右の手の平は何かしらの液体に濡れており、小瓶の中身が塗られているのではと思われた。

 ここまでならエ・ランテルの屋敷に常駐している三人組なので、それぞれのポーズの不可解さを措いておけばおかしくはない。

 

 男の正面には黒板を前にキリリと立つパンドラズ・アクターがいた。黒板に書かれている文字はシャルティアには読めないもので、男へ何かを教えている風景に思えた。

 一番不審なのはナーベラルだ。漆黒の英雄モモンに扮するパンドラズ・アクターがこの場にいるため、モモンのパートナーである美姫ナーベことナーベラルがいても不思議ではないが、何故か男の後ろで抜き身のロングソードをひっさげていた。

 

 ナーベラルは、ちらとパンドラズ・アクターを窺った。シャルティアが同席していると少々あれなことをするのである。

 

「時間がないのでしょう? やりなさい。もしもシャルティアが暴れ出したら私が何とかしましょう」

「私が暴れるってなんでありんすか! パンドラがいくらアインズ様に創造されたからって私が暴れん坊みたいな言い方は――――あっ」

 

 斬! ソイヤッ! トプン……。

 

 姉妹が魅せる目にも留まらぬ早業だった。

 ナーベラルが男の左腕をロングソードでもって根本から切断。ルプスレギナが切断面の本体側に血止めの軟膏を塗って出血抑止。切断された左腕は瞬く間にソリュシャンの体に飲み込まれる。

 シャルティアのところには血飛沫どころか血臭すら届かない。

 

「これからしばらくの間、お兄様と私は別行動になってしまいます。そのため、その間のおやつ……いえ、食糧……ではなくて、お兄様を忘れないがために各部位の収穫をしているところでございます。エントマへのお土産も含まれております」

「……お前はそれでいいでありんすか?」

「はっはっは……」

 

 乾いた笑い声。シャルティアを見る目は空虚だった。常人なら痛みに悶え狂うところ、この男がこの程度でどうにかなるとはこの場の誰も思っていない。

 

「エントマと言うとデミウルゴスのところでありんすか?」

「その通りでございます。私はデミウルゴス様扮する魔皇ヤルダバオトに操られる仮面の悪魔メイドとして、アインズ様に敵対する役を担う予定でございます。ですが、その時にはパンドラズ・アクター様と同じ種族であるグレーター・ドッペルゲンガーに姿を写し取らせるため、実質的には陣中見舞いとなります」

 

 仮面の悪魔メイド達は魔皇ヤルダバオトに操られている。そこを我らが偉大なるアインズ様が魔皇をやっつけて、悪魔メイドたちは解放されるのだ。

 プレアデスの中から幾人か姿を写し取らせてアインズ様の活躍を彩る予定である。中でもずっとナザリックでお留守番をしているシズちゃんは大活躍する、予定である。

 言わずもがな、魔皇が亜人達を束ねて聖王国を苦しめているのも、その後にアインズ様が聖王国を救済するのも、悪魔メイドたちが解放されて魔導国の一員となるのも、全てデミウルゴスの仕込みである。こうして聖王国は魔導国の属国となる予定なのだ。

 

「それは私も知ってるでありんすが、ソリュシャンがデミウルゴスのところへ行くのはもっと先じゃないでありんすか?」

 

 大きな作戦はナザリック内である程度共有されている。少々あれだと思われていても、階層守護者であるシャルティアが知らないわけがない。

 聖王国での作戦が始まるのはまだ先のこと。陣中見舞いならいつでもいいだろうが、そうするとパンドラズ・アクターの「時間がない」との発言がつながらない。

 

「私に帰国命令が出ました」

「命令? アインズ様でありんすか?」

「……アルベド様です」

「ほーん? 確かお前は王国の生まれでありんしょう? 王都にでも行くでありんすか?」

「生まれは王国の王都です。ですが、私とソリュシャンは帝国から来た商家の一族と言うことにしてあります。帝国に行けと命じられました」

 

 

 

 

 

 

 この男にとってアルベドは直接の上司である以前に、長く囚われていた石の部屋から解放してくださった救世主であり、世界に光をもたらした美の神である。上司と部下、女と男、主人と下僕等々、様々な属性の一番上に『主と信徒』が挙げられる。

 アルベドへの悪意や悪戯心は微塵もない。むしろアルベドへ悪心を抱くモノを誅殺する立場である。ガチ泣きするまで追い込んで改心するなら良し、しなければかくの如し。

 よってアルベドに「何か変わったことは」と聞かれて話すことはアルベドを楽しませようと、歓心を買おうと思って選んだものである。アルベド様ならばこのようなことを楽しんでお聞きくださるだろうと心の底から思って語ったのである。

 

「変わったことと仰いますと、ユリ・アルファ様、ルプスレギナ・ベータ様、ソリュシャン・イプシロン様、ナーベラル・ガンマ様、プレアデスの長女から三女までの四名から自分と結婚せよと言われております」

「は?」

 

 初っ端からアルベドの理解を超えた。

 それは確かに変わったどころか大変なことだろうが、どうして自分に何も報告がないのか。

 

「どうしてそんなことになってるのよ?」

「ユリ・アルファ様は責任を取るために自分と結婚せよと言われました。責任と結婚がどのようにして結びつくのか未だに理解できませんが、結婚しても何かが減るわけでもないため、了承した次第です」

「………………」

 

 アルベドは頭が痛くなった。

 あのお固いユリが責任と言うのなら、間違いなくこの男はユリと男と女の関係になったのだろう。そう言うことになったのならユリが結婚と言い出すのも頷ける話。

 しかしながらこの男は、責任と結婚が結びつく理屈がわからないらしい。

 ナザリック出身ではないので、ナザリック生まれである自分たちとは価値観が違うところがあるとは知っていたが、それにしたって真っ当に生きていればそのくらいはわかりそうなものである。と思ったところで、真っ当に生きてこなかったことを思い出した。この男の価値観は王国や帝国の人間たちと比べても相当特異である。

 

「ルプスレギナ・ベータ様は丈夫な赤ちゃんをいっぱい産むために結婚せよと言われました。ですが子種を仕込むためにわざわざ結婚する必要はないと思われます。そもそも人狼と人間との間に子供が出来るのでしょうか?」

「……それは私も知らないわね」

「私も同じように思っております。それでもルプスレギナ様は強く結婚することを求められましたので、こちらも了承した次第です」

「………………」

 

 アルベドは頭痛が痛くなった。

 子供を欲しがるくらいなのだから、ルプスレギナがこの男をどう思っているかは知れる。それなのにルプスレギナの気持ちは全く伝わってないようだ。結婚の申し込みを断らなかったのだから悪くは思ってないのだろうが。

 この男はデリカシー云々以前に女心が全くわかっていないようだ。それというのも、そのようなことを学ぶべき期間をあの女に囚われていたからだ。

 

「ソリュシャン様はメイド達の話を真に受けたか、若い男女が一つ屋根の下に暮らすことからそのように思ったのかも知れません。アルベド様のお耳には入っていなかったかも知れませんが、メイド達が『お嬢様と若旦那様はとてもお似合いでいらっしゃる』と噂話をすることがしばしばでありました。私自身は生活を始めとする様々な面でソリュシャン様に感謝しておりますので、結婚程度が恩返しになればと思い了承した次第です」

「………………」

 

 ここまでくると、アルベドは胸が痛くなった。

 人間は下等な生き物だが食べれば美味しい、くらいにしか思っていないソリュシャンが結婚を求めたのだ。そこには相当なものがあるのだろう。ソリュシャンがそこまで想っているのにこの男と来たら恩返しに結婚とか言うのはもう本当になんて言えばいいのか。

 ソリュシャン達が哀れに思えてしまうのは、アルベドがナザリックの慈悲と慈愛の象徴なのだから無理はない。

 

「ソリュシャン様は私との結婚をセバス様に相談しています。セバス様からナザリックの方々へ、ナザリックのシモベと人間との結婚をどう思うかと意見を募っているはずです」

「それはあなたのアイデアね?」

「ソリュシャン様から相談された折りに、セバス様の名を挙げたことはあります」

 

 セバスを動かすあたりが狡猾である。セバスの配下にあるソリュシャンではまず思いつかない考えだ。

 ナザリックのハウススチュワードであるセバスが人間の女であるツアレと憎からず想う仲であるのは周知である。そのセバスから、ナザリックのシモベと人間との結婚について意見を求められれば否定意見は出せない。セバスと反目しあってるデミウルゴスでさえ、たっぷりと皮肉をぶつけるだろうが、最終的には肯定するだろう。デミウルゴスとて、ナザリックの仲間の幸せを望んでいるのは間違いないのだから。

 

「ナーベラル様については私も同意するところです。ナーベラル様は美姫ナーベとしてモモン様と行動を共にしております。ですが、男女が一緒にいれば何かと勘ぐられるもの。モモン様へ下賤な想像を抱かれないように私と結婚をして、モモン様とはそのような仲ではないと知らしめるおつもりのようです」

「……それもあなたのアイデアね?」

「はい。仰るとおりです」

 

 ナーベラルはけっして馬鹿ではないが、迂遠なことを考えるのは得手ではない。

 モモン様の風聞のために結婚するのではなく、結婚したいからそのような理由を捻り出した、否、捻り出させたのだろう。

 あれほど人間嫌いだったナーベラルが、と思ったところで、「ナーベラルに女の悦びを教えるのね」とか「おまんこにしないのはかわいそう」と言ったのは自分だったのを思いだした。

 あれやこれやをやられて、この男に情が湧いたのかも知れない。

 

「四人と結婚なんて。あなた、どうするつもりなのよ?」

「ナザリックでは重婚が禁止なのでしょうか?」

「えっ」

「仮に禁止だとしても、ユリ様とはカルネ村で、ルプスレギナ様とはナザリックで、ナーベラル様とはエ・ランテルで、ソリュシャン様とは帝国で結婚する形にすればよろしいかと」

「………………」

 

 なんと、次善の策を考えてあった。

 アルベドは本当に頭が痛くなって、そっと額を押さえた。

 

「つまり、あなたはその四人とやることをやったってことなのね?」

「やること、でしょうか?」

「セックスのことよ」

「はい、その通りです」

「ソリュシャンやナーベラルはわかるけど、ユリやルプスレギナとはどうして? いえ、その前に他に手を出した女がいるなら言いなさい」

「手を出した、とは?」

「だからセックスした女のことよ!」

「それでしたら……」

 

 出るわ出るわいっぱい出てきた。

 メイドのシクススとそのようなことになったのはわかる。美しい女が傍にいてかしずくのだ。普通の男なら手が伸びる。この男の場合、夢精をどうにかするためだったようで、話すときは頬を赤らめた。アルベドがこの男のそんなところを見るのは初めてで、あら可愛いと思ったものである。

 シズとそんなことになったのはどういうことなのか、事故と言って良いのか。シズの小さな体にこの男の大きなあれがきちんと入ったのだろうか。機会があったら見てみたい。

 カルネ村のエンリとは何と言おうか。エンリは先日、ンフィーとか言う人間の男と結婚したはずである。そんなことになったのは結婚する前なのか後なのか。どちらであっても大胆極まる娘であることに変わりはない。

 

 アルベドはサキュバスである。

 サキュバスに貞操観念などどこにもない。男と女がいて、いたからする事をした。以上である。

 ゆえに、この男が誰と寝ようと嫉妬はなかった。

 未通だった頃は自分を差し置いて好いことをしていたシャルティアやソリュシャンに嫉妬したものだが、今は違う。

 この男が誰と寝ようと、優先順位の一番は断トツで自分であり、数多いる女の中で自分だけが特別なのだ。

 この男に惹かれる女がいればいるほど、そんな男を自分の男にしている己の格が上がると言うもの。

 嫉妬どころか誇らしく思うところだ。

 結婚云々は少々面食らったが、面白い話ではあった。

 ついでだからこの男の結婚観を聞いてやろうと思った。

 

 アルベドだって女の子。結婚は何というかちゃんとしなくてはいけないものなのだ。もしもおかしな考えでいたら正してやらなければならない。

 アルベドが口を開こうとしたところ、男の話は尚も続いた。

 

「他には……」

 

 

 

 

 

 

「お兄様、その場にお立ちください」

 

 立ち上がったお兄様の体をソリュシャンが後ろから抱き締めた。左足を前に出すと艶めかしい生足は形を失って不定形となり、お兄様の足首に絡みついた。

 上が半袖なら下は短パン。ずんばらりんと行くためである。

 

「ちょっと待つでありんす!」

 

 ロングソードを振りかぶったナーベラルを、シャルティアが止めた。

 なお、切断役をナーベラルが担っているのは、魔法職なのに一つだけファイターのクラスを取っているのでそこそこに剣が扱えるからである。

 

「ソリュシャンが欲しいのはお肉でありんしょう? 血はそこまで欲しくないでありんすよね? だったら…………」

 

 シャルティアは大きく喉を鳴らした。

 この男の血を味わったのは二度。一度目はアルベドがアインズ様へ引き合わせたとき。二度目は屋敷を訪れた際にアルベドとバッティングしてしまったとき。

 一度目はあまりの美味しさに我を失い、二度目は大量に全身に浴びてしまったため血の狂乱を発動してしまった。次こそはしっかりじっくり味わいたいと思っていた。

 目の前でざっくざっく行ってるのだ。ちょっとでいいからぺろりんしたい。

 

「ううむぅ……。もしも血の狂乱を発動したり暴れたりした場合、エ・ランテルの外へランダムに転移させますよ? それでもよいと言うのなら鮮血の戦乙女の名が欲する通りに」

「さっすがパンドラは話がわかるでありんすねえ! ナーベラル! さあ行くでありんす!」

「……かしこまりました」

 

 斬!

 

 お兄様はソリュシャンが抱きついているので片足になっても倒れない。

 切断面にはすかさずルプスレギナが軟膏を塗り、本体から離れたあんよはシャルティアの手の中に。

 股下から指数本分の一番太いところからで、断面からは鮮血がたらたらとこぼれだした。

 大きな杯のように、シャルティアは無言で脚を傾けて、

 

「…………っ!!!!!!」

「シャルティア様!?」

 

 シャルティアの手から脚が離れ、床に落ちる前にソリュシャンが回収して収納。

 シャルティアは両手で赤い唇を押さえ、その場に崩れ落ちた。

 周りから声を掛けられても反応せず、床の上にうずくまる。

 いざという時のために魔法の準備をしていたパンドラズ・アクターも、これは流石に予想できなかった。

 

「……おにーさんの血はいつから毒になっちゃったんすか? 昨日とかめっちゃくちゃお酒飲んでたしそのせいじゃないっすかね?」

「昨日の酒が残ってるわけないだろう。残ってたとしたって、今日はルプーから何度も治癒の魔法を受けてるんだ。きれいさっぱり消えてるはずだよ」

「しかしシャルティアのこの様子は……。たとえ毒であろうとシャルティアに効くわけがないと思いますが」

 

 みんなから心配されてるシャルティアは、目を閉じて口福に浸っていた。

 閉じた口の中では舌が鮮血を転がし、香りに味に温度に舌触りに、味覚と嗅覚を最大限に発揮して堪能していた。

 言葉もなかった。

 あえて言うならば、美味、ではない。幸福である。

 この男の血が美味いことは知っていたはずだが、甘いだとか濃厚だとかの域を越えて、もっともっと深遠な何かを感じさせる。シャルティアにもう少し語彙があれば、官能的と評したかも知れない。

 たった一口の口福。

 たった一口だけでここまでの口福。

 もう一口してしまえば理性と自制が飛び、血の狂乱を発動しかねない危うい美味。

 口中でかき回している鮮血は唾液と混ざり合って、少しずつ喉の奥へと落ちていく。

 喉を伝う感触すら背筋が痺れるような官能がある。

 もう一口してしまえば、血の狂乱を発動させる前に絶頂してしまうかも知れない。

 吸血鬼にとって、究極の美味であるやも知れぬが破滅が隣に佇んでいる。

 

「………………う」

「う? シャルティア様、お加減は如何ですか?」

「ソリュシャン、念のためにシャルティアから離れなさい。もしも血の狂乱が発動したら……」

「っっっっっまあああああぁぁああぁあぁいぃぃいいいぃい!! お前いったい何をした!? 前飲んだときはこんなに美味しくなかったでありんしょう!? くうううううぅぅうう!! もっおおうぅこれは吸血鬼泣かせの血でありんすねえ!!」

 

 シャルティア大爆発!

 吸血鬼の蒼白な肌は興奮に上気して、怒ったような嬉しいような、何とも複雑だがとても大きな感情を滾らせて男を睨みつけた。

 

「そう仰られても。考えられるとしたら、ここで暮らすようになってから食事事情が改善されたからでしょうか。かつてとは比べものにならないほど上質な食事を頂いておりますので」

「ぐるるるるるぅううう!」

 

 肉食獣の目である。

 もしもシャルティアに吸血されたらお兄様はヴァンパイアになってしまう。ソリュシャンは手を広げてシャルティアの前に立ちふさがった。

 

「うううぅぅうう! …………わかってるでありんす。もしもおにいちゃんの血を吸ったらヴァンパイアになってしまうでありんすから。そうしたら美味しい血がもう飲めなくなってしまうでありんすよ……」

「おにいちゃん?」

「あっ」

 

 シャルティアはとっさに口を押さえた。

 

「ソリュシャンこそお兄様と言ってるでありんしょう?」

「え? …………あっ」

 

 ソリュシャンも口を押さえた。お兄様から手が離れたが、半ばソリュシャンの体にめり込んでいるため倒れはしなかった。

 ソリュシャンお嬢様をしているときはお兄様と呼ぶソリュシャンである。それがパンドラズ・アクターの前でもお兄様だった。今になって繕おうとも、今更というやつである。

 

「続けてもよろしいでしょうか?」

 

 そんな二人を意に関さず、ナーベラルは見た目通りにクールである。

 

「……待つでありんす。血をいれる瓶はないでありんすか?」

「各種ポーションなどを容れるための小瓶ならそれなりにございます。お持ち帰りになりますか?」

 

 たった一口で絶叫するほど美味しい鮮血。持ち帰って楽しみたくもなるだろう。

 この場の誰もがそう思った。

 

「ヴァンパイアブライドたちのお土産にするでありんすよ。あいつらも、まあ、それなりによくやってくれてるでありんすから」

 

 一同に衝撃が走った。

 シャルティアがシモベであるヴァンパイアブライドたちを酷く扱っているのは皆知っている。地下大墳墓ナザリックの不思議な力でいくらでも湧いてくるのだからそうなるのは無理もないと言えよう。

 だと言うのに、そのヴァンパイアブライド達へ、とっても美味しい血液をお土産にするというのだ。

 

 

 

 過日、アインズ様の遠征に随伴したシャルティアは、功を急いで先走ってしまうことが何度かあった。その度にヴァンパイアブライドたちから窘められた。

 気性が荒く、ヴァンパイアブライド程度は使い捨てとしか思っていなかったシャルティアである。忠言したヴァンパイアブライドをシャルティアは殺してしまうのではないかとアインズは危惧したのだが、そのようなことは一度もなかった。

 ギリギリと歯軋りをして悔しそうな素振りは見せたが、シモベの忠言をちゃんと受け入れたのだ。

 これにはいっそ感動を覚えたアインズである。

 あのシャルティアが、シモベを大切にするようになったのだ。あのシャルティアが、目に見えて大きな成長を見せてくれたのだ。

 これを喜ばずして何を喜べと言うのか。

 心の中でペロロンチーノにシャルティアの成長を報告したアインズは、シャルティアを大いに褒めそやした。

 そして今度は、ヴァンパイアブライド達へ、とっても美味しい血液をお土産にすると言う。

 

 後日のことになるが、この件を知ったアインズは感情抑制を発動させた。

 シャルティアは、アインズを心から感動させるほどの成長を遂げたのである。

 

 

 

「アトリエに保存の魔法が掛かった小瓶があります。私は動けないので、ソリュシャンに頼めるかい?」

「わかりました。あるだけ持ってきますので、少々お待ちください」

 

 たくさんの小瓶がいっぱいになるほどずんばらりんと行かれるのである。

 と言うか、この作業は朝からやっていた。

 

 部位を欠損するような怪我をしようと、ルプスレギナの治癒の魔法で完全回復できる。

 ところが問題が一つあり、怪我の直後に魔法を掛けてしまうと、分かたれた部位が消えてしまうのである。

 それを避けるには、離れた部分が原型を留めないほどに加工するか、時間を置くか、の二つである。

 ミンチにしてパン粉と刻み玉葱を混ぜてからよく捏ねて成形して焼くところまで行けば大丈夫。だけどもソリュシャンはそんなの欲しくない。必然的に時間を置く方になる。

 アインズ様の実験により、回復しても欠損部位が消失しないのは怪我から一時間後以降となるのが判明している。

 そのため、左手と両足をざくっと行ってから血止めして一時間。魔法で回復してからもう一度。そして繰り返し。

 重量にして、既に男四人分以上となる手足がソリュシャンの中に収納されている。

 そして日が暮れてからはパンドラズ・アクターがドイツ語教室のために来訪し、授業を行いながら作業を続けていた。右手が無事なのは本のページをめくるためだ。メモはとらない。全て頭の中に落とし込む。

 

「そう言えば何で急に帝国に行くことになったでありんすか?」

「……それは、ですね」

 

 

 

 

 

 

 淫魔であるアルベドが、男が誰と寝ようと嫉妬するわけがない。

 どこで誰と何をしようと、必ず自分のところに戻ってくるのだ。自分に捧げられる忠誠も感じている。不安に思うわけがなかった。

 しかし、何事であっても例外は存在する。

 

「そろそろラナーが私に接触してくると思われます」

「…………………………………………………………………………………………え?」

 

 アルベドの時間が止まった。

 

(あの女が? この子に? 接触? どうして? どうして接触するの? ……よく考えなさいアルベド、そんなの決まってるわ。この子を取り戻すためしかあり得ない。

 待ちなさい。本当によく考えて。

 この子が私のところに来たのは王都でゲヘナ作戦を行ったとき。王都はどこも混乱していたけれど、デミウルゴスは王城まで攻め込まなかった。この子が一人で王城から逃げられたわけがないわ。あの女は誰かが連れ去ったと気付いている。誰が連れ去ったか。この子の存在を知っていたのは何人いたか。何人いようと、それが可能で、あの女が知っているとなると限られる。

 アインズ様。デミウルゴス。そして、私。私が連れ去ったと気付いてるのは間違いない。

 私からこの子を奪うつもり? 違う。焦ってはダメ、順序よく考えて。

 この子はどうしてあの女が接触してくることを知っている?

 あの女と通じていた? 私に内緒で連絡をとってた!? だから接触してくるのがわかる!??!?

 違う! だからアルベド落ち着きなさい! 密かにしていたことをわざわざ私に話すわけがないわ!)

 

 止まった時間の中でも思考できるのは、アルベドが非常に優れた頭脳を持っているからだ。

 しかし、アルベドの時間が止まっていても、アルベド以外の時間は流れている。

 アルベドが黙り込んでから口を開くまで、二十分ほどの間があった。

 

「……どうしてあの女があなたに接触してくるとわかるの?」

 

 そこのところはアルベドの時間が止まっている間に一通り説明していたのだが、もう一度と言うのなら否はなかった。

 

「以前、王国の冒険者である蒼の薔薇がエ・ランテルを訪れました。魔導国と王国は敵国同士。王国の冒険者は国家の関与を受けないとの法がありますが、わざわざ敵国の首都を訪問する謂われはありません。必ずやどこからかの依頼によるものです。

 蒼の薔薇のリーダーであるラキュース・アルベイン・デイル・アインドラは有力貴族の娘であるため、意に添わない依頼は拒否出来る立場にあります。そのラキュースに依頼を強要できるのは、ラキュースと個人的な誼を結び、地位でも上にあるラナーしかいないでしょう。

 私とソリュシャン様はエ・ランテルの黄金の輝き亭で蒼の薔薇と遭遇しました。ラキュースは間違いなく私とソリュシャン様のことをラナーに話していることと思われます。ラキュースが私を私であると認識できたとは思えませんが、ラナーは確信するに違いありません。

 忌々しいことではありますが、ラナーはこの身に執着していると思われます。私の存在を知ったのなら、何かしらの形で接触をはかると推測しています」

「………………」

 

 エ・ランテルに蒼の薔薇が訪れたことはアルベドも知っていた。

 取るに足らない者達だが、アインズ様が注視なさっている。魔導国宰相の元へ、ナザリック守護者統括の元へきちんと報告が上がっていた。

 しかし、この男とソリュシャンが接触したとは聞いていない。

 いや、聞いたとしても大したことではないと判断したことだろう。

 第一、この男がラキュースと知己であることを知らなかった。ラキュースはこの男が誰であるかがわからなかったようであるが。

 

「…………いつ? あの女が来るのはいつなの?」

「ラナー本人が来るかどうかはわかりませんが、蒼の薔薇がエ・ランテルを訪問し、ラナーへ報告し、王都とエ・ランテルまでの距離を考えますと……。明日明後日とは思えませんが、一ヶ月や二ヶ月も掛かるとも思えません」

「………………」

 

 アルベドは決断した。

 お食事がしばらく取れなくなるかも知れなくても、おセックスがしばらく出来なくなることになろうとも、この男を失うことに比べたら。

 

「わかったわ。あなたはエ・ランテルを離れなさい」

「……え?」

 

 あの女がこの子はエ・ランテルにいると思っているのなら、この子をエ・ランテルから離れさせればいい。

 そのためにはナザリックに仕舞い込んでしまうのが一番なのだが、その一番はアルベドが潰していた。

 この子をアインズ様にお目通りさせた時、アインズ様はナザリックで暮らせばよいと仰ってくださった。それを自分はとんでもないことだと主張してエ・ランテルで囲うことにしたのだ。

 それを今になって、ナザリックでと言うわけにはいかない。

 アインズ様のご厚意を無下にしてしまったと言うのに今更何を言わんや。

 アインズ様がどれほど慈悲と慈愛にお優しさに満ちた御方であることかを痛感すると共に、自分がどれほど愚かな女であるかを体が引き裂かれるほどに自覚してしまう。

 ナザリックが駄目ならカルネ村。しかし、カルネ村も駄目だ。エ・ランテルの目と鼻の先だし人口も少ない。もしもカルネ村を訪問されたら一発で露見する。それだったらエ・ランテルに隠していた方がまだましだ。

 幸いなことに、バハルス帝国は魔導国の友好国だ。アインズ様も帝国の皇帝と友誼を結んでいる、と言うことにしている。

 王国と帝国とでは距離がある上に、長年の敵国である。王国の冒険者は帝国に入らない。王国の王女であるあの女なら絶対に入ることなど出来はしない。

 

「エ・ランテルを離れ帝国に行きなさい」

「……何故でしょうか?」

 

 盲信するナザリックのシモベたちと違って、ガチな忠誠を捧げていても納得できないところがあれば抗弁できるのがこの男の違うところである。

 

「……あなた、デミウルゴスにレポートを出したわね?」

「出しましたが、それが何か?」

「それが何か、ですって? 人類を絶滅させるとか書いたでしょう!? お前のレポートを読んでアインズ様はお心を痛めたのよ!」

「!?」

 

 デミウルゴス様に出したレポートが何故かアインズ様のお目に触れてアルベド様もご存じの様子。

 

「アインズ様は人類を絶滅させるなどとは思っていらっしゃらないわ。それなのにお前と来たら……! 私はそのせいでアインズ様からお叱りを受けたのよ!」

「そ、そんな…………。いえ、ですが」

「言い訳は聞かないわ。お前はその近視眼的なところをどうにかしなさい。そのために多様な文化に触れる必要があるのよ。それを学ぶために帝国に行けと言っているの。わかった? お前の為なのよ?」

「……かしこまりました」

「三日以内にエ・ランテルを離れなさい。いいわね? これは、絶対命令よ」

「…………かしこまりました」

「復唱なさい」

「……今日より三日以内にエ・ランテルを離れ、帝国に向かいます」

 

 

 

 

 

 

「人類絶滅とかってお前はバカでありんすか? 絶滅したらお前も死ぬでありんしょう?」

「いえ一人残らずと言うわけではなくて数十万くらいは残すつもりで……。それに私が死んでも」

「お兄様」

 

 上位者であるシャルティアとパンドラズ・アクターがいるため、ソリュシャンとルプスレギナとナーベラルはこれといって口を挟まなかった。

 代わりに物質化するほどに重く鋭い視線を男へ向けた。

 

「実現する計画とは思っていませんでしたが、多様性を学ぶために帝国で学べと命じられました」

「帝国、でありんすか。アウラが出しゃばりそうでなんかイヤでありんすね……」

 

 アウラとマーレは、帝国への使者として赴いたことがある。帝国でどうこうなれば、首を突っ込んでくる可能性がなきにしもあらずであった。

 

 シャルティアが考え込んでいる間にソリュシャンが戻ってきた。シャルティアが入れそうなほど大きな箱を抱えており、中には空き瓶がたくさん詰まっている。

 ずんばらりんが早速始まって、ソリュシャンはフレッシュブラッドを空き瓶に注ぎ始めた。

 血臭が鼻に届いているであろうにシャルティアは考え込んだまま。

 

 

 

 実のところ、おバカおバカを思われているシャルティアは、それほどおバカではないのである。

 どうすれば次に繋げられるのか、実に真っ当なアイデアを思いついて悪そうに口角を持ち上げた。

 

 ここにアルベドのお食事は終焉を迎えた。

 ここからはシャルティアのデザートが始まるのだ!!

 

 

 

「にまにま笑っちゃってシャルティア様どうしちゃったんすかね?」

「しっ! きっと起きたまま夢を見ていらっしゃるのよ。起こしてはダメよ」

「そこの二人! 講義の邪魔をするなら出て行きなさい!」

「「申し訳ございません!」」

 

 シャルティアがどんな夢を見ているのか、夢が実現するのか、それは誰にもわからない。




この後どうなるのか自分で書いておきながら全くわからない!


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ご主人様練習

前話サブタイの()内は(えのおんな)です


 屋敷をゆっくりと見て回る。

 

 二階部分はアルベド様のお食事部屋を始めとして、屋敷の住人達の居室がある。

 自分の部屋。隣が空き部屋なのはどうしてかと思ってたら覗き部屋。ソリュシャンの部屋。ルプスレギナの部屋。幾つもの客室に貴賓室。好き勝手使っているアトリエ。そしてアインズ様に設計していただいた上に加護の魔法まで掛けていただいた書斎。

 長い廊下は塵一つなく清められている。

 窓からは中庭が見えた。夜間訓練のため冒険者に貸しているという言い訳が通用するくらいに広い中庭。木々が精緻に配置され、それぞれの季節には花をつける。一角には大きく開けた空間がある。過日、ソリュシャンとルプスレギナが姉妹喧嘩した後に、喧嘩するならここで、ということで設けられた。訓練場めいた空間には、三日に十分くらいは剣を振りに行き、スクエアホライゾンキリングテックを形にしようとしてきた。

 

 一階の裏はメイドや使用人達が寝起きする部屋や生活に必要な場所が、表には応接間や食堂など社交の場がある。ちなみにメイド教官は特定の一人がずっと屋敷に寝泊まりしているわけではないため、二階の客室の一つを使用する。

 二階をメイドたちが騒がすことは許されない。すべきことを終えたら早々に退出しなければならない。メイドが多くいるのは一階で、すれ違うことも多い。

 仮初めであっても一応はご主人様の若旦那様なので、メイド達はすれ違うたびに手と足を止めて挨拶をする。頻繁に行き来されると仕事の邪魔になるのだが、若旦那様はそんな細かな気遣いが出来る人間ではなかった。メイド達とて、仕事が遅れてしまうのは困るのだが、若旦那様のお顔を拝見できるのはとても嬉しいことだ。

 今も一人のメイドが深々と頭を下げている。

 すれ違いざまに背後へ回り、突き出したお尻をペロッとタッチ。

 

「いやん、若旦那様のエッチ!」

「いい尻だ」

 

 こんなのが日常である。

 しかし、これも触り納め。明日にはエ・ランテルを離れなければならない。

 そんな感慨をもって屋敷の中をうろついていた。

 

 屋敷で暮らす内に記憶の宮殿は大きく増築され、そこにはこの屋敷が丸ごと入っている。隅から隅まで精密に再現されており、各部屋にはそれぞれの記憶が収められている。中でもアルベド様のお食事部屋は十柱以上のアルベド様がおわす神聖な場所。

 屋敷の中に改めて見るところはどこにもない。それなのにあちこちを見て回りたくなるのは、それなりに長く暮らしたので愛着が出てきたからだろう。狭い石の部屋を抜け出してから初めて住み暮らした場所なのだ。

 

「あの……若旦那様?」

「なにかな?」

 

 触られた部分を押さえ、頬を染めたメイドが擦りよってきた。内緒話をするかのように声が小さい。

 

「最近は……夢精、大丈夫でいらっしゃいますか?」

「ぅ………………」

 

 たった一言で形勢逆転。頬の赤さが染った。

 

「……だいじょうぶ、だよ」

「本当ですか? 夢精をしなくなる処置は必要ではありませんか?」

「いやそれは……」

 

 若旦那様に夢精の件を話すメイドは稀にあった。とてもお綺麗な人と思うのに、頬を染めるのが可愛らしくてついやってしまうのだ。そこには大きな下心がある。

 夢精をしなくなる処置とはすなわち男と女の関係になること。お屋敷の若旦那様とそんな関係になれれば、正妻は夢のまた夢としても、愛人の一人くらいにはしてもらえるかも知れない。

 超玉の輿があるにせよないにせよ、こんな人とそんなことにと夢見るメイドは多かった。

 

「私には経験がありませんけどきっと上手にやれると思うんです」

 

 エ・ランテルのお屋敷にメイドとして勤められるということは、生まれは貴賤を問わないので不明であるが、それなりの容姿を誇る若い女性と言うことである。

 お屋敷で使用人達に提供される食事は、使用人に供するのは勿体ないと思われるほど上等で、自然、勤める内にメイド達の栄養状態は格段に改善されていく。それと正比例してメイドのお仕事はとてもハードだ。若旦那様は癒しだが、お嬢様とメイド教官はとっても厳しいのだから。

 その甲斐があったのか生まれつきなのか、出るところは出て引くところは引く体形。若旦那様判定でいいお尻である。

 

「そこの部屋はさっき私が整えたばかりですから」

 

 いつになくグイグイ行く。

 若旦那様が明日にはエ・ランテルを離れてしまうことを知っているのだ。いつ戻るかは全くの未定。今日の今が最後のチャンス。

 どうせダメもと、ここで行かなきゃ女が廃る。

 

「一時間くらいなら抜け出しても大丈夫ですから。若旦那様のお手伝いをさせてください」

「別に手伝ってもらうようなことは……」

「私にお任せください!」

 

 手を引いてきたメイドがドアを開けようとしたその時。

 パン! と手を打ち鳴らす音が響いた。

 

「そこのあなた、こんなところで何をしているの? しかも若旦那様をお引き留めして。早く仕事に戻りなさい」

「はい、シクスス教官!」

 

 メイドは元気に返事をして駆けていった。

 

「廊下を走ってはいけません!」

「はい、申し訳ありません!」

 

 最大限の速度で歩き去っていった。

 後には若旦那様とメイド教官のシクススが残された。

 

 

 

 

 

 

 どうぞこちらに、と先のメイドが誘おうとした部屋に連れ込まれた。

 先のメイドより出るところが出ているシクススは、極自然に胸の下で腕を組み、大きな乳房を強調した。強調したくて腕組みをしたのではない。これから若旦那様を叱らなければならないので、厳しさを装っているのだ。

 

「今、何をしようとしていたのですか?」

「俺に聞かれても困るよ。さっきの子に聞いてくれ」

 

 シクススは、はああぁぁ……と大きな溜息を吐いた。

 若旦那様は明日エ・ランテルを離れる。そして帝国で暮らすことになる。帝国でもその調子でいられるととても困るのだ。

 

「今まで言うべきかどうか迷っていましたが、この機会に言わせていただきます。若旦那様は隙がありすぎます。もう少し気を付けてください」

 

 誘われたらほいほいついて行く。そうなれば間違いが起こりかねない。それはとても困ることなのだ。

 

「隙って何の?」

「どうしてわからないんですか!」

「わからないから聞いているんだけど?」

「う~~……。いいですか? 若旦那様はこのお屋敷の若旦那様なんですよ? メイド達のご主人様なんですよ?」

「いやそれは、まあ一応はそうなってるね」

 

 真のご主人様はアルベド様で表側の主人はソリュシャンお嬢様である。若旦那様はおまけっぽいが、それでもメイド達はかしずかなければならない相手であることにかわりはない。

 

「それなのにどうしてメイドからやりこめられてるんですか。若旦那様ははっきり言ってメイド達から甘く見られてるんです!」

「別に困ってないよ?」

「ダメです! もっとしっかり厳しいご主人様になってください」

 

 帝国での暮らしがどうなるか不明である。

 それでもシクススが推測するに、それなりの屋敷で使用人もそこそこいることだろう。使用人の中で、やはりメイドが問題になるのだ。

 

 エ・ランテルでのメイドとは職業である。

 これが帝国や王国の貴種に仕えるメイドとなると、少し違ってくる。メイドには給金を払うので職業と言う意味では同じだが、なり手が違うのだ。

 エ・ランテルのメイドは広く人を募って教育をしているが、貴種に仕えるメイドとは始めから仕上がっている。それというのも、幼い頃から上等な教育を受けているからである。メイドとしての教育ではない。貴婦人になるための教育。

 つまり貴種に仕えるメイドとは、貴族の娘達が結婚前の行儀見習いとして行うものなのだ。

 これが男の場合、懇意な貴族の従僕などをして領主になるための修行を積む。

 

 と言うのが表立った理由になるが、貧乏貴族の娘が働き口を探して他家のメイドになることは珍しいことではない。

 それでも庶民ではなく貴族である。

 エ・ランテルにいるときと同じようにしてもらっては困るのだ。

 と言うことを、若旦那様はシクスス以上に知っているはずである。なにせ、帝国の書物を要約してアインズ様へ報告するのが仕事の一つだったのだから。

 しかし、わかっていようとダメなものはダメで、シクススの目からすれば隙が多すぎて心配で放っておけない。

 

「メイドの叱り方を覚えてください。私が練習に付き合いますから」

「いやそんなの練習しなくても」

「練習します」

「……はい」

 

 帝国で恥をかかないためにご主人様の練習をすることになってしまった。

 

 

 

「私が失敗したメイドの役をしますから、若旦那様はご主人様として叱ってみてください。大きな声出したり叩いたりするのは絶対ダメですからね」

「わかったよ」

「ああっ、ご主人様のズボンにお茶をこぼしてしまいました。申し訳ございません!」

 

 コホンと咳払いしてあーあーと喉の調子を確かめる。

 なるたけ威厳があるようにと、眉間に皺を寄せて目を吊り上げた。

 

「この無能が。お前はこんな簡単なことも出来ないのか。役立たずめ」

「…………」

 

 シクススの目も吊り上がった。

 メイドが標準装備しているピッカピカに磨き上げられたシルバートレイを振り上げ、

 

「いてっ」

 

 若旦那様の向こう脛を思い切り蹴りつけた。

 若旦那様が痛みに強いことはシクススも知っている。しかし無敵ではない。ビックリさせる要領で不意を打てば痛い目に遭わせられるのだ。

 

「誰が罵れって言いましたか! 私は、叱ってください、って言ったんです。やり直してください」

「むう…………。私は大丈夫だよ。火傷しなかったかい?」

「それじゃいつもと同じじゃないですか。気遣いが出来るのはよいことです。ですが、今は叱り方を覚えて欲しいんです。やり直し」

「……体の構造上、歩くと重心が上下に振れるからトレイを持って歩くときは」

「そう言ったことは私たちが指導しています。もう一度」

「ズボンが濡れちゃったから替えを持って来てくれないか?」

「それは指示です。私は叱ってくださいと言ったんです。もう一度です」

 

「少し良くなってきましたが優しすぎます。もう少し厳しく」

 

「どうしてそんなに極端なんですか! 間を取ってください」

 

「ですから言葉はこのように」

 

「表情も大切です。厳しさの中に優しさも入れてください。もうちょっとこう……」

 

「腕はこうして、次は私の……」

 

 十数回のリトライとシクススの演技指導の甲斐あって、ようやっと形になりつつあった。

 

 

 

 シクススは壁際に追いつめられた。

 逃げようにも顔の横にドンと手を突かれて動けなくなる。

 顔が近い。恥ずかしい。思わず顔を伏せてしまったが、顎に手を添えられてクイと上を向かされる。真っ直ぐに赤と青の目を見つめさせられた。

 

「いけない子猫ちゃんだ。そんなにお仕置きが欲しいのかい?」

「あう……どうかお許しください、ご主人様」

「ダメだな。シクススはお仕置きが欲しくてこんなことをしたんだろう?」

「そんな、つもりは」

「正直に言え」

「あんっ! おっぱい触っちゃダメです……」

「お前は俺に命令するつもりか? これはお仕置きなんだぞ?」

「もうしわけ、ございません。どうぞ、シクススのおっぱいを、好きなだけ触ってください」

「いやらしい子猫ちゃんだ。たっぷりとお仕置きしてやろう」

「ああ……、シクススは、いやらしい子猫ちゃんです。ご主人様にお仕置きして欲しくてあんなことを……。んっ……」

 

 シクススの豊かな胸をご主人様が揉みしだいている。派手に動かしているので、メイド服に包まれていてもたぷんと揺れた。

 顎に添えられた手はそのままで、上を向かされている。顔を逸らすことが出来ない。

 シクススの潤んだ目は、キスの作法として閉じられた。

 唇に温かな吐息を感じて、ご主人様の唇が触れたかどうかと思えたその時。

 

「おにーさんが勘違いすると不味いっすから言っとくっすけど、メイドを叱るときにそんなのやっちゃ絶対ダメっすよ?」

「!? んむぅっ!??!」

 

 突如聞こえた第三者の声。

 シクススは驚愕に目を見開き、視界いっぱいにご主人様の顔が広がって、唇をふさがれた。

 

「んーーっ! あむぅ! んっ! んんっ! んふぅ……、ふっ……ぅ……れろ……」

 

 唇に唇を押しつけられ、開き掛かった唇の間にするりといやらしい舌が滑り込んできた。

 舌はあっという間にシクススの舌に届いた。舌を舌でつつかれて、ねだるように舐められ吸われると、いつもしていることだから反射的に応えてしまう。

 シクススからも舌を伸ばし、ご主人様の口の中へ入っていった。柔らかな舌同士が一つになろうと絡み合い、唇の感触を楽しもうと唇を舐めては甘く食み、こぼれそうになった唾は音を立ててすすった。

 唇が離れてしばらくの間、シクススはのぼせて何も考えられなかった。

 

「そーいうのがシクススの好みっすか?」

「!? ルプスレギナ様!?」

「結構前からいたよ。シクススは気が付かなかったのか?」

「どうして教えてくれなかったんですか!!」

「気付いてると思って」

「くぅうううぅうぅううぅうぅぅ~~~~!」

 

 顔から火がでるとはこのことかと思われた。

 異本によって刷り込まれた密かな好みを知られるのが恥ずかしければ、キスしているところを見られたのも恥ずかしい。

 気付いていたのなら教えてくれてもと思うが、だいぶ前からいたというのなら気付いてない方がおかしくて、だいぶ前とは一体どのあたりからなのか気になって仕方ないがそんなことを聞けるわけがなかった。

 一般メイドのシクススとプレアデスのルプスレギナを比べたら、ルプスレギナの方が序列が上になるのだから。

 

「そんなことより」

「そんなこと!? そんなことって何ですか!?」

「シクススがルプーに気付いてなかったことだよ」

「おにーさんてほんっとうにデリカシーないっすね。全く成長してないっすよ?」

「なに!?」

「いや本当全然ダメっすね! 後で叱っておくっすから、シクススはちょーっと我慢して欲しいっすよ」

「…………はい。かしこまりました」

 

 二階と違って一階のドアは薄い。

 とは言ってもエ・ランテルで一等上等なお屋敷なので、一般人がドアに耳を付けても部屋の様子はわからない。ルプスレギナだからこそ内部の様子を把握できたのだ。

 なにやら面白そうなことをやっていたので音を立てないようこっそりと中に入った。

 演技指導に熱が入っていたシクススは気付かなかったようだ。

 どうしてこんなことになっているか知らないが、メイドを叱るときのやり方というのは察しがついた。

 

「もう一回言っとくっすけど、メイドを叱るときにさっきみたいのは絶対にダメっすからね。あんなのしたら絶対勘違いされるっす」

「勘違い?」

「そっから説明するのも面倒っすね……。ともかくダメってことっすよ」

「でもシクススが教えてくれたんだぞ」

「…………今のは私専用の叱り方です。他のメイドへは違うようにお願いします」

「なん・・・だと・・・」

 

 あれだけ時間と熱意を掛けて指導され、きちんと応えたと言うのに全くの無駄であったらしい。

 

「叱るときはちょこっと怖い顔して、気を付けろって言えばいいと思うっすよー」

「怖い顔ねえ」

 

 唇をきゅっと引き結び、眉間に皺を寄せて目を吊り上げて見せた。

 

「全然だめっすね」

 

 怖い顔を装ってるつもりらしいが、中身が伴ってない。

 感情の起伏が平坦なので、いつもぼんやりとしているように見える。顔がいいのでぼんやりから穏やかそうにランクアップしている。

 穏やかな心で怖い顔を作ってもたかがしれている。

 そこを何とかする策を、ルプスレギナは持っていた。

 

「いいっすか? これから私が言うことをよく聞くっす。そしたら自然に怖い顔になるっすから、その顔をよーっく覚えとくっすよ」

「む、わかったよ」

 

 一体何を言われるのか身構えて、若旦那様の怖い顔を一度も見たことがないシクススは距離をとった。

 

「いくっす。…………、おにーさんのアホ!」

「…………?」

「……あれ?」

 

 言われた若旦那様も傍で聞いていたシクススも、きょとんと小首を傾げた。

 自己評価も他者からの評価も全く気にしない若旦那様はどう罵られようと全く意に介さない。興味がないので聞き流してる。外で鳴いてる鳥の囀りと一緒である。

 

「おかしいっすね。前はこれで滅茶苦茶怖い顔になったんすけど……」

 

 窓から身投げしようとしたおにーさんをアホ呼ばわりしたら、凄い顔で罵られたことがあった。

 そこはルプスレギナの認識が間違っている。

 身投げしようとしたのはアルベド様のためであり、アルベド様のためにしようとしたことをアホと言われて怒ったのだ。アルベド様から「顔も見たくない」と言われて憔悴しきっていたことも大いに関係する。

 

 続けてバカだとかスケベだとか、色々と罵ってみたが効果はなし。むしろ隣で聞いてるシクススの方が怖い顔になっていく。

 これは禁じ手を使うべきか。しかし、禁じ手なだけあって、下手に使うと自分にダメージがあるかも知れない。

 ルプスレギナなりに真面目に考えて、

 

「もしも。もしもっすよ? そんなこと絶対ないっすけど、もしもの話っすからね?」

 

 そう前置いて言ってしまった。

 

「アルベド様の陰口を叩いてる奴がいたら…………」

 

 間近で見ていたルプスレギナはゾクリと来た。

 どんなに怖い顔をしようと、脆弱な人間であることに変わりはない。自分の方が遙かに強く、やろうと思えば一瞬で命を奪える力がある。そんなことにすがらなければならないほど、気圧されてしまった。

 アルベド様を侮辱された憤怒と憎悪、度し難い愚か者への嫌悪、世界のために一刻も早く除去しなければならない使命感。いずれもが最大限にまで高まって、秀麗な美貌を歪めていた。

 

「む……………………。この顔か」

 

 二人の間に、シクススがとっさにシルバートレイを差し込んだ。

 ピッカピカに磨き上げられたシルバートレイは鏡代わりにもなる。若旦那様はトレイに映った顔を崩すことなくしばらく眺め、一旦いつもの顔に戻って、もう一度怖い顔を作った。

 ふむふむこの顔だな、と独りごちる若旦那様を、二人は遠目に見た。

 

「……私が教えたのより不味かったのではないでしょうか?」

「そう、かも、っすね……」

 

 シクススが悪ければルプスレギナも悪い。

 尤も、怖い顔を作っても感情を伴わなければそれほどのものでもないのだが。

 

 

 

 ともあれ、エ・ランテル最後の日はこのように過ぎていった。

 

 ソリュシャンはと言うと、昨日の夜からずっと瞑想していた

 ソリュシャンはショゴスであり、成人男性一人を体に取り込んでも外見は全く変わらない。ところが昨日はお兄様の手足を多数取り込み、その体積は成人男性六人分を優に越えた。その上とっても美味しいお兄様のお肉。

 ちょっとつつけば体が崩れ、ちょっと気が散ると体内の手足を溶かしてしまう。

 エントマへのお土産のために、お兄様不在時のおやつのために、溶かさず取っておかなければならないのだ。

 既に脚を三本もトロトロしてしまっている。

 ソリュシャンが動けるようになるにはもう少し掛かりそうだった。

 お兄様が出立する明日に間に合うかどうか微妙である。




もっと短くまとめて出発の日につなげたかったんですが長くなったのでここらで

ソリュシャン一時離脱、ルプー同行
メイド勢はどうすべきか悩みます

ところでタバコ値上げ前に買いだめしてたのが尽きました
一割近くも高くなったので禁煙する予定です
俺はここ十年で二度の禁煙に成功した男! きっと何とかなる
でも何とかなるまで時間が掛かるかもです
そんなわけで次は間が空くかも知れません


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二人乗り

息継ぎするように通常投稿にしてみる
そろそろ大丈夫だろうか?


 夜が明けて朝になってしまった。エ・ランテルを離れる日が来てしまったのだ。

 見上げれば鬱々とした曇り空。まるでエ・ランテルから追い出されることを嘲笑っているかのようだ。ギリギリと歯軋りしながら天を睨みつけても自業自得でどうにもならない。

 すると、ぽつりと小さな雨粒が頬を打った。雨はそれきりで、石畳に濡れている箇所はない。外に出ている他の面々も雨を感じてないようだ。これは天から唾を吐きかけられたということか。

 何という門出だろう。帝国での生活を暗示しているように思えてならない。まさかいつの日かエ・ランテルに戻るまでアルベド様にお会いできないのだろうか。

 

「お兄様、どうかお気を付けて。私も後ほど参りますから」

 

 せめてもの慰めは別れを惜しんでくれる人がいること。

 屋敷のエントランス前にはメイドや使用人達が勢揃いして、中央にはメイド教官に支えられているソリュシャンが神妙な顔をしている。一昼夜の瞑想で何とか動けるようになりはしたが、メイドの介助が必要らしい。

 

「馬車はもう来てるっすよ。雨が降らない内に出発するっす」

「……ルプー姉様、どうかお兄様のことをよろしくお願いいたします」

「そりゃもちろんっすよ。私に任せておけば全然問題ないっすから。くっふっふ……」

 

 ルプスレギナは帝国へ同行する。

 元々彼の回復係としてエ・ランテルに招喚され、聖王国での作戦にも参加しない。何よりも、彼自身がルプスレギナが必要と主張した。必要とした理由は知れたこと。エ・ランテルにいる間に何度瀕死になったか数えれば自明の理である。

 

「若旦那様、荷物はすでに運び込んであります。お名残惜しいのはわかりますが、そろそろ」

 

 メイド教官の一人であるシクススも同行する。

 ルプスレギナはプレアデスの一人でありメイドでもあるのだが、あくまでも回復係兼護衛として同行する。生活能力がない若旦那様の世話を焼く者が必要なのだ。そのあたりは帝国で手配できるだろうが、何から何まで向こうの世話になるわけにはいかないのである。最低でも一人くらいは、と言うことでシクススが立候補した。仲良しのフォアイルとリュミエールから大いに心配されて、定期的に手紙を書くことを約束した。

 

 屋敷の門の向こうではエ・ランテルで一番上等な馬車が待機している。持って行く荷物は全て運び込まれ、後は帝国へ向かう三人が乗車するのを待つばかり。

 

「そうだね。行ってくるよ」

 

 ソリュシャンへ、しばしの別れにと抱擁しようとしたが目で止められた。お兄様の手足をいっぱい収納しているソリュシャンはわりとかなりいっぱいいっぱいである。余りにいっぱいすぎて、昨夜は更に一本の腕と二本の脚をトロトロしていた。

 苦笑して耳元へ唇を寄せ、触れずにちゅっと鳴らした。

 ソリュシャンの輪郭がほんの一瞬だけ崩れたのは、ルプスレギナしか気付かなかった。

 

「みんな、留守の間たの、んだ……よ……?」

 

 使用人達へも別れの言葉を告げようとしたが、言葉尻が締まらなかった。予想も出来ない光景に呆気にとられた。

 

 屋敷のエントランスから門へと続く道の真ん中に、真っ暗な球が現れたのだ。

 暗い球形はゲートの魔法。

 ナザリックでゲートの魔法を使うのは、まずアインズ様。次に、

 

「間に合ったようでありんすね」

「シャルティア様?」

 

 移動にゲートの魔法を多用するのはシャルティアである。

 先の遠征を終えてから、遊び以外にちゃんとしたお仕事でエ・ランテルを訪れるようになり、屋敷の使用人達にも、エ・ランテルの住民達にも知られつつあった。

 シャルティアがゲートから出てきても門は消えない。それどころか、縦にも横にもシャルティアの上背の倍以上の大きさはシャルティア一人が潜るには明らかに過剰。

 

「ほら、早く来なんし」

 

 推測を裏付け、間を置かず次なる者が門から姿を現した。

 カツカツと鳴るのは蹄が石畳を叩く音。

 全身を立派な馬具に覆われた馬が、一頭、二頭。都合、六頭も現れて、馬が引くのは馬具に負けず劣らず豪奢な馬車だった。

 

「この前は四頭立てに乗ったと聞きんしたから六頭立てを用意したでありんすよ」

 

 ナザリックからエ・ランテルまで移動する際に、アルベドが用立てたのは四頭立て。自分は六頭立て。誰が見ても自分の勝ち。シャルティアは、ふんすと胸を張った。

 

「帝国に行くでありんしょう? これに乗っておくんなしえ。わざわざ用意したでありんすから。……お前は降りて挨拶しなんし」

 

 御者台には白い麗人が乗っていた。

 足首まである長いスカート。腕はフリルがある長い袖にドレスグローブ。豊かな尻と胸の間には蜂のように細い腰。ドレスは喉元まで覆い隠して肌が露出している部分はどこにもない。白い鍔広の帽子にはやはり白いベールが垂れ下がって顔を隠す。

 全身を白く隠した女性は、長い黒髪を靡かせて、御者台からシャルティアの後ろまで一足跳びに降り立った。

 一歩二歩と彼の前にまで歩み進むと、純白のドレスが地につくのも構わず跪く。

 

「シャルティア様より、あなた様を我が君と思ってよく仕えよと命じられました。何なりとお使いください」

「お前一人では心配でありんすから、お守りにこいつをつけることにしんした」

「シャルティア様、恐れながら彼の者の護衛には私がおります」

「護衛は幾らいてもいいでありんしょう?」

「……その通りでございます」

 

 実に真っ当な正論によって、ルプスレギナはシャルティアに退けられてしまった!

 

「よろしくお願いいたします」

 

 一礼して顔を上げ、彼にだけ見えるように少しだけベールを上げた。

 蒼白の肌に真紅の唇。そして唇よりも赤い輝く瞳。シャルティアのシモベであるヴァンパイアブライド。中でも先の遠征に随行させたエリートシックス。その中で唯一人処女を散らすことが出来たヴァンパイアブライドエリートシックスにて最強の者である。

 エ・ランテルから帝国に行かれると、シャルティアは今までのようにちょくちょく遊びに行くわけにいかなくなる。よって、繋ぎとして自身のシモベを護衛としてつけるのは、シャルティアにしては実に真っ当なアイデアで反論しづらい。

 

「あんな馬車よりこっちを使いなんし。こっちの方がずうっと速いでありんすから。出来れば私が送ってやりたいところでありんすが、こう見えてけっこう忙しいでありんすよ。私と来たらそれはもうアインズ様からもうもんのすっごく期待されてありんすからにして、その忙しい私がわざわざこうしてお前のために用意してやった心を………………あ゛あ゛!?」

 

 長々と恩着せがましい口上を述べていたシャルティアは、唐突に言葉を止めて空を見上げた。まだ雨は降っていない。

 代わりに、シャルティアの視線の先には小さな黒点があった。

 黒点は見る間に大きくなり、姿形が確認できる大きさにまでなるや否や、屋敷の中庭に墜落した。飛んできた速度の割には響きわたる衝突音は小さなもので、墜落ではなく正しい着陸であったようだ。

 

「なんでおチビが来るでありんすか!」

 

 メイド達は飛んできたものの異様さに硬直している。恐慌に陥ってもおかしくないが、何とかその場に踏みとどまっていられるのはメイド教官からの日頃の教育の賜物だろう。

 そのメイド教官はあんぐりと口を開けている。

 ソリュシャンお嬢様も似たり寄ったり。ルプスレギナも何がどうしてそうなったのかよくわからず呆けた顔を見せた。

 平然としているのは、驚いたりする神経が死んでる若旦那様だけである。

 

「あれ? なんでシャルティアがいるの?」

「それはこっちの台詞だ!」

 

 飛んできたのはでっかいドラゴンだった。エ・ランテルどころか王国全土を焦土に変えうる凄いドラゴン。そんなドラゴンに乗ってくるのは、マーレかアウラのどちらかしかいない。

 ドラゴンは中庭の訓練場めいた空間に着陸し、空中で飛び降りたアウラは屋敷のエントランスに。幼い美貌のダークエルフが、皆が集まってる真ん中に降り立った。

 

「私はこいつを帝国に連れてってあげようと思って来たんだけど? なに? シャルティアは……、馬車? ふふん、ドラゴンと馬車はどっちが速いと思う?」

「ぐぬぬ……!!」

 

 息をするようにシャルティアを煽るアウラだが、実のところ仲良しである。喧嘩するほどなんとやらだ。

 

「アウラは帰りなんし! 仕事をサボって何してるんでありんすか!」

「サボってないって。警戒ルートの確認がてら送ってくってアインズ様にご報告してあるし」

「ドラゴンより私がゲートで送った方が速いでありんす!」

「シャルティアの魔法ってそんなに遠くまで行けるんだっけ? その方が速いかもだけど、シャルティアこそこんなところでのんびりしてる時間はないんじゃない?」

 

 シャルティアが自分で言ったとおり、時間があるなら自分で送りたいところを、忙しいからシモベに任せることにしたのだ。

 一瞬で送れるにせよ、一緒にいるのが一瞬だけでは意味がない。一緒にいる時間が大事である。

 それに帰るならアウラではなくシャルティアの方。シャルティアの目的は護衛をくっつけることであって、それは既に成功している。帝国まで送り届ける必要は特にない。向こうで合流すればよいのだ。

 そもそも本当に割と忙しい身の上。遠征で見せた成長ぶりにアインズ様はシャルティアを大いに評価し、新たな仕事として、今までシャルティアが担ってきた物資輸送を発展させ、魔導国の物流を任せることにした。飛行モンスターを自在に使えるナザリックならではの航空便を始める予定である。アインズとしてはアルベドの助言の元、それ以上を考えてはいるのだが、一気にしてしまうとシャルティアがオーバーヒートするのでまずはぼちぼちと、である。

 だからといって、アウラ相手にシャルティアが退けるはずがなかった。女の意地。あるいはシャルティアの創造主であるペロロンチーノが密かに持っていた弟の意地かも知れない。シャルティアの創造主とアウラの創造主は、実の姉弟だったのだ。

 

「私がのんびり出来ないってわかってるならアウラが退けばいいでありんしょう!」

「……それもそうだね」

「へ?」

 

 アウラは両手を挙げて苦笑した。

 いつになくあっさり退いたアウラにシャルティアが呆気に取られたその瞬間である。

 

「うおっ!?」

「しっかり捕まってて」

 

 アウラは帝国へ送り届ける荷物を担ぎ上げた。

 肩に担ぐには体の大きさが足りないので横抱きである。いわゆるお姫様抱っこ。

 

「ごめんね、このドラゴンは二人乗りなんだ!」

 

 荷物を担いだアウラが中庭の奥に消えると、ややあってドラゴンが飛び立った。

 残された一同はぽっかーんと口を開いていた。

 いち早く我に返ったのはシャルティアだ。戦闘者の本能が急変する事態に警鐘を鳴らした。

 

「追いかけろーーーーーっ!!」

「はっ! 直ちに!」

 

 ヴァンパイアブライドが、飛び降りたときと同じように一足跳びで御者台に飛び乗った。

 鞭を振り下ろし、前脚を高く上げた六頭の馬が走り始める。

 馬具に隠れた中身はオーガより強いアンデッド馬。それが六頭。

 猛加速した馬車は、屋敷の門が開くのを待たずにギュガーン! と弾き飛ばして駆けていった。

 

「…………私たちは普通の馬車でのんびり行くっすかね」

「……はい、それがいいと存じます」

 

 ルプスレギナとシクススは、門の向こうで待っている馬車に乗り込んだ。

 もしも門前にピタリとつけていたらアンデッド馬車に爆散されていたところ、門を塞がないように停めていたのが良かった。マナーの勝利である。

 

 後には全壊した屋敷の門が残された。

 ソリュシャンは、シャルティア様に壊されましたと報告することに決めた。

 

 

 

 

 

 

「すげー! すげー! エ・ランテルがもうあんな遠くに! 地平の向こうまで見える! 大地が丸いのは本当だったんだ!」

「空飛ぶのって初めて? 嬉しいのはわかるけど落っこちないでよ。死ぬから」

「はい! 死にたくないので気を付けます!」

 

 空の二人。

 アウラはいつも通りに乗っているが、ドラゴンに乗るのも空を飛ぶのも初めてな若旦那様は、ドラゴンの長い首にすがりついて眼下を見下ろし、どこまでも遠く見渡せる地平に見入っていた。

 大興奮、超興奮である。

 眼下に映る光景と頭の中にある地図を照らし合わせ、真下に見える地形から現在地を推測する。振り返って遠くなったエ・ランテルの距離と見下ろす時の角度を大雑把に計算。両者を合わせて現在の高度を導いた。1000メートル以上の高さなのに雲は更に上にある。辞書を読んでも雲の高さなんて書いてなかった。知らないことはまだまだ幾らでもあると好奇心が刺激される。

 

「アウラ様、このように素晴らしい景色を見せていただき、まことにありがとうございます!」

 

 今日は鬱々とした始まりだったのでどうなるかと思っていたら、素晴らしいご褒美が待っていた。

 思えば、以前もアウラ様からの厚意を与ったことがある。

 

「以前もオーガと戦わせていただき、ありがとうございます。機会がなかったので礼が遅くなってしまったことをお詫び申し上げます」

「え? あ、うん。わざわざ野良オーガ探してあげたんだよ? どうだった?」

「楽しかったですよ。コキュートス様からいただいた剣はとても良い切れ味で快適でした。回復力があるのも良かったですね。何度も切れ味を試せましたし」

「……うん、喜んでもらったなら良かったかな。……マーレがずいぶん懐いちゃったみたいだからサービスしたけど、あんまり贔屓するとちょっとあれだからね。内緒にしといてよ」

「かしこまりました。私のためにありがとうございます」

 

 アウラがわざわざこの男の宅配を名乗り出たのは、以前オーガをけしかけた件について口止めを行うためだった。

 ところが、いい子ちゃんなアウラは日頃の行いがよかったようで、拍子抜けするほどあっさりと目的を達した。

 達してしまったからもういいやと言って放り出すわけには行かない。

 帝都までの長い距離を、二人きりの旅が続く。




禁煙を始めたからと言ってすぐにゼロにしたがるのは素人、プロはまず本数を減らす!

ここ一ヶ月くらい、投稿してから寝ると感想もらう夢を見ます
前はこんなことなかったんですが


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目覚め、かも ▽アウラ♯1

 ぽっかぽっかと馬車が行く。

 エ・ランテルから帝国の帝都まで、急いでも三日は掛かる。主役の若旦那様がいないのは寂しいところだが、事故にあったと思って諦めることにして、ルプスレギナとシクススは馬車の旅を楽しむことにした。

 

 エ・ランテルを発って二時間後、街道の端に先に行ったはずのアンデッド馬車が停まっていた。

 

「ルプスレギナ様、シクスス様、お待ちしておりました。どうぞこちらへお乗り替えください。荷物は私が移し替えます」

「アウラ様を追いかけたんじゃなかったんすか?」

「天駆けるドラゴンに馬車で追いつけるはずがございませんので」

 

 そりゃそうである。

 速度云々以前に、地を走る馬車では空を飛ぶドラゴンに追いつけるはずがない。お屋敷の門をぶち破って猛発進したのは、急いでいるところをシャルティアに見せるためである。シャルティアがシモベの使い方を覚えたように、ヴァンパイアブライド達も女主人の扱い方を覚えつつあった。

 

「ミラとお呼びください」

 

 ヴァンパイアブライドはベール付きの帽子を脱いで素顔を見せた。

 

「じゃあ早速聞くっすけど、シャルティア様はどーいうつもりでミラを寄越したんすか?」

「シャルティア様が仰せになった通りでございます。あのお方の護衛として私の派遣をお決めになりました」

「あのお方って……」

 

 ルプスレギナとシクススは顔を見合わせた。

 

「それだけでは納得されないと思われますので、シャルティア様の真意をお話しいたします。シャルティア様が帝国にいらした折りにあのお方との逢瀬を楽しめるよう、あのお方のご都合を調整するのが一番の役目になります」

 

 ミラは荷物を移しながら答えた。蠱惑的な手弱女に見えるがヴァンパイアブライドである。重量にしてシクスス五人分の荷物くらい軽いもの。十人分でもいける。

 

「じゃあ二番は何っすか?」

「シャルティア様はあのお方の血が大変お気に召したようでございます。時折でよいので、採血して届けよとお命じになりました」

「三番は?」

「それは…………あのお方のお側に侍ること以上に求めるものは何もございません」

 

 荷移しで疲れたわけではないだろうに、ミラは蒼白の肌をほんのりと染めて答えた。

 

(シクスス、これヤバいっすよ。間違いなくおにーさんにマジ惚れしてるっす!)

(あんなにいやらしい若旦那様のどこがいいんでしょうか?)

(それ言うならシクススも一緒じゃないっすか)

 

「うぇっ!? 別に私は、そんなつもりは」

「どうなされましたか?」

「え、いえ、何でもないです。それより向こうでの役割を相談しないと。若旦那様の身の回りのお世話は私にお任せください」

「承知しております。私ではシクスス様のようにきめ細やかな心遣いは出来ませんので」

「私に様をつけるのは止めてください。私はメイドです。様付けされて良い身分ではありません」

 

 エ・ランテルで雇ったメイド達からは教官と呼ばれたり、シクスス様と呼ばれることもあった。しかし、ナザリックの仲間から様と付けられるのはむず痒いやらもどかしいやらで如何ともし難い。至高の御方々に敬意を払うのは当然だがそれとは別だ。

 

「そうは仰いますが、シクスス様は至高の御方々の御手によって創造なされた方です。単なるシモベに過ぎない私が気安く呼ぶわけには参りません」

「では私は貴女のことをミラ様とお呼びさせていただきます。よろしいですね?」

「私ごときをシクスス様がそのようにお呼びになっては」

「あーもうそんなのどっちでもいーじゃないっすか。これからはシクススさんとミラさんで決定っすね! でも私のことはルプスレギナ様でよろしくっす」

「……わかりました」

「……かしこまりました」

 

 焦れったくなったルプスレギナが上位者の権限でもって呼び方を決定した。権力とはこういうときに使うのだ。

 

「で、ミラはおにーさんのどこがいーんすか? エッチテク?」

「それは……」

 

 うっすらとだったのが紅潮してきた。

 荷移しは完了して、乗ってきた馬車はエ・ランテルに引き返させた。当初の予定の十分の一も走ってないが、代金は既に支払われている。きっとほくほく顔で飲み屋に行くことだろう。

 

「あのお方にお会いしたのは、シャルティア様がナザリック第二階層死蝋玄室にお連れなさった時でした」

 

 振り返れば酷いマッチポンプになるのだが、あの男に煽られたシャルティアがヴァンパイアブライド達を殺そうとしたところを止め、もっと優しく扱うようにと忠言した。シャルティアは男の言葉をよく聞き、感情のままひた走るだけでなく我慢を覚えた。シャルティアの成長は先の遠征に発揮され、アインズ様からお褒めの言葉を授かったのだ。

 褒められたのはシャルティアを諫めたヴァンパイアブライド達も。

 自分たちは至高の御方々が直々に創造なさったシモベではない。死ねば幾らでも代わりが湧いてくる固有名を持たないモンスターだ。そんな自分たちを、至高の御方々の頂点に立つ偉大なるアインズ様がお褒めくださった。

 ヴァンパイアブライド達の感激は一通りのものではなかった。己が生まれた価値を、いつどこでどのように死ぬことになっても歓喜の中に死ねるであろう掛け替えのない宝物をいただいたのだ。

 更にはシャルティア様より個々の名前をいただいた。

 斯様な成果に繋がったのは、あのお方がシャルティア様へ諫言なさってくださったから。

 あのお方のために死ぬのなら是非もなし。

 

(ヤバいほどガチっすね)

(私、そんなに優しくしてもらったことないんですけど)

 

「それでは出発いたします。馬はアンデッドですので、御者はこのまま私にお任せください。夜を徹して走ります。明日には帝都に着くと思われます」

 

(シクススはライバル登場っすね)

(別に私はそんな……)

(それじゃシクススがおにーさんとエッチする時間もらっていいっすよね?)

(それとこれとは違いますから!)

 

 エッチなメイドと戦闘メイドである。

 白い麗人が駆る馬車は、今までの倍以上の速度で走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、空の二人は更に高く舞い上がっていた。

 鬱々とした曇り空はついに雨を落とし始め、濡れるのを嫌ったアウラが雲の上に出た。

 雲の下では雨だったのに、雲の上ではどこまでも続く青い空。眩しい陽光が純白の雲海を照らしている。同乗者の感激は飛び立った時よりも激しく、子供みたいだとアウラは笑った。

 

 遙か左後方に見えるのがアゼルリシア山脈。

 南北に連なる山脈を囲うのがトブの大森林。カルネ村は山脈の南端、トブの大森林の近くにある。エ・ランテルはそこから南に位置する。

 帝国は山脈の東にあり、王国は西にある。カルネ村は両者の境界付近の難しい土地にあったため災禍に見舞われた。

 デミウルゴス扮するヤルダバオトが活躍する聖王国は王国の更に西。海に突き出た半島にある。と言うことは、カルネ村近隣にあるナザリックが聖王国を目指すとき、王国を横断していくのが近道なのだ。

 

 アウラはそんなことを話しながらドラゴンを駆っている。

 男は一々頷いて聞いてくれるので、なんだか話しやすい。

 ハムスケの話も出た。

 

「アウラ様の前でハムスケさんの毛皮をモフモフに出来なかったのが残念です」

「あー、それね。本当にハムスケの毛が柔らかくできたの?」

「はい、実際にハムスケさんの毛を使って試しましたので、あとは本体に同様の処置をするだけです」

「処置って。でも柔らかくなったら防御力が落ちたじゃダメだよね。そこのとこはどう?」

「……盲点でした。簡単に千切れはしませんでしたが。耐久力の試験を追加します」

「よくわかんないけど、モフモフになって弱くなりましたじゃアインズ様怒るからね」

「仰るとおりです。ハムスケさんを加工する前にアウラ様にお話しできてよかったです」

「加工って」

 

 この男はマーレのパンツを履いたかも知れない妖しい男だが、中々の聞き上手だった。

 アインズ様がモモン様になって何度か会いに行ってるのが羨ましいと思うと同時にわからなくもない。

 そしてやっぱり見た目が良い。

 ナザリックの階層守護者であるアウラからすればどうしたって脆弱な人間となるのだが、視界に入れっぱなしでも不快ではなかった。

 ナザリックで人の形をした大人の男はデミウルゴスとセバス、ヴァーミンロードだけどおまけしてコキュートス。その他にとなるとデミウルゴス配下の悪魔やセバス配下の男性使用人がいるが、アウラとはあまり接点がない。成人男性が単純に珍しいというのもある。

 マーレのパンツを履いた疑惑があるのだが、その点に目をつむるとマーレが懐いたのもわからなくもない。

 アインズ様が仰っていたように、強者である自分たちに物怖じしないのは生意気だと思わなくもないけれど、ナザリックへの忠誠をしっかりと持っているので、まあそのくらいはいいかなと思わなくもなかった。

 と、少しだけ心を許してもいいかなと思い始めた時、別の疑惑があるのを思い出した。

 

「……そう言えば」

「はい、なんでしょう? ……あっ」

「ちょっ!?」

 

 アウラはドラゴンの背に座っている。

 男の方は景色がよく見えるからと首にすがりついていた。アウラに声を掛けられて振り向き、体がぐらりと傾いた。

 落ちそうになった男の手を、瞬時にアウラが掴んで引っ張り上げた。

 

「気を付けてって言ったでしょ! あんたが死ぬと私がアルベドに怒られるんだから! ……って」

「申し訳ありません。寒いなと思ってたら凍えたようです」

「……手がすごい冷たくなってる」

 

 アウラが握った男の手は、氷水に浸かっていたかのように冷えていた。

 

 雲の上にまで出たのだ。

 高速移動に伴う風はアウラの魔法の力で影響がない。と言うか、それがなければ空を飛べない。飛行速度が時速百キロだとしても風速は30メートルを超える。辺境の農村が更地になりかねない暴風である。優秀なレンジャーにして更に優秀なビーストテイマーであるアウラは騎乗用の道具を用いずドラゴンを駆るのだ。

 風の影響がなくても気温は別である。

 雲の上はざっと地上から五千メートル。山であれば夏でも雪があって不思議でない高さ。ものすごく寒い。

 100レベルのアウラはこの程度の寒さはへっちゃらだが、人間には厳しい環境だった。

 

「ペスからブレスレットもらったでしょ? つけてないの?」

 

 メイドのおもちゃになった代償に、ペストーニャ様から耐炎と耐氷の効果がある魔法のブレスレットをもらっていた。

 

「大変貴重な品ですので大切に仕舞ってあります。今頃はルプスレギナと一緒のはずです」

「あーいうのはずっとつけてるもんなの!」

「次からはそうします」

「あーもう仕方ないなあ……」

 

 雲の下に行くと雨に濡れる。かといってこのままだと凍える。そしてアウラは暖かくなる魔法もアイテムも持ってない。

 

「手、握っててあげるからもうちょっと我慢して」

 

 寒いくらいで死にはしないだろうが、目の前で凍えられるのも困ってしまう。もしもアルベドに報告されたら間違いなく小言を言われるのだ。

 

「でしたら抱っこしてもいいでしょうか?」

「うひゃぁ!? そーいうのはする前に言ってよ! 突き落としちゃったかもしんないでしょ!」

「ああ、アウラ様があったかいです」

「う~~~~……」

 

 ドラゴンの首から背中に移動して腰を下ろすと、アウラの手を握ったまま後ろから抱きついた。暖を取るためなので、アウラの小さな体を包み込むように密着している。

 もしもこれがアルベド直属でなかったり、さっきまで話して楽しくなかったりしていたら半殺しにした上でドラゴンの脚に掴ませて運ぶところ。

 幸いなことに、アウラから最低限の好感度は稼いでいたようだ。

 

「話の続きですが、そう言えば、何でしょう?」

「え? ああ、うん。そう言えば、この前シャルティアのとこで何してたの?」

 

 アウラとしては、ここまでストレートに聞くつもりはなかった。よからぬことをしていた可能性が大なので、もっと遠回しに聞くつもりだった。

 そう思っていたのに、突然後ろから抱きつかれた。

 双子の弟のマーレとは一緒に生活をしているし仲良し姉弟なので距離が近いのはいつものこと。エルフメイドたちはいつも過剰なほど世話を焼いてくる。だけれども、こんなにも距離が近くなることはなかった。抱きつかれたにせよ、ほんの一瞬の戯れに過ぎない。

 それなのに、今、大きな体で包み込まれている。

 ただただビックリしてしまって、ふりほどきたくなるほど不快ではないことには気づかなくて、刹那生じた心の隙が素直に口を開かせてしまった。

 

「マーレ様には少しお話ししました。ヴァンパイアブライドの方々へ従者としての心得を教示しました。それと僭越ながらシャルティア様へ、シモベたちの力を発揮できるよう適切に扱うよう忠言しました」

 

 アインズ様がシャルティアの成長を大いに喜び、勿体なくもお褒めの言葉を授けたのはアウラもよく知っている。シャルティアからうざっっったいほど何度も何度もイラつくドヤ顔で聞かされた。次に聞かされたら殴ろうと決めている。

 あのシャルティアがどうしてそんなことになったのかと思ったらこの男が影響していたようだ。

 

「でもそれだけじゃないよね?」

 

 パンドラズ・アクターから、シャルティアに拉致られたこの男の救助を要請されて死蝋玄室に乗り込んだとき、この男は大きな寝台の上にいた。半分裸みたいな格好をしたヴァンパイアブライドが何人もいた。もちろんシャルティアだっていた。

 マーレは何とも思わなかったようだが、アウラは違う。

 女の子というものは、おおむね男の子より早熟で耳年増なのだ。そしてアウラは幼く見えようとも齢80近いダークエルフ。見た目で侮ってはいけないのである。

 男と女がベッドの上にいた。

 なんとはなしに察するものがある。

 そこまで突っ込むつもりはなかったのに、驚いて心の空隙を突かれた。顔が見えないので思い切ってしまった。肉体的に接触して、ほんの少しだけ気が緩んだ、心を許してしまった。

 

 若旦那様はピンと来てしまった。

 アウラ様が一体何を聞きたいのかわかってしまったのだ。

 

「シャルティア様がヴァンパイアブライドの方々を可愛がっているのをご存じでしょうか?」

「まあ、一応。最近は扱いがよくなったって聞くけど」

「ではシャルティア様がヴァンパイアブライドの方々に奉仕させているのもご存じでしょうか?」

「奉仕? そりゃシャルティアのシモベなんだから当然じゃない?」

「その奉仕の方法についての指導をシャルティア様から要請されたのですよ」

「奉仕の方法? なにそれ?」

「手マンとクンニリングスです」

「てまん? くんに……なんとか?」

「手マンとは手で女性器を、おまんこを愛撫することです。大抵は指での挿入を伴います。クンニリングスは口や舌を使っての愛撫です」

「………………………………………………はあああぁぁぁ!?!?!」

 

 若旦那様はアウラ様の気持ちがわかってしまった。

 アルベド様が胸を痛めるレベルで女心がわからない若旦那様だが、男の子心は少しわかる。自分の過去はあまり役に立たないが、幼い頃に付き合いがあった悪童たちを思い出して察するものがあった。

 

 アウラ君は女の子の体に興味津々なのだ!

 

 この男、マーレを女の子と思っている。双子の姉と弟なのだから、必然的にアウラを男の子だと思っている。

 どちらが姉でどちらが弟なのか誰からも教えてもらってないので、服装からそう思っていた。二人とも幼く、声や体形から性別を判断できない。

 

「女性器をおまんこと呼びます。アウラ様はおまんこを見たことがありますか?」

「ななななななななななななななな!」

「ないんですか?」

「…………ないこともない、けど」

 

 飛びすぎた話に、アウラは言葉に詰まった。重ねて問われ、答えてしまった。

 アウラの答えに、男はくすりと笑った。ないだろうに、ないこともない、と強がるところが実に可愛らしい。

 ここは先達として、しっかりと説明するのが義務とわきまえている。

 

「おまんこは体が成熟する前だと股間にある一本の筋のように見えます。触った感触はとても柔らかくてぷにぷにしていますね。指で優しく押し広げると筋が開いて中身が見えるんです。だから割れ目と呼ぶこともありますね」

「ななな、なにいってんの!?」

「アウラ様に必要な知識です」

 

 アウラ君が大人の男性になって女性を愛するときに、なくてはならない知識である。なくても何とかなるかも知れないが、あった方が色々と上手く行くのは間違いない。

 内容はともかくとして、男の声音は誠実だった。アウラ様を思う衷心から話しているのだから。

 

「それともアウラ様はおまんこの正しい扱い方をご存じですか?」

「そ、そんなの……知るわけないでしょ……」

「でしたらそのままお聞きください。いずれ経験することでしょうが、知識があって困ることはありませんから」

「う………………、うん……」

 

 アウラは頷いてしまった。

 わけがわからない意味不明の話で、どうしたらいいのかわからない。

 他にどうすればいいのかわからなくて頷いてしまった。

 本当にどうしても聞きたくない話なら強く拒否すればいいのだが選択肢に上がらなかった。女の子は男の子より早熟で耳年増。全く全然これっぽっちの欠片も興味がないとは言えない。ナザリックではマーレの次に親しいシャルティアに通じる話なのだから尚更だ。シャルティアは知っていると思われることなのだから。

 

「おまんこの一番外側を大陰唇と呼びます。おまんこを広げた内側にも小さなピラピラがあって、そちらが小陰唇です。内側は外側よりずっとやわらかですよ。ぷにぷにじゃなくてトロトロです」

「…………」

「色も違います。どうやら肌の色は関係しないようですね。割れ目の内側は綺麗なピンク色ですよ。本当に体の内側と言う感じで、初めて見たときは生々しいと感じるかも知れません」

「ぴんく……。私みたいな肌でも?」

「そうですよ」

 

 アウラはダークエルフなので、肌の色は闇の影響を受けて浅黒い。それなのに内側はピンク色と聞いて、アウラは視線を俯けた。

 

「おまんこの上の方にクリトリスがあります。小さくて丸いので、肉で出来た豆のようです。刺激すると膨らんでくるのはちんこと一緒ですね」

「ち、ちん……!?」

「見たことくらいは……、さすがに勃起はまだですか」

「……ぼっきって?」

「ちんこが立つことを勃起って言うんですよ」

 

 まだ小さなアウラ君はおちんちんがおっきしたことないのかな、と思ったのだが勘違いである。

 アウラが見たことがある男性器は、当然のことながら自分のものではない。女の子のアウラちゃんにそんなのついてない。マーレ君のである。幼い双子の姉と弟なので、お風呂が一緒の時くらいあるのだ。

 

「ちんこは後回しにして、クリトリスです。通常は皮をかぶってて、勃起しても皮をかぶったままが多いですね。皮は簡単に剥けるので愛撫するときは皮をむくこともあります。ただし、クリトリスはとても敏感なようで、剥いて直にすると痛がる女性もいるので要注意ですよ」

「クリトリス…………」

 

 アウラは、呆然とオウム返しに呟いた。

 もはや恥ずかしいとか聞いてらんないとかの域を越えてしまった。雨に濡れるのが嫌でも雨が降ってくれば濡れてしまうのレベルで、聞きたくなくても聞いてしまう。どうにもならないのだから仕方ないことなのだ。

 アウラについているのはおちんちんではない。おまんこである。幼いのでまだ一本筋のおまんこ。

 うっかり答えてしまったように見たことはなくはないけれどじっくり見たことはない。割れ目を指で広げて内側を、なんて考えたこともない。

 陰唇の呼び名は知らなかった。そういうのがあるのは知っていた。

 クリトリスは存在も知らなかった。自分の体にはそんなものがついているのか。

 

「クリトリスはとても敏感なので、感じやすい部分です。気持ちよいところ、ってことですね。指で優しく擦ったり、舌を使って舐めてやったり」

「舐めるの!? そんなの汚いじゃん!」

 

 じっくり見たことはなくても、おしっこが出てくるところなのはわかっている。おしっこが出るところを舐めるのも同然で、汚いことにしか思えない。

 

「汚くなんてないですよ。舐めるときは綺麗にしてるでしょうし。そうだ、クリトリスは表に出てる部分に気を取られがちですが、見えないところも大切です。クリトリスの根本は体の奥へ沈んでるわけですが、その根本の辺りを扱いてやるのも良いです」

 

 アウラに握られているおかげで温まってきた手を使って実演した。

 薬指と中指をそろえてほんの少しだけ透き間を空け、上下に動かして見せる。指と指の間に挟まれるのがクリトリスの根になる。

 

「最初に言った通り、手マンはこの指を使って挿入することが多いですね」

 

 そう言って見せつけるのが、ピタリと揃えた中指と薬指。

 

「アウラ様はおまんこの穴のことがわかりますか?」

「え…………、おしっこの、じゃない、よね?」

「そっちは尿道口ですね。それより大きな穴がおまんこにあるんですよ。膣、と言います。入り口を指す場合は膣口と呼びますね」

「ちつ……?」

「割れ目の一番下のあたりです。これは経験がないと場所がわかりにくいので。ある程度の経験がある女性なら割れ目だけでなく膣も広がってくるので、見ればわかると思います」

「そ、そこに、どうするの?」

「始めこそ小さくて指なんて入りそうにないんですが、とても柔軟なんです。経験がない女性でもよく濡らせば指くらい入るんじゃないかな」

「ぬれる?」

「ああ、失礼しました。順序が逆になってしまいました。女性は性的に高ぶってくると、つまりは気持ちよくなってくるとおまんこを濡らすんです。膣から、挿入に備えて潤滑液を出すんですよ。それで濡れるわけです。挿入するときはよく濡らさないとダメですよ? じっくり舐めれば唾が代用になるかも知れませんが、女性がよく濡らした方がいいに決まってますから」

 

 おまんこの穴に指を入れる。

 自分にそんな部分がある。

 意識した途端に、体が熱くなってることに気づいた。

 こんな恥ずかしい話をしていれば熱くなって当然だ。

 

「お手を少々」

「あっ」

 

 握りあっていた手を顔の前に持ってこられた。

 今更ながら、手を握っていたことを思い出した。後ろから包まれていることも思い出した。元々寒さは感じていない。今は暑いくらいだ。背中から男の熱が伝わっているのかも知れない。

 手のひらを開かされて、中指だけを曲げられた。

 

「アウラ様の手は私より小さいので届かないかも知れませんが、中指を根本まで挿入してこんな具合に折り曲げたところが、女性の感じやすい部分になります。おまんこに指を入れて、膣の中をこするんですよ。私の爪は短く切ってあるでしょう? 爪で引っかいてしまうとよくないですからね」

 

 傷もシミもどこにもない綺麗な男の手をまじまじと見た。

 

「アウラ様もいずれ経験することですから」

「っ!」

 

 アウラ君だと思っているので、アウラは挿入する方と思って発言している。

 だけどもアウラは女の子なので、挿入されると思って聞いている。

 目の前にある男の指。

 この指が、自分のおまんこの中に入ってくる。場所はよくわからないけれど、自分の体の中に入ってくる。

 

「おまんこの中はとても柔らかくて、温かくて、たっぷりと潤っているのに締め付けてくるんです。いいものですよ? もっと奥へ入っていきたくなるんです」

「おく……?」

「ええ、奥へ、深くへ」

 

 声が近い。

 顔の真横から聞こえてくる。

 声は、はっきり言って悪くない。甘く、少し低く、アウラを思って語りかけてくる。本当にアウラを思って語っている。

 

 問題は、アウラを男の子だと思っているのが問題とは言えないくらい大きな問題だった。

 ネムに手ほどきしたくらいなので幼い少女に知識を与えることは何とも思わない。良いことだと思っている。

 しかし、請われなければまずしない。積極的にすることではないと判断できるくらいの常識は持っている。しかし、アウラを男の子だと思っているのだ。男の子の好奇心を満たしてあげようと女性の体について語っている。

 

「あっ!」

 

 アウラが高い声をあげた。

 手を握っていてあげたので、凍えていた手は温まったようだ。右手は手マンの実演のためにアウラの目の前に。左手はアウラのお腹に回された。

 男の膝の上に座る形なので、腕が通ったのはおへその下。手が温まろうとやはり寒いのか、より密着しようと苦しくない程度に力が入っている。

 

「どうしました?」

 

 肩から顔を出して覗き込んでくる。頬と頬が触れた。アウラの頬は熱くなって、男の頬は冷たいまま。

 熱い頬が気持ちよかったのか、頬をすり寄せてきた。

 実演していた右手も下りて、アウラのお腹の前で左手と合わさった。

 下腹がくいと圧された。

 

「な、なんでもないから! それより雲の切れ目が出てきたから下りるよ! もう寒くなくなるんだから離れてよ!」

「寒くなくなるまでこのままでは駄目ですか?」

「~~~~~~~~~っ!! ダメ!!」

 

 温かいアウラを逃すまいと、強く抱き締めた。

 アウラ君あったかくてきもちいい。子供はやっぱり体温が高い。すごいぽかぽか。寒いときはあったかいのが一番。

 と思ったのにすぐさま振り払われて、アウラは立ち上がってしまった。

 ドラゴンは雲海の切れ目に急下降し、帝都へ繋がる街道が眼下に見えた。

 

「この道の向こうに帝都が……」

 

 気温も急上昇してきた。

 寒さに耐えていた体も調子を取り戻し、アウラを抱き締めていたことも忘れて景色に見入った。

 ただし、今度はアウラがドラゴンの首に陣取ってしまった。

 そこが一番よく景色が見えるところなのだが。

 

 

 

 浅黒い肌で、背を向けているから顔が赤くなっているのは気付かれていないはず。

 ぴょこんと飛び出た耳まではどうしようもないが、自分をこんな風にさせた男は景色に見入っている。こちらを見る気配はない。

 それはそれで頭に来なくもないが、アウラは自分の体の変調に気付かれなかったことに安堵の息を吐いた。

 さっき下腹を圧された時、何かがじわっと来たような気がしたのだ。

 じわっと来た部分が部分だった。

 そんなところにじわっと来たのは初めてで、話を聞いてなければ何が起こったのかわからず戸惑ったかも知れない。

 後ろを振り返って、男がこちらを見てないことを確認してから、アウラはお腹を撫でた。

 手はおへそを通り過ぎて更に下へ。

 ドラゴンの首に跨がっている近くまで下がった。

 股間より少し上。筋とか割れ目とかおまんことか、色々言われた奥の部分が。

 おかしなところでじわっと来たような気がした。

 

(……………………もしかして。……これ、…………濡れたってこと?)

 

 帝都が見えてきた。




連続更新してるのはタバコを絶ったと同時に更新が止まるからです
たぶんこれでしばらく止まります
どうして前からこーいうのが出来なかったんでしょうね(ノ∀`;)


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帝都編のプロローグ

プロローグなので説明ちっくですが大目に見てください


 帝都にドラゴン襲来!

 二度目である。凄い事態でも二度目になれば馴れたもの、になるわけがない。民草は恐怖におののき兵士たちは絶望に膝を折った。それというのも、一度目はドラゴン襲来直後にマーレ君が大魔法をぶっ放して死者多数、帝国四騎士が三騎士になったりしたからだ。さすがに極悪集団ナザリックはと言いたいところであるが、先にちょっかいを出したのは帝国だった。ナザリック的には正当な報復である。

 今回は違う。多くの者が恐慌に陥る中で、帝国の皇帝であるジルクニフだけは平然としていた。事前に連絡があった。それにしたってこれはどうかと思う登場ではあるが。

 

 偉大なる気遣いのアインズ様による思い遣りである。

 数日前にアルベドから、人類絶滅とかほざいたあの男は帝国へ遣って多様性を学ばせることにしたと報告があった。アインズはピンと来てしまった。

 

 これは『左遷』である。

 

 魔導国の首都エ・ランテルから近隣諸国で最も栄えている帝国へ送るのは、好意的に見れば栄転かも知れない。しかし、実際には権力の中枢から遠く属国へ追いやられるのだ。どう見たって左遷である。

 かつて人間であった時分にサラリーマンであったアインズは、左遷と言うものがどのようなものであるかよく知っていた。

 努力を重ねて成果を出しいつか本社に戻るぞ! と意気込めるのは例外中の例外。実際にはあり得ないファンタジーである。

 左遷された者がどのようになってしまうかというと、「あーそうですかそうですねお偉いさんたちは俺をそー見てるんですかだったら俺が適当に手を抜くのも折り込み済みですよねやってられるかチクショウ!!」と、なってしまうのだ。つまりは腐ってやる気をなくしてしまう。アインズはそんな同僚たちを幾人も見てきた。

 アインズはちょっとだけ心が痛んだ。自分がちょっと注意しただけで左遷に繋がろうとは思わなかった。厳しく叱るだけで済むと思ったのだ。自業自得とはいえ、いささか哀れである。

 アルベドにこれでもかと忠誠を捧げている男なのでまさか裏切ったりはしないだろうが、左遷の種を蒔いてしまったのは自分なので、友達のジルクニフにこれこれこういう男を送るからよくしてやってくれ、と伝えたのだった。

 

 

 

 

 

 

「クソッ、なんだあの男は! アインズめ、まさか帝国を内側から食い破るつもりか!?」

 

 先まで対談していた男が姿を消すなり、帝国の若き皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは大いに毒づいた。

 

「そもそも本当に人間か? 人間の男にあんな美しさがあってよいのか?」

「嘘は言ってませんでしたね。人間というのも本当でしょう」

 

 アインズ直々に送ると言われた人間の男だ。ジルクニフは最大限に警戒して、帝城のど真ん中へドラゴンとともに現れた男との面会に愛妾の一人を同席させた。

 

「一目で帝都の地理も帝城の構造も人の出入りも、全て把握したのが本当だと? アインズのところには相変わらずとんでもないのが……まあいい。あの男をどう見た?」

 

 これと言って美しいわけでなく、生まれが高貴なわけでもない妾の一人ではあるが、人を見る目は確かな女だ。思考も整然としており、ジルクニフは数ある愛妾の中で彼女を一番重用している。と言うことを知っている者は知っている。知っていない者は皇帝との距離がそれだけあると言うことになる。

 

「陛下と似たところがありますね。ですが本質は隠者。富にも栄誉にも興味はないでしょう」

「となると、残るのは女、か」

「無駄です。どんな女をあてがっても、あの男が相手ならミイラ取りがミイラになるのは確実です」

「……お前もか?」

 

 ロクシーは微笑んだきり、何も答えなかった。

 ジルクニフは舌を打った。

 

(奴が口にしたことは全て本当だとすると、十年前に王都へ遣いを出してれば帝国に仕えたと言うのも本気か?

 ナザリックから来たかと思ったが王国の生まれということか。……あんな美貌が市井から生まれたとも思えん。間違いなく貴族かそれ以上の出だろう。奴の年からして……チッ。そんなことを考えて何になる。よしんば奴の出生を掴んだとしても帝国に鞍替えするわけがない)

 

 そこで思考を打ち切った。

 美しい男女が市井から生まれることは間々あるが、確率で言えば圧倒的に高貴な出の方が高くなる。権力者は我が身を飾るため、競って美しい男や女を求めるからだ。その末に生まれた者が美貌を誇るのはジルクニフ自身が体現している。

 仮に高貴な生まれだとしても、みすぼらしい貧民の生まれだとしても、いずれかの確かな証拠を掴んだところで、魔導国宰相閣下直属を引き抜けるわけがない。

 幸いなことに、帝国へ来たのは多様な文化を学ぶためだったようで、帝国内部に食らいつく気配は薄かった。ロクシーが嘘は言っていなかったと見たのなら、精々気持ちよく学んでもらってナザリックで帝国の価値を喧伝してくれればいい。

 胃痛の種をいっとき忘れ、ジルクニフは執務に戻った。

 魔導国との外交で、詰めるところは幾らでも残っている。

 

 

 

 

 

 

 皇帝陛下に胃痛の種をプレゼントしたエ・ランテルから来た若旦那様は、早速アウラちゃんから足蹴にされていました。

 

 アウラ様ちょっとそこに立ってください、なに?、前を見て足をもう少しだけ開いて、なにするつもり?、マーレ様に喜んでもらえたことをアウラ様にも、ふーんこう?、はいそのまま、うひゃあ!?

 アウラちゃんの細い腰を掴んで持ち上げると股をくぐって、更に細い両足を自分の肩から前へ抜けるように下ろしていき、屈ませた体をすっくと立ち上げて肩車完成。

 直後に首をしめられ無様に倒れ、アウラちゃんは宙に投げ出されたにもかかわらず見事な着地を決めた。

 

「なにすんの!」

「ぐはっ」

 

 倒れた成人男性の体が浮かび上がる程度の優しいキックである。アウラが本気で蹴りつければ地面と平行に飛んでいく。

 

「肩車をすれば遠くまでよく見えると思いまして」

 

 けろりと起き上がり、服に付いた埃を払った。変な方にレベルアップしてちょっとだけ体が丈夫になったのと、ナザリックで仕立ててもらったスーツの防御力によるものである。

 

「マーレと一緒にしないで」

「しかしこうも賑わっていますと、視線が高い方がよく見えると思います」

「私のクラス忘れたの? 見えなくてもだいたいわかるから。あんたこそわかってる? 皇帝の前で帝都の地理は完全にわかるとか言ったでしょ」

「もちろんわかります。上空から見下ろした景色が目に焼き付いておりますので。真っ直ぐ行くと様々な果物を積んだ店があります。その十五軒右に串焼きを売ってる店がありますね。何の串焼きかまではわかりませんが、まずはそこから」

「果物が先」

「……仰せの通りに」

 

 三人は帝都の中央市場にいた。

 帝城内部を除いた帝都の中では一番開けた空間なのだが、人にぶつからずに歩くのが困難なほどに賑わっている。彼ら彼女らの目当ては、多種多様な店だ。ちゃんとした建物の軒先や簡素な屋台、地べたに商品を並べたものまで、様々な店が開かれている。

 驚くほどに商品が多様なのは帝国だからだ。

 一般名詞で言う王国と帝国の違いとは、王国が単一民族からなる国家なのに対し、帝国は他民族からなる国家である。言い換えれば複数の王国を支配して出来たのが帝国なのだ。尤も、各国の王はそれぞれの民族の長ではなく、帝国の皇帝が派遣する。総督というやつだ。

 ゆえに、帝国の帝都の中央市場が文化的に非常に豊かであるのは当然と言えた。多様な文化を学ぶために帝国を選んだのは、さすがのアルベド様である。

 

 中央市場は広大な帝国で最も賑わっている場所だ。混雑するのは必然。しかしながら、三人の周囲は切り取ったように空間があいていた。

 遠目にも輝くような美男である。ぶつかる大分前に男に気付いて誰も彼も足を止め、それから幼い美貌のダークエルフが側にいることに目を見張り、最後に全身鎧に固めた帝国騎士に気付く。

 ナザリックでも希な美貌の男は、エ・ランテルではよく知られているが、帝国の民が目にするのは初めてだ。エ・ランテルと帝国では受け止め方に違うところがある。

 この男は、美神アルベドの寵愛を受けて磨かれ続けてきた。エ・ランテルの民は磨かれていく過程を目にしてきた。帝国の民は磨き抜いた結果を目にしている。まるで高きから降りてきた光が人の形をとったような。

 自分の目で見たものが信じられず、しばし呆然として誰も彼もが足を止めた。結果、混雑に拍車が掛かるのである。

 

 無自覚に迷惑を掛けてる二人は中央市場の屋台でお昼にするつもりだった。ジルクニフにつけられた帝国騎士は案内役のはずなのだが、帝都の地理は完全に把握したと豪語している男がいるのでお財布役になっている。

 屋台であれこれつまみ、アウラちゃんがちょっとだけ味見して口に合わなかったのは若旦那様が片付ける。アウラちゃんはお肉より果物。酸っぱいのより甘いのがいいらしい。

 

 荷物を届けたアウラがまだ残っているのはちょっとしたわけがあった。

 アインズから一人留学させると聞いたジルクニフは、学士の宿に大きな屋敷を用意した。アインズ直々に伝えられ、魔導国宰相閣下直属とくれば軽く扱えないのだ。帝国の文化を学ぶというなら、最大限に厚遇して良い話を持ち帰ってもらわなければならない。

 用意したのは帝都における魔導国の公館として確保していた屋敷で、広いし大きいし贅沢な造りである。

 だけども来るのが急すぎた。大急ぎで屋敷を整えているが、引き渡せるにはもう少し時間が掛かる。

 準備が整うまでは、帝都の高級宿で過ごしてもらうことにした。

 このお宿、アインズ様も利用したことがある。とくれば、ナザリックのシモベであるアウラが万難を排して行きたくなるのは道理である。ドラゴンに言付けて配下の魔獣たちへメッセージを飛ばし、今日はお泊まりすることにしたのだった。

 それ以外にも、この男がジルクニフと交わしていた会話から思いついたことがある。そのことについて、ちょっと相談してみたいとも思っていた。

 

 帝都にはどうせしばらくいることになるので、食事を終えたら早々に中央市場を後にして宿に向かった。

 アインズ様に「高級ホテルみたい」と思わせた宿である。ナザリックのロイヤルスイートとはさすがに比べるべくもないが、アインズ様効果によってアウラちゃんはちょっぴり心が弾んできた。

 

「詳しいことはまだ言えないけど、また来るからその時によろしくね」

「かしこまりました」

 

 防諜を気にして、アウラは詳しいことを話さなかった。

 事は魔導国の安全に関わることなのだ。

 具体的にはアウラのお仕事、魔導国の警戒網についてである。

 この男はジルクニフへこんなことを言っていた。

 

『帝都内での警備に手薄のところがありますね。それとも警備兵の巡回ルートで補っているのでしょうか。詰め所の位置から察するに少々効率が悪いようです。よろしければ改善案を出しましょう』

 

 ロクシーが見たとおり善意からなる発言である。

 帝都には、これからルプスレギナとミラと、シクススが来る。前者二名は強いので放っておいて良いが、シクススは無力なメイドである。そして至高の御方が手ずから創造したシモベである。そのシクススに万一の事があると、間違いなくアインズ様は激怒する。そして帝都が灰燼と化す。破滅を避けるがために、帝都の治安向上の一助になろうとしたのだ。

 ジルクニフは目眩がするほどの怒りで、笑みを繕うのに必死だった。

 始めは改善案だろうと、警備に口を出すことに代わりはない。警察権への介入だ。提案の効果が認められ、徐々に差配できる領域を増やしていけば、行く行くは自治権にまで届きかねない。警察すなわち国家による暴力は、国家が独占するものなのだ。それを取り上げられるという事は。

 結局は、アウラが魔獣を派遣して居住する屋敷の警備は万全にすることになった。

 

 アウラに引っかかったのは警備だった。

 アウラのお仕事は魔導国全体の広域警戒である。現状では何とかなっているが、魔導国は順調に支配領域を広げている。いずれ抜本的に警戒体制を見直さないと息詰まってしまうかも、と思っていた。

 アルベド直属でデミウルゴスが認める頭脳なら、何かいい考えがないかと目を付けた。

 さすがにこんなところで話せない。

 

 宿では雇人を呼んでアインズ様が滞在したときの様子を聞いたり、マーレにお土産を持って行くべきか相談したり、それなりに楽しく過ごして夕食を迎えた。

 帝都が誇る一見様お断りの高級宿でもナザリックに見劣りするのは当たり前。夕食には美味しくないのも出てきたが、そこは目の前の男があれこれ注文をつけてアウラにもそこそこ美味しく食べられるものを用意させた。

 

 当然ながら部屋は別。

 やたらと広い一人部屋に入った若旦那様は、階層守護者なのでかなり偉いアウラ様と一緒だったためにずっと張っていた気を緩めて現状をあらためた。

 行き先は自身の内部。帝都よりも広大な記憶の宮殿。

 そこには帝都が丸々入っていた。入れようと思ったのではない。上空から見下ろした折りに勝手に構築されてしまった。

 帝都の大通りを歩く。自身の内部にある帝都なので、歩いているのは自分一人だけのはずだ。それなのに、行き交う人がいる。見知らぬ帝都の民だ。こんなものをおいた覚えはないし、あっても邪魔になる。

 行き交う人の話し声も聞こえる。こんなものを聞いた覚えはない。

 自分はいったい何を見て、何を聞いているのだろうか。

 果たしてここは自分の中なのか外なのか。

 エ・ランテルに戻り、屋敷の門を潜ればやはり無人だ。書斎には幾つもの書見台に今まで読んだ本が置いてあり、思うままにページをめくることが出来る。アルベド様のお食事部屋に行けば、ソファに座るアルベド様、ソファに横たわるアルベド様、サイドテーブルの傍らに立つアルベド様、寝台の上にはお美しいと呼ぶことすら憚れる神々しいお姿で。

 もう一度帝都に戻り、今度は帝城に踏み入る。衛兵が幾人もいるが、自分に気付く様子はない。当たり前だ。これは自身の内部にある光景なのだから。

 置いた覚えがないものだからか、エ・ランテルの屋敷にある記憶と違って触ることが出来なかった。

 果たしてこれは自分の中なのか外なのか。外だとしたら何故中にあるのか。自分が見ている帝都はいったい何処にあるのか。

 疑問は尽きず、考察すべきものが膨れ上がった。

 

 

 

 だけどもそれらは後回しにして風呂を使い、夜着代わりにガウンを羽織って部屋を出た。

 目的地はお隣の部屋、アウラ様のお部屋である。

 添い寝するのだ。

 ドラゴンの上で抱っこしたアウラ様はとても温かくて気持ちよかった。

 添い寝すれば温かくて気持ちよく眠れること間違いなしである。




簡単に禁煙出来るわけないんじゃ(#゚Д゚)

アルベドやシャルティアと違ってエロ属性がなく、プレアデスより偉い守護者なアウラなのでじっくり行きます
アンケートはもうしばらく置いときます


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攻めの一手(無自覚) ▽アウラ♯2

 一緒にいた男が部屋を出るなりアウラちゃんは駆けだした。

 バタンと寝室のドアを乱暴に開け放ち、そいやと宙へ身を投げる。ポフンと着床したのは大きなベッド。えへへと笑み崩れながら転げ回った。

 アインズ様がご使用になられた部屋なのだ。きっとこのベッドにも横たわったに違いない。そんなことを思えば楽しくて嬉しくて仕方がない。さすがに子供じみた振る舞いと我ながらに思うので、一人にならないと出来ないことだった。(なお、ベッドとは寝床である。寝床に着地したのだから着床と言っても問題ないのである。)

 

 ベッドで転がるにとどまらず、応接間やリビングに置いてある幾つもの椅子に片端から腰を掛けていく。アインズ様がいらっしゃったのだから、必ずやどれかにお座りになったはずなのだ。

 ちょっとあれな振る舞いはナザリックのシモベたちのデフォである。これがシャルティアの場合、頬ずりが追加される。

 

 全ての椅子を制覇して、更にもう一度繰り返してからお風呂に向かった。

 最高級の宿と言うだけあって浴槽は広く、お湯は幾らでも出てくる。お肌が艶々になったり疲労回復の効果がある特殊なお湯ではなかったが、体を洗って温まるには十分だった。

 ナザリックにいるときは、エルフのメイド達が体や髪を洗うのを手伝いたがったり、濡れた体を拭いたりと色々な世話を焼きたがる。アウラは子供ではなくて、どちらかと言えば世話を焼く方のお姉さん属性であるため、ちょっとだけ鬱陶しいと思ったり思わなかったり。

 

 風呂から上がったアウラは、寝間着にと用意されたナイトローブを身にまとった。色はピンクと黒の二種類。アウラが選んだのはピンクだ。

 

 寝るには少々早い時間。そもそもアウラは数日間は眠らなくても大丈夫。100レベルの体力は伊達ではない。

 ベッドに横たわっていたアウラはおもむろに起きあがった。さっき机の上で見つけた手鏡を取りに行った。

 

 

 

 

 

 

「あいつはあんなこと言ってたけど……」

 

 ベッドに寝ころび、かざした手鏡に自分の顔を映す。幼くも整った顔が映っている。右目が緑、左目が青の光彩異色。あの男は右目が青、左目が赤。目の色が左右で違うのは自分と同じ。

 頭を少しもたげて自分の体を見た。ナイトローブの丈は長く、足はつま先まで隠れてしまっている。

 膝を立てナイトローブのあわせを開く。健康的で艶やかだけども、幼い故に肉付きの薄い脚が現れた。

 

「うんしょっと」

 

 いそいそとパンツを脱ぐ。シャルティアなら色が付いてたり刺繍があったりと派手なパンツを履いてるが、アウラのパンツは飾り気のない無地の白。マーレのパンツより地味である。

 

「んー……」

 

 少しだけ考えてナイトローブの腰紐をほどいた。

 

 

 

 色々と重なった。

 

 今日の午前中、女性の体についてあれこれと聞かされた。そんな話をしながら後ろから抱き締められ、おへその下を押された。初めての場所にじわっと来たような気がした。

 今日の午後は肩車をされた。

 アウラは鉄棒遊びをしたことがない。ナザリックにそんなものはないのだ。代わりに木登りは何度もしてきた。アウラの守護階層はジャングルで高い木が無数にあった。だけれども、木の枝に跨がったことはない。身体能力が高ければバランス感覚も抜群で、平気で細い枝の上に立つことが出来る。

 アウラはレンジャーにして優秀なビーストテイマーなので、魔獣に騎乗するのはいつものことだ。ただし、どの魔獣もとても大きい。アウラがお気に入りの黒い狼の魔獣であるフェンなぞは全長が20メートルもある。騎乗するときは跨がらず、背の上に立ったりペタンとお尻をついて座る。

 つまり、股間だけを直に刺激されたことが一度もなかった。

 ところがほんの一瞬とは言え肩車をされて、魔獣たちの体よりずっと細い男の首に跨がった。すぐさま飛び降りたけど、股間全体を強く擦られたようなもの。その時、なんとも言い難いむずがゆさのようなものを感じた。

 痒いようだけど不快ではない。痒いと感じたのだから引っ掻いて痒さを解消したくなる。

 

 むずがゆさは一瞬で消えてしまった。

 あれは何だったのかと思う。

 たぶんおそらく、ドラゴンの上で聞かされた話が関係されていると直感した。

 アウラは確かめたくなってしまった。

 

 

 

 ナイトローブを開けば幼い肢体があらわになった。

 幼児体型と思いたくないけれど、胸はまだまだ薄い。うっすらと肉が付いてるような気がしなくもないかも知れない程度。

 腰は細いがくびれと言ってよいかどうか。尻の肉付きも薄いので、どうしたって凹凸に乏しくなる。

 太股もむっちりにはほど遠い細い脚。

 膝を立てたまま体を起こし、足を開いた。

 

「ん……。確かにぷにぷにって感じ」

 

 アウラは股間の一本筋に手を伸ばしていた。

 一番長い指だからか、無意識に中指だけを伸ばして筋を作る柔肉をつつく。頼りなさを感じるほどの柔らかさ。まだまだ発展途上でちょっとだけ膨らんできた気がするおっぱいよりも柔らかい。

 面白いくらいに柔らかい。別段何も感じないが、触るのが癖になりそうだ。そんな自分にふふっと笑った。

 

「えーっと、それよりも、っと」

 

 左手に持った手鏡を股間の前に立てる。さっきまでアウラの顔を映していた鏡は、無毛の一本筋を映した。

 ダークエルフなので浅黒いアウラの肌は、股間であってもやはり浅黒い。

 鏡に映る一本筋の右側には中指が、左側には人差し指がそえられた。

 アウラは右手の指で、Vの字を作った。

 

「…………ほんとだ。ピンクって言うより赤っぽいけど……。でも赤って言うよりピンクかな?」

 

 アウラは鏡をのぞき込んだ。

 鏡の中の一本筋は開かれて、内側を見せている。

 浅黒い肌の中に、無垢なピンク色が隠れていた。

 内側は濡れたような色合いをして、ぷにぷにした外側よりも見るからにやわらかそうだ。トロトロ、と言っていたことを思い出した。

 左手には鏡を持ったまま。右手の中指は薬指と交代して、鏡を見ながら慎重に、フリーになった中指でちょんと触ってみた。

 

「うーん……? やわらかいけどきもちいい? こんなの何がいいんだろ? あ、そだった。えーっと、おまんこの穴ってどこだろ? 膣って言ったっけ? 確か、割れ目の一番下の方とかって」

 

 そろりと人差し指と薬指を進め、割れ目の一番下辺りを開いてみる。

 内側はピンク色の肉が詰まっていて、穴のようなものはわからない。おしっこが出てくるところは何となくわかってるけど、それがおまんこの穴ではないとはわかっていた。

 

「このへんのような気がするけど……」

 

 中指で割れ目の内側をつんつんしてみても、指が入りそうなところはどこにもない。そう言えば、見た目は指が入りそうにないとか、経験がないと場所がわかりにくいとも言っていた。

 初体験をする以前に何度も日課をこなしていたアルベドやシャルティアとは違って、そちら方面への興味が皆無だったアウラにはわからなかった。

 

「あ、でもくりとりすとか言うのはわかるかな? おまんこの上の方とか言ってたっけ。お肉のお豆さん。これかな?」

 

 今度は上端を広げてみる。

 豆と言うほど大きくはなくて、それでも割れ目の始まりあたりにちょこんと出張っている部分があった。

 おまんこの穴を探していた時の乗りで、始めの慎重さを忘れ、中指でちょっと強めに叩いてみた。

 

「ひうっ! こ、これは……止めた方がいいかも……」

 

 目当ての場所を見つけた興奮で、とても敏感だと言われていたのを忘れていた。

 痛いほどではなかったが刺激が強すぎた。ヒリヒリと来るようで、皮膚の下の肉を直に触ってしまったような、これ以上触ると痛くなるかも知れない感触。

 

「…………要注意とか言ってたの忘れてた。他に言ってたのは……」

 

 目の前で実演された手つきを思い出す。

 薬指と中指を揃えてちょっとだけ隙間をあける。幅は小さなクリトリスを挟めるくらい。

 場所は覚えたから鏡を置いて、左手で割れ目を広げた。

 右手の指は割れ目の上端へ、クリトリスの根本へ。二本の指がクリトリスの根本を挟み、少しずつ上下に動き始めた。

 

「これなら、いたくない……」

 

 体を丸めて股間をのぞき込み、左手は割れ目を広げ、右手でクリトリスの根を扱く。

 気持ちいいのかどうかはわからない。

 肉芽をつついてしまった時のような痛みはない。

 細い指が肉芽の根を扱いている。

 何かしら感じるものがあって、アウラの繊細な指は変化を感じ取った。

 

「あ……、ちょっとだけど。ふくらんできた?」

 

 全体を皮に包まれて小さいだけだったクリトリスが、少しだけ膨らんだように思えた。

 幼いアウラに気持ちいいのかどうかはわからない。

 快感を求めるのではなく、不快ではないから続いている。

 痛くはないのだ。

 代わりに、何とはなしにもどかしいようなくすぐったいような。肩車をされたときに感じたのと似たようなものが。

 

「はあ……。ふう……。これ、クリトリス、ふくらんでる、……よね?」

 

 手は止まらない。

 体を丸めて股間を覗けば、始める前よりも大きくなった小さな肉芽。元が小さかったのでよくわかる。根本を挟んで扱いてる指でも、感じる弾力が大きくなってるような気がする。

 クリトリス本体には触らないように狭い範囲で上下に動かしていたのを、少しずつ大きく動かしていく。

 何度も何度も繰り返して、クリトリス自体を挟むように動かしていく。

 

 クリトリスの変化には敏感に気付いたのに、自身の息が熱くなっているのは気付かなかった。

 

「あ…………これ……」

 

 いつの間にそうだったのかわからない。

 後ろから抱き締められた時はじわっときたのがわかったけど、今度は気付かなかった。

 じっと見ていてやっと気付いた。

 割れ目の下の方が光っている。

 どうして光っているのか、何が光っているのか。

 アウラの指はクリトリスから離れ、光っているところをそっと触り、すくうようにして軽く撫でた。

 指と割れ目との間で、キラキラと光る糸がつなぎ、すぐに消えてしまった。

 触れた指を顔の前に持ってくる。

 指先は割れ目と同じように光っている。

 

「これ……。ぬれてる? わたしのおまんこがぬれちゃった? 気持ちよくなるとぬれちゃうって……。わたし、気持ちよかったの?」

 

 呆然と、自身の汁で濡れた指を見た。

 呆然としていたので、意識しての行動ではなく無意識だった。体が勝手に動いていた。

 

 アウラの指は、もう一度割れ目の下端を撫でた。

 さっきよりも大胆に。指が割れ目に沈むほどに。

 指はそのまままっすぐに上を目指し、割れ目の内側が潤っているのを感じた。

 目指す先は扱いていたところ。

 最初こそ加減せずに触ってしまったのでピリリと来たが、今度は大丈夫な気がする。

 指についた汁は糸をひくほどヌルヌルとして、これがあれば変にこすれて痛くなることはないような気がする。

 根本を扱いて感じたもどかしさがとれてくれる予感がある。

 

 

 

 初めての愛液に濡れた指が、膨らんだクリトリスに触れようとしたその時。

 優秀なレンジャーであるアウラの未来予知めいた第六感が警鐘を鳴らした。

 触るとまずいことがあるのか、それともそれ以外のことか。

 扱いていても痛くはなくて、濡れてしまったと言うことは多分悪いことではなくて、直にすればきっと悪くない予感があって、触るのが悪いはずがないとアウラが決断した直後である。

 

 コンコンとドアが鳴る音を聞いた。

 アウラは、ふひゅっと変な声だか息だかを吐き、慌ててナイトローブの前を閉じた。

 

『失礼します、アウラ様。まだ起きていらっしゃいますか?』

 

 ドアが閉まった寝室の向こうの部屋のドアの更に向こうなのに、アウラのエルフ耳には男の声がはっきりと届いた。

 硬直しているアウラを余所に、ドアは重ねてノックされる。おそらくは大きな音を立てないよう気遣った小さなノックだろうに、気が張ったアウラにはよく聞こえた。

 

「……………………なに?」

 

 仕方なしにドアを開く。コンコンされ続けたらうるさくて眠れやしない。

 案の定、ドアの向こうには左右で目の色が違う男が立っていた。アウラが着ているナイトローブと似たガウンを羽織っている。

 

「アウラ様が寒くて眠れないかと思い、添い寝にきました」

「いらない。寒くないから」

「実は私が寒いんです。アウラ様と一緒ならきっと温かく眠れます」

「寒くないでしょ。一人で寝なよ。子供じゃないんだから」

「一人で寝れない大人だっているんですよ?」

「あんたはそーじゃないでしょ」

「仰るとおりです。それでも二人で寝た方が快適なのは知ってます」

 

 あー言えばこー言う。

 いいところで止められたアウラは、くだらない押し問答にイラッと来た。

 口でダメなら体で教える。突き飛ばしてやれば諦めるだろうと思って、開いた右手を突きだして、固まった。

 

 右手はさっき割れ目を撫でて、指先がちょっぴり濡れている。

 そんな手で触っていいのか。触れば間違いなくぬるぬるの汁が相手の服に付く。

 

「あ」

「おっと」

 

 悪いことは重なるものである。

 不自然な体勢で止まったアウラはローブの裾を踏んでいた。まだまだ小さなアウラには、大人用のナイトローブはぶかぶかなのだ。

 それでもバランス感覚抜群のアウラはこんなことで転んだりしない。

 だと言うのに、アウラの転倒を恐れた男がアウラの肩を掴もうとして、だけれどもローブの襟を引っ張るだけに終わり、結果、はらりと逝った。

 動転しながらベッドから降りたったアウラは、きちんと腰紐を結ばなかった。ちょっと引っ張ればほどけてしまうゆるゆるだった。

 

(見た? 見られた? はだか? わたしの? はだか、見られた?)

 

 咄嗟にローブを押さえたし、突き飛ばそうと思ってよろめいたので背中を向ける体勢だったし、たぶんおそらくきっと見られてないと思いたい。

 幼かろうとアウラちゃんは女の子。男の人に裸を見られたら何も感じないわけがない。

 

「うわっ! ちょっと!」

「私がお運びします」

 

 この期を逃がす若旦那様ではなかった。後で痛い目を見る可能性を考えない考え知らずとも言う。ニヤリと口角を持ち上げて、アウラの小さな体をひょいと抱き上げたのだ。

 アウラが男の手から逃げるのは簡単だ。単純に力の差がある。しかしローブを掴んだ手を離すと、今度こそはらりと逝ってしまう。脚を使えばもっと不味いところが見えてしまうかも知れない。

 アウラが逡巡する間に運ばれていく。寝室はすぐそこだ。入られるとまずい。まずいのに入られた。

 ベッドの上には脱ぎ捨てたパンツと手鏡がある。そんなのを見られでもしたら裸を見られるよりずっとまずい。

 

「あ、明かり! 明かり消して! わたし真っ暗にしないと寝れないから!」

「かしこまりました」

 

 進路はベッドから逸れ、部屋を明るく照らしていた魔法の灯りを消した。間接照明も消して、寝室には窓から射し込む星月の光のみ。

 

 お姫様抱っこされていたアウラが下ろされたのはベッドの上。運んできた男もベッドに上がる。

 寝るために灯りを消せと言って消させたのだ。一緒に寝ることを了解したようなものである。

 

 あーもう仕方ない、と思いながら、アウラはパンツと手鏡を枕の下に隠した。

 

「………………一緒に寝てあげるけど」

「はい。私の部屋より広いベッドですね。三人くらいは一緒に眠れそうです」

「そうじゃなくて……、はぁ」

 

 変なことをするなと言おうとして、変なこととは何のことだかいまいちピンと来なくて、色々と面倒になりため息を吐いた。

 

 アウラは夜目が効く。自分よりずっと大きな男の体がベッドに横たわっているのが見えた。

 広いベッドなので男との間に一人分の空間をあけて横になった。四分の一回転して背を向ける。

 

「それじゃ、おやすぅ!?」

「もう眠りますか?」

 

 距離をあけたとは言え、所詮は同じベッドの上。ごろんと転がれば簡単に詰まる距離。

 自分の背中のすぐ向こうに男の体を感じた。

 ドラゴンの上でされていたのと同じに、後ろから手が伸びてきた。不味いところを触られないようお腹の方へ誘導した。まだまだ小さいけれど、おっぱいを触られないようにしたつもりなのだが、これでは自分から抱き締めるように促したようなものと、やってから気が付いた。

 小さな体は簡単に抱き寄せられた。

 ドラゴンの上で一度されていなかったら、反射的に投げ飛ばしたかも知れない。

 

「アウラ様の体は温かくて気持ちいいですね」

「……………………あっそ」

 

 どちらも夜着一枚で肌の距離が近い。前回よりも体温を感じる。小さな体は大きな体に包まれるようで。とっても不躾な振る舞いだけども、不快と言うほどではなかった。

 こんな風に温かな体に包まれるのはいつ以来か。肌と肌のふれあいは、そう悪いものでもないと思い始めた。

 男の手が変なところに伸びたりしないよう、小さな手を重ねて押さえている。

 

「んっ……」

 

 それをもっと強く抱き締めろと受け取ったのか、少しだけ強めにお腹が押されて、思わずくぐもった息を漏らした。

 

「今日は素晴らしい体験をさせていただき、本当にありがとうございます」

「ん、まあ、ついでだったし」

「それでも私には得難い体験でした。アウラ様とお会いできて良かったです」

「……そう」

「ええ」

「………………」

「お礼にもなりませんが、女性の体のことをもう少しお話しします」

「…………………………え?」

 

 アウラちゃんではなくアウラ君だと思っているので、アウラの脳裏によぎった変なことは何も考えていない。

 考えているのは、アウラ君が興味を持っているであろう女の子の秘密である。

 

「アウラ様はダークエルフでいらっしゃるので、エルフの女性について。どうやら人間の女性とは少し違うところがあるようです」

「え、そうなの?」

 

 エルフ耳がピクリと動く。

 背を向けたまま、男の話に耳を傾けた。さっき見つからなかった場所のヒントがあるかも知れない。

 

「おまんこの話をしたのを覚えていますか?」

「………………うん」

 

 ほんのついさっき、このベッドの上で、聞いた話を確認しようとしたばかり。

 

「見た目はほぼ同じです。ですが、中に違いがあるようです」

「中って?」

「おまんこの穴のことですよ」

「……穴のある場所が違ったり?」

「穴のあるところは同じです。深さが違うんです」

「深さ……?」

 

 お腹を押さえていた手が離れ、アウラの手を取って手のひらを重ねた。

 

「私の指はアウラ様より長いでしょう? 女性の膣はこの指の長さよりずっと深いんです。根本まで入れても奥まで届きません」

「それって人間も?」

「人間もです」

 

 そんなに深いところがあの割れ目に隠れているとは、アウラには想像できなかった。

 嘘を言ってるわけではないとはわかった。

 同時にもう一つ気付いたことがある。

 指の長さより深い穴なら、一体どうやって深さを測るのか。

 

「エルフの女性は人間よりも膣が深くて、挿入すると全てを包まれるように感じるんですよ」

「………………」

 

 湧き出た疑問が消えてくれない。

 指の長さより深いのにどうして深さの違いがわかるのか。

 手マンで指を入れるとは聞いたけれど、入れるのは指だけではない気がする。

 何を入れるのかわからない。わからないのにドキドキしてくる。

 知ってしまえばドキドキが治まるのか、もっとドキドキするのか。

 聞いてしまいたいけど聞いてはいけないような。

 

 星と月の明かりしかない真っ暗な部屋で。

 ナイトローブを一枚着てるだけのほとんど裸みたいな格好で。

 ベッドの上で。

 抱き締められていて。

 大きな体に包まれるのは温かくて心地よくて、なんだかわからないけどドキドキしてきて。

 さっきまであんなことをしていたからきっと気が変になっていて。

 

「……おまんこの穴に」

「…………」

「なに入れるの?」

「…………」

「指じゃないよね? おまんこの穴って指より深いんでしょ? 指じゃ深さの違いなんてわかんないよね?」

 

 上擦った声になった気がして、アウラは唾を飲み込んだ。

 一拍置いて意識すると、じわっとしているのが感じられた。

 

「んっ……」

 

 男の手は緩んでいる。押さえてなくても大丈夫と判断し、アウラの手はローブの裾を割った。

 ぬるりとしていた。

 

「ねえ…………って!」

 

 返事がない。耳を澄ませば静かで定期的な息遣い。

 

「寝てるの? 寝たの!?」

「…………」

 

 アウラが叫んでも聞こえてくるのは健やかな寝息のみ。

 一度寝たら簡単には起きない男であり、寝付きも良い。特に今日は初めての空の旅に初めての帝国で情報量がとても多かった。体が睡眠を欲していた。

 

 アウラはとても大きな覚悟を踏みにじられたような気がして大変に面白くなかった。

 拘束が緩み、男が寝ている安心感からころんと二分の一回転。

 横向きに眠る男と向き合った。

 

「………………」

 

 しばらく男の寝顔を見つめ、本当に寝ていることを確認した。

 枕の下に手を突っ込み、取り出したパンツをきちんと履く。簡単にほどけないようローブの腰紐を堅く結ぶ。

 しばし逡巡した。

 

 片腕を伸ばさせて頭を乗せる。

 もう一方の腕は背中に回させる。

 男の胸の中に収まって、アウラは目を閉じた。




投稿感覚が一週間以内だった場合、禁煙が上手くいってないと思ってやってください(ノ∀;`)


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ナザリックの技術力は世界イチィィイ!

 ビビビビビビン! 

 とち狂ったナーベラルが室内でドラゴン・ライトニングを使ったかの如き凄まじい衝撃。しかしナーベラルはエ・ランテルにいる。ナーベラルでなければ落雷に違いない。

 

「雷か。近くに落ちたぞ。今日は晴れると思ったのに帝国の天気は変わりやすいのか?」

「おはようございます。若旦那様の予報通り、本日は雲一つない快晴です」

 

 跳ね起きると見上げる位置にシクススの顔があった。

 

「床の上でうつ伏せに寝ていらしたようで、頬に床の跡がついて赤くなっています。朝食の前に冷たい水で顔を洗うことをおすすめします」

 

 ベッドで寝たはずが何故か床の上にいる。

 言われてみると頬が熱い。と言うか痛い。ヒリヒリする。どんな寝相だとこうなるのか。そもそも寝てるときにベッドから落ちたことは生まれてこの方一度もないはずなのだが。

 

「着替えのお手伝いをいたします。どうぞこちらへ」

「……わかったよ」

 

 釈然としない思いを抱えながらシクススについていった。

 

 二人の姿が消えてから、アウラがぽつりとこぼした。

 

「いつもあんななの?」

「私も初めて見たっす。おにーさんを起こすのはソーちゃんが多かったっすから」

「ってかあそこまでしないと起きないってダメでしょ」

「まったくっすよ。でも私にはおにーさんの顔をひっぱたく勇気はないっすねー。あの顔は殴れないっす」

「ボディにいけばいいんじゃない?」

「それっす! さすがアウラ様っすね!」

 

 後から来た三人は、朝方になって帝国に着いた。

 ナザリックの馬車を前にして閉ざす門は帝国にも存在せず、案内を得てスムーズに二人がいる宿にたどり着くことができた。

 宿の部屋では、アウラが男を起こそうと頑張っていた。

 アウラなりに優しく起こそうと、まずは声を掛けたが無反応。肩をゆすぶっても起きる気配なし。大声を出したら寝返りを打って背を見せた。アウラはあったまに来てベッドからたたき落としたのだが、驚くことにまだ起きなかった。

 こいつどうしようと思ったところに、ルプスレギナとシクススがやってきたのだ。

 シクススは床で寝てる若旦那様の胸ぐらを掴むと、叩いた手が痺れるほどの往復ビンタをきめた。これくらいで若旦那様がどうにかなるわけがないし怒りもしないと信頼がある故の暴挙である。

 

 なお、新メンバーであるヴァンパイアブライドのミラは廊下で不動の姿勢で待機している。この五名の中では一番下っ端のシモベとわきまえていた。

 

 洗顔と着替えだけなのに、アウラ達は三十分も待たされた。待っている間はルプスレギナと今後の予定を話していたので退屈ではなかったが、長すぎだとは思った。

 戻ってきたシクススが口を手のひらで押さえ、うっすらとほっぺたを赤くしているのが不思議だった。

 

 アウラはルプスレギナたちに男の護衛を引き継いだ。

 今更になって、護衛が必要な男を先に連れて行って一人ほっぽりだすのが不味いことに気が付いた。お泊まりしたのは偶々だったが、しなければ不味かったかも知れない。

 仕事が終わったのでさっさとナザリックに帰ってよいアウラは、もう少し同行することにした。

 ルプスレギナと話して、男の滞在先を見ていくことになった。昨日少しだけ話した魔導国領域の広域警戒網について、男と相談することにしている。今後何度か帝国を訪れる必要があり、どこに滞在するのか把握する必要があると判断した。

 

 一行は朝食を終え、少し待っていれば帝国の騎士が案内に来るところを無視して出発。

 若旦那様が帝都の地理を完全に把握しているし、帝国の騎士を気遣う者はここには一人もいない。

 ミラが駆る馬車に乗り、若旦那様は道案内するので御者台に乗る。

 

 帝都内の道路は、王都はもとよりエ・ランテルよりも整備されている。石畳は歪みがなく、粗末な荷車でも揺れが少ない。車道と歩道が分離され、交通の妨げや事故の危険を下げている。歩行者が車道を渡る部分には馬車の車輪の幅を考慮した間隔で飛び石が敷かれている。なお、ナザリックの馬車は帝国の馬車と規格が違うので思い切り飛び石を踏んでいったが、抜群のサスペンションは全く揺れを伝えなかった。

 通りには馬車も荷車も、人は商人らしきものに冒険者風の一団に学生なのか奉公しているのか年少の子供達に、とかく活気に満ちて賑やかだ。エ・ランテルにも活気はあるが、あちらは支配者への畏怖が強いらしく、人の数の割には静かなのだ。

 

 馬車は賑やかな通りを離れ、静かな区画に入った。

 道行く者は少ない。いたとしても、途中で通った商業区と違ってそれなりに身なりが良い。また、景色も変わってきた。長い石壁が道の両側を続き、ところどころに門がある。

 帝都の高級住宅地である。

 帝国の貴族達の屋敷が連なっているのだ。地方の領主達が帝都に持つ屋敷も大抵はこの場所にある。尤も、ジルクニフの改革によって貴族としての身分を剥奪され、手放された屋敷も多い。

 

「まだっすか~?」

 

 馬車の中でじっとしているのに飽きたルプスレギナが、御者台に通じる窓を開けて声を掛けてきた。

 大きな馬車であり、更には見た目よりも空間が拡張されてちょっとした部屋のように内部が広い馬車内なのだが、現状では荷物と長椅子が並んでいるだけ。アウラ様も暇そうである。

 

「もう着いたよ」

「え、どこっすか?」

 

 走っている最中なのに、ルプスレギナは馬車から飛び降りた。ルプスレギナ的に大した速度ではなかったので問題なし。ひょいと御者台に飛び乗ってきた。

 

「壁しかないじゃん」

 

 お暇だったアウラ様も御者台に来た。四人が乗っても狭くない御者台である。

 

「この壁の向こうがそうです」

「……しばらく前から続いておりますが」

 

 階層守護者とプレアデスを前に、ミラがおそるおそる発言した。

 高級住宅地にある屋敷はほとんどが面子大事な貴族の所有なので、一つ一つが庶民の住居とは比べものにならないほどとても大きい。下手をしたら庶民達の憩いの場となる公園くらいの敷地がある。

 流れる風景を見ながら馬車を走らせているミラには、屋敷の敷地面積が平均してどの程度か見当がつくようになっていた。

 しかしながら現在、さっき角を曲がってから一度も門が現れていない。壁の向こうには木々が覗き見えることから、公的な施設的なものと思っていた。

 

「だから、この壁の向こうが全部そう」

「………………」

 

 アウラ達の気配がちょっぴり変わった。どうしてそうなったのか若旦那様にはさっぱりわからない。

 

「ちょっち急ぐっす」

「かしこまりました」

 

 ミラがアンデッド馬を駆り立て、今まで並んでいた中で一番立派な門の前で停止した。

 門の前には兵士が立っている。魔導国から学士が来るとの話は通っており、魔導国の者達へ絶対に粗相するなと厳命されている。一言二言話すだけでどうぞと門が開かれた。

 六頭立ての豪奢なナザリックの馬車と、世に希な美貌が幾人も揃っていれば魔導国の紋章を知らなくてもそうと気付くことだろう。

 馬車は門を通ってしばらく進み、屋敷の全景が見える位置で止まった。

 アウラとルプスレギナは飛び降りて、馬車が止まった事に気付いたシクススも中から降りてくる。

 若旦那様はミラに手を引かれて降りた。本当はかっこよくシュタッと飛び降りたかったのだが。

 若旦那様を除く四人は屋敷をやや目を険しくしている。ミラはベール付きの帽子を被っているので表情こそわからないが、他の三人と同じ姿勢で見ているのだから内心は似たようなものだろう。若旦那様には四人が何を考えているのかさっぱりわからなかった。

 

「おにーさんはここがどれくらいの広さかわかるっすか?」

「敷地の面積で言えばエ・ランテルで過ごした屋敷の8倍近いかな。建物で言うと、こっちの方が二割ほど大きい上に三階建て。本邸の他に離れが、別邸が幾つかある。多分一つは使用人用で厩舎もあると思う。上空から見ただけだから俺にわかるのはここまでかな」

「………………」

 

 エ・ランテルの大きなお屋敷よりもずっと広くて大きいのは、まさか魔導国の富が帝国に劣っているわけではない。

 王都の一都市であったエ・ランテルと、広大な帝国の帝都の差である。

 魔導国の首都になろうと、元々は城塞都市であったエ・ランテルと、帝国中の貴族が居を構える帝都では大きな開きがあって当然だ。中でもここは、高級住宅地の中でも特等地。一番広くて豪勢な屋敷である。もしも地方にあれば、皇帝の離宮として通用しそうなほど。

 

「ルプー。アルベドに連絡できる?」

「出来ます。直ちに報告いたします」

 

 ルプスレギナがほにゃっとしたルプーから、プレアデスの次女ルプスレギナ・ベータに戻った。

 ルプスレギナにメッセージの魔法は使えない。しかし、緊急時に連絡する手段は持たされている。インベントリなる異空間収納ボックスから取り出したのは魔法の鐘。これを振るとあちらでも鐘が鳴り、然るべき手段で連絡が来るようになっている。

 振った直後、ルプスレギナへメッセージの魔法が届いた。

 

「想定外の事態でございます」

 

 

 

 

 

 

 ほどなくして、一行の前に暗い球形が現れた。

 

「思ったより早い再会でありんしたね」

 

 ゲートの魔法から出てきたのは使い手であるシャルティア。そして、

 

「アルベド様!」

 

 その時、雲一つない快晴だというのに世界が少しだけ暗くなったのは、世界に満ちる光が美神の添え物に過ぎないと自覚して我が身を恥じたからである。

 アルベドは澄ました顔で屋敷を眺めた後、左遷してから初めて顔を合わせる男へ向いた。

 

「ここがお前の滞在先と聞いたわ。どういう経緯でここが選ばれたのか報告なさい」

「……かしこまりました」

 

 今のアルベドはナザリック守護者統括にして魔導国宰相閣下である。

 甘い気配は微塵も見せず、厳しく問いただした。

 聞くにつれ、アルベドはほんの少しだけ眉間を寄せた。

 

「シャルティアはゲートの維持を。私はアインズ様にご報告してくるわ」

「わかりんした」

 

 シャルティアは素直に従う。

 守護者統括の言葉なので従うのは当然と言えば当然だが、シャルティアの気配もやや険しいのがやはりわけがわからなかった。

 

 今度はゲートからいっぱい出てきた。

 プレアデスの長女ユリ・アルファを筆頭に多数のメイド達。マーレ君もアルベドに続いて姿を現し、こちらへ向かってぺこりと頭を下げる。とても可愛い。アウラと合流してやたらと広い庭の方へ向かっていった。アウラが帰りの足にと呼び寄せていたドラゴンも庭へ向かって、辺りから悲鳴が聞こえてくる。帝国の使用人達はエ・ランテルのメイドたちと違って訓練が行き届いていないようだ。

 最後に我らが偉大なるアインズ様が奇妙な仮面を被って現れた。ゲートの魔法経由ではなく、突然宙に現れたのだ。皇帝のところへ顔を出したからである。

 

「僭越ながら、質問をお許しください。一体何が起こっているのでしょうか?」

 

 側にいたルプスレギナもシクススも、メイド達の一団に混じって屋敷へ向かってしまった。

 アルベドは何かしらの差配を振ってるようで忙しそうにしている。

 シャルティアに何かしらを言付けられたミラはゲートを潜って姿を消し、幾人もの同僚を引き連れて戻ってきたと思ったら敷地のあちこちへ散っていく。

 

「皆が私のために働いているのだ」

「……左様でございます」

「安心しろ。俺にもわからん!」

「シモベの方々がなさる事の全てを、アインズ様が一々知る必要はございませんから」

「うむ、その通りだ」

 

 実はアインズ様、このフレーズがめっちゃ気に入ってました。

 全てを睥睨し端倪すべからざる英知を持ち、知謀を越えた鬼謀をいとも容易く巡らせると思われているアインズ様は、あれもこれも全部知ったかぶりしなきゃなんないかと思って精神的に割とかなりすごく大変な日々を送っていました。

 ところがある日のことです。

 

『アインズ様に必要ない知恵も知識も存在するのです』

 

 と発言した男がいた。

 階層守護者であるコキュートスはこの言葉に深く納得し、守護者統括であるアルベドさえ頷いた。

 

 あれもこれも全部知ってる必要はないと、全てのシモベ達の前で認められたのです!

 

 もうめっちゃくちゃ気分的に楽になりました。

 何かわからないことがあっても、「それは私が知るべき事か?」とか「知らぬ話だ。報告せよ」とか、シモベ達の前で自分にも知らないことがあると認められるようになったのです。

 全く自覚はなかったろうけど、救いの手を差し伸べてくれたこの男にもうすっごく感謝していました。勲章をあげてもいいくらいです。二十個以上のストックがあるアイテムなら好きな物をあげても惜しくありません。

 

 ここでアインズ様にもわかるように何が起こっているか解説をすると、

 本社から有能社員が買収して支配したばかりの子会社へ出向した。出向したら子会社の社長さんから「あれあれ? 今までそれっぽっちしか貰ってなかったんですか? 本社さんは結構渋いんですねえ。うちだったらこれくらい出しますよ? なんだったら副社長の椅子だって用意しちゃいます。ゆくゆくは独立して一緒にうはうはになりませんか?」と来られたところを「ふざっけんなうちなんか支度金にこれだけ出せるわ! 子会社の連中じゃ逆立ちしたって真似できないだろう!」というようなものです。

 出向した社員を気遣ったのではなくて、本社はこれくらい出来るんだぞ凄いんだぞと言う面子の問題です。

 

 魔導国の首都から左遷したら待遇が良くなったとかあってはならないのです。良くなるのだったら、ナザリックの手が入っていなければなりません。

 面子です。

 ナザリックは世界一なのですから。

 

 

 

 

 

 

 世界一の技術力を誇るナザリックによって、帝都のお屋敷は魔改造を施された。

 また、人員も帝国で全てを賄うのではなく、ナザリックとエ・ランテルから派遣することになった。

 ナザリックの一般メイドとエ・ランテルで扱いたメイドで本邸を管理し、帝国で雇うメイドは主に別邸の管理となる。使用人募集中。超高待遇。超ホワイトな職場です。

 

 帝国のメイド達がまず迷ったのは、お屋敷の主であるらしい男性の呼び方である。

 本邸のメイド達やメイド長となったシクススは若旦那様と呼ぶ。

 主の護衛らしい褐色の肌をした美貌の神官はおにーさんと呼ぶ。

 主の護衛なのか愛人なのか、素顔を見せない白尽めの女性は御主人様と呼ぶ。この女性、帝国の使用人達は基本的にガン無視のため、美人ぽいけどあまり評判がよろしくない。口に出すと滅茶苦茶怖いことになると本邸のメイド達から言われているので思っても口に出さないお利口さんばかりである。思ってもいけないと言われて鋭意努力中。

 帝城から来る帝国の騎士様は学士殿と呼ぶ。

 様々な呼び名がある中で、この屋敷は帝国における魔導国の公館でもあるため、真の主人は魔導王アインズ様と周知された。と言うわけで御主人様は却下。おにーさんは論外。学士殿か若旦那様の二択となり、日々聞こえてくるのは若旦那様が圧倒的なので、若旦那様とお呼びすることになった。

 エ・ランテルの若旦那様は帝国に来ても若旦那様だった。

 

 

 

 

 

 

 高級宿から大きな屋敷へ移り、ようやっと新しい生活が始まった。

 アウラはドラゴンに乗って何度か訪れている。

 警戒網を維持するための組織作りについての相談だ。

 組織だけでなく警戒区域についても。魔導国を中心として、帝国、王国、聖王国に南方の諸国家までも含んだ地図を作り、どこへ重点を置くべきかなどへも話が進みつつある。ここまで来ると単なる警戒網を越えてアルベドやデミウルゴスの担当となる戦略の域にまで踏み込んでいくのだが、アウラとしては細かくやるなあとしか思わなかった。

 アウラの感想がなんであれ、相談内容を反映してお仕事はいい感じになっている。

 この男をこんなところで遊ばせてるくらいなら、自分の副官にしてもいいんじゃと思い始めた。

 

「アウラ様、本日はお時間がございますか?」

「あるよ、なに? 今日はもう帰って寝るだけだから結構時間あるよ」

「でしたら少々お付き合いください」

 

 アウラが案内されたのは本邸の一室。

 未使用の部屋なので改装を終えてないのか何もない。壁紙にカーテンはきちんとしている。広い空間に椅子がぽつりぽつりとあって、箱なのか台なのか、そんなものが幾つか重ねてあるだけ。

 部屋には先客がいた。

 

「確かシャルティアのところの……、ミラとか言ったっけ?」

「はい。名前を覚えていただき、光栄でございます。ミラの名はシャルティア様から頂きました」

「へー……。シャルティアがシモベに名前をかあ」

 

 本当にシャルティアが前とは変わってきたのだと、アウラは感心した。

 それはそれとして、ミラがどうしてここにいるのかわからない。

 

 普段のミラは、全身白尽めのドレスで屋外ではベール付きの帽子を手放さない。今はヴァンパイアブライドの正装と言う名のシャルティア好みのエロ衣装。服というのもおこがましい、布と帯的なもので乳房と下半身を覆っている。

 

「じゃあそこに座って」

「……かしこまりました」

 

 肘掛けのある椅子に座る。

 上位者であるアウラを前にして先に着席するのはシモベとしてなっていないのだが、ためらう様子は見せず、頬を赤くした。

 

「アウラ様はこちらの椅子に座ってもよいと思いますが、立っていた方がいいでしょう」

「……なに?」

 

 シャルティアのシモベにだけ座らせて自分は立ちっぱなし。

 アウラはちょーっとだけムッと来た。

 

「目隠しはいるかい?」

「…………はい。お慈悲を……、ありがとう存じます」

「だから何なの!?」

 

 アウラの言葉が荒くなった。

 ちょっとあれな面々ばかりのナザリックの中で、弟が随一の純真なら姉は随一の常識人。

 だけども自分がわからない話を進められたら面白くない。

 そんなアウラに、男はにっこりと微笑んだ。

 

「先日、アウラ様には女性の体についてお話しました」

「えっ…………、うん……」

 

 それだけでアウラはわかってしまった。

 外は暗くなり、閉じた部屋に三人。

 一人椅子に座ったミラは頬をいよいよ赤くして、目隠しを慈悲と言った。

 

「成熟した女性の体について、実際に見ていただこうとミラの協力を得たのです」

 

 アウラの予感が当たってしまった。

 

 男はミラの背後に回り、頬を撫でる。

 手は下りて、ミラの細い首を一周二周と回って裏で結ばれる白い帯を解いた。

 帯の先は広がって乳房を覆い隠している。

 はらりと白い布がはがされた。




票が動かなくなったのでアンケート終了します
帝国に来なかったらアウラ編は2・3話で終わるはずでしたが長くなりそうです(あと何話かわかんない)

帝国の屋敷は態度悪い奴が行方不明になるweb版の屋敷ほど魔窟じゃありません
態度悪いと本邸のメイド達から一斉に非難されるのでみんなお上品のはずです

おれ、アウラの話が終わったらタバコやめるんだ……


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善意の追撃 ▽ミラ♯1

 年頃の男の子にとって女の子の秘密を知るのは天を制覇するに等しい。

 女の子の胸が膨らんでいるのは知っていても、どんな風に膨らんでいるのかまではわからない。パンツの奥がどうなっているかなど想像すら許さない神秘の世界。

 

 ちょっとでも触れ合う機会があれば、女の子の体がとっても柔らかいことに気付くだろう。触れ合う距離まで近付けば男の子とは明らかに違う甘やかな体臭を嗅ぐことだろう。

 それらが男の子たちの想像をかき立てて止まない。

 如何に知りたくとも女の子の秘密は不可視の扉によって断絶されている。扉を開くにはどうすればよいのか、男の子たちはそれしか考えられない。それ以外のことは全て些事である。本当にそれしか考えてない。

 

 扉はとても頑健で強固に思えるが、いざ開いてみるとそこは神秘に満ちた不思議の世界ではなく、日常の延長と知るだろう。

 

 そこにアウラである。

 先日聞かせた女性の体について、興味深く耳を傾けていた。穴の位置を知りたくて聞き返したくらいに。

 階層守護者であるアウラなら我が身を捧げるシモベはいくらでもいるだろう。エルフのメイドたちはアウラをとても慕っている様子だった。

 だけれども、扉を開いていないアウラは一歩を踏み出せないようだ。

 

 オーガと戦わせてくれたり空の旅を楽しませてくれた大恩あるアウラに、扉を開くお手伝いをするのだ。

 

 

 

 

 

 

 光量を絞った薄暗い部屋である。

 だからこそ、ミラの蒼白な肌は輝かんばかりに白い。

 細い首筋から華奢な鎖骨へ、そこから緩やかにかつ急激に盛り上がる官能的な曲線。

 

「平均より大分大きめです」

 

 左側の乳房の下へ手のひらを差し込み、重量を確かめるように持ち上げた。柔肉は水の入った鞠のように形を変え、離せばたぷんと揺れた。

 

「っ!」

「見た目通りにとても柔らかいですよ。ほら、指がこんなに沈みます」

 

 またも左側の乳房だけを鷲掴みにした。柔肉に指が埋まり、されるがままに形を変える。不定形に思えても、手が離れれば元の形に戻る。

 

「大きなおっぱいだと乱暴に触りたくなるものです。相手によってはそれでもいいんですが、触り方にも定石というものがあって……?」

 

 目隠しをされたミラの手が、固く肘掛けを握っていることに気が付いた。

 

 恩義あるご主人様である。よく仕えよとはシャルティア様直々のご命令でもあった。

 我が身はアインズ様と、シャルティア様と、そしてご主人様に捧げている。なんなりとお使いくださいと申しあげたのは心からの言葉だ。

 危険があれば肉盾となって御身を守る。どんな詰まらないことでも命じられれば喜んで応じる。

 密かに期待していたのは伽だった。

 あの日処女を散らして頂いたときのように、この身をもってご主人様をお慰めする。残念なことに一度もなかった。

 それでもいつかお使いくださるのではと思っていたら、アウラ様の目の前で。

 不満はない。そんなものはあってはならない。

 だけれども、もう少し違う形で、と思うのはシモベには過ぎた願いであったか。

 

 ミラの長い黒髪をかきわけ、先端が少しだけ尖っている耳を出した。

 耳元へ口を寄せ、小さく囁いた。

 

(可愛がってやれなくてすまなかった。もう少し気を楽にしておくれ。ミラに俺を感じて欲しいんだ)

 

「いえ!! そんな! 私ごときが……」

「俺に触られるのはイヤだと言うことか?」

「違います! あの、その……、お願いいたします……」

 

 答える代わりに、ミラの頬へ軽くキスを送った。

 囁きが功を奏したようで、力が抜けた。背もたれに体を預けているのがわかる。

 

「んっ……」

 

 再度乳房に触れれば小さく、だけども素直に声を漏らした。

 

 この男は、ソリュシャンからの課題図書を着々と血肉にしつつあった。

 

「ミラと違ってエルフの女性は華奢な方が多いようです。言ってしまうと胸が小さい。同じように揉んでしまうと痛い思いをさせてしまうかも知れないので、まずはこのように」

 

 乳房の脇に手を添えて、優しく上下に動かす。

 

「女性の性感を高めていくのが大切です。続けていると女性の様子が変わってきますから、それまでは我慢しましょう。アウラ様もやってみますか?」

「い、いいよ、わたしは……」

「そうですか?」

 

 上擦った声で答えたアウラは、時々目を逸らしながらも、視線はミラの胸に戻ってくる。

 アウラ君は興味津々のようだ。内心でにやりと笑い、折り曲げた中指を親指に引っかけた。

 

「つうっ!」

 

 ピンと弾かれたのはミラの乳首。

 突起の赤さは肌に透ける鮮血のようだ。肌が輝くようならば、乳首も濡れたように光っている。

 

「痛いのは嫌いかい?」

「いえ、大丈夫です」

「耐えられるかどうかを聞いたんじゃない。嫌いかどうか聞いたんだ。どっちだ?」

「あ……、少し痛かったですが、イヤではありませんでした。もう少し強くても」

「なるほど」

 

 被虐趣味にして嗜虐趣味もあるシャルティアのシモベなのだ。エリートシックスに選ばれたミラにシャルティアの責めが及んでないわけがなかった。

 

「アウラ様、ご覧ください。こちらの乳首とまだ触ってないこちらとでは違いがわかりますか?」

「え……と……」

 

 聞かれたなら答えなければならない。

 どうしてこんなことになっているのかも忘れ、アウラはミラの乳房に見入った。小さな自分とは違ってはちきれそうなほど大きなおっぱい。ブライドの名に相応しく純白の乳房を飾る鮮やかに赤い小さな突起。小さいけれど、左右で少しだけ大きさが違うことに気が付いた。

 

「そっちの方がおおきい?」

「正解です」

「あうぅっ!!」

 

 左の乳首を親指と薬指で挟み、潰すように摘まんだ。ミラの手がきゅっと握られた。

 

「乳首が立ってる状態がこちらです。立つ前はおっぱいと同じくらいに柔らかいものですが、立ってくると違います。弾力があってこりこりとした感じですね。こうなった方が感じやすいようですが、ミラはどうだ?」

「はい……。乳首が立つと敏感になってしまって……。ですが、ご主人様に触っていただくとそれだけで立ってしまって……」

「それならこっちも立たせてやろう」

「あんっ……♡」

 

 椅子の後ろに回って、右の乳首も左と同じように摘まんだ。

 指を擦り合わせるようにして乳首を転がせば弾力ある固さを帯びてくる。アウラに確認して貰うために一度手を離して勃起した乳首を見せつけ、もう一度指に挟んだ。摘まみながら乳房を包むような触り方で、緩急つけて乳首を弄りながら乳房を揉みしだく。

 ミラの首筋に顔を埋め、女の体臭を吸い込んだ。

 

「っ……ぁっ……ぅ……」

「かわいい声を聞かせておくれ」

「ああ……ご主人様ぁ……。もっと、もっとミラのおっぱいを……」

 

 ミラは軽く首を振って髪を流し、首筋を露わにした。細い首を目指して、男の口が吸血でもするかのように吸いつく。ちうと吸いながら徐々に移動し、吸いついていた場所は何かに濡れて部屋の明かりを反射した。

 肘掛けにあったミラの手は離れ、自分の乳房を揉み続ける男の手に重なっている。男の手を愛撫しているのか、男の手を使って自分の手を愛撫しているのか。

 

「わ、わたし、すわる、ね」

「これからが本番ですので、もう少しお待ちください」

 

 二人の空気にあてられて立っていられなくなりそうだったアウラだが、着席は却下された。

 二人の世界に浸っていたミラは、アウラに見られていることを思い出し、添えていた手を離した。擦り合わせていた太股も動きを止める。

 

「これからです。どうぞ近くへ」

「……うん」

 

 抗いようのない濡れた声。

 ミラが足を伸ばせば届く位置までアウラは近づいた。

 その間に、男は部屋に積まれていた小さな台を運んできた。高さが調節できる踏み台で二つある。アウラの膝くらいの高さにした。椅子の前に、少し距離をあけて置いた。

 

「足はここへ」

 

 ミラの足が乗せられる。左右の台は離れているので、自然と脚を開く形になる。

 深いスリットが入ったスカートと言うか、腰から前後に垂れる幅広の布地が開かれ、白い太股が現れる。

 

「もう少し浅く座って」

 

 言われた通りに浅く座り直す。

 体は背もたれに預けて脚を開いているので、股間を突き出す座り方になった。

 

「クッションがありますから、アウラ様はどうぞこちらに」

「うん…………」

 

 アウラは、ミラの股間と目線の高さが同じになった。

 未使用の部屋だろうと、本邸の一室である。床には毛足の長い絨毯が敷かれて直に座っても寝ころんでも埃一つ付かない。アウラ様を床に座らせても問題ないのだ。クッションも用意したことであるし。

 

「それではどうぞご覧ください」

 

 ミラは覚悟していたが唐突だった。シャルティアと一通りのことはしているのでうぶな生娘らしい羞恥は感じなかったが、天真爛漫で性的なこととは無縁に思えるアウラ様に見せて良いものかどうか、アウラ様のためと言われはしても、僅かばかりの罪悪感があった。

 アウラは何の覚悟もしていなかった。目の前のことだけに全神経を集中することを強要され、この後どうなるかなんて考えられなかった。

 アウラの鼻に女の匂いが届いた。薔薇の香りが混じっている気がする。吸血鬼には薔薇が付き物だからだろうか。

 「血と薔薇」と言う名の映像フィルムがナザリックの最古図書館に収められているのはペロロンチーノの趣味である。ギルメンは誰も気付いてなかった。

 

「こうしてご覧になるのは初めてでしょう? 成熟した女性のおまんこはこのようになります」

 

 自分にもあるところだけど、自分とは違っていた。

 脚を開いても一本筋の自分と違って、ぬらぬらとした内側が見えている。外側の大陰唇が少し開いて、自分のではよくわからなかった小陰唇がびらびらしているのがわかった。それほど伸びてるわけではないけれど、あれだと脚を閉じていてもちょっとだけ外に出てしまうのではとは思った。

 

「指で広げて」

「はい……、ご主人様」

 

 踏み台によって立てられた太股を抱えるようにして、両側からミラの指が現れた。

 アウラも知っているぷにっとしたところへ指を置き、左右に引く。割れ目の内側が完全にさらけ出された。

 

「このポーズを何て言う?」

「……おまんこくぱあ、です。シャルティア様から教えていただきました」

 

 アウラが冷静だったら、「シャルティアのバカなに教えてんの!」とでも思ったろうが、目線は釘付けされたようにミラの秘部から離れない。何も考えていない。ただただ見つめて、自分との違いを探していた。

 

「あん……ごしゅじんさまぁ……」

 

 ミラが何か言ってるようなのもわからない。

 喉を鳴らして見入っている。

 視界に男の指が現れた。

 

「ここがクリトリスです。皮をかぶってるのがわかりますか?」

「……わかんない」

「では剥いてみるので、よく見ていてください」

 

 アウラも触ったクリトリスの根本。そこを指で押さえ、軽く引いた。赤い肉芽が一層鮮やかになったように思えた。

 

「これが剥いた状態です。ただでさえ敏感なところなので女性によっては剥かない方がいいかも知れませんが」

「私は剥いて直にする方が好きです」

「だそうで」

「ひうっ! んっ……あぁっ!」

 

 お望み通りに、包皮を剥いたクリトリスに触れた。一点に集中しているアウラは気付かなかったが、指はちゃんと唾で濡らしている。ぬめる指の腹に押されて擦られ、耐えきれなくなったミラは甘く鳴き始めた。

 アウラからは、クリトリスは指で隠されて見えなくなった。代わりに違うところが違うようになってきた。

 指で隠れたところから少し下。

 アウラが自分で触ってみてもよくわからなかったおまんこの穴があった。小指すら入りそうにない小さな穴がひくついている。割れ目の内側は始めから全体が潤っていたように見えたが、おまんこの穴は少し違った。透明な汁に満たされている。こぼれてきそうなのに中々出てこないのは、水よりも粘りけがあるからではと思った。

 やがて、小さな穴から汁が溢れてきた。アウラの推測を裏付けるように、脚と脚の間をとろとろとゆっくり流れて、そのすぐ下にあるすぼまりに絡んで、椅子へたどり着いた。

 アウラがこの前初めて触ったとき、少しだけ濡らした。指にちょんとくっついたくらいで、ぬめりを確かめるために指を擦りあわせるとすぐにわからなくなってしまった。それが溢れて、流れるほどになっている。

 喉がからからになって、喉を鳴らしたのは何度目か。

 

「アウラ様、お手をこちらへ」

「な、なに!? わたし触らないよ!」

 

 おや、と思った。

 おまんこにも興味津々で熱心に見つめているのに触りたくはないと言う。初めて見る上に少々生々しい部分だから抵抗があるのかも知れない。とは言え、アウラ君に触って貰おうと思ったわけではない。お望みなら幾らでもであるが、今はそのつもりではなかった。

 

「違いますよ。私の指の長さを確かめて欲しいんです。この前のように手を合わせてください」

「…………こう?」

 

 幼いアウラの手と、大人の男の手とでは大きさが違いすぎる。アウラがめいっぱい手を広げても、中指で比べれば男の第二間接まで届かない。アウラよりずっと長くて太い指だ。

 男は開いた手のひらから、中指と薬指をそろえて折り曲げた。

 

「近くでよくご覧ください」

「んっ……」

 

 ミラが鼻にかかる声を漏らした。

 アウラは食い入るように指の行方を見ている。

 指があてがわれたのはおまんこの穴。小指すら入りそうになかった小さな穴はいつの間にかアウラの指なら入りそうになるくらい広がっていた。それでもまだまだ小さい穴。

 だと言うのに、アウラより太い男の指を、それも二本も、ゆっくりと飲み込み始めた。

 指先だけが入って一端抜く。指は透明な汁で濡れている。指を開けば糸を引いた。

 

「女性が性的に高ぶってくると濡れてくるとお話ししたのを覚えていますか? これがそうです。おまんこに挿入されるための潤滑液として濡らすんですよ。愛液と言います。ここで注意しなければならないのは、愛液の量が多ければ感じてるわけではないという事です。多い人はおしっこを漏らしたくらいになることもありますが、少ない人は中が潤う程度です。少なすぎて内側が乾いてるようだと挿入が難しくなるのでその時は工夫がいりますね。ミラの濡れ方は十分だよ」

「ありがとうございます」

 

 濡らしていることを誉められるだけでも嬉しいのだ。

 ちなみに多い人の代表はシャルティアである。処女だったのに開発は十分すぎて、潮吹きが出来るレベルである。

 

 アウラは側に近付き、指が入っていくのがよく見えるように上からのぞき込んでいる。

 入っていくのが見えた。

 アウラのよりずっと長い指が入れられていく。第一関節をあっさり越えて第二間接まで。引き抜いた指は入ったところまで濡れ光っている。

 

「あっくぅうっ!」

 

 嬌声に驚いてアウラは顔を上げた。

 目隠しをされているミラはだらしなく口を開けている。はあ、と熱い息が吐き出し、くう、と喉の奥を鳴らした。

 ミラから見られていないことを再確認したアウラは、遠慮なく好奇心が赴くままに視線を落とす。

 ミラの股に指が突き刺さっているように見えた。刺さっている場所はおまんこの穴で、長い指が根本まで入りきっている。

 あんなに長い指が入ってしまっている。自分は見つけることすら出来なかったところに。

 だけれども、自分もあんな風になれるところを持っている。

 

「少し感じさせるので」

「………………え?」

 

 アウラには言ってることの意味がわからない。

 目に見えることだけが全て。

 

「あ…………あーーーーーっ!! あっあっ、あうぅっ! あんっ、あっ、ごしゅじんっ、さまあっ!」

 

 さっきとは比べものにならない大きな声。

 アウラは驚いて、その場にペタンと尻餅をついた。

 尻餅をつく寸前、男の指が動き出したのが見えた。

 アウラの大きなエルフ耳には、ミラの叫び声以外を聞き取った。

 くちゅくちゅとかじゅぷじゅぷとか、水よりも粘りけがある液体がかき混ぜられているような音。

 アウラは喘ぐように開いていた口を閉じて、唾を飲み込んだ。唾は喉を通り胃に落ちて、そこからお腹まで届いてたわけではないだろう。けども、アウラはそう感じた。飲み込んだ唾が体の真ん中を通って出てきてしまったように思えた。

 じゅん、と来た。

 じわっ、より多い。

 ミラと違ってちゃんとズボンを履いているので見られるわけがないのに、咄嗟に脚を閉じた。それでも無防備な気がして、股間を手で押さえた。

 

 そんなアウラをちらと見やった男はにやりと笑う。

 

(ふっふっふ……、アウラ様はおちんちんをおっきさせちゃったんだな。ミラよ、もっと感じて乱れてしまえ!)

 

 ミラの中で、二本の指が玄妙に蠢く。

 指は何度も締め付けられ、水音が大きくなった。

 

 

 

「ひう……、えぅ……、ひっく……。ぐす……」

 

 それとは反対に、次第にミラの声は小さくなった。すすり泣くような声。ようなではなく泣いている。

 目隠しがしっとりと湿り気を帯び、涙を啜る音がする。

 ミラが静かになっただけ、淫猥な水音がよく響いた。

 

「ご、ごしゅじん、さまぁ……、ひっく……」

「どうした?」

 

 懇願する涙声。

 抽送は止めたが指は抜かない。中で折り曲げて、アウラに教えた感じやすい部分を擦っている。

 

「どうか……お情けを……。どうか…………」

 

 シャルティアの愛妾であるヴァンパイアブライドたちは、例外なく手淫の経験がある。

 ミラはシャルティアにしたことがあるし、されたこともあった。

 先だってご主人様がナザリックを訪れた際は、手マンとクンニの実演をほんのちょっとだけ味わった。されたことの復習をかねて、同僚と試しあいもした。

 手指が自分の体を愛撫するのは何度も経験があった、はずなのだ。

 それなのに今されていることは、今までのいずれとも違いすぎた。この絶技に比べたら、自分たちの手技など幼い子供が初めてする口付けのよう。以前ご主人様にされた時はあくまでも技術の伝達であったからか、これほどではなかった。

 アンデッドの凍える心臓が早鐘のように脈打ち、身体中に熱い血を駆けめぐらせている。

 快感に乱れたことはあっても、叫んだことはなかった。切なさに泣いたこともなかった。

 指では届かない部分が求めている。

 よがり狂うほどの快感なのに、欲しい欲しいと切に訴えている。

 

「どうか、ご主人様の……お情けを……」

「アウラ様の前でかい?」

「!?」

 

 目隠しをされた暗闇の中で、ひたすらに責められていた。

 アウラ様は発言がなく、存在を忘れてしまっていたがそこにいらっしゃるのだ。

 いかに切なかろうと、アウラ様の目の前で。

 

「アウラ様、如何しましょう?」

「え? うん……。ミラは、その……おなさけ? が欲しいの?」

 

 アウラはペタンと座ったまま答えた。

 正座を崩した座り方で、床にお尻がついている。いわゆる女の子座り。

 膝間接の柔軟性の関係で男には出来ない座り方である。だけれども、アウラ様はまだ子供で体が柔らかいんだな、としか思わなかった。座り方よりも股間を押さえている手に目が行って、初めての勃起にドキドキしてるのかな、としか思わない男はバカだった。

 

「…………はい」

 

 少しの間をおいて、ミラははっきりと答えた。

 

 アウラは優しかった。

 たとえシャルティアのシモベだろうと、泣くほど欲しているものを与えないのは可哀想だ。

 

「いいよ。あげてやって」

 

 お情けが何を意味するのかわからないのに、アウラは答えてしまった。




映画「血と薔薇」はyoutubeにあったの確認したのでRはついてないはずです
どうどうとナザリックにあっても不思議じゃないんです
映画は見てませんが原作は昔読みました、内容忘れました
レ・ファニュ作「吸血鬼カーミラ」です
耽美系の百合物、だったはず

一発垢BAN→再垢取得→再度の即BAN→再垢取得→と言う人に粘着されて困ってます
今日明日にもBANされるでしょうが、興味があったら利用規約違反一覧をどうぞ
再垢はたぶん3回目くらい(匿名感想潰したのもこれ)
見かけたら通報とBad評価お願いします

あと、作者を元気付けるために評価と感想くださいb


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初観戦 ▽ミラ♯2

「あっ……」

 

 指が引き抜かれ、ミラが切ない声をあげる。

 

 アウラの目は指が入っていたところへ釘付けになった。

 入れる前より明らかに広がっている。まるで荒く呼吸をしているかのように大きく開いては閉じ、開いては閉じ、閉じる度に透明な汁を垂らした。

 指が離れたと言うことは、おなさけとは指以外のこと。アウラが聞き知っているのはクンニリングス。口や舌を使って愛撫するとかなんとか。口というなら当然舐めるのだろう。

 アウラが指で少しだけ触ってみた時は刺激が強すぎた。強く触ってしまったし、濡れてもいなかった。

 だけども舐めるのなら。舌を使うのなら。

 舌は指よりずっと繊細で柔らかくて、いつでも唾に濡れている。舌で触れるならきっと痛くない。ただし、触れるところはあんなところ。おしっこが出るところできれいではない。大体にして恥ずかしすぎる。ミラのは見てしまっているが、見ているだけで恥ずかしい。それを舐めるだなんて。

 

 アウラがドキドキして事の成り行きを見守っている中、男は舐めるために屈むことなく、代わりにミラの顎を掴んで上を向かせ、右手の中指と薬指でミラの紅い唇に触れた。

 紅い唇を割って濡れた舌が現れ、突きつけられた指を包んだ。

 

「なにしてるの?」

 

 舐めると思った方が反対だ。

 それにその指は、さっきまでミラの中に入っていた指。ミラの愛液で濡れている。それを舐めとらせている。そんなことをさせられたらと思うと、アウラは恥ずかしくてどうにもならなかった。

 

「テストです」

「テスト?」

「ミラの準備は十分ですが、私はまだです。私の準備をミラに任せられるかどうか試しているんですよ」

「準備?」

 

 アウラにはいまだ何のことだかわからない。

 アウラにはわからなくても、ミラにはしかと伝わった。気合いが入った。

 

「あっ」

 

 思わずこぼれたのはアウラの声。

 ミラが指を口に含んだのだ。

 吸血鬼が口内に迎え入れたとすれば吸血のために他ならない。間違っても吸血させるわけにはいかない。

 アウラが万全ならすぐさま引き離すところなのだが、ペタンと座り込んだまま股間を押さえている。前のめりになっただけだった。

 

「へえ……」

 

 男が感心したような声を出したので、吸血の危険性はないらしい。アウラはひとまず静観することにした。そして相変わらず何をやっているのかわからない。

 

「ん……、ぷはっ。いつご主人様に呼ばれてもいいように、練習しておりました」

「うん、基本は押さえてるね。それに舌遣いも中々。ああそうか。シャルティア様にクンニしてたからかな?」

「はい。仰るとおりです」

「それに……」

「ななななななななにをっ!?」

 

 混乱してるのはアウラだけ。

 ミラは手を取られて立ち上がると、そのまま男と抱き合って唇を合わせた。

 舌が伸びて、相手の口の中に入っているのがアウラにはわかった。

 男の手がスカートのスリットから中へ入って、ミラの尻を直に揉んでいるのもわかった。

 

「吸血鬼だから牙が尖ってると思ったけどこれなら大丈夫そうだ。でも歯が当たらないように気を付けてくれよ」

「はい、仰せの通りに」

 

 合格を言い渡されたミラは嬉しそうに応えた。

 

 キスをしたのは、舌を使ってミラの牙を探ったのだ。

 吸血鬼とくれば鋭い牙。確かに犬歯は伸びて先端は鋭かった。それでもナイフのように触れれば切れるほどではなかった。吸血の際はもっと鋭くなったりするのだろうか。これなら強く噛まれない限り大丈夫そうである。

 シャルティアとの経験で大丈夫だろうとは思ったが、ヴァンパイアブライドは微妙に種族が違うらしいので念のための確認だった。

 

「ちょちょちょちょちょっ!?」

「なにか?」

「なにかって、なにかって……!」

 

 やはり混乱してるのはアウラだけ。

 ミラはその場に膝立ちになると、男のズボンを脱がせたのだ。アウラの覚悟を待つ間もなく、下着も。

 

「成長するとここも大きくなるんです。私は平均より大きいらしいですが、大きければいいと言うものではないので。これについては女性側の好みでしょうね」

「ああ……、とてもご立派でいらっしゃいます」

 

 ミラは目隠しをしたままなので、手探りで触れた。

 まだうなだれているそれを見つけると、両手を使って恭しく持ち上げて、指でしたときと同じように紅い舌を這わせた。

 

「さっきミラに指を舐めさせたのはこっちを舐める時のテストです。アウラ様はご存じなかったかも知れませんね。女性器を口で愛撫するのがクンニリングスで、男性器を口で愛撫するのはフェラチオと言います」

 

 アウラの目の前でフェラチオが始まった。

 

 

 

 

 

 

「んっんっ……じゅぷ……んっ……ぷはっ。ご主人様のおちんぽがこんなに大きく……。あむっ……、おいひいれす……」

 

 練習したときのように大きく口を開いて歯が当たらないよう注意し、ぷっくらとしてる唇で強く挟む。口をすぼめて強く吸えば頬の内側に熱い逸物が触れた。

 焼けるように熱くなってる。固くなってる。もっと気持ちよくなって貰おうと、ご主人様の腰を抱きしめて根本まで咥えた。

 強く吸うのでじゅるじゅると鳴る。根本まで咥えているので先端が喉を突く。被虐嗜好があってもちょっと苦しい。苦しさとご主人様の快感を天秤に掛ければ後者が重い。

 

「もっと舌も使って」

「あい……。ちぅ……れろ……んっん、あむぅ……。いかがでしょう?」

「そのまま今度は頭を振るんだ」

「んっんっんっ、ちゅぷんっ……、じゅるる……。んんっ」

「手も忘れずに」

 

 指導しながら口淫を続けさせる。

 ミラのひんやりとした手が竿を扱き、逸物の半分くらいまでが口の中を出入りしている。

 シャルティアのおまんこを舐めてきた蓄積で舌遣いは中々巧みだ。練習したと言うだけあって基本は押さえている。とは言っても、歯が当たらないようにだとか舌全体を使ってべっとりと舐めあげるだとかで、感じる部分を的確に刺激する技術はまだまだだ。使えるのは勃起させるところまでで、射精するまでいくには強く吸わせてイラマチオをする必要があるだろう。

 イラマチオとくれば、ルプスレギナとユリによる姉妹の絆イラマチオはかなり良かった。またして欲しいものである。

 

「ああ……ご主人様のおちんぽが……。とても大きくて、とてもご立派でいらっしゃいます。……すんすん、逞しい殿方の香りがいたします。ご主人様のおちんぽの匂いだけで、ミラは、ミラはもう……。んっ……」

 

 屹立した逸物へ愛おしげに頬ずりする。頬は染まって声は濡れて、左手はスカートの中へ潜っている。中ではくちくちと鳴っていた。

 

「そうだな。そろそろいいだろう」

「はい!」

 

 アウラは何も言えなかった。

 ずっと混乱しっぱなしで目の前の光景についていけない。何が起こってるのかもわからない。それなのに、事態は容赦なく進行している。

 

(なにあれおちんちん!? あんなに大きいの!? マーレと全然違うじゃん! なんか上向いて大きくなってるし。あんなの、おおきすぎるよ……。あんな、おちんちん舐めて……。おちんちんっておしっこ出るとこでしょ? 汚くないの? でもクンニっておまんこ舐めるって言うし、おちんちん舐めるのも普通なの?)

 

 何も言えないけれど、頭はぐるぐると回っていた。

 なにせどれもこれも初めてだ。成熟した女性の裸体を見るのが初めてなら、成人した男の体を見るのも初めてだ。双子の弟であるマーレの小さくてかわいいおちんちんなら見たことはあるが、同じ物とは思えない。大きさが違えば形も違う。

 中に硬い芯でも入っているような肉の棒が、股間から反り上がっているのだ。ミラの口から離れた逸物は跳ね上がって、へそまで届いた。長さがあれば太さもある。華奢なアウラの腕くらいは軽くありそうだ。

 

(おちんちん大きすぎる……。あ……。まさか、指より長くておまんこに入れるのって)

 

 指では膣の深さを計れない。指の長さより深いからだ。けども、そそり立つ逸物は確実に指より長い。

 

(おまんこに入れるのって……おちんちん……?)

 

 アウラは、男と女が具体的にどう交じり合うのか知らなかった。知らなくても、ここまでヒントを散りばめられれば気付いてしまう。

 

「立って椅子に手をつけ」

 

 跪いていたミラが立ち上がって、椅子の肘掛けに両手をついた。体を倒して尻を後ろへ突き出すポーズだ。男はミラの腰を掴んだ。

 腰紐をほどき、布と帯で出来たシャルティア好みのエロ衣装を脱がせる。ミラは完全に全裸となった。身につけているのは目隠しだけである。

 脚を軽く開かせてから真後ろに立った。こちらはシャツを着たまま、下は全部脱いでいる。

 

「アウラ様、どうぞこちらに」

「…………」

「さあ」

「…………うん」

 

 よろよろと立ち上がって一歩だけ近付いた。あと半歩も近付くとぶつかってしまう。

 全裸で尻を突き出しているミラより、男の股間へ目が行った。肉の棒に見えた逸物の形状がまざまざと目に焼き付いた。

 

「ごしゅじんさまぁ、どうぞ、ミラの中へ。ミラのおまんこを存分にお使いください。あうっ! ……もうしわけ、ございません」

 

 急かすミラの尻をピシャッと叩いた。肉厚の尻が波打った。

 

「ミラに指導していたので説明が疎かになって申し訳ありません。ちんこを立たせるためにフェラチオをさせました。アウラ様もいずれ経験することでしょう。良いものですよ」

「……はい。ご主人様が私の口でおちんぽを立たせてくださったのを思うと、胸がいっぱいになってしまいます。フェラチオはしている方にも悦びがございます」

「……そう言えば」

 

 アルベド様はお食事のためにおフェラをなさるので措いておき、シクススが嬉しそうに舐めているのを思い出した。

 

「ちんこが立つとこうなるんです。立ってる状態を勃起と言います。女性のクリトリスと一緒で、立ってるときの方が気持ちいいですね。気持ちよくなると立ってくるんです」

「ぁう……。はあ…………」

 

 ミラが熱い息を吐く。

 男が少し腰を落として高さを合わせ、亀頭でミラの股間を撫でている。たっぷりと潤って開いた割れ目に潜り、愛液をまとって出てくる。

 

「あ、あ、そこは。私は、まだ、あの……」

 

 脚を開いているのでそのままでも見えるが、よく見えるように尻肉を掴んで押し広げた。尻の割れ目に隠れていたのはきゅっと締まった窄まりである。

 

「力を入れて広げるようにしてみろ。今使うわけじゃないから」

「はぃ……。んんっ!」

 

 窄まりから伸びる皺が少しだけ緩んだ気がする。窄まり自体は締まったままで隙間はない。

 

「今日はしませんが、尻の穴でも快感を得られます。おまんこと違って愛液が出るわけではないので、潤滑液の用意が必要です。入り用でしたらお申し付けください」

 

 そんなの要らないとは言えなかった。恥ずかしいとか驚愕を通り越して、あっぷあっぷである。

 

「今は余計なことだったかも知れません。それでは始めます」

 

 亀頭がもう一度ミラの股間を撫でた。さっきと同じように割れ目に沈む。今度は出てこない。

 おまんこの穴のあたりで止まった。指を入れたときと同じように、まっすぐにあてがっている。

 

「アウラ様、どうぞ、近くで、さあ、ご覧ください」

 

 幼いアウラは、ふらふらと半歩進んだ。男のシャツを掴んで下を見た。

 おちんちんが少しずつ進んでミラの体に隠れていく。先端の膨らんでいるところが入りきって、長い部分が続いていく。

 少しずつ入れられていく。あんなにも太くて長いものが入れられていく。アウラは入れられまいと、太股を固く閉じた。

 

「あっ……ご主人様……おちんぽが……ああ……」

 

(入ってる……。入っちゃってる。ご主人様の……って違う違う! 私のご主人様じゃないからミラがご主人様って言い過ぎなの!)

 

「はやく……、ミラの奥に、早くいらして……はぁ、ふぅ……あぁ……」

 

(うわぁ……。ホントにおちんぽが入っちゃってる。おまんこの穴ってあんなにちっちゃかったのに。おちんぽあんなに太かったのに。もう半分以上入ってる。あれ、指より深く入ってるよね? おまんこの穴ってあんなに深いんだ……。…………わたしのもああなの?)

 

 ミラがおちんぽおちんぽ言うせいで、染ってしまったことにアウラは気付かなかった。

 アウラが見守る中で挿入は果たされ、一番奥まで入った。男の下腹がミラの尻にぶつかっている。

 

「これで一番奥まで入りましたが」

「はううううううぅぅうううん!!」

 

 ミラの細い腰を掴み、更に奥へと突き進んだ。膣壁を抉って最奥に届いていた亀頭が奥の壁を強く叩いた。

 ミラは背を弓なりに反らし、叫んだ。目隠しの湿り気が増した。

 奥まで入っていたが根本まで入ったわけではない。今や根本まで、全てがミラの膣へ収まっている。

 

「私のは長いようで、奥まで届いてしまいます。そこまでいくと痛みを感じる女性もいるようですが、ナザリックの戦闘職にある女性は痛みに強いようですね」

「は、はい……。今の……すごく、良かったです。ご主人様を……感じられて」

 

 シャルティアの愛妾なのだから、被虐嗜好も当然のようにあったようだ。多少の痛みは苦しいどころか快感であるらしい。

 ミラの声は恍惚として、もっと欲しいと言うように尻を軽く揺すっている。中では肉ひだが蠢いて、逸物を絞ろうとしてくる。

 主が主ならシモベもシモベだった。シャルティアはストレートに、「もっともっと突くでありんす!」と求めてくる。こう言っては難だが、シャルティアより具合がいい。シャルティアはキツキツなのだ。締め付けてきついなら良いが、シャルティアのは狭い。華奢な体なので仕方ないかも知れない。

 ミラはこれが二度目の挿入だというのに、中はこなれて固さはない。これもシャルティアと色々なことをしてきた成果だろう。

 

「それでは動きますので、手をよろしいでしょうか?」

「あ、え? ……うん」

 

 シャツから手を離した。

 男はミラの中に入っていた逸物を抜ける寸前まで引き抜くと、抜けていくときの十倍の速さでもう一度奥まで貫いた。

 下腹が尻を打ってパンと鳴り、尻肉が波打った。

 

「ひぅっ! ごしゅじん、さまぁ!」

 

 何度も絶頂したミラの体は温まっている。それでもやはりアンデッドで、膣内の温度はそれなりだ。代わりに柔らかくほぐれている。シャルティアのような狭さは感じない。尤も、シャルティアだって十回以上いかせてトロトロにさせてしまえば良い具合になってくる。

 奥の奥まで貫いて、亀頭がミラの子宮口にぶつかっている。体の中を深く抉られ、多少の痛みはあるだろうがそれすら快感であるらしい。痛みに強いのと、それを快感に思うのは別なのだ。

 奥まで入れて、動きを止める。こうして体の最奥にまで入れていると征服感らしきものがある。

 目隠しをされているのに、ミラがこちらを振り返ってきた。

 

「締めたり緩めたりを交互にしてみろ。俺の動きにあわせて」

「は、はい。んっ……、んふぅ……。ご主人様のおちんぽが感じられます」

 

 これを初体験で無意識にやっていたエンリはやはり素質があったに違いない。

 ミラは言われた通りに逸物を締め付けては緩め、しかし動きを合わせるのは難しかったようで、こちらから合わせることにした。

 ゆっくりとした抽送だが、始めはこうして高めていくのがいい。

 

「アウラ様がご覧になってるんだ。もっと声を出して、アウラ様に楽しんでいただくように」

「…………はぃ」

 

 どうしてこんなことになっているのかミラにもよくわからない。勿論、アウラだって全くわかってない。

 でもそこにいらっしゃる。

 アウラ様にはシャルティア様のような同性愛嗜好はないはずなので、いずれ殿方とお楽しみの際の参考になさるのだと思われる。

 だとしたら、と言うところまで考えて何をすればよいのかわからなかった。

 ご主人様が声を出せと言うのなら、感じ入った淫らな声と淫らな言葉を聞かせることなのだろう。そんなもの、意識しないでも幾らでも出てくる。シャルティア様の愛妾は伊達ではない。

 

「はうぅ……、おちんぽが入れられちゃってます。すごく大きくて、すごく逞しくて、あんっ、おちんぽが引き抜かれて、あっ……くふぅ、おくまで、きました。ミラのまんこはっ、ご主人様専用まんこでっ、いっぱい、じゅっぽじゅっぽしていただいてぇ……」

 

 蕩けるような淫らな声。多分に男への媚びが混じっている。

 豊かな乳房も、紅い唇も、細い腰も、むっちりとした太股も、肉厚の尻も、熟れた女性器も、体の全てを捧げて愛しいご主人様の歓心を買おうとしている。

 心はとっくに捧げてる。シャルティア様に与えられたばかりの名を呼ばれるだけで心奮えるのだ。

 

「あっ……はぁん♡ ミラの、おまんこ、つかってください。あんっ、つかっていただいて、しあわせです。あぁ……、ごめんなさいぃ……。おちんぽがきて、きもちいです。おまんこがぁあんっ!」

 

 長い黒髪を振り乱し、ミラがよがり始めた。

 頬以外にも、蒼白の肌が紅潮してくる。白い肌に赤みが差していくのはとても美しい。

 

「ひゃ、あっ、あんっ、ああっ、あああん♡ あんっ、あんっ、いいですっ! おまんこ、いいですぅっ♡」

 

 逸物を締め付ける膣壁は、ずっと締め付けていたかと思えば緩んでくる。

 腰を打ち付ける度に結合部からは飛沫が飛ぶようになり、挿入してからも何度か達しているようだ。

 滑らかな尻肉が揺れ、細い腰から美しい背中へ。

 この背中が見たいからこそ脱がせたのだ。

 

「あんっ、おっぱいいぃ、ごしゅじんさまぁ♡」

 

 ミラの背へ覆い被さるように体を倒し、突く度にぶるんぶるんと揺れていた乳房を鷲掴みにした。

 揺れる乳房を横から見るのは壮観だろう。きっとアウラ様には十分お楽しみいただいたろうから、そろそろしたいようにしてもいいはずである。

 柔らかな乳房を揉みしだきながら後ろから突くのは中々よいものだ。女は耐えるしかないので、うっすらと感じていた征服感が強くなってくる。

 

「倒れるなよ?」

「はいぃ……、あっあっああああっ……!」

 

 ミラの膝がガクガクと揺れる。

 唐突にキュッと締め付けてきたのを一回と数えると、軽いのも合わせて二桁は達している。いきやすいのはシャルティアに開発されてきたからか。

 締め付けに緩急がついてそれはそれでよいが、射精を導くのとは少し違う。

 アウラの様子を窺った。

 始めるときは間近で見ていた。今は床の上に座っている。クッションを使わない直座りだ。太股はぴたっと閉じてやはり股間を押さえ、もう片方の手は口を押さえている。青と緑の瞳はこぼれるほど大きく見開いて、自分たちの交わりを凝視していた。

 

「そろそろ出す。少し激しくするから、ちゃんと締めるんだぞ?」

「はいっ、ちゃんとっ、まん肉しめますからぁ! ミラのおまんこに、ご主人様の精液をぶちまけてください! あんっ! ミラの中にいっぱい出してぇ!」

 

 乳房から手を離し、同じくらい豊かな尻肉を掴んで引き寄せる。

 ミラは言われたとおりに膣を締め、中を何度も往復している逸物へ絡みつく。狭いのでも単にきついのでもなく、熟れた雌肉が締め付けてくる。

 引き抜くときは逃がさないと言わんばかりに締め付けが強くなった。

 入れるときは奥まで迎え入れるかのように緩んでくる。

 リズムよく尻を叩く音が響き、微かな水音が鳴る。

 ミラの嬌声はそれよりずっと大きくて、耳を楽しませた。淫らに乱れ、感じ入った女のあえぎ声はとてもよいものなのだ。アウラ様も楽しんでいるはずである。

 

「あっあっ、はやくっ! 出してくださいっ! おちんぽよくなって、あひゅっ! くらさいぃ!」

 

 ミラの献身で、希望通りに最奥で果てた。

 温まってきた膣内で、逸物が脈打ちながらどぴゅどぴゅと精液を吐き出している。

 

「ああ……、おちんぽが、ごしゅじんさまのおちんぽがぴくぴくして、でてます。すごい量……。ミラのおまんこがご主人様の精液でいっぱいになってます。とっても熱いです。おまんこが熱くなって、……あはん♡」

 

 膣内に精液が満ちるのを感じて、ミラは達した。

 長い射精を終えた逸物を包みながら、小さく痙攣している。中だけでなく尻も震えているのが見えた。

 ずっと肘掛けを掴んでいた手はついに力尽き、ミラの頭は椅子の上に落ちた。

 掴んでいた尻から手を離せば、足腰が萎えてしまったようでその場に崩れ落ちる。

 ミラの中から、ずるりと逸物が引き抜かれた。

 精液と愛液が混ざり合った淫液に根本まで濡れそぼって、アウラは立ち上る湯気を幻視した。

 まだ大きいまま。

 

「まだだぞ」

「はい、ごしゅじんさま……」

 

 秘部から膣内に収まりきらなかった精液がこぼれるのを感じながら、ミラはご主人様の前に跪いた。

 始める前のように紅い唇を開いて。

 

 

 

 

 

 

「アーちゃん、お帰り。今日は遅かったね。何かあった?」

「………………ユリ?」

 

 アウラをアーちゃんと呼ぶのはユリだけである。二人の創造主はどちらも女性で仲が良く、その関係でアウラとユリも仲が良い。階層守護者とプレアデスで階級差があるため、公的な場では気安い言葉を使わない。

 

 アウラはナザリック表層部のログハウスにいた。さっきまで帝都の屋敷にいたはずである。いつの間にか帰って来たらしい。

 

 どうしてそうなったのか未だにまったくわからないが、刺激的すぎる光景を見てしまったアウラは、いっそ気絶したいと何度も願った。

 しかし、100レベルであるアウラには当然のように気絶耐性がある。気絶して現実逃避など許されなかった。

 しかし、現実はアウラのキャパシティをオーバーしてしまった。アウラの意識は旅立ってしまったのだ。

 しかし、こうしてナザリックに帰ってきたところを見ると、覚えていなくてもちゃんと帰路についたらしかった。

 

「ゆり~~~~~~~っ!!」

「わっ、どうしたの?」

 

 幼い子供のように抱きついた。

 豊満な胸に顔を埋めて頬ずりする。

 ユリのおっぱいの柔らかさに、確かに帰ってきたんだと実感する。

 すごいのを見てしまった気がするが、自分はちゃんと帰ってきたのだ。

 

「アーちゃん元気出して。ボクがついてるから」

「んーー……。別に元気ないわけじゃないから」

「そうなの?」

「………………」

「なあに?」

 

 何があったか知らないが、アウラの様子がいつもと違う。

 怪我はしてないようなので、何があったか聞き出すのより甘えさせることを優先した。

 しばらく胸に顔を埋めていたアウラは、顔を上げてじーっと見つめてきた。

 瞳を揺らすアウラを辛抱強く待っていると、

 

「ユリっておちんちん入れたことある?」

「………………え?」

「だから、おちんちん。おまんこに入れたことある?」

「え゛?」

 

 

 

 

 

 

 翌日である。

 

「何かご用でしたら早く言ってくださいませんか? 私はルプスレギナ様ほど暇ではありませんので」

「む……。私だってちゃんと仕事があるっすよ。おにーさんの字が汚いから報告書とか全部清書してるんすから」

 

 部屋にはいつものようにきついシクススと、さりげなくディスってくるルプスレギナがいた。

 椅子に座る二人の前にはお屋敷の若旦那様。

 ミラは席を外している。昨日テストしたのでミラの実力は把握していた。

 

「なんすか?」

「なんでしょう?」

 

 二人の顔の前に、無言で指を突きだした。

 中指である。

 意味するところは二人とも察しているのだが、隣を気にして中々始めない。

 同時にやって、比べられるのが嫌な女心である。そんな機微がこの男にわかるわけがなかった。

 

「仕方ないっすね。あむっ……」

「むぅ…………。ちゅっ……」

 

 ルプスレギナは渋々と咥えて、シクススは頬を膨らませてから唇で触れる。

 二人の口の中で、中指が舌に包まれている。

 たっぷりと唾を絡めて舐め、音を立てて吸う。

 

 始める前から、大体の実力は把握していた。

 ルプスレギナの口内は熱い。舌は少しざらついて、それがまたよい刺激になる。

 シクススは丁寧だ。突き出された手を両手で持っているのもポイント高い。ずっとペロペロしゅっしゅしてきただけはある。

 総合力ではシクススに軍配が上がった。

 

「うん、今度はシクススに頼もう」

 

 残念ながらミラは戦力外である。まだ初心者なのであまり上手でないのだ。

 

「私でしょうか? 一体何をさせるおつもりですか?」

「俺の事じゃないよ。アウラ様だ」

「アウラ様?」

「……なーんか最近アウラ様をよく構ってるっすよね?」

「下心があるのは否定しないよ」

「うげ……」

 

 ルプスレギナとシクススは誤解した。

 節操のない男と知ってはいても、アウラ様はまだ小さすぎる。色々と無理である。

 誤解をされたと察した男は、正直に話した。

 

 アウラ様には恩がある。空の旅を楽しませて貰ったし、ルプーたちが来るまでの護衛を引き受けてくれた。ここまでは恩返し。下心とは、先のナザリック訪問のことだ。

 ほとんど裸でナザリックに連れて行かれたため、着る服をマーレ様にお借りした。アウラ様の服を勝手に借りるわけにいかなかったからだ。だけども、アウラ様のポイントを稼いでおけば勝手に借りても怒られないかも知れない。

 同じ事があるとは思えないが、一度あったことが二度目はないとは言い切れない。万が一に備えて、と思って欲しい。それにアウラ様に楽しんでいただくのは悪いことではないだろう。

 

 ルプスレギナは吹き出した。

 シクススは笑うのを堪えようとして失敗し、頬をひくつかせた。

 見たいような、似合ってたら怖いような。アインズ様は何度も感情抑制を発動した。

 

「まさか外の者を使うわけにいかない。ルプーとシクススなら協力してくれるだろう?」

「そういうことでしたら。ですが、その……口を使うのが関係するのでしょうか?」

「とりあえずは手を考えてるけど、その時の状況次第だね」

「はあ?」

 

 アウラの記憶にはないが別れるときに、「次はアウラ様に体験していただけるよう準備をしておきます」と話していた。

 まさか自分がやるわけにはいかない。アウラだって嫌だろう。人間の女もナザリック的に却下。ナザリックの同胞で、自分に協力してくれそうで、戦力があるのは現状でこの二人だけなのだ。

 

「アウラ様のおちんちんに気持ちよくなって貰おうと考えてる」

 

 ルプスレギナとシクススは、とんでもなく頭が悪い言葉を聞いた気がして、さすがに聞き間違えたと思った。

 

「シクススは口も手も上手いからね。いってもそこまで。多分、精通もまだだろうし」

 

 聞き間違えたのではないらしい。

 とても頭が良いらしい若旦那様だが、時々すごいバカなんじゃないかと思う二人だ。

 

 本当にすごいバカであることが判明した。




前話後書きに追記した通り、悪質なのに粘着されてます
対処法はないですね、ロックされてもまた来るでしょう
また潜るべきかなあ

とりあえず100話までに一旦完結させます


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真実の探り方

 ルプスレギナは性悪サディスト愉悦系ワーウルフである。

 誰かが勘違いしてたら正すわけがなく、全力で煽って勘違いを加速させ、たっぷりと油を注いで大炎上させ、完全に後戻りできなくなってからネタばらし。

 プークスクスバカスギッスネザマア! とかやってしまう悪い人狼である。

 しかし、このネタはヤバすぎた。間違いなく死人が出る。死ぬのは未来のお婿さんだ。即座に間違いを指摘した。

 

「アウラ様におちんちんはついてないっすよ」

 

 若旦那様はきょとんとした顔でパチパチと二度瞬き。

 

「ダークエルフの生態はエルフと同じだと思ってたけど違うのか。幼少期は外性器が体内にあるのかな」

「違います。エルフもダークエルフも人間も同じです。アウラ様は女性です」

 

 シクススも続いた。ここで若旦那様の勘違いを正しておかないと遠からず死ぬのはシクススにもわかっている。

 二人が間違いを正してくれたというのに、若旦那様は露骨なしかめ面を作った。

 

「二人して俺をからかわなくていいだろう。全く何言ってるんだ」

「何言ってるのはおにーさんの方っすよ! アウラ様は女の子っす! おちんちんなんてついてないっすから!」

「ルプスレギナ様の言う通りです。もう一度いいますよ? アウラ様は女性です」

「男の子の服着てるからって何勘違いしてるんすか」

 

 何故か二人は頑なに間違いを押しつけてくる。

 どんな意図があるのか知らないが、正しく反論すればおかしな押しつけは止むと考えた。

 

「服装から性別を見てるわけじゃないよ。俺はマーレ様を肩車したんだ。マーレ様の股間を首に乗せてもおちんちんはなかった。アウラ様とマーレ様は双子の姉と弟。マーレ様が女の子ならアウラ様は男の子。違うか?」

 

 首に逸物の感触はなく、ちょっぴりぷにっとしていた。マーレ様のぷにまんである。

 

「全然違うっすよ!」

「何が違う? まさかマーレ様が男の子だとでも言うのか? おちんちんがなかったんだぞ? もう一つある。俺はマーレ様のパンツを借りたんだ。あんな小さいパンツじゃちんこが入るわけがない」

「それは……マーレ様のおちんちんはまだ小さいんです。小さいから小さいパンツでも大丈夫なんです」

「……俺がマーレ様くらいの背丈だった頃はあんなパンツに入らなかった」

「おにーさんってそんな頃からちんちんでかかったんんすか?」

「さすがに今よりずっと小さかったよ」

「いつ頃からでかくなったんすか?」

「そうだね……」

「二人とも話が逸れています。マーレ様は男性でアウラ様が女性です!」

「そうっすよ! アウラ様はちゃんと女の子してるっすから!」

 

 アウラは精神的には大人びてるが肉体は幼い。背が小さければ胸もない。そこのところを度々シャルティアがからかって、キャットファイトになるのはいつものことだ。アウラはそこを気にしているからこそバトルになるのだ。

 そのシャルティアとて、アウラにおちんちんがついてる、なんて酷い事は言わない。

 それを言ってしまうと、後はもう命のやりとりしか残されていないのだから。

 

「二人が言ってることはわかった。だけどね、俺は賢くはなくても真実を多数決にゆだねるほど愚かではない。聞いた話を鵜呑みになんて出来ないな」

 

 賢しげな言葉だけどスゴいバカである。

 下手に賢いので、こう言うときどうやって言い聞かせればいいのか二人にはわからなかった。出来るのは力押しだけである。

 

「おにーさんが何て言おうとアウラ様は女の子っす!」

「そうです。立派な女性ですから!」

「……そこまで言うなら。本人に直接確かめるよ」

「絶対ダメっすからね!?」

 

 やってしまえば間違いなく死ぬ。それをさせないがために二人は頑張っているのだ。

 

「アウラ様におちんちんついてますか、なんて聞かないよ。そんなの失礼だし」

 

 相手が男の子だろうと女の子だろうと、とても失礼な質問である。

 

「ではどうやって確かめるおつもりですか? 絶対に、本当に絶対に聞いてはいけないんですからね?」

「簡単さ。ついてるかどうか、脱がせば一発でわかる」

「!?」

 

 

 

 

 

 

 数日おいて、アウラは帝都のお屋敷を訪問した。前回と前々回とその前と同じく、魔導国支配領域の警戒網についてである。

 現在は魔獣を使って警戒しているが、アウラがいかに優秀なビーストテイマーだとしても数に限りがある。効率的な警戒ルートを構築してもいずれ限界が来る。そこを代替するための組織作りについてが主な内容である。

 こういった相談は他へは出来ない。アルベドやデミウルゴスなら何とかなるだろうが、二人ともとても忙しい。どうしてもアルベド麾下のあの男が頼りになる。

 尤も、盲目的に信頼しているわけではない。真摯に受け答えしてくるしアウラにも尤もらしく聞こえるが、出された案が本当に使えるかどうかは別問題だ。試しにアルベドへ、「こんなのどうかな」とアイデアの出所を伏せて話したことがあった。アルベドはたおやかな微笑を崩さずに小さく感嘆の声を上げた。どうやってそんな事を思いついたのか聞きたがった。

 アウラは、詳しそうなのに相談した、としか言わなかった。正直に話してもよかったが、何とはなしにためらわれた。アルベド直属なので、勝手に使うなもう会うな、と言われるのを恐れたのかも知れない。

 

 ともあれ、内容についてアルベドのお墨付きがあるなら問題なし。訪問は二度三度と重ねられていた。

 ところが前回、とんでもないものを見せられてしまった。

 見たいか見たくないかと言われたらわからないがどちらかといったら見たくない。また見せられてしまったらとの懸念はなきにしもあらず。

 だけどもアウラは階層守護者。とても偉いのだ。いやなことはいやと言える立場である。

 変なものを見せられそうになったら断固として拒否することにして、本日。

 

 大きな机に広げられた魔導国周辺の地図や組織図の素案を書いた紙をアウラが仕舞う。持ち帰ってマーレにも見せるのだ。

 何事かを書き付けられた紙は男が片付ける。本邸にいるのはナザリックの一般メイドやエ・ランテルで扱いたメイドたちなので見られても問題ないだろうが、一応は機密事項なので守秘には気を付けていた。

 

「アウラ様にお見せしたいものがあります。少々よろしいでしょうか?」

 

 アウラのエルフ耳がピンと立った。

 

「……………………なに? 変なのだったら見たくないから」

 

 警戒もあらわに、アウラは言ってやった。階層守護者であるアウラには見たくないものは見ないと言う権利がある!

 ちなみに時間は大丈夫。一日の仕事を終えて、近隣の警戒ついでに帝都に足を伸ばしているので、後は帰って寝るだけだ。

 

「少々古い話になります。ハムスケさんのことです」

「ハムスケの?」

 

 会議室から移動した先は帝都の屋敷にも作ったアトリエである。

 使い始めてから日が経っていないので、壁際に並んだ棚はまだスカスカ。大小の机に乗っているものも少ない。

 様々な形のガラス容器や、透明な液体に満ちた小瓶が何本も並んでいるのが錬金術師の工房を思わせる。ただし、臭いはそれほどでもない。これが商売をやっている錬金術工房となると、種々の薬草や薬品の臭いで凄いことになっているのが常だ。

 

「ご覧ください」

 

 黒いトレイに乗っているのは三本の糸。白くて一端が尖っている。男は右の一本をつまみ上げた。糸は曲がることなく真っ直ぐのまま。ハムスケの体毛である。

 

「これが加工する前のハムスケさんの毛です。針金みたいですね。これを持ってみてください」

 

 アウラに頼んだのは真ん中の体毛。小さな手が持ち上げると、ただの糸のように折れ曲がった。

 

「へーーーー! ハムスケの毛がこんなになったの?」

 

 針金のような剛毛が柔らかくなっている。全身がこうなればさぞもふもふになるだろう。

 

「密封した容器で加圧加熱してから脱脂処理を施しました」

「ダメでしょ。そんなのしたらハムスケ死んじゃうじゃん」

「やっぱり死んじゃいますか」

 

 凄い魔獣だけど、300度で一時間も煮れば死んでしまうのだ。

 

「三番目のこれは薬液だけを用いました。皮膚へのダメージもないことを確認しています」

 

 三番目は二番目と同じくらい柔らかくなっていて、未加工の毛と変わらない艶がある。

 

「難点は何度も同じ処置を施さなければならないことです。ハムスケさんは大きいですし、薬液も相当量が必要でしょう。薬液の生産は出来ますが、ハムスケさんに塗布するのが大変そうです」

 

 全身シャンプーのようなものである。

 アウラはお気に入りの魔獣であるフェンの全身を洗うことを考えて、絶対無理と頭を振った。全長20メートルの狼を洗うなんて無理すぎる。ハムスケはそれよりずっと小さいが、何度もしなければならないとなると厳しいものがあった。

 

「ただ腹案もありまして、これを使えば塗布自体は簡単になると思います」

 

 そう言って、机の上から試験管を一つ取り上げた。

 中身を一滴だけ手のひらに垂らすと、液体は玉を作らず広がった。

 

「飲んでも害のない水のようなものです。人の肌と親和性があって、こうして垂らすとどこまでも広がっていくんです。試してみますか?」

「うん」

 

 水のようで水とは違う振る舞いをする面白い液体である。ソリュシャンと共同開発した特性ローションの素材であったりする。

 差し出した試験管を受け取ろうとアウラが手を伸ばすのを、男は変わらぬ表情で見守った。

 

「あっ!?」

 

 受け取った瞬間に試験管が割れ、中身がアウラの体に飛び散った。

 アウラは長い手袋を着けているのでガラス片で怪我をすることはない。装備しているベストとズボンには当然のように耐水性があるので濡れることもない。

 だけれども、

 

「つめたっ!? なにこれ!? 服の中に入ってきたんだけど!」

 

 服や手袋など、人体以外からは弾かれる液体なのだ。たとえば机の上に垂らすと、水の玉になってコロコロと転がっていく。そこへ指で触れると吸い込まれるように上ってくる。

 僅かな隙間から浸入し、人肌を目指すいやらしい液体である。ソリュシャンはこれに毒性を持たせた回避不能の凶悪毒ポーションを持っていたりする。

 

「少し冷たいだけで害はありません。ですが拭き取るのが難しい液体で、乾くのを待つか大量の水で流すしかないんです。すぐに風呂の用意をさせます。大変申し訳ありませんでした。アウラ様はゆっくり温まってきてください。シクスス、案内を頼んだよ」

「はい、かしこまりました」

 

 アトリエのドアを開ければすぐそこにシクススが。

 アウラはあれよあれよとと言う間に連れて行かれた。

 

 もちろん全部仕込みである。

 試験管は通常より薄い作りで簡単に割れるようにしてあった。

 風呂の用意はとっくにしてある。

 シクススはドアの外で待ちかまえていた。ちらとこちらに向けた目は冷たかった。




短いけどきりがいいと思ったので

応援の言葉が心身に沁みました
ありがとうございます
とりあえずアウラ編はもちょっと続きそうです
まあ長くなってもいいやの精神で


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真実判明! ▽アウラ♯3

アウラ編は本話を書きたかったので長くなりました


 アウラは抵抗虚しく浴室へ押し込まれた。

 何を言っても、「アウラ様を濡れたままにしておくわけには参りません。そんなことをしようものならメイド失格です」である。

 メイドのプライドが掛かっているなら仕方ない。仕方なく入浴することにした。

 

「へえ……、ちょっと面白いじゃん」

 

 仕方なしの入浴だけれど、服を脱いで浴室に入れば思わず唸った。ナザリックにもない趣向を凝らした浴室だ。

 広い部屋の真ん中にシャワー付きの白いバスタブがある。船の形を模して、縁は舳先のように反っていた。シャワーから湯が注がれ、バスタブから溢れて床へと流れている。

 一段低い床は一面に絨毯が。赤と黒が幾何学的な模様を作っている。見ようによっては花びらのようだ。浴室に絨毯という発想がまずなくて、中々面白い。一歩踏み出せば毛足の長い絨毯が足の裏を柔らかくくすぐって心地よく温かい。バスタブから溢れた湯が冷めずに入り口まで届いている。

 壁と天井は真っ白。高い位置に窓があり、夕日が射し込んでいる。壁のところどころで窪んでいるところには白い花器が置かれ、色鮮やかな花々を飾っていた。

 静かで雰囲気があるシックなお風呂である。なんだかシャルティアが好きそうだと思ったのはその通りで、シャルティアも使うことを考えた設計である。それゆえに窓は西にあった。朝日が射し込まないように。

 

 アウラは大きなバスタオルを持ってバスタブまで進んだ。手を入れてお湯の温度を確かめる。少しぬるい。もう少し熱い方が好みだ。

 

「えーっと……」

 

 入る前にシャワーを浴びるべきか、このままじゃぶんと行っちゃってもいいか、アウラは後者を選んだ。

 バスタオルはたたんでバスタブの舳先に置き、湯面に足を差し入れる。溢れる湯の量が増えた。ざざーっと溢れるのが面白い。アウラはひと思いに入った。

 お湯が音を立てて溢れていく。絨毯を思い切り濡らしてるけどいいのだろうかと少しだけ思ったが、最初から濡れていたのを思い出す。

 ぬるいと思っても全身が浸かれば温まってくる。はふうと艶っぽい息を吐いて足を伸ばした。バスタブは大きく、三人は厳しそうだが二人は余裕で入れそう。

 入ってしまうと赤と黒の絨毯は見えなくなって、白い壁に高い天井で開放感がある。

 バスタブのシャワーが付いてる方と反対側の壁は傾斜が緩やかになっている。背中を預けるといい感じである。アウラは小さいので、お湯がいっぱいだと溺れそうだ。ジャバジャバと湯をかき出して水面を下げ、シャワーも止めた。

 被ってしまった薬液は水で洗い流すと良いと言ったのはその通りであったらしい。湯船に浸かったと同時に全て流れたようだ。

 入浴の目的はこれで達成。

 でもせっかく入ってるんだからここで体も洗っていこうと思ったその時である。

 

「失礼します。設備の説明に参りました」

「!?」

 

 ノックもなく、さっき別れた男が入ってきた。

 全裸ではない。バスローブを着ている。その下がどうなっているのか、アウラはこの前見てしまった。

 

「そんなのいらないからわかるから出てってよ!」

「どれが入浴剤でどれがシャンプーでどれが石けんかわかりますか? 他にも様々な香油の用意がございます」

「え?」

 

 バスタブ近くには華奢な足をした白い台が置かれていた。その上に幾つもの小瓶が並んでいる。アトリエで見たものとは違ってきれいな形をして、中身の液体にも透明感のある色が付いている。

 

「私の体は先日お見せしたのでご存知でしょう?」

「そうだけど……。いや、そうじゃなくて!」

 

 そうじゃなくて見られるのが恥ずかしいのだ。

 湯に浸かっているアウラは全裸。小さな体には何もまとっていない。浴室から叩き出そうとお湯から出れば色々と見られてしまう。ついこの前、似たようなことがあったのを思い出した。

 

「気になるのでしたらこんなことも出来ますよ?」

 

 問答している間にも近付いてきた男は、小瓶を一つ手に取った。アウラが縮こまって体を抱いている湯船へ中身を数滴垂らすと、お湯はあっという間に白く染まった。

 

「汚れを落としてくれる入浴剤です。香りはつけていないので、ある程度浸かったら湯を抜いて入れ直し、香油を使うのがいいでしょう」

「へえ……」

 

 見られない安心感から油断したのか、聞いたこともない入浴剤の効果に感心したのか、注意が湯面に移った僅かな隙をつかれてしまった。

 ちゃぷんと小さな水音が鳴り、ざざーっと湯が溢れる音が続く。

 

「お背中を流します」

「!?」

 

 こともあろうか、バスローブを着たままバスタブの中に入ってきた。

 

「汚れを落とすと言っても擦った方が早いですし快適ですから」

 

 言いながら、違う小瓶を一瓶丸ごと湯に注いだ。空瓶は放り投げる。柔らかな絨毯が受け取って割れることはない。

 

「マッサージをするならこうした方がいいですね」

 

 アウラは体が重くなったように感じた。指を擦り合わせるとぬるりとした。お湯全体が粘性を帯びている。

 

「最後にシャワーを浴びればこれも簡単に落とせます」

「……入れる前に言ってよ」

「実は私が作った入浴剤でして、自慢したい気持ちがあったようで気が急いてしまいました。申し訳ありません」

「うーー……」

 

 色々と相談に乗って貰っていなければ、一緒に寝たことがなければ。幾つものハードルを越えていなかったら。

 前回見せられたものは大きな減点対象だが、それなりに信用している男だ。

 何かされそうになっても自分の方がずっと強いというのは大きな保険。

 

「変なことしたら叩き出すからね?」

「わかっております」

 

 お股の確認が最終目的である。

 ちっとも変なことではない。

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 背を向けたアウラの首を手で包む。簡単に折れそうな細い首だが、ロングソードで切りつけても掠り傷すら負わない強靱さがある。

 強かろうと体は幼い。肌は若々しい艶に張りがある。頬に触れればぷにっとした柔らかさ。

 首から下へ向かえばすぐにお湯の中。白く濁って何も見えない。肩は後回しにして背中へ行った。

 

「うひゃあ!?」

「なにか?」

「なにかって、だから……! うーーーーっ!!」

 

 他意も悪気も感じられないいつも通りの声。それなのに指摘してしまうと、自分はいやらしいのだと言ってるような気がしてアウラは何も言えなかった。

 男の手が背中を擦っている。手のひらを開いて擦っている。

 大人の男の手は大きくて、アウラの背中は小さいのだ。指先が背中からはみ出て脇に来た。触られるととてもくすぐったいのだ。

 触られないよう、きゅっと脇を閉めた。

 

 手は尚も下がって腰にまで来る。

 細い腰を優しく絞るように持つと、上にのぼり始めた。

 

「脇の下には触らないよう注意しますね」

「わかってるならするな。今度したらぶっ飛ばすから」

「承知しました」

 

 アウラの小さな背中を男の手が何度も上下する。

 お股の確認は最後だ。まずはマッサージである。

 しなやかな体で凝ってるところなどどこにもないだろう。だからマッサージは不要と言うこともない。ラナーに何度もさせられてきた。

 首筋から肩を優しく撫でる。揉んだりはしない。指先でちょっぴり押してやれば十分である。

 

「きれいな肌です」

「……ありがと」

 

 浅黒い肌はシミも傷もあるわけがない。肉付きはまだまだこれからなので骨ばった感は否めないが、わずかに見えるうなじに頬は光沢すらある。

 肌触りは滑らかで指に吸いつく。アウラの肌が綺麗でないわけがない。

 

 メイドたちからは何度も誉められているけれどちょっぴり嬉しくなって、アウラは素直に返した。始めの緊張は湯に溶けて、リラックスしてきた。

 マッサージなんて受けたことはないし受ける必要もない。初めてのマッサージだが悪いものではないと思い始めた。

 体がほぐれて心がほぐれてお湯は温かく心地よい。

 肌と肌が触れ合うのが割といいものであるのは、この前一緒に寝たときに知った。

 

「ん……。それ以上うえにいかないで。くすぐったいから」

「わかっております」

 

 腰はきゅっと掴まれるのでくすぐったくならない。手は背中に回らずそのまま上へと戻ってきた。

 一番上まで来ると脇の下だ。そこは断固拒否である。

 締めていた脇は少し前から緩んでいた。触らないだろうと言う信頼と、マッサージの心地よさが体を緩めてしまう。アウラの手は湯船で溺れないようバスタブの縁を掴んでいる。

 

(………………胸は少しあるような気がする)

 

 脇の下ガードだけに気を配っていたアウラは、腰を掴んでいた手が真っ直ぐ上にいくと、どこにたどり着くのか気に留めていなかった。指先がアウラの小さな膨らみを少しだけ掠めた。

 アウラは、ちっぱいを触られても気にならないくらいにリラックスしている。いやらしさがない純然たるマッサージだからだ。さすがに劣情を持った触り方なら気付く。

 指はアウラの胸で止まることなく、下へ戻っていく。

 

(しかし少しぽちゃっとしてたらこれくらいは。アウラ様はどう見ても華奢で細身だが……。やはり下を触らないと断定できない)

 

 たとえお胸をガバッと行っても、そこだけちょいぽちゃな男の子の可能性もある。

 

「……あしもするの?」

「ええ。血行と体液の循環が良くなりますよ」

 

 背後からなので、アウラが伸ばす足に触れるには近付かなければならない。

 身を乗り出せば膝まで届く。アウラの細い太股を優しく掴み、今度は前後に手を滑らせる。

 外側よりも内側を。絞り上げるように手を動かしていく。

 

 アウラは右手で股間を押さえた。そこを触られたら色々と不味い。止めろとまでは言わない。背中へのマッサージは中々良かったのだ。

 その背中は男の胸に当たっている。バスローブを着ていたはずだが素肌の感触。脱いだのか、前を開いたのか。確認しようと振り向いたら目が合った。

 

「なんでしょう?」

「ななな、なんでもない……」

 

 体を見せないようにずっと背中を向けていたからか、顔を見た今になってようやく一緒に風呂に入ってると実感した。

 体が熱くなっているのはお湯のせいと、マッサージの心地よさと、今更ながらの羞恥が加わった。

 触れられていると恥ずかしいのを忘れてしまうくらい心地よいのが悪い。

 ユリをあちらへ引きずり込んだ高次元からのマッサージである。確固たる意志を持たないと拒絶するのは難しい。

 

 

 

 マーレの太股で顔を挟んでもらったことはあるが、手で触れたことはない。

 アウラの太股は細いし肉付きはまだまだだ。細いのは嫌いではないけれど細すぎると折れそうで不安になる。幼いので仕方ないことなのだろうが。

 その代わり手触りは抜群だった。とても柔らかいのだ。触っているだけで楽しくなる柔らかさ。全身がぷにぷにしているようで、抱いて寝たときの心地よさの秘密はこれにあったと気付いた。

 細いので掴むようにしていたのを手のひらを返し、内股を重点的に撫でていく。マッサージの正しい作法であり、目的地に近付くためでもある。

 

 手の平が幼い肉を滑り、脚の付け根にまで届くとアウラの手にぶつかる。

 両脚の内股を撫でているのでアウラの脚は段々と開きつつあるが、股間だけはずっと押さえていた。それも続ける内に押さえる力が緩んできている。手がぶつかると少し浮くようになってきた。

 

「ふう……。けっこう上手じゃん」

「楽になってきましたか?」

「うん。体の力が抜けてく感じ」

「それは何よりです」

 

 アウラは体を男へ預けきって、裸の胸へ寄りかかっている。

 マッサージの心地よさと、おかしなことが起こらなそうな安心感で警戒が解けてきたようだ。

 

「ん…………」

 

 ほんの少しだけ、太股を撫でる手に力を入れる。

 今までは両足を同時に撫でていたが、今度は左右を交互に。柔肌を滑る手は脚の付け根に届くかどうかといったところで戻っていき、アウラの手にぶつからなくなった。

 二度三度、五度六度と繰り返され、運命の七回目。

 

「あっ!?」

「どうかなさいましたか?」

「え……、さっき、手が……」

「手が?」

「……なんでもない」

「続けますね」

 

 太股を撫でていた手が脚の付け根にまで来ても止まらず、自分の手の下を通った、ように思えた。

 股間を押さえていた手の下に入った、気がした。

 確かに触られたと思って聞いてみたが、何を聞かれたのかわかってない様子。

 もしかして自分の気のせいだったのか。意識しすぎているのかと恥ずかしくなった。

 

 アウラの気のせいではない。

 男の手は、確実にアウラの股間を撫でた。

 アウラの股間にあるべきものを感じなかった。

 アウラの股間には何もなかったのだ。

 

(………………ない。ちんこがない。アウラ様は本当に女の子だったのか!)

 

 ルプスレギナとシクススに言われてまさかと思っていたが、そのまさかが真実であった。

 ずっと男の子だと思っていたのに女の子だった。

 

 衝撃である。端で見ていれば笑劇である。

 

 エ・ランテルを離れてからはアウラと共に過ごすことが多くなり、おこがましくも男と男の友情らしきものを感じていた。大人の男として、年少の子供を導く使命感のようなものも持ち始めた。実年齢ではアウラの方がずっと上だけども。

 しかし、アウラ様はアウラ君ではなくアウラちゃんであった。

 アウラへ抱いていた友情が一方的な勘違いだったことを悟り、嘆きたくもなった。

 だが、そんな暇はない。アウラと過ごした今までを振り返り、今がどのような状態であるか再認識した。

 

 前回の訪問時に男女の交わりを見せた後、「次はアウラ様に体験していただけるよう準備をしておきます」と話していた。

 事故を装ったわけだが、こうして一緒に風呂に入っている。

 アウラは、自分を楽しませてくれると思っているから一緒に入ることを許可したのだ。そうでもなければ拒否したはずである。

 ならば、やらなければならない。

 こうして近くで接すると、ネムより幼く感じるアウラだ。体に触れていても欲情はしない。アウラに望まれても無理はものは無理だ。

 それ以外の方法でご満足していただく必要がある。

 

 残念なことに、全て誤解である。

 

 

 

 

 

 

「あれ? 終わり?」

 

 太股を撫でていた手が離れた。

 ずっとお湯に浸かっていてもぬるめなので湯中りの心配はない。マッサージは心地よくて体の力が抜け、ともすれば寝てしまいそうになった。

 始める前こそ警戒したが、かなり気持ちの良いマッサージだったのだ。もう少し続けてくれてもと思うくらいに気に入っていた。

 

「十分リラックスしていただけたようなので、次の段階に入ろうかと思います」

「ふーん? あっ、ちょっと!」

 

 手が上がってきた。

 今まで触られていたのは背中と太股だけ。それが体の前に来た。

 アウラは触られまいと、とっさに胸を抱く。男の手はそこまで上らず、へそに当てられて、少しだけ下がった。

 

「ご不快でしたらすぐに止めますので、そう仰ってください」

「……わかった」

 

 男の手が重ねられたのはアウラの下腹。優しく上下にさすり始め、時折力が入ってわずかに揉んだ。

 以前一緒に寝たときに触られた場所。違うのは、触っている方が目的をもって撫でていること。

 

「さっきとは違うやり方ですので、効果も少し違います。気を楽にしてください」

「……うん」

 

 背中や太股を撫でられるのは気持ちよかった。手が動く度に効果が実感できて、体の力が抜けていくのがはっきりとわかった。

 今度のはよくわからない。

 さっきとは違って手の動きは小さなもので、これと言って感じるものがないのだ。

 触っているところの少し下には、さっき触られたのかも知れない女の子の大事なところがあって、少しだけ緊張がよみがえった。太股の時より遠いけれど、今度は胸を抱いているのでガードしていないのだ。

 

「そろそろお湯を交換しましょう」

「え!? いいよこのままで!」

「そうですか?」

「最後にシャワー浴びればいいから」

「……そうですね。香料など使わなくても、アウラ様はとてもいい匂いがしますから」

「う……」

 

 ありがとうと言うのは変な気がするし、匂いを嗅ぐなと言っても体勢的に無理だし、アウラは何も言えず押し黙った。

 その間も、下腹を撫でる手は絶妙に動いている。

 アウラは、体が温かくなってきたような気がした。

 

「はあ……、はぁ…………」

「熱いですか? 少し水で薄めましょうか?」

「え? ……うん。まかせる」

 

 アウラを抱えるような姿勢で手を伸ばし、二つあるシャワーヘッドの下の方から水を出した。ちょろちょろと水が流れる音がする。

 

(体が熱いって言うか…………。なんだろ? 体の奥から温かくなってる感じ。これって……、あの時と似てる気がする。でもおかしなところ触ってないし。お風呂の中だから濡れちゃってるかどうかはわかんないけど……。触ってみてもお湯がぬるぬるしてるからわかんないだろうし。おかしなことしてるわけじゃないよね? わたしが変なの? それともこうなるマッサージなの?)

 

 下腹を撫でられているだけで自分の体に生じた変化に、アウラは答えを持っておらず戸惑うしかなかった。

 何となく体を動かしたくなる。

 そうこうしている内に水面が上がってきた。バスタブに満ちていたお湯は一度かき出して、男が入って上がった水面はマッサージ前に低くして、それがまたも満ちようとしている。小さなアウラが浴槽の底に座っていると溺れてしまう。

 

「少々失礼します」

「うん?」

 

 じゃぶじゃぶと鳴ってアウラが振り向くと、男はバスローブを脱ぎ捨てていた。裸身は白い湯に隠れて、胸から上だけが見えた。

 

「あっ」

 

 腰を掴まれてひょいと持ち上げられ、下ろされたのは男の太股の上。

 二人とも裸になって、男の体の上に座らせられた。

 止めろと言う隙がないほど素早い動きに思えたのは、アウラの体はそんなことを気にも留めていなかったからだ。

 

「続けますよ?」

「……うん。………………はふぅ」

 

 もう一度下腹に手を当てられた。アウラの腕は胸を抱かずにぬるい湯の中でたゆたっている。

 

 アウラが今まで感じたことがある性的な接触は、こっそりと自分で秘部を触った時だけだ。それ以上は知らない。教えられていなかった。

 今されていることは単なるマッサージだと思っている。

 本当は違う。

 男が揉んでいる下腹は子宮の真上。アウラの女を呼び覚ますための呼び水に他ならない。

 大恩あるアウラへ気持ちよくなってもらおうと、丁寧な愛撫を行っているのだ。

 アウラはそうとは知らずに、性的な快感に身をゆだねている。とろみがあるお湯だからと確認しなかったが、もしも触れてみればお湯とは違うぬるついた感触に気付いたはずだった。

 

 下腹を撫でていた手がアウラの体を上り始めた。

 

「あ……そこ…………、んぅ」

「どうしましたか?」

「……べつに。……んっ…………、あん……」

 

 両手がアウラの慎ましい乳房に触れた。手の平で完全に隠れてしまうささやかな膨らみだが、確かに膨らんでいる。

 触られまいと、ずっとガードしてきた胸を触られたのに、アウラは拒まなかった。自分で秘部に触れた時の鋭い刺激とは違うあまやかな優しい愛撫で、どこを触られているのか気付いていないのかも知れない。

 小さな乳房を揉んでしまうと痛みがあると教えたのはこの男で、揉んだりはしない。揉むほどないと言ってしまうとアウラの残虐戦士が目を覚ます。

 乳房の縁を包むようにさすり始めた。

 

 浴槽に水は注がれ続け、湯の粘性は失われていないが色は薄れつつあった。

 底までは見えない。それでも見える範囲は徐々に広がっていく。アウラを愛撫する男の手はぎりぎり見える。そこより上のアウラの乳房。ピンクの先端は尖っていた。

 

「少し刺激を強くしてもよろしいでしょうか?」

「………………うん」

 

 10分は触っているのだ。いい加減、アウラもどこを触られているのか気付いていた。

 胸を触られているのに気付いても拒まなかったのは、気付いた時には触られていたからか、触られているのが気持ちよかったのか。

 乳房の縁を撫でていた手は広げられ、親指は上から、中指は下から、間には愛らしい突起があった。

 

「あんっ!」

「立っていますね。敏感になっているのがわかりますか?」

「え? え? だって触ってなかったのにっっくぅ……」

「おかしなことではありませんよ。感度はよろしいようで」

「ひあああぁあっ!?」

 

 くにくにと、ちっぱいを飾る小さな乳首を摘ままれた。

 

(胸さわってたのはわかってたけど……、ちちち、ちくび触られちゃってる!? ちくび立ってる? なんで? 触ってないのに? でも立っちゃってる……。立つと敏感になるって言ってたけど……ほんとみたい。くすぐったいようだけどくすぐったいんじゃなくて……)

 

「ご自分で触られたことはありますか?」

「な、ないよ、そんなの……」

「このように感じるのは初めてですか?」

「……うん。…………はじめて」

「アウラ様に新しい体験を味わっていただくことが出来、光栄です」

「……マーレだってさわったことないんだからぁ」

「ますます光栄ですよ」

 

 頭の上から降ってくる声が段々近くなってきた。

 耳に温かい吐息がかかる。甘い声が耳朶を打って、体の中に入り込む。

 

「ひうっ!?」

「どうされました?」

「こ、こえ、ちかくて……」

「うるさかったですか? もう少し小さな声で話すようにします」

「ちがくてぇ……」

 

 耳を何かが掠めた。

 甘い声と湿って温かい吐息がセットだ。

 耳に唇が触れていた。

 すぐ耳元で、ちゅぱと鳴った。

 

「あ……ああ……、ひゃあぁ……」

 

 耳を唇で挟まれた。見えないけれど、柔らかくぬめる感触は、舐められている。

 胸だってずっと触られている。

 大きな手の平が乳房を包み、指の腹で乳首を転がしている。

 小さな突起が尖りきって、全神経が集中しているのかと思うくらいに敏感になっている。とても強い刺激なのに痛みはまったくない。

 

「アウラ様はこちらにも興味がおありでしょう?」

 

 解放されたと思ったのも束の間、手は下へと向かっていった。

 向かう先は股間しかない。

 アウラが手の行く先を目で追うと、湯船からお湯が抜かれていることに今更になって気が付いた。

 男は後ろにいるとは言え、背が大きい。上から見られている。

 見られまいとずっと隠していた胸を見られている。ピンク色の乳首が自分でも見たことがないほど立たせているのを見られている。

 浴槽の底に座っていたときとは違って男の太股に座っているので、軽く跨ぐような姿勢だから脚が少し開いている。股間も見られてしまう。

 女の子の大事なところで、ずっと隠していたところで、見られるのも触られるのもとんでもないと思っていたのに、アウラは止められなかった。

 期待しているのとは違う。そこでどうなるのかアウラは知らないのだ。ただ、抗う気力が湧いてこない。このまま身を任せた方がいいような気がしている。

 

 食虫花に囚われて少しずつ溶かされていくように、アウラも少しずつ溶かされて、後戻り出来ないところに脚を踏み入れていた。

 

「やさしくして……」

「ご自分で触ったことが?」

「うん。……くりとりすを、ちょっと。でもなんか、ヒリヒリして」

「最初から触ったりしませんよ」

 

 人差し指から小指まで四本の指を揃えて、アウラの股間にあてがった。脚を開いても閉じている筋の上。

 ぷにっとした感触だ。ぷにまんなのはマーレではなくアウラだった。

 

「はあ……あふぅっ。……はぁ……」

 

 手指は割れ目に潜ることなく、優しく弧を描いた。

 

「まずは上から優しく揉んでほぐすんです。内側はそれからですよ。こうして揉んでいると、アウラ様がほぐれていくのがわかりますよ?」

「そう、なの?」

「ええ」

 

 ぬめった湯に浸かっていたので体は温かく、全身がぬるぬると濡れていた。

 アウラの股間は湯より熱く、湯とは違うぬめりが現れつつあった。

 

「あ……あ……、なんか……、こんなの、知らないっ……」

 

 子宮を愛撫されて女を呼び覚まされ、乳房と乳首への刺激ではっきりと快感を得て、男の大きな体で全身を包まれている。

 カリ、と耳を甘噛みされ、アウラは背を反らした。

 

「おまんこが濡れてきましたよ」

「つ~~~~~~~~~~~~~っ!!」

 

 とどめとばかりに宣告された。

 どこかが暴走したように体が熱くなって、苦しいくらいに動悸が激しい。

 触られているところから何かが入り込んでいるような、体の中で広がっているような、股間だけではなく、背中はピッタリと男の体へ預けている。

 

「あ、や、なに? こんな、こわい……」

「怖いことは何もありませんよ」

「やだ、こわい、ぎゅっとして」

 

 戯れの一人遊びとは違う本当の快感は、アウラにとって未知への恐怖を呼び起こすのに十分すぎた。

 身体中を紅潮させているのに、声は震えて幼い美貌は怯えを見せ、股間に触れる手を振り払って振り向いた。

 体ごと向きを変え、男の体に抱きついた。

 幼くて肉付きはまだまだで骨ばっているところもあって、滑らかな肌はぷにぷにして吸い付き、初めての性的快感で熱を持った体を擦り付けてくる。

 小さくてしなやかな体は張り付いてくるようだ。

 男の方からもアウラの小さな体を抱きしめた。

 肌と肌が密着して熱を持ち、互いの体へ溶けていく。

 

 方やバスタブに横たわっている姿勢なので、アウラが上から覆い被さっているよう。

 意図したわけではないだろうが、股間を男の太股に押し付けている。

 

「あっ!? やぁ……」

「苦しくありませんか?」

「だいじょぶ、だけど……。あしに……」

 

 アウラを抱き締めたまま、片膝を立てた。アウラは股で太股を挟むような形。

 窮屈な姿勢でも、体が柔らかいアウラは何ともないようだ。

 

「安心しましたか?」

 

 尻と背中を撫でながら問いかけた。

 

「……うん。ドキドキしてる」

「もう少しだけ続けてみますか?」

「どんなことするの?」

 

 怖くなって中断してしまったが、止めてと言えば止めてくれる。

 怖いもの見たさと、肉体の火照りと、生まれて初めて覚えた芽生えかけの性欲が後押しした。

 

「手や指だと刺激が強いかも知れませんので、柔らかいところを使います」

「それって…………くんに?」

「そうです。よく覚えてましたね」

「……うん。…………してみたい、かも。…………して?」

「かしこまりました」

 

 クンニはクンニリングスの略で、口や舌を使って女性器を愛撫すること。

 

 アウラはバスタブの舳先に座らされた。

 尻の下にはバスタオルを敷いたので、肉付きが薄くても痛くならない。

 バスタブから出た男は絨毯の上に座り、アウラの前に陣取った。

 男の顔を見下ろしていたアウラは、脚を開かされて顔を背けた。顔が熱くなっている。とてもではないが見ていられない。

 

(舐めるんだよね見られちゃうんだよね? わたしのおまんこ見られて舐められちゃう……。あ、あ、あ、おまんこ、さわってる。広げられちゃってる見られちゃってる! おまんこの内側見られてるよぉ……。わたしのおまんこ変じゃないよね? ミラのはちょっと違ったけど、ミラとわたしは違うし。うぅ……恥ずかしい! でもしてって言ったの私だし止めてって言えないし。あ…………べろが……? なめてる……。わたしの……)

 

 小さな割れ目を開けば、小さくてもちゃんと女だった。

 外側へ滲んでいた幼女の秘部は刺激から離れても潤っている。

 鼻を近づければ女の匂い。

 口をつけて舌を伸ばし、媚肉に隠れている雌穴を探り当てた。舌に感じるアウラの味は女の味をさせている。

 入り口は本当に小さくて、少し差し込めば処女膜が塞いでいる。ここを責めるのは無理があった。元々目当ては上の方。

 割れ目の内側を舐め上げれば、突起とも言い難い柔らかな肉芽。

 アウラが反射的に腰を引いたので、逃がさないよう太股を抱え持った。

 肉芽に舌の腹を押し当てて、小さな刺激を送り続ける。

 時々下から舐め上げて、アウラのおつゆをすくって塗りつけた。

 繰り返す内に膨らんでくる。意識しないとどこにあるか曖昧になりそうだった小さなクリトリスが、ここにいると自己主張してくる。

 

「はあっ、あっ、……吸ってるの? わたしの、おまんこ、…………やぁ、じゅるじゅるさせないでぇ……ぁんっ……」

 

 アウラが澄んだ声で鳴き出した。

 膨らんできたクリトリスに吸いついて、尖らせた舌先で叩く。

 反応を見ながら包皮を剥いた。

 吸って、舐めた。

 

 アウラは幼いクリトリスを勃起させ、包皮を剥かれて直に舐められている。

 初めて自分で触ったときはヒリヒリしてろくに触れなかったのに、今は包皮を剥かれてされている。

 男の肩へ両太股を乗せ、男の背中で足首同士を絡ませた。

 股間に埋まる銀色の頭を離れさせたいのか押さえたいのか、何とか手を伸ばそうとしたのに出来なかった。

 腰が跳ね、背が弓なりに反って、倒れないにはバスタブの縁に手を突くしかない。

 

「あっ、あっ、やぁんっ! あっ、だめっ、おまんこだめぇっ……」

 

 なされるがまま、抵抗できない。

 美しい大人の男に股間へと吸いつかれて、アウラに出来ることはよがることだけだった。

 完全に未知の世界で、踏み入れたそこは底無しで、どこまでも深く引きずり込まれていく。

 

 仰け反っているアウラは可愛らしい乳房を突き出している。

 乳房こそ幼さゆえに小さいのだが、ピンク色の乳首は乳房の小ささとは不釣り合いなほどに勃起させていた。

 

「ひうっ………………」

 

 細い喉に、鋭く空気が流れる音。

 勢いよく息を吸ったアウラは直後、

 

「ああああぁぁああぁああああぁああ~~~~~~っ!!」

 

 女の声で絶叫した。

 これでもかと勃起していた乳首を両方ともつよく摘ままれて、やはり勃起していたクリトリスは吸い出されて甘く噛まれた。

 耐えられる閾値を遙かに越えた。

 アウラの中で何かが焼き付き、戻れなくなった。

 

 アウラは、女の悦びを知ったのだ。

 

 

 

 

 

 

「……アーちゃんお帰り。やな予感がするけど言ってみて」

「ゆりぃ…………。おまんこにするのって……」

「だからアーちゃんにはまだ早いって言っただろ!? そんなのどこで覚えてきたんだ! 教えて。ボクがぶちのめしてくる」

「だ、だめだって! ユリがそんなのしたら死んじゃうから!」

「じゃあ教えて。どこの誰がそんなこと吹き込んだの?」

「て……帝国を巡回してたときに、うわさ話で……」

「帝国? ……………………もしかしてボクも知ってる奴じゃないよね?」

「知らないよそんなの!」

「あちょっ、待て! 話は終わってない!」




粘着云々の件で応援ありがとうございますペコリ

ですがそんなのより大変なことが起こってしまいました
神姫アプリアプデしたら端末のパフォーマンスが不足したんだかなんだかでまともに動かない!
PC立ち上げるの面倒で別端末買うのもあれだしこれはもう引退すべきか
日に二時間はプレイしてたのに空いた時間になにすればいいのだ
自信をもって中堅の上の方と言えるくらいには強くなったのにorz


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幼い嫉妬

これだけ話数が進んで新キャラ出すと説明文入れないといけない気がしたんです


「「ようこそいらっしゃいました、アウラ様!」」

「……なによ、こいつら」

 

 幼いソプラノステレオボイスに、アウラは眉をひそめた。

 

「ウレイです」

「クーです」

「……あれ? クーがウレイじゃなかったっけ?」

「そうなの? それじゃウレイがクー?」

「きっとそう。クーがクーでウレイがウレイ」

「それならウレイがウレイでクーがクーだよね」

「うん。だからわたしがクーで……、クーがウレイ?」

「じゃあわたしがウレイでクー? ウレイはどっち?」

 

 顔に背丈が同じなら声も同じ。服装も一緒と来れば全く見分けが付かない。

 

「…………本当になにこいつら?」

「安かったんで買っちゃいました」

「「ご主人さまに買ってもらいました!」」

 

 どこか得意げな屋敷の臨時主人に、アウラは眉間の皺を深くした。

 アウラを迎えたのは、アウラより幼い双子の姉妹だった。

 

 

 

 

 

 

 前回アウラが屋敷を訪れた翌日に、帝都名物奴隷市場で買い求めたのである。

 

 買い主も売り主も、当事者である商品たちも知らないことであるが、中々不幸な目に遭ってきた双子だった。

 裕福な家で生まれ育ったが、幼い双子が知らない内に生家は没落。一家はたちまち困窮し、双子は実父から奴隷商人に売り渡された。

 速やかに買い手がつき、手付け金もあったというのに買い手はいつになっても商品の引き取りに現れなかった。

 ここで困ったのが奴隷商である。

 手付けが払われたので他へ売るわけにいかない。放置して死なれでもした後に引き取りに来られたら違約金が発生してしまう。適度に世話をして生かしておくしかなかった。親に売られた幼子へわずかばかりの哀れみもあったかも知れない。

 世話をすると言っても最低限である。奴隷商に限らず、生体を販売する商売は世話に金を掛ければ掛けただけ儲けが削られるのだ。

 劣悪な環境に良いとこ育ちの幼子はたちまち体調を崩してやせ細り、不安と恐怖に泣きわめけば容赦のない怒声を叩きつけられた。一応は商品なので直接的な暴力がなかったのは幸いだった。

 奴隷商としては早く何とかなって欲しい不良在庫。

 幼い双子は未来を完全に閉ざされて暗闇でうずくまるしかない。唯一の慰めが、双子はセットの方が価値が高いと判断されたことで、姉妹が引き離されることがなかったことだ。離されたときは死ぬときだと二人とも悟っていた。

 

 そんな二人の前に現れたのが、学士として帝都に来ている男である。

 奴隷市場を見て回り、二人を抱えている奴隷商の門を叩くや否や、奥に仕舞い込まれている子供が欲しいと来た。

 どうして奥に仕舞っている在庫に気が付いたのか奴隷商人は不思議だったが、在庫が捌けるなら万々歳である。後で揉めないため、先に手付けを払った者がいることを正直に話した。一目するだけで、騙したら後でとんでもないことになると確信できる一行だったのだ。

 買い手の男は意に介さない。

 手付け金を払ってから時間が経ちすぎている。帝国の商法でも商習慣でも全く問題がない取引であると主張した。ここで問題が起ころうものなら、まずは帝国の司法に訴え、それでどうにかならなかったら「おいおいあれってどうなってるんよ?」と帝国の騎士経由で皇帝にちくり、それでも問題解決しなかったらこの男を我が君とする忠実なヴァンパイアブライドが特攻する。

 

 余談になるが、このヴァンパイアブライド、ミラは並のヴァンパイアブライドから逸脱した。

 ミラの同僚はかつて、そこそこ腕が立つ人間の剣士に遅れをとったことがある。ヴァンパイアブライドとは、種としてそこまで強力なモンスターではないのだ。

 そこへいくとミラは、真祖の吸血鬼が選抜したエリートシックスの一人で、同僚たちの中では割と強力な個体だった。主から見ればどんぐりの背比べだろうが、頭一つ抜けていたのは確かである。

 主と共に偉大なる至高の御方の遠征に随伴して成果を上げ、お褒めの言葉を授かった。主からはミラとの名を頂いた。そしてもう一つ。主から頂戴した究極の鮮血である。

 同僚たちは五人で一瓶だったが、エリートシックスは一人一瓶頂いた。なお、彼女らのとても可愛い女主人は50本以上を独り占めである。

 強い血である。主はこくんこくんと飲み干していたが、ミラは一舐めするのが精一杯。そのたった一舐めで忘我の域にまで連れ去られてしまうような強い酩酊感と陶酔感。漲る力に気が付いた。強さの限界に至っている主と違って、ミラには伸び代が残っているようだった。

 とは言っても、如何に鮮度を保とうと、採血してから時間が経った血を一舐めするだけで卒倒しかねない代物。強くなれるのかも知れないが、直飲みは余りに恐ろしくて、許されようと出来る気がしない。

 

 そのような経緯を経て、帝国の四騎士と同等の力を持った不死の美女が立ちはだかるのだ。

 奴隷商人は安心して取引に同意した。

 ところが、ここで買い手の男に同行していた赤毛の絶世の美女が待ったをかけた。

 

『汚くてボロボロの子供っすけど安すぎじゃないっすか?』

 

 売られている幼子の小さな手で握れる程度の金貨で済んでしまう。安すぎて難ありと思えたのだ。訳あり商品だとしたって安すぎである。

 これには男も同意した。商品の仕入れ値を聞き出し、その三倍の額を払うことにした。飲食店の原価率は三割前後と聞いたことがあったからだ。奴隷を飲んだり食べたりするわけないので全くの見当違いなのだが。

 奴隷商は平身低頭で輝ける一行に商品をセットで引き渡した。買い手としては一人で良かったのだが、くれるというのならもらっておくのである。

 

 なお、買い手である男にはお金の価値がよくわからない。あちこちで商品の値段を見聞きして相場を知ってはいるのだが、自分でお金を使う生活をしていないので今一つピンと来ないのだ。

 赤毛の美女、ルプスレギナはもっとわかってない。そもそもお金を使ったことなど一度もない。エ・ランテルでは商店から何かを求めることはあったのだが、値段は見ずに全てつけ払い。いわゆる信用払いで済ませてきたので、商品の金銭的価値などわかるわけがない。

 

 そもそもにして、ナザリックのシモベたちは金銭感覚が狂っている。

 代表として、階層守護者であるアウラを取り上げよう。

 アウラはペットのロロロのご飯にユグドラシル金貨を一枚使う。金貨を入れると望む物に変換してくれるアイテムがあるのだ。

 ロロロとは、アウラと同じ階層守護者であるコキュートスが鍛えているリザードマンが飼っていたヒュドラである。アウラからすれば、配下の魔獣とは比較にならないほど弱いけど割と可愛いペットである。

 そのペットのご飯にユグドラシル金貨を一枚使う。

 ユグドラシル金貨を重量で換算すると、帝国で流通している金貨の二枚分はある。繊細な細工が施されて芸術的な価値もあり、もしも帝国の貴族の手にあれば、本邸のマントルピースの上で額縁に入れて飾られておいてもおかしくない。ユグドラシル金貨はざっと帝国金貨三枚分の価値があるとしよう。

 金貨が一枚あれば、帝都に暮らす庶民一家なら2・3ヶ月は暮らせる。現金収入に乏しい農村なら一年以上は優にもつ。ナザリックと接触する以前のカルネ村は金貨を目にすることすら希であった。一度も見ないで生涯を終える者も少なくないだろう。

 その金貨三枚分の価値があるユグドラシル金貨が、ペットのご飯の一食分。

 ナザリックとその他とでは、金銭感覚が千倍、下手をすると万倍もの差があるのだ。

 

 ルプスレギナが商品を高い安いと言うのは余計な口出しでしかなかったが、奴隷商人は感激して、支払う若旦那様も「そんなものかな」としか思わなかったので誰も不幸にならなかった。

 

 そのようにして買い取られた双子は、ルプスレギナの回復魔法で一発全快。

 しかし、商品として扱われた期間に負った心の傷はどうにもならなかった。アインズ様が星に願えば可能なのかも知れないが、まさかこんなことでアインズ様にお手数掛けられるわけがない。陳情したところで一笑に付されるのは間違いない。

 これには帝都の裏市場で見つけた懐かしの黒粉を吸わせて落ち着かせた。若旦那様も当然のように吸ったわけだが、ラナーから与えられていた物より数段質が下であって、何とも複雑な心境になった。

 落ち着いたところに、アルベド様を一発で昏倒させた魔酒をフレッシュジュースで千倍に薄めた物を少しずつ与えて恐怖を忘れさせた。

 自然回復力を頼りにして自分の影に怯えて泣かせておくより、適切に薬を処方して落ち着かせる方が人道的である。

 

 普通に生活できるようになったら育ちがよい子供と判明した。何かあれば騒ぎたがる子供とは違って落ち着きがあり、礼儀作法の基本が出来ている。

 煤けていた髪は明るめの金髪となって、顔立ちもなかなかに愛くるしい。健やかに成長すればそれなりの美人になると思われた。

 いつでも二人一緒で、幼いながらも自分たちが買われたことを自覚して、何とかしてご主人様の役に立とうと一生懸命なところがメイドたちに大人気である。

 

 ただし、全てが上手くいったわけでもない。

 二人を引き離すと途端に精神が変調をきたして恐慌状態となる。双子の名前はウレイとクーと言うらしいが、自分がどちらなのかわからない。金髪の大人の女性を見ると誰彼構わずお姉さまと呼ぶ。

 時間が解決するのかどうか誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

「ふーん」

 

 双子の説明を軽く聞いて、アウラは興味を失ったように視界から外した。

 男としても一応引き合わせただけなので、二人には退室を促した。双子は元気よく挨拶をして部屋から出ていった。

 これからは真面目なお仕事の時間である。

 

 アウラはどことなく面白くなかった。どこかに棘が刺さったような不快感があった。

 前回の訪問時にあったことではない。双子のことだ。

 幼い子供がこの男の側にいることが気に入らない。

 自分のことを子供だとは思いたくないが、客観的に見れば小さな子供だ。この男の側にいる子供は自分だけだったのに、知らない内に増えている。

 自分の居場所をとられたような気がして不快なのだ。

 まさか自分の代わりに双子を買ったわけではないだろうが。

 

 実はそのまさかが本当である。

 売り物だし安かったとは言え、どうして奴隷なんかを買い求めたのか疑問に思ったルプスレギナは、『どうしてこんなの買ったんすか?』と聞いていた。まだまだ子供なので劣情を向けるわけではないと思いたいが、アウラ様に何かしでかしたらしいので不信が拭えない。

 

『抱き枕に買ったんだ。今はガリガリだけどもう少し肉がつけば。アウラ様に抱き枕になってくださいなんて言えないからね』

『それ絶対にアウラ様に言っちゃダメっすからね?』

 

 放っておくと素直に答えて九割殺しになる気がしてならない。なったとしても回復してやればケロリとしているのは間違いないのだが。

 

 

 

 

 

 

「もう少しアウラ様と過ごしたいのですが、今日はこの後に予定が入っています。申し訳ございません」

「……まあ、今日来るって言ってなかったしね」

 

 前回もその前も、二人だけの会議が終われば誘われた。今日もと思っていたがなしであるらしい。

 アウラは、「私より大事なことってなに?」と言いそうだったのをギリギリ堪えた。そんな事を言ってしまうのは子供丸出しだ。アウラの中で育ち始めたプライドが、女のプライドがそんな事を口にするなんて絶対に許さない。

 

 これについてはアウラに非がある、と言うのもおかしな話だが、アウラは帰り際に「また来るね」としか言わないので都合を合わせられないのだ。

 特に今回は、前々回と前回との間の倍以上の日数があいていた。それでも来る時間帯は大体同じなので、極力あけておくようにしている。帝国の貴族から社交に誘われることもあるのだが、今のところは全て断っていた。

 

 この男の優先順位は明確である。

 第一にアルベド様。何を置いてもアルベド様。自身の命はもとより、世界の存亡が掛かっていてもアルベド様。

 その次にアインズ様が来るところがナザリックのシモベたちとの一番の違いである。

 三番目にアウラらナザリックの守護者の方々。

 次に自分の都合が来てその次がプレアデスなのだが、理不尽な暴力によって自分の都合を優先させてもらえないこともある。

 

 アルベド様もアインズ様もいらっしゃらない以上、アウラの要望が最優先になっても良いのだが、他の要因として順番がある。優先順位が同じなら、先約を優先するのが道理である。

 

 アウラはいつものように、「また来るから」と言って去っていった。

 飛び立つドラゴンを見送り、夕食も風呂も終えて夜が深まってきた。

 

「ご主人様、そろそろお時間になります。馬車の準備は整っております」

「わかった。出発しよう。御者は頼んだよ」

「たまわりました」

 

 帝都の屋敷から、六頭立ての豪奢な馬車が姿を現す。

 馬車に劣らず豪奢な馬具をまとった馬は蹄の音すら朧気に、帝都の門を潜って街道へ出た。

 帝都から十分離れると街道を外れ、道なき道を進み始めた。

 

 この世界で最高峰のレンジャーが馬車をつけているのを、御者も乗客も、馬車を待っていた白い影も気付かなかった。




複垢まで作ってた人は今回も一発BANされました、皆さんのおかげですありがとうございます
多分また来るのでその時もよろしくお願いしますペコリ

Webでは幸せになったけど書籍では死んでるぽいが確定ではないぽいので出てきた双子
活躍するかは未定、むしろしてはいけないかも知れない

アンケートは、同性間の友情と実の姉弟の絆のどっちが強いかにしても良かった気がします
2・3話先に反映すると思うので、次話投稿から20時間後くらいに終了予定

わかりやすいかと思ってサブタイ編集中

禁煙はちゃんと頭にあるんです、本当です


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月下の草原 ▽シャルティア♯4

「お待たせしてしまい申し訳ございません。どうぞお乗りください」

「大して待ってないでありんすから気にしないでくんなまし」

 

 夜の荒野で拾ったのはシャルティアである。

 帝都の屋敷を訪れればいいものを、こんなところで待ち合わせにしたのはシャルティアの指定だった。

 シャルティアは馬車の中を見回すと、満足そうに頷いた。

 

 エ・ランテルから帝都へ向かう時は長椅子に荷物が乗っていただけの馬車は、様変わりしていた。

 壁紙は白亜に、床は赤と黒を用いた絨毯が、壁際にはソファーが数脚と低いテーブル。馬車内の半分を占めているのは大きなベッドである。

 シャルティアは、ただ帝都へ送るためだけに豪奢な馬車を提供したのではない。自分好みの部屋でいいことが出来るよう移動式のベッドルームとして使用するため、ミラと共に大きな馬車をこの男の元へ送り込んだのだ。

 

 早速男の手を引いてソファーに座らせ、自分はマントを脱ぎ捨て男の膝上に座った。

 男の胸に背を預けるのはお子様である。大人の女は横向きに座る。

 

「まったく私と来たらアインズ様にそれはもうすっごく期待されてるでありんすから? こうしてお前と会う時間を作るのは大変なんでありんすよ? だからお前は私に感謝しないといけんせん」

「私もシャルティア様とお会いできるのを心待ちにしておりました」

 

 ここで、「待ってないし来なくていいって言ったことあるし」とか言おうものならデッドエンド一直線である。とは言え、自分の働きによってシャルティアが満足すればナザリックのプラスとなる。それがアルベド様の苦労の軽減につながると思えば何の苦でもない。自分もそれなりに気持ちいいし、美しい少女と睦み合うのはとても良いものなのだから。

 

 ひとつまみほどの本音が入っている男の言葉に、シャルティアは鼻息荒く、男の胸へ頬を擦り寄せた。

 温かい男の体は、ヴァンパイアブライドたちの冷たい肌とは違った心地よさがあった。

 

「ほぉら、お前はちゃんとおにいちゃんになりなんし。シャルティアをいっぱい可愛がっていっぱい甘やかすんでありんすよ?」

「わかったよ。でもその前に」

「今夜の私は何も見えません何も聞こえません。ですがご命令だけは聞こえます」

「……だそうで」

「あいつもちゃんと出来るようになったでありんすねえ」

 

 宣言したのは御者台のミラである。ミラは空気を読んで空気になった。

 これで完全無欠に二人きりで。シャルティアが甘えんぼな可愛い妹になっても問題ない。階層守護者の威厳は守られるのだ。始めからないとは言ってはいけない。

 

「おにいちゃあん、ちゅっちゅしてぇ♡ ……んっ」

 

 キスをせがむと、唇が優しく降ってくる。

 啄むような口付けが何度も繰り返され、やがて小さな水音を立て始めた。

 

 直接帝都の屋敷を訪れればいいのにわざわざ待ち合わせにしたのは、シャルティアがデートの待ち時間は割といいものだとどこかで見聞きし、早速実行してみたからだ。いま来たばかりと言ったのはお約束である。本当は少し待った。

 文献から得られた情報は確かだったようで、一人で待つ時間は悪いものではなかった。あれをしようこれをしようと考えているだけで時間が過ぎた。一番いいのは、待っていれば必ずやってくること。時が果てるまで待ち続けても、来てくれないかも知れない方がいらっしゃる。

 約束通りに来てくれる。約束したのだから当たり前だが、当たり前なのに嬉しくなった。

 待ってる間に考えてたことはとってもいやらしいことばかりで、ミラもいれて三人でとか思っていたのに、いざ会ってみたら甘えている。

 久し振りだから高揚しているのかも知れない。

 前回はアインズ様の遠征に随伴する前のこと。遠征後にエ・ランテルを訪れてみれば引っ越し騒ぎ。満たされぬまま、かなりの時間が空いていた。

 ヴァンパイアブライドたちに奉仕させてもそれなりの快感はあるが、文字通りの奥の奥まで満たしてくれるのはこの男しかいない。

 こんな風に甘えさせてくれるのも、痛いことをして苛めてくれるのも、この男だけ。

 血はとっても美味しいけど直飲みはもってのほかで、シャルティアなりに大切にしようと決めていた。

 

 

 

「シャルティア……、おっぱいが見えてるよ」

「もぉう、おにいちゃんはエッチでありんすぅ」

 

 寒空の下で待っていたので防寒防塵のマントを羽織っていた。吸血鬼なので寒くはないがこれもまたお約束。マントの下は黒いミニスカビスチェ。輝く銀髪は黒いレースのヘッドドレスでまとめている。

 ビスチェの背中は編み上げになっている。それが少しだけ緩んでいた。肩紐がないタイプなので乳房を包むカップが浮いて、上から見ると可愛らしい乳房が先端まで覗けてしまった。

 

「でもぉ、おにいちゃんが見たいなら……いっぱい見ていいよぉ♡」

 

 いやらしく笑って、カップをはがした。

 慎ましくはあるけれど、ちゃんとした膨らみがあるシャルティアのおっぱいである。白磁の肌に朱色の乳首。

 膝上に乗って優しく抱かれ、キスを繰り返す内にシャルティアは欲情してきた。始めからそのつもりだったのだから、刺激すれば簡単に火がつく。

 シャルティアは下から包むように乳房に触れ、ゆっくりと絞って乳首を強調した。三度目のキスで舌と舌が触れあった時から立たせている。

 

「シャルティアはもうエッチなことをしたいのかい?」

「むう……。したいけどおにいちゃんはどうなんでありんすか? とっても可愛いシャルティアにエッチなことしたくないんでありんすか?」

「それは、だね。……ミラ!」

「はい、ご主人様。指定の場所に到着しております」

「わかった。用意を頼む」

「?」

 

 シャルティアは可愛らしく小首を傾げた。

 おにいちゃんが背中と膝裏に手を差し込んで立ち上がったので、落とされないよう首筋に腕を回す。

 

「外に出るよ」

「外?」

 

 

 

 

 

 

「ふわあ……」

 

 イチャイチャしている間にも馬車は走り続け、降りたところは草原だった。

 空には雲一つない。全天に満遍なく星々が散りばめられている。アインズ様が宝石箱と例えた星空に、シャルティアは思わず感嘆の声を上げた。

 

「降ろすよ」

「はぁい。…………あっ」

 

 降ろされたのは草むらではなく、広げた毛皮の上だった。ふわふわでふかふかの敷物は、馬車の中に誂えたベッドと同じくらいの広さがある。

 

「話を聞いた時から、外でしようと思ってたんだ」

「……ずいぶんとレベルが高いでありんすね」

 

 淫乱吸血鬼の称号を欲しいままにするシャルティアでも、外でしたことは一度もない。

 

「大丈夫。帝都からは離れてるし、見える範囲に人里はない。誰にも見られないよ」

 

 モンスターも、帝国では帝国兵が定期的に駆除しているので元から少ない上に、馬車から放したアンデッド馬が散って周囲を警戒している。オーガより強い馬で、それよりずっと強いミラも目を光らせる。野生動物もモンスターも率先して逃げる。横やりが入る可能性は皆無である。

 ちなみに、草むらに毛皮を敷いて幾つものクッションを置いたのはミラである。準備を終えたら素早く御者台に戻った。

 

「外でするのはいやかい?」

「ううん」

 

 シャルティアは、頭を振った。

 

「さいっこうでありんす! おにいちゃん大好き!」

 

 吸血鬼の紅い目は、月下に爛々と輝いていた。

 

 

 

「シャルティアが脱がしてあげるから、おにいちゃんはシャルティアを裸にして♡」

 

 いきなりの試練である。

 シャルティアに任せると、ボタンが取れたり破けたり、メイドたちの想像を逞しくさせる事態になりかねない。

 

「俺よりシャルティアが先だよ。脱がしてあげるからこっちにおいで」

「はあい」

 

 シャルティアは背を向けて、背中へ流れる銀髪をかきあげた。

 

 美しい背中を眺め、時々唇をつけながらビスチェの編み上げをほどいていく。上下一体のミニスカビスチェだ。編み上げと金色のサッシュベルトを外せばすとんと落ちた。

 目の前に白い尻がある。黒い下着は布面積がとても小さくて、股間の一部しか覆っていない。可愛いお尻は丸出しだ。

 サイドはリボンが飾っているように見えて、実際はリボンではなく紐が結ばれている。エッチな紐パンである。紐を摘まんですっと引けば、パンツもはらりと脱げてしまった。

 ストッキングやドレスグローブは着けてない。シャルティアは一糸まとわぬ姿になって、振り向いた。

 

「!」

「どうしたでありんすか?」

「……いや、なんでもない。髪もほどくよ?」

「はぁい」

 

 銀髪を飾るヘッドドレスも外した。銀色の髪がさらりと流れ、シャルティアは月下に全てをさらけ出した。

 

(まさか…………こんな!)

 

 吸血鬼なら暗視が出来るだろうが人間はそうもいかない。そのため、外で色々するために月の明るい晩を選んだ。帝国の地理に地形と天候すら考慮に入れて、雲も風もない地点を割り出した。

 その甲斐あって、夜の風が芳しく、月の光に満ちた草原で向き合っている。

 

 月の光に照らされたシャルティアは美しかった。

 吸血鬼の蒼白な肌は月光に輝いていた。紅い瞳は夜の精気に満ち満ちて、爛々と輝く。豊満とはほど遠い肢体でも女の体、緩やかな曲線から漂う色香があった。

 シャルティアは美しかった。

 単に美しいと言うにとどまらず、神々しさすら感じさせる美の極致。並の男であれば、欲情するどころか畏敬の念に打たれて跪きたくなるだろう。

 シャルティアに、美神の片鱗を見たのだ。

 

(吸血鬼には月の光だろうが、まさかシャルティア様がこうも輝くとは! ああ、なんてことだ。美しいとはアルベド様を指す言葉だというのに……!)

 

 シャルティアに真の美を認めるのは、美神への背信ではないだろうか。

 しかし、美神に仕える美の信徒が美しいものを美しくないということなど出来はしない。

 

「おにいちゃんも脱ぎ脱ぎするでありーんす!」

「あ、ああ、すまない。シャルティアが綺麗で見とれちゃったんだ」

「えへへ♡ おにいちゃんもとっても綺麗でありんすよぉ」

 

 シャルティアは花開くように笑って、男の服に手をかけた。

 

「はれ? これって魔法のアイテムでありんすか?」

 

 破かれないよう先回りしてボタンにベルトを外し、シャルティアは服の合わせを開いたりズボンを下ろすだけになるよう尽力した。

 シャツを脱いで上半身が裸になる。左手首に赤と青の宝石をはめ込んだブレスレットがあった。

 

「ペストーニャ様からもらった耐炎と耐氷のブレスレットだよ。外で脱ぐと寒いからね。これがあれば大丈夫」

「はえー。ペスも気が利くでありんすねえ」

 

 ペストーニャ様は外でセックス出来るようにと魔法のブレスレットをプレゼントしてくださったのだ。もしかしたら誤解であるかも知れないが。(間違いなく誤解である)

 

 

 

 

 

 

 月の光を浴びながら、二人は柔らかな敷物の上で絡み合った。

 脚を絡ませ抱き合って、何度もキスを繰り返す。どちらからともなく絡ませた脚を進ませて、相手の股へ割って入り、股間に自分の太股を押し付けた。

 手足の長い男の方が有利だ。シャルティアの尻を掴み、ぐいと引き寄せる。

 

「あはン! シャルティアのおまんこがこすれてるでありんすぅ。おにいちゃんのエッチぃ」

「シャルティアに触ったところが濡れちゃったよ。どうして濡れたんだろうね?」

「それはぁ、おまんこがエッチなおつゆ出しちゃったからぁ。おにいちゃんとちゅっちゅしてシャルティアはぬれぬれでありんすよぉ。おにいちゃんにもいっぱい塗ってあげるね」

 

 抱き合ったまま転がって、シャルティアが上になった。男の太股を跨いでペタンと座る。滑るように前後に動いた。シャルティアが触れたところが濡れ光る。

 

「おにいちゃんもおちんぽギンギンでありんすよぉ♡ あぁ……おちんぽあっついぃ……」

 

 腰を揺らしながら、男の股間でそそり立つ逸物に触れた。白い両手で包み込み、上下に扱き始める。ミラとは格段に違う手淫である。細い指が裏筋を撫で、亀頭を揉む。股間に熱がたまって、先端には真珠のように光る先走りの汁が珠を作った。

 

「おにいちゃんのおちんぽも、シャルティアのおまんこみたいにネバネバしたおつゆが出てきたでありんす。シャルティアがペロペロしちゃう♡」

 

 シャルティアの創造主は、ペロペロを名に冠するペロロンチーノである。そのペロロンチーノからとってもエッチな女の子として創造されたシャルティアの舌技は、小さなお口を歯牙にも掛けない妙技である。

 シャルティアは、体の向きを反対にして背中を見せてから頭を下げた。逸物がぬるりと柔らかいものに包まれた。

 こちらの体を跨いでいる。自然と股を開く形になった。目の前でシャルティアの尻が揺れている。潤んだ秘部を見せつけている。目の前に股間を差し出すということは、舐めろと言うことである。

 

「あん♪ いっぱいペロペロしてぇ♡ シャルティアもいっぱいペロペロしてあげるぅ。きゃん!」

 

 頭をもたげ、口付ける。

 ただし、身長差が大きいと頭を持ち上げるのがやや大変。体を横向きに倒した。

 上下ではなく側位のシックスナインは体への負担が少なくて、長時間のプレイ向けである。

 

「あっ……ハァ、んっ、ちゅっ……。おにいちゃんがぁ、シャルティアのおまんこでぇ、じゅるじゅるしてるぅ」

 

 シャルティアの太股を枕にして、チロチロと舌を伸ばす。

 柔らかな陰唇を食み、舌で弄ぶ。

 ずっと口をつけたまま、しっとりと愛でている。

 

「んぐぅっ!? …………んっんっ……、れろ、ちゅる……ちゅぷんっ。……ああん♡ おちんぽすごいでありんすぅ」

 

 不意を打つように、シャルティアが咥えている時を狙って腰を振った。肉棒がシャルティアの口内を蹂躙し、喉奥を突いた。苦しいだろうに、シャルティアは抵抗なく受け入れた。熱い逸物を舌で包み、優しく吸う。引き抜いた時は、亀頭と唇で糸を引いた。

 寒月の下だ。シャルティアの涎と先走りの汁にまみれ、逸物はうっすらと湯気を立てている。

 シャルティアはうっとりと見つめた。

 

(おにいちゃんのおちんぽすごいでありんすよぉ。おっきくて太くって長くって、このおちんぽをシャルティアがなめなめしてたんでありんすよね? うう、もっと欲しいでありんすよぉ。おちんぽでお口をじゅっぽじゅっぽして欲しいでありんす! でもおまんこにも欲しいんでありんすぅ♡ あっ、おにいちゃんがまたじゅるじゅるしてるぅう。シャルティアのエッチなおつゆ、おまんこから垂らしちゃうまん汁飲んでるのぉ)

 

 顔はシャルティアの太股に挟まれている。

 横を向いた楽な姿勢で、枕のボリュームはいまいちでも肌触りは極上である。口にはシャルティアのとっても柔らかい淫靡な肉。時々雌穴に口付けて、すすってやらないと枕が濡れる。

 シャルティアは、逸物を扱いては舐め、舐めては咥え、咥えればちゅると吸って飽きずにフェラチオを続けている。

 射精に導く激しさはない前戯はあまやかで蕩けるようで、ずっと味わっていたくなる。

 味わうと言えば、シャルティアのおまんこを味わうように舐めている。激しくはしないけれど、始めてから一度も口を離してない。陰唇の味わいも雌穴の舌触りも、溶けるほどに柔らかで舌に楽しい。こちらもずっと続けていたくなる。

 

「おにいちゃぁん……♡」

 

 愛欲に蕩けきったシャルティアの声。

 甘えた声音は、どんなことでも聞いてあげたくなってしまう。

 

「シャルティア、おにいちゃんのおちんぽ欲しいなぁ」

「っ!」

「おまんこにいれてほしいでありんすぅ。おまんこでぐっちょぐっちょってして、シャルティアの中をいっぱいかき混ぜてほしいなぁ♡」

 

 お兄ちゃんと妹でも、実際はシャルティアの方がずっと偉い。

 甘えた要求は、実質的に拒否不可の命令である。

 

 シャルティアの美しさに惑わされ、シックスナインの心地よさに浸りすぎてしまった。シャルティアはまだ一度も達してない。

 シャルティアに挿入する時は最低でも五回はいかせ、とろっとろにさせてからでないと狭くてきついのだ。

 いつぞやのように自分が主導権を握っていれば何とでもなるのだが、現在の状況はイーブン。欲しがってるシャルティアを宥めて手や口を使うのは無理がある。

 ここまで折角気持ちよかったのに、きつい締め付けに耐えなければならないのだろうか。

 

「あんっ、……きてぇ。シャルティアの中にきて……♡」

 

 横たわるシャルティアに覆い被さり、腰を落とした。

 シャルティアは自分から大きく股を開いている。アウラと違って、股を開けば割れ目も開く。赤い内側は濡れそぼり、仄暗い雌穴は小さく口を開いて涎を垂らしている。

 シャルティアは準備万端だが、このまま挿入するときついことを知っている。

 一計を案じた。

 

「シャルティアはアインズ様からお褒めいただくほど頑張れるようになっただろう?」

「そうでありんすよぉ。シャルティア、アインズ様からいっぱいほめてもらったでありんす!」

「それなら我慢しなきゃいけない時は我慢できるかい?」

「むぅ、出来るでありんすけどおちんぽ欲しいの! おちんぽは我慢しんせんから!」

「ちゃんと入れてあげるよ。だけどその前に、ちゃんと我慢するんだぞ」

「……なんでありんしょう? あっ……うむぅ……ちゅっ、……っ!?!? んんんんんぅ~~~~~っ!?!?」

 

 優しい口付けを送った。

 紅い唇に赤い唇が重なって、ぬめる舌がシャルティアの口へ侵入する。シャルティアの舌はすぐさま応えた。温かな舌を舐め絡め、同時に吸った瞬間である。

 えもいわれぬ官能と甘美に襲われた。

 味覚を越えた何かを刺激してくる美味は、シャルティアが究極と絶賛した鮮血だった。

 それも、直飲み。

 冷静で万全だった時も、搾りたてを一飲みしただけで絶頂しかねなかった。

 今は挿入直前で出来上がっている。

 血の狂乱どころではない。もっと飲みたいと思う段階ではない。否も応もなく、暴力的に口から犯されているのと変わらない。

 

「うっ……くぅ…………、あっ……あっ……、ああああああぁぁぁああっ!?」

 

 唇が離れきる前に、体の真芯を貫かれた。

 じっくりとしゃぶっていっぱい扱いてあげた大きなちんこが入れられている。膣口を押し広げ、今か今かと涎を垂らしていた雌の穴を満たしている。

 実に容易く最奥まで侵入を許してしまった。シャルティアの胎の中で、先走りの汁を垂らしていた亀頭が子宮口に触れている。触れて、なお押し上げた。

 

「あっぁっあっ、あっああん! すごっ、すごいぃ! おまんこ突いてぇ! あっあっあっはぁん♡」

 

 血を飲まされて、心身が弛緩しきった。

 指先から爪先まで官能に支配され、自由に動かせる気が全くしない。

 代わりに、シャルティアの陰部は淫らに蠢いた。

 さらりとした愛液は小水を漏らしたほどに増え、逸物にこすられる肉ひだはそれぞれの意思で絡み付くよう。

 腰を打ち付けられる度に古い自分が砕かれるようにさえ感じた。

 容赦なく子宮口を叩かれる痛みすら得難い快感。

 再度打ち付けるために引き抜かれる度に、シャルティアは膣を締めた。自分の体を支配する愛しい男を逃がさないように。

 入ってくるときはゆるめて、一番奥まで迎え入れる。

 逸物が体の中を往復すると、ずりゅとかじゅちゅとか、粘着質な水音が響いた。

 

「綺麗だよ、シャルティア」

「おにいちゃあぁん♡ おまんこきもちいいぃんっ、おにいちゃんおにいちゃんっ、ああっん、おまんこじゅぽじゅぽしてるぅう。シャルティアにきてるのぉお!」

 

 月夜の草原に、吸血鬼の嬌声が響く。

 

 よがるシャルティアを組み伏し、音楽的なあえぎ声に耳を傾けながら腰を振る。

 体位は変えずに正常位のまま。はて、どうしたことだろうと考えた。

 

 舌を噛んでシャルティアに血を飲ませたのは、賭けだった。

 前回飲ませたときの様子から、自分の血を飲ませれば強ばりが解けるだろうと踏んだのだ。噛まれる危惧はなきにしもあらず。けども、アインズ様の名を出したシャルティアなら信頼できる。勝ちの目は十分で、見事に勝利した。

 とろけきったシャルティアに挿入したわけだが、不思議なことに記憶よりも大分具合が良くなっている。

 膣の狭さときつさは記憶通りなので、それ以外の要因。シャルティアの腰遣いと言うか媚肉遣いとでも言うのか、何度か交わっているので段々と巧みにはなってきてるが、それだって今までの延長線上。驚くほどでもない。

 なればこちらの感じ方。

 シャルティアの締め付けに負けないくらい強くなったと言うことか。

 それは何というかあれがそれである。

 何であれ、気持ちよいのは確かなのだ。

 ミラを筆頭に、ヴァンパイアブライドたちの具合はシャルティアの上位互換のように感じていたが、これは認識を改めないといけないか。

 白い肌を紅潮させ、紅い唇を開いて濡れた舌を伸ばして尖らせるシャルティアは、とても淫らで美しい。

 

 逸物を包むシャルティアは、何度か痙攣するように震えていた。

 前戯では一度も達していなかったが、男女の交わりによってそれ以上の回数を達しているらしい。

 何度達しても、もっともっとと求め続ける。

 

「あっっっはああぁああああああああああああああぁぁぁん!!」

 

 子宮口を強く打たれて、シャルティアはまたも絶頂した。

 新鮮な空気を求めて大きくあえぎ、手は毛皮の敷物を強く握った。爪先をきゅっと折り曲げ敷物を掻く。

 子宮を中心に下半身をピクピクと痙攣させる。内側も蠢いて、入り口から奥の方へ取り込むように、小刻みに淫肉が締め付ける。

 締め付けるのは挿入されてる逸物だ。精液を逃がさず子宮へ迎え入れるために。

 

 これ以上ない官能的な愛撫で、ついと射精した。

 シャルティアの胎の中で熱い精液がどぴゅどぴゅ、ぴゅっと吐き出される。

 愛を込めて、シャルティアの小さな体を抱き締めた。

 首筋に顔を埋め、少女の甘い体臭と、発情した雌の匂いを吸い込んだ。

 

 

 

「あ………………」

 

 唐突に、本当に唐突に、シャルティアは独りになった。

 抱き締められたので視界からおにいちゃんの顔が消えただけなのだが、シャルティアは本当に独りになった。

 

 夜空の草原に横たわっている。

 視界を遮る物は何一つなく、満天の星空。

 暗闇にお月様と無数のダイアモンドを散りばめたような。

 その瞬間、シャルティアは星々の海へ落ちていった。

 深遠な闇のさらに向こうへ。

 世界には無数の星々があって、ただそれだけ。

 自分しかいない。

 自分以外には何者も存在しない。

 遙か遠く、決して手が届かない無限の果てに散らばる星屑たち。

 世界から切り離され、自分の手には何も届かない。何にも触れられない。

 広い宇宙でたった一人、独りだけになって、孤独がもたらす破滅的な寂寥感に胸が詰まり、涙がこぼれた。

 

「…………………あ」

 

 その一瞬後には、自分の体の中で脈打つ命を感じた。

 奥の奥まで満たされて、熱い精液が冷たい体を焦がしている。

 

「おにいちゃあん……」

「どうしたんだい?」

「ちゅーしてぇ。あむぅ、ちゅっ……ちゅうぅ……んっ」

 

 重なる男にすがりつき、演技ではなく甘え始めた。

 独りではなかった。この男がいた。

 一瞬の寂寥感はこの上ないスパイスとなって、合わせるだけの稚拙な口付けが、かつてない幸福感をもたらした。

 

 

 

 

 

 

「もしも……………………………………。なんでもないでありんす。私はこれで帰りんす。お前はミラをよく使って健やかに過ごすんでありんすよ?」

 

 まっこと珍しいことに、シャルティアは男の体調を気遣ってから、ゲートの魔法を潜った。

 男とミラは怪訝に顔を見合わせてから後片付けを始めた。

 

 ナザリックの屍蝋玄室に戻ったシャルティアは、情交の匂いを漂わせながら忸怩たる思いで顔を朱に染め、ギリリと歯を食いしばった。

 物凄く気持ちよかったから気の迷いが生じたのは間違いない。

 だとしても言って良いことと悪いことがある。

 言わなかったわけだが、思ってもいけないことがある。

 アルベドと競っているアインズ様の正妃争奪戦に破れたらだなんて思ってもいけないことだ。

 万が一にも負けてしまったら第二夫人になるのだから、それ以外のことを考えるのはいけないことだ。

 間違っても、人間の男を自分の夫になんて考えてはいけないことなのだ!

 

「ぐぎぎぎぎぎぎぃ……。風呂に入るでありんす! 手伝いなんし!」

 

 幾人ものヴァンパイアブライドが集まってきた。

 どいつもこいつも性臭を嗅ぎ取って、うっすらと頬を染めている。

 こいつらが羨むものを自分は幾らでも味わえるのだと、シャルティアは優越感に浸ってにんまりと笑った。

 

 

 

「しまった、お土産を忘れた」

 

 事を終えたら馬車に戻って、それからシャルティア様と別れる予定だった。

 その際にお土産を持って帰ってもらう手筈だったが、すっ飛ばしてシャルティア様はお帰りになってしまった。

 お土産は血液である。

 前回はアトリエに転がっていたポーションの空き瓶に詰めたわけだが、今回は繊細な意匠が施されている瓶を使っている。

 保存の魔法が掛かっているので劣化はしないだろうけども、やはりナマモノなので早めに消費するに越したことはない。

 数日内にアウラ様がいらっしゃるだろうから、その時に持って行ってもらえないかと考えた。

 

 その時、走る馬車の扉が音もなく開き、冷たい外気が流れ込んできた。

 ちゃんと閉めなかったのだろうか。

 立ち上がりかけて扉へ顔を向ければ、宵闇にも輝く金髪が目に入った。

 

「……さっき。シャルティアと何してたの?」

 

 馬車のステップに、表情を落としたアウラが足を置いていた。




たぶん次回、アンケートに従ってアウラちゃんがアウラさんになります

神姫アプリは完全に死にましたインストすら出来ません
代わりにブラウザでちゃんと動くようになりましたb
祈って下さった方々、ありがとうございますペコリ


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不思議な青いキャンディー

 アウラはステップに足を置いたまま、中には入らなかった。

 

 男から異臭が立ちのぼっている。男と女が交じり合った臭い。それだけなら、この男とミラが実演した時に嗅いでいる。しかし、今回はシャルティアの匂いが混じっている。知ってるはずの性臭がどうしようもなく汚らしいものに思えて、近付きたくなかった。

 

「お帰りになったのではなかったのですか?」

「いいから答えて。シャルティアと何してたの?」

 

 この場所に現れたのなら、何をしていたかずっと見ていたはずである。アンデッド馬にミラが警戒していても、優秀なレンジャーであるアウラにとっては案山子も同然だったようだ。

 

「ご覧になっていたのでしたら察していただけると思いますが」

「何してたかって聞いてるのよ!」

 

 わかってるだろうに語気が荒い。何が癪に触ったのか全くわからないが、言えと言うなら答えるのはやぶさかでもない。

 

「シャルティア様をお慰めしていました。有り体に言えばセックスです。アウラ様の前でお見せしたこともあるので、どのようなことかはご存知のはずです」

「……シャルティアはアインズ様の正妃に立候補してる。それをあんたは……。自分が何したかわかってるの?」

 

 馬車内は魔法の灯りで照らされているが、光量は吸血鬼であるシャルティアを基準としているので大した明るさではない。馬車の中に入ろうとしないアウラがどんな顔をしているのか、男からは見えなかった。

 声は平静で落ち着いてるように聞こえた。

 

 内心では全く落ち着いていない。荒れすぎて自分の感情がわからない。

 シャルティアがシモベたちと戯れているのはアウラも知っている。アインズ様の御前で下着をぐしょぐしょにしてしまうほどどうしょもない淫乱吸血鬼だ。ナザリックのシモベたちにとって、シャルティアが性に奔放なのは今更のことだ。

 アウラにもわかってることなのに、どうしてこんなことを聞いてしまったのか。

 この男にシャルティアを盗られたように感じたのなら話は簡単だ。アルベド直属とは言え人間の男。守護者である自分の方が遙かに地位も権限も上にある。シャルティアに近付かないように言えば済むし、それでも気が済まなかったら痛い目に遭わせてもいい。

 だが、アウラが感じたのは真逆だった。

 この男をシャルティアに盗られたように感じてしまった。シャルティアに一歩先を行かれたように思った。シャルティアに置いて行かれた。

 そもそもとして、この男がシャルティアに言い寄ることはあり得ない。ナザリックにいるシャルティアと、エ・ランテルにいたこの男とでは接点がない。間違いなくシャルティアから近付いた。シャルティアから積極的に関係を迫ったのだ。迫られて、あんなことをしていた。

 それがわからないほど愚かだったら良かった。この男を責めるだけで終わったつもりになったことだろう。

 この男を責めても無駄だとわかっている。それなのにどうしてこんな言葉で責めているのか。

 

「ふむ……」

「答えられないの?」

「いえ、存じております。アルベド様とシャルティア様がアインズ様の正妃を望んでいるのは私も聞き及んでおります。私はアルベド様が勝ち取ると信じておりますが」

「じゃあシャルティアが不利になるようにあんなことしたってわけ!?」

「全く違いますよ」

 

 立候補してるもうお一方であるアルベド様とはそれ以上のことをしているのだから、そんなことは考えたこともない。

 あちらから迫られている以上、こちらには拒否権がないのだ。そうと話してもアウラは納得しないと思われた。

 幸か不幸か、王国の王女と長かったこの男には、あれがどういうことか理解できていた。

 

「アウラ様は宮廷騎士と言うものをご存知ですか?」

「適当に言って誤魔化すつもり?」

「違います。立派な役目ですよ。ご存知ないようですので説明しましょう。どうぞ中へお入り下さい」

「ここでいい」

「左様ですか」

 

 アウラに近付こうとしたが目で制された。仕方なくその場に座り直し、アウラの方を向く。

 

「アウラ様にお尋ねします。例えば、帝国の東端に所領を持つ領主が皇帝の命を受け、軍を率いて聖王国まで遠征するとします。片道にどれくらい時間が掛かるかわかりますか?」

「それがなんか関係あんの?」

「宮廷騎士の役割をご理解いただくために必要なんです」

「……十日くらい?」

「移動は徒歩です。カルネ村からエ・ランテルまで、旅慣れてる冒険者でも野営の必要があります」

「知らない。だからなに?」

「軍での移動になりますので、速度は最も遅い者に合わせる必要があります。領主は馬に乗るでしょうが兵は徒歩です。食料だって持って行かなければなりません。

 数日の旅でしたら野営はマントにくるまって寝ればいいでしょうが、長旅ではそうもいきません。夜を迎える度に寝所として天幕を張らなければならない。設営の為に時間をとられます。また、歩き通しでは疲れますので、適度に休憩をとる必要もあります。日に六時間も移動できないでしょう。

 そうして遙々帝都まで進軍し、そこからアゼルリシア山脈を迂回するために大きく南下します。カルネ村付近を通ることになりますね。

 山脈を抜けたら王国を横断して海沿いに南下するか、はたまた法国を抜けるか。

 いずれかのルートを踏破したら、今度はアベリオン丘陵があります。現在、デミウルゴス様が活動されている地域とか。

 最後の難関を越えてようやっと聖王国に入ることが出来るんです。

 片道で三ヶ月以内でしたら上等でしょう」

「三ヶ月!? そんなに掛かるわけないじゃん!」

「早くて三ヶ月です。人は飛べないのですよ。それだけ掛けて目的地に到達し、目的を果たすとします。帰り道にもやはり三ヶ月。冬季の移動は困難になりますから、時期によっては春を待つこともあります。未知の世界ではない、地図の西端へ行って帰ってくるだけで、一年以上掛かることも珍しくありません」

 

 どうしてそんな話をしているのかわからないが、アウラだったら数日で済む道程が一年も掛かるとなれば、驚いたのもあるし、やっぱり人間は、と思う向きもある。

 

「領主たちは一年以上も領地を留守にします。妻を残して。残された妻はどうするか? 夫の帰りを待つわけです」

「そんなの当たり前じゃん」

「ですが一人残されるわけですよ。寂しい思いをすることもあるでしょう。そういったご夫人たちを慰めるのが宮廷騎士の仕事です」

「でもアインズ様は…………」

「はい、アインズ様はナザリックにいらっしゃいます」

 

 アウラが察したのを察して、説明を付け加えなかった。

 

 アインズ様は確かにナザリックにいらっしゃる。少し前に遠征へ赴かれたが、何ヶ月も何年も掛かるものではなかった。

 但し、アインズ様の玉体はお骨である。肉はない。アインズ様へどれほど肉欲の解消を求めても、決して与えられないのだ。

 

「領主程度ではわかりませんが、王族になりますと、王と王配が閨を共にするときは公的な記録に残します。それ以外の時期に出来た子供には正当な継承権が与えられません。王が気まぐれに町女に手を出しても産まれた子供が王子になるわけではないのです。その逆も然り、です。もっとも、帝国の皇帝は若いので妻や愛妾を放っておくことはないでしょう。耄碌してる王国の長はわかりかねますがね」

「じゃあ………………、あんたはシャルティアがそうしろって言うからしただけって言うの? シャルティアのことは何とも思ってないわけ?」

「まさか。とてもお美しい方だと思っております。振り回されもしますが、光栄でもあります」

 

 シャルティア様に真の美を見てしまったばかりなのだ。

 世界を照らすのがアルベド様なら、夜に輝くのがシャルティア様と言うことか。ナザリックはお二方で昼と夜を支配しておられる。これは世界征服と同意ではないだろうか。

 

「私にもあんなことしたよね?」

「はい。楽しんでいただけたかと存じます」

「そ、そんなことはいいの!」

 

 舐められて吸われた感触を、生々しく覚えている。

 

「…………じゃあ」

 

 言うべきか否か、アウラは数瞬迷った。

 迷ったのに口にしてしまったのは、シャルティアへの対抗心と、あの時感じた以上のものへの期待と、この男への執着と、その場の勢いが後押しした。

 自分をどう思っているかは聞けなかった。期待してない答えだったらと思うと怖くなる。

 しかし、こういう風に言うのなら。

 ついさっき、宮廷騎士の役割として、と語ったばかりだ。階層守護者であるシャルティアがいいのなら、シャルティアと同じ地位にある自分が求めても受け入れられるはずである。

 ずるい言葉だとは思ったが、それ以外の言葉は思いつかなかった。

 

「私にもしてって言ったらするの?」

「セックスのことですか?」

「……そう」

「無理です」

 

 即答され、アウラはかっと血が上った。

 

「アウラ様には入りません。私のものをお見せしたのですからアウラ様にもわかるはずです」

 

 女の悦びを知っても、アウラは体が小さすぎる。入れようと思っても未成熟な体は受け入れられない。

 

「先日のようにお慰めするのでしたら構いませんが、それ以上は無理です。入れようにも入りませんし、その前に立ちません」

「っ!!」

「体の成長を待ってからでも遅くないはずです。長命なアウラ様ですから、その頃まで私が生きてることはないでしょう。ですが、アウラ様は美しく成長されることが約束された方。アウラ様が求めれば誰であれ…………あれ?」

 

 開け放たれた馬車の扉の向こうには、ひたすらに闇が広がっている。

 僅かな光に照らされて、朧気に見えていたアウラの姿は消えていた。

 

「ご主人様、どうかされましたか?」

「…………いや、夜の空気を吸ってただけだよ。帰路に問題ないかい?」

「はい、何も問題はございません。馬に任せておけば私が何もせずとも帝都に到着いたします」

「それならこっちに来たらどうだ? 帝都までまだ掛かるんだろう?」

「はい! 夜道を駆けるわけにもいきませんので静かに走らせるとどうしても時間が掛かってしまいまして帝都に着くまでまだ間があるのですが私は座っているだけでこれと言って何かをしているわけでもありませんのでご主人様のご命令には何なりと従う余裕がございますから何なりとお命じ下さい!」

 

 アルベド様と違って、シャルティア様は一度で満足なさることが多い。精気や精液を吸収するわけではないからだ。

 シャルティア様に備えて準備は万端だったが、一度だったので残弾が余っていた。

 

 

 

 

 

 

 アウラはナザリックに戻った。

 男の言葉を聞いて、反射的にあの場を離れていた。まるで逃げるようだった、ではない。逃げたのだ。

 悔しいのだろうか。

 敗北感を覚えているのだろうか。

 たかだか人間の男から逃げた自分が、惨めでならなかった。

 

「おやあ? アウラじゃないでありんせんか」

「…………シャルティア」

 

 ナザリック表層部のログハウスでは、ユリが気遣わしげな顔をしていたような気がする。

 振り切って第九階層へ直通してるゲートを潜った。とぼとぼと歩いていると、会いたくなかった奴に会ってしまった。

 たっぷり良い思いをしてきたシャルティアはとっても上機嫌だ。シモベが目の前で転んでドレスにワインを引っかけても笑って許し、気遣いをしてやれるくらいに。

 

「相変わらずおチビはおチビでありんすねえ。おチビが下を向いて歩いてたらあんまりにもおチビで見過ごしそうでありんす。踏んづけるのも可愛そうでありんすから? 踏まれたくなかったら隅っこを歩きなんし」

「………………次おチビって言ったら怒るから」

「おチビじゃなければお子様でありんすね。お子様は寝る時間でありんすからさっさとベッドに入って寂しく寝なんし!」

「シャルティアアアアアアァァ!!」

「やりんすか!?」

 

 心身ともに充足してる夜の吸血鬼はキレッキレだった。

 すり減ってるアウラは温まっていた堪忍袋の緒がぷつりと言って、ナザリックでは珍しくもないキャットファイトが始まった。

 

 引っかき噛みつき、髪を引っ張ってビンタをすれば頭突きもあって、およそ淑女には相応しくないラフファイト。

 いつものアウラだったら頭を使って直情型のシャルティアを上手くあしらう。

 ところが今日は様子が違った。

 頭に血が上りきって、真っ直ぐに突き進むことしか出来ない。100レベルのアウラであろうと、シャルティアもまた100レベル。その上シャルティアの得手は近接戦。群を率いるのが真骨頂なアウラでは分が悪い。シャルティアとのラフファイトに勝てるのはアルベドだけである。

 近接戦とくればコキュートスやセバスも強いのだが、彼らは空気を読んで早々に負けを宣言するのだ。

 

 

 

「きゅう…………」

「まったくお子様は頭までお子様でありんすねえ。これに懲りたらお子様はお子様らしくすることを覚えなんし」

 

 考えもなく近接戦でシャルティアに挑むのは無謀だった。

 アウラは目を回して床に倒れ伏し、シャルティアは高笑いしながら去っていった。

 

 ややあって、気遣わしげなメイドたちに見守られながら、アウラは何事もなかったように立ち上がった。深く俯き、目元を袖で拭う。

 誰にも会いたくない。一人になりたい。シャルティアに言われた通りにするのは非常に腹立たしいが、さっさと寝てしまいたかった。

 誰にも会いたくなくて、俯いたまま歩く。

 ゆえに、声を掛けられるまで偉大な気配が近付いたことに気が付かなかった。

 

「どうしたのだ?」

「あ……、アインズ様!」

 

 咄嗟に跪く。玉顔を直視する非礼を犯さないよう、頭を下げた。

 

「アウラにしては珍しく力のない歩き方だったな。一体何があった?」

「い、いえ! 何でもありません。アインズ様にご心配をお掛けして申し訳ございませんでした」

 

 ナザリックのシモベたちにとって、アインズ様に心配を掛けるのはこの上ない苦痛なのだ。どうして自分の愚かさ故に偉大なるアインズ様にご迷惑をお掛けしなければならないのか。

 半死半生であっても、アインズ様に心配を掛けるくらいなら、「何でもありません」と答えるのがシモベたちのデフォである。

 

 と言うことを、アインズも理解しつつあった。

 自分に迷惑を掛けないように振る舞うシモベたちの心遣いを嬉しく思うと同時に、些細な事から大きな事まで話そうとしないのは割とかなり困ってる。

 ナザリックはブラックかも知れないがホワイトな組織を目指しているのだ。そのためには、シモベたちが困っていることに耳を傾けなければならない。

 特にアウラは、ギルドメンバーであったぶくぶく茶釜が創造したNPC。中身は大人びていてもまだまだ子供。

 俯き歩く様子は、明らかに元気がなかった。声を掛けるまでこちらに気付かなかったのも異常事態だ。

 問題があるなら聞き出して解決したい。しかし、アウラからは頑なに話そうとしない。

 こんな時に役立つのが、今日まで培ってきた支配者ロールである。

 

「私の喜びはお前たちの幸せだ。そしてお前たちの悲しみは私の悲しみでもある。私のためを思うなら話すのだ。どうしても話せないというなら無理は言わんが」

「いえそんなことはありません! アインズ様を悲しませるなんてそんな、けっして……」

 

 偉大な主の余りにも深い優しさに、アウラの脳裏でああなんとお優しいアインズ様アインズ様偉大なるアインズ様とアインズ様賛歌が流れた。

 

 顔を上げたアウラの目元は、少しだけ赤くなっていた。

 

「実は……、シャルティアにチビとかお子様とか言われて頭に来ちゃって……。アインズ様にご心配をお掛けしてしまって本当に申し訳ございません」

 

 アウラは再度頭を垂れた。

 

(シャルティアかあ。シモベを気遣えるようになったと思ったんだが、俺が誉めすぎて調子に乗らせたか?)

 

 実はシャルティアなりにアウラを気遣ったのである。シャルティアの発言を意訳すると、

 

『元気がありませんね。そんなところをシモベたちに見られると貴女の威厳にかかわります。早くお休みなさい』

 

 となる。

 こんなのシャルティアの側近であるヴァンパイアブライドエリートシックスだって翻訳できない。

 アウラとキャットファイトしたのだって気分転換のつもりだった。いつもの調子でやっつけてしまったのは、これはもうシャルティアだから仕方ない。

 気持ちの伝え方がどれほど大切であることか。コミュ力はとっても重要である。

 

「でもいいんです」

 

 顔を上げたアウラは、唇を歪めてふふと嗤った。

 

「シャルティアはアンデッドだから成長しませんけど、私はいつか大人になります。そうしたらシャルティアにお子様って言ってやりますから」

 

 アウラらしくない暗い笑みだった。アウラは、いつか果たせる復讐の暗い愉悦に浸っている。

 復讐とはとてつもない快楽をもたらすのだから。ゆえに、いつの時代も復讐譚は人気がある。

 

 アウラの暗い笑みを見て、アインズの脊椎に怖気が走った。

 

(まずいぞ。このままではアウラがダークサイドに墜ちてしまう!)

 

 ダークサイドに墜ちるダークエルフとはこれ如何に。

 

「少しここで待っていろ」

「アインズ様?」

 

 アインズ様は魔法でどこかへ転移してしまった。

 言われた通りに待ち続ける。

 再び現れたアインズ様は、手に大きな瓶を持っていた。何の飾り気もない只の瓶。中には青くて丸い物がいっぱい入っている。

 

「アウラにはこれをやろう」

「何でしょうか?」

 

 アウラは思わず受け取った。中身こそ宝石のようにきらめいているが、ナザリックには相応しくない素朴すぎる容器である。

 

「それは『不思議な青いキャンディー』と言う魔法の薬だ。舐めれば一時的に大人の姿になることが出来る」

「いただけません! こんな貴重な物を……」

「確かに貴重な品だ。しかし、貴重なアイテムよりもお前たちの方が遙かに掛け替えのない存在と知れ」

 

 アインズ基準では貴重な品である。なにせ入手手段がもうないアイテムなのだから。

 しかし、有用なアイテムかと言えば全く違う。ゴミである。ユグドラシル時代のお使いイベントで入手したきり仕舞っておいたものだ。ほったらかしにしてたとも言う。

 使い道など全くない。それなのにスペアが十個ある。

 貴重かと言えば貴重だが、必要かと言えば要らないものなのだ。

 

 そんなアイテムを下賜されたアウラの脳裏にアインズ様賛歌が流れた。

 感動の余りに、涙をポロポロとこぼす。

 

「早速試してみるとよい」

「はい!」

 

 蓋を捻ってきゅぽんと開ける。

 大きなキャンディーを一つだけ取り出して、口の中へ放り込んだ。

 キャンディーなのに甘くない。ちょっぴり苦いのは大人の味。

 

「おお……」

 

 アインズは小さく感嘆の声を上げた。

 

「あの……どうでしょうか?」

 

 アインズ様を見上げるときの首の角度が大分違う。

 視界に映る自分の手が大分大きくなっている。

 大きくなった実感はあるのだが、鏡でもない限り自分の姿は見えないのだ。

 

「うむ、確かに大人の姿になってるな。シャルティアに見せてやれ。そうすれば変にからかってくることもなくなるだろう」

「……はい! アインズ様、ありがとうございます!」

 

 大人になった姿がどうなのかを聞きたかったのですが、アインズ様にはそこまでわかりませんでした。

 

 アインズは、長くなった足で駆けていくアウラを見送った。

 

(まさかアウラがあんなになるとは……。これはシャルティアに悪いことしたかも)

 

 

 

 

 

 

「シャルティアアアアアアァァ!!」

「オノレナニヤツ敵襲か!?」

「何バカなこと言ってんの」

 

 アウラが屍蝋玄室の扉をバーンと蹴破ると、シャルティアは大きな寝台の上でヴァンパイアブライドたちを侍らせていた。

 

「まさか……、まさかアウラでありんすか!?」

「そうよ。アインズ様から大人になるアイテムを頂いたの。私が大人になるとこうなるのよ?」

「あ……アインズ様が……、アウラに…………」

 

 寝台の上で立ち上がったシャルティアは、崩れ落ちた。

 足を揃えて両膝を突き、頭を伏せる。

 両手もシーツの上に突いて、頭は尚も下がって額をシーツに擦り付けた。

 

「……まいりました」

「「シャルティア様!?」」

 

 ヴァンパイアブライドたちの悲鳴が上がる。

 己たちの愛しい主人が敗北を宣言したのだ。

 ならば自分たちが、と行きたいところだが、今のアウラにはヴァンパイアブライドたちであっても敗北を認めざるを得ない。

 

「お前たちも謝りなんし!」

「「アウラ様の勝利でございます」」

 

 ヴァンパイアブライドたちも頭を垂れた。

 両手両膝を床につき、額すら床に擦り付けて、勝者へ向かって敗者たる己たちに寛大なる裁きを求める由緒正しき謝罪のポーズ。

 土下座である。

 

 大人の姿になったアウラは、ただ姿を現すだけで吸血鬼たちから完全無欠の勝利を収めてしまった。

 

「わかったならいいのよ。……それでね、ちょっとシャルティアに相談したいことがあるんだけど……」

「お前たちは出て行きなんし。……私に何用でございましょうか?」

「もうそれいいから、普通に話してよ」

「わかりんした。それにしてもあのおチビがこんなになるなんて……」

「へえ? シャルティアは私に向かっておチビとかお子様とか言うわけ?」

「申し訳ございません!」

「いやもうそれいいから」

「何でありんしょう?」

「……えっとね」

 

 半裸のシャルティアから目を反らし、頬を赤らめた。

 

「セックスって……どうすればいいの?」




アンケートに従った結果、アウラは致命的に相談相手を間違えました
次回、濃厚なGL描写がある可能性大です
タグをつけるべきかとも思いますが、80話超で出てくるんじゃタグ詐欺になる気も
前書きに注意文書くだけにしときます


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蝶になる

GLまでたどりつきませんでした


 シャルティアは、きょとんと目を瞬かせた。

 

「セックスって誰がするんでありんすか?」

「わ……私が。だってセックスってすごい気持ちいいんでしょ? アインズ様のお慈悲でせっかく大人になったんだからやってみたいじゃん!?」

「まさかセックスしたくてアインズ様にお願いしたわけじゃないでありんしょうね?」

「そんなわけないでしょ! シャルティアがおチビとか言うの止めさせようと思ってくださったんだから!」

「うっ……。まあ、これからは、出来るだけ、気をつけんすよ? ……で、誰とするんでありんす?」

 

 セックスとは男女の交わりであって、一人で出来るものではない。

 ただし、例外もある。同性同士ですることもあり、シャルティアはナザリックにて同性愛の第一人者だ。ピコンと来てしまった。

 

「まさか……、まさか私でありんすか!?」

「違うに決まってんでしょーが!!」

「そ、そうでありんすね……」

 

 いがみ合うことはよくあれど、互いの創造主は実の姉弟であって、単なる同僚以上の絆がある二人である。だからと言って、いきなりレズプレイを求められるのは流石のシャルティアをして動揺を誘った。残念なような安堵したような、ともかく誤解であった。

 すると疑問が振り出しに戻る。

 

「じゃあ男なら誰でもいいんでありんすか? それはおすすめ出来んせん。アウラは一応ナザリックの守護者でありんしょう?」

「誰でもいいわけないじゃんシャルティアと一緒にしないでよ! だいたい一応ってなに? 私もちゃんとした守護者なんだけど」

「ほーん? つまりアウラにはセックスしたい男がいるわけでありんすね?」

「………………まあ、いる、けど……」

「誰でありんす?」

 

 アウラは顔をそむけて口ごもった。

 シャルティアが再三問いかけて、ようやく口にした名前はシャルティアも知る人間の男だった。

 アウラの顔は悔しそうに歪み、目の縁に涙が溜まった。

 

「でもあいつ、私には出来ないって。私じゃ立たないって!」

「その形態でそう言ったんでありんすか?」

「形態って言うな。いつもの格好だったけど……」

 

 アインズ様から下賜されたアイテムのおかげで、今こそ大人の姿になっているが、本当のアウラは子供である。幼いと付け加えて良いくらいに。

 例え外見は子供であろうと、アウラの精神は大人びている。女の悦びを教え込まれ、自分は女なのだと意識し始めた。それなのに、「お前では欲情しない」と言われた衝撃はいかばかりか。

 アウラの女心はとっても傷ついたのだ。傷ついた心を癒さない限り、女であり続けることなど出来はしない。癒すには、自分を侮辱したあの男に復讐しなければならない。具体的には、おっきさせてエッチである。

 

「ほむ……」

 

 シャルティアは思案する。

 もしもアウラに欲情するような男だったらかなりヤバい。するような男だったら、自分やアルベドに興奮することはないだろう。自分に欲情するのだからあれはまともな男だ。

 そして、アウラは大人の姿を手に入れた。大人になった姿を見せれば一発なのは間違いない。それは割とかなりマズい。

 自分は吸血鬼なので成長しないが、アウラはダークエルフなので何時の日かこの姿にまで成長する。その日が来てしまったら立場が逆転してしまう。おチビお子様とからかっていた自分の方が、今度はアウラからからかわれることになりかねない。

 いずれ来たるその日に備えて、アウラへ自分の優越性を教え込んでおかなければならない。

 幸いにも、自分のところへ相談にきた。

 この機を逃す手はない。

 

「わかりんした。全部私に任せなんし。アウラがちゃんと初体験出来るように力を尽くして手伝いんしょう!」

「…………ありがと」

 

 顔をそむけたまま小さく礼を述べるアウラは、シャルティアの邪悪な笑みが目に入らなかった。

 

 シャルティアはおバカおバカと言われていても、実はそれほどおバカではないのだ。

 知恵の使いどころが間違ってるだけなのである。

 

 

 

 

 

 

 その日、先日お会いしたばかりのシャルティア様から屋敷で待機せよとの要請があった。それだけならまだしも、指定の時間以降は寝室がある屋敷の三階には誰も近付けるなと言う。ナザリックのメイドたちやルプスレギナに御自身のシモベであるミラも、例外なく全員である。

 ナザリックのシモベたちによって広く豪奢に魔改造された寝室にて、一人待つ。

 人払いをするのだからすることをするのだろうが、「覗かれてるのも興奮するでありんすねえ」と言っていたハイレベルなシャルティア様らしくない。どんなことをするのか想像出来ない。出来るのは待つことだけである。

 指定の時間が近付き、部屋に暗い球形の扉が現れた。

 

「シャルティア様、とアウラ様。お二人が一緒にいらっしゃるのは初めてですね」

「挨拶は抜きにしなんし。人払いは済んでるでありんしょうね?」

「はい。指定通りに」

 

 現れたのは、ポールガウン姿のシャルティア。

 続いて出てきたアウラは、漆黒のマントを羽織っていた。マントの内側が見えなくなるロールプレイ用の装備である。余談だがフード付きのものもあって、こちらを着ると目だけが光ってるように見える。ナザリックにはいっぱいいるお骨の方々が人間の街に出る時に必須である。

 

「それなら四の五の言わずにさっさと始めんしょう!」

「あっ!? ちょっと何すんの!」

 

 シャルティアが、アウラのマントを引っ剥がした。

 あらわになったアウラの装いは、とってもあれであった。

 

「…………何よ?」

 

 マントをとられてしまったので、腕で胸を隠し、太股をすり寄せて股間が見えないようにする。恥じらう仕草だけは可愛らしいが、着ているものが問題だった。

 

 服らしい服ではない。いわゆる下着の部類。

 胸を覆う繊細なブラジャーに股間を隠す小さなショーツ。ガーターベルトがつり下げるガーターストッキングは太股から爪先まで包んでいる。

 アウラの肌に映えるよう純白である。どれほどの手間暇を掛けて作るのか、繊細な刺繍が美しい。

 更に加えて透けている。下着は肝心な機能をどこかに落として、隠すべき部分を透けさせていた。

 セクシーランジェリーの中でも、レースランジェリーと言われる下着である。

 

 これがアルベド様であればとってもセクシーなのは間違いない。あってはならないことだが、もしもそんな姿のアルベド様が衆生の前に現れれば、男という男はアルベド様以外の女性に欲情することが出来なくなり、結果、人類が滅びてしまう。

 シャルティア様であっても、少々背伸びしている感は否めないが、大変可愛らしい事だろう。

 しかし、アウラ様では。

 

「え? ちょっと……、何で泣いてるの?」

「はっ!? 申し訳ございません!」

 

 言われるまで涙を流していることに気付かず、咄嗟に頭を下げて目頭を押さえた。涙は止まらななかった。

 まだまだお子様なアウラ様が着ていると、セクシーとか可愛い以前の話であった。

 第一ブラジャーが必要な胸ではない。見てもわからない。触ってみればちょっぴりふにっとしてるかな程度である。ちょいぽちゃな男の子の方がまだ大きいかも知れない。

 腰つきはシュッとしてストンと来る。華奢で細身なので、腰は一応少しだけ細くなってはいるが、くびれと言えるほどではない。ガーターベルトが落っこちないのが不思議なくらいだ。きっと魔法の下着なのだろう。

 小さなショーツは直視すら難しい。見てはいけない封印のお札のような有様だ。

 

 セクシーな下着姿のアウラ様は、とても、とても、とっても、悲しくて泣いてしまうほど痛々しい。

 無理無茶無謀の三拍子が揃っている。

 どう見ても似合ってない。背伸びをするにしたってこれはない。

 

 アウラ様がこんなにもあれなことを仕出かしたのは、自分の言葉故と察してしまった。

 アウラ様には立たないと言ってしまったので、アウラ様はセクシーな格好をすればなんとかと考えてしまって斯様な暴挙に及んだのだ。

 己の罪深い所業がこんな事態を招いてしまった。己の愚かさへの悔恨もあるが、それ以上にアウラ様が痛々しい。ああ、己には悲しみに流す涙がまだ残っていたのかと、涙に濡れながらも鮮やかな驚きがあった。

 悲しくて泣けるようになったのは、アルベド様に拾われて豊かな生活を手に入れたからだ。やはりアルベド様は世界を照らす光であった。

 

「申し訳、ございません。私がアウラ様へあのようなことを言ってしまったばかりに……、誠に申し訳ございません!」

「ぐひっ……」

 

 アウラは、すぐ隣から聞こえてきた豚の鳴き声のような声に振り向いた。

 隣では、シャルティアが険しい顔をして男を睨んでいた。シャルティアが吹き出したと思ったのだが、勘違いだったのだろうか。

 

「お前がアウラじゃおちんぽが立たないとか言うから、アウラは頑張ってこんな格好してきたんでありんすよ?」

「……それよりキャンディーが」

「アウラは黙って私に任せなんし! アウラはお前におちんぽを入れて欲しいけど一人じゃ難しそうでありんすから、私が手伝いに来んした。アウラ、そうでありんすね?」

「…………………………うん」

「アウラ様……。確かにシャルティア様に手伝っていただけるのなら勃起は可能です。ですが、アウラ様に挿入するとなりますと……、お体の準備が整わないのではと愚考します。入念な準備を行えばアナルセックスは可能となるでしょうが、楽しんでいただくにはせめて一週間は開発を続けませんと……」

「ふむふむ、そっちもいいでありんすね。あれはあれでいいものでありんすから」

 

 話に入れないアウラがシャルティアの袖を引いた。

 

(ねえ、あなるセックスってなに? セックスって、その、あれを、あそこに入れるんだよね?)

(おちんぽをおまんこに、って言いなんし。ちゃんと色々教えたでありんしょう?)

(だって……、恥ずかしいじゃん……)

(何にもしない内に諦めるんでありんすか?)

(別にそんなつもりじゃ……)

(ともかく私に任せなんし)

 

「そっちは次の機会にしんしょう。今日はアウラの処女まんこに突っ込んで女にしてやって欲しいでありんす」

「ですがそれは……」

「アウラ、例の物を出しなんし!」

「やっとだよ……」

 

 アウラが嘆息しながらインベントリなる異空間収納ボックスから取り出したのは、青くて丸い物がいっぱい詰まった大瓶、アインズ様から下賜された不思議な青いキャンディーである。

 男は、極力アウラを視界に納めないようにしながら、大瓶を注視して小首を傾げた。

 

「魔法のアイテムですか?」

「そうだけど、見ただけでわかるの?」

「確認したいことがございます。少々拝見してもよろしいでしょうか?」

「いいけど……大事に扱ってよ? アインズ様から頂いた物なんだから」

「例えアインズ様から頂いた物でなくても、アウラ様の物なら大切に扱いますよ」

「むう……」

 

 アウラは何となくほっぺたを赤くしながらキャンディーポットを手渡した。

 男は手の中でポットを一周させ、おもむろに蓋を開けた。一粒取り出して蓋を閉める。取り出したキャンディーは机の上に広げたハンカチの上へ丁重に置く。

 もう一度開けて今度は二粒。

 更にもう一度、今度は三粒。

 何をやっているのかわけがわからないアウラとシャルティアは、アインズ様のアイテムで遊ぶなと怒るのも忘れて怪訝そうに見入っていた。

 次は一度に十粒も取り出した。それだけ出すと、いっぱい詰まっていても瓶の上部に隙間が出来る。しかし、蓋を閉めれば隙間は埋まった。キャンディーの数が明らかに増えている。

 

「幾ら取り出しても中身が減らないようですね。まさしく魔法のアイテムです」

「何でそんなのわかったの?」

「アウラ様が取り出した直後は600粒丁度でした。ですが両手で持った瞬間に602粒に増えました。私に見せようとした時は598粒にまで減りました。数が不定です。どうやら瓶と中身を合わせて一つのアイテムなのではと思った次第です」

「いつ数えたのよ!?」

「それくらいなら一目で勘定出来ますが? 数えると言いますと、アウラ様が起居していらっしゃるナザリックのツリーハウスは、387万飛んで66枚の葉をつけていますね」

「………………」

 

 アウラとシャルティアは顔を見合わせた。出鱈目なのか正しいのか、全く見当が付かない

 

(……本当でありんすか?)

(そんなの数えられるわけないじゃん!)

(こいつが嘘を言うとは思いんせんでありんすが……)

(嘘にしたってこんな嘘ついても意味ないし……)

(デミウルゴスが褒めてたのは聞きんしたがここまでくると気持ち悪いでありんすね)

(……うん)

 

「これはどのような効果があるのでしょうか?」

 

 男から問いかけられ、二人は今の言葉はなかったことにした。

 貰ったのはアウラだけれど、何故かシャルティアが胸を張る。いつもの格好なので、ちゃんと胸パッドが入ってる。

 

「それは舐めると大人になれるキャンディーでありんす」

「へえ……」

「あっ!」

 

 男は一粒手に取ると、アウラが止める間もなく口の中へ放り込んだ。

 シャルティアがキャンディーと言ったばかりなのに、舐めずに飲み込む。キャンディーを噛み砕いて味わうのも割と許されないのに、この男は味わいもせず飲み込んだ。極悪集団ナザリックのシモベたちだって決してやらない悪魔の所行。

 しかし既に大人であるからか、外見は全く変化がなかった。

 

「………………目が良くなった気がします」

「目? そんな効果はないと思うんだけど……?」

「じゃあ私も試してみんす!」

「シャルティアまで!」

 

 使っても減らないと証明されたばかりである。

 シャルティアは机の上の一粒を手にとって口へ入れた。ちょっぴりほろ苦い大人の味。しかし、シャルティアも変化はなかった。シャルティアは不老不死の吸血鬼であり、現在の姿が完成形。成長することはないようである。悔しそうに顔をしかめた。

 

「二人とも何してんのよ。これは私が使うために持ってきたんだから」

 

 そしてようやっと、本命のアウラが口にした。

 直後に現れるキャンディーの効果。

 

「おお!」

 

 アインズ様とは違って、こちらは素直に感動の声を上げた。

 それはまさしく、羽化と例えるに値する神秘的な変化であった。

 

「……どう?」

「………………」

 

 大人になった姿が恥ずかしいのか、アウラは身をくねらせる。

 先ほどの姿であれば、服装もあいまって痛々しくあったが、今度はひたすらに劣情を刺激する仕草となった。

 

 背丈はナーベラルよりやや高い。当然、シャルティアよりずっと高い。

 貧相と言っては誤解があるが、細かった脚にはむっちりと肉が付き、ガーターストッキングで太股の肉が締め付けられているのが見て取れる。

 太陽の輝きを持つ黄金の髪は肩口で揃えられていたが、背の中程まで伸びてさらりと揺れ、光を散らす。

 シュッストンだった腰回りは見事なくびれが現れ、やたらと艶めかしい。

 顔立ちも大人びて、愛らしさと凛々しさに女性らしい丸みが加わった。

 直視すら難しい封印のお札のようであった白いショーツは、女の魅力を引き立てる魅惑のアイテムに変化した。

 そして、胸。

 

「あ、あんまりジロジロみ見ないでよ……」

「アウラ」

「うぅ……」

 

 突き刺さる視線から守ろうと胸を抱こうとしたがシャルティアに窘められ、腕は所在なくさまよい、胸の下で腕を組んだ。

 大人になったアウラの乳房は、大きい上に前へ突き出ているロケットおっぱい。凄まじい迫力があった。ボリューム感はユリに匹敵しうる爆乳である。

 白いレースのブラジャーに包まれて、先端のピンク色が透けて見えた。

 

 太股をすり合わせて身をくねらせる様は、初々しいと同時にとてもいやらしい。

 いつの間にか口中に湧いていた唾を飲み込んだ。

 

「お前ちょっと見過ぎじゃありんせんか?」

「いやですが、これは……」

「今の私なら……立つ?」

 

 アウラが顔を赤くして、視線を合わせようとして合わせられず、明後日の方向を見ながら聞いてきた。

 

「はい」

 

 いつぞやのごとく即答した。

 

「……セックス出来る?」

「問題なく出来ます」

「ちょっとこっちに来なんし!」

 

 にやけ笑いをかみ殺すように下唇を噛むアウラを置いて、シャルティアは男を引っ張って部屋の隅へ移動した。

 

(わかってると思いんすが、アウラはお前におちんぽを入れて欲しくてあの姿になったんでありんすよ?)

(はい、今のアウラ様ならシャルティア様のお力がなくても勃起は十分可能です)

(それじゃダメでありんす)

 

 二人きりで上手く行かれたらシャルティアの出番はない。何としても食い込まなければならないのだ。

 

(さっきまでお子様だったアウラでありんしょう? だからじっくりたっぷりとろっとろにしてやりんせんとなりんせん。アウラには、さいっこうの、初体験を、して欲しいでありんすから? 私が一肌脱ぐのは、まあ、私とアウラの仲でありんすから? 当然のことでありんすよ)

(シャルティア様、なんとお優しい)

(くひひ……もっと誉めていいんでありんすよぉ?)

(シャルティア様のお力があれば、アウラ様の初体験が素晴らしいものになるのは約束されたも同然です)

 

 口先だけの言葉ではない。

 シャルティアの舌使いが巧みなのは経験済みだし、ミラから聞いたところによると、優しく激しく緩急つけたシャルティアの愛撫によがらされた事が何度もあったとか。

 

 シャルティアが仲間想いと知って胸を熱くしていると言うのに、とうのシャルティアは邪笑を隠した。

 男の同意を取り付けたので、アウラが反対しようと二対一。プレイに混ざるのが確定した。

 

「話はつきんした。アウラ、私が教えた通りに言いなんし。セックスしたいんでありんしょう?」

「……でも……、あんなの言わなくても……」

「ほーん? アウラはしなくてもいいんでありんすね? いつになってもずーーーっと未通娘のままで膜の代わりに蜘蛛の巣が張ってもいいんでありんすね? 処女膜なら突っ込みたい男はいるでありんしょうが蜘蛛の巣は……、絶対ないでありんすね」

「蜘蛛の巣って、そんなの張るわけないじゃん!?」

「お子様と言うなと言ったのは誰でありんしょう? アウラはお子様でありんすか?」

「うっ…………」

 

 元を正せば、シャルティアにおチビだとかお子様とか言われ続けたのが頭に来て、シャルティアと同じ位置に立とうとしてセックスへの興味が駆り立てられたのだ。

 それなのにお子様であり続けることはアウラ自身が許せない。

 アウラは耳の先端まで真っ赤にして顔を逸らし、

 

「ちゃんと見なんし」

 

 シャルティアに言われて男へ向き直り、

 

「そんな遠くじゃなくて近くに来なんし」

 

 シャルティアに言われて下を向きながら男へ近付いた。

 大きくなった胸が恥ずかしいのか、隠そうとして腕がしきりに宙を掻く。

 

「アウラ」

 

 シャルティアに注意され、右手で左手を押さえつけた。

 羞恥心が限界近いのか、大きな目が潤んでいる。

 大人になってなお男の方が背が高く、アウラは上目遣いになって、何度か口を開け閉めした。

 

「ちゃんと言えたらとっても気持ちいいことが待ってるでありんすよぉ?」

 

 シャルティアに再三煽られて、アウラは決意を口にした。

 

「私の……処女膜を…………、おちんぽで、破ってください」

 

 

 

 アウラは後に思った。

 シャルティアに相談したのは失敗だったのではなかったかと。

 しかしユリに相談していれば「アーちゃんにはまだ早い!」の鉄壁を崩せる気がしなかった。

 エッチな分野である以上、約束された未来なのかも知れなかった。




次回、濃厚なGL描写が間違いなくあります
長かったアウラ編がやっと終わりそう


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初めての共同作業 ▽アウラ+シャルティア♯1

長くなったので分割
今回、やや濃厚なGL描写があります
やや、です


 自分が何を宣言してしまったのかわかっているようで、アウラは長い耳を先端まで赤くして横を向いた。顔を背けながらも、ちらちらとこちらを窺ってくる。

 

「アウラ様は今の発言が具体的に何を指すかわかっていらっしゃるのですね?」

「……え?」

「誤解があってはいけませんから、改めて確認したく存じます」

 

 処女膜をちんこで破ると言うのだからセックスである。アウラ自身も「私にセックスできる?」と聞いてきたのだからセックスである。シャルティアが「アウラのセックスの手伝いに来た」と言うのだからやはりセックスだろう。

 男女の交わりが具体的にどのようなものか目の前で見せたのだから勘違いはないはずである。

 しかし、本当は幼いアウラなのだ。誤解や勘違いでしていいことではない。大人の姿になってエッチな下着を着てるのだから間違いはないと思われるが、大切なことは何度も確認すべきなのだ。

 

「私のちんこで処女膜を破ると言いましたが、どこへどうすればいいかわかっていらっしゃいますね?」

 

 シャルティアは感心したように頷いた。ここから羞恥責めを始めるとか中々わかってるでありんすね、とか思ってるが誤解である。

 アウラは一層顔を赤くして言葉に詰まった。

 

「それは……、その……。わかってるでしょ!?」

「もちろん私はわかってます。アウラ様がわかっていらっしゃるかどうか、私と認識を同じくしているかどうかの確認なのです」

「うぅ…………」

 

 割といっぱいいっぱいの状態でさっきの告白をしたのに、それよりハードなのをもう一度である。「もしかしていじめられてる?」と思うも、男の顔は真剣そのもの。

 

「だから、……セックスしたいの……」

「それを具体的に」

「……おちんちんを」

「おちんぽでありんすよ」

「そんなのどっちでも一緒じゃん! ……おちんちんをおっきくして、私のおまんこに」

「処女まんこ」

「……私の処女まんこに入れて欲しい……」

「おちんぽでおまんこをぐっちょぐっちょにかき混ぜて欲しいんでありんすね?」

「……………………うん」

 

 互いの認識にずれはなかった。

 肉惑的な美女となったアウラに情交を求められるのは、これでもかと劣情を煽られる。

 それ以上に胸を打たれた。

 

 本当は子供なのに、アインズ様に乞い願って魔法のアイテムを手に入れて大人の姿となったのだ。

 ナザリックのシモベたちにとって、アインズ様へ自身の欲求のために身勝手なお願いをすることがどれほど困難なことか、困難以上の苦痛を伴うことであるか。ナザリックの生まれでなくても、末席に加えられてからの日々でこれでもかと教えられている。

 高いハードルどころではない。アゼルリシア山脈を這って越えるより遙かに難しい。否、不可能とさえ思える。

 その難事を、アウラは成したのだ。自分へ処女を捧げたいが為に。

 それほどに以前味わってもらったクンニリングスが好くて、セックスへの期待を持ってしまったという事か。

 心も体も魂も、全てをアルベド様に捧げているが、アウラの覚悟は胸を打った。

 アウラの覚悟に応えなければならない。

 

「かしこまりました。私の持てる技術の粋を尽くしてアウラ様の処女を頂戴いたします。シャルティア様にもご協力をお願いします」

「もちろんでありんす。まあ、私とアウラの仲でありんすから、まあこれくらいは」

 

 シャルティアが混ざることに、アウラは異を唱えなかった。

 前もってシャルティアが含ませていたし、この場でイヤと言えるほどアウラの神経は太くない。それが出来るくらいなら、不思議な青いキャンディーを下賜された時点に単身で乗り込んでいたはずである。

 

 双方の認識をすり合わせたが、微妙に誤解が混ざっていた。

 

 アウラは、気持ちよいことをしたいからセックスを願ったわけではない。シャルティアへの対抗意識が発端で、この男へ向ける気持ちも少なからず持っている。アウラは、アルベドやシャルティアとは違うのだ。

 大人になってセックスをしたいからアインズ様にアイテムを願ったわけではなく、アインズ様から下賜されたアイテムを使えばセックスが出来ることを発見した。

 色々と順序が逆であったり認識がすれ違ったりしている、

 幸か不幸か、互いのすれ違いを指摘できる者はどこにもいなかった。

 

「さっさと始めなんし!」

「あっ!?」

 

 アウラは、背中を強く押されて男の体へもたれかかった。

 反射的に男の服を握り、おそるおそる見上げれば目が合った。反らせなかった。

 顎に手を添えられ、上を向かされている。

 

「アウラ様のお体を、私の指と唇が隅々まで触れることになります。よろしいですね?」

「……うん」

 

 赤と青の目に映る自分の顔が近付くのを見て、アウラは目を閉じた。

 

「もちろん私も隅々まで舐めたり触ったりしんすから」

「それはっ、あむぅっ! ん……」

 

 シャルティアの宣言には、ほどほどにしてと苦言を告げようとしたが、言葉を紡ぐ前に唇を塞がれた。

 開きかかった口に、ちろりと舌が侵入してきた。

 

 

 

 

 

 

 アウラはキスをするのが初めてだ。マーレと戯れで唇を合わせたことすらない、正真正銘のファーストキス。

 ファーストキスで、舌を入れられた。

 唇を割って中に入ってきた舌は、縮こまっているアウラの舌を見つけると優しくつついてきた。舌先で舌先をなぞるように動かし、アウラが応えるのを待っている。

 アウラの手は男の服が皺になるほどきつく握りしめる。体に力が入りきって、舌に応えるどころではない。緊張はもちろんある。それ以上の困難を、一層赤くなる顔が物語っていた。

 

「ん~~~~っ!! ぷはぁっ……、んむっ!?」

 

 唇が離れ、止めていた呼吸が再開できるかと思えばすぐにキス。

 シャルティアは呆れきってため息を吐いた。

 

「キスの仕方も知りんせんとは……。鼻で息をしなんし」

 

 アウラは、相手の顔に鼻息が掛かるのを嫌って息を止めていた。如何にアウラであろうと、5分も10分も呼吸を止められるわけがない。シャルティアに窒息寸前を救われて、ようやく力が抜けてきた。

 おずおずと舌で応え、応えると同時に強く吸われる。アウラの舌は相手の口内へ導かれた。自分から舌を伸ばしたわけではないが、舌を入れてしまったのは同じ事。吹っ切れたようで、絡む舌にアウラからも応え始めた。

 口内の柔らかな粘膜を舐めあう。互いの舌でかき混ぜられた唾は、男が先にじゅるりとすすった。

 次に、アウラの口の中へ注がれてきた。今度はアウラがすすった。

 きつく服を掴んでいた手は力なく落ちた。

 

(まったく、図体だけはでかくなっても中身はやっぱりお子様でありんすねえ。お子様なのに…………キイイーーーーッ!! 何でありんすかこのうらやまけしからんおっぱいは!!)

 

「っ!? まっ、んんっ……、ちゅるぅ、んっ、んっ、あ、まっ……あむぅっ……れろ……んっふぅう……」

 

 アウラが止めようとした素振りを見せたが、すぐさま唇を塞がれて声にならなかった。ナイスアシストである。

 シャルティアは、アウラの背中に手を伸ばして、ブラジャーのホックをプツンと外したのだ。

 押さえつけられていた豊満な乳房が解放されてぷるんと揺れる。

 同性故の残酷な容赦のなさで、シャルティアは躊躇なく肩紐を外してブラジャーを抜き取った。

 しげしげとブラジャーのカップを見る。魔法のブラジャーは大人になったアウラに合わせてすっごくでっかくなった。頭に被れるかもとちょっとだけ思いはしたが、女のプライド的な何かが止めた。アウラを責めなければならない。

 

「おっきいおっぱいでありんすねえ。揉みごたえも中々……。ヴァンパイアブライドたちより張りがありんす」

「んんーっ! んっ、ふうぅ……。ちゅう……、しゃっ、んむぅうーーっ!」

 

 アウラの声は声にならない。キスを強要されて、自分の口なのに自由にならない。

 そのキスだって、単に唇が合わさってるだけではない。舌が絡み合って温度が溶け合い、混ざり合った唾を交互にすする。心と体が溶け合って混ざり合うような、温かな快感がある。それが次の快感の呼び水になって、次への期待が湧いてくる。

 期待してたことの一つを、シャルティアがやっていた。

 

 後ろから胸を揉まれている。

 アウラは上を向かされているので見えないが、自分の乳房をシャルティアの手が鷲掴みにしている。乳肉に指が埋まって、大きさと柔らかさを確かめるように揉んでいる。

 

「あっ、やあぁっ! やめっ、んううっっ!」

「止めてはなしですよ、アウラ様」

「でも、でも……、あんっ……」

「気持ちいいのでしょう? シャルティア様は手技も巧みですから。全て私たちにお任せください」

「そうでありんすよぉ? くふっ……、アウラの乳首が立ってきたでありーんす♪」

「い、言わなくていいからぁ、んはぁっ……!」

 

 シャルティアは、愛撫の基本を知っている。

 時として女体の柔らかさを感じたいがために乱暴な愛撫をすることもあるが、女の体へ快感を与えるやり方だって当然熟知している。基本はリズムよく、単調で優しい刺激を繰り返すこと。飽きずに同じ事を何度も何度も繰り返す。

 シャルティアの手では大分余ってしまう大きなおっぱいを掴み、揺するように優しく揉みながら、中指だけはしゅっと伸ばして乳首の先端に乗せている。

 強く押したり摘まんだりはしない。すっごくしたくなるがアウラのために我慢する。

 乳首の先端だけを執拗にくすぐり続ける内に、指の下で張り詰めてくるのがわかった。

 アウラの乳首が勃起している。それでも優しい愛撫は止めない。アウラが欲しがっても与えない。指先に伝わる熱が高くなってきた。

 

「ああっ……はぁっ……はあ……、するなら、ちゃんと、してよぉ……」

「もうギブアップでありんすか? まだまだこれからでありんしょうに」

 

 唇の端から涎をこぼしたまま、アウラは男の体へきゅうと抱きついた。

 大きな乳房は男の胸板で潰れて、乳首へのあまやかな刺激が中断された。自分で自分の乳首を擦りつけてることに、アウラは自覚がない。

 自分のことはわからなくても、若干の余裕を取り戻したアウラは背中に何かが触れてることに気が付いた。

 

(うぅ……シャルティアにおっぱい揉まれた、乳首立たされちゃった……ちょっといいかもって思っちゃったぁ……。何でこんなに上手いのよ! って、シモベたちにいつもしてるからか……。でもこの人に触られてた時の方が…………? 背中に何かあたってる? 柔らかくて、ふたっつあって……。え?)

 

「どうしたんでありんすかぁ?」

「え、だって、シャルティアが……」

「私が?」

「………………何でもない」

「くひひ……」

 

 アウラの背後で、シャルティアが舌なめずりをした。

 アウラが視線を巡らせば、シャルティアのドレスが床に落ちてることに気付いただろう。その上に黒いブラジャーが乗っているのも見えたはず。

 

 シャルティアも服を脱いでいた。

 黒いパンツだけの姿になって、白い裸身をさらけ出している。

 その姿で、アウラの背中に抱きつくようにして乳房を揉んでいた。シャルティアの可愛らしい乳房は、アウラの背中に押しつけている。

 

 アウラが背中を意識すると、二つの柔らかな感触の中心に少しだけ主張するものがあるのを感じた。

 シャルティアが自分の背中に乳房を押しつけて、乳首を立たせている。立たせた乳首を擦り付けている。

 意識した瞬間に恥ずかしくなった。

 シャルティアがエッチな吸血鬼なのはよくよく知っているが、エッチな姿を直に見たことは一度もない。それなのに、自分の体へエッチな部分を押し付けているのだから。

 

「お前も脱ぎなんし」

「はい」

 

 アウラとシャルティアの、二人の背を抱いていた男も服を脱ぎ始めた。

 シャツが脱ぎ捨てられ、ズボンに手が掛かり、食い入るように見つめていたアウラはベッドに突き飛ばされた。

 下手人はシャルティアである。

 

「なにすんの!」

「そんなにじーっと見て、アウラは思ったよりいやらしいんでありんすね」

「なななななな!」

「乳首をビンビンに立たせてるじゃありんせんか。摘まんで欲しいでありんしょう? それとも吸って欲しいでありんすかぁ?」

「っ!?」

 

 さっと守るように胸を抱いた。

 そんなアウラを薄く笑いながら、白い裸身のシャルティアもベッドに上がってくる。

 アウラはじりじりと後ろへ下がり、シャルティアは両手両足をベッドについて雌豹のように近付いていく。

 

「だいたい何でシャルティアまで脱いでるのよ!?」

「これからドロッドロになりんすから脱ぐのは当然でありんしょう? くふふ……」

「あっ!?」

 

 軍配は男へ上がった。

 アウラは肩を掴まれてベッドに引き倒された。上下逆さまになった男の顔が、優しい笑みを浮かべている。

 

「私にもアウラ様のおっぱいを触らせていただきますよ」

「い、いいけど……あっ……、ん! ちゅ……」

 

 顔は近付いて、今日はこれで何度目になったか数え切れないほどのキス。キスを覚えさせられたアウラは、きちんと舌を伸ばした。

 ただし、今度は上下が反対。その状態でキスをすると、舌の腹と腹がしっかりと重なり合う。キスのシックスナインは、舌同士の密着感が他のキスとは比較にならない。

 アウラが下になっているので、口内に湧いた唾はアウラの口の中へ流れ込む。アウラは喉を鳴らして一滴残らず飲み込んだ。

 

「あんっ……あんっ……、あ……乳首、摘まんでる……あっ! コリコリしちゃダメェ……!」

 

 キスをしながらも男の手は伸びて、アウラの豊満な乳房を掴んだ。

 仰向けになってもつんと上向くアウラのロケットおっぱいは、シャルティアが言っていたように張りがある。それは固さを意味するわけでなく、五指を開いて掴めば、乳肉にむにゅんと指が埋まった。

 シャルティアに散々焦らされて勃起した乳首は、焦らされることなくきゅうと摘ままれた。

 男の顔へ吐息が掛かること忘れているのか、アウラは唇を唇に掠めさせながら艶めいた声をあげた。

 

(くっふっふ……、それじゃあ私はこっちでありんすね)

 

「!?」

 

 男の顔に視界を塞がれ、ベッドに投げられた左手は男の左手に握られて、自由なのは右手だけ。右手を伸ばして何とか押しやろうとするが、不安定な姿勢で力が入らない。ただでさえ力ではシャルティアにかないっこない。

 アウラは、脚を開かされたのだ。

 見えなくてもわかる。シャルティアの前で、股を開いている。

 体の中心を、羽毛で撫でるような刺激が這った。

 

「パンツが染みてるでありんすよぉ♪ アウラはおまんこを濡らしちゃったでありんすね? キスがそんなによかったんでありんすか? それとも私におっぱいを揉まれて感じたんでありんすかぁ? これからもっともっともーっとぐっちゅぐちゅにしてあげりーんす♡」

 

 アウラの白いショーツは、簡単に脱がせるようサイドで紐を結ぶ紐パンである。

 シャルティアは紐をすっと引いてショーツをはらりと脱がし、ベッドの下へ放り投げた。

 アウラはブラジャーもショーツもはぎ取られ、ガーターベルトとガーターストッキングだけ。

 

 シャルティアは、改めてアウラを見た。

 脚を閉じようと力を込め、手を伸ばしてシャルティアを阻もうとするが、吸血鬼の力の前では余りにも無力。

 抵抗を意に介さず、アウラの割れ目をぴらりと開いた。

 

「ほうほう! アウラの肌は褐色なのにここはキレイなピンクでありんすねえ! んーーー? さっきちょーっと触っただけなのに、クリトリスが勃起してるんでありんしょうか? ふーむぅ……、立派なおまめさんでありんすねえ」

「やっ……、やあ! 恥ずかしいこといわな、んんっ! ああ……、ちゅ……れろ……」

 

 拒否の言葉を出そうとすると、すかさず唇が塞がれる。

 シャルティアは、ナイスアシストに満足しながら、紅い唇から紅い舌を伸ばした。

 

(え? え? え? これ、シャルティア舐めてるの? 私のおまんこ舐めてるの!? ええーーーーーーっ!! なんでなんでそんなとこ! シャルティアがシモベに色んなことしてるの知ってたけどこんなことしてるの!? やだやだそんなとこきれいじゃないし汚いし、………………でも、この前……舐められちゃったんだっけ……。でもシャルティアにだなんて……、恥ずかしい……。でも……うぅ……、この人とは違うけど……きもちい、かも……。濡れてるのわかっちゃう。シャルティア、じゅるじゅる吸ってるしぃ! そんな音させないでよぉ……)

 

 舌を尖らせ、小さな小さな暗い穴へ差し込む。

 すぐに処女膜に触れ、舌を引っ込めた。これを破っていいのは舌や指ではないのだ。

 体こそ熟れているのに、ここはまだまだ未成熟なアンバランス。シャルティアは、心身のギャップに可笑しさを覚え、アウラの割れ目を舐め上げた。

 たどり着いたのはクリトリス。軽く勃起していて、少しだけ包皮から顔を出していた。

 はむっと口を開いてアウラの秘部を優しく包み、舌先にたっぷりと唾を乗せてクリトリスをねぶり始めた。

 舌を小刻みに動かして、クリトリスを転がし始める。乳首にしていたときと同じように、優しく単調な刺激をひたすらに繰り返す。

 クリトリスが勃起しきっても変わらない。

 雌穴からとろとろと溢れているのがわかる。アウラが感じているのがわかる。アウラが自分の舌に屈するのを実感して、ほくそ笑んだ。

 鼻先をくすぐる金色の陰毛を引っ張って、溢れる汁をじゅるとすすった。

 

「あっ……あっ……やぁっ……、なめ、てるのぉ? つぅっ、乳首かんじゃだめぇ。おまんこも……、じゅるじゅるしないで……!」

 

 いつからか、口は自由になった。

 拒否めいた言葉が時々出るが、愛撫は一向に止まらない。ダメとかヤメテとか口にしても、本当に止めたいのかどうか、アウラにもわからない。

 アウラとしては本当に止めて欲しいと思っている。それなのに、体が拒絶に向けて動こうとしないのだ。それどころか、時々腰が浮いて、シャルティアの口へ自分の秘部を押しつける有様。

 胸には男の頭が乗っている。弾けそうなくらい張りつめた乳首をちゅうちゅうと吸われて、時々噛まれた。

 膣には指も舌も入れられていないが、奥の奥まで十分すぎるほど潤っているのを、アウラの体はわかっている。空いた部分を埋めて欲しいと、言葉に寄らず求めている。

 

「シャルティア様、そろそろ私の方をお願いできますか?」

「んーーー? じゅるっ……ぷはぁ。そうでありんすねぇ、アウラの処女まんこは処女なのにとろっとろになりんしたから。次はおちんぽの準備をしないとなりんせんね」

 

 アウラは会話に入れなかった。

 体に被さる重みがなくなり、手足は自由になったのだが、股はシャルティアに舐められていた時のまま開かれて、腕は瞼の上に乗せていた。眩しいのかも知れない。ぐす、とすすり泣く声は、二人には届かなかった。

 

「まだ半立ちでありんすね。仕方ありんせん。私のお口でぺろぺろしてあげりんす♪」

 

 唇を汚すアウラの愛液を一舐めして、シャルティアは楽しそうに唇を歪めた。

 

 

 

 体を支配していた波が引き、アウラがようやっと顔を上げると、二人はすぐ隣にいた。自分を放置して何をしているかと思えば、男の方はベッドに座って長い足を投げ出している。シャルティアは男の足と足の間にうつ伏せになって、顔を股間に埋めていた。

 

「な、なに、してるの?」

 

 シャルティアが頭を上下に振って、小さな口を棒状の物が出たり入ったりしている。

 

「んーー? へあちおであいんふおぉ?」

「シャルティア様、しゃぶったまま喋られると」

「私にフェラチオをさせてるのに贅沢でありんすね! ほら、アウラもこっちに来なんし。アウラの処女まんこに突っ込むおちんぽの準備でありんす」

「う、うん……」

 

 蜜にたかる蝶のように、アウラはふらふらと近付いた。

 男の股間では、逸物がそそり立っていた。この前一緒にお風呂に入ったとき、ちょっとだけ目にしたが、その時はこんな形ではなかった。ミラとセックスしていたときのように、シャルティアとセックスしていたときのように、雄々しく勃起している。

 ぬらぬらと濡れ光っているのは、きっとシャルティアの唾。先端から根本まで、満遍なく濡れている。

 

「アウラも舐めなんし」

「え、でも……」

 

 逸物を口で愛撫する抵抗は、驚くほどない。目の前でフェラチオしているのを見たことがあるし、自分はおまんこを舐められるクンニリングスをされている。

 舐めてもいい。しゃぶってもいいと思う。

 だけれども、逸物はシャルティアの唾に濡れているのだ。このまま舐めてしまうと、シャルティアの唾を舐めとることになってしまう。

 

「早くしなんし! 待ってるでありんすよ?」

「う……」

 

 二人は舐めるのが当然というような態度。気にする自分がおかしいのだろうか。

 アウラは、シャルティアと場所を交代した。

 顔の前に、逸物が勃起している。これから舐めるのだから、距離はとても近い。熱を感じるくらいに。

 逸物の太さを見て、咥えられるくらいに口を開く。開いた口から、とろりと涎が滴った。

 

「あ……」

 

 長い髪が男の股間へ落ちるのを、シャルティアがかきあげてくれた。

 そんな心遣いが少しだけ嬉しく、勇気を貰った気になって、アウラは頭を下げた。

 

(くふふ……順調でありんすね)

 

 逸物をしゃぶりだしたアウラを、シャルティアが邪悪に笑う。

 アウラが気にしたシャルティアの唾は、わざとたっぷり絡ませたのだ。アウラが舐めとるように、と。

 乳揉みからクンニ、唾を舐めさせるところまで来た。アウラのハードルを少しずつ越えて、行き着くところまで行くのである。

 

「私も手伝いんしょう。アウラは先っちょだけを咥えなんし」

「っ……、シャルティア様、そう激しくされると……」

「一度や二度で立たなくなるおちんぽじゃないでありんしょう?」

「それは、はい」

 

 アウラに亀頭だけを咥えさせ、シャルティアが竿を熱心に扱き始めた。

 前戯のあまやかさではない。射精を導く激しさだ。

 

「アウラにおちんぽの味をちゃーんと教えないといけないでありんすから。お前は我慢せずぴゅっぴゅしていいでありんすよぉ?」

 

 亀頭を咥えたまま、アウラは不安そうな目で見上げてきた。

 無垢な美女を汚す倒錯的な支配欲が、否応なく劣情を駆り立てる。

 シャルティアの手技も巧みだった。

 股間に溜まる熱を止めようとは思わず、促されるままに解放した。

 

「んん~~~~~~っ!?」

「一滴残らず受け止めなんし。吐くのも飲むのもダメでありんすよ。口の中に溜めなんし」

 

 目を白黒させるアウラの口の中に、どぴゅどぴゅと射精した。

 最後の残滓まで吐き出させるように、シャルティアの手はゆっくりと逸物を上下に扱き続ける。

 逸物の脈動が治まってから、シャルティアはアウラの顔を上げさせた。

 アウラの大きな目には涙が溜まっている。

 

「口を開けなんし」

 

 アウラは、吐き出された精液をこぼさないように、口を開いた。

 健康的なピンク色の口内は、白く染められていた。舌に粘塊が乗っているどころではなくて、白濁した精液の中から舌が顔を出しているように思える。

 手コキとは言え、一度目の射精は多かった。

 

「今は口に出しんしたが、次はおまんこに出すんでありんす。おちんぽみるくの味をよーっく覚えなんし。まだ飲んじゃダメありんす。口を閉じて、舌でかき混ぜなんし。お口の中でくっちゅくっちゅするんでありんすよぉ?」

 

 アウラは言われた通りに、もごもごと舌を動かした。

 吐き出されたばかりなのでまだ熱い精液。粘りけが強く、舌でかき混ぜるとトロトロしているのがよくわかった。少しずつ喉を通って胃へと落ちていく。

 口の中に満ちる精臭が鼻へ抜けて、くらりとした。

 味は美味しいとは思えなかったが、ぬるりとした舌触りは官能的だった。

 

「おちんぽみるくは美容にいいでありんすよ。ペロロンチーノ様が所有される異本には書いてありんす。私にも半分寄越しなんし」

「!?」

 

 シャルティアの小さな唇が、アウラの唇に触れた。

 紅い舌がアウラの口をこじ開けて、紅い唇がアウラの唇にしっかりと覆い被さる。

 舌こそ入れられなかったが、重なりあった唇の中で、じゅるりと鳴った。

 

 シャルティアは、アウラの口内にある精液をすすっただけだった。妖艶に唇を舐め、見ているアウラは顔を一層赤くした。

 精液は、口の中に湧いた唾と共に飲み干した。

 

「ふふふ……、それじゃあいよいよアウラの処女膜を破りんしょうかねぇ♪ おちんぽもまだまだこんなに元気でありんすから」

 

 キスに抵抗されなかったことにシャルティアは気をよくした。

 精液をすすっている間も手コキは続けていた。逸物は萎むことなく、また元の固さを取り戻している。




断腸の思いでタグをつけることにする(`;ω;´)


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本当の共同作業 ▽アウラ+シャルティア♯2

濃厚なGL描写があります
そのため、断腸の思いでタグを追加しました(`;ω;´)


「アウラ様、よろしいでしょうか?」

「……………………うん」

 

 アウラは色々されすぎて、色々と麻痺していた。

 拒否の言葉は聞いてもらえない。拒否していいのかもわからない。自分は初めてなのだから、シャルティアに従わなければと思っている。

 ベッドに横たわって、自分から股を開いた。

 男が太股を抱え持つ。

 

「ここでありんすね」

 

 シャルティアが逸物の位置を合わせる。

 亀頭がアウラの濡れそぼった割れ目に潜り、物欲しそうに涎を垂らす雌穴で止まった。狭い入り口に少しだけ沈んだ。

 

「っ……」

 

 ほんの少しだけ、隣で見ているシャルティアにはわからない程度に、アウラは腰を引いた。

 拒否しようと思ったのではなくて、反射的に腰が引けた。

 

 初体験は痛いらしい、と聞いている。痛みを恐れるアウラではないが、痛いと聞けばどうしたって身構える。

 自分の体の中に異物を入れることになる。自分の手でするのではなく、入れてもらう。未知への恐れがある。

 アウラの意思は挿入して欲しいと思っている。そのためにシャルティアへ相談して、ここまで来てしまった。

 大人の姿になってベッドに上がり、後戻り出来ないところまで来てしまった、と思っている。

 心はちょっぴりぐちゃぐちゃしているけれど、色々されて受け入れる準備は万端で、体の方は男が欲しいと訴えている。

 それなのに腰が引けてしまった。

 

 驚いたのはアウラだけで、シャルティアは気付かず、男は優しい顔でアウラを見下ろした。

 

「ここまでにしましょう。アウラ様へ勃起できると証明できました。これ以上無理にすることはありません」

 

 処女の相手とか面倒とは余り思ってない。

 アウラに戸惑いがあるなら、無理に処女を散らすことはないのだ。

 

 肉惑的な傾世の美女が股を開いて秘部を濡らし、今か今かと待っている姿を前にして、自制できる男は希だろう。

 この男がここで止まれるのは、さっき一度出しているし、アウラがダメでもシャルティアがいる。シャルティアもダメなら、シクススがいる。シクススが忙しいようならルプスレギナにミラがいる。

 相手には困ってないのだ、と言うことを素直に口にすると半殺しの目に遭うところ、わざわざ言うことでもないと判断して黙っていられたのは偶然である。

 

 

 

「アウラ……」

「シャルティア……?」

 

 シャルティアが気遣わしげにアウラの手を握った。

 アウラは、シャルティアが自分を励ましてくれていると感じて心を熱くしたのだが、実際は全然違う。

 

 ここで中断してアウラが初体験を失敗するのは、それはそれで千年後までからかえるネタになるので割と美味しい。

 だけれども、アウラが見事に初体験を果たしてあへあへになるところをじっくり鑑賞するのも捨てがたい。元々そのつもりだったし、アウラがあへってる隙に更に色々してしまおうと画策している。

 気遣わしそうに見えたのは、どっちがよいか迷ってるだけだった。

 

 シャルティアの心を見通せないアウラは、決意を新たにした。

 自分から離れようとする男を、強い目で見返した。

 

「私のおまんこに、おちんちん入れて。おちんちんで処女膜破って欲しい。お子様じゃなくて、女にして欲しい」

「……わかりました」

「うん……。きて」

 

 意地を張りすぎて流されてしまったかとの思いを、アウラは全て消し去った。

 心と体が同じ物を強く求め、待ちかまえている膣口がひくついた。

 

 アウラの左手はシャルティアが握り、右手は男が握った。

 シャルティアが、もう一度男の位置を合わせてやる。

 ピンク色の割れ目に潜り、深い穴へ先端だけ沈み込むと、シャルティアは手を離した。

 

「行きますよ?」

「うん。……っ、…………あ、ああ……、いっ……」

 

 ゆっくりと入ってくるのを感じた。

 大人の姿になる前は場所もわからず、指すら入りそうになかった小さな穴を、大きな逸物が通ろうとしている。

 アウラ自身は目一杯開いて、それでなお狭い穴を強引に押し広げて、処女膜が裂けたのをアウラは感じた。

 それでもまだ止まらない。奥を目指して進んでくる。

 何者も触れたことがないアウラの処女地を、男の逸物が文字通りに切り開いていく。

 痛みは、あった。戦闘職であるアウラには問題なく耐えられる痛み。それでも、シャルティアと男の手をきゅっと握った。強く握り返された。

 体の中をゆっくりとゆっくりと侵入され、空虚だった部分が満ちていく。

 どこまで入ってきているのか、体の真芯を貫かれて、肉体の全てを支配されてしまったような。

 

「奥まで入りましたよ」

「あ……」

 

 痛みに耐えて固く瞑っていた目を見開けば、男が依然変わらない優しい顔で見下ろしていた。

 自分の体を見下ろせば、開いた股に男の股間が密着している。

 意識を向けると、自分の体の中に男が入っているのが感じられた。

 さっきまで口に咥えていた大きな逸物が、根本まで入ってしまっている。

 あんなに大きな物が自分の体の中に全部入ってしまうのは、エルフの女性は膣が深いと聞いていたので自分もそうだろうとは思っていたものの、やはり驚きだった。

 

「一旦抜きなんし」

「あ……」

 

 さっきは達成感に漏らした声だったが、今度は残念に思う気持ちが漏らした声だった。

 埋まっていた肉棒は、入ってきた時の倍以上の速度で抜けていってしまった。

 

「血がついていんすから綺麗にしないとシーツが汚れるでありんしょう?」

 

 アウラの処女膜を破った逸物は、破瓜の血に濡れていた。血とくれば吸血鬼である。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 アウラの抗議には耳を貸さない。

 シャルティアは四つん這いになって、アウラの体を跨いだ。アウラの体の両脇に手足を突いているので、ベッドに横たわるアウラの目の前に、シャルティアの股間がきた。シャルティアの白い肌に映えるよう黒いパンツである。目のやり場に困った。

 

「あむぅ……ちゅーーっ、ちゅっ。おちんぽはこれで綺麗になりんした。次はアウラの……、れろ……、ちゅるっ……」

「しなくていいからぁ!」

 

 アウラの割れ目も血に汚れていた。

 シャルティアはこちらも綺麗に舐めとった。

 

「ふーむぅ、こうして舐めると処女の血もいいでありんすねぇ」

 

 血の味ならこの男の血が最上。それ以外は全てそれ以下、遙かに下。他に食べる物が何もないならともかく、この男は献血を厭わない。

 他の血への興味をなくしていたシャルティアだったが、おかしな楽しみ方を覚えてしまった。

 それというのも、創造主からあらゆる性癖を詰め込まれたせいである。

 

「処女が処女を失ったときの血。破瓜の血ですね」

「ほーん? そう言うんでありんすか? ま、それは後にしんしょう。今はアウラを可愛がってくんなましえ」

「かしこまりました」

「うぅ……、あっ、また入ってきてる……」

「痛みますか?」

「少し。でもこれくらい平気。それより……」

 

 一度奥まで挿入を果たしたのだ。二度目の挿入は遙かにスムーズで、あっさりとアウラの最奥まで届いた。奥まで来ると、ゆっくりと引き抜かれ、また奥まで入ってくる。初めてのアウラに馴染ませるため、抽送はゆっくりだ。痛みは徐々に薄れていき、男の体を受け入れている実感に心と体が熱くなっていく。

 アウラが言葉を濁したのはそちらではなく、シャルティア。シャルティアが上から退いてくれない。

 シャルティアは少しずつ後ずさりしているので、今度は白いお腹が見える。更に下がって、可愛い乳房が顔の上に来た。シャルティアの乳首は鮮やかに赤い。

 

「ちょっとぉ!?」

 

 アウラの抗議はまたも聞き流された。

 顔の上にあった可愛い乳房が近付いてくる。

 と言うことは、シャルティアの顔が自分の体に近付いてきていると言うことである。

 

「あむっ……、さっきは手加減しんしたが今度は目一杯可愛がってあげんすから安心しなんし。アウラの乳首はピンクで可愛いでありんすねぇ♪」

「やめっ、乳首吸わないでぇっ!」

「くふふ……、ビンビンになってコリコリしてるでありんすよぉ? 勃起乳首を吸われるのは気持ちいでありんしょう?」

「あっ、やっ、んんっ……、ああああんっ!」

 

 男が腰を突き入れる度にゆさゆさと揺れていた乳房に、シャルティアが口をつけた。

 あーんと口を開いて色の薄い乳輪ごと口の中に迎え入れ、尖った乳首を舐め回す。弾力ある乳首はシャルティアの舌へ立ち向かうように、いくら舐められても逃げないでいる。転がされてもすぐに元の位置に戻ってくる。

 乳首だけを唇に挟んで口をすぼめ、ちゅうちゅうと吸ってやれば、乳首が一層固く、熱くなってくる。もっと吸えと主張しているようだ。

 

「アウラも吸いなんし。こーしてすえばいいでありんすお?」

「だって、だってぇ……あんっ!」

 

 男の腰使いが段々激しくなってきた。

 

 破瓜の時にあった異物感や痛みはもう感じていない。自分の中に入っているのが当たり前と思うくらいに馴染んでいる。

 馴染んで仕舞えばすぐに次の段階。快感が湧き出てきた。

 シャルティアに舐められたり、男に胸を吸われたときとはまるで違う。

 腰を引いてしまった自分がバカに思える。

 体の内側を少し擦られているだけなのに、体の真ん中から生まれた熱と波が全身を駆け巡っている。

 視界に時々光が散って、いやらしい声が勝手に出てくる。

 開いていた股はそのままで、膝から先は男の背に回して逃がさないようにしている。体が勝手に動いていた。

 

(すごいぃ……、おまんこきもちい。おちんちん入れるのがこんなにきもちいなんて……。始めは少しだけ痛かったけど、セックスってこんなに気持ちいいの? それともこの人だから? おちんちんが奥まで来てるのわかるよ……。声勝手に出るし、よだれも出ちゃってる。……恥ずかしいけど二人とも気付いてないよね? ……それより、乳首。シャルティアが私の乳首吸ってるよぉ! 女の子同士でそんなのするっておかしいでしょ! って、シャルティアはいつもしてるんだよね……。私にも吸えだなんて……。吸われてるけど……。おっぱい揉まれたの良かったけど。シャルティアに吸われてるのって、まあ、割と、悪くないけど……。でも私もだなんて……。でも……でも……。シャルティアの乳首ってこうなんだ。私のより小さい、かな? 舐めた感じは…………、今の私なら自分で自分のおっぱい舐められるかも)

 

 躊躇いがちに伸ばした舌がシャルティアの乳首に触れても、シャルティアからは何の反応もない。熱心にアウラの乳房を愛撫している。

 舐めてしまったのなら、吸いつくまで時間は掛からなかった。シャルティアの真っ赤な乳首を口に含み、ちゅうと吸う。自分がされていることを真似して、レロレロと舌で転がした。

 これと言って味はしないが、滑らかな肌に弾力ある小生意気な乳首は舐めていて割と楽しい。ナザリックで味わう極上スイーツ以上の舌触り。

 アウラに性的な愛撫のつもりはなかったが、口内のさくらんぼを弄ぶように夢中になって舐め始めた。

 

 アウラの舌使いに、シャルティアは邪悪に嗤う。

 

(くっひっひ……。自分から舐めんしたね? キスはちょっと早かったかも知れんせんけど順調でありんす。まさかアウラに乳首を吸わせることになるなんて全く……。まだまだ下手っぴでありんすが、これはちょっとかなり来るでありんすね……。おまんこが疼いてきんした。ここもアウラに……いや、それはまだ早いでありんす! まだまだ我慢でありんすよ!)

 

 本当は、アウラが自分の乳首を吸って舐めていることを指摘して、散々辱めたいシャルティアである。シャルティアは被虐趣味にして嗜虐趣味もある高レベル吸血鬼なのだ。しかし、ぐっと我慢する。ここで我慢せず辱めてしまうと、アウラは恥ずかしがって何もしてくれなくなる可能性が大である。

 シャルティアは、おバカおバカと言われていても、本当はおバカではないのだ。戦闘者の本能で、目的達成するための戦術を冷静に練っている。

 

 単に触れ合うより舐める方がハードルが高い。肌の接触から粘膜の接触になるからだ。

 こちらからするのは押し通した。次はアウラにさせる番。どこまで行けるかのテストとして行った精液交換の軽いキスは、ビックリした様子から少し早かったかもと判断した。

 もう少し乳首を舐めさせて慣らしてから、次の段階に行こうと思っていた。しかし我慢が効かなくなってきた。

 アウラの乳首を吸うのは興奮する。あのアウラがこんなになって乳首を舐めさせてくれるのだから、普段の生意気な態度のギャップが相まってものすごく興奮する。

 アウラに乳首を吸わせるのもめちゃくちゃ興奮している。何か言えば言い返してくるあのアウラが、素直に従順に舐めてくるのだから興奮しないわけがない。

 そのアウラは、処女を散らした。破瓜の血は何とも言えない満足感のある味だった。

 今もおちんぽを挿入されて、おまんこをかき混ぜられている。乳首への吸いつきが安定しないのは、よがっているからだ。男の子みたいだったあのアウラが、聞くだけで体が熱くなる嬌声を上げている。これで興奮しない女はいない。

 舐めさせたいが、まだ早い。アウラは空気を読めないので、クンニは素直にしないと思われた。

 

「私も構いなんし! アウラばっかりずるいでありんしょう!」

 

 頬を膨らませて顔を上げた。アウラに挿入している男を睨みつける。

 

「それではアウラ様の隣に横たわってください」

「……指でありんすか?」

「シャルティア様がそちらがよいというのであれば。違うのを考えております」

「わかりんした」

 

 こてんと、アウラの隣に寝そべった。アウラは思わず隣を見た。ばっちりと目が合った。妖艶に微笑まれ、恥ずかしくなって目を反らした。恥ずかしがろうとも挿入されてることに変わりはない。

 

「少し姿勢を変えます。アウラ様は脚を持ち上げたままでお願いします。シャルティア様はアウラ様の方を向いてください」

「こうでありんすか?」

「んっ……、角度が変わって……、違うとここすられてるぅ」

「それでは……」

 

 男は、アウラに挿入したまま体を横に倒した。

 挿入している逸物が90度回転して、今までとは違う部分を擦り始める。ようやっと馴染んだ刺激が違うものになって、アウラは思わず声を上げた。

 シャルティアには横を向かせ、小さな黒いショーツを脱がせる。アウラと色違いのお揃いの紐パンで、脱がすのは簡単だった。脚を開かせて、太股に頭を乗せる。脚の付け根に吸いついた。

 

「おっ、おまえはっ、器用でありんすねぇ……。おまんこペロペロきもちいでありんすよぉ♡ あんっ、もっといっぱい舐めなんし」

 

 アウラに挿入しながら、シャルティアにはクンニリングス。

 ラナーから学んだ技ではない。エ・ランテルで通い詰めた娼館で会得した技だ。こんなこともあろうかと、女性二人を同時に楽しませる技を開発していたのだ。

 とは言え、まさかアウラとシャルティアを同時にとは意外にもほどがあった。

 

 アウラに挿入を果たし、エルフ特有の深い膣をじっくり味わいたいとも思っていた。

 全く未開発の処女だったので腰使いは全然だが、それはこちらの工夫でどうとでもなる。鍛えられた姿態は締め付けが良く、狭すぎるということもない。使い続ければとても良い具合になることが約束された体である。

 しかしながら、自分の欲求は後回しにして、守護者お二人に楽しんでいただかなければならない。

 

「あっあっ、いいで、ありんすよぉ。お兄ちゃんのペロペロ、シャルティアだいすきぃ♡」

「お、おにいちゃん?」

「うるさいでありんすね。今はシャルティアのお兄ちゃんなんだからお兄ちゃんでいいんでありんす!」

「とすると、どうお呼びすれば?」

「お兄ちゃんは妹に様なんてつけないでありんす」

「わかったよ、シャルティア。アウラ様、今だけはシャルティア様から敬称を省きますが、どうかご内密にお願いします」

「う、うん……。言えるわけないし……。んっ……、あっ!? シャルティアそこさわっちゃダメだって!」

 

 大人の姿になり、シャルティアの導きで初セックスなんて、誰であろうと話せるわけがない。

 

 会話で一瞬だけ注意が離れ、その隙にシャルティアが抱きついてきた。

 シャルティアは甘えた声を上げながら、アウラの体に手を這わせる。大きな乳房を軽く揉み、鍛えられた肉体の上に柔らかな女の肉が乗る腹を撫で、へそを通り越してぬめるような下腹へ。

 大人の姿になったとき、股間に陰毛が生えてきたのはアウラなりにショックだった。そんなところにそんなものが生えるとは思わなかったのだ。割れ目やお尻の穴の方には全くなく、整えたようなIの字に生えている。シャルティアの手は、金色の陰毛をかき分けて更に進んだ。

 届いたのは二人の結合部。

 逸物を咥えているアウラの割れ目を軽く撫でてから、クリトリスに指を押し当てた。

 

「あっあっあっ、あんっ! だっ、……めぇ!」

「おちんぽを入れられながらお豆さんを擦られるのはとっても気持ちいいでありんしょう? 素直になりなんし」

「ちんこをきゅっきゅって締め付けてるね。アウラ様が悦んでるのは間違いないよ」

「くふっ……、アウラが感じてるとシャルティアもとってもうれしいでありんすよぉ♡」

「あっやっやぁ……、あうううぅううぅうううぅ!!」

「っ……」

 

 締め付け具合から、アウラが何度か浅く達しているのはわかっていた。

 シャルティアがクリトリスを愛撫し始めてからは間隔が短くなってきている。

 逸物に絡みつく肉ひだを感じ取り、アウラの波に体を合わせる。シャルティアもわかっているようで、アウラのリズムに合わせて強く摘まんだ。同時に腰を打ち付けて深く挿入する。

 初挿入を別とすれば、今までで一番強く締め付けられた。緩んだと思ったらアウラの膣壁が蠕動し、逸物を絞るように小刻みに締め付けてくる。

 それが射精を促してきた。

 耐えようと思えば耐えられたが、女性と言うものは単に挿入するだけでなく、射精を伴うことによって満足感を得るように出来ているらしい。

 

 倒していた体を起こして正常位に戻り、アウラの太股を抱えもって引き寄せる。

 側位では不可能な最奥までの挿入。アウラの深い膣の、一番奥。感じきって深く達したアウラは子宮が下りて、亀頭が子宮口に触れた。

 アウラの汚れなき処女地に、どぴゅどぴゅと男の欲望を吐き出した。

 

「あ………………出てる……」

 

 膣内で射精されたのがわかったらしい。

 何もかもが初めての場所に、男の熱い精液が満ちた。

 二度目だろうと、アウラの口をいっぱいにした一度目と変わらない量。尿道口を子宮口に押し付けての激しい射精は、搾りたての精液を確実にアウラの子宮へと注いでいた。

 

 

 

「…………あれ?」

「うおっ!!?!?」

 

 アウラが幸せを実感した直後である。

 二人の結合部から、出したばかりの精液がビューっと吹き出してきた。

 如何に量が多かろうと、吹き出るほど多いわけではない。射精の勢いはそこまで凄くない。

 

「いっ…………たああああああああああああああっ!!! いたいいたいいたい! 早く抜いて!?」

 

 キャンディーの効果は、一時的に大人になることである。恒久的なものではないのだ。

 

 不思議な青いキャンディーが効果を現すにはほんの一瞬しか掛からなかった。

 効果が消えて元の姿に戻るのもまた一瞬。

 肉惑的な美女であったアウラはキャンディーの効果が切れたことによって、シャルティアからおチビお子様とからかわれる本当の姿に戻ってしまった。

 挿入したままの状態で。

 

「いぎいいいいいいいいぃいい! 抜いて小さくして! はやくうううぅう!!」

「くっ……」

 

 応える余裕はなかった。

 アウラサイズの体に挿入すれば、通常なら裂ける。しかし、アウラは100レベルの守護者である。おちんちんに負けるほど柔な体ではないのだ。

 

 男というものは、射精したら瞬時に萎えると言うものではない。しばらくは元の固さを保っている。そこを強く締め付けられた。

 かつて、ラナーへ挿入しているときに膣痙攣を起こされたことがあった。凄まじい締め付けで、千切れてしまうかと思ったほど。アウラはその比ではなかった。

 本当なら入らない場所に入っているという矛盾。

 比喩ではなく本当に食いちぎられそうな締め付け。

 仮に潰れてしまっても、ポーションや回復魔法で元通りに回復できる。

 しかし、心の傷までは回復してくれないのだ。先日買った幼い双子が証明している。

 もしもここで潰れてしまえば、男として二度と立てなくなる予感があった。

 アルベド様のためにも、断固として避けねばならない事態である。

 全神経を集中し、締め付けに負けない固さを維持した。

 それがアウラの体を苛むのだが、気にかける余裕は皆無である。

 生きるか死ぬかなのだから。

 

「シャルティアキャンディーとって早く!!」

「これでありんすかぁ?」

「そうそれはやくちょうだい!」

 

 小さな体を組み敷かれて挿入されているとってもあれな絵面を前に、シャルティアは邪悪な笑みを隠さなかった。

 机の上のハンカチに並べられた青いキャンディーを、一つだけ摘まんだ。

 

「ちょ!? ナニしてんのふざけないで!!」

「これが欲しいんでありんしょう? お口に欲しいんでありんすよねぇ? それならお口をあーんって開けなんし」

「出来るわけないでしょ!?」

「それならずっとそのままでありんすね」

「やだっ近付けないで!」

「アウラ様お早く……!」

「観念しなんし。アウラが頑張らないとお兄ちゃんが苦しんだままでありんすよ? アウラのおまんこはお兄ちゃんのおちんぽを食いちぎるためにあるわけではないでありんしょう?」

「だったら!」

「ここにありんすよぉ? ほぉら、お口をあーんと開けなんし」

「うっ………………」

「くっふっふ……、一生懸命舌を伸ばしなんし。んっ……、アウラの舌を感じるでありんすよぉ? 届きんしたか?」

「…………」

「ほらほら、舌だけじゃなくてちゅうちゅう吸いなんし。ちゅーって吸えば出てくるかも知れんせんよぉ?」

「んむっ!?」

「ちょっとだけ手伝ってあげんす。くふふ……、キャンディーは苦いだけでありんしたが、これならいい味がするでありんしょう?」

「………………んくっ……んっ……」

「あら? 取られてしまいんしたか」

 

 

 

 アウラはシャルティアからキャンディーを取り戻した。

 ほろ苦いキャンディーに心情的にとても複雑な味が絡んでいる。味がどうであれ、アウラは再び大人の姿になった。

 

「ぐす…………」

 

 締め付けから解放され、男はアウラの体に倒れ込んだ。

 アウラは、何故かべそをかいている。

 

「わたし……よごれちゃった……」

「アウラ様に汚いところはどこにもありませんよ」

「ほんとう?」

「本当です」

「じゃあきれいにして」

 

 アウラは甘えるように抱きついてきた。

 キスを求めてきたので、薄く口を開いて唇を重ねる。

 アウラから舌を絡めてきた。舌にはたっぷりと唾が乗って、こちらの口の中へ押し込んでくる。柔らかな舌を甘く食み、アウラが望むだけ唾をすすってやった。

 じゅるじゅると、初めてのキスよりも卑猥な水音を響かせて、長いキスが終わった。

 男は首を傾げた。

 

「シャルティアの味がする」

「バカッ!!!」

「おっと」

 

 それを忘れたいがためにキスをしたのに、男は無神経だった。

 

 シャルティアは自分の膣へキャンディーを入れ、それをアウラに取らせたのだ。

 手はシャルティアの膝に押さえつけられ、使えるのは口だけ。

 アウラはシャルティアの秘部に口をつけ、舌を伸ばして膣内を舐め、ちゅうちゅうと吸ってシャルティアの愛液もたっぷりと飲まされてしまった。

 シャルティアには、挿入のための準備としてたっぷりクンニリングスをされてしまったが、まさか自分がすることになろうとは。

 

「ちょっとどきなんし」

「ぐえっ!?」

 

 アウラに突き飛ばされた男は、シャルティアに引っ剥がされてベッドの外へ放り出された。

 大好きなお兄ちゃんなのにひどい扱いである。

 

「さて」

「な、なに?」

 

 男がいた場所に、シャルティアがアウラと向き合うように腰を下ろした。

 右足を立ててアウラの左足を跨ぐ。

 アウラの右足を立たせて自分の左足を跨がせる。

 互いの脚が交差する体勢。

 

「アウラは男の良さを知ったでありんしょう? 今度は女の良さを教えてあげりんす♪」

「!?!??!?」

 

 シャルティアが距離を詰めてきた。

 脚を交差させた状態で距離を詰めると、触れ合うのは互いの股間。

 さっきまで男を受け入れていたアウラのひくつく割れ目に、シャルティアの割れ目が重なった。

 

「あっ、やぁ、やめてぇ……、やだぁ……」

「くふふ……、そうは言ってもアウラのおまんこはこんなにとろっとろじゃありんせんか。こうしておまんこを擦り合わせるのもいいでありんしょう?」

 

 アウラの秘部は、何度も達して開いている。膣内に残った精液と、アウラ自身の愛液を溢れさせて、シャルティアが言うようにトロトロになっていた。

 シャルティアの秘部も開いている。普段は閉じていても、アウラとは違ってとってもエッチな吸血鬼は、ちょっとエッチな刺激を受ければ準備万端になってしまうのだ。

 ピンク色の内側同士が密着して、セックスやフェラチオの時よりも粘着質な水音を響かせた。

 

 これぞ女同士の性交、貝合わせである!

 女同士の愛の行為に双頭ディルドなど不要。真のレズビアンは男根を模したものなど使わない。互いの女性器を擦り合わせることによって快楽を得るのだ。

 もっとも、シャルティアは両刀である。処女だった時分はヴァンパイアブライドたちと貝合わせを楽しんでいたものだが、経験してからは性具が欲しいと思う昨今である。そのような事情であったため、シャルティアのシモベたちが処女のままであったのは余談である。

 

「あっはぁ♡ アウラのおまんこを感じるでありんすよぉ? アウラも私のおまんこを感じなんし」

「やだやだやめてったらぁ……。こんなの、きもちよくないよぉ……」

「嘘言いなんし。アウラもおつゆを出してるじゃありんせんか」

「~~~~~~っ!!」

 

 舌よりも柔らかな女の媚肉。

 それで敏感な部分を愛撫されている。

 シャルティアは手慣れていて、クリトリスにクリトリスを擦り付けてくる。シャルティアのクリトリスは、勃起していた。

 

「アウラも動きを合わせなんし、言っとくでありんすが、私が楽しみたいからしてるわけじゃないでありんすよ? アウラのためでもありんせん。お兄ちゃんのためでありんす!」

「ど……、どういう、こと?」

「察しが悪いでありんすね。お兄ちゃんはアウラを感じさせるために頑張ったんでありんすよ? 今度はお兄ちゃんの番に決まってるでありんしょう。私とアウラのおまんこで、お兄ちゃんのおちんぽを挟んであげるんでありんす!」

「!?」

 

 強引な論理展開だがまるきり嘘ではない。

 シャルティアの強い語調もあって、アウラは信じてしまった。

 信じたかった。意地を張るより、流されて楽になりたかった。素直に感じて、快楽を得たいと思ってしまった。

 力が抜けていたので逃げられなかったが、引け気味だった腰を止めた。

 

「わかった……。んっ……、これで、いい?」

「そう、そうでありんすよぉ……。んふっ……、いいで、ありんす♡」

「んっ……んっ……、にちゃにちゃ言ってる……」

「おまんこからおつゆが出てるんでありんすよぉ。アウラのおつゆがあっついでありんす」

「シャルティアのは……ちょっとひんやりしてるよ……」

「くふふ…………」

 

 愛液を垂れ流す膣口をぴったりとくっつけている。垂れ流すだけでなく、逸物を受け入れている時のように締まるときもある。そんな時は、微量ではあるが、溢れた愛液が膣の中へ流れ込むこともあった。

 アウラの愛液がシャルティアの中に、シャルティアの愛液がアウラの中に。

 アウラとシャルティアの、二人の愛液が混じり合ったものが。

 

 

 

「おにいちゃあん、そろそろへいき?」

「なんとか、ね」

 

 シャルティアに放り出されて、まずは体をチェックした。かつてなら潰れてしまったかも知れないが、シャルティアの狭い膣でも問題なく楽しめるくらいに強くなった体は無事であった。

 アウラから吹き出た精液が股間を汚したので、綺麗に拭き取ってから一休みしていたところである。

 そうしたら、ベッドの上にとても官能的な光景が現れていた。

 傾世の美女と美少女が体を重ねているのは、アルベド様のお姿に匹敵するやもと思わされるほどに美しい情景である。

 

 シャルティアに従って、ベッドに横たわった。

 事前練習していた二人は、屹立している逸物を左右から挟んだ。

 逸物に割れ目を擦り付けて前後に動く素股行為が中々なのは経験済みだったが、貝合わせの真ん中に挟まれるのは初めてだった。

 二人の割れ目は淫らに開いて、逸物を挟み込んでくる。荒い息を吐き、甘い声をあげながら愛液を塗りつけてくる。

 元々仲が良い二人のコンビネーションは抜群だった。

 シャルティアに出して出してとせがまれて、アウラも躊躇いがちにシャルティアに追随し、三度目の射精。

 

「あっ!?」

 

 思わず叫んだのはアウラだ。

 射精の瞬間、シャルティアが強めに押して上を向いていた逸物はアウラの方へ向いた。

 逸物を注視していたアウラは、尿道口から精液が吹き出る瞬間を見てしまった、すごかった。

 吐き出された精液はアウラの体に降り注ぐ。三度目にも関わらず勢いは強かったので、アウラの胸から顔まで届いた。

 シャルティアは妖艶に笑って、アウラの胸を舐め始めた。

 浅黒い肌を白く汚す粘液を、丹念に舐めとる。アウラは乳首を吸われても、嬌声こそあげるが拒否はしない。

 乳房から喉へ、喉から顎へ、頬にまで飛んでいたのも舐めとった。

 

「んっふぅ♡」

 

 アウラの上に四つん這いになって男へ尻を向け、意味ありげに振り向く。

 これを察せないようではアルベド様をご満足させられるわけがない。

 

「ああんっ、お兄ちゃんのおちんぽきたぁ♡ アウラのおまんこに入ってたおちんぽがぁ、シャルティアの中に入ってるぅ♡」

「言わなくていいからっ! んむぅっ!?」

「んーーーーっ、ちゅっ、ちゅうううぅ……。れろ……あむぅ……」

 

 後背位で挿入されながら、シャルティアは目の前のアウラに抱きついた。

 抱きつくだけでなく、唇も奪う。

 容赦なく舌を入れた。

 

 乳首を吸ったし吸わせもした。

 クンニをたっぷりしてあげて、強制的にだったが少しだけさせることに成功した。

 貝合わせはじっくりと。強引な理屈をくっつけて、アウラに動きを合わさせた。

 ここまで来れば、あとは何だろうと勢いで押し通せる。

 

 舌を入れてやると、アウラも恐る恐る応えてきた。

 唾をすすってすすらせて、唾液を交換するためのキスをたっぷりと。

 アウラとキスをしながら、よがり狂う様を見せつけた。

 その次はアウラの番。

 シャルティアの下で一度目以上の痴態を晒し、教え込んだ淫語を叫ばせた。

 

 

 

 二人とは違って、不思議な青いキャンディーの効果時間を秒単位で把握した男である。

 キャンディーの効果が切れる瞬間はアウラから離れた。

 アウラは、それから二個のキャンディーを舐めることになった。

 シャルティアが言っていたように、全身がドロッドロになってしまった。




断腸とかふつうに致命傷なんで回復に時間が掛かったんです
そしたらユニイベが始まって、三人いる副隊長の一人は引退して一人は脱退して残った自分が頑張らねばと思ったら新人さんが頼りになりました

次話はアウラ編のエピローグ的なものとその次へのつなぎ的なものを
たぶんあと3~5話で完結します、たぶん


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餓え

 ナザリック第六階層ツリーハウスのバスルームにて。

 

 アウラの心境はもんのすごく滅茶苦茶だった。

 しかしながら、やらない後悔よりやった後悔。そして、やってしまったことよりこれからのこと。ざぶんと頭まで湯船に潜った。

 

「……ぶくぶく…………ぷっはーーーーーっ!」

 

 大きく息を吐き、頬に張り付く金髪をかきあげる。改めて手足を伸ばした。

 湯に沈む体を見下ろし、難しい表情を作る。

 あの時とは違って体は小さい。不思議な青いキャンディーを使ったのは、アインズ様の御前で披露したのと、あの時の二回だけ。今はいつも通りの子供の体。

 ずーっとこの体だったのだから、手足が短く、肉付きもまだまだなことに不満はない。成長すれば、あのような体になると証明された。将来への不安もない。

 ただし、あの日変えられてしまった部分に、少しだけ困っている。

 

「…………また乳首が立ってる……」

 

 エッチなことを考えたわけではなく、あの日のことを思い出しているわけでもないのに、脈絡なく唐突に乳首が立ってしまうようになった。

 今は一人きりで風呂に入っているので、まだいい。

 何でもない普通の時に立ってしまうのが問題だ。

 アウラがいつも装備しているのは、革鎧の上下の上に軽装鎧、更にその上にズボンとベスト。乳首が立とうと気付かれる心配は皆無である。でも、立ってしまうと擦れるのだ。擦れてしまうのがわかってしまうのだ。変に擦れたりしないよう、乳首だけガードする何かを着けるべきかと真剣に悩んでいる。

 

「ん…………、ダメダメこんなことしてマーレたちに気付かれたらどうするの!」

 

 乳首を摘まもうとして、我に返った。

 下の方がじわっと来ないだけシャルティアよりましなのかも知れないが、あんなエッチな吸血鬼が比較対象になるかと思うと情けなくて泣けてくる。

 

(アウラ様、如何なさいましたか?)

 

「!? なんでもないからほっといて! ……そろそろ出るから着替えの用意したら出てってよ」

 

(かしこまりました)

 

 ドアの外へ応えると、アウラはもう一度湯船に潜った。

 上げた顔には決意があった。

 

 

 

「ちょっとシャルティアのとこに行ってくる」

「今から?」

「今から」

 

 吸血鬼のシャルティアと違って、お子様なアウラとマーレはおねむの時間である。

 いつも通りのズボンとベストを着込んだアウラと違って、マーレは可愛いパジャマを着ていた。ネグリジェの時もあるのは余談である。

 

「……やっぱりシャルティアさんと何かあったの?」

「何かって何よ」

「この前シャルティアさんと一緒にお兄ちゃんのところに行ってから、お姉ちゃんの様子が変だったから」

「はあ!?」

 

 努めて仏頂面を作っていたアウラは、一瞬で真っ赤になった。

 

「おおおおお義兄ちゃんて何よ?!?!」

「えっ? 大人の男の人だからお兄ちゃんだと思うんだけど……おかしい?」

 

 どうしてアウラが取り乱したのかさっぱりわからないマーレは、姉の剣幕に気圧されながらもきちんと答えた。

 アウラは己の早とちりを悟った。顔は依然赤いままで、むっつりと黙り込む。

 

「………………それならデミウルゴスとセバスもお兄ちゃんなわけ?」

「うーーーーーん、デミウルゴスさんはお兄ちゃんかも知れないけど、セバスさんはおじいちゃんじゃないかなあ」

 

 デミウルゴスは大人の男である。悪魔だが。

 セバスは竜人で、大人と言うより白髪白髭の老人である。むきむきのマッチョだが。

 

「………………あいつのことは関係ないから」

「そうなの?」

「そうなの!」

 

 苦し紛れの反撃は、あえなく弟に一蹴された。

 姉の威厳でもって、弟の疑問をはねのける。

 マーレは納得していないようで小首を傾げているが、アウラが睨みつけると就寝の挨拶をして寝室へ飛び込んだ。

 

 エルフメイドたちへ、帰りは遅くなるかもと言付け、アウラはシャルティアがいる第ニ階層死蝋玄室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「アウラがいつ来るのか。ずっと待っていんしたよ」

「……あっそう」

 

 死蝋玄室の大きな寝台の上で、シャルティアが一人待っていた。

 長い銀髪はほどいて流している。身に着けているのは、マーレが着ることもあるネグリジェよりも薄手でとてもセクシーなもの。

 妖艶に笑い、右手をアウラへ差し向けた。手のひらを上に向けて軽く握り、人差し指だけを伸ばして数度折り曲げる。

 

「キャンディーは舐めないんでありんすか? ま、それもいいでありんしょう。こっちに来なんし。この前は教え切れんかったことをたーっぷりと教えてあげりんすよぉ?」

 

 シャルティアの手招きに引き寄せられるようにして、アウラは寝台へ近付いた。

 靴を脱いで上にあがる。

 

「ふふ……、アウラも女の良さを知ってしまったでありんすから? まあ、この私が? 責任をとって? 色々なことをしてあげりん、ぶげらっ!?」

 

 近付いてきたアウラの頬を撫でようとした手を叩き落とされ、顔面にグーパンを叩き込まれた。

 

 美少女なシャルティアは、とっても強い吸血鬼なのだ。

 自分が全力でパンチしても痛手にならないと知ってるアウラである。顔面にグーパンする躊躇いは全くなかった。

 

「何をする!!!」

 

 ベッドに沈んだシャルティアは瞬時に体を跳ね起こした。

 多少は痛かったが、ダメージはない。それよりも、これから好いことをしようと思っていたのに思い切り殴られて、精神的なショックの方が大きい。

 これは殴り返しても無罪。シャルティアは固く拳を握って、

 

「そんなことしに来たんじゃないから。色ボケないで」

 

 アウラの声は思いのほか冷静だった。

 

「じゃあ喧嘩を売りに来たんでありんすね!? 折角アウラとレズセックスしようと思ってヴァンパイアブライドたちを遠ざけたのに!」

「するわけないでしょ」

「……どっちをするわけないんでありんすか?」

「喧嘩の方。相談に来たの」

「…………………………ほう?」

 

 喧嘩は否定したが、レズセックスは否定してない。しかも、この前相談に来たときの内容はセックスだった。もしかしてもしかするかも知れないと、シャルティアは胸を熱くした。

 

「あいつのこと」

「アウラの処女膜を破ったあの男のことでありんすか?」

「そこまで言わなくていいから!!! …………でもそいつのこと」

 

 努めて冷静を装っていたアウラだが、つつかれれば弱いもの。

 事実を指摘されただけで、頬に朱が差した。

 

「ほーん? あいつがどうしたんでありんすか? またセックスに付き添って欲しいんでありんすかぁ?」

「だからそう言うんじゃないから! もう一人で出来るし!」

「今度は一人で行くつもりでありんすか。もう次の予定を立ててるなんて、アウラは思ったよりエッチだったんでありんすねぇ」

「違うって言ってるでしょーが!!」

「それじゃあもうセックスしたくないんでありんすね?」

「だから! …………くっ!」

 

 実に珍しく、論戦でシャルティアにリードを奪われている。

 アウラは言い返したくなるのをぐっと堪えて言葉を飲み込み、深く息を吐いて吸った。

 

「真面目な相談」

「……言ってみなんし」

 

 アウラの雰囲気を感じ取って、シャルティアは姿勢を正した。

 二人ともベッドの上で、シャルティアはエッチなネグリジェ姿ではあるが。

 

「あいつは人間の男でしょ?」

「そうでありんすね。……あ、ちょっと待ちなんし。メッセージの魔法が来んした」

 

 シャルティアが目を閉じて、誰かと何かのやりとりをしている。

 眉間に皺が寄り、開いた目はつり上がった。

 

「アルベドに呼ばれんした。後でもいいでありんしょうか?」

「……うん、急ぎじゃないから。今はあいつのことで相談があるってことだけ覚えといて」

「わかりんした」

 

 シャルティアはヴァンパイアブライドたちを呼び寄せ、衣服を整えてからアルベドがいる第九階層へ向かった。

 アウラは、自分をもてなそうとするヴァンパイアブライドたちへ断って、自身の階層へ戻った。

 

 あの男は人間の男だ。

 あっという間に老いて死ぬ定命の者。自分が大人になる頃には、間違いなく死んでいる。

 そこをどうにかしないか、と相談する予定だった。

 人間のままが好ましいが、他に手段が見つからない場合、シャルティアに吸血させてヴァンパイアにしてしまえば良いと考えた。アルベドが強固に反対するだろうから、本当に最後の最後の手段になるだろうけれど。

 

 

 

 

 

 

「あら?」

 

 アウラがお風呂に入っている頃、アルベドは第九階層に数ある会議室の一つで仕事をしていた。

 書類にペンを走らせていたところ、ペン先が音もなく折れたのだ。

 

「アルベド様、どうぞこちらを」

「ええ、ありがとう」

 

 お骨の一人から新しいペンを手渡される。

 部屋にいるのはアルベドの他に、アインズが作成したエルダーリッチが数体いた。

 

 アルベドが、アウラとマーレがおねむの時間になるまで仕事をしているのは、本当に忙しいからだ。

 ナザリックの運営に、エ・ランテルの統治。これだけでも割と手一杯だったところへ、アインズ様が先の遠征で獲得した新たな支配領域。いずれは聖王国も加わる。リ・エスティーゼ王国が加わるのも遠くない。

 特にエ・ランテルでは、人間の役人たちが全て逃亡してしまったため、ナザリックにて内政能力があるアルベドに負担が集中している。

 自分が頑張ればどうにかなると言うのなら、アインズ様の為に心身を惜しまないアルベドであるが、絶対的に手が足りていなかった。このままではいずれ破綻するのが目に見えている。

 目に見えているものを放置するほど愚かなアルベドではない。

 いずれは然るべき行政機関を作って諸々の運営を任せる予定だ。今はそのつなぎとして、エルダーリッチたちへ行政等の教育を行っているところである。

 教育が完了すれば多少は楽になるだろうが、すぐにその次が待っている。

 アインズ様は週に一日の休日をお与えくださったが、その一日とて惜しい毎日を送っているアルベドだった。

 休日があっても、以前とは違ってすることは特にないことであるし。

 

「あら?」

 

 今度はペキリと音を立てて、ペン先が折れた。

 力加減を間違ったようだ。ペン先は書面を破き、硬い執務机にぶつかってひしゃげてしまった。

 

「……どうぞこちらを」

「ありがとう。折角作った書類を破いてしまってごめんなさいね」

「いえ、また書けばいいだけですので」

 

 お骨の一人から新しいペンを受け取って、破けた書類から次の書類へ目を落とす。

 書類の出来は上々。

 さすがはアインズ様が作成したエルダーリッチである。一度教えたことはそつなくこなす。これなら一通りのことを教えれば即戦力になる。

 

 即戦力になると言えば、今は帝国にいるあの子。

 あの子なら、教えなくても勝手に学ぶ。以前読んだレポートから、文書作成能力は十分と評価している。

 あれならば文書の書式を教えずとも見せるだけで戦力になるのは間違いない。帝国のあらゆる書物を要約して報告していたくらいなので、この土地の法や慣習に詳しいことも頼りになる。

 しかし、使うつもりはない。あの子には働いて欲しくない。

 使えるのに使わないのは自分の我が儘に過ぎないとわかっているが、そこは公私の区別だ。あの子と仕事の話をしたくない。夢のように素晴らしい時間を過ごすだけでいい。それだけがいいのだ。

 その時間を、最近は全く得られていなかった。

 かつて処女であった時に敗北した後は、意地を張って訓練という名の自慰に励み、しばらく会いに行かなかった。今はそれ以上の時間が空いている。

 

「あら?」

「…………どうぞ」

「ええ、ありがとう」

 

 今度はペンが真ん中から真っ二つに折れた。

 言葉少なく、お骨が新しいペンを持ってくる。

 

 あの子と会っていない。

 キスをしていない。

 精気を吸ってない。

 フェラチオをしていない。

 精液を飲んでない。

 乳房を揉まれていない。

 秘所を舐められていない。

 秘所に指を入れられていない。

 セックスをしていない。

 幾ら自慰に励んでも、あの快楽には遠く及ばず後には虚しさが残るばかり。

 

 餓えていた。

 

 ナザリックの食事では得られない新鮮な精気が吸いたいのか。

 ナザリックの食事より上等と断じることが出来る精液を飲みたいのか。

 濃厚なセックスをして快楽を得たいのか。

 

 そのいずれなのかわからない。

 おそらくはいずれもだと思われる。

 体を持て余している。

 アインズ様へ襲いかかってしまいそうになる。アインズ様はそんな己の卑賤さを察しておられるようで、不自然に目を逸らされることが何度もあった。

 今度襲いかかってしまえば、謹慎ではすまないかも知れない。アインズ様から見放されてしまうかも知れない。断固として避けなければならない。

 しかし、もしもアインズ様がこの気持ちにお応えくださったならば。

 

 ああ、しかし。

 だがしかし、アインズ様におちんぽはないのだ。

 アインズ様のお体は、磨き抜かれた純白のお骨であるがゆえに。

 

 ここまでなら、己のことである。

 自制を強くすれば何とかなる。

 何とかならないのは、あの子と一緒にいるルプスレギナのこと。結婚したいと言うくらいなのだから、間違いなくセックスしている。

 シクススもそうだ。自分から性処理を買って出たと言うのだから、間違いなくセックスしている。

 更に気に入らないのはシャルティア。あの淫乱う゛ぃっち吸血鬼は、ゲートの魔法で帝国まで瞬時に移動することが出来る。間違いなくセックスしている。

 自分はこんな時間まで仕事に勤しんでいるというのに。

 

「あら?」

 

 手の中で、ペンがぐちゃりと握りつぶされた。

 充填されていたインクが周囲に飛び散る。

 

「………………」

 

 お骨は、新しいペンを持ってこなかった。

 微動だにせず、アルベドの様子を注視している。

 

「替えのペンはないかしら?」

 

 アルベドは、頬に黒いインクの飛沫を付けたまま、慈悲と慈愛の微笑を浮かべていた。

 

 もしもお骨たちに肉の体があれば、全身から冷たい汗を流して固唾を飲み込んだことだろう。

 アルベド様は微笑んでいらっしゃるが。内心は全く違うと察せないほど愚かなお骨たちではないのである。

 

「…………休憩をとられては如何でしょうか?」

 

 決死の思いで進言した。

 エルダーリッチである己たちと違って、アルベド様は100レベルの守護者統括でいらっしゃる。手弱女に見えようと、細い腕を一振りすれば一撃で自分たちを粉々にしてしまう膂力を秘めている。

 アルベド様はお疲れで、このまま講義を続けるのは難しいと思われる。

 しかし、守護者統括様へ進言してしまうのは越権行為であると思われる。

 爆発するまで黙っているか、決死の思いで進言するか。

 

「……………………………………そうね」

 

 お骨たちは勝利した!

 アルベドは物憂げに息を吐き、真っ白なハンカチで頬を汚すインクを拭った。

 

「しばらく休憩にするわ。シャルティアを呼んで頂戴」

 

 

 

 

 

 

 シャルティアがやってくるまで、アルベドは会議室で待っていた。

 

「遅い!!!」

「これでも急いできんしたでありんすよ? 守護者統括様にはしたない格好を見せるわけにはいきんせんでありんしょうから」

 

 シャルティアは髪を綺麗にヘッドドレスでまとめ、ボールガウンを完璧に着こなして、手にはドレスグローブ。

 ヴァンパイアブライドたちに着付けを手伝わせたわけだが、エルダーリッチからメッセージを貰ってから優に三十分は経過していた。

 

「…………………………いいわ。帝国にいるあの子を連れてきて。今すぐ」

「ほー? へーーえ? ふっっっうぅうーーん? アインズ様はお仕事をしていらっしゃるのに、お忙しい守護者統括様は何をするつもりでありんしょうかねぇ? 守護者統括様はそんなに良い御身分なんでありんしょうか?」

 

 シャルティアは、嫌味たっぷりに嘲笑した。

 

「あの子に二度とシャルティアに触れるなって命令するわ」

「直ちに帝国へ赴き、あの者を連れて参ります!」

 

 シャルティアは命令を復唱し、ゲートの魔法を発動した。

 

 アルベドは急いで自室に戻り、散らかっているアインズ様グッズを片づけ始めた。




あと2~4話で終わらせます、たぶん


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長い夜の始まり

あけおめです

なんか91話が二つあったので片方消したら両方消えてしまいました
よって投稿しなおし
折角元日0時に投稿したのに!


 ナザリックから帝都とは反対方面へ遠く離れたアベリオン丘陵には、聖王国を苦しめている亜人たちの拠点がありました。

 昔から亜人たちと聖王国では緊張状態にありましたが、かろうじて保たれていた均衡が完全に崩れ去ったのは魔皇ヤルダバオトが現れてからのことです。

 

 亜人と一言で言っても、様々な種族と、それぞれに様々な部族がありました。互いに仲良くできるわけがなく、聖王国へ攻め込む以前に亜人同士で争っていたものです。

 そこをヤルダバオトが全部まとめてフルボッコ。瞬く間に亜人たちを束ねて亜人連合と成し、聖王国へ攻め込んだのでした。魔皇ヤルダバオト率いる亜人連合に侵略された人間の土地では、地獄もかくやという凄惨な光景が現出しました。

 その亜人連合の本拠地であるアベリオン丘陵。

 中でも選ばれたものしか近づけない魔皇ヤルダバオトのお膝元では、とても和気あいあいとした心温まる情景が展開されておりました。

 

「エントマにお土産よ」

「わあぁ、ソリュシャンありがとぉ」

 

 エ・ランテルのお屋敷のソリュシャンお嬢様ことナザリックのシモベであるプレアデスのソリュシャン・イプシロンは、アベリオン丘陵に詰める妹のエントマ・ヴァシリッサ・ゼータの所へ陣中見舞いに来ていました。

 

 本来の目的は、自分の姿をグレーター・ドッペルゲンガーに写し取らせることですが、そちらはもう完了しています。顔を見せるだけで済んでしまう簡単なお仕事です。

 わざわざエ・ランテルから遠く離れたアベリオン丘陵まで来たのだから、それだけで帰るのはちょっとあれです。そんなわけでして、妹を見舞っているところなのです。尤も、遠く離れた土地と言っても魔法で一瞬で移動したわけですから、関係者各位の時間と都合がつけばいつでも行き来出来たりします。その都合をつけるのが難しいところではありますが。

 

「おいしいいぃいい!! なにこれぇ!」

 

 にっこにこした雰囲気でエントマがかじり付いているのは、人間の腕でした。エントマはソリュシャンのお土産を早速味わっているのです。

 エントマは可愛い顔をした女の子に見えますが、可愛い顔はフェイク。可愛い顔は仮面の形をした蟲なのです。本当の顔は仮面の下にあります。そのため、エントマがお食事をするときは、仮面の下へ食べ物を差し込むため、顎から食べてるように見えたりします。そのあたりは幻術の応用次第で普通にお口から食べてるように見せることも出来るのですが、今はエントマとソリュシャンしかいないので、あまり気にしていないようです。

 

「うふふ、美味しいでしょう? まだまだいっぱいあるわ」

 

 大人の腕一本をたちどころに完食したエントマへ、ソリュシャンは新しい腕を体の中から取り出しました。

 エントマへのお土産は、左腕と右足左足を合わせて二十本もあるのです。実際にカットした本数と計算が合わないのは、残りは全部ソリュシャンのおやつになるからでした。

 

「私も凄く美味しいと思うわ。味わい方は違うけれど、やっぱりエントマも美味しく感じるようね」

「すっごくおいしいよぉ! どうしたのこれぇ?」

「お兄様にお願いしたら、快く差し出してくれたの」

「お兄様? ソリュシャンのお兄様なら私のお兄様なのぉ?」

「違うわ。お兄様は人間の男よ。エントマもいつか会うことになるでしょうから簡単に説明しておくわね」

 

 お兄様は人間の男でアルベド様のお食餌である。アルベド様が大変大切にしていらっしゃるので、殺傷することは絶対に禁止。

 頭がとてもよくて痛みにはとても強くて、自分が丸飲みして一日中溶かしてもけろりとしている。

 デミウルゴス様がお兄様の頭脳を評価していらっしゃる。アインズ様もモモン様として時々言葉を交わしにいらっしゃる。

 どういうわけかシャルティア様のお気に入りになってしまって、アルベド様と取り合いになってしまったことがあった。あの時、板挟みにされたのはとてもつらい経験だった。

 エントマが今味わったとおり、血も肉もそれ以外も、とっても美味しいお方。

 

「ナザリックの外の人間なのぉ? 食べてもいい人間?」

「勝手に食べてはダメよ。お願いすればこうして食べさせてくれるわ。回復しないといけないけれど。ナザリックの外から来た人間なのは確かでもアルベド様に捧げる忠誠は本物よ。エントマが勝手に食べたりすると、間違いなくアルベド様からお叱りを受けるわ。そこだけは気を付けて」

「ふうぅん?」

「それでね? 私、お兄様と結婚しようと思ってるの」

「………………………………………………え?」

 

 ソリュシャンが、人間を苦しませて観察するのが大好きな生粋のサディスト凶悪スライムが、栄えあるプレアデスの三女である己の姉が、人間の男と結婚するとか言ったような気がしたけれど流石にそんなことはあり得ないから聞き違いだと思って、エントマは聞き返しました。

 

「エントマは私のこと応援して頂戴」

「何を応援するのぉ?」

「だから、私とお兄様の結婚よ」

「……ソリュシャンが誰と結婚するのぉ?」

「私と、お兄様よ」

「…………お兄様って人間の男なんでしょぉ?」

「そうよ。結婚がスムーズに出来るようにセバス様へ根回ししているわ」

「………………えええええええええええええええぇぇぇぇえええええ!!!!! ソリュシャンが人間と結婚?!?!?!」

「驚き過ぎよ! 何が悪いって言うのよ。お兄様は私を愛してるのよ? だったらその気持ちに応えてあげてもいいじゃない!」

「ソリュシャンはぁ……、そのお兄様とか言うの、好きなの?」

「お兄様が私を愛してるって言うから。仕方なくよ。……………………?」

 

 ソリュシャンは、唐突に振り返りました。

 現地基準ではとても豪奢な、ナザリック基準ではとても質素な天幕の内壁が見えるだけです。

 天幕の中にはソリュシャンとエントマの二人しかいないので、誰もいるわけがありません。ソリュシャンは、シーフ・アサシン系統のクラスを修得しているので探知や索敵はバッチリです。ソリュシャンの目をかいくぐって天幕の中に誰かが来れるわけがありません。

 天幕の中には、やっぱり二人しかいませんでした。

 

「どうしたのぉ?」

「……お兄様がいたような気がしたのだけど、やっぱり気のせいね。今は帝国にいるはずだから」

 

 帝国にいるはずのお兄様がすぐそこにいるような気がしてしまったのは、それだけ自分はお兄様を愛しく思っているからだと分析して、ソリュシャンは、プルンと体を震わせました。

 

「エ・ランテルにいたと思いましたが、今は帝国にいるのですか?」

「「ヤルダバオト様!」」

「今はデミウルゴスで結構」

 

 今度は気のせいではなくて、魔皇ヤルダバオトことデミウルゴス様が天幕を潜って中に入ってきました。

 今更のことですが、魔皇ヤルダバオトはナザリックのシモベであるデミウルゴスなのです。アベリオン丘陵の亜人たちと聖王国は、ナザリックのマッチポンプによって支配されることになるのです。

 

「お兄様は……、あ、いえ、その。……あの者は人類絶滅をアインズ様に上申したかどで、文化の多様性を知るために帝国で学ぶようアルベド様から命じられました。ご命令に従い、現在は帝国の帝都に滞在しています」

「ふむ……、そうなりましたか」

 

 デミウルゴス様は眼鏡の位置をクイと持ち上げて直し、顎に手を添えて考え込んでしまいました。

 

 人類絶滅は、デミウルゴスに提出されたレポートに書いてあったことなのです。

 さすがのデミウルゴス様は、あれはあくまでも理想論であると察していました。出来ることと出来ないことくらい、さすがのデミウルゴス様はきちんと判別できているのです。それでもやってやれないことはなく、やってみたいことではありました。

 アインズ様にこのようなものがありますよとお見せしてしまったのはデミウルゴスです。

 あの男がエ・ランテルから帝国へ左遷されたのは、半分くらいはデミウルゴスのせいです。もう半分はあの男の自業自得です。

 それでもいささかばかり悪いことをしたと思いました。

 人間は消費する資源であると同時に己の嗜虐心を満足させる玩具くらいにしか思っていないデミウルゴスですが、ナザリックの同朋ともなればその限りではありません。

 特にあの男の頭脳は、デミウルゴスも大したものであると認めるほどなのですから。

 

「ご機嫌とりなぞは必要ありませんが、そうですね。私からも土産を用意しましょうか」

 

 人間の男が喜びそうなものを、実は確保してあるデミウルゴスです。

 ナザリック的には特に必要ないものなので、使い潰して捨てていこうと思っていましたが、使えるものなら使うべきでしょう。

 エコノミカルでエコロジカルなデミウルゴスでした。

 

 

 

 

 

 

 遠く離れた土地で話題になっている帝都のお屋敷の若旦那様は、夕飯を終えてから自室でぼけーっとしておりました。

 揺り椅子に座ってゆらゆらしながら、目は開いてるような閉じてるような曖昧な状態で、慣れた者でないと寝てるのかと勘違いしそうです。

 部屋には一人ではありません。若旦那様以外に、双子の幼女二人がベッドを温めています。まだまだ子供なので、暗くなるとおねむの時間になるのです。セットの抱き枕です。

 

「ほらほら、チビたちは自分の部屋で寝るっすよ。おにーさんの枕は私がするっすから」

 

 そして後から入ってきたルプスレギナ。

 意外に優しく双子を揺り起こし、けども中々起きないので、寝てる二人を抱え持って隣の部屋のベッドに放り込んできました。

 

「くっふっふ……、今日はじっくりたっぷりしっぽりするっすよーっ!」

 

 ゆらゆらしてるおにーさんの後ろから抱きつきました。

 首筋に顔を埋めてくんくんします。相変わらず好い匂いで、気分が高まってきます。

 おにーさんは未だにぽけっとしているけれど、ルプスレギナは堪らなくなって耳をカプッとしました。

 

「……ルプーか」

「ありゃ、起きてたんすか?」

「そりゃ起きてるよ。少し考え事をしてたんだ」

「おにーさんっていっつも何か考えてるっすよねー。何考えてたんすか?」

「……空間のことだよ」

 

 若旦那様は、ルプーには言ってもわかんないだろなあとか思いながら答えました。

 繕うことを知らない素直な若旦那様なので、ルプーにはわかんないだろなあと思ってるのがストレートに伝わりました。

 ルプスレギナは、ちょっとだけカチンと来ました。アルベド様やデミウルゴス様やパンドラズ・アクター様や、恐れ多くもアインズ様と比べれば自分の頭などたかが知れているとわかってはいますが、バカではないつもりです。

 話す前から、お前じゃわからんと言われるのは頭に来ます。

 

「空間がどうしたって言うんすか? ちょっと話してみるっすよ」

 

 頭に来たのもありますが、ここで知的な会話が出来ればおにーさんの好感度が稼げるとも思ったのです。

 どういうわけか、ユリ姉とソリュシャンとナーベラルが、おにーさんと結婚したいと言っています。おおらかな人狼であるルプスレギナは、全員と結婚すればいいとか思ってますが、自分を優先して欲しいのが女心。

 他の姉妹がいない今は絶好のチャンスなのです。

 

「……一次元とか二次元とか言っても、ルプーにはわかるかい?」

「それくらいわかるっすよ! 一次元が点で、二次元は平面ってやつっすよね?」

「……点は0次元だ。点と言うより大きさがないと言うべきだけれど。一次元は太さがない線だね。二次元は平面で合ってるよ」

「むう……。それで、三次元が立体。四次元は三次元に時間が加わったもの、であってるっすか?」

「それは不正解。四次元は立体に時間を加えたものってのは作家の空想だよ。空間の話だから時間は関係ない。それに時間を加えたら次元が増えるんなら、二次元に時間を加えたら三次元になるってことになる」

 

 第四の次元を時間としたのはSF作家の空想なのです。そのあたりはナザリックの最古図書館にある辞典に書かれていました。辞典に載るくらい有名な作家のようです。

 

 ちなみに、若旦那様が最古図書館で借りた本は、全て辞書、辞典、いわゆる全書の類ばかりでした。

 日本語辞書が五冊。日本語学習用の時に使った子供用ではなくて、全部大人用の辞書です。

 漢字辞書は三冊。漢字はともかく数が多いのです。内一冊は漢字の由来辞典でした。

 英語辞書も三冊。英々辞書、英日辞書、日英辞書です。

 ドイツ語辞書は一冊。色んな言語に手を出しすぎてもわからないかもと思ったので、こちらは子供用の優しい辞書です。幸いにもパンドラズ・アクター様がドイツ語教室を開いてくださったので、今度は難しい辞書を借りてこようと思っています。

 数学事典が五冊。中身は覚えはしたのですが、完全な理解には未だ至っていません。学ぶためのテキストではなく、あくまでも辞典なので、内容が簡略化されている部分も多いのです。

 合計で十七冊となり、貸し出し限度を超えているのですが、そこは司書長のティトゥス様が融通を利かせてくれました。若旦那様は、頻繁にナザリックを訪れることが出来ないので特別です。貸出期限もちょっと長いです。

 

 なお、借りた本は全て古典に属するものばかりなので、閲覧制限には掛かりませんでした。若旦那様以外には借りるどころか読もうとすら思わないでしょう。

 

 このようなわけでして、今やいつぞやユリが言っていた責任の詳細な意味をわかっているのですが、責任が結婚にどうしてつながるのかはやっぱりわかっていませんでした。

 

 

 

「ゼロ次元の世界があって、ゼロ次元の住人がいるとする。ゼロ次元は大きくも小さくもないそれだけの存在だから、自分以外の他者は存在しない」

「点が一個でそれだけってことっすよね?」

「……まあだいたいそんなところ。一次元世界になってやっと他者が現れる。見えるのは点だけだ。これが二次元になると点以外に線が見えるようになる」

「二次元って絵のことじゃないんすか?」

「それは三次元世界から見た二次元のこと。自分も二次元なんだから上からは見えない。俺もルプーも帝都の屋敷も、ナザリックも、全て高さが同じで真横からしか見えないって考えてみるといい。二次元には長さはあるけど高さがないんだ」

「……何となくわかるっす」

「点と直線でも色や光の加減で凸凹はわかるかもね。これが三次元になると高さが加わる。上から見ることが出来るから、二次元の世界を一発で見通すことが出来る」

「えーとつまり、横からしか見えないのが上から見えるようになったってことっすよね?」

「そう言うこと。そして三次元世界から二次元世界を折り曲げてみる。紙を折り曲げて、点と点を重ねるんだ。そうすると二つの点の距離がゼロに近付く。紙は重なっても一つに混じり合うわけじゃないから、ゼロに近づきはしてもゼロにはならない。ほんのちょっとだけ隙間がある。その隙間を通り抜けるのが、アインズ様やシャルティア様が使う転移の魔法じゃないかって思うんだ」

「ほえーーーーーっ!」

 

 わけがわからない話だと思ったら、魔法の考察でした。

 わけがわからないことばかり考えてるおにーさんだと思ってたら、意外や意外に実際的なことを考えてるようでルプスレギナは大いに感心してしまいました。

 

「転移の魔法は四次元に関与してる。四次元は、三次元の立体に四次元方向への軸が加わったもの。三次元世界はそちら方向への距離と言うか厚さがゼロになるから」

「ちょっと待つっす! 四次元方向への軸ってなんすか?」

「縦横高さの三軸の全てに直行してる軸のことだよ。四次元世界から三次元世界がどう見えるかは、三次元世界から二次元世界がどう見えるか考えるとわかってくる。四次元からだと、前を見てるのに後ろも横も見えるようになる。真正面から見ると奥行きがどれだけあるかわかんないだろ? それが見えるようになるわけだ」

「…………ほんとっすか?」

「本当だよ。ただ、三次元世界にいる俺たちは四次元方向が認識できない、はずだ。だから見えないしわからないし想像もできない。頭の中で組み立てるしかない。だけど仮に四次元方向が認識出来ると、三次元世界の距離があまり意味をなさなくなる。三次元世界では二次元世界の距離が簡単にゼロに出来るみたいに」

「…………………………」

 

 やはりわけがわからない話でした。

 一瞬でルプスレギナの理解を振り切って、文字通りの別次元へ遠ざかってしまいました。

 

 ルプスレギナは、わからないかもと思ってたけどやっぱりわからなかったので、あんまり面白くありません。

 おにーさんをぎゅうっと強く抱きしめて、ぐえぇと鳴かせました。

 

「変な話を聞かされて疲れたっす。私の疲れをとるためにたっぷりしっぽりを要求するっす!」

 

 自分から聞いておいてこれである。

 これぞナザリッククオリティ!

 

「明日は帝国の魔法学園に行くから夜通しとかは無理だよ」

「私もついてくっすからそれくらいわかってるっすよ。それでも三回くらいは、いいっすよね?」

 

 拘束を緩め、耳たぶをカプリとした。シャツのボタンを外して中に手を入れ、胸板をさわさわしながら甘えた声でおねだりする。

 ルプスレギナがおにーさんとエッチまでするのは、平均して三日に一度くらい。手や口だけだと三日で五回くらい。今日はその三日振り。手や口はおにーさんの方から頼まれるのだけれど、エッチまでは自分からおねだしりないとあんまりしてくれないのだ。

 

 おにーさんが立ち上がってルプスレギナが蕩けた顔を見せたその時である。

 まことに無粋なことに、球形の暗い扉が開かれた。

 

「アルベドが呼んでるでありんす。早く来なんし」

「はい、ただちに!」

 

 ルプスレギナは、あっさりと袖にされました。これから濃厚エッチだと言うのに、さすがに面白くありません。ですが、階層守護者であるシャルティア様へ物申すことは出来ません。まして、アルベド様からのお言葉なら尚更です。

 以前、シャルティア様にエッチの邪魔をされたことを思い出して、またしばらくお預けになるのかと思ってがっくりきました。

 

「明日の学園訪問は取りやめ。ルプーから伝えておいてくれ」

「……わかったっす」

 

 

 

 

 

 

 ナザリックに入るには、第一階層から入るか、表層部のログハウスにある魔法の扉を潜るのかのどちらかをしなければなりません。

 今回はアルベド様にお呼ばれされているので、魔法の扉をくぐって第九階層へ直行しました。ログハウスではユリが何か言いたそうにしていましたが、シャルティア様の邪魔をするわけにはいかないので黙っていました。

 さくさくと進んでアルベド様のお部屋の前。

 シャルティア様がドアを叩くと内側から開かれました。

 

「連れてきんした。折角わざわざ帝都まで行って連れてきんしたでありんすから、終わったら私の所によこしなんし」

「……………………わかったわ。お前は早く入りなさい」

「はっ!」

 

 若旦那様は、ドアの前で跪いておりました。

 アルベド様は余りにもお美しいので、目を慣らしていない状態で直視し続けると目が潰れてしまうのです。

 

 久しぶりにお会いするアルベド様は、やはり光を放っておられました。

 世界の隅々まで照らす真の美の光です。

 

 今夜のアルベド様は、特別な装いではなく、いつもの白いドレスをまとっておりました。

 ドレスに意思があるならば、アルベド様にまとってもらえる光栄に歓喜の歌を永劫に歌い続けることでしょう。

 

 アルベド様のお部屋は、前回の訪問時と変わらない様子です。

 部屋をジロジロと眺める不躾を犯さず、姿勢を正して直立し、アルベド様に向き直りました。

 怜悧な眼差しも、ふっくらと赤い唇も、長い睫毛も、完全に滑らかな完璧な頬も、何から何まで間違いなく前回お会いしたときよりも輝いておりました。

 ところが、それらが形作る表情からは、少しだけ険しさを感じられました。

 どこかしら余裕がないような、切羽詰まった何かを感じるのです。

 

 アルベド様は眉間にわずかな皺を刻み、呼び寄せた男へ近付きます。

 何も言わず、男の頬を両手で包みました。

 

「んっ……」

 

 流れるように、唇へ唇を重ねました。

 キスの作法として、アルベド様のお体を抱きしめるべきと思い手を伸ばそうとしたのですが、動きません。動けないのです。全く力が入りませんでした。

 

「んんっ…………ちゅぅ……、あむっ……、んっふぅん……」

 

 唇を重ねられ舌を差し込まれ、強く吸われています。

 唾を啜られているのではなくて、精気を吸われているのです。

 猛烈な勢いで吸われています。

 限界を超えて吸われています。

 精気を吸われきった後は生気です。

 命を吸われているのです。

 

 全身から血の気が引いていきました。

 第三者がこの場を見ていれば、男の肌の色が、真祖の吸血鬼であるシャルティアと同じ白磁の色に変わっていることに気付いたことでしょう。

 立っていられなくなり、足腰から力が萎えていきます。

 その場に崩れ落ちてしまう前に、アルベド様からベッドへ押し倒されました。

 それでも唇は離れません。

 命が吸われ続けています。

 

 精気は尽きて、生気も尽きようとしています。

 ああ、アルベド様に命を捧げるなら本望、と。己の最後を彩る光栄に思いを馳せました。

 

 やがて、手足がピクピクと震え始めます。

 生ある者が死の門を潜るときに現れる断末魔の痙攣です。

 

「ぷはっ!」

 

 完全に向こうへ行ってしまう前に、アルベドは唇を離しました。

 すぐさま用意してあるポーションを飲ませます。

 ナザリック製ポーションは凄いのです。死にそうだった男は、瞬時に元の健康状態を取り戻しました。

 

 

 

 男を押し倒した姿勢のままのアルベドは、久々の精気を堪能してようやく表情を崩した。

 二人の唾が混ざり合ったものが唇を濡らしている。妖艶に舌なめずりをして、舐めとった。

 

「やっと人心地つけたわ」

「……はい、お役に立てて光栄です」

「まだよ」

 

 もう一度唇を合わせた。

 今度は精気を吸ったりしない。ちゅっちゅと唇を合わせるだけのキス。

 五回十回と繰り返して、合わさっている時間が長くなる。

 キスの作法として、自らにのし掛かるアルベドの腰を抱いた。

 腰から生える黒翼の上と下。

 

 アルベドは、伸ばしていた翼をたたんで男を包むと、男を抱きしめながら転がった。

 上下が逆になり、アルベドが下、男が上。

 

「あなたに抱いて欲しいの」

 

 白いドレスグローブを外してベッドの外へ放り投げた。

 

「いっぱいキスして」

 

 ドレスに合わせた繊細なネックガードに、その上から胸元まで覆う金糸のアクセサリも投げ捨てる。

 

「私を、犯して」

 

 ドレスの襟をずり下ろした。豊満な乳房がこぼれでる。

 

「いっぱい犯して。あなたのおちんぽを私のおまんこに奥まで入れて。私の中でいっぱい射精して。私の子宮をあなたのおちんぽみるくでいっぱいにして」

 

 上になった男を抱きしめる。

 形のよい唇を、男の耳に寄せた。

 これだけは、小さな声で囁いた。

 

「私を……、愛して」

 

 否も応もない。

 ずり下げられたドレスを更に引き下げれば、腰の黒翼に引っかかることなく、するりと上半身が裸になる。尻を持ち上げさせてスカート部も脱がせた。

 

 美を司る美神が、自分の体の下で全裸になっている。

 犯して欲しいと訴えている。

 愛が欲しいと求めている。

 

「かしこまりました」

「最低でも十回よ」

「……かしこまりました」

 

 アルベド様がお相手なら何度でも。

 

 長い夜が始まった。



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長い夜 ▽アルベド♯13

 アルベドは、上に乗る男のシャツの襟を掴むと、そのまま乱暴に脱がした。

 

「!?」

 

 一瞬で男の上半身は裸にされた。腕の部分をどうやって抜いたのか、全くわからない。サキュバススキルによる脱衣は、物理を超越して服を脱がすことが出来るのだ。

 

「こっちもよ」

 

 アルベドがズボンに指を引っかけたと思うと、下半身に開放感。こちらも一瞬で脱がされてしまった。

 押さえつけられていた物が勢いよく跳ねて下腹を打つ。

 長い逸物はへそまで届いた。

 

「うふふ、とっても元気ね♡ 私とキスして大きくしちゃったの?」

「いえ、違います」

「……それじゃなによ?」

 

 精気を吸収した後、官能的なキスを繰り返した。

 唇で唇の感触を味わって、思う存分に舌を絡め唾をすすり、溶け合うようなキスだった。

 それだけで、アルベドは感じたのだ。期待に疼き、迎え入れようと潤み、抱き締められたときは軽く達した。

 互いに感じていたと思ったのに、感じていたのは自分だけ。

 眉間に皺を寄せ、のし掛かる男を睨みつけた。

 

「アルベド様のお姿を目の当たりにした時からこうでした」

「…………もう! 仕方ないわね♡ それだけ私が魅力的すぎるのかしら?」

「アルベド様の美しさは言葉に表せるものではありません。アルベド様の美しさは精神を越えて肉体へ直に影響してしまいます。アルベド様に見詰められると……。それ以前にも呼び出された用件を察しますと……」

「ふぅん? あなたは私に見つめられるとおちんぽを立たせちゃうの?」

「……はい」

「私とセックスできると思ってここに来たの?」

「仰るとおりです」

「その通りよ。アルベドはぁ……、あなたといっぱいセックスしたいの♡」

 

 言葉こそ詰問調が混じったが、アルベドの顔は蕩けている。

 唇は緩やかな笑みを作り、頬は興奮と期待に上気して赤く染まり、黄金の目は潤んでいる。

 舌なめずりをして男を抱き寄せたいところをちょっとだけ我慢した。

 

「ねえ……、あなたのおちんぽが欲しくて、アルベドのおまんこ、もう濡れちゃってるの……」

 

 ついと男を押して体を離し、アルベドは股を開いた。

 入れやすいように両膝を立て、両手を脚の付け根に伸ばした。

 

「ほら……、もうこんなに」

 

 開き掛かっていた割れ目に指を添え、両側からくぱあと開く。てらてらと濡れ光る内側は、輝けるピンク色。

 男が唾を飲み込むのに同期して、アルベドの下の口は涎を垂らした。

 少し粘り気がある透明な涎は、尻の割れ目に沿って流れシーツを湿らす。

 

「アルベドのおまんこが、あなたのおちんぽ欲しいって言ってるわ。あなたのおちんぽしか入れたことないアルベドまんこよ。どう? おいしそうでしょう?」

 

 返事は返ってこなかったが、男の視線が自分の股間に釘付けになっているのを見て感じて、アルベドの唇は淫靡な弧を描いた。

 

「おまんこだけじゃないわ。アルベドも……、私もあなたのおちんぽが欲しいの。あなたが欲しいの。あなたとセックスしたいの♡ ねえ……、きて……」

 

 正気を失ったように、男がアルベドの体に覆い被さった。

 逸物に手を添えて位置を合わせなくても、最早処女ではないアルベドなら問題なく挿入できる。

 腰だけを使って位置を合わせ、亀頭をアルベドの雌穴に潜り込ませた。

 左腕はアルベドの体を抱き締めて、右手は二人の体の間に滑り込ませてアルベドの豊満な乳房を鷲掴みにした。

 

「ああん、入ってきてるわぁ。あなたのおちんぽ、おっきなおちんぽ。アルベドまんこにぬぷぬぷって……、そうよぉ、おっぱいもいっぱいするのよ」

 

 男の一部が、アルベドの中を抉り最奥目指して突き進んでいく。

 アルベドの肉ひだは明確な意志を持って男の逸物に絡みつく。肉棒へ隙間なくぴたりと密着しながら官能的に蠢いて、奥へ奥へと取り込もうとしている。

 

 挿入がゆっくりなのは、達してしまわないためだ。

 アルベドの膣内は温かく柔らかく、それでいて程良く締め付け、なめらかな肉ひだが絡んでくる。

 始まったばかりなのに、このまま奥まで入れてしまえば暴発してしまう予感があった。

 

 それもそのはず、アルベドはスキル全開である。

 己の絶頂を代償に射精を強制する覚醒した真なるサキュバスの淫術スキル。下腹に刻まれた淫紋が、今か今かと妖しい光を放っていた。

 尿道口が子宮口にキスした瞬間に熱い精液を搾り取るのだ。

 サキュバスにとって、中出しは本番ではない。本番にして前戯である。

 

「あんまり焦らさないでぇ。はやく奥まできて。おちんぽ奥まで入れて。アルベドと一つになって♡ アルベドのおまんこで、あなたのおちんぽをいっぱいいっぱい気持ちよくしてあげるわ♡」

 

 焦らしていたわけではなかったが、そうまで言われてゆっくりはしていられない。

 ここで射精してしまっても、アルベド様のお望みである十回まで残り九回。無限に思えるほどの回数を味わうことが出来る。

 直前に飲ませていただいたポーションの効果で、体調は万全。十回程度は問題ない。

 アルベド様がお相手なら、たとえ何回目であろうと、新鮮な興奮と快感を得ることが出来る。

 なんだかんだいって射精は気持ちいい。それもアルベド様の中に、なのだ。

 

 アルベドの股間に突き刺さる逸物は、根本まで指三本ほどの隙間があった。

 正常位でその三本分の隙間を埋めると、アルベドの子宮口に男の亀頭が届く。アルベドの膣の深さは、男の逸物の長さとぴったりだった。

 

 男が体を倒して完全にアルベドの上に重なって、右手も左手もアルベドの手を握りしめた。

 指が相手の指の股へ入り、手のひらをしっかりと合わせる恋人握り。

 

「ちょうだい♡」

 

 アルベドはあどけない童女の笑みを浮かべ、長い脚を持ち上げて男の腰に回した。逃がさないよう足首同士を絡めてロックし、けども自分から男を引き寄せたりはしない。

 男が男の意志で奥まで入れてくれるのを待ちかまえ、

 

「あはっ……………………?」

 

 男が最奥まで入ってきた。

 逸物の尿道口が子宮口に口付けし、スキルを解放することによって射精を強制しようとしたのだが、男は射精しなかった。

 サキュバススキルに耐えたのではない。耐えられるものではない。アルベドがスキルを使わなかったのだ。

 

「……なにを?」

「……………………」

 

 アルベドは真顔になった。

 真顔で男の体を押しやって逸物を引き抜かせた。

 

「おおっ!?」

 

 直後、天地逆転。

 体位を変えることくらい、サキュバスには造作もないことなのだ。

 しかし、挿入はしない。

 アルベドは、大の字に横たわる男の脚の間にぺたんと座り、自分の愛液に濡れて雄々しくそそり立つ逸物に目を落とした。

 

「今度は誰と寝たの?」

「!?」

 

 

 

 剣の達人は、剣を見るだけで剣の履歴がわかる。具体的に言うと、いつ何を斬ったかがおぼろげに把握できるのだ。斬ったモノが人であれば確実にわかる。

 ならば、おちんぽの達人はどうか。

 

 淫化覚醒を果たしたとても淫らでとても美しい大淫魔であるアルベドは、挿入されきった瞬間に自分を犯している逸物の履歴を感じ取ってしまったのだ。

 このおちんぽは自分の知らない女と寝ている。

 主人として、断固として把握しておかなければならない。

 

「はい。一人は……」

 

 聞かれれば、話してはまずいことも素直に話してしまう駄目な男である。

 正直に話してしまった。

 

「……そう、シャルティアのシモベの」

 

 シャルティアがこの男に自分のシモベをつけたのはアルベドも把握している。

 シャルティアが取り立て、恐れ多くもアインズ様がお褒めの言葉をお与えになっただけあって、ヴァンパイアブライドとしては、まあそれなりに見れる女だ。そのようなことがあっても不思議はない。

 

「他には?」

 

 しかし、それだけではないことをアルベドは感じ取った。

 

「アウラ様です」

「アウラ!? あのアウラ!? 絶対無理でしょう!!」

 

 予想外にもほどがある人物。

 どう考えてもどう無理をしても、アウラにこれの挿入は不可能だ。

 そもそもあのアウラに興奮するような男なら、適切な教育を施す必要が出てくる。

 

「アインズ様から一時的に大人の姿になれるアイテムを頂いたようです」

「アインズ様が……」

 

 アウラはセックスをしたくてアインズ様からアイテムをねだった、と言うのはいくら何でも考えにくい。ナザリックのシモベが己の欲望を満たすためにアインズ様を利用することは絶対にあり得ないと断言できる。

 ならば、アインズ様はアウラがセックス出来るようにとアイテムを下賜されたことになる。それ以外に考えられない。

 アインズ様がお心の広いお方だと知ってはいたが、まさかアウラに斯様な欲望を満たすためにアイテムを下賜なさるとは。

 ご自身がそちら方面への欲求を持ち合わせていないので、その代わりにシモベたちは思うように振る舞えと言うことなのだろうか。

 

「まあ……、いいわ。それで、大人になったアウラはどうだったの?」

 

 アインズ様のお心を推察するのはひとまず中断して、アウラのこと。

 今はまだまだ幼いアウラだが、順調に成長すれば美しい女になるだろうとはアルベドも思っている。

 女として、まだ見ぬ美しい女がいるというのはどうしても気になってしまう。

 

「アウラ様はダークエルフですので、エルフの女性同様に膣が深かったです。挿入すると包まれるように感じました。こなれていない処女だったので固さは否めませんでしたが」

「………………」

 

 違う。そうじゃない。

 中身より外見。顔だとか体とかを聞きたかったのだが、全く伝わっていなかった。

 

「勿論、アルベド様には及びません」

「………………」

「それが何か?」

「………………」

 

 アルベドは、はたと気付いた。

 ここでアウラが美しかったかとか、体の肉付きはだとか、おっぱいはどうだったとか聞いてしまうのは、まるで嫉妬をしているようではないか。この男にとって、いつだって自分が一番で特別のはずなのだ。

 それなのにアウラがどうのと聞いてしまうのは信頼への裏切り、程度ならまだいい。それどころではない。この男の前だと自分はナザリックの守護者統括ではなく、ただの愚かで浅はかな女になってしまうと認めるようなものである。

 そんなことは絶対にあってはならない。

 しかし、胸中に湧いてきた暗い靄を、見て見ぬ振りは出来ない。

 

 

 

「アルベド様?」

「なあに? いや?」

「いえ、けしてそんなことはございません」

 

 アルベドはベッドに脚を崩して座ると、むちむちの太股に男の頭を乗せてやった。

 膝枕である。

 

 何があろうと自分への忠誠は揺らがないだろう。

 だからこれは自分を納得させるため。

 たっぷりと甘やかしていい思いをさせ、自分から離れなくさせるのだ。

 

「私のおっぱい、いっぱい吸っていいわよ? ううん、吸って欲しいの。あなたがもみもみするからぁ、乳首がこんなに腫れちゃったわ。いっぱい吸わなきゃダメよ? あんっ♡」

 

 顔の上にはアルベドの豊かな乳房。たゆんたゆんの柔らかい乳肉の先端で、ルビーのように赤い乳首が光っている。

 いやらしく勃起して、つんと自己主張している。

 アルベドは体を少しだけ倒して顔に乳房を近付け、それだけでなく頭を優しく抱え持った。

 口を開けば、赤子へ授乳するように乳首を含ませた。

 

「んふふ、ちゅうちゅう吸っちゃって。私の乳首はそんなに美味しいのぉ? あっ、コリコリしちゃいやぁ……、乳首で感じちゃうわ♡ 私ね? あなたにおっぱいを揉まれたり吸われたりするのを想像しながら……、いっぱいオナニーしてるのよ? 自分でおっぱいを揉んだり、自分で乳首を舐めてみたり。そっ、そんなことしてたら、……乳首で、イケるようになっちゃったのぉ♡」

 

 乳首を吸って、もう一つの乳首は指で摘まんだ。

 舌で味わう乳首はなめらかな舌触りが、摘まんで転がす乳首には柔らかさの中に弾力が。

 アルベドのいやらしい告白を聞けば吸い付きに熱が入る。

 強く吸って甘く噛み、摘まんでいる方は潰れてしまえとばかりにキツく抓る。

 アルベドは、抱える頭を一層強く胸に押しつけた。

 

「あふううぅ………………。いま、いっちゃった……。乳首をきゅうってされてイっちゃったのぉ。おまんこがぴくぴくしておつゆが出ちゃってる……。わたしだけじゃなくて、あなたも気持ちよくしてあげる♡」

 

 膝枕で乳首を吸わせたまま、アルベドは右手にたっぷりと唾を垂らした。

 唾をこぼさないよう、右手が伸びる先は男の股間。

 股間の逸物は萎える気配なくそそり立っている。ただし、挿入によって塗りたくられたアルベドの愛液は乾きつつあった。

 にちゃり、と。自分の唾を逸物に塗りたくる。太い竿をしっかりと握り、根本から鋭いカリまで上下に扱く。何度か上下させると、唾が小さく白く泡立ってきた。冷たかった唾が逸物の温度に馴染んできた。

 固さも太さも知っている。熱いのも知っている。

 それなのに、逞しい逸物に新鮮な驚きを感じた。胸が高鳴って体が疼いて、動く心をなんと言えばいいのか、感動に近しいものがあった。

 

「おちんぽすごいわ……。こんなに大きくて、こんなに固くて、こんなに熱くって……。ダメ……、おちんぽさわってるだけでイっちゃいそう……! んっ! ああんっ♡ ちくびぃ、わざと強くしたでしょぉ? すごいよかったわぁ♡」

 

 抱え持つ頭を離して膝に乗せ、めいっぱい体を倒してちゅっちゅとキスを送った。

 その間も逸物を扱き続ける。

 激しく、時に緩やかに。緩急をつけて、快感は与えるけども射精まではさせてやらない。

 

「アルベド様……、そろそろ」

「……仕方ないわね! 私の手にいっぱい出していいわ♡」

 

 射精させるつもりはなかったのに、一言訴えられたら許してしまった。あんな顔で求められたら仕方ない。

 上下する動きを速めてやり、キスを中断してもう一度口へ乳首を含ませてやる。キスをしながらの手コキもいいが、射精の瞬間を見てみたかった。

 手に伝わる脈動から、そろそろだと判断した。その瞬間、根本で小指と親指が輪を作り、きゅっと締め付けた。射精を阻まれた男が微かに呻く。

 締め付けを解放すると同時に、細い中指で裏筋をすっと撫でた。栓を抜くような仕草だった。

 限界まで溜められていた熱が迸った。

 

「ああ……すごいわ! おちんぽみるくがこんなに!」

 

 手を離せば反り返ってしまう逸物を、アルベドはきちんと真上にしてから射精させた。

 吐き出された精液は、反らせたままだとアルベドの顔まで届きそうな勢いがあった。

 射精は長く、第一射が飛び散った後も、断続的にぴゅっぴゅと噴き出している。

 次第に勢いが衰えて精液は逸物を伝い、根本を押さえているアルベドの手を汚し始めた。真上に飛んだ精液も、男の下腹へと落ちてきた。

 手を精液に汚したまま、アルベドは萎えきらない逸物を数度扱いて最後の残滓を絞り出した。

 

 男が、ふうと息を吐いているのを聞きながら、アルベドは右手を開く。

 粘塊が混じる精液が重そうな糸を引き、自重で千切れた。おもむろに口へ運んだ。

 

「んちゅっ……、やっぱりあなたのおちんぽミルクってとっても美味しいわ。私が全部綺麗にしてあげる」

 

 指の一本一本を丁寧に舐めてから、男の体へ覆い被さった。

 小さな乳首を可愛がってやろうとも思ったが、精液の誘惑には抗しきれない。ちゅっちゅと唇を落としながら男の下半身へ。

 へそを過ぎたあたりから、ところどころに精液が落ちている。ちゅるりと吸い付き飲み込み、あらかた舐め終わると最後は一番汚れているところへ。

 勃起を維持しているが、射精直後なのでいささか柔らかくなった逸物にしゃぶりついた。

 ちゅうちゅうと吸い付きながら頭を下げ、ふっくらとした唇が根本を挟んだ。

 

(おちんぽみるくが美味しい……。おちんぽが美味しい……。わたし、人間の男のおちんぽしゃぶってる。おしっこも出る汚いところをしゃぶってる。おちんぽなのに、汚いところなのに、どうしてこんなに美味しいのぉ? ……でも、この子のおちんぽだったら幾らでも舐めてあげたい。わたしのお口で気持ちよくさせてあげたい。そうすればまた美味しいミルクが出てくるしぃ……。そう言えばこの子、わたしのおしっこ飲んだのよね。わたしのおしっこだなんて……! ああ、ダメよアルベド! おしっこ飲まれたの思い出してどうして興奮してるの!? …………ソリュシャンはこの子のおしっこ飲んだのよね、私が飲ませたわけだけど……。ダメよダメ! 私はそこまで変態じゃないんだから!)

 

 ダメと思いながらも、サキュバスの本能は正直だった。無意識にスキルを発動していた。

 射精が自由自在なのだから、排尿だって出来てしまう。出来てしまった。

 

「んんんっ!?」

 

 突如、口内に湧き出る温かくてさらさらとした液体。

 

「あ、アルベド様!?」

 

 男の訴えには耳を貸さない。

 逸物に吸いついたまま、一滴もこぼさずこくこくと喉を鳴らす。

 精液よりもずっと量が多い。代わりにこちらは粘ついたりしないので、苦労せずに飲み込むことが出来る。

 射精の時と同じように、根本からカリまでゆっくりと扱いてやり、唇は亀頭から離れない。お掃除フェラの要領でちゅうちゅうと吸っている。

 

「アルベド様…………」

 

 出してしまった。

 精液ならアルベド様のお望みであるが、小水はさすがに違うと思われた。

 ラナーには散々掛けられて飲まされて、掛けさせられて飲ませたりしたわけだが、アルベド様がそのようなことをお望みになったことは一度もない。

 するつもりはなかった。しかし、突然の排尿感は全く我慢することが出来なかった。明らかな異常は、アルベド様のお力であると察しがついた。そのようなことは仰らなかったが、アルベド様のお望みであったのだ。

 そこはやはりラナーとは違って奥ゆかしくてお上品なアルベド様であるので、顔に掛けさせることなく直に飲んでいらっしゃる。

 終わっても、アルベド様は口を離さない。

 口に含んで吸いつくだけだったところへ、舌の動きが加わった。そんなことをされれば立ってくる。

 自分も応えなければならない。目の前にアルベド様の股間があるのだから。

 

「あんっ♡ ちゃんとわかってるわね。アルベドのおまんこいっぱい舐めて。いっぱいペロペロしたら、アルベドのエッチなおつゆをいっぱい飲ませてあげるわ。んふふ、あーむっ……、ちゅっちゅっ、れろぉ……。私もあなたのおちんぽいっぱいしゃぶってあげるからぁ♡」

 

 形よい大きな尻を撫でながら、顔を上げた。上げたそこには覚醒したサキュバスの熟れた秘部。

 一度挿入したので、十分すぎるほどにとろけている。割れ目を開いて淫靡な肉を見せつけ、雌穴は小さく口を開いて仄暗い奥を覗かせている。

 刺激はいまいちとわかっていながら、舌を差し込んだ。舌を尖らせ膣へ差し込み、媚肉を内側から味わった。奥へ奥へ入りたくなる雌の穴なのだ。

 すぐにでも挿入したくなる。

 

「んむぅっ!」

 

 そんな思いが腰を浮かせ、亀頭がアルベドの喉奥を突いた。

 アルベドはケホケホとむせるが、大して苦しいものでもない。

 

「おまんこに入れたくなっちゃったの?」

「はい」

「私のおまんこにおちんぽ入れたいの?」

「はい」

「さっき私に飲ませたおちんぽミルクを私の中で出したい?」

「はい」

「私のおまんこで射精して、私のお腹の赤ちゃんの部屋を精液でいっぱいにしちゃいたい?」

「はい」

「私の赤ちゃんの部屋なのよ? もしも私が吸収しきらなかったら赤ちゃんが出来ちゃうかも知れないのよ?」

「はい、存じております」

「それじゃあ……、わたしを孕ませたい?」

「そんな、恐れ多いことを……」

「正直に言いなさい」

 

 最初の体勢。

 アルベドが下で男が上。

 体は重なって、アルベドは男の首筋に両腕を回している。

 淫らなサキュバスの顔で、男を求める女の顔で。

 

「……はい」

「いいわよ? それじゃあ……、こう言いなさい」

 

 男の耳へ唇を寄せ、小さく囁いた。

 男が小さく震えたのは、驚いたからだろうか。

 

 アルベドは淫靡に笑って、男は真摯に見つめ返した。

 

「あなたを俺だけのものにしたい」

「ええ、いいわ。今だけはあなただけのアルベドよ♡ アルベドのおまんこにたっぷり射精して♡ アルベドの子宮をあなたの精液でいっぱいにして♡」

 

 もう一度、小さな声で耳打ちした。

 

(わたしにぃ…………、あなたの赤ちゃん孕ませて♡)

 

 焦らしたりなんかは出来ない。

 一度目のように、自分を制御することも出来ない。

 熱い肉棒はアルベドの雌穴に潜り込み、熱くとろけた媚肉を抉って、一息で一番奥まで挿入された。

 

「あああぁぁぁああん! おちんぽきたぁ♡ アルベドの大事なところにおちんぽきてるぅ♡ あっ、あっ、あっああん。おちんぽきもちいのぉ♡」

 

 亀頭に子宮口を叩かれたショックで、アルベドは絶頂した。

 スキルを使ったわけではない。心と体とサキュバスの本能が、久しぶりのセックスを貪欲に求めているからだ。

 女の性で、出したら終わりの男と違って何度でも達せる。

 次はもっと深い絶頂を。その次はさらに深く。

 

 守護者統括の身なのだから、まさか本当に孕むつもりがあるわけがない。

 あくまでも雰囲気作りの一環だ。

 自分の体をいいようにされて、犯されぬいて、孕まされてしまう。とても官能的で、被虐心を満たし、興奮と陶酔を与えてくれる物語。

 

「もっと、もっと! もっと犯して! ……そうよ、今の私はあなたのものよ♡ ひゃぁん……、いま、いいところこすったわぁ」

 

 アルベドは大きく股を開いたまま、男には腰を振らせて、自分は豊満な乳房を揉みしだいた。

 繊手が淫らに乳肉をこね、尖った乳首を執拗に摘まむ。転がしては引っ張り、自分で自分の乳首を舐めた。

 一突き毎に、股間が股間にぶつかった。

 男の陰毛が、アルベドの無毛で無垢な股間に擦れる。

 結合部はアルベドの愛液がしとどに濡らし、飛沫となって周囲に散った。

 ベッドの上は、部屋の中は、アルベドの雌の匂いに満ちている。

 男を誘って己の体を求めさせる淫靡な芳香。

 アルベドも酔っていた。

 ずっとご無沙汰で、空虚だった雌穴を満たされている。

 自分を犯す逸物は、太くて長くて、熱くて固くて、圧迫感があるし、充足感が素晴らしい。他では得がたい幸福感。

 文字通りに体を重ねて、きっと心も重なって、二人して新たな地平へ旅立っているような恍惚感がある。

 

「ああっ、だめぇ、クリちゃんだめぇ! わたしのクリちゃんこんなに立ってるぅ! あっはぁん……、自分でしてるのにぃ、オナニーよりずっといいのぉ♡」

 

 乳房だけに飽きたらず、クリトリスも擦り始めた。

 中指に人差し指と薬指を添えて、クリトリスの上で熱心に円を描いている。

 告白したとおり、アルベドのクリトリスは勃起しきっていた。簡単に包皮がむけた。

 

「ふあぁん! あっ、あっ、またイくおまんこイっちゃう!? んむぅ……あっ、ちゅっ♡ ん~~~~~~~っ!」

 

 達する瞬間に、唇を奪われた。

 技巧を使わない情熱的なキス。

 口内の隅々まで舐めようと深く舌が入り込み、たっぷりと唾を飲まされる。

 同時に達した。

 挿入してから七度目の絶頂で、一番深い。

 忘我の恍惚感の中で、子宮口に熱い精液がどぴゅどぴゅと掛けられているのを感じた。

 アルベドの意志によらず、サキュバスの本能が膣を締める。あれだけ愛液を飛び散らせていたのに、精液は一滴もこぼさない。

 逸物に絡みつく肉ひだが絶妙に蠢いて、最後の一滴まで搾り取り、全てを子宮へ導いていく。

 

「出てる……。私のおまんこに射精したのね? 濃ゆいおちんぽミルクがいっぱい来てるわぁ♡ 私の赤ちゃんの部屋目指して奥へ来てるのがわかるわ……」

「……はい、アルベド様の中で……」

 

 二度目の射精だ。それもアルベドの中に。

 強い快感ゆえの虚脱感があった。しかし、まだまだ二回目である。十引く二は八なのだ。

 

「わたしのおまんこが気持ちよかったのね。わたしも気持ちよかったわ♡ でもぉ、まだ終わりじゃないわよ?」

「……はい。……っ」

「うふふ……。アルベドのおまんこは気持ちいいでしょう?」

 

 精液の吸収が終わったらしく、締め付けが緩んだ。

 代わりに、単なる締め付けとは違う包み方。まるで口淫をされているような、温かくて、柔らかいを越えた滑らかな刺激。

 

「ねえ……もっと犯して♡」 

 

 甘えた声で囁いた。

 くすくすとあどけない笑い声。

 うふふと妖艶な笑い声。

 

「わたしの中でおちんぽがまた固くなってきたわ。今度は私がしてあげる♡」

 

 

 

 射精は二回でもセックスは次が二度目。

 二度目はアルベドが上になった。

 男の股間に跨がって、ゆっくりと腰を振る。

 ところどころで動きが止まり、そんなときは小刻みに腰を使う。

 膣内に入ってる逸物で、感じやすい所を擦っているのだ。

 それ以外にも理由はある。

 アルベドが上の騎乗位なのは変わりないが、男へ背を向けた背面騎乗位。その上やや前傾姿勢になっている。

 男からは、逸物がアルベドの秘部に飲み込まれて、また引き抜かれて淫液にまみれた姿を現し、またアルベドの中へ入っていくところがよく見えた。アルベドの顔が見えないのは残念に思ったが、とても官能的な光景だ。

 アルベドは、男へいやらしい姿を見せて興奮させようと思った、わけではない。

 腰を振りながら、時折物言いたげに振り返った。

 

「あひゅん……、そこ違うのぉ♡ そこお尻の穴なの……、ひうっ……お尻の穴に指入れちゃだめぇ♡」

 

 これ見よがしに、肛門を見せつけていた。

 入れろと言うことである。

 期待に応えると、アルベドは大いによがった。

 そのままアルベド上位で二度目を果たし、三度目になる前に、

 

「あぁんっ! ひうぅっ……はっ…………あああぁん! ああああああぁぁあああっ!!! おまんことお尻を同時だなんてええぇぇぇぇぇっ!! だめだめだめぇっ! 中でコリコリしちゃらめえぇぇ! アルベドこわれちゃうぅうう♡」

 

 ユリで復習した二穴責めを楽しんでいただいた。

 とても高評価のようで、アルベドは腰を浮かせてガクガクと震えながら大いに叫んだ。

 視界が明滅する深イきだったが、覚醒したアルベドは気絶なんてしないのだ。

 

 三度目はもう一度正常位。

 四度目はベッドから降りて、アルベドが壁に手を突く立ちバック。

 五度目は口淫でアルベドの口の中に。アルベドにもたっぷりとクンニをしたのだが、精液は全て吸収しきったようでアルベドの匂いしかさせなかった。

 

 

 

 六度目が始まろうとした時である。

 

「あら?」

「……失礼しました。夕食から大分時間が経っておりますので」

 

 男の腹が鳴ったのだ。

 飲食不要のアイテムを装備しているわけではないので、時間が経てば普通に腹が減る。たとえそのようなアイテムを下賜されようと、食事の楽しみを捨てる選択肢はない。

 

「仕方ないわね。何か食べてらっしゃい」

 

 今日はサキュバススキルをほどほどに封印したナチュラルなおセックスである。

 スキルをふんだんに、と言うのも良いのだが、こちらの方が愛し合ってる感があって満足度が高いのだ。

 しかしスキルを使わないと、精液は男の体力次第になる。お腹が減ったままでは精液もいまいちになってしまう。

 

「でもそのまま外に出るのはちょっとあれよね」

 

 獣のような悪魔のような、覚醒したアルベドすらよがり狂うセックスの後である。

 男の全身はアルベドのアルベド汁にまみれていた。

 下腹から下半身は当然だし、クンニリングスもたっぷりしたので口とその周辺も。

 全身からアルベドの匂いを立ち上らせている。

 いつものアルベドの仄かに香る上品な香りならまだ許容範囲だろうが、アルベド汁の匂いである。

 人前に出てはいけない匂いをさせていた。

 

「ちょっと体を洗ってから行きなさい」

 

 ナザリック第九階層ロイヤルスイートにあるアルベドの部屋である。

 バスルームくらい当たり前に備えている。

 

「私が洗ってあげるわ♡」

 

 白くてトロトロしたボディソープをぴゅっぴゅと乳房に掛けて、両手を使って泡立たせた。

 おっぱいで洗ってあげるのだ。

 いかに大切で他では得難い自分の男だろうと、平時ならここまでサービスしてあげない。アルベドは栄えあるナザリックの守護者統括なのだから。

 久し振りの精気と濃厚な精液と、それよりもずっとずっと濃厚で幸せなセックスをたっぷりした後なので、これくらいはと思ったのだ。

 

「またおっきくなっちゃったわね♡」

 

 乳首を立たせながら、男の体へ乳房を擦り付け、さっきのセックスのどこが良かったかを事細かに話し、時折かすれたあえぎ声をあげ、とどめに男の逸物を乳房の谷間に挟んで扱いてやるのだから、立たないわけがない。

 

 シャワーで泡を流し、男はアルベドを抱き寄せた。

 アルベドの片足を持ち上げさせ、自分は腰を落とす。

 互いに立ったまま、挿入した。

 

「あん、この体位じゃちゃんと奥まで来ないわ……。んっふぅ……、いつもと違うとこにあたってるぅ」

 

 不安定な姿勢なので激しい動きが出来ない。

 じっくりと味わう交わり方。

 アルベドは男の逞しさを、男はアルベドの柔らかさを。

 挿入してから射精するまで、ずっと唇を重ねていた。

 六度目は、今までで一番長かった。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ行ってらっしゃい」

 

 男を送り出して、アルベドはひとまずベッドを直した。

 シーツには一滴の精液もこぼれていないが、アルベドのアルベド汁のシミが大変なことになっている。

 セックスしていた時は良くても、してないまでこのままにしておくわけにいかなかった。

 

「んふふ……♡」

 

 アルベドは全裸のまま。

 妖しいピンク色に光る淫紋を撫でた。

 その奥には、男の精液がたっぷりと収まっている。

 五回目までは全て吸収し、六回目はそのままだ。

 食事から帰ってきたら続きが出来るとわかってはいても、吸収しきってしまうのは勿体ない。

 ずうっと入れられていたので、まだ入っているような気がする。

 気分だけではなく、男の名残を残しておきたいのだ。

 

 ベッドメイクが終わり、白いドレスをまとう。

 食事をとるのに十分過ぎる時間が経っているのに、男はまだ帰ってこない。

 もしかしたらシャルティアに捕まったのではと考えた。

 節操がない淫乱偽乳吸血鬼はこれだから云々。

 

 乱暴にドアが叩かれた。

 

「ちょっと長すぎでありんしょう!? いったい何時までやってるんでありんすか! 早く私のところによこしなんし!」

「シャルティア? ……あの子はシャルティアが連れていったのじゃなかったの?」

「何を言ってるんでありんすか? あれはアルベドがずーーっとやりっぱなしなんでありんしょう?」

「……随分前に部屋を出たわ。私はシャルティアが勝手に連れていったのだと思ったのだけど」

「私のとこには来てないでありんすよ?」

「…………」

 

 ナザリックにて、あの子が勝手に行動することはあり得ない。

 シズがご執心らしいが、自分に呼ばれていると答えれば無理強いするシズではないだろう。

 とすると、

 

「アルベド様、失礼いたします。アインズ様がお呼びでございます」

 

 

 

 

 

 

 アルベドの部屋を出て、ドアを閉めた直後である。

 

「……ん?」

 

《ドミネイト・パースン》

 

 あらぬところから飛んできた魔法の光が直撃した。

 

「ついてこい」

「かしこまりました」

 

 連れて行かれたのは、ナザリックにて最も神聖な場所。

 

「全て話せ」

「かしこまりました。私の高祖父、つまり曾祖父の父が幼い頃に祖国を捨てて旅立ったのは」

「そこからか!? そこは普通自分が生まれたところからだろう?」

「左様でしょうか? それでは……、私を身ごもってしまった母は一人で産む決意こそしましたがそんな事が出来る能力も立場にもなく、あっさりと周囲に露見して」

「生まれてないじゃないか!」

「いえですが、私の出生を語るならどうしてもそこから話しませんと」

「…………アルベドと会った時からでいい」

「かしこまりました。私が長く過ごした石の部屋には北側に高い窓が一つあるだけでした。昼でも薄暗く、夜に月の光が入ることはありません。ところがある日のこと、部屋の東側がうっすらと明るくなってきたのです! 今思えば、あれはアルベド様がおわすナザリックの方角で」

「……余計な修飾はいらん」

「余計!? 余計とは何を仰いますか! 私は実際にあったことをお話ししてるだけでございます」

「あーあー、わかったわかった。わかったから、客観的な事実だけを話せ。長くなりそうなところは極力省け。アルベドとの間で起こったことだけでいい」

「………………………………かしこまりました」

 

(めっちゃ不満そうだな。本当に魔法が効いてるんだろうな?)




最後のとこでなんか終わりそうな気配があったと思います
次回、たぶんおそらくきっと弩シリアス
心を強くしてお読みください


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最後の命令

シリアスゲージが溜まるの待ってたらちょっと間が空きました
多分本作最初で最後のシリアス回です


 アインズからの呼び出しに、アルベドは勝ち誇った。

 現在は執務中であろうから私的な用件ではないと思われるが、どのような用件であれアインズは自分を必要としている。それをシャルティアの目の前で見せ付けられることに、優越感が込み上げてくる。

 案の定、シャルティアは悔しそうに唇を歪めてアルベドを睨みつけた。いかに睨みつけようと、アインズに呼び出されたのはシャルティアではなくアルベドであるとの事実は変わらない。

 アルベドは、優雅に立ち上がった。

 

「わかったわ。アインズ様はどちらにいらっしゃるのかしら?」

「ご案内いたします」

「必要ないわ。どちらにいらっしゃるか教えてもらえれば一人で行けるのだけれど?」

「はい、アルベド様。アインズ様はアルベド様をお連れするようお命じになりました」

「……そう。それならお願いするわ」

 

 アインズのために役立てるという胸中の歓びに、幽かな影が差した。

 わざわざメイドを使って案内させると言うことは、自分が真っ直ぐにアインズの元へ向かうことを確認させると言うこと。愛しい君に呼び出されたのだから、脇目もふらずに向かうに決まっている。そこに疑念を抱かれているということ。

 かつてなかったことではない。立場と地位がある者は、全てを合理に任せることなく形式を重んじる。ましてアインズは栄えあるナザリックの支配者。アルベドはナザリックを守護する守護者たちの統括。メイドを使って呼び出すことに、不自然はない。しかし現状、形式を重んじる事柄に見当がつかない。何か想定外の事態があったのかと様々なことを考えるが、もしも急ぎであるならば、メイドを使わずメッセージの魔法を使っているはずである。

 

 メイドの先導で訪れたのはアインズの執務室。アルベドの私室と同じ階層にある。

 メイドは恭しくドアを二度叩いた。

 

「失礼いたします。アルベド様をお連れいたしました」

 

 ドアは開くことなく、内側から応えが返ってきた。

 

(ご苦労様です。あなたは下がりなさい。アルベド様、どうぞお入りください)

 

 ここまで案内してきたメイドは、ドアへ一礼し、アルベドへ一礼し、元来た道を戻っていった。

 

 アルベドの中で、疑念が爆発的に膨らんだ。

 今の声はセバス。魔導国の首都となったエ・ランテルにて、アインズ様の居城を守っているはずである。そのセバスが、ナザリックに帰ってきている。守護者統括にして、アインズが不在の時はナザリックの運営を一手に担っているアルベドは、何も聞いていない。

 自分の知らないことが起こっていることに、膨らんできた疑念が不安に変わりつつあった。

 

「失礼いたします。お呼びにより参上いたしました」

 

 執務室のドアを開けた途端に、不安の霧はかき消された。

 不安とは漠然とした恐怖の予感である。対象の正体が知れない時に限って不安となる。正体が知れてしまえば、最早不安ではない。それは、恐怖である。

 アルベドは、はっきりと恐怖を覚えた。

 

 アインズの執務室には、中央の執務机にアインズが向かっている。

 セバスは壁際にいた。

 並んでコキュートス。

 二人の間に、つい先ほど別れた男が立っていた。いつものように、落ち着いた表情をしている。アインズの執務室で、ナザリックの守護者とランドスチュワートに挟まれていても、エ・ランテルの書斎で読書をしている時のように、初めてアインズへ引き合わせたときのように、何の気負いもなく落ち着いた表情で佇んでいる。

 アルベドは常の微笑を崩し、アインズにもはっきりと見て取れる程度に眉根を寄せた。

 

「何故その者がアインズ様の執務室にいるのでしょうか。まさかあなた、勝手に入ったわけではないでしょうね?」

「よい。私が入れたのだ」

「左様でございましたか。もしやこの者がアインズ様に失礼を働いたのかと」

 

 男を責めるアルベドの物言いに、アインズは無言で手を振った。

 

「失礼と言うほどのものではないな。しかしこいつはアルベドの配下であってもナザリックの外から来た人間の男だ。そんな者が勝手にナザリックのロイヤルスイートをうろついてるのは好ましくない」

「仰せの通りでございます。私から厳しく指導しておきます」

「よい」

 

 どちらの「よい」であるのか。

 非礼を許しているのか。それとも、どうでもよいと言うことなのか。

 

「帝国の官僚が出歩くこともある。尤も、その時はメイドに案内させるがな。うろついていただけで目くじらを立てるものでもないだろう」

「ありがとうございます。その者に代わり、お礼申し上げます。……お前もアインズ様へ」

「よい」

 

 再三遮られた。

 三度目である。これ以上は許されない。

 男へ問いかけるな、喋らせるなとの明確なメッセージであることが、アルベドにわからないわけがなかった。

 

「アルベドも忙しいだろうに、わざわざ来てもらったのはこの男の処遇を決めるためだ。これはアルベドのだからな。私が勝手にするのは不味いだろう?」

「とんでもないことでございます。アインズ様がお決めになったことでしたら、どのようなことであれ謹んでお受けいたします」

「そうかそうか」

 

 アインズの顔に表情はない。一切の肉がない骨の体だからだ。表情はなくとも、声音には喜色が滲んでいるようだった。

 

 佇む男はアルベドの所有物ではあるが、アルベドはナザリックのシモベである。アインズの言葉に逆らうことなど出来はしない。

 その結果、男の生殺与奪の全てはアインズの手に渡った。

 

「有用な男だ。セバス経由でこいつから届いているレポートは中々参考になった。セバス、お前も目にしただろう。どう思う?」

「はっ、アインズ様の仰せの通りでございます。彼の者から提出されたレポートで、効率よくこの土地の文化を知ることが出来たと存じます」

「どちらの言葉も自在に扱える存在というのは、やはり便利だな。だがこいつでなければ出来ないわけではない」

「仰せの通りでございますが、現在のナザリックでは」

「待て。そう焦るな」

「……失礼をいたしました」

 

 アインズに、いつもと変わった様子はない。セバスもコキュートスも、アインズから声を掛けられるまでは彫像のように不動の姿勢でいる。

 何も変わったことはないのに、アルベドは恐怖が渦巻いていくのを感じた。

 清浄なはずの空気が粘性を帯びて肌にまとわりついてくる。皮下に入り込み、心身を侵そうと躍起になっている。

 アルベドはたおやかな微笑を崩さず、アインズの言葉を待った。

 

「時々ではあったが、モモンの気晴らしに付き合わせたこともある。聞き上手な男だ。あれは良い気分転換になった」

「アインズ様のお力になれることは何物にも代え難い歓びでございましょう。もしも私にお命じ下されば」

「そこは男同士の話だ。男だからこそ分かりあえることもある。コキュートス、そうだろう?」

「仰セノ通リカト」

「と、言うわけだ」

「……はい、承知いたしました」

 

 目に見えぬ恐怖が大蛇となり、締め付けてくる。

 大蛇の牙が何を狙っているのか、察せないほど愚かなアルベドではない。叶うならば、避けたい。しかし、全て一蹴されている。元より、アルベドにはろくな手札がない。

 この男は、アルベドが食餌として取り込んだ者。食餌以上の価値を期待していたわけではない。意外に有用であったようだが、そちらの為に使ったことは一度もない。

 ナザリックの支配者であるアインズへ虚偽を申し上げることはけして出来ない。

 だからこれは、賭になる。

 

「その者の頭脳が優れているのはアインズ様もご存じの通りと存じます。間違いなく、この地において最上の智者でありましょう。分野によっては私やデミウルゴスを凌駕しております。アインズ様がお許し下されば、エ・ランテルの統治に活用したいと存じます。現在、彼の地では圧倒的に文官が不足しております。この者が一人いるだけで、目下の問題は解消されるかと存じます」

「ほう……、アルベドやデミウルゴスよりもか。それは凄いな。しかし、そんなに有用ならどうして帝国へ遣った?」

「アインズ様もご存知の通り、多様性への理解が乏しいと思われるためでございます。ですが、そのような分野に関わらないことであればすぐにでも有効に活用できると存じますので、アインズ様からご命令をいただければと存じます」

 

 けして虚偽ではない。

 現地の法や慣習に詳しく、文書作成能力も十分にある。期待した通りの働きをこなすことだろう。

 問題は、そのようなことで一度も使ったことがないこと。使うつもりもなかったこと。

 実際に働かせたときにどうなるかは未知数である。

 それでも、この場でこの男の有用性を主張しなければならない。

 大蛇の牙は、この男の頸を狙っているのだから。

 

「そうか、それもそうだったな。アルベドに過度な負担を掛けるのは私の望むところではない」

「勿体ないお言葉でございます」

「アルベドの負担が和らぐというのなら使わない手はないだろう」

「アインズ様に気遣って頂こうとは何とも恐れ多いことでございます。それでは早速そのように手配を」

 

 アルベドは、唐突に言葉を止めた。止めざるを得なかった。アインズが手を振ったのだ。そこまでだと命じられたのだ。

 皮下に進入してきた恐怖が、心臓を氷結させたと思ったのは単なる幻だったのだろうか。

 

「だが、私を不快にさせた」

 

 アルベドは美しい表情を崩さない。

 内心は微塵も滲ませない。その内心では、ああ、と嘆息した。望みが絶たれた。恐怖がはっきりとした形を作って、顕現したのだ。

 言わせてしまった。言われてしまった。

 言われないが為に、己の為に、避けようとしていた事が訪れてしまった。

 ナザリックのシモベが、アインズの言葉を否定できるわけがないのだ。

 

 それからは全てが定まっていたかのように、事態が流れていった。

 

「コキュートス、どう思う?」

「アインズ様ヲ不快ニサセルトハ万死ニ値シマス」

「セバス」

「はっ、コキュートス様の仰る通りかと存じます。お許し頂ければ私がその者の頸を跳ねましょう」

「ふむ? その前にアルベドの意見を聞かねばな。アルベド、お前はどう思う?」

 

 アルベドは微笑を深め、嫣然とした笑みを浮かべた。

 

「アインズ様を不快にさせる存在など、一瞬たりとも生かしておけません」

 

 アルベドは執務机に向かうアインズに対面している。

 壁際に立つ男へは視線を向けなかった。男がどんな顔をしたか、アルベドには見えなかった。見たいとも思わなかった。

 

「しかし、それはアルベドが折角見つけてきたのだろう? それでもか?」

「勿論でございます」

「そうか、やはりそう思うか。私もいっそ殺してしまおうかとは思ったのだ。私が魔法を使えば一瞬で済む」

 

 アインズが翳す右手から、濃密な魔力が立ち上った。

 

「コキュートスに頸を跳ねさせるのもいいだろう」

 

 コキュートスの手には大太刀があった。

 

「セバスにやらせても一瞬だ。苦痛はない」

 

 セバスは無言で一礼した。

 

「しかしだな。役に立つ男ではあった。だから最後の慈悲に、アルベド」

「はい」

「お前が殺せ」

「かしこまりました」

 

 アルベドは、アインズの命令に間髪入れず答えた。

 

 アインズの方を向いたまま手を下すことは出来ない。

 アルベドは久し振りに、何日も何ヶ月も何年も会っていなかったような感慨を持って、男へ向き直った。

 男の表情は落ち着いていた。

 アインズから魔法を掛けられて正気を失ったようには見えない。目には知性と理性を湛えている。己の処遇が決定したと知っても、男の態度には微塵の揺らぎも変わりもなかった。

 それはアルベドも同じである。

 慈悲と慈愛の微笑を浮かべて男と相対した。

 これから死を与えるというのに、アルベドへ向ける目に恨みも恐怖もない。己が仕える美しき主を敬愛する眼差しである。それなのに、自分はこの男へ死を与えなければならない。ほんの少し前まで体を重ね、愛を囁き合った男だというのに。

 

 一体何がアインズを不快にさせたのかわからない。

 それがわかれば望みはあったのかも知れない。しかし、ナザリックのシモベがそのようなことをアインズへ問い正せようものか。アインズに言わせてしまう前に察せなかった己が愚かなのだ。

 己の愚かさ故に、この男を殺すのだ。

 

 アルベドは微笑を浮かべたまま、虚空から漆黒のバルディッシュを取り出した。

 柄は黒い。刃も黒い。自重だけで人間の首を落とせそうな獲物を、アルベドは片腕で軽々と振り上げた。

 

 刃の先から一歩離れたセバスは、無言で成り行きを見守っていた。

 

(アルベド、気付きなさい。貴女なら気付いているはずです。けっして手心を加えてはなりません)

 

 アルベドは、セバスの忠言など必要なく、とっくにわかっていた。

 この構図は、セバスが裏切りを疑われたときと全く同じであることに。

 

 あの時は、パンドラズ・アクターがアインズに扮していた。セバスは裏切っていないと思われたが、確信には至っていなかったからだ。

 偉大な主の気配を違うアルベドではなく、この場にいるのはアインズ自身であると確信している。裏切りとまでは思われていない。しかし、己の忠誠に疑心を抱かれていると判断せざるを得ない。

 

 あの時、セバスは裏切ってはいないと証明するために、自身が連れてきた人間の女であるツアレの殺害を決意した。セバスが繰り出した拳は、同席していたコキュートスが阻み、ツアレの命が奪われることにはならなかった。

 アルベドはそれを知っている。知っていることを、アインズもセバスもコキュートスも知っている。

 

 振り上げたバルディッシュを、佇む男の脳天へ振り下ろした。

 甲高い金属音が鳴り響いた。

 刃は男へ届かなかった。寸前でコキュートスの大太刀が刃の先に入り、それ以上押し込めない。

 アルベドの刃を止めたコキュートスは、憤怒に燃えた。

 

(軽イ。コノ一撃ハ偽リ! アルベド貴様ァ! ナニッ!?)

 

 コキュートスが止めるであろうことを、アルベドはわかっていた。

 アインズは、アルベドがそうとわかっているであろうことを知った上で命じたのだ。

 シモベとして、主の期待に応えなければならない。

 

 コキュートスが止めなくても、重量のあるバルディッシュの振り下ろしだ。致命傷になる可能性は高かった。

 当たり所と角度が悪ければ、刃が頭蓋に滑って死なないかも知れない。

 死ぬか死なないか、どちらであろうとコキュートスが止めるのはわかっていた。

 故に、コキュートスが感じ取った通り、先の一撃は偽り。確実に死を与えるため、二の矢を放つ必要がある。

 

 バルディッシュがコキュートスに止められるや否や、アルベドは柄から手を離してコキュートスの大太刀をかい潜った。

 右手の五指を揃え、瞬きもせず自分を見つめる男の瞳に、これ以上一瞬たりとも自分の姿を映させないために、己の手で死を送るのがせめてもの慈悲と信じて。

 

「くっ…………」

 

 小さなうめき声が上がった。

 ぽたりぽたりと、床に滴るのは真っ赤な鮮血。

 男の血ではない。アルベドの血でもない。

 セバスが流す血であった。

 アルベドが力を振り絞って繰り出した貫き手は、セバスの手を貫いていた。

 防御主体のアルベドが放つ攻撃を、攻撃主体であるセバスが防御する攻防逆転。盾が矛を貫く矛盾があった。

 

 セバスに血を流させるほどの一撃である。

 プレアデスであっても深手になりかねない。人間が喰らえば絶対に死ぬ。

 

 アルベドは、こうなるであろうとわかっていた。

 我らが崇める偉大なる主君であれば、自分の為すことなど初めから見切っていたに違いない。

 ゆえに、セバスとコキュートスの二者がこの場にいるのだ。

 そして自分がそこまで読み切っていたであろうこともご存じのはずである。

 ゆえに、この場を茶番で終わらせないが為に、期待を上回らなければならない。

 

 

 

 アルベドは、セバスの手のひらを貫いた手を引き抜いて、男の真正面に立った。

 左には大太刀を持つコキュートスが。右には負傷を物ともしないセバスが。

 己の手で男を殺傷することは不可能である。

 だからアインズ様に許されたと思うのは早計が過ぎた。

 攻撃を阻まれたことを、アインズ様のお慈悲と受け取れるほど愚かであれば良かった。

 しかし、違うのだ。

 偉大なるアインズ様は、己の愚考など全てお見通しである。

 手を下さずとも男の命を奪う手段が存在するとご存知である。

 使いたい手段ではなかった。

 何度も睦み合い、唇を重ね、体を重ね、言葉と想いを一つにした愛しい男へ手向ける言葉ではない。

 しかし、アインズ様を不快にさせた存在を許すことなど出来はしない。

 

 ここに矛盾がある。

 パラドクスであれば良かった。パラドクスならば、どちらかしか存在しない。

 しかし、矛盾とは、盾と矛の両方が存在する。矛盾とは矛盾ではなく、対立なのだ。

 盾に矛を突き立てれば結果が出る。

 突き立てるまでもなく、結果は明らかだった。

 この男と愛し合った女である以前に、アルベドはナザリックの守護者統括なのだから。

 

「最後の命令よ」

 

 アルベドは、笑みを浮かべた。

 目の開き方も、唇の角度も、頬の持ち上げ方も、声の高さも調子も、全てを完璧に制御した完璧な笑み。

 美しかった。

 常の微笑とは違う。万人を引きつけて止まない美しい笑み。

 言葉を挟もうとしたアインズすら思わず見惚れてしまうほどに。

 

 最後の命令と一緒に送る最後の贈り物である。

 最後に見せる自分は、今までで一番美しい自分でなければならないのだから。

 

「死になさい」

「たまわりました」

 

 アルベドがアインズの執務室を訪れて初めて、男が口を開いた。

 アルベドの命令を、何の躊躇もなく受け入れた。

 

 

 

 全く持って何の不都合も不可能でもない命令である。

 ほんの数時間前、精気に生気を吸われ尽くし死を覚悟したばかりである。

 それが再びやってきたに過ぎない。

 違いと言えば、奪われるか捧げるか。

 むしろ奪われるよりも捧げる方がより深い忠誠を表すのではないだろうか。

 しかし直後生じた胸の痛みは、十余年の苦痛とデミウルゴスの試しを涼しい顔でくぐり抜けた男をして堪え難いものであった。

 常人であれば苦悶の形相で皮膚が裂けるほど胸を掻き毟るところ、男は顔をしかめるだけだった。

 幸いなことと言っていいのかどうか、この痛みを感じる生ある者は、堪える必要がない。数瞬後には苦痛から解放されるのだから。

 

 見苦しい顔を見せないが為、男は顔を伏せ恭しく頭を下げた。

 そしてそのまま真っ直ぐに倒れた。

 セバスが咄嗟に抱き止める。

 セバスの腕の中で、男の手足がガクガクと痙攣しだした。

 

「しっかりしなさい!」

 

 セバスの叱咤が聞こえたわけではないだろう。

 痙攣は止まった。男の体は、セバスの腕の中で弛緩しきっていた。

 

 セバスが男を床に寝かせ、顔に手をかざし、首筋を指で触れるのを、誰もが注視していた。

 その間のアルベドがどのような顔をしていたのか、誰も見ていなかった。

 

 ややあって。

 

「……死にました。呼吸も心臓も止まっています」

 

 セバスが終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 アルベドの体には、男が放った残滓が残っている。

 サキュバスであるアルベドは、サキュバスのスキルでもって舐めとるように少しずつ吸収していた。

 それを、止めた。

 男が最後に残した命が、アルベドの命と交わろうとしている。

 サキュバスではなく女として、アルベドは交わるに任せた。

 

 アルベドは己の胎に、新たな命が宿るのを感じた。

 戯れの言葉が真実となった。

 この男の子を孕むことが、最後の手向けである。

 

 そうと盲信できるほど愚かであればどれほど良かったことか。

 

 アルベドは、この男が生きた証が欲しかったのだ。




デッドエンド!

……嘘です
ここで終わりにするか、次回は数年経過して、ってのもそれはそれで綺麗な終わり方な気がしないでもないですしそうしようと思ってたときもありました、一話投稿する前のことですが
あと多分二話で完結します


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最初のお願い

最初じゃないかも知れませんが大目に見てやって下さい


「まさか本当に死ぬとはな。一体どうやって死んだ? 毒とは思えんし、こいつは魔法を使えないはず。……いや、それよりも。コキュートス、どう見た?」

「ハッ、疑イナキカト」

「セバス」

「はい、見事な忠誠心でございます」

「うむ、文句なしに合格だ」

 

 アルベドの胸中は複雑だった。絶望と希望と、喜びと悲しみがない交ぜになっている。

 アインズから合格を言い渡されたのは純粋に喜ばしい。しかし、アインズから試されたということは、何かを疑われていたということに他ならない。自分の行いの何がアインズからの不信を買ったのか、全く見当がつかない。

 そしてやはり、床に倒れる男。

 傷一つなく、頬にはまだ赤みが差し、安らかに眠っているようにしか見えない。しかし、死んでいる。

 ナザリックには死者を復活させる方法は幾らでもあるのだが、アインズからの命令で奪った命を戻せようものか。

 これからは、この男がいない日々が始まるのだ。

 

「セバス、ペストーニャを呼んでこい」

「はっ、かしこまりました」

「さすがアルベドだな。打ち合わせもなしに見事な演技だったぞ」

「…………………………え?」

 

 アインズの意外過ぎる言葉に虚を突かれ、アルベドが我を取り戻したのはセバスが執務室を出た後だった。

 

「お見苦しいところをお見せしました。ですが、演技とは一体どのような意味でしょうか?」

「……ん? わかってしたのではなかったのか?」

 

 アインズは、きょとんとした様子でアルベドを見た。

 アルベドの微笑は、珍しく崩れていた。

 

「私の愚かさをお許し下さい。今の一幕がどのようなものであったかご説明いただけないでしょうか?」

「最初に言った通りだ。こいつの処遇を決めるためだ」

「それは……、アインズ様をご不快にさせたことを裁いたのではなかったのですか?」

「わざわざセバスを呼んだのだ。それで伝わったと思ったのだが?」

 

 アルベドが感じた通り、先の一幕はセバスが本当に裏切ったのかどうか確かめた時を模していた。

 

「……私の行いに不信を抱かれたのではなかったのでしょうか?」

「それこそまさかだ。もしもアルベドが裏切るようなら私はこの場所にいはしないだろう」

「ああ、アインズ様!」

 

 アルベドは感動して目をキラキラさせた。

 一方、冗談めかして言ったが、アインズはかなり本気だった。

 もしもアルベドが裏切りでもしたら、影響はセバスの比ではない。アルベドに裏切りの兆しを感じた時点で、アインズは真偽を確かめることなくナザリックから姿をくらませるに違いない。そして暴走したアルベドが、無慈悲な女王として世界に君臨するのである。

 

「試したのはアルベドではない。こいつだ」

 

 覚めない眠りについた男を見下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 数時間前、お仕事に疲れたアインズは、気晴らしに第九階層の様子を魔法の鏡で眺めていた。

 するとシャルティアに連れられたこの男を発見。好奇心に駆られて覗き続けると、アルベドの部屋に入っていった。しばらく様子を見て、何が起こっているかを把握した。覗き見を続ける趣味も興味もなかったのでひとまず仕事に戻る。

 男がアルベドの部屋から出てきたところを完全不可知化の魔法で待ち伏せし、支配の魔法を掛ける。

 そして、アルベドとの間に起こった諸々を聞き出した。

 

 二人が男と女の関係にあると知り、友人の娘になんてことしてんだゴルァ! と何かしらの感情が呼び起こされるでもなく、感じたのは罪悪感。

 友人から預かっていた大切な娘さんの管理不行き届きでこんなことに、と思った時間は短く、元はと言えばアルベドの種族をサキュバスにしてあのような設定を書き込んだタブラ・スマラグディナが悪い。俺は無罪!

 

 そもそも、薄々察していた。

 サキュバスが輝ける美男を引き込んだのだ。それで何も起こらないと思うほどアインズは子供でなかった。

 

 アルベドは己に愛を歌いながら、他の男をベッドに引きずり込む。これでもしもアルベドが人間だったら、アルベドの言葉など一切信じられなくなったことだろう。しかし、アルベドはサキュバスである。サキュバスにとって、男との交わりは食事の一環。種族によって食事の方法が様々であることは、ナザリックの支配者であるアインズはよく知っている。

 もしもアインズが人間であったら、理性ではアルベドの食事について理解しながらも、感情ではとても納得出来なかったことだろう。今のアインズはオーバーロードだ。感情に振り回されることは決してない。

 そして、肉の体を失ってからは性欲もない。男と女の情交は、キノコが胞子を飛ばすのと大差ないと感じている。せいぜいが、場所を選べとか、周りを汚すな程度にしか思わない。

 アインズが人間であった時分に経験があれば何かしらを思ったかも知れないが、アインズは人間であった頃から魔法使いだったのだ。元から知らなかったものについて、知る機会がなくなったと言うだけの話。

 それでも、アインズの中にわずかに残る人間としての残滓がもう少し多ければ、己の正妃を自称するアルベドの奔放な振る舞いに感じるものがあったかも知れない。しかし、アインズは様々な経験を経て、精神を鍛え、あるいは磨耗させていった。

 

 最後に罪悪感が少しだけ残った。

 ダブラにではなく、アルベドにでもなく、この男に対して。

 聞けば、アルベドに精気を吸われて死にかけたことが何度もあるとか。いつぞやエ・ランテルの屋敷で起こった流血事件は、アルベドが夜這いを失敗したかららしいとの推測を聞かされたときは、流せる涙があったら流していたかも知れない。

 先ほどアインズが覗いていたのは、アルベドが男をベッドに押し倒しポーション使うまでであったが、その時の男は顔面蒼白。全身から血の気が失せ、まさに死を迎えようとしていた。あれは止めに入るべきか否か、本当に悩んだ。

 

 色々と有能な男である。そしてアルベドが重宝している男である。アルベドの抑えとして、得難い男である。

 アインズがアルベドからギラついた目で見られることは何度も何度も嫌になるほど何度もあった。

 あれは本当に怖いのだ。霜降り肉を目の当たりにした飢えた肉食獣の目。アインズに性欲が残っていれば兎も角として、完全にゲットアウトしてしまった今となっては怖いだけ。

 ナザリックがこの地に移転した直後に触ったアルベドの胸は柔らかくて良い感触と思ったが、襲われるリスクを考えればふわふわ枕の方が万倍もいい。

 この男が来てからと言うもの、アルベドから危険を感じなくなった。この男が命の危険を冒してまでしてアルベドの欲求を解消してくれているからだ。

 

 最近は帝国に行ってしまったので、アルベドはそのような時間をとれていなかったらしい。

 日毎にアルベドの視線に危険を感じるようになった。ここ数日はあまりに剣呑な目つきで、第三者がいないときはアルベドに会えなかったほどである。

 

 帝国にいたところをわざわざナザリックまでやって来た。

 これを機に、ナザリックでの正規の身分を与えようと考えた。

 そのために最後の試練として、男の忠誠心が本物であるかどうかを確かめたのだ。

 

 尋問していた間の記憶を魔法で忘れさせ、記憶の空隙に自分を不快にさせたからアルベドを交えて裁くことにした、と言うことにして結果が出たところである。

 

 

 

 

 

 

 アインズから試されていたのは自分ではなく、この男であった。

 言われてみればその通りで、アインズの真意を察せなかった己の愚かさが恨めしい。

 この男は見事に合格を勝ち取った。

 アルベドは声が震えないよう最大限の注意をもって、口を開いた。

 

「この者の忠誠はアインズ様もご存知であったと存じましたが……」

「そうだな。以前、ナザリックで行った演説も見事だった。あれを聞かされたらこいつの忠誠を疑う者はいないだろう」

「でしたら……」

 

 直接聞くのは躊躇われた。

 ならば何故、疑ってもいないことを試したのか。

 

「だがな」

 

 ナザリックにて知謀を誇るアルベドの裏をかけて、上機嫌だったアインズの雰囲気が変わった。

 

「俺は言葉なんて信じない」

 

 握りしめた拳が机に振り下ろされ、ぶつかる寸前で止まった。

 

「もしも本気の言葉が本当になるなら、俺が一人でここにいることはなかったはずだ!」

 

 

 

 ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルドメンバーは41人いた。しかし、この地に飛ばされたのはアインズただ一人。

 他のメンバーはそれぞれの事情で引退した。丹精込めて作ったアバターを削除した者もいた。

 事情があるのはアインズにもわかっている。たかがゲームに過ぎないユグドラシルを続けるどころではなかったのもわかっている。

 しかし、皆こう言ったのだ。

 

『ユグドラシルがサービス終了するまで一緒にやろう』

 

 と。

 あの言葉は嘘ではなかった。みんな本気で言っていた。それなのに、残ったのはアインズだけ。

 事情があるのはわかっているのだ。それくらいわかる。アインズは子供ではない。子供ではないのだから、それぞれの苦労に思いを馳せ、仕方ないことだとわかっている。

 しかし、皆こう言ったのだ。最後まで一緒に、と。

 裏切られたとは思っていない。仕方ないとわかっている。

 しかし、出来もしないことを言うな、と。思ってしまった。

 

 

 

「………………幾ら本気で言ったことでも行動が伴わなければ無意味だ。その点、こいつは言葉と行動が一致している」

 

 ナザリックがこの地に移転した直後は、NPCたちに襲われるかも知れないと危惧していたアインズだ。今は全くそんなことを思っていない。シモベたちを信じられるようになったのは、シモベたちが忠誠を行動で絶えずに体現してきたからである。

 

「アインズ様…………」

 

 コキュートスは、アインズが感じている孤独に心で涙した。

 アルベドは、去ってなおアインズを苦しめるギルドメンバー達への憎悪を深くした。

 

「こいつは、合格だ。生き返ったらアルベドの副官にするか補佐役にするか、そのあたりは好きにするといい」

 

 執務室のドアが叩かれた。

 

「失礼いたします。ペストーニャを連れて参りました」

 

 ペストーニャを連れたセバスが戻ってきた。

 

 

 

「ペストーニャよ。この者を復活させよ」

 

 犬面人身のメイド長は、床に横たわる男を検分した。

 死んでいる。外傷はない。魔法を使われた痕跡もない。

 

「アインズ様のご命令が聞こえなかったの? 早くしなさい」

 

 急かすアルベドを、ペストーニャはじろりと見た。

 

「死因をお聞かせ願えますか? ……わん」

「何故だ?」

「生前のこの者より、遺言を預かっております。もしも自分がアルベド様から死を賜った時は、どのような事情があっても復活させないで欲しい。自分のせいでアルベド様がお言葉を翻すことはあってはならない。そう言っておりました。……わん」

 

 アルベドは口を噤まざるを得ない。

 

「死してなお主人の誇りを守るとは」

「マサニ忠義者ノ鑑ヨ」

 

 男二人の戯言が、アルベドには耳障りで仕方なかった。

 

「私の命令で死を与えたのだ。アルベドに非はない」

「アインズ様……!」

 

 偉大なるアインズ様は、自ら泥を被った。

 ああ、偉大なるアインズ様アインズ様、真に至高にして偉大なるアインズ様は。アインズ様賛歌が荘厳なメロディを伴ってアルベドの脳裏に流れた。

 

 何となく事情を察したペストーニャは、男の遺言よりもアインズの命令をとった。

 

《トゥルー・リザレクション!》

 

 男の体が清浄な光に包まれた。

 脆弱な存在だと、低位の復活魔法では復活を果たせず灰になってしまうことがある。復活できたとしても、弱体化を避けられない。それを緩和することが出来る死者復活魔法のハイエンド。真なる蘇生。

 それなりに丈夫になってきたこの男なら、間違いなく復活するはずであった。

 しかし、魔法の光が消えても男は全く動かない。呼吸も心臓も止まったまま。ただでさえ白い肌からは血の気が失せて紙の白さになりつつある。

 

「……拒否されました、……わん……」

 

 復活の魔法の難点は、対象が受け入れないと復活できないことである。

 アルベドからの最後の命令として命を捧げたこの男が、素直に生き返るわけがなかったのだ。

 

「……まあ、仕方あるまい」

 

 アインズは椅子から立ち上がって、男の横に立った。

 虚空から取り出したのは、神聖な輝きを放つ長い杖。

 

「それは……」

「特別だぞ?」

 

 呆としたアルベドの呟きに、アインズは冗談めかして答えた。

 

 死者を復活させるマジックアイテムの最上位、の一つ前。

 魔法では拒否されることもあるが、このアイテムなら問答無用に復活させることが出来る。蘇生後の弱体化も真なる蘇生より抑えられる。

 先日アウラに与えたアイテムは、入手手段がないことからアインズ的に貴重なアイテムであった。

 こちらは違う。入手手段は既になく、お遊び用ではない本当に有用な希少アイテム。

 貴重なアイテムと、アルベドの抑え役。その上、アルベドをして分野によっては自分より優れていると言わしめる男。どちらが貴重かと言えば、圧倒的に後者が勝った。

 締まり屋のアインズであるが、本当に必要と判断するなら出し惜しみはしない。

 

「復活せよ!」

 

 アインズの声に応え、男の胸に置かれた杖は白い光を放った。

 眩しいほどの光が消えると、杖は光に照らされた影のごとく消え去っていた。

 横たわる男の頬に赤みが差す。

 長い睫毛がピクピクと動き、五感に優れるセバスは、男の心臓が力強く脈打つのを聞き取った。

 

 そして、再び止まってしまった。

 

 自らの意思で己の心臓を止められる男である。主神アルベドから死を命じられた以上、生き返ったとしても再度の死を選んでも不思議はなかった。

 

 

 

「…………………………」

 

 空気が張り詰めた。

 

「この……何という頑固者だ!」

「全くでございます。アインズ様のご厚情を蔑ろにするとは!」

「コレハ忠義デハナイ。タダノ愚カ者ダ!」

「……お前ら少し黙れ」

「「ハッ!」」

 

 男二人を黙らせて、アインズは考え込んでしまった。

 

 貴重なアイテムではあるが、もう一度試すのはやぶさかではない。そのくらいの価値をこの男は持っている。しかし、同じことを試しても同じ結果になるのは目に見えている。

 超希少アイテムである星の指輪や願いの魔法を使えば生き返らせることは出来るだろうが、生き返ったところでまた死なれては目も当てられない。

 生き返る前に、死なないよう言い聞かせる必要がある。しかし、アインズは死の支配者であっても、生憎死者と対話する手段を持ち得ていなかった。

 

(マズいぞ。どうすればいい? このままだと俺は訳の分からない理由でこいつを殺した器の小さい男になってしまう。こんなことをデミウルゴスに知られたら……。いや、きっとわかってくれるとは思うが……。クソッ! 死んだというのになんて頑固な奴だ! 生き返らせたんだから素直に生き返ればいいものを! こいつが生き返らないとアルベドが……。ヤバい。喰われる)

 

 性的な事柄への興味が完全に消えてしまったアインズだ。

 喰われるとは比喩ではなく、骨をガリガリと齧られ穴だらけになった自分の体を幻視して、感情抑制を発動させた。

 一周まわって冷静になっても手段が見つからない。

 

 ペストーニャが意を決して口を開く。

 

「恐れながら申し上げます。呼びかけてはいかがでしょうか? ……わん」

「……どうやって呼びかけるのだ?」

「このまま呼びかければよろしいかと。死にたての者に一番効くのは、近しい者の言葉であると読んだことがありますわん」

 

 死は生と対立していると捉えているアインズに対し、死は生に内包されていると理解しているペストーニャである。

 死の支配者よりも癒し手の方が死に対して深い理解があるのは皮肉であった。

 

「……このまま呼びかけてみればいいのね?」

 

 世界でこの男に最も近しいのは、揺れる瞳で事態を見守っていたアルベドに他ならない。

 アインズは尖り気味の顎をしゃくって無言で促した。

 アルベドは横たわる男に恐る恐る近付き、健やかな寝顔にしか見えない綺麗な死に顔を見下ろす。

 

「……起きなさい。命令よ。私が命令してるのよ? 生き返りなさい!」

 

 アインズの前である。アルベドは、声に感情が乗らないよう努めた。それなのにどこか悲痛な響きがあり、情に厚いセバスは歯を食いしばった。

 

「起きないじゃない!」

 

 復活の魔法でも、貴重なアイテムでも生き返らなかったのだ。

 アルベドが声を掛けただけで生き返るわけがないと思われた。

 ペストーニャは提案しただけであって、アルベドが責めるのは筋が違う。違うとわかっているのに、声は荒くなってしまった。

 

「………………命令だからいけないのではないでしょうか?」

 

 セバスに視線が集まった。

 

「先ほどのアルベド様は、最後の命令と仰いました。命令以外の形で伝える必要があるのではと愚考します」

 

 やはりアルベドの命令で死んだのだと、ペストーニャがアルベドを見る視線に責める色が乗った。

 

「命令以外の形となると……頼むのか?」

「願ウノカモ知レマセヌ」

「お願いするのが一番ではないでしょうか? ……わん」

「お……おねがい?」

 

 今度はアルベドに視線が集まる。

 アルベドの瞳は揺れに揺れ、白皙が瞬く間に真っ赤に染まった。

 

 

 

「私が、人間の男に、お願い?」

 

 ナザリック守護者統括である己が人間の男にお願いをしなければならない。それも、アインズ様の御前で。

 ナザリック守護者統括としてあり得ない不様である。二人きりならまだしも、アインズ様にセバスとコキュートスとペストーニャが。

 羞恥と怒りが際限なく湧いてくる。

 

「私は命令せんぞ。そういうことは命令されてするものではないからな」

「忠義ニハ報イルベキダ」

「……ペストーニャ、本当にそれで生き返るんでしょうね?」

「そんなことより早くいたしませんといけませんですわん! アルベド様が心を込めて訴えればきっと届くはずです。……わん」

 

 この男はメイド達の玩具になってくれたことがある。評判はかなり良かった。

 メイド長として、メイド達を慰撫出来たのはとても喜ばしい。次を頼み易いように貸しを押しつけるため、魔法のブレスレットや高級ポーションをプレゼントしたのだ。

 ところが、アルベドが死なせてしまった。

 死んでしまったことへはアルベドなりに思うところがあるようだが、それなりの罰があって然るべき。

 それに、話したことに嘘はない。死にたての者が近親者からの呼びかけに応えて戻ってきたとは、実際にあったことなのだ。非常に稀な例ではあるが。

 

「ここにお座り下さい。手も握って。もっとしっかり握って下さい。そこは両手で握るべきです、わん!」

 

 困惑しきっているアルベドを床に座らせ、男の手を握らせる。

 

「心を込めて呼びかければきっと応えるに違いありません。……わん!」

「…………生き返らなかったら」

「そんな事を考えてはいけません。この者も申していたではありませんか。後のことは考えず、一心に呼びかけるのです! ……わん!」

 

 一同は無言でアルベドを見守っている。

 アルベドは落ち着かない様子で一同を見回し、誰も何も言ってくれないと悟ると、ペストーニャの強い視線に負けて男の顔へ目を落とした。

 

 ここまでやらせて男が生き返らなかったら、ペストーニャはアルベドからひどく責められることになる。

 それは織り込み済みだった。

 おそらく生き返ることはないだろうが、その時は死体が損傷しないように保存し、定期的に復活の魔法を掛ければよい。何度も何度も掛け続ければ、いつか拒否の意思が薄れることだろう。

 

「………………」

 

 アルベドは目を瞑り、全てを視界から追い払った。

 再び開いた目には、眠る男しか映らない。

 見下ろすアルベドからは黒髪がさらさらと流れ、男とアルベドだけを閉じこめる檻となる。

 すぐ側にいても、アルベドがどんな顔をしているのかわからない。

 きゅっと手を握った。

 掠れた声は、檻の外まで届かない。あえて、誰も聞こうとしなかった。

 

「起きて。お願いだから。私をおいて逝かないで……!」

 

 エ・ランテルのお食事部屋にて、ソファの上で繋がったまま訴えた言葉。

 あの時の言葉は、情交を盛り上げるだけの単なる睦言。

 しかし、守護者統括としての身分から解放され、ただの女となったアルベドが、心の底から紡ぎ上げた言葉。

 

「っ!?」

 

 弱々しい力で握り返された、ような気がする。

 

「あ……ああ…………」

 

 瞼がゆっくりと持ち上がり、赤と青の瞳が姿を現した。

 霞んだ瞳にはすぐさま光が宿り、確かな意思をもってアルベドを見返した。

 

「あるべどさま…………グボァッ!??!」

 

 男に意識が戻るや否や、アルベドは握っていた手を振り払い、男のボディへ拳でもって打ち下ろしを叩き込んだのだ。

 防御主体であろうと100レベルの守護者統括。拳は男の体をあっさりと貫通して床を叩いた。

 

「ペストーニャ、回復してちょうだい」

「かしこまりました」

 

 アルベドは、何事もなかったかのように立ち上がった。

 

 意味もなく男を攻撃したわけではない。

 魔法であれアイテムであれそれ以外であれ、復活直後は朦朧としているものである。

 ならば大きな怪我を負わせてから回復させれば意識もはっきりするだろうと思われた。

 けっして照れ隠しのためだけに殴ったわけではないのである。

 

 過日、アルベドに付与されたツンデレ属性に、暴力属性が加わってしまった。

 最初から持っていたとは言ってはいけない。

 

 なお、女達を見守っていた男達はどん引きした。




ユグドラシルシステム的にマスクデータが条件を満たしてエクストラクラスへ、とかやれば盛り上がるとは思いましたがそーゆーの求めてないので止めときました

次回、ひとまず最終話


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忠誠の儀

 ペストーニャの魔法で体の真ん中に空いた大穴は無事塞がった。残念ながら、シャツとジャケットの穴はそのままだ。

 ペストーニャの手を借りてよろよろと、けどもしっかりと自分の足で立ち上がった。

 

 男の前にはアルベドが立つ。

 手を握り返された瞬間は感極まって目を潤ませるほどだったが、今は般若の形相。険しい顔で睨みつけた。ペストーニャはそっと男から距離をとった。

 

「どうして死んだりしたのかしら?」

「アルベド様が死をお命じになったから――」

 

 斬! ゲヴァア!!

 

 漆黒のバルディッシュが横薙ぎに振り切られた。

 舞う血飛沫。充満する血臭。

 体の真ん中から真っ二つになり、下半身はその場に倒れ、上半身は宙を舞って、床に落ちる前にペストーニャの回復魔法で完全回復された。

 

 アインズは何も言わなかった。むしろ言えなかった。無言でスクロールを取り出し、無臭と清潔の魔法を発動して執務室を清めた。これらは第一位階の魔法なので、スクロールの量産体制が整っているのである。

 

「言ってないわ」

「!?」

 

 男は、嘘ですよね言いましたよね聞きましたよね何か言って下さいよアインズ様!、の目でアインズを見た。

 

「!?」

 

 アインズは目を逸らした。

 コキュートスとセバスは、最初からこちらを見ていない。直立不動の彫像めいて、何もない壁を凝視している。

 

 援軍は望めない。

 生き返ったばかりだと言うのに、その直後に二度も瀕死の重傷を負ったばかりだと言うのに、たった一人でアルベドに立ち向かわなければならない。

 己の主である。美を司る美神である。ナザリックの守護者統括である。今し方味わった力は絶大で、男が千人いようと勝負は見えている。

 しかし、真実は一つ。

 男は強い目でアルベドを見返した。

 

「言いました!」

「っ!」

 

 バルディッシュが振り上げられ、

 

「アルベド様、縦はいけません。縦は、……わん」

「そうね……」

 

 ペストーニャに止められ、バルディッシュを下ろした。

 代わりに男の横面を張る。

 

 パアン、ピシャバチャ……。

 

 下顎粉砕。歯や骨片が飛び散り、またもペストーニャが瞬時に回復。

 アインズもそっとスクロールを取り出して魔法を発動させた。いい加減にしてくれればいいのに、男はめげなかった。

 

「……私を嬲ってお気が済むのでしたら幾らでも。ですが、あったことをなかったとは言えません!」

「っ…………このっ!」

「アルベド様、どうもこの者はよくわかっていないようです。私にお任せください。いいですか? アルベド様はこう仰っているのです。言葉の表層に囚われず、真意を察せよ、と。……わん!」

「そう、そうよ! 私が言いたかったのは、本当に私に命を捧げられるかどうかと言うことよ。それなのに勝手に死んで。アインズ様はお前の為に貴重なアイテムを使ってくださったのよ!」

「な、なんと言うことを……。申し訳ございません。私が浅慮でありました」

 

 男が跪いてアルベドとアインズへ深く頭を垂れ、一段落ついたらしい。

 アルベドも、アインズへ一礼した。

 

「お見苦しいところをお見せしてしまいました。この者への仕置きが終わりましてございます」

「そ……、そうか」

 

 仕置きと言うより痴話喧嘩じゃねーのと思わなくもなかったが、口には出さないアインズだった。

 未だ残っている男の本能が、女への根源的な恐怖を感じて何も言えなかったのだ。

 とりあえず、女は怖いと再確認した。

 

「ま、まあ……、こいつの忠誠はよくわかった」

 

 多少声が震えたような気がしないでもなかったが、今のアルベドには対面するだけで偉業に値するだろう。

 現に、コキュートスとセバスは、アルベドを一瞥もせず壁を見つめている。

 

「真っ二つになったりしたが大丈夫なのか?」

「罪多き我が身へのお気遣いを感謝いたします。折角仕立てていただいたスーツが破けてしまいました」

「いやそれよりお前の体なんだが……大丈夫そうだな」

 

 死んだり瀕死になったりしたばかりなのに、幾ら回復魔法で体は万全になったとしても、もう少しこう動揺していたり困惑していたりあるんじゃないかと思ったのだが、男の態度は全く変わっていなかった。肉体は兎も角として、精神がタフすぎる。

 

「スーツなら後でまた作ればいい」

「アインズ様にご不快を感じさせてしまった私に何という温情を……」

「そのことだがな」

 

 先の一幕は、不快にさせた罪を裁く為というのは嘘で、正式にナザリックで取り上げるのに相応しいか否かを測るための試験だったとアインズ直々に伝えた。

 

「お前は合格だ。どのような立場にするかはアルベドと相談せよ。これからも期待しているぞ」

「光栄でございます。今までと変わらぬ尊敬と忠誠をアインズ様に捧げることを誓います」

 

 上げた頭を再度下げ、口上を述べた。

 

「そこはこれまで以上の忠誠を捧げるべきではありませんか?」

 

 男の言葉に、セバスが反射的に突っ込んでいた。

 アルベドの無体に何も言わなかったのは、アインズ様が何も言わなかった以上お許しになっていたと判断したからである。しかし、こちらは違う。アインズ様へ忠誠を捧げる身として看過できない。

 

「アインズ様へは既に最大限の忠誠を捧げております。これ以上というのは北極の更に北を目指せと言うようなもの。言葉としては如何様にも言えますが、アインズ様は行動を伴わなければ意味がないと仰ったばかりです。偽りを申せと仰いますか? それともセバス様は……、アインズ様のお言葉をいただくまで最大限の忠誠を尽くさないのでありましょうか?」

「そ、それは……っ!」

 

 迂闊に突っ込んでしまったセバスは大火傷必至である。

 コキュートスが、言わないで良かったと胸をなで下ろしたかどうかは定かでない。

 

「駄目よ。今まで以上の忠誠を尽くしなさい」

「はっ、アインズ様に今まで以上の忠誠を尽くすことを誓います」

「手のひらクルックルだな! ……はっ!? …………うおっほん!」

 

 今度はアインズが反射的に突っ込んでいた。

 アルベドの言葉で、発言が180度転回したのだから無理もない。

 

「……セバスに言ったことと全く違うではないか。確かに言葉には行動を伴うべきだが、容易く翻す言葉は軽く見えるぞ」

「私は最大限の忠誠を尽くしているつもりでありましたが、アルベド様はそれ以上があると見通されたのです。我が身の愚かさを恥じるばかりでございます」

「………………そうか」

 

 セバスとしては、アルベドより頭脳が劣ると言われたようなものだが、その通りなので何も言えなかった。

 

 その時、男ははたと気付いた。

 アインズ様へ忠誠を捧げるのだ。

 相応しい言葉があると学んでいたのに、どうしてすぐに思い出せなかったのか。

 己の愚かさを嘆きたくなったが、それよりも先ずすべきことを為さなければならない。

 

 跪いていた姿勢から、背筋を伸ばして立ち上がった。

 踵を揃え、爪先をきっかり60度に開く。

 左手は真っ直ぐ体に添えて、右手を指先までピンと伸ばし勢いよく振り上げた。

 

Wenn es meines Gottes Wille!(我が神のお望みとあらば!)

 

 アインズの時間が静止した。

 

 

 

 アインズの精神が、もっと脆弱であれば動揺のあまり感情抑制を発動して冷静になっていたことだろう。

 しかし、いまやかつてのアインズとは違う。様々な経験を経て、強靱な精神を手に入れてしまった。

 

 動揺しながらも、この男がどうしてそれを知っているのか考えた。

 パンドラズ・アクターしかいない。

 パンドラがこの男に教え込んだのだ。

 

 パンドラはアインズが創造したNPCである。アインズの趣味をこれでもかと突っ込んでいる。

 しかし、それは以前の話。ちょっとイキってたりして、重度の中二病に罹患していた時代である。完治した今となっては、全くもって良いとは思えない。むしろダサい。これはない。人様にお見せするのが恥ずかしい。歩く黒歴史である。

 ゆえに、優秀なシモベであるパンドラは裏方に回らせているのだ。

 それがまさかこんなところで発動しようとは。

 

 エ・ランテルにいるパンドラへメッセージの魔法を送り、お前あれ教えたのかどうなんだ、と問いただした。

 

 それは、悪手であった。

 パンドラを問いただすのは、よい。この男に自由な時間を与えるのが致命的だったのだ。

 たった今、それは黒ではないかとのセバスの指摘を真っ向から跳ね退け敗北感を刻み込み、それは黒であるとのアルベドの指摘には論理を補強しつつ迎合した。

 見方を変えると、白にするも黒にするも自由自在と言うことである。

 

 

 

 

 

 

「私、余り好きじゃないのよね、それ。アインズ様が俯いてしまわれたじゃない」

 

 アインズは顔を俯け、何やらぶつぶつと呟いている。

 アルベドの指摘は尤もに思えるが、男は凄い剣幕で言い返した。

 

「何を仰いますか!」

 

 超カッコイいドイツ語でアインズ様を讃える言葉である。

 とは言え、自分が良いと思うだけならば愛しき主人に物申したりはしない。自分の嗜好よりもアルベドの嗜好を優先するのは当然だ。

 ところが、である。

 これはパンドラズ・アクターから教わった言葉なのだ。

 

「今の言葉は、私がパンドラズ・アクター様から教わったものです。アインズ様を讃える時はこのように申しなさいと教わったのです」

「……それが何よ?」

 

 二人の言い合いを、コキュートスとセバスは瞠目して観戦していた。

 己の主人へ真っ向から反論することなぞ、ナザリックのシモベ達に出来ようはずがない。例えるならば、二人にとってはアインズ様へ物申すようなものなのだ。

 彼の男がアルベドへ抱く忠誠は、己達がアインズ様へ抱く忠誠に勝るとも劣らぬものであると証明したばかり。

 さらには理不尽なツンデレ暴力によって瀕死になったりもした。

 だと言うのに、アルベドを恐れずに物申す。

 これを勇者と呼ばずして何を勇者と呼べばいいのか。

 

「パンドラズ・アクター様はアインズ様自ら創造なさったシモベです」

「…………それが何よ?」

 

 言うなれば、アインズとパンドラの関係は親と子である。

 ナザリックのシモベ達の中で、一等強い絆でアインズと結ばれている。パンドラへ嫉妬しないシモベはいない。

 

「たっち・みー様」

「私の創造主であられるお方です」

「はい、そのように聞き及んでおります。ナザリックの方々の中で、アインズ様を除けばたっち・みー様について一番お詳しいのはセバス・チャン様に他なりません。違いますか?」

「いいえ、違いません。その通りです」

 

 この男が何を言いたいのかわからない。

 しかし、己の存在を賭けて、至高の御方々のお一人であるたっち・みー様を最もよく知るのは自分を措いて他にはいない。セバスはそう断言する。言葉だけでなく、心の底からその通りであると確信している。

 

「武人建御雷様について一番お詳しいのはコキュートスに違いありません。如何でしょうか?」

「ソノ通リダ!」

 

 コキュートスも力強く断言する。

 その先に何が待っていようと、けして否定できない問いかけである。

 

「おわかりいただけましたか? パンドラズ・アクター様はアインズ様が創造なさいました。ゆえに、アインズ様のご嗜好について最もお詳しいのはパンドラズ・アクター様に他なりません!」

「!?」

「申し訳ございません。残酷なことを申しあげます。たとえアルベド様が先の言葉をお好みでなかろうと、アインズ様は違うのです。アインズ様はアルベド様ではないのですよ!」

「!?!?!」

 

 落雷に撃たれたかのごとく、アルベドはよろめいた。

 

「アインズ様へ忠誠を示すのならば、先の言葉以上に相応しいものはございますまい」

「…………………………その通りね」

 

 アルベドは、負けてしまった。

 

 男はおもむろにドアを開けた。

 

「ふえっ!? 盗み聞きしてたわけじゃないでありんすよ!? アルベドがどんな用件で呼び出されたのか気になりんしたからここで待ってればすぐに教えてもらえると、ってどうしてお前がここにいる?」

「シャルティア様、どうぞ中へお入り下さい。いえその前に、よろしければアウラ様とマーレ様をお連れいただけないでしょうか?」

「……何でありんすか?」

「アインズ様へ忠誠を示すのですよ」

「わかりんした。ちょっと待ちなんし」

 

 ゲートの魔法で行って帰って。

 マーレをパジャマから常の装備に着替えさせ、出張中のデミウルゴスとパンドラズ・アクターを除く守護者一同がアインズの執務室に集まった。

 

 後から来た三人へも、アルベドへしたと同じ説明を繰り返す。

 

「発音はこうで、イントネーションは……」

 

 

 

 

 

 

 

(わかったか? 教えるのは構わんが無闇に口にしないよう言っておけ。わかったな? ……………………ん?)

 

 パンドラを叱りつけ、メッセージの魔法を終えたアインズが顔を上げると、何故か一同が目の前に整列していた。

 

 アルベドを中心に、コキュートス、セバス、ペストーニャ。一歩下がってアルベドの暫定副官。

 さっきはいなかったはずのシャルティアにアウラとマーレも。

 

 アインズが怪訝に首を傾げ、どうしてここにいるのか問おうとした矢先である。

 背筋を伸ばしたアルベドが、真っ直ぐに右手を振り上げた。

 一拍遅れて、他の者達も同じように振り上げた。

 

Wenn es meines Gottes Wille!(我が神のお望みとあらば!)

 

 アインズの時間が静止した。

 

「「「「「「「ウェン エス マイネス ゴッテス ウィル!!」」」」」」」

 

 アインズの精神は恥ずか死んだ。




くうつか(ry
これにてひとまず完結です
本作は原作の本筋に関わらない日常系?なのでどこに挿入してもいい最終エピソードでした

一応完結と言うことにしましたが、未消化のイベントを並べてみると

1.セバスにSEKKYOU
2.デミウルゴスのお土産
3.エントマと邂逅
4.帝国でレイナース出ないとかありえない
5.結婚騒動
6.アルベドの子供
7.蒼薔薇
8.感想でも度々触れられたラナー

なんでこんなにいっぱいあるんだろう……
完結させましたが、多分そのうち書くとは思うんですが、どうなるのか全くわかりません
特に5はいっそうカオスになると思います、どう収拾するのかさっぱりわかりません、どうなると思いますか?

とりあえずご愛読ありがとうございました


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あまる
アインズ様のお悩み相談、からの・・・


何もなかったかのように前話からの続きます


 精神の死を迎えたアインズだが、そこはとてもスゴい死の支配者であるアインズだ。

 感情抑制を発動させて平静な精神を取り戻し、どこかから引きずり出すような声で言った。

 

「それはパンドラだけに許している言葉だ。お前たちがみだりに口にすることを禁じる」

 

 何というえこひいきか!

 パンドラズ・アクターはアインズ様直々に創造為されたシモベであるため、ある程度の特別扱いはやむなしと誰しも薄々と思っていたがこれはない。

 ずるい。うらやましい。ねたましい。そんなってあんまりにもあんまりすぎる!

 嫉妬と羨望が渦巻き、物理的なエネルギーとなってエ・ランテルにいるパンドラズ・アクターに襲いかかろうとしたその時、息子の命を救ったのは偉大な父だった。

 

「無論、パンドラにもみだりに口にしないよう厳命してある。それは……あれだ。貴重なアイテムは数が少ないから貴重なのだ。それと同じで口にしないからこそ価値がある言葉もあると言うもの。その言葉は心の中で唱えるべき言葉なのだ!」

 

 流石は真理に通じておられるアインズ様である。

 一同は深く感服し、パンドラズ・アクターを妬んだ己を恥じた。

 

 皆が深く頭を垂れて再度の忠誠を誓ったところで、アインズ様は散会を言い渡しました。

 それぞれがそれぞれに退室していく際に、

 

「お前は残れ。少し話しておくことがある」

 

 アインズ様から正式にナザリックの一員と認められた男一人が残りました。

 

 

 

 

 

 

 皆が退室して広い執務室に二人きりになってからきっかり60秒経って、アインズ様は幾つかの魔法を使いました。インベントリなる異空間収納ボックスから幾つものマジックアイテムらしきものを取り出して、おそらくは貴重で高価な物なのでしょうが、惜しげもなく全て使い切ります。

 魔法やマジックアイテムについては門外漢の男にはさっぱりでしたが、アインズ様の息子にしてマジックアイテムフリークのパンドラズ・アクターなら、いずれの魔法もマジックアイテムも、防諜についてのものとわかったことでしょう。

 アインズ様の執務室には魔法的にも物理的にも完全な防諜策が施されているのに、これでもかと言うほどの念の入れようです。もしもこの場にいるのがパンドラズ・アクターならば、どれほど重大な話を持ちかけられるのかと、恐怖と歓喜におののくところでしょうが、何が何やらのこの男はアインズ様のお話をぽけっとしながら待っているだけでした。

 話があると言われた手前、自分から口を開くことは許されず、ナザリックの最上位者であるアインズ様のお言葉を待つしかないのです。

 

 とても慎重なアインズ様は、気が済むまで防諜処置を施してから、ようやっと口を開きました。

 

「これから話すことはアルベドにも秘密だ。約束できるか?」

「お約束できかねます」

 

 アインズ様のお言葉だというのに、この男は間髪入れずに拒否しました。他のシモベたちがこの場にいたら即死待った無しです。

 にもかかわらず、アインズ様は満足そうに頷きました。

 

「アルベドのことではない。勿論、アルベドの益不益に関わることでもない。いや、もしもお前が約束を果たすなら、忠実な部下を持つアルベドの評価があがると言うものだ」

「……かしこまりました。お約束いたします」

 

 流石のアインズ様は、この男が自分よりもアルベドへ深い忠誠を抱いているのを見抜いていました。

 それならアルベドをだしにすればよいと考えたのが、見事に的中したのです。

 忠誠心を自分の都合のいいように扱うアインズ様はカルマ値極悪なのです。それにアルベドに関する話ではないというのは本当なので、アインズ様の少しはあるかも知れない良心はちっとも痛みませんでした。

 

「たとえアルベド様から、『皮を被ったままの見窄らしいカタツムリが、私の前から失せなさい!』と罵られて放逐されることになっても、けっして口外しないことを誓います!」

「…………………………そうか」

 

 この男が何を言ってるのかわからなかったので、アインズ様は理解することを放棄しました。

 深遠なる英知を持つアインズ様であろうと、理解してはいけないことがあるのです。

 

 なお、後にアルベドから問いつめられたこの男が凄い作り話をして、その結果アインズへ凄いキラーパスが飛んでくるのは、流石のアインズをしても見通せない未来であった。

 

 ウオッホン! と咳払いをしてからアインズ様は恐る恐る切り出しました。

 自分に過度な忠誠を抱いておらず、今し方確認したように抗弁することすら出来、分野によってはアルベドすら上回る知力を発揮すると言わしめ、アルベドの命令なら自身の命を捨てることすら厭わず、そのアルベドの名で誓わせたのなら決して口外することはないと思えるし、モモンとして語り合ってきた経験から為人をある程度把握しているので過激なことは言い出さないと思いたいが人類絶滅とか言い出した前科があるので信じ切るのはちょっとあれだが、ナザリックのシモベたちには絶対に出来ない相談が出来そうなのはこの男だけなのもあって、アインズはこの世界に転移してから一番の勇気を振り絞った。

 

 いざとなれば記憶操作をしてしまえば良いのだ。まずかった時の対策だってちゃんと考えてるアインズ様である。

 

「お前は聖王国で進行している計画について知っているか?」

「概略だけは聞き及んでおります」

 

 魔皇にやられて酷いことになってる聖王国を我らが偉大なるアインズ様がお救いになった結果、魔導国の属国が増えるのである。

 

「それについてだが。……少々懸念があるのだ」

 

 重々しいアインズ様のお言葉に、男はパチパチと目を瞬かせた。

 

「デミウルゴス様にお伝えくだされば即座に計画へ適切な修正を施されることでしょう。アインズ様の御懸念はたちどころに晴れると愚考します」

 

 そうきたか、とアインズ様は内心で唸りました。

 今の言い方だと、デミウルゴスがヘマをするんじゃないかと心配だ、とも受け取れるのです。

 逆です。アインズ様の懸念は全くの反対なのです。

 出鼻を挫かれた感があるアインズ様ですが、ここまでくれば毒くらわば皿まで、です。言ってしまいました。

 

「そうではないのだ。……いいか? 本当にアルベドにも他の誰にも話すことは許さんぞ?」

「アルベド様の名誉に掛けて誓います」

 

 ここでアインズ様のお言葉を受け入れないのは、真の美を体現することによって世界に美のなんたるかを知らしめたアルベド様のお顔に泥を塗るようなもの。美の信徒たるこの男には不可能な所行です。

 跪いて再度の誓いを立てる男の言葉を、アインズ様はひとまず信頼することにしました。

 

「デミウルゴスの期待に応えられるか懸念があるのだ」

「…………………………と、仰いますと?」

 

 自身の頭脳が優れているとは夢にも思わないが、ソリュシャンに理解を諦めさせ、ナザリックにて群を抜いた頭脳を誇るデミウルゴスとアルベドに認められているこの男をして、アインズの言葉が何を意味するものか、即座の理解に至らなかった。

 

 一度口にしてしまえば、続きの言葉はするりと出てきた。

 

「聖王国での私は今まで以上に偉大な支配者であることが求められる。聖王国の民から尊崇を受けるに相応しい支配者であらなければならない。……問題ないとは思うが、もしもデミウルゴスの期待以下になってしまうと……、失望させてしまうのではないかと……」

 

 男の顔色がさっと変わったのを見て、アインズは言葉を止めた。

 さすがに不味すぎることを言ってしまったか。今まで偉大なる死の支配者としてナザリックに君臨していたというのに、こんな弱気なところを見せてしまうのは如何にも不味すぎたと今更になって再確認した。

 心の奥底にずっと秘めていた懸念をようやっと口にすることが出来たというのに、こいつもやはり裏切るのか。裏切りが言い過ぎなら自分を過大視しているのか。

 殺すのは不味い。ナザリックの一員として正規に認めたばかりだ。

 ならば記憶操作。ほんの数分間の記憶を操作するだけなら大した負担にはならない。

 

「恐れながら、今のお言葉をけして外に漏らさぬようお願い申しあげます。もしも何方かが聞いてしまった場合、デミウルゴス様のお命が危うくなります!」

「…………………………ぇ?」

 

 自分の立場が危うくなるのではなく、何故かデミウルゴスの命が危なくなるらしい。

 

「コキュートス様が聞いてしまったら、聞いてしまった瞬間にデミウルゴス様の首が撥ね飛ぶのは確実です!」

「…………………………ぇ?」

「セバス様であればお命を奪うことまではなさらないでしょうが、間違いなく挽き肉同然にしてからアインズ様へご寛恕を願い出ることかと思われます」

「…………他の者が聞いたらどうなるのだ?」

「……アルベド様へご報告なさることでしょう」

 

 己が心の師と敬うデミウルゴス様の一大事である。

 アルベド様へご報告しないのは背信行為かも知れないが、デミウルゴス様のお命を守るためにはやむなし。

 アインズ様が絶対の守秘を厳命なさる意味をこれでもかと叩き込まれた。

 

「アルベドが知るとどうなるのだ?」

「……アルベド様は慈悲と慈愛の象徴であられるお方です」

 

 いやいや本当は凄い残虐非道で、と知ってるアインズだが余計な口を挟まず先を促した。

 

「デミウルゴス様へ罰を与えることはないでしょうが、代わりにデミウルゴス様が如何に罪深いかをお教えなさることでしょう」

 

 つまり、デミウルゴス自身の頭脳でもって、罪に相応しい罰を己で考え己に与えよと言うこと。あまりの罪深さに死んで楽になることは絶対に許さず、あらゆる辛苦を永劫に受け続けることになるのだ。

 破滅的な未来に、男は身震いした。デミウルゴス様とはもっと色々お話ししたいのだ。ここで失ってしまうには余りに惜しいお方である。悪魔だけれど。

 

「……どうしてそうなるのだ?」

 

 デミウルゴスが己に求める支配者像が崩れる。デミウルゴスに失望される。アインズ様はこの程度だったのですねと見放される。

 そうなるかも知れないと恐れていたのに、何故かデミウルゴスが死ぬらしい。

 自分はシモベたちを理解していたようで、見逃している事があるのだろうか。

 

「もしもデミウルゴス様が……、アインズ様の仰られた通りのことを考えていたと仮定した上でのこととご了承ください」

「わかった。話せ」

 

 男は緊張に知らず湧いた唾を飲み込んだ。

 言葉が震えないよう細心の注意を要した。

 あまりにも恐ろしい言葉を放つのだ。

 

「デミウルゴス様は身勝手な計画を恐れ多くもアインズ様へお話しすることなく実行し、アインズ様のなさりように独善的で一方的な評価を与える、と言うことになります。それはご自身をアインズ様の上位に置いたも同然の振る舞いです。他の方々は決してお許しにならないことでしょう。勿論の事、デミウルゴス様ご自身も斯様な振る舞いは何があろうとお許しになりません。己をアインズ様の上位にいると吹聴することがどれだけ罪深いことであるか、ナザリックの末席を汚して間がない私にも想像出来ます」

 

 ナザリックのシモベが我らが偉大なるアインズ様の上位者同然に振る舞うことがどれほど罪深く、恐ろしいことであるか。

 怒り心頭どころでは済まない。即殺するであろうコキュートスは慈悲深いと言えよう。

 

 ここまで聞かされて、アインズもようやく理解した。

 自分への忠誠を常日頃体現しているシモベたちをようやっと信頼できるようになったアインズだ。

 そのシモベたちの一人が、自分はアインズより偉いと言い張ろうものなら間違いなく物凄く酷いことになる。

 やっべデミウルゴス殺すところだった! と、自分が思ったより危ないところにいたことをようやく自覚した。ちょっとだけ震えた。

 

「もしもデミウルゴス様が聖王国での作戦においてアインズ様に期待することがあるとするならば」

「なんだ?」

「アインズ様にお楽しみ頂くことのみと愚考します」

 

 先だって、デミウルゴスがエントマに語ったと同じ事を語った。

 

 聖王国を支配するだけならシモベたちだけで足りる。それでもアインズの活躍を望むのは、

 

「聖王国を属国化した後、順調に支配するためではないのか?」

 

 侵略されて支配されるより、危機を救った方が支配を受け入れやすいと思われる。

 

「それもあるでしょうが、どのみち三世代も経てば過去の事は忘れ去られます。いっそのこと鏖殺してから入植させるのもよいかと。環境が良ければ人は簡単に増えますから」

 

 流石は人類絶滅を提案した馬鹿である。

 アインズは聞き流した。

 

「デミウルゴス様が精緻に整えた舞台を、アインズ様に楽しんで頂きたいからと愚考しております。アインズ様にお楽しみ頂くことがデミウルゴス様の望みであるかと」

 

 そうでもなければ、ナザリックの忠実なるシモベであるデミウルゴスが、偉大なる主人にわざわざご足労願うわけがない。

 

 アインズは得心した。

 同時に、この男がシモベたちの考えを翻訳してくれるのがどれほど有用であることかを実感した。

 

「もしもご面倒であれば、パンドラズ・アクター様に代役を担っていただき、要所だけをアインズ様ご自身がなさる形にするのもよろしいかと存じます」

「……うむ。それも考えの一つだな。ところで、だ。もしもアルベドを悪し様に言っていた者がいたら、お前はどうする?」

 

 自分を軽んじられたナザリックのシモベたちがどうするか聞いたところです。

 この男はそこまで過剰反応しませんでしたが、忠誠を捧げるアルベドのことなら別でしょう。

 ちょっとした好奇心です。

 アインズ様は聞いてはならんことを聞いてしまいました。

 

「研究します」

「研究?」

 

 意外な言葉が返ってきました。何を措いても抹殺するのではないかと思っていたのに、言っては何ですが拍子抜けです。

 ですので、ついうっかり聞き返してしまいました。

 すぐに聞かなきゃよかったと思いました。

 

「アルベド様を……悪し……様に、言うなど……………………、全うな存在ではありません。水に沈めても溺れず、切っても血を流さず、火にくべても燃えない可能性があります。どのような存在であるか入念な調査と研究が必要となります。そのためには」

「ああ、わかったわかった。そうだな、調査と研究が必要だな。その時には気が済むまで研究するといい」

「恐れ入ります。例え万年かかろうとも正しい結果をご報告することを誓います」

 

 万年は徹底的に責められるらしい。

 その前にお前死ぬだろとアインズ様は思ったのですが、余計なことは言いませんでした。

 これがガチ勢の恐ろしさ。即殺するシモベたちが可愛く思えます。

 とりあえず聞かなかったことにして、切り替えました。

 

「手間をとらせた。何か望むものはあるか?」

 

 アインズ様、大盤振る舞いです。

 大きな懸念が片付いて、物凄く楽になりました。肩の荷が降りたってやつです。

 立場的にお礼を言うのは難しいので、代わりにご褒美の一つや二つはの気分でした。

 本当ならアルベドから取り上げて自分の副官にしたいところではありますが、これはアルベドもこの男も素直に頷かないと思われました。

 

「アインズ様へお願いするのは恐れ多いことではありますが……」

 

 自分の体を見下ろして、ヘソ出しルックになってしまったジャケットをつまみ上げました。

 

「出来ますれば新しいスーツを仕立てていただけると」

 

 アインズ様的にはなんともささやかなお願いですが、ナザリック以外では手には入らない超がつくほど上等な衣服なのです。

 寛大なアインズ様は男の願いを聞き入れ、ペストーニャにメッセージの魔法を飛ばしました。

 

 男が恭しく退室した後、うあーと気を抜いて椅子にもたれました。

 ずっと張りつめていた緊張がするっと解けてしまったのです。

 アンデッドなので眠れないアインズ様ではありますが、精神を弛緩させて10分後、爽快な気分になりました。

 もう怖いものなんて何もない気分です。

 きっと聖王国での作戦も上手くいことでしょう。

 

 

 

 

 

 

 人知れずデミウルゴスの命を守ってからアインズ様の執務室を辞した男は、神域たるナザリック第九階層「ロイヤルスイート」を一人歩いていた。

 広い広いロイヤルスイートであり、隅々まで歩いたことはないので知らない場所も多い。それでも、以前連れ込まれた衣装部屋や食堂の位置は知っている。

 スーツを仕立ててもらう前に、食堂にお邪魔して減ったお腹を何とかしようと考えた。

 アルベド様のお部屋を離れてのは食事をとるためであって、それは今になっても果たされていなかった。

 

 ペストーニャと会えれば一番良いのだが、誰ともすれ違うことなく歩き続け、交差した廊下を渡ろうとした瞬間である。

 

「ガッ!?」

 

 頭部に強い衝撃を受け、何が起こったのかもわからず意識を深い闇に沈めた。

 

 遠距離から人の目では視認不能の高速で飛来する弾丸で、ヘッドショットを決められたのだ。

 下手人は倒れ伏した男の足を掴み、後頭部が床で擦ることを気に掛けることなく引きずっていく。たとえ禿げようとも回復魔法で何とかなるのだ。たぶん。

 

 下手人がたどり着いたのは使用人たちの居住エリアの端っこ。行き止まりの壁に数度触れ、二人の姿は転移の光にかき消えた。

 

 

 

「うわっぷ!?」

 

 顔に冷たい水を掛けられ、目を覚ました。

 反射的に顔を拭おうとしたが、ガチャガチャと金属質な音を響かせるきりで腕が動かない。

 体は横たえらえて、両腕を上げた状態で拘束されているようだ。

 徐々にぼやけた視界が戻ってくる。真っ白な天井が目に映った。知ってる天井だ。ここには一度来たことがある。

 

「やっと起きた」

 

 声がする方へ顔を向けた。

 

 ここは第九階層のどこかにあるシークレットセーフティルーム。

 以前訪れた際は、シズと一緒だった。

 声の主も視線の先にいたのも、案の定。プレアデスの末妹、をエントマと押し付けあっているプレアデスの一人。

 美女ばかりであるナザリックでは希少な美少女枠に位置するCZ2Ⅰ28・Δ、略称シズ・デルタである。

 

「シズさん? 何かご用でしょうか?」

 

 拘束されて監禁されているのにこの言いよう。

 ソリュシャンが呆れるほど図太いだけはあった。

 

「………………」

 

 シズは無言で、男に水を引っかけたグラスをテーブルに置いた。

 

 シズはオートマトンである。

 種族的なものか生来のものであるか、いずれかはわからないが表情に乏しい。

 シズの微妙な表情の変化から感情の機微を読めるのは、シズの姉妹であるプレアデスでないと難しい。

 だと言うのに、今のシズなら誰であっても内心を伺えることであろう。

 それこそ、シズと初対面であろうと、人の顔形なぞろくにわかりもしないビーストマンであろうと。

 それもそのはず。

 

「よくもそんななりでわたしのまえにかおをだせたな。このクソッタレの腐れオスブタ汚物野郎が」

「!?」

 

 可愛いシズちゃんは怒りの鬼軍曹モードになっていたのだ。

 宝石のように美しい翠玉の瞳から、赫灼たる怒りの炎が立ち上っていた。




たまに不定期で書くと思います、たぶん
プロットとか考えたことないし唯一考えてた着地点は前回消化したのでこれからどうなるのかもう本当にわかんないですね!


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ふぁうんてん ▽シズ♯3

「その綺麗な顔をふっとばしてやる」

「それはさっきアルベド様にやられました。いてっ」

 

 つまらないボケに付き合うつもりはない。男の頬に銀色に光る細長い棒を押し付けた。

 

 シズが持つのは一抱えもある金属塊。幾つもの溝が走り、大小の凹凸が飾る。様々な形状の部品が組み合わされ、如何にも複雑な機構を思わせる。本体から伸びる同色の棒は、中央に指が入るほどの穴が空いて円筒となっていた。

 これぞナザリックにてシズだけに許された武装、魔導銃である。シズの魔力を弾丸に精製し、射出する事が出来るのだ。先ほどは非殺傷の弾丸で男を狙撃した。現在込められているのは殺傷力バリバリだ。宣言通りに綺麗な顔を木っ端微塵に吹っ飛ばすことが可能。

 

「理由をお伺いしても?」

 

 生殺与奪を握られているのに、呑気なものである。

 魔導銃については知らなくても、一応銃器の存在は知っており、シズが持つのはそのたぐいと判断していた。銃については日本語辞書に載っていた。

 

「……一応、聞いてやる」

 

 男の顔を睨みつけていたシズは、視線を下げた。

 

「それ……どうした?」

「それとは何のことでしょう?」

「これ。ジャケットの裾。どこにやった?」

 

 シズが見ていたのは男の腹部。服は千切れてへそ出しになっている。割れた腹筋が僅かに覗く。

 

 上半身に着ているシャツとジャケットは、本来なら股の近くまで裾が伸びている。それが今やヘソ出しルック。

 アルベド様からバルディッシュの横薙を受けて、スパッと綺麗に切断されたのだ。千切れた裾部をどうしたかは知れたことである。

 

「捨てました」

 

 バタン。シズさん!?

 

 シズは倒れた。

 平衡感覚が突然失調した。視界も失せた。聴覚も消えた。頬に触れる床の冷たさも感じない。シズの中の全リソースが一点に集中したからだ。

 

 ややあって、立ち上がったシズの瞳は虚無だった。靴を脱いでベッドに上り、男の体を跨いで仁王立ちする。銃口を男の額に突きつけた。

 

「判決死刑。死刑執行。死ね」

「罪状は!?」

 

 ようやく男は焦った。

 アルベド様から勝手に死ぬなと言われたばかり。命令で死んだにも関わらず強いお叱りを受けた。それを、アルベド様の目の届かないところで死んでしまえば何を況や。

 

「……ジャケットを破った」

「ジャケットを?」

 

 男が着ているスーツは、ペストーニャが陣頭指揮をとって仕立てたナザリック製超高級スーツである。それを破った。

 

「それを、捨てた」

「それはまあ、破れましたから」

 

 シャツとジャケットの千切れた部分は捨て置かれたままで、ペストーニャが退室時に回収していった。

 

「私の、シールを……」

「シール?」

 

 繰り返されるおうむ返し。シズが何を言っているのか未だにわからない。

 

「私が貼った、1円シールを、捨てた罪。死んで償え!」

 

 とても珍しいことに、シズが言葉を荒げた。

 

 1円シールとは、シズがお気に入りに貼るシールである。シズが履くスカートの裾にも貼ってある。本当に本当のお気に入りにしか貼らないシールだ。

 それをシズは、この男が着るジャケットの裾に貼っていた。それを、捨てられた。

 ナザリック製の超高級スーツを破ってまでして捨てたのだ。ナザリック製の衣服を破る禁忌を犯してまでして捨てたのだ。ナザリックのシモベ達なら到底許すことなど出来ない禁忌を犯して、捨てたのだ。そこまでして、シズが貼った1円シールを捨てたかったのだ。

 屈辱である。

 

 シズは表情の変化に乏しいことから感情の起伏が小さいと思われることがある。

 色々な方向へ情動豊かな他の姉妹と比べれば、小さいかも知れない。小さくてもないわけではない。喜ぶことがあれば怒ることもある。

 現在感じている情動は、いまだかつて味わったことがない。余りに大きくて比較のしようがない。正負が逆ではあるが、絶対値で見ればアインズ様がナザリックに残ってくださった事への喜びを凌駕しうる。

 感情の名を、怒りと呼んだ。

 

 シズは、爪先から髪の毛一本に至るまで、全身の全てを怒りに支配された。

 トリガーに指がかかり、軽い引き金を引く寸前、

 

「そんなシールをいつ貼ったんですか? そもそも何のシールなのですか?」

「む……」

 

 罪人は己が罪を知らないらしい。

 地獄で罪の深さを噛みしめさせるため、シズは言葉少なく語った。

 

 ジャケットの裾に1円シールを貼った。1円シールは自分がお気に入りに貼るシール。そのシールを、ジャケットを破って捨てた。ナザリック製のジャケットを破った。よって死刑。

 

 聞き終えた男の目は胡乱だった。

 

「まず、ジャケットを破ったのは私ではありません。アルベド様です」

「……」

「アルベド様も私も、シールの存在を知りませんでした」

「……」

「私は、シズさんがお気に入りにシールを貼ることを知りませんでした」

「……」

「そもそも私に何も言わず、どうして勝手に貼るんですか」

 

 シズは銃を下ろした。

 シズの顔は凪いでいた。

 

「酌量の余地を認める」

「いやそこは無罪でしょう。むしろ一方的な思い込みで私をこんな目に遭わせてるシズさんが罪に問われるべきです」

「うるさい。だから過失は認める。でも私の心は傷ついた。その罪を償うべき」

「いいえ、私には過失もありません。いったいどんな罪で裁くおつもりですか?」

「……過失侮辱罪」

「なんですかそれは」

 

 ナザリックの法に、そんな罪状はない。

 ないであろうことを男は察した。目を逸らしながら言うシズがその証拠だ。

 ここはもう一押しして解放を訴えようとした時、空気を読まずに腹の虫が自己主張した。降って湧いた危機を脱して緊張が緩み、体が欲求を訴えた。食事に行くつもりだったのに、今になっても果たせていない。

 

 シズはベッドから飛び降りると、側に置かれている冷蔵庫を模したボックスから細長い銀色の包みを取り出した。非常食なのに割と美味しいナザリック製レーションである。包装を破いた。

 シズは中身を男の顔に近づける。クッキーのように甘く、しとやかな匂いが男の鼻をくすぐった。

 男が口を開いたので、シズは食べさせてやろうと近づけて、閉じる寸前に引き抜いた。

 

「……ください」

「謝ったらあげる」

「ごめんなさい」

「ん。許す」

 

 怒りの深さに反比例して、あっさりと和解がなった。

 

「水もください」

「わかった。少し待つ」

 

 シズは素直に頼まれた。シズはプレアデスであり、プレアデスは戦闘メイドであり、戦闘とついていてもメイドである。シズの心には奉仕の精神が宿っていた。

 グラスに酌んだ水を横たわる男に飲ませてやった。

 

「ぶへらっ!?」

 

 そして、思い切りせき込んだ。

 寝たままでは水を飲めない。せめて体を起こす必要があるのだが、両腕は拘束されたままだった。

 

「ほどいてください」

「まだ駄目。どっちにしても、後三時間はここから出られない」

 

 一度入ると三時間は退出不能のセーフティルームである。

 

 

 

 

 

 

「私が飲ませる」

 

 シズは、手にしたグラスから水を呷った。

 グラスはテーブルに戻し、シズはベッドによじ登る。男の体を跨いで膝を突き、両手は顔の隣に突いた。

 手首を肘がゆっくりと角度を変えて、鼻がぶつからないように少しだけ首を傾げてから、小さな珊瑚の唇を、男の唇に押し付けた。

 

「んっ…………」

 

 合わさった唇は互いに薄く開き、水は高きから低きへ流れ、シズの口内から男の口内へ、冷水はシズの口で少しだけ温められ、男の喉が数度鳴った。

 口内の水を飲ませきってもシズの唇は離れない。薄く開かれて重なった唇の間を、シズの舌が通った。目一杯伸ばして男の舌に触れる。求めに応じて、男の舌も伸びてきた。

 ファーストキスで舌を入れられたシズは、キスとはこう言うものだと思っていた。

 舌と舌が絡み合って、シズの頬を男の鼻息が舐めた。

 

「れろ……ちゅっ……ちゅる……、ん……」

 

 シズはもう手を突いてない。左腕の肘を男の頭の上に置いている。立てた膝も曲がって、男の腹に尻を突いている。

 右手はシャツのボタンを外していた。シャツを開いて手を差し込み、胸板を撫でている。無駄な肉がなく、細身のくせに胸筋は固い。自分がされて気持ちよかったので、小さな乳首を摘まんでやった。

 

「乳首、立ってる」

「触られれば男も立ちまっ」

「あむぅ……、キス、好き?」

「好きですよ」

「……良かった」

 

 ちろちろと、男の唇を貪りながら乳首を責めた。

 シャツのボタンを全て外して上半身を裸にさせ、下半身へ。

 キスをしながらなので手探りで手を伸ばし、ベルトを外すのは後回しにして股間に触れた。

 シズの眉間に、皺がよった。

 

「……男性器が立ってない」

「それは、まあ」

 

 言葉を濁した。

 

 シズはプレアデスだ。姉たちに比べれば幼くても希なほど美しい少女である。

 唇を重ねて舌を絡ませ、体をまさぐられるのは心地よい。

 ついさっき何度も瀕死になり、そのたびにペストーニャから完全回復されたので、血液も体液も、ついでに精液も万全の状態に戻った。

 立たせようと頑張れば不可能ではないが、頑張らないとその気になれなかった。

 

 シズは美しい少女であるのだが、淡泊なのだ。

 表情は変わらないし、言葉は平坦だし、有無を言わさず閉じこめられて上になっているし、興奮する要素に乏しい。

 最大の理由は、アルベド様と濃厚セックスをたっぷりしたばかりだから。

 

(わたしにぃ…………、あなたの赤ちゃん孕ませて♡)

 

 そんなことを言われてしまった。

 赤ちゃん云々は幾ら何でも雰囲気を盛り上げるための虚言だろうが、かつてなく興奮したのは事実だ。

 シズがアルベド様を越える媚態を見せられるかどうかと言えば疑問の余地なく無理としか言えない。

 

 つまりは、アルベド様とのセックスの余韻が強くて、シズから迫られようとそんな気分になれなかったのだ。

 

「……刺激すれば勃起する」

「ちょっと待ってください。立たせてどうするんですか」

「む……」

 

 シズはズボンの上から股間をさすり始めた。

 

「シズさんはセックスしたいんですか?」

「……………………違う」

 

 唇を離し、ぷいと横を向く。

 拘束されているので、横を向かれると顔が見えない。

 

「違うなら何ですか?」

「……精液。……精液の味は濃厚だった」

 

 同時に、苦くて不味いとも言っていた。

 

「濃厚な飲み物が欲しければ、レストランでスープをどうぞ」

 

 料理長にオーガの骨髄スープはないですかと訊いて呆れられて怒られることになるのは予定調和である。

 

「む……。お前はしたくない?」

「私がしたいと思ってもシズさんがしたいと思わなければ無理ですからシズさん次第です」

「したいならしてあげてもいい」

「シズさんがしたいのでなければしたくありません。いえ、シズさんはセックスしたいわけじゃないんですよね?」

「むう……」

 

 シズは、セックスをしたいわけではないと言ってしまった。

 濃厚な精液を味わいたいと言ったら、レストランのスープをお勧めされてしまった。

 

 シズは、本当にセックスがしたいわけではなかった。

 セックスは手段である。目的ではない。目的を果たすのに、セックス以外の手段を知らないだけだ。

 

「……セックスしたいわけじゃない」

「それなら何ですか?」

「…………気持ちよくなりたい」

 

 目的は、快感を得ることだった。

 この男とのセックスは、繋がってる女性器だけでなく全身が気持ちよかった。あんな気持ちよさを、他で味わったことは一度もない。他の手段は想像も出来ない。おそらくは存在しない。

 だから必ずしもセックスしたいわけじゃないけれど、気持ちよくなりたいからセックスしたいと思わなくもない。

 

「わかりました。それなら尚の事解放してください」

「……鎖を解いてもまだ出れない」

「わかってますよ」

「…………逃げない?」

「逃げる場所もないでしょうに」

「わかった」

 

 手枷を外され、拘束されていた手首を撫でた。

 咽せて吐き出した水に濡れたシャツが冷たく不快で、ジャケット諸共脱ぐ。

 

 上半身が裸になった男を見て何を思ったか、シズもメイド服を脱いでいた。

 ボタンを上から順に一つずつ外して、魔法の服なのだから乱雑に扱っても生地が傷むことはないというのに丁寧にゆっくりとワンピースにブラウスに、と脱いでいく。

 勿論下着も。ブラジャーを外して、パンツの前にソックスを脱ぎ、パンツも下ろして足を抜く。

 男に見られながら、シズは眼帯とヘッドドレスだけの姿になった。

 服を脱ぐ動作は淀みなく、まるで服の脱ぎ方の作法やマナーでもあるかのよう。しかし、躊躇いと恥じらいは全くなかった。

 シズちゃんの裸はとても綺麗なのに、これだからいまいち興奮できないのだ。

 

「……こちらに」

「わかった。あっ……」

 

 男に近付くなり抱きすくめられ、ベッドに押し倒された。さっきとは上下が逆になった。

 シズは、自分がしたのと同じ事を仕返された。

 唇が合わさる前に舌が触れ合い、たっぷりと唾液を交換しながら体をまさぐられる。

 

 ただでさえ小振りな乳房は、仰向けに横たわると一層小さく見えてしまう。それでも触ってみれば膨らみを感じられ、乳肉の柔らかさがあった。

 数度揉み、焦らさずに突起を摘まんだ。

 

「シズさんは乳首を触って欲しいって言ったことがありますよね。乳首を触られるのは好きですか?」

「む……。あんっ!」

 

 顔を背けようとしたのに、出来なかった。

 乳房の中央から、刺したような刺激が広がった。痛みは全くない。

 

「好きじゃないならもうしません」

「あ…………」

 

 シズの声には惜しむ響きがあり、している方は惜しむことなく手を離した。

 

 なだらかな乳房の中央で、乳首が物欲しそうに尖っている。ピンク色だったのに赤みが強くなって張りつめている。体の内側から淫欲が顔を出しているかのようだ。

 

「あんっ、……乳首、好きじゃなくない。だから、触っていい。……ペロペロもしていい」

 

 尖った乳首を一舐めする。

 濡れ光った乳首は食欲をそそった。口に含んで舌で転がし、弾力を楽しんでから強く吸った。

 シズのおっぱいは小振りで、アルベド様のおっぱいを吸った時のような満足感はないし、ソリュシャンと違っておっぱいを出せるわけでもない。

 だけどもとても綺麗な乳首だ。プレアデスで勃起乳首の綺麗度ランキングを付けたら相当な上位に食い込む。

 

「んぅ……、吸って、いい。いっぱい、して、……いい」

 

 乳首を吸われて摘ままれて、指で舌で転がされ、甘噛みされて引っ張られる。

 その度に、シズは幼い声で甘く鳴いた。

 自分で触ったときとは何もかも違う。

 自分で触っても乳首は立つが、声までは出ない。今だって出そうとして出しているのではなく、勝手に出ている。

 乳首を触られて、気持ちよくなって、抑えようとは思っているのに可愛い声で鳴いてしまう。

 

 触ったり舐めたりする許可を与えている形なのに、本当はして欲しいと思ってる。

 触って欲しい、舐めて欲しい、噛んで欲しい、摘まんで欲しい、吸って欲しい。色々な事をして欲しい。もっと感じたい。単に気持ちよくなりたいのとは少し違う。

 感じたいのは、手と口。指と舌。この男の体。

 もっともっと求めて欲しい。そして一緒によくなりたい。

 

「あ………………、女性器?」

「……そこはおまんこって言ってください」

「女性器もおまんこも同じ意味」

「同じならおまんこの方で。そっちの方がシズさんをより可愛く思えるんです」

「わかった」

 

 シズの股間は全くの無毛で、秘部は無垢な一本筋。

 伸ばした中指を筋に合わせれば、温かなぬるみがまとわりついた。

 ぴたりと閉じているのに濡らしているらしい。

 

「濡れてますね」

「おまんこが濡れてる? ……潤滑液」

「潤滑液って教えたのは私ですけど、そこはせめて愛液って……!」

 

 はたとろくでもないことを閃いてしまった。

 

 シクススやメイドたちは、様々な淫語や行為を知っていた。誰もが処女だったのに、どうしてそんなことを知っていたのか。

 シクススは、異本に書いてあると言っていた。異本があるのはナザリックの最古図書館であると思われる。シクススの言によると禁書指定らしいが、メイドたちが閲覧できるならプレアデスであるシズも閲覧可能であるはず。

 シズには異本で自主学習してもらおうと考えた。

 

「潤滑液は愛液って言う?」

「愛液とも呼びます。後で参考資料を教えますので、そこから色々学習してください」

「……わかった。んっ……、おまんこも、こすっていい。あっ……、あっ……んっちゅう……、こっちのキスも、好き」

 

 シズの割れ目に潜った指は数度往復した。

 まだふにふにしているクリトリスを責めるのも良かったが、前回できなかったことをしようと考えた。

 

 処女だったときのシズは、膣が処女膜で完全に塞がっていた。

 指を入れるのは拒否されて、逸物で破ったのだ。

 破った後は、両手をシズに拘束されてこちらからは何も出来なくなった。

 その後にシズと作った時間では、濡れやすいのをいいことにすぐに挿入したがった。

 手指でシズの内側を愛撫したことがなかったのだ。

 今回はそれを果たす。

 手マンの時間である。

 

 シズには騙されていいようにされたり、今回は一方的な勘違いでまたも閉じこめられたりしている。だけども、最古図書館に連れて行ってもらった恩があった。

 シズは気持ちよくなりたいと言っているのだから、恩返しをするべき。

 

 この男は、手技に自信があった。

 アルベドに初めての敗北を覚えさせた魔技である。

 技は絶え間なく磨かれ続け、美神アルベドの恩寵もあって高次元の悦楽を与えることが出来るのだ。

 

「あっ?」

 

 シズの体から離れ、頭側に腰を下ろした。足は開いてシズの体を包むように伸ばす。

 そして、シズの脚を引き寄せた。

 

「苦しいですか? 苦しいようなら姿勢を変えます」

「……平気」

「それでしたら、脚が倒れないように持っていてください」

「わかった」

 

 シズは自分の膝裏に腕を通した。自分の手で大股を開く姿勢。脚をぐいと引かれたので、尻は浮いている。

 横たわったままで、開いた股間を天に突き出すこの姿勢を、まんぐり返しと言った。

 常と違うのは、男の位置がシズの足側ではなく頭側にあること。シズの股間と正対する位置である。

 

 シズは大きく股を開いているのに、秘部は一本筋のままだ。

 

「おまんこを広げてください」

「…………」

 

 無言で従った。

 股間を突き出す異様な姿勢で、シズは閉じた陰唇をぴらと開いた。濡れた内側が露わになった。

 しとどに濡れている。

 処女膜を破かれた膣口には透明な液体が溜まっている。指も入りそうにない小さな入り口に、中指を突き立てた。

 

「っ!」

 

 ぬぷりと指が入っていく。愛液が押し出され、無毛の股間を伝って流れた。

 穴は小さくてきつそうだったのに、指への締め付けは柔らかで肌触りはなめらかだ。

 薬指も追加した。シズの穴は抵抗なく受け入れた。

 

「あっ! そこっ、そこぉ、どここすってるうっ!?」

 

 内部で指を折り曲げて、男の精液を搾り取るためにある淫らな膣壁をこすり始めた。

 

 オートマトンであるシズは妊娠しない。それなのに女性器がある。

 シズが悟ったように、男性器を受け入れるためだけにある。挿入された性器を咥えて締め付け、射精に導くためだけにある。

 それに付随して、どちらが優先されているのかは誰にもわからないが、シズ自身も快感を得る。挿入されて気持ちいい。中で出されると満足感がある。サキュバスであるアルベドとは違うやり方だが、子宮に送られた精液はシズのエネルギーになる。

 挿入されて気持ちいいのだから、男性器以外でも。

 

「あっあっあっあっ、ああっ! ゆびっ、ゆびがっ! おまんこにはいってる! おちんこじゃないのに、ゆびなのにっ!」

 

 シズの顔が艶めいて来た。

 男の股に頭を押しつけて、幼い美貌を雌のものにして鳴いている。

 

 抽送はペースを保って、飛沫を上げながらシズの中を行き来した。

 

(こっちもしておくか)

 

「!?」

 

 シズはまんぐり返しをしているのだ。

 これがベッドに寝ころんでるなら兎も角として、股を突きだしている。

 性器がよく見えるなら、尻の穴もよく見えた。

 

「そっちちがうっ! そこは肛門で出すところだから入れるところじゃなくて入れるのだめっ!」

「まさか。シズさんのここは入れるところですよ」

「!?」

 

 シズに天啓が降りてしまった!

 

 シズはオートマトンなのに女性器がある。偉大なる創造主であられるガーネット様から与えられた体に不要な器官はないため、女性器は挿入されて快感を得るためにあると悟った。

 では肛門はどうか。

 シズはオートマトンの種族ペナルティとして、固形物を消化吸収することが出来ない。シズの食事は高カロリー甘々ドリンクなのだ。そのため、肛門から排泄する事がない。なのに、ついている。

 

(おまんこは挿入するためにある。でも肛門は違う。そこは排泄するところ。でも、私はオートマトン。うんちは一度もしたことがない。肛門は必要ない器官。それなのについてる。私にも肛門がある。なんのために? 出すものがないなら入れるため? ああ……、肛門にも指が入ってる。見えないけど入ってるのがわかる。……どこまで入ってるのかわからない。広げられてるのはわかる。う……、ちょっと、苦しい)

 

「……入れていい、から、ゆびへらして」

「いきなり三本は多かったですかね?」

 

 着色のない綺麗なアナルは、幾本もの皺が伸ばされきっていた。

 膣同様に小指すら入らないように見えたくせして、指を突き立てればぬるりと飲み込んだ。調子に乗って中指に人差し指と薬指を追加したのだが、さすがに苦しかったらしい。

 穴があったら入れたいお年頃でも、シズに苦しい思いをさせたいわけではない。

 

 指を抜かれたアナルはぽっかりと広がって奥の暗がりを見せ、すぐに閉じてしまった。

 入れていた指を嗅ぐと、不快な臭いは全くない。愛液と似た甘ったるい匂いだけがある。

 

「それでは改めて、いきますよ?」

「うん。……気持ちよくして。あっ……あっ……ああああっ!」

 

 両穴に差し込むのは中指と、パートナーの薬指。シズの小さな体は、都合四本の指を飲み込んだ。

 出し入れする度に愛液を掻きだして、シズのおつゆは下腹を伝って形良いへそに溜まった。

 

「あっあっあっ、はあっ! んあっ、はあっ、ああっ! あんっ! あんっ♡」

 

 シズは鳴き続けた。

 翠玉の瞳は愛欲に潤んで、知性の欠片もない。

 脚を広げていた手はシーツを掴み、皺を作った。

 

「いいっ、おまんこいいっ、きもちい♡ おまんこしてっ♡」

「お尻の穴はどうですか?」

「お尻もっ……いいっ、中でぐりぐりぃ、ああんっ! わたしのあながっ、どっちのあなもぉ♡」

 

 知性がなければ理性もなかった。

 幼い美貌を愛欲の炎で溶かし、ユリにすら見せたことがない蕩けた顔でどこでもない所を見つめている。

 

 もしも今のシズに理性と知性があり、ユリのように気を感じるスキルがあれば、男の手指から鮮やかなピンク色の光が迸るのを目にしたことだろう。

 二つの意味で内側を激しく嬲られ、シズの自我は砕け散った。

 とても大きくて優しい存在に体も心も包まれて、シズは何もかも手放してしまった。

 

「おお!」

「ああああああああああああああああぁぁぁあああああぁーーーーーーーーっ!」

 

 感嘆の声はシズの絶叫にかき消された。

 

 気配を感じてシズの穴から指を引き抜いたと同時である。

 シズのおまんこの、正確に言えば尿道口から、無色の液体がプシャーっと噴出した。

 飛び散るおつゆは、さながら噴水の如し。

 甘ったるい匂いが周囲に満ちた。

 

 明滅する視界を呆と眺め、顎をがくがくと震わせて、シズは涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 シズの愛液は甘い匂いがする。味はなく、舐めれば僅かなとろみがあった。

 今し方噴出した液体は、甘ったるさの中に、どこかミルクのような匂いが混じる。味は無味。注意深く味わえば、酸味があるような気がしなくもない。とろみはなく、さらっとしていた。

 シズのおしっこだった。

 

 潮吹きと言うのは、つまりおしっこである。

 性交によって強い快感があれば催すものであり、それが我慢できなくなって勢いよく出てしまったのだ。

 

「シズさんのおしっこはいい匂いがしますね。この香りは捨てがたいです。シズさんのおしっこでお茶を入れたらきっといい感じのフレーバーティーが出来ますよ。味はほとんどないからお茶の味を邪魔することもないでしょう。でも加熱すると香りが飛んじゃうかな? そうだ。香り付けにちょっと入れればいいのかな。お茶を入れる際にシズさんにおしっこしてもらって、ギャン!?」

 

 男は気絶した。

 シズのおしっこをテイスティングしている間に、またも頭部を撃たれたのだ。

 

 

 

「うわっぷ!」

 

 顔に冷たい水を掛けられて、反射的に拭おうとしたがガチャガチャと鳴るだけで腕が動かせない。

 目を開けば見知った天井。またも両腕を拘束されて寝かされているらしい。下半身に開放感がある。下を脱がされている。

 

「どうしてまた縛ってるんですか、解いてください」

「だまれ!」

 

 とても珍しいことに、シズが声を荒げた。

 本日二度目だ。シールを捨てられたと勘違いしたのと同じくらい深い激情に駆られているらしい。

 今度は、怒りだけではなかった。

 

 過日、アルベドは男の前で放尿してしまったとき、絶望に心を喰われた。

 おしっこの色を褒められたときは羞恥の余りに涙した。

 おしっこを飲まれてしまったかも知れないと思ったときは、過去を忘れるために我を忘れて快楽の海に溺れきった。

 

 シズは、男の前で潮吹きをしてしまった。

 潮吹きだろうとなんだろうと、おしっこであることに変わりはない。固形物を食べられないシズなので大きい方はしなくても、小さい方は普通にあるのだ。

 おしっこの匂いを褒められてしまった。おしっこでお茶を淹れたら美味しいとも言われてしまった。お茶を淹れるときはおしっこしてと言われてしまった。

 

 高レベルであるアルベドでさえ絶望に心を喰われる羞恥の極地。

 

「……あの、シズさん?」

 

 表情に乏しいシズだ。

 しかし今のシズを見れば、誰であれそんな評価を一笑に付すことだろう。

 

 シズは眉間に深い皺を刻み、目を吊り上げていた。

 歯を固く食いしばり、真一文字に結ばれた唇は端がひくひくと。唇に釣られるのか、頬も痙攣したように震えている。

 誰もが目を疑うのはシズの頬。白い頬は、真っ赤に染まっていた。

 

 恥ずかしくて恥ずかしくて堪らなくて、向こう側へ行ったきりだったら良かったのに帰ってきてしまったシズは、もう本当に堪らなかった。

 

「豚のように……鳴かせてやる!」

「!?」

 

 シズは怒った。

 

 セーフティルームから出られる時間になっても、シズの怒りは治まらなかった。

 寸止めに加えて根本を縛られ、命乞いならぬ射精乞いをさせられた。

 男の言う生物にとって、射精に至らない快感がどれほど狂おしいものであるか。

 

 三時間以上入れっぱなしで、初めての射精を許されたときは、アルベドに中出しした時よりもずっと多かった。

 快感も相応に深いものだったが、そこへ至るまでの苦痛と釣り合っていない気がしてならない。

 

 どうしてシズが怒ったのかさっぱりわからないが、シズのおしっこでお茶を淹れるのは諦めざるをえなかった。




マイペースでいいよって言われたので甘えたら間があいてしまいました
次はもちょっと早く出来たらと思ってます
なお、本話は10,700字ちょい、長いですかね?


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たてまえ

 二度あることは三度あるらしい。

 目を覚ますと知ってる天井。幸いなことに手枷は外れている。シズの姿はどこにもなかった。

 

 シズの中に放った直後にまたも昏倒させられ、放置されたようだ。今度は水を掛けられることなく自然に目を覚ましたため、時間の経過が全くわからない。

 お腹が減っていたので非常用レーションをぱくつき、簡易シャワーで体を清めた。

 

 感情の機微とか言うやたらと難しいものを察する能力は皆無と己の節穴を自認する男であるが、シズが怒っていたのはわかった。わからないのは、どうして怒ったのかだ。怒る要素は皆無に思えたため不思議でならない。

 潮吹きはとても気持ちよかった証なので、こちらはシズが気持ちよくなってくれて嬉しい、シズも気持ちよくなったわけだから怒るわけがない。

 潮吹きに出てくる液体はつまるところおしっこで、シズのそれは人のものと違ってとても良い匂いがした。恥じるどころか誇るところではと思われる。

 いったい何が悪かったのか。

 

 潮吹きについてはラナーに散々してやった。盛大に失禁するほど感じたわけで、当時は密かな満足感を覚えたものである。しかし後日。潮吹きの三回に二回は演技と気付いた。あの女は、感じてる振りをして、わざとおしっこを掛けてきたのだ。あれは人におしっこを掛けて悦に入る変態である。

 シズの潮吹きは演技ではなかったので、やはり気持ちよかったと思われて考察は振り出しに戻った。

 解けない疑問に首を捻りながらセーフティルームを後にした。

 

 

 

 無知が罪ならバカも罪だった。

 

 

 

 

 

 

「ここにいらっしゃいましたか。……わん」

「ペストーニャ様。私もペストーニャ様を探していました」

 

 九階層に戻り、荘厳にして神聖なる長い廊下をうろうろとしていると、犬面人身のメイド長、ペストーニャにようやく会うことができた。

 ペストーニャを探していたら、シズに狙撃されて閉じこめられて好き放題されたのだ。

 

「食事はお済みでしょうか? ……わん」

「簡易なものでしたが、済ませたばかりです」

「そうでしたか。それでは私についてきてください。アインズ様より、あなたのスーツを仕立てよと仰せつかっております。……わん」

「承知しました。面倒をお掛けします」

 

 ペストーニャの先導で歩き始めた。

 歩き進むのは知ってる道で、目的地は以前連れて行かれた衣装部屋と察した。そこで超高級ダークスーツを仕立ててもらい、その前にメイドのおもちゃになったりした記憶がある。

 

「どこで何をしていたのか聞きたいところですが、シズ様から絞られたのでしょうか、わん」

「ご存じでしたか?」

「はい。あなたが着ていたジャケットの裾にシズ様のシールが貼られていましたので。……わん」

 

 シズがお気に入りに1円シールを貼ることは、ペストーニャも当然知っている。

 千切れたジャケットの裾を回収したらシールが貼ってあることに気付き、もしかしたらシールを捨てるためにジャケットを破ったのではないかとシズは勘違いするのではないかと案じていたら案の上であったようだ。

 

 他愛ない話をしながら歩き続け、これから仕立てることになるスーツの話になった。

 

「どのようなスーツになるのか楽しみにしております。私としましては、同じものをいただければ幸いです」

「さようですか。考慮しておきます。その前に採寸しなければなりません。……わん」

「……………………あれ?」

 

 ペストーニャの言葉に違和感があった。

 

「採寸は前回仕立てていただいた際にしたはずですが」

「廃棄しました、わん」

「えっ」

「なにか?」

「いえ……」

 

 メイドのおもちゃになりながら必要ないと思われるのに採寸された寸法は、保存してないらしい。

 仕立てるのは一着だけ。二着目は考えていなかった、と言われたらそうかも知れないので何とも言えない。

 しかし、である。

 

「あの……、破れてしまいましたが、このスーツにも魔法が掛かっています。丈夫で汚れない上に、寸法を自動で調節してくれます。採寸は必要ないのではないでしょうか?」

「それがなにか?」

「えっ」

 

 魔法の服なので採寸は必要ない。ペストーニャもそれを認めた。しかし、採寸すると言う。

 必要ないことをわざわざ行うのはおかしい。不合理である。

 

 理屈めいたことを考えている男に、ペストーニャはかわいくておっきいわんこのお口で、はあと大きな溜息を吐いた。

 この男はわかっていないらしい。

 アルベド様からこの男の経歴を簡単に伺ったところ、真っ当な社会経験がないとのこと。だから、頭は良いのにわかって然るべきことがわからないのだ。

 アインズ様が正式にナザリックの一員として、アルベド様の副官もしくは補佐役として認めると仰ったばかりなのに、これは些かいただけない。

 この男のためにも、ナザリックのためにも、後のことを見据えて、教えてあげることにした。

 

 ペストーニャは立ち止まり、くると振り返って男と向き合った。

 ペストーニャでさえ認める美貌は、訝しそうに眉根を寄せていた。

 

「いいですか? よく聞きなさい。……わん」

「はい!」

「スーツを仕立てるために採寸すると言うのは……」

「言うのは?」

「建前です。……わん!」

「!?」

 

 ペストーニャはぶっちゃけた!

 

 建前というのは、表側の理由である。

 表があるなら裏もあり、そちらが事を行う真の目的となる。

 

 唖然としている男を無視して、ペストーニャは扉を開いた。

 目的地に着いたから立ち止まったのだ。

 

「連れてきました。それでは前回と同じように。……わん」

「「「かしこまりました、ペストーニャ様!」」」

 

 扉の向こうに控えていたメイドたちが斉唱した。

 

 真の目的とは前回と同じ。

 メイドたちのおもちゃになることである。

 

 この男がナザリックに来ていることを知ったメイドが世間話程度にペストーニャへ話していた。

 あの男が来ているようですね、少しだけ見かけましたが男なのに相変わらず綺麗な顔をしていました、また見てみたいと言っていた子もいました、あの銀色の髪はどんな手触りなのでしょうか、左右で色の違う目は近くで見るとどうなのでしょうか。

 露骨にアピールしてきた。

 

 アインズ様当番でリフレッシュしているメイドたちなのだが、最近のアインズ様はナザリックよりもエ・ランテルにおられることが多く、また大変お忙しいアインズ様はメイドたちの都合を最大限考慮してくださるも時間が合わないことがあるし、遠き地へ遠征に赴かれることもある。

 メイドたちを慰撫するため、ペストーニャは一肌脱いだのだ。

 

 男は数瞬逡巡した。

 建前である採寸は必要ないことである。

 であれば、裏の目的を聞き出して、と思ったところで迷いが生じる。

 裏の目的がなんであれ、想像通りであれ、追求しても避けれらない可能性が大であった。

 ペストーニャからは何度も回復魔法を掛けてもらっている。凄いポーションをもらったことがある(贅沢にも痛み止めとなった)。魔法のブレスレットをもらってもいる。

 その対価として裏の目的を突きつけられるとどうにもならない。受け入れるしかない。そもそもにして、ナザリックのメイド長の要求を断れるかと言えば無理であった。

 それどころかもしも裏の目的を聞き出してしまうと、わざわざ用意してくれた建前を完全に無視して裏の目的が過激になる危険性がある。

 しかし、お優しいペストーニャ様なので、こちらの訴えに耳を貸してくれる可能性がなきにしもあらず。

 

「それでは後のことはあなた達に任せます。アインズ様はエ・ランテルへお戻りになるそうなので、2・3時間は自由にして構いません。……わん」

「「「承知いたしました! ありがとうございます、ペストーニャ様!」」」

 

 メイドたちの見事な斉唱を受けて、ペストーニャは行ってしまった。

 数秒迷っていただけなのに、片方の道は完全に途絶えてしまった。

 美しいメイドたちに囲まれて、逃げ出せる可能性はゼロである。

 

「!?」

 

 カチャと小さく鳴った。

 咄嗟に振り向く。扉の前には、見覚えのある明るい金髪をしたメイドがいた。

 メイドは、猫のように目を細め、にんまりと笑った。

 

 扉は施錠され、出ることも、誰かが入ってくることも出来なくなった。

 

 

 

 

 

 

 前回訪れた際の衣装部屋は、色とりどりの衣装や大きな布地が目眩がするほど鮮やかに並び、積まれていた。

 あの時は着せかえごっこがメインだったが、今回は採寸である。スーツを仕立てるために体の寸法を測るのだ。全く必要ないが。

 であるからなのか、現在の衣装部屋からは衣装や布地が片付けられ、広々としていた。数脚のソファーがあるだけで、豪華な応接間に見えなくもない。ソファーも片付けて調度を工夫すれば、ダンスホールになりそうだ。

 違うのはメイドたちも。

 前回は二十名を越えていたが、今回はその半分に満たない。

 ナザリックのメイドがいるのは、ここナザリックは当然として、エ・ランテルのお城。アルベド様のお食事処はメイド教官として日替わりで赴くため、こちらは人数を割いてない。そこへ帝都のお屋敷が加わった。シクススの他に若干名。

 ナザリックに常駐しているメイドはもう少しいるはずで、この場に全員集まっているわけではないようだ。

 それというのも、とあるメイドが根回ししたからだ。

 ここにいるのは有志ばかりである。

 

「久し振りね」

 

 一歩前に出たのは黒髪のメイド。

 艶のある黒髪を肩口で切り揃えている。切れ長の目はややつり目がちで、悪戯な光を湛えていた。

 

 ナザリックのメイドたちの中で、男が知るのはシクススを筆頭に、エ・ランテルのお屋敷で顔を合わせたメイド教官。帝都のお屋敷に来てもらっているメイド。ナザリック常駐組では一人だけ。

 以前ベッドを貸してもらい、その際に小さく名を告げられた。

 

「シェーダさんですね。よろしくお願いします」

「ふん」

 

 いかにもつまらなそうに鼻を鳴らすも、メイド仲間たちはわかっている。

 あれは割とかなり喜んでいることが。

 

「早速始めるわ」

 

 この場ではシェーダが音頭をとるようだ。

 

 彼女の言葉を皮切りに、あれよあれよと服を脱がされた。

 破れているジャケットを脱がされ、破れているシャツをはぎ取られ、靴も靴下も脱がされてズボンを下ろされた。前回と同じくパンツ一枚にさせられた。

 前回と明らかに違うのは、メイドたちの態度である。

 

 前回はギャラリーがいた。セバス様配下の男性使用人たちと、デミウルゴス様配下のムキムキ悪魔たち。今回はメイドだけである。

 メイドたちの監督をしていたペストーニャも、今はいない。お仕事に戻ってしまった。

 ブレーキ役がいないのだ。

 メイドたちの目は爛々と輝いている。

 中でもシェーダは経験者の余裕かどことなく大きく構え、彼女の姉妹めいた白と金のメイドは期待に輝いている。

 他のメイドたちも遠からずで、仲間たちの目を気にしているようでいて、けどもメイド長の目がないことから前回よりも大胆に男の体へ触れてみる。

 胸板や背中をさわさわと撫で、自分の手のひらを合わせて男の手の大きさに感心する。

 

 手の大きさとかスーツを仕立てるのに絶対関係ないと思ったので正面から告げたところ、「だから?」と返ってきたのでそれ以上何も言えなくなった。

 

 メイドたちは交互に後ろから抱きついては首筋に鼻を埋めてくんかくんか。中にはそのまま前へ手を伸ばして胸板をさわさわ。

 シェーダは一味違った。

 キャーとかわあ……とか、黄色い声が上がった。

 

「こうした方がいいでしょう? 後ろからも前からも一緒よ」

 

 前から抱きついてきた。

 抱き返したりはしない。見目麗しいメイドたちであるが、おさわりは厳禁である。

 それが不満なのか何なのか、離れたときの目は少々きついものが混じっていた。

 

「そろそろ…………いいわよね?」

 

 男に訊いているのではない。

 仲間たちに確認しているのだ。

 皆、頬を赤らめて、けども真剣な顔で頷いた。

 

 余裕があるのはシェーダと、あの時一緒にいた金と白のメイド。

 

 シェーダは一度きりとは言え経験者である。残る二人はそこまでいかなかったものの、現物を見ている。

 残りのメイドたちは、興味津々であるがそこまで至る機会を得られなかった。あるいは勇気を持てなかった。

 一人ずつでは勇気を出せなかろうと、仲間がいれば心強い。古来より、赤信号みんなで渡れば怖くない、との格言がある。集団心理という奴だ。

 

「それじゃあ……」

 

 白いのが男の右に、金色のが左に。

 両膝を床について、屈み込んだ。

 ナザリック第九階層のロイヤルスイートにある部屋は、特別な目的がある部屋でない限り、どこもふかふかの絨毯が敷かれている。至高の御方々の私室はそれぞれだ。

 衣装部屋も例外ではなく、素っ裸で寝ころんでもふわふわで快適なだけで、汚れたりすることはない。彼女たちがいつも綺麗にしているからだ。

 床に膝を突いてもエプロンが汚れることはない。そもそも男は裸足である。

 

 そして、シェーダは後ろに回った。

 二人と同じように膝を突く。

 

「行くわよ? ……せーの!」

「ちょまっ……」

 

 三人は、えいと声を合わせた。

 キャーキャーキャアー!! と、黄色い声が喜色もあらわに上げられた。

 

 三人が掴んだのは、男のパンツ。

 ひと思いに下ろされた。

 

 美しいメイドたちの前で、正真正銘素っ裸にひんむかれた。




メイドは黒シェーダ、白リファラ、金キャレットとしました
プログラミング用語からです
意味よりも語感からと言うことでどうかお一つ

ペストーニャってプレアデスに敬称つけてましたっけ?
記憶にないので様をつけました

文字数は前回のちょうど半分くらいです
文字数揃えるなんて高度なことは出来ないんです


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異界の知識 ▽一般メイド×3+N

 偉大なる勇者ペロロンチーノが異界よりもたらした異本は神をも恐れぬ冒涜的な内容によってメイドたちの精神を汚染し続けてきた。

 その異本群には二系統あることが知られている。

 一方がシクススやシェーダらのウース派。

 もう一方をアッツ派と呼んだ。

 

 アッツ派。アッツ異本に囚われたモノタチ。厚い本。すなわち、商業誌である。

 

 薄い本を最古図書館に提供したペロロンチーノのコレクションに、商業誌がないわけがなかった。双方の内容やクオリティについてはそれぞれと言う他なく、優劣や勝敗つけられるものではない。

 しかし、決定的に違う部分がある。

 ウース異本は、熟慮に熟慮を重ねて、慎重に入手ルートを選択すると、無修正が手に入るのだ。商業誌は例外なく修正が入っている。黒塗りや白塗りされてシルエットになっていたり、不思議な黒い線によって肝心な部分を隠していたりする。

 

 隠れた部分を知る勇気を持てない者たちがアッツ派なのである。

 ウース派は一歩踏み出す勇気がある、もしくはちょっと進んでエッチな者たちなのだ。

 中でも初体験を済ませたシェーダはウース派の首領に担ぎ上げられた。

 ウース派の首領として、シェーダはウース派アッツ派両派の信徒たちを束ね、この男がナザリックを訪れている絶好の機会を逃さずこの場を設けたのだった。

 

 なお、ウース派の一人であるシクススは長らく射精管理を担っており、接種した精液はリットル単位になろうかと言うほど。

 その事実が知れ渡れば首領を越えて教祖にさせられるところであろうが、シクススがそんなことを触れ回るわけがなかった。これからもウース派の一信徒として、こっそりと活動し続けることであろう。

 

 

 

 

 

 

「リファラ! キャレット!」

 

 シェーダの呼びかけに、男のパンツを下ろした二人のメイドが動いた。

 白い髪がリファラ、金髪がキャレットである。

 姉妹のように似ている二人が、跪いたまま左右から手を伸ばした。触れるのは、メイドたちの視線を釘付けにしている足の付け根。

 まるで尻尾のように力なくうなだれている逸物をそっと持ち上げた。

 手淫と口淫を経験済みな二人だ。まずは優しく撫でてやって逸物に血を通わせる。膨らんできた陰茎を握り、上下に扱く。長い逸物は、二人の手で握っても包みきれなかった。

 

 二人に扱かせてる間、シェーダは立ち上がって後ろから抱きついている。豊満な乳房を押しつけてやってるのだ。

 ヘロヘロに創造された三人は、同じくヘロヘロに創造されたソリュシャンを見ればわかるように、とても大きい。メイド服越しであろうと、夢と優しさがいっぱいに詰まった柔らかさを男の背中に感じさせる。

 前回はおっぱいを触らせなかったので、シェーダなりにサービスしているつもりだ。

 その上で二人からシュッシュされている。ここまでしてあげてるんだからすぐに大きくなってどぴゅってなるに決まっている。

 

 所詮は机上の論理であった。

 

「……異本だともっとこう角度が上じゃないかしら? それになんだか柔らかそうだし」

 

 見に徹しているメイドの一人が言う。

 男性器を生で見るのは初めてだろうと、異本から授かった知識で勃起しているか否かくらいは判断できる。

 最初の角度を0度として、現在は精々30度。膨張率も30%を切っている。触ってる二人からすれば、ふにゃふにゃだったのが少し固くなってきてるのを感じているが、勃起と呼ぶにはほど遠い。

 

「どうして大きくならないのよ?」

「そう言われましても。……こうも見られていると緊張します」

 

 大きなおっぱいを押し付けられ、美しいメイド二人に逸物を扱かれようと、それに倍するメイドたちが真剣な顔で凝視している。自分一人だけ素っ裸に剥かれ、見守るメイドたちは全員が完全完璧にメイド服を装備している。

 これで立たせろと言われても厳しいものがあった。この状態で興奮するには、レベルよりも特殊なスキル(性癖)が必要だ。生憎、この男は持っていない。シャルティアなら当然のように所持しているのだが。

 そのシャルティアとヴァンパイアブライドたちに囲まれた時は、誰もが淫らな装いをしていた。与えられる刺激も雲泥の差。今とは状況が違いすぎる。

 

 男という生き物は肉体の頑強に反比例して精神は案外デリケートな生き物である。精神的なプレッシャーがあると、立つものも立たなくなってしまうのだ。憧れで初恋の大好きなあの子とようやく念願の初体験をと言う肝心なときに立たなくなってしまうのも同じ理屈である。

 この男はそこまでデリケートではないのだが、プレッシャーの影響はある。それでも、美神アルベドの力を借りれば不可能ではない。その気になれば幾らでも立たせる自信がある。その気になれないのが問題だ。そこまでする義理はない。

 スーツを仕立てるための採寸のはずなのだ。それなのに、どうしてこんな事になっているのか。

 

「採寸にこの行為が必要なのですか?」

「私たちはあなたの体を隅々まで調べなきゃいけないの!」

「……左様で」

「っ! もういいわ!」

 

 忌々しいことにこの男は折角こんなことをしてあげているのに非協力的だ。

 三人は男から離れ、ギャラリーたちと一緒に作戦タイムに入った。

 

 全裸のまま放置された男は、俺は一体どうすればいいんだと自問するが、メイドたちが飽きるまで玩具になるしかないとの結論が速やかに得られた。ちょっと怒ってもいい気がした。

 

 宗派の違いはあれど、異本を読み込んでいる教徒であることに変わりはない。過半は男性器を見るのが初めてな処女ばかりなのに、知識はあった。

 誰かが触らせてあげればいいんじゃない? 誰かって誰よ。私はイヤよ。でもしたことあるんでしょ? あの時は寝てたし私だけなんてイヤ。それなら見せる? どこを? あそこ? 変態。変態って何よ! いきなりあそこなんて言うからでしょ! 二人とも落ち着いて。そうよ時間は有限なのよ。……はい。……ごめん。見せるなら最初は胸? 誰が? ……。……。……。却下で。却下ね。それなら……。そうね異本の記述にもあったわ。それなら……まあいいかしら? それじゃ全員でしてね。そう言うシェーダは? 私は……。うわあ……。うわあって何よ見せるわけじゃないし。そうだけどうわあ……。さすがシェーダね。そこに痺れる憧れるわ。からかわないで、そう言うわけで私がするからリファラとキャレットは出たときの為に控えていて。それだと私たちは見せられないけど。この前みたいにしてあげる? それって……!

 

 

 

 

 

 

 作戦会議が終わり、ギャラリーのメイドたちはさっきよりも近付いてきた。

 誰もが顔を赤くしている。男性器を初めて見たときの興奮とは少し違う。目を潤ませて、興奮よりも躊躇いや羞恥を感じさせる表情。

 彼女たちは隣を向いて互いの意志を確認し合い、正面から男を見る者がいれば俯いている者も、横を向いたままの者もいた。

 視線の先はそれぞれでも、することは同じだった。彼女たちは両手でスカートを握りしめ、ゆっくりとたくし上げた。

 

 足首まで届くスカートがゆっくりと上がり始める。

 靴が見え、細い足首が見え、ストッキングに包まれた臑に膝が現れると絶対領域へ。

 ガーターストッキングである。ストッキングは太股の中ほどで途切れ、肌色が見えた。

 スカートはなおも上がり続ける。

 

「おお……!」

 

 思わず感嘆の声が漏れた。

 色とりどりだ。

 ある者は白。ある者は薄いブルー。ある者はピンク。どれも薄い色なのが清楚感を感じさせてとてもいい。

 メイドたちはスカートを目一杯たくし上げ、羞恥で目に涙を溜めながら、パンツを見せつけてきたのだ。

 放置されてすっかり萎れた逸物がぐぐっと鎌首をもたげる。リファラとキャレットの二人が扱いても30度だったのに、今や90度を越えていた。

 

 シェーダだけはたくし上げていない。

 顔を赤くして、男の真ん前に立った。

 

「みんなのパンツで大きくして……!」

 

 言外に、このスケベ変態エッチなパンツ星人! と付け加え、シェーダは身を屈めてスカートの縁に触れた。

 たくし上げるのに、わざわざ縁を持つ必要はない。たくし上げるのではなかった。

 シェーダの手はスカートの内側に入り、一番上にまで届くと下がっていく。微妙に腰をくねらせながら手は下がり、右足左足と、交互に足を上げた。

 スカートの中から出てきた両手は、何かを握りしめている。

 

「……これ」

 

 シェーダは、異本で学んでいた。

 ウース派の教典にも、アッツ派の教典にも、どちらにも記述があったのだから間違いなはい。なにせペロロンチーノ様が遺された禁書指定の異本なのだ。間違いがあるわけがない。

 両手の指を開き、手にしているものを広げた。

 それを目にした男は、角度も膨張率も、それぞれ10以上アップさせた。

 

 シェーダが手にしているのは純白の小さな布切れ。

 光沢ある生地に繊細な刺繍が施されており、上質な布地は見るからにさらさらしている。脱ぎたてなのでほかほかしている。秘部を包むクロッチ部を見せつけるように広げてみせるその技を、パンツであやとりと呼んだ。

 クロッチにある異質な光は、生地そのものがもつ光沢ではない。シェーダがちょっぴり湿らせてしまったのが付着していたのだった。

 

「これで、してあげる」

 

 するりと男の背後に回る。

 後ろから抱きついて、脱ぎたてのパンツを持ったまま男の逸物を握った。

 滑らかな肌触りのパンツで逸物を包み、扱いてあげるのだ。

 

 パンツからは、シェーダの体温を感じた。

 

「あっ、すごい。さっきより全然大きくなってる」

 

 恥じらいに頬を染め、スカートをたくし上げてパンツを見せつける。その上で、脱ぎたてのパンツで逸物を扱いてあげる。

 否応なく興奮させられた。

 

「二人とも何してるの!?」

「そうよ! そんな……!」

「でも最後はここから出てきたのを舐めるのよ?」

「これ、ちゃんと綺麗にしてる?」

「ここに来る直前に体を清めたばかりです」

「だって。だから大丈夫よ」

「この前もそうだったし」

 

 リファラとキャレットが、男の前で跪いた。

 床の上に正座して、少し尻を浮かせつつピンと背筋を伸ばす。

 顎を上げて上を向き、餌をねだる小鳥のように唇を突き出した。

 シェーダは扱いている逸物を左右に振る。膨らんだ亀頭が跪く二人の唇に触れた。ふっくらした唇は開かれて亀頭を包む。柔らかな舌で亀頭をつつき、尿道口から味とも言えない味を感じると、ちゅうと吸った。

 離れるときは、亀頭と唇との間を糸が引いた。二人の唾だった。

 

 ギャラリーの視線は二人の口に集中していたので、陰茎を扱くシェーダの手が左手だけになっていることに気付いた者はいなかった。

 パンツ越しでも熱い逸物を左手で扱き、右手は男の手へそっと絡めた。

 小さな声で、そっと耳打ちした。

 

(私のも……触って)

 

 右手だけでスカートをたくし上げた。

 スカートの内側に男の手が入るのを確認すると、右手は離れて男の前に。左手が扱く逸物の下。ガチガチに勃起しても頼りなく柔らかい陰嚢に触れた。少しだけひんやりしている。優しくさすり始めた。玉舐め玉揉みは異本のそこかしこで記述があった行為なのだ。

 

「んっ……」

 

 シェーダの声は、密着している男にしか届かなかった。

 

 後ろ手に、シェーダのスカートの中へ手を這わせる。むちむちした太股を撫でてやりたくなるも、上下に動かすには少々厳しい体勢だ。指だけなら存分に動かせる。

 上へ行くに連れて熱気と蒸れが濃くなっていく。どこから熱と湿気が下りてくるのか。一番上にたどり着いた。

 

 僅かとは言え、クロッチに付着させていた。

 シェーダは、濡らしていた。

 割れ目に指を沿わせ、柔らかな媚肉の内側へ潜らせる。前後に撫で、頼りない肉芽を探り当てた。

 

「あっ」

 

 小さく声を上げて、扱いていた手が止まった。

 逸物は右を向いて、亀頭はリファラの口にあった。手こきが止まったのは合図と勘違いして、頭を進める。逸物の中程まで口に含んで、頭を前後に振り始めた。

 

「ちょっと、私も」

 

 今度はキャレットが咥えたがる。

 二人が交互にフェラチオをしている間、シェーダは指を入れられていた。

 

 前回、この男が寝ている間にいいようにしてしまった時。この男は途中で目を覚ましていた。リファラとキャレットはそれに気付かず弄り続けていたわけだが、目覚めたのに気付いたシェーダは口止め代わりに触らせていた。

 自分が触らせていたから射精にまで届いたのだと思っている。

 だから今回も、と言うのもあるし、またあの指使いを、と言うのもあった。

 指が入ってきている。体の真ん中から、体の内側に入っている。自分の体は自分だけで満ちていたのに、そこへ異物が入ってきている。追い出そうとは思えない。それどころか、もっと、とすら思ってしまった。

 

「んっ……んぁっ、くぅ…………」

 

 コツンと男の背に額をあて、責めに耐えているつもりなのに声が出る。

 濡れているのは自分でもわかった。何度も何度もこすられて、クリトリスが勃起しているのもわかる。指を入れられて、抜かれるときは反射的に締めてしまっているのもわかる。ここまでにしてもらわないとそろそろ不味いのもわかっている。

 

(ねえ、あれって……)

(やっと気付いたの?)

(だって本当に口でしてるんだもの)

(そうよね。でもそれよりも)

(シェーダよね)

(あれ、触られてるわよね?)

(ここからだとよく見えないけど、スカートの中に入ってる)

(おまんこ。触らせてるわ)

 

 ギャラリーたちはようやく気付いた。

 

 そんな彼女らをよそに、口淫をしている二人は動きを合わせ、左右から同時に舐め上げ、茎部を唇で啄むように包む。左右から唇で押さえつけられた逸物は、二人の唾液で濡れそぼっている。

 手こきから口淫になり、今度は唇で扱かれ始めた。

 二人は唇で脈動を感じ、その瞬間、男の手が頭を撫でた。

 空いてるのは左手。左にあるのは金色の頭。頭を撫でられて、どのような心の動きがあったものか、ほんの一瞬だけ硬直した。

 その隙に、先端をリファラが奪い取る。ただし、咥えるのは間に合わなかった。

 

「キャッ!」

「あっ、ずるい!」

 

 どぴゅどぴゅと、白濁した粘液が吐き出され、リファラの顔を盛大に汚した。

 額にも瞼にも鼻にも頬にも唇にも。唇の近辺は舌を伸ばして舐めとった。舌が届かないところは指ですくって口に運ぶ。

 自らの重みで垂れていく粘塊を、キャレットも舐めとった。同僚の頬を舐めるくらいなんてことはない。ダブルフェラをしていれば、唇や舌が触れ合うことだってあるのだから。

 

 精液は美容にいい。異本に書いてある。だから間違いない。これと言った根拠はないが異本に書いてあるのだから真実だ。

 

 このように、根拠なく信じることを信仰と呼ぶ。

 彼女たちは、ペロロンチーノが齎した異本を心の底から信じている。

 

 

 

 

 

 

「ふう」

 

 彼女たちの目的を達せたようなので、シェーダから指を引き抜く。

 シェーダは俯き、ゆらりと離れた。俯いたままメイドたちに合流する。

 

 メイドたちは何かしらを話し合い始め、またも放置されてしまった。

 いきり立っていた逸物が外気に冷やされ、うなだれていく。

 シズへ大量に放ったばかりだと言うのに、割と多かった気がする。たっぷりと寝た後なので回復したようだ。

 シチュエーションも良かった。

 恥じらう美しいメイドたちからパンツを見せられ、手マンをしながら動きを合わせたダブルフェラ。ダブルフェラ自体は娼館を含めて何度も経験があるが、完全に動きを合わせて左右から刺激されるのは視覚的効果もあいまってとても良かった。

 ひしと抱きつきながら、声を殺してあえぐシェーダも高得点。

 

 射精直後は頭が冴えて冷静に物事を判断することが出来る。賢者タイムと言う奴だ。

 単なるスラングではない。射精後の虚脱感に神秘を見出し、性交を秘技とする教団だってあるのだから。

 

 冷静になった男は、唾液に濡れた逸物から雫が滴ろうとするのに気付いた。

 お掃除フェラまではされてなかったので、尿道に残った精液が垂れようとしている。

 ジャケットにハンカチの用意はあるが生憎全裸だ。

 足下に落ちてる布切れを拾い上げ、右手の指先が濡れてるのを思い出して、丁寧に拭った。

 布切れを裏返し、今度は逸物を拭う。生地が二重になっている部分があったので、そこへ尿道口を擦り付けた。

 とてもすべすべした布切れは、敏感な部分を拭うのに適していた。

 

 シェーダが脱いだパンツである。

 二重になっている部分はクロッチ。シェーダの秘部を覆っていた部分だった。

 

 

 

 

 

 

 賢者タイムに入り、射精の後も綺麗にして、そろそろ解放してくれるかな、と思ったのは余りに甘い。

 

 ペストーニャが許可した時間は2・3時間。ここまで30分も経過してない。

 少なく見ても残り1時間半。多ければ2時間半。

 十分である。

 

「こっち」

 

 シェーダに手を引かれる。

 怒っているのか何なのか、険しい顔だった。

 

 いつの間にか部屋の真ん中にソファーが置かれている。

 メイドたちが動かしたようだ。

 可愛くて綺麗な女の子に見えるメイドたちは、皆がホムンクルス。人とは生まれ方が違うだけで体は人と全く変わりがない。違いは、ちょっと力持ちなところ、おいしいご飯をいっぱい食べられるところ。

 そんな彼女たちが力を合わせれば、ソファーを動かすくらい大したことではない。

 

 三人掛けのソファーが一つ。一人掛けのソファーが二つ。もう一度三人掛けが二つ、一人掛けが一つ。

 都合六つのソファーが円形に並べられていた。

 

 またも真ん中に立たせられるのかと思いきや、三人掛けのソファーに座らされた。

 隣には誰が座るでもない。

 真ん前に立つシェーダが顔を険しくして見下ろしてくる。

 

 はて何だろうと思っていると、シェーダは振り向いて視線を一周させた。

 目が合ったメイドは深く頷く。

 シェーダはこちらに背を向けたまま。シェーダも他のメイドたちも、互いを見張るように視線を走らせる。

 目の前にスカートに包まれたお尻がある。触ったら怒られると思ったので我慢した。

 

 メイドたちが互いに牽制しあうのは何なのか。

 緊張感だけが高まっていった。

 最初に動いたのは、首領であるシェーダだ。

 手を後ろに回してエプロンの紐を解いた。

 一拍遅れて他のメイドたちもエプロンの紐を解く。

 次にブラウスのボタンを外した。そこからは早かった。

 

 美しいメイドたちがメイド服を脱いでいく。

 一人残らず、この場の全員が服を脱いでいく。

 頭を飾るヘッドドレスだけを着けたままなのは、服を脱いでも女に墜ちきることなくメイドであろうとする意思表示なのか。

 

 全裸だったのは男一人だったのに、メイドたちは、全員が、衣服の全てを脱いだ。

 腕を上げて豊かな乳房を隠し、あるいは股間を覆い、内股になって太股をぴったりと合わせ。

 異性に裸を晒す羞恥か、頬をうっすらと、あるいは耳の先まで真っ赤にして、全身を紅潮させる者もいた。

 

 思わず溜息が出るほど素晴らしい光景であるのだが、わけがわからなかった。

 

 背を向けたままのシェーダが顔を背けたまま隣に座る。

 脚はぴったりと閉じて、両手は乳房の前で合わさっていた。

 掠れ、上擦った声で言った。

 

「…………みんなが見てみたいって」

「何をでしょう?」

 

 生の男性器を見た。

 勃起しているところも見た。

 位置によっては見逃した者もいたが、射精の瞬間も見た。

 精液というものがどのようなものであるかも見た。

 味に匂いは遠かったので、舐めとった二人しかわからない。

 

「……入ってるところ」

「ですから何がでしょう? 先ほどのように指ですか?」

「ちがう……」

 

 メイドたちは、気遣わしげにシェーダを見守っている。

 これは、彼女自身に言ってもらわないと駄目なのだ。と言うか、言える勇気があるのは彼女だけだった。

 一度とは言え経験があり、ついさっきこっそり触らせて熱くなってる彼女にしか言えないことだ。

 

「……………………。……っ。…………、……おちんちん」

「ちんこをどこへ入れるんですか?」

「!」

 

 頑張って消え入るような声で答えたのに直ぐ様の追撃。

 わかってるだろうに、言わせようとしている。

 頭に来て怒鳴りたくなるが、ナザリックのメイドはそんな醜態をけっして見せない。ウース派の首領としても、ここは余裕をもって答えなければならない。

 こんなことを言うのは恥ずかしい。みんなに聞かれるのはもっと恥ずかしい。でも、みんなはきっと応援してくれているはず。

 シェーダは、言った。

 

「私の……おまんこ……」

「セックスしたい、と言う理解でいいでしょうか?」

「…………うん」

「わかりました」

「あっ!」

 

 シェーダは男に抱き寄せられた。

 ちらと見えた逸物は、すでに大きくなっていた。




ちなみに本話は8200字

つづくでもそうでしたが、ナザリックに来ると中々脱出出来ない


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鑑賞会 ▽シェーダ+α

 シェーダが皆のところへ戻るなり感想戦が始まった。

 始めはふにゃふにゃした肉色の棒、と言うほど長くはなく、初めて見る男性器は異本で仕入れた知識と違って期待を裏切られたようにも感じたというのに、結果として期待と想像を大きく越えた。

 生ちんこは凄かった。

 

 あんなに大きくなるものなのね、なんだかバネが入ってるみたいだった、そうそう下がってたのがピコンって感じで、あれが勃起、固そうだったけどどうなの?、ガッチガチよ、骨は入ってないのよね?、異本では熱いものと書いてあったわ、熱いって言うか熱くなるって言うか、綺麗にしてるって言ってたけど口でするなんて、フェラチオね二人だからダブルフェラよ、ねねね! 精液っておいしい?、美味しくはないけど不味くもないわね、匂いが独特かな、味より舌触りが不思議な感じ、リファラは……もう匂いはないのね、さっき拭いたから。

 

 興奮が治まらないまま後半戦へ。

 シェーダへ視線が集中した。

 

「……なによ?」

 

 何って言うか、さっきのこと、スカートがめくれてたの見えてたのよ、彼の右手が後ろへ回ってたわよね、触らせてたの?、あれは確実に触ってたわ。

 

 こっそり触らせていたつもりなのにバレバレであった。シェーダはたちまち顔を熱くする。それでも強気を崩さなかった。

 

「こっちが触ってたんだからこっちも触らせないと等価交換にならないわ。ああした方が興奮するだろうって思ったし」

 

 ふーん……、つまりあれね、等価交換って言うことは、おちんちんと等価ね、どこだと思う?、どこかしら?、あそこしかないわよね、あそこって?、シェーダが触らせてたところ、シェーダはどこを触られてたの?、シェーダがおちんちんと等価って思うところよ、ふふっおちんちんが入るところの間違いじゃなくて?

 

 皆わかって話している。シェーダは顔の熱が耳の先まで届くのを感じた。

 

「何よ何が言いたいのよ! 私が触らせてあげたのがそんなにまずいわけ!?」

 

 ごめんなさい、そう言うつもりじゃなくて、気になっちゃって、おまんこよね?、濡れた?、感じた?、気持ちよかった?、どこをどんな風に触られてたの?、クリトリス?、穴は?、穴なんて言わないでよ、ごめんごめんえっとそれじゃ……ヴァギナ?、……穴よりましかしら?、どっちでもいいわよそれで入れられた?、一本?、二本?

 

「あのね……」

 

 シェーダは入れたことあるのよね、指じゃなくてあれ、そうよこの目で見たもの!、あの長いのが入っちゃったの!、指なら試したことあるけど、本当にあんなの入るの?、異本で見たのより大きくない?、あれ入ったらおへそのあたりまで来るんじゃないかしら?

 

 女同士の遠慮ない言葉は、当事者を置いてきぼりにしてどこまでもエスカレートしていく。

 誰かが言った。見てみたい、と。

 

「いやよ! どうして私だけ」

 

 異本を信仰する同士であり、ナザリックのメイド仲間でもあるが、自分一人だけそんなことをするのは見せ物のようで抵抗が激しい。あの男ともう一度という気持ちはなきにしもあらずだが、二人きりが望ましい。

 しかしまたも誰かが言った。みんなで脱げば恥ずかしくない、と。

 

 私たちも脱ぐの!?、シェーダ一人だけじゃ可愛そう、私たちも彼の裸見ちゃってるし、ペストーニャ様へ報告されないように口止めは必要よね、私たちの裸なら十分すぎるわ、一人だけじゃ無理だけど皆と一緒だったら……まあ、みんなのは見慣れてるし、全員で脱いだら着てる方が恥ずかしいかも、脱ぐって全部?、全部、下着も?、全部、皆がちゃんとするならいいかな、シェーダが脱ぎ始めたらちゃんと脱ぐのよ?、わかったわ、皆もそれでいいわよね?、恥ずかしいけど皆と一緒だったら、私たちがされるわけじゃないしね。

 

 当事者不在で話はまとまった。

 よろしくねと言われたシェーダは、顔を真っ赤にして絶句した。拒絶も肯定も反論も出来なかった。

 

 そうして彼女たちは鑑賞するためにソファーを円形に並べ、シェーダを押し出してそれぞれの場所に陣取ったのであった。

 

 ところで、リファラとキャレットは、シェーダと創造主を同じくしている。姉妹と設定されているわけではないが、容姿は髪色以外よく似通っているし、いつも三人一組で行動しているし、ほとんど実の姉妹同然である。考えていることは互いに何となく通じ合ってる。

 そんな二人は、シェーダが内心ではあの一時をもう一度と思っていることを気付いていた。ゆえに場の空気を温めて勢いづけ、シェーダがもう一度出来るように状況を整えたのだ。

 そしてシェーダが行為をして場の空気が熱くなってきたらその勢いに乗り、後に続こうと考えている。前回は残念ながらタイムアップだったので今回こそを目論んでいた。痛み止めのポーションもしっかり用意している。

 

 言うまでもなく、メイドたちの話し合いでちょくちょくと過激な発言をした誰かとは、この二人だった。

 

 

 

 

 

 

 入っているところを見たい。セックスしてるところを見たい。

 そう言われてこの男は、折角優れているのにポーションならぬローション開発以外ではほとんど有効活用されない頭脳を動かさなくてもいいのに働かせた。

 

 穴があります。棒があります。棒が穴に入りました。

 

 これでは話にならない。要求されたことは果たせるだろうがこれはない。子供だってもう少し気を配る。

 セックスしてるところを見せるのは、アウラ様の時と似ているようでいて全く違う。あの頃はアウラ様は男の子だと思っていたので、行為自体よりも女体について解説するのが主だった。

 今回は違う。鑑賞するのは女性たちである。

 入っているところを見てみたいと言うのは、おそらく表面上のこと。裏を読まなければならない。

 おそらく彼女たちは、可能性を知りたいのだ。女性の体がどのように乱れて男の体を受け入れるのか。受け入れた快感はどうなのだろうか。本当に気持ちいいのか。どこまで好くなるものなのか。その果てに行き着くところは。

 そのためには、徹底的にシェーダを愛せばよい。

 

「やん!」

 

 全裸になったシェーダを抱き寄せた。倒れ込んできた体を支え、形よい乳房を掴んだ。ソリュシャンほどのボリュームはないが、あれは大きすぎる。シェーダのおっぱいは十分大きい。

 胸を触られて、シェーダは咄嗟に払いのけようとした。

 

「駄目ですか?」

「う……、ダメじゃ、ないけど……」

「よかった」

「っ……」

 

 悲しげに眉根を下げられ至近で見つめられた。

 ナザリックでも希な美貌は、初対面で処女だったエンリに体を使ってでも慰めてやらなければと使命感を抱かせるほど。シェーダにも効果覿面で、視線を逸らしつつ胸を許した。

 挿入して中出しまでしているので、胸くらいと言えばそうかも知れない。

 

「シェーダさんは経験がおありなんですか?」

「…………あるわよ。一回だけだけど」

 

 もみもみしながら一応訊ねる。

 あの時は寝たふりをしていたので、シェーダに挿入したのは知らないことになっている。これで摺り合わせは完了した。

 

「んっ……」

「とても綺麗なおっぱいです。乳首の色もこんなに澄んでる」

「言わなくていいからっ」

 

 ソファーの上で向き合って、胸を揉みながら段々距離を近くする。

 シェーダは極力視線を逸らしている。直視したらまずいと直感した。

 

「あ…………」

 

 髪をかき上げられ、露わになった耳に柔らかな感触。唇で触れられている。

 手を取られ、導かれた場所。シェーダがしたのと同じこと。

 

「貴女が魅力的だからこうなってるんです。貴女への愛がこうさせるんです」

「そんな…………、さっきより、熱い……」

 

 逸物に触れさせられ耳元で囁かれ、優しく握った。

 繊手が屹立した肉棒を上下にさすり始める。

 誰かが言っていたように、骨が入っているのかと思うほど固い。キャレットが答えたように、握る手のひらから逸物の熱さが体の中へ忍び込んでくる。

 扱き続けるうちにしっかりと握るようになって、上下に動かす速度も増していった。

 

「あんっ、んっ……、あ、だめ……ちゅっ…………」

 

 胸を触っていた手は下りていき、シェーダの秘部を撫で始めた。中指だけを伸ばして割れ目に這わせ、第二間接で曲げられる。

 髪をかき上げた手は顎を持ち、上を向かせる。目が合うや否や、唇を重ねられた。唇と唇でキスをするのは、初めてだった。

 唇が唇を食み、口内の何かを口移しするように舌を入れられる。初めてのキスで舌を入れられ、自分からも舌を伸ばした。

 時々、逸物を扱く手が止まる。その度に舌を甘く歯で噛まれ、思い出したように手の動きを加速させた。

 

「んっ、んっ、きす、初めてなのっ、ちゅるっ……ちゅう……あふぅ……」

 

 顎から手が離れても、シェーダの唇は離れない。

 自分から首を伸ばして唇を押し付けている。唇ではちゅるとかじゅるとか、シェーダの股間ではくちくちと小さく、シェーダが扱く逸物は先走りの汁が伸ばされてにちゃにちゃと鳴り始めた。

 

「口でしてください」

「え……、でも……」

 

 前回は立たせるときに口を使った。口でする事に抵抗はない。ただし、上手くできる自信がなかった。

 今回は直前にリファラとキャレットの二人が口で出させている。拙い口淫を比べられたら。

 

「シェーダさんにして欲しいんです」

「…………わかったわ」

 

 唇同士が掠める距離で見つめられ懇願され、拒否できない。

 ソファーの上に体を伸ばし、膝枕されるような姿勢で勃起している逸物と向き合った。尿道口から透明な汁が滲み出ている。

 反り返った逸物を両手で固定する。シェーダは大きく口を開き、歯を当てないように注意しながら亀頭にしゃぶりついた。亀頭へは舌を当て、口をすぼめて吸いついた。

 

 男の股間に顔を伏せ、シェーダの頭がゆっくりと上下した。

 

 ソファーにゆったりと座ってシェーダにしゃぶらせ、周囲を見回した。

 一糸まとわぬメイドたちが体を隠すのも忘れて見入っている。ソファーに浅く座って身を乗り出す。太股をきゅっと閉じて、両手は膝の上に。胸の大きさは、やや大きいから割と大きいまで。小さいのは一つもない。腰はくびれて、だらしない体は一つもない。誰もが美しい姿態を誇るのはナザリックのメイドだからか。

 二人の両隣は一人掛けのソファーで、こちらはリファラとキャレットが陣取っていた。ソファーの上に正座して、高い位置から覗いている。

 

「んっ!」

 

 手を伸ばせばシェーダの尻に届く。

 大きな尻をさわさわと撫でてやってから、指先は尻の割れ目に沿って下げていく。熱気と湿り気とぬめりが指先にまとわりついて、もう一度シェーダの中へ指を入れた。

 触られた瞬間は口が止まったけれど、艶やかな黒髪を撫でてやれば再開した。

 射精目的ではないし、シェーダは一度しか経験がないので本人が認識しているようにフェラチオは上手くない。それでも、温かくて柔らかなものに包まれているだけで心地よい。萎える気配は全くない。あの美しい唇に包まれていると想像するだけで滾ってくる。

 

 

 

 シェーダがフェラチオに集中していることから、上手く行っていることを悟った。

 女性経験は豊富なようで一般的でないことばかりだったが、ソリュシャンから絶えなく課され続けた課題図書から、女性がどのようなシチュエーションを好むか学習しつつあったのだ。

 課題図書には、濃厚な濡れ場があるものも少なくなかった。

 それらによると、情交とは愛ゆえであるらしい。形式的であっても構わない。兎も角愛がなければいけないらしい。愛を囁かなければならないのだ。愛ってなんだろうと思わなくもなかったが、参考になる台詞は大量にある。

 それらから適宜引用して、シェーダにその気になってもらったのだ。

 始めこそギャラリーたちを気にしていたシェーダは、今は夢中になってくれている。

 

「んんっ!? …………けほっ。今度したら噛むわよ」

「気持ちよくてつい。もうしません」

「もう。…………あむっ。んんっ……ちゅうぅ……、ちょっと……れろ…………、おいしいかも」

 

 頭を撫でる手にちょっとだけ力を加え、深く咥えさせると睨まれた。

 シェーダがアルベド様ほどの高みにいるわけがないので当たり前と言えば当たり前である。優しく行こうと方針を固めた。

 

「ん?」

「あっ!」

 

 強い視線を感じて隣を見ると、吐息が掛かる距離にシェーダと似た顔。髪は白。リファラだ。

 いつの間にかソファーから下りて、こちらが座るソファーの肘掛けに手を突いて熱心に鑑賞していた。

 何とはなしに手が伸びた。

 

「っ!?」

 

 シェーダへしたように顎を掴む。

 ぐいと引き寄せれば抵抗はなく、赤い唇を奪った。

 

 シェーダにしゃぶらせながら、リファラとたっぷり唾液を交換する様を、メイドたちは全員見ている。

 糸を引いた唇が離れ、リファラはよろよろと元いたソファーに座り直した。

 真っ赤な顔をして、両手で唇を押さえている。

 こちらを向いてるから、シェーダ同様に形の良い乳房がよく見えた。

 シェーダとしていることを見て興奮したのか、キスが好かったのか。白い乳房の先端で、充血した乳首が勃起していた。

 そう言えばシェーダの乳首を楽しんでいない。

 

 アルベド様とはたっぷりとしたわけだが、間にいろいろ挟んで今に至っている。特にシズを挟んだのが効いている。

 肉厚なステーキを食べた後でも、フレッシュなジュースでリフレッシュすればもう一度お肉を、と言う気分になるものだ。シズちゃんのジュースは甘い香りで爽やかだった。

 

「あんっ! あっ、ちょっとっ、あうっ……」

 

 シェーダに沈めた指を動かせば、敏感な反応が返ってきた。

 

「私の準備は十分です。シェーダさんはどうですか?」

「どう、って……」

 

 たっぷりとしゃぶらせていた逸物は唾液にまみれ、湯気が立つほど熱い。

 口は離れても手は離れなかった。

 

「欲しいですか?」

「!?」

 

 体を起こさせて抱き締める。シェーダだけに聞こえるよう、耳元で小さく囁いた。

 シズの小さな体も良いが、肉惑的な女体も好い。柔らかな肉が絡みついてくるようだ。

 

「シェーダさんのここは十分なようですが」

「やぁ、言わないで……」

 

 秘部は十分潤っている。

 シェーダの汁で濡れた指先を見せつけた。すぐにぱくりとやられて舐めとられた。自分の愛液を舐めるより、愛液を見せられる方が恥ずかしいらしい。

 

「欲しいと言ってくれないと、私からは何も出来ません」

「そんな……」

 

 望まれていることではあるが、事に至っての同意は必要だ。

 手続き重視の官僚めいた遣り方は、わざとである。美しいメイドたちに囲まれて、ちょっと調子に乗り始めていた。

 シェーダが恥じらいながら、口にするのを聞きたいのだ。

 

 抱き締められているので男の首筋に顔を埋め、太股にはさっきまで咥えていた熱い逸物が触れている。

 あやすように背中を撫でられ、愛しむように太股を撫でられ、美声が耳朶を犯してくる。

 

(すごい濡れちゃってる。この前だってこんなにならなかったのに。おちんちん舐めてたから? 舐めながらおまんこ触られちゃって……。頭撫でてくれて……。私が口でしてあげて気持ちよかったかな……? 口で大きくさせるのは出来たけど、キャレットとリファラみたいに出させるまでは出来なかったし。でもおまんこに入れてあげたら出してくれたのよね。入れてあげたら……)

 

「……入れたいの?」

「シェーダさんが望むなら」

「…………ずるい」

 

 呟きが聞こえたろうに、微笑むだけ。

 いらっとして睨みつければ顔が近付いてきた。もう一度唇が合わさった。

 

(おっぱい触ってる! 今度は乳首摘ままれてる! だめ、きもちい。乳首じんじんしてる。そんなに転がさないで。何も考えられなくなっちゃう! 引っ張っちゃだめぇ。あ……また触らせるの? 握って欲しいの? シコシコする? おちんちんがこんなになってるよぉ……。またしゃぶりたいかも。ちょっと楽しかったし。でもしゃぶるより……。欲しい……かも。お腹熱い。お腹だけじゃなくて全部熱い。きゅんってしてる……。おちんちん握ってるだけなのに……。なんでこんなに格好いいのよこいつは! 顔だけじゃなくて体もいいし。おちんちんすごいし。手、上手だし。キスも……しちゃったし。あんなにイッちゃったのあの時が初めてだった……。また入れちゃったら……)

 

 ぷはっと唇が離れた。

 注がれた唾液に媚薬でも含まれていたのか、シェーダの顔に険はない。目は潤んで真っ直ぐに男を見つめ、薄く開いた唇を舌が一周して僅かに付着した唾液を舐めとった。

 蕩けた顔をして逸物を扱いている。勃起した乳首を指先で摘ままれている。緩急つけた摘まみ方で、何度目かに強くなった。

 

「きゃうん! もっと優しくつまんで……」

「好かったでしょう?」

「……うん。もっとつまんで。おちんちんシコシコしてあげるから……」

「他のところではしてくれませんか?」

「…………うん。したい。してあげたい」

「欲しいですか?」

「ほしい。おちんちんほしい。もう……いれて?」

 

 男の笑みに何を見たのか、シェーダの理性が溶けていく。

 どんなにいやらしいことでも言えそうだった。

 

「おちんちん入れて? 私のおまんこ、ぬれちゃってるの。もう入れても平気だから。入れて欲しいから」

「わかりました」

「あっ♡」

 

 ソファーに押し倒され、片足を高く持ち上げられた。ソファーの前面側の脚で、ギャラリーたちからよく見えるように。

 瞬間、シェーダはメイド仲間に視線を走らせ、恥ずかしいところを見られている羞恥に声を上げようとして、その必要がないことを悟った。

 胸を揉みしだいている者がいる。尖った乳首を引っ張っている。閉じた太股の間に手を差し込んでいる者もいた。閉じていない者もいた。まるで見せつけるように股を開いて、股間で両手が重なっている。中指と薬指をしゃぶって舐り、濡れた指を股間や乳房へ。

 

「入れますよ」

「あっ……ああっ、あんっ、はいって、きたぁ……」

 

 先走りの汁とシェーダの唾液で濡れた亀頭が、小さく口を開いたピンク色の入り口を押し広げていく。

 ゆっくりと進んでいき、亀頭全てが姿を消した。亀頭より細くなっている竿部に、シェーダの媚肉がぴったりと吸いついている。上の口でしていたのと同じように、下の口で咥えているように見えた。

 シェーダのセカンドヴァージンだ。清らかな乙女の陰部が男の逸物を咥えていく。

 経験が少ないことから来る雌穴の弾力に阻まれながら、長い逸物が埋まっていく。

 

 きつくなく、かと言って緩いわけがなく。シェーダの膣は男の逸物を過不足なく受け入れた。

 それというのも処女肉を貫かれた時、最奥まで届いている状態でポーションを飲んだからだ。裂けた媚肉は男を受け入れたまま回復し、ぴったりの状態で固定してしまった。

 ポーションと一緒に再挿入されたシクススと同じだ。この男専用の雌穴に作り替えられたようなもの。

 

「んっんっ……、あっ、あんっ! あふぅっ、すごくぅ、……ああんっ、あんっ♡」

 

 始めこそ堪えようとした嬌声は、数度の抽送であられもなく漏れるようになった。

 ギャラリーたちによく見えるよう持ち上げた脚は絡みつくように男の腰へ回って、両腕は男の首を抱いている。

 そこをあえて突き放した。

 

「あ…………、あっ、おっぱいぃ、あっあっ……」

 

 シャルティア様としているとき、覗かせることはよくある。あくまでも覗かせるであって、見せるためではない。

 今回は見せるためだ。体は密着させない。一体感は抱き合っている方が強いが、体を離しているからこそ出来ることもある。

 深く突かれる度にぷるんと揺れる乳房に手を置き、揉みながら腰を使った。

 シェーダは口を半開きにして真っ直ぐに見つめてくる。真顔のようで、時々切なげに眉根を寄せて、乳房に置いた手を掴んでいる。

 

「うっくぅ……ああっ……、いまっ、いっちゃった……」

「わかってるよ」

「わかられちゃってる……、はずかしい……。でも気持ちいいの……あん♡」

 

 シェーダの奥深くに刺さった逸物がリズムよくきゅうきゅうと締められれば、浅くイッたのと察しがつく。

 シェーダは淫らに微笑んで、男の腕を優しくなぞった。

 

「やあんっ! こんなのみんなに見られちゃう! だめっ、見ないでぇ!」

 

 正常位ばかりでは能がない。

 横を向けば並んで寝られる大きなソファーだ。今度は後ろから挿入した。

 シェーダの体が前に来る。胸を見られるのは今更だが、右足を大きく上げさせているので結合部がよく見えるようになっている。

 何度か、わざとシェーダから引き抜いた。

 抜けた直後はぽっかりと大きく口を開いて、中の暗がりを覗かせる。とろけた雌穴は見る間に口を閉じていき、閉じきる前に再挿入する。

 自覚なく体を作り替えたシェーダの膣は、男の逸物によく馴染んだ。

 愛液の量も質も十分だ。

 引き抜く度に、先端から根本までてかつく愛液に塗れた逸物を、ギャラリーたちは熱心に手を動かしながら凝視している。

 

「キスしてっ、あんっあ……、ちゅっ、ちゅ……、ああんっ、おっぱいも、クリトリスも、どっちもいいよぉ」

 

 側位の利点は胸だけでなくクリトリスも触れるところ。

 シェーダが振り向いてキスをねだり、応えながら結合部に手を這わせる。蕩けた媚肉の中で肉芽が顔を出し、擦り続ければ膣が締まった。

 折角なので、愛液に濡れた指でシェーダの下腹を撫でる。へその少し下で止まった。

 

「今、シェーダさんの一番奥まで入ってます。私のちんこがこのあたりまで届いてるわけですね」

 

 長さだけで言えばへそまで届くだろうが、膣はやや背中側に延びているのでそうはならない。

 

「ここまで入ってるんです。わかりますか?」

「うんっ……、わかる、わたしの奥まできてる……。奥まで入って、一つになってる。入ってるの感じるわ。あなたが私の中に入ってるの。あなたを感じてるの」

「あっ……」

 

 シェーダの恍惚とした告白を受けて、誰かが小さな声を上げて体を丸めた。

 自分で慰め、達したらしい。

 

 シェーダだけでなく、ギャラリーたちも大分温まってきている。そろそろ、と判断した。

 ここまでは前戯。ここからが本番である。

 シェーダは何度も達して、体も心もほぐれてきている。躊躇なく淫語を口にするようになった。

 美神であられるアルベド様の影をようやく踏めた段階だ。アルベド様にとっては、口内射精も挿入も、時として膣内射精までもが前戯である。そうして気分を高め、快楽の渦へ身を投げるのだ。

 股を濡らしているギャラリーたちも乱れるシェーダを見て、真実の欠片を手にするに違いない。

 

「あっ!? ちょっとなに?」

 

 互いに寝そべっている側位から、体を起こした。

 シェーダを抱き上げ、諸共ソファーに腰を下ろす。やや浅く腰掛け、シェーダはこちらの股間の上に座っている体勢になる。

 

「やだぁっ!」

 

 太股を持ち上げて、足をソファーの上に突かせた。

 挿入しながら、ギャラリーたちへ見せつけるよう脚をM字に広げさせる。

 正面からは、結合部がよく見えるはずだった。

 

「私たちが愛し合ってるところを見せつけるんです」

「あ、あいって……、あんっ、うごかないでっ」

「違うよ。俺が動いてるんじゃない」

「えっ」

「シェーダが腰を振ってるんだ」

「~~~~~~~~~~~~~~っ!!」

 

 信じられないと言わんばかりに、シェーダは両手で口を押さえた。

 半分嘘で半分本当。

 シェーダの体は、リズムよく上下に動き、豊満な乳房がたぷんと揺れる。シェーダの尻が下がるのに合わせて、男は下から突き上げる。亀頭が子宮口を叩き、シェーダの視界に火花が散った。

 

 目一杯広げられたシェーダの膣に、男の逸物が刺さっている。引き抜かれて姿を現す肉棒は根本まで濡れ光っている。そして直ぐ様シェーダの中へ飲み込まれていった。

 メイドたちからは、とてもよく見えた。

 シェーダが全身を紅潮させている。白い肌がいやらしく染まって、大きな乳房がたぷたぷと。背後から掴まれ、動きを止めた。

 乳肉に指が埋まり、絞るように握られて乳首を強調させられている。尖りきった乳首は、シェーダが摘まんだ。腰を振りながら乳首を摘まんでいる。転がして弾いて引っ張って、貪欲に快感を求めて愛撫していた。

 

 あっあっあっ、と。切なくも甘い鳴き声は一向に途絶えない。

 男の手は、改めてシェーダの股間を這っていた。

 シェーダの後ろから覗くように顔を見せ、メイドたちへ笑いかける。こうするんだぞ、と、お手本のようにクリトリスの包皮を剥いた。真っ赤な肉芽は膨張しきって、遠目にも勃起しているのがよく見える。

 いつもは白いパンツの中で、割れ目の奥に隠されて、さらに薄皮で包まれている敏感なクリトリスが、唾に濡れた指で擦られ始めた。

 

「だめだめっ、あっ、やあんっ、ああっあーーっ、そこだめぇ!」

 

 固く目を瞑った必死の顔で、口を開けば舌は尖って、唇の端から涎を垂らした。

 乳房を揉む手も、男を咥えて振る腰も、メイドたちを体の芯から熱くさせる嬌声も止まる気配がない。

 

 男の手付きを真似るメイドがいた。

 股を開いて割れ目を広げ、クリトリスの皮を剥いて擦っている。熱い息を吐きながら、飢えた犬のように舌を伸ばした。

 割れ目を撫でる細い指が中程で折れ曲がり、指先が消えているメイドもいた。

 

 上に乗られている男とて、最大限に動いている。

 クリトリスを愛撫する以外に、シェーダの腰つきに動きを合わせているし、一突きごとに意識してシェーダの感じやすいところを擦っている。

 数往復する度に締め付けられるのは、シェーダが意識無意識問わず男へ快感を与えようとしているのではなくて、浅くイッているからだ。

 シェーダを何度も襲う波が重なって閾値を越えると、そうなってしまう。

 その波を、男は読んでいた。

 

 シェーダは、メイド仲間たちに見られているのを意識できない。

 奥の奥まで見せて、咥え込んでいる様を見せて、さらには自分から腰を使っている。

 淫靡な楽器のように絶え間ない嬌声を響かせ、いやらしい言葉を自分に聞かせているのか男へねだっているのか、自分でもわからない。

 自分をなくして、男と溶け合っている。

 つながっているのはわかる。一つになっているのがわかる。圧倒的な多幸感と充足感で何もかもが塗りつぶされ、満たされていく。

 新たな波がシェーダの全身を駆け巡り、今度はさっきよりも深いとシェーダがおぼろげに予感した時、

 

(愛してますよ)

 

「!?」

 

 掠れた声で囁かれる愛の言葉。

 剥き出しのクリトリスをぬめる指できゅうと摘ままれ、腰を下ろすのに合わせて下から全身を貫かんとばかりに突き上げられる。

 今までよりも強い突き上げに体が硬直した瞬間、シェーダの中を我が物顔で行き来していた逸物が一番深いところに。上の口で交わした口づけのように、子宮口と尿道口がぴったりと口を重ねて、どぴゅどぴゅと熱い精液を吐き出した。

 

「わたしも~~~~~~~~~~~っ!!」

 

 シェーダは体を弓なりに反らせ、愛を叫んだ。心と体の深いところへ何かを注入されて、心も体も砕け散る。再構成された心身は今までと違っていた。

 作り替えられた。この男のために変わってしまった。ナザリックの栄えあるメイドが、男の愛を受け入れるためだけの淫蕩な雌になってしまった。

 

 シェーダの膣がきゅうきゅうと締まり、膣内に出された精液を取り込もうと蠕動する。

 脈打つ逸物へ心地よい刺激を送り、最後の一滴まで吐き出させた。

 射精が終わってもシェーダの痙攣は止まらない。男に乗ったシェーダの尻は、怯えたように震え続ける。

 

「あ………………」

 

 そしてそのまま、脱力した。

 

 足腰を小さく震わせながら、上半身から力が抜けて男の体に預けきる。

 ソファーに突いた足も崩れて投げ出される。

 

「おっと」

 

 挿入したままなのだ。出すものを出したので硬度を失いつつあっても、急に動かれるとちょっと痛い。

 後ろからシェーダの太股へ手を伸ばし、膝裏へ回して持ち上げた。

 ずるりと逸物が抜け、シェーダのピンク色の入り口から白い粘液がとろりと垂れる。

 と、同時である。

 シェーダの真下にある逸物へ、生温かい液体が注がれてきた。

 後ろからは見えないが、さらさらと流れる様子から精液でないのはわかった。

 

 シェーダは一言も発しない。

 全身が弛緩して、意識を失っているようだった。

 経験にない深イキをして失神したシェーダは、色々なところが緩んでいる。

 シェーダの心は深いところへ墜ちて、現世にある肉体は解放されている。

 シェーダが漏らしているのは、おしっこだった。

 両膝を持ち上げられているのは、幼子がおしっこをさせられるポーズに酷似していた。

 

 絶頂、失神、失禁のスリーコンボ。

 いい仕事をしたぜと、男は内心でガッツポーズを作った。

 

 

 

 

 

 

 シェーダは目を覚ますと、ソファーに寝かされていることに気が付いた。

 メイド服はきちんと身につけている。

 動かしたソファーも、自分が横たわっている物以外は元の位置に戻されている。

 部屋を見回せば、メイドたちが慌ただしく動き回って、床やソファーを拭いていた。

 

「目を覚ましましたか? シェーダさんは少しだけ眠っていました。気を失ってから30分も経っていません。ペストーニャ様が仰った休憩時間はまだ残っています」

「……そう」

 

 気怠げに体を起こす。

 体が少し重く感じる。少しであって、仕事をするのに問題はない。

 

「え……」

 

 自分も掃除を手伝おうと、近くにいたキャレットに声を掛けようとしたら、露骨に顔を逸らされた。

 キャレットの顔は赤かった。

 

「……リファラ?」

「っ! ……………………すごかったね?」

「すごかった?」

 

 言葉少なく、リファラも離れていった。

 シェーダには何が凄いのかわからない。

 首を傾げて謎を解こうとするも頭が上手く働かない。

 

「シェーダさんがすごかったんですよ」

「私が?」

 

 破れている服を着込んだ男だけが傍を離れない。

 

「シェーダさんはとても感じていたようですから」

「!?」

 

 気怠い気分、重い体。それと、心地よい余韻。

 何をしていたか思い出した。

 皆の前で、この男と交わったのだ。

 恥ずかしかったけれど、皆も服を脱いでくれたので我慢できた。

 裸を見せたのはお互い様。セックスまでしてしまったのは皆の要望。

 恥ずかしいことではあるけれど、避けられるほどではないはずである。

 

「体の調子は如何ですか? 私が射精したと同時に失神してしまったんです」

「あ……」

「そこまで感じてくれると私としてもやりきった感があります」

「………………」

「その後でおしっこが出ちゃったのは演技ではなく本当に感じてくれたのだとわかって嬉しかったですよ」

「「「!?!?!?」」」

 

 お前何で言っちゃったの!?

 メイドたちは愕然と驚愕と怒りの目で男を見据えた。

 

「もちろん私も気持ちよかったです。シェーダさんの中でたっぷり出ましたし。ああ、安心してください。中に出したのが垂れてきたので綺麗に拭いてあります。スカートが汚れることはないはずです」

「………………」

「おしっこの量も少なかったので掃除も簡単に済んだようですよ? 便利な洗剤があるんですね。私も同じような薬液を開発したことがありますけど量産が難しくて、グハッ!」

 

 パアンと、乾いた破裂音が高く鳴り響いた。

 シェーダは渾身の力で、男の頬を張ったのだ。

 叩いた手のひらが赤くなるほどの力の入りよう。

 

「バカ!!!!」

 

 真っ赤な顔で罵り、衣装部屋を飛び出した。

 

 ここがナザリック第九階層ロイヤルスイートであることも忘れ、荘厳な廊下を駆け抜ける。

 エッチを見せちゃったところまでは何とか耐えられても、その後で聞かされたことは無理だった。

 恥ずかしくて堪らない。そんなところを皆に見せてしまったのだ。もう顔を見せられない。かと言って、どこへ行けばいいというのか。

 出来るのは、休憩時間いっぱいを一人で過ごして頭を冷やすことだけ。

 頭を冷やすならシャワーはどうか。

 ひとまず部屋に戻って自室のシャワーをと考えた。

 

「廊下を走ってはいけません! わん!」

「ペストーニャ様! 申し訳ございません!」

 

 ナザリックのメイドらしからぬ振る舞いを、メイド長に見られてしまった。

 

「時間はまだありますが、ここでこうしているところを見ると気晴らしは済んだのですね? わん」

「は、はい。今は他の者たちで後片づけをしているところです。私は……その、少々埃を被ってしまいましたので、身を清めてから仕事に戻るつもりでございます」

「そう言えば少々臭いますね、わん」

 

 情交の残滓は綺麗に拭かれている。薄く香水をまとわせたハンカチを使われたので、臭いは残ってないはずだ。

 しかし、シェーダはパンツを履いてる。

 濡れた逸物を拭いたパンツだ。

 

 臭うと言われ、シェーダは真っ赤になって顔を伏せた。

 何の臭いかまで言及されなかったのは幸いだ。

 

「いいでしょう。それでは体を清めた後で構いませんから、これをあの者へ渡してください。……わん」

 

 ペストーニャが持っているのは白い包み。

 中身はナザリック製のダークスーツである。

 当然の事ながら、衣装部屋で行われていたはずの採寸の情報は、ペストーニャへ渡ってない。

 魔法の服なので寸法は着る者に自動で合うようになっている。服を作るのに採寸は全く必要ないのだ。

 

「かしこまりました」

 

 命令を受けて荷物を受け取った。

 

 自室に戻ったシェーダは、備え付けのシャワーで軽く汗を流す。下着をきちんと換えて、完璧にメイド服を着こなす。

 まだ衣装部屋にいるだろうかと足を運ぶも誰もいない。

 ある程度時間が経ったから食事にでも行ったろうかと思うも、レストランにも目当ての男は姿を見せない。

 代わりに、キャレットとリファラを見つけた。

 

「……ねえ」

「な、なに?」

 

 キャレットの受け答えがたどたどしい。

 そんな態度をとられると、シェーダの方も恥ずかしくなる。

 しかし、ペストーニャ様からの命令だ。そんなものを気にしている場合ではない。

 件の男の所在を訊ねた。

 

「へ?」

「あっと言う間だったわ」

「ご命令だそうだから何も言えなかったのよ」

 

 意外な答えが返ってきた。

 

 シェーダの行為を観賞したメイドたちは、二つに割れた。

 一方は「男の人って怖い」。一方は「男の人ってすごい」。

 人数は半々で、ウース派とアッツ派の関連は特にないようだ。なお、キャレットとリファラはポーションを使えなかった。使う勇気を持てなかった。そんな二人だけど後者に属している。

 

 男は後者の一団に囲まれてレストランで軽い食事を採っている時、見つけられたようだ。

 

「拉致された?」

 

 赤い目を光らせたヴァンパイアブライド達に連れ去られたらしい。




気付いたら100話
きりがいい数字なのでこいうとき定番のIFとか書こうと思いましたが、火傷せず王国の中枢に残ってもラナーがやってることが早回しになるだけで、いわゆる至高のオリ主でも図書館にこもるきりになるだろうし、
コキュートスがラウンドムーンキリングテックを極めるためにシャイニングムーンとダークムーンを越えてシャドームーンを倒してRXになりハイエンドオブラウンドムーンキリングテックのムーンスクレイバーを会得する話は無茶すぎるので止めました


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SVB

 ナザリック上層部第二階層「屍蝋玄室」は侵入者を迎え撃つ砦であると同時に、階層守護者シャルティアの生活エリアでもある。

 十人は同時に眠れる大きなベッドを擁するベッドルーム、当然のごとくバスルームも。ゆったりくつろげるリビングやダイニング。飲食不要のアンデッドなのに実は紅茶のエキスパートであるシャルティアのためにキッチンすら。もちろんシモベたちの部屋だってある。

 むせかえるほどの甘い香りに慣れれば、古き神話の時代を感じさせる豪奢な住処となる。

 

 この男、レストランでメイドたちに囲まれて食事をとっていたら、「確保ォ!」と叫ぶヴァンパイアブライドたちに両腕を捕られ、シャルティアの階層に連れてこられた。

 女主人は不在だった。いつの間にか夜が明けて、シャルティアはお仕事に向かったらしい。睡眠不要で夜がメインの吸血鬼なので、もしかしたら勤務時間は不規則なのかも知れない。

 シャルティアを待つ時間のほとんどを応接間で過ごした。外出は許可が出なかったのだ。

 半ば監禁されたような扱いであるが、10年間も幽閉されていたのは伊達ではない。どんな環境だろうと退屈しない。

 考えることは無数にある。記憶の宮殿に遊び、美神像を鑑賞するのもよい。一度読んだ本を読み返すのもよい。最近ではラウンドムーンキリングテックの発展系であるスクエアホライゾンキリングテックの型を検討することが多くなっている。

 

 赤と青の目はここではないどこかを虚ろに見つめ、何を思っているのか表情には憂いが浮かぶ。声を掛けても答えず、微動だにしない様は白い彫像めいていた。

 エ・ランテルの屋敷でも、帝都アーウィンタールの屋敷でも、メイドたちを惹きつけて止まない佇まいは、業務妨害になるのでシクススにひっぱたかれて人目につかない場所へ追いやられるのが常である。

 この場にいるヴァンパイアブライドたちに出来ることではない。

 彼女たちは、ただただ時を忘れて男の姿に囚われていた。

 

 

 

 思索に遊んでも時間が経てばお腹が空くもの。

 ヴァンパイアブライドたちに飲食は不要であるため、屍蝋玄室にはシャルティア用の紅茶セットしか常備してない。

 

『お腹が減りました』

 

 と言えば、なんとロイヤルスイートのレストランからデリバリーしてくれた。

 勿論ヴァンパイアブライドたちが給仕してくれる。さすがに専門職のメイドたちには及ばないが、ちょっぴり短気な女主人に仕えているだけあって気遣いは細やかだ。

 食休みをして一風呂浴びたいと言えば、なんとシャルティアが使っているバスルームを使わせてくれた。ちゃんと許可が出ているらしい。バスルームには猫足の大きなバスタブがあって、帝都の屋敷にしつらえたバスルームと雰囲気が似通っている。ヴァンパイアブライドエリートシックスの一であるミラの意見を取り入れて正解だったと改めて満足する。

 風呂もヴァンパイアブライドたちが世話を焼いてくれた。吸血鬼であるとは言え、彼女たちはいずれも肉惑的な美女ばかりである。彼女たちは服を着たままだったので、色々なところが透けて素晴らしい光景を作り出した。

 まさか手を出したりはしない。そんなことをすれば間違いなくシャルティア様大爆発である。

 だからと言って、大きなおっぱいで体を洗ってくれるのを拒否したりはしなかった。

 上半身も下半身も、おっぱいでは擦りづらいところは手を使うのかと思いきや、舌。真っ赤な舌を尖らせて体の隅々まで綺麗にされてしまった。

 とあるところへ血が通い、ぴくんとなったりもした。角度的には精々30度ほどであったが。

 

 メイドたちと食事をした時もちょっぴり思ったものだが、食事だけでなく風呂も美しい女性たちに世話を焼かれると、気分はまるで王様である。

 娼館で複数プレイをする時も近いものを感じるが、あれは楽しむより技術の研鑽の意味合いが大きい。それ以外で複数の女性から同時に世話を焼かれる経験は、振り返ってもちょっと見当たらない。

 一人の女性からではなく、複数の女性から競うように面倒を見てもらうのがこんなに心地よいものなのか。

 この男は、メイドたちに囲まれていた時よりも調子に乗りつつあった。

 

 

 ナザリックのシモベたちにとって、人間を愚劣・下劣にして下等な種と見るのがデフォである。ヴァンパイアブライドたちにとっても同様。人間の男と言うだけで、評価値は-1000スタートとなる。

 この男、見た目は良い。剥製や氷像にして飾っておきたくなる希な美貌で評価が+400。

 吸血鬼が重視する血の味は絶品だ。彼女らの主であるシャルティアがたった一舐めで我を忘れる玄妙な美味。+300。

 ここまで来ても-300ポイント。殺すまではしなくてよいが、好感を抱くまでは至らない。

 ところが守護者統括であられるアルベド様直属となると評価値をリセットした上で+100。先に述べた評価は順調に加算され+800ポイントとなる。

 ここでスペシャルボーナス発生。この男、彼女らの主へシモベたちの扱いについて進言し、女主人は物の見事に言いくるめられた。その結果、彼女たちの扱いが劇的に好転した。+10万ポイントである!

 中でもシャルティアが選抜したヴァンパイアブライドエリートシックスは、彼の妙技を直に味わっている。自分たちより上であると納得せざるを得なかったようだ。

 その上でシャルティアが、自分が戻るまで持て成しておけと言うのだ。色々とサービスしてあげようと言う気分にもなる。

 シクススが日々思っているように、手が掛からないのもよい。尤も、彼女たちが仕えるのは我が儘でとっても怖い真祖の吸血鬼。比較対象が悪いとも言う。

 

 

 

 

 

 

「お前今までいったい――」

「シャルティア様がお帰りになるのを一日千秋の思いでお待ちしておりました。こうしてシャルティア様をお迎えできることがどれほど喜ばしいことであるか、光栄なことであるか。感激に堪えません。シャルティア様ほどのお方であればアインズ様から寄せられる期待に困難な任務、多大な重責があろうとは存じますがシャルティア様は如何なる難事であっても容易く果たされることでございましょう。けしてお疲れではないと存じますが、非力な私が出来るのはシャルティア様を労うことだけでございます。どうか私どものためにシャルティア様の無聊をお慰めさせていただけないでしょうか?」

「……まあ? そこまでいうなら? 付き合ってあげてもいいでありんすよ?」

 

 昨夜からシャルティアの機嫌が悪いとヴァンパイアブライドたちから聞いていた。

 

 シャルティアからすれば、予約注文したのにいくら待っても品物が届かないので取りに行ったら品切れになってて入荷待ちしてる内に出勤時間になったようなもの。

 アルベドへ用が済んだら自分のところへ来させるよう言ったのにいつまで経っても来る気配がなく、わざわざ出向いてやったら不在。その後はアインズ様とのお話があったようなので少し我慢していたのにいつになっても来るどころか連絡すらなく夜が明けた。苛々ムカムカしながら一日を過ごしてさあどうしてやろうと思っていたところをよく回る舌に言いくるめられた。ちょっとよくわかんない言葉があっても誉められてることはわかるのだ。

 ヴァンパイアブライドたちは感心しきりである。

 

 実のところ、この男はシャルティアのところへ来るつもりがあんまりなかった。

 アインズ様に呼び止められ、シズに捕まりメイドたちに捕まり、時間がなかったのは確かだ。仮にあったとしても、自分から赴こうとは思っていなかった。シャルティア様がアルベド様と話していたのは聞いていたがそれはそれ。アルベド様から命令されるまでは放置のつもりでいた。

 そしたらとてもお冠になってしまったらしい。

 こいつは不味い気合いを入れて接待せねばと考えた。

 

「それにしても服がボロでありんすね」

 

 未だへそ出しスーツである。

 

「お恥ずかしい限りです。シャルティア様をきちんとお迎えしたくスーツを仕立ててもらっている最中でしたが、出来上がる前に連れてこられた次第でございます。ヴァンパイアブライドの方々はシャルティア様のご命令を第一と考えたからでございましょう」

「ま、いいでありんしょう!」

 

 キラーパスが飛んできたかに見えたが、この男を連れてきたヴァンパイアブライドたちはそっと胸をなで下ろした。

 

 スーツを預かっているシェーダはタッチの差で渡せなかった。その旨をきちんとペストーニャに報告しており、後に回してよいと言われて仕事に戻っている。

 

「お前は少し待っていなんし。夜はとぉっても長いでありんすから、少しくらいは待てるでありんしょう?」

「……左様でございます」

 

 舌なめずりするシャルティアへ向ける笑みは、なんとかひきつらなかった。

 

 

 

 

 

 

 シャルティアは一人でバスルームへ向かった。体を清めて身嗜みを整えたいのは、やはり女だ。

 軽くシャワーを浴びて、そこからはヴァンパイアブライドに手伝わせる。体を拭かせ、袖を通すのはシースルーの黒いネグリジェ。流れる銀髪はレースに黒いリボンが飾るヘッドドレスでまとめた。

 ベッドに行くのだからネグリジェ。いつもならヘッドドレスは着けない。口を使うようなことがあった場合を想定し、一々髪をかき上げる必要がないようにした。その髪をかき上げる仕草が男心をそそるのだが、シャルティアは実用重視であった。

 

 ベッドルームには男と、着替えを手伝わせなかったヴァンパイアブライドエリートシックスの残りが並んでいる。

 いきなりベッドには上らず、一人掛けのソファーへ腰を下ろした。

 同時にヴァンパイアブライドの一人がサイドテーブルへ華奢なグラスを置き、一人が薫り高いワインを静かに注ぎ、一人が細工も見事な小瓶から真紅の液体を垂らそうとしたところで、

 

「ストップです。折角素晴らしいワインなのですから、どうぞそのままお楽しみください」

 

 赤いワインだから血と混ぜても、と思うのはど素人。赤くてよければトマトも人参もイチゴも赤い。

 

「シャルティア様にもお楽しみいただけるカクテル用の酒を調合したことがございます。次回持って参りますので、その日をお楽しみいただければと存じます」

 

 アルベドを一発昏倒させた魔酒のことである。一瓶しか残していなかったが、用途が見つかったので再生産しているところ。繊細な手順で調合しなければならないため大量生産は出来ず、作れるのもこの男だけである。

 

 余談だが、赤青緑に紫色の気泡が星のように煌めくこの酒を、酒自体も星の一つと数えてファイブスターと命名しようとしたところ、同名の物語があるとソリュシャンに聞かされた。ならば欲張ってセブンスターにしようと思ったのだが最古図書館で借りた辞書に同名の煙草があると書かれている。仕方なしにスリースターにと思ったらこれもダメ。パンドラズ・アクターによると、スリースターズと言う名の装備品があるとか。魔力消費を抑えるアクセサリで非常に貴重なマジックアイテムであるらしい。どう言うわけか奇数は全滅である。ストレートにフォウスターは似たような名前の音楽家がいると辞書にあったためこれも断念。

 面倒になってシンプルにザ・スターに決まった経緯があった。

 

「むう。仕方ないでありんすね」

 

 いさめられたシャルティアは、唇を尖らせてからワインを喉へ流し込んだ。

 

「お前も飲みなんし」

「ありがとうございます。ご相伴にお預かりします」

 

 グラスの半分ほども注がれたワインを、男は灯りに透かして深みのある色を楽しみ、グラスを揺らして立ち上る香りを楽しみ、一口、二口、と少しずつ口を付けた。様になってる飲み方である。

 ぐいぐい飲んでしまったシャルティアは、自分がお子様のように思えてちょっとだけ頬を膨らませた。ワインではなく紅茶であったら上品な飲み方をしていたはずであるところがまた悔しい。

 この男の血はストレートで飲むといささか強い。ワインは血を薄めて飲むためのものであって、ワインそのものを楽しむわけではないのだ。

 

「……この前みたいに飲ませなんし!」

「かしこまりました」

 

 微妙になってしまった空気を強引に打ち破れるのは上位者の特権だ。

 シャルティアの命令に、男は一歩前に出た。

 

 ワインは飲んだのだからもう一方。

 飲ませた場所は月下の草原。

 シャルティアを信じて大胆な飲ませ方をした。

 

「少し上を向いて頂けますか?」

「お前がさせなんし」

「それでは失礼いたします」

 

 シャルティアへ身を寄せて、細い顎に手をかけた。

 くいと上を向かせ、真っ赤な唇だけが目に入る。男の吐息を感じ取って、唇は薄く開かれた。

 

「ん…………、んぅっ! ちゅっ……んっ……あふぅ……」

 

 鮮烈だった真紅の瞳に紗が掛かる。

 細い喉が何度か上下し、静まりかえったベッドルームで小さな水音が鳴り始めた。

 柔らかな唇は開かされ、男の唇が押し付けられている。口内では舌が絡み合っていた。自分の口の中へ侵入してきた男の舌を、シャルティアが熱心に舐めている。

 舌に付いた小さな噛み傷。男自身が噛み切った傷から滲む鮮血を、シャルティアは舌を伸ばして舐めとり、強く吸って飲み込んだ。

 男の唾もすすっている。じゅるじゅると卑猥な音を響かせている。

 

 その頃には血は出なくなっていた。口内の傷は塞がりやすいものである。ナザリックの高級食材を始め、贅沢な食事で体質が改善しつつあるこの男は、小さな傷はすぐに治るようになった。きっとソリュシャンが溶かしすぎて鍛えられたに違いない。

 

 血が出なくなっても唇は離れない。

 シャルティアは、あふぅと艶めかしい息を吐き、口内の至る所を舐められるのに任せていた。

 伸ばした舌を強く吸われ、甘く歯で噛まれて捕まえられる。そこをなぶるように舐められた。歯茎を舌先がつつくのはこそばゆい。鋭い牙を舌が這うのは官能的だ。

 顎を掴んでいた手は頬を撫でている。頬を両側から包まれて唇を押し付けられるのは、奪われているようでシャルティアの被虐心を刺激した。

 細い首を掴まれて、シャルティアは男の手に自分の手を重ねる。少しだけ力を入れれば思いは伝わった。

 

「うぅっ……、けほ……、だめもっとぉ! んうぅ~~っ!」

 

 首を絞められた。

 100レベルのシャルティアは、この男どころかヴァンパイアブライドたちが扼殺するつもりで首を絞められても全く痛手にならない。

 苦しさに喘いで口を開いても、唇は塞がれたまま。

 重ねた手が離れると同時に首締めが終わったのは少し残念だったが、首から離れた手は流れるように肩を撫でた。

 ネグリジェの肩紐が外された。

 

 薄衣がはらりと落ちて、真っ白な乳房があらわになる。

 胸パッドを常用してるくらいなので大きくはない。小振りで愛らしい大きさなのだけど、ちっぱいも好きな男だった。

 首締めはシャルティアでも苦しかったろうから、今度は優しく。指を伸ばせば手のひらに収まってしまう乳房。吸血鬼の肌は冷たいのに、ふにふにと揉み続ければ熱が溜まってくるようだ。

 キスをしているので見れないのが残念だ。シャルティアの乳首はルビーのように綺麗なのだ。蒼白な肌で輝いている。

 キスを中断したいところだったが、シャルティアからも腕を伸ばしてきた。細い腕は首筋に回り、このままをねだってくる。

 

 ここまで来ると、ソファーに座るシャルティアへ男の体が覆い被さっているようなもの。

 いつもは上位にいて自分たちを責めてくるシャルティアがされるままでいるのを、ヴァンパイアブライドたちは背筋を伸ばして下腹の上で品良く手を重ね、固唾を飲んで凝視している。

 女主人の知らなかった一面を見せられるのは驚きであり新鮮である。

 シャルティアに自分を重ね、自分もあんな風にと思えば体が熱くなる。人間の男とは言え閾値を越えた好感度があり、手技に舌技を思い出せば濡れてくる。

 

「きゃうぅ……、あっ! あんっ……、シャルティアのおっぱいぃ、いっぱいペロペロしてくんなましえ……、ああんっ♡」

 

 優しい愛撫だったのに、突然強く摘ままれた。

 ちゅっちゅホールドが外れた隙にするりと逃げられ、乳房にキスをされた。

 毎晩ヴァンパイアブライドたちにさせているのと同じ行為。それなのに違うのは、温かい舌だからか、技術が違うからか。思い切りが一番かも知れない。

 乳首を舐められるのはいつものことだが、噛んでくるのはこの男だけ。

 勃起しても小さな乳首を痛いくらいに噛まれた。痛いのも好きなシャルティアだ。痛みが走った瞬間には解放され、優しく舐められてしまう。乳首に溜まった熱が爆発するようだ。

 きゅっと爪先に力が入った。

 

 シャルティアは乳首イきを覚えつつあった。アルベドはとっくに通り過ぎた道である。

 

「はぁ……、おまえたちも、いいでありんすよぉ? くふっ……あんっ」

 

 妖艶な目で見回した。

 

 女主人の許しを得て、シモベたちは下腹で重ねた手をある者は上に、ある者は下に。

 同性愛者でもあるシャルティアの愛妾を兼ねるヴァンパイアブライドたちだ。肉惑的な美女である彼女たちは、シャルティア好みの衣装に身を包む。服と言うよりは、帯で乳房と股間を隠すだけのエロ衣装。下着はどちらも着けてない。

 白い布のすぐ下には、柔肌があった。

 女主人の痴態を眺めながら、彼女たちは自慰を始めた。

 雌の匂いが濃くなり、掠れた声が途切れ途切れにあがり、淫靡な熱が籠もりだす。

 

「そろそろ……、あっちに移りんしょうか」

 

 ベッドルームには大きなベッドがある。

 男に抱き上げられ、シャルティアはベッドの真ん中に下ろされた。

 ベッドでも愛撫は止まない。

 ひたすらに胸を責められて、ルビーの赤が濡れ光っている。

 

「んっふっふ、今度もこの前も、お前をナザリックに連れてきてあげんしたのはシャルティアでありんすよ?」

「はい、感謝しております」

「くすぐったいでありんすよぉ♡ でもいいでありんすよぉ?」

 

 吐息で耳をくすぐられる。

 くすぐったいのに、温かい息を吹きかけられるのは心地よい。耳元で聞こえる美声は体の中に入ってきて乱反射して色々なところを勝手に刺激して。

 

「これからも時々連れてきてあげんしょう。だ・か・ら、そのときはぁ……」

「いえ、アウラ様にお願いすることもありましょう。それに正規に訪問する際は馬車でとなります。毎回シャルティア様にご足労願うわけには……おっと」

 

 シャルティアに押しのけられた。

 ベッドからは落ちなかったものの、端まで転がった。

 

「ほーん。へーーえ? ふっううううーーーぅん? まあ、確かに? いつもいつも私が運んでやるのは? まあ? いくらなんでも贅沢過ぎでありんすから?」

「仰るとおりでございます」

「…………っ!」

 

 この男、大原則を忘れていた。身を持ってソリュシャンから仕込まれたはずなのに、調子に乗って失念していた。

 女性といい雰囲気でいる時に、他の女性の名前を出してはいけないのだ。

 名前を間違えるのは最悪である。それが最中のことであったら覚悟しなければならないのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 アウラの名前を出されて、シャルティアのスイッチが切り替わった。

 

「他の連中を全員呼んできなんし!」

「はっ、直ちに!」

 

 シャルティアの命令を受けて、ヴァンパイアブライドたちが散っていった。

 待つと言うほど待たされることなく、すぐに戻ってきた。それぞれが数人から十数人も引き連れて。

 この場にいたのは、シャルティアと、男一人と、帝都にいるミラを除く5人のヴァンパイアブライドエリートシックス。5人がそれぞれ数人から十数人も連れてきたのだ。

 総勢50を二つ欠くヴァンパイアブライドたち。

 

 50と言うのは氏族の最大数。氏族とはすなわち血縁で結ばれた一族。50と言うのは名前も顔も中身も、互いに把握して集団を維持できる最大数となる。48に出張中のミラとシャルティア自身を足して50となるのだ。

 SVB(シャルティアのヴァンパイアブライド)48である。

 

 十人は同時に眠れる大きなベッドを擁する広いベッドルームでも、48人もいれば窮屈だ。壁際に隙間なくずらりと整列している。

 全員がヴァンパイアブライドだ。と言うことは美しい成人女性と言うこと。シャルティアのシモベなのだから、シャルティア好みのエロ衣装。

 

「本当はちょっと違うのを考えていんしたけど、気が変わりんした」

 

 本当はイチャラブックスして、ついでに側近の5人に男を教えてやろうと思っていた。

 気が変わった。

 50人もいるのに5人だけでは依怙贔屓だ。

 

「こいつらも処女膜を破られれば少しは手マンが上手くなるでありんしょうから」

「……48名もいらっしゃいますが」

「いらっしゃいんすねぇ?」

 

 シャルティアは悪そうに笑った。

 

「まさか不満がある奴はいないでありんしょう?」

「「「不満などとんでもございません。シャルティア様のお慈悲に感謝いたします!」」」

「……おおう」

 

 48人のヴァンパイアブライドの斉唱はすごい迫力である。

 

「安心しなんし。夜は始まったばかりでありんす。今日の夜はとぉっても長いでありんすよぉ」

 

 丸一昼夜以上ナザリックにいる。時計は目に入らない。体内時計は信用ならない。今が何時なのかわからない。食事の回数から夜遅くではないのではないかくらいしかわからない。

 シャルティアが言う言葉が嘘であれ本当であれ、拒否出来る立場ではない。

 

「お前のおちんぽでこいつらの処女膜を破ってあげなんし。もちろん全員でありんすよ♡」

 

 くひひと笑うシャルティアは、カルマ極悪に相応しい邪悪を見せつけた。

 とってもイイ笑顔に言葉も出なかった。




やっちまったなと色んな意味で思いました(真顔


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最弱

 私は名もなきヴァンパイアブライドの一個体です。名が無いと申しますのは、一々名付ける必要がないからです。

 例えば日々消費されるポーションに、これはアリス、これはビアンカ、これはチェルノ、などと名付ける必要があるでしょうか。必要がなければ意味もありません。ポーションはポーションです。私どももそれと同じ。ヴァンパイアブライドはヴァンパイアブライドです。

 ヴァンパイアブライドは地下大墳墓ナザリックの力で幾らでも生み出されるモンスターでありますので、個体毎に名付ける必要がないのです。偉大なるナザリックのシモベであることに変わりはありませんが、位置づけとしてはアイテムに近い消耗品です。

 そのため、私どもに創造主はございません。

 見方によっては、偉大なる至高の御方々がナザリックを支配なさらなければ私どもが知恵と知識を携えて生まれることはなかったでしょうから、至高の御方々が私どもの創造主と言えなくもないかも知れません。

 

 ヴァンパイアブライドは名前通りに吸血鬼型のモンスターです。ナザリックでは上層部にあたる第一から第三階層『墳墓』に配置されています。墳墓に配置されているモンスターは墳墓の名に相応しく、私どもを含めアンデッドばかりとなっております。

 墳墓に配置されたモンスターの中では肉ある女の姿をしているのはヴァンパイアブライドのみでありますので、墳墓の階層守護者であられるシャルティア・ブラッドフォールン様は私どもに身の回りの世話をお命じになります。その他にも、シャルティア様は同性愛とネクロフィリアの嗜好がございますので、夜伽をお命じになることも多々あります。私もシャルティア様の寝所に招かれた事が数度。ヴァンパイアブライドでシャルティア様からお声が掛かっていない個体は一つもないことでしょう。

 

 私どもの仕事はナザリック上層部の守りです。外部から侵入者があった時には身を賭して阻まなければなりません。ですが、私が生まれて以降は侵入者があったことは一度もありません。私が生まれる少し前から、具体的にはナザリックがこの地へ転移してから今日まで、侵入者はたったの一度しかなかったと聞いております。

 そのため、現在の私どもの役割は戦闘を伴わない墳墓の警邏。そしてシャルティア様のお世話となります。

 

 シャルティア様は私どもとは格も地位も力も美しさも次元違いのお方です。至高の御方の一柱、ペロロンチーノ様が創造なさったお方なのですから当然でございましょう。私どもなどと比較するのは大変に非礼なことです。

 シャルティア様はご自身のお力に相応しく、気高い振る舞いをなさります。シャルティア様の勘気によってヴァンパイアブライドが殺傷されることはよくあることでしたが、これは私どもに非があるのです。私どもが気高く美しいシャルティア様の御気分を害してしまったのですから当然の報い、あるいはシャルティア様のご厚情による教育や躾と申し上げてもよろしいことではないでしょうか。

 先に申し上げましたとおり、私どもヴァンパイアブライドはナザリックの力によって幾らでも生まれてくる一モンスターに過ぎません。私どもが命を散らすことによってシャルティア様の気晴らしになるのであれば、私どもが生まれた甲斐もあったと言うものです。

 

 ですがある時期から、シャルティア様が私どもを殺傷することがなくなりました。

 私どもの不手際には厳しい叱責が飛んできますが、シャルティア様の美しくも鋭いお爪が私どもを引き裂くまでには至りません。

 特にその時期は、シャルティア様は憎き者共の卑劣な罠に掛けられてしまい、その結果アインズ様から謹慎を言い渡されておりました。謹慎期間の始めのうちは私どもの首が飛ばない日はなかったほどです。

 だと言うのにある日からさっぱりと。これにつきましては、私どもも困惑してしまいました。

 もしもアインズ様から謹慎を解いて頂いたのでしたらわかるのですが、そのような話は聞いておりません。シャルティア様がアインズ様からお言葉を頂いたのでしたら、私どもにお話がないはずがございません。シャルティア様は私どものようなシモベたちへ、アインズ様のお言葉をお伝えくださるお優しい方なのです。

 もしもシャルティア様がアインズ様からお褒めの言葉を授かった時には、十も二十も何度でも私どもへお話くださります。

 シャルティア様はアインズ様からお言葉を授かったわけではないようでしたが、御気分がよろしい日が多くなりました。

 どうして御気分がよろしいのでしょうか。私どもの働きをシャルティア様が満足なさっているからではないと言うことだけはわかっております。

 理由がわからないことが不思議であり不安であり、私どもの働きによることではないことが悔しくもありました。

 

 そうした日々を送っていたところ、朗報がありました。シャルティア様の謹慎を解かれる日がついと来たのです。

 それだけではありません。

 アインズ様がアゼルリシア山脈へ遠征なさる随伴にシャルティア様が選ばれたのです。なんと栄誉な事でしょうか。シャルティア様にお仕えする私どもも、シャルティア様の栄誉に一通りの喜びではありませんでした。

 ここまではシャルティア様ご自身のお力で得られた名誉です。私どもはシャルティア様への尊敬を深くするばかりでありましたが、お優しいシャルティア様は私どもへも栄誉の機会をお与えくださったのです。

 アインズ様の遠征に、私どもへも付き従うようにと仰ってくださったのです。ナザリックに残ってくださった偉大なるアインズ・ウール・ゴウン様のお側に侍ることを、私どもにもお許しになったのです。

 

 勿論の事、誰もがこの幸運と栄誉にあやかろうとしましたが、同伴出来るのは六名のみ。選抜しなければなりません。アインズ様の遠征に随伴するのですから、私どもの中でも優れた個体を選ぶ必要があるのです。

 シャルティア様直々に選んでいただければ話は早いのですが、残念ながらそうはいきません。私どもとは次元違いのシャルティア様ですので、シャルティア様から見た私どもはドングリの背比べ。ドラゴンから見たナメクジとカタツムリのようなもの。

 選抜は私どもで行いました。

 同一種族であっても個体差はあります。シャルティア様からすれば誤差のようなものですが、私どもにとっては大きな違いになってしまうのです。

 過度な殺傷は厳禁としてトーナメント戦を行い、上位六名が遠征に随伴する栄誉を得ました。

 急な話ではございましたが、私どもは睡眠も休息も不要ですので対応が可能だった次第です。

 

 その六名から、最近のシャルティア様はご機嫌がよろしい理由を聞かされました。

 人間の男がシャルティア様の無聊を慰めていたようなのです。人間の男です。下等な存在です。小突けば砕ける脆弱な生き物です。だと言うのに。

 筋違いではあるとわかってはいるのですが、未だ見知らぬ人間の男へ恨みに近いものを抱く者が出てくるのは当然の話でした。

 

 ですが、それ以降の話です。

 シャルティア様は今までとまるで変わってしまわれました。

 私どもを気に掛けるようになってくださったのです。使い捨てのアイテム同様の消耗品である私どもへです。いいえ、私どもはアイテムよりも下かも知れません。何せ死んでも代わりが自然と生まれてくるのですから。

 その私どもを気に掛けてくださるのです。以前からお優しいシャルティア様でしたが、それからのシャルティア様と来たら背後から満月の光が差しているかのようです。

 大変に良い方向へお変わりになられました。

 

 それがアインズ様の遠征の成功へつながったとと聞かされました。シャルティア様はアインズ様からお褒めの言葉を授かったと聞かされました。随伴したヴァンパイアブライドの選抜個体たちも、恐れ多くもアインズ様直々にお褒めの言葉を授かったと聞かされました。

 私どもヴァンパイアブライドがアインズ様からお褒めの言葉を授かったのです。何と言う栄誉でしょうか。百度、千度、それが万や億に届こうとも、歓喜に包まれた無数の死を捧げられるであろう栄誉です。

 話はそこに留まりません。

 私どもは名も無きヴァンパイアブライドでしたが、遠征に随伴した者たちはシャルティア様直々に個体毎の名を与えられたのです。

 私どもは我がことのように喜びました。選抜個体、エリートたちの栄誉を羨ましくないと言ったら嘘になってしまいます。ですがそれ以上に喜ばしいことなのです。

 

 シャルティア様のお優しさは留まることを知りません。

 ある日のこと、私どもへ恐れ多くもお土産を持ってきてくださりました。お土産とは、渡す相手のことを気に掛けているからこそのものです。何と言うことでしょうか。

 まさかシャルティア様が私どもへお土産を持ってきてくださる日が来ようとは思ってもみなかったことを告白いたします。

 

 お土産は保存の魔法が掛かった小瓶。小瓶の中身は血液でした。ここでもエリートとそれ以外とは区別があります。

 エリートは一体に付き一瓶。それ以外は五体で一瓶です。あからさまな区別に不満が出そうなところでしたが、小瓶の中身を一舐めして身の程を知ることになりました。

 大変美味な血液です。幸福感と陶酔感と強い酩酊と、様々なものが津波の如く心身をかき乱します。気付けば気を失っておりました。たった一舐めです。私どもは吸血鬼であるのに、血液をたった一舐めしただけで気を失ったのです。恐ろしくなりました。

 このようなものは二度と口にしないと固く決意します。ですのに、数日もすればもう一度と思ってしまうのです。

 人間の血液にこのような効果があるのでしょうか。聞けば、この血液はシャルティア様へ忠言し、良い方向へ変えた人間の男のものであるようなのです。

 その人間の男とは、階層守護者であられるシャルティア様も時によっては命令に従わなければならない守護者統括であられるアルベド様直属の配下であるそうなのです。

 アルベド様はサキュバスであられます。人間の男であっても、アルベド様直属ともなればただの人間とは違うのでしょうか。どのような人間であるのか興味と関心が湧いてきます。他の者たちは好意に近いものを抱いているようです。

 

 アルベド様直属であることから隔意を抱くわけには参りません。その者がシャルティア様の無聊をお慰めしてきました。その者の進言によりシャルティア様はご自身のなさりようを省みられました。その者の血液は例えようのない至上の美味です。

 中でも、その者と直接対面したことがあるエリートたちは好意を隠そうとしませんでした。その者が発端となり至高の栄誉を得られたのですから無理もないことと言えましょう。

 その他にも、閨での技が絶技であるとか。

 

 私どもはシャルティア様の寝所に招かれ、シャルティア様をお慰めする事があります。

 恥ずかしながらも拙い技でありまして、必ずしもシャルティア様にご満足いただいているわけではありません。己の未熟を恥じ、互いに技を磨きあう日々です。

 エリートたちもそこへ加わります。彼の者の絶技を直接味わったエリートたちの技は、私どもとは一味違いました。違うのはわかるのですが、どのように違うのかまではわからないのです。

 

 話が少し前後します。

 エリートたちの一体。先の選抜トーナメントで優勝したヴァンパイアブライドの最強の者が左遷されました。

 栄光のナザリックから遠く離れた帝国へ追いやられると言うのに、ミラの名を授けられたその者は悲壮感などどこにもなく、大変な名誉を授かったような様子でありました。

 どうやら、何度か話に上がった人間の男の近くへ仕えるようなのです。

 

 その者へ興味を抱く者、好感を持つ者、エリートたちの感情は更に強いものとなり、ミラに至っては尊崇の域にあるように思えました。

 最早疑念を持つ者は一体もおりません。たとえ人間の男であっても、ナザリックのシモベであることに変わりはなく、私どもへも恩恵をもたらしてくれるのですから。

 嫉妬を胸に秘めるのは私だけでございましょう。

 

 忸怩たる思いで告白します。

 私は弱いから嫉妬するのです。

 

 同じヴァンパイアブライドであっても個体差はあります。最強がいれば最弱もいるのが道理です。

 単なる最弱であれば救いがありましたがその程度ではありません。

 力が強い者がいれば弱い者も。速い者がいれば遅い者も。背の高い者がいれば低い者も。肉付きが良い者がいればそうでもない者も。

 致命的なのは爪の硬さです。私どもヴァンパイアブライドの主武装は、尖った爪なのです。爪によって敵を引き裂くのですから、爪が弱い者はもうお話になりません。

 ヴァンパイアブライドたちが持つ個体間のゆらぎ。それぞれの全てで下限に近い弱さを持つのが私なのです。

 私のような弱いヴァンパイアブライドは率先して命を散らし、新しい個体に役割を譲るべきなのですが、幸か不幸か、そのような機会は全くありません。戦闘の機会がないので弱さを見せることがないことを幸いと思ってしまう軟弱なヴァンパイアブライドが、私なのです。

 

 

 

 

 

 

 ある時、ナザリックの外へお仕事へ向かわれるシャルティア様から厳命がありました。

 何度か話に上がった人間の男がナザリックを訪問しているので、確保して屍蝋玄室に留めておくようにとのことでした。シャルティア様にはエリートの者たちが付き従うことが常でありましたから、残った私どもが果たさなければなりません。

 私どもは何班かにわかれて行動しました。

 男がいると思われるのはナザリック第九階層ロイヤルスイートです。仲間たちが重点的にロイヤルスイートを捜査する一方、私はいつものように上層部の警邏に回っておりました。今日に限らず、私は率先して警邏に回ることが多いのです。

 もしも侵入者があればこの命を使ってでも打ち倒す。敵わなければ命を果たして最弱の生き恥を終えることが出来る。そのように浅薄な思いが私を動かしていました。

 

 数刻して、男が確保されたと聞きました。

 シャルティア様はその者を持て成しておくように言い置かれましたので、数名が付ききりで応対しているようです。私は疲れ知らずのヴァンパイアブライドですから、夜が更けて夜が明けるまで警邏を続けます。

 

 更に数刻してシャルティア様がお帰りになりました。

 それからしばらくして、ヴァンパイアブライド全員に屍蝋玄室のシャルティア様の寝所に集まるよう命令が下されました。 

 そこで私は、彼の者を初めて見ました。

 シャルティア様の御前だと言うのに破れたスーツを着ているのはどう言うことでしょうか。大変に無礼なことです。もしもシャルティア様のお言葉があればひと思いに首を跳ねてやりますのに。

 ですが、どのような言葉にすればいいのか愚かな私にはわかりません。

 

 バンパイアの術に美顔縛りと言うものがあると聞きます。私どもは勿論の事、近接戦闘を得手とするシャルティア様も収得しておられない術です。

 どのような術であるかは名前から察していただけるのではと思います。この術に掛かった相手は美しい顔に見惚れて魂を抜かれたようになってしまい、指一本動かすことが出来なくなるのです。

 もしもこの男がバンパイアに転化するのであれば、きっと美顔縛りを会得するに違いありません。

 浅ましくも、この男へ嫉妬を抱く私ですらそのように思ってしまう美貌なのです。

 

 気配は人間であるのですが、本当にただの人間であるのか疑わしく思える美貌です。

 サキュバスであるアルベド様の直属ですから、何かしらの魅了の術を使っているのかも知れません。ですがそうなりますと、シャルティア様も魅了の術に掛かっているという事になってしまいます。まさかシャルティア様が人間の術に掛かるわけがありません。

 何も用いていない素の魅力、と言うことなのでしょうか。

 

 シャルティア様の寝所にヴァンパイアブライドの全員が整列しています。

 帝都にいるミラを除く全員です。総数48。正しく整列した後は、エリートの5名はシャルティア様のベッドに向かいました。

 シャルティア様が仰います。

 

『お前のおちんぽでこいつらの処女膜を破ってあげなんし。もちろん全員でありんすよ♡』

 

 大変興味深いお話です。

 シャルティア様をお慰めすることが私どもの勤めの一つでありますから、性技に関心がないヴァンパイアブライドは一体もおりません。

 性交は何度となく経験があります。ただし、全て同性同士によるものでした。

 

 シャルティア様の階層であるナザリック上層部にはきちんとした肉を持つ男がいないのです。

 骨の者たちからは失われておりますし、肉を持っていたとしても溶けていたり干からびていたり。シャルティア様からのご命令であればそのような者たちと交わることは厭いませんが、今日まで一度たりともなかったことなのでこれからもないことと思われます。

 

 ナザリックには肉を持つ殿方はいらっしゃいます。

 代表としてデミウルゴス様配下の男性悪魔、セバス・チャン様配下の男性使用人。ですが、どちらも私どもとは縁遠い方々です。加えて、ナザリックのシモベである同士でもありますので、淫らな目を向けることが躊躇われてしまうのです。

 私どもの主であるシャルティア様は同じく階層守護者であられるアウラ様と懇意にされていらっしゃいます。アウラ様には双子の弟君であられるマーレ様がいらっしゃいますが、マーレ様をそのような対象を思うだけで懲罰、否、刑罰の対象です。言語道断でありましょう。

 アウラ様の配下には多数の魔獣がありますが、さすがのシャルティア様も獣姦の嗜好は持っておられません。

 巡り合わせがなかったため、私どもは全員が未通なのです。

 

 人間の男ではあっても、処女膜を破ってもらえるのなら身を任せるのはやぶさかではありません。

 嫉妬を秘める私ですらこうなのですから、シャルティア様のお言葉に目を輝かせる者はけっして少なくありませんでした。




なんでか本作はヴァンパイアブライドのヒロイン度が高い気がします


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伏兵 ▽SVB NO.26

 シャルティア様とエリートの5名はベッドの上に。私どもは壁際に整列しました。

 ベッドの正面に10名。左右背面にそれぞれ11名。

 私が立っていますのは背面の2番目です。 

 

 私どもが並び終えると、早速始まりました。

 まずはベッドの上のエリートからです。

 

 シャルティア様はいくつかルールを定めました。

 エリートには膣内射精を。それ以外の者たちは挿入して処女膜を破ったら、浅くてもいいから一度は達せさせること。

 エリートを終えたら正面の壁から時計回りに。

 壁の一面を終えたらベッドに戻って次のエリートに。

 私は26番目になります。半数を終えて折り返して、後半戦の始まりにあたります。

 私どもは自分の順番になるまで動いてはいけません。見るのはよいのですが、動いてはいけないのです。

 仲間たちの嬌声に艶姿を目の当たりにすると、否応無く高まってしまいます。ですが、自分で慰めることを禁止されました。

 

 ベッドの上で、エリートはひっくり返した蛙のように股を開きます。そこへ男が覆い被さりました。どのようになっているのかよく見えません。ただただ甘い声と肉を打つ音だけが聞こえてきます。

 どれほどの時間が経ったのか、体内時計が狂ってしまい時間の経過がわからなくなりました。いつの間にか嬌声が止んでいました。

 ベッドの上をずっと注視していたはずなのに、私は一体何に気を取られていたのでしょうか。破れたスーツを脱いだ男は背を向けていました。私が立つのはベッドの背面でありまして、順番は正面からです。こちらの側からは男の背中しか見えないのです。男の前面は見えません。

 私どもの興味を引いて止まないのは、ナザリックでも希な美貌もそうなのですが、股間にもあるのです。男性器がどのようなものであるか知識としてはあっても、実物を見た者はエリート以外にいないのですから。

 

 壁際に並ぶ私どもも順々に番が回ってきます。

 このようなことになって、私はきっと動転していたのでしょう。何が起こっているのか、気付いたときには数名が崩れ落ちていました。ようやっと事態を観察できるようになって、それでも私の番まで十以上も挟んでいるのは幸運であったのかも知れません。

 

 私どもは、まず抱擁と接吻を頂きます。

 接吻が長く続くときがあればすぐに離れることもあるようです。それから愛撫です。

 左側の壁に来ると、私の位置からは角度的にもよく見えるようになります。

 どのような愛撫であるのか、じっくり観察することが出来ました。瞬きも忘れて見入ってしまいます。ふと、次の番である者の姿が目に入りました。

 シャルティア様のご命令に従って体こそ正面を向いていますが、顔は隣を向いて凝視しています。当然でしょう。私だってそうします。

 湧いてきた共感に笑みが浮かびそうになるところ、彼女の体を目にしてはっとしました。

 慌てて他のみんなの姿を見ていきます。同じでした。

 自分の体を見下ろします。やはり同じでした。

 乳房を覆う薄衣に、小さな突起が二つ浮いているのです。

 私は触れてもいないのにも関わらず、乳首を勃起させていました。全員がそうです。例外はありません。

 一度意識してしまうともどかしくてたまりません。切ない疼きを鎮めたくなってしまいます。

 そして、乳首だけではありませんでした。

 股を濡らしてしまっています。

 陰部から溢れる汁が太股を冷たく濡らしています。

 悩ましくて切なくて、ですが動かないように命じられているので慰めることは出来ず、こっそりと太股を擦りあわせます。

 あっさりと露見してしまいました。

 

「動いちゃダメでありんすよぉ? 乳首びんびんでおまんこ濡らして自分の番が来るのを大人しく待っていなんし」

「は、はい。申し訳ございません……」

 

 さすがのシャルティア様はお見通しでありました。

 そのシャルティア様は、ベッドの上でエリートたちに口淫をさせています。美しくも可愛らしいお顔は愛欲に蕩けていらっしゃいます。いつもよりも淫らなお顔に体が熱くなってしまいます。

 自分の体を忘れるために、観察に戻りました。

 

 初めて目の当たりにする殿方の逸物は、逞しいと思うと同時に可愛らしくも思えました。丸みを帯びた先端が可愛く思えるのかも知れません。肉棒とも呼ぶだけあって、まさに肉の棒に見えます。

 太さはもとより長さがあって、口で咥えても喉の奥に当たってしまうようで、根本まで頬張ることは難しそうです。

 それと言うのも、自分の番に回ってきた者は挿入の前に逸物を口で清めなければならないからです。

 私どもは全員が生娘です。挿入されますと処女肉を切り裂かれ、血を流します。処女肉を貫いた逸物は、私どもの破瓜の血に濡れることになるのです。それを清めるために逸物をしゃぶるのです。

 隣の者が流した破瓜の血を舐めることになるのです。

 

 口淫についてはシャルティア様からご説明がありました。

 歯が当たらないように気をつけ、且つ唇で挟むようにして吸い付き、頬の内側の粘膜を上手く使うようにとのことです。

 舌もきちんと使います。ただし、時間は限られていますので、出来るだけ手早く、なおかつ丁寧にしなければなりません。

 清めたらいよいよ挿入されます。

 

 挿入には二通りありました。

 前からか後ろからかです。

 割合としては後ろからの方が多いようです。

 壁に手を突いて、お尻を突き出します。くびれた腰を掴まれ、男の腰が重なっていきます。二人の距離が徐々に狭まり、完全にゼロとなるのがよく見えてしまいました。

 引き抜かれた逸物は処女の血に濡れ、処女を散らした者は太股を処女の血が流れます。

 パンパンと、肉が肉を打つ音が響きます。尻肉を下腹が打つ音です。と言うことは、あの長い逸物の全てが体の中に全て収まってしまっているということに他なりません。あんなにも長いものが入ってしまうのです。目の当たりにしておきながら信じがたい思いです。

 

 前からの挿入は、受け入れる方は片足を大きく持ち上げられ、不安定になった体を支えるために片手は後ろ手にして壁に突き、片手は男の肩に置きます。

 そうして下から挿入されるのです。足が床から離れ、股間だけで体を支えられているようなものです。片足を持ち上げられていますから、太股を濡らしている愛液に処女の血が滲み出し、やがて流れるように増えていくのがよく見えてしまいます。

 

 どちらから挿入されるのであっても、抽送は多くて20を数えません。

 たったそれだけで達してしまうものなのでしょうか。

 男の体が離れると、その場に崩れ落ちてしまう者。崩れなくてもよろけて壁に体を預ける者と様々です。

 

 三番目のエリートの順番になりました。

 ベッドで行う時は、その都度体の向きを変えてくれます。最初は正面。次は左側。次に背面。背面に並ぶ私どもからはよく見えます。

 ベッドでは全員が正常位です。横たわった女が股を開いてその上に男が覆い被さる体位です。

 エリートの時は射精しなければならないので、私どもの時よりも時間が掛かります。激しさも上のように思えます。

 響きわたる嬌声は甲高いものから、やがて泣き声のようなものへ変わっていきます。すすり泣くように聞こえる時もありました。

 苦鳴じみた叫び声が何度も響き、その度に大きく持ち上げた足の爪先にピンと力が入るのが見て取れます。

 男が動きを止めて離れると、エリートは力尽きたように脱力していました。

 開いた脚を閉じる気力もないようです。

 震わせた陰部からトロトロと白濁した液体が溢れてきます。愛液とは違って随分と粘性が高いようです。あれが殿方の精液なのです。

 

 溢れた精液は他のエリートたちが舐めとってしまいます。

 シャルティア様は陰部に口を付けて、膣内に出された汁をじゅるじゅると音を鳴らしてすすっています。

 精液とは美味しいものなのでしょうか。

 

 そうこうしている内に、いよいよ私の隣にまで回ってきました。

 近くでみる男は、うっすらと汗をかいています。それがまた光を放っているようにも見えてしまいまして。

 嗅ぎ慣れた仲間たちの淫臭に、男の匂いが混じっています。初めて嗅ぐ男の匂いは、不快ではありませんでした。残念ながら精液の匂いはわかりません。ベッドから降りる前にシャルティア様が舐めとってしまったのです。

 

 私の隣は後ろからでした。

 すぐ隣で行われる性交は精々が10分程度なのにとても長いようにも、瞬きの間に終わってしまったようにも思えました。

 私の番です。

 

「あっ!」

 

 思わぬ事態に声を上げてしまいました。

 

「申し訳ございません!」

 

 咄嗟に非礼をお詫びします。ですが、咎めるように声を上げてしまったのですから、死を賜っても仕方ないことです。

 

「構いんせん。まあ、わたしもお前たちと同じがいいと思いんしたから?」

「なんとお優しいシャルティア様。ありがとう存じます」

「いいでありんすよぉ? お前はそこで見ていなんし」

「かしこまりました」

 

 シャルティア様が私の隣に並んだのです。

 お優しいシャルティア様は私の非礼をお許しになってくださいました。

 

 シャルティア様はベッドの上でエリートたちから愛撫を受け続けておりました。こちらの殿方がベッドに上る際は、殿方からの手淫や口淫を受けております。

 とろけるほどに股間を濡らしていることが匂いでわかります。きっと太股までびしょびしょになっていることでしょう。

 

 シャルティア様も抱擁と接吻をお受けになります。

 違ったのはその後です。

 私どもは愛撫を受けてから逸物を口で清めて挿入となりますが、シャルティア様はすでにとろとろになっていらっしゃいます。今更の愛撫は不要でした。

 代わりに口淫を望まれました。されるのではなくする方です。シャルティア様が殿方の逸物をしゃぶるのです。私どもの前でフェラチオをしたいと仰ったのです。しかも、激しくせよ、と。

 

 シャルティア様が床に膝を突きます。膝立ちになって、お顔の正面に殿方の股間が来るようにと。

 勃起している逸物は反り返っておへそにまで届いています。

 シャルティア様は逸物を優しく握って上下に扱きながら、その下に口付けしました。ふにゃふにゃと柔らかそうな肉の袋は陰嚢です。金玉とも玉袋とも呼ぶ部分です。

 玉袋も私どももの淫液に塗れています。破瓜の血もあることでしょう。シャルティア様はそれらを丹念に舐めとってから逸物の角度を下げました。上を向いていたのを自分の方へ向かせたのです。

 小さくて愛らしいお口をめいっぱいに開き、生々しい肉の棒を受け入れていきます。

 シャルティア様であっても、根本まで咥え込むことは出来ないようです。中程まで咥えますと、一度引き抜きました。頭を何度か前後に振って、上目遣いに殿方を見やります。

 それからの出来事は衝撃でした。

 殿方はシャルティア様の頭を掴むと、乱暴に前後に振り始めたのです。

 逸物が何度も何度もシャルティア様のお口を行き来します。シャルティア様は強く吸っていらっしゃるようで、じゅぽじゅぽと水音が響きました。

 

 シャルティア様のお口をこのように使うとは何と言う不届き千万。しかし、判断を誤る愚か者はこの場に一人もいません。

 シャルティア様がお望みになっていることなのです。もしもシャルティア様の御不興を買ったのならシャルティア様ご自身が誅されているのは間違いありません。

 

 逸物がお口から引き抜かれると、シャルティア様は苦しそうに何度もせき込みました。

 逸物は根本までシャルティア様の唾に塗れ光っています。シャルティア様のお口と逸物の先端とで唾の糸を引いたくらいでしたから。

 シャルティア様ご自身は一層愛欲に惚けたお顔で、愛おしそうに逸物へ頬ずりしております。

 

 シャルティア様への挿入は前からでした。

 上背が高くないシャルティア様ですので、最初から足は床から離れています。

 全身で殿方の体へしがみつき、小さなお人形のように体を振り回されています。

 すぐ隣で見ている私からは、結合部から飛沫が散っているのが見えました。

 シャルティア様は何度も淫らな言葉を仰います。

 殿方へ愛してると言わせています。

 ご自身も口にされました。

 シャルティア様のお声は高く美しく響きわたり、何度目か叫ばれた折りに全身を震わせて脱力なされました。

 お二方はつながったままベッドへ移動します。

 引き抜かれ、シャルティア様はベッドへ下ろされました。

 股は開いたまま、脚はベッドの外へ放るように。挿入されていたので、ピンクの割れ目も淫らに開いて内側を見せています。愛らしくて小さな肉壷から、粘ついた精液が溢れてきました。

 

 今度こそ本当に私の順番です。

 

 

 

 

 

 

「よろしくお願いいたします」

 

 まずはお辞儀です。距離が近いので深く頭を下げることは出来ませんが、きちんと目を合わせてから一礼します。

 シャルティア様のご厚情とは言え、こちらの殿方が私の処女を散らしてくださるのだから当然の礼儀です。私以外にしている者はいませんでしたが。

 

 殿方は唇の端だけを軽く持ち上げてから私の体に手を伸ばしました。

 色々なものを感じます。まずは匂いです。

 薔薇の香りに満ちたシャルティア様の寝所。そこへ私どもの淫臭。誰もが淫らな熱に体を焦がしているのだから無理もないことでしょう。

 その中で、こちらの方の匂いだけが浮いている。或いは澄んでいる。明らかに異質な男の匂い。触れ合う距離まで近づいて、うっすらと漂っていた匂いを濃く感じます。近くで嗅いでも不快ではありません。

 

「あっ」

 

 抱き寄せられました。

 私どもより非力なのに、私どもより太い腕が腰に回ってきます。

 この方の愛撫が気持ちよく感じられる秘密の一端を知ったように思います。

 温かいのです。私どもとは違って温かな体です。冷たい私どもの体へ荒れ狂う熱が入り込んで来たかのようです。

 ささやかな抱擁だけでこれなのですから、これ以上のことをされてしまったらあっと言う間に達してしまうことでしょう。シャルティア様のため、私どもが互いに励む日を送っていることも大いに関係するかと思われますが。

 私からも恐る恐る腕を殿方の背に回します。非力で脆弱な人間なのですから、力加減を間違えて傷つけるわけにはまいりません。

 互いに抱き締めあって体が密着して、薄衣越しに伝わる体温が我を忘れさせようとします。

 

 殿方は一番目のエリートの相手をした際に衣服の全てを脱いでおりましたが、私どもは全員服を着たままです。殿方の方からそのような要望がありました。

 私どもの服は、古の吸血神に仕える巫女の装束と聞いております。シャルティア様は吸血神と仰っても過言ではないお力を持つお方なので、おかしなことではないでしょう。

 事の最中も私どもは服を着たままです。下着のたぐいをつけていないので、着衣のままでも可能なのです。

 

「……んっ……、ちゅっ……」

 

 顎に指を掛けられ、上を向かされます。抱擁の次は接吻が順番なのです。

 ただし、私はヴァンパイアブライドの中でもほんの少しだけ――大きく違うわけではありませんが――やや背が低いため、接吻するためには上を向くだけでは足りません。つま先立ちになって背伸びをしなければなりません。つま先立ちは不安定な姿勢ですから、両手を殿方の肩に置かせてもらいます。

 ここまでして接吻をいただきました。

 殿方との接吻は初めてです。温かな唇とも初めてです。

 いつもしているように舌を伸ばすと、温かな舌が応えてくれます。温かな唾が口内に入ってきます。私は喉を鳴らして飲み干しました。

 

「んっふぅっ……」

 

 抱擁と接吻を交わしながら次の段階が始まりました。

 愛撫です。

 私の顎に掛かっていた手が腰に、もう一方の手は私の手を取りました。

 腰に回った手は下へ向かってお尻を撫で始めます。指がお尻の割れ目を伝っていき、秘所にまで届きました。長い指です。後ろからそのように触られると、股間だけで体を持ち上げられているような気持ちになります。

 とられた私の手はご自身の股間へ導かれました。蝶の羽を摘まむようにそっと触れます。

 シャルティア様へ射精したばかりの逸物は、柔らかくてぬめついていました。

 耳元で囁かれます。軽く握って上下に扱くようにと仰られました。言われたとおりにしますと、手の中でたちまち熱と硬さを取り戻していきます。

 一度だけ殿方の手が私の手に重なりました。強く握られたのは、このくらいの強さで握れと言うことなのでしょう。強めに握りましても、シャルティア様の愛液でぬめった逸物は引っかかることなくスムーズに扱くことが出来ます。

 

 私が扱き方を覚えましたので、愛撫が本格的なものになってきました。

 後ろに回っていた手が前に来ます。私の手をリードしていた手は胸に来ました。服の下に滑り込んで乳房をつかまれました。

 女の手とは違う男の手。染み一つない滑らかで綺麗な手なのに荒々しくて固い手指。

 殿方と目を合わせることが出来なくて俯いている私には、薄衣の下で殿方の手が蠢いているのが見えます。私の乳房が思うさま形を変えられています。乳首が張りつめて痛みを感じるほど。

 そのタイミングで摘ままれてしまい、あられもない声を上げてしまいました。

 

 秘所をまさぐる指は、膣の中に入ってきました。

 愛撫が始まる前からとっくに濡らしていますので、抵抗らしい抵抗は出来ずぬるりと受け入れてしまいました。十分に潤っていることを知られてしまったようで、指はすぐに引き抜かれます。

 代わりにクリトリスを擦られ始めました。

 とても敏感なところです。毎日舐められたり摘ままれたりしていますので、少々の刺激でも反応してしまうのです。それなのにわざわざ包皮を剥いて擦られました。片手なのに器用なことです。

 

「うっうっ、……うぁっ!」

 

 私の口から苦鳴じみた声が漏れ始めました。堪えようにも堪えきれない快感が閉じた口をこじ開けるのです。

 私の準備はとっくに出来ています。

 それどころか何度か達してしまっています。緩急をつけてゆるゆると擦っていたところへ、突然敏感なところを摘ままれてしまえば浅くとは言えそうなってしまっても仕方ありません。私だけでなく、ヴァンパイアブライドの全員がそうなってしまうはずです。

 それなのに愛撫が続いているのです。

 床には私の股から垂れた滴がぽたぽたと落ちています。これだけでも私がどんな有様なのか想像していただけるのではないでしょうか。

 首筋を噛まれたときは悲鳴のような声になってしまいました。吸血鬼なのは私なので、噛むのは私のはずなのに。

 

 私の愛撫だけ長いのは、シャルティア様へ射精した直後だからだと後になって気付きました。

 力をなくした逸物へ十分な力を取り戻すために必要だったのです。

 私はこのような責めを受け続けていたのに、逸物から手を離さず、ずっと扱き続けていたのは誉められても良いような気がします。

 

 殿方の指が私から離れた時、やっと終わるのだとほっとしたようにも思います。終わりではなく始まりだったわけですが。

 

 愛撫の次は口淫です。

 何を言われるでもなく、私は殿方の前に跪きました。

 私の番になった直後は力なくうなだれていた逸物が、雄々しくそそり立っています。私が力を取り戻させたのです。

 ずっと握っていたので熱さを知っています。硬さもしっています。

 何度も扱いていたので、付着していたシャルティア様の愛液と精液の残滓が白く泡だっていました。躊躇うことなく口に含みます。

 口内で感じる逸物は焼けるような熱さでした。

 ほんの少しシャルティア様の味がします。感じたことのない味が精液のものなのでしょうか。血の味はありません。私の前にこの方と交わっていたシャルティア様は処女ではなかったのです。

 シャルティア様の処女を散らしたのは何方なのでしょうか、この方なのでしょうか。シャルティア様の処女の血はどのような味だったのでしょうか。

 

 額を押されて口淫を中断されました。

 体を犯す熱に駆られ、夢中で頭を振っていたので、唇から逸物が抜けるときはちゅぽんと間の抜けた音が響きました。

 手を取られて立ち上がらされます。

 いよいよ始まります。

 

 私は壁へ向かせられました。私は後ろからのようです。前からだと接吻をしながら出来るのでそちらの方がと思っていましたが、意見を述べる余裕は皆無です。されるがままに動くのがやっとでした。

 壁に手を突き、上半身を倒してお尻を突き出します。それから背を反らせるのです。背を反らせることによって、挿入した際の角度がよい具合になるのだとか。

 ちらちらと後ろを伺います。後ろからされた者は全員が同じことをしていました。待っていれば入ってくるのだからと思っていたのに、自分の番になったら同じ事をしています。

 スカート部をめくられて、お尻に外気が触れるのがわかります。

 お尻を触られました。秘所を撫でられています。指ではありません。指よりも太くて熱いもの。さっきまで私がしゃぶっていた殿方の逸物が、私の秘所に、私の割れ目に潜ろうとしています。

 逸物の先端の太くなっている部分を亀頭と言うそうです。亀頭が私の割れ目を何度も上下に撫でています。上に来る度に少しだけ沈むのを感じました。

 これは焦らされているのでしょうか。

 撫でられ続けている内に私の処女が開いてくるのを感じます。異物を受け入れたことのない密壷が口を開こうとしています。

 欲しいのです。欲しくなってしまっているのです。

 殿方の逸物を迎えたくて開いているのです。ご馳走を前に、はしたなくもよだれを垂らして。 

 我慢が出来ませんでした。

 

「おねがい、します。どうか私の処女を。あなた様の……おちんぽで奪ってください。入れてください。私の処女膜を破ってください!」

 

 挿入の前に懇願したのは私が初めてです。

 人間の男に様をつけて、情けなくもお願いをして。だけれども、恥ずかしさや惨めさは感じませんでした。早く入れて欲しかったのです。

 

「あうっ!」

 

 願いは聞き入れられました。

 亀頭が上の方へ来て少しだけ沈んだと思ったら、ずぶりと中に入ってきました。

 どこまでもどこまでも入ってきます。私の奥を目指して入ってきます。

 多少の痛みはありますが、これでも戦闘職であるヴァンパイアブライドの端くれ。たとえ切り裂かれようとも意に介しません。

 体の中を押し広げられる圧迫感。熱い逸物は焼けた鉄杭を打ち込まれたかのよう。

 入ってくるのがわかります。中で動いているのがわかります。やがて、動かなくなりました。私の一番奥にまで届いたのです。

 処女を切り裂かれた私は、きっと処女の血を流していることでしょう。閉じていた通路を切り開かれたのです。

 処女を失ったことに喪失感はありません。それどころか充足感がありました。

 確かな一歩を進めた実感。欠けていた部分を埋められた満足感。痛みはスパイスにもならない彩りの一つです。

 初めての挿入で浮かれていた私には、次に起こることが想像も出来ませんでした。

 

「はうぅっ!?」

 

 確かに奥まで届いていました。

 あんなにも長い逸物なのですから、私の膣に入りきるとは思っていませんでした。

 閉じきっていた膣を押し広げていった亀頭は、私の子宮口に口付けていたはずなのです。

 そこから更に押し込まれました。

 子宮口の中にまで入ろうとしているのでしょうか。しかしそこは入るようにはなっていません。強く打ち付けてきた逸物は、私の子宮を押し上げていました。

 痛みはあっても堪えられないものではありません。ただ、衝撃ではありました。

 

「あっ……あっあっああっ! おくにぃっ! ああっ!」

 

 始まったのです。

 奥の奥まで入りきった逸物が、私の中を往復し始めました。

 傍で見ているときは単に抽送しているだけのように思えましたが、実際にされてみますと全く違いました。

 一突き毎に微妙に角度が違うのです。

 逸物で私の膣を調べるようにまさぐるように、色々な部分を刺激してきます。どこをどうされても気持ちよいのに、特に感じやすい部分を捜し当てようとしています。すぐに見つけられてしまいました。

 弱い部分を重点的に責められます。

 こんなことをされてしまったら、抽送が20にもならない内に気をやってしまうのは当たり前です。

 だと言うのに、更にその上があるのです。

 

 前から方が接吻しながら出来るのでと思っていたのですが、後ろからはもっと凄いものがありました。

 後ろからですと、挿入しながら股間をまさぐられてしまうのです。クリトリスを擦られています。愛撫の段階で執拗に責められ、何度か達してしまった弱いところ。

 体の中と外を同時に、です。

 

 カリ、と。私の爪が壁を掻きました。

 足腰からは力が萎えて立っていられなくなりそうです。

 呼吸も声も出せません。突かれる度に勝手に出てきます。体全てを逸物に支配されてしまったかのようです。

 あっあっ、と、私にはあえぐことしか出来ません。

 どこにいるのかわからなくなってきます。

 終わりが近付いています。

 かつてない悦楽を伴って、絶頂が足音を立てて近付いてきたのです。

 これまで、仲間たちとあれほど睦み合って来たというのに、こんなにもあっさりと全てを凌駕する快楽が。

 シャルティア様に手マンをお楽しみいただくための準備だというのにこんなにも恐ろしい悦びが。

 一矢報いるつもりで全身に力を込めました。本当は膣だけを締めたかったのですが、そこだけということが出来ませんでした。

 膣をきつく締めますと、膣内を蹂躙している逸物の形を強く感じます。

 咥えたときに目に焼き付いたあの肉の棒が、私の膣内にあるのです。

 

「あっ!?」

 

 全く意外なことでした。

 肉芽を摘まみ、乳房をまさぐっていた手が唇を撫でたのです。

 指は口の中に入って歯を強く押しました。牙です。

 吸血鬼の牙は、吸血する際により鋭くなるものですが、常の状態でも鋭く尖っています。その牙を押したのです。

 指は口から抜ける際に唇を撫でていきました。

 得も言われぬ芳香を放ち温かいもの。

 血です。

 この方の血液です。

 小瓶で保存されていたのではなく、流したばかりの鮮血です。

 いけないと理性でわかっていても無理でした。抗い様がありません。

 私どもを塵と思わせるほどに大きな存在が天威の暴力でもって、私の体を引きずり出すように感じました。

 

 私は唇へ舌を伸ばし、

 

「アウトーーーーーーーーッ!!」

 

 パアン! イテッ! キャウン!!

 

 シャルティア様のお声が聞こえたように思います。

 至上の口福と、矮小なこの身を打ち砕く悦楽に、体の奥深くで迸る熱い奔流を恍惚と感じながら、私の意識は闇に沈みました。

 

 

 

 

 

 

「血を使うのは反則でありんす! お前の血はこいつらには強すぎるんでありんすから」

「申し訳ありません。つい」

 

 シャルティアからケツバットを受けた。

 その勢いで奥深く打ち付けられた女は深い絶頂に至ったらしい。逸物を引き抜かれるなり、壁に爪痕を残しながらずるずると崩れ落ちた。

 

 精力はともかく体力的にきつい。勃起を維持するのだって、ヴァンパイアブライドたちが黒髪でなかったら厳しかった。

 48人全員に中出ししろと言われたら死を覚悟するところであったが、幸いにも最低5回でなんとかしてもらえるようだった。

 だからと言って48人はきつい。なんとか過半を終えたが、それでも三時間は経過している。

 ミラの献身がなかったらその倍は掛かっていたかも知れない。

 

 ヴァンパイアブライドであるミラは、どこを感じるのか、どのようなプレイを好むのか。暇に飽かせて徹底的に検証してきた。

 真祖の吸血鬼であるシャルティアを想定して調べてきたわけだが、まさかこのようなことになるとは思ってもみなかった。

 おかげでヴァンパイアブライドの性感帯は全て把握済みである。

 ついでに、どんな吸血をされたらまずいのかも実験している。

 ヴァンパイアの吸血による被吸血者のヴァンパイアへの転化は、魔法もしくは呪いの具現化であり、吸血行為は魔法を完成させる儀式であるとの結論がでた。牙を突き刺しながら吸血するのが正しい儀式であって、そこから少しでも外れると魔法は完成しないのだ。

 極端な話をすると、ヴァンパイアの牙によって流した血を十日後にヴァンパイアが舐めたら被吸血者はヴァンパイアになるだろうか。ならないのである。

 実験の成功もしくは失敗例は、ミラの管理不行き届きで灰になったり、ルプスレギナが試しに回復魔法を掛けて灰になったりして、一つも残ってないのは余計な話である。

 

 しかしこの女、本当にヴァンパイアブライドなのだろうか。

 

「おやおやおやあ? まあた出しちゃったようでありんすねぇ?」

 

 シャルティアが見下ろすヴァンパイアブライドは、床に倒れて気を失っている。

 めくれたスカート部はそのままで、尻が丸出しのままだ。脚も開いたままなので股間までよく見えた。

 さっきまで処女だったというのに、男の太い逸物を受け入れていた膣口は小さな口を開いている。こぷりと、白濁した粘液を吐き出し始めた。

 言うまでもなく精液である。

 シャルティアへ射精したばかりというのに、この女へも出してしまっていた。

 

 この女は、シャルティアのシモベであるヴァンパイアブライドらしいのだが、まるでアルベド様の眷属であるかのようであった。

 

 ナザリックのシモベに似つかわしくない自信なさそうな顔は庇護欲と嗜虐心を誘った。

 乳房は他のヴァンパイアブライドと比べれば確かに小さめだが人間の標準よりは大きく、柔らかさの中にほどよい弾力があって揉み応えがある。

 手淫と口淫がいまいちなのは経験不足だから仕方ない。

 特筆すべきは膣である。

 

 アルベド様と中身も変幻自在のソリュシャンを除けば、間違いなく今までで五指に入る名器だった。

 柔らかさ、締め付け具合、絡み方、肉ひだの感触。全てが極上。ヴァンパイアブライドであるため膣内は冷たかったわけだが、これがもしもルプスレギナのように熱かったら断トツで一位に名乗り出ていた。

 シャルティアの下にいるのが不思議ですらある。どうしてこんなところにいるのか。

 

 余りの具合の良さに出してしまいそうになったので、血を飲ませてやれば達してしまうだろうと思ったのだが反則であったらしい。

 おまけにペナルティのケツバットの衝撃で出してしまったのだからもう何と言うかである。

 常ならば積極的にお相手してもらいたいところであるが、今この時では大きな障害にしかならなかった。

 

「ほら、さっさと次に行きなんし」

 

 シャルティアが急かしてくる。

 けども男は動かず、今し方の女が向き合っていた壁を眺めていた。

 振り向いた顔には苦悶があった。

 

「なんでありんすかあ? 休み時間はないでありんすよぉ? まだこんなに待ってるんでありんすから」

「いえ、そう言うわけではありません。重大なことに気付いてしまいました」

「……言ってみなんし」

 

 度々訴えていた休憩のことではないらしい。

 真面目くさった声と顔に、シャルティアは聞く姿勢を見せた。

 

「シャルティア様は仰いました。手マンを上達させるために処女を散らすと」

「言いんしたね」

「全くの無意味とは言いません。ですが、効果的な手段ではないと気付きました。ヴァンパイアブライドの方々が手マンを不得手としている理由は他にあります。処女だからと言うわけではありません」

「…………言ってみろ」

 

 シャルティアは自分の意見を否定されたのに、聞く姿勢を保った。

 これが以前のシャルティアであったら、どうして自分の意見を否定するのかと酷く責めていたことだろう。

 シャルティアは本当に成長しているのだ。

 

「こちらをご覧ください」

「?」

 

 男が指し示すのは壁に残った爪痕である。

 シャルティアは可愛らしく小首を傾げた。

 

「爪痕です」

「爪痕でありんすね。私のベッドルームにこんなものをつけて、後で直させんす」

「硬い壁に痕が残るほどの爪です」

「だから何だ?」

「シャルティア様も同じですので、指摘するのは躊躇われるのですが……」

 

 勿体ぶってから、男は言い放った。

 

「ヴァンパイアブライドの方々が手マンを不得手としている決定的な理由は………………、爪が長いからです!」

「……………………あっ」

 

 立ち並ぶヴァンパイアブライドたちがざわめいた。

 

 手マンとは、指を膣内に挿入して内側から愛撫する行為だ。

 そしてヴァンパイアブライドの爪とはメインウェポンである。ヴァンパイアブライドの爪は例外なく長く鋭い。

 それゆえに、彼女たちが手マンをするときは入り口を少々撫でてやる程度に留まっていたのだ。

 痛みに強く、多少の傷は意に介さず、切り傷程度はすぐに回復する彼女たちでありシャルティアであるのだが、だからと言って積極的に出来ることではない。

 シャルティアは彼女たちの女主人だし、愛撫する部分はとても繊細なのだから。

 

 真実を知ったシャルティアは、好物の豆で頭を撃たれた鳩のようであった。

 

「そう言うわけですのでこれ以上は必要ないのではないかと愚考する次第です」

「バカ言いなんし。私が手マンのためだけにセックスさせてると思いんすか? こいつらにいい思いをさせたいからでありんすよ」

 

 シャルティアは本当に成長してしまったのだ。

 シモベたちの悦びのために時間をとっているのだから。

 

 ヴァンパイアブライドたちは感動していたが、この男にとっては苦行を続けよとの宣言に他ならなかった。




次回、やっとナザリック脱出
シズからシャルティアまで一話でまとめるつもりがこんなになってしまいました


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無理なものは無理

 魔導国からやってきた学士殿ことお屋敷の若旦那様は床に伏したと言うことにして魔法学園の見学を取りやめてから一夜が明けた。

 帰ってこない。

 帝国の騎士がご機嫌伺いの見舞いに来たが気分が優れないという事にして断り、夜が更けてきた。

 まだ帰ってこない。

 そして夜が明けた。

 若旦那様の寝室に暗い球形の扉が開いた。

 

 主人不在のベッドを暖めていた幼い双子と、双子を抱き枕にしていたルプスレギナは、狼狽えることなく賓客を迎えた。

 来客は荷物をベッドに放り、後は任せんしたと言いおいて魔法の扉から帰って行った。

 残った三者は、荷物を目にして息を飲んだ。

 

「お、おにーさん! なんて変わり果てた姿に……。おチビたちはちょっとあっちを向いてるっすよ」

「……るぷう……」

 

 喋る荷物は息も絶え絶えの若旦那様。

 体の何処にも外傷はないらしいのがルプスレギナには見て取れた。触れる前からそこまでわかったのは、全裸だったからだ。

 傷はなくても頬はこけて目は血走り、屋敷を離れる前と比べれば明らかにやつれている。

 

「とりあえず回復魔法をって…………うわぁ。おにーさん、スッゴい匂いさせてるっすよ?」

 

 一歩近付くなり鼻を突く異臭。

 発生源はベッドに倒れる男である。

 様々な匂いが混じり合う中で、一番濃いのはルプスレギナも知っている匂い。淫臭だった。

 

 

 

 

 

 

 昨夜、26番目のヴァンパイアブライドに不意を打たれてしまい、27番目は時間が掛かった。

 28番目になったら勃起を維持するのもきつくなってきた。如何にアルベド様と同じ黒髪であろうと無理が出てきたのだ。銀髪で小柄なシャルティアはヴァンパイアブライドとは色々と違うので気分を変えるのに有効だったが、こちらも効力が失せてきた。

 よって自己暗示を掛けた。

 ドリルだ、ドリルになれ、全てを貫くドリルになるんだ! と全自動腰振りマシーンになろうとしたら再度のケツバット。2アウトである。「おざなりにするな。心を込めて丁寧にやれ」と、シャルティア様からお叱りの言葉を受けてしまった。

 体力が限界に近い。勃起を維持するのも難しい。それなのに、あと21名。

 そこで早くも最終手段を使ってしまったのが間違いであった。

 

 秘奥義「美神想起」である。どんな状態だろうとアルベド様を想えばナメクジ相手にだって勃起が可能となるのだ。

 28番目から35番目まで、アルベド様に倣った慈愛の微笑を浮かべつつ順調にこなし、36番目となる4番目のエリートは、こいつは元通りになるのかとシャルティアが心配するほど遠い世界へ突き上げてやった。

 

 そして、力尽きた。

 

 リスクもコストもなく秘奥義を使えるわけがないのだ。

 せめて4番目のエリートを終えてから秘奥義を使えば最後まで持ったろうに、タイミングを見誤った。

 体力が尽きてアウト三つ目。3アウトになるとどうなるのか。チェンジするのである。

 

 ベッドへ大の字に横たわる男へ、わらわらと12人のヴァンパイアブライドが群がってきた。体力が尽きても美神想起の効果で勃起が続いたのは幸か不幸か。

 全身隈無く、ヴァンパイアブライドたちの指と舌と唇と、秘部が触れない部分はどこにもなかった。

 腕と脚に跨がって腰を滑らせ、指をとっては秘部へ導き、休みなく代わる代わる口付けしてくる。シャルティアが顔面騎乗を披露してからは顔の上にも跨がるようになった。

 飲まされた唾液と愛液の総量は、リットル単位に届こうかと言うほど。

 

 四人までは挿入したと言うかされた記憶がある。以降は不明。帝都の屋敷に帰されたという事は全員こなしたのだろう。

 

 

 ルプスレギナはしばし考える。

 おにーさんは回復するよりも洗ってやらないとダメだった。

 しかしスゴい匂いをさせてるので触りたくない、近付きたくもない。だったら回復魔法を掛けて復活させ、自分の足で風呂に行かせればいいところを、弱ってるおにーさんはレアで可愛らしい。

 双子の幼女に諸用を命じてから、おにーさんを担ぎ上げた。

 

 寝室から浴室は近い。

 こんなこともあろうかといつでも入れるようになってる利用者が限られた浴室だ。

 ルプスレギナも服を脱ぎ、裸の男を横抱きにしたままバスタブに入った。

 

「まったく。おにーさんは一体何をしてきたんすかねー?」

「………………接待?」

「それだけで大体わかっちゃうのがあれっすね」

 

 ルプスレギナはお気に入りとなった香料入りの入浴剤をバスタブに注ぐ。シャワーは熱い湯水を降らしてくる。匂いがだいぶ薄れてきた。

 熱い湯の中で、湯より熱い体を男の背中へ押しつける。

 男の胸をまさぐっていた手は下へ向かった。

 

「私とお風呂してるのにふにゃちんじゃないっすか!」

「疲れてるんだよ……」

「ちっ……、仕方ないっすね」

 

 後ろから抱きつきながらの回復魔法。

 色々なものを絞られて干からびた体に力が戻ってきた。

 ルプスレギナが扱いていたものも力を取り戻しつつある。

 

「待った。体力以外にも精神的にしんどい。しばらく休ませてくれ」

「おにーさんの精神力とか化け物級だと思ってるんすけど。回復魔法掛けたし体力万全っすよね?」

「二日続けてセックスしすぎてそんな気になれない」

「おにーさんサイテーっすよ!」

 

 一晩休んだらたっぷりとを約束をして風呂から上がった。

 

 浴室へ着替えを届けるように言わなかったので寝室へ戻ると、何故かシャルティアが待っていた。

 

「遅い!! 私が待ってるのにどこで何してた!」

「軽く湯浴みをしておりました。シャルティア様は何用でございましょうか?」

「………………勝手に帰すなと怒られんした。もう一度ナザリックに戻るでありんすから早く用意しなんし!」

 

 もう一度ナザリックへ行かなければならないようだった。

 

 新調したスーツはまだ手元に届かず、破れたスーツを着ていくわけにも行かないし現在洗濯中。

 断腸の思いでとりあえずの礼服をまとい、着替えている間に呼び寄せたミラと一緒にゲートの魔法を潜った。

 

 

 

 

 

 

 今度は夜が明けることなく、日が落ちて間もなく帰ってきました。

 

 帰ってきた若旦那様は、いつにもまして空虚な瞳をしていました。

 いつも色々考えているのに何も考えていないように見える顔からは情動の一切が抜け落ちています。

 熱を失い抑揚の消えた声で言いました。

 

「俺はもうセックスしない」

 

 ルプスレギナは爆笑しました。

 

 

 シャルティアを怒れるのはアインズ様かアルベドだけ。男を呼び出したのはアルベドである。

 昨日、アインズ様から賜った言葉について詰める部分があった。

 

 この男はアルベドの子飼いにしてお食餌と言う身分から、ナザリックでの正規の身分を与えられることとなった。

 アインズ様は副官でも補佐役でも好きにするといいと仰っておられた。しかし、どちらの役職も公的な色が強い。アルベドとしては私的な存在に留め置きたかった。

 諸々の都合を勘案し、アルベドの給仕係兼相談役となった。本決定は即日ナザリックにて周知されることになる。

 と言ったところで、役割は以前と同じ。実に名を与えたようなものである。

 

 アルベドはアインズ様からのご厚情によって、エ・ランテルへ移動していたものと同じ転移系のアイテムを下賜されていた。

 ただし、所詮は初心者用の融通が利かないアイテム。複数のアイテムを使っても転移先に登録できるのは一カ所だけ。エ・ランテルの登録を消し、帝都の屋敷に再登録することになる。

 帝都の屋敷にもアルベドのお食事部屋を設けることになった。これについて、アルベドから注文があった。

 部屋は続きの二つ。一室はエ・ランテルの部屋と同じ拵えのベッドルーム。

 もう一室は狭くて良いので生活に必要なもの一式を取りそろえること。部屋に出入りできるのはベッドルームからだけにすること。他の出入り口も窓も付けてはならない。ベッドルーム以上の防諜策を施すこと。部屋へは自分以外は絶対に出入りできないようにすること。誰であろうと立ち入り厳禁。破った者は地縁血縁職縁の全てを抹殺する。

 もしもメイドが入ろうものなら屋敷の使用人全員が消滅決定となる。

 

 アルベドが要望する部屋は屋敷三階の奥に設けることになった。

 元より、屋敷の本邸へは帝国で雇ったメイドはあまり出入りしない。エ・ランテルで研修を受けたメイドは本邸の一階と二階のみ。三階は利用者が少ないこともあって、ナザリックの者たちだけで何とかなっている。

 改修工事を終えたら要連絡。

 

 何を措いても処理しなければならないことを終わらせ、アインズ様の話になった。

 この男は、守護者たちがアインズ様へ真なる忠誠の儀を行ってから、一人アインズ様に呼び止められていた。

 どのような言葉が交わされたのか、アルベドは守護者統括として把握しておく義務がある。

 

 アインズ様のお悩み相談だったわけだが、アルベドはもとより誰にも伝えてはならない話である。

 

「アインズ様からのお話はモモン様としてのお話でした」

 

 アルベドが気になるのはアインズ様。漆黒の英雄モモンではない。

 モモン様の話と言うことにしてアインズ様との関わりを絶ち、あっさりとミッションクリア。

 

 アインズ様ご自身から、モモンとしてこの男を気晴らしに付き合わせたことがあると聞いたばかりのアルベドである。男の話を全く疑わなかった。さして興味深い話ではなかったが、自分から聞いた話であるため一応は耳を貸す。聞いたことはすぐに頭の片隅に追いやられた。

 そしていよいよ、アルベドとしても苦渋の決断を伝えなければならなかった。

 

「理由は言えないわ。あなたに何か非があったわけじゃないの。だから…………」

「私からは何も伺いません。アルベド様のお言葉に従います」

「ずっとと言うわけじゃないけれど……。いつまでになるかわからないけどしばらくの間」

「はい。どうかお聞かせください」

「………………あなたとセックスしないことにしたの」

「!?」

 

 サキュバスのセックス絶ち宣言!

 

 以前のような口淫は依然として続けるつもりらしいのだが、セックスは無し。

 理由は言えない。いつまでとも言えない。

 美神に仕える信徒として、どのような命令にも従わなければならなかった。

 

 その後、アルベドは時間が許す限りイチャイチャしてちゅっちゅして、一昨日の夜は6回しか出来なかったので残りの4回を飲精した。

 セックスまではしなかったわけだが、互いに服を脱いで愛し合った。

 妖しいピンクや鮮烈な深紅に輝いていた淫紋が、ほとんど白に近い桜色になっていると指摘された。

 同時に口淫するシックスナインでは、愛液の味に微妙な変化があると体調を心配された。

 

 その時がくるまで、アルベドはこの男の前で服を脱がないでおくことに決めた。

 許せるのはおっぱいまでである。

 

 なお、セックスをしていたら跳ね上がったおちんぽの履歴をアルベドが把握して、凄いことになったかも知れなかった。

 断セックスは男にとって幸いだったかも知れない。

 

 

 アルベドは仕事に戻った。

 

 男は新調したスーツを受け取り、ミラと合流して諸用を済ませてから、シャルティアの帰りを待って帝都へ送ってもらった。

 後日アウラから、ナザリックに来てたのにどうして自分のところに来なかったと責められた。

 

 

 

 

 

 

 一日の仕事を終えたアルベドは自室に戻った。

 部屋が片付いてるときはメイドたちにベッドメイクや掃除をさせることもあるが、基本的に立ち入り禁止としている。誰にも見せられないモモンガ様グッズが散乱しているからだ。

 自分専属の給仕係となった可愛いあの子は帝都に戻ったので、仕舞い込んだモモンガ様グッズを引っ張り出す。

 ちなみに給仕係と言っても食事の給仕ではない。何を給仕するかと言えば、今更言うまでもないあれである。

 

 モモンガ様抱き枕に抱きつけば、自然と火照ってくるアルベドだ。肉体の火照りを冷ますべく、一人遊びに励むのが日課だった。

 ところが、今日は違った。どうしてもそんな気になれない。

 日中、あの子とキスをして愛撫をし合ってたっぷり精液を飲んだのは関係ない。

 サキュバスの性欲に際限などないのだから。

 

「……言えるわけないわ。あなたにもう会えないと思って……、赤ちゃん作っちゃったなんて」

 

 愛が高まって宿したなら良かった。

 不慮の事故、或いは自分の油断によって出来てしまったなら、かなり情けなく且つ恥ずかしいことだが、絶対に言えないとまではいかない。

 しかし、いずれとも違う。

 勘違いである。

 アインズ様からのお言葉を計りかねて先走った結果、胎に新たな命を宿したのだ。

 アインズ様からのお言葉を正しく受け取れない愚かな女。心身を飲み込む大きな感情のうねりに振り回され、一時の激情に駆られて孕んだ愚かな女。

 

 この身はナザリックの守護者統括。

 愚かな女がナザリックの守護者統括でいても良いのだろうか。

 断じて否。そんな道理はどこにもない。

 自分は愚かであってはいけないのだ。

 ならば、隠さなければならない。

 

 一人で生み育てる決意は昨夜の内に完了していた。

 誰にも知られずに生み育てる場所も帝都に確保した。

 生まれる子供も自分と同じサキュバスになるだろうから、ある程度成長したら回数制限のあるスキルによって召喚したとする絵図も書いている。

 

 しばらくの間は今まで通りで問題ない。

 自分は人間とは違うサキュバスなので、月日を経る内にお腹が膨らんでくるかどうかはわからない。

 昨日の内に最古図書館で調べてはみたが、サキュバスの妊娠について言及している書籍は一冊もなかったのだ。

 

 お腹が膨らんできたときは、体形を隠すために視覚と触覚を誤魔化すドレスを用意する必要がある。

 不要になるかも知れないが、これらは早い内から用意した方がいいだろう。

 

「私の赤ちゃん……。あの子との赤ちゃん……♡」

 

 常の女なら悲壮な決意になったかも知れないが、ナザリックにて群を抜いた知謀を誇るアルベドである。

 守護者統括に相応しい権限も権力もある。如何なる難問であっても容易く解ける知恵も力も兼ね備えている。

 

 困難に直面した苦悩よりも、愛しい男との子を宿した喜びの方が大きかった。

 

「あんっ……、ダメよアルベド、お腹の子の教育に悪いわあ♡」

 

 モモンガ様抱き枕を抱いていても乾いていた秘部が潤ってくる。

 アルベドは、ドレスの隙間から手を差し込んだ。

 たどり着いた場所は、熱くぬめっていた。

 

 

 

 

 

 

『もうセックスしない』

 

 おにーさんの宣言を聞いたルプスレギナは爆笑した。

 

 「何笑ってんだこいつ」から「いつまで笑ってるんだ」になり「いい加減にしろ」になったところでようやく笑いやんだ。

 

「なにバカなこと言ってるんすか。そんなのおにーさんに出来るわけないっすよ」

「……出来るから言ってるんだ」

「いーや、絶対無理っすね。おにーさんが言ってるのは、お腹いっぱいになったからもうご飯食べないって言ってるのと同じっす。そんなのお腹減ったらまた食べたくなるに決まってるっすから」

 

 性欲は食欲と対比させられることがよくある。

 セックスの仕方は食事の仕方と似ていると言われることもある。

 ルプスレギナの例えは的確だった。

 

「セックスしないからって私たちに手とか口でさせるのもダメっすよ? シクススとミラにも言っとくっす。おにーさんが他の女に手を出さないように見張りもするっす」

「ふん、好きにすればいい。しないって言ったらしないんだ!」

「出来るわけないっすけどねー。おにーさんは自分が淫獣だって自覚が足りないみたいっすね」

 

 ルプスレギナに散々言われた男は、一人で食事をとって一人で風呂に入って生きてる抱き枕を抱えて不貞寝した。

 

 翌朝、早寝したので爽快な目覚めである。

 この日は不在時に見舞いに来ていた帝国騎士の訪問を受けたり、最古図書館で新たに借りてきた本を読んだりと、健全な一日を送った。

 

 その翌日も元気いっぱいに目を覚ました。

 魔法学園見学の予定を新たに組み、その予習として魔法学園の学生から話を聞くことを決める。幸いなことに屋敷に勤めるメイドの実妹が学園に通っているとかで、手配はこの日の内に完了した。

 

 さらに翌日。

 そろそろと思ったルプスレギナは、生きてる抱き枕に聞き取り調査を行った。

 特におかしな事はなかったらしい。何かをさせられたという事もなかったようだ。しかし、二人ともどこか熱っぽい様子なのが気になった。

 人の皮を被った淫獣が淫の気を漏らしているのかも知れなかった。

 

 この日の若旦那様は、エ・ランテルにいた時のようにメイドたちのお尻に手を伸ばそうとして、シクススから叩き落とされていた。

 どうぞ自分を、と身を差しだそうとしたミラはルプスレギナに叱られた。

 

 

 

 そして明くる日の朝。

 若旦那様はメイド長となったシクススに土下座していました。

 

「今回だけは許します、今回だけは。次はありません。次も同じ事をしたら、私は屋敷中に触れ回ります。メイドたちへも方々で吹聴するようにと伝えます。あっという間に帝国中が若旦那様の話題で持ちきりになることでしょう。若旦那様は夢精しちゃうって」

「アルベド様直属なのにそんな恥を晒していいんすか? いいわけないっすね。おにーさんだけじゃなくて魔導国の恥っすよ。おにーさんはアルベド様の顔に泥を塗って魔導国の汚点になるつもりっすか? あー、これは許せないっすねー」

 

 自己処理を知らない若旦那様は、またも夢精をしてしまったのである。

 知られないように処理を頼んだシクススからルプスレギナへ話が伝わり、これでもかと詰られていた。

 

「ほらほら、おにーさんは私に言うことがあるんじゃないっすかぁ? いーんすかねー? このままだとアルベド様に恥をかかせた挙げ句捨てられる羽目になるんすけどねー」

「…………」

「今までと同じようにお過ごしになりたいのでしたら、ルプスレギナ様だけでなく私にも然るべき言葉があるのではないでしょうか?」

「…………くっ」

 

 床に額を擦り付けることで屈辱にまみれた顔を隠し、臓腑を焦がされたような声で言った。

 

「………………セックスさせてください」

「うーーーーーん? 何か言ったっすか? よく聞こえなかったす」

「セックスさせてください!」

「ダメっすね。させて欲しいならもっと誠意を込めないと。おにーさんはソーちゃんから色んな本を読まされて色んなことを学んでるはずっすよ? こーいうときどー言えばいいか知らないっすか?」

「……ルプーを愛してるから愛を確かめ合いたいんだ。俺の愛をルプーに伝えたいんだ!」

「……ま、一応合格って事にしてあげるっす」

「若旦那様は私のことが好きですよね? 好きって言ってくれましたよね? その線でお願いします」

「好きだよシクスス。シクススに好きでいて欲しいから、俺の気持ちを受け取って欲しい」

「私はご主人様がお望みでしたら……」

「ダメっすよ! ミラもちゃんと言わせるっす」

「………………ご主人様は私を必要としてくださいますか?」

「勿論だ。俺にはミラが必要なんだ」

「出来もしないことを言うからこーいう事になるんすよ。反省したっすか?」

「……反省しました」

 

 いつぞやとは違って、今回は本当に反省していた。

 

 

 

 もしもアルベド様がいらっしゃっていたらこんな事にはならなかったろうが、お食事部屋の改修工事は始まってもいない。

 工事の人員はナザリックから工面しなければならないため、調整が難しいのだ。

 

 この日は全ての予定をキャンセルして、ルプスレギナと朝から晩まで。

 翌朝のルプスレギナは、お肌が艶々になっていた。




本話を書いたら次に何書こうとしたか忘れました
よくあることです

弟じゃなくて妹だった! 痛恨のミス!


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禁欲のサキュバス ▽アルベド♯14

除外設定のままでいたかったのに広告スキップ機能とな


 お食事部屋完成の報が届き、アルベドは帝都のお屋敷を訪れた。足はシャルティアのゲートの魔法である。帰りはアインズ様から下賜された転移アイテムを使用してナザリックに帰還する予定だ。そのことを知らないシャルティアは、「帰りは惨めったらしく歩いてきなんし♪」と思っている。

 

 広いお食事部屋は中央に天蓋付きの大きな寝台。大小のソファーにローテーブル。今度はバーカウンターも併設された。概ねアルベドの要請通りになっている。

 

「ご要望の部屋はあちらに。私は入りませんので、ご自身の目でお確かめください」

 

 お食事部屋の出入り口から一番遠い壁の一角に天幕が下ろされており、その裏には鍵付きの扉がある。アルベドが望んだ生活に必要なものを一通り揃えた部屋である。どちらの部屋も施工したのはナザリックのシモベたちである。

 ベッドはもちろん、バスにトイレにキッチンも。書類仕事が出来るデスクに空の棚が並ぶ。

 壁には数カ所にカーテンが取り付けられている。窓は作るなと言ったのにと眉根を潜めたアルベドがカーテンを開くと、そこには種々の絵が飾られていた。夜明けから、昼、夕、夜の草原を描いたものだ。窓がないのでは殺風景でしょうと給仕係が気を遣ったのである。

 ナザリックにあるアルベドの私室に比べれば貧相で狭い部屋だが、それでもナザリックの守護者統括であるアルベドが使う予定の部屋である。アインズが見たら超高級ワンルームマンションと評したかも知れない。

 

 アルベドしか入れないシークレットルームは、名前に反してシークレットになってない。帝都の屋敷に詰めるナザリックのシモベたちは全員が存在を知っていた。

 しかし、ナザリックのシモベがナザリックの守護者統括のプライバシーを侵すわけがない。もし万が一侵したら、それはもうナザリックのシモベではない。ナザリックのシモベでなければ当然のように然るべき処分が下される。

 

 シークレットルームは、いずれアルベドが子育てに使う部屋となる。ここで密かに出産して、密かに育てる予定である。

 住み暮らすのに十分な部屋でも、ずっと閉じこめておくのはさすがに可哀想。その時はその時でおそらく何とかなるのではと、アルベドは根拠のない自信があった。

 

 シークレットルームにして子育て部屋で転移アイテムの位置登録を行ってからお食事部屋に戻った。

 

「どちらの部屋も問題ないわ」

「はい。アルベド様のためにナザリックの方々が仕上げた部屋でございますから」

「そう」

 

 アルベドは努めて素っ気ない態度をとる。

 無言無表情で男をソファに座らせて、自分は乳房の下で腕組みをして男を見下ろした。

 あっちを向いてそっちを向いてこっちを向いて、おもむろに男の顔へ手をかざした。アインズ様の前で披露したこともある非接触方式のエナジードレインである。

 男の顔色が悪くなってきたあたりで止め、ポーションを飲ませた。

 

「かたじけのうございます」

 

 妙な言葉遣いに、アルベドは突っ込まなかった。

 考え事をしていて上の空だった。

 

 穏やかな喜びを顔に上らせる男を見ていると、イライラと言うかムラムラと言うかウキウキと言うか、我が事ながら不可解な感情に襲われる。

 今に限ったことではなく、胎に新たな命を宿して数日後から感情が意図せず振れるようになっていた。

 そこは聡明なアルベドであるので、自身の感情に囚われず守護者統括に相応しい態度を取ることが出来る。それでストレスを溜めることもない。自室に戻ればアルベドなりのやり方で発散することが出来る。

 しかし、今は忠実な給仕係と二人きりである。態度を繕う必要はないし、何があってもこの子なら自分への態度を変えることはないだろうとの信頼もある。

 何かしらを発散するために、どうでもいいことで叱りつけてもいい。しかし、その後で絶対にフォローしてしまうのが目に見えている。つまりはこの子を甘やかすのだ。そうするといちゃいちゃしてしまってセックスまでいくのは間違いない。

 ならばこちらが甘えるのはどうか。この子は絶対に際限なく甘やかしてくれて、そうするといちゃいちゃベタベタしてしまってセックスまでいくのは間違いない。

 

 断セックス期間である。

 お腹に赤ちゃんがいるのだから、安定期に入るまではしてはいけない、らしいのだ。

 

 お食事部屋の確認をした。子育て部屋の確認をした。転移アイテムを位置登録した。搾精はしてないけれど、精気は吸った。

 必要なことは全て終えたので、後は帰るだけ。

 しかしそれでは、呆気ないにもほどがあるのではないだろうか。

 来ようと思えば明日も来れるが、お食事は週に一度と改めて確認したばかりである。お食事ではなくおセックスならと言いたいがこちらをしないがために葛藤しているところ。

 加えて、アルベドはナザリックの守護者統括にして魔導国の宰相閣下であるため、頻繁に帝都を訪れるわけには行かない。身分が重すぎるのだ。と思ってるのはアルベドだけで、アインズは気軽に魔法で転移出来るし、守護者であるアウラやシャルティアはそれぞれの方法で訪問している。

 何であれそう思ってるアルベドなので、帝都で過ごす際は基本的にお食事部屋から出ないと決めた。出る時は着用者の装備を隠すロールプレイ用マント(フード付き)を使う必要がある。

 

 精気を吸ったので最低限度の満足は得られた。

 精液も吸いたいところだが、そうすると色々なことをしたりされたりしたくなってしまう。されてしまうと、気付かれるかも知れないのだ。

 断セックス以外にも、自分が妊娠していることを気付かれてはならない。この子は自分のこととなると異様に細かなところまで気付くので、そこを端緒にして気付かれる可能性がゼロとは言えない。

 

 だからといって精気を吸っただけで帰るのは余りにも寂しいではないか。

 この子も自分と触れ合いたいはずである。その程度を叶えてやらなくて何が主人か。

 

 

 

 

 

 

「肩が凝っちゃったわ。揉んでちょうだい」

「仰せつかまつりました」

 

 先に続いて時代がかった物言いである。アルベドは今度も突っ込まなかった。

 

 アルベドが背もたれのないふわふわの椅子に座り、男は背後に立つ。アルベドの黒髪は豊かなので肩が隠れている。許可を得てから首の後ろでリボンで結わえた。

 白い衣服に覆われたアルベドの細い肩に、そっと手を置いた。

 

 今日のアルベドは、いつもと違って露出皆無の装いである。

 白いセーターは首もとまで隠すハイネックの長袖で、ボトムは足首まで届く黒いロングスカート。

 スカートはふわりと膨らみ、セーターは縦縞で体のラインを強調する。

 貞淑そうに見えて性的であり、対童貞に特化した攻撃力を発揮する。生憎この男は童貞ではなかったため、気負いなくアルベドの肩もみを始めた。

 

「凝ってはいないようですね」

「っ!」

 

 アルベドは一度も突っ込まなかったのに、この男は即突っ込んでいた。突っ込むのが仕事であるかのように。

 

 アルベドが肩もみを求めたのは、エッチにならない程度のスキンシップを求めたからだ。それを全くわかっていなかった。忖度が足りていないのだ。

 言われてしまったアルベドは、叱るなり窘めるなりすれば良かったのに、焦ってしまった。スキンシップをとりたかったから肩もみを命じたと答えるのは恥ずかしい。触れ合いたいなら、ストレートに抱きしめなさいとでも言えば良かったのだから。

 冷徹な守護者統括からただの女になってる今のアルベドは、体調の変調に伴う情緒の不安定により、少々頭が回らないのかも知れない。言わなくていいことを言ってしまった。

 

「私はおっぱいが大きいから肩が凝るのよ!」

 

 嘘である。誕生したときから美乳にして巨乳のアルベドは、肩こりに悩んだことは一度もない。大きいと凝るらしいと聞いた程度に過ぎなかった。

 

 と、言うことを男は察した。

 アルベドに仕えてから短くない月日が流れてなお、乳房の重みに依る肩こりに悩んでいるとは一度も聞いたことがない。ならば、他のことを求めているに決まっている。言葉にない部分が重要だ。美神の信徒として、主の望みを察しなければならない。

 

(なんたる不覚! アルベド様は腕組みをしておっぱいを持ち上げられたではないか。それに、肩こりと仰せになったが肩を揉めとは一言も仰っておられない。つまり、胸を揉めと言うことでござるな!)

 

 内心でも時代がかった台詞は続いていた。先日、最古図書館で借りてきた小説に影響されているのは余談である。

 

 

 

 

 

 

「あんっ!」

 

 肩を揉んでいた手がするりと下りて、アルベドの乳房を鷲掴みにした。

 白いセーターを丸く押し上げていた乳肉が、水の入った鞠のようにたぷんと揺れる。

 柔らかな乳房は硬い指に抗えず、されるがままに形を変え始めた。

 

「アルベド様のお心を察せられず、申し訳ございません」

 

 ペストーニャから、言葉の表層に囚われず真意を察せよ、と言われたのを覚えている。

 アルベド様がわざわざおっぱいに言及したのだ。揉めと言うことである。

 

「乱暴にしちゃいやぁ……。おっぱい揉んじゃダメなのぉ」

「かしこまりました」

 

 指を目一杯広げて乳房をつかんでいたのを、下から持ち上げるようにする。バストのアンダーから脇側へ、絞りながらすくい上げるような撫で方。

 ちっぱいの性感を鍛える愛撫であって、アルベド様に楽しんでいただいたことは一度もなかった触り方である。

 している方からするとマッサージの色が濃い。されてる方からすると、性的な愛撫に他ならない。

 

 アルベドは、ダメと言いながらも声が弱々しい。男の手に重ねた手も、重ねているだけで引き剥がそうとはしない。

 甘い声をあげながら、乳房を揉まれ続けている。

 続ける内に、男はアルベドがどうして揉ませずに下乳を撫でさせているかに気付いた。

 

(これは……。アルベド様はこれをお見せしたかったのか!)

 

 一目したときから、何となくそうではないかと思っていた。

 それが疑いようのない形で現れたのだ。

 

 アルベドが着る白いセーターは、豊かな乳房の形をくっきりと強調していた。膨らみの頂点に小さな突起があるように見えた。乳房を包むブラジャーを着けていれば見えないはずである。

 しかし今、乳房の先端に明らかな突起が現れている。

 愛撫によって乳首が勃起しても、ブラジャーを着けていれば現れないはずである。それが、あった。

 すなわち、アルベド様はノーブラなのだ!

 

 揉んでみたらやっぱりふわふわのおっぱいで、もしかしたら着けてないかもと思うもナザリックの縫製技術は世界一なので確信できなかったがその通りであった。

 

「ああんっ! 乳首いじめちゃだめぇ。クリクリとかクニクニしちゃダメなんだからぁ。あんっ、乳首きもちいぃ♡ やぁん♡」

 

 勃起した乳首を目の当たりにして、躊躇なく摘まんだ。

 いつもは直に触っているアルベドの乳首。それをセーター越しに摘まむのは、隠されているものを暴くような快感がある。

 

「失礼します」

 

 アルベドは答えず、椅子に乗せた尻を少し前にずらした。邪魔にならないよう、腰から生える黒翼も小さく畳む。

 後ろからアルベドを包むようにして、男も椅子に座ったのだ。

 

「あぁ……はぁ……、あなたにもみもみされて、おっぱいきもちいのよ。あなたも私のおっぱい、好き?」

「もちろんです」

「あん♡ 私のおっぱい、いっぱい触りたい? いっぱい触って欲しいの♡」

「おお!?」

 

 もっと激しく揉むようにと男の手に重ねていたアルベドの手が離れた。

 白く美しい人差し指を立て、指先を喉元に当てる。そこから真っ直ぐ下へ引く。

 

 アルベドの肩越しに、何が起こったかを目にした男は驚嘆した。

 白いセーターが、喉元から臍まで裂けたのだ。

 破けたのとは違う。破いたのなら断面がほつれているはずである。そうではなくて、最初からセーターの前が開く作りになっていた。

 セーターの縦縞に隠れて、微細なジッパーが存在していたのである。ナザリックの縫製技術は世界一であった。

 サキュバスが着るセーターが、ただのセーターであるわけがなかった。

 

 セーターの裂け目は、アルベドの乳圧に負けて徐々に広がっていく。大きな乳房がこぼれそうになり、勃起しきった乳首に引っかかって止まった。正面から見れば、ピンクの乳輪が見えることだろう。

 

「いっぱい触っていいわよ♡ んふっ、私のおっぱいはあなたのおっぱいだからぁ……、好きなことしていいのよ♡ あんっ」

 

 お許しが出て且つお望みなのだから、直に握りしめた。

 指が埋まるほどの乳肉はいつだってすべすべふわふわで、触っているだけで幸せになれる。

 服の上から揉むのも良かったが、生おっぱいはしっとりとした肌触りで指に吸い付き、体温をより近くで感じられる。

 

「アルベド様のおっぱいは世界の至宝です。透き通るように紅い乳首は二つとない至高の色合いですよ」

「やぁん! 耳噛まないでぇ、耳元でしゃべらないでぇ。こしょこしょしてくすぐったくて……、気持ちいいの♡」

 

 長い髪を結わえているアルベドは、形の良い耳を露わにさせている。

 後ろから耳朶を甘く噛み、吐息を掛けながら囁いて。

 

「こちらは如何しますか?」

「え? ……あっ、……えっ? ああっ! くちゅくちゅしちゃだめぇ!」

 

 アルベドは、股を開いて座っていた。

 むっちりとした白い太股を男の手が撫で、脚の付け根目掛けて滑ってくる。

 目指す先は光沢ある白い布切れ。

 秘部を守るアルベドのパンツだった。

 

(え? うそ? 脚を触られてる? スカートは? 脱がされた? 後ろからそんな事できるの? 私座ってるのに。それともまさか……、私が自分で脱いだの!?)

 

 黒いロングスカートは、いつの間にか床の上に転がっていた。

 サキュバススキルの脱衣は、脱いでる本人にも気付かせずに脱ぐことが出来るのだ。無意識に脱いだとも言う。

 

「だめっ! おまんこしちゃだめぇ……、やぁ……、あぁ……、おまんこ気持ちいからだめなのにぃ♡ ああんっ!」

 

 アルベドが答えられない間に、男の手は上りきっていた。

 アルベドのアルベドの上に、男の指が乗っている。上下に動けば僅かに沈んで白いパンツに染みを作り、小さな円を描けばアルベドは甘えた声で鳴き始める。

 

「ひうっ、あうぅっ! 入れちゃだめこすっちゃだめ、両方しちゃらめぇ! あああぁん♡」

 

 パンツの隙間から忍び入り、直にアルベドを撫で始めた。右手の中指はアルベドの下の口が頬張って、左手はクリトリスを擦り始める。

 入ってきた獲物を逃がさず捕らえ、きゅうと締めながらよだれを垂らす。肉芽は勃起して、剥かずとも勝手に包皮から顔を出す。

 愛撫されていた乳首はこれでもかと尖りきっている。愛を求めて欲しがって、切ないほどに飢えている。飢えはアルベド自身で満たしてやった。豊満な乳房を自分の手で揉みながら、乳首をこねくり回す。

 雌穴を行き来する二本の指が水音を立てるも、アルベドの鳴き声がかき消した。

 

 アルベドの白いパンツは、床の上に落ちていた。ぐっしょりと湿って淫臭を立ち上らせて。

 

 男の手でよがりながら、アルベドは尻に当たっているのを感じていた。

 

(こんなことしちゃダメなのに気持ちいのに、でもおちんぽ立たせちゃってるわ。私がしてあげなくちゃ。おちんぽみるく飲みたいし、お口でしてあげるなら大丈夫。この前は私もペロペロされちゃったからおつゆの味がって言われちゃったのよ。今は手でされてるだけだから、おまんこにキスされる前におちんぽにキスするだけだから。ああ、おちんぽよりも唇同士のキスをしないと。そっちが順番よね、ちゃんとキスしてからキスしてあげて、それから……あっ!)

 

 肩を引かれて振り向かされ、唇を奪われた。紅い唇が柔らかく形を変える。

 椅子の上から男の脚に座り直し、改めて唇を交わす。

 

「あむっ……んっ、ちゅっ……ちゅっ、……んんっ、んっ……。キスしたいって思ったらしてくれたわね。私の心がわかるの?」

「いつでもアルベド様のことを想っております」

「うふふ♡ いい子ね。私もあなたのことばかり考えてるわ。ちゅっちゅっ……じゅる、ちゅぷぅう……」

 

 互いに少しだけ首を傾げて深く口付けし、舌が行き来する。

 口内を嘗め回して舌を絡めて、争うように吸いあって。混じり合った二人の唾液を二人の舌でかき混ぜて、少しずつ飲んでいくのが二人のキスのやり方となっている。

 唇が離れたとき、男はアルベドの頭を胸に抱いた。

 

「ベッドへ参りますか?」

「!」

 

 ベッドへ行くと言うことは、セックスをすると言うことである。

 ここまで色々してしまって、逸物は暴発しそうなほどいきり立っていた。叶うならばアルベド様へ挿入したいと思っている。

 しかし、セックス禁止宣言がある。

 もしも行かないというならば仕方ない。諦めるしかない。その時は口でしてもらうか、それもダメならルプスレギナか、暇をしてたらシクススか、ミラのお口のトレーニングと言う手もある。

 

 果たしてアルベドは、顔を伏せて小さく頷いた。

 頭から生える角が胸に刺さってちょっぴり痛かったのは態度に出さない。

 

 

 

 アルベドを抱き上げ、ベッドにかかるレースのカーテンを開いて中に入った。

 エ・ランテルのお食事部屋にある寝台と同じで、向こうが透けて見えるレースのカーテンなのに、シルエットすらわからない覗き見防止の魔法が掛かっている。

 

 ベッドの中央に下ろしたアルベドは、愛欲に惚けて潤んだ目で見上げていたが、何かに気づいたように目を見開くと半回転してうつ伏せになった。手に触れた枕を抱き締め、長い足を投げ出す。

 美しい背中はセーターに隠れている。背面にはスリットが入り、腰から生える黒翼を出せるようになっていた。そのためセーターがめくれることなく、長い裾は尻まで覆っている。

 

(前からはダメよ。絶対にセーターをめくられるからお腹のサキュバスエンブレムを見られちゃうわ。今日着替えたときもまだ白かったし、赤ちゃんが出来ると色が変わるのかしら? それに前からだと絶対におまんこに入れられちゃうわ。おまんこはダメなの本当にダメなの! あっ、服脱いでるぅ……。ああ、やっぱりあんなに大きくして。おいしそう……。一度出させてあげたらお口でしてあげないとダメよね?)

 

 アルベドは、ちらちらと後ろを覗き見しながら胸をときめかせていた。

 男が服を脱ぎ終わったのを確認して、枕に顔を埋める。

 

 アルベドのお食事台である大きなベッドは、キシキシと軋んだりしない。

 音がなくてもベッドが沈んで、傍に近付いていることを教えてくる。

 アルベドが思った通りにセーターをめくられた。尻が丸出しにされている。両手で尻を撫でられ尻肉をつかまれ、左右に開かれた。尻に割れ目に隠れている諸々が暴かれている。

 

「おまんこはダメよ。わかってる? 本当にダメなのよ? セックスしないって言ったのは嘘じゃないのよ?」

「承知しております」

「そう……それならいいけど。……あっ、熱い! あなたのおちんぽすっごく熱いわ!」

 

 尻の割れ目に挟んでいるのを感じた。

 熱気に蒸れていた尻の割れ目が一層熱くなってくる。

 尻に挟んだまま前後に動いている。挿入せずに尻肉で扱くのか。

 尻コキはアルベドもしたことがない。尻で挟むくらいなら挿入を選ぶ。後ろの穴を使われたのは、とても良かったのだから。

 

 どうやら尻コキにはならないようだった。

 尻の割れ目に感じるのが、熱い肉棒から太くて丸みを帯びたものに変わった。

 亀頭が割れ目を撫でている。

 一番上から一番下まで。腰のあたりからゆっくりと下がり、尻の割れ目へ。肛門に差し掛かっても止まらず更に下へ。愛欲に爛れた下の口を通り越して肉芽を擦る。

 亀頭は来た道を戻り、つぷりと沈んだ。

 

「あっ! おまんこだめって言ったのにぃ!」

 

 何の抵抗もなく、アルベドのアルベドは男の亀頭を飲み込んだ。

 

「わかっております。アルベド様はアナルセックスをお望みなのですね。ですが生憎のことにローションの用意がありません。アルベド様の愛液で代用させていただけないでしょうか?」

「そっ、そういうことなら……、いいわ、あっ」

 

 アルベドは、たっぷりと湛えた愛液を迎えた逸物にまとわりつかせる。淫らな肉ひだはアルベドの意志に沿ってか反してか、歓迎を表して蠢き始める。

 奥まで入ってこない。言葉通りに愛液を塗りつけるのが目的なのか、浅いところをゆっくりと行き来する。

 

「あっ、だめっ、そんな奥まで来ないでぇ……。だめだめっ、抜いちゃダメよまだ足りないわ!」

 

 進めば拒み、引いても拒み、繰り返す内に深いところまで侵入するのは、男の策略であった。

 

 

 

 過日、全く同じ事があったのを覚えている。

 エ・ランテルの書斎にて、アルベド様は今日と同じように「おまんこに入れちゃダメ」と仰せになった。

 代わりに行ったアナルセックスはとてもお楽しみいただいたはずだが、直後に突き飛ばされて全身粉砕骨折となり生死の境を彷徨った。死にかけるくらいはどうという事はないのだが、「顔も見たくない」と言われてしまった。その罪はすでに濯がれているとは言え、同じ事を繰り返す愚は犯せない。

 その時のことを細かく思い出すと、おまんこに入れないと答えたら落胆された気配があった。

 つまり、アナルではなくおまんこが正解なのだ。

 

 いつになく興奮している。

 アルベドとのセックスは何回も経験がある。他の女性とは日常茶飯事を越えて日常業務の域にある。

 しかし、しばらくセックスしないと言われていた。今日も何度も、「おまんこはダメ」と仰っている。

 しかし、言葉の表層に囚われてはならないと学んだばかり。アルベド様の本当のお望みを察しなければならないのだ。

 アルベド様は、セックスをしたがっている。間違いない。

 得られないと思っていたものが得られるかも知れない期待が興奮をかき立てる。

 挿入に至った今、アルベド様ははっきりと「抜いちゃダメ!」と仰せになった。

 

 アルベドはしないつもりだった。我慢して耐えるつもりだった。なのに、挿入されている。

 禁忌を破る背徳感が、アルベドを興奮させていた。

 いつもより感じている。いつもよりおつゆが多い。逸物が抜けようとするときは無意識で締め付けている。

 

(奥まで入ってないからぁ、まだセックスじゃないからぁ、おちんぽ気持ちいけどまだセーフよね? 奥まで入っても中で出さなければいいのよね、きっと。ゆっくりするのがこんなにいいなんて知らなかったわ。浅いところであんなに感じるなんて思わなかった。動きがゆっくりだから、おちんぽでおまんこの中調べられてるみたい♪ 私の中が全部知られちゃうわ♡)

 

 抜けるギリギリまで引き抜いて、ゆっくりと入っていく。その度に新たに湧いてきた愛液が逸物に絡んで押し出され、アルベドの股を濡らした。

 出し入れする度に、髪の太さ数本分ほど深くなっていくのに、アルベドは気付いていなかった。最早気にしていなかった。

 初めてのスローセックスにはまって、弛緩しきった体は愛欲の海に漂っている。

 

「あんっ……、いいわぁ。いまちょっとイっちゃったの。おまんこがピクピクしちゃって、あなたのおちんぽをきゅうきゅうしちゃってる。こんなセックスがあったなんて。おまんこでしちゃだめなのにぃ。でもいいの。だって気持ちいいんですもの」

 

 アルベドは墜ちた。最初から墜ちていたのかも知れない。

 禁セックスを自分から破ってしまったのだ。

 しかし、いったい誰がアルベドを責められようか。

 かつてアルベドは、サキュバスのセックス禁止を残酷なことと言った。それは海の魚に泳ぐなと言うのと同じ。泳がないなら陸を歩くのか空を飛ぶのか。そんなの無理に決まってる。魚は泳ぐ生き物なのだ。サキュバスはセックスするものなのだ。

 

「アルベド様に包まれている以上の幸福はあり得ません」

「わたしもよ。あなたのおちんぽ入れられて、とっても幸せなの。来て。奥まで来て。アルベドのおまんこをぐちょぐちょに犯して♡ ああっ!?!?」

 

 アルベドが許したと同時に、男の下腹がアルベドの尻を打った。パンと肉が肉を打つ音が響き、アルベドの中で男が最後の距離を詰める。

 浅い部分を行き来していた逸物が最奥まで届いた。肉ひだに絡まれながら、たっぷりと湧き出ている愛液を押しのけて、アルベドのアルベドの奥の奥。下の口の更に奥にあるアルベドの最後の口。子宮口に接吻した。

 その瞬間に、サキュバススキルがおちんぽの履歴を把握する。

 知らない女を数え切れないほど喰らっている。

 自分が知らない内にどこの誰と。

 鎌首をもたげた嫉妬は、子宮から響きわたる快感に喰い殺された。

 

「あっ……ああああ、わたしの、赤ちゃんのへや、コンコンされてるぅ! あっあっあっああっ、はうぅううん♡ あんっ、おまんこイっちゃうのぉ♡」

「アルベド様、お慕いしております。あなたを愛しています」

「わたしもよ♡ あなたが好き、大好き。愛してるわ、あむっ、ちゅっちゅっ、ああん♡ わたしにキスしていいのわあなただけよ……、ちゅっ。わたしのおまんこにおちんぽ入れていいのもあなただけよ、あんっ♡ もっとキスして……」

 

 パンパンと乾いた音がリズムよく響く中で、アルベドは頭を上げてキスをせがんだ。

 寝バックで男に組み伏せられていようと、見た目以上に力強い黒翼を使って体位を変える。

 横向きに寝転がって後ろから挿入される側位は、後背位よりキスがしやすい。胸も揉んでもらえる。アルベドは自由になった手でクリトリスを擦り始めた。

 浅かった快感が深くなりだして、ただでさえ熟れている雌穴が歓喜とともに男を包む。

 前からもめくられていたセーターは、アルベドがスキルでもって脱ぎ捨てた。

 

「前からして、わたしを抱きしめながらいっぱい犯して……。キスしながらよ? あはっ、ひゃあぁん!」

 

 淫紋の色が一瞬だけアルベドの脳裏をよぎった。

 下腹は男の下腹と重なって、見ようにも見えなくなっている。すぐに忘れて没頭した。

 

「すごくきもちいいわ。わたしもすごく幸せよ。ずっとこうしていたいの。うふっ、アルベドのおまんこ気持ちいいでしょう? あなたのおちんぽが全部入っちゃってるわぁ♡ わたしのおまんこはあなた専用なんだからぁ……、あなたのおちんぽもわたしのものよ?」

「もちろんです」

「んふふっ、……あっあんっあんっ、ちゅぅっじゅる……んくっ……。あなたの唾、もっと飲ませて、んっ……」

 

 淫蕩な笑みを満面に浮かべ、たっぷりと唾液を交換する。

 自分のおちんぽと言ったところで、自分以外の女を抱くなと言わないところがサキュバスらしかった。

 

 下腹を擦り合わせ、豊かな乳房は男の胸板でつぶされて、すがるように男の首をかき抱いて、サキュバスの本当の口がしゃぶっている逸物がそろそろと訴えているのをアルベドは察していた。

 妊娠しているから、子宮には赤ちゃんがいるから、安定期に入るまではセックスしない方がいいらしいと聞いているけれどそれはあくまでも人間の女であってサキュバスである自分には当てはまらない可能性が非常に高いと推測できるため、アルベドは再度の禁忌を破った。

 

「出してぇ。あなたのおちんぽから、わたしの中に、……あんっ、ああぁんっ! おまんこに出してぇ♡ あっ、ああぁあああぁん!」

 

 アルベドがサキュバススキルを使わなくても、二人の心と体は重なった。

 

「おまんこの奥でぴゅっぴゅしてるの感じるわ♡ あついのいっぱい来てるのぉ♡」

 

 長い逸物を根本までアルベドの雌穴に挿入し、最奥で果てた。亀頭を子宮口に押し当てながら、どくどくと精液を吐き出している。

 アルベドの脚は男の腰に回って足首同士を絡め、膣内射精を強いる大好きホールド。

 膣肉が咥える逸物がピクピクと痙攣するのを感じながら、アルベドもまた深い絶頂で腰まで震えさせていた。

 男を抱きしめ、労うように銀髪を撫でてやる。

 

「いっぱい出たわね。わたしのためにいっぱい出してくれてありがとう♡ すごくよかったわ。ちゅっ♡ ……今度はぁ」

「!!」

 

 サキュバススキルによる瞬間体位変換!

 

 下にいたアルベドが、次の瞬間には上にいた。

 ベッドの上で大の字となった男の脚の間に陣取っている。

 己の愛液に玉袋まで濡らしている逸物は、射精直後なのでうなだれつつあった。

 そこへ、ふうと熱い息を掛ければ沈静化が停止する。

 

「うふふ、今度はお口でしてあげるわ。あなたのおちんぽみるく、いっぱい飲ませて♡ いっぱいしゃぶっていっぱい舐めてあげるんだから」

 

 笑顔で舌なめずりしながら、繊手でもって逸物を扱き始める。

 一度や二度の射精は関係ないとでも言うように、逸物は再び硬度を取り戻した。

 上目遣いに男の目を見ながら、アルベドは口に含んだ。

 舌を使って、頭を上下に振って。

 右手は小指と親指で逸物の根本を握っているが、左手は自身の股間に伸びていた。くちくちと淫らな水音を立て、揃えた中指と薬指が膣壁を掻いている。爪が長かろうと、サキュバススキルによって内側を傷つけることはけしてない。

 

 

 

 情交に浸りきっているアルベドは気付かない。

 男はそういうものだと思っているし、アルベドが秘部と下腹を見せないようにしていたので気付きようがない。

 

 子を宿しているアルベドは、子宮から精液を吸収することが出来なくなっている。

 なのだから、膣内を満たす精液は他の女と同じように外へ溢れ出るはずだった。

 それなのに、一滴もこぼれない。

 アルベドの意志に依らず肉ひだが蠕動して、奥へ子宮へと導いている。

 子宮を満たした精液は、一滴残らず消えてしまった。

 

 淫紋を見せないことだけに気を配っていたアルベドは、最後まで気付かなかった。




歴史的サキュバス(?)は妊娠しません(当たり前か
歴史的サキュバスは男から精液を仕入れるとインキュバスになって女へ精液を仕込む、と言う設定をかなり昔に見た覚えがあり、改めてウィキペディアを見てくるとその通りの記述があってしまいました
現代サキュバスは違うに決まってますが、もしかしてと思う心が皆無とは言えず、このサキュバスどんな設定なのかと疑心暗鬼になったりならなかったり


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パス回し

時系列がふわっしてるのは多分どこかで時空が歪んでるからです


「ほう」

 

 ラウンドムーンキリングテックtype-クレシェントNo17。

 type-クレシェントは追襲の技。永劫に凍える女王ラウンドムーンの頬を撫でるが如き剣閃が落涙す。

 初太刀にて致命。二の太刀にて絶命。

 数多の命をラウンドムーンへ捧げてきた魔剣が止まった。

 

「知っておるのか、この剣を」

「阿呆が」

 

 敵手は唾を吐き捨てた。

 ティーゲルハッチを弾いたカタナブレイドを、振り下ろした形のまま刃を返す。腰を落とし、握りを変えるその構えは、ラウンドムーンキリングテックtype-カープそのものであった。

 type-カープは切り上げの技。ラウンドムーンを仰ぎ見るが如き終の形は、女王ラウンドムーンへの忠誠に他ならぬ。

 

「どこで知った」

「だから阿呆と云うのよ、戯けが」

 

 月下の草原をムーンライトが清め始めた。

 絶死の剣を浴びた666の骸が、血と肉と魂をラウンドムーンに喰われている。

 奉命の儀を汚してはならぬ。二人のサムライは微動だにしない。

 最後の肉片が蒸発した瞬間、剣閃が煌めいた。

 

 ラウンドムーンに奉ずるが如き切り上げは何者にも防げない。

 呼吸をずらし間合いを外し、額の皮一枚を手向けに空いた胴を貫く、はずであった。

 

「なに!!」

 

 天に吠えた剣が落雷めいて切り替わる。

 ティガーの口に飛び込んだも同然の窮地を、type-カープNo71にて迎撃。剣刃に寸分違わずカタナブレイドの柄尻を合わせて防ぐ。

 裏の技を使われたティーゲルハッチが不満に呻いた。

 

「生きたか。阿呆は阿呆なりに工夫するものよ」

「ラウンドムーンキリングテックtype-カープNo1からtype-フォビトゥンへのアレンジ。捨て置けぬ。貴様、どこで知った!」

「阿呆。逆よ逆。吾からすれば己の剣こそ逆しま剣。吾の剣の猿真似に過ぎん」

 

 致死の剣を放った恐るべき敵手のカタナブレイドが天を突く。

 ムーンライトに照らされて、闇夜に深遠を呼び覚ました。

 

「吾の剣こそムーンテックの祖なる技。ダークムーンキリングテックをその身に刻め!」

 

 

 

 

 

 

(ムウ、ココニ来テ新キャラトハ)

 

 コキュートスは紙面から目を上げ、残りページを確認した。

 目算で10ページはない。

 2・3ページは参考文献や作中の死亡者名簿などに費やされるので、実質的には5ページあるかどうかだろう。

 間違いなく、この巻の中で新キャラとの決着はつかずに終わる。

 

 コキュートスが読んでいるダークカタナテックジェノサイドノワール小説「グレート・モンド・ダウンヒル」の構成は、まず主人公のデスク・ドラゴニオが強盗か強姦か強殺をして無辜の民を殺める。追っ手が掛かる。返り討ちにする。続いての追っ手には中ボスが含まれており、これを皆殺しにする。最後に大ボス。これは強敵の時があれば、今回のように大軍の時もある。

 そしてエピローグ的なものがあって終わる。

 この構成を1~3巻のペースで繰り返し、コキュートスが読んでる21巻で一つの区切りとなった。はずなのだが終盤に新キャラ。しかもあからさまな強キャラムーヴ。

 

(ヤハリ決着ツカズ、カ)

 

 21巻を最後まで読んでも新キャラの名前が明らかになっただけだった。

 続きが気になる。凄い気になる。

 

 以前のコキュートスには読書習慣がなかった。

 アインズ様がお決めになられた週に一度の休日や空いた時間に少しずつ読み進め、頻繁にページを戻って技名などを確認し、どこまで読んだか忘れてしまって同じページを読み返す。

 そんな読み方だったから、ソフトカバーの小説でも一冊読み終えるのに一ヶ月は掛かっていた。

 しかし、二〇冊も読めば慣れる。

 作中に登場した技の名前が頭に入ってきたため、一々確認する必要がなくなった。(なお、作中の登場人物は主人公を除いて全員死ぬため、人物名を覚える必要がない。地名も10巻に一度の割合でハイエンドオブラウンドムーンキリングテックの『斬国剣』を繰り出すことによって壊滅するため、こちらも覚える必要がない)

 きちんと栞を挟むようになったので、どこまで読んだかわからなくなることもない。

 結果、読むペースが上がっていた。

 一冊読むのに一ヶ月掛かっていたのが、今や一週間も掛からなくなっていた。その気になれば休日を利用して、たった一日で読み終えることが出来るかもしれない。だからといって続けて読んでいいものかどうか。なるたけ時間を掛けて読んでいるところ。

 全166巻の超長編であっても、読み進めていけばいずれ終わってしまう。それが、惜しいのだ。

 じっくり長く楽しみたい。しかし早く続きを読みたい。

 コキュートスは葛藤した。

 

 葛藤して、最古図書館へ赴いた。

 

 楽しみを貪りたいだけだろうと思うのは、コキュートスのことをよく知らない証拠である。

 『グレート・モンド・ダウンヒル』に書かれている剣術は中々どうして理に適っている。読むことによって新たな剣術を編み出せる可能性があるのだ。それはナザリックの、ひいてはアインズ様のお力になれる可能性を秘めている。

 つまり、コキュートスは、アインズ様のために小説を読むのであった!

 

 言うまでもなく、これを詭弁と言う。

 

「ナンダコレハ!!」

「図書館ではお静かに願います」

「済マヌ……」

 

 書架を前に叫んだコキュートスを、通りすがりの司書が注意する。

 

 『グレート・モンド・ダウンヒル』は超長編小説だ。書架の一角にずらりと並んでいる。コキュートスが借りている巻だけ隙間がある、はずだった。前に借りたときはそうだった。

 しかし、今。書架には大きな空間があいていた。具体的には、11巻から41巻までがなくなっていたのだ。

 

「ドウイウコトダ? ドコへ行ッテイル?」

 

 謎を解くため、すぐさま貸し出しカウンターへ。

 司書長のティトゥスに問いただした。

 

「現在貸し出し中です」

「三〇冊ハ多過ギデハナイカ?」

「コキュートス様もご存じの者と思われますが、借りているのは……」

 

 アルベドの相談役となった人間の男であった。

 あの男は頻繁にナザリックを訪れることが出来ないので、ティトゥスの厚意により貸し出し限度数が通常の倍になっている。貸出期間も通常は二週間、一度の延長が可能、となっているところをこちらも倍。加えて貸出期間は貸し出し限度数よりも緩く、貸し出し予約が入っていない限り多少延びたところでペナルティはない。あまりにルーズだと注意が行くが、その程度である。コキュートスが貸し出し限度期間の四週間を越えて丸々一ヶ月も借りていられる理由がこれだ。

 貸し出し予約をしていなかったコキュートスの失策であった。

 

「バカナ! 21巻ハココニアルノダゾ!?」

「飛ばして借りて行かれました」

「飛バシ読ミ……ダト!?」

 

 ティトゥスはわざわざ説明しなかったが、少しばかり誤解があった。

 

 まず、あの男の貸し出し限度数は20。30ではない。

 貸し出し受付をしたのはあの男を我が君とするヴァンパイアブライドのミラである。その間、借り主本人はアルベドの元にいた。

 ミラは指定された小説を自身の貸し出し限度数である10を含めて11巻から41巻までを借りていった。21巻が抜けていたのは気付いていない。シャルティアのシモベらしい雑さと言おうか、新たな主人が大らか過ぎると言うべきか。

 コキュートスは続き物の小説を飛ばし読みすることに憤っているが、あの男が望んだことではなかった。

 

 しかし読んでる当人は、21巻が抜けてることを「あ、抜けてる」の一言で済ませ、何の躊躇も戸惑いもなく22巻へ手を伸ばした。飛ばし読みを気にするほど繊細な性格ではないのだ。

 それどころか、ミステリー小説を最後から読み、犯人とトリックを把握してから読み始める外道である。

 そんな男なので、ネタバレをすることもされることも何が問題なのか全くわかっていない。

 

 ある時のこと、ソリュシャンから課題図書として指定されていたロマンス小説をシクススが読んでいるのを見かけ、善意100㌫の親切心で結末を教えてあげたところ、怒りのお盆チョップをくらった。

 怒りが治まらなかったシクススはルプスレギナに告げ口し、ルプスレギナは「人間としてありえないっすよ」とまで言った。

 お前ら人間じゃなくて人狼とホムンクルスじゃねーかと思った男は、帝都の屋敷に詰めるメイドたちへ緊急のアンケートを実施。

 帝国には、ナザリックの最古図書館ほどの質と量には到底及ばないまでも、戯曲や演劇などの娯楽がある。帝国のメイドたちは基本的に貴族の娘であるため、そういったものに触れる機会があった。

 

 新作の戯曲の結末を読む前に教えてもらったら嬉しいかどうか。

 九割が教えて欲しくないと回答した。残り一割は、諸所の関係で見聞きする機会がないと思われるが流行の話題について行くために知りたい、である。出来れば自分の目で見たいとか。

 

 人狼とホムンクルスに人間であることを否定され、人間のメイドたちにもそれはないと言われ、心が傷ついた若旦那様はアルベド様に泣きつきました。

 

『もしも私にそんなことをしたら二度と口でしてあげないわよ』

 

 アルベド様もネタバレ否定派であった。

 この件で、味方はどこにもいなかった。

 

 

 

「イツ返却サレルノダ?」

「通常の返却期限は二週間ですが、あの者は特別ケースとしてその倍にしてあります。貸し出し期間は一度の延長が可能となっておりますが、貸し出し予約が入っている時はその限りではありません。期限が来ましたらこちらから返却要請を出します」

「二週間ノ倍。……四週間!?」

 

 なお、ミラが小説を借りていったのは昨日今日の話ではない。コキュートスが21巻を借りた直後なので、ここから四週間も待つ必要はない。ティトゥスから返却要請を出せば二週間ほど後に返ってくるはずである。あくまでも最古図書館の利用規則的には、であるが。

 

 すぐにも続きを読みたいのに四週間待ち、と思っているコキュートスが吠えたその時、偶然にもアルベドが通りかかったのは運命の悪戯か。

 この時、運命の歯車が噛み合った音を聞いた者はどこにもいなかった。

 

「うるさいわね。図書館では静かにしなさい」

「アルベド貴様、部下ニドンナ教育ヲシテイル!」

 

 アルベドはコキュートスと違って、娯楽を求めて最古図書館に来ているわけではない。赤ちゃんについて調べに来ていた。

 妊娠中のセックスについてだとか、赤ちゃんの名付けについてだとか、子育てについてだとか。しかし忌々しいことにどれも人間の赤ちゃんについてなので、参考程度にしかならない。どうして最古図書館にはサキュバスの妊娠出産についての書籍がないのであろうか。アルベドの中で、元から低かったギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルドメンバーへの評価が更に下がった。

 探し求めた書籍は、貸し出し受付を通すと履歴に残ってしまうため、閲覧室で読むつもりでいる。

 ずっしり抱えた本の一番上と下には赤ちゃんとは無関係の難しそうな本を乗せ、赤ちゃん関連の本は背表紙が自分の方へ向くように持っている。メイドたちが異本をこっそり読む際も、今のアルベドと同じように難しそうな本でサンドイッチして運ぶのは余談である。

 

「教育ってなによ。あの子が何かしたのかしら? あの子の忠誠の深さはコキュートスも目の当たりにしたでしょう」

「ソノ事デハナイ!」

 

 受付の前では邪魔になる。二人は閲覧室に移動した。そこでコキュートスは吠えた。訴えた。

 彼の邪悪なる知識欲の怪物は、あろうことか続き物の小説を一冊飛ばして読んでいる。その一冊は、作中でも重要になりそうな人物が登場した巻だと言うのに。

 

 アルベドに訴えても無駄なのは、コキュートスにもわかっている。

 続きを続けて読むか読むまいかと言う葛藤の末の決断。決断を無為に帰された口惜しさをぶつけているのだ。つまりは愚痴である。

 聞かされているアルベドは真面目に取り合わない。そんなことはコキュートスも望んでいない。誰かに聞いてもらえるだけでいいのだ。

 アルベドはコキュートスの愚痴を聞き流しながら、借りてきた本を読んでいる。中身がコキュートスに見えないように注意して。

 

「アレヲ読ム事デアインズ様ノオ力ニナレルヤモ知レヌノダ。アインズ様ハ剣士モモントシテモ活動シテオラレル。剣ノ真髄ニツイテキット深イ関心ヲオ持チニ云々」

 

 ペラペラと赤ちゃん本を読んでいたアルベドに、ふとコキュートスの言葉が引っかかった。

 アインズ様。剣。モモン。

 先日、聞いた言葉である。

 

「少し聞きたいことが出来たわ。最近……そうね、ここ一ヶ月くらいでいいわ。アインズ様に剣の指南をすることがあったかしら?」

 

 アインズ扮する漆黒の英雄モモンは剣士であるが、アインズ自身は魔法使いである。剣は使わない。

 そのアインズへ剣を教えていたのが、ナザリックにて剣の第一人者であるコキュートスだった。

 

「アインズ様ノ剣ハ非常ニ上達ナサッテイル。最近ノアインズ様ハオ忙シイ事モアッテ指導ノ時間ヲ取レテオラヌ」

 

 アインズに尽くすことがナザリックのシモベ達の喜びなのだ。

 アインズへ剣の指南する時のコキュートスが至福の時を過ごしていたのは想像に難くない。

 

「そう……」

「ソレガ何ダト言ウノダ?」

 

 本を閉じて、アルベドは物思いに耽った。

 守護者統括である時ならまだしも、現在のアルベドは休憩時間。プライベートのアルベドは、とある個人的な事情で少々気が抜けがちになっていた。

 

 コキュートスの問いかけを無視し続けて数分。

 現世に戻ってきたアルベドは、コキュートスがまだ目の前に座っていることに驚いて目を丸くした。

 

「まだいたの」

「アインズ様ノ剣ガドウ為サッタノダ?」

「コキュートスが知らないならきっと大したことではないわ」

「ソウトモ限ラヌダロウ?」

「……そうね。小耳に挟んだことなのだけど」

 

 そう前措いて、アルベドは言ってしまった。

 

「アインズ様、と言うよりはモモンと言うべきかしらね。モモンの剣が、なんて言ったかしら。なんとかムーンを越えたとか」

「…………マサカ。ラウンドムーンキリングテックノ事カ!?」

「そう、それよ。ラウンドムーンキリングテックね。おかしな名前ね。一体何のことなのかしら?」

「ッ!!」

「ちょっと!」

 

 コキュートスは椅子を蹴って立ち上がった。

 ヴァーミンロードの複眼の全てが限界まで見開かれ、シルバーメタリックの体がわなわなと震え始めた。




パスが届くにはしばらく掛かります、たぶんおそらく

それと広告スキップ機能をほとんど使ってないことに気づきました


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ぽっと出の強敵

 千々に砕かれ、恐怖と絶望の炉にくべられた意識が浮上してきた。

 二度と戻らないはずだった。何故意識があるのか。死んだのではなかったか。生きているのか。まさか生き返らされたのか。一体何の為に。何をさせるために。

 

 意識が戻り、最初に感じたのは骨身に凍みる冷たさ。何物をも拒否する硬さ。冷たい石床に転がされていると気が付いた。

 顔がどうなっているか気になった。密かな自慢で誇りにしている顔だ。王国の黄金に、けして引けをとらないと自負している。

 そう思った瞬間に、どうなったか思い出した。

 

 意識より先に顔を砕かれた。

 顔を砕かれて、体を粉々にされて、何もかも砕け散って。

 なにもわからなくなった。

 きっと、死んでしまった。

 

 体が震えるのは体が冷えたからだけではない。恐怖を思い出した。自分に救いはないと知った絶望が心を縛る。

 呼吸は浅く荒く、次いで悍ましい臭いが鼻を突く。

 汚臭はほとんど物理的な力となって鼻柱を殴りつけてくる。

 こみ上げる悪心に、目を開いてしまった。

 自分は汚液の中に倒れていた。

 半ば乾きつつある黒い液体は、自分を中心に広がっている。

 気付いてはならないことを、直感的に気付いた。

 これは、自分が、自分の体から、流れ出たものなのだと。

 

「ぅ……ゲェ………………」

 

 空っぽの胃からは何も吐き出せない。

 苦しくて辛くて、凍えていたことすら忘れてしまって、胃液と僅かな唾液を吐き出した。

 

 吐瀉物は少なかった。

 自分の肉体から流れ出た汚液に比べればほんの少し。

 汚液は腐敗液。

 自分の体から流れ出た腐敗液。

 死んでいた自分の体は腐り果て、悍ましい悪臭を放って溶けかけていた。

 自らの腐敗液の中で、生き返らされたのだ。

 

「無事に蘇生できましたね。立たせなさい」

「かしこまりました」

「あぐぅ……」

 

 腕が痛み、視界が広がる。

 手を掴まれて立たされたらしい。

 何が自分の手を掴んでいるのかはわからない。恐ろしくて確認できない。

 それよりももっと恐ろしいモノが目の前にいる。

 

 一見すると細身な男。

 肌が浅黒く、耳が尖っている。ここまでならダークエルフの特徴と一緒だが、そんな可愛いものではない。

 赤い縞模様の服と、理知的な風貌は。そこに隠れているモノを知っている。

 

「………………やるだ、ばおと?」

「意識もはっきりしているようですね。連れてきなさい」

「はっ、かしこまりました」

 

 仮面を被っていた。今は外している。だが見違えるわけがない。あの恐ろしい怪物を。あの恐怖を。苦しさを。絶望を。突きつけられた終焉は。私は殺されたのだ。

 どうして仮面を外しているのか。

 顔を見せ、名を当てられ、平然としているのは何故か。

 決まってる。

 自分は、もう、ここから、出られない。

 

 連れ回され、見たくないモノを見せられた。

 いつしか、頬を涙が濡らし始めた。

 

 始めこそ、自分の民の苦しさを思って涙した。

 どうして彼らを、彼女らを助けられないのか。どうしてこんな目に合っているのか。自分の弱さに涙した。

 

 次第に涙の意味が変わっていった。

 恐ろしさの余りに呼吸が出来なくなった。

 気付いてしまったのだ。

 これが、自分が辿る運命なのだと。

 自分も同じ目に合うのだと。

 

「人間にしては中々見栄えがします。折角なので慰み者に使うことにしました」

 

 ここでは、人間は、人間の形をした羊だった。羊のように毛を刈り取られ、皮を剥がれ、腑分けされて解体されて。

 自分もその中へ放り込まれる。

 涙は止まなかった。

 

「絶望と恐怖に涙を流せるのは今のうちだけです」

 

 からかうような含み笑いを聞いて、堰が切れた。

 

「精々身綺麗にしておきなさい。そうすれば扱いが良くなるかも知れませんよ? 私の預かり知らぬことになりますがね」

 

 腐臭を放つドレスを着たまま、声を上げて子供のように泣き出した。

 泣いてる間は、地獄に戻らないと信じて。

 

 

 

 

 

 

「それでは行って参ります。あなた達なら心配ないでしょうけど、私とお兄様が戻るまでしっかりとお屋敷を維持するように」

「お任せください、ソリュシャンお嬢様」

 

 メイド教官と多数のメイド見習い達に見送られ、ソリュシャンは馬車に乗り込んだ。

 

 ソリュシャンは、聖王国に出張しているエントマたちの陣中見舞いと諸々を終えて、エ・ランテルに戻ってきた。

 戻ってきたらすぐさま帝国へ。

 帝国では愛しのお兄様が待っている。

 

 ナザリックでのソリュシャンはプレアデスのソリュシャン・イプシロンであるが、エ・ランテルのソリュシャンは商家のソリュシャンお嬢様であって、お兄様と一緒にいなければならないのだ。

 ソリュシャンの願望を多分に含んでいるものの、ソリュシャンがエ・ランテルに来たのは、お兄様は自分の遠縁なので確かな身元があると言うことを内外に示すためなので、お兄様がいないエ・ランテルには滞在する意味がない。よって、ソリュシャンお嬢様はお兄様の元へ向かわなければならない。

 誰に恥じることのない完璧で立派な理由である。たとえデミウルゴス様であっても論破出来ないことだろう。

 

「来てくれて嬉しいけど良かったのかしら?」

「構いません。ソリュシャンお嬢様に専従メイドがいない方がおかしいですから」

 

 受け答えするのは、ソリュシャンの前に馬車に乗り込んでいた黒髪のメイドである。

 メイド見習い達とは違って、エプロンに施された美しい刺繍はメイド教官の証。

 しかし、今までの彼女はエ・ランテルではなく、ナザリックに詰めていた。

 

「他の二人はどう?」

「変わりありません。お心遣い、いたみいります」

「そんなにかしこまる必要はないわ。私たちはヘロヘロ様に創造された者同士なのだし」

「……恐縮です。それでは早速」

 

 メイドはもう一人の同乗者へ目を向けた。

 

「こちらはどなたなのですか?」

 

 馬車の中には、ソリュシャンと、ソリュシャンの専従メイドと、もう一人の人物がいた。見てもわからない。そもそも見えないのだ。

 

「私も詳しいことは知らされていないわ。デミウルゴス様が仰るには、エ・ランテルから帝国へ向かわせるのが重要なのだとか」

「ナザリックの方なのですよね?」

「それもわからないわ。あなた、喋れるんでしょう?」

「………………」

 

 話題の人物は、水を向けられても口を開かない。

 ソリュシャンが知る限り、デミウルゴス様から引き合わされて今に至るまで、一度も喋ったことがない。

 姿もわからない。

 着用者の装備品を隠す魔法のローブを着ているのだ。フード付きのため、顔も見えない。

 フードを被っていても、その奥に目の光があるはずなのだが、こちらもない。フードの奥は真っ暗だ。目が見えない、あるいは目がないのかも知れない。

 

「食事の世話だけしてやればいいそうよ」

「聞いております。準備はしておきましたが」

 

 用意したのはナザリック特製レーションである。

 包装を破ってやり、わざわざ手を取って手渡してやると、緩慢な動作で口へ運んだ。

 食事を必要とするのだから、アンデッドではないことはわかったが、それだけだ。

 ちなみに手も見えなかった。ローブから伸びた手は、黒い手袋に包まれていた。

 

 異様な同乗者を連れての旅路は、翌日の昼過ぎに終わった。

 

 

 

 

 

 

「お兄様!」

 

 帝都のお屋敷では出迎えがあった。

 ソリュシャンは馬車から飛び降りて、真っ先に愛しのお兄様に飛びついた。

 

 随分長く離れていた気がする。

 お兄様は以前とお変わりなく、と思っていたのに、期待は良い方に裏切られた。

 男のくせして艶やかとしか言いようがない美貌はますます磨きが掛かり、いつもぼけっとしてた顔には穏やかな微笑が浮かんで自分が来たことを喜んでくれている。

 飛びつき、抱きしめ、抱きしめられ、耳元で、

 

「会いたかったよ、ソリュシャン。よく来てくれた」

「ああ……、お兄さまぁ……」

 

 ここまで想われているのだから、これはもうゴールイン待った無し。結婚式は帝都で挙げるべきかしら、とソリュシャンは妄想しているのだが実状は割と違う。

 ソリュシャンからの課題図書で学んだ台詞の応用である。こう言っておけばひとまず満足するだろうと、その場しのぎの抱擁と囁きであった。

 

「ソリュシャンお嬢様共々、よろしくお願いいたします」

 

 ソリュシャンの一歩後ろから頭を下げるメイドを見て片眉を上げ、馬車から荷下ろししている御者を見て頬をひくつかせ、漆黒のローブに身を包む謎人物を見て首を傾げた。

 

「こちらは?」

「……後でご説明します。まずは荷物を片付けませんと」

 

 エ・ランテルでは有名な我が儘お嬢様の荷物である。

 力仕事に率先して取りかかるヴァンパイアブライドがいなければ、お屋敷のメイド総出でもいつ終わりになるとも知れなかった。

 

 

 細々とした荷物整理はメイド達に任せ、ソリュシャンたちはお屋敷の三階に移動した。

 三階にまで来ることを許されているのは、ナザリックの者達だけである。

 ソリュシャンの専従メイドはシクススと連れだって別室へ向かい、馬車の御者は目を丸くしたミラが連れて行った。

 ナザリックからの賓客を迎えるよう特別な防諜処置と格別なあつらえの応接間に残ったのは、お屋敷の若旦那様。ソリュシャンとの再会の喜びを早々に切り上げたルプスレギナ。ソリュシャンお嬢様なのでお嬢様ルックのソリュシャン。

 そして、ソリュシャンがデミウルゴスの命令で連れてきた謎人物である。背格好はナーベラルに近いが、声も容姿もわからないため、性別に種族すら不明だ。

 

「デミウルゴス様の指示によって連れて参りました。私も詳しいことは聞かされておりません」

「うーん」

「ちゃっちゃと脱がしちゃえばいいんじゃないっすかね?」

「駄目よ。デミウルゴス様がいらっしゃるまではそのままにしておくようにと仰せだったわ」

 

 

 

 応接間に集ってソリュシャンが連絡を入れると、間もなくしてデミウルゴスがやってきた。

 これでもかと予定が詰まっているデミウルゴスである。時間を無駄にすることがないし、無駄にさせることもない。

 三者は跪いて賓客を迎えたのだが、ローブの人物は立ち尽くしたまま。

 階層守護者であるデミウルゴス様になんたる非礼とソリュシャンとルプスレギナは視線を鋭くするが、デミウルゴスは笑って許した。

 

「目も耳も封じてあります。何を言っても聞こえません。見えません」

 

 馬車の乗り降りも、この部屋まで歩いてくるのも、メイドが手を引いていた。

 

「喋るなとも命じておきました。ここに来るまで何か話したのを聞きましたか?」

「いいえ、その者は一言も口を利きませんでした」

「結構」

 

 デミウルゴスは、ローブの人物の腕を取り、跪く男の前に引き立てた。

 

 カチカチと、硬質なものがぶつかる音がする。

 ローブから覗く黒い手袋が小さく震えている。

 感情の機微がいまだによくわからない男でも、目の前に立った人物は脅えきっているのではと察しがついた。

 

 唇の端を歪めたデミウルゴスを、男は楽しそうだなと思っただけだったが、もしもアルベドが見たら僅かばかりの謝意を感じ取ったかも知れない。

 

「貴男のレポートは中々の出来で楽しませてもらいました。これはそのご褒美です」

「おお、ありがとうございます!」

 

 半分はご褒美。もう半分は自分のせいで左遷されてしまったことへのお詫びである。

 人間にしては出来ているこの男を、デミウルゴスなりに買っているのだ。ナザリックではアルベドとパンドラズ・アクターとしか出来ない知的な会話が出来るのも重畳。

 わざわざご機嫌とりをする謂われはないし、そもそもそんなことに時間を割けるデミウルゴスではないのだが、この後はナザリックに向かってアインズ様と今後の打ち合わせをする予定である。そのついでである。

 

「アルベドの相談役として正規に取り上げられたそうですね。そちらの御祝いを兼ねています」

「重ね重ね、私めにありがとうございます」

 

 男が深々と頭を下げる一方、ソリュシャンとルプスレギナは嫌な予感がした。

 

「開けてもよろしいでしょうか?」

「勿論です」

 

 装備品を見えなくする魔法のローブは、襟を留める飾り紐を解くことによって効果を解除することが出来る。

 デミウルゴス様のお許しを得て立ち上がり、飾り紐を引っ張った。

 フードの奥へも光が届き、輪郭が現れる。

 ほっそりとした顔立ちは、女のものではないかと思われた。

 

「へえ……。失礼しました!」

「構いませんよ。驚いてもらえると私も用意した甲斐がありました」

「恐れ多いお言葉です」

 

 フードを上げると、女はピクリと震えた。

 艶のある長い金髪が一番に目に付いた。

 顎は細く、形がよい。固く閉じられた唇からは血の気が引いて紫がかっている。頬も同様で蒼白だ。しかし、顔立ち自体はとても整っていると思われた。

 断言できないのは目元を隠されているから。血染めの赤い布が目を覆い隠している。

 視線でデミウルゴスに問うと頷かれたので、結び目を解いて布を外してやった。

 

 ゆっくりと目が開かれる。

 瞳の色は新緑。

 開かれ切った目は、しっとりと潤みだし輝きだした。

 蒼白だった肌には血の気が戻り、頬は薔薇色に染まる。

 唇も赤みを取り戻して、薄く開かれた。

 あぁ、と小さな、熱い息を吐いた。

 

 ソリュシャンとルプスレギナは、女が一目惚れする瞬間を目撃した。

 実を言えば、日常茶飯事とまではいかないものの珍しいことではない。

 

 中身は兎も角として、見た目はとても良い男だ。それこそ美の神が自身の恋人として創造したと言われたら信じてしまいそうになる。

 どこで覚えたものか、所作や立ち居振る舞いに品があり、歩く姿すら優美である。

 エ・ランテルでは魔導国中枢と人間たちとの架け橋となる要人。帝国では実質的な支配国である魔導国から来た学士、学士と言うよりは公使として扱われている。どちらでも高い身分にあるのに、威圧的なところが全くない穏やかな人物。

 これで好感を抱かれないわけがない。

 屋敷のメイドたちは、街を歩いて彼の男を目撃した女たちは。

 直近では、屋敷に招いた魔法学園の女生徒がそうなった。魔法学園のことなら何でも聞いてください、と三度。魔法学園にいらしたら是非ご案内いたします、と五度。女生徒が連れてきた男子生徒が血の涙を流しそうになっていた。

 

 そのようなことがある度にソリュシャンやルプスレギナは、内心で大きな優越感を味わったものである。

 お兄様があなたたちと釣り合うと思って、とせせら笑いながら。

 

 しかし、今、目の前にいる女。

 ソリュシャンもルプスレギナも知らないことであるが、異名をローブルの至宝。ローブル聖王国では、彼女の美貌を知らぬ者はない。

 文字通り人外の美を誇るプレアデスに匹敵しうる、妬心を堪えて正確に評価すれば、自分達と比べても遜色ない。

 プレアデスの姉妹から見ても美しいと思える女が、自分たちの男に一目惚れしていた。

 

 デミウルゴス様がいらっしゃらなければ舌打ちの一つや二つをして、悪態をついたかも知れない。

 それどころでは済まないことを、二人はまだ知らなかった。

 

 

 ところで、デミウルゴスは智者である。論理というものをわかっている。

 ゆえに、無知が罪であることをよくよく知っていた。

 シャルティアあたりなら「知らなかったんだから仕方ないでありんしょう?」とのたまうだろう。

 

 例えば、不味い食事をアインズと言う土地から来た者がエ・ランテルを訪れて「昨日のアインズは最悪だったな」なんて言おうものなら死んでも済まない。

 ありとあらゆる苦痛を長きにわたって味わう羽目になる。

 シャルティアとて「知らなかったで済むか!!」と激怒するのは間違いない。

 無知とは、罪なのだ。知らない方が悪い。

 

 この場この時、デミウルゴスは罪を犯した。

 

 

「ローブル聖王国の元聖王、カルカ・ベサーレスです。わかっているでしょうが、名を広めてはいけません」

 

 目と耳が開いて、デミウルゴスの声が聞こえているはずだが、カルカは男を見つめたまま。

 恋に恋する乙女が幸せな夢を見ているような顔で、潤んだ瞳は男の顔から外れない。

 

「人間の女ですが、これならあなたに釣り合います」

 

 ソリュシャンとルプスレギナの中で、予感であった嫌なモノが形となって現れた。

 

「対外的にあなたの妻にするといいでしょう」

 

 跪く二人から、殺意が溢れた。

 デミウルゴスは、おやと薄目を開いて宝石の瞳を見せた。

 カルカは、半歩進んで男にすり寄った。

 

「私の……旦那様…………♡」

 

 跪く二人から、ピキピキとかブチブチとか、異音が鳴り出した。




平行していろんな事が進みすぎてる気がします
でもきっとたぶんどうにかなるんだろうと信じてます
でもどうにかってどういうことなんだ!

そろそろ帝国のチョロインをどうにかしないと
でもどうにかって(ry


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絶望的な戦い

 デミウルゴスは智者である。アインズ様だって頼りにしてる出来る男だ。魔導国ではこれと云った役職を持っていない以前に存在を伏せられているが、ナザリックではかなり偉い地位にある。

 アルベドの相談役もデミウルゴス自身が直々に知性を測って合格を出したほどなのだから当然出来る男だ。デミウルゴスの部下と言うわけではないが、ナザリック内の階級では階層守護者よりも下にある。

 出来る者同士。そして上下関係。これらが揃った時のみにおいて効果的に作用する言葉があった。

 

 デミウルゴスはにっこり笑って、男の肩をぽんと叩いた。

 

「うまくやりなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 『うまくやれ』とは、スペシャルオーダーである。

 上長は具体的な行動を指示しないし、望ましい結果も提示しない。うまくやることだけを求めている。

 しかし、うまくやるには往々にして不法・非道な行為を犯さなければならない。勿論、上長はそんなことを言わない。不法・非道などもってのほかだ。下の者がうまいこと忖度してうまくやるしかないのである。

 バレなければ問題ない。仮に明るみになったとしても、上長はうまくやれとしか言っていないので、責任を追及される恐れはない。

 『うまくやれ』が出来る者同士でなければ効果がないスペシャルオーダーであることがおわかりいただけただろうか。

 

 なお、出来ない者へも発令されることがある。無能を炙り出す、あるいはトカゲの尻尾切りのためだ。一番の理由は、何があっても責任を取りたくないからだ。

 出来る者同士であっても、連発するとパワハラになるので注意が必要である。

 

 ちなみにナザリックにおいて、アインズ様の深遠なるお言葉を忖度して一番うまくやってるのはデミウルゴスである。

 100レベルのデミウルゴスは忖度力がカンストしていた。

 

 

 

 

 

 

 デミウルゴスは立ち去った。魔法で移動したので、飛び去ったが正確な表現かも知れない。

 只でさえ忙しいデミウルゴスだ。下の者たちの痴話喧嘩に付き合ってる暇はないのである。

 爆薬に火種を添えてその場を後にするデミウルゴスは、カルマ極悪の悪魔であった。

 

 デミウルゴスがいなくなるや否や、応接間には殺意が満ちた。

 ソリュシャンは美しく微笑み、ルプスレギナはにへらと笑う。

 二人とも、目が笑っていなかった。

 

「それでは殺しましょうか」

「そっすね。死体の処理はソーちゃんよろしくっす」

「任せて。存在の痕跡すら溶かし尽くすわ」

 

 二人の殺意が向かうのは、図々しくもアルベド様の相談役にすがりつく人間の女である。

 連れてきたのが階層守護者であるデミウルゴス様でなければ、ふざけるなと怒鳴り散らしていた。

 

 お兄様と結婚するのはこのソリュシャン・イプシロンである、とソリュシャンは決定している。

 ルプスレギナも、おにーさんは自分のお婿さんにすると決めている。

 この場にいないユリとナーベラルも、彼の男との結婚を望んでいる。

 それなのにぽっと出のよくわからない見てくれしか取り柄がない人間の女が妻になるなど許されない。許せない。許していいものではない。断罪しなければならない。つまり、殺処分である。

 

「っ!」

 

 カルカは、反射的に男の服を掴んだ。

 地獄から安寧の地に連れてこられたと思ったのに、そこもまた敵地。

 一度死んだのだから二度目も、とはとても思えない。僥倖にも生き返ることが出来たのだから、何としても二度目は回避したい。

 しかし、どうやって回避すればよいのか。カルカに出来るのは、初めて会った男にすがりつくことだけだった。

 

「お兄様どいて。そいつ殺せない」

 

 ソリュシャンが距離を詰める。ルプスレギナは回り込む。

 カルカを背に庇う形になった男は、大きくため息を吐いた。

 

「バカかお前ら」

「バカ!?」

「お前ら!?」

 

 真っ直ぐな罵声に激高しかけた二人は、凍てつく視線に晒され一瞬で鎮火した。

 

(な……なんて目をするんすか!)

(いやっ! そんな目で私を見ないで!)

 

 男が二人を見る目は、議論しているアルベドとデミウルゴスから発生する斥力によって近付くことが出来ず離れたところから見ることしかできないシャルティアを見るアウラのようであった。

 

 バカを見る目である!

 

 ソリュシャンであれ、ルプスレギナであれ、カルカを殺すのは簡単だ。

 カルカは中々の信仰系魔法の使い手である。しかし現在、死亡からの復活に伴って弱体化していた。弱体化していなくとも、プレアデスなら多少手間取ることはあっても問題なく処分できる相手でしかない。

 しかし、それをやってしまうと、カルカを手に掛けた者は現在の任務から外されて異動になり、カルカは再度復活させられる可能性が非常に高い。デミウルゴス様がわざわざ連れてきた人間なのだ。

 それを回避するためには、この男の同意を得る必要がある。

 デミウルゴス様が持ってきたお土産だけれど、もらった当人がいらないというのだから仕方なく殺処分した、と言うストーリーにしなければならない。

 

 この男を説き伏せなければならない。

 守護者統括であるアルベド様の相談役であり、デミウルゴス様が頭脳を認め、パンドラズ・アクター様に師事しているこの男を、論戦で破らなければならない。

 

 やる前からわかっている。

 絶対無理だ、と。

 たとえ無理だとわかっていようと、乙女には戦わなければならない時がある。

 今がその時であった。

 

 

 

「確かにその女はデミウルゴス様がお連れになった者です。ですが、聖王国の元女王と言うではありませんか。そんな者を取り込んでしまえば、後々災いの種になるかも知れません。今の内に処分するのが賢明です。そんな女は必要ありません。ここに置いても何の利益にもなりません。お兄様が新しい女を侍らせたいだけと仰るのなら断固阻止させていただきます」

 

 ソリュシャンのターン。

 嫉妬を正論に絡めて押し通した。

 

(ソーちゃんナイスっす! 殺してはいけない理由から殺さない理由にすり替えたっすね。殺しちゃいけないなら仕方ないっすけど、わざわざ生かしとく理由がないなら殺すべきっすからね。スケベなおにーさんが新しい女が欲しいって理由なら絶対に却下っす。今はいきなり増えてうええって感じなんすから)

 

 ソリュシャン決死の猛攻を、男は余裕で受け止めた。

 

「その心配はないよ。二人は知らないかも知れないけど、聖王国の王はバカの代名詞だ。何かする能力なんてないから獅子身中の虫にはなりようがない」

「ば……バカの代名詞……」

 

 庇われているのに、馬鹿呼ばわりされたカルカは心中穏やかでいられなかった。

 男はくるりと振り向き、カルカに向き直った。

 

「聖王国は、遠く離れた帝国でも南北で分断されてると聞こえている。どうして統一しなかった?」

「それは……、地理的な要因で……、軋轢がありまして……。けっして分断されているわけではありません」

 

 聖王国は巨大な湾によって南北に分けられている。距離が離れていれば心も離れるものである。

 そして南部は、聖王国では代々男子が王だったのに初めての女子の王となったカルカを軽んじている。

 カルカは十年も王位にあったというのに、南北の軋轢を全く是正しなかった。性格的に出来なかったわけだが、やらなくてよい理由にはならない。

 

「聖王国は亜人たちが住まうアベリオン丘陵と緊張状態にあった。普通に考えれば力を合わせて事に当たるべきだろう。どうしてしなかった? それだけじゃない。どうして女子を王にした。太平の世ならそれでもいいが、子供でも孕めば動けなくなる。そこだけ取り上げても王にするべきじゃない」

「私から望んで王になったわけではありません!」

「聞いたか? 不適格な上に望んでない者を王位につけるのが聖王国だ。馬鹿しかいないんだから王が馬鹿なのは当然の帰結だ」

「うぅ……」

 

 馬鹿だ馬鹿だと言われることより、子供でも孕むようなことが一度もなかった事実がカルカの心を打ちのめしていた。

 

「バカじゃしょうがないっすね」

「そうね、バカはどうしようもないわね」

 

 カルカが庇われているわけだが、ソリュシャンとルプスレギナは楽しそうである。。

 

 カルカの無能が明かされ、内憂の種にはなり得ないと証明された。

 ただし、これは殺さない理由。殺してはいけない理由ではない。

 次の一手がプレアデスの姉妹に襲いかかった。

 

「一つ問題を出そう。これは魔導国の戦略にも関わるから、ソリュシャンとルプーもよく考えるように」

 

 美女姉妹は真面目な顔で頷いた。

 

「では問題です。魔皇ヤルダバオトはどこから来たでしょうか?」

「そんなのナザリックに決まってるじゃないっすか。………………あれ?」

 

 ルプスレギナが答えたと同時に、室内の空気が一変した。

 

 カルカが驚愕しているのはルプスレギナ的にはどうでもいい。

 何故かソリュシャンが痛ましいものでも見るかのような目でこちらを見てくる。

 肝心のおにーさんは、優しい目をしていた。ルプスレギナは総毛立った。

 

 あの目はまるで、議論しているアルベドとデミウルゴスから発生する斥力によって近付くことが出来ず離れたところから見ることしかできないシャルティアを見るアインズ様のようであった。

 

 アホの子を見る目である!

 

 このままでは、ルプスレギナはカテゴリー「シャルティア」に入れられてしまう。その場しのぎの適当な言葉で誤魔化され、気分良く騙される日々が始まってしまうのだ。

 そこまで墜ちるわけにはいかない。

 

「そうだね、ルプーはよく知ってるね。これからの話はルプーにはつまらないと思うから……」

「ちょっと待つっす! 今のなし! ちゃんと考えるからちょっと待って欲しいっす!」

「だからよく考えるようにって言っただろう」

「うっ!」

 

 考えが足りないとか目の前のことに飛びつきすぎだとか、いろいろと注意されてきたのに、ルプーは未だにルプーだった。

 けども、ちゃんと考え始めればけして馬鹿ではないルプスレギナである。

 

「ヤルダバオトが初めて現れたのは王国の王都っす。それ以前の目撃情報はゼロっすね。ってことは王都にいきなり現れたか、どこかに現れてから王都に移動したかのどっちかっす」

「その時の王都にはモモン様がいらっしゃったわ。ヤルダバオトはモモン様に撃退されて聖王国へ下がった。モモン様が狙いだった?」

「……ヤルダバオトがどこから来たのか結論は出ていません。太古の封印が破られたのではと推測している者はおりましたが…………」

 

 ヤルダバオトがデミウルゴスの名で呼ばれているのを聞き、そのデミウルゴスからこの場に連れてこられ、ヤルダバオトはナザリックから来たとルプスレギナに聞かされて、そのルプスレギナとソリュシャンが恐ろしい存在であるのではと薄々感づき、だけれどもこの美しい殿方は紛れもなく人間の男性であり自分を妻としてくださる方で恐ろしい存在たちから自分を守ってくださり、それでもヤルダバオト側の人間らしいとの恐れもあり、かつてないほどの混乱と困惑の最中にあるカルカだったが、ここを乗り越えなければ命はないと思い極めている。

 

「突然ヤルダバオトほどの存在が発生するとは思えない。封印が破られたと考えよう。自然に破れたなら最初に王国へ行くのは不自然だ。誰かが目的を持って破ったに違いない。誰が破ったと思う?」

「何かヒントはないっすか?」

「王国はヤルダバオトがわざわざ攻める価値はないよ。俺だったら帝国から落とす。こっちの方が法国や評議国からも遠いしね」

「王国に敵対している者が封印を破ったと仰るのですか?」

「でも帝国にそんなことが出来るとは思えないっすけどねー。封印を破ったら自分たちが喰われるのが目に見えてるっすよ」

「付け加えると、王国自身が破った可能性もないよ。王国で言う魔法とは、道具を使わずに火をつけることだけなんだ。封印を解く魔法なんて難しすぎて理解できるわけがない」

「リ・エスティーゼ王国は魔法を軽視しているとは聞いておりましたが……、そんな程度だったなんて……」

 

 誤解を増やし、話は続いていく。

 

「王国と考えるから引っかかる。最初からモモン様が狙いだったとしたらどうだろう? ヤルダバオトはモモン様の命を狙っていた。どうしてモモン様を敵視するのか。アインズ様はそこを考慮に入れて、モモン様を聖王国に派遣しないと決められた。ご自身が打って出るそうだよ」

 

 聖王国と魔導国に国交はない。そのため、王国所属の冒険者である蒼の薔薇がモモン様への紹介状を書き、聖王国の使節団は魔導国へ。魔導王はモモンを派遣しない代わりに魔導王自身が聖王国に協力することを約束した。

 決定したのだが、その直前にアインズ様へついとキラーパスが届き、(アインズ様だけが)とても大変なことになってしまったのはここでは関係ない話である。

 

「モモン様を疎ましく思うのはどこか? 竜王国にそんな余裕はない。むしろモモン様を自国に招聘してビーストマンに当たって欲しいだろう。ならば聖王国は」

「ありえません! 私たちがモモン様を厭うわけがありません。ヤルダバオトのせいで私たちは、わたしは……」

「とすると、残りは二つだ」

 

 カルカの悲哀をあっさり流した。

 

「法国、っすか?」

 

 法国は後方の安定のため、王国が帝国に飲み込まれるよう画策していた。

 得体の知れないところがあり、他と隔絶した強者であるモモンを疎ましく思わないとは限らない。

 

「可能性はある。しかし、もしも法国がヤルダバオトの封印を手に入れていたのならとっくに使っていたはずだ。使えなかった理由があると考えるべきだ」

 

 エルフの国と戦争中の法国である。

 状況を打破するために、ヤルダバオトを解放する理由があった。今までそれが為されていなかったのだから、王国を滅ぼすため、あるいはモモンを追いつめるためにヤルダバオトを使うとは思えない。

 

「まさか……評議国と仰るのですか!?」

 

 評議国は王国に隣接する竜王が治める都市国家群だ。亜人が多く、それゆえに亜人を排斥する聖王国とは友好と言えない関係である。

 評議国にモモンを排除する理由があるかどうかは不明だ。聖王国が好かれてはいないとわかっているが、ヤルダバオトを送られて滅ぼされるとまでは思いたくない。

 

「現状を考察すると、ヤルダバオトの封印を破ったのは評議国としか考えられない。評議国以外には不可能と言うべきかな」

「そんな……」

 

 カルカの驚愕と悲哀はまたも流され、ソリュシャンとルプスレギナは感心していた。

 まるきり嘘なわけだが、思考の過程を説明されるとなんとなくそれっぽいと思えてしまう。

 

「ところが、評議国は自分たちがヤルダバオトの封印を破ったわけではないと知っている。ここで話が最初に戻る。果たしてヤルダバオトはどこから来たのか?」

 

 ここまでの説明をひっくり返され、ソリュシャンとルプスレギナはシャルティアのような顔になった。

 

「今は禍中だから誰も気付かない。10年後はまだ復興途中だからそんな余裕がない。でも20年経てば誰かが気付く。どうしてアインズ様、モモン様、ヤルダバオトの三名が同時期に現れたのか。色んな理由がこじつけられるだろうけど、同じところから来た、もしくは誰かが他の二名を呼んだ。これ以上のしっくり来る理由はないだろうね」

「あー、言っちゃったっすね」

「20年後は気付かれてもいいんだよ。その時になればアインズ様の偉大さとお優しさが知れ渡ってる。ヤルダバオトのことは深い理由がおありだったのだと納得するさ」

「20年後は。ですが、今はまずい。そう仰るわけですね?」

「その通り」

「お聞かせください。どういうことなのでしょうか?」

 

 ソリュシャンは、ちらとカルカを見た。

 

「今は気付かれるわけにいかない。だけど、気付いて欲しい者もいると言うことだよ。カルカ自身も周囲もカルカ・ベサーレスであることを否定し、状況的にもここにいるのはあり得ないと知った上で、カルカがカルカ・ベサーレスであると確信するのは帝国にどれほどいる?」

「…………ジルクニフ陛下と側近の四騎士の方は。パラダイン翁も確信されると思われます」

 

 帝国の重鎮であるフールーダ・パラダインはアインズ様を信奉していたりするので、特に問題ない。

 

「皇帝にはカルカがカルカだと気付いて欲しい。するとどうなる?」

「ソーちゃんわかったっすか?」

「皇帝は聖王国を窮地に陥れたのが魔導国と知ることになります。ですが、それは誰にも言えません。言ったが最後、聖王国と同じ道を辿ることになるでしょう。そう仰るわけですね?」

「それで正解。つまりカルカは、帝国の軽挙を抑える抑止になるわけだ。デミウルゴス様が立てた戦略の一環だよ。だから殺してはいけないんだ」

「………………ちぇっ」

「ルプー、舌打ちしないの」

「……はぁい」

 

 渋々と納得させられた二人。

 ところが、二人がどうでもよいと思っているカルカはそれどころではなかった。

 

 ヤルダバオトはデミウルゴスと呼ばれ、魔導国のアインズ陛下と同じ場所から来た。漆黒の英雄であるモモン様も同じ。

 おそらくは、ルプスレギナが口を滑らせたナザリックと言う地から来たと思われる。

 アインズ陛下が聖王国を滅ぼし支配するためにヤルダバオトを遣わしたのだろうか。

 この場にいる三人も同じなのか。

 自分は一体どこにいるのか。何を前にしているのか。

 終わったと思った地獄は地続きで、今もなお続いている。

 知らずに体が震え始めた。

 

「カルカはアインズ様に感謝するといい。聖王国は外敵を排除出来た上で発展していくんだから」

「………………え?」

「魔導国が聖王国に干渉する際、国民を皆殺しにする案も出た。それはアインズ様直々に却下されている」

 

 なお、聖王国鏖殺を提案したのはこの男だけである。デミウルゴスだってそこまでは考えもしなかった。

 

「今のエ・ランテルがどうなってるか知らないだろう。魔導国の下に入って、以前とは比べものにならないほどの発展を遂げつつある。アインズ様は聖王国も同じように導くおつもりだ」

「ですが!」

「ヤルダバオトは聖王国の目を覚ますために必要だった。言ったじゃないか、馬鹿しかいないって。今は禍中だ。それが過ぎれば繁栄が約束されている。それとも、災禍を避けるためなら衰退の果てに滅んでもいいと思ってるのか?」

「………………」

 

 そこを決断できないがために人心をまとめられなかったカルカだった。

 

「聖王国はアインズ様にお任せすればいい。お前はもう聖王じゃない。今のお前は、今の務めを果たせ」

「………………はい。……あっ♡」

 

 今の務めを思い出した。

 この男の妻になるよう言われたのだ。

 確かに、聖王国は大きな危機に晒されている。しかし、その後は繁栄が約束されているようだ。

 民の苦しみを思う気持ちはなくならないが、苦しみからの解放が約束されているのなら。自分は為すべきを為さなければならないのではないだろうか。

 

 結婚を夢見ていたカルカである。

 いつか等身大の自分を愛してくれる殿方が現れるのではないかと、ずっと夢見ていた。

 ここにいたり、それは大きな間違いであったとようやく悟った。

 逆である。

 愛されるのではなく愛するのが先。

 自分が愛せる殿方を探すべきだったのだ。

 

 いまだ、詳しいことはわからない。

 この方はどのようなお方なのか。

 ナザリックとは、魔導国とは、アインズ陛下にモモン様にヤルダバオトにデミウルゴス。わからないことだらけだ。

 しかし、この方は自分を守ってくださる。

 自分を守るために、金髪と赤毛の美女二人を説き伏せてくれた。

 もう、楽になっていいのではないだろうか。

 力及ばずとも、聖王国の聖王として長く務めを果たしてきた。今の聖王国は大禍に見舞われていても、いずれの繁栄が約束されているらしい。自分が出来ることは何もない。

 一人の女になってよいのではないだろうか。

 抱き寄せられ、間近で見る顔はとても美しい。

 悲しみも苦しみも何もかもが吸い取られ、ただただ見入ってしまう魔性。美しい夢の世界に入り込んでしまったのではないだろうか。

 この方の妻になれる幸運が、今までの苦しみの対価なのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 二人の世界に入りつつある若旦那様とぽっと出の女を横目に、ソリュシャンとルプスレギナは顔を見合わせて固く頷きました。

 姉妹の絆は言葉に依らない意志疎通を可能とするのです。

 

「きゃっ!?」

「おっと」

 

 ルプスレギナはカルカを引き剥がして、床へ乱暴に突き飛ばしました。

 ソリュシャンは愛しのお兄様をソファの上に押し倒します。

 魔改造メイド服のルプスレギナと違ってお嬢様ルックのソリュシャンは、今日も上乳と深い谷間を見せるセクシードレスです。

 襟をちょっと引っ張れば、大きなおっぱいがぽろりとこぼれました。

 

「あんな処女臭い行き遅れの女に妻の務めが果たせるわけがありません。再考なさるべきですわ」

「そうっすよ。私たちならあんな顔だけの貧相な女より色んな事を出来ちゃうっすよー?」

 

 ルプスレギナは、スカートに深く入ったスリットへ手を入れました。

 もぞもぞしてから出てきた手には、黒くて小さな布切れが摘ままれています。引っ張るだけで簡単に脱げてしまう紐パンです。

 一発逆転を目指して、二人は色仕掛けを始めたのです。

 

 カルカは今し方の危機も忘れて真っ赤になりました。




いろいろ錯綜してるのでどっかで時空が歪んでるかも知れません


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起死回生 ▽ソリュシャン♯4

 カルカは自他共に認める美女である。ローブルの至宝とまで讃えられた美貌は生半なものではない。女であれば、美しく生まれたカルカを羨まない者はいないことだろう。そして、自分も美しく生まれたかったと思うのだ。

 カルカは羨望と賞賛を心地よく受け止めた上で、後者については苦く笑う。美しく生まれついたから美しくいられるわけではない、と。

 カルカの美しさは不断の努力によって成し遂げられているのだ。

 

 日々の食事に気を付けるのは大前提。甘いものをお腹いっぱいなんて夢のまた夢。

 体形を維持するために、日々の適切な運動は絶対に欠かせない。

 一日の終わりに適切なセルフマッサージは当たり前。時には侍従達にマッサージをさせることもあった。

 この程度で済むなら軽いもの。美貌の維持など恐るるに足らず。

 美貌を保つ上で最大の敵は、お肌の調子である。

 カルカは二十歳を幾年か前に迎えている。すると、襲いかかってくる難敵があった。

 

 お肌の曲がり角である!

 

 お肌の曲がり角とは何か。生きとし生けるものを只の一つの例外なく襲撃するそれは、時の流れ。すなわち、老化であった。

 カルカは、万物を支配する時の流れに真っ向から抗っているのだ。

 簡単な事ではない。

 カルカはこの地において、聖王に選出されるほどに優れた信仰系魔法の使い手である。その魔法の腕でもって編み出したのが、美容魔法による美肌であった。

 カルカは、人々から崇拝されるほどの魔法を、美容に費やした。

 自らの美しさを追求するためである。

 

 カルカが美しさを磨き続けてきたのは素敵な旦那様に巡り会うため。美貌はあくまでも手段である。

 しかし、青春の全てを費やした美しさへの執念は、手段から目的へと変貌しつつあった。

 

 

 

 

 

 

「ソーちゃんはよくいきなり脱げるっすね?」

「私たちは美しいのよ? 恥じる必要はないわ。大いに見せつけるべきよ」

「……外で脱いだりしちゃダメっすよ?」

「するわけないでしょ!」

 

 男をソファに押し倒したソリュシャンは、早速全裸になっていた。

 シミもソバカスも皆無な美しい肌は部屋の明かりに照り輝く。

 ソリュシャンの自慢は大きなおっぱい。下から持ち上げて乳首をペロリ。セルフパイ舐めが出来る大きなおっぱいは、後ろからでも横乳が見えてしまう。

 ぷるんと揺れたおっぱいは先端だけを濡れ光らせた。

 

「お兄さまぁ、久しぶりにソリュシャンのおっぱいはいかがですか? ソリュシャンのおっぱいはお兄様のためだけにあるんです。お兄様に吸っていただきたくて乳首がこんなになってしまって、あんっ♡」

「ソーちゃん邪魔っす」

「お兄様がおっぱい吸ってらっしゃるんだから邪魔しないで」

「むう」

 

 腹の上に馬乗りになっているソリュシャンは、乳首を咥えさせるために体を倒している。

 ソーちゃんが下なら自分は上と思ってたルプスレギナは場所を奪われ、頬を膨らませた。仕方なしにソファを下りて床に膝立ちとなり、男の手を取った。ちょうどいい高さだった。

 

「はじめは優しくっすよ? んっ、そんな感じでっ。まだむいちゃダメっす! 上からやさしくするんすよぉ、あはっ♡」

 

 ルプスレギナは、スカートのスリットの内側へと男の手指を招いていた。

 ほどよく股を開き、秘部を愛撫させる。クリトリスの皮をむかれそうになったので、そこはメッと止めさせた。それでも擦られるうちに膨らんできて、敏感な部分が顔を出す。

 快感が下腹の奥を疼かせて、濡れてくるのを感じた。どん欲にさらなる快感を求め始めた。

 

(すぐにおまんこを触らせたがるなんて、ルプーやらしい。……おまんこで気持ちいいのってどんな感じなのかしら? 私の体だと今一つわからないけど。その代わりにお兄様のミルクの美味しさだったらよくわかってるわ。ルプーたちはこの美味しさがわからないのよね♪)

 

 自分の乳首が、愛しのお兄様の口の中にあるのをうっとりと見つめ、ソリュシャンは攻勢に出た。

 特製のソリュシャン汁は、乳首以外からも出せるのだ。

 今度は口から。艶やかな唇でお兄様の口を塞ぎ、舌を絡めて唾を舐めとる。唾も美味しいお兄様。返礼に飲ませる唾は、おっぱいと同じソリュシャンのおつゆ。

 くちくちじゅるじゅると鳴らしながら、ソリュシャンの手はズボンの中へ。

 久しぶりに握る逸物は、記憶よりも熱く、逞しかった。

 

「ソリュシャンのおっぱいとキスでこんなになってしまわれたのですね。すぐにお慰めいたしますわぁ♡」

「あっ、ソーちゃんずるいっす!」

「……もう! ルプーはしばらく手でしてもらってて。手でも気持ちいいんでしょ?」

「それはそうっすけど。でも一回出したら交代っすからね?」

「わかったわよ」

「あっ、そこぉ! いつ入れたんすかぁ。あっあっ、おまんこの中こすられてるっすよぉ。あひっ!? 今のどこをどうやって……あああぁああぁあんっ!!」

 

 ルプスレギナが鳴き出した。

 不満そうなルプスレギナにお兄様が気を利かせたらしいのが、ソリュシャンにはなんとなく面白くない。肉の快楽は、ソリュシャンにはおぼろげにしかわからないのだ。

 ルプスレギナがそうなるなら、自分は早くミルクを飲ませてもらおうと、お兄様のズボンを手早く脱がす。

 自分の体を覆いにして、カルカからはお兄様の体が見えないようにする。カルカは床の上にぺたりと座ったまま、こちらを凝視していた。

 

「ふふ…、相変わらずお兄様のおちんぽは大きくて凶悪で、とっても美味しそうで可愛らしくて、ソリュシャンの口にいっぱい出してくださいな」

 

 屹立した肉棒をぱくりと咥える。根本まで咥えるディープスロートは、ソリュシャンが得意とするところ。

 ルプスレギナの嬌声を聞きながら、頭を上下に振り始めた。

 口の中いっぱいに感じる熱さ。雄の匂いは尿道口からにじみ出る先走りの汁。逸物を深く咥えていても、ソリュシャンならじっくり味わうことが出来る。

 ねとねとした汁はお兄様がきちんと感じてくれている証拠。奉仕の喜びに、ソリュシャンは胸を熱くした。

 お兄様が気持ちよくなってくれて、自分はとっても美味しいミルクを飲める。とても素晴らしいことではないか。

 

 久しぶりのフェラチオだけども上手に出来ている。

 逸物をしゃぶるだけではなく、手を伸ばしてお兄様の体を愛撫するのも忘れない。

 予兆を感じ、深く咥えた。根本を唇で挟み、スライムであるソリュシャンにしか出来ない舌技でもって逸物の裏筋を丹念に舐め上げる。口内でれろれろと舐めてやり、上目遣いに見るお兄様は、美貌を苦しそうに歪めた。

 ソリュシャンは嫣然と笑って、唇をゆるめた。

 

 瞬間、どびゅどびゅと熱い粘液が口の中に吐き出される。

 口内射精を、ソリュシャンはうっとりと受け止めた。

 久しぶりのスライムフェラで、射精直前にちょっぴり意地悪したからか、量が多い。

 長い射精が終わっても、すぐには逸物を離さない。

 ちゅるちゅると吸って、尿道に残った精液を残らず吸いあげるお掃除フェラ。

 お掃除フェラが終わっても離れない。

 今度はゆるゆると舐めて、萎えそうになる逸物を奮い立たせる。

 離れた時は、ちゅぷんと鳴った。

 

「お兄様のミルク、とっても美味しかったですわ。ソリュシャンのお口はいかがでしたか? お兄様がお望みでしたら何度でも」

「だから今度は私の番っすよ!」

「仕方ないわ……ね………………」

「?」

 

 男から降りたソリュシャンは、何故かソファから離れた。そのままカルカの方へ歩いていく。

 ルプスレギナは小首を傾げるも、次は自分の番だと男の上に乗ろうとして、止められた。

 肩が掴まれている。漆黒のローブから伸びた手だ。

 

「あ゛? なに邪魔してんすか? 自分が何してるのかわかってないみたいっすね? こりゃ体に教えないと……」

 

 どこからかルプールプーと念が送られてきた。

 前を見ると、全裸で床に正座するソリュシャンが必死な顔をしている。その隣には姿勢を正したカルカが。

 カルカがそこにいるなら、この手は一体誰の手か。

 

 ルプスレギナは、祈りながら恐る恐る振り向いて、視線を上に。

 フードの奥で、黄金の瞳が裂けていた。

 

 ルプスレギナはゆっくりと男の上から降りた。

 床の上に正座して、額を床に擦り付ける。

 これぞナザリックに伝わる由緒正しい謝罪の形。土下座である。

 

「上位者への暴言は組織の秩序を著しく乱しかねません。ナザリックでは内憂罪に匹敵する大罪となりえます」

 

 内憂罪とは語感の可愛さとは裏腹に、クーデター等に適用される国家反逆罪を指す。他国と共謀して自国への武力行使を招く外患罪と同じレベルの罪であり、どこの国家であっても死刑が適用される。

 

 死刑宣告されたルプスレギナは、スライムでもないのにプルプルと震え始めた。

 

 フードが上げられる。

 現れたのは、カルカなぞ影すら踏めぬいと高き真なる美。

 アルベド様であった。

 

 

 

 

 

 

 混沌としていた。

 

 可愛い給仕係は下半身丸出しでソファの上。

 全裸のソリュシャンが跪き、隣にはローブをまとった見知らぬ人間の女。ルプスレギナは土下座したまま震えている。

 

 アルベドが帝都のお屋敷を訪れたのは、カルカの存在が関係する。

 ナザリックでお仕事をしていたらデミウルゴスが一時帰還。アルベドの部下の部下を帝都に遣ったので一度見てきては。

 アインズ様もお勧めになったので、お言葉に甘えたらこの状況。一体何から聞けばよいのか。

 

「ルプスレギナの暴言は内憂罪に匹敵しますが、アルベド様がいらっしゃったとわからなかった様子。甚だ無礼な振る舞いではありましたが、過失でありました。予期できないご来訪でしたので大事にはせず、厳重な注意が適当かと思われます」

「……そうね」

 

 死刑宣告からの救済。ルプスレギナは命を繋いだ。

 

「そこにいるのが、デミウルゴス様が私へのお土産としてくださったカルカ・ベサーレスでございます。デミウルゴス様は名を伏せるよう仰いましたので、以降はベサーレスを名乗らせず、ただのカルカとして扱うつもりでおります」

 

 金色の髪をした細面の女が、デミウルゴスが言う部下の部下であるらしい。

 新緑の目を大きく見開いて凝視してくる。不快な気持ちを視線に乗せれば、弾かれたように跪き、顔を伏せた。

 

「デミウルゴス様はこの女をお兄様の妻にと仰いましたが、多少顔が見れる程度の生娘に妻の務めが果たせるとは思えず、私どもが手本を見せておりましたところでございます」

「妻?」

 

 視線に熱が乗った。炙られたカルカはルプスレギナと同じように震え始める。

 

「対外的に、と言うことでございます」

「そういうことね」

 

 さすがのアルベドは、それだけでデミウルゴスの真意を悟った。

 

「右も左もわからぬ人間の女です。お言葉ではございますが、お兄様の妻に相応しいとは思えません」

「教えてやりなさい」

「かしこまりました」

 

 恭しく頭を垂れるが下半身丸出しである。

 幸いにも、床上の三人の前に仁王立ちするアルベドの後ろ。こっそりズボンを履きながらソリュシャンの疑問に答えた。

 

「外の反対は内。内とは魔導国及びナザリックを指します。なお、この屋敷は帝都にありますが魔導国の公館でありますので、魔導国内として扱います。外とはそれ以外のこと。対外的な妻とは、内ではなく外での妻。外で見せるためと言うことです。飾りと言い換えてもよろしいでしょう」

 

 実質的ではない。見せるためだけの飾り。

 それが、デミウルゴスがカルカに与えた役割である。当人が望めば実質的な妻にしてもよいとも含んでいる。

 

「単に外で見せるだけなら何方でも可能ではあるのですが、帝都で過ごすならば社交の術が必須となります」

 

 それくらいなら自分にも出来ると、ソリュシャンとルプスレギナは強く思う。

 人間を下等と思いはすれど、演技は上手い二人である。望まれる通りの上品な振る舞いに、当たり障りのない会話は何の苦もなくこなすことが出来る。

 

「そろそろ夜会の誘いを断れなくなってきました。夜会ならダンスが必ずあります。カルカなら問題ないでしょう。……問題ないな?」

「はい! いつどこでどのような殿方と踊ることになっても問題ないように入念な練習を」

「余計な事は言わなくていい」

「失礼しました」

「お前は踊れるのかしら?」

「帝都の社交で必要とされる舞踏は一通り修めております」

「…………そう」

 

 言うまでもなく、ラナーに仕込まれた。ステップを間違う度に散々足を踏まれたものである。女の足と侮るなかれ、鋭いヒールで踏みつけるのだ。あれはとても痛かった。

 

 ダンスと聞いて、ソリュシャンとルプスレギナは撃沈した。二人は全く踊れない。

 アルベドも内心でほぞを噛む。ダンスの練習なぞ考えたこともなかった。もちろん全く踊れない。

 アインズ様も踊れない。こう言うことは得意そうなデミウルゴスも踊れない。あらゆる技能を持つパンドラズ・アクターもたまたまダンススキルは持ってなかった。

 ナザリックにおいて、ダンスを得手とするのはたった一人。否、一体。否、一匹。その名を、恐怖公。直立歩行するゴキブリである。ゴキブリからダンスを習うのだろうか。他に手段がないならそうすべきなのかも知れない。

 

「そのような事情があり、以降はカルカを使っていくつもりでございます」

「…………」

 

 アルベドは無言。顔を伏せるカルカの前に立つ。

 白い靴の爪先がカルカの視界に入り、顔を上げたくなる誘惑を何とか堪えた。

 

「顔を上げなさい」

「はい」

 

 脅えの声に混じる色は何色か。色々と混沌としていて不機嫌そうなアルベドを前に、カルカの目は輝いていた。

 

 どうしてそんな目で見られるのか。

 魔導国の宰相にしてナザリックの守護者統括である己を軽く見ているのか。

 如何にデミウルゴスが有用として連れてきた者であっても、自分を軽んじる人間は到底許せない。

 

「何か言いたそうな顔をしているわね。言ってみなさい」

 

 事によったら最後の言葉。

 アルベドは、デミウルゴスの決定を覆す権限を持つ。

 

「はい。それでは、恐れ多いことでございますが」

 

 カルカは現在の状況も保身も忘れて、心からの言葉を紡いだ。

 

「アルベド様、とお呼びしてよろしいでしょうか?」

「ええ」

「私は、アルベド様ほどお美しい女性に初めてお目にかかりました。私は女として、美の追求に手を緩めたことはございません。美の果てには何があるのかと常日頃から思っておりました。その答えを目の当たりにしたように存じます」

 

 アルベドは面食らった。

 己の美しさに自負があるアルベドだ。美しいと言われるのは、こんにちは、と同じで言われ慣れている。それは、当たり前のことだ。自身の給仕係の言葉を借りれば、太陽を指して太陽と言うのと同じ。

 しかし、アルベドでさえ認めてやっても良い美貌から言われるとなると意味が違う。

 本当に美しいと言うことである。

 

 長く美を追求し続けてきたカルカは、美の信奉者だ。

 目の前で始まった男と女たちの交わりは、初めて目にする痴態に恥じらうところがないでもないが、それよりもソリュシャンのスタイルと肌の美しさに見とれた。

 自分があれほどまで必死になって保ってきた美肌を、完全に理想的な状態で体現している。どうしてそんなに綺麗でいられるのか、男女のなにやらよりも興味を引いた。

 

 そして、この場の三者よりも上位にあられる様子のアルベド様。

 お体は漆黒のローブに包まれているので不明であるが、お顔の美しさはなんと例えれば良いのか。

 肌の調子。目鼻の形。気高い黄金の瞳。長い睫。ふっくらとなまめかしい紅の唇。漆黒の髪は夜闇を連れてきたかのよう。髪の艶は日輪ではあるまいか。

 

 優れた形ならカルカにも理解できた。アルベドはカルカに理解できないものを体現していた。

 色香、である。

 

 100レベルの覚醒サキュバスだ。

 それはもう色々なことを経験してきた。

 前も後ろもお口も胸も、全身性器と言って過言でないアルベドは、同性にも強烈な色香を叩きつける。

 美しさに淫蕩が合わさって、アルベドは無敵であった。

 

 

 

 

 

 

 やられた!!

 

 ソリュシャンとルプスレギナが思うのはこれである。

 アルベドが美しいとは、男が心の底から信仰している真実である。

 ナザリックを誉めておけば上機嫌になるアインズ様と同じで、アルベド様の美貌を讃えれば上機嫌になる男である。急所を突けばとてもチョロい男たちであった。

 

「アルベド様は美の何たるかを世界にお伝えくださったお方。美の果てとはそう見当外れでもないでしょう」

 

 満足そうに頷く。

 こうも言われたら、アルベドも悪い気はしない。

 

「目は開いてるようね」

 

 顎をしゃくってカルカを立たせる。

 

「脱ぎなさい」

「…………え」

「耳はないようね。使い物になるのかしら」

「は、はい! 直ちに」

 

 アルベドは漆黒のローブを脱ぎ捨てた。後ろで男がキャッチしてフックに掛ける。今日のドレスは余計な装飾がない白い上下。仕立ては極上。簡素故にスタイルの良さが際だつ装い。

 

 カルカもローブの前を開く。何故か、肌色が現れた。

 体を屈ませ、小さくなりながらローブを脱ぐ。

 現れたのはむき出しの細い肩。乳房は左腕で隠し、股間には右手を添える。やや細目の太股は固く閉じられた。顔も体も赤くして、アルベドを直視できずに俯いた。

 全裸だった。

 黒い長手袋と膝まであるブーツを着けてはいるが、体を隠すのはカルカの手だけ。

 

 デミウルゴスは、プレゼントだというのにラッピングを怠ったのであった。

 

「手をどけなさい。背筋も伸ばす」

 

 命じ、裸体となったカルカを、アルベドはしげしげと検分する。

 豊満とは言えない体つき。ただし、均整がとれている。下の毛は柔らかな金色。形よく整えてある。足を開かせても、秘部から陰唇が覗くことはない無垢な一本筋。

 清楚さを感じさせるカルカなら、このくらいの体が良いのかも知れない。

 

「ソリュシャンとカルカ。バランスが悪いわ。ルプスレギナも脱ぎなさい」

「うぇ!?」

「耳は大きいのに飾りなのね」

「はっ! 直ちに!」

 

 ルプスレギナも服を脱ぐ。

 帽子も脱いで、赤毛に包まれた大きな耳がぴょこんと立った。

 褐色の肌は、白い二人との対比でよく映える。

 

「どうして服を着てるのよ。あなたも脱ぎなさい!」

 

 飛び火した。

 こっそり服を整えていたのに、またもや脱ぐことになってしまった。

 今度はズボンだけでなく、上もである。

 

 床上には全裸の女が三人。服を着ているアルベドの後ろにはやはり全裸の男。こちらはソファの上に座るよう命じられた。

 

「ルプスレギナは、今度は自分の番と言っていたわね。ソリュシャン、ルプスレギナをよがらせてやりなさい」

「うぇ!?」

「かしこまりました」

「うぇえ!?!?」

 

(ちょちょちょソーちゃん何言っちゃってるんすか!)

(先の非礼のお叱りを受けるのに比べたら何てことないでしょう?)

(それはそうっすけど……)

(大丈夫。お兄様がなさってることをずっと覗き見してきたわ。初めてだけどきっと上手に出来るはずよ)

(不安しかないっすよ!)

 

「演技で誤魔化そうなんて思わないことね。私は本当か嘘か見抜けるのよ」

 

 覚醒したサキュバスの目は、本気で感じてるか否かを見抜くのだ。

 

「お前はルプスレギナをよく見ていなさい」

「はい。仰せの通りに」

 

 カルカは、ルプスレギナの裸にも見とれていた。こちらも美しい肌にメリハリのある体。

 ヤルダバオトに敗北して以降、世界の広さを思い知らされてばかり。

 

「さて……」

 

 賓客を迎える応接間は、ふかふかの絨毯が敷かれている。寝転がっても貴族のベッドより快適である。

 ルプスレギナは両手両膝を床につき、顔を赤らめて尻を持ち上げた。

 舌なめずりするソリュシャンはその後ろ。長い指が妖しげに蠢いた。

 

 カルカは床に正座中。

 ソリュシャンとルプスレギナの様子から、この座り方が魔導国では正しい座り方なのだと察していた。

 

 アルベドは椅子に座る。

 人間椅子である。ソファに座らせた男の膝上。

 

(これは!)

 

 太股にアルベドの尻が乗せられ、男の脳裏を過ぎったのはエ・ランテルの最後の夜。

 その夜、アルベドが履いていたのは純白のロングスカートであった。幽かに発光し、影のないシルエットスカート。その実、細い帯で構成されており、履いたまま内側を触れるエロ衣装。

 

 アルベドが手を後ろに回し、さわさわと撫でてくる。

 そんなことをされれば勃起不可避。

 

「さあ……、始めなさい」

 

 ソリュシャンが手を伸ばす。

 アルベドは深く腰掛けた。




どうしてこうなったと自分で思います
ちゃんとしたソリュシャン回がたぶんそのうちあるはずです


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泣かされた赤犬 ▽ルプスレギナ/アルベド

 美しい微笑を湛えたソリュシャンは、四つん這いになっている姉の姿に心地よい嗜虐と勝利の感触を得ていた。

 

 ルプスレギナは姉であると同時に、お兄様のお嫁さんの座を競うライバルでもある。

 ここでルプスレギナをぬぷぬぷのねちょねちょでえろえろのあへあへにしてしまえば自分に頭が上がらなくなるはず。お嫁さんレースにおいて一歩先んじることが出来る。

 不安も失敗の恐れもない。なにせ、

 

「ルプスレギナはクリ派? それとも中派?」

 

 アルベド様がとってもいい笑顔で問いかけていらっしゃる。

 

「お……恐れながら、お言葉の意味が」

「少し考えればわかるはずだけどせっかくだから教えてあげるわ。クリはクリトリス。中はおまんこに入れること。どっちが好きかしら?」

 

「それは……」

「それは?」

「はい……、一人でするときは、クリトリスです。してもらうときは中の方が……」

「それなら最初はクリを責めて、中はそれからね。ソリュシャン、わかった?」

「承知いたしました」

 

 アルベド様がルプー責めをフルサポートしてくださるのだ。これで失敗するわけがない。

 

 ソリュシャンは蠢く指をルプスレギナに伸ばそうとして、

 

「ところで、してもらうって誰にしてもらうのかしら?」

 

 ピタリと止まった。

 

こ、これは正直に言っていいんすかね?

いいと思うわ。アルベド様はお気になさらないはずよ

 

 ソリュシャンがお兄様と初めて会ったその日に、ソリュシャンはアルベド様のお許しを得てアルベド様の目の前で、お兄様のミルクをおまんこから吸収した。実態はお食事でもセックスそのものである。ルプスレギナがお兄様に何をされていようと、アルベド様はお叱りはしないと思われた。

 むしろ上位者へ偽りを答える方が非礼だ。

 

「アルベド様の相談役殿にしてもらいました」

「ふぅん、そう。そうなのね」

「うっ」

 

 アルベド様の後ろから小さな呻き声。

 

 アルベド様に知られた事を心苦しく思うのか。それともアルベド様が何かしらのお仕置きをなさったのか。

 恥を恥と知らないお兄様。アルベド様だけは特別だろうから如何とも言えないが、ルプスレギナと関係あることを知られた程度では何とも思わないのではないだろうか。

 アルベド様のお仕置きも、お兄様の膝上に座っているだけで両肘はご自身の膝について頬杖をついている。お仕置きをしようにも何も出来ないと思われる。それ以前に、サキュバスであるアルベド様がそのような事を気になさるとは思いがたい。

 薄く頬を染めているのは気にかかる。ルプスレギナの痴態を楽しんでいらっしゃるのかも知れない。

 

「いいわ。始めなさい」

 

 ソリュシャンの手はルプスレギナに届いた。

 

 

 

 

 

 

 ルプスレギナは両手両膝を床についた四つん這い。別名をわんわんポーズ。背を反らして腰を上げ、尻を突きだしている。

 程良く足を開いているので、尻の割れ目に隠されている諸々がソリュシャンからはよく見えた。

 きゅっと締まった窄まりは如何にも閉じている感じがあって、無理矢理こじ開けたくなるのをぐっと我慢。アルベド様のオーダーはクリトリスである。

 肛門のすぐ下。割れ目は小さく開いて陰唇がはみ出ている。ふにふにと柔らかい薄い肉。先端が少しだけ黒ずんでいるのは、よく使っているのと、ルプスレギナ自身の肌の色が影響している。

 割れ目の脇に指を添え、そっと開いた。

 

「ルプスレギナの肌の色は褐色ですが、性器は綺麗なピンク色をしております」

 

 内側には色素がないため、肌の色は関係しない。アウラもピンクだ。

 

「それではクリトリスから始めます」

「その前に注意しておくことがあったわ。強くしてはダメよ? 優しくこすってやりなさい。単調な刺激をしつこいほど繰り返すの。クリちゃんが立ってきても同じようにこすりなさい」

「かしこまりました」

 

 ソリュシャンの返事はきわめて真面目腐っているが、内心は嗜虐の悦びに溢れている。

 

「ひっ」

「顔は上げていなさい。私からよく見えるように」

「か、かしこまり、ましたっ」

 

 割れ目の前についてる小さな肉芽。

 ソリュシャンは指先からソリュシャン汁を分泌しながら、ルプスレギナに触れた。わざわざ汁を出さなくても、ルプスレギナ自身が湿らせていた。

 

「皮を被っております。如何いたしましょうか?」

「剥きなさい」

「はい。では……」

「あっ!」

 

 言われたとおりに包皮を剥いて、指を這わせる。

 ソリュシャンの指はたちどころに形を失い、肉芽全体を覆った。

 

「あっ、くぅ……! んんっ……!」

 

 人の指では不可能な愛撫。

 柔らかな愛撫だけなら舌で出来るが、ソリュシャンの指は全体を包み込んでいる。

 吸われているようでいて舐められている感じもある。

 妹の指で感じてなるかと思っていたのに、鳴かされている。

 さっきまで男の指で愛撫されていたのが効いている。あれは気持ちよかったし興奮したし、次への期待を多いに駆り立てられた。

 

「あっという間にクリトリスが勃起してきました」

「オナニーするときはクリトリスって言っていたから開発されきってるみたいね。それとも、開発したのはこの子かしら?」

「うっ……」

 

 またもや小さな呻き声。

 アルベドは嗜虐に頬を染め、妖艶に笑った。

 

「おつゆはどうかしら?」

「分泌されています。始めは閉じていた膣が小さく開きまして、透明な汁を貯めているのが見えます。膣が開け閉めする度に溢れてきます。クリトリスまで垂れてきました」

「やあぁぁ……、言っちゃいやっすよぉ、あふっ……」

「ルプーは忘れてるの? 私は指からでも味を感じられるのよ。ルプーのおつゆはこんな味だったのね」

「なっなっ……、なに言ってるんすか!」

「美味しいのかしら?」

「……不快な味ではございません。好んで味わおうとも思えませんが」

 

 自分のおつゆの味は知ってるアルベドである。

 まさか自分で舐めたわけではない。舐めさせて吸わせてから、キスをして味わった。

 

 ルプスレギナは目に涙を溜めている。

 姉妹に裸を見せることくらいなら風呂で何度もあったことだが、性器まではない。

 それなのに、今は感じて濡れているところを見られている。感じさせられている。愛液を垂れ流すところを観察されている。味すら知られてしまった。

 男に初めておっぱいを見られた時も恥ずかしかったが、その比ではない。

 泣いてしまうほど恥ずかしい。叶うならば逃げ出したい。

 それなのに、快感を教え込まれた肉体は裏切った。ソリュシャンの愛撫を悦んでいる。

 

「んっ……んっ……、あっ、やっ、くりがぁ……そーちゃぁあん!」

 

 変幻自在の指は柔らかくて温かくてぬるぬるとして、クリトリスに吸いついたまま繊細な振動を送り続けてくる。

 初めての刺激で、嫌ではなくて、正直に言うとかなり良い。

 この場では乱れることがアルベド様への謝罪につながると思えば、抵抗しようとする気持ちが失せてくる。

 アルベド様は、妖しく微笑んで自分を見下ろしている。

 唇が小さく動き、息を吐いたのが見えた。

 吐息が届くわけがない。それなのに、暖かい何かで全身を包まれたように感じた。

 

「あっ……んっ……。もぅ……あっ、ああぁあああぁっ!」

 

 ルプスレギナは、手を突いている絨毯をぎゅっと握る。

 顔は伏せるなと言われているので、きゅっと目をつむった。

 顎を反らせて高い声で鳴くのは、吠えているようにも見えた。

 

「達したようです。愛液の量が急に増えました。クリトリスが膨らみきって小さく震えています」

「もういっちゃったの?」

「あ……あさく、……です」

「その割には大きな声だったわ」

「………………うぅ」

 

 いつも声を抑えない全力プレイのルプスレギナだ。叫んでるみたいだと言われたこともある。感じた声を抑えようとは思えなかった。

 

「少しだけ休ませたら、次はおまんこね」

「膣に挿入するのですね。指の形は如何いたしましょう?」

 

 指の太さも長さも変幻自在のスライムボディである。

 

「中指と薬指を合わせた太さでいいわ。でも、一番奥まで届くようになさい」

 

 ソリュシャンは微笑みながら指を伸ばす

 アルベドは内心で、自分がされてるみたいに、と付け加えた。

 

 

 

 アルベドは三人の女たちの目の前で、一番奥まで入れている。セックスしているのだ!

 

 男の膝上に座ったアルベドは、後ろ手に逸物を扱いて強制勃起。

 男には浅く座らせアルベドは深く腰掛け、スカートの中に入ってきた勃起おちんぽを雌穴で受け入れた。逸物を視認すらしていない背面座位での挿入。

 騎乗位がうまく出来なくて無様に逃げ帰った処女サキュバスはもういない。今やあらゆる体位をこなし、その全てで中出しさせ、覚醒を果たした美しく淫らな女王である。

 

(ふふ……、三人とも私がセックスしてるなんて全然気付いてないようね。ソリュシャンだけはちらちら見てくるけど、スカートを履いてるんだもの。おちんぽを入れてるなんて想像も出来ないでしょう?)

 

 男の匂いを嗅げば濡れてくる。想像するだけでしっとりしてくる。勃起させたおちんぽに触れれば、それだけで挿入可能な淫らな肉体。前戯なしでも問題ない。

 欠けた部分を埋められている一体感と充足感。

 

(この子のおちんぽがおまんこに入っていると……、何て言えばいいのかしら。私たちは本当は二人で一つだったんじゃないかって気がしてくるわ。だって入れてるだけでこんなに気持ちよくて幸せで……。でもソリュシャンに出してルプスレギナにもしようとして。ちょっとお仕置きをしないといけないわね。お仕置きじゃなくてご褒美になっちゃうかしら?)

 

「うっ」

 

 シークレットサキュバススキル「サクリファイス・イグゾースト」である。

 自身の絶頂を代償に、挿入している逸物へ射精を強制するのだ。射精には当然快感が伴っている。但し、乱発すると男が死ぬ。上限は十回と決めている。

 

 膣内で熱い逸物が脈打ち、アルベドの胎の奥で白濁した粘液を迸らせている。

 アルベドは子宮口に精液を掛けられているのを、甘い快感とともに感じていた。

 快感はアルベドにも絶頂を促し、膣がきゅうきゅうと締まって逸物を絞り始める。

 

(ああ……、おちんぽがきもちいわぁ。でもやっぱりスキルを使わないセックスの方がいいわね。こっちも気持ちいいしおちんぽミルクを絞るだけならいいのだけど)

 

 淫靡に頬を染め、快感に煙る目は閉じて見せない。

 絶頂しようとも、ルプスレギナの言葉を借りれば浅イキ。この程度で淫らな声を漏らすほどサキュバスの嬌声は安くない。

 

「あっやっ、やっやあぁ……、おく……、おくまできてるっすよぉ! そこまで入っちゃだめぇえ!」

 

 ルプスレギナが喘いでいる。

 ソリュシャンの指はルプスレギナの膣に挿入され、子宮口を撫でていた。指は更に細く長く、精液だけが通る道を通って更に奥へ。

 子宮の中すら愛撫されていた。

 

 女の腹へ指を入れるのは初めてではないソリュシャンである。今はセバスの副官となっているツアレを治療する際、健康状態把握のために隅々まで確認した。子宮の中もそこに含まれている。

 

「ルプーの赤ちゃんの部屋に私の指が入ってるのよ。まだ誰もいないようね。ここにどんな子が来るのかしら?」

「ひぃっ……、うあぁ! あっ、あっああんっ! あんっ! あんっ! ああんっ♡」

 

 アルベド様のお言葉を忖度しての深いじり。

 指先は子宮を撫でながら膣内も忘れず、ルプスレギナの反応がよいところを優しく、けども小刻みにリズムよく擦っている。クリトリスにも指は吸いついて、アルベド様の助言通りに優しい愛撫を続けている。

 膣内に溢れる愛液がソリュシャンの指を伝い、ぽたぽたと床にシミを作り出す。

 

「そう、そうよ。クリちゃんと、その内側を同時に擦ってあげるの。そこまでするならお尻の穴もしてあげなさい。ソリュシャンはこの子のお尻の穴をきれいにしたことがあったわね。ルプスレギナにも出来るでしょう?」

「造作もないことでございます。ただ、両手が塞がっておりますので……」

 

 ソリュシャンの舌が唇を一周した。れろりと出した赤い舌が、顎まで届いてから口の中へ戻る。手指が伸ばせるのだから、舌だって伸ばせるソリュシャンだ。その技でもって、いつぞやは直腸洗浄させられた。

 

「そーちゃんなにをっ!? ああああぁっ!! はいってるっすはいってるっす! おしりのあなぁ、なにいれてるんすかぁ!」

 

 視覚は不要。触覚が肝要。

 ソリュシャンは目を閉じて、ルプスレギナの尻に唇を付けた。

 ルプスレギナの体温で、むわっとした熱気が顔にまとわりつく。赤い舌は尻の割れ目に沿って上下し、舌先が目的地を見つけた。

 細めた舌が、こじ開けたいと思っていた門に進入していく。

 

 森のほとりで、男からされそうになっていた両穴責めを、妹からされていた。

 体の中なのか頭の中なのか、自分の何かが弾けてしまったようで、ルプスレギナは只々甲高い声で鳴き始めた。

 

「二人とも夢中ね。姉妹とはかくあるべきよ。…………ねぇ?」

 

 ルプスレギナは顔を上げる力もないらしい。床についていた両手は崩れ、顔を絨毯に埋めている。

 ソリュシャンは姉を責めることに一生懸命。目は閉じているし、開けていたとしてもルプスレギナの尻しか見えないだろう。

 カルカはと言うと、真っ赤な顔を両手で隠し、指の隙間からルプスレギナの痴態を凝視している。

 三人とも、こちらに注意をはらう気配はなし。

 アルベドは軽く振り向き、小さな声で話した。

 

(私のおっぱい揉んでいいわよ? 触りたいでしょう? わたしのおっぱい。乳首もつまんでいいわ)

 

 今日のトップスは、肩を見せるゆったりとしたドレープブラウス。波打つように仕立てた生地が上品なシルエットを作り出す。

 そしてゆったりとしているのだから、襟にも脇にも裾にも隙間があった。

 裾から入り込んだ腕は、波打つ生地に隠れて目立たない。

 豊かな乳房を包まれて、アルベドは体を震わせた。

 

(あん♡ おっぱい揉まれちゃってるぅ。ソリュシャンたちがいるのにセックスしておっぱいまでもまれちゃって。やん、もう乳首たっちゃったぁ……。ねえ、乳首もくりくりしてぇ♡)

 

 小声で交わす睦言は二人だけの秘密。

 ブラウスの下で蠢く手が柔らかな乳房を思うさま形を変えつつ、尖った突起を指で摘まんだ。

 触れているだけで幸せになれるアルベド様の至高の美乳。それを揉んでいいのだ。勃起した乳首を摘まんでいいのだ。強くとせがまれ、指が乳肉に埋まりきった。乳首は潰れてしまえと言わんばかりにきつく摘まむ。

 

(あっ、やだっ。……わたし、ドキドキしてる。おっぱいもまれてるのにこんなにドキドキしちゃったらわかっちゃうじゃない! おっぱいもんでもらうのもセックスも初めてじゃないのに。こっそりセックスしてるからドキドキしちゃうの? あっ、すごい、ドキドキが……、なにか来ちゃう!)

 

 スキルは使わない。代わりに、少しだけ腰を浮かせる。

 根本まで入っていた逸物がずるりと抜けかけた。

 

(あなたが……、し・て♡ あんっ!)

 

 下に座る男が腰を浮かせて打ち付けた。

 対面ならともかく、背面座位なら上に乗る女が腰を振るべき。

 しかしアルベド様へそのような注文をつけられようものか。

 

「あっあっあっ! そーちゃっあぁんっ! おまんこもおしりもぉっ! イクッ! イッちゃうっすよぉ!」

「いっていいのよルプー。私の手でいかせてあげるわ♡」

んっんっ……んんっ、もっともっと! 早くイカセて! おまんこよくしてっ! あなたのおちんぽミルク、わたしの子宮で全部受け止めてあげるからっ♡

 

 男にだけ聞かせる甘い声。

 スキルによって三度も射精させ、アルベドが垂らしているアルベド汁もあって、繋がっている部分は溶け合うほどに。

 男は腰を降り続け、アルベドもスカートの中に手を入れた。

 開いた割れ目に指を添え、自身の膣内を行き来する逸物を確かめる。柔らかな媚肉はアルベドが垂らした愛液でとろとろになっていた。細い指に愛液をまとうと、ルプスレギナが責められているのと同じクリトリスへ指の腹を押し当てた。

 勃起しきった肉芽は包皮が剥けて、一人の時より膨らんでいる。くにくにと擦り始めれば、期待以上の快感があった。

 体が溶けて、白い光が散っている。

 幾重もの波が続けざまに押し寄せて、アルベドの心身を飲み込もうとしている。

 

(ダメよダメ! 声は抑えなきゃ! こんなところでエッチな声を聞かせられないわ。ルプスレギナがイッちゃったらソリュシャンがこっちを見ちゃう! それまでに、でもスキルはイヤ! でもそろそろ来ちゃう! 来ちゃうのぉ♡)

 

 何度もこなしているアルベドだ。

 敏感に予兆を感じ取る。

 来ると思った瞬間に、浮かせた腰を落とした。撫でていたクリトリスをきゅっと摘まんだ。

 下からも突き上げられ、雌穴を犯す逸物がアルベドの一番奥へ。

 計ったように両乳房を強く掴まれた。

 

「~~~~~~~~~~~~っ!!!」

 

 口は押さえる。声にならない声が出た。

 アルベドの体の中で、子宮口にキスしている尿道口から、どぴゅどぴゅと熱い精液が吐き出された。

 膣壁が蠕動して逸物を絞っている。精液を逃さず、子宮の中へ導いている。

 美味しくて、栄養たっぷりで、赤ちゃんの素で、愛し合って達した証が、アルベドの雌をこれでもかと悦ばせた。

 

 この瞬間は、自分はただの雌になってこの男に愛されてセックスをして子宮に精液を注がれて、それだけのために生まれたのだと思ってしまう。

 心も体も悦び、スキルに依らない絶頂の余韻が心地よい安寧をもたらしてくれる。

 

「あっあっあっ、ひゃあああぁぁぁぁぁああぁぁあああああぁぁっ!!!」

 

 顔を絨毯に埋めたルプスレギナが、尻だけを高く上げて甲高く鳴いた。

 ぷしゅっとか、ぴちゃっとか、派手な水音が続く。

 アルベドに少し遅れて、ルプスレギナも達したようだ。スライムであるソリュシャンにしかできないクリトリス・ヴァギナ・アナルの三点同時責め「CVAアタック」にルプスレギナは抵抗できなかった。

 

「ひっ……うっ、うぅ……ひっく…………」

 

 褐色の尻が小さく震える。

 髪の毛と同じ色の陰毛は淫液で濡れそぼり肌に張り付いている。どんな汁をこぼしたものか、ソリュシャンが離れてもぽたりぽたりと絨毯に落ち続ける。

 尻の穴はきゅうと締まっては緩み、膣口も同期して開け閉めする様は、激しい運動で荒い呼吸をしているように見えた。

 

 嗚咽の声が続いた。

 

 人間椅子から下りたアルベドはルプスレギナの前に立つ。

 屈み、顎を掴んで上を向かせた。ルプスレギナは泣いていた。

 悦楽の余韻に羞恥と恐怖が混ざり合っている。頬は涙に濡れ、唇の端から垂れているのは涎だろうか。

 

「いい顔ね。さっきの暴言はこれで不問にしてあげるわ」

「あ……ありがとう、ございます……」

「ソリュシャン、ご苦労様」

「恐縮でございます」

 

 アルベドはドアへ向かい、去り際にカルカを一瞥し、

 

「その女を孕ませては駄目よ」

 

 言い置いて立ち去った。

 

 

 

 

 

 

「うえええええええええぇえぇえん!!」

 

 ガバッグヘッ!

 

 号泣するルプスレギナがソファの上でぐったりしている男へ飛びついた。

 

「あむっ……ちゅうぅぅ! れろ。じゅる……ちゅうっ…………、ぷはぁ。うえええぇぇん! ソーちゃんに汚されちゃったっすよーーーっ!!」

 

 男の唇を貪り、気が済むまで唾液を交換してから再度の号泣。

 

「おにーさんが綺麗にしてくれないと立ち直れないっす! って、なにグッタリしてるんすか! おにーさんはアルベド様の椅子してただけじゃないっすか!」

 

 ルプスレギナは全く気付いていなかった。ソリュシャンは怪しんではいたが確証を得られず。カルカはルプスレギナとソリュシャンに見入っていた。

 三人が気付かない内に、スキルによる搾精三回。気力を振り絞って下からの突き上げによって一回。立ち上がる直前にもスキルで一回。この短時間で五回もの射精を強いられていた。その前にソリュシャンから吸われているのも効いている。

 

《大治癒!》

 

 清浄な魔法の光が男を癒す。

 カルカは自分でも使えない高位魔法が突然飛び出たことに驚いた。史上稀なほどに優れた神官であるカルカが驚くほどの魔法が精力回復である。これぞナザリッククォリティ!

 

「元気になったっすね? それじゃあ……」

「待て! 後でしてやるから今は待て!」

「してやるってなんすかその言い方! おにーさんはアルベド様にデリカシー注意って言われてるはずっすよ!」

「うっ!? ……今のダメなの?」

「全然ダメっすね。だから私がじっくり教えてあげるっすから……」

「だから今は待った! 今はそんなことをしてる場合じゃなくて、カルカの受け入れ体制を整える方が先だ」

「そんなことってなんすか! 大体そんな女なんて適当にほっとけばいいじゃないっすか」

「おろかものお!」

「!?」

 

 この男がアルベド様に関わること以外で声を荒げるのは大変珍しい。

 そこまでこの女に執着しているのか。人間の男だからやはり人間の女がいいのか。

 ルプスレギナの目が危険に光り、今夜にも惨劇を繰り広げてやろうと決意した。したのだが、

 

「いいかよく聞け。飾りでも何でも、俺の妻役をするということは魔導国の顔になるということだ。見窄らしい女を社交に連れ出してみろ。それはアインズ様の顔に泥を塗るのと同じなんだぞ!」

「げ…………マジっすか?」

「マジだ」

 

 学士として帝都に来ている男だが、帝国からは魔導国の公使として扱われている。その妻が非常に公的な役割を担うのは当然である。

 飾りだからこそ綺麗に磨いて飾りたててやらないといけないのである。

 

 ルプスレギナは渋々と納得した。渋々であって、機会があったらひっくり返してやろうと思っている。

 カルカは、ひとまず自身の安全が保証されたようなので胸を撫で下ろした。

 

 ソリュシャンは何も言わない。アルベド様が去り際に残した言葉が、小さな棘のように刺さって痛む。

 

 とりあえず、ここまで全員全裸である。

 

 

 

 

 

 

 帝都のお屋敷が荒れて一段落した頃。

 デミウルゴスとの密談を終えたアインズは、帝国に向かうことを決断していた。




何かアンケートしようと思ってたんですが本文書いてたら忘れました
その内設置するかも知れません


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曇りところによって血の雨

最高気温が30度を下回る日が三日続かないともう書けないと前書きに書くために本話投稿


 魔導国の王様であられるアインズ様は魔皇ヤルダバオト討伐を目指して、聖王国の使節団と共に旅立ちました。

 しかしその数日後のことです。アインズ様はナザリックにてヤルダバオトに扮しているデミウルゴスと密談をしておりました。

 これは一体どうしたことでしょう。旅立ったアインズ様は何者なのでしょうか。何故かナザリックにいたアインズ様はデミウルゴスとどのような言葉を交わしたのでしょうか。

 

 事の始まりは、使節団訪問の直前にコキュートスがこんなことを言ったからです。

 

『アインズ様ガ開眼為サレタラウンドムーンキリングテックヲ越エル剣術ノ秘技。ドウカコノコキュートスメニ御教授願エマセヌデショウカ。伏シテオ願イ申シ上ゲマスル!』

 

 守護者一同非難轟々でありました。

 これから聖王国攻略に向けて大切な時期なのに何を言うか。アインズ様にお願いとは図々しいにも程がある。アインズ様にお願いするのだから伏してお願いするのは当たり前、等々。

 肝心のアインズ様は何がなにやらさっぱりでありました。支配者ロールで勿体ぶって、いったい何の話だ、と聞いてみると、アルベドから答えがありました。

 

 自身の相談役からアインズ様がラウンドムーンキリングテックなる剣術を越えたとの話を聞き、それをコキュートスに話してしまったがためにコキュートスは思いを抑えられなかったのではないかとのこと。

 

 アインズ様は何やら嫌な予感を抱えたままその場を散会。コキュートスには兎も角後でな、と言い含めておきました。

 

(私だアインズだ。待て。口を開くなメッセージがあったことを気取られるな。近くに誰かいるか? 人気がない場所へ行け。……移動したか? 周りから見えないところだな? よし、今そっちに行く)

 

 転移の魔法で帝都のお屋敷へ。

 

「アインズ様が私を呼び止めてお話されたことをアルベド様がお気に為されました。モモン様のことであればアルベド様の注意を引かないだろうと考えた次第であります。その時の話がコキュートス様に伝わるとは思ってもみないことでありました。アルベド様は剣術に興味をお持ちでないと判断しておりました」

 

 アインズ様は思わず額を打ちました。

 この男にこっそり弱気を吐露してしまった時のカバーストーリーが巡り巡って自分のところに刺さってしまったようなのです。

 

「ラウンドムーンキリングテックを越える剣術は我が胸中にございます。如何でしょう。いっそ帝都にお越しになられては? アインズ様としてではございません。モモン様としてでございます。ナザリックの方々には、アインズではなくモモンとして帝都の様子を見聞する必要があったとすれば納得してくださるでしょう。その際はアインズ様の役をパンドラズ・アクター様が担うことになりますので、情報交換を密にする必要がございます。無論、アインズ様のお手間を省くために私も尽力させていただきます。どうやら私は情報の整理を得手としていることに気付きましたところでございまして。魔導国の民へは、アインズ様が不在の今こそモモンとして帝国との誼を結ぶとお話になればよろしいかと。魔導国の中枢に事あった際、帝国は魔導国の民を受け入れるとする約束を結ぶ、と言うことにすればモモン様不在の不安を未来への期待がかき消すことでございましょう」

 

 アインズ様、半信半疑です。

 嘘は言わない男と信頼はしているのですが、自分を帝都に招きたいがために甘言を弄しているのではないかと疑問が出てきたのです。

 

「ここでメイド長をしているシクススたちは役目とは言えアインズ様のお側から離れていることに、言葉にはしませんが寂しさや辛さを感じているようなのです。私の我が儘になりますが、皆の心をお慰めいただければ幸いでございます」

 

 裏も素直に話す男です。

 裏を話さずもっとわかりにくい形で陰謀を進められたらと思うとぞっとするのですが、アルベドの手綱を誤らなければ問題ないことでしょう。

 

 パンドラズ・アクター扮するアインズが聖王国の使節団と旅だった後のことです。アインズ様はモモンとして帝国をもう一度見ておきたいとデミウルゴスに相談しました。

 デミウルゴスは出来る男です。わかる男です。モモンが魔導国を離れられるのはこの機を除いて他になしとわかっています。魔導国と帝国は蜜月の関係にありますが、それはアインズ様たちが持つ武力を恐れてのことと重々承知の上であります。そのアインズ様と友好の中にも緊張状態にあるモモンの耳には少し違ったものが聞こえてくるのではとも推測しております。

 それを実際に見聞きすることが重要なのだとアインズ様が仰るのならデミウルゴスは至極尤もなことでありますと頷く以外にありませんし、デミウルゴス自身もその通りだとは思っております。しかしそうすると、ヤルダバオトとアインズ様がダンスるのが少し先延ばしになってしまいまして、そこが残念なのです。

 

 パンドラズ・アクターと協力して私に相応しい最高の舞台を整えよ!

 

 デミウルゴスは感激しました。

 アインズ様は自分でハードルを上げちゃったかなと思わなくもなかったのですが、デミウルゴスを言いくるめるのに他の言い方が思いつきませんでした。

 

 アインズ様は漆黒の英雄モモンとして、美姫ナーベを伴い帝国の帝都へ向かうことになりました。

 

 

 

 

 

 

 アンデッド馬が引く馬車なら一晩で帝国に着くが、モモンとナーベが使うわけにはいかない。モモンはいつものようにハムスケに乗り、ナーベは徒歩。

 自分は騎乗してるのにナーベを歩かせることに大変抵抗を覚えたモモンは、無理矢理にでもナーベをハムスケに乗せて自分が走ることにした。モモンの中身は体力無限のアインズ様なのである。ナーベの心境を考慮に入れなければ、これが一番早く帝国に着くのだ。

 それでもさすがに一晩で到着とはいかない。

 一日目の夜は宿場の宿を使い、二日目の夜は野営した。

 食事をとらないモモンではあるが、暗くなれば火をおこす。

 夜空の下で焚き火を見つめていると、今やアンデッドの身であるアインズにも不思議な郷愁を抱かせた。

 乾ききらない小枝が時々パチリと爆ぜて火の粉を散らす。遠くで野鳥が鳴いている。獣もモンスターも近隣にはいない。ナーベラルがウサ耳を着けて周囲を警戒していた。

 

「私が火を見ている。お前も休んだらどうだ?」

 

 ハムスケはおなかいっぱいになった後、横倒しになってござるござると寝言を言っている。

 並外れた体力を持っていても無限大ではないナーベラルである。アインズ様に火の番をさせて自分が寝るわけにはいかない、とナーベラルが思っているのはわかっているアインズだ。厳しい旅でもなし。固持するなら無理を言って休ませるのは止めておこうと考えていた。

 ナーベラルはウサ耳を仕舞うと、居住まいを正してモモンに向き直った。

 

「アイン、モモンさま、ん」

 

(アインモモンサマン…………、くっ)

 

 妙に韻を踏んでいる。モモンの心にツボってしまった。

 もしもモモンに呼吸が必要であったら、盛大に吹き出していたかも知れない。

 

 モモンの心が平静を取り戻そうと大変になっているのに、ナーベラルの顔は真剣そのものであった。

 

「お許しいただきたいことがございます」

「………………なんだ?」

 

 感情抑制が働かなかったので、アインモモンサマンが尾を引いている。何とか平静な言葉を絞り出した。

 

「結婚をでございます」

「結婚!? 誰が!? 誰と!?」

 

 今度こそ感情抑制が働いた。

 ナーベラルの口から結婚と言う言葉が飛び出すとは、それこそ想像だにしたことがない。アインズの頭部から発した不可視の光は青天の霹靂だったのかも知れない。

 

「ナーベが、でございます。私はモモンさ……んのパートナーを勤めておりますが下衆な上に口さがない愚者共はモモンさ……んと私の仲を勘ぐることがあるやも知れぬと。私のせいでモモンさ……んのお名前に傷がつくのは許せません。ですが私が結婚をすればモモンさ……んとの仲をそのような目で見られることがなくなるかと思いますので私が結婚をすれば全ての問題が解決すると考えた次第でございます」

「……………………誰と結婚するのだ?」

「それは……」

 

 出てきた名前はアルベドの相談役。

 過日、人間への当たりが強すぎるナーベを矯正しようとあの男に任せたことを思い出す。問題は無事に解決したわけだが、その時に必要以上の事があったのだろうか。

 

「……そいつが好きなのか?」

「まさか! …………はっ!? 申し訳ございません! 失礼いたしました! そのような感情は抱いておりません。ただ、偽装の結婚をするのなら適当な男がその者しかございませんので…………」

「ふーむ……」

 

 人間を見ればシデムシだ、タデムシだ、ガガンボだ、オケラだ、ミミズクは鳥類なので多分言ってない。兎も角悪口雑言が飛び出すナーベラルである。そのナーベラルが偽装とは言え人間の男と結婚。

 これはもしかしたら、自分の知らないところでナーベラルは素晴らしい成長を遂げたのかも知れない。

 

「よかろう。ただし、本人とアルベドの意向を確認してからだ」

「はっ、かしこまりました。ありがとうございます!」

 

 ナーベラルはモモンからは見えないところで堅く拳を握り、小さく振った。

 

 

 

 

 

 

 モモンとナーベとハムスケの漆黒の一団は無事に帝都に到着。

 漆黒は魔導国所属の冒険者なので、当然のように魔導国の公館となっているお屋敷へ。

 上から下まで、それはもう大歓迎された。

 

 帝都に入っての諸々はお屋敷の若旦那様がそつなくこなす。

 皇城にもモモン受け入れの文書を送る。社交云々などは全てパス。モモン様はそんなの面倒でやってられないのである。第一時間がない。それでも一度は皇帝に謁見しなければならない。そのあたりは適当にうまくやれと守護者統括の相談役に命じておく。

 モモンたちは簡単にカルカを紹介された。

 ナーベの顔が強ばるも、モモンは対外的の意味をきちんと把握。視野狭窄に陥っているプレアデスとは違うのだ。まあ適当にうまく使えと言っておく。

 カルカからは聖王国をお願いしますと熱心に頭を下げられた。そこはアインズに任せておけば問題ないと答えておく。

 

 カルカを退室させ、お屋敷の三階にある応接間にはモモンとプレアデスの三姉妹と男だけが残った。全員ナザリックメンバーである。

 

「さて……」

 

 早速本題を切り出そうとしたモモンだが、ナーベから眼力光線が飛んできた。

 

(モモン様例の話をモモン様例の話をモモン様例の話をモモン様例の話をモモン様例の話をモモン様例の話をモモン様例の話をモモン様例の話を)

 

 モモン様は無視できなかった。

 

「ナーベラルがナーベとしてお前と結婚をと言っている。どうだ? 不服か? 何か問題はあるか? アルベドの考えも聞いておかねばとも思っているが」

 

 ソリュシャンとルプスレギナがナーベラルを見る目が、信じられないモノを見るような目になった。絶対の信頼を寄せていた者から急所を刺された時の目だ。

 

「何の問題もございません。光栄であります。かねて、アルベド様へもナーベラルからの話を伝えております」

 

 正式に守護者統括の相談役になった際、プレアデスへ敬称をつける必要はないと言われていた。

 モモンへ答えた通り、きちんと結婚の話をアルベド様へ伝えている。アルベド様は何も仰らなかった。と言うことは、よい、と言うことである。細かいことで上位者に手間を掛けてはいけないのだ。

 その時のアルベドは続けて飛び出てくる話に驚くばかりで可も不可も判断していなかったわけであるが、そんな事情は誰も知る由がない。

 

「ふむ、私の知らないところで話が進んでいたのか。まあ、よい。お前たちの結婚を」

 

 ナーベラルが無表情ながらに口角を上げ、両手を握ってガッツポーズをとろうとしたその時、待ったが掛かった。

 

「お待ちください。アルベド様の相談役殿は私の遠縁として知られております。私とは長く一つ屋根の下で暮らしておりました。結婚するのなら私以上の適任はいないと存じます」

 

 ソリュシャンが名乗り出た。

 

「お待ちください。ナーベラルはドッペルゲンガー。ソリュシャンはショゴスです。ですが私はワーウルフです。その者と結婚をして子をなせる可能性があるのは私だけです」

 

 ルプスレギナも名乗り出た。

 モモンは混乱している。

 

「ついで、と申し上げるのはいささか心苦しいのですが、ユリさんからも結婚をとのお話をいただきました。ユリさんが何を思ってそのように仰られたのかはわかりかねるのですが、おそらくは孤児院のことが関係しているのではと推察しております。ユリさんはアインズ様から子供たちの教育機関の運営を仰せつかったとか。そこでのユリさんは孤児たちの母となりましょう。母となるならば未婚であるよりも既婚であった方が子供たちの心に寄り添えると判断したのではないでしょうか」

 

 ユリからの話も出てきた。

 モモンは更に混乱した。

 

(おい、誰を選ぶんだ?)

 

 どうしてこんなことになっているのか質す余裕はなかった。

 何でもいいから雲行きが妖しくなってきたこの空気を何とかして欲しかった。

 

 モモンの混乱を余所に、場が緊張しきった。

 モモン様は重婚否定派なのだろうか。モモンとしての言葉であるのでアインズ様のお考えは違うのだろうか。

 一人、全く緊張も気負いもない男は、モモンの言葉に言葉を返した。

 

「それではナーベラルを」

 

 ナーベラルは今度こそガッツポーズ。

 ソリュシャンとルプスレギナは凍り付いた。

 

「…………私が持ってきた話だからと言ってナーベラルを選ぶことはないんだぞ?」

 

 ナーベラルの顔に緊張が走る。

 ソリュシャンとルプスレギナは微かな光を見た。

 

「そういうわけではございません」

 

 ナーベラルの顔に笑みが戻り、ソリュシャンとルプスレギナは死んだ。

 

「黒髪ロングですので」

 

 そして、全てが台無しになった。

 

 ナーベラルは黒髪のロングヘアを一つに括ってポニーテールにしている。この男の女主人であるアルベドも艶やかな長い黒髪を誇っている。

 

「…………ユリも黒髪ロングだぞ」

「そうなのですか? 結い上げているところしか見たことがありませんでした」

 

 今度はナーベラルの顔が死に、ソリュシャンは美しく微笑んでルプスレギナも朗らかに笑っている。

 

 ぷっ……。

 

 ふと、小さな破裂音らしき音が漏れた。

 聴覚が優れたナーベラルにしか聞こえない音。噴き出した音。笑いを堪えられなかった音。

 

「今笑ったのは誰?」

 

 モモンではない。モモンとこそこそ話していた男でもない。

 ナーベラルの二人の姉妹が優雅な笑みを浮かべている。

 

「ナーベラルの気のせいでは? モモン様の前ではしたなく笑うなんて出来ません」

「ソリュシャンの言う通りでしょう。それともナーベラルには笑われるような何かがあったという事ですか?」

「もしかしたらナーベラルは、黒髪にしか取り柄がないと思われていることを笑われたと思ったのかも知れませんね」

「髪は女の命と言いますが、それだけと思われるのはさすがに……、ねえ?」

「私がそのように思われたら恥ずかしくて恥ずかしくて」

「とてもではありませんが結婚なんて大それた事は口に出来ません」

 

 ドS姉妹であった。

 ナーベラルが握った拳はプルプルと震え、静止した。ナーベラルが二人の姉妹を見る目は冷え切っていた。

 

「私たちの姉妹の絆もこれまでですね」

 

 

 

 ヤバい! マズい! とか思うより先に、怖い! と感じるモモンであった。

 

 もしもアインズであったら、つまらない諍いをするなと一喝した。ここがナザリックであったら、常にまとう支配者の威厳でもってそもそもそんな言葉を言わせない。

 しかし、今のアインズはモモンである。ナザリックから遠く離れた帝都のお屋敷で、支配者ロールの重荷は肩から下ろしている。

 自分は渦中にない。端で見ているだけだ。それなのに死の支配者すら凍えさすこの空気はいったいなんなのか。

 このままでは血の雨が降りかねない。

 どうしてこうなっているのか全くさっぱりわからないが、一刻も早くなんとかしなければならないことだけはわかっている。

 隣に立ってる男を肘で小突いた。

 

(おい! どうにかしろ!)

 

 その瞬間、モモンに天啓が降りてきた。

 人間の男であった過去が未来を囁いたのだ。

 このままでは絶対にろくでもないことになる。何が何でも避けなければならない。

 

「私がどうにかしてよいのですか? それなら」

「待て!!」

 

 モモンの一喝に男は待った。

 三姉妹を包む殺伐とした空気も霧散した。

 

「そのような重大事は簡単に答を出して良いものではない。せめて最低でも一年はじっくり考えてから結論を出せ」

 

 先送りである!

 

 先送りとは馬鹿にしたものではない。

 先送りすることによって時間的余裕を得られ、腰を据えて問題に取りかかることが出来るのだ。

 尤もモモンとしては、自分がいないところでなら何でもいいと思っていたりする。当然である。どうして自分が修羅場に巻き込まれなければならないのか。

 

「そうは仰いますが、一年経っても結論が変わらないのでしたら今であっても同じではないでしょうか?」

「全然違うぞそれは。それは、あれだ。一年経っても結論が変わらないのなら、その結論には一年分の重みがあるという事だ。それに結論が変わる可能性がないとは言えまい。時間の重みを軽視するな」

「仰るとおりでございます。感服いたしました」

 

 三姉妹が互いを見る目から剣呑な気配が消え去った。

 代わりに、男を見る目に鋭いものが混じる。見られている男は何も感じていないようではあるが。

 

 

 

 このくらい図太くなければナーベラルと結婚なんて無理だろう。モモンは変なところで感心した。

 帝都に来た本題は切り出せてもいないのに、酷く疲れたような気がした。




アンケート思い出しました
アルベドのお腹が大きくなるかどうか、R18Gはあってもいいか、セバスにSEKKYOUしていいか、の三点です
その内頑張ってアンケート設置します
でも忘れるかも知れません


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不満そうなルプーによる新入り紹介

 あれやこれやを終えてから、男がようやく切り出した。

 

「モモン様、お話になってもよろしいかと」

 

 三姉妹に緊張が走った。

 モモンとナーベが帝国を訪れたのは、魔導国に対する帝国民の心象をモモンの耳で知るため、だったはずである。

 しかし、男の言葉はあからさまに裏を臭わせるものであった。

 

 モモンの逡巡を察した男は姉妹のフォローを忘れない。

 

「ルプスレギナは命令の内容をきちんと言い聞かせれば無視する事はないと思われます」

「うっ!」

「ナーベラルはちょっとドジ……、いえうっかり……、いえ迂闊……、いえ注意不足……、少々あれなところがあるようですが守秘くらいなら問題ないと信じています」

「ドジ!?」

「ソリュシャンは命令を独自解釈するきらいがありますが、他に解釈する余地のないものなら大丈夫のはずです」

「はず……?」

 

 モモンは三姉妹を睥睨した。

 三人とも姿勢を正して直立不動。真摯な気持ちを面に乗せ、どんな命令でも完遂するであろう真剣さを漂わせている。

 

「ふむ……、止めておこう」

「「「!!!」」」

 

 フォロー失敗。

 ソリュシャンだけには話しても良いかと思ったモモンであるが、一人だけというのは不公平である。

 

「後のことは任せる。準備はいいか? 場所を変えるぞ」

「準備は終えております。どちらへ赴かれるのでしょうか?」

「誰もいないところだ」

 

 モモンは全身鎧を解除してアインズとなり、かねて打ち合わせしていた通りに二体のドッペルゲンガーを呼び出した。二体は二人の男の姿を象った。

 ドッペルゲンガーは、グレータードッペルゲンガーとは違って姿を写す事しかできないが、ここにいますよと見せるだけなので問題ない。

 

「行くぞ」

 

 アインズが宣言するなり、二人の男は転移の魔法で消え去った。

 

 と同時に、三姉妹はパタリと倒れる。アインズ様からの信頼を得られなかったダメージは、時としてナザリックのシモベたちに致命傷を与えるのだ。モモン様の前で痴話喧嘩した報いに違いない。

 三姉妹の命令に従わなければならないドッペルゲンガーたちは困り切ってしまったがどうにもならない。

 部屋から出てこないことを心配したシクススが様子見に来なければ、三姉妹は夜が更けるまで倒れていたかも知れなかった。

 

 

 

 

 

 

「だいたいナーちゃんはずるいっすよ。なにいきなりアインズ様にお願いしてるんすか!」

「そうよ! これは裏切りだわ。折角私がセバス様に根回ししてるのに」

「なによ。それを言うなら二人ともいつも一緒じゃない!」

 

 なお、ドッペルゲンガーたちはシクススが連れて行った。

 屋敷で過ごす際の注意事項等を説明している。本当はソリュシャンとルプスレギナの仕事である。

 

「へー。そんな事言っちゃうんすか? だったらモモン様のパートナーを私と交換してもいいってことっすよね?」

 

 モモンのパートナーにナーベラルが選ばれたのは、プレアデスの中で人前に出しても違和感がない姿をしているからである。しかし、アインズの予想に反してポンコツなところを見せること多々。モモンのパートナーはルプスレギナにしとけば良かったかも、と思うアインズである。そのことをナーベラルに知られると首を吊られるので誰にも言うことが出来ないでいる。

 

「そっ……それとこれとは話が違うわ! それより、あの金髪の人間と子供は何なの? どうしてあんなのがいるの?」

「カルカ、よ。デミウルゴス様の戦略だそうだから手出し出来ないわ。子供の方は……」

「おにーさんが奴隷市場で買ってきたんすよ。安かったからセットで」

「アインズ様がああも仰ったのだから、それなりに扱わないといけないわね」

 

 

 

 

 

 

 人間の名前を中々覚えられないナーベラルが口にした子供とは、双子幼女のクーデリカとウレイリカのこと。

 三姉妹の痴話喧嘩が終わり、モモンたちの帝国での滞在期間等のスケジュールを詰め、本題に入る前にアインズ様へ拝謁させた。単に紹介したのではない。割と重要な案件である。

 

『親の罪は子の罪。子の罪は親の罪となるのが王国や帝国での慣習でありました。であれば、姉の罪は妹の罪となりましょう。二人の姉はナザリックへの侵入と言う大罪を犯しました。二人を如何なさいましょうか?』

 

 シャルティアがお屋敷を訪れた際、何度か双子の顔を見ていた。

 どこかで見た顔でありんすね、と言うので試しに不思議な青いキャンディーを舐めさせたところ、あーーーーこいつの顔は! となった。

 キャンディーは瓶から出して日数が経っていたため、大人になっていた時間は10分となかったが、シャルティアが顔を思い出すには十分だった。

 

 クーデリカとウレイリカの姉はアルシェと言う。困窮する実家のために、貴族のお嬢様でありながら汚れ仕事にも手を出すワーカーとして働いていたアルシェは、最後の仕事にナザリック地下大墳墓の探索に赴き、帰らなかった。

 アルシェの最後を処理したのがシャルティアだ。

 ナザリック侵入の大罪はアルシェ自身が命であがなったわけだが、血族の罪はどうするべきか。

 

『ならん! 罪は相続しない。その者の罪はその者だけのものだ。姉の罪を妹に問うなど絶対に許さん!』

 

 アインズが人間であった頃に生きていた場所では、社会での階級は完全に固定化していた。富む者の子は富を受け継ぎ、貧しい者の子はやはり貧しい。負の再生産を繰り返していた。

 それはつまり、努力や才能を無駄に散らす社会制度。かつてのアインズは激しく憎んだ。この世界での慣習がどうであろうと、アインズは負の再生産を絶対に認めない。

 

 この件はアルベドに報告され、魔導国の法に反映されることとなる。

 本当に重要な案件だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 アインズ様から、罪を問うことは絶対に許さん、とまで言われた双子である。ナザリックのシモベは絶対に手を出せない。出したら最後、アインズ様からのお怒りを受けることになる。それすなわち消滅と同意。

 その双子はアインズ様のお言葉を頂いた直後に、カルカ付きのメイドとなるようご主人様から命じられた。

 前々から考えていたが、アインズ様のお考えを伺うまで決定できなかったのだ。折角買った双子が処分されなくて、ちょっとほっとしているご主人様だった。

 

 双子はカルカの金髪を見て「お姉さま」と慕うのはいいのだがまだまだお子様。出来ないことの方が多い。

 カルカは大人なのだけれど、魔導国の一員となって日が浅い。ソリュシャンの専従メイドとしてお屋敷にやってきたシェーダから色々と教わっている最中である。

 ついでに双子もメイドとしてのあれこれをシェーダから教わることになり、シェーダ先生と敬うようになる。

 

 シェーダは面倒と思いながらも業務命令なので仕方なく、けれども手を抜かずにきっちりと面倒を見る。ナザリックのメイドは超一流なのだ。

 そんなシェーダを、ルプスレギナは胡乱な目で見る。

 ソリュシャンと同じく至高の御方の一柱であられるヘロヘロ様に創造された一般メイド。創造主を同じくするのだから、ソリュシャンお嬢様の専従メイドとしてついてくるのはおかしいことではない。

 

 しかしあの日、ルプーは見た。

 

「あっ」

 

 シェーダの姿を認めた若旦那様が小さな声を上げる。

 シェーダは若旦那様に詰め寄り、真ん前に立ったら押しやって尚も進む。ドアを開いて二人とも部屋の中へ。音を立てずに閉まったドアに、ルプスレギナは耳を当てた。

 

『シェーダもこっちに来ることになったんだね。ソリュシャン共々よろしく頼むよ』

『…………ええ、わかっています。私はメイドですから』

『でも良かったのかな。あの二人はシェーダの姉妹だったんじゃないのか?』

『……ヘロヘロ様に創造された者同士ですので、姉妹と言えば姉妹と言えます。…………出来れば三人一緒が望ましいとは思っていました』

『だったらどうして?』

『どうして? どうしてかわからないと仰いますか?』

『わからないから聞いてるんだけど?』

『…………あんな醜態を晒して平気な顔でいられるわけがないでしょう……』

『醜態? ……ああ、あれのことか。あれは醜態じゃなくて痴態って言うと思うよ』

『バカッ!!!』

 

 パアン! イテッ。

 

 ルプスレギナは咄嗟にドアから離れた。

 顔を赤くしたシェーダが出てくる。次いで若旦那様が出てきた。こちらも顔を赤くしていた。ただし、左の頬だけ。

 

 おにーさんがシェーダに良からぬことをしたことがあるのは明白だった。

 

 

 

 

 

 

 ナーベラルはソリュシャンが連れて行った。

 お屋敷の案内だったらルプスレギナが適任だが、一応はここでもお嬢様になってるソリュシャンが案内する方が好ましい。

 

 ルプスレギナは、若旦那様がいなくなって暇をしている女のところに来た。

 

「今更っすけど。あんた誰っすか?」

「彼女は……」

「ミラはいいっすよ。私が聞いてるのはそっちっすから」

「私のことでしょうか?」

「そっすね」

 

 ミラと歓談していた彼女は、問われて椅子から立ち上がり、一歩前に出た。

 

「ルプスレギナ様はご存知のはずです」

「ご存知ないから聞いてるんすよ?」

「本当にご存知ないのですか?」

「……ほんとっすよ」

「わかりました。お答えします」

 

 彼女は目を伏せ、スカートの両端を指先で摘まみ、恭しく膝を折った。

 

「ヴァンパイアブライドです」

 

 同じくヴァンパイアブライドであるミラと並ぶと、背が低めで華奢に見えた。

 

「そんなことは見ればわかるっすよ!」

「見ればわかることをどうしてお聞きになったのですか?」

「だから私が聞きたいのはそーいうんじゃなくて、どうしてここにいるのかって聞いてるんすよ!」

「私はヴァンパイアブライドです。全てのヴァンパイアブライドはシャルティア様のご命令に従います。私はシャルティア様のご命令に従って帝都に参りました」

「だから……」

 

 うわなんだこの女めんどくさい、と思い始めたルプスレギナ。しかし、ここで投げ出すわけにはいかない。

 

「シャルティア様の命令ってなんすか?」

「研修です」

「……メイド研修じゃないっすよね?」

「メイド研修ではありません」

「………………」

 

 そこは研修の内容を答えるのが普通と思うのに、中々聞きたいことが通らない。

 

「研修の中身は?」

「ルプスレギナ様は協力していただけるのですね。ありがとうございます。あの方はいらっしゃいませんし、ミラだけでは不安に思うところでございました」

 

 誰も手伝うなんて言ってない。

 こーいうタイプのことを何と呼ぶか、ルプスレギナは知っていた。

 

「……天然っすね」

「天然? 私のことでしょうか?」

「……そっす」

「私たちヴァンパイアブライドは至高の御方々に創造されたわけではなく、地下大墳墓ナザリックの力で発生しました。私たちが天然と言うのなら、確かに天然なのかも知れません」

「………………」

 

 手強い。

 ルプスレギナは、撤退を選択した。

 これだけ話したのに名前すら聞けていないのが不思議である。

 

 彼女の正体は、SVB:NO.26。ヴァンパイアブライドで最弱であることを苦にしていた彼女である。

 最弱であることから、ヴァンパイアブライドにしては爪が弱い。頑張れば爪切りで短く整えることが出来る。爪を短くして、あの男からフィンガリングを学んでこいとシャルティアに命じられてやってきた。

 特別な用途を思いつきはしたものの、エリートシックスではないNO.26。シャルティア直々には名前を与えなかった。

 代わりにマイスターとなった男からジュヌヴィエーブと名付けられたが、シャルティアは長いと一蹴。略称にして愛称でもあるジュネとなった。

 

 

 あの方=おにーさんと察したルプスレギナは、また新しいのが増えたと重い息を吐いた。

 ついこの前まで、好きな時にイチャラブックスが出来た。ところが、ソリュシャンにシェーダにジュネに、カルカはノーカンとしてナーベラル。ナーベラルは一時滞在と言うことで大目に見ても、一挙に三人も増えた。

 これでは先日のような一日中は到底望めない。

 

 朝、目を覚ましたら一緒に朝食。テーブルクロスの下で手を握ったり足を絡めたり。

 午前はイチャイチャ。他愛ない話をして、スキンシップを繰り返して、盛り上がったら一回目。三回まで延長可。

 お昼も一緒。色々した後なので気分が盛り上がってる。交互にあーんして食べさせあう。

 午後は読書や書類仕事に付き合ったりもするけれどやっぱりイチャイチャ。指を絡めて手の平を合わせる恋人握りでいるのが基本形で、手を離さなくてはならないときも体の一部が絶対に触れている。勿論午後も一回二回と。

 何度もしてると汗をかくので一緒にお風呂。自分の体は自分で洗わない。洗ってもらう。洗ってあげる。口ですることもあり、しちゃうこともある。

 夕食になるともう色々と高ぶりまくってる。給仕を入れずに二人で食べる。全部口移しで食べさせあう。

 その後はベッドの中で。これはもう言うまでもない。

 一日だけで、それぞれ二十回以上好きとか愛してると言われる。体の隅々まで綺麗とか美しいとか可愛いとか言われる。触り心地に抱き心地に揉み心地に中の具合まで誉められる。皆で協力してきちんと女性を誉めるように仕込んだのだ。

 

 と言うような日を過ごすことがあるルプスレギナは、帝都で雇ったメイドたちからは若旦那様の愛人と思われていた。

 ところがある日、

 

『ルプー、回復してー』

『しょうがないっすね』

 

 両手首から先を無くしていた若旦那様を魔法で一発回復。

 変な薬品を扱って爆発したか溶かすかしたらしい。後に、そんな様で出歩くなとシクススがしばいた。

 この一件で、ただの愛人から並外れて優れた信仰系魔法の使い手であると認識されるようになる。

 

 ルプスレギナの評価はさておき、色々と増えてしまった現在では、あの素晴らしき日々はもう望めない。

 エ・ランテルではソリュシャンとシェア出来ていたというのに、ルプスレギナは贅沢になってしまった。

 増えてしまったのはナザリックの面々ばかりなのでどうにも出来ない。カルカはやはりノーカンである。アルベド様から「孕ませてはダメ」と言われたので、手は出さないと思われる。

 仕方ないものは仕方ない。しかし、どうにか出来そうな者だったらどうにかしなければならない。

 

「ずっとほっといたっすけど、そろそろあの女をどーにかしないとダメっすね」

 

 ソリュシャンやナーベラルは知らない女だ。自分が動くべき。

 帝国では地位がある女なので暗殺のたぐいは不可。

 しかし今まで見てきた結果、どうにか出来そうな手段を思い付いていた。

 

「もしもおにーさんを選ぶようだったら……、ま、少しは認めてやってもいいっすね」

 

 皇城に送ったモモン様受け入れに対する返書は、きっとあの女が持ってくるはず。その時に選ばせてやろうと考えた。

 

 

 

 

 

 

 一方、転移の魔法で飛んだ二人は、木々もまばらな名も無き荒野にいた。

 

 東方には南北に連なる山脈。低い気温からして高地。ちらほらと雪も見えた。

 アゼルリシア山脈北西部、トブの大森林より更に北方。アウラが張った警戒網をギリギリ外れる僻地である。

 

「ここなら誰かに見られる心配もない。まずはこれを預けておこう」

 

 アインズが男へ手渡したのは魔法の指輪。

 

「填めておけ。飲食に睡眠が不要となり疲労を無効化する指輪だ」

「ありがたく拝借いたします」

 

 かつてアウラから言われた通り、ペストーニャからプレゼントされた魔法のブレスレットも着けている。寒くてもへっちゃらだ。

 こういう時に使うべきアイテムであって、間違っても夜に外でナニをする時に使うものではない。

 

「さて…………大丈夫だろうな?」

 

 流れでこの男から剣術を習うことになってしまった。

 嘘を言わないし、自信過剰と言うこともないと思われる男だが、剣が使えるかどうかは疑わしい。

 見るからに剣とは無縁な優男なのだ。

 ダメだったらアインズスペシャルオーダー「どうにかしろ!」を発令する所存である。ここで発令してもパワハラにはならないはず。

 

「技量はコキュートス様と同等にあると判断しております。自己言及の矛盾とも言いますから客観的な評価ではないことをご承知ください」

「…………そうか」

 

 コキュートスと同等と聞き、アインズは感情抑制が働くほど驚いた。

 その顔でコキュートスレベルに強くて一体どこのプレイヤーだと思ったが、プレイヤーはこんなに頭が良くない。アウラからツリーハウスの葉っぱの枚数を数えたらしいと聞いてドン引きした覚えがある。

 ならば特別な設定を持つNPCか。しかしこれも違う。本人から、高祖父が、母が、と聞いている。この地で生まれたのだから、プレイヤーの血を引く可能性があったとしても、プレイヤーやNPCであることはあり得ない。

 そもそも強さではなく技量と言った。強いわけではないと気付いた。冷静になったおかげである。

 

「それでは始めます前に、ラウンドムーンキリングテックを越える剣術のコンセプトを知っていただこうと存じます」

 

 男は腰に差したカタナブレイドを抜いた。

 刃渡りは1メートル近い。抜くには1メートル引っ張らないと抜けないわけだが、そこを工夫するのが抜刀術。

 左手で鞘を後ろへ引き、腰を捻ることによってカタナブレイドから鞘を抜き、右手で鞘からカタナブレイドを引き抜く。

 三つの動作を同時に行い、刃先をアインズへ向けた。

 

(ほう……)

 

 言うだけはある見事な抜刀だった。バネ仕掛けで飛び出たようにも見えた。

 コキュートスから指南を受ける前のアインズだったら、いつ抜いたかわからなかったかも知れない。

 

「アインズ様も剣を持って頂けますか? ……剣を持ったらアイモン様とお呼びするべきでしょうか?」

「アインズでよい!」

「かしこまりました」

 

 こういうところがあるから、この男が賢いと素直に思えないのである。

 

 アインズは魔法で甲冑と大剣を創造し、モモンの姿となった。

 

「片方だけ抜いてください」

 

 モモンが背負う大剣は双剣だ。二刀流のモモンである。

 一本だけ引き抜き、両手で構えた。

 漆黒の全身鎧の戦士が大剣を構えている姿は、ただそれだけで圧力がある。

 対する男はアインズの間合いギリギリ外に立つ。

 

「まずはあらゆるキリングテックの源流となるイニシエイトカタナテックから体験していただきます」

 

 イニシエイトカタナテック。

 アインズには聞き慣れない言葉だ。

 しかし、心の琴線をちょっぴり刺激したらしい。何だかカッコイい言葉に聞こえてしまった。




前話前書きは9月まで書かない宣言だったつもりなのに涼しくなりました


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黄泉より帰る暗黒期

蘇るか甦るか黄泉帰るか平仮名にするか迷いました


「ご覧の通り、カタナブレイドは華奢な作りです。アインズ様がお使いになっているグレートソードとは比べるまでもありません」

 

 アインズが使うモモンズ・グレートソードは、刀身に柄まで含めれば成人男性の身長ほどもある長大な大剣である。

 カタナブレイドは、刀身の厚さや幅がモモンズ・グレートソードの半分から更にその半分。長さだけは半分強。

 重量比は10倍以上にもなる。

 

「間違っても打ち合いには向きません。特徴は片刃であり、刀身に反りがあるところです。切ることに特化しています。実際に切れ味抜群で、セットでコキュートス様から頂いたショートカタナブレイドは包丁より切れました」

「コキュートスからもらった剣で料理したのか?」

「はい。バーベキューの下拵えに使用しました」

「……コキュートスには言うんじゃないぞ」

「? かしこまりました」

 

 愛用しているのはいいが、まさか料理に使うとは、くれてやったコキュートスは夢にも思わないことだろう。

 

 男は改めてカタナブレイドを構えた。

 握るのは柄の下端と上端。真っ直ぐにカタナブレイドを突き出し、切っ先を少し上げる。

 

「これがイニシエイトカタナテックの基本となる構え、ウォータースタイルです」

 

 別名を正眼。いわゆる中段の構えである。

 

「カタナブレイドによる攻撃は、兎も角先の先が肝要となります。切られる前に切る。それが全てです。一度だけアインズ様に打ち込みますので、受け太刀をお願いいたします」

「よかろう」

「参ります」

「!」

 

 甲高い金属音が響く。

 

 切っ先がふわりと浮いたと思ったら振り下ろされていた。切り下ろしに転じる瞬間が、アインズにはわからなかった。

 狙いは手首。アインズはガントレットを装備しているため、仮に切られてもダメージはない。ガントレットを装備していなかったとしても、アインズにダメージを与えられる武装ではない。だからと言って、素直に打たれるようではモモンの沽券に関わる。

 

 受け太刀はギリギリで間に合った。

 グレートソードを寝かせるだけだったのにギリギリだ。

 速くはない。受けた感触は非常に軽く、攻撃力としては論外と言っていい。

 ただし、早い。

 攻撃の瞬間がわからないので、奇襲を受けたように感じた。

 

「お見事です。今の剣撃がアインズ様に届かなかった以上、私のイニシエイトカタナテックはアインズ様に通用しないことでしょう。今度は続けて打ち込みますので、続いての受け太刀をお願いいたします。受けるだけでなく、避けてもみてください」

「……軽めに頼むぞ」

「恐れながら、それは私の言葉かと。アインズ様がカタナブレイドを弾きますと、おそらく私の腕がもげます」

 

 二人の膂力の差はカタツムリとエンシェントドラゴン、とまでは流石にいかないが、わんわんとケルベロスくらいには隔絶している。ケルベロスが撫でるつもりでわんわんに手を伸ばせば、アウラが住んでるツリーハウスの天辺まで吹っ飛ぶだろう。

 

「では、参ります」

 

 アインズは、コキュートスとの鍛錬以上に神経を使った。

 身体能力が隔絶しているため、基本的には見てから動けば何とかなる。それが中々難しい。

 ゆらりゆらりと切っ先が揺れる。それがいつのまにか振り下ろされている。

 カタナブレイドの振り下ろし自体も目で追えるのに、攻撃に転じる瞬間だけが曖昧だ。

 

 下段(アーススタイルと言うらしい)に構え、そこから切り上げるのかと思いきや、深く踏み込み超低姿勢からの更なる切り下げ。勿論、切り上げることもある。

 

 シャドウスタイル、あるいはホーリィスタイルとは、カタナブレイドを立てて頭部近くに置く構えをそう呼ぶらしい。カタナブレイドが頭の右か左かでシャドウかホーリィになるんだとか。これは体力の消耗を避け、次なるスタイルに移行する前段階であるとのこと。

 

 上述のスタイルからシフトするのが、最も攻撃的なファイアスタイル。いわゆる上段の構え。

 上段からは振り下ろすしかないため、アインズとしては受けるのが一番楽だった。あくまでも、他の構えと比べるならばであるが。

 

 決して強くはない。

 一撃一撃は軽いし、見てから避けられる速さ。しかし、非常にやりにくい。

 アインズは受けに専念していながら、イメージトレーニングの一環として反撃のタイミングを計っている。

 

 呼吸は細くて捉えがたい。足捌きは滑るような摺り足、足元をよく見ていないと移動したこともわからない。カタナブレイドを握る手だけは力が入っているが、それ以外は脱力している。攻撃の予兆がさっぱり掴めない。

 いつ攻めに転じるかわからないため、攻撃を終えた瞬間に隙を見いだそうとするのだが、一撃を終えた後は瞬時にウォータースタイルに戻って距離をとる。それでも、アインズの力と速さならどうにでも出来る。

 しかしもしもアインズと同等の力と速さを持っているとするならば、万全の構えに飛び込むも同然。無謀としか言いようがない。

 技量はコキュートス並にあると豪語するだけはあった。

 

 

 

「お見事です。魔法職にありながら、これほどまで剣の扱いに習熟されるとは……、アインズ様の動き一つ一つに鍛錬の積み重ねを見たように思います」

「…………いや、割とギリギリだったぞ。お前こそ凄いじゃないか」

「恐れ入ります。ただ、私の剣はどうしても軽いので、手慰みの範疇を出ないのがアインズ様と決定的に違うところであります」

 

 十数度の攻撃を、アインズは全て受けるか避けるかした。

 危うい時もあった。受けるために無理に手首を捻り、もしも生身の肉体だったら筋を痛めていた。

 漆黒のヘルムから指一本分の空間を剣閃が通り過ぎたこともあった。これについては、ギリギリで避けたアインズの見切りが光ったとも言える。

 

「これがイニシエイトカタナテックの基本スタイルとなります。今度はイニシエイトカタナテックにラウンドムーンキリングテックのエッセンスを取り入れたものをお見せいたします。続けての受け太刀をお願いいたしますが、おそらくイニシエイトカタナテックよりも容易いものと思われます」

「それなんだがな。そもそもラウンドムーンキリングテックとは何のことだ?」

 

 男がぽかんと口を開ける。

 アインズは初めて見る顔だった。

 

「失礼しました。アインズ様はお読みではなかったのですね。長編ですので、お忙しいアインズ様が読むには不適かも知れません。それでは簡単に説明いたします」

 

 

 

 

 

 

「ラウンドムーンキリングテックとは、超長編ダークカタナテックジェノサイドノワール小説「グレート・モンド・ダウンヒル」の主人公デスク・ドラゴニオが使うカタナテックのことです。

 

「なんだそのジャンルは」

 

 私も初めて目にしたジャンルです。

 ノワール小説は悪役が主人公と言うこと。

 ジェノサイドは文字通りに皆殺し。主人公以外の登場人物は9割9分以上が主人公に斬殺されます。

 ダークカタナテックは、主人公がカタナブレイドで殺人を行うから付けたものと思われます。

 

「……全員斬り殺すのか? 小説とは、もっとこう色々な登場人物が出るものじゃないのか?」

 

 友や想いを通じた女性、カタナテックのマイスターも登場します。

 ですが主人公はラウンドムーンキリングテックを披露することを好意の証と考えておりますので。

 また、師匠殺しが弟子に出来る最大の恩返しと考えています。

 

(滅茶苦茶物騒な小説だな)

 

 ラウンドムーンキリングテックとは、カタナブレイドにラウンドムーンの力を宿して敵を斬る技を指します。

 ラウンドムーンの力を宿したカタナブレイドは万物を切り裂く、と言う設定になっております。

 

「そこだけ聞くとファンタジー剣術のようだが?」

 

 仰るとおりです。

 ただし、力の宿し方が実際の剣術の理に適っているのです。コキュートス様が愛読なさっている理由もそこにあるのでしょう。

 

 カタナブレイドの軌跡がラウンドムーンを辿る時、すなわち真円を描くときにラウンドムーンの力が宿るのです。

 剣を振るう際は必ず間接を基点にします。必然的に円を描くことになるのです。そこで真円を描くように振るうと言うことは、体の捻りから生じる力を余すことなく剣に注ぐことに他なりません。

 ラウンドムーンキリングテックとは、カタナブレイドの威力と速度を最大限に活かすカタナテックなのです。

 それでは実際にご覧に入れます。

 私のカタナブレイドにラウンドムーンの力は宿りませんが、ラウンドムーンキリングテックのアトモスフィアは感じられるかと思います」

 

 

 

 二人は再度剣を構える。

 アインズは最初と同じ構え。イニシエイトカタナテックで言うところのウォータースタイル。切っ先がやや上がっている。

 対する男は、今までの構えとは違うものだった。

 

「ラウンドムーンキリングテックの要点は威力と速度になります。そのため、どうしてもカタナブレイドの移動距離が長くなりがちです。そこをフォローするためにこのようなスタイルになるのです」

 

 アーススタイルに構えたカタナブレイドを寝かせ、脇に取る。左足を前に出して半身の形。カタナブレイドは体に隠れて見えなくなった。

 type-ブルーである。いわゆる脇構え。

 カタナブレイドの位置によって名前が変わり、中段ではホワイト。上段ではシルバーとなる。

 

「それでは参ります」

 

 剣が隠れているため、どこから飛んでくるのかアインズからはわからない。

 しかし、基本的には見てから避けられるし受けられる。

 響き渡る金属音から、威力だけはさっきよりも上らしい。アインズからすれば誤差も同然。

 威力重視の正統派剣術。それが、アインズが抱いたラウンドムーンキリングテックの印象だ。

 

 何度かstyle(構えではなくstyleと言うらしい)を変えて剣撃が飛んでくる。

 男が言った通り、イニシエイトカタナテックよりも受けやすい。

 初見なら剣の間合いがつかめなかったかも知れないが、先の受け太刀で間合いを把握している。今度は危うさを感じることなく、全てを受け、あるいは避けた。

 

「コキュートス様であれば一層の威力を込めた一撃を放てるのでしょうが、残念ながら私には不向きなカタナテックです」

「……剣術ではなくカタナテックなのか?」

「? はい。仰るとおりです」

 

 カタナテックをどうして剣術と呼ぶのか。カタナテックはカタナテックである。

 

「イニシエイトカタナテックもラウンドムーンキリングテックも、あらゆるカタナテックは対人用ブレイドアーツです」

 

(ブレイドアーツ……、カタナテックよりかっこいいな)

 

「カタナブレイドを用いることによって可能な速攻即斬であるため、アインズ様がお使いになるグレートソードには不適な用法となります」

「しかし、グレートソードでも可能な技がある。そう言うことだな?」

「その通りでございます。これからお見せいたしますのはラウンドムーンキリングテックを越えたカタナテックの妙技。カタナブレイドのみならず、あらゆる武装に適用できることでしょう」

 

 再度カタナブレイドを構えた。形はウォータースタイル。攻守ともに優れた型である。

 

「先ほどと同じように何度か打ち込みますので、アインズ様にはもう一度受け太刀をお願いいたします」

「ふむ……来るが良い」

 

 アインズもウォータースタイル、ではなくて正眼の構え。

 

 アインズは男の剣撃を難なく捌いていく。

 カタナブレイドの間合いとブレイドスピードに慣れたのもあるが、最初に披露した型と全く同じ攻撃が飛んできている。

 間合いが同じならリズムも同じ、カタナブレイドが描く軌跡も同じ。剣がかち合う音の高さから、威力は少しだけ上と推測。ラウンドムーンキリングテックのエッセンスを取り入れている、らしい。

 こうも全く同じ攻撃が続くと、一連の動きは一つの型なのではないかと思う。

 思う通りに動くのは癪なので、攻撃をしない代わりに距離を取ったり、反対に詰めたりもしてみる。それなのにすっと詰められ、すっと引かれる。

 総合的な強さなら比べるまでもなく圧倒的にアインズの剣が勝っているが、こと技量となるとあちらが上と認めざるを得ない。

 カタナブレイドを避け、あるいは受け止めながら、どこでこんな技術を覚えたのかと考えるくらいに、アインズには余裕がある。鋭い剣でも、同じ攻撃に苦戦するほどアインズが積み重ねた研鑽はぬるいものではない。

 しかし、一体何がラウンドなんとかを越えたのか。

 確かに見事な剣である。コキュートスだって誉めるだろう。後方勤務の文官が使う剣と言う意味において。

 実戦で剣を使うアインズにとっては、コキュートスとは違ったカタナブレイドの戦法を知る、と言う以上の意味を見いだせない。

 ここまでであるならば、であるが。

 

 最初の焼き直しのような打ち込みが終わり、最後に正面から切りかかってきた。

 アインズはすでにグレートソードを構えている。金属音が鳴り響き、長大なグレートソードと細いカタナブレイドが噛み合った。

 

「ふっ……」

 

 真っ向からのつばぜり合い。アインズが思わず鼻で笑ってしまうのは無理もない。

 アインズからは攻撃しない。受けたカタナブレイドを弾かない。と言う制約があるが、押し負けてやるのはそこに含まれていない。

 膂力はわんことケルベロスほどに隔絶している。つばぜり合いになった以上、グレートソードで受け止めたアインズは不動の要塞めいて、人の力で押し勝つのは絶対に不可能、であるはずだった。

 

「なに!?」

 

 膝が沈む。

 優男の力で押し込まれている。

 その事実に驚愕した瞬間、カタナブレイドが優美な弧を描いて飛んできた。

 

 つばぜり合いを外されたため、剣で受け止めるのは不可能。

 体勢を崩されているので飛び退くことも出来ない。

 銀光が目指しているのはヘルムだ。最初の披露で危うく当たりそうになった一撃と全く同じ。

 間合いはわかっている。体を反らせばギリギリ当たらなかった。

 今度も同じように避けられるはず。

 

 瞬時の判断でアインズは回避を選択し、カァンと良い音が虚空に響き渡った。

 カタナブレイドは、アインズのヘルムに届いた。

 

 

 

 

 

 

「今のは何だ? 魔法、ではないよな。お前は使えないし。スキルか? いつの間にか剣士のクラスを取得したのか? いやしかし、瞬間的に剣の間合いが伸びるスキルはなかったはず。そんなの地味過ぎるし。その前に俺を押し込んだのがわからん。どう考えても力は俺の方が上のはずだ。ノックバックを発生させるスキルやアイテムは幾つもあるが、どれとも効果が違うように思える……。まさかタレントと言うわけではあるまいな?」

 

 アイテムコレクターであるアインズには探求者の側面がある。早速、不可解な現象の原因究明に乗り出した。

 ナザリックのシモベたちのみならず、知的生命体はアインズの態度を見習うべきである。

 

「ご存知の通り、私は魔法を使えません」

 

 アインズが太鼓判を押すくらい魔法の才がない男だ。

 

「クラス取得につきましてはわかりかねますが、スキルは使っておりません。そもそも使えません」

 

 攻撃の軽さから、剣士クラスは取得していないだろうと判断したアインズだ。一応言ってみただけで、それはないだろうと思っていた。

 

「私が装備しているマジックアイテムは、アインズ様からお借りした指輪と、ペストーニャ様からいただいた防寒のブレスレットのみです」

 

 防寒ではなくて、耐炎と耐氷のブレスレットなのだが、先を促すためにアインズは突っ込まなかった。

 ちなみに、指輪は左手の中指に填めている。指輪とはつける場所によって意味が変わり、左手の中指は人間関係の改善等を望むときにつける。空気を読めない人がつける場所である。つけてる当人はそのことを知らない。左手の中指にしたのは偶々である。

 

「使用したカタナブレイドにもそのような効果はないと思われます」

 

 鞘ごと腰から引き抜いてアインズへ手渡した。

 見た目は豪華で頑丈なカタナブレイドだが特殊効果はない。ナザリック的には装飾品にしか使えないレベルだ。

 

「タレントでもありません。純然たる技術に依るものです」

「そうは言うがな。私がお前に押し負けるとはとても思えん」

「仰るとおりです。先のつばぜり合いで、私はアインズ様を押したわけではありません」

「どういう事だ?」

「その部分だけ実演いたします。これからアインズ様を思い切り押しやるので、押されないよう踏みとどまっていただけますか?」

「いいだろう」

 

 グレートソードを地に突き立て、足を前後に置く。腰も落として万全の構え。

 男はアインズの両肩に手を置いた。

 

「それでは、行きますよ?」

「来い!」

「鋭!」

「うおっ!?」

 

 またも、アインズの膝がガクリと沈んだ。

 押し負けたのなら後ろへ下がるはず。後ろではなく、下へ沈んだ。

 

「横方向へ押したのではないのです。私が加えた力は下方向のものでした。アインズ様は後ろへ押されまいとしていらしたので、それ以外の方向への警戒が薄かったのです」

 

 アインズの膂力はケルベロス並。しかし体重までケルベロスではない。不意を突けばバランスを崩すくらい出来るのだ。

 

 

 

 

 

 

「私がこの技を発見したのは、ラウンドムーンキリングテックの不備をどうにか出来ないかと考えたのが切っ掛けです」

 

 語りが始まってしまった。

 新たな発見をしたとき、得意げに語りたくなってしまう気持ちがアインズにはとてもよくわかる。

 

「先に申し上げました通り、剣を振るう際は間接を基点にするため、剣の軌道は円を辿ります。ですが、円よりも直線を辿った方が対象へ早く届きます」

 

 かつてユリに語ったことである。

 

「円よりも直線。ですが、無理に剣の軌道を変えると威力と速度を損なうだけとなります。双方を損なわずに軌道を変えるにはどうすればよいか検討を続けたところ、胸郭のコントロールに行き着きました」

 

 胸郭、すなわち胴体は、動かないものとして扱われる。しかし腕を広げれば開き、腕を閉じればやはり閉じる。動くものなのだ。

 

「動く範囲は精々が指一本か二本分です。ですがそれだけの距離が違えば届かないはずのブレイドが届きます。横方向へ全力で押す中で、下方向への力を合わせることも出来ます。四隅が解放されているひし形を思い浮かべてください。ひし形を左右から押せば*1、真ん中が潰れる代わりに上下へ伸びます。私はこの術理をブレッヒェン・ロンブス*2と名付けました。アインズ様を押したのがこれになります」

 

(ぐふっ……! ここでそう来たか。ええとブレッヒェンは確か「壊す」で、ロンブスは……わからん! 後で調べとこう)

 

 ブレッヒェンもロンブスもドイツ語。ブレッヒェンは「壊す」で正解。ロンブスはまんま「菱形」のことである。

 

「そ、そうか。だが修得難易度が高いんじゃないか?」

「コキュートス様は修得出来ないと思われます。胸郭の動きが肝要なのですが、コキュートス様は外骨格ですから」

 

 蟲王であるコキュートスは、大きな昆虫なのだ。

 

「反対にアインズ様が修得するのは容易かと。胸郭の動きをしっかりと確認出来ますし、私が指導するからです」

 

 漆黒の甲冑の下はお骨である。

 

「指導の対価、と申し上げるのは烏滸がましいと存じておりますが、一つだけお願いがあります」

「なんだ?」

 

 アインズにとって、見たことも聞いたこともない技術だ。これを修得出来ればコキュートスを驚かすことが出来る。生憎コキュートスは修得不可であるようだがそれはそれ。

 部下の部下とは言え、指導の対価を求めるのは正当な権利だ。ナザリックのシモベたちが聞いたらいつぞやのアルベドがしたように上下で真っ二つにされるかも知れないが。

 果たして求められた対価は、意外なものだった。

 

「アインズ様がブレッヒェン・ロンブスを修得し、剣技にも応用できるようになりましたら、一連の剣術にモモンズ・ブレイドアーツの名を与えていただけないでしょうか?」

「………………何故だ? お前が編み出した技術だろう」

「私が持っていても使いようがない技術です。アインズ様が感じました通り、私が剣を振っても大した威力を出せません。手慰みの曲芸の域を出ないのです。カタナテックドージョーを開く暇はありませんし、需要もありません」

「大した技だと思うぞ。需要が皆無と言うこともないだろう」

「恐れ入ります。確かに皆無ではないかも知れませんが、この地の戦士たちはこのような術理を会得するよりも威力の向上を目指しておりますので」

 

 モンスターのせいである。

 応用が利きはしても対人用の精妙な術理よりも、モンスター退治のために一撃の威力が求められる。

 

「同様のブレイドアーツは、帝国と王国には、また近隣諸国にも存在しません。帝国四騎士から聞いた話ですので間違いはないでしょう」

 

 帝国四騎士の一人に練習相手になってもらうこともあった。

 今日のアインズと同じように受け太刀を頼むのが主である。ルプスレギナは面倒くさがって付き合ってくれなかった。ミラはバッチ来いなのだが、昼間の屋外で吸血鬼をこき使うのは心情的に躊躇われた。真っ白な肌なので日焼けも気になる。どちらも大丈夫らしいが気分の問題である。

 

「私のものとしますと、名を与えられずに私の代で終わりです。ですがアインズ様と共にあれば、永く栄誉に輝くのが約束されております」

 

 当初は円より直線と言うことでスクエアホライゾンキリングテックの名を便宜上与えたのだが、直線の域にまで届かなかった。実が名に届かない。名前負けである。

 

「そしてなによりも、私が考案した術理をアインズ様にお使いいただければこの上なく名誉なことでございます」

 

 割と本心である。

 あえてうがった見方をすると、完成したものへの興味が薄いとも言えた。

 

「ふむ………………。そこまで言うのなら」

「では!?」

「うむ。私がブレッヒェン・ロンブスを修得した際にはモモンの名を与え、モモンズ・ブレイドアーツとして使わせてもらおう」

「おお! ありがとうございます、光栄です!」

 

 

 

 

 

 

(上の者があんまり固辞するのはちょっとなんだろう。他にないオリジナルな剣術で広める予定もないことであるし、そうまで言うのならモモンズ・ブレイドアーツとするのは、まあ、やぶさかではなかろう)

 

 と言うのは建前である。

 アインズの本心はと言うと、

 

(ヤバいな。俺のオリジナル剣術か。モモンズ・ブレイドアーツ! ヤバいなこれカッコいいじゃないか! ブレッヒェン・ロンブス、だったかな? これだけならまあ許容範囲だ。それにしてもモモンズ・ブレイドアーツか…………。うん。いいな!)

 

 中二病は治らない。

 症状が和らぐことはあっても、完治することは絶対にあり得ない。

 

 アインズはかつての全盛期を取り戻した。

*1
→◇←

*2
本当の名称は「井桁崩し」です。本当にあります。本当です




アンケートがこうも偏るとは
大勢は決したぽいですがもうしばらく置いておきます

R18Gは考えた末もしもやるなら別作でします


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修行→冬休み

 広大と言って差し支えない敷地の一角で、軽やかな金属音が響く。

 

「こうして剣を交えるのは初めてだが中々だな」

「お……、……、恐れ入ります」

 

 恐れ多いことでございます、と言い掛けたのを何とか言い直したのは及第点。判断が遅いのはもう慣れっこ。

 

「近くで見てるのはナザリックの者達ばかりだが、遠くの連中に聞こえないとも限らない。気を付けろ」

「はっ! 申し訳ございません!」

 

 だからそれが駄目なんだって、と言いたいのをグッと堪える。言ったら電池が切れた玩具のようにパタリと倒れる。

 アインズはもう黙っとこうと思った。

 

 漆黒の英雄モモンに相対しているのは美姫ナーベである。ナーベはマジックキャスターでありながら剣を使うことが出来るのだ。

 ナーベが攻めるのをモモンはひたすら防いでいく。足を滑らせるのか、ナーベが時々体勢を崩す。

 二人の訓練を見学しているのはお屋敷の若旦那様とお嬢様、それに赤毛の神官と護衛達。仕事の合間か、手を休めている使用人たちは遠目に窺う。

 

「おっと」

「も、申し訳……」

 

 モモンの剣に打ち込んだナーベがバランスを崩し、つんのめった。転ぶ前にモモンが剣を放り投げて咄嗟に受け止める。

 

「怪我はないか?」

「ご……、ございません」

「そこは『ありません』でいい。訓練はここまでしよう。大変有意義な時間だった」

「光栄でございます」

「…………」

 

 だからそれがと言いたいのをグッと堪えた。

 

 モモンは見学者たちを見回しながら訓練の終了を宣言する。

 美貌のお嬢様と神官に挟まれてなお艶めかしい美貌の男と目が合う。男はモモン以外には見えないようにして右の拳から親指を立てた。

 

(アインズ様、完璧です!)

 

 マイスターから合格のサイン。

 モモンはブレッヒェン・ロンブスを見事に修得し、頂が果てしなく遠いモモンズ・ブレイドアーツの道を一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 アインズに課せられた修行は厳しかった。ひたすらに難しかった。肉体ではなく頭を使う技術だったのだ。アインズは人間であった頃を思い出し、この地に転移してから今日までを振り返り、これほどまで頭を酷使したことはないと断言できるほどに、それはもう徹底的に頭を使うことを余儀なくされた。

 

 とりあえず、ブレッヒェン・ロンブスは胸郭の動きが肝要というのは嘘だった。

 いや、けして欠かすことの出来ない、欠いてしまえば完成しない重要なパーツであることは確かではあるが、一番重要というわけではなかった。

 重要なのは、体を意識して動かすこと。

 そんな事は当たり前だろうと思っていたアインズだが、修行を通じて体があらゆる場面で勝手に動いていることを自覚した。

 

 例えば、である。

 右足から踏み出して歩く場合。

 意識しなければ右足を出して歩き始める。これだけで終了。しかし一旦意識し始めると幾つもの行程を経て歩いているのがわかる。

 

 まず、左足の指の根本からつま先に掛けて力を入れ、地を蹴り始める。同時に右足の股関節を操作して右大腿を上げる。

 左足のつま先に力が加わっていくと同時に左足首を曲げる。右足では股関節から大腿の角度が深くなり右膝を曲げて臑から先を前に振る。鏡写しのように左の股関節も操作して右とは反対の向きへ足を曲げる。

 重心が前方へ移動し、そのまま前傾となって倒れてしまわないよう腰から上の姿勢を維持する。ちなみに、二足歩行で歩くときはこの倒れる力、すなわち重力を利用するため、四足歩行より少ないエネルギーで歩くことが出来る。長距離移動に適した移動方法である、らしい。

 地と足裏が水平になるよう操作してから足裏を地に突く。水平でないと足首を挫く。そして転ぶ。

 ここまでの行程を経てやっと一歩。

 ほとんど自動で行われるこの動作を、全て意識して行うのが修行の第一歩だった。

 

 つまりブレッヒェン・ロンブスとは、体の自動操縦をカットし、意識して精緻な身体操作を行う技術なのだ。動きを体に覚え込ませる既存の武術とは設計思想が正反対である。

 体の様々な部位から発生する力を束ねて一つの出力とする。力の大きさと向きの制御。すなわちベクトルを操作すると言い換えても良い。

 

 体がどのように動くのか把握するのが最初の30時間。

 ある程度把握したら個々の動きを取り出して把握するのに10時間。とりあえずはブレッヒェン・ロンブスに必要な動作だけに絞ったのに10時間。

 組み合わせるのに400時間。頻繁に個々の動作確認を復習したとは言え400時間。

 勿論昼夜ぶっ通し。

 アインズは、飲食睡眠不要で疲労も無効にする指輪を貸したことを心底後悔した。

 

 基本的には67時間ぶっ通しの修行が1セット。肉体の強さではなくて細かな動作の確認なのだから派手さはなくとても地味である。

 次の5時間は帝都のお屋敷に戻り、二体のドッペルゲンガーとナーベラルから不在時に起こったことを文書で報告を受ける。報告書は男が秒で読んで秒でまとめて口頭でアインズに報告する。報告内容はソリュシャンとルプスレギナが書記となって文書に残す。この間、長くても20分。

 ソリュシャンとルプスレギナを退室させ、今度は出張しているパンドラズ・アクターがやってくる。アインズの影武者として何があったか事細かに報告を受ける。同席させている男に情報をまとめさせ、要点だけを掴んでいく。

 そしてもう一度67時間の修行。5時間の報告タイム。その後の24時間はアインズが設けた一週間に一度の安息日。お休みである。アインズはナザリックの自室に戻ってぐったり。体は疲れないわけだが、頭がとてつもなく疲れている。ベッドに転がってあーとかうーとか一頻り唸り、起きあがったら修行内容を復習したり、パンドラから受けた報告をまとめたり、お休みなのに忙しい。

 

 帝都に残った男はと言うと、上位世界よりこの地へ真なる美を知らしめるために降臨なさったアルベド様が楽しみにしている週に一度のお食事日。いつぞやのセックスしない宣言はなんだったのかと思えるほどやることをやってお帰りになる。

 体位は何故か騎乗位オンリー。少し重くなってきたのではと思うも、シズに重いと言ったら怒られたことを思い出して何も言わなかった。

 休日の半分はアルベド様へ捧げ、残りの半分で惰眠を貪り、ソリュシャンに貪られ、ルプスレギナにナーベラルの機嫌をとって、一応はカルカの様子見をして、次はヴァンパイアプライドたちにと言うところで24時間が過ぎてしまう。

 休日は外していた魔法の指輪を再度填め、アインズ様の修行再開となる。

 

 と言うような一週間を三度繰り返したところで、アインズのブレッヒェン・ロンブスが様になってきた。

 アインズがそれだけ熱心に修行したわけだが、マイスターの繊細な指導があったからこそ短時間で修得できたと言える。

 

 アインズはこの男と長い時間を身近に接する中で、この男が本当に人間なのか疑わしく思えてきた。

 アルベドが「分野によっては自分を凌駕する」と言っていた。しかしあれは、この男を罰するかどうかと言う雰囲気の中で出てきた言葉だ。まるきり嘘ということはないだろうが、男を庇うために大袈裟に言っていたのではないかと思っていた。

 思っていたのだが、本当に凌駕していたっぽい。

 アウラが住むツリーハウスの葉の枚数を数えたのもそうだし、こちらの動きを1mm単位、0.1秒単位で把握して修正してくる。見た目は人間だが、中身はプログラミングされたロボットなのではないかと思えた。

 傍証はルプスレギナからももたらされる。

 トランプでポーカーをすると必ずロイヤルストレートフラッシュを出すのだとか。

 男が持っているトランプはペストーニャからもらった物でユグドラシル由来のプレイングカード。魔法的なイカサマが一切出来ないようになっている。タイムストップを掛けると数字が出ている面が表の模様と同じになり、カードに触ることが出来なくなる。魔法で転移させるのも不可。魔法で焼いてしまうのも不可。魔法が全てすり抜ける仕様となっている。すり抜けるだけのため、防具等への利用は不可。

 アインズも目の前で見せられた。カードをすり替えているのは確かだが、どこですり替えているのか全くわからない。とりあえず、カードに触らせるとすり替えるので、この男とカードで遊ぶ際はカードに触らせないのがルールになったらしい。

 トランプタワーを作ったときは目を疑った。

 一枚一枚カードを立てて作るのではない。カードを上から撒くと、カードは倒れる前に別のカードに寄りかかって立ったままになり、それが幾度も繰り返されてトランプタワーになるのだ。あらゆる魔法が効かないプレイングカードなので、魔法で作った可能性はゼロ。魔法でカードを操ってもアインズには出来る気がしなかった。

 舞い散るカードの一枚一枚の動きを予測して操作してトランプタワーを作るのだとか。

 こいつの中身は絶対ロボだろ、とアインズが思うのは無理もない。肉体はともかく頭の中身が異次元に生きている。ソリュシャンたちはとうに理解を諦めている。

 

 ちなみに、トランプタワーは別名をルプーほいほい。トランプタワーを作ると必ず壊しに来ることから付けられた名称である。

 

 

 

 

 

 

 その夜、パンドラズ・アクターが最後の報告にやってくる。

 アインズ様を崇拝し始めた人間を一人生き返らせたと聞いていたので、その人間の為人について詳しく復習しておく。

 向こうでの進捗は、アインズがヤルダバオトに敗北する場面に差し掛かろうとしているところ。デミウルゴスとアインズのダンスの一幕が始まるところだ。このあたりのことはデミウルゴスが作戦マニュアルに記した通りの流れである。

 

「わざと負けるのも大変だな」

 

 アインズは自信を持って笑う。支配者ロールではない素の自信。

 ブレッヒェン・ロンブスを修得し、戦士としての位階が上がったように感じていた。

 

「その際はどんな台詞がいいと思う? お前達の意見はどうだ?」

「ヤルダバオトにはアインズ様の執念を刻み込み、周囲の人間達には希望を持たせる言葉がよろしいかと」

「それは違います。人間達には絶望を与えるべきです。絶望するからこそ、アインズ様の復活が一層輝くのです」

「なるほど。……いえ、それですと、敗北したアインズ様を捜索しようと思わないのではないでしょうか?」

「そこは心配ない。聖王国側にもドッペルゲンガーを忍ばせてある。人間達の誘導は可能だ」

「アインズ様を崇拝する人間、ネイアと言いますが、彼女ならアインズ様を最後まで信じ抜くことでしょう」

「私ごときの想定は全て手を打ってあるのですね。それでしたらこう言うものは如何でしょう?」

「ふむふむ、中々わかっていますね。ですが、ここはこうするともっといいでしょう」

「おお、流石です!」

「いや待てお前ら。ほどほどにな?」

 

 以前は出来なかった類の相談も肩の力を抜いて出来るようになった。

 使い方を覚えれば優秀な頭脳を持つ者達だ。穴を見つけたら瞬時に塞ぐ術を提案してくる。

 暴走したがる二人へ適宜ブレーキを掛け、舞台の演出を決めていく。

 

 深夜の密談を終え、しばし軽口を叩き、夜が最も暗い時間にアインズは聖王国へと赴いた。

 向こうに着いたら早速ヤルダバオトとのハードダンス。その後は死んだ振りを装うのでしばし余裕がある。

 ダンスを終えたのを切っ掛けにメイド悪魔に扮するシズが単独行動を始めるので、そちらの方も気がかりだ。こればかりはシズを信じるしかない。

 シズはヤルダバオトの支配から脱してアインズの助けとなる重要な役割を任されているのである。

 

 パンドラズ・アクターと男の二人は、アインズ様の出立を跪いて静かに見送った。

 

「さて」

 

 ここからは選手交代である。

 聖王国のアインズ様はパンドラズ・アクターからアインズ様に。

 帝国にいるモモン様はアインズ様とドッペルゲンガーの二交代制からパンドラズ・アクターに。

 二体のドッペルゲンガーは適当に帰還させておけとアインズ様が仰っておられた。

 

 部屋の外に控えていたプレアデスの三姉妹と二体のドッペルゲンガーを中に招き入れた。

 姿を変えたままのドッペルゲンガー二体を近くに立たせる。

 

「あなたは私と共にナザリックに帰還しなさい。あなたの方はもうしばらくモモンの影武者を装うように」

「パンドラズ・アクター様は如何なされるのでしょうか?」

 

 モモンのパートナーであるナーベラルが疑問を述べた。

 どのようなことを為さっていたのか把握していないナーベラルであるが、アインズ様は帝国で必要なことを終えたらパンドラズ・アクターと交代すると聞いていた。モモンの役は以前のようにパンドラズ・アクターが担うはずである。

 

「私もナザリックに帰還します。ナザリックで為さなければならない重要な役割があるのです。これまで通り三日に一度はこちらに来ますのでその際に不在時の報告を受けましょう。何かあったら遠慮なくメッセージの魔法を使うように」

 

 真っ赤な嘘とは言い難いが、少なくともアインズ様から仰せつかった任務ではない。パンドラズ・アクターは私利私欲のためにナザリックに帰還するのだ。

 

 アインズはアイテムコレクターである。そのアインズに創造されたパンドラズ・アクターは、筋金入りのマジックアイテムフリークである。定期的にマジックアイテムを愛でていないと禁断症状が出るレベルのフリークである。

 帝国でモモンが担う役割は、今までドッペルゲンガーがこなしていたくらいなのだから自分でなくても可能であるはず。アインズ様はヤルダバオトに敗北する予定なので、その報が魔導国に伝わったらモモンとしてエ・ランテルに戻らなければならないが、それまでのモモンはお飾りでも問題ないはずである。

 スケジュールからして、余裕をもっても十日はある、はずである。

 その十日間を、ナザリックの宝物殿でマジックアイテムを愛でるつもりなのだ。

 心の栄養補給である。

 

 アインズ様の影武者としての大任を果たしたのだからこれくらいの自由はあってもいいのではないだろうか。アインズ様は週に一日は休むようにと仰っておられるので、むしろまとめて休まなければならないのではないだろうか。

 報告・連絡・相談はきちんと手配するので問題は全く見あたらない。

 ここはしっかりと休んで英気を養っておくべきでしょう。完全完璧な理論ですね!

 

「十日後にはエ・ランテルに戻ります。それまでにモモン役を交代しますから心配はいりません」

「それでは……私は如何いたしましょうか?」

「これまでと同じように過ごせばいいでしょう。遅めの冬休みだと思いなさい。ただし、モモンのパートナーとして羽目を外しすぎないように注意しなさい」

「私としましては、パンドラズ・アクター様がモモン様役をなさっている間に一度は皇帝のところへ顔を出したいと思っております」

 

 一応、ドッペルゲンガーが顔を見せたのだが、時候の挨拶をしただけで終了したと報告があった。焦らしに焦らしてそれだけかよと、ジルクニフは大層不満であったらしい。

 

「仕方ありませんね。明日は急でしょうから、三日後の午後。その時なら時間があると伝えておきなさい」

「承知いたしました」

 

 相手は天下の皇帝陛下である。スケジュールとか一ヶ月先まで埋まってる。三日後とか普通に無理である。その無理を通さなければならないほどに、ジルクニフはモモンに重きを置いているのだが、残念ながら片思いに終わることが決まっていた。

 

「それでは三日後に」

 

 パンドラズ・アクターは、内心でヒャッハー! と快哉をあげながら姿を消した。

 宝物殿でマジックアイテムを磨いて愛でて頬ずりして、やりたいことが目一杯詰まっている。

 

 

 

 

 

 

「冬休み、ね」

 

 ナーベラルがぽつりと呟いた。

 

 ナーベラルの自由時間は割と少ない。モモンのパートナーとして選ばれ、至高の御方であられるアインズ様のお側に、あるいはアインズ様が手ずから創造なさった領域守護者であるパンドラズ・アクター様の側に侍っていた。

 ナザリックのシモベとして非常に光栄なことである。不満など夢にも思わない。

 

 しかし、それは、それ。

 これは、これ。

 

「時間があったら私の番。そう言ってたわよね」

 

 舌打ちと鼻を鳴らす音が返ってきた。

 不満はあっても異論はないようだ。

 いつも近くにいる二人と違って、ナーベラルは別行動が主である。気を遣ってリップサービスをしてあげたのが裏目に出た。ナーベラルの自由時間は数時間どころか十日間もあるらしい。

 

「ふふ……」

 

 ナーベラルは右手を握る。

 拳となった右手をゆっくりと持ち上げる。

 上へ、上へ。

 天を貫かんばかりに掲げられた拳は、ナーベラル渾身のガッツポーズ。

 

 ナーベラルにボーナスタイムが降ってきた。




二度もやるぞと言ってたセバスにSEKKYOUは正義とはなんぞやという話です
真面目な教養系の話になるので本作に入れるのはどうかと思ってます
別作品に投稿するか、Quora(SNSみたいな質問サイト)に似た質問みっけたのでそっちにするか
とりあえず次回はナーベラル回

前回のアンケートがひっくり返ることはもうないと思うので終了
たぶん次回も違うアンケート入れると思うので目に付いたら投票してみてください


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残る二人と誓う二人と励む二人

『明日はアルベド様がいらっしゃいますのでその翌日。ナーベラルさんが満足行くよう心をこめてお持て成しいたしましょう』

 

 10日間の休日が早速一日減ってしまった。

 不満ではあるが、プレアデスの己を守護者統括であられるアルベド様より優先しろとは口が裂けても言えない。

 仕方なく、この日はこれまで通り偽モモン様と過ごすことにした。

 

 ナーベラルは不満であるものの、実を言うと無為な過ごし方ではなかった。偽モモン様が相手だと、噛まずに「モモンさん」と呼べるのだ。

 この一ヶ月弱の間にこっそり成長してるナーベラルである。

 

 

 

 

 

 

 そしてナーベラルが待ちに待ったその翌日。

 お屋敷3階の貴賓室は極上のベッドで爽快な目覚め。窓の外はナーベラルを応援するかのように快晴である。

 問題は眠る前に閉じたカーテンが開いていること。

 寝起きの頭が答えを出す前に解答が現れた。

 

「おはようございます」

「……どうしてここにいるの?」

 

 窓辺に立つ男が、ベッドのナーベラルへ笑みを向けてくる。

 

「今日は丸一日掛けてナーベラルさんをお持て成しいたします。一日はもう始まっていますから。朝の準備もお手伝いしましょうか?」

「いらないわ。外に出てて」

「わかりました。お待ちしていますから朝食を一緒にとりましょう」

 

 男が部屋の外に出るなりベッドへ突っ伏した。

 寝起きの顔を見られた。おそらく寝顔も見られている。

 男女間の一通りをしてしまった相手であるが、無防備で隙だらけの顔を見せたことはなかったはず。

 花も恥らう乙女としてとても恥ずかしかったが、朝起きて初めて目にするのがあの美しい顔と言うのは中々。

 幸せの収支報告はかろうじて黒字。

 恥ずかしさとは違う熱が頬を染めてくる。言語化出来ない微妙な含み笑いが漏れてしまう。

 

 顔の熱が引くまで、ナーベラルはベッドから起き上がれなかった。

 

 

 

 

 

 

 朝食は賑やかなようでいて厳かになるのは、女たちが牽制しあっているからである。

 細長いテーブルの一端にお屋敷の若旦那様。若旦那様の両隣にお屋敷のお嬢様と若旦那様の愛人兼護衛兼薬箱の神官。若旦那様の遠い対面の穏やかそうな男性は鎧装備を解除した偽モモン様。その隣にナーベ様。お嬢様から一席空けて若旦那様の外で見せる用のパートナー。

 食堂は一階にある。広いお屋敷なので大小の食堂が五つもあるのだが、わざわざ一階の食堂を使うのは使用人達に姿を見せるため。ずっと上階に引きこもりきりであらぬ噂を立てられては堪らない。

 

「今日はナーベ様を色々なところへご案内しようと考えています。モモン様のお相手はソリュシャンにお願いするよ」

「……わかりました」

「ナーベの相手をお任せしますね」

「はい、お任せください」

 

 偽モモン様は緊張しきっているのに、若旦那様は呑気なもの。空気を読む能力に欠けているのだ。

 いつぞやシクススが「若旦那様はもう少し空気を読んでください」と苦言を呈したことがあるのだが、「ははは、シクススはバカだなあ。空気は読むものじゃなくて吸うものだよ」。ポカリ、イテェッ!

 馬鹿なことを答えてしばかれた。意識してスイッチを入れれば何とかなるらしいのだが、楽しい朝食の時間に余計な気を遣いたくないのだとか。

 

「カルカはお付きと一緒にシェーダから色々教わるように。今日も頼んだよ」

「かしこまりました」

 

 カルカは無言で頷き、給仕をしているシェーダが凛と答える。

 

「私には何かないっすか?」

「モモン様がいらしてからの報告書をまとめて欲しいな」

「うげぇやぶ蛇ぃ……」

「書記の仕事も出来ないなんて、ルプー姉様は何のためにいらっしゃるのかしら?」

「出来るけど面倒だって言ってるんすよ。ソーちゃんがやってくれてもいいんすよ?」

 

 空気が緊張するのは、ほとんどの場合ソリュシャンが火花を飛ばすから。

 最近のソリュシャンはどうにもご機嫌が斜めであるらしい。ルプスレギナが面倒に思うくらいで、メイド達は大層きつく当たられているとか。

 若旦那様にどうにかしてくれと視線が集まるも、当の本人はどうして見られているのかわからない。にっこりと微笑み返して皆の希望を打ち砕く。

 

 カルカが胃を痛くするような朝食が終わればそれぞれに過ごし始める。

 基本的には若旦那様を中心に動く。今日の予定はナーベ様の接待である。

 食休みを終えたら屋敷の外へ。屋敷の広大な敷地は、エ・ランテルにあるアルベド様のお食事処の8倍近い。かつてのカルネ村よりよほど広い。

 先日のモモン様とナーベが剣を振っていた演習場があれば乗馬訓練が出来るほど開けた場所もある。庭師が手入れをする庭園以外に鬱蒼と木々が生えている場所もある。

 これだけ広ければ隅々にまで目が行き届かなくなるところ、そこはナザリックのシモベがひっそりとフォローしているため、敷地内での犯罪はあり得ない。発生しそうになった瞬間に然るべき処置が施される。

 

 若旦那様はナーベと連れだって敷地内を散策し始めた。

 遠くからソリュシャンとルプスレギナが目を光らせる。二人の姿が木々の中へ消えても、見えぬ姿を追い続ける。

 偽モモン様は放置されているが、不満を言える立場にない。自分もさっさとナザリックに戻りたかったと思ってるかどうかは定かではない。

 

「遅いわね。ルプー、ちょっと見てきてくれないかしら?」

「自分で行けばいいじゃないっすか」

「モモン様を置いていける訳ないでしょう」

「……ちょっち見てくるっす」

 

 木立の中に消えたルプスレギナは、すぐに戻ってきた。

 

「いないっすよ!」

 

 屋敷の中に戻ってないのは確か。

 朝食を終えて今に至るまで、門は一度も開かれていない。人を使って敷地内を捜索するもどこにもいない。

 

「ソーちゃんが覗きたがるから逃げちゃったんすね」

「ルプーだって覗いてたじゃない!」

「しーっ! ソーちゃんはソリュシャンお嬢様なんすからお淑やかにしてないとまずいっすよ」

「……わかってるわよ……」

 

 

 二人が木々に紛れて歩くこと数分。

 高い石壁が現れた。成人男性の背丈の倍はある石壁は、もしかすると皇城の城壁よりも堅牢だ。

 男が小石を拾って石壁の向こうに放り投げると、上から白いロープが垂れてきた。

 

「行きましょう」

 

 驚いて目を丸くするナーベラルと共に壁を越えれば、ナザリック製の豪華な馬車が停まっている。

 飛び降りた男は白いドレスに身を包む麗人に抱き止められ、ナーベラルは問題なく着地する。

 

「出せ」

 

 二人が乗り込むや否や、御者が手綱を引く。六頭の馬が足並み揃えて駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 ナザリックの女性を持て成すのはとても難しい。

 食事・服飾・芸術等々、あらゆる文化はナザリックが最高であり、それ以外は全てナザリック以下だからだ。

 アインズであれば知らない街を面白がって歩くかも知れないが、それはアインズの探求者としての側面がそうさせるのであって、間違ってもナザリックより優れているからと思うわけではない。

 ナザリックの女性を持て成すにはナザリックのロイヤルスイートが一番である。しかし、その手は使えない。

 ソリュシャンやルプスレギナだったら一緒に過ごすだけでいい。ナーベラルはそうもいかない。

 そこを何とかすべく、一日措いてもらった。

 昨日はアルベド様のお食事日であったが、アルベド様は丸一日いるわけではない。滞在時間は長くて4時間。大抵は2時間前後。

 それ以外の時間を使って、ナーベラルを持て成すための手配をしていたのだ。

 

 ナーベラルの手を引いて、豪華なソファに座らせた。

 

「ソリュシャンとルプーがいたらナーベラルさんはくつろげないでしょう。帝都から移動しますから、ゆっくりとくつろいでください」

「…………さんはいらないわ」

「そうですか? それではこれからはナーベラルと」

 

 ナザリックでの公的な場では「ナーベラル」。それ以外では「ナーベラルさん」。魔導国を始めとして人の目があるところでは「ナーベ様」と呼んでいた。

 空気は読まないが場はわきまえる男である。

 

 ナーベラルの目は大きなベッドに釘付けになっている。

 豪華なベッドだ。二人以上が優に横たわれるベッドだ。女である自分と男がいて、何をするのか決まっているベッドだ。

 シャルティアがあつらえさせたベッドは、未だに使われたことがない。

 

 ベッドで行える様々なことを連想したナーベラルは、頭を振って妄想を追いやった。

 二人きりだ。聞いておきたいことがあった。

 

「私の取り柄が黒髪だけってどういうこと?」

 

 この男との結婚に手を挙げた四人。名が上がったナーベラル。その理由というのが、黒髪ロング。

 艶のある黒髪をナーベラルは誇りに思っている。しかし、それしか取り柄がないと思われるのは甚だしく心外である。あの時は姉妹の絆が砕かれそうになったほど。

 答え如何によっては今後のことを考え直す必要がある。

 

「それは誤解ですよ。ナーベラルの数限りなくある魅力の中で、黒髪が特に好ましいと言う意味です」

「……それならいいわ」

 

 ソリュシャンとルプスレギナとシクススたちに扱かれて、口が巧くなってきた。

 

「あっ」

「ナーベラルの魅力はいくらでも。たとえばこの手だって、こんなに綺麗だ」

 

 隣に座り、ナーベラルの手を取った。

 細い指をなぞり、くすぐるように手の平を掻く。

 

「見た目だけでなく肌触りだって」

 

 手の平に手の平を合わせた。指を指の股へ。ナーベラルからも手を握る。

 ナーベラルは、赤と青の瞳に自分の顔が映っているのを見た。

 映った顔が近付いてくる。

 距離がなくなり、唇が合わさった。

 

「あ……ん……、ちゅ……、あむっ……」

 

 ナーベラルが先に口を開き、男の唇を甘く食む。

 唇で唇の柔らかさを感じ、やがてしっとりと濡れてきた。濡らしているのは互いの唾液。

 

(キスするのも久し振り。どれくらい振り? この前はアインズ様が遠征に赴かれた時だったから…………半年、は経ってないけど。私のこと忘れていないわよね。保留になったけどあの時は私を選んだのだし。あっ……、舌が。くすぐったいようなのに気持ちいい……。私からも入れないと。キスで舌を入れるなんて知らなかった。私にこんなことを教えたんだから責任をとらせないと)

 

 主導権を争うように舌を絡め合う。

 ナーベラルが久し振りのキスに夢中になっている時、キスの相手はソリュシャンの課題図書を思い出していた。

 

 課題図書として渡された幾多のロマンス小説には濡れ場も相当にあった。

 今のように激しい口付けは何度も出てきた。

 その際、女性側が快感を得たり性的に達することを「敗北」と称していた。気持ちが良いのなら勝利なのではないだろうか。

 

「んっ……くふぅ、んっんっ、ちゅっちゅるぅ、……はあっ! まっ、んむうっ! んぅ……!? 何するのよ!」

 

 熱心に唾液を交換していたところ、突然ナーベラルが怒り出した。

 それもそのはず。ロマンチックなキスをしていたのに、鼻を摘ままれたのだ。

 

「ちょっと変わったキスをしよう。ナーベラルは鼻でも口でも呼吸しちゃいけない。吸っていいのは俺が吹き込む息だけ」

「何よそれ」

「さっき思い付いたから他の誰ともしたことがないよ。ナーベラルが初めて」

「…………」

 

 初めてとはとても優越感をくすぐる言葉である。

 ナーベラルは神妙な顔をして頷いた。

 息を吸って吐いて止めた。

 男の方は深く息を吸う。

 唇を合わせて口を開き、口移しに熱い息が吹き込まれてきた。ナーベラルは吹き込まれた息を吸い込み、肺腑の隅々にまで行き届かせた。

 

(な、なにこれ。息が熱い。熱いのに甘い。熱い息が、彼の吐息が私の中に入ってる。これって人工呼吸、よね? 人の息ってこんなに熱いものなの?)

 

 ナーベラルに息を移すと、素早く離れた。

 唇が離れただけで顔は間近。

 息を吸ったら吐かなければならない。息を止めているナーベラルは、段々顔が赤くなっていく。

 

「ほら、吐かないと」

「………………はあぁああ~~……、うぅ」

「いい匂いがするよ」

 

 男の顔に息を吹きかける羽目になった。

 男の吐息をナーベラルが吸って、ナーベラルの中で混じり合った息を吹きかける。

 間違いなく異常な行為。しかし、異常は正常を知らなければ判断できない。

 ナーベラルは異常を異常と知らなかった。

 

「今度は私の番よ」

「もちろん」

 

 ナーベラルからも息を吹き込む。

 互いの吐息が混じり合い吹きかけられた息を、ナーベラルは芳しいと思った。

 

 息を交わし合う遊びに、情熱的なキスも混じる。

 ナーベラルの頬は紅潮して、自分から男の頬を包んで唇を合わせるようになった。

 

 目的地までへの道程は百を超えるキスで埋められた。

 

 

 

 

 

 

「ここで昼食をとろうと思います」

「へえ……」

 

 馬車を降りたのは森の入り口。しばし歩けば湖の畔。森に囲まれた湖のため水面は波打たず、鏡のように青い空を映している。

 

 帝都から北に望む山を越えて更に北へ。

 夏であれば、帝都の貴族ですら避暑に訪れる風光明媚な土地である。

 当然のことながら、冬季は誰も近付かない。

 時期が時期なら賑わうであろう美しい景色を、今は二人と二人が独占していた。

 

「私が火を起こすから二人は準備を頼む」

「かしこまりました」

「……ヤヴォール」

 

 ヤヴォールとは、男が弟子に仕込んだ言葉である。「かしこまりました」「仰せの通りに」を意味する。パンドラズ・アクター様直伝だ。

 

 二人の一人は、白いドレスに身を包み、頭にはベール付きのハット。つばが広く、ベールがなくとも顔の半分を隠す。手にはドレスグローブで、素肌を晒す部分がどこにもない。

 もう一人は同じ意匠のドレスとハットだが色は黒。一人が白だからもう一人は黒だろうとシャルティアが安直に考えた結果である。

 この男唯一の直属の部下であるミラと、シャルティアから研修のために派遣され男をマイスターと仰ぐジュネの、二人のヴァンパイアブライドである。

 馬車を屋敷の外に回していたのもこの二人。

 

「それくらいなら私がするわ」

 

 火起こしにナーベラルが名乗り出た。

 さすがにドラゴンライトニングは使わなかった。

 

 火を起こして湯を沸かし、お茶の準備。

 その間にヴァンパイアブライドたちは木々の間にロープを張わせハンモックを作る。簡易テーブルを出して、お屋敷のシェフが腕によりをかけたサンドイッチがたっぷり入ったバスケットを脇に置く。

 一通りの準備を終えたら二人の邪魔をしないよう馬車へ戻った。

 

 ハンモックに腰を掛けると、自然と中央に寄る。

 腰掛けた二人は、ソファの上にいた時よりも密着していた。

 

「静かで、よい景色ですね」

「……ええ」

 

 ナザリックの女性を持て成すには如何にすべきか。

 ナザリックにある以上のものはこの世に存在するのか。

 目を付けたのが自然であった。

 満天の星空を宝石箱とアインズが称えたように、自然の美しさならナザリックより優れた場所が幾つもある。

 帝国の書物を読みあさる内に各地の名所を覚え、帝都から近い場所として森に囲まれた湖を選んだのだった。

 

「いい景色だけど…………。寒くない?」

「寒くはありませんが、もう少し暖かいと嬉しいですね」

「仕方ないわね」

 

 ナーベラルは馬車を降りるときに着けたマントを外す。

 一端を男の肩に回し、もう一端を自分の肩に。一人用のマントに二人でくるまった

 マントの中で二人の体温が混じり合い、こもっていく。

 吐息が白く曇ろうとも、体は暖かかった。

 

「他にもこんな景色がいっぱいあるそうですよ」

「……そう」

「もしもアルベド様とアインズ様が遠き地へ赴かれてしまったら、二人で色々なところを見て回りませんか?」

「!」

 

 それはナザリックのシモベの誰しもが恐れる最悪の未来。

 ナーベラルも例に漏れず、硬直した。

 固まった体と心が、二人の体温に溶けていく。

 

「そんなことは絶対にあり得ない。絶対にあってはならない。……でも、そんな事が起こってしまったら……、約束よ。破ることは絶対に許さないわ」

「ナーベラルとの約束は絶対に破らないよ」

「本当の本当に絶対に破っては駄目よ」

「わかってる」

「んっ……」

 

 体温が溶け合って、吐息が混じり合って、言葉が重なり想いも重なる。

 二人は頭までマントに包まり、ハンモックに横たわった。

 ゆらりゆらりと揺れながら、視界は真っ暗でも互いの体を感じている。

 上に下にと交互に入れ替わり、飽きることなく口付けを交わし合った。

 

 果たす必要がないロマンチックな約束はとても効果がある。

 課題図書で覚えた技であった。

 

 

 

 

 

 

 二人は夢を見ているのに、残る二人は現実を見ていた。

 

「暇ですね」

「ご主人様の待機命令を暇ですって?」

「マイスターはミラのご主人様であっても私にとってはマイスターです。マイスターの指示に従うのはあくまでもシャルティア様から課せられた研修をつつがなくこなすためです」

「それは、そうかも知れませんが」

「かも知れないではなくてそうなのです。私は怠惰に暇を潰す事なくシャルティア様からの使命を果たす義務があるのです」

「シャルティア様からのご命令は確かに優先事項です。ですが、ご主人様のご命令に優先しろと言いますか? 私はシャルティア様から、あの方を我が君とせよと仰せつかっているのです」

「ミラがマイスターから命じられた事柄とシャルティア様からのご命令が相反する時は相応の判断が必要でしょう。では今は? いつになったら解除されるかわからない待機命令をシャルティア様からの課題を果たすために有効に使うことは対立する事柄ですか?」

「……しないかも知れません」

「かも知れないではなくてしないのです」

「待機命令が解除されたときに素早く行動する必要があります。それはどうしますか?」

「時間を見ておけば大丈夫です。マイスターは早いですが、回数が多いので……」

 

 早い? ミラの脳裏を疑問符が埋めた。

 

「それに、ナザリックのヴァンパイアブライドはすべからくシャルティア様のご命令に従う義務があります。異論はありますか?」

「……ありません。それでは……、お二人は昼食を取られますから、太陽が中天に差し掛かるまでなら。身だしなみを整える時間が必要ですから!」

「ミラは乱れますからね」

 

 ジュネは御者台から降りて場所の中へ。

 赤い敷布を持って出てきた。

 いつぞや月下の草原でシャルティア達が使ったものとは違う。いくら何でも守護者が使う品をシモベが使えない。

 それより劣る品だが、あれが最上級なだけである。ジュネが手にしている敷布も手触りがよく、敷いた場所の影響を受けにくい。

 

 周囲の警戒はアンデッド馬がしている。

 二人は馬車から離れて森の奥へ入っていった。

 クイーンサイズのベッド並の広さがある空間を見つけると敷布を広げる。

 ミラは帽子を取り、ドレスグローブを外し、ドレスすら脱いでいく。

 

「下着も脱ぐのですか?」

「汚れたら困るでしょう」

「それもそうですね。私も脱ぎます」

 

 冬の森に浮かぶ白い裸身は朧気な幻のようで、風が吹いたらかき消されてしまいそうで、現世のものとは思えない儚さと美しさがあった。

 

 ヴァンパイアブライドであるミラは、胸も尻も豊かな肉惑的な美女である。

 それに比べると、ジュネは幾分小柄だ。背丈も差があり、背伸びしないとミラに届かない。

 ジュネは背伸びをして、ミラに口付けをした。

 

 二人は抱き合い、豊かな乳房は互いに押し合って柔らかく潰れていく。パイ合わせに挟まれたいと思うか尊いと思うかはその人次第。

 

 合わさった唇からは、クチクチとかクチュクチュとか、粘着質な水音が鳴り始める。

 口付けに敗北したのはミラ。立っていられなくなり、敷布の上に崩れ落ちた。

 倒れるミラを追うようにして、ジュネが覆い被さる。

 

「今日は口でしましょう。ミラからもしてください」

「わかり、ました」

 

 ジュネがシャルティアから命じられているのは、あの男からフィンガリングを学ぶこと。

 フィンガリングは手段であり、目的は快感を与えること。ならば舌遣いもその範疇。

 

 マイスターはアインズ様との修行のため、長いこと屋敷を不在にしていた。

 残念なことに、ジュネは指導らしい指導を受けていない。

 そこでジュネは自主学習に励むことにした。

 相手は専らミラである。

 ジュネは帝都のお屋敷に派遣されてから、ミラと違うベッドで寝た夜は一度もなかった。

 

 二人は待機命令中の時間を有効に活用すべく、舌技の訓練を始めることにした。

 

 二人はヴァンパイアブライド。

 ヴァンパイアブライドとはシャルティアの愛妾でもある。

 美しくも恐ろしい愛しき女主人からの薫陶は、二人の中で生きている。




アンケートに協力ありがとうございます
セバスにSEKKYOUは本作から独立して投稿した後にリンクを貼ろうと思います

私事ですが、世間に遅れること10年弱、3G回線終了に伴いようやくスマホを入手しましたがこんなでかくて重いのどうやって持ち運ぶん?

続けてのアンケートは見ての通りです
プロットとかないので迷走しながら話数だけ進む気がします
ネメル入れようかと思いましたが断念
3p以上は組み合わせがありすぎるのでアンケートに入れられず

やっべソリュシャン入ってなかった!
特別枠と言うことでナーベラルの次の次あたりに


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三つの魔法

 マントにくるまったままだと何も出来ない。

 互いの背に回した腕は動かせないし、足も自由にならない。

 頭を持ち上げて何とかキスを交わすだけ。それだって一苦労。

 代わりに近い距離を強制される。

 

「結婚の相手にナーベラルと言ったのは髪のことだけじゃないよ」

「わ、わかってるわ」

「本当に?」

「本当よ」

「それなら他に好きなところはどこだと思う?」

「えっ!?」

 

 言葉が熱い吐息と共に耳朶を犯す。

 

「どこがって……、その……顔?」

「顔はもちろん大好きだよ。とても綺麗だ。美姫と呼ばれてるのは言葉だけの事じゃない。本当に綺麗だからさ」

「っ…………。ほ、他にどこが、好きなの?」

「耳の形も」

「やっ……、かまないで……んっ……」

 

 形がよいと言われた耳を甘噛みされ、ちろりと温かい舌が這う。

 

「声だって好きだよ。もっと聞かせてくれ」

「聞かせろって……、何を言えばいいの?」

「ナーベラルが言われたいことを」

「言われたいことって…………、そんな……」

「そんな?」

「そんな恥ずかしいこと、言えない……」

 

 こもる熱が高くなってきた。

 ナーベラルが熱を発しているらしい。

 好奇心に駆られ、マントを外した。

 

「あっ!」

 

 外気にさらされ、熱が冬の空気へ逃げていく。

 暗かった視界に光が射し込み、ナーベラルの顔があらわになった。

 ナーベラルは咄嗟に顔を背ける。手で顔を覆いたかったが、腕はマントに絡まって動かせない。

 

 ナーベラルは顔を赤くしていた。

 

「こっちを見て」

 

 動かない。

 二度三度と促され、潤んだ瞳が前を向く。

 自分の目が相手の目に映る距離。

 ナーベラルは痺れたように動けなくなって、

 

「うわっと!」

 

 気力を振り絞り、ハンモックから飛び降りた。

 

「早く昼食を取りましょう!」

 

 まだ早いが早すぎることもない。

 昼食はサンドイッチなので、準備はバスケットの蓋を開くだけ。

 お湯は沸いているので飲み物の用意くらいなら料理スキルがないナーベラルにも出来る。

 早く昼食を終えて次の行動に移るのだ。

 

 

 

 

 

 

 男が立てた予定としては、ゆっくりと昼食をとったら近隣を歩いて散策するつもりでいた。

 

 ナーベラルはソリュシャンやルプスレギナとは違うのだ。

 ナーベラルは、一日の半分を全裸でいる淫乱スライムや、頭を撫でてやればスイッチが入る発情狼とは、本当に違うのだ。

 そのため、今日はナーベラルの前戯に12時間掛ける予定である。

 

 前戯とは性的な接触に限らない。

 一緒に歩くのもそうだし、食事もそうだ。他愛ない言葉の応酬に幾度ものキス。

 馬車に戻ったらキスより一歩進んだ行為。

 互いの気持ちを高め合うこと全てが前戯なのだ。

 メインは夜である。

 

 ところが、早くもナーベラルのスイッチが入ってしまった。その気になったと言う奴だ。

 ナーベラルは、ずっと美姫ナーベとして行動してきた。側には必ずモモンがいる。アインズ様かパンドラズ・アクター様がいると言うことだ。

 仰ぎ見る上位者の側ではしたないことが出来ようものか。考えたことすらない。

 意識して我慢してきたわけではないのだが、結果としてはそうなっている。

 日々発散してるソリュシャンやルプスレギナとは違って、ずっと禁欲してきたようなもの。

 知らないなら知らないままだろうが、ナーベラルは知っている。

 禁欲期間中も心の深いところでくすぶっていた熾火が、言葉とキスと抱擁で、激しい炎を噴き出し始めた。

 

 キスだけでは我慢できない。

 抱き締められるのは心地いいが、飢えにも等しい次への期待を駆り立てる。

 ならばいっそと言いたいところ、外ではイヤだった。

 外ではイヤだけれど、馬車の中なら。

 悪路を走っても揺れも音も伝わらないナザリック製の豪華な馬車。中には大きなベッドがあった。

 ここに来るまでの道程で、男とキスをしながら何度もベッドへ視線を向けていた。

 

 

 

 ナーベラルが言葉少なく熱心に食べるので、男もそれに倣って食べ始める。サンドイッチがいっぱい詰まっていたバスケットはあっという間に空になった。

 食べ終えれば火の後始末。

 後片付けはミラとジュネにやらせればと思っていた男だが、ナーベラルが率先して取りかかった。長い冒険者ライフで身に付いたのかも知れない。

 簡易テーブルは簡単に畳める。湯を沸かすのに使った道具一式は空になったバスケットの中へ。ハンモックは木々に結んだロープを解いて丸めれば片付け完了。

 

 まとめた荷物は、広げたときの大きさに反して意外なほど軽かった。流石はナザリック製アイテムは高機能である。

 バスケットはナーベラルが、ハンモックとテーブルは男が持って、馬車へ向けて歩き始めた。

 ところが、道のりを半分ほど終えたところでナーベラルが立ち止まった。

 

「わお」

 

 表情が消えたナーベラルの頭から、ウサギの耳がぴょこんと生えた。

 

「少し待ってて」

 

 待つ。

 ナーベラルが先に行く。

 森の静寂をぶち壊す爆発音。

 

「お待たせ」

 

 戻ってきたナーベラルは、ミラとジュネを連れていた。

 二人とも煤けている。文字通り、顔に黒い煤がついている。

 これは突っ込んではいけないところだろうと珍しく空気を読み、男は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 馬車に戻ったナーベラルは、先ほどまで見せていた恥じらいはどこかに消えてしまったようで標準装備の仏頂面。せっかく高めたボルテージがゼロになっていた。

 誰がスイッチをオフにしたんだとは問うまでもなく二人のヴァンパイアブライドである。外で、裸で、女同士で、あんなことをするなんてナーベラルの経験にも知識にも想像の中にもない。

 はしたない。ナザリックのシモベとして常識を疑う。更に主人の待機命令中だった。言語道断である。

 なお、姉のルプスレギナは外でしたことがある。アルベド様の命令とは言え、ソリュシャンにあんなことやこんなことをされたこともある。ナーベラルはそのことを知らない。

 

 ヴァンパイアブライドたちの睦み合いをこの男に見せてしまったら、きっとおかしな事になる。今日は自分の時間なのだから断固として許容できない。この男だって「今日の私はナーベラルさんのためだけにあります」と言っていた。そこへおかしな横やりを入れられたらたまらない。

 そんな目で見られるのは自分だけでいいのだ。

 

 しかしいざ目にしたところで、ナーベラルが思うようになった可能性はない。

 ミラの裸は見慣れているし、見慣れてなかったとしても女の裸を見ただけで欲情する男ではない。禁欲が三日も続いていたならともかく、昨日はアルベド様がいらっしゃった。

 何はともあれ、雰囲気がぶち壊されたのは確かである。ナーベラルは男が隣に座っても、ツーンとそっぽを向いていた。

 このようなとき、何とかしなければならないのは男の仕事。

 ずっと監禁生活だったので女性経験は豊富なようであまりない男だが、ソリュシャンからの課題図書で色々と学んできている。

 

「さっきのナーベラルは頭にウサギの耳が生えてたね」

「……ラビッツ・イヤーと言う魔法よ。効果は……別にいいわよね」

 

 小さな音を聞き取る魔法である。ナーベラルのウサ耳は変な声を捉えていた。

 

「ウサギと言えば、ナザリックの最古図書館で読んだ本にバニーガールと言う職業があると書いてあったよ」

「そんな職業があるの?」

「具体的に何をするかまでは知らない。ウサギを模したバニースーツを身に着けるものみたいだね」

 

 嘘である。本当は知っている。知っているのだが、ナーベラルには絶対出来ない仕事内容であるため知らない振りをした。この世界にはない職業なので知らなくても問題ない。

 

「こう言っては誤解を招きそうだけど、ウサギの耳をつけたナーベラルはとても可愛かった。ナーベラルは綺麗な顔立ちでスタイルも整ってるから余計に新鮮だったよ」

 

 クールな美女に可愛いウサ耳。ギャップ萌えである。

 ナーベラルにウサ耳が生えていたらピョコンと立ったかも知れない。

 

「………………見たいの?」

「見たい!」

「うっ」

 

 間髪入れずに返ってきた。

 ものの弾みで言ってしまった言葉だが、ぱああっと輝かんばかりの笑顔を裏切るのは心苦しい。

 

「…………ラビッツ・フッツ」

 

 ラビッツ・フッツは、幸運値を上昇させる魔法である。ナーベラルの手がウサギのようなもふもふハンドになった。

 

「バニー・テール」

 

 バニー・テールは、モンスターの敵対値を下げる魔法である。ナーベラルのお尻に、丸くて真っ白な尻尾が生えた。

 

「………………ラビッツ・イヤー」

「おおお!?」

 

 ラビッツ・イヤーはウサ耳を生やして周囲の物音を聞き取りやすくする魔法。

 三つある兎さん魔法を女性が発動すると、不思議な魔法の効果によって衣装が変化するのだ。

 

 ナーベラルはバニーガールになった!

 

 頭にはウサ耳に白いヘッドドレス。首には真っ赤なリボン。漆黒のバニースーツは肩出しのビスチェとレオタードを一体化させたような形で、胸元も脇も丸見えである。下部はハイレッグでカッティングが鋭く、腰骨の上まで見せている。相対的に股間部の面積が少なくなり、ナーベラルが普段履きしているパンツより切れ込みと食い込みが激しい。

 しなやかな脚は、なんと網タイツ。

 靴の意匠や紳士服然とした付け袖も見事だが、胸元と股間の切れ込みに目が行くのはあらゆる男の性である。

 しかし、至福の眼福は短かった。言葉をなくして見入ってる内に、ナーベラルは元の姿に戻ってしまった。

 

「ああ~~~~…………」

「何よ、そんな残念そうな顔しないで。魔法の効果で一時的に姿が変わっただけなんだから仕方ないでしょう」

「一時的……。ずっとさっきの姿でいることは出来ない?」

「永続する魔法ではないわ」

「そっかぁ……」

 

 がっくりとうなだれた。

 バニースーツ姿のナーベラルは、とても良かったのだ。

 とても気分が盛り上がっただけに落胆は激しい。

 とても残念だが、そう言うものであるなら仕方ない。

 いつまでもうじうじしてはいられない。今日はナーベラルを持て成す日なのだ。

 シャキッと気分を入れ替えて顔を上げたところ、ナーベラルが顔を赤くしていた。

 怒っているのだろうか。

 

「………………そんなにバニースーツが良かったの?」

「ええ、とても。だけど無い物ねだりをしても仕方ないからね」

「………………、………………、………………立って」

 

 頬を紅潮させているナーベラルは真顔だ。

 言われたとおりに立ち上がる。

 

「向こうに行って。目をつむって。壁を向いてて」

 

 今度も言われたとおりに。

 ややあって、静かな馬車の中で衣擦れの音が聞こえてきた。

 

「……いいわ」

「お、お、お!!」

 

 振り向くと、そこにはバニースーツをまとったナーベラルがいた。

 先とは違って魔法は使ってないはずである。

 であるなら答えは一つ。

 ナーベラルは、バニースーツを持っていた。

 

 男がナーベラルを喜ばせようと思っていたように、ナーベラルも男を喜ばせたかったのだ。

 喜んでもらえると嬉しくなる。win-winである。

 

 

 

 

 

 

 話はユグドラシル時代にさかのぼる。

 ナーベラルたちNPCが所有するアイテムは、言うまでもなく至高の御方々、プレイヤーたちが持たせたものだ。

 ナザリックが異世界に転移してから、所有物は増えたり減ったりしているが、至高の御方々に持たせていただいたアイテムをシモベたちが廃棄するわけがない。

 

 先に見せたとおり、ナーベラルは三つの兎さん魔法を修得したことでバニーガールに変身することが出来る。それはそれでとても良いものであったが、待ったが掛かった。

 もっと素晴らしいバニースーツがあるのではないだろうか。いや絶対にある。デザインしてよホワイトブリムさん! とシャルティアの創造主がこれでもかとおねだりした。

 そうして出来上がったバニースーツはナーベラルに持たされたものの、これまで一度も装備されたことがない。ナーベラルの創造主は弐式炎雷。卑怯の代名詞とも言える忍者であるが、弐式炎雷は違う。派手な忍術を駆使するわけでなく、隠密に特化したガチでストロングスタイルのTHE・NINJAだったのだ。

 そんな弐式炎雷がナーベラルにバニースーツを着せるわけがない。

 しかし出来てしまったものはしょうがない。一応はナーベラルに持たせたが、着用されたことは一度もなかった。ずっと異空間収容ボックスことインベントリの片隅に入ったままでいた。

 もしかしたら、着用してしまうとユグドラシルの倫理コードに引っかかったのかも知れないが、今となっては誰も知りようがないことであった。

 

 

 

 

 

 

 新ナーベラルのバニースーツは、大体の構造は先のものと一緒だが、細部が違った。

 頭部のウサ耳は魔法で出来たものから柔らかな素材に変わり、中程で緩く折れ曲がっている。ヘッドドレスはより繊細な作りに。首を飾るのは真っ赤なリボンから、従属を示しているのか首輪のような黒いチョーカー。

 立体縫製で支えていた胸部は肩紐で吊すようになっている。要所に白いフリルとリボンがついて、強調すべき部分を強調している。ついているのはバストトップとガーターベルト。胸の谷間を黒い紐が飾っている。

 ビスチェとレオタードを組み合わせたバニースーツと言うよりも、乳房を包むブラジャーと腰を締めるウエストニッパーにガーターベルトを合わせたスリーインワン。股間を覆うパンツも一体だからオール・イン・ワンだろうか。

 脚を包むのは、片足は網タイツ。片足は黒いストッキング。どちらもガーターつきで吊している。

 

 アインズ・ウール・ゴウンのデザイナーことホワイトブリムデザインのバニースーツ姿のナーベラルを見て、男の顔は輝いてはいなかった。ナーベラルに身じろぎさせるほど真剣な顔である。

 

(せ、せっかく着てあげたのにその顔はなに!? すごく恥ずかしいのに、恥ずかしいのを我慢して着てあげたのに!)

 

 ナーベラルの顔の朱が、羞恥から怒りに変わっていく。

 それを知ってか知らずか、男はおもむろに歩き出した。

 所在なく腕を組んで胸を隠すナーベラルを素通りし、馬車内の一番前へ。

 御者台に通じる窓をノックした。

 

「何用でございましょうか?」

 

 窓が開き、ミラが顔を出す。

 

「どこか静かな場所で停めてくれ。まだ時間が早いから、次の目的地には五……、六時間後に着けばいい。それまでは中に入ってこないように。自由にしてていいよ。最低でも四時間は声を掛けないから」

 

 二人が使っていた赤い敷布と綺麗なタオルを数枚、窓越しに手渡す。聞かずとも、さっきの二人が何をしていたか察している男である。

 

「マイスター。後ほど私にご指導のほどよろしくお願いいたします」

「今日の俺はナーベラルのためにいる。明日以降に聞くよ」

 

 言うことを言って窓を閉めた。内側から鍵を掛ける。馬車の出入り口にも施錠する。

 

 馬車の窓には全てカーテンが閉められ、魔法の明かりが仄かに照らしている。

 馬車内の半分を占めるのは中央には大きなベッド。二人が横たわっても十分以上の余裕がある大きさ。

 

「ナーベラルはバニースーツがどんな意味を持ってるか知ってるかい?」

「し……知らないわ」

 

 真剣な顔に気圧され、ナーベラルは後ずさった。広いと言っても馬車の中。数歩で壁際に追いつめられた。

 

「あ……」

 

 壁に手を突かれ、閉じこめられた。

 男の顔が迫ってくる。

 

「最古図書館で読んだ書物には、兎は多産の象徴とあった。それは王国や帝国でも変わらない。その兎を模したスーツがどんな意味を持っているか」

 

 頬を撫でられ、顎に指を掛けられた。

 くいと持ち上げられ、視線を合わさせられる。

 

「バニースーツを着てる女性は兎と同じ。発情してるって意味があるそうだよ」

「なっ……! わ、わたっ、わたしは、そんなつもりじゃ……。見たいて、言ったから……」

「発情はしていない?」

「ひゃっ!?」

 

 壁に突いた手が下りて、ナーベラルの腰に回ってきた。

 ぐいと抱き寄せられ、下半身が密着する。

 

 視線を逸らすことが出来ない。ハンモックの上では何とか湧いてきた気力は枯れてしまったらしい。体の力が抜けきって、男の腕から逃れる術はどこにもなかった。

 

「俺は、してる。ナーベラルがとても綺麗だ。今のナーベラルに欲情しないわけがないだろう?」

「あ……う……」

 

 囁き声が胸を打つ。

 激しい動悸を聞かれてしまいそうで、だけども撥ね除けることは出来そうになくて。

 

「わたしも……、してる……」

 

 ナーベラルは正直に答えざるを得なかった。

 

「何をしてるって?」

「だから! ………………はつじょう」

「発情してる? 抱かれたい?」

「……抱いて欲し、あっ……ちゅっ……」

 

 吐息が唇を舐め、唇同士が掠る距離で言葉を交わしていた。

 ナーベラルが言い終わる前に、唇が塞がれた。

 

 

 

 ルプスレギナは発情狼で、男に迫るときはそんな気分になっているのだから、ちょっと触られただけで準備万端になってしまう。

 しかしそれは、ルプスレギナだけが責められるものではなかった。

 大淫魔を満足させるべく、成長してきた男なのだ。

 形而上の快楽を与えるイデアルタッチなるパッシブスキルを修得している。

 そんな男がそんな気分で迫ってきたら。

 

「あ……だめ……、もっと……んんっ……」

 

 頬を撫で、腰に回っていた手が下がっていく。

 二人の距離が離れないように、ナーベラルからも強く抱き締めた。




アンケートのアルベド首位は当然として、帝国のチョロインが次点は意外
シェーダ最下位は当然でもゼロは残念、今後に期待
とりあえずはアルベド、ソリュシャンで、その他投票は一体何なんだ、何を求められているのだ

私事になりますが、せっかくスマホ入手したので原神を入れてみました
2日合わせてプレイ時間10分。いつかそのうちまたやろうと思います


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バニースーツの秘密 ▽ナーベラル♯5

本話約13k字


 じっくりとバニーナーベを鑑賞する。

 

 近くで見ると、どうしても胸元を飾る黒い紐に目が留まる。胸の谷間へ視線誘導しているのだ。アインズ様だってチラ見するはず。

 よくよく見るとバニースーツの黒い生地は透けている。しかしバストトップは白いフリルが付いているため、肝心なところを全く見せない。否応にも期待を駆り立て焦らしてくる。

 

 スーツはバストのアンダーで見事に切り替わり、乳房の形をきちんと強調。美乳アピールを忘れない。

 細い腰から下半身はガーターベルトが花を添える。ガーターベルトのフリルは大切なところを隠そうとして全く隠せておらず、逆に視線を集めて強調する効果がある。秘密の花園の入り口はここですよと言ってるかのよう。

 ガーターベルトから伸びるストラップは太股の真ん中から右足は網タイツ、左足は黒のストッキングを吊している。ストッキングとスーツに挟まれた肌色は実に眩しい。これが絶対領域か。

 

 見せたいところをこれでもかと主張する至高のバニースーツである。全裸よりよほどいやらしい。デザインしたのは天才に違いない。

 

 そのいやらしいバニースーツをナーベラルが着ている。

 その上、発情している、抱いて欲しいと告白した。

 理性を蒸発させ、男を獣に変える獣化の魔法に等しい。

 

 しかし、耐えた。

 昨日、アルベド様がいらしてなければ耐えられなかったかも知れない。

 

 

 

「そんなに見ないで……」

 

 ナーベラルは、赤く染まった顔を俯けた。

 見たいと言われたから着たわけだが、あからさまなまでに性的な衣装だ。

 喜んでもらえて嬉しい。だけどもやっぱり恥ずかしい。

 

「あ」

 

 下がった視線が捉えたものに、惚けた声を上げた。

 

「立ってる?」

 

 目に入ったのは男の股間。ズボンが大きく膨らんでいる。

 

 ナーベラルが男と肌を合わせるのは今回で三回目。その上、前回は半年近く前。

 事の最中は別世界に引き摺り込まれたようで、よく覚えていない。代わりに快感と幸福が肉体に刻まれている。

 印象に残っているのは訓練時。繊細な手付きと力加減を覚えるため、男の逸物を撫でたり擦ったりして立たせるのが課題だった。

 あの時は頑張って立たせた。それが今は、触ってもないのに、裸を見せてもないのに立たせている。

 

「ふふ……」

 

 男をその気にさせたことに、よくわからない優越感と満足感が湧いてくる。

 

「窮屈じゃない?」

「実は。楽にしてくれるかい?」

「……いいわよ」

 

 屈もうとしたら止められた。仕方なく、立ったままベルトに手を伸ばす。

 

「! な、なにを?」

「ナーベラルは俺を。それなら俺はナーベラルを。おかしくないだろう?」

 

 ナーベラルが男の服を脱がし始め、男はナーベラルの胸元に手を伸ばす。摘んだのは黒い飾り紐。引けば抵抗なく解けた。

 さり気なく肩に手を置き、肩紐を外す。肩から外れても下げ続け、乳房を包むカップが剥がされた。

 アピールしていた美乳がこぼれ出る。

 豊満までは行かないが大きい部類。ソリュシャンが来たことで大きいおっぱいばかりになったからか、新鮮さを感じてしまう。

 

「んっ!」

 

 左手はそのまま下がって剥き出しに尻を掴み、右手は形良い美乳に触れた。

 ひたすらに柔らかいソリュシャンと違って、固すぎず柔らかすぎず適度な弾力の好いおっぱい。初めて揉んだときと変わらない感動を与えてくれる。

 尻肉と乳肉の揉み応えを比べながら、ナーベラルが悪戦苦闘しているのを鑑賞する。

 

 後ろからと違って、向き合った状態でベルトを外すのは慣れていないと難しい。慣れていないからこそ難しいと言える。

 ナーベラルは胸と尻を揉まれながら、苦労してベルトを外す。

 次はズボンと言うところで、

 

「乳首が立って来たよ」

「ひぁん!」

 

 いやらしい言葉と、鋭くも甘美な刺激。

 摘まむに留まらず引っ張られる。久し振りの愛撫が、肉体に刻まれた快感を呼び覚ました。

 摘ままれもした、舐められもした。強く吸われて甘く噛まれ、自分では見たことがないくらいに固く尖った乳首を見せつけられたのを思い出す。

 

「脱がすから邪魔しないで」

「わかったよ」

 

 きつく睨み付け、追撃を止めさせる。男は両手を上げて降参した。

 

 モモン様に仰せつかった訓練では、繊細な力遣いを覚える延長で口淫を覚えた。しかし、肌を合わせた時は夢中になってしまったせいでされる一方だった。これからすることは愛し合う行為なのだから、される一方では駄目だ。自分からもしてあげないといけない。

 

 ナーベラルは心に生まれた奉仕の精神でもって、男の前に跪いた。

 ズボンに手をかける。一思いに下ろしきる。

 現れた肉棒が跳ね上がって、ナーベラルの目の前を通り過ぎた。

 

「おおきい……すごい……」

 

 手で扱いたことも、口でしゃぶったことも、体の中に受け入れたこともある逸物は、雄々しくそそり立っている。

 間近に感じる熱さと逞しさ。ナーベラルはうっとりと魅入り、口中に湧いた唾を飲み込んだ。

 何を言われるまでもなく触ろうとして、

 

「あれ? これ、外れるな。ナーベラルは知ってた?」

「……何のこと?」

「肩紐のこと。スーツから外れるみたいだよ」

 

 上から見下ろして気が付いた。

 スーツのブラジャー部分のストラップはホックになっていて本体から外れるようになっている。

 

「そうなの? 私も初めて着る服だから」

「邪魔だろうから外すよ」

「ええ」

 

 これから手を使って色々するのだ。動きは阻害されない方がいい。

 ホックの部分を折り曲げれば、肩紐は簡単に外れた。

 

「続きはベッドでしよう」

「……ええ」

 

 

 

 

 

 

 脱がされたズボンとシャツはその場に脱ぎ捨てる。

 ナーベラルの方はバニースーツを着たまま。それを脱がすなんてとんでもない!

 バニースーツはウサ耳を着けていればいいと言うものではない。バニースーツだからいいのだ。

 

「口でしてあげるわ。前にもしてあげたことがあったわね」

 

 露骨に性的な衣装で恥ずかしがっていたナーベラルだが、ここにきて余裕を取り戻した。

 自分は服を着ているのに、男は全て脱いでいるのが何かに勝った気分にさせる。

 

 男は足を伸ばして座り、ナーベラルはその中に陣取った。

 勃起している逸物は反り返っているので、位置を正さないと口で出来ない。

 右手で握り、軽く上下に扱きながら、左手は落ちる髪をかき上げる。

 雄の象徴が目と鼻の先。雄の臭いが鼻孔に届き、唇には熱気を感じる。膨らんだ亀頭に艶やかな唇を近付け、動きは止まることなく口付けをした。

 

「ちゅっ、……すごく熱いわ。私を見ておちんこを立たせたのよね? ちゅっ、れろ……、少ししょっぱい。おしっこの味だったら許さないから。あむっ……、んっ……、ちゅる……」

 

 軽く味見をしてから、口の中へ受け入れた。

 以前の指導を覚えている。歯が当たらないように気を付け、舌の動きも意識する。

 根本まで咥えると喉奥にあたるので、深く咥えない代わり唾液をまぶそうとする。数度試して、咥えて吸い付きながらだと唾を出しにくいと気が付いた。

 一度口を離してから口内に唾をため、上目遣いで男の顔を伺いながら唇をすぼめた。

 ナーベラルの唇から唾が垂らされ、数瞬、亀頭と唇とを糸でつないだ。

 亀頭に垂らされた泡立つ唾液は、ナーベラルの手が塗り広げる。

 自分の唾でぬめる手で竿を扱き、唇は亀頭だけを咥えて舌を使う。リズムよく左右に動かして、裏筋を舐めてあげるとぴくんと跳ねた。

 

「……気持ちいい?」

「とっても」

「そう……、良かったわ」

「最後はナーベラルの中で出したいから、ペースはゆっくりでいいよ」

「わ、わかったわ」

 

 目を伏せて、頭を振り始めた。

 

 唾が塗られてひんやりしたところに、温かい口内で包まれるのはとてもいい。

 基本を守った一生懸命なフェラチオは好感が持てる。射精に導く激しさはないが、まだまだ前戯なのだからこれでいいのだ。

 

 頭を撫でてやると、ナーベラルの動きが止まる。咥えたままの半端な刺激がもどかしく、軽く頭を押せば深く咥えて、逸物には舌が絡み付く。

 もう一度撫でてやる。熱い鼻息が下腹をくすぐった。

 

 クールな美貌のナーベラルが、ウサ耳を着けてフェラチオをしている。

 常のナーベラルを知っているなら、例え姉妹であっても想像出来ない光景だ。

 あり得ない光景だからこそ興奮をかき立てる。少々飽きが来ているソリュシャンの時よりも固くなっている実感があった。

 

(ナーベラルに口でしてもらうのは二度目だな。セックスまでした時は手しか使わなかったし。俺も口でしてやったことがなかったか。アルベド様にお褒め頂いた舌を味わってもらおう。でもしばらくは見ていたいな。ナーベラルはドジっ娘かも知れないけど、真面目で融通が利かないだけなんだ。あんな一生懸命にしゃぶって。あんまり上手くないけどこれはこれで……。違うそうじゃない!)

 

 ナーベラルの奉仕に身を任せていた男は、はたと今日の目的を思い出した。

 今日はナーベラルを持て成して楽しんでもらう日なのだ。ナーベラルが率先してしてくれていることとは言え、してもらうばかりではさすがに不味い。

 ナーベラル自身は、男を悦ばせていることに喜びを感じているわけだが、想いは言葉にしなければ伝わらない。

 

(私でおちんこを立たせてくれて嬉しい♡ 私がしゃぶってあげて気持ちいいのよね? とても気持ちいいって言ったし。ふふふ……、気持ちよくしてあげられてる♡ おちんこからぬるぬるしてる汁が出てきてる。前にしゃぶった時も出ていたわ。そろそろ精液が出ちゃうのかしら? でも、私の……、中に、出したいって言ってたから少しペースをゆるめた方がいいのそれともこのままでいいの? 何も言ってこないからこのままでいいのかしら? 出てきたら飲んであげないと。精液って変な味だったけど、一度飲んであげたし。…………おちんこをしゃぶってるだけなのに心がぽかぽかしてくる。体も熱い。どうして?)

 

 ナーベラルはナーベラルで色々なことを思っていた。

 手と口は緩めない。

 ウサギの尻尾を振り振りしながら頭を上下に動かし続ける。

 

 小気味よいリズムは、額をついと押されて中断した。

 

「ナーベラル、体をこっちに向けてくれないか?」

「体を?」

「俺の頭を跨ぐようにして」

「……こう?」

 

 座っていた男はベッドに横たわる。ナーベラルは男とは体の向きを反対にして、男の胸に座ってから、そろりそろりと尻を後ろに下げた。

 

「シックスナインて言うんだ」

「シックスナイン?」

「数字の69はひっくり返しても69だろう? それと同じ姿勢だからさ。俺からもするから、ナーベラルも続けてくれ」

「わかったわ。手加減してあげるけど、精液を出しちゃったりしないようにね」

「わかったよ」

 

 苦笑して答えた。

 

 ナーベラルの気分は百戦錬磨である。

 怖いものなんて何もない。自分がその気になればいくらでも気持ちいい思いをさせてあげられる。

 さっきとは向きが逆になったが、することは変わらない。

 反り返った逸物は、自分の方を向いているのでやりやすくなった。ベッドに手を突き、手を使わずにしゃぶりついた。

 

 ナーベラルは早速始めたようで、逸物が温かく包まれ心地よい。

 今度はこちらからもしなければならない。

 しなければならないのだが、目に映る光景は例えようもなく素晴らしいものであった。

 

 バニースーツの下半身の切れ込みは、それはもう鋭いもの。

 ナーベラルの陰毛は髪と同じサラサラで整えてあるから大丈夫だが、これがもしもナチュラルなエンリだったら間違いなくはみ出ている。

 他の部分と同じく生地には透け感があり、目を凝らせばうっすらと陰毛が透けて見える。

 

 フロントが凄ければバックも凄い。

 ショーツの部分は後ろへ行くほど生地面積が少なくなり、尻の割れ目に完全に隠れてしまうほど。

 尻が丸出しになっているのは、キスをしながら揉みしだいている時に気が付いた。

 

 尻を掴んで引き寄せれば、ナーベラルは察したらしい。

 膝を突く位置を調整して腰を落としてくる。

 吐息が掛かるところに、ナーベラルの股間があった。

 そっと指を伸ばした。

 

「んっ……、んっ……、あんっ♡ わたしの、おまんこ触ってるの? ……負けないわ。あむっ、ちゅぅうっ、じゅる……んうっ!」

 

 勝ち負けではないのだが。

 

 指が沈む。ナーベラルの割れ目に沈んでいる。

 薄衣越しにもナーベラルは温かく、しっとりとした熱気が絡み付く。

 指を上下に動かす前から、ナーベラルの雌の匂いが鼻に届いた。

 どのような生地なのか知らないが、撫でている部分からシミが出来つつあった。

 ナーベラルが下の口から涎を垂らしている。それがはしたなくもシミを作っているわけだが、こんなに簡単にシミが出来ていいのだろうか。ナーベラルが感じやすい云々ではなくて、曲がりなりにもバニースーツと言う衣装なのだ。

 

 ハイレッグの深いカッティングに対応したショーツをナーベラルが持っているとは思えない。バニースーツの下に、ナーベラルは下着を着けていない。

 それは、わかる。

 しかし、透け感がある生地といい、濡れれば弾かず簡単にシミを作ってしまう素材といい、衣装としての機能を果たしていないのではないだろうか。

 これが下着なら話はわかるのだが、バニースーツであるはずなのだ。

 あるはずであった。

 

「こ、これは!」

「なに? どうしたの?」

「いや…………。ナーベラルはこのバニースーツをどうやって着たんだ?」

「どうやってって、……さっきも言ったけど初めて着た服だから」

 

 言外に「着て見せたのはあなたが初めて」と含ませているのだが伝わってない。

 

「……普通に足を通して着たわ。そうしないと着れないし」

「そうか。それじゃ、ナーベラルは知らなかったんだな」

「何を? …………えっ?」

 

 直後、プツンと小気味よい音が二連。

 ナーベラルに、開放感があった。包まれていた大切な部分に外気が触れている。

 

「ここが開くようになってるよ」

 

 バニースーツは、股間を包むクロッチ部に薄いボタンが付いていた。

 ボタンを外すとどうなるか。

 ナーベラルは男の前に、蕩け始めた愛欲をさらけ出した。

 

 

 

 

 

 

 ナーベラルは元より、デザイナーも知らない機能である。

 

 ペロロンチーノにおねだりされたホワイトブリムは、ゼロからバニースーツをデザインしたのではなかった。

 弐式炎雷がバニースーツをナーベラルに着せるとは思えない。デザインしても日の目を見ない。とりあえずセクシーなのだったらペロロンチーノは満足する。だったら少々手を抜いて、市販品でそれっぽいものを見つけデータを流用したのだ。

 その元となったのがオールインワン。ホワイトブリムは、オールインワンの装飾をいじったに過ぎない。

 しかしオールインワンとは、乳房を包むブラジャー、腰を締めるウェストニッパーもしくはコルセット、股間を覆うショーツ、ものによってはそこへガーターベルトを加えた一体式の下着である。

 下着である。くどいようだが下着である。主に体のラインを美しく見せるための体形補正下着である。

 下着なのだから、その部分がどうにか出来ないと困るのだ。具体的にはトイレである。トイレの際に下着を全部脱ぐなんて非効率極まる。そこをどうにかすべく、クロッチ部が開くようになっていた。

 けっして卑猥な目的のためではない。

 

 しかし、ナーベラルのバニースーツは見せるためのアウターとしてデザインされている。それなのに、大切な部分が開くようになっている。

 情報不足と手抜きが重なって、シャルティアのネグリジェ並のエロ衣装として生まれ変わってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

「あんっ、なにっ? あっ、あっ!? うそっ、なめてるのっ!?」

「ナーベラルだって俺のちんこを舐めてるだろう?」

「そっ、そうだけど……、あっ、やぁっ! 広げないで! おまんこ広げて奥までみないでぇ♡ あっ、ひゃあぁぁあああっ!」

 

 二度もセックスをしているのに、たまたま機会に恵まれず、ナーベラルの秘部を間近に見るのは初めてだった。

 着色のない綺麗なおまんこで、割れ目の部分はつるりとした無毛。陰毛は恥丘から綺麗な▼に整っている。

 閉じていれば無垢に見えても、ふにふにと頼りないほど柔らかい陰唇を開けばナーベラルの女が顔を出す。充血した女の肉はしっとりと潤い、発情した雌の匂いを立ちのぼらせる。

 透明な汁を湛える雌穴に、尖らせた舌を差し込んだ。押し出された愛液が舌を伝って流れてくる。

 ナーベラルの味を確かめてから、舌を使い始めた。

 

 ナーベラルはしゃぶるのも忘れて、背を弓なりに反らす。

 舐めたことはあっても舐められたことはなかった。セックスしたときの記憶は朧気だが、間違いなくなかった。

 舐められている。大切なところを舐められている。いつもならズボンを履いて、その下にはきちんとパンツを履いて、閉じている割れ目の中で、奥の奥に隠れている恥ずかしいところ。

 そこを広げられて、目と鼻の先で見られてしまって、口付けをされている。

 

「やっ、やぁっ、あっ、ああんっ! あんっ♡ なめるところじゃないのにっ、……ぃい、……なんでいいの? あぁん♡」

 

 体の内側に舌が這っている。いつか乳首にされたように、舐められて吸われて、啜られている。

 ナーベラルは、キスをしている段階で湿らせていた。熱い逸物に男を感じ、しゃぶっている時には濡らしていた。股を濡らしながらフェラチオをしていたのだ。触られる前からシミを作っていた。

 シミたのは愛液。男が欲しくて溢れてきた。体が勝手に反応したとは言えない。間違いなく、ナーベラルの意志を伴って濡らしている。

 

「あっあっあぁあんっ♡ ああっ!? おつゆ飲んでるの? じゅるじゅるしないでぇ! わっ、わたしもじゅるじゅるしちゃうから♡」

 

 負けじとナーベラルも頭を下げた。

 逸物の太さぴったりに口を開いてしゃぶりつく。ちゅうちゅうと吸いながら口内に熱さを感じて頭を振る。長いポニーテールが激しく揺れる。

 時々腰を跳ねさせて、けれども尻を掴まれているので逃げられない。その都度、じゅるりと卑猥な水音を感じ、体の熱さが心に移ってきている。

 

「じゅるじゅる……、れろ、あむぅっんんっ! ん~~~~っ♡ ぷはぁっ……、どう? おちんこ気持ちいいでしょう?」

「とっても。ナーベラルの気持ちを感じるよ」

「……ふふ、気持ちよくしたくて舐めてあげてるんだから、そんなの当然よ♪ れろぉ……、ちゅっ♡」

 

 赤い舌で亀頭を舐めてから、尖らせた唇で啄むようにキスをする。

 自身の唾液で濡れそぼった逸物は、低い室温に湯気を立てている。ピクピクと震えるのが愛らしく、なめらかに扱いてやってから再度の口付け。

 

(おちんこがこんなにピクピクしてる。きっと精液を出したいのね。ぬるぬるしてるのがいっぱい出てるし。これ、私の唾だけじゃないわよね? おちんこから出てきてるのよね? 精液を出すのは私のおまんこって言ってたから、手加減してあげないと。私のおまんこに入れたいんでしょ? 入れたいなら入れたいって言えばいいのに! 私はまだ我慢できるわ。私からは、言わないから)

 

 ナーベラルは得意げになっているが、加減されているのはナーベラルの方。

 アルベドに敗北を与えた舌技は伊達ではない。それに扱きながらのナーベラルと違って手を使っていない。尻と太股をいやらしく撫で回している。それでもナーベラルは、浅くとはいえ何度も達した。

 しかし、ナーベラルの視点では負けてない。

 負けてないアピールで、体を起こして後ろを振り向く。

 軽く尻を浮かせ、同時に男の口が離れて何かが欠けたような、物足りなさというか切なさと言おうか、焦れったさにも似たものが体を焦がす。

 ナーベラルを見上げる男は、唇を舐めた。ナーベラルが垂らした愛液を舐めとっている。

 

 気付けば、ナーベラルは男に抱きついていた。

 恥ずかしいと思ったのか愛おしいと思ったのか、全くわからない。衝動的に体が動いた。

 唇を唇に押し付け、貪るように舌を吸いだし、溶け合ってしまえと言わんばかりに舌を絡める。

 抱き締めながら転がって、今度はナーベラルが下に。上には男の体が覆い被さっている。

 

「入れるよ」

「……ええ、いいわ」

 

 言葉は短く、ナーベラルはまたもや勝利を手に入れた。

 立たせて一勝。先に全部脱がせて一勝。シックスナインでは何度かイッてしまったが、入れたいと言わせたのでやっぱり勝利。

 

 男の首筋に腕を回し、浮かべていた余裕の笑みは、段々と崩れていく。

 さっきまでしゃぶっていた逞しい逸物が、ナーベラルの女を撫でている。じっくりと舐められ、男を受け入れるために開かれたナーベラルの雌の穴。たっぷりと湛えた蜜が今か今かと待ちかまえ、誘惑している。

 

「んっ……」

 

 入り口に入ってきた。

 目は閉じない。閉じれば負けてしまう気がして、男の目から反らさない。

 

「ああ……、私の中に、入ってきてる。あんなに大きいのに、私のおまんこに入っちゃうなんて……。すごい……」

「痛くはない?」

「三回目だもの、平気よ。お腹いっぱいになった感じはあるけど」

「ナーベラルが感じてくれたからだよ。俺のも舐めてくれたし」

「……ええ、あなたにおまんこ舐められて……、ビックリしたし恥ずかしかったけど。……とても気持ちよかった。でも、今の方が……」

「今の方が、何かな?」

「幸せ。気持ちいいだけじゃなくて幸せなの。あなたと一つになれて…………、とても……、嬉しい……♡」

「俺もだよ。愛してる」

「あっ♡ ……わたしも。わたしもあなたのこと、愛してるわ。あっあっ……、おちんこが、動いてる?」

 

 ゆっくりとゆっくりと動いている。太い逸物はナーベラルの膣内に根本まで埋まってから、時間を掛けて引き抜かれ、同じ速度で入っていく。

 

 百戦錬磨を気取ろうとナーベラルはまだ三回目で、何度も使ってこなれているルプスレギナに比べれば固さがある。

 それに加えて半年振り近く。固さをほぐす必要があった。

 とは言っても処女とは違う。数度の往復でほぐれてきた。

 逸物に隙間なく密着した膣壁が蠢いて絡み付く。ナーベラルの雌が欲しいと訴えている。

 

 腰を引いて抜け掛けた逸物を、一息で最奥に届かせた。肉と肉がぶつかって、乾いた音が響いた。

 

「ひうっ……ぅああっ? ……いっ、今の、おなかにきた、わ……」

「痛い?」

「ビックリしただけ。大丈夫。もっとしていいわあっ!? あっ、あっ、あああっ! まっ……あっ、あんっ、あんっ♡」

 

 ナザリックの女性は、メイドを除いて痛みに強いのだ。

 

「あっ、あっ、はげしっ、あっ! あぁんっ♡ すきっ! 好きなのっ! あああぁっ!? 好きだから、けっこんしたいのぉ♡」

 

 ナーベラルの許しを得て、激しく腰を打ち付けた。

 女の股に熱い肉棒が突き刺さり、何度も何度も往復する。結合部から飛沫が飛び散り、男の太股を濡らす。

 激しいだけでなく緩急を付けて。十数回に一度は子宮口に尿道口を押し付け、上の口でもキスをしながら愛を囁く。

 

 今のナーベラルからは、勝利も敗北もなくなっていた。

 夢中になって男と体を重ねている。

 体の真芯を貫かれ、一番奥に届いているのを感じている。何度も突かれて、鈍い痛みにも似た衝撃がある。

 不快感は全くない。それどころか充足感が高まって深まって、甘い鳴き声を止めようとも思えない。

 

 高レベルのナーベラルは痛みに強い。

 それ以前に、女には元々被虐の気がある。性交時に異物を受け入れる肉体の構造が、そのような精神性を宿らせる。それが行きすぎるとシャルティアになる。

 少々の痛みは彩りの一つに過ぎなかった。

 

「愛してっ、わたしをいっぱい愛してっ♡ ひぅっ…………、あああああああぁあああぁぁぁあーーーーーーっ!!」

 

 ナーベラルは男の体にしがみつき、全身を跳ねさせた。

 目一杯に広げられている膣がキュウと締まり、奥へ奥へと迎え入れるために蠕動する。

 最奥で締められた逸物は、どぴゅっ、どぴゅっ、ぴゅる、ぴゅっ、と。熱い精液を吐き出した。早起きによってソリュシャンの朝討ちを回避したため、量が多かった。

 膣は小刻みな収縮を繰り返し、射精直後の逸物を労るように優しく包む。

 二人は抱き合ったまま、幸福な絶頂の余韻に浸った。

 

 

 

「あ……? また大きくなってる?」

 

 ナーベラルが、別世界と例えた遠いところから帰ってきた。

 別世界にいた記憶は、やはり曖昧だ。全能感のような幸福感で、心も体も満たされていたのは覚えている。

 戻ってくれば、自分を導いていてくれた男が見下ろしている。

 まだ入ってる。

 中で出されて、逸物がピクピクと震えていたのは何となく覚えている。

 それがまたも力を取り戻し、ナーベラルの中に我が物顔で居座っていた。

 

「この前も一度だけじゃなかったろう?」

「そ、そうだった、けど……」

 

 前回も前々回も、抜かずに三度は出されていた。

 

「でも……」

 

 口には出せないが、体位に少しだけ不満があった。

 ナーベラルは横たわったままで男が上なのは変わらない。違うのは、体が離れていること。

 男は体を起こし、ナーベラルの太股を抱え持っている。

 

「バニースーツのナーベラルを見ながらしたいからね」

 

 ナーベラルが折角バニースーツを着ているのだ。

 一度目はナーベラルに合わせて体を密着させたのだから、今度はこちらの要望を通したい。

 

「んっ……、あっ……、やっ、はずかしい……。はぁ……あんっ♡」

 

 絶頂の余韻が通り過ぎ、赤らんではいるが平静を取り戻した顔が歪んでいく。

 眉尻が下がり、目は切なそうに細められ、薄く開いた唇から熱い吐息が漏れ始める。

 腰を打ち付ける度に嬌声が大きくなっていく。

 一度中で出したため、水音も激しい。精液と愛液が混じり合い、ナーベラルの膣内で攪拌されている。

 ズチュズチュと鳴っては溢れ、二人の陰毛を汚し始めた。

 

「まだ昼過ぎだ。暗くなるまで二人きりだよ」

「あっあっ……、ずっと……、するの?」

「ナーベラルはしたいみたいだね」

「そんなことっ……ひゃんっ!」

 

 太股を抱えていた手が、ナーベラルの胸に置かれた。

 腰を使いながらも手を動かし、ゆさゆさと揺れていた乳房を揉みしだき、乳首を弄る。

 

「ナーベラルからもしてごらん。手をこうして」

 

 手を取られ、導かれたのは二人の結合部。

 濡れた陰毛を通り越して、割れ目の上端へ。

 自分のクリトリスを摘まませられた。

 

「もっともっと先がある。言う通りにしてごらん」

「は……はい……。あっあっ、ひうっ……、あっ………………!」

 

 同時に達したのだから、勝負はイーブンなのかも知れない。

 しかしその後、ナーベラルは知らない世界に連れ去られた。

 

 

 

 

 

 

 6時間後。馬車は帝都に戻った。

 着いたのはお屋敷ではない。モモンが使ったこともある帝都一の高級宿。ナーベラルを持て成すために、男は宿をとっていたのだ。

 

 男は顔を晒したままだが、ナーベラルにはマントを纏わせ、フードを被って顔を隠させる。

 身元不明者の利用を宿は嫌がるものだが、そこは魔導国の学士様の顔と輝く金貨が物を言った。

 二人のヴァンパイアブライドには隣室を与え、男と女は部屋の中へ。

 

 マントを脱いだナーベラルは、未だにバニースーツのままでいた。

 脱ぐと同時に濃い性臭が漂い出す。膣内に男の精液を収めたままなのだ。こぼさないようずっと締めていた。

 

「食事は部屋に運ばせるよ。その間に体を洗おう。勿論一緒に。おいで」

「はい…………、わかったわ」

 

 心身ともに屈服させられ、従順に答えてしまうもなんとか言い直す。

 何度か勝利したはずのナーベラルは、いまや完全敗北の体だった。

 

 風呂では男の指で掻き出された。

 バスタブに湯を溜めて、湯の中でもずっと挿入していた。

 

 風呂から出たら、裸のままテーブルに着く。

 給仕は不要。食事の用意だけしてくれればいいと注文してある。

 椅子をくっつけて並んで座る。男は無駄なほど器用なので、左手も右手を同じように使える。そのため、ナーベラルが右に、男が左に座った。

 ナーベラルが右手でスプーンを使い、男は左手でフォークを使う。お互いに食べさせ合う。時には口移しにする。徐々に盛り上がって、咀嚼した物を相手の口に流し込む。

 その間、ナーベラルの左手は男の逸物を扱いて、男の右手は中指をナーベラルの膣に潜り込ませていた。

 食事を中断し、ナーベラルが男の前に跪く。

 口を使って、今日初めて口内に射精された。

 食事と同じように咀嚼し、味わってから飲み込んだ。お掃除フェラと言うものを教えられ、尿道に残る精液も吸い出した。

 

 非常に爛れた食事が終わったらベッドの上へ。

 前からもしたし後ろからもしたし、椅子の上でもして、立ったままでもした。

 何回出されて何回いったのか、ナーベラルは数え切れない。

 

 その夜は裸で抱き合ったまま眠った。

 

 

 

「おはよう」

「……おはよう」

 

 翌朝、目が覚めると輝く美男が自分を見つめて微笑んでいる。

 

「今日の午後はパンドラズ・アクター様がお戻りになるから、それまでに屋敷に戻らないとね」

「…………そうね。あっ……、何するの?」

 

 ぐいと抱き寄せられ、乳房が男の体で潰される。

 

「まだ時間があるよ」

「………………」

 

 ナーベラルの顔が紅潮してくる。

 昨日、徐々に引きずり込まれた遠い世界を思い出した。

 昨日はどんどん気持ちが高まっていって、恥ずかしいことをたくさんしてしまった。

 セックスくらいなら、と思えるくらいに濃密な時間を過ごしたわけだが、食事をしながら愛撫し合ったのはどう考えても異常で恥ずかしすぎる。

 それと同じくらいに恥ずかしかったのが、お尻の穴に指を入れられたこと。痛くはなかったし、一本だけだったので圧迫感もなかったが、そんなことをするところではないのだ。

 

「お尻は駄目。…………それ以外だったら……」

 

 それ以外のことを色々とされてしまったし、させられてもしまった。

 上になることを覚えさせられたのが一番印象に残った。

 

 

 

 

 

 

「ヒューーーッ♪ やぁっとお帰りっすねぇ。お肌つやっつやじゃないっすかあ。漆黒の美姫ナーベ様は昨日と今日と、ずーーーーっと何してたんすかねー?」

「お兄様はモモン様と一緒に皇城に向かわれたわ。ナーベ様はこんな時間になるまで何をしていらっしゃったのかしら? 時間がある方って羨ましいわ」

 

 宿を出た後、ナーベラルだけは途中で馬車を降り、一人歩いて帰ってきた。

 考え事をしながら歩いたせいで日は既に傾いている。

 

 ナーベラルは、姉妹の嫌みを気に留めず、上の空で椅子に座った。テーブルに両肘を突き、組んだ両手に額を預ける。

 性悪姉妹は思わず顔を見合わせた。

 お出かけは楽しくなかったのだろうか。

 

「もしも、もしもの話よ?」

 

 顔を見せないまま、ナーベラルが口を開く。

 

「もしも私が、モモンさんのパートナーをあなたちと交代したいと言ったら、どうする?」

「そんなの交代するに決まってるじゃないっすか」

「やっとその気になったのね。あなたには荷が重いと思っていたわ。安心して、私ならきちんとモモン様のパートナーを務められるわ」

「ソーちゃんはお嬢様やらないとまずいっす」

「当初の目的は果たしたわ。問題はないはずよ」

「そーいうのじゃなくて」

「だったら何よ?」

 

 ナーベラルを置き去りにして盛り上がる。

 しかし、話はまだ終わっていない。

 

「まだ続きがあるわ。モモンさんのパートナーになったら、彼とは年に一日しか会えない。それでも?」

「………………一日だけはちょっと」

「ナーベラルは一日以上会ってるじゃない。変な条件つけないで」

「そこよ」

「「?」」

 

 ナーベラルは、重い息を吐いてから顔を上げた。

 ルプスレギナが揶揄した通り、お肌が艶々で女として満ち足りているのを感じられる。

 但し、表情が冴えない。

 眉間には皺が寄って、何かを悩んでいるように見えた。

 

「彼と……、色々なことをしたわ。こうしてごらん、そこはこうして、力を抜いて楽にしていい、ここでは力を入れて締め付けて、凄いな完璧だよ、とても嬉しいよ、最高だ。……、上手くできたら誉めてくれて、それが嬉しくて。……もっと悦ばせたいと思って、そうすると私も、その、良かったし」

「惚気っすか?」

「それなら私も負けないわ。お兄様からの嬉しい言葉をいっぱい貰っているの」

 

 女性だけのガールズトークは時として生々しい。

 ナーベラルは二人に付き合わず、なおも言葉を続けた。

 

「でも、思ったの。こんな毎日が続いたら、凄く良いかも知れないけど………………、猿になるって」

「…………」

「…………」

「あなたたちは手遅れかも知れないわね。モモンさんのパートナーよ? アインズ様のお側にずっと侍ることが出来るのよ!? それなのに、彼と会えない時間が増えるから即答できないなんて」

「……私は平気よ。お兄様とお会いできなくなるのは残念だけど、アインズ様のお力になれるなら耐えられるわ」

「耐えなければ出来ないの?」

「そっ、それは……」

 

 ソリュシャンはまだいい。

 お兄様とは性格的な相性がいい。本性が割と悪辣なところも気に入っている。いつぞや、ルプスレギナと喧嘩したときに口添えをしてもらった恩もある。結婚をと言うくらいなのだから、相当に執着している自覚がある。

 手足をトロトロしてもあっさりと許してくれる精神性、肉のみならずに美味しい体液、美しく創造されたプレアデスである己ですら魅入ってしまう輝く美貌。

 好きなところを上げればキリがない。

 しかしそれでも、ソリュシャンはショゴス。肉体は不定形な粘液で構成されているのであって、女が知る肉の悦びはわからない。

 

「な、なに? 二人してどうして私を見るんすか? 私は猿じゃなくて狼っすから!」

 

 しかしこいつは駄目かもわからない。

 

 面白いように狼狽えるルプスレギナを、二人の姉妹は笑えなかった。




サキュバスの有名どころはモリガンしか知りません
女悪魔もオディールくらいしか思いつきません
こっから探すといいよ的なヒントありませんか?

しかしこーいうの感想欄でやるのは規約違反だった気が
良い名前が出てくるよう念じてください


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ハムスケもふもふ大作戦

ハムスケのことを忘れていませんでしたか?
私は綺麗に忘れてたので忘れない内に突っ込みました


 若旦那様が窓から外を眺めています。

 ぼうっと眺めているのではありません。しっかりと目的を持って眺めています。その証拠に、数秒確認すると眺めるのを止めるのです。

 最近は空を眺める頻度が高くなりました。特にモモン様とナーベ様の滞在期間が残り少なくなってからは日に何度も眺めています。時には外に出て眺めることもありました。

 一体何を見ているのでしょう。

 

「いらした!」

 

 空に何かを発見したようです。

 若旦那様は叫ぶや否や、外に飛び出しました。

 

 

 

「あれ? 随分歓迎されてるじゃん」

「アウラ様がいらっしゃるのを今か今かとお待ちしておりました」

 

 若旦那様が待っていたのは、ドラゴンに乗ってやってくるアウラ様でした。

 お屋敷の広い広い敷地に着陸したドラゴンからアウラ様が飛び降ります。大きなドラゴンなのでそれなりの高さがあります。以前は空中から飛び降りたこともあるアウラ様ですので、着地に何の問題もありません。

 

「おっと、お怪我はありませんか?」

「……ないよ。別に受け止めてくれなくても良かったんだけど」

 

 飛び降りたアウラ様を若旦那様が見事にキャッチ。

 

「手が届く範囲でしたので。差し出がましいことをいたしました」

「……別にいいけど…………。それより何で私を待ってたの? 何かあった?」

 

 アウラ様は夕日の残光に染まる顔を背けて問いただしました。

 帝都のお屋敷には何度も来ているのですが、外で出迎えを受けるのは初めてです。

 

「今はモモン様とナーベ様が滞在していらっしゃいます」

「知ってる。この前会ったし。そう言えばこの前は」

「そこはどうかご内密に」

 

 アウラ様は、若旦那様がアインズ様との内緒の修行期間の間にお屋敷を訪れていました。その時の若旦那様はドッペルゲンガーだったのです。アウラ様は一発ですり替えを見抜きました。

 すり替わっていたのはナザリックの一部の者たちしか知らないことですので、大きな声で話されると困ってしまうのです。

 

「わけあってそのような事になっておりました。子細はどうかご容赦を」

「私にも内緒ってわけ?」

「では……、後ほど」

 

 後ほど、アインズ様のご下命で、と打ち明けられ、アウラ様はそれ以上追求出来なくなるのですが、今は関係ない話です。

 

「今はモモン様とナーベ様がいらっしゃいます。すなわち、ハムスケさんもここにいるのですよ」

「それが?」

「ハムスケさんをもふもふにする日がついに来たのです!」

「………………ああ」

 

 アウラ様は綺麗さっぱり忘れている話でした。

 若旦那様は、アウラ様がいらっしゃる時にハムスケさんをもふもふにしてやろうと思って、アウラ様がいらっしゃるのを心待ちにしていたのです。

 

 

 

 

 

 

 アウラ様がいらっしゃったのは夕刻です。

 時節は冬。日没が早く、空には明るい星が見え始めました。

 

 敷地の一画に、大きな篝火が焚かれました。

 アウラ様がドラゴンを着陸させたり待機させたりと、開けている広い場所です。

 

「本当にやるでござるか? そもそもそんなことが出来るのでござるか?」

「出来ます! 私が保証します!」

「お前に保証されても……」

「もふもふになればモモンさんがお喜びになるわ」

 

 アインズ様が大福にもたとえた丸くて白いハムスケさんは、体高が人の身長よりもあります。見た目は大きなハムスターですので、体長は体高に応じた長さに。すごく丸くてふわっとしたおっきな可愛い生き物です。

 その実、森の賢王と称えられる凄い魔獣だったりするのです。

 

 ナーベ様の言葉にモモン様が頷いているのですが、中身はドッペルゲンガーの偽モモン様です。

 ハムスケさんは半目でナーベ様を見返しました。

 

「本当でござるか~? ……ぎゃふんっ!!」

 

 ナーベ様がハムスケさんを蹴りつけました。

 ここにいるモモン様はダミーですが、ダミーとばらされるのは大変困ることなのです。ハムスケさんの言葉はいささか迂闊でありました。

 

「本当だって。私はハムスケがもふもふになったらすっごく嬉しいよ!」

「アウラ殿がそう言うのなら…………、わかったでござる!」

 

 ハムスケさんはアウラ様の援護射撃で陥落しました。

 

「人間! 拙者の毛をもふもふにするでござる!」

「勿論です。準備は既に整えておりますから」

 

 ハムスケさんは、ちょっとだけ悪寒を感じてぶるりとしました。

 ハムスケさんにとっての若旦那様は、ひ弱な人間だけどナザリックの下っ端に取り上げられた、と言う認識でしかないのです。ハムスケさんに人間の美醜はよくわからないし、若旦那様の役割を詳しく聞かされたこともないので当然と言えば当然の認識です。

 ハムスケさんがぶるりとしたのは、幾名が鋭い視線を投げたからなのですが、もしかしたら野に生きる魔獣の第六感が未来を警告したからなのかも知れませんでした。

 

 

 

「アウラ様に以前説明しました薬液を使用します」

 

 使用する薬液は二種類あります。

 薬液Aが、剛毛をふわふわにします。

 薬液Bは、人肌を始めとする動物の肉体に親和性があります。

 AとBを混ぜることによって、大きなハムスケさんの全身に効率よく薬液を塗布することが出来るのです。

 

「では行きますよ」

 

 薬液の用意はたっぷりと。大瓶が何十本も並んでいます。

 若旦那様は瓶の中身を桶に撒け、もう一種類の瓶の中身も撒け、ガラス棒を使って中身を一混ぜ。

 桶の中身をハムスケさんのおっきな体にぶちまけました。

 

「ひょえぇっ!? つめたっ! 冷たいでござる!」

 

 ハムスケさんのでかい図体に比べればとても小さな桶の中身が、ハムスケさんの全身を包む込んでしまいます。これが薬液Bの効果なのです。

 

「ミラ、ジュネ!」

 

 若旦那様が呼びかけたのは助手のヴァンパイアブライドたち。

 日が落ちてるけれど、ヴァンパイアブライド標準装備の白い衣装はエロ衣装と勘違いされるのが確定なので、日中も着ているドレス姿です。

 白と黒のドレスを身にまとった美しい手弱女たちが、容量が500リットルもある大きなバスタブを持ち上げているのを見て、使用人たちの何人かが度肝を抜かれました。若旦那様の愛人と思っていたのです。

 

「ぶっっっっひぇええぇぇえぇえっぇぇぇえぇええぇ!?!?!?」

 

 ハムスケさんが絶叫しました。

 

 ミラとジュネは、二人掛かりで大きなバスタブを持ち上げると、中身をハムスケさんにぶちまけたのです。

 中身は水です。

 薬液Aは、たった一度の塗布で効果を発揮してくれないのです。ハムスケさんの毛をもふもふにするには、塗布した薬液を大量の水で洗い流し、再度薬液を塗布してからまたも洗い流し、と言うことを何度も何度も繰り返さなければならないのです。

 

「何するでござるか冷たいでござる……よ」

 

 この人間めぶっ飛ばしてやる! と意気込んだハムスケさんは、若旦那様に忠実な最強のヴァンパイアブライドが、その目はなに殺すぞボケ、の目で睨み返してきたので言葉尻が締まりませんでした。

 

「冷たかったですか? ハムスケさんは森の賢王とも呼ばれる偉大な魔獣ですから、水を被るくらい大したことないと思っていました」

「季節を考えるでござる!」

 

 今は冬です。間違っても屋外で水浴びをする季節ではありません。

 しかも夜です。空気は冷え冷えとして、ハムスケさんの大きな吐息が真っ白に濁っています。

 

「ハムスケさんなら大丈夫と思っていたのですが……」

 

 若旦那様は考えました。

 寒いなら暖かくなるのを待つか、洗い流す水をお湯に変えるかの二択です。

 ですが、前者は却下。水浴びに適した季節まで待ってられません。

 そして後者も却下。時間を掛ければ可能なのですが、既に掛水は汲んであるのです。これらを一々沸かしてたら夜が明けてしまいます。

 若旦那様は考え抜いて、名案を思いつきました。

 

「わかりました!」

 

 遠くで見ているメイドたちから黄色い悲鳴があがりました。

 若旦那様はババッと上着を脱ぎ捨てシャツも脱ぎ捨て、上半身裸の半裸の姿になったのです。一見細身なのに、脱ぐと意外に逞しい若旦那様です。腹筋も割れています。

 

「ハムスケさんだけに寒い思いをさせるわけにはいきません。私も寒さに耐えましょう! ウオオオオオオオッ!!」

 

 若旦那様は、何故か用意してあった氷水入りのバケツを掲げると、頭の上からジャバアッと被ったのです。

 水も滴る若旦那様です。

 

「ハムスケさんが水を被る度に私も水を被りましょう!」

「に、人間…………。オヌシの覚悟、しかとそれがしに届いたでござる! さあ幾らでもぶっかけるでござるよ!」

 

 一幕を見ていた者たちは、ハムスケさんと同じく若旦那様の心意気に胸を打たれました。

 しかし他方、若旦那様の左手首に輝くブレスレットに目を留めた者たちは違います。

 

 お前は寒くねーだろ。

 

 赤と青の宝石を抱く魔法のブレスレットは、耐炎と耐氷の効果があるのです。氷水を被るくらい全く問題ありません。

 みんな薄々感づいていたことですが、若旦那様には人の心がありませんでした。

 

 

 

 ヒェッ ジャバーー ブッヒェエエェェ! ウオオオオ! ジャバァ。ヒェッ ジャバーー ブッヒェエエェェ! ウオオオオ! ジャバァ。ヒェッ ジャバーー ブッヒェエエェェ! ウオオオオ! ジャバァ。ヒェッ ジャバーー ブッヒェエエェェ! ウオオオオ! ジャバァ。ヒェッ ジャバーー ブッヒェエエェェ! ウオオオオ! ジャバァ。ヒェッ ジャバーー ブッヒェエエェェ! ウオオオオ! ジャバァ。ヒェッ ジャバーー ブッヒェエエェェ! ウオオオオ! ジャバァ。

 

 ………………………………………………………………………

 

 …………………………………………………

 

 ……………………………

 

 

 

 そして夜が明けた!

 

 辺りには空になった瓶が無数に転がっています。

 水浸しではありますが、予め排水のために掘った溝がそこそこの仕事をしていました。

 

 そして、ハムスケさん。

 プルプルプルプルプルプルしております。

 

「ふわぁ……、どう? 終わった?」

 

 お泊まりしたアウラ様が窓から飛び降りてきます。

 

「あ……あうらどのぉ…………」

「この丸いの……。やっぱりハムスケなの?」

 

 ハムスケさんは、白い毛玉になっておりました。

 元々大きなハムスケさんです。体毛もそれなりに長いです。針金のように固い毛がふわふわになった結果、ハムスケさんの体積は5割り増しに。大きな大きな白い毛玉の怪と化してしまったのです。

 身体中の毛がふわふわになってしまい、つぶらなお目めが毛並みの奥に隠れてしまっています。

 蛇みたいに鱗が生えてる長い尻尾があるのでどっちが後ろなのかくらいはわかりますが、逆を言えばそれしかわかりません。まさに白い毛玉です。

 本当は頭の上の毛は茶色っぽくなっていたのですが、若旦那様がハムスケさんに何の断りもなく漂白してしまったのです。人の心がない男です。

 

「如何でしょう? 宣言通りにもふもふハムスケさんの誕生です! 乾燥を終えてありますので、どうぞ毛並みを確かめてください」

 

 乾燥とか、まるきり毛皮扱いです。

 

「それじゃ早速」

 

 アウラ様は、プルプルしてるハムスケさんの背中にぴょんと飛び乗りました。

 もふもふの毛皮に埋もれて、アウラ様は見えなくなりました。

 

「…………なんか……、思ってたのと違う」

「…………………………えっ?」

「もふもふって言うよりふわふわって感じで、なんて言うの? 柔らかくなりすぎ」

「!?」

 

 まさかのダメ出しです。

 

「それにこれじゃハムスケも前が見えないでしょ?」

「見えないでござる。毛が鼻をくすぐってむずむずするでござる~」

 

 ハムスケさんはブヒェンと大きなくしゃみをしました。

 白い毛玉の一部がなびいたので、その奥に口があるとわかります。

 

「ご飯も食べれないでござるよー」

 

 どこに顔があるかわからないレベルのもふもふ毛玉っぷりですので、食事など到底とれないことでしょう。

 

「今回はちょっと失敗だね」

「次こそはアウラ様の思う通りのもふもふにしてみせます」

「もういやでござる」

 

 

 

 

 

 

 ハムスケさんは丸刈りにされました。

 肌の色は意外なことにピンクでした。寒空の下にピンクの肌がむき出しですと、いかにも寒そうです。

 しかし、そこは偉大な魔獣、森のハムスケ。

 申し訳程度の毛生え薬にルプスレギナが回復魔法を掛けますと、短く刈られた毛がモリモリと長くなって、元の針金みたいな毛皮ハムスケに戻ったのです。

 若旦那様は早速リトライを申し出たのですが、

 

「もういやでござる」

 

 アウラ様もナザリックに帰ってしまわれました。

 

 そうこうしている内に時間が流れ、モモン様とナーベ様がエ・ランテルに帰る日がやってきてしまいました。

 モモン様の中身はパンドラズ・アクター様に戻っています。

 

「ハムスケの様子が少し変だな?」

「モモンさん、その話は道すがらに」

「散々な目にあったでござる……」

 

 お屋敷の人員総出でお三方を見送りました。

 

 なお、刈り取られたハムスケさんの毛は、綺麗に洗った後に脱脂処理をされ、糸車で紡いで毛糸になりました。

 若旦那様が鋼の剣を使って切り込んでも断ち切れない凄い毛糸です。そのくせ手触りはふわふわ極上。

 おっきなハムスケさんなので、セーターが100着くらい出来そうです。

 

 若旦那様は毛糸をナザリックに卸して服飾品に加工して貰おうかとちょっとだけ考えたのですが、ナザリックでハムスケさんの毛糸が評判になってしまいますと、これからのハムスケさんが毛糸製造機になってしまうかも知れないので止めておきました。少しは人の心が残っているようです。

 

 毛糸は手のひら大の毛玉にしてから屋敷に務めるメイドたちに配ったりしましたが、量が量なのでまだまだいっぱいあります。

 その内に編み物でもやってみようと思いました。

 

 余談になりますが、メイドたちが毛玉を毛織り商へ鑑定に持って行ったところ、一財産になることが判明してしまいました。

 鋼の剣で切りつけても物ともしない耐久性。ふわふわ手触りの極上品質。森の賢王の毛糸と言うネームバリューと希少性。当然の結果でした。

 しかし残念ながら、次の供給予定は皆無。

 

 もしかすると、夏になったらハムスケさんの気分が変わるかも知れません。

 夏になる頃にはエ・ランテルに戻りたいなあと思ってる若旦那様でした。




 名前を決めてください

 ニア _ _ _ _

本当に必要になったらたぶんおそらく


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お食事じゃなくて栄養補給的なあれだからセーフ!

 ナザリックの全階層よりも遥かに広大となった記憶の宮殿には、エ・ランテルの大きなお屋敷が寸分違わず再現されている。

 宮殿内部にある全ては見ることが出来る。触ることも出来る。対象によっては味に臭いも感じる。五感の全てに反応する。

 しかし、存在しない。記憶の宮殿が在るのは頭の中なのだ。つまりは想像の産物である。

 

 誰しも頭の中に物事を思い描くことはあるだろうが、この男が構築した記憶の宮殿は精度が次元を越えていた。

 

 心をエ・ランテルのお屋敷のお食事部屋に飛ばす。アルベド様がお食事をなさる豪奢なベッドルーム。

 アルベド様の姿がある。初めてお会いしたときの白いドレスをまとい、物言わず静かに佇んでいる。

 つま先から頭の天辺まで、じっくりと観察する。実際にしてしまえば非礼この上ない行為であるが、想像の中でなら誰に非難される謂われもない。

 完璧に再現されたアルベド様のお姿は真なる美の光を放ち、仄暗いお食事部屋を照らしているのはいつものことであるが、違和感があった。何かが違うと感じている。

 おもむろにドレスの胸元をずり下げ、豊満な乳房を曝け出させた。

 ブラジャーなどで支えていないのに、支えなければ自重で崩れてしまいそうな大きさなのに、至高の美巨乳はつんと上向いている。

 誰に断ることなく、正面から鷲掴みにした。

 

(うーむ……)

 

 豊満な乳房はふんわりと柔らかく、大きさ相応の確かな重量感。滑らかな肌触り。ひんやりとしているのに、揉み続けると熱を帯びてくる。

 揉みながら思考を漂わせ、違和感の正体に感づいた。

 

 次の瞬間には帝都のお食事部屋にいる。記憶の宮殿と例えようと、想像の中だ。移動に時間がかかるわけがない。

 こちらにもアルベド様のお姿が。先と同じ白いドレスをまとっており、先と同じようにドレスを脱がせた。

 つんと上向く美巨乳は、先ほど見たものより明らかに大きい。触れれば柔らかさの中に、以前は感じなかった張りがある。

 

(どういうことだ? アルベド様のおっぱいが大きくなってる)

 

 女として成熟なさっているアルベド様のおっぱいが成長するのだろうか。

 大きくなっても形が崩れたりはしていないので、美の光が衰えることはない。それどころか以前よりも輝いていらっしゃる。

 それはそれでいいのだが、変化の原因が気になった。

 

(変化と言えば……、服をお脱ぎにならなくなった)

 

 今までのお食事すなわちセックスは、全裸が基本だった。それが今は、着衣のまま。

 胸をはだける事はあっても、スカート部はめくりもしない。腹部から下をお見せにならなくなった。

 性器に触るときはスカートの中に手を入れるのが常で、最近は全く目にしていない。口を付けることもなくなった。

 

 いつぞや気の迷いか何かで仰った「しばらくセックスしない」宣言からの変化だ。

 結局は次のお食事日に普通にセックスしたので、発言の真意はいまだに全くわからない。

 

(明らかに大きくなった胸。見せなくなった体。仮に人間の女性だとするとこれらが指すものは………………、まさか妊娠? 俺の子か?)

 

 女性が妊娠すると乳房が張るようになってくる。

 新たな命が宿るのだから、腹部が大きくなってくる。

 

(それはないか)

 

 たどり着いた結論をあっさり放棄した。自説に固執しないからこそ斬新な発想が生まれるのだ。

 

 放棄した理由としては、守護者統括であられるアルベド様がこの時期に妊娠出産できる訳がない。魔導国の統治もあり、とてもお忙しいはずなのだ。

 アルベド様はサキュバスであるため、注がれた精液は一滴残らず吸収してしまう。ご自身が、サキュバスは子宮から精液を吸収すると仰っておられた。

 吸収されきらなかったとして、誰の子かと言えば自分以外に見当がつかない。しかし、己は美神アルベド様の忠実な信徒であり、主神が一信徒の子を孕むわけがないと思われる。

 自分以外の誰かの子と仮定しても、乳房が張るほどに妊娠期間が進んでいるならお腹が大きくなってるはずである。しかし、兆候すらない。

 

(今度お会いしたときに聞いてみよう)

 

 考えてもわからないことを考えても意味がない。わかる人に聞くのが一番である。

 

(それよりも……)

 

 お食事部屋を見回してから、すっと壁を抜けた。見えるし触れるが、存在しない壁なのだ。

 そこはアルベド様のご命令で作られたシークレットルームである。

 中に入ったことはある。それはアルベド様を部屋へ案内する前のこと。建設してる最中のことだ。記憶の宮殿にシークレットルームがあってもおかしくない。

 おかしくはないのだが、室内の様子が記憶と違った。

 

 キッチンには様々な小道具だか食料品が置かれている。衣装棚も開かれた形跡がある。デスク周りの棚は、空っぽだったはずだが今は様々な書類や書物が埋めている。テーブルには茶器が。ベッド周りには見覚えのないクッションや衣類が。

 

 記憶の宮殿とは、見聞きした物を宮殿に模した場所に保管する記憶術だ。置いた覚えのない物が置いてあるのは異常である。

 これらが想像の産物なのだとしたら、いったいどこから来たのだろうか。

 

 その時である。

 ベッド付近に転移の光が輝き、光の中からアルベド様が現れた。

 アルベド様を思わない日はないが、今ここに登場させようとは思っていなかった。しかし、現れた。

 純白のドレスは太股を見せていないので、いつもとは違うドレスと思われた。どのようなドレスでもよいが、問題は、見たことのないドレスだと言うこと。

 このアルベド様は、本当に己の想像による物なのだろうか。

 

「ふう……」

 

 アルベド様は大きく息を吐くと、背中へ手を回した。

 ドレスは背中が開いており、そこで両サイドから伸びる紐を結んで留める作りになっている。アルベド様の手が伸びたのは、その紐であった。

 すっと引かれればするりと解け、ドレスは己が役割を終えたとばかりに床に落ち、とっさに目を見開いた。

 

 

 開いた目が映すのは書斎の大きな机である。

 今し方見たアルベド様が想像の産物であろうとなかろうと、アルベド様の着替えを覗き見して良い道理はない。自分が望んだなら兎も角、そうではないのだから。

 アルベド様が、けして入るなと仰ったシークレットルームでの出来事だ。アルベド様が隠そうとしている秘密を暴くなど言語道断。

 

 記憶の宮殿にて、以前のアルベド様と現在のアルベド様を比べていたはずであった。

 しかし、思いも寄らない物を見てしまった。帝都に来てから、意図しないことが増えてきた。

 アウラ様の不思議な青いキャンディーを味見してからは、見えないはずの物が見えているような気がする。見ようと思わなければ見えないのは幸いである。

 遠視か透視か、遠隔視とでも言うのだろうか。見たことも聞いたこともない症例なので全く判断が付かない。けども、これと言って困っていないので誰かに相談しようとも思わない。

 特殊スキルかと思ったら単なる妄想に過ぎなかったとしたら目も当てられない。

 

 妄想ではなかったとして、このような事情がアルベド様のお耳に入った場合、シークレットルームを覗いたことを咎められるかも知れない。

 単に室内を想像していたと思っていたのだが本当のところは覗いてしまっていた場合、過失とは言え罪は罪。己に連なる血縁・地縁・職縁の全てが抹消されてしまう。

 血縁はどうでもいいが、地縁と職縁はどこまでが適用されるのか。ソリュシャンとルプスレギナは確実にアウトと思われる。

 

 このような時、とっておきの解決策があった。

 

(見なかったことにしよう)

 

 である。

 そして以降はシークレットルームを想像しないように気を付ける。これで万事解決である。

 

 目下の問題は無事に解決した。

 それはそれとして、今し方のアルベド様が自身の想像の産物ではなかった場合、ナザリックにいるはずのアルベド様がお屋敷を訪問なさっていると言うことになる。

 今日はお食事日ではないため、ご来訪の予定はない。

 もしもアルベド様がいらしているなら、拝謁するチャンスである。

 椅子から立ち上がろうとしたところで、

 

「お兄様、物思いが一段落なさったのならお茶にしませんこと? お兄様の心がお戻りになるのをずっとお待ちしていたのですよ?」

「奥の間を掃除しようと思うんだ」

「お兄様に掃除なんて出来ないでしょう。今はシクススがきちんと掃除をしているはずです」

「それなら……お茶だけ、ね」

「私が給仕いたします」

 

 シェーダが名乗り出て、ソリュシャンは肩をすくめた。

 あわよくばと思っていたけれど、シェーダの前ではやりづらい。

 

 お茶に色とりどりのお菓子が用意されるのを見て、お食事部屋の様子見は後にすることにした。

 アルベド様が本当にいらしているのかどうかは激しく気になるのだが、行ったところでシクススに叩き出されるのがオチである。

 

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

 一日の仕事を終えたアルベドは、帝都のお屋敷を訪れた。

 転移先は自室から屋敷のシークレットルームになっているため、自分がここにいることは誰にも気付かれていない。

 

 ほんの少し前までは夜を徹してこなさなければならない仕事が幾らでもあったが、今は教育を施したエルダーリッチたちが使えるようになっている。負担が大きく減り、日が昇っている時間から休むことが出来るようになってきた。

 この調子で行けば、一日の始めに命令を出すだけで済むようになるだろう。

 それとは別に、きたる王国攻略に向けて為さなければならないこともある。本格的に始めるのはアインズ様が聖王国からお戻りになってから。まだ余裕がある。

 余裕がある今だからこそ出来ることがあった。

 

 大きな姿見の前に立つ。映る己は、マーメイドラインの白いドレスに身を包む。背中が大きく開き、肩と胸元を見せながらほっそりとした腰つきを強調する。

 背中の留め紐を解くと、ドレスは抵抗なく床に落ちた。

 

「ああ……、こんなに大きくなってるわ♡」

 

 アルベドは、ドレスの下に何も着けていなかった。

 大きく張ってきた乳房。人間の女は乳首に着色が出るようだが、アルベドは前と変わらない綺麗なピンク。

 そして、お腹。

 大きく膨らんでいる。一抱えもありそうなほど膨らんでいる。

 ドレスを着ていたときはほっそりとした腰つきだったのに、全裸になったアルベドは、腹部が大きく膨らんでいた。純白のドレスには、視覚と触覚を誤認識させる効果がある。

 妊娠しているのだ。新たな命が、愛の結晶が、愛しい男の子供を胎に宿している。

 

「人間の女だと受胎してから出産まで42週と言ったけれど……、その半分も経ってないのよね。きっと栄養がいいのね」

 

 サキュバスと人間の生理が違うのは当たり前。

 アルベドは、妊娠直後から何度も激しいセックスをしてきている。外出しは一度もない。口に出させることはあっても、それ以外の射精は全て下の口で飲み干してきた。

 中に出された精液は子宮に導かれ、子宮で吸収するのがサキュバスである。

 ところが、妊娠してからは子宮で吸精出来なくなっていることに気がついた。幾ら中に出されても、糧になっている実感が全くないのだ。それなのに、中に出された精液が外へ溢れてしまったことは一度もない。

 いったいどこへ消えたのか。

 考えれば結論は一つ。子宮に宿った命が吸収している。

 

「生まれる前からパパのおちんぽみるくを飲んでるなんて。ふふ、私の娘だけれど、羨ましいわ」

 

 サキュバスの子はサキュバスである。

 サキュバス的に栄養たっぷりの精液を注がれ続け、人では不可能な急激な成長を遂げていた。

 

「色も大分戻ってきたわね。妊娠するのって初めてだけど、これってそろそろって言うことかしら?」

 

 アルベドの腹部はへそを中心に大きく膨らんでいる。その下側。下腹部に神秘的な紋様があった。

 由緒正しきサキュバスエンブレム、股間から子宮までを彩っていた淫紋は少しずつ上に移動してきている。

 妊娠直後はほとんど白に近い桜色になっていた。それが今は、乳首の色より濃い鮮やかな深紅に戻りつつあった。

 

 アルベドは、ほとんど夢見心地のようなうっとりとした笑みを浮かべ、愛おしそうに膨らんだお腹をさすり始めた。

 

「あなたは私とあの子が愛し合った証しなのよ? 私があの子を愛して、あの子が私を愛してるから生まれたの。うふふ……、本当にあの子との赤ちゃんが出来ちゃうなんて。赤ちゃんが出来ちゃうようなことはいっぱいしたけど、本当に作っちゃうなんて。わたし、サキュバスなのに……、赤ちゃん作っちゃった♡」

 

 淫紋が妖しく明滅した。

 まるで、お腹の子が何かを訴えているかのよう。

 

「お腹が空いたの? ご飯が欲しいの? ご飯の量はあんまり増えてないけれど、あなたは私が絞ったおちんぽミルクを全部飲んじゃってるでしょう? あれは特別なお食事なのよ。本当ならママが全部欲しいのにあなたにあげているのよ。わがまま言っても今日はお食事の日じゃないから、パパが来ることはないの。私も残念だけど…………、でも……、そうね。ちょっとだけお隣を覗いてみましょう? もしもあの子がいたら……。私の想いが届いたという事よね!」

 

 

 

 

 

 

 お屋敷にて奥の間と呼ばれるアルベドのお食事部屋は、基本的に誰も立ち入らない。

 お食事の直後はナザリックのメイドが隅から隅まで掃除し、それ以外は二日に一度軽く掃除をする。軽い掃除なので所要時間は30分と掛からない。

 自由に立ち入ることが許されているのはアルベドの給仕係だけである。しかし主人に忠実であるが故に、主人の私室をみだりに侵さない。

 アルベドがシークレットルームから隣室に移動しても、誰かがいる可能性は低い。

 そこから更に移動して彼の男を捜したことはなきにしもあらずだが、今のアルベドはまだそこまで考えていなかった。

 自分から会いに行く必然も良いが、約束もしていないのに偶然出会うのは運命の必然めいて、乙女心が高ぶってくるのだ。

 

 床に落ちたドレスを拾うのは面倒だ。

 アルベドは、壁に引っかけてあったマントをまとう。着用者の正体を隠す魔法のマントは、体形もきちんと隠す。マントの上からなら触られても問題ない。

 想定外の誰かに出くわした事を想定し、フードを被る。これで誰が見ても自分とわからない。

 

 室内に唯一のドアは内開き。

 ドアの向こうには天幕が掛かって外からドアを隠している。

 天幕は透ける素材ではないのだが、アルベドはドアを開いた瞬間にわかった。分厚い天幕越しに存在を感じられた。

 

「あら? 今日はお食事の日ではないのだけれど、あなたは何をしているのかしら?」

「アルベド様!」

 

 会いたかった男がいた。

 会いたかった素振りを見せず、ゆっくりと歩み寄る。男はぎりぎり見苦しくない速度の早歩き。

 手を伸ばせば届く距離で、アルベドはフードを上げた。

 

「アルベド様を想っていたら自然と足が向いておりました。アルベド様はいつこちらに?」

「たった今よ」

「たった今……」

 

 たった今と言うのなら、長くても数分以内と言うこと。

 しかしあくまでもアルベドの体感時間である。実際には、その数倍の時間を鏡と向き合って、愛し子を撫でていた。

 

「今日の仕事は終わったから、少しここで過ごそうと思ったのよ」

「かしこまりました。何かご用意いたしましょうか?」

「いらないわ」

 

 マントから伸びる手が、男の頬を包む。

 アルベドの力に男が抵抗できるわけがない。出来たとしても抵抗するわけがない。

 アルベドが導くままに、二人の顔は吐息を舐める距離まで近付いた。

 

「あなたがいればいいわ」

 

 アルベドは艶やかな唇を開き、男の唇を包んだ。

 上唇を唇で食み、次は下唇を食み、赤い舌が唇を割って入った。

 

 精気は吸わない。効率よくお腹の子に栄養を与えるには、直接注ぐ必要がある。

 それにその方が、アルベドとしても満たされる。

 

「今日はお食事の日じゃないけれど……、どう?」

「勿論でございます」

 

 答えはわかっていた。

 アルベドは婉然と笑い、男と手を繋ぎながらベッドの上へ足を掛けた。




一年延期した禁煙を始めなければ


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3分 ▽アルベド♯15

「脱いだらこれを着けなさい」

 

 アルベドが取り出したのはアイマスク。勿論ナザリック製の魔法が掛かった逸品であり、着用者には僅かな光も届かなくなる。

 男が服を脱ぎ、アイマスクを着けたのを見てから、アルベドはマントを脱ぎ捨てた。マントの下は全裸だ。男が知る妖艶な姿とは違って、腹部だけが大きく膨らんでいる。

 

(私のお腹が大きくなっちゃってるのはこの子にも見せるわけにいかないのよね。本当はあなたの子なのよって言いたいのだけれど……。でも出来ちゃった切っ掛けがあれなのは……、言えないわね)

 

 二度と会えないと思った勘違いから宿した子なのだ。ナザリック守護者統括として、愚かな女であってはならない。

 出来るならば子の父となるこの男には伝えたいのだが、愚かな女と見下げられ見放されたら恐怖すら覚える。絶対に話せない。

 

(ん……、お腹の中でちゃぷちゃぷ言ってる。何だかお魚を育ててるみたい♪ ……違うの? パパに自分のことを教えたいの?)

 

 淫紋の光が妖しくゆらめく。

 未だ見ぬ我が子の訴えなのか、美味しいお食事を前にしたサキュバスの本能が期待に震えているのか。

 丸く膨らんだお腹を撫でている内に、アルベドへ悪魔的な閃きが降りてきた。

 

(ふ……ふふふ、そうよ、そうだわ! あの時妊娠したんじゃないって事にすればいいのよ!)

 

 ナザリックにて知謀を誇るアルベドは非常に優れた頭脳を持つ。

 しかし現在妊娠中。時々ぽわんとしてしまう。

 それでもお仕事モードの時は微塵の隙も見せない完璧な判断を下し続けているが、今は違う。愛しい男の裸体を前に、いささか色惚けている。

 そんな状態で思いついたアイデアが吉と出るか凶と出るか。全てを見通すはずのアルベドにはバラ色の未来としか見えなかった。

 

「今日はお食事の日じゃないから、私がしてあげるわ。あなたはそこで横になっていなさい。アイマスクをずらしてはダメよ。手を動かすのもダメ」

「かしこまりました」

 

 むふふと笑みを浮かべながら、アルベドは大の字に横たわる男を見下ろす。

 初めて見たときは爛れた火傷が上半身の大半を覆っていたが、今やかすり傷一つない見惚れる体。引き締まって割れた腹筋から下にはアルベドが大好きなミルクを出してくれて、何度も愛して愛された逸物が。

 軽いキスをしただけなので、まだ半勃起状態。これからサキュバスのエッチな魔法的テクニックでガッチガチになるのだ。

 

(でもその前に)

 

「アルベド様!?」

「あなたが間違って手を動かしたりしないようにしているのよ」

「ご命令いただければけして動かしません」

「それでも、よ。反射的にと言うこともあるわ」

 

 広げた両腕の手首にどこからか取り出したロープを縛り付けた。ロープは天蓋の柱に縛り付けられ、両腕は開いた状態で固定された。

 

(いつもだったら触覚も誤魔化すドレスを着てるからいいけど、今の私は裸なんだもの。お腹を触られたら一発でわかっちゃうわ。触っていいのは一回出してから……、ね♡)

 

 

 

 

 

 

 開いた脚の間にちょこんと座る。

 横たわる男は目を封じられ、手も動かせないようにしている。思えば、始めの内はいつもこうだった。初めて男の目を開かせてからお食事をした時は睨みながら扱いてあげたことを思い出す。

 それが今や、慈しみと愛しみに溢れた眼差しで見つめている。捕食者と被捕食者から女と男になってしまったのだから当然だ。

 

 アルベドは左手で長い髪をかきあげ、右手は膨らんだ腹を抱えるようにして添え、体を倒した。目の前に男の逸物。雄の匂いが鼻に届く。唇をすぼめてふうと息を吹きかける。次は開いてはあと息を吹きかける。

 吐息が命を与えたかのように、半立ち状態だった肉の棒が反り返る。

 あーんと口を開いてぱくりと行った。

 

「あむっ……、れろ……、あっという間に大きくなったわ。ちゅっ……、私のお口は気持ちいいかしら?」

「勿論です!」

「いっぱいいっぱい気持ちよくしてあげる。だから、いっぱいミルクを出して? あなたの精液、私にいっぱい飲ませて? あむっ、じゅるじゅる、ちゅるるるぅ……、ちゅぷぅ……、すー……はあー……」

 

 先端だけを含んで裏筋を舐めた後、根本まで咥え込んだ。亀頭が喉奥を突き、鼻先を陰毛がくすぐる。

 ちゅうちゅうと吸いつけば、頬の内側が隙間なく逸物に密着する。固さと熱さを感じて、男の逞しさを思い知って、ずっとしゃぶっていたいと思ってしまう。

 鼻は男の陰毛に埋めたまま、深く深呼吸。どこの匂いも芳しい。サキュバスの本能を刺激してくる。

 口内に唾液が溜まってきたので、しゃぶったまま吸って、飲み込んだ。淫猥な水音が響いた。

 

 咥えているだけでは射精に至らない。

 射精させるには気持ちよくさせなければならなくて、気持ちよくさせると不思議なことにアルベドも気持ちよくなってくる。してあげてるだけで気持ちよくなってしまう不思議を、アルベドは何度も味わってきた。

 

 ちゅうと吸いついたまま頭を上下に振り始める。

 右手は腹に添えたまま、左手は男の体を撫でている。愛おしげに優しく撫で、割れた腹筋をなぞり、下腹を這い、堅い太股をさする。

 

 ちゅぽんと音を立てて唇が離れた。

 勢いよく跳ねて下腹を打った逸物は、先端から根本まで、アルベドがたっぷり絡めた唾液に濡れている。

 小さな割れ目のような尿道口にぷっくりと浮かびつつある透明な滴はやはりアルベドが大好物な先走りの汁で、アルベドは赤い舌を伸ばしてれろりと舐めとった。

 何度味わってもまさしく甘露。口の中で味わうよりも、舌を伸ばして舐めとる方が美味しく感じる。

 

「今日はもっともっと気持ちよくしてあげるわ。あなただけよ? 私がこんなことをしてあげるのはあなただけなのよ?」

「光栄です」

 

 アルベドは左手の中指をしゃぶって、とろりとした唾液をたっぷりと絡めた。少しだけ考え、もう一度しゃぶる。ちゅうと吸い、絡めた唾液を全部舐めとってしまった。

 代わりに大きなお腹の更に下、自身の股間に伸ばして割れ目を撫でれば、下の口が早くも垂らし始めた涎をぬるりと感じる。しゃぶっている間に濡らしていると思ったら案の定。

 

「ぁん……、うふふ♪」

 

 アルベドがしゃぶりながら濡らさなかったことは一度もない。

 この男を単なる精液袋と見なしていたときですら、股間を濡らしていた。肉の棒を頬張り、扱いている時、いつだって右手か左手のどちらかで自分の秘部を愛撫していた。

 最早条件反射の域。体が覚え込んでいる。

 

「こうしてあげる♡」

「!?」

 

 サキュバス流淫術アルベド奥義・秘技エネマである。

 

 ぴんと伸ばした中指は、アルベドの唾液が濡らし始めた玉袋の少し下。男の肛門に突き刺さった。

 爪が長かろうと、サキュバススキルはけっして対象を傷つけない。

 

「うーーん。……あむっ……、ちゅうっ。んー……、直接してあげるわ」

「アルベド様!?」

 

 引き抜いた中指をぱくりと咥えて丁寧に舐めた後、アルベドは男の腰を軽く浮かせた。

 手弱女な上に妊婦であるアルベドだが、力の強さは屋敷の使用人達を驚愕させたヴァンパイアブライドを歯牙にかけないほど凄まじい。男の体を持ち上げるくらい、左手の小指だけでも事足りる。

 アルベドの目当ては、たった今指を入れたところ。

 薄く色づく窄まりは、ソリュシャンに命じて目の前で舐めさせたこともあった。今日は自分がしてあげるのだ。

 

 

 

 アルベド様はいと高き彼方より真なる美を知らしめるために降臨なさった美の化身にして具現である美神であられる。太陽も月も星々もアルベド様の前であっては己の醜さを恥じ、地上を照らす役目を譲ってしまうほど。

 お顔の形は到底言葉で表せるものではない。アルベド様のお顔としか言いようがないのだ。

 ふっくらとした紅い唇は皺すら美々しく、あの唇で触れられることを思うだけで世の男は獣欲を駆り立てられる。

 唇から垂れる赤い舌はアルベド様の舌にしてサキュバスの舌。美しくも淫らな器官はあらゆる快楽を自在に与える。

 その舌でもって、アルベド様はアナル責めを敢行なさった。

 

 目一杯舌を伸ばし、男の肛門を舐めている。

 尖らせて窄まりをつつき、力が抜ける一瞬の隙を突いて潜り込ませた。

 

(お尻の穴に指をいれたことはあったけど、舐めちゃったの初めて♡ なんだかうっとりしちゃってるわね。私もお尻の穴を弄られて気持ちよかったし、男もやっぱりそうなのね。お尻の穴なんて汚いと思ってたけど……。この子にならどんなことでもしてあげられちゃう。してあげたくなっちゃうの。私の処女をあげちゃったし、お尻の処女も奪われちゃったし♡ とてもとっても良かったし、いつでもすごく気持ちいいし、これくらいしてあげて当然よね♡)

 

 背徳感どころではない。美々しく神々しいものを汚す冒涜感。

 舐められると思うだけでこれなのに、サキュバスの舌がもたらす快楽は全身が弛緩しきって溶けてしまうかのよう。

 

「おちんぽも忘れてないわよ♡ うふふ、すっごく硬くなってるわ。お尻の穴も気持ちいいのね。私もあなたにされてとっても気持ちよかったもの。お揃いね♡」

 

 アナルを舐めながら、逸物を扱くことも忘れない。

 無意識にか、男の腕がロープを引っ張ったが、固く結ばれ動かせない。

 

「あ、あるべど、さま……!」

「大丈夫。ちゃあんとしゃぶってあげるわ。私のフェラチオはソリュシャンよりずっとずっと気持ちいいでしょう?」

「はい、もちろんです!」

「いっぱい気持ちよくなるのよ? わたしがおちんぽを咥えてあげるんだから。んふふ、おっきいおちんぽ♪ いっぱいお口を開かないとしゃぶれないわ。あーーーんしてパクってしてあげる♡ あーーーんっ……んっ、ちゅぷぷ……」

 

 舌責めから解放されたと思うのも束の間。

 アルベドが再度のフェラチオを始めると、尻の穴にはまたも指が入ってきた。

 サキュバスの本能が中で指を曲げさせ、前立腺を的確にマッサージさせる。

 

「んっんっんっ、じゅるるぅ、あむぅっ、んーー……。ちゅぽんっ……、すっごく硬いわ♡ そろそろ出したいんじゃないかしら?」

「は、はい……」

「うふふ、まだだぁめ♡ あーん……んっ……」

 

 上下に振る頭が加速する。

 唇は根本まで包み、亀頭まで戻ると再び根本まで。柔らかな頬がぴったりと密着し、ぬめる舌は高速移動の最中でも亀頭と竿の裏筋を丹念に責めた。

 じゅっぽじゅっぽ響く水音に、男の苦鳴とアルベドの熱い吐息が混じっている。

 

(ああ、おちんぽがこんなに苦しそう……。ぴゅっぴゅさせてあげたい。わたしのお口にいっぱい出して欲しい。でもまだダメ、我慢よアルベド。かわいそうだけど、もっともっと責めて気持ちよくしてあげて、それからなのよ)

 

 左手は秘技エネマを実行し、右手はお腹を抱えていなかった。暴力的なまでに屹立しきった逸物の根本を押さえている。人差し指と中指で挟むだけの押さえ方は、サキュバススキルが効果を発揮している。

 射精させないのだ。

 

 根本を挟まれて射精出来ないだけなら、一時は苦しくても時間が経てば萎えてくる。

 苦しいのは、刺激を与えられ続けるから。

 アルベドの口淫は射精不可避の激しさ。秘技エネマは、男を一瞬で射精させた実績がある。

 それを同時に受ける快楽の激しさと苦しさは、狂おしいほど凄まじい。

 

 腕を縛るロープがピンと張り、男の腰が浮きかかるも、100レベルのアルベドに抗えるわけがない。

 

「あるべどさま、そろそろ……お願いします!」

「どうしようかしら?」

 

 裏筋をれろれろと舐めながら妖艶に笑う。

 膨れ上がった逸物はピクピクと震え、早く出したいと訴えている。

 アルベドは根本を押さえたまま体を起こすと、男の腰に跨がった。

 準備はとっくに出来ている。ゆっくりと腰を下ろす。暴発寸前の熱い亀頭を秘部あてがう。期待が心身を高ぶらせ、淫紋の光が波打った。

 

「お口よりおまんこに欲しいと思ってたの。アルベドのおまんこはぁ、あなたのおちんぽをしゃぶってたらとろとろになっちゃったわ。シャルティアの言葉を借りるのは癪だけど……、大洪水よ♡ エッチなおつゆがいっぱい出ちゃってるの。アルベドのおまんこが、あなたのおちんぽが欲しいって言ってるの。どう? アルベドのおまんこにおちんぽいれたい?」

「いれたいです!」

「いい子ね♡」

「うおっ!?」

 

 アルベドは一息に腰を下ろした。

 アルベドのアルベドが男の男を迎え入れ、とろけた膣肉が優しく怒張を包み込む。

 閉じた部分をこじ開けられているのに、欠けた部分を満たされると感じるのは愛欲か肉欲か。

 

「はいっちゃったわ♡ アルベドのおまんこの一番奥まで来ちゃってるわよ? おちんぽの先っちょがアルベドの赤ちゃんの部屋をコンコンしてるの♡ おちんぽいれたらぁ……、次はどうしたいのかしら?」

「くっ!」

 

 アルベドは、ゆっくりと腰を前後に滑らせた。抜けるほどは動かさない。

 強い快感はなくても、膣内で逸物が蠢くように感じられて、入っているのを実感できる。

 

「あはっ♡ おっきいおちんぽ、わたしのおちんぽ♡ ああん、そんなに苦しそうな顔しないで? わたしはあなたにいれてもらってとっても気持ちいいのよ?」

 

 グラインドする腰を止め、きゅっと締めた。

 ただでさえ逸物に密着している膣壁が柔らかくもきつく締め付け、男の精液を何度も絞ってきたサキュバスの肉襞が蠕動する。

 

 男はアイマスクを着けているので、顔が見えない。それでも歯を食いしばっている様子から、眉間にはさぞ深い溝を刻み、苦しんでいることだろう。

 アルベドは男が苦しむ顔を見下ろしながら、僅かばかりの申し訳なさと、多大な嗜虐心とで妖艶に微笑んだ。

 臨月間近だからか、大きく張った乳房を下から持ち上げて、充血した乳首を転がし始める。両手でやりたいところだったが、右手はずっと仕事をしていた。

 右手は二人の結合部に、逸物の根本を挟んでいる。

 

「アルベド、さま、……どうか、もう……、おねがいします……」

 

 男の声には苦渋が混じる。

 アルベドのスキルで抑えられ、射精をさせてもらえないのだ。

 なのに、サキュバスの変幻自在のエッチテクで責められ続けている。押さえられていなかったら、最低でも三度は出していたはず。数度分以上の快楽を与えられているのに、出せない。

 刺激されても射精に至れない快楽は、地獄の苦しみである。

 

「出したいの? でも、あなたのおちんぽはアルベドのおまんこに入っちゃってるのよ? アルベドの赤ちゃんの部屋をコンコンしてるのよ? あなたがおちんぽミルクを出しちゃったら、赤ちゃんのもとが赤ちゃんの部屋に来ちゃうじゃない。それって、赤ちゃんが出来ちゃうってことなのよ?」

「は、はいっ」

 

 よほど苦しいのか、声が上擦っている。

 

「あなたは、わたしに赤ちゃんを産ませたいの? あなたとわたしの赤ちゃん作りたいの?」

「作りたいです!」

 

 アルベドの問いかけなのか要求なのか、よくわからない言葉に一も二もなく頷いた。男と言う生き物は、寸止めに弱いのだ。

 ソリュシャンにも寸止めされて結婚についての根回しをすることになり、ユリにもされて結婚を同意させられ、ルプスレギナにも同じ事をされ、シズには惨めったらしく射精乞いをさせられた。

 驚くべき事に全敗である。

 

 男の連敗記録はさておき、望む答えを得たアルベドは婉然と笑った。

 

「ふふ……、いいわよ♡ わたしがぁ、あなたのアルベドがぁ、あなたの赤ちゃんを産んであげるわ♡」

「っ!!!!」

 

 アルベドは宣言すると同時に、右手の人差し指と中指を開いた。

 逸物が解放され、その瞬間に激しく射精する。

 どぴゅるるるっと噴き出した熱い精液が子宮口を打つのを、アルベドは感じとった。

 体の中心に、熱い生命が迸っている。射精は長く、最初の勢いは衰えこそすれ間欠的にぴゅぴゅっと吐き出している。

 つながった一部分のことなのに、アルベドは全身で男の射精を受け止めているように感じた。

 

「あっはああぁぁん♡ 出てる……、おちんぽミルクがいっぱい出てるわ♡ アルベドの赤ちゃんの部屋に入ろうとして、いっぱいいっぱいぴゅっぴゅしてるの感じちゃうのぉお♡ こんな濃ゆい精液出されちゃったら……、妊娠しちゃうわ♡ あなたのおちんぽで種付けされちゃったぁ♡」

 

 サキュバスと女の本能が、精液を子宮に送り込もうとして、アルベドに絶頂を促した。

 全身を上気させて体をくねらせ、膣内で痙攣する逸物を恍惚と感じている。

 

 最後の一滴まで搾り取り、それでも硬さを失わない逸物を締め付けながら、アルベドは勝利を宣言した。

 

「うふふ……♡ あなたはぁ…………わたしに種付けしちゃったのよ?」

「ほあっ?!?!」

 

 ロープをほどき、アイマスクをはぎ取った。

 

 男の視界に映るのは、我が身に跨がる美神アルベド。

 美貌は愛欲にとろけきり、淫らそのものの顔をしている。

 それよりもなによりも、目を引いて止まないのは、大きく膨らんだ腹部である。

 手足は以前と変わらずほっそりとしていることから、間違っても太ったのではない。膨れているのは腹部だけである。

 股間を彩っていた神秘的な紋様は、へそを中心とした位置に移動している。

 

「そ……その、お腹は…………?」

「あなたと私の赤ちゃんよ♡ たった今種付けしちゃったじゃない」

「えーーーーーーーーーーーーーーー!?!??!?!?!」

 

 

 

 

 

 

 男の驚愕はむべなるかな。

 

 例えるならば、昨夜いたした女が翌朝子連れで訪れ、あなたの子よ、と言うに等しい。

 誰だってそんな馬鹿なと思うのは間違いない。

 誰だってそんな馬鹿な話は一蹴して取り合わないのは間違いない。

 

 しかし、アルベドである。

 男にとっては世界の創造主に等しい美しくも淫らな美神である。

 

「なによその態度。私の中で出したじゃない!」

「い……え……、申し訳ございません。いささか驚いてしまいました」

 

 つんとしたアルベドに、すかさず謝罪する。

 アルベド様のお言葉を疑うのは、割とかなり許されない大罪であるのだ。

 アルベド様がそう仰るのならそうに違いないはずであるが、今まで培ってきた知識と常識が真っ向から異論を唱える。

 出したばかりで出来るわけねーだろ、と。

 

 しかし、アルベド様はサキュバス。

 人間の女とはあらゆる面で違うに決まっている。

 しかし、中に出して数秒後に臨月と思われるほどお腹が膨らむのは一体何事であろうか。

 

「おそれながら……、もしや以前から妊娠していらっしゃったのでしょうか?」

「違うわ。たった今よ」

「たった今……」

 

 たった今中出ししたのがアルベド様のお腹を膨らませたらしい。

 信じがたいが、アルベド様がそう仰るのならそうなのかも知れない。

 最近のアルベド様の乳房が大きく張っていたり、体重が重くなってきたように感じたのは、もしかしたらこのための準備だったのかも知れない。そうとしか思えない。そうだとしても、中に出して数秒後というのは如何とも受け入れがたい。

 

(…………何とかなったかしら? この子が私のことを疑うわけないもの。大丈夫。きっと大丈夫よね。赤ちゃんが出来ちゃったのは私が勘違いしたからじゃなくて、この子が私に種付けしたいって言ったからなのよ!)

 

 妊娠によってぽわんとした上に色惚けてしまったアルベドが出したたった一つの冴えた答えが、今出来ちゃったから、であった。

 

 男の中で信念と疑念が骨肉の争いを始め、アルベドは男がちゃんと信じてくれたかどうかとはらはらした気持ちで見つめ、つながったままなのに全く落ち着かない空気は突然緊迫した。

 

「うっ!!」

「アルベド様!?」

 

 アルベドが倒れた。

 騎乗位から後ろへ倒れたので、入っていた逸物がずるりと抜け、アルベドは背中からベッドへ落ちた。

 恍惚と緩んでいた表情は苦しげに歪められ、両手で大きなお腹を抑えている。

 

「う……、うまれる、わ!」

「生まれる!?」

 

 優秀なはずの男の頭脳は、目の前で推移する現実を処理できなかった。

 処理できないながらもアルベドへの忠心で側に駆け寄り、励ますように手を握った。ぎゅっと握り返され、手指の骨がぽきぽきと粉砕した。

 痛いが痛がってる場合ではない。

 アルベド様が苦しそうなのだ。

 

「ああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 アルベドが思い切り仰け反り、跳ねた。

 へそを囲む紋様が光り輝き、淫火の如きピンク色の光が部屋を満たす。

 光は意志があるかのようにアルベドの上で凝集し、アルベドの膨らんだ腹から立ち上る何物かを受け、一層と光度と密度を増していく。

 

 光の中で、男は見た。

 ピンクの光そのものが形を作っていく。

 球にしか見えなかった物が輪郭を作り、小さな手足と手足に相応の胴体と、不釣り合いに大きな頭は、赤ん坊そのもの。

 ピンク色の肌に白さと張りが現れ、頭に張り付いているようだった毛髪が黒く長く生えていく。

 頭には親指ほどの小さな角が。背中の腰部には一対の黒翼が。

 ふわふわと宙に漂っていた赤子は、ゆっくりとアルベドの胸に落ちていく。

 おぎゃあ、と。

 元気の良い産声が響きわたった。

 

「ああ……、わたしの、赤ちゃん……!」

 

 母となったアルベドは、無限の慈しみを込めて我が子を胸に抱いた。

 

 神秘そのものである誕生の瞬間。

 慈愛を体現するアルベド様。

 

 

 

 人の心がないと指さされる男であっても、胸を打つ感動的な時間であった。

 

 しかし、中に出してから出産まで、要した時間は三分はあったろうか。

 アルベド様のお言葉に偽りはないと信じたいが、急変する事態に全くついていけなかった。




次回、ひとまずソリュシャン回予定


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スライムの目覚め

最初の()内は読み飛ばしてください
自分で書いときながら目が滑って誤字チェックとかしてないんです


 その日、若旦那様は朝からぼんやりとしていた。いつもの光景に見えるがいつもとはちょっと違う。

 

 朝起きてもベッドから動かない。生きてる抱き枕セットが心配するのだがご主人様は気付かない。

 双子幼女が連れてきたルプスレギナが着替えをさせるのだがされるがままの無反応。

 朝食では一言もない。カルカがソリュシャンに苛められても気に留めない。

 流し込むように食事を終えれば書斎に籠もり、ずっと虚空を見つめている。

 思いがけない事象に混乱しきった頭を正常化すべく、全速力で空回りをしている最中なのだ。

 

(アルベド様が妊娠そして出産。父は俺。俺? そもそもあれは本当にアルベド様のご息女なのだろうか。アルベド様は人間ではなくサキュバスであるとは言え、受精から出産までが早すぎる。どこかに存在した赤子を召喚したと考える方がしっくりとくる。その場合の問題点はどこにいた赤子なのかという事。どこにいた? アルベド様のお腹は大きく膨らんでいたのだからアルベド様のお腹から来たのだろう。と言うことは出産の形が人間とは違ってもアルベド様のご息女であると言って差し支えない。アルベド様のご息女か。そして父は俺。しかしたった三分で出産出来るのだろうか。それ以前にお腹が膨らんでいたのだから、お腹の中に子を宿したのは間違いないだろうが数秒でああも変化してお体に負担はないのだろうか。いや、負担があるからこそ前々からスキルの準備をしていたに違いない。体重の変化や乳房の張りはそのための準備なのだろう。スキルだと? アルベド様の妊娠出産をスキルと言ったのか俺は。スキルではなくて妊娠出産は妊娠出産だろう。アルベド様のご息女だ。サキュバスは妊娠のために前もって栄養を蓄え、受精直後から多量の栄養を注ぎ込み僅かな時間で出産可能と言うことだろうか。妊娠してお腹が大きく膨れれば行動に制限が出てくる。それを避けるがための生態と言う事なのだろうか。しかし数秒であんなに大きくなるとは……。精液は切っ掛けであって本当に必要なのだろうか。サキュバスであるアルベド様は精液から栄養を摂取していると仰っておられた。ならば妊娠出産のために上質な栄養補給が必要だったと考えられるのではないか? 人間であれば卵子に精子が一つとなって受精卵となって成長していくらしいがサキュバスにとっての精液は栄養であってつまり受精卵となるために必要としているのではなくあくまでも栄養と考えると生まれた子の父とは栄養源に過ぎず人間の子の父とは大分に違う立場となる。父ではなく栄養源を父と呼ぶのがサキュバスの慣習なのだろうか。俺はアルベド様のご息女に一体どう接したらいいのか。アルベド様はご自身のスキルによって召喚したことにするから話を合わせよと仰っておられたのだからそれに準ずるのが一番なのはわかっていても父として考えることが何かあるのではないか。いや、父、だと? アルベド様のご息女の父? それは烏滸がましいにも程があるだろう。アルベド様のご息女はアルベド様のご息女だ。アルベド様が父として接せよと仰せになるなら兎も角、我から父であるとふんぞり返るのは愚かにも程がある。馬鹿か俺はやはり馬鹿だったか。アルベド様のご息女にはやはりアルベド様のご息女として丁重に接するべきだな。アルベド様のご息女はアルベド様と母と子なのは間違いないが、そこへ俺が加わるのはどう考えてもおかしい。アルベド様が特別に何か仰るのなら一考すべきだが現状そうはなっていない。のぼせ上がって馬鹿な事を考えるより今まで通りお仕えするのが一番だ。ご息女もアルベド様と同じように角と翼がある。サキュバスなのだから人の親と子のように考えるのがそもそも間違っている。ご息女はアルベド様とは角の向きが反対になっていたな。成長すると変わるんだろうか。それとも個体差が大きいんだろうか。いずれにせよ、アルベド様のお言葉に従っていればいいだろう。余計なことはするべきでも考えるべきでもない。アルベド様のご息女と俺との関係はひとまず白紙。とは言え、ご息女の存在はしばらく伏せておくと仰っておられた。ならば存在を明かされた俺は育児に協力すべきなんだろう。育児だと? 育児? 子育て? 俺が? したことがなかろうとアルベド様にご協力するのは当然だ。俺だけに明かされた秘密は光栄でもあるが子育て。一体何すればいいんだ? 教育方針は? アルベド様はどのようにお考えなのだろう? 考えてもわからないことを考えても仕方ないとは言え現にいらっしゃるわけだから。いらっしゃる? アルベド様のご息女にもアルベド様へと同様の忠誠を持つべきなのだろうか? 今この瞬間にもアルベド様のお部屋で眠っているはず。様子見に行くべきか? 様子見に行こうにも俺は部屋には入れないじゃないか。それとも昨日のように奥の間で待機すべきか? アルベド様からは何も伺っていないが。いや待て少し落ち着け。ご息女が誕生した瞬間こそ赤子そのものに見えたが、アルベド様がご自身の胸に抱いたときには生後一年は経っているくらいには成長しているように見えた。成長速度が違う? 10秒で一歳分なら一時間で360歳だと? そんな馬鹿な。一時間経ってもやはり一歳児くらいだったじゃないか)

 

 馬鹿の考え休むに似たり。或いは小人閑居して不善を為す。

 考えても仕方ないことを考えても意味がないとは言え思わないではいられない事柄であるのは確か。

 

 母とは、自分で産んだ子が自分の子であるとわかっている。

 しかし父とは、子が自分の子であると確信できない。子の母を信じるしかない。それでも、女の腹が少しずつ大きくなっていくのを見て父としての実感を、あるいは父となる覚悟を養っていく。

 間違っても三分では父の実感とか父になる覚悟とかは生まれてこない。

 

 アルベド様のご息女はアルベド様のご息女として扱うべきであって、自分の子と考えるべきではない。

 兎にも角にもアルベド様のご命令に従うべき。

 

 思考放棄による成り行き任せ。それが男がたどり着いた結論である。

 

「ん?」

 

 一応の結論を得て現世に戻ってきた知覚が体の不備を発見した。

 お茶を飲もうとして伸ばした手が動かない。動くはずの手が見あたらない。

 いつの間にか隣に座っていたソリュシャンが妖艶に微笑んでいる。

 

「お兄様ったら私がいくら声をお掛けしてもちっとも相手をしてくださらないんですもの」

 

 こっそり腕をトロトロしたソリュシャンはまるで悪びれない。自分に非はなく、お兄様がいけないのだと訴える。

 いつもならこの程度は許容範囲。すぐにルプスレギナが回復してくれるので、一時の不便を我慢すればいい話である。

 しかし、今日は違った。

 

「……………………あら?」

 

 ソリュシャンの全身から力が抜け、男の体にもたれ掛かった。

 

「ルプー、回復。ソリュシャンは適当に転がしておけ」

「……わかったっす」

「お兄様!? 私に何をなさったのですか!?」

 

 傍らで見ていたルプスレギナも、動きを封じられたソリュシャン自身も、ソリュシャンの長い金髪に白いリボンが絡んでいるのに気が付かなかった。

 アルベドがサキュバススキルで作成したエンゲージリボン・ウィズサキュバスブレッシングの効果である。このリボンで縛られた女は一切の動きを封じられ、股を開くことしかできなくなるのだ。

 

 エンゲージリボンの効果の検証には、ミラが大いに貢献した。

 リボンは簡単に解けそうなゆるゆる結びでも効果を発揮する。輪になったリボンを引っかけただけでは効果を発揮しない。輪になったリボンを引っかけてから輪を絞ると効果を発揮する。

 リボンが効果を発揮している間は、対象を傷つける事が出来なくなる。

 例えば、髪に結んでも効果を発揮する。ではリボンが結ばれている髪を切り落とせばどうかというと、髪を切断出来ないのだ。他の部位にナイフを突き刺しても、ツンツンされている位にしか感じないようで。痛みは皆無であるらしい。動けない代わりに無敵の防御力を得るようだ。しかし動けなくなるため、戦闘に利用できるかと言えば無理だろう。ナザリックは極悪集団なので、もしかしたら盾代わりに使うかも知れないが。

 

 100レベルのアルベドすらも拘束するエンゲージリボンに、ソリュシャンが抗える道理はどこにもなかった。

 解放されるには男の精液が必要となる。いかにもサキュバスが作ったアイテムである。

 

「今日のおにーさんには何もしない方がいいっすよ。こっちの話を全然聞いてないっぽいし」

「今頃言われても遅いわ! ルプー、どうにかして!」

「無理っすね。これ、前にユリ姉にしたのと同じじゃないっすか? 動けるようになるには精液が必要とか言うあれ。アルベド様に授かった力とか言ってたっすね。ただの人間にこんなの出来るわけないっすから、おにーさんは本当に人間やめちゃったんすねぇ……」

「ルプーの役立たず!」

「……今のはちょーっとカッチーンって来ちゃったすねー? ソーちゃんはおにーさんが帰ってくるまで反省してるといいっすよ」

「ちょっと待ってどこ行くのよ!?」

「折角だから書類整理してくるっす。ソーちゃんの分はちゃんととっておくっすから」

 

 モモン様が帝都のお屋敷に滞在している間に作成された各種報告書を、書式を整えて清書するお仕事が割とかなり残っていたりする。急ぎではなくても、長期保管する書類となるので手を抜けないのだ。

 

 わめくソリュシャンをソファーに寝かせ、ルプスレギナは書斎を後にした。

 

「ルプーの馬鹿! お兄様、ぼーっとしてないで私を見てください!」

 

 ソリュシャンの声は耳に入らない。

 昼食の時間が来ても微動だにしない。

 シクススが軽食を持ってきてくれたのを半ば自動的に口へ運び、毒にも薬にもならないことを考え続ける。

 

 

 

 

 

 

「考えても仕方ないか」

 

 10回以上同じ結論にたどり着き、男はようやっと考えるのを止めた。

 なんであれ、アルベド様のご命令に従うしかないのだ。

 

「ふう……、体がパキパキするな」

 

 ざっと十時間以上椅子に座り続けていた。体が凝り固まっている。

 立ち上がって背筋を伸ばせば、小気味よい音が響く。屈伸し、腕を回し、首を回したところで、部屋の隅にソリュシャンがいることに気が付いた。

 リボンで動きを封じたまま、存在を忘れていた。

 

「お……おにい、さまぁ……!」

 

 ソファに寝かされているソリュシャンは、目に涙を浮かべていた。

 いくら訴えても聞き入れられない。存在を忘れ去られていることが悲しくなった。それ以上に、自分の体の変調に戸惑っていた。

 

 

 

 美しい女の姿をしていても、ソリュシャンはショゴス。正体は不定形の粘液。

 それなのに、動きを封じられると体を変形させることが出来なくなった。形のない粘液が自分の本当の姿のはずなのに、女の姿に縫い止められたようで、全く変形できない。

 体は全く動かないのに、体の内部で進む変化が、ソリュシャンを大いに戸惑わせた。

 

(体が熱い? これはなに? どうなってるの? 私はどうしちゃったの?)

 

 手の届かない体の内部が、熱いようなむず痒いような、不思議な欲求を訴え始めた。

 初めての感覚だ。どうなっているのかがわからなければ、どうなりたいのかもわからない。

 

(むずむずする? どこが? …………おっぱい? おっぱいがむずむずしてるの? おっぱいだけじゃないわ。これって…………おまんこ? わたし、おっぱいとおまんこをむずむずさせてるの!?)

 

 くどいようだがソリュシャンはショゴス。

 美しい女に見えても、肉体は不定形の粘液であって女の姿は擬態である。

 味覚や嗅覚や、ソリュシャンなりに五感を備えているが、人間とは感じ方が違う。人間の女が味わう肉の悦びは無縁のものだった。味わうべき肉を持っていないのだから当然だ。

 それなのに今のソリュシャンの体は、女が持って然るべき女の欲求を訴え始めた。

 

(これって……おっぱいとか……触って欲しいって思ってるの? 私が? このソリュシャン・イプシロンが!? 私がルプーみたいに発情してるっていうこと!? そんなまさか!)

 

 そんなことはあり得ないと思っても、自覚してしまえば欲求が加速する。

 熱いようなむず痒いような感覚は、明確に疼きとなった。

 疼いている。

 触れて欲しいと思っている。

 ミルクを絞ったり、汗や唾を味わいたいと思っているのとはまるで違う。

 自分の手が届かない場所に触れてもらって、むず痒さを解消して欲しい。疼きを静めて欲しい。

 静めて欲しいと思っているのに、触れられれば疼きが燃えさかる確信があった。

 

(ど……どういうことなの? 私が発情してる? 私はショゴスなのに? ルプーみたいに発情してる? おっぱいを触って欲しい? ……触って欲しい! おまんこにもして欲しい。お兄様のおちんちんで……。ああ、指でもいいわ。指でもいいから触って欲しい)

 

 じんわりと湿ってくる感触があった。

 スライムスキルは全て使用不能。いつもお兄様に飲ませているソリュシャン汁が分泌できているわけではない。

 それなのに濡れてきているこれはいったい何なのか。

 ソリュシャンの女が女の蜜を垂らし始めていることを、ソリュシャンは驚きとともに自覚した。

 生まれて初めての経験だ。

 ソリュシャンは女であるのだから女としての知識を一応は備えているが、ショゴスである己には無縁のことと思っていた。それなのに今の自分は、ただの女のような反応をしている。

 ただの女のように発情している。

 血肉やミルクを欲してるのではない。女として愛されたいと、女の体が訴えている。

 

 女の欲求を呼び起こされたソリュシャンは、その後十時間以上放置された。

 

 これもまた、エンゲージリボンの効果である。

 サキュバスが女を封じるために作ったアイテムなのだ。解放されるには精液が必要なのであって、女には精液を受け入れるための準備を促す。

 つまり、発情させる。オートマトンであるシズすらも発情させる効果がある。

 たとえショゴスであろうとも、女としてはシズより遙かに成熟した肉体を持つソリュシャンだ。リボンは遺憾なく効果を発揮していた。

 

 こちらの効果の検証も、ミラが大いに貢献している。

 リボンで拘束されている時間が長くなればなるほど、心身ともに熱に浮かされ、淫らな欲求に支配される。

 ジュネが「ミラは乱れる」と言ったのは、男に使われてきたこともあるが、リボンによって淫らでいることを体に覚え込まされたことも影響しているのは余談である。

 

 

 

「おにいさまあ……、たすけて……。ソリュシャンは、おにいさまが、もう溶かしたりしませんから……。お許しください……。お願いします……。ソリュシャンを、許してくださいぃ……」

 

 ソファに横たわったまま、涙ながらに訴えるソリュシャンは、滑稽であり、哀れでもあった。

 

(やばい忘れてた。でもソリュシャンだし大丈夫、だよな?)

 

 ミラを使った検証で、十時間も放置したことは一度もなかった。

 最大でも二時間。二時間も拘束したままでいると、体の準備は出来上がりきって、軽く触れただけでも大いによがるようになってしまった。

 しかしソリュシャンはショゴス。肉の悦びとは無縁である、はずであった。

 無縁であると思っていたから、ソリュシャンといたすときは手を抜くというか何というか、心を込めて愛撫したことはない。柔らかさや滑らかさを楽しむ触り方をしてきた。

 だけれども今のソリュシャンは、誰がどこからどう見ても欲情していた。

 目に溜まった涙は清らかな筋となって流れ、頬はうっすらと上気し、艶やかな唇は半開きとなって荒く息を吐いている。

 

 今日も上乳見せのお嬢様ルックで、大きな胸が作る谷間を見せつけている。

 ブラジャーのたぐいを着けられないドレスなので、双丘の先端に小さな突起が現れている。柔らかな生地のドレスとは言え、尖らせていなければ現れないはずである。

 

「あっ!」

 

 断りなくドレスを引き下げた。

 豊かなおっぱいがぷるんとこぼれ出る。

 ぷるぷるの柔らかそうなおっぱいの頂点には案の定、ピンクの乳首が痛々しいほど膨らんでいた。

 ソリュシャンが乳首を立たせるのは体の反応とは無関係で、ソリュシャンの意志によって立ったり萎れたりするはずであった。

 

「ひゃうぅっ!!!」

 

 中指を親指に引っかけ、ピンと乳首を弾いた。

 ソリュシャンが鳴いた。

 

「い、いたい、です。もっと、優しく、してください……」

「痛い? 痛いことはないだろう?」

「本当に痛かったんです!」

 

 ソリュシャンは眉根を寄せて痛みを訴えた。

 

 リボンの効果によって、痛みは感じないはずである。

 それ以前に、ショゴスであるソリュシャンは肉体の痛みを感じがたい種族であるはず。

 

「本当に痛かったのか? それならこれは?」

「ああん! ……乱暴にしないでください……。おっぱいも、やさしく……。痛くしないで……」

 

 仰向けになっているので、ゆるく潰れる乳房を鷲掴みにした。手のひらに収まりきらない巨乳に指が埋まる。

 いつもだったらどんなに乱暴に揉んでも微笑を絶やさないソリュシャンなのだが、美しい顔を苦しそうに歪めた。

 それだけでなく、揉み応えがいつもと違う。マシュマロのように柔らかいのはいつもと同じなのだが、何かが違う。

 

「あっあっあっ……、おっぱいがぁ……。お好きなだけ揉んでいいですから、もっと……、もっとしてください、ませ……。あんっ!」

 

 ソリュシャンの反応が、明らかにいつもと違う。

 美顔を歪め、切なそうな、何かを訴えるような眼差しは、まっすぐにこちらの目を射抜いてくる。

 

「……アルベド様から授かったお力でソリュシャンの動きを封じたんだ。解放するには精液が必要になる」

「はぃ……、存じております。お兄様の精液を、どうか、どうかソリュシャンの中に。……出来れば、おまんこに……お願いします。お兄様のおちんちんを、ソリュシャンのおまんこに、入れてください……。ソリュシャンの体をお兄様のお好きに使っていいですから……。いえ、お兄様のお好きなようにお使いください。……んっ♡」

 

 スカートの中に手を潜らせ、ソリュシャンの秘部を撫でた。

 ショーツがぐっしょりと湿るほどに濡れている。

 指にまとわりついたソリュシャン汁は、いつもとは違う味がする。甘さが大分控えめでトロミが強い。

 

「おにいさまぁ♡ ソリュシャンに、いっぱいいっぱい、してくださいませ♡」

 

 愛欲に蕩けた顔は、いつも見せる余裕がある顔とはまるで違った。

 疑いようなく、ソリュシャンは欲情していた。

 

 ショゴスであるソリュシャンが、初めて見せる女の欲望だった。




禁煙は順調に始まりましたが、止めた途端に本作最初の方で書いた右肘間接が特に痛み始める
まさかと思って再喫煙すると痛みが和らぐ
どういうことだ!
ちなみにレントゲンとっても原因不明でしたorz


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スライムの覚醒 ▽ソリュシャン♯5

▽だけだと見づらいので少し変えました


「ひぎぃっ!」

 

 ソリュシャンが悲鳴を上げた。

 優しくしてと言ったばかりなのに、あらわな乳房をぎゅっと握られた。潰れてしまうのではと思うほどの痛み。遅れて怒りが湧いてきた。

 

「痛いです! 好きにしていいとは言いましたけれど、もっと優しくしてください! ……あうっ!!」

 

 力が緩んだと思ったらまたも握られる。

 動けないなりになんとか視線を下げると、男の長い指が乳肉に食い込んでいるのが見えた。指の間から溢れる白い肉が痛々しい。

 

「いつも溶かしているから意趣返しのおつもりですか? 私が動けるようになったら、つっ!??!」

 

 小気味よい破裂音。同時に視界がぶれた。

 腹の上に馬乗りになってきた男を正面から見据えていたはずなのに、横を向いている。

 気付けば、右の頬が熱い。頬を張られたのだと思い至った。

 

「まさか、今のも痛かったのか?」

 

 顎を掴まれ、顔の向きを変えられる。

 男の顔に、暗いものはない。いつもの表情だ。ソリュシャンへの恨みとか怒りとか、負の感情は見あたらない。

 だけども痛い思いをさせられたのは確かで、ソリュシャンは気丈に見つめ返した。

 

「……痛かったです。これ以上したら本当に怒りますよ? ……あっ、ひぃっ!」

 

 今度は乳首を摘ままれた。

 放置されていたときから立っていた乳首を、親指と人差し指でぎゅっと挟まれる。

 乳首が潰れて破裂してしまいそう。あげく、摘まんだまま引っ張られた。

 ソリュシャンはショゴスであり、肉体は不定形の粘液。しかし今は、体の変形を封じられている。大きくて柔らかいおっぱいでも、引っ張れば引っ張っただけ伸びると言うものではない。限度がある。

 限度ギリギリまで引っ張られ、解放された。

 乳房がたぷんと揺れて、元の形を取り戻す。

 摘ままれたところが熱を持っている。透明感のあるピンク色だったのに、今や充血しきったように真っ赤になってしまった。

 

「痛いわけがないんだよ」

「で、でも……、本当に痛くて……、あっやっ、おやめくださいぃ! いひぃっ!!」

 

 親指を下乳に添えられ、残る指は乳房の脇に。根本から絞るように揉まれ始めた。

 たゆんたゆんの柔らかな肉はされるがまま水鞠のように形を変え、手が離れると大きく揺れる。

 今度も力が入った触り方。根本から千切れてしまいそうなくらい痛いのに、ソリュシャンに出来るのは苦鳴をあげることばかり。

 何度も何度も繰り返され、痛みは熱となって溜まり続ける。

 

「本当に痛いかどうか、よく確かめてごらん」

「あっあっあっ……やめ、……やめて、おやめになって、……あっ……」

 

 熱が溜まるのは乳房の先端。

 真っ赤に腫れ上がった乳首は、ソリュシャンがお兄様におっぱいを飲ませるときよりも膨れていて、固くなって、解放されたいと訴えているようにも見えた。

 

 男はソリュシャンへ優しく微笑みかけると、体を倒した。

 きつく揉まれ続けているのに、指の痕も痣も出来ていない白い乳房へ顔を近づける。

 いつもより赤みを増した乳首を口へ含み、ちゅうと吸う。口を開いて乳輪まで唇で覆って、ソリュシャンの懇願を聞きながらも完全に無視した。

 

 カリっ、と。白い歯が甘い肉に食いついた。

 

「いぎぃっ…………、あああああああああぁぁぁああぁああっ!!!!!」

 

 絶叫した。

 

 体の自由が効くなら拳を握るなり全身を強ばらせるなりして、痛みを分散させることが出来る。

 しかし現状、指一本動かせない。今のソリュシャンに出来ることは、痛みを正面から受け止めて叫ぶことだけ。

 乳首からの痛みが、電流となって身体中を走り回っている。

 

 とても痛くて、涙がこぼれた。目一杯尽くしているお兄様からひどい仕打ちを受けて悲しくなった。自分が哀れで惨めで、とるに足らないちっぽけな存在になってしまったように思えた。

 

「ひっ……ひっく……、ひぐぅ……、うぅ……、おにい、さまぁ……?」

 

 しゃくりあげ、反射的に固くつむった目を恐る恐る開く。

 目に映るのは愛しのお兄様。

 恐ろしい顔はしていない。怒っている様子もない。それどころか、いつもより優しい顔をしている。

 

「今度はどうだ?」

 

 胸に手が伸びてきた。

 またも痛い思いをさせられるかと身構えたが、今度は揉むとも言えない優しい刺激。労るように撫でられている。

 

「あ…………やさしい、です。お兄様の手が優しくて、温かくて……」

「それで?」

「え……。それで、とは?」

「さっきと比べてどうだ?」

「そんなの決まってます! さっきより今の方が優しくて、それで……それで…………」

 

 ソリュシャンは、答えられなかった。

 

 優しい愛撫はとても心地よい。

 しかし、物足りない。

 

 乳房が潰れそうなくらいに握られたり、乳首を噛み切られそうになったり、鋭い痛みは心も体も支配して、何も考えられなくなった。

 それに比べれば優しく胸を撫でられるのは痛くないし、身を任せられる安心感があってとても心地よいはずなのに、どうして物足りないだなんて思うのか。

 

「俺がアルベド様から授かったお力は完璧だ。対象は絶対に痛い思いをしない。それなのにソリュシャンは痛がった。どういうことだと思う?」

「それは……まさか……そんなはずありません! そんな、そんな……私が……そんな……!」

「そのまさかしかないんだよ」

「私は……痛いのが好きと仰るのですか!?」

 

 ソリュシャンは愕然と目を見開いた。

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 エンゲージリボンの効果はミラでたっぷりと検証している。

 どのようなことをしても、リボンで拘束されたソリュシャンが痛い思いをするわけがない。

 勿論閾値はあると推測している。例えば、いつか開発されるかも知れないハイエンドオブモモンズブレイドアーツ「ネクロミディアン†ダークネス†シュヴァイツァー」を叩き込めば、アルベド様の加護を突破してダメージを受けるだろう。

 しかし、強めに揉んだり噛んだりでは、どう頑張っても突破できない。

 第一、それほど強くしてるつもりはない。

 シクススにしても、もう少し優しくと小言を漏らすレベルで、ルプスレギナが相手なら全く問題なく受け入れる。シャルティア様なら物足りなさを訴えるかも知れない。

 それなのに、ソリュシャンは痛がった。

 

 ショゴスであるソリュシャンは、痛みを感じない。と言うと語弊があるかも知れないが、痛みは肉体が傷ついた信号とか知覚のように感じるのであって、痛みが辛さや苦しさと直結しているわけではない。

 そもそも粘液の体は物理的なダメージを受けにくい。多少の殴打は意に介さない。

 今までのソリュシャンは、痛みを知らなかった。

 そこへ、初めての痛み。

 

 エンゲージリボンによって、強制的に欲情させられたのもある。

 それ以上に影響が大きいのが、男が知らない内に修得した能力である。

 もしもソリュシャンが、姉のユリのように生命の気やオーラを感知する能力があれば、男の手からピンク色の濃密な何かを感じたかも知れない。美神の寵愛を得た男は、肉体を越えた高次元の領域で愛撫することが出来るようになったのだ。

 この技はアストラルフィンガーもしくはイデアルタッチと呼ばれていいのだが、肝心の当人に修得した自覚がまるでなかった。アルベドが指摘しない限り、無自覚に女の体を狂わせ続けることだろう。

 

 乳首を弾かれたソリュシャンが痛がったのを見て、ソリュシャンは痛いのが好きな可能性が高いと察した。

 ソリュシャンを苛めようと思って痛い思いをさせたのではなく、ソリュシャンを想ってあえて痛い思いをさせたのだ。

 それも、心を込めて丁寧に。

 ソリュシャンを丁寧に愛撫するのは、滅多にやらないどころかとても久し振りであった。

 

 男がソリュシャンを丁寧に愛撫していた頃は、高次の愛撫を修得していなかった。

 修得して以降は、ソリュシャンの媚態は全て演技と気付き、丁寧に愛撫しても意味がないと手を抜いて好き勝手に触るようになっていた。ソリュシャンが許したからそうなったわけだが、もしも丁寧な愛撫を心がけていれば、ショゴスであるソリュシャンにも確実に感じるものがあったはずである。

 奇しくも今日までそのようなことは一度もなかった。

 そして今日。

 エンゲージリボンによって発情した体を、愛でられている。効果は抜群だった。あまりにも効き過ぎて、致命的だった。

 

 

 

▽ ▼ ▽

 

 

 

「あっあっあっ、やめてやめてぇっ! 乳首とれちゃううぅ!! 引っ張らないで噛まないでぇっ! はううぅっ!」

 

 ソリュシャンが悲鳴をあげ続ける。

 最初と違うのは、どこかしらに漂う甘い響き。

 美顔を歪めているのは見るからに苦しそうなのに、目が愛欲に蕩けている。

 あえぎ、苦しさを吐き出すように、大きく開いた口から舌が伸びた。

 男の口が、獲物を見つけたかのようにすかさず捉える。

 

「あむっ……、んっ……れろ……、んんっ!? んーーーーーーーっ! …………うぅ……、ひどい……、噛むなんて……」

 

 酷いと言いながらも、恍惚と口を開いて、噛まれた舌を伸ばして見せつけた。

 もう一度と言っているのか、今度は優しくと言っているのか。

 

 伸ばされた唇を、もう一度唇で挟む。

 ちゅると吸って口内に導くと、積極的に絡んできた。

 甘く噛んだところを舌で舐め、舌先が主導権争いをするようにつつき合う。

 暴れる舌を歯で捉えれば、ソリュシャンは観念したように大人しくなった。

 舌先をねぶり、強く唇を押しつけてわずかな隙間も出来ないように密着させる。

 

「んっ……んっ……ちゅる、ちゅうっ……、こく……んっ♡」

 

 いつものように、ソリュシャンの口内へたっぷりと唾液を注ぎ込む。

 ソリュシャンはちゅうちゅう吸って、喉を鳴らして嚥下した。

 唇が離れたときは、夢見心地のように霞んだ目で見つめてきた。

 

 先述したように、ソリュシャンの媚態はほぼ演技。男を興奮させるためにしていたに過ぎない。

 喜びを見せるときはあっても、それは美味しい食事をとったことによる満足感からであって、性的な快感から来るものとは近いようで遠い。

 それが今や、愛欲に蕩けきった顔をしている。

 時折切なそうに眉根を寄せるのは、痛みを訴えているのではなくて、次の刺激へのおねだり。

 

 ドレスを脱がされて、ソリュシャンの期待はますます高まってきた。

 おっぱいを揉んでいた力強い手が下がっていく。腹を撫で、下腹に届いたとき、ソリュシャンはとぷんと奇妙な水音が聞こえたように思った。

 

(えっ? お兄様の手はどこに? 私のお腹を撫でて、いるのよね? え? なにこれ? ええ!? どこを触っているの!? 私のお腹? ううん、お腹の中!? お兄様の手が私の体の中に入ってきているの!?)

 

 驚いて、男の手を目で追う。

 手指は下腹をさすっている。間違っても体の中には入っていない。

 しかし、体の中に潜る音を聞いた。

 触っているのは下腹。股間のすぐ上。触られているのがわかる。触っているのも見える。

 同時に、体の中をかき混ぜられているように感じた。

 

「おっ、お兄様!」

「ん?」

「あの、なにをなさって……、んふぅっ! ……それぇ、は。ああんっ! ああっ!?」

 

 言葉にならない。言葉に出来ない。

 何か、圧倒的な何かが、自分の体を支配している。

 抗えない。抗おうとも思えない。

 体の中心で熱が生まれ、頭が茹だってくる。何も考えられない。与えられるものを受け止めるだけ。

 受け止めきれずに押し流されて、とろりと溢れてくる。いくらでも溢れてくる。

 

「これは……すごいな。こんなの初めて見る」

「……あ? なに、を?」

「これさ」

 

 男が持っているのは、たったいま脱がされたソリュシャンのショーツ。

 

 今日のショーツは高貴な紫。

 ショーツ一枚だけで裸体を飾ることを考えて、余計な装飾はなく、肌の白さとの対比を考えて選んだ。

 面積は最小限。フロントは両手の親指と人差し指で作った三角より小さく、バックはほぼ紐である。

 

 男がすごいと言ったのは、ショーツのデザインではない。

 アルベド様やシャルティア様はもっとすごいのを履いている。それに比べれば、ソリュシャンのショーツは面積が小さいだけ。

 

 何がすごいのかは、ショーツがソリュシャンの胸の上に落とされて明らかになった。

 ソリュシャンの胸に落ちたとき、ビチャリと鳴った。

 

「絞れそうなくらいぐしょぐしょだ。いつもみたいにソリュシャンが自分で濡らしたんじゃないんだろ?」

 

 ソリュシャンはどこからでもソリュシャン汁を分泌可能。分泌しやすい部分はあっても、基本的にはソリュシャンの意志によって分泌される。

 今はそれらの能力は封印されているはず。であれば、ソリュシャンの肉体がソリュシャンの意志によらずに濡らしたという事になる。

 

 加えて、ソリュシャンはどこからでも体外のものを吸収できる。溢れさせすぎたソリュシャン汁を肌から回収することが出来るのだ。

 ところが、こちらの能力も使用不可。出したものは出したきりになってしまう。

 

「あっやっ! どかしてください! こんな……恥ずかしい……」

「何言ってるんだ。ソリュシャンが濡らしたんだろう? ほら、今も」

「ああ……、見ないでください……」

 

 ソリュシャンの膝裏に手を入れて、大きく股を開かせた。

 足の付け根には、ソリュシャンのソリュシャンが物欲しそうに涎を垂らしている。

 

 股間は無毛で、陰唇に着色もない。

 未使用かと思えるほど綺麗なのに、内側は淫らそのもの。

 

「ソリュシャンのおまんこは……お兄様に愛して欲しくて濡れているんです……。おまんこがとろとろになってるのはお兄様のせいなんです」

「そういえば……、ソリュシャンは初対面の時からまんこを見せつけてきたよな」

「言わないでぇ♡ だって、お兄様にだったらおまんこを見せてもいいと思ったんですからぁ」

 

 初めて見たときと変わらないサーモンピンクでてろてろのおまんこ。

 垂らした愛液は、尻の割れ目を伝ってソファを汚す。

 途中、皺の寄った小さな窄まりに溜まっている。

 

 男は右の拳から中指を立てると、窄まりへあてがった。

 ソリュシャンの腰が僅かに跳ねる。

 入り口にはほどよい抵抗があったが、第一関節を通り抜ければあとはスムーズ。あっさりと根本まで突き刺さった。

 

「ソリュシャンの肛門はゆるゆるだと思ってたのに、ちゃんと締まるじゃないか」

「っ?!?!?!」

 

 わずかに皺を広げられた肛門は、突き刺さった指をみっちりと咥えこんだ。

 締め付けはきつく、柔らかいとか固いとか言うよりもしなやかな弾力を感じる。

 抜き差ししても緩む気配はない。指の太さ分だけ広がり、ずっと締め付けたままでいる。

 

 初対面の時、ソリュシャンのアナルは頭が入りそうなくらい広がった。

 第一印象というのは大きいもので、以来ソリュシャンのアナルはずっとゆるゆるだと思っていた。

 しかしそれはスライムとしての特性がそうさせたのであって、本来のソリュシャンは緩いわけではなかったようだ。

 こちらに突っ込んでも気持ちいいのは間違いないと思わせる官能的な締め付け。

 

「いやっ! 抜いてくださいましぃっ! そこは違いますわ、入れるのはおまんこに、あひいっ!? あっあううぅっ! やっやっ、あぁっ? おまんこにもぉ♡ ああぁあんっ♡」

 

 もう一方の穴にも指を根本まで突っ込んだ。

 溶けているのではと思わせるほど柔らかいソリュシャンの女の肉。

 中で繋がってないだろうなと思いはしたが、そんなことはなかった。

 肛門に突っ込んだ指とは、薄い媚肉で隔てられている。

 ソリュシャンの中で指を向き合わせて擦り合わせれば、甘い声で鳴き始めた。

 

 ユリで練習し、アルベド様に堪能してもらった両穴責め。つい先日、ソリュシャン自身がルプスレギナに叩き込んだ技。

 ミラにしたことはなかったと思い出し、今度ジュネの前で実演してやろうと心にメモする。

 

 拘束されているので、ソリュシャンの動きは小さなもの。

 それでも腰を跳ねさせて、何度も快感を訴えた。

 指で責めながら尖った肉芽に吸い付くと、甘い調べが叫ぶように。

 

 肉の悦びを知らなかったソリュシャンには、何もかもが初めてのこと。

 初心な処女が未知の世界へ引きずり込まれるのに似ているが、処女とは違ってソリュシャンの肉体は熟れきっている。

 男の絶技もあって、性感を開発されきった処女が悦楽に狂う矛盾のよう。

 

 

 

 ソリュシャンの自我はとっくにない。

 存在が砕け散って撹拌されて、白い光の中で愛しのお兄様の姿を見る。

 はあはあ、と息も絶え絶えの喘鳴はソリュシャンのもの。

 刺激が遠ざかって、沈んでいたのか飛んでいたのかした意識が戻ってくる。

 

「おにいさまぁ♡ おにいさま、お兄様、ソリュシャンのおにいさまぁ♡」

 

 愛しのお兄様が、自分が寝ているソファに乗っている。

 服を脱いでる。逞しい裸体が見える。

 いつの間にか頭の下にクッションを敷いてもらったようで、姿勢が少し楽になった。優しい心遣いがとても嬉しい。痛いこともされたけど、あれは痛いのじゃなくて気持ちいいことだった。お兄様は自分のことを考えてくれて、それで痛くて気持ちいいことをしてくれた。

 おっぱいを揉まれるのも、乳首を吸われて噛まれるのも、とても気持ちよかった。お兄様を呆れさせてしまうほどおまんこをびしょびしょに濡らしてしまった。それが少しだけ恥ずかしくて、自分の心だけでなく体もお兄様を求めているのがわかって嬉しくなってしまって。

 おまんことお尻の穴の両方を責められたのは、ルプスレギナにしてあげたことがある。あんなにも気持ちいいことだったなんて、ルプスレギナはずるいとすら思ったのだけれど、お兄様が同じ事をしてくれてとてもとても気持ちよくて、お兄様への愛が無限に溢れてくる。

 

「お兄様のおちんちんが立っているのが見えます。ソリュシャンの体を堪能して立たせてくださったのですか? そうだったらとても嬉しいです♡」

「そうだよ。今日のソリュシャンはとっても魅力的だ。しゃぶってもらわなくてもこうだ」

「ソリュシャンが動けるようになったらいくらでも。いっぱいしゃぶって差し上げますわ♡ ……いいえ、しゃぶらせてください。ソリュシャンのお口を使ってください。お兄様のおちんちんを気持ちよくするために、こっそりフェラチオの練習をしていたんですよ?」

「嬉しいね。それじゃ後で。今は……」

「いまはぁ……、ソリュシャンのおまんこですね♡」

 

 男の体がソリュシャンの裸体に覆い被さる。

 指でしたときのように、ソリュシャンの足を持ち上げ、股を開かせた。

 

「あはっ♡ お兄様のおちんちんがソリュシャンのおまんこにあたってるのがわかります。おちんちんの先端でおまんこを撫でてます……。きっとお兄様のおちんちんは、ぬるぬるしたおつゆを出してます。ソリュシャンのおつゆと混じって、混ざり合って、一つになって……♡ おつゆだけじゃなくて、お兄様とソリュシャンも♡ あっ……、はいって、きてるぅ……」

 

 ソリュシャンは応えを求めてないようで、恍惚と想いを吐露している。

 

 亀頭が雌穴を見つけだし、潜り始めた。

 

(お兄様のおちんちんが入ってきてる。熱い、固い、私の中を広げられてるのを感じる。それに、ああ……なんてことなの。匂いも味もわかるわ! おちんちんでおまんこの中をかき混ぜられて、美味しいおつゆが出てきて……、それでそれで、みるくも……♡ わたしどうなっちゃうの? おちんちんだけでも気持ちいいのに、ミルクだって最高なのに、それが両方だなんて! ああ、おにいさまおにいさまぁ♡ ソリュシャンはずっとお兄様に――バタン――え?)

 

 ソリュシャンがその時を今か今かと待ち受けているその時、何の前触れも脈絡もなく、書斎のドアがバタンと開いた。

 

「お邪魔ー。そろそろおゆはん、って…………あらら? ずいぶんといいとこだったみたいっすねぇ♪」

「ルプー!!」

 

 ノックもなしに、ルプスレギナが中に入ってきた。

 ドアを後ろ手に閉め、きちんと鍵を掛ける。

 二人が重なるソファの前に椅子を置き、どすんと座った。

 

「続けていいっすよ。私はここからじっくり見せてもらうっすから」

 

 お屋敷の若旦那様の書斎でありながら、書斎はほとんどオープンスペースと化していた。

 書斎の主は集中していると何も目にも耳にも入らなくなるため、ノックをしても返事があるのは三回に一回あるかどうか。

 メイドたちはそれでもノックをし続けるが、ルプスレギナがノックをすることはなくなっていた。

 

「やだ見ないで出て行って! これからお兄様と大事な時間を過ごすんだから!」

「ソーちゃんはいっつも覗いてるじゃないっすかー。自分は見られたくないなんて我が儘は通用しないっすよー?」

 

 ルプスレギナは、にやにやと底意地の悪い笑みを見せた。

 ソリュシャンは全身を犯す快感を振り切ろうと気力を絞り出し、険しい顔を作って睨みつけようとするのだが、出来なかった。

 

「ああぁっ! 奥まで、きたぁ……♡ お兄様のおちんちんが、わたしの中にぃ♡ んっ……んっ……あっ、あんっあんっ、ああん♡ すごいっ! きもちいのぉっ♡」

 

 姉妹のやり取りを意に介さず。

 男は腰を進め、ソリュシャンの中に挿入しきった。

 狭い雌穴を太い逸物が隙間なく埋め、とろけるような媚肉が絡みついてくる。

 膣壁が蠕動し、締め付けるだけでなく吸い上げてくるようだ。

 

 エンゲージリボンは体の動きを封じるが、セックスに重要な機能はその限りではない。

 淫らな蜜壷はいつも以上の動きでもって、男を迎え入れた。

 

「ふあっ、あっ、あっ、ああっ!? いまっ、まっしろになって、きゅんてしてっ……♡」

「早速イっちゃったみたいっすねぇ。ソーちゃんいますっごいだらしない顔してるっすよ?」

「うっ、うるさいっ! おにいさまキスして。おちんちんとおまんこだけじゃなくて、お口でも繋がりましょう? あんっ…ちゅっ……ちゅっ……れろ、……んっんむぅっ……!」

 

 腰を使いながら、希望通りに唇を合わせた。

 舌と舌とが絡み合い、たっぷりと唾液を交換する。

 下半身ではぱちゅんぱちゅんと水音が鳴っているので、今度は唇の隙間から唾液がこぼれた。

 二人の舌で撹拌し、あぶくの混じる涎がソリュシャンの頬を流れていく。

 

 万全のソリュシャンならこぼれた涎ですら肌から吸収するのだが、今日は頬を汚すに任せている。

 挑発的に微笑むソリュシャンもそれはそれでいいものだが、余裕をなくして乱れているのもとてもよい。

 

「ひうっ……、ああんっ! 奥をぐりってされて、また……気持ちよくなってしまいました……♡ こんなの初めてです。お兄様のおちんちんがソリュシャンのおまんこをこんなに幸せにしてくれるなんて♡」

「ちっ……」

 

 ルプスレギナの舌打ちは、ソリュシャンの耳に届かなかった。

 

 ソリュシャンのあへ顔を見てやって辱めてやろうと思っていたルプスレギナだが、羞恥心をどこかに置き忘れたソリュシャンには通じなかった。一日の半分は全裸でいる淫乱スライムなだけはある。

 このままでは二人の艶事を見せつけられるだけで、ちっとも面白くない。

 面白くすべく、ルプスレギナは椅子から立ち上がった。

 

「なんだ?」

「ルプー何するのよ!」

 

 密着している二人から、男を引っ剥がした。

 下半身は繋がったまま。上半身だけを起こさせる。

 

 そんなことをされても男は腰を振り続け、ソリュシャンは甘い声で鳴き続ける。

 腰を打ち付ける度にソリュシャンの大きな胸がたぷんと揺れて、つい手が伸びてしまう。

 動くものに手が伸びるのは猫だけではないのだ。

 

「あ゛っ!」

 

 突然、ソリュシャンが迫力満点の声を上げた。

 

 ルプスレギナが腰を屈めて高さを合わせ、愛しのお兄様の顔を両手でホールドすると真横を向かせた。

 そして、ソリュシャンの目の前で、唇を合わせた。

 

「むちゅうぅうーーっ、れろれろ……ちゅるじゅるるぅ……、ちゅっちゅっ……あむぅ……んっ……ふぅ……」

 

 見せつけるように舌を使って、激しい口づけ。

 わざと卑猥な水音を立て、じゅるじゅると唾をすすっている。

 すすっているくせして飲み込まず、唇の端から溢れた唾は顎へ伝い、ソリュシャンの上へぽたりぽたりと落ちてきた。

 

 嫉妬が全身を支配した。

 体が強ばって頭は焼けるようで。

 体は動かせないが、お兄様を奪われてなるものかと全力を振り絞った。

 きゅうと膣壁が収縮し、奥深くに突き立てられている逸物を締め上げる。

 締めながらも淫らに舐めあげ、下の口の奥深くに隠された精液を取り込むだけの器官が、亀頭にぴったりと吸い付いた。

 その瞬間だった。

 

「ああああああああぁぁあぁぁーーー♡」

 

 甘い絶叫。

 体の中で、熱い精液がどぴゅどぴゅと迸っているのを感じる。

 甘美な味と濃厚な匂い。子宮口を精液で打たれてソリュシャンは絶頂した。

 ここに至るまで何度も達していたが、これまで全てを凌駕する深い絶頂。

 多幸感に心が痺れる。

 この瞬間を迎えるためだけに生まれたとすら思えてしまう。思えるどころか、この瞬間のソリュシャンはそうとしか思えなかった。

 

(まずい!)

 

 ルプスレギナの茶々入れがソリュシャンの嫉妬を促し、それがスライムスキル全開のおまんこコントロールを発揮させ、あえなく射精してしまった。

 射精はするつもりだったが、タイミングと姿勢が悪い。

 

「あっ!」

 

 キスをしてくるルプスレギナを振り払い、ソリュシャンを抱きしめる。

 頭をかき抱きながら、キスを送って、二人には気付かれないよう解けたリボンを回収。

 ソファの座面と背もたれの間に突っ込んだ。

 

「ああ、おにいさまぁ♡」

 

 自由を取り戻したソリュシャンが抱きついてきた。

 ルプスレギナはキスを中断されたからか、鋭い目で睨んでくる。

 二人ともリボンの存在には気付いてないようだった。

 

 

 

▼ ▽ ▼

 

 

 

「お兄様、もう一度私のおっぱいを触っていただけますか? いつものように乱暴にするのではなくて、先ほどのようないやらしい触り方でお願いします」

 

 動けるようになったソリュシャンには、一つ懸念があった。

 

 とても素晴らしい一時だった。

 痛みも快感も多幸感も、何もかもが初めての体験。

 しかしそれは、お兄様の能力で動きを封じられたから。封じられている時でないと気持ちよい思いを出来ないのではないか。

 拘束されて気持ちよくされるのはとても良かったが、叶うならば自由に動けて自分もお兄様を愛して愛される時も快感を得たい。

 ルプスレギナたちはいつでも気持ちよい思いをしているのに、自分だけ制限付きなのは些か以上に嫉ましく思ってしまう。

 

 胸を張って乳房を突きだし、男の手が伸びてくるのを、ソリュシャンは期待と恐れがない交ぜになった心持ちで見つめた。

 五指が広がり乳房を包む。

 白い乳肉が、むにゅんと形を変えた。

 

「あんっ♡」

 

 違った。

 いつもとは違った。

 おっぱいを揉まれて感じるものがある。

 気持ちよい。

 

「あぁ、おにいさまぁ……♡」

 

 もう一方の手はソリュシャンの背に回り、背筋を優しく撫で始めた。

 体の芯が震えるような快感があった。

 堪らずソリュシャンからも抱きしめて、ルプスレギナに突き飛ばされた。

 

「夕ご飯! ご飯の準備が出来てるって言ってるのになんで盛ってるんすか!」

「…………ふふ」

 

 突き飛ばされて床に倒れたソリュシャンが、妖しく笑った。

 

 ソーちゃんがおかしくなっちゃった!

 

 ルプスレギナは戦慄する。

 突き飛ばしたことで変なところを打って頭がおかしくなってしまったのだろうか。

 

「そうね、食事ね。お兄様、お名残惜しいですが続きはまたあとにいたしましょう」

 

 ルプスレギナが思った通り、ソリュシャンは本当におかしくなっていた。

 とんでもない決意を固めてしまったのだ。

 

 いざとなったらお兄様をさらって魔導国を出奔する。

 

 それすなわち、アインズ様を裏切るも同然の所行。

 立つ鳥跡を濁さずの心でナザリックにはけして不利益を残さないつもりなので、ソリュシャンの中では裏切りではない。

 それにこれは最終手段。

 

 結婚の相手に自分が選ばれなかったら。

 お兄様の心が自分から離れてしまったら。

 

 どちらかの条件を満たしたとき、ソリュシャンは行動する。

 

 

 

 そんなことを思われている男は、内心で苦いものを噛みしめていた。

 

 ソリュシャンが肉の悦びを得たのは大いに結構なこと。

 アルベド様から授かったエンゲージリボンを使わなくても快感を得られるなら、尚良い。

 しかしそれは、これからはソリュシャンに乱暴なことが出来なくなってしまったことを意味する。

 具体的には、ソリュシャンのおっぱいで握力トレーニングが出来なくなってしまった。

 早急に代替手段を探す必要があった。




右肘痛の主因は原神と判断し、泣く泣くプレイ中止
神姫がついにタブレットで動かなくなる、スマホはこのためにやってきたのか
いろいろ悔しいのでアズレンを始める

名前も出てない帝国のチョロインがアンケートで何故か次点
次回、やっと名前が出てくる予定です


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銀仮面

二回完結(?)したのに大体週一更新してえらいと思います


 ソリュシャンが溶けている。形体がではなくて比喩である。ソリュシャンの体は美女の姿を保っている。

 溶けているのは頭の中と思われた。

 

 

 

「そ……ソリュシャン、様……」

 

 お屋敷三階の廊下で、カルカはばったりとソリュシャンに遭遇してしまった。

 双子幼女が庇うように前に立つ。

 子供に庇われるわけにはいかない。カルカは幼女たちの肩に手を置き、前に出た。

 精一杯の努力で笑みを浮かべてみせるが、体が強ばるのは避けられなかった。

 

 と言うのも、カルカはソリュシャンに会う度に苛められているからだ。無視なら良い方。皮肉に侮辱があらゆる形で飛んでくる。

 形だけとは言え、ソリュシャンが想う殿方の妻に選ばれたことを忌々しく思われているとは想像に難くなかった。

 カルカが自らの意志で勝ち取った立場ではなくとも、そんなことは恋する女に関係ない。

 

 残念ながら、旦那様は庇ってくれない。自分にあまり興味を持ってもらえていないようで、必要最低限以外の接点がない。

 自助努力でなんとか環境を改善したいのだが、どこから手を着ければいいのか全くわからなかった。

 そもそもソリュシャンは人間全般を見下していることを、カルカはまだ知らないでいた。

 

 ソリュシャンは、美しい微笑を浮かべた。

 

「お前は……。いえ、あなたは曲がりなりにもお兄様のパートナーとしてここにいるのよ? それなのに私のことを『ソリュシャン様』と敬称をつけるのはよくないわ。これからはソリュシャンと呼びなさい」

「……えっ」

 

 カルカは思わず瞬きをして、ソリュシャンを見た。

 自分の聞いたことが信じられず、確かめるように双子と、ソリュシャンの後ろに控えるシェーダへ視線を飛ばす。

 

「後でそんなことは言わなかった、なんて言わないわ。お兄様はとても整合性を気にかける方。言ったことを言わなかったなんて言ったらお叱りを受けてしまうもの」

 

 言った言わないで、主神アルベドに食ってかかるほどである。

 そして一端ブレーキが壊れると、ソリュシャンが感心するほどの毒舌が流れるようにいくらでも飛び出てくる。結果、心を折られる。

 

「シェーダが証人よ」

「たまわりました」

 

 ソリュシャンのお付きにして、カルカと双子幼女を教育しているシェーダが恭しく頭を下げた。

 

「……せめて『さん』を付けてもよろしいでしょうか?」

「ソリュシャンさん………………、響きが悪いわ。呼び捨てで結構。早速呼んでみなさいな」

「それでは、その……、ソリュシャン…………。これでよろしいでしょうか?」

「固いわね。これまできつく当たることもあったから仕方ないかしら」

「それは……、ソリュシャンからの指導を得難く思っていました」

「その割には部屋に引きこもって、私に会わないようにしていたようだけれど?」

「…………」

 

 図星である。

 カルカは口をつぐみ、そっと視線を下げた。

 

「あっ!」

 

 下げた視線はすぐに上げられた。

 ソリュシャンに顎を掴まれ、上を向かされたのだ。

 掴むと言っても指を添える程度。痛いようなことはなかった。

 

「あなた…………。まあそれなりに見れる顔をしているのよね」

 

 言外に、人間にしては、と付け加えた。

 以前とは違う気苦労を背負うようになったが、その程度でローブルの至宝と歌われた美貌は色褪せない。人間関係はともかくとして、住環境は一国の王であったときよりも良くなっている。

 

「でもお兄様とは何もない。そうよね?」

「は……はい。旦那様はアルベド様のお言葉を守り続けています」

「そうじゃないのよ」

「え……」

 

 カルカが屋敷に来たその日に、アルベドも屋敷を訪れた。

 その際、カルカをあてがわれた男へ「その女を孕ませては駄目よ」と言いおいた。

 孕むようなこと、すなわち男と女の関係。

 カルカは、旦那様となった男から手を出されたことが一度もない。

 ソリュシャンはそのことを当てつけることもあって、「処女臭いからお兄様は手を出さない。下男たちに股を開いて男を教えてもらったら」と言ったこともあった。

 

「お兄様は多情な方だけれど、すごく受け身なのよ。女の方から迫らないと」

 

 手や口で抜いてもらうことはよくあっても、最後までいくのは女の方からねだるのがほとんどだ。

 そのくせメイドから迫られると手を出してしまいそうな危うさがあり、頻繁にシクススがしばいているのは余談である。

 

「私から? そんなことを……、ですがよろしいのですか?」

 

 国王であったカルカに、男に迫った経験があるわけがない。

 女たちの噂話も、そのたぐいのことはカルカの耳には届かず、劇や小説で見たり読んだりしたことしかない。それだって直接的な表現はない。非常にソフトな表現になっている。

 

 迫り方は措いておくにせよ、あの方を想っているはずのソリュシャンからそのようなことを提案されるとは。

 

「それに、アルベド様のお言葉もあります」

 

 する事をすれば出来てしまうかも知れないのだ。

 

「そこは私がどうにかしてあげられるわ。応援はしないけれど、背中を押すくらいは、ね。あなたはお兄様の対外的な妻。私は本当の妻になるの。いがみ合っても仕方ないでしょう?」

 

 カルカはまたもパチパチと瞬きをした。

 目の前にいる美女が本当にソリュシャンなのか、知らない内に幻術を掛けられたのか、瞬き程度で幻術を打ち破ることは出来ない。

 

「今の話はシェーダも聞いているわ。心配しなくても大丈夫よ。シェーダ、あとでお兄様に今の話を伝えておいて」

「……かしこまりました」

「それではご機嫌よう」

 

 ソリュシャンは双子の頭を撫でて、その場を後にした。

 カルカはしばらくの間、呆けたように立ち尽くした。

 

 

 

 

 

 

「どういうおつもりですか?」

「どういうって?」

「なーんでおにーさんとあの女をくっつけるような事をするかってことっすよ」

「やだわ。ルプー姉様ったら盗み聞きしていたの?」

 

 どこからともなくルプスレギナが顔を出した。

 カルカとの会話を始終聞いていたらしい。

 

「同じ女として哀れに思ったからよ。他意はないわ」

「えーーーーー、うっそだぁーー」

 

 ソリュシャンはにっこりと微笑んだ。

 

「それよりお兄様は? 今は何をなさっているの?」

「……お客さんっすよ。こっから見えるんじゃないっすかね?」

 

 三階の窓からは屋敷の敷地内がよく見渡せる。

 庭園の木々は葉を落としているが、春になればさぞ美しい眺めとなることだろう。

 

 ルプスレギナが指し示すのは庭園から外れ、簡素な柵で囲われた演習場である。

 先だってモモン様とナーベ様が剣を合わせた場所であり、アウラ様がドラゴンを着陸させることもあり、普段は若旦那様が剣の素振りをしている。

 今日は剣の受け手があった。

 

「女?」

 

 黒い軽鎧を着けた女が淡い金色の髪を靡かせている。

 手にする得物は男が持つカタナブレイドとは違って、極一般的な長剣。あらゆる方向から飛んでくる剣撃を危うげなく受け、あるいは流す。

 ソリュシャンたちが遠目に見る中で激しい動きがあった。上段からの切り下ろしを受けたはずなのに、大きく飛び退く。金髪が舞い、女の顔が露わになる。

 女は右目だけを大きく覆う銀色の仮面を着けていた。

 

「帝国四騎士の一人で、レイ……レイ……、レイアースとか言う名前で」

「ルプスレギナ様、レイナースです」

「レイナースっすね」

「ふうん……」

 

 年の頃は二十を幾ばくか過ぎたあたりか。

 軽鎧を着けているので体つきはよくわからないが、顔立ちはそれなりに整っている。艶やかに笑えば騎士などより貴族の令嬢に見えることだろう。

 

「人間にしてはそれなりに見れる顔ね」

 

 ソリュシャン的には、金髪と言うところもポイントが高い。

 しかし、ルプスレギナは首を振った。

 

「元は良かったかも知れないけどあれはダメっすね。顔の右側に仮面を着けてるのが見えるっすか? あれ、初めて会ったときは着けてなかったっす」

「仮面の下に何かがあるの?」

「ドロドロっすよ」

 

 帝国にとって、魔導国は非常に重要な国家である。魔導国から遊学に来た学士を公使として扱い、皇帝が直々に声をかけるほど。よって、魔導国の公館であるお屋敷へ遣わすのに下手な人間は使えない。

 数多いる貴族や重職につく者たちでは、自国より自家や自分を優先するかも知れない。ゆえに、皇帝直属である帝国四騎士が遣わされることが多かった。

 ある意味において魔境である魔導国の公館へ遣わすのだから、ある程度の強さは必須と考えたのもある。

 

 帝国四騎士は、マーレ君がやんちゃしたせいで一人欠員が出てしまい、現在は三騎士となっている。

 その三人が順番に学士殿の機嫌伺いに来ていたのだが、三人の内二人はとても嫌がった。

 何でも、学士殿と顔を合わせると男としての劣等感が刺激されてしまうのだとか。

 消極的な理由で、三騎士となった四騎士の紅一点であるレイナースが、小間使いのような伝令役を担うようになっていった。

 

 レイナースは、ソリュシャンの目からしてまあそれなりに見れると評される女である。

 女をあの男へ近付けることを、皇帝は無駄なことと思い極めていた。女をあてがったところで取り込まれるのが落ち。しかし、レイナースならそのようなことはないと判断していた。

 

「顔の右半分がどろんどろんに爛れてるんすよ。最初は髪で隠してたっすね」

 

 レイナースが持つ本来の美貌は、モンスターから受けた呪いによって失われてしまった。

 そこからレイナースの人生は転落し続け、帝国四騎士となった今になっても美しい者への憎悪と嫉妬は深くなるばかり。

 間違っても美貌の男へ心を許すわけがないと思われた。

 

「でも、お兄様ならそんなことは気にしないのではなくて?」

 

 ルプスレギナは呆れたような顔で両手を広げて見せた。

 

 レイナースの顔を初めて見た時の男の反応は、「俺とは反対だな」であった。

 ポーションで回復される以前の男は、顔の右目付近を除いて醜く焼き爛れていた。レイナースは呪いによって顔の右目付近が爛れている。

 男にとっては、鏡でずっと見てきた己の顔より遙かにましで、多少爛れていようと気にならない。

 思いも寄らない反応に硬直するレイナースを余所に、断りなく爛れた肉に触れ、指を汚す汚らしい膿を舐めて「苦い」と素直な感想を述べ、ルプスレギナに回復できるかどうか訊いてきた。

 傷病ではなく呪いであるため、ルプスレギナにはどうにもならなかった。

 

 ならば次善策と言うことで、老廃物を吸収分解する魔法のローションを塗ってやった。

 レイナースが爛れた顔を髪で隠すしかできなかったのは、頻繁に膿が出てくるからだ。出てきた膿を拭うために、顔を仮面などで覆っていると邪魔になる。

 しかし、膿が無味無臭な液体へ分解されるなら問題ない。以降、顔の右目を覆う銀仮面を着けるようになった。

 なお、レイナースに使用した魔法のローションは、元々はシャルティアとのアナルセックス用に開発されたものであることはレイナースは知らない方がいい事実である。

 

「ルプー姉様でも回復出来ないの?」

「あれは怪我とかじゃなくて呪いっすから私には無理っすね」

「私には。でも、回復する方法はある。そういう事ね?」

「……そっすよ。そのあたりの話は私に任せたもらえないっすかね? 少しずつ話を進めてるとこっすから」

 

 話は終わりとばかりにルプスレギナが歩き出そうとしたその時、涼やかな鈴の音がチリンと響いた。

 

「……いらっしゃったようですね」

「そうですね。私が奥の間へ参ります。ルプスレギナ姉様は相談役殿を呼んできていただけますか」

「わかりました」

 

 お屋敷の三階にだけ鳴り響く鈴の音は、お食事部屋にいらしたアルベド様が呼んでいると言うこと。

 ソリュシャンは足早に奥の間を目指し、ルプスレギナは三階の窓から飛び降りた。

 

 一人残されたシェーダは、帝都に来てから一度も手を出されていないのは自分からアプローチしていないからだと気が付いた。

 今度誘ってみようと心に決める。

 

 

 

 

 

 

「相談役殿、本国から連絡がありました。お急ぎを」

「わかりました。レイナースさん、申し訳ありません。私はこれで失礼いたします。どうかまたいらしゃってください」

「お気になさらないでください」

 

 駆け出す男を、レイナースは名残惜しく見つめた。

 絹布に包んだ銀仮面をきゅっと胸に抱く。男の姿が屋敷の中に消えるまで、レイナースは動かなかった。

 

「邪魔をしてしまったようですね」

「そのようなことはございません。学士殿には重要な責務があると理解しております」

「そうですか。……これからいいとこだったみたいっすけど?」

「ルプスレギナ殿が懸念されるようなことは何もございませんわ」

「それ、外してるっすね?」

「……」

 

 レイナースは、仮面を外して手に持っている。

 ルプスレギナが来なければ、仮面の下にローションを塗ってもらっていたはずだった。

 

 誰からも、自分すらも嫌悪する醜く爛れた顔。

 それなのに、嫌そうな素振りを見せることなく、顔を見て、顔に触れてくれる。

 学士殿から顔に触れられる官能は、言葉に表せない。

 誰もが醜いと断じて、そのせいで婚約を反故され、実家に見捨てられ、万策を尽くしても癒せない顔を、何でもないかのように触れてくれる。醜さを気にしなければ、膿で手が汚れるのも気にしない。

 学士殿の前では醜い顔を恥じる必要がない。醜いままでも許される。ありのままの自分を受け入れてくれる。

 ローションを塗ってもらう一時が、レイナースにとっては何物にも代え難い至福となるのに時間は掛からなかった。

 

「見せてもらっていいっすか?」

「……どうぞ。ご覧になってください。ルプスレギナ殿もよくご存じの物です」

 

 レイナースは髪が靡かないように手で押さえながら、絹布に包んだ仮面を渡した。

 ルプスレギナが仮面を見ている間に、こっそりとローションを塗り直す。

 一度塗ったら水で洗わない限り、半日は効力が持続する代物だ。ほんの少量でもよく伸びて、風呂の前に全身に塗り伸ばしてから体を洗うのが日課となっている。おかげでお肌が艶々である。

 もらったローションは小瓶で二つだが、減り方から計算すると、毎日使っても一瓶で一年以上はもちそうである。

 

「字は汚いのに器用っすねぇ、ほんとに」

 

 ミスリルなどではなくただの銀。魔法は掛かっていないため、防具としての耐久性はゼロ。サイズが着用者に自動で合うこともない。

 ただし、レイナースの顔形にぴったり合うように作られている。表面には目を包むように一対の翼の意匠が彫られている。

 若旦那様が手ずから作った仮面なのだ。

 

 ルプスレギナがぼやいたように、あの男の字は下手を通り越して読めなくなった。

 現地の文字はそれなりなのだが、日本語は壊滅的である。文字の修得を始めてから崩れ字になった現在までの経緯を見てきたソリュシャンとルプスレギナでなければ読めない。文字として認識できない。

 二人は実務的な理由で男から離れられなくなったわけだが、それはそれで二人にとって嬉しいことなので不満はない。

 しかし、下手な字を通り越して模様のようになってしまった文字である。同じ文字であっても、前後の文脈によって形が変わったりするため、暗号に使えるかも知れない。

 字は下手なのだけど、物凄く器用なのだ。細い髪の毛を縦に半分に裂き、更に半分に裂けるほど。

 造形を捉える観察力と記憶力は群を抜き、そこへ美的センスを加えればナザリックの守護者達の装飾品を任せてもいいレベルになるかも知れないのだが、本人はなろうと思っていないし、男の器用さを知るルプスレギナたちもそこまではと思っている。

 

「学士殿とは少しお話をさせていただきましたわ。アインズ陛下のことがあっても魔導国は変わりないようでございますね」

「そっちの話はおにーさんにお任せっすね」

 

 ルプスレギナも知っていると、レイナースは直感した。

 アインズが魔皇ヤルダバオトとの戦いで命を落としたとの報は帝国にも届いている。

 それは真か偽かを探るのが、レイナースの重要な使命であったはずなのだが、命令を下した皇帝は些か以上に投げやりだった。

 

「それより例の話。どうっすか? 急がせるつもりはないっすけど、こっちの準備もあるから早い方がありがたいっすけどね」

「……もう少し待っていただけませんか?」

「いつまでも待つっすよー。時間切れになるまでは」

「っ!」

「わかってるはずっすよね。おにーさんがいつまでも帝国にいるわけがないって事を」

「……ええ。重々承知の上ですわ」

 

 密かに想い続けるか。

 ルプスレギナの提案を受けて想いを断つか。

 

 これまでのレイナースであれば、一考の余地もない事だった。

 それが今や、身を裂くような岐路となってしまった。




そろそろセバスにSEKKYOUを書かねば
そろそろ娘の名前を決めねばだけど重要キャラでもなしその時思いついた名前になりそうです

91話を修正
ゼロ次元と1次元を間違えてました


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仮面の下

昨日から始まった神姫とアズレンのイベントを後回しにして本話をかいたのは偉いと思いますがそのせいでヴァイオレット・エヴァーガーデンを見忘れました_(:3 」∠)_


 レイナースが剣を振るい続けてきたのは生きるためと、矛盾するようだが女に戻るためだった。

 

 貴族の令嬢であったレイナースが、女だてらに剣をとり領地のモンスターを駆除したことが呪いの始まり。呪われた剣であるが、生家を放逐されたレイナースが頼れるのは剣の腕だけだった。

 剣を振り続け、その末に帝国最強の四騎士の一となっても剣を振り続けた。地位を得た。財を築いた。己を捨てた者たちへの復讐も果たした。

 それでも剣をとり続けたのは、己の価値を保つためである。皇帝の覚えをよくし、その長い腕で呪いを解く術を見つけてもらう。

 女を失ったのが剣故なら、女を取り戻すにも剣が必要だったのだ。

 

 呪いを解き、醜い顔を癒して美貌を取り戻し、女に戻る。

 それが、レイナースが生きている理由と言って過言ではない。

 しかし、呪いを解かなくても自身を女と扱ってくれる殿方に出会えたならば、存在するのか定かではない呪いの解き方を探す必要は、なくなってしまうのではないだろうか。

 

 明くる日も、レイナースは魔導国の公館を訪れた。

 魔導国の学士殿と軽く言葉を交わした後は、剣を交わすのがいつものこと。

 

 学士と言うのだから文官なのだろうが、文官とは思えないほど剣が冴えている。

 無論、帝国最強の一であるレイナースが本気になれば、防御ごと一刀両断にすることは容易い。逆を言えば、本気を出さなければ仕留められないほど手強い。

 力に頼らない玄妙な技はレイナースにも得るものが多い。今日はどのような妙技を見せてくれるのかと期待するも、美貌の男は椅子から立ち上がらなかった。

 

「どうかなさいまして? 今日はお顔の色が冴えないようでございますね」

「……私の顔色はそんなにわかりやすいですか?」

「よく見ていれば気付きますわ。よろしければ何が学士殿を悩ませているのか、お聞かせ願えませんか?」

「レイナースさんに相談するまでもないことですが……、無用な心配を掛けるわけにもいきませんね。エ・ランテルの友人から手紙が届いたんです。子供が産まれたから名付け親になって欲しいと」

「それはそれはおめでたいことでございます」

「めでたい……。めでたいことではあるんですが、名付け親なんて初めてでして、いったいどんな名前がいいものやら」

「学士殿がその子にどのようなことを願うか。それ次第でございましょう」

「健やかに育つことを願うばかりです。……男ならゲンキ。女ならゲンキコ。如何でしょう?」

「絶対ダメです。もう一度言います。絶対にお止めください。そのような名前を贈ったら縁を切られてもおかしくありません」

「そ、そこまで、ダメですか?」

「ダメです。本当にお止めください」

「わかりました。……ああ、いったいどうすれば……」

「安直かも知れませんが、過去の偉人から名を頂くのもよいかと」

「それです!」

 

 男は勢いよく椅子から立ち上がったかと思うと、しおしおと座り直して頭を抱えた。

 

「候補を千個くらい思いついたんですが、今度はどうやって絞れば……」

「ふふ……、学士殿のセンス次第でございますね」

 

 レイナースの主である皇帝がこの場にいたら目を見張ったかも知れない。

 いついかなる時も無表情を張り付けているレイナースが、声を立てて笑ったのだから。

 

「それにしても、一瞬で千個も思い付くなんて」

「本を読むのが私の仕事みたいなものですからそれくらいは。どのみち、その子に会うのはエ・ランテルに戻ってからになります」

「……いつお戻りになるのですか?」

「時期を自分で決められるほど私は偉くありませんよ」

「学士殿は……、命令一つでお戻りになってしまわれるのですね」

「ええ」

 

 少女のように思い続けられれば、それはとても甘美なことだろう。

 しかし、いつか必ず帰ってしまう。

 立場もある。

 己の地位はとても軽いものだ。誰もが羨む帝国四騎士だろうと、皇帝とは解呪の情報を対価にした契約だけの関係。恩はあっても忠誠はない。帝国四騎士の座など目的を果たせばその日に捨ててしまえる。

 己は軽くとも、相手はそうもいかない。

 魔導国から遊学に来た学士であるが、その実、魔導国宰相閣下の相談役。彼の魔導国の中枢に直接声を届けられる立場。軽い己とは雲泥の差。

 想いを告げて想いを果たせても、遠からず終わりがやってくる。そんなことになってしまえば、確実に未練となる。

 思い出を胸に抱いて生きていけるほど強くなれそうにない。

 だったら、始めから。

 

「ふーん、ちょっち意外っすね。そっちを選ぶんすか?」

「はい。学士殿はいつか必ずお帰りになってしまわれます。今ならまだ…………、断ち切れます」

「まあ、全然気付かないおにーさんも悪いんすけどね。じゃ、そーゆーことで手配しとくっす。明日もこの時間に、誰にも知られずに。門番には黙って通すように言っとくっすから」

「承知いたしました。ルプスレギナ様に感謝いたします」

「約束はきっちり果たしてもらうっすよ?」

「当然でございます」

 

 

 

▼ ▽ ▼

 

 

 

「これから何が起こっても絶対に口を開かないように。目も開かないように。私も結構きつい橋を渡ってるんすから!」

「かしこまりました」

「いらっしゃいました。レイナース殿はその場でお待ちください」

「………………」

「ルプーと、そいつはなんでありんすか?」

「わざわざのご足労、まことにありがとうございます。この者がペストーニャ様にお願いした者でございます」

「ふーん? ま、どうでもいいでありんすね。それじゃ私はちょーーっと遊びに行ってくるでありんすから、1時間……2時間後に来ればいいでありんしょう?」

「今日はいらっしゃらない日でございます」

「よっしゃ!」

「解呪は一瞬で……、行ってしまわれましたね、わん。ですが私も折角来たのですから、シクススたちの様子を見てこようと思います、わん」

「シクススたちもペストーニャ様にお会いしたい様子でした。今は隣室に待機させております」

「そうでしたか。それでは早速…………。ふむふむ、女の顔にこれは……とても辛かったでしょう、わん。……ルプスレギナ!」

「はっ!」

「私、感動しました!」

「はっ?」

「まさかルプスレギナが誰かを思いやって傷ついた顔を癒そうと考えるなんて……思ってもみませんでした、わん! あなたの心にも優しさが芽生えてきたのですね、わん」

「は……はっ、光栄でございます!」

「これからも神官に相応しい優しさを抱き続けてください、わん」

「……はっ、かしこまりました」

「……解呪は終了しました。以降、あなたの顔を呪いが蝕むことはありません、わん」

「…………」

「この者には口を開かないよう伝えておきました」

「そうなのですか? いずれエ・ランテルに来れば会うことがあるかも知れませんね、わん。それでは私も席を外します。時間になったらこの部屋に戻りましょう、わん」

「承知いたしました。………………目を開けていいっすよ」

 

 銀仮面はテーブルに置かれている。

 手鏡も置いてあった。

 恐る恐る手を伸ばして覗き込む。

 右目を隠す髪をかき上げた。

 肌には僅かな傷もくすみもなかった。

 視界が歪んでくる。

 

 声を立てずに泣き始めたレイナースを前に、ルプスレギナの心には柄にもなく良いことをしてしまった心地よさが訪れていた。

 

 

 

▼ ▽ ▼

 

 

 

 決意をしてしまえば、驚くほどあっさりと呪いは解けた。

 飽くことなく鏡を眺める。

 次の瞬間には呪いが力を取り戻して、またも爛れた顔になってしまうのではないか。鏡を見る度に恐怖を覚えるが、そんなことは一度もない。肌は美しい輝きを放ち続けている。

 呪いが解けたら、してみたいことが幾らでもあった。あれをしたいこれをしたいと、わざわざ日記につけていたくらいだ。

 それなのに、どうしてこんなに空虚なのか。

 呪いが解けた喜びを分かちあえる人がいないからだと気が付いた。

 

「こんな時間に珍しいな。奴のところへは行かないのか?」

「そうしたいのは山々ですが、ルプスレギナ殿を怒らせてしまったようです。しばらくはバジウッドとニンブルにお願いいたしますわ」

「いずれ魔導国に行くつもりだろう。それまでに神官殿のご機嫌をとっておくんだな」

「……そうでございますね」

 

 皇帝は、レイナースはいずれ魔導国に移ると踏んでいた。レイナースもそのつもりだった。

 帝国では解呪の方法が得られないからだ。帝国の伝説的な魔法使いであるフールーダ・パラダインであっても呪いを解くことは出来なかった。しかし、魔導国にはフールーダが神を崇めるアインズ様がいる。アインズであれば、と思われた。

 呪いを解くために、レイナースは魔導国へ行きたかったのだ。

 呪いが解けてしまえばその必要もない。

 

 レイナースは呪いが解けた美しい顔を晒すことなく、今日も銀仮面で顔を覆っていた。

 

 

 

▼ ▽ ▼

 

 

 

 久し振りにドレスを着た。

 

 仕立てるだけ仕立ててそのままだったドレス。

 レイナースの緑の瞳に合わせてグリーンを基調としたドレスは、ふんだんにフリルとリボンが付けられて、大きく開いた袖の部分には繊細なレースがあしらわれている。

 偶に眺めることがあった。

 このドレスを着て夜会に出て、と日記に書いたこともある。

 しかし、一度も袖を通したことがない。

 美しく着飾っても、醜い顔の女に寄ってくる男はいないからだ。

 パートナーもいない。

 レイナースが夜会に出るときは、全身鎧を着て皇帝の近辺警護を担うのが常だった。

 

 ろくに帰らない屋敷のメイドに着付けを手伝わせ、化粧もしてもらった。

 銀仮面を外して見せたメイドが驚きに目を見開く。レイナースは、屋敷を買ったときから長く仕えているメイドへ、初めて微笑みかけた。

 

 パーティーの会場では、色とりどりの花のような貴婦人達が美しさを競い合っている。

 花々は男達の間を渡り歩いているので、花よりも蝶と呼ぶべきかも知れない。

 仮面舞踏会なのだ。

 男も女も、特定のパートナーを連れていない。

 日頃の身分を忘れ、現世から離れて夢のような時間を楽しむ乱痴気めいた貴族の戯れ。

 ドレス姿のレイナースに近付こうとする男はいなくもなかったが、声をかける前に誰かが「あの女は……」と忠告する。あの女であるレイナースには、結局誰も声を掛けない。女達の嘲笑が耳に届く。

 

 醜い顔を隠せばどうにかなると思って?

 

 仮面舞踏会なのだから、レイナースも仮面をつけていた。

 他の参加者達のように目だけを隠すものや、いっそ顔全体を隠すものを着ければ良かったのに、レイナースが着けているのは右目だけを覆う銀仮面。

 仮面に彫られた翼の意匠は羽の一枚一枚すら見事に表現された精緻な逸品で、帝都の名のある職人であってもあれだけの仕事が出来るとなれば限られる。

 そんな仮面を、レイナースは常日頃からつけている。今も同じ仮面をつけている。

 

 長い髪を結い上げていようと、あの女がレイナースであるのは明らかだった。

 美しい女に見えようとも、仮面の下には醜く爛れた肉が隠れている。悪心を催させる悪臭を放つ膿が垂れ流れていると、貴族であるからこそ知っている。

 レイナースに女を見て、近付く男は一人もいなかった。

 

 

 

 顔が癒えたら絶対に行きたいと思っていた夜会なのに、いつか着ることを夢見て仕立てたドレスを着ているのに、レイナースの心は驚くほど晴れなかった。

 醜さへの中傷は慣れたものだ。全身鎧を着ている時なら真っ二つにしていたかも知れないが。

 そもそも、単に男を見繕いたかったのなら違う仮面をつけるだけで良かった。

 それなのに、わざわざ足を運んだ仮面舞踏会で己は己であると主張している。

 もしかしたら、醜い顔をしても気にすることなく己を選んでくれる男がいるかも知れない。心のどこかで、そんな少女めいたことを思っていた。理性では絶対に得られないと思っていた。案の定だった。

 

 何年振りかに、呪いを受けてからは初めて、美しく着飾っているのに、レイナースは壁に背を預けて男達と女達を眺めている。

 舞踏曲が幾度も流れ、男と女がくるくる踊っている。一夜のパートナーを見つけて抜け出す者もちらほらと。

 その気になれば皆の注目を浴びることは可能だったが、どうしてもその気になれない。

 憧れた舞踏会なのに心は沈んだまま。虚しい限り。

 

 なんとなく手にとってそれきりだったグラスを煽り、空になったグラスを給仕に押しつける。

 帰ろう。

 そう思った矢先だった。

 

「…………………………え?」

 

 下を向いた視界に映る手が、細く長い指が、自分へ差し出された手だと気付くのに時間が必要だった。

 

「私と踊っていただけますか?」

 

 髪は黒い。

 仮面はレイナースと真逆で、左目付近を覆っている。大きく違うのは、穴が開いていないこと。目が完全に塞がれている。それ以外はレイナースと同じだ。目がある部分を包むように一対の翼の意匠が彫られている。羽の一枚一枚を繊細に表現した見事な逸品。

 

「あなたは……、がく…………」

 

 言葉は続けられなかった。

 男が立てた人差し指が、レイナースの唇を押さえている。

 

「仮面舞踏会ですから、それはいけませんよ。さて、お嬢さん。お手をどうぞ」

「……はい……」

 

 夢見心地に、レイナースは男の手を取った。

 男の仮面が、どうして左目を完全に塞いでいるか。レイナースは理由を知っている。

 左目は赤いからだ。あらわな右目は深い湖のように澄んだ青。

 赤い左目と青い右目をしている男は、現在の帝都には一人しかいない。

 

「どうしてここに?」

 

 右手と左手を合わせ、もう一方の手は互いの腰に回している。

 

「ここ数日いらっしゃらなかったので、探したんです」

「まさか」

 

 レイナースが右足を踏み出す。男は軽やかなステップで、レイナースに合わせた。

 

「当家のお嬢様に怒られまして……。今まで何を学んできたのか、女の思いを無下にしていいと思っているのか、とね。まるで悪人のように扱われましたよ」

「……お嬢様の仰る通りでありませんこと?」

 

 腰を抱く力が強くなったのは作法と違う。

 くるりと素早くターンして、前後が入れ替わった。

 周囲から感嘆の声が漏れたのを、レイナースの耳は捉えた。

 

「それはひどい。ただ、実際的で切実な理由もありまして……」

「……それは?」

 

 曲調が変わった。

 ゆったりとしたメロディに合わせて体を寄せ合い、囁き声が耳朶を舐めた。

 

「剣の練習で衛兵を斬り殺すところでした。あなただったら簡単に受けてくれた一撃だったんですが」

「ただの兵士と一緒にしないでくださいませ。これでも私は四騎士なのですから。そもそも学士殿が強すぎるのです」

「まさか。私の剣は軽かったでしょう?」

「そういう問題ではありませんわ」

「ではどういう問題なのか、次にいらしたときに教えていただけますか?」

「それは……」

 

 ステップを間違えた。

 危うく男の足を踏みそうになったが、すんでのところで避けてもらえた。

 そのまま男の腕を頼りに一回転。

 差し出された腕に腕を絡めて歩き出す。

 

「神官殿と何かあったようですが、お嬢様が説き伏せていましたよ。出来るならばこれまで通りにいらっしゃってください。陛下からもそのように命じられているのではないですか?」

「………………、一つ」

「なんでしょう?」

「私、殿方に唇を触れられたのって初めてなんですの」

 

 会場から一方ならぬどよめきが湧いた。

 レイナースが仮面を外したのだ。

 それだけでなく、男のかつらもむしり取る。輝く銀髪は艶やかとしか表現できない。

 

 男は苦笑して、諦めたように仮面を外した。

 皇帝主催の夜会に一度だけ出たことがあるので、男の容貌を覚えている者は多かった様子。

 

「参りましょう♪」

 

 童女のように笑うレイナースに手を引かれ、男は会場に残る面々に一度だけ手を振ってからその場を後にした。




次回、魔導国に移ってから解呪すれば良かったことに気付きます


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仮面は不要に ▽レイナース

いつか♯2があるかもですがわかりません
あれとこれとそれを詰め込んだのでやや長いです


 パーティー会場を抜け出た男たちと女たちは、会場となった屋敷の一室を借りることがあれば一夜の夢を営む場所を外へ求めることもある。

 魔導国の学士に手を引かれたレイナースは、手を引かれるまま大きな馬車へ乗り込んだ。ナザリック製の豪奢な馬車である。中の広さと格調高い調度に目を見張る。目を見張ったのも数瞬のこと。隣に男が座ってきた。

 極自然に、レイナースは男の腕を抱いた。

 

「誰も彼も大きく口を開いて、見物でした。きっとマスクの下では目をまん丸にしてたに違いありませんわ」

 

 醜いと嘲られ遠ざけられていたレイナースだったが、美貌を蝕む呪いは解けた。

 先のパーティー会場で一番どころか帝国全土で、おそらくは世界で一番美しい男をダンスのパートナーとした。会場にいた女たちは驚愕を顔に上らせると、すぐに羨望と醜い嫉妬をあらわにした。

 男共の視線より、女たちの嫉妬の方が遙かに優越感をくすぐる。

 

「レイナースさんがお綺麗でしたから。呪いが解けたことを知って驚いたのでしょう。……ルプスレギナは解呪出来ないと言ってましたね。特殊なアイテムでも使用したのですか?」

「神官殿はペストーニャ様と仰っておりましたわ」

「ペストーニャ様は高位の神官であると聞き及んでおります。お優しい方ですから、レイナースさんの呪いを見れば解かずにはいられないでしょう。ルプスレギナとどのような話をしたか聞いてはおりませんが、レイナースさんが魔導国にいらっしゃったら必ずや解呪してくださったと思いますよ」

「……さようでございますか」

 

 解呪せずにこのままか、解呪して魔導国の学士殿に近付かないか。ルプスレギナから二択を迫られていたレイナースは後者を選んだ。

 今まで解呪のヒントすら掴めなかったため、突きつけられた選択肢に視野が狭まり、それ以外の事柄が目に入らなくなった。しかし第三の選択として、どちらも選ばず魔導国に入っていたら何の苦もなく解呪がなった様子。

 

「学士殿からペストーニャ様のことを伺ったことはありませんでした」

「ペストーニャ様は魔導国でも高い地位にいるお方。私が軽々に紹介することは出来ません」

 

 嘘である。

 すぐに解けないなら後でいいやと何も考えていなかった。

 

「……さようでございましたか」

 

 女の勘は男の嘘を嗅ぎ取った。しかし、顔が爛れていようと気にしなかった男であり、自分から解呪の方法を熱心に探らなかったのも事実。拗ねて可愛らしさを見せるにはいささか年を重ねていると自己判断し、続く言葉を飲み込んだ。代わりに、男の手に指を這わせる。手のひらに手のひらを合わせ、指に指を絡めてきゅっと握った。

 

「レイナースさんの屋敷に向かえばよろしいですか?」

「……はい。ですが、その……夜も更けて参りましたので少し休まれて行かれては?」

 

 子供ではないのだから、レイナースの言葉が何を意味しているのか互いに了解している。

 レイナースの動悸は激しく、胸に抱く男の腕に伝わってしまうかどうか気にかける余裕はなかった。汗ばむ手のひらも忘れて、上目遣いに男の顔を覗き込んだ。

 

「ではそうさせていただきます」

 

 レイナースの心で、祝砲が鳴り響いた。

 

 

 

 ▼ ▽ ▼

 

 

 

「御者の方は……」

 

 寒空の下で馬車を駆る御者は、白いドレスに身を包む麗人である。御者をするよりも、舞踏会で男たちに崇められるのが相応しい出で立ち。間違っても御者をする装いではない。

 太陽はとうに隠れて夜の帳が下りている。日除けの帽子を脱いだ御者は、十人が十人とも振り返る美女だ。黒い眼球に赤い目を見なければ、であるが。

 

「ミラは待機。朝までだと暇だろうから、これをやろう」

 

 手にしたのは、遮光のために緑色をしている細長いガラス瓶である。

 懐からショートカタナブレイドを取り出し、首を切り落とした。そのまま刃先を指で撫で、ぷっくりと浮かんだ血の珠を、一つ二つと瓶の中へ垂らす。

 

「……恐れ多いことでございます」

 

 シャルティア用に積んでいた魔酒である。それを下賜されるとなればヴァンパイアブライドに過ぎないミラにとっては恐れ多いに違いないが、もっと切実で実際的な問題があった。

 泥酔していたとは言え、守護者統括殿をグラス一つで一発昏倒させた魔酒である。低位のヴァンパイアブライドだったら一滴で忘我の淵に引きずり込む甘美な血である。

 最強と最強があわさって無敵になってしまったお酒は、無惨にも蓋を首ごと切り落とされたために封をすることが出来ない。

 捨てるのは以ての外。しかし開けたままにしておくと風味が落ちて劣化する。朝までに飲みきらなければならない。

 何の前触れも脈絡もなく、ミラに降って下りてきた幸運なのか災難なのかわからない。

 ミラは震える手で酒瓶を受け取った。

 

 血の入った酒を受け取るとは、あの女性はやはり吸血鬼とレイナースは察したのだが、どこか怯えた様子を不思議に思った。

 

「案内していただけますか?」

「はい、かしこまりました」

 

 曲がりなりにも帝国四騎士の屋敷。住み込みの使用人は幾人もいる。

 馬車はそのまま客人はお一人、と。短く言付け、案内する場所には大いに迷った。

 

 食事はパーティーの前にとった。お腹は空いてない。お客様からもそのような要望はない。

 来客なのだから応接間が自然だ。何年も使ってないのでどうなっているかわからないことは不安だが、メイドたちが手を入れているはず。

 最後に行こうと思っていた場所はやはり最後にしようと思っていたのでいきなり誘うのはふしだらが過ぎるというか、レイナースは屋敷に男を連れてきたことが一度もなかった。男どころか客さえ初めてだ。

 

「これからのことを内密に話せるところがいいですね」

「……わかりましたわ」

 

 腰を抱かれて、レイナースは決断した。

 選んだ部屋にはベッドがある。

 

 飾り気のない寝室は、整えられたベッドと一脚の椅子にテーブル。窓には分厚いカーテン。テーブルの上の燭台が、赤い炎を揺らしている。帝国四騎士とは言え、寝室に魔法の明かりを入れるほどの財力はない。

 ひとまず男を椅子に座らせた。

 持て成すにはどうすればいいか。何か飲み物をと思ったが、皇城で寝起きしているレイナースなので寝室にそのような用意はない。使用人に言付けるのを忘れた。呆れられてしまったらどうしよう。

 

 男が椅子から立ち上がり、レイナースは何か不味かったのかと慌てふためいた。またも腰を抱かれて、されるがままに座ってしまった。

 寝室に二人掛けの椅子はない。座ったのはベッドの上だ。

 いよいよとなり、目まぐるしく動くレイナースの心は、つまらない言葉を吐き出した。

 

「学士殿はとてもダンスがお上手でしたわ。奥方様に習ったのですか?」

 

 男が一度だけ顔を出した夜会には、パートナーに輝ける美貌の女を連れてきた。カルカと名乗った。聖王国の聖王と同じ名前なのは偶然であるらしい。

 レイナースは、それは偶然などではなく、聖王国の聖王カルカ・ベサーレスその人であると察した。カルカ・ベサーレスは、政治的に非常に重要な存在だ。存在してはいけないとすら言える。

 しかしそんなことはどうでもいい。今このときは、カルカの美貌だけが問題となる。

 

「カルカはダンスが得意だったので代理パートナーとして連れて行きました。一度も練習しなかったのに合わせるのに苦労しなかったのはよかったです。レイナースさんもお綺麗ですよ。グリーンのドレスがよく似合っています。脱がしてしまうのが惜しい気もしますね」

「…………」

 

 男とは反対の方を向かされて、背中で結ばれている数々の留め紐が解かれていく。

 

「私は綺麗だと。本当にそう仰ってくださいますの?」

「本当です。呪いが解ける前からそう思っていました」

 

 ドレスの締め付けが緩み、楽になった。

 するすると、軽やかな衣擦れの音を立ててドレスが脱がされていく。

 燭台の炎を背にし、壁に映る影が揺れている。

 

「こんなものを着けなくても、レイナースさんの体は整っていますよ」

「……女の嗜みですわ」

 

 腰を締め付けるコルセットもまた解かれる。

 美しいウエストラインを作るためのコルセットであるが、レイナースの引き締まった体には不要かも知れない。

 

「女の嗜みと言えば……。わたし、これでもかつては貴族の娘でした。婚約者もいたんです」

 

 昔語りをしたいわけではない。自分を捨てた生家や婚約者への復讐は、出来るなら知られたくない。話したいのは、もっと違うこと。

 

「いつか嫁ぐために、女は殿方とどのようなことをするのか、習ったものですわ」

「どんなことを習いました?」

 

 立たされ、コルセットを外される。ドレスも床に落ちた。

 まだ振り返らない。後ろから伸びてきた手が腹に回った。引き寄せられ、一歩下がる。ドレスを踏んだが、脱がされている間に靴を脱いでいた。

 

「わざわざ殿方の、その……、あれを模した張り形を用意して。殿方が興奮するとあの部分が大きく固くなってこのような形になって……。私の中に入ってくる、とか。んっ……」

 

 長い金髪は結い上げている。

 うなじに唇で触れられ、思わず声が出た。

 

「入るところはわかりますか?」

「わかりますわ。私の……、ここです」

 

 入れられる場所に、レイナースの手が触れる。

 純白で飾り気はないが、絹で出来た上質なショーツ。

 

「私にも教えてもらえますか?」

「…………はい」

 

 レイナースは、男の手を導いた。

 

 

 

 ▽ ▼ ▽

 

 

 

「んっ! ……殿方にこんなところを触られるなんて。初めてですわ」

「レイナースさんなら引く手数多だったでしょうに」

「私に近付いてくる男なんて、一人もいませんでした」

「魔導国の友好国であるのに、帝国の男は節穴しかいないとは嘆かわしい」

「学士殿だけが特別なんです、わ……」

 

 男の指が、レイナースの柔らかな部分を撫でている。三本の指を揃えて伸ばし、円を描けば上下に動く。

 腰を抱いていたもう一方の腕はそろそろとレイナースの体を這い上がり、乳房に触れた。

 実家から放逐されてしばらくは栄養の足りていない生活を送っていたレイナースだったが、その期間を除けば幼少期から今に至るまで、庶民には望むべくもない上等な食事をとってきた。その甲斐あってか、意外なほど豊かな乳房は鎧姿からは想像も出来ない。

 

「レイナースさんは処女なんですね」

 

 耳元で囁かれ、羞恥に顔が熱くなった。

 

「そうです……。学士殿はずいぶんと手慣れているご様子で」

「あなたを悦ばせるために磨いた技です」

「お上手ですこと。……んっ……あぁっ!」

 

 避部を撫でていた指が、ショーツの隙間から入ってきた。

 

「初めてがこんな男ではお嫌ですか?」

「そんなこと、ありませんわ。嬉しいです。……とても」

 

 この美しい殿方と添い遂げられるとは夢にも思っていない。

 しかしいつか迎える初めてを捧げられるなら、今だけとは言え体を重ねられるなら。

 

「レイ、とお呼びください。今だけでも構いません。私を恋人のように、妻のように扱ってくださいませ」

「わかったよ、レイ」

「あっ……、あぁっ……、あなたの指が、私の中に……」

「ここに入るって教わったんだろう?」

「はぃ……。殿方に求められると、濡れてくるとも教わりました。私は濡れていますか?」

「自分で触ってみるといい」

「はい……」

 

 白いショーツも下ろされた。

 右足左足と順にあげ、丸まったショーツから足を抜く。

 暗がりに慣れた目に、股間の陰毛が映る。整えてはいないので、少々長いかも知れない。ショーツからはみ出ることはなかったので長すぎるとは思いたくない。

 軽く足を開き、今度は男の手に導かれて自身の股間に触れた。

 柔らかくて、ぬめっていた。

 濡れている。

 

「……濡れていますわ」

「俺が求めているだけじゃない。レイも俺を求めているから濡れるんだ」

「仰るとおりです」

「ここを何と呼ぶかは習ったかな?」

「それは! その……」

 

 未だ妙齢の美女とは言え、帝国では行き遅れと言って差し支えないレイナースだ。

 しかし、呪いのせいで男と恋仲になったことは一度もない。

 恥ずかしがる年でもないだろうに、レイナースは初な処女だった。

 それでも何とか答えようと気持ちを振り絞っているところ、くるりと振り向かされた。

 俯こうにも指で顎を持ち上げられる。

 暗がりにも輝く赤い目と青い目が自分を見ている。

 体だけでなく、心も裸にされたように感じた。

 

「おまんこ、です。あなたに求められて、あなたを求めて、私のおまんこが濡れていますわ」

「よく言えたね」

「はい。あっ……ちゅ……、んん……」

 

 青い目と赤い目が近付いてきたと思ったら、唇に柔らかな感触。

 

「口を開いて」

「はい……。ちゅっ……れろ……、ふうぅっ……あっむぅ……」

 

 言われた通りに口を開けば、すぐさま舌が入ってきた。

 口の中に、自分のものではない柔らかくぬめる肉が入ってきている。尖った舌は口内を至る所をなめ回し、レイナースの舌が見逃されるわけがなかった。

 数度つつかれると、レイナースからも応えた。

 男のシャツを、皺が出来るほど強く握った。

 

「んっ……んっ……、唾が……、飲んでしまっても?」

「もちろん」

 

 口を開いたままでいると、唾が湧いてくる。

 自分の唾だけでなく、差し込まれる舌とともに男の唾も注がれてくる。

 泡立つ唾を、レイナースは喉を鳴らして飲み込んだ。

 唾を飲むようになった頃には、レイナースからも舌を伸ばして、男の口の中へ差し込んだ。

 すると、舌を唇で甘く食まれる。ちゅると吸われて、レイナースからも同じように舌を吸った。

 初めての口付けはとても甘く、ずっと続けていたくなる。

 

 いつの間にか、シャツを握れなくなった。シャツがなくなったからだ。

 レイナースがキスに夢中になっている間、男はシャツを脱いでいた。アルベド様に何着も破かれた末に身につけた特技である。

 

 逞しい胸板に頬を染め、頬ずりしたくなるがキスも捨てがたい。

 選ばされたのはそれ以外。

 男はレイナースの手を取ると、今度は自分の股間に導いた。

 

「これ……は……」

「こっちも習ったんだろう?」

「はい。ですが、張り形より大きくて……」

 

 男の股間は、膨らんでいた。

 全裸のレイナースと違ってズボンを履いたままだが、ベルトは外されている。

 ここからだったら、レイナースでも簡単に脱がせた。

 

「……すごい」

 

 思わず唾を飲み込んだ。

 性器を模した張り形で男女のことを習ったのだから、勃起した男性器がどのような形になるかは知っている。

 形だけは似ている。長さは倍近い。一番の違いは熱気。触れた手が焼けるよう。

 

「こんなに大きいものが……、私の中に入るなんて……、あっ」

 

 ベッドに押し倒された。

 暖炉の熱が屋敷中に回っているので、室内は寒くない。けども、ずっと使われていなかったシーツはひんやりとした。

 

「ちゃんと入るように準備しないとね」

「あんっ! ……急に触られてビックリしてしまっておかしな声を、っ!」

「可愛い声だよ」

「~~~~~~~~っ! ひあ……ああっ!」

 

 後ろから抱かれた時はほんの指先だけだったのに、今はもっと深い。

 下着の上からの愛撫で潤っていたレイナースは、男の指を根本まで受け入れた。処女で異物を受け入れたことがない膣だが、男の指に処女膜らしきものは触れなかった。騎士ゆえに激しく体を動かすので、破れていたようだ。

 

「むっ、むねもっ! くぅ……んぅ……、あっはぁあ……、あぁ……、わたしの胸は、いかがですか?」

「いいおっぱいだよ」

「あんっ……。お好きなように、してくださいぃ……♡」

 

 右手の指が処女地をほぐし、白い乳房へはキスを送った。

 騎士であるのに、レイナースの肌には傷一つない。おそらく、大きな傷を負う度にポーションや回復魔法で癒してきたからだろう。小さな傷も一緒に消えたと思われる。

 その影響なのかどうか、乳首は黒ずむことなく綺麗な赤を保っている。

 弾力ある乳首が舌に楽しい。いつから立たせているのか。後ろから胸を揉まれているときか。吸い付いた時にはもう固く尖っていた。

 吸っても何も出てこないが、勃起した乳首を吸いたくなるのは男ならず人の性。その証拠にシャルティアだって吸いたがる。

 膣に潜らせた指には抽送させず、何も知らない肉ひだをあやすように撫でている。媚肉は安心したように愛液で指を包んだ。

 

「ああ……、こんなに……、こんなに素敵なことがあるなんて。あなたの……これも……」

「これ?」

「……おちんぽ、です。おちんぽも大きくなって」

 

 レイナースと並ぶように寝転がれば、レイナースはこちらを向いてくる。

 何を言わずとも唇を重ね、レイナースからも男の体に手を這わせた。

 

「おちんぽの扱い方も習いました。手で握って上下に動かすのがいいとか。……口でお慰めすることも習いましたが……。あ……指が……、あんっ♡ あんっ……、クリトリス、ですよね?」

「そうだよ」

 

 膣から抜けた男の指は、レイナースの愛らしい肉芽を撫で始めた。

 包皮を剥いて直に触れるのは、処女のレイナースには刺激が強かった。ねばつく愛液にたっぷりと濡れているので痛いと言うほどではなく、刺激は甘美な快感となって、レイナースに女であることを思い出させる。

 

 レイナースも男の逸物を撫でていた。

 初めて見る逸物なので、欲を言えば明るいところでじっくりと見てみたいと思ったのは誰にも言えない秘密である。

 始めこそ撫でるだけだったが、触れているうちにかつての教習を思い出し、おそるおそる握ってみた。

 一番太い部分は握りきれない。張りつめたように弾力がある亀頭の下、竿部を握って上下に動かし始める。固さと、何よりも熱さが男の興奮を物語っているようで、扱いているだけでも恍惚とした幸福感が溢れてくる。

 

「これが……おちんぽが私の中に……。入れてくださいますか?」

「それも習ったのかな?」

「……そうです。ですが入れて欲しいと思ったのは本当ですわ! 私を女として扱ったくれたのはあなただけでした。そんなあなただからこそ抱いて欲しいんです」

 

 男の手がレイナースから離れ、股を開かせた。

 開いたところに男の体が入ってくる。

 太股を抱いて引き寄せ、開き掛かった割れ目に亀頭をあてがった。

 入る場所を探すように、割れ目を上下に撫で始める。

 

 

 

「……入れてくださいませ。私は処女なのであまりお楽しみいただけないかも知れませんが。好きにしてくださって結構ですから」

 

 潤んだ目で男を見上げる。

 夢には見たが、現実になるとは思えなかった。

 呪いが解けるとは思わなかった。解けたとしても、嫉妬してしまうほどに美しい女性を何人も侍らせている方だ。女として扱ってくださったが、ベッドの上でも女として扱ってくれるとは思わなかった。

 それがいまや、一つになろうとしている。

 叶わないと思っていたことが叶おうとしているのだから、抱いてもらえるなら乱暴でも激しくても痛くても、喜んで受け入れるつもりでいる。

 

「私に……傷をつけてください。永遠に消えない証を。私があなたに愛された印を。私の処女を奪ってください」

「レイ……」

 

 レイナースの言葉はどれも心からのもので、けども言葉を口にする度に心が震えて熱くなってくる。

 自分の言葉を聞いて、それが心も体も興奮させて、熱く溺れた心が次の言葉を紡ぎ、処女肉が早く欲しいと訴えている。

 

「私をあなただけのものにしてください♡」

 

 心も体も熱くなって、乞い願う言葉は熱い息を伴った。

 

「んぅっ! ……入ったのですか?」

「少しだけね」

 

 割れ目の中を上下していた亀頭が、少しだけ沈んだ。亀頭の半分ほどがレイナースの膣に潜っていた。

 赤い媚肉がめいっぱい口を広げて、男を受け入れようとしている。狭い入り口を、男は強引に通り抜けようとしている。

 

 

 

 レイナースは騎士で、当然のように乗馬の腕も超一流。馬に乗ったら馬体を太股でしっかりと挟みこまないと落ちてしまう。

 そんな日常を送っているレイナースは、その部分の筋肉が非常に鍛えられていた。率直に言えばとてもきつい。初めてで挿入するのは無謀と思えるほどにきつい。挿入に至るには、日数を重ねて少しずつほぐしていく必要があった。

 だと言うのに、前戯がいささか不足していた。

 

 いつもだったら、手で愛撫した後は口を使う。口を使わないにせよ、女の方から欲しいと訴えても無視してよがらせる。そうして最初はきつきつだったルプスレギナもとろとろにされてしまい、初体験でちゃんと開通できたのだ。

 しかし現状、手で軽く愛撫しただけである。

 レイナースはよく濡らしているが、挿入にはまだ早い。何度もこなしているなら兎も角、レイナースは処女である。

 それなのに事に至ろうとしているのは、レイナースの希望もあったが男の都合もあった。今日は一回も出していなかったのだ。

 

 ソリュシャンからのとても強い要望により何故かレイナースを探すことになり、朝からかかりきりだった。思索以外では使ったことのない遠隔視を用いて自身の屋敷にいることを突き止めたら舞踏会に出るようで、紛れ込むために準備をしていたら何をする暇もなかった。

 これまたソリュシャンの要望があって、「いっそのこと第六夫人にしてみては?」とまで言っていた。第一から第五までの順番は知らない。

 レイナースの爛れた顔を気にしたことはなく、鎧の下はどんな体だろうと想像したことがないでもなかった。

 心も体も裸にしたレイナースは、常の人形めいた無表情と違ってとても魅力的である。

 処女と言えども、とろけた肉は触れているだけでも気持ちいい。

 もう少しほぐした方がいいに決まっているが、本人がいいと言っているのだからいいのではないだろうか。

 

 

 

「あっ……ぐぅ!」

 

 レイナースの背が反った。

 亀頭の一番太い部分が入りきった。

 狭い膣口は限界まで押し広げられ、処女の肉が切り裂かれていく。女の肉はみちみちと男を咥えているのに、男は容赦なく貫いていく。

 レイナースの処女地に男が証を刻んでいく。

 愛液の助けがあっても、レイナースは狭く、男は大きい。破瓜の痛みは、小さなものではなかった。

 レイナースのきつく瞑った目には涙が浮かび、歯を食いしばった。

 

 狭い処女肉は男の逸物を食いちぎらんとばかりに締め付けている。入れている方にも痛みがある。しかし、狭い膣ならシャルティアで慣れているし、高レベルの処女膜を幾枚も破ってきた逸物だ。

 きつさと、侵入者を押し返そうとする弾力を楽しむ余裕すらある。

 

「は……はいり、ましたか?」

「まだ半分。ここからはゆっくり入れるよ」

「はぃ……。入っているのがわかります。私を女にしてくださって……嬉しいです」

 

 痛みを堪え、健気にも微笑んで見せた。

 

 半分まで入れば入りきったも同然。後は腰を進めるだけ。

 男は抱えていた太股を離してレイナースを優しく抱きしめた。

 レイナースも男の背に腕を回す。すがるように、逃がさないように、抱きしめる手に力が入る。

 宣言通りにゆっくりと腰を進め、最奥に届くと、レイナースは閉じた目を見開いた。

 

「これで……あなたと一つに……」

「ああ。レイの奥まで入ってるよ」

「あなたが入っているのを感じます。あんなに大きいのに、本当に私の中に入ってしまったのですね。くぅ……」

 

 前戯不足のところを無理矢理こじ開けたため、痛みが引かないようだ。顎を上げて小さな苦鳴をもらし、きゅっと目を瞑る。

 唇を重ねてもすぐには開かない。下唇と上唇を交互に啄んで、ようやく口を開いた。舌よりも先に苦しそうな声を出す。

 騎士であるので堪えられない痛みではないだろうが、体の真芯を貫かれるのは別種の痛み。

 

 苦しさに耐えるレイナースの仕草は、やたらと嗜虐心を煽ってきた。初めてなので優しく、と言う段階は挿入に至ってしまったのだから今更だ。

 鍛えられた肉体はきつく、処女の固さもある。しかし、動けないほどではない。これで動けないようならシャルティアの相手が出来ようはずもない。

 

「こ……ここから、動くのですよね? 私は平気ですから、お好きなように動いてください」

「そうさせてもらうよ」

「はい……。んっ……んっ……くぅ、うあぁっ! あっ、あっああんっ! あんっ!」

 

 レイナースは男の体にしがみつく。

 動かないでと思っているのか、二人きりの世界で頼れるのは自分を支配するこの男だけと思い極めているのか。

 どちらでもあって、どちらでもない。

 二人は文字通りに一つになっている。レイナースは、自分の体は男の体の一部になってしまったように感じていた。

 

「あっ、あっ、あんっ……。わたしがっ、こんなこえぇっ! ……はしたないと、おもわないでくださ、いっ」

「さっき言ったろう? 可愛い声だ」

「はいっ……、はいっ! あんっ♡」

 

 挿入時こそ痛みは強いものだったが、入りきってしまえば時間とともに慣れてくるし薄れてもくる。

 代わりにこみ上げるものは何なのか。自分の奥深くから湧き出てくるようにも思えるし、高いところから降ってくるようにも思える。

 確かなのは、目の前の愛しい殿方から与えられていること。

 動きも激しくなって、一番深いところを何度も何度も突かれている。粘着質な水音に、肉が肉を叩く乾いた音。そこに自分の嬌声が重なっている。

 出そうと思っているわけではないのに、それどころかはしたないと思って出来るだけ出さないようにと思っているのに、淫らな声が口をついてしまう。自分の声なのに、自分でも聞いたことがない甘えた声。

 可愛いと言われれば嬉しくなって、もっとと思ってしまう。

 

 抑えようと思っていた枷は外れ、レイナースは美しい声で鳴き続けた。

 

「あ………………。なかで……」

 

 いつしか男の動きは止まっていた。

 ぎゅうと抱きしめられ、レイナースも抱きしめ返す。

 膣内に入っている逸物が、ぴくぴくと小さく痙攣しているのを感じた。

 事前の知識から、それが射精であると知った。

 殿方が達したと言うことは、胎の中に子種を注がれたと言うこと。

 精がどのようなものなのかは見たことがないので何とも言えない。

 しかし、体の奥に温かいものを感じている。

 

 

 

「ああっ!?」

 

 抜かれようとした逸物が、抜けきる寸前にまたも奥まで戻ってきた。

 殿方は出したら終わると聞いていたので、まったくの不意打ちだった。

 

「レイが綺麗で好き勝手してしまった。今度はじっくりしてあげるよ」

「そんな……。わたしも、好かったですから……ひあんっ!」

 

 中で絶妙に蠢き、肉ひだをこすられた。

 

「あの程度でいいと思われたら俺が困る。男と女が愛し合うのはもっと素晴らしいものなんだ」

「もっと……すばらしい……」

 

 今日は一度も出していなかったので、レイナースの了承もあって一度目は射精だけを目的に動いてしまった。

 一度出せば落ち着くもので、二度目はじっくりと可愛がるつもりでいた。

 

 レイナースは確かにきつい。その上処女なので固い。しかし、名器の予感があった。

 狭いわけではなくきついので、処女の固さがほぐれれば優しく締め付けてくれるに違いない。

 

 このまんこは俺が育てる!

 

 男はどうしょもない決意を固めた。

 勿論そこだけなく、レイナースは体臭も芳しい。

 ナザリックの女性たちは誰もが芳しいのだが、澄んでいるのだ。

 それに比べると、レイナースの体臭は悪く言えば雑味があり、よく言えば深みがある。

 エンリにも近しいものを感じたが、あちらはゴブリン大将軍であられる覇王にして血塗れのエンリ様。一方的な評価は不敬というもの。

 レイナースなら大丈夫。

 これからのお付き合いを期待して、二度目以降は大いにサービスすべきである。

 幸いにも一度や二度で萎えることはない。

 朝までお付き合いいただこう。

 

 そう思ったのが間違いの元であった。

 

「はぁっ、あっあっ、ひぃ……、ああんっ♡ あっ、あっ、こんなっ、すごっ、ああああぁぁんっ♡」

 

 処女膜は破れていても、初めての出血はあった。

 たっぷりと注がれた精液を膣内で攪拌され、薄ピンクの淫液を結合部から垂らしながら、レイナースは大いによがった。

 何度か体位を変え、身体中を愛撫され、後ろから突かれた時はだらしなく開いた口から嬌声とともに涎を垂らした。

 二度目の射精は一度目の一時間後。

 処女を頂いてから一度も抜かなかったため、後背位で出してから引き抜くと、充血しきった膣口はすぐには閉じず、奥の暗がりを覗かせた。見ている内に、ぴゅるぴゅると二回分の精液が噴き出してきた。

 引き締まった肉体をしているのに、柔らかくて丸い尻が震えている。

 尻を撫で、三回目は最初と同じ正常位でと思ったのだが、

 

「あう…………あ? はぁ……、はぁ…………」

 

 レイナースの顔が虚ろだった。

 失神まではしていないが、意識があるかとても怪しい。

 張り形相手に口ですることを習ったとか言っていたので是非してもらいたかったのだが、この様子では断念せざるを得なかった。

 

「朝までここにいるよ。ゆっくりとお休み」

「はい…………」

 

 頭を撫でてやれば、安心したように目を閉じた。

 寝てしまった。

 寝ている相手に出来なくもないが、育てると決めたばかりなので始めから無理はしたくなかった。

 

 仕方なしに、レイナースの身体を拭いてやる。

 身体を冷やさないよう寝具を掛けてやり、自分の身だしなみも整える。

 部屋を出て屋敷の家人を捕まえ、レイナースは寝てしまったので部屋を用意してもらいたい、との旨を告げれば客室に案内された。

 ドアを中から施錠し、そっと窓から外へ飛び降りた。

 

 

 

 ▽ ▼ ▽

 

 

 

「ご、ご主人様!?」

 

 御者は馬車の中にいた。

 命じればずっと御者台に座っていたかも知れないが、寒空の下で一夜を明かせとは言えない。

 

 今日は移動のための馬車なので、大きな寝台は片づけてある。代わりにソファが数脚。

 ミラは、隅に置いてある一人掛けのソファに座っていた。

 傍らのローテーブルには緑色の酒瓶。三分の一も減ってないようだ。

 どういうつもりか、白いドレスを脱いで、古の巫女装束めいたエロ衣装に着替えている。

 ヴァンパイアブライドだと言うのに、上気した頬が艶めかしい。

 

「レイナースは寝てしまってね。楽しんでもらえたはずだけど俺の収まりがつかないんだ」

「は、はい。……あんっ♡」

 

 シャルティア指定のエロ衣装は裸も同然。

 ご主人様を立って迎えたミラは、生乳を鷲掴みされた。

 尻肉も揉まれている。弾力を一頻り楽しんだ手は、尻の割れ目に伸びていく。長い指は、後ろからでもミラに届いた。

 

 ミラも心得たもので、ご主人様のズボンを脱がしにかかる。女主人たちとは違って破いたりしない。

 脱がせば跳ね上がる逸物は、うっすらと湿っている。

 胸を揉まれて乳首を摘ままれ、濡らし始めた膣に指を突き立てられながら、ミラは両手で逸物を扱き始めた。

 

「ミラはすぐに濡れてくるな」

「はい。いつでもご主人様にお使いいただけるように……」

「嘘を言うな。そう言う体なんだろう?」

「はぃ……。ミラの体は……淫らなんです。浅ましくもいやらしいことばかり考えてしまって、ご主人様の美しいお顔を拝見いたしますと……、逞しいおちんぽも思い出してしまって……」

 

 ご主人様はとっても微妙な顔になった。

 見られるだけで欲情されるのはいいのだが、俺の顔はちんこなのか。

 

「あっ♡」

 

 尻を撫でていた手が、ミラの太股を持ち上げた。ミラは察したようで脚をあげ、反対の足では爪先立ちとなる。

 男は腰を落とし、そそり立つ逸物をミラにあてがった。

 ぬるり、と。抵抗なく入っていく。

 ミラは男の首に両腕を回し、男は太股を抱え、もう一方の手でも太股持ち上げた。

 ミラの両足は床から離れ、男の腰を挟むように回される。

 異本によるところでは駅弁と呼ばれるスタイルである。

 

「ごしゅじんさまぁ。ミラの全部が、ご主人様のおちんぽで支えられてますぅ♡」

「これだと動きづらいから、ミラから締めてみろ」

「はぃ♡ んっ……んっ……、んふぅ……」

 

 根本まで包んだ逸物をリズムよく締めつける。

 そのまま三人掛けのソファに下ろされて、抽送が始まった。

 

 一度や二度では萎えないのだから、三度や四度が必要となる。

 レイナースと違ってミラは十分こなれてきているので、すぐに始めてしまっても大丈夫。

 

 ヴァンパイアブライドの冷たい肉体に、熱い逸物は焼けるよう。

 ろくな前戯もなかったのに、開発されきっているミラは啜り泣くようによがり続けた。

 どぴゅどぴゅと熱い精液を膣内に感じたときは、身も心も溶けてしまったと錯覚するほど。

 

 三度目の後、四度目の前。

 ご主人様の前に跪いて丁寧にお掃除フェラ。

 自分の愛液とご主人様の精液で濡れた逸物を丹念に嘗め、尿道に残った精液もちゅるると吸う。

 

 ご主人様は自分の精液を嘗めるのはお嫌なようで、魔酒で口を濯ぐことを強制された。

 嘗めるようにちびちびと飲んでいたのに、こくこくと喉を鳴らして飲まなければならない。

 強い酩酊感と、意識が拡大するような万能感。何が起こるのかわからなくて、怖くて一歩も動けなくなりそうなのに、ご主人様は平気な顔をしてごくりごくりと飲んでいる。

 この一事をもってして、ミラはご主人様が人間というのは真っ赤な嘘だと確信した。

 

 四度目は腰布をたくしあげられ、後ろから犯された。

 尻の穴が丸見えになってしまうことに僅かばかりの羞恥を覚えるが、後ろからされると支配されている感が強くていつもより感じてしまう。

 けども、丸見えになっている尻の穴を見逃されなかった。ぬるつく液が塗られたかと思うと、指が入ってきた。

 入れられたのは初めてではなかったが、一本から二本、二本から三本を増えていき、最後には挿入もされてしまった。

 

「そこはおしりのっ!」

「ミラは初めてだったか?」

「はいぃ……、ミラのお尻は、処女でした……」

「これからはこっちでも使えるようにしないとな」

「はひっ、んっんっ、くぅ……ひうぅっ……。おまんこより、圧迫感が……。ご主人様の、おちんぽがおおきくて……」

 

 ぱんぱんと尻肉を打つ音が響き、四度目は尻穴に吐き出した。いずれジュネの前で両穴責めを実演するのだから、こちらも育てなければならないのだ。

 そして五度目六度目と続き、力を振り絞ったミラがお掃除フェラを終えると、

 

「そろそろ俺は部屋に戻る。夜明けまでまだ間があるから、それまで休んでてくれ」

 

 愛しいご主人様になんと返事をしたか、ミラには記憶がなかった。

 ご主人様が馬車を降りるなり、その場にばたりと崩れ落ちた。

 

 

 

 ▼ ▽ ▼

 

 

 

 レイナースの屋敷。あるいはロックブルズの屋敷と言うべきか。

 レイナースはロックブルズ家を盛り立てるつもりはないので、レイナースの屋敷と呼ぶのが適しているかも知れない。

 

 魔導国の学士は、朝食を頂いたら魔導国の公館に戻るつもりでいた。

 それがずるずると昼過ぎまで延びたのは、御者が機能不全に陥ってしまったからである。

 

 馬車の扉を開く。

 と同時に漏れ出る性臭。

 床の上にはミラのあられもない姿が。

 

 そっと扉を閉めた。

 レイナースの家人にタオルと桶一杯の水を頼み、馬車の中へ差し入れる。

 そのまま屋敷へとって返し、怪訝さの中に喜びを隠しきれないレイナースと過ごすことにした。

 今日の登城は午後からにしてくれるようだ。

 

 

 

 昼も過ぎてから馬車に戻れば、白いドレスをまとったミラが御者台に待機していた。

 ヴェールに隠れて顔は見えないが、どことなく精彩を欠いているように思えた。

 

 馬車に揺られながら、と言ってもナザリック製の馬車はどんな悪路でも揺れたりしないので比喩ではあるが、男はルプーをどうしようと考えていた。

 

 朝帰りどころか昼帰り。

 ソリュシャンは、レイナースをどうこう言っていたので問題ないだろうが、ルプスレギナの機嫌は多分悪い。

 昨日はソリュシャンに言い負かされてご機嫌斜めになっていたし、最近はソリュシャンが来たせいで回数が減って不満そうだし、その前はソリュシャンに両穴責めをされて痴態をさらし屈辱だったようだし、全部ソリュシャンのせいで俺は関係ないじゃないかと思っても意味はない。

 そこで他の女と良いことをして遅く帰れば、未だに女心のなんたるかがさっぱりわかっていないこの男であっても、ルプスレギナの機嫌が悪くなっているであろうとの推測は可能である。

 

「あーーーっ! おにーさんおっかえりー♡」

 

 果たして、ルプスレギナはかつて見たことがないほど上機嫌であった。

 戦々恐々とは言わないが、ご機嫌とりめんどくせと思っていた男は意外な事態に首を捻った。

 

「お昼食べたっすか? 食べたならちょっちいいっすかね? ソーちゃんも待ってるっすよー」

 

 腕を組んでしなだれかかると、こっちこっちと引っ張ってくる。

 

 屋敷に着くなりダウンしてしまったミラはジュネに任せ、ルプスレギナに引かれるまま足を進めた。

 屋敷のエントランスホールから二階に通じる大きな階段を上り、二手に分かれる階段を再度上って三階へ。

 三階の片隅にあるのは、若旦那様の素人錬金工房。

 ルプスレギナがよいしょと大きな棚を動かせば、たまに使う隠し扉が現れた。

 

 扉の奥にある小さな空間は、螺旋階段になっている。

 階段は二階一階と素通りし、床に足を着けるのは地下階である。

 屋敷の三階を自由に移動できる少数しか知らない秘密の地下空間は、大きな声では言えないことをしてしまう場所であった。

 

「見て欲しいものがあるんすよ」

 

 頑丈な鉄扉を開けるなり、漏れ出てくる異臭は、性臭ではない。

 空気が色づくと思えるほど濃い臭いは、シャルティア様の大好物。血臭だった。

 血の他にも悪臭が混ざっている。どうやら一度以上中身をぶちまけたらしい。

 

「あら? お兄様はお帰りになったのですね」

 

 ソリュシャンがいい顔をしていた。

 することをたっぷりしたシャルティア様のようにお肌艶々である。

 

 ソリュシャンが脇に退くと、ミラに協力してもらって吸血鬼化する条件を調べた部屋の全貌が明らかとなった。

 

 床や壁の血の痕は、掃除が大変そうだがソリュシャンがどうとでもしてくれるだろう。

 目に付くのは二人の女。

 衣服を脱がされた裸の女が、天井から降りる鎖に吊されている。

 力なく顔を俯けているが、同じ顔をしているが見て取れた。

 髪の色は金色。

 

 帝都のお屋敷にて、金髪の双子と来れば奴隷市場で買った双子幼女しかいない。

 幼女であって女ではないが、不思議な青いキャンディーを舐めれば一時的に女の姿となる。

 もしもソリュシャンとルプスレギナが、ウレイとクーの二人をこのような目に遭わせたとすれば、さようなら、としか言えなくなる。

 アインズ様が絶対に罪に問うなと仰った双子なのだ。プレアデスの二人であっても厳罰は免れ得ない。

 

 しかし、吊されている女は双子幼女ではなかった。

 不思議な青いキャンディーは瓶から出したばかりでないと効果時間が激減してしまう。吊されてから十分しか経ってない、と言うことはないだろう。

 よく見れば髪の色も違う。金よりも明るくてオレンジに近い。

 傷一つない裸体はしなやかなもので、双子幼女が成長してもこうはならないと思われた。

 

「お兄様も一度見たことがあるはずです」

 

 ソリュシャンに言われるまでもなく気付いていた。

 エ・ランテルにいた頃、気晴らしにソリュシャンと一緒に外食した店で見た二人。あの時は二人以外に大きいのと小さいのと普通のがいた。

 

「王国の石ころ冒険者。蒼の薔薇の…………なんとかとなんとかです♡」

 

 ソリュシャンは花開くような笑みを見せた。ルプスレギナと一緒にたっぷりお楽しみであったらしい。

 

 ご機嫌な姉妹を見て、男はふうとため息を吐いた。

 瞬時に様々なことへ思いを巡らせ、結論を下す。

 

 よし、殺そう。

 

 アインズ様を驚かせた抜刀術をもって、カタナブレイドを抜き打った。




外泊したら出そうと思ってました


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リラックス出来るお薬です

 鞘を弾いた左手が腰を叩いたのは懐のショートカタナブレイドを取り出すためだ。

 抜刀のために体を開き、飛び出たショートカタナブレイドを宙で掴むと構え直すことなく投擲。導線を引かれたかのように軌道はぶれず、目指すのは胸。肋骨と肋骨の細い隙間を狙い、心臓破壊によって速やかな死を与えるべく空を滑る。

 抜刀されたカタナブレイドは振りかぶらない。

 咎人が頭を垂れていればムッシュー・ド・パリに山田浅右衛門を驚嘆させる斬首を可能とするが、生憎吊されているため腕が邪魔となる。故に斬撃ではなく刺突。

 人体は関節を起点に動くので弧の動きに対して直線の動きは呆れるほど遅い。石を投げるのに、腕を振るのと手で押し出す飛距離を比べれば一目瞭然となる。よって、刺突とは突進技になる。

 前傾となり、重力によって倒れるのを逆らわずその場で転んだような姿勢を、倒れきる前に滑るように進めた右足で力の全てを突進力に変換。狙いは喉笛の更に奥。第三頸椎と第四頸椎の隙間はあばらの隙間より更に狭い。切断が完了すれば心臓破壊が成った時よりも僅かな余命を与えることとなる。

 

 瞬きの内に絶命となったはずが、直後に響いた金属音はショートカタナブレイドが床に落ちた音。

 

「あっぶな~~~っ!」

「いきなり殺そうとするなんて、どういうおつもりですか?」 

 

 

 ショートカタナブレイドは、後ろから飛び出てきたルプスレギナに叩き落とされた。

 カタナブレイドによる刺突は、ソリュシャンが伸ばした手を貫き、そこで止まってしまった。

 

「それはこっちの台詞だ。こいつらは侵入者だろう。しかも魔導国と敵対している王国の冒険者。処刑してなんの問題がある」

「問題ありまくりっすよ!」

「ルプーの言う通りです。どのような目的を持って進入したのか聞き取らなければなりません」

「それは二人がしたんだろう? だったら……」

 

 床に落ちたショートカタナブレイドを踏みつけると、くるくると回りながら跳ね上がる。過たず柄を掴み取り、再度の投擲をしようとしたところでルプスレギナに取り上げられた。

 ソリュシャンの手を貫くカタナブレイドの方は、押しても引いてもびくともしない。

 

「それは私たちの報告を聞いてからにしてください。これが侵入したのは…………、お兄様?」

 

 男は両耳を塞いだ。

 これぞ何を言われても聞く耳もたない聞か猿の構え。聞か猿をマスターしたモンキーはいつか国宝になることが約束されているのは余談である。

 

「ちゃんと聞くっすよ」

「ちっ!」

 

 ちゃんと聞かせるべく、ルプスレギナが男の手を押さえつけた。

 

「いいですか? これらがわざわざ帝都に来たのは……」

「あーあー聞こえない聞こえない! 俺はソリュシャンが何言ってるのか全然聞こえ、むぐぁっ! ……ん゛ーーん゛ーー!!」

 

 ソリュシャンに口を押さえられているのに往生際悪く、体をよじって何事かを喚き続ける。

 

「何がそんなにお嫌なのか存じませんが、屋敷の責任者としてきちんと聞いていただきます。話はそれからになさってください。この者たちが侵入してきたのは、王国の王女の依頼で密かにお兄様と連絡をとるためだったようです。王国の王女、ラナーと言いましたが、お兄様はまさか王国側と連絡を取り合っていたわけではありませんよね?」

 

 愛しのお兄様であるが、もしも王国と連絡を密にしているとなればアルベド様やアインズ様に報告せざるを得ない。その結果、お兄様には厳罰が下る可能性が非常に高い。死を賜ることも考えられる。そうなる前に何とかお兄様を連れ出して、と。ソリュシャンは平静を装いながら、頭の中は目まぐるしく計算を重ねている。

 

「もしかしてもしかするんすか?」

 

 がっくりと力が抜け、うなだれてしまったおにーさんを、ルプスレギナはまさかとの思いでいた。

 雑魚な双子が生きてると不味いから殺そうとした。筋は通っている。もしも魔導国に対して利敵行為を行っていたなら許されるものではないが、命だけは助けてもらうよう嘆願するつもりだ。助命を恩に着せてこれからは好きな時に好きなプレイをしようと目論んでいるルプスレギナの脳はピンクだった。

 

「その名前だけは聞きたくなかった…………」

 

 アルベド様の所有となり、ラナーの名を聞くことはあったが気配は遠かった。

 それがまさか、帝都で聞くことになるとは思いも寄らないとはまさにこのこと。

 

「ルプー、離せ」

「えっと……」

「もう殺そうとしないから」

 

 そうではなく、裏切りの可能性が絶無と言い切れないから拘束しているのだが、この場から逃げ出すことは不可能であり、再三言われて離してしまった。

 

「どっちがどっちだかわかんないが、蒼の薔薇のティアとティナだな。一人はレズで一人はショタらしい。ラナーの依頼内容も見当が付く」

「一通り聞き出しましたが、折角ですのでお聞かせください」

「ああ」

 

 男は大きな溜息を吐いてから話し始めた。

 

「王国にもアインズ様の訃報は伝わっているはずだ。王国の貴族は馬鹿だから、「魔導国恐るるに足らず。この機にエ・ランテルを取り戻してくれよう」と考えてる。その内襲撃があっても不思議じゃない」

「いやそれ、……バカすぎじゃないっすか?」

 

 例えアインズがいなかろうと、アインズを支える守護者達がいる。王国貴族は守護者の存在を知らないとしても、先の戦争でアインズが率いたアンデッドの軍勢の一部も一部、デスナイトが数体いるだけで王国は亡ぶ。

 

「甘い。甘すぎる。最悪を想定しろ。王国にはアダマンタイトですら石ころに変える大魔法が掛かってるんだ。想像しうる最悪のバカの斜め上を想定しても足りないくらいだ」

「そこまで頭が回りませんと、魔導国の力を取り込めば世界征服が出来るとでも考えていそうですわね」

「それだ。俺はそこまで思いつかなかったが、王国の連中ならそれくらい考えても不思議はない。そのくらいバカな王国だが、王女だけは違う。アインズ様の死は狂言であると見抜いたはずだ。アインズ様が聖王国を平定した次は王国の番だとわかっている。次の戦争を起こさないために、王国の出身であり、アルベド様へ言葉を届けられる俺に目を付けたんだろう」

「概ねその通りです」

「しかし、そんなわけがない。ソリュシャンとルプーは聞いてなかったか? デミウルゴス様が王都を襲撃したゲヘナ作戦、と言ったかな。あれを主導したのはラナーだ」

「!?」

 

 驚愕したのは吊されている二人。

 ソリュシャンとルプスレギナは納得した様子だ。

 

「そーいえばあの時、人間の何とか言う騎士は傷つけるなって厳命が出てたっすよね?」

「あれは王女からの要請だった。そう言うことですか?」

「なんとか、ね。クライムのことだな。そのあたりの詳細は高度に政治的、魔導国の戦略に関わることだからまだ周知出来ないんだろう。下手に外で口にされると計画が崩れるからな。そーいうわけで、ラナーが戦争を防ぐためにこいつらを遣わしたってのは真っ赤な嘘だ。王国の冒険者は国家に属する訳じゃないから王族だろうと命令できない。だけど戦争を防ぐために、とか言われたら多少の無理は背負うだろう。こいつらは物の見事に騙されたわけだ」

「何のために騙したのですか?」

「戦争を防ぐためとか言っても意味ないっすよね? おにーさんはどーするつもりっすか?」

「俺にそんな権限はないし、アルベド様のお耳に入れるのも馬鹿らしい。ラナーはこいつらを俺の前に立たせたかっただけだ」

「何のために?」

「…………」

「おにーさんのところに来ただけで目的達成?」

「…………」

 

 あなたが何処にいるか知っていますよ。

 

「それはアルベド様が判断すべき事柄だ」

「お兄様はご存知なのですよね?」

「知ってるなら教えてくれていいじゃないっすか!」

 

 男は美女姉妹の目を見た。

 睨みはしない涼やかな目付き。

 

「お前ら馬鹿か? ソリュシャンとルプーは知る必要がないと言ったのに伝わらなかったのか?」

「なっ……」

 

 きつい言葉に激昂しかかったのは一瞬のこと。

 赤い目から噴き出す炎に炙られ、青い目からの凍てつく冷気に晒され鎮火した。

 

「そう言うわけだ。ちっ……、クライムと乳繰りあってりゃいいものを。それで足りなきゃザナックが生きてるだろうが。…………さっき言ったようにラナーはアルベド様とデミウルゴス様と何かしらの取引をしている。おおよそは推測できても詳細は聞いていないから迂闊な事が出来ない。ラナーの駒であるこいつらを勝手に処分するわけにもいかない」

「さっきはいきなり殺そうとしたじゃないっすか!」

「何も聞いてないんだから侵入者を処分しようとするのは当然だろう?」

「……おにーさんって頭いいのに時々ほんとーーーーにバカっすね」

「お兄様は自分が何をしようとしたのかおわかりでないのですか?」

「何のことだ?」

 

 男は全く分かっていない様子。

 ソリュシャンとルプスレギナは顔を見合わせた。

 言ってやった。

 

「お兄様がそこまで推測していることをアルベド様が承知していらっしゃらないとでもお思いなのですか?」

「!?!?!?!」

 

 男は目と口で三つの丸を作ると、その場に膝を突いた。上半身は倒れ、両腕も突く。

 横から見ればorzである。

 

「おにーさんて…………アルベド様をおバカって思ってないっすよね?」

「ぐハアァッっッッ!!!!」

 

 ルプスレギナが止めを刺した。

 男は血を吐き、痙攣し始めた。ストレスが閾値を越え、胃壁が破れたのである。

 

 ルプスレギナは慌てて回復魔法を掛けた。

 

 

 

 ▼ ▽ ▼

 

 

 

「アインズ様の戦略に傷をつけるわけに行かない。具体的にラナーに何をさせているかまでは知らないからラナーの駒を処分することも出来ない」

「いきなり殺そうとした方が言う台詞ではありませんね」

「……知らなかった。ソリュシャンとルプーからの報告が遅れた、ってするつもりだった」

「おにーさんサイテーっすよ! マジでホントに!」

 

 つまりは罪のなすり付けを企んでいたのだ。

 

「それじゃこのまま帰すんすか? 知っちゃいけないことを喋っちゃったと思うんすけど」

「言っておきますが、私もルプーも記憶を操作する魔法は使えません。そのようなアイテムもありません」

「わざと聞かせたんだよ。折角ここまで来たのに手ぶらじゃ可愛そうだろう?」

「……ここで見聞きした事は誰にも話さない。墓まで持って行く」

「王国にも戻らない。ここを出たらその足で南方国家に向かう」

 

 吊された二人が口を開き、三者の視線が注がれる。

 ソリュシャンとルプスレギナが散々楽しんだ後、ルプスレギナから回復魔法を受けていたが、長時間吊されていたために肩が外れ、肘関節も伸びきっている。二人は肩と肘から響く重い痛みを堪え、懸命に顔を上げた。

 どのように楽しまれたものか、王国が誇るアダマンタイト冒険者の顔には怯えがあった。

 

「アインズ様は言葉には行動が伴わなければならないと仰っていた。行動があるから言葉を信じられる。しかし行動の前に言葉を信じることは出来ない。言葉は言葉で何とでも言えるからな。それに、王国に戻らないって言うならラナーの駒を潰すのと一緒だ。それだったら穴掘って埋めるね。まあ、ソリュシャンとルプーが痛めつけてなければ適当な事言って帰したかも知れないけど」

「お兄様は屋敷の責任者ですが、まずはアルベド様にご報告なさっては如何でしょうか?」

「うーん……。アルベド様は只でさえお忙しい。つまらない些事でお時間をとって頂くわけにはいかない」

 

 それに加えて、お子がいらっしゃる。手が掛からないお子であるようだが、時間は幾らあっても足りないのは間違いない。

 そのお子様は、日に日に大きくなっていらっしゃる。一歳児スタートだったはずが、この前お会いしたときは三歳児くらいになっていた。次は屋敷の双子幼女くらいになっているかも知れない。時空が狂っているのだろうか。

 

「おにーさんが裁定するってことっすね。あ、裁定とサイテーを掛けたわけじゃないから笑うとこじゃないっすよ? おにーさんがサイテーなのは変わんないっすけど」

「それでしたら私たちにお任せください。野に放ってもナザリックをけして裏切らないようじっくりと躾てさしあげますわ♪」

「却下」

 

 二人の躾を想像し、青ざめた双子だったが直後に希望の糸が垂れてきた。

 

「痛めつけて取り込んでも効果がない。俺だったら絶対に寝首を掻く」

「それはお兄様だけが特別なんです!」

「そうっすよ!」

 

 ソリュシャンが全身トロトロしても酷い目にあったの一言で終わらせ、ルプスレギナが丹念に身体中の骨を折っても回復した途端に平常モードに戻ってしまう。勿論、どちらの場合でも苦鳴一つ漏らさない。

 

「拷問は結構効果があるんすよ? マーレ様が六本指とかいう連中を痛めつけて」

「違うわ。六本じゃなくて八本よ」

「人の手は五本指じゃないか?」

 

 答えを知ってる双子は口を挟もうにも挟めない。

 

「組織名なんですから手の指とは無関係です。私は王都に潜入していたんですよ? 八本が正解です」

「えーー、でもどっかで六なんとかって聞いたと思ったんすけどねー」

「わかった。六も八も五より大きくて偶数だ。五と関係する数字で五以上の偶数は十。十本指だろう」

「………………王都の犯罪組織は八本指」

「六は八本指に所属する警備部門の六腕」

 

 尤もらしいが大間違いな結論に、溜まらず口を挟んだ。

 

「やっぱり私が正解でした」

「それじゃ八本でいいっすよ。マーレ様が八本を痛めつけて支配下に置いたっす。拷問はちゃんと効くっすから」

「だからそれじゃダメなんだって。例えばアインズ様と敵対してるアインズ様と同等の力を持つ存在Bがいるとする。ソリュシャンとルプーは存在Bの手に落ちた。酷い拷問を受けて苦しんで、アインズ様を裏ぎ……りはしないだろうけど、苦しみ続けるくらいだったら存在Bのお使いをした方がましと考える」

「前提が気に食いませんが続けてください」

「そんな折にアインズ様とお会いすることが出来た。二人はあっさりと存在Bを見限るだろう?」

「当たり前じゃないっすか。でもって内部情報とか全部報告するっすね!」

「仮にアインズ様とお会いできなくても、最低限のお使いをするだけで積極的に存在Bに協力しないだろう?」

「それも当然のことです。アインズ様と敵対と言うだけで許せませんのに利敵行為など……!」

「そう言うことだ。痛めつけて従わせることは出来るだろうが、裏切りの芽は摘みきれない。裏切りがないにせよ、熱心に働くこともない。むしろ再度の拷問を恐れて失敗を避けることだけに注力するようになる」

「……そーいうのはわかるのにどーして女心とかわかんないんすかね?」

「小説に書いてあった」

「「あー」」

 

 すごく投げやりな返事に男はいきり立った。

 コキュートス様が愛読なさっていると初っ端から権威を振りかざし、GMDH(グレートモンドダウンヒル)の魅力を語った。

 長くなりそうだったので、ソリュシャンとルプスレギナは白旗を揚げ、男の言葉を全肯定した。

 

「つまり、痛めつけるのではなく、良い目を見せればいいと言うことですね。…………やはりお兄様はサイテーです」

「人間じゃないっすよね。淫魔か淫獣っすよ」

 

 男は二人の言葉に反論したくなったが、話が進まなくなるのでぐっと堪えた。

 ひとまず肩と肘が現在進行形で痛みつつある双子に回復魔法を掛けるようルプスレギナに言付け、ソリュシャンには血塗れの床と壁を掃除するよう言っておく。

 自分は地下室から出て階段を上り、工房へ。

 目当ての品を持って戻ってくると、床と壁が綺麗になっていた。注意すれば血臭が僅かに感じ取れる程度で、悪臭は全く嗅ぎ取れない。

 

「お兄様が作ったローションを工夫しました」

 

 老廃物を吸収分解する魔法のローションは、適度に薄めると汚れを綺麗に溶かしてくれる魔法の洗剤に生まれ変わるのだ。

 ルプスレギナも回復魔法を掛けてやったらしい。双子の顔色が幾分よくなっている。

 

 男はとってきた物の蓋を開け、火を点けてから蓋を閉めた。

 ややあって、薄い煙が立ち上り始めた。

 男が持ってきたのは香炉だった。

 

「王国にいた頃は直に吸ったり水に溶いて飲んだりしたけど帝国産のは質が悪くてね。色々試したらこうするのが一番だった」

 

 帝都の裏市場で見つけた黒粉である。

 黒粉を精製し、薬効成分に香を混ぜて焚いているのだ。

 

「中毒性も副作用もない。精神に安寧をもたらす良薬だ。何故か帝国だと禁制らしいが」

 

 王国や法国でも禁制の品である。

 

 ソリュシャンとルプスレギナは、男の言葉を全く信じていなかった。

 確かにこの男にとっては中毒性も副作用もないだろう。現に常用している気配はない。しかし、ルプスレギナが精神は化け物認定した男だ。異常な精神でもって、黒粉への渇望を断ち切っているに違いない。

 

「まずは二人にリラックスしてもらって、話はそれからだな。ルプー、鎖を下ろしてくれ。外さなくていいから、せめて足が着けるくらいに」

 

 血塗れの地獄は遠ざかった。

 代わりに、底の見えない甘い地獄が口を開いた。




当初、R18Gはこの二人に担当してもらうつもりでしたが、いつか書くかも知れない別作に譲ることにしました
書こうと思ってる原作とターゲットとタイトルまで決まってるんですが書くかどうか未定


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バトル勃発

二回書き直したので遅れました_(:3 」∠)_


「どうしてこうなった……!」

 

 若旦那様は深くうなだれ、頭を抱えてしまいました。

 お嬢様と神官は気不味そうに顔を見合わせます。若旦那様の苦悩の遠因となってしまった事に、些かながら思うところがあるようです。

 吊るされている双子の片割れは、自分と姉妹の先行きに大きな不安を覚え、揺れる瞳で若旦那様を見詰めています。

 この場にいる双子は一人だけなのです。もう一人は遠き彼の地へ連れ去られてしまったのでした。

 

 

 

 ■ □

 

 

 

「聞いた通りだ。このまま帰す訳には行かない。かと言って酷い扱いをするつもりもない。ソリュシャンとルプーから手荒な扱いを受けたようだが当然だな。王国の貴族だって屋敷に侵入されたら同じ事をするだろう。むしろ殺さなかっただけ偉い」

「侵入者の報を受け確認いたしましたところ、見覚えのある人間でしたのでデスナイトたちには手出しを控えるよう通達しました。呑気に屋敷の中に入ってきたところを私とルプーで捕らえた次第です」

「いきなり殺そうとした人が殺さなくて偉いってなんかあれっすね」

「ルプーうるさい。過ぎたことだ」

 

 魔導国のデスナイトは、アインズとアインズに変身したパンドラズ・アクターがせっせとスキルで作り続けているアンデッドである。

 蒼の薔薇フルメンバーなら討伐可能だが、二体以上になるとかなり厳しい。ティナとティアだけでは勝てる道理はどこにもない。逃げることすら出来ない。

 なお、デスナイトの顔はかなりあれである。よって、お屋敷に配置されてるデスナイトは仮面を着けている。

 

「まあそんなわけで、まずはこれからのことを二人で話し合うといい。俺は帰ってきたばかりで一休みしたいんだ」

「監視とかつけないでいいんすか?」

「ルプーがしたいなら止めないが要らないだろ。もしも二人がこの部屋から出ているのを見つけたら潰していい。その後はナザリックに移送して然るべき処置をしてもらう」

「その前に私たちがじっくり罪の深さを教えて差し上げますわ♪」

「楽しそうだけど、二人にまんまと逃げられたら事の次第を帝国に報告する必要がある。それはアインズ様の顔に泥を塗るのも同然だ。俺もソリュシャンもルプーも、相当のお叱りを受ける。死んでも済まないと思うから、その時は覚悟するように」

「ちょっと待って欲しいっす! 逃げられるわけないじゃないっすか!」

「そうですわ! 仮に私たちが出し抜かれたとしても、敷地の中にも外にもデスナイトが警邏しています!」

 

 食ってかかる二人に、男はにっこりと笑いかけた。

 

「二人ともいいかい? 失敗する可能性がないから失敗したときの事は考えない。それを手抜きの思考停止って言うんだ。仮に今回は絶対失敗しないとしても、失敗する可能性がある時に今までの悪癖が積み重なって事後策を考えないようになるかも知れない。そうならないために考えるんだよ。わかったかな?」

 

 子供に言い聞かせるような語調で少々むっとした二人だったが、責任の重さは感じ取れた様子。

 双子相手にお楽しみで浮かれていた二人が真剣な顔で頷いたのを見て、男は満足そうに頷き返し、ひとまず解散となりそうだったその時である。

 

 頑丈で重厚な鉄扉がガギィン! と金属音を立てて勢いよく開き、壁にぶつかって跳ね返り蹴り開けた人物にぶつかろうとしたのをお付きの二人が体を張って止めた。

 

「どういうことだごるぁあああ!!」

 

 未だ女になりきらぬ絶妙な美しさを憤怒に歪め、火を吐く勢いで怒鳴り込んできたのは鮮血の戦乙女。

 

「シャルティア様?」

「どうしてこんなところにいて私の出迎えに来ない! アウラは出迎えて私には迎えどころかこっちから探させるとは一体どういうつもりだ!!!」

 

 シャルティアはシャルティア的に正当な怒りを訴えた。

 

 過日、シャルティアはアウラから『この前顔を見に行ってやったら凄く歓迎されちゃったんだよね。私がドラゴンに乗って飛んでくるのを見つけたら屋敷の中から外に飛び出してきちゃって。私が来るのを今か今かとお待ちしてたとか言っちゃってさ。ドラゴンから降りる時もそんなの要らないのにわざわざエスコートしてくれちゃってまいっちゃったよ。シャルティアだってあのくらいの高さから飛び降りても平気でしょ? 私も平気なのにわざわざ受け止めて、中に入るまで手を引いてくれて。まあそんなことしてくれなくて良かったんだけど、あいつがどうしてもしたいって言うから仕方なく付き合ってあげてね。それでさあ(以下略』。

 マウントをとられ、ぐぬぬと悔しい思いをさせられた。

 

 アウラが歓迎されるなら自分も歓迎されて然るべき。

 時間を作って帝都の屋敷を訪れてみれば、出迎えどころかいつもいるはずの部屋にも誰もいない。手近な部屋から探し始め、見つけたのは寝込んでいるミラと看病してるジュネ。

 ミラを叩き起こして錬金工房にある隠し扉のこと聞きだし、二人を引き連れてここに至る。

 

「アウラ様がいらっしゃる時は空からですので見ればわかりますし、訪問する日時をある程度伝えてくださいます。ですがシャルティア様はゲートの魔法でいらっしゃるため、いらっしゃる予兆を掴めないのです。シャルティア様もいらっしゃる日時をお伝えくださるなら歓迎の準備をしてお待ちしておりますよ」

「むう……。でもお前もソリュシャンもルプーもいなくて、こいつらは部屋に引きこもってて誰もいないのは問題でありんす!」

「仰る通りでございます。心優しいシャルティア様からはご寛恕を頂けたとしても、アインズ様をお待たせしてしまったかも知れないと思うと血の気が引く思いでございます。アインズ様はお優しいお方ですから過度な叱責はなさいませんが、私どもの落ち度は一方ならぬものでございましょう。慚愧に耐えません。そのような事態になる前にシャルティア様から貴重なご指摘を頂けたことをまことに感謝しております」

「まあ? そこまで言うなら? たっぷりと感謝していいでありんすよ?」

「はい。ありがとう存じます」

 

 上手い。或いは凄い。或いは汚い。

 この場に居合わせた者たちがどう思ったかわからないが、怒り心頭だったシャルティアが得意そうな顔をして顎を上げているのが確かな事実。

 特にルプスレギナは、おにーさんからおバカ認定されてしまったらこういう扱いになってしまうのかと複雑な思いでいた。

 

 ちなみに、アウラが訪問日時を前もって伝えたことはない。

 

「それで、こいつらはなんでありんすか?」

 

 吊されてる双子に注意が向いた。

 お屋敷の若旦那様が代表して説明する。

 

 二人は王国の冒険者。王国の王女の依頼で屋敷に侵入した。ソリュシャンとルプスレギナが捕らえ、一通りの尋問をしたところ。(尋問ではなく拷問であるとソリュシャンが注を入れる)

 王国の王女はデミウルゴス様とアルベド様となにかしらの取引をしているため、王女の手駒である二人を処分してしまうと不測の事態が発生する可能性を否めない。

 

「人間だから殺さないってわけじゃないでありんすね?」

「私どもが報告する前に相談役殿が二人を処分しようとしたところを私とルプスレギナがお止めしました」

「思った以上に鋭い刃だったため、投擲されたナイフを掴み取るつもりが叩き落とすことしかできませんでした」

「私も手のひらを貫かれています。止めなければ確実に首を落としていたと断言できます」

「……ほーん」

 

 なんだかシャルティア的ナザリックポイントを稼いだ様子。

 

 説明は続く。

 アルベド様とデミウルゴス様にご報告しようにも、お二方は大変に忙しく、つまらない些事で時間をとっていただくわけにはいかない。

 よって二人の処遇をこの場で決し、王女の元へ帰すこととした。

 しかし、このまま帰すわけにはいかない。然るべき処置を施す必要がある。

 

「相談役殿は恐怖で縛るのではなく、良い目を見せて自発的に協力させようとお考えのようです」

 

 当てつけるようにソリュシャンが言う。

 ルプスレギナも便乗してジト目を向ける。

 シャルティアは左の手のひらを、右手の拳でポンと叩いた。

 

「わかりんした。つまり快楽墜ちさせるわけでありんすね!」

「えっ」

 

 シャルティアは納得してしまったが、男が考えていたのは少し違う。

 まずは肉体言語を伴わない理性的な言葉を用いたお話で理と利を説くことから始めようと思っていた。

 ルプーの邪推通りなのは癪だが、多少はすることをしようとは考えていたのは確か。長年培った性技には自負がある。アルベド様は別として、シャルティア様にルプーに、ソリュシャンはちょっと違うとしても競うように求められることから、それなりの価値があるとも思っている。

 しかしそれはあくまでおまけであり、メインのつもりではないのだ。

 

「丁度二人いるでありんす」

 

 何が丁度なのかと問う間もなくシャルティアが話を進めていく。

 

「一人は私が躾てあげりんす。お前はもう一人を躾なんし。どっちがちゃんと躾られるか調教競争でありんす!」

「調教……競争……?」

 

 オウム返しに呟いた。

 理解を超えた事象を受け止めきれないのだ。

 

「競争でありんすから負けた方は罰が必要でありんすね。私が負けたら、一日だけお前を私のご主人様にしてあげりんす。代わりにお前が負けたら、週に一日は私の命令に従いなんし」

「週に一日?」

「週一でありんす。もちろんずーっと週一でありんす。来月も再来月も来年も再来年も、ずーーっとでありんすよぉ?」

 

 これからずっと週に一日。以降の人生の七分の一を捧げよ。

 計算を簡易にするため、あと700年生きるとすると、丸百年間をシャルティアに仕えると言うこと。

 百年はざっと三万六千五百日(閏年は除外)。1日対36500日。あまりにも酷すぎるレートである。

 

「お待ちください! それでは私が不利すぎます!」

「守護者の私に命令する権利を賭けていんすよ? ルプーとソリュシャンはどう思いんすか?」

「恐れながら、相談役殿はアルベド様の相談役でございます。アルベド様にお伺いすることなく相談役殿の自由を縛るのは如何なものかと」

「私もルプスレギナと同じ意見でございます。たった一日とは言え守護者であるシャルティア様への命令権を賭けるのは如何にも軽佻な振る舞いであると愚考いたします」

「そんな重いものじゃありんせん。お遊びでありんす。もちろんこいつがアルベドの相談役なのは知ってるでありんすから、私の命令とアルベドの命令が重なった時はアルベドを優先していいでありんす。……その時は日をずらすだけでありんすから」

 

 シャルティアは、くひと嗤った。

 

「期間は一ヶ月でどうでありんすか?」

「……一ヶ月も戻らなかったら確実に何かあったと思われる」

 「遅くても半月後には王国に戻らないと他のメンバーが動き出す、かも知れない」

「ま、半月もあれば十分でありんしょう」

 

 無茶な話に絶句している男を置き去りにして、シャルティアは双子を検分する。

 年は多分十代後半。二十は越えてない。

 体つきはほどほど。豊満なのがシャルティアの好みだが、しなやかな肢体はそれはそれで割といける。

 顔はそれなり。ややきつさがある目付きがどんな風に蕩けるのかと想像して舌なめずり。

 

「こっちにしんす」

「ちょまっ……」

 

 シャルティアは制止の声を聞かず、一方の鎖を引きちぎったかと思うとゲートの魔法を発動。

 鎖を握ったまま暗い球形の扉に飛び込み、あっという間に姿を消してしまった。

 

 

 

 ▼ ▽ ▼

 

 

 

 と言うような事があって、若旦那様はがっくりきているのでした。

 

「お前らもシャルティア様に言いくるめられてどうする!」

「お前ってなんですかその言い方は! それに言いくるめられたわけじゃありません!」

「シャルティア様が強引に話を進めちゃったんすよ!」

 

 醜い上に意味のない言い争いでした。

 三人とも意味がないことはわかっています。過ぎたことよりこれからのこと。シャルティア様に勝利するにはどうすればいいか相談し始めました。

 

「あの……、シャルティア様の調教スキルはSランクです」

「シャルティア様だけでなく私たちの同胞であるヴァンパイアブライドたちも協力することでしょう。私とミラを除いた47名が休むことなく責め続けることになると思われます」

 

 調教スキルとはユグドラシルシステム的なスキルではなくて、個人技能の方のスキルを指します。

 シャルティアの調教スキルがどれほどの物かというと、初な処女を処女のまま淫乱雌奴隷に変えてしまうほどなのです。

 

「でも数より質っすからね。おにーさんのテクなら問題ないっすよ」

「仕方ありませんわね。私たちも協力いたします。お兄様をシャルティア様に奪われるわけにはいきません」

「とりあえず、勝負がつくまでソリュシャンは俺の寝込みを襲うな」

「そんな!?」

「まず確認したい。お前はどっちだ?」

 

 邪魔しないように言われただけなのに何故かショックを受けているソリュシャンお嬢様を無視して、若旦那様は吊されてる女に問いかけました。

 

「私はティア。シャルティア様に連れて行かれたのがティナ」

「ティア……。確かレズの方だったな。こっちを連れてかれるより良かったか」

「うん。シャルティア様すっごい綺麗。くんかくんかしたい。シャルティア様に調教されたら即墜ちする自信がある」

 

 吊されているのに、ティアはうっすらと頬を染め、饒舌に語ります。

 拘束されたままですが、命の危険はないらしいことを察したのと、香炉の煙が効いてきたのです。

 

「『お兄様』よりお嬢様や神官様にエロい調教されたら快楽墜ちする。間違いなくしちゃう。そっちの二人はシャルティア様と同じ吸血鬼? 吸血鬼でも平気。慣れてる」

「……蒼の薔薇のイビルアイは吸血鬼らしいな」

「それもラナーに聞いた? ラナーが本当に王国を裏切ってるぽくてショック」

「お兄様はお前のお兄様じゃなくて私のお兄様よ!」

「ソリュシャンのお兄様でもないだろ。お兄様って呼んでるだけで」

「そんな!?」

 

 何故かショックを受けているソリュシャンお嬢様を無視して、若旦那様はティアの前に立ちました。

 ティアは妖艶に笑って、若旦那様を見上げました。

 

「『お兄様』が私にエロいことする? してもいいけど、先に注意しておくことがある。私は元イジャニーヤの一員。閨事の訓練も受けてきた。ショタを食いまくってたティナほどじゃないけど結構自信ある。『お兄様』が私を落とすより、『お兄様』が私の体に夢中になるかも知れない」

 

 イジャニーヤとは伝統的な暗殺集団の名前です。

 この場にいる誰も知らないことですが、すでにナザリックから目を付けられており、近々取り込む予定になっています。

 

「……ちょっとこいつぶっ飛ばしていいっすか?」

「そーゆーの禁止だから。とりあえずソリュシャンとルプーは上に戻ってくれ。シャルティア様が仰ったように、上にいるのがメイドだけなのは不味い。用があったら呼ぶから」

 

 二人は渋々と扉をくぐって階段を登りました。

 

 残ったのは若旦那様と助手のヴァンパイアブライド二名。吊されているティア。

 香炉は煙を吐き続けます。

 

「吊したままってのも、たまにはいいかな」

「そう? 自由にしてくれたら手や口でいっぱいしてあげられるのに」

「それは楽しみにとっておくよ。ティアが先に楽しんでからだ」

「期待してないけど楽しませてくれたら嬉しい」

 

 若旦那様はにやりと笑いました。

 

「泣きながら愛してるって言わせてやろう」

 

 甘い地獄は底が抜けたのかも知れません。




緊縛プレイと思ったけど若は興味なさそうだし一人で足りるしどうしようと考えたらシャルティアがいることに気付いた時はシャルティアが女神に思えました


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この忍者は縄抜け出来ない ▽ティア

調子が悪いと文章が長くなるとバーナード・ショーが言ってた
よかった時も特になかったりしますが


「神官様は『お兄様』のテクなら問題ないと言ってた。神官様とエロいことした? 私にも同じ事する?」

「すぐにわかるよ」

 

 にやりと笑う男だが、内面は外面ほど余裕あるものではなかった。

 

 快楽墜ちさせて調教競争と言うのは、あくまで手段である。目的は屈服させて服従させて裏切らないようにすること。

 この条件でシャルティアを上回るのは生中なことではない。なにせ、シャルティアは吸血鬼なのだ。

 

 もしも自分がシャルティアだったら、ティナを吸血して吸血鬼に転化させる。眷族化した対象は主人の命令に絶対服従となり、場合によっては自死すら受け入れる。吸血鬼化させてもアンデッドの気配を消すアイテムがあるらしいので、それを使えば蒼の薔薇の元に戻しても問題ない。

 つまり、死ねと命じれば死ぬほどの忠誠を得なければいけないのだ。

 滅茶苦茶ハードルが高い。

 いっそミラかジュネに吸血させて、と思わなくもないのだが、アンデッドの気配を消すアイテムを持ってない。残念ながら吸血鬼化は使えない。

 シャルティアが言った通りに快楽墜ちさせる必要がある。

 

 単に気持ちよいレベルでは駄目だ。

 肉体を凌駕し、精神を漂白して上書きしなければならない。

 自分にそこまで出来るのだろうか。

 いや、出来なければならない。出来なければいと尊きアルベド様との時間を奪われることになる。

 

 アルベド様、どうか私にお力を!

 

 男は神に祈った。

 アルベド様が覚醒を果たした時の事を思い出した。

 

 

 

 ▽

 

 

 

「素晴らしい技術です、マイスター。後ほど詳しく伝授してください」

「いいだろう。道は険しいがマスターしてみせろ。でも後でな」

 

 ジュネがキラキラした目で男と、吊されているティアを見る。

 

「……手慣れすぎ。お嬢様や神官様ともこんなのしてるの?」

「してないよ。ティアだけに特別だ」

「嬉しくない特別。でも手枷より楽になった。少し恥ずかしいけど」

 

 ティアは手枷をつけられ、天井からの鎖は手枷を固定していた。

 今のティアは吊されているのは一緒だが、姿勢がかなり違う。全身を縛られていた。

 

 両手首を頭の後ろで縛られているので、つるつるの脇を見せている。

 8の字となったロープが乳房を包み、大きいとまでは言えないがそこそこの乳房を搾って突き出すように強調させる。

 脚が開いているのは両膝をロープで吊っているため。脚の付け根、太股を二カ所、そして膝の四カ所をロープで縛り、その上にある小さな輪をロープが通っているので負荷が分散されており、過度にロープが食い込むことはない。

 背面からのロープでも吊っている。やや後ろに傾いて膝と股間を突き出す形になっている。

 脚を開いて中空に座っているようにも見えた。

 

 一本のロープで織りなす緊縛芸術である。あの日、アルベド様は縛られることをお望みになったのだ。

 ラナーに「痛い! きつい! 下手! バカ!」と罵られながら身に付けた技術は完璧である。文句を言いながらも縛ることを強要し続けたラナーに「だったら縛らせるな」と思ったものだが、こうして役に立つ日が来たのなら、あながち無為な日々ではなかったのだろう。

 

 

 

「全然動けない。後で私も教えて欲しいくらい」

 

 ティアはずっと裸で吊されて、お嬢様と神官から酷い責めを与えられ続けた。裸を見せるくらい今更のことだったが、乳房を強調されて股を開かされるのは恥ずかしいらしい。頬が薄く染まっている。

 それでもティアは、このくらいなら、とも思っていた。

 

(どうせこの後たっぷり犯される。でもお嬢様たちに責められるよりずっとマシ。犯されるくらいで死にはしない。どうせやられるならこの男よりそっちの吸血鬼がよかった。でもまあ……、顔がいいのは認める。右目と左目で色が違うのも凄く珍しい。ずっと見てると吸い込まれるような…………。あっ……)

 

 胸を触るでもなく、股間に触れるでもなく、優しく頬を撫でられた。

 たったそれだけが衝撃だった。

 労るような優しい愛撫。手のひらは暖かく、繊細な手付きで頬を撫で、唇をなぞる。

 不安も恐怖も消えていく。束の間覚えた安らぎが、心を浮き立たせていく。

 まるで、長く思い続けた初恋の人に触られているような。

 

「ほ……ほっぺたを触るだけ? エロい格好させてるのにエロいことしないの?」

 

 焦りが声にも顔にも出た。声は上擦ったし、視線は定まらず揺れている。

 しかし、幸か不幸か、そのような感情の機微を感じ取る男ではない。

 

「女同士でするときは優しくするのが男と一番違うところと聞いてたが、ティアはそうじゃないのか?」

 

 二人のヴァンパイアブライドが思わしげに見合い、互いに首を左右に振った。

 エ・ランテルで若返りの秘薬を売ってるお店の店員に聞いたのだ。高級娼館なだけあって、両刀の娼婦もいる。

 

「それならいつも通りでいい、のか? ……折角だからサービスしよう。ジュネ」

「はい」

「ミラを相手に訓練の成果を見せてやれ。俺たちによく見えるように」

「ヤヴォール」

「え……、かしこまりました」

 

 男はティアから見えやすいよう後ろに回る。

 ティアから三歩のところで、美しいヴァンパイアブライドが体を寄せ合い唇を交わし始めた。

 

「二人とも、どちらかと言えば男より女の方が好きなんだ」

「……いつもあんなことをさせている?」

「させてるんじゃない。自発的にしてる。俺だって二人がするのを見るのは初めてだ」

 

 赤い唇の間を赤い舌が行き来しているのが見える。

 ジュネが横目でちらとこちらを伺い、乳房を覆う帯をずらす。白い肌に鮮やかに生える赤い乳首はミラの胸に押しつけられ、ミラもまた帯をずらして乳房を晒す。

 乳首と乳首が擦れ合っている。擦れ続ける内に勃起してきた。

 

「……、どさくさに紛れて触ってる」

「…………」

 

 一々答えないし許可も求めない。

 ティアの後ろに回った男は、二人の痴態を眺めながらティアの乳房に触れていた。

 小さくはないが大きいとも言えない乳房は、太いロープで搾られて突き出されている。実際より大きく見える乳房は、大人形態アウラのロケットおっぱいを思わせる。

 突き出た乳房を伸ばした五指で包み、柔らかさを確かめる。ロープで搾られて張りがあり、揉み応えは中々。

 あちらの二人から甘い声が漏れ始め、こちらは無言で胸を揉み続ける。

 指は大きく開いているので乳首には触れていない。触れていなくとも、執拗に揉まれれば立ってくる。立ってきた乳首に指が乗った。

 乗せるだけで、押し込んだり転がしたりはしない。先端だけをくすぐっている。

 

「あっちは……」

 

 ティアはそれだけ言って口を噤んだ。

 あちらの二人は、胸を押しつけるのを止めて、互いに揉み始めた。大きな乳房に指が埋まり、乳首を抓るように引っ張っている。

 こちらでは焦れったい愛撫だけ。

 焦れったいだけなら冷めもするし飽きもくるのだが、とても悔しいことに気持ちいいと思えなくもない。

 少しずつだが、確実に高ぶってきている。

 男に、胸を揉まれているだけなのに。

 もしも動けるなら自分で自分の乳首を抓っていた、かも知れない。

 ねだるような事は絶対言わない。どうせ絶対にされて、最後には突っ込まれるに決まってる。

 諦念と意地がティアの口を閉じさせて、強がらせた。

 

「『お兄様』は女の胸を触ることしか、うむぅっ!?」

 

 ミラの脚を撫でていたジュネがちらと視線を向ける。

 すぐにミラに向き直って、股間を覆う前垂れの中に手を忍ばせた。

 

 ティアが途中で言葉を切ったのは、口の中に指を突っ込まれたから。

 入ってきたのは第一関節までだったが、口を閉じられない。指先が舌に触れている。慌てて舌を引っ込めた。けどもずっと引っ込めてはいられず、口を開けたままだと唾が溜まってくる。

 

「ふああほほへる……」

 

 言葉になりきらない言葉には耳を貸されず、涎を垂らして自分の体を汚すのを避けるには、唾を飲み込むしかなかった。

 

「……じゅる……、んっ……」

 

 指を咥えたまま口を閉じ、喉を鳴らして唾を飲む。

 抜かれない指に諦めて、引っ込めた舌を元に戻した。

 舌が指に触れる。指は微かに動いて舌をくすぐり、それが唾の分泌を促してくる。

 

「んっ……、ちゅる……ちゅっ、ちゅう……んんっ……」

 

 向こうでは、少し背が低い方が体を屈めて、もう一人の乳首に吸いついている。舌が乳首をねぶっている。

 ティアは何を咥えているのかも忘れて、同じように舌を動かし始めた。

 

「んんっ!」

 

 カリ、と。思わず噛んでしまった。

 焦れったく擦られていた乳首を、きゅうと摘ままれたから。

 急な刺激に驚いて、痛かったのに痺れるような快感が走ったのに驚いて、反射的に噛んでしまった。

 

「痛かったかな?」

「へ……平気。噛んじゃって……、ごめん」

「構わないさ。それで?」

「……それで、って?」

「乳首はよかったか?」

「べっ……べつに!」

「別に、か」

 

 焦らして熱を貯め、一息に解放させる触り方はアルベド様にもレズビアンでもあるシャルティア様にも大好評だったのだが、ティアにはいまいちだったらしい。

 いつも通りでは駄目なのだろうか。

 ティアの金髪に絡む白いリボンを見ながら、どうしようかと考える。

 アルベド様のお力は、まさかレズビアンには通用しないと言うことはないと思われるが、そう言えば人間の女性相手に使ったことがなかったことに気が付いた。

 最初はアルベド様。次にシズ。続いてユリ。ミラを相手に何度も試して前回はソリュシャン。

 全員美しい女性であるが、全員人外である。

 いざとなったらミラとジュネに全てを託すことにして、ティアの下腹を撫でた。

 

 左手はへその少し下に添え、右手は更に下へ這っていく。

 陰毛をかき分け、更に奥へ。

 ティアの陰毛は髪より色が濃い。髪と陰毛の色が違うのは珍しくはないが、剃り跡があるのは意外だった。陰毛は長いけども整えてある。

 

 ここでのティアは最初から全裸に剥かれているので男は知らなかったが、ティアの服装はかなりあれである。

 胸部だけを覆って肩も脇も鎖骨も見せる胸甲もあれだがいいと言うことにしても、下半身は網タイツに太股が大きく開いているゆったりとしたズボンらしきもの。ズボンらしきものはらしきものであってズボンにあらず、股間の部分は完全に開いてミラたちと同じように前後を帯が垂れて隠している。

 その下は、切れ込みがかなり鋭い下着を着けているのだ。整えないとはみ出るのである。下着が思い切り見えるデザインなので、はみ出るのはとてもまずい。

 まともなのは手甲だけである。

 ティアとティナは忍者であるが、忍者()としたくなるような装備であった。弐式炎雷に師事してストロングスタイルを学ぶべきであろう。

 

「ん?」

「あっ!」

 

 オレンジの茂みをかき分け、奥にたどり着いた指は、ティアに触れた。

 柔らかく、そしてぬめっている。

 

「濡れてるじゃないか」

「くぅ…………」

 

 ティアは唇を噛んだ。さっきのは本気で気持ちよかった

 だけども、素直に感じてると言うことは出来ない。濡れたのも知られたくなかった。

 自分は痛みとともに乱暴に犯されるべきで、気持ちよくなっていい道理はない。

 シャルティア様にされたら快楽墜ちしちゃうとか、手や口で気持ちよくさせてあげられるとか言ったのは男を挑発するため。本心ではない。

 乱暴に犯されて墜ちた振りをして、解放されたら他のメンバーと合流して南方へ行方をくらますつもりだった。

 本当に墜ちてしまうつもりは微塵もない。自分なら耐えられると思っていた。

 だのに、胸をいじられただけで痺れるような快感。

 警報が鳴り始めた。

 

「レズだから男には反応しないかと思ったけどそうでもなさそうだな」

 

 後ろにいた男がぬっと顔を見せる。

 気の抜けた笑みが軽く見られてるように思えて、ティアは睨みつけた。

 睨みの効果があったわけではないだろう。男は眉根を寄せてこう言った。

 

「ミラ、ジュネ。悪いが一時中断してこれから言う物を持って来てくれ」

 

 

 

 ▼ ▼

 

 

 

 ティアと男だけが地下室に残った。

 

「やっぱり期待してたほどじゃなかった。どうせ犯すならさっさとすればいい」

「ずっと女相手だったから男とするときのことを忘れてるのか? 入れる前によくほぐすんだよ」

「濡れてれば入る。でも多分感じない。お前の負け確。大人しくシャルティアの奴隷になれば?」

 

 二人きりになったら急に強気である。

 男は眉を微かに上げた。期待してないので言葉遣いはどうでもいい。それ以前に正すところがあった。

 

「皆の前じゃちゃんと様を付けるように。また痛くされるぞ?」

「っ……。人間なのにどうしてあんな化け物たちに協力する!」

「わかったわかった。それは半月後にじっくり話そう。まずは目先のことだ。シャルティア様と俺は、何故か調教競争することになった。だが、調教ってのは目的ではなく手段だってわかってるか?」

「…………」

「目的はけして裏切らないよう忠誠を得ること」

「こんなことして忠誠とか笑える」

「……王国にいると本当に頭が悪くなるんだな。よく考えろ。シャルティア様は吸血鬼だ。対象の人間から絶対の忠誠を得るにはどうするのが一番効果的だと思う?」

「……まさか」

 

 快感と怒りに上気していた頬がさっと青ざめた。

 

「吸血して吸血鬼化させる。そうすれば対象は絶対の忠誠を主人に捧げるようになる」

「………………ティナ」

 

 ここにはいない姉妹の名を呼んだ。

 ギリ、と。歯が擦れる音がした。

 

「そして俺が負ける。俺は週に一日だけシャルティア様に仕えることになるが、ティアは違う。シャルティア様は躾がなってないティアを見て、ご自身が躾てやろうと仰るだろう。ティナと同じ道を辿ることになる」

 

 吸血鬼すなわちアンデッド。

 転化の手段やその後の種族がなんであれ、アンデッド化してしまうと人間に戻る手段はない。

 永遠に隷属するか、消滅するか。

 

 勿論、シャルティアにそんなことをするつもりはない。思い付きもしない。二人の杞憂なのだが、ティアは首筋に冷たい牙が迫るのを幻視した。

 

「俺に協力しろとは言わないし、上辺だけ合わせられても絶対に見破られる。ティアをちゃんと調教できるかどうかは俺の腕次第で、ティアに出来ることは何もない。大人しくしていろ、と言っても動こうにも動けないだろう?」

 

 腕も脚も封じた芸術的な緊縛である。

 ティアは拘束されているために動けないと思っているが、本当はエンゲージリボンの効果だ。

 動けないことを不自然に思わせないがために緊縛したのである。それとは別に縛ればちょっと興奮するかも、とも思っている。

 昨夜はレイナースと、今朝方はミラとしていたので、刺激が必要なのだ。

 実際にやってみたら、興奮する以前にレズのティアがどうすればその気になるか考えてばかりで、今のところ効果は今一つであった。

 

「持って参りました!」

「ご苦労様」

 

 ミラとジュネが戻ってきた。

 ミラは三角フラスコを二本。ジュネは小瓶と小皿を持っている。

 

 まずはミラからフラスコを受け取り、栓を開けて中身を左の手のひらへ順にこぼす。

 次はジュネが持つ小皿。小皿には白い粉が盛ってあり、一摘まみ二摘まみして、左手の液体の上へ。最後に小瓶。琥珀色の液体に満ちている。蓋を開けさせ、右手の中指を突っ込めばねっとりと指に絡みついた。相当に粘性が高い。

 何かしらの粘液がついた指で左手の諸々をかき混ぜる。

 混ぜる度に粘性が緩くなり、白く染まっていった。

 

「ひっ……」

 

 白い粘液がついた指で、ティアの勃起した乳首に触れる。

 丁寧に塗り伸ばし、乳輪まで真っ白な粘液に覆われた。

 右の次は左。同じように塗っていく。

 そして、股間へ移った。

 ティアは大股開きをしているので、陰部も尻の割れ目までよく見える。

 こちらではふにっとした秘唇に塗り、少々はみ出ている内陰唇も忘れない。それ以上の内側へは塗らないよう気を付けて、徐々に下へ。

 膣口と肛門の間である会陰から、肛門は皺の一本一本にまで染み渡るように。

 そのまま、つつつと尻の割れ目へ塗り伸ばす。

 指に残った粘液は、右手をかざすだけでミラが丁寧に舐めとった。

 左手はジュネがペロペロと舐めている。

 

「…………媚薬? エロくなる薬?」

 

 乳首も陰部も性感帯だ。内側には塗られてないとしても、そう思うのは無理もない。

 

「そんなんじゃないよ。と言うかそんなのあるのか? 媚薬として出回ってるのは効果のない出鱈目ばかりだと思ってたんだが」

「それじゃなに?」

「下が見えるか?」

「?」

 

 言われた通りに下を見る。

 突き出された乳房の先端を白く塗られている。

 真っ白だったはずだ。それが、見ている内にうっすらと色づいてきた。純白だったからこそ、僅かな変化もよく目立つ。

 白の中に薄い茶色が滲んできている。

 

「んっ!」

 

 声が出ないよう歯を食いしばって、見ないよう固く目を閉じた。

 乳首に吸いつかれた。

 乳輪ごと口に含まれ、舌が上下左右に乳首を舐めている。

 

「見てみろ」

 

 恐る恐る目を開けた。

 今度は下を見るまでもなく、鏡を用意された。

 縛られている己が映る。目立つのは、白く塗られている部分。

 

「こっちだよ」

「きゃうっ!」

 

 吸われていた方の乳首を弾かれた。

 鏡に映るそこは。

 

「え? ……色が」

「ティアの乳首は茶色かったからな。色んな女たちに吸わせてきたのか? 折角だから綺麗にしたんだ」

 

 ティアの乳首は生娘のように透明感あるピンク色になっていた。

 白い粘液は断じてエロい薬ではなく、色素吸着薬だったのだ。

 

 ■ ■

 

 本薬の開発に至るには大変な経緯があった。

 ある日、これから張り切っちゃうぞ、と服を脱いだルプスレギナを見て、この男はこう言った。

 

『最近のルプーは乳首が黒くなってきたな』

 

 三度生死の境を彷徨った。

 男をぶちのめして最低限の怒りを治めたルプスレギナは、

 

『おにーさんがいっぱい吸うからこうなったんすよ! 責任! どうにかしろ!!』

 

 乳首が黒くなってくるのは、吸っても切れないように色素が集まって丈夫になるからである。乳首のみならず、きわどい下着を履いていると股間もそうなりやすい。言うまでもなく、肛門の着色も同様の理由だ。

 着色を避けるには丹念なスキンケアが必要となる。

 在りし日のラナーが蜂蜜と鳩麦を挽いた粉を混ぜてパックしていたのを思い出し、そこへ魔法のローションの原材料を適宜配合して作ったのである。なお、パックしたのを舐めとるのも仕事だった。

 無造作に混ぜてるように見えて、配合比率の誤差はコンマ1パーセント以下。

 大量生産すれば高貴な夫人はもとより町娘たちからも競って求められるだろうが、現時点では予定は皆無である。

 

 ▼ ▼ ▼

 

 主成分は蜂蜜なので舐めても甘いだけ。色素を吸着させた後だと、知っていなければわからない程度の苦みが出てくる。

 

「ほら、こっちもこんなに綺麗になった」

 

 もう一方の乳首も舐められ、処女の清らかさを取り戻す。

 

「ここは……」

 

 股間は濡らしたタオルで拭った。

 舐めてもいいのだが、甘いので量が多いと胸やけを起こす。

 肛門には丹念に塗ったため、入念に拭き取る。ティアは微かに呻いた。

 

「見てみろ。タオルがこんなに汚れた」

「っ!!!! そんなの見せないで!」

 

 白いタオルが薄黒く染まっている。

 まるで自分の汚物を見せられているかのよう。

 羞恥で顔を真っ赤に染め、顔を背けようにも出来ないので目を瞑った。

 しかし、目を瞑ると何をされるかわからない。

 

「ああっ!」

 

 そっと触れただけではない。

 今度こそ、男の指が潜ってきた。

 

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

 

 往年の色素を抜いたそこは何も知らない処女のよう。黒かったり茶色かったりより白くてピンクがいいに決まっている。肌が綺麗だからこそ、内側の淫靡さが際立つ。

 

 まずは中指だけを折り曲げ、潤い始めたティアの雌穴へ忍ばせる。

 冬季の地下室であろうと室内は温かく、ティアの中は更に熱い。肉が熱を持ち、なめらかな愛液が絡んでくる。

 腐ってもアダマンタイト冒険者なので肉体は鍛えられ、締め付けは上々。ただし、女とばかりしているから指以外のものを入れていないのかも知れない。肉ひだの絡み具合はなんとか及第点で、総合して中の上。

 もっとほぐせば具合が良くなってくるのを期待して、二本に増やした。

 中指に薬指を添えて肉壁を撫で、ここだと言うところで折り曲げる。

 親指をクリトリスの根本を押さえて包皮を剥き、柔らかで頼りない小さな肉芽を撫で始めた。

 

「ぅっ…………、くぅ…………!」

 

 ティアは、歯を食いしばって耐えた。

 頬を撫でられただけで幸福感が溢れたのに、今は女の一番敏感な内側を擦られている。

 ともすれば、自分はこの男に心から愛されて、自分もこの男を愛していると錯覚してしまいそう。情熱的な恋の果てに結ばれつつある望外の快感。

 女の本能が悦んで、理性を犯そうと躍起になっている。

 

「あひぃっ! んっ……あぅ…………!」

 

 指の入り方が変わった。

 第二間接で曲げていた指を真っ直ぐに伸ばし、根本まで突き入れる。

 抽送は激しく、ほどなくしてくちゅくちゅと卑猥な水音が鳴り始めた。手指を伝い、床に滴り落ちた。飛沫となって宙を舞った。

 勃起させた肉芽も忘れない。人差し指と薬指で体の奥に隠れる茎の部分を扱き、中指は肉芽の上で小さな円を描き続ける。

 

 男が両手を使って愛撫している様子を、ミラとジュネの二人は顔を近付けて観察している。

 顔つきは真剣そのものだ。

 特にジュネは、手マンのマスターをシャルティアから命じられているので気の入り方も一入である。

 

「うっ、うっ、うぅ……。やっ、まって! まってだめぇ! ……やっ、あああぁぁぁぁああああぁぁあーーーーーーっ!!」

 

 待ってとか止めてはもっとやれと言うことである。アルベド様から教わっているのだ。

 右手と左手の動きを同期させ、内側と外側から同時に責められたティアは、あっけなく果てた。

 入っている指を膣がきゅうきゅうと締め付け、奥から溢れる愛液が指に絡みつつ溢れていく。

 肉芽に触れている中指は、小さな痙攣を感じ取った。

 

「はぁ……はぁ……。まって、だめ……。イったばかり……、あんっ!」

 

 羞恥や怒りは溶け消え、興奮と快感に頬を染めている。

 顔には困惑があった。

 申告通りに達したばかりだ。それなのに、疼いていた。

 あれだけ深い快感ならそんなことは考えられないはずなのに、体はもっと欲しいと訴える。

 

(ヤバい、きもちい。本気でイカされた……。それなのにどうして……。おかしい。あの香炉のせい? 煙を吸ってから思考が雑になってる。帝国では禁制と言ってた。この感じ、多分ライラの粉末。でもライラの粉末でこんな……。あっ……)

 

 指が抜かれて惜しいと思った。

 思っただけでなく、反射的に締めていた。逃がさないように。

 間違いなく気付かれている。

 真っ直ぐに見つめられ、見返す瞳は大いに揺れた。

 見られるのが恥ずかしい。達してしまったのも恥ずかしい。もっとして欲しい。絶対言えない。なけなしの敵意を絞り出そうにもどこを探しても見つからない。

 淫乱だと見下げられるのが怖い。見捨てられるのが怖い。ここに味方は一人しかいない。

 さっき殺されそうになって、間違いなく敵方の男なのに、どうしてそんなことを思えるのか。何が正常で何が異常なのか、境界がわからなくなってきた。

 

「あ………………、んっ……」

 

 男の形をした美が真摯な顔をして近付いてくる。

 ティアは、赤と青の瞳に自分の顔が映るのを見た。

 唇にキスをされた。柔らかな唇が押し付けられ、上唇を食み、下唇を食む。口が開いたのに合わせて、ティアからも口を開いた。

 口内に忍び込むぬめる舌に、ティアからも応えた。舌で舌を舐め合い、舌の舌や唇の内側に、隅から隅まで刺激される。そそがれる唾には小さな気泡を幾つも感じられ、互いの舌で味わってから飲み込んだ。

 全身を縛られて出来ることは何もない。せめて舌技を味合わせて、男を虜にしなければならないのだから。

 僅かに残った理性は、愚にも付かない理由を捻り出した。

 

「あんっ……、んっ、ちゅるる……、っふう、んっんっ……」

 

 ティアの真下には、ポタポタと垂れた滴が乾かずに追加され続けている。

 秘部をなぶられている。長い指がゆっくりと行き来して、内側のいいところを擦っている。

 

 吊されているティアが揺れないよう、後ろから押さえられている。

 背中に柔らかな感触が二つ。その中央に突起が二つ。同じところを摘ままれ、指で転がされる。

 乳首が痛いほど勃起して、ひんやりとした指で摘ままれるのはとても気持ちよい。

 

 ティアの掠れた喘ぎと密やかな水音に、衣擦れの音が重なった。

 キスが中断されて離れたとき、もう一人の吸血鬼が男の服を脱がせていた。

 逞しい裸身を鑑賞できた時間は短く、唇が重なってくる。

 今度は触る場所を交代して、前からは胸を揉まれた。両の乳房を鷲掴みされ、ティアが最初に望んだように乱暴に揉まれている。乳肉に指が食い込むほど強い触り方なのに、痛みより快感が勝った。

 後ろからの手は股間へ向かい、優しく陰毛を引っ張って、ほっそりとした指が肉芽の上で小さな円を描く。溢れているのを感じた。

 

 衣擦れの音は尚も続く。

 女吸血鬼が男のズボンを脱がせると、唾液をたっぷり交換したキスが終わった。

 男の前に女吸血鬼が跪いた。両手を添え、口を開き、赤い唇でキスを送った。

 

「マイスターのおちんぽが大きくなるのを見ていなさい。とても逞しくて、固くて大きくて。私は何度も挿入していただきました。これからお前のおまんこに入れてくださるのです。泣いて喜んで然るべきでは?」

「ちんこ……でかい……。あれが私に……」

 

 現れた時は半立ちだった逸物が、ミラの口淫で見る間にそそり立っていく。

 長い黒髪をなびかせながら頭を前後に振り、じゅっぽじゅっぽと小気味よいリズムを響かせる。

 

 これまでの勤めの甲斐あって、ミラの口は上達してきた。

 ここからイラマチオに移行するのもいいし、ミラの献身を微笑ましく思いながら身を任せるのもまたよい。

 今は出すまでさせるわけにいかない。

 十分に楽しんでから、止めさせた。

 

「マイスター、どうぞ」

 

 鎖に留めてあるロープの結び目をずらし、ティアの体を更に後ろへ傾ける。一層股間を突き出す形になった。

 真後ろからでは遠いので、ミラは左にジュネは右に。両側から指を伸ばし、ティアの割れ目を優しく広げた。

 褐色に染まっていた陰唇も、茶褐色がこびりついていた肛門も、今は澄んだ薄ピンクになっている。

 広げられた内側はてらてらと濡れ光り、膣口が仄暗い奥を覗かせる。

 

 ティアの股の間に入っていく。

 こちらでも二人がアシストして、逸物の位置を合わせた。

 

「あ……ああ、……はいって……」

 

 ティアは男の顔を見た。真っ直ぐこちらを見ている。しばし見とれ、我に返って視線を切った。

 左右には自分を押さえている女吸血鬼たち。

 下を向けば、結合部が見える。肉の棒が入ってきている。入ってきているのを感じる。肉を押し広げ、ゆっくりと埋まっていく。埋められていく。

 

「んっ……、おっ……きい……!」

 

 処女ではないし色事は好きなティアだ。しかし、交わってきたのは女ばかり。指より太い物が入ってくるのは久し振り。

 単に快感を得るためではない。二人が一つに繋がって、欠けた物が埋まっていく崇高な儀式。

 膣が目一杯広がって、隙間なく密着している。間違いなく自分ではない異物が入ってきているというのに、入ってきたそばから自分の中へ溶け込んで、或いは自分が彼の一部になって。

 

「あ……、おくまで……、きてる……」

 

 自分の体の一番奥まで、子宮口に触れられているのを感じた。

 本当なら感じられるわけがない。奥を突かれて痛むなら兎も角、子宮口は敏感な部分ではないのだ。

 ティアはそれを知っている。不思議なことが起こっている。

 しかし、二人が一つになったのが確かな事実で、それ以外は全てが些事だった。

 空虚を埋められた充足感は幸福感となり、ここに生きている実感を確かに感じる。愛されている実感は多幸感となって、肉体だけではなく心まで満たし始めた。

 

「あっ!! …………なん、で?」

 

 ティアの奥まで制覇した男は、出て行ってしまった。

 欠けていることを知らなかったら何とも思わなかったろうが、欠けたものを満たされて、そこから失ってしまうのは体の半分を奪われたかのよう。喪失感は悲哀すら伴った。

 

「ジュネ、こっちに来て尻を向けろ」 

「ヤヴォール! マイスター、どうぞお使いください♪」

 

 女吸血鬼の一人がティアの目の前で男に背を向け、腰を折る。背を反らして尻を突きだし、男は真っ白な尻を撫でた。

 

「あんっ♡」

 

 甘い声に肉が肉を打つ音。男の下腹が女の尻を打っている。

 ティアは呆然と、目の前の光景を見続けた。

 男が自分以外の女と交わっているのを理解したその時、体の奥底から湧き出てきたのは嫉妬と恐怖。

 まさかこれで終わりなのか。自分は満たされないまま放置されるのか。悔しさと悲しさで涙が滲む。

 女の声が高くなり、涙が頬を伝ったとき、そっと耳打ちされた。

 

「ご主人様はとてもお優しいお方です。あなたが心を込めてお願いすれば、きっと満たしてくださいます。どうお願いすればよいかはご主人様が仰っておられました。まさか忘れてはないでしょうね?」

 

 何を言って何を言われたかを思い出す。

 色々挑発したつもりだが、全て流されている。

 閨事の訓練を受けたと言った。手や口は使えない。使えるのは入れられるところだけ。

 それは自分が言ったこと。言われたことを働かない頭で一生懸命振り返り、思い出した。

 

「愛してる! 愛してるから入れて欲しい!」

 

 二人の動きが止まった。男が首を傾げてこちらを見てくる。

 

「……誰が、誰を?」

「私が……、あなたを」

 

 男が女から離れ、女はその場に崩れ落ちた。

 ティアの脚の間にもう一度入ってくる。

 頬を撫でられ涙を拭われ、それでもティアの不安は拭いきれない。

 

「何を入れて欲しいんだ?」

「……ちんこを。私のおまんこに」

「愛してると言ってくれたが、本当に?」

「本当。先のことはわからないけど……、今だけは本当に愛してる。愛して欲しい。あなたを愛してるから、つながりたい」

「今だけでなく、これからもにしてやろう」

「ああんっ♡ はいってきたぁ♡」

 

 太股を掴まれ引き寄せられ、最初の十倍の速さで入ってきた。

 同じ速さで引き抜かれ、すぐに奥まで帰ってくる。

 

「あっあっ、すごいぃっ! こんな、はじめてっ♡」

「閨事の訓練をしてきたんだろう? どんなことが出来るんだ?」

「うんっ、締めるからっ、ちんこをいっぱい気持ちよくするからっ」

 

 奥へ来るときは迎え入れるために締め付けを緩めて、抜かれる時にはきゅうと締め付ける。緩急つけた締め付けで逸物を刺激する。

 締め付けられないときもある。視界で火花が散り、全身の力が緩んでしまう。吊されているのもあるだろうが、精神がどこかへ弾け飛んで幸せな世界を漂っているかのよう。

 

「あんっ、あんっ、あっ、そこすきぃ♡ あん……キスもして。んっ、ちゅぅ……れろ、んっ……、ああっ♡」

 

 キスの間も腰の動きは止まらない。

 結合部が鳴らす卑猥な水音は、じゅるじゅると唾をすする音にかき消される。

 体の真芯まで受け入れるのが幸せなら、互いの陰毛が擦れ合うのもこそばゆくて心地よい。打ち付けるために乱暴に尻肉を掴まれるのも凄くいい。

 どこを触られても何をされても快感で、何もかもを受け入れたくなる。もっと自分を奪って欲しい。もっと自分を支配して欲しい。

 何度絶頂を迎えたか数え切れない。

 絶頂は終わりではなく次の始まり。

 淫らな交わりがこんなにも素晴らしい物だったとは。自分が知っていたのは頂を仰ぎ見る麓に過ぎなかったらしい。

 

 

 

 もしもティアに理性が残っていたら、こんなことはあり得ないと断じていた。

 出したら終わりの男と違って、受け入れる性である女には奥深い物があるのは確か。だとしても、際限なく高まっていくわけがない。

 それこそ違法な媚薬を嗅がされたかのよう。

 

 あり得たかも知れないティアの推測は的を外れ、媚薬などは使っていない。

 精神を弛緩させ多幸感をもたらすライラの粉末を使ったとしても、曲がりなりにも元暗殺者であったティアが泣きながら愛を叫ぶことにはなりはしない。

 全てはこの男が自覚なくしたことだ。

 長い年月をラナーに奉仕して技を磨き、覚醒を果たしたサキュバスの寵愛を受けた。

 肉体のみならず高次元から精神すら愛撫するその技は、ナーベラルが看破したように心身へ及んでくる。性の何たるかを全く知らない幼い双子が、ただ添い寝しているだけで不可解な熱に浮かされるほど。

 それに加えてシャルティアとの競争。負けないために神に祈った。

 美神にして主神であられるアルベド様の名を汚さないためにも、絶対に負けられないのである。

 意気込みだけは十分だった。

 

 

 

「~~~~~~~~~~っ!!」

 

 ティアのあえぎは、もう声にならない。

 泣いているようにも叫んでいるようにも聞こえる。

 

「ぁ………………」

 

 掠れた声を最後に、弛緩した。

 中で出された。

 どぴゅどぴゅと噴き出る熱い精液が子宮口を打ち、体の中も精神の真芯も、真っ白に染め上げられた。

 呆と開いた目は天井を映し、精神は深い海を漂っている。

 下半身はピクピクと痙攣し、膣は蠕動して精液を奥へ奥へと導いた。子宮に届いた。

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

「ふう……」

 

 一息ついて男が離れる。

 忘我の向こうにいるティアの体は緩んだままで、開ききった膣口から白濁した粘液がとぷりと溢れ、床の上へと滴った。

 ティアの真下は、失禁したかのように濡れている。

 

「ジュネ、ソリュシャンを呼んできてくれ」

 

 ジュネが扉の向こうへ消えてから、ミラがティアの髪に絡むリボンを回収する。

 白かったリボンはピンク色になっていた。

 衣服を整えてリボンを仕舞おうとしたのだが、仕舞う場所にとても困るエロ衣装である。とりあえずはリボンを小さく丸めて畳み、手のひらに隠し持つことにした。いずれシャルティア様の許可を得て、衣装に小物を入れるポケットを付けてもらおうかと考える。

 吊されている女は、目を開いているので意識はあるらしい。しかし、顔を覗かれているのに反応しない。遠い世界に行ってしまって、まだ戻ってこれないようだ。

 

「これは……墜ちたようですね」

「ミラ」

「はっ!」

 

 涙を流して愛してると何度も叫び、自分が何者なのかを忘れる深い絶頂を与えられた。これは成ったと思ったのだが、冷たい声に背筋が凍った。

 ご主人様の目は、馬鹿を見る目ではない。利口だと思っていた者が馬鹿だったと気付いた目。失望している目だ。

 

「俺は誰と競ってる?」

「シャルティア様でございます!」

「覚えてるようだな。シャルティア様が相手だというのに、こんな簡単に終われると思うか?」

「仰る通りでございます。シャルティア様の調教スキルはSランクであると申し上げたのは私でございました!」

「わかってるなら軽々しいことを言うな」

「申し訳ございません!」

 

 何とかお許しを得たようである。

 

「終わったのですか?」

 

 ジュネを付き添いに、ソリュシャンがやってきた。

 

「さわりだけね。ソリュシャンにはティアを綺麗にして欲しいんだ。俺がアルベド様から授かったお力は精液が残ってると使えない。膣内なら何とかなっても子宮の中はどうにもならない」

「………………お兄様は私をなんだと思っていらっしゃるのですか?」

「それは……」

 

 便利な掃除係と答えたら不味いことくらいわかった。

 

「いずれ俺の妻になってくれる美しい令嬢、かな?」

「賜りました♡ 石ころ冒険者で大して綺麗でもない強くもない取り柄もないこんな女にお兄様の子を孕ませるわけに参りませんもの。お兄様の精液は一滴残らず吸い取って差し上げますわ」

 

 よっしゃ勝ち確ユリ姉様ルプーにナーベラルごめんなさいお兄様は私を妻にと仰いました♪

 

 ティアは痛い思いをすることなく、ソリュシャンにきれいきれいされた。

 ソリュシャンが上に戻り、ジュネの目が逸れるのを見計らって、もう一度ティアの髪の中に白いリボンを結びつける。

 

「夕食までに5回、は大変だから3回やる。俺は見てるから、今度はジュネがやってみろ」

「ヤヴォール、マイスター。ですが、意識があるか怪しいです」

「始めたらちゃんと反応するよ。そうだろ、ミラ?」

「……はい。例え意識を失っていても肉体は反応し、ご主人様を求めることでしょう」

 

 何度も実験されたミラである。

 

 

 

 ミラが遠回しにここまででよいのでは、と進言したのは、まさかティアの身を慮ったのではない。人間の女など生きていようと死んでいようと構わない。

 しかし、やりすぎたら壊れてしまうのではないだろうか。

 壊れてしまったらシャルティア様との調教競争で負けとなってしまうのではないか。

 そう思ったわけだが、ご主人様の視野は狭く近視眼的だった。

 せめて理由も含めて進言していれば聞く耳を持ったろうが、そこまで言える度胸がなかった。ルプスレギナに脅されていたのである。

 

『おにーさんは怒るとかなり怖いっすよ。どんな手を使っても絶対に破滅させてやるって覚悟満々になるっす。ミラなら絶対にやらないと思うっすけど、おにーさんの前でアルベド様の批判は絶対に絶対に本当に何があっても絶対にやっちゃダメっすからね。……終わるから』

 

 アルベド様が絡まなければとても温厚なのだが、ルプスレギナによってご主人様には怖いところがあると刷り込まれてしまった。

 

 人間の女の味方をするのはごめんこうむるミラであるが、ご主人様の未来を思って、せめて自分くらいはティアの身を案じることにした。

 案じるだけで具体的に何かするかはわからない。

 

 ティアはもう同じところへ帰れないが、素晴らしい未来が待っているかも知れなかった。




次回、聖母アルベド


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命名と母の証

聖母は次回になりました


 調教中だろうとソリュシャンとにゃんにゃんしてる最中だろうと世界の終わりが迫り終末真っ只中であろうと、最優先されるべきはアルベド様である。

 

 今日は週に一度のお食事日。

 男はお食事部屋にてアルベド様と対面していた。以前は床の上に跪いていたものだが、最近は向き合って椅子に座るようになった。

 いつものことなのにいつになく緊張しているのは、アルベド様の他にもうお一方いらっしゃるからだ。

 

「あなたがどんな名前を考えたか聞かせてちょうだい」

 

 もうお一方とは、アルベド様のご息女である。父は己である、らしい。

 子の父を己とするのはアルベド様のお言葉だけが根拠である。まさかアルベド様が虚偽を仰せとは考えがたいのでお言葉の通りであることは間違いないはずであるが、全く実感がない。

 実感がなければ己の娘と言うよりもアルベド様のご息女との面が際立つ。

 

「はい。アルベド様のご息女のお名前に」

「私とあなたの子供よ。間違えないで」

「失礼いたしました」

 

 ご息女はアルベド様のすぐ隣に座っている。

 一番に目に付くのはアルベド様譲りの艶のある黒髪。前髪が切り揃えてあるのはアルベド様がカットしたのだろうか。後ろは肩に触れない長さで真っ直ぐに揃えてある。

 頭から生える角はアルベド様とは向きが反対で、白い角が髪の生え際あたりから後方へと反っている。

 お顔は目鼻立ちがはっきりしている。成長すれば視線一つで男を狂わす美女になるのは間違いない。

 特に目はパッチリと大きいのがとても愛らしい。そして目の色は、不思議なことにアルベド様とも父であるらしい自分の色とも違う黒。見る角度によって赤みがかったり青みがかったり、光の加減によっては銀色にも見える神秘的な光彩。

 装いはフリルたっぷりの白い子供服。おそらくはアルベド様の手作りである。

 特筆すべきは、体の大きさであった。

 でかい。

 でかすぎる。

 でかいと言ってもコキュートス様のようにでかいわけではなく、ユリのように体の一部がとても主張しているわけではない。抱き枕にしてる双子幼女くらいの大きさであるのだが、ご息女はまだ生後一ヶ月なのだ。

 大きくなりすぎである。

 アルベド様が仰るには、生存に最低限必要となる大きさまでは急速に成長するらしい。時空が歪んでいるのか、サキュバスとはそういうものなのか、はたまたアルベド様のご息女だからなのか、まったくわからないが5歳児ほどになっているのが確かな事実である。

 

「それでこの子の名前は? いつまでも『この子』じゃ可哀想よ」

「……はい。健やかに、美しく、そして賢く育つよう願いを込めてソフィーの名を考えつきました」

「ソフィー……、ソフィ、ソフィア……、ソフィー…………」

 

 古き世界を破壊し新たな世界を構築した改革者の名であり、異界より滲みよる外敵を退けた勇者の名であり、賢者或いは知恵或いは智を意味する言葉でもある。

 

 男の解説を上の空で聞き流し、アルベドは子の名前を口中で転がした。

 

「いい名前ね、気に入ったわ。これからあなたの名前はソフィーよ。お父様があなたのために考えてくれたのよ? お礼を言いなさい」

「はい、おかあさま。おとうさま、そふぃーになまえをつけてくれてありがとうございます」

 

 ぺこりと頭を下げる。

 でかいと言ってもまだまだ小さいので、足が床に届いていない。大人と違って重心が高い。深く頭を下げるとそのまま前のめりになって長椅子から転げ落ちそうになったところを、アルベドが咄嗟に支えた。

 

「危ないでしょう? 気を付けなさい」

「……あい」

 

 幼いのを差し引いても呂律が怪しい。

 パッチリした目は半目となって、頭がゆらゆらと揺れている。

 

「仕方ないわね。寝ていいわ。ぐっすりとおやすみなさい。早く大きくなるのよ?」

「…………あぃ。……おやすみ……なさい……」

 

 こてんと倒れ、アルベドの膝を枕にして眠ってしまった。成長するために、たっぷりの睡眠が必要らしいのだ。

 

「ふふ、もう寝ちゃったわ」

 

 アルベドは、愛おしげに子の頭を撫でる。

 怜悧な目には暖かな光が宿り、子を見る眼差しは慈愛そのもの。

 子を愛する母の、無償の愛を体現していた。

 

「あなたもこっちに座ってソフィーを撫でてあげて」

「……はい。では、恐れながら」

「……あなたと、私の、二人の子供なのよ? ソフィーは私の娘だけれど、あなたの娘でもあるの。恐れながらなんて、父親の態度に相応しくないわ」

「そうは仰いますが、アルベド様のご息女を軽々しく扱うわけには参りません」

「矯正しなさい。ソフィーはいずれあなたの側に置くつもりだから。……公的に私の娘として扱うわけにはいかないわ。そしてあなたの娘とすることも出来ない。私が召喚したサキュバスをあなたに付けるという形にするから覚えておきなさい」

「はっ、かしこまりました」

「でも、今は私たちだけよ。私がママで、あなたがパパで、私たちの子供がソフィーなの♡」

「……はい」

 

 ソフィーを挟んでアルベドの反対側に座ろうとすると目線で咎められる。アルベドのすぐ隣に座り直した。

 むっちりとしたアルベドの太股を枕に、幼子がすやすやと寝息を立てている。促され、頬を撫でた。つるつるでぷにぷにで、子供特有の高い体温で、とても愛らしいとは思うのだが、やはり自分の子供であるとの実感は今一つである。

 

「今までは眠っている姿を目にしただけだったのですが、もう喋れるのですね」

「本能を受け継ぐだけの人間とは違うわ。知識も受け継ぐのよ。経験はまだこれからだから色々と教えてあげないと」

「私に付けると言うことは、教育は私が施すことになるのでしょうか?」

「今は私が付いていられる。忙しくなってきたらそうもいかないからそうなるわね。知識はある程度備えているから情緒面ね」

「情緒面……」

「難しく考えなくていいわ。いつものあなたでいればいいのよ」

 

 ソフィーを撫でていた手が触れ合った。どちらからともなく握り、指を絡める。

 アルベドはねだるような流し目を送り、言葉にするまでもなく唇を重ねた。

 ふっくらとした唇を味わい、ぬめる舌を絡め合う。

 唇が離れても、手は握ったまま。

 

「ソフィーのことはゆっくりしていけばいいわ。もう少し長く起きていられるようになって、全てはそれからね」

「かしこまりました」

 

 娘のことについて当面の方針が固まったところで、近況の報告を始めた。

 

 

 ソリュシャンの強い勧めで帝国騎士のレイナースに手を出し、魔導国に受け入れる予定であること。レイナースは帝国で地位ある四騎士の一人であるため、皇帝がこちらと話をしたがっていること。これらについては自分が適切に対応すること。

 レイナースについては好きにしなさいと言うだけだったアルベドだが、続いての話では眉根を寄せた。

 

「あの女に手駒は必要ないわ」

 

 屋敷に侵入したティアとティナの件である。

 処分しようと思ったがラナーの手駒であるため断念。適切な教育を施して帰らせる予定だった。

 

「申し訳ございません。まずはアルベド様にご報告するべきでした」

 

 しかし、そもそもアルベドに報告するつもりはなかった。

 それなのに報告しているのは、

 

「シャルティアと競争?」

 

 シャルティアが関わってしまったからだ。ナザリックの階層守護者が関わる事柄を報告しないわけにはいかない。

 ティアとティナをそれぞれを調教し、どちらが上手に調教できるかを競う調教競争とは語呂がいいだけで中身は頭痛が痛くなってくるのはどういうことか。

 

 アルベドも頭痛が痛くなってきたらしい。

 よった眉根に美しい皺が刻まれ、目尻が上がってくる。

 これでもしも負けた時のペナルティを話そうものならご機嫌が急転直下するのは目に見えている。男はあえて何も言わず、ジャケットのポケットからさっと細長い箱を取り出した。

 

「私がいない間も責められるようにこのようなものを作ってみました。アルベド様のご意見をお伺いしたく思います。お確かめください」

「なにかしら?」

 

 銀色の箱である。見た目通りに銀で作られている。

 宝石をはめ込むなどの象嵌はなく、彩色もない。代わりに生い茂る草木をモチーフにした意匠がところ狭しと刻まれている。形状的に不向きだが宝石箱にしてもよい出来だ。

 字は下手なのに形を捉えるのはとても巧い男である。

 

「こ、これは!」

 

 箱を開いて現れた物は。

 アルベドは大きく目を見開いて、中に入っていた棒状のものを取り出した。

 

「レイナースから張り形がどうのと聞いて思い付き、作ってみました」

 

 アルベドが手にしているのは、太さが親指と人差し指で作る輪ほどもあり、長さは親指と中指をめいっぱい伸ばした時よりもある円柱状のもの。先端には球を潰して斜めに付けたような形。

 いわゆる張り形。異本の用語で言うところのディルド。ちんこの形をした大人の玩具であった。

 

 この男が自分のものを参考にして作ったのだ。

 素材は木、象牙、何故かあったドラゴンの角などを試し、木製に落ち着いた。

 コキュートスからもらった切れ味抜群のショートカタナブレイドで形を作り、どうしても残ってしまう削り跡はソリュシャン特製溶解液で丁寧に消す。形が出来たらあれやこれやを工夫した上塗り液を幾重にも塗り重ねて完成である。

 塗装してあるので木目は見えない。色は純白。表面は鉄よりも固くつるつるで、けども木の暖かみがある。

 

 コキュートスからもらったショートカタナブレイドで、料理に続いてディルド作製。コキュートスが知ったら泣きはしないだろうが厳しく叱るのは間違いないと思われた。

 

「これを、私に?」

「もしもお気に召されましたらお納めください」

 

 そのつもりで見せたのだ。

 完成に至るまで、試作品、改良品を経た。

 試作品はアトリエに軽食を持ってきてくれたシクススへ、とりあえず作ってみたものだからあげるよと言ったところ、

 

『若旦那様は私をなんだと思っていらっしゃるのですか! これは一体何に使うものなんですかまさか見た目通りとは言わないですよね見た目通りだったらこれをあれしろって言うつもりですかしてみせろとか言われても絶対しませんから本当にもう若旦那様はそんなことしか考えていないんですかいないんですね若旦那様のエッチ!! でもこんなものがこんなところにあってもお困りでしょうから私が処分してあげます。私が処分することは絶対に誰にも言わないでください』

 

 と叱られた。

 ちなみに象牙製だった。完成品と同様の塗装をしてあるので、使い勝手は割と良いはずである。

 

 不思議なことに、次に作った改良品はいつの間にかなくなっていた。

 ドラゴンの角製であり、触ると熱いまではいかないが体温より若干高い。きちんと塗装して表面はつるつるでとてもいい感じに仕上がったのだが、重かった。ドラゴンの角は武具に使用されることもあるくらいで密度が大きいのだ。

 多少重かろうと、もしも市場に流れれば高級ディルドとして高値がついたことだろう。

 なくなったのはいささか残念ではあるが、机の上にほったらかしにしていたので誰かが片付けてくれたのかもしれない。

 

 そうして出来上がった完成品は、フォルム・重量・手触りの全てにこだわった逸品である。

 

「嬉しい……♡」

 

 アルベドは、ディルドを胸に抱いた。

 愛しい男からの嬉しいプレゼントに喜ぶ女の図なのだが、もらったのはディルドである。

 

「これをあなただと思って毎晩入れて寝ることにするわ」

「光栄です」

 

 しかし、ディルドである。

 サキュバス的に最高の贈り物だった。

 

「こんなに好い物をもらったんですもの。少しだけあなたの手助けしてあげる」

「と、仰いますと?」

 

 アルベドは妖艶に笑って、両手を掲げた。

 

クリエイトサキュバス御用達アイテム(淫具創造)!》

 

 覚醒サキュバスのシークレットサキュバススキルである。

 濃密なピンクの光から現れたのは、ピンク色のディルド。紐が付いている小さな卵形。先端が丸まっている円錐状のもの。

 ピンクアイテムたちはアルベドの手に収まった。

 

「これを調教に使いなさい。これはディルドじゃなくてバイブよ。こうするとうねうね動くの。こっちはローター。触ってみなさい。振動しているのがわかるでしょう? これをクリちゃんや乳首に当てると気持ちいいのよ。それでこっちはアナルプラグ。お尻に栓をしてあげるものね。他にもアナルパールって言うのがあるんだけど、それはまだ私も使ったことがないの。今度用意するから私に使ってみなさい」

 

 淫具を説明するアルベドの目は輝いていた。

 どれも日常的に使っているアイテムである。秘密の特別を自慢する子供のようであった。

 

 

 

▼ ▼

 

 

 

「こほん!」

 

 アルベドはわざとらしく咳払いした。

 

「私からも話があるわ。最近、困ってることがあるの」

「何なりとお申し付けください」

 

 アルベド様を困らせることは我が身命に代えても打ち倒してみせる。男は命を懸ける覚悟を決めた。

 しかし、そこまで大事ではないようだ。アルベドは少し困ったように笑って、男を元の椅子に座らせた。ソフィーを起こさないように頭の下にクッションを差し込み、自分も立ち上がる。

 椅子に座った男の脚を跨ぎ、向き合って座った。座るなり立ち上がって男の脚の上にクッションを置く。そしてもう一度座り直した。

 わざわざクッションを敷いたため、男の目の前にアルベドの胸が来た。白い胸の谷間と目があった。

 アルベドの装いは白いセーターワンピース。タイトでボディラインを強調するセーター。鎖骨も肩も出していないのに、何故か胸元が開いて谷間をアピール。当然のように丈はとても短い。ミニからマイクロよりのマイクロである。童貞を殺すセーターである。

 

「ソフィーの食事が変わってきたの。まだ量は食べられないのだけど、私たちと同じ物を食べられるようになったわ」

「日々成長しているのですね」

「そうね。嬉しいんだけど、私の予想より早く大きくなってるの。それで少し困ったことになって……」

 

 開いている胸部をさらに開いた。母性の象徴であり、至高の美巨乳がポロリとこぼれでてタプンと揺れる。ただでさえ素晴らしいおっぱいがセーターで寄せられているため、スゴい迫力だ。

 しかし、全部白い。

 おっぱいが白いのはいいのだが、先端まで白い。具体的には、白いガーゼが貼られている。

 まさか、乳首パックなのだろうか。

 アルベド様の乳首は薔薇色にミルクを垂らした美色であって、けっして黒くなったりしないはず!

 

 まさかまさかの思いはすぐに解消された。

 ガーゼが剥がされると、現れたのは美しい色をした愛らしい突起。

 目の前にあるのだから、すぐにでもむしゃぶりつきたくなる。

 

「口を開きなさい。もっと大きく。そのまま動かないで」

 

 命じられた通りに口を開く。

 アルベドは片方の乳房を持ち上げ、乳輪のあたりから搾るように乳房を揉み始めた。

 三度揉んだ時である。

 

「!?」

 

 アルベドの乳首から、ピューっと液体が噴き出てきた。

 真っ直ぐに飛んだ液体は、男の口へ入っていく。

 

「わかったかしら?」

 

 アルベドの乳首は白い液体に濡れている。

 粘性はないようで、下へ下へと垂れていく。

 

「今まではソフィーにおっぱいをあげてたのだけど、おっぱいを卒業しちゃったの。でも今見たとおりにまだおっぱいが出てきちゃうのよ。だからガーゼを貼っているのよ。ガーゼがないと服がミルクで濡れちゃって。それで、余ったおっぱいなんだけど……、あなたに飲んで欲しいの♡」

 

 母乳を飲んで欲しいと言うことだった。

 セーターの胸元が開いているのは、授乳のためだったのだ。

 

「是非にも飲ませていただきます」

 

 ソリュシャンの偽おっぱいではない。アルベド様の本当の本物の母乳である。

 今し方味わった至高の美味をもう一度飲むことが出来る。愛欲と食欲を同時に満たせる素晴らしさに、我知らず喉が鳴った。




出てきたけど活躍するかどうかは全くの未定です


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性母アルベド ▽アルベド♯16

身毒丸を知ったとき、日本の宿痾を知る


 視界いっぱいに広がる大きなおっぱい。白い乳房の先端には赤い乳首が色づいており、白いミルクが僅かに付着している。

 

 おっぱいテイスティングである。

 まずは乳首を濡らすミルクを一舐め。

 さらさらとして飲みやすいのにしっかりとしたボディ。仄かな甘さはアルベド様の体臭が移ったのか。言葉に表せない玄妙な美味。

 アルベド様がご息女のために生み出した母乳である。それを、飲んで良いのだ。ご息女はもう飲まないと言うのだから、至高の母乳を独り占め出来てしまう。

 愛欲と食欲と喜びを胸に、大きく口を開いてしゃぶりついた。

 

「あん♡ 乳首を舐めるんじゃなくて、ちゅうちゅう吸うの。あなたが舐めるから乳首が立って来ちゃったじゃない♡」

 

 口内で舌を動かす内に、柔らかな乳首が固く尖ってくる。

 弾力ある乳首は舌に楽しく、頭上から降ってくる甘い声はもっと心地よい。

 ここから甘噛みしてより尖らせたくなるのを、ぐっと我慢。舐めたり噛んだりせず、吸わなければならないのだ。吸うのだって大好きである。

 

「私がおっぱいを搾ってあげるから、ちゃあんと全部飲むのよ?」

 

 男が口に含んでいる右の乳房を、アルベドは両手で包んだ。

 根本から乳首の方へ、ゆっくりと搾っていく。男の唇に手が触れそうになるところで、潰すように強く搾った。同時に男の口の中で、アルベドの乳首からピューッと母乳が噴き出る。

 

 男の方はじっくりとテイスティングしたかったのだが、次から次へと噴き出てくる。味わうより飲まなければならない。

 無心で吸いつき、喉を鳴らして飲み込んだ。

 喉越しは滑らか。量はたっぷりで確かな飲み応え。味が究極なのは言うを待たず、滋味に溢れている。

 これを毎日飲んでいるなら、ご息女もといソフィーが大きくなっているのも頷ける。身体中に活力が満ちてくるようだ。

 乳首を舐めたり噛んだりより、吸うことに夢中になってしまう。

 

(うふふ、可愛い♡ 私のおっぱいを夢中で飲んでるわ。ソフィーもこんなふうに飲んでくれたわね。あっという間に大きくなっちゃったのは少し残念に思ってたけれど、この子がこんなに一生懸命飲んでくれるなら……これで良かったかも♡)

 

 アルベドは、乳房を絞りながらうっとりと男を見つめている。

 

「私のおっぱい美味しいかしら?」

 

 微かに、しかし何度も頷く。

 声を出すのが惜しいと言うかのように口を離さない。

 

「私のおっぱいミルクは全部あなたのものよ。好きなだけ飲んでいいわ。あん♡」

 

 乳首を甘噛みされ、先端だけを舐められた。

 ソフィーに授乳した時は、こんな風に舐められたことは一度もなかった。

 

「エッチな赤ちゃん♡ ママのおっぱいをいっぱい飲んで早く大きくなるのよ♡」

 

 うふふと微笑んだアルベドだったが、一瞬で白い肌に朱が上ってきた。

 頬を赤く染め、周囲を見回す。背後で愛娘が寝息を立てているだけで、他には誰もいない。

 無言でおっぱいを吸い続ける男を見下ろし、何かを言おうとして口を開いて閉じる。もう一度開いては閉じる。中々言葉になってくれない。

 何か言う前に何か言って欲しいのだが、男はちゅうちゅう吸っているだけ。

 焦れたアルベドが顔を真っ赤にしてさっきの言葉を取り消そうとした時、男の口が乳首から離れた。

 

「ママ」

「!!!!!!!!!!!!!!」

 

 アルベドは、くらりと来た。

 お腹を痛めて産んだ我が子を胸に抱いたときよりも大きな幸福感は圧倒的で胸を満たし、無限に溢れる無償の愛が全身から迸る。

 ハートにきゅんきゅんきている。腰から生える一対の黒翼がばっさばっさと羽ばたいて飛んでしまいそうになるが、それだけは堪えた。

 胸に抱いているこの男が、可愛くて愛しくて好きで大好きで気持ちが溢れてくる。

 一つになってお腹に入れて、もう一度産んであげたい。

 

「そうよ、私があなたのママよ。ママなのよ。ママのおっぱいミルクはあなただけのものなのよ。私の可愛い赤ちゃん♡ ママのおっぱいを好きなようにしていいからね♡」

「あい」

 

 乳首に吸いつきながらなので、くぐもった声がまたアルベドの母性を刺激した。

 全てが光に包まれて、薔薇色の世界が広がっているかのよう。

 銀色の頭を優しく両腕で抱きしめる。目を閉じて頬ずりをした。

 

(アルベド様はママと呼ばれたいのだな。アルベド様のお子になるとは恐れ多いが、赤ちゃんプレイなるものを最古図書館の書物で見た覚えがある。アルベド様にはママになってもらおう)

 

 母の愛を全く知らない男だった。

 生まれてこの方、実母と触れあったことは一度もない。もしかしたら出産直後に触れられたかも知れないがその程度である。実母の顔も名前も来歴も知っているが、会ったことは一度もない。遠目に見たことは何度か。何の感慨も覚えなかった。

 残念ながら、育ての親とは上手く行かなかった。もしも上手く行っていたら王国の貴族に囲われて、ゲヘナ作戦の折りにアルベドに囚われ今と似たような境遇になっていたかも知れない。右に行こうが左に行こうがたどり着く場所は一つであることもあるのだ。

 

 

 

▽ ▽

 

 

 

(ああ……、この子が可愛いからきゅんきゅんしちゃったじゃない! お胸だけじゃないわ。子宮もきゅんきゅんきちゃってるぅ。わたしママなのに、エッチなママになっちゃってるわ。赤ちゃんにおっぱい吸われてきゅんきゅんしちゃうなんて。でもおっきな赤ちゃんなんだから仕方ないわよね? ただの赤ちゃんはあんなのプレゼントしてくれないし)

 

 アルベドの手には、白い棒があった。

 固くて真っ直ぐで、つるつるしてる素敵な棒。

 真っ赤な舌を伸ばし、れろりと先端を舐めた。

 

「右のおっぱいだけじゃなくて、左のおっぱいもちゃんと吸うのよ? ママが見ていてあげるから、今度は自分でおっぱいをもみもみしておっぱいミルクを出してごらんなさい」

「はい、わかりました。……ママ」

「いい子、えらい子、かしこい子♡ あなたがおっぱいを吸ってる間に、ママはあなたからのプレゼントを触ってみるわ。あなたのママは……、エッチなママなの。ママがエッチでも、あなたは許してくれる?」

 

 ディルドを片手に、首を傾げて媚びるように言う。

 

「ママがおっぱいを飲ませてくれるから、ゆるします」

「うふふ、ありがとう♡ ママのおっぱいはあなただけのものなのよ? いっぱい吸っていっぱい飲みなさい。でもママはエッチだからぁ……、吸うだけじゃなくてはむはむしたりレロレロして欲しいわぁ♡」

「わかりました」

 

 言われた通りに左の乳房へ。

 アルベドがしていたように、乳房の根本から絞っていく。乳輪近くで強めに押すと、乳首から母乳が噴き出る。

 今度は自分で絞っているので、続けては噴き出させない。母乳を舌で転がし、じっくりと味わってから飲み干す。乳首を味わうのも忘れない。

 乳首の根本を軽く歯で押さえ、逃がさないようにしてから舌で責める。そうして乳房を絞ると、普通に絞った時より勢いよく母乳が噴き出た。

 

「ああん♡ おっぱいをいじめるのが上手な赤ちゃんね♡ ママの赤ちゃんだもの、エッチが上手で当たり前よね♡ あなたのママもとってもエッチで、エッチなことが上手なのよ? ママはこんなことしちゃってるんだからぁ……、あむ、……れろぉ……、じゅぷじゅぷ……、じゅっ……ちゅる……」

 

 アルベドは、ディルドを咥えた。

 男の逸物を模した白い棒は、表面がつるつるで舐めると舌触りが滑らか。白い表面に残る唾は重力に従って流れ落ちていく。いくら舐めても表面は乾いたままに見えるのに、舐めたり撫でたりしてみると、不思議なことにしっとりしている。

 握り、舐め続ける内に、ほんのりと温かくなっていく。体温が移ったのか、それとも発熱するようになっているのか。

 先端の膨らんだ亀頭部を口に含む。

 記憶にある形と一緒で、体が熱くなってくる。

 軽く歯を立ててみると、少しだけ沈む。表面は固いようでいて少しだけ弾力があるようだ。

 

「んぐっ……んっ、んっ……んーーーっ……。ぷはぁ……、あなたのより少し短いかしら? でも、とっても素敵なプレゼントよ♡ ママ、とっても気に入っちゃったわ♡ これから毎日、これをあなたのおちんぽだと思ってしゃぶることにするからね? それでね? あなたのおちんぽをしゃぶった後はぁ……、ママもエッチな気持ちになってるからぁ……」

 

 アルベドが少しだけ腰を浮かせ、ディルドを持った手を後ろへ回し、んっんっと喉を鳴らした。

 

 男はアルベドの乳首に吸いつきながら、空いた右の乳房を弄っているのはそれこそ幼子のよう。

 大きく違うのは触り方。

 ふんわりと柔らかいマシュマロおっぱいを鷲掴みしてこねくり回す。尖った乳首を指で押し込み、戻ってきたら摘まんで引っ張る。そうこうしている内に、手が濡れてきた。吸い残した母乳が乳首からにじみ出て、垂れている。

 

「そんな飲み方するなんて。やっぱりあなたはかしこい子ね♡」

 

 セーターに挟まれて寄せられている乳房を、両手を使って更に寄せる。

 そしてそのまま、両方の乳首を口に含んだ。美しいだけでなく、大きなおっぱいだからこそ出来る両乳首舐めである。

 

「ねえ…………。おっぱいだけじゃなくてぇ……」

 

 おっぱいミルクは、吸えば出て来るのだが、最初の勢いはない。

 吸い付くのを中断して上を向くと、アルベドが下を向いていた。黄金の瞳が濡れている。

 アルベドは唇を窄ませ、男は反対に大きく口を開いた。

 アルベドの唇から、泡だって白くなっている唾が糸を引いて垂れてくる。男の口の中へぺちゃりと落ちた。アルベドの唾を、男は母乳を味わったときのように口内で転がして、飲み干した。

 親鳥が雛へ餌を与えるようだった。

 

「あなたばっかりじゃなくて、ママにも飲ませて」

 

 尻の下に敷いていたクッションを放り投げる。

 男の上に直に座って、アルベドは男の頬を両手で包んだ。

 赤い唇を妖しく開き、赤い舌を蠢かせる。

 ちゅっと優しく口付けをした。唇を押し付け、舌と舌を絡ませあう。

 湧いてきた唾を二人の舌が熱心に攪拌し、二人の体温が混ざり合う。

 アルベドがじゅるじゅると音を鳴らして唾を啜り始める頃になると、アルベドの手は男の頬から背中へ回されていた。

 強く抱きしめ、体を押し付ける。

 乳首から滲み続ける母乳が男のシャツを濡らすが、二人とも気にしていない。

 

 アルベドが抱きしめているのだから、男の腕もアルベドへ伸びている。

 こちらは背中ではなく、尻。

 マイクロよりのマイクロのセーターは、男が触れる前からめくられていた。アルベドは大きな尻を丸出しにしている。

 男は白い尻をさわさわと撫でながら、少しずつ脚を開いていった。そうすると、男の太股を跨いでいるアルベドの脚もまた開かれていく。

 キスの主導権はアルベドに握られ、赤い舌が口内を蹂躙していく。隅々まで舐められ吸われ、淫靡な唾を飲まされる。

 代わりに男は、アルベドの尻肉を揉んでいた。

 ぐいと引き寄せ下腹同士を密着させ、尻の柔らかさと弾力を楽しんでいる。

 尻肉を掴み左右に引っ張って、尻の割れ目を広げさせる。きっと尻の穴も広がっているに違いない。

 右手の中指を尻の割れ目に沿って伸ばす。パンツは履いていないようだ。

 尻の割れ目はしっとりと汗ばんで、熱気が絡みついてきた。

 

「あん……、そこ、おしりのあなぁ……。あっ、あっ……、あなたを産んであげるのは前の穴なんだからぁ。でも、ママはエッチだから、お尻の穴も好きよ♡ お尻の穴でもいっぱい気持ちよくなっちゃうの……。あなたを思っていつもいじいじしちゃってるのぉ♡」

 

 特製ローションを使ってないにも関わらず、アルベドの尻穴は男の指を飲み込んだ。

 入れるときは柔らかかったのに、第二間接まで入ると熱くきつく締め付けてくる。

 動かせる範囲で抽送すると、アルベドの美顔が蕩けて歪んだ。

 

 キスをしていたのだから、アルベドの顔はまさに目の前にある。

 眉尻が下がり、瞳が潤って輝いてくる。

 赤い唇を丸く小さく開いて熱い息を吹きかけてくる。甘く芳しいサキュバスの吐息。

 唇の端に唾液が溜まり、ついには垂れた。

 アルベドは、尻の穴をほじられて涎を垂らした。

 垂れた涎は顎へ伝って、滴り落ちる前に、男が舐めとった。

 白い肌に這う涎の跡を男の舌が辿って、アルベドの唇へ。

 

「あむっ、……ちゅっちゅっ……、ちゅる……んん……、上手よ♡ ママにいっぱいキスして。ママもいっぱいキスしてあげる。んっ……、あんっ……」

 

 アルベドの尻穴が締めているのは右手の指。左手がまだ残っている。

 こちらは右手より更に奥へ行く前に、アルベドの手を取った。

 密着させていた体を少しだけ離し、空いた隙間へアルベドの手を差し入れた。

 

「あら? そうよね、あなたもよね。ママがこんなになってるんですもの。あなたがこうなっちゃっうのも当然よね。ママのおっぱいをいっぱい吸って、おっぱいミルクをいっぱい飲んで、ママといっぱいキスして、ママのお尻の穴をいじいじしやってるんだもの。おちんぽが大きくなっちゃうわよね♡」

 

 アルベドの手に触れさせたのは、自身の股間だった。

 ズボンの下で張り詰めている。アルベドの母乳を一舐めしたときから立っていた。

 アルベドの至高の美巨乳を見れば勃起不可避は当然だが、母乳にそのような効果があったとしても不思議ではない。なにせとてもエッチな覚醒サキュバスの母乳なのだ。

 

「ママにおちんぽを気持ちよくして欲しいの?」

「ほしいです!」

「素直な子は大好きよ♡ いっぱい気持ちよくしてあげるからね♡ ちゅっ♡」

 

 素直ないい子にはいっぱいご褒美。

 アルベドは、男のズボンを下着ごと脱がせた。

 自分が上に座っているのに、一瞬で脱がせてしまう早業は、覚醒サキュバスにのみ可能なスキル『脱衣』である。

 

 跳ね上がった逸物はへそまで届く。

 アルベドは男へ唾を飲ませたときのように唇を窄め、泡立つ唾をぺとりと垂らす。

 垂らした唾は狙い違わず亀頭へ落ちた。繊手が唾で汚れるのも構わず、両手で亀頭を包んで塗り伸ばしていく。

 ディルドとは違う本物の逸物は、熱く逞しい。触れているだけで熱が移ってくる。

 

 アルベドの手コキなら瞬時に射精させることも可能。

 しかし、アルベドはわかっている。そんな無粋は絶対にしない。

 唾を亀頭から根本まで塗り伸ばした後は強く扱いたりせず、指先だけで逸物を愛撫している。

 とっても元気がいいので跳ねたがるのは、亀頭だけを摘まんで優しく揉んであげる。

 

「ママにおちんぽを触られて気持ちいいのね♪ おちんぽがピクピクしているわ。これからもっともっと気持ちよくしてあげる。だからぁ……、ママのこともいっぱい気持ちよくするのよ?」

 

 アルベド様が期待なさっている。

 止まっていた左手を更に進め、辿り着いたそこは、固かった。

 

「あなたのプレゼントを早速使っちゃってるの。あなたのよりちょっと短いから奥まで来ないけど、気持ちいいところに当たってるわ。使い心地は最高よ。素敵なプレゼントをありがとう♡ おちんぽをいっぱいしごいてあげるからぁ……、ママのおまんこでいっぱいぬぷぬぷして欲しいな♡」

 

 アルベドの雌穴は、涎を垂らしながらディルドを咥えていた。膣に挿入しながら授乳していた。

 包容力たっぷりのアルベドは、ディルドが根本まで入っている。少し押してやれば全部入ってしまいそう。

 僅かに出ている根本を摘まみ、軽く引っ張る。押し出されるようにぬるりと出てきた。

 出きる前に押し入れるとディルド越しにアルベドの柔らかさを感じ、手を離すとまたも出てくる。

 

「ああ……はあ……、おまんこが気持ちいいわ。あなたの気持ちを感じるの。……でもでもあなたのおちんぽの方がずっと気持ちいいから勘違いしてはダメよ? ママのおまんこが一番好きなのはあなたのおちんぽなんだから」

 

 アルベドからも股を開いた。

 体をやや反らせて後ろへ傾き、倒れないように左手は男の首へ回す。

 右手は逸物を握っている。ゆるゆると上下に動き、あまやかな刺激を送り続ける。射精には至らせず、高ぶらせるためのサキュバスの手技。

 大きく張った乳房の真っ赤な乳首は、アルベドの興奮に呼応してか未だに母乳を滲ませている。白い乳房を伝って流れ、セーターへと染みていった。

 

「やん♡」

 

 男が乳房を握りしめる。

 脇から包んで握ったので、母乳がピュッと噴き出て男にかかった。

 男の手はアルベドの股間へ届く前に、白いセーターをめくりあげる。乳房の下まで捲り上げられ、白い腹に形のよいへそと、ぬめるような下腹にはピンク色の淫紋が輝いている。

 アルベドは逸物から手を離し、下腹を撫でた。細い指が淫紋の下端を指し示した。

 

「ここが膣を表しているの。今はディルドが入ってて、次にあなたのおちんぽが入る場所よ。そしてここが……」

 

 指先がつつつと上がり、淫紋の中心部を指す。

 

「ハートのマークになっているここが、子宮。女の一番大切なところで、赤ちゃんの部屋よ。ソフィーはこの奥にいたの。あなたがママの中で出してるおちんぽミルクは全部ここまで来てるわ。あなたはママのお腹にまで来ちゃってるのよ♡」

 

 ボディラインを露わにするタイトなセーターなので、手を離してもずり落ちてこない。

 由緒正しきサキュバスエンブレムの解説を聞きながら、今度こそアルベドの股間へ触れた。

 膣から顔を出してるディルドの根本を摘まみ、リズム良く上下させる。

 

「ああ……、そうよ、それでいいのよ♡ うふふ、ママのおまんこでじゅぷじゅぷしてるわ♡ 気持ちいいわよ? あなたもおちんぽが気持ちいいでしょう? ママがシコシコしてあげてるんだもの」

 

 アルベドは恍惚と目を閉じて感じ入っていながらも、逸物を扱くのを忘れない。

 ディルドが上下するリズムに合わせて、アルベドの手も上下する。

 ぬぷぬぷとしていたのがじゅぷじゅぷとなり、アルベドの愛液がディルドを伝って滴っている。

 

 アルベドが濡らしていれば男の方も。尿道口には先走りの汁が滲み、透明な珠を作る。

 珠が出きる度にアルベドの指が潰す。美しい指先と亀頭とでねっとりと糸を引く。

 アルベドは汚れた指をパクリと咥えて丁寧に舐めとり、もう一度亀頭へ唾を垂らした。

 滑りを良くするための唾は、熱い逸物とアルベドの手の間で何度も攪拌される内に、白い汁となってきた。

 

「ああんっ! そこっ……、そこなのぉ♡ ディルドなのに、にせものおちんぽなのに、おまんこイっちゃうのぉ! やああああああああぁぁぁあぁぁぁああん♡」

 

 ディルドから滴るアルベドのアルベド汁も白くなってきた。

 膣内でたっぷり攪拌されたのと、アルベドが本気で感じて本気で達しているから。

 男がレベルアップしているように、アルベドのおまんこもレベルアップしてきていた。

 濡れやすく感じやすく、より淫蕩に。

 透明な愛液を垂らすだけだったのが、本気汁を垂らすように。

 

「はあ……はあ……、にせものおちんぽでこんなにきもちいなんて。あなたのプレゼント最高よ♡」

 

 男の肩に手を置き、荒い息を吐く。

 顔を上げれば男の顔。

 互いの吐息を嗅いで吸って、相手の目に自分の目が映っている。

 唇を掠めさせながら、言葉を交わした。

 

「あっ……。抜いちゃうの?」

「ディルドじゃなくて、今度はこっちを入れたいです」

「いけない子ね。ママのお腹に帰りたいの?」

「帰りたいです!」

「ええ、もちろんいいわよ。さあ……、ママのお腹に帰ってらっしゃい♡」

 

 アルベドが腰を浮かせる。

 男は腰を進めて浅く座る。

 アルベドは逸物の位置を合わせてやって、腰を下ろした。ぬぷりと抵抗なく埋まっていく。

 

「あはっ、お帰りなさい♡ ママのお腹は気持ちいいでしょう?」

「すごく気持ちいいです……」

「ママも気持ちいいわ。あなたがくれたディルドも良かったけれど、やっぱりあなたのおちんぽが最高よ♡」

 

 男に抱きつき、腰を振り始めた。

 時折椅子が浮いてガタと大きな音を立てる。アルベドの嬌声はそれより大きい。

 あんあんと美しい声で鳴き、心情のこもった声で愛を囁く。

 

「あんっ、あんっ、ああんっっ! ママのお腹に帰ってくるなんて、なんてエッチな赤ちゃんなの! あっ、はあぁあん♡ あん♡ 子宮がこんこんされてるぅ♡」

 

 アルベドの膣は、ディルドより長い逸物を根本まで受け入れている。

 今まで何度も交わり、膣が形を覚えていた。入って来る時はゆるりと広がり、入りきると隙間なく密着して締め上げる。

 腰を振らなくても媚肉が蠢き、太い肉棒を愛撫した。

 無数の舌で舐められているようで、隅から隅まで丹念に、それを全て同時に刺激してくる。

 

「ま……ママ!」

「いいのよ? ママのおまんこでいっぱい気持ちよくなりなさい♡ あむっ、ちゅっ………………。んっ、んっ……、ちゅるちゅる……じゅぷぅ……」

 

 唇を合わせればアルベドから舌を絡める。

 口内へ舌を忍ばせ、貪るように唾を啜った。

 

 椅子の上に座った対面座位で、アルベドが上になっている。

 下からでは腰を振れず、アルベドだけが上下運動している。

 キスをするのもアルベドからで、完全に主導権を握っていた。

 アルベドママは愛しい子を気持ちよくしてあげようと、何から何まで自分がしてやらなければと思っているのだ。

 

 それはそれでとても気持ちよい。身を任せるのに些かの不満もない。

 しかし、ママと赤ちゃんはプレイの一環であり、自分がアルベドを悦ばせなければならない。

 考えはある。要はタイミングだ。

 アルベドは深い快感を味わいながら浅イきを何度も繰り返しているようで、十数回も往復すると動きが止まって甘い声で鳴きながら膣と尻をピクピクと震わせる。

 されど偉大すぎる大淫魔であられるアルベド様なので、秒で回復。イってる最中だろうに、痙攣している膣で逸物の扱きを再開してしまう。

 これには射精コントロールもあるのではと思わされた。小休止を入れることによって強い刺激を中断し、交合を長引かせるのだ。そうして高めに高めまくって、中出しをさせる。さすがのアルベド様である。

 

「あっっっはあああああぁあぁぁん♡ …………あなたのおちんぽが気持ちよすぎてママも気持ちよくなっちゃったわ♡ でもぉ、まだまだこれからなのよ? まだおちんぽミルクを出しちゃダメなのよ? ……あら? …………それは!!」

 

 始めてから七回目の絶頂。

 今までの浅イきより深いようで、休憩時間が長い。

 絶好のチャンスだった。

 

「っ!??!?! ダメよダメ! もうおまんこにおちんぽが入ってるのよ!? もう入らないわ! そんなの入れちゃったらママは、ママは、ひゃううぅ! ママ壊れちゃうぅ♡」

 

 手には、さっきまでアルベド様の中に入っていたディルドがあった。

 アルベド様にはもう一カ所入る場所がある。

 授乳している時にたっぷりいじってよくほぐしたところ。

 尻の穴にディルドを押し当て、一息に押し込んだ。アルベド汁をたっぷり吸ったディルドは、肉の抵抗を押しのけ根本まで入りきった。

 直腸と膣を隔てる薄い媚肉越しに、逸物が堅いディルドが入ってくるのを感じ取った。

 

「あ……ああ…………、おまんこと、お尻の穴に入ってるぅ……。お腹いっぱいになっちゃってるぅ……」

 

 男の体にすがりつき、呻くように言った。

 言っただけでなく、イっていた。

 ただでさえ太い逸物は、圧迫感がある。それに加えて同等の太さを持つディルドを尻穴に挿入された。

 夢にまで見た憧れの二本挿しだった。

 

「あっ……ダメ……すごい……! イっちゃってるのに腰が止まらないのぉ! あっあっあっ、おしりも、おまんこもぉっ! おちんぽ好きぃ。あなたも大好きぃ♡ わたしの赤ちゃん、赤ちゃんのパパぁ……、あぁぁっ、あんっ!」

 

 尻に異物を入れられたまま、アルベドは腰を振った。椅子がガタガタと揺れる。

 逸物が膣を抉り、亀頭が何度も子宮口を叩く。その度にアルベドの視界で火花が散って、夢と現の境が消えていく。

 今ここが世界の全てで、世界にはアルベドと、娘と、娘の父の三者しかいない。

 

「あなたがパパよ! ソフィーのパパなんだからぁ! ママはパパの子供を産んだのよ!!」

 

 顎を上げ、仰け反って叫んだ。

 パパとママと、娘を殊更に強調したのは、一体何を思ったか。

 

「ええ、私の子供を産んで頂きました」

「あ………ああっ…………………♡」

 

 叫んだ時は必死の形相で、今は慈悲と慈愛に満ち溢れている。

 アルベドは恍惚にとろけた顔で、男の首筋にすがりついた。

 膣がきゅうきゅうと締まった。尻だけでなく、全身を小刻みに震わせるのは、言葉だけで深い絶頂に届いたから。

 鼻が触れ合う距離で見つめるアルベドの瞳には、淫紋の中心部にあるハートマークが浮かんでいるように見えた。

 

 

 

「アルベド様……、そろそろ私の方も……」

「ええ、そうね。私は何回もイっちゃったけれど、あなたはまだよね」

 

 出そうと思えば出そうな時が何度もあった。

 その時はアルベド様の膣内コントロールで抑えられたり、あえて我慢したりもした。

 しかし今。

 アルベドが達しながらもノンストップの激しい抽送で、最後の瞬間はこれでもかと絞られ、無数の肉ひだが個別に意志を持っているかのように絡みついてきた。

 出ないわけがないのに出ていないのは、アルベドが押さえているから。

 アルベドは射精の予兆を感じた瞬間に右手を股間に伸ばし、逸物の根本を二本の指で挟んでいた。

 ソフィーを孕んだ、と言うことにした時と同じ。サキュバススキルによる射精抑制である。

 

 アルベドは妖艶に笑い、男の上から降りた。

 ずるりと引き抜かれた逸物には、アルベドの本気のアルベド汁がたっぷりと絡んでいる。

 

「あ、アルベド、様……!」

「なあに? ……あーん。ちゅぷぅ……、くちゅくちゅ……んむぅ……、んっんっ、れろ……じゅぷ……」

 

 アルベドは男の前に股を開いて屈み、そそり立つ逸物を口で咥えた。

 自身の愛液をきれいに舐めとって飲み込み、口をすぼめて吸いつきながら頭を振る。

 上の口ではじゅっぽじゅっぽと卑猥な音を立て、下の口はくちゅくちゅと水音が鳴る。

 右手で逸物を押さえ、左手では股間を弄っていた。薬指と中指を揃えて折り曲げ、膣へと挿入して抽送している。

 ぽたりぽたりと愛液が滴り落ち、尻穴のディルドが抜けそうになったときは床に尻をついて中へと押し込んだ。

 

 口の中で逸物が暴れている。

 出したいと訴えている。

 男からは苦鳴が聞こえた。男という生き物にとって、出したいのに出せないのはとても苦痛なのだ。

 

 アルベドがもう十分と判断したところで、逸物のカリを唇に引っかけるようにして亀頭だけを口に含んだ。

 敏感な裏筋をれろれろと舌で刺激してから、舌の腹を尿道口に優しく乗せる。

 右手を緩めた。

 瞬間、どぴゅるるる、どぴゅっぴゅぴゅっ、と勢いよく射精した。

 白濁した熱い粘液は、全てアルベドの口の中に吐き出された。

 アルベドは口内にたっぷりと精液を溜め、頬を膨らませたままちゅるちゅると吸う。

 尿道に残った精液も全部吸い取るお掃除フェラ。本当ならもっと舐めてあげて綺麗にしてあげたいところだが、することがあった。

 

 口内の精液を舌でかき混ぜながら、娘が眠る長椅子に近付く。

 クッションを枕に眠る娘を、起こさないように注意して上を向かせた。

 柔らかですべすべでぷにぷにの頬を押さえ、小さな唇を開かせる。

 アルベドは小さな唇に顔を近付けて、口を窄ませた。

 アルベドの口から、唾よりも粘性が高い白濁した粘液がとろりと垂らされる。アルベドの唾と混じり合った精液は長く糸を引き、娘の口内へと垂らされた。

 その瞬間、娘の口と母の口を、精液の糸がつないでいた。

 

「ソフィーにも栄養をあげないといけないの」

 

 美しい母が美しい娘に、射精したばかりの精液を口移しで与えている。

 目眩がするほど倒錯的だった。

 

「いつか直に飲ませてあげてね」

「!?」

 

 

 

▼ ▼ ▼

 

 

 

 その後、アルベドは数度のお食事をしてから、ソフィーを連れて奥の間のシークレットルームに戻っていった。

 

 すでに夜。

 後は酒を飲んで寝るだけだ。

 寝室では、双子幼女がベッドを暖めていた。

 

 夜の添い寝役は日によって違う。

 ソリュシャン、ルプスレギナ、エロイム、発情狼、たまにシクスス。それ以外は双子幼女を抱き枕にする。

 アルベド様のお食事日の後は、必ず双子幼女となっていた。

 

 たっぷりと絞られた後なので、することをする元気がないのもある。

 それはルプスレギナの回復魔法で回復可能であるが、そのルプスレギナとて近付かない。

 アルベド様の後で、となるとどうしたって彼の美神にして大淫魔と比べられる。女のプライドがそんなことを許さない。

 結果、双子幼女の出番となるわけだ。

 

 向き合ってすこやかな寝息を立てている双子幼女を、男は優しく揺り起こした。

 

「「……ごしゅじんさま?」」

「ウレイ、クー、二人とも服を脱いでごらん」

「おきがえですか?」

「おふろですか?」

「裸で寝るのも気持ちいいんだ」

「「はあい」」

 

 双子は眠たげに目をこすり、言われた通りに服を脱ぎ始めた。

 

 双子が着ているナイトウェアはゆったりとしたワンピース。色はどちらも淡いピンクで、やっぱり見分けがつかない。いつでもどこでも二人で一つである。

 ワンピースの下は白いスリップ。パンツはお尻まで覆う履き心地重視の物。

 半ば寝ぼけていてもたった三枚だ。さして待たされることなく、幼女たちは一糸まとわぬ姿となった。

 

「………………」

「「ごしゅじんさま?」」

 

 幼女の裸身を真剣な目で見つめる男。

 意を決して手を伸ばした。

 

「ふにゃっ」

 

 ぷにっとした。

 

「ごしゅじんさま、クーも。……えへへ」

 

 こっちはさらさら。

 

 男がウレイらしい方の幼女を触った箇所は、お腹だった。

 最初は胸を触ろうとした。しかし、部位としての胸部はあっても、胸はなかった。胸と言って語弊があれば、乳房がない。全くない。本当にない。全然ない。物の見事にまっ平ら。乳首は綺麗な蛍光ピンクだが、だからなんだ。

 胸囲より腹囲の方がある。

 買った時はガリガリだった幼女は、ルプスレギナの回復魔法と精神に安寧をもたらす素敵なお薬と、下手をすれば帝国の皇帝のものより上等な食事と、日々の適切な運動と教育によって、だいぶ肉がついてきた。

 その甲斐あってお腹はぷにぷにだ。

 

 クーらしい幼女の方を触った箇所は、頭だった。

 元々艶のある金髪だった。そこへこの男が趣味で作った洗髪剤や入浴剤を使い続けた結果、ソリュシャン並みとまではいかないまでも、本当の黄金のように光り輝く髪となった。色艶がよければ手触りだって極上。細く豊かな髪は、乾いた砂のようにさらさらと手のひらを流れていく。

 最初は股間を触ろうとした。幼女であっても割れ目はあって、股間には開いたことなど一度もないであろう一本筋がある。しかし、幼女だ。無毛で女の気配は微塵もない幼女なのだ。そんな幼女の股を触れるのは、用足しのあとでおしっこを拭いてやるようにしか思えない。

 

「くっくっく………………」

 

 男はうなだれ、自嘲めいた声で笑った。

 暗い笑い声だった。

 

「こんなん立つわけねーだろ……!」

 

 アルベド様のご息女もといソフィーは、双子幼女と同じくらいの背格好。

 アルベド様は、その幼女相手に立たせて出せと仰せになった。

 無理である。

 

 アルベド様のお言葉であっても、この世には無理なことが存在することを知った。

 

 ご主人様の不審な様子に、双子は顔を見合わせた。

 何も知らない子供同士では、答えが出てくるわけがなかった。




身毒丸(しんとくまる)は日本の舞台作品です
検索が面倒な人のためにキャッチコピーを以下に記します

「お母さん! もういちどぼくをにんしんしてください」

40年以上前から舞台でやってるようです
マザコンて日本の伝統だったんだ(驚愕


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改良型の行方

エンドルフィンの禁断症状を緩和するために書きました.:_(;゚。3;」∠ )_:.


「そうだ八本指だ。やっと思い出した」

 

 朝食の席で突然そんなことを言い出した若旦那様を、カルカとメイド達は怪訝な顔で見つめた。

 一方、八本指が何を意味するか知っているソリュシャンとルプスレギナは厳しい顔を作った。事態は深刻だ!

 

 数日前話題に上って既に答えが出ている事を今になって思い出すとはどう云うことか。おそらくは記憶を失ってしまったのだと思われる。若旦那様は頭を酷使し過ぎて、遂に頭がおかしくなってしまったのだ。元からおかしかったかも知れないがそのたぐいのおかしさとは違うおかしさだ。

 

 若旦那様は頭が良いとか賢いとか言うよりも、正しくは頭の出来が良いと言える。但し、使い方がなってない。

 例えるなら、ハードウェアはハイエンドだが走ってるソフトウェアはポンコツ。それでもハードは極上なので計算が早い。物凄く早い。100桁の数字の100乗根を暗算出来たりする。

 アインズ様が「こいつロボだろ」と疑ったルプーほいほいもといトランプタワー作製では、53枚のカード全ての状態と挙動を把握して計算して制御。空気の粘性や流れ、そこから生じる浮力も考慮に入れているのは言うまでもない。

 特製ローションを始めとする各種薬液は、脳内シミュレーションしてから最小限の実験で使える形にまで持っていく。

 そんな風に頭を酷使し続けているものだからどこかが焼き付いてしまったのだろう。

 

「昔、少し迷惑を掛けたことがあった。その相手が八本指って言われてたのを思い出したんだよ」

 

 ソリュシャンとルプスレギナが散々なことを思っているのは知らず、若旦那様は言葉を続けた。

 

「八本指は王国に巣くう犯罪組織です。八本指がお兄様に迷惑を掛けたのではなく、お兄様が迷惑を掛けたのですか?」

「おにーさんの昔って子供の頃の話っすよね?」

「ん……、まあな」

 

 自分から話しておきながら、若旦那様の歯切れは悪い。

 

「その頃、一年と少しくらいを王都の路上で生活してたことがあった」

「へーーー!!」

 

 若旦那様の昔話はレアである。ルプスレギナは身を乗り出して食いついた。

 ソリュシャンやカルカたちは、路上生活と聞いて目を丸くする。

 カルカは若旦那様の詳しいことを未だ聞かされていないが、ソリュシャンは若旦那様が十年ほど監禁されていたことを知っている。と言うことは、10歳に満たない幼子が一年以上も路上生活していたという事になる。

 

「その頃の王都は今よりも治安が悪くて昼間から人攫いがうようよしてたんだ」

 

 輝ける美貌の若旦那様の十年前なのだから、さぞや愛くるしい美少年であったことだろう。そんな美少年が路上で生活していれば、奴隷商人が目を付けないわけがない。昼夜問わず追われる毎日だった。

 

「人攫いっすか。よく捕まらなかったっすね?」

「俺はそんなに間抜けじゃないよ。王都の地理は完全に把握していたからね。断言するけど、ルプーでも俺を捕まえるのは無理だったと思うよ」

 

 無数に敷かれている石畳の一枚一枚の状態を把握するレベルで王都の地理を熟知していた。どこの屋敷のどの時間帯にはどの部屋に何人いて、その時開いてるドアや窓がどれであるかも知っていた。子供の路上生活であっても、衣食住に困ったことは一度もない。衣食は適度に拝借し、寝床は空き部屋を渡り歩いた。

 そこに加えて変装する。王国兵士による一斉摘発であっても捕まえるのは不可能だったろう。

 

「捕まるわけがなかったけどやっぱり鬱陶しくてね。それで、まあ…………、カルカ!」

「はい!」

 

 唐突に名指しされたカルカが背筋を伸ばす。

 

「たとえ話だ。カルカには敵がいるとする。敵に捕らえられたら嬲り物にされて殺される。カルカだけじゃない。ウレイやクーも、俺やソリュシャンにルプーも同じ目に遭わせてやろうと考えてる恐ろしい敵だ」

「……はい」

「ある日、カルカに呪いが掛かった」

「めちゃくちゃ脈絡ないっすね」

「たとえ話なんだからいいんだよ。呪いに掛かったカルカは三日後に死ぬ。呪いを解くためには生け贄が必要だ。生け贄に出来るのはカルカの敵だけ。敵を生け贄に捧げれば呪いはたちどころに消えてなくなる。代わりに千人の敵が死ぬ。どうする? 敵を生け贄に捧げるか?」

 

 ソリュシャンとルプスレギナにすれば考えるまでもない問いかけ。

 しかし、カルカは苦渋に顔を歪めた。元国家元首がこれだから聖王国はダメだったのだ。

 

「カルカは何もする必要がない。生け贄に捧げる、と言うだけでいい。それだけで千人の敵が死んでくれる。捧げなければカルカは死ぬ。カルカが死んだ後はウレイにクーに、俺にソリュシャンにと順に殺されていく」

「なんで私の名前が出てこないんすか!」

「一々全員の名前を挙げなくていいだろうが。それに殺される奴の名前だぞ……。それで? カルカはそれでも敵を生け贄に出来ないか?」

「生け贄を捧げた報いは……」

「全くない。敵が減って平穏な日々がやってくるくらいだ」

「………………、捧げます」

 

 悲痛な様子で答えたカルカとは対照的に、若旦那様は我が意を得たりとばかりに笑みさえ浮かべて頷いた。

 

「カルカだって捧げるんだ。幼かった俺が同じ事をするのも当然だ」

「つまり、お兄様は八本指の構成員を千人殺したと言うことですか?」

「いや千人は行かなかったと思うし俺が直接殺したわけじゃないしってかそんなの無理だし。結果的には似たようなことかも知れなかったけど。その時は明日を平穏に生きることしか考えてなかったが、今にして思うと悪いことしたかな」

「それでも千人とかかなりの数っすよ? 一体どうやったんすか?」

「過ぎたことなんだからいいじゃないか」

 

 火をつけたのだ。

 地理を完全に把握している子供の火付けである。八本指の奴隷部門に関係する人員が集まった時に、湿度や風向きに近隣の建築物の材料まで確認して火を放った。

 死者は八本指に留まらず、大惨事になった。

 王国が衰退し続けている要因の一つに、この時の大火が含まれているのは言うまでもない。

 それでもこの男に言わせれば、自身の身柄を付け狙う犯罪組織を幾ら処分したところで心は痛まないし、巻き込まれた連中も見て見ぬ振りをして来たのだから似たようなもの。平穏が手に入るのだから悪いことは一つもない。明日の平穏が何よりも大切な暮らしをしていたのだ。

 しかし、そうして手に入れた平穏は、ラナーに囚われて終わることになる。

 こちらはあちらを知らなかったが、あちらはこちらを知っていたのが最大にして唯一の敗因だった。

 

 それから十年。満ち足りた生活を手に入れ、当時を振り返れば迷惑掛けたなと反省しなくもない。

 心にゆとりを持つには生活の安定が必須なのだ。

 

 

 

「今日はこれから皇城に行ってくる。レイナースが迎えに来る予定だ」

 

 暇なようでいて、最近は割と予定が詰まってる若旦那様である。

 アルベド様のお言葉によって生じた新たな試練は今日明日にどうこうしなければならないわけでもない。Yes ロリィタ Go タッチ! は時間的に余裕がある。

 ティアの調教は期限を半分消化した。まだまだすべきことは残っているのだが、皇帝からの呼び出しは余り先延ばしできない。延ばせても精々一週間で、それだったら先にこちらを終えた方がいい。

 

「誰かついてった方がいいっすかね?」

「話をするだけだから危ないことはないよ。御者にミラだけ連れてくつもりだ」

 

 

 

▼ ▼

 

 

 

 皇城にて通されたのは、帝国なりに最上級の防諜を施した一室である。

 ナザリックから見れば失笑してしまう対策で盗み聞きしようと思えば苦もなく出来てしまうのだが、帝国の現在の技術ではこれ以上を望めないのだ。

 

 密室には、帝国からは皇帝のジルクニフとその愛妾であるロクシー。今は帝国に身を置くが、いずれ魔導国に向かうレイナース。魔導国からは学士と御者兼護衛であるミラ。四人の人間は椅子に座り、ヴァンパイアブライドは学士の後ろに立つ。

 これから交わされるであろう内容的に帝国からはフールーダがいてもよいのだが、彼の魔法狂いはアインズに帰依しているため、ジルクニフは呼ばなかった。

 

「レイナースをやる。代わりに知ってることを話せ」

「はて?」

 

 皇帝の言葉が理解できず、学士は首を傾げた。

 

「レイナースさんが魔導国へ身を置こうと考えているのはレイナースさんの意志ではなく陛下のご意向なのですか?」

「いえ、私の意志でございますわ」

「それでしたら、レイナースさんの代わりに私が対価を払うのはおかしな話です」

「レイナースは四騎士の一だ。抜ければ穴が空く。その穴の対価を寄越せと言っている」

「それは陛下とレイナースさんとの間で話すべき事柄です。私が口を挟むことではありません」

「……チッ」

 

 ジルクニフは渋面を作って舌を打った。

 

 先の仮面舞踏会の翌日。帝都の貴族間で大騒ぎになった。

 レイナースの呪いが解けて元の美貌を取り戻した。魔導国の学士と踊っていた。宮廷雀たちが騒ぐのに十分すぎる。

 当然の事ながら速やかにジルクニフの耳に入った。レイナースを呼び出し、呪いが本当に解けていることを確認して事の次第を問いただした。

 レイナースが四騎士を担っているのは、呪いを解く方法を得るためだ。それが成された以上、レイナースは騎士を続ける理由がない。引き留める材料もない。精々が情に訴えるくらいだ。

 失うことが確定した駒なのだから、最後に有効活用しようと考えた。

 しかし、投げかけた言葉は右から左へ抜けていく。

 

「陛下、そちらの学士殿に取引や駆け引きを持ちかけても無駄です。正直に素直な気持ちでお聞きになっては如何ですか?」

 

 人間観察ならジルクニフよりロクシーの方が上となる。ジルクニフが重大な決断を下すときは、常にロクシーが陰にいた。

 

「知りたいことがある。頼む。教えてくれ」

 

 ジルクニフは帝国の皇帝だ。軽々に頭を下げてよい人物ではない。

 そして、それが通用する学士でもない。アルベド様が頭を下げるなら万難を排して無理を通すが、アインズ様が頭を下げても無理な物は無理と断じる。ジルクニフだろうと辺境の幼女だろうと、頭を下げられても意に介さない。

 しかし、頼まれたのなら出来ることはしようと考える程度の良識はあった。

 

「私にお話し出来ることならなんなりと」

「そうか!」

 

 上げた顔には笑みが戻り、レイナースへ顔を向けた時には厳しさがあった。

 

「レイナース、お前は外せ」

「かしこまりました」

「でしたらミラも外しましょう。陛下との会談が終わるまで外で待ってろ」

「……お言葉ではございますが、私は護衛としてこの場におります。アインズ様のご友人であられるジルクニフ陛下が害を為すことはあり得ませんが、私の役目としてご容赦ください」

 

 学士殿はめっちゃくちゃ面倒になりました。シャルティア様に返品しようかなとちょっとだけ思いました。

 

「陛下は内密な話をご希望だ。これから話すことは他言無用。アインズ様とシャルティア様の名に掛けて誓え」

「それは……」

「アインズ様に不利益となることを話すつもりはない。それでも誓えないのか?」

「かしこまりました。アインズ様とシャルティア様の御名に掛けて、これからお聞きすることは決して漏らさないことを誓います」

 

 これでもダメなら本当に返品するつもりでした。色々重宝しているし気に入ってもいるので、そんなことにならなくて一安心です。

 

「そのようなわけで、ミラの同席をお許しください」

「構わん」

 

 ジルクニフは鷹揚に頷いた。

 こんなことが切っ掛けであちらの主従の仲が怪しくなって飛び火でもしたら迷惑極まる。

 

 居住まいを正し、ジルクニフは問いかけた。

 

「お前が舞踏会に連れてきた女。カルカと言ったが、あれはローブル聖王国のカルカ・ベサーレスだな?」

「ご推察の通りです。ですが、ご内密にお願い申しあげます」

「聖王国を襲ってる魔皇ヤルダバオトはアインズの手の物だな?」

「ご推察の通りです。ですが、ご内密にお願い申しあげます」

「アインズは一体何を考えている!?」

「ふむ……」

 

 ジルクニフは、薄々そうではないかと思っていた。しかし、どうしてそんなことをするのか全くわからない。魔導国の力をもってすれば、迂遠な策を巡らすことなく全てを正面から打ち破れるはずなのだ。

 

「陛下はアインズ様を愚者だと思われますか?」

「まさか! 狂的なほど深遠な策謀を巡らす賢者だ」

「仰る通りでございましょう。狂的であっても狂人ではない。賢者です。真に狂人であれば目的と行動に結びつきはなく、理由もありません。賢者は違います。アインズ様の為さる事には時に飛躍があり、そこをもって狂的に見えることもあるでしょう。その飛躍を飛ばすことなく、一つ一つ推測を重ねていけばアインズ様のお考えに近付く事が出来ます。陛下にお尋ねします。帝国が王国と戦争をしていたのは何故ですか?」

「それは……」

 

 理由は幾らでもある。

 そもそも、ジルクニフが始めた戦争ではない。帝国と王国は長年の敵国同士で、戦端が開いたのはジルクニフ以前の事だ。

 犯罪組織が幅を利かせる王国は治安が悪く、犯罪が輸出されるのを嫌ったのものある。

 敵国なのだから、不慮の事態が発生しないよう牽制する意図もある。

 あらゆる理由の中で一番大きなものは、

 

「沃土だ」

 

 王国の土地の力は帝国より優れている。

 しかし王国はその沃土の力でもって、麻薬を栽培している。遊ばせている土地もある。耕作されていても、帝国から見れば非効率だ。

 帝国の手にあれば適切な農法によって収穫量が増える。帝国はより豊かになり、元王国民も豊かさを享受することになる。王国の王族やら貴族やらは、この段階に至るまでに退場願う予定だ。

 

「王国の沃土を手中にし、帝国は繁栄の元をまた一つ手に入れることになります。このように戦争は利益あってのものであり、征服のための征服は意味がありません。如何思われますか?」

「その通りだ。何の得にもならんことをする馬鹿がどこにいる」

 

 ジルクニフの目には、アインズは何の得にもならないことをしているように見える。しかし、アインズは愚者ではない。そこへ生じる齟齬が不快で不可解で、理解出来ないアインズへの恐怖を生む。

 

「では仮に、帝国の国力が今の千倍あったとしたら。陛下は王国へ戦争を仕掛けますか?」

「それは戦力もか?」

「左様でございます。王国が100万の兵を率いて攻めようも、陛下が指を鳴らすだけで壊滅させることが出来ます。帝国にとっての王国は全くの無価値。文化も歴史も、全てが遙かに劣ります。目を引く特産品もなし」

「しないな。王国が攻めてくるなら焼き払いもするだろうが、撃って出る価値はない。侵略でもしようものなら統治が面倒なだけだ。無価値どころか害悪ですらある」

「王国の民は風が吹けば飛んでしまう粗末な住居に暮らし、衣服は袋に穴を空けた貫頭衣のみ。農耕は悲惨です。灌漑の概念を知らないため、水は全て天水頼り。雨乞いのために夥しい数の生け贄を捧げることでしょう」

「お前の目には王国がそう映るのか?」

「私の目にはもう少し悪く映ります。美化した姿をお話ししているとご承知ください」

 

 ここまで王国を悪く言うのなら、魔導国に取り込まれる前に遣いを出していれば帝国に仕官したと言ったのは本当だと思われた。

 

「毛の抜けた猿の如き王国人ですが、それでもおそらくは人間です」

「お前の話を聞いていると、王国は帝国に滑稽な姿を見せるために生まれたとしか思えんな」

「その上で王国へ侵略するとすれば。どのようなことが考えられますか?」

「病だな。帝国へ王国の流行病が染らない内に消毒する必要がある」

「慧眼でございます。彼の地は彼ら故に不法に満ちています。焼却処分が適当でしょう。ですが、アインズ様は違うように考えておられるようです」

「それはなんだ?」

「まさか……」

 

 二人の会話が始まって初めて、ロクシーが口を挟んだ。

 自身の思いつきが余程意外だったようで、驚きに口を手のひらで押さえている。

 

「何か気付いたのか? 言ってみろ」

「……ではお言葉に甘えまして」

 

 アインズはいっそ狂的に見えるほどの賢者であるが、狂人ではない。行動には理由があり、目指す的があるはずだ。

 帝国にとっての王国は全くの無価値であり、侵略は容易だろうが害しかもたらさない。王国の民は帝国の民と同じ人間であり、とても惨めな暮らしを送っている。

 ジルクニフでは絶対理解できない理由を、女であるロクシーは直感した。

 

「哀れみ、でしょうか?」

 

 哀れな王国の民に真っ当な生活を与えるために、不用どころか面倒でしかない侵略を行い、支配する。ジルクニフでは絶対たどり着けない、共感性の高い女であるからこそ思い至る意外すぎる思い付き。

 

 学士は涼やかな笑みを浮かべて頷いた。

 

「ご推察の通りです。アインズ様は、とてもお優しいのですよ」

 

 

 

▼ ▼ ▼

 

 

 

 ジルクニフが堰が切れたように笑い出した頃、ルプスレギナは自室にいた。

 

「今日は呼び出されないといいっすね……」

 

 うんざりとした顔で一人呟く。

 

 ティアの調教では、ソリュシャンにルプスレギナも呼び出されることがあった。

 ソリュシャンが呼ばれるのはお掃除。胎内に吐き出した精液をキレイキレイするためだ。胃の中はさすがに嫌がったので、飲ませたことは一度もないと言う。これから調教期間の後半に入り、徐々に味を覚えさせていく予定らしい。

 ルプスレギナが呼ばれるのは回復。何度も何度も気が狂うほどの快感を与えられ、精も根も尽き果てあちらへ踏み出そうとするティアの命を止めるために回復する。それだけなら惨状にどん引きするくらいで許容範囲だ。

 

「前回呼ばれたのは酷かったっす……。あんなの回復するなんて金輪際もう絶対ゴメンっすよ!」

 

 若旦那様がアルベド様に下賜されたサキュバス御用達アイテムを調教に使い始めたところまでは良かった。

 しかし、アナルプラグなる淫具を目にしたジュネに天啓が降りてしまったらしい。開発を凄く頑張ってしまったようなのだ。

 具体的には、たったの一晩で未通からグーまで行けるように広げてしまった。

 ちょっぴり切れてしまった。広がりきってきちんと閉まらなくなってしまった。ティアは日常生活にプラグが必要な体にされてしまったのだ。

 これは流石にやり過ぎだと、ルプスレギナが回復する羽目になったのである。

 

 土下座するジュネを死んだ目で見下ろしながら、ルプスレギナは回復してやった。

 おにーさんに色々おだてられても精神的苦痛は大きかった。

 

「おにーさんは出掛けてるから無理はしない、はず。……信じるっすよ」

 

 前に入れていい物、後ろに入れていい物を細かく指導されたジュネである。

 留守中は手指を使わずに口と舌だけと命じられていた。

 

 ルプスレギナは気怠い雰囲気を漂わせながら、ドアに鍵を掛けた。ドアノブを回して引き、きちんと施錠出来ているのを確認する。

 窓にはカーテンを引く。部屋が少し薄暗くなった。窓の外は見えない。窓の外から中も見えない。カーテンを閉めなくても高さ的に三階にある室内を覗くことは出来ないだろうが気分の問題だ。

 

 部屋が完全に密室となってから、ルプスレギナは机の引き出しを開けた。

 取り出した物品は、触ると温かい。いや、熱い。火傷するほどの熱さではない。冬空の下で握りしめれば心地よい温度。

 

「おにーさんはなあに考えてこんなの作ったんすかねー。まあったくエロエロなんすから」

 

 長さが20センチほどの真っ白な丸棒である。太さは5センチはあるだろうか。

 

「これってどうやって作ったんすかね? 一々掘るわけないだろーし」

 

 表面に小さなぼつぼつが無数についている。米粒大の半球を埋め込んだように見える。もしもこれらを一つ一つ手彫りしていたら、どれほどの時間が掛かるだろうか。

 つついてみるとやや弾力があり、何かを張り付けたか塗装を工夫したのだと思われた。

 

「先っちょが割れてるのって……、変にリアルでエロいっすよ」

 

 先端部は球を潰して斜めに付けたような形状。ここにはぼつぼつがなく、表面は滑らかだ。

 その先端に、小さな溝が彫ってあった。溝よりも割れ目が適当か。

 実物はこんなに広がってないので、デフォルメしたのか、それともこうなってると好いことがあるのか。

 

「ちょっち重いっす。私なら問題ないっすけど、こんなの動かしてたら手が疲れるんじゃないっすか?」

 

 持ち上げると見た目に反してずしりと来る。

 握ったまま、何度か上下に振ってみた。そんな気分になってきた。

 

「……まあ、いいっすよね?」

 

 誰にともなく、熱っぽい声で一人呟く。

 ルプスレギナはベッドに身を投げた。

 

 ルプスレギナが持っているのは、若旦那様が作った改良型ディルドだった。



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ルプーの秘め事 ▽ルプスレギナ♯3

あけおめことよろでございますm(_ _)m


 ベッドに横たわったルプスレギナは、ディルドを傍らに置き、帽子を脱いだ。ずっと被っている帽子は、お風呂以外にエッチの時も脱ぐ。狼の獣耳を撫でられるのはこそばゆくも気持ちいい。匂いを嗅がれるのはちょっと恥ずかしくて、同じくらい嬉しくなる。

 続いてルプスレギナ専用魔改造メイド服の襟を引っ張ろうとして、止めた。

 ナザリック製の衣服は伸縮性抜群で多少引っ張ったところで伸びきったりしない。ちょちょっと一人でする時は襟を大きく開いて下ろしてから触ることもある。今日は特別なアイテムがあるのでちょっと特別。

 横着することなく、きちんとメイド服を脱いだ。

 ブラジャーを着けたことのないルプスレギナなので、メイド服を脱いでしまえば豊かな乳房が現れる。

 

「んーー」

 

 乳房を持ち上げ、乳首を上向かせた。

 黒かったり茶色かったりすることなく、綺麗なピンク色だ。おにーさん特製色素吸着剤で綺麗にしてもらっていた。

 

 乳首が黒くなってきたとか言われて反射的に手を出してしまったのは、どこか揶揄するような響きを感じてしまったのと、恥ずかしかったから。

 しかし、考えようによってはおにーさんにいっぱいしてもらった目に見える証なので、あそこまで怒らなくても良かったし、むしろ黒いままでも良かったかも知れない。

 自身の艶のある褐色の肌は気に入っているし自慢に思うほどだが、こーいったデリケートなところは鮮やかな方が良いに決まってる。

 

「……立って来ちゃったっす」

 

 目を閉じて、乳首にされてきた色々と思い出しただけでむくむくと膨らんできた。ピンク色に赤みが濃くなり、物欲しそうに尖っている。

 指先で軽くつつき、先端を擦った。

 

「んっ……!」

 

 腰が引けてしまうような快感が走った。

 

「私の乳首がこんなになっちゃったのって、全部おにーさんのせいなんすからぁ」

 

 触られるし擦られるし、メイド服の襟から手を忍ばせて摘まんでくるし、舐められて吸われて、歯を軽く立てられる。

 吐息と体温だけしか感じられないような焦れったい愛撫を続けられ、突然きつく噛まれた時は、それだけでイってしまう。今か今かと期待して何度も空かされるのに、最後の最後は絶対に期待と予感に合わせてくれる。二人の気持ちが一つになって、体だけでなく心まで悦んでしまう。

 されたことを思い出しながら乳房を揉んで乳首を摘まむと、何となくしてる時よりずっと気持ちいい。

 

「あんっ、もっとつよくぅ。もっと痛くしていいっすからぁ……。あ……」

 

 背を反らして胸を揉む。

 豊かな乳房は乱暴に形を変えられ、尖りきった乳首は潰されて引っ張られ、大好きなおにーさんの名前を呼んでいたルプスレギナが我に返ったのはディルドの存在を思い出したから。

 熱くて硬いディルドが腕にぶつかった。

 何とはなしに手にとって、丸い先端を乳房に押し付けた。

 

「熱い……」

 

 柔らかな乳房は抵抗なく形を変える。

 ディルドの表面はつるつるとして、肌に引っかかることなく滑っていく。

 滑って辿り着くのは当然のように先端だ。亀頭を模した先端で、乳房の先端を撫でてみた。

 指と違って器用に摘まむことは出来ない。代わりに熱い。本物の逸物で嬲られている気分になる。

 何度も撫でている内に気付いてしまった。

 

「この割れ目って、もしかして」

 

 亀頭の先端には本物の尿道口より大げさな割れ目がついている。どうやら単にデフォルメしただけでなく、しっかりと役割を持っているようだ。

 割れ目で乳首を挟むと、つつくだけより感じるものがあった。

 

「あっ……なにこれ……、いいじゃ、ないっすか……」

 

 ディルドの割れ目に勃起した乳首が挟まれている。

 両側から擦られて、その状態で押し付けると先っちょも気持ちいい。

 ルプスレギナは、ごくりと唾を飲み込んだ。

 割れ目に挟めそうな小さな突起は、乳首以外にもある。

 いそいそと、パンツの両サイドに指を入れた。

 

 今日のパンツは白。

 ルプスレギナのメイド服は白と黒を基調にしており、スカート部は黒一色となっている。そのため黒に合わせた黒いパンツや、黒の中で主張する白いパンツが多い。

 紐パンを履くのはエッチが確定してる時だけにした。

 

 尻を浮かせ、パンツを下ろす。

 むっちりとした太股を抜ける時にくるくると丸まっしまう。

 膝を越えたら両足を高く上げ、交互に足首から抜いていった。

 クロッチに光沢があるのはちょっぴり濡れてしまったから。

 丸まったパンツは直されることなく、脱いだメイド服の上に放られた。

 

 上半身を起こし、膝を立ててから脚を開く。

 座っているのではなくて股間が前を向く不安定な姿勢なので、体がやや後方へ傾いている。倒れないよう、左手を後ろに突いた。

 右手はディルドを握っている。

 股を覗きながら、ディルドを近付けた。

 

 ルプスレギナの陰毛は、髪と同じ赤毛が小さな三角を作っている。

 色々こなしてきて少々色が濃くなってきた秘部の周囲は、乳首と同じようにして綺麗になった。ただし、こちらをやりすぎると褐色の肌が白斑となってしまうため、処置には繊細な慎重さが必要となる。なってしまっても数日で元通りなので問題ないと言えば問題ないが、その間は誰にも見せられないのでやはり大問題だ。

 

 ディルドの先端が陰毛に触れ、そのまま下がっていった。

 まだ開いてない割れ目を上下に撫で、撫で続ける内に割れ目の中へ沈むようになり、ディルドの先端がぬらぬらと濡れてくる。

 ルプスレギナは、ディルドの向きと角度を合わせて、割れ目の上端を撫でてみた。

 

「んっ、これ……。やっぱりぃ……。はぁ……あんっ……。クリとか、はさむんすね……。ちんちんの割れ目で、クリはさむなんて、あっ……。すごいエロいっすよぉ……。ちんちんでクリ食べられちゃうなんてぇ……」

 

 女の体にある小さな突起。

 乳首の他に、勃起したクリトリスがあった。

 

 ルプスレギナは自分で胸を揉む内に濡らしていた。

 ディルドで数度擦れば、皮に包まれた肉芽が勃起してきた。

 勃起してきた肉芽をディルドの割れ目に挟んでみれば、想像通りで想像以上の快感。

 クリトリスをつんつんとするだけで気持ちいいのに、割れ目に挟むことによってクリトリスの根も両側から扱くことが出来てしまう。

 ディルドは表面がつるつるしてるので、クリトリスの皮が剥けても痛くない。

 

「こんなエロいちんちん私に持たせておにーさんは私をどうしたいんすかぁ。入れちゃうっすよ? おにーさんのちんちんしか入れたことないのに、エロいちんちんをルプーのおまんこに入れちゃうっすからね?」

 

 ソリュシャンに指を入れられたのはノーカンである。

 あれは指だしソリュシャンだし、ちんこでないからノーカンなのだ。

 

「んぅっ……、ちんちんよりあっついかも。…………もうルプーのおまんことろとろで、ちんちんにおつゆがこんなについちゃって……、本当に入っちゃう……。でもおまんこに入れるものだし、赤ちゃん出来ちゃうわけじゃないし、本当に一番好きなのはおにーさんのちんちんだし。…………ソーちゃんにイかされたことあったけどおにーさんの方がずっと好かったし。んっ……、入っちゃうぅ……」

 

 最初と同じように、ディルドが何度も上下に往復する。

 先端の三分の一くらいは割れ目の中に沈んで、沈む度にルプスレギナの愛液が絡んでいく。

 ルプスレギナの手が止まった時、ディルドの角度が変わった。真っ直ぐにルプスレギナを向いている。

 その状態で、割れ目の下の方で小さく動いた。

 

 ルプスレギナの柔らかな媚肉は撫でている内に開きつつあり、先端の三分の一が沈むようになっていった。

 それが、真っ直ぐにした上で半分以上も沈んでいる。

 先端がルプスレギナの入り口に入り始めた。

 赤みの濃い鮮やかな膣肉を、白い道具が入っていく。

 亀頭が入りきってもルプスレギナの手は止まらない。下端を握って押し込み続ける。

 握る場所がなくなってきたのにまだ入りそう。人差し指で押さえ最後の一押しを加えた。

 

 白い棒の端っこが僅かに入り口で覗いている。先端は奥まで届いた。

 ルプスレギナは、呆然と自身の股間を見つめた。

 全部入ってしまった。

 ディルドは形のみならず、発熱して中にいることを自己主張している。

 

「入っちゃった……。おにーさんのちんちんじゃないのに入れちゃった……」

 

 指を離せば膣圧でディルドが押し出されてくる。

 もう一度指で押して奥へ入れる。指を離せば出てきてしまう。もう一度押す。押し出される。

 今度は握って突き入れた。押し出される前に引き抜いた。引き抜いたときの倍の速度で突き入れる。同じ早さで抜いて、同じ早さで奥まで入れる。

 赤い媚肉を、白いディルドが出たり入ったりを繰り返す。

 

「あっあっ、これいいっすよぉ! いいとこあたってるぅ! おにーさんのちんちんじゃないのに、偽ちんちんなのにぃ!」

 

 ディルドについてる無数の凹凸が、膣壁の至る所を刺激して気持ちいいところを擦ってくれる。

 膣内の温度より熱いのも、入ってる感が強くてとてもいい。

 滑らかな表面がここでもいい仕事をして、スムーズに膣内を往復する。

 

 ただでさえルプスレギナは膣内の温度が高い。それよりも熱いディルドを咥えて激しく抽送させ、股間から湯気が上がっている。愛液の湯気だ。

 室内にはルプスレギナの淫臭が立ちこめた。

 

「んっ、んっ、んふぅっ! ぬぷぬぷしてじゅぽじゅぽ言ってるぅ。あふぅ……、ルプーのおまんこが偽ちんこで犯されてるっすよぉ♡ あっ、あっ、あんっ、ああんっ! やあぁあん♡」

 

 股を開いてディルドを咥えていたルプスレギナは、姿勢を変えて四つん這いになった。

 顔は枕に埋めて、膝を立て背を反らし、股の間に差し込んだ手でディルドを掴んでいる。

 ディルドを動かすのに合わせて腰を揺らす。奥まで来て気持ちいい。

 少しだけ反ってるディルドを回転させる。違ったところに刺激があって、それも気持ちいい。

 

 膣内から溢れて湯気にならなかった愛液は赤い陰毛へと伝っていく。

 セックスしている時は陰毛同士が擦れて愛液が泡立つこともある。今は寂しい一人遊びなので、愛液は陰毛に留まるだけ。ルプスレギナの体温で、一段と濃い淫臭を放っている。

 

「イくっ! イっちゃう! おまんこイっちゃうぅ!」

 

 右手はディルドを握って一時も休まず前後に振っている。

 左手はゆさゆさと揺れる豊かな乳房を揉んだり、陰毛をかき分けて辿り着いたクリトリスを擦ったり、時には口に咥えてちゅうちゅうと吸って舌を弄んだり、右手より忙しく働いていた。

 その左手を、右手に添えた。

 

 顔を埋めた枕は涎で濡れている。

 尻を高く持ち上げて、股間の真ん中にある女の穴に作り物の逸物を深く埋め、両手を使って一心不乱に抜き差しする。

 枕の生地を噛み、喘ぎ声が途絶えた室内にはじゅぽじゅぽと卑猥な水音だけが響いた。

 

 体の奥底から生まれた波が、ルプスレギナの何もかもを押し流そうとしている。

 快感の予兆と覚悟で、ルプスレギナは目に涙を滲ませた。

 

 あと数回往復したら達してしまう。

 一人遊びは何度もしてきたが、今回はレコード更新。

 覗きながらした時よりかなり上。

 

 おにーさんお手製とは言え、道具でこんなになってしまうことにささやかな屈辱がある。

 道具で作り物とわかっているとは言え、おにーさんの物ではない物を入れてしまったことに胸が痛む。その背徳感が一層の興奮をかき立てる。

 そのいずれもが、その時になってしまえば消えてしまう。

 全てを糧に燃えさかった炎がルプスレギナの情欲を満たそうとして、

 

「ひぅ……、あっ……あっ、イく……。あ……」

 

 過去も未来も全てが消え果て、自分一人きりの世界で悦びに叫ぼうとしたまさにその時。

 

「ルプー、お前か!」

「のわああああぁぁぁあああああぁあぁぁああ!!?!!?!!」

 

 あれほどの波がどこへ行ってしまったのかと思うほど。

 厳しい声に打たれ、絶頂の予感は宇宙の果てに追放されてしまった。

 

 

 

▼ ▼

 

 

 

(おにーさんなんでいつから? オナニー見られた? 城に行って帰ってきた? ドアの鍵はどうやって? それよりシーツ、裸隠さないと!)

 

 かつてないほどの混乱がルプスレギナを襲う。

 混乱しながらも何とか絞り出した声は、常からはほど遠い儚い物だった。

 

「……おにーさんなんで?」

「そんなことよりルプーが突っ込んでるそれだ。どこ行ったかと思ったらお前が勝手に持ってったのか!」

 

 オナニーの最中は四つん這いで尻を向けていたが、今は手繰り寄せたシーツで裸を隠している。しかし咄嗟に隠したため、股間は丸見えだった。白いディルドが埋まっているのも見えた。

 

「そんなことってなんすか!!」

 

 理不尽な怒りではない。

 全くもって正当な灼熱の怒りがルプスレギナの全身から迸った。

 見られたとかいつ帰ってきたとかドアの鍵はどうやったのかとか、細かいことは全てどうでもいい。

 そんなことどころではない。勝手に持って行ったのではないのだ。

 

「勝手に持ってったとかなんすかその言い方! 持ってかれて不味いならちゃんと仕舞っとけばいいじゃないっすか! なに私が悪いように言ってるんすか!! そっちがずぼらでいい加減なのが悪いっていつになったら気付くんすか!!」

「なん・・・だと・・・!」

 

 驚くべきことに、カルマ-200にして属性は凶悪としっかりと記されているルプスレギナには、良識があった。

 勝手に持ち出した即ち盗んでしまったことを悪いと思う心があるからこそ、非を責められて良心が痛んだ。痛む良心を癒すために、責任転嫁したのだ。急転した状況に混乱していなければもう少しマシな事を言ったかも知れないが。

 

 これには心の狭い若旦那様もカッチーンと来た。

 心が広いようで実は狭い若旦那様である。一見広く思えるのは聞き流しているから。あるいは自分にとって全くの無価値と判断しているから。

 例えば、自分のことを全く知らないミジンコが蚊の鳴くような声で罵倒しても聞こえないし、わざわざ耳を傾ける価値もない。

 しかし、ルプスレギナは違う。親しいと言えるだけの関係がある。それでも、いつもなら聞き流していた。それなのに刺さったのは、自分は悪くない悪いのはお前だと指さされたから。

 薄々ながら、ずぼらな自覚が出てきたのだ。

 

 

 

 ルプスレギナのカルマが下限の極悪だったら、置いてあった物を勝手に持って行ったくらいで悪いとは思わなかったことだろう。

 良さげだったからちょっと借りたっすよ~、と軽く流したはずだ。

 ルプスレギナの態度がそうだったら、男も相応に返していた。なくなったのは少々惜しいがまあいっかと思える程度の道具である。有効活用してくれるならむしろ幸いだったはずなのだ。

 しかし、ルプスレギナに良識があったために男を責めた。責められた男は頭に来た。

 二人は見事なまでに噛み合わなかった。

 

「そうだね、俺が悪かったよ。俺があまり相手をしてやれなかったからルプーはそんなのに手が伸びちゃったんだよな」

「わ、わかればいいんすよ!」

「ああ、よくわかった。詫びの代わりに、今からルプーをたっぷり可愛がってやるよ」

「………………さっき。おにーさんのせいでいけなかったんすからね」

「わかってる」

 

 突然出てきたおにーさんに見られて焦って怒って、ルプスレギナの動機は激しい。

 シーツを剥ぎ取られ、より激しくなった。

 怒った直後なので期待してると思われたくない。眉根を寄せて目を釣り上げ、険しい顔を作った。

 

 そんなルプスレギナを、男は優しい目で見ている。

 内面は外面と真逆で、沸々としていた。

 

 このアマ躾てやる!

 

 シャルティアとの調教競争の影響が、こんなところで出てきてしまった。

 




https://syosetu.org/novel/277996/
いつぞや宣言した正義云々の話を酔った勢いで投稿しました

本話の続きはいずれ必ず


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駄犬調教(真) ▽ルプスレギナ♯4

寒かったり寝込んだり飲み過ぎたりして遅くなりました
その甲斐(?)あって文字数が前話の三倍くらいあります


 盗人猛々しいとはこの事か。

 なんとしてもこの悪逆非道にして厚顔無恥な手癖の悪い凶悪発情狼にわからせてやらねばならぬ。

 

 自分の所行を棚に上げ、男の胸に正義の炎が燃え盛った。

 人が狂うのは疑心の果てではなく、己が正しいと確信した時である。

 

 

 

▽ ▽

 

 

 

 ビックリして波が引いてしまったルプスレギナだったが、寸前まで行っていたのだ。熱々のディルドを咥えたままのホカホカで、甘い言葉にシーツを剥ぎ取られただけでスイッチが入り直した。

 のし掛かってきた男を我から抱きしめ、キスをねだった。

 

「ちゅっ……、おにーさんが私をほっとくからこんな事になるんすからね? あむぅ……れろ……ちゅっちゅっ、ちゅる……じゅる……。もっと私を大事にしないとダメなんすから。んんっ……、好きなだけ揉んでいいっすよ。乱暴にしても平気っすから♡」

 

 仰向けになっても張りのある乳房はつんと上向いている。

 主導権争いをするように互いの唇を貪りながら、男の手はルプスレギナの胸を揉んでいた。ひたすらに柔らかいソリュシャンのおっぱいよりも揉み応えがあるいいおっぱい。

 数度揉んで柔らかさの中にある張りを楽しむと、最初から立ってる乳首は放置して手は下がっていく。

 形のよいへそを通り越して下腹へ。

 奥にある子宮を愛しむように撫でてから更に下へ。

 

 ルプスレギナの陰毛は髪と同じ赤毛だ。

 今はたっぷりと愛液をすって濡れそぼり、肌に張り付いている。

 男の指は陰毛の上を這って奥へ進み、硬いものとぶつかった。

 

「奥まで入って出てこないんだな。これの具合はどうだった?」

「おにーさんのちんちんより好かったっす♡」

「マジで!?」

「じょーだんすよ。おにーさんの方がずっと好いに決まってるっす♡ でもけっこういい感じだったっすよ?」

「……そうか」

 

 ルプスレギナは、くひひと悪そうに笑った。

 自分のより好いと言われて驚く男が面白かったのと、道具に嫉妬してるのがやはり面白くて嬉しかったのと。

 

 ルプスレギナはご機嫌だが、今のやりとりで男の中に僅かながらに残っていた慈悲の心が消し飛んだ。

 やはりわからせてやらなければならないようだ。

 

「あ、ちょっと! そっち行き過ぎっす!」

 

 男の長い指がディルドを通り過ぎた。

 尻の割れ目を掬うようにして触れた場所はディルドのすぐ下。小さな窄まり。

 指先が尻の穴をくすぐり始めた。

 

「ルプーはここをソリュシャンにやられたことがあっただろ?」

「…………」

 

 素直には頷けない問いかけだ。

 

 過日、アルベド様へ暴言を吐いた罰として、ルプスレギナはソリュシャンから両穴責めを受けた。

 妹の指と舌で秘部を責められ、盛大に達してしまったのは思い出したくもない屈辱である。叫んでしまうほど好かったのが拍車を掛ける。

 

「ルプーのここを最初に可愛がるのは俺だと思ってたのに、ソリュシャンに先を越されて悔しいんだ。あれを上書きしてやりたい。いいだろ?」

「…………」

 

 ルプスレギナは無言で、難しい顔をして、頬を染めて目を反らし、小さく頷いた。

 

「でも優しくしなきゃいやっすよ?」

「わかってるよ」

「ん……。んっ! 指入ってきたぁ! いいって言ったっすけどいきなりはダメっすよ!」

「痛いか?」

「痛くはないっすけど……。あの綺麗にするローション使って欲しいっす……」

 

 老廃物を吸収分解する魔法のローションのことである。

 愛液を分泌する膣と違って、肛門の方は潤滑液が別途必要になる。それ以外に、中を綺麗にする効果は絶大だ。むしろこっちがメインかも知れない。

 

 ルプスレギナは後ろを本格的に使用したことがないので、尤もな指摘だった。

 男はジャケットのポケットからローションの小瓶を取り出す。蓋を開けて中指にちょっとだけローションを付着させる。

 微量のルプスレギナ汁が小瓶の中に入ってしまっているが、この程度なら問題なく分解するのでローションの効果に影響はない。

 

「使ってって言ったの私っすけど、なんで持ってるんすか……」

「他にも色々持ち歩いてるよ。いっぱい入れても膨らまないし」

 

 ナザリック製の魔法が掛かったジャケットは、ポケットの容量が見た目に反してとても大きい。その上、いっぱいに詰め込んでも見た目は変わらない。中身が飛び出ることもない。

 

「そんなことより続けるぞ」

「わかったっす……。んぅっ……」

 

 尻の穴をいじるのだから、仰向けよりうつ伏せの方が良い。そして、ルプスレギナが好きなのはわんわんスタイル。

 両手両膝を突いた四つん這いになって、男へ尻を向けた。

 

 艶のある尻肉を撫で、尻の割れ目に両手の親指を添えてぐっと開く。

 小さな窄まりは皺が伸ばされて、ほんの少しだけ奥を覗かせた。指で広げただけではこうはならないので、ルプスレギナも力を入れて尻穴を開いているようだ。

 ルプスレギナの協力を内心でバカめと嘲笑いながら、ローションを付着させた中指をあてがう。

 本格使用したことのない初々しい入り口へ入念にローションを塗り伸ばし、真っ直ぐに伸ばした中指を突き立てた。

 

「ふうぅっ!」

 

 衝撃を逃がすように、ルプスレギナが熱い息を吐く。

 

 熱い抵抗を押しのけて、中指を根本まで押し込んだ。

 根本付近はみっちりと咥えこまれているが、奥は広がっているので指先は動かせる。

 

「んっ! んっ!」

 

 ローションを塗るために入っている指を回転させる。ルプスレギナが鳴く。

 軽く折り曲げれば、膣内に入ったままのディルドを薄壁越しに感じた。

 

 本格使用するなら指を一本から二本、二本から三本と増やしていくところだが、一端引き抜く。

 

「あふぅ……♡」

 

 ぬるりと指が出て行く時、ルプスレギナは甘い声を漏らした。

 

「……終わりじゃないっすよね?」

「もちろん。まだまだこれからさ」

 

 言って、再度ポケットから取り出したのは白い棒。

 アルベド様から下賜されたサキュバス御用達アイテムや諸々の経験を加味して作製したアナルスティックである。但し、こちらは形だけを模したディルドとは一味も二味も違う。

 

「これを使おうと思ってる。後ろの穴用に作ってみたんだ」

「だからなんで持ち歩いてるんすか……」

 

 勝手に持ち出されないよう携帯しているのだ。

 ペストーニャ様からもらったブレスレットにエンゲージリボンも携帯している。

 

 検分のためにルプスレギナに渡された棒は、長さはディルドより若干短い。長さを三分割したところに二箇所くびれがある。太さは半分以下。親指くらいしかない。

 先端は丸まっており、反対側にはリングがついている。

 妙なのは、触るとぶよぶよしているところ。かなり柔らかい素材で出来ているようで、これなら後ろを使ったことがなくても簡単に入ってしまうのではと思われた。

 

「ソーちゃんがした時より好くしてくれなきゃイヤっすからね?」

「もちろんだ。ほら、向こうを向いてごらん」

「はぁい」

 

 ルプスレギナは素直に尻を向けた。

 

 ルプーはなんておバカで可愛いんだろう。感動物である。

 

 男はジャケットにシャツを脱ぎ捨てた。

 尻の割れ目を広げ、同時にルプスレギナも力を入れて尻穴を広げてくれる。

 アナルスティックの太さは指と大差ない。指を入れたときと同じように、軽い抵抗を押しのけてぬぷぬぷと入っていく。

 

 んふぅ、と。ルプスレギナが悩ましげな声を上げる。

 太さは指と一緒でも、長さは倍以上ある。本来なら出て行く穴から入ってくる異物感は、熱くはないのに熱さを感じて、不快とは言い切れない。

 ぬるぬると入ってくる滑らかな感触は、気持ちよくないでもない。

 急に出し入れされたら痛いかも知れないが、ゆっくりゆっくりぬぷぬぷされたら、たぶんきっと、悪くない。

 さっき入ってきた指が抜かれた時、割と好かったのだ。

 

 アナルスティックは、九割方がルプスレギナの中に入った。

 最後はリングに触れないよう注意して、スティックを指で押し込んだ。

 ルプスレギナの尻穴が、最初と同じようにきゅうと閉じる。そこから細い棒が僅かに伸びてリングだけが外に出ている。

 

「全部入ったよ。痛くないかい?」

「平気っす。……これから抜いたりするんすよね? 急にしちゃダメっすよ?」

「ははっ、もう抜かないよ」

「………………え?」

 

 言葉の意味がルプスレギナの頭に浸透する前に、男はリングを押した。

 同時に、膣に入っていたディルドが押し出されるようにぬるりと出てきた。

 

「あぐううぅぅうぅうっっっっっ!!!!!!」

 

 ルプスレギナが、下腹を抱えて体を折った。

 

 わけのわからない鈍痛が体の奥に刺さっている。

 例えるなら、道ばたに落ちてた骨を齧ってお腹を壊して、決壊寸前の苦しさがずっと続いているような。もちろんの事、ルプスレギナは拾い食いをしないので初めての苦痛。

 単に痛いのではない。苦しいのだ。

 身体中の至る所から嫌な汗が滲んでくる。

 愛欲に火照っていた肉体は一瞬で冷め、代わりに苦痛の熱が心も体も炙り始めた。

 

「な……なんすか、これぇ……!」

 

 身悶えし、ベッドの上を二転三転したルプスレギナは、最後に最初と同じ姿勢に戻った。

 すなわち、四つん這い。

 うつ伏せになってお腹が圧されると苦しい。仰向けになって尻をつくと中に響く。ならば尻を浮かせればいいのだが、それでは不安定。四つん這いになるのが一番楽だった。

 

 苦痛をもたらした男を睨みつける。それこそ殺気すら漂わせ、返答次第では全殺しの直前までやってやろうと思っているのに、男の顔は涼しいもの。

 憎たらしくも口角を持ち上げ、笑っている。

 

「なに笑ってる……! こんなことして……、あとで……」

「おいおいルプー、しっかりしろ」

「……あ゛?」

 

 人狼が本気の殺意で睨みつける迫力満点の威嚇を、男は意にも介さず笑い飛ばした。

 

「後があると思ってるのか?」

「………………あ」

 

 怒りに紅潮した顔がさっと青ざめた。

 この男は、頭がいいのに凄いバカなのを思い出してしまった。

 

 後先を考えず、今だけしか観ていない男に、後でどうこう言っても全く意味がない。

 姉のユリがそれで散々やられたのを、ルプスレギナは目の前で見ている。

 それが、自分の番になってしまったのだ。

 

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

 

 かなり工夫したアナルスティックである。

 まず、アルベド様が用意なさったアナルプラグから後ろの穴専用道具の存在を知った。

 次に、ジュネがちょっと失敗したティアの後ろの穴開発から着想を得た。あれは、いきなり太い物を入れたから失敗したのだ。太い物を入れるのではなく、中で太くなればいい。

 アナルスティックはリングを押し込むことによって内部の粘液が攪拌されて化学反応を起こし、急激に膨張するようになっている。膨張時の大きさはジュネのグーを参考にした。

 

 ルプスレギナの尻穴の中で、アナルスティックがジュネのグーと同じ大きさまで膨張している。

 熟練ならともかく、本格的な経験のないルプスレギナにはまだまだ苦しいようだ。

 

「ひっ!」

 

 尻に手を置かれ、ルプスレギナは小さな悲鳴を上げた。

 

「どうなってるか不安だろうから説明しよう。さっき入れたアナルスティックがルプーの中で膨らんでるんだ。俺の拳より少し小さいくらいの大きさかな。尻の穴でフィストファックを楽しんでた女を知ってる。まあ、やりすぎて広がりきって、この前のティアと同じように回復魔法の世話になってたけど」

 

 無惨なことになってしまったティアのアナルを回復するとき、ルプスレギナは自分が何かされたわけでもないのに精神的苦痛を味わった。

 

「ひぃっ……いぎいぃぃぃい!!! 止めて止めて引っ張らないで!!」

 

 男がリングに指を掛け、軽く引いた。

 きゅっと締まっているルプスレギナの肛門が内側から広げられ、膨らんだ白いアナルスティックが僅かに覗く。

 

「いま、ルプーの肛門がこれくらい広がったよ」

 

 親指と人差し指を指二本分ほどの幅に開く。

 

「中に入ってるのはこれくらい」

 

 幅が三倍になった。

 ルプスレギナの顔が絶望に染まった。

 その大きさの物が中に入っていて、無理に引っ張って出そうとすると、間違いなくこの前のティアより酷いことになる。

 ティアは一応順々に広げていったのに対し、ルプスレギナに経験があるのは指一本分だけなのだ。

 

「ぬ……ぬいて、くれるっすよ、ね?」

 

 男は笑った。

 草原を吹き抜ける涼風を思わせるような、裏も表もない爽やかな笑みだった。

 

「それはルプーの頑張り次第だな」

「わたしの、がんばり?」

 

 まさか無理矢理引っこ抜くのか。そんなことをすれば裂けてしまう。体の傷は回復魔法で癒せても、心の傷は癒せないのだ。

 ルプスレギナの目に涙が溜まり、頬を伝ってシーツに落ちた。

 

「ルプーが思ってるようなことにはならないよ」

「……ほんとう?」

「本当だ」

 

 嘘は言っていないと思われる。

 この場は男の調子に合わせて従順な振りをしていれば、苦しさから解放されるはず。

 そしてその後は、と思ったところでルプスレギナは唇を噛んだ。

 

 酷い目に遭わせた復讐として全殺しの一歩前までやってやったとしても意味がない。それはこの前、乳首の色の件で三度もやった。

 曲がらない方に曲がったり飛び出たりはみ出たり穴が空いたりしたのに、回復してやれば心も体も元通りで、以前と変わった様子が少しもない。

 

 そもそもにして、デミウルゴスの試しと殺気を潜り抜けた男に、ルプスレギナが何をしてもどうにかなるわけがない。

 

 この前思い知らせてやったのは、セックスをさせてあげないこと。

 しかし、今はいつでもどこでもちゅぱちゅぱしたがる淫乱スライムが傍にいる。この手は使えない。自分だっていつまでしないで耐えられるかわからない。

 だけども、次も今と同じにおかしなことをされてしまったら。

 

 決死の思いで本当に殺してしまったら。

 自分には厳罰。男は確実に生き返らせられる。

 その後は会うことも出来なくなるだろう。これではまるで意味がないどころかマイナスにしかならない。

 

 打つ手が全く見つからなかった。

 出来るのは全面降伏。素直に従って、苦痛の時を一時も早く終わらせてもらうしかない。

 

「……ごめんなさい。私が悪かったっすから……」

 

 ルプスレギナの謝罪を聞いて、男は眉間に皺を寄せた。

 

「まっ……」

 

 待ってと言い切れなかった。

 男が右手を大きく振りかぶり、

 

「きゃううううぅぅん!!」

 

 快音が鳴り響く。

 ルプスレギナの尻を思い切り叩いたのだ。

 

 美少女の顔面を全力で殴れる男である。お尻ぺんぺんを躊躇う道理はない。

 

「何が悪いと思ったんだ?」

「そ、それは……、勝手に持ってったから、キャイィぃぃいいいん!!」

 

 もう一度ピシャンとやる。

 尻を叩かれる痛みくらいでルプスレギナが泣くわけがないのだが、腹に響いている。

 この苦しさを逃れるためなら一生の恥を覚悟で決壊させてもいいと思うのに、苦しさの原因は腹の奥に留まったまま。

 

「手間をかけて作ったがどうせ試作品だ。なくなったならそれでもいいと思ってたよ」

「それじゃ、どうして? あっ、やめ……、やめて……やめえぇぇ、キャウゥうううぅうううぅぅ!!!」

 

 両の尻たぶを交互に二発ずつ。

 ルプスレギナは尻を突き出したわんわんポーズで、犬のようによく鳴いた。

 

「な、なんで……、~~~~~~~~~~っ!!!」

 

 声にならない声で鳴く。

 涙は止まらず、頬を伝って顎に溜まり、ぽたぽたとシーツに落ちている。

 

 高レベルなルプスレギナの肉体はとても丈夫で、全力で尻を叩いても手形は付かず、ちょっと赤くなったかなくらい。

 声を殺して肩を震わせ、静かに泣いているルプスレギナを見下ろして、男は予想通りだったと確信した。

 

 

 

(やっぱりルプーはマゾだったか。悲鳴を上げさせるだけではなく、自分が悲鳴を上げるのも好きなんだな。サディストとマゾヒストは表裏一体。シャルティア様の仰った通りだ)

 

 シャルティア様は高レベルなサディストである。

 ミラから聞いたところによると、気ままにヴァンパイアブライドを痛めつけては殺して無聊を慰めていたらしい。

 と同時に高レベルなマゾヒストである。全力で顔を殴れ、蹴りを入れろと命じ、足蹴にされながらはあはあ言っていた。

 

 ソリュシャンもサディストにしてマゾヒストである。

 体の中に取り込んだ人間をゆっくりと溶かして悲鳴をあげさせるのが大好きな癖して、自分も痛い目に遭わされて悦ぶのは先日確かめたとおり。

 

 ルプスレギナは、最初からソフトMだった。

 恥ずかしい思いをすると悦ぶのだが、最近はオープンになりすぎて刺激が物足りないと思われた。

 ならば一歩進んだプレイを。躾るのにかこつけて試してみれば案の定である。

 

 白いリングが顔を出してる尻の穴のすぐ下。

 脚を開いてるのも手伝って、秘唇が開き内側の肉色を見せている。ぬらぬらと濡れ光っている。

 濡らしているのだ。

 

 苦痛を感じるだけなら乾いてくるはず。

 それが、濡れている。

 ルプスレギナがいくら鳴こうとどれだけ泣こうと、肉体は悦んでいる。

 

「あうぅっ! き、きつい……です」

 

 愛液を垂れ流す膣口へ、中指を突き立てた。

 ディルドを使ったセルフプレイでじっくりほぐし、苦痛が濡らした雌穴は指を難なく受け入れた。

 入りはしても直腸の方がパンパンなので、いつもと違った抵抗がある。

 これなら行けるだろうと判断し、

 

「だめ……ダメ! そんなの入りません! 入らないから……、お腹いっぱいですから……、本当にダメ……、いれちゃらめえぇぇぇえええ!!」

 

 傍に落ちていたディルドを狭い穴にあてがった。

 膣圧がマシマシで、普通に入れたのでは強い抵抗で押し返される。

 両手を使って力を込めて、ぐいぐいと押し込んでいく。

 

「ひぎいぃぃ! おっ……おなかさけちゃう……。ゴリゴリしてるぅ……。ぐすっ……、うぅ……、ひっく……」

「大丈夫。ちゃんと入ったぞ」

「だいじょうぶじゃ、ないっす。……ないです。おなか、きつくて……。やだ……うごかしちゃ……やだぁぁあ!」

 

 ルプスレギナは泣いてるが動かすどころではない。

 奥まで入れたのに、手を離すと勝手に出てきてしまう。

 尻の方に入ってるアナルスティックが、薄い肉壁越しにディルドを押し返してしまうのだ。

 出てきてしまったディルドを再度押し込んでるだけである。

 

「ひぐぅっ! いぎぃぃいぃ……。だめぇぇえっっ!! やだぁぁあ……。ほんとうに、くるしくて……!」

 

 ルプスレギナが泣いている。涙を流して泣いている。

 とても可愛そうだが、いつも快活な笑顔を絶やさないルプスレギナが泣いてるのは嗜虐心を大いに煽られ、とても興奮してしまう。

 

 繰り返す内に、ディルドの抽送が少しだけスムーズになってきた。

 ルプスレギナが慣れたのもあるだろうが、尻の穴に突っ込んでいるアナルスティックの準備が整ってきたのだ。

 

「ルプー、そろそろだよ。だからいつものように口でしてくれ」

「は……はい……」

 

 何がそろそろなのか全くわからないが、ルプスレギナは言われたとおりにするしかない。

 

 手を離すとディルドが抜けてしまうため、いつものようには出来ない。

 男が服を脱いでベッドに寝ころび、ルプスレギナは四つん這いのまま男の体の上に這い上がる。男の脚の脇に両手を突いて、両膝は男の顔を跨いでいる。互いの性器を口で愛撫しあうシックスナイン。

 男の逸物は、ルプスレギナの痴態を見てそそり立っていた。

 

 いつもはニコニコしながらペロペロするルプスレギナだが、今の顔には脅えがある。

 亀頭を自分の顔に向けるときだけ手を使い、先端を咥えたら手を離して頭を下ろしていった。

 

「あむぅ……、じゅぷ……ちゅっちゅぷ……、ちゅるる……」

 

 ルプスレギナがしゃぶり始めた。

 しかし、股間が気になっているようでいつもの激しさがない。頭の振りはゆっくりだし、舌遣いもおぼつかない。

 口に含んでおざなりに吸いながら、機械的に頭を上下しているだけだ。

 それでもルプスレギナの熱い口内に受け入れられているだけで気持ちいい。挿入前の前戯だからこれでもよいことにする。

 

 シックスナインなのだからこちらからも舐めるべきだが、ルプスレギナの中にはディルドが入ったまま。抜けないように押さえなければならないので若干窮屈。

 それでも尻を掴んで引き寄せた。下の赤毛が近付いてくる。

 赤毛にはルプーフェロモンが凝集していた。発情狼の匂いだ。匂いを嗅ぐだけで興奮してくる。

 よくよく見れば、股間からはうっすらと湯気が上っている。熱を放つディルドのせいだが、ルプスレギナがたっぷりと濡らしていなければこうはならない。

 

(っ!! おにーさんのちんちんがさっきより固くなってきた。ちんちんおっきくして私に舐めさせて……、私に入れるんすよね? お尻にあんなの入れたままなのに。でも、ディルドがなんとか入ったからちんちんも多分なんとか……。だけど……、お腹……、きつい。お腹いっぱいになってるっす……。ちんちん入ってきたら絶対ぱんぱんってするっすよね。……ダメ。さけちゃう……。おまんこ壊れちゃうぅ……。あひっっ!? ビリッときた! 今のって……クリトリス舐められただけ? 舐められただけであんな……、わたしどうなっちゃうんすかぁ……)

 

 色々と思いながら、ルプスレギナは頭を振る。

 下半身の刺激が強すぎるので丁寧なフェラチオが出来ないのだが、たっぷりと唾液を絡めて、吸いつきながら喉の奥まで迎え入れる。

 深いところまで迎えたら強く吸って、吸いながら頭を上げる。

 口から抜ける寸前まで頭を上げて、先端だけを唇で咥えるところまで来たら、思い出したように舌を使ってぷにぷにしてる亀頭を舐め回す。

 繰り返す内に、尿道口からぬるつく汁がにじみ出てきた。

 先走りの汁をちゅるちゅる吸って、もう一度頭を下げる。

 時々クリトリスを舐められたり擦られたりして動きが止まった。

 くぐもった声を上げながらフェラチオを続け、逸物がちゅぽんと音を立てて口から離れたのは、抱えられていた尻を持ち上げられたから。

 

「ふああぁっ!!」

 

 背後から腰に手を添えられ、一息にディルドを引き抜かれた。

 乱暴に放られたディルドはルプスレギナの目の前に落ち、湯気を立てている。

 

「あっ……ああ…………」

 

 ディルドが入っていた場所に、温かくて柔らかくて、それなのに固い弾力があって、丸みを帯びた物が当てられる。

 閉じきらない膣口に亀頭が入ってくる。

 ぬるりと先端だけ入ったと思ったら、もう一方の手も腰に添えられ、腰の位置をやや下げられた。

 入り口にはもう入っている。次に角度を合わせて、

 

「あぐうううううぅぅううっぅうううぅぅっっっ!!!」

 

 勢いよく下腹が尻肉を打ち、パンと乾いた音を立てた。

 ディルドが抜かれた時と同じ速さで、逸物がルプスレギナの奥深くまで入ってきた。

 ただでさえ大きな逸物は、入れられると圧迫感がある。それに加えて尻にはアナルスティックが入っている。

 圧迫感はいつもの比ではなく、太い杭で体を貫かれたような衝撃があった。

 

「あ゛っ! あ゛っ! あ゛っ! あ゛っ、あ゛ぁっっ!!」

「凄いぞルプー! 完璧だ!」

「あ゛う゛っ! かっ、かんぺ、き? う゛あっ! らめ! こわれ、おまんこ、こわれちゃう゛ぅっ!!」

 

 ぎゅっとシーツを掴み、涙をぽたぽたと落としながら、衝撃に耐えようとしても耐えられなかった。

 身体中を支配されてる。

 指一本自由にならない。

 お腹が苦しい。体の中をかき混ぜられている。乱暴に胸を揉まれているのもわからない。意識の全てが下半身に、二人の結合部に集中している。

 じゅっぽじゅっぽと卑猥な水音が耳元で鳴っているかのよう。

 動悸は激しく、胸が早鐘のように鳴っている。

 

「いひいいぃいいぃぃっっ!! ちんこがぁあぁ! おちんこだめぇえぇぇえ! ルプーのおまんこがぁ! ダメになるうぅう!!」

 

 体を支えられなくなった。

 両手が崩れて、涙に濡れたシーツの海に沈んでしまう。

 涙だけでなく、口からこぼした涎も吸っている。

 

「うぎっ! あ゛あ゛っ! おしりがあぁあ……。ちんこでかいぃぃ!! う゛っ……くぅ……、あ゛あああぁぁああぁああああぁぁぁぁ!!」

 

 泣き叫ぶルプスレギナを愛しく思いながら、男は腰を振り続ける。

 ルプスレギナのおまんこが最高なのだ。

 

 

 

 ディルドがよい仕事をした。

 自ら発熱するディルドは、ルプスレギナの体温より熱くなる。

 それによって膣温高めでほかほかのルプスレギナが熱々になるのだ。突っ込んだ瞬間は火傷をするかと思ったほど。

 忘れてはいけないのが、尻穴に突っ込んだアナルスティック。

 尻穴の中で膨張するアナルスティックには、もう一つの機能があるのだ。

 

 先日のアルベド様とのおセックスで思い付いた。

 あの時、アルベド様はアナルにディルドを挿入する二本挿しであった。

 アルベド様はいつだって最高の究極なのだが、ディルドにいささかの問題があったのだ。

 固いのである。

 膣口と肛門は隣り合っている。内部の膣と直腸は薄い肉壁で隔てられているに過ぎない。

 そのため、尻に入っている物は膣内から感じることが出来る。

 それがどういう事になるかと言うと。膣への挿入時、尻に入っているディルドの固い感触が少々難であった。

 そこをどうにかするために開発したアナルスティックである。

 膨張したアナルスティックは、時間が経過すると柔らかくなるのだ。温めると早く柔らかくなる。

 

 アルベド様は究極なので別として、変幻自在のエロイムであるソリュシャンもランク外として。

 ルプスレギナは鍛え上げたしなやかな肢体を持つので締め付けは上々。体温が高いのでほかほかなのも高得点。技術点はこれからに期待するところ大であるが、総合して暫定一位の具合を誇っている。

 しかし、いつでもご馳走と言うのは悪くはないが変化が欲しくなるのが人の常。

 上等な料理に、たまには変わったスパイスを掛けたくなるようなもの。

 

 

 

 直腸内をアナルスティックで圧迫されているルプスレギナの膣内は、いつも以上にきつきつになっている。

 文字通りに咥えられているかのようで、奥まで入れてしまったら抜けないのではと思わされるほど締め付けてくる。

 腰を引けば抜いた傍から膣がぴったりと閉じて、突き入れる時は閉じた膣をこじ開けていく。

 締め付けがきついだけに肉ひだが逸物に密着、もとい圧着してくる。ルプスレギナの中に入ってる感を強く感じる。

 

「きゃううぅぅうううぅん!!」

 

 膣圧に負けない肉棒が奥の奥まで貫いて、先端が子宮口をぐりぐりと押している。

 ルプスレギナは腰だけ浮かせ、上半身はベッドに沈んでいた。

 顔をシーツに埋めると呼吸が苦しいので、何とか横を向いている。

 そこへ、男の顔が近付いてきた。

 

「ルプーの中は最高だ。とても素晴らしいよ。こんなにいいセックスはしたことがない」

「ほ、ほんとう? ルプーのおまんこ、きもち、いい? ……あう゛っ!」

「本当さ」

 

 無論の事、アルベド様は別勘定である。

 

「で、でも……、わたし、くるしくて」

「嘘言うな」

「っ!! うそなんかじゃ…………」

 

 言下に否定され、けども即座に反論することが出来なかった。

 

 苦しいのは本当だ。苦しさから逃れるために一生の恥を覚悟したほど。

 しかし、膣に逸物をねじ込まれ、ごりごりと中を抉られるのは経験にない新しい感覚。

 

 戦闘メイド「プレアデス」の次女であるルプスレギナは、痛みにも苦しみにも強い。痛がっていては戦闘など出来ないからだ。

 ルプスレギナは人狼であっても、人と同じで状況に最適化する。つまりは慣れる。けれど、そこへ快感があるとどうなるか。苦しさと快感は混じり合わず、それぞれを強調してしまう。

 喉が乾いているのに飲み物がワインしかないのと同じだ。乾きを癒すためにワインを飲めば、一層喉が乾いてしまう。しかし、ワインが喉を通っている瞬間だけは乾きを忘れることが出来る。

 違うのは、強制されていること。

 苦しさと快感を自分の意志に寄らず強いられている。

 

「う゛っ! う゛あぁっ! ああんっ! あんっ! あ゛っ、あ゛っ、あんっ、あんっ♡ ああん♡」

「良い声で鳴くじゃないか」

「そんな、ことっ……。んああああぁぁんっ! あ゛ぐぅううぅ! おなか、くるしくてぇ! はあんっ♡ やあああぁああん! らめぇ!! おかひくなりゅうぅううぅ♡」

 

 ついには腰が砕けた。

 下腹をベッドに着けないようずっと膝を立てていたのに、今や股を大きく開いてベッドに全身を沈めてしまった。

 上には男が肌を合わせて覆い被さり、容赦なく腰を打ちつける。

 ぱんぱんと乾いた音が小気味よいリズムで鳴り響き、ルプスレギナの尻肉が波打つ。尻を叩く音はルプスレギナの嬌声にかき消されている。

 

 きつきつになっているルプスレギナの膣からは、膣圧で押し出されるのと逸物で掻き出されるのとで、泡だった愛液が溢れ続けている。

 

「そろそろ抜いてやろう」

「……えっ」

 

 イき続けているのか苦しさに喘いでいるのか、朦朧としてきたルプスレギナに福音が降りてきた。

 膣内に感じる逸物は、さっきからずっと膨らみっぱなしで、射精直前の緊張がずっと続いている。それなのに、出されていない。

 どうしてだろうと思う余裕はなく、圧倒的な男の力に翻弄されるきりだった。

 

「抜ける準備が出来たんだよ」

 

 真っ赤な嘘である。

 抜こうと思えば、ディルドを突っ込んで熱々になった頃には抜けたはずだった。

 ようやく抜こうと思ったのは、飽きてきたのだ。

 

 きつきつで熱々のルプーまんこはとても好いのだが、キツすぎるせいか快感は強いのに射精に至らない。

 やはり出すには包み込むような柔らかさが必要なのだろう。

 きつさで言えばシャルティアもきついので、もしかしたら上からの圧力だけが強いのが悪いのかも知れない。体位をわんわんから正常位に変えれば行けるかもだが面倒である。

 ご馳走にスパイスは風味が変わって食欲を誘うが、下手な工夫はしないで普通に食べるのが一番と言うことか。

 

「アナルスティックを入れたときみたいに息んで尻の穴を広げてみろ」

「は……、はい。んうぅ……!」

 

 腰を上げさせもう一度わんわんポーズをとらせてから、密着させていた体を離した。そこまでするなら逸物も抜いた方がいいだろうに、挿入したままだ。

 

 ルプスレギナが顔を真っ赤にして息むと、肛門が広がってきた。

 リングを引っ張ってやると、内側に詰まっている白いアナルスティックが褐色のアナルの奥に現れる。

 アナルスティックが膨張した直後は指二本分しか広がらなかった。今はそれより広い。三本に届く。入ってるアナルスティックは更にその倍。

 

「こ、これで、どうする……ですか?」

「引っ張るんだ」

「そんなことしたら……、キャウン!! ……お尻、叩かないで……ください」

「せっかく広げた尻の穴が閉じちゃったぞ。大丈夫、俺を信じろ。裂けたりしない。ちゃんと抜けるさ」

「本当、ですか?」

「本当だ。俺を信じろ。俺もルプーを信じる。ルプーなら出来る。俺が信じるルプーを、ルプーも信じるんだ!」

「は、……はい! 頑張ります!」

 

 しかし、尻の穴を広げるのを頑張るのだ。

 

「ん~~~~~~~~~~~っっっ!!!」

 

 ルプスレギナが息む。男はリングを引っ張る。

 限界まで皺が伸ばされ切った肛門から、白く丸いものが出てくる。

 狭い穴を通る風船のようなもの。外に顔を出したアナルスティックが少しずつ大きくなっていく。

 出口にして入り口には強い圧力がかかっている。ルプスレギナは必死に耐えた。

 

「はふうううぅぅ…………」

 

 半分抜ければ後は早い。

 ルプスレギナの尻穴から、丸くて白いアナルスティックが生み出された。

 

「……出た。出ました、よね? でも……まだ……?」

「あと二つ残ってる」

「二つも…………」

 

 アナルスティックには括れが二ヶ所ある。

 ただの丸棒ではなく、分割されたそれぞれが独立して膨らむようになっている。

 

「一つ出せたなら後は簡単だ。同じ事を二回繰り返すだけでいい。ルプーなら出来る。最後まで油断せず頑張るんだ!」

「はい!」

 

 いいお返事であった。

 

 二つ目も同じ要領でルプスレギナの尻穴から産み落とされる。

 抜けたときのルプスレギナの声は、安堵と解放と快感と、何とも言えずに緩みきって気持ちよさそうであった。

 

「……え?」

 

 そして、最後の一つ。

 尻の触り方が変わったことに、ルプスレギナは怪訝に思って振り返った。

 

 一つ目と二つ目は、親指を尻の割れ目に差し入れて、肛門を広げる手助けをしてくれた。

 しかし今度は、尻肉全体を鷲掴みしている。まるで、押さえつけるような触り方。

 

「最後だ。最後の試練をやり通して見せろ!」

「え……、まさか、ゆっくり、まって! ダメやめて!!」

 

 挿入したままだ。

 ルプスレギナの腰をさらに折らせて尻を上に突き上げさせ、男は体を後ろへ反らす。

 尻肉をしっかりと押さえつけ、リングを引く右手に力を込めて、

 

「きゃいいいいいいいいいいぃいぃぃいいいいいいいぃぃいん!!!!!」

 

 力の限り引っ張った。

 アナルスティックは変形しきる前に引きずり出され、抜けきるときはじゅっぽんと快音を響かせた。

 

 ルプスレギナは鳴いた。

 

 精神が肉体から弾き飛ばされたような解放感。

 ルプスレギナは世界の支配者だった。指一本自由に出来なかったさっきとは真逆で、何もかもが自由の世界。

 精神が抜けた肉体は弛緩しきっている。

 だらしなく開いた口からは涎を垂らしている。膀胱も緩んでいる。ちょろちょろと熱い液体が太股を伝ってシーツに色づく染みを作る。

 何もかもが自由だった。

 気持ちいいだけと思っていたセックスで、こんな境地に至れるとは一度も思ったことがない。

 こんな経験をしてしまえば、神官から賢者にクラスアップしてしまうかも知れない。

 

「はうっ!?」

 

 精神が肉体から解き放れようと、肉体と精神は不可分なもの。

 肉体の刺激で、ルプスレギナは遠い世界から帰ってきた。

 

「あんっ♡ お尻……、入ってるっす♡ イったばかりなんすからちょっと手加減して、あんっ♡ やんっ♡ やぁあん♡ お尻でぬぷぬぷって♡」

 

 アナルスティックを引き抜いた直後のルプスレギナは、尻穴がぽっかりと開いていた。

 入れたことがない穴が開いていれば入れたくなるのが男の性。

 熱々のおまんこから逸物をずるりと引き抜き、アナルが閉じきらない内にねじ込んだ。

 ぱあんと尻肉を打つ音を響かせて一息で根本まで。

 膣と違って、アナルは奥に壁がない。ルプスレギナの脇から手を入れて肩を引き寄せるように抱え込み、尻穴の一番奥まで制覇するつもりで貫いていく。

 

「お尻初めてなのにっ、気持ちいいっすよぉ♡ ルプーのお尻におにーさんのちんちん入ってるぅ♡ ……あっ、う゛っ、う゛っ、ああんっ♡ ……あはっ♡」

「ルプーはアナルも最高だよ」

「えへへ♡ ……あはぁんっ! おにーさんのちんこも最高っす♡ んっ、あ゛っ、あぅんっ♡」

 

 膨張したアナルスティックは勃起した逸物より太くて大きい。

 ディルドの隣に放られたそれは拳大の水風船を三つ繋げたような形をして、ローションだかルプスレギナの腸液だかで濡れている。

 そんなもので広げられたルプスレギナの穴にとって、男の逸物が長くて大きくても余裕を持って受け入れることが出来た。

 入りっぱなしだったアナルスティックと違って、出入りしているのがとても好い。

 逸物はルプスレギナのルプスレギナ汁でぬるぬるで、尻の穴は効果抜群のローションでぬるぬるだ。太い逸物で広げられたアナルは、ぬぷぬぷと滑らかに逸物を受け入れて、抜けるときもスムーズだ。

 入ってくるのが気持ちよければ、抜けていくときも気持ちいい。快感に加えて爽快ですらある。

 

「あむっ、ちゅうぅぅっ……♡ あんっ♡ らめ、キスもっとぉ……、ちゅっちゅっ、れろ……、ちゅるるっ♡ んふぅ……、ぷはっ♡ あむっ……、あんっ♡」

 

 体を捻ってキスをねだり、キスをしながらアナルを抉られている。

 ベッドに沈んでいた体は両手両膝を立ててわんわんポーズに戻り、尻を打たれる度にたわわな乳房がぷるんと揺れる。

 

「あんっ! おっぱいぃ♡ やぁん、乳首引っ張っちゃダメっすよぉ♡ う゛っ、あああんっ♡ あっ、やっ、またっ! イくぅ! お尻でイっちゃうぅぅう♡」

 

 尻穴で逸物を扱き続ける内に、ルプスレギナの余裕がなくなってきた。

 シーツをぎゅっと掴んで顎を上げ、鳴き声がより甘く、より高くなる。

 

 男の手はルプスレギナの括れた腰を掴んで腰を打ちつける。

 ペースが速くなり、二人の汗が散っている。

 ルプスレギナはそろそろだと思って、快感に悶えながらも振り向いた。

 愛しい男の顔は凛々しくて、男らしくて、逞しくて、子宮に来る。

 くっ、と男の顔が僅かに歪んだとき、ルプスレギナは男の表情を見て、犯されている尻穴が気持ちよくて、達してしまった。

 

「ああああぁ~~~~~~っ!! お尻で……、お尻でイってるっすよぉ♡ ルプーのお尻がぁ……、イかされちゃったっす♡ おにーさんもイっちゃったっすよね? お尻の穴だけど、ちんちんピクピクしてるのわかっるっす♡」

 

 キツキツ熱々おまんこで温まっていた逸物は、ルプスレギナの情熱的なアナルで扱かれて射精した。

 これでもかと貫いた一番深いところで、どぴゅどぴゅと熱い精液を放っている。

 

「すご……。ちんちんすごいっす♡ まだピクピクしてて、出てるんすよね? ルプーのお尻で精液出してるんすよね? 量、すごいっす。おまんこの時より多い気がするっすよ♡ ルプーのお尻が、今度はおにーさんの精液でパンパンになっちゃうっす♡」

 

 きつきつでたっぷり扱いたのに出せなかったからか尻穴に放った量は、ルプスレギナ相手だと一番多かった。

 

「ああ、最高だった。……って、……………………おい」

「なんすか? ……………………………………あ。これちがくてホントちがくてさっきあれ出したとき油断したのが続いちゃって……、ダメ、止まって! ……なんで止まらないんすか!? これホントに違うんすからぁぁ!! やだあぁぁぁああああぁっ!!!!」

 

 ルプスレギナの股間から、しゃーっと音が鳴っている。ちょっとだけ色がついてちょっとだけ臭いがあって、ルプスレギナの体温と同じくらい熱い液体が筋となって吹き出ている。

 潮吹きではない。そーいうプレイではなかった。

 ルプスレギナの言うさっきあれ出した時の油断とは、アナルスティックを引っ張り出した時に太股をちょろちょろと濡らした熱い液体のこと。

 

 ルプスレギナは、尻穴で達して、おしっこを漏らしてしまった。

 

「……俺も出してやるよ」

「え? あ? ああ!? なに、してるんすかぁ……! やあぁ……、ホントにお腹パンパンになっちゃうっすよぉ……! ううぅ……、あったかいっす……」

 

 ルプスレギナに倣って、男も放尿した。

 尻の穴へ挿入したまま。

 

 アナルスティックの排出で広がり、太い逸物が何度も出入りしてこなれてきてもアナルの入り口は締まっているのが常態である。

 ちょろちょろと出はしたものの、全部は出きらない。

 中で出せるだけ出して、引き抜いた。ぬるりと引き抜かれた時、ルプスレギナは良い声で鳴いた。

 

 まだ出きってないなルプー嫌だったらいいんだけど。……そんなのイヤに決まってるっす何言っちゃってんすか! ソリュシャンはいつもしてくれるんだでもルプーが嫌なら無理には言わないよ。ソーちゃんが……仕方ないっすねこれっきりっすよ? 狙いが外れるとあれだから先っちょだけ咥えてくれ。……わかったっすよ……ほうっふあ? それでいい出すぞ。

 

 ちょっとだけ険しい顔を作ったりもしたけれど目は愛欲に潤み、顔は服従の悦びに緩んでいる。

 ある程度は出したようで勢いは弱かったし量も少ない。それでも、何度も飲まされてきた精液よりは多かった。

 ルプスレギナは口の中に出されるなり喉を鳴らして飲み込んだ。

 勢いが弱くなってくると舌で味わう余裕が出来た。精液と違って粘りけがなく、さらさらとしている。汗に似た独特の塩気がある。精液が熱いなら、こちらは温かい。

 

 ルプスレギナは、射精して固さを失いつつあった逸物を咥えていた。

 尿道口から出てくるのは精液ではない。さらさらとして温かい液体は、ルプスレギナがお漏らししてしまったのと同じ液体。

 尻の穴に続いて、口の中へ放尿された。

 

「んっ……んっ……、こく、こく……、んっ……。あむぅ……れろれろ……ちゅぷ、ちゅぷぷ……んむっ……」

 

 最後の一滴まで飲み干しても、ルプスレギナの口は離れない。

 尿道に残った精液は尻の穴の中へ小便と一緒に出されているので、お掃除フェラとは違う。

 吸いながらきちんと舌を使って頭を振って、萎えてきた逸物へ力を与えるのは、前戯のためのフェラチオ。

 

「あはっ♡ おにーさんのちんちんがまた大きくなってきたっす♡」

 

 しゅっしゅと手を使いながら、ルプスレギナらしい快活な笑みを浮かべた。

 上目遣いに男を見上げ、舌なめずりしてから亀頭にキスをする。

 逞しくなってきた逸物にちゅっちゅとキスを送って二回戦の鐘が脳内で鳴った時である。

 

 

 

 ドンドン! と激しくドアが叩かれた。

 ルプスレギナの部屋をノックできるのは、ソリュシャンとここにいる男を除けば、ナザリックから出張してきているメイドか、はたまた帝都の屋敷にお越しになった守護者以上の方々か。

 最後の方々は不定期にいらっしゃるので何とも言えないが、ソリュシャンやメイド達が乱暴にドアを叩いたことは一度もない。

 

 二人は何だろうと顔を見合わせ、とりあえずは部屋の主であるルプスレギナが応える前に、部屋の外から声を掛けられた。

 

『ルプスレギナ様いらっしゃいますか!? ソリュシャン様がお呼びです。大至急いらしてください!』

 

 シクススの声だった。

 シクススが声を荒げ、大至急と言う。

 ますますもって二人は訳がわからず首を傾げ、

 

『いらっしゃらないのですか? ドアを開けてもよろしいでしょうか? お返事がなければ不躾ながら失礼いたします。在室していらっしゃらないことを確認するためでございます。……それでは失礼いたします』

 

 カチャカチャと鳴っている。

 外から鍵を開けているようだ。

 今入られるととても不味い。

 

「いる! いるっすよ! すぐ行くからちょっと待って欲しいっす!」

『いらっしゃるのでしたら大至急お越しください。もう一度申し上げます。大至急お越しください』

 

 ベッドの二人はまたも顔を見合わせた。

 

「……行ってらっしゃい」

「うぅ……、お風呂入ってからにしたいっす」

「大至急だそうだ。急げ、頑張れ!」

「…………おにーさんのせいっすからね!」

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

「どーいう状況っすか?」

「ルプー遅い!」

 

 異様な状況だった。

 

 部屋には呼び出したソリュシャンと、ソリュシャン専従メイドのシェーダがいる。壁際には険しい顔をしたジュネが。

 ルプスレギナを呼びにきたシクススはシェーダの隣に並んだ。

 そして、表情を落としたソリュシャンの下に、ミラ。

 

 ミラは床の上にひれ伏していた。

 頭を深く下げ、顔が床にめり込むほどになっているのは、頭の上にソリュシャンの足が乗っているから。

 

「何があったか知らないっすけど、ミラはおにーさんの部下ってことになってるんすよ? あんまり苛めると怒られるんじゃないんすか?」

「お兄様の行方がわからなくなったわ」

「…………へ?」

 

 意外な言葉を聞かされて、ルプスレギナは間抜けな声で聞き返した。

 呼び出された時のシクススの剣幕や、ソリュシャンの厳しい態度からただ事ではないと思っていたのに意表を突かれ、緊張が緩んでしまった。

 お尻の中には色々出されたものがたぷたぷしているのだ。

 

 出してく時間がないだろう? と言うことでアナルプラグで栓をされているのが幸いした。

 もしもしていなかったら、ちょっぴり出てきてしまったかも知れない。

 

「行方不明ってどういうことっすか?」

「説明しなさい」

「う゛ぁい」

 

 ソリュシャンの足の下で、ぬかるんでくぐもった声がなった。

 

「ほひゅひんさまあひろからぱしゃにおのりになりまひた」

 

 とても聞きづらいミラの言葉をわかりやすくすると、

 ご主人様は皇城から馬車に乗った。道中ずっと無言でいたのは珍しいことだったが休んでいると考えた。ところが、屋敷に着いて馬車の扉を開くと中は無人。急いで来た道を戻り探したが見つからず。ご主人様が行方をくらませた事に心当たりがあった。皇帝と会話しているときにご主人様の命令より自分の役目を優先してしまった。その事を不快に思われたと思われる。ソリュシャン様に思い当たることを報告した。己の責務を果たせなかった罪の重さを教えていただいている。

 

「つまり、おにーさんはミラに怒ってどっか行っちゃったってことっすか?」

「……わからないわ。お兄様がアルベド様を裏切るとは思えない。ナザリックから……、私たちから離れることは絶対にないはずよ。いずれお戻りになると信じてるわ。でも……。何か不測の事態が起こっていたら……。人手を使って探して良いものかどうかもわからない。ルプー、どうすればいいと思う?」

「んー……。もしもおにーさんが本気で隠れたら絶対見つからないんじゃないっすかね? 王都で暮らしてたとき、私にも捕まえられないとか言ってたし」

「お兄様はご自分の意志で行方をくらませたという事!? お戻りになるわよね!?」

「いやそんなの決まってるじゃないっすか」

 

 戻るも何も、さっきまで一緒にいたのだ。

 まさかあれが幻覚なわけがない。

 今もお腹はたぷたぷしてるし、栓もしている。

 

「お戻りにならなかったら……、死ぬだけじゃ済まさないわ! 千年掛けて溶かしてやる!!」

 

 足に体重を掛け、踏みのめす。足下から赤い液体が広がりつつあった。

 

「ちょっちょっとソーちゃん足上げるっすよ! それ以上はまずいっす!」

「この女のせいでお兄様が行方知れずになったのよ!」

「それはないっすから。おにーさんがそんなんで怒るわけないっすよ」

「そうだぞ。ミラは真面目だっただけで怒る理由がないだろうが」

「ルプーもお兄様も黙ってて! そうじゃないとしても考えられるのは………………お兄様!?」

 

 ソリュシャンの目がまん丸になった。

 メイドたちやジュネは、目に加えて口も丸い。ぽかんとだらしなく開いている。

 

 ルプスレギナと違って、体をちょっと身綺麗にしてたので遅くなったのだ。

 

「こひゅひんはま!!」

 

 美顔を血に染めたミラが顔を上げる。

 額には少々の擦過傷。鼻は潰れて平坦になっており、発音の不確かさから歯も幾本か折れているかも知れない。

 

「ちょっと馬車から抜け出ただけで、どうしてこんなことになるんだ」

 

 春風駘蕩の若旦那様が、ちょっぴり厳しい声で言った。

 

「それは……お兄様はご自分の身分を軽んじています! お兄様はアルベド様の相談役なんです。ナザリックにおいてどのような立場にあるか自覚なさってください。なのにミラはお兄様の言葉を……」

 

 お兄様がソリュシャンを見る目は白い。

 ソリュシャンが都合の悪いことを誤魔化そうと、話の筋をねじ曲げているのがわかるからだ。

 

「だから、ミラは真面目だったってだけだろう。怒るにしたって、怒る前にシャルティア様の所に返すからやっぱり怒ったりしないだろう」

 

 血塗れのミラが立ち上がるのを手伝うのは出来た事だろうと思うのに、何故か空気が凍ってしまった。

 喜びに目に涙を浮かべていたミラなどは凍り付いたように動かない。

 

「……お兄様は、シャルティア様の元へ帰されたミラがどうなるか承知していらっしゃいますよね?」

「あのなあ、ソリュシャン」

 

 呆れたように言った。

 

「シャルティア様はシャルティア様でも階層守護者でいらっしゃる。そのシャルティア様が為さる事にあれこれ言えると思うか? いくらシャルティア様だったとしても、それは僭越が過ぎると言うものだ」

「それは……その通りですが……」

 

 その通りだが、そうではないのだ。

 

 今でこそシモベを大事にするようになったシャルティアだが、少し前までは気侭に首を飛ばしていた。物理的に。

 そのシャルティアへ、シャルティアが遣わしたシモベを使えないから返すと言われたらどうなるか。

 

 よくも恥をかかせてくれたな!

 

 絶対にこうなる。アインズ様のお言葉があってもこうなる。間違っても大事に扱ったりしない。

 たとえそれがヴァンパイアブライドにて最強のミラであっても同じだ。

 シャルティアにとって、ヴァンパイアブライドの最強と最弱の差は誤差に過ぎないのだから。

 

「まったく。こんな血だらけになって、可哀想に」

 

 凍り付いていたミラだが、手を貸して立たせてやれば自分の足で立てた。

 顔は酷いことになっていても、体の方は大丈夫なようだ。

 

「ルプー、回復」

「はいっす」

 

 ミラが再度凍り付く。

 

「ちょまーーーーっ!!」

 

 お嬢様モードをかなぐり捨てて、ミラの命を救ったのはソリュシャンだった。

 

「ミラはヴァンパイアブライドですアンデッドです! 回復魔法なんて掛けたらダメージにしかなりません! ルプーもはいじゃないでしょう!」

 

 様々な耐性を持つアンデッドは、回復魔法でダメージを負ってしまうのだ。

 それが高位の神官であるルプスレギナの回復魔法なら致命傷どころか消滅に直結しかねない。

 

「それじゃ仕方ないか」

「ほ、ほひゅひんさま? あぅっ!?」

 

 ご主人様は、ミラの潰れた鼻に口を付けた。

 鼻からこぼれる血をじゅるじゅると吸い、切れた唇に口を付ける。

 舌で口内を探ると、鋭い牙がぐらついていた。これでは使えない。

 鋭い方が痛くないので良かったのだが、使えないでは仕方ない。自分の歯で舌を噛み切り、再度ミラの口へ差し入れた。

 

「!!!!!」

 

 シャルティアですら酩酊してしまう強い血である。

 ジュネは唇に擦り付けられた血を舐めただけで意識を飛ばした。

 

 それを、直飲み。

 マウスツーマウスで。

 

 潰れた鼻は瞬く間に復元し、ぐらついた牙もしっかりと根を張る。

 ミラは、心も体も魂も、ご主人様に絡め捕られた。

 薄れゆく意識の中で、アインズ様に、シャルティア様に、何度か遠くから拝見した事がある偉大なる翼王ペロロンチーノ様に掛けて、ご主人様へ絶対の忠誠を誓った。

 

 ルプスレギナと、ついでにミラも、わからされてしまったのだ。



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決着

双子が交互に喋ってるとわかりづらいので片方は一段下げてます


 帝都のお屋敷に設けられたら演習場で二つの音が鳴っています。

 一つは鐘よりは軽やかで鈴よりも厚みがある金属音。もう一つはドガァンとかボガァンとか云う爆発音と粉砕音を足して割らない爆音です。

 豪快な戦闘音を背景に、若旦那様は演習場の近くにテーブルを用意させておやつを食べていました。

 

「うっ……、この葡萄は……」

「おかしい味がしまして? 甘くてとっても美味しいと思いますが?」

「アウラ様が持ってきてくれた葡萄っすよ? おかしな味がするわけないっす」

「……甘い。もっと酸味がある方が好き」

 

 日が延び始めたとは言え、季節はまだまだ寒い盛りです。帝国でも王国でもその他の地域でも、葡萄の旬は過ぎています。

 三人が楽しんでる葡萄は、先日遊びにいらしたアウラ様がお土産にと持ってきてくださったものなのです。

 

「そう仰る割にはたくさんお召し上がりになりますのね」

「酸っぱい方が好きだけどこれはこれで美味しいからね」

「だったら文句言わずに食べてればいいじゃないっすか」

 

 美女姉妹に挟まれてたしなめられた若旦那様は、気分を害することなく次の葡萄に手を伸ばしました。房ごと持ち上げて下からかじり付き、数個の実を齧りとると口の中でモゴモゴしてからぺっと皮を吐き出します。お屋敷の敷地内で身内しかいないからいいようなものを、些か品がありません。

 ソリュシャンお嬢様は皮ごと飲み込んでしまいます。なんでも溶かしてしまうスライムならではの食べ方です。

 意外や意外に、一番上品な食べ方はルプスレギナでした。まず皮を半分だけ剥いて口に運びます。口元を隠すように食べた後は、皮をお皿の隅に置くのです。指先をナプキンで清めるのも忘れません。

 

「いい勝負に思えるけどレイナースが有利かな」

 

 話の矛先が葡萄から演習場の内側へ向かいました。

 

「戦闘スタイルが噛み合ってないっすからねー。そもそもティアの方は真っ向勝負には向いてないっすよ」

「それ以前に、これは勝負ではなく訓練です。私たちからすればどちらも似たように思えますわ」

 

 三人の視線の先で、対峙する両者が距離をとりました。

 

 一方は忍者スタイルのティア。それは本当に忍者なんですかと問いたくなるような肌色部が多い装備です。特に今は胸甲と手甲を外しているので、夜のお店にいても違和感がありません。

 獲物は短刀を一振り。本来のスタイルは投擲武器も使用するのですが、現在はあくまでも訓練なので使用禁止となっています。

 キンキンと軽やかな音を立てていたのがこちらです。

 

 対するはレイナース。ティアが軽装なら自分もと言うことなのでしょう。若旦那様の趣味に付き合うときは軽鎧を身に付けるのですが、今は外しています。軽鎧の下は割とお洒落です。短いスカートとレオタードを組み合わせたワンピースレオタードです。肩とか腋が見えてますし、スカート丈がとても短いのです。ティアとは系統が違う夜のお店にいても違和感がありません。

 獲物は槍です。騎乗して使用する突撃槍とは違って、突いたり薙いだりするのに適した形です。レイナースが得意としている本来の武装です。

 爆音を轟かせて演習場を凸凹にしてるのがこちらです。異名が重爆と言うだけはありました。

 

「中々やる」

「そちらこそ噂通りの腕前ですわ。噂以上と期待していたのですが、噂とは案外事実を伝えるものなのですね」

「これは錆落としだから。それに本気だしたら怒られる」

「私も学士殿から怒られたくありません。精々傷を付けないよう加減してみせましょう」

「即死しなければルプーがいるから大丈夫だ」

 

 言われてしまいました。

 言われてしまった以上、ギアを上げないわけにはいきません。

 二人は何度目かの激突を始めました。

 

 

 

■ ■

 

 

 

 ティアが戦闘訓練を行っているのは、ミラの進言があったからです。

 

『ティアは王国に戻った後、冒険者に戻ります。調教続きで腕が鈍っては問題ではないでしょうか』

 

 これには一同、目から鱗のようなものがはらりと落ちました。極悪集団ナザリックの一員のくせして聖人になる資格があるのかも知れません。

 

 初日の段階でティアの調教は十分と思っていたミラは、罰を覚悟で進言したのでした。

 ご主人様に絶対の忠誠を捧げた以上、自分の命よりご主人様の利益を考えたのです。

 

 拘束を解かれたティアはとても素直でした。

 現在は、表向きはお屋敷の客人として扱っています。もちろん、勝手に出て行ったりおかしな事をしたりすれば斯くの如しです。

 

 始めはミラが訓練の相手をしていました。

 遊びに来たレイナースに訓練風景を見せると、自分から訓練の相手を名乗り出ました。レイナースは帝国では名だたる強者なので、音に聞く王国のアダマンタイト冒険者に食指が動いたようでした。

 

 

 

▼ ▼ ▼

 

 

 

 訓練が行き過ぎないようにミラが監督しています。

 ジュネは最弱なので訓練には関わらせず三人の給仕係です。メイドを使ってもいいのですが、昼とは言え寒いので外で働かせるのは可哀想です。

 

「レイナースは金髪ですわね。王国で金髪と言いますと、王女の名を何度も聞きましたわ。お兄様は王女を孕ませるつもりはございませんか?」

 

 突然葡萄がめっちゃ酸っぱくなったようです。

 若旦那様はスゴい顔をして葡萄の皮を吐き出しました。

 

「ない。無理」

「おつもりがないのはわかりましたが、無理とはどういう事でしょう? 男と女で成すことを為せば出来るのではありませんか?」

「………………」

 

 若旦那様がソリュシャンを見る目が、ソリュシャンに化けた狐を見る目になりました。

 ソリュシャンはどうしたんだあれは正気か? 正気みたいっすよこの前もカルカに変なこと言ってたっす。レイナースをどうにかしろって言い出したのもソリュシャンだったな。あったっすねーあそこらへんの調整で私は結構苦労したっすのに。変なもんでも食べたんだろうか。とりあえず答えてやればいいんじゃないっすか?

 

「出来るかも知れないが奇胎になる可能性が高い。と言うわけでやっぱり無理」

「どうしてそうなるのですか? 王女に異常が? それともお兄様に?」

「………………どっちも正常だろう。俺とあれの組み合わせが不味いってことだけだ」

「左様でございますか」

 

 ソリュシャンは口元を拳で隠して考え始めてしまいました。

 ソリュシャンからの追求が止んだ若旦那様は、逃げるようにして演習場に向かいます。コキュートス様から頂いたカタナブレイドは忘れません。ティアの現役復帰訓練に混じるつもりなのです。

 

(王女は駄目。……お兄様が以前仰っていたお兄様を監禁していた女と言うのはやはり王国の王女だったのかしら。そうだとしたら手が出せないわね。アルベド様にお任せしているというのも頷けるわ。王女が駄目なら王国には…………、蒼の薔薇の、ええっと……ラキュースとか言ったかしら? あれはまあ、見れた顔だったわ。王国に戻したティアを使えば誘導出来るはず。それより先にカルカね。折角この私がお兄様の傍に侍ることを許してあげたのにいったい何をやってるのかしら。まったく行き遅れた処女って面倒ね。どうやってけしかけようかしら? ……ルプーは何してるの?)

 

 考え事をしているソリュシャンは、ルプスレギナが変なことをしているのを見て思考を中断させました。

 ルプスレギナは、若旦那様が吐き出した葡萄の皮をじーっと見ていたかと思うと、ついと手を伸ばしたのです。

 

「ルプー姉様…………、お気持ちはわかりますが、それはちょっと」

「へ?」

「ですから、その手を引っ込めてください。お兄様が吐き出した葡萄の皮をしゃぶったり舐めたりしたいんでしょう?」

「そんなのするわけないっすよ! ってか気持ちがわかるって、ソーちゃんはしたいんすか?」

「したいです」

「!?」

「吐き出した皮だけではなく、お兄様が咀嚼してドロドロになったものを口移しでいただきたいと思っています」

「!?!?!」

 

 近くで聞いてる者がジュネだけとは言え、ぶっちゃけ過ぎです。

 何でもトロトロ出来ちゃうスライムならではの性癖でしょうか。ルプスレギナはどん引きしました。今のソリュシャンにはちょっと近付きたくないなと思いました。

 若旦那様が訓練に参加してしまったので、素早く回復できるようにとルプスレギナも演習場の内側へ向かいます。

 

 手の中には若旦那様が吐き出した葡萄の皮があります。

 視線は剣舞をしている若旦那様とティアへ向けたまま、神経を手の中に集中させます。調べ終えたら地に放り、靴底でぐりぐりと踏みにじりました。

 

 目視をしていないので確実なことは言えません。

 ですが、神経を集中させた手指で調べた限り、葡萄の皮はどこも破れていませんでした。

 

 

 

▼ ▼ ▼

 

 

 

「ついにこの日が来たでありんすね」

「長いようで短い半月でございました」

「久し振り」

 「そっちも久し振り」

「元気だった?」

 「もちろん。とても良かった。……なに?」

「体調チェック。体温正常。歯並び変わらず。人間?」

 「人間。シャルティア様からもお付きからも吸血されてない」

「ちょっとだけ味見をさせんした。飲めないでもないと聞きんしたが、そんなの飲むほど飢えてないでありんす」

 

 シャルティア様は若旦那様より余程フェアでありました。

 手段を目的化してしまって思い付かなかったのかも知れませんが、兎も角、シャルティア様が担当したティナは人間のままティアの前に戻ってきました。

 

 ティアとティナが帝都のお屋敷にごめんくださいと訪問してから半月。

 調教バトルの結果を出す日がやってきたのです。

 

「この扉の向こうにお前らが真の忠誠を捧げる偉大な御方がいらっしゃるでありんす」

 

 一同が集うのはお屋敷の三階にある貴賓室の扉の前です。

 主役はティアとティナ。それぞれの担当である若旦那様とシャルティア様。ナザリックからいらした賓客ですので、プレアデスのルプスレギナとソリュシャン。

 以上、六名が扉の前に並んでいます。

 

「公平を期すために、どちらがどちらを教育したかは伝えていない。二人とも中に入ったらシャルティア様と俺の名前を出さないように」

「わかった」

 「…………」

「何かな?」

 

 ティアは素直に返事をしたのですが、ティナの方はじっと若旦那様を見ています。

 

「シャルティア様から聞いた。年増の大口ゴリラに仕えてるって」

 

 そのとき、時空が歪みました。

 時の矢は飛ぶのを止め、空間は分断し細分化し連続することを止めました。

 

 時の矢が飛ぶのを再開すると、若旦那様はシャルティア様を睨みつけました。

 ティナはアルベド様と直接の面識はないはずです。知らないのをいいことに、シャルティア様が出鱈目を吹き込んだのです。

 そのシャルティア様は明後日の方向を見ながら、ピひゅーとかぺピーとか、下手な口笛を吹いています。

 ルプスレギナとソリュシャンは覚悟しました。死者が出るかも知れません。少なくとも血を見ずには治まらないことでしょう。

 

 シャルティア様の卑劣な盤外戦でありました。

 ここで若旦那様がティアへプレッシャーを掛ければ緊張して失敗して、それだけ勝利が我が手に近付いてくるのです。

 おバカおバカシャルティア様はシャルティア様だからと言われるシャルティア様ですが、決しておバカはないのです。知恵の使いどころが間違ってるだけなのです。

 

 若旦那様は、傍らのティアに真剣な顔で言いました。

 

「ティアが勝ったら魔導国に戻ってからも会ってやろう」

「絶対勝つ。勝つためならティナに手を掛けてもいい」

 「そこは自分の命じゃない?」

「私が死んだらもう会えなくなる。ティナ、私のために死んで」

 「残念。勝つのは私。私はシャルティア様に勝利を捧げるためにここに来た」

 

 ティナの調教度合いも中々のようです。

 

「時間です。御方がいらっしゃいました」

「くれぐれも失礼がないように。最大限の敬意を払いなさい」

 

 両開きの扉をルプスレギナとソリュシャンが開きます。

 扉の奥にいらっしゃったのは、偉大なる死の支配者。魔導王アインズ・ウール・ゴウン陛下でありました。

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 聖王国に赴かれているアインズ様が帝都にいらっしゃるわけがありません。豪奢な椅子に座っておられるのは、アインズ様に扮するパンドラズ・アクター様でした。

 パンドラズ・アクター様がいらっしゃったのは、シャルティア様と若旦那様がお願いしたからです。

 

 魔導国と敵対していた王国の冒険者を取り込み適切な教育を施しましたので、成っているかどうか評価していただけないでしょうか?

 

 忙しいパンドラズ・アクター様ですが、元敵対者を魔導国に受け入れるべきか否かを判断するのは重要なお仕事と言えなくもありません。

 折角ですから、アインズ様の振りをして二人を見定めることにしたのです。

 

 入室した六名の内二名は部屋の中程まで進み、跪きます。

 静かに扉を閉めた二名は先の二名の斜め後ろに跪きます。

 残る二名。ティアとティナは四名より更に先へ進みます。

 二人はアインズ様の三歩前で跪きました。

 

「王国のアダマンタイト冒険者、ティアとティナと言ったな?」

「ティアと申します」

 「ティナと申します」

「「偉大なるアインズ・ウール・ゴウン様に拝謁させて頂き、光栄です」」

 

 最初の段取りくらいは練習してありました。

 調教の真価が出てくるのはこれからです。

 

 「失礼いたします」

 

 ティナが先手を取りました。

 発言するや否や、アインズ様からお許しを得る前に立ち上がったのです。

 これはいけません。減点対象です。シャルティア様は一体何を教えていたのでしょうか。

 ルプスレギナとソリュシャンが視線を鋭くして睨みつけます。アインズ様は軽く手を振り、美女姉妹を止めました。

 

 ティナはアインズ様の一歩前にまで歩むと、行動しました。

 アインズ様は絶句しました。

 ルプスレギナとソリュシャンも絶句しました。

 若旦那様はぽかんと口を開きます。

 シャルティア様だけは満足そうに頷きました。

 

 ティナは、脱いだのです。

 双子忍者の装いは、忍者スタイルから胸甲と手甲を外してちょっとあれなものになっています。

 その上、ティナは始めから脱ぐつもりでした。腰のベルトを外し、トップス代わりのさらしを解き、パンツごと網タイツを脱げばあっという間です。

 恥ずかしげもなくぷりっとしたおっぱいとお尻をさらけ出し、その場に四つん這いになりました。

 

 「どうぞ私の上にお座りください」

 

 きっと誰かがタイムストップを使いました。

 誰も動けません。アインズ様の顎の骨がかくってなっています。

 

 「どうぞお座りください」

 

 誰かどうにかしろ!

 

 アインズ様の声なき叫びが届きました。

 チェストォ! バキッ、グェッピクピク……。

 

 ティアが飛び跳ね、ティナの首目掛けて渾身の蹴り下ろしを繰り出しました。

 無防備なティナへ見事にクリティカルヒット。あれがあれな方になってしまったティナは、口から微量の血をこぼして痙攣しています。

 

「見苦しいところをお見せしました」

 

 ティナを始末したティアは、嫌な汗をだらだら流しながら再び跪きました。

 アインズ様は無言で立ち上がります。

 ティアを素通りし、若旦那様の前に立ちます。

 立ち上がらせ、若旦那様の右手を高く持ち上げました。

 

「優勝」

「なぜだ?!?!」

 

 残念ではありません。当然です。

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 アインズ様に扮するパンドラズ・アクター様は、ティナへ再教育を施すように言い置いてお帰りになりました。

 ピクピクしていたティナはルプスレギナが回復させました。

 

「シャルティア様」

 

 ぽんと頭に手を置かれ、シャルティア様は激昂しました。

 理不尽な敗北を突きつけられて気が立っているのです。

 

「気易く私の頭に触れるな!」

 

 乱暴に払いのけます。

 ナザリックにて最強の一角を担う鮮血の戦乙女が遠慮なしに打ち払ったのです。

 触れるなり砕け千切れ、勢いよく吹っ飛んで壁の染みになりました。

 

 愛しのお兄様が傷つけば、それを為したのが上位者であろうと一言物申す気概を持つソリュシャンは直立不動です。

 大好きなおにーさんが傷つけば、一も二もなく回復魔法を掛けるルプスレギナも直立不動です。

 双子忍者は互いに抱き合っていました。腰が抜けてその場にへたり込んでいます。二人は空間が脈動しているのを幻視しました。

 

 若旦那様を睨みつけたシャルティア様は、何かに跳ね返ったように前を向きます。

 

「シャルティア様」

「……………………」

 

 若旦那様がシャルティア様の顔を覗き込みます。

 シャルティア様は顔を背けました。

 

「シャルティア様」

「ひっ……」

 

 ぽんと頭に手を置かれました。

 なくなった方の手です。シャルティア様の艶やかな銀髪が真っ赤に染まります。

 

「シャルティア様」

「ななななななんでありんしょう?」

 

 今度は顔を背けられませんでした。

 冷たい汗を生温かい液体が覆い隠していきます。

 

「勝利したのは私です」

「そっっそっそっそうみたいでありんすね?」

 

 とろとろと頬を伝う鮮血が100万匹の百足のようです。

 目の前に迫る赤と青の瞳から精一杯目を反らして答えました。

 

「私はシャルティア様への一日命令権を手に入れました」

「……は……はひ…………」

 

 帝国で最も希少な美酒の100万倍の価値がある血が唇を濡らします。

 たった一口でシャルティア様ですら酩酊させる血液です。

 

「私はティナを再教育しなければなりません。それ以外にも抱えている案件が多々ございます。シャルティア様と過ごす日時は追ってお伝えいたします」

「………………」

 

 シャルティア様は目眩がしてきました。

 

「よろしいでしょうか?」

 

 甘い声が反響しています。

 四方八方から聞こえてきます。

 シャルティア様は紅い瞳を泳がせて、何度も頷きました。

 頷く度に赤い血が滴り落ちました。

 

「わかりんした!」

 

 答えた直後にゲートの魔法を発動。

 シャルティア様は逃げました。



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ソムリエ ▽カルカ

 ティナが胸を張ってこう言った。

 

「私はティアと違って女より男が好きだったけど好きなのはデカチンじゃなくてショタチンだから。それに超美人で超テクニシャンなシャルティア様から色々教えてもらってる。顔がいいだけでどうにかなると思わないで」 

 

 

 

▽ ▽

 

 

 

「んほおおおおおおおおおおおおおおっっっ!! デカチンしゅごいいいいいいいぃぃいい!! もうらめらめイクイクうううぅうぅうううぅう!! んっはあああぁぁっぁぁああああ!!! …………らめ、イったばかり、らめ、らめ! らめなのにいいいいっぃぃぃまたイクうううぅうぅうううぅう!!!」

 

 

 

▼ ▼ ▼

 

 

 

 ティアとティナの二人はそろそろ王都に戻っていなければならない時期である。しかし、シャルティアがティナへ施した教育に不備があったため、再教育しなければならなくなった。

 二人を王都に戻す際はシャルティアがゲートの魔法で送ることにして、稼いだ時間を教育に充てることにした。

 

 効率よく行くためにティアの意見を参考にした。

 ティアが初日に味わったプレイをややハードに、時間と回数を倍にしてティナに施した。

 効果は確かだったようで、深い眠りから覚めたティナは、ティアと同じ目をするようになった。

 

 ティナが目覚めて二日目の今日は現役復帰のための戦闘訓練を行っている。

 扱いているのはミラと回復役を兼ねているルプスレギナ。ティアも勿論参加している。戦闘では役に立たないジュネはサポート係である。

 こちらもティアだけの時より激しくなっている。ルプスレギナがいなければ、ティアもティナも仲良く五回ずつ死んでいたことだろう。死なせ掛けたのは五回ともルプスレギナであるが。

 その甲斐あってティナの勘所が戻りつつあり、現在は二人が得意としている連携訓練を行っている。

 二人が連携するとミラであっても苦戦するのだが、ルプスレギナがあっさりと叩き落とすようだ。

 

 

 

 荒事は女達に任せ、男は書斎に籠もっていた。

 当面の難事であったシャルティアとの調教競争を終えたので、次のことを考えているのだ。

 

 Yes ロリィタ Go タッチ! である。

 

 アルベド様のご息女であり自分の娘でもあるらしいソフィーに直に飲ませてあげなければならないようなのだ。

 しかし、現在のソフィーはまるっきり幼女である。立つものも立たない。しかし立たせなければならない。訓練する必要があった。

 

 大人の女ではなく少女と来れば、シャルティア様とは何の問題もない。何度もセックスしてきた。

 シズちゃんはちょっと怪しかったが、アルベド様のお力をお借りした秘奥義「美神想起」によって最初の難関をクリア。二度目以降はスムーズだった。

 ネムちゃんは無理だろうと思っていた。現に服を脱がせてよがらせても立つ気配はなかった。ところが、さわさわペロペロさせる内に大きくなってしまったのだ。その末に出してしまった。ネムちゃんは陰毛が生えかかっていて幼女から少女になりつつあったからいけたのだろうか。

 

 しかし、アウラ様はアウト。

 一緒にお風呂に入って、色々なところを愛撫してアウラ様の女を呼び覚ました。愛撫している最中はアウラ様の可愛いお尻に逸物が触れていたのに全くの無反応。クンニリングスをして絶頂に導いても、嬌声は耳に心地よかったが欲情はしなかった。

 以上からボーダーはアウラ様と判断できる。

 協力を願うため、先だって相談したいことがあると伝えている。数日後にはいらしてくれるはずだ。

 そうしてアウラ様で立つようになったら幼女にチャレンジである。

 

「くっ………………!」

 

 アルベド様のご要望とは言え、幼女にチャレンジである。色々な思いがこみ上げ、目に涙が滲んできた。

 一度だけなら秘奥義を使えばよい。しかし、一度限りと言うことはないだろう。母を想って娘に、と言うのも問題が大きい。

 正攻法しかないのだ。

 

 揺り椅子でゆらゆらしてたのを、机の上にドカッと足を下ろして揺れを止める。

 顔を俯け、右手で目元を押さえた。

 左手は肘掛けから落ち、だらりと下がっている。

 

 考えていることは本当にどうしょもないことなのに、見た目がいいので絵にはなる。

 こういう所をメイドたちに見られると業務妨害になるとか何とかで、シクススから何度もひっぱたかれてきた。そのシクススはメイド長としてのお仕事中である。

 隙あらばちゅぱちゅぱしたがるソリュシャンもお仕事中である。日々の報告書以外に、エ・ランテルの頃から続いている帝国の書物を要約した物を提出しなければならない。文面は男が作るわけだが、ソリュシャンかルプスレギナが清書しないと誰にも読めない。ルプスレギナが双子忍者の面倒を見ているため、全ての書類仕事がソリュシャンのところにやってきている。

 

 男は珍しく一人である。

 垂れ下がった左手がぶらぶらしている。

 その手が上がったのは、全くの無意識だった。何かしらの意図を持って動かしたわけではない。

 上げた手に、柔らかくて触り心地の良い物が触れた。

 

「ひん!」

 

(あれ? 誰の尻だ?)

 

 

 

■ ■ ■ ■

 

 

 

 みんながお仕事をしているのだから、お屋敷のマスコット的存在になりつつある双子幼女もがんばっている。

 ウレイとクーは、お仕事をしてお勉強をしてお仕事をしてやっぱりお仕事をする日々を送っているのだ。

 とは言ってもやっぱり幼女。可愛らしさを振りまいて休憩中のメイドたちに遊んでもらうのが一番の仕事となっている。お屋敷の本邸より別邸に入り浸っていることも多い。

 そこで二人の身元が判明した。

 帝都で雇ったメイドたちは帝国貴族の子女であり、ウレイとクーを見知っている者がいたのだ。

 

 二人の名前は、正しくはウレイリカとクーデリカ。今や没落してしまった帝国貴族フルト家の娘らしい。姉がいたがワーカーとして働き続け、現在は所在不明。

 父母がどうなっているかも不明。存命だとしても、娘を奴隷商に売った両親なのだから関係は完全に断ち切れている。

 

 姉の命はナザリックにて果てている。

 もしも両親が生きていて娘を返せと言ってきたら、皇帝に相談する。相談とは形だけのことであって、やることをやれと言うことだ。

 やらなかったらミラが派手に突撃するか、ルプスレギナが玩具を手に入れるか、誰もが忘れているかも知れないがソリュシャンが本業であるアサシンの本領を発揮するかのいずれかとなる。

 

 なんであれ双子の未来は変わらない。

 魔導国の庇護下で健やかな成長を遂げることだろう。

 

 双子は素敵なお薬のおかげで、ようやく自他の区別がつくようになった。区別が出来るのは当人たちだけで、他者からはやっぱりどちらがどちらであるかわからない。

 年上の金髪女性をお姉さまと呼ぶのは変わらない。当人たちは薄々本当のお姉さまではないと気付きつつあるのだが、お姉さまと呼ばれる方が喜んでいるので当分はこのままと思われる。

 

 ソリュシャンお姉さまはお姉さまではなくお嬢様。シクススお姉さまはメイド長なので割と塩対応。

 二人が一番好きなお姉さまはカルカお姉さまだ。一応はカルカの専従メイドとなった二人である。

 とは言っても幼い二人なので、カルカのお付きになってもメイドとしての仕事をこなすより、カルカから読み書き等の基礎教育を受ける毎日だ。

 

 その二人は今、とある難題に直面していた。

 

「シェーダさまに聞いてみる?」

 「お仕事じゃないこと聞いたらおこられちゃうよ」

「じゃあシクススお姉さま?」

 「シクススお姉さまいそがしそう」

「ほかのお姉さまにする?」

 「言いふらしちゃダメ」

「でも困ってるのに」

 「だからカルカお姉さまに聞いてみよう?」

「カルカお姉さまやさしいし」

 「きっと知ってるよ」

 

 双子ならではの素早い意志疎通により、早々に結論を得た二人はカルカの部屋に赴いた。

 

「二人ともお揃いでどうかしたの?」

 

 双子が一番好きなお姉さまがカルカなら、カルカが一番好きなのも双子だった。

 孤立無縁のお屋敷で、カルカが心許せるのは幼い双子だけ。いつだって愛くるしい幼女たちだ。二人がいなければ、屋敷で過ごす毎日は乾ききって泣き暮らしていたことだろう。

 二人がいるからこそ、今日も笑っていられる。祖国の苦難を忘れることが出来る。今の自分はただのカルカ。聖王国のカルカ・ベサーレスではないのだから。

 二人のためなら何だって出来る。

 しかし、二人の話を聞くにつれ、カルカの顔色は赤くなったり青くなったり、言葉が口から出てこなかった。

 

「もう一度聞かせてちょうだい」

 

 カルカは真剣な顔で聞き返した。

 

「ご主人さまが立たなくて困ってるんです」

 「立つって何が立つんですか?」

「立って寝るんですか?」

 「ご主人さまは座ったまま立つんですか?」

 

 幼女たちが相談しているのはご主人さまのこと。

 一緒に眠ったとき、ご主人さまは「立つわけない」と困った声と顔で言っていたのだ。

 立たなかったけど、立たないと困るらしい。

 一体何が立つのか。どうすれば立つのか。幼い二人には見当もつかない。

 二人が一番信頼して一番好きなカルカに相談したわけだが、相談されたカルカは顔色を変えていた。

 

「旦那様はあなたたちを……、裸にしたのね?」

「はだかで寝るときもちいいって言ってました」

 「ちゃんとパンツも脱ぎました」

「おなかをなでなでされてきもちよかったです」

 「わたしは頭をなでてもらいました」

「それで、立つわけないって」

 「何が立つのかカルカお姉さまはわかりますか?」

 

 ベッドの上で、幼いとは言え女二人を裸にして、下着まで脱がせて。

 幼いから立たなかったようだが、立たせるつもりであったらしいと察せられる。

 

「…………立つのは、おそらく殿方の……」

「「とのがたの?」」

「旦那様にお聞きしてきます!」 

 

 カルカは立ち上がった。

 

 幼い双子には十年早い。自分はその頃から十年後の今に至るまでそのような事を願っていたのに一度もなかったと言うのに。

 それ以前に、仮初めとは言え自分の旦那様なのだ。夫が幼女相手に欲情するようでは妻として堪らない。旦那様が道を誤ってしまう前に自分が正さなければならない。

 旦那様はアルベド様のお言葉に忠実で、自分には指一本触れようとしない。それなのに十にも満たない子供に手を出そうとは。

 

 行動に移れない自分を棚に上げ、幼女に抱いてしまった僅かな妬心を使命感で覆い隠し、カルカはドレスの裾を持ち上げて長い廊下をひた走った。

 

 なお、今日のカルカは白いワンピースドレス。

 上半身はきゅっと締まって体のラインを強調し、肩や腕はふんわりと広がるビショップ・スリーブ。胸や肩は出さず、喉まで覆うハイネックタイプ。世界広しと言えど、真冬の寒空の下で胸だし肩だしのドレスを着るお嬢様はソリュシャンくらいである。

 下半身は、上半身とは対照的にふわりと広がるレーススカート。透け感があるのに幾重にも重なっているため、中が透けて見えることはない。光に翳すと幻想的なシルエットが現れ、カルカはとても気に入っている。

 ナザリック製のドレスである。仮初めとは言っても魔導国の公館の責任者の細君なのだから、着飾らないでいていい道理はない。装身具もいっぱいある。

 

 カルカは、味方がいないとか孤立無援だとか独りぼっちだとか旦那様に相手をしてもらえないだとか毎日が無味乾燥で虚しいだとか、本人なりに悩んでいることはいっぱいある。だけれども、制限なしに様々なドレスを支給され、こちらからの要望もきちんと聞いてもらえ、結果として着道楽になっていた。

 自覚なしに聖王国の聖王はバカの代名詞と言われる由縁を発揮している。

 着飾るのが嫌いな女はいないのだから仕方ないと言えば仕方ないかも知れない。

 

 

 

 書斎の前に着いたカルカは、すうはあと深呼吸する。数度繰り返し、意を決してドアをノックした。

 返事はない。

 もう一度ノックして声を掛ける。

 返事はない。

 最大限の注意を払って音を立てないように、静かにドアを開いた。

 

「失礼いたします。旦那様にお聞きしたいことが……」

 

 非礼を詫びながら入室し、旦那様が在室しているのを確認してからドアを閉め、使命感に駆り立てられるままに言葉を紡ごうとして、旦那様の姿が目に焼き付いた。

 シクススが体を張ってメイドたちに見せないようにしている若旦那さまが思案している姿である。

 

 銀髪は光を放ち、美顔は幽かな愁いを浮かべてどこか遠くを見つめている。長い脚は組まれて揺り椅子をゆっくりと揺らしている。動いているのに、永劫が一瞬に凝縮されて時が止まっているかのよう。

 白い彫像は天上の美神が地に落とした白い影。仄かな燐光すら見える。

 カルカは、自分が何のためにここに来たのかも忘れ、美しい男の姿に見入ってしまった。

 

 美貌には自負があるカルカだ。己の美貌をしかと認識し、衰えさせないために、より美しく輝くために、手を抜かずに磨き続けてきた。

 魔導国の預かりとなってからは良質な食事に見たことも聞いたこともない素晴らしい洗髪剤や香油のおかげで、ソリュシャンやルプスレギナと並んでも見劣りしないと思っている。

 しかし、この方は。

 この美しい殿方の隣に自分が並んでも良いのだろうか、と云うような事は全く頭になかった。

 

 無心で見入ってしまった。夢遊病者のようにふらふらと近付いた。

 もっと近くで見たいとすら思っていない。水が高きから低きへ流れるように、目に見えない引力で引き寄せられた。

 

「旦那様…………」

 

 王子様を夢見る童女のように、頬を薔薇色に染める。

 吐息が熱い。胸の鼓動が高まっていく。

 

「!」

 

 美しい夢を見ていたカルカが現世に戻ってきたのは、男の脚が乱暴に机の上に放られて大きな音を立てたからだ。

 そこでようやく、不躾にも無言でこんな近くまで来てしまったことに気が付いた。

 

「あ……あの、旦那様にお話が…………ひん!」

 

 紡ごうとした言葉は、またも中断された。

 尻を触られた。

 ほんの一瞬だけ、たまたまぶつかってしまっただけなのだと思った。

 直後に触れた手の形が変わる。

 しっかりと指を伸ばし、手のひら全体を使って触れてきた。

 

 

 

▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 

 

 

(誰の尻だ? ソリュシャンの尻はもっとだらしない。ルプーなら跳ね返ってくる)

 

 手を少しだけ下げて尻肉の始まりから撫で上げる。

 それほど大きくないが子供ではない。弾力はほどほどで柔らかい。

 

 なお、アルベド様は最初から除外している。

 尻を触る以前に、近くにいらっしゃるだけで神聖なるオーラ(淫の気)でいらっしゃったことを感じるからだ。

 

(シクススじゃないな。シクススの尻はもっと甘みがある。シェーダはソリュシャンほどじゃないがボリューミーだ。そもそもこの生地の手触りは……待て!)

 

 突然尻を撫でられ、硬直してしまったカルカは、手が離れたことによって深い息を吐いた。

 意識していなかったが、息が止まっていたらしい。喘ぐように激しい呼吸を繰り返した。

 息を止めていたのもあって、動悸が激しい。胸の高鳴りがうるさいくらいに聞こえている。胸元で合わせた手に、どくどくと鼓動が伝わってくる。

 顔は真っ赤だ。

 耳まで赤くして、顔に熱が溜まっているのを自覚する。

 

「あ……あの……、旦那様……。今のは……その……、あの…………。お聞きしたいことがあってお伺いいたしました」

 

 顔の火照りと胸の鼓動を理性の力でなかったことにして、カルカは言葉を続けた。

 お尻を撫でられたのは事故か何かの間違いだったに違いない。

 何かの間違いを意識して為すべきことを為せないようでは余りに情けなく、恥ずかしい。

 傍から見ればみっともないことこの上ないだろうが、ここには自分と旦那様の二人だけ。二人きりである事実を力に言葉を紡ぐも、返事はない。

 

「あの……旦那様? 聞いていらっしゃいますか?」

 

 重ねた言葉にも返事はない。

 男は俯いて、右手で顔を覆っている。

 

「あの…………。………………!!!!!」

 

 再三問いかけようとして、カルカはようやく気が付いた。

 

 男の手がスカートを摘まんでいる。片手で器用に手繰り寄せている。

 生地が幾重にも重なっているレーススカートで、めくるのが少しずつだったから気が付かなかった。

 気が付いた時には、足首にまで届くスカートの裾が、膝の上にまで来ていた。

 蜘蛛の脚のように自由自在に動く長い指が、一番内側の生地の裾に辿り着いた時。男の手がスカートの中に入ってきた。

 

(服の生地からこの尻が誰かを特定しようなんてフェアじゃない。スカートの事は忘れろ。生尻を触って答えを出すんだ!)

 

 カルカの困惑を知らず、男は何かと戦っていた。対戦相手は自身のプライドである。

 答えを得るだけなら目を開くだけでいい。しかしそれでは、尻ソムリエを名乗れようはずがない。余計な情報は全てシャットアウトして、尻を触るだけで誰であるか見極めねばならないのだ。

 

「あ……あ……あ……、だ、だんなさま……!」

 

 大きな声を出してしまわないように、カルカは両手で口を押さえた。

 何を言いたいのかわからない。止めたいのかどうかもわからない。止めていいものかどうかも判断できない。

 カルカに出来るのは、体を強ばらせて触られるのに任せるだけ。

 

「っ…………!」

 

 男の手が脚に触れた。

 スカートの下はノンガーターのストッキングを履いている。ストッキングとは、爪先から膝上まで脚を包んでラインを美しく見せるためのものだ。カルカは長いスカートを履いているため、脚の美しさ云々よりも寒さ対策の意味合いが大きい。

 

「あっ……、あしに……」

 

 ストッキングに触れた手は舐めるように上がっていき、ストッキングの端にまで来た。

 間を置かず、更に上へ。カルカの太股に、素肌に触れた。

 カルカは、そんなところを触られたことがない。ましてや男の手に。

 初めての経験は、嫌悪感や快感や、何らかの感慨を抱かせることなく、ただただ驚いてしまって、衝撃的で、体が凍り付いてしまったかのように動かせない。

 だけれども、体の熱は凍えるどころか暴走している。火照っていた顔は茹だるほどで、頬を包む手指にこれでもかと熱が伝わってくる。

 

「!」

 

 素肌を撫でた指はもう一度柔らかな生地の上に。

 カルカの尻を包む下着に触れた。

 尻肉全体を包む実用重視の下着はヒップラインを美しく見せる効果がある。やや厚手で暖かい。肌触りは勿論極上。

 

 パンツの上から、尻を撫でられている。

 撫でている手指の形をはっきりと感じる。

 

「ひうっ!!」

 

 思わず声が出てしまったのは、掴まれたから。

 撫でていた手が、尻肉を掴んでいる。

 大きく指を開いて尻肉を包み、揉んでいる。

 揉まれ続ける内に、触られている事への衝撃が薄れてきた。いつまでも驚き続けてはいられない。

 尻を揉まれていることを強く自覚する。

 羞恥以外の熱がカルカを炙り始めた。

 

 

 

 実の所、尻肉とは案外鈍感だ。

 肉厚で外部からの衝撃にも強く、ゆえにお尻ぺんぺんがあったりする。

 ただし、性器に近い。

 丸みを帯びたラインが、乳房と同じように性のシンボルとして扱われる。

 性的な事だと自覚するからこそ、鈍感な尻を撫でられて感じるものがあるのだ。

 

 如何に尻と同じ感触であろうと、湯で膨らませた水風船を触って興奮しないのと同じである。

 女の尻を触っていると思うから興奮する。

 次への期待や行為の意味を理解してこそのものなのだ。

 極々簡単に言えば、エロいからその気になると言えた。

 

 

 

(ちょっと汗ばんできたな。蒸れてる感じだ。この時点でシャルティア様、ミラとジュネはない。あいつらの尻は冷たいし。そうでなくてもシャルティア様のはもっと薄い。ミラは柔らかさの中のコク的なものが違う。ジュネは小尻できゅっとしてる。て言うか、あいつらはパンツ履くのか? シャルティア様は色々な物をお持ちだが……。これも邪魔だな)

 

「!!!!!!」

 

 テイスティングの精度を高めるためには余計な物を挟まない方が良い。

 男の指がパンツのラインを撫でる。

 指先がパンツの中に潜ろうとして、すぐに引っ込んでしまった。

 

 ドレスと同じく魔法が掛かっているパンツだ。サイズを自動調整してくれる。少々乱暴に扱っても伸びたりしない。

 けども、カルカの尻にピッタリのパンツなので、中に手を差し込むと窮屈だった。

 

「そんな……! し、下着まで……!」

 

 男の指がパンツの縁に引っかけられた。

 まずは後ろから少しだけずり下げ、指を引っかけたままサイドに移動してずり下げ、その次は反対側に回ってずり下げ。

 カルカは、パンツのゴムが尻肉に食い込んで、少しずつ下げられていくのを感じている。

 ヒップの最大ラインを通り過ぎたら、パンツの縁から指が離れた。

 代わりにパンツの真ん中に、秘部を覆っていたクロッチに指を引っかけ、下へ下へと引っ張っていく。

 尻の丸みを越え、徐々に細くなっていく太股まで来れば後は早い。

 するりと下ろされ、膝で止まった。

 

 カルカは、パンツを脱がされた。

 ドレスは着たままなのに、パンツだけは下ろされている。

 夜の寝室ではない。昼日中の書斎でだ。

 経験皆無なカルカの乏しい知識では、こんな事態は存在していなかった。

 明らかな異常事態に、足は一歩も動かない。拒否することで叱られることを恐れているのか、それとも期待が縫い止めているのか。

 胸の高まりは止まず、顔の火照りは体中に飛び火している。

 真っ赤な顔をして両手で口を押さえ、涙を溜めた美しい新緑の瞳は旦那様の一挙一動を焼き付けている。

 固く目を瞑った。

 涙がこぼれた。

 ドレスも下着も何物も間に挟まず、逞しい手指が尻肉を掴んだ。

 

 

 

(ナーベラルの尻は割と近い。だが違う。ナーベラルの尻はもっとこう……まろみがある。この尻は……、そうか! 処女の尻だ)

 

 処女の尻と言っても、該当者多数である。

 屋敷に勤めるメイドたちは例外なく全員が若く美しい娘たちだ。

 エ・ランテルから連れてきたメイドは職業メイドなので経験があっても不思議はない。しかし、帝国で雇ったメイドは例外なく貴族の子女。男と遊んでいる娘は少数だろう。

 知らない尻であるのは確かだ。

 そこから更にどうやって絞るか。

 処女の割に柔らかな揉み心地や滑らかな手触りから何となく察するものはあるのだが、確信まではいってない。

 また、本当に処女かどうかも確かめなければならない。

 

「だ、だんなさまぁ! そ、そこはぁ……。だめです……。お願いですから……、どうかお止めに……。ああ…………!!」

 

 手で押さえた口から漏れる言葉は儚いもので、全く聞き入れられなかった。

 カルカは口だけでなく、両手で顔を覆い隠した。指の隙間から覗き見るようなこともない。目は固く閉じている。

 視界を閉ざしただけ、触られていることを敏感に感じ取ってしまった。

 尻を撫でていた手が、尻の割れ目を伝ってきたのだ。

 

 スカートの中は熱気に蒸れて、尻の割れ目は汗ばんでいる。

 中指だけを真っ直ぐに伸ばし、尻肉の隙間に潜り込ませる。肉厚な弾力に阻まれ、狭い中を上下に動かせば圧力が弱まってきた。

 カルカが薄く脚を開いている。尻の割れ目が少しだけ開いた。

 当人に自覚はあるのか、体の向きも変わっている。始めこそ男の方を向いていたのに、今は尻を向けている。

 男が尻を掴んで誘導したのもあるが、カルカの協力がなければこうはなっていない。

 

「ひっ……。だめ、そこは本当に汚くて……。きれいなところではありませんから……!」

 

 後ろから尻の割れ目を伝っていくと、最初に行き当たるのは不浄の穴。

 指先が窄まりに触れ、小さな円を描き始めた。

 

 まさか入ってくるつもりなのか。

 カルカの貞操観念では、そこはそのようなことをする場所ではない。尻肉がひくつくほどに全力で力を入れ、固く締めた。

 それが功を奏したのか、指は入ることを諦めて進んでいく。

 息を吐く暇はない。進む先は、女の一番大切な所。

 カルカは、声が出なかった。むずがる子供のように、ふるふると頭を振った。

 

(おお……、これは初めてのタイプだな)

 

 指は柔らかな女の肉に辿り着いた。

 そこはとろけそうなほど柔らかいのに、ぷにっとした弾力がある。

 肉厚なので女の部分が埋もれてしまっている。これだと脚を開いた程度ではくぱあと行かない。させるには指で広げてやらないと駄目だ。

 直に触ってふにふにむれむれぬめぬめを楽しむのも良いが、ちゃんと下着を履かせてさらさらふにふにを楽しむのもまた良い。

 それは今度の楽しみにとっておき、まずはぷにまんを優しく撫でる。

 滑らかな手触りで、ティアやティナと違って陰毛を剃った痕がない。ここには生えないタイプなのか、それとも脱毛しているのか。

 おそらくは後者と当たりをつけ、いよいよ処女を確かめる時が来た。

 

 指を媚肉へ沈めていく。

 肉厚なだけあって、指は割れ目の中に全て埋まってしまった。しっとりとした内側が指に吸いつく。

 指先だけに軽く力を入れ、ぬめる肉をなぞっていく。

 少しだけ沈む場所が女の入り口。

 指を折り曲げ、ゆっくりと侵入させた。

 指で破れてしまいそうな儚い膜が入り口を狭めていた。

 

(そこは……そこはぁ……! 旦那様の指が、わたしの……あそこに! 私も女にされてしまうのでしょうか。ずっと守っていた私の処女を……。でも旦那様にだったら…………?)

 

 

 

 女になる覚悟を決めたカルカだったが、予想に反して指はあっさりと抜かれた。

 スカートからも手が離れていく。

 柔らかな生地が音もなく降りて、カルカの尻を包み隠した。

 

「カルカ」

 

 カルカは肩を震わせた。

 

「カルカ」

「…………はぃ」

 

 もう一度名を呼ばれ、のぼせた顔をゆっくりと振り向かせた。

 正面から見る旦那様は、にこやかに笑っていた。

 

(やっぱりカルカだったか)

 

 思った通りに処女膜があった。

 肌の張りが十代とは違う。

 陰毛を剃らずに脱毛できる余裕。

 手触りは極上で、尻を含めてどこもかしこも入念に手入れをしているのが察せられる。

 

 以上から、この尻はカルカの尻と推測し、目を開けば見事に的中。

 にこにこしているのは予想があたって嬉しいからである。

 

「これを見てみろ」

「はい。旦那様のゆび……が…………!!」

 

 旦那様は左手を突き出し、中指だけを伸ばしていた。

 指先が窓からの光を受けてきらりと光っている。

 肌が白いから光っているのではない。何かしらの液体に濡れているから光っているのだ。

 

「お前は尻を触られるだけで濡らすんだな」

「ひっ………………」

 

 カルカは、息を呑んだ。

 

「処女だろう。それなのに尻だけで濡らして……。いつも一人で慰めてるのか? それともそんなことばかり考えてるのか?」

「あ…………あ………………」

「それとも」

 

 旦那様の唇がいやらしく歪んだのを、カルカは見た。

 

「淫乱の気があるのか?」

「ひぅっ………………」

 

 絞られたカルカの喉を空気が流れ、小鳥の断末魔にも似た奇妙な音を立てた。

 

 カルカの赤かった顔は青くなり、もう一度真っ赤に染まった。

 頬も額も耳もうなじも、熱病に掛かったかと思われるほど赤く染まっている。

 

 カルカは耐えられなかった。

 これほど恥ずかしく思ったことは生まれて初めてのこと。

 旦那様の言葉が事実無根なら言い返せもするのだが、思い当たることがないではなかった。

 

 お屋敷に来たその日にルプスレギナが乱れるのを見ている。

 対外的なお飾りとは言え、美神の愛し子とさえ思える美しい殿方のお嫁さんに。

 性的な知識は乏しいなりに最低限のことは知っているので、熟れつつある肉体を持て余し、火照りを鎮めたことがなきにしもあらず。

 

 視界が歪む。目眩がしてくる。

 このままだと恥ずか死ぬ。

 カルカの生存本能が、生きよと命じた。

 

 弾かれたように背を向けて、逃げ出そうと一歩踏み出したところで、

 

「キャッ!」

 

 無様に転んだ。

 パンツを膝まで下ろされている。走れるわけがなかった。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

 極悪集団ナザリックにて、残酷残虐で知られるルプスレギナとソリュシャンのどS姉妹に「人の心がない」とまで言われる男であっても、目の前で転ばれれば心配する程度の情はあった。

 

「だっだっだっだいじょうぶです!」

 

 何があっても顔だけは死守するカルカである。咄嗟に手を突いて事なきを得た。だからと言って状況が好転するわけではない。

 逃げ出さなければならないが逃げられない。

 床に倒れたまま、綺麗なドレスをずりながら何とか距離をとろうとするのだが、

 

「「カルカお姉さま!」」

「!!!」

 

 幼い双子が駆け寄ってきた。

 どうしてここにいるのか。最初からいたからに決まっている。

 

 男はずっと視界を閉じていた。

 カルカは入り口側へ背を向けていたし、入り口を向いた時は固く目を瞑っていた。

 二人とも、双子がカルカを追って書斎に入ってきたのを気付かなかった。

 

 双子は、ご主人様とお姉さまがしていることをお利口にして静かに見ていた。お尻を触っているのも黙って見ていた。

 あれが立つことに関係するのかと思って、互いのお尻を撫でながら一部始終を観察していた。

 

(見られていた? ウレイとクーに? 旦那様が私の……を触っていたところを? 旦那様に……、い、い、淫乱と言われてしまったところも?)

 

 逃げ出したい。逃げ出せない。見せてはいけないところを見せてしまった。

 カルカの羞恥心は限界を越えた。

 涙がぽろぽろと零れ始めた。

 

「ひっ……ひうっ……、ひっく……、うぇ…………うええええええぇぇぇぇえええええぇぇぇええん!!」

 

 カルカは泣いた号泣した。

 現実を受け入れないためには泣くしかなかった。

 

 苦痛の果ての死から引きずり出され、魔皇に残酷な未来を告げられた時よりも激しく泣いた。

 泣けるだけ体力と余裕を取り戻したとも言えるが、双子幼女ですらしたことがない火のついたような泣きっぷり。

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

「一通り終わったっすよー。って、なんすかこの状況。……この前も同じ事言った気がするっす」

 

 双子忍者と二人のヴァンパイアブライドを引き連れたルプスレギナが戻ってきた。

 

 書斎では、床にうずくまったカルカがしくしくと泣いている。

 双子幼女が心配そうな顔をしてカルカの背をさすり、書斎の主は如何にも面倒臭そうな顔をして椅子の上でふんぞり返っている。

 

 叶うならば余所でやれと言いたい若旦那様である。

 しかし、カルカはデミウルゴス様からのプレゼント。ぞんざいに扱ってはいけないのだ。

 とは言っても面倒な事に変わりはない。

 何とかしようにもどうして泣いているのかわからないのだから、どうすればいいかもわからない。

 

「どーいう状況なのか、むしろ俺が聞きたい」

「……おにーさんに女が泣いてる理由なんてわかるわけなかったっすよね。ほらほら、一体どーしたんすか?」

「る、ルプスレギナさま……。旦那様が、旦那様が……!」

「あーあー、よくわかったっす。大体おにーさんが全部悪いんすよね。何も心配しなくていーっすから部屋に戻って休むといいっすよ」

 

 何と云う雑な慰め方であることか。

 大体何がわかってどうして俺が悪いことになるのか。

 

 釈然としない若旦那様であったが、泣いてるカルカを追い払ってくれたので良いことにする。

 それはそれとして、泣き出す前のカルカは非常に嗜虐心をそそる顔をしていた。

 カルカの心中を無視して、またやろうと心に決める。

 

 カルカは双子幼女に付き添われて退室した。

 幼いけれど頑張ってる双子なのだ。

 一方、こちらの双子には別の問題が発生したようである。

 

 戦闘訓練で負った傷はルプスレギナが回復させて万全なはずの双子忍者なのだが、目がどんよりと濁っていた。死の淵に踏み込みすぎたのだ。十回以上も死にかければ普通はこうなる。

 明日には王都へ戻す予定。

 今夜中にどうにかしなければならない。




本話12.5k字
一体何を書いてこんなに長くなったのかと思うくらい長くなった気がします
平均文字数がそのうち8k超えるかも


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決戦準備

「いやぁ、頑張ったっすよー。必死で工夫して連携して全力を振り絞って死線をかい潜った末に繰り出した必死の一撃をぺちっと叩き落とすのって………………、もう超最高っす♡」

 

 ルプスレギナがご機嫌であればあるほど双子忍者の憔悴が際立つ。

 

「手がもげました」

 「足は飛びました」

「お腹に風穴が空きました」

 「最大で同時に三つ」

「四つ行ってたら即死です」

 「むしろ死にました」

「ティナ死んだ? それなら私も死んでた?」

 「やっぱり二人とも本当は死んでる?」

 

 王都をヤルダバオトが襲撃した際、防衛に回ったティアとティナはあっさりと殺されてしまった。

 ルプスレギナとの訓練では一度も死ななかったが、何度も死にかけた。その都度回復されていなければ、それぞれ十回以上死んでいる。

 

 一撃で死ぬのと、死にかける度に回復して更に殺されかけるのとでは、どちらがいいとも言えない。後に復活させることを前提とすれば、苦痛が短いだけ前者の方が遙かにマシと言える。

 

「でもでもそのおかげでちょびーーーーっとだけレベルアップしたんすよ?」

 

 ルプスレギナがいくら弁解しても、二人の表情は死んだまま。

 目が虚ろで表情は抜けており、視界の中で何かが動くとピクッと体を震わせる。

 野生に戻れず、かと言って人の社会にも馴染めない野良猫のようである。

 

「明日の昼前にシャルティア様がお前たちを王都に送ってくれる。それまでは自由にゆっくりと休んでくれ。希望があったら聞こう」

 

 ティアとティナは顔を見合わせ、無言で相談することしばし。

 ティアが口を開いた。

 

「それなら……」

 

 

 

▼ ▼

 

 

 

 うあーとかほあーとか奇怪な声を上げつつ、二人はベッドに身を投げた。

 数日前からティアが寝起きしている客室だ。ティナも同室でよいと言うので、二人で一室を使うことになった。

 

 ティアは直ぐに顔を上げてティナを向くのだが、ティナはベッドに埋もれたまま動けない。初めてのベッドの感触に驚愕している。何このベッドふかふかのくせに寝転がるとスゴいフィット感、毛布ふわふわシーツさらさら。

 シーツの海をひとしきり泳いでから、ようやっとティアへ顔を向けた。

 

 向き合った双子は互いの胸を見ている。正確には胸の前で蠢く相手の手指。

 

(拍子抜けするくらい上手くいった)

 (スケベなだけかも)

(スケベでエロエロなのは確か。でも、「だけ」じゃない)

 (向こうの肩を持つ? 惚れた?)

(そんなんじゃない)

 (とりあえずそう言うことにしとく。それより監視や盗聴は?)

(この部屋に入った日から毎日調べてる。見つからない。多分ない。でも魔法でされてたらアウト)

 (わかった。それじゃ一応このままで)

 

 二人の会話は言葉を伴わない。高速で動く手指の動きで意志を伝達している。

 二人だけに通じる手話を使えば、仮に覗き見されていても問題ない。

 

「今日は神官様とミラだけだったけど、この前は帝国四騎士のレイナースが来た」

 「強かった?」

「強かったけど噛み合わない。向こうは一撃重視。こっちは奇襲と手数が売りだから」

 「実戦と練習は別ってことね」

「そう言うこと。それより若旦那様が強かった」

 「それマ?」

「マ。本気を出すとあれだから手加減したけど、避けたはずなのに何度か斬られた。鍔迫り合いしてるのに投げられるとか意味がわからない」

 「本気出したら?」

「多分なんとか」

 「多分?」

「少なくともクライム程度じゃ相手にならない。スキルと武技なしにすればガガーランとタイマン出来るレベル」

 「そう言えば初めて会った時の抜刀は滅茶苦茶早かった。ナイフ投げも一流の上。戦士より暗殺者向き」

「イジャニーヤで一線張れそう」

 「あの顔じゃ無理。目立ちすぎ。頭領の婿にするならいいかも」

「……ティラには勿体ない」

 

 ティアが言うティラとは暗殺者集団イジャニーヤの女頭領のこと。ティアとティナとは三つ子の姉妹だ。実は双子ではなく三つ子だったティアとティナである。

 

(でも二人掛かりなら問題ないはず)

 (これって信頼されてる? それとも舐められてる?)

(どっちも。私たちには何も出来ないと思われてる)

 (油断大敵ってね)

 

 二人は半月にわたって教育を受けてきたわけだが、それによって魔導王へ真の忠誠を捧げたわけではない。

 先の調教バトルの一幕は、あくまでも忠誠をどのように表すかを競ったに過ぎない。つまりは演技である。

 戦力的に、二人に出来ることはたかが知れている。しかし、何も出来ないではない。

 自分たちに出来る僅かな事で、屋敷の急所を抑えるつもりなのだ。

 

「ミラの相手をしてるのが一番楽しかった」

 「背の高い方の吸血鬼?」

「今日の訓練に参加してきた方」

 「神官様の相手より千倍マシだった」

「教育中も世話になった。感謝はしてる」

 「恩返し完了?」

「そんなつもりはない。本当に疑問だった」

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 書斎でティアが希望を述べた後に起こったこと。

 

『シャルティア様との勝負に勝てたのはミラのおかげだな。褒美代わりに礼がしたい。俺にして欲しいことはあるか?』

 

 ミラが戦闘訓練を提案しなければ、こちらもシャルティア同様に手段を目的化してしまい、ティアの仕上がりがティナと似たり寄ったりになった可能性は高かった。ミラがお叱りを恐れず声を上げたからこそ勝利できたのだ。

 ミラは恐れ多いことですと二度固辞してから、再度請われて望みを口にした。

 

『ご主人様の閨に招いていただけないでしょうか?』

『冗談だろう? 無理を言うな』

『……申し訳ございません。つまらないことを申し上げました』

 

 粘って聞き出したにも関わらず言下に却下。

 ミラはそのまま後ろへ下がればいいものを、わざわざ背を向けてから一歩進み、それから振り返った。

 

 その時、ティアは見るともなしに見てしまった。

 背を向けたミラは顔を俯け、右手を顔の高さにまで持って行く。右手は数度左右に動き、下がったときは手の甲が何かの液体に濡れていた。

 ティアは反射的に手を挙げた。

 

『私の教育中にミラとも何度もしてた。それなのに閨に呼ばない理由は?』

 

 ミラを哀れに思ったのと、純粋に疑問だった。口にするには勇気が必要だったが。

 もしもソリュシャンが同席していたら余計な口を、と厳しい叱責があったかも知れない。

 

『だって今は冬だぞ。ミラを抱いて寝たら絶対寒い。暖かくなってからだな。暑くなったら離さないかも知れないが、ご褒美に欲しがるくらいなんだからいいだろ?』

『は、はい! もちろんでございます!』

 

 ミラが喜色満面になったのはいいが、犬なのに猫のように男に甘えていたルプスレギナは大きなため息を吐いた。

 

 その後、ティアとティナが書斎を後にして客室へ移動する道すがら、そっと耳打ちされた。

 

『感謝はしません』

 

 抑揚のない声で告げ、立ち去った。

 感謝をしないと言っても、有り難くは思っているようだった。

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

「それに美人。おっぱいおっきい」

 「もう一人も美人。向こうでも美人ばっかだった」

「女の良さがわかった?」

 「割と。そっちは男の良さがわかった?」

「かなり。ティナも昨日教えられてた?」

 「すごく教えられた」

「…………」

 「…………」

「ティナの顔って私そっくり」

 「そう言うティアこそ私の顔そっくり」

「実は……私の顔って結構イケてると思ってる」

 「奇遇。実は私もそう思ってた」

 

 男の良さを教えられたが元々女が好きなティア。

 男でもショタが好きだったが女の良さを教えられたティナ。

 二人は顔も体も、蒼の薔薇のメンバーでさえ区別が出来ないレベルの瓜二つ。

 相手の頬へ手を伸ばしたのはどちらが先か。

 

「……とりあえず汗を流そう」

 「体も埃だらけ。寝る前にベッドメイク頼もう」

 

(決戦は今夜)

 (情け無用。今度はこっちが攻める番)

 

 

 

 ひとまずの密談を終えた二人は風呂を使うことにした。

 驚くべき事に、客室に浴室が備えられている。貴族の屋敷であってもありえない。せいぜいがバスタブを運ばせて湯を注ぐ程度だ。

 浴室は広さが十分。湯が注がれっ放しになってるバスタブは二人が同時に入れる大きさ。掃除中以外、二十四時間いつでも入れる。

 注目点は白い石鹸と幾つもの綺麗な小瓶。

 若旦那様が趣味で作った副産物の入浴剤などである。品質は極上。帝国の皇帝が常用している物より上。ナザリックの大浴場に置いても良いと言えば質の高さが知れるだろう。但し、趣味で作ったものであるため生産量は極僅か。生産性が高くなって大量生産できれば巨万の富が築ける。

 

 これで髪を洗う。こっちは入浴剤。これは香油でバスタブに入れる。これも入浴剤で保湿ばっちり。仕上げにこれを使うとお肌つるつる。

 

 自分の手柄であるかのように、ティアが一つ一つ説明していく。

 お土産に持って帰っていいか聞いてみることにして、二人は衣服を脱いだ。

 

 訓練で受けた傷や肉体的疲労は回復魔法で消え去ったが、精神的疲労はそうでもない。汗を流したいのは本当。それ以外にも、寝室より密談がし易い。

 寝室では聞かせて良い会話と不味い会話で手話を使い分けていた。

 浴室なら監視の目が届かないのでは、との願望があった。無論、願望に身を委ねるほど呆けた二人ではない。所詮は気休めだ。

 

 実を言えば、監視も盗聴も為されていない。

 魔導国の公館でそのような非礼は行われないのだ。する場合はストレートに魔法を掛けて情報全てをぶっこ抜くのである。

 

 浴室へは先にティアが入り、続けてティナが入る。

 ティアがティナへ、バスタブに浸かる前にシャワーを浴びるよう注意しようとして、事件が発生した。

 

「それどうした!?」

 「ティアこそ何それ!?」

 

 二人は姉妹の裸身を見るなり、驚愕に目を見開いた。

 

 戦闘スタイルが同じなら食べ物の好みも生活習慣も同じ二人だ。違うのは性的嗜好くらい。

 そのために筋肉の付き方まで一緒で、顔だけでなくスタイルもそっくりな二人である。

 しかし、今。明らかに違う部分があった。

 

「下が……つるつる!」

 「乳首……ピンク!」

 

 ティアはティナの股間を、ティナはティアの胸を見て目を見張った。

 

 ティアの乳首は色素吸着剤によってキレイキレイされ、生まれたばかりの赤子のようなソフトピンクになっている。

 ティナの股間は、ティアと同じく髪より色濃い陰毛があった。装備の関係ではみ出る部分は剃っていた。それが全部ツルツルになっている。剃り跡はない。本当にツルツルである。

 

「乳首が茶色いとか言われて……、色素を抜かれた」

 「舐めるのに邪魔とか言われて脱毛された。毛根が閉じてもう生えないとか言ってた」

 

 アルベド様のふさふさした繁みを根こそぎ刈り取った脱毛薬である。

 ついでとばかりに、ティナは脇まで綺麗にされた。

 

「近くで見ていい? ダメって言われても見るけど」

 「だったら聞くな。……さすがに恥ずかしい」

 

 浴槽の縁に座ったのは良いと言うことなのか。

 ティアは、脚を開いたティナの前で屈んだ。

 

「すごい。ホントにツルツル」

 「触るな!」

 

 ティアが顔を上げると、同じ顔が怒った顔で見下ろしている。

 自分は怒ってないので構わず続けた。

 

「周りも綺麗になってる。……ここ、舐められた?」

 「……起きてる時間の三分の一は舐められてた」

「……私も結構舐めてきた」

 「しなくていい。交代。乳首見せて」

「わかった」

 

 その場ですっくと立ち上がる。

 ティナの顔の高さにティアの胸が来た。

 

「お触り禁止」

 「そっちは触ったくせに。でもすごい綺麗。立たせていい?」

「んぅっ……、聞く前にするな!」

 「立ってきた。赤くて綺麗。さくらんぼみたい」

「チェリーが好きなのはガガーラン」

 「……私が知ってるティアは死んだ。ここにいるティアはどっかの親父が変装してる」

「今のは口が滑っただけだから本当はもっとセンスあるから」

 「そう言うことに……、待って足開いて!」

「ふふん、気付いた? こっちも綺麗にしてもらった」

 「ずるい。羨ましい。嫉ましい。私もしてもらいたい。でも私は脇もツルツルだから」

「ホントに? ちょっと触らせて」

 「うひゃあっ!? バカッ!」

「うわっと」

 

 呑気な声を挙げて、二人ともバスタブの中に落っこちた。

 バシャンと水しぶきが上がり、二人仲良くぶはっと水面から顔を出す。

 もつれて落ちたため、抱き合った形になった。

 互いの顔が至近にある。長い金髪が頬に張り付いている。

 手櫛で髪を直してやった。

 

「…………」

 「…………」

 

 互いに知らないところはない姉妹。

 割とイケてると思ってる顔が湯に濡れて艶めかしい。

 どちらも女の良さを知っている。半月の教育で、タブーも何も知ったことではない。

 

「ここで盛ってる場合じゃない」

 「決戦にとっておかないと」

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 夕食は屋敷の主立った面々と共にした。

 二人は今や、不埒な侵入者から客人に格上げされている。王国のアダマンタイト冒険者がお忍びでご機嫌伺いに来た、と云う形になっている。

 

 食事の席でも二人は絶句した。

 今日までの食事は、ナザリック製レーションだった。美味しくて栄養たっぷりだがそればかりでは飽きると云うもの。

 お屋敷の夕食でそんなものが出るわけがない。王都で一等高級なレストランでも食べられない美味である。

 

 二人は言葉少なく食事を楽しみ、その他の面々は今日あったことを簡単に報告しあっている。

 食事に熱中しながらも何とか会話に耳を澄ませる二人だが、書類を作っていたとか訓練をしていたとか、具体的な内容に乏しく、大したことは話されなかった。

 本当ならもう一人いるはずだが、気分が優れないとかで席を外していた。ティアとティナは、彼女の泣き崩れている姿しか見ていないため、誰であるか知らないでいる。

 

「少し休んだら二人の部屋に行くよ。それともそっちが来るか?」

「来てもらうのは申し訳ない。こっちから行く」

 「いつ行ったらいいか具体的な時間を教えて欲しい」

「二時間後を目安にしてくれ。多分いるから」

「お待ちください。何の話ですか?」

「メンタルケア。ルプーがかなり扱いたから疲れをとる手伝いだよ」

 

 お嬢様は若旦那様を見て、神官を見て、ティアとティナへ視線を滑らせ、最後に若旦那様を見た。

 

「わかりました。その前にお時間をいただきたく存じますわ♡」

「……わかったよ。ルプー、その後で頼む」

「はーい。じゃ、私はその時に」

「待て。もう十分だろう!」

「冗談っすよ」

 

 三人の会話が何を意味しているのかわからない双子改め三つ子の姉妹忍者は、わけがわからない会話より食後のデザートに夢中だった。

 わけがわかってる金髪のメイドはちょっとだけ頬を膨らませた。最近は色々あってご無沙汰なのだ。

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 そしてその時が来た。

 目指す部屋は昼間の内に案内されている。それでも一応と云うことなのか、ミラが二人を先導していた。

 表情を殺して勤めをこなすミラの胸中はわからない。夏までお預けのご褒美をぽっと出の二人が先んじることに思うことがあるかも知れない。

 

「こちらがご主人様の寝室となります」

「案内感謝。ミラは入らない?」

「私は招かれておりませんので」

 「私たち二人だけ?」

「ソリュシャン様とルプスレギナ様がどう為さるかは伺っておりません」

 

 聞いてはいないが察してはいるミラだ。

 ルプスレギナは、訓練頑張ったご褒美と言うことで書斎でねだっていた。

 ソリュシャンは、書類仕事を頑張ったご褒美と言うことで食後にちゅぱちゅぱしていた。

 その後のルプスレギナは精力回復のための回復魔法である。若旦那様の精力的に連戦でも問題ないだろうが念のためと言う奴だ。ポーションと違って、ルプスレギナに何度回復魔法を使わせても減らない。減るかも知れない物は寝たら回復する。

 どちらも満足して、乱入することはないと思われた。

 

「私はこれで失礼いたします。くれぐれもご主人様に失礼がないように」

 

 ミラが廊下の向こうに消えたのを確認してから、二人は扉を開いた。

 中は誰もいない広い部屋。部屋にはもう一つドアがある。

 もう一つのドアを開ける。

 部屋の半分を占める大きなベッド。

 窓際にテーブルとソファが二脚。

 一番に目に付くのは、ソファに座る艶やかな男。薄暗い部屋で光を放ち、グラスを傾けている。

 

「飲むかい?」

「遠慮しておく」

 「早速始めたい」

 

 昼間、訓練を終えたティアが精神的疲労を癒すのに望んだのは、

 

『教育を受けてる間はされるばかりだった。技には自信がある。こっちからもしてあげたい。恩返しのつもりで』

 『私も一緒にしたい。ティアと一緒なら倍以上好く出来る』

 

 男と二人と、三人きりになることだった。

 

 邪魔がいない場所で男の命を、とは考えもしていない。そんなことをしても全く意味がないからだ。

 仮に男を痛めつけて脅迫しようも、覗かれていたらその時点でアウト。したにせよ、脅迫して強要したいことは何もない。

 暗殺者として活動した過去があるティアとティナは、非常に現実的だった。

 

 

 

 そもそもとして、魔導国と王国は緊張状態にあっても敵対しているわけではない。

 王国と敵対関係にあるのは帝国であって、魔導国の魔導王が王国軍を蹂躙したのは帝国に手を貸したからだ。その一事をもって王国と魔導国が戦争状態にあるとは言えない。

 第一、二人は王国ではない。王国の冒険者だ。そして、王国の冒険者は国家の大事に関与しないとの決まりがある。

 お屋敷の若旦那様とて魔導国ではない。魔導国宰相閣下の相談役だ。

 個人を指して王国というなら国王。個人を指して魔導国と言うなら魔導王。

 この場の三者はそのいずれでもない。

 ここでの友誼を切っ掛けに両国の関係が改善する可能性はけしてゼロではないかも知れないが、それは自分たちの領分ではないとして、ティアとティナの二人はとうに匙を投げている。

 

 そして二人にそのような危険性がないことは、パンドラズ・アクターが魔法を掛けて確認した。忠誠云々ではなく、魔導国への叛意の有無である。結果、二人は自らの無力を自覚しており、魔導国への敵意など百害あって一利なしと理解していた。

 

 二人の目的は全く別のこと。

 

 

 

「ベッド大きい」

 「私たちとボスが暴れても十分」

「ボスって俺か?」

「ラキュースはリーダー」

 「で、こっちがボス」

 

 蒼の薔薇のリーダーであるラキュースを、リーダーとかボスとか呼んでいた二人だ。

 この度、あちらがリーダー。こちらがボスに統一された。

 リーダーが前に立って皆を引っ張るのに対し、ボスは偉そうにふんぞり返っている。言い得て妙な呼称である。

 

「ボスも準備万端?」

 「期待してた?」

 

 ティアがグラスを取り上げる。

 ティナは男が着るバスローブの前を開いた。華奢に見えのに、逞しい胸板が覗く。

 

「これお酒じゃない?」

「炭酸にレモンを搾ったものだよ」

 「後でまた飲ませてあげる。それよりこっち」

「早く来て」

 

 ティアが右腕を、ティナが左腕を引いて三人はベッドに上った。

 

 二人が着ているのは男と同じ。二人ともピンク色のバスローブ。

 焦らすことなく腰紐を解いて前を開き、放り投げたバスローブは男が座っていたソファに重なった。

 しなやかな裸身を晒しながら、二人とも髪をまとめる。戦闘時は激しい動きで邪魔にならないよう上に立たせる。今は口を使うのに邪魔にならなければいい。後頭部で緩く結んだ。

 どちらも同じピンク色のリボンである。

 

「それじゃあ……」

 「いっぱいしてあげる」

「私にしてくれたのと同じくらい好くしてあげるから」

 「昨日は私に、五回? 六回? 数えられなかったけど、その倍はいけそう?」

 

 お屋敷における急所。

 それすなわち、お屋敷の責任者である若旦那様である。

 二人は技の限りを尽くして、若旦那様を自分たちの体の虜にしてしまうつもりだった。

 

 ティアもティナも、男から調教を施されてアダマンタイト冒険者から只の女に堕とされた。

 しかしそれは、拘束されて一方的な陵辱を受けたからだ。

 同じ土俵に上がれば、そして以心伝心の姉妹と力を合わせれば、スゴく顔が良くてスゴいテクニックを持つ男であろうと必ずや打ち勝つことが出来るはずである。

 

 王国に戻ったら、二人が男へ会いに行くのではなく、男から会いに来させるのだ。

 

 

 

 二人は知らない。

 男の真の役目は魔導国宰相閣下の相談役ではなく、美の化身たる大淫魔のお食事であることを。

 さながら、ナメクジがファナティックドラゴンに挑むようなもの。勝負は最初から見えている。

 しかし、ナメクジがファナティックドラゴンに挑んではならないとの法はない。結果がどうであれ、挑むのは自由である。

 

「それは楽しみだ」

 

 男は朗らかに笑う。

 本当に楽しみなのだ。

 二人同時に、とは経験があるが、双子とは一度もない。さぞや息のあったプレイをしてくれることだろう。

 

「出したくなったらいつでも出して」

 「全部飲んであげる」

「好きな穴使っていいから」

 「それって後ろも?」

「後ろも。ボスに開発されちゃった」

 「……私にするときは慣らしてからにして」

 

 二人が男のバスローブを脱がせる。

 放り投げたバスローブは、二人のバスローブの上に重なった。

 

 二人の挑戦が始まった。




双子(本当は三つ子ですが)なのにこれがなければ嘘だと思います


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姉妹と言えど嫉妬をすれば裏切りもする ▽ティア+ティナ

 ベッドに押し倒された男へ、何からナニまで瓜二つの女二人が雌豹のポーズでにじり寄る。

 顔は同じ、髪型も同じ、髪留めも同じ。そこに加えてスタイルまで全く同じ。

 右を向いても左を向いても同じ女がいる。世界が狂ったかと錯覚するが、紛れもなく肉を持つ女がそこにいる。

 

「ボスって脱ぐとけっこうスゴい」

 「固いのはちんこだけじゃなかった」

 

 右から左から、ティアとティナがぴたりと体を寄せてくる。ぷりっとした形の良い乳房が男の胸でゆるく潰れる。

 二人の手は男の体をまさぐり始めた。胸板の固さを確かめたり、割れた腹筋をなぞったり、最後は揃えたように乳首をつつく。方や指の腹で優しく撫で、方や親指と中指で摘まむ。

 こそばゆくもあるが止めろと云うほどくすぐったくはないし、これはこれで良いものだ。

 

「んっ……、いっぱい触っていいよ」

 「どこを触ってもいいから」

 

 二人の肩を抱いていた男の手はしっとりと滑らかな背筋を撫で、尻に届いた。

 華奢な二人だ。乳房同様に尻も大きい方ではない。それで尻の価値が減じるわけがないのは世界の真理である。柔らかな尻も良いが、張りのある小尻もまた良いものなのだ。

 むにっと揉んでみても左右の感触は全く同じ。

 

 揉まれ続ける内に感じる物があったようで、二人は体をすり寄せる。

 片脚を上げて男の脚に絡め、股間を男の太股に押し当てた。

 男の体をまさぐりながらゆっくりと体を上下させているのは、男へ乳房の感触を味あわせたいのが3割。押し当てた股間をこすりつけたくて動いている。

 

(こっちは毛が生えてる。ってことは、こっちがティアでこっちがティナか?)

 

 調教中に剃りはしたがカットはしてないティアはふさふさで、ティナはつるつるになって帰ってきた。

 

「何してるの?」

 「どうかした?」

 

 右手が尻から離れ、少ししてから左手も離れた。

 手が離れたことを咎めるように、二人とも可愛らしく頬を膨らませる。

 

「ずっと触ってて欲しい」

 「してくれたことよりずっと気持ちよくするから」

「嬉しいことを言ってくれるね」

「「ひゃあっ!?」」

 

 二人同時に声を挙げ、体を跳ねさせた。

 ティナと思われる方は体が強ばっている。

 

 二人から離れた手は枕の下を探った後、すぐに二人の尻へ戻った。

 今度は尻肉を揉まなかった。一本だけ伸ばした中指が尻の割れ目を素早く滑り、尻の穴へ突き立てられた。

 

「右がティアで左がティナ。合ってるか?」

 

 右の穴はぬぷぷと抵抗なく受け入れてからキュッと締まり、左の穴は押し込まなければ入らなかった。入れてからも締め付けがきつい。

 

 ティアの穴は、ジュネが土下座して平謝りするまで開発されているのだ。回復魔法によってちゃんと閉じるようになったが、入れてやればぬぷぬぷである。

 ティナはシャルティア様からたっぷりと調教されたようだが、こちらの穴は手付かずだった様子。

 下の毛があり穴がゆるい方がティアで、固い方がティナだ。

 

「穴で区別するなんて」

 「ボスのスケベ」

 

 指が動くのに合わせて悩ましい声を上げながら、二人は左右から男の頬へ口付けする。

 ちゅっちゅと音を立てるように唇を這わせる。男の乳首や腹筋をまさぐっていた手も遊んでいない。期待に胸を高ぶらせながら、股間に触れた。

 

「「立ってない?」」

 

 乳房を押し付け尻を触らせ、乳首責めに加えて何度もキスを送っているのに、男の逸物はうなだれたまま。

 

「二人の体だけが欲しいわけじゃないからな」

「「…………」」

 

 二人は知る由もないその場しのぎの言い訳である。

 

 今日の午前中はソリュシャンに二度抜かれた。

 午後はカルカの尻で温まった体をルプスレギナへのご褒美で発散した。

 ほんの30分前までソリュシャンにちゅぱちゅぱされていた。

 

 回復魔法で万全になったとしても、おっぱいを押し付けられた程度でおっきくなったりしないのだ。おっぱいだけでおっきくさせられるのはアルベド様だけである。

 女体慣れを通り越して飽きが来ることもしばしば。しかしながら発散しなければ夢精してしまって帝国中に醜聞を振り撒かれてしまう。

 そう言えば最近シクススとご無沙汰だ。ご機嫌をとった方がいいかも知れない。しょっぱい紅茶は美味しくないのだ。

 

 

 

 男の胸の内を知らない女は、少しだけ。本人たちの自己申告によれば本当にほんのちょっとだけ、ときめいてしまった。

 

(体が欲しいわけじゃないなら……心まで欲しい?)

 (口だけなら何とでも言える。けど立ってないし)

(ボスが不能なわけない。あんなに何回もされた)

 (昨日だけで最低五回は私に出したのに)

 

 無言になった二人を見て、流石に苦しい言い訳だと思ったのか、男は言葉を重ねた。

 

「二人には色々してきたが、あれはシャルティア様の指示だった。本当に愛し合うために少しずつ始めたいんだ」

 

 泥はシャルティア様に被ってもらうことにする。

 調教云々言い出したのはシャルティアなので、嘘と言うわけでもない。

 

「少しずつでも何回もすればたっぷりになる」

 「ボスの全部を愛してあげる」

 

 女とは、女だけが備え持つ第六感によって、男の優しさが純心から来る優しさか、それとも下心混じりの計算かを見抜くのだ。

 少なくともこの男は、二人が迫っても立たせていない。

 二人の体を堪能して弄びたいわけではないのは確からしい。

 

 幸か不幸かわからないが、大きなすれ違いがあった。

 

 

 

「愛し合うために」

 「おっきくなって?」

 

 触れるだけだった手がさすり始めた。

 ティアはまだ柔らかい肉の棒を指先で愛でるように撫で、ティナは根本に下がった玉袋を手の平に乗せる。ティアはしっかりと掴み、ティナは優しく包む。

 

「私たちを愛してくれるなら」

 「いっぱいいっぱい、何でもするから」

「ちゅっ」

 「ティア積極的」

 

 太さと固さを増しつつある逸物を扱きながら、ティアが首を伸ばして男の唇へキスを送った。

 

「ちゅっ、ちゅる……れろ、ちゅるる……んぅっ……」

 

 ティナがいるので触れるだけのキスにしようと思っていたのに、尻を撫でていた手がいつの間にか後頭部を押さえている。

 離れられないのだから仕方ない。唇を薄く開いて舌を差し込んだ。レモンの爽やかな香りがある。

 

 「ずっとはずるい。代わるべき」

 

 ティアがキスを中断したのはティナの声が聞こえたからではない。左手への圧力が増してきたからだ。

 握っていたモノがより太くより固く、より熱くなってきた。目を向ければ思った通り、うなだれていた逸物がそそり立っている。いつの間にかティナも握っているのが少々気に入らなかったが、自分のキスと自分の愛撫で立たせたことに達成感がある。

 

 「あむっ……、れろぉ、くちゅちゅ……じゅる……」

 

 その隙にティナが男の唇を奪った。

 上唇を食み、下唇を舐め、舌を差し込んで唾を啜り、ティアのキスを上書きしていく。

 こちらも後頭部を男の手に押さえられ、キスを止めようにも止められない。

 止まらないのはティナの手も。右手でしこしこと逸物を扱いている。

 

 ティナがしているのだからティアの手コきも止まらない。

 ティナが竿を扱くなら、ティアは先端。五本の指で亀頭を包み、裏筋を重点的に撫でている。

 

 二人は一緒に逸物を扱きながら、交互にキスを繰り返す。

 キスの番が終わると少し不満そうな顔をして、けども勃起している逸物を見ると物欲しそうに喉を鳴らす。

 扱き続けた逸物は臨戦態勢。固さも熱さも、調教中と同じくらいになってきた。

 フル勃起してからは手の動きがゆるやかになる。甘い快感を送り続けて、固さを維持させるために。

 

 

 

 唇を取り合うのが面倒になったようで、二人同時にキスをするようになった。

 具体的には、男に舌を伸ばさせて、二人は左右から舌を伸ばして男の舌をペロペロと舐めている。

 頻繁に姉妹の舌が触れ合っている。女同士で実の姉妹で、だけども舌が触れ合う嫌悪感はないようだ。舌を伸ばしっぱなしの男が一休みすると、二人は男の顔の上で唇を重ねる。

 単に重ねるだけでなく、きちんと舌を入れて絡めて。すぐ側なのでくちくちと唾が泡立つ音が聞こえてくる。

 姉妹の口中でたっぷりと撹拌された唾液は口移しで男へ注がれた。

 

「ボスのちんこ、スゴいおっきい。ガチガチに固くてアツアツになってる」

 「こんなちんこ見せられるとただのメスになっちゃう」

 

 どちらかがキスをしている時は、どちらかが耳元で甘く囁いてくる。

 ゆるゆるとした手コきは一瞬たりとも止まらない。ティナは竿を扱き続け、ティアは亀頭を指で揉んだり手の平で擦ったりと、色々な技を披露している。

 

「ちんこから汁が出てきた。ねとねとしてる」

 「舐めたい。口でしていい?」

「ティナはフェラ出来る?」

 「ティアより本数多いから。ティアこそ出来る?」

「教育中はずっとしてきた。精液も毎日飲んでる。飲まないと落ち着かない」

 

 戦闘訓練が始まっても、一日に一度以上はティアを犯してきた。口も使って、精液の味を覚えさせた。

 その手の技術に自信があると言うのは嘘ではなく、耐えようと思わなければ10分と掛からず出してしまえる腕前だ。

 

「それじゃしてもらおうかな」

 

 二人が恩返しで色々としてくれるらしいので基本はお任せ。

 尻を揉んだり舌を伸ばす以外は寝っ転がってるだけである。

 二人へはしてやる一方だったので、される側に回るのは新鮮だった。

 

 二人は手を重ねて逸物が跳ねないように根本を押さえると、ティアなのかティナなのかわからないが、一人は左から、一人は右から逸物を舐め始めた。

 逸物を挟んで顔を突き合わせた二人の動きは完全に同期している。さすがの双子(本当は三つ子だが以下略)は息が合っている。

 Wフェラとくれば、ミラとジュネにさせたことはない。アウラ様とシャルティア様はフェラ&手コきだった。シェーダの同僚メイドにはされていたが、あれは男を見るのも触れるのも初めての初心者。それ以前となると、エ・ランテルでの娼館通いにまでさかのぼる。

 

 二人は根本から先端まで舐めると、一人が亀頭を咥えて舌を使い、もう一人は竿を唇で挟んで滑らせる。玉の方は二人の手で包まれている。揉むほどはいかず、手の熱で冷えた玉袋が温まってくるのが心地よい。

 ただし左右からだと、逸物で特に敏感な裏筋や尿道口を責めるのが難しい。二人はそろりそろりと体を移動させ、一人は上から、一人は下から舐めるようになった。

 均衡はそこで破れた。

 

 

 

 男の下半身に回って二人並んで舐めるなら良かった。

 左右から伸びた舌が逸物に触れているのは視覚的にとても楽しい。

 しかし上下となると、一人は男の下半身側に戻って、もう一人は男の上半身を跨ぐことになる。

 跨いだ女は逸物を舐めやすい位置まで体を下げて、男の頭を跨ぐところで止まった。

 逸物はもう一人が熱心にしゃぶっている。頭を上下させて長い金髪を揺らし、根本までは咥えられないので手でも扱く。上下に扱くだけの動きから捻りを加えて頑張っている。

 頑張っているから気付かないらしい。

 もう一人の女は男の手を取って、自分の乳房にあてがった。

 顔を跨いだまま、ゆっくりと腰を下ろしていく。

 女は声が出ないよう、唇を噛んだ。

 

(生えてないからティナだな)

 

 ティアにフェラチオを任せて、ティナは顔面騎乗を仕掛けてきた。

 大股を開いているので割れ目がくぱあと開いている。雌の匂いが濃い。淫臭と熱気が唇を舐める。

 舌を伸ばし、舐めてやった。

 

 「んぅ……」

 

 媚肉はすでにトロトロだ。舐める前からしとどに濡らし、小さな雌穴に舌を差し込めば、愛液が伝って口へ流れてくる。

 わざわざ触らせられたおっぱいも揉んでやる。大きいと言うほどではなくても張りがあって揉み応え十分なのはティアと変わらない。触れた時から乳首が立っているのには気付いたので、親指と中指で摘まんで捻り、きつく抓りながら引っ張った。

 

 「ふぅっ……!」

 

 ティナの手はこちらの手に重なって、もっとしろと訴えるかのよう。

 胸を責めながら下だって忘れない。

 ティナは舐めやすいように腰を動かし、口に押し付けられるのはクリトリス。

 勃起した肉の豆を左右に舐めて、吸いながら舌でつついてやれば鼻先へティナの汁が垂れてくる。

 

 「んっ……んぅぅっ……、くぅ……!」

「なっ、何してるの?」

 

 しゃぶっていたティアが、ようやく気付いた。

 協力して男をイかせるはずなのに、ティナは男の顔に座って自分の胸を揉んでいる。よくよく見ればティナの手の下には男の手が。男に胸を揉ませている。

 頬は上気して、目は固く瞑っていても快感に蕩けているだろう事がティアにはわかる。

 

(なんでクンニさせてる!? ボスを絞りきるんじゃなかった!?)

 (ティアに、まかせる)

(はあっ!?)

 

 声を出さないよう手話で問いただせば投げ遣りな返事。

 声を上げて怒鳴るわけにはいかない。睨みつけてもこっちを見ようとすらしない。それどころかうっとりと目を閉じて、あんあんあふぅと喘ぐまでになった。

 二人でフェラをしながら、玉揉みを止めたティナの手が自分の股間に伸びていたと思ったらこの有様。

 

(そっちがそのつもりなら……)

 

 男の股間に顔を埋めていたティアも、男の体を跨いだ。

 ティナが顔の上だから、ティアは余ってる下半身。もっと言えば股間の上。ティアの股間の真下に、反り返った逸物がある。手を添えて真上を向かせた。

 亀頭から根本まで、髪同様に色の薄い陰毛に玉袋まで、熱心にしゃぶっていたティアの唾液に濡れている。濡れているせいで、うっすらと湯気が立っている。

 割れ目に亀頭が触れた。

 

「んぅ……」

 

 逸物を前後に振る。割れ目の内側が抉られて、粘膜同士が触れ合っているのを実感する。

 位置を合わせ、体を少しだけ前に倒した。

 

 下の口で頬張っていく。

 広げられている。入ってきている。熱い。固い。自分の中に入ってくる。きつい。太いから入ってる感が凄い。でもまだ半分。もう少し入る。あとちょっと入る。奥まで来た。でもまだ行ける。

 この半月で数え切れないほど使われてきたティアの雌穴は、男の形を覚えていた。時間をかけて、奥まで迎え入れた。

 

「~~~~~~~っ!」

 

 調教中はがんがんと子宮まで突かれた。気持ちよかったけれど痛む時もあった。痛みは快感を引き立てて、痛み自体も快感となるのにさして時間は掛からなかった。

 そして、痛んで傷ついた体はルプスレギナの魔法で完全回復される。何度も何度も繰り返されて、ティアの体は作り替えられた。

 

「ボスのちんこ……、ぜんぶ入ったぁ♡」

 

 男の股間の上に、ティアの股間が重なっている。長い逸物は全てティアの中に入っていた。

 一番奥まで来てる。亀頭が子宮口に届いて、なお入りきらずに子宮を押し上げている。

 

「うごく、ね。んっ……、んっ、あぁ……。ちんこ大きいから、お腹いっぱいになってる……、ふうぅ…………」

 

 長さが奥まで届くなら太さもそうで、ティアの膣をめいっぱい広げている。肉ひだが逸物にぴったりと密着し、捕らえて離さない。

 きついので最初の数往復はゆっくりと。徐々に体が思い出して馴染みだし、ティアは腰を振り始めた。

 

 ティアの唾液と愛液に濡れた逸物が、現れてはすぐにティアの中に隠れていく。大変楽しい光景だろうに、生憎男の視界にはティナの尻があった。

 

 「はうっ!?」

 

 尻を持ち上げて腰を浮かさせ、舐めながら指を使う。

 何度か浅く達していたティナは、抵抗なく指を受け入れた。くちゅくちゅと指を抽送しながらクリトリスを舐め、溢れる愛液が顔を汚す。

 

 「あっ! はぁっ!? あっ、やんっ、なにそれぇ! あっ、あぁっ、いいっ……、それいいのぉ♡ んむぅっ!?」

 

 ティナの声が高くなった。

 浅いところにいたのが深くなり、ティナの意志とは関係なく膣が指を締め付ける。

 

「あっ、あっ、あんっ! あんっ♡ 腰が、かってに♡ ボスのちんこっ、ボスもっ、全部大好き愛してるぅ♡」

 

 ティアが感極まって抱きついたのは、目の前にいるティナ。

 ティナの顔を胸に抱きながら、ティアは腰を振り続ける。膝立ちでいたのを、脚をベッドについて屈む形になり、高速で上下に動いている。

 

「ひうっ!! ……………………いまの、奥まできた……。ちんこが子宮に刺さったみたいで、すごくて、……きゅんて来てるぅ……♡」

 

 ティアが腰を下ろすのに合わせて突き上げれば、奥を叩かれたティアは恍惚と体を震わせた。

 ティナへは波を読み、舐る肉芽を強めに捻った。

 

 「ひあっ!? あ……ああ…………、クリが、ピリッて……♡ いまの、イった……かも。はあ……はぁ、……あむっ!? ……ちゅっ」

「んっ、……ちゅちゅっ、れろ……、じゅる……。ぷはっ……、ティナとキスしたって、……悪くないけど」

 「ボスの方がうまい。ティアは……下手じゃないけど」

 

 男の上に乗った姉妹は唇を重ね始める。

 責めが一落ち着いて余裕があった。キスの作法にのっとって鼻がぶつからないよう少しだけ首を傾げ、唇に舌を一周させて湿らせて、薄く唇を開き、赤い舌を覗かせ、目を閉じて相手の頬を互いに包み、唇と舌が同時に触れ合った。

 んっんっと甘い息を漏らし、ねっとりと舌を絡ませる。

 

 上半身だけを見れば禁断の姉妹愛。

 下半身はどちらも男の粘膜と接触している。

 

(こいつら俺を忘れてないだろうな)

 

 

 

『パンドラ扮するアインズ様へ忠誠を捧げたのは演技。男のベッドに潜り込んだのは、男を自分たちの体の虜にするため』

 

 以上は全くの嘘である。二人は男とシャルティアに屈服している。抵抗とか反抗とか、考えはしても体が拒否する。

 しかし、元イジャニーヤの矜持と王国のアダマンタイト冒険者である義理がある。魔導国は王国の仮想敵国で、利敵行為は行い難い。

 ゆえに、自分たちを騙すためだけに愚にもつかない御題目を捻り出した。

 己すら欺いて心の奥底に隠した真の目的は、抱いて欲しいから。一秒でも長く触れ合いたいから。愛して欲しいから。

 素直に迫るには、今までの経歴とか立場が邪魔をしてくれる。本音を言えば全部捨ててこの男の下に入りたい。

 

 頭ではそのように考えはしたものの行動はやたらと素直で、舐めながら股間に手が伸びたのはティナだけでなくティアも。

 当初の予定では口で出させて手で出させて、触らせたり入れさせたりは最後にとっておくはずだったのに、あっさりとティナが抜け駆け。

 姉妹の裏切りに心を痛めて頭に来たティアは、心が欲するままに動いてしまった。

 

 二人とも半月の長きに渡って徹底的に仕込まれている。触れ合う程度の軽い愛撫で体の準備が始まってしまうのだ。

 

「どけっ!」

「「ひゃんっ!」」

 

 目前の尻を押し上げ、押しやり、体を起こす。挿入していた逸物がずるりと抜ける。

 ティナはティアを巻き込んでベッドに倒れた。

 抱き合う姉妹は方や振り向き方や見上げ、眉間に皺を寄せる男と目が合った。だいぶ機嫌が悪そうである。怒っているかも知れない。

 

 かも知れないどころか、アルベド様が関わってないのに珍しく本当に怒っていた。

 

 自己処理を知らないが故に定期的に誰かに抜いてもらわないと誤射してしまって帝国中に醜聞が知れ渡った末に社会的に死亡、アインズ様ひいてはアルベド様のお顔に泥を塗ってしまい「このカタツムリ!」と罵倒されながら叱責を受ける程度なら良いが放逐でもされたらどうすればいいのだ。

 フル装填まで三日。つまり最低でも三日に一度、余裕をもって二日に一度はしてもらわなければならない。そこへ本日はソリュシャンに三度、ルプスレギナに一度の計四回。本当ならもう必要ないところをティアティナのために回復魔法を掛けてもらっている。

 いざ始まったら、同じ顔の女二人に迫られ、唇をねだられ三人でキスをして、Wフェラまでは良かった。

 ティナを舐めてやったり上になったティアを下から突き上げてやったのはサービスのつもりだった。しかし、二人はそこで止まってしまった。

 自分が気持ちよくなったらこちらを放置して姉妹二人の世界に入ってしまったのだ。

 いっぱい色々スゴく好くしてあげると言うから楽しみにしていたのに、放置である。わざわざ回復してもらって時間を作ってるのに放置である。しかも、射精直前で。

 怒って然るべきだった。

 

 

 

「ボスが怒ってる」

 「ちんこギンギン。犯されちゃう」

「怒らせたんだから犯されても仕方ない」

 「わかってる。全部の穴を覚悟してる」

 

 怯えたような声音に聞こえなくもないが、顔は蕩けていた。仕事柄鋭いはずの目つきは愛欲に潤んでいる。

 二人とも股を開いたまま。見ている内に手が伸びて、ティアは上に乗っているティナの、ティナは自分が被さっているティアの、それぞれの陰部をくぱあと広げた。

 どちらも濡れ濡れでとろとろで雌穴がひくついている。

 

(こ、こいつら……まさか!?)

 

 戦慄が走った。

 まさかこの二人は、激しく犯されるためにあえて挑発したのではないだろうか。

 その手には乗らない、と強がることは出来ない。耐えなければ出してしまいそうなティアのフェラチオからの騎乗位。あと三擦り半もあれば達していた。その状態で、犯される気満々の二人を前にして何もしないでいられるわけがない。

 

 二人はこの男とシャルティアに仕込まれているのだ。肉体が変容していれば精神だって変質している。

 徹底的に犯されることを望むようになってしまっていた。

 そんなことを話し合った二人ではないし、実際に意思伝達したのは如何にしてこの男を絞りきるかということばかりだったのが、そこはさすがの双子(本当は以下略)である。言葉を用いず見事な以心伝心でもってハメられるために男をハメたのだ。

 

 

 

 「あぁぁぁああん♡ 入ってきたぁ! あっあんっ! あんっ! ちんこいいっ! まんここわれりゅううぅぅう♡」

 

 負けを認めるようで非常に癪であったが、いきり立った逸物はどうにもならない。

 重なってる二人の上の方。尻を向けているティナの腰を掴んだ。

 舌に指も使ったのでほぐれ具合は十分。女の肉に逸物を突き入れた。程良い弾力を押しのけて一番奥まで届くと、ティアと違って少し余る。尻の穴以外にここでも区別が出来るようだ。

 少し間があったとは言え、ティアの中で扱かれている。十数回の往復で快感がこみ上げてきた。

 

 「あっ……ああ……♡ きてる……、ボスのちんこピクピクしてうぅ♡ 一番奥で、どぴゅどぴゅきて、こんなこゆいのぜったい孕むぅ♡」

 

 舌と指でイかれさて、なお高ぶっていたティナは子宮口を熱い精液に打たれ、達していた。呂律が回っていない。口からは涎を垂らしてシーツを汚す。

 逸物を咥えている膣はきゅうきゅうと締まる。吐き出された精液を取り込もうと導いている。

 

 「ふああぁっっ!? 出したのに……、また……? あっ、すごっ……、ちんこかたい♡ 私のおまんこで、ボスのちんこがまた固くなってる♡」

「続けてしてやるよ」

 「いっぱい犯して。あんっ、あんっ、すきぃ! ちんぽじゅぽじゅぽしてぇっ♡ はあんっ、んっ……! ふあっ……、ひゃあぁああぁあん♡」

「ティナばかりずるい!」

 

 ティナの下から抜け出したティアが不満を訴える。

 ティアは寸止めを仕掛けてきたので後回しなのだ。だからと言って大人しくなるティアではなかった。

 後背位なので四つん這いになってるティナの背に跨がり、腰を使う男に抱きつく。ちゅっちゅとキスを送って唾液を交換し、混じり合った唾をぺちゃりと垂らした。

 垂れていったのはティナの尻。尻の割れ目に沿って流れ、二人の結合部に届く前に指を伸ばした。

 

 「ひゃうっ!?」

「あれ? 唾塗る前からぬるぬるしてる?」

 

 ティアはティナの肛門に指を入れた。入れる前にほぐしたりはしてない。きつい抵抗を強引にこじ開けた。

 せめてもの潤滑液に唾を垂らしたつもりなのだが、入れる前から何かしらのぬるつく液体が塗られてあった。

 男が姉妹を肛門で区別する際にローションを塗っていたのだ。ティアも塗られているが、気付いていないようだ。

 

 中指が第二間接まで入れば、すぐに抜いて薬指を添えてから再突入。

 きついが行ける。もう一度抜いて人差し指も加えた三本体勢。圧力マシマシだが尻穴で潰れるほど柔な指ではない。

 その真下では男がティナの中を蹂躙しているから、指の抽送が出来ないのが片手落ち。代わりに、突っ込んだまま指を広げてやった。

 ティナが鳴くが、ティアはもっと凄いことをやられている。この程度は痛くも苦しくもないはずだ。

 

「ボス。ティナのこっちもいけそう。全部の穴を犯してやって」

 「待ってそんないきなりそっち処女で慣らしてからって、くぅっ……うぅ……はぁぁああぁあぁっ……あ、ああ…………。……はいっちゃったぁ…………」

「ティナはこっち処女だった? 私も処女だった。ボスに奪ってもらって良かった。ティナも嬉しい?」

 「あっ、あっ、あっ……なんでっ! こっち、処女でっ、きもちくなってるぅ……! あん、あんっ♡ ぜんぶきてるのわかるぅ!」

 

 膣では入りきらなくても、アナルなら全部行ける。

 普段は閉じきってる穴を広げて挿入するのは、膣とは違った征服感があった。

 

「次は私。絶対私!」

 

 ティナとのアナルセックス中、ティアは後ろから抱きついてきた。背中に乳房を押し当て、必死にアピールしている。

 

 「イくイくイくうううぅぅ! おしりでぇ…………、アァあぁぁーーーーーーーっ!! ………………あっ!? らめ、イったばかり、ああっ!?」

 

 素質があったのかシャルティアに開発された余波か男の技が優れていたのか、偉大なサキュバスの寵愛を受けた男から目に見えぬ力を注がれたのか。後ろの処女を捧げたばかりのティナは、昨日の調教と同じように甲高い声で叫んだ。

 ティナは達しても男はまだ。

 絶頂から体を弛緩させ、やや緩くなった尻穴で構わず扱き、二度目の精を放った。

 三度続けるつもりはなく、固さを失いきる前にぬるりと引き抜く。

 ティナはその場で腰砕けになり、小刻みに尻を震わせた。ぽっかりと開いた肛門は閉じきって、しかしティアが広げてやると白濁した粘液がとろりと溢れてきた。

 両穴からこぼれた精液がぽたぽたとシーツに垂れている。

 

「はむっ……ちゅうぅ……、じゅぷ、ちゅるる、んふぅ……、ぷはっ……、固くなってきた♡ あむっ……」

 

 ティナの肛門から出てきたばかりの逸物を、ティアが咥えて頭を振り始めた。

 ローションの効果で汚れてはいないのだが、ティアはそれを知らないはずである。なのに全く躊躇がない。

 

「今度は私。入ってきて? あっ…………、きてる♡ ボスのちんこが入ってきてる♡ ティナと一緒で、私にも中で出して?」

 

 荒い息を吐いてるティナを放置して、ティアへは上から覆い被さった。

 ティアは首筋に腕を回し、耳元で甘い声を囁いてくる。

 肌と肌が密着する正常位は互いの存在を強く感じられて、他にはない良さがある。

 

 「私も忘れないで」

「ティナ重い!」

「動きづらいけど、まあこれはこれで」

 

 男の上にティナが乗ってきた。跨がるのではなく、背中へ抱きつくように。

 一番下のティアは二人分の体重が掛かっている。

 

 

 

 そこからは乱れに乱れた。

 

 正常位から繋がったままごろんと横たわってティアに片足を上げさせる前側位。これだと後ろからティナが来ても重くない。

 ティナは男に抱きつきながら、両穴を犯されてどれだけ気持ちよかったかを耳元で甘い声で囁き続ける。

 当然ティアにも聞こえて、ティナより自分の方がボスが好きと訴え、挿入されてる快感と充足感を主張する。

 繋がってる二人が動けばティナは自慰を始めて切ない声で鳴き始める。

 

 前側位だと後ろからする側位よりも動きづらい。

 ティアにリズムよく締めさせて三度目。ティアは涙を流しながら男にすがりつき、絶頂してることを告白した。

 四度目の前はティナに準備させる。ティアがしたのだからティナもするべきなのだ。

 ティアのアナルは、尻の下にクッションを敷いて浮かせて正常位で。その間、ティナはティアを舐めていた。中へ注いだ精液をじゅるじゅると啜っている。

 それでキスをされるとイヤな男は、ティアもティナも炭酸レモンジュースで口を濯がせて一休み。

 五回目は二人を並べて寝かせた。

 

 同じ女が二人並んで寝そべっている。違うのは陰毛の有無だけ。

 始めは手を繋いでいるだけだったが、互いの手は交差して相手の体に伸びると、太股を撫で、根本へ上がっていった。

 

「あんっ……。ティナ、うまい……んっ……」

 「んっ、んっ、ティア、もぉ……。くぅっ……!」

 

 レズビアンで多数の経験があるティアに軍配が上がるらしい。

 二人とも股を開いて脚をM字に開き、姉妹の秘部を愛撫し始めた。

 どちらも空いてる手で自分の陰唇を広げるものだから、男の逸物が出入りしていた雌穴までよく見える。

 ティナは透明な汁を垂らし、ティアは出して間がないので白い粘塊が少しだけ付着している。

 二人が太股まで濡らしているのは、汗と唾液と愛液と精液と、あらゆる淫液をわざわざ塗り伸ばしているから。そのせいで淫臭が凄いことになっている。それが扇情的な光景同様に劣情を駆り立てた。

 

 ティアに舐めさせ、ティナにはティアを舐めさせ。

 ティアへ挿入しつつティナを舐めさせ。

 あるいはその逆をして。

 今度こそきちんとWフェラをさせて射精し、吐き出した精液は二人が口移しで交換し互いの舌で撹拌し、逸物に口付けさせながら飲み込ませ。

 何度も出したので催してきた。

 床に正座させて背筋を伸ばさせ、上を向かせて口を大きく開かせる。

 

「らいじょうぶ。ちゃんと飲む」

 「飲ませて。ボスのなら全部飲みたい」

 

 飲みたいというなら飲まさせてやらねばならぬ。

 時々ソリュシャンへするように、二人の口目掛けて放尿した。開いた口にじょぼじょぼと小便が溜まっていく。命中率は8割強。

 二人はごくごくと飲み干した後、外れて顔に掛かったのを舐めあった。

 シクススを怒らせた時に飲まされるしょっぱい紅茶はこれだと思ってる。

 

 最初こそあれだったが二人は色々よく出来たので、最後は本気を出してアルベド様へ奉納する技を披露してやった。

 二人の魂は幸せな世界に旅立った。一部は逝ったきり帰ってこなかった。

 

 

 

▼ ▼

 

 

 

 明くる日旅立ちの時。

 

「二人にやろう」

「「?」」

 

 若旦那様が双子忍者(ry)に差し出したのは両手でなんとか収まるくらいの黒い袋。袋は厚手で表面に皮革の艶があり、見るからに丈夫そうだ。開口部は紐で固く結んである。

 受け取ったティアは、想像より重かったことに驚いた。

 断ってから袋を開き、絶句した。横から覗いたティナも目を丸くした。

 

「ソリュシャンから何か頼まれてたろう? その活動費。あとは小遣いだ」

 

 袋の中は目映い黄金の光を放っていた。

 

 金貨一枚あれば、帝国の庶民なら2・3ヶ月暮らせる。仮に2ヶ月とする。

 一家は稼ぎ頭の夫、その妻、夫妻どちらかの両親、夫妻の子供が三人いるとする。

 夫以外に、妻も両親も内職をして、あるいは稼ぎに出て、子供たちも小使いなどで多少は稼ぐ。

 計算を簡易にするため夫以外の働きを成人二人分とすると、金貨一枚で成人三人を二ヶ月使い倒せる事になる。金貨一枚で成人六人を一ヶ月使えるとも言える。

 勿論、それぞれの技能や居住地での生活費などで大きく前後する。特に賃金という物は生産に掛かるコストよりも生活費によって変動するものであるが、ここでは考慮に入れないこととする。

 

「色々混じってるが、交金貨換算で八百と少しだな」

 

 交易共通金貨(交金貨)とは近隣諸国で流通している金貨であり、各国間での交易に使用される。どこの国であっても使用できるのは便利なのだが、便利過ぎるために弱小国家は独自の経済政策がとれない。王国の富が流出し衰退し続ける原因となっている。王国の王族も貴族もどうしてそうなるのかわからない。彼らにとってエコノミーとは異界のまじないだ。

 

 それはさておき、交金貨800枚とは4,800人月分。4,800人を一ヶ月雇うか、或いは400人を丸一年間雇う事が出来る額になる。

 アダマンタイト冒険者であるティアとティナは非常に稼ぎが良くとも、一度に個人でこれだけの額を受け取ったことはない。

 個人に払う額ではなく、ある程度の規模がある組織の年間予算となる。

 

 この男、使い道がなくて貯まる一方のお給料を使っちゃおうと考えたのである。

 

 エ・ランテルでは娼館通いで散財したようで出来てない。支払いは最初の一回にどーんと持って行ったせいで二回目以降はどうぞどうぞだった。金は要らないと言う娼婦も多く、預けた金は中々減ってくれない。

 帝国で娼館通いをしようとするとシクススにしばかれる以前に、お屋敷は高級住宅地にあるためどの店へも結構な距離がある。ミラを使って馬車を動かしさあ出発だをしようにも断られて密告されて折檻されてエッチさせてもらえなくなった末に夢精して土下座が待っている。

 帝国でお金を使えたのは双子幼女を買った時と、帝国を訪れた初日にアウラと一緒に屋台巡りをした時だけだ。

 

 使う機会がないのに、アルベド様の相談役になったことでお給料が増えた。

 アインズ様へモモンズブレイドアーツを伝授した時は相当な額が一時金として支給された。

 

 かなりの高給取りではあるが、ペットのロロロの食事にユグドラシル金貨を一枚消費するアウラに知られたら、「うわ……あいつの給料低すぎ? ナザリックってもしかしてブラック?」と言われかねない額である。

 アインズの感覚も似たようなもので、「やっぱもっとやらないとダメだよな。最下級のポーションで金貨32枚だったし、月給でポーション10個分ないとかあり得んだろ」と頭を悩ませている。

 使い道がないのに増える予定はあるらしい。

 

「足りないようなら言ってくれ。白金貨になるから使いづらいと思うが」

「十分すぎる」

 「指令は完璧にこなす」

「期待してるわ」

 

 二人の見送りにはソリュシャンとルプスレギナ、ミラとジュネも同席している。シャルティア様がいらしているのだ。

 お見送り、と言っても魔法で移動するため、出発地点はお屋敷三階の書斎である。

 

「早くしなんし!」

 

 若旦那様からの視線を、待つのにじれてるのを装って気付かない振りをするシャルティアが双子忍者()を急かす。

 二人は魔法による暗い扉を潜り抜け、一瞬で王都の郊外に移動した。

 

「ボスがエ・ランテルに戻るのにあわせて」

 「ラキュースだけだと怪しまれる。蒼の薔薇全員で」

 

 ティアとティナは元イジャニーヤの一員として暗殺家業を営んでいた。それゆえ、とても現実的な視点を持っている。

 情で動くときがあれば、損得を計算することも出来る。

 

 二人はラキュースを売ることにした。




ファンタジー通貨だと、金貨1枚=銀貨10枚=銅貨100枚、だったりすることありますが、
2022年2月でそれぞれの円/gは、金7000、銀90、銅1,2、だったりします
それ言ったら一万円札の製造費は20円前後なのに一万円の価値があるのは発行母体の信用とその裏付けはやっぱり金塊だったりしてその反対側に労働があるとか言い始めるとややこしく、メタ(旧FB)のディエム(旧リブラ)が潰れたのは残念だったけど当然というか通貨発行は措いといても既得権益に手を突っ込んだらそりゃ火傷するに決まってるし

とりあえずアバ茶は封印します


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サキュバスみるくと一大プロジェクトの始まり ▽アルベド♯17

アルベド回ですがソフトです


「そのような次第となり、パンドラズ・アクター様は私に勝利を授けて下さいました」

「ふぅん。あ、そこはもっと強く! 優しくされるとくすぐったいわ」

「失礼いたしました。こうでしょうか?」

「そう、それでいいわ。んっ……、いい感じよ」

「光栄です」

 

 ティアティナが王都に戻された翌日である。

 

 本日はお食事日ではないのだが、アルベドは王都のお屋敷のお食事部屋を訪れていた。

 実を言えば、お屋敷へは週一どころか毎日訪れている。ただし、お食事部屋に顔を出すわけではない。

 ナザリックはブラックかも知れないがホワイトな職場を目指しており、守護者統括にも休まなければならない時間が決められている。アルベドはその時間と睡眠時間をあてて娘の元に通っていた。

 まだまだ幼い娘である。叶うならばずっと傍にいてやりたい。

 

 娘の面倒を見つつ、娘が眠っている間は気晴らしや一休みするためにお食事部屋へのドアを開く。その時にこの男がいるかどうかは半々だ。今日は偶然顔を合わせた。となれば、アルベドの時間が許す限り傍に侍りたいと思うのは美神の信徒として当然である。

 アルベドは休憩時間中にお屋敷を訪れているため、本格的にお食事をする時間はない。現在は男から提案を受けてマッサージをさせている最中である。

 性的なマッサージではなくて、リラックスできて血流をよくするためのマッサージ。体のこりほぐしでもないので、以前のように「凝ってないですね」なんて無粋な言葉は出てこないようだ。

 

「それで?」

「それで、とは?」

「競争だったのでしょう? どうせシャルティアのことだから、負けた方にペナルティがあるんじゃない?」

「ご推察の通りです」

「勝ったあなたはぁっ!? くぅ~~~~~~~~~っっ! ……こ、これが、いたきもちいい、なの……、ね」

「申し訳ございません! 痛みましたでしょうか?」

「痛かったわけじゃないわ。いたきもちいい、よ。続けて」

「かしこまりました」

 

 アルベドは椅子に座り、机の上に置いたクッションに両腕を乗せて腕枕とし、男へ背中を向けている。

 本日のドレスはアルベドカラーの白いバックレスドレス。ストラップが首裏を通るホルターネックで、長い髪はリボンで緩く結わえてあるため、肩から尻の始まりまで肌を露わにしている。

 シミもくすみも掠り傷もない滑らかな背中。輝く肌はシルクかセリカか白磁か真珠か。否、例える必要はどこにもない。アルベドの肌である。

 

「私が勝利した結果、制限がございますがシャルティア様への一日命令権を手に入れました。」

「シャルティアが勝っていたらどうなっていたのかしら?」

「賭けたものは同じです。しかし、レートがシャルティア様の3万に対して私は1でございました」

「…………まぁ、いいわ。勝ったあなたはシャルティアに何をさせるつもりなの?」

「ナザリックを案内していただくつもりでございます」

「今更?」

「少し工夫を凝らせていただきます」

 

 残念ながら、始めに考えていたのとは違う形になってしまった。

 それと言うのも昨日、シャルティアに釘を刺されたからだ。

 

『アインズ様がお戻りになったら私も色々忙しくなるでありんすからアインズ様がお戻りになったら無効でありんす!』

 

 アインズ様のご計画を遊びで遅らせるわけにはいかない。正論である。シャルティアはシャルティアなのにここぞと言うときは危機を回避する知恵が働くようだ。

 当初の予定では、シャルティアの許容範囲内でアインズ様の許容範囲から一番遠いところを選ぶつもりだった。

 具体的には赤ちゃんプレイ。

 シャルティアに赤ちゃんキャップと涎掛けにベビー服、おむつに見立てたふんわりドロワを履かせて「ばぶう、おっぱい欲しいでちゅー」とかやってるところをアインズ様に目撃していただき、「シャルティアはもうダメかもわからん」と思っていただくつもりだった。

 アルベド様を侮辱した報復である。

 

 しかし、この手が使えなくなった上に時間制限まで設けられてしまった。

 仕方ないので、一週間後に権利を行使する予定である。

 

「その際はご挨拶にお伺いするつもりでございます」

「執務中よ。あなたの相手をしてる時間はないわ」

「承知しております。せめてお目通りだけはお許し願えないでしょうか?」

「それくらいなら、いいでしょう」

「ありがとうございます」

「……ええ」

 

 アルベドはクッションに身を任せ、ふうと甘い息を吐く。

 マッサージが心地よい。リラックスするためのマッサージと言うだけあって、体の力が抜けていく。ともすれば眠ってしまいそう。

 

「アルベド様、そろそろよろしいでしょうか?」

「いつでもいいわ」

「それでは、失礼いたします」

 

 断ってから、黒髪を結わえるリボンをほどく。

 長い髪が波のように広がって、艶めかしい背中を隠す。マッサージは首筋から肩や背中をさすったり指で圧したりしていたのだが、隠れてしまっては何も出来なくなる。しかしマッサージは次のための準備であったため、背中が隠れてもよいのだ。

 どちらでも良いのなら、アルベド様の漆黒に輝く御髪を見ていたい男である。

 

 床の上に膝立ちしていたのを、今度は椅子を持って来た。アルベドが座る椅子の直ぐ後ろに並べる。どちらも背もたれがなく、座面の高さも同じだ。

 次にアルベドがもたれる机から板を引き出す。高さはアルベドの太股より少し上で、その上に繊細な細工が施されている小瓶を二つ並べた。小瓶と言えど、ポーション用のものより容量がある。どちらも保存の魔法が掛かっている。

 

 男が真後ろに座った時、アルベドは薄目を開いた。

 リボンに続いて、ストラップも外された。

 

 

 

▽ ▽

 

 

 

 ドレスのフロントは乳房を帯状の生地が覆っているだけ。ストラップを外せば生地がはらりと落ちて、上半身は裸となった。

 アルベドは机にもたれて体を前に倒している。乳房はやや下を向いて、重そうに垂れ下がっているのはまさにたわわな果実の女王。

 男はアルベドの真後ろに座り、背中から抱きしめるように回された手は柔らかな乳肉にそっと触れた。

 

「んぅ……、遠慮しなくていいわ。必要な事なのだし、この前もしたんだから。乱暴にしてもいいのよ?」

「アルベド様にそのような……、大それた事を……」

「ふふ、抵抗できない私をあなたが無茶苦茶にするの。そんな事を想像したこともあるわ」

「……考えるだけと実際に行動するのとでは違います」

「そういうことにしておくわ。さあ、始めなさい。時間は有限よ」

「仰る通りでございます」

「んっ……、ふぅ……。知ってるかしら? わたし、あなたにおっぱい触られるの、好きなの♡」

 

 手の平には到底収まりきらない大きな乳房を、根本から包むように触れ、親指は脇に添える。

 そのままゆっくりと力を入れれば柔肉に指が沈み、頼りなく形を変えた。

 

 アルベド様のお体は爪先から髪の毛一筋に至るまで、あらゆる部分の手触りが極上で、中でもおっぱいは特に素晴らしい。

 しっとりと指に吸いつき、温かく滑らかで、官能的な柔らかさは言葉に尽くせず、何もかもを受け入れてくれる愛に溢れている。

 ちょっと食傷気味なソリュシャンのおっぱいとは違って、触っているだけで劣情を催し、下半身に熱が溜まってくる。しかし、今はそのような時ではない。我慢して胸を揉まなければならないのだ。

 

「あんっ……、もう。あなたがいやらしい触り方するからエッチな声が出ちゃうじゃない」

「ご不快でなければこのまま続けさせていただきたいです」

「好きって言ったばかりでしょう? イヤなわけがないわ」

 

 我慢しているのはアルベドも同じ。頬を染め、唇を舐め回しながら熱い息を吐いている。

 サキュバスらしい淫靡な表情は、頬を腕枕に預けた上に髪で隠れているため、後ろからでは見えなかった。

 

 根本から絞るように、時には揉まずにさすり、下乳だけでなく上乳も同じように揉み、横乳まで丁寧に。

 バストトップには未だ触れない。

 それなのに、乳房の先端は宝石のように赤く光っている。

 

「そろそろ良いと思いますので」

「一々断らなくていいわ」

「それでは」

 

 乳房を包んでいた手指が、そのまま先端へ滑っていった。手指は乳房を潰すようにして、レッドピンクの乳輪に触れるか触れないか、強く押した。

 弾けそうなほど膨らんだ乳首が本当に弾けてしまったようだ。乳揉みで立たせてしまった乳首から、温かみのある白い液体がピューッと噴き出た。

 

「……っ。はぁ……、出てる。わたしのおっぱい……」

 

 たわわな乳房から滴る至高の母乳は、乳房の真下に置いた瓶へ入っていった。透明な壁を乳白色の液体が伝っていき、底まで着くと広がり続け、溜まり始めた。

 

 二人はエッチなことをしているのではない。

 乳搾りをしているのだ。マッサージは母乳の出をよくするためのものだった。

 

 アルベドの娘であるソフィーは早くも乳離れしてしまった。

 母乳が必要なくなっても、アルベドのおっぱいからは母乳が出続けている。必要ないなら絞って流してしまえばよいのだが、それを捨てるなんてとんでもない! 天に唾する愚考である。

 必要ないのでしたら、と言うことで男が搾乳を提案し、このようなことになっている。

 アルベドに時間があったら直飲みしていたかも知れない。

 

 左右の乳房をリズムよく絞る。ピューピューとアルベドミルクが瓶に溜まっていく。

 

「あんっ」

 

 母乳を絞るときは根本から先端に掛けて揉み下ろす。乳輪で止まることがあれば、乳首を押し潰すことも。

 乳首に触れてからさらにこねたり転がしたりはしないで、すぐに乳房の方へ戻っていく。それでも刺激は十分で、アルベドの乳首は痛々しいほど膨らんでいた。咥え易くなるために勃起している。

 

「アルベド様の母乳が良く出ています」

「あなたの絞り方が上手だからよ。乳首をきゅってされても痛くないわ。気持ちいいくらい」

「……ありがとうございます」

「私のおっぱいミルクをどうするつもりなの? どうしようとあなたにあげるんだから好きにしていいけれど」

「瓶には保存の魔法が掛かっていますので長期保管が可能です。少しずつ消費しようと思っています」

「消費って、飲むつもり?」

「はい。他には栄養たっぷりですので、加工してその効果を高められないかとも考えております」

「飲みたいならいつでも飲ませてあげるのに」

「光栄です。ですが、いつまでもと言うわけには行きませんので」

「……そうね」

 

 今でこそ母乳が出るアルベドだが、それは出産して間がないからだ。いずれは止まってしまう。そうなったら至高の母乳を飲むことが出来なくなる。その時に備えて、と男は考えていた。

 乳牛のように妊娠させっぱなしなんて出来るわけがない。

 

 会話が止まっても乳搾りは続いている。

 時折アルベドがくすぐったそうな吐息を漏らすだけで、男は言葉少なくアルベドの乳房を揉みしだく。

 出が良いこともあって、瓶には順調に溜まっていく。

 どちらの瓶も容量の半分を超え、そのあたりで出が悪くなってきた。

 下乳、上乳、横乳と再度のマッサージを行ってから絞ってみると、最初のようにピューッと噴き出し、それが最後となった。

 乳首に付着したミルクがぽたりと落ちて、

 

「終わりました」

 

 アルベドへ静かに声を掛ける。返事は返ってこない。すぅすぅと静かな吐息だけがある。

 

(アルベド様はお疲れなのだな。少しでも休んでいただこう)

 

 マッサージでリラックスし、乳搾りをされて気持ちよくなったアルベドは、最中に眠ってしまったらしい。うっとりと目を閉じて、健やかな寝息を立てている。

 

 男はポケットからハンカチを取り出し、アルベドの乳首をちょんちょんと拭う。僅かに濡れたハンカチを鼻に当て、すんすんと嗅いでからポケットに仕舞う。

 ドレスのストラップを留め、大きな乳房をきちんと隠す。母乳が溜まった瓶に蓋をして、机から引き出した板を戻す。

 少し考え、眠るアルベドの体を机から起こして膝裏へ腕を差し込み、もう一方の手で背中を支え、抱き上げた。

 十数歩歩き、アルベドを下ろしたのはベッドの上。眠るなら机にもたれるよりベッドに横になった方が疲れがとれる。

 長い髪が乱れないよう丁重に整え、体の下にならないよう二つに分けてからベッドに寝かせた。

 

 

 

▼ ▼ ▼

 

 

 

 美神の寝姿を、じっと見る。

 

「アルベド様……、なんとお美しい。これまでの私は暗く閉ざされた生を送っておりました。今の私があるのはアルベド様の慈悲故でございます。アルベド様はまさに万物を照らしていらっしゃいます。アルベド様がいらっしゃったからこそ世界の隅々にまで光が行き届くのです。あなたは私の光です。あなたは私の全てです。私の血肉も命も心も魂も、全てがあなたのもの。長くお側に、などと埒外な世迷い言は申しません。ですが、あなたを愛することをお許しください。私の愛はあなたです」

 

 眠っているアルベドには聞こえないはずだが、瞼がピクピクと震え、長い睫毛が揺れた。

 起こしてはまずいと、男は静かにベッドから離れた。

 

 男が離れたのを察知して、アルベドは薄目を開いた。

 足側のベッドの紗を上げて、動き回っているのが見えた。

 

 アルベドは、寝たふりをしていたのだ。乳搾りが気持ちよかったのは確かでも、それで眠ってしまうほど疲れてはいない。

 寝たふりをしていたのは、目的があったから。

 

(嬉しいけど……恥ずかしいわ……。それにしたって、私もあなたが好きだからあなたの子供を産んだのよ? なのに埒外な世迷い言だなんて。私の気持ちがわかってないわけじゃないでしょうね? だったら許さない……、って言いたいけど……、私の愛はあなただなんて……♡ もう! キュンキュン来ちゃったじゃない! 本当にわかってないのかしら? 抵抗できない私を無茶苦茶にって言ったばかりでしょう? チャンスよ? チャンスなのよ? 私は寝ちゃって抵抗できないの。いっぱいいっぱい乱暴なことをして好きなようにしても起きないのよ?)

 

 アルベドは、睡眠姦を仕掛けたのだ。

 しかし、仕掛けると言ってもアルベドに出来るのは精々寝たふり。

 ここで男へ、無抵抗な私を犯しなさい、と言ってしまうと趣旨が違ってしまう。

 眠っている自分を遠慮なく容赦なく犯してもらうのが好いのであって、乱暴なハードプレイはちょっと違うのだ。サキュバス的こだわりである。

 

 基本的には寝たふり。

 時々薄目を開けて男の様子を窺う。

 動き回って何をしているのかと思ったら、ベッドの向こうに背が高い書見台のようなものと、その上に大きな板を立てかけた。

 イーゼルとキャンパスではないかと察しがついた。

 

 

 

 アルベドが察したとおり、書見台を改造したイーゼルと、木枠に丈夫な布を張ったキャンパスである。言うまでもなく絵を描く道具。

 アルベドが寝てしまったので、お姿を拝見しながら描き写そうと考えたのだ。

 

 以前、ナザリックで大演説をした際に告白したとおり、絵筆を握ったことはない。握れる環境ではなかった。

 しかし、手先は器用な男である。注意して目にした物は記憶の宮殿に保管するため、形を捉えるのも得意である。

 字は物凄く下手を通り越して文字と認識出来ない域にまで堕ちているが、レイナースへ贈った仮面を作ったりディルドを作ったり、加えてお屋敷のお食事部屋の隣にあるシークレットルーム改めソフィーの部屋に飾られている絵を描いたりもした。絵の出来はアルベドの御眼鏡に適うほど。

 その気になりさえすればナザリック最古図書館の司書長並の美麗な文字を書けるのだが、諸事情により出来ていない。

 

 文字とは記号でありシンボルである。形の特徴さえ捉えていれば意味が通じる。

 例えば「ツ」と「シ」と「ミ」と「三」は、どれも「ー」を並べたもの。「ー」を平行に三本並べて角度を変えれば区別が付く。重要なのは文字が意味するところであって、形ではない。

 と言うことを早々に察した男は、文字を崩すようになった。基本的にほとんどの文字が一筆書き。画数が8以上ある漢字は略字を作成してやっぱり一筆書き。

 言うなれば、秒速千キロでぶっ飛ばせるのを、わざわざ時速30キロで安全運転なんてしてられないのと同じである。目的地に着きさえすればいいのに、ノロノロ走ってたら焦れったくてもどかしくてストレスフル極まりない。ただし、同乗出来るのはソリュシャンとルプスレギナだけ。

 その二人が他の方々をきちんと目的地まで案内してくれる。

 見方を変えれば、二人がいるから容赦なく字が崩れていったとも言えた。責任転嫁甚だしいが、二人がダメ出しを続けていたら読める字に留まっていたかも知れない。

 

 対して絵とは形が重要である。

 □を乱暴に描いて○になったら、誰も□と認識できない。□は□と描くから□なのだ。

 目はよい男である。アインズ様が剣を振る姿を1mm単位、0.1秒単位で把握出来る。

 手先も器用だ。過去の経験で育まれた器用さは、細い髪の毛を半分に裂いて更に半分に裂くことが出来る。百分の一ミリ単位の精密動作が可能。

 

 しかしそれらが合わさっても絵心はない男。

 更に工夫がある。

 

 まず四角い枠を作る。そこへ縦横に任意の本数の糸を張る。縦3、横2だとして、6個の升目が出来る。

 それを覗けば、6分割した風景が見える。キャンバスにも枠と同じ比率で縦横の線を引き、目に見える風景とそれぞれを対応させる。

 分割線を横切る輪郭を注意して絵を描けば、なんとかそれなりのものが出来上がるのだ。

 

 

 

「これではアルベド様を千分の一も伝えられない。どこかがおかしい。どこがおかしい?」

 

 九割九分九厘仕上がってる絵である。

 お屋敷においてプライベートとか何それな若旦那様なので、ソリュシャンもルプスレギナもアルベド様の絵を描いているのは知っていた。

 ルプスレギナは思わぬ出来に感嘆したのだが、からかってやろうと思って、「下手っすねー」っと言ってしまったら、「情熱の滾りに任せてアルベド様のお姿を写そうとしたのに汚してしまった俺に生きる価値はない。生きていてはいけない。この罪、我が命で償わなければ」とか言って身投げしようとしたので慌てて止めたことがある。

 やらかしたルプスレギナを横目にしたソリュシャンは、「とても良い出来だと存じます」と言ってしまったが最後。「アルベド様のお美しさを万分の一も伝えられないのに良い出来だと? お前には目がついていないのか? 頭についてるそれは節穴かガラス玉か? 見えはしても正しく認識できないのか? ……病気だとしたら重病だ」と始まり、長々と説教される羽目になった。

 アルベド様が関わることに口を出すとろくな事にならないと再認識した二人である。

 幸いなことに、筆を握るのは偶にのことで、握っても短時間。放っておけば害はない。

 

「わかった。ここが0.12ミリ膨らんでる。角度も一分と……57秒か? 55にも見えるが……、うーん」

 

 ちなみに角度の一分は一度の60分の1。一秒は一分の60分の1、つまり1度の3,600分の1である。

 

(細かすぎでしょう!?)

 

 眠っているはずのアルベドの指摘は尤もだった。

 なお、男が脳内でキャンパスに区切った升目は、等間隔に縦線が500、横線は1,200の白銀比で60万分割されている。

 絵を描くと言うよりも、ほとんどパズルの間違い探しである。

 

「さっきより良くなった。他のお姿も描いてみたいが、アルベド様のお姿の絵を途中で止めるわけにはいかない」

 

 この調子だと永遠に完成しないと思われた。こだわりが強く、納期がないとこうなってしまうのだ。

 

「少し喉が乾いたな。飲み物は……、アルベド様の母乳が、ある、な」

 

 男の喉がゴクリと鳴った。

 

(そうよあなたのために出したのよ。早く飲みなさい!)

 

 アルベドの母乳は、ただの母乳ではない。滋味豊かにして栄養たっぷりで、と言うのは以前の話。

 ソフィーがおっぱいを卒業して、この男におっぱいを飲ませた翌々日、おっぱいが出なくなっていた。

 ドレスを濡らさないための乳首パッドが不要となり手間のかかる乳搾りが要らなくなって一安心なアルベドだった。ちなみに乳搾りは風呂で行い、おっぱいみるくはシャワーの湯と共に流れていった。

 であるならば、今し方絞られていた母乳は何なのか。

 経産婦となったサキュバスが獲得できるシークレットサキュバススキル「サキュバスおっぱいミルク」であった。

 スキルの使用によって任意に母乳を分泌できるのだ。使用できるのは一日一回のみ。片乳で約200ccの母乳を絞れる。

 サキュバスおっぱいミルクがただの母乳であるわけがない。サキュバス的効果を秘めている。

 一飲みすればギンギンになってしまう。時間経過で治まったりしない。出さない限りギンギンのままだ。

 

「楽しみは貪るものではないとドラゴニオも言ってたな。止めておこう」

 

(……ドラゴニオって誰よ!)

 

 超長編ダークカタナテックジェノサイドノワール小説「グレート・モンド・ダウンヒル」の主人公デスク・ドラゴニオの事である。

 ドラゴニオは性根が腐っており、少々見所のある剣客がいると耳を落とし鼻を削いでけして消えない屈辱を刻んでから野に放ち、復讐の刃を研がせるのだ。

 

 

 

▽ ▽ ▽ ▽

 

 

 

 睡眠姦を願っていたアルベドは、愛欲よりも呆れが勝ってしまった。

 そうこうしている内に時間が流れ、男は画材を片付けてアルベドに声を掛ける。

 

「アルベド様、もうじきお時間になります」

 

 薄目を開いて男の姿を捉えたアルベドは、起きあがらずに右手を上げて、手の平を上に。中指だけを何度か折り曲げた。

 

「うわっ!」

 

 手招きされた男が手の届く距離に近付くなり、胸ぐらを掴んでベッドに押し倒す。

 と同時にサキュバススキル「脱衣」を発動。物理法則を超越して男のズボンを脱がし、うなだれた逸物を一撫でして強制勃起。

 

「んっ!」

 

 パンツを履いてないアルベドだ。上に乗って即挿入。

 

「うっ! うおっ!? うぐっ……。くはっ! うっ…………」

 

 自身の絶頂と引き替えに射精を強いる「サクリファイス・イグゾースト」を腰を振る度に発動して五連発。

 

「戻るわ」

 

 力尽きた男を放置して、アルベドはソフィーの部屋へと姿を消した。

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 戻ってこない若旦那様を発見したのはシクススだった。

 若旦那様はアルベド様のベッドで大の字に横たわり、下半身丸出しのまま寝息を立てている。

 ビビビビビン! と落雷の如き往復ビンタを決めて、文字通りに叩き起こした。

 

「どうしてアルベド様のお部屋でそんな姿で寝ているんですか! 今日は外せない用事があると言っていましたよね!」

 

 猛るシクススに感謝を伝え、大急ぎでご飯とお風呂。それでも回復しきらない体力をルプスレギナの魔法で回復してもらう。

 奇跡そのものである高位の回復魔法が、ここではエナジードリンクと同レベルである。これぞナザリッククォリティ!

 

 帝国貴族や皇帝からの誘いは外せない用事になり得ない。なんだったらドタキャンしても構わない。

 ソリュシャンやルプスレギナとの約束は、破ると後でうるさいから優先はするものの、絶対ではない。

 外せないと言うのだから、それ以上のこと。

 

「やっほー。来たよ。相談したいことってなに?」

 

 夕日の残光すら消えた暗い空を背景に、降り立ったのは美貌の幼いダークエルフ。

 階層守護者であるアウラ様にお越し願ったのだ。万難を排して最優先しなければならない。

 

「ようこそお出でくださいました、アウラ様。私めの言葉をお聞きいただき、感謝の念に堪えません。お食事はお済みでしょうか? アウラ様のお口に合うかわかりませんが、心を尽くして用意させていただきます」

「んー……。ちょっとお腹空いてるかな? でも簡単でいいよ。お肉とか重いのなしで」

「かしこまりました。すぐに用意いたします」

 

 お屋敷三階の会議室に二人が着くと同時に、幾つもの丸い蓋を乗せたワゴンをシクススが運んできた。

 ワゴンを受け取って室内に運んだ男は、自分について回っていたミラへ言付けた。

 

「アウラ様と内密なお話がある。誰であろうと絶対入れるな。緊急時だろうと俺が許可する前にドアを開けるな。ソリュシャン、ルプスレギナ、ミラ、ジュネの四名へ厳命する。待ってるからソリュシャンたちに伝えてこい」

「かしこまりました!」

 

 ミラ以外の三名もお屋敷の三階にいる。さして待たされることなく、アウラがフルーツたっぷりクレープを半分も食べない内に戻ってきた。

 

「随分厳重じゃん。そんな凄い話があるの?」

 

 ドアを閉めて鍵を下ろした会議室にて、アウラは立ちながらワゴンの上に乗ったあれこれを摘まんでいる。

 アウラの嗜好に合わせ、フルーツを使ったクレープが主である。

 フルーツはナザリックからの供給されたもの。クレープ生地はそうも行かず、お屋敷で焼いたもの。出来ればパンにしたかったのだが、お屋敷付きのパン職人にアウラ様を唸らせる腕前はない。

 エ・ランテルのウィットニーさんのパンが恋しい。ウィットニーさんが魔導国の上質な小麦を使ってパンを焼けば、ロイヤルスイートのレストランで出しても通用する逸品が出来るはずだ。ウィットニーさんは職人気質なので大枚をはたいても来てくれないだろうが。風の噂によると、エ・ランテルの冒険者組合でトラップ回避講座を開いて盛況だとか。是非にも本業に立ち返って欲しい。

 

「準備いたしますので少々お待ちください」

「食べてるからゆっくりでいいよ」

 

 アウラは、座面の高い椅子に座り、床まで届かない足をぶらぶらさせながら男の作業を遠巻きに眺める。男は、会議室用の大きな机にひたすら紙を並べている。

 クレープを二つ食べ終え、唇に残るクリームをペロリと一舐め。緑と青の目に好奇と、少しだけ真剣な光が宿った。

 

「へぇ……。これなら入ってくるなって言ってもいいかな」

 

 男が並べている無数の紙。

 それは魔導国を中心とした精度の高い地図だった。




ハーメルンユーザーには絵の練習した人が多いのではと推測


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アウラにお願い、の前振り

 目下最大の懸念であったシャルティアとの勝負に決着がつき、ティナの再教育も終えて二人を王都へ送り返した。

 一週間後のシャルティアへの一日命令権はお遊びなので措いておき、いよいよソフィーへ直飲みさせるための訓練に取り掛かる事が出来る。幼い体で大きくしなければならない。

 以下に女性未満への戦績を挙げると、

 

 シャルティア:問題なくクリアー。

 シズちゃん:……なんとかクリアー。

 ネムちゃん:………………………………不覚にもクリアー。

 アウラ様:ピクリともしない。フェイルド! (ドーピングすれば余裕だが本末転倒のため不可)

 

 いきなり幼女から始めるのは無謀なので、まずはボーダーのすぐ向こうにいるアウラ様で大きく出来るようにすべきである。

 しかし、アウラ様はとっても偉い階層守護者。そのアウラ様に向かって「アウラ様のロリボディで欲情出来るよう協力してください」などと言おうものなら裁判を経ずにアウラ様の階層守護者権限で即刻死刑になる可能性を否定できない。

 そのため、別件でお越し願う事にした。

 

 

 

▼ ▼

 

 

 

「一応聞くけど、これどうしたの? 帝国に出回ってるわけじゃないよね?」

「皇帝の元には高精細な地図もあると推測しておりますが、一般に普及しているのは非常に簡略化したものだけです。アウラ様に以前お見せした地図を描く際に参考にいたしました」

 

 先だって、アウラは魔導国の支配領域警戒網をどうすればいいものか、この男に相談していた。

 警戒網を維持するための組織、効率的な警戒ルート。後者の話が出た際に近隣諸国の地図を提示された。要警戒区域や巡回ルートなどが書き込まれ、今でも便利に使っている。

 その時の地図に比べたら、目の前に広げられた地図は遙かに詳しい。

 先の地図は都市間の位置関係や大きな街道などは正しく描かれているが、逆を言えばそれ以外は曖昧なところがある。特にこの世界の国境は線ではなく面であるので、どちらでもありどちらでもない領域が多々存在している。はっきりと区切れるのは河川に引ける国境線くらいだ。

 ところがこちらの地図は、河川や街道は元より地形すら細かく描かれている。土地の高低は等高線によって表され、いつも上空から見ていた景色はこのように表現されるのかと唸らされる。山脈を這う川が記され、これはあの川だなと見当が付いたときは何とはなしに嬉しくなった。

 

「こちらの地図は、様々な書物に記述されている地理、王国や帝国に普及している地図、それらに加えて私が実際に目にした景色を元にして描き上げた地図となります」

 

 アウラ様にちょっとあれなお手伝いして欲しいから来てくださいとは絶対言えない。どのネタならアウラ様に来ていただけるか考えた末に導き出されたのが地図であった。

 ただの地図では駄目だ。アウラ様の、引いてはアルベド様のお役に立つ精度の高い地図でなければならない。

 ソリュシャンの課題図書に出てきた有能執事のジェバンニなら一晩で出来るのだろうが、合間合間を縫って描いていたために数日掛かった。そもそも徹夜なんてしたくない。

 

「間違いなく帝国にも王国にも、法国だろうと評議国だろうと、これ以上の地図はないと断言いたします」

「へぇ……、言うじゃん」

 

 大言壮語するだけはある地図である。

 一度目に焼き付けた物は記憶の宮殿に永久保管し、一枚のキャンバスを60万分割出来る能力を駆使して描いた物が生中なものであるわけがない。もしも帝国の皇帝のところへ持って行けば、金貨1万枚までなら言い値で買うだろう。持って行くのがこの男でなければその後に物理的な口封じが待っている。

 

「いずれアインズ様へ献上するつもりでございます。アインズ様でしたら近隣の地理はとうに熟知なさっておられるでしょうが、お役に立てるなら幸いでございます。ですが、ご覧の通りに……」

「まあ、ちょっと中途半端だよね」

 

 精度こそ非常に高いが、描かれている領域は以前の地図の半分以下。

 西は王国の王都、東は帝国の帝都、南はエ・ランテルの向こうに広がるカッツェ平野の中程まで、北は王国と帝国を隔てるアゼルリシア山脈が北側の三分の一ほどで途切れている。南東の竜王国や王国の西にある聖王国は載ってない。

 

 あえてしたのではない。知らないのだ。地図に描かれている外の領域は行ったことがなければ見たこともない。物の本からある程度の形は想像できても、ここにある地図と同精度のものは描けない。

 

「実際にその地へ赴き目にすることが出来れば。或いは上空から撮影した写真などがあれば、他の領域の地図も描けることが出来ます」

「……写真なんてどこで知ったの?」

 

 アウラは、目に映る景色そのままを印紙に焼き付ける写真の存在を知っているが、この世界にはない技術のはずだ。少なくとも、アウラはこの世界で写真を見たことは一度もない。

 

「最古図書館で借りた辞書にカメラと写真についての記述がありました。機会があれば作ってみたいとも思いましたが、私の手製では原始的なものとなってしまいましょう。感光の技術から開発しなければなりませんし。ナザリックには存在しているのではと推測しておりましたが」

「たぶんなくはないと思う、よ?」

 

 ナザリックの最古図書館には多数の映像が収められていることをアウラは知っている。ただし、写真機ではなく、魔法のスクロールで画像や映像を撮影している、のだと思う。詳しいことは知らない。そのあたりはパンドラズ・アクターの担当だ。

 

「でもとりあえずはこれだけで十分じゃない?」

 

 アウラは、知らないことを誤魔化そうとしているのではない。本当にこれでいいと思っている。

 なにせ並べてある地図は非常に数が多い。

 縦横の比率が約3対4の横長の用紙で、大きさは大判のノートくらい。それが会議室用の特注大型机の隅から隅まで並んでいている。縦に13列。横に10行。掛けると合わせて130枚。

 男が解説するところによれば縮尺は五万分の一で、地図の真ん中にナザリックがあると同じ地図の端っこにカルネ村が来る。

 同じ縮尺で以前の地図と同じ領域まで描くと、枚数がざっと四倍以上になる。詳しいのは大いに結構な事だが、情報のオーバーフローと言う奴だ。

 

「ご意見有り難く。それでは私からアルベド様へ献上するか、アウラ様がアインズ様へお見せなさるか。もしお手数でなければアウラ様にお願いできますか?」

「いいの?」

「勿論です」

 

 アインズは転移の魔法によって長距離移動することが出来る。物流も空を飛べる存在が多数あるので街道や地形など無関係。ゆえに、ナザリックでは地図をさほど重要視していない。しかし、なくていいものではない。

 アインズ様がそのような些事に気を回す必要はないので、アルベドはいずれ正確な測量から正しい地図を作製しようと考えていた。着手していないのは優先順位が低いからだ。

 そこへアウラが地図を持って行けば大いに評価される。アインズ様に評価されるのはナザリックの全てのシモベにとって無上の歓喜を与えるものであるが、人の手柄を掠め取るようで、罪悪感とまでは行かないが借りを押しつけられたような釈然としない気持ちが残る。

 アウラの目は机上の地図と男の顔を行き来し、耐え難い誘惑に抗っている。

 

「ですが、アウラ様にご相談したかった本題はこれからです。地図の中で何カ所か曖昧なところがございまして、実際に上空からその地を見ているアウラ様にご確認いただきたいのです」

「うぇっ!?」

 

 上手い話には裏がある。ナザリックの一員に相応しい悪い男が罠を張っている。

 アウラに難題が降りかかってきた。

 

 

 

▼ ▼ ▼

 

 

 

(……どうしてこうなってるんだっけ?)

 

 見上げれば男の顔。前を見ればいつもよりちょっとだけ高い視線。

 アウラの足は床についておらず、自分の足で歩いていない。

 小柄な体は、何故か男に抱き上げられていた。

 

 始めこそ二人とも立って地図を見ていた。しかし、大きな机に無数の地図が並んでいる。机の反対側に置いてある地図は見辛いし、背の低いアウラでは尚更だ。

 一々動き回るのが面倒で、アウラは椅子の上に立った。

 椅子の上から、そこはこうでってそこじゃなくてもっと右でこっちから見て右だからそっちは反対で行き過ぎもっと戻って、と指し示していたのだが互いに面倒になった。

 よろしいでしょうか? との提案を、初めてじゃないし、とアウラが受け取ってこうなっている。

 

「この部分に滝があるのですね? 修正しますので右手を使います。私の首にしがみついていただけますか?」

「……うん」

 

 男の腕がアウラの膝裏と背中を支えるお姫様だっこ。背中を支える右手がペンを持つと、アウラは落っこちてしまう。ならば降ろせばいいのだが、修正する度に降ろしてまた抱き上げるのでは面倒だ。

 男がペンを持つときは、アウラは男の首筋に両腕を回してしっかりとしがみつく。

 男の胸板に顔を押し付け、ペンが紙面を走る音に耳を傾ける。それよりも、男の心臓の鼓動の方がよく聞こえてしまう。そしてそれよりも、自分の鼓動の方が大きく聞こえる。

 

「終わりました。ご確認ください」

「ん……、それで大丈夫。えっと次は…………何?」

 

 男の首から手を離し、地図を見なければならないはずのアウラは、ちらと盗み見した男の顔が気になった。穏やかな表情が一瞬だけ歪んでいた。

 無視してもアウラの立場なら構わないのだが、そんな顔をされれば気にもなる。

 

「いえ、大したことではありません」

「大したことじゃなくても何かあったってことだよね? で、何?」

 

 階層守護者である己を誤魔化そうとは不届き千万。間を置かずに放った追求の矢に、男は抵抗なく白旗を揚げた。

 

「実は……、アウラ様のベストのボタンがぶつかりまして。少しだけ痛かったですが、大したことではありません。どうかお気になさらないでください」

 

 アウラが着ている白いベストは金糸で縁取られて非常に格調高い仕立てになっている。ボタンもピカピカ光る金色だ。防御力も抜群で、と言うことはボタンもとっても硬いのだ。

 

「部屋の温度が少々暑く感じましたので私はジャケットを脱ぎましたが……。アウラ様はお寒くありませんか?」

「私も暑いくらいだけど……」

 

 アウラ様をお招きする会議室が寒くてよい道理はない。冬の夜に備えた服装だと汗ばむほどだ。それに加えて抱き上げている。

 率直に言って、アウラも暑いなとは思っていた。

 しかし幼い外見でも心は経験してしまった大人の女性。子供のように暑いから脱ぐー、はみっともない気がして出来なかった。

 

「別にあんたに気を遣ったわけじゃなくて暑いから脱ぐだけだから」

「ありがとうございます」

 

 暑い以外の理由で請われるなら脱いでもいい。

 アウラは男の腕から一旦降ろされ、脱いだベストを椅子に引っかけ、少し考えて首から下げたネックレスも外した。ネックレスには金色のどんぐりが付けられており、どんぐりを押し付けられるのも痛いだろうなと考えたのだ。

 双子の弟のマーレは銀色どんぐりのネックレスを着けている。アウラと対になってる魔法のアイテムで、互いに通信できる機能を持つ。

 

 ベストを脱いだアウラは、首もとまで覆う赤い長袖のインナーだけの姿となって、再度男に抱き上げられた。

 ベスト一枚分の距離が近くなった。動悸がさっきより激しくなる。

 忸怩たる思いで告白すると、まだまだ胸が薄い体なので、動悸が伝わってしまうのではないかと心配になった。

 

「それではこちらは……」

 

 こちらの気を知らないのか、男はさっきと同じ顔で地図に目を落としている。

 

 始めこそ高精度な地図に驚き、雑念なく話をすることが出来ていた。

 抱き上げられて距離が近くなると、思い出してしまう。地図に集中しようと思っても、赤裸々な記憶が邪魔をする。

 大体全部この男が悪い!

 アインズ様の大戦略のために地図を精査するなら真剣にもなれるだろう。しかし、アウラ自身が細かい地形なんて覚えてないし、地図の曖昧な箇所と言ったって道や河川に地形は全て正確なようで景色の良さだとか、水質……は大切かも知れないが水浴びが出来るかどうかだとか、帝国領の観光案内もちょくちょく混じって、左の耳に入った話が右の耳から抜けていく。

 集中しようにも難しく、呆と男の顔を見上げる。赤い唇が開いては閉じて、内容はともかく心地よい声が流れ出る。

 あの唇であんな事を、と思い出したところで目があった。

 慌てて地図に目をやった。

 

「ひゃん! ななな何すんのよ!」

「申し訳ございません。アウラ様のお耳は長いので、ぶつかってしまいました」

 

 ダークエルフであるアウラの耳は長く、先端が尖っている。

 顔を背けた際。耳の先端が男の唇に触れてしまった。

 

「この部分は少しわかり辛いですね。ペンを持ちますので」

「…………」

 

 何度か繰り返されたやり取り。

 アウラは無言で男に抱きついた。

 小さな胸が男の体に押し付けられる。

 アウラはインナーとその下に薄い下着。男はシャツ一枚だ。

 

「ここはこうして……。ちょっと違うな。注を入れておこう。……しまった。俺の字は読めないとか言われてたな。もっと丁寧に書かないと。もしかしたらこの地図をアインズ様にご覧になって頂くんだから下手な字は書けない。いや、一から書き直してもいいのか? だとしても修正を入れる前の地図が汚いと後で困らないとも限らないし」

 

 やたらと時間が掛かっている。

 その間はアウラに声が掛かることはないし、アウラはしがみついていなければならない。

 こんなに距離が近いと、どうしても思い出してしまう。ちらちらと脳裏に浮かぶレベルではなく、克明に。

 

 シャルティアの協力を得てあんな事をしてしまってから、アウラは何度も帝都の屋敷を訪れていた。

 仕事の話があったし、顔を見に来るだけの時もあり、お土産を持ってきたこともあった。

 あんな事を思い出す時はなくもなかったが、そんなつもりで訪れたことは一度もない。

 したいわけではないではないような気がしないでもないが、自分から踏み出したことはないと言うか出来ないし、持ち掛けられたこともない。長居しないように気を付けていたのもある。

 それなのに二人きりで距離をゼロにして、ちょっとでも思い出してしまったら動悸が激しくなって、このままではいけない!

 

「お土産! 私から結構色々持ってきたよね? あれちゃんと食べてる?」

 

 脈絡のない話題転換だったが、男は怪訝な顔をするでもなく返事を返した。

 

「はい、大変美味しく頂いております。私一人で食べきれる量ではありませんので皆と分け合っていますが、よろしかったでしょうか?」

「ま、まあそれでもいいんだけど! …………メイドとかにまであげてないよね? あ、シクススとかはいいんだけど」

「エ・ランテル及び帝国で雇ったメイドには振る舞っておりません。一番食べているのは間違いなく私です」

「それなら……、うん。それならいいよ」

 

 アウラが差し入れた果物は、アウラの守護階層である第六階層で栽培した物の他に、魔法的な効果がある物もある。

 出来るなら後者はこの男にだけ食べて欲しいが、ストレートにそれをやると色々と怪しまれると思って木を隠すなら森の中作戦で行っている。作戦は順調なようだ。

 

「甘い果物を食べると、アウラ様と一緒に帝都に来たときの事を思い出します」

「あ、あの時ね。そう言えば屋台巡りとかしたっけ」

「アウラ様が甘い物を。私が酸味がある物を」

 

 正しく言うならば、アウラが食べて酸っぱかったのを男に押し付けていた。

 

「その前のことも思い出します。ドラゴンに乗って天を駆けたのは掛け替えのない思い出です」

「……機会があったらまた乗せてあげてもいいけど?」

「本当ですか!? 是非お願いいたします。現在の私は帝都にいることを命じられておりますので、いずれとなってしまうのが残念な限りです」

「自業自得じゃん」

 

 人類絶滅計画を、アウラも小耳に挟んでいた。バカだと思った。

 

「お恥ずかしい限りです。ただ、ドラゴンに乗って地上を見下ろした事以外にも思い出すことがあるんですよ」

「……他に何かあったっけ?」

 

 上手いこと話が続き、アウラは勝手に湧き出てくる思い出から気を逸らすことが出来た。

 自然に男の顔から視線を外し、あの時に何かあったっけと思い出そうと閉められたカーテンを眺める。

 

 オーガとゴブリンをけしかけたのを有耶無耶にしようとして上手いこと行って。確か天気が悪くて雨が降ってきて。濡れたくなかったから雲の上に出て。自分は平気だったけどこの男は寒かったみたいで。そして、

 

「アウラ様に女性の体のことをお話したのを覚えていますか?」

「うぇっ!!?」

 

 反らしたかった思い出が、直球で心臓に突き刺さった。

 

 驚いて見上げた男の顔は、優しく笑っている。

 何故か距離が近くなってる。

 男はいつの間にか椅子に座って、アウラは男の膝の上に乗せられていた。

 

「その夜はエルフの女性の体について話しました。抱き合って眠ったのを覚えていらっしゃいますか?」

「う…………」

 

 しっかりと覚えている。

 男がアウラの部屋を訪れる直前、アウラは初めての自慰をしてしまったことも覚えている。

 

「そしてあの夜。アウラ様のお体はお話した通りでした」

「っ!!!」

 

 静まっていた動悸が十一の利子を付けて帰ってきた。十秒で一割の極悪金利だ。

 

「如何です?」

「あっ!?」

 

 背を支えていた男の手が、アウラの脇の下を潜って体の前にまで来ている。手のひらが触れているのは、ネックレスのどんぐりがあったところから、少し右。

 膝上に座らされているので、左手はアウラを支える必要がなくなった。アウラの膝を撫で、太股に上がり、内股に落ちて、止まらない。

 

「よろしければ……」

「………………」

 

 甘い言葉にアウラは顔を伏せ、ほんの少しだけ顎を引いた。



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アウラにお願い ▽アウラ♯4

 計画通り!

 

 いやらしさを感じさせない真面目な用件でアウラ様にお越し願って二人きりになったらスキンシップ。立場上こちらからエロい用件を切り出せないのでアウラ様にその気になっていただいたら一押し。

 顔を隠して僅かにだったが、アウラ様は確かに頷いた。

 誰も入れないよう言い含めて密室にしたのが良かったのだろう。アウラ様はプライドが高いと言うか恥ずかしがりと言うか、いささか意地を張る傾向がお見受けできる。

 小さな体で、言ってしまえば幼子の身で階層守護者としての重責を担うには、そうならざるを得ないのかも知れない。

 ここでこうなっているのは己の目的のためであるが、アウラ様には心も体も解放して楽しんで頂かなければならない。

 

 

 

▽ ▽

 

 

 

 会議室の椅子は実用重視で余計な装飾はされていなくも、背もたれや座面の弾力は適度に固く適度に柔らかで、座り心地は上々である。

 銀髪に虹彩異色の男が脚を開いて椅子に座り、アウラはその上に横向きで座っている。抱き上げられていたときは地図を指したり男の首にしがみついていた華奢な手は、太股の上で軽く拳を作ったり開いたりと落ち着かない。

 動悸の方も全く落ち着かない。胸を触られたら絶対バレる。

 

(う~~~~~~~!! なんでこんなにドキドキするの!? この前はこれよりすごいことしたじゃん! まあ、シャルティアも一緒だったけど……。シャルティアはシャルティアであんなでも頼りにならないわけじゃないんだよね、使いどころが難しいだけで。シャルティアがあんなだったから今より平気だったのかも。シャルティアって……エッチだし。私は別にエッチなわけじゃないしこの前はなんかあれでしちゃったけど! 今回だって私からしたいっていったわけじゃないしエッチなことしたくて来たわけじゃないんだから!)

 

 心の中で言い訳を重ねるくせして、止めろとも帰るとも言い出さない。

 

「あ…………」

 

 アウラのズボンを這い上がっていた男の手が、ベルトの留め具に触れるのが見えた。

 左手だけで器用に留め具を外してベルトも解き、ズボンのジッパーを下ろす。白いズボンの下に白いパンツが覗く。無地でワンポイントの飾りもないお子さまパンツに見えて、サイドは黒に切り替わっているちょっとだけお洒落なパンツ。

 男の手がズボンの中に入っていくのを、アウラは見ていられなかった。

 

 前回はシャルティアへの対抗心があったし、その道では百戦錬磨のシャルティアが援軍として控えていたのは、口にこそしないが心強かった。そのせいで行き過ぎなことまでしてしまった気がするのでトータルでは大幅なマイナスだ。

 その前は一緒にお風呂。触られたし舐められた。しかしあれは自分が望んだのではなく、この男が乱入してきたのだ。

 今回はそれに近いようで全く違うように感じるのは、これから何が起こるかアウラにもわかっているから。

 エッチなことは、やっぱり恥ずかしい。

 

「んぅ……!」

 

 白い三角形に男の手が触れている。頂点の先に進もうとしているが、アウラはきゅっと太股を閉じている。それ以上進めない。

 

 つまり、急がば回れである。

 

「あっ?」

 

 左手はそのままに。

 アウラの脇から顔を出してちっぱいに触れていた右手を伸ばし、アウラの顎を持ち上げた。

 膝上に座らせても身長差がある二人だ。アウラが見上げないと二人の視線は絡まない。

 赤青と、青緑の異色虹彩同士。

 

「アウラ様の目は私と同じで左右の色が違いますね」

「……ぶくぶく茶釜様にそうあれかしと創造していただいたから。あんたのは生まれ付き?」

「そうであったら良かったのですが、左の赤は後天的です。長く潰れていた目を癒して頂いたらこのような色になっておりました。血の赤が浮かんだのでしょう」

 

 アウラの右手が男の頬に触れた。

 頬を撫で、親指が左目の縁に触れる。

 

「潰れてたって。もう痛くない?」

「はい、何の問題もありません。お慰めくださるのですね、ありがとうございます」

「別にそんなんじゃないから!」

 

 唇を尖らせてぷいとそっぽを向いたアウラだったが、さして間を置かずに戻ってきた。

 少しだけ目尻を下げて男の頬を撫で続ける。

 

「アウラ様にそのようなおつもりがなくても、私は嬉しかったですよ」

「う…………うん……」

 

 にこやかな返礼に、アウラは顔を赤くしても背けなかった。

 

 以前のこの男だったらどこを探しても出てこなかった台詞である。

 ソリュシャンから課題図書として押し付けられた数々のロマンス小説から学んだ物を血肉にしてきた成果であった。その気になりさえすれば、状況に応じて女性の歓心を買える言葉を紡げるようになってきたのだ。その気になりさえすればであるが。

 その甲斐あって、スライムがスライムになってしまうことが希によくありムードがぶち壊しになったりもする。

 

「あ…………手が……、あむぅっっ!」

 

 会話で緊張がほぐれ、アウラの脚が緩む。その隙に男の左手が三角形の頂点を掘り進む。

 顎に添えた右手は更に上を向かせ、アウラは赤い瞳と青い瞳に、自分の顔が映るのを見た。

 小さな薄い唇に男の唇が重なり、すぐに離れる。

 触れるだけのキスでもキスはキス。

 

「アウラ様、左手を私の体に」

「……こう?」

 

 横を向いて男の膝上に座っているアウラは、左腕を男の肩に回して体を支える。

 顔と顔の距離が近くなり、雨空が雨を降らすように二度目三度目のキスをして、四度目は少し長く重なり、五度目のキスは少しだけ糸を引いた。

 

「んぅ……ふぅ……、ちゅうっ…………、れろ……」

 

(べろ……、入れちゃった。でもこの前キスしたときは向こうから入れてきたし私から入れちゃってもおかしくないよね? 入れちゃってもいいんだよね? ……あっ! ベロが入ってきてる……。ぬるぬるって言うよりふわふわって感じする。普通にキスするのもいいけどこっちも好いかも。んん? 唾が入って来たぁぬるぬるしてるぅ! 別に汚いとか思わないけどさ。……この前も唾がいっぱい入ってきて、飲んじゃって……。味、ないけど。ちょっと……おいしい……かも?)

 

 万物は上から下へ落ちるもの。

 上にある男の口からアウラの口へ、泡立つ唾が注がれている。

 舌に乗った温かい唾を、アウラは喉を鳴らして飲み干した。

 正面からのキスではないので、何度かアウラの唇から唾がこぼれた。ぬるつく唾が頬を流れ、男の舌が舐めとってアウラの口へ戻してやる。

 

「あんっ……。……っ! い、いまのはつい出ちゃっただけだから! 出そうと思って出した声じゃないから!」

「ええ、わかっております。アウラ様が声を上げてもドアの向こうまでは届きません。聞くのは私だけですよ」

 

 アウラの股間に伸びていた左手は、指を揃えて優しく上下にさするだけだった。

 温かくて心地よいあまやかな愛撫で、体の力が抜けていく。意識しなくても勝手に脚が開いていく。

 最初は指一本通さず。力が抜けた隙を突かれて指一本分の隙間が空き、今は手のひら全部が入ってしまう。股間全体を男の手が覆っている。

 そこから中指だけが折れ曲がって、アウラを撫でた。

 パンツ越しに幼い筋を何度もなぞり、撫でる度に少しずつ沈んでいく。

 子供故の高い体温で蒸れていた股間は、しっとりとした水気を浮かせつつあった。

 汗ではなくて、少しぬるつく。

 白いパンツのクロッチに、小さなシミが出来ている。

 

「アウラ様、ズボンを」

「…………うん。脱ぐから、ちょっと降りるね」

 

 男の膝上から床に降り、靴を脱いでからするりとズボンを下ろす。

 脱いだズボンは隣の椅子に。

 背を向けたまま何度か赤い顔で振り返り、開いた手が上がったり下がったり、何度か腰に触れる。

 パンツを脱いだ方がいいか迷っていた。結局穿いたまま戻ってきた。

 

 赤い顔で股間を隠し、目を泳がせているのが実に可愛らしい。

 細い腕を引いて同じように座らせ、物言いがつく前に唇を塞いだ。

 

「んむぅ……、ちゅっちゅる……れろれろ……、じゅる……んんっ!? んーーっ! んっはぁあ……、あんっ、あっ、やさしく……、して……」

 

 半脱ぎだったズボンを脱いだのだから、さっきより大きく脚を広げられる。

 アウラに股を開かせ、左手で撫で始めた。

 中指を割れ目に沈め、前後にさする。アウラのパンツはちょっぴりお洒落でもお子さまらしい厚手のもの。見ても触れてもわかりにくいが、ここだと目星をつけた場所を指先で押す。

 引っかくように小刻みに擦り続ければ、ほんの少しだけ柔肉の感触が変わってくる。

 幼くて未熟なクリトリスでも、刺激があれば膨らんでくる。

 

「痛むようなら仰ってください」

「ひんっ! ……痛くは、ないけど……。あっ、うっ、あっ……、いたくない、けどぉ。あんっ……、でもぉ……」

「でも?」

「なっ、なんでも、ない、……いぃっ♡」

「下着越しですがアウラ様のが勃起しているのがわかりますよ」

「ぼ、ぼっき?」

「私がアウラ様のどこを触っているかわかりませんか?」

「わかる、けど……」

 

 何度もキスをして、股間をまさぐられて、さっきズボンを脱いだとき、パンツを濡らしてしまったことに気が付いた。

 今は、特に濡れているところの少し上を触られている。

 鏡で見たことがあるし、自分で触ったこともあり、今ほどではないけども立たせてしまった。

 触られるどころか舐められて吸われたこともある。

 思い出して、甘い疼きが強くなった。

 

「……クリトリス」

「クリトリスが勃起していても、下着の上からなら痛くはないでしょう?」

「うん。けっこう平気みたい。ちょっと……きもちい……かも。あんっ……」

 

 青と緑の目が潤んでいる。

 半開きの唇は熱い息を吐き、甘い声を上げる。

 アウラは少しだけ顎を上げた。言葉を伴わない可愛いおねだりに、男はキスで応えてやった。

 

 んっんっ、と喉を鳴らし、飽きずに舌を絡め合う。

 アウラの左手は男の肩に回して首筋を抱き、右手は男の左手に重ねている。秘部を愛撫する手に重ねているのは、アウラが愛撫を促しているようにも見えた。

 そして男の右腕は、アウラからしがみついてキスをねだるので、自由になった。

 右手を遊ばせておく男ではなく、アウラの赤いインナーの裾から内へ入り込んだ。

 

 アウラは幼い上に華奢なので、服を着ていると男の子そのものだ。現にこの男はアウラの性別を間違えていた。間違えていたことを知られると命がないのでルプスレギナもシクススも固く口を噤んでいる。

 体つきこそ幼いが、愛欲に蕩けた顔はメスそのもの。

 

「やっ……、まだ小さいから……」

 

 アウラの胸はブラジャーを着けるほど大きくない。代わりにスリップを着けている。スリップとは肩から吊して胸から腰や膝まで覆う下着の一種。

 アウラが着けているのは短めなハーフタイプで長さは腰まで。

 以前はシャツやタンクトップだったが、しちゃってからはスリップになった。アウラの世話を焼いているエルフメイドたちが大いに喜んだのは余談である。

 

 男の手が入っているのはスリップの内側。柔肌を這い上がり、胸に触れた。

 

「小さくても愛らしいですよ」

「うー、そんなこと言って! あんっ! やっ、ゆびぃ、おまんこ……、さわってるっ」

 

 パンツの内側に入った手はつるつるの股間を通り過ぎ、アウラの女に触れた。

 スリップの内側ではアウラの胸をさすっている。服を着ていればわからないが、触ってみるとちょっぴりふにっとした膨らみがある。

 おっぱいと呼ぶよりまだまだちっぱい。

 ラナーの胸に初めて触った時の大きさが、ちょうどこれくらいのちっぱいだった。ちっぱいの愛し方もよくわかっている。

 

「あっあっ、やっ、パンツよごれちゃあっ! ひあっ!? つままないでぇ……!」

「どっちをですか?」

「どっちって……、どっちも……」

「教えてくれませんか?」

「う~~~~~……、スケベ! ………………うぅ……。乳首と……クリトリス……」

 

 乳揉み出来る大きさはなくても、愛らしい乳首はきちんと応える。摘まんで転がせばクリトリスと同じように勃起して自己主張する。

 ちっぱいだった時のラナーは胸を撫でられるより乳首への愛撫を好んだ。ちっぱいだとおかしな風に揉むと痛むらしいが、乳首はいつだって好かったようだ。

 

「脱がせますよ」

「……うん」

「アウラ様の愛液でこんなに濡れて。今夜はお泊まりになったら如何でしょう?」

「…………そうする。こんなんじゃ帰れないし……」

 

 プラン第二段階クリア。これで一晩中訓練できる。

 

 アウラのパンツに手を掛ける。

 左手一本ではさすがに脱がし辛いので、アウラが手伝ってくれた。アウラから離れるときは糸を引いた。

 尻を抜けて太股まで来たらアウラが両足を伸ばし、男の手だけで脱がせていく。

 

「見ちゃダメ!!」

「おっと」

 

 ほかほかを越えて熱々でぬめぬめのお子さまパンツはアウラに奪われ、ズボンを置いた椅子とは反対の椅子に放られた。

 アウラは股を大きく開き、右足は男の上から離れて椅子の向こうに放り出す。

 肉付きの薄い太股を撫で、左手はもう一度アウラの股間へ。今度は最初から中指を曲げている。

 濡れ光っているぷにまんへ指をあてがい割れ目に潜らせ、指先が小さな穴を探り当てた。

 

「あ……はいって……、おまんこに……」

「痛みますか?」

「……へいき。いたくない。はいってるの……わかる」

 

 事故であったが、前回は今のロリボディの時に男の逸物を受け入れてしまった。その時は裂けると思うほど痛かった。

 それに比べたら指一本は全く問題ない。

 不思議な青いキャンディーを舐めて大人の姿になった時は兎も角として、まさかこの小さな体で、膣に指を入れるなんて、思ったことはあってもやってみようとは全く思えなかった。

 なのに、自分の指より太い指を平気で受け入れている。

 更にその上、気持ちいい。甘い疼きが燃やされて、理性を溶かす熱となる。

 しちゃった時に感じたのと同質の快感。

 

「こちらも」

「えっ! いつの間に……」

 

 アウラの胸に男の唇が触れていた。

 いつの間にか服がめくり上げられて、ちっぱいが出てしまっている。

 摘ままれこねられ抓られたピンク色の小さな乳首は、胸が小さいので立ってしまうとよく目立つ。

 膨らみきって張り詰めて、愛されるのを待っている。

 赤い舌が乳房とも言えない乳房を舐めて唾液のすじを着けていく。

 ぺろりと舐めてはちゅうと吸い、瑞々しく浅黒い肌に痕をつける。

 

「胸へのキスマークは見られないようにしないといけませんね」

「そう思うならつけないでよぉ……、見せないけど……。それより……」

「わかってます。アウラ様は乳首も吸って欲しいんでしょう?」

「触られるのも好かったけど……。キスマークつけていいから……、吸って? ひゃあん♡」

 

 声音は甘くておねだりは可愛らしい。

 希望通りに乳首を唇で食み、キスマークを着けたときと同じ強さで強く吸う。

 幼い乳首は小さいけれど、揉むほどないちっぱいに比べたら十分愛せる。

 

「あっ、あっ、おまんこもくちゅくちゅ言って……、あんっ、あんっ♡ きもちい……、きもちいよぉ……♡」

 

 男の顔を小さな胸に掻き抱いて、アウラは快感に身を投げた。

 溶けた理性は仕事を放棄し、体と心が欲するところを素直に求める。

 未成熟な乳首が痺れるような快感を感じるなら、股間からは全身を包み込んでしまうような。

 女未満の幼い膣を男の長い指が行き来して、卑猥な水音を立てている。

 

「あんっ、あんっ、……んっっはぁあっ♡ …………いまの、好き♡ あっ、またぁっ!? またきてるぅ!」

 

 アウラの体は幼くても、反応は一人前の女だった。ドーピングして大人の姿になり、セックスの悦びを知ったからだ。

 尻の肉は薄くて胸はあるかないかで、シュッときてストンとくる腰つきなのに、整った顔は淫靡に染まっている。

 身体中を上気させて目は愛欲に潤み、薄い唇は甘い嬌声を上げ続ける。

 

 ラナーを初めてよがらせたのは、今のアウラくらいの頃だった。

 膣の狭さも同じくらい。たっぷりと舐めさせられて恐る恐るに指を入れ、処女膜が傷ついて出血したのを、痛い血が出たもっと舐めなさい、と延々舐めさせられたのは懐かしい思い出だ。

 

 アウラの膣がきゅうと締まり、甲高い鳴き声と合わさって、達したのを教えてくれる。

 数呼吸だけ休み、指での抽送を再開する。アウラが焦ったように待ってと言うが、お構いなしに続けると鳴き声に泣き声が混じりだした。

 

 しばらくして、ラナーのことを思い出しても苦さを伴わないことに気が付いた。

 散々な目に遭わせてくれた女だが、今となっては過去の女。

 呪縛から逃れられたのは、微塵も疑う余地なくアルベド様のおかげである。

 そして、気付かせてくれたのはアウラだ。

 ロリボディで立たせるために利用しているアウラだが、愛おしさが湧いてくる。少々的外れなのは否めないが恩返しをしなくてはならない。

 

「ああっ!?」

 

 快感に翻弄され、体を丸めていたアウラは勢いよく顔を上げた。

 

「いいお顔をしていますよ。アウラ様に悦んでいただくのは私の喜びですから」

「あっ……あっ……はうぅっ! まっ……、あんっ! んあぁっ! あん♡ ま、まっ……、ああああぁぁあああん♡」

 

 指の動きがどう変わったのかわからない。

 イってしまって心も体も虚脱している間に愛撫を再開されて、ちょっとだけしんどいと思ったのは確かだ。

 それとは違う。何かが違う。

 ふわふわと浮かんでいたのが底が抜けて沈んでしまって、足首どころか全身を捉えられて引きずり込まれ、溺れて苦しいはずなのにここにいたい。

 気持ちいいとか嬉しいとか幸せとか、言葉では言い表せない。圧倒的な何かが押し寄せてくる。

 

(なにこれすごい!? え? え? きもちいのにきもちいどころじゃないよ! あ、やだ、だめ、ダメになる! 全部どうでもよくてずっとこうしていたくなっちゃう! こんなのバカになるぅ! シャルティアみたいになっちゃうう……。でもでも……でもぉ……! 気持ちよくて、幸せで、あったかくて……♡ 私が悦ぶのが喜びなんだからこれでいいんだよね? そうだよね?)

 

 アウラは顎をがくがくと震わせ、目からは涙が溢れている。

 視界はチカチカと光が舞い散り、悲鳴にも聞こえる自分の嬌声は聞こえていない。

 本人が自覚している通り、今のアウラはこの瞬間だけが全てでそれ以外の何もかもが消え失せた。

 

 小さな胸で両の乳首が弾けそうなくらいに勃起して、股間ではぷしゃっと水音がした。

 割れ目の内側から、ピュッピュと透明な汁が噴いている。

 アウラは、泣きながら達して、潮を噴いた。

 

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

 

「お加減は如何です?」

「…………うん」

 

 男の膝上で、アウラは虚脱したようにどことも知れないところを見上げている。

 すごい好かった。わけがわからないくらい好かった。何が起こったのか信じられないくらい好かった。死んだかと思った。

 小さな体を抱きしめられ、頭を撫でられるのが事更に心地いい。

 

 体の力は抜けきったが、少し休めば手足が動くようになってきた。

 男の腕を押し退けて、めくれたインナーを下ろす。

 ひょいと男の上から飛び降りて着地時に少しよろめき、立ち上がろうとした男を手で制す。

 

「……キャンディー舐める?」

「いえ、そのままで」

「そう」

 

 とても心揺さぶる提案であるが、ドーピングしてしまっては意味がない。

 今のアウラでおっきしなければならないのだ。

 

「それじゃ口でしてあげるね。全部は咥えらんないから上手く出来ないかもだけど……」

 

 大人の姿になればおっぱいもおまんこも使える。しかし、そのままでいいと言うのなら出来ることは限られる。

 限られた中で出来ることが、手と口を使うこと。

 自分はあんなにも好くしてもらったのだから、同じようにしてあげないといけない。

 してもらうばかりでお返しがなかったら、いつかしてもらえなくなるかも知れないのだ。

 

「むぅ……まだちっちゃい。……あんなこと言ったの、取り消させるからね?」

 

 深く椅子に座っていた男を浅く座り直させて、辿々しい手付きでズボンを下ろす。

 ズボンは自分が出した汁で濡れてしまって、けどもナザリック製のズボンだから軽く拭けば汚れは取れるはず。においは洗わないとダメだろうが。

 ズボンに続いてパンツも下ろし、ついでに足を持ち上げてどちらも脱がした。

 座る男の前で、床の上にぺたんと座る。

 目の前に現れた逸物は、まだ立ってない。

 

(私には立たないとか言ったの覚えてるんだから! 絶対大きくしてやって気持ちよくしてあげなくちゃ。んーー、でも一緒にお風呂入った時より大きい、かな? あの時は後ろから触られてたからおちんちんとかよく見えなかったけど。あ……、おちんちんあったかい。ふにふにで柔らかくて、なんか石けんぽい匂いがちょっとするからお風呂入ったのかな? って、おちんちんの臭い嗅いでるなんてシャルティアじゃないんだから!)

 

 亀頭に顔を寄せてすんすんと鼻を鳴らしていたアウラは、両手で逸物を持ち上げ裏筋に舌を這わせた。

 シャルティアと一緒の時にフェラチオは経験している。その時はシャルティアが勃起させたので、アウラは立ってる状態からだ。立ってる時の舌遣いは何となく記憶にあるが、立たせた事はない。

 舌を伸ばしてちろちろと竿を舐め、小さな両手は緩く根本を握って支えている。

 加減がわからず、強がりはしても自信はなく、上目遣いで男の顔を窺いながら舌を使う。

 弱気に垂れていた耳が、頭を撫でられピンと立った。

 

「もっと唾をまぶして、両手で扱いてください。亀頭を咥えたり、竿とカリの間を舐めたり。玉を触るときは優しく、まずはそっと持ち上げるくらいで」

「う、うん! 頑張ってしゃぶるから……、れろぉ……、んっ、ちゅぷ……」

 

 頭を撫でてアドバイスしてやると、アウラは逸物に向き合って熱心に舌を使い始めた。

 

 プラン第三段階到達である。

 アウラに好い思いをさせて、次はアウラに頑張ってもらう。

 アウラの痴態は大変愛らしく、幼い中に紛れもないメスの姿を見たが、それだけで勃起出来る特殊な嗜好は持ってない。ラナーにクンニしてた時だって立ちはしなかった。

 勃起させるなら、直接刺激が王道である。

 ネムちゃんの時だってペロペロさせている内に立ってしまったのだ。

 

 幼い子供が自分のために頑張ってくれていると、劣情は催さないが心が温かくなってくる。

 床に座ってしゃぶっているので、こちらから出来ることは頭を撫でることだけ。

 頭を撫で、時々長い耳をなぞってやる。

 その度にアウラの舌遣いが加速する。

 股間に熱が集まってきた。

 

「んっ、んっ、ふうぅっ! ちゅっちゅっ、あむぅ……ちゅるる……、んぅ……」

 

 根本を握るアウラの手へ圧力が増す。

 上を見ながらしゃぶっていたのが、膝立ちになって下を向かないとしゃぶれなくなってきた。

 温かかったのが今は熱い。

 ふにふにで柔らかかった亀頭が膨らんで、肉の生々しい弾力を帯びてくる。

 

(立ってきた! わたしの口でおちんちんおっきくなった! 私じゃ立たないとか言ってたのにおっきくなったじゃん! えへへ、嬉しい……かも。ううん、かもじゃなくて嬉しい♡ わたしでおっきくしてくれたんだ……。キャンディー舐めなくても今の私で。……まったく、わたしみたいなちっさい子におちんちんおっきくしちゃって変態じゃん! まあ、ちょっと……、かなり……? ……すごい嬉しいんだけど!)

 

 立ってきたらどうすればいいか覚えている。

 先っちょだけを口で咥えて両手でしこしこと一生懸命扱いて、咥えてるだけじゃ芸がないから口の中でれろれろと舐め回して。

 

(おちんちんからネバネバしてるの出てる。これっておちんぽみるく、じゃなくてえっと……精液? だっけ? 精液とは違う、のかな? でもおまんこだって濡れちゃうんだし気持ちよくなってるんだよね……、えへへ。もっと良くしてあげちゃうから! ……あれ?)

 

 頭を押されて口から逸物が抜けてしまった。

 口は使えなくても手では扱き続ける。

 

「…………良くなかった?」

「そんなことありませんよ。少し違う風にしてもらいたくなりまして。ですがアウラ様に負担が掛かってしまうので迷っています」

「いいよ。したいようにして。わたし守護者だよ? ちょっと何かされたくらいで負担になるわけないじゃん」

「それでは……」

 

 どこまで深く咥えられるかと聞かれ、めいっぱい頑張ってみる。

 太いので歯が当たらないよう大きく口を開き、んぅと呻きながら頬張って長い逸物の半分弱まで口の中に。亀頭が口の奥に当たっている。

 その状態で強く吸って、頬の内側の粘膜を隙間なく逸物に密着させる。たっぷりと唾を乗せた舌を口の外まで伸ばし、逸物を導くようにする。

 

「私がアウラ様の頭を振りますから、アウラ様は逆らわずに力を抜いてください。耐えきれないほど苦しいようでしたら止めてください」

 

 深く咥えているので声が出せない。代わりに上目遣いの目線で応える。

 

「行きますよ?」

「んうぅううーーーっ!! んっ! んぐっ! ふっ、うっ、んんっ!! ふぅっ! ふぐぅっ!!」

 

 頭を掴まれ、怒張が口内を蹂躙し始めた。

 口の奥の更に向こう、喉の奥まで突かれている。

 苦しくて涙が溢れ、咳込んでえずこうにも口を塞がれている。

 それでもアウラは逆らわなかった。

 口を犯す逸物が、扱いていたときより固く熱くなってきた。

 気持ちよくなってくれてると思うと止めろとは言えないし、守護者たるこの身に耐えられない苦しさでもない。

 早く終わってと思いながらも、男を悦ばせている事実に歓喜が湧いてくる。

 

 小さなアウラなので、喉奥まで届かせても全部は頬張りきれない。

 だけれども吸いつきは弱めず、心の底から行為を受け入れてくれるのを感じる。

 小さいのは利点もあって、イラマチオで頭を振るのに力が要らない。

 こんなにも小さなアウラの口を犯している。アウラが苦しさに呻いて涙を流す様は、背徳感と罪悪感を大いに煽り、滾る物があった。

 散々舐めさせられた幼い日のラナーにしてやりたいと思った。呪縛から解き放たれても、それはそれでこれはこれだ。

 

 逸物を熱い口内に包まれて、じゅっぽじゅっぽと口を犯す内に快感が高まってきた。

 顔に掛けるか口に出すか一瞬だけ考えたが、そんなことより出すことを優先すべ。

 ロリ相手にちゃんと射精できるかどうかが重要だ。

 耐えようと思わなければ、ほどなくして灼熱が上ってきた。

 

「んんーーーーーーーっ!!」

 

 アウラの口に深く突き入れる。亀頭が膨らんで、どぴゅどぴゅと熱い精液を吐き出した。

 すぐにはアウラを離さない。ルプスレギナの魔法で万全となっているため、量が多い。断続的にぴゅぴゅっ、ぴゅるると続いている。

 射精されて終わったのがわかっているだろうに、アウラからも離れない。頬を涙で濡らしたまま、逸物をしゃぶっている。

 

「亀頭だけを咥えて吸ってください。尿道に残ってる精液を吸い出すんです」

 

 アウラは小さく顎を引く。

 頬が膨らんでいるのは、口の中にたっぷり精液を湛えているから。

 精液はこぼさなかったが、激しい抽送で口から溢れた唾液が顎にまで伝っている。

 口内の精臭が鼻へ抜け、雄の臭いにくらくらしながら言われた通りにちゅるちゅる吸った。

 

 射精の快感は勿論として、お掃除フェラを受けるのは吸われている感が強くて単なる快感以外に心を満たす。

 アウラは経験不足なのでいつまで吸い続ければいいかわからず、舌を使うこともない。

 まだまだだなぁと思いつつもこれはこれでとても良い。

 

「ありがとうございます」

 

 アウラが離れ、喉を上下させて口の中の物を飲み干した。

 舌を使って口内でかき混ぜて、唾も混ざって少しだけとろみが弱まっても粘つく液体。喉を突かれたのもあってけほけほと咽せた。

 差し出された爽やかジュースを受け取ってごくごくと喉を潤す。

 お口をさっぱりさせたアウラは、依然床上に座ったまま男を見上げる。

 男は手を伸ばし、アウラの頬を濡らす涙を拭ってやった。

 

「……気持ちよかった?」

「勿論です。気持ちよかったからアウラ様の口に射精出来たんです」

「うん。……この前よりいっぱい出てた。シャルティアが美容にいいとか言ってたから全部飲んだけど。こんなのあんたのじゃなかったら絶対飲まないんだから!」

「アウラ様の美容のために協力させていただきますよ」

「そんなのそっちがきもちいだけじゃん!」

 

 ぷうと頬を膨らませ唇を尖らせ、しかし耳まで赤くしてもじもじと俯いた。

 

「あの、さ。いつか私が……、キャンディー舐めた時くらいに大きくなったら……」

「私の命はそれまで保たないと思います。残念ですが」

「そこは大丈夫だって」

「そうなのですか?」

「そうなの! それでね、私が大人になったら、わたしと……けっ……」

 

 コンコンと響く硬質な音は、二人きりの部屋で実際以上に大きく聞こえた。

 

 アウラに断ってズボンを穿いてから、ドアへ近付く。

 ドアに身を寄せ低い声で、

 

「なんだ?」

『シャルティア様がいらっしゃいました』

「シャルティア様が?」

 

 その時である。

 強い風が室内を荒らし、机上に並べた地図が縦横に暴れ回った。

 窓のカーテンは風に煽られ、ばたばたと激しくなびいている。

 

「アウラ様?」

 

 室内の温度が急激に下がっていく。

 窓が大きく開いて、外の冷たい風が吹き込んでいた。

 アウラの姿はどこにもなかった。

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 シャルティアの気性なら部屋の外に留め置かれるのは我慢できないだろうに、ミラの言葉に従ってドアが開くのを待っていたようだ。

 

「どうなさったのですか?」

「えっとぉ、シャルティアはぁ、おにーちゃんがなにか困ってないかなあって思って……、心配になってぇ……、来ちゃった☆」

 

 窓を閉めてから招き入れたシャルティアは、にっこにっこと満面の笑みを浮かべていた。

 これぞ媚び100%のシャルティアスマイルである。

 

 この男との勝負に負けてしまったシャルティアは、罰ゲームとして丸一日をこの男に従わなければならない。

 階層守護者権限で反故にしようにも、ルプスレギナとソリュシャンと、あろうことかパンドラズ・アクターまで証人なのだ。どうにも出来ない。

 避けられない難関ならば、何とかして優しい物にならないかと媚びを売りに来たのである。

 正しい戦略かも知れないが、色々と知恵の使いどころが間違っていた。

 

「お願いしたいことはございません。それらは一週間後にまとめてお願いしようと考えています。一日あれば優秀なシャルティア様であれば難なくこなしてくださると愚考しておりますよ」

「えぇ~~~~っ! そんなこと言ってぇ、シャルティアはおにーちゃんの役に立ちたいのにぃ!」

 

 ほっぺたを丸く膨らませ、ぷんぷんと擬音が付きそうな態度で両の拳を小さく振ってみせる。

 こんなシャルティアを初めて見るミラは、ご主人様の前なのも忘れて開いた口が塞がらなかった。

 

「シャルティアはぁ、おにーちゃんのためならいっぱいいっぱい頑張っちゃうよぉ♡」

「うーーーん……、困ってることは特にないのですが……。あ、ミラ、とりあえず散らかってる紙を拾ってまとめてくれ」

「かしこまりました」

「やぁん! お願い事ならシャルティアにしてぇ♡ シャルティアも拾うのてつだ………………、すんすん……?」

 

 ぷりぷりしながら男に近付いたシャルティアは、鼻を鳴らした。

 冬の空気が室内を荒らしても、匂いの発生源がここにいる。

 嗅ぎ慣れた匂いを嗅ぎ取って、シャルティアは目を瞬かせた。

 

(お兄ちゃんは誰にも入らないようにした部屋でセックスしてたんでありんすね? 全く……、シャルティアがいるでありんしょう? シャルティアがお兄ちゃんをいっぱいヌキヌキしてあげりんす♪ そうしたら罰ゲームも………………、こっ……これは!!)

 

 シャルティアもミラに倣って紙を拾い集めようと床に目をやって、金色に光る物を見つけた。

 大きさは親指大。金のチェーンが付いている。

 金色のどんぐりネックレスだ。

 

 何であるかを察した瞬間、さっと拾い上げてポケットに仕舞う。口角が邪悪につり上がった。

 

「急用を思い出しんした! また来んす!」

 

 言うや否や、応えを待たずにゲートの魔法で姿を消した。

 

 

 

 悪知恵が働こうとシャルティアはシャルティアだった。

 ロリボディで勃起して射精できた達成感と、ラナーの呪縛を脱した解放感で非常にご機嫌良好になった若旦那様である。

 シャルティアが当初の予定通りに媚び媚びを続けていたら、罰ゲームの難易度が下がる可能性は非常に高かった。

 残念ながら、そうはならなかった。

 それよりも面白い物を見つけてしまったのだから。

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 泊まっていくはずだったアウラ様は突然お帰りになってしまわれたが、目的は達した。

 アウラ様をクリア出来たので、いよいよ幼女である。

 

 翌日の夕刻、若旦那様はアウラ様をクリアした自信とラナーの呪縛からの解放感で意気揚々とチャレンジしました。

 

「わあああ! すごいすごいピチャピチャしてるよ!」

 「走っちゃダメ。転んじゃう」

「ふわふわしてるからへいきー!」

 「でもご主人さまにおこられちゃう」

「あ…………、ごめんなさい……」

「ははは、走ってもいいけどバスタブの傍は危ないから気を付けるんだぞ」

「はい! 気をつけて走ります!」

 「ウレイのバカ!」

「みてみて! すごいきれいなビンがいっぱいある!」

 「ホントだ、すっごくキラキラ。ウレイずるいわたしもさわりたい!」

「少しだけ蓋を開けて匂いを嗅いでごらん」

「甘くていいにおいします!」

 「あっ! これシクススお姉さまのにおいといっしょ!」

「入浴剤や香料、と言っても二人にはわからないかな。どれか好きなのを一つだけ選んで良いぞ。二人で一つだ。バスタブに入れるからね」

「わたしこれ! ルプスレギナさまといっしょがいい!」

 「これはシェーダさまの? わたしはシェーダさまの!」

「ははは、ゆっくり選んで良いぞ」

 

 若旦那様は透き通った笑顔で駆け回る二人を眺めています。

 ウレイリカとクーデリカの三人で、いつぞやアウラ様とご一緒したお風呂に入っているのです。

 

 幼女二人が裸なら若旦那様だって裸です。

 裸の幼女二人を一目して、若旦那様は悟りました。

 

 こんなん絶対無理。

 

 幼女とは性別が女なので幼「女」となるのですが、二人を見てると幼女と言うより幼児です。これくらいの年齢だと男も女もありません。ただただ小さい子供です。以前見たときも無理だと思いましたが、アウラ様をクリアした今ならいけると思ったのですが錯覚でした。

 可愛いかどうかと言えば確かにとても可愛らしいのですが、欲情出来るかどうかと言ったら不可能です。

 アウラ様と幼女の間には越えられない壁が聳えていました。

 

 それなら触らせてみてはどうかなのですが、とてもではありませんがそんな気になれません。

 無邪気で元気いっぱいな幼子で、ゆで卵とどっちが固いんですかとかやられたら想像するだけで怖気が走ります。

 

「俺がよく使うのはこれだな」

「「これがいいです!!」」

 

 使うことが多い香りの薄い入浴剤を湯に混ぜて、三人でお風呂に入りました。

 まだまだ小さい子供なので、溺れないように面倒を見てあげないといけません。

 折角なので髪や体を洗ってあげます。

 お湯が熱かったのか長湯になってしまったのか、ウレイとクーは真っ赤な顔でのぼせてしまって喋れなくなってしまいました。

 それなのにこちらの体を洗おうとして、全身泡だらけになってくっついてきます。

 はははと笑って背中を流してもらいました。

 

 その夜は三人で仲良く眠りました。

 生きてる抱き枕の具合はとても良いです。

 

 順調に始まったかに思えたYes ロリィタ Go タッチ! プロジェクトは一瞬で頓挫してしまいました。

 禁セックスが無理だったように、無理なものはどうあがいても無理なようです。

 ソフィーがお口上手になってるかアルベド様のサポートに期待するしかありません。

 

 幼女二人の寝顔を眺めながら、これくらいの頃から家を出ることを考えていたのを思い出しました。




読んだの一言で良いので感想ください(真顔
なのでまた荒らされるまで非ログインで書けるようにしておきます


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感想たくさんありがとうございます、これであと10話は戦えます(ペコリ
UAとか数字があっても読者の実在を確信できず確信できないという事は幾ら書いても(とても長くなるので以下略



『あなたの顔は無くなってしまったけれど、わたしがずっと覚えているわ』

 

 

 

▼ ▼

 

 

 

 慈愛に溢れた清い声で目を覚ました。

 

 目を開けば高い天井。ベッドの上に立っても手は届かない。

 壁には幾つもの窓が落ち着いた色彩のカーテンで彩られる。朝日に照らされ仄かな明かりが強まりつつある。子供の手すら入らない通風孔一つではない。

 ベッドの上には自分以外に、可愛らしい双子の幼女が寝息を立てて夢の中に。

 自分の顔を撫でれば滑らかな肌。鼻も唇もちゃんと付いている。

 

 夢だった。 

 アルベド様に拾われて以降どころか、ここ数年で最悪の夢見である。

 呪縛から解き放たれたと思っても、あの女は思い出すものじゃないと改めて認識した。

 

 

 

▼ ▼ ▼

 

 

 

 最近はなんだかんだと忙しかったが、Yes ロリィタ Go タッチ! プロジェクトが頓挫してしまったので妙に時間が出来てしまった。

 

 こんな時はアルベド様のご尊顔を拝謁して心を癒そうとお食事部屋に向かうのだが、残念なことにいらっしゃらない。今日はお食事日ではないし、アルベド様がどの時間に休憩なさるかも把握していない。把握していたところで、アルベド様がいらっしゃるかどうかは別の話だ。

 お食事部屋の隣の部屋、ソフィーの部屋にはいらっしゃるかも知れない。ソフィーは間違いなくいるだろう。しかし、残念な事にドアの鍵を持ってない。持っていたとしても、アルベド様のお許しがなければ入ることが出来ない。

 覗き見してしまおうかとの誘惑を払いのけるのに1時間掛かった。正確に言うと誘惑に打ち勝ったのではなく、掃除に来たシクススに追い払われた。

 

 こんな時はいつものように書斎に籠もって思索に耽る。

 数学事典で得た知識を頭の中であれこれいじくり回す。多種多様な計算式を組み合わせてから極限まで無駄を削り、導いた数式を用いて皇城の構造計算。外力に弱そうな箇所を幾つも見つける。魔法的な加護がないと攻められた時にそこから崩れると皇帝に進言しようと考え、後のジルクニフが今のは予告か善意か浪費を狙った罠なのかと胃痛の種を与えられることになる。

 数字いじりに飽きたら神聖語の時間。神聖語は文字の種類が多ければ文法の構造にも癖がある。

 「象は鼻が長い」は文法的に正しいか否か。正しい場合は「象」と「鼻」のどちらが主語であるか考察する。「は」と「が」はどちらも主語マーカーとして用いられるのだ。

 こちらは一瞬で飽きた。奥深いテーマかも知れないが神聖語学者になりたいわけではない。きちんと意味が通じる神聖語を操れれば十分である。

 代わりに、記憶の宮殿に収めた神聖語もとい日本語辞書をめくる。

 幾ページもめくらない内に手が止まった。日本語を知るに連れて疑問が深くなってきた単語があったのだ。

 

 

 

 若旦那様の思索中は、メイドたちは立ち入り厳禁。元より書斎はお屋敷の三階にあり、立ち入れる者は限られている。

 その限られた者たちは、手が空いてると書斎に集まって若旦那様の鑑賞を始める。置物にしても価値がある男なのだ。

 

 鑑賞しているのはこっそりトロトロを狙うソリュシャン。ソリュシャンがトロトロしちゃった時に回復してあげるルプスレギナ。ソリュシャンの専従メイドであるシェーダ。若旦那様の部下であるミラと、ミラがお仕事をしてると暇になるジュネ。

 最近はそこへカルカが加わった。どう言う訳か、最近のお嬢様は当たりがだいぶ柔らかい。一応カルカの専従となってる双子幼女は、他のメイドたちの仕事を増やしている。子供にじっとしていろとは酷な話だ。

 

 女たちがぺちゃくちゃお喋りしていても、とち狂ったナーベラルが隣でドラゴン・ライトニングを使っても、思索に耽っている若旦那様は無反応。だからソリュシャンにトロトロされるのである。

 話をしているのはもっぱらソリュシャンとルプスレギナで、カルカは生々しい内容に顔を赤らめる。

 話が一段落すると、若旦那様に近寄ってじっくり鑑賞。

 今なら大丈夫かしら、とソリュシャンが若旦那様の手に触れようとした時、

 

「愛ってなんだろう……」

「私がお兄様へ向ける想いのことですわ!」

 

 誰に向けるでもなく呟かれた言葉に、ソリュシャンは目を輝かせた。

 

 心があらぬ所へ飛んでる若旦那様はソリュシャンを見もせずに、

 

「違う」

「!?」

 

 否定の言葉に全身が固まった。

 

 お兄様と言えど私がお兄様に抱く想いを否定するなんて許せない!

 ソリュシャンが烈火の如く言い返そうとしたのを、プークスクスと嘲笑が遮った。

 

「ソーちゃんのは愛じゃなくて食欲っすからね! 愛って言うのは、私がおにーさんを想う気持ちのことっすよ♡」

「違う」

「!?」

 

 間髪入れずにルプスレギナも否定。

 ピキリとコメカミに青筋を浮かばせたルプスレギナが、これはぶっ飛ばしても無罪だけどこの前みたいにされたら、と逡巡していたらオーホッホと哄笑が轟いた。

 

「ルプー姉様のお気持ちは愛ではなく性欲ではなくて?」

「あ゛?」

 

 睨み合う美女姉妹。これでも二人は仲良しである。

 

「それでは……、私が旦那様を想う気持ちでしょうか?」

 

 睨み合う美女姉妹は凶相のままカルカに顔を向けた。

 二人から睨まれているのに、カルカの表情は夢を見ているように恍惚としている。

 

 現世に戻ってきたらしい若旦那様は、ゆっくりとカルカに振り向いた。

 見られているカルカは、頬をバラ色に染めている。

 若旦那様は机の上からペンを取り、手近な紙へ何やら書き付けた。

 

 「2」を縦に二つ重ねた記号の下に小さく「x」と書く。全ての線が繋がっている上に直線ばかりではなく湾曲したり波打っている方が多いので、ペンの試し書きにしか見えない。

 

「読んでみろ」

「え…………」

 

 困惑するカルカ。

 ソリュシャンが若旦那様からペンを奪い取り、珍妙な記号に罰点を付けて隣に「愛」と書いた。

 

「…………読んでみろ」

「申し訳ございません。私には、読めません」

「神聖語の話だ。わかりもしない事に口を出すな」

「……はい。申し訳、ございません……」

 

 涙ぐむカルカを、性悪姉妹はザマァと笑っている。

 若旦那様は怒ったわけでも不快に感じたわけでもないのだが、そんなことを解説してやるほど優しい姉妹ではないのである。

 

 ソリュシャン、ルプスレギナ、カルカと続いて、姉妹の視線はシェーダに飛んだ。

 

「私は若旦那様にそのような想いを抱いておりません」

「えー、ホントっすかぁ?」

「お兄様はシェーダに手を出していないわ。シェーダはお兄様の愛を知らないのよ」

 

 シェーダがお屋敷に来てからは、若旦那様の行動原理を良く知らないこともあってそうなのだが、お屋敷に来る前の時点でそんな事になっている。

 ソリュシャンは知らないが、ルプスレギナはシェーダがおにーさんと痴話喧嘩らしきものをしていたのを盗み聞きしている。

 

 若旦那様的にはシェーダの黒髪と大きなおっぱいはかなりポイントが高かったりするのは余談である。

 

「マイスターがお持ちの技術は私では到底届かない高みに達しております。卑賤なこの身としましては尊敬せざるを得ません。ですが、私が愛し、忠誠を捧げているのはシャルティア様でございます。マイスターに抱く思いは先ほど申し上げました通りに尊敬と、遙かな高みにいらっしゃいますことへの羨望と、シャルティア様も感心なさっていらっしゃいます整ったお顔とお体はとても好ましいと思っておりますので、この気持ちを名付けるとするならば適当な言葉は」

「あー、ストップストップ! ジュネの気持ちはわかったっすから次に行くっす」

 

 ルプスレギナは初対面の時からちょっぴりジュネが苦手である。

 

 いつの間にか順番に告白することになっていた。

 最後はミラである。

 一同の視線が集まったミラは黒い眼球に光る赤い目を頻りに泳がせて、最後は若旦那様へ真剣な顔を向けた。

 吸血鬼の青ざめた肌が紅潮している。

 

「私は……、ご主人様を愛しています!」

 

 その愛がどんな愛なのかという話なのだが、ミラの頭からは綺麗に抜けていた。

 

 俯瞰すればマッチポンプになるのだが、ミラはご主人様には命を救われ、シャルティア様の考えに物申して自分たちの扱いを良くするよう進言していただき、その果てにアインズ様からお褒めの言葉を授かった。色々と良い思いしてわからされもして、今やご主人様のために死ぬことこそが正しい命の使い方と決めている。

 あくまでも部下であってご主人様とは身分差があるためにわきまえているが、ソリュシャンやルプスレギナよりガチである。

 

 ミラをしばらく眺めていた若旦那様は、鷹揚に頷いた。

 

「……うん、そうだな。ミラの愛が一番近い」

「どういうことですか!!」

「どういうことっすか!!」

「そんな事より」

「「そんなこと!?!?」」

 

 若旦那様の中ではもう終わった話である。

 

「会議室に何か落ちてたか?」

「いえ、ご主人様の仰るとおり、何も落ちておりませんでした」

「だろうな」

 

 今朝方、起きて間もない時間にナザリックにいるお骨の方からメッセージの魔法があった。内容はアウラ様からのご質問であり、昨夜使った会議室に何か落ちてなかったか、と言うものだった。

 散らばった地図を拾い集めた際に隅から隅まで確認している。何も落ちてはいなかった。忘れ物か落とし物であれば屋敷の敷地内全てを捜索させますと申し出たが、会議室に何もないならそれでいいとのこと。

 一応ミラに、会議室をもう一度確認せよと命令していた。やはり何もなかったようだ。

 忘れ物が大切なものであれば続けてのメッセージがあるだろうに、それきりだった。解決したか、なくしても構わない物なのだろう。

 今朝は悪夢で目を覚ましたが、アウラ様からの伝言を受け取れたのなら悪いばかりではなかった。

 

「ふう…………、おっと」

 

 再び思索に耽ろうとする若旦那様を、ぐるるるピキピキと唸る美女姉妹が許さない。

 

「何だ?」

「何だ? じゃありません! どういう事ですか!!」

「そうっすよ! 私の愛がダメでミラの愛が良いのはどういう了見すか!!」

 

 若旦那様の中では終わった話だけども、美女姉妹にとっては訳の分からないダメ出しをされただけ。

 カルカもぐすぐすしており、喜んでいるのは顔が緩むのを堪えているミラだけである。

 

「そうだな。カルカにとってはわからない言語の話だから聞いてるだけでいい。ソリュシャンとルプーは、ついでにシェーダとミラとジュネもアインズ様を愛してるな?」

 

 一々答えるまでもない当然の問いかけに、一同は声を揃えて言うまでもないと胸を張った。

 

「アインズ様も皆を愛してる。アインズ様御自身がナザリックにいる者全てが美しいと仰っておられた」

 

 かつて、若旦那様がナザリックの玉座の間にて大演説を奮った時の話である。ルプスレギナとソリュシャンはその耳で聞いており、聞いていなかったシェーダとミラとジュネは驚きに目を瞬かせ、言葉の意味が心に染み入ると歓喜の涙を浮かせた。場所が場所であればアインズ様賛歌を合唱していたことだろう。

 

「ここで問題が一つ。皆がアインズ様へ向ける愛と、アインズ様が皆へ向ける愛は同じだと思うか?」

「それは…………」

 

 ソリュシャンは言葉に詰まり、ルプスレギナにも難しすぎたようで口をぱくぱくしているが声が出ない。

 

「どちらの愛も本質は同じだが向きが違う。神聖語における伝統的な愛は上から下へ、あるいは下から上への二種類だけだった。前者が慈愛・博愛、後者を敬愛と言う」

 

 ナザリックのシモベたちがアインズへ向ける愛が敬愛。

 アインズがナザリックのシモベたちへ向ける愛が慈愛、あるいは博愛となる。

 

「対等な者同士だと愛とは言わないんだ。ここに照らし合わせると、ミラからの愛は俺へは敬愛となる。だから近いと言ったんだ」

「はい! 私はご主人様を敬愛しております!」

 

 ここぞとばかりにミラが売り込む。

 対して、ルプスレギナとソリュシャンはもにゃっていた。

 しかし、聞き流して良いことではなかった。

 

「お兄様は私を愛していると何度も仰ってくださったではありませんか! それは全部嘘と言うことですか!?」

「ちょっとちょっとソーちゃん! おにーさんにそんな事言っても通じないってわかってるっすよね? とりあえずどーいう事か解説して欲しいんすけど?」

「まだまとまらない。だから愛ってなんだろうって言ったじゃないか」

「わかるとこだけでいいっすから」

「うーん……。愛を辞書で引くと色々書いてあったが、その通りには使われてないらしいんだ。俺には神聖語を使った経験が圧倒的に不足してるから推測がかなり混じる。それでもいいか?」

「いいっすよ。でも簡単によろしくっす!」

 

 

 

 若旦那様が語るところによると、悩んでいる主因はソリュシャンから押し付けられてきた課題図書での「愛」の使われ方と、辞書に書いてある「愛」の内容と、ソリュシャンたちが口にする「愛」の意味に齟齬があるからであるらしい。

 

 ソリュシャンからロマンチックな言葉を学ぶために課された数多のロマンス小説は、ざっくり分けると二系統あった。

 一つは著者も登場人物も神聖語の話者。

 もう一つは、著者は神聖語の話者でも登場人物は違う。もしくは著者が神聖語の話者ではなく、他言語で書かれた著作を神聖語に訳したもの。

 これらは登場人物の名前によって分類することが出来た。

 

「神聖語以外の話者は、異性に想いを告白するときに「あなたを愛してる」と言う。しかし、神聖語の話者はそんな言葉を口にしない。少なくとも俺は一度も読んだことがない」

「それじゃどんな風に告白するんすか?」

「「好きです」と言う。ここから、神聖語では異性への想いに「愛」を使わないことが察せられる」

「「好き」は私たちが知ってる通りの意味でよろしいのですね? それでは「愛」はどんな意味になるのですか?」

「単に「愛」と言うと、大事にする、って意味になるみたいだな」

 

 話がずれるので男は話さなかったが、神聖語が使われている国すなわち日本では、かつて兜に「愛」の字を掲げた戦国武将がいたらしい。

 その愛が意味するものは諸説あるらしいが、男女間の情愛を意味するものではないのは確かだ。

 

「「氷の女王に憧れて」に好きと愛の違いが書いてあった。花が好きだから摘んで持って帰る。花を愛してるから水を遣る。これが好きと愛の違いなんだろうな」

「……確かにそれらしい話ではありますね」

 

 この分け方だと、ソリュシャンの想いは「好き」になる。隙あらばトロトロしたがるのだから、持って帰るより直接的だ。

 

「今のはソリュシャンから押し付けられた本に書いてあったんだぞ。まさか読んでないんじゃないだろうな。俺がいったい何冊読まされたと思ってる!」

「あれはお兄様が神聖語を習得するために用意したものですもの」

 

 嘘である。とりあえず恋愛小説に属する本を片っ端から押し付けたに過ぎない。

 成果は出ているようないないような。言葉は覚えさせたが、価値観を変えるまでには至らなかった。

 

「……まだある。「汝の愛が汝を救う」。この愛が何を意味するかわかるか?」

 

 二人は首を左右に振った。

 

「あなたが私を信じる心、だ。愛は多義語過ぎるんだよ。文脈によって意味が違いすぎる。それが神聖語なんだ」

「普通に使ってるっすけどね」

「お兄様の言葉はちゃんと理解できていますわよ?」

「……俺やカルカが話す言葉はソリュシャンたちには神聖語に聞こえる。反対にソリュシャンたちが話す神聖語は、カルカにも難なく理解出来るよう言葉に魔法が掛かっている、らしい。俺はどっちの言葉もわかるから、どの意味でその言葉を使ったのか気になる時もある」

「そんなの決まっておりますわ♡」

「おにーさんは考えすぎっす。私の愛をちゃんと受け取んなきゃダメっすよ♡」

 

 正直な所を言えば、ソリュシャンやルプスレギナたちに語ったり語られたりした愛はどうでもいいとまでは言わないが、ルプスレギナが言ったように細かいところまでは気にしていない。

 重要なのはアルベド様である。

 アルベド様にも愛を語ったし語られもした。好きと言ったし言われもしたので、二人の交わした愛は男女間の愛情を意味するのは間違いないと思うのだが、斯様に多様な意味を持つ愛をどんなおつもりで使って、どんな意味で受け取ってくださったのかとても気になる。

 しかし、そんな細かい話をアルベド様にお窺い出来るわけがない。

 察する、つまりは忖度。そして行動で示すしかないだろう。

 

「二人とも後にしてくれ。後でゆっくり受け取るから……っ!? ミラ、ドア、静かに開けろ!」

「かしこまりました!」

 

 ミラがドアへ駆け寄り、静かにドアノブを回してゆっくりと引いた。

 顔だけ廊下に出して左右を見回し、

 

「何もございません」

「…………あれ? 気のせいだったかな?」

 

 ミラではなく、男自身が廊下に飛び出ていれば、得も言われぬ芳しい残り香を嗅ぎ取ったかも知れない。

 生憎、ソリュシャンとルプスレギナに絡み付かれて身動きがとれなかった。

 

 

 

「相談役殿は書斎におりませんでしたでしょうか?」

「いいのよ、大した用事じゃなかったし。私のことは伝えなくていいわ。戻るわ。お掃除ご苦労様」

「はい、ありがとう存じます!」

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 一方その頃、プルプルして俯いているアウラは、ドヤ顔のシャルティアに肩を組まれていた。




本作を書く前からオバロ二次なら使おうと思ってたエピソードです
一般版でやろうとも思いましたが多分書かないので以下にあらすじ供養

ガチートオリ主(管理者権限で色々盛り盛りした運営側でレベル100万くらい)が原作開始千年前に転移
千年間ですっかりやさぐれた所へナザリック登場
ナザリックの悪逆非道に興味ないけどモモンガさん発見して挨拶に
モモンガさんとは打ち解けても、こいつを敵に回すと厄介と判断したアルベド以下が敵意と嫌悪を上面で隠して接待
恒久的な友好のために一番有効なのは、

タイトル「アルベド、お嫁に行く」

タイトルでオチがつき過ぎてますね
万一書いてみたい方がいましたら是非どうぞ


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シャルティアはアウラちゃんの頼れるお姉ちゃんです

ひどいタイトル詐欺だと思わないでもないです


「ヤバいマズいヤバいマズいヤバいマズいヤバいマズい……………………どうしよう!!」

 

 ナザリック第六階層ジャングルに立つツリーハウスの一室にて、アウラは震えながら頭を抱えていた。

 顔色はかなり悪い。アウラとの仲が微妙なシャルティアであっても気にかける程度には真っ青だ。

 

 

 

 昨夜遅くに帰ったアウラは、服を着たまま風呂に飛び込んでエルフメイドたちを驚かせた。着衣入浴は帝都で流行ってるらしいと出鱈目な言い訳をしてエルフメイドたちに帝都への誤解を与え、早々に就寝。

 翌朝つまりは今朝はいつものように起き出してパジャマのまま朝ご飯を食べて着替えようとして、大切な物が胸元を空けていることに気が付いた。

 焦ったが、いつどこで外したかはっきりと覚えている。

 いつものズボンにベスト姿だと胸元に気付かれてしまうので、その上からマーレのとは少し違う襟付きマントを羽織って第十階層へさくっと移動。

 アウラはレンジャーにしてビーストテイマーであって、使える魔法は数が少ない。目当ての魔法は修得難易度が低いのだが、アウラが使える系統の魔法ではなかった。けどもナザリックに多数いるリッチ系のアンデッドたちなら全員が使用出来るので、最古図書館の司書の誰かに頼むのだ。

 上層に移動してシャルティアの階層にいるリッチたちに頼むのはありかと言えば絶対なしである。間違いなくシャルティアの耳に入り、そこからろくでもないことに発展するのが目に見えている。

 

 朝早いため、最古図書館の利用者が少ないのは幸いだった。

 手すきの司書を捕まえ、帝都にいる男へメッセージの魔法を飛ばしてもらった。

 

 しかし果たして、目当ての品に心当たりがないと返ってきた。

 

 件の品を外したのは、間違いなく帝都のお屋敷の会議室。ベストを脱いだと一緒に外したはず。

 色々した後、シャルティアが来たとか聞いて慌てて服を着て窓から飛び出した。

 ちなみにパンツを穿く暇はなかった。ちょぴっと染みたパンツはズボンのポケットに突っ込んでノーパンのまま帰ってきた。

 

 聞いたところによると、アウラが帰った直後に地図を拾い集めるため会議室の床は隅から隅まで確認したと言う。探したのがミラやメイドたちだけだったらもう一度探せと言ったろうが、探したのはあの男である。

 アウラが起居するツリーハウスは巨木をくり抜いて居住空間を確保した住居であり、地下には根を張り樹上には無数の枝が張りだしてそれぞれが無数の葉をつけている。その葉っぱの枚数を一枚単位で数えた男が、多少広かろうとも一室の床に落ちてる物を見逃すはずがない。

 会議室になければない。屋敷中を捜索させようとの提案は断った。

 

 そして冒頭に戻る。

 

 ナザリックには失せ物探しの魔法を使える者がいる。

 そうすればどこで落とそうと、落とした品を誰かが拾っていようと、確実に発見出来る。

 しかしそうすると、何を落としてしまったのか知られてしまう可能性がある。可能性は僅かであっても、知られてしまうのは非常にマズくて滅茶苦茶ヤバい。

 

 アウラが落としてしまったのは、金のどんぐりネックレスである。

 至高の御方々の一柱であり、アウラの創造主であるぶくぶく茶釜様がアウラのためにと授けてくださったアイテムなのだ。

 この世に二つとない唯一無二のユニークアイテム。

 希少価値云々で計れる物ではない。今やお隠れになってしまわれたいと尊き方との絆を示すとてもとても大切なアイテムである。

 もしもなくしてしまおうものなら、叱責とか怒られるとか、そのような次元ではない。ナザリックの全員から失望と最大限の軽蔑の対象となる。

 アウラとて、マーレがアウラと対になってる銀のどんぐりネックレスをなくそうものなら、あんたは本当にいったいなにやってんの、と深い失望を感じるのは間違いない。

 アウラはそれを落としてしまった。

 

 落とした場所はわかっている。誰かに知られる前に自分の手で見つけださなくてはならない。

 会議室で落とした。

 その直後に会議室からなくなっていた。

 あの男やミラがアウラに嘘を言うはずがなく、拾った物をこっそり懐に入れるわけがない。

 二人ではないなら別の誰か。

 あの時、アウラが急いで会議室を抜け出たのはシャルティアがやってきたから。

 

「って、シャルティアしかいないじゃん!!」

 

 アウラが叫んだその時、出待ちでもしていたのか、ピッタリのタイミングでノックもなしにドアが開かれた。

 

「呼びんしたか?」

「シャルティア!?」

 

 青ざめた肌に紅い唇を歪に釣り上げたシャルティアが、それはそれは得意げな顔をして言い放った。

 シャルティアの向こうではエルフメイドたちがおろおろしている。アウラの部屋に誰も入らないよう守っていたがシャルティアに押し通られ、どうすればいいのか困っているようだ。シャルティアはあれでも階層守護者。エルフメイドたちを責めるのは酷である。

 

「……シャルティアと話があるから誰も入れないで」

「かしこまりました」

 

 エルフメイドたちはドアの向こう側。シャルティアはこちら側。

 分厚い木のドアがシャルティアの後ろで静かに閉まる。シャルティアは鍵を掛けた。

 

 

 

▼ ▼

 

 

 

「アウラが私に会いたいんじゃないかと思いんしたが丁度良かったようでありんすねぇ? ま、こっちに来て座りなんし」

 

 アウラの部屋なのにシャルティアは我が物顔に振る舞って、自身が座るソファの隣をぽんぽんと叩いた。

 アウラに逆らう選択肢はない。大人しく座るアウラに、シャルティアの笑みが裂ける。

 

「今日はまた珍しい格好をしていんすねぇ?」

「……そう言う気分だから」

「ほお! そう言う気分! 外ならまだしも部屋の中でマントはおかしいんじゃないでありんしょうか? あつっくるしいから脱ぎなんし」

「……別に暑くないし」

「ほー? へえぇ? ふっぅうううううん? 私はてっきり胸元が寒いから着てるのかと思いんした」

 

 アウラはきつくシャルティアを睨みつけた。

 アウラに睨まれた程度でどうにかなるシャルティアではなく、むしろ睨まれるのが心地よいとばかりに笑みを深めた。

 

「変身してでかぱいになっても胸元は寒いまんまでありんしょうねぇぇええ?」

「くっ!」

 

 変身とかでかぱいとか言うなと言ってやりたい。しかし、言えない。

 胸元が寒いのは確かだ。胸に穴が空いたかのような虚無感がある。その理由を、シャルティアは知っている、かも知れない。おそらくは知っている。

 しかし、もしも知らなかったら。

 自分が大切なアイテムを落としてしまったのを知られてしまうわけにはいかない。シャルティアは知らない前提で話を続けなければならない。自分から触れてはならない。

 

「子供形態のアウラはまだまだチビちゃんでありんすから? 胸元が寒くなりんせんようネックレスとかいいんじゃないでありんしょうか? そう言えばアウラの創造主であられるぶくぶく茶釜様はアウラのためにネックレスを授けてくださいんしたねぇ? ぶくぶく茶釜様から授かったネックレス! ああ、なんてなんてうらやましいことでありんしょう!」

「…………」

「ああうらやましい。おおうらやましい。うらやましいからちょっとだけ見せてくんなましえ?」

「………………やだ」

「やだ!? アウラはやだと言いんしたかぁ? やだと言われるとは思いんせんでありんす! 私なら至高の御方に授かった品物は見せびらかしたくて見せびらかして仕方ありんせん!」

 

 断られたシャルティアは嬉しくて仕方ないと言わんばかりに満面の笑み。

 対照的にアウラは暗い顔で深く俯き、マントの袷をぎゅっと掴んだ。

 

「アウラはイヤでもマーレは私と同じでありんしょう。確かマーレはアウラと対になってるネックレスと持っていんしたね? マーレに見せてもらいに行ってきんす! マーレならきっと素直に見せてくれるでありんしょうねぇ? アウラと違って」

 

 くっひっひ、と邪悪な笑いがアウラのすぐ隣から聞こえてきた。

 

「そうしたら? マーレのネックレスは、アウラのネックレスと対になっていんすから? マーレのネックレスを見せてもらいんしたら? アウラのネックレスと一緒に見たくなりんすよ? もちろんマーレもだいっっ賛成でありんす! アウラとマーレのネックレスはぶくぶく茶釜様から授かった特別ですぺっしゃるなアイテムでありんすからねぇぇええ?」

 

 立ち上がろうとしたシャルティアのドレスを、アウラは反射的に握っていた。

 

「待って!」

「ほう…………、待って!? 待ってと来んしたかぁ……! 他ならぬアウラの頼みでありんすから? まあ特別に? 待ってあげてもいいでありんすよ?」

 

 座り直したシャルティアは、プルプルしてるアウラの肩に馴れ馴れしく腕を回す。

 アウラはシャルティアを拒めない。

 

 シャルティアは物凄くうざかった。

 いつものアウラだったら、シャルティアがここまでうざくなる前に手が出てる。

 しかし、今は出来ない。

 もしもシャルティアが知っていて、と言うか間違いなく知っているのだろうが、ここで下手に出ていれば内々で収めてくれるかも知れない。

 けども手を出してしまったら、マーレに知られる。コキュートスにもデミウルゴスにもセバスにもアルベドにも、ナザリック中に知られた末にアインズ様にまで知られてしまう。シャルティアだったら絶対やる。シャルティアに善意を期待するなんて、ハムスケに翼を生やして空を飛べと言うより馬鹿げたことだ。

 アインズ様に知られるなんて想像もしたくない。間違いなくお怒りになるのだから。

 

「アウラは私を呼び止めて、いったい何の用でありんすかぁ?」

「くっ……。シャルティアの方こそ何? 私に何か用があるから来たんでしょう?」

「そうでありんすねぇ? アウラとちょーーーーーっとばかし内緒話をしに来んしたでありんすけどもお互い守護者で忙しいでありんしょう? また日を改めて」

「今大丈夫だから。私、お休みだし」

 

 お休みだから、昨夜はお泊まり提案に乗ったのだ。

 逃げ帰らずそのまま泊まっていればと思っても後の祭り。

 

「なんと奇遇な! 私もお休みを頂いていんす。それなら今日は? アウラと一緒に? たあっぷりとガールズトークと行きんしょうかねぇ? くっふっふ…………!」

 

 シャルティアはかつてないほどのどや顔だった。

 

 

 

▼ ▼ ▼

 

 

 

 エルフメイドたちにお茶の用意をさせて、マーレが来ても入れないよう言い含めてからもう一度ドアに鍵を掛ける。

 紅茶は香り高いマスカットティー。茶請けが各種果物なのはアウラの好みだろう。アンバランスだが、飲料以外は基本的に口にしないシャルティアには関係ない。

 

「アウラとこうして二人きりで話すのも、初めてじゃありんせんけどたまにはいいでありんすね」

「……うん。まあ……。たまには……」

 

 シャルティアはティーカップをとって香りを楽しみ、喉を潤す。

 アウラは手が出ない。両手はずっとマントがめくれないよう握っている。

 

「時々帝都に行ってるでありんしょう? お兄ちゃんとどんな話をしていんすか?」

「へ? お兄ちゃん?」

「………………アルベドの相談役になったあの男でありんす。私より年上に見える大人の男をお兄ちゃんと呼ぶのがそんなにおかしいでありんすか!?」

「おっ、おかしくないから! そうだよね、お兄ちゃん、お兄ちゃん……、マーレもお兄ちゃんとか言ってたしお兄ちゃんでもおかしくないかな?」

「マーレがあいつをお義兄ちゃん呼び? マーレのお義兄ちゃんならあいつはアウラの」

「違う違う! 大人の男だからお兄ちゃんって呼んでもおかしくないからって、シャルティアも今自分で言ったばっかじゃん!」

「そっ……、そうでありんすね……」

 

 シャルティアが言葉を濁して紅茶に口を付けるのを、アウラは突っ込めない。

 シャルティアに急所を握られているかも知れないのもあるし、アウラ自身も全く同じ勘違いをしたことがあるからだ。

 

 シャルティアがくぴくぴと紅茶を飲み、いい加減喉が乾いてきたアウラも果物に手を伸ばす。

 先日、帝都へお土産で持って行ったのと同じ葡萄だ。

 皮が薄い品種なので、そのまま全部食べられる。皮ごと食べると渋みがあるので、全部食べるかどうかはその時の気分次第。今日は皮を剥く余裕がなくて、丸ごと飲み込んだ。

 

「お兄ちゃんとは仕事の話が多いかな。私はナザリックの外での警戒を担当してるから、どういう風にやれば効率いいかって話とか」

「ほーん?」

 

 シャルティアは外でのお仕事にナザリック発の航空便を管理してたりするが、メインはナザリック内の警備である。

 日頃からは想像も出来ない真面目さで取り組んでおり、警戒云々についての話は興味をそそった。

 具体的な話に行きたいところだが後回し。目当てはもっと違うことだ。その辺りの話は今度お兄ちゃんに聞いてみようと心にメモする。

 

「面白そうでありんすが後にしんしょう。もっと違うことはしないんでありんすか?」

「違うこと?」

「手を出しなんし」

 

 アウラに右手を上げさせ、親指と人差し指で輪を作らせる。

 シャルティアは左手の人差し指と中指を揃えて伸ばし、アウラが作った輪の中に抜き差しした。

 わからないほどうぶなアウラではなかった。

 

「しないよ!? してないから! あんなことしたのシャルティアと一緒のあの時だけだから! …………ひゃぁっ!?」

 

 頬にぬめった感触。

 シャルティアから距離を取ろうにも肩を組まれているので離れられない。

 

「こいつは嘘を吐いてる味でありんす!」

「嘘の味!? そんなのわかるわけないじゃん!」

「私にはわかるんでありんす!」

 

 真剣な顔でアウラを見据えるシャルティアだったが、目を泳がせるアウラを見てにへらと笑み崩れ、アウラの肩に深く腕を回す。

 頬と頬を寄せ合う距離で、小さく囁いた。

 

「私とアウラの仲でありんしょう? 私と一緒にお兄ちゃんと好いことしたのを忘れんしたか? 私にだけなら構いんせんでありんしょう? アウラが正直に話すなら私も正直に知ってることを話しんす。さあ……、私にだけ……、話しておくんなんし……」

 

 甘い声が誘惑する。

 吐息が耳朶を舐めている。

 

「話したら……、シャルティアも正直に話してくれるんだよね?」

「もっちろんでありんす! お兄ちゃんとどんなプレイをしてきたのかぜーーーんぶアウラに話しんすよ?」

「そういうんじゃないから! …………わかってるでしょ?」

「……ま、仕方ありんせん。アウラが知りたいことを話しんしょう」

「私が知りたいことわかってる?」

「おやおや、アウラは欲張りでありんすねぇ?」

「わかってないならいい。何も話さない。…………………………ティトゥスに相談する」

 

 司書長のティトゥスから失せ物探しの魔法を使える者を教えてもらい、出来る限り詳細を伏せた上でネックレスを探してもらう。

 最悪の場合、何を探しているか気付かれる。その時は何としても話を広めないで欲しいと頼み込むつもりだ。知られてしまった者からは軽蔑の対象になってしまうだろうが。

 シャルティアに誤魔化されはぐらかされてずっとからかわれ続けるよりも、マシではないかも知れないが仕方ない。

 

 それはシャルティアにとってもいささか都合が悪い話である。

 ティトゥスの所へ話を持って行かれてはアウラをからかい、もといガールズトークを続けられない。

 その上、アウラのネックレスを持っているのがシャルティアだと知られたら、お前はなんて事をしているんだと非難の対象になってしまう。

 今ならまだ落とし物を拾ってあげた優しいシャルティアでいられる。

 

「アウラの寂しい胸のことでありんす」

「おっぱいがちっちゃいとか言う話じゃないよね?」

「細かいこと言いんすねぇ。アウラのネックレスのことでありんすよ」

「もしかしてシャルティアが持っ」

「おおっとぉ!?」

 

 シャルティアは、ビシッとアウラに人差し指を突きつけた。

 

「それは気が早すぎでありんしょう? まずはアウラの話をじーーーーーーーーっくりと聞かせてくんなまし♡」

「…………わかった」

 

 多分おそらくきっと、ネックレスはシャルティアが持っている。

 アウラに拒否は出来なかった。

 

 同じソファに座って、深く肩を組まれ、頬と頬が触れ合う距離で、アウラは昨日のことを話し始めた。




毎年の事ながら花粉が飛び始めました
パフォーマンスがすっごい低下してるのを感じます


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知のシャルティア ▽アウラ+シャルティア♯3

GLタグがついてるので何も問題ありません


 アウラは覚悟を決めた。

 シャルティアがここまで強気に出るのだから、間違いなくネックレスの所在を知っている。おそらくシャルティア自身が持っている。もしも持ってなかったらぶっ飛ばしても無罪。

 元はと言えばネックレスを落としたのに気付かなかった自分が悪い。こっそり拾って脅迫してくるシャルティアも悪い。一番悪いのはタイミングだ。あの時シャルティアが来なければ。

 しかし、過ぎたことを言っても仕方ない。

 ここでシャルティアに付き合ってやれば万事解決するのだ。少々の恥ずかしさは甘んじて受け入れなければならなかった。

 

 アウラはきりりと真面目な顔をして話し始めた。

 

「昨日、私があいつのとこに行ったのは相談があるとか言われたからで私から行った訳じゃないから」

「なんの相談でありんす?」

「詳しくは話せないけど仕事の話。それで抱き上げられて」

「はあ?」

 

 いきなり話が飛躍した。

 仕事の相談をしていたら抱き上げられる。理解出来ない。シャルティアだから理解出来ないのではない。きっとアルベドであっても理解出来ないことだろう。

 

「机の上に色々広げて、私ってその……まだ背があんまり高くないから」

「チビってストレートに言いなんし」

「うるさいなぁ、黙って聞いててよ。広い机だったから反対側に置かれたのは見辛いだろうって、それで抱き上げられたの。私がしてって言った訳じゃないから!」

「はいはい、アウラは無罪でありんすよ。抱っこされて、それで?」

「抱っこじゃなくて抱き上げられたの!」

「……どっちも同じでありんしょう」

 

 アウラ的こだわりである。

 抱っこでは如何にもお子様扱いではないか。あれは抱っこではない。抱き上げられたのだ。別名をお姫様抱っこと言うので抱っこでも正解なのだが、アウラの中では抱っこではなかった。

 

「両手で抱き上げられてたけど、時々ペンを使うから落ちないようにしがみついてろとか言って。あいつの首に、こう……」

「イチャラブでありんすねぇ」

「イチャイチャとかじゃないし! しろって言われたからしただけなの!」

「一々言い返すのは止めなんし! 話がちっとも進まないでありんす!」

「シャルティアが変なこと言うからでしょ!」

「「う~~~~~~っ!!」」

 

 睨み合う二人。いつもならこの辺りから罵りあいが始まってキャットファイトが勃発する。

 しかし、今日はそうもいかない。アウラが歯軋りして目を反らした。葡萄の隣にあったさくらんぼを口に放り込んでから口を開く。ちなみに種なし品種である。

 

「そんな風に何回も抱きついて、そしたらあいつが変なこと言い出して……」

「変なことって何でありんす? そこは抜かしちゃいけないとこでありんしょう?」

「……前のこと思い出すとか。前の事ってシャルティアと一緒の時の事じゃないから初めて帝都に来たときの事だから!」

「ほーん……」

 

 変なことは、アウラとあの男が抜け駆けして帝都に先行した時のことらしい。

 その頃から変なことをしていたとは。アウラにも手を出すあの男の節操のなさに感心すればいいのか、受け入れたアウラに驚けばいいのか。

 

「女性の体がどうのこうのって話で。それで……まあ……その……。よろしければって」

「よろしければ?」

「……………………わかるでしょ?」

「さっぱり」

 

 本当にわからない。よろしければ、の一言で詳細を把握するには読心術か精神支配の魔法が必要となる。

 

「だからぁ……その……。う~~~~~………………!!」

 

 言いよどむアウラは、段々顔が赤くなっていく。

 覚悟を決めたって、恥ずかしいものは恥ずかしい。こんなにも恥ずかしいのに、なんであの時あんな事をシャルティアに相談してしまったのか、自分の事ながら訳がわかからない。きっと変な勢いがついてしまったせいだ。

 そしてそれ以上の最大の要因が、不思議な青いキャンディーを舐めて姿を変えたことである。

 服を変えるだけで気分が変わる。仮面を着ければ大胆になる。そこへ姿形そのものを変えてしまえば、いつもとは全く違う行動に出てしまってもおかしくない。

 今はドーピングに頼れない。素のアウラが打ち勝たねばならない試練だった。

 

「あいつが……私の…………。もういいじゃん! 十分話したでしょ!」

「話になりんせん。それともアウラは? 自分で約束したことを自分から破るんでありんすか? アウラにとって、ぶくぶく茶釜様からいただいたネックレスは簡単に破れる約束くらい軽いものなんでありんすか?」

「そんなわけないじゃん!」

「だったら」

 

 くいと顎をしゃくって先を促す。

 アウラはギリギリと歯軋りをして、うーうーと唸って、肩を落とした。

 決めたはずの覚悟が未だ定まらないがどうにもならない。諦めたとも言う。

 まさかネックレスを諦めたわけではない。自分の自尊心とか羞恥心とか魂の尊厳とかシャルティアへの優位性とか、諸々の大切なものを諦めたのだ。

 

「私のズボン脱がせて…………。パンツを…………」

 

 ようやっと本題に入った。

 シャルティアの目がキラリと光った。

 

 

 

▽ ▽

 

 

 

 アウラが真っ赤な顔を俯けてポツリポツリと語るのは、シャルティアの嗜虐心を大いに煽った。

 勝利に酔いしれ高笑いしてアウラをなじってやりたくなるがぐっと我慢。

 まだまだ序章である。行けるところまで行くつもりだ。

 

「パンツの上から触ってきて……」

「どう触ったんでありんす? ちょっと実演してくんなまし」

「えっ!? やだよそんなの出来るわけないでしょ!」

「自分にしろとは言んせんよ」

 

 シャルティアは自分のスカートをたくし上げ始めた。床まである長いスカートが少しずつ上がって、シャルティアの細い足が現れ始める。

 アウラが何してんの! と思った時には真っ白な太股までめくられ、尚も上がっていった

 

「な、な……、何その……すごいの……」

「アウラはこーいうの持ってないでありんしょう? 変身用に少しは持ちなんし」

 

 シャルティアのパンツはスゴかった。

 とりあえず、色はドレスに合わせた黒。透けてるようなことはなくて、秘密の小窓がついてるわけでもない。サイドに少々フリルがついている。

 スゴいのは大きさ。布地面積が凄く小さい。具体的にはスーパーローライズ。申し訳程度に秘部を隠している程度、と言うか隠しきれていない。割れ目の上端が見えている。

 無毛のシャルティアだからこそ履けるパンツだ。

 

 あの時アウラが着けたセクシーランジェリーはシャルティアの提供である。未使用であることをくどいほど念入りに確認した。

 当然のようにシャルティアは着たことがある。シャルティアの出したおつゆと出されたおつゆでぐちょぐちょになったりもしたが綺麗に洗ったので何の問題もない。最後に洗ってからは着てないので嘘は言ってない。

 

「ほら」

「あっ!」

 

 シャルティアに手を取られ、呆気に取られている内に触らされてしまった。

 

「私とアウラはおまんこを舐め合った仲でありんしょう? 触るくらい構いんせん。アウラがされたようにやってみなんし」

「そそそ、そんなこと、言わないでよ……」

 

 シャルティアは触りやすいように股を開いてやった。アウラは目を丸くしてスカートの中を見ている。

 人差し指がちょんと触れているだけだったが、やがて人差し指と中指と薬指の三本が揃えられ、シャルティアの秘部を覆うように乗せられた。

 

(くふふ……。まさかアウラに手マンさせる日が来ようとは! もぉっと色んなことを教えてあげりんすよぉ?)

 

 シャルティアはシャルティアである。最早当初の目的は頭から消えていた。

 いや、目的と言ってもネックレスをダシにしてアウラをからかいたかっただけなので、現在進行形で目的達成していると言えなくもない。

 シャルティアは、アウラにマウントを取るためだったら何だってしてしまえるのだ。

 

「お兄ちゃんはアウラのおまんこをどんな風に触ったんでありんす? アウラのことも、お兄ちゃんのことも、ぜぇんぶ教えてくんなまし」

「だって……そんな……!」

「アウラがされたようにするだけでいいんでありんす。おまんこに触ったんだからぁ、クリトリスもされたでありんしょう?」

「くりっ……!」

「ほらぁ、クリトリスをこすりなんし♡」

 

 アウラの手指がゆっくりと上下に動き始めた。

 幼い美貌は微妙に歪んで、顔にイヤですと書いてある。渋々とさすり続ける内に動きがスムーズになってきたのは、シャルティアよりもパンツの生地が気になったからだ。

 

(なんかぬめぬめするけどこれってシャルティアが濡らしたんじゃないよね? 濡れてないのにぬるってして指に吸いついてくるみたい。こんなパンツ履いたら履き心地とかどうなんだろ? 気持ちいいのかな? でもどうせだったらこんな小さいのよりもっと大きい方が)

 

 ぬめぬめの生地で作った全身スーツを想像して、アウラは首を振った。

 シャルティアとこんな事をしてるせいで、思考が大分あちらへ傾いている。

 

「……雑過ぎるでありんしょう? お兄ちゃんはそんな下手じゃありんせん。手本がいりんすか?」

「だって!」

「あーん?」

「…………わかった。ちゃんとする」

 

 自分がされたことを思い出し、アウラは中指だけに少しだけ力を入れた。

 ふにふにしてるシャルティアの秘部に少しだけ沈む。パンツ越しにシャルティアの割れ目に沈んでいる。

 上下に撫でて割れ目の形を確認してから、上の方であたりをつけた。指先が小さな円を描く。

 

「アウラのクリトリスはその辺りでありんすか? 私はもう少し下でありんす」

 

 口を開けば辱められる。

 アウラはぶっ飛ばしたくなるのを我慢して、言われた通りに少しだけ下を探り、そこだと言うところを撫で始めた。

 

「そう、そこでありんす。そこに私のクリトリスがあるんでありんすよぉ? ちゃあんと覚えなんし。んんっ……、クリトリスがアウラにこすられてちょーーーっとだけ好くなってきたでありんす♡」

 

 何を言われても、アウラは無言で指を動かし続けた。

 無心でしていればいつか終わるはず。それまでは自分の心に蓋をして、シャルティアに言われた通りにしていればいい。そうすればネックレスを返してくれるはず。ここまでさせて返しませんとか言ったら命の遣り取りが始まるのはシャルティアにもわかっているだろう。

 

(……透けてないからしっかりしたパンツだと思ってたのに滅茶苦茶薄いじゃん! シャルティアのくくくく……くりが、……立ってるのわかっちゃうよ……。何で私に触らせて感じてるのよ。変態じゃん! ………………そう言えば変態だった)

 

 アインズ様の御前で下着をぐしょぐしょにしていたシャルティアである。並の変態ではなかった。

 シャルティアが変態なのを思い出したアウラは、もしやと思って指を進めた。

 

「あんっ♡ アウラは大胆でありんすねぇ? アウラに触られて濡れてきんした……。シャルティアのおまんこが濡れているのがわかりんすか?」

 

 シャルティアのパンツは相変わらずぬめっている。ぬめる感触が、少しだけ違ってきた。

 顔を背けてシャルティアを撫でていたアウラは、思わず手の先を見てしまう。

 シャルティアの太股は真っ白なので、黒いパンツがとても映える。パンツの生地は光沢があって、けども光り方が少し変わった。

 一番違うのはアウラの指。何かに濡れて、光っていた。

 

「アウラは他にどんなことをされんした? 撫でられただけじゃないでありんしょう?」

「うぇっ!?」

「手がお留守でありんす。ちゃんと動かしなんし」

「う、うん。他には……」

 

 シャルティアが濡らしているのに気付いて、反射的にアウラが手を離れさせようとする。

 そうはさせまいと、シャルティアはアウラの注意を逸らす。熟練の近接戦闘者は流れを支配するくらいお手の物なのだ。

 アウラの注意は、自分の指先より昨日の思い出に向けられた。指が濡れているのも、何に触れているのかも忘れて。

 

「ええっと……。それも実演するの?」

「まずは話しなんし」

「私の、乳首を……」

「ほう! アウラの乳首!」

 

 シャルティアは右腕をアウラの肩に回しているので、左手で自身の大きな乳房に触れた。

 おっぱいが大きいのはパッドをいっぱい詰めてるからだ。シャルティアの標準装備だ。パッドを入れないのはあの男とベッドに直行する時くらいである。

 アウラに乳首責めをさせるのはとてもそそる。しかし、パッドごとブラジャーを外すのはちょっと面倒。

 

 なお、アウラはシャルティアが濡らしていて、自分の指が濡れているのにも気付いた。しかしシャルティアが濡らしてからも擦っていたので、少しくらい指が濡れるのはもう今更と言う奴だ。

 シャルティアの策は見事に成っていた。

 

「それなら私がアウラの乳首をいじりんしょう!」

「え、やだよ!」

 

 シャルティアの目がキラリと光る。

 じゃーんと両手を包む白いドレスグローブを外して、磨き抜かれた鋭い爪を見せつけた。

 カタナブレイドの一撃さえ受け止める爪だ。近接戦闘時のメイン武装の一つでもある。

 

「シャルティア、爪! そんなんで触ったら怪我するでしょ!」

 

 鋼さえ抉る鋭い爪だ。

 100レベルのアウラなので柔らかい肌はそれなりに丈夫だが、あの爪で触られたら絶対に怪我をする。

 

「安心しなんし。こんなこともあろうかとこーいうものがありんす。じゃじゃーん♪ ドレスグローブ型スキングローブゥ!」

 

 白いドレスグローブをテーブルの上に放り、インベントリから取り出したのはさっきまで着けていたのと全く同じに見えるドレスグローブ。

 先ほどのものと同じように両手に着ける。両の指をわきわきと動かして、着け心地を確かめた。

 つんつんとアウラのほっぺをつついてやった。

 

「痛くないでありんしょう?」

「……それ、さっきのと何か違うの?」

「同じに見えて、こっちの方が薄いんでありんす。素手で触っているのと同じに感じんす。それにほら、さらっさらでありんしょう? 手触りも抜群でありんすよ」

 

 世界一の技術力を誇るナザリックだからこそ可能な外側に向けるべき防御力を内へ向かわせた狂気的設計である。

 これを着けていれば、爪が鋭くても何かを傷つける心配がない。スキンと言うくらい薄いので素手で触っているのと同じ繊細な感触を把握できる。

 これならば、爪が長くても手マンが可能。

 シャルティアは真の目的を隠して、ナザリック技術班に発注していたのが、ようやく完成したのである。

 

「これならアウラを触っても怪我させないから問題ないでありんす」

「うん、まぁ、それなら。……………………あれ?」

 

 計画通り!

 

 シャルティアはアウラの注意を乳首から爪へ、爪からドレスグローブ型スキングローブに反らすことによって、要求を貫いたのだ。

 シャルティアはけっしておバカではなく、知恵の使いどころが間違ってるだけなのだ。いつもこのように頭を使うことが出来ていたなら、今頃は知のシャルティアとしてアインズ様にも一目置かれていたことだろう。現状ではやまいだれがついているが。

 

「アウラはお兄ちゃんにされたことを続けなんし。こっちは私に任せて構いんせんから」

「でも続けるって……、中に……?」

「ほう? パンツの中でありんすか? それともおまんこの中でありんしょうか? お兄ちゃんがしてくれたことをしてくんなまし♡」

「あっ……、ちょっとぉ!」

 

 アウラの手を取って、ほりほりと股間に押し付ける。

 アウラは何度目かの諦念の息を吐いて、小さな手を小さなパンツの中に潜らせた。

 シャルティアの股間はアウラと一緒のつるつるで、今はしっとりと濡れている。ひたすらに柔らかくてぬるぬるしている。顔を背けて目を瞑って中指だけを伸ばし、内側の肉を進んでいく。

 指先が、小さな穴を見つけた。

 

(入れなんし♡)

 

 耳元で囁かれ、言われた通りにしてしまった。

 アウラの指を柔らかく包むそこはひんやりしていた。

 

 アウラは、自分も含めて女の子の中に指を入れるのは初めてだ。

 抵抗なくぬるりと入って、指先を動かす余裕がある。

 パンツの上から触った秘部も柔らかかったが、こちらはまるでとろけるようだ。

 シャルティアのおまんこが、とか、シャルティアの愛液が、とかを気にしなければ、官能的な柔らかさと言える。

 

「んぅ……♡」

 

 すぐ隣で甘い声。

 シャルティアの声はくぐもって、声とも言えない声になっている。

 自分の指がシャルティアをこんなにしてしまった事実に、アウラは混乱した。

 

「ひゃん!? いきなり抓らないでよ!」

「アウラがぼーっとしていんしたから。好い声でありんすよぉ? もっと聞かせてくんなまし。アウラも私を鳴かせなんし♡」

 

 同時に二つの事には集中できない。目を瞑っているのもよくなかった。

 アウラが指に集中している間に、シャルティアはアウラのズボンのベルトを外し、インナーの内側へ手を滑り込ませていた。ズボンインシャツをしてたわけではないのでベルトを外す必要は全くない。

 華奢な体を這い上がり、小さな膨らみの小さな突起をきゅっと抓った。

 

「くふふ……、優しくしんすよ♡ こーして乳首をコリコリされると気持ちいいでありんしょう? お兄ちゃんにたっぷりいじってもらいんしたかぁ? ちっぱいでも乳首は生意気にも感じるんでありんすねぇ♡」

 

 アウラの膨らみはないではないので、無乳よりの微乳。しかし、いつの日かの豊乳が約束されている。

 シャルティアはさすがに今のアウラよりあるが、百年後も貧乳のままである。

 

 シャルティアは左手を伸ばしてアウラの胸を撫でているので、インナーがめくれて白いお腹が出てしまっている。

 

「アウラの可愛い乳首が立ってきんしたよぉ? 乳首がビンビンになるとコリコリもしやすいでありんす。ほら、鳴きなんし♡」

「あうぅっ! いっ、いたいから、やさしく……」

「ちょぴっとだけ痛いと気持ちいいのが大きくなりんすよ。アウラも手を動かしなんし。……そこで指を曲げて内側を引っかくように、あんっ♡ いいでありんすよぉ? もぉっと私のおまんこをくちゅくちゅにしてくんなましえ♡」

「んんっ……! 集中できないから……、手、やめて……」

 

 シャルティアはにんまり笑って、アウラの肩から手を外した。

 股間からアウラの手をどけて、スカートの中に両手を入れる。するするとパンツを下ろした。

 

「アウラも」

「なんで!?」

「いいから! それとも、これはいりんせんか?」

「!?」

 

 

 

 シャルティアが首元のリボンタイを緩め、胸元から取り出したのは金色のどんぐりネックレス。

 アウラの目が丸くなる。持ってるだろうと思っていたが本当に持っていた。アウラの手が伸びる前に、ネックレスは胸元へ仕舞い込まれてしまった。

 

 アウラの目は揺れに揺れた。

 力尽くで取り戻すことは出来ない。腕力ではシャルティアが上だ。自分はシャルティアの胸元からネックレスを引っ張り出して取り戻さなければならないのに、シャルティアはこの場を逃げるだけでいい。

 逃げられたら最悪だ。誰かに仲介を頼まない限り、自分が幾ら言っても返してくれなくなるだろう。そうなれば必然的に他者の耳目に触れ、自分がネックレスを落としてしまったことを知られてしまう。

 

「……ズボンを脱いだら返してくれる?」

「アウラはお兄ちゃんにズボンを脱がされただけでありんすか? ちょいと帝都に行って聞いたら答えがわかりんすねぇ?」

「…………パンツも?」

「パンツを脱いで、おまんこをいじいじされたんでありんしょう? アウラがお兄ちゃんにされたのと同じ事と言いんしたよ?」

「………………」

「気持ちよくなって、イカされたんじゃありんせんかぁ? 私にされるのもよし、アウラが自分でするのもよし。私は? 他ならぬアウラの頼みでありんすから? とぉっても優しい気持ちになってるんでありんすよぉ?」

 

 アウラの目に涙が溜まりつつあった。

 シャルティアはとっても良い笑顔だ。

 

「何をそんなに迷っていんすか? アウラと私はキスもしたし乳首を舐め合ったしおまんこもくちゅくちゅし合ってお兄ちゃんのおちんぽミルクを一緒に浴びた仲でありんしょう? アウラは私に任せるだけでいいんでありんす。そ、れ、と、もぉ~~~~?」

 

 胸元をぽんと叩く。

 アウラの顔は、いっそ悲愴と言っていいほどだった。

 アウラがへこめばへこむほど、シャルティアのゲージは上昇していく。

 

「アウラの悪いようにはしんせんから安心しなんし。それとも…………、そんなに私がイヤでありんすか?」

「えっ!? べつに、そういうわけじゃ……」

 

 顔を伏せたシャルティアが目元を拭う。

 あくまでもナザリック内では善良なアウラは、シャルティアを嫌っているわけじゃないとフォローしてしまった。シャルティアが伏せた顔を邪悪に歪めているのを知りもせず。

 

「私の創造主であられるペロロンチーノ様はアウラの創造主であられるぶくぶく茶釜様の弟君でありんした。ペロロンチーノ様とぶくぶく茶釜様のようにアウラと仲良くしたいだけなんでありんす……」

「シャルティア……」

 

 ペロロンチーノ様とぶくぶく茶釜様は仲良し姉弟だろうけど、そんな仲じゃないだろうとは突っ込めなかった。

 

「アウラが私と仲良くしてくれんしたらネックレスはちゃんとアウラに返しんす。アウラが落としたのを見つけて、アウラのために何としても持って帰らなければと思いんしただけでありんす。アウラのためにしたことでありんすのに。アウラは私を…………よよよ……」

「…………」

 

 シャルティアはちょっとやり過ぎた。アウラの目に不信が浮かんでいる。

 落としたのを見つけたというなら、さっさと返せばいい。そうしていない時点で、信じるには色々足りない。

 けどもアウラが落としたのは事実であり、拾ってくれたのはシャルティアだ。要求を飲めば返すと言った。

 

 アウラは迷いに迷った。ネックレスとシャルティアと魂の尊厳とその他諸々を秤に掛けて、結論を出した。

 

「……わかった」

 

 

 

 レズックス決定!

 

 

 

「やっとわかりんしたか!」

「うわぁっ!?」

 

 ソファに座るアウラを引っ張り上げ、腕を掴んだままベッドにひとっ飛び。

 

 アウラをベッドに押し倒したシャルティアは、妖艶に舌なめずりをした。




アンケートするほどじゃないんですが、サプライズはありかなしかで迷います
どっちであれたぶん展開はおそらく変わらないので、サプライズに感じるかも知れない話の前にこーいうフラグ立ててましたよって一覧を挙げるかどうかです(つづく以降でちらほら立ててました)
私は観てる作品のネタバレとか一向に気にしないけどもそれって少数派ではと思わなくもないです
無難なのは、その話を投稿した後で一覧羅列でしょうか
予定ではあと10話以内に「あまる」が終わるはずなんです、予定では


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シャルティアはとっても可憐でとっても可愛くてとっても(ry ▽アウラ+シャルティア♯4

GL回ですので苦手な方は末文まで飛ばしてください


 アウラはドキドキしながらシャルティアを見上げた。

 ネックレスを取り返すために自分の体をシャルティアに差し出すことになってしまったのだ。

 されるのはお兄ちゃんにされたことまでで、酷いことはしないはず。逆を言えば、されたことは全部白状させられてされてしまうことになる。

 キャンディーを舐めたときにシャルティアとは色々してしまったので、どうしても何があっても絶対にイヤだ、とまでは行かないのが何とも難しい。

 

「キャンディー! キャンディー舐めて大人になった方がいい? シャルティアはそっちの方が好きだと思うんだけど……」

「んー」

 

 不思議な青いキャンディーを舐めて大人の姿になれば、今よりは心身共に余裕が出るはず。

 シャルティアだって大きな胸の方が好きなはずだ。それなのに、思案顔で首を傾げている。

 

「ドスケベボディのアウラも捨てがたいでありんすが……、昨日のアウラはお兄ちゃんとする時キャンディー舐めんしたか?」

「ドスケベ!? …………昨日は舐めてない、けど」

「ほほう?」

 

 昨日のアウラは最初から最後までおチビ形態のままお兄ちゃんとエロエロな事をしたらしい。

 お兄ちゃんはお子様アウラに欲情出来たのだろうか。アウラはおチビなのに乳首とおまんこを触らせたのか。

 二人ともシャルティアの想像以上にハイレベルだった。これは負けてはいられない。

 

「今日はなしにしんしょう」

「今日は、って」

 

 次もあるのかと戦慄する。

 しかし、今はシャルティアの機嫌を損なわないようにして、兎にも角にもネックレスを返してもらうまで我慢だ。

 

「さ、脱ぎなんし」

「……絶対返してよ」

「くどいでありんすねぇ。ちゃんと返しんすよ。アウラがちゃぁんとアへアへになりんしたら、ねぇ?」

 

 アウラの顔から弱気が消え、強い目でシャルティアを見返した。

 

 シャルティアなんかに絶対負けない。

 

 アウラはズボンのベルトに手を掛けた。

 

 

 

▽ ▽

 

 

 

 シャルティアの下で、アウラはズボンを脱いだ。

 ベストもインナーも脱ぎ、それもと言われてスリップも脱ぐ。体の前で腕を組み、胸を隠した。

 

「ほほー……。そーいうパンツは穿いたことないでありんすねぇ。ピッチリしててこれはこれで」

 

 今日のアウラはピンクのボクサーパンツ。

 見た目には薄手のショートパンツ。シャルティアが感心したように体のラインにピッチリフィットして、鼠径部のラインに、よくよく見れば筋さえ見える。

 布地面積が大きくていやらしさを感じさせないのに、体のラインを強調しつつ筋を見せちゃうところがいやらしさを強調させる矛盾は健康的清楚エロス。

 

「この奥にアウラの筋マンがあるんでありんすね?」

「っ……」

 

 人差し指をピッと伸ばし、つつつと筋をなぞる。

 僅かに毛羽立ったパンツの繊維に触れる程度の絶妙なソフトタッチ。触られているのに触られていない。

 

「アウラはおチビでもおまんこが濡れるでありんすかぁ? 可愛い可愛いクリトリスは立つんでありんしょうか?」

「そっ、そんなこと、言わないでよ……」

「アウラのことをぜぇんぶ知りたいんでありんす。教えてくんなまし」

 

 シャルティアはすっと顔を寄せ、アウラの耳元で囁く。

 甘えた掠れ声が耳朶を打ち、冷たくも芳しい吐息が頬をくすぐる。

 

「アウラのクリトリスを触ってもいいでありんしょうか?」

「……勝手にすればいいじゃん」

「そう言うわけにはいきんせん。アウラに酷いことをしたくないんでありんす」

 

 それこそ勝手な言い分だ。

 出来るならしないで済ませたいが、それでシャルティアが満足するわけがない。

 アウラは頷くしかない。お兄ちゃんからされた事として、シャルティアにしてしまっている。

 

「………………いいよ」

「くふ……、アウラから許してもらったでありんすから? アウラのクリトリスをいじいじしてあげりんすよぉ♡」

「んっ!」

 

 シャルティアの指がつんとつつく。

 パンツの上からで、シャルティアとは位置が違って、幼いアウラの可愛い肉芽はピタリと閉じた筋の中に隠れているのに、狙い違わず肉芽に触れた。

 

「アウラのおまんこは私より上つきみたいでありんすからねぇ。その様子だと当たったようでありんすね。ほぉら、正解発表しなんし」

「……当たってる」

「当たったならご褒美をもらわないといけんせん♡」

「ご褒美って……あむぅっ!?」

 

 弧を描くシャルティアの唇が薄く開き、アウラの唇に重なった。

 冷たい舌が入ってくる。舌に触れた。尖った舌がねだるように舌をつつき、アウラが応えられないでいると口の中を舐め始めた。

 歯をなぞって歯茎を舐め、頬の内側に触れる。歯の裏側にまで来たときはくすぐったくて、ぞくぞくと来た。

 何も知らない頃だったら嫌悪感が振り切れて突き飛ばしたかも知れないのに、そこまでイヤなものではなかった。

 アウラはキスの味を知っていて、キャンディーを舐めた時だったけどもシャルティアとキスをしている。唇を合わせたし、舌を絡めたし、唾液を啜られ、自分から啜りもした。

 

「んっ、んっ、ちゅうぅっ……。アウラも舌を出しなんし」

「だって! こんなの、女同士で、んんっ! ん……、ん……、んふぅ……。シャルティアと、キスしちゃってる……。ちゅっ…………れろ……」

 

 おっかなびっくりに、アウラからも応えた。

 シャルティアの口内は冷たくて、紅い唇のすぐ裏に鋭い牙がある。舌で探ると、鋭いけども触れただけで切れる心配はなさそうだ。あの時も同じ事を思ったのを思い出した。

 

「アウラもその気になってくれてとぉっても嬉しいでありんす♡ お礼にアウラのクリトリスをいーっぱいいじいじしてあげりんす♡」

「あんっ…………!? いぃ、今のは思わず出ちゃっただけでぇっ! ……あっ、やぁ、違うんだからぁ……!」

 

 アウラが体をよじっても、シャルティアの指はアウラのクリトリスから離れない。

 指先を素早く小刻みに動かし、引っかくように愛撫している。単調で、だけども執拗なほど繰り返され、アウラは感じるものがあった。

 

 シャルティアは毎日しているし、されてもいる事なのだ。

 基本はクリトリス。初心者にもクリトリス。上級者だってクリトリス。

 

「アウラはクリトリスで好くなってきたんでありんすねぇ? 私もアウラにいじいじされてクリトリスが勃起してしまいんした。アウラも私を触っておくんなし」

 

 アウラの手を取ってスカートの中に導く。触らされたシャルティアはとろとろになっていた。

 さっき触らされた時より絶対に濡れている。太股まで垂れていた。

 

 アウラにマウントをとって責める事が出来るのだから、シャルティアが興奮しないわけがない。

 単なる興奮なら女同士の序列問題に還元されるところ、シャルティアの興奮には多分に欲情が混じっている。

 アウラをよがらせたくて仕方ない。そう思うだけで濡れてくる。

 シャルティアはおつゆが多いのだ。

 

「くふっ、どう触ればいいかわからないでありんすか? アウラは自分のおまんこをいじいじしてオナニーしたことがありんせんか?」

「…………………………、ある、けど」

「ほほう!! アウラがオナニーを覚えてるとは思いんせんことでありんす! オナニーするときみたいにやってみなんし♡」

 

 葛藤の末に絞り出した答えは、シャルティアを大喜びさせた。

 

 アウラはお兄ちゃんに教わってクリトリスを弄ってしまった事がある。

 二本の指でクリトリスの根本を扱いて、そうしたら膨らんできてしまって。

 手探りで同じようにやってみると、シャルティアの笑みがとろけてくる。

 

「いいでありんすよぉ? 焦れったいけどこれはこれで中々。アウラのクリトリスも立ってきんした♡」

「…………うぅ」

 

 シャルティアは執拗にこすってくる。

 ソフトタッチなので刺激自体は小さいのだけれど、何度も何度も繰り返される内に高まってくるのを、アウラは自覚していた。

 とてもとてももんのすごく口惜しくて悔しくて腹が立ってしまうくらいに、シャルティアは巧かった。間違いなく自分よりずっと巧い。シャルティアなんかにいじいじされて感じたくないのに感じちゃう。

 このままでは負けてしまう。しかし、オナニーの経験すら片手の指で余るアウラには、絶望的に経験値が不足していた。

 

(くっひっひ、アウラがイい顔していんすねぇ! 必死で睨みつけて顔を赤くして、息も荒くなっていんすよぉ? 唇を噛んで声を出さないようにしているのが見えていんすから! 悔しいでも感じちゃう! で、ありんすねぇ♡ おほっ! アウラの筋マンが濡れてきんした! ちびっ子アウラのロリロリ筋マンでもちゃあんと濡れるんでありんすねぇ……、感動でありんす!)

 

 口にこそ出さないが邪悪さは色ぼけた顔に現れ、アウラは負けてなるものかと睨みつけた。頬をペロリと舐められた。

 

 シャルティアはアウラをとっても苛めたいが、痛めつけたいわけではない。とろとろのアへアへにしてやりたいのだ。

 

「ひぅっ! いっ…………。くぅぅ……!」

「我慢しなくていいでありんす。アウラが好くならないと私もいけんせん」

 

 肉芽を撫でていた指が割れ目をなぞる。なぞる度に筋状のシミが濃くなってくる。軽く押し込めば滲んできた。

 スキングローブで包まれた指を擦りあわせてぬるつきを確認。シャルティアはにんまりと笑って、ボクサーパンツに指を掛けた。

 協力的でないアウラは尻を浮かせたりしなかったが、パンツ一枚はぎ取るくらい大した手間ではない。するりと脱がせてベッドの外へ放り投げた。

 

「ふーむぅ……。アウラの肌は浅黒いのにここはキレイなピンクでありんすねぇ。びらびらもちっちゃくて可愛いでありんす。穴もちっちゃくておちんぽが入りそうにありんせん。それなのにお兄ちゃんのおちんぽにくらいついたんでありんしたよねぇ。ふーむぅ、こんなロリマンなのに。ふーむぅ……。ロリマンなのにヌレヌレなのがエロいでありんすよぉ♡」

「やだ! 広げないでよ見ないでよ! 昨日はそんな事されなかったんだからぁ!」

「昨日は? 昨日以前にそんな事をされたんでありんすか?」

「うっ!?」

 

 パンツを脱がされ筋マンをくぱあと広げられ、鑑賞されてしまっている。

 恥ずかしくて恥ずかしくてシャルティアの頭を押しやっても力では敵わない。それでもじっくり見られるだけなら耐えられた。真面目くさった声で評価されるのが滅茶苦茶恥ずかしい。恥ずかしすぎてシャルティアの顔が見れない。

 そんな具合に混乱していたものだから、余計な事を言ってしまった。

 シャルティアからの要求は、お兄ちゃんとしてきたエッチなことを実演込みで話すことである。昨日よりも大分前に、そんな事があった。

 

「正直に話しなんし。黙ってるとアウラのためになりんせんよ?」

「うぅ…………。話さなくちゃダメ? それもする?」

「アウラがするんでもいいんでありんすよ?」

「そんなぁ……。あんっ! はっ、話すから止めてよぉ……」

 

 アウラはぐすんとべそをかく。

 対照的にシャルティアは輝いていた。

 

 秘部をくちくちと弄られながら、アウラは一緒にお風呂を話してしまった。

 二人でバスタブに浸かって胸を触られてお腹を撫でられておかしな気分になってしまって、舐められた。あれは生まれて初めての絶頂だった。

 聞かされたシャルティアは絶好調である。舐めるべきか舐めさせるべきか、それが問題だ。

 アウラの顔をおつゆで汚すのは是非やりたい。だけどもルーキーアウラはまだまだへたっぴ。キスだって舌を伸ばすことしか出来ない低レベル。ここは自分が手本を見せてやらねば。

 

「やあぁぁっ! 止めて止めて汚いからぁ! あひんっ!」

「舐め合った仲じゃありんせんかぁ♡ アウラが必死になってちゅうちゅう吸ってたのを覚えていんすよぉ?」

「言わないでぇ……! んぁっ……んっ…………あんっ!」

 

 股を開かせ、両手を使ってくぱあと広げる。

 ロリっ子アウラの筋マンは、股を開かせても開かないのだ。

 くひひと嗤って舌なめずり。あーんと口を開いて舌を伸ばす。れろりと舐める可愛い肉芽は、勝利の味がした。

 毎日舐めて舐めさせているのに、アウラのクリトリスはどうしてこうも違うのか。

 舐めているだけで際限なく興奮してくる。アウラの小さな穴からあったかくてぬるりとしたおつゆが溢れ、シャルティアは倍以上垂らしている。

 あんあんとアウラが喘ぐたびに心の琴線がビンビンと弾かれる。

 

「アウラも手伝いなんし。ほらぁ、おまんこを自分の手で広げるんでありんすよ」

「あ……? だってぇ…………、これでいい?」

「そうそう。私はアウラのちっぱいを弄ってあげんすから♡」

「あ……やぁ、……優しくしてよぉ、……抓っちゃやだぁ……。痛いのやなんだからぁ……」

「だいぶ素直になりんしたねぇ? わかっていんす。アウラをちゃぁんと天国に連れていきんすよぉ♡」

「ああんっ!」

 

 アウラの乳首はピンク色。

 シャルティアもヴァンパイアブライドたちも真っ赤なので、蛍光色みたいなピンクは新鮮だ。

 小さな胸でビンビンに勃起している乳首はとっても目立つ。とってもそそる。思わずきゅうと摘まんでアウラを鳴かせてしまった。

 反省反省と心の中で唱えてから優しく触れて転がした。安心したようにアウラの力が抜けるのを感じて心に優しい気持ちが溢れてくる。

 お口ではアウラの下のお口にディープなキス。舌を尖らせねじ込んで、アウラの内側を舐めてやった。小さくて狭いのに、ここはぬれぬれのとろとろだ。

 舐めて吸って、じゅるじゅると卑猥な水音を立てるテクはとうの昔に修得済み。音を立てる度にアウラはびくんと腰を奮わせるのに、声の方は小さく呻くだけ。

 上を見れば横を向いて唇を噛んでいた。

 頬は涙で濡れているのに、下の口は悦んでいる。おまんこだってずっとくぱあしたまま。

 シャルティアの心は感動の嵐である。この感動は全ナザリックが感涙に咽ぶレベル。

 感動の大きさの累乗に比例して高ぶっていく。

 乳首責めを片方お休みにして、スカートの中に手を差し込んだ。アウラよりぐしょぐしょで太股まで濡れている。

 折角スキングローブを装備しているのだから、雌穴につぷりと差し込んだ。アウラよりとろとろだった。

 

「ああん……、アウラが感じてるから、シャルティアのおまんこもぬれぬれでありんすよぉ♡ んふぅ……、あんっ……。れろぉ……ちゅぅちゅるる……、アウラのおまんこもぬれぬれでありんすぅ♡」

「ひっ……あっ、あっ……、おまんことか、言わないでぇ……。あんっ……」

 

 シャルティアの声に触発されて、アウラも声を漏らした。

 アウラは見下ろして、シャルティアは見上げる。二人の目が合った。シャルティアの笑みが裂ける。

 

「アウラァ♡」

「きゃっ!? ちょっとなに!? んむぅ…………! あっ、あむぅ……」

 

 シャルティアのゲージが満タンになった。

 もう我慢なんて出来ない。アウラのお股から顔を上げ、アウラの体に這い上がり、いただきまぁすと唇を。

 れろれろちゅっちゅとキスを送り、アウラは最早拒もうともしない。舌でつつかれると応えてしまう。

 キスの間も手マンはサボらない。シャルティアはアウラの穴に肉ひだを愛撫し始め、アウラの手を取って自分の秘部も触らせた。

 相互愛撫しながらの情熱的なキスは、女同士でも忘れてはいけない愛の行為である。

 

「あん、あんっ! やん、だめぇ……! おまんこよくてぇ……♡」

「アウラは好い声で鳴くんでありんすねぇ♡ もっと聞かせてくんなまし」

「やぁぁ、だってだってぇ……、あっ、きちゃうぅぅ! んっくううううぅ……♡ あああんっ!」

 

 アウラの声が段々と高く、澄んでいく。

 まさか演技ではないだろう。アウラの手技で引き出された快感を、幼い声で淫靡に歌っている。

 入っている指は今や二本になって、じゅっぷじゅっぷと抽送している。とろとろと溢れた愛液がシーツのシミになっている。

 アウラをよがらせて大満足なシャルティアは、ちょっとだけ不満と羨望が湧いてきた。

 

 ナザリックがこの地に転移した日から今日まで。お仕事で出張してる日を除けば一日と休むことなくヴァンパイアブライドたちとレズックスに励んできたシャルティアだ。

 女を悦ばせるレベルはカンストしてなお成長中。

 アウラがよがってしまうのはアインズ様が偉大なのと同じくらいに当たり前な世界の真理である。

 対するアウラは、初々しいのが大変そそるもののぶっちゃけへたっぴ。

 クリトリスを擦るのも、指を入れて出し入れするのも、力加減がいまいちならリズムも落第。ついでにキスだって舌を伸ばすのが精一杯の拙さ。

 アウラを悦ばせて屈服させてあへあへにさせて上に立つ優越感は凄まじいものがありはするが、それはそれとして自分だってよくなりたい。

 んー、とちょっとだけ考え、思いついた。

 

「シャルティア……?」

 

 アウラは全裸に剥いた癖してずっとドレスを着たままでいたシャルティアが、裸になった。

 ドレスの時はおっぱいが大きかったのに、脱いでしまうと可愛いちっぱい。さすがに今のアウラよりはあるが、微乳よりの貧乳である。

 ちっぱいの真ん中で、金のどんぐりネックレスが光ってる。

 

「お兄ちゃんとセックスしたときに教えたでありんしょう?」

「え? え? 何を……?」

 

 アウラの向かいに座って、片足をアウラの太股に乗せる。アウラの片足を持って自分の太股に乗せる。

 互いの脚が交差した姿勢で、よいしょよいしょと腰を進めた。

 

「忘れんしたか? 貝合わせって言うんでありんす。貝はおまんこの事でありんすね。くっちょくっちょしてもアウラのおまんこは筋のままでありんすからちょぉっとあれでありんしょうが」

「え? え?」

「私とアウラのおまんこをぴったり合わせてぇ、ぐっちょぐっちょのぬるぬるにするんでありんす♡」

 

 アウラが目を白黒させている間に、交差した股間が重なった。

 

「あっやっ、なにこれぇ……、ぬめぬめしてるぅ……」

「ほぉら、ちゃんと見なんし。おまんこがくっついてるでありんしょう? 私とアウラのおつゆがぐっちょぐっちょに混ざり合ってるでありんす♡」

 

 大きく股を開いてくぱあとなったシャルティアがアウラに重なっている。

 舌で舐めてもとろとろに柔らかかった内側で擦られ、大きな舌で舐められているような。

 そしてやはり、性器と性器を擦り合わせているというのは、精神的にかなり来た。全くの無知なアウラだったら嫌悪感が促すまま汚いと叫んで突き飛ばした。

 しかし、今はもう色々知っている。

 舐められて吸われて指で、大人の姿になってセックスも経験済み。シャルティアとこうするのだって初めてではないのだから。

 

「お兄ちゃんのおちんぽを挟む時はこれでいいでありんすが、こーいうのもありんすよ♡」

「やあぁん! シャルティアのおつゆがいっぱい来てるよぉ……」

 

 アウラの片足を絡み取って下半身だけを上向かせ、シャルティアは横を向いてアウラの股間に跨がった。

 互いに寝そべるために激しい動きが出来ない基本形より、こちらの方が責められる。

 責めるのはもちろん上に乗ってるシャルティアだ。

 

 筋マンなのに度重なる刺激で濡らしてしまいうっすらと開いてしまったアウラと、ぐちょぐちょでくぱあと開いてしまったシャルティアの内側が擦れ合う。

 くちくちくちゅくちゅと水音を奏で、重力に従って二人の愛液がアウラの下腹へ流れていく。

 シャルティアは夢中で腰を振る。紅い目は愛欲に蕩け、抱えたアウラの脚をれろりと舐めてはちゅっちゅと吸って。

 

 アウラはシーツを掻いていた。

 昨日のような激しい快感はない代わりに、シャルティアとこんな事をしてしまっている背徳感がスパイスとなって高ぶってしまう。

 女同士で、しかもシャルティアと。

 こんなの絶対おかしいのに気持ちよくて。

 シャルティアとは口論と言う名の罵り合いとかキャットファイトばかりしていたから、きっと乱暴なことをしてくると思っていたのに、愛撫は意外なほど丁寧で優しくて。

 指だって二本三本と増やされ激しく抽送されると思っていたら二本まで。

 そんなことを想像してしまったなんて自分が期待しているようではないかと慌てて否定して、余計なことを考えるのを止めた。

 考えるのを止めてしまえば、後は気持ちいいばかり。

 

「あぁ……、シャルティアとおまんことわたしのおまんこがくちゅくちゅしてるよぉ……。おつゆいっぱい出てるけど、わたしじゃなくてシャルティアのだもん……。あんっ……、おちんちんじゃないのにぃ……、シャルティアまんこなのにぃ……。なんできもちいのぉ?」

「くふふ……♡ アウラも調子が出てきたようでありんすね?」

「あっ……、んっ……。ずっとこうだもん。……シャルティアもおまんこきもちい? わたしのおまんこと擦り合わせて好くなってる?」

「もちろんでありんすよぉ♡ アウラとおまんこをくちゅくちゅするなんて夢のようでありんす♡」

「……うん。わたしも。シャルティアとエッチしちゃうなんて……。思ったことなかった……。あんっ♡」

 

 シャルティアは、おやおやと思いながらアウラを見下ろした。

 アウラから躊躇いが消えて、素直にあえぐようになってきた。いやらしい言葉も率先して口にする。

 どこでそんなの覚えたのかと思わないでもないが、これはとっても興奮する。

 シャルティアとエッチしちゃって気持ちよくなってシャルティアも好くなってる? とか聞かされようものなら有頂天になって限界突破するのは必然。

 二人の股間はぐちょぐちょに濡れそぼって、アウラの尻の割れ目に伝って流れ、下腹に流れたのはへそにまで届いている。

 八割はシャルティアのおつゆ。

 アウラが何を思ったのか、へそに溜まったおつゆを指ですくった。

 口に運んで、

 

「シャルティアの味がする」

「!!!!!!!」

 

 アウラのうっとりとした声で、シャルティアは達した。

 アウラだって何回も浅イきしているはずだが、今のはちょっと深かった。

 幼いアウラがこんなにエロいとは、本当に一体どこで覚えたのか、覚えさせられたのか。

 

 

 

 シャルティアが失念しているのは、アウラの創造主であるぶくぶく茶釜。

 ぶくぶく茶釜は声優であった。仕事は来るもの拒まず。

 新人声優の登竜門としてエロゲーに声を入れたこともある。新人時代以降もあえぎ声やら淫語やらを吹き込んで、それと知らないで聞いてしまったペロロンチーノに色んな意味で衝撃を与えたりもした。

 そのぶくぶく茶釜がアウラの創造主なのだ。アウラは他のシモベたちと同様に、創造主から多大な影響を受けていた。

 

 

 

 シャルティアがイって、アウラをイかせて。

 裸で抱き合いながらちゅっちゅとキスを繰り返しては互いの体を愛撫し合い。

 年長者にして熟練者のシャルティアが上になってキスの69から乳首舐めの69となってクンニリングスの69では、予定通りにアウラの顔をおつゆで濡らしてやった。

 濡らしたおつゆはシャルティアがキレイに舐めとる。

 アウラが濡らしたシャルティアの顔はアウラに舐めさせる。

 そうしてもう一度相互愛撫。

 シャルティアはアウラを三度イかせた。

 アウラの手マンで大いに興奮したシャルティアだったが、手付きがまだまだ覚束ないので浅イきが一度だけ。

 

 出したら終わりの男と違って、女は延々と続いてしまう。

 それでも体力が尽きたり擦り過ぎて痛くなったりするものだが、二人とも体力無限大の守護者にして本日はお休みである。

 区切りがついたのは、おつゆが多いシャルティアの喉が乾いて飲み物を求めたからだ。

 

 

 

 シャルティアは、サキュバスでもなかろうにアウラの精気を吸ったかの如くお肌艶々である。

 アウラはあっちゃーと額を押さえ、シャルティアとやっちゃったぁと自己嫌悪。それでも甘々葡萄を10個も食べれば、まあ仕方ないかと胸元のネックレスを撫でる。創造主が女であるからか、それともそう言う性格なのか、はたまたシャルティアならまぁ許せなくもないかと受け入れているのか、始める前に比べれば意外なほどさっぱりしていた。

 

「アウラはお兄ちゃんにおまんこをイカされたんでありんしょう? アウラもお兄ちゃんのおちんぽをイかせんしたか?」

「うっ……、まあね。あいつさ、私のおっぱいとかおまんこをあんなにいっぱいしたのにおちんちんおっきくしなかったんだよね! ちょーーーーーっと頭に来たけど舐めてあげたら大きくなって」

「ほむほむ」

 

 毒食らわば皿まで。

 アウラは昨日の続きを話し始めた。

 一人で抱え込むには過ぎた事であり、話せる相手が他にいなかった。まさかマーレにするわけにはいかない。ユリにしようものなら絶対怒られる。シャルティアは、本人がエロエロの変態であるので、変にからかわれなければ適当な相手なのだ。

 前回にお風呂でされたときは一人で抱え込んでしまい、暴走してシャルティアに食ってかかって、結果としてシャルティアを交えてエッチしてしまった。

 そうでなくてもアウラは女。お喋りは大好きだった。

 

「おっきくしたらさ。私の頭を掴んで咥えさせたまま振るんだよ!? すっごい苦しかったけど気持ちよくしてあげられるならいいかなって。私はまだ、その、小さいからおまんことか使えないし」

「アウラにイラマチオをしたんでありんすか」

「いらまちおってなに?」

「フェラチオの種類でありんす。女におちんぽを咥えさせて、男が女の頭を振るのをイラマチオって言うんでありんすよ。腰を振る場合もありんす」

「へー」

「あれはいいものでありんす。無抵抗で道具みたいに乱暴に扱われると……、それだけでぬれぬれでありんすよ♡」

「んー、悪い気はしなかったけどそこまでじゃないかなぁ」

 

 葡萄からさくらんぼにシフトして、続いて冷めた紅茶を口にする。

 果物の渋みが増したらしく、アウラは顔をしかめた。

 バターとクリームたっぷりの焼き菓子が欲しいと思ったが、ない。後で焼いてもらおうと考えた。

 

 裸のままパクパクしてるアウラを見て、シャルティアは気付いた。

 アウラが苦しかろうと容赦する男ではないことを知っている。本当に苦しければ止めたかも知れないが、イラマチオをせざるを得ない理由があったのだ。

 

「ドスケベボディのアウラもいいでありんすが、今のロリアウラもお肌ぷにぷにで乳首ビンビンでおまんこは穴がちっちゃいけどぬれぬれになりんすから、まあこれはこれで好いとこもありんすね」

「……急になに?」

「だーけーど! 全体的に低レベルなのはどうにもなりんせん。ロリボディがいつかドスケベになるのは決まっていんすが今はまだまだでありんしょう?」

「それはいつかちゃんと成長するし!」

「だから、それはいいんでありんす。問題は技術レベル!」

「技術?」

「いいでありんすか? よぉっく聞きなんし」

 

 シャルティアは全裸のままベッドに立ち上がって語り始めた。

 

 

 

▼ ▼ ▼

 

 

 

 私のレベルを120とすればアウラはレベル5。

 

「5!? 私だって100レベルなんだけど!」

 

 黙って聞きなんし。アウラは顔は良くてもロリボディでありんすから特殊性癖を持ってない男には刺さりんせん。お兄ちゃんはアウラをあへあへにしてもおちんぽを立たせなかったことから特殊属性を持ってないことが確定的に明らか。

 

「……………………特殊」

 

 アウラがキャンディーを舐めてドスケベボディになれば一気に80までレベルアップしんしょう。しかし! それでも私には届きんせん。アウラにはテックが絶望的に不足しているでありんす!

 

「テック?」

 

 エロテックでありんす。

 アウラがぷるぷるしながら一生懸命に舌を伸ばすのはそそりんしたが? やってることは舌を伸ばすだけでありんしょう。キッスの練習をしたことがありんすか?

 

「ないけど……」

 

 おちんぽを舐める練習は?

 

「…………ない」

 

 ちょっとそのさくらんぼを寄越しなんし。食べるわけじゃありんせん。へたはついたままで。このへた付きさくらんぼを舌にのへまふ。んーー……、もごもご……、んん……、んべぇ。

 

「えっ!? それどうやったの!? へたがくるくるってなってる!?」

 

 舌で結んだんでありんす。レベルを上げたいならせめてこれくらいは出来るようになりなんし。これが出来ればロリアウラでも……んーーー、18レベルにはなりんしょう。

 

「そこまで出来てやっと18?」

 

 アウラを傷つけたくないからあんまり言いたくありんせんが……、お兄ちゃんがアウラにイラマチオしたのはアウラがへたっぴだからでありんす!

 

「へたっぴ!? でもちゃんとおっきく……」

 

 おちんぽを立たせるのとおちんぽミルクを出させるのじゃ難易度が天地の差でありんす! アウラのヘタチオじゃイケないからアウラのお口を口まんこにしたんでありんしょうねぇ。

 

「ヘタチオ!?」

 

 練習しなんし。お兄ちゃんの側にはアウラの他にもいっぱい女がいるんでありんすよ? 100レベルになれとは言いんせん。今のアウラでは無理でありんすから。せめて60レベル。最低でも50はないと厳しいでありんしょう。

 

「50………………。それじゃあいつは何レベルなるの?」

 

 んーーー。ちょと待ちなんし。

 

(ヴァンパイアブライドのレベルは大体50から80。一人だけやたら高レベルなのがいんしたがあいつは措いといて、あの時は私も何回か混じりんしたから……最後はダウンして……。70レベルを40人同時に相手したとしんしょう。70かける40は……………………2,800!? あ、ありえん…………。しかし何回計算しても2,800。まさか1,000越えとは……! このシャルティアがあへあへにされたのも当然か!)

 

 2,800でありんすね。

 

「にせんはっぴゃくぅ!? 私は5でシャルティアは120なのに!?」

 

 処女アウラをあれだけあへらせたお兄ちゃんでありんすよ? あいつは顔を見せるだけでヴァンパイアブライドたちを発情させんすからそれくらいあっても不思議じゃないでありんしょう。

 

「そんなの……絶対勝てないじゃん!」

 

 勝つ敗けるじゃありんせん。負けるのは最初から決まってるんでありんす。どう負けるかという問題でありんすね。

 

「……負けるの前提なの?」

 

 あったりまえでありんしょう。それともアウラは? お兄ちゃんのおちんぽをぴゅっぴゅさせたら自分は好くならなくていいんでありんすか?

 

「そんなこと、ないけど……」

 

 どのみちアウラじゃ千年掛かっても勝てないから気にするだけ無駄でありんす。千年経ったら人間は死んでしまいんすが……。

 

「そこは大丈夫。こっそり色々仕込んでるから」

 

 ほえ? そうなんでありんすか?

 

「うん。まあ、結構使える男だし、長生きだったら助かるなあって」

 

 いい仕事しんすねぇ! アウラのお兄ちゃんを思う心に感動しんした! 私に任せなんし!

 

「……任せるってなにを?」

 

 キスとフェラの練習でありんす。これから毎日付き合いんしょう!

 

「ええぇ…………」

 

 とりあえず着替え、の前に風呂でありんすかね。風呂を借りんすよ。

 

「待って待ってそのまま出ないで! せめて下着だけでもってこの部屋どうしよう。こんなの誰も入れられない……」

 

 シーツがシミだらけでありんすねぇ。匂いも……くんくん。私とアウラの匂いが充満していんす♡

 

「誰にも見つからないようにシーツをお風呂に突っ込んで、私とシャルティアも一緒に……」

 

 面倒でありんすねぇ。ちょいと待ってなんし。

 

「あっ…………。裸で行くんだ……」

 

 

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 ゲートの魔法でシャルティアが連れてきたヴァンパイアブライドにベッドのシーツ交換と証拠隠滅を頼み、二人は一緒に風呂に入った。

 散々したので体を洗うだけ。

 体を洗いっこする二人は仲の良い姉妹のように見えた。

 

 この日から一日一時間はシャルティアがこっそりアウラの元を訪れ、お口の練習。

 練習と言えど、上達するには実践が一番である。

 

 アナルセックスの話も出た。

 幼いアウラの膣には挿入不可。けども後ろの穴なら頑張れば何とか。

 こちらはアウラが激しく拒否して当面保留。

 シャルティアはお兄ちゃんからもらった特製ローションを見せつけ、驚異のぬるぬるにアウラの心は揺れている。

 時間の問題かも知れない。

 

 シャルティアのプランは順調である。

 

 アウラを教育することによって、アウラはお兄ちゃんを悦ばせることが出来る。

 お兄ちゃんをぴゅっぴゅさせてアウラはとても嬉しい。

 アウラwin!

 

 お兄ちゃんはアウラで気持ちよくなって満足。

 シャルティアの心遣いに大感激。

 お兄ちゃんwin!

 

 シャルティアはアウラの師匠ポジションに収まり、マウントを取ることが出来る。ロリアウラは色々物足りないけどアウラに色々出来ると思うだけで大興奮なのでとても満足。その内キャンディーを舐めさせてドスケベボディにさせてからやろう。

 お兄ちゃんはシャルティアの心遣いに感動して、年増の大口ゴリラより可憐で美しくてとっても可愛くてさいこーにごいすーなシャルティア様に真の愛を捧げたくなってどうしてもと言うなら結婚の真似事くらいしてやってもいいかなぁ。

 シャルティアwin!!!

 

 これぞワンキッススリーウイナーの法則!

 

 シャルティアは絶好調だった。

 

 

 

「難しいことではありません。私はナザリック内部をよく知りませんからシャルティア様に案内していただきたいのです」

「そんなことでいいんでありんすか?」

 

 戦々恐々としていた罰ゲームも、日頃の行いが良かったようで簡単なもので済ませてくれるようだ。

 絶頂にいるシャルティアに怖いものはなにもなかった。

 

 ほっと胸をなで下ろしていたシャルティアは、ソリュシャンとルプスレギナが微妙に距離を取っていることに気付かなかった。

 

 シャルティアは知らない。

 この一週間というもの、アルベドが一度も顔を見せなかったことに。

 

 先日のお食事日にも姿を現さなかった。

 男はアルベドが来るのをずっと待っていた。

 

 一時間待つのは普通である。

 二時間待つのも問題ない。

 三時間待つと不動の姿勢でいるのが苦しくなってきたがアルベド様への忠誠心を糧に耐えた。

 四時間待つと体が固まってしまって立ち上がるのも一苦労となり、やむなくお食事部屋をうろうろと歩き出した。

 五時間待った。いらっしゃらない。不測の事態が発生したのかと心配になったが、自分ごときがアルベド様の心配などと分不相応であると弁え、最初のポーズに戻る。

 六時間待った。ソフィーの部屋に目が向く。何もない。ドアの隙間にメッセージが、と期待したがやはり何もない。

 七時間待った。お腹が空いてきた。生憎、食べるものは何もない。アルベド様のお食事部屋に自分が食べるものを持ち込めようものか。

 八時間まった。まだいらっしゃらない。以前は一日中待ちぼうけも珍しくなかった。余りに予定時刻とずれる時はお食事部屋から移動しても構わないことになっている。

 九時間まった。それでもお食事部屋に一人跪き、時折室内をうろついて待ち続けた。

 十時間まった。外はとっくに暗くなっている。前回はアルベド様の乳絞りをしたり、授乳セックスまでしたのだから悪しからず思われていると思っていたが何か不手際があったのだろうかとアルベド様にお会いしてから今日までを振り返った。

 一一時間経った。記憶の中のアルベド様はいつだって真なる美の光を放って三千世界を照らしておられる。

 一二時間経った。記憶の宮殿に引きこもっていてはアルベド様がいらした時に反応が遅れるかも知れない。現世に帰還する。

 十三時間経った。数時間前に日付が変わったことにようやく気が付いた。どうやらアルベド様はいらっしゃらないようだ。

 

 その後、ふらふらしながら屋敷の廊下を歩いて、運良くシェーダを見つけた。

 シェーダが隠し持っていたナザリック製レーションを分けてもらってお腹を膨らませ、ついでとばかりにシェーダも食べてお互いに幸せになったりもした。

 

 最近のアルベド様とは濃厚な時間を過ごしていただけに、お会い出来ない辛さは禁断症状を誘発した。

 

 シャルティアは難易度の低さに一安心しているのだが、禁断症状でやさぐれているこの男をナザリックに案内しなければならない。




前回から二四時間以内の投稿早い!
しかし早ければいいものでもない


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シャルティアによるナザリックツアー

 ソリュシャンとルプスレギナは戦慄した。ここまで来ると最早ナザリックへの叛意ではないだろうか。しかし、事の起こりはシャルティア様によるアルベド様への侮辱。叛意ではなく報復である。だとしても限度というものがあるだろう。これは軽くぶっちぎっている。

 

 ミラとジュネは恐怖に震えた。彼の御方は敬愛と尊敬の対象であるが、それはそれとしてナザリックの全ヴァンパイアブライドにとってシャルティア様はとても大切な御方である。そのシャルティア様へこのような仕打ちを平然と行うとは、純粋に恐ろしい。何が起こっているかシャルティア様が知ったときの反応も恐ろしい。

 

 シクススとシェーダは怒りにわなないた。若旦那様はアルベド様を美の体現にして美を司る女神であると崇拝しているので口には出さないが、シャルティア様だってとても可憐でとてもお綺麗でとてもお美しい方だと思っている。だと言うのに、シャルティア様の可憐な美しさを微笑すら浮かべてこうも汚すとは。

 

 

 

「シャルティア様を私の従者然と連れ回すわけには参りません。このように変装すればどなたもシャルティア様だと気付かないことでしょう」

「……おかしくありんせんか?」

 

 シャルティアは、くるりと回ってスカートをなびかせた。

 

 双子忍者(本当は三つ子だが)の調教競争で負けたペナルティとして、シャルティアはこの男の命令に一日従わなければならなくなった。

 どんな命令をされるのかとビクビクしていたら、ナザリックを案内して欲しいと言う。但し、一つだけ条件があった。変装しろと言うのだ。

 シャルティアはとっても偉い階層守護者だ。相手が守護者統括の相談役だとしても、人間の男に付き従うのはいささか体裁が悪い。ならばシャルティアでなければいい。正体を隠すのは筋が通っている。

 シャルティアはあれやこれやと衣服を渡され、着替えを終えたら輝く銀髪で正体がバレると言うのでダークブラウンのかつらをかぶり、美しく透き通った肌も化粧で隠され眼鏡を掛けて、身長を変えるためにシークレットブーツを履く。駄目押しとばかりに頬の内側に詰め物をさせて変装完了。

 

 一同が集っているのは帝都のお屋敷の書斎である。

 室内に鏡はなかった。夜であることから全ての窓はカーテンが引かれている。姿を映し見れるものが一つもない。

 衣服や装飾品はどれも真っ当なものだ。しかし、それらを合わせるとどうなるのかよくわからない。

 変装なので常のシャルティアから遠ければ遠いほど良いわけだが、コーディネートが気になるのは女の性。

 

「とても良くお似合いですよ」

 

 ソリュシャン達がぎょっとして男を見た。

 どうしてあんなにも自然な笑顔で真摯な声で、真っ赤な嘘が吐けるのだろう。まさか本当に似合っていると思っているわけではないと思いたいがこの男の感覚は本当によくわからない時がある。

 

「折角ですから偽名を考えましょう。シャルティア様が一日だけ召還したインスタントなヴァンパイアガールと言う設定で、略してイバルにしましょう。名前はイバルですが、今日は威張ってはいけませんよ」

「イバル、でありんすか。変な名前でありんす。まあ、半日くらいならよしとしんしょう」

 

 ソリュシャン達は呆れて男を見た。

 レイナースからチラと聞いた友人の子の名付けに、健やかに育つことを願ってゲンキもしくはゲンキ子と挙げたとか。ネーミングセンスがマイナスに振れている。弟子のヴァンパイアブライドにジュヌヴィエーヴの名を与えたのが奇跡に思える。長いので略してジュネとなったわけだが、たまにジュヌヴィエーヴと呼んでいるようだ。

 

「ソリュシャンはどう思いんすか?」

 

 水を向けられたソリュシャンは硬直した。

 ここで言葉を間違うと、この場の全員が惨殺されかねない。

 

「見事な変装でございます。これならば何方もシャルティア様であると気付かないのではないでしょうか」

「ほむほむ。ルプーは?」

「はい。相談役殿の申します通り大変よくお似あぐぇっ!?」

「ほえ?」

 

 ルプスレギナの横っ腹に目にも止まらぬスピードでソリュシャンのスライムエクスパンドズームパンチが刺さった。常人が貰えば貫通しかねない威力だ。割と高レベルなルプスレギナでもかなり痛かったらしい。よろめいて刺さった場所を押さえた。

 

(ルプーのバカ! シャルティア様がご自分の格好を知ったら似合ってるなんて言ったルプーをどうすると思ってるのよ!)

(そ、そうっすね。ソーちゃんありがとっす。すっごく痛かったっすけど)

 

「どうしんした?」

「申し訳ございません。少々咽せてしまいました。そのように変装するなら相談役殿の従者として通用すると思われます」

 

 さて、と男が手を打ち鳴らして注目を集めた。

 

「シャルティア様はここまでにしましょう。ここからはインスタントヴァンパイアガールのイバル。わかったかな?」

「わかりんした」

「それじゃ駄目です。今の貴女はインスタントヴァンパイアガールのイバルです。威張ってはいけないイバルです。よろしいですか?」

「わかりん……、わかりました」

「よろしい。それでは早速移動しましょう。よろしくお願いしますよ」

 

 男は、ポンとイバルことシャルティアの背を叩く。

 ソリュシャン達は目を剥いた。

 非道だ。余りにも非道すぎる。人間というものは誰かを貶めるためにここまでするものなのか。それともこの男が特別なのか。アルベド様のお気に入りでデミウルゴス様も一目置いているだけはある。間違いなくカルマ下限の極悪。

 これは止めるべきではないだろうか。

 逡巡している間にゲートの魔法が発動し、二人は暗い扉の向こうに消えてしまった。

 

 書斎には何とも言えない空気が漂った。

 

「これは?」

 

 ソリュシャンが机の上に一枚の紙切れを見つけ、居心地の悪い沈黙が破られた。

 表には「みんなへ」と下手な字で書いてある。

 ルプスレギナもソリュシャンの手元を覗く。ソリュシャンは紙切れを裏返した。

 二人の沈黙が深くなった。わなわなプルプルと震え始めた。

 

「何と書いてあったのでしょうか?」

 

 プレアデスの手元を覗き込む無礼者はこの場にいない。代表してシクススが問いかける。

 ソリュシャンが皆に見えるよう紙切れを翳す。しかし、字が下手すぎて誰も読めない。

 

「何かあったらおまえ達も巻き添えだ、って書いてあるんすよ」

 

 ルプスレギナの顔はひきつっていた。

 

 シャルティア様の変装と言う名の仮装は若旦那様が主導したものであるが、この場の全員が止めなかった。

 見ていながら見過ごしたのだから全員同罪理論である。

 

「お兄様の…………………………バカっ!!」

 

 ソリュシャンはお兄様からのメッセージを破りたくて仕方ないが、こんなものでも取っておけば証拠になるかも知れない。それでシャルティア様が納得するかどうかは別問題だ。

 もしも同罪と見なされたら、殺されはしないと思いたいがシャルティア様である。過度な期待は禁物だ。死を免れたにせよ、気性の荒いシャルティア様をあれほどに侮辱してしまったのだから相当な厳罰が下ると思われる。

 シクススとシェーダも険しい顔をする。

 平常運転なのは二人のヴァンパイアブライド。

 

「私見になりますがよろしいでしょうか? よろしくなくても共有すべき事柄だと思われますのでお話いたします」

 

 じゃあさっさと話せと、プレアデスの二人は睨みつけた。

 

「マイスターは独立独歩の気質が強く、何事も自己完結したがるきらいがあります。先日の愛についての話がまさにその通りでした。ご自分で結論を出したら私どもを気に掛けず、次の事柄に興味を移しておいででした。そのマイスターが事あらば私たちを巻き込むと仰るのはそれだけ私たちに気を許している証拠であると推測できます」

「それは違います。ご主人様は完璧です。ご主人様が立てた計画が崩れるわけがありません。失敗するわけがないのにさも失敗するかのようなメッセージを残したのは、私たちをからかいたかったからです」

「ミラはマイスターを過大視しているようですね。マイスターも時には間違うことがあるはずです」

「ジュネはご主人様を知らないようですね。ご主人様にとってシャルティア様を…………、失言でございました」

 

 シャルティア様を言いくるめて誤魔化すくらい簡単なこと、と続けようとしたのだが流石に不遜が過ぎる。それでも言わんとすることは全員に伝わった。

 安堵したような、やはり心配なような。心配なのは若旦那様ではなくて、間違いなく笑い物にされるであろうシャルティア様である。

 若旦那様は何が起ころうと自業自得。たとえ死んでも生き返らせてもらえることだろう。

 

「傍にいるのが長ければ良いと言うものではありません」

「私が言ってるのは長さより深さです。下手にわかった気でいると判断を誤ります」

「己の裁量如き承知しています。過ちは取り返せばいいんです」

「そもそも過ちを犯すなと言っています」

 

 お兄様への理解度は新入りのヴァンパイアブライドたちに劣るのか。ソリュシャンたちがもにゃっている間に、当の二人はつまらない論戦を繰り広げていた。

 

「……それならベッドで勝敗をつけますか?」

「……いいでしょう。受けて立ちます」

「いいんですか? 私は先日、マイスターから両穴責めを伝授していただいたのです。」

「私がご主人様にされていないとでも?」

「…………」

「…………」

「「失礼いたします」」

 

 そういうことになったようだ。

 ミラとジュネが退室する。

 

 シャルティア様と若旦那様の見送りは波乱の予感を残して終了した。

 事態がどう転ぼうと、この場の誰の手にも余る。後は野となれ山となれであった。

 

 

 

▼ ▼

 

 

 

 ナザリックツアーは地下大墳墓ナザリックの表層部から始まる。

 以前は内部への入り口と詰め所を兼ねたログハウスにプレアデスの長女ユリ・アルファが詰めていたものだが、今はエ・ランテルにいるらしい。

 本来なら、プレアデスたちが交代で詰めることになっていた。現在は、長女のユリはエ・ランテル。次女のルプスレギナは帝国。三女のソリュシャンも帝国。同じく三女のナーベラルはモモン様のお供でエ・ランテル。五女か六女か争いをしているシズとエントマはどちらも聖王国で活躍中。

 代わりに一般メイドが交代で詰めることになっているようだ。ただし、彼女たちに戦闘能力は皆無。万が一にも悪意ある存在が現れたときの為に各種トラップやら身を潜めたアンデッドやらがいっぱいいる、らしい。内部に知らせるアイテムだって勿論常備している。

 仮面を着けてないデスナイトが不寝番をしているので滅多なことが起こっても何の心配もないと思われる。

 

 ログハウスの内部にある転移の扉を潜ってナザリックの内部に移動。

 扉を潜る際、後ろで風船から空気が抜けるような音が響き、シャルティアは怪訝に振り向こうとしたのだが、答えを得る事叶わず周囲の景色は荘厳なナザリック第九階層ロイヤルスイートのものとなっていた。

 

 ナザリックを訪問したのならば、何を差し置いてもアルベド様にご挨拶しなければならない。

 先日のお食事日では帝都のお屋敷でお会いすることが出来なかったが、シャルティア様にナザリックを案内してもらう際は挨拶に伺うと前もって伝えてある。

 イバルとなったシャルティアに威張るんじゃないぞと言い含めてから、アルベド様の執務室に案内して貰った。

 

「執務中よ。出て行きなさい」

 

 広い執務室では多数のお骨の方達が慌ただしく立ち回り、アルベド様は大きな机に向かって山と積まれた書類を読み進めつつペンを走らせていた。

 

 来訪の挨拶を告げたところ、言い終わる前に出て行けとの言葉。

 時間はとれないと聞いていたので落胆はないかと言ったら物凄くあった。

 せめてお顔を上げていただきたいと思うのだが、執務中で大変お忙しいアルベド様へ斯様な我が儘を言えようものか。

 

「ご多忙なところを失礼いたしました」

 

 深く頭を下げて退室を伝える。

 踵を返そうとしたところで、声が掛かった。

 

「もうじきアインズ様が聖王国からご帰還されるわ。留め置いておきなさい」

「はっ、かしこまりました!」

 

 アインズ様が聖王国にて魔皇ヤルダバオトを打ち倒し、お戻りになられる。

 魔導国の宰相でありナザリックの守護者統括でもあられるアルベド様が多忙を極めるのは当然である。アインズ様をお迎えする準備に、聖王国と結ぶ条約やら荒れた国土を復興させるための支援やらで、すべきことは幾らでもあるだろう。

 先日のお食事日にアルベド様がいらっしゃらなかったのはお忙しかったからなのだ。

 この事を知れただけでもナザリックに来た甲斐があった。

 シャルティアへの罰ゲームはもうこれでいいかなと思わなくもなかったが折角始めたのだから完遂するべきだろう。

 

 アルベドの言葉に跪いて返事をした男が、再度退室の挨拶を述べる。

 男がいよいよ退室する段になって、アルベドはようやく視線を上げた。

 思うところがあって男の顔は見ないようにしていたのだが、すぐそこにいるのだ。自制しきれなかった。

 愛しい男の表情は、自身への敬愛と尊敬と、巧妙に隠しているが愛欲もある。おそらくはそれ以外も。

 下から上へ向ける忠誠以外に、実に多くの物が含まれているのを見て取った。

 

 アルベドはエルダーリッチたちに気取られぬ程度に唇をほころばせ、男の隣を見やって目を細めた。

 

「それは何?」

 

 男の隣には、ひょろ長いアンバランスな女らしきものが立っていた。スカートを穿いているので多分女である。

 女だとしたら壊滅的だ。

 腰だけは細いのに、上半身と下半身は丸く膨らんで、まるで膨らませた風船を捻ったようだ。

 体型がアンバランスなら服装はもっと酷い。色とりどりと言えば聞こえは良い。実際に目にすると、幾つもの原色が散らばって統一感がなく、実に見窄らしくみっともない。物だけは上質に見えるので、頑張って高価な衣服を身に着ければ上等な存在になれると勘違いしている典型である。

 顔は、酷い。

 これは冗談ではなかろうか。それとも、澄ました顔をしているのを見ると本気なのか。

 白粉がゴテゴテと、ヘラで塗りたくったようにコッテリと厚く盛られ、その上に施された化粧は道化の方がまだしもまともだ。口紅は明らかに唇からはみ出て、ぷくりと膨らんだ頬には頬紅がまん丸に塗ってある。色の選択もかなり酷い。どうして原色を使うのか、もっと自然な色はなかったのか。服装と合っていると言えば合っているかも知れない。強調するのは滑稽さだが。

 目も凄い。顔の半分はある大きな眼鏡は瓶底のように厚い。どのようなレンズを使っている物か、目がレンズと同じ大きさまで拡大されて見える。顔の半分が目になっているのだ。目の色は両方とも赤いので、吸血鬼らしいのがなんとかわかる。

 体が壊滅的で顔が酷ければ、髪は汚かった。

 色も艶も悪い焦げ茶色。ちらほらと付着している白い物は、まさかふけなのだろうか。そうは思いたくないがそうとしか思えない。不潔である。自身の執務室はおろか、ナザリックに立ち入っていい存在ではない。

 

「ナザリックを案内していただくために、シャルティア様が召還したインスタントヴァンパイアガールのイバルです。安易な名前ですが、一日経てば消滅するらしいのでご容赦ください」

「……シャルティアが召還?」

 

 シャルティアは吸血鬼だ。吸血すれば眷属を増やせる。そのようにして手に入れたシモベだとしても、こんな薄汚い女をあのシャルティアが吸血するだろうか。一日で消滅するというのも疑問である。

 気配はナザリックのシモベのものなので、シャルティアに由来する存在と言うのは確かなのだろう。いや、由来すると言うよりも、むしろこれは。

 

「イバルと言う名ですが威張らないように言い聞かせております」

「…………そう。一日で消滅するのならいいでしょう。何かあったらシャルティアに責任を取らせるわ。行きなさい」

「はっ、失礼いたします」

 

 今度こそ男とイバルは踵を返した。

 

「う゛っ!」

 

 イバルが背を見せた瞬間、アルベドは咽せた。

 二人が怪訝な顔で振り返る。手を振って追い払った。

 

「く……く……、くぅうぅううううぅ!! ぷぷっ……!」

 

 アルベドは、堪えきれなかった。二人の姿が扉の向こうに消えるなり吹き出して、大きな声で笑い始めた。

 

 お骨の方々は困惑している。

 笑っているアルベド様にも、仮装しているシャルティア様にも。

 

 イバルの背には張り紙があったのだ。

 こう書かれていた。

 

『シャルティア様変装中。気づかない振りをしてください』

 

 ナザリックにて、シャルティアの権威を地に落とそうとする男の卑劣な罠であった。

 アルベド様を侮辱したのだから、この程度の報いはあって然るべき。

 

 唯一の誤算は、この程度でシャルティアの権威は揺るがないという事である。

 見方を変えれば、既にそこまで落ちてると言えなくもなかった。

 




そろそろアルベド分が足りなくなってきたのでなんとか補充せねばと思います


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ナザリックツアー

ちょいちょい誤字報告をいただきます
それは表現の範囲と言うことでお一つと言うのからこんなん読み返しても絶対気付かんというものまで
ありがとうございます(ペコリ


 ナザリックツアーは順調である!

 

 とりあえずナザリック第九階層ロイヤルスイートは物凄く広い。

 アルベド様の執務室を始めとして、会議室となる円卓の間などのナザリックの運営に必要不可欠な機関。二度連れ込まれた衣装部屋の他にレストランやショットバーやスパリゾートにシアターに劇場に教室にクイズルームとかまで来ると訳が分からないが幾つもの娯楽施設。アルベド様からメイドたちの居室に、今やお隠れになった至高の御方々の私室。

 兎にも角にも物凄く広い。栄華の限りを尽くしたコンパクトシティーと言った様相である。

 

 それらの施設を一つ一つ見ていくのは時間的に不可能なので、通りを歩きながら簡単に説明してもらう。

 レストランだけには寄らせてもらった。夕食は済ませているが、美味しい物は別腹である。

 オーダーしたのは骨髄のスープ。料理長の話によると、ドラゴンの骨からとったブイヨンに、コクを足すために骨髄を用いているとか。バゲットも供された。割と強めの歯ごたえなのに中はもっちりしっとり。そのまま食べてよし、スープに浸して食べてよし。どちらもシンプルに見える料理だからこそ、素材の良さと調理の腕が光る絶品である。

 そしてついと、聞きたかった事を聞くことができた。

 

「オーガの骨髄を使用した料理は作ったことがありません。作る予定もありません。どうしてそんなものを食べたがるのか理解出来ません。他に美味しく食べられる物が無数にあります」

「他に食べる物がなかったら食べるしかないのではありませんか?」

「そんな事はあり得ません。様々な食材を扱ってきた経験から断言します。絶対に美味しくありません。率直に言えば間違いなく不味いです」

 

 けんもほろろであった。

 たまたま居合わせたメイドたちがくすくすと笑っている。そしてイバルが背を見せるとぶふっと吹き出す。

 どうして笑っているのか不思議な顔をするイバルに、威張るんじゃないぞと注意してから移動する。

 

 

 

 

 

 

 第九階層からとてもとても広い階段を下ると第十階層。

 一度だけ入ったことがある玉座の間や、パンドラズ・アクター様の守護領域である宝物殿がある。後者については、案内することは愚か移動方法すら秘密であるとのこと。

 どちらにもさして興味がある男ではなく、第十階層の目当ては蔵書数無限の最古図書館だ。

 前回借りた本は、司書長のティトゥス様から返却期限内の返却を求められたため、遊びに来たアウラ様に持って行ってもらった。

 とりあえず飛ばし読みしてしまったGMDH(グレートモンドダウンヒル)の21巻をパラパラと立ち読み。

 42巻から61巻まで借りて行きたいところをぐっと我慢してきりが良い50巻までにする。残りは数学読本を数冊。最近は円周率の計算に凝っているのだ。

 

 円周率は真円の円周を直径で割った数値である。これだけ聞くと円が関わる時しか現れない数値に思えるが、何故か様々な計算方法がある。幾つかの計算式を編み出して、それぞれ50桁以上を算出してみた。

 以前借りた数学事典には20桁までしか載っておらず、計算結果を確かめたかった。自分が編み出した数式以外の計算方法にも興味がある。

 集合論も気になってる。自分の頭の中にだけあると思っていた考え方が、偉大な先人の手によって確たる理論になっているのだ。新たな知見を得たくもあり、己の考えは間違っていなかったのだと自信にも繫がることだろう。

 

 貸し出し限度数までの残りは、近くの書架から適当に抜き出した。

 ずっしりと重い本をイバルに持たせ、貸し出しカウンターへ。ここでティトゥス様から少々お小言を頂いてしまった。

 なお、ティトゥス様はお骨であるため、イバルの姿を見てもイバルの背中を見ても、表情は変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 借りた本は帝都へ帰る際に受け取ることにして、ナザリックツアー再開である。

 

「……上にも行くんですか?」

「ええ、勿論。シャルティア様の守護階層まで案内してもらうつもりです」

 

 アルベド様のお顔を拝見できた。

 オーガの骨髄料理については残念だった。

 最古図書館で本を借りることができた。

 アルベド様の次に重要なのは、仮装してるシャルティア様を多数の目に触れさせることであって、これについてはナザリックにて人口密度が特に高い第九・十階層を練り歩くことで目的を達した。

 後はもうおまけである。折角だから、と言う奴だ。折角なので、時間が許すなら前回のリベンジと思わなくもない。

 

「第八階層は原則立ち入り禁止です」

 

 第九階層の高い天井を透かし見る。赤と白の装束を着た少女を幻視した。

 

「私が立ち入りを許された場所だけで構わないよ」

 

 

 

 

 

 

 と言うわけで第七階層へ。

 第七階層はデミウルゴス様の守護階層「溶岩」である。名前に相応しい灼熱の地だ。ペストーニャ様から頂いたブレスレットがなければ、即死はしないだろうが十分と生きないだろう。

 生憎、デミウルゴス様は聖王国へ出張中。アインズ様とのハードダンスがいよいよ佳境とのことで、配下の悪魔たちも相当数が出張中。

 顔見知りとなった悪魔が数名いたので、威張らないイバルは今日だけの命と紹介する。

 

 アルベド様の相談役に抜擢されたのは身に余る光栄であり全身全霊全命を掛けて尽くす所存であるがデミウルゴス様のお側に仕えるのも憧れる、などと軽い雑談。

 悪魔たちがちょっと悪そうに笑う。今は威張らないイバルに扮したシャルティア様がいるので不可能だが、機会があったら試してやろうと画策。彼ら彼女らにとっては期待はずれなことに、グロ耐性抜群の男である。主に自分の体を犠牲にして鍛えられた。その上、冷凍保存された王国民を見て「衛生的」と感心する倫理観を持っている。

 再会を約束してさらに上層へ。

 

 

 

 

 

 

 第六階層はアウラ様とマーレ様の守護階層「ジャングル」。以前、マーレ様に連れてきてもらった事があった。

 ナザリックにて一番広い敷地面積を持つのは伊達ではない。円形闘技場にリザードマン達の村やドライアドによる果樹園など、見所はいっぱいある。それらは全部パスして、アウラ様とマーレ様の住居であるツリーハウスへ。

 

「あっ、お兄ちゃん!」

「マーレ様!」

 

 マーレが男に飛びつき、抱き上げられたと思ったら上に放り投げられ、男の肩に着地と言うか着股。肩車完成である。マーレ君とは何度も合体しているのだ!

 

「二人とも部屋の中で肩車しない!」

「「……はい」」

 

 お姉ちゃんに怒られてしまった。

 

 ナザリックに訪問したのは夜であったため、アウラ様とマーレ様はお仕事から戻っていた。勿論、皆がナザリックに戻っているのを見越して昼間ではなく夜を選んだ。

 

「こっちは私を案内するためにシャルティア様が召喚したインスタントヴァンパイアガールのイバルです。威張っちゃ駄目だぞ」

「はい、威張りません。イバルです」

「シャルティアが召喚?」

 

 直立不動のイバルを、如何にも胡散臭いと言いたげなアウラが前から後ろからぐるぐる回って見定めようとして、激しく咽せた。

 

「まっ、まっまっ、まぁいいんじゃない? 威張らないイバルね。まあね」

 

 アウラの声は裏返っていた。

 純粋無垢なマーレ君は、シャルティアさんはシモベを召喚出来るんだと感心している。純粋である。

 

「ちょっといい? 時間とらせないから」

 

 アウラが男だけを別室に連れ込む。

 バタンと音を立ててドアを閉め、大丈夫だろうけど一応施錠。

 

「最近ちょっと練習してるんだ」

「練習ですか? 何の練習でしょう?」

「えへへ……、口とか舌の使い方。ちょっと上手になってきたと思うよ?」

 

 大人びていてもまだまだ子供のアウラちゃん。

 こっそり練習して巧くなって驚かせたくもあるが、練習を頑張っているのを褒めてももらいたい。乙女心と子供心のせめぎ合いは後者に軍配が上がった。

 

「そんな練習は必要ありません」

「…………なんで?」

 

 褒めてもらえると思ったのに、練習の必要性すら否定。

 聞き返すのに数秒の間があった。

 

「アウラ様にそのようなことを求めておりませんから」

「……へえ?」

 

 アウラの目が危険に細まり、声からは温度が消えた。

 あなたの為に頑張ってるのに、そんな物は必要ない、求めてすらいない。つまりはそう言うこと。

 男への情が裏返る。

 

 アルベドの相談役なので殺すことは出来ない。しかしもう、顔も見たくない。

 部屋から、ツリーハウスから、第六階層から叩き出そうとして、

 

「お気持ちは大変嬉しく。ですが、私は自分が悦ぶよりもアウラ様に悦んで頂きたいのです」

「…………………………うん」

 

 上げて落として、最初より高いところに引っ張り上げられた気分である。

 アウラの頬が染まる。男を直視できず、目が揺れている。

 

「練習したいと仰るなら私として頂けませんか? こう言っては不遜かも知れませんが、育てる喜びと言う物もあるのです。作物を栽培していると言うドライアド達も共感してくれると思いますよ」

 

 開発して自分色に染める喜びとも言う。

 

「それと、これは以前シャルティア様のお付きの方々にも申し上げたことなのですが、一番大切なのは技術よりも気持ちです。尽くす相手のことを思い、どうすれば悦んで頂けるか考えることが重要なのです。アウラ様のお気持ちは大変嬉しく思いますよ」

「……べ、べつに……そんなんじゃないんだけど……。あっ!」

「折角練習したというのなら、少しだけ味あわせていただけませんか?」

「…………………………いいけど。んっ……あむぅ……」

 

 男の腕がアウラの小さな体を抱き寄せる。

 身長差が大きいので立ったままでは出来ない。手近で座れる物はアウラのベッド。

 ベッドに座った男の膝をアウラが跨ぎ、それでも少し距離があるので腰を浮かせた。

 アウラは男の頬を両手で包む。男の手はアウラの背中と小さな尻に。夜が深くなっているのでアウラもマーレもパジャマ姿だ。厚いズボン越しではわからなかったろうが、パジャマの薄い生地だと下に穿いてる下着の線を感じ取れた。

 アウラの舌に応えながら、薄い尻をさわさわと撫でる。

 

「んぅっ♡ んっ……ん…………」

 

 背中に当てた手はパジャマの内側へ入り込んで背筋を撫でた。ぷにぷにと柔らかい幼い肉は好い感触で、子供特有の高い体温も心地よい。

 

 二人が部屋から出てきたのはそれから五分後。

 アウラは赤くなった顔を隠すために浴室へ駆け込み、冷たい水で顔を洗った。

 長時間こもってると怪しまれるので下着は換えられない。触られたのは尻と背中だけだったのに、キスだけで好くなってしまっていた。

 

「このような時間に失礼いたしました。機会がありましたらまた伺いたいと思います」

「僕たちがいる時ならいつでもいいですよ。お姉ちゃんもいいよね?」

「まあ、いいけど。今度は明るい時間にしてよ。見せたいところとかあるし」

「かしこまりました」

 

 エルフメイドたちに睨まれながらツリーハウスを後にした。

 

「アウラと……」

「アウラ様。今はイバルなんだから威張っちゃ駄目だぞ」

「アウラ様とどんな話をしたんですか?」

「シャルティア様のお付きにしたのと同じ話だよ」

「ふーん」

 

 アウラはシャルティアとの訓練の中止を決断。

 シャルティアは大人アウラとのレズックスの機会が失われたことを、今はまだ知らないでいる。

 

 

 

 

 

 

「ドウイウ了見ダ貴様アァッッッ!!」

「先の展開がどうしても気になってしまったのです! ドラゴニオの清々しいまでの悪逆非道、精妙にして無敵のラウンドムーンキリングテック。今度は何万人斬り殺すのか先の読めぬ息も吐かせぬ怒濤の展開。だからこそコキュートス様も魅了されたのではありませんか?」

「グギギ……、相変ワラズ口ガ上手イ男ダ。シカァシ! 先ノ展開ヲ口ニシタラ絶対許サヌ!」

「はっ、かしこまりました!」

 

 コキュートスもネタバレ否定派であった。

 

 第五階層はコキュートスの守護階層「氷河」である。例に漏れず氷河も広い。散策するだけで楽しいだろうが、一直線にコキュートスの元へ向かった。先ほど訪れた最古図書館にて、ティトゥスから「連続小説を飛ばし読みしたことをコキュートス様が気に掛けておられた」と伝えられていたのだ。

 コキュートスは余程気に障っていたようで、男の顔を見るなり大いに吼えた。

 しかしそこは同好の士。わかってもらえたようである。

 

「アインズ様ガ開眼為サレタト云ウラウンドムーンキリングテックヲ越エル剣術ノ秘技。貴様ハ何カ知ッテイルカ?」

 

 男の顔が、ふふんと得意げになった。

 

「先だって帝都にご訪問なさった時に少しだけ開示していただきました。アインズ様はモモン様として振るわれるブレイドテックにモモンズブレイドアーツの名を与えるそうです」

「オ、オ、オ! モモンズブレイドアーツ……、何ト格調高イ響キデアルコトカ! ドノヨウナブレイドテックナノダ?」

「それは私の口からはお話しできません。アインズ様はもうじき聖王国からご帰還為されると聞き及んでおります。アインズ様ご自身からお聞きになるべきでしょう」

「グヌヌ………………! 少シクライ良イデハナイカ」

「そう言うわけにも参りません」

「ソコヲ何トカ!」

「アインズ様からお見せ頂いた方が感動も大きいかと」

「グウウウ! 確カニ…………」

 

 真面目なカタナテックの話であっても、知らない者が聞けば単なるオタク談義と変わらない。

 威張らないイバルとコキュートスの親衛隊の如き雪女郎たちを置き去りにしてしばし話し込み、一段落ついたところでナザリックを訪問した目的を話す。メインは威張らないイバルの紹介だ。

 

「辛イ事ガアルカモ知レヌ。シカシ、イツカ良イ事モアロウ」

「?」

 

 コキュートスはイバルの肩に優しく手を置いてしみじみと語った。

 ヴァーミンロードの凶相にも関わらず、コキュートスはナザリック内で相当に善良なのである。

 

 

 

 

 

 

 第四階層は、いつぞやシャルティアの元から逃げるときにマーレ君に手を引かれて訪れたことがあった。

 「地底湖」である。名が示す通りに大きな暗い地底湖が横たわっている。とても静かでデートスポットに最適だろうが、多分おそらく見えないところにモンスターが配置されていると思われた。

 

「地底湖にはガルガンチュアが沈めてあります」

 

 威張らないイバルの説明によると、とても大きなゴーレムであるらしい。

 ゴーレムと来ればお城を守るものだが、このゴーレムはお城を攻めるための物だとか。

 ガルガンチュアは階層守護者であるらしいのだが、基本的にずっと地底湖に沈めたままであるようだ。

 

 

 

 

 

 

 そしていよいよナザリック上層部、シャルティアの守護階層である「墳墓」にまでやってきた。

 第四階層から第三階層に上がると静謐な地下聖堂に出る。外にはボロボロの吊り橋があって、これを渡り終えればシャルティアの住居である屍蝋玄室に到着する。

 男はポンとイバルの背を叩いて先を促すように見せかけて貼り紙を回収。くしゃくしゃに小さく丸めて口の中に放り込んだ。証拠隠滅である。

 

「シャッ……」

「こちらはシャルティア様が召喚したインスタントヴァンパイアガールのイバルです。名前はイバルですが威張りません。今日は私にナザリック内を案内してくれています。あと数時間で消滅してしまうそうですが、それまではよろしくお願いしますね」

「そ、うですか……。わかりました」

 

 さすがにシャルティア直属のシモベであるヴァンパイアブライドたちは一目でシャルティアの仮装を見抜いた。

 

「歩き通しで疲れました。休ませてもらえませんか? イバルも休みたいだろう。威張らないように答えるんだぞ」

「はい、休みたいです」

 

 シャルティアの言葉ならヴァンパイアブライドたちは拒否できない。

 とは言ってもシャルティアの私室を使わせるわけにはいかない。シャルティアは変装しているつもりらしいのだ。

 威張らないイバルの反応を伺いながら応接間はどうかと提案した。

 

 階層守護者であるシャルティアが賓客を迎える応接間はとっても豪華。

 豪奢なソファの向かいに肘掛け付きの椅子を移動させ、威張らないイバルを座らせる。

 男はジャケットから赤い紐を取り出し、軽く振ればチリンと涼やかな音。鈴付きの紐をイバルの両手首に結び付けた。

 

「イバルはもうすぐ消滅してしまう。これが最後になるから、そこでこれから起こることを動かないで見ているように。威張るんじゃないぞ」

「はい、わかりました。威張りません」

 

 今日だけで三十回は威張るんじゃないぞと言われてきたイバルは素直だった。

 

「手が空いてるヴァンパイアブライドの皆はどれくらいいるかな? 多分交代で階層内を警邏してるのだろうから、良かったら警備シフトを教えて欲しい。全員の時間を少しずつ捻出したいんだ」

 

 イバルが頷くならヴァンパイアブライドたちに否はない。

 警備の話はシャルティアがしたかった事でもあってちょうど良かった。

 

 聞かされた警備シフトを男はパズルのように組み直し、と言ってもヴァンパイアブライドたちのほとんどはシャルティアの世話もあって屍蝋玄室内にいるようだ。あっさりと終わった話にイバルが、シャルティア様が警備についての話をしたがっていた、と話すのを男は快く了承。

 話を通したヴァンパイアブライドが部屋の外へ出て間もなく、ぞろぞろと多数のヴァンパイアブライドが中に入ってきた。顔ぶれは前回と変わらない。減ったり増えたりはしてないようだ。

 広い応接間でも47名は多すぎる。ソファーと威張らないイバルが座る椅子を取り囲むように、所狭しとヴァンパイアブライド達が整列した。

 仮装してるシャルティアに皆が目を剥き、男が軽く紹介する。

 

 シャルティアの仮装をシャルティアのシモベたちに見せつけたくて集まってもらったわけではない。

 リベンジである。

 

「俺が前回ここを訪れた時は疲れもあって不甲斐ない姿を見せてしまった。だが、今回は違う! 今回こそ最後の一人までやり抜く。これは命令でもお願いでもない。俺からの提案だから拒否したい者は元のところへ戻ってくれて構わない。イバルは威張らないように見ているだけだから気にしなくて良いよ」

「私は見てるだけ!?」

「見てるだけ。手を動かしたら鈴が鳴るからすぐにわかるぞ。わかったな?」

「わかりん……、わかりました……」

「と、言うわけだ。どうだろう?」

 

「「「「「是非お願いいたします!」」」」」

 

 47名全員が見事に声を揃えた。

 同僚と、そして勿論シャルティア様と。互いに愛し合うのは日課であるが、一度だけ堪能したこの男はやはり別格。あれは好かったと話すことも希ではない。

 肝心要なシャルティア様は何故か滑稽な仮装をして見てるだけであるらしい。多分おそらく、内心を荒れさせて睨まれる。それもまた良いスパイスと思えるくらいにヴァンパイアブライドたちは高レベルであった。シャルティアの愛妾を勤めているのは伊達ではない。シャルティアがシモベを大切に扱うようになってきたからこそ甘えられるのである。

 

「この前は一人ずつだったけど今日は三人ずつにしよう。順番はイバルの真後ろの君から時計回りに。全員の名前は知らないけど、顔と立ってる場所は覚えたから前に割り込んだりしないように。もしも順番を交代したいなら今のうちに。……今の順番でいいようだな。それじゃ早速始めよう。……来い」

「「「はい♡」」」

「うぎぎ…………」

 

 威張らないイバルの前で乱交が始まってしまった。

 

 

 

 かつて己を消耗させ尽くした苦難に自ら身を投げ入れるのは愚行に思えるが、100%以上の勝算があった。

 

 前回は、前夜にアルベド様からたっぷり絞られたのは、その後死んで復活して瀕死になって回復して瀕死になって回復して顔を吹っ飛ばされて回復したので体力万全になったが直後にシズちゃんに監禁された。

 ベッドに縛り付けられ何時間も好き勝手に弄くり回され挙げ句に「どうかシズ様のお体に射精させてください!」と惨めったらしく懇願させられたのは屈辱の記憶である。いつか復讐してやろうと思っている。

 その後は夜まで休めたわけだが、ぐっすり眠れたわけでもないので体力満タンとまでは言えなかった。

 今回は、朝方はいつも通りソリュシャンにちゅぱちゅぱされた。けどもそれから夜に備えてたっぷりお昼寝したので万全である。

 その上、ナザリック最下層から歩いてここまで来たのに、不思議なほど力が滾っている。おそらく、魔法的な加護を与えられているのではと推察した。

 

 男の想像通りである。魔法的な加護は、ロイヤルスイートのレストランでの食事で与えられた。ナザリックで供される食事には一時的ではあるが魔法的効果があるのだ。

 レストランで食べたドラゴンスープとバゲットには、体力向上・疲労軽減の効果があった。ナザリックツアーに赴くなら長時間歩くことになるだろうと察した料理長による厚意である。

 

 威張らないイバルに動くんじゃないぞときつく命令したので、シャルティア様御乱入がないのも良い。

 

 一番勝算を上げているのは、ジュネがいないことだ。

 あいつはたった一人で、48名もいるヴァンパイアブライドの平均レベルを二つも三つも上げていた。まさに異常個体。とても重宝している。しかしシャルティア様からテックの研修として派遣された身分。先日両穴責めを覚えたので、そろそろ戻ってしまうかも知れないのは惜しい限りである。

 

 

 

 広い応接間には、あっという間に淫臭が立ちこめた。

 男によがらされている最初の三人が乱れるのは当然として、今回は前回と違って動かないように命じられているのは椅子に座るイバルと言うかシャルティアだけ。

 ヴァンパイアブライドたちは繰り広げられる乱交に胸も股も熱くして、自分を慰める者がいれば隣と愛撫しあう者もいる。

 エロ衣装の如き白いドレスは胸も股も大いにはだけ、白い女たちの淫らな海と言った様相だった。

 

 三人同時なので前回より効率がいい。

 挿入している間も両手は二人をよがらせて、口はどちらかを貪っている。

 それぞれの順番が回ってくる時には自慰によって出来上がっているので、すぐに始められるのも時短に繋がる。

 それでも47名はやはり多い。時計の長針がくるくる回る。

 時間を見て、半周に一度は射精した。口に出す時があれば中に出す時も。口の時は出された女がごっくんしてしまうが、中に出した時は蜜に集る蜂のように、女たちが群がって啜っていた。

 啜られる方は腰が抜けていて、抵抗するどころではないようだった。

 

 頻繁にチリンチリンと鈴が鳴る。

 目の前で凄いことを見せられて、我慢が出来ないらしい。動くなと命じると、でもでもと反論してくる。その度に威張るんじゃないぞと叱りつける。ぐすんと涙ぐむシャルティアの前でヴァンパイアブライドに咥えさせる。

 その間にも前から後ろから豊満な乳房を押し付けられ、返礼とばかりに尻を揉んでやった。

 今日はアルベド様のお顔を拝見できたのだ。アルベド様のご加護が宿っているに違いなかった。

 

 

 

 始めたのは日付が変わる頃だった。

 前回より時間を掛けたが、日の出までまだ二時間はあるだろう。

 合計で九回も出してしまった。もしも女の体が欲しいだけだったらこんなにも頑張れない。体力と精力が保っても絶対に途中で飽きる。

 ここまで来れたのは、これが単なる乱交ではなく、男のプライドを掛けた決闘だったからだ。

 

 床の上には12名のヴァンパイアブライドが倒れている。胸や尻をあらわにして、股は小水を漏らしたかのように濡れている。

 前回、力尽きてちゃんと相手をしてやれなかった者達だ。そのため、今回は前回の分も合わせてたっぷりと愛してやったのだ。

 特に、一番最後は三人ではなく二人だったので両方に挿入してやった。とても悦ばれたようだ。他のヴァンパイアブライドたちが羨望の目をしていたのが印象に残っている。

 

「勝った……!」

 

 満身創痍ではあるが、自分の足で立てている。

 男はプライドを取り戻し、ヴァンパイアブライドたちは大いに悦んだ。

 シャルティアだけが、目に涙を溜めてギリギリと男を睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

「イバルはそろそろ消滅してしまう。俺は見送りに行ってくるよ」

 

 裸にジャケットだけを肩に引っかけて、仮装シャルティアを別室に連れ込んだ。

 濡れタオルでささっと滑稽な化粧を落とし、カツラを外してから衣装に付けてる余計な装飾品を手早くはぎ取る。

 それから分厚い面白眼鏡を外した。

 

 この眼鏡は、付けると面白い顔になるだけではない。レンズが分厚いので像が歪む。それに加えて、赤系統の光を通さないようになっていた。

 お屋敷の書斎の鏡は一つ残らず隠したが、ナザリックではそうもいかない。鏡の他にガラス窓など、姿を映す物は幾らでもある。シャルティアは吸血鬼だが、光に忌み嫌われて鏡に映らないなんて事はないのだ。

 そこをどうにか押し通すための面白眼鏡である。赤系統の光を通さないのでまん丸頬紅やはみ出た口紅は見えなくなり、全身を飾り立てた統一感のない色彩も落ち着いた色合いに還元されてしまう。

 像が歪むので自身のスタイルが面白いことになっているのもわからない。

 それでは不自由すぎて動けなくなりそうなところ、吸血鬼の超感覚は視界が多少不自由でも何の問題もなかった。

 

「イバルは消えんしたから、次はシャルティアに色々してくれるんでありんすよね?」

 

 ドレスを脱がされ下着姿になったシャルティアは、下着をぐしょぐしょにしていた。

 手を動かせないので、鑑賞中はずっと太股をもじもじさせていた。ヴァンパイアブライドたちの痴態と嬌声にあてられて、何度も浅くイってしまった。

 それで満足できるわけがない。今度こそ自分の番だ。ジャケットを羽織っただけの男の股間に、熱い視線を注ぐ。

 

「あれだけ威張らないように言ってきたイバルはいなくなりましたが、シャルティア様への一日命令権はまだ有効時間内ですよ。一日だけとは言え、今の私はシャルティア様のご主人様です。今日のシャルティア様からは、命令もお願いもされる謂われはありません」

「本当になしでありんすか!?」

「なしもありも……。さっきあれだけやったんですから立ちませんよ。申し訳ありませんが、お預けです」

「そんなぁ………………」

「私はシャワーを借りて体を清めてきます。後はヴァンパイアブライドの方達に頼みますが、いやらしいことをするのもさせるのも禁止です。シャルティア様にはもうしばらく禁欲していただきます。汗を流して着替えたらすぐに来るので、そんな事をしてたら絶対にわかりますよ」

「えぇぇぇぇえええぇぇぇえええーーっっ!! だってだってシャルティアのおまんこ濡れ濡れでありんすのにぃぃい!」

「禁止です。それとも? シャルティア様は? ご自分の言葉をそうも簡単に翻すのですか? 階層守護者のお立場なのに? アインズ様からの信頼を得ているのに?」

「ぐぎぎぎぎぎ…………………………。わかりんした……」

 

 シャルティアはがっくりと肩を落とした。

 

 

 

 男は宣言通りにシャワーを浴びて身を清める。

 体を洗うのは前回と同じくヴァンパイアブライドたちがしてくれた。全裸で、おっぱいや股に舌を使って。たっぷり出したばかりなので反応しない。それでも彼女たちに落胆はないようだ。

 唇は遠慮してるようでも、舐めて咥えたがるのは苦笑を誘われた。

 手伝ってくれたお礼に、全員へキスを送った。

 

 シャワーを終えて着替えてもシャルティアはまだお着替え中。

 メイクの残りを綺麗に拭き取って、お股もさらさらタオルで綺麗にする。お顔と御髪を整えてから下着を替える。

 ブラジャーとウエストニッパーが一体化したビスチェ。ガーターベルトは装備せず、ストッキングは太股で押さえるタイプのガーターリングを使用。

 色はドレスに合わせた紫を基調としたもので、シャルティアの美意識が光った。

 ビスチェのカップ部に胸パッドをいっぱい詰めるのも忘れない。

 

 いつもだったらお喋りに花が咲いたり着替えに注文を付けたりと賑やかなシャルティアであるが、今日はお人形のように静かだった。

 シャルティアの着替えが終わるのを見計らって、男が声を掛ける。

 

「それではシャルティア様、もうしばらくお付き合いをお願いいたします」

「……………………わかりんした」

 

 充実のナザリックツアーは終了した。

 後はもう帰るだけである。普通に帰るのならこのまま表層部に出ればいい。けども帰る前に最古図書館で本を受け取らなければならない。一旦第十階層に戻る必要がある。

 直接第十階層には移動せず、二人は第九階層に降りたった。

 

「どこに行くんでありんす?」

 

 男の足は第十階層への大階段とは反対に向かっている。そちらはメイドたちの部屋がある居住エリアだ。

 小首を傾げながらも、男の長い足に追いつこうとシャルティアはひょこひょこ追いかけていく。

 辿り着いたのはシャルティアも来たことがない居住エリアの一番隅っこ。白い大壁が聳えている。

 

「私の手を握ってください。良いと言うまで離さないように」

 

 わけがわからなくても言われた通りに手を握る。

 ずっと威張るなと言われ続けた成果が出てきたようだ。今のシャルティアにはちょっぴり素直になるバフが掛かっている。

 

 男がその場に屈み、壁を構成する煉瓦の一つに手を触れた。

 上上下下LRLRBA。

 

「これは!?」

 

 転移の光が二人を包む。

 光が消えると、シャルティアは見たことも聞いたこともない場所に移動していた。

 

 

 

 

 

 

「シャルティア様はご存知ありませんでしたか? ナザリックに事あった際に避難するセーフティルームだそうです。シズさんに教えてもらいました」

「ナザリックにこんな場所が……」

 

 シャルティアは呆然と周囲を見回した。

 飾り気皆無の白く細長い部屋には、寝るためだけ簡素なベッドと白いボックスが何十と並んでいる。

 部屋の一番奥には白い扉が見えた。

 

「向こうの扉はシャワールームとトイレに通じています。出口はありません」

「出口がない!? なっ……、それは!?」

 

 シャルティアが身構えたのは、男がジャケットのポケットから取り出した物を見たからだ。

 細工も美しい瓶に入っているのは神の血の如く赤い液体。ナザリック製ポーションである。もしも吸血鬼であるシャルティアに掛けられたらダメージ必至。幸いにもシャルティアの記憶にはないが、同じポーションを投げつけられて痛手を負った事があった。

 自分に掛けるわけがないとは思うが、出口のない密室に連れ込まれそんな物を取り出されたら、警戒してしまうのは吸血鬼の本能である。

 

 とっておきのポーションをシャルティアにぶっかけるなんて勿体ないことはしない。蓋を開けて中身を飲み干す。失った体力精力が一瞬で全快にまで回復。たっぷり出して虚脱しきった気力に活が入った。

 実を言うと、ヴァンパイアブライドたちに負けそうになったら使おうと思っていたポーションである。負けはしないだろうが念のために用意してあったのだ。

 

 ポカーンとしているシャルティアを放置して、冷蔵庫型ボックスからナザリック製レーションを二つ取り出す。

 ポリポリ齧りながら、透明なボトルに入った水を煽る。前回は気付かなかったが、ボックスの中には飲料の用意もあった。

 体力精力を回復させ、お腹もいっぱいになった。

 

「出口はなくてもご心配なく。一定時間経つと出られるようになっています。本日のシャルティア様のご予定には十分間に合いますよ」

「そうでありんすか……。私をこんなところに連れ込んでどうするつもりでありんす?」

「おわかりになりませんか?」

 

 男からグイと迫られ、シャルティアはトゥンクと来た。

 

「シャルティア様は階層守護者です。また、ヴァンパイアブライドたちの主人でもあります。彼女たちの前では出来ないこともあるでしょう?」

「それは……、でもでもあいつらの前でお兄ちゃんとセックスしたことがありんしょう?」

「それ以外の事ですよ」

 

 ヴァンパイアブライドたちの前でお兄ちゃんとセックスしたことがある。その前には首締めされて服を脱がされてもいる。

 お兄ちゃんと呼ぶのはアウラの前でもしているので、出来ないことではない。

 それ以外のこと。

 二人きりの部屋に誰も入らないよう命じてからしたことが一度だけあった。

 

「もしかして、お兄ちゃんは、シャルティアを…………苛めてくれるんでありんしょうか?」

 

 シャルティアの目が期待に潤んでくる。

 男は柔らかく笑い返した。

 

「シャルティア様をシャルティアと呼んだり、頬を張ったり罵ったりは彼女たちの前ではしない方がいいでしょう?」

「そうでありんすね! シャルティアをいっぱい苛めるのはお兄ちゃんと二人だけの秘密でありんす!」

「そうでしょう。ところが、そう上手くはいかないようです」

「どうして!?」

「さっきまでのことを思い出してください」

「さっき? …………あ」

 

 47名のヴァンパイアブライドとたっぷりしたばかり。

 ポーションで全快しても気分というものがある。

 

「あれだけすれば当分はそんな気分になれません。ですが、お預けだったシャルティア様はそうでもないでしょう?」

「お兄ちゃんにいっぱいいっぱい可愛がって欲しいでありんす!」

「だからそんな気分になれるよう、シャルティア様に頑張って欲しいんです。これがシャルティア様への一日命令権で最後の命令になります」

 

 シャルティアとしないでもいいのだが、シャルティアの頑張りによって充実したナザリックツアーを行えたのは事実。お礼をしたい。

 けどもリベンジを果たしたばかりでそんな気分には中々なれない。

 故にそれそのものを直接与えるのではなく、チャンスを与えたのだ。

 

「わかりんした!」

 

 シャルティアは真剣な表情で頷いた。

 

「お兄ちゃんがエッチな気分になってシャルティアにいっぱいハメハメしてくれるように全力を尽くしんしょう!」

 

 ペロロンチーノがシャルティアに詰め込んだエロゲーエッセンスの真価が問われようとしていた。




本年度中にあまるを終わらせようと思いましたが無理でした
それでも三月は更新頑張った、えらい!


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しゃるてぃあのちょうせん

なんでシャルティア回がこんなに続いてるんだろうと思わなくもないです


 シャルティアは同性愛者にして異性愛者である。嗜虐癖があれば被虐嗜好もある。屍体愛好者であっても生者を愛せないわけではない。

 見られるのは好きだ。こっそり覗かれるのが好ければ大勢の前で交じり合うのも好い。見てるだけなのに満更でもなかったのは意外だった。あれは放置プレイとの合わせ技か、何度か浅イきしてしまった。

 反対に見せないようにするのも乙だ。これを隠姦と呼ぶ。見つかるかも知れないスリルが高ぶらせる。

 お姫様のように恭しく愛でられるのが好ければ暴力的な陵辱も捨てがたい。愛してると囁かれながら達するのは正に至福。それなら首締めックスは涅槃の境地か。

 被虐嗜好があるのだから羞恥系シチュは大好物だ。屋外で露出して公開オナニーを命じられたら想像するだけでイってしまう。それとも屋内で剥かれてから目隠しで外に連れ出される方が好いのではないだろうか。なんと恐ろしいことだろう。考えただけで濡れる。

 リョナはするのもされるのもどちらでもイケる。痛い目に遭わされて屈服してしまうのは屈辱だ。生意気な女を痛めつけて屈服させるのは最高だ。先の調教競争でティナを教育するのはとても楽しかった。結果として負けてしまったのは残念だが、罰ゲームは余裕で完了。このシャルティアを脅かす者は存在しない!

 ここでバブみを忘れてはいけない。お兄ちゃんだけどパパになってもらうのも好いのではないだろうか。それとも自分がママになるべきか。おっぱいが足りない気がしないでもないがきっと気のせいだから問題ない。

 自身が少女体型であることからおにロリは基本。おねロリも好し。しかしおねショタはない。シャルティアに妹萌えはあっても姉萌えはないのだ。

 

 また、シャルティア自身が嗜好するわけではないが、させるのなら異種姦すなわち獣姦から蟲姦にも理解がある。

 ネクロフィリアから更に進んで禁断のカニバリズムも忌避するものではない。

 

 あらゆるシチュを創造主であるペロロンチーノから仕込まれたシャルティアは、自身の嗜好がやや(アブ)ノーマルなのを知っている。それ故なのだ。異常を知るからこそ正常を知っている。

 お兄ちゃんを誘惑してエッチな気分にさせるのは王道が正解。

 王道と言ってもセクシースタイルは適なさい。さっきまでヴァンパイアブライドたちとあれだけ交じり合っていたのだから、少々蠱惑的な仕草をしたところで響かないだろう。

 直接愛撫できれば話は早い。十回出した後のやわやわでもカチカチにする自信がある。

 しかし、それを選べるくらいなら最後の命令としてエッチな誘惑をするようになんて言わない。

 わざわざポーションを飲んで完全回復したのだ。直接攻撃は王道だが邪道なのだ。ペロロンチーノ様に創造された自負が邪道を選ばせない。

 

「NL・GL・BL・TS、NTR・BSS。タチ・ネコ・リバ……、CMNF・CFNM…………、アヘアヘトロイキ!」

 

 しゃるてぃあはふしぎなじゅもんをとなえた!

 

 あらゆるシチュエーションを想起する。

 王道とは何か。セックスに至る過程に何があるのか。ペロロンチーノ様から与えられた叡智を片端から確認し、状況に適した行動を模索する。

 

 シャルティアはけしてお馬鹿ではない。知恵の使いどころが間違ってるだけなのだ。

 何事に対してもこのように深く思索してから行動すれば、知のシャルティアと呼ばれるのはけして夢ではないだろう。しかし、それが出来ないからシャルティアなのであった。

 

「閃きんした。着替えてくるからちょっと待ちなんし」

 

 シャルティアは透明な微笑を見せてバスルームへ向かった。

 今のシャルティアにはペロロンチーノの叡智が降りている。崇高な使命に身を捧げる信仰者の趣があった。

 

 

 

 

 

 

「シャルティア様のそのような装いは初めて拝見しました。大変よくお似合いです」

 

 男の言葉はお世辞ではない。面白仮装をしてた時のように騙すためでもない。本当によく似合っていると感じた。

 しかしシャルティアはちょっとだけ頬を膨らませ、突き出した唇に人差し指を立てる。

 

「私は黙って見ていろ。そう言うことですか?」

 

 シャルティアは二度頷く。

 男から二歩離れて、始まった。

 

 大きく両腕を広げて息を吸い込み、目を瞑って両手を胸元で組んでからほうと息を吐き出す。

 顔を上げて男と視線が絡む寸前、ぱっと横を向いてしまう。

 俯きがちに上目遣いでちらちらと男の顔を伺って、何度目かに反らさず合わせた。

 両手は胸元でぎゅっと握りしめている。

 頬は紅潮して真剣な表情。目元には涙が溜まっていた。

 

「シャルティアは……、お兄ちゃんがずっと好きでありんした! シャルティアはお兄ちゃんが好きでありんすから……、お兄ちゃんにどんなことをされても、覚悟していんす……!」

 

 シャルティアの選択は、王道の清楚系美少女の告白であった。

 

 服装は漆黒のボールガウンから、純白のブラウスで首元に黒いリボンタイ、下は優雅に広がる黒のフレアスカート。頭はリボン付きヘッドドレスだったのがレースのベールになっている。こちらも純白でウェディングベールのようだ。

 黒系から白系に。あなた色に染まります、清純です、純潔です、か弱い乙女なんですアピールである。

 高慢な気配を消し去って清楚な風を装うシャルティアは、絶世の美少女であることもあって庇護欲をそそられる。それが涙を溜めながら告白して、覚悟しているとさえ言うのだから。どこまで手を出すかは別にせよ、抱きしめたくはなるだろう。

 

「…………………………それで?」

「それで!? 今のを見て聞いて出てきた言葉が『それで?』!? 一体どういう事でありんすか!?」

「いえ、それをお聞きしたいのは私ですよ。好きと言って覚悟して、それからどうやって私をその気にさせるおつもりですか?」

「なん・・・だと・・・!」

 

 シャルティアはくらりとよろめいた。

 今のはペロロンチーノ様の叡智を駆使して繰り出した技だ。耐性貫通してクリティカルの手応えだったのに、あっさりと避けられてしまった。ショックは大きかった。

 

 もしも真っ当な人生を歩んできた男なら、例えシャルティアと初対面であってもクリティカルが発生した可能性は高かった。

 しかし、生憎真っ当な人生何それな男である。

 好意がなくてもセックス出来るし、好意があってもセックスしないこともある。例えば、ネムちゃんは可愛くて好きだがセックスしたいとは思えない。

 好きだから、だから何だと言う話である。

 

「うっ…………! ゲホゲホッゲホォッッ!!」

「シャルティア様!?」

 

 その場に崩れ落ちたシャルティアが、突然激しく咳込み始めた。

 シャルティアは駆け寄ろうとする男を手で制し、掠れた声でこう言った。

 

「この病は誰にも癒せんでありんす……。シャルティアの命はあとわずか……。だから、シャルティアの最後の思い出に……、シャルティアが生きた証をお兄ちゃんに……。どうか、シャルティアを抱いてくんなましえ……」

「…………………………あっそう」

「あっそう!? あっそうってどういう事でありんすか!? シャルティアは明日死ぬんでありんすよ!? そのシャルティアが最後のお願いをしてるのに『あっそう』!? お前はシャルティアが死ぬのが可愛そうとか思わないんでありんすか!? まさか本当は死なないからとか思ってないでありんしょうね!!」

「いえ、お芝居だとちゃんとわかっています。死んでしまうのは勿論可愛そうだとは思いますよ。ですが、すぐ死ぬんでしょう? どうせすぐ死ぬなら私が払う労力は無駄になります」

「むだ・・・だと・・・!」

 

 シャルティアはくらりとよろめいた。

 この男には赤い血が流れているのだろうか。血の代わりに凍えた水銀が流れていると聞かされたら頷いてしまいそうになる。

 

 勿論、シャルティアが死んでしまうのは可愛そうだと思ってる。

 しかし、死んでしまったら自分の労力が無駄になると思ってるのも本当。その時にそんな気分だったら相手をするのは吝かではないが、今はそんな気分になるためにシャルティアが頑張ってる最中なのだ。

 そんな気分にさせてからするべき演技であった。

 

(手強い! お兄ちゃんならすぐにおちんぽギンギンになると思っていんしたのに。お兄ちゃんには人の情けがないんでありんしょうか? ……お兄ちゃんは人間でもナザリックの一員だからなくてもおかしくはありんせんね。いやいや、人の情けがなくても今のは最後の思い出にハメハメするべきでありんす! もしや着替えたのが裏目に出たか!?)

 

 清楚系、病弱系から被虐プレイには発展しがたい。シャルティアは苛められるのを捨てて、セックスを最優先したのだ。

 しかし、色よい反応は全くない。

 王道は万人に刺さるだろうが、例外もあると言うことか。

 それならそれで、やりようは幾らでもある。

 

 

 

▼ ▼

 

 

 

「べべべ別にお兄ちゃんなんて好きでもなんでもないでありんすけど? お兄ちゃんがシャルティアを好きで好きでどうしょもないって言うならエッチさせてあげてもいいんでありんすからね!」

「…………左様で」

 

「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん! お兄ちゃんがエッチしてくれないなら死んでやりんす!」

「遺書の用意はありますか? 私の名前があるかどうか確認させていただきます」

 

「……シャルティアはお兄ちゃんとエッチしたいんでありんす」

「今回のは全く芸がありませんよ? どうしたんですか?」

「今のはクーデレって言うんでありんすよ!」

 

「私は千年後の未来から現代にやってきんした。私は未来を知っているんでありんす。今日ここでお前と私がセックスしないと世界が滅びるのが確定してしまいんす」

「それなら先ずは皆にエンディングノートの作成をお願いしないといけませんね」

「……エンディングノートってなんでありんすか?」

「死ぬまでにやりたい事や死んだ後にして欲しい事を書いておくノートです。似た言葉でラストノートがありますが、こちらは香水の最後の香りのことを指します。香水は時間経過で香りが変わりますからね」

「ほえ~~」

 

「ねえねえお兄ちゃん♪ シャルティアはお兄ちゃんが大好きだからぁ……、シャルティアといっぱい気持ちいいことしよ♡」

「着替えたのが裏目に出ましたね。とても可愛らしいのですが、装いと態度がミスマッチです」

 

「はぁ……はぁ……、シャルティア、なんだかおむねが苦しくなったでありんす……。お兄ちゃんにさすってもらったら楽になるかも知れんせん」

「…………………………はあ」

「はあ!? 今ため息吐いたな!? このシャルティアがせっかくお胸を触らせてあげようと……!」

「さすってもいいんですが、その後はベッドに寝かせて看病ですか? 水枕は用意できませんから濡れタオルでご容赦ください」

「……病人に無理矢理シチュもいいでありんすねぇ」

「私がその気になれば、の話ですね」

「ぐぬぬ……!」

 

 

 

▼ ▼

 

 

 

 手強い。

 超可憐で超可愛くて超美しい上にとっても強いこのシャルティア・ブラッドフォールンが誘惑しているのに全てかわされている。

 ブラウスのボタンを外してブラ見せや、スカートをたくし上げてチラ見せしても反応はない。

 もしや不能ではあるまいかと疑いたくもなるのだが、ヴァンパイアブライド47名とやりきったのを目の当たりにしたばかり。

 まさか自分は女の魅力が乏しいのではないか。いや、それはない。絶対ない。あり得ない。己はシャルティア・ブラッドフォールンなのだ。偉大なる至高の御方ペロロンチーノ様に創造されたこの身が魅力的でないわけがない。

 あり得ない事が起こっているのだから、そこには必ず原因がある。

 不能ではない。自分には女の魅力満載。ならば勃起不可避。

 

 お兄ちゃんは途中からベッドの脇に立て掛けてあったパイプ椅子に座った。

 深く腰掛けて、膝に片肘を乗せ顎を支えている。姿勢としては前屈みだ。

 前屈みとは、勃起を隠すポーズである。

 

 お兄ちゃんは、シャルティアに芸をさせるために卑劣にもおっきしたのを隠しているのだ!

 

 シャルティアの可愛い胸に怒りが湧き出てきた。

 舐めた真似しくさってぶっ飛ばしてやる、と行きたいところだが、それをしてしまえば目的は果たせない。

 それに、おちんぽをおっきさせられないから半殺しにしたなんて余りに惨めではないか。もしも知られたら、ナザリックにおけるシャルティアの地位がアウラの下にまで沈んでしまう。

 それは、避けたい。

 しかし、胸中に湧き出る怒りはいかんともしがたい。

 

 その時、シャルティアの思考が反転した。

 

 これまでの芝居は、お兄ちゃんにエッチなことをしてもらうために誘惑するものだった。

 してもらうではなく、させるにすればいい。

 今のお兄ちゃんはシャルティアの一日ご主人様なので、階層守護者権限で命令することは出来ない。けれども、芝居に乗ってくれるかも知れない。

 加えて挑発的な命令にすれば、頭に来て苛めてくれる可能性は皆無ではない。

 かといって本当に怒らせてしまったらエッチしてくれなくなるかも知れない諸刃の剣。

 いいや、怒っているのは不正を働かれたこちらなのだ。

 正当な怒りを昇華して主張しなければならない。

 

 

 

「シャルティア様?」

 

 シャルティアは大きなため息を吐くと、気怠げな顔をしてベッドに座った。

 

「こっちを向け」

「……はい」

 

 いきなりの命令口調に面食らう。

 どうやら芝居は始まってるようだ。逆らうことなく椅子の向きを変えて、シャルティアと向き合った。

 椅子よりもベッドの方が若干高い。僅かにシャルティアを見上げる形となる。

 

「!?」

 

 シャルティアは、脚を組んでベッドに座っていた。

 ずっと被っていた純白のベールを投げ捨てると、組んだ脚を解き、男の太股に乗せた。靴を履いたまま。

 

「お前のような下賤な男に触れるだなんて……、ああ汚らしい。靴を履いていても悍ましさが伝わってくるようだわ」

「………………」

 

 男の眉間に皺が寄る。

 シャルティアは顎を上げて口角を歪に釣り上げる。唇は弧を描いても目は笑っていない。僅かに細められ、赤い目が冷たい光を放って男の姿を見下ろしている。

 

「この高貴な私に奉仕する栄誉を与えてあげる。咽び泣いて喜びなさい。お前ごときには身に余る光栄でしょう?」

「何だとこのアマ!」

「キャッ!」

 

 小気味よい破裂音が響いた。

 シャルティアは打たれた頬を押さえ、ベッドに倒れた。

 前に叩かれたときよりずっと痛い。じんじんと熱を持ってくる。体が熱くなって、すぐにでも欲しくなってしまう。しかし、我慢だ。もう少し演技を続けなければならない。

 

「なっ、何をするの!? この私にこんな事をして……」

「こんな事をすればどうなるのですか?」

「やめっ、止めなさい! いやあぁっ!」

 

 男もベッドに上がってきた。

 シャルティアはブラウスの胸元を強く掴まれ、押し倒された。

 ボタンが外れて前が開く。ブラジャーが見えてしまう。咄嗟に胸を抱いて隠そうとしたが、今度は腕を掴まれた。

 

「私をどうするつもりでありんすか!? まさか私に無理矢理おちんぽを入れるつもりでありんしょうか!?」

 

 男はちょっともにゃった。

 もうちょっと演技を頑張って欲しかった。

 

「シャルティア様のご要望通りに心ゆくまでご奉仕させていただきますよ。私のやりたいようにですがね」

「あ……あ……そんな……。イヤでありんす! あっ……、キャァッ!」

 

 今度は反対の頬を張られた。

 シャルティアの目が潤んできた。

 痛みに怯えて浮かんだ涙なら可愛げもあるが、欲情して期待に濡れているのだ。

 

「幾ら殴られてもイヤで、ひゃあッ!」

 

 イヤと言えば叩いてもらえると覚えたらしい。

 ご希望通りに数度頬を張ってから、リボンタイを外し、ブラウスの前を開いた。

 ここに来る前はゴージャスな紫色のビスチェで胸パッドもたっぷりだった。今は、フリルが可愛らしい白いブラジャーになっている。胸パッドはゼロで、慎ましい膨らみに戻っていた。

 清楚を装うのだから、巨乳よりちっぱいが相応しいと判断したのだ。

 

「ああ、シャルティアのおっぱいがぁ……」

 

 ブラウスを着せたままで、ブラジャーをずり上げる。

 ただでさえちっぱいなのに、仰向けになっているとほとんど平坦になってしまう。青ざめた白い肌で、真紅の乳首が異様に目を引く。

 

「立っていますね」

「ちっ、違うんでありんす! シャルティアの乳首がビンビンなのはお兄ちゃんに摘まんだり抓ったりして欲しいからじゃなくて、ひゃあああぁぁぁああん♡」

 

 抓られ、あられもない声を上げた。

 

「シャルティア様は……、いえ。シャルティアは俺にいっぱい苛めて欲しいんだろう?」

「ちがっ………………、わないでありんす……。シャルティアはお兄ちゃんにいっぱい苛められていっぱいセックスしたいんでありんす♡」

「よしよし、今日のシャルティアにはいっぱい世話になったからね。いっぱいしてあげるし、いっぱいしてもらおうか」

「ふにゃぁ……、お兄ちゃん大好きでありんすぅ。……きゃうん♡」

 

 シャルティアの目が愛欲に染まりきった。

 早速頬を叩いてやった。

 良い声で鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 出来るならば、もう少しシャルティアの一人芝居を観ていたかった。

 

 シャルティア様はシャルティア様だからと言われるシャルティアなのに、芝居は見応えがあった。相当な演技力である。

 面白かったし純粋に楽しかったが、それで興奮するかどうかと言えば別問題。

 しかし、途中でちら見せが始まったら下半身に血が集まり始めた。

 力尽きる寸前までセックスをしてきた直後だ。それでもポーションで体力万全となれば下半身は別の生き物と言うことか。単純な時間経過で復調したのもあるし、最後にはしてやろうとも思っていた。

 

 それなのに、途中で手が出てしまった。

 間違いなく偶然だろうが、シャルティアの仕草も言葉も表情も、在りし日のラナーとそっくりだったのだ。

 

 様々なバリエーションを含めて、あの類の事は累計で500回以上は言われてきた。

 シャルティアへしたように、「このおんなめ!」と罵って手が出たことがある。結果、食事を抜かれた。空腹で動けなくなった。

 懲りたので、次には「お前も下賤だ!」と言い返した。結果、黒粉を抜かれた。痛みで動けなくなった。

 

 あんな女に十年も監禁されていたのに、卑屈に身を縮めることなく生きてこられたのは、求めに応じてたっぷりと犯して自尊心を回復したのと、性根が善良だからだろうと自己分析した。

 自分はこんなにも善良なのにあの女はどうしてあんなにも邪悪なのか。

 王宮で蝶よ花よと大事に育てられたはずなので、きっと生まれが悪いに違いない。

 

 

 

 なお、カルマ邪悪のソリュシャンとカルマ凶悪のルプスレギナから、カルマ下限の極悪認定されている。

 間違いなくアルベドもアインズも同意する。

 善良な者は人類絶滅計画を立てたりなんかしないのだ。




三月は更新多かったのでしばらくサボってもと思わなくもなかったです


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シークレットで始まってシークレットで終わった、はず ▽シャルティア♯5

本話17k字
字数が安定しないのはさせる気さっぱりだからです


 組み伏したシャルティアがあんあんと喘ぐのを見下ろす。腰を打ちつけると、肉付きが薄いながらも白い尻が波打つ。

 とても官能的な光景だ。しかし、ちょっとした問題が発生した。

 

(飽きてきた……)

 

 であった。

 

 

 

 

 

 

 シャルティア様は少々乱暴なプレイをご希望のようなので、しゃぶらせて立たせたら前戯なしで即挿入。

 ブラウスは半脱ぎでスカートは穿かせたままの着衣セックスは、背徳的な香りがあって中々興奮した。

 具合が良くなってきたのも多分にある。

 シャルティアは小柄な少女体型なので、膣は狭くてきつきつだった。きついだけなら締め付け上々と言えるところだが、固いのだ。固いのに挟まれたら痛いものである。

 それが、以前より柔らかくなっていた。

 シャルティアとは何度もセックスしてきて、少しずつ変化の兆しを感じてはいた。あくまでも兆しであって微々たるもの。

 それなのに、前回から今回までの間に一体何が起こったのか。

 

 とても気持ちいいと褒めながら聞き出すと、手マンで奥まで突っ込むようになったからであるらしい。

 手マン用の新型ドレスグローブが完成したとかなんとか。ナザリックの世界一の技術力をそんなことに使っていいのだろうかと思わなくもないが完成してしまったのなら有効活用すべきだろう。

 シャルティアやヴァンパイアブライドたちは睡眠不要の吸血鬼であるため、毎夜夜通し新型ドレスグローブを有効活用しているらしい。鍛えられるわけである。

 

 そうして一度目は前から入れてたっぷり出してやった。

 全身をびくんびくんと震わせ、大いに満足したシャルティアは二回目をねだってきた。

 時間はまだあるし、さっきはヴァンパイアブライドたちへ九回も放っていた。自分にもそのくらいあって然るべきなのだ。

 

 二回目は後ろから。

 シャルティアの裸身はとても綺麗ではあるが、華奢な体つきはラナーを思い出してしまう。ちっぱいでこのくそアマと思っていた時代のラナーである。いくら綺麗でも、見続けるのは精神衛生によろしくない。

 後ろからの挿入もシャルティアは大層悦んだ。

 ブラウスは一度目より脱がせ、両袖を背中で絡ませた。腕を動かせない状態で後ろから挿入されるのは、暴力的に支配されて犯されている感が強くてとても好いらしい。

 シャルティアの白い尻をパチンと叩き、思うさま腰を振るのは気持ちよい。しかし、先述の通り飽きてきた。

 萎えはしないが射精の気配は遠い。

 

 精力が完全回復しても、とりあえず一度出せば十分である。

 複数回はやろうと思えば出来るのであって、しなければ治まらないものではない。

 先のヴァンパイアブライドたちと何度もしたのは、男のプライドを掛けた戦いだったからだ。

 それ以外で複数回する時は、目の前の女性が魅力的だから。シャルティアは大変魅力的ではあるが、女性ではなく少女である。ちっぱいよりおっぱいが好きな男だった。

 

 

 

 

 

 

「あっ、抜いちゃイヤでありんすぅ……。もっとおちんぽぉ、きゃん!」

 

 シャルティアの中からずるりと引き抜く。早速愚図ったので尻を叩いてやった。

 

「さっきはシャルティアの中に出したから、今度は口にしようと思うんだ」

「わかりんした! シャルティアのお口にいっぱい出してくんなまし♡」

 

 立ち上がった男の前に、シャルティアは膝立ちになった。

 顔の前に突き出された逸物はへそまで反り返って、精液とシャルティア自身の愛液が混じり合った淫液で濡れている。シャルティアはにっこりと嬉しそうな笑みを浮かべ、男の顔を見上げながら逸物をしゅっしゅと扱いた。

 目を閉じてから牙が当たらないようあーんと大きくお口を開けて口に含む。

 吸血鬼の冷たい唇に、勃起した逸物は焼けるように熱い。口と舌で熱さと逞しさを感じながら、喉の奥まで迎え入れた。

 

「んん……、れろれろ、んっんっうぷぅ……、んっんっ、ぷはぁっ。お兄ちゃんのおちんぽだーい好きでありんすよ♡ ちゅっ、ちゅっ、……んんっ♡」

 

 舌で敏感な裏筋を舐め、口をすぼめて頭を振る。

 水気が多いシャルティアはたっぷりと唾をまぶすので、卑猥な水音がじゅぽじゅぽと鳴る。小さなお口に大きな肉棒が出たり入ったりを繰り返す。

 口淫なのに甘い声を漏らすのは、しゃぶりながら弄っているから。シャルティアの手はスカートの内側に消えていた。

 

(この前はアウラの口に出したとか聞きんしたから、ここは一つ私とアウラの格の違いを見せ付けてあげりんしょう! ああ、お兄ちゃんのおちんぽおっきいでありんすぅ♡ ……こんなおっきいのアウラに咥えさせて、顎が外れるんじゃないでありんしょうか? まあ? このシャルティアなら余裕でありんすけど? ……んん? お兄ちゃんの手がシャルティアの頭に?)

 

 男の両手が、跪くシャルティアの頭をしっかりと押さえた。

 アウラと違って、シャルティアはこれから起こることをわかっている。根元を押さえていた左手もスカートの中に隠れ、体から力を抜いた。

 

 シャルティアの頬がぷくりと膨れた。

 詰め物はとっくに処分済み。頬の内側を亀頭でつつかれ膨らんでいる。

 右側をこすり左側をこすり、抜けてしまったらシャルティアから咥えなおす。

 期待に満ちた目で男を見上げる。準備万端、いつでもオッケイ。自分の口を道具のように使って欲しい。

 

「んぐぅうううぅうぅーーーーっん♡」

 

 口の中を探っていた逸物が、喉の奥まで押し入ってきた。

 シャルティアの頭は動いてない。男が腰を振っている。

 先日、シャルティアがアウラに話したイラマチオの別バージョンである。

 

(このシャルティアの口が精液を吐き出すためだけのオナホ同然に使われるなんて………………、さいっこうでありんす! シャルティアのお口はお兄ちゃんのおちんぽ専用の口まんこでありんすからもっともっと容赦なく犯してくんなましえ♡)

 

 シャルティアに遠慮なんてしない。下の口へするのと同じに激しく打ち付ける。

 突き入れると、シャルティアの顔が下腹を打つ。その度に少女の美貌は少しだけ苦しそうに歪んで、それ以上の愛欲に蕩けていく。

 シャルティアは吸血鬼なので、上も下も冷たいのが僅かな欠点。欠点を覆い隠してしまえるのが、美貌の少女を犯せることと、シャルティア自身が淫欲に墜ちていること。

 アウラは苦しさに涙を流したというのに、シャルティアは恍惚と逸物を受け入れている。口を犯されながら頬を染め、赤い目を潤ませてうっとりとこちらを見上げる。スカートの中に潜らせた手は熱心に動いているようだ。

 とりあえずの射精をするためのイラマチオなのに、こうも悦ばれれば嬉しくなる。

 シャルティアへの報復は完了した。苦しませたくてやってるわけではないのだ。

 

「んんーーーーーーっ♡」

 

 男の小さな呻きは、シャルティアのくぐもった嬌声にかき消された。

 シャルティアの頭をしっかり押さえて股間に押しつけ、口内へどぴゅどぴゅと射精した。

 

「んっ……んっ……、んっく。……ちゅるる、れろぉ……んん……」

 

 口に出されたらどうすればいいかもシャルティアはよくわかっていた。

 喉を鳴らして熱い精液を飲み干し、尿道に残ってる精液もちゅるると吸い出す。

 お掃除フェラを終えても口は離れない。子供があめ玉を舐めるように舌を動かしている。

 

「あんっ! もっと舐めてたいでありんす! ……? どこに行くんでありんすか?」

 

 不満げに頬を膨らませたシャルティアを後目に、男はベッドから飛び降りた。

 ぽけっとしているシャルティアに手を伸ばし、抱き上げる。

 シャルティアは逆らわず、男の首に腕を回した。

 

「部屋から出られるようになるまでまだ時間はありますが、そろそろ出る準備をしましょう」

「あ゛? まだ一回しかしてないんでありんすよ? 私のお仕事までまだまだ時間がありんす。それなのに、終わり……、だと?」

「シャルティア様のドレスを整えるのに時間が掛かりますから。それと、まだ終わりではありませんよ。シャルティア様にお楽しみいただける事を考えておりますから」

「……本当でありんしょうね?」

「本当です」

 

 シャルティアに突っ込むのが飽きてきただけであって、シャルティア様へのご奉仕がイヤになったわけではない。

 労せずしてシャルティア様に大変悦んでいただける妙手を思いついたのだ。

 

 

 

 

 

 

 シャルティアの一人芝居に濃厚セックス。その後はちょっと飽きてきたのでイラマチオをしてとりあえずの射精。

 それから二人でバスルームに入り、軽く体を清めた。

 シャルティアの輝く銀髪を濡らしてしまうと拭いたり乾かしたりがとても面倒なので、シャワーで流すのは胸から下。シャルティアの胸も男の胸も、相手の唾液に濡れている。

 下半身はシャルティアのおつゆが多いのできちんと流した。

 

 男の着替えは簡単だけどもシャルティア様はそうはいかない。

 シャルティアの着替えを手伝う男の手付きは、意外なほど巧みだった。

 ただし、ビスチェのカップに胸パッドを入れるのは手伝わせなかった。男をバスルームから追い出してから一人で調整する。シャルティアにだって乙女心はあるのだ。

 ベッドに腰掛けるシャルティアの太股に、紫のガーターリングを着けてからストッキングを履かせる。

 それから漆黒のドレスを着せられるのを、シャルティアは首を傾げながら見ていた。

 ヘッドドレスも整えて、お着替えは9割9分完了。但し、まだパンツを履いてない。

 ドレスを着たままも乙であるが、わざわざ整えてから乱すのは疑問を抱かせた。

 シャルティアの疑問に、男は快く答えてやった。

 

 それからしばらく。

 シークレットセーフティルームに入室してきっかり三時間が経過。

 二人の姿はナザリック第九階層、絢爛豪華たるロイヤルスイートに戻っていた。

 

 

 24時間営業のナザリックでも昼夜はある。

 夜が明けた朝になれば動きが活発になる。逆に夜になると活発化する者もいる。それ以前に睡眠不要の者も多数いる。ナザリックは24時間営業なのだ。

 ともかく、早朝と呼べる時間は過ぎて、昼型が動き始めた時間だ。

 二人の姿は、昨夜も訪れたレストランにあった。

 

 シャルティアは飲食不要で、男の方はナザリック製レーションを少し前にぱくついている。どちらもお腹は減ってない。

 行き交うメイドたちを眺めながら隅のテーブルに着き、シャルティアは紅茶を、男はそれに加えてクッキーを楽しんでいた。

 

「折角用意してもらったのです。シャルティア様もどうかお楽しみください」

「…………」

 

 シャルティアの目の前には香気を上らせる澄んだ紅茶が置かれている。

 男はカップを傾け、クッキーを口に放り込んでいるのに、シャルティアは手を着けようとしない。

 椅子に浅く座り、両手は膝の上でぎゅっと握られている。

 

「あちらの方、ピッキー様と仰いましたね。私が頻繁に世話になっているポーションもピッキー様が作ってくださったとか。ここの副料理長でもいらっしゃるのでしょう? そのピッキー様が直々に煎れてくださった紅茶ですよ? シャルティア様がお口にしないのを心配そうに伺っているのが見えませんか?」

「……そうでありんすね。飲まないのはピッキーにぃいいいぃ♡ ………………ピッキーに、悪いで、ありんす」

 

 シャルティアは言葉の途中で背を反らせ、高い声を上げた。

 何事かと周囲の目が集まる。

 さすがのシャルティアでも、奇声を上げてしまったのは恥ずかしいらしい。顔を赤くして俯いた。

 

「どこかお加減が悪いのでしょうか? 私に出来ることはありますか?」

「だっ、いじょうぶで、ありんすよ? 紅茶を、飲みんす。…………っ♡ うぅ……、おいしい紅茶で、ありんすよぉ♡」

「ええ、本当に美味しい紅茶です。茶葉から抽出する温度管理が完璧なのでしょう。煎れる時の温度から口に運ぶときの温度まで計算してあるのかも知れません。カップも温めてあります。その他に抽出時間も大切ですね。これらをそつなくこなすには、やはり手際がよくないと。先ほどのピッキー様が紅茶を煎れる様子は優雅ですらありました」

「ピッキーは飲み物全般が完璧でありんす。昨日は行きんせんでありんしたが、バーのマスターもしていんす。次があったら連れていきんしょう」

「楽しみにしております」

 

 昨夜この男を案内したのはシャルティアではなくインスタントヴァンパイアガールのイバルだったはずなのだが、シャルティアは忘れているようだ。

 

 朝早くからシャルティアがロイヤルスイートのレストランに顔を出すのは非常に珍しい。

 朝食をとっていたメイドたちや使用人たちは物珍しそうに、けども失礼にならないよう控えめに視線を飛ばす。

 不意の奇声に驚かされはしたが、シャルティア様はシャルティア様であるし、普通に談笑を続けているようだ。

 

「あっ♡」

 

 カップを口に運ぼうとしたシャルティアの手が、突然震えた。

 紅茶が波打ち、僅かに零れる。

 

「私が拭きますのでシャルティア様は動かないようお願いします」

「わか……わかりんした。……んっ……ふぅ♡ ふふふ……♡」

 

 ジャケットのポケットからさっとハンカチを取り出す。見た目よりずっと広いポケットには何でも入っている。

 シャルティアのドレスは光沢ある漆黒に紫が入った色なので、よく見ないとどこに零れたかわかりにくい。胸元はぽんと優しくハンカチで叩き、下腹からスカートは丁寧に拭き取った。

 

「水気を弾くドレスで良かったです。下手をしたらシミになっていたところでした」

「そうでありんすねぇ。いっぱいシミが出来るところでありんした♡」

 

 シャルティアは、うふふと笑った。

 

 二人は言葉を交わしながらゆっくりと紅茶を楽しんでいる。

 紅茶一杯で長く居るものだから、多数のメイドたちがシャルティアと男の姿を目撃した。

 男の姿は、ほうと唸らせる美貌は相変わらずどころか磨きが掛かっている。一方のシャルティアは、風邪でも引いたかのように顔が赤く、時折体をくねらせて苦しそうに呻く。

 吸血鬼であるシャルティアが風邪を引くわけがないので、飲んでる紅茶に何かあるのではと思われた。吸血鬼にとって、あの男の血はとても甘美であると聞いたことがあるメイドがいた。速やかに話が広まり、そのようなものかと納得した。

 

「長居をしてしまいました。シャルティア様のご予定もありますから、そろそろ移動しましょう。最古図書館で書物を受け取ってからアルベド様へご挨拶した後に、私の送還をお願いいたします」

「アルベドのところにも行くんでありんすか? …………このまま?」

「勿論です」

 

 ナザリックに来ているのにアルベド様にご挨拶をしないとか何を言ってるかわからない。そんなことがまかり通ってしまえば全ての死者が墓から這い出て空からは無数のドラゴンが襲来し、高々と大笛が鳴った末に世界の終末と創世が始まってしまう。

 

「行きましょう」

 

 先に立った男が、恭しくシャルティアへ手を差し伸べる。

 シャルティアは優雅に男の手を取って、ゆっくりと立ち上がった。

 立ったはいいが、動かない。ぽうっと上気した顔で、どことも知れない虚空を見ている。

 

(シャルティア様、皆が見ています。動かないと不審に思われますよ?)

(………………垂れてきんした。ガーターリングまで来ていんす。……触るから、さっき、……あひっ!)

 

 シャルティアは咄嗟に口を押さえた。

 ぎりぎり声は漏れてない。周囲からは咳払いか何かだと思われている、はずだ。

 

 シャルティアは階層守護者で、この時間にここにいるのが珍しいことから、どうしても視線を集める。

 隣にいる男も、注目を浴びるのに一役も二役も買っている。

 まさに衆人環視だった。

 皆の目に晒されながら、シャルティアは優に二桁は達していた。

 

 

 

 

 

 

「ここなら大丈夫でしょう」

 

 逃げるようにレストランを離れた二人は、第九階層の一角にいた。

 周囲に人目はないが、どこかの部屋に入ったわけではない。言ってしまえば路上である。

 

「ここでありんすか!?」

「私が勝手に空いてる部屋を使うわけには参りません」

「それなら私が何とか言えば……」

「シャルティア様がそうお望みでしたらそのように。ですが、ここの方がスリルがあるでしょう? 危険を恐れるなんて、シャルティア様らしくありませんよ」

「別に怖くなんて……」

 

 反射的に言い返しはしたものの、シャルティアの目は揺れている。

 威張らないイバルは一晩中あれこれと命令され続けていた。その甲斐あって、今のシャルティアにはちょっぴり弱気になって強く出られると折れてしまうバフが掛かっている。

 

「早くしないと誰かが通りかかるかも知れません。お早く」

「……わかりんした」

 

 シャルティアはきょろきょろと左右を見回し、スカートの前をぎゅっと握った。

 黒いスカートがゆっくり上がっていく。紫のストッキングに包まれたシャルティアの脚が現れ始め、折れそうなほど細い脛から膝までが露わになると、淫臭が漂い始めた。

 スカートは尚も上がる。膝の上までめくられると、ストッキングの所々に変色している部分が目に付いた。変色している部分は上に行くに連れて多くなり、リボンがあしらわれたレースのガーターリングは明らかに湿っている。

 左太股のガーターリングからはピンクの紐が伸びていた。光沢ある紐はコードであって、一端はガーターリングに挟まれた親指大のボックスに繋がっている。

 もう一端は、シャルティアがスカートを完全にたくし上げて明らかになった。

 

 コードのもう一端はパンツの中に入っている。

 紫色で上品な刺繍が施されたアダルトなシースルーショーツは、びしょ濡れだった。

 特に、尻の側が酷い。水溜まりに座ったかのように濡れている。

 パンツがそれなのだから、太股だって濡れている。パンツから染み出した液体が太股を伝って、ガーターリングまで濡らしていた。

 

「シャルティア様は多い方だと思っていましたが、すごい濡れようですよ? こんなに濡らしてしまうほど感じていたんですか?」

「余計な話はしないで早くしなんし!」

「かしこまりました。そのままスカートを持ち上げていてください」

 

 シャルティアの前に片膝を着き、ポケットから取り出したのはさっきも使ったハンカチ。だけども一枚では足りそうにない。二枚取り出した。

 

「ぅっ……」

 

 ハンカチが太股に触れ、シャルティアは小さく呻く。口を押さえたいが、生憎両手はスカートを握っていて塞がっている。

 

「もう少し股を開いてください。特に濡れてる部分が拭けませんから」

 

 ぴったりと閉じていた股を開いた。太股と太股の間で、細く短い糸が何本も生まれてはすぐに千切れた。

 

 パンツとガーターリングの間の絶対領域を優しく拭う。

 右の太股を拭いたらハンカチを裏返し、左の太股へ。

 

「ぅあんっ♡ あぁ……、意地悪しないでくんなまし。エッチな声が出ちゃうでありんすからぁ」

「私は何もしていませんよ」

 

 シャルティアのパンツは濡れそぼって、滲むどころか滴り落ちるほどになっている。

 前の方はおつゆの発生源が近いので濡れているわけだが、後ろの方は違う。出張っているので染み出たおつゆがそちらへ伝ってしまう。

 ピンクのコードが前の方に伸びていれば、後ろは円柱らしきものがパンツの繊細な生地を押し出していた。

 

「位置も確認したいのでパンツを下ろしますよ?」

「ここで、脱がすんでありんすか? 誰か来るかも知りんせんのにぃ……、お兄ちゃんはきちくでありんすよぉ♡」

 

 頬を染めて男を見下ろす。けども、周囲の警戒も怠れない。

 右を見て左を見て下を見て、スカートはたくし上げたまま。

 そうこうしている内に、パンツがガーターリングの位置まで下ろされた。

 シャルティアとパンツの間で、とろりと長い糸を引いた。

 淫臭が溢れ出た。

 

 ピンクのコードは、シャルティアの割れ目の中へと伸びている。

 後ろの穴には、ピンク色の棒が突き立てられている。

 

 シャルティアは、エッチなアイテムを装備していた!

 

 ただのアイテムではない。

 美神にして大淫魔であられるアルベド様がクリエイトサキュバス御用達アイテム(淫具創造)で作ったアイテムなのだ。

 コードが伸びているのはローター。ガーターリングに挟まれているボックスは操作用のスイッチで、本体は小さな卵形。シャルティアの膣内に収められている。

 ピンク色の棒は、ディルドのようだがちょと違う。バイブである。うねうねと動くのだ。

 ローターだってもちろん動く。微細な振動を装着者に送り続ける。

 

「あひっ! 動き始めたぁ♡ うぅ……、あっぁん♡ いいでありんすよぉ……♡」

 

 ローターもバイブも振動の強さが弱中強の三段階あり、それらをランダムに発生させることも出来る。

 シャルティアはランダム設定のローターとバイブを、シークレットルームを出る前からレストランにいる時も、ずっと着けていたのだ。

 衆人環視の中で、体の深いところで起こっているあまやかな刺激を受け続けていた。

 

 こんなものがありますと見せられ提案され、シャルティアは一も二もなく乗ってしまった。

 人前でこんなエッチなことをして、知られたら大変なことになるので知られてはならず、声も態度も抑えなければならない。

 所詮は道具だと思っていたのに、想像以上に気持ちいい。

 何度も達してしまって、声を抑えるのは思った以上に大変で、快楽に身を投げ入れたいのにしてはならないのは苦行にも似ている。

 ほんの少しだけ後悔している。しかし、二律背反の禁忌の快楽は、他の手段では得られそうにない。

 これこそが隠姦であると、八度目に声を抑えたときに気が付いた。

 

「ローターが少し下がってるかな? 位置を直しますよ?」

「ひぅっ……ぅ…………くぅ……、んあぁ…………!!」

 

 男の中指が、シャルティアの中へと伸びるコードを辿った。

 柔らかな媚肉と愛液に包まれて、指先が固い物に触れた。固くても表面はつるつるだ。

 もう一方の手ではシャルティアの下腹を撫で、このあたりかな、と言うところまでローターを押し込んだ。

 

「ひああぁ……………………」

 

 シャルティアの性感帯を、外も内も知ってる男だ。

 ローターが一番効力を発揮する位置に戻された時、計ったように激しく震え始めた。

 薄い肉壁越しに、尻の穴でうねるバイブを感じた。

 

 シャルティアは、耐えられなかった。

 あえなく甘い叫びを上げ掛けて、両手で口を押さえた。

 男の頭に、スカートがはらりと落ちてくる。

 

「ひぅ…………!! くひぃ…………♡ んん~~~~~~っ♡ らめ…………、らめれ、ありんしゅぅ♡ ふうぅ…………!!」

 

 スカートの中で何をされているものか、両手で口を押さえてなお、くぐもった声が漏れてしまう。

 シャルティアの膝から腰がガクガクと震え、口からは涎を垂らして手のひらの隙間から垂れてきた。

 その時、吸血鬼の優れた聴覚が遠くに足音を捉えた。だけどもシャルティアは動けない。

 聞こえているのはわかっている。動かなければならないのに動けない。否、動かない。

 この快楽を中断するくらいなら、こんなところでこんな事をしてしまっていると知られてしまっても。

 

「あ…………」

「ここまでにしましょう。最古図書館に行きませんと」

 

 スカートの中にいた男にも足音が聞こえたのか。

 シャルティアの足元から転がり出てきた男が、両手をハンカチで拭いながら立ち上がった。

 

 ややあって、メイドの一団が現れる。

 彼女たちは階層守護者であるシャルティアに深く頭を下げてから通り過ぎようとして、

 

「ひゃん!」

 

 シャルティアの奇声に目を丸くした。

 

「な、何でもありんせん。早く行きなんし!」

「かしこまりました。失礼いたします」

 

 メイドたちは気付かない。

 シャルティアの隣に立つ男が、シャルティアの尻をポンと叩いたことを。

 

 尻を叩かれたシャルティアは、メイドたちの目の前で、バイブを尻穴の深くに押し込まれた。

 

「彼女たちが来たのでパンツを履かせることが出来ませんでした。ローターとバイブが落ちないようにしっかり締め付けてください」

 

 シャルティアは頷く他ない。

 シャルティア自身が望んだことなのだ。

 見つかるかも知れないスリルは、多淫なシャルティアをして未知の世界に導いた。

 

 

 

 

 

 

 パンツ半脱ぎのシャルティアは普通には歩けない。

 男に手を引かれゆっくりと歩く様は高貴な令嬢を思わせる。

 常とは違う品の良さに、目撃した者たちは意外に思ったし、あのような態度もとれるのかとシャルティアの評価を上方修正する。

 しかし肝心のシャルティアは、

 

(おまんこと尻をぎゅっとしてるから中でぐりぐりゴリゴリしてるのがわかりんす。おっ……、おっ……、くぅう! ……今のはぁ……、ヤバかったでありんすよぉ♡ 目がチカチカしてるでありんす。お兄ちゃんが手を握ってくれてなかったら転んでたところでありんした。今ので……深かったのが7回目。浅いのはもうわかりんせん……。お兄ちゃんはシャルティアの手を握ってるだけなのに、シャルティアをこんなに気持ちよくしてくれて……♡)

 

 夜通しヴァンパイアブライドたちと戯れても、こんなにイったことはない。

 中で激しく動いてるときは数歩進むだけでイってしまう。動けなくなってよろめいて、男の体にもたれ掛かってしまう。

 

 遠目には体調を崩しているように見えなくもない。

 実態はイき狂っていた。

 なにせ大淫魔のアルベドが創造したアイテムだ。並のローターやバイブではないのである。

 

 最古図書館では借りた本を受け取るだけだったので時間は掛からなかった。借りた本はティトゥスが気を利かせて手提げ鞄に入れてくれていたので、男は片手でシャルティアの手を引き、片手で鞄を持つ。

 しかし、階段を下りる時は大人しかった淫具が上る時になって反逆。シャルティアは男に引っ張られなければ階段を上れなかった。

 シャルティアはお漏らしをしたように溢れさせ、膝を越えて脛まで来た。点々と滴を落とした。

 

 

 

 

 

 

「これから帝都に帰還いたしますのでご挨拶に伺いました」

「そう」

 

 アルベドの執務室では、既に女主人が仕事に取りかかっていた。

 昨日と同じように書類の山と格闘し、お骨の方々が忙しく働いている。

 

 昨日とは違って、アルベドは手元の紙面から顔を上げる。

 愛しい男の顔を見て、隣のシャルティアを見て、一瞬で看破した。とてもエッチな大淫魔は全てを見通す。

 この男は、シャルティアと何かしらのプレイ中である。

 苛立ちがこみ上げた。

 

「もうお前の顔は見たくないわ」

「?!?!??!」

「アルベドが捨てるなら私が貰いんす! 守護者統括相談役は即日解任して今日から私の」

「冗談よ」

 

 朝からアルベド様に拝謁できる天国から地獄へたたき落とされ、直後にすくい上げられた。

 凄まじい乱高下は心臓に悪い。掠れた声で退室を告げた。

 部屋を出る間際に、

 

「覚えていなさい……!」

 

 美しくも情念の籠もった声が耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

「これからこいつを帝都に送ってきんす」

 

 ナザリック第九階層から表層分のログハウスへ。

 番をしているメイドに告げ、シャルティアは男の手を引いて外に出た。振り返れば高い壁に囲まれた巨大な霊廟。

 シャルティアは男の手を引いたまま歩き続ける。正門から離れて壁を伝って進み、一つ目の角を曲がってから数歩のところでようやく止まった。東側なので目映い朝日が照りつけている。本日は晴天なり。

 吸血鬼であっても、太陽を苦にしないシャルティアには何の痛痒ももたらさない。

 

 シャルティアはくるりと振り向いて、壁に背を預けた。

 ここまで何とか保っていた顔は、苦しみを訴えていた。切なそうに眉根を寄せ、半開きの口からは荒い息を吐く。目は潤んでいる。今にも泣き出しそうだ。

 

「お楽しみいただけたでしょう?」

「……最後が残っていんすよね?」

 

 ほとんど懇願するような声音だった。

 

 道中で何度も達していたのは、大淫魔が創造した淫具だからと、言うだけではない。道具で責められるだけだったら始めは気持ちよかったろうが、数度で飽きただろうし、虚しくもなっただろう。

 苛められていたからだ。

 シャルティアにだけ聞こえる声で、「今いきましたね?」「どっちでいきましたか?」「ローターがいい仕事をしているでしょう」「あのメイドはシャルティア様の様子がおかしいことに気付いていますよ」「尻をしっかり締めてください。また押し込んだ方がいいですか?」等々。

 淫具だけではここまでたどり着けなかった。

 

 朝日が照らしていたシャルティアの白い顔に、影が落ちた。

 太陽を背に、男が目の前に立っている。両手を壁に突いて、シャルティアは閉じこめられた。

 

「すごい好かったでありんす。あんなに何回もイったのは初めてでありんした。だけど、最後は……、シャルティアの中に」

 

 ナザリックの霊廟を囲む大壁を背にして、けども周囲は草原が広がっている。

 夜ではなく朝だ。暗視の能力がなくてもよく見える。

 それなのにシャルティアは、躊躇なくスカートをたくし上げた。

 

 無毛の股間は濡れていた。

 陰唇が僅かに開いてるのは、ローターが入っているからか、何度も達しているからか。

 見ている間にも、ぽたりと透明な滴がパンツへ垂れる。太股まで下ろされているパンツは水に浸したようだ。

 尻から覗くピンクのバイブは、小刻みに動いている。

 

「お兄ちゃんのおちんぽが欲しいでありんす。道具だけじゃ嫌でありんす。お兄ちゃんのおちんぽで、シャルティアのおまんこをいっぱい可愛がってくんなまし。……あっ」

 

 手を取られ、スカートを下ろされた。

 このまましないつもりなのかと、顔に朱が入る。

 

「あっ♡」

 

 直後に蕩けたのは、男の手が尻に回ってきたから。

 スカート越しに尻を撫でた手は、スカートを手繰り始める。

 スカートは徐々に上がって、男の手がスカートの中に入ってきた。

 

「あんっ♡」

 

 生尻を揉まれている。

 バイブを摘ままれ、上下に動かされる。

 シャルティアからも触った。

 白いドレスグローブをした繊細な手で男の股間に触り、優しく撫で始めた。すぐに膨らんできた。

 

「あむっ……ちゅっ……」

 

 尻を揉まれて、男の股間を愛撫して、唇を交わす。

 愛液を垂れ流して喉が乾いていると思われたのか、口内に差し込まれた舌にはたっぷりと唾液が乗っている。シャルティアはれろりと舐めてはちゅるりと吸って、喉を鳴らして飲み干した。

 赤い舌を絡ませながら、ズボンを下ろす。

 今や愛欲しか頭にないシャルティアには難しいので、ズボンのベルトは男が外した。シャルティアはズボンをずり下ろしただけである。

 

 服を脱がす手付きは覚束なくても、こちらの方は問題なし。

 ズボンを脱がすなり跳ね上がった逸物を両手で包む。右手は亀頭をふにふにとマッサージして、左手は竿を扱き始める。太くて長くて、尻に入ってるバイブより少し大きい。

 

「シャルティア様は何度も達していたでしょうに、まだ欲しいんですか?」

「お兄ちゃんのおちんぽは違いんす! お兄ちゃんのおちんぽを入れると気持ちいいだけじゃなくて……、何だか幸せになりんす。……………………シャルティアが演技で言いいんしたのは、全部が演技と言うわけじゃありんせん」

「本当の言葉もあったという事ですか? どれが本当だったのでしょう?」

「そんなの自分で考えなんし!」

 

 目元を赤くして睨みつけた。少し怒っているようだ。

 怒られる謂われはないと判断した男は、軽く笑い流す。

 

「どの言葉が本当だったのか、宝探しのように楽しみながら探すことにします。それではシャルティア様、壁に手を突いてください」

「……わかりんした」

 

 シャルティアは反り返った逸物の先端を指でつついてから背を向けた。

 白いドレスグローブに、透明な汁が僅かに付着している。微かな塩気と、微量なのにはっきりとした粘り気が舌に残った。

 

 胸の高さあたりに手を突いて、尻を持ち上げる。

 背後でばさりと音がした。スカートに包まれていた尻に外気が触れている。

 

「ひゃぁん♡」

 

 バイブを抜かれ、ローターを引っ張られた。

 ずっと入っていたものがなくなるのは、何とはなしに喪失感があった。けども、これからそれよりずっと好い物が入ってくる。

 

 男はローターとバイブを数度振って水気を切り、ポケットから取り出したハンカチに包んだ。

 少し考え、ジャケットの左ポケットにしまった。

 ちなみに、右ポケットにはポーションなどの大切なアイテム。左ポケットには身嗜み用品。最重要アイテムは万が一にも落としたりしないよう内ポケットに入れる。アルベド様から下賜されたエンゲージリボンの他に、ローターとバイブも入れていた。だけども、シャルティアの愛液に濡れたアイテムを内ポケットに入れるのはためらわれた。

 

「あぁ……、お兄ちゃんのおちんぽがおまんこにくっついてるでありんすぅ♡」

 

 小さく開いたシャルティアの割れ目は、肌が白いだけに赤みが映える。体を開いて内側を見せているようだ。

 片手でシャルティアの腰を掴んで高さを合わせ、片手は逸物を摘まんでシャルティアに合わせる。

 亀頭が割れ目を上下になぞる。入れてもないのにシャルティアの愛液が絡んできた。

 

「あっ……あっ♡ 入ってくるぅ♡ おっきぃおちんぽがシャルティアのおまんこにぃ♡」

 

 ずっとローターを入れていたシャルティアの膣は、十分すぎるほどにほぐれている。

 太い亀頭を飲み込むために小さな雌穴がめいっぱいに口を広げ、ゆっくりと沈んでいく。

 シャルティアはおつゆが多いので、一息に入れてしまうと膣内のおつゆが飛び散ってしまう。ゆっくりと挿入しても、亀頭に押し出されたおつゆが逸物に絡みながら流れていくのを感じるほどだ。

 少女の膣を掘り進め、奥の壁にぶつかった。

 

「一番奥にまで入りましたよ。ちんこがシャルティア様の子宮口に触れています」

「はうぅ……、指じゃここまで届かないでありんすよぉ。でもでもお兄ちゃんのおちんぽならもっといけるでありんしょう? シャルティアの全部を犯してくんなまし♡」

「……わかりました。行きますよ?」

 

 少々面倒なのだが、お望みなら仕方ない。

 スカートを尚もめくり上げ、シャルティアの細い腰を両手で掴んだ。

 抜ける寸前まで腰を引き、勢いをつけて、

 

「はうううぅぅうぅうぅううぅうううーーーーーっっん♡」

 

 シャルティアの尻に腰を叩きつけた。下腹が尻を打つ乾いた音が鳴った。

 少女の雌穴を突き進んだ逸物は淫液をかき分け最奥に届き、子宮を押し上げ、亀頭が子宮口にまで入ろうとしている。経験上、ここまですると鈍い痛みがあるようだ。

 しかし、シャルティアはとっても強い階層守護者。その上被虐を好む。多少の痛みは興奮をかき立てるスパイスにしかならない。愛を持って痛めつけられるのは大好きだ。全てを受け入れている充足感。暴力的に受け入れさせられている被支配感。

 シャルティアの太股を、チョロチョロと透明な液が伝った。

 

「あうぅ……、好すぎるでありんすよぉ♡ ずっとずっと我慢させられてたからぁ♡ 入れられただけで……。お兄ちゃんのおちんぽスゴすぎるでありんす♡」

 

 根本まで受け入れた逸物をきゅうきゅうと締め付けながら、小刻みに尻を震わせる。

 太股を流れる液体も止まらない。愛液ならこうはならない。シャルティアは、絶頂と同時に失禁した。

 シャルティアは吸血鬼なので固形物を口にしないが、血液や紅茶などの飲料は摂取する。シズと同じで、おしっこは出るらしい。きっと、レストランで飲んだ紅茶が効いてきたのだ。

 

「ここまでにしますか?」

「ダメ! お兄ちゃんのおちんぽぴゅっぴゅするまでするでありんす! あっ……、あっ! あんっ! あんっ♡ あぁん♡」

 

 とりあえず射精すれば満足するようだ。

 男が腰を使い始めると、シャルティアは甘い声で鳴き始めた。

 

 シャルティアの膣肉は毎日の手マンで柔らかくなってきた。絶頂直後なので体が弛緩し、女の穴も緩んでいる。太い逸物が行き来するのに丁度良い具合だ。

 欲を言えば、もう少し深い穴だと嬉しい。シャルティアの膣だと、奥まで入れても余ってしまう。そこまででも快感は十分なのだが、無理にでも全部入れて欲しいようだ。

 パンツは膝まで下ろしただけなので、シャルティアは大きく脚を開けない。そうでなくても身長差があるため、シャルティアが大股を開くと男の方で位置を合わせるのが大変になる。シャルティアは尻を突きだし、脚は揃えて閉じた状態だ。だから、すぐには気が付かなかった。

 

 尻の割れ目に隠れた穴が、小さく口を開いている。

 ずっとバイブを入れていたし、深イきして体が緩んでいる。こちらの穴も開こうというもの。

 焦げ茶のラナーと違って、シャルティアの尻穴は綺麗な白だ。ずっとバイブを咥えていたからか、今は赤みが差している。ぬらぬらと濡れ光っているのは、ローションか腸液か愛液か。とても食指を誘った。

 

「あっ、抜いちゃらめ! あっ? あっ! おほぉぉおおおおおぉぉおーーーーーーっっ♡」

 

 雌穴から引き抜いた逸物を、シャルティアの肛門に突き刺した。

 こちらも締め付け上々。膣よりよく広がって、奥が深い。締め付けるのが入り口付近だけで奥は広がっているのが、膣とは違うところだ。

 

「シャルティア様はこちらもお好きでしょう?」

「すきでありんしゅぅ……♡ おっ、あっ、くぅうん♡ あんっ、あんっ、おしりぃ、犯されてるで、ありんすよぉ♡」

 

 肛門の方が膣より位置が高いので、若干入れやすいと言うのもあった。

 

 シャルティアの滑らかな白い尻に、長い逸物が刺さっている。

 そこに穴が空いているから刺さるわけだが、シャルティアの肌の中に入っているようにも見えた。

 

 奥の壁を気にしなくて良いので、膣にする時以上に激しく腰を打ち付ける。

 シャルティアはあんあんと激しく鳴いて、時々叫んだ。

 

「シャルティア様、そんなに大きな声を出すとログハウスのメイドに聞こえますよ」

「ひああぁっ、そんなのらめっれありんしゅ! んひいぃっ、あうぅ、あぁん! ……おしりいいのぉ♡ んふぅ、ふううぅん!」

 

 シャルティアは、ダメであった。

 

 シャルティアとセックスしているのは全てのヴァンパイアブライドが知ってるのでナザリックでは周知の事だろうが、お仕事中のメイドにすることをしているのを見られるのも聞かれるのも気まずいだろう。

 そっと体を反らしてシャルティアの様子を伺うと、重力に従って頭を深くうなだれさせている。長い髪に隠れて顔は見えないが、大きく開いた口から舌が伸びているのが見えた。舌の先には涎が溜まって、ぽたりぽたりと滴らせている。

 上の口も下の口も水気が多い少女である。

 吸血鬼なので体温調整のために汗をかかないから水気が多いのかも知れない。今度、ミラで試してみようと考えた。

 

 それはそれとして、声を抑えてもらわないと色々まずい。

 

「はぁっ、はあぁっ……、はうぅん♡ あん♡ あぁ……!? ん゛ーっ! んんーーーーーっ!!」

 

 シャルティアの口を押さえた。

 手のひらに柔らかな唇が触れ、すぐにも冷たい唾液で濡れてくる。

 

「んーーーっ! んーーーーーっ♡ ~~~~~~~~~っ♡」

 

 指の隙間から涎が滴る。

 シャルティアはくぐもった声で鳴き続けるが、叫ばれるよりずっとよい。

 快感に悶えながら振り向くシャルティアは悪戯な顔をして、口を押さえる手のひらを、ぬるりと舐めた。

 

 腰を打ち付けるたびに尻肉が艶めかしく波打ち、目を楽しませる。

 シャルティアも動きを合わせている。動きは僅かでも前後に尻を振って、逸物を尻穴に呑み込んでいく。

 シャルティアの頑張りに、サービスしてやりたくなった。

 

「っ!! ~~~~っ!! ~~~~~~~~~~~~~っっ♡」

 

 シャルティアの股に手を伸ばし、涎を垂らし続ける割れ目の上端。尖りきって包皮が剥けてる可愛い肉芽に指を這わせた。

 小さいのにくにくにと弾力あるクリトリスは、柔らかくぬめった内側で自己主張している。

 人差し指と薬指で根本を扱きながら、本体には薬指の腹を乗せてこすり始めた。

 

 シャルティアの反応が明らかに違ってきた。

 振り返る余裕をなくして顔を伏せ、何も咥えていない雌穴は断続的に滴を垂らす。

 尻がぷるぷると震えるし、クリトリスは勃起しきったまま痙攣する。

 尻穴がきゅうと締まっては緩むのが、程良い刺激になった。こみ上げてきた。

 

 欲しい欲しいと言っていたのだから、遠慮をするわけがない。

 シャルティアの腰を抱えて深く打ち付け、届く限りの最奥で、どぴゅどぴゅと射精した。

 

 ヴァンパイアブライドたちと、シャルティアへは二回と、これが三回目。

 昨日今日で、一番量が多かった。

 

「お兄ちゃんのおちんぽみるくが、シャルティアのお腹にいっぱい出ていんす……。あはっ、とぉってもあっついでありんすよぉ♡ お兄ちゃんのせーえきでシャルティアはあったかくなりんした♡」

 

 自分の涎で濡れた男の手をペロペロと舐めた。

 シャルティアの肛門から引き抜くと、あれほど広がっていた尻の穴はきゅうと締まって中に出された精液を閉じこめた。

 

「お掃除しんすね」

 

 イラマチオをした時のように男の前に跪き、まだ萎えきってない逸物を口に咥えた。

 赤い唇で亀頭を包み、ちゅうちゅうと尿道の残滓を吸い出す。

 そのまま根本まで唇で包み、数度頭を振って綺麗に舐めとった。

 最後に、ちゅっと亀頭に口付けをした。

 

 献身的なシャルティアを見て、小便をしてやったらソリュシャン以上に悦んで飲みそうだと思った。

 

 

 

 

 

 

 シャルティアのびしょ濡れパンツは結局脱がした。

 こうも濡れていると履いていても不快なだけだろう。

 脱がしたパンツは、生地が痛まない程度に優しく絞った。ぴちゃぴちゃと愛液だかおしっこだかが滴っていくのを、シャルティアは頬を赤らめて難しい顔で見ていた。

 

 シャルティアはパンツの予備を持っているようだが、その前に下半身を綺麗にしないとダメだった。

 お仕事の時間が迫っているので忙しいかも知れない。どうか頑張って欲しい。

 

 その後はゲートの魔法で帝都のお屋敷へ。

 書斎では、ソリュシャンとルプスレギナが書類仕事に励んでいた。

 

「おにーちゃん、おわかれのちゅーは?」

「お嬢様の仰せのままに」

 

 背伸びするシャルティアに合わせて身を屈め、ちゅっと触れあうだけの軽いキス。

 唇が離れた時、シャルティアの唇は邪悪に釣り上がっていた。

 

「これは今日の手間賃に貰っておきんす♪」

「それは!?」

 

 シャルティアの手にあるのは、ハンカチに包まれた二つのアイテム。

 キスで体を寄せた際、シャルティアは男のジャケットの左ポケットに手を突っ込んでいた。

 

「代わりにこれをあげんしょう。好きに使いなんし♡」

 

 男に投げ渡されたのは、搾りたてのアダルティーなシースルーショーツである。

 盗られた品と全く釣り合ってない。

 ピンクのローターとバイブは、アルベド様から下賜された品なのだ。

 

 取り返そうと伸ばされた男の手を、シャルティアはひょいと避けて黒い扉に姿を消した。

 一瞬後、そこにはもう、シャルティアの影も形もなかった。

 エッチな使用済みパンツだけが残されていた。

 

 がっくりと両手両膝を突いた男を、ソリュシャンは右から蹴ってルプスレギナは左から蹴った。




あと5話であまるが終わるか不安になってきました


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いつぞやの責任

一般、原作オーバーロード、「正義とはこのようなもので御座います」
https://syosetu.org/novel/277996/
本話の前にこんな事を話してました
内容はセバスを聞き役にした正義の解説です
いつか2話目を書くつもりではいるんです

なお、読まなくても全く問題ありません


 突然だがエ・ランテルに戻っている。

 残念ながら帝国への左遷が解かれたわけではない。

 セバス様から「直接会って話したいことがある」との手紙をいただき、シャルティア様にゲートの魔法で連れて来て貰ったのだ。

 

 その際、シャルティア様にローターとバイブの返還を訴えたのだが、「お前の都合で階層守護者である私を働かせる報酬は?」とか「道具に頼るな!」とか「道具に頼って技を錆びつかせるつもりか?」とか「女が楽しむ道具をお前が持っていても宝の持ち腐れ」とか、正論のような屁理屈のような理屈を押し通されそうになったのを「それは道具ではなくアルベド様から下賜された聖具である」と反論したら、「代わりを貰え」とすげなく拒否されてしまった。

 なんとか取り戻したいが、しつこく食い下がってしまうとローターとバイブをティアの調教に使用したことが明るみになり、結果、間接的にアルベド様が調教競争に手を貸したことを知られてしまうかも知れない。それは割とかなり不味い。涙を飲んで諦めた。

 代わりに使用済みパンツを他にもくれるとか。ありがたいけども使用済みでない方が望ましい。勿論のこと自分で使用するわけではない。いつでもノーパンのミラとジュネに履かせるのだ。

 

 なお、シャルティア様から最近の様子を聞いたところ、以前より皆が優しくなったとか。

 シャルティア様のナザリックでの地位失墜を狙って先のナザリックツアーを行ったのだが、ナザリックの方々のお心は思った以上に広かったようだ。

 流石のナザリックである。

 

 

 

 

 

 

 セバス様の要件は、以前デミウルゴス様と交わした言葉についてだった。

 どうやら以前から考えていたようなのだが、中々切っ掛けが掴めなかったらしい。それがアインズ様が近々ご帰還為されると聞き、と言うことはデミウルゴス様もお戻りになると言うことで、今を逃せば次の機会がいつになるかわからないのでお手紙をくださったようである。

 偶然にも、こちらからセバス様にお伺いしたいことがあったので僥倖と言えた。こちらからの要望を、セバス様は快く聞いてくださった。後日、メモを作成して送ってくださるらしい。

 そのような話をしたおかげで、ナザリックにおけるセバス様の役割を察することが出来た。

 

 セバス様は、フットマンなのかバトラーなのかハウススチュワードなのかランドスチュワードなのか、疑問だったのだ。

 フットマンは主人の身の回りの世話をする従者である。ソリュシャンがソリュシャンお嬢様として初めてエ・ランテルや王都に入った際のセバス様の役割が、フットマンだったらしい。

 バトラーも主人の世話をする従者であるが、フットマンより格が高い。フットマンたちのリーダーであり、パントリーの主人でもある。パントリーの主人なのだから、主人の食事の世話を一手に担う。銀器を磨くのもバトラーの仕事だ。スプーンの光り具合を見ればバトラーの質がわかると云うもの。

 スチュワードとなると、バトラーより更に格が高い。スチュワードがいるとバトラーは置かないのが一般的だ。

 ハウススチュワードは文字通りに屋敷の長。ランドスチュワードは領地の長。どちらであっても主人の代理をすることすらある大変重要な役職だ。屋敷や領地の総監督と言ってよい。

 

 ただし、ナザリックにはアルベド様がいらっしゃる。この時点でランドスチュワードはあり得ない。ナザリックの維持管理や運営を、アインズ様に代わって行っていらっしゃるのはアルベド様なのだ。

 現在のセバス様は、アインズ様が留守をしているエ・ランテルの城を預かっている。城と言っても、元はエ・ランテル都市長の邸宅と貴賓館である。エ・ランテルにおける行政機関を置いている場所、と言う意味合いが強い。

 実質が何であろうと城は城で、セバス様がアインズ様の留守を守っている。

 これらから、セバス様はハウススチュワードであると察せられた。

 

 後日、再会した際にその通りであると肯定された。しかし同時にバトラーであるとも言われた。

 アルベド様がいらっしゃる時はバトラー。いらっしゃらない時はハウススチュワードなのかも知れない。

 

 ともあれ、セバス様との会談は有意義なものとなった。

 この後は、シャルティア様が迎えに来てくれるまで特に予定はない。

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルは三重の城壁に守られた城塞都市だ。

 外周部に軍事施設。

 内周部に市街区。麗しの秘薬を扱う店もこの区画にある。つまりは居住区や商業区などの生産区画。

 最内周部が行政区。どこの都市であれ最重要となる意志決定機関が集中している。エ・ランテルにおけるアインズ様の居城もこの区画にあり、アルベド様のお食事処であるお屋敷も存在する。

 

 エ・ランテルに戻ったらやりたいことが色々あった。

 市街区ではパン屋のウィットニーさんが気になっている。ちゃんと営業を続けているだろうか。実はウィットニーさんは伝説の凄腕シーフらしいので、冒険者に復帰してしまったのだろうか。

 冒険者とくれば、モモン様とナーベ様は今もエ・ランテルにいるはずである。

 モモン様の中身のパンドラズ・アクター様からのドイツ語講義はまだ途中だ。発音は様になってきたと思うのだが、上達するには実際に話すのが一番である。現状では、パンドラズ・アクター様としかドイツ語会話が出来ない。

 ナーベ様ことナーベラルは、先だって数日間を一緒に過ごすことが出来た。肉食系のルプスレギナや、比喩ではなく文字通りの肉食系のソリュシャンと比べたらナーベラルはとても奥床しく、艶やかな黒髪はとても良い。

 秘薬を扱うお店にも心惹かれる。エ・ランテルにいた頃は、最低でも週に一度は通って技術の研鑽に励んできた。あの頃より今の方が上達しているはずなので、上達度合いを確かめたくもある。

 

 そして、城の窓から見えるアルベド様のお食事処。主人不在の現状では、単なるメイド研修所になっているはずだ。

 叶うならば城から抜け出して、いっそ様子を見てくるだけでも良い。しかし、帝都にいるはずの己がエ・ランテルにいるのは不味い。今も魔法のマントを着用して正体を隠している。そんな格好で外を出歩いたら怪しいに決まっている。

 

 こうしてエ・ランテルと帝都での生活を比べてみると、エ・ランテルの方が遙かに自由だった。

 大体帝都の屋敷は場所が悪い。高級住宅地らしいが、それぞれの区画が広すぎるせいで市街に出るのも一苦労なのだ。その上、どこかへ出かける時は誰かしらが供回りでついてくる。身の危険を一人で跳ね退けられると信頼されていないがために心配されているのは、ありがたく思うと同時にいささか窮屈に思わなくもない。たまには一人で遊んだりしたいのである。

 ラナーに囚われていた頃は論外で、それ以前は衣食住に不自由しないにせよ路上暮らしで、更に遡って養父母といた頃はここに居るべきでないと強く感じ、物心ついてからは家を出ることばかり考えていた。

 それがいまやなんと贅沢になったことか。これも全てアルベド様のおかげである。これまで以上にアルベド様に尽くそうと決意を新たにした時、誰何の声が掛かった。

 

「ここで何をしているのですか? フードを上げて顔を見せなさい」

 

 聞き覚えのある声だ。

 振り向くと案の定、長い髪を丁寧に結い上げた知的な美女が、鋭い眼差しでこちらを見ていた。整った顔形以上に目に付くのは、大きく盛り上がったエプロンドレスの胸部である。

 

「その目は……、あなたはアルベド様の……」

「それ以上はご容赦を。私はここに居ないことになっていますので」

 

 正体を隠す魔法のマントを身に着けてフードを被っていても、目の光は隠せない。右が青、左が赤の異色光彩は滅多に居るものではない。

 彼女が、ユリ・アルファが知る青と赤の異色光彩は一人しかいなかった。

 

 

 

 

 

 

「ここが私の部屋になります」

 

 ユリに連れてこられた部屋は広さはそこそこ。ベッドに机にチェストはどれも上質な出来だが、それ以外の調度がない。

 仕事の途中だったのか、机の上には幾枚もの文書が広げられている。

 

「どうぞ楽にしてください。私の部屋と言っても一時的に借り受けているだけですのでお気遣いなく」

「それでは失礼をして」

 

 魔法のマントを脱いでチェストに引っ掛けた。ついでに肩を回して軽く伸びをする。

 

「それで、帝国にいるはずのあなたがどうしてエ・ランテルにいるのですか? アルベド様のご命令でしょうか?」

「アルベド様のご命令ではありませんよ」

 

 今日の次第を簡単に説明した。

 セバス様に呼ばれ、以前デミウルゴス様と話した内容をお聞かせする。会談を終えた現在、シャルティア様が迎えに来てくれるまで時間が空いている。

 外へ出ようにも帝都にいるはずの自分がエ・ランテルを出歩くのはよろしくない。ユリも怪しいと思ったマント姿なら尚更だ。

 すべきことも出来ることも何もないが、何もしなくても退屈することはないので、時間が来るのを待とうと思っている。

 

「……まだ昼前です。シャルティア様の手が空くのは夜になってからではないでしょうか」

 

 シャルティア様はお仕事の前に迎えに来てくれて、再度迎えに来てくれるのはお仕事を終えた後である。

 セバス様との会談はそこそこの時間を要したが、丸一日掛かるものではなかった。

 

「ご心配なく。時間を潰すのは得意ですから。食事もナザリックで頂いたレーションがあります」

 

 十余年も囚われていたのは伊達ではない。その気になれば年単位の時間を苦もなく潰せる。

 食事についてはセバスから誘われたが、余人に姿を見られるわけにはいかないと丁重に辞退した。レーションは先のナザリックツアーのお土産である。

 

「そうでしたか。それでは少々あなたの時間をお借りしてもよろしいですね?」

 

 眼鏡の奥で、ユリの目がキラリと光った。両手を腰に当ててやや前傾姿勢になる。

 厳しい顔を突き出し私怒ってますアピールらしいが、そんな姿勢をされるとたわわに揺れる双丘に目が行ってしまう。

 

 涼しい顔をして頷いた男は、内心では少々焦っていた。

 責任の件である。ユリとセックスした責任を全く果たせていないのだ。

 ユリがセックスしたい時に相手をするのが己の責任であると思っているのだが、帝都に左遷されてしまったために一度も出来ていない。自分の意志で帝都にいるわけではないので不可抗力と言えなくもないが左遷されたのは己の所行故なので、ユリからそんなの関係ないと言われたらそれまでである。

 一方、ユリが言っていた責任とは何故か結婚についてだったので、こちらについてなら少々報告することがある。

 果たしてユリの話は、全く想像していない物だった。

 

「アーちゃんに何言ったの?」

「アーちゃん?」

 

 聞き覚えがない名前だ。ちゃん付けで呼んでいるのでユリとは親しい人物なのだろうが、ユリの交友関係を全く知らないため、見当がつかない。

 まさかアインズ様をアーちゃん呼ばわりしているわけではないだろう。

 

「アウラ様のことよ。アウラ様の創造主であられるぶくぶく茶釜様とボクの創造主であられるやまいこ様はお互いに気の置けない仲でいらっしゃったの。その縁でアウラ様とボクは親しくさせてもらってるのよ」

「そうだったのですか。アウラ様には大変お世話になっております。最近もアウラ様とお話することがありました。それについては、アインズ様がお戻りになったらアウラ様からご報告なさると思いますよ」

「そうなの?」

「そうなのです」

 

 思っていたのと違う意外な答えに、ユリは目を瞬かせた。

 

 先日、アウラ様に添削してもらった地図は絶賛修正中である。尤も、アウラ様の気を引くためにわざと間違えて書いた箇所ばかりで、根本から間違っていた部分はなかったようだ。

 その気になれば10分と掛からないで終わる。ただし、誰も字が読めなくなる。自分が時間をかけて丁寧な字を書くより、ソリュシャンとルプスレギナに清書して貰う方が早いし楽である。

 

「ってそうじゃなくて、アーちゃんに変なこと言ったでしょ?」

「変なことと言われても心当たりはありません。具体的にどのようなことでしょうか?」

「それは…………」

 

 言い淀むユリは、頬を赤くした。

 ユリが顔を赤らめる理由に、男の方はやはり見当がつかなかった。

 そもそも変なことがわからない。アウラ様との話は、比較的に真面目なお仕事の話ばかりだ。

 女性の体について話したことはあったが、全く変な話ではない。アウラ様に必要な至って真面目な話である。万が一にもこちらの話だとしても、口と前と後ろと三つの穴を経験済みなユリが恥じらうことでもないだろう。

 

「それは……だから……、変なことだよ!」

「ですから、変なこととは何のことでしょう?」

「だから…………!」

 

 空虚な掛け合いを繰り返す。話が進まないことに苛立ったユリは、覚悟を決めた。

 真っ赤な顔で男を睨んだ。

 

「アーちゃんにおまんこがどうのって言ったの君だろ!?」

「ええ、言いましたよ。アウラ様は興味があるご様子でしたし、いずれ必要となる知識です。ですが、どなたからも教えてもらわなかったようで、僭越ながら私から説明しました。それが何か?」

「なっ……なっ……なっ…………!」

 

 男はしれっと答えた。何が変なことか全く分かっていない様子で、顔色も表情も変わらなければ怪訝に首を傾げる始末。

 

 アーちゃんに変なことを吹き込んだどこかのどいつは見つけたらぶっ飛ばしてやると意気込んでいたユリなのだが、余りにもあっさりと一点の悪気も申し訳なさも感じさせずに答えられて、成敗するのが不当であるかのように錯覚してしまう。

 

「確かに、アウラ様のお体では出来ることも出来ません。それはあくまでも今のアウラ様にとってです。また、体は幼くても実年齢は私より上だそうで、精神の成熟度合いは成人と大差ないのではないでしょうか?」

「だからってアーちゃんにはまだ早いよ!」

「それを判断するのはユリさんなのですか?」

「うっ!? …………アーちゃんの近くにいる大人として当然、でしょ?」

「アウラ様の精神の成熟度合いは成人と大差ないと言ったばかりです。アウラ様ご自身が判断するべきです」

「でもアーちゃんはまだ…………うぅ……」

 

 ここでアーちゃんはまだ子供だと言ってしまうと、アウラの耳に入ったら間違いなくへそを曲げられる。まだまだ幼いと自覚があるから大人ぶりたいし子供扱いを嫌がるのだ。

 それにとっても腹立たしいことに、男の言葉に一理なくもない。だとしても、どうしてお前が教えるんだと言えなくもないが、教える者が他にいなかったと先回りされている。

 残念ながら、ユリではこの男を言い負かすことが出来そうになかった。

 

「母のように姉のようにアウラ様を見守りたい気持ちはわかりますが、アウラ様の人格を尊重すべきですよ」

 

 嘘である。そんな気持ちがこの男にわかるわけがない。しかし、ユリはそう思っているのではないかと推測することは出来た。ソリュシャンから無駄に押し付けられてきた各種小説を読んできた成果はここでも順調に活きている。

 

「……アーちゃんに変なことしてないよね?」

「これも先に言った通りですよ。アウラ様のお体では出来ることも出来ません」

 

 これも嘘である。不思議な青いキャンディーを舐めて大人の姿になったアウラとする事をしている。先日はアウラの小さな体でおっきくする訓練をして、指を入れたし口を使った。

 嘘なのだけど、本当はどうかは問題ではない。要はユリが納得するかどうかだ。

 ユリとはセックス出来ていないのにアウラとしていると聞いたら怒るに決まっているのだから。

 

 そして卑劣なことに、実は嘘は言ってない。

 アウラの小さな体では出来ることも出来ないと言ってるだけで、何もしていないとは言ってない。ましてやアウラが大人の姿になった時については言及もしていない。ユリが知らないであろう事をわざわざ教えてあげたりしないのだ。

 

「ところでユリさんのお時間はよろしいのでしょうか?」

「暇ってわけじゃないけど……、コホン。暇と言うわけではありませんが、急ぎの用事はありません。ですが、あなたの暇つぶしに付き合うほど時間を持て余しているわけでもありません」

「私のことは気になさらないでください。私は退屈しませんので。私からユリさんに話しておくべき事があるのです。よろしいでしょうか?」

「お聞きします。何でしょうか?」

「その前に、掛けても構いませんか?」

「ええ、どうぞ」

「ありがとうございます」

「………………」

 

 ここまでずっと立ち話だった。

 来客を想定した部屋ではないので、応接セットはおろか、椅子は机と対になってる一脚しかない。

 ちょっぴり怒り気味だったユリが詰め寄ったため、男の立ち位置は机とは反対側のベッドに近い。

 だからと言って、女の部屋のベッドに腰を下ろすのはどうなのだろう。

 まさか隣に座るわけにはいかないし、自分だけ立っているのもあなたとは話したくないと意志表示しているようで決まりが悪い。

 仕方なしに、ベッドの隣に椅子を移動させた。

 

「ユリさんからの申し出についての話です」

「私からの申し出?」

「お忘れですか? ユリさんから、責任をとって結婚して欲しいと言われました。私の記憶違いでしょうか?」

「……忘れてないよ」

 

 ユリの顔が、アウラの話をした時よりも真剣なものになった。

 あんなことをされたのだ。忘れられるわけがない。

 この男は、責任とは可能な限り相手をする事とか呆けた事を言っていたが、そうではない。

 結婚したら結果として同じ事になるのかも知れないが、それは別の話だ。

 

「ユリさんからの申し出をアルベド様とアインズ様にもお話ししました」

「それ本当!? どうだった? 何か言われた?」

「結婚を認めない、とは仰られませんでしたよ」

「はああああぁぁああーーーーー…………………………!」

 

 いきなり出てきた上位者の名前に身を乗り出したユリは、悪くない返事を聞いて浮いた腰を落とした。深い深い安堵の息が勝手に漏れ出てくる。

 結婚における最大のハードルが、アインズ様とアルベド様に認めていただくことなのだ。それをクリアしたと言うのだから安堵の余りに力が抜けるし、難事をこなしてくれた事を嬉しく思うし、心の底から喜びがこみ上げてくる。

 

「但し、すぐに結婚と言うわけには行きません。実務的な理由として、近い内にアインズ様がご帰還されるそうです。私もユリさんも忙しくなるでしょう。また、アインズ様からお言葉を預かっております。『結婚のような重大事は簡単に結論を出して良いものではない。最低でも一年は熟慮せよ』との事でした」

「一年も考えてボクと結婚しないなんて言わないよね?」

「勿論言いませんよ。私がユリさんを迎えるのか、それともユリさんが私を迎えるのか、どのような形になるかはまだ考えておりませんが、ユリさんとの結婚を拒むつもりはありません」

「………………嬉しい!」

「うわっと」

 

 感極まったユリが、男に抱きついた。男をベッドに押し倒したようにも見えた。

 

 このように、古今東西を問わず男が女を騙す常套手段は結婚を匂わせる事である。

 男は去ろうとする女を逃さないよう結婚をちらつかせ、結婚を夢見る女はまんまと餌に釣られてしまう。

 尤も、この男は嘘を言ってるつもりはない。ユリだけと結婚すると言ってないだけだ。

 

 実のところ、であるが。

 アインズに結婚についての話をした時のこと。

 争う三姉妹をどうにかしろと言うアインズに、自分がどうにかして良いならば結婚なんて面倒くさそうなので誰ともしない、と言うつもりだった。

 もしもそんな事を言ってしまったら、アインズですら目を背ける惨劇が繰り広げられた事だろう。

 

 己の美貌と女としての魅力に多大な自負があるプレアデスの三姉妹だ。それが事もあろうか面倒だからヤダなどと言われようものなら女のプライドもプレアデスの名誉もナザリックの威光すら木っ端微塵だ。

 絶対に二度と何があろうとけっして生き返らないよう入念に男を殺し尽くしたら、三姉妹は疾く自裁しただろう。

 偉大なるアインズ様の前でプライドを打ち砕かれる恥辱の極致を晒して生きていけるほど図太い三姉妹ではないのだ。

 

 あの時のアインズは、この男に任せたら絶対にろくでもないことになるとの直感に従って男の言葉を遮ったわけだが、結果として超絶とも言えるファインプレーになっていた。

 

 現在でも面倒と思うのは変わらない。

 しかし、ティアの調教をする際、ソリュシャンの助力を得るために言質を与えてしまった。

 ソリュシャンだけと結婚するのは不公平なので、それならばと言う奴だ。

 そのソリュシャンはレイナースを第六夫人にしてみてはと言うくらいなのだから、反対はしないと思われる。今になっても第一から第五がどうなっているのかわからない。

 

 

 

 

 

 

「あっ、ごめん……」

 

 どんな体勢になっているか気付いたユリは顔を赤くした。

 男の人をベッドに押し倒している。誰が見てもユリから迫っている構図だ。

 慌てて起き上がろうとして、男の手が自分に伸びてくるのを見た。

 そんなつもりはないので、抱き締められたりするのはよろしくない。ベッドの外だったらキスくらいは。

 しかし男の手はユリに触れることなく元の位置に戻った。

 何だったんだろうと思うと同時に、頭が少しだけ軽くなったように感じた。

 はらりと視界に黒い物が流れる。何をされたのか瞬時に悟った。

 

「何するんだよ! この形にするの大変なんだぞ!」

 

 黒い物はユリの髪。

 男の手は、ユリの長い黒髪を結い上げる髪留めを奪ったのだ。

 

「ユリさんの髪は黒髪ロングと聞いたので、髪を解いてるところを見てみたかったんです。整えるのは私が手伝いますよ。慣れてますので」

「だからって一言あってもいいだろう?」

 

 いつもは夜会巻きに結い上げている髪が解かれると、長い髪が頬に触れたり視界を遮ったりと違和感がある。

 ベッドから起き上がるよりも流れる髪を掻き揚げようとして、今度こそ男の手がユリの体に伸びてきた。両手が使えないのであっさりと囚われ、コロンと上下が入れ替わった。

 

「なっなっ、なに、するんだ!」

「妻と夫がするべきことですよ」

「それって……!」

 

 いつぞや許してしまったことをもう一度。今でも鮮明に覚えている。忘れたことはない。

 結婚の話が出た直後で、妻と夫がする事と言われたら拒否しがたい。時間はないではないと言ってしまった。

 受け入れるための言い訳が勝手に頭を過ぎってる間に、ヘッドドレスと眼鏡を奪われた。

 

「眼鏡を外して髪を解いてるユリさんはとても新鮮です。お綺麗ですよ」

「まだ昼間で外は明るいんだよ!?」

「それが何か? 明るい時間に、しかも馬車の上で胸を触らせてくれたでしょう?」

「うっ…………」

 

 それを言われてしまうと、何も反論出来なかった。

 しかもあの時は、ユリの方から胸を触りたいかと持ちかけたのだ。

 

「今日はルプーがいませんし、ソリュシャンが覗いてるわけでもありません」

「…………」

 

 ソリュシャンは覗いてたとは思っていたが、実際にそうであると言われるのは恥ずかしくもあり、妹が何を考えているかわからず、かと言って今更問い詰めるのも機を逃した感があり、複雑な思いを抱かされた。

 それにルプスレギナは目の前で見ていた。首を外されて、口であんなことをさせられた。

 

「……乱暴なことしないって約束して」

「お約束します。ユリさんも同じ事を約束してもらえますか?」

「うっ…………、約束、するよ」

 

 これまた厳しい言葉である。

 馬車の上で胸を触られていた時、遠くに人影を見つけて反射的に男へ肘打ちを食らわせた。

 瀕死の重傷を負わせてしまい、それが前回に繋がってしまった。

 

 

 

 ユリに優しい笑みを向ける男は、内心で胸を撫で下ろしていた。

 セックスするのが責任なのに一度もしてないじゃないかとの追求は、これでかわせるはず。

 黒髪ロングでおっぱいが大きいユリに欲望を感じるのは当然として、それよりも責任回避のためにユリを抱かなくてはならないのだ。

 

 顔を赤らめるユリを見下ろし、シクススのメイド服より複雑そうなユリのメイド服はどうやって脱がせればいいのか考えた。

 とりあえずやりながら考えようと、まずは赤い唇を優しく奪った。




次で150
あまるの最後に2話使うとして、153話までに終わらないことが確定しました


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直感A ▽ユリ♯3

150話とか長いと思いつつ投稿
82話振りのユリ回
一話1○kとか長くて読みづらいと反省したので分割
そのうちまた長くなる気もします


 ユリの部屋は南に面している。

 まだ昼日中。窓にはレースのカーテンを引いただけなので室内は明るい。ベッドの上まで光が届いている。

 

 数度のキスを交わしてから、男は顔を上げた。

 白いシーツには豊かな黒髪が広がっている。黒髪を一房だけ手のひらに乗せ、そっと口付けた。

 

「私の手を滑るように流れていきます。触れているだけでも心地良い。まるで濡れたようにキラキラと光り輝いてる。漆黒とはこのような色なのでしょうね」

「別に、黒髪なんて他にも――」

「ご自分を卑下しないでください。ユリさんがお綺麗なのは万人が認めることでしょうに」

「……ボクのこと、綺麗って言ってくれるの?」

「何回でも言います。綺麗ですよ」

「君もけっこう……、カッコいいよ?」

 

 プレアデスの長女として、美辞麗句は聞き飽きてるユリだ。とは言っても、口にする者によって効果が変わるのは当たり前。弱者に強いと言われてもそれが何だという話だが、強者に強いと言われれば自信になる。

 目の前に迫る男の顔は、ナザリックにて人外の美を知り、自らも誇るユリの目からしても美しいと思う。女性的な優美さがあるようでいて、男らしい鋭さがある。切れ長の目は涼やかで、赤と青の目は知性の光が煌めいている。本当に光っているように見えて、自分が男の目の中に飛び込んでしまったように錯覚した。

 こんなにも綺麗な顔が傷つくなんて世界の損失だ。だと言うのに、酷い火傷を負って何年も監禁されていたと聞いている。

 

 面と向かって賛辞されるのは面映ゆい。男の人を誉めた事なんてないので気恥ずかしくなる。そっと顔を逸らしたユリだが、秀眉を寄せて男を見た。

 男の目に自分の顔が映っている。

 

「気がかりな事でも?」

「ゴメン、そう言うんじゃないから。……ちょっと照れちゃって」

 

 男の顔が柔らかい笑みを作った。

 薄く唇を開いて、顔が近付いてくる。

 ユリも口を開いた。男の口より大きく開けて、尖らせた舌を伸ばす。

 舌を唇で包まれてから、唇と唇が合わさった。

 

 キスの間は目を閉じる。視界を遮断して唇に集中したいから。

 柔らかな唇を感じるのは始めだけ。今は口の中に集中している。ユリから伸ばした舌に、男の舌が触れている。

 つんつんと舌先だけで触れ合っていたのが、接触面積を最大にするように絡み合う。

 もっともっと触れ合いたくて、ユリは男の頭を抱いた。男の顔を自分の顔に押し付けた。

 目一杯舌を伸ばした。男の舌を強く吸った。じゅるじゅると唾を啜る音が響き、顔が熱くなる。恥ずかしいけれど、止められなかった。

 

(あ、また……。初めておっぱい触られた時みたいに光った気がする。前は手だけだったけどさっきは全部光ってた。何なんだろ? でもボクに悪いことするわけないだろうし、別にいいかな。もう見えないからボクの気のせいかも)

 

 

 

 ユリが抱かれてから今日までの間に、実に様々な経験を重ねてきた男だ。

 

 アルベドには死の直前まで吸われ、ソリュシャンには日に数度は吸われ、ルプスレギナは良いように使ってきたが最近は我がままになって好くならないと満足せず、シクススだって定期的に機嫌をとらないと面倒な事になる。

 一晩で49人を抱いた時は完敗して絞り尽くされ、そこから二人引いた47人には完全勝利した。

 そしてあの時あの場にいた若干名しか知らない事だが、命を失い、復活した。

 ただでさえ人間離れしてきたところを、駄目押しでアウラが色々と体に良さそうな物を投与している。

 

 技術の上達は自助努力だとして、様々な要因でレベルが上がってスキルも強化されてきた。

 物質を越えた形而上の高次元での愛撫を可能とするイデアルタッチは、心や魂に触れるに留まらず、溶け込むようになった。

 心や魂の領域での一体感は、真理を越えた。すなわち、生まれるときと死ぬときは誰であれ一人きり、と言う絶対的な孤独を覆す。

 残念ながら、パッシブスキルなのに効果を発揮するのはベッドの上だけ。もしも対象を問わず、任意でスキルを発動できたら世界を掌中に収めることも夢物語ではないだろう。

 幸か不幸か、そこまで成長するスキルではない。そもそも、そんなスキルを身に着けたことを、当の本人も含めて誰も知らないでいる。

 

 だいたいにして、世界を手にしても面倒になって投げ出すのは間違いない。

 

 

 

 

 

 

 貞淑に見えるユリだが、始まれば意外なほど積極的だった。

 こちらから何か言う前に率先してシャツを脱がしてくれる。脱がしやすいだろうと思って体を離れさせると、胸ぐらを掴んで引き寄せ、唇を塞ぐ。

 

 思えば以前もそうだった。

 自分から胸を触って欲しいと言い出した。

 事の最中はエンゲージリボンで動きを封じていたが、拘束が解けてからはやたらと積極的でキスの雨を降らし、上になって腰を使った。

 

 慣れた手付きでシャツとジャケットを脱がすと、今度は下半身へ。

 カチャカチャとベルトを解いてジッパーを下ろし、下着の中に手を入れてくる。細い指は少し冷たく、ひんやりとした。

 

「あん……、待って。自分で脱ぐから」

「後学のために私にさせてもらえませんか? これからもユリさんの服を脱がすときが何回もあるでしょうから」

「……うん。いいよ、脱がして。でも丁寧にしてね」

「わかってます」

 

 レロレロと舌を絡ませながら。男の手はユリの胸に伸びていた。

 ユリと来れば大きなおっぱいだ。

 ブラウスの上から一揉みした後、ボタンを外す前に、まずは襟元の青いリボンタイ。中央にあしらわれている青い宝石を落とさないよう注意して、リボンを解く。

 襟が開き、胸元が露わになった。豊乳が作る谷間の始まりが覗いている。

 ろくでもない人生を送ってきたので経験は一度もないが、プレゼントの包装を破る高揚はこのようなものではないかと思わされた。

 

「タイは抜かなくていいから、そのまま脱がせて。上からボタンを外してくんだよ?」

「わかりました」

「あと、キスも忘れないで。チュッ……」

 

 目を閉じて顔を寄せるユリを見ながら、ボタンを外す順番なんてどうでもいいだろうにと思いつつも、言われた通りに上から外す。

 

 ユリのメイド服は、乳房の部分で生地が切り替わって、大きさを主張する作りになっている。シクススやシェーダたちも同じデザインだ。

 ソリュシャンのメイド服はと言うと、生地が切り替わらない代わりに胸の谷間を大胆に見せている。

 おっぱいが大きいメイドは、露出を厭わないならソリュシャンのような上乳見せ。露出はちょっとだとユリのように生地が切り替わる。

 ルプスレギナは合わせ技で、生地が切り替わりつつ上乳を見せている。

 ちっぱいのシズちゃんは、おとなしめの可愛いデザインだ。

 そしてこの男は一度も見たことがないナーベラルのメイド服は、生地が切り替わるタイプである。このことから、ナーベラルはナザリックにて大きい方に分類されると推測できるのである。

 

(こ……これは!)

 

 ボタンを外す順番なんて、と思っていた男だが、外すにつれてユリの言葉の意味が分かってきた。

 

 第一第二ボタンまでは、徐々に姿を現す白い谷間にときめいた。

 第三ボタンは、衝撃だった。ブラウスが突然開いた。ユリの大きなおっぱいが、窮屈な拘束を解かれて自由になったのだ。この光景は、上から順に外さないと拝めない!

 第四ボタンを外せば、もう二度と閉じこめられてたまるかと言わんばかりに、乳圧がブラウスを押しのけた。

 第五ボタンでユリの乳房が完全に露わになった。大きなおっぱいが、花柄の入った青いブラジャーに包まれている。

 

「おっぱい好きなの? ちょっと熱くなってきたよ」

 

 優しく握っていたユリの手が、ゆっくりと上下し始めた。股間に血が溜まってくる。

 

「もちろん好きですよ。ユリさんのブラジャーを外すか、メイド服を脱がせるか、どっちを先にするかで悩んでます」

「そんなので悩まないでよ! でも、だったら……、先に服。後はサッシュベルトを解けば簡単に脱げるから。腰の後ろで結んであるのを解いて、その下にエプロンの紐を結んであるからそれも解いて、そしたら……ね?」

 

 エプロンの上に、幅広の青いサッシュベルトが腰を締めている。

 サッシュベルトは一般的なベルトと違って、服を留める実用ではなくお洒落用のアイテムである。ユリの場合、コルセットのように腰の細さを強調している。

 ユリはこんなにも腰が細いのに、こんなにもおっぱいが大きいのだ。

 

 着せるときの事を考えて、どんな結び方をしているのか確認してからサッシュベルトを解く。

 ユリの後ろを覗かなければならないので、ユリの肩に顎を乗せた。自然、ユリもこちらの肩に顎を乗せる。

 耳が近くにある。小さな声で、ユリさんとこうなれて嬉しいです、と囁いた。ユリはピクリと震えてから、ボクも、と答えた。

 言葉だけで喜んでもらえるのだから、非常にローコストである。

 

 ユリとシクススのメイド服は、サッシュベルトの有無と細部の意匠が違うくらいで脱がし方はほとんど同じだった。

 ブラウスの前を大きく開いて腕を抜けば、エプロンドレスがはらりと落ちる。青いブラジャーに包まれて、白い柔肉による深い谷間が現れた。

 触れるだけでも気持ちいいおっぱいなのに、谷間に挟まれれば左右どころではなく全方位からおっぱいを感じられる。そう思った瞬間に閃いてしまった。

 

「固くなってきたよ。ボクにおちんちん握られて気持ちいい? それともやっぱりおっぱい?」

「どちらもです。ユリさんの胸はとても大きくて綺麗ですから。その綺麗な胸でして欲しいことがあるんです」

「……聞いてから考える。なに?」

「して欲しいのは……」

 

 

 

 一通り聞いて、ユリは呆れたように息を吐いた。

 

「男の人ってそんなが好きなのかい?」

「他の男はわかりかねますね。俺がして欲しいんですよ」

「……いいけど」

 

 ユリは、脱がされたメイド服と、脱がしたシャツとジャケットを綺麗に畳む。そこへズボンも追加された。ベッドの上を想像して、数瞬動きが止まる。

 衣服は重ねて椅子の上に置き、ベッドに戻った。ユリは下着を着けてるのに、男は全裸で待っている。

 

「それじゃ……してあげるから」

 

 ユリはベッドの上に正座してから背中へ手を回す。ホックを外した瞬間に、大きな乳房がぷるんと揺れた。

 ブラジャーのカップが外されても、ユリの乳房は崩れたりしない。ルプスレギナにスイカと呼ばせるほどの巨乳なのに、重力に負けることなく美しく整っている。

 

「よろしくお願いします。時々口も使って欲しいですね。ユリさんなら大丈夫と思いますが、もしも重かったら言ってください」

「君が十倍になったら厳しいけど、五倍までだったら全然余裕だよ」

「それは頼もしい」

 

 男は、にやりと笑ってキスを送った。

 最中のキスは難しいので、たっぷりとしておく。

 キス中のユリは目を瞑るが、男は開いたまま。息継ぎで唇を離すときはそっとユリの体を盗み見る。

 この体に触れないのは罪悪だ。しかし、一度触ってしまうと離せなくなる確信がある。

 触るのはしながらでも出来るのだからと自分に言い聞かせ、ユリの肩を掴むだけにした。

 

「君のって大きくて長いから。こうした方がいいかな?」

 

 ぴったりと合わせていた太股を開く。

 ブラジャーと上下セットの青いパンツを履いたままなので秘部が見えたりはしないが、股間を見せてくれるというのは大変に劣情を煽られる。

 こちらでも手が伸びそうになるのを我慢である。ここで触ってしまったら始まらない。

 ユリの目の前に座ってから、両足をユリの太股に乗せる。そのままの姿勢で腰を進め、上半身は倒して頭の下には枕を敷いた。

 

「……始めるよ?」

 

 太股の上に男が腰を乗せ、下腹には男の股間が触れている。熱くて固くなったものも触れている。やや反り返っているので、真上よりもやや向こう側へ倒れている。

 ユリは左腕で両の乳首を隠すように胸を抱き、右手は勃起した逸物の根本を摘まんだ。

 逸物を自分の方へ傾け、左手を少し緩めて胸の谷間を開き、熱い肉棒を谷間に迎えた。

 反り返った逸物が逃げないように、豊満な乳房を両側から押さえて挟む込む。

 

「おちんちんあっついよ……。おっぱい動かしたらいいんだよね?」

「手や口でしてくれたろ? あれと同じように扱くんだ。使うのはユリのおっぱいだけどね」

「……上手く出来ないかもだけど」

 

 逸物を胸の谷間に挟んだまま、ユリは乳房を上下に動かし始めた。

 男がユリにして欲しいと頼んだのは、パイズリだった。

 

 不思議なことに、巨乳に囲まれて生活しているのにパイズリはあまりしてもらってない。

 ソリュシャンはたまにしてくれる。それよりも圧倒的に咥える方が多いので、回数が多いとは言えない。

 シクススには一度だけしてもらったが、その後の処理が不味かったようで怒られてしまった。残念なことにそれきりとなっている。

 ルプスレギナにミラとジュネは一度もない。

 

 パイズリは、快感だけを比べるなら口や膣に若干劣る。しかし、視覚的効果が素晴らしい。大きなおっぱいが、ちんこを包みながら揺れるのだ、うねるのだ。

 とても愛されているからこそ、今日まで伝わっている技である。

 こんなにも好いものなのに、手間を厭うてあまりしてこなかった。目の前の快感に逃げてきたのだ。

 しかし、改めて好いものだと再確認した。とりあえずルプスレギナに仕込もうと考えた。

 

「おちんちんをおっぱいで挟むなんて……。本当に気持ちいいの?」

「ユリのおっぱいは柔らかくてすべすべで、触れてるだけでも気持ちいいのに挟まれてるんだ。悪いわけがないだろ?」

「……うん。でも、なんだか変な感じ。おっぱいで何か挟んだ事なんてないから。ぎゅってしてるから熱くて固いのがよくわかるよ。おっぱいを押しのけて暴れようとしてるんだ。……おっぱいでおちんちんを捕まえてる感じ?」

 

 パイずりを始めてしばらくの間は言葉少ないユリだったが、扱き続ける内に慣れてきたようだ。

 自分は刺激を受けていないのもあって、男との会話を楽しむ余裕が出てきた。

 口を開いても扱くのは忘れない。

 大きな乳房を上下に揺すって、時には右乳と左乳を上下反対に動かして逸物を擦る。

 乳房を下げると谷間から亀頭が顔を出した。

 尿道口から透明な滴が珠となって浮かんでいるのを見たユリは、舌を伸ばして舐めとった。

 舌を尖らせレロレロと上下に舐め、赤い唇で先端だけを包んでちゅると吸う。

 男に見られているのに気付き、いやらしいところを見られてしまったと恥ずかしくなったが、逸物を挟んで舐めて今更と思い切り、頬を赤らめながらも微笑み返した。

 

 普段のユリは、長い黒髪を一部の隙なく完璧に結い上げて、如何にも厳しそうな表情を浮かべ、如何にもお堅そうな態度を取り、見るからに貞淑そうだ。

 それが今や、眼鏡を外して長い黒髪で裸身を覆い、興奮に頬を染めながら淫蕩な笑みを浮かべている。ユリの手の中では形の良い巨乳が自在に形を変え、その谷間には逸物が挟まれているのだ。パイズリをして悦んでいるように見える。

 あのユリがこんな姿を見せてくれる。ソリュシャンやルプスレギナではこうはいかない。あいつらはいつでも好色そのものだ。

 自分だけが見れるユリだと思うと、征服感と優越感が刺激され、滾ってきた。

 

 やはりパイズリの視覚的効果は素晴らしい。

 刺激もやっぱり素晴らしい。

 滑らかにしてふわふわな柔らかおっぱいにぎゅっと包まれているのだから、気持ちよくないわけがない。

 ちんこだけで味わうのは勿体ない。無事に始まったのだから、我慢はここまでにするべきだ。

 

「あんっ、急に触らないで。ビックリするだろ?」

「ユリのおっぱいを触らないでいられるわけないだろ?」

「そんな事言って……。触って良いけど……」

 

 ユリの胸に手が伸びた。

 乳圧が少しだけ緩んだが、谷間は深いので逸物は逃げ出せそうにない。それに加えて。逃がさないようにユリが前傾になった。

 

 むにむにと両乳房を揉みながら、ユリと目を合わせる。

 ユリは少しだけ瞳を揺らした。

 

「ユリの胸に指がこんなに埋まってる。とろけそうなくらい柔らかだ。それなのに、手のひらにコリっとしたのがあるな?」

「バカッ。エッチなこと言わないでよ……」

「エッチな事になってるのはユリだろう?」

「君だっておちんちんこんなにおっきくして、すっごくエッチじゃないか。だから、ボクも……」

「ボクも?」

「……乳首が、立っちゃって……」

「立たせたんだろ?」

「!!」

 

 見つめ合いながらパイずりをしていたのだから、ユリがどんな風に乳房を掴んでいたのかよく見えた。

 脇から乳房を押さえていた手は、指先が乳首に届く。

 最初は偶然触れただけだったようだが、次第に意識的に触るようになっていった。

 指先でつついたり押し込んだり、指の腹に隠れてから顔を出したときは、明らかに形が変わっていた。

 

「ユリが乳首を弄りながらパイズリしてたのが見えてたよ」

「うぅ…………」

「乳圧が緩んでる。もっと締めて」

「……うん」

 

 男の手が胸を弄んでいるので、ユリは二の腕を使って乳房を挟む。ユリの女は、パイズリのバリエーションを無意識に修得したようだ。

 折角だから少し教えてやろうと、勃起した乳首を抓って甘く鳴かせてから、ユリの手を握った。

 右手も左手も、指の股にユリの指が入って手の平同士をピタリと合わせる。

 

 指を絡めて手を握り合う形を、恋人握りと言う。

 名称を知らないユリだったが、手の平から伝わってくる熱意に、心が悦んだ。

 入れてもらったら絶対に手を繋ぐべき。

 

 手を繋ぎながら男は数度腰を振ったが、腰をユリの太股に乗せているので騎乗位よりやりにくい。

 名残惜しげなユリから手を離し、パイズリを再開して貰った。

 

「ボクのおっぱいで気持ちよくなってね♡」

 

 初めての時はあんなに恥じらって涙すら見せたのに、ユリは笑みすら浮かべて大きな乳房をきゅっと寄せた。

 

「さっきみたいに乳首を弄りながらしてくれよ」

「もう、エッチなんだから。ボクが乳首を弄ってるの見たいのかい?」

「是非見たい。ユリが感じながらパイズリしてくれるなんて最高だ」

「どうせ皆に言ってるんだろー。そのくらいわかるんだからね! でも今はボクが独占してるから許してあげるよ」

「ユリが優しくて助かったよ」

「否定しろよ!」

 

 言葉こそ厳しいが、声音は弾んでうっとりと笑みを浮かべたまま。

 ユリは苦言を幾つか連ねてから、ゆるい拳を作っていた両手を開く。

 手の平はぎゅっと乳房を押して逸物への乳圧を増加させ、伸ばした薬指が乳首に届いた。

 

「おちんちんがボクの顔に飛び込んでくるみたい。出すときは言ってね? んぅ……、乳首もじんじんしちゃってるよぉ」

「ユリなら自分で舐められるだろ?」

 

 ジト目で男を見ながらも、ユリは乳房から手を離した。

 逸物が谷間から解放されてしまったが、左手が捕らえる。しゅっしゅと上下に扱いてから、亀頭を左の乳首にこすりつけた。ユリが何度か舐めとっていた先走りの滴が、赤い乳首になすりつけられる。尖った乳首で裏筋を刺激され、ユリの手の中でピクリと震えた。

 右の乳房は下から持ち上げる。ユリが少し顔を伏せて舌を伸ばすだけで、乳首に届いた。

 左の乳首は先走りで、右の乳首はユリの唾液で濡れ光る。

 

 パイズリや乳首弄りは良くても、舐めるのは恥ずかしいらしい。

 赤い顔を俯けた。

 

「こっちを見ながらして欲しいな」

「……うん。……すごい恥ずかしかったけど君がしてって言うからしてあげたんだからな!」

「いやらしいことをしてるユリにちんこを扱いて欲しいんだ」

「エッチ! 君のおちんちんなんてこうしてやる♡ ちゅっちゅっ、あむぅ……、れろ……」

 

 ユリが開いていた太股を閉じる。太股に乗せていた男の腰が高くなって、逸物の位置も高くなった。

 谷間から顔を出した亀頭にキスを送ってから、赤い唇で優しく包んだ。

 口の中で舌を使い、パイズリもきちんと続ける。

 どんな顔でしているのか、長い髪に隠れて見えないのがとても惜しい。

 

 ユリがむにゅむにゅと豊満な乳房を動かしているのが美しければ、逸物への刺激も素晴らしい。

 滑らかな肌触りにしてふわふわおっぱいの柔らかさ。それなのに、あるいはだからこそ。乳圧が全てを包み込んで満遍なく扱いてくれる。

 そして、口の中はスゴい。

 亀頭を乳首に擦り付けた時に気付いたのだろうか、尖らせた舌で裏筋を的確に刺激している。恐るべき手腕であった。

 

「あっ」

 

 ちゅぷんと、ユリの口から亀頭が離れた。

 赤い唇と尿道口で引いた糸は、先走りとユリの唾液が混ざったもの。

 

 快感がこみ上げ、そろそろと感じた男が腰を引いたのだ。

 ユリの目の前に、今にも暴発しそうな逸物がある。

 その瞬間、ユリは股を開いた。

 

(なっ!?)

 

 男の尻がすとんと落ちる。

 ユリの手は緩まず、逸物は胸の谷間に深く抱かれたまま。

 乳圧で締められる中、どぴゅぴゅっと熱い精液を吐き出した。

 

「ボクの顔に掛けようとしてたろ?」

「くっ……」

 

 ぴゅぴゅっと胸の中で射精されながら、ユリは得意げに笑う。

 創造主が女である影響なのか、経験は少ないのに強者の風格があった。

 

 

 

 ユリの推測通り、顔に掛けてやろうと思っていた。

 ユリの綺麗な顔が精液に汚れるのを見たかったのだ。

 

 以前、シクススに全く同じ事をしている。

 泣きそうな顔が白濁した精液を垂らしているのは、とても興奮する光景だった。

 しかし激しく怒られ、二度としてあげないと言われてしまった。

 

 出すと一言あれば目を瞑れたのに、急な顔射だった。

 目に入って痛かったようだ。

 怒って然るべきだし、二度としないと言うのも当然だった。



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デュラハンプレイ ▽ユリ♯4

 脈打つ逸物が落ち着いてから、ユリは乳圧を緩めた。

 胸の谷間には大量に吐き出された精液がべったりとこびりつき、乳房と乳房の間で幾本もの糸を引く。精液の糸は見る間にたわみ、下腹へと落ちていった。

 谷間の精液も粘塊が混じって如何にも重そうだ。白い肌に濡れた跡を残してゆっくり流れていく。

 

「君は向こうでおちんちんを綺麗にしてきなよ。そこに引っかけてあるタオル使っていいから。ボクがいいって言うまでこっち向くんじゃないぞ!」

 

 悔しそうな男が背を向けてから、ユリは頭を振って長い髪を後ろへ流した。

 頬に触れる髪も掻き揚げ耳に掛ける。そのまま両手で側頭部を押さえ、

 

「えい!」

 

 頭を引っこ抜いた。デュラハンであるユリの頭は取り外し可能なのだ。

 取り外した頭は前後を入れ替え、胸の前に持ってくる。

 雄の臭いが強く鼻を突いた。

 

(おっぱいにこんなに出しちゃって……。おっぱいがそんなに好いの? それともボクのおっぱいだから? ルプーも触りたがるし、シャルティア様はちょっと困るけど。仕事が残ってなかったら顔に出させてあげても良かったかな)

 

 乳房を汚す精液を目の当たりにして、ユリの艶やかな唇が小さく開き、赤い舌が伸びた。

 下腹にまで垂れようとした精液に、舌の腹が乗せられた。

 

(タオルがちょっと汚れたくらいなら簡単に洗えるけど、こんなにいっぱい拭き取っちゃうと、ね?)

 

 粘性が薄い部分なら軽く舐めとれる。しかし、こびりついてる粘塊はそうもいかない。唇を窄めて突きだし、じゅるると吸った。

 白濁した精液がユリの口の中へ消えていく。

 何度か繰り返して口内に溜まった精液は、飲み干す前に舌でかき混ぜた。

 

(精液ってこんな味なんだ。味って言うよりねとねとした感じの方が強いかな。ソリュシャンがあんなに美味しそうに飲んでたんだから悪いものじゃない、よね? 普通だよね? 綺麗にしなきゃいけないし仕方ないよね?)

 

 セルフパイ舐めならソリュシャンにも出来る。

 しかし、セルフ下乳舐めはソリュシャンにもハードルが高い。やろうと思えば出来るだろうが、首の長さがあれな事になって特異な形状とならざるを得ない。そんな事をするくらいなら、素直にタオルを使って拭ったり、肌から直に吸収を選ぶ。

 ユリはおっぱいに出された精液を片付けるために、高度なセルフパイ舐めを選択したのだ。

 

 粘塊をあらかた吸い取ったら残滓を舐めとる。

 乳首にも少しだけ付いていた。

 裏筋を擦ってあげたときについた先走りは乾いてきたが、谷間から解放された逸物が少々暴れて飛び散った。

 ユリは少しだけ考え、気持ちよくなりたいんじゃなくて綺麗にするためだからと誰に聞かせることもない言い訳をする。

 目を閉じて乳首に吸いついた。

 

 頭を外しても、体で感じることはいつも通り。

 乳首に感じるむず痒いようなくすぐったさと、甘い刺激。舌に触れる媚肉の弾力は楽しいと言えなくもない。

 乾き始めた汁は味も臭いも強かった。美味しいとまでは言えないけれど、不快ではない。もっと舐めてあげてもいい。

 ちゅうと強く吸ってから隣の乳首へ。

 ユリの口から現れた乳首は、口付けする前より固く尖っている。

 

「ひゃん!?」

「おっと」

 

 両乳首を綺麗にしたユリは、不意の感触に驚いて頭を落としてしまう。

 頭はベッドに転がる前に、男の手が受け止めた。

 

「なにするんだ!」

「それはこっちのセリフだ。俺を忘れて乳首吸ってたのはユリだろう」

 

 ユリを見下ろす男は、いやらしく笑っていた。

 

 タオルを水差しの水で少々湿らせてから、二度三度と拭えばそれで終了。

 こっちを向くなと言われたものの、ユリの裸を見ないなんて不可能だ。

 タオルを元の場所に戻してから堂々と振り向くと、ユリは自分の頭を外して、自分のおっぱいを舐めていた。物凄く高度なプレイだった。

 

 舐めるのに夢中なユリは男が近付くのに気付かない。

 男はそっとユリの後ろに回り込み、まずは首の断面を確認。

 人体の切断面らしきものが見えてしまうのだろうかと戦々恐々だったが、予想は大きく外れた。白かったのだ。

 単に白いのではなくて濃淡があり、刻々と変化している。奥は見えず、断面からは白いもやのようなものが湧いている。

 

 ユリの頭は取り外し可能であっても、胴体とはきちんと繋がっている。そうでなければ頭部だけで話せるわけがない。また、口から入った物はきちんと体の方へ入っていく。

 逆に体で感じることを頭部は把握して、今のように乳首を摘ままれたら甘い声が出てきてしまう。

 

「とりあえずユリの頭を置いていいかな? ベッドに置くから股を開いてくれ」

「元に戻してくれたらいいじゃないか!」

「ユリとしか出来ないことをしたいんだよ」

 

(そんな事言ってこの前は頭が外れてると気分が出ないとか言ったくせに!)

 

 ぶつぶつ呟きながらも、言われた通りに正座していた足を開いた。

 頭は太股の間に、体を向いて置かれる。目の前に自分の股間があるのはとても気恥ずかしい。

 

「脚はこうして」

「何するの!?」

 

 膝を掴まれ、立たされた。

 股を開いて両膝を立てて座る姿勢をM字開脚と言う。男はいつもさせてる姿勢だが、ちょっと違うのは股間と向き合ってるユリの頭。

 

「自分のまんこをじっくり見れるのはユリだけだ。鏡を使ったってそんな間近じゃ見れない。自分がどうなってるかよく見るんだ」

「そんなの見なくていいよ!」

「実を言うと見て欲しい。俺は上手いつもりでいるし悦んでもらってもいる。でも、どんな事をしてるか見てもらったことは一度もない。もしかしたら不味いことをしてやいないかと気になってる。ユリにしか頼めないんだよ」

「………………そう言うことなら」

 

 股間を見つめさせられているユリは、男が邪悪に笑ったのに気付かない。

 勿論のこと、男の言葉は真っ赤な嘘。不味いことをしてたらとっくに修正が入ってる。ユリに見せるための方便に過ぎない。パイズリではユリにしてやられたので、それ以上にやり返したいのだ。

 どうなっているか間近で見せれば羞恥を煽って互いに興奮できるし、それ以外の目的もある。

 

 ユリが見守る中、股間に男の指が伸びてきた。

 

「んんっ……!」

 

 真っ直ぐに伸びた中指がパンツ越しに敏感なところを擦っている。

 擦る毎に刺激が強くなって、ユリが声を上げたと同時に離れてしまった。

 快感に耐えようとしたのか、キスの時と同じように集中したかったのか、ユリは目を瞑っていた。目を開くと、指摘されるまでもなく僅かな変化に気が付いた。

 

「クリトリスが立ってきたのがわかるかな?」

「っ!」

 

 ユリと来れば大きなおっぱいの他に大きなクリトリス。ユリがクリトリスを勃起させると、割れ目の中から顔を出してパンツの上からでもわかってしまうほどに膨らんでくる。

 股間にぴったりと張り付く青い薄布に、小指の先ほどの小さな、けども大きな突起が現れていた。

 

「ユリのクリトリスだ」

「あひっ!」

 

 突起を軽く弾く。

 ユリを良い声で鳴かせてから、親指と薬指で根本をしっかりホールド。逃げられなくなった肉芽を、人差し指で撫で始めた。

 

「あっ! あっ! あぅっ! こえっ! おさえ、らんないぃっ! ああんっ!」

 

 痺れるような快感が足腰の力を萎えさせ、抑えたいと思っているのに口をこじ開ける。

 手で押さえようにも、口は股の間。

 頭部に出来るのは艶やかな嬌声を上げ続けることと、自分の股間を見続けること。

 

 一度だけ中指が割れ目をなぞった。

 指が青い下着に隠れるくらいに沈んで、下から上に撫でていく。

 上にたどり着いた指は再びクリトリスを撫で始めたが、ユリの視線は指が這っていた部分に釘付けになった。

 色が濃いブルーの下着だ。淡い色と違って多少濡れても変色しない。目と鼻の先で見てるユリにはわかった。

 指で押し込まれたところに、シミが出来ている。

 小さな小さなシミだったのに、段々と上下に伸びて広がっていく。

 

(おまんこ濡らしちゃってる! だってだって気持ちいいんだもん! こんなの絶対濡れちゃうよ! 濡れちゃうけど……、恥ずかしい。おまんこがおちんちん欲しがってるみたいで……。欲しくないわけじゃないけど……、でも恥ずかしいのは恥ずかしいよ! こんなの見せなくたっていいじゃないか! ……………………え?)

 

 男の手がクリトリスから離れ、ユリの腰に回った。

 親指をパンツの両サイドに差し込み、ずり下げていく。

 

「あの……あの…………あの!」

「尻を上げて」

「…………うん」

 

 ユリが開いた太股を閉じて、尻を上げる。

 青い下着が太股を通り、膝を抜け、足首まで下ろされて、つま先を抜けた。

 

「へえ……」

「やだ見ないでよ!」

「乱暴しないって約束したろ?」

「だって……恥ずかしいんだよぉ」

「パンツを濡らしたのがか?」

「言わないでよぉ……」

 

 ユリのパンツを裏返し、秘部を覆っていた箇所を広げてみた。割れ目より広い範囲でしっとりと濡れている。

 鼻を近づければ甘い香り。

 ユリはデュラハンでアンデッドなため、愛液が少し違うようだ。それでも、オートマトンのシズと比べれば生々しい臭い。

 

「!!」

 

 ユリは、もう一度股を開かされた。

 今度はパンツを着けてない。自分の生々しい部分を目の当たりにさせられた。

 

「ユリのまんこはどうなってる?」

「…………」

 

 大きく股を開かされているので、割れ目が少し開いている。

 目に付くのは、大きく勃起したクリトリス。包皮が剥けきって、充血した肉の豆が膨らんでいる。乳首と違ってつるつるしているのが内側に隠れているべきものに思えて、そんなものをさらけ出してしまっていることに、どうしようもなく羞恥を感じる。

 ぬらりとした内側の肉は、下の方に小さな穴が開いている。

 内側を濡らしている汁は全てそこから分泌され、今も透明な汁を湛えている。

 男の指が穴に入っていくと、穴の中の汁が押し出されるのが見えた。

 汁は白い肌をトロトロと伝って流れ、シーツに吸い込まれていった。

 

「はぁっ!? あっあっあぁっ! あっ、やあぁん! らめ、ゆっくりぃ!?」

 

 一度だけとは言え、じっくり使ったユリの雌穴は二本の指を難なく飲み込んだ。

 くちゅくちゅと指を抽送し、同時にクリトリスも弄ってやりたいところだがおっぱいも外せない。左手ではユリのたわわな乳房を鷲掴みにして揉みしだく。

 

 巨乳と来ればソリュシャンも大きいが、ユリのおっぱいはどこか違う。大きさはユリの方が若干上。柔らかさはソリュシャン。勃起した乳首の固さはユリ。形はどちらも極上でだらしなく垂れたりしない。

 ソリュシャンは中身スライムと知っているので、意識の差が一番かも知れなかった。

 どちらであれなんであれ、ユリのおっぱいは素晴らしい。

 

 鳴き声の高さと震え具合から、クリトリスで何度か達したのは察している。

 ユリは経験が少ないので中よりクリ派かも知れない。中の良さを十分知らしめる必要がある。膣内で指を折り曲げ、肉ひだに埋もれた性感を教えてやった。

 ユリは良い声で鳴いた。

 

「あっ、あっ、あっ? おちんちん立ってるぅ♡」

 

 ユリは背中を男の胸に預けている。真後ろでそんな事になれば体に触れる。

 ユリの腰に、熱くて固い棒状のものが触れていた。

 膣をかき回されて胸を揉まれ、嬌声を上げるだけだったユリは、後ろ手に男の逸物を握った。さっきしてあげた時と同じ固さと圧力。

 自分の体で興奮してくれたことに心が悦ぶ。

 

「ユリの準備は十分みたいだから、俺のをしてくれよ」

「うん。……でもこのまま?」

「このまま。ユリのおっぱいを触ってたいんだ」

「エッチ。……おちんちんシコシコしてあげるね♡」

 

 後ろ手ではどうしても動かしづらい。

 手付きは拙くストロークは僅かで、それでも勃起を保つなら十分だ。

 このままの姿勢で、ユリにやって欲しいことがある。

 

「え?」

 

 男の手が胸から離れた。

 それだけだったら他のところを触るのかなと思うだけだが、男の手は頭を掴んだ。

 そして、前方に引き寄せてくる。

 

「ちょっと……やだ、止めろよ!」

「俺はユリのまんこを舐めたことはなかったかな? 俺がするより先にユリに味合わせてやろうと思うんだ」

 

 ユリの頭は、股間の真ん前にあった。

 それを引き寄せられると言う事は、自分の体に触れてしまうと言うこと。

 

「そんなのしなくていいから!」

「舐め方をシャルティア様に習ってみるか? きっと喜んで教えてくれるぞ」

「うっ……」

 

 シャルティアに狙われている自覚があるユリだ。

 ユリに同性愛の嗜好はない。なのに舐め方をどうのと言ってしまえば間違いなく襲われる。

 

「俺のちんこは扱かなくていいから自分でまんこを広げてみろ」

「…………」

 

 ためらいがちに、けども言われた通りにしてしまった。

 割れ目の両側からユリの指が伸びて、ふにっとした陰唇を押さえる。押さえながら、くいと引っ張った。内側がくぱあと開いた。雌の匂いが濃くなった。

 

「あ……あ……、うぷ……」

 

 股間に顔を押し付けられた。

 唇に陰部が触れている。口はまだ開いてない。

 

「やれ」

「うぅ…………。んっ……、れろ……」

 

 唇を自身の愛液が濡らす。

 おずおずと口を開き、舌を出した。

 内側の肉は舌よりも柔らかく、とろけるようだった。

 

 セルフパイ舐めはある程度以上の巨乳なら出来る技だが、セルフクンニリングスはユリにしか出来ない技だ。

 これをさせたかったから、ユリの頭を戻さず股の間に置いたのだ。ユリが精液を拭かずに舐めとったせいである。自分の精液を舐めた口にキスをしたくなかったから、愛液で上書きするために舐めさせている。

 これがアルベド様やソリュシャンなら精液を完全に吸収して味も臭いもなくなるのだが、二人以外の口に出した時は必ず口をすすがせている。

 トラウマがあるのだ。

 

 ラナーに囚われていた後年は記憶の宮殿に潜ることを覚え、火傷の痛みに襲われていても体を動かせるようになっていた。

 しかし、それ以前は激しい痛みに自意識を保つのがやっとだった。黒粉が切れているときは体を起こすことすら出来なかった。

 そんな時でも、ラナーは嘲笑を浮かべて乗ってくる。

 口でする時も多々あった。苦しんでいるのに下半身は反応して、ラナーの口に放ったものだった。様々なことを学んだ今になって振り返ると、死の影が見える苦痛に抗おうと、子孫を残すために生存本能が働いたのだろう。与えられていた食事に何かが含まれていた可能性もある。

 反応した理由はさておき、たっぷりの精液を頬張ったラナーは、そのまま口付けしてくることが何度も何度もあった。

 飲み込める体力はないので最終的にはラナーが飲み干すわけだが、忌まわしき苦痛と屈辱の記憶である。

 

 

 

(自分で自分のおまんこ舐めるなんて……。やれって言われてどうしてしちゃったんだろ? やだって言えたはずなのに。でも、他の誰かの舐めるのより自分のだったら……、まだましかも。おちんちんより味が薄いかな? おつゆもネトネトじゃなくてさらさらしてる。おちんちんはあんなにガチガチになるのに、おまんこはトロトロしてるよ。穴の方は奥まで入らないからあれだけど、クリトリスは……。自分で舐めてるのに、ちょっといい、かも。……あっ、おっぱい触ってる! 触られると温かくて……、やん、乳首じんじんするよぉ! 痛いのにきもちい……。おまんことお尻をされちゃった時はわけがわからなかったけど、おっぱいは……。ボク、おっぱい触られるの好きかも……♡)

 

 ユリは両足首を絡め、自身の頭を挟んで股間に押し付けた。

 男に寄りかかっていた体は前のめりになっている。上半身が前傾すると、割れ目の位置が下がってユリの口にクリトリスが届く。

 もう指で広げる必要はなかった。

 代わりに、中断した手コキを再開している。両手を後ろに回して勃起した逸物をゆるゆると扱く。

 男の手は、ユリの体が前のめりになりすぎないよう乳房を掴んで押さえていた。

 たぷんたぷんと巨乳を揺らし、乳首を摘まんでは転がして引っ張って。

 男の手が胸を離れて下腹を撫で、太股を掴んだとき、ユリがあっと言う間に頭がベッドに倒れてしまった。

 顔は真上を向いている。

 ユリの上半身は前のめりに倒れ、両手をベッドについている。

 腰を持ち上げられて両膝をつき、頭の幅より広めに開く。

 

 M字に脚を開いていた時は、割れ目と肉に埋もれがちな肛門が正面にあった。

 両手両膝をついて四つん這いになってる今はどちらも後ろを向いているので、正面には股間を飾る陰毛が見える。毛先が滴に濡れている。顔にぽたりと落ちてきた。

 そこへぬっと現れたのが肉の棒。先端は整った陰毛を越えて、ここまで届くと見せつけているかのよう。

 

「あんな長いのが、ボクの中に……。あっ!」

 

 引かれた逸物が、突き出した股間にあてがわれる。

 ユリからはよく見えたし、先端が割れ目を潜っているのも感じられる。

 徐々に沈んでいくのが見えた。太い亀頭が膣口をこじ開けているのがわかる。

 さっきまで舐めていた膣口は舌先が入り口に入る程度の広さだったのに、男の体を迎えている。

 

「あ……あ……、入ってるの見えるよぉ……。おまんこの穴が広がって、おちんちん入ってる……。はうぅうぅっ♡」

 

 太い亀頭が膣を抉っていく。ユリの体にずぷぷと入っていく。

 ユリの耳には、淫液の泡が弾ける音さえ聞こえた。

 

「あっ……、あっあっあっ! あんっ、ああんっ♡ ぐちょぐちょしてるぅ! ぐっちょぐっちょて聞こえるよぉ♡」

 

 ユリの目の前で、逸物が前後に動き始めた。

 抜けるときは亀頭のカリが膣内の愛液を掻きだして、入るときは男の下腹がユリの尻を打つ。

 パンパンと乾いた音に、じゅぽじゅぽと粘着質な水音が重なった。

 股間と股間がぶつかるときは、卑猥な飛沫がユリの顔に降ってきた。

 

(スゴい……。おちんちんがボクのおまんこに入ってる。あんなおっきいのに入っちゃってる。あんなに激しく出たり入ったりしてるなんて……。あ、やだ! クリトリスがおっきいまま! 真っ赤にてらてらしてて、ボクのクリトリスってあんなにエッチなの!? ……だめだめ触っちゃだめぇえ♡ 体全部がおまんことクリトリスになっちゃうよぉお♡)

 

 ベッドに沈むユリの体を追いかけて、男は腰を振りながらユリの巨乳を掴み、勃起したままのクリトリスをこすりだす。

 挿入中のクリトリス愛撫は王道なのだ。

 

 ユリの腕が体を支えられなくなったなら、足腰も快感に痺れている。

 腰が少しずつ下がっていき、時々ユリの額に陰毛が触れる。

 本当に目と鼻の先で、自分の体が犯されている。鏡を使ったってこんな間近で見ることは出来ない。

 

 

 

 ファントムセンスと言うものがある。

 本来感じないはずの触感を、視覚情報による錯覚で触れているように感じてしまうことを指す。

 強い共感と見ることも出来て、自分が触られているわけではないのに触られている光景を見ることで、本当は感じないはずなのに自分が触られているように感じてしまう。

 

 ユリは今、自分が犯されているのを目の当たりにしている。

 雌穴がだらしなく口を開いて涎を垂らし、太い逸物が何度も何度も出入りしている。

 匂いもあるし、尻を打つ音と淫液がかき混ぜられる音も聞こえてくる。

 見ているだけでなく、自分の体なのだ。

 自分の穴を熱いもので埋められて、充足感と幸福感と、全身を虚脱させる快感に翻弄されている。

 自分の女が悦んでいる。歓喜している。自分の体にある女の証が解き放たれて、肉体を越えた次元で愛の歌を叫んでいる。

 

 逸物が奥へ進むと、膣内に溜まっていた愛液がピュッと噴き出す。

 急に湧いてきた愛液で、深く達すると出てきてしまう。

 

「あっ! あっ! あぅ……、はううぅうううん♡ いいの、おまんこいいのぉ! んむぅうう……」

 

 崩れていた両腕が、頭部の位置を調整した。

 目線が股間の結合部に合っていたのを、若干上にずらす。

 顔が下腹に潰されて、鼻は陰毛に埋もれてしまった。

 そして口は、自身の割れ目に。

 唇を突き出し、勃起したクリトリスに吸いついた。

 膣を抉られ子宮口を叩かれながら、ユリは自分のクリトリスを舐め始めた。

 自分の体は雌そのもので、快感を貪るためだけにあるのだから。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~っ♡♡♡」

 

 胸に出されたのと同じ精液が、体の奥でどぴゅどぴゅと吐き出されている。膣で咥えている逸物が、ピクピク震えているのがわかった。

 クリトリスをしゃぶっていた口に、自分のとは違う味を感じる。

 子宮と膣で受け止めきれない精液が、僅かな隙間から滲み出てきた。

 

「あんっ♡ もっとレロレロしたかったのに!」

「それなら俺の舌にしてくれないか?」

「うん!」

 

 男はユリから引き抜くことなくユリの体を反転させ、唇を濡らした頭部をあるべきところへ戻してやった。

 

 正常位になるなりユリは抱きついてきた。

 たわわな乳房が胸板でむにゅんと潰れるのは大変嬉しい感触だったが、同時に重ねた唇からは、ユリ以外の微妙な味がした。

 熱心に唾液を交換したら、今度は手を繋ぎたがる。パイズリでした恋人握りがお気に召したらしい。

 唇が離れると、もっと欲しいと言わんばかりに舌を伸ばすのが微笑みを誘われた。

 

 おっぱいの感触は嬉しいが、目でも楽しみたい。

 体を離してユリを見下ろす。腰を打ち付ける度に、大きな乳房がぶるんぶるんと揺れるのは凄い迫力だ。

 膣内では先に出した精液と愛液が逸物で攪拌され、大小の泡が混じる白い粘液となって結合部から溢れてきた。

 ユリの凛々しかった顔が、淫蕩にとろけきっているのはとても可愛らしい。

 耳元でそう伝えてやると、ビクンと震えて逸物を締め付ける。

 ユリは甘く掠れた声で、ボクも、好き、大好き、愛してる、幸せ、気持ちいい、もっと、好き好き、全部、ボクは君の、全部あげる、だから愛して。

 

 正常位で出したらもう一度パイズリ。

 今度はユリが横になって、上に乗った男が乳房を押さえつつ腰を振る。

 精液と愛液で汚れた逸物が擦り付けられても、ユリは全く気にしなかった。

 ユリの頭はまたも外して、膣内に出した精液を吸い取らせた。

 シーツにはシミが出来ているがこれ以上こぼすのはどうだろう、と理由をこじつける必要はなく、やれと言ったら素直に従った。

 そしてユリが上に乗る。

 前回はソリュシャンが乱入して中断してしまった騎乗位の続き。

 長い髪を振り乱し、自分の乳房を揉みながら腰を振るユリは、何かが取り憑いたようだった。

 

 

 

 

 

 

 夢現の幸せな微睡みからユリが覚めたとき、窓に差し込む日はだいぶ傾いていた。

 

 デュラハンすなわち睡眠不要のアンデッドなのにどうして微睡むのか。それとも睡眠不要だからこそ多少の微睡みで済んだのか。

 太陽の傾きから時間の経過を知ったユリは、ベッドから飛び起きた。

 

「まずい! 全然仕事終わってない!」

 

 孤児院で子供たちの面倒を見ているユリが城まで来ているのは、ここでしか出来ない仕事をするためだ。

 厳密には孤児院でも出来なくはないが、必要な資料やら仕事のための環境やらで圧倒的にこちらの方が効率に勝る。

 

「仕事は机に広げた書類のことでしょうか? 一通り終わりましたよ」

「……………………へ?」

 

 ユリが残していたのは書類仕事。

 孤児院運営に必要な諸々を申請するための書類作成だ。

 

 孤児を入れる箱があり、面倒を見る人手がある。それだけで何とかなるなら苦労しない。

 人が生きるには最低でも衣食住の保証が必要であって、箱はあくまで住に過ぎない。

 それ以外は必要な数量をきちんと計算して書面に落として申請する必要がある。

 それらを一息に片付けるために城を訪れていたのだが。

 

「…………字が汚い」

「読めなくもないでしょう? 申請用に書式を整えてメモを添付したのがこちらです。数字だけは入れておきました。後はユリさんが空白をメモの通りに清書すれば完成です」

 

 筆記速度を五分の一にまで落とせば、ソリュシャンとルプスレギナ以外でも読める字になるのだ。

 十分の一まで落とせばもっとマシな字になる。

 しかしそこで頭打ち。五〇分の一にしても綺麗な字にはなってくれないようである。

 対して算用数字は元が単純な記号なので、五分の一で誰にでも通用する文字になった。

 

 ユリがペラペラと書類をめくる。

 真っ白だったのが本当に完成している。メモに書かれた字の汚さを見なければ、書式も内容も正式なものだ。

 穴あき部分に清書するのは、量があるのである程度の時間がかかるのはやむを得ない。それでもメモを丸写しすればよいので、早ければ十分。確認しながら書いても三十分で足りる。

 

「あ! ちょっと何するのよ!」

「そんな格好をしてるご自分が悪いと思いませんか?」

 

 ユリはベッドから起き上がった姿で、つまりは全裸のままだった。

 机の上に並ぶ書類を見ているので、下を向く必要がある。自然と長い髪が流れる。髪をかき揚げる仕草がやたらと色っぽい。

 全裸で書類を読むのも、していることと姿のギャップがミスマッチ過ぎてそそられる。

 

 男が後ろから、ユリの腰を抱いてきた。

 尻の割れ目に熱い物を感じる。と言うことは、この男は裸のままで書類を作っていたのだ。

 

「いいでしょう?」

「……いい、けど……」

 

 一日掛かると思っていた仕事が、ちょっとお昼寝したら終わっていた。

 なんて素晴らしい事だろう。

 余った時間を有効に活用しても悪いことは何もない。

 

 男が机に向かう椅子に座って、その上にユリが座って書類を清書。

 書き損じると不味いので手加減しているが、それでもユリの字はいつもより乱れ、提出したエルダーリッチから首を傾げられた。

 

 書き終えたら遠慮なく乱れに乱れ、部屋のそこかしこにユリが垂らしたシミが出来た。

 

 その後の二人は人目を逃れるように隠密行動を開始し、魔導国の物となってから新設されたシャワールームで互いの体を洗い合う。

 ユリのおっぱいで全身を綺麗にしてもらった男は、返礼にユリの髪と衣服を整えてやった。

 長い髪を結い上げる手際は、ユリが自分でするより早くて丁寧だった。ラナーにたっぷり扱かれてきたおかげである。

 

 日が暮れるまで二人は身を寄せ合う。

 ユリは何度も城の自室を振り返って、自身の戦場へ帰っていった。

 

 

 

 

 

 

「夜になりんしたねぇ? 私は一日お仕事で疲れんした。わざわざ魔導国から帝都まで往復して余計に疲れんした。疲れを癒すための特別な処置が必要でありんす」

 

 シャルティアがいやらしい顔で男を見上げる。

 ペロリと舌なめずりしてから男の胸ぐらを掴んで引き寄せ、ソリュシャンの声が掛かった。

 

「お待ちください。奥の間にてアルベド様がお待ちです」

「む…………」

 

 一応はアルベドの部下である。

 優先権はアルベドにあるし、一応はアルベドの相談役なのでお仕事の話だったら邪魔をするわけにはいかない。

 しかし手は離さず男を屈ませて、首筋にハムッと唇をつけた。

 ちゅううぅ…………っと強く吸う。

 自分の仕事に満足したシャルティアは、にっこり笑ってお休みの挨拶。

 手を振ってナザリックに帰還した。

 

 シャルティアが姿を消すなり、室内の空気は緊迫した。

 

「アルベド様がお待ちでいらっしゃる? いつから?」

「日が暮れて間もなくいらっしゃいました」

「………………」

 

 少なめに見積もっても、一時間はお待ちいただいたことになる。

 不在時にいらっしゃることは何度かあった。その時は伝言を残し、翌日以降に再訪していた。お忙しいアルベド様が、貴重な時間を自分を待つためだけに費やすとはただの一度もなかった事だ。

 

「覚悟した方がいいっすよ。アルベド様はちょっと……かなり? こわ……、じゃなくて怒ってるみたいだったっす」

「お兄様は一体何をなさったのですか?」

「シャルティア様にナザリックを案内してもらった際に挨拶をしただけだ。問答の時間が惜しい。すぐに向かう」

「お急ぎを」

「一応回復は…………行っちゃったっすね。首のあれは消した方がいいと思うんすけど」

「もしもお兄様がアルベド様に捨てられたら私がいるわ。心配する事は何もないわね」

「アルベド様がおにーさんをナザリックから追放したら? ソーちゃんは追っかけるんすか?」

「………………あり得ない仮定は止めて」

「アルベド様がおにーさんを捨てる方があり得ないっすけどねー。ま、そんな事になったら私も匿うのに協力するっすよ」

「……お兄様が逃げ出したときにどう確保するかが問題よね」

「ナーちゃんに協力してもらうのが手っ取り早いっすかね?」

 

 姉妹のつまらない、けども当人たちにとってはとっても夢が詰まった密談は、夜が更けるまで続けられた。

 奥の間に向かった男は、日付が変わっても帰ってこなかった。




三月四月を比べると三月はバフが掛かってました


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前提条件

 長い廊下を全力で駆け抜ける。

 三階の端にあるアルベド様のお食事部屋に着いた時には息が荒れ、動悸も激しい。気温が低いので汗をかかなかったのは幸いだった。

 扉を開ける前に、胸に手を当てる。と同時に視界がブラックアウトしたのは、強引に血流を操作したせいで脳に血が足りなくなったから。

 肉体にダメージが残り寿命が縮む技であるが、乱れた呼吸と荒れ打つ鼓動は一瞬で収まった。アルベド様の前で息を荒げる無様を晒せるわけがない。

 

 尤も、この程度のダメージならポーションや回復魔法で完全回復。減った寿命も元通り。

 更に、色々な方々の厚意により、本人も知らない内に寿命は倍以上に伸びている。その方々の予定だと、倍掛けをあと10回は続ける事になっている。その方々は2倍を10回繰り返すと千倍を超えるのを知らないのかも知れない。

 

 

 

「失礼いたします」

 

 恭しく扉を叩いてから入室する。

 扉を開けた瞬間に気付いた。例え目が潰れていても、神々しい美の光に打たれれば必ずや察するものがあるだろう。アルベド様はそこにいらっしゃるだけで真なる美の光を世界に満たすのだ。

 アルベド様は一人がけの椅子に浅く座り、脚を組んでいらした。肘掛けに頬杖をつき物憂げな、或いは気怠げな空気を醸し出している。

 大股で出来る限り速く、しかし品よく美しい歩き方でもってアルベド様の御前に歩み寄り、跪く。

 深く頭を垂れた。

 

「ただいまエ・ランテルより帝都へ帰還いたしました」

 

 お言葉がなければ動きもない。

 跪く直前に見えたアルベド様のお顔からは、如何なる感情も読み取れなかった。

 ルプスレギナが言っていた通り、ご機嫌がよろしくないのは確かであるらしい。振り返れば、先だってナザリックにて退去の挨拶をした際も「顔も見たくない」と言われている。直後に冗談と取り消されたが、けして愉快なご気分ではなかったに違いない。

 しかし、原因に心当たりがない。

 退去の挨拶の前日、訪問の挨拶をした際はいつも通りのお優しいアルベド様だった。夜の間に何かがあったという事だろうか。

 

「顔を上げなさい」

「はっ」

 

 見下ろすアルベドの美顔に険が走る。

 男の胸ぐらを掴んで立たせ、力任せに左右へ開く。プチプチとシャツのボタンが弾け飛び、男の首筋から胸板までが露わになった。

 

「これは何?」

「これ、と申されましても」

「来なさい」

 

 胸ぐらを掴んだまま部屋の隅まで歩き、大きな姿見の前に男を突き飛ばした。

 アルベドは男の首筋を細い指で撫で、一点を指し示す。

 白い肌に鮮やかな朱があった。

 

「これよ。キスマークね?」

 

 キスマークは肌を強く吸うことによって現れる内出血だ。大別すれば傷の一つと言えなくもない。

 レベルが上がって回復力も増してきたこの男なら、この程度の傷はすぐに消えるはず。それがあると言うことは、つけたばかりという事。

 キスマークはマークと言うだけあって、マーキングの意味合いがある。つけた誰かが、これは自分のものだと自他に主張しているのだ。

 

「先ほどシャルティア様につけられたものです」

 

 繕う事を知らない素直な男だ。女主人であるアルベド相手では尚更で、虚偽を口に出来ようはずがない。

 しかしこの場この時ばかりは誤魔化すべきだった。

 

「シャルティアァ……?」

 

 アルベドの眉間に皺が刻まれ、険が鋭くなる。

 

「どうしてシャルティアが出てくるのかしら?」

「帝都とエ・ランテル間をゲートの魔法で運んでいただきました。さきほどナザリックにお戻りになられました」

「そう、シャルティアね。この前もシャルティアを連れて私の前に現れたわよね?」

「はい、競争に負けたペナルティとしてナザリックを案内していただきました」

「一晩中シャルティアと一緒だったわけね」

「そうなります。シャルティア様と二人きりだった時間は短いものでしたが」

「シャルティア、シャルティア。シャルティアばかりじゃない。シャルティアと随分仲が良くなったのね?」

「……シャルティア様は私に様々なことを要求されますが、本日のように私からシャルティア様にお願いすることもございます。険悪な仲ではないのは確かかと」

「険悪と良い仲は大きな隔たりがあるわ。険悪ではない。それなら?」

「……私のお願いを聞いてくださるくらいには良好な仲であると思われます」

「ふっぅぅうううぅううん? 良好、ね。セックスするくらい良好な仲だものね」

「…………」

 

 アルベドが胸を痛めるレベルで女心がわからず、シャルティアが愕然とするレベルで情緒を解さず、シクススがキレるレベルで空気を読まず、ソリュシャンとルプスレギナから「人の心がない」と認定される男であっても、今のアルベドが嫉妬をしているらしいことは察しがついた。

 

 もう随分前のこと、アルベドはこの男がシャルティアを抱いたことについて酷く怒ったことがある。

 嫉妬も多分にあったが、自分を差し置いてシャルティアに先に手を出したことが気に入らなかった。

 今やアルベドも処女を卒業して自信と余裕を取り戻した。この男は自分の男であるが、シャルティアに貸し出すことに異論はない。サキュバスに貞操観念は存在しないのだ。

 ソリュシャンがちゅぱちゅぱしているのも公認している。(尤も、公認されていることを当のソリュシャンは未だ知らない)

 帝都にやってきた双子忍者に淫らな調教を施す事については自ら手を貸した。

 

 そのアルベドが、今更シャルティアとの仲に嫉妬するのは意外だった。

 怪訝な思いが顔に出た。アルベドは教えてやった。

 

「あなたがシャルティアとセックスするのはいいわ。あんまり貧相な女が相手だと私の格に傷がつくけど、そうでないならどこの誰としても構わない。だけど……」

 

 美顔にはっきりと怒りが現れた。

 

「この前ナザリックに来たとき。私の前でシャルティアとプレイしてたわね!?」

 

 男の顔がさっと青ざめる。

 思い切り心当たりがあった。

 

「それは違います。けしてそのようなつもりはなく、アルベド様へのご挨拶を最優先した次第でございまして」

「どんなつもりだろうとしてた事に変わりはないわ。答えなさい。あの時、シャルティアとどんなプレイをしていたの?」

「……シャルティア様にはローターとバイブを装着した状態で、ナザリック内を移動しておりました」

「ローターとバイブ。私があなたにあげた道具ね。バイブをおまんこに入れて、ローターはクリトリスに当ててたのかしら?」

「いえ、バイブは肛門に挿入し、ローターは膣内に入れておりました」

 

 アルベドの想像よりちょっとハイレベルだった。

 

「私があげた道具で、私の前で、あなたはシャルティアとプレイしてたわけね。この私の前で!!」

 

 繰り返すが、サキュバスに貞操観念はない。

 サキュバスとしてのアルベドは、自分の男がいつどこで誰と寝ていても構わないと思っている。自分の男が数多の女を惹きつけるのは、自分の格の高さを主張するも同然である。

 女としてのアルベドは、微妙に違う主張をする。どこの誰と寝ても構わないと言えるのは、自分を最優先することが大前提。自分だけが特別であるからこそ、奔放な振る舞いを許容する。

 しかし、自分があげた道具で、自分の前でプレイするのは、自分の存在を踏み台にして快感を得ようとする行為である。

 踏み台、である。

 自分は特別で一番でなければならないのに、踏み台である。

 サキュバスとしてなら貪欲に快感を求める姿勢を素直に賞賛したことだろう。しかし、一人の女としては絶対に認められない。認めることなど出来はしない。

 荒れ狂う嫉妬心は、自分の中にこのような感情が存在したのかと驚くほどだった。

 

「もう一度申し上げます。そのようなつもりは決して微塵も考えていませんでした。アルベド様にご挨拶する際はシャルティア様の存在を忘れていたほどです」

「それなら私ももう一度言ってあげるわ。そんなつもりはなくても、私の前でシャルティアとプレイしてたのは事実よ。あなたは私に好きとか愛してるとか色々言ってたけど本当かしら? 口先だけの言葉じゃなくて? 私の前でシャルティアとあんな事してたんですもの。シャルティアの方がいいんじゃないの?」

「違います! 私が真に愛を捧げているのはアルベド様だけで御座います!」

「口でなら何とでも言えるわ。アインズ様も言葉には行動を伴うべきだと仰っておられた。あなたの行動は言葉を裏切ってるのよ!」

 

 アルベドは、ふと違和感を覚えた。

 言葉は行動を伴わなければ意味がない。アインズ様がこの男を試した際に仰った言葉だ。

 直後に生き返った男は、アインズ様のお言葉を引用してセバスに忠誠の大きさを語ってみせた。この男も聞いた言葉である、はずだ。

 しかしあの時、この男はアインズ様のお言葉を聞いていたのだろうか。

 

 束の間の疑問は、男の言葉にかき消された。

 

「……アルベド様は私の愛をお疑いなのですか?」

 

 鏡越しにアルベドへ向けられた視線は、鋭いが脆い。

 何故疑うのかと云う疑念と、わかって貰えないのかと云う不安と。

 

「聞いているのは私よ。あなたが私に言ってくれた言葉は本当なのかしら?」

 

 信じたいが信じきれない。

 今まで交わしてきた言葉と愛を危うくするほど、自分の前でシャルティアとプレイしていたのはショックだったのだ。

 

「…………私がアルベド様へ捧げる愛が本当であると証明せよ。そう仰るのですね?」

「最初からそう言っているわ」

「かしこまりました」

 

 言葉を尽くしても意味がない。

 アルベド様はアインズ様のお言葉を引用して、言葉は行動を伴うべきと仰った。

 行動で示すべきなのだ。

 

 男はゆっくりと振り向き、アルベドと相対する。

 今日のアルベドは執務を終えた後だからか、常の白いドレスをまとっている。

 アルベドが鋭い目で見据える中、男は右手を振り上げた。

 

「なっ!?」

 

 右手が振り下ろされたのは、至近で見ていたアルベドにも見切れなかった。

 今やモモンズ・ブレイドアーツの名を与えられたカタナテックの基本スキル「ブレッヒェン・ロンブス」を応用した起こりを悟らせない振り下ろし。

 自分を害するわけがないと思い込んでいたアルベドの油断も大いにある。

 結果、男の指は白いドレスの大きく開いた胸元に引っかけられ、勢いのままずり下げた。豊満な美乳がぷるんと揺れながらこぼれ出る。

 アルベドは咄嗟に胸を隠そうとして、そのまま男へ向かって倒れてしまった。

 胸を隠そうとした左の手首に、白いリボンが結びつけられている。

 

「アルベド様は、私のアルベド様への愛を示せと仰いました。愛と一言で申しましても様々な形が御座います。ですが、男が女へ、或いは女が男へ捧げる愛の源泉は古今変わらず唯一つ。それを行動でもって示そうと思います」

「私にこんな事をして……、どうするつもり?」

 

 アルベドの手首に結ばれた白いレースのリボンは、アルベド自身がシークレットサキュバススキル・サキュバスクリエイトアイテムで創造したエンゲージリボン・ウィズサキュバスブレッシングである。

 エンゲージリボンを結ばれた女は行動を封じられ、拘束を解くには男の精液が必要となる。

 アルベド自身にも効果があるのは証明済みだった。

 

「おわかりになりませんか?」

 

 ぐったりと寄りかかるアルベドを抱き上げ、足が向くのは大きなベッド。

 天蓋から降りる紗をかき分けベッドに上り、丁重にアルベドを下ろす。

 

「私が創造したアイテムよ。自由を取り戻すには精液が必要になる。動けない私を犯すつもりね?」

「セックスを愛の行為とも呼びます。男女間の愛には愛欲が、つまりは性欲が絶対に必要です。シャルティア様とはその気になろうと意識しなければ出来ません。ですが、アルベド様とはそんな余裕がありません。お体に触れているだけで……こうなります」

 

 力の抜けたアルベドの右手を取り、ズボンの上から自身の股間に触れさせた。

 

 自分の体で欲情していることにアルベドの女が悦び優越感を刺激され、思考がピンク色に染まろうとしたところ、アルベドの理性は聞き捨てならない言葉を聞き逃さなかった。

 

「今……、何て言ったのかしら?」

「アルベド様のお体に触れているだけで」

「その前よ」

「シャルティア様と触れ合うだけではこうはなりません」

「その前よ!」

「男女間の愛についてでしょうか?」

「それよ。説明しなさい」

 

 男は怪訝に首を傾げる。

 サキュバスであるアルベド様ならとうにご承知であるはずの事だからだ。

 アルベドの首から喉までを覆うネックガードのような装身具を外し、胸元を飾る蜘蛛の巣を模したネックレスを外し、疑問に答えた。

 

「先に申しました通り、男から女へ、或いは女から男への愛には、性欲が絶対に必要です。性欲があるからこそ相手を欲しいと思うのです。背理法を用いれば自明の事になります」

 

 背理法とは、主張Aを否定することで矛盾を生じさせ、逆説的に主張Aが正しいことを示す証明法である。

 

「性欲を抱かないが憎からず想う相手。同性でも異性でも、人の形をとらない魔獣でも、非生物である絵画や彫像でも、なんでも構いません。それらが美しく可愛らしければ触れたいと思うことでしょう。良好な仲であれば抱き合いたいとも思うでしょう。戯れが許される仲ならば体に触れ合い、接吻まではあるかも知れません。ですが、それ以上はあり得ません。仲が進んでも親友まででしょう。性欲を抱けない相手を欲しいとお思いになりますか?」

「………………プラトニックラブは?」

「心に重きを置いた恋愛と仰いますか? 仮にそのようなものがあるにせよ、源泉が性欲なのは同じです。相手の体に触れるか否かが違うだけではありませんか? もしも、もっと崇高なものと仰るなら、それは男女間の愛とは全く違うものです。形無き物を信じる信仰の部類と愚考します」

「……性欲がなくても欲しいと思うことはあるでしょう?」

「金を求める者は幾らでもいます。ですが、金に欲情しているから欲しいわけではありません。それは金銭欲、すなわち所有欲です。男女間の愛からはかけ離れたものですよ。対象が金であれ男であれ女であれ、欲情もしていないのに欲しいのは……、そう言うことなのでしょう」

「…………」

 

 受け答えしながら、するするとドレスを脱がせる。

 アルベドの腰には一対の黒翼があるため、ドレスは上下で分かれている。

 まずはスカート部。動けないアルベドは尻を持ち上げられないので、ゆっくりとずり下ろす。太股が丸見えのスカートなので、ストッキングのたぐいは着けていない。美しい脚が現れる。

 ショーツはアルベドカラーの純白。割れ目の部分だけは透け感がある薄い生地で覆っているが、そこ以外はレースになって神秘的な下腹の淫紋がよく見える。淫紋が現れる前であったら髪同様の黒い陰毛が見えていたことだろう。

 下着を脱がせるのは後回しにして、次はトップスに取りかかる。折角ずり下げたのだが、頭からでないと脱がせられない。

 黒翼を踏まないようアルベドの体を跨ぎ、両腕を上にさせてから脱がせていく。

 背の下になっている長い黒髪を抜けるのは少々時間が掛かった。

 

「……!」

 

 アルベドの髪に注意を払っていたから気付かなかった。

 白いドレスの上下を脱がされ純白のショーツ一枚になったアルベドは、虚ろな目で宙を見上げている。

 美しい黄金の瞳は、涙に濡れていた。

 

 アルベドが泣いているのに気付かないよう、頬を撫でるのに見せかけて目元を拭う。

 拭う傍から涙が溢れてくる。

 二度三度と繰り返し、ついには流れ始めてしまった。

 

(モモンガ様……。モモンガ様はアンデッド。肉を持たない骨のお体。肉を持たないモモンガ様は…………)

 

 アンデッドであっても性欲はある。シャルティアがその代表だ。

 しかし、肉を持たない骨の体だとどうなるか。性欲は肉欲と言うだけあって、肉あってのもの。

 アルベドはアインズから、この世界に移転した直後に胸を揉まれている。アインズには性欲がないのではないかと思いつつあるが、その時の記憶が一縷の望みを繋いでいた。

 完全に断ち切られた訳ではない。しかし、非常に薄い望み。アインズの行動はアルベドの期待を常に裏切ってきた。

 仮に、考えたくもないが仮に、アインズに性欲がないとする。

 そして男女間の愛には性欲が絶対に必要。

 二つの前提から導き出される残酷な答えは、アインズからはアルベドが求める愛がけして与えられない、と云うことになってしまう。

 自分は狂おしく愛しているのに、絶対に愛されない。

 いや、大切にすると云う意味では愛してくれているのだろう。しかしそれは自分にだけ与えられる愛ではなく、ナザリックのシモベ全てに与えられる博愛だ。

 自分にだけ注いで欲しい愛は、アインズの中に存在しない可能性が、ある。

 

 可能性があるどころではない。非常に高い可能性だ。初めてアインズに触れられた一点を除いて、全てがその可能性を強固に肯定している。

 絶対にそうと決まったわけではない。

 しかし残念ながら、アルベドの頭脳は非常に聡明だった。

 過去の言動から前提を抽出し、条件に照らし合わせて演繹的に導かれる結論は、アルベドの自我を砕きかねなかった。

 

 

 

 

 

 

 涙を流すアルベドは、少なくない衝撃を男に与えた。

 我が愛しき女主人が虚ろな表情で涙を流し続けているのだ。

 

(アルベド様………………。私に抱かれるのが泣くほどお嫌なのですか!?)

 

 アルベドとは何度もセックスをしてきている。

 好きとか愛してるとか、愛の言葉を互いに交わしあった。

 甚だ疑わしいと思っているが、アルベドの言葉を鵜呑みにすると、アルベドが産んだ女児は自分とアルベドとの間に出来た子供である、らしい。

 

 わかってもらう為に強引に事を運んだのは確かだ。

 しかし、お優しいアルベド様なら受け入れてくださると思っていた。

 だと言うのに、まさか涙を流すほど嫌がられるとは!

 

 事を終えた後、厳罰が下る可能性が非常に高い。

 死を賜ることも考えられる。

 いずれにせよ、アルベドと体を交えるのはこれが最後になってしまうだろう。

 

「どこへ行くの?」

「少々お待ちください」

 

 動けないアルベドは、ベッドから下りた男の姿を目で追いかける。

 天蓋の紗は捲れ上がったまま。男の姿が右へ左へと移動する。

 戻ってきた男は、大きな台を持っていた。

 

 ベッドテーブルである。

 お食事部屋のベッドは同時に五人は眠れるスペシャルサイズ。端に置くのなら全く邪魔にならない。

 男は、ベッドテーブルの上にコトリコトリと様々な物を並べ始めた。

 

 清涼な冷水で満たされた水差し。

 細いグラスを数脚。

 赤い液体に満たされた数個の小瓶は回復ポーションか。

 続いて置かれたのは、ピンク色の円錐。アルベドが創造して男に与えたアナルプラグである。

 白くて太い棒が数本。アルベドも男から一つ貰っているそれらは、ディルドである。

 ベッドテーブルの隣には白いタオルが山のように積まれた。

 

 悲哀と絶望に心を食われて空虚になっていたアルベドは、さすがに顔を引きつらせた。

 あれを全部自分に使われると、きっとスゴいことになる。

 アナルプラグとディルドまでだったらわかるが、山のようなタオルはナニを拭くために用意したのか。そこまで必要になるほどの事をするのか、そこまで必要になるまですると言う事か。

 十回は出来る男なのに数個のポーションと言うことは、十掛けることの個数になるのだろうか。

 

「私が持てる想いの限りを尽くして、アルベド様にお伝えいたします」

「……何を伝えるのかしら?」

「アルベド様への愛です」

「私への……愛。あなたは私を愛しているのね?」

「はい。あなたを愛しています」

 

 欲しかった愛はけして得られないかも知れない。

 しかし愛しい男は、自分へ直向きな愛を伝えようとしてくれる。

 アルベドの自我は砕ける前に、この世への執着を見せた。

 

 男が自分の体に覆い被さって、顔を寄せてきた。

 手の平が頬を撫で、親指が下唇を撫でる。

 顎を掴んで動かないように固定された。そんなことをされなくても、アルベドに顔を背けるつもりは全くない。

 アルベドは赤と青の目に自分の顔が映るのを見て、それが自分の目しか映さなくなった時、唇で命を感じた。

 




月光蝶Gさんは毎回ユニーク&ユーモラスな感想を書いてくれる得難く有り難い読者です(間違いなく何人もの作者を救っていることでしょう)
中でも本話に書いてくれた感想は特に凄い
本作を本話まで読んでくれた人なら一読の価値ありです


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本当に欲しいもの ▽アルベド♯18

時間がありましたら前話後書きをお読みください


 唇から命が吹き込まれる。

 触れられた箇所は熱を持ち、凍えた魂に火を灯す。

 愛の言葉は乾いた心に染み入って、潤う心が体も潤わせた。

 

 何度もしてきた口付けだ。唇が重なれば条件反射で舌が伸びる。

 口内に入ってきた舌に絡ませ、打って出る。強く吸って男の舌を捕らえたら舌先を舌先でねぶり、注ぎ込まれる唾をすする。

 温かな唾が喉を通った時、キスを楽しんでいることに気が付いた。

 

「私を動けなくして……。キスとおっぱいを触るだけじゃないでしょうね?」

 

 アルベドは妖艶に微笑む。

 己は愛され、満たされるべきなのだ。

 

 

 

 

 

 

(はっ!?)

 

 永遠に輝ける宝玉の如き声で我に返った。

 

 気付けばアルベド様の唇を貪っていた。

 右手が幸せになっていると思ったら、いつの間にかアルベド様のおっぱいを揉みしだいている。

 左手では無意識にジャケットとシャツを脱ぎ捨て、ズボンのベルトを外しかけてる。

 アルベド様は身動きの叶わぬ身でありながらこちらの理性を溶かしてきたのだ。

 

 このままでは獣のようにアルベド様へ襲いかかってしまい、エンゲージリボンの拘束が解けてしまう。

 これは最後の奉公。アルベド様のお体をじっくりたっぷり楽しみたい気持ちは大いにあるしやるつもりだが、アルベド様にお悦びいただかなければならない。

 そのためには獣性を抑え、理性でもって事に当たる必要がある。

 

 ガリっと舌をきつく噛んだ。口内に赤錆の味が広がる。

 痛みに強く、痛みを忘れることが出来ても、痛みを感じないわけでも痛いのが好きなわけでもない。鋭い痛みは冷静さを呼び戻した。

 

「あなたに愛して欲しくて体がとっても熱くなってきちゃったわ。私の熱病を癒せるのはあなただけ。私を犯したいんでしょう? 好きにしていいのよ?」

「アルベド様……!」

 

 耳朶から忍び込み脳髄を蕩けさせた挙げ句に全身を痺れさせる甘い声。

 痛みと引き替えに胸から引き剥がした手が、またも胸へ伸びようとしている。

 

 アルベド様は美しいお姿もさることながら、声音一つで理性を蒸発させ本能の奴隷にさせるお力があると言うことか。

 アルベド様のお声が響くだけで男と言う男は獣同然に成り下がる。すなわち、アルベド様はお声だけで世界征服が可能なのだ。人々がいまだ安寧とした生活を送っていられるのはアルベド様の慈悲故であると証明されてしまった。やはりアルベド様はお優しい。

 

 苦しいとき、負けられないとき、いつもアルベド様に祈ってお力をお貸しいただいてきた。

 しかしそれをしてしまっては本末転倒。今欲しているのは冷静な思考である。

 いつ何時も冷静でおられる方は、アインズ様だ。

 

 アインズ様、どうかお力をお貸しください!

 

 男はアインズに祈った。

 手の震えがピタリと止まった。

 

「アルベド様は、抵抗できないご自分を私に滅茶苦茶にされることを想像したことがある。そう仰っておられましたね」

「ええ、言ったわ。まさにその通りになってるわね」

「お言葉の通りにさせていただきます」

「ふふ……、どんな事をされちゃうのかしら?」

 

 動かせるのは精々指一本なアルベドは、余裕な笑みを浮かべてみせる。

 男は口内に溢れる血を飲み干し、にっこりと笑い返した。

 

「失礼いたします」

 

 犯すだけではなく色々するつもりなので、今の姿勢だと少々やりづらい。

 横たわるアルベドの背にふわふわ枕を敷き、尻の下には厚いクッションを二枚入れて股間の位置を高くする。

 

「苦しくはありませんか?」

「問題ないわ。折角だから頭の下にも枕が欲しいわね。これじゃあなたの顔が見えにくいもの」

「かしこまりました」

 

 仰せの通りに枕を敷く。

 唇を合わせるだけの軽いキスをして、アルベドの股間と向き合った。

 

 エンゲージリボンは自由な行動を封じても股を開くことは出来る。アルベドは脚を広げて、股間を男へ見せつけた。

 純白の薄布は小さなシミが出来ている。手で触れるとふんわりと柔らかく、温かい。

 揉みほぐしながら語りかけた。

 

「アルベド様のお体を隅から隅まで犯し抜く前に、まずはアルベド様にお悦びいただこうと存じます。手指や口も使いますが、まずはこれを挿入いたします」

「ディルド……ね。前にもらったのとは、違うのかしら?」

「手に力が入りますか? 触れてみてください」

 

 アルベドの手に白い棒を乗せる。

 腕自体は全く動かせないが、軽く握ることは出来た。

 

「温かいわ。ツルツルしてて、形も違うみたいね?」

「このように軽く折れ曲がっています。次に軽く舐めてみてください」

 

 唇の上にかざされたディルドへ舌を伸ばす。意外な感触に目を瞬かせた。

 

「触ったときはツルツルだったのに舐めるとヌルヌルしたわ」

「塗装を工夫いたしました。形状もアルベド様のお体を考えて仕上げたものです」

 

 改良型ディルドに使ったドラゴンの角の余りを粉末状にして、塗装と共に塗り込んである。寒空の下で発熱まではしないが、現在の室温なら人肌程度を維持する。

 形状は先端だけが内を向くように太くなって、中程でややくの字形にくびれている。

 

 なお、ドラゴンの角を粉末にするのはミラが昼夜問わずとてもとても凄く頑張ったのは余談である。

 

「こちらは肛門へ挿入します。表面の塗装は同じですので形状だけご覧ください」

 

 こちらのディルドは真っ直ぐ。しかし単なる棒ではなく、小指の先ほどの突起が長さを変えて幾つもついている。

 

「同時に挿入します。膣へ挿入した物は前後に動かし、肛門へ挿入した物は中で回します。双方が干渉しあい、とてもお悦びいただけると確信しております」

「それは……スゴそうね」

 

 アルベドは、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 男の姿は開いた股の間にある。腰に手を添えられ、ショーツがするりと脱がされた。

 

 

 

 

 

 

 片手で包める程度の小さな布切れをアルベドの足首から抜き、改めて股を開かせた。

 アルベドの熟れた性器は、股を開かせれば淫らに開く。

 何度も使って子供すら産んでいるのに、着色は全くない。肌は透き通るように白く、淫裂から少しだけはみ出る内陰唇はホワイトピンク。

 内側はぬらりと濡れ光っている。そこは薄い膜で包まれたアルベドの淫欲そのもの。

 ショーツにシミをつけた膣口は、見る間に愛液を湛え始めた。

 

「私のおまんこ綺麗でしょう? あなたに見られておかしかったらイヤだから毎日鏡でチェックしてるのよ? あなたに処女をあげる前からのことよ? …………今だから言えるんだけど。わたし……処女膜あったわよね。あなたも気付いていたんでしょう?」

「……はい、気付いておりました」

「やっぱり! 恥ずかしいわ……。あなたのおちんぽにあんなに色々してきたのに、処女だったなんて。それを知られてたなんて」

「とんでもないことで御座います。私は光栄でした!」

「……もういいわ。過ぎたことだし。あなたに処女をあげて、その夜に確認したらもうなかったの。あなたに愛してもらって、それで破けてなくなっちゃったのね。もう二度と戻らないわ。千年経っても万年経っても。あなたは私に、永遠に残る傷をつけたのよ」

「アルベド様の傷を癒させていただきます」

「あんっ♡」

 

 アルベドの女は食欲にも似た獣欲をそそる。指を添えて割れ目を広げ、傷を癒すべく舌で触れた。柔らかい女の肉はとろけるようだ。

 雌穴が垂らす涎を舌ですくい、包皮から顔を出し始めた肉芽に塗りつける。

 包皮を舌と唇で完全に剥いてから肉芽を吸いだし、舌を使い始めた。

 柔らかだったクリトリスはすぐに膨らんできた。とても小さいのにとても舐め甲斐がある。

 

「ああん……、あなたって舐めるの上手よね。これも今だから言えるんだけどぉ……、あなたに初めて舐められたときのことよ。わたし、気持ちよくて失神しちゃったのって初めてだったの。わたしサキュバスなのに失神するほどイカされちゃって……。屈辱だったけどスゴく気持ちよくて。あなたにだったらいいわ。許してあげる♡ あっ、あっ、クリちゃんいいわぁ♡」

 

 その時は、舌を使いながら手指も使った。

 今回はアルベド専用に作ったディルドを使う。指を入れてしまったら、指以外の物を入れたくなるに決まっているのだ。

 

「あっ? さっきの入れてるの?」

 

 本当なら指を先行させてほぐすべき。

 但し、今回使用するディルドは前回のものより大分細い。一番太い先端でも指二本分。細い部分は更にその半分。十分潤っているアルベドへ挿入するのに何の問題もない。

 鋭角だが丸みを帯びた先端がアルベドの中へ飲まれていく。全部は挿入せず、くびれている部分が入り口に差し掛かったところで前後に動かし始めた。

 

「あっ? あっ、あっ♡ これ、いい、わぁっ♡」

 

 アルベドの声が甘くなり、舌に触れる弾力も強くなってきた。

 

(おまんこの気持ちいいところ擦られてるぅ♡ 奥まで来ないからおかしいと思ってたらこんなになるなんて。ディルドなのに、彼に指でされてるみたい……♡ わたしの体を考えて作ったって言ってたわよね。だからわたしの体にピッタリで一番気持ちいいところに当たるのね。シャルティアは私の作ったバイブとローターを持って行ったらしいけど、彼にこんなの作ってもらった事なんてないでしょう? わたしのためだけに作ってくれたのよ? これ好き♡ 作ってくれた彼も大好き♡ 前にもらったディルドは毎日入れてるけど、これからはこっちも使ってあげなくちゃ♡)

 

 ディルドの抽送も舌の動きもあまやかなもの。

 徐々に高めてよがってもらうよりも、出し惜しみせず最初から行けるところまで行ってしまうつもりなのだ。

 

「やぁん♡ そこお尻の穴なのよ? もう一本を今度はお尻に入れるつもりなのね?」

 

 左手の中指を忍ばせたのはディルドが行き来している穴のすぐ下の穴。クッションはアルベドの尻がはみ出るように置いたので、尻肉に埋もれて指が届かないなんて事にはなってない。

 ピンクの窄まりは愛液の通り道。幾本もの皺はアルベドがよがる度に寄っては開いて、入り口には潤滑液がたっぷりと絡んでいる。

 立てた中指はぬるつく弾力を抜けると、ぬぷりと根本まで入りきった。

 柔らかく受け入れる膣とは違って、尻の穴はきゅうきゅう締め付けてくる。それでも、ずっと入れていると入れたくなってしまう。

 

 さすがのアルベドは数度往復させるだけで準備が整った。

 口を使い、膣内をディルドでかき回し、肛門へもディルドをあてがう。

 幾つもついてる突起はルプスレギナが持って行ったディルドについていたのと同じで柔らかく、挿入の障害にはならない。アルベドの肛門は白い棒に押し広げられ、大小の突起を潰しながら受け入れていく。

 潰れた突起は直腸内に入ると元の形に復元し、指では不可能な刺激をアルベドへ与え始めた。

 

「あっ♡ あっ♡ はあっ!? あ゛っ! あ゛っあ゛っあ゛ーーーーーーーーーーっ!!!」

 

 アルベドが甲高い声で鳴き始めた。

 直腸内のディルドが回転し、膣内のディルドは前後に動いている。

 膣内ではアルベドが一番感じる部分を執拗に刺激して、直腸内のディルドは無数の突起が内側を擦り、両穴を隔てる薄い肉壁を二つのディルドが擦り合う。その上で、クリトリスを吸われていた。

 どれか一つだけでも間違いなく気持ちよいのに、それぞれがそれぞれの快感を阻害することなく高め合っている。

 

 男の顔を挟む太股が熱を持ち、汗ばんできた。

 雌穴からはトロトロと涎を垂らし、小さな尿道口からはピュッと透明な液体を吹き出す。肛門は喘ぐように皺が伸びてはディルドを締め付ける。

 

 アルベドが何度か達したのを察した男は、しゃぶっていたクリトリスから口を離した。

 アルベドの痴態を鑑賞したいのと、クリトリスよりも中だけに集中してもらいたいため。

 

「まってまってぇ! こんなのらめらからぁぁああ! またイ…………くぅぅううぅうぅぅう!!」

 

 ピュッと吹き出ていたのがピュピュッと連続する。

 腰は小刻みに震えっぱなしで、力が入らないなりに爪先をきゅっと折り曲げた。

 

 クリトリスを舐められ、ディルドが一つまでの時は余裕だった。浅くイった回数を足の指で数えられた。

 両穴に入れられて始まった直後から、圧倒的な快感の波に何もかもを押し流された。

 悲しみも苦しみも絶望も忘れ、精神を漂白する白い世界で振り回される。

 それなのに、浸りきれない。

 肉体は悦楽の海に揺蕩って、心すら犯そうとしている。その心が抵抗している。これでは嫌だと訴えている。

 

「ん゛……っあああぁぁぁあああっ!! らめ、やめてぇえぇ! きもちいのらめらからぁっぁあああ! ひぅっ……~~~~~~~~~~~~っっ!!」

 

 下腹の淫紋が妖しく明滅する。淫らな肉色を淡く光らせたピンクの光。

 光に同期して膣口が開いては閉じ、淫液を垂らす。

 透明だった愛液は、ミルクのような白に変わっていった。快感が閾値を越えてなお嬲られる時に垂らす本気汁。

 

 アルベドが幾ら叫んでも蹂躙は止まらない。

 快感は切れ目なく、ずっと続いている。

 それこそがエンゲージリボンのアルベドも知らない効果で、何度達しても果てがない。

 絶頂は次の快感への呼び水であり、高まった肉欲は更なる快感を貪欲に求める。

 自分が何であったか忘れてしまう底無しの海で、アルベドの心は訴え続けた。

 

 愛液が溢れて潮を噴いて、きっと失禁もしてしまって。

 涎がこぼれているのは今更のことで、ポロポロと涙を流し始めた時、絶え間ない快感がようやく途切れた。

 

「やめ……やめて……。ひっ……ひっぅ……えぐ……、もう、らめ、なの……。やなのぉ……!」

「あ……アルベド様!?」

 

 

 

 手を止めたのはアルベドの懇願を聞き入れたのではない。

 「待って」とか「止めて」とかは「もっとやれ」を意味すると言ったのはアルベドだ。美神の言葉を違える男ではなかった。

 アルベドのアルベド汁が凄いことになってきたので、一旦拭おうと考えた。これだけ水気を出してるのだから水分補給も必要と思われる。

 そうして中断したら、アルベドが泣いていた。

 悦楽に歓喜しているのではなく、怯えた子供のように泣いている。

 女心への理解度は及第点を貰えないが、子供心なら自身の過去から察することが出来た。

 

「不快でしたでしょうか?」

 

 抱くのを泣くほど嫌がられて、泣いてしまうほど嫌なことをしてしまった。これはもう拘束が解けたら極刑待った無し。

 生き続けるにはアルベドを拘束したままにするしかないのだが、ナザリックの守護者統括にそんなことをしてしまえばどのみち死刑。ましてや己へ命と豊かな生活を与えてくださった美を司る美神アルベド様へ出来ることではない。

 アルベド様にお悦びいただけたら、もしかしたら懲罰を免れるかと下心があった。残念なことに希望は潰えたらしかった。

 

「ちがう、ちがうの……。とってもよかったからイヤだったの!」

「良かったからお嫌だったと?」

 

 好いのなら良いのではないか。

 アルベドの言葉は男の理解を超えた。

 

「あんなにきもちいのは、あなたじゃなきゃいや! 道具じゃイヤなの。あなたで気持ちよくして欲しいの。ディルドなんかじゃなくて、あなたに入れて欲しい……」

 

 丹誠込めて作ったディルドだ。

 機能は期待以上に目的を果たし、アルベドは大いによがった。

 だけどもそれが駄目だという。

 量産プリンと手作りプリンなら、味は甲乙つけがたくも後者に軍配が上がるようなものだろうか。

 

「私は気持ちよくなりたいわけじゃないわ。あなたに愛して欲しいのよ!」

「!!!!!!」

 

 黒髪しか取り柄がないと言われたナーベラルに魔法最強化したチェイン・ドラゴン・ライトニングを脳髄に撃ち込まれたかの如き衝撃!

 

 事はアルベド様への愛を示すため。

 なのに手段を目的化してしまって、アルベド様に悦んでいただける行為にすり替わってしまった。

 アルベド様がどう受け止めてどのように感じるかは、言ってしまえば些末なこと。アルベド様のお考えとお気持ちを己如きで推し量るのは烏滸がましいにも程がある。

 そうではない。

 愛しく美しい大淫魔であられるアルベド様に、こんなにも欲情しているのだと示すべきであった。

 アルベド様はそれをわかっていたからこそ、理性を蕩けさせる甘い声で誘惑してくださったのだ。目的に添うならば、そのまま情欲の限りを尽くせば良かったのだ。

 アルベド様のお優しさが心に染み入り、己の愚かさを痛感する。

 

「あんっ」

 

 愕然とした男の手がディルドから離れると同時に、アルベドからぬるりと出てきた。

 表面に施した特殊塗装によって、挿入部は濡れると摩擦がほぼゼロになる。持ち手を保持していない状態で咥えたままにするには、くるみを割るレベルの圧力がいる。

 

 

 

「アルベド様!!」

「きゃっ♡」

 

 感極まって、アルベドに抱きついた。

 下に敷いている枕とクッションが邪魔だ。抜き取り、放り投げた。

 

「あむぅ! んんっ……、じゅるる……、あなたにこんなキスが、んっちゅううぅ♡ んふうぅ……」

 

 技巧を忘れた荒々しい口付け。

 アルベドを逃がさないよう頭の角をしっかりと握り、柔らかな唇へ唇を押しつける。

 差し込む舌を、アルベドは口を開いて受け入れている。アルベドからも舌を伸ばして、主導権争いをするように激しく絡み合った。

 強く吸って強く吸われて、隙間なく合わせた唇の中で混じり合った唾が行き来している。

 

 情熱的なキスを交わしながら、男の手はアルベドの乳房を握るのさえ後回しにして、カチャカチャとズボンのベルトを外しにかかった。

 逸る心が手をもつれさせる。アルベドは裸で待っているのに、自分はズボンを履いたままなのがもどかしい。

 苦労して脱いだズボンは裏返しのまま放り投げる。

 パンツも脱ぎ捨て、勢いよく現れた逸物が跳ね上がって下腹を打った。

 

「アルベド様……、それでは」

「待って」

 

 男はアルベドの上に伸し掛かっている。

 互いに全裸で、アルベドは下腹に熱い逸物を押し付けられた。見えなくても、熱さも固さも大きさも、はっきりと感じ取れる。

 あれほどよがり狂わされたアルベドは受け入れる用意は万全で、男が少し体をずらせば入ってくる。

 だけど、その前に、

 

「アルベド様に私の愛を実感して欲しいのです。それなのに待てと仰るのですか?」

「そうじゃないわ。そうじゃなくて……」

 

 アルベドは一瞬だけ言い淀み、正直な気持ちを打ち明けた。

 

「アルベドって呼びなさい」

「……それは恋人同士のように、でしょうか?」

 

 エ・ランテルで共に過ごした最後の夜に、対等な恋人同士のように振る舞えと言われたことがあった。

 

「少し違うわね。あと、敬語も禁止!」

「敬語も?」

「あなたは誰彼構わず敬語を使ってるわけじゃないでしょう?」

「それは……、確かに仰る通りですが」

「そういう相手みたいにしなさい。でもしっかりと私への気持ちを感じさせるように」

「……アルベド様への想いを乗せ、尚且つ荒い言葉を使えと仰るのですか?」

「そうよ」

 

 簡単に言ってくれるがハードルがとても高い。

 前回は反復練習しないと呼び捨て出来なかったのに、そこに加えて荒い言葉を使えと言う。

 

 難しい顔を見せた男へ、アルベドは子供っぽく頬を膨らませた。

 

「どうしてあなたはこういう時に限って察しが悪いのかしら。私をただの女のように扱えと言ってるのよ。あなたに恋をして、愛して欲しがってる女だと思いなさい!」

「アルベド様を、ただの女のように?」

 

 心の中で呼ぶ時でさえ「アルベド様」と敬称をつけているのに、目の前にいるアルベド様を呼び捨てした上で唯の女のように扱えとは。

 それは、アルベド様を自分の下に置くも同然の振る舞いである。今は現に下になっているがそのような意味での下ではない。立場や力関係での、いわゆる上下関係での下と言うこと。

 

 アルベド様に感謝しない日はなく、今日だってこれまで以上にアルベド様へ尽くそうと決意を新たにしたばかり。

 想像も出来ないことは想像出来ないのが当たり前で、禁セックスやYes ロリィタがどう足掻いても無理だったように、無理なものは無理である。

 無理なものは無理だと答えようとしたその時、アルベド様のお言葉に手掛かりが含まれていることに気が付いた。

 

「お聞かせください。アルベド様は私に、「あなたに恋をして愛して欲しがっている女と思え」と仰いました。ですが、私がアルベド様のお気持ちを自分の思う通りに思い込むのは甚だ不敬な事です。それともアルベド様は、本心からそのように思っていらっしゃると思って良いのですか?」

「……………………え?」

「お言葉にしてくださればそのように思うことが出来ます。違うようでしたらそう仰ってください」

「………………」

 

 勢いで何を言ってしまったのかを突きつけられた。

 アルベドは口を開いては閉じて、顔を背けようにも角を握られているので視線が固定され、頻りに目が泳ぐ。

 情欲ではない熱が顔を火照らす。

 

「それは……そう言ったけど。……それは……」

「それは?」

 

 顔を背けるどころではない。

 男の目に自分の目が映っている。

 口を開けば唇が掠める距離で、甘く湿った吐息を舌で感じる。

 

「そう、よ」

「そう、とは何を指すのですか? はっきりと仰っていただけますか?」

「そっ…………そんなのわかりきってるでしょう私が言ったばかりなんだから私の言葉を聞いてなかったわけじゃないでしょうね!?」

 

 顔を赤くして一息で言い放ったアルベドが何を思っているか。

 女心はわからなくてもアルベドの事は毎日考え続けている男だ。直前の言葉から、アルベドが何を思って何を欲しているのか推測することが出来た。

 アルベドの揺れる瞳を正面から真っ直ぐ見据え、こう言った。

 

「アルベド、言え」

「っ………………、はい。あなたに恋をして愛して欲しがってる女は……、わたし、です。んちゅうぅ! んっ、んっ♡ あんっ、おっぱいぃ、はむぅっ……♡」

 

 しおらしく答えた直後に唇を奪われた。

 男の左手は角を握ったままでも、ズボンと格闘していた右手が空いている。二人の体の間で潰されていた美巨乳を鷲掴みにした。

 

「俺はアルベドを愛しているし、俺の愛はアルベドのものだ。アルベドは俺に恋してると言ったな?」

「はぃ……、言いました。あなたに恋をして、愛して欲しくて、あなたを愛していて…………。私はあなたとの愛の証を残したくて子供まで産みました。……愛してます! いっぱい愛して。いっぱい可愛がって。私の中に、入ってきて……♡」

「……お願いします、は?」

「お願いします! アルベドのおまんこをおちんぽでいっぱいいっぱい可愛がってくださいませ♡」

 

 何度か経験がある。上位者である方々はこのような時に被虐を好まれることがあった。アルベド様にもそのような時があり、少々乱暴なことをしたことがある。

 今はそれと近いようでいて、質が異なるように感じる。

 恋をして愛して欲しがってると言ったのは、ついうっかり口をついてしまったようで演技には見えななかった。アルベド様はその上で、従属したがっているように思えた。

 アルベド様を従えるなど不敬にも程がある。思っただけで天が裂け地が割れて、不埒な輩は時空の果てに吸い込まれて消え去るのが確定的に明らか。

 しかし、今この時ばかりはいいのではないだろうか。

 アルベド様がお望みで、自分とてアルベド様が愛おしいだから。

 

「入れて欲しいんだろう? 股を開け」

「はい♡」

 

 少し前まで子供のように泣いていたアルベドは、喜色満面で淫らな命令に従った。

 

 アルベドがサキュバスでなければ、双子忍者()のように逝ったきり戻って来なかった可能性は高かった。

 しかし、アルベドはサキュバス。

 多淫多情の代名詞であるサキュバスは、性的快感を至上目的にしているわけではない。快楽を好みはしても、あくまで添え物。

 サキュバスは肉体でもって愛され精を受け入れることで乾きを癒し、心を満たす。器具による快楽だけでは満足出来ない。

 そしてそれ以上に、アルベドは愛されることを欲していた。

 

 男がアルベドの中に入っていく。

 体のみならず、心まで重なったのをアルベドは知った。




あとちょっとと思うと気が急いて雑になって結果的に遅くなる悪循環


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私のものであなたのもの ▽アルベド♯19

 セバスに呼ばれたのは僥倖だった。そのおかげで、今日は暗くなるまでユリと過ごすことが出来ていた。

 ユリとは、パイズリをして、後背位でして、正常位でして、パイズリからの騎乗位、背面座位から背面立位、対面立位から対面座位、シャワールームではアナルを楽しみ最後は口に出した。やはり黒髪おっぱいは素晴らしい。

 ジュネの存在も大いに貢献している。ジュネは一言で言って名器。二言で言って凄い名器。ジュネのおかげで、心地よく包まれていても耐えることが出来るようになっていた。

 

 アルベドは至高の名器であることに加え、本心から恋をして愛して欲しいと言われたのだ。暴発しないわけがない。事ある毎にジュネとしていなければ、日中ユリとやりまくっていなければ、アルベドに挿入してから三擦り半で出してしまったことだろう。

 そんな事を思っていると、歓びに潤んでいたアルベドの目が鋭い光を放った。

 

「今、他の女のことを考えてたわね?」

 

 アルベドに限らず、女と言うものは男の急所を見抜く超能力を備えている。

 

「アルベドが素晴らしい女性だってことを改めて感じてたんだよ」

「……本当?」

「本当さ」

「それならいいわ。……ねぇ、動いて?」

 

 甘えた声で言う。

 

「動いてください、だろう?」

「はい……。動いてください。アルベドのおまんこを逞しいおちんぽでいっぱいかき混ぜてください♡」

 

 挿入しても、精液を受け入れない限りエンゲージリボンは効果を発揮し続ける。

 アルベドは体を動かせない代わりに、動かせる部分で男を締め付けた。

 

 

 

 

 

 

「あんっ……、こんなセックス初めてです。動いてないのに中で動いてるのがわかります。おちんぽの形も大きさも、私の中ではっきりと感じ取れます♡」

 

 アルベドとの会話で時間を稼ぎ、慣らしはしてもやはり名器。激しく動いてしまえばすぐに出してしまう予感があった。

 出してしまえばアルベドは自由になる。すると、攻守が逆転してしまうのだ。

 少女のような憧憬を美顔に浮かべて恋と愛を歌ったのだから、厳罰はないと思われる。思いたい。しかしペナルティなしと言うこともないだろう。当面の間はセックスをさせてくれない可能性もある。

 そうなってしまった時を覚悟して、これが最後とじっくり楽しみたい。

 ゆえに、腰の動きは非常に緩やか。

 逸物はアルベドへ深く刺さったまま、絶妙な力加減で膣内を刺激する。

 

「こんなセックスをしてやるのはアルベドだけだ」

「私だけ……♡ 私もセックスをするのはあなただけです。私のおまんこにおちんぽを入れていいのはあなただけ。アルベドのおまんこはあなた専用のおまんこなんです♡」

 

 エンゲージリボンはセックスに関するものへは効果が及ばない。

 アルベドの膣肉は逸物に隙間なく絡みつき、肉ひだが艶めかしく蠕動する。まるで無数の舌に舐められているかのよう。その上、淫肉は舌よりも柔らかく、滑らかだ。

 引きずり込まれ、溶けていく錯覚すら覚える。

 

「他に俺だけなのは?」

「全部です! お尻の穴も、お口も、おっぱいも、アルベドの体は全部あなた専用です。もうあなたなしではいられません。あなたの体で悦んで、あなたを悦ばせるためにアルベドの体は存在しています。……あ♡」

 

 ユリに好評だった手繋ぎセックス。

 アルベドの両手に手のひらを合わせ、指の股に指を入れきゅっと握ってやる。アルベドからも、とても弱々しい力で握り返してきた。

 弱い力は儚く、健気に思え、アルベドが一層愛おしく感じる。

 

「あっ……、あっ……、あんっ、ちゅうっ……。私の唇はあなたにキスするためだけに、あむっ……ちゅるる……、じゅる……」

 

 挿入しながらのキスも王道。

 特にアルベドはソリュシャン以上に唾を飲まされるのが好きだし、さっきは大量にアルベド汁を分泌して喉が乾いている。注がれる唾を喉を鳴らして飲み込み、もっともっととねだるように強く吸う。

 唇が離れた時は舌を伸ばしていて、そんな自分をはしたなく思ったのか、はにかんで下唇を噛んだ。

 

「アルベドは美しいだけじゃない。とても可愛いよ」

「あなたも……素敵です。あなたより美しい男はいないと皆言ってます。私もそう思っています。あなたに会えて良かった。あなたに処女をあげられて良かった。あなたと愛し合えて、幸せです♡ これからもずっと、私を幸せにしてくださいね?」

 

 得られないかも知れないものがある。

 しかし、確実に得たものもある。

 愛しい男に抱かれて、アルベドは嘘偽りなく、幸せを実感していた。

 

「あなたが好き。愛してるの! どこにも行かないで。ずっと私の傍にいて……」

 

 幸せだからこそ、失う事を想像して恐怖する。

 数ヶ月前は、アインズ様への忠誠を示すためにこの男の命に手を掛けた。命を奪うことが出来た。もう出来ない。

 もしも同じ事が起こったら、自身の能力と権限を最大限に振るって何としても回避する。回避できなかったら、仕方ない。出来ないことをやれと言われても出来るわけがない。アインズ様がアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーの帰還を願っても叶わなかったように、自身の力が及ばないことはどうやっても出来ないのだから。

 しかし、彼が自分から離れてしまったら。

 それは自分の力が及ばないことだ。愛されてる実感はあるけれど、未来はいつだって不確定。そして男の過去が、不安要素を覗かせる。

 

「何度も言ってきたし、アルベドも感じてるだろう? 俺はアルベドを愛してる。どこにも行かないよ」

「本当に?」

「本当だ」

「…………それくらいわかっていました。でも、女はわかっていても言葉で伝えて欲しいのです。これから何回も何万回も伝えてください♡」

「愛してる」

「私も♡ あなたを愛しています♡」

 

 心も体も溶け合っていくようだった。

 愛を伝えられる度に、伝える度に、アルベドの女は悦んで男を締め付ける。

 心と体の欠けた部分が埋められて癒されて、満たされていく。

 

「あっ……、あっ♡ あんっ……、ああんっ、おちんぽ、いいですぅ♡」

 

 膣壁を緩やかに擦っていた逸物が、段々とストロークを長くしてきた。子宮口に触れていた亀頭が抜けきる寸前まで引かれ、また奥に帰ってくる。

 男の動きに同期して、引き抜かれる時は締め付け、戻ってくる時は柔らかく受け入れる。完全に無意識の締め付けは、サキュバスにとって呼吸も同然。

 

 アルベドの顔が愛欲に蕩けて、可愛い声で鳴き始めた。

 

「あっ、あっ、はあん! ……まっ、またイっちゃいました♡ ずっと気持ちよくて、おまんこも、わたしも、すごくしあわせです♡ おちんぽが入ってるだけで満たされてます。アルベドのおまんこはあなた専用だから、わたしを幸せに出来るのはあなただけなの♡」

「俺も幸せだよ。前に言ったのを覚えてるかな? アルベドの胸の中で死にたいって。アルベドを抱いてる時以上の幸福はどこにも存在しない」

「ダメよ! それなら私が言ったことも覚えてる? 私をおいて逝かないでって。私を独りにしないで! ずっと傍にいて。私を……愛して」

「!?」

 

 消え入るようなアルベドの告白は胸を打ち、それ以上に驚かされたのは手をぎゅっと握られたから。

 アルベドはエンゲージリボンで動きを封じられているはず。手は握れるにせよ、先ほど感じた力はとても弱々しいものだった。

 

「あなたが好きなの……♡」

 

 涙を流して、健気に笑みを浮かべて、アルベドは想いを告げる。

 自分の言葉に感極まり、胸も子宮もきゅんと来て、数え切れないほど達してしまった回数にまた一つ加えた。

 視界が白く染まって男の存在しかわからなくなる。無意識に男の体を抱きしめた。

 逸物を根元まで咥えている膣が痙攣したように小刻みに震え、膣壁は注がれる精液を子宮へ送るために蠕動する。

 それが耐えに耐えていた男へ射精を促した。

 子宮口に密着した尿道口からどぴゅぴゅと熱い精液を吐き出し、アルベドの膣内を満たした。

 

「あ……、出てる♡ 私のおまんこであっついおちんぽミルクが出てるのを感じるわ。私がイっちゃったのと一緒にあなたもイったのね。うれしい♡」

 

 

 

 

 

 

 精液を受け入れて、完全に自由を取り戻したアルベドの腕が動く。たとえ縊り殺されるとしても、男は避けようとはしなかったろう。

 アルベドは男の頭をかき抱いて、自分の首筋に押し付けた。

 

「ねぇ……、教えて」

 

 アルベドの視界に映るのは、落ち着いた色彩で彩られたベッドの天蓋。

 男の熱を全身で感じながら、けども互いの顔は見えないまま。

 

「あなたはあの女も愛していたの?」

「あの女? …………まさか、アルベドと出会う前の?」

「そう。その女のこと。どう思っているの?」

 

 自分の男があの女を思い出している顔を、アルベドは見たくなかった。

 

「どうしてそんな事を?」

「だって……。男と女の愛には性欲が絶対に必要って言ったのはあなたよ。あの女はあなたと何回もセックスしていてるんですもの。気にならない方がおかしいわ」

 

 始めは全く気に留めなかった。

 気になりだしてからは努めて忘れようとした。

 気になって仕方なくなったら聞けなくなっていた。望む答えでなかったら、醜い嫉妬とわかっていても彼に八つ当たりしてしまったかも知れない。

 今なら、もう大丈夫。自分が一番愛されている確信がある。

 仮に、万が一にでもあり得ないだろうが仮に、もしもあの女を愛してるとか言ったら、その時は自分の方へ心を向けさせればいい。今の自分になら出来る自信がある。だって、これほどまでに彼を愛しているのだから。

 

「……実に忌まわしいが体の相性は良かった、と思う。でもそれだけだ」

「本当にそれだけ?」

「囚われていた俺には他に選択肢がなかった。あの女を抱くか、死ぬか。俺は死にたくなかったよ」

「それなら今はどう思ってるの?」

 

 顔が見えなくても、男が表情を歪めたのをアルベドは感じ取った。

 

 ラナーは己の顔を灼き、十余年も石の牢獄に閉じこめた女だ。思い出すだけで憎悪と嫌悪が滾ってくる。

 しかし憎悪だけを抱き続けるには、十余年は長すぎた。

 何百回も罵倒され、何百回も体を重ね、それ以上に言葉を交わしてきた。

 単に憎いだけとは言い切れない複雑な思いがある。

 

「今思うのは、ドレスの裾を踏んづけて転んで頭を打って死んで欲しい」

「………………は?」

 

 アルベドは思わず頭を上げた。

 男の顔は真面目そのもので、茶化している様には見えない。

 

「パンを喉に詰まらせて窒息死でもいい。風呂で溺れ死に……、いや、風呂よりも顔を洗ってるとき洗面器で溺れ死んで欲しい」

「死んで欲しいの? つまり殺したいと言うこと?」

 

 ラナーは王国の攻略が完了したら、守護者待遇でナザリックに受け入れることが決定している。

 しかし、彼がどうしてもラナーの死を望むのなら、アルベドは知恵を絞るつもりだ。

 

「それは違う。殺したいわけじゃなくて、死んで欲しい。もしもあれが誰かに殺されでもしたら、考えたくもないがおそらく憐れむ。あいつに憐れみなんて掛けたくない。あいつの間抜けで命を落とし、それを嘲笑ってやりたいんだ」

「…………」

 

 間違いなく嫌っていて好感は微塵も持ってないようだが、何かあれば憐れむと言う。しかし、憐れみなんて抱きたくないと言う。

 

「それなら、会いたい?」

「冗談だろう! 耳にしたくもない名前なんだ。まさかアルベドの目には俺がそう思ってるように見えるのか!?」

「ごめんなさい。聞いてみただけなの。……あなたに何回も抱かれた女だから」

「アルベドが俺に謝る必要はないよ。俺はいつだって、アルベドの全てを許すから。それに謝ると言うのなら」

「あっ……」

 

 抱き合って繋がったままだったが、男がアルベドから離れて居住まいを正した。

 アルベドも起き上がって足を崩した女の子座り。

 

「アルベド様への非礼をお詫びしなければならないのは私です。如何様な罰とて甘受いたします」

「もう様付けするの?」

「その場その時に合わせた言葉遣いと言うものがございましょう。アルベド様の涙は余りに清らかで美しく、拝見してしまった報いは私には想像もつきません」

 

 泣いてしまったことを思い出す。

 彼が言ってるのは何回目のことなのかわからない。

 いずれの涙であるにせよ、覚醒サキュバスにして守護者統括の己が軽々に見せて良いものではない。

 

「それなら……」

 

 赤い唇に人差し指をあて、んーーーっと考える

 思いついたのは、我ながら素晴らしいアイデアと思えた。

 

「私に愛してるって言いなさい。ただし、百万回」

「百万回の愛してる、でございますか?」

 

 『アルベド様を愛している』

 ゆっくり言ったとして一回につき三秒。休みなく言い続けて一時間に1,200回。寝ずに言い続けて一日で28,800回。ざっと三万回だとして、百万回に到達するには33日超。

 一ヶ月と少しだ。実現不可能と言う点に目を瞑れば。

 

「馬鹿なこと考えてるわね」

 

 さすがのアルベド様は何でもお見通しであった。

 

「あなたなら効用逓減(ていげん)がわかるでしょう? 続けて言うのは無効どころかマイナスよ」

 

 効用逓減、或いは限界効用逓減の法則。

 限界効用を簡単に言えばお金を使った時の満足度。逓減は次第に減っていくと言うこと。

 例えば、デスク・ドラゴニオの愛刀ティーゲルハッチのレプリカが手に入ればとても嬉しい。でも同じ物を二本もらってもそんなに嬉しくならない。三本目だと二本目より嬉しくない。百本もらったら邪魔になる。

 このように、何かを得たとき(厳密に言えば財を消費したとき)の満足度は、重ねるに連れて減っていく法則である。

 それと同じで、数回の愛してるならきっと嬉しいが、千回も続けて言われたらうんざりする。

 最大限の効用を発揮する適切な回数でなければいけないのである。

 

 アルベド様には毎日お会いできるわけではない。週に一度のお食事日にプラスアルファがあるとして、週二回とする。

 続けて言ってもカウントされないので、一度の逢瀬で言えるのは十回までとする。

 計算を簡易にするため一年を50週と数え、年に千回。

 百万回に到達するには千年掛かる。

 人間は千年も生きないのだ。

 

「まさか私を泣かせて、そのままで済むと思ってるわけじゃないでしょうね? 絶対に果たしなさい!」

「……かしこまりました」

 

 死ねなくなってしまった。

 しかし、そこのところは既にアウラが手を打っていたりする。

 

 呻くように答えた男を、アルベドは満足そうに見やった。

 左手を後ろについて、体を後ろへ傾ける。右手は髪を掻き揚げ背中へ流した。長い髪が汗ばんだ体に張り付き不快なのだ。

 アルベドはちょこんと女の子座りをしているけども、太股をぴったり合わせているわけではなくてやや開いている。

 上半身を後ろへ倒したから股間が覗いた。

 

「あ」

「…………………………え?」

 

 アルベドの僅かに開いた淫裂から、コプリと白い粘液が溢れた。

 今になって本気汁を垂らしているわけがない。ついさっき注がれた精液だ。

 精液を垂らしてしまったのを自覚したアルベドは、

 

「キャアアアァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!! あっち向いて早くこっち見ないで!!!」

 

 絶叫した。

 

 中出しされた精液をこぼしてしまうなんて、サキュバス的にあり得ない。絶対にあり得ない。そんな事があるわけがない。

 こんな事を同族に知られようものなら「……………………………………………………………………(数十秒から数分間の沈鬱で痛ましい凍えた絶句)。アルベドちゃんて…………、本当にサキュバス?」と言われかねない。

 言うなれば、フォーマルな晩餐会でフィンガーボールの水を飲んでしまうとか、ナイフとフォークの使い方がわからなくて手掴みをしてしまうとか、甚だしいマナー違反どころのレベルではない。

 人間に例えれば、口から飲んだ水が耳から噴き出るような、目を疑うけしてあり得ないであろう奇怪極まる事態である。

 それを、アルベドはしてしまった。

 初体験チャレンジでの騎乗位失敗を遙かに凌駕するアイデンティティ崩壊の危機!

 

 顔を真っ赤にしてベッドテーブルに駆け寄った。

 山と積まれたタオルを引ったくって股間を拭う。

 

(なんでなんでどうして!? わたしどうしちゃったの!? まさかわたしサキュバスじゃなくなっちゃった!? …………そうじゃないわよね。おまんこの中に残ってるおちんぽミルクはちゃんと吸収できてるし。……サキュバスの本能を忘れるほど彼の話に夢中だったと言うことなの? わたしはそんなに…………♡)

 

 精液を吸ったタオルに顔を埋め、すうはあと深呼吸する。

 ふと我に返り、水差しの水も使って股間やら太股やら下腹やらを大いに汚した淫液も綺麗に拭き取る。

 綺麗にしたらポーションが目に入った。

 挿入してもらう前に、100レベルで体力無限大のアルベドをして消耗するほどイき狂わされた。

 

 

 

 

 

 

「こっちに来なさい」

 

 アルベドの手には、封を開けたポーションが握られている。

 

「さっきのおちんぽミルクは……、量はちょっと……わからなかったけど……、薄かったわ!」

 

 ユリへ最後に出してから二時間以上経過したが、二時間ではこの男であってもフル装填には至らなかった。出すだけあったのを讃えるべきであろう。

 

「せっかくポーションがあるんだから飲みなさい。私が飲ませてあげるわ」

 

 アルベドは小瓶の液体を全て口に含み、一口分だけ飲み込む。

 下級ポーションを一口だけでは、100レベルのアルベドには大いに不足だ。

 けども、アルベドには目の前に最上級ポーションどころではない回復手段がある。

 

 アルベドは男へ抱きつき、豊かな乳房を男の胸板で柔らかく押しつぶす。

 唇を閉じたままキスをして、隙間なく唇を合わせたら薄く開く。

 抱きしめるのは男に任せ、アルベドの手は下がっていった。萎れていた逸物を両手で包み、ゆるゆると扱き続けると力を取り戻してきた。

 傷を癒すわけではなく、精力回復なら下級ポーションで事足りる。

 

「ん……ちゅ……、さっきはおまんこばかりだったから、色んなところを触って。私の体全部で、あなたの手と指が触れてない場所がないようにして」

 

 アルベドが逸物を扱いているなら、男の手はアルベドの尻を撫でている。

 両手で尻肉を鷲掴みにして弾力を楽しみ、ぎゅうと抱き寄せ自身の股間をアルベドの下腹に押し付ける。

 身長差がある二人で、長い逸物だ。先端はアルベドのへそを越えた。

 逞しさと熱さにアルベドは胸も股間も熱くして、自分の目で確かめたくなった。けどもその前に、男の首筋をじぃっと見つめる。

 シミも傷もおかしな痕も何もないのはポーションで回復されたから。

 

「はむっ……、ちゅうぅぅぅ…………!」

 

 変なマークがあったのと寸分違わぬ位置に唇をつけ、強く吸う。唇が離れると、最初にあったものよりも色濃い朱色が浮き出ていた。

 上書き完了である。

 成した仕事に満足したアルベドは小さく頷いた。

 

「あっ……、なにを?」

 

 尻を揉んでいた手が、アルベドの顎を持ち上げる。

 キスをするには角度が急で何をされるのかと思っていたら、自分がしたのと同じに男の唇が首筋に吸い付いてきた。

 

「あっ……♡」

 

 強く吸われている。

 体の一番敏感な部分を吸われているかのように、アルベドは身悶えしながら男の頭を強く抱いた。

 

「鏡はある?」

 

 生憎、ベッドテーブルに用意したプレイセットに鏡はない。

 男が足早にベッドから降りて、待たされることなく手鏡を持って戻ってきた。

 アルベドは自分で鏡を持ち、顔を反らして首筋を覗く。白い肌に、赤く鬱血した箇所があった。

 

 首筋へのキスマークだ。意味することは一つ。こんなものをつけて人前に出られるわけがない。

 けども幸いなことに、アルベドは常に首全体を覆うネックガードタイプの装身具を身に着けている。首筋にだったら幾らキスマークをつけられても困らない。

 首筋どころか、服に隠れる部分だったらどれだけつけてくれても大丈夫。

 上乳は困るけれど下乳なら大丈夫。お腹でもいいし、下腹でもいいし、内股でも問題ない。いつも着ているのはバックレスドレスなので背中は困る。尤も、背中だと鏡を二つ使わないと見えないので積極的にされたいところではない。

 

 自分の体につけられたキスマークを見ていると、名実ともに彼の物になったようで不思議な安心感があった。

 うっとり見つめている鏡に、男の顔が映った。今度は後ろから首筋に顔を埋めている。

 強く吸うではなく。ちゅっちゅと甘い口づけを何度も送り、長い黒髪を掻き揚げ露わにした耳にも口づけを。

 

(愛してる)

「!!!!!」

 

 突然の言葉に、ゾクゾクと来た。

 背筋を甘いしびれが走り、鏡を取り落とす。

 

「あっ……あっ……、わたしも……♡ あんっ……、おっぱいもいっぱいさわってぇ♡」

 

 尻を触られたのだから、胸を触られないわけにはいかない。

 乳房を包む男の手に自分の手を重ね、こうして欲しいと言わんばかりに揉み始めた。

 男は五指を大きく開いているので白い柔肉に指が埋まっている。けども指を開いているせいで、乳首には触れられていない。勃起した乳首へは、アルベドの指が伸びた。

 

 ぺたんと座ってしまったアルベドに合わせ、男もアルベドの真後ろで腰を下ろす。

 胸を揉みながら体を密着させ下腹を押し付け、それに応えるアルベドは尻を突きだし尻の割れ目に逸物を挟む。

 

「ポーションのおかげなの? おちんぽがさっきより熱くなってるわ」

「アルベドが魅力的だからだよ。アルベドを抱きたくてこうなってる」

「私もあなたに抱かれたい……。そう言えばさっき、私のことを犯し抜くとか言ってたわよね。ディルドで私を苛めてから、私をどんな風に犯すつもりだったの?」

「それは…………」

 

 聞くにつれて、アルベドの表情が変わっていった。

 甘く蕩けてきたのならどれほど良かったことか。

 美顔に浮かぶのは火のような怒り。

 

「あなたはそんな酷いことをするつもりだったの!?」

「!?」

 

 そう言われても、何が酷いのかわからなかった。

 

 予定としては、アルベドのアルベド汁を綺麗にしたら、まずは手コき。左右の手で一度ずつ。

 続いてはパイズリ。ユリとのプレイで加減を覚えたため、顔へ掛けないよう注意して乳内射精する。

 手、胸と下がっていくのだから次は股間。かと言って挿入してしまうとエンゲージリボンの効力が失われるため、素股。アルベドの太股をぴったり合わせたまま持ち上げて、割れ目と太股で逸物を擦ってもらう。もちろんちゃんと出す。胸と違って顔には掛からないだろうから下腹へ。

 そうしたらアルベドをひっくり返して、アルベド汁を綺麗にした時に装着させたアナルプラグを引き抜いて尻コき。尻の割れ目に挟んで扱くのだ。背中だったらどれだけ勢いよく飛んでも問題ない。黒翼に掛かってしまうかも知れないが後で風呂を使えばよいだろう。

 ここまで出したら精力の限界を迎えると思われる。

 一休みしてポーションを飲んで万全となったら、アルベドの欲しいところへ挿入するつもりだった。

 

「アナルプラグを使うのはいいわ。私もたまには入れることがあるし。許せないのは、私の色々なところにおちんぽミルクを掛ける事よ!」

 

 飲まされるのはいいが掛けられるのは駄目なのだろうか。

 

「私の体をおちんぽミルクまみれにするつもりだったのね? 私は泣いちゃうほどイカされておまんこに入れて欲しいのに入れてもらえなくて、それなのに身体中におちんぽミルクを掛けられて好い匂いがして舐めたいのに体を動かせないから舐められなくて…………。そんなの拷問よ! いえ、ここまでくると最早虐待ね!!」

「ぎゃ、虐待?」

 

 サキュバス的には酷い虐待になるのだ。

 

「したかった事を全部してあげるつもりだったけど、手もおっぱいもお尻でもしてあげないわ!」

「そ……そんな…………!」

 

 なんと情けない声と顔だろう。

 アルベドの心に飛来する奇妙な満足感は、勝利の喜びである。

 

「で、も……」

 

 怒りに取って代わった妖艶な笑みで、男をベッドに押し倒した。

 なお、広いベッドなのでアルベド汁で酷いことになってるエリアからは離れている。

 

「素股だったらしてあげるわ♡」

 

 男の下腹に腰を下ろす。

 綺麗にしたはずのアルベドはまたも潤って、アルベドが触れた部分を濡らしていく。

 

 口に手に胸に尻に、色々なプレイをしてきたが素股だけはしたことがない。

 アルベドはサキュバスとして、未経験のプレイをする義務があった。




ラナーの影がちょっとだけ見えてきました
あとちょっとです


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サキュバスのフロンティアスピリット ▽アルベド♯20

 挿入を伴わない性行為である素股は、男が動くか女が動くかによって大分違う。

 男が動く場合、女の太股に挟ませて腰を使う。太股に挟めばいいので、前からだけでなく後ろからでも可能。

 女が動く場合、必ずしも太股で挟むわけではない。体位は騎乗位一択。具体的にどのようなものであるかは、これからアルベドが実演する。

 

 

 

 

 

 

 素股をしたことがないアルベドだが、知識はある。挿入しないので難易度が低く、失敗の恐れはない。

 上に乗って主導権を完全に握った余裕から、ふふと笑った。

 

「あなたのおちんぽがお尻にぶつかってるわ。さっき可愛がってくれたお礼に、今度は私がしてあげるわね♡」

「アルベドさま……」

 

 アルベドは男の胸に両手をついて前傾姿勢となり、下腹につけた尻を後ろへ滑らせる。

 意識して尻の割れ目を開き、硬くそそり立った逸物を挟んでやった。

 軽く上下に腰を振ってから尚も後ろへ尻を滑らせて、あるタイミングでさっと上げる。

 後ろへ押されていた逸物が勢いよく跳ね上がり、男の下腹を打った。

 

「あはっ、とっても元気よ♪ 大きくて硬くて、とっても逞しくて。こんなおちんぽを入れられちゃったら、他のどんなものを入れても満足出来なくなっちゃうわ」

「それは、入れても良いと言うことでしょうか?」

「ダメよ。素股って言ったでしょう? おまんこには入れてあげないけど、わたしのおまんこで好くしてあげる♡」

 

 アルベドは上げた腰をゆっくり落とす。

 騎乗位で挿入するなら位置や角度の調整が必要となるが、素股をするなら関係ない。目指すのは亀頭ではなく竿の部分。逸物は更に反って亀頭が男の顔を向き、竿にはアルベドの股間がぴったりと押し付けられた。

 

「入ってないのにおまんこでおちんぽを感じるなんて、なんだか不思議な体位ね? あなたから見えるかしら? 私のおまんこがくぱあって開いてるところに、あなたのおちんぽが挟まってるの」

「見えます。アルベド様の柔らかさが感じられます」

 

 アルベドの言葉通りになっている。

 本来は閉じているはずの淫裂が開いて、そこへ竿を挟んでいる。挿入するのが飲み込んでいるようなら、こちらは口を開いてついばんでいるように見えた。

 女が上位で素股を行うときは、太股よりも割れ目を使って扱くのだ。

 

「動いてあげるわね」

「っ!!」

 

 動き易いように両手を男の太股につき、腰を前後に滑らせ始めた。

 アルベドの内側の肉が逸物の上を滑っていく。全体を包まれるのと違って、裏筋の敏感な部分を擦られる。割れ目が開いて逸物を咥えている情景も素晴らしい。

 さすがのアルベドは数度の前後運動で慣れたようだ。両手をついて体を支える必要がなくなり、自由になった手は己の豊かな乳房を支え持ち、男の胸板をくすぐるように指先で撫でる。

 

「あなたのおちんぽに触れているだけで濡れてきちゃうの。エッチなおつゆがいっぱい出ちゃって、おちんぽにぬりぬりしちゃってるわ。ローションなんて使ってないのに滑りがこんなによくなっちゃって……♡」

 

 逸物の根元から先端まで腰を滑らせる。

 根元まで来たときは、押さえつけられていた逸物が起き上がってアルベドの下腹の前でそそり立つ。

 先端まで来ると、くぱあと広がった割れ目が亀頭まで捉えて逸物全部がアルベドの淫裂に食べられたように思えた。再度現れた亀頭は濡れ光っている。

 根元から先端まで、アルベドの愛液が塗り込まれた。

 

「うふふ、こうするのも気持ちいいでしょう?」

「……はい、気持ちいいです」

 

 腰を下げ、下腹の前で逸物を立たせた。

 反り返ろうとする逸物を手で押さえて自分の下腹に押し付け、指先であまやかに愛撫しながら割れ目を擦りつける。

 食欲や性欲を第一とした口淫や挿入よりも淫らなことをしている気がして、アルベドの胸はときめいた。

 逸物に擦りつけている肉芽は勃起して、膣口からは絶えず愛液を溢れさせている。入れたくなってしまう。

 何度もいかされて中に出されていなければ、このまま入れてしまう確信があった。

 幸いにも我慢が効いている。今は素股で出させるのがサキュバスのプライドだ。

 

「わたしのおっぱい触りたいの? いっぱい触っていいわよ♡」

 

 横たわっている男が手を伸ばし、アルベドの乳房に触れた。

 触りやすいように体を前に倒してやる。男の手が胸を掴んで、アルベドの体を支えているようだ。

 もみもみと乳肉を味わってから、今度はきちんと乳首を摘まんだ。親指と中指で色づく突起を挟み、くりくりと弾力を楽しんでいる。

 男が体を起こそうとしたので、アルベドはそっと止めた。

 

「ダメよ。あなたは寝てなさい。わたしのおっぱいは後で好きなだけ吸わせてあげるから」

「……わかりました」

「いい子ね。あなたのアルベドがいっぱいいっぱい気持ちよくしてあげる♡」

 

 妖艶に笑って、腰をくねらせた。

 前後の動きが激しくなり、淫裂に包まれた逸物がところどころで白くなってきたのは、塗りたくられた愛液が擦れて泡立っているから。

 

「気持ちよさそうな顔をしているわね。とっても可愛いわぁ♡ あなたが気持ちよくなってくれると私も感じちゃうのよ? おっぱいを触ってるからわかるでしょう? 乳首が真っ赤でこんなになっちゃってるんだもの。もっと強く摘まんでもいいのよ? 潰しちゃうくらい強くても平気だから」

 

 お言葉に甘えて捻るように乳首を摘まむ。

 シクススがされれば痛みを訴えたろうが、アルベドは上機嫌に舌なめずりをする。

 それで閃いたらしい。

 股間を逸物の根元まで下げて亀頭を上向かせる。アルベドの顔は下を向いて、突きだした唇から泡立つ唾ばぺちゃりと垂らされた。

 狙い違わず唾は亀頭に落ちて、すぐさまアルベドの淫裂が塗り伸ばした。

 

「私のおつゆと唾でおちんぽがヌルヌルね。あなたのおちんぽもおつゆが出てるかしら? 私たちのエッチなおつゆで、おまんことおちんぽが溶けちゃったみたい♡」

「っ!」

 

 男が呻いたのは、刺激が強くなったから。

 アルベドが亀頭を飲み込むかどうかのところで動きを止め、小刻みに腰を動かし始めた。

 裏筋の敏感な部分を重点的に責められているのは、男への刺激もあったがアルベドの快感もあった。

 淫裂の内側で勃起しきったクリトリスを擦り付けている。

 

「あはっ……あっ、あっ、あふぅん♡ アルベドのクリちゃんがぁ、あなたのおちんぽとくっついて気持ちいいって言ってるの♡ クリちゃんは毎日擦ってあげてるけどぉ、あなたのおちんぽで擦ってもらうのが一番好いみたいよ? でもあなたの指やお口も好きだから、順番はつけられないわ♡」

 

 アルベドは前後運動以外に、圧力も絶妙に変えてくる。

 きつく押し付けられたかと思えばふっと緩み、そのくせ解放されるのではなくて淫肉に包まれたまま。

 膣内に挿入したのと甲乙つけがたい快感がある。

 快感の予兆に腰が跳ねそうになった。

 

「気持ちいいのね? おちんぽからぴゅっぴゅってミルクを出したいのね? 私のおまんこで擦られて射精したいのね?」

「そ、そうです! アルベド様のおまんこで擦られて射精したいです!」

「いいわよぉ? 私はあなたを愛していて、あなたにとっても気持ちよくなって欲しいから、焦らしたりなんてしないわ。いっぱい出していっぱい気持ちよくなりなさい♡」

「うっ!」

 

 腰の動きが加速した。

 アルベドの左手は自身の乳房を掴む男の右手に重ね、右手は淫裂に伸びた。五指を開いて中指だけをしゅっと伸ばし、包皮が剥けたクリトリスに乗せる。

 割れ目は口を開いて逸物を咥え、たっぷりと淫液を絡めながら根元から亀頭まで扱いていく。

 アルベドは淫靡な笑みを浮かべて男を見下ろし、あんああんと甘く鳴く。

 演技の声も多少は混じるが、自身も淫核に乳首を刺激されて何度か浅く達している。

 挿入はしておらず淫裂で包んでいるだけなのに、アルベドは男が射精する瞬間を完璧に捉えた。

 男の顔が数瞬だけ苦しそうに歪む。

 射精している顔は何度も見ているアルベドだ。何度見ても好い顔だが、視線は股間へ向けられた。その瞬間は膣内や口内が多いので、一度も見たことがなかったのだ。

 アルベドが恍惚と見守る中、尿道口からどぴゅどぴゅと白濁した精液が噴き出した。

 割れ目で逸物がぴくぴくと痙攣しているのを感じる。その間もぴゅっ、ぴゅっと間欠的に吐き出している。

 へそまで届く長い逸物なので、飛び散った精液は男の腹から胸板まで届いた。角度がもう少し上向いていたら顔まで届いたかも知れない。

 

「ああ……おちんぽミルクがこんなに……♡ 私が綺麗にしてあげるわね♡」

「……おねがいします」

 

 大量射精の心地よい虚脱感の中、男は虚ろに応えた。

 

 

 

 

 

 

 男の上から降りたアルベドは、まずはお掃除フェラ。萎えきらない逸物を根元まで頬張り、頭を数度上下して竿を綺麗にする。汚したのは全てアルベドの淫液だ。

 続いて亀頭だけを咥え、ちゅるちゅる吸って尿道に残る精液を一滴残らず吸い出す。

 元気になった逸物を可愛がってやりたくなったが、それは後回し。男の腹に飛んだ精液を綺麗にしなければならない。

 お掃除フェラは手早く行ったので、吐き出された精液はまだ暖かかった。

 艶やかな唇をつけてじゅるりと吸い取り、赤い舌で残滓を舐めとる。

 男の体を少しずつ上がっていき、逸物に乳房が触れた。

 パイズリしたいとか言っていたのを思い出し、慈悲の心で挟んでやった。ただし、扱くのはお預け。ミルクを舐めとる方が優先なのだ。

 

 男は精液を舐め取るアルベドを見下ろし、なんとはなしに頭を撫でた。さらさらの黒髪は摩擦を忘れたように手のひらを流れる。濡れているわけでもないのに淡い光で照り輝く。

 ナーベラルやユリの黒髪は素晴らしいが、やはりアルベド様には及びもつかない。比較対象が悪すぎるだけであって、彼女たちの黒髪が素晴らしいことに変わりはないのだが。

 ヴァンパイアプライドたちも黒髪だ。ミラの白い背中に流れる黒髪を見ながら何度したことか。ジュネとは隙間時間にすることが多いので、シャルティア様の元へ帰ってしまう前に一度くらいはじっくりしてみたい。

 シェーダの黒髪だってもちろん好い。好いのだが、最近避けられている気がする。シャルティア様によるナザリックツアーの少し前からだ。何かあったろうかと自問自答。シェーダが帝都のお屋敷に来てから初めて抱いたくらいで、思い当たることは特にない。

 その他に黒髪と言うと、

 

「ここしばらくソフィーの姿を見ていません。何かあったのでしょうか?」

 

 ソフィーはお食事部屋に併設されたソフィーのお部屋にいるはずだが、今日まで数えるほどしか見ていない。

 前回見たのはアルベドと授乳プレイをした時だ。かれこれ一ヶ月以上も経っている。

 

 男の肌に舌を這わせていたアルベドはちらと顔を上げ、

 

「あなたに会いたくないそうよ」

「……さようでしたか」

 

 会いたくないと言うのなら、きっと嫌われているのだろう。自分の娘らしいソフィーに嫌われるのは少々心に響く。

 とは言え父親の自覚は皆無であり、父親らしいことをした覚えも一度もない。嫌われるのは無理もないと思われた。

 アルベド様は、ソフィーはいずれあなたの元へつける、と仰っていたが、嫌われているのなら再考していただく他ないだろう。

 

「勘違いしているわね? ソフィーはあなたを嫌ってるから会いたくないんじゃないわ。恥ずかしいから会えないみたいなのよ」

 

 賢いくせに何かが抜けてる男と違って、アルベドは何でもお見通しである。

 

「恥ずかしい、ですか?」

「あなたの前で小さな体でいるのが恥ずかしいのね、私にはわかるわ。今度会ったら驚くわよ?」

 

 前回見たソフィーはまるきり幼女だった。

 会ったら驚くと言うのなら幼女の姿から成長したのだろうか。ソフィーはアルベド様と同じサキュバスなので、成長速度が人間と違うのだろう。どこかで時空が歪んでいるのかも知れない。

 いずれにせよ幼女を脱したのなら、あれほど悩んだYes ロリィタは不要になったと言うことか。空回りの徒労に肩の力が抜けた。

 

「これで綺麗になったわね。あなたのミルクはとっても美味しかったわ♡ 次はもう一度おまんこで食べてあげようと思っていたのだけれど……」

 

 アルベドの視線はベッドテーブルへ。

 

「おっぱいが出そうになっちゃってるの。またあなたに搾ってもらえないかしら?」

「直に飲んではいけないのでしょうか?」

「それも好いのだけれど、あなたの手つきがとても優しくて気持ちよかったのよ。いいでしょう?」

「かしこまりました」

 

 応えつつも疑問が過ぎる。

 素股をされている時、アルベドの胸を激しく揉んだし乳首も抓った。それなのに母乳が出る気配は全くなくて、おっぱいは終わってしまったのかと残念に思っていたところだ。

 しかし、今は出ちゃいそうだと言う。

 当たり前だが母乳が出たことはないので、盲目的にアルベドの言葉を鵜呑みするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 二人は裸のままベッドを降りて、前回使用した搾乳専用机へ。

 椅子を前後に二つ並べてアルベドは前に座る。両腕を机に乗せ、頬を預けて腕枕とする。アルベドの乳房が重そうに垂れ下がる。

 机から板を引き出し、男が手にしたのは二つのグラス。アルベドの黄金の目がキラリと光った。

 グラスは乳房の真下に置いた。

 

「出てしまいそうなら早速始めてもよろしいでしょうか?」

「ええ、あなたの好きなようにやってちょうだい。私はあなたにいっぱいイかされちゃって疲れてるから寝てしまうかも知れないけど、構わずに続けるのよ? 私は一度寝ちゃうとすぐに起きないから心配しないで。あなたのしたいようにしていいのよ?」

「……かしこまりました」

 

 アルベドの言葉に少々の疑問を抱いた。しかし、やれと言われたならやるしかない。

 アルベドの真後ろに座り、抱きすくめるように覆い被さる。量感たっぷりの重そうな乳房を、根元から優しく包む。少しずつ力を加えながら先端へと手を滑らせ、ピンク色の乳輪から乳首にまで届いたとき、真っ白な母乳がぴゅーっと噴き出した。

 

「アルベド様が仰った通りによく出るようです」

「あなたの手付きが優しいからよ。その調子で絞り続けて」

「かしこまりました」

 

 アルベドは頬を預けた腕枕をしているので、顔は横を向いている。

 男は一旦手を止めてアルベドの髪を掻き揚げ耳を露わにさせてから、乳搾りを再開した。

 

「ソフィーはもうアルベド様の母乳を必要としていないそうですね。前回と同じように搾った母乳は私が飲んでも構いませんか?」

「ええ……、もちろんいいわ。あなたに飲んでもらうために出してるんですもの。……あん♡ いたずらしないでぇ♡」

 

 アルベドの耳朶を甘く食み、温かい吐息を吹きかける。掠れた囁き声で、ありがとうございます、と礼を言う。

 お礼を言われているだけなのに、アルベドは下腹が熱くなった。

 

「あっ……あん……。耳で……、そんなぁ。ささやかれただけで、もう……♡」

 

 耳孔に舌を差し込み、数度の愛の言葉。

 アルベドの吐息が熱くなるに連れて母乳の出もよくなるようだった。

 

(私の背中にぴったりくっついて。おっきい体。私の全部を包み込んでしまうみたいに……。おちんぽも押し付けてるわね。おっきくしちゃってるのが凄くよくわかるわ。シコシコしてあげたいけど……、ダメよアルベド! 今は我慢しなくちゃ。おっぱいマッサージが気持ちよくて寝ちゃった振りをするのよ!)

 

 前回と違って、母乳を受けているのは蓋付きの瓶ではなくグラスだ。ベッドテーブルにあった二つのグラスをアルベドが男へ手渡したのである。

 保存の魔法が掛かった瓶であれば母乳をとっておく事が出来る。しかし、封の出来ないグラスであればその場で飲むしかない。

 一口二口だけなら美味しくて気分が高揚する程度。それを全部飲んでしまうとどうなるか。

 

 アルベドが搾られている母乳はただの母乳ではない。経産婦となったサキュバスが獲得できるシークレットサキュバススキル「サキュバスおっぱいミルク」なのだ。

 一定量を飲んでしまうと、死人ですらギンギンになる。通常の勃起と違って時間経過で治まったりしない。女に出さなければずっとそのままである。

 

 アルベドは性懲りもなく睡眠姦を仕掛けたのだ。まだしてないプレイをしたくなるのはサキュバスの性なのだから仕方ない。

 勝算は300㌫。

 男はポーションを飲んで回復してから一回しか出してない。残弾多数。

 そこへサキュバスおっぱいミルクを飲んでしまえば、目の前にいる寝た振りをしたアルベドに襲いかかるのは確定的に明らか。

 なお確率が100㌫を越えているのは、犯された後も続けて二回犯されるからである。

 

 ピューピューと母乳が噴き出ている。

 細いグラスは、底から三分の一あたりまで白い乳が溜まってきた。

 

「アルベド様?」

「…………」

 

 返事がない。顔を覗くと、アルベドはうっとりと目を閉じて静かに息を吐いている。

 

「お眠りになったのですか?」

 

 疲れているから寝てしまうかも、と言っていたのを思い出す。同時に、一度寝てしまうとすぐには起きないと言っていた。

 前回の搾乳時に眠ってしまった時は、声をかけたと同時に目を覚ました。尤も、寝入ってすぐに声をかけたわけではなく、ある程度の時間が経ってからだった。

 

「……好きなようにしていいと仰っていたな」

 

 愛しき美神の寝姿を前に、ごくりと唾を飲み込んだ。

 アルベドが薄目を開いたのには気付かなかった。

 

 とは言え、まずは搾乳を続けなければならない。

 アルベドを起こさないよう慎重に、しかし可能な限り短時間で終えられるよう手早く。相反する二つを両立しなければならないのが辛いところ。

 リズム良く母乳を搾り続け、華奢なグラスがぎりぎり満杯になるところで出尽くしたようだ。

 赤い乳首に付着している僅かな母乳は指先で拭い、口へ運んだ。

 

 母乳が入ったグラスは傍らのテーブルに置き、搾乳専用机から引き出した板を仕舞う。すうすうと寝息を立てるアルベドをしばし見つめた。

 アルベドも男も、ベッドで睦みあった姿のまま。アルベドが尻で感じていたとおり、男の股間はそそり立っている。

 

「まずはアルベド様のミルクをどうにかすべきだな。保存用の瓶は用意してないから……」

 

 以前搾ったアルベドミルクは毎日一匙ずつ飲んでいる。アルベドミルクを口にすると、えもいわれぬ力が沸き上がってくるように感じていた。

 

「わざわざ取りに行くのも何だから飲んでしまうか」

 

 腕枕に隠れたアルベドの唇が大きな弧を描く。

 

(そうよ、飲みなさい。あなたのために出したんだから一滴残らず全部飲むのよ! おちんぽはもう立ってるけど、飲んじゃったら私を犯さずにはいられなくなるはず。私は寝ちゃってて意識がないのに、彼はおちんぽを大きくして私のおまんこに突き立てるの。私を道具みたいに扱って、何度も何度もおちんぽでかき回して。あっ、やだ……。そんなの想像したら濡れて来ちゃった……。でもおっぱい揉まれてあんなに愛してるって言われたんだから少しくらい濡れててもおかしく思わないわよね? 彼ったらおっぱい搾りながら私のお尻におちんぽを擦りつけてたし、濡れちゃうのは当たり前よね? ダメダメ、溢れてきちゃってる! こんなに濡らしちゃったら変に思われるわ! でもでもきっとおちんぽを入れることしか考えられなくなるからきっと大丈夫! ねぇ、早く。早く来て♡)

 

 アルベドミルクは飲んですぐに効果を発揮する。

 しかし、僅かなタイムラグがある。その数十秒が不幸の始まりだった。

 

 一つ目のグラスはごくごくと喉を鳴らして一息に飲み干す。二つ目のグラスは少しずつ口に含んで舌で転がし、味わいながら喉へ流し込む。

 

 うまい!

 

 搾った直後なのでほんのりと温かい。アルベドのおっぱいの温かさ。

 舌触りは絹のように優しく、喉越しが非常に滑らか。

 どんなミルクより濃厚でいながら後を引かず、後味は爽やかで清涼な夜の香気を吸い込んだようだ。

 豊かな滋味の中に感じる仄かな甘さはアルベドの愛なのだろうか。後少し、後少し、と思っているうちに全てを飲み干してしまっている。

 他に何も要らない。アルベドのおっぱいだけで生きていける。

 

 一滴だって残すのは惜しい。逆さにしたグラスを振って、僅かに付着したミルクが流れ落ちてくるのを待ち受ける。

 

「!?」

 

 そして、サキュバスおっぱいミルクが効果を発揮した。

 手からグラスが滑り落ちる。床には一面に厚手の絨毯が敷かれ、グラス自体が丈夫なのもあって幸いなことに割れはしなかった。

 しかし、男にグラスの行方を気に掛ける余裕はない。

 

「うおおおおおををおおおをおおお!??!!? な、なにが!? なんだこれは!?」

 

 アルベドの体から離れて少しずつ角度を下げていった逸物が、バネのように跳ね上がった。

 ガチガチに勃起している。体の一部が石になったようだ。

 

「これは!? ……アルベド様の、ミルク……、か?」

 

 一糸まとわぬアルベドが無防備な寝姿を晒して、尚且つすぐには起きない、したいようにしていいと言っていた。

 勃起不可避の状況で、搾ったミルクを片付けたら色々なことをしてしまおうと思っていた。

 だからといって、ここまでになるものではない。

 硬く反り返った逸物は張りつめて、今にも爆発してしまいそうだ。

 自分の一部でありながら触るのも恐ろしい。何か柔らかいもので癒さなければならない。

 柔らかいとくれば、目の前にアルベドがいる。

 肌はお顔から足の裏まで滑らかに柔らかい極上の女体で、その中で一番柔らかくて男の体を癒してくれる部分とは。

 

「あ、アルベド、さま……!」

 

 寝息を立てるアルベドへ手が伸びる。

 触れてしまえば最後。眠っているアルベドの腰を抱え持ち、後ろから突き立ててしまうことだろう。

 

 自身を信頼して無防備な姿を晒しているアルベド様へそのような無体をしていいのだろうか。

 だけれども、アルベド様は抵抗できない自分を無茶苦茶にされたいとも仰っていた。

 体に精液を掛けるのは虐待らしいが、中に出すのなら良いのではないだろうか。

 すぐには起きないようだし、したいようにしていいとも言っていた。

 アルベド様の母乳を飲んだ己がこうなるのは予測しているだろうから、その後に犯されるのは織り込み済みなはず。

 つまりアルベド様は、寝ている時に犯されたいのだ!

 

 男の推測はアルベドの望みを見事に射抜いた。

 愛しき女主人が望んでいる。

 己が犯したいからではなく、アルベドの望みを叶えるためと道理をねじ曲げ補強する。

 

 男の手がアルベドの肩に触れようとした時。

 静かな寝息と荒い息だけが響くお食事部屋で、カタと小さな音が鳴った。

 ドアノブを捻る音だ。

 

 屋敷の住人は、アルベドの許可なく入室することは絶対にない。唯一の例外が部屋を掃除するシクススで、そのシクススとて入室時にはアルベドが不在と知っていても恭しくノックする。

 そう、ドアノブを捻る前にノックするのだ。

 ナザリックに一大事が起こった火急の用件だとしても、誰であってもドアノブに触れる前にノックする。

 ノックがなかった。

 それ以前に、音がしたのは入り口とは反対側。

 お食事部屋への扉ではなく、お食事部屋だけから通じているドアが鳴った。

 

 屋敷を建築したのは数代前の帝国皇帝だが、内部はナザリックの手が大いに入っている。

 特にアルベドのお食事部屋と、隣接するシークレットルームは、ナザリックの守護者統括殿が使う部屋だけあって入念な作りとなっている。ドアノブは捻られて幽かな音を立てたが、ドア自体は音もなく開いた。

 お食事部屋は情事の雰囲気を出すために目が慣れないうちは薄暗い。ドアの向こうから光が溢れてきた。

 

「まさか…………ソフィーか!?」

「はい、お父様。お父様のソフィーです♪」

 

 目映い光に一対の黒翼を背負った影があった。

 男の驚愕は、アルベドの予想を越えていた。

 

 

 

 とりあえず、娘の父と母は二人とも全裸である。




本話で一段落と思ってたら終わりませんでした
あとちょっとです
具体的には三話くらい、たぶん


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サキュバスの子はサキュバス ▽ソフィー?

 ソフィーの姿を目にした瞬間、自分の体もアルベドの存在も忘れるほど驚いた。

 

 前回会った時のソフィーは、お屋敷の双子幼女とさして変わらない年頃の幼女に見えた。

 それが今は、シャルティアより上背がある。体つきはゆったりしたシュミーズを着ているのでわからないが、すらりと長い手足が伸びている。

 肩口で揃えられていた黒髪は、母を真似たのか腰まで届く。髪質は母より少しだけ細いように思えた。

 外見から推測出来る年齢は10代の半ばから後半に差し掛かるかどうか。

 

 つい一月前まで幼女だったのに、今や少女を脱して女になろうとしている。

 驚いて然るべきだし、アルベドが会ったら驚くと言ったのも当然だが、言ってしまえば些細なこと。

 ヴァンパイアブライドたちは生まれたときから成人女性の姿だと言う。ジュネは生まれて一年経ってないと言った。短期間で成長するのは確かに驚くべき事であるが、それ以上の例がある。

 男が驚いたのは全く別のこと。

 

 ソフィー本人は会ったことも見たこともないので気付きようがない。

 アルベドは数度会ったことがある。ナザリックにおいて頭脳明晰の代名詞であるアルベドなので、姿形は昨日会ったかのように脳裏に描ける。だとしても、見せなかった表情までは知らない。仮に見たとしても、何とも思わない可能性は高かった。

 親族ですら二人を並べて見たところで不思議な違和感を覚えるかどうか。

 今まで生きてきた時間の半分以上で、強制的に見続けさせられたこの男にしかわからないこと。

 

 目の色も髪の色も違うので印象が大きく異なり、神の目を持つ希代の画家でもなければ共通点はわからないだろう。強いて言うなら輪郭が近い程度。

 しかし、大輪が開いたような一点の曇りもない無邪気な笑顔に、ラナーの面影を感じてしまった。

 

「あっ!」

 

 父の顔を見て笑みを見せたソフィーは、全身を確認するや否や頬に朱を浮かべ顔を背けた。

 

 ラナーに似ていると思えた印象はその瞬間に消え失せた。

 よく見れば、愛嬌たっぷりの大きな目はラナーのように間抜けな垂れ目ではない。幾つになっても童顔でガキ臭いラナーと比べたらソフィーの方が余程大人びている。

 自分の娘があんな女に似ているなんて、気の迷いと偶然と天の悪戯とアルベドミルクによる高揚が光を歪めた結果生じた一瞬の勘違いに決まってる。

 

 それはそれとしてカオスだった。

 

 父は全裸で逸物を勃起させ、全裸で眠る母へ手を伸ばそうとしている。

 何が起ころうとしているのか生まれて間もないソフィーにはわからないかも知れないが、母と同じくサキュバスであるのでわかるかも知れない。

 

「わっ、わっ、わたしがっ! ソフィーが、頑張ります!」

「……………………は?」

 

 実は出待ちをしていたソフィーである。

 お食事部屋をこっそり覗き見していたソフィーは、今日こそ成長した姿を父に見てもらおうと思っていた。

 ところが中々終わらない。

 二人の交わりは覗き見防止の魔法が掛かった天蓋付きのベッドで行われていたため、何がどうなっているのかよくわからない。

 一時間待っても出てこない。二時間待っても出てこない。ずっと覗き続けるのは疲れるので母から課せられた勉強をしたりお菓子を食べたり、時間を置いて再度覗けば二人は裸のまま並んで座っていた。

 母は寝入ってしまったようで、父は何かしらの作業が一段落したらしかった。

 良いタイミングと見定めてドアを開けた。

 父が裸なのはわかっていた。ソフィーなりに期待している事がある。

 期待を現実のものとすべく、羞恥を決意で塗り替えた。

 

 圧された男はソフィーが詰め寄るのと同じ速度で後ろへ下がり、長椅子に足がぶつかって倒れようとしたところを手を引かれて事なきを得た。

 すとんと長椅子に座らせられ、隣にソフィーがするりと座る。

 その際、ちらと背中が見えた。

 ソフィーはアルベドと同じに腰から一対の黒翼が生えている。アルベドの翼より一回り小さいにせよ、どうやって膝まであるシュミーズを着ているのかと思ったら背中が思い切り開いていた。何かの拍子で脱げないよう上部でストラップが留めている。その下に重なる紐は下着のようだ。細い紐である。

 

 ソフィーは赤い顔を両手で覆い、けども大きく開いた指の隙間から男の股間をしっかり見ていた。真横からの視線に気付くなり顔を上げて前を見る。取り繕うには今更感が漂うが、顔を赤くしていることからして恥ずかしいことは恥ずかしいらしい。

 しばしの沈黙の後に、娘から口を開いた。

 

「ソフィーはお母様のミルクは卒業しました。これからのソフィーが成長するのに必要なのはお父様のミルクです」

「……俺のミルク?」

「一度だけお母様に飲ませてもらったのを覚えています。あれがお父様のミルクなことくらいソフィーにだってわかります」

 

 アルベドと授乳セックスをした時である。アルベドは口内で受け止めた精液を、口移しでソフィーに飲ませた。

 

「ソフィーはお母様と同じでサキュバスですよ? あれがお父様のおちんちんから出てきた精液なのはわかっています。殿方は気持ちよくなるとおちんちんから精液を出すんですよね?」

「………………それは、まあ」

 

 倫理とか人の道とか何それな男であるが、実の娘にして生後数ヶ月のソフィーにそのようなことを答えて良いものかどうか、葛藤があった。

 一応あったのだが、嘘を教えるのは良くない。そもそもソフィーはサキュバスで、アルベド様の言葉によると生まれながらにして必要な知識を受け継いでいるらしい。知ってる相手に誤魔化す意味はない。葛藤は三秒で理性に打ち負かされた。

 

「ソフィーにはお父様の精液が必要なんです。頑張りますからソフィーに出してください!」

「いやそれは……」

 

 知識を与えるのと実際にするのとでは天地の差がある。実の娘との性行為は、男が忘れたはずの倫理観をいたく刺激した。

 しかし、アルベド様からいずれソフィーへ直接と聞かされてからYes ロリィタに励んできたのも事実。ここで断るのは自身の履歴に整合性がなくなる。

 それに今のソフィーより幼く見えるネムちゃんとアウラ様の口へ盛大に放ったことがある。出来ないではないことだ。

 そもそもにして如何にアルベドミルクの効果と言えど、これでもかと股間のものをそそり立たせているのだから、断るどころかこちらからお願いするのが筋かも知れない。

 

 男が黙り込んでしまったのを、ソフィーは迷っているのだと捉えた。

 父と娘が関係するのはアブノーマルなことくらいソフィーの知識にある。父は人間でソフィーはサキュバスだからそれには当てはまらないのだが、父は割り切れないらしい。

 こんな時、難関を突破するのはいつだって女の魅力、であるはずだ。

 ソフィーは深く息を吸って吐いて、右手を背中に回した。プツンと軽く鳴ったのは、シュミーズのストラップを留める薄いボタンを外した音である。

 

「お父様、こっちを見てください」

 

 父に見守られる中、ソフィーはシュミーズの肩紐を外した。

 辺境の開拓村に住むエンリが着ているのとはデザインも質も段違いのシュミーズは、肩紐で吊す造りになっている。右を外し、左を外すと、ソフィーの体を隠していた薄布は重力に従ってはらりと落ちた。

 

「お母様ほど大きくないけど……どうですか?」

 

 シュミーズの下は、いつぞやのアルベドのようなサキュバススタイルのビキニだった。光沢ある黒い三角形が丸み盛り上がった柔肉の先端を隠している。三角形は小さくて、上乳も横乳も下乳も見えると言うことは谷間だって見えてしまう。

 肝心の大きさは、背丈や顔立ちから推定される外見年齢よりも大分育っていた。シャルティアが舌打ちするくらいはある。

 

「……綺麗だ」

 

 アルベド様のご息女なのだ。美しくないわけがない。

 アルベド様が今の美しさを得るために切り捨てたものを、ソフィーは持っている。

 

「お父様がソフィーにミルクをくださるなら、ソフィーはお父様以外の殿方からはけして吸精しません」

「いやまて。それはちょっと違うだろう」

 

 妻や恋人が操を立てるならいいが、娘が父にと言うのは何かが狂っている。

 

「それならお父様はソフィーがどこの馬の骨ともわからない男たちを好きなだけ吸い殺していいと言うんですか!?」

「いやそうじゃなくてだな」

 

 奔放に男遊びをするのがまずければ、吸い殺すのはもっとまずい。ここは帝都で、魔導国の友好国なのだ。お屋敷の近隣で行方不明者を続出させるわけにはいかない。被害者は慎重に選ぶ必要がある。

 

「お父様は……ソフィーが嫌い、ですか? ずっと顔を見せなかったから? お父様と種族が違うから?」

 

 あどけなさが残る美貌に、悲哀の色が浮かんだ。

 黒炭に炎と氷を散らした目が濡れてくる。見る間に溜まって頬を流れた。

 

「嫌いではないよ。……わかった。ソフィーにミルクを飲んでもらう」

「はい、お任せください♪」

「…………」

 

 悲しくて泣いたはずのソフィーは、満面の笑みを見せた。

 涙を自在に出すくらい、サキュバスでなくても出来るのである。

 

 

 

 

 

 

「ソフィーは初めてだから……、間違ったら教えてください」

「ああ…………、っ!」

 

 ソフィーは男へぴったりと体を寄せ、男の股間へ右手を伸ばす。

 硬く勃起してへそまで反り返る肉棒を、細い指がそっと握った。

 

「すごくかたくてあっつい……。おちんちんてこんなになっちゃうんだ。お父様気持ちいい?」

「ああ……、もう少し強く」

「はぁい♡」

 

 甘えた声で返事をする。

 股間に釘付けだった視線は、繊手が上下し始めると上目遣いに男の顔を見上げた。

 ソフィーの顔は依然赤いものの、行為への羞恥やためらいは薄れてきたようだ。代わりに、嬉しくてたまらないと言いたそうな笑みを浮かべている。

 

「お母様から、ソフィーもいつかお父様にミルクをもらえるようにって色々教えてもらってるんです。エッチなことを言ったりするとお父様は興奮する?」

「それはちょっと違う」

「えっ」

 

 意外なほど真面目な声が返ってきて、ソフィーの動きが止まった。

 

「エッチなことはエッチに言わないと効果が少ない。どんなにいやらしい言葉でも、日常語と同じように言われたら日常の会話と同じになる。言葉に相応しい態度が必要だ」

 

 ついさっきアルベドに言ったように、その場その時に相応しい言葉があるのだ。

 

「あと、脱げばいいってもんじゃない。いつもは隠されているものが現れるからこそ、秘密の開示に高揚するんだ」

 

 つまり、いつでもおっぱいを見せたがるソリュシャンはもうちょっと服を着ててもらいたいという事である。

 

「なるほど……。お父様好みの女になれるよう頑張ります!」

「………………そうか」

 

 応援するのは違う気がする。

 かといって意気込んでるソフィーに頑張るなとも言えない。

 

「お父様、もっと色々ソフィーに教えて? ソフィーはお父様のミルクが欲しくて、だからお父様に気持ちよくなって欲しいの」

「とりあえず一度出したいんだ。握り方はそれでいいからペースをあげて扱いてくれ」

「はい、ソフィーはお父様の言う通りに何でもします♡」

 

 にっこり笑うソフィーが可愛らしく、細い肩を抱いてやった。

 ソフィーは一瞬だけ動きを止めたが、すぐに自分から体を寄せてきた。黒いビキニに包まれた乳房がわき腹にぶつかってゆるく形を変える。

 

「お母様ほど大きくないけど、お母様より張りがあっていいおっぱいだと思うんです」

「…………、ソフィー?」

 

 男が答えないでいると、ソフィーの動きがピタリと止まった。

 

「ソフィーのおっぱいどうですか?」

「……いい胸だと思うよ?」

「えへへ……、今はまだ恥ずかしいけど、いつかお父様にお見せしますね♪」

「あ……、ああ……」

 

 ソフィーはにへらと笑って手の動きを再開した。

 

 初めての手コキなのでまだまだ拙い。だけれども爆発しそうな逸物には十分な快感を与えてくれる。

 当てられているおっぱいもいい感触だ。ソフィーはお母様と比べたら小さいとは言うが、ソフィーの実年齢はともかく外見年齢でそこまで大きいとバランスが悪い。バランスを保てる上限いっぱいのサイズ。

 そして腰は細く、尻の肉付きも上々のようだ。

 サキュバスだからか、アルベドの娘だからか、ソフィーは男の精を絞れる肉体を持っていた。

 

「ソフィーはお父様のミルクを飲んだから、お父様に相応しい体にまで成長できたんです。ソフィーをこんな体にしたのはお父様なんですよ?」

「そ、そうなのか?」

「そうなんです! だからお父様は、ソフィーをこんな体にした責任をとらないとダメなんです」

「責任……」

「ソフィーにいっぱいミルクを飲ませてくれるのがお父様の責任ですよ?」

 

 じいっと男の顔を見つめながらも手の動きは止まらない。

 熱い逸物は娘の手に扱かれて、尿道口から透明な汁を滲ませた。先走りはソフィーの手を汚し、にちゃにちゃと粘着質な音を立てるようになった。

 

「ソフィーがお父様のおちんちんを弄ってるのはミルクが欲しいからだけじゃないんです。ミルクは欲しいけど、お父様とこうしてるだけで胸が温かくなって、安心できて、とっても嬉しいんです。ソフィーはお父様が大好きだから……」

 

 好きと言われて悪い気はしないが、実の娘でありながらほとんど接点がなかったのにどこをどう好かれたのか。

 親子の絆を感じるのか、はたまた初めてのミルクで何かしらを刷り込まれたのか。

 

 そのいずれでもあって、一番はアルベドが父のことを色々と言い聞かせてきたからだ。

 最大の庇護者であり無償の愛を注いでくれる母が想いを込めて語るのだから、娘の心に響かないわけがない。

 日毎に募る憧れは、実際に会って接しても崩れなかった。父の、男としての美しさと逞しさは想像していた以上。

 

「ソフィーはお父様が好き。お父様もソフィーが好き?」

「もちろん好きだよ」

 

 嫌いと言える流れではない。

 爆発しそうな逸物を扱かれて、生殺与奪を握られてるも同然なのだ。

 

「それじゃあお母様よりも?」

「は?」

 

 ソフィーは自分の娘とは言え、父である実感は全くない。

 となればアルベド様のご息女。あるいは一人の女。

 一人の女とアルベド様を比べたら、どちらが好き以前の話だ。

 

「でもソフィーが言ってるのは娘として好きかってことだから、お母様を出すのはおかしいかな? お父様はお母様を娘として好きなわけじゃないですよね?」

「それはそうだろう。そういう意味でアルベド様をお慕いしているわけじゃない」

「ソフィーも公の場ではお母様をアルベド様と呼びなさいって言われてます。お父様はそんな風にアルベド様をお慕いしてるわけじゃないんですね?」

「その通りだ」

「お父様はソフィーが好きですよね?」

「さっき言ったとおり大好きだよ」

 

 男が早口で答えているのは、ソフィーの手の動きがゆっくりになったから。

 そろそろ出そうなのに、出させてもらえないのが全ての男にとってどれほど苦しいことであるか。この責め苦を逃れるためなら、聖人だって悪魔に魂を売ることだろう。

 それに比べたらソフィーを好きと言うくらい安いものである。

 

 しかしこの場には、二人以外にもう一人いる。

 彼女は、男にはわからないソフィーの言葉の裏を読んでいた。

 

「……ソフィー」

 

 大きくはないのに、世界の隅々にまで響き渡る深い声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 アルベドはずっと起きていた。

 寝た振りをして犯されるのを待っていたがソフィー登場。

 目論見が崩れてしまったのにあえて寝た振りを続けたのは、ソフィーが上手くやれるか見守りたかったからだ。娘の成長を観察する母そのものである。

 睡眠姦を諦めて娘に譲り、娘がきちんと出来たら起き出して二人に混ざろうと思っていた。

 

 母は娘の幸せを願うもので、アルベドとて例外ではない。ソフィーがアルベドから無償の愛を感じていたように、アルベドはソフィーへ惜しみなく愛を注ぎ続けた。

 しかし、限度がある。アルベドに限らず母と言う存在は、娘が自分より幸せになることを許さない。

 娘は幼い頃よりこのような教育を母から意識無意識問わずに施され、長じた時に幸せ恐怖症の遠因となることが意外なほど多い。

 娘の夫となる男は、娘が母から掛けられた呪いを解かないと娘を幸せにすることが出来ないのだ。

 

 では、母の幸せを娘が奪う最大の手段とは何か。

 女として父を奪うことである。

 ソフィーが仕掛けたのはこれだった。

 

 彼がソフィーを愛するのはいい。まずは自分の娘として愛し、ソフィーはサキュバスであるのだからいずれは女として愛するのも全く問題ない。

 だけれども、自分より上に立とうとするのは許さない。彼に特別枠で一番愛されるのは自分であって、そこを犯そうとする者は自分の娘だろうが何だろうが絶対に許さない。

 

「おかあさま……?」

「ソフィーは良い子ね。お父様をお慰めしようとしてたのね。偉いわ」

 

 アルベドが起き出して長椅子の前に立ったのを、二人は気付かなかった。

 ソフィーは初めての搾精に夢中になってる。されてる方は苦しさから解放されたい一心でソフィーの手だけに集中している。

 

「……はい。お母様に教えられた通りに頑張ってます」

「そうなの? 私が教えてないことを口走っていたようだけれど」

「うっ!」

 

 ソフィーは呻いてアルベドから顔を背けた。

 お父様がお母様へ向ける気持ちを自分へ向けさせようと、自覚あって口にした言葉だった。

 

「でもお父様はお母様が好きじゃなくてソフィーが好きだって言ってくれたわ!」

「黙りなさい」

「本当のこと言ってるだけだもん! お母様はお母様なのに娘として娘に張り合うなんておかしいです!」

「…………」

「あ…………、いたいいたいいたい! お母様ごめんなさい!!」

 

 アルベドは、ソフィーの頭から生える白い角を掴むと、羽ペンでも持ち上げるように腕を上げた。

 ソフィーの腰が長椅子から浮く。次いで足が床から離れた。

 アルベドの腕には力が入っているようには見えない。すごいぱわーである。平手の一発で男の下顎粉砕しただけはあった。

 

「初めての娘だから甘やかしてしまったのかしら? 少しお仕置きが必要なようね」

「ひっ!」

 

 ソフィーの顔を覗き込む黄金の瞳は、怒れるドラゴンのように裂けていた。

 

「お父様助けて!」

 

 そうは言われても、お父様は事の成り行きが全くわかっていなかった。

 アルベド様が怒ってる理由がわからない。ソフィーが怒られる事をしたのも心当たりがない。

 そんな事よりも手コキを再開して欲しかった。

 

 ソフィーが己を吊すアルベドの腕を必死で掴み、何とか逃れようと足をばたばたと動かすが、怒りの一睨みで沈黙してしまう。

 お仕置き待ったなしである。

 ソフィーの心を諦念が支配しようとしたその時、アルベドの表情がふっと凪いだ。

 

「ええ、わかったわ。何かご命令があったかしら? ……そう。それなら私が戻るまで待機していなさい。すぐに戻るわ」

 

 父と娘は小首を傾げる。

 アルベドにメッセージの魔法があったのは察せられるが、守護者統括が休みを切り上げて戻らなければならない事態が発生したのだろうか。

 

「アインズ様がヤルダバオトを討伐したそうよ。私はナザリックにもどるわ。ソフィーは……」

 

 虚空から取り出した小さな金属棒を男へ放り投げた。

 一端にはリングがついて、もう一端には凹状の突起が出張っている。

 単純な構造に見えて、複製不可能な魔法の鍵だ。

 

「あなたに渡しておくわ。すぐに出しては駄目よ。私はしばらく来れなくなると思うから、その間にしっかり反省していなさい」

「お父様!」

 

 アルベドはソフィーを吊しながらソフィーの部屋へ姿を消した。

 男一人が取り残された。

 

 

 

「これをいったいどうしろと……!」

 

 股間の逸物は、ソフィーに寸止めされた状態のままいきり立っている。

 このままでは爆発して死ぬ。

 早急に解消しなければならない。




一度も聖王国に行ってないのに長い聖王国編が終わりました
あとちょっとなのでちょっとダラダラした気がします

このままだと爆発して死ぬので一話挟んでからエピローグ、の予定


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力を合わせて ▽ソリュシャン・シェーダ・ルプスレギナ

前話後書きで一話と言った手前分割して投稿するのは憚られたのですが長くなってしまったのでそのままだと読みづらいと思い意見を募るべくアンケートを設置したところ次話二万字越えて「いい」「わるい」「まかせる」の三択に「まかせる」が投票率100パーセントだったので分割して投稿しました(―_―)


 無人のお食事部屋に留まってもどうにもならない。早急に外へ出て誰かを見つける必要がある。

 部屋を出るには服を着なければならないが、逸物は萎える気配がなくズボンを履こうにも引っかかってしまう。仕方なしに用意があったナイトローブを羽織り、外へのドアを開く。

 開けたそこには救いの女神たちがいた。

 

「アルベド様のお話は如何だったのでしょうか?」

「やっぱ叱られたんすか?」

「ソリュシャン! ルプーも!」

 

 ソリュシャンとルプスレギナが心配そうな顔で、けども男の顔を見るなり安堵に綻ばせた。

 二人はアルベド様のご様子から男が厳罰を下されるのではないかと心配して、わざわざドアの外で待っていたのだ。二人が心配して待っているくらいなのだから、当然のようにミラとジュネもいる。

 

「少し心配したのですが、大事にはならなかったみたいですね」

「大事になっていても若旦那様の自業自得だと思います」

 

 シクススとシェーダは翌朝早くから仕事がある。こちらは眠る準備を終えた後で、二人ともナイトウェアだ。

 

「みんながいてくれて良かった!」

「あっ♡ ………………お兄様?」

 

 一番近くにいたソリュシャンに抱きついた。

 抱きすくめられたソリュシャンはうっとりと愛しのお兄様に体を任せ、愛を込めて抱き締め返す。それは良かったのだが、そのまま部屋の中に連れ込まれた。奥の間はアルベド様のお食事部屋で、軽々に立ち入って良い場所ではないのだ。禁忌を犯してしまった困惑が声に出た。それでもお兄様に逆らったりしない。

 腰に回されたお兄様の手は少し下がって、スカートの上から尻を掴んでいるのだから。

 

「ルプーも。シクススとシェーダも。ミラ、ジュネ、お前たちも来い」

 

 ドアは開いたままで、ソリュシャンの尻を掴んだ男は振り返らずに部屋の奥へ進んでいく。

 一同は顔を見合わせ、しばし無言で相談してから二人に続いた。後でお叱りを受けることになったら全責任を若旦那様へ押し付ければよいのだ。

 

 

 

 

 

 

「ああん♡」

 

 最後に入室したミラがドアを閉めるなり、ソリュシャンの嬌声が響く。

 ソリュシャンはドアから一番近いソファに押し倒されていた。足下まで隠れる長いフロア丈のスカートをめくり上げられ、剥き出しになった尻へ男が腰を打ち付けている。パンパンと肉が肉を打つ乾いた音が小気味よいリズムで鳴り続け、ソリュシャンの甘い声が重なる。

 

「さすがはソリュシャンだ。前戯がなくてもちゃんと入るんだな?」

「ソリュシャンはっ、いつでもお兄様を受け入れる準備が整っております♡ あんっ、あんっ♡ ソリュシャンの体をお好きに使ってくださいませ♡」

 

 ソリュシャンは背後のお兄様をうっとりと振り返り、ドレスの胸元を引き下げた。

 豊満な乳房がポロリとこぼれるなり、お兄様の手が伸びてくる。

 

「あんっ♡ ソリュシャンのおっぱいを、いっぱいさわってください♡ ソリュシャンの体でお兄様がさわってはいけない所なんてどこにもありませんからぁ♡ あっ……、あむっ、ちゅうぅ……、んっんっ、ああん♡」

 

 心を読んだように、ソリュシャンが欲しかった口づけが与えられた。

 腰の動きが優先するからじっくり舌を絡められなくても、柔らかな唇同士が触れ合うのは心地よい。もっと気持ちよくなるべく、ソリュシャンは強く吸う。いつものように唾を啜ろうと思ったが、快感が口をついてキスを続けられなかった。

 ソリュシャンの体の奥深いところで、愛しのお兄様が入ってきている。

 人間に擬態しているから存在している女性器なのに、どうしてこんなに気持ちいいのかわからない。心も体も熱くなって、理性が茹だって溶けていく。

 

 お兄様に気持ちよくなってもらおうと、膣内を往復している逸物へ肉ひだでの愛撫を試みる。

 体の至る所で味わってきた逸物は、見なくても形を脳裏に描ける。そうでなくても、挿入されているのだから、形どころか味や匂いだって感じている。的確に悦んでもらえる所を愛撫できるはずなのだ。

 だと言うのに、擬態のはずの雌穴は淫蕩な悦びに酔いしれて言うことを聞かない。

 ソリュシャンはショゴスであるのにただの女になってしまったようで、肉ひだによる愛撫どころか逸物を締め付けるのも怪しくなってる。真芯に突き刺された逸物に心身を支配され、快感によがることしか出来ない。

 

「あっ、あっ、ああぁぁあぁぁぁん! ソリュシャンのなかで、お兄様がぁ……♡ あっ、やっ……、イっちゃううぅぅぅ♡ ひゃぁん!?」

 

 男の手がソリュシャンの尻をパチンと叩いた。

 大きな尻が一瞬だけたゆんと揺れる。一瞬だけだったのは、すぐに男が腰を打ち付けるから。

 ソリュシャンの尻は男のリズムに合わせて波打っている。

 

「ちゃんと締めるんだ」

「はぃ……、お兄様のおちんちんに相応しいおまんこになります♡ あっあっ、あんっ……、あっ、あああぁぁぁあああっぁぁあん! あぁ、お兄様がソリュシャンの中にぃ……♡」

 

 美しい女の姿をしていても正体は不定形の粘液であるソリュシャンの穴は、その気になると頭が入るほど広がる。いかに男の物が大きかろうとそこまで広ければゆるゆるを越えてスカスカだ。

 ソリュシャンが快感に翻弄されつつもきゅうと締めたとき、一番深いところでどぴゅどぴゅと熱い精液を吐き出された。膣内で逸物がぴくぴくと震えるのを感じながら長い射精を受け止める。

 引き抜かれる時は、ひゃうぅ……と掠れた声を上げ、ソファに凭れ込んでその場に崩れた。

 

 ソリュシャンの中から引き抜かれた逸物は、ひくつくソリュシャンの膣口と亀頭とで長い糸を引く。

 見るからに粘性が高そうな糸は、大きくたわんで千切れ、ソリュシャンの太股に透明な滴を残した。

 

 

 

「一度くらいじゃ駄目か!」

 

 男が振り返ってようやく、女たちは我に返った。

 男のナイトローブは前が開き、逞しい胸板に引き締まった腹筋と、その下で雄々しい肉棒を反り返らせている。

 先端から根本まで、陰嚢に陰毛まで濡れているのは、ソリュシャンの淫液なのだろうか。

 

(うっわー…………、一回出したのにガッチガチっすよ。これは本当に淫魔か淫獣になっちゃったんすか? アルベド様が怒ってたぽいのはおにーさんの種族を変えるんで真剣だったから? どのみち一回や二回じゃ治まりがつかなそうだし、ここは私が一肌脱いであげるべきっすね♡ てかソーちゃんマジダウン中?)

 

 ソリュシャンはショゴスで肉の悦びはいまいちわかってないと思っていたルプスレギナだが、ソファに凭れて荒い息を吐くソリュシャンは本当に感じて本当に達してしまったように見えた。

 

「わっ、わたしは……」

「シクスス、俺の可愛い子猫ちゃん。お前はどこにも行けないだろう?」

「っ………………。はぃ…………」

 

 唐突に始まった情交に目を白黒させていたシクススは、この場を離れようとして、阻まれた。いつものプレイが裏目に出た。

 シクススが若旦那様に抱かれる時は、シクススの希望でご主人様と子猫ちゃんになる。ご主人様はとってもエッチで子猫ちゃんが大好きで、意地悪だけどいっぱい可愛がってくれる。

 それでもシクススはお姉さんメイドのつもりでいたのだけれど、スイッチを入れられると隠れた性癖が出てきてしまう。お姉さんメイドならともかく、可愛い子猫ちゃんはご主人様に逆らえないのだ。

 

「私は失礼させていただきます」

 

 シェーダは目を閉じて深々と頭を下げた。

 抱かれるのは嫌ではないが、それは二人きりに限る。この場にはプレアデスであるソリュシャンとルプスレギナ、特にソリュシャンはシェーダが専従メイドとして付き従うお嬢様だ。

 ナザリックではシェーダと同じく一般メイドで、帝都のお屋敷ではメイド長を務めるシクスス。シクススがまさかこの場に残ると言い出すとは思いも寄らなかった。

 ミラとジュネのヴァンパイアブライド二名は若旦那様もとい相談役殿の部下なので残って当然。

 自分以外に五人もいれば十分すぎる。

 

「……離していただけますか?」

 

 男の姿を見ないよう目を閉じたのがまずかったのか、踵を返す前に腕を掴まれた。

 

「シェーダも俺を心配して来てくれたのかい? 嬉しいよ」

「私はソリュシャンお嬢様の専従メイドでございますから、ソリュシャンお嬢様が向かうとなれば付き従う外ございませんので」

「だったら最後までお嬢様に付き合うべきだろう?」

「っ! わたしはっ!」

 

 この男は一体何を付き合えと言うのだろう。私を一体なんだと思っているのか。

 頭に血が上る。言ってやろうと口を開く前に、抱きつかれた。肩に男の顎が乗る。耳元で囁かれた。

 

(見られてするのは今更だろう? 初めての時も、二回目も)

(!!)

 

 シェーダの初体験は、同僚二名が付き添っていた。

 二回目は八人ものメイドたちに見られる中で失神して失禁するほど深く愛し合った。

 

(シェーダが欲しい)

(ぅ………………)

 

 下腹に勃起した逸物が押し付けられ、光沢のある乳白色の生地に淫液が濡れた跡を残す。

 シェーダの体から力が抜け、小さく頷いた。

 

 狩猟者の本能が獲物を逃がさない。他に何人いようと黒髪おっぱいは絶対だ。

 

「ベッドがちょっと散らかってるから片付けを頼む。レースカーテンは開いたままでいいから」

「「かしこまりました」」

 

 ミラとジュネはヴァンパイアブライドの正装だ。つまりはノーパンノーブラでそれは服じゃなくて帯ですかと聞きたくなるエロ衣装。

 二人はシクススの指示に従って、てきぱきと乱れたベッドを整える。

 三人が頑張ってる間にすべき事があった。

 

 

 

「あっ、だめ……!」

「何が駄目なんだ?」

 

 シェーダのナイトウェアはフリルたっぷりのロングワンピースで、襟を紐が通って胸元で結ぶタイプ。

 きつく縛れば喉まで隠すが、ゆるく縛ると胸の谷間を覗かせるほど襟が広がる。

 解いてしまえば襟が肩を抜けるまで広がって、肩を抜ければ床に落ちた。

 シェーダは寝るときにブラジャーを着けないようだ。ソリュシャンと創造主を同じくするためか、似たようなところがあるのかも知れない。

 

 白いパンツ一枚だけの姿にさせられ、シェーダは胸を抱いて乳房を隠した。

 そんな事はお構いなしに、男はシェーダの体を抱き締める。

 左腕は腰に回ってシェーダの体をぐいと抱き寄せ、右手は大きめの桃尻を撫で回す。一撫で二撫でしたら指先がパンツの内側に忍び込んだ。

 

「あっ、あっ……。生地が伸びちゃうから……っ!?」

 

 目敏くジュネが近寄ってきて、背後からシェーダのパンツをするりと下ろした。為すべきを成したら一礼してベッドメイクに戻る。まこと忠臣の鑑である。

 

「シェーダも触ってくれないか?」

「だ、だって、ソリュシャン様も、みんなも……」

 

 同僚たちの前で口淫も経験済みなのに、触るのが恥ずかしい、恐ろしい。

 触ってしまったら、始まってしまったら、きっと乱れてしまう。乱れに乱れて失禁までしてしまったのは、心に傷を残した。

 この前、帝都の屋敷に来て初めて抱かれたときも乱れてしまった。すすり泣いて男に抱きつき、よくわからないことを言ってしまった覚えがある。

 何を言ったのかは覚えてなくて、けれどもとっても恥ずかしいことだったような気がする。

 

「だったら……」

「…………え?」

 

 シェーダの下腹を熱くしていた逸物を押さえて下を向かせ、同時に腰を落とす。

 シェーダは股を少しだけ、指が二本入る程度に開かされる。

 その状態で男の手が逸物から離れた。

 

「なっ、なに!? おちんちんあたってる!?」

 

 シェーダの股に、逸物が差し込まれた。長い逸物は太股では挟みきれなくて、後ろから先端が見えている。

 

「この体勢だとまだ入らないよ。まずシェーダをじっくり濡らさないと。もう十分みたいだけどな」

「な、なに言って……。あっ、んむぅ……」

 

 上に反ろうとする逸物が、割れ目をぐいぐい圧してくる。

 そんなものを押し付けられてしまえばその気になってしまうし、それ以前にソリュシャンが犯されているのに見入ってしまった時から濡らしている。

 知られたのが恥ずかしくて、強気に言い返そうとして、またも出来なかった。唇を塞がれ、舌が入ってきた。

 口内に入ってきた舌は真っ直ぐにシェーダの舌を目指し、誘うように触れてくる。シェーダは応えた。

 れろれろと舌を絡ませ、じゅるじゅると唾液を交換する。

 シェーダからも男の背に腕を回し、熱心に舌を伸ばした。

 

 ソリュシャンの様子を気に掛けつつ、シェーダの次は私っすからとひとまず見に回ったルプスレギナは、シェーダの体が揺れているのに気が付いた。

 おにーさんの手はシェーダの腰に回って、もう片方の手は前に回っているのを見ると、どうやらおっぱいを揉んでいる様子。シェーダの両腕はおにーさんの腰に回って抱きつき、体を揺らしている。

 ルプスレギナは首を傾げつつ後ろに回って、謎が解けた。

 シェーダの尻の下から覗く亀頭が、隠れては姿を現している。つまりシェーダは、腰を前後に振って太股と割れ目で逸物を扱いていた。

 おにーさんが誘導したのか、それともシェーダが自発的にしているのか。どちらにせよ、とてもいやらしい。

 

「あ………………、入れる?」

 

 シェーダの腰に回っていた男の手が、尻を撫で太股まで下がる。

 前に回ると太股を持ち上げて、シェーダは片足立ちにさせられた。

 

「シェーダがたっぷり濡れてるのを感じるんだ。いいだろう?」

 

 シェーダに立ち素股をさせる内に、竿に触れる割れ目が開いて内側の肉に触れるようになってきた。

 すべすべの太股はただでさえ滑りが良いのに、ぬめる液体が絡みついて一層スムーズになる。

 シェーダが秘部から愛液を垂らしているからだ。中に入れてほぐしたりはしていないが、これだけ濡れているなら十分なはず。

 シェーダの芳しい吐息は荒く熱くなって、潤んだ目で見上げてくる。

 物欲しそうなシェーダの顔に、シェーダが欲しくなる。

 

「……うん。おちんちんが欲しくて、おまんこがすごく濡れちゃってる……。さっきからずっと熱いの感じてる。入れて欲しい。あなたのおちんちんを私のおまんこに入れて欲しいの」

 

 片足立ちになったシェーダは残る足で爪先立ちになって、両腕は男の首筋に絡まり力を込めて抱きついた。

 

「あ……あ……♡ はいって……、はいってきてるぅ♡」

 

 太股に挟まれた逸物は解放されて反り返り、真上を向いた。

 男が腰を落として位置を合わせ、シェーダの入り口に入っていく。

 シェーダの後ろから見ているルプスレギナには、シェーダの中に逸物が埋まっていく様子がよく見えた。

 

 シェーダの爪先が床から離れる。

 シェーダの両足は男の腰に回って足首同士が固く絡み合い、両腕は一層きつく首を抱く。両手両足で男にしがみついてるようだ。

 そして二人の結合部。太くて長い逸物は、根本までシェーダに飲み込まれていた。

 

「根本までずっぽしじゃないっすか!」

「!!」

 

 後ろから屈んで覗いていたルプスレギナが驚きの声を上げた。

 シェーダが男の首へ顔を埋める。膣肉が逸物をきゅうと締めて、結合部から透明な汁がぽたりと滴った。

 

「おにーさんのちんちんてあんなでっかいのに平気なんすか? シェーダのおまんこは……、平気みたいっすね。うわーうわー、ぶっといちんちんで思いっきり広げられてるっすよ。おまんこが充血して真っ赤になって、なんかとろとろしてるの出てるっす」

「ひぅ…………!」

 

 ルプスレギナはシェーダを辱めようと思って言ってるわけではない。

 おにーさんのちんちんが太くて長いのはよーーっく経験済みなので、根本まで入れてしまうと奥を突かれてしまう。その鈍痛がまた好かったりするのだが、それは戦闘職にあって肉体が頑強なルプスレギナたちだからであり、シェーダやシクススら一般メイドには負担になると思われるのだ。

 シェーダが乱暴に抱かれて痛かったり苦しかったりするようだったら回復魔法を掛けてやろうと待機していた。

 それなのに、シェーダに苦しそうな様子はない。

 媚肉が充血して結合部からポタポタと愛液を溢れさせているのを見ると、むしろ快感に浸りきってるようた。

 

「シェーダは初体験の時、無理をして騎乗位で奥まで入れたんだ。少し裂けたみたいだったけどすぐにポーションを飲んだからね。傷は完全に回復したはずだ」

「……それってちんちん入れたまま飲んだんすか?」

「そうだよ」

「へっええええ~~~~~~~」

 

 ルプスレギナが、にやにやといやらしい顔で笑った。

 

「シェーダのおまんこはおにーさんのちんちんサイズに成形されちゃったってことっすね! そんなのされちゃったらおにーさんのちんちんしか入れられなくなるじゃないっすかー」

「くぅ……!!」

 

 シェーダは顔を伏せて男にしがみつくことしか出来ない。

 反論しようにも一から十までルプスレギナの言う通りだ。初体験で裂けてしまった時、挿入したままポーションを飲んだせいで男の体に合うように作り替えられてしまった。その甲斐あって体の相性は抜群。入れてるだけで心も体も満たされるのは初めての時からそうだった。

 

 シェーダを落とさないように両手で尻を掴んでいた男は、右手を離してシェーダの黒髪を撫でた。

 

(俺のために体を差し出してくれてありがとう。愛してるよ)

(~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!)

 

 片手が離れたせいで結合部に加重が掛かり、シェーダの奥に触れていた亀頭が子宮口に押し付けられる。シェーダの子宮は注がれることを期待して口を開いた。

 膣内に満たされるであろう粘液を取り込むため、肉ひだが蠕動して逸物に絡みつく。

 シェーダは全身全霊を込めて、男を抱きしめた。そうでもしなければ叫んでしまいそうだ。

 ルプスレギナが真後ろにいて、ソリュシャンも聞いている。お二人は若旦那様と結婚を、と言うくらいなのだから、ここで自分が愛を叫ぶわけにはいかない。

 けれど、抱きしめるだけでは足りなかった。胸も子宮もきゅんきゅん来て、涙が出てくる。頬を濡らしながら、男の肩に噛みついた。

 想いの深さだけ強く噛み、わずかに血の味を感じた。

 

「おっと」

 

 シェーダの手足から力が抜ける。両手で尻を掴んでも、このままでは落としてしまう。

 それを見越して、対面立位のままベッド近くまで移動していた。

 ベッドにはベッドテーブルに各種小道具、タオルの山やらアルベド様のアルベド汁でぐちょぐちょになったエリアもあったが、シクスス監督の元でミラとジュネが頑張ったのだ。

 

 繋がったままシェーダをベッドに下ろす。

 シェーダは深く達したようだが、入れてる方はまだ出してない。挿入はしたものの、中でほとんど動いてなかった。それなのにシェーダが達したのが少し不思議である。ここまでいきやすい女ではなかったはずだった。

 それはそれとして、こちらはまだだ。

 虚脱してしまったシェーダの太股を抱え込み、シェーダの股間へ腰を打ち付けた。

 

「うっ、あっ、あっ! やっ、まっ、まってぇ! あっ、あっ、ああぁん! やぁんっ、イったばかりぃぃいい!」

「もう一度いったらいいさ」

「あっあっ、はうぅっっ!? だめぇっ、きもちいのだめぇ♡ おちんちんきてるぅうぅっ♡」

 

 シェーダの足がもう一度男の腰に絡みつく。

 自然と股間が上向く形になって、二人の後ろに陣取る者たちからはシェーダの肛門までよく見えた。

 じゅっぷじゅっぷと飛沫が散り、結合部からは時折とろりと汁が垂れる。それに合わせて肛門の皺が伸びた。

 あんあんと嬌声を上げては大好き愛してると口走り、尻を震わせるのはきっとイってる。

 

 ちらと男が振り返って、四人へ手招きした。ベッドへ上がれと言うことだ。

 アルベド様のベッドである。特にベッドメイクをしていた三人は、シーツの大きなシミがアルベド様の淫液であると気付いている。乾ききらないシミは、さっきまでアルベド様がここで、と言うことを示していた。

 そこへ自分たちが上ってしまうのは、この部屋に入ってしまっている以上の禁忌である。とは言え誘われたわけで、シェーダはすでにベッドを背にしてよがっている。

 何かあったら全責任は相談役殿と言うことで話がまとまり、ルプスレギナからベッドに上がった。

 

「次は私っすからね!」

 

 ルプスレギナはペロリと舌なめずり。

 合体している二人を横目に、帽子を脱いで魔改造メイド服を脱ぎ捨て、パンツは脱がして貰おうかなと考えたがこれ以上履いてると汚してしまう。腰を振りながらするりと脱いだ。

 クロッチが股間に張り付いて、離れるときに糸を引く。

 ルプスレギナは難しい顔をしながら頬を赤らめ、シミが出来てしまったパンツはメイド服に包んで放り投げた。ベッドの紗は大きく開かれており、未だにダウンしているソリュシャンの上に落ちた。

 

「ルプスレギナ様の次はシクススさんがどうぞ」

「いえ、私は最後で……」

「良いのですか?」

「はい」

 

 ミラの提案をシクススは丁重に辞退。

 ミラとジュネ、二人のヴァンパイアブライドの視線がぶつかった。

 

「あぁ……、でてるぅ。わたしのなかで、あっついのでてるのぉ……♡ はぁ………………」

 

 男はシェーダの中で果てたらしい。

 腰の動きが止まり、シェーダへ優しいキスを送っている。ちゅっちゅと軽い音が数度響かせてから立ち上がった。

 

 シェーダが押し倒されたのはベッドの際だったので足が外に出ている。ミラとジュネは内側へ運んでやった。

 女二人に持ち上げられたシェーダは、目は開いているのに忘我の様で虚ろにどこかを見上げている。

 ベッドに下ろされたシェーダは股が少し開いていて、中央からぷりゅと精液を溢れさせた。体に力が入らず、膣内に収められた精液を留めることが出来ないでいる。

 男がシェーダに放ったのはソリュシャンに続いて二回目なのに、意外なほど量が多い。このままでは整えたばかりのシーツがまた汚れてしまう。

 

「お清めします」

「あっ? な……、なに? やぁ、ペロペロだめぇ…………」

 

 ジュネが率先して綺麗にし始めた。

 SVBの中でシャルティアにもマイスターにも異常個体認定されてるジュネは、女の股を綺麗にするのにタオルなんて使わないのだ。

 

 

 

「くふふ……、二回出したのにガッチガチっすね!」

「…………わざわざ回復魔法なんて使うからだろうが」

 

 一回出しただけでは何の変化もなかった。

 二回出しても勃起の強度は変わらずだったが、爆発しそうな緊迫感が薄れてきた。

 それなのに、ルプスレギナが回復魔法を使ったせいで振り出しに戻る。

 

「シェーダに噛まれたところが歯形になって血が出てたんすよ」

「その内消えただろうに」

「いーじゃないっすか。おにーさんがどんなに溜め込んてても私たちがぜーーーんぶ搾ってあげるっすから♡」

 

 おにーさんの綺麗な肌に歯形が残ってるのが嫌だった、と言うのは後付けの理由。フル装填して自分に注いで欲しいのが本当の理由。

 そのおかげでアルベドが着けたキスマークも綺麗に消えた。

 

「おにーさんはいつでもっぽいっすけど、私はもうちょっとしてからがいいっす♡」

 

 ルプスレギナは男の顔の上で尻を振る。褐色の肌に隠れていたピンク色を覗かせた。

 

 ルプスレギナは自分の番になったら、男にに飛びついて押し倒して抱きついて回復魔法。

 匂い付けするように男の体に自分の体を擦り付け、両手で頬を捉えてちゅっちゅとキスの雨を降らせた。

 唇へ、額へ、頬へ、唇へ、今度は少し長めで舌を入れる。顎へ、鼻へ、もう一度唇へキス。レロレロと舌を絡ませ、唾をすすって注いで。

 れろぉと唇から舌を突き出せば、男からも舌を伸ばした。

 唇は触れていないのに、舌同士は舐め合っている。

 普通のキスよりいやらしくて、ルプスレギナは下腹が熱くなった。

 雄を求める雌の本能が男の股間へ手を伸ばさせ、熱い逸物を握ったときはよくわからない不思議な法則で心が震え、変に感じ入ってしまったのを誤魔化すために深いキスを送った。

 しゅっしゅと上下に扱きながらもキスの雨は続いて、顎から喉へ、鎖骨から乳首へ、へそへ舌を差し込んだときは苦しそうな笑い声でやめろと言われた。

 へその下にちゅうと吸い付き、色の薄い陰毛に鼻を埋めてすんすんと嗅ぐ。ソリュシャンとシェーダの匂いの中に、雄の匂いが隠れている。

 そそり立つ逸物にまでたどり着いたら体の向きを変えた。

 よいしょとしなやかな脚が男の体を跨ぎ、両膝をベッドについたらゆっくりと腰を落とす。

 

「最近舐めてもらってないから、おにーさんにペロペロして欲しいなぁって♡」

 

 男の顔を跨いで股間を近付けているのはそう言うこと。

 してもらうだけのつもりはなく、ルプスレギナの顔の前には男の股間が来ている。

 

「舐める前に入れたがるのはルプーだろ? 舐めるのは好きだからシクススやシェーダには結構してきたし」

「ご主人様言っちゃ駄目ですよぉ!」

 

 シクススが涙目で叫んだ。

 同じく秘め事を暴露されたシェーダは、腰を浮かせてジュネに出されたものを吸われていた。

 

「もう! 今は私っすよ?」

 

 ぷんぷんするルプスレギナを慰めるべく、男の手がピンクへ伸びる。

 大股を開いて割れ目が少し開いていても、内側を舐めるには少々不足。ふにふにの陰唇へ左右から親指を添え、くぱあと広げた。

 

 ルプスレギナの秘部はいつも不思議な感慨を抱かせる。

 肌は褐色なのに、陰唇を開いた内側は淫靡な肉色。色の対比が如何にも体の内側を思わせて、無防備な急所を晒しているように思えてしまう。

 そこを自分の自由にしていいのだ。荒れる男の欲望を叩きつけて良いのだ。

 肉欲が獣性を帯びてくる。一刻も早く突き立てたくなる。可愛い声で鳴かせたくなる。

 その前に、お望みのまま準備をしてあげなければならない。

 舐めるのが好きと言ったのは本当で、味でも匂いでも誰であるか見分けられる自信があった。誰にも誇れない自信であり、知られたら石を投げられるかも知れない特技であるが。

 

「あはっ♡ あったかくてやわらかくって、ぬるぬるでエロエロっす♡ 私もおにーさんのちんちんペロペロするんすから、本気出し過ぎちゃダメっすからね? あっ、やぁん♡ もっとゆっくりぃ♡」

 

 クンニリングスの基本はクリトリスで、まずは舌の腹で優しく味わう。

 比喩ではなく味がするのはルプスレギナの汗が少々、内側を湿らせる愛液が少々。舐める内に汗の味は消えていき、ぬるつく愛液だけになってきた。

 舌先でクリトリスを転がし続けると膨らんできて、そうなったらちゅうと吸いつく。わざわざ包皮を剥いてやらなくても、経験を重ねてきたルプスレギナはクリトリスが勃起すると剥けるようになった。

 小さな肉の豆は、勃起してもやっぱり小さくて柔らかい。レロレロと舐め回すのは楽しいが、女が感じるのは大きく舐めるより小さな刺激。

 吸い出しながら舌先でつんつんとノックを続ける。舌に乗る愛液の量が明らかに増えてきた。

 ペースを上げたり、愛液を垂らしている雌穴を弄っても良いのだが、手加減しろと言われている。股間を温かく包まれるのはとても気持ちよいので、ルプスレギナを味わいながら張りのある尻を撫で始めた。

 

(舐められるとピリッと来るっす♡ 痛くないのに痺れてるみたいで……なんなんすかね? ま、気持ちいいからおっけーっすよね! おにーさんが舐めてくれてるんすから、私もおにーさんをペロペロしないと……)

 

 シックスナインなのだから、ルプスレギナからも舐めないといけないのである。

 勃起している逸物の根本を軽く握り、先端を自分の顔へ向けた。

 全体がうっすらと湿っていたのは手で扱く内に乾いてきたが、先端の割れ目は少し濡れてるようで薄明かりを反射している。

 そこから雄の匂いが立ち上ってきた。

 頭が痺れて動かなくなってしまう好い匂い。

 何をしようとしていたのか、何をすればいいのかわからなくなる。ルプスレギナは頭で考えず、体が求めるままに先端に滲む汁を舐めとった。

 赤い舌が張り詰めた亀頭を舐める。レロレロと舐め回す。舌にはたっぷりと唾が乗っていたので、亀頭から竿へルプスレギナの涎が伝っていく。

 涎が根本を握る手にまで届いたとき、思い出したように上下に扱き始めた。

 リズムよく扱き続けると、舐めとったはずの汁がまたも浮いてくる。

 舐めて、扱いて、唇をつけた。

 唇は亀頭の太さと同じにまで開かれて、ルプスレギナの頭が下がっていく。

 喉の奥まで迎え、数度頭を振ると、自然と思い出す味があった。

 ここから出てくるのは精液と、それより量が多くてサラサラしているあれ。

 飲まされたことに屈辱はない。支配される悦びがあった。

 

「ルプー、どっちに欲しい?」

「ふぇ?」

 

 深く咥えているのでくぐもった声になった。

 肉棒からちゅぷんと唇を離し、聞き直そうとして、聞くまでもないことがわかった。

 涎がたっぷり塗りつけられた逸物は、湯気が出そうなくらいに熱くいきり立って、今にも暴発しそうな有様だ。

 口に出されるのも、精液の味も、飲まされるのも嫌ではないが、どっちかを選ぶなら下の口一択。

 

「おまんこ! おまんこに欲しいっす♡」

「それじゃあ……」

 

 言われるまでもなく、ルプスレギナは両手をつき両膝を立て、四つん這いで移動する。

 ベッドについた両膝が男の太股に差し掛かったあたりで歩みを止め、期待の眼差しで振り返った。腰を下ろせば上に乗れるけども、ルプスレギナの好みではない。

 

「ルプーは相変わらず後ろからが好きなんだな」

「いいじゃないっすか……。後ろからだと好いところにあたるし、エッチしてる感が強いし、それに……あっ♡」

 

 突きだした尻を男の手が撫で、柔肌を滑って腰を掴む。

 秘部に当たる熱いのはさっきまでしゃぶっていたもの。

 ルプスレギナ自身はたっぷりと舐められてトロトロになっている。手加減されて舐められるのは、深い絶頂がない代わりに下半身だけが溶けて優しく混ざり合ったような快感があった。それはそれでとても好い。

 もっと好いのは、男と女で一つになること。

 

 潤んだ割れ目に亀頭がもぐって上下に動く。穴の位置がわからないわけがないので、これから入るとノックしてるようなもの。

 動きが止まって、入り口が広げられる。入ってこようとしている。

 腰が少しだけ上へ持ち上げられ、高さを微調整。

 逸物が閉じた穴を少しずつ開いていく。進んでは戻って、また進んでは少し戻って、焦れったいほどゆっくり入ってくる。

 戻るときは逃がしたくなくて、無意識で締めていた。

 

「はっ、はやく! 焦らしちゃいやっすよぉ……」

「そんなに入れて欲しいのか?」

「欲しいっす! おにーさんのちんちんでガンガン突かれて、私がおにーさんのものだってわからせて欲しいっすよ? あっ、くうぅぅぅっぅううううう…………、一気にきたぁ……♡」

 

 ルプスレギナの口で出しちゃいそうだったのだ。入れるときくらいはゆっくりしないと暴発してしまう。

 出すのが目的なのでそうなっても構わないが、欲しがってるルプスレギナを悦ばせるにはかなり足りない。

 暫定一位のルプスレギナは、とても気持ちよいのだから。

 

「あんっ、あんっ、ちんちんいいっす♡ あぁんっ、おくまできて、あたってるうぅぅ♡ んっっっはああぁぁぁん♡」

 

 ルプスレギナの膣内は熱い。

 しなやかな体は締め付けがきつく、使い込んでいるので柔らかく受け入れる。

 シミ一つない美しい背中を眺めながら犯すのはとても好い。

 弾力ある尻は下腹が打つ度に波打って、横から見れば大きな乳房がそれ以上にぷるんぷるんと揺れていることだろう。

 あんあんと、シェーダと違って始めから惜しげもなく可愛い声で鳴き出すのは、悪く言えば恥じらいがなく、良く言えばとてもエロい。

 しゃぶって精液を飲まないと満足しないのがソリュシャンなら、しゃぶって飲まされても挿入しないと満足しないのがルプスレギナだ。帝都の屋敷に来たばかりの頃は手や口を使うだけの時もあったが、最近は最後まで求めるようになった。

 

「いい……、イいっすよぉ……、おまんこいいっすよぉ♡ あぁ、はぁ……、あんっ♡ おにーさんも、ちんちんいいっすか?」

「もちろんだ。このまま一度出すぞ?」

「ルプーのおまんこにいっぱい出しちゃって欲しいっす♡ あぁん……、ルプーのおまんこぉおにーさんの精液でぐっちょぐちょにして? あっ、あっ……、きそう? なんかきちゃうっすよぉ……♡」

 

 腰を打ち付け引き抜く度に、逸物は根本までルプスレギナの汁が補充される。

 きゅうきゅう絡みつく媚肉は熱さを伴って、とても心地よいものだ。

 視覚的にも上々。

 美しい背中と大きな尻。ルプスレギナの尻穴は特製アナルプラグの試用で、十段飛ばしで実用段階になっている。ひくつく肛門をルプスレギナ自身が見れば、シェーダの穴より皺が伸びてることに気付いただろう。

 幾本もの皺がきゅうと寄って、中では逸物をきつく締め付ける。

 あと一往復すれば盛大に出してしまう。

 奥まで届いている逸物を引き抜き最後の一突きをしようとしたところで、

 

「うおっ!?」

「ぷげぇ!!」

 

 驚いたのが男の声で、潰れたのがルプスレギナ。

 

「おにいさま♡」

 

 ドレスを脱ぎ捨てたソリュシャンが、ルプスレギナの背中に腰を落としたのだ。

 

「今はルプーを可愛がってるんだ。少し待ってくれないか?」

「でもお兄様の唇は空いていますわ。私の口付けを受け取ってくださいませ」

 

 ソーちゃん重い! と言うルプスレギナの苦言は無視して、ソリュシャンは愛しのお兄様に口付けた。

 膝立ちの男よりルプスレギナに座っているソリュシャンの方が若干位置が高い。

 ソリュシャンは舌を伝わせて、トロリと粘性の高い汁を男の口内へ注ぐ。男の喉が一度鳴って二度鳴って、それでもソリュシャンは汁を注ぎ続ける。

 ソリュシャンがソリュシャン汁をお兄様へ味わっていただくのはいつものこと。美味しいミルクをたっぷり飲ませてもらうお礼で、甘々で栄養たっぷりのおつゆを飲んで貰うのは当然であり義務ですらある。

 

「はぁ……、お兄様……。ソリュシャンのおつゆは美味しいですか?」

「いつもより甘いな」

「あら? きっとソリュシャンの愛がこもってるせいですわ」

 

 汁の成分はソリュシャンの気分次第なので味は毎回違って楽しめる。けども甘さの限度は決めていた。甘いだけでは美味しくない。なのに甘くなってしまったのは、意識してのことではなかった。

 恍惚とした顔で男の頬を撫でるソリュシャンをルプスレギナが見たら、ルプスレギナでなくともプレアデスの姉妹が見たら、目が逝ってると評したかも知れない。

 

 プレアデスの姉妹で、男への想いが一番深いのがソリュシャンだ。

 美味しくて愛着が湧き、傍に長くて独占欲が湧き、危ういところを庇われて情が湧き、得ることはないと思っていた肉の悦びを教えられて特別な存在であると再認識し。

 ユリ以外には誰も片鱗すら感知していない高次の領域での愛撫を可能とするイデアルタッチは、少しずつ、少しずつソリュシャンを変えていった。

 そこへ今日。アルベドのシークレットサキュバススキルを使用して創造されたアルベドミルク。覚醒サキュバスの執着が分泌したミルクは、勃起を強いるだけではなかった。精液をサキュバス好みにされてしまう。

 その一番絞りを、ソリュシャンは体の奥深くで受けている。

 魂にすら影響する高次元での交合に、覚醒サキュバスが生み出したミルクによる精液。二つは双方を補完しあって、心と体と、彼岸と此岸と、過去と未来と。ソリュシャンを不可逆的に書き換えた。

 それこそがソリュシャンが心の奥深くで望んでいたことであり、ソリュシャンが無抵抗で受け入れなければ成らなかった奇跡である。

 

「ソーちゃんいい加減にいぃぃっ!? あひゃあぁぁああぁあぁ?!?! ダメダメダメっす! それダメっすからぁぁぁああああああ!」

「うおおおおおおぉっ!?」

 

 ソリュシャンはルプスレギナの尻に手を置き、割れ目にそって優しく撫でた。

 白い指は窄まりに届くと入り口に入っていく。中指の第二間接までしか入ってないように見えるのに、中では伸びて広がって、ルプスレギナの直腸内をまさぐり始める。

 ルプスレギナに快感を与えるのはおまけで、目当ては愛しのお兄様。直腸と膣を隔てる薄い肉越しに、膣へ深く突き刺さっている逸物を愛撫したのだ。

 

 ただでさえ具合がよいルプスレギナの中で、逸物がマッサージされている。

 たまらず射精した。どぴゅどぴゅと吐き出す量はソリュシャンに放った量より多い。

 

 ルプスレギナとユリによる姉妹の絆フェラチオはとても好かった。

 今回もルプスレギナとソリュシャンによる姉妹の絆プレイは凄く好かった。

 ルプスレギナには協力技の素質があるのかも知れない。




次話はたぶん本日中に


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さらに力を合わせて ▽ジュネ・ミラ・シクスス

本話約18.3k字


 ぴゅっぴゅと最後の一滴まで出し尽くしても、ソリュシャンの愛撫は続いている。

 ルプスレギナがよくわからない声で呻いているのはお構いなしに、肛門に忍び込んだ長い指は蠢き続け、指以外では愛しのお兄様に柔らかく抱きつき豊満な乳房を押し付ける。

 男の手が半ば無意識に乳房を握ると、赤く尖った乳首が粘度の高い汁をとろりと垂らした。

 

「あっ……、お兄様の手を汚してしまいました」

「あとで綺麗にすればいいだろう?」

「はい。お兄様のお言葉の通りですわ。お好きなだけソリュシャンのおっぱいを揉んでください。お兄様に触っていただけるだけでソリュシャンは幸せです」

「ずっと触ってたいが……」

「そうですわね。次は……ジュネの順番でしょうか?」

 

 シクススが最後をとったため、ジュネとミラが次を争っていた。

 二人が勝敗をつけるのに用いるのは、時々じゃんけん。時間があればカードなどのゲーム。大半はレズックスである。

 レズックスでの勝敗は、ジュネが七割五分で勝利している。シャルティアからエロテックの修得を命じられ、本人も熱心に学び、さらにはそちら方面でアルベド様の眷族であるような異常個体のジュネなのだ。

 その気になれば十割の勝率を得られようが、ジュネだって好くなりたいのである。

 

「いえ、ソリュシャン様がいらっしゃるのでしたら、どうぞマイスターと愛を交わしてください」

 

 異常個体と言えど下っ端のヴァンパイアブライドなのだから当然だ。

 

「お兄様、如何なさいますか? 私はお兄様の愛を十分受け取っておりますから、お兄様のお好きなようになさってください」

「それなら順番通りに。ソリュシャンにもまた相手をしてもらうから」

「無理は為さらないでくださいね? お兄様のミルクでしたら……、まずはルプーを綺麗にしてあげないと」

「……そうか?」

「はい」

「あひっ…………」

 

 ルプスレギナから引き抜かれた逸物は、依然変わらぬ角度と硬度を保っていた。

 ソリュシャン、シェーダとルプスレギナで三回目なのに、回復魔法のせいで振り出しに戻ってしまった。最低でももう一巡しないと治まりそうにない。

 

「それでは……、どうぞ。ジュネの体をお使いください」

 

 ジュネはベッドに横たわり、軽く両膝を立てて股を開いた。

 股間に伸びる両手の爪は短く整えてある。

 指は両側から陰唇を押さえ、吸血鬼の蒼白な肌の中に真っ赤な肉色が現れた。

 

 ジュネはミラと勝負する時に服とは言い難い服を脱いでいる。

 勝負はレズックスなのだから準備は十分すぎるほどで、むきになったミラに浅くとは言え何度かいかされた。

 内側は妖しく濡れ光り、媚肉に開いた膣口が僅かに奥を覗かせる。

 

「マイスターの大きなおちんぽを、どうぞ……。どうかジュネのおまんこに挿入してください」

 

 ジュネが妖艶に笑う。

 割れ目を開く指がつつつと下がって、膣口の真横に来る。指先だけを引っかけるようにして、二本の指を同時に入れた。

 くぱあと開いたときのように左右へ引き、入り口を広げて見せた。ジュネの穴は、奥まで淫らに濡れていた。

 

 蜜に誘われたように男はふらふらとジュネに近付き、ジュネは迫る逸物をそっと握って導いた。

 つぷぷと抵抗なく入っていく。亀頭が全部入ったところで、ジュネが男の胸板を淫液に濡れた指で撫でるのは、愛しむようであり印を付けているようでもあった。

 

「あぁ、マイスターのおちんぽが……。もっと奥まで、ジュネを貫いてください。……はうぅっ♡」

 

 先端が子宮口まで届き、なのに根本まで入れてやろうと子宮を押し上げた。

 ジュネの膣は大いに悦び、ジュネ自身とは独立した生き物であるかのように蠢きだす。

 無数の肉ひだが絡みついて竿に裏筋を、亀頭に尿道口にまで吸いついて、けども抽送の邪魔をすることはない。

 一言で言って名器、二言で言って凄い名器であるジュネは、快感に悶えつつも挑発的な目で自身を犯す男を見る。

 本人に聞いたところそんなつもりはないようだが、ジュネの目で見られるとついつい高ぶって挑んでしまう。

 本当にヴァンパイアブライドなのだろうか。アルベド様と同じく覚醒サキュバスが転生した姿なのではないだろうか。

 あんあんと上げる悦びの声も、前の三人とは違ってどこか余裕があるように感じる。

 

「あっ、あっ、乳首があんなにぃ。おまんこよくて……、立ってしまいますっ、ああぁあん♡」

 

 ジュネの細い手首を捕らえて腰を振る。

 ヴァンパイアブライドとしては小柄なジュネは、乳房のサイズもミラより小さい。それでも成人女性の標準より大きくて、腰を打ち付けるとぷるんと揺れるのは目に楽しい。大迫力のソリュシャンと違って慎ましいのがまた。

 つまりおっぱいに貴賎はないのだ。

 

 痛々しいほどに勃起したジュネの乳首に手が伸びそうになる。

 その時、息も絶え絶えに、けどもどこか恨めしそうな顔をしたミラが目に入った。

 

「ミラも来い」

「……はい♡」

「えっ……」

 

 喜び勇んでジュネの隣に横たわったミラとは対照的に、ジュネの顔には険が走る。

 今だけは自分だけを見て欲しいのに、負けたミラがどうして隣に。

 

「あぁっ! あっ、そこぉ! ああぁっ!!」

「あんっ♡ ご主人様の指は……、ジュネよりずっと……♡」

 

 ジュネの気が逸れた瞬間に、一番感じやすい部分を的確に擦ってやる。

 余裕めいた態度が崩れ、処女をなくした時のように叫んだ。

 ミラには指を使ってやる。中指を挿入して中で折り曲げ、親指を肉芽に押し付け表と裏から愛撫する。

 

「お兄様♡」

 

 そして後ろからはソリュシャンが抱きついてきた。

 背中に柔らかな双丘を感じる。柔らかさの中の小さな弾力は、乳首を立たせているらしかった。

 ソリュシャンは胸板を撫で、乳首を摘まみながら男の耳を甘く食む。

 耳朶を舐め、耳孔に舌を差し込み、愛していますと囁いて、頬ずりをして広い背中に顔を預けた。

 その間にも、ソリュシャンの手は男の体を撫で下がって結合部へ。

 

「はあぁあっっん♡ あっあっ、あんっ! あひぃっ………………」

 

 ソリュシャンの指先が形を失い、ジュネのクリトリスを包み込む。

 真っ赤に充血したクリトリスは、張り詰めていたものを解き放った。

 同時に両脚を男の腰に回して自分の方へ引き寄せる。男を捕らえて離さず膣内射精を強いる大好きホールド。

 絶頂に伴ってもう一人のジュネが逸物に吸いついているようだ。深く捕らえられた逸物はジュネの望み通りに最奥で熱い精液を吐き出した。

 ぴゅっぴゅと最後の一滴まで吐き出させてから、やっとジュネの拘束は和らいだ。

 

「あぁ……、ソリュシャン様……。マイスター……、ふぁ……んんっ……。お腹が、あたたかいです……♡」

 

 たっぷりと吐き出したので、冷たいはずの膣内がほんのりと温かくなった。

 精液に満たされたジュネの中を数度往復してから引き抜く。

 抜けきると、ジュネは切なそうな目で男の顔と股間とを交互に見やった。

 

 シェーダたちと同じように、達したジュネは力が抜けているらしい。真っ赤な淫裂から白濁した粘液がとぷりと溢れてきた。

 女の体に男の印を刻んだような、淫らな達成感が湧いてくる。

 例えアルベドミルクの効果がなくても、今のジュネを見てしまえば萎えることはないと思われた。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 ジュネを征服するのは気力と体力を消耗する。振り出しに戻ってまだ二回目なので、賢者タイムと言うわけでもないのに深い息を吐いて足を伸ばした。

 体感的には、シェーダに出した時より安定している気がする。あくまでも気がするであって、あと何回出せば終わるのかわからない。精力や体力の問題ではなく、アルベドミルクの効果がどれだけ持続するかである。

 要らん回復をしてくれたルプスレギナは、搾りきると言ったくせして尻を上に突き出した姿勢でベッドに突っ伏している。ソリュシャンの責めがよほど好かったらしい。

 

「少しお休みになられますか?」

「そうもいかないんだ」

 

 ソリュシャンの提案は嬉しいが、まだまだ萎える気配はない。

 爆発しそうな切迫感は薄れても、時間経過で落ち着くとは思えなかった。

 

(私とシェーダ。ルプーにジュネ。回復魔法を受けるとお兄様の精液も回復するのかしら? だとしても、四回も出してるのに大きいままで……。お兄様のおちんちんを立たせたままにするのがアルベド様の罰? アルベド様はサキュバスでいらっしゃるから、サキュバスらしい罰と言える気もするけれど。お兄様の苦しみは私が全て引き受けます)

 

 想いを言葉にすることなく、ソリュシャンはお兄様の艶やかな銀髪を撫でた。

 慈しみのこもった撫で方だった。

 

 男はソリュシャンの好きなようにさせながら、次のミラへ目を向けた。

 

「ミラは動けるか?」

「は、はい! なんなりとお申し付けください」

「それなら上になってくれ」

「……よろしいのですか?」

「勿論。それとも下じゃないと嫌か?」

「そんな事はけっして! それでは、その……、失礼いたします」

 

 ジュネとの順番決め勝負でとろとろにされたし、さっきはジュネと並んで手指を使われている。

 そうでなくても、同じ空間にいてそのような目で見られれば濡れてくる。裸身を見せられれば尚更だ。

 奥までほぐれて溢れるほどなのに、ためらったのは初めてだったから。

 

 ミラが抱かれる時は、ご主人様が必ず上になる。ミラは下に組み敷かれて、ご主人様を受け止めるのがいつものこと。

 それが上下逆になると言うことは、主導権を渡されると言うことである。

 ご主人様とのセックスで、自分がリードして、動かなければならない。

 

 ソリュシャンに膝枕されている男は、手足を伸ばして横になっている。

 ミラは男の体を跨ぎ、股間の真上で膝を折った。

 勃起した逸物は反り返ってやや前方を向いているため、真上を向かせる必要がある。爪で傷つけたりしないよう注意して先端を摘まみ、自分自身へあてがった。

 割れ目に潜らせながら前後に振ったのは入り口を探るため。思った通りの場所に沈む部分があった。

 

「入って、いただきます。…………んぅ、んっ……」

 

 初騎乗位でも、何度もセックスしてきたミラは失敗しない。

 真っ直ぐに上を向く肉棒へ、ミラが腰を落としていく。

 肉棒は上を向いたまま、男とミラの距離が詰まって、ゼロになった。

 

「はぁっ……、はぁ、はいり、ました……♡」

 

 ミラもジュネと同じで、根本まで受け入れるには少々の無理が必要となる。

 それを厭うミラではなく、ご主人様と重なった部分が多ければ多いほど喜びが深くなった。

 

「俺の事は気にしなくていいから好きなように動いてくれ」

「わかりました。では……、んっ……んっ……、んふぅ……♡ とても、イイです♡ あぁ……」

 

 ミラが腰を上げると二人を繋ぐ逸物が現れ、下ろすと再びミラの中に飲まれていく。

 騎乗位は他の体位よりも結合部がよく見えて、二人は繋がっているのだと強く感じさせる。

 

 腰を振るに合わせて大きな乳房も上下に揺れる。動くものに目が行くのは男に限らず生き物の常。

 男の両腕が前に伸びると、ミラは体を前に倒す。ご主人様に胸を揉まれるのは望むところだけれど、前傾になると膝枕をしているソリュシャンと顔が近くなった。

 ソリュシャンの膝枕は、高さを調整できるように閉じた太股の間に男の頭を乗せている。

 ミラと目が合ったソリュシャンは、にっこりと微笑んだ。

 

「お兄様が気にしないよう仰ってるんですもの。私のことも気にしないでいいわ」

「ですが……、あっ……」

 

 ソリュシャンはミラの頬を包むと、そっと唇を合わせた。

 重なるだけのキスでもキスはキス。

 

「お兄様を愛して、お兄様が愛する女を私が邪険にするわけないでしょう? ベッドの上では、私たちはお兄様の女に過ぎないのよ」

「は……はい……。あぁん! 乳首がぁ……♡ 私もソリュシャン様と同じように……、体のぜんぶをご主人様の自由になさってください♡」

「ふふ……。お兄様が好きにしていいと仰ってるのだから、遠慮なんて必要ないわ」

「はい……。……あっ、あっ、あんっ! おちんぽ熱くて、あはぁっ……、スゴいですぅ! あん……、あんっ、あっあぁん♡」

 

 全くの善意でソリュシャンはミラを促した。

 ミラの上下運動は激しくなって、逸物で膣内を擦らせる。

 あえぎ声も高くなり、ミラの快感の深さを一同に知らしめた。

 けども、真にわかっているのはミラと同じヴァンパイアブライドであるジュネだけだ。

 

 吸血鬼である二人は、体が冷たい。

 北海の氷海ほど冷たいわけではないが、寒空の下で手を握っても温かくはない。春の日差しの下ではひんやりする。

 そこへ温かい肌で触れてもらうのは、自分の存在も相手の存在も強く感じる。抱きしめて貰うだけで至福なのだ。

 熱く滾る逸物を挿入してしまえば、体の奥深くで感じる熱が命に火をつけたかのよう。

 体の中に、愛しのご主人様が入ってきている。

 ジュネとの戯れや道具だけではけっしてたどり着けない悦楽の極致。

 腰を下ろして子宮口を突かれる度に達している。

 十回も往復すると快感が深くなって、休まなければ腰を振れない。逸物を根本まで咥えたまま荒い息を吐く。

 軽く突き上げられ、背を反らした。

 

「はうぅっ! あぁ、ご主人様のおちんぽがぁ……♡」

 

 自分の体を隅から隅までご存知のご主人様は、的確に感じる部分を刺激してくださる。

 己を理解していただいている事がこの上ない喜びで、心が体を悦ばせてまた深くなって、熱くなった。

 

 小休止のつもりの騎乗位だったが、ミラは中々頑張っている。

 ジュネのような天性はなくとも、腰を振るのに合わせてきちんと締める。

 ぺたんと尻をついてしまっている時も緩急つけて締めてくるのはわかっていると言わざるを得ない。

 幸せですと書いてあるような顔もいい。搾ってもらうのが目的であっても、女たちに悦んでもらえるのは嬉しいことなのだ。

 

 そんなミラを、今度はジュネがふくれっ面で見ていた。

 さっきは凄く気持ちよかったが、自分だけでなくミラへ手を出したのが少々不満だった。

 ソリュシャンが寛容を見せたので甘えたのかも知れない。ミラの唇を奪われたことに思うことがあるのかも知れない。

 男が手招きをすると、満面の笑顔で飛んできた。

 

「さっきのミラみたいにしてみるか?」

「はい、マイスター♡」

 

 男が伸ばした左手の上にぺたんと座る。

 僅かに腰を浮かせて股を開き、触りやすいようにくぱあと広げた。

 濡れ続ける女の穴に、長い指が入ってきた。

 

「わ、わたしは……、別に……」

 

 男の目が向いたのは復帰したシェーダ。

 たわわな乳房を、両手で抱いて隠すつもりで隠しきれてない。

 顔を真っ赤にして目が揺れているのは、皆の前でセックスしてしまったのと、ジュネに綺麗にされてしまった動揺が後を引いている。

 

「お兄様に抱かれてるシェーダが何を言ったのか聞いてるわ。お兄様が嫌いなわけではないのでしょう?」

「………………はい」

「ミラに言った事はこの場の全員に言った事よ」

 

 なんだかソリュシャンが気持ち悪いくらい優しい。いつもならもう少し独占欲を発揮して上になるのを譲りたがらない。

 しかし節穴を自認する男の目ではソリュシャンの真意がわかろうはずもなかった。

 きっとソリュシャンは譲り合いの精神を手に入れたのだ。そう思うことにした。

 

「わたしも……、指で…………」 

 

 シェーダが右側にちょこんと座る。

 ジュネと違っていきなり触らせはせず、まずは男の手を取って指に舌を這わせた。

 口淫のようにちろちろと舐め、唾液を塗りつけていく。

 指から伝う唾液が手のひらに手の甲へと流れ、手首へ差し掛かる前にシェーダは股間へ導いた。

 

「くぅ……♡」

 

 シェーダとジュネの膣内を比べると、異常個体のジュネと今回でまだ四回目のシェーダとでは大分違う。

 誰であってもジュネと比べるのは分が悪すぎるので、如何とも言い難い。シェーダが悪いわけではないのは確かだ。

 奥まで受け入れるために作り替えたことでもあるし。

 

 あんあんとミラがあえぎ、ジュネは甘い吐息を漏らして、シェーダは高ぶっていたらしく早速達したらしい。咥えた指をきゅうきゅう締めている。

 三人の女の穴を同時に味わうのは、エ・ランテルで娼館通いをしていた時でも経験がない。

 

 正面ではミラのおっぱいがぷるんぷるんと揺れ、左ではジュネのおっぱいがぷるぷるして、右ではシェーダのおっぱいが小さく震えている。

 真上にはソリュシャンの巨乳が迫り、まさにおっぱいがいっぱいであった。

 誰もが乳首を勃起させているのが快感を得ている証に思えて、幸せを共有している気持ちになれた。

 

 そんな事を思っていると、ジュネが背を向けておっぱいが減ってしまった。

 座り直したジュネは、きちんと男の手を股間へ導く。

 向きが変わったが再挿入された指に甘く鳴き、ミラのおっぱいに吸いついた。

 乳首を唇で食み、舌先でねぶりながら右手はミラの股へ伸びる。

 

「あぁっ!? うごけなくなっちゃうからぁあ! んあぁぁああっ♡」

 

 自分がされて好かったことをしてあげているのだ。

 

「お兄様もおっぱいをお吸いになりますか? ソリュシャンのおっぱいが空いていますわ♡」

「ああ」

 

 ソリュシャンは男の顔を抱くように体を倒して、大きな乳房の色づく突起が男の唇へ届いた。

 シェーダはミラとジュネを見て、ソリュシャンを見て、自身の乳房へ手を当てる。

 細い指が柔肉に埋まって数度揉みほぐしたら、親指と中指で乳首を摘まんだ。甘い声で鳴き始めた。

 

 

 

「凄いことになってるっすね……」

 

 ソリュシャンにしてやられた虚脱感からようやく回復したルプスレギナは、呆然と呟いた。

 まさかの5Pだ。全員よがっているところがまた凄い。

 おにーさんとのセックスはとても好くて半ば失神していたが、それでも四人同時に相手をするのはやっぱり凄い。

 ソリュシャンがエロエロなのはいつものことで、ミラとジュネが乱れているのはやっぱりいつものことで、シェーダがあんなになるのは少々意外だったがいつぞやおにーさんと痴話喧嘩らしきものをしてたのを覚えている。その上、初体験でおまんこをおにーさん専用に成形しちゃったとか。

 一人一人なら乱れて当然だが、全員同時になるとやっぱり凄い。

 となると、輪に入ってない一人に目が向くのは当然である。

 

「シクススはいいんすか?」

 

 最後で、と宣言したシクススは、五人から少し離れたところに正座していた。服を着たままなのが、この場ではとても浮いている。

 

「私は最後でいいですから……」

 

 シクススの顔は真っ赤だ。

 向こうで乱れている四人の顔も赤らんでいるが、あちらは快感と興奮で高揚しているから。

 お馬鹿ではないルプスレギナはピンときた。

 

「もしかして恥ずかしいんすか?」

「そんなの! …………当たり前じゃないですか。ルプスレギナ様もソリュシャン様もいらっしゃるのにあんな……」

「見られるのが恥ずかしい?」

 

 シクススは無言で頷く。

 ふむふむとしたり顔で頷き返したルプスレギナは、シクススの憂いを払ってやった。

 

「私とソーちゃんが見るなんて今更っすから気にしないでいいっすよ」

「…………………………………………え?」

「えー…………、まさかシクスス……、覗かれてるのに気付いてなかったんすか?」

 

 シクススは答えられなかった。心が現実を受け入れない。

 

「シクススのサインは分かり易すぎっすよ。あんなのこれからおにーさんとエッチしますって宣言してるようなもんすよ? 堂々とそんなの言われたら見たくなるに決まってるじゃないっすか」

 

 ソリュシャンとルプスレギナは積極的に襲いかかる。

 ミラとジュネはあちらの都合で気ままに抱かれる。

 シクススはと言うと、欲しくなったらサインを出して、互いの都合がよければ事に至る。

 

 ルプスレギナとソリュシャンは、シクススのサインを完全に把握していた。

 

「みっ、みみみ、みっ、みて…………?」

「見ちゃったっすね」

「私がご主人様と、その、あの、あれなのを?」

「ばっちり。『シクススのいやらしい子猫ちゃんにどうかお仕置きをしてください』とか『子猫ちゃんはお腹を空かして涎を垂らしちゃってますからご主人様の大きなソーセージを食べさせてあげてください』とか。子猫ちゃんてあれっすよね。シクススの事だけじゃなくて……、おまんこ?」

「ひうっ!!」

 

 英語のPussyはプッシーと読み、「猫ちゃん」を指す子供言葉だ。と同時に、女性器も意味する。

 子猫ちゃんのシクススの子猫ちゃんとは意味が深い。

 

 目前で繰り広げられる狂宴に自分も加わらなければならないのか。覚悟が決まらないでいたシクススは、恥ずかしくて顔が赤くなっている。

 しかし、ルプスレギナに見られて知られているのを知ってしまった衝撃は、その比ではない。

 顔は赤らむどころか火がついたように喉も頬も耳まで真っ赤になって、大きく見開かれた琥珀色の目には見る間に涙が溜まりだした

 

「おい、ルプー!」

「げっ!」

 

 ルプスレギナが恐る恐る振り返ると、一堂が見ていた。

 絵的には、ルプスレギナがシクススを虐めて泣かせているようにしか見えない。

 

「ミラは終わったんすか?」

「話を逸らすな」

「うっ!」

 

 上に乗っていたミラは、ジュネに体を支えられ、閉じきらない割れ目から白濁した粘液を垂らしている。

 ミラに乗られていた男は、股間があれなので様にならないが、鋭い目をルプスレギナに向けていた。

 

「シクススは俺の可愛い子猫ちゃんだ。虐めていいのは俺だけだ」

「……あ、そっすか。そっすね。ごめんっす」

「わかればいいんだ」

 

 相互理解がなったようである。

 

「シクススが虐めて欲しいのは俺だろう? いつものように子猫ちゃんをにゃんにゃん泣かせて可愛がってやろう」

「違いますよご主人様のバカ!」

「バカ、だと?」

 

 シクススが怒ったのは、恥ずかしい思いを吐き出したくてご主人様に当たってしまったのと、ご主人様がやっぱり何もわかっていないから。

 この瞬間、頭に血が上ったシクススは他の女たちが目に入らなかった。

 

 バカと罵られて怒る男ではない。

 心が広いようでいて寛容とは全く無縁の男が自身への罵声を気に掛けないのは、聞き流しているから。言われたことは頭に留め置いても、心には留めず右から左へ流していく。

 それなのにシクススを睨みつけたのは、ご主人様と呼ばれたから。

 

 シクススの好みは、ご主人様に飼われている可愛い子猫ちゃん。その時は決まってご主人様と呼ぶ。お姉さんメイド時は若旦那様。

 シクススがご主人様と呼ぶ時は、つまりそう言う時なのだ。

 

 それともう一つ。ソリュシャンとルプスレギナも把握しているサインである。

 シクススのサインは、わざと失敗すること。

 メイドとしての言葉遣いを間違ってしまったり、紅茶のカップを置いたときに大きな音を立ててしまったり、カトラリーを落としてしまったり、色々である。

 そして、ミスの度合いに応じてプレイの激しさも変わっていく。

 では、ご主人様を罵ってしまうのはどうか。

 最上級と言うことである。

 

 ソリュシャンたちは兎も角として、シクススの機嫌を損ねるとおしっこと思われるしょぱい紅茶を飲まされたり、夢精の件を帝国中に振れ回されたりと大変なことになってしまうのだ。お屋敷のメイド長を敵に回していいことは一つもない。

 シクススの望み通りにしなければならない。

 逸物はそそり立ったままなので、願ったり叶ったりであった。

 

「ミラ、ジュネ」

「「はっ!」」

「剥け」

「「かしこまりました!」」

「ご主人様!?」

 

 シクススの悲鳴を無視して、全裸のヴァンパイアブライド二名が襲いかかった。

 やめてやめてください!、ご主人様のご命令ですので、暴れるとボタンが取れてしまいます、自分で脱げますから!、お手伝いします、私がパンツを下ろしますのでミラはブラジャーを。

 

「…………あれ、いいんすか?」

「シクススがして欲しがってるんだよ」

 

 あれよあれよと脱がされていく。

 シクススのナイトウェアは丈が長いワンピースで、前面をボタンで留めるタイプだ。

 二人が協力して全てのボタンを外したらするりとはぎ取られ、ブラジャーはミラが、パンツはジュネが手際よく下ろす。

 全裸に剥かれたシクススは、両腕をミラとジュネに拘束されて男の前に立たされた。

 

「シクスス、俺の可愛い子猫ちゃん。ご主人様にバカだなんていけない子だ。お仕置きが必要だな」

「あ……あ……、ごめん、なさい……」

「跪け」

「あうぅっ!」

 

 シクススが膝を折る前に、ミラとジュネが引き倒す。

 仁王立ちする男の前に、シクススはぺたんと座らされた。

 顔の前に、男の股間がある。

 シクススは頭を撫でられ、男の顔を見上げ、目の前を見て、目を閉じた。

 

「れろ……、ちゅぅちゅる……。んふぅ…………、あむぅ……」

 

 腰を少し浮かせて膝立ちになり、勃起したままの逸物を両手で包むと、自分の方へ傾けた。

 赤い唇を大きく開き、れろりと伸ばした舌で竿を下から上まで舐めあげる。

 舌先を尖らせて裏筋を重点的に刺激してから、亀頭に口付けた。

 亀頭の先端だけを咥えて中ではれろれろとはしたなく舌を動かす。尿道口から粘つく汁が滲み出すと、先端を咥えたままゆっくりと頭を前に進めた。

 

「シクススはちゃんとわかってるな、偉いぞ。口に出したらシクススの子猫ちゃんを可愛がってやろう」

「はひ……、んっんっ、じゅぷ、ちゅるる……、んんっ?」

 

 目を開けてご主人様を見上げる。

 優しい顔で見下ろして、頭の上に手を置かれている。変に力が入って無理に咥えさせようとはしない。優しく髪を撫でてるだけ。

 そもそもにして跪いてる自分の胸に立ってるご主人様の手が触れるのは、出来なくもないだろうがそれをするならベッドに座ったり横になったりの方がやりやすい。

 それならば、自分の胸に触れる手は何なのか。

 

「シクススさんはご主人様へのフェラチオに励んでください。シクススさんの準備は私たちが整えますから」

「マイスター直伝の技です。ご安心ください」

「んんっ!? んふぅっ! あっあっ、らめぇっ! んっ……、ぅあぁ……」

 

 シクススの乳房をミラが後ろから揉んでいる。

 下乳から包んで搾るように握り、数度繰り返したら乳輪をなぞる。先端には触れようとしない。なのに、搾られて中から出てきたものが詰まっしまったように膨らんできた。

 股間にもひんやりとした指を感じている。

 こちらにはジュネが手を伸ばす。人差し指と薬指でふにっとした陰唇を押さえ、割れ目の真上には長い中指。開いたり中に入ろうとはせず、揃えた指は小さな円を描いて揉みほぐす。

 下腹も撫でられて、冷たい手なのに体が熱を持ってきた。

 

「お兄様が楽になれるよう私もお手伝いしますわ」

 

 右からはソリュシャンが男に抱きつき、たわわな乳房を押しつける。片乳を持ち上げて尖らせた乳首を男の乳首に擦り付けた。

 鮮やかに赤いソリュシャンの乳首から白っぽい粘液がとろりと垂れる。ソリュシャン汁で滑りがよくなった乳首を、ソリュシャンは指で転がし始めた。

 

「それじゃ私はこっちっすね♡」

 

 ソリュシャンが右ならルプスレギナは左。男に肩を抱かれて引き寄せられ、唇を合わせた。

 ちゅっちゅと唇をついばみ、れろれろと舌を絡め、肩に置かれた手が尻を揉みだすと、ルプスレギナの手は前に回る。髪より色濃い赤い陰毛をかき分け、薄く開いた股の間に入っていく。

 

「シェーダ、こっちに来て」

「……はい」

 

 ソリュシャンがシェーダに何やら耳打ちをする。

 シェーダは目を見開いて驚くのだが、それぞれの行為に専念している他の五人は気付かない。

 

「お兄様に悦んでいただくためよ? 命令ではないからイヤなら無理にとは言わないわ」

「…………わかり、ました。…………こんな事するの……、ソリュシャン様の言葉があってもあなただけなんだから…………!!」

「うん?」

 

 何が何やらわからないが、緊張しているのか怒っているのかシェーダの声に緊張感がある。

 覚悟を決めたシェーダは、男の真後ろに跪いた。

 男の締まった尻を睨みつけ、二度生唾を飲み込んで、顔を近付ける。

 

「おおっ!」

 

 尻の割れ目が温かい。

 これと言って好みではないのでさせないできたが、悪いものではないと知っている。

 下半身がとろけるような心地よさは、アナル舐め。

 ある意味でソリュシャンの特技であり、ソリュシャンはシェーダにお兄様の肛門を舐めるように言ったのだ。

 

「んっ、んっ、んふぅっ! じゅぷぷ、れろ……、んひぃ……! あっ、あぁん! はぁ、はぁ……、あむっ、ちゅっちゅるる……」

 

 シクススのあえぎはくぐもった声になる。

 口の中はご主人様の逸物でいっぱいで、喉の奥まで迎えても根本まで頬張りきれない。

 そこまでしても苦しいだけだから、半分くらいまでを往復する。代わりに根本を両手で握って、休むことなく扱いている。

 息継ぎのために口を離すと、胸と下腹から際限なく湧いてくる快感にあえがされる。

 一度も触られていない乳首は張り詰めて、空気の流れすら感じるほど敏感になっている。股間は内側を触られることなく撫でられ続け、愛液を垂らしてしまっているのが自分でもよくわかる。

 どちらもとても気持ちいいのに、一線を越えてくれない。

 際限なく限界に近付き、手が届きそうなのに届かない。

 どうにかなるには口に出してもらわなければならなかった。

 

 ソリュシャン様、シェーダ、ルプスレギナ様、ジュネ、ミラ。

 自分の前に五回も出してる。回数を重ねるに連れ、長くなるのをシクススは経験で知っている。

 だから、シクススは頑張った。

 一生懸命頭を振って、両手で扱きながら亀頭に吸いついて舌を使い、上目遣いでご主人様に懇願する。

 

「そろそろ、出すぞ」

 

 ご主人様の宣言で、反射的に喉を閉める。

 喉奥に掛けられると苦しいのでいつの間にか体が覚えた。

 深く咥えていた口を先端まで引いて亀頭だけを唇で包み、両手は加速して前後に動く。

 

「んん~~~~~~~~~っ!!」

 

 口の中に、どぴゅどぴゅと雄の欲望とシクススの悦びを吐き出された。

 量が多い最初の精液を受け止めても、ゆっくりと両手で扱いて残りを絞り出す。

 んっんっ、と喉を鳴らしながらちゅるちゅる吸って、残滓も吸い出す。

 頭を撫でられ、嬉しくなった。

 

 

 

 ちゅぷんとシクススの口が離れると、逸物の角度がやや下がっていた。

 ルプスレギナの要らん回復魔法から四回目。

 アルベドミルクの効果も薄れてきた可能性もある。この調子ならもう一巡しなくても大丈夫かも知れない。

 

 男がそんなことを思っている時だった。

 ルプスレギナがしっしと手を振ってミラとジュネを離れさせる。まさか二人を邪険にしているわけではない。

 男に抱きついたまま、発動する回復魔法。

 

「お前何してんの!?」

「シクススは頑張ったのにへにゃちんじゃ可愛そうじゃないっすか」

 

 回復魔法で精力以外にアルベドミルクも効力を回復したのか、下がりつつあった逸物が跳ね上がる。

 気軽に使う回復魔法は、余命三秒の重傷を完全回復させる奇跡だったりするのだが、今ここでは僅かな角度増加に使われた。これぞナザリッククオリティ!

 

「……ルプーにする時はまたソリュシャンに手伝ってもらう」

「…………ちょっち迷うっすね」

 

 視界が明滅して精神が肉体から弾き飛ばされるほどの快感は、妹の手で嬲られる屈辱を上回ったらしい。

 

「お兄様、シクススが待っていますわ」

 

 ソリュシャンに促される。

 シクススは口に両手を当てて、顔を赤くしていた。

 男がルプスレギナとじゃれてる間に、ソリュシャンはシクススの口内に残る精液の残滓を綺麗にしてあげたのだ。

 どこでも溶解吸収できるソリュシャンなので、綺麗にするのは指でも可能。けどもシクススへ敬意を払い、口と舌を使った。

 

「ご主人様……、シクススの子猫ちゃんを可愛がってください。ミラさんとジュネさんに苛められて子猫ちゃんが泣いてるんです。ご主人様にいっぱいいっぱいいい子いい子してもらわないと子猫ちゃんが泣いちゃいます」

 

 皆の前で裸を晒し、同性に乳房と股間を愛撫されながらフェラチオをして口内射精を受け止め、ソリュシャンからは口内の隅から隅までを丹念に舐められるディープなキスをしてしまった。

 ここまで来てしまったら、恥ずかしがる余裕がない。

 毒食らわば皿までであるし、体が治まりそうになかった。

 入れて欲しい、愛して欲しい。

 皆がご主人様とセックスをしているのを見せられるのは、恥ずかしくもあり羨ましくもあったのだ。

 

 シクススはベッドに横たわって股を開く。

 自らの手指で割れ目を広げてみせるのはジュネと同じだが、シクススには健気な献身があって、そこが男の支配欲を刺激する。

 

「シクススが満足するまで可愛がってやろう」

「はい♡」

 

 男がシクススの太股を抱え、位置を合わせた。

 ジュネがじっくり揉みほぐしたので、開いた内側は十分濡れそぼっている。

 

「あ……あ……♡ 入って……、ご主人様が、シクススのおまんこに……♡」

 

 小さな雌穴が大きく口を開いて、逸物を飲み込んでいく。

 ジュネ、ミラと冷たい膣が続いたので、温かく包まれるのはとても心地よい。

 亀頭が入りきるとシクススの手は秘部から離れ、男の背に回された。

 

「うわー、シクススのおまんこもシェーダと一緒でずっぽしっすね」

「ルプー姉様、シクススの邪魔をしてはダメよ? お暇ならさっきと同じ事をしてさしあげますわ♡」

「ちょちょちょっとソーちゃん!?」

 

「ルプスレギナ様がご主人様を回復してしまわれましたから、私たちにももう一度お情けがいただけるかも知れませんね」

「マイスターの手を煩わせないよう私たちで準備を整えておく必要があります」

「今度は負けませんから!」

 

 ルプスレギナは不敵に笑うソリュシャンに襲われ、ミラとジュネは頭と脚の位置を互いに逆にして体を重ねた。

 

「あっ♡ あんっ♡ ごしゅじんさまぁ……、大好きです♡ ……え? ……シェーダ?」

「…………」

 

 余ってしまったシェーダは、手持ち無沙汰だったとか邪魔をしたかったとかではなくて、シクススだけではないと言いたかった。

 シクススはナザリックのメイドで、シェーダも立場を同じくしている。この場の他の誰よりも、シクススに強い共感を感じていた。

 

 シェーダはシクススの手をきゅっと握る。

 シクススからも握り返した。

 何かが通じた気がした。

 

「あっ、あっ、あんっあんっ、おちんちんすごいぃ♡ すごいイイですぅ♡ はああぁぁああん!」

 

 女二人の共感を余所に、男の腰使いが激しくなる。

 長い逸物が何度も何度もシクススの膣へ入っては出て、時には入ったまま中でぐりぐりと奥を刺激し、浅い部分を擦ってはシクススを鳴かせた。

 シェーダの手がぎゅっと握られ、爪先まで伸びた脚がシーツを掻く。

 

「……ご主人様のおちんちんて気持ちいいわよね。シクススのおまんこに根本まで入ってるのがよく見えるわ。おっきいのにシクススは平気なの? 私みたいにポーション使った?」

「ポーションを掛けて挿入したからな」

「ごしゅじんさま言っちゃダメですよぉ! シェーダもみないでぇっ! ……んっ、くぅ…………やぁあん♡」

「ダメって言ってもよく見えちゃうし。シクススすっごく気持ちよさそう。私も凄く好かったわ。シクススはおまんこ気持ちいいの? おちんちんを奥まで入れて感じてるの?」

「やぁ、いわないでぇ……。あっ、ああんっ! はずかしいからぁ……♡」

 

 シクススはいやいやをするように顔を振るが、本心から嫌がってるようには見えなかった。

 淫らなあえぎが止むことはないし、口はだらしなく開いて涎を垂らし、顔は快感に蕩けきっている。

 

「恥ずかしいところを見られてるのよ? おまんこにおちんちんが入ってるのが見えるし、乳首だって立っちゃってる。ご主人様とキスするの気持ちいい? キスは好き? 好きじゃないとご主人様はしてくれないわよ?」

「すきぃ! ごしゅじんさまとキスも、エッチも、おちんちんもぉ! ぜんぶすきなのぉ♡ あむぅっ……ちゅっちゅっ、ちゅぅぅ……♡」

 

 好きと言って、早速キスを与えられた。

 

 シェーダは胸中湧く悦びに戸惑っていた。

 シクススにいやらしい言葉を投げて、いやらしい言葉を言わせるのが不思議と楽しい。

 シクススがセックスをしてもらっているのを見るのも、どういうわけか楽しく感じる。

 さっきは自分がしてもらっていて、嫉妬を感じるところなのではと思うのに。同性愛の気はないつもりなので、シクススの痴態に興奮しているわけでもないと思う。

 少し考え、どうでもよくなった。

 シクススの手を繋いだまま、並んで寝そべる。

 男はシクススへ挿入したままなのに、自分の胸にも手を伸ばしてきた。

 なんていやらしい男だろうと思いながら、次が自分の番になっても良いように弄り始めた。

 

 初体験を姉妹同然の同僚二名に見られ、二回目は多数の同僚の前で失神して失禁までしてしまったシェーダだ。

 自分と同じくらいに乱れるシクススを見て、言葉にはならない強い仲間意識を感じていた。

 

 

 

 

 

 

「あ…………あぅ……、ごしゅじんさま……。はぁ…………」

 

 シクススの中へ放ち、シクススは息も絶え絶えに快感の余韻に浸っている。

 ルプスレギナが余計な事をしたせいで、まだまだ余力があった。

 しかし、時間経過で落ち着きそうな予感もある。

 しかし、予感は予感で、股間に顔を埋めるシェーダがそうはさせてくれそうになかった。

 

「さて……」

 

 不慣れなのにシェーダが頑張ってくれたおかげで、そそり立ってしまっている。

 一巡を終えてもう一巡となる前に、男はベッドから下りた。

 続こうとするソリュシャンを手を振って制し、男が向かうのはドアである。

 ただし、出入り口のドアではない。お食事部屋の奥にあるアルベド様のプライベートルームに通じるドア。

 一同は乱交の高揚を忘れて蒼ざめた。

 

 アルベド様のプライベートルームは絶対立ち入り禁止。破った者は地縁・血縁・職縁に連なる全てが抹殺される。男がドアを開ければ、この場の全員へ極刑が確定する。

 しかし、ドアには鍵が掛かっている。複製不可能な鍵であり、ドアの破壊も不可能であり、正規の手段を用いず室内に入るには外壁を壊すのが一番手っ取り早い。それだってこの場で一番の打撃力を誇るルプスレギナでも不可能だ。

 なのに、カチャリと軽やかな音を立てて解錠された。

 いち早く我に返ったソリュシャンがベッドから飛び降り男を止めようとして、それよりも腕を伸ばした方が早いと気付き、僅かな逡巡の間にドアは開かれてしまった。

 

「お父様!?」

「「「「「「お父様!?」」」」」」

 

 ドアの向こうには、白い角を生やした黒髪の美しい少女が、床の上に座り込んでいた。

 開かずにしなければならないドアが開かれた衝撃と、ドアの向こうに女の子がいた驚きと、男が女の子からお父様と呼ばれた驚愕が、たった一秒の間に一同へ襲いかかった。

 

「やっぱり覗いてたんだな」

「う…………、はぃ……」

「まあ、それはどっちでもいいか。アルベド様はなんと仰っていた?」

「お母様は全てお父様に任せなさいと言ってました」

「そこは「仰っておりました」だ。それにしても全て、か。ソフィーの部屋の扱いも?」

「そうです」

「そこは「仰せの通りです」だ。言葉遣いから教えないと駄目なのか?」

「丁寧な言葉くらいやろうと思えばちゃんと使えます」

「じゃあやれ」

「今はいいじゃないですか。アインズ様がいらっしゃるわけじゃないですし」

「ちょちょちょちょちょ………………、誰っすか!!」

 

 あれも、これも、それも、どれもわからない。

 僅かな情報から推測すると、アルベド様をお母様と呼ぶ少女はアルベド様の娘で、お父様と言うのだから当然そちらは父親で、と言うことは父親とは親と子であって、子の親と言うのはつまりはパパとママで、ママがアルベド様でパパがこの男と言うことはつまり二人で作った子供だとしたらこれはいったい何が起こっているのかやっぱりわからなくて、訳が分からない混沌にたたき落とされたのだからやっぱり怒って然るべきであろうと思うので怒鳴ってしまったのは正当な権利であるはずであった。

 

「紹介しよう。アルベド様が俺の付き人として召喚してくださった――」

「召喚ではなく創造です」

「正しくは創造してくださったサキュバスのソフィーだ。公的な場でなければアルベド様をお母様と呼ぶことを許されている」

「ソフィーと申します」

 

 ソフィーはぺこりと頭を下げた。

 ルプスレギナたちはようやくソフィーの顔以外に注意が向く。

 如何にもサキュバスらしい黒ビキニと背中に生える黒翼は、どうやら本当にサキュバスであるようだ。

 

「俺をお父様と呼ぶのは、名付け親だからだな」

「公的な場ではマスターとお呼びするように言われております」

「……誤解を招くから出来るだけそっちを使ってくれ」

「イヤです」

「使え」

「……わかりましたぁ」

 

 ソフィーは渋々と頷いた。

 

 屋敷の主要な面々はソフィーの紹介が済んだので、男は女たちが待つベッドに戻る。

 その後ろをソフィーが翼をぱたつかせてついて歩き、男に続いてベッドに上がろうとしたところを止められた。

 

「ソフィーはそこで座って待ってるように」

「え? どうしてですか? 確かに私は皆さんみたいに上手に出来ませんし経験もありませんが、これでもサキュバスなんですよ? 絶対にお役に立てると思うんです」

「そうじゃない。アルベド様からお叱りを受けたのを忘れたのか?」

「………………あ」

「今日はソフィーに何かするつもりも何かをやるつもりもない。邪魔せず見てるように。邪魔だったら元の部屋に戻すからそのつもりで」

「……わかりました」

 

 以前はアルベド様のご息女と言うことで大いに遠慮があった。

 父親の自覚さっぱりでも自分の娘であるのは確からしいので多少は気安くなり、慕ってくれているらしいので甘えも出た。

 そこにアルベド様のお言葉である。

 一番は、さっき寸止めしてくれたこと。

 爆発して死にそうだったのに、解除してくれるどころか高めるだけ高めて行ってしまった。アルベド様に叱られて連れられたわけだが、ペースを緩めず続けてくれていたら一度は出せたはずなのだ。

 逆恨み甚だしいが、寸止めされたのを根に持っているのである。

 

「ソフィーは見てるだけだから気にしなくていい。さっきルプーが回復したせいでまだこんなだ。今度は誰がしてくれる?」

「それでは私の口を使ってくださいませ♡」

 

 ソリュシャンが男の股間に顔を埋める。

 シクススとは違って、変幻自在のスライムテクは根本まで余裕で咥えられるのだ。

 

「ルプーも来いよ」

「うぇっへっへ♪ ご使命されちゃー仕方ないっすね♡」

 

 ルプスレギナは近付くなり抱き寄せられた。

 何度もされたように、腰に回った手が尻まで下がって、今度は尻の割れ目を中指が伝っていく。つぷりと後ろの穴へ潜っても抵抗する素振りはなく、自ら男へ体を擦り付けた。

 

「今度はこっちをしてやろう。シェーダ、そのあたりに俺のジャケットが落ちてるから持ってきてくれ。シクススはベッドに置いてあった道具をどこに片付けたんだ?」

 

 まずはあらゆる手段を用いてルプスレギナをダウンさせる必要がある。

 そうしなければ、延々と回復魔法を使われ続けていつ終わるのかわかったものではない。

 

「ソフィーが……、ソフィー様? ソフィー様はアルベド様のご息女でマイスターがお父様なのは名付け親と仰っていたと言うことはマイスターからお名前をいただいた私もマイスターがお父様と言うことはソフィー様の姉と言うことに? ヴァンパイアブライドである私がサキュバスの姉と言うことは私は本当はサキュバスだった?」

「何言ってるんですか」

 

 いい具合に混乱しているジュネは、あり得た可能性に触れようとして、ミラに一蹴された。

 

 

 

「あ、すごい……。マスターのあんなに大きいのにルプスレギナ様はお尻の穴で……。ソフィーにも入るかな? ソリュシャン様はマスターの乳首を? 殿方はそこも悦ぶんですね、ちゃんと覚えないと。うわぁ、声おっきぃ……。あんな声、でも、だって……。あぁ……」

 

 ソリュシャンと力を合わせてルプスレギナを打倒した。

 しかし、ソリュシャンに続いてシクススとシェーダを同時に相手している時にまたも復活。

 自身に魔法を掛けて体力を回復させてから、再度の回復魔法を放ってきた。

 何度も達してぐったりしていたシクススとシェーダも回復してしまう。

 

 ヴァンパイアブライドたちに回復魔法は厳禁なので、男は口移しで血を飲ませてやった。

 昏倒した二人だったが、残った者たちを一巡してる間に復活。真夜中なのもあって絶好調。

 競うように男の舌を舌で求め、いつぞやのシャルティアとアウラ(大人ver)が披露した貝合わせで男を挟む。

 真上に放たれた精液は女たちが協力して綺麗に舐めとった。

 

 乱れに乱れて、全員が全員にキスをしたし、性器も舐めて舐められた。

 ミラとジュネはそちら方面の先駆者で、ソリュシャンも色々経験してきているので不思議なことではなく、ルプスレギナはソリュシャンに責められた経験からおかしいと言えるほどではないが、そこへシクススとシェーダも混じってしまうのは意外なことだった。

 シクススは頑なに二人きりでの行為を求めていたし、シェーダはそもそも関係を伏せていた。

 なのに乱れたのは、アルベドのベッドだから。

 

 覚醒したサキュバスが泣いて許しを乞うほどにイキ狂わされたベッドだ。

 シーツを交換して残滓は残っていなくとも、アルベドが残した淫の気まで拭い去れるものではない。

 

 ルプスレギナが適度に回復魔法を使うせいで、精力が回復すれば体力だって元通り。

 東の空が白んで、地平に太陽が顔を出しても続けられた。

 最低でも三巡はして、多い者は少ない者の倍は受け取った。

 

 

 

 その間、ソフィーはベッドに近付くことを禁じられていた。

 

「おとうさまのばかぁ……!」

 

 目の前で好いことが繰り広げられ、とっても美味しくてとっても栄養がある精液が何度も放たれているのに自分には一滴もなし。

 泣いて拗ねたくなるのは無理もないが、泣いてしまったせいでカテゴリー「お子さま」に入れられるのは不本意なこと甚だしく、いつか寝込みを襲って訂正させることを決意した。




誰がよかったですか?

次回、今度こそエピローグ、のはず、たぶん


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大団円

ここまで来てしまった


 アインズ・ウール・ゴウン魔導国の偉大なるアインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下が滅茶苦茶強くて滅茶苦茶怖くて何もかも滅茶苦茶にしてしまう恐ろしい難敵魔皇ヤルダバオトを成敗しました。

 

 偉大なる支配者の偉業は遠い王国にも聞こえています。

 王国も魔皇から甚大な被害を被りました。魔皇の爪痕は王都のそこかしこに残れども、憎き強敵が打ち倒されたとの報はまさに福音です。

 貴賎問わずに祝杯を挙げ、魔皇の滅びを喜びました。

 

 しかしながら、ちょっとした祝賀ムードの王都であっても苦い酒を飲んでいる者もいました。

 彼女たちは王都で一番の高級宿で難しい顔を突き合わせています。ちょっと人に聞かせるわけにはいかない話をしているので、ドアに窓を堅く閉めてちびっ子仮面も可能な限りの盗聴防止魔法を施します。そこまでしてしまうと内緒話をしていると丸わかりなのですが、こう言ったことが担当の双子忍者(ry)は別室にこもっているのでした。

 

「あいつらが持ってきた話、どう思うよ?」

 

 ごきゅごきゅと酒杯を飲み干してから口を開いたのは人化したオーガの如き巨漢、もとい巨女のガガーランです。

 

「何とも言えないわ。そんなことはあって欲しくないしあり得てはいけないことだけど……」

「ふん。はっきり言ったらいい。バカどもがバカをやってもおかしくない。そうだろう?」

 

 三人の中で紅一点に思える金髪の女性が、冒険者グループ「蒼の薔薇」のリーダーを担うラキュースです。

 ラキュースの言葉を鼻で笑ったのがちびっ子仮面ことイビルアイ。

 三人は、魔皇がやっつけられたにも関わらず難しい顔をしています。それというのも、ティアとティナが困った話を持ち帰ったからなのです。

 

 ティアとティナは王国の王女ラナーの密命で、帝都へ赴いていました。三人も会ったことがあるエ・ランテルの大きなお屋敷の若旦那様が目当てです。

 若旦那様はただのお坊ちゃんではなく、魔導国の宰相閣下に言葉を届けられる地位にあるようなのです。帝都では魔導国からの学士でありながら公使として扱われ、まるで国賓のような待遇を得ていたとか。

 その若旦那様だかお坊ちゃんだか学士だか公使だかの宰相閣下のお付きの男と接触することに成功したティアとティナは、魔導国が現状をどのように捉えているかを聞かされました。

 

 魔導国と王国は緊張状態にあっても敵対しているわけではない。

 魔導国に王国へ攻め入る意志はない。

 しかし、魔導国と王国は必ずや戦争状態になる。

 

 つまり、王国が魔導国へ戦争をふっかけるから戦争が始まる、と言うことなのです。

 

「先の会戦で当主や嫡子を失った家は多いわ」

「ただでさえボンクラしかいねーのにみそっかすのクズが男爵さまだ伯爵さまだってふんぞり返るってことだろ?」

「資質に欠けてるって言いなさいよ」

 

 王国と帝国との会戦と言う名の大虐殺で魔導王と相対した事がある者たちなら、間違っても魔導国と敵対しようとは思えません。

 けども、魔導王の力を知らない者ならその限りではないかも知れないのです。

 みそっかすのクズのボンクラが降って湧いた当主の座に有頂天となって、身の程知らずに魔導国へ弓を向ける。そんなことはあるわけがないと思いたいのにあり得ないと断定できないところが王国貴族の怖いところ。

 ガガーランが持つ酒杯は何を注いでも苦くなってしまうし、ラキュースはいいとこでお嬢様をしていた時のことを思い出して頭痛が痛くなってしまいます。

 

「あんな小僧の言葉があてになるか! モモン様だ。モモン様しかいない!」

 

 ドンとテーブルを叩くイビルアイはそればっかりです。

 モモン様にはお美しい婚約者がいらっしゃるので振り向いてもらえる可能性はゼロとわかっているはずなのに、都合の悪いことは記憶から抹消されているのでしょう。口を開けばモモン様モモン様です。

 いい加減辟易しているラキュースとガガーランですが、今度ばかりはイビルアイの言葉は尤もでした。

 

 彼の若旦那様には一度しか会ってない三人ですが、「王国にはアダマンタイトすら石ころに変える大魔法が掛かっている」なんて聞かされれば王国のために動いてもらえるとはとても思えません。

 対してモモン様は、かつて王都に攻め入った魔皇を撃退していますので、王国の力になってくれないことはないでしょう。人格的にも尊敬できます。実力は彼の魔導王の抑止になれるほどです。更に加えて、その魔導王と対等な友好関係を築いているようなのです。

 宰相閣下のお付きと、魔導王の友人。重きを置くべきは断然後者です。

 冒険者である彼女たちは必ずしも王国のために働く必要はないのですが、祖国の危機を防ぎたいのは当然です。王国の生まれではないイビルアイだって、モモン様にお会いしたいのが一番でも戦争を防ぎたい気持ちは同じです。

 

 イビルアイが望む通りにエ・ランテルへ向かうことになったところで、相談に参加してない二人に意識が向きました。

 

「で、あいつらはどうした? どうして参加しない?」

 

 もしかしたら王国の未来を決定づける大切な相談です。

 それなのに姿を見せず部屋にこもりきりのティアとティナは、イビルアイの目に余りました。

 ラキュースとガガーランは思わず顔を合わせて、何故か顔を赤らめたラキュースが早口に答えます。

 

「二人ともエ・ランテルに向かうことは納得済みよ。多分そうなるだろうって言ってたから話がまとまったら後で教えてくれたらいいって言っていたわ」

「だとしても私たちはチームだ。話し合いには参加するべきだろう!」

「あいつら帝都に行ってる間に自給自足覚えやがったんだ」

「自給自足?」

 

 ラキュースとは対照的に、ガガーランはニヤリと笑います。

 

「イビルアイは知らなくていいからむしろ知っちゃダメだから! ガガーランは変なこと言わないで!」

「へいへい」

「……自給自足?」

 

 イビルアイの言葉を遮るように、ラキュースも酒杯へ手を伸ばします。

 イビルアイは小首を傾げ、ガガーランは笑うきりで、ラキュースはよほど答えたくないようで酒杯を次々に空けていきます。

 

 姉妹が目の前で深い口付けをしたのは、ラキュースにはとてもショックなことだったのです。

 そう言うことをそれぞれがしているのは知っていても、目にしたのは初めてだったものですから。

 

 

 

 ▽ ▽

 

 

 

「ティナと合わせるの初めてだけど中々。『シャルティア様に仕込まれた?』」

 「『お付きの方と』。ティア慣れてる。けっこうイイ」

 

 話に加わらなかったティアとティナは、隣室のベッドで絡み合っていた。

 股を開いて座るティアの太股にティナが太股を乗せ、もう一方の太股では上下が逆になって抱き合っている。特に密着しているのは互いの性器。

 男女の交わりに様々な体位があるように、女同士の貝合わせにも幾つもの体位がある。貝合わせの対面座位はどちらかが上位になることなく、互いに息を合わせてあまやかな官能を得ることが出来る。

 双子もとい三つ子なティアとティナの息が合うのは当然だった。

 

「三桁行ってるから。こっちの経験じゃティナに負けない」

 「量より質だから。んっ……、ティアの毛がちょっとくすぐったい」

「……私もツルツルにするべき?」

 「どっちでも。私はピンクにしたい。早く会いたい」

「今頃隣で決まってるはず」

 『お嬢様の依頼はあっさり完了』

 

 ティアとティナが絡み合っているのは、仲間たちの邪魔が入らないようにだ。

 ラキュースは絶対入ってこない。イビルアイが入ろうとしてもラキュースが止める。性にあけすけなガガーランだって情事の邪魔をする野暮はしない。

 

『エ・ランテルに行ってもボスがいなかったらどうする?』

 『その時はその時。時期までは言われてなかった』

『ヤルダバオトが倒されたから戻ってもおかしくはないけど』

 『そもそも帝都に行ってる理由が不明。学士とか言うのはたぶん建前』

『………………ラナー関連?』

 『そこまではわからない』

 

 口からは艶やかな声をあげつつも、両手はせわしなく動いている。二人の重要な会話は手話で行われており、覗かれても内容が漏れる心配はない。

 

「………………」

 「どうした?」

『ボスはラナーのことを、クライムと乳繰りあってればいいと言ってた』

 『ラナーがクライムに執着しているのは王宮に出入りしてればわかる。ボスとラナーの関係はわからないけど無関係じゃなさそう』

『だから、クライムはわかる。わからないのはザナック』

 『……確かに言ってた。クライムで足りなきゃザナックがいるって』

『どうしてザナック?』

 『間違ってもラナーの好みじゃない』

『乳繰りあうんじゃなくて話相手かも?』

 『ラナーが頭いいのを知っててまともに会話できそうなのはザナックだけ、なのかも?』

『まあ、考えても仕方ない』

 『言い出したのはそっち!』

『ともかくラキュースをエ・ランテルに連れて行って』

 『ご褒美にボスに可愛がってもらう』

 

 ラキュースを連れてくるよう二人に依頼したのはお嬢様なのだが、二人にとっては同じ事。

 隣室と同様にこちらでも話がまとまって、二人は本格的に腰を使い始めた。

 

 話がまとまったのを知らせようとラキュースがドアをノックしたのだが、漏れてくる嬌声に顔を真っ赤にして引き返した。

 

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 

 ところで、公使の仕事とは何か。

 

 公使とは、つまるところ外交使節である。外国との交渉や自国民の保護を行う国家の代表者と言ってよい。

 とは言っても魔導国から帝都に出張して来ている男は、あくまでも公使として扱われているのであって公使ではない。実際は学士である。国家の代表と言えるほどの権限は何も持っていない。

 それはさておき国家の代表者が表の仕事とすれば裏の仕事は何か。裏と言うほど隠れていない公然の仕事は、外国の情報を集めることである。

 主な手段はあちこちに顔を出して人脈を作ること。太くした人脈から国家中枢へのパイプをつなげられれば尚よし。勿論人脈作り以外にも情報収集の手段は多種多様で、乱暴に言えばスパイから非合法活動を除いたものと言って良い。

 逆から見ると、スパイから非合法活動を除くと外交官になる。

 

 尤も、魔導国と帝国においては必要ないことである。

 魔導王と皇帝は個人的な友人関係にあるし、情報が欲しければ魔導王の凄い魔法で何でもぶっこ抜けてしまう。

 

 ではそれ以外に公使の仕事は何があるか。サボリがちで大使ってもんはこれだからと言われる大使でも絶対に忘れないその仕事とは、本国の慶事を祝うことである。

 なんちゃって公使である男もこれには全力投入した。

 

 

 

 

 

 

 お屋敷の若旦那様が密かにエ・ランテルへ一時帰還した翌日以降。お屋敷はにわかに忙しくなりました。

 それというのも、若旦那様から相談されたセバス・チャン様が早速メモを送ってくださったのです。

 メモの内容は、ナザリック式パーティーの段取りでありました。

 

 アインズ様の勝利を祝わなければならないのです!

 

 若旦那様は、アインズ様が近々勝利を引っ提げてご帰還なさると聞いたその時から盛大な祝勝会を催そうと考えていました。

 これこれこう言うことでナザリック式パーティーはどのようにすればよいかとセバス様に相談。セバス様がどれほど若旦那様の話に共感したかと言えば、翌日に20ページにもわたるメモを送ってくださったことからよくよくわかるというものです。

 話はナザリックにも伝わって、ナザリックのメイド長であるペストーニャ様は人員の派遣を決定。

 ナザリックに帰還したデミウルゴス様の耳にも入り、是非やるべきですと本腰を入れて協力。

 ナザリック的にアインズ様の勝利を祝うのは当然です。世界征服にだって優先することでしょう。

 

 準備は着々と進められ、春の善き日を迎えました。

 

 

 

「これは……、帝都の社交が変わるかも知れないな」

 

 眼下の光景を見下ろして、帝国のジルクニフ皇帝陛下が誰に聞かせるともなく独り言ちます。

 アインズ様は友達のジルの言葉に軽く驚きました。

 

「それほどか?」

 

 アインズ様の目には極普通のパーティーに見えるのです。

 

 二人がいるのは、帝都にある魔導国の公館となった大きなお屋敷のバルコニーです。

 バルコニーは二階部分から大きくせり出しており、庭園全体を眺めることが出来るお屋敷の好景観ポイントだったりします。

 その庭園には幾つものテーブルが並べられて、それぞれに帝国の貴人たちが着いていました。

 庭園の隅っこではナザリックから派遣された楽団がアインズ様の耳に懐かしい音楽を奏でています。楽団員に仮面を被っている者が多かったりするのは、素顔がちょっとあれだからです。幸いにもお客様方は余り気にしていないようです。

 

 お二人が眺める間にも新しいお客様が馬車から降りていらっしゃいました。

 紳士とご夫人は美しいメイドに案内されて庭園の空いた場所に連れられます。そこにはテーブルもイスも何もありません。こんな事をされれば、俺たちは立って飲み食いしろと言うのか、と怒る場面ですが心配ご無用。

 云百キロはありそうなバカでっかいテーブルを仮面を着けたデスナイトが担いでいるのです。

 事前訓練の甲斐あって、デスナイトは音もなくでっかいテーブルを地面に置きます。と同時に別のデスナイトがイスを置いて男性使用人がささっと並べます。間髪入れずにメイドが純白のテーブルクロスを広げ、別のメイドがワゴンから飲み物やら軽食やらを配置。

 最後にネームプレートを立てて撤収です。

 

 別のお客様のテーブルは、デスナイトの代わりに見るからに手弱女な白いドレスの女性が運んでいます。

 こちらはドレス姿なので肩に担いでしまうと生地が傷んでしまいます。そのため、テーブルの縁を掴んで真上に持ち上げています。初見の紳士淑女は度肝を抜かれるのですが、何度も見せられれば慣れるもの。手には白いドレスグローブを、顔には白いベールを垂らす女性へ拍手を送る紳士もおります。

 ほどなくしてパーティーの主催となった魔導国の学士殿が挨拶へ伺います。

 

 お客様はとてもたくさんいらっしゃいますので、学士殿が挨拶へ伺えない席もあります。

 そう言った方々は自分たちの身分が他の方々より軽いとわかってはいますが面白くありません。ですが、供された飲み物に口を付けた瞬間「うまっ!!」であります。衣食住に不自由せず、帝国で最高の贅沢を知る方々ですらこれなのです。不満を持つどころか、招いてもらったことに感謝感激になるのは当然のことでありました。

 

「ガーデンパーティーと言ったか? 外でパーティーを開くことはなくもなかったがこういう形式は初めてだ。なにより楽だ。一々誰々のご入場などと聞かされなくて済む」

 

 アインズ様とジルクニフ陛下がいるのは、いわゆるロイヤルシートです。

 近くにいるのは相応の立場を持つ者ばかりで、誰それから不意に声を掛けられることはありません。バルコニーと言うのもいいです。下の様子が一目瞭然で、帝国貴族の人間関係がどうなっているのかよくわかるのです。絶大な権力を持つ皇帝陛下と言えども、損益に感情が複雑に絡み合う政治力学は無視してよいものではありませんから。

 

「気を悪くさせたら済まないと言っておく。もしもアインズがこのパーティーの主催だったら侮る者が出たかも知れない」

 

 アインズ様の隣に座っているシャルティアの目がギラリと光りました。

 ナザリックから派遣された一般メイドたちと男性使用人たちはアインズ様のご友人へ不躾な視線を投げたりしませんが、愉快な気持ちにはなれません。

 

 なお、アインズ様のパートナーは交代制です。アルベド様も少しだけいらしたのですが、お仕事がいっぱいあるので早々にナザリックへお戻りになりました。

 戻る際は、シャルティアがアインズ様の隣にいていい時間はここまで、と厳しく言い置いています。自身の相談役に言いつけたので、時間は厳守されることでしょう。

 

「初めての形式だからだ。アインズは帝国のパーティーを余り知らないだろう? 知らない者が誰も知らないパーティーを開いてしまうと単なる出鱈目になるからな。だがあいつは……」

 

 ジルクニフは椅子から立ち上がって眼下を見下ろします。ついでに手を振ってやると招待客たちは歓声を上げました。

 アインズ様も付き合ってジルクニフの隣に立ちます。ジルクニフが見ているものは一発でわかりました。遠目にも目立つ男です。

 

「帝国貴族の社交をよく知っている。下手をしたら俺より詳しいくらいだ。そんな男が開く新しい形式は、出鱈目ではなく型破りになる」

 

 魔導国の学士殿は、アインズ様の勝利を聞いてからサボリがちだった社交を頑張るようになりました。

 今や彼の男を知らない帝国貴族は一人もいないことでしょう。

 

 艶やかな容姿もさることながら、博識なのです。

 歴史学者顔負けのレベルで帝国の歴史を知っています。

 地学者顔負けで帝国の地理を知っています。辺境に領土を持つ伯爵様が自分の領地の事細かな地名を上げられてびっくりしたことが何度もありました。それぞれの領土の特産品も把握しており、作付け面積から翌年の収穫高を予想された時はびっくりを通り越して戦慄しました。

 もしも市井に生きる男なら、大枚を叩いてなんとしても取り込むか、はたまた暗殺が視野に入るほどです。

 

 社交の場では典雅そのもの。

 一挙手一投足が優美なら、話題も豊富で紳士にご婦人を楽しませてくれます。

 

 なお、帝国貴族の社交会にソリュシャンとルプスレギナもデビューしました。

 二人はカルカとレイナースに頼み込んで、社交に必要なスキルを教えてもらったのです。元々身体能力に優れている二人ですから、ダンスを覚えるのにもさして時間はかかりませんでした。

 その代償に、二人から臑を蹴られまくって足を踏まれまくった若旦那様が度々回復魔法のお世話になったのは余談です。

 

「ご歓談のところ失礼いたします」

「……どこから入ってきた?」

 

 話題の男が恭しく頭を下げています。

 さっきまで階下にいた男で、ここはバルコニーです。二階部分と言えども、すわ皇帝の離宮かと思わせる大きなお屋敷ですので、高さが相当にあるのです。

 

「お前の足ではここまでジャンプできないだろう?」

 

 アインズ様もジルクニフと同じ疑問を抱きました。

 バルコニーに通じる扉は開いていますが、男が現れたのはその反対側です。ならば下から飛び上がったとしか考えられません。

 

「下から放り投げてもらいました。些か品がないと自覚しておりますが、格式張った場ではありませんのでご容赦ください」

 

 黒いドレスの手弱女に放り投げてもらったのです。

 この日のために、格好良い放り投げられ方と、格好良い飛び降り方に受け止め方を練習していました。比喩ではなく骨を折った練習の甲斐あって、学士殿がバルコニーを往復する度にお客様方は歓声を上げております。

 

「これからアインズ様の勇姿を皆様にご覧になっていただこうと考えております。よろしいでしょうか?」

「面倒はごめんだぞ?」

「映像をご覧になっていただくだけでございますから、アインズ様にお手数はお掛けしません。始める前に皆様へ手を振っていただければ幸いです」

「まあ、それくらいなら」

 

 男に促され、アインズ様は眼下の帝国貴族たちへ手を振りました。

 同時に男が口上を述べます。

 

「恐ろしき魔皇ヤルダバオトは、ここにいらっしゃいます偉大なるアインズ様に打ち倒されました。彼の怨敵が如何に強大であったか、アインズ様のお力が如何に偉大であるか、どうかご鑑賞ください」

 

 ぽちっと映像スタートです。

 

『あなたたちに降伏は求めません、認めません。苦しみ、嘆き、絶望に泣き叫んで死になさい。私があなたたちに望むのはたったのそれだけです。簡単なことでしょう?』

 

 どよめきました。

 なんと、庭園の中空に魔皇ヤルダバオトが現れたのです!

 

「魔導国が所有する映像を投射する魔道具によるものです。ヤルダバオトがここにいるわけではありません。アインズ様のご厚意により、過去視を可能とする貴重な魔道具を用いて記録された映像です」

 

 学士殿の言葉に一同は安心したようですが、映像の中でヤルダバオトが引き起こす絶大な破壊はとてもとても凄惨なものです。麗しいご婦人たちは卒倒寸前になってしまいました。

 そのあたりは注意して映像を編集したのですが、血や死体が映らずとも大きな建物が腕の一振りで倒壊する様子は刺激が強すぎたようです。

 

 映像は聴衆の悲鳴を無視して進みます。

 ヤルダバオトの恐ろしさを印象づけたら、我らが偉大なるアインズ様の登場です。

 

『おやおや、生きていたのですか』

『たとえこの身が滅ぼうとも、私には世界を平和に導く義務がある。貴様に世界を渡すわけにはいかない。ここで滅びよ、ヤルダバオト!』

 

 アインズ様とヤルダバオトの一騎打ちを、結末を知っているはずの聴衆は固唾を飲んで見守っています。

 そこだ行け! とか、アインズ様頑張って! とか。ところどころで声援が上がり始めます。

 ジルクニフも映像に見入っています。

 帝国はヤルダバオトの被害を受けていないので、どれほどの強敵か知らなかったのです。アインズなら余裕だろうと思っていたジルクニフですが、アインズと互角の戦いを繰り広げるヤルダバオトは衝撃でした。

 

 そのアインズ様はと言うと、やっぱりびっくりしておりました。

 

(俺……、あんな事言ってないぞ!?)

 

 それも当然のこと。

 実際にあった戦いはデミウルゴスがばっちり録画していましたが、いま流れてる映像は違います。デミウルゴスとパンドラズ・アクターが協力して撮影したスペシャルエディションバージョンなのですから。

 主催がアルベドの相談役であろうとナザリックの者がアインズ様の勝利を祝うのです。全ナザリックが協力するのは当然のことです。

 誰も彼もが忙しい毎日から少しずつ時間を捻出して、今日の善き日のために注力したのです。

 

 映像は流れ続け、ついとアインズ様がヤルダバオトに痛打を浴びせました。

 鳴り響く歓声と拍手は凄いものがあります。

 こんな映像を観るのは帝国の皇帝だって初めてですし、恐ろしい敵を頼りになる味方がやっつけてくれるのです。紳士に淑女にご婦人たちも熱狂しています。

 

 その傍らで、学士殿から耳打ちをされたシャルティアが頬を膨らませます。拗ねてみせますがあっさりとはねのけられます。

 アインズ様に辞退の挨拶をしてからゲートの魔法を発動しました。どこへ行くかと思えばバルコニーの下。学士殿と違って、スカートを履いてるシャルティアは飛び降りたりしてはいけないのです。

 階下に移ったシャルティアは黒いドレスの手弱女に何事かを語りかけています。

 

 やがて映像の中でヤルダバオトが倒れます。聴衆の熱狂は最高潮まで盛り上がりました。

 

「平穏を脅かす者は私がけして許さない。魔導国と、そして帝国の平和は私が守ろう!」

 

 学士殿に促されたアインズ様がちょちょっと格好良い事を言います。臨席している帝国貴族たちは全員が立ち上がって、盛大な拍手をアインズ様へ送りました。

 この場にいる帝国貴族は、皇帝のジルクニフがいるくらいなのですから上から順番に偉い人ばかりです。

 アインズ様はたった一言で皆の心を掴んでしまったのです。

 

 ヤルダバオトがアインズ様の手の者と知っているジルクニフは内心で苦いものを噛みしめていましたが、一瞬で帝国重鎮たちの心を掴んでしまったアインズ様に戦慄もしました。

 

 シャルティアに手招きをされた学士殿はアインズ様とジルクニフ陛下に頭を下げてからバルコニーを飛び降ります。

 黒いドレスの手弱女に受け止められるのですが、練習の時と違ってちょっとバランスを崩してしまいました。幸いなことに無様に転ぶことなく、シャルティアが手を引きます。

 二人が連れだって帝国貴族たちの席へ向かうのを、学士殿のパートナーを交代で勤めていたソリュシャンとルプスレギナとカルカとレイナースが微笑を湛えて見送ります。

 本日この場のレイナースは、明らかに魔導国よりのポジションにおりました。

 

「………………10年前だったら喜んで帝国に招かれたと言っていたな」

「そうなのか?」

 

 またもやジルクニフの独り言にアインズ様が耳を寄せます。

 

「ああ、はっきりとそう言っていた。残念なことに今はその十年後だ。帝国に鞍替えするつもりはないそうだ」

「ジルの目にあいつはどう映る?」

「賢者にして隠者だな。有効に使えばどれほどのものをもたらすか。あいつを何とかして取り込めないかとどれほど陳情されたと思う? 全て一蹴したが、俺も同じだ。遊ばせておくくらいなら俺に任せてみないか?」

「残念だがそうもいかん。だが、ジルにそこまで言わせるなら帝国で大いに学んだのは間違いないのだろう」

「学ぶどころか丸裸だ! さすがに魔法省で研究してる内容までは知らないだろうが、帝国で動員できる最大兵員から継戦能力まで何から何まで語られた時にはもう…………な? アインズの部下でなかったら……。まさかそのために帝国へ寄越してわけじゃないだろうな?」

 

 非合法な活動は一切していない学士殿ですが、帝国の懐事情を丸裸にして弱みを握るために派遣されたと言われたらやっぱりそうかと頷いてしまいます。

 アインズ様の部下でなければ暗殺を即決しているところでした。

 

「帝国の文化を学ばせるために派遣した。それ以上の意味はない。それ以上があったところで、さっき言った通りだ。魔導国と、そして帝国の平和は私が守ろう」

 

 やはりそれ以上があったのだとジルクニフはほぞを噛みます。

 表からも裏からも、国力も軍事力も、何もかもをアインズ様に知られてしまったのです。これではどうあっても魔導国の支配から抜け出せません。

 しかし、アインズ様も彼の学士も、道理が通じる理性的な相手です。手を誤らなければ共に繁栄を享受出来ることでしょう。

 

 と言うような事をジルクニフが色々思ってる隣で、アインズ様はうーんと唸っておりました。

 もちろんのこと、ジルクニフが思うのは全て誤解です。そんなつもりは全くありません。人類絶滅とかバカを言ったので左遷したのが実態です。

 バカを言ったのは大いに反省したようで、帝国ではずいぶんと活躍しているようです。ジルクニフにこーいうパーティーは楽でいいと言わせるくらいですから、帝国文化もきちんと吸収してものにしたことでしょう。

 

「アインズ様、私もマスターのお側に付こうと思います」

「ああ、構わん」

 

 黒髪黒目の少女に軽く手を振ってやります。

 パーティーが始まる前にアルベドから紹介されたサキュバスのソフィーです。何でも自身の相談役のお付きにと創造したのだとか。アルベドにそんなことが出来るのかとびっくりしました。生憎回数制限があって代償が必要なスキルらしく、量産は出来ないようです。

 ソフィーはシャルティアや学士殿とは違って、きちんと屋敷内の階段を使って階下へ向かいます。

 

 アルベドと違って、ソフィーには角も翼もないのが意外でした。

 ところが、ソフィーにもきちんと角と翼があるようなのです。任意で仕舞えるらしいです。相談役が言うには、正確には仕舞うのではなく見えず触れずの状態にしているそうです。それを聞いたソフィーの方がむしろ驚いていました。

 驚くポイントがアインズ様にはわかりませんでした。そう言うものはそう言うものだと受け入れるしかない時もあると悟っているのです。

 

 ソフィーへ逸れた思考がまたもアルベドの相談役に向かいます。

 アインズ様としてはどっちでもいいと思っていた左遷ですが、友達のジルクニフにこうも警戒されてしまうならそろそろエ・ランテルへ戻してやった方が良いかも知れません。

 本人に面談をした上で好きな方を選ばせてやろうと考えました。




おしまい

ここまで辿り着かないはずでした(コンワク)
本作は36話でタイトル回収し37話前書きでえたる気漫々書いたとおり続けるつもりはなかったんです(マガオ)
だけども感想をもらって続くことになり、特に月光蝶Gさんからの感想がなかったら続くにせよここまで来るのに早くてあと三年は掛かったはずです(カンシャノキワミ)
次話は隕石が降らない限り投稿します

次回、王国終了のお知らせ


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家族


前はここまで辿り着かなかったが辿り着いてはいけなかった気がしないでもないです


 魔導国及びナザリックの最終意志決定者はアインズである。

 これはアインズ・ウール・ゴウンがナザリック地下大墳墓を支配するギルド名を指していた時代から変わらない。

 アインズが他者の意見を聞いてから意志決定することもその時から変わっていない。アインズは絶対の権力をもっていても、独り善がりの独裁者ではないのだ。

 以前はギルドメンバーたちから意見を募った。しかし、彼らはもういない。

 今はナザリックを守護する守護者たちから意見を募る。

 意志決定のために皆から意見を募るその場こそが、ナザリック地下大墳墓第九階層「ロイヤルスイート」にある「円卓」である。

 

 名前の通りに大きな円卓を41の豪奢な椅子が囲んでいる。

 最奥の椅子にアインズが座る。

 アインズから幾ばくかの間隔を空けて、階層守護者たちが座る。そこへ座るのが初めてではない彼ら彼女らだが、一様に緊張した面もちであるのは、本来は至高の御方々が座るべき椅子であるからだ。

 ソリュシャンやルプスレギナらプレアデスでは立ち入ることすら許されないナザリックにおける最重要意志決定機関が、この円卓であった。

 

「さて……。私たちの話を聞いてお前が呼ばれた意味がわかっただろう?」

 

 守護者たちの意見が出尽くした上で守護者統括であるアルベドが話をまとめ、アインズへ報告する。

 アインズは報告内容を元に意志決定をする前に、一人だけ立っている男へ声を掛けた。

 

「王国に住み暮らしていた私の視点から気にかかることがあるか述べよ、と仰せでございましょうか?」

 

 プレアデスでは立ち入れない。守護者であっても領域守護者では立ち入り出来ない。一つの階層以上を守護する階層守護者以上でなければ列席を許されない円卓に、守護者統括の相談役がその身を置いていた。

 

 聖王国を実質的な属国とした魔導国が、次に狙うのは王国である。

 王国をどのように攻め、どのように治めるかを話し合っているのだが、人間虐殺ヒャッハーがデフォのナザリックであるため、話し合いが始まる前に結論が定まっており話し合いという名の既定路線を辿っているように思えなくもなかった。少なくともアインズはそう感じた。

 ならば、ナザリックの生まれではない人間の目からはどのように見えるのか。

 

 魔導国の首都エ・ランテルに住まう人間たちは王国の民だった。しかし、彼らに意見を募ることは問題外。ナザリックの事を何も知らないからだ。

 カルネ村の住民たちも元は王国に所属していたわけだが、如何せん政治から遠すぎる素朴な農民たちばかり。カルネ村を束ねるエンリはナザリックを知っていても、彼女に意見を求めるのは酷と言うもの。

 ンフィーリアとリイジーの薬師二人はカルネ村の住民より政治を知っているかも知れないが、言ってしまえば専門バカで期待は出来ない。むしろ期待する方がおかしい。

 

 人間は所詮人間であり、ナザリックが人間に意見を聞く必要はない。しかしながら、ナザリックは便利な人間を手中に収めていた。

 彼はナザリックを知っている。王都に長いため、王国をよく知っている。ジルクニフを辟易とさせるくらいに政治にも軍略にも詳しい。

 なにより、アインズが直々に認めた守護者統括相談役だ。

 意見を聞くのに彼以上の存在はなく、彼がいなければそもそも意見を聞く必要を認めなかっただろう。

 

「その通りだ。だが、お前の意見で王国攻略の是非が決まることはない。王国を攻めることは既に決定している。あくまでも参考として聞くにすぎん。気を楽にして答えよ」

「はっ!」

「とりあえずもっとこっちに来い。そこだと遠すぎる」

「かしこまりました」

 

 41もの豪奢な椅子が囲む円卓は、とても大きい。円卓の上でキャッチボールが出来るくらいには大きい。

 着席までは許されていない男は、円卓を挟んでアインズの反対側に立っていた。声を張り上げないと聞き取りにくい距離である。

 

 デミウルゴスがいつもより背筋を伸ばし、コキュートスが大きな体を縮こませているのに、男は悠々と歩いてアインズの右斜め前方へ立った。

 丁度アルベドの真後ろなのは偶然でも何でもない。アルベドの相談役なのだから当然だ。いつもは給仕係としての仕事ばかりなところを初の相談役としてのお仕事。気合いが入っている。

 各々は椅子を回して、余裕すら見せる男へ耳を傾けた。

 

「それでは私から、リ・エスティーゼ王国について思うところをお話させていただきます。王国について特別に取り上げたいことは、素晴らしい国土を持っていることでございます」

「王国は素晴らしいから攻めるなと言うことでありんすか?」

「それは違いますよ。彼が素晴らしいと言ったのは国土であって王国ではありません」

「デミウルゴス様に補足していただいた通りでございます。結論を申します前に、皆様に共通の認識を持っていただくため些か迂遠な話となってしまいますことをどうかご了承願います」

「構わん」

 

 先を促すアインズは、シャルティアがいることに感謝した。

 もしもアルベドとデミウルゴスに合わせて話されたら、きっと何を言ってるかわからなくなるに決まってる。しかし、シャルティアに合わせて話をしてくれるなら大丈夫。シャルティアにわかるなら俺にだってわかるに違いない。わかるはずだ。信じてるぞ!

 

「王国の地理から解説させていただきます。皆様もご存知の通り、王国は西の大洋と東のアゼルリシア山脈に挟まれております。北方はアーグランド評議国と国境を接しており、南方にスレイン法国があります。どちらの国も領土的な野心はなく、それぞれが抱え持つ戦力は主に人間に敵対的なモンスターの駆除へ向けられています。

 アゼルリシア山脈を包むトブの大森林についてはアウラ様とマーレ様が詳しいことでしょう。大森林ではハムスケさんを筆頭に長らく勢力が拮抗しておりました。大森林からモンスターが現れる事は希ではありませんでしたが、王国の存続を危うくするまでには至っておりません。

 バハルス帝国ではアンデッドが多数発生するカッツェ平野に近いことから国軍がモンスターの駆除を行い、南方の諸国家ではビーストマンの群れに手を焼き、先だってアインズ様がお救いになったローブル聖王国では亜人たちと緊張状態にありました。

 王国はいずれの脅威とも隣接しておりません。東西南北の四方を強固な壁に囲われた安全な土地なのです」

 

 ここまでよろしいでしょうか、と男が問いかけて注視するのは要注意のシャルティア。

 シャルティアはアウラを見て、マーレを見て、アインズ様に見られているのに気付いて大きく頷いた。

 

「つまり王国は危険が少ない安全な土地と言うことでありんすね? わかりんす!」

 

 最後の一言を拾っただけであるが、それだけわかっているならひとまず大丈夫である。

 

「シャルティア様の仰る通りです。

 王国は長らく帝国と戦争状態にありました。しかし先ほど申し上げた通り、王国と帝国はアゼルリシア山脈で分断されているため、要衝であるエ・ランテルにだけ注意を払っておけばよかったのです。

 では、帝国が王国へ野心を抱いていたのは何故か。これにつきましては、アインズ様のご友人であられるバハルス帝国のジルクニフ皇帝陛下に直接伺った事がございます。

 陛下は、沃土だ、とはっきり仰いました」

「あの……、沃土って何ですか?」

 

 突き刺さる視線に身を固くしながら、マーレがおずおずと手を挙げた。

 ちなみにシャルティアもわからなかった。マーレに感謝した。

 

「沃土とは肥えた土地、と言うことです。痩せた土地と肥えた土地とでは、同じ種を蒔いても作物の収穫量が大きく違います。同じ種を蒔いて、同じ労力を掛けるなら、肥えた土地の方がたくさん作物を収穫できるのですよ」

「土に栄養があるってことですか?」

「仰る通りです」

 

 大地に栄養を与えるのは、ドルイドであるマーレの専門だ。魔法で簡単に出来ることなのに戦争の種になるなんて不思議に感じるが、人間はそう言うものなのだろうと受け入れる。

 わかりました、ありがとうございますと礼を言って先を促した。

 

「帝国は王国の沃土を狙っておりました。

 ですが、仮に帝国の国力が王国の千倍あったらどうするか。その場合、陛下は王国へ攻め入ることはないと仰いました。征服のための征服は無意味です。統治に手間がかかるばかりですから」

「無駄ヲスルナ、ト言ウコトカ?」

 

 守護者たちの幾人かが不快を露わにする中で、コキュートスが口を開く。

 コキュートスはアインズから一軍を任され、ナザリックより遙かに劣るリザードマンたちを攻めたことがある。あれを無駄だと言われるのは、アインズ様の御前でなければ声を荒げていた。

 

「陛下の視点ではそうなります。ですが、それは帝国だけを考えているからです。

 これにつきましてはエ・ランテルを。そして聖王国の未来を見れば明らかとなります。どちらもかつてとは比べものにならない繁栄を手にすることでしょう。ナザリックからの、つまりはアインズ様からの慈悲を受けて発展していくのです。

 自国だけを見るか。はたまた世界全体を見据えているか。陛下とアインズ様とではこのように視点が違うのです」

「フム……。ソウダナ」

 

 男の言葉通りに、コキュートスが攻めたリザードマンたちの集落は以前より栄えている。

 やはりこの男はアインズ様のお考えをよくわかっている、とコキュートスが納得する一方で、当のアインズはいやいやいやいや……、と内心で頭を振った。

 

「そのように王国を攻めることはないと陛下は仰いました。但し、ある条件の下では王国を攻めざるを得ないと仰います。

 一つが王国から攻め込まれた場合。これは当然でしょう。二度とそのような愚行をしでかさないよう徹底的に教え込む必要があります。

 もう一つが病です。病が広がる前に焼き払わなければなりません。そして、王国には不治の病が蔓延っています。私はナザリックの最古図書館の書物から、ユニバース25と言う実験を知りました」

 

 ほう、と小さく感嘆したのはデミウルゴス。

 アルベドも知らないユニバース25を、デミウルゴスは知っていた。男と同じように、実験結果を人間に重ね見た。

 

「ユニバース25とは楽園実験です。実験対象はネズミです。ネズミが生存するのに最適な環境を整えて、ネズミの行く末を見守る実験です。外敵はなく、食料も水も豊富で、広さも十分にある。さて、ネズミたちはどうなるのか?」

「どうなるの?」

 

 魔獣使いであることから、動物の行動には興味があるアウラだ。

 元の話が何であるかを一時忘れ、身を乗り出して訊ねた。

 

「全滅しました」

「……………………は?」

「一匹残らず死に絶えました」

「…………それってネズミの楽園だったんでしょ? なんで死ぬの? 最初のネズミが少なかったから?」

「初期のネズミは数匹から数十匹ありました。繁殖には十分な数です。実験開始直後からネズミはまさにねずみ算で増え続け、あっという間に二千匹余りに達したそうです。楽園では同時に三千匹は居住できる環境でした。楽園と言えど土地は有限なのです。そしてそこで頭打ち。ネズミの数は徐々に減り始めます。この過程でネズミたちの間に階級が現れました」

「階級……。ちゃんと説明しなんし!」

「勿論でございます。

 簡単に分類しましょう。力が強くて体が大きい雄ネズミ。強い雄ネズミに囲われる雌ネズミ。弱くて群から弾かれた雄ネズミと雌ネズミ。この四種類です。細かく分類すればもっと種類がありますが、おおまかな理解を得るにはこの程度で十分です。実験を行った研究者は、これらを富むものと貧しいものと分類しました。

 富むものたちは普通のネズミのように繁殖をしていきますが、貧しいものたちは代を重ねるうちに異性への関心を失っていきます。富むネズミの子孫も同様の道を辿っていきます。

 やがて富むものたちの数が減って独占が崩れ、食料も水も異性も住む場所も、全てを自由にできる楽園が再び戻ってきます。しかしそうなった時に残っているネズミたちは、異性に関心を持たないものばかりになっていました。彼らは自分の生存にしか興味がなかったのです。繁殖はしない。けれど、ネズミは死に続ける。そうしてネズミたちは最後の一匹まで死に絶えることになりました。

 ユニバース25の「25」とは、25回目と言うことです。25回の実験全てで、ネズミたちは一匹残らず死に絶えたのです」

 

 守護者たちが意外な実験結果に驚いている中で、アインズは元の世界を思い出した。

 富めるものと貧しいもの。異性への興味すなわち階級の再生産。まさにあの世界そのものだ。あんな社会がいつまでも持続するとは思えない。いつかは楽園のネズミたちのように、全てが死に絶えることだろう。

 

「王国も同じです。脅威のない安全な土地。豊富に供給される食糧。赤子が眠る揺りかごの如き環境で住み暮らしている王国の民がどれほど腐敗しているか、皆様もよくよくご存知のことと思われます。ジルクニフ陛下は王国が輸出する一番のものは犯罪だと笑っておられました。傍証は他にもございます。ガゼフ・ストロノーフをご存知でしょうか?」

「王国の戦士長だ。高潔な戦士だった」 

「私もそのように伺っております。ガゼフは王国の国王であるランポッサに見出され、王国戦士長の座を与えられました。では、ガゼフが忠誠を捧げているのはランポッサなのか、それとも国王か、はたまた王国か、いずれなのでしょう?」

 

 アインズは、ちらと横目でアルベドとデミウルゴスの様子を窺った。二人は軽く頷いて納得の素振り。

 二人はわかっているようでも、アインズにはちょっと飲み込めない。しかし、この場にはシャルティアがいる。シャルティアが効果を発動した!

 

「それがなんでありんすか全部一緒でありんしょう!」

 

 わからないことを素直にわからないと言える凄さ。もしもこれがアルベドやデミウルゴスの話だったら見栄を張って知ったかぶりをしたかも知れないが、階級が下であるこの男には強気に聞けるらしい。

 もしかすると、アルベドやデミウルゴスが話をする際にこの男を同席させ、そしてシャルティアがこの男に解説をさせればよくわからない話がよくわかるようになるのではないだろうか。それはとても素晴らしいアイデアに思えた。

 

「それでは、ナザリック、階層守護者、シャルティア様のお名前をお借りして例えましょう。ここでのナザリックは、アインズ様を頂点とした巨大な組織と考えてください。階層守護者である皆様は、ナザリックへの脅威を打ち倒し、アインズ様の憂いを払うのが役目です。アウラ様とマーレ様もそのようにお考えでしょう?」

「当然でしょ!」

「お姉ちゃんの言う通りです!」

 

 弱気なところを見せることがあるマーレも、階層守護者の役割は強く肯定する。

 

「それではアウラ様。アウラ様は甘いサクランボがお好きでしょう。食べたくなるときがありませんか?」

「…………まあ、あるけど」

「そんな時に手元になかったら誰かに命じて取ってこさせませんか?」

「それは……まあ、そうだけど……」

 

 アインズ様の御前で甘いものが好きだとか取ってこさせるとか言う話は、確かにその通りなのだけどもはしたなく思えてちょっぴり恥ずかしいアウラちゃんである。

 男はアウラの様子を気にかけず、シャルティアへ視線を戻した。

 

「それではアウラ様と同じ階層守護者であるシャルティア様も甘いサクランボがお好きですね?」

「それが好きなのはアウラでありんしょう。私はそんなの食べんせん」

「はい、承知しました。このようにアウラ様は階層守護者ですが、階層守護者全てがアウラ様なわけではありません。アウラ様だけでなく、シャルティア様もマーレ様も、デミウルゴス様もコキュートス様も階層守護者です。階層守護者とは役割であって、シャルティア様個人を指すわけではないのです。こう申し上げれば先の事もわかっていただけないでしょうか? 国家とは組織です。国王とは組織の長を勤める役割です。ランポッサとはランポッサ一個人を指します。よろしいでしょうか?」

「うむむ…………、役割と私、でありんしょうか?」

 

 ほおと男が眉根を上げた。

 

「仰る通りでございます。役割と個人、つまりは公と私と言うことです。話を戻しましょう。ガゼフが仕えていたのはランポッサ個人なのか、国王と言う名の役職なのか、王国そのものなのか。それが不定なのです。言い換えますと、時と場合によって仕える主を変えているわけです。そして最後はアインズ様との一騎打ちに望み、アインズ様から下れとの提案を拒否して死を与えられました。恐れながら、アインズ様にお聞きします」

 

 男はその場に跪く。

 恐れ多くもアインズ様に問いかけるのだから、立ったままでは不敬というものである。

 

「仮にガゼフがアインズ様の元に下り、ランポッサの助命を嘆願したら如何なさいましたか?」

「む……それは、だな」

「ありがとう存じます。その一言で十分でございます。配下となったガゼフから嘆願されれば一考の余地があるとお考えなのですね」

「生かしておくにせよそのままには出来ん」

「その際は権力と財力の全てを奪い、辺境に封じるのが妥当となりましょう。ガゼフが真にランポッサを思い忠誠を捧げていたのならば、アインズ様の元に下って助命を願うべきでありました。しかし、ガゼフが最後に仕えたのは己の矜持です。矜持と言えば聞こえは良いですが、言ってしまえば我が儘です。先のネズミたちと同じ。ガゼフは主より国家より、自分の我が儘をとったのです。かようなガゼフを扱えるのはアインズ様の大器だけだったのでしょうが……」

 

 男の言葉にしばしの沈黙が満ちる。

 生まれた時から強者であった守護者たちには想定しづらい状況だ。

 ガゼフをバカだと言うのは簡単だが、アインズが高潔と評した戦士を嘲ることは出来ない。

 

「ガゼフは特異な例だとしても、自分たちが構成する群れよりも己個人を最優先するのが現在の王国です。階級が上がるに連れてこの特徴は顕著となります。

 王国は王族と貴族があるが故に不法と腐敗に満ちているのです。私情を挟まず申し上げますれば、病を食い止めるために病原を根絶しなければなりません。王族貴族を絶やすため、必要とあらば私の命をお使いください」

 

 

 

 長い話が終わった。

 男は跪いたまま、深く頭を垂れている。

 一同は男の姿を注視していたため、アルベドが右の瞼を震わせたのは誰も気付かなかった。

 

「顔を上げよ」

「はっ」

「二つ言っておくことがある。まずは王族のラナーと言ったか。デミウルゴス!」

「はっ! 王国の第三王女ラナーについては、魔導国に協力した功績をもってナザリックに領域守護者待遇で受け入れることを検討しております」

「と、言うわけだ。これは私の名において決定したことでもある。お前の危惧はわかるが、たった一人でナザリックを腐敗させることはあり得ん」

「……仰せの通りでございます」

 

 再度頭を垂れた男は、うえぇまじかよと思っているのだが、こちらもアルベドの怒りと同様に誰にも伝わらなかった。

 

「そしてもう一つ。これはお前だけでなく、お前たち全員への言葉だ」

 

 アインズ様のお言葉である。

 一同は居住まいを正して、お言葉を待った。

 

「死ぬことは絶対に許さん。それがたとえ私の命令であってもだ!」

 

 死ぬなと命令するのはわかる。

 しかし、死ねと命令されても死んではならないと言う。

 明らかな矛盾は、知的労働が担当であるアルベドとデミウルゴスを混乱させた。二人が混乱するのだから、その他の面々には訳が分からない。

 

「私はけして無謬ではない。時には間違うこともあるだろう。だが、お前たちに死ねと命じるのは何があろうと絶対に間違っている! もしもそのような事を私が言った時は、お前たちは臆さず私を正さなければならない。もう一度言うぞ。死ぬな」

「あ……、アインズ様……!!」

 

 アルベドが椅子から崩れ落ちると、椅子に座り直すことなく床の上に跪いた。

 アルベドだけではない。デミウルゴスもコキュートスも、アウラとマーレにシャルティアも椅子から降りて床の上に跪く。

 一様に頬を涙に濡らしていた。

 

 アインズ様が、ご自身の命令よりもシモベである己たちの命を優先しろと仰ったのだ。

 アインズ様はけして間違わないことをよくよく知っている守護者たちだ。だと言うのに、アインズ様は自分は間違えることもあると言ってまで己たちの命を大切にしろと仰ったのだ。

 アインズ様はご自身が泥を被るのを厭わず、己たちの命を大切にしろと仰ってくださったのだ。

 我らが偉大なるアインズ様はご自身の矜持すら投げ捨てて私たちを大切に思ってくださっているのだ!

 

 一同の感動は尋常なものではなかった。

 シャルティアは声を上げて泣くし、アウラとマーレは鼻をすすっている。

 デミウルゴスは顔を上げられず、床上にぽたぽたと水滴を垂らしている。

 コキュートスは全身を小刻みに震わせて、カツンカツンと鳴るのは凍り付いた涙なのか。

 アルベドはたおやかな微笑みを浮かべ、けども黄金の瞳は感動に潤んでいる。

 

 

 

 アルベドの号令の元で一同がアインズへの忠誠の儀を行っている間、アインズはちょぴり引いていた。

 自分が間違うのは当たり前で、その当たり前をシモベたちに見せる気になったのは、そこに跪く男にちょっぴり弱気を吐露したことがあるからだ。だと言うのに、どうしてこんなことになっているのだろう。

 顔を上げた男と目があった。守護者たちほどではないが、男の目には新鮮な驚きが浮いていた。

 どういうことか後で解説させようと考えている間に忠誠の儀とか言うのが終わる。

 コホンコホンと咳払いをして、一同を椅子に座らせた。

 

「さっきのお前は私情を挟まずと言ったな? それなら私情を挟むとどうなるのだ?」

 

 私情を挟まずと言うのは、個の欲求よりも公の利益を優先すると言うこと。

 聞いたところで、まさか一個人の欲求をナザリックの利益に優先させるわけがない。単なる好奇心である。

 

「恐れながら、皆様に失礼な事であるかと存じますので」

 

 失礼と言うからにはナザリックの利益に反することなのか。

 先走ったシャルティアは少しだけ不快に思う。お兄ちゃんは人間だからやっぱり人間の味方をするのか。

 

「構わん。お前たちも、この者が何を言おうとそれをもって責めることを禁じる。いいな?」

 

 一同が承諾したところで男が口を開く。

 果たして続けられた言葉は、思いも寄らないものだった。

 

「私情を正直に申し上げれば、興味がありません」

「……ほえ?」

 

 意外な言葉にシャルティアが間の抜けた言葉を漏らす。

 慌てて取り繕い、先を促した。

 

「私の父方は祖父の代に王国に定住した流浪の一族だそうです。私にはその血が濃いのでしょう。早くから養父母の家を出て、長旅に耐える体にまで成長したら王国を出て帝国へ向かおうと思っておりました。残念ながら叶わなかったわけですが……。王国を出ることを決めたその時から、私にとっての王国は過去のものとなりました。ゆえに、今の王国がどうなろうと興味がありません。時には思い出して懐かしむことがあるかも知れませんが、あろうとなかろうと思い出が変わるわけではありませんので」

 

 嘘を言ってるようには見えなかった。

 アインズが一切の責を問わぬとして話させたことなのだから、嘘を言えるわけがない。つまらない嘘を言う男でもない。心から興味がないと言っている。

 王国が滅ぼうと繁栄しようと、この男にとってはどちらでもよいのだ。

 

「そうか。そう言うことなら……」

 

 アインズが曖昧に濁した言葉の続きを察せられない男ではない。

 全てを飲み込み、恭しく頷いた。

 

「わかった。それでは……」

 

 必要と思われる話は一通り聞き出した。

 アインズが閉会を口にしようとした時、デミウルゴスが手を挙げているのが目に入る。

 顎でしゃくり、発言を許す。

 

「私から一つ聞きたいことがあります。あなたは王族貴族を絶やすために自分の命を使えと言いましたね。それはあなた自身が王族あるいは貴族の血を引いているからの発言でしょうか?」

 

 自分が生きていると王族貴族の血が残ってしまう。だから自分諸共滅ぼすべし。聞きようによってはそうとれるのだ。

 もしもこの男が王族の血を引いていた場合、現在の王統を倒した後に玉座に着けて傀儡とする選択肢があった。あくまでも選択肢であって絶対に選ばれることはないだろう。しかし、アインズ様から選択を奪うのは甚だ不快である。

 不快の矛が向くのは秘密を隠していた男と、そこに思い至らなかった自分自身。

 

 男は意外な事を聞かされたように、パチパチと二度瞬きをする。

 自分の命をと言ったのは言葉の綾で、死んだとしても生き返らせてもらえればと思っていた。

 

「誤解を招く物言いをしてしまい申し訳ございません。先に申し上げた通り、父方は祖父の代に王国入りしました。こちらに王族貴族の血が入る余地は皆無です。ですが、母は王国に古い一族の生まれです。こちらでは王族の血が幾分混じっておりましょう。いずれにせよ正式な結婚の末に生まれた身ではありませんので、血統を主張することは出来ません」

「なるほど、わかりました」

 

 王国も帝国も父系社会だ。母の血筋がよくとも、父がどこの誰とも知れぬ男なら玉座がどうのとは無理な話である。

 

 

 

 二人のやり取りを聞いて、アインズは極当たり前のことを思い出した。

 アインズが持つオーバーロードの体はアインズが人間であった頃にゲーム内で作成したアバターだ。この場にいる守護者たちはギルドメンバーたちが作成したNPCである。どちらもゲーム世界のものだったのに、異世界に転移したら己自身の体となって、NPCたちは自我を得た。

 しかし人間とは、何もないところからぽっと発生するわけではない。父がいて母がいて、それで生まれるものである。

 

「お前に家族はいるのか? いるのなら魔導国に呼び寄せておくと良い」

 

 なんとお優しいアインズ様であることか!

 感激して然るべきだが、言われた男はアインズ様のお優しさに震える守護者たちと違ってどこまでも冷めていた。

 

「祖父は私の幼い頃に他界しました」

「……そうか」

「はい」

「…………それで?」

「はい?」

「…………うむ?」

「………………?」

「………………?」

 

 会話が止まる。

 男は答えるべきは答えたと考え、アインズは続きを待っている。

 アインズ様がお言葉を話されている最中なので、守護者たちは横やりを入れられない。

 微妙な沈黙が流れた。

 

「他に家族がいるだろう?」

「おりません」

 

 きっぱりと答えた。

 これにはアインズ様も一同も少々困惑してしまう。

 アインズはアルベドをちらと見た。この男の扱いでよくわからない時はアルベドに投げるのが一番である。

 

「養父母がいると言ったでしょう。それに生みの父と母がいるはずよ。アインズ様がお尋ねになっているのはそのことよ」

「かしこまりました。私は家族と思っているわけではありませんが、養父母と血縁に関してお話しいたします」

 

 血がつながっているから自動的に家族になるわけではなく、共に住み暮らしているから家族になるわけではない。この男の基準では、家族と呼べるのは他界した祖父だけだった。

 それでも話せと言うのなら報告しなければならない。

 

「私は養父母の元で豊かな幼少期を送りました。それは養父母が裕福だったわけではなく、私を引き取り育てることで年金が支給されたからです。家族の情は互いに抱いておりませんでした。実際に祖父の他界後は露骨に扱いが悪くなり、早々に家を出て一人で生きることを選びました」

 

 帝都のお屋敷で囲っている双子幼女よりもう少し成長してからの話である。

 なお、この男を逃がした養父母は年金を打ち切られた。それの意趣返しか生きる糧を得るためか、奴隷商に美貌の幼子の話を持ちかけた。その結果、大火に巻き込まれてしまうのは大変不幸なことであった。

 

「父は処刑同然に戦線に送られ、私が生まれるのに前後して死んだそうです。父については祖父から聞かされた以上のことを知りません」

 

 死ぬくらいなら逃げろと思った。しかし、母の身に宿った命を人質にされたとも考えられる。それを思えば感謝しなくもない。

 真実を知る者は死んだ父と、他に数人いるかどうか。今こうして生きている以上、どちらであろうと関心がない。

 

「母とは一度も会ったことがありません。遠目に見たことが何度か。話を聞かされたことは何度もありますが、いつしか聞かなくなりました。私が母に興味を持っていないことを察したのか、死んだのか。どちらであるか確かめたことはございません。祖父から聞いたところによると、私とは生まれた直後に引き離されたそうです」

 

 家族と思っていた祖父はもういない。

 養父母とは絶縁。

 父は死に、母は知らない。

 アインズが唸るくらいには天涯孤独だった。

 

「ただ、妹が一人おります。こちらはある程度成長してから知ったので、やはり家族とは思えません。魔導国へ呼び寄せようにもナザリックに招くとお聞きしましたので、私からは特に何もございません」

「…………………………うむ?」

 

 知的労働が得意でない者たちは、妹がいるのか、としか思わなかった。

 アインズはナザリックに招くと言うところが引っかかったのだがそれが何を意味するのかすぐには飲み込めない。

 アルベドは瞬時に理解したが、心が理解を拒んだ。

 

 しかし、この場にはデミウルゴスがいる。

 デミウルゴスは男の言葉が何を指しているのか理解し、不足部分を埋めようとアインズに断ってから口を開いた。

 

「あなたの過去は簡単に聞いています。それは、義理の妹、と言うことでしょうか?」

「いえ、血の繋がった実の妹です」

「…………ふむ」

 

 デミウルゴスが思案顔で顎を撫でるのを見て、男はようやくアルベドの様子がおかしいことに気が付いた。

 アルベドは切れ長の目を限界まで大きく見開き、顎が外れたかのようにぽかんと口を開いている。

 

 アルベド様はご存知と思ったがご存知でない方もいることであるし、改めて話しておいた方がよいと考えた。

 

「リ・エスティーゼ王国の第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフは……、長い名前ですね。ラナーは私と母を同じくしております。ラナーと私は、父が異なる異父兄妹となります」

 

 アルベドから異様な気が発せられ、誰も口を開けない。

 

 

 

 アルベドがぷるぷると震えてから15秒後。

 

「はああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」

 

 アインズ様の御前であるのに、アルベドは絶叫した。




ソフィーが自分の娘と確信したのは似てたから
第一第二王子、第一第二王女とラナーは母が違う異母兄妹なので、ラナー以外と血縁はありません
77話のジルクニフはいいとこつきましたが知ったところで意味はないと考察を中断しました
フラグをあちこちに蒔いたつもりです
兄と妹なので似てるのは当然でした

次回、未定
読んだの一言でも感想もらえると凄くうれしいです


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黄金の病みと兄の現在

暑くてもう無理と前書きに書くために投稿_(:3 」∠)_
連日40度とか嘘だろどこに苦情いれればいいのだ


 私にはお兄様がいるそうです。絶対に秘密だと念を押してから、お母様が私にだけ教えて下さいました。

 私はすぐさま「おにいさまのおとうさまは?」と尋ねました。お母様は黙って首を振るきりです。それでおおよその事が知れました。お兄様のお父様はもう生きてはいないのでしょう。いずれにせよ私とは無縁の方です。生きていてもお会いする機会はありません。それよりもお兄様の事が気にかかります。二人のお兄様とはどう違うのでしょうか。

 

 私には二人のお兄様がいます。お母様がお話になったお兄様はどちらのお兄様でもありません。私が如何に幼かろうとお母様がそのように愚かなことを言うはずがありません。月を指してあれがお月様と教えるのは、言葉を覚え始めた幼子にするものです。

 二人のお兄様はお母様が生んだ子供ではありません。お母様の長子は私です。私のはずでした。ですがお母様は「あなたにはお兄様がいるのよ」と仰いました。お母様は私の前にお兄様を生んだのです。

 王妃であるお母様と国王であるお父様との間に生まれた子供なら王国の第三王子になっているはずです。しかし、そのようなものはおりません。王妃は国王以外の子供を孕んだのです。

 

 お兄様のお父様は処刑されたのでしょう。王妃に不貞を働いたのですから当然に思えます。お母様が連帯とならなかったのはお美しいからでしょうか。私の耳にもお母様のお美しさを称える声が何度も聞こえてきています。お父様はお美しいお母様を処刑することが惜しいと思ったのでしょうか。それとも醜聞を恐れたのでしょうか。王妃が国王以外の男に心を奪われたのが明るみになれば敵対派閥に力を与えてしまいます。

 ここまで考えますと、私だけのお兄様が生まれたのはお母様とお父様がご結婚なさってからだとわかります。国王が未婚の子供を産んだ女を王妃に迎えるわけがありません。

 お兄様の存在は秘中の秘と呼べます。存在が明るみになれば国王の威信が落ちます。存在を知っているのは、それこそお母様とお父様だけかも知れません。お母様がお一人でご出産なったとは思えませんが、口は封じれるものですから。

 

 お兄様のお父様は死んでいます。ですが、お兄様は存命なのでしょう。わざわざ無事に産まれた子供を葬るくらいなら流した方が早いのですから。母と言う生き物は自分の子供が生きているか死んでいるかで心身の調子が大きく違ってくると聞いたことがあります。おそらく、王族や貴族からは遠い商人や職人の家に押し付けたのではないでしょうか。扶養のための年金を付ければ手を挙げる者は幾らでもいます。

 お兄様を生かしておくことがお父様なりのお母様への温情なのかも知れません。なんて無駄な事をと思ってしまいます。ですが、お母様の心身の調子を整えて私を生ませるために必要だったとするならば、そのようなものと受け入れるしかないでしょう。

 

 それからのお母様は、私と二人きりになる度に私だけのお兄様のお話をするようになりました。

 

『あなたのお兄様はあなたに似てきっと秀でた男の子よ』

『あなたのお兄様はあなたに似てきっと可愛らしい男の子ね』

『あなたのお兄様はあなたに似てきっと優しい男の子と思うの』

 

 私と似ているお兄様なら、きっと寂しい思いをしていることでしょう。私がそうなのです。それでも、私にはお母様とお父様がいます。けれど、お兄様には誰もいません。

 私と似ているお兄様なら、ご自身を育てている者を実の親とは思えないことでしょう。秀でた美しさが違います。言葉が通じても意味が通じません。

 

 この頃、私の侍従たちが不思議な泥棒の噂話をしていました。

 私は王国の第三王女です。私の侍従は町娘ではありません。然るべき地位を持った貴族の令嬢なのです。彼女たちの父祖は大きな領地を持って、王都にも大きな屋敷を構えています。

 そんな彼女たちが噂する泥棒は、貴族の屋敷に忍び込んでパンを食べてスープを飲んでいったそうです。

 私はすぐに、それは子供が忍び込んだのでしょうと教えてあげました。

 

 大きなネズミが悪さをしたと言う者がいました。ネズミがパンを齧るならともかく、スープは飲みません。

 手癖の悪い使用人が犯人だと言う者もいました。使用人の不手際なら家令が処断します。

 噂になるくらいですから一度や二度ではないはずです。ネズミでしたらとっくに駆除をしていなければなりません。手癖の悪い使用人は金品ではなくパンとスープだけを盗むのですか。こっそり屋敷に忍び込める魔法使いがわざわざパンとスープだけを盗むわけがありません。

 何度も盗んでいるのに見つからないのは見つかりにくいからです。大きな体ではどうしても目立ちますから、きっと小さな子供でしょう。

 

 ここまで話してあげたのに、頑なに否定します。

 話を聞きますと、不思議な泥棒は幸運の妖精の仕業だと言うことにしたいようです。本当のことよりも、信じたいことだけを信じているようです。目の前で起こっている事よりも、お伽噺を信じているようです。

 侍従たちだけではありません。みんながみんなそうでした。

 

 自分で口にした言葉なのにどうしてすぐに忘れるのかわかりません。

 自分の言葉を忘れるくらいですから、私の言葉はあっという間に忘れられます。同じ事を何回も何回も何回も言ってあげないと頭に入れてくれません。

 同じ事を何回も説明しないと次に進めません。一つ一つ具体的に説明しないとわかってもらえません。見ればわかることなのに、理解が及ぶまで途方もない時間を待たされます。

 どうしてわからないのかわかりません。話が全く噛み合いません。同じ物を見て同じ事を取り上げているはずなのに、互いに全く違うものを指しているように思えます。私の目はみんなとは違うのでしょうか。私の頭はみんなとは違うのでしょうか。

 一人や二人ではありません。みんなです。私と同じ姿をして、同じ言葉を話しているのに、同じ生き物と思えないくらいに違います。

 私が感じることをみんな感じていました。みんなは私を指して「あれは違う」と言うのです。

 『違う』とは幾重にも柔らかくした表現です。率直に言えば強い不安でしょうか。みんなが私を見る目に、強い不安が浮かんでいるのです。

 

 不安は恐怖の萌芽です。わからないからこそ不安なのです。わかってしまえば恐怖になりましょう。恐怖を浮かべて私を見る者もいました。

 私の何がわかって、何が恐怖なのでしょうか。どうしてそんな目で見られなければならないのでしょうか。わかってくれたのなら安堵するべきではありませんか。

 わからないのは私です。どうしてあなた方はそんなにもわからないことばかりなのでしょう。私にはそれがわかりません。

 

 

 

 手を変え品を変え、妖精の噂話は浮いたり沈んだり。小さな泥棒は王都の隅々にまで出没しているようです。

 時々泥棒の正体を考察してみます。小さな子供なのは間違いありません。妖精との呼称は誰か目にした者がいたのでしょうか。妖精と呼ばれるくらいですから秀でた姿をしているのでしょう。

 小さな泥棒は、きっと堂々と屋敷の正門から入っています。公爵家や侯爵家のタウンハウスは大きな壁で囲われています。子供が何度も上ったり下りたりするのは大変でしょう。それとも夜間に道具を使って忍び込むのでしょうか。そんな事を何度もされて気付かないほど愚かな人たちではないはずです。そんな事をするくらいなら、門番の目をそらして入る方がずっと楽ですから。

 そして狡猾です。侵入が発覚しているのに誰も大きく騒ぎません。欲をかかず最低限のものだけを盗んでいます。泥棒に入られるのと妖精に悪戯されるのとでは受け止め方がまったく違います。

 噂が遠い時期もあります。捕まったとは聞きません。死んだとも思えません。私の侍従たちの目と耳に入らないところで盗み続けているのでしょう。そうして噂が下火になったら帰ってくるのです。

 きっと楽しい毎日です。好きなところへ行って、好きなものを食べるんです。お供なんてありません。自分一人で全部するんです。

 そんな毎日が送れたらと考えたことはありません。羨ましいとも思いません。だって、私にそんな日が来ることはありませんから。

 

 初めて不思議な泥棒の話を聞いてから初めての冬を迎えました。

 ある夜のこと、焦げた臭いを感じて目を覚まします。部屋の外では大勢の人間が走り回っているようです。しばらくして私の部屋に侍従が飛び込んで来ました。大きな火事があったようです。幸いにも王宮に火が飛ぶことはなさそうです。

 私の部屋から窓を開けますと、南の空が赤くなっているのが見えました。煙の臭いがここまで届くくらいですから、城下の一角を焼き尽くすほどの大火と察せられます。

 

 私は王女ですから、自由に外へ出ることは出来ません。それでも、何度かお供に連れられて城下の街を見たことがあります。火が上がっている辺りには近付いたこともありません。治安が特に悪い区域なのでしょう。

 ほおと赤い空を見上げる内に、胸が高鳴ってきました。

 

 ああ、お兄様はなんて美しいのでしょう!

 

 自分で思っていたことなのに、私はお兄様のことを失念していたのです。

 私と似ているお兄様は扶養者とうまく行かないと思ったのは私です。お兄様は扶養者から離れ、一人で生きていくことにしました。

 不思議な泥棒はお兄様です。お母様があれだけ美しいと口にするお兄様ですから、妖精と例えられるのも当然のことでした。

 ですが、美しいとは幸いなことばかりではありません。王都の治安は年々悪くなっていくばかりなのです。美しい少年は人攫いの目を大いに引くことでしょう。お兄様はそれを焼き払ったのです。何故ならば、私がお兄様なら間違いなくそうしていますから。

 

 お兄様は好きなところへ行くことが出来るのです。好きなものを食べる事が出来るのです。好きなときに眠ることが出来るのです。

 何をするも自由です。自由を阻むものは何者であろうと焼き払ってしまいます。

 空を飛ぶ鳥のようです。広い広い大空をたった一人でどこまでもどこまでも飛んでいけるのです。

 空を飛ぶ鳥を羨ましいと思ったことは何度もあります。狭い籠に囚われず、どこまでもどこまでもたった一人で。

 胸が高鳴り、焦げるほど羨ましい。

 自由が、何者にも囚われない自由が。

 何も求めず、何も与えず、たった一人で。

 

 大火が天を焼いています。

 あの辺りの地理は詳しくないのですが、死傷者が千を下る事はないでしょう。

 如何に治安が悪い土地と言えども、王家が何もしないわけにはいきません。お父様たちは明日から忙しくなることでしょう。私だけのお兄様は煩わしい者たちを焼き払って安穏と眠ることでしょう。

 お兄様はなんて美しくて、なんて素晴らしいのでしょうか。

 

 広い広い夜空が赤く照らされています。

 星は見えません。強い風が吹いて、まき散らされる無数の火の粉が星々の代わりです。炎が舞い上がって、雲を払うほどになりました。雲間に星々が覗きます。

 

 どこまでもどこまでも高い星空を見ている内に、胸の高鳴りは収まりました。私は、お兄様を地に落とすことを決意しました。

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

「あっ! なっ! たっ! はっ! じっ! つっ! のっ! いっ! もっ! うっ! とっ! とぉっ!!」

「あばばばばばばばばばばばばばば!!」

 

 アインズ様には見せてはいけない顔をして、アルベドは男の胸ぐらを掴んだ。

 

 想いを通じて愛を交わし、前の女との縁が切れているのを確信したと思ったら切っても切れない縁があった。しかもあろうことか実の兄と妹。

 アルベドは、この男がラナーとしてきたことを知っている。それこそ匂いが嗅げる至近距離から、背中が二つある怪獣ごっこを抜かずに三回もしているのをじっくり見ていた、何度も生唾を飲み込みながら。

 血の繋がった実の兄と妹でそんな事をするのは常識に照らし合わせればあり得ない。しかしながら、実の娘とそのようなことをさせてやっても良いと考えているアルベドだ。それというのもあちらは人間でこちらはサキュバス。サキュバスにそんなタブーは存在しないので全く問題ない。

 これをダブルスタンダードと云う。

 

「なっ! にっ! をっ! しっ! てっ! るっ! のっ! よっっ!!」

「………………………………………………………………」

 

 アルベドは吊し上げた男を上下前後に揺さぶる。近接戦闘に優れたシャルティアやコキュートスですら男の頭が三重に見える高速運動。このままでは頭の中身がシェイクされて耳や鼻から出てくるか、頸椎が外れるか折れるかもげるかしてしまう。

 リザレクションのお世話になりそうな男を救ったのは、偉大なるアインズ様であった。

 

「ウオッホン!」

「はっ!? 申し訳ございません!!」

「あっ……」

 

 ゴキャァ!! ピクピク……。ウワァ、ソレハイササカ、ウヌゥ、イイニオイ、ヤリスギ、アワワ。

 

 この場がどこであるかを思い出したアルベドは、すぐさま跪いて頭を垂れる。自分が跪くのだから男にも頭を下げさせなければならない。

 顎から逝ったのは幸運なのか不運なのか。もしも額から逝っていたら割れて中身が飛び出る勢いだった。その場合、リザレクションのお世話になったろうが苦痛は短いと思われる。

 床に押し付けられた男の顔から赤い血が広がっていく。手足がピクピクしてるのは今わの際の痙攣か。アインズはどん引きした。

 

「あー……。デミウルゴス、ペストーニャを」

「はっ、ただちに」

 

 男の惨状は一刻を争う事態だが、デミウルゴスは優雅に一礼してから走ることも大股になることもなくいつも通りの歩調で退室した。たとえ間に合わなくてもリザレクションのお世話になってもらえばいいのだ。

 それはそれとして、回復させるか復活させるかしないと綺麗にすることが出来ない。わかっているデミウルゴスは円卓の扉を閉めるなり駆けだした。

 なお、一番早いのはアインズがメッセージの魔法を飛ばすことであるが、シモベたちに仕事を与えてやるアインズの思い遣りであるに違いない。忘れていたわけではないはずだ。

 

「お前たちの間で齟齬があったようだが……」

「申し訳ございません。大変お見苦しいところをお見せしてしまいました!」

「よい」

「アインズ様……!」

 

 アインズ様の御前で自裁ものの醜態を晒したというのに、偉大にして寛大であられるアインズ様はお許しになられた。アインズ様のお心は海よりも深く天よりも高く、まさに世界を統べるに相応しいお方。

 一同はアインズ様のお心に感動しているのだが、当のアインズは下手に突っ込むとろくでもないことになるに決まってるのでこれ以上関わりたくないだけであった。

 

「その者と王女が兄と妹であることはわかった。幸いなことに王女はナザリックで受け入れる予定だ。そうしたら兄と妹で暮らすが良い。家族は大切だからな」

 

 プゲェ!?

 

 男が叫ぶ。しかし、鼻も口も失われて床に押し付けられている現状だ。血溜まりが僅かに泡だっただけだった。

 

「お、恐れながら申し上げます。この者が妹と暮らすことを望んでいるとは……」

「何故だ? 兄と妹だろう。ああ、わかった。確かに表面上は険悪な兄妹もいるだろう。しかし血が繋がった兄妹だ。いつか必ずわかりあえるはずだ」

 

 アインズは、ちらとシャルティアを見る。

 シャルティアは友人のペロロンチーノが残した一粒種だ。友人が作ったNPCなので、シャルティアの設定を前々から聞き知っていた。そこには「アウラと仲が悪い」とある。

 自我を得たNPCが設定を反映しているのは間違いないことであって、シャルティアも例に漏れない。現にアウラとは頻繁に口喧嘩をして、キャットファイトに発展するのがいつものことだ。

 しかし、シャルティアとアウラはけっして仲が悪いわけではない。それどころか喧嘩するほど仲が良いを体現している。それは、シャルティアの創造主であるペロロンチーノとアウラの創造主であるぶくぶく茶釜が実の姉弟だったからだ。

 ペロロンチーノがぶくぶく茶釜にあれこれ文句を言っていても、本当は仲良しなのをアインズはよくよく知っている。

 

 アインズが知る血の繋がった兄妹姉妹は、ペロロンチーノとぶくぶく茶釜しかいないのだ。唯一のサンプルが仲良しなのだから、兄弟姉妹と言うものは全て仲良しであると間違った認識を得てもおかしいことではなかった。

 

「……仰せの通りでございます」

 

 プゲラ!?

 

 血溜まりがまたも泡立つが誰も気付かない。

 

 兄本人が抗弁するなら兎も角として、アルベドが兄と妹の事に口を挟むことは出来ない。ましてアインズ様の温情なのだ。余計な口を利こうものなら正気を疑われる。

 せめて、その妹が兄を何年間も監禁していたことを知らしめれば良かったのだが、機を逃した。

 それを知っているのはアルベドだけ。デミウルゴスはラナーに囚われていたことだけは知っているが、何が起こっていたかまでは知らない。

 その他の面々は、アルベドがどこからか連れてきたとしか思っていない。

 

「王女を迎えるのはまだまだ先だが、その前に顔合わせしておくのも悪くないだろう。向こうも兄が生きていると知れば喜ぶだろうからな!」

 

 プゲェェエ!?

 

 しかし血溜まりが泡立つだけである。

 

 

 

 さすがのアインズ様が、略してさすアイが発動してしまった。

 

 アインズは、兄と妹が一緒に暮らせる未来を純粋に喜んでいる。弱音を吐いてしまったりアルベドの抑えになってくれたりカッコイいブレイドアーツを教えてもらったり、何かと力を借りてる男だ。贔屓な気がしないでもないが、これくらいは良いだろうと思っている。

 シャルティア以下の守護者たちはアインズ様のお優しさに打ち震えている。

 アルベドは顔を深く伏せて、唇を噛み切った。

 男は死にそうになっていた。

 優雅なデミウルゴスは急いでいてもちょっとゆっくりだった。




ラナーの回想をもっとねちっこく書きたかったがそうすると本作の方向がクルッとしてやたら長くなる(本編より長い回想が流行った時期がありました)のはいいのだけどエントマ登場が弾かれそうなので断念
エントマ出張が終わったのでそろそろ出てくるはずなんです


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女が生まれながらの女優であるなら覚醒サキュバスが大女優であることは確定的に明らか

コロ介さんの感想によってアルベドより先にアインズ様が気付きました
が、有効活用されるかどうかは全くの未定です


 少し考える事があると、アインズは一人円卓に残った。

 件の男についてである。酷い火傷を負ったり天涯孤独であったりと不幸な半生を送っていたようだが、ナザリックの一員となって火傷を癒やされ真っ当な生活を手に入れ、近い未来に家族と共に暮らせるようになる。

 聖王国を魔皇の魔の手から救ったアインズだが、あれはマッチポンプなのでノーカン。今回のは純然たる善行。善いことをした満足感に一人深く頷いた。

 カルマ極悪であるアインズだが根は善良なのだ、と言うと矛盾があるようだが実際そうなのである。だからこそシモベたちが傷つけば我が事のように怒り、シモベたちが喜べば我が事のように喜ぶことが出来る。

 

(そう言えばあの時、母は一人で産む決意をしたけど出来る能力も立場もないとか言ってたな。そりゃ王妃がこっそり子供産むとか無理だろ)

 

 アルベドとの現場を押さえ、ついでにナザリックへの忠誠心を試した時のことだ。

 試した結果、忠誠はナザリックやアインズ自身と言うよりアルベドへ捧げているようであったが文句なく合格。合格したのはまず良かったがその後に生き返らせるのに苦労した。

 リザレクションによる復活を拒否したのはわかる。その後、マジックアイテムで強制的に復活させた直後に死んだのはわからない。ブレッヒェン・ロンブスの修練をした際にそのあたりの話を聞きだした。

 なんでも、ソリュシャンが欲しがったので50本以上手足をぶった切った際に必要に駆られて血流の操作を覚えたとか。あまりの事に流せる涙があったら流していたかも知れなかった。

 

(あの時はあいつにドミネイト・パースンを掛けて…………、待てよ?)

 

 完全不可知化の魔法によって姿を消した状態で魔法を打ち込んだ。攻撃したり魔法を使ったりすると姿を消した状態は解除されてしまう。だから魔法を使った後にこちらを見られるのはおかしいことではない。

 しかしあの時、あの男は魔法を掛ける前にこちらを見ていなかったろうか。

 完全不可知化の魔法を破る方法はある。どれもあの男は使えないはずだ。アウラは完全不可知化状態でもなんとなく気配を感じるとは言っていたが、まさか100レベルのレンジャーであるアウラほど鋭い感覚を持っているわけがない。

 しばし考える。答えは出ない。

 

 アインズは玉座の間へ向かう。

 玉座からなら、かつてユグドラシルで使用できたナザリックの管理システムを使用することが出来る。正式にナザリックに迎え入れた男なので、管理システムから情報を閲覧できるはずなのだ。

 

 

 

 

 

 

 一方、こちらは修羅場っていた。

 

 アルベドの私室にて、バタンと大きな音を立ててドアが閉まる。アルベドは目尻を吊り上げて振り向いた。

 男も眉間に皺を寄せている。珍しく険があった。

 アルベドから口火を切った。

 

「どうして黙っていたの?」

「アルベド様はとうにご存知と思っておりました。改めてお聞きします。ラナーが私の妹であることをご存じなかったのですか?」

「知らないわよ!」

 

 アルベドはナザリックで生まれたからこそ気付けなかった。

 ナザリックのシモベたちで人の姿をしている者は、例外なく美しい容姿を誇る。偉大なる至高の御方々がそのような姿を与えたからだ。全員がそうなのだから、外で美しい男や女を見てもこういう者もいるのかとしか思わない。

 彼ら彼女らが思うように、幸運か運命の悪戯かで美しく生まれた者もいるだろう。

 それよりも、血筋によって美しく生まれついた者の方が多い。帝国の皇帝であるジルクニフはその結晶である。権力というものは、富と美を際限なく集める習性があるからだ。

 そのジルクニフは、この男を一目して間違いなく高貴な血統であると見抜いた。カルネ村のエンリは、男神様か王子様かと思った。ナザリックで生まれた者では持てない視点である。

 

「実の妹とあんなことをしてただなんて……いやらしい!」

「いやらしい!?」

 

 覚醒したサキュバスが、男の精液を食事とする大淫魔が、嫌悪に顔を歪めていやらしいと云う。

 

「お言葉ですが、アルベド様は私の言葉をお忘れでいらっしゃいます。あの女を抱くか、死ぬか。私に選択肢はありませんでした。囚われていた私に自由はなかったのです。それなのに、アルベド様は私を責めるのですか?」

 

 もしもシャルティアが相手だったら、一合と噛み合うことなく打ち払われる。

 ソリュシャンやルプスレギナであっても、これ以上は切り込めない。

 しかし、アルベドである。ナザリックにおいて知の代名詞とも言えるアルベドである。

 言葉にしていない急所を見抜き、貫いた。

 

「勿論覚えているわ。でも……」

 

 怒りが嫌悪にとって変わった。

 黄金の瞳が縦に裂ける。風もないのに豊かな黒髪がそよいで波打つ。

 

「あなたから求めたことがないとは言わせないわ!!」

「ぅ……!!」

 

 この男は長く石の部屋に囚われていた。思索に遊ぶ以外に何もすることがない。そこへ美しい少女が訪れる。事が起こらないわけがない。

 

 ラナーの好奇心が始まりだった。

 兄の体は女である自分の体とは違う部分がある。どのように違うのか。どのような機能を持つのか。

 王族の子女として男女の何やらに関しての教育を受け、兄を相手に実践したがった。その過程で、兄の方からも女の体はどうなのかと興味を持ち、妹は体を開いた。

 

「やっぱりそうなのね。それにあなたはあの女が自分の顔を焼いたと知ってたんでしょう? それなのによくもそんな事をしてやる気になったものね!」

「ですから私に選択肢は――」

「それはさっき聞いたわ!」

「……顔を焼かれはしましたが、その後の介護によって多少は受け入れてもよいと思ったのは確かでございます」

「絆されたとでも言うつもり?」

「だとしたら顔も見たくないとは申しません。あくまでもその時に限っての対応でございます」

「…………本当かしら?」

 

 煮えた油を浴びせられ、激しく怒り憎悪したのは事実だ。しかし、火傷がある程度癒えて体を動かせるようになってからラナーへの害意を抑えられたのは、その間があったから。

 王城の一室に運び込まれるのは袋に入れたり箱に詰めたりして幾人もの手を経たらしい。しかし、酷い火傷を負った得体の知れない少年を公然と囲えるわけがない。それ以降は存在を完全に隠して、ラナー一人が全ての面倒を見た。

 食事から下の世話まで。幼い少女の腕では湯を運ぶのも重労働だったろうに毎日体を拭いてもらった。週に一度は全身に香油を塗られてマッサージをされてから垢を擦られた。自分の時間と睡眠時間まで犠牲にして、まさに献身的と言って良い介護だった。

 その頃には自分の境遇を理解し、ラナーに反抗するのはあまり得策ではないと悟ったのもある。

 

「かつてがどうであれ、今はアルベド様に申し上げたことが全てでございます。顔も見たくない。名前も聞きたくない。出来れば間抜けな理由で死んで欲しい。私が思うことに変わりはありません」

「でも、かつてが今になったわ」

「それにつきましては私から申し上げたいことがございます」

 

 アルベドのターンが終わった。

 攻守が入れ替わる。

 

「先ほど私が口を開くことが出来ればアインズ様に申し上げることが出来ました」

「ぅ…………」

「血の繋がった妹だとは言え、共に暮らすなど真っ平御免であると。ですが何も申し上げることが出来ず、アインズ様は決定してしまわれました」

 

 アインズ様の決定である。

 もしもこっそり伝えてくれた事ならば、あれはこれこれこういう理由でなしにしてくださいと訴えることが出来た。家族がいがみ合うのはアインズ様的に残念な事だが理由があるならば受け入れてくださる寛大なお方である。

 しかし、守護者一同の前で決定なさった事はそうはいかない。あげると言ったご褒美をやっぱなしとか言えばアインズ様の沽券に関わる。

 それ以前に、アインズ様のご褒美を要らないとか言ってしまうのは甚だしく不敬な事である。激怒した守護者一同から八つ裂きにされるのは間違いない。アルベドだってそうする。

 

「だって驚いちゃったんだから仕方ないでしょう!」

「仕方ないと仰いますか? アルベド様がいつものように冷静を保っていてくださったなら回避できる事態でした。それを仕方ないと仰るのですか?」

 

 アルベドが男の秘密に怒っているなら、男の方もアルベドの態度に不満があった。

 心と体と命と忠誠の全てを捧げる尊きお方であろうと、道理にそぐわぬ事へは異を唱える事が出来る。

 

「自分のことは棚に上げて私に非があると言うつもりなの?」

「そうは申しません。過去と現在を分けているだけでございます。そして一番重要なのは未来です。過ぎたことは如何に言葉を連ねようとも変わりません。ですが、アルベド様は未来に通じる現在の選択を間違えました。そう申し上げております」

 

 非をあげつらわれ、アルベドの眼光が一層鋭くなる。

 脆弱な存在ならこの場にいるだけで絶命させうる怒気を、男は一歩も引かず受け止めた。

 それどころか、秀麗な美貌を険に歪めてアルベドを見返す。ルプスレギナなら目にしただけで無条件にごめんなさいしてしまう表情である。

 

「!?」

 

 睨み合いは短かった。

 アルベドの眉間から皺は消えていないが、唐突に怒気が霧散する。

 男は狼狽えたように手を泳がせた。

 

「どうしてわからないのよ!」

 

 そう言われても何のことだかさっぱりわからない。

 いつもなら素直に問い返した。出来なかった。

 

「あなたをあの女にとられたくないからに決まってるでしょう!!」

「!!」

 

 アルベドは怒りの形相のまま、大きく見開いた目から、ポロポロと涙をこぼした。

 大粒の涙は頬を濡らし、顎へ伝っていく。

 涙は止まず、顎から床へ滴った。

 

「あなたと何回もセックスしてる女だからどうしても気になるって言ったでしょう!? 会いたくないって言ったから安心してたのにあの女はあなたの妹で、血が繋がってて、私とあなたは血が繋がってるわけじゃないのよ!? 私よりあの女の方があなたに近いって言うの!?」

「アルベド様!」

「あっ!?」

 

 それ以上言わせてはいけない。

 これ以上涙を流させてはいけない。

 アルベドに詰め寄り、強く抱き締めた。

 アルベドは抵抗しない。虚脱したように男に体を任せる。

 

「そんな事はあり得ません。私がアルベド様より妹を選ぶわけがありません。私が愛してるのはあなたです」

 

 アルベド様にあんなことを言わせてしまった。涙を流させてしまった。罪悪感が胸を抉る。

 女の涙なんて面倒なだけで、カルカが泣いていたときは鬱陶しいと思っていた男だ。しかし、アルベド様だけは違う。何としても涙を払わなければならない。

 

「近いと仰いましたが、私の腕が捕らえているのはアルベド様です。私に一番近いのはアルベド様です」

「…………」

 

 アルベドもおずおずと男の背に腕を回す。

 顔は伏せ、男の胸に額を押し付けた。角がちょっぴりちくっと来たが我慢した。

 

「セックスの回数はこれから幾らでも増えていきます。アルベド様がお嫌でなければ、でございますが」

「…………」

 

 アルベドは無言で首を振る。

 またも角がちくっと来たが我慢した。

 

「……あなたが抱きたいのはあの女じゃなくて私なの?」

「当然です!」

「あんっ」

 

 腰を強く抱かれ、アルベドの背が僅かに跳ねる。

 

「それなら……」

 

 笑みを消してから、アルベドは顔を上げた。

 頬は濡れたままだが、涙は止まっている。

 

 止まったではなく、止めたが正しい。アルベドにとって涙の出し入れなど呼吸と同じで自由自在。

 二度も見せてしまった涙なのだ。今更涙を使わない理由はない。武器として有効に活用できるのだから使うべきである。

 効果は抜群で、旗色が悪かった情勢が一瞬で逆転した。あまりにもうまくいってしまったので、にやりと唇の端が持ち上がった。ここで笑ってしまうのは不味い。何とか表情を繕った。

 流そうと思って流した涙であるが、思いも言葉も本当なので騙したつもりはない。

 仲直りに持って行くための演出である。

 

 なお、この場を乗り切ったとしても問題が解決したわけではない。

 

「あっ……」

 

 顎に指を掛けられ上を向かされる。

 アルベドは僅かに背伸びをして高さを合わせ、右目の縁に唇が触れた。ちゅっと軽い音がして涙が吸い取られる。右に続いて左も同様に。

 

 涙を吸い取られるのは、アルベドの乙女心にきゅんと来た。

 女心への無理解を多々見せる男だが、時々こうしてクリティカルを繰り出すから侮れない。頬が上気してくるのは演技ではない。

 

(喧嘩した後のセックスは燃えるって聞いたけど本当みたいね。スゴくドキドキしてるわ。こんなにくっついてドキドキしてるのが知られちゃったら少し恥ずかしいけど、でも……♡)

 

 今度こそ唇を合わそうと、潤んだ目を閉じて唇を薄く開いて、無粋なドアがコンコンと鳴り出した。

 

『アルベド様、失礼いたします。相談役殿をアインズ様がお呼びでございます』

 

 

 

「………………」

「………………」

 

 数瞬、無言で見つめ合った。

 

 アルベドは、はあと息を吐く。現在は会議の後の小休止的な時間であって、お休みのためにベッドインしていい時間ではない。

 自分の欲望をアインズ様の御用事に優先していい道理はない。以前は何度も優先してしまって謹慎すらもらったアルベドであるが、過去のことである。優秀なアルベドは反省できるのだ。

 

「アインズ様がお呼びなら仕方ないわね。続きはエ・ランテルでしましょう」

「それは! よろしいのですか?」

「ええ」

 

 左遷解除のお知らせである。

 元々、彼をエ・ランテルから離したのは多様性を学ぶためというのは後付けで、本当はラナーから距離をとらせるためだ。それがどうにもならなくなってしまった以上、帝国に置いておく意味はない。

 アインズ様からも、そろそろエ・ランテルに戻して良いだろうとお言葉を預かっている。

 

「行ってらっしゃい。でもその前に」

「!!」

 

 男の頬を両手で包み、引き寄せる。

 赤い唇で男の唇を覆った。

 

 ただのキスではない。お預けを喰らったサキュバスのキスだ。

 これから燃えさかるようなセックスをと思ったところで中止を余儀なくされたアルベドは、フラストレーションが一挙に高まった。何とかして解消しないと以降の業務に差し支える。

 合わせた唇から男の精気を吸い取っていく。

 男のただでさえ白い顔は青く、そして土気色に。一週間絶食して真冬の海に肩まで浸かって百数えた色になっていく。

 一言で言って瀕死になった。

 

 部屋の外では少し賑やかになっていた。

 

「何してるんでありんすか?」

「はい、シャルティア様。アインズ様がアルベド様の相談役殿をお呼びでございます」

「ほーん。で、シズは?」

「相談役殿に私が聖王国でとった行動を評価してもらいに来ました」

「真面目でありんすねぇ。そっちはどうして二人? 呼びに来ただけなら一人でいいでありんしょう?」

「はい。ソリュシャン様のお付きとなったシェーダの様子を相談役殿から伺おうと思っておりました」

「私とリファラとシェーダは三人で行動することが多かったものですので」

「お兄ちゃん大人気でありんすね……」

「シャルティア様も相談役殿に御用事でございますか?」

「私が用があるのはアルベドでありんす。中々出てこないでありんすね。アルベドー! アインズ様の御用事でありんすよー! 早く出て……」

 

 シャルティアがドアを叩こうと腕を振り上げた時、ガチャリとドアが開かれた。

 と同時に、どさりと何かがシャルティアの体に倒れ込んでくる。

 

「しゃ……シャルティアさま、ご無礼を……。申し訳ございません」

「ペストーニャに回復してもらってから向かいなさい。あら? 随分賑やかなのね。シャルティアまで。この子はアインズ様がお呼びなのよ?」

 

 ドアの前に四人もたむろしているのを見て、アルベドは眉をひそめた。

 

「私が用があるのはアルベドでありんす。お前たちは早くアインズ様の用件を済ませなんし!」

 

 死にそうな男をシズが背負い、二人のメイドが先導する。

 三人と一人が向かうのは第十階層に向かう大階段のようで、ペストーニャに回復してもらうのは後回しにするらしい。アインズ様の御用事を最優先している、と言う方が正しいかも知れない。

 瀕死であろうとすぐに死ぬことはないと思われるので、アルベドは遠ざかる背中から視線を切った。

 

 

 

 なお、瀕死の男を連れてこられたアインズはどん引きした。

 アルベドの抑えにこの男がいることを心底感謝した。もしも自分が人間のままだったら自分がこうなっていたかも知れないと想像して感情抑制を発動させる。

 とにもかくにも用件を切り出す前にペストーニャを呼び寄せた。今度は忘れずメッセージの魔法を使った。




先週は睡眠時間が半減してもうろうとしてました
今週はちょっと涼しいけど今年の夏はいったいどうなるのだ
先週の天気予報だと明日(7月7日の木曜日)は最高気温25度とか言ってて楽しみにしてたのに今日の予報だと30度超

次回はアインズ様のお話かアルベドとシャルティアの密談かシズにご褒美かメイド二人か、どれかになるかも知れないしどれにもならないかも知れません
R18的に後者二つのどっちかを選ぶべきかもです


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目的達成のための諸条件

 アインズ様は最古図書館の閲覧室でお待ちでした。

 机の上にはでかい本が幾冊も積まれています。円卓の間での会議からさして時間は経っていないのにあれだけの本をお読みになったのです。さすがのアインズ様です。アインズ様が呼び出した男を運んできた三人は深く感服しました。

 ところがその男、何故か瀕死になっています。アインズ様は取り急ぎペストーニャ様を呼び出して回復させました。

 短時間で二度も死にかけた男に、ペストーニャ様は呆れるやら困惑するやらです。ペストーニャ様は事情をお尋ねになったのですが、尋ねられた男が答える前にアインズ様がお言葉を濁されて答えてしまいます。どうやら関わりたくない、関わってはいけない事であるとご判断されているようなので、ペストーニャ様は食い下がることなくお仕事にお戻りになりました。

 

 アインズ様の御用件は不思議なものでした。

 相談役殿に幾つもの問題を出して解かせます。大別するなら数学の問題でしょうか。パターン認識を計っているようです。

 まず複数の図形を見せます。その次に提示する図形から最初の図形と共通点がある図形を選ばせるのです。

 20問ありました。

 相談役殿は問題を提示された瞬間に解答します。

 

「…………いかん。これだと120までしか計れない」

 

 120が何を意味する数字なのか、解答している相談役殿も閲覧室の出入り口前で控えているシズちゃんとメイド二人にもわかりません。

 

「アインズ様、私が代わりに計測してもよろしいでしょうか?」

 

 デミウルゴス様がいらっしゃいました。

 アインズ様があっさりと選手交代したところを見ると、偶々いらしたのではなくアインズ様がお呼びになったのかも知れません。

 

 デミウルゴス様もアインズ様と同じように問題を出します。書面による図形問題以外にも、口頭での問答がありました。

 今度は難易度が高くなりました。デミウルゴス様がお話になる長文を頭に入れて論点を整理し、問いに答えなければなりません。ここに図形が加わることもあります。その上制限時間がありますので、答えが確定しない状態でも解答しなければなりません。

 時折相談役殿の眉間に皺が寄ります。相当に考えているようです。

 

 なお、聞いてるだけのシズちゃんとメイド二人には答えがさっぱりわかりませんでした。実を言うとアインズ様にもわからない問題があったのですが、そういうことはデミウルゴス達に任せれば大丈夫だからと震えていました。

 

 デミウルゴス様からの出題は、アインズ様からの出題の10倍以上時間が掛かりました。時計の長針がくるんくるんと回ります。

 

「経歴から結晶性知能には劣るものがあります。しかし、流動性知能は私より上と言って差し支えないかと」

 

 相談役殿にシズちゃんとメイド二人には聞き慣れない言葉です。アインズ様はふむと頷いていらっしゃるので、デミウルゴス様の言葉を全て了解していらっしゃるようです。

 相談役殿は文脈と語感から、結晶性知能は知識の測度や活用、流動性知能は論理的思考力及び処理速度、と判断しました。以前最古図書館で借りた辞書には載ってなかった言葉ですので、後々調べてみようと心にメモします。

 なお、アインズ様もメモしました。

 

「精神力は問題ないな」

「はっ、仰る通りかと。私が試しました時は……、そちらの彼女たちには聞かせない方がよろしいでしょう。以前報告した通りでございます」

 

 つーかカンストしてるだろ、とアインズ様がぽつりと呟いたのは傍に控えるデミウルゴス様にも聞こえませんでした。

 

「ご苦労だった。疲れただろう? ゆっくり休むと良い」

 

 終始控えていたメイド二人が何故か元気よくお返事します。何故か最後まで付き合っていたシズちゃんも一拍遅れてお返事をします。

 

 相談役殿はアインズ様とデミウルゴス様に退室の礼をして、眉間を揉みほぐしながら最古図書館を後にしました。

 本当なら本を借りていきたいところだったのですが、デミウルゴス様との問答で割と疲れてしまったのです。

 

 アインズ様はデミウルゴス様を労ってから自室にワープします。

 ぽふんとふかふかベッドに身を投げ、ボスボスと枕を殴りつけました。

 

「クソがぁっ! こんな条件達成出来るわけないだろクソ運営!!」

 

 そして感情抑制発動。冷静さを取り戻しました。

 手に入れてしまった戦略級隠しクラスをどのように有効活用しようかと考えます。しかし、有効活用するにはアルベドを通さなければなりません。ちょっとだけ考えて保留にしました。

 まずは聖王国の復興と支援です。まだまだ若い魔導国の地盤固めをしなければならないので余計な事をしてる場合ではないのです。

 それにユグドラシル時代と違って現在は代替手段が有効です。無理に使う必要はありません。アルベドの説得が大変そうだからと云うだけではないのです。

 

 

 

 

 

 

「で?」

「……急に何よ?」

 

 呼んだわけでも入室を許したわけでもないのに、シャルティアは我が物顔で椅子に座る。指先でテーブルを叩き、客にお茶も出さないのかとのたまう。

 アルベドは眉をひそめながらもフレーバーティーを振る舞った。

 

「ローズティーでありんすか。香りがちゃんと際だっていんすね」

「どういたしまして。それで何よ?」

「それはこっちのセリフでありんす。何があったんでありんすか?」

「だから何のことよ?」

「とぼけんすねぇ。さっきの会議でお兄ちゃんに怒ってたでありんしょう?」

 

 自身の相談役をお兄ちゃんと呼ばれ、アルベドは露骨に顔をしかめた。今は妹を感じる言葉を聞きたくないのだ。

 

「あの子はシャルティアの兄じゃないわ」

「呼び方なんて何でもいいでありんす。アルベドがどうしてあんなに怒ったのか聞きにきんした」

「私に秘密があったからよ」

「ほーん?」

 

 あの場で、女であるシャルティアだけが気付いた。

 アインズ様を含む男性陣は、アルベドが言ったように隠し事があったから怒った、としか思っていない。

 アウラはと言うと、まだまだ女以前のお子様だ。軽く話してみたところ、あんな事秘密にしてちゃダメだよね、と言っていた。お子様はこれだから仕方ない。アウラはまだまだおチビのお子様で、と言いたいのだが言ってしまうと後々成長した暁に復讐される可能性大であるので我慢する。それはそれとしてあの爆乳にはまた吸い付いてみたい。あれほど熱心だったテック練習を止めたのは一体何があったのだろうか。お兄ちゃんが関わってるに決まってるので、いつかまた3pしたいものである。

 

 紅茶の香りを楽しみながら心を遠くに飛ばしているシャルティアへ、アルベドは胡乱な目を向ける。

 呆けるなら自分の部屋でやって欲しい。

 

「それを飲んだら帰りなさい」

「違うんでありんすよ? アウラのおっぱいじゃなくてアルベドの態度でありんす。お兄ちゃんとラナーとか言うのとの関係を聞かせなんし」

「……あの子が自分で言った通りよ。腹違いの兄と妹。それだけじゃないかしら?」

「ほーん? そーゆーこと言うんでありんすかぁ? べっつに私はお兄ちゃんに直接聞いてもいいんでありんすよ?」

「くっ!」

 

 必要なことも必要ないことも言わないが、聞かれれば何でも素直に話してしまう男である。

 どうでも良いことから言ってはいけないことまで話してしまうので、質問には注意が必要だ。本当に要らない事まで話してしまうので、アインズ様が直感に従って言葉を遮り惨劇を未然に回避したこともあった。

 

「聞いてどうするつもりよ?」

「どうもしんせん。ただの興味本位でありんす」

 

 興味を引いたのは、アルベドが嫉妬していたからだ。

 あの場で、シャルティアだけがアルベドが嫉妬していることに気が付いた。

 羨望が持ってないものを欲しがる気持ちなら、嫉妬は持っているものを失う恐怖である。

 シャルティアが羨望と嫉妬を言葉で詳しく説明出来るわけがない。しかし、アルベドが何かに嫉妬して何かを恐れていることを直感した。

 登場人物は、アルベドとお兄ちゃんとラナーとか言うお兄ちゃんの妹。アルベドが嫉妬してるのは妹以外にありえない。どうしてそんなものに嫉妬するのか。

 ペロロンチーノ様とぶくぶく茶釜様のように、姉がいれば弟がいる。兄がいれば妹がいる。それが一体何だというのか。

 

「私がお兄ちゃんに直接聞くのは? アルベドが嫌がると思いんしたから? だからわざわざアルベドに聞きにきんしたんでありんすよ? 私の厚意を? アルベドは無視するんでありんすか?」

 

 嫌なことにだけは知恵が回る吸血鬼である。

 厚意と言うのは真っ赤な嘘で間違いないが、直接聞かれるのが嫌なのも事実。あの子の口からあの女の名前を出して欲しくないのだ。

 アルベドは歪む唇をティーカップで隠し、紅茶で口を湿らせた。

 隠しているわけではないのだ、周知していないだけで。この場で話そうと話すまいと、シャルティアが遠からず知るのは確実。だったらしばしの不快に耐え、話してしまった方が良い。

 

「あの子が私に会う前、顔に酷い火傷があったというのは聞いているかしら?」

「どこかで聞いたような気もしんす」

「子供の頃に煮えた油を掛けられたそうよ。あの子の顔を焼いたのがラナー」

「ほえ? 自分のお兄ちゃんの顔を焼いたんでありんすか?」

「そうよ」

「お兄ちゃんはそのあたりのことを全く話しんせん」

 

 それはシャルティアがあえて聞いていないからであって、聞かれていたら素直に話していた。現に、初対面でゴブリンのジュゲムには話している。

 所詮は過ぎたこととして、苦い記憶ではあるが過度に気にしてはいないのだ。

 

「それから私があの子を見つけるまで、ずっとラナーに囚われていたのよ」

「へー。……で?」

「……シャルティアもあの子と寝たならわかるでしょう?」

「何でありんす?」

「…………セックスがとても上手なことよ」

 

 現場を抑えたことがなくても状況証拠から明白だ。シャルティアが匂わせてる時にボディへいいのをくれてやれば溢れてくると思われる。アルベドはそこまでして証拠を押さえるつもりはない。空いてる時なら貸してあげても良いと思っている。

 

「確かに」

 

 シャルティアの返事には実感と力がこもっていた。

 

「あの子はずっとラナーに囚われていたのよ? どこでセックスのやり方を覚えたかわかる?」

「アルベドが教えたわけじゃ……、ありんせんね。私がお兄ちゃんとらぶらぶエッチしてた時もアルベドは処女でありんしたし」

 

 アルベドのこめかみにピキリと青筋が走る。

 これはぶっ飛ばしても無罪。断罪してやろうと思ったが、シャルティアが気付くまで懸命に我慢した。

 

「ってことは……、お兄ちゃんは妹とセックスしてたってことでありんすか!?」

「そうよ」

「ほえ~~~~~~~……。さすがお兄ちゃん、レベルが高いでありんすねぇ」

「何がレベルが高い、よ! 妹よ? 妹とセックスしまくりだったのよ!?」

「はいはい、それで?」

「それでって何よ!」

「だからお兄ちゃんが妹とセックスしまくりで、だから?」

「はぁ!?」

「何でありんす?」

 

 アルベドは得体の知れない怪物を見るような目でシャルティアを見た。

 シャルティアも似たり寄ったりで、アルベドが何を考えているのか理解できない。

 

 シャルティアにとって、兄が妹と、と言うのは何の障害にもならない。何せエロゲマスターの異名を誇るペロロンチーノに創造されたのだ。それがどうした、としか思わない。

 これがもしも姉が弟とだったら激しい拒否感を覚えたかも知れないが、事は兄と妹である。

 

「だから、あの子は……あの子が……!」

「……?」

 

 言葉に詰まるアルベドを、シャルティアは小首を傾げて見やった。

 唐突に悟った。

 

「そうでありんすね、お兄ちゃんと妹がって言うのはちょっとあれでありんす。これはちゃんと言っておかないとダメでありんす。私に任せなんし。私からもお兄ちゃんに注意しておきんしょう!」

「……別にいいわよ。余計なことしないで」

「そうでありんすか? それじゃ今まで通りで。邪魔しんした。屍蝋玄室に戻りんす」

「……そう」

 

 シャルティアが突然聞き分けが良くなった。

 率直に言って気味が悪い。何を考えているのか問いただしたくなるが、触れたくない話でもある。もう一度余計なことはしないようにと念を押してから、立ち去るシャルティアを見送った。

 

 

 

「…………くひ」

 

 アルベドの部屋を出たシャルティアは、堪えきれずに笑みをこぼす。

 アルベドがシャルティアが気付いたことに気付かなかったことが愉快であり、隙を見つけた事がなおさら愉快である。

 

 アルベドは嫉妬していた。

 何を嫉妬したのか、誰に嫉妬したのか。

 ラナーに嫉妬して、お兄ちゃんを失うことを恐れた。

 そんな事はあり得ない。悔しいが、お兄ちゃんがアルベドから離れることは絶対にない。

 それなのにアルベドが嫉妬していたのは、お兄ちゃんを信じきれないから、ではないだろう。

 自分が確信するくらいなのだから、アルベドにわからないはずがない。

 ならば、アルベドが信じきれないのは一体何か。

 アルベド自身に他ならない。

 

 以前、アルベドに飽きたら自分のところに来いと言ったことがある。

 ものの試しで言った言葉であるが、嘘偽りない本心だ。そうなったら嬉しいが、そうなることはないと思っていた。

 だけれども、もしもアルベドがお兄ちゃんを囲うことを辛く思うようになったら? 辛さが解消されず先鋭化したら?

 アルベドが何を引け目に感じているかは知らないし興味もない。確実に言えるのは、自分がお兄ちゃんを嫌になることは絶対にないと言うこと。

 もしかしたらもしかするかも知れない。

 アルベドは兎も角として、お兄ちゃんの意志を変えるのは余程の事があっても不可能だ。

 なんであれどうであれ、楽しい夢想に耽るのはとても楽しいことだ。

 

 だからシャルティア様は起きながら夢を見ているとか言われるのだが、本人的にはとても楽しいのである。

 

 

 

 

 

 

 頭を抱えていたり不穏だったりするあちらと違って、こちらはとても平和であった。

 

 第十階層から第九階層に戻ったメイド二人はちらと目配せをしあう。それだけで以心伝心完全完了。

 ナザリックの優秀なメイドにして創造主を同じくし、ずっと三人(今は二人になってしまったが)で働いてきたのは伊達ではない。

 

 二人には目的がある。達成するだけなら難しい事ではない。いつぞやからポーションはエプロンドレスのポケットに入れたままになっている。

 しかし、その後が問題だ。思い出されるのはシェーダの痴態。ああなってしまうと後始末が大変になる。出来れば避けたい。

 だったら止めればいいのだが、そうはいかない。三人の中で一番厳しくて一番隙がないシェーダがああも乱れたのだ。素晴らしいことなのは間違いない。

 始めこそ好奇心だった。ペロロンチーノ様が遺された異本は真実であるか否かを知りたかった。今は違う。異本の内容は真実で、確実に素晴らしいことだとわかっている。それを我が身で体感したい。

 よって、事に挑むのは大前提。

 ただし、上述の理由により後始末が大変な可能性がある。

 ベッドが一番無難であるが、自分がしてしまったおしっこの中で眠るのは絶対に避けたい。二人の内どちらかがダウンしてももう一人が何とかしてくれるだろうがそんな事態にならないのが一番だ。

 洗い流せる場所がいい。

 とするとバスルームになるが、生憎二人が起居する部屋のバスルームはいささか手狭だ。二人がどうこうするスペースはあっても、三人となると厳しいものがある。浴槽だって三人同時には入れない。

 

 どこかに広いお風呂はないものか。

 考えたと同時に二人はピンと来た。

 ナザリック第九階層にはスパリゾートがある。アインズ様はメイドたちにも利用を解禁してくださっている。アインズ様はなんとお心が広くシモベたちを思いやってくださるお優しくも寛大なお方であることか!

 とは言えメイドたちには気軽に行きかねる場所である。何せ本来は至高の御方々のための施設なのだ。今回に限っては、相談役殿を慰労するという名目があるので何とか行ける。

 と、ここで問題発生。

 スパリゾートナザリックにはゴーレムが設置されていると、二人は聞いたことがあった。

 今は彼方にお隠れになってしまわれた至高の御方であられる「るし★ふぁー」様が創造なさったゴーレムである。聞いたところによると、マナー違反したものを攻撃してくるのだとか。利用する際は厳に注意すべしと徹底周知されている。

 るし★ふぁー様はお隠れになった今もナザリックの規律を守ってくださっているのだ!

 二人は感動することしばし。感動はしたが、邪魔すぎる機能である。間違いなくマナーに違反する行為をしてしまうのだから。

 

「シズさん、二人が何を話してるかわかりますか?」

「わからない。案内すると言ったからついて行けばいい」

「……そうですか」

 

 二人はまたもピンと来た。

 スパリゾートナザリックには多数の風呂がある。ゴーレムがない風呂を選べばいい。

 第九階層の隅々までお掃除をしている二人は、当然の事ながらスパリゾートナザリック内も把握している。ゴーレムと思われる石像が設置されているのはジャングル風呂。そこを避ければ済む話だ。

 いずれにせよ、多数ある風呂は男湯と女湯で分かれているため、ジャングル風呂を利用することはない。男女が混浴出来るのは露天風呂だけである。

 露天風呂は風光明媚な景色が楽しめる。ゴーレムらしき石像はない。源泉掛け流しのオーソドックスな大きなお風呂だ。洗い場だってとても広い。床は石畳で硬いため、バスタオルやマットを多めに用意した方がいいだろう。

 諸々が決定し、二人は顔を見合わせて深く頷いた。

 同時に振り向き、きちんとついてきている男へ心からの笑みを見せた。

 

「相談役殿はお疲れでしょう。お風呂で汗を流してはいかがでしょうか?」

「私どもはアインズ様から相談役殿をお世話を仰せつかっております。お背中を流す名誉をお与えください」

 

 アインズ様はそんな事は言ってないと思ったが、メイドたちにだけ伝わる符丁があったと言われたらそうなのかと言わざるを得ない。

 

「そうですね。よろしくお願いします」

 

 符丁がなかったとしても、美女に世話を焼かれるのはとても嬉しいことだ。断るわけがなかった。

 メイド二人はぐっと拳を作って小さく振り、

 

「私も行く」

「「……あっ」」

 

 シズちゃんがいることを今更ながらに思い出した。




一話先がどうなるかわからなくても時間が経つとなんとかなるもんですね
あんまり暑いとどうにもならなくなりますが_(:3 」∠)_


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スパリゾートナザリックの露天風呂

 風呂の縁に頭を乗せ、体をぷかーと浮かせながら満天の星空を眺める。

 地下にどうして星空が、と言うのは今更だ。ナザリックには何でもある。

 

 男はスパリゾートナザリックに案内され、風呂の入り方のレクチャーを受けてから一足先に露天風呂に入っていた。体を洗うのは二人のメイドがしてくれるらしいので後回し。

 風呂の広さは100人同時に入れそうなくらいに広い。大風呂以外にも一人用の浴槽が幾つも。上から湯が滴っている打たせ湯に、寝転がって入浴する寝湯。シャワーだって相当数が備えられている。

 これだけの施設が数ある風呂の一つに過ぎないというのだから、さすがのナザリック以外に何と言おうか。

 生憎夜であるため、風光明媚な景色は拝めない。代わりに満点の星空が迎えてくれる。

 

 女性陣はまだ来ない。広い風呂に一人である。遠くから打たせ湯の音だけが響いている。

 外気は春の夜そのもの。裸なので風が吹くとかなり寒い。風呂に飛び込みたくなるのを我慢して、言われた通りに掛け湯をしてから風呂に入った。

 湯は体温より若干低かった。風呂としてはややぬるめだ。ぬるいからこそ、長時間浸かっていても逆上せることがない。熱い風呂に入りたかったら一人用の風呂に入ればいいとか。

 

 アルベド様に拾われるまでは入浴の習慣はなかった。基本は絞ったタオルで体を拭くくらいだ。月に一度はラナーが自室にバスタブを用意させ、こっそりと一緒に入らされた。

 ラナーと言えば、ナザリックに領域守護者待遇で受け入れるとか。アインズ様のご判断であるため、物申せようはずがない。

 しかし、一緒に暮らせるとか何とか言われたときには、口が開いたら叫んでいた。

 大いに驚き大いに面食らい大いに不満であったが、何とでもなると気が付いた。クライムがいる。

 

 随分と昔のこと、ラナーがクライムという少年を拾ったと言ってきた。

 事ある毎にクライムの話題を出し、クライムは子犬のようで可愛いだとか、純粋な心で私を慕ってくれているだとか、私の綺麗なところだけを見てくれるだとか。本当に熱心に聞かされたものだ。

 ラナーが言いたかったことはわかっている。

 

『あなたはこんな所に閉じこめられているのに、あなたと同じ境遇だったクライムは日の当たる場所で健やかに成長している』

 

 なんと性根が腐った女なのだろう。

 あんなのと同じ血が流れているとは信じられない。父方の血がよほど淀んで腐っているに違いない。実父であるランポッサは愚昧の具現だ。長兄のバルなんとかはカルネ村のエンリ大将軍に敗退しルプスレギナが仕留めたと聞いた。ルプスレギナはルプスレギナだが、かなり強いのを知っている。どうして勝てると思ったのか。それ以前にどうしてカルネ村のエンリ大将軍に挑んだのか。どちらも自殺行為そのものだ。

 ザナックはどうしてさっさと王位を継がなかったのか。王になりたくなかったのか、なれなかったのか。どちらであれ愚かである。

 

 未だ存続しているらしいが亡国になることが決定している王国はどうでもよいとして、クライムだ。

 どうやらラナーは、自分がクライムと知己であったことは気付いていないようだった。

 短い間であったが、路上に住み暮らしていたクライムの面倒を見てやったことがある。一緒に住んでいたわけではない。衣服を与えたこともない。見るからに見窄らしいクライムに上等な衣類を着せればどこかで盗んだと思われるに決まっている。しかし、パンを恵んだ回数は十や二十ではなかった。

 飢えた子供が可哀想に思ったのもある。食べきれないパンを処分したかったのもある。生きる以外にすることがない日々だったので、暇を潰したかったのもある。気紛れだとしたら続きすぎた。

 クライムが己を覚えているかどうかはわからない。

 たとえ覚えていなくても、あれだけラナーが自慢そうに語っていたのだから、クライムがラナーに捧げる思いは本物なのだろう。

 

 デミウルゴス様が魔皇として王都を責めたゲヘナ作戦の折り、クライムは傷つけないようにと周知されていたようだ。そこまでするのだから、王国が滅んでラナーがナザリックに受け入れられる時もクライムがついてくる可能性は非常に高い。

 そうなったらラナーの全てをクライムに押し付けてやればいいのだ。

 あのラナーだ。体を持て余しているのは間違いない。どうかクライムで解消して欲しい。

 しかし、ラナーの話によると、クライムはラナーを犯すべからざる神聖な何かと思っているようで知覚異常が発覚、治療が必要だ。クライムから手を出すことはないだろうし、クライムの前では清らかなお姫様を装っているラナーが手を伸ばすこともないだろう。

 ラナーには関わりたくない。必然的にクライムとなる。

 クライムに女を教え、ラナーも女であると吹き込む。そうすればなるようになるのは間違いない。どうか二人きりで安らかに眠って欲しい。

 

 ラナーについての話が上がった際のアルベド様は過剰な反応をなされた。

 以前ラナーについては、顔も見たくない間抜けな理由で死んでて欲しい、と申し上げた。ラナーとの過去は過去であるが故にどうにもならないが、未来を共にするのは御免こうむる。

 アルベド様にははっきりとそう申し上げている。にもかかわらず、今日のアルベド様も過剰な反応をなさったのだ。

 涙を流して、あなたをあの女にとられたくない、と仰った。

 そこまで我が身を思ってくださるのは光栄であり感動であり一層アルベド様への想いが深くなるばかりであるが、まさか本気で仰っていたわけではないだろう。

 自分がアルベド様の元を去ってラナーを選ぶ、とアルベド様が本気で思っているとするならば、知覚と知性と理性が致命的に失調している重大な疾患の可能性をアインズ様にご報告しなければならない。

 しかし、アルベド様から不調の様子は見受けられない。

 涙を流された時は兎も角驚いて、烏滸がましくもアルベド様をお守りしなければならないと強く思った。おそらくは、自分がそのように決心することを狙っての演技だったのだ。冷静に理性的に考えればわかる。アルベド様がラナー如きに嫉妬するわけがない。

 しかしてアルベド様の演技は心に深く刺さった。アインズ様から呼び出されなければ、かつてないほど激しく体を交えていただろう。

 涙顔のアルベド様を思い出すだけで体が熱を持ってくる。両手で湯をすくい、顔に掛けた。

 

 アインズ様のご用件はよくわからない。

 デミウルゴス様と一緒に試していたのは、知的労働の能率に思える。試したのだから、結果如何によって使い方が変わるのだろうか。

 が、それはアインズ様がお考えになることであって、アインズ様のなさりようを邪推するのは甚だ不敬なことである。

 

 

 

 ぼんやりと星空を見上げる。どこかで見たような星空だ。

 全く見たことがない星空ならわかる。ナザリックの外と同じ星空だとしてもわかる。

 しかし、そのどちらでもない。近いが、違うのだ。

 風呂に浮かせた足が向いてるのがおそらくは北。北天の高い位置にある明るい星々に見覚えがある。それぞれが僅かに、あるいは大きく位置を変えているが、外で見られる星と対応させることが出来る。

 無数にある全ての星々が同じだ。全く同じ位置にある星はない。北天の中心となる北極星も違う。しかし、外での北極星を、ここでの北極星の近い位置に見つけることが出来る。

 さて、星々の位置は変わるのだろうか。

 天球は回転しているため、季節と時刻によって変わるのは当然だ。そのような変わり方ではない。では位置か。こことは違う場所で見上げる空なのか。それだけではない。

 

 そこまで考え、飽きた。

 温かい湯の中で全身を弛緩させていると心もほぐれてくる。

 

「ふふんふ…ふんふん…ふんふふん…ふふふ……♪」

 

 指先で足を叩きながら上機嫌に鼻歌を歌う。

 聞き知ってる曲は割と多い男だ。ラナーが様々な歌を口ずさんでいたのを無駄に優れた記憶力が覚えている。

 しかし、如何に覚えていようとラナーが歌っていた歌を口ずさむ男ではない。そんな事をしたら不幸な目に遭うと確信している。

 鼻歌の原曲はそれ以外の歌曲。ナザリックで歌うに相応しい歌は何かと問えば答えは一つ。アインズ様賛歌である。旋律はそのままに、リズムをアップテンポにしている。

 一番一番はそれほど長くないが、第十を超えて更に増えそうなアインズ様賛歌である。男は一番を歌い終える毎にリズムを変えて鼻歌を続け、第五番にさしかかった時、頭上で水音が鳴った。

 風呂から溢れた湯で濡れた石畳を歩く音である。

 風呂に体を浮かせ、頭を縁に乗せたままの寝ころんだ姿勢で、上目遣いに頭上の背後を仰ぎ見た。

 

 シズがいつもの無表情で、ほんのちょっとだけ眉間に皺を寄せている。

 

「冒涜的」

 

 グフッ,ゲボォ! ブクブク…………。

 

 溺れているときに叫んでしまうと肺の中の空気が逃げて水に沈んでしまいます。水難事故にあってしまった時は静かに救助を待つべきなのです。

 幸いにも浅いお風呂ですので、お湯を飲むこともなく一秒後には水面に顔を出しました。

 

 

 

 

 

 

 歌が下手な自覚がある男である。いつから聞いていたのか、恐ろしくて聞けなかった。

 

「とても独創的だと思われます」

「リズムと強弱は軽快でした」

「だから、冒涜的」

「くっ……!」

 

 こいつらは一体何しに来たのか。辱めるためか。大体にして来るのが遅すぎる。もっと早くに来てくれていれば鼻歌を歌うこともなかったはずだ。

 

 文句を言ってやろうと、湯に濡れた髪をかきあげ振り向いた。

 文句を忘れ、遅くなった理由を知った。

 三人は水着を着ていたのだ。

 

 お風呂なのだから裸になるのは当たり前である。

 しかし、二人のメイドは純粋無垢で汚れを知らない清らかな少女であるシズの裸を男の目に晒すのは如何であろうと考えた。そこでシズに、露天風呂はお風呂であってもスパリゾートナザリックはリゾートであるので水着を着用した方がよろしいでしょうと進言したのだ。

 

 最初に目に入ったのが、輝く金髪を肩口で切り揃えたメイド。シェーダの同僚で、顔立ちもスタイルもよく似ている。釣りがちなシェーダの目と比べると、こちらはパッチリとした印象がある。キャレットと呼ばれていたのを覚えていた。

 キャレットの水着はブルーのビキニ。トップスはこぼれ落ちそうな乳房を支え、パンツはサイドが紐状になっていて股間の切れ込みが実に激しい。

 大きな乳房とむっちりとした太股に豊かな腰つき。女の曲線美を隠すことなく主張している。

 少し恥ずかしそうにはにかんでいるところも実によい。男は力強く頷いた。

 

 白い髪をしているのがリファラ。シェーダとキャレットに比べると、指二本ほど髪が短い。よく言えばおっとりと穏やかそうで、言葉を換えれば深く物事を考えなさそうな素直さが伺える。

 リファラの水着は、ひらひらしていた。トップスはフリルブラで、大きな乳房を波打つ白い布が隠してしまっている。下に履いているものは見えない。こちらはパレオを巻いて、女らしい腰つきを隠している。

 けして似合ってないわけではないが、そのような水着は折角のスタイルを隠してしまうデザインであるため、リファラが着るのは勿体ない。キャレットのようにスタイルを主張する水着が正解と思われる。

 にっこりと笑うリファラの狙いがわからず、男は首を捻った。

 

 最後はシズ。

 シズの水着はワンピースタイプの濃紺だった。肩に掛かっているストラップだけは白い。

 ワンピースなので胸の上部から股間まで、全て覆われている。腕も足も水着らしく露わになってはいるが、股間の部分はキャレットのものと比べると角度が3倍はある。180°に近い。

 特筆すべきは胸部に貼られた白い布。

 四角い布には拙い丸文字で「しず・でるた いちねん にくみ」とあった。「しず・でるた」がシズの名前なのはわかる。「いちねんにくみ」は理解不能。

 なんとか幼女体形を脱してぎりぎり少女体形の幼げがあるシズが一層幼く見えてしまうデザインである。シズちゃんはまだちっちゃいんだよアピールであろうか。やはりよくわからない。

 男は何も言わず、そっと視線を切った。

 シズの心は怒りに震えた。

 

「わぷっ!」

 

 手桶に溜めていた水を男の顔に浴びせかける。

 ペロロンチーノ様から下賜された由緒ある「スク水」を愚弄したのだから当然の報いだ。ちなみに、シャルティア様も同様の品を下賜されているらしいが見たことはない。

 

 キャレットとリファラは何も言えず顔を見合わせて、笑うべきか男かシズのどちらかを窘めるべきか相談し、何も見なかったことにした。

 

「露天風呂の大風呂は低めの温度に設定されていますので、もうしばらく温まった方がよろしいと思います」

「このままでは冷えてしまいますから、私たちもご一緒させていただきます。その後で、失礼させていただきますね」

 

 リファラの言う失礼は背中を流したり体を洗ったりである。と、シズは受け止めたはずだと二人は予想する。

 そして男はそれ以上の事を考えている。と、二人は期待する。男が前回ナザリックを訪れた際に、メインはシェーダに持って行かれたものの二人は口でしてあげて飲んでいる。それで今度は一緒にお風呂なのだから、お口の続きを、と考えるのは当然であるはずなのだ。

 そのためには、シズに退場してもらう必要があった。しかし、プレアデスであるシズに一般メイドである二人が出て行けと言えようはずがない。ナザリックにおいてシモベたちは建前上平等であるが、時には我が身を戦いに投じるプレアデスへは敬意を払っているし、二人の性格的にナザリックの仲間を邪険にはし難い。

 シズの世話を焼いて先に上がってもらうべきか。

 兎にも角にもこのままでは体が冷える。

 二人はポーションを入れた風呂桶を置いて、手桶で掬った湯を体に掛ける。髪を濡らさないよう注意して二度三度。

 

 二人が静かに掛け湯をしている間に、シズはザブンと風呂に入っていた。

 

「シズ様!?」

「ご迷惑では……」

 

 入った勢いはちょっと良かったが、ちゃんと掛け湯をしているので問題はない。長い髪だってアップにしてタオルを巻いている。るし★ふぁー作のゴーレムがいても襲われなかったことだろう。

 問題はその後。

 シズは湯をかき分けて男に近付くと、そこで体を沈めた。

 シズは肩まで湯に浸かってそれ以上沈むことなく、背中を男の胸につけている。

 

「……迷惑?」

 

 一応は守護者統括相談役になった男である。以前のように対応するとシズちゃんだって怒られる。

 

「迷惑ではありませんよ。ですが、向こうの方が浅いです。シズさんでも沈まないと思いますが?」

 

 男が底に腰を下ろすと肩が浸かるか浸からないかの深さ。シズが同じように座ると鼻まで水面下になって呼吸が出来ない。呼吸不要だろうというのは野暮である。

 そうならないように、広い大風呂は底が傾斜していた。場所によって深さが異なっている。ナザリックではシズのように小さな体からコキュートスのような巨体まで、体の大きさは様々だ。スパリゾートナザリックを作った至高の御方々も同様である。大風呂の深さが一様であるわけがない。上流に行けばシズが座っても沈まないエリアがある。

 

「ここがいい」

「わかりました」

 

 男に否はない。

 見た目よりも重かったりするシズであるが、湯の中なら大した重さではない。一人で入るよりも、シズを抱えて入る方がずっと良い。リファラとキャレットを抱いて入るのは更に良いが、口にすると怒られるであろう事をいい加減学んでいる。

 目線で二人を促し、シズの体に腕を回した。

 

 

 

 いかがわしい事を考えている二人と違って、シズは話をするために男の所に来たのだ。

 シャルティアに話したことに嘘はない。階層守護者へ嘘を言えるわけがない。聖王国での単独行動の評価を男にして欲しかったのだ。

 ナザリックのシモベとして、自身の行動をフィードバックして次に活かそうと考えるのは当然である。

 それはそれとして、きちんと結果が出ているので褒めてもらうべきとも思っている。言葉で褒めるだけではなく、行動を伴ってくれても全く問題ない。

 そのためには、二人のメイドがいささか邪魔ではあった。しかし、真面目にお仕事をしているメイドを邪険に出来ようものか。

 

 あちらもこちらも、向こうを牽制しつつ目的を達成しようと考えている。

 どちらの考えも知らないが、どちらとも知らないではない仲である男は己の欲求に従った。

 

 

 

 二人の下流側に入ったリファラとキャレットは、温かい湯の心地よさにふいーと手足を伸ばす。

 掃除するきりであったスパリゾートの風呂に入るのは初めてなのだ。広いお風呂の解放感と温泉の効果で、我知らず気の抜けた声が漏れてしまう。

 ぬる湯の大風呂でこんなに気持ちいいのだから、寝湯に入ったらそのまま本当に寝てしまうかも知れない。熱いお風呂で体に活を入れるのもいい。だけどもその後に弛緩しきってしまって動けなくなるかも知れない。熱いお風呂の後でベッドに飛び込んだら絶対に気持ちいい。

 それとも打たせ湯で目を覚ますべきだろうか。どこかが凝ってるわけではないが、お湯に打たれるのも乙であるに決まっている。それだったら内湯のジェット風呂はどうだろう。またの機会があったら皆を誘って入ってみるのもいいかも知れない。

 メイドたちだけで入るのはハードルが高い。リファラとキャレットだって出来なかったことだ。しかし、二人はそのハードルを越えたのだ。

 

「んっ!」

「?」

 

 二人がこれからに思いを馳せていると、シズの高い声が聞こえた。

 怪訝に見やる。

 男の前に座っているシズは、体を丸めていた。

 シズは見られていることに気が付くと顔を伏せた。

 

 夜とは言え間接照明が幾つもあるので暗いと言うことはない。

 明るい場所ではうっすらと白い温泉は、照明の光を反射するばかりで少し離れるとお湯の中は全く見えなかった。

 

「くぅっ……」

 

(…………あれ?)

(今のシズ様……、肩が)

 

 シズは濃紺のスクール水着を着ている。肩には白いストラップが掛かっているはずだった。

 それが見えなかったような気がしたのだ。

 

「っ……、っ……!」

 

 シズは両手で口を押さえた。

 漏れ出る吐息は何とも艶っぽい。

 二人は大きく目を見開いて、まさかとの思いで二人を凝視した。

 シズが小さく震えている。

 男は楽しそうな笑みを浮かべている。

 見続ける内に、シズが振り向いて男を睨んだ。睨んでいたのはほんの数秒。

 前を向いたシズが少しだけ体を浮かせる。水面から肩が出た。

 シズの肩には、明らかにストラップが掛かっていなかった。

 

 それから数秒か十数秒か。

 リファラの体に何かが触れた。

 何だろうと手に取り、正体を確かめるべく持ち上げてみる。

 湯に濡れて濃紺が一層暗くなった大きめの薄布。

 シズが着ていたスクール水着だった。




二回目の完結(?)時で未消化のイベントを並べてみる

1.セバスにSEKKYOU        →クリア。いつか2を書くつもりではいるが未定
2.デミウルゴスのお土産         →クリア。いつか進展する、と思います
3.エントマと邂逅            →あとちょっと。あとちょっとなんです!
4.帝国でレイナース出ないとかありえない →クリア。次回未定
5.結婚騒動               →さすアイにより先送り可
6.アルベドの子供            →クリア。まあたぶんそのうち色々
7.蒼薔薇                →半分クリア? 残りはエントマが出てきてから
8.感想でも度々触れられたラナー     →いつか回想2を、いつか

エントマは本当にあとちょっと


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黙認から公認へ ▽シズ♯4

 男の膝上に陣取って、シズはひとまず満足した。

 何を言うでもなく、男の腕が腹に回って後ろから抱き締められる。シズは背筋を伸ばし、背中を男の体に密着させた。肌と肌が触れ合うのは心地良い。はふうと声が漏れてしまったのは、温泉が気持ち良かったからだ。

 何かを勘違いしたらしい男が含み笑いした気配を感じて振り返った。侮辱を与えた男は何もわかってない顔で微笑んでいる。

 然るべき報いを与えてやるべきであったが、折角のお風呂を台無しにするのは勿体ない。露天風呂に入るのはシズも初めてなのだ。寛大な心で許してやることにした。

 

「聖王国での作戦は大成功を収めたそうですね」

「知ってた?」

 

 シズが一番話したかったことだ。

 自分の活躍を知っててもらえるのは嬉しいが、自分が話したかったことでもある。

 

「シズさんが聖王国で単独行動すると言うことだけは聞いていました。アインズ様は見事に魔皇を討ち取りましたので、シズさんは上手くやったのだろうと思った次第ですよ」

 

 聖王国での前半戦。つまりはアインズ様が一度魔皇に破れるまでは、アインズ様とアインズ様役をしていたパンドラズ・アクターと密に情報共有していたのだ。シズの行動予定くらいは聞いていた。

 

「……難しい事もあった。でも頑張りました。……頑張った」

 

 敬語になってしまったのを咄嗟に言い直す。またも含み笑い。

 むっと頬を膨らませるが、頬を擦り合わされてぷしゅうと空気が抜ける。下腹で合わされてた手がほどけ、シズの右手を両手で包む。シズは何とはなしに、左手を重ねた。

 

「デミウルゴス様のご命令で誰とは言えないのですが、私の傍に元聖王国の民がおります。その者に代わってお礼申し上げます。聖王国を救っていただき、誠にありがとうございます。またナザリックの一員として申し上げます。シズさんはアインズ様の威光を知らしめる一助となった大役を見事に果たされました。これは大変な成果です。お疲れ様でした。これからもお忙しい日々が続くとは思われますが、今はゆっくりとおくつろぎください」

「…………うん。……ありがとう」

 

 頬ずりされているのとは反対の方へ顔を向ける。

 ほっぺたが少し熱くなってきたのは温泉が温かくてのぼせてきたからだ。

 またも含み笑いの気配を感じたが、今度は反感を覚えなかった。

 

「………………ん?」

 

 男の手がまたもほぐれた。手のひらを開いて下腹に当てられる。伝わる熱は湯より熱い。

 ゆっくりと下へ滑ってシズの太股まで来た。内股へするりと落ちる。そして上に戻ってくる。

 大きな手が内股をさすって脚の付け根にまで来ると、水着の境目をなぞり始めた。

 

(………………リファラとキャレットがいる)

 

 そんな事をしたりされたりはシズの望むところであったが、リファラとキャレットがすぐそばで湯に浸かっている。

 こんな事していたら気付かれてしまう。

 

(大丈夫ですよ。二人ともあんなに緩んだ顔をして風呂に夢中になっています)

 

 リファラもキャレットも、ほにゃーと言い出しそうな顔でぷかぷか浮いている。こちらより下流と言うことは深いところなわけで、少しずつ遠くへ流されているようだ。

 

(二人の方を見てください。お湯の中は見えないでしょう? どんな事をしていても二人からは見えませんよ。シズさんが大きな声を出さない限りは問題ありません)

(…………でも)

(どうしてもお嫌なら仕方ありません。ですが、シズさんに悦んで欲しいんです。私も、ではありますけどね)

 

 ちらと向こうの二人をみる。

 リファラもキャレットも蕩けそうな顔で、何事かを話しているようだった。

 シズが初めての露天風呂なら二人にとっても初めてなようで、今度は皆で、と聞こえてくる。

 

 シズが迷っている間も男の指は蠢き続ける。

 内股を押さえるようにして、脚の付け根を上下にさすっている。そんな事をされてしまうと体の力が抜けてくる。

 

「……あっ」

 

 股間をほぐしていた指が離れた時、シズは思わず小さな声を上げた。

 もっと続けて欲しかったのに、中断されてしまったのを惜しむ声だった。

 

(続けますよ?)

 

 シズは小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 背中を倒し、改めてシズを抱き寄せる。

 後ろから抱き締めると包み込めてしまう小さな体は、劣情よりも庇護欲を誘う。

 なのに食指をそそられるのは、アルベド様からお預けをもらったのが一つ。シズとは何度となくしているのが一つ。それ以外に幾つもあるが、わざわざ名前を挙げたくない。

 

「水着がだいぶ締め付けているようですね」

「そんな事はない」

「……そうですか」

 

 そう言われてしまうと何も言えない。

 シズが着ているのはナザリック製のサイズを自動調整する魔法の水着だろうから、着用者が不快に感じることはないのだろう。しかし、水着の上からシズの慎ましい膨らみに触れると、魅惑の曲線は前回より明らかになだらかであった。

 手触りも、つるつるでふにふにの素肌に比べればざらついている。どこかにスリットが空いているようなこともなく、泳ぐための機能だけを追求した水泳用水着と察せられた。

 水着の上から愛撫してシズを高めることは出来るが、触る楽しさはいまいちだ。

 それでも手付きに淀みはない。小さな膨らみを下から包み乳房の形に沿ってさすり始める。

 

 シズの肩越しに覗いても、湯の中の像は歪んでよく見えない。遠くの水音と、シズの吐息だけが聞こえている。

 人差し指だけ伸ばして乳房を撫でた。水着に締め付けられていても、柔らかな乳肉で主張する部分があった。

 

「んっ!」

 

 あまやかな愛撫だったのに不意打ちだった。水着越しでも、立ってしまった乳首を擦られるのは刺激が強い。

 思わずあげてしまった声は、男を調子に乗らせてしまった。

 胸をさすっていた手が肩にまで来る。指が水着のストラップの内側に差し込まれ、引っ掛けたまま右へ左へ。

 ストラップが肩から外れても男の手は離れない。そのまま下へ引いていった。

 

 湯の中とは言え、濃紺から肌色へ変わればはっきりとわかる。へそまで水着をずり下ろされた。

 そして同じ所を触ってくる。水着はない。大きな手が間に何も挟まず、直に乳房に触れてきた。

 

(逃げちゃダメですよ。ほら、二人が何かと思ってこっちを見てる)

(だって、むね……。触ってる)

(小さくても可愛らしいおっぱいですよ)

(む、小さいは余計)

(それは失礼を)

 

 水着の上から触るよりも、シズの肌へ直接触れる方がずっと良い。太股と同じように滑らかで肌に吸いつき、太股より柔らかく頼りない。

 慎ましくても揉めるくらいにはある。さするしかないシャルティアやアウラとは違う。手のひら全体で柔らかな肉を感じている。

 むにむにとちっぱいを揉んでいる内に、シズが帰ってきた。体を丸めて離れてしまった背中を、こちらの胸に預けてくる。

 

(さっきみたいに突然触ると驚かせてしまうようですから、あらかじめ言っておきます。摘まみますよ?)

 

 どこを、と言われなくてもシズにはわかった。

 さっき人差し指が滑っていった小さな突起。赤く色づいてピンと尖って、お湯の中でもそこだけはわかってしまう。

 そこを触られる刺激はくすぐったくてもどかしくて、それなのに体の奥へピリッと来るのを知っている。甘い刺激は鋭くて、心構えを整えておかないと声が出てしまうかも知れない。

 

「くぅっ……!」

 

 湯が波打つ。

 きゅうと乳首を摘まんで引っ張り、乳頭を指先でこすってくる。

 体の中に腕を突っ込まれて快感を引きずり出されているようで、魔法を掛けられて敏感にされてしまっているようで。

 

「っ……、っ……!」

 

 声を抑えるには口を両手で塞がなければならなかった。

 胸だけでこうなってしまっているのに、下を触られてしまったら。

 

 シズとは回数が少ない反面、一回一回が濃密で長時間だった。それが成長速度を補っているのだろうか。胸への愛撫だけで体を跳ねさせるほどに感じている。

 こうも悦ばれれば嬉しくなり、もっと乱れさせたくなるのは男の性。

 シズの股を開かせて、触りやすいように膝を立てさせる。右手の中指でシズに触れ、ほんの少しだけ押し込んだ。沈んだのは水着の奥で開いているから。

 

(ふーむ……)

 

 シズは感じないではないようだが、胸を触ったときと一緒で手触りが固い。どうやらお腹の部分と違って胸と股間は生地が厚くなっているようだ。

 ゆらゆらと揺れる水着を見下ろせば、胸の部分の内側に裏地が付けられている。

 水着の隙間から指を忍ばせようにも下着ほど伸縮性がないようで、いささかきつい。行為のための水着ではないのだ。

 焦らしてやるのもそそられるが、じっとこちらを見つめる二人を忘れてはいけない。時間は有限である。

 シズの胸を揉んでいる内に血が通ってきたのもある。ナーベラルの生乳を揉んでも勃たせなかったが、あれはそのつもりがなかったからだ。今はそのつもりでいるし、ちっぱいが嫌いではないのを否定出来ないのだから仕方ない。

 

 へそまで下ろした水着を掴むと、シズが振り向いて睨んできた。

 

(少しでいいのでお尻を上げてください)

 

 睨んでいたのは数秒。

 シズが体を少しだけ持ち上げたのは、男に言われた事よりも尻で感じるものがあったから。

 自分の体で興奮させた確たる証拠が自尊心を回復させる。女の魅力は胸の大きさだけではない。

 

 上げた尻から水着が抜かれる。

 脱がし易いようにシズは足を揃えて膝を曲げ、脱がした水着はゆらゆらと流れてメイドたちの所へ。

 シズは男の腹に尻を押しつけてから太股の上に座り直す。開いていた股を閉じて、ぎゅっと太股を合わせた。尻の割れ目に感じていたものが、太股と太股の間から顔を覗かせた。

 

(おちんこが立ってる)

(……シズさんの体が魅力的なんですよ)

 

 太股で感じる逸物は湯より熱い。反り返っているから割れ目に竿が押しつけられる。

 扱い方を心得ているシズだ。基本は一回目の時に教えられ、二回目に監禁した際に色々なことを実践した。

 弾力ある亀頭を指で包んで柔らかく揉みながら、裏筋をさわさわと撫でる。時々尿道口を撫でてやると湯の中にぬめり気を感じた。

 

 されるばかりの男ではない。

 可愛い乳房への愛撫を続け、シズの細い肩や首筋へ口付けを送る。ちゅうと吸ってやると甘い声を上げ、リファラとキャレットの口をぽかんと開けさせた。

 華奢なシズとこうしているのはデザートを食べている気分にさせられる。

 風呂に入っているので匂いが流れてしまうのが残念だが、シズの爽やかに甘い体臭も気に入っている。それを言うならソリュシャンの味も匂いも甘いが、あれはこちらが食べられる方だ。

 デザートとは言え、いっぱい食べればお腹に溜まるのが道理。今日はそこまで食べさせられないよう注意しなければならない。

 

 シズは亀頭を揉むだけでなく、湯が波打たない程度に体を上下させている。

 太股で挟んだ逸物が扱かれているが、素股をするなら体の向きが逆だ。快感を与えるのではなく得るための動き。自身の割れ目に逸物を擦り付けている。

 閉じていた割れ目は開き始めて、内側の媚肉が逸物に触れていた。

 

「シズさん、そろそろどうですか?」

「入れて欲しいのはそっち。私はこのままで結構きもちい」

「入れたいです」

「それなら入れてあげる」

 

 小声ではあるのだが、二人の会話は手の届く距離にまで近付いた二人にも聞こえている。会話の意味がわからない二人ではない。まさかと思いながら真剣な顔で凝視する。

 シズはこちらを見つめる二人へちらと視線を送る。見られているのは気付いていた。オートマトンであるからか、羞恥心が薄いシズだ。しているのを見られるのは恥ずかしくないではないが、快感への期待が勝る。

 二人より先に出来る優越感もある。この男と一緒にお風呂なのだから、二人だって期待しているのに決まっているのだ。

 

 シズの肩が湯面から出る。細い肩が露わになって、水着のストラップはどこにもない。リファラの手で畳まれたのだからあるわけがない。自分が裸でいることを隠そうとしていない。

 

「んんっ……、やっぱり、おっきぃ……。でも、ぜんぶ……。んっふぅ……♡」

 

 華奢で体も小さいが、男の逸物で膣内を成形したシズだ。

 腰を下ろしきって、自身を形作ったものを一番奥まで迎え入れる。

 奥に触れるの感じてから、ゆるゆると上下に動き始めた。

 

「リファラ、キャレット」

 

 む、とシズが眉間に皺を寄せる。自分とこうなっているのに他の女を呼ぶのはどういう了見か。

 何かしらの反撃をしてやろうと思ったら、リファラとキャレットが勢いよく立ち上がった。

 

「あら?」

 

 声が美しいのは美しい形から発せられるから。

 振り向く事は出来ない。しかし、声だけでわかる。

 彼方の天上で鳴る鐘の如き美しい響きは、アルベド様のお声であった。

 

 

 

 

 

 

 アルベドがスパリゾートナザリックを利用するのは初めてではない。

 自室の風呂より広くて開放感があり、気分転換に入る事があった。その際、女湯は使わない。女湯に設置されているゴーレムに襲われたのはアルベドなのだ。

 アインズ様とのニアミスも期待していた。偶然お風呂をご一緒してしまったらこれはもう何が起こっても不可抗力で仕方ない。結局そんな事は一度も起こらず、期待していたのは過去のこと。

 

 尚、アインズ様はアルベドの考えを読み切り、絶対に混浴露天風呂に近付かないのは余談である。

 

「あなた達がいるなんて珍しいのね。アインズ様がお許しになっているのだから畏まる必要はないわ。お風呂なんだし立ち上がったりしないで入っていなさい。冷えるわよ」

 

 アルベドは風呂に入るに相応しい格好。長い黒髪をアップにしてタオルで包み、手には風呂桶。当然、服は着ていない。

 水着着用の二人を疑問に思わないではなかったが、それよりも気にすべき事がある。

 

「立ち上がらなくていいと言ったけれど、顔も見せないのはどうなのかしら?」

 

 銀髪の後頭部が見えている。

 声に苛立ちが乗った。

 

 あそこがあれになって立ち上がれず、振り向こうにも上にシズが乗っている。

 

(シズさんどいてくださいアルベド様がいらっしゃいました!)

(後で埋め合わせ)

(!?)

 

 秒を争っているのにこのちびっこは一体何を言っているのか。しかし、問答する時間はない。全面降伏が唯一の選択肢。

 

(わかりました後で幾らでも!)

(ん、約束)

 

 男の陰から現れる小柄な姿。赤金の髪をアルベド同様にまとめている。

 

「私も一緒に入っていました」

 

 二人とは違って、シズは水着を着ていない。

 近くで見ても気付かなかったのは男に抱えられていたからのようだ。

 シズを抱えていた男は立ち上がる事なく、風呂の中で体の向きを変えた。

 

「お先に風呂をいただいております。私どもも入ったばかりですのでご一緒させていただけないでしょうか?」

「構わないわ」

 

 アインズ様に呼び出されていたので、今日はもう会えないと思っていた。

 三人の前で色々するのは難しいかも知れないが、先程たっぷりと精気を吸ったので一先ず満足している。偶には互いの立場を忘れ、皆で一緒に風呂を楽しむのも良いだろう。

 そう思って先ずは掛け湯をしようとしたところ、二つの風呂桶が目に入った。

 

「どうしてポーションを持ち込んでいるのかしら?」

 

 男とシズは首を傾げる。リファラとキャレットは顔色を変えた。

 アルベドは疑問を口にしたものの答えは求めてないようで、両膝をついて体を屈め手桶に汲んだ湯を体に掛ける。掛け湯もせずに風呂に飛び込んではいけないと学ばされたのだ。

 一旦風呂の縁に腰を下ろしてから、脚を伸ばして湯の中に入る。男の目線が自分の下半身に釘付けになっているのを確認して、アルベドは婉然と微笑んだ。

 わざと股を開いた。男の位置からは、アルベドの股間がよく見えた。内側も、小さな穴も見えてしまった。

 その様子をシズが見ている。男の隣で肩まで浸かったアルベドへ問い掛けた。

 

「アルベド様の相談役殿でもアルベド様がお体を見せるのは良くないのではないですか?」

 

 豊かな胸も尻も隠す事なく見せている。

 脱衣場で見えてしまったリファラとキャレットの股間には髪と同色の陰毛が生えていた。アルベドは意外な事にシズと同じ無毛。代わりに股間から下腹へかけて神秘的な紋様がある。手には桶とタオルを持っていたのに股間も隠してない。

 湯に浸かる時はわざわざ股を開いた。角度的に、男の位置からは間違いなく性器が見えたはず。

 守護者統括として、アインズ様の正妃に立候補してる身の上として、奔放過ぎる振る舞いではないだろうか。

 

 アルベドは思ってもみない事を聞かされたかのようにパチパチと二度瞬きした。

 

「シズは私の種族を知っているでしょう?」 

「はい。サキュバスです」

「それならこの子の役職は?」

「アルベド様の相談役です」

「他には?」

「え……」

 

 シズが言葉に詰まり、アルベドは空気になろうと努めていた二人のメイドに目を向ける。二人は目配せをして、キャレットが答えた。

 

「アルベド様の給仕係と伺っております」

「それならサキュバスの食事は?」

「え……、失礼いたしました! ですが、それは…………」

 

 キャレットもリファラも、そしてシズも。サキュバスの食事を知らないではないようだ。

 アルベドは男の背後に移動して、後ろから抱きついた。

 

「そう言う事よ。この子の役職はアインズ様も承認済み。アインズ様もご存知でいらっしゃるわ」

 

 御前で実演したこともあるし、と続いた言葉を三人は衝撃と共に受け取った。さすがのアインズ様は高レベルが過ぎた。

 事の実態を知って認めているのは事実であるが、御前で実演は誤解である。あれは非接触の吸精だった。

 

「私からも聞きたいことがあるわ」

 

 以前聞かされた話を思い出した。

 さっきのシズは、後ろから男に抱えられていた。シズは背が低いので沈まないよう男の膝上に乗っていたのかと思ったが、アルベドのサキュバス的第六感が気配を感じた。

 傍証はここにも。男の背中にしなだれかかっているアルベドは、湯の中で男の股間をまさぐっている。目当てのものは触る前から屹立していた。ぬるめの湯より熱い逸物は、握っているだけで体に熱が移ってくる。

 

「さっきのシズはこの子とセックスしていたの?」

「?!」

 

 シズは男の股に座っていた。おそらくは、その時から勃起している。

 入っていたのに違いなかった。

 

「隠さなくてもいいのよ? 責めているわけでもないし。シズがこの子とセックスした事があるのは知っているもの」

「!!」

 

 アルベド様に話したのかと、シズが男へ向ける視線は鋭い。

 リファラとキャレットがシズを見る目は驚愕そのもの。なんだか怪しい雰囲気ではあったが、本当に入っているかどうかは半信半疑だった。アルベド様が嘘を言うとは思わないが、小柄なシズにあれが入ってしまうとは想像しがたい。

 強ばるシズへ、アルベドはふと相好を崩した。

 

「私も女ですもの。気持ちはわかるわ。我慢しなくていいのよ? ナザリックにはそういう対象になる男が少ないし」

「それは……、いいのですか?」

「ええ、もちろんよ。ついでに聞きたいのだけど、そこにあるポーションは何に使うつもり?」

「もしかすると」

「あなたは何か知ってるの?」

「持ち込んだのがリファラとキャレットなら察するものがあります」

 

 アルベドは視線でシズに問う。シズは頭を左右に振った。

 とすれば、必然的に残る二人になる。

 

「破瓜の傷を癒すためでしょう」

「破瓜ぁ?」

 

 シズには意味がわからない。けどもアルベドと、当の二人は知っている。

 アルベドが知っているのは当然として、二人が知っているのは異本に書かれていた記述だからである。

 二人はあわあわと手を振るが、逃げ場はどこにもない。

 

「私のは大きいようで、経験がないと痛みが強いようなのです」

 

 二人ともレベルで言えばたったの1。1レベルが比べるのもおこがましいが、カルネ村のエンリ大将軍より低レベルである。戦闘に関するクラスを持っているわけがなく、痛みに耐性がない。

 

「破瓜の際にポーションを使ったことが何度かありますので、そうではないかと推測しました」

 

 シクススとシェーダ。どちらもナザリックのメイドである。

 

「そうなの?」

「…………はい、相談役殿の推測された通りです」

「裂けてしまうと聞きましたので、そのために持ち込みました」

「裂けるようなことをするつもりだったのね」

「「………………」」

「シズにも言ったけど責めるつもりはないわ。我慢する必要はないのよ? 折角用意したんだからちゃんと使わないといけないわね」

 

 そんな事を言われても、アルベド様の御前で頷けよう筈がない。

 

「そんな顔しなくていいわ。無理強いするつもりはないのだから。でも、こんな機会はもうないとは思うけれど」

 

 リファラとキャレットは、今を逃せばもう二度と経験をする機会がなくなるのだと思った。

 ところがアルベドの真意は、今は偶然一緒にお風呂に入っているから初体験を手伝うことが出来る、である。

 追い詰められている二人のメイドにそこまで察するのは無理だった。

 

「それなら……お願いします」

「キャレット!? …………あの、私も……、お願いします」

 

 アルベドはにっこりと笑みを浮かべて、深く頷いた。

 

「それなら私は途中でした。私もいいでしょうか?」

「もちろんよ。あなたもそれくらい大丈夫でしょう?」

「はい」

「それなら順番はシズからかしら? ここで見させてもらうわ」

 

 話を聞いたときから、シズの小さな体に男のあれがきちんと入るのか、機会があったら見てみたいと思っていた。

 

「それならマットを敷こうと思います」

「こんな事もあろうかと色々用意しておりました」

 

 リファラとキャレットが湯から上がり、足早に脱衣場へ向かう。

 手伝おうかと立ち上がった男は、後ろからアルベドに抱き留められた。

 

「っ!」

 

 アルベドの両手が逸物を扱く。

 シズに挿入したものの出してはいないので、激しくはないあまやかな刺激が辛くもあった。

 男の股間をシズがじっと見つめている。立ち上がらずに湯の中を進んで男の前に。

 アルベドが気を利かせて、反り返っている逸物をシズの方へ向けてやる。シズは男の顔を見上げながら、先端をぺろと舐めた。

 

 二人から焦らされている男は、濡れた体で冷たい風に吹かれているのに全く寒くないのを意外に感じていた。それどころか涼しくて気持ちいいくらいである。長時間入っていたわけでもなし、そもそもぬるい湯だ。お湯に特殊な効果があるのだろうと考えた。

 それも当然のこと、スパリゾートナザリックの温泉は、人工温泉もとい神造温泉である。簡単に湯冷めしない。なんならコキュートスの守護階層に全裸で突入しても大丈夫。ただし湯中りは別なので、そこは注意しないといけない。

 

 

 

 シズと話す内に、アルベドへサキュバス的天啓が降りていた。

 

 愛しい男が己を深く愛し、深い忠誠を捧げているのは疑いようがない事実。

 では、愛と忠誠の源泉はどこにあるのか?

 

 己が罪深いほど美しいと知っているアルベドだ。比類する者はどこにもない。

 しかし、追いすがる者はいる。この場にいるシズは自分とはタイプが大分違うが美しい少女であるし、マットを取りに行った二人のメイドも肉惑的な美女だ。ナザリックには美しい女が幾人もいる。彼を捕らえていたあの女も、認めざるを得ない美貌を持っている。

 美しいから愛され忠誠を得ているわけではない。外見だけしか見れない愚者は御免だ。

 

 ならば知性か。

 ナザリックにて知を誇るデミウルゴスとパンドラズ・アクターは、この男と相性が良い。アルベドとて見通せぬ端倪すべからざる深き叡智をお持ちであるアインズ様も、度々時間を作ってこの男との会話を楽しんでおられる。今となっては忌々しいが、あの女の知性は己に匹敵しうる。

 知性は必要であっても絶対ではない。

 

 豊かな生活は大いに関係があるだろう。

 狭い石の部屋に囚われ、空さえ見えない生活だったと聞く。しかし、これも絶対とは言えない。豊かな生活は己でなくても与えられるからだ。現に帝国の皇帝はこの男を厚遇して引き込もうとしている節がある。

 

 唯一とも言える源泉は、火傷を癒したから。

 ゆえにこの男は自分へ忠誠を捧げた。

 しかしそれは、ラナーがこの男を焼いたからこそ出来たこと。それではまるでラナーに恵まれたようではないか。

 そこをラナーに突かれたら答えに窮する予感があった。

 

 子供まで産んだのだ。裏切られることは絶対にない、させない。

 だけども自分を納得させたい。自分が愛されているのはラナーの施しではなく、偶然でもなく、必然だと確信したい。

 自分から自発的に仕掛けたことで男が離れないようにしなければならない。

 そのためにシズたちへ許した。

 

 自分が与える快楽は極上であるとの認識があっても、持っていないものもある。どう頑張っても自分はシズのような慎ましい体にはなれない。

 そこを補うために、他の女たちの体も使って男の心身を捕らえるのだ。

 まさにサキュバス的発想である。

 

 実に珍しいことに、アルベドの言葉を男は誤解することなく受け取った。

 アルベド様からの公認セックスである。一番がアルベド様であるのは当然として、他の女達に食指が動くのは事実。今までは黙認されていたが、言葉に出して公認されたのだ。

 サキュバスが「女だから気持ちはわかる。我慢しなくていい」と言えばセックスの事に決まっている。

 しかし、サキュバスではない女たちはそのように受け取るか否か。

 

 

 

「持ってきました」

「お湯に浮かないマットですので、ここに敷いてよろしいでしょうか?」

 

 リファラが風呂の隣に丸めたマットを広げ、キャレットがその上に大きなバスタオルを敷く。

 

「行ってらっしゃい」

 

 アルベドが男を離す。

 男は全身から水滴をしたたらせながらマットに上がった。

 シズはアルベドへ一礼してから男に続く。心中には寛大なアルベドへの感謝がある。しかしそこには、僅かな敵愾心があった。

 大海に一匙だけ垂らしたような、ゼロに等しい僅かなもの。だけれどもゼロではない。

 

 我慢しなくていい、と言われた女はどう受け止めるか。

 シズだけでなく、リファラとキャレットも同じ。

 

 それは、好きになっていい、と言うことだった。




文字数が嵩む割に話が進まないのは今更なのでまあいっかの精神でお願いします
あと10話。出来れば5話以内にエントマを出したいです
エントマ登場予告は54話(二年前!)で100話以上前と言うのが目眩を感じる


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みんなでお風呂 ▽シズ・リファラ

四人で一話は難しいので分割


 シズの希望により男が下になった。

 初体験時は動きを封じられていたので下になったシズだが、諸事情により上での回数がずっと多い。回数は少ないながらも試行錯誤の甲斐あって、上での腰使いには自信ありである。

 

 マットに横たった男の体から一部だけ突き出ている。シズは諸々の覚悟と期待を胸に男の腰を跨いだ。

 男の股間の上でしゃがむように腰を落とし、近付いたら先端を摘まんで上向かせる。

 位置を合わせて自分に触れさせ、腰を下ろそうとしたその時である。

 

「あっ!?」

 

 男の体がするりと下から抜け出した。あれよあれよと言う間に背後を取られ、風呂に入っていた時のように後ろから抱えられた。

 シズの足の内側に男の膝が入り、股を思い切り開かされる。

 この男はアルベド様がお決めになった順番を無視しようと言うのか、これは反撃しても許される。物理的強制力をもって男を下そうとするのだが、

 

(シズさんの次はリファラとキャレットです。二人とも初めてですから、シズさんがお手本を見せなければなりません。どこへどのように入るのか教えておくべきと思いませんか? シズさんだって二人に失敗して欲しくないでしょう?)

(……そう言うことなら)

 

 尤もらしい言葉に、シズは数瞬考えて頷いた。二人は同じ男を巡るライバルかも知れないが、失敗して嫌な思いをして欲しいわけではないのだ。シズちゃんはとても良い子だった。

 良い子の良心につけ込んだ男は、シズの背後でにやりと笑う。嘘を言ってるつもりはないが、今更入る場所がわからない二人ではない。シェーダと交わっているのを間近で見ている。自分で自分の位置を確認したことだってあるだろう。

 目的は別にある。

 

「っ!」

 

 シズが声になりきらない声で呻く。

 男の股の間に座らされたシズは、尻を前に滑らされて大きく股を開かされた。股間を前に突き出して強調するM字開脚である。

 股を少し開いた程度ではまだまだ無垢な一本筋だったシズの秘部は、大きく開かされたことで少しだけ内側を覗かせた。

 

「!!」

「そっちから見えるかな? シズさんのここに入るんだ」

 

 筋の両脇に男が指を添え、左右に引く。外は無垢そのものなのに、内には淫靡な肉が隠れている。ピンクの媚肉がぬらぬらと濡れ光っているのは、シズが男の体を求めているから。

 不定形でとろけているような媚肉は下の方に小さな穴を形作る。小指すら入りそうにない小さな穴はシズのリズムで開いては閉じて、閉じている時は完全に塞がって穴が見えなくなってしまう。

 

「シズさんのおまんこは小さくて、穴もこんなに小さいんだ。それなのに俺のが入るくらいに広がってくれる。入れてもきついって事はないかな。シズさんがよく濡らしてくれるのもある」

「くぅ……!」

 

 風呂の中から観賞している三人は、リファラとキャレットは驚きに目を見開き、アルベドとて手のひらで開いた口を隠している。

 羞恥心が薄いシズでも、おまんこをくぱあと開かれて穴の解説をされるのは恥ずかしいようだ。頬を染めて正面の三人から顔を背けた。

 

 恥じらうシズを見て、男は邪悪に嗤う。前回のシズはシークレットルームに監禁してくれて散々好き放題しやがったのだ。辱めは正当な復讐である。

 しかし度が過ぎると後の埋め合わせがハードになるかも知れない。その程度には頭を回せるようになった男は、シズの細い顎を掴んだ。

 

「あっ! むぅっ……んん……、んっふぅ……んあぁっ!」

 

 シズを振り向かせ、上から包み込むように唇を奪う。

 強ばったのは一瞬。すぐに目を閉じて唇を受け入れ、体を委ねた。ぬるりと入ってきた舌に小さく応え、注がれる唾を啜る。

 割れ目は右手の人差し指と薬指で器用に広げ、ピンと立てた中指を三人に見せつけてからシズの穴へあてがった。

 まずは指先で入り口を優しく撫でる。濡れ具合とほぐれ具合を確かめたわけだが、さっきは風呂の中で挿入している。シズは十分だった。進めた指は第二関節まで飲み込まれた。

 

 上ではじゅるじゅると粘着質に、下ではくちくちくちゅくちゅと。シズの穴から、明らかに風呂の湯とは違う液体がとろりと溢れる。

 

「はぁ、はぁ……。あむっ……、ちゅうぅぅ……! ちゅるる……、れろ……。……おちんこがぱんぱんになってる」

 

 上からのキスが下からになったのは、シズが男を押し倒したから。

 男の唇を貪りながら、下腹に感じる熱い逸物をそっと握る。さっきまで入っていたけれど、改めて奥まで迎えるのだ。

 ぷはあっとキスを中断し、今度こそ男の股間の上に跨がった。

 

 裸どころか性器を見られて解説され、目の前で情熱的なキスまでしてしまった。

 毒を食らわば皿まで、と言う奴だ。元より三人の前でセックスするのは既定路線なのだから、挿入を見られるのはやっぱり恥ずかしいけれど出来ないものではない。それがリファラとキャレットのためになる。

 

 マットは風呂のすぐ隣に平行して敷かれている。

 シズは風呂側の右足は膝を立て、左足は膝を着く。そうすると並んでいる三人からはシズの性器がよく見えた。

 三人の視界を遮らないよう左手で逸物を上向かせ、右膝を曲げていった。体の中心に先端が触れる。割れ目の内側に潜らせながら軽く前後に振って目当ての場所を探す。他の所より少しだけ沈むところが入るところ。

 

 リファラとキャレットは勿論、何度も何度も経験があるアルベドさえ固唾を飲んで凝視している。

 三人が見守る中、膨らみきった亀頭がシズの中へ沈み始めた。小さな穴を男の欲望が押し広げるのは、いっそ残酷に思えるほど。

 なのにシズは腰を下ろして男を受け入れ、長い逸物が少しずつシズの中へ消えていく。半分も越えれば小さなシズには限界だろうに尚も腰を落とし続け、小さなお尻を男の股間にぺたりとつけた。

 立てていた膝を崩し、男の下腹に両手をつく。はぁ、と艶っぽい息を吐いた。

 

「おちんこが……、ぜんぶはいりました」

 

 鬱陶しくなったのか、髪をまとめていたタオルをほどく。赤金の長い髪が仄かな光に照り輝きながら、体に張り付くことなく小さなシズをさらりと包む。

 体を反らせて左手を後ろに突く。右手の人差し指が股間の一番下を指した。

 

「ここから……」

 

 二人の結合部に触れた指は、つつつと下腹を上がってへそを通り過ぎ、

 

「ここまで……、はいってます」

 

 何が、とは言わない。

 薄く微笑むシズの妖艶さに、アルベドさえ息を飲む。

 

「動きます」

 

 男の上で、シズが腰を振り始めた。

 

 

 

「シズがあんなに……、すごいわね……」

 

 ぱちゅんぱちゅんと腰を下ろしきったりしない。

 両膝を立てて腰をくねらせ、先端から半分くらいまでを往復している。微妙に前後にも動いているのは、膣内のいいところを擦っているように見えた。

 それよりも、やはり小さなシズの中へ太い逸物が出たり入ったりしているのが驚きだ。本当に間違いなく入っている。根本まで受け入れればアルベドの子宮口に触れる長い逸物なのに、小さなシズが全部咥えてしまっている。

 

「シズがここまで見せてくれているのだから、今更臆してはダメよ?」

 

 二人はシズを食い入るように見つめていた。

 シズは頬を上気させて口角を上げ、余裕を持って男と交わっている。前回はこうして焦らしに焦らし、出そうな気配を感じたら動きを止めた。たっぷり一時間以上挿入しっぱなしで、シズは浅く深く何度も達していたのに男には一度も出させなかった。

 覚えてしまった動きを繰り返すのは、それで得られる快感を記憶しているから。

 

(……シズには悪いけど、このままだと少しまずいわね)

 

 アルベドは焦らして高めるよりも思い切り貪るタイプなので、シズのような腰使いをしたことはない。今度試してみようと思う。

 それはそれとして、シズが楽しむのは大いに結構なこと。だけれども、今のシズは二人のお手本である。処女の二人が女性上位でセックス出来るわけがない。なお、睡眠姦を試みて騎乗位を失敗して逃げ帰ったのはもう忘れた。もしも誰かに知られたら何としても口を封じなければならない黒歴史である。

 黒歴史はなかったことになったのでどうでもいい。問題はシズだ。余裕を持って妖艶に交わるのは、幼げな少女に見えるシズの姿とギャップが激しい。

 もしも二人が、セックスとはあのようにする事、と思ってしまったらまずい。出来るわけがないことに挑戦して、失敗したと思ってしまうかも知れないのだ。

 そのためには、シズを乱れさせなければならない。

 

「アルベド様?」

 

 アルベドは上半身だけ風呂から出して、男の髪を手櫛で整える。銀髪から覗いた耳に赤い唇を寄せ、そっと囁いた。

 

(シズをよがらせてやりなさい)

 

 理性でもって、快感を舐めとるように交わるのは勿論善いことだ。

 それよりも善いことは、理性をなげうって獣のように交わり乱れること。

 

 シズに全てを任せていた男が、シズの細い腰を掴む。

 亀頭だけがシズの中に入っている状態で、浮いた腰めがけて腰を跳ね上げた。

 

「あひぃっ!?」

 

 乾いた音が響く。

 長い逸物は一息でシズの膣内へ帰って行き、媚肉を抉って狭い膣をこじ開けながら最奥を叩いた。

 乱暴に腰を打ち付けたように見えて、角度をつけてシズが感じやすい所を擦っている。

 

「あっ、あっ、やぁっ、だめぇ! わたし、うごくからぁっ!」

「こうするのは好きでしょう?」

「うっ、あっあっ、ああん♡ ……すきぃ。おまんこぱんぱんされてっ、きもちいのぉ♡」

 

 幼さの残る美貌が愛欲に溶け、感じるままを口にする。声は高く甘く、淫らな言葉をためらわない。

 リファラとキャレットに、上位者であるアルベドを前にしてここまで乱れられるシズではない。乱れているのは見えないから。

 腰を使っているときは視線を意識して、感じすぎないようにしていた。しかし、下から突かれてギリギリを保っていた均衡はあっさり崩れた。

 上半身は崩れて男の胸に体を預け、男の首にすがりつきながらあえいでいる。下半身もそうなっていたらまだ楽だったのに、男に掴まれ腰を浮かせたまま突かれている。

 小さな雌穴を太い逸物が行き来する。二人の体を濡らした湯は夜風と熱い体で乾ききって、未だ濡らしているのは二人の淫液。男が中に入る度にシズの汁をかきだして、打ち付ければ肉を打つ音に湿った音が混じった。

 

(こんなの見せられると私も……♡ でも二人が先よね)

 

 湯の中でアルベドは自身の股間へ手を伸ばした。

 隣のリファラを見ても、暗いお湯の中は見通せない。膝立ちになって熱心に見ているリファラの太股にそっと触れた。

 

「あ、アルベド様!?」

「次はあなたの番よ。彼がしてくれると思うけど準備は大丈夫?」

「は……はぃ……」

「確かめてもいいかしら?」

「えっ!? ………………どうぞ」

 

 シャルティアと違って同性愛の気はないアルベドである。とは言えそこは大淫魔のアルベドであって、ハードルはとても低い。

 リファラは上位者のお願いを断れなかったのかも知れないと考慮して、入れたりはしないで柔らかさだけを確かめようと内側に回った手をゆっくりと上に運んでいき、目を丸くした。

 

「あなた…………」

 

 触られたリファラは同性に触られた恥ずかしさに、いささかの罰の悪さを交えて赤い顔を逸らす。

 リファラもキャレットも水着を着ているのに、思ったのと違う感触だった。

 

 

 

「あっあっあぁん! いいっ、おまんこのおくにぃ……♡ おちんこきて……、きてるぅ……! あああああああああああぁぁぁあああーーーーーっ!!」

 

 アルベドが驚いていると、シズの甲高い声が静かな露天風呂に響きわたった。

 逸物を根本まで突き立てられ、シズの小さな尻が小さく震えている。着色のない綺麗な肛門がきゅっと閉じては緩むのに同期して、中では膣肉が男の逸物を締めている。

 遠慮なしに中で出された精液を奥へ奥へと導くために、シズの意志とは独立して淫らな器官が機能する。

 

 シズが一頻りあえいでから掠れた吐息となると、露天風呂の静寂が際だった。

 脱力して男の体にしなだれかかり、すぐそこにあった唇へ口付けた。柔らかな唇を唇で食み、舌でなぞってから侵入する。温かな舌と出会って挨拶をして、挿入したままの逸物が膨らんでくるのを感じた。

 

「シズさん、順番ですよ」

「……わかった」

 

 最後にちゅっとキスをしてからずるりと男の逸物を引き抜いた。

 叫ぶほどに絶頂して抜いたばかりなのに、シズの小さな穴はきゅうと閉じて吐き出されたものをこぼしたりしない。

 離れ際、そっと男へ耳打ちする。

 

(埋め合わせ。忘れるな)

 

 これはこれでそれはそれ。

 男は頬をひきつらせた。

 

 

 

 

 

 

「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

 

 リファラがマットの上に正座して、三つ指ついて頭を下げる。

 異本で学んだマナーである。女が床入りする時はかくすべしとの記述があったのだ。

 

「待ちなさい。始める前にちょっとこっちに来なさい」

 

 アルベドが男を手招きして風呂の縁に座らせた。

 シズの中へ射精した逸物は、角度が萎えてきている。一度や二度では萎えず、抜かずに三度は出来る男だ。しかし抜いてしまうと僅かであってもインターバルが必要になる。リファラで終わりならじっくりしてくれてもいいが、その後にキャレットと自分が待っている。時間は節約すべきなのだ。

 

 アルベドは男の股間に顔を近付けた。手は使わずに精液と愛液で濡れた亀頭を唇で包んだ。ちゅるると吸って尿道に残っている精液を吸い出したら、更に顔を近付けていく。

 髪をまとめているので、手を使って髪をかきあげる必要がないのは楽だった。男の腰に抱きついて頭を前後に振り始めた。

 二人の淫液に濡れていた逸物を自身の唾液で上書きする。力を失いつつあった逸物が、頭を振る度に熱く固く、力を取り戻していく。

 

 アルベドのフェラチオに、三人は目を見張った。

 ナザリックにおいて序列二位にある守護者統括にしてアインズ様の正妃に立候補しているアルベド様が、跪いて男性器をしゃぶっている。

 衝撃的な光景ではあったが、アインズ様が承認なさっていると聞いたのを思い出した。

 アルベドが恍惚とした表情でいるのを見ていると、サキュバスとはそう言うものなのかと心に落ちてくる。

 

 

 

「これでいいわね」

 

 アルベドの口から現れた逸物は、シズへ挿入する前と変わらない硬度と角度で反り返っていた。

 しゃぶられていた方はそのまま口に放ちたかったところではあるが、今は己の欲望よりも女たちに尽くす時間である。

 真っ赤な顔でこちらの顔と股間を交互に見てくるリファラの前に屈み、見る者の緊張を溶かす柔らかな笑みを浮かべて女の体に抱きついた。

 

「あっ」

「んん?」

 

 抱きついた瞬間に感じるものがあった。

 華奢なシズとは違って、胸も尻も豊かなリファラは抱き応えがある。柔らかな肢体が絡んでくるのも心地よい。

 リファラを膝立ちにさせ、股の間に膝を差し込んだ。そのままぐいと抱き寄せれば、リファラの股間が太股に擦れる。キャレットと同じく水着を着ているはずのリファラなのだけれど、先のアルベド同様に思ったのと違う感触に戸惑った。

 じっとリファラを見る。

 目が泳いでいるのは、悪戯がばれた罰の悪さではないだろう。自身のはしたなさを突きつけられて恥じらっている顔だ。

 

「あ、あの、あの……。そのつもり、でしたので……」

 

 言葉尻が小さくなって、口中に消えていった。

 

「あっ!」

 

 トップスのフリルブラをめくる。

 波打つ布地に隠された胸は、乳房を包む生地が存在していなかった。ピンク色の乳首が見えた。

 腰に巻かれたパレオをめくる。

 パンツはなく、股間に白い陰毛が見えた。下生えは薄く肌も白いので、まるでシズと同じ無毛のようだ。

 リファラの水着は、隠すべき部分に布が乗っているだけのものだったのだ。

 

「脱がせてもいいだろう?」

「は……はいぃ…………」

 

 シズへのカモフラージュとして着けていた水着だ。そのシズが目の前であんな事を見せてくれたのだから、最早不要である。

 着せたままするのはまたの機会に譲るとして、リファラの体はとても魅力的だ。

 裸自体は、以前メイドたちの前でシェーダを抱いたときに見せてもらっている。今回は見るに留まらず、隅々まで味わってよいのだ。

 

「ひゃう!?」

 

 豊かな乳房に手を添える。まずは優しく触れるだけ。下から包んで持ち上げると確かな重量感。大きなおっぱいは大きいだけ重たいが、その分だけ愛が詰まっているのだ。

 ミリ単位で手指を動かし、リファラの様子を窺いながら少しずつ力を込めていく。

 続ける内に赤らんだ顔が上向いて視線が絡む。ぎゅうと握れば忘れていた呼吸を思い出したかのように口を開き、すかさず奪った。

 抵抗はない。

 開いた口からまっすぐに舌を忍ばせ、リファラの舌を舐め上げる。口内に湧いてきた唾をじゅるると啜ればようやく舌が応え始めた。

 リファラの股はこちらの太股に乗っているので、左手はリファラが落ちないよう腰を支える。女の柔らかさを楽しんでいた右手は楽しみを一時中断し、リファラの左手をとった。

 

「うぅ……、おっきぃ……」

「知ってるだろう?」

 

 女の手を自身の股間に持って行く。

 男に触れた手は躊躇いがちにそっと握り、上下に動かし始めた。

 

「もっと強く握ってくれ」

「……こう?」

 

 男を見る目が上目遣いになるのは、顔が下を向いているから。

 見るのも触れるのも初めてではない。初めて見たときは胸で挟んで扱いたし、二度目は口で愛した。どちらの時も美容のために精液を味わった。

 三度目の今日は、口ではなく中にもらう。シズがしていたように挿入してもらって、熱い精液を出してもらう。

 同僚のシェーダがしているのを見たし、今し方はシズが楽しんで交わっているのを見た。

 自分にも出来るはずだと思うけれど男のものは大きくて、これが自分の中にと思うと期待に混じって恐怖が顔を出してくる。

 

「あんっ! ちくび……摘ままれると……」

「摘ままれると?」

「……わかんないです。でも、いやじゃなくて。……もっと触ってて欲しいです」

 

 リファラは覚悟を決めてここに来ているが、いざとなって気後れしているようだった。

 扱くペースはゆっくりで、強くと言ったのに弱々しい握り方。

 それでも体の準備は整いつつある。太股に触れるリファラの股間が潤んできている。

 こんな時、男はどうすればいいか知っていた。

 

「きゃっ!」

 

 リファラをマットに押し倒す。

 上からのしかかって唇を塞ぎ、片膝を立たせる。開いた股に手を差し入れて、開きつつある秘部へ指を這わせた。

 

「――――っ! ――――っっ!!」

 

 リファラは処女だ。指で処女膜を破るような勿体ないことはしない。

 膣は入り口を撫でるに留め、指先に愛液をまとわせる。ぬるつく指で小さな肉芽を撫で始めた。

 肌を触れ合わせて体は否応にも期待しているのだろう。頼りなかった肉芽はすぐに膨らんで、ここを触ってと自己主張する。

 甘い声が高くなり、尖った乳首をちゅうと吸えば背を仰け反らせる。

 立たせた膝ががくがくと震え、時折爪先まで力が入った。

 

 リファラは指を噛んで鳴き声を抑えようとして、両手首を男に掴まれた。

 両手が塞がっているのに愛撫は続いている。体の中心から内側に入ってきたような官能は、下を向けば答えが出るはず。

 何をされているのか、わかっているのかいないのか。

 固く目を瞑ったまま甘い声で鳴き続けた。

 

 

 

 観戦している三人は、無言でリファラの痴態に見入っている。

 

 キャレットは、次は自分が、とリファラの身を自分に置き換えて体を火照らせた。

 アルベドは男の舌使いを思い出し、湯の中で両手を働かせている。

 シズはと言うと、たっぷり出してもらったのに自分は舐めてもらってないと頬をちょっぴり膨らませた。

 

 隣でシズが湯に浸かっているのに気付いたアルベドは、一人遊びを中断して首を傾げる。

 シズが湯に入る時、きちんと股間をお湯で流したのを見ている。それはよいのだが、シズの股間からは男の精液が出ていなかった。シズは奥に来てると言ったのだから、ちゃんと射精をしてもらったのだと思う。

 アルベドはサキュバスなので子宮から精液を吸収することが出来るので、余程の事がなければ膣から精液を溢れさせる事はない。

 しかし、シズはオートマトンだ。アルベドと同じ事は出来ないはずである。

 

「シズは中に出してもらったんでしょう?」

「はい。お腹の中が温かくていっぱいです」

 

 シズの不満顔は溶け消えて、女の顔で下腹を撫でた。

 

「まだ中に入っているの? 綺麗にしてあげましょうか?」

「いえ……。すぐには劣化しないから大丈夫です」

「劣化?」

 

 命の素であってもナマモノなので、時間が経ちすぎれば痛むものである。

 道理ではあるが、アルベドには理解しがたかった。

 

「ええと、シズはおまんこから精液を吸収できるわけじゃないわよね?」

「はい、出来ません」

「それならその内出すのでしょう? 一回目だったから量が多かったと思うのだけれど?」

 

 円卓の間で瀕死になって回復した後はアルベドが精気を吸い尽くして瀕死になって、ここで元気にしているところを見るとちゃんと回復してもらったようだ。

 回復魔法を受けると、体の傷以外にも失った血液や体液も回復する。と言うことは精液だって満タンになるのをアルベドは知っている。

 

「私はオートマトンですが、おまんこの奥に子宮に該当する器官があります。そこに溜めておけます」

「溜められても結局出すのでしょう?」

「はい」

「折角お風呂なんだから、今出して綺麗にした方がいいんじゃないかしら?」

「いえ、それは…………」

 

 公開セックスしてしまったのに、この期に及んで口ごもる事があるのだろうか。

 アルベドの頭を疑問符が埋め、追求を避けられないと悟ったシズは恥ずかしそうに俯いて答えた。

 

「あとで摂取しようと思って……、保管しています」

「……………………摂取?」

「……………………はい」

「それはつまり、口からと言うことでいいのよね?」

「……はい」

 

 シズに何度驚かされればいいのか、アルベドは大きく開いた口を上品に手で隠した。

 そう言えばさっきしゃぶった男の逸物は、精液よりもシズの淫液に包まれていた。仄かに甘い香りがあったように思う。濃厚でいながらほんのりと塩気がある精液には良いフレーバーかも知れない。

 

「私は種族特性として飲料しか口に出来ません。私に用意される飲料は主成分が糖分と脂質でカロリーを補っているため動物性タンパク質を摂取する機会がほとんどなく、折角出したものを流してしまうのはアインズ様が仰る倹約の精神に反すると思うので無駄にしないように心掛けています」

「……美味しい?」

「………………嫌いじゃ、ないです」

 

 折角髪をまとめ直したのに、シズはぶくぶくと湯の中に沈んでしまった。

 呼吸を必要としないシズなので、その内復活するだろう。

 

 

 

「あっ、はあっ……、ああ……。もう……、もう……!」

「欲しいか?」

「……はぃ……。いれて……ください…………♡」

 

 リファラの股から顔を上げた男は、顎まで濡れていた。ペロリと舌が唇を一周する。

 

 自分の愛液を舐められたリファラは、恥ずかしく思いながらも胸を高鳴らせた。

 漠然と憧れていた。実物を見て憧れが強くなった。勇気を出したシェーダを凄いと思うと同時に羨ましくも思う。体が溶けてしまったような快感に浸らされて、だけどもこれ以上があるらしい。

 憧れは期待となって、今や渇望にまで上り詰めた。

 それが、得られる。

 男の手に従って股を開いた。

 触れ合う肌は汗と熱で溶け合って、自分の体を這い上がる男の体は始まる前に比べたら驚くほど逞しくて何もかも委ねられる安心感があって。

 

「あっ! 今の入ったんですか?」

「まだだよ」

 

 男を受け入れようと、秘唇が開いている。膨らんだ亀頭が内側に潜って、上下に撫でた。

 入り口に合わせても、すぐには入らない。

 経験があるならぬるりと入っていくが、リファラは処女だ。入り口を処女の証が塞いで、受け入れたいのに侵入者を拒んでいる。

 

「わかるかな? 俺のがリファラの処女膜に触れている」

「わっ、わかります。ぐいぐい押されてて……。ちゃんと、入りますよね?」

「もちろんだ。少し痛いかも知れないけど、俺のために耐えてくれ」

「はい! ……んううっ!! くぅ…………!」

 

 膣口を狭めている処女膜が、亀頭に押されて裂け始める。

 先端の半分も入っていないのに、リファラには辛かった。率先して処女を散らしたシェーダより臆病で、痛いことには耐性がない。

 前戯は大いに楽しんだが、文字通りに体が裂ける痛みは臆病心を呼び覚ましてしまう。

 

「手伝ってあげるわ」

「アルベド様?」

 

 リファラに体を密着させていた男が上半身を起こす。

 割って入ったアルベドはリファラの下腹に手を当てる。色も形も何もかも美しい繊手から、不可視の力がリファラへ注がれ始めた。

 

「私に傷を癒す力はないけれど、少しは楽になったでしょう?」

 

 精気を吸うことが出来るのだから、与えることだって出来る。ナザリックにて慈悲と慈愛の象徴であるアルベドは、後ろから押したシャルティアとは優しさが違うのだ。

 サキュバスとして覚醒を果たしたあの夜、精気を奪って精気を与えて、無限のウロボロスの如き快楽の果てに至った。

 

「は、はい……。アルベド様の手が温かくて、痛くなくなった気がします。ありがとうございます……」

 

 痛みが熱に変わったようだ。触れ合っている部分が熱い。耐えられない熱さではなくて、心地よい熱さ。体ではなく心を焼く熱。

 

「……キャレット?」

 

 いつの間にか隣に座ったキャレットが、リファラの手を握っていた。キャレットの目には衷心があった。心から自分のことを気遣ってくれている。

 欲しかったものを与えてもらえるのに、アルベド様のお手を煩わせてしまって、キャレットに励ましてもらって。

 ここで退いては女が廃る。

 

「きて、ください!」

「ああ」

「ひぐぅ……。あっ……あっ……、はいって、きてるぅ!」

 

 男の逸物が処女膜を破り、何者も受け入れたことがない閉じた膣をこじ開ける。

 未通の女を男が通って、消えない傷をつけていく。

 

「ほんとうにはいって……、わたしの中に……」

 

 はらりと涙をこぼし、リファラは自分の体を見下ろした。

 遠かった男が近くになっている。

 体の真ん中に自分のものではない異物が入っているのを強く感じる。異物だと思ったのに一瞬ごとに違和感は薄れていき、こうなっているのが正しい形に感じてくる。

 シェーダが言っていた「自分は一人じゃない」と同じ思いが、リファラの胸にも湧いてきた。

 

 ただし、根本まで指数本分余っている。それでリファラの一番奥に届いてしまった。

 痛みに耐性があったり、むしろ痛い方が好きな面々へは無理に押し込むところだが、どう見てもリファラはそうではない。

 無理に入れなくても、ここまで入れば互いに楽しむことが出来る。

 しかし、折角ポーションがあるのだ。傷ついても瞬時に癒すことが出来る。

 

「よく頑張ったな。リファラの奥まで届いたよ」

「はい、うれしい、です。入ってるの、わかります」

「ここからはリファラ次第だ。ここまででも十分。だけどこれ以上にするとさっきより痛くなるし、俺専用の体に作り変えられる。どっちがいいのか俺にはわからないが――」

「シェーダはそうしたんですよね?」

「まあ、な」

 

 シェーダは処女だったのに、上から乗って思い切り体重を掛けた。知らないが故の蛮勇である。

 シクススへは奥まで入れて処女を散らした後、ポーションを掛けてから再挿入した。

 

 ポーションは瞬時に傷を癒してしまうため、痛みを消すことは出来ても痛みを感じないようにするにはタイミングが難しい。瞬時に効力を発揮するのではなく、遅効性もしくは効力を少しずつ発揮するポーションがあれば問題は解決するのではないだろうか。

 そう思った男だが、もしもそのようなポーションが開発されてしまうと自分の首を絞めるような気がしてならない。忘れることにした。

 そんな事よりリファラである。

 リファラは快感と達成感に潤んだ瞳に決意の光を宿らせた。

 

「してください。私はあなた以外と絶対にこんな事しません。あなただけの私にしてください!」

「……わかった。ポーションの用意を」

 

 アルベドがキャレットを手で制し、桶に入っていたポーションを手にする。蓋を開け、男へ視線を走らせた。

 リファラの太股をしっかりと抱えた男は、ゆっくりと腰を引く。リファラの中から現れた逸物は、処女が流した血に濡れていた。

 抜けきる寸前まで戻ってから、勢いをつけて腰を打ち付けた。

 

「ひっ…………、はぁ…………♡」

 

 肉が肉を打つ音が鳴った瞬間にアルベドがポーションを振りかける。

 一瞬だけ強ばったリファラは、緩みきった笑顔を見せた。男へ両腕を伸ばし、近付いてきた体を強く抱き締める。

 二人の体も股間も密着して、中では深く繋がっていた。

 ちゅっちゅと甘い口付けを数度交わしてから、男が腰を振り始めた。

 

「あんっ、あんっ♡ おまんこいいですぅ♡ ああんっ……、わたしはじめてなのにぃ♡ 」

「俺もとてもいいよ。リファラの体は俺だけのものになったんだ」

「はうぅぅ…………。そんなこと言って……、いっぱいしてください♡ ああんっ、あっあっ……!」

 

 ポーションで傷ついた膣を癒そうとも、処女の固さときつさがなくなるわけではない。

 それを補うのがリファラの愛液で、奥まで入ってくる男を満遍なく包んでいる。抽送する度に破瓜の血が流れ、白いバスタオルを染めていく。

 

 耳元では愛の言葉を囁かれ、リファラは見られているのを忘れて二人だけの世界に没入した。

 腕が男を抱き締めるなら、開くだけだった脚は男の腰に回って足首同士を引っかける。異本で覚えた大好きホールドは、全身で受け入れてる気持ちになった。

 体の中心を行き来する男の体は大きくて逞しくて、奥まで来ると圧迫感がある。それを苦しいと思うどころか充足感があるのだから、自分の体は本当に彼の専用になってしまったのだと歓喜した。

 

「はあぁっ……、またきちゃうぅ! あっ? やぁ、まってぇ♡ いまらめなのにぃ♡」

 

 浅い快感が深くなって、容易く閾値を越えてしまう。

 自分の体が逸物をきゅうきゅうと締め付けているのは感じているけれど、勝手にそうなってしまうので自分にはどうにもならない。

 出来るのはしがみつくことだけ。両手と両足を使って男の体にすがりつき、心も体も焦がす快感に涙する。

 

 リファラとは違って、男は結合部が温かくなっているのに気付いていた。

 リファラの中が温かいのは当然だ。本当は必要なかったのに、痛みに耐えて全部入るようにしてくれた献身は嬉しい。シェーダは兎も角としてシクススへは強引にしてしまったため、次に思い出したらご機嫌をとろうと思う。

 温かいのは中ではなくて密着している股間のあたり。

 二人の結合部から温かい液体が広がっていることに、乱れているリファラは気付いてないらしい。

 僅かにとろみがある愛液と違って水のようにさらさらとして、リファラの体温と同じ温かさ。顔を寄せれば澄んだ紅茶のように薄く色づき、仄かな匂いがあるに違いない。

 

 リファラは何度も達しているうちに、小水を漏らしていた。

 ここは風呂なので簡単に流せるから問題ない。しかし失禁が癖になって、事に及ぶ度に漏らしてしまったら問題だ。

 それはそれでありかも知れない。

 

「あっ、あっ♡ あん、ああんっ♡ すきすきぃ♡ はぅっ……、あああぁぁああぁぁーーーっ♡」

 

 何度目かの深い絶頂。

 甘い絶叫に伴って媚肉が蠕動する。きゅうと締まって奥まで入った逸物に隙間なく密着し、出して欲しいと訴えているようだ。

 シズへ一度出している。その上こなれていない処女なので時間が掛かっているが、快感がこみ上げてきた。

 出そうと思えば少し前から可能だったが、リファラの初体験なのだから痛みより快感を刻み込むべきなのだ。それもこれだけ乱れているのは十分だろう。

 しかし、女が感じて達しているとは言え、それで終わりにしていいものではない。

 アルベド様やソリュシャンは特別として、精液を摂取するわけでもないルプスレギナやシクススも最後には出してやらないと不満そうな顔をする。

 随分前のことになってしまったが、足繁く通ったエ・ランテルの娼館で、女というものは男が射精することによって体だけでなく心も満足すると聞いていた。

 さらに遡ればラナーもそうだった。

 

 つまらない事は記憶の片隅に押しやって、リファラに体を押しつけた。

 ピッタリのサイズに成形された膣は、大いに感じて子宮が下りてきている。亀頭を子宮口に押し当て押し上げ、リファラが叫びながら背を弓なりに反らせる。

 

「愛してる」

「ひぅっ…………」

 

 細い喉を空気が通り、吐き出されたときは甘い絶叫を連れてきた。

 達したばかりなのにまたも締め付けて、リファラの一番奥でどぴゅどぴゅと射精した。

 きつい膣内で逸物がぴくぴくと震えている。

 リファラの体は弛緩してしがみつく力は弱いものだったのに、男を受け入れている部分は捕らえて離さないと言っているようだった。

 

 

 

 男がリファラへ色々と囁いていたのを、アルベドは耳聡く聞き取っていた。

 片眉を上げたが、セックスに必要不可欠な彩りとして許容する。愛の言葉がないセックスなんて形だけ作って魂が入ってないも同然だ。まさに画竜点睛を欠いている。

 

 なお、シズはまだブクブクしている。

 死にはしないとわかっているが、そろそろ引き上げるべきだろう。




流れ的に脱がしたのは惜しいと思わないでもないです


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一緒にお風呂 ▽キャレット

キャレット6k、アルベド8kの14kくらいに収めたかったんですが長くなったのでまたも分割ご容赦を
本話約12k字


 事を終えた後の触れ合いはとても大切である。謂れのない罪を着せられてもこの時のフォロー次第で罪が軽減される可能性があるのだ。何かおかしいと思う時も稀にあるが、口にしたところでどうにもならないとわからされている。僅かな行為で効果は抜群なのだからやらない手はどこにもない。

 寄ってたかって身に染み込まされた習性と言えなくもない。

 

 最後の姿勢のまま、リファラの耳元でリファラにだけ聞こえるようこしょこしょと囁く。汗で貼り付いている白い髪をかき上げ、額に口付けを落としてから離れた。

 引き抜くなり萎えきらない逸物が跳ね上がって、リファラの閉じきらない膣口からはこぷりと赤が混じる白く泡立つ粘液が溢れ出た。

 女の股から精液が垂れているのを見ると、自分の印を付けて征服してやったのだと支配欲を満たされる。

 

「わ、わたしもスゴく気持ち良かったです!」

 

 リファラは目をキラキラと輝かせた。

 美しい男を見る喜びや満足行く初体験を果たした悦びとは微妙に違う。

 男は軽い言葉で礼を受け取って、それを見ていた女たちは絶対わかってないなと確信したがわざわざ解説してやる親切心を一人も持ち合わせていなかった。解説したところで真に理解するかも疑わしい事であるし、されたらされたでそれも困る。

 

 リファラの尻の下は、白いタオルが赤く滲んでいた。湯を掛ける度に色が薄れていくのを、リファラは下唇を噛んで見詰めている。但し、目が笑っていた。想いが口を吐かないよう抑えているようだった。

 男の方は体に湯を掛けて、二連戦でかいた汗を流している。いつもは気にしないが折角風呂にいるのだから有効活用すべきなのだ。

 

「次は私でいいんですよね!?」

「その前に俺も風呂に入らせてくれ」

「…………はい」

 

 男はわかりやすくむくれるキャレットに微笑みを向け、リファラに手を差し伸べる。彼女は首を左右に振って先に風呂へ入るよう促した。

 アルベドは、そんなリファラが股間をどうするか注視していた。リファラがこちらを向く時は、さもそちらは見ていませんよと視線を逸らす。

 リファラは風呂に入っている三人をそろりと窺う。アルベドは顔を逸らし、二人の男女は背を向けている。シズの姿はない、ぶくぶくもしていない。空気を吐ききって潜水しているらしい。オートマトンは呼吸不要なので特に問題はない。

 誰も見ていないのを確認しても念のため、リファラは風呂に背を向けた。

 しかしアルベドは見た。

 ぺたんと女の子座りをしたリファラの手が下がるのを。下がった手がしばらくして上がるのを。肘の角度からして、手を口のあたりへ運んでいるらしい。

 

 

 

「うん?」

「どうかされましたか?」

 

 湯に浸かった男は、体が伝える違和感に首を捻る。

 最初に風呂に入った時は、凍えた体が温かい湯にほぐされて心身共にリラックスしたのだと思った。

 今度は違う。二連戦を終えて僅かばかりの疲労がある。セックスと云うものは女より男の方が遥かに体力を使うのだ。その疲労が風呂に入ったと同時に消え失せた。

 

「わっ!? 何してるんですか!」

 

 隣から聞こえる声には耳を貸さず、疑問の赴くままに左手の甲の皮膚を少しだけ噛み切った。白い肌に血が滲み出る。風呂に突っ込むのはマナー違反と思われたので、湯を掻き出して手に掛けた。

 一度目で血が止まった。噛み切った箇所は赤くなっているが出血はない。二度目は明らかに傷が薄くなった。三度目ともなると傷は綺麗に消えて、目を凝らしても傷跡すら見当たらない。

 流石のナザリックの神造温泉は、疲労回復のみならず傷を癒す効果があった。

 

 温泉の効能と言えば、筆頭に来るのはまず美肌。続いて冷え症・打撲に関節痛、切り傷・火傷に病後回復。恋の病以外の疾患には大抵効果がある。

 一般的な温泉でこれなのだ。ナザリックの神造温泉はそこに加えて即効性がある。至高の御方々の女性陣があれもこれもと盛った結果であった。

 残念ながら、温泉の湯を汲んで他の場所で使っても劇的な効果はない。いわゆるフィールド効果で、デミウルゴスやコキュートスの守護階層が熱かったり寒かったりするのと同じである。

 

 

 

 

 

 

 回復しようとしなかろうと、すべき事は変わらない。

 アルベド様がお待ちなので手早くしたいが雑にしてはいけないのが難しいところ。

 

「あっ♡」

 

 触れるか触れないかの絶妙な距離を保って隣に座っていたキャレットの肩を抱く。目の当たりにしたリファラの痴態で期待が高まっているらしく、甘えた声でしなだれかかってきた。

 おっぱいはリファラで堪能したので、とは言ってられない。自分の楽しみよりキャレットの期待に応えなければならないのだ。本来なら自分が美女美少女から歓待を受けていたはずだ。何かおかしいと思わなくもない。どうしてこうなっているのだろうと思うのは今更だった。

 

 キャレットも処女なので、リファラ同様に段階を踏む必要がある。

 肩を抱いた手で髪を撫で、頬に手を添えた。引き寄せるまでもなく、キャレットはこちらを向く。うっとりと目を閉じて顎を上げ、唇を突き出した。化粧をしているわけではないだろうに鮮やかに赤い唇はふんわりと柔らかそうで、実際に柔らかいことを知っている。

 唇同士でキスをする以前に、この唇でしゃぶられていた。リファラと協力し合ったWフェラとWパイズリはとても良かった。思い出すと、二度も放ったばかりなのに下半身に熱が戻ってくる。

 

「んーー…………?」

 

 キス顔で待っているのに中々与えられない。どうしたのだろうとキャレットが薄目を開いた瞬間に、赤と青の異色虹彩が飛び込んできた。

 

「んんっ!?」

 

 唇で男性器を愛撫したことはあっても、唇にキスをされるのは初めてのキャレットだ。

 キスシーンはシズとリファラが実演してくれたので予習と心構えは出来ていると思ったのに、実際にされるのは想像だにしないものだった。

 柔らかな唇が触れるのは心地よく、アルベド様たちに見られていると思うと面映ゆい。

 唇をぬめる舌が割って入って来たら、何かを考える余裕が消し飛んだ。

 

「んっ……んふぅ…………、ん…………」

 

 シズとリファラがしていたキスはもしかして舌が入っていたのではと思っていたら、本当に入ってきた。

 柔らかい肉が確たる意志を持って口内を蠢き、こちらの舌に触れてくる。尖らせた舌先で舌をつつかれ、舌の表にも裏にも入ってきた。

 口を閉じられないので唾が湧き始め、垂れそうと思った瞬間にじゅると吸われる。吸われたのは唾だけではなくて、驚いて縮こまっていた舌も吸い出された。

 自分の舌が彼の口に入っている!

 

 一瞬だけ戻った思考が頭を茹だらせ、すぐに柔らかな官能に飲まれていった。

 ここがどこで誰に見られているのか、全てが頭の中から抜け落ちる。キスをしていることすら自覚がない。唇を合わせて舌を絡め合っている事だけが現実で、キャレットからも舌に応えた。

 柔らかな部分で触れ合いたくて、唇を押し付け舌を伸ばし。自分がされている事と同じ事を相手に返す。

 唾をすすってすすられて、唇で封をした口の中に互いの唾が溜まっていく。二人の舌が熱心に攪拌し合っていると唇の端からとろりと溢れ、顎を伝って湯に落ちた。

 

「あむぅ……ちゅるる……、これが……キス♡ もう一回……むちゅぅっ……、れろ……」

 

 キャレットは熱心な生徒だった。教え込まれたキスを積極的に復習している。

 

(ん?)

 

 キャレットが夢中になって高ぶっていれば、男の方も気分が乗ってきた。始める前は半立ちだったのが、今やはっきりと立っている。それを、そっと握られた。リファラは誘導してやらないと触れなかったのに、キャレットはこちらでも熱心だった。

 処女に先んじられてしまった。これは是非にもお返しをしないといけない。

 

 キャレットの肩に回していた右手を湯に沈め、正座をしている膝に触れる。膝頭から上っていけば、閉じられていた太股が握り拳一つ分開かれた。

 むにむにと太股の弾力を楽しみ、それが内股へ回ると感触が変わってくる。指先に伝わる弾力が段々と柔らかくなり、付け根にまで来ると手首を返した。

 

「んっ!!」

 

 伸ばした中指で股に触れる。

 水着越しでも内股より柔らかくて、湯より熱いキャレットを感じた。

 

(んん??)

 

 赤い顔を俯かせるキャレットは庇護欲を誘い、劣情を煽った。

 それは良いのだが、伸ばした右手を両手で掴まれた。引き離したり動きを阻害するためではないようで、すがるように掴んでいる。

 しかし、こちらも握られている。しかし、キャレットの両手はこちらの右手を掴んでいる。キャレットの腕は三本ではなく二本なのは確認済みだ。

 

「うっ……」

「どうかしたんですか? あっ!? ……水着、伸びちゃう。んぅ……、あぁ…………」

 

 握られていたと思ったら、先端を柔らかいものに包まれた。

 何度もされているので思い違いはない。これは間違いなく唇の感触。湯の中で、逸物をしゃぶられている。

 

(シズさん!?)

 

 白く濁って暗がりに沈む湯の中だが、真下であれば少しは見える。

 緑が濃淡を作るタオルからはみ出るのは赤金の髪。シズの頭が、いつの間にか股間の真上に来ていた。

 はっとして周囲を見渡す。

 アルベドとリファラは少し離れた位置で何かしらを話し合っている。シズの姿はない。しゃぶっているのは間違いなくシズである。

 キャレットが伸ばしてきた手を取ったのは、シズにしゃぶられているのを知られるのは不味いと思ったのであって、キャレットに扱かれるよりシズにしゃぶられる方が気持ちいいと思ったのではないはずだった。

 いずれであれ、ルプスレギナが知ったら超サイテーと罵るのは間違いなかった。

 

 

 

 オートマトンであるシズに呼吸の必要はない。その気になれば何時間だって潜水していられる。

 沈みながら湯の底をゆるゆると這い進み、目当ての男を発見。キャレットの反対側から股間へ手を伸ばせば逸物は固くそそり立っていた。

 パクリとしてやると男が背を倒したのは咥えやすくするためだろう。

 お湯の中なのでいつものように頭を振ることが出来ないし、ちゅるると吸ってやるのもお湯を飲んでしまいそうで難しい。代わりに舌を使ってあげる。

 カリの部分に唇を引っかけて先端だけを口に含んだら、肉の弾力がある膨らんだ亀頭をレロレロと舐め始める。

 唇は逸物に密着させているので、口の中にお湯が入ってくることはない。舐め続ける内に、覚えてしまった男の味が舌に乗った。

 握った手は前後に動かす。頭全体を振るフェラチオも良いが、亀頭だけを咥えて手こきをするのも悪くないと知っている。前回は口だけでするよりも手こきを合わせた方が早かった。

 

 漫然と舐めていた舌は裏筋に狙いを定める。

 舌先で小刻みに左右へねぶり、十回に一度の割合で尿道口を舐める。舐める度に男の味が濃くなって、滲む程度だった先走りの汁がとろみを感じるほどになってきた。

 お湯の中なので彼の顔は見えないけれど、熱い逸物と粘つく汁が、快感を得ているのだと教えてくれる。ふふ、と少しだけ頬が上がった。

 手の動きを速め、舌は尿道口を責めることなく裏筋をひたすらに舐め続ける。逸物が脈打つ。汁の量も増えてきた。予兆だった。

 そこで舌も手も止められたのは、前回何度も寸止めをして覚えたからだ。

 予兆が退いたらゆっくりと再開する。予兆を感じたらまた止めて、繰り返し。

 

 

 

「はぁ……はぁ……、もう…………。欲しいです、よね?」

 

 キャレットは顔を俯け、荒い息を吐いていた。

 顔の下の湯面にぽたりぽたりと落ちる滴は何であるか。上げた顔は切なさに歪み、大きな目は潤んで半開きの唇からは唾液が垂れている。

 

「ああ、俺もキャレットを抱きたい」

 

 気付けばキャレットが出来上がっていた。

 シズが熱心にしゃぶって何度も寸止めをしてきたので、それならこちらもとキャレットを責め続けた。しゃぶっているのはキャレットではなくシズなので見当違いではある。

 

 水着の中へ忍ばせた指はキャレットの初々しい穴を撫で、処女膜に指が入る程度の裂け目を見つけると嬉々として入っていった。

 中を愛撫し、クリトリスも愛撫し、シズに寸止めされた回数の倍は指を締め付けられた。キャレットが意識して締めたのもあったかも知れないが、痙攣を伴ったのは意識しないものに違いない。

 今も第二間接までキャレットの穴に挿入して、軽く折り曲げ内側の肉を擦っている。

 

「だめっ! もうだめですよぉ。だめって何回も言ったのにぃ……。うぅ……」

 

 キャレットは弱々しい力で自身をなぶる腕を掴み、涙を浮かべた上目遣いで男を睨んだ。それでは嗜虐心を煽るだけであって抑止にはならない。

 尤も先に進めたいのは男も同じ。お望み通りに指を引き抜いた。

 

「ひぅっ……」

 

 指はすぐには離れず、水着の上から一撫でする。指先に膨らんだ肉芽を感じ、男はニヤリと笑ってから立ち上がった。

 湯の中から現れた逸物はへそまで反り返っている。

 ほうと見とれたキャレットは足腰の力が抜けている。男の手を借りて立たせてもらった。

 

 

 

「あれ? マットの上じゃないんですか?」

 

 いよいよ先に進むのだから、シズやリファラがしていたのと同じように風呂の外に敷いたマットの上でするのだと思った。しかし、男が手を引くのは風呂の下流側。今いる場所より深くなっている。

 

「キャレットも見ただろう? ここの湯には癒しの効果があるみたいだね。だから風呂の中で挿入しようと思ってる」

「でもお湯を汚してしまうんじゃ」

 

 風呂の中でいい加減ビクンビクンとしたキャレットである。今更ではあるがそれはそれ。

 

「風呂の湯は循環方式か? それとも――」

「源泉掛け流しです」

「それなら問題ないだろう? 深さが一定じゃないから一概には言えないが――」

「浅いところは私の膝まで。一番深いところは私の肩まで」

 

 ざぶんと湯面から顔を出したシズが言う。沈んでる間に隅から隅まで探索していたのだ。

 

「底の傾斜が一定だと仮定して、流量から計算すると四時間で全ての湯が入れ替わる。次に何方かが使用するまでには綺麗なお湯になってるよ」

「露天風呂を使っているのは私だけよ。私が許可するわ」

 

 リファラとの話を終えたアルベドが答える。

 なお、アインズは露天風呂には近付かない。自然、男性陣は近寄らない。女性陣もシャルティアやアウラはそれぞれの守護階層に入浴施設を備えているので、アルベドから誘われない限りスパリゾートナザリックを使用することはない。入るにせよアウラは女湯。強く誘われたシャルティアが入るかどうかである。

 どのみち少々の汚れは浄化してしまう魔法のお風呂なので、衛生面の問題は皆無だった。

 

 

 

 アルベド様のお許しが出たので何の問題もない。

 男の足が止まったのは湯面が股の下に来るあたり。勃起させたままなので、湯の中から逸物が突き出ているように見えた。

 

「縁に手をついて」

「はぃ……。シズ様?」

 

 キャレットは言われた通りにしようとして、後ろからシズに肩を掴まれた。

 

「私が支えてる」

「ひゃん! ひゃああっ!?」

 

 脇の下を掴まれた。下半身は男に太股を抱えられ、足が底から離れる。

 手足が何も捉えられず、湯の上に仰向けに浮かんでいる姿勢はとても不安定で心細く、だけどもシズと男がしっかりと支えている。

 

「水着をずらして」

「……はぃ」

 

 男の手はキャレットの腰を支え、湯を掻くキャレットの足は男の腰に回った。

 キャレットは言われた通りに股間へ手を伸ばした。水着の縁に指を引っかけ、数度呼吸してから横へずらす。

 男性器をしゃぶったり胸で挟んだり、皆で一緒に裸を見せたことがある。ついさっきまでは自身の性器をいじられてとろとろにされたが、性器を見せるのは初めてだ。

 ずっと大事に隠してきた秘密を明かすような、秘密を共有するような、言葉にしがたい感慨があった。

 

「俺はキャレットを支えてるから、キャレットが入れるところに合わせてくれ」

「……はい」

「入ってくるところはわかるかしら? 処女には難しいと思うのだけれど」

 

 睡眠姦を失敗したアルベドの言葉は説得力があった。

 経験者の優越感をひけらかしたいわけではなく、心からキャレットを思っての言葉である。

 

「なんとなくわかります。でも、私からは見えづらくて……」

「手伝ってあげるわ」

「あん……」

 

 アルベドの細い指はキャレットの秘部を撫でて穴の位置を確認してから、男の逸物を握った。

 先端を割れ目に潜らせ、ぬめる肉を滑らせる。位置を合わせても、すぐには手を離さなかった。

 

「ここよ。ここがキャレットの入り口。ふふ……、処女膜がついていて可愛いわ。まだ子供のおまんこだけど、これから大人の女にしてもらうのね。処女を失うのは一度だけ。処女を捧げるのは一人だけ。これから無限に続く貴女の歴史にけして消えない印を刻んでもらうのよ」

「はい。覚悟を…………。いえ、覚悟じゃありません。私がそうして欲しいんです!」

「いいでしょう」

「ああっ!」

 

 アルベドが手を離すと同時に男は腰を押し進めた。

 指で破けてしまいそうな頼りない処女膜がぷつりと破れ、キャレットの処女地を男が切り開いていく。

 体を貫かれる未知の感覚にキャレットの手は湯の中でもがき、右手はアルベドが握り、左手はリファラが握った。

 

「初めは少し痛いけど凄く気持ちいいから。だから、頑張って!」

「リファラ…………、うん! ……あっあっ、はいって……」

 

 結合部からは処女の血が僅かに滲み、すぐに流れて見えなくなった。

 湯を掻いていた脚は安定を求めて再び男の腰に絡みつく。

 シズの肩に頭を乗せて熱っぽい息を吐き出す。

 

「痛むか?」

「それが……あまり……」

 

 入ってくる感覚はあっても、痛みはほとんど感じていなかった。処女であっても耐えられないではない痛みである上、魔法の温泉の効果で傷が出来るなり癒されていく。最奥にまで届いてさらに押し込まれても、小さく呻くだけで済んでいる。

 やがて男の股間がキャレットの股間に密着した。長い逸物が全てキャレットの中に収まった。

 キャレットの痛みが少ないのは喜ばしいことだったが、一瞬とは言え痛みに悶えたリファラは複雑な顔を見せた。

 

「動くぞ」

「はい♡ あっ……あっ…………、ぁん……」

 

 ゆらゆらと湯面が波打つ。

 キャレットは幸せそうな顔をして、自分の中に入っている男を見つめた。

 初めてだから、ゆっくりと動いてくれる心遣いを嬉しく思う。だけども痛みは少ないどころかほとんど感じていないので、もっと激しくしてもらっても、とも思う。

 文字通りに一つになった一体感は、肉体の官能より心を満たした。

 

 実のところ、キャレットを気遣っているのとは少し違う。

 シズから焦らしに焦らされ、今にも暴発しそうになっていた。処女とは言え女の肉に包まれるのは気持ちよく、迂闊に動けば出してしまいそうである。

 処女を相手にそれでは如何にも情けない。

 キャレットを思う気持ちは勿論あるが、男としての見栄の方が遙かに大きかった。

 

(処女なのにこんなに気持ちよさそうな顔をして。この子のおちんぽが気持ちいいのは私もよく知ってるわよ! 次は私の番なんだからあと少しだけ我慢すれば……。でもキャレットをちゃんとしてあげないと可哀想だし……。そうだわ!)

 

 アルベドは閃いてしまった。

 ふふと妖艶に嗤って、キャレットの股間に手を伸ばした。

 

「今のどうやって……」

 

 キャレットの股間を覆っていたブルーの水着をはぎ取った。

 リファラが驚くのは当然で、サイドで紐を結ぶタイプではないので破かない限り脱がせないはずである。サキュバススキルによる脱衣は物理法則を越えているのだ。

 

「あ、アルベド様?」

 

 キャレットは脱がされたのには気付かなかったが、ブラをずらされればさすがに気付く。

 乳房を包む生地はずり下げられ、豊満な乳房がぽろりと零れ出た。

 

「あなたの初体験をとても素晴らしいものにしてあげたいの」

「あっ!? あっ、あっ、あああんっ! あっ、だめぇ……!」

「何がダメなのかしら? いけないことは何もないのよ? たっぷり気持ちよくなりなさい♡」

「ああぁぁぁあああーーーっ!」

 

 キャレットはおとがいを反らし、快感を吐き出すかのように叫びだした。

 そんなキャレットをアルベドは妖艶な顔で見下ろし、二人の結合部に這わせた指を蠢かせる。

 

「クリちゃんをこんなに勃起させちゃって。おちんぽを入れてもらいながらクリちゃんを擦られるのは気持ちいいでしょう? リファラはおっぱいを揉んであげなさい。優しくよ? 乳首も摘まんでいいから」

「は、はい」

「りふぁら!? やぁんつまんじゃらめぇええぇ!」

「摘まんじゃダメなのはクリトリス? それとも乳首? うふふ、知ってるわよ。女がダメって言うのは、もっとしてちょうだいってことなの♡」

 

 

 

 女の肉に包まれていてもゆっくりと動いていた甲斐あって、暴発の予感が遠ざかった。

 そうして改めて目を向けると、非現実的な素晴らしい光景が広がっていた。

 

 三人の美女が惜しげもなく裸身を晒している。

 アルベドの美巨乳は言うまでもなく、さきほど楽しんだリファラも大きくて、悶えているキャレットは水着に寄せられているので仰向けになっても崩れることなく柔らかな双丘を突き出している。

 体は湯の中に沈んでいても乳房だけは湯面から出ていて、胸の谷間に湯が溜まっている。あそこに溜まったお湯はとても美味しいに違いない。今度誰かにやらせようと心に留める。

 大きなおっぱいが合わせて六個もあるのに、キャレットの腰を支えているため触れないのはとても残念だ。

 

(つ、ぎ、は、わ、た、し、よ♡)

 

 アルベドと目が合う。

 アルベドはにっこりと笑ってから、声を伴わずに唇を動かした。

 自身の豊満な乳房を持ち上げて、顔を伏せ舌を伸ばし赤く輝く乳首をペロリと舐める。

 

「ああっ!? おちんこが大きくなって……! はうぅぅ……♡」

 

 アルベドもリファラも、今はもうキャレットの手を握っていない。キャレットには自分の腕を勝手に掴ませている。

 リファラはアルベドから言われた通りにキャレットの乳房を揉みしだき、乳首をきゅうとつねって引っ張った。痛いかもと思ったが、同じようにしている自分の体は気持ちいいだけなので遠慮はない。ぷっくりしている乳首を触っていると、もっと強くしても、と思ってしまうのは不思議だった。

 アルベドはキャレットの下腹をさすっている。キャレットの耳に顔を寄せて、この下におちんぽが入っているのよ、とてもいい顔をしているわ、おちんぽが気持ちいいでしょう、と囁く。もう一方の手は湯に沈めて、自身の愛液を掻き出している。次は自分の番なのだ。前戯なんて要らない。今すぐにでも奥まで欲しい。

 キャレットの肩から顔を覗かせているシズは、相も変わらぬ無表情でじぃっと男を見つめている。時折下がる視線はどこを見ているのか。三人の女たちと違ってどこか不満そうである。

 

「あっ! はあああぁあぁーーーっ!」

 

 キャレットの腰が跳ね、豊かな乳房がぷるんと震えた。

 根本まで捕らえた逸物をきゅうと締め付け、奥で開いた子宮口が亀頭に吸いつく。

 

「はぁっ…………、あんっ、あんっ♡ あっあっ……、あぁん♡」

 

 数秒の余韻を与え、二人の女がキャレットを嬲る。

 キャレットは言葉を忘れたようにあえぎ続け、淫靡な悦びに浸りきる。シズの肩に頭を預け、男を見上げる目は愛欲に溺れていた。

 悦びの声以外の意思表示は男の腰を引き寄せること。健気な力を振り絞って、男の腰に回した足に力を込める。

 

 前戯は意図せずたっぷりで、けども挿入してからの動きは緩やかなもの。

 それなのに処女のキャレットがこうも乱れているのは、シェーダとリファラの体で学んだキャレットも感じやすいであろう箇所を愛撫する男の技術と、大淫魔たるアルベドの力に違いなかった。

 達した回数は失禁までしてしまったリファラを超えて、重ねる毎に処女の固さが抜けていく。

 リファラの時ほど激しくしていないし、掛けている時間も短い。早くも射精の予兆がきたのはシズがたっぷり焦らしたせいで、むしろここまで保ったのを称えられるべき。

 

 リファラが乳首を強く抓ったのに合わせてアルベドがきゅうとクリトリスを摘まみ、キャレットはひぃと鳴いた。

 腰を湯の上に持ち上げられ、男の腰が引いた時の倍の速度で戻ってくる。

 湯を巻き込みながら奥まで突かれ、膣内に入り込んだ湯と愛液が逸物に押し出され、女の一番深いところを熱い精液に激しく打たれた。

 歓喜の絶叫はリファラに負けず劣らず激しいもので、キャレットは己の存在を塗り替える未知の領域へ連れてこられた。

 

 

 

 

 

 

「あ……あう…………」

 

 掠れた声であえぐキャレットの中で男の逸物がピクピクと震えているのは、ぴゅっぴゅるると断続的に精液を吐き出しているから。

 最後の一滴まで出し尽くしても引き抜かない。男はシズに目配せをして、挿入したままキャレットを運ぶ。

 風呂から引き上げたキャレットをマットに寝かせるのはシズに任せ、男はふうと息を吐いた。

 三度目なのにシズとリファラより量が多かった。キャレットの具合云々ではなく、シズに焦らされたのと温泉による回復効果である。

 

「よく頑張ったわね。偉いわ」

「アルベド様……」

 

 アルベドがぱしゃぱしゃと湯をかけて、淫液に濡れた逸物を綺麗にしてやる。

 三度の射精で落ち着いた逸物は、うなだれて湯の中に沈んでいった。

 

「リファラとキャレットは今日のことを絶対忘れないわ。あなたは素晴らしい初体験を贈ってあげたのよ」

「光栄です」

 

 アルベド様からの労いの言葉である。

 歓喜に打ち震えるのが当然で、男は湯の中にも関わらずその場に跪いた。

 

「そんなあなたにご褒美をあげるわ。いらっしゃい♡」

 

 アルベドは風呂の縁に腰を掛けて、脚を広げた。背を逸らして前のめりになっているので股間が覗き見えることはない。

 男が立ち上がらず低い姿勢で湯の中を進んだのは、風呂に入っているのだからこれが正しい移動方法だと思ったのと、アルベドより頭を高くしてはならないと思ったから。目の高さをアルベドの股間に合わせていれば奥が見えるかもと思ったわけではない。

 

「ふふ……、いい子ね」

「アルベド様……」

 

 アルベドは男の頭を優しく包み、自身の下腹へ押し付けた。アルベドの心中を反映してか、股間を飾る淫紋が仄かに光る。

 男はうっとりとして、柔らかな肌へ頬ずりをした。上を向かせられると、大きな乳房がそびえているのが目に入る。

 しっとりと濡れ、曲線に沿って水滴が流れ落ちていく。吸い寄せられるように顔を近付けた。アルベドが誘導したのか、それとも自分の意思なのか。

 迎え入れてくれた乳房は大きくて柔らかくて、風呂に浸かっても落ちきらない甘い香りが鼻孔をくすぐる。

 乳房に頬ずりをして唇をつけ、ちゅうと吸う。もう片方の乳房は、いつの間にか握っていた。

 乳肉に指が沈み、指の股から赤い乳首が覗いている。

 揉み続けるうちに赤い乳首はピンと尖りだして、先端から白い液体を滲ませた。

 

「頑張ったあなたにご褒美よ。私のおっぱいをいっぱい飲みなさい♡ ああん♡」

 

 一も二もなく吸い付いた。

 アルベドの乳首から滋味溢れる母乳がぴゅっと噴き出し、喉を潤す。

 アルベドは男の頭を抱きながらも、空いた手では自身の乳房を揉んで母乳の出を良くしている。

 

「うふふ……、美味しいでしょう? あなたのためだけのアルベドおっぱいなのよ?」

 

 男を抱くアルベドの顔は妖婦のようであり母のようでもあり、慈しみと愛欲に満ちている。

 シズはアルベドの振る舞いに内心で驚きながらも男の様子を注視する。シズがさっき何度も寸止めしたのは、キャレットに掛ける時間を短くさせて、もう一度自分の番にさせるため。シズのクレバーな戦略であった。

 話の流れからアルベドも参加すると予測したが、目の当たりにするとやはり驚かされる。おそらくサキュバスとはあのような生理を持っていて、そもそも一番最初にお手本セックスして乱れてしまった自分が何かを言える立場ではない。

 

「っ!! あ、あるべど、さま……!」

「なぁに?」

 

 アルベドは男を襲う異常を知った上で、無垢な少女のように微笑んで小首を傾げる。

 

 男の方も、こうなるとは予想していた。

 アルベドの母乳を飲むと、痛いほど逸物が勃起して容易には収まらなくなるのだ。

 しかし、アルベド様のご褒美である。例えようがない至高の美味である。

 たとえ死をもたらす毒だとしても、飲まずにはいられなかった。

 

「褒美は、他にも?」

「ええ、もちろんよ」

 

 前のめりに座っていたアルベドが、後ろへ手をついて体を傾けた。

 両足を湯から引き上げて、風呂の縁に乗せる。しなやかにして淫らな肉が乗った両脚はMの字を作った。

 前面に晒す股間を右手で隠す。

 

「立ちなさい」

「はい」

 

(おお……)

 

 湯から立ち上がった男を見たシズは、思わず声を上げるところだった。

 湯に沈む前は萎えていた逸物が勃起している。ただの勃起ではない。何も触れていないのにピクリと震え、まるで前回監禁して焦らしに焦らし責めに責めた時のように、射精寸前で止められているかのような力強さ。

 アルベド様が吸わせたおっぱいの効果に違いない。

 

 シズの推測は的を射て、これぞ経産婦となったサキュバスだけが使えるシークレットサキュバススキル「サキュバスおっぱいミルク」の効果である。

 

「シズ」

「はっ、はい!」

 

 唐突に名を呼ばれたシズは、舌を噛みつつも何とか応えた。

 

「これから私が相手をしてもらうけど、きっと一回や二回じゃ収まりがつかないと思うの。シズもまたして欲しいでしょう?」

「はい!」

 

 ぶんぶんと首を縦に振る。

 

「そう言うことだから、あなたにはまた頑張ってもらうことになるわ。だけど……」

 

 股間を隠していた右手を上げる。

 人差し指と中指だけを伸ばしてぷにっとした大陰唇に押し当てた。

 二本の指は一度狭まって淫らな秘裂を一本の筋にしてから左右に開いた。

 アルベドの欲望が物欲しそうに涎を垂らし、今か今かと小さな口を開いている。

 

「私の事は好きにしていいのよ? いっぱい頑張ったんだからあなたにだけの特別なご褒美。アルベドのおまんこをぉ……あなたの素敵なおちんぽでいっぱいかき混ぜて欲しいの♡」

 

 ご褒美であり自分がされたいことであり、男もしたいことだと確信している。

 

 一歩前に進んだ男は、アルベドの太腿に手を添えてぐっと押し広げる。

 今いる場所は湯面の高さが股下で、アルベドの位置と丁度高さがあっていた。

 

 てらてらと濡れ光る赤い肉へ亀頭が触れる。

 アルベドも男も手を添えない。何度もしてきた二人で、腰の動きだけで位置を合わせられた。

 媚肉が徐々に押し広げられ、亀頭が隠れるのと一番奥が突かれるのはほとんど同時だった。




GMDHの166を超えてしまった

うおなんだこれツイッターで更新報告する機能が追加されてる
前からあったんだろうか?


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慈悲を知らない淫らな女王 ▽アルベド・シズ+α

最高気温が30度下回ってたらもうちょっと早く投稿できたはずでした_(:3 」∠)_


 慈悲を知らない炎天に炙られ果てしない砂漠を彷徨う絶望の只中に、清涼な泉へ飛び込むのはこのようなものかと思わされた。

 今にも爆発してしまいそうな緊張感は痛みすら伴っていたのに、アルベドに包まれた瞬間に痛みも苦しみも融け消えた。苦痛を慈愛の女神が引き受けてくれているかのようだ。

 

「いつもより固くなってるわね? 私のおまんこにあなたのおちんぽがいっぱいになっちゃってるもの。うふふ……、みっちり入っちゃって、こんなに大きくしちゃったら私のおまんこにしか入らないわよ? あの子達にもまた入れてあげられるように私のおまんこにいっぱいぴゅっぴゅしておきなさい♡」

「アルベド様!」

「あはっ♡ そう、そうよ! おまんこをいっぱいぐちゅぐちゅして! おちんぽミルクで私を満たして!」

 

 アルベドが優しく男を抱きしめ、男はアルベドの股間に腰を打ち付ける。

 二人の体が密着する度に鳴る水音は、男の脚が風呂に入ったままのせいか、それとも結合部で淫液が弾けるせいか。

 

 

 

 二人から三歩離れた距離で一先ず見に回ったシズは、「いつも」と聞いてやはりと思いつつも、やはり驚かされた。いつもと言うのなら、セックスはこれまでも何度となくしていると言うことなのだから。

 しかしプレアデスであるシズがどう思おうと、アルベド様が望んで且つアインズ様がお認めになっているのなら何も言うことは出来ない。例え前提条件が覆ようと何も言わなかったに違いない。アルベド様は、ご自分の後は私たちと仰ってくださったのだ。折角の機会を不意に出来ようはずがない。

 それにとても勉強になる。どんな顔をしてどんな声でどんな事を言ってあげれば男が悦ぶのか。サキュバスであるアルベド様の媚態は超一流で一瞬たりとも目が離せない。アルベド様のお気持ちが自分に移ったかのようで、見ているだけで体が熱くなってくる。

 リファラとキャレットもきっと同じと思って二人の方を見ると様子が違った。

 

「な、なに? リファラは向こうに行かなくていいの?」

 

 マットの上で体を起こしたキャレットに、無言のリファラが詰め寄っている。追い詰めているように見えた。

 

「アルベド様は無駄にしてはいけないと仰ったの。私だって恥ずかしいけど、キャレットとはキスしちゃったこともあるし……」

 

 自発的にしたわけではない。

 二人で一緒にフェラチオをした時、意図せずに触れていた。行為に夢中で気にならなかったが、唇のみならず舌も触れたし、互いの唾液を舐めとってもいる。

 

「いいい言わないでったら! せっかく思い出さないようにしてたのに私だって恥ずかしいんだけどぉっ!?」

 

 立ちかけたキャレットを、リファラがマットの上に突き飛ばす。キャレットは勢いよく尻もちをついてしまったが、薄いくせにショック吸収抜群のマットなのでお尻は問題ない。

 問題なのは、リファラに膝裏を掴まれて脚を開かされたこと。

 

「え? え? ええ!? ちょっとやだ、ダメだってぇ……!」

「自分じゃ出来ないでしょ? だから………………、じゅる……」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

 

 リファラはキャレットの股間に顔を埋め、唇を突き出す。情交の名残で閉じきらない割れ目の下部に唇をつけ、優しく吸った。キャレットの膣内に残る精液が吸い出されていく。リファラはじゅるると吸って、喉を鳴らした。

 

 リファラはアルベドに見られていた。自分の中に残る温かい残滓を指に絡め、口へ運んでいたところを。

 リファラはアルベドに言われてしまった。これからキャレットの中に放たれるものを無駄にしてしまってよいのかと。

 さらにはアルベドにされてしまった。指で掻きだされて奥まで綺麗に。不思議なことに長い爪は内側を傷つけることなく、とても柔らかで官能的な感触だった。

 

 

 

 始める前だけは慈愛の微笑を浮かべて男を誘ったアルベドは、今や上位者の威厳も立場も忘れて快感に身を浸していた。ご褒美としておっぱいを飲ませてあげ、それがために大きくなってしまったものを癒やしてあげるために自分の体を差し出している。けれどもそれは自分も気持ち良いことなのだ。

 初めて目の当たりにするサキュバスおっぱいミルクの効果は思っていた以上で、ガチガチに勃起してしまった逸物を遠慮なしに突き立て技巧も忘れて腰を振っている。愛の言葉を交わしながら技術を尽くして交わるのが良ければ、理性をかなぐり捨てて獣のように交わるのだってとても良い。

 

「あんっ♡ あんっ♡ スゴい激しくてぇっ……♡ こんなのわたしじゃなかったらおまんこ壊れちゃうわよ? でもアルベドのおまんこは大丈夫だからぁ……、もっといっぱいかき混ぜて? あっ、ああぁぁあん♡」

 

 奥まで突かれて視界に白い火花が散った。

 幸せの国の入り口が開いたらしく、自分をここより遠くて高いところに連れさろうとしている。アルベドは躊躇なく足を踏み入れ、全身を駆け巡る多幸感を受け入れた。

 爪先から髪の毛一本一本まで、自分の体なのに自分のものではなくなってしまう。誰のモノになったかと言えば愛しい男の所有物に成り下がって、二人が築く愛の結晶のモノと成り上がる。ここに至り、アルベドは己は己のモノではないと悟った。愛しい男から思いのままにされる所有物であり、愛の奴隷である。

 常であれば冷徹なナザリックの守護者統括でいられるが、セックスは愛の行為と言われるだけあって己の心と幸せをこれでもかと強くわからされる。

 

 愛しい男は固くて太くて熱くて逞しくてとっても素敵で、何者も通さない女の道を通って体の中心を貫いてくる。

 膣を押し広げられているのがわかるし、自分の体より熱いのがわかる。どう言葉を繕おうと紛れもない異物が体の大切なところに入ってきているのに、異物感は全くない。それどころか、これが正しい形なのだとわかる。

 逸物を膣の深くに挿入されて二人が一つにつながっている今こそが本当なのだ。

 

「あっ♡ あっ♡ あっ? はなれちゃいやぁ! もっとぎゅっとして欲しいのぉ!」

 

 淫らな女体にしがみついて腰を振っていた男は上半身を起こす。すぐさまアルベドが切なそうに眉根を寄せて懇願してきた。

 起こしかけた体を再度倒し、物欲しそうなアルベドの顔に近づいた。

 キスをされるとわかったアルベドは嫣然と微笑んでからあーんと大きく口を開いて舌を伸ばす。唇よりも先に舌が触れ合って、唇同士が重なった時には口内で舌が絡み合っていた。

 塞いだ口の中でくちくちくちゅくちゅと二人だけに聞こえる水音が鳴る。離れた時には銀色に光る糸を引いて、千切れるとアルベドの唇を汚す。

 アルベドが妖艶に唇を舐め回している間に、男は改めて体を起こした。

 

「……んふふ、あなたはこれがしたかったのね? 好きにしていいと言ったのは私だから仕方ないわね。あなたは私のおまんこだけじゃなくておっぱいだって好きにしていいのよ?」

「そうさせていただきます」

「おまんこも忘れちゃいや。あんっ♡ いいわもっとしてぇ♡」

 

 男はアルベドの両手首を捉えた。手のひらを合わせて指を絡める恋人握りをしてセックスするのはよくあるが、今回は違う。アルベドの腕を交差させた。それによってアルベドの大きな乳房が二の腕によって寄せられた。

 体を密着させない正常位でおっぱいがぷるんぷるんとダイナミックに揺れるのも良いが、ただでさえ大きなおっぱいがぎゅっと寄せられ突き出されるのも大迫力である。乳房の谷間は底が見えないほど深く、奥には一体何があるのかと探究心をくすぐられる。

 得も言われぬ美しい色合いの乳首は弾けそうなほど膨らんで、爛々と輝くのは内から光を放っているかのようだ。

 乳首に吸い付きながら谷間に逸物を挟みたい。しかし残念ながら、人体の構造上不可能である。個別に達成するとして、今はアルベドの中に入っている。

 

「あっ♡ あっ♡ あっ♡ くっついてたいけどっ、おまんことおちんぽだけが一緒なのも……♡ 離れてるのに一つになってるぅ♡ おまんこいいのぉ♡」

 

 アルベドは淫蕩に笑み崩れながら快感を口にする。偽りはただの一つもない。

 奥に入ってくる時は受け入れるために緩めて、抜かれる時は逃さないと言わんばかりにきゅうと締まる。男が往復する毎にしているのは、淫肉が二人のためにアルベドの意思に依らずして蠢いている。

 引き抜かれる度に締めるものだから、膣内で撹拌されたアルベドの愛液と男の先走りの汁が逸物のカリ首に掻き出されて二人の股間を白く汚した。

 

「あっ、はぁっ……! あっ、あっ……、ああっ!! あん、あんっ……あんっ!」

 

 男だけを見つめるアルベドの顔が惚けていく。

 怜悧な瞳はとろりと愛欲に濡れ、薄く開いた唇からは快感を伝えるためだけの嬌声だけが吐き出される。

 大きく開いた股は頻繁に小刻みに震え、爪先を折りたたんできゅうと力を入れた。

 

「あっ、はぁっ……! あっああぁぁぁあああああああぁぁあああああーーーーーっ♡」

 

 一際大きな叫び声は露天風呂の隅々にまで響き渡り、長い足を男の腰に回して引き寄せる。深イキの時は一番奥まで届いていて欲しいのだ。

 アルベドが深く達すると同時に膣肉が逸物を締め絡みつく肉ひだが淫らに蠢き、吐き出されるであろうものを奥へ導こうとする。

 それが止めとなって、子宮口に押し付けられた尿道口から熱い精液がどぴゅどぴゅと吐き出された。

 子宮口を熱く打たれたのもアルベドの快感を引き上げる。膣と言わず腰と言わず、全身をぴくぴくと震わせた。

 

「ああっ!? 出したばかりなのにスゴいわ! ……あっ、やっ、ダメまってぇ!」

 

 射精直後、どころではない。アルベドの膣内でぴゅっぴゅと吐き出しながら逸物が抽挿を再開した。一瞬たりとも萎えていない。最初に挿入したのと同じ力強さを保っている。

 サキュバスおっぱいミルクの効果は、一度や二度ではどうにもならないことをアルベドは知らなかった。

 

(おまんこにあんなに出されたのに全然大人しくならないなんて。おちんぽミルクの量もいつもの倍近いわ。ダメって言ってるのに続けるなんて……。ダメはもっとって教えたのは私だったわね)

 

 精液の量が多かったので子宮内に取り込めきれていない。半分以上は膣内に留まってかき混ぜられている。このままだと吸収しきる前に逸物で外に掻き出されてしまう。それはとても勿体ないことだし、サキュバス的におまんこから精液をこぼしてしまうのはとてもはしたないしみっともないし未熟の証でもあって、同族に知られたら後ろ指を刺されながらヒソヒソと「アルベドちゃんておまんこから精液を垂らしちゃったんだって。なんかこの前もそんな事あったよね。もしかしてアルベドちゃんはサキュバスじゃないんじゃない? それって角と翼があるだけのエッチな女の子だよね。それとも好きな男が相手だとただの女になっちゃうとか? そう言えばサキュバスがマジ惚れすると只の女に堕ちるって伝説があったっけ。じゃあアルベドちゃんはもう……………………(以下、深刻過ぎる話題であるため誰も口にしない)」と噂されてしまう。

 なんとしても避けなければならない。アルベドはサキュバススキルを発動した。

 

《サクリファイス・イグゾースト!》

 

「うっ!」

 

 熱心に腰を振っていた男が瞬間止まり、温かいアルベドの中へまたもどくどくと精液を吐き出した。

 サキュバススキルの「サクリファイス・イグゾースト」は自身へ挿入している逸物へ強制的に射精をさせるのだ。しかしサクリファイスの名がつくように代償が必要である。それは自身の絶頂。

 突然訪れた絶頂に、アルベドは顎を上げて細い声を漏らした。逸物を突き立てられている膣をピクピクと痙攣させて意識を飛ばし、真っ白な世界に彷徨った。

 

「ああああっ!? ダメダメほんとにらめらかぁああぁぁぁああああああぁぁ!!」

 

 そして男の抽挿が再開した。止まっていたのはほんの一瞬。どぷりと熱い粘塊をアルベドの子宮口に打ち付けたら温かい肉の中を往復し始める。

 サキュバスおっぱいミルクの効果は二度や三度では薄れないことをアルベドは知らなかった。

 

「あぁっっ!? やぁああん、こんな格好……。入ってるところ見られてるぅう♡」

 

 男を押し止めようとアルベドが伸ばした手はあっさりといなされて、男はアルベドの太腿を抱え持った。

 横たわっていたアルベドの体が90度回転し、左脚は風呂に入れ、右足は男に持たれたまま高く上げられた。大股を開く体勢で、結合部が周りからよく見えてしまう。

 男は腰を振り続ける。肉が肉を打つ音よりも、息も絶え絶えなアルベドの嬌声が観戦している三人の耳に届く。それよりもよく聞こえるのが、ぐちゅぐちゅにちゃにちゃといった粘着質な水音。

 膣内に射精された精液はアルベドが吸収する前に掻き出されて結合部を白く汚している。二人の股間や内股に付着し、二人が深く重なる度に幾本もの糸を引いて、糸が千切れる前に二人はまたも重なって。

 何度も何度も繰り返すうちに汚れた部分が広がっていく。

 

「あっあっあっ、おまんこでかき混ぜられて……♡ おまんこで、アルベドのおまんこでぇ♡」

 

 アルベドの右手が、石畳をカリと掻いた。

 左手は最早男を押しのけようとはせず、自分の太腿に添えて大股開きを手伝っている。

 美顔は快感に蕩けていた。サキュバスの矜持はどうでもよくなった。

 そんなちっぽけな事よりも、自分が愛されて幸せで圧倒的な快感を共有して、彼を愛して幸せにしている事だけが本当のこと。

 潤んだ目で男を見つめる。気持ちが伝わり、赤と青の異色虹彩が近づいてきた。

 

「ちゅっ……あむぅ…………。れろ、ちゅるる……。んんっ、ちゅる、んふうぅ…………。んーーーーーーーっ♡」

 

 深く口付け、強く抱きしめ、奥まで迎えている男を離すものかと締め付けた。

 唇も胸も体も下腹も股間も互いの性器も、そして心も。何もかもを一つに重ねて、アルベドは自分の中で男が脈打つのを感じた。

 

「あっ……」

 

 唇が離れ、男はアルベドの首筋に顔を埋める。

 長い髪をまとめていたタオルを剥がし、長い髪をかき揚げ形の良い耳に唇を触れる。

 

(愛してる。お前は俺の女だ)

(!!)

 

 アルベドだけに聞こえる囁き声は艶かしく耳朶を打ち、アルベドの心と体へ染み込んでいった。凍えた体に血が流れるが如く、アルベドの心と体を熱していく。

 

「あ…………ああ………………」

 

 アルベドは何も言えなかった。全身で男を感じながらぱくぱくと口を開閉させ、掠れているけども熱のこもった音をこぼれさせる。

 

「っ!」

「はああぁぁぁっ!?」

 

 アルベドのサキュバススキルが発動した。少なくともアルベドが発動させようとしたわけではない。完全に無意識での発動。あるいは条件を満たしたがための自動発動。

 アルベドに深く刺さっていた逸物が、一度も抜けることなく四度目を放った。代償は先に払っている。アルベドは囁かれただけで、歓喜に涙した。

 

 抜かずに複数回は今までもあった。

 サクリファイス・イグゾーストを連続で五回使ったことがある。同時イキして絶叫したこともある。いずれの時も、膣内に放たれた精液を子宮に導いて吸収することが出来た。

 余裕があったし、余裕がなかった時も射精と射精の間があった。

 今回は違う。

 一回一回の量が多くて、子宮内は愛しい男の精液に満ちている。意識しなくてもサキュバスの生理として少しずつ吸収出来ているが、供給に追いつかない。

 そして、全く持って余裕がない。

 深い絶頂はまだしも、愛の言葉が全身を痺れさせた。サキュバスの本能を忘れてしまうほどに愛しい男の言葉に酔っていた。

 陰唇の内側は白濁して泡立つ粘液まみれになっているし、それと同じ汁が下腹や内股にも飛び散っている。

 男が引き抜かれても膣口は閉じきらず、喘鳴をあげるように開いては閉じ、濃厚な粘液をこぷりと溢れさせた。

 

 

 

 

 

 

「こっち」

 

 シズが男の手を引く。

 アルベドは目に腕を乗せて喘いでいる。気を利かせてなのか煩わしいのか、二人を追い払うように手を振った。

 アルベドに追い払われた男はショックを隠しきれないながらも股間のものは屹立させたままだった。アルベドへ四回も出したと言うのに収まる気配がない。

 前回アルベドの母乳を飲んで勃起させてしまった時は、六人の女相手に三巡した。ルプスレギナがこまめに回復魔法を使ったせいだ。それさえなければ四回も出したら落ち着いていたはず。なのにその四回を、しかも至高の名器であるアルベドへいつも以上の量を絞られているのに全く萎えない。

 飲んだ直後の爆発しそうな緊迫感はなくなったがそれだけだ。肉体の変化は精神にも影響を与え、欲情も収まらない。それがあったからアルベドへ放った直後も抽挿を続けてしまった。

 今も同じである。裸身の美少女が手を引いている。透き通った白い肌に、幼いながらもくびれた腰と可愛い小尻。

 

「シズさん」

「あっ……。もうちょっと、我慢して」

 

 我慢できず、背中から抱きしめた。

 腰を落として反り返った逸物を小尻に押し当て、小さくても揉むくらいはある乳房に手を這わせる。

 

「だ、だから、ガマン…………、んぁっ!」

 

 尖った乳首をきゅうと摘む。シズは尻から伝わる熱さと乳房を犯す快感に耐えながら、湯をかき分けて数歩進んだ。

 男とアルベドが交わっていたところより大分上流で、風呂の深さはシズの股間が隠れないくらいになっている。

 

「ここ……。また私に、シテいいから……」

 

 男に嬲られながら、シズは風呂の縁に手を着いた。尻を上げ、肩越しに男を見る。

 シズがちらと見せた顔はアルベドに大いにあてられ、頬は上気して目は淫欲に潤み、唇を固く結んでいるのは気が急いているから。

 逸っていても準備は不十分とわかっているようで、足を肩幅に開き、後ろ手に回した右手を尻の割れ目に添えてぐいと引いた。着色皆無の可愛らしい肛門と、先程挿入されたばかりとは思えない未成熟な性器が露わになる。未成熟でも女の色香を放って、濡れたピンク色を覗かせた。

 

「アルベド様は私にも、と仰せでした。だから…………ん……、ひゃん!」

 

 男が近付き、尻に熱いものが触れる。そのまま入れてもらえると期待していたのに、背筋をなぞられたのは不意打ちだった。

 驚きともつかない声が出てしまって背が跳ねる。キッと男を睨みつけたが、涼やかでいやらしい笑みを見せられると何も言えなくなってしまう。

 

「後ろからする時はさっきのシズさんだといまいちで、今のように背中を反らすんですよ」

「こう?」

 

 言われた通りに背中を反らすと、突き出した尻がやや上向く。

 シズが男と交わった時は僅かな正常位とほとんどは騎乗位で、後ろからは一度もなかった。そこへ加えて風呂の中であり、二人とも立っているため必然的に立位となる。少々の不手際は許容されるべき。

 

「ん……、おちんちん熱い。さっきしたばかりだから準備はできてる。焦らさなくていい」

 

 男の両手がシズの細い腰を掴み、熱い先端を擦り付ける。シズの宣言通り、割れ目は柔らかく開いて中は潤っている。力を入れて押し込む必要はない。入り口に触れるなり抵抗なく沈んでいった。

 後背位で挿入すると、後ろからは入っていくところがよく見える。小柄なシズの小さな穴が目一杯広げられ、太い亀頭をぬぷりと飲み込む。

 シズは入り口が狭ければ中も狭くて、けども男が通るに十分な道を開けていく。開いた道は狭くもきつくもなく男に絡みつく。

 

「んっ……」

 

 奥まで行く前に、一旦引き抜いた。シズが甘えた声を上げるのは、丁度好みのところを擦られたから。

 湯でアルベドとの淫液を洗い流した逸物は、またもシズの愛液に濡れている。

 

「んぁっ……」

 

 男の下腹がシズの尻に密着して、長い逸物は全てシズの中に隠れた。

 シズがちらちらと後ろを伺う。さっきのように動いて欲しいのに、奥まで来ただけで動いてくれない。

 もの言いたげなシズの視線に答えてか、男は来た道を戻っていく。そしてそのまま出ていってしまった。

 引き抜かれて跳ね上がった逸物は男の下腹を打ち、もう一度手を添えて位置を合わせる。シズの股間を下から上へ舐めるようになぞり、圧力が掛かったのはシズが思いもしない場所だった。

 

「あっ!? そこ違う! そっちはお尻のぉ……!」

 

 男が狙いを定めたのは、先程入っていたところの少し上。無着色の可愛い窄まり。シズの肛門だった。

 シズの肛門は圧力に耐えかね、幾本もの皺を伸ばされこじ開けられていく。

 

「んぅっ!!」

 

 縁石を掴むシズの手に力が入る。

 こじ開けられたシズは一番太いところの通過を許し、後の抵抗は無力だった。肛門で一番きついのは入り口で、そこを通ってしまえば奥は広がっている。

 シズの膣に挿入されていた逸物は、数秒後にシズの肛門へ根本まで突き刺さっていた。

 

「前も言ったでしょう? シズさんのここは入れるところだって。ちゃんと全部入りましたよ」

「で、も……。きつい……。お腹いっぱいで……、広がって……。おちんこが熱くないのに……、熱い?」

 

 熱に依らない熱がシズの体を灼いている。

 肛門に受け入れるのは初めてのシズだ。膣に感じるのとは違う異物感と圧迫感。初めての経験は愛されると言うよりも、使われていると言う被虐心を駆り立てた。

 

「前回は指を入れましたが、ちんこは初めてでしたよね?」

「はじめて……。へんな、かんじ……」

「アナルの処女も頂いてしまったわけですね。おまんこと違って、こっちは処女膜がついてないから楽でした。簡単に入ったでしょう?」

「簡単じゃ、ない。すごく……きつい……。おちんこおっきすぎるぅ……!」

「すぐに慣れますよ」

「あ、あうぅっ! あっ! うごかな、はうぅぅっ!!」

 

 シズは腰を振り始めた男を止めようと手を伸ばしたが、そもそも手を伸ばせなかった。

 腰を掴まれたまま男の手が上がって、足が風呂の底から離れた。両手と、肛門に挿入されている逸物だけで体を支えているようなもので、縁石を掴む手を離してしまうとバランスが崩れてしまう。出来るのは無残にも尻の穴を嬲られ、苦しさに呻くだけだった。

 

 肛門を陵辱されている屈辱が頭を熱し、圧迫感と異物感は消えないまま体に馴染んでくる。

 シズの肛門は入れるところと何度も言われ、そうなのかも知れないと納得してしまう。これが正しい使い方だと言われて、そうだと思ってしまう。苦しさは消えないのに、入っているのが強く感じられるのは悪いものではないと思ってしまう。何度も往復される内に体の強張りが抜けてきた。肛虐に身を任せるのは、悪いものではなかった。

 

 

 

 シズが新たな扉を開いている時、アルベドもまた新たな扉を開かされていた。

 

 アルベドが二人を追い払ったのは涙を見せないためだ。二人きりなら兎も角、この場にはシズとリファラとキャレットがいる。

 絶頂の余韻に浸るように見せて目元を隠し、気付かれないよう目元を拭う。

 横たえていた体を起こすと、二人は離れたところで背面立位を始めていた。そして違う二人が目の前にいた。

 

「アルベド様も少し汚れてしまっています」

「私たちより長かったですから、何回も出されていたのでしょうか?」

「折角の精液を無駄にしてはいけないですよね?」

「私もリファラにされてしまいました。アルベド様にご返礼いたします」

「………………え?」

 

 アルベドの下半身は達した時のままだ。尻を風呂の縁に乗せ、太股の半ばから先を風呂の中に沈めている。最後は正常位だったものだから、股を大きく開いていた。立ち込める風呂の湿気に淫液は乾かない。撹拌された愛液と精液の混合液が内股に点々と散らばり、開いたままの陰唇はそれよりも濃厚な白い粘液を垂らしている。

 リファラとキャレットの二人が座るのは、アルベドが開いた大股の内側だった。

 リファラがアルベドの右膝に手を添え、キャレットは左膝に手を添える。アルベドの股は更に優しく開かれて、二人の女はアルベドの柔らかな内股に唇を付けた。

 

「な、何を!? ダメよそんなこと!」

 

 上目遣いにアルベドを見た二人は、互いの顔を見合わせて力強く頷いた。

 

「「お任せください!」」

「ひぅっ!?」

 

 『女がダメって言うのは、もっとしてちょうだいってことなの♡』と言ったのはアルベドである。

 放たれた精液を無駄にしてはいけないと言ったのもアルベドである。

 直接的な言葉にしたわけではなかったが、キャレットに膣内射精された精液を吸取れとリファラを唆したのもアルベドである。

 二人の口淫を拒否する術はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

 男はシズの中から自身を引き抜く。

 抜いてもシズのアナルは開いたままで、中に放った精液がとろりと溢れてきた。

 性の何たるかを全く知らない幼気な少女に見えるシズなのに、肛門がぽっかり開いて精液を垂らしているのはとても倒錯的で背徳的な香りがあった。

 そう感じるからこそ、シズとのアナルセックスは中々興奮出来た。

 

 至高の名器を誇るアルベド様の後では、誰であろうとノーチャンスだ。比べるのが失礼だと思っても違いを認識してしまうのはどうにもならない。だからシズのアナルを使ったのだ。

 シズのアナルは処女でこれと言ってほぐしはしていないが、前回はあっさりと三本の指を飲み込んだ。

 シズはオートマトンであり戦闘職でもあり体は丈夫だろうから多分大丈夫だろうと思って試したら、想像以上の具合だった。

 下半身を持ち上げてプレイしたのもこちらが好き放題出来ている感があって中々のもの。シズの体は見た目よりも重いのだが、その程度なら意に介さない程度の力を付けてきた男である。

 

「私のお尻の処女…………、奪った」

 

 尻の割れ目に手を被せたシズが、ジト目でそんな事を言う。

 

「おまんこの処女は私からシテと言った。でもお尻の処女はそんな事言ってない。無理やり奪われた」

「でも良かったでしょう?」

「そういう問題じゃない」

「ではどういう問題ですか?」

「心の問題」

 

 シズの口から物凄い難題が飛び出してきた。

 

「私の傷つけられた心を癒やす事を要求する」

「いやそれ嘘でしょう。シズさんの心がこんな事で傷つくわけが」

「侮辱罪追加。私のハートはガラス製」

「それって防刃防弾対魔力対物理不朽不滅処置が施されてますよね」

「む! 今の暴言で私の心は砕けた。不眠不休での修復処置を要求する!」

「………………手先は器用なつもりです」

「期待しておく」

 

 知を競う論戦ならデミウルゴスと伍し、思考速度なら上回ると当のデミウルゴスに言わしめた男であるが、こと感情が絡むとお手上げだった。

 完勝したシズは満足そうに口角を上げ、次いで視線を落とす。

 視線の先には、たっぷりと中に出させてあげたのに萎える気配もなく反り返った逸物があった。

 

 アルベド様に四度出してシズに五度目。如何にサキュバスおっぱいミルクの効果であろうと落ち着くと思われるのに元気なまま。

 今更ながらに温泉の回復効果によるものであると思い出した。忘れていたのはミルクの効果で興奮していたからだ。落ち着かせるには風呂から出た状態で何とかしなければならない。

 風呂の中でいたしたキャレットは初体験の余韻に浸ってはいたが元気なままで、風呂に足だけ入れていたアルベド様はぐったりと横たわっていた。足だけ入れている状態だと回復効果は弱いのかも知れない。そう結論づけた男は、一先ず縁石に腰掛けた。

 すぐ隣にシズが座る。男の股間へ手を伸ばしてきた。

 

「まだまだ元気。あと五回くらい出来そう」

「……シズさんは何回したいですか?」

「私は後回しでいい。アルベド様と、リファラとキャレットがいる。でも……」

 

 シズは小さな手で男の逸物を扱きながら、女の顔をして男の耳に唇を近付けた。

 

(埋め合わせと貸しと責任と私の心の修復処置と他にもいっぱい。忘れるな)

 

 男の耳を白い歯で軽く食み、耳孔へレロリと舌を差し込んだ。

 手コキは止まらない。少し強めに握ったまま、上下に扱き続ける。

 

「んーーー。れろぉ…………」

 

 口内に溜めた唾を亀頭めがけて垂らす。にちゃりと粘った音を立てた唾を手で塗り伸ばし、滑りを良くして動きを加速させた。

 

「ん……、ちゅっ……。んんっ! おまんこ、くちゅくちゅしてる……。はぁ……」

 

 シズが扱くなら、男の手はシズの股間に伸びて、さっきは使わなかった雌穴をほじりだした。

 太い逸物を飲み込んでしまった穴なのに、指を入れても緩いとは感じない。肉ひだが吸い付いて舐められているようだ。

 

「あっ……? おまんこ使う? あふぅ……!」

 

 使われると思ったのは、扱いていた手を退けられたから。それなのに使われる気配はなく、手で責められている。

 シズの性器は彼の性器で成形されたのだから、サイズがピッタリなのは自明の理。奥まで来られると文字通りに雄と雌が噛み合って、女の体に生まれた意味と喜びと幸せを教えてくれる。

 それはそれとして、手でされるのもとても良い。暴力的に蹂躙されるのと違って、繊細に内側を嬲られるのは的確にこちらの快感を引き出してしまう。

 前回はその果てに盛大に潮を噴いてしまって心が傷つきもしたが、幸せの代償と思えば許容範囲。

 股間を覆う手にシズが手を重ねたのは、もっとしてと言っているようだった。

 

 男は男で至福に身を浸している。

 シズの手を払ったのは男の前に陣取る二人、リファラとキャレットだ。二人は男の逸物に、それぞれ左右から口付けていた。

 

 アルベドへの奉仕を終えた二人は、二人のアナルセックスを観戦して自分たちがされてしまったらどうしようと相談しつつも結論は出ず。終わったらしいのに未だ勃起させている男へ奉仕するために近付いた。

 今日この場で何度もセックスしている男だが、口でされたのはアルベド様が綺麗にしてから立たせた一度きり。異本では必ず口内射精を伴っていたのだから、口を使うのは必須である。

 リファラは口でよがり狂うほどされているし、さっきは二人でアルベド様へお口でご奉仕した。その場の雰囲気と勢いと、お尻はまだちょっとと思っているのでそちらを回避するためと。諸々の事情があっての口淫である。

 

「私たちがお口でご奉仕しますね」

「お風呂ですから、顔に掛けてくださっても大丈夫です♡」

 

 キャレットは僅かに緊張を滲ませ、リファラはにっこりと顔射をねだる。

 二人はちゅっと亀頭に口付けた。

 艶やかな唇を少しだけ開いて左右から亀頭を甘く食む。そのままつつつと竿へ唇を滑らせ、根本まで来ると上がっていく。

 二人の動きは完全に同期しているが、口内の動きは違った。キャレットはちゅうと強く吸い、リファラはレロレロと舌を使って唾液を塗りたくっている。

 もう一つ同じなのは、フェラチオをしながらの上目遣い。

 物欲しそうな期待の眼差しは、愛欲に潤んでいる。交互に逸物へしゃぶりつき、口が空いたもう一人はにんまりとした笑みを見せる。

 

「あっ♡」

 

 左に位置するリファラの頭だけを撫でてやったのは贔屓のつもりではなく、右手はシズに使っているからだ。

 それをずるいと思ったのか熱意を主張するためか、キャレットが激しく頭を振って、

 

「!?」

 

 突然体を引き倒された。

 シズの中から抜けてしまったが、何度か達してピクピクしているから問題ないだろう。

 

 両手が使えず後方へ倒れ、しかし頭を石畳に打つことなく柔らかくて良い匂いがするふわふわのすべすべに迎えられた。

 見上げる視界には、アルベド様が慈悲と慈愛と愛欲の微笑を浮かべておられる。

 その手前に聳える大きな双丘に視線が反れるのは仕方ない。

 

「うふふ……、頑張ってるわね。さっきのあなたはとっても素敵だったわ♡」

 

 アルベド様へ三度目の中出しをした際に囁いた言葉は、今までの経験からお喜びいただける言葉を選んだつもりだった。膝枕をして優しく頭を撫でてくれているのだから、選択は正しかったようである。

 

「あなたがもっと頑張れるように応援してあげるわ♡」

「!!」

 

 アルベドが上半身を倒し、男の顔が豊かな乳房に埋まった。

 

「わっ♡」

「きゃっ♡」

「スゴい……。いっぱい出てる♡」

「顔がベタベタ。リファラの顔を綺麗にしてあげる。チュッ♡」

 

 二人の唇に挟まれて射精したのは、Wフェラの気持ちよさとアルベドのおっぱいがもたらす興奮と。

 

「あんっ♡ 歯を立てちゃダメよ? 赤ちゃんみたいに私のおっぱいをちゅうちゅう吸いなさい? あなたのためにいっぱいおっぱいを出してあげるわ。私だけのエッチな赤ちゃん♡」

 

 アルベドのおっぱいは、二つあった。

 

 男はリファラとキャレットの顔に向けてどぴゅどぴゅと何度目かの射精をし、男の口に吸いつかれたアルベドの乳首はピューっと母乳を噴き出している。

 射精を果たしたばかりの逸物は萎えるどころか、一週間禁欲してからアルベドの裸体を目の当たりにしたかのようになってしまった。

 

「今度は私が口でします」

「あら?」

 

 互いの顔を舐めあっている二人を押しのけ、シズが口を付けた。

 小さなお口を大きく開き、長い逸物の根本を唇で包む。先端が喉奥を突いてもえづくことなく、シズは頭を振り始めた。

 

「仕方ないわね。私もおちんぽミルクを飲みたかったけれど四回も出してもらったばかりだし、シズに譲ってあげるわ」

 

 譲ってあげても自分の番が早まって欲しいわけで、アルベドはシズのサポートをする。

 男の体をさわさわと撫で、女よりも小さい乳首を爪で引っかききゅうと抓る。母乳を出し終えた乳首を男の口から離れさせ、もう一方の乳首を口に含ませる。

 男の唾液に濡れた乳首が薄明かりに照っている。アルベドは舌なめずりをしてから乳房を持ち上げ、濡れた乳首に舌を伸ばした。

 唾すら美味な男だ。自身の乳首からは玄妙な味がした。

 

「…………」

 

 膝枕をしている男と目が合う。

 男の頭の位置を調整して、アルベドは体を倒した。唾の味を軽く楽しんで、そっと囁いた。

 唇同士が掠める距離は、吐いた息が相手に吸われている。

 

(私もあなたを愛してるわ。私はあなたのものよ)

 

「んんっ!!」

 

 アルベドが囁くと同時に、シズの口内へ放たれた。

 突然で、それなりに早かった射精に驚いたシズは、それでも最初の熱い粘塊を喉奥で受け止めると、断続的に吐き出される精液へは亀頭だけを唇に包み口内に溜めていく。

 赤らんだシズの頬が膨らんでいく。限界に達する前にシズは何度も喉を鳴らして飲み込んだ。

 

「この子のおちんぽミルクは美味しかったでしょう? 今度は私が口に出してもらうわ」

 

 シズとアルベドの位置が入れ替わる。アルベドは男の股間に顔を埋め、シズは男の体に後ろから抱きついた。

 

「シズさん?」

「…………」

「精液の匂いがするのでうがいをしてきてください。イテッ!」

 

 後頭部にゴツンと頭突きをされてしまった。

 表情を落としたシズは男がいる上流の温泉に口を付け、ガラガラーとしてんべえと外へ吐き出した。大半の温泉と同じように、ナザリックの神造温泉も飲用可である。

 

 うがいをしたシズは、もう一度広い背中に抱きついた。

 

 

 

 アルベドの口に出し胸に出し、リファラとキャレットがアルベドの胸を綺麗にしている間にシズが得意な体位をもう一度。

 風呂の外で出した甲斐あって少しだけ落ち着いて来たのがアルベド的に面白くないらしく、もう一度風呂に浸かってアルベドと。

 勇気を出したリファラが後ろを申し出て、キャレットが続く。

 

 回数的には前回アルベドのミルクを飲んだ時より少ないが、量的に同じか多いくらい。

 休憩を挟む女達と違って、男は常に動いている。温泉の効果で回復しても疲労感があった。むしろ温泉の効果がなければ干からびて死んでいたかも知れない。

 そうして最後は水風呂に叩き込まれてしゃっきりしてから風呂を出た。

 結局体を洗っていないが、汗や汚れを落とす効果もある温泉なので大きな問題はないのである。行為に夢中になって肝心なことを忘れてしまった女達が誤魔化しただけとも言う。

 

 その後はゲストルームに案内され、昼近くまでぐっすり眠った。にもかかわらず疲労が抜けきらなかったのは、眠っている間に悪戯をされていたからである。

 首を傾げつつ朝食を兼ねた昼食を取り、気力を振り絞って最古図書館で本を借り、執務をしていらしたアルベド様とアインズ様に退去の礼をしてからナザリックを辞した。

 ラナーがどうのこうのと嫌なことを聞いてしまったが、とても満足行く滞在であった。



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ビーストマンはビーストである

諸事情によって断念した竜王国ルートの供養です


 当初の取り決めだと、男がナザリックを訪問するには然るべき申請書を提出し然るべき方からサインを頂いて、申請書に然るべき効力を持たせるのが始めの一歩であった。

 ところが正規の方法でナザリックを訪問したことは一度もない。シャルティアに拉致されたりアインズ様に連れられたりするばかりである。

 そうしてただの一度も申請書を書くことなく、男は守護者統括相談役の身分を手に入れた。結果、ナザリックへの訪問に申請書は不要となったのはとてもありがたいことである。

 

 基本の移動手段は馬車であるはずだった。だけども一度しか使われていない。それ以外は全てシャルティアかアインズ様によるゲートの魔法である。

 馬車が陸路なら、魔法による移動は魔路だろうか。ゲートの魔法なので扉路かも知れない。

 それ以外の移動手段は空路があった。

 

「平野が途切れました。出来るだけ飛行速度と高度を一定にしてください。方位もこのままでお願いします。時々旋回をお願いすると思います。その後の進路は私から指示します」

「わかった。……聞いてた? ゆらゆらしないでまっすぐね。速さはこのままでいい?」

「構いません」

「それじゃもっとゆっくり飛んでね」

「……ゆっくりでも構いません」

 

 男は天駆けるドラゴンの背にいた。ドラゴンを操るのはアウラである。

 

 ナザリックから帝都に戻る男を送るのに、アウラが手を上げた。

 アウラ自身の意思もあったが、アインズ様から「送ってやれ」と言われたのだ。言われたアウラは元気よくお返事をしたのだが、「あいつは空の旅なんてしたことないだろう? ゆっくり大回りで行くといい」と言われてしまい、真っ赤な顔でか細い返事をする羽目になった。汗顔の至りである。

 

 過日、アウラはアインズへナザリック周辺の詳細な地図を献上した。

 縮尺も地形も人工物も、全てが正確な地図はアインズを大いに驚かせ、大いに喜ばせた。アウラが優秀なレンジャーと知ってはいたが、ここまで精緻な地図を作れるとは思っていなかったのだ。魔導国はいずれ王国へ攻め入ることになるため、急ぎではないがそれまでに王国の地図を作れるかとの問いに、アウラは力強く頷いた。

 そして本日、ナザリックに来ていた男を帝都へ送るため、アウラを指名した。いつもいつもゲートの魔法で移動してばかりでは味気ないだろうと思ったのだ。

 アインズはカルマ下限の極悪であるくせして思いやりに溢れているお骨である。

 しかし、アウラの受け止め方は違った。

 

 男を空の旅に連れ出し、ゆっくりと、且つ大回りで。

 

 さすがのアインズ様は、あの地図を作ったのが自分ではなく、アルベドの相談役と見抜いておられたのだ!

 王国の地図を作る前に、献上した地図の東部を埋めよと仰せなのだ。

 

 自信満々で献上した地図はアインズ様にお喜び頂いたが、それを作ったのは自分ではないと見抜かれてしまった。真の作成者に協力して作成を続けよと言われてしまった。

 手柄を横取りしてしまったのを優しく窘められたようでとても恥ずかしく慙愧に堪えない。しかし、自分が恥をかかないよう他の者達に気付かれないように仰ってくださったのはアインズ様の偉大なお心に触れられたようで心がとても温かくなる。汗顔の至りではあるが、嬉し恥ずかしというやつだ。

 

 と言うのは全てアウラの誤解である。

 どのような行き違いがあったか不明であるが、アインズの幸運値がEXであるのは確かなことであるらしい。

 

 

 

「少し速度を落としていただけますか。地形が複雑になってきました」

「このくらい?」

「はい」

 

 ナザリックから帝都へ向かうには、北北東へ向かう必要がある。今回ナザリックを飛び立ったドラゴンは南へ下り、白い霧に包まれた広い平野を眼下に収め、竜王国に入った。

 王国や帝国に比べると山が目立つ。山頂に白いものが多いのは雲が引っかかっているのと雪が染めているからだ。下界では春であっても、山の上はまだまだ真冬らしい。

 それよりも高所にあるドラゴンに騎乗している二人は寒さを物ともしない。この程度の寒さでどうにかなるアウラではなく、男の方も以前の反省を踏まえてきちんと防寒(正しくは耐炎耐氷)ブレスレットを着けている。

 

 山頂は過酷でも、麓や平地では草木が芽吹いて春の喜びを歌いだしている。それは人も獣も同じである。何者も見逃すまいと地表を見つめる男の目に、人の姿が映ることもあった。

 

「あれは……」

 

 ドラゴンの首にしがみついて下を覗き込んでいた男が身を乗り出す。いつぞやのように手がかじかんで落っこちたりはしない。

 

「……? 進路が北へ曲がっています。もうしばらくは東へ……。旋回しているのですか? 今の呟きは気になさらないでください」

 

 視界に掠めたものを身を乗り出してまでして確かめたが、些細なことだ。わざわざ注目するまでもなく、予定通りに竜王国を突っ切ってもらえればいい。

 それなのに飛行中のドラゴンは旋回を止めず、男が見たものの上でぐるぐると回っている。

 

「こっち見てよ」

「アウラ様?」

 

 男が怪訝に首を傾げたのは進路をとらないドラゴンが疑問なのと、アウラの声が違ったから。実年齢と精神年齢と違って肉体が幼いために、かなり高いアウラの声が落ち着いている。一度だけ聞いた声だ。

 顔を上げて振り向くと、アウラの姿は一度だけ見た姿になっていた。

 

「まだ昼前ですから、この速度だと夕刻前に帝都に着きます。竜王国を回る前に少し休まれますか?」

「それもいいんだけど、そういうんじゃなくて」

 

 丸みを帯びた幼い美貌が花開いていた。肩に触れる程度の艶やかな金髪が長く伸びている。低かった背は成人女性の平均程度に。

 そして、胸。その前にすらりと伸びた手足になるべきかも知れないが、やっぱり胸。白いベストがとても窮屈そうで、無垢な子供ならスイカかメロンを入れてるんですか、と聞きたくなるような事態になっている。

 それなのに腰はきゅっと絞まっているので、体の凹凸がとても主張されてしまう。

 幼女そのものだったアウラが、美しい大人の女になっていた。

 アインズ様から下賜された一時的に大人になれる「不思議な青いキャンディー」の効果に違いなかった。

 

 子供から大人の姿になったのだから、子供では出来ないことをお望みなのだと思われる。

 赤くなりつつあるアウラの頬も推察を補強するのだが、アウラにそのつもりはないようだ。

 

「ちょっと聞きたいことがあって」

「何でしょう? 私に答えられることなら何なりと」

「えっと、ね……」

 

 言いよどむアウラは顔をますます赤くして、ついとそっぽを向いてしまった。

 

「私は成長したらいつかこの姿になるんだよね」

「アウラ様は美しい女性になることが約束されている方です」

「今の私、綺麗だって思う?」

「勿論です」

「それじゃ…………」

 

 アウラは、アインズに言われる前から男を帝都へ送ってやろうと思っていた。

 絶対に誰にも邪魔されない場所で、誰にも聞かれたくない話をするためだ。

 

「いつか私がキャンディーを舐めなくてもこの姿になれるように、って言うか。私が大人になったら……」

「はい」

「えっと…………、だからね!?」

「はい、ちゃんとお聞きしています」

「凄い事言うんだから逃げないでちゃんと聞いてよ!?」

「そもそも逃げられません」

 

 上空3,000㍍である。空を飛んだり転移の魔法を使える男ではないので、逃げられるはずがない。

 

「そういうの言わなくていいから!」

「…………はい」

 

 なにやらアウラは盛り上がっているようである。

 何を言っても聞き入れてもらえないだろうと判断した男は、大人しくアウラの言葉を待つことにした。

 

「ええっと、だから…………、私が大人になったらの話で……」

 

 雲ひとつない眩しい青空を見上げながら同じ言葉を二回繰り返す。

 三回目になってようやく、けども明後日の方向を向きながら、アウラは言葉を振り絞った。

 

「あんたをお婿さんにしてあげてもいいんだけど!」

 

 ついと続けられた言葉は、アウラ一世一代の告白だった。

 これから長い長い生を送るアウラだが、似たような事は生涯言わないつもりでいる。本当に最初で最後の言葉だ。

 それくらい大事な言葉なのだから、どんな言葉が返ってくるかも想定している。

 

 アウラはダークエルフだ。寿命はなく、成長は遅い。幼い姿の現在から大人になるまで、百年や二百年では足りないだろう。

 対する男は人間である。健康に生まれつき、大病がなくても百年は生きない。アウラが大人になるまでに確実に死んでいる。

 だから、「アウラ様が大人になるまで生きていません」と言われるはずだ。

 そこへ種明かしをしてあげる。

 単に生きるだけなら、帝国の魔法狂人のように寿命を伸ばすことは可能だろう。しかし、しわくちゃに年老いてしまうのは困る。お婿さんにするのだから、今のままの姿でいて欲しい。

 そのための処置をすでに施してあったりするのだ。

 アウラが男へ差し入れた様々な果物や食べ物の中に、不老や寿命を伸ばす効果があるものが幾つも含まれていた。アウラが大人になるまで今と変わらない姿でいるはずである。

 その事を教えてあげる。

 だけども半信半疑かも知れない。そうしたら、自分が大人になるまでちゃんと元気に生きてたらお婿さんになること、と約束させるつもりでいる。

 完璧な二段構えである、はずだった。

 

「年内か遅くとも来年中には妻帯している予定です」

「は?」

「あっ………………」

「………………………………わーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

 一瞬の出来事だった。

 思いもよらない裏切りの言葉に、アウラの全身から怒気が迸った。

 その程度は軽く受け流せる男であるが、二人が騎乗しているドラゴンは違う。全身を大きく震わせて、何が起こったのだろうと長い首を回して後ろを向いた。

 首には男がしがみついていた。アウラと言葉を交わすため、体を起こして上半身だけをアウラに向けていた。

 突然揺らされた男は、上空3,000㍍から落下した。

 

 しかし、アウラが同乗している。

 アウラは瞬時に鞭を取り出し男が座っていたドラゴンの首に飛び移った。

 落下したばかりだ。男はまだすぐそこにいる。

 ドラゴンに咥えさせても良かったが変なところを噛まれても困ると判断し、十分届く距離でもあって、鞭を放った。

 男の足に巻き付け、釣り上げるつもりなのだ。

 落下中であるとは言え近距離。狙い違わずアウラの鞭は男の足に届き、男がひょいと足を引っ込めた。

 

 男は落ち続け、アウラが呆然と見下ろしてる間にどんどん小さくなっていく。

 やがて、アウラの視力であっても点にしか見えなくなった。

 仕舞いには木立の中に消えてしまった。

 

 

 

「何で避けるのーーーーーーーーーーっ!!!!!」

 

 上空3,000㍍で、アウラの絶叫が轟いた。

 すぐさま落下地点と思われる場所へ急降下する。

 

 アインズ様が正規に認めた守護者統括相談役だ。空から落っことしちゃいましたなんて言おうものなら怒られるだけでは済まない。アウラとて絶対に失いたくない男だ。

 しかし眼下の景色はどこもかしこも似たりよったりで、正確な場所がわからない。ゆっくりとは言え旋回しているのも災いした。距離が不明なら方位も不明。何となくでしかわからない。

 木々に触れるくらいの超低空を飛行させる。

 真っ直ぐに飛ぶのではなく、落下地点と思われる場所を中心に旋回を続け、徐々に円を大きくしていく。

 耳を澄まし、涙目になりそうな目を凝らして男の姿を探し続ける。

 時間の経過がわからない。

 探し始めてほんの数秒のような気がするし、数時間が経っているかも知れない。

 瞬きもせずに、けども歪む視界を何度も拭って、

 

「見つけた!!」

 

 ドラゴンに命じる時間すら惜しい。

 木々の間に男の黒いジャケットが見えるや否やドラゴンの背から飛び降りて、地上に降り立ったアウラの前に少しだけ薄汚れた男が立っていた。

 

「落っこちたのは仕方ないかも知れないけどどうして避けたの! すっっっっっ………………ごい心配したんだからね!!」

「……アウラ様。お話は後で伺いますから退いていただけませんか?」

「……は?」

 

 高所から落下したのに男には怪我らしい怪我はなく、衣服の損傷もない。

 ナザリック製の礼服はちょっとやそっとでは傷ついたりしないのだ。特にこの男が着ている礼服は特別製で、ミスリルアーマーくらいの防御力がある一般メイドたちのメイド服より丈夫だし着用者を守る効力も高い。

 アルベドのバルディッシュで横薙ぎにされたら真っ二つかも知れないが、ルプスレギナが全力ぐーぱんしても即死はしないはずである。

 それに加えて男は木の枝に落ちるよう落下位置を調整し、地表にぶつかる時は全身の関節を利用して衝撃を分散させていた。ナザリック製ジャケットを着ていなくても足をくじく程度で済んでいただろう。

 

 速やかに男が見つかって、怪我をしていないのはまず良かった。

 しかし、男がアウラを見る目には困惑があった。

 しかも、探しに来てくれたアウラに退けと言う。

 

 アウラは思ってもみない言葉へ頭に来る前に困惑して、順番通りに頭に来た。

 男は鞘を抜き払った短剣を手にしていた。コキュートスからプレゼントされたショートカタナブレイドである。

 武器をアウラに向けているのだ。

 そして、男の背後。

 大きな木を背に、見窄らしい女がいた。

 男が女を守って、アウラへ武器を向けていた。

 

「どういうつもり?」

「ぅ…………」

「ですからお話は後で。そのままゆっくりお下がりください」

「……なに? 私よりそんなの取るつもり?」

「折角ですから」

「………………」

「ひぅ………………」

 

 紛れもない怒気がアウラから迸った。

 上空で怒ったのとは訳が違う。あちらは感情が高ぶって漏れ出てしまったものだが、今度の怒りには敵意が混じっている。

 どこの誰とも知れない女と結婚するとか言うのも頭に来たが、今度は対象が実体を持って眼の前にいるのだ。

 それが成長した自分が認めてもいいくらいの美女なら、頭に来るのは変わらないがわからなくもない。

 しかし男が後ろに隠している女は、ボロをまとって怯えを貼り付けた顔は薄汚れて体は貧相で、一言で言えば汚い。汚いので若いのかどうかもわからない。こんな森の中を元気に走っていたのなら若いのかも知れない。

 そんな得体の知れない女と自分を比べて、汚い女の方を取ると云う。

 怒りに任せて女を鞭打ちにして切り裂かないのは、男が気に入ったらしい女を殺してしまうと嫌われてしまうかも知れないと理性が頑張っているからだ。

 けども、針で突くだけで割れてしまう。

 これ以上おかしなことを言われたら、きっと我慢できない。

 

「……じゃあ私に武器を向けてるのは何? まさかそんなのであんたが私をどうにか出来ると思ってる?」

「アウラ様に向けているわけではありません。アウラ様がいらっしゃった時にショートカタナブレイドを取り出したのは偶々です。説明いたしますから、まずは落ち着いて後ろへ下がってください」

「私は落ち着いてる!!」

「グギィ………………」

「あーーーーーーっ! 丁寧に絞めようと思ったのに…………」

「……………………へ?」

 

 アウラは叫んだと同時に地を踏みしめた。

 すると足元から異音が響く。踏んだ感触も硬い地面と違ってぶにぶにしてる。

 あれと思って足元を見ると、大きな毛むくじゃらを踏んでいた。

 獣に思えるが、胴体から人間のような四本の手足が伸びている。

 

 獣ではない。人間でもない。亜人に数えられるそれは、竜王国がとっても迷惑しているビーストマンだった。

 

 

 

 上空から地上を観察していた男は、人間の女を追いかけているビーストマンを発見した。

 近くにビーストマンの集団は見当たらず、群れからはぐれたか追い出されたかした個体であるらしい。

 追いかけられている人間はそのうちビーストマンのご飯になってしまうのだろうが、竜王国ではよくあること。

 今日もこうして人々は死んで行くのだなあと思うだけで女への哀れみもビーストマンへの怒りもなく、飛行を続けてもらって地形の把握に努めようとした。

 ところが落っこちてしまった。

 どうせ落ちてしまったのなら折角なのでビーストマンを捕らえようと考えた。女を助けたかったわけではない。目的はあくまでもビーストマンである。

 

 ビーストマンとは、二足歩行するトラやライオンの姿をした亜人である。

 ここで重要なのは、ビーストマンの名のごとくビーストよりである事だ。

 オーガに体毛は少ないので、図体がでかい人間に見えなくもない。しかし、ビーストよりのビーストマンは毛むくじゃらで、人間よりも獣よりであると言えなくもない。

 亜人の一種であっても動物と捉えて良いのではないだろうか。

 オーガは駄目でもビーストよりのビーストマンなら良いのではないだろうか。きっと良いはずである。

 

「………………で? オーガより動物っぽいから何なの?」

「食べるんです」

「…………………………は?」

「だから、食べるんです」

「食べる?」

「……アウラ様はユリさんと親しいそうですね。ユリさんにはオーガなんて食べさせられないと言われましたし、料理長にも絶対に不味いと言われてしまいました。ですが! ビーストマンは亜人でも動物寄りです。考えてもみてください。これから魔導国は豊かになり続けます。人口も相応に、いえ加速度的に増加していくことでしょう。そうなったら食糧が足りなくなるかも知れません。いえいえ、アインズ様は千年先を見通される方。食糧事情も考えていらっしゃることは承知しております。ですが、想定外とは想定していないからこそ起こりうること。そうなった時のために豊富な食糧があったらと思いませんか? ビーストマンは東方に複数の国家を作っているらしく十分な数があります。飼育もしていないのにいっぱいいるのですから、見逃す手はありません。その時に備えてまずは味見を。そして適切な……、あーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

 男とアウラが向き合っている間に、旋回していたドラゴンが降り立った。

 アウラが顎でしゃくると、ドラゴンが長い首を伸ばす。

 バリバリゴキャゴキュ……ペッ。

 

「不味いって」

 

 哀れ、ビーストマンはドラゴンのおやつになってしまった!

 

「味覚が違うんです! それに料理してないじゃないですか! 雑食のビーストマンだって骨髄ならいけるはずですし、肉は臭いでしょうがハーブとか香辛料を適切に使えばなんとかなったはずなんです!」

「うるさい! 私はあんたが落っこちて心配したの! そこのとこわかってる!? 私に心配させて何か言うことないの!?」

「……ご心配をお掛けして申し訳ございません」

「それじゃ行くよ。……まったく。あんたバカ?」

「……仰る通りです」

「わかってるならバカな事しないで」

「……はい」

 

 ユリと仲良しのアウラであるからか、ビーストマンは食べさせてもらえなかった。

 

 毒気を綺麗さっぱり抜かれてしまったアウラは、男を責めるのも薄汚い女をどうにかするのもどうでも良くなった。

 一先ず二人はドラゴンの背に戻り、女はドラゴンの足に掴ませて近くの集落に放っていくことにした。




竜王国ルートのあらすじ

アウラは落っことした男を見つけられなかった
急遽ナザリックに引き返して報告する
隠しクラス特性により魔法探知不可な男を探すため、大規模な捜索隊が組まれる
ビーストマンの群れを蹂躙しつつアウラ隊長が見たものとは!?

美少女を助けた男はそこでR18ルートに行けばいいものを、捕まえたビーストマンの心をポッキポキにへし折って、加減はわかるのに限度がわからないので廃人にしてしまう
あーとかうーとかしか言えなくなったビーストマンを使って囮漁を実施、大量捕獲
オーガと違ってビーストマンはビースト寄りだからダイジョブ理論によりお料理研究が始まります

やってることは料理なのにR18G
絞め方の研究だけでも間違いなくアウト
活造りなんてしたら凄いアウト
デミウルゴスもにっこり



89話にてアウラとシャルティアを絡ませるためにGLタグをつけました
タグつけたんだから問題なかろうと143話でアウラとシャルティアが絡みました
もしも残酷な描写タグをつけようものなら目一杯活用する気がしてならないです
そーいうのは本作じゃやらないと決めてるのです

と言うのが事情の一つ
一番の理由は寄り道しすぎるとエントマの出番がますます遠のいてしまうから
あとちょっとのはずです、たぶん


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左遷解除と戦力外通告

 お屋敷の若旦那様が無事に帝都のお屋敷に戻って翌日。

 若旦那様の書斎に主要な顔ぶれが集められました。

 

「エ・ランテルに戻れることになった」

 

 若旦那様の重大発表にルプスレギナが歓声を上げて拍手します。ソリュシャンはおめでとうございますと祝福の言葉を述べました。

 その他の面々はよくわかっていないながらも良い事であるらしいと察して拍手します。

 

 若旦那様が帝都にいるのは、人類絶滅とか馬鹿な事を主張したので再教育の必要があったからです。つまり、左遷です。その若旦那様がエ・ランテルに戻れると言うことは左遷が解除されたのだと察せられます。お祝いして然るべきでしょう。

 

「と言うわけで俺はエ・ランテルに戻る。ついてくる者は準備しておくように。ルプーは強制だな」

「ま、当然っすね♪」

 

 ルプスレギナが若旦那様の傍にいるのは、事あったときに回復魔法を使うためなのです。帝都で遊ばせておく余裕はなく、常に若旦那様の傍にいなければなりません。ちなみに、事の半分以上はルプスレギナが起こしています。

 

「ソリュシャンは好きにしていいぞ」

「……私はお兄様のお側におります」

 

 ソリュシャンが若旦那様の傍にいるのは、身分が不確かだった若旦那様は商家の令嬢であるソリュシャンの遠縁であると外へ知らしめるためでした。ですが現在の若旦那様は、魔導国宰相閣下の相談役となりました。今やソリュシャンお嬢様の存在は不要となってしまったのです。

 と言うことをわかっているソリュシャンですが、そこは自分についてこいと言って欲しい乙女心。お兄様は自分の自由意志を尊重してくださっていると思わなければやってられません。

 

「ソリュシャンお嬢様がエ・ランテルに向かわれるのでしたら私も同道いたします」

 

 シェーダはソリュシャンお嬢様の専従メイドとして帝都に来たのですから、ソリュシャンお嬢様の傍に侍っていなければなりません。

 

「カルカは帝都に残れ。こっちで友人も出来たんだろう?」

「は、はい。…………私はこのまま帝都に滞在し続けるのでしょうか?」

「ん? エ・ランテルに行きたいのか?」

「そういうわけではありませんが……」

「どっちにしろいずれは、だな。折角帝国の社交界に名が売れだしたんだ。エ・ランテルに呼び寄せることもあるだろうが先の話だ。当面は今まで通り。俺の代わりに魔法学院の生徒たちと付き合ってやれ」

「……かしこまりました」

 

 魔法学院の生徒会長と仲良くなったらしいカルカです。

 

 帝国が誇る魔法学院には何度か訪問している若旦那様です。が、あっという間に興味を失ってしまいました。若旦那様の目に映る魔法学院は「魔法使い養成所」に過ぎなかったのです。

 魔法使いを育てるのは大いに結構なことです。だからと言って、魔法を使えない者に門戸を閉ざす必要はありません。けっして自分が魔法の才能皆無だから拗ねてるわけではないです。研究者と実践者が同一である必要はないと思っているのです。

 例えるなら、帝都の宮殿を設計したものと実際に石を運んで組み立てたものは違います。理論と実験の分離と言い換えてもいいでしょう。これについては、帝国で研究している魔法はまだまだ稚拙なものだから両者を分離する必要がないと言えなくもありません。

 そこのところをどうにかなりませんか、といずれアインズ様に上申するつもりでいます。

 

「カルカが残るのは良いっすけど、カルカだけってのはちょっとあれじゃないっすか?」

 

 ルプスレギナの茶々入れは真っ当なものです。

 カルカは、言わば外様です。それを言えば若旦那様もそうなのですが、こちらはあちらと違って実績と信用を積み重ねているので問題になりません。

 外から来たばかりのカルカには実績と呼べるものは何もありません。社交を少々頑張りましたが、それだって絶対に必要不可欠とまでは言えません。当然、ナザリックからの信用はあんまりありません。

 そんなカルカに魔導国の公館を任せて良いのでしょうか。

 

「シクススも残るから問題ないよ」

 

 ナザリック出身のメイドでありお屋敷のメイド長を勤めるシクススが残るのなら、お屋敷の権力がカルカに偏って変なことになる心配はないでしょう。

 妙案に思えた若旦那様ですが、室内の空気がちょっとおかしくなりました。

 ソリュシャンとルプスレギナはちょっぴり眉を顰めていますし、シェーダは露骨に厳しい視線を向けてきます。

 一番の原因はシクススです。顔色が真っ青になりました。

 

「私は帝都に残れ、と。ご主人様はそう仰るのですか?」

「シクススはメイド長だ。連れていけるわけがない」

「……他の者に仕事を引き継ぐことも可能です」

「一日や二日で出来ることじゃないだろう? それこそルプーが言った通りだ。カルカだけを残すわけにはいかない」

「………………いつまででしょうか?」

「未定だな。誰かにメイド長を引き継ぐにせよナザリックのメイドたちに頼まなきゃならないし、そうするとそっちに都合もあるからペストーニャ様にお伺いを立てる必要がある」

 

 つまりは本当に全くの未定。予定もないと言うことです。

 シクススは当面の間帝都のお屋敷に勤めていて欲しい、務めなければならない。そう言うことです。

 

 シクススは栄えあるナザリックのメイドです。苦しくてもみっともなく癇癪を起こしたり叫んだりしません。ですが、感情を制御できる閾値を超えてしまいました。

 しっかりと見開いた目には涙が溜まり、頬を伝っていきます。

 

 どうしてシクススが泣いてしまったのかさっぱりわからない若旦那様は、慌てて周囲を見回します。

 はあぁぁとクソバカでかいため息を吐いたルプスレギナがそっと耳打ちしてあげました。

 

「シクススは当分おにーさんと会えなくなるのが悔しいんすよ」

 

 若旦那様とシクススはご主人様と使用人の無味乾燥な関係を越えて深い仲にある、とシクススは思っています。思っていました。

 それが単なる一方通行なものに過ぎなかったと突きつけられたのです。

 射精管理をしてあげて、手や口をいっぱい使ってあげて、処女まで捧げて、請われるままに胸まで使ってあげたのに、事務的に関係断絶を告げられたのです。

 一途な乙女心と淡い恋心を一蹴されたのです。

 別れが悲しければ、そんな男を好きになってしまったのも悔しいのです。

 

 シクススの気持ちは他の者達にも伝播して、けども今更離れられるわけがなく、誰もが苦いものを無理矢理飲み干して何とかいつも通りに振る舞おうと努力しているのに、若旦那様はこんな時でも正常運転でした。

 

「会えなくなるって言っても毎日来るだろうし、週に一日はこっちで過ごすつもりなんだが」

「……………………へ?」

 

 またもルプスレギナが代表して呆けた声を上げました。

 エ・ランテルと帝都は、疲れ知らずのアンデッド馬が引く馬車を使っても一昼夜かかる距離です。

 転移の魔法を使えば一瞬で移動出来ますが若旦那様は使えません。使える方々が毎日若旦那様に協力してくれるとも思えません。

 皆の疑問に答えるべく、若旦那様は得意げな顔をしてジャケットの内ポケットからとあるアイテムを取り出しました。

 

「じゃーん!」

 

 効果音付きで取り出したアイテムは金属製の六面体。表面には不思議な文字や記号が無数に彫ってあります。

 若旦那様が六面体を捻ると、二つの三角錐に分かれました。

 一つをジャケットの内ポケットに仕舞い、もう一つは書斎の机の上に置きます。三角錐の文字が順々に光り始め、全ての文字が光ると眩しいほどの光を放ちます。その一瞬後に光は落ち着いて、無数の文字列が淡い光を漏らしています。

 どう見てもマジックアイテムです。

 

「アインズ様から下賜されたマジックアイテムだ。狩り場直行君と言うらしい。見たとおりに二つに分かれて、狩り場直行君を設置した場所同士を瞬時に移動できるようになる」

 

 アルベド様とお揃いのアイテムです。若旦那様のテンションは有頂天でした。

 

 狩り場直行君は通称で、正式名称はなんとかポータルとあるらしいのですが若旦那様は知りません。

 言うまでもなく、ゲームであったユグドラシル由来のマジックアイテムです。

 

 

 

 

 

 

 ユグドラシルはMMORPGでした。

 たくさんのイベントや未知のワールドもいっぱいで、とても楽しいゲームでした。そのあたりの楽しさは、アインズ様に聞けばこれでもかと語ってくださることでしょう。

 楽しいユグドラシルですが、プレイヤーには避けて通れぬ道があります。

 

 レベル上げです。

 

 効率よくレベルを上げるには、自分のレベルの適性レベルとなるモンスターをやっつけて経験値を重ねなければなりません。適正レベルのモンスターがいる場所まで行かなければならないのです。

 移動手段は豊富なユグドラシルですが、それはある程度レベルが上ってからのこと。

 ガチ初心者には適正レベルのモンスターがいる狩り場に行くまでが一苦労です。帰るのも一苦労です。だったらずっと狩り場に居れば、と言うわけにはいきません。獲得したアイテムの処理が必要ですし、拠点に戻ってこなさなければならないことだってあります。

 そこをお助けするアイテムが狩り場直行君でした。拠点に片方を設置してもう片方を狩り場に設置すれば、双方を簡単に行き来出来るようになるのです。

 しかも初心者お助けアイテムであるだけあって、無制限にもらうことが出来ました。

 もらったとしても、ある程度レベルが上がれば移動手段が豊富にあります。それに初心者用の無償アイテムなだけあって使用制限があります。同時に一対の場所しか登録できないのです。初心者を脱するとほぼ使わなくなるアイテムでした。

 しかし、使い道がないアイテムであろうと、もらえる物はもらっておく方もいます。我らがアインズ様です。

 

 無制限にもらえるとは言え、一度にもらえる数には限りがあります。

 それを何日も何年も続けるとどうなってしまうのか。

 ナザリックを去ったアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーたちが残した物も含めると、五桁に届いてしまいました。

 五桁です。

 ナザリックがこの地に転移してからたったの三個しか使ってないのに五桁も残っています。

 補充不可であるとは言え、まだ五桁残っています。このペースで使い続けると使い切るまでに一万年は掛かることでしょう。

 

 

 

 

 

 

「若旦那様はいつも言葉が足りなすぎるんです! 空気が読めないんですからせめてちゃんと伝えられるように努力してください!」

 

 真っ青だったシクススが真っ赤になりました。

 どうしてシクススが怒っているのか若旦那様にはわかりません。ですが、ここで反論するとろくでもないことになるのは流石に学習しています。だから言ったじゃないか、との言葉はぐっと飲み込みました。

 狩り場直行君のもう片方はエ・ランテルのお屋敷の書斎に設置することを宣言して次に移ります。

 

「はーい! それじゃソフィーもこっちに残ります!」

 

 背中の黒翼を羽ばたかせてふわりと浮いたソフィーが若旦那様の首に腕を回します。長い黒髪は重力に逆らってなびいています。

 

「お母様が折角ソフィーのお部屋を用意してくれたんですから。お父様は……、コホン! マスターは毎日こっちに来るんですよね?」

「確約は出来ないけどね」

「最低でも週に一日はこちらにお泊りするんですよね? 週に二日や三日になったりもしますよね?」

「そのつもりだ」

「えへへ♡」

 

 ソフィーは笑み崩れて若旦那様に頬ずりすると、ソリュシャンを睨みつけました。睨まれたソリュシャンは薄く微笑み返します。

 ソフィーは今になっても若旦那様から一度も吸精出来ていないのです。

 夜討ちしても誰かしらが先んじています。朝駆けしようもソリュシャンが先んじています。ならば日中と行きたいところ、ソリュシャンに邪魔されてばかりです。ならばソリュシャンがいなければ、と考えました。

 大好きなお母様はお父様がエ・ランテルに向かう以上、もう帝都のお屋敷には来ないことでしょう。お母様としばらく会えなくなるのは残念ですが、この間きつく叱られたのが少々堪えています。

 「お母様なんて嫌い!」とまでは行きませんが、「お母様のバカぁ」くらいにはなっていました。

 反抗期がやってきているのです。

 

 実のところソフィーが一度も吸精できていないのは、先日の寸止めを恨めしく思っている若旦那様が警戒しているのも大いにあるのです。

 爆発して死にそうだったところを止められてしまい、その上アルベド様へ奸計を企てたらしいので然るべき対応なのです。

 

「ミラは?」

「ご主人様の仰せに従います」

「それならエ・ランテルだな。向こうに運ぶものをリストに上げるからまとめておいてくれ」

「かしこまりました」

 

 まだまだ朝なので、ミラはヴァンパイア・ブライドのエロ衣装ではなく白いドレスです。

 スカートを両手で摘み、恭しく膝を折りました。

 

「あとは……」

 

 一同の視線が最後の一人に注がれました。

 彼女は最初から今に至るまで、一言も発していません。朝の挨拶だって頭を下げるきりでした。

 服装もおかしいです。

 同じくヴァンパイア・ブライドのミラは仕立てたドレスを着ているのに、彼女はヴァンパイア・ブライドお仕着せのエロ衣装です。

 夜だったり、ここがナザリックだったりするならばそれでもいいのですが、帝都のお屋敷の書斎で朝からそんな服装をしてしまうのは些か以上に相応しくありません。

 

「ジュネはどうする? 何か希望があるか?」

「…………」

 

 若旦那様に水を向けられているのに、ジュネは口を開こうとしません。やや俯いて、表情が強張っています。

 

「ああ、シャルティア様からお声が掛かったか」

「っ……」

 

 ジュネが若旦那様の所にいるのは、研修のためなのです。若旦那様的には、必要な技能を全て教授したと判断しています。左遷が解除されたので、ジュネがナザリックに戻るには丁度良いタイミングでしょう。

 ジュネは、私が愛し忠誠を捧げているのはシャルティア様、と言うくらいなのですからシャルティア様の元へ戻れるのは嬉しいでしょうに表情が冴えません。

 

 空気を読まず感情の機微もわからない若旦那様ですが、記憶力は確かです。今のジュネを見たことがありました。それは、ジュネがジュネの名を持つ前のこと。26番目のヴァンパイア・ブライドに過ぎなかった時のことです。

 その頃のジュネは、最弱のヴァンパイア・ブライドであることを苦にしていました。早々に命を散らし、次に発生するヴァンパイア・ブライドに己の役割を引き継いでもらおうと考えていたほどです。

 今のジュネはその頃と同じ顔をしているのです。

 ジュネは自信をなくした暗い顔で口を開きます。

 

「私はどうすればよいのでしょうか?」

「それを聞いてるところだ。そろそろシャルティア様から召還命令が出たんじゃないのか?」

「…………………………シャルティア様は、…………戻らなくて良いと仰りました」

 

 アインズ様の祝勝会にて言われたことでした。

 ジュネと同じくヴァンパイア・ブライドであるミラは、最近のジュネの様子が不審であることに気付いていました。帝都では唯一の同種族であるため心配することしきりでありましたが、ついとジュネが理由を話すことはありませんでした。

 理由を聞いて、納得すると同時に胸が痛みます。

 敬愛する主から要らないと言われた悲しみと苦しみは、胸が張り裂けるほどでしょう。

 

 意外すぎる言葉に若旦那様の顔も真剣なものとなります。

 

「シャルティア様が本当にそう仰ったのか? 何を言われたか一字一句正確に言え」

 

 若旦那様に非難の眼差しが集中します。主人から不要を宣言されたシモベの悲哀は推して知るべしです。

 

「シャルティア様はこう仰りました。『用が足りんした。お前は戻らなくても構いんせん』と」

 

 若旦那様には察するところがありました。

 ジュネが研修のために選ばれた理由は、爪を短く切ることが出来るからです。爪が長いままだと繊細な部分を傷つけてしまうものですから。

 ですが、世界一のナザリックの技術力により、鋭い爪の影響を封じるドレスグローブ型スキングローブが開発されました。これにより、最弱であるため爪を短く整えられるジュネの利点がなくなります。

 

 別の要因もあります。

 ナザリック上層部にしてシャルティアの守護階層である「墳墓」の警備には、多数のヴァンパイア・ブライドは不要であるとシャルティアが気付いたのです。若旦那様が墳墓の警戒態勢に口出しした結果でもありました。

 

「シャルティア様は流石にシャルティア様だな」

「お兄様、その物言いは少し……」

 

 若旦那様はソリュシャンの苦言に胡乱な目を返します。

 シャルティア様に初めてお会いする以前のこと、おバカの担当はシャルティア様と叫んだのはソリュシャンなのです。

 過去を忘れているらしいソリュシャンは置いておき、若旦那様は机の上の上質紙にペンを走らせます。

 十数秒で書き終えた紙面をジュネに見せて、

 

「これ通りに書け」

「…………あの……。読めません」

 

 ルプスレギナが若旦那様の手から紙面を抜き取り、目を丸くしました。

 

「マジっすか?」

「おかしなことじゃないだろう?」

「まあ、そりゃそーっすけど」

 

 ルプスレギナは若旦那様の字を読めるように書き直します。

 そこには、シャルティア様から戦力外通告を受けたので守護者統括相談役殿の部下になることを希望します、と言うようなことが簡潔に記されていました。日時と署名と押印欄もあります。

 

「ソリュシャンはこっち」

 

 またもすらすらと書いた紙面には、ジュネの希望を受け入れて部下にします、と形式を整えて記されています。

 最後にはちゃんと自分で署名しますが、文章を書くのはソリュシャン任せです。

 

 若旦那様の崩し文字を読めるのはソリュシャンとルプスレギナだけなので、二人は実務的な理由から若旦那様から離れられないのです。

 どちらかが離れてしまうと、若旦那の出力速度が単純に半減します。頑張れば読める字を書ける若旦那様ですが、そうすると出力速度が十分の一以下になります。

 喫緊の事態にならない限り、二人には傍にいて欲しいと思っている若旦那様です。ソリュシャンへそうと言わなかったのは、ソリュシャンがそう思いたかったようにソリュシャンの自由意志を尊重したからです。

 ですので、若旦那様はシャルティア様が考えていることもわかりました。

 空気を読まず感情の機微もわからない若旦那様ですが、論理ならわかります。

 

 シャルティア様はジュネへ戻らなくていいと言ったようですが、戻ってはいけないと言ったわけではありません。不要と言ったわけでもありません。ジュネだけが担っていた役割を他のものでも足せるようになったと言っただけです。

 つまり若旦那様がソリュシャンへしたのと同じ、ジュネの自由意志を尊重しているのです。

 と言うことをわかっている若旦那様ですが、わざわざ説明してあげません。根は悪い男なのです。

 

 ジュネは近接戦闘に必要なあらゆるステータスが最下限のぶっちぎりの最弱ではありますが、それ以外は違います。

 シャルティア様が異常個体認定したベッドテクニックではありません。頭の回転が速いのです。

 基本的には空転しているので日常会話でルプスレギナを煙に巻いたりします。そこへ適切な教育を施してきちんとギアを入れればシャルティア様の参謀だって立派に勤められることでしょう。

 

 

 

 ジュネが沈んだ目で署名します。

 若旦那様はソリュシャンが作った書面に署名します。

 

「よーし、仕込むぞー!」

 

 今までのジュネはシャルティア様から研修のために派遣されていた身の上だったので、余計なことは出来なかったのです。

 

「何仕込むつもりっすか? エロテク?」

「それはもう完璧に仕込んだ」

「うわぁ……」

 

 自信満々に答える若旦那様に、ルプスレギナは引きました。

 

「外交儀礼と言いたいとこだけどそのあたりはカルカがいるし、帝国の所領や紋章を教えても帝国が滅んだら無駄になる。百年二百年で滅びるとは思わないけど五百年先まで使える事を仕込む予定だ。とりあえずは数字の扱い方だな。これも数百年もしない内に色んな計算機が生まれるだろうしと言うかナザリックには既にあるんだろうが、何を計算すればいいかわからなきゃ話にならない。数字の意味も把握する必要がある。統計学は完璧に教え込む。デミウルゴス様のご質問に答えられるレベルを目指す。並行して論理だ。こっちも抑えれば千年先まで使える。俺もまだ完璧には程遠いから、今度ナザリックに行ったらティトゥス様に適切な参考書を教えてもらおう。ジュネの勉強用に複製してもらうのもいいな。大丈夫、時間はある。今はわからなくても出来るまでやればいいだけだ。ああ、ついでにソフィーも……」

 

 ソフィーの姿はありませんでした。

 

「ソリュシャン様とルプスレギナ様はエ・ランテルに向かうための準備に向かわれました。私も業務に戻らせていただきます」

 

 シェーダはソリュシャンお嬢様についていったようです。

 残っていたシクススも一礼して退室します。

 

「カルカは……、神聖文字の読み書きを覚えてからだな」

「は、はい……」

 

 ソフィーとソリュシャンとルプスレギナが逃げ出したことから、若旦那様が言ってることはかなりの無茶振りと察したカルカです。

 ですが、カルカは守護者統括相談役殿の正式な部下なのです。逃げられません。

 それを言えばソフィーもそうなのですが、アルベド様のご息女でもあるのであまり厳しいことは言えません。尤も、父と母があれなのでやれば出来るはずです。

 

 最後の一人、ミラは微妙な顔をしていました。

 

「私はどうなのでしょうか?」

「うん?」

「ですから、その……。ジュネがご主人様の配下となりました」

「なる予定、だな」

 

 作った書類を然るべき方へ送ってサインをもらったら正式決定です。

 

「私もご主人様の配下、と言ってよいのでしょうか?」

「いや、ミラはシャルティア様の旗下だろう。ここにいるのはシャルティア様が派遣したからで」

「私もご主人様の下につくことは出来ないのでしょうか、いえすべき事は今までと変わりませんが現にシャルティア様のお側よりご主人様のお側にいることが多くなっておりますからそうした方が形としてもすっきりするのではと愚考しておりますだけで…………、けっして他意があるわけではございません。ましてシャルティア様への反意はけしてけしてございません!」

「…………まぁ、今までと同じで肩書がちょっと変わるくらいだろう。シャルティア様からお言葉があれば元通りにする。それでもか?」

「はい!」

 

 ミラが顔を輝かせて食い気味に返事をします。

 ジュネが黒いのに白い目で見ているのは気付かない振りです。

 

 実質は何も変わらないのに肩書がちょっと変わるだけで何か意味があるんだろうかと思う若旦那様は、ミラが随分と熱心に希望するのでささっと申請書を作ります。

 今話した通り、ミラを自分の部下に、何かあったらシャルティア様のところに戻します、と記します。

 

 ミラは出来た申請書を清書してもらうために書斎を飛び出しました。

 清書した申請書にはやっぱり若旦那様の署名がいるのをわかっているのでしょうか。

 

 カルカも退室して、書斎には若旦那様と儚げな表情をしているジュネの二人きりとなりました。

 

「マイスターはこれからも私のマイスターでいてくださるのですね」

「そうなる。多分、一年や二年じゃ終わらない。長い付き合いになるだろうがちゃんとついてくるように」

「…………かしこまりました。では早速、一つ申し上げても良いでしょうか?」

「なんだ?」

 

 ジュネの目が光ります。

 自信のない儚げな顔は変わらないのに、黒い眼球に赤い目が爛々と光っています。

 天に至る細い糸を見出したように見えました。

 

「マイスターはルプスレギナ様へ虚偽を仰りました」

「虚偽?」

「マイスターは私にエロテクは完璧に仕込んだと仰りましたが、私には仕込まれた記憶がございません」

 

 これには若旦那様もジュネが何を言ってるのかわかりません。

 ジュネの研修内容は、爪を短く整えてフィンガリングを覚えることだったのです。ミラの貢献もあって、ジュネには完璧に仕込んだ自負があります。

 ティアとティナで実践もしています。

 後は相手によって適切に調整するだけです。そのあたりも教えてきたつもりです。残すところは実践を重ねるだけで、シャルティア様がお相手ならば万全と言えましょう。

 

「マイスターが私に教えてくださったのは女性を相手にした時の手法です。殿方へ、つまりはマイスターへご奉仕する技は皆様がしているのを見て覚えただけに過ぎません。マイスターからご指導を受けたことはありませんでした」

「……ああ。そう言えば、そうだったな」

 

 研修の目的が目的だったのでそちらはおざなりだったのは確かです。

 それ以前に、ジュネは素質が著しく、殊更に教えなくても十分だったのも事実です。

 

 口にはしませんが、ジュネは覚醒したサキュバスの転生体と信じて疑わない若旦那様です。

 それなのに色々教えてしまったらどうなってしまうのか。

 

 と、少しだけ考えて、こちらがとても気持ちよくなるだけと結論付けました。

 

「マイスターから様々なご指導を受けられることを楽しみにしております。ですが、まずはマイスターにお悦びいただける術を教えていただけないでしょうか?」

 

 両手を胸の前で組むジュネは、若旦那様に祈っているようにも見えました。

 

 否があろうはずがありません。

 若旦那様は椅子から立ち上がり、ジュネを抱き寄せて口付けを送ります。

 

「マイスターから接吻をいただけるのは久し振りな事と思います」

 

 若旦那様は早速痛いところをつかれてしまいました。今までいいように使ってきたことがバレているようです。

 まずはジュネに色々教え込む前に、色々とサービスしなければならないようでした。




夏バテてました_(:3 」∠)_


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ジュヌヴィエーヴ ▽ジュネ

一話投稿から丸三年が経過、お付き合い感謝です


 ナザリックのシモベにしては線が細い女だと思っていた。しかし、帝都で再会した時には自信に満ち溢れ、こちらを挑発する余裕すら見せた。

 弱い自分なぞ存在する価値などないと断じていたのに、敬愛する主から直々に特命を受けたのだ。得意にもなろうと言うもの。

 それが、ひっくり返った。

 

「どうすればマイスターに悦んでいただけるのか。ジュネに教えて下さい」

「いいだろう。だけどその前に知るべき事がある」

「どのような事でございましょう?」

「女の悦びだ」

 

 腰を抱く腕に力が入る。

 ジュネの背が反って、俯きがちな顔が上がった。

 吸血鬼の赤い目には困惑が三に非難が二と悲哀が一。女の悦びはよく知っている。それを深めることが愛しき女主人から与えられた使命だった。今更言われるのは、使命を蔑ろにしていたと言われるも同じ。

 困惑と非難の割合が入れ替わり、男の顔を睨みつけた。赤と青の目に自分の顔が映るのを見た。星々の海に溺れるようだった。

 

 ジュネがジュネの名を持つ前に初めて男の姿を見た時のこと。

 もしも彼の方がバンパイアに転化したら、シャルティア様ですら使えない美顔縛りを習得するに違いないと思った。バンパイアの美貌に見入ってしまい、体の自由が効かなくなる魅了の術。

 彼は人の身のまま習得したのかも知れない。

 柔らかい微笑みが世界の全てになる。身体感覚が喪失する。呆けた己を見られている自覚もない。

 形が優れているだけならこうはならない。銀月の如き美しいシャルティア様を見続けてきたのだ。シャルティア様から派遣されてから今日まで、ずっと見続けてきた殿方なのだ。

 人とは思えない稀な美貌は、初めて見たのなら魂を抜かれてしまうかも知れない。

 知っている方なのに、知っている微笑なのに、抱かれるのも体を交えるのも初めてではないのに、何もかもが新しく心身に刻まれていく。

 

「ジュネが知らないと思ってるわけじゃない。俺のところに来るまで色んな事をしてきたんだろう? よく感じてくれてるのを知ってるよ」

「それなら……、どうしてでしょうか?」

「もっと先があるからだ。ジュネには女を相手にすることしか教えてこなかったが、男は女が悦べば悦ぶほど嬉しいものなんだ」

 

 ソリュシャンで学んだことである。

 以前のソリュシャンは、美味な体液に喜びはしても肉の悦びとは別種の快感。乱れた姿は愛しのお兄様を喜ばせる演技に過ぎなかった。

 ところがエンゲージリボンで拘束されて以降、本気で感じて本気で乱れるようになった。心のこもった愛撫をねだるようになり、ソリュシャンを割と乱暴に扱っていた男は少々面倒に思っていた。大きなおっぱいで握力トレーニング出来なくなったのも残念だった。それなのに、量が増えた。飽きがきていたソリュシャンのおっぱいが良いものになった。

 アルベド様は主神にして美神であり創世神でもあられるのだから、アルベド様がお悦びになればなるほど歓喜に打ち震えるのは信徒として当然である。アルベド様だけが特別だと思っていたのだが、どうやらそうではないようである。体を交えてきた女たちは全員が全員とも乱れたので、当たり前のことに気付く機会がなかったのだ。

 

 それともう一つ。

 ジュネは賢い。今はシャルティアの言葉に動転しているが、いずれシャルティアの真意に気付くかも知れない。気付かれても去られないように重しをつける必要がある。つまりはティアとティナへしたのと同じ事。

 一度はジュネとじっくり楽しみたいと思っていたので丁度良かったとも言える。

 もしもルプスレギナが男の心中を覗いたら、サイテーと罵るのは間違いなかった。

 

 

 

 男の顔が近付いてくるのを感じて、ジュネは同じように口を開いた。

 ヴァンパイア・ブライドの中でも特に背が低いため、背伸びをして、更には爪先立ちにならないと届かない。

 背中と腰に回った腕が体を支えてくれる。

 

「あ……む…………、ちゅっ……。ちゅ……」

 

 自分からしたのかされたのかわからない口付けは、最初から舌が絡み合った。

 吸血鬼とは違う温かい舌が口内に入ってくる。自分とは違う生き物であると思い知らされる。人間である。温血者である。定命である。命に限りがある方である。

 

 ヴァンパイア・ブライドとは大して強い種族ではない。ナザリックにおいて種族ごとに序列をつければ下から数えたほうが早いくらいだ。限界を越えて単なるヴァンパイア・ブライドを逸脱したミラだけが特別なのだ。

 ヴァンパイア・ブライドの中でも群に置き去りにされて弱いジュネは、事あらば命を散らす可能性がとても高い。それでもヴァンパイア・ブライドである。アンデッドである。不死であり、寿命によって死を迎えることはない。

 極々当たり前に考えれば、後方に下げられたジュネに戦闘の機会はない。ナザリックの栄光に包まれて無限の時を刻み続けることが出来るだろう。

 しかし、新たな主人となったマイスターは人間だ。いずれは老いて、いつか必ず死ぬ運命にある。

 そこに思い至った時、ジュネに天啓が降りてきた。天意と言っても良い。

 新たな使命を見出したのだ。

 

「はぁ……。マイスター、ここではなくベッドではいけないでしょうか? ジュネがマイスターにお情けをいただける時はベッドがない所ばかりだったものですから」

「……そうだな」

 

 ジュネを抱く時は八割が立位。ちょっと立ってしまって手早く解消したい時に使ってばかりだった。

 雑な行為はしてないつもりでも、行為に至る過程は雑そのものである。ジュネの具合が良いのと、ミラと絡んでばかりで常に準備万端だったせいもあるが、それを責任転嫁と言う。

 女の悦びを教えるのだから、ジュネから指摘される前に提案すべきであった。

 

 十分後、異動申請書を作ってもらったミラが書斎に飛び込んで来るのだが、そこには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 男が寝室のドアに鍵をかける。

 ジュネは断りなくベッドに身を投げて、人差し指で唇に触れた。柔らかな唇に指が少しだけ沈む。血の気が抜けた白い指が、唇の鮮烈な赤を強調する。

 

「マイスターからいただく接吻はとても良いです。ジュネの凍えた体に温かい血が巡ってくるように感じます。唇だけではなく、ジュネの体を隅から隅まで悦ばせてください」

「そのつもりだよ」

 

 ジュネの体に伸し掛かる。

 吸血鬼の美貌は期待に潤んで少しだけ寂しそうで、繊細なガラス細工を思わせた。触れずにはいられない好奇心を掻き立てるのに、触れてしまえば崩れてしまいそうな儚さがある。

 

「ああ、マイスター……」

 

 冷たい吐息が頬を撫でる。血なまぐさいことはなく、微かに薔薇の香りがした。

 吐息が混じり合う。互いの肌の冷たさと温かさを唇で感じ、もう一度重なり合った。

 

 んぅ、と喉の奥で幽かに喘ぎ、ジュネからも舌を伸ばす。

 口内で柔らかな肉が触れ合っている。蠢く舌は一瞬たりとも止まらない。どうすればもっと相手に触れられるのか、相手を感じられるのか、相手を感じさせられるのか。試行錯誤しているようにも、争っているようにも思えた。

 にちゃにちゃと、粘着質な音が頭の中に響いている。

 次第にじゅるじゅると鳴るようになったのは、互いの唾をすすっている音。

 

「はぁ……、んぅっ! んっ……、ちゅぅっ……。マイスターの唇は、……んっ、ぁんっ……」

 

 キスで息継ぎが出来ない処女と童貞ではない。一度重なった唇は離れずに、離れてもすぐに上から塞がれる。

 ジュネは何度も喉を鳴らす。温かい唾液が口内に注がれ、喉を通って胃に落ちるのを感じている。

 男の背に回した腕が前に来る。まさか押し退けるわけがなく、ジャケットのボタンを外し始めた。ジャケットのボタンはたったの三つ。すぐに外し終え、シャツのボタンに移る。

 

 男はジャケットをベッドの外に脱ぎ捨てて、ボタンを外すジュネを見下ろした。

 伏せていた赤い目と視線が絡んで、四番目のボタンで手が止まった。白い手はシャツの内側に入り込み、胸板を撫で始めた。

 

「マイスターの逞しいお体が……。これからジュネの体と重なっていただけるのですね。とても、うれしいです」

「何度もしてきてるのにか?」

「マイスターとの時間はいつだって特別です。それに、二人きりなのは初めてです。マイスターは意識していらっしゃらないのかも知れませんが、マイスターに胸を触られるのは接吻を頂いた回数より少ないですから」

「…………」

 

 本当に雑に扱ってきてしまっていたようである。ジュネとは即挿入ばかりだったのだ。

 今回はそうはいかない。ジュネに良かったと言わせなければならないし、隅から隅まで堪能するのも目的なのだ。

 

「あっ!」

 

 男が乱暴にシャツを開く。ジュネはボタンが飛んでしまうかと思ったが、そうはならなかった。ナザリック特製の衣服は少々乱暴に扱っても破れたりボタンが外れたりしないのだ。シャツやズボンを破いてきた女たちはそれだけ力が強かったのだ。一応、特製の衣服ではなかったということもある。

 

「あっ……」

 

 ジュネが着ているのはヴァンパイア・ブライドお仕着せのエロ衣装。服と呼ぶより帯や布と言うべきで、柔らかく盛り上がった乳房は帯状の布が覆っているに過ぎない。生地の下に手が滑り込めばジュネの体がある。

 ヴァンパイア・ブライドとしては小さめだが、手のひらに余る乳房に男が触れた。

 乳房の縁に親指を添え、残る四本の指が乳肉に沈む。二度三度と擦るように動いてから、きゅうと鷲掴みにした。

 

「あぁ……、ジュネのおっぱいを、いっぱい触ってください。乳首もいっぱいいじめてください。ジュネの全部を求めてください……。はあぁっ……、優しくなくても、かまいませんから。あんっ……」

 

 白い生地に突起を浮かせている。

 お望みどおりに摘んでやると柔らかさより芯のある弾力があった。こりこりと転がす内に見たくなった。

 帯に指をかけ脇に押しやる。それだけで、ジュネの乳房があらわになった。仰向けになってゆるく潰れる乳房に赤い乳首。

 まだ午前の早い時間。部屋に差し込む陽の光に映えている。吸血鬼の白い肌に、赤い唇と赤い乳首は、比喩ではなく輝いているようだった。

 

「ジュネの乳首が立っているのはぁ……、マイスターに可愛がって欲しいからです。あっ、そんなっ……、吸ってくださるなんて……♡」

 

 ヴァンパイア・ブライドのお仕着せは一人一人が微妙に違う。それはアクセサリだったり、衣服の細部の意匠だったり。ホルターネックになっているのは共通している。バストのアンダーで細い腰を包むサッシュベルトは留め金を外せばはらりと落ちる。

 どちらも指一本で外せるのは、さすがにシャルティアの愛妾を務めるだけはあると言うべきか。

 

 尖った乳首を口に含みながら、エロ衣装を脱がせるのは造作もない事だった。

 舌で転がる乳首が逃げないよう歯で捕まえる。緩急つけて甘く食み、舌先でつつくと、ジュネは男の頭を優しく抱いて自らの乳房に押し付けた。

 

「はうぅっ!」

 

 カリ、と歯を立てる。

 最弱と言えども戦闘職で、堪えられない痛みではない。けれども急な刺激に力が緩み、細い腕から男の頭がするりと逃げる。

 追わなかったのは、男がどこを目指しているか気付いたから。

 

「あぁ……♡ ジュネのおまんこを舐めてくださるのですね♡」

 

 白い下腹に頬ずりをして、ぬめる肌に光る筋が残るのは舌が這っていったから。

 銀髪がジュネの股にまで下がると、男はジュネの尻を掴んだ。ジュネは逆らわずに体を横向きにする。それに合わせて、男は体の前後を入れ替えた。ジュネの顔の前に男の下半身が来る。男の股間は膨らんでいた。

 ジュネに経験はなくも、何をすべきかわかっている。

 ベルトを外しズボンの留め金を外し、するりと下ろす。男物の下着一枚になって膨らみの形がはっきりわかる。

 脱がす前にそっと触れた。熱い棒状の肉がある。形を確かめてから鼻を押し付け、胸いっぱいに雄の匂いを吸い込んだ。

 下着の縁に牙を引っ掛け引っ張ると、窮屈そうに閉じ込められていた男が姿を見せる。

 心が逸ってきたのは、自分の体に欲望を感じてもらっているのが嬉しいのと、逞しく勃起している逸物に見入ってしまったのと、舐められているから。

 舐めてもらいやすいように片脚を上げて股を開いて、開いた股の間に男の顔が入っている。内股に頭を乗せられ、接吻を交わしていた艶やかな唇が下の口に口付けている。

 

「ジュネも、マイスターを……。れろ…………、あっ」

 

 両手を使って下着を下ろせば、引っ掛かった逸物が跳ね上がって下腹を打った。血が通ってそそり立つ逸物から、熱気が迸っている。

 これまで何度も体の奥底まで受け入れてきた。それなのに、舌を伸ばせば届く距離で見つめるのはまだ二度目。一度目は処女を散らした時のこと。シャルティアの愛液に濡れそぼっていたのを口で清めた。あの時は自分以外に四十七人もいたので割り当てられた時間は少なかった。今回は違う。自分一人が独占することが出来る。それは責任を伴って、見て覚えたに過ぎない技で楽しんでもらわなければならない。

 まずは舌を伸ばして亀頭に触れたのだが、触れた瞬間に遠ざかってしまった。

 

「腰を引かないでください。それとも……、不快でしたでしょうか? もしもそうなら私は――」

「いや違うそうじゃない。続けてくれ。頑張らなくていい。好きなようにしてくれ」

「はい! あ……、ジュネがマイスターの上になっていいのでしょうか?」

「ああ」

 

 横向きでいた男が仰向けになって足を伸ばし、自分の頭をジュネに跨がせる。

 上になったジュネは流れ落ちる長い黒髪をかきあげ、改めて男の逸物に接吻した。

 

 

 

(ジュネの口が良すぎる!)

 

 男が反射的に腰を引いたのは、ジュネの舌が余りになめらかだったからだ。滑らかで柔らかく、溶け込むようなのに形をもって包み込む。体温が高くて舌がざらついているルプスレギナと正反対だ。

 舐められた瞬間、そのまま出してしまいそうな予感があった。だからと言って、その度に腰を引いてしまうのは情けない。不退転を決意するためにベッドを背にしたのだ。

 いくらジュネの口が良かろうと、激しくされなければ大丈夫。さっきは覚悟が足りていなかった。

 

「それでは……、口でさせていただきます。ちゅっ、マイスターのおちんぽはとっても逞しくて。ちゅっ、とっても大きくてとっても固くて。ちゅっ、胸が熱くなってしまいます。ちゅっちゅっ……、あむ……、んっん…………」

 

 これでもかと勃起しているのに、下半身が溶けていくようだ。腰が引くどころか跳ねそうになる。ジュネの口に強引に突っ込んで欲望の限りを吐き出したくなる。

 しかし今回はジュネを使うのではなく、大いに楽しませて悦びを教えなければならない。

 

 目の前に無毛の股間。種族的なものなのかシャルティアの趣味なのか、ヴァンパイア・ブライドは全員が無毛だった。

 陶器のような白い肌に淫靡な割れ目が開いている。シャルティアやミラ同様にジュネも汁気が多い。逸物をしゃぶって興奮しているのか、大股を開いてうっすら開いた内側は濡れそぼって、愛液を溢れさせている。

 

「あぁっ!? ジュネのおまんこがマイスターのお顔に! あぁ……、そんな……♡ ジュネのおつゆを……、すすっていらっしゃるのですか? ジュルジュルしているのが聞こえてしまいますぅ……。ジュネも、ご奉仕、いたします。あーんっ……、んっ、ちゅぷ……」

 

 ジュネは遠慮していたらしく、腰の位置が高かった。淫らな内側を目の前に見せつけられしゃぶられるのは壮観だしとても気持ち良い。だけども舐めるには位置が遠い。

 両手で白い尻を掴んで引き寄せる。唇に押し付けられたものへ舌を伸ばした。

 

「あぁっ、あぁっ! おまんこが溶けてしまっているようです! ジュネもマイスターをぉ……。んんっ……、ひぅっ!? あぁ……、イッて、しまって……」

 

 愛らしい声で泣きながら尻を小さく震わせる。

 白い肌に隠れた赤い内側に愛液が満ちるのは、膣口がため息を吐くように垂らしているから。

 開いた時は仄暗い奥まで覗かせる。男の性が否応なく好奇心を刺激され、見たくなるし入って行きたくもなる。

 

 もう一度クリトリスを責めようと思っていると、ジュネが手を伸ばしてきた。

 自分の尻を左右から掴み、そろりそろりと指を進める。中指が薄く開く割れ目に届き、ふにっとした陰唇を押さえる。左右に引いた。

 

「ジュネのおつゆをすすってくださるのなら……。どうぞ、直接」

 

 割れ目がくぱあを開かれた。

 

「ジュネはとても気持ちよくなってしまってマイスターのおちんぽをきちんと舐められないのに。マイスターに愛されておまんこがこんなになってしまいました。ジュネのおまんこがどれほど悦んでいるか……、ご覧ください♡」

 

 開かれた膣が暗がりを覗かせていたのに、見えなくなった。

 中透明な粘液で満ちてきた。粘性が薄く、内側の媚肉を満遍なく濡らした後はゆるりと垂れてくる。

 男は無心で舌を尖らせ、開いた穴に差し込んだ。舌に押しのけられた愛液が溢れ、唇を濡らす。

 じゅるじゅると啜ってから我に返った。

 

 ジュネはアルベド様のようにこちらの理性を攻撃してきたのだ!

 

「っ!」

「れろ……。ジュネもフェラチオをさせていただきますね♡ あむっ、ちゅぷ……、ちゅるる……。じゅる……、んうう……」

 

 手を使わずに逸物を咥え、たっぷりと唾を絡めてから頭を振る。

 不安定な姿勢なのに、じゅぷじゅぷと水音が激しい。

 強く吸っているので逸物が頬の内側と舌に密着し、隙間なく包まれている。徐々に快感がこみ上げてくる。

 

「じゅぷ、じゅるる……、んっんっ、れろぉ……。いつでも、お好きな時に♡ ちゅっ、ちゅうぅっ……」

 

 自身がどれほど感じているか見せつけてから理性へ直接攻撃。間髪入れず激しい口淫。

 エ・ランテルで通い詰めた娼館でもこんな技に出くわしたことはない。

 さすがは覚醒サキュバスの転生体だけはある。

 いっそこのまま出しても、むしろ出すべきと思わされる。

 それなのに、手が動いてしまった。

 

「ひゃん!」

 

 パチンを尻を叩いてフェラチオを中断させた。

 顔を上げて振り返る気配を感じるが、生憎ジュネの性器しか見えない。上から退かせて向き合った。眉尻を下げて不安そうな顔をしている。

 

「ジュネの口はとても良かったけど、こっちに出したいんだ」

「あっ……♡」

 

 体を起こさせ、無毛の股間に手を差し込んだ。

 中指と薬指を揃えて膣口に引っ掛ける。そのまま引き寄せれば華奢な体をもたれさせてきた。

 指はくちくちと小さく抽挿を始める。ジュネも逸物を優しく握り上下に動かす。

 どちらからともなく顔が近付き、唇が触れようとしたところでジュネが避けた。

 頬を赤らめ伏せた目が見るのは男の顎。自ら性器を見せつけ淫らな言葉を口にして挑発しても、自分の愛液で男が顔を濡らしているのは恥ずかしいらしい。

 

「あっ!」

 

 ジュネをベッドに押し倒す。形の良い乳房がたぷんと揺れた。

 赤い目で真っ直ぐに見つめながら股を開いた。

 近付いてくる顔を、今度は逃げない。唇が合わさって、教えられたばかりの舌使いを披露する。

 唇で唇を食み、差し込まれた舌に吸い付く。尖らせた舌は吸われるままに男の口内に入っていく。

 ぴったりと合わせた唇の中で舌と舌が絡みながら、男がジュネの女を探り始めた。

 

「早く……入ってきてください。ジュネをマイスターのものにしてください。マイスターの命をジュネに注いでください。マイスターのためになら、ジュネは何でもいたしますから……。あ……、入って……」

 

 期待に潤んだ雌穴を太い逸物がこじ開けていく。

 進むに連れて穴を満たしていた淫液が押し出され、シーツにシミを作っていく。

 

「ジュヌヴィエーヴ」

 

 名を呼ばれ、恍惚としていたジュネが目を見開いた。

 

「……いえ、私はジュネです。シャルティア様はそちらが良いと、仰って……」

「そう仰ったな。だけど俺はジュヌヴィエーヴだと思ってる。俺が名付けた名前なんだ。俺だけは呼んでもいいだろう?」

「ぅ………………、はぃ…………」

 

 ソリュシャンから押し付けられた課題図書に出てきた名前である。数百冊読まされた中で二度しか出てこない名前だった。ソリュシャンは読んでないか、読んでいても覚えてないだろう。

 由来がなんであれ、ジュネは自分の名前を気に入ってるようだ。

 

「マイスターから名前を頂いた以上、ジュネもソフィー様と同じようにマイスターをお父様とお呼びすべきでしょうか?」

「……そこは今まで通りでいい」

「ジュネは地下大墳墓ナザリックの上層部にて発生したヴァンパイア・ブライドです。ジュネに創造主となられるお方はおりません。お父様やお母様とはどのような存在なのか興味があります。お父様がお嫌でしたらパパは如何でしょう?」

「…………パパも止せ」

「残念です」

 

 気落ちしたように眉尻を下げるが、赤い唇は口角を上げている。

 ここで、「からかっているのか」と向きになったら負け確である。ジュネの具合はとても良いのだ。早く出したい時専用に使うくらいで、早い時は五分と掛からない。

 そうならないよう会話で時間を稼いで馴染ませている。覚悟を決めて準備を整えれば負けはしない、はずである。

 

 ジュネが初めてだった時は、シャルティアを含めて他に四十八人もいた。

 その時はただのヴァンパイア・ブライドだと思っていたが、突っ込んでみたらとんでもない。ヴァンパイア・ブライドの中にナイトメアサキュバスクイーンが混じっていたようなものだ。

 まるきり不意打ちである。直前にシャルティアへ放ったばかりだったと言うのに、こちらが先にいかされるところだった。結局はシャルティアのケツバットで放ったため相打ちだったと言える。

 いつもならセックスに勝ち負けなんてものは存在しない。ところが今日はそうもいかないのだ。

 いつぞやのミラのようにダウンまでさせる必要はないが、一方的な行為は不可である。

 そのための知識と経験は、蓄えている。

 

 

 

 口淫で近付いた予兆が一先ず遠ざかった。

 冷たい女の胎が炙られ温まってくる。

 ゆっくりと腰を引き、ゆっくりと戻っていく。ジュネの瞼がピクリと震えた。

 

「マイスターからこんなに優しく抱いていただけるなんて……。嬉しいです」

「ジュヌヴィエーヴとする時はいつも気が急く。お前は良すぎるんだよ」

「そんな事を仰って。ソリュシャン様に叱られてしまいます」

「……そんな事を気にするものなのか?」

「マイスターから良く思われたいのは皆様も同じだと思います」

「ジュネも?」

「勿論でございます」

「だったら心配いらないな」

「それはどういう……、ひぅっ……」

 

 一番奥に届いてなお、ぐいと腰を押し進めた。

 

「俺にはお前が必要だ。ずっと傍にいろ」

「っ…………」

 

 きゅうと締め付けられた。

 躊躇いがちに伸ばされた腕が背に回り、抱きしめてくる。

 赤い目を泳がせ、目があったと思うと伏せられる。

 

「はぃ…………」

 

 掠れた声で返事をした。

 健気な様子に征服欲が煽られる。思う様犯して鳴かせたくなる。

 

「あぁっ! あっあっ、はげし……。んっ、ちゅぅ…………んんっ……。あぁん♡」

 

 絡みつくジュネの中を往復する。

 何度も使っているジュネの膣は処女の時より遥かに熟れて、戻る時はきつく締めて抜ける時は柔らかく緩む。

 肉を打つ音に卑猥な水音も重なって、細い声が甲高く鳴っている。

 腰が引かれても締める時は全身でしがみついてくる。

 

「いま、イッてしまって……、はぁ……。ジュネのおまんこはすぐによくなってしまうんです……。ジュネのおまんこはマイスターに育てられましたから♡」

 

 蕩けた笑みを見せた。

 膣内では肉ひだが絡みつき、抽挿していたリズムで逸物を締め付ける。亀頭が触れている子宮口は吸い付いてくるようだ。

 声でも言葉でも、顔でも体でも。なにより男を深く咥えているジュネの女が、達してしまったのだと伝えてくる。

 それが引き金になった。シックスナインでのフェラチオで寸前だったのもある。

 ジュネの膣内でどぴゅどぴゅと熱い精液を吐き出した。

 

「はぁ…………、ジュネのおまんこで、マイスターからいただいたのを感じます♡ おちんぽがピクピクしているのもわかります。ジュネのおまんこでいってくださったのですね♡」

 

 ジュネに包まれ逸物が脈打っている。子宮口に亀頭を押し付け、断続的にぴゅっぴゅと吐き出している。

 女の深い穴は柔らかく収縮を繰り返して精液を置くへ奥へと取り込むように蠢いている。

 逸物をぴったり咥えたまま吐き出されて、膣内に精液が満ちた。

 

 互いに絶頂の余韻に浸って足を絡め手を握り合い、口付けを交わした。

 ジュネの中で脈動が収まって、長い逸物がずるりと抜かれる。

 抜けきる前に、奥に戻った。

 

「あっ!?」

 

 射精直後は少々柔らかくなっていても、ジュネの中に戻った時は最初と変わらない硬さを保っていた。

 

「続けるぞ?」

「え? あっ、ふぁぁぁぁああっ! あっあっ、お待ちを……、はあぁぁぁあん! あっ、あんっ、あんっ!」

 

 膣内に満ちた精液と愛液を、逸物が撹拌し始める。

 水音は一度目より激しくて、粘着質にじゅっぷじゅっぷと鳴っている。

 ジュネの声も高くなった。顎を上げ、吐き出すように鳴いている。

 男を押さえようと伸ばした腕は、頼りなくすがるように男の胸に添えられた。

 

「あっ、らめっ! すこしやすんでからぁぁああ! あうっ、あひぃっ……、あああぁぁん♡」

 

 これまでのジュネとの行為は、一先ず出したい時ばかりで続けてしたことは一度もなかった。

 先だってアルベドのサキュバスおっぱいミルクを飲んだ時も、ジュネ以外に五人もいた。ジュネには四回も放ったが、合間に他の者へ最低三回はした。続けてではあっても休憩は十分取れていたのだ。

 

「休みたいのか?」

「はっ、はいぃ……。こんな、乱れてしまって……。マイスターにぃ……、あぁっ!?」

 

 体を起こしてジュネの太腿を抱え持つ。

 挿入したままゴロリと転がし、ジュネの体をベッドに組み伏した。

 後ろからの挿入でもジュネの片足は高く上がっている。異本で言うところの燕返しである。

 

「当たるところがちがくてぇ……、あんっ♡」

 

 きゅっとシーツを握る。

 吸血鬼の美貌は蕩けて、赤い唇は意味のある言葉を紡がなくなった。

 男の逸物と繋がった雌穴からは白く泡立った淫液が掻き出され、ジュネの股を汚していく。

 そんな様でもジュネの女は男にすがりついている。きゅうきゅうと締め付け、男を悦ばせることを忘れない。

 

「もっと良くなりたいだろう? 自分でも触ってみろ」

 

 うつ伏せになっていたジュネの体を起こして、男の体はジュネの後ろに。

 横向きに寝て挿入する側位は激しく動けなくても空いた手が自由に使える。挿入が浅くなるデメリットは男のものが長いので問題ない。

 

「クリトリスも乳首も……立ってますぅ♡ どっちも、コリコリしてて……あぁ、マイスター♡」

 

 ジュネは体を丸めて自身の敏感な部分を愛撫する。

 そこを後ろから挿入するのは、ジュネを包み込んで全てを手に入れた気分にさせられた。

 体を密着させ根本まで突き入れる。下腹に触れる尻は柔らかく、心地よい。

 男も後ろからジュネの乳房を掴むと、上からジュネが手を重ねてきた。

 手のひらに尖った乳首を感じる。

 

「マイスター……、ジュネに、接吻を……。ちゅ…………、ちゅっ……、ちゅぅ……、ちゅるる……。ジュネも、マイスターに……」

 

 口付けを交わして、ジュネはそのまま体の向きを変えた。

 逸物は捻られることなくぬるりと抜けて、今度はジュネが上になった。

 男の股間を跨いで腰を下ろす。奥まで受け入れたら腰を使うことなく男の胸に倒れ込んだ。

 ジュネの女に包まれているのが気持ちよければ、ひんやりとした女の重みも心地よい。とは言え、休ませるつもりはない。

 

「ひゃうぅんっ!! あっ、あっ、はぁっ! あんっあぁんっ♡」

 

 白い尻を掴んで固定し、勢いよく下から叩きつけた。

 股間と股間がぶつかり合って、結合部からぷしゃっと飛沫が飛び散った。

 二度目の余裕もある。暴発はない。

 

 突き上げる度にジュネはすすり泣くような声で鳴く。泣いているのかも知れない。時折上げる顔は目に涙を溜めていた。

 頼りなく男の胸に置いた手を、力を振り絞って男の頬を包んだ。

 全身を揺すられながら少しずつ顔を近付け、唇を落とす。

 

「んんっ!! ん…………、んふぅ…………」

 

 体を揺らされなくなり、体の奥に熱い奔流を感じている。

 胎で脈打っている間はずっと口付けていた。

 

「マイスター……。お慕いを…………、いえ。……愛しています。ジュネはマイスターを愛しています♡」

 

 

 

 

 

 

 二度放っても萎えきらない。ジュネの中に挿入したままでいる。

 後ろから見れば、押し広げられたジュネの膣口から白濁した淫液が垂れているのが見えるだろう。

 

 重なった二人は互いの耳に唇を寄せ、甘く囁いている。

 

「ジュネの心も体も、命すらマイスターのものです。ずっとお側に置いてください」

「手放すわけがないだろう? 色々仕込む予定だ。期待してる」

「マイスターの期待に応えるべく最大限の努力をいたします。それに伴って、一つだけ宣言しておくことがございます」

「なんだ?」

 

 ジュネは新たに授かった使命を宣言しなければならない。

 宣言することによって効果が発生する。

 顔を上げて至近から男の目を見つめ、ジュネは宣言した。

 

「どのような事情があっても、マイスターが私どもの元からお隠れになった場合には必ず後を追います」

 

 血のように赤い目が輝いていた。

 

「アルベド様から放逐されない限り魔導国から離れる予定はないよ」

「……よくわかっていただけなかったのが残念です。もう一度申し上げます。どのような事情があっても、どのような形であっても、マイスターがお隠れになった場合には、でございます」

 

 遠くを見ている深い朱色。「隠れる」の意味が男の脳に染み込んできた。

 

「俺が死んだ後のことか? そうなったらシャルティア様の元へ戻ればいい」

「シャルティア様はジュネを不要と仰られました。戻れるわけがありません」

「だとしても他の方々に――」

「二度も主人を変えろと仰るのですが? それはシャルティア様にもマイスターにも甚だ不敬なことでございます」

「いやそれは…………」

 

 ここまで話が進み、男は「あれ?」と思った。

 

 シャルティア様はジュネの自由意志を尊重しただけで不要と言ったわけではない。

 しかしそれを教えてしまうと、ジュネが動転している隙につけ込んで取り込んだことがバレてしまう。バレても構わないが、それでジュネに去られるのは避けたい。

 とても具合が良いし、頭の回転が早いので言葉を交わすのも楽しい。

 

 ジュネが言う「後を追う」とは後追いで自裁する事だろう。

 こちらも構わないと言いたいところだが、千年先まで使える知恵と技能を仕込むつもりでいる。苦労と時間を掛けて仕込むのに失われてしまうのはとても惜しい。

 どうせ失うなら仕込まない、と言う選択肢はない。皆の前で仕込むと宣言したのだ。自分の言葉に真っ向から反する事など出来ようはずがない。

 

「いや待てそれは短絡だろう! そこまで慕ってくれるのは嬉しいがジュネには千年先でも通用する技能を――」

「マイスターがお持ちの技は万年先でも通用するものと存じます。ジュネのことよりもマイスターの方が先ではないでしょうか?」

「……寿命を克服しろと言いたいのか?」

「そう申しております」

 

 こともなげに言ってくれたが人間はいずれ死ぬものである。

 アルベド様からの「百万回の愛してる」を忘れたわけではないし、まだ十二回しか言えてないので気にはしているが、まだまだ余裕があると思っていた。

 

「もしもマイスターの技が失われる兆候がありましたら……」

「老いが見えたらと言うことか?」

「はい。その時はシャルティア様の牙を受けてくださいませ」

 

 バンパイアに転化して不死と不老を手に入れろということだ。

 しかしそれをしてしまうと、シャルティアに絶対服従となってしまう。それで主神にして美神であられるアルベド様への忠誠が失われるとは思いたくもないが、確信は出来ない。

 

 

 

 ジュネをシャルティアの元へ戻すのは却下。

 色々仕込むのを諦めるのも却下。

 後追いさせるのは余りに惜しい。

 不老不死なぞ望んだことはないが、永遠にアルベド様に侍るのはとても良いことだ。

 その手段にシャルティアから吸血されるのは却下。

 それならいっそジュネに後を追わせて、というのはやはり勿体なさ過ぎる。

 それなら死ななければ良いのだがそのためにシャルティアの牙を受けるのは御免被る。

 

 ループが形成されてしまった。

 

(バカな! 詰んでる、だと?)

 

 アウラが色々仕込んだのを男に話していれば何の問題もなかった。しかし男は何も知らないでいる。

 知ったとしてもアウラがしたのは若い肉体のまま寿命を伸ばすことで、不老不死ではない。万年も伸びれば十分だろうが、そこが具体的にどうなっているのかは施したアウラもあやふやだ。とりあえず千年と言う感じでふわっとしている。

 

 自分でどうにか出来ることではない。

 シャルティアに頼るのは絶対に避けなければならない。

 部下にはめられて不老不死になりたくなりました、なんて情けないことをアルベド様へ申せようはずがない。

 

「人間は二十歳を超えると成長が止まって老化が始まると聞き及んでおります。マイスターは二十歳を超えていらっしゃいますか? 超えていらっしゃると思われます。一刻も早いご決断を」

「………………」

 

 これが獅子身中の虫なのだろうか。

 デミウルゴス様なら聞いていただけるとは思うが肉体改造が伴いそうだ。

 恥も外聞も捨ててナザリックの皆から石を投げられる覚悟で、アインズ様にお聞きしてもらうしかない。

 手土産にモモンズ・ブレイドアーツの新技を開発せねばならないだろう。

 

 

 

 とりあえず、続けて二回ジュネを犯した。

 股間がどろどろになったのをこちらを探していたミラに清めさせ、その間にルプスレギナから回復魔法を受ける。

 ジュネはティアにたっぷりしてやっただろうと、後ろの穴も使った。

 口が良かったのでそちらにも放つ。

 気分を変えるためにルプスレギナを一回可愛がってからもう三回ジュネに。途中で泣きながら許しを乞うて来たような気がする。

 食事代わりにソリュシャンがおっぱいを飲ませてくれた。その間、ジュネに挿入していた。

 回復魔法を受けてもさすがに食傷気味となったのを、少しずつ飲んでいたアルベド様のミルクを全消費。

 ソリュシャンとルプスレギナとミラを抱き、合間にはきちんとジュネを挟む。

 

 さすがは覚醒サキュバスの転生体である。

 一日で受け入れた記録を更新されてしまった。

 

「ジュネはもう……マイスターなしでは生きられません♡」

 

 ソリュシャンとミラが力強く賛同する。

 ルプスレギナは半笑いで男を小突いた。

 

 引っ越しが決まったのに何の準備もしていない一同をシクススとシェーダが叱りつけたのは当然だった。




ヴァンパイア・ブライドのヒロイン度がやたら高いのは何故かと考えたら吸血鬼物がとても好きだったことを思い出しました
ジュヌヴィエーヴはフランス語の女性名でミュージカル映画「シェルブールの雨傘」のヒロインが有名です
が、本作のジュネの由来は「ドラキュラ紀元」のヒロインからです
本後書きの前にドラキュラ紀元を検索したら「知る人ぞ知るドマイナー作品」「コアなファンがいるけど絶版」とかあって衝撃
なお、ドラキュラがヘルシングに勝って大変なことになったロンドンを舞台にジュヌヴィエーヴが頑張るお話です

吸血鬼は神秘的な敵役であって欲しいもんですが、今となっては古典とか懐古趣味に分類されてる気がします


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黄金の病み始め

始める前から病んでると言ってはいけない


 誤解を解かなければなりません。当初の私は兄の顔を灼くつもりも囚えるつもりもありませんでした。

 

 私はリ・エスティーゼ王国の第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフです。私は幼いながらも王族としての責務に囚われています。

 会う人を選ぶことが出来ません。言葉を交わす人を選ぶことが出来ません。一人で王宮の外へ行くことが出来ません。それ以前に外へ出ることが叶いません。出る時は然るべき然るべき。食事の時間は決まっています。食事の場所も決まっています。この日はここへ、次の日はここへ。学ぶべきは極々限られて人である前に女である前に王族の一人として然るべき。

 お姉様が二人おります。物言わぬ美しい彫像として夫に仕えるべきと教えられるのは人ではなく女でもなく娼婦として育てられているとしか思えません。

 他におります二人のお兄様はご自身の権力欲に沿う何者かに至るべき教育を施されているようなのでまだしも私やお姉様たちよりも不満も不安も少ないことでしょう。それとて自由があるわけではありません。王族の名のもとに敷かれる道を歩まなければなりません。目に見えない落とし穴が空いてる事に気付かないで歩き続けるのは不思議でなりません。

 お姉様とお兄様たちはどうでも良いことでしょう。私のお姉様とお兄様であっても、兄と血の繋がりはないのです。

 兄は私だけの兄であるにも関わらず自由です。私は王国に囚われているのに兄は自由です。

 兄の自由を失くすだけのつもりでありました。手足のいずれかを落とすか、元通りに癒えない傷を与えるだけで良かったのです。

 私は自由に外へ出ることが叶わないのですから、兄も自由に歩くことなく這いずるべきです。私は好きな時に好きなものを食べることが叶いませんから、兄も手を使って食べられなくなればよいのです。

 兄は私だけの兄なのですからたった一人の妹と苦しみを分かち合うべきでしょう。

 

 幼い私に出来ることはたかが知れておりますが私なりに周到な準備をいたしました。兄はその全てを退け避けてしまいました。

 私を取り巻く刺激に飢えた女官たちは王都に出没する不思議な妖精に夢中になっています。噂話には事欠きません。私には兄がどの道を通ってどの窓を開けてどの部屋のどのベッドで眠ってどこで食事を手に入れて手に入れた食事をどこで摂るのかすらも手に取るようにわかっていました。それでもこの目でその場を見ることは叶いませんから手抜かりがあったとしても仕方ないことでしょう。

 一度目は仕方ありません。二度目は偶然です。ですが、三度目はありません。それなのに兄は四度五度と危険をかいくぐります。

 有りえない事でした。

 

 例えるなら、何気なくいつも通っていた道に何の前触れもなく大穴が空くのと同じです。昨日は何の問題もなく通れた道でした。他の者達も何の問題もなく通り過ぎます。兄が上を歩いた時にだけ陥没するのです。それを避けられました。それを、六度も七度も。

 先の大火の前でしたら奴隷商から来た人攫いたちが陰に陽に兄を狙っていたでしょう。しかし人員も拠点も何もかも焼き払われた現在では元通りの活動が出来るまでに年単位の時間が必要となります。きっと姿形は美しい兄でしょうから付け狙う者は多いはずです。それとて奴隷商が活発だった以前とは比べ物にならないほど大人しいものです。現在の王都で兄を狙う者はいないのです。

 私の存在を知られている可能性はありません。私という妹がいることは知っていてもおかしくありませんが、私が兄へ手を伸ばしていることは知り得ないはずなのです。

 それなのに兄が私の手を尽くすり抜けるのは、私の理解を越えました。意味がわからない事ばかりを口にする全く理解が出来ない不気味な小娘、と陰に言われる私が理解出来なかったのです。理解されない私の理解すら超える兄ならば私の言葉を深く理解してくれる事でしょう。言葉を交わしてみたいと思ったのはこの時が初めてだったように思います。

 

 機会はあっけなくやってきました。

 

 その日は上のお姉様に強く請われて侯爵家の町屋敷を訪れました。お姉様がいずれ嫁ぐ家です。妹を連れて未来に傅く夫の機嫌を取りたいようです。私には関係のないことです。未来の義兄に興味はありません。そうは思っても王国を動かす複雑な政治力学を把握するには無為とは言えません。兄の手かがりを失ってしまったので失意を慰めるのに気晴らしが必要だと感じたのもあります。

 こうも兄が私の手を逃れるのは、噂話がとても儚いものに過ぎなかったからです。本当の妖精のように噂の上を軽やかに飛んでいます。妖精の元となった事実は兄一人だけのものではないのでしょう。兄ほどの者が幾人もいるわけがありません。兄が子どもたちを使って噂の種を撒いているのです。たったそれだけの事に気付くまでどれほどの時間が掛かった事でしょうか。まずは無数の噂話から確実に兄であるものを選り分けなければなりません。今日まで私にそれと気付かせなかった噂話を選り分けなければならないのです。始める前からとても大変な作業であると感じましたが、同時に遣り甲斐もありました。ここまで深く物事を突き詰めて考えるのは初めての事でした。

 

 侯爵家の町屋敷へは動きやすいドレスで参ります。庭園で午後の紅茶を楽しんだら次のドレスに着替えます。晩餐の時にはまた別のドレスに着替えます。王侯貴族の女たちの仕事は着替えることと言って差し支えないほど着替えます。二度目の着替えの時でした。気付いたのは私だけでした。

 閉じられようとするドアの隙間から一瞬だけ見えました。

 一人の少年が堂々と長い廊下を歩いていました。

 他でもない侯爵家の町屋敷の廊下です。市井に暮らす子供がいるわけがありません。然るべき仕事を持っている使用人や、はたまた使用人たちの子供が歩いているわけがありません。侯爵家の町屋敷を歩いているのですから、誰しもが然るべき血筋のご令息と思うに違いありません。

 使用人たちが王国貴族全員の顔と名前を知っているわけがありません。普段はそれぞれの領土で住み暮らす何々家のご子息ともなれば尚更です。私であっても「あの方はどこのご子息なのでしょう」と思ってしまったくらいです。

 一瞬後には兄であると確信しました。

 

 王国と帝国がまだ一つの国であった時代から伝わる古い民話があります。人の心を読む化け物を退治したのは偶然飛んできた薪でした。化け物は偶然によって倒されるのです。

 

 胸が高鳴ります。

 初めて兄の姿を目にしたからなのでしょうか。兄の姿がとても秀でていたからでしょうか。どうしてこんなにも兄に惹かれたのかを知るのはもう少し先のことです。その時の私はどうやったら兄を自分だけの物に出来るのだろうとしか考えられませんでした。

 全力で走ったのはこの時が生まれて初めてのことでした。お姉様も未来の義兄も着替えを手伝う女官たちも目を白黒させます。

 走りながら兄の目的を考えます。屋敷の構造を頭に浮かべながら兄が通る場所を予想します。道中に厨房があったのが幸いでした。

 大きな虫が出たと訴えます。熱した油を水を汲む手桶に注がせます。足の速そうなキッチンメイドを走らせます。彼女は何も知らず、誰にも会わず、私が言った通りの場所へ言われた通りに油を撒きます。

 

「ああ! ご子息のご友人が!」

 

 迅速に適切な手当を施せるよう王宮へ運びます。その時、回復魔法を使えるものがいなかったのは幸いでした。王国が魔法を軽視していることを感謝することになるとは思いませんでした。

 運んだ者達へは手遅れだったと伝えます。

 治療を施した者達へは快癒して別のところへ移ったと伝えます。怪しまれるのは困りますから、その時王宮に滞在していた子供の名を挙げます。

 最終的には、侯爵家から領土を与えられその領土を侯爵家に返上した騎士のご子息が領地で親しくしている育ちの良い子供が王宮で一時療養していた、と言うことにしました。侯爵家から運ばれたのでしたら王宮で一時療養しても不思議ではありません。侯爵家の町屋敷に侯爵家に仕える騎士がいてもおかしくありません。各々のご子息が父に同行することもないことではありません。その友人がどうしてもと乞い願えば王都に連れてくることも有りえないことではありません。そんな事をわざわざ公言してしまうのは恥の上塗りです。

 確かめようがない上に関係していると思われる者は口を閉じざるを得ない事柄ですから、遠からず「そんな事があったかも知れない」と落ち着くのは目に見えていました。

 

 兄が入った箱を運ばせたのは私の部屋の真下にある空き部屋でした。運ばせた者は隠し倉庫か何かと思ったようです。幼い私に兄を運ぶことは出来ませんから仕方のないことでしたが、他者の手を借りて良いことではありません。公言させないために然るべき処置が必要となります。

 特別な用途はなく意識の空隙をつくようにしているその部屋は、代々の誰それが某方を囚えていたのです。密かに王宮から抜け出すための出入り口であったこともあるようです。生憎、外へ通じる道は完全に塞がれています。補修の跡から推察して、百年以上経過しているのは間違いありません。本来はそのような用途であったため、私の部屋から直接兄の部屋を訪れることが出来るようになっていたのは僥倖でした。以降、私は自分の部屋を死守しなければなりません。

 

 たった一人の私だけの兄です。私は心を尽くして看病しました。

 醜く爛れた火傷に薄い被膜が現れて体液が浸潤しなくなるまで一週間も掛かりました。

 兄は口を開くと火傷が引き攣れて痛むらしく、はっきりとした言葉を発するまで更に二週間も掛かりました。

 私に介護される兄はとても大人しいものでした。この頃になりますと、兄を一目した私がどうして執着したのかわかりました。

 兄の穏やかな佇まいとか優しげな風貌だとか、そのようなものかも知れないと思っていたのですが全く違いました。兄が火傷を負った瞬間に強く刻まれたものがあります。

 煮えた油を顔に浴びせられた兄は、驚きに小さな声を上げました。顔の半分を灼く大火傷です。火傷の痛みに小さく呻きました。ですがそれだけです。けっして大きな声で泣き叫ぶことはありませんでした。

 痛みに強いとか、意思が強いとかではありません。そのいずれかであれば痛みに呻くことはないでしょう。

 叫ぶことの機能を考えれば答えが出ます。

 叫び声は人の耳を引きます。自分が叫んでいることを強く知らしめるためです。叫ぶ原因があると強く訴えているのです。危険の在り処を教えるためです。危険に晒された自分を助けてもらうためです。

 兄は叫びませんでした。危険を教える相手も、自分を助ける者もいないからです。そんな者は何処にもいないと、心の底から確信しているからです。兄は独りなのです。孤りなのです。

 兄はたった一人で完結していました。己以外の何者も必要としていないのです。兄は完全に完成していました。

 その兄に癒えない傷をつけたのです。兄の顔を知るのは最早私だけです。私だけの兄は私だけが知る物となりました。

 

 幾ばくか時が流れます。兄は発音が不明瞭なところがあれど不自由なく喋れるようになりました。

 私に感謝を伝えます。己の身を鑑みて私に頼る以外に生きる術がないと悟ったのです。

 

 兄は穏やかで優しい人物でした。

 兄が穏やかで優しい為人だからではありません。興味がないからです。だから一人で完結出来たのです。私は周囲の無理解に身も心も細る毎日を送っていたというのに兄は全く意に介さず生きているのです。私が相手であっても。

 

 思うところは大いにあるのですが、兄の存在は驚くほどに私へ心の安寧をもたらしました。

 兄は私がいなければ生きていけないのです。私の気まぐれで兄は死ぬのです。私が支えなければなりません。私を頼りにする存在がこうも私の心に力を与えてくれるとは思ってもみないことでした。

 兄はもっと私に感謝をするべきなのです。もっと卑屈に私へ媚びへつらうべきなのです。

 兄は私が思う通りに感謝を口にします。爛れた唇から引き攣った言葉を放ちます。

 ですが、言葉だけです。私を見る目は変わりません。

 

 毎日毎日兄の介護に尽くしながら私は兄の関心を買うために色々な話をしてあげました。私が日々習わされていることから女官たちの噂話にそれらから推測できる王国の行く末まで。

 倣い覚えた歌を聞かせたことだって何度もあります。

 覚えたばかりのダンスのステップを披露したこともあります。

 私が得られるありとあらゆる事を兄に伝えました。

 兄が私を見る目は変わりません。

 爛れた顔に潰れた左目。右目だけが美しい形を残しています。私だけが兄の美しい顔を幻視する事が出来るのです。

 兄の美しさを知るのは私だけなのに、兄の存在を知っているのも私だけなのに、兄の命を握っているのは私だと言うのに、それ以上のものが欲しくなってしまったのです。

 異常と恐れられ遠ざけられた私も所詮は欲深い人間であると兄が教えてくれたのです。

 

 無限とはとても言えませんが、時間はあります。

 私は焦ることも急ぐこともなく兄に伝え続けました。

 それが二年も経つと、伝え方が間違っていたのかと思うようになりました。或いは兄に異常があるのかも知れません。どこにも行けない狭い石の部屋に閉じ込められて、話し相手は私だけだと言うのに、兄が私を見る目は変わらないのです。

 私では絶対に堪えられません。唯一の話し相手に何もかも話してしまうに違いありません。誰であろうとそうなるに違いないのに、兄は穏やかで優しい顔をして感謝を口にするばかりなのです。

 しかし今更違うやり方は出来ませんしわかりません。

 これまでと同じように、けども心に湧きつつある焦燥を隠して兄へ語り続けます。

 その時話したのは王国と帝国との会戦についてでした。王国軍の編成と想定される被害について。その後にどの貴族家にどのような報奨が贈られるか。

 兄の青い目が少しだけ違った光を放ちます。一瞬を逃さず、何を思ったのか聞かせてくださいと訴えました。

 三度繰り返して兄が口を開きます。

 

「帝国は皇帝が代替わりした。どうして今までと同じなんだ?」

 

 驚きました。それはとっておきの話だったからです。

 王国にも帝国の皇帝が事故死して新皇帝が即位したとの伝わっています。事故です。偶発的なものだったはずです。兄は私以外から話を聞くことは出来ません。それなのにどうして知っているのでしょうか。兄が知っているのは私が噂から推察したものだけなのです。

 それなのに兄が知っているということは、私が気付かなかったことを兄は気付いて帝国の先帝は謀殺されたのだと推察したのでしょう。私にもわからないことが兄にはわかったのです。

 私は兄の推察が正しかったと伝え、どこからどのようにしてその結論を導いたのか尋ねました。

 

「聞けばわかることがわからないのか?」

 

 私の胸が熱くなってきます。しつこく食い下がりました。

 兄は、わかるだろう、どうしてわからない、と繰り返します。

 それでもなお私はしつこく食い下がりました。

 動悸が激しくなっていくのを感じます。

 兄の顔は爛れていますので表情はわかりません。右目の光だけが兄の心を伝えてきます。目は心の窓であると初めて知りました。

 

「お前が馬鹿だからわからないだけだ!」

 

 私の顔は真っ赤になっていたに違いありません。鏡を見なくても顔が熱く火照ったのを今でもよく覚えています。

 兄は私を馬鹿と言ったのです。

 

 私の頭脳は王国一優れている自覚があります。

 王宮には王国内で殊に優れた頭脳が集まっているはずです。中でも私の教師たちや父王に近い者達は権力闘争を勝ち抜いた実績もあり、王国内の上澄みとも言えます。

 そんな彼らですら私から見ればあまりにもゆっくりであまりにも視野が狭くあまりにも頭が固くあまりにも頼りない記憶力でめしいているのに崖の縁を歩いている愚か者を通り越して無謀と蛮勇しか取り柄がないように思えてなりません。

 その私を指して、兄は馬鹿と言ったのです。

 

 私は言葉の限りを尽くして汚い言葉を口にした兄を窘めました。

 兄の目は変わりません。私を馬鹿にした目付きです。

 ですから私は兄の食事を減らしました。

 その夜はとてもよく眠れました。

 兄と出会ってからというもの、よく眠れる日が確実に増えていきました。

 




使おうと思って使わなかったネタです

今でも根っこは変わらないでしょうが、米ソ冷戦にてスパイ合戦華やかなりし時代、騙し裏切るのが仕事だったスパイはどうやって傷ついた心を癒やしたか
ソ連の元スパイが「小動物を飼うことだ」と言ったのを読んだことがあります
闇金ウシジマ君がウサギを飼ってるのも同じです
非情を強いられる本業ですり減った心を癒やすためにウサギの世話が必要なんです
超人や異常者ではなくまともな人間であるアピールです
鬼が人間でないアピールに角が生えてるのと似たようなもんでしょう

ラナーの回想は3まである予定(3が終わったらラナーが出てくるわけではない)です


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ルプスレギナのデリカシー講習と本当にどうでもいい発見

 遠いところにいる妹から想われている兄は長い旅路を馬車に揺られていた、と云うのは比喩でナザリック製の馬車は抜群のサスペンションが搭乗者に揺れを伝えない。

 帝都からエ・ランテルに向かう馬車である。帰還の日が来たのだ。

 

 普通の馬車なら丸三日は掛かる道程となるが、アンデッド馬が引く馬車は昼夜を問わず走り続け一昼夜でエ・ランテルに着くことが出来る。

 御者はミラである。ジュネは帝都の屋敷に残った。

 

『ジュネはこれからマイスターに様々なことをご教授いただきます。手始めとしましてまずはマイスターの文字を読むことが出来るよう自主学習いたします』

 

 帝都には男がナザリックへ報告した各種文書が原本と写しのセットで無数に残っている。原本を写しに照らし合わせて解読を進めていけば、いずれは読むことが出来るようになるはずである。まるきり古文書解読のノリである。文法は常日頃使っている口語と変わらないので古文書解読より難易度は低い。文字と認識出来れば、であるが。

 

 一行が乗る馬車はシャルティアが用立てた馬車だ。内部は空間拡張の魔法により、外見より広い。今は純粋に移動のために使用しているので大きなベッドは片付けられ、代わりに大小のチェストが空間を狭めている。

 乗っているのはナザリック守護者統括にして魔導国宰相閣下の相談役、ソリュシャンとルプスレギナ、ソリュシャン専従メイドのシェーダの四名である。

 帝都で購入した双子幼女はカルカの専従と言うことにしたので置いてきた。生きてる抱き枕を置いてくるのは少々惜しいと思った男だが、春を迎えて日毎に暖かくなっていく季節。使用頻度は確実に減っていく。どうせこまめに帝都に戻るつもりでいるので、使う機会はまだまだある事だろう。

 

 

 

 車上の人となって、始めの内はソリュシャンたちのお喋りに付き合っていた男だが、じきに口を開かなくなった。

 ソファの肘掛けに頬杖をつき、何処を見ているかわからない遠い目で車窓を眺めている。

 自身の内面世界に潜り、考えなければならないことを考えているのだ。

 

 

 

 帝都に滞在している間、魔導国への報告書は毎日作っていた。つまらないプライベートを書いた日記ではなく、帝国の公人との接触記録が主である。帝国で得た情報も報告している。ジュネが解読を始めたのがこれらである。

 だけれども報告しきれていないことは無数にあった。

 ジルクニフが切れそうになった帝国の戦力などは触りも触りである。それを取り囲む事象が無数にある。

 将の一人を上げる。彼の出生、出身、経歴は序の口ですらない。現在の血縁、交友関係。率いる隊の練度、演習頻度、輸送能力、行軍能力、一両日で用意できる兵員数から最大数。皇帝から下賜された領地、父祖から引き継いだ領地、それらの食糧生産能力、消費量、余剰生産の輸送先、足りない食糧の購入元、他の産業、それらの生産量、併せて外貨獲得能力。領地内の人口、年齢分布、戸数。地質や河川等の地理的要因。領土争いなどを主とした建国以来の争い事の履歴、それらから推測できる他の領土との関係。城塞の有無にそれらの防衛力、収容可能人数。

 兵を率いる貴族一人で最低でもこれだけある。

 帝国の貴族はジルクニフが大鉈を振って大いに減ったが、百や二百ではない。

 そして報告すべきが貴族のことだけであるわけがない。言うまでもなく、個人で報告する内容ではない。最低でも数十人単位で組織的に取り掛かるべきことである。

 

 報告内容を頭の中でまとめ終わっても、書類に出力するだけで三日は掛かるだろう。

 と言うことは、男の文字を読めるソリュシャンとルプスレギナが清書するのに寝ずに頑張って一ヶ月は掛かると言うことである。二人が、ジュネが色々マスターしてエ・ランテルに戻ってくることを切望しながら悪夢に叩き落されるのはもう少し先のことである。

 流石に一度で清書するのは無理がある。分野毎に優先順位を設けて順々に報告書を作ることになる。それでも最終的には全ての書類を作らなければならないのは変わらないので、やはりソリュシャンとルプスレギナが書類の海で溺れ死ぬのは決まっていた。

 

 

 

 まとめるべきは他にもある。アウラ様からの御要望は優先しなければならない。帝国と竜王国を含む地図のことだ。

 上空から眺めた景色を平面に落とし、情報を書き加える。これについては以前もしたことがあるので手間は掛かっても難しいことではない。地名や都市名を読める字で書くのはやはりソリュシャンとルプスレギナの手を借りる事になる。二人が泣きそうになることを男は知らないでいる。

 同じことを繰り返すだけでは芸がないので、少し工夫を凝らそうと考えている。

 当たり前のことだが、アゼルリシア山脈の西に降った雨は西に流れ西の大洋を目指す。東に降った雨は東に流れ内陸へと向かっていく。水は河川となって流れるわけだが、必ずしも全ての水が地表に現れるわけではない。地中に染み込み、地下水となって流れる水も相当にある。地形や地質を読みとけば地下水の流れを把握できるはずなのだ。

 最古図書館で借りた大人向けの辞書に「水文学」と言う項目があった。水の循環を対象とした研究であるらしい。そこからヒントを得て地下水脈の把握を思いついた。

 尤も、水文学についてはお遊びの域を出ない。まずは精細な地図を作ることが最優先だ。

 

 借りると言えば、シズから借りを押し付けられているのを忘れていない。

 シズは地下大墳墓ナザリックの様々なギミックを把握しているようで、情報漏洩防止のため基本的にはナザリックの外に出ることが出来ない。聖王国で活躍出来たのは外出許可を出してくださったアインズ様の温情がとても大きい。さすがはシモベたちへの思いやりを忘れないアインズ様である。

 外に出られないシズちゃんなので、放置しておけば借りを取り立てられることもない。と言いたいのだが、ナザリックには最古図書館がある。行かない選択肢はないのだ。

 放置したとして、もしもシズちゃんが利子の概念を知っていたら大変なことになる。

 

『借りたものには利子がつく。利子はトイチ。十分で一割』

 

 とか言われた日には丸一日で元本の85億倍になってわけがわからないことになってしまう。

 シズちゃんが利子の概念を知らないことを祈るばかりである。

 

 

 

 今度ナザリックを訪問する時は、足が遠ざかっているカルネ村を訪れたいと考えている。ンフィー君にお土産を渡すのだ。

 ンフィーリア少年はカルネ村の村長にしてゴブリン大軍団を束ねるエンリ大将軍の夫となった。

 処女にも関わらず一晩で三回も絞ってくれたエンリ大将軍を是非にも満足させてあげて欲しい。そのための精力増強剤を開発したのである。アルベド様のミルクがヒントになった。

 女性に放たなければならないとの魔法的な効果は付与できていないが、五回も出して頑張れなくなっても服薬すればもう二回は行けるようになる。副作用がないことは自分で試して確認している。

 片手間に作ったため三回分しかない。天才錬金術師と言われるンフィー君なら同じものを作ることが出来るだろう。

 

 ナザリックに行ったら最古図書館に行くのは当たり前として、何とかアインズ様に拝謁願わなければならない。

 部下にはめられて不老不死になりたくなったなんて余りにも情けなく恥ずかしい。

 不老不死になりたいわけではないのでならなくて良いのではと思わなくもない。しかし、退路はもうなかった。ジュネがあの時宣言したのと同じことをソリュシャンとルプスレギナとシクススとシェーダとミラに話したのだ。皆大いに驚き複雑な感情を覗かせながら賛同した。

 あの時ばかりはこのアマどうしてくれようと思ったものである。しかしながら言葉は矢の如しなのか汗の如しなのか知らないが放たれた言葉は取消せない。

 

 

 

 もっと先のことも考えている。クライムのことだ。

 いずれラナーに会わなければならなくなるのは確定している。その時にラナーを性的に封じ込めるため、クライムに頑張って欲しいのだ。

 ンフィー君と違って、こちらは精力増強以前である。まずは女を教えなければならない。

 近くにいる女たちを上げると、ソリュシャンはエ・ランテルでお嬢様として知られているので不可。

 ルプスレギナも回復魔法のエキスパートと知られカルネ村では守護女神扱いされてるので不可。

 ミラとジュネは直属の部下になったので良いように思えるがどちらもヴァンパイア・ブライドであるため体が冷たい。美しい女たちなのだが初心者には厳しいと思われる。

 ソフィーは自分の娘であり部下でもありアルベド様のご息女でもある。つまりサキュバスだ。男の精は大好物である、はずだ。何の問題もないように思えたが、ソフィーは処女。その上帝都に残っている。色々と論外である。

 シクススなら優しいしおっぱいも大きいしソフィーと違って熟練だし、最適だと思われるのだが帝都残留。その上帝都のお屋敷でメイド長を務めているので、そんな裏仕事をさせるわけにはいかない。

 消去法によりシェーダが残った。シクススほどの熟練ではないが、やはりおっぱいが大きい。

 シェーダに頼もうと考え、その前にルプスレギナの意見を聞くことにした。シェーダもすることは好きだろうから問題ないと思われたが、もしかしたらデリカシー云々に関わる事柄なのかも知れない。ルプスレギナは、デリカシーについて色々教えると言ったことがあった。少々口が滑ってもルプスレギナなら大丈夫と甘えたのもある。

 その結果、

 

『ルプーの意見を聞きたいことがある』

『なんすか?』

『シェーダに他の男と寝』

 

 ボッ、グハッ。

 ナザリック特製スーツを着ていたので血反吐を吐くだけで済んだ。

 

『それ脱いでもっかいっすね』

『何故だ?』

『おにーさんに必要だからっすよ。鈍感なおにーさんにはちょーーーっとわかりにくいかもっすけど。私、かなり怒ってるから。シェーダのためにもおにーさんをぶっ飛ばさなきゃならないんすよねー』

『ルプーの怒り解消にどうして俺が殴られる必要がある?』

『じゃあ授業料と思えばいいじゃないっすか! ほら早く脱ぐっすよ!』

 

 ヌギヌギ、ボッ、パァン……。

 男のボディに刺さったルプーパンチは背中に抜けて、見事に脊椎を粉砕した。

 

『それじゃ説明してあげるからよーーーーーーーーーーーっく聞くんすよ? 本当に大事な事っすから。間違ったら死人が出る話っす。死ぬのはおにーさんじゃないっすからね?』

『ソノマエニカイフクヲ』

『おにーさんは自力で止血出来るの知ってるっす。反省のためにそのまま聞くんすね』

 

 

 

   ルプスレギナのとてもためになるデリカシー講習が始まります。

 

 

 

『最後まで聞かなかったけど他の男とエッチしろってことっすよね? あー、言わなくていいっす聞きたくないっすから。

 男ってエッチの時は突っ込んで出すだけっすけど、女は体の中に入られて出されたのを受け止めるんすよ。わかるっすか? 体の中に自分のものじゃないものを入れるんすよ。

 おにーさんだって口に入れるものはちゃんと食べれるものだけを選んでるっすよね。それと一緒で体の中に入れるんだから超厳正な審査が必要なんすよ。

 それを全く知らない男って…………………………………………。そこらへんの道端に落っこちてるものを食べるんとまっっっっったく一緒っすから。そんなの食べれるわけないっす。

 あーあー、言いたいことはわかるっす。知らないなら知ればいいって言いたいんすよね?

 でもダメー。女って中に男が入ってくるとドアを閉めて鍵を掛けるんすよ。他のは完全シャットアウトっす!

 それなのに他の男とって…………、アホっすか? バカっすか? 十回くらい死んだほうがいいんじゃないっすか?

 おにーさんが言ってるのは、ドアも鍵もぶっ壊してよくわかんないばっちいのを食えって言ってるのとおんなじなんすよ!

 壊れたら治るもんじゃないっすからね? ずっと壊れたままっすからね? そんなの死んだほうがマシって女はかなりいると思うっすよ? シェーダは間違いなくそっちっすね。おにーさんがシェーダに言おうとしてたのはそういうことっすからね?

 おにーさんはそーゆー事がよくわかってないみたいっすから今回だけは注意するだけで勘弁しとくっす。

 でもそーゆーのってホントーーーーーーーーーーーーーーーーに大事なことっすから間違ってもものの試しでも絶対に言っちゃダメっすよ!

 この程度で済ませてあげてるのは私だからなんすよ? もうマジで本当に死人が出るレベルの話っすから』

 

 更に二度三度と瀕死にさせられてから詳しく聞くと、ドアと鍵は開きやすかったり閉まったままだったりと個人差があるらしい。開きやすかったのが閉まってしまったり、閉まっていたのが開くようになったりと色々あるらしい。

 ルプスレギナは、ナザリックの女性は例外なく一度閉まったらそれきり開かないと断言する。それなら精を糧とするサキュバスであるアルベド様はと思ったが、ご本人からあなた専用と何度も言われたのを思い出す。

 貞操とは女が孕んだ子は自分の子であると信じたい男たちが作り出したアイデアだと思っていたが、女の生理も無関係ではないと知って驚かされた。

 

 どのような理由があっても、そのようなことをナザリックの女性に頼むのは絶対に駄目であることはわかった。

 これはまたしてもエ・ランテルで秘薬を扱うお店の世話になるしかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 男が遠い目で窓の外を眺めているのを、三人はうっとりと鑑賞していた。

 シェーダは注視しすぎると非礼だと思うのか視線をあちこちに泳がせるも、最後には男の顔に縫い止められる。

 ソリュシャンは隣に座って手を握る。溶かしたりはしない。顔を伏せて愛おしげに頬ずりし、唇に含むこともあった。

 ルプスレギナも同じように鑑賞していたが、何を思いついたものか、ソファから立ち上がると積み重ねてあるチェストの山を漁り始めた。

 

「何かお探しでしょうか?」

「ペンがどこにあるか知らないっすか?」

「ペンでしたら……」

 

 シェーダは怪訝に思いながら筆記具が仕舞ってあるチェストからペンを取り出しルプスレギナに渡す。

 

「この前凄い発見したんすよ! ソーちゃんはおにーさんの腕を持ち上げてくれないっすか? 右手がいいっす。腕を上げて手首から先は自由になってる感じで」

「これでいいかしら?」

「……ソーちゃん……」

 

 ソリュシャンはソファから降りると男の前に膝立ちとなり、大きな乳房を下から支えた。突き出された乳房の上に男の腕を乗せる。タオルやコップや色々なものを乗せられるおっぱいスタンドによるおっぱい肘掛けである。

 ルプスレギナは、ソリュシャンが遠くに行ってしまったように思えてちょっとだけ寂しくなった。

 

「こーするんすよ」

 

 男はいまだ思索に耽っている。何を聞いても生返事で、体の反応も似たようなもの。ソリュシャンに腕を溶かされても気付かないレベルで体を忘れている。

 そんな男の手に、ルプスレギナはペンを握らせた。するりと落ちた。

 手のひらを下に向かせ、親指と人差し指の間にペンを挟む。しばらくは保持されていたが、やがて落ちる。

 次は親指と人差し指の間に挟むのは同じで、ペン先を人差し指と中指の間に挟んだ。今度は安定している。落ちる気配はない。

 何をしているのか意味不明である。

 

 安定しているペンを、ルプスレギナはペン先の方を少しずつ引っ張った。

 ペンの尻が親指と人差し指の股から抜け、ペンはペン先の重さに引っ張られ中指を軸に半回転して落ちると思われたが、中指を一回転した。

 中指を回り薬指を回り、小指で二回転したら跳ね上がって落ちたところを親指で受け止めそのまま今度は横回転。

 親指をくるくる回っていたのがいつの間にか人差し指も回っている。かなりの高速回転で、シェーダにはペンが回っているのはわかるがどの指を軸に回っているのかまではわからない。

 

 男は手首を振り、或いはペンを指で弾いて加速させ、ひたすらペンを回し続けている。

 

「あ、逆回転入ったっすね。どうっすかこれ。スゴくないっすか?」

「……凄いには凄いけど」

「若旦那様は奇妙な特技をお持ちなのですね」

 

 ルプスレギナは興奮しているが、ソリュシャンとシェーダの反応は微妙だった。

 

「ほっとくとずっと回し続けてるんすよ?」

 

 ソリュシャンとシェーダは顔を見合わせる。

 立場上、上位にあるソリュシャンが言った。

 

「凄いとは思うけど誰かに見せるようなものじゃないでしょ」

 

 凄いのは確かだ。

 しかしペン回しだ。

 超絶技巧であってもやはりペン回し。芸としてはどうしても地味である。

 

「そーいうじゃなくてあれっすよ、コマ回しみたいな。なんかちょっと暇つぶししたい時にさせると面白いじゃないっすか。こーいうのって見てて飽きないんすよねー」

 

 飽きてない時は飽きずに見ていられるのであって、飽きたときにはペンを叩き落とすのである。

 高速回転するペンの行方を見切れる二人がそんな会話をしていたものだから、異常に気付いた時には手遅れだった。

 

「キャッ! ソリュシャン様ルプスレギナ様、若旦那様を止めてください!」

 

 シェーダが叫び、二人は数瞬遅れて事態を把握した。

 その数瞬で大惨事になった。

 

 キャップが外れ、回転し続けるペンはインクを方々へ飛ばしてしまったのだ。

 縦横斜めに回転していたペンである。顔に衣服に天井に床に壁に、ソファに積まれているチェストも例外ではない。高速回転が仇になった。

 

「……皆その顔はどうした? 随分変な遊びをしてたんだな」

 

 現世に戻ってきた男が、顔をインクで汚した女たちを見てそんな事を言う。

 インクを飛ばしたのは男であるが、悪いのはルプスレギナである。

 

 兎にも角にもどこかで汚れを落とさなければならない。

 昼夜を問わず走り続け翌日にはエ・ランテルに着く予定だったが、途中で一泊していくことになった。




次回、54話(二年以上前)で登場を予告したエントマとついに邂逅、の予定!


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G-Shock

 インクの染みは強敵であった。

 不幸な事にペン回しに使ったペンはナザリック製だったのだ。書いた字に水が掛かっても滲まない。インクが乗りにくい羊皮紙にもしっかり定着する。つまりはインク汚れがとっても落ちにくい。

 折悪しく馬車には掃除道具を積んでなかった。

 いっそ帝都に戻った方が早かったろうが、馬車を汚しちゃったので帰ってきましたなんて馬鹿そのもの。

 馬鹿扱いされても構わない男が一人。断固拒否する女が三人。中立の女が一人。多数決により、とても頑張って汚れを落とすことになった。

 一番頑張らされたのは元凶のルプスレギナである。

 

 ルプスレギナが染み抜きを頑張ってる間にソリュシャンは見せつけるようにして愛しのお兄様と睦み合う。ソリュシャンが満足したらシェーダにミラも。

 ルプスレギナが切れそうになりながらも頑張った甲斐あって、インクの染みは綺麗に消えた。ルプスレギナはルプスレギナであってもプレアデスの次女。メイドとしてのお仕事は一流なのだ。

 

 どうせ到着が一日遅れるのだからと、明くる日の出発は昼も過ぎてからになった。

 一同が馬車に乗り込み、ミラが御者台に上る。順調に出発したかに見えたが、やはり一流のメイドでもあるソリュシャンの目が光った。

 

「ルプー、ここにまだ残ってるわよ」

「えぇー……」

 

 洗剤がなかったため、熱湯を使ったり匂いの薄い香油を使ったりと色々工夫して染み抜きしたのにソファの陰に小さな黒点が残っていた。

 

「仕方ないわね」

 

 ソリュシャンが人差し指で黒点に触れる。三秒後、インクの染みは綺麗になくなっていた。何でも溶かしちゃうスライムスキルによってインクの成分だけを溶解したのだ。

 ルプスレギナは大きく目を見開いて、ソリュシャンの顔と、昨日とっても頑張って染み抜きをした馬車の天井と床と壁とソファと山と積まれたチェストを見た。

 

「ソーちゃぁぁぁぁあああぁぁぁああああん!!」

 

 ルプスレギナの慟哭はまったくもって筋が通っている。

 ソリュシャンは姉の苦難にすら愉悦する悪い女だった。

 

『ルプーが頑張ったのは俺がよく見ていたよ。ルプーは偉い。ルプーがいるからこそ俺たちは綺麗な馬車で快適な旅が出来るんだ。ルプー、ありがとう。さすがルプーだ。ソリュシャンはルプーを口実にして休みたかったんだ。やり方は良くなかったけどルプーに感謝してるよ。だから今度はルプーの番だ。エ・ランテルに着くまでまだ一晩はあるから、ゆっくり休んでくれ。もちろん俺に出来ることなら何でも言ってくれていい』

 

 ルプスレギナはおにーさんにたくさん機嫌をとってもらって、昨日の復讐をするかのようにソリュシャンの隣でいちゃいちゃべたべた。

 到着を一日遅らせた事により、時間には相当の余裕がある。

 結局はソリュシャンもシェーダも混じって、一番回数を多くしてもらえたルプスレギナは満足したようである。

 その間、ひたすら馬車を走らせていたミラは、夜半に御者台に上がってきたご主人様から可愛がられた。

 

 

 

 

 

 

 一同が久し振りに見るエ・ランテルの町並みは以前にも増して活気があった。住人たちが警邏のデスナイトや自分たちとは違う異種族に慣れたのもあるだろうが、単純に道行く人の数が多い。よく晴れているのでたまたま人の出が多い、と言うわけではないだろう。エ・ランテルの住人が増えていると思われる。

 

 魔導国の領地で人間が住むのは、エ・ランテルの他にカルネ村がある。カルネ村の住人がエ・ランテルを訪問することはよくあるだろうが、定住はない。現在、猛烈な勢いで発展開発中のカルネ村だ。人を出すどころか積極的に引き入れるべきである。

 となると、外から人が流入したことになる。王国の冒険者にエ・ランテルでの滞在を許すくらいなのだから、人の移動にはとても寛容なのだ。さすがのアインズ様である。

 エ・ランテルがそろそろ亡国になりそうな王国の一都市から魔導国の首都になった時、相当の人間が逃げ出したようである。お骨が怖い、と言うわけだ。今やエ・ランテルの活気は周囲に知れ渡り、同時にアインズ様の慈悲深さも理解され、逃げ出した者達が戻ってきているのだろう。

 エ・ランテルは王国と帝国との境目にあるため、近隣の帝国領から人が入っている可能性もある。

 それ以外に考えられるのは、王国からの移民。豊かな生活が欲しいのは人の常。エ・ランテルの噂を耳にすれば苦しい現在を捨て新たな生活を夢見てもおかしくない。尤も、王国における農民以下の者達に移動の自由はないので残すのも残されるのも非情に苦しい道を余儀なくされるのは確実だろう。

 

 そんな事を考えながら、男が一番注視しているのはパン屋である。

 果たして、ウィットニーさんのパン屋さんは、閉まっていた。冒険者稼業に戻ってしまったと言う風の噂は本当だったのか。それともたまたま閉まっているだけなのか。

 お屋敷に着いて諸々を終えたら早速訪問することを心に刻み、六頭立ての立派な馬車が大きなお屋敷に立派な門を通り抜けた。

 

 馬車が屋敷の前に止まると、両開きの扉が開いて次から次へとメイドたちを吐き出す。メイドたちは二重三重に整列し、正面に立つのは繊細な刺繍をエプロンに施した見目麗しい二人のメイド。ナザリックから派遣されたメイド教官である。

 エ・ランテルのお屋敷はアルベド様のお食事処であると同時にメイド研修所でもあるのだ。

 

「お戻りを一日千秋の思いでお待ちしておりました」

 

 馬車から降りた一同へ、メイド教官の口上に合わせてメイドたちが恭しく頭を下げる。教育の成果は上々であるようだ。

 

「……がお待ちになっております」

 

 メイド教官の一人がソリュシャンお嬢様にした耳打ちを、若旦那様はちゃんと聞き逃した。興味がないことは耳に入らないようになっている。

 

「荷物は任せましょう。お兄様、ご紹介したい者がおります。書斎に通してあるそうですのでまずはそちらへ」

 

 ソリュシャンお嬢様の先導で若旦那様が姿を消してから、メイドたちが起動するまでたっぷり百秒が経過した。何とか動き出しても頬を染めて隣の者たちと囁きあう。

 若旦那様が帝都に左遷されて以降に研修を始めたメイドも多い。初めて見る美貌はほとんど物理的な力となって彼女たちの体を弛緩させてしまっている。

 

「荷物を運び終えたら歓迎パーティーの準備をすると言っていたでしょう! それともあなた達は若旦那様とお嬢様を歓迎したくないのかしら?」

 

 メイド教官が檄を飛ばす。

 メイドたちは慌てて動き出した。

 

 

 

 

 

 

 久し振りの書斎は最後に見たのと変わらない。アインズ様が設計して加護の魔法まで掛けてくれたのだから、何があろうと崩壊することはない、はずである。

 そこに、男が初めて見る姿があった。

 

「おっそーい! 昨日来るって言ってたから昨日から待ってたのにぃ!」

「おおー、久し振りじゃないっすかーっ!」

「ルプーひさしぶりぃ。ソリュシャンは冬の前に会ったよねぇ」

「もうそんなに経ったかしら? なんだかあっという間だった気がするわ」

「あの時はお土産ありがとー! ねぇねぇ、それがそうなんだよね?」

 

 小柄な人物は少女だった。挨拶もそこそこにソリュシャンとルプスレギナと盛り上がっている。

 傾世の美女である二人の隣に立っても見劣りしない美しい少女だ。ピンクブロンドの髪をシニョンにまとめ、ぱっちりとした大きな目が印象に残る。

 彼女は二人の陰からちらと男を伺う。ソリュシャンが体をずらして男の姿を隠し、微笑を湛えた美顔に険を走らせた。

 

「それなんて言っちゃ駄目。お兄様はアルベド様の相談役を仰せつかってるのよ」

「あー見えて結構偉くなっちゃったんすよね」

「そーなんだぁ。ごめんね?」

「構いませんよ。三人で話したいことがあるみたいだけど、先に紹介してもらえるかな?」

「はーい! えぇっと、コホン! お初に御目文字いたします。戦闘メイド「プレアデス」の一を拝命しておりますエントマ・ヴァシリッサ・ゼータと申します。この度、アルベド様の相談役殿にお目見えしようと思いまして、アインズ様のお許しを得てエ・ランテルを訪問いたしました」

 

 甘ったるい話し方から一転、エントマは丁寧な口調で一礼した。

 プレアデスの一人なのだからエントマの衣装もメイド服なのだろうが、他のメイドたちのメイド服とは雰囲気がだいぶ違う。袖が大きく膨らんで手を見せない反面、スカート部は前面が膝までで細い足を覗かせる。

 左手は荷物を持っているので、右手だけでスカートを摘み少しだけ膝を折る。ナザリックのメイドに相応しい綺麗な所作だった。

 

「丁重なご挨拶、痛み入ります。私はアルベド様から給仕係と相談役を仰せつかっております。以降、お見知りおきを。エントマさんと呼んでも構いませんか?」

「いいよぉ」

 

 エントマの声には喜色が滲んでいる。ソリュシャンたちと話している時も楽しそうな声だった。

 代わりに、表情が全く変わらない。男が見る限り瞬きすらしていない。仮面だろうかとあたりをつける。仮面だろうと素顔だろうと大したことではない。にこやかに右手を差し出した。

 

「うっ! いい匂いするぅ…………」

 

 右手を差し出されたエントマは、一歩引いた。

 左手に持ってる大きな袋に右手を突っ込み、自身の顎へ何度か運んだ。

 大きな袋である。底の方だけ膨らんでいるようなことはなく、中には何かしらが開口部あたりまでみっちり詰まっているらしい。

 

 ソリュシャンとルプスレギナは異口同音にうっと呻いて一歩引いた。

 ソリュシャンの専従メイドとして同行しているシェーダは青い顔で壁を見つめる。ご主人様の荷物を運んできたミラは次の命令を待っている。

 

「それじゃ、ちょっとだけぇ……」

 

 エントマは男が差し出した手に、言葉通りにちょっとだけ触れて引っ込めてしまった。握手と言うよりタッチである。

 エントマは男の手が触れた自分の手をじっと見る。またも左手の袋に右手を突っ込んで顎に運んだ。

 ソリュシャンとルプスレギナはうぅっと呻いて二歩引いた。

 

「エンちゃあん………。なんで、もってきちゃったんすかぁ……」

「絶対に袋の口を開けないで絶対よ振りじゃないから絶対に開けないで」

「二人ともどうしてそんなにいやがるのぉ? 美味しいのにぃ」

「美味しいものなんですか?」

 

 バカが引っ掛かってしまった!

 

 男はジャケットの内ポケットから取り出した狩り場直行君の片割れを机の上に設置して、三人の会話を耳ざとく聞き止めた。

 男の言葉に、ソリュシャンとルプスレギナが弾かれたように振り向く。二人は全力で首を左右に振った。真剣さが伝わるように男が見たこともないほどの真顔をしている。しかし、二人の必死は届かない。受け取り側が壊れている。

 

「美味しいよぉ? なぁに、気になるのぉ?」

「はい、とっても」

「そっかぁ」

 

 表情こそ変わらないものの、エントマの声は感情豊かだ。

 自分の言葉を肯定されて、けども嬉しいと言うよりどこかしら面白がるような響きがある。

 

「それじゃあ、一つだけわけてあげるねぇ」

「ひっ……」

 

 小さな悲鳴は誰のものか。

 エントマが袋に右手を突っ込んで、中の物を取り出した。

 

 大きさは親指大。上から見れば楕円に近く、厚さは薄くて扁平な形をしている。

 全体的に茶黒い光を放っている。

 表が特にツヤツヤとして、裏は幾つもの節目がある。その裏から六本の細長い棒が中央部から突き出し、棒は中程で折れ曲がっている。棒はそれぞれ忙しなく宙を掻いている。

 前と後ろがある。

 表の後方は真ん中で二つに別れている殻で覆われている。

 前からは裏面から突き出る棒より細くて短い棒が二本突き出している。こちらも止まることなく前後左右に動いている。

 

「げ……」

 

 これにはさすがに男も呻いた。エントマが取り出したのは、生きてる昆虫だったのだ。

 

「エントマさんはこれを食べてたんですか? 衛生面は大丈夫なんですか?」

 

 長く不自由な生活を送ってきた経験から、衛生面は特に気にする男である。不衛生から病が発生すると知っているし、匂いだって気になる。

 そこかよ! とソリュシャンとルプスレギナは突っ込みたかったのだが、二人は手を握り合って三歩引いていた。

 シェーダとミラは最初から壁際に退避済みだ。

 

「それは大丈夫! エ・ランテルに行くって言ったら恐怖公がいっぱい召喚してくれたのぉ」

 

 ソリュシャン以上に人肉が大好きなエントマである。そんなエントマが人間がたくさんいるエ・ランテルに来てしまうと不慮の事態が起こりかねない。

 だけどもお腹いっぱいだったら我慢できる。

 エントマをお腹いっぱいにさせておくべく、恐怖公が泣く泣く眷族を提供したのである。

 

「どうしても不衛生な印象があったのですが、それなら問題なさそうですね」

「ないよぉ。どうぞ召し上がれ♪」

 

 エントマの手から男の手に移る。

 茶黒い昆虫は頻りに六本の足を振るが所詮は小さな虫である。人間の力に抗えるわけがない。

 

 ソリュシャンとルプスレギナが両手で口を押さえて血の気の失せた顔で見守る中、男は顔を上向かせた。

 昆虫を受け取った右手を顔の上に掲げ、口を大きく開いて手を離した。

 

「あ」

 

 男の間の抜けた声が響いた。

 

 

 

 彼女は召喚されたばかりの召喚虫である。

 名前はまだない。つく予定もない。自我も薄い。確たる意思もない。

 彼女を支えるのは召喚時に刻まれた本能だけ。

 その中で最も根源的なもの。すなわち生の渇望。

 生きよと言う大いなる声が、彼女を突き動かした。

 それは死からの逃避、生への飛翔である。

 

 大抵の昆虫は飛ぶための翅を持っているのだ。

 

 

 

 コックローチ フライ。

 

 

 

「「「「キャーーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」

 

 男とエントマ以外の全員が叫んだ。

 

「よっと」

 

 エントマが危うげなく飛んできた昆虫を捕まえた。

 彼女の逃避行は一秒の半分も満たない内に終了してしまった。

 

「飛ぶんだからちゃんと口に入れないとダメェ」

「そうみたいですね」

 

 男は苦笑して誤魔化しながら、再度エントマから昆虫を受け取る。

 そこからどうなったか、女たちは固く目を瞑って壁を向いていたのでわからない。

 おそらくは十数秒が経過して、男のうめき声が耳に届いた。

 

「お兄様! すぐに吐き出してください!」

「すぐに回復魔法掛けるっす!」

「うぅ……」

 

 駆け寄ってきた二人を手で制し、男は二度三度咳き込んだ。喉を鳴らし、口の中に指を突っ込む。

 唾液に濡れた指が摘んだのは、茶黒くて細長い棒だった。

 

「喉に足が引っ掛かった」

「ひいいいぃいぃいっぃいいっ!!」

 

 ルプスレギナが奇声を叫びながら全力で壁際に飛び退く。

 ソリュシャンはその場で尻もちを着いてしまった。青ざめたシェーダが何とか立ち上がらせ、ルプスレギナの隣にまで退避する。

 

「ホントに食べたぁ! どう? 美味しかったぁ?」

 

 エントマの嬉しそうな声は男が本当に何かを食べたらしいと言っているようだが、ソリュシャン以下はその場を見ていない。見ていないから不定である。食べたのか食べてないのかは確率の霧に包まれて定かではない。

 むしろ食べていない可能性が高い。見ていないということは存在していないも同然なのだからきっと食べていないに違いない。口から出てきた棒状の何かは転移トラップか手品だ。器用な男なのだからそれくらい軽いはず。

 

「うーん、評価が難しいですね。中身は濃厚だったので悪くはないと思いますが味付けが何もしてなかったですから。それと体皮が硬くて食べにくいです」

「えー? それって顎が弱いだけだよぉ!」

「顎じゃなくて歯の形です。人の歯は噛み切るよりすり潰すのに適した形をしてるんです」

「そーなのぉ?」

「そうなんですよ。ほら。体皮も硬いと言うより噛み切りにくいって言ったほうが正確ですね。油でカラッと揚げたら食べやすくなるはずです。そこに塩でも振ったらもっと美味しくなると思いますよ?」

「でも火を通しちゃうより生のほうがいいよぉ」

「油温を上げて短時間なら中は生のままです。表面だけカリカリ。美味しそうと思いませんか?」

「屋敷の調理器具では絶対にしないでください!!」

 

 シェーダが裏返った声で叫ぶ。

 昆虫食はわからないでもないがどうしてそれを選ぶのか。

 恐怖公がいっぱい召喚してくれるからだとの答えがあるが、そんな事はシェーダの知ったことではなかった。

 

「そう言われるとぉ、ちょっと試してみたいかも?」

「その袋に入っているんですね? 使わない鍋の一つや二つはあるでしょうから早速試してみませんか?」

「いっぱいあるからいいよぉ!」

「動きが速い虫だから苦手な人もいます。だけど動かなくなれば試してみようって人がいるかも知れませんね」

 

 一秒間で体長の40〜50倍の距離を移動する虫である。ほとんど瞬間移動的な速さだ。だけども動かなくなれば恐れるに足らずである。

 二人が悍ましい計画を話し合ってる中、壁際に追い詰められた女たちは「そんなわけあるか!」と心の中で叫んだ。なお、ヴァンパイア・ブライドであるミラは固形物を口にしないので関係ない話である。ミラはひたすら心を無にしていた。

 

「それじゃ調理は外で……、あ」

「んんー? あっ!」

 

 物を手渡しできる距離で話していた二人である。手を伸ばせば届く距離。

 エントマが男の腕に触れジャケットとシャツを捲り、前腕を自身の顎に持っていったのは完全に無意識の行為だった。

 

「ああーーーーーっ! ごめんなさいごめんなさいわざとじゃないからぁ!」

 

 エントマは男の腕をムシャムシャしてしまった。

 間近から漂ういい匂いに惑わされ、いつの間にかお口が幸せになっていた。男の声を聞くまで自分が何をしてしまったのか気が付かなかった。

 これがただの人間であればついうっかりテヘペロで済んだ話。しかし、齧ってしまった男はアルベド様の相談役である。

 相談役になる前からソリュシャンに勝手に食べては駄目と言われているし、そのソリュシャンはお兄様のお嫁さんになると言い張っている。

 それなのに、無意識に食べてしまった。ソリュシャンは怒るだろうし、アルベド様からのお叱りも避けられない。

 

「ホントにわざとじゃないからぁ……。ごめんなさいぃ……」

 

 表情は変わらないのに、声は悲哀に満ちて涙が混じっているかのようだ。心から謝っているのだと伝わってくる。

 謝罪の言葉を聞き、男の胸中にプレアデスたちとの出会いが去来した。

 

 ソリュシャンと初めて会った時、手を溶かされた。突然のことだったのでかなり痛かったのを覚えている。ソリュシャンは謝るでもなく口止めをしてきた。結局はソリュシャンの提案を飲んだわけだが、感謝することもなく「借りにしておいてあげる」と上から目線。

 

 ナーベラルからはハートブローをもらってしまった。あの時、アインズ様がいらっしゃらなければリザレクションのお世話になっていた。アインズ様がいらっしゃっていても、ナーベラルの拳があと指二本分も深く刺さっていたら即死だった。その頃のナーベラルはとてもツンツンしていたので、その件についての謝罪は未だにない。もっと寝かせてからごめんなさいプレイをしてやろうと思いついた。

 

 ルプスレギナは初対面時に全身複雑骨折にさせられた。アルベド様のお言葉があって互いに非を認めあったわけだが、アルベド様のお言葉がなければルプスレギナから謝ることはなかったと思われる。

 

 シズには一方的な非を押し付けられ監禁された。しかも、二度。どう考えてもシズの短絡が悪いのだが、シズは全く悪びれない。それなのにどういうわけか、現在貸しを押し付けられている。

 

 ユリには突然脈絡なく肘打ちを食らって中が破裂した。文字通りに血反吐を吐いた。おっぱいを触ってきたのが悪いと言い張っていたようだが、そもそも触れと言ってきたのはユリである。その後の色々で水に流したが、口止めをしてきたのは減点対象である。

 

 これは一体どういう事だろう。プレアデスの姉妹たちからは例外なく痛い目を合わされている。

 そこへ、エントマである。

 左の前腕を一口二口かじられてしまった。しかし、ソリュシャンと違って鋭い歯で齧っているらしく、痛みは少ない。

 そして、きちんとごめんなさいが出来ている。他の姉妹たちは誰一人出来なかったことが出来ている。

 これについてはその時々の立場が大きい。アルベド様の単なるお食事か、アインズ様も認めた守護者統括相談役とではタイトルの大きさが段違いである。

 そこのところを頭ではわかっている男だが、どうしたって第一印象は大きいのだ。

 

 総評して、エントマはとってもいい子である。

 

「大して痛みませんし、ルプーに回復してもらうから問題ありませんよ。エントマさんはちゃんと謝れて偉いですね」

 

 ピンクブロンドの頭にぽんと手を置く。

 エントマは背が低いので、丁度よい高さだった。

 

「むぅ……、子供扱いしないでよぉ」

 

 言葉こそ嫌そうだが、甘えた声音だ。頭に乗った手を振り払おうともしない。

 

「あっ」

 

 男の手が頭から離れ、エントマの意思とは無関係に声が漏れる。

 

 男はエントマの主張を受け入れたわけではない。手に伝わる感触が意外だったからだ。

 シニョンにまとめている髪と触覚のような前髪は、整髪料などで固めていると思った。しかし、触れると硬い。毛髪ではなく、顔と同じで仮面の一部らしかった。

 仮面を撫でてもエントマを撫でることにはならない。ちゃんとエントマをナデナデする必要がある。

 

「ふあぁっ……」

 

 ここなら間違いなくエントマの体だろうと思って撫でたのは、胸の下で絞まっている大きな赤い帯の下。

 エントマの下腹である。

 

「どうして、そこ撫でるのぉ?」

「頭を撫でたら硬かったんですよ。こっちは柔らかいですね。服の下はエントマさんの体でしょう?」

「そうだけどぉ……」

 

 甘えた声に艶が出る。

 エントマはアラクノイドだ。蜘蛛の器官があれば人の器官もある。末端が蜘蛛寄りなら中央は人寄りだ。

 

「ひぃっ……!」

 

 良い雰囲気に水を差したのは、誰かの悲鳴だった。

 

 男はナデナデを中断して叫び主を見る。

 四人の女は壁に張り付いて、大きく見開いた目でこちらを注視していた。正確にはこちらの足元。

 彼女らの視線の先には、エントマが持っていた大きな袋が落ちていた。

 ナデナデにびっくりしたエントマは、袋を落としてしまったのだ。

 

 黒い大きな袋は、見ている内にボコボコと暴れ始めた。中で何かが沸いているようだ。湧き出ているのかも知れない。

 内部で一頻り暴れると、袋の口から黒い水が流れ出した。

 

 それは、地獄だった。

 生者の世界に亀裂が入り、死が顕現したかのよう。

 

 細い流れは瞬く間に太くなっていく。

 ところどころで泡立っているように見えるのは、複数が一塊になっていたり周囲より大きなモノが動いているからだ。

 

「マズイ!」

 

 男は咄嗟に書斎の扉を開け放った。

 このままでは書斎が地獄に埋もれてしまう。しかし、屋敷中に広めてやれば必然的に書斎内の地獄は密度が薄くなる。

 男の狙い通りに、死の河は書斎の扉から廊下へ流れ出ていった。

 

「ソリュシャン、ルプー、ミラ。屋敷内を無人にしろ。全員外に出せ。窓もドアもしっかり閉めるよう触れ回れ。特に厨房は完全に封印しろ」

 

 四人の女たちは腰が抜けているのに、こんな時でも男は冷静を保っている。

 

「あ、あ、あの。私はどうしよう?」

「エントマさんは私が出た後で窓をきちんと閉めてください。外に出る時は一階の正面からお願いしますね」

 

 男は卒倒して床に倒れているシェーダを抱き上げると、窓を開け放って飛び降りた。

 直後、エントマが言い付け通りに窓を閉める。

 

「おにぃちゃ〜ん、また後でねぇ!」

 

 無事に着地した男へ、エントマは窓越しに手を振った。

 手が振り返され、エントマは上機嫌に両手を握る。

 

「「「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!」」」

 

 エントマは平気でも、他の女はそうでもない。

 ソリュシャンとルプスレギナとミラは、声になりきらない声で絶叫した。

 絶望と恐怖がふんだんに練り込まれ、死を予兆させる断末魔めいた叫び声だった。




サブタイトルと全く関係ありませんが、C社製のフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)を十年以上愛用していました
精密機器メーカーであるC社はデジタルカメラを生産しており、そちらの技術やノウハウを応用してかC社製フィーチャーフォンは他社製よりカメラの性能が良かったように思います

このサブタイトルはあれだと思う方がいるようでしたらGからCに変えようと思います
言うまでもなくC社とは全く関係ありません
コックローチのCです


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たった一つの生存ルート

 シェーダは生も死もない虚無の海に囚われていた。

 天がなければ地もなく、上下に意味はない。光がなければ闇もなく、空間すら存在していない。

 時間すらなかった。いつからいるのかわからない。そもそも自分自身が存在しているかどうかも定かでない。

 唐突に、或いは始まる前か終わった後か、自我すら認識出来ない果ての世界に一条の光が差し込んだ。白い光は心身を焼き、己には肉体と心があることを思い出させた。

 

 気絶していたシェーダが意識を取り戻す。うっすらと目を開き、霞がかった視界に見知った男の顔が映った。

 

「ごしゅじんさま……?」

「良かった。気が付いたようだな」

 

 凛々しい美貌が柔らかくほどけ、朗らかな笑みを浮かべる。

 美しい男の顔が間近に迫り、シェーダは恍惚と見入ってしまった。

 直後、意識を失う寸前に何が起こったのか思い出す。この男が何を口にしたのかも思い出す。あれを食べてしまった口が間近に迫っている。

 赤く染まった頬は瞬く間に血の気が引いて、シェーダは叫んだ。

 

 キャアアアアアアアアア! パァン、イテッ。

 

 

 

 

 

 

 屋敷の内部は地獄になったが、歓迎パーティーがナザリック式ガーデンパーティーだったのは不幸中の幸いだった。メイドたちの大半は最初から屋外に出ており、外から窓を閉めるだけで封じ込めは完了した。一番大変だったのは、地獄の源泉にいた三人の女である。エントマは女以前の少女であり、死の河の上を悠々と歩いて渡ったらしい。

 

 屋敷がどうなったかは一先ず忘れ、当初の予定通りに歓迎パーティーを始まらせた。

 広い中庭に幾つものテーブルを並べ、けども持て成すのが若旦那様とお嬢様、それと神官殿にお客人の四名だけでは一つのテーブルで事足りる。

 実のところ歓迎パーティーは建前で、メイドたちの実戦演習の意味合いが強いらしい。メイドたちの四分の一はヘッドドレスを外してテーブルにつき、残りがメイドとしての仕事を担う。役割は順番で交代する事になっている。メイド教官の企画立案である。

 

 なおエントマについては、「魔皇ヤルダバオトに支配されていたが、アインズ様が魔皇を打ち破った際に呪縛から開放され、現在はアインズ様に絶対の忠誠を誓っている」と紹介された。

 かつては恐ろしい悪魔メイドであったようだが、若旦那様と和気藹々と話しているのを見せられれば警戒も解けてくる。

 

 若旦那様は美味しい料理を楽しみながら新顔のメイドたちを紹介されて大層なご機嫌である。

 しかし、若旦那様を囲む女たちは目が死んでいた。

 

「お兄様、一体どうなさるおつもりですか?」

「何のことだ?」

「何のこと!? お屋敷のことです。あの惨状を一体どうなさるおつもりなんですか!」

 

 お兄様の優先順位が限りなく高くなってしまってお兄様の幸せを第一に考えてしまうソリュシャンであっても、譲れぬ一線が存在する。現状は、その一線を大股で踏み越えている。

 

「俺がどうにかするのか?」

「当然です。お兄様がお屋敷の責任者なんです!」

「俺が?」

「お兄様が、です」

 

 以前はお嬢様の遠縁として屋敷に滞在していた男である。その頃は客分扱いであり、賓客ではあっても屋敷で振るえる権限は何も持っていなかった。

 しかして現在、魔導国宰相閣下の相談役に取り上げられた。ナザリック内での序列は命令系統が並列して交わらないため不明であるが、魔導国においては商家のお嬢様よりも宰相閣下の相談役の方が確実に上になる。

 偉くなったのだから責任を取れと言うことだ。

 

「戸締まりは完了して厨房も封印した。隙間からも出てきてないだろ?」

 

 元はエ・ランテルの貴賓館の一つであったお屋敷だが、アルベド様のお食事処になる際に世界一の技術力を誇るナザリックの手が入っている。気密性は完璧だ。隙間風がなければ、小さな虫が入ってくる事もない。

 特にコックローチというやつは上から押し潰したように薄い体で狭いところにも容赦なく侵入してくる。そんな奴らが相手でもナザリックの技術力なら完封出来る。

 

「出しっぱなしにしてる飲食物はないはずだ。水は少しくらいあるだろうけどあの数だからね。絶対的に足りないだろう。一週間も放っておけば餓死するよ」

「駄目です」

 

 間髪入れずに却下。ソリュシャンの顔は怖いくらいに真剣である。

 封じ込め案を実行するにせよ、屋敷で起居している見習いメイドたちが一時避難する場所が必要だ。第一に虫にありがちな共食いを忘れている。

 

「そうすると、駆除するか、捕まえるか。エントマさん、あの虫たちは召喚したって言っていましたね。操ることが出来ますか?」

「恐怖公なら出来るけど私にはむりぃ。ごめんなさい……」

「それなら恐怖公さんをお呼びして」

「絶対駄目です」

 

 またも間髪入れずに却下。

 恐怖公とは二足歩行する巨大なゴキブリなのだ。姿を見せるだけで純心な乙女たちへ回避不可の狂乱のバッドステータスを付与してしまう。

 

「それなら……」

 

 男はワイングラスを傾けながら屋敷の窓に目を向ける。

 屋敷は無人であるはずなのに白いカーテンが揺れている。耳を澄ませば、バチバチと何かしらが窓に激突している音が聞こえてくる。

 全ての窓がそうなっていないのは、常日頃からドアを開けっ放しにしないからだ。メイド教官の教育が光っている。

 

「エントマさんが持っていた袋は目算で容量が6リットルほど。あれの大きさは個体差が大きかった。俺が持ったやつは大きさの割に薄くて体積は2ccくらいだった。これを平均だとしよう。袋に目一杯詰まっていたと仮定して、ざっと3000匹」

「さんぜん…………」

 

 1000ccで1リットル。どちらも体積の単位である。

 

 ソリュシャンがくらりとよろめき、椅子から落ちないようシェーダに支えられた。

 ソリュシャンの隣に座っているルプスレギナは、死の河を渡った際に心を死なせてしまったようだ。虚ろな目でぼうっと虚空を眺めている。そんな様でも回復魔法で男を癒やしたのは称賛に値する。

 二人はショックで死にそうなのに、男は容赦なく追い打ちをかけた。厳しすぎる現実を告げたのだ。

 

「三千にしては数が多すぎる。ここから見える窓だけで二百匹はいる。あの密度で屋敷中に広がっていると軽く万を超えるはずだ」

「えぇっとぉ……、それはぁ…………ね?」

「エントマさんは何か知ってるんですか?」

「あの袋はマジックアイテムでぇ……、いっぱい入っちゃうのぉ」

「どのくらい入るんですか?」

「見た目の十倍くらい……かな?」

 

 エントマは可愛らしく小首を傾げて答えた。

 エントマは可愛いが、三千の十倍は三万である。

 

 周囲のメイドたちは話の内容がわかってないから幸いである。

 わかってしまった者達は、口から魂が抜けてしまった。

 

「三万ですか。しかも、召喚されたモノなわけですよね」

「そうだよぉ」

 

 恐怖公がこうも頑張ってエントマに眷族を提供したのは、アインズ様のお言葉があったからだ。

 

『エントマを街に出すが絶対に間違いが起こらないように携帯食を提供してやってくれ』

 

 アインズ様の思いやりと恐怖公の献身が実を結んだ結果、お屋敷が地獄になってしまったのは皮肉である。

 

「召喚された存在は通常の存在とは違う可能性がありますね」

「どういう事?」

「エントマさんは死の螺旋をご存知ですか?」

「知ってるよぉ」

 

 死の螺旋とは、多数のアンデッドが集まることによってより強力なアンデッドが発生してしまう現象である。

 かつてエ・ランテルの墓地にて発生した死の螺旋を解決に導いたことが、漆黒のモモンの名が広く知れ渡るきっかけとなった。エ・ランテルの住民で彼の偉業を知らない者は一人もいないことだろう。

 

「それと同じです。多数の召喚存在が集まることによってより強力な存在が生まれてくるかも知れません。すなわち、Gの螺旋」

「Gの螺旋!?」

 

 死の螺旋に濁点が付いただけなのに酷い変わり様である。脅威度が下がると共に正気度も下がっていく。

 

「今はただのコックローチばかりですが、その内にジャイアントコックローチやシルバーコックローチが出てくる可能性があります」

「ええーーっ! それじゃアトラスコックローチやプラチナコックローチも?」

「ステーキに出来るくらいの大きさになってくれたら嬉しいですね」

「ギガントスコックローチより大きかったら大きなステーキになるよぉ!」

「ビーストコックローチだったら歯応えもありそうですね」

 

 ゴールドコックローチ、プリズムコックローチ、レインボウコックローチ、エンシェントコックローチ、ニュークリアコックローチ、ドラゴンコックローチ、ユニバースコックローチ、トロピカルコックローチ、カタツムリコックローチ、ワイルドコックローチ、レジェンドコックローチ………………。

 

 ソリュシャンが切れた。

 

「このバカどもを黙らせて!」

 

 ピギィ!、イテッ。

 エントマにはルプスレギナが渾身のボディブローを、男にはシェーダがシクスス直伝お盆チョップフェイント脛キックを食らわせた。

 

 椅子から転げ落ちた二人を、ソリュシャンは蹴り飛ばしたくて仕方なかった。如何に愛しのお兄様と可愛い妹であろうと許してはいけないことがある。

 こいつらは屋敷に地獄を現出させた大罪人。むしろ地獄の住人である悪魔ではなかろうか。悪魔の罪を裁くのはナザリックの価値観的にどうなのかと考えてしまったソリュシャンは相当に煮詰まっている。それでも蹴飛ばさないのは、一応はお屋敷の若旦那様とお客様であるからだ。

 椅子から叩き落した時点で手遅れかも知れない。こんなだから若旦那様はメイド見習いたちに軽く見られるのだ。

 

「急に何だ」

 

 男が文句を言いつつ起き上がろうとしたその時である。

 

(キャアアアアアアアアアアアアア!!)

 

 ルプスレギナの耳にすら朧気な悲鳴が屋敷の内部から響いてきた。

 ソリュシャンたちには聞こえない。しかし、あの方の悲鳴をこの男が聞き逃すわけがなかった。

 

 男が目の色を変えて跳ね起きたのを見て、ソリュシャンは事態が致命的に進行してしまったことを悟った。

 

「ルプー!」

 

 ソリュシャンに呼ばれたルプスレギナが男に手を伸ばす。

 しかし、さっきまで心が死んでいたルプスレギナだ。男は後ろに目がついているかのようにルプスレギナの腕をかわし、駆け出した。

 

 何事もなければ根は悪かろうと温厚な男である。如何なる時でも冷静を失わない。頭の回転が非常に速く、貪欲に知識を貪り続ける。何事が起ころうとも自信と余裕をもって対処する。

 エントマと質の悪い冗談を交わしていたが、もう少しすれば有効な対策を提案してくれる、はずであった。その場合、ご主人様の後ろで物言わぬ彫像の如く佇んでいたミラが有効に活用される可能性はそれなりに高かった。

 

「アルベド様! 今参ります!!」

 

 しかし、何事にも例外がある。

 アルベド様が関わってしまったが最後、何が起ころうと全ては些事に成り下がるのだ。

 

「誰か……、誰かお兄様を止めて!」

 

 メイド見習いたちは何が起こっているかわからない。メイド教官が屋敷を見ないように触れ回っていた。

 彼女たちの行動は遅く、それでも男の前に数人が立ち塞がった。

 

 アインズ様しか知らないことであるが、漆黒の英雄モモンが開眼したモモンズ・ブレイドアーツの開祖はこの男である。

 目前に迫るメイドたちを、重力と慣性を無視した立体機動めいた動きですり抜け、お屋敷の正面入口にたどり着いた。

 

「開けるなーーーーーーっ!!」

 

 それはルプスレギナの怒声だったのか、ソリュシャンの悲鳴だったのか。

 男が扉を開いた。

 地獄が口を開いてしまった。

 

 男に追いすがったメイド見習いたちがわけが解らぬながらも扉を閉める。二階級特進に相応しい偉業である。

 しかし、漏れ出た地獄は更なる悲劇を求めて飛翔した。

 蠢き続ける黒い霞と黒い水は、生者の世界を塗りつぶす死の具現。

 

「あ……ああ…………!!」

 

 ソリュシャンは膝をつき、ルプスレギナの目からは涙が流れる。

 自分たちの不手際でエ・ランテルに地獄を開放してしまったのだ。

 人間たちが苦しむだけであればプークスクスで済ませる性悪姉妹であるが、エ・ランテルは魔導国の首都。アインズ様の街なのだ。

 そこへ、癒えない傷がつこうとしている。

 

 二人の悲哀と絶望を糧に、死の飛翔がお屋敷の外に通じる大きな門を壊そうとして、眩いばかりの光が炸裂した。

 光が消えると、死の具現めいた茶黒い昆虫たちは全てが地に落ちていた。どれもこれも動かない。死んでいるようだった。

 

 屋敷の扉が開く。

 

「アイツはァ!!」

「エンちゃん駄目っす! 気持ちはわかるっすけど今は本当に駄目っすから!」

 

 猛るエントマをルプスレギナが羽交い締めにする。ソリュシャンは新たな来訪者に一条の光を見出した。

 

「一体何が起こっている?」

 

 一番前に立っているのが赤いフードに白い仮面を着けた小柄な人物。

 

「久し振り」

 「やっと帰ってきた」

 

 同じ顔が二つ続き、

 

「随分賑やかじゃねえか」

 

 オーガの如く巨大な戦士が殿を務め、

 

「モモン様にお目通りをと思ったのだけど」

 

 壮麗な女剣士が来訪の目的を告げた。

 屋敷の主人代理として、ソリュシャンが一行を迎え入れた。

 

「冒険者チーム蒼の薔薇の御一行ですわね。緊急依頼をいたします。屋敷内の害虫を直ちに駆除してください。報酬は言い値をお支払いしましょう」

 

 言うなれば白紙の小切手。後から何を書かれようと文句は言えない。

 

「おいおい、そんな事言っていいのか? 幾らになるかわかんねえぜ?」

「よっぽど困ってる?」

 「荒稼ぎのチャンス!」

「よくわからないけど困ってる人を放ってはおけないわ。イビルアイ、いいわよね?」

「ふむ……」

 

 五人の中で一番小さなイビルアイが蒼の薔薇の主戦力である。特に昆虫類を相手にした場合は、イビルアイが習得している殺虫魔法が特効する。害虫駆除には持って来いの人材であった。

 

 イビルアイは足元に散らばる動かなくなった虫たちを見て、中庭中に広がっているメイドたちを見て、見覚えのある悪魔メイドに目を留めた。

 

「彼女は魔皇ヤルダバオトに支配されていました。アインズ様が魔皇を打ち破った際に呪縛は解かれています。今はアインズ様に忠誠を誓っており、危険はありません」

「そうか」

 

 かつて魔皇が王都を攻めたゲヘナ作戦の折り、蒼の薔薇と対峙したエントマはイビルアイから痛打を浴びた。そしてそれ以上の因縁もあり、イビルアイを殺す際はぜひ私に、とアインズ様に申し出るほど敵視している。

 今は何としても抑えて貰わなければならない。ルプスレギナが一生懸命言い聞かせた甲斐あって渋々と椅子に座り直した。エントマの表情が変わらないのは幸いだった。

 

 エントマから視線を切ったイビルアイは、ソリュシャンに向き直った。

 

「わかった。その依頼、引き受けよう。報酬は言い値。違えるなよ?」

「勿論ですわ。私の誇りに掛けて必ずお支払いいたします」

 

 イビルアイは深く頷き、小さな足で前に進む。

 屋敷の正面入口にイビルアイが立ち、両開きの扉をそれぞれティアとティナが受け持つ。

 ラキュースとガガーランは害虫駆除の役に立たないので静観の構え。

 

 仁王立ちしたイビルアイの両手に魔力の光が迸る。

 イビルアイはティアとティナに向かって顎をしゃくった。

 

 ティアとティナが扉を開けると同時に溢れ出る地獄へ、

 

《ヴァーミンベイン!》

 

 蟲殺しの魔法が炸裂した。



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G退治の報酬

前話で生存ルートに入ったのはイビルアイです


「ああ、その話? あれはもう良くなったわ」

 

 良い方に向かったから良くなった、のではない。どうでも良くなった、である。

 ソリュシャンの言葉を聞いてもティアとティナは表情を動かさない。

 

「お嬢様からの依頼はラキュースを連れてくること」

 「依頼は完了した。後の事には関知しない」

「そうね、そうだったわね。成功報酬が必要かしら?」

「必要ない」

 「前金でたっぷり貰ってる」

 

 地獄と化したお屋敷だったが、大半の部屋はきちんとドアが閉じていたので問題はなかった。代わりに廊下の密度が凄いことになっている。

 ソリュシャンとティアとティナは、無事だった部屋の一つで件の依頼について話していた。

 

 ソリュシャンがラキュースを求めたのは、そこそこに見れる顔をした金髪の女だったからだ。

 レイナースやカルカと同じようにお兄様に手を付けてもらって孕ませる。胎に宿った子が人の形になる前に抜き取って自分の体に移す。お兄様と金髪の美しい女との子を、自分の胎で育てるのだ。自分とお兄様との子供として。

 ショゴスであるソリュシャンは、どうしたって人間と子供を作れない。しかし、周囲には出来る女がいる。自分には出来ないのに出来る女たちがいる。彼女たちがいつか得られるであろうものを自分が求めて何が悪いのか。

 代替手段として、それが為せる金髪の女たちを集めていた。

 しかし、どうでも良くなった。機会があるのなら試しても良い。その程度に成り下がってしまった。そんなものは形あるものへの執着に過ぎないと気付いたのだ。

 

 お兄様が健やかな体でずっと傍に居続けてくれるのはとてもとても幸せなことだ。

 そうならなくても構わない。一番に考えなければならないのは、自分の幸せではなくお兄様の幸せなのだ。お兄様が幸せでいてくれさえすれば良い。お兄様を想っていられるだけで良い。

 たったそれだけで、自分の心は満たされる。

 

 それはそれとして、お兄様に愛されるのもお兄様のミルクを味わうのもとても素晴らしいことに変わりはない。

 目の前の双子忍者がそれを狙っているのはとてもよくわかる。

 

「あなた達にもう用はないわ。後は王国に戻るなり南のどこかに行くなり好きにしなさい」

 

 冷たく言い放ったソリュシャンに、ティアとティナは怯んだ。

 ここで縁を切られてしまうと、ボスとの素晴らしい一時を得る機会がなくなってしまう。ラキュースの件はあくまでソリュシャンからの依頼である。ボスは金を出しただけで、依頼内容とは関わっていないのだ。

 

「と言いたいのだけど、お兄様が仰っていらしたわ。エ・ランテルに戻ったら状況次第であなた達に頼むことがあるかも知れないそうよ。今はつまらない話をしているから、その後で伺いなさい」

「……報酬の話をしたのはお嬢様でボスはいなかった」

 「それなのにボス任せ?」

「お兄様が屋敷の責任者なのよ。あなた達には関係ないわ」

 

 丸投げしてる自覚があるソリュシャンである。

 しかし問題の半分以上はお兄様が引き起こしたのだから当然の判断である、と自分に言い聞かせてティアとティナから目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルに戻ってきたばかりでどうしてこんなにも慌ただしいのだろう。

 

 男はそんな事を自問する。色々間が悪かったと答えが出た。

 

 聖王国への出張が終わったエントマが、こちらの帰還に合わせて顔を見せに来るのはおかしいことではない。

 メイドたちによる歓迎パーティーは帰還の翌日に行われる予定だったらしい。しかし一日遅れての帰還となったため、当日に行われてしまった。歓迎パーティーは建前で、メイドたちの実戦演習の意味合いが強かったようなので当初の予定を優先したのだろう。メイド教官の判断に大きな間違いはない。

 一日遅れたのが問題と言えば問題なのだが、悪戯をしたルプスレギナが悪いのか、一瞬で染み抜きが出来るのにサボタージュしたソリュシャンが悪いのか。どちらも些細なことで、一日の遅れが問題に繋がると予想するのは難しかった。

 その結果、エントマとの顔合わせと歓迎パーティーが同日になってしまった。

 そこへ王国の冒険者チーム「蒼の薔薇」が訪れたのは、ソリュシャンが呼び寄せたからであるらしい。蒼の薔薇がいなければコックローチの駆除に手間が掛かったろうから、これについては間が良かったと言える。

 

 アルベド様が帰還当日にいらしてくださったのは光栄の至りであるのだが、間が悪かったとしか言えない。

 エントマのおやつがナザリックにて召喚した昆虫だったのは幸いだった。たかが虫でもナザリックの虫。守護者統括であられるアルベド様の威光に恐れおののき、アルベド様に触れた虫は一匹もいなかった。だけれども、不衛生の代名詞に使われるコックローチに囲まれるのは衝撃体験であったようで、駆けつけた時は床に尻もちを着いて大いに取り乱されていた。

 恐れ多くも、コックローチたちはアルベド様のお食事部屋にまで侵入。しかし、外部の者をお食事部屋へ通す訳にはいかない。よって、エントマが一生懸命駆除している真っ最中である。蒼の薔薇を、特にイビルアイを敵視しているエントマなので、顔を合わせない理由があるのは幸いだった。

 イビルアイと同じ建物にいるのをとても不快に感じているらしいエントマであるが、『エントマさんがイビルアイを敵視する気持ちはよくわかります。そのあたりの事情はソリュシャンとルプスレギナから聞かされました。ですが、エントマさんはアルベド様への貢献を無視してご自身の私情を優先するほど子供ではないでしょう?』と言い聞かせたらとてもよく納得してくれた。

 後ろでルプスレギナが何かしらのハンドサインをエントマへ送っていたようだが何を伝えていたのかはわからない。重要なことならこちらにも伝えるだろうから無視しても構わないことなのだろう。

 

 その後、別室にて落ち着かれたアルベド様は口付けを送ってくださろうとしたのだが、ルプスレギナが『今の相談役殿に口付けをするのは大きな問題がございます』と進言。

 直後、アルベド様のお顔が言葉には言い表せない一度も見たことがないものへと変じ、距離をとってから非接触でのエナジードレイン。意識が遠のく寸前にルプスレギナから回復魔法を掛けてもらう。

 アルベド様はお食事部屋を隅から隅まで入念に消毒するようお命じなり、当分ここには来ないと言い置いてお戻りになってしまわれた。

 一体何が悪かったのか。

 アルベド様の元へ向かう直前、ローストした鴨にたっぷりタバスコを掛けていたので臭った可能性がある。辛いのがお嫌いなのかも知れない。そう言えば食事をご一緒したことが一度もなかった。

 

 結局はエントマが袋を落としてしまったのが一番悪かった。

 しかし、プレアデスの一人とは言え幼げを感じさせるエントマである。子供に責任を押し付けるのは良くないことだ。やはり色々と間が悪かったのである。

 

 駆除が終了したコックローチは敷地の隅に穴を掘って放り込み、焼却処分する予定である。メイドたちが総出で掃除を頑張っているところだ。シェーダは卒倒してしまったのに、メイドたちは嫌そうな顔をしながらも手際よく片付けている。

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在。

 お屋敷の主人代理であり表向きは若旦那様からご主人様に格上げされたけれども未だに若旦那様と呼ばれ続けている男は、外向きのお客様を迎える応接間にて蒼の薔薇の三人と向かい合っていた。

 ティアとティナはソリュシャンが連れて行った。残ったのはラキュースとイビルアイとガガーラン。

 開口一番、ガガーランから『石ころに助けられた気分はどうだ?』と問われた男は、『大変感謝しています。石ころにも適切な利用方法があると教えていただきました』と正面から打ち返す。

 全ての罵倒を受け流す男なのだから、皮肉が通じるわけがない。それにも関わらず、その気になれば相手が気付かない皮肉を流暢に語り続けられる男である。

 

 男の護衛にして正式な部下となったミラは、我が身をわきまえて余計なことを言わないし表情も崩さない。

 もう一人の護衛として男の隣に座っているルプスレギナは、皮肉に反応する精神力が残ってなかった。体力は万全だが精神はゴリゴリと削られ、叶うならばベッドに潜り込みたかったところだ。

 

「今回の件についての報酬は私からお支払いします。今この場に限るなら、即金で金貨二千枚までお支払いします。一ヶ月後までお待ちいただけるなら五千枚までお出しします」

「それじゃ一年待つとどうなる?」

「公金貨に換算して十万枚お支払いする事が可能です」

 

 金銭感覚が狂ってるルプスレギナでも、公金貨十万枚が大金なのはわかる。そんな事言って大丈夫なのかと男をつつくが、男の態度に変わりはない。何か問題がとでも言いたそうに怪訝な目を返してきた。

 

 アルベド様の危険を払ったのだ。金で片が付くなら安いもの。しかしながら、お給料ではとても追いつかない額である。だったら稼げば良いだけだ。

 今この瞬間にも、魔導国、帝国、王国、聖王国で数十万もの金貨が行き来している。一日で移動する金貨は何百万、何千万となるだろう。幾億枚もの金貨が動いている。それに比べたら十万など大したことではない。

 今は手元にないだけで、しかるべき手段でそれらを集めればよい。

 十万もの金貨を支払っても、魔導国の富の創出を行うのだからアインズ様もお喜びになるはずである。

 

「但し、即金でない場合は魔導国の冒険者ギルドを通して受け取って頂きます」

「俺たちを王国から魔導国に鞍替えさせようってか?」

「違いますよ。ガガーラン様は冒険者ギルドを冒険者への依頼斡旋所と勘違いしていますね」

「違うのか?」

 

 生粋の冒険者であるガガーランにとって、冒険者ギルドは冒険者への依頼斡旋と報酬を受け取る場所でしかない。

 

「アインドラ家のご令嬢であるラキュース様ならご存知でしょう」

「私達はお金が欲しくて依頼を受けたわけではないわ。私達が求めるものはもっと崇高なものよ!」

 

 マジかこいつ知らないのか。

 

 男は愕然とした心情を素直に表情に乗せた。

 ガガーランは兎も角として、貴族の令嬢であるラキュースは知っていなければならない事だ。それらを教えられる前に生家を出奔して冒険者になったのか、教えられていたのに頭に入ってないのか。冒険者でいるならいいが、貴族としては致命的である。

 

 魔性の美貌に呆れられるのは、誰であれ羞恥を覚えさせる。

 ラキュースはソファから立ち上がって冒険者としての矜持を歌ったのに、頬を赤らめ耳まで染めて、静かに座り直すと小さくなって俯いた。

 

「説明いたしましょうか?」

「…………お願いします」

 

 ナザリックがユグドラシルにあった時代、ギルドは特典を得るための恒久的な集団を意味した。

 この地における冒険者ギルドや魔術師ギルドのギルドは全く違う。同業者による組合である。好き勝手に作れるものではない。然るべき筋の公的な許可がいる。

 

「ギルドは国家もしくは領主からその業種における独占権を与えられた組合です。独占する代わりに仕事の質を保証しなければならない。一番の目的は徴税のためです。ギルドを通すことによって金の移動を捕捉し、徴税するわけですね。貴族であるなら知っていて当然と思いましたが、冒険者であるなら知らなくても構わないことではあるでしょう」

 

 つまり、ギルドを通さない仕事は脱税と同意である。闇経済である。明るみになったら犯罪だ。

 魔導国宰相閣下相談役と言うことは公人と言うことで、積極的に脱税するわけがなかった。

 

 簡易な説明を、ガガーランはわざとらしくあくびをして、ラキュースは真面目な顔でふむふむと頷く。最後の一人は右から左へ聞き流した。

 

「私には関係ない話だ。今回の件で報酬をもらう気はない」

 

 コックローチを駆除したのはイビルアイで、屋敷内のルートを確保したのはティアとティナだ。

 ガガーランは見てただけ。蒼の薔薇のリーダーであるラキュースはそれに加えてコックローチの群れに及び腰だった。二人が報酬について主張するのはおかしい事ではないが図々しい事ではある。

 

「数が多かろうとゴキブリを退治しただけだからな」

 

 皆が皆、協力して悍ましいその名を出さなかったのに、ちびっ子仮面はこともなげに口にする。

 

「聞きたいことは幾らでもあるが……」

 

 ゴキブリの大群はどこから来たのか。エントマとか言う異形のメイドは本当に危険がないのか。後ろに控えている女はどう見ても吸血鬼でそこに思うことはないのか。吸血鬼を恐れないのか。美しかろうとどうして只の人間が魔導国の宰相閣下に目を掛けられているのか。王国を敵視する理由があるのか。ゴキブリがまだ残っていたのに頑なに入れようとしなかった奥の間とは何なのか。

 様々な疑問が駆け抜け、最後に残った一つこそがわざわざエ・ランテルを訪れた目的である。

 

「モモン様にお会いしたい。是非話したいことがある」

 

 モモン様にお会いすることがイビルアイの至上目的である。モモン様なら魔導国と王国の戦争を防ぐために尽力してくださるに違いない。

 二人で力を合わせればきっと良い方向へ進むに決まっている。

 二人で共同作業を行っていけば二人の距離が縮まるのは時間の問題だ。

 距離がなくなった末にモモン様から愛を告白されたら当然お受けするつもりでいる。

 モモン様は偉大な英雄で自分は時を忘れた吸血鬼。身の程知らずとかおこがましいとか、色々な思いが湧き上がるが、長い時間の中で例え一時と言えども共有する事が出来るのではないだろうか。

 一応、究極の目的が戦争阻止であることは忘れていない。

 

「私がエ・ランテルに戻ったのはほんの数時間前です。モモン様にはお会いできていません。イビルアイ様たちがいつから滞在しているのか存知ませんが、モモン様にお会いできていないのですか?」

「お忙しいようですれ違っている。宿にも伝言を頼んだがお戻りになっていないようだ」

 

 冒険者チーム漆黒が常駐しているのはエ・ランテルで一等高級な宿である「黄金の輝き亭」だ。高給取りであるアダマンタイト冒険者の蒼の薔薇も同じ宿を選んだ。

 しかし残念ながら、一度も会えていない。宿の雇人に尋ねても答えはなく、冒険者ギルドに問い合わせても教えてもらえない。かと言って魔導国の中枢である城に乗り込むのはハードルが高すぎる。王国の冒険者が迂闊に近寄れば面倒が起こるかも知れない。

 

「私は先日まで帝国に滞在しておりました。現在のモモン様の動向は存じ上げておりません。以前と同じように私どもを気にかけてくださっているなら、いずれこの屋敷にいらっしゃってくださるかも知れません。時折ではありますが、モモン様はナーベ様とご一緒にいらっしゃることがありました。モモン様だけでいらっしゃることもありましたが、それについてはお聞かせすることではないでしょう」

「っ!」

 

 イビルアイは仮面の下で、ギリと歯を鳴らした。

 モモン様はこの屋敷で婚約者の方と逢瀬を楽しむ事がある、と言ったのは目の前の男だ。

 見たことも聞いたこともないモモン様の婚約者。名前すら知らない。

 自分が知らないのだから、本当は存在していないのではないだろうか。自分を貶めるために寄って集って嘘を吐いているのではないだろうか。

 万が一にも本当に存在していたと仮定して、二世紀を超える生で初めての恋なのだ。モモン様を想う気持ちは自分の方が遥かに強いに決まっている。

 

「わかった。さっきの言葉を撤回させてもらう」

「報酬の件でしょうか? 私で可能なことなら何なりと」

「モモン様にお会いできるまでここに滞在させてもらう!」

「賜りました」

 

 即答する男に、ルプスレギナはうへぇと顔をしかめた。

 

「話は終わりましたか?」

 

 ティアとティナを伴ったソリュシャンが応接間にやって来る。

 ソリュシャンが手にした緑色の瓶を見て、男はあっと声を上げた。

 

「蒼の薔薇のガガーラン様はお酒がお好きと聞きましたので、どうぞこちらをお持ちください」

「ふぅん? ラベルも何もねーな?」

「お兄様がブレンドしたお酒ですから」

「待てソリュシャン!」

 

 毒じゃねーだろうな、と追撃しかけたガガーランに、男の切羽詰まった声が先んじた。

 

「それはアルベド様に献上するつもりの」

「何を馬鹿なことを仰りますか。お兄様が隠していた物ですわ」

「いやだってそれは俺が飲もうと」

「ブレンドできるのはお兄様だけですのに、随分と長い間手を休めていらっしゃったご様子でしたわね」

 

 色々問題を引き起こしてくれたお兄様にはこの程度の罰があって然るべきなのだ。

 

「…………」

 

 試行錯誤して調合している間は面白かった。完成したら飽きてしまった。調合作業は繊細な手順を要するが、手間がかかるだけの単純作業になった。

 以降、消費する分しか生産していないお酒である。サボってたから余裕がないと言われたらその通りだった。

 

 男はミラに命じてデカンタボトルを持ってこさせた。

 クリスタルガラスのボトルはナザリック製だが、余計な装飾が全くない。ナザリック的には使い捨てして構わないレベルの単なる透明なガラス瓶である。

 ソリュシャンが持っていた緑色の瓶の首を切り落とし、中身をデカンタボトルに注ぐ。

 無色透明の液体はガラス瓶の底にぶつかるなり幾つもの小さな気泡を立ち上らせ、しかし水面で弾ける前に液体の中で溶け消える。

 小さな気泡は赤青緑に紫色をして、光に翳すとキラキラと輝いて見えた。

 

「気泡を星になぞらえザ・スターと名付けました。レシピは確立しているのですが調合過程が繊細すぎるようで私以外に誰も調合出来ていません。非常に強い酒ですから、最初は必ず十倍以上に割ってお楽しみください」

 

 華奢なグラスへ魔酒を注ぐ。

 グラスの中でも小さな星々が瞬いている。

 女性ばかりである蒼の薔薇たちがグラスに見入るのは、女の子は綺麗なものが好きだからだろう。ガガーランさえ見入っているのはとても美味しいらしいお酒だからだろう。

 

 男はグラスの中身を一息で呷り、ふうと熱い息を吐いた。

 これでしばらく飲み納めである。材料があっても完成するまで一週間も掛かってしまうのだ。

 

「ボトルには保存の魔法が掛かっています。飲まずに飾っておいても良いでしょう」

「それじゃありがたくもらっとくぜ」

 

 蒼の薔薇のお酒担当はガガーランであるらしい。大振りのデカンタボトルだが、ガガーランの手にあると小瓶に見えた。

 終始冷静を失わなかった男が慌てふためく姿を見れて、ガガーランはご満悦である。上機嫌で椅子を立った。屋敷に滞在するつもりはなく、黄金の輝き亭に戻るつもりだ。

 ラキュースは座ったままのイビルアイとガガーランを交互に見つめ、ガガーランと一緒に行くことにした。

 残ったティアとティナは男を囲む。

 

「お嬢様から私達に依頼があると聞いた」

 「依頼は蒼の薔薇に? それとも私とティアに?」

「二人だけでいい。二人はウィットニーさんを知ってるか?」

「「ウィットニーさん!」」

 

 二人は声を揃えて伝説の名を叫んだ。

 

「ウィットニーさんの冒険者講習を見た」

 「ゴールドとか言うから正直舐めてた」

「ソロなのにアダマンタイトでもおかしくない」

 「戦闘力はそこそこだったけど判断が抜群に早い」

「どうして知られてなかったのか謎すぎる」

 「英雄として知られてなきゃおかしいレベル」

「二人が知らなかったのは当然だ。ウィットニーさんの本業はパン屋だからな」

「「パン屋!?」」

「俺からの依頼は、ウィットニーさんに冒険者を辞めさせてパン屋に戻すことだ」

 

 とても私欲にまみれて魔導国の国力を落としかねない依頼だった。

 双子忍者が男を見る目はとても白い。

 

「報酬は言い値を払おう」

「受けた」

 「期限は聞いてないから無期限でよろしく」

 

 白かった目がキラリと光る。

 ティアとティナの未来に輝ける光が差し込んできた。

 

 

 

 

 

 

 一通りの話がついた。

 イビルアイは屋敷に残り、他のメンバーは黄金の輝き亭に戻る。

 ティアとティナは早速冒険者ギルドに向かってウィットニーさんと接触するようだ。

 ガガーランはせしめた酒のボトルを一撫でして口角を釣り上げる。

 

 ラキュースは後にした屋敷を振り返り、美しい男の姿を思い描いた。

 男の青い右目は、死んだと聞かされた男の右目と似ているように思えた。




エントマと見せかけたイビルアイ編の導入部は接点が全く無かったので弛んだ気がします
次回は登場人物が絞られるので色々締まるはずです、たぶん

ガガーラン退場フラグ
推しの方がいましたが、勇次郎にしか見えんのです(ノ∀;`)


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国堕とし堕とし ▽イビルアイ

迷走してました


「滞在中はこちらの部屋でお過ごしください。部屋にあるものは自由に使っていただいて構いません。ご用命の際は手近なメイドにお声掛けください。イビルアイ様もご存知のように今は少々慌ただししく、私は所用を片付けなければなりません。また後ほど参ります」

 

 白い女を連れた男が退室するなりイビルアイは窓を開けた。鍵は掛かっていなかった。三つある窓の全てが問題なく開く。

 窓に掛かる緋色のカーテンはどのような材質で作られているものか、陽の光を全く通さない。全部のカーテンを引いて閉めると部屋の中は真っ暗になった。程なくして魔法の明かりが仄かに灯る。

 カーテンを開けてからドアを開いた。

 

「御用がございますでしょうか?」

「……いや、何でもない」

 

 ドアを開けた廊下にはメイドが二人立っていた。

 イビルアイはドアを閉めて部屋に戻る。

 

 メイドは見た目通りの只のメイドで強さを全く感じない。彼女らを突破するのは容易いことだろう。

 たとえドアが使えなくても窓がある。飛行の魔法を使えるイビルアイなので、事あらば窓から逃げればよい。

 

(ここは敵地だ。あいつらが宿に行ってくれて良かった)

 

 人間とは違う亜人やアンデッドが数多暮らすエ・ランテルだ。この屋敷は人間たちと魔導国中枢との橋渡しとなる場所であるらしいが、信頼は出来ない。魔導国は王国と緊張状態にあり、屋敷の主は魔導国宰相閣下の相談役であるらしいのだ。

 かつて王都で対峙した異形のメイドもいる。相性が良くて辛くも勝利を収めたが次はどうなるかわからない。少なくとも、魔皇ヤルダバオトがいないのは確かだ。

 彼の魔皇を思い出すと恐怖に震える。その魔皇を倒したのが魔導王。異形のメイドは魔導王に忠誠を捧げているようなので、この屋敷で問題を起こすとは考えたくない。

 

 男が連れていた白いドレスの女を思い出す。

 血の気の失せた白い肌。赤い唇から除く氷柱のような牙。黒い眼球に輝く赤い目。どう見ても吸血鬼だ。

 吸血鬼をどう思っているのか危険だとは思わないのか。それともあの吸血鬼だけが特別なのか。

 

 

 

 

 

 

「エントマさんの本当の顔、ですか?」

「そうだ。少女の顔をしているがあれは仮面だとお前は知っているのか?」

 

 夜が更けてから、男が白い吸血鬼を伴って再訪した。

 日中は白いドレスをまとっていた吸血鬼は、今着ている服は服なのだろうか。仲間のティアとティナも胸当てを外すとすごい格好になるので指摘できないのが何とも歯がゆい。

 

「それはイビルアイ様がご指摘して良いことではないでしょう。鏡を見ることをお勧めします」

「うっ……」

 

 イビルアイは額に宝石を嵌め込んだ白い仮面をいつも被っている。一人がけのソファに身を預け、男と相対している今も着けている。

 

「エントマさんがどのようなつもりで仮面を被っているのか聞いたことはありません。仮面を外したところを見たことはありません。エントマさんと顔を合わせたのは今日が初めてなんです」

「仮面の下がどんな顔か気にならないのか?」

「女性が隠していることをわざわざ暴く趣味はありませんよ」

「うっ……」

 

 イビルアイは視線を彷徨わせるが、幸いにも仮面のおかげで動揺を悟られることはなかった、はずだ。しかし、せっかく取り戻した平常心は次の一矢で失われた。

 

「イビルアイ様が仮面を着けているのは吸血鬼であることを隠すためでしょうか?」

「誰から聞いた!?」

 

 イビルアイはソファを蹴倒す勢いで立ち上がった。絶対に秘さなければならない事なのだ。

 吸血鬼はアンデッドである。アンデッドは人類の敵とされている。王国が誇るアダマンタイト冒険者である蒼の薔薇に吸血鬼がいて良い道理はない。

 

「ティアから」

「ティア!? まさかティアが話したのか!?」

 

 イビルアイは惰性で蒼の薔薇にいるわけではない。他のメンバーとは固い絆がある確信しているからこそ蒼の薔薇の一員でいる。それを裏切られたのだとしたら。

 

「ティアから、イビルアイ様は蒼の薔薇に加入してから全く身長が伸びていないと聞きました」

「…………は?」

「成人しても背が低い者はいます。ですが、イビルアイ様の御髪の艶からお若いのではと察しました。若いのに成長しない。それと夕食をお誘いしなかったことに不快を感じていらっしゃらないご様子。何か召し上がったようにも思えません」

「……昼に食べすぎたせいだ」

「イビルアイ様を言い負かしたいわけではありませんので、そう仰るのならそうなのでしょう。それが先程イビルアイ様ご自身がお認めになったこととどう関係するのかわかりかねますが」

「くっ……!」

「続けますと、若いままで年を取らない。食事を必要としない。そのような種族がどれほどあるのか存知ませんが、すぐ傍に同じ特性を持つ者がおりますので」

 

 男の後ろに立つ女吸血鬼が頭を下げた。

 男の指図を受けて、女吸血鬼がワゴンを二人が挟むテーブルの傍に運んでくる。茶器や酒器が載ったワゴンだ。吸血鬼であるイビルアイは手を付けていない。

 男はワゴンからティーカップを一つ取る。カップをテーブルに置き、その中に小さなグラスを入れた。グラスはガラスが分厚く、かなり底上げされている。

 そこへ湯を注ぎ、少し待ってから湯の中に指を入れて、

 

「あちっ」

「ご主人様、私が取り出します」

 

 女吸血鬼が湯の中のグラスを取り出し、ワゴンに備えてあった布巾で水気を拭き取ってからテーブルに置く。

 

「ペニーグラスというグラスです。別名を一舐めグラス。見ての通り、ほんの一舐め程度しか入りません」

 

 吸血鬼の前に、温めた空のグラスを出す。何を意味するのか分からないイビルアイではない。そんな事は望んでいないと鋭く睨みつけたつもりだが、仮面を着けている。

 

「ミラ、爪を出せ」

「かしこまりました」

 

 ミラと呼ばれた女吸血鬼が跪き、右手を差し出して人差し指を伸ばす。細い指に雪のような白い爪が光るのは、輝くほど鋭く尖っているからである。

 イビルアイの目の前で男がミラの爪に触れ、ややあって赤い血が滲んできた。

 ぽたりぽたりとグラスに落ちる。

 温められたグラスは血の匂いを撒き散らし、仮面を通してイビルアイの鼻孔をくすぐった。

 

「私に血の味はわかりませんが、吸血鬼の方々にはとても良い評価を頂いております。イビルアイ様へは食事を振る舞えないのですから、せめて私の血をご賞味ください」

 

 吸血鬼として二半世紀を生きるイビルアイだ。血を啜った事は何度もあるし、白い喉に牙を突き立てたことだって数え切れない。しかし、今となっては昔のこと。ラキュースが率いる蒼の薔薇に敗れて自身が蒼の薔薇の一員となってからは断っている。仲間たちを捕食するようでどうしても気が進まなかった。

 戦闘で人血を見ても浴びても、吸血への誘惑は完全に断ち切れていた、はずだった。それなのに、仮面に隠れたイビルアイの目は鮮血を湛えたグラスに釘付けになっている。

 

「そうじゃないだろう」

 

 男の言葉に、イビルアイは弾かれたように顔を上げる。

 男が差し出した指をミラがハンカチで拭おうとしているところだった。

 

「ですが、その……ご主人様の血は……」

「イビルアイ様の前で、吸血鬼であるお前が、俺の血は不味くて飲めないとでも言うつもりか?」

「とんでもありません! 全くの反対でございます! ご主人様の血はとても香り高く芳醇で魂にすら染み込む至高の美味でございますから私めが舐め取ってしまうのは余りにも勿体ないことでございまして」

「早くしろ。垂れる」

「………………はい」

 

 ミラが血に濡れた指を唇へ運ぶのを、イビルアイは目を皿のようにして見つめた。

 

 ミラへ唐突に訪れた試練である。

 たった一舐めで至福の世界に旅立ちかねない血液なのだ。前例が何度もあるので間違いない。色々と成長した今ならば昏倒まではしないはずである。

 しかし、至福に酔いしれてしまうのは確実だ。その瞬間を狙って万が一にもイビルアイがご主人様へ危害を加えようとしたら護衛としての務めを果たせる自信がない。しかし、ご主人様は血を舐めとれと仰せである。

 

「はふぅ…………」

 

 赤い唇が閉じられた。しばらくして、引き抜かれた指と唇とで銀色の糸を引く。

 ミラはうっとりと目を瞑り、自身の唾液で濡れたご主人様の指を拭うのも忘れて豊かな胸を両手で押さえる。

 イビルアイは喉を鳴らした。反射的に尋ねていた。

 

「……美味いのか?」

「美味いか、ですって?」

 

 何が気に障ったのか、ミラは目を釣り上げて立ち上がる。

 

「それは太陽は東から登るのかと聞くのと同じです。美味なのは当然ですがそれだけではありません。もしもご主人様の血を指して美味と呼ぶのなら、この世にあるありとあらゆる料理は泥をこねているのと同じです。ご主人様の血をそのような次元で語ってはいけません。味覚を幾つも超越した超次元における味覚が存在するのなら美味と呼んでも良いのでしょう」

「だそうで」

「はっ!? 申し訳ございません!」

 

 イビルアイはその場に跪くミラから視線を外し、再びテーブルの上へ。

 

「折角温めたグラスが冷えてしまいます。どうぞお飲みください」

「……そこまで言うなら」

 

 仮面をずらし、小さなグラスを手に取る。

 仮面の下には細い顎と形の良い赤い唇が覗く。グラスに唇が触れ、赤い舌が赤い血を舐め取った。

 イビルアイの手から離れたグラスは、テーブルに落ちる前にミラが受け止めた。

 

 舌に触れると同時に感じた強い酩酊感が不快にならなかったのは、それ以上に強い陶酔感があったからだ。

 美味と呼ぶなら確かに美味だろう。濃厚な旨味がある。舌触りはなめらか。僅かに感じる甘みは吸血鬼独特の味覚によるものか。それだけで全身で感じるほどのものがあるとは思えない。これは確かに、味覚を超越している。血を嗜む吸血鬼の超感覚でしか味わえない至高の美味。

 あえて難を言うならば、強すぎる。たった一口で忘我の域に至ってしまうのだから、続けて飲んでしまったらどうなってしまうかわからない怖さがある。

 体中に力が漲ってくるようでいて心地よい酩酊感が続き、久しく忘れていた満腹感はこれなのだと教えてくる。如何に美味だろうとこれ以上飲めそうにない。

 

「なっ!? 何をしてる!?」

 

 ミラ曰く、味覚を超越した至高の美味は時間感覚をも狂わせたらしい。イビルアイが至福の世界から現世に戻ってくると、ソファの向きが変わっていた。

 眼の前に男が片膝をつき、立てた膝の上にイビルアイの右足を乗せて靴を脱がせに掛かっている。

 

「先ほどマッサージを行いますと申しましたらイビルアイ様はご了承くださいましたのでその準備をしております」

「そ、そんな事を言ったのか?」

「はい。吸血鬼であるイビルアイ様は睡眠が不要なのでしょう? それでもベッドに横たわれば心身が休まるはずです。その一助となれるようマッサージを申し出ました」

 

 イビルアイには聞いた覚えも答えた記憶も全くない。

 成り行きに混乱している最中にも靴が脱がされ、細い足を包む黒いストッキングを脱がされようとしている。

 待てと言おうとした時、横に片付けられたテーブルの上に白い仮面が置かれているのを見た。イビルアイが着けていた仮面だ。と言うことは、今は素顔を晒している。

 仮面を着けるか男を止めるか、それよりも重要なことに気が付いた。

 

「ま、待て! そこからだと、その……スカートの中が見える!?」

 

 二半世紀を生きた吸血鬼にして女以前の少女であるイビルアイだって女の子である。男の人にパンツを見られるのは恥ずかしいのだ。

 

「それなら私は目隠しをしましょう」

 

 ミラが持つ白いハンカチを目に巻き付け、男はイビルアイのストッキングを脱がせた。

 

 

 

 

 

 

 アインズ様からスペシャルオーダーが下っていた。

 

 イビルアイを部屋に案内した直後、男は事の次第を書面に書き起こしルプスレギナに持たせて城へ走らせた。

 事が自分の権限内で収まることなら兎も角、イビルアイの望みはモモン様と会うことである。アインズ様にお伺いを立てなければならない。

 イビルアイはエントマの仇敵であるらしいので処分するのか、それともアルベド様の恩人として持て成すのか。

 処分する際は王国の冒険者がエ・ランテルで消息を絶つ際に生じる問題点を上げ、それぞれの解決策も記す。持て成すのであれば当方で判断。もしもモモン様としてお会いなさるのならば場を整える。

 ルプスレギナが持ってきたアインズ様のお言葉は「うまくやれ」であった。

 

 アインズ様は面倒になってしまったのだ!

 聖王国を属国化したばかりで内政がとても忙しいのである。イビルアイがどうのこうのとか面倒で相手をしていられない。

 エントマのことを思えばどうにかしてやりたいがその後が面倒そうである。

 モモンとして会うつもりもない。忙しいのだから更なる面倒事は絶対いやなのである。なお、モモンはトブの大森林に出張中。春になってモンスターが活発化してきたのを様子見に行っている、と言うことになっている。

 アルベドの危険が払われたと言うのはコメントに困るしアインズ自身の責がないでもないような気がするが恩を感じるならお前の方でうまいことやれ、である。

 

 スペシャルオーダーを受けた男が下した結論は、いい声で鳴かせて泣かせてメッタメタにしてから猟奇的な意味でグッチョグチョにしてやればいいと宣うソリュシャンとルプスレギナの意見を却下して、魔導国に取り込むことだった。

 石ころ冒険者であろうと王国では大きな存在であるらしい。それを魔導国の所属とすれば、王国が失った力がそのまま魔導国の力となる。適度に持て成せばアルベド様の危険を払った恩を返せる。一石三鳥である。

 具体的な策として、ティアとティナに出来なかったことをするつもりだ。理と利を解いてイビルアイの判断で魔導国へ鞍替えさせるのである。しかしながら現在、国家間の関係とエントマとの因縁で大分警戒されてるようである。

 第一段階として、警戒を解くことから始めなければならない。血は大層美味しかったようなので、続いてのマッサージで体をほぐしてもらうのだ。

 

 

 

 

 

 

 足の裏を揉みほぐされているイビルアイは、難しい顔で男を見下ろした。

 そんなところを触られればくすぐったいはずだが、しっかりと力が入っているのでくすぐったさの代わりに不快にはならない程度の鈍い痛みと心地よさがある。

 男の手が離れれば触れていた箇所へ血が駆け巡り、吸血鬼の冷たい体が温まってきたような気がする。強い刺激からの開放感も心地よい。

 

「痛くはありませんか?」

「少し。だがこれくらいなら問題ない」

「かしこまりました。今の強さで続けていきます」

 

 右足の次は左足。続いてふくらはぎに移った。細い足首を大きな手が包み、膝裏まで滑る。ここまでは問題ない。

 男の手が膝を越えると、イビルアイは太ももを閉じた。

 

「脚を開いていただけませんか?」

「……本当に見えないんだろうな?」

 

 幼さがある少女の声。イビルアイが着けていた仮面はマジックアイテムで着用者の声を歪ませる効果があった。

 今は素顔を晒して、声も本当の声である。

 

「目隠しがなければイビルアイ様のお顔を拝見できるのですが、生憎見えません」

「さっき見ただろうが」

 

 どこかのお姫様と言われたら頷けてしまう整った顔だ。それなのに仮面を着けていたのは、白い肌と鋭い牙を隠すため。綺麗な顔だろうと一目で吸血鬼とわかってしまう。

 男の方とて見えないのは幸いだ。高慢チキな金髪ロリを視界に収めるのは精神衛生にとても悪いのである。

 

「見えないならいい」

 

 男は目の前に跪いている。太ももを開くとスカートの奥が見えてしまう位置。

 真っ赤な外套の下は黒いワンピースレオタードである。スカート部分は膝より大分上なのだ。普段はストッキングを履いて防御力は十分だが脱がされている。 

 血に酔って思考がいささか雑になってる自覚があるイビルアイでも見られてしまうのは恥ずかしい。見えないなら一先ず大丈夫と判断して太ももを開いた。両膝に男の手が乗せられた。

 

「あっ!」

 

 薄く開いた太ももを、ぐいと大きく開かされた。暗かったスカートの内側の一番奥まで光が差し込む。男が跪いていなくても、対面に座っていたら見えてしまう大股開き。

 

(大丈夫だまだ慌てる時間じゃない安心するんだキーノ、私はイビルアイだろう! あいつは目隠ししてる。絶対見えないはずなんだ。仮に見えても着替えたばかりだ!)

 

 目をぐるぐるさせてるイビルアイとは対象的に、男は冷静に「黒か」と口中で呟いた。

 目隠しに用いているのは薄手の白いハンカチである。遠くは見えないのでイビルアイの顔が見えないのは本当だ。けども近くのものは白く霞むがちゃんと見える。

 イビルアイは黒いショーツを履いていた。衣服は黒。ストッキングも黒。黒が好きなようである。

 幼い容姿とは裏腹に、意外と布地面積が小さい。生地も薄いようだ。

 下着の効果とは秘部の保護の他に防寒がある。吸血鬼であるイビルアイに暑さ寒さは関係ないので、小さな下着で事足りるのだろう。

 

 小さなパンツに惑わされることなく、男はマッサージを続ける。

 両太ももを上から掴み、ゆっくりと進める。薄い肉付きながらも柔らかい肉が手で圧され、小さく波打つ。男の手はスカートの中に隠れ、根本付近までたどり着くと進んだときと同じ速度でゆっくりと戻る。

 緊張に体を強張らせていたイビルアイだったが、同じことが何度も繰り返されれば慣れてくる。それに気付いてか、スカートの中に潜る男の手が少しずつ終点を深くしてくる。ほとんど脚の付け根にまで来るようになり、さするだけだったのが揉むようになる。

 

「太ももの下部に移ります。浅く座っていただけませんか?」

 

 言われた通り、ソファの縁に尻を乗せて足を伸ばす。男は両手の親指と人差し指で作った輪でイビルアイの太ももを包み、膝から脚の付け根までを圧していく。

 脚の付け根から戻ってくる時は、体が引き伸ばされるように感じた。

 

 下半身を男に触られるのは初めてのイビルアイなので、大いに緊張し大いに警戒したが、男を見続ける内に自身のはしたなさを恥じた。

 目隠ししている男の口は固く結ばれ、真剣そのものだ。よくよく見れば、額にうっすらと汗が滲んでいる。大した作業量ではないのに汗ばむほどのことかと思うが、十ある指の一本一本が繊細に力加減を変えている。体力より神経を使う作業なのだろう。

 つま先から生じた熱が体が駆け上ってくる。温浴と似ているようで明らかに違う。男が触れている箇所を越えて、更に上ってきている。

 

「脚を上げていただきます。大丈夫とは思いますが、滑らないよう念の為に肘掛けを掴んでいただけますか?」

「こうか?」

 

 脚は何度も上げているがソファから滑り落ちるほどではない。内心で首を傾げるが、イビルアイは素直に肘掛けを掴んだ。男は真剣にマッサージをしているのだから、今更疑うことはない。

 事実、他心なく真剣にマッサージをしているのだ。ちゃんとしたマッサージなのだから、揉んだりさすったりだけでは足りないのである。

 

「なななっ!!」

 

 男はイビルアイの両膝裏に手を入れると、そのまま上へ持ち上げたのだ。

 膝の高さはイビルアイの目線の位置にまで届き、尚も押される。膝頭が肩に触れた。

 

「さすがに体が柔らかいですね。太ももとふくらはぎを伸ばしていきます。もしも苦しかったり痛みを感じるようでしたら仰ってください」

「だ、だいじょうぶだが、これは……!」

「大丈夫でしたら続けても問題ありませんね。膝を伸ばしていくので、ミラ。イビルアイ様の足首を持て。ゆっくりと上げるんだ」

「かしこまりました」

 

 彫像と化していたミラがイビルアイの足首を持って膝を伸ばす。

 イビルアイはつま先を真上にしているのはいいが、その下が大問題だ。

 両足を上げているのでスカートが完全にめくれている。ソファに浅く座っているため、股間を前に突き出している姿勢だ。

 男には見えていないとわかっても恥ずかしい姿勢で、同性であるミラには下着が見られてしまっている。

 抜け出そうとほんの一瞬だけ力が入ってしまったが、ミラの方が力が強いらしくびくともしない。

 

「うっ……!」

 

 その一瞬後には男の手が脚に触れた。

 脚の付け根に近い太ももの下部を掴み、強く押しながら滑っていく。

 膝裏まで来るとぐいぐい押して、イビルアイは脚の筋が伸ばされるのを感じた。姿勢はあれでも、本当にちゃんとしたマッサージであるらしい。

 

「苦しくはありませんか?」

「だ……だいじょうぶ、だ……」

 

 足首を押さえる女をちらと見上げる。

 ミラは目を閉じて足首を掴んでいる。顔にはこれと言った感情を上らせていない。他意はなく、本当にマッサージの補助であるらしい。

 ティアが見ればあれな忍び装束を脱ぎ捨て仲間に入ってくるであろう光景は、本当にマッサージなのだ。

 

「うぅ……」

 

 男の手が太ももの裏を往復する。

 上に行くときはいいが、下に来ると太ももの内側へ回っている親指がパンツに近付く。

 さっきと同じように終点が段々と深くなり、股間に触られるのをイビルアイが覚悟すると、親指はひょいと避けた。

 肩透かしである。

 気が抜けたのはほんの一瞬、男の手は上に戻ることなく一番下まで滑っていった。

 

「お、おい!」

「何か?」

「い、いや……、さっき……」

 

 イビルアイが思わず声を荒らげた時には、太ももから膝の方へ戻っていた。

 

「だ……、だから!」

「何でしょう? 何かご不快でしょうか?」

「不快なわけじゃ……。もういい!」

「それでしたら続けさせていただきます」

「ひぅっ……」

 

 男の手がまたも一番下まで来る。

 イビルアイはソファに浅く座って両足を高く上げ、股間を突き出している。

 その状態で太ももの裏を一番下まで触られると、尻まで来るのだ。生尻を触られた。

 淀みなく動き続ける内の一瞬だったが、確かに尻を触られた。

 尻を直に触るというのは、何と言うかあれと言うか、一言で言っていやらしいことだ。

 だと言うのに男の態度に下賤なものはない。真剣な表情で太ももを揉みほぐしている。それなのに、「いやらしいことをするな」と言ってしまったら自分のほうが意識していると白状するも同然だ。ティアとティナとは違うのだ。いやらしい女になってしまうつもりは毛頭ない。

 自分さえ変に意識しなければ極々真っ当なマッサージなのだ。

 

 平常心平常心と唱えているイビルアイは、太ももを揉みほぐす手が一番下で揉まれるところを考えないようにしていた。

 

「ひゃあっ!?」

 

 今度こそ親指が脚の付け根に触れる。秘部を覆うショーツの縁に触れている。

 男の両手は蠢き続け、太ももを揉まれると同時に親指は上下に動き始めた。

 

「動かないでください。おかしなところを触ってしまいます」

「おおおおかし!? だってそこは、そこは……」

「ですから触れないように気を付けています。あまり使わない箇所なのでしょう。大分凝っていますよ?」

「……そうなのか?」

「はい。普段使わない部分は意識しないとわかりにくいものです。じっくりほぐしますので、これまで通り気を楽にしてください」

「…………わかった」

 

 飛行の魔法が使えるイビルアイである。走るより飛んだ方がずっと速い。

 そのため、凝っている部分は股関節だと思った。真摯なマッサージが続いているし、おかしな所に触れないよう気を付けている、らしい。近付いても触れられていないのは確かだ。

 おかしな所を意識しているのは自分だけ。

 一方、真面目にマッサージを続けている男が意識したのは女性器であった。

 

 イビルアイは世紀を超える処女なのだ。一人遊びなぞ夢想したこともない堅物である。

 今でこそ仲間を手に入れたイビルアイだが、かつては一国を滅ぼし国堕としと恐れられた吸血鬼である。モモン様が現れるまで男とは無縁の吸血鬼生だった。

 顔さえ晒せば吸血鬼であろうと言いよる男はあったろうが、幸か不幸かそんな事にはなってない。なったとしても、顔だけ見て言い寄る男をイビルアイが相手をするかどうかは別問題。

 

「ふぅ……ふぅ…………はぁ……」

 

 ショーツの縁に触れた親指は、薄布を避けて肌へと直に触れた。

 性器周りの柔らかい肉だ。太い親指に頼りなく押し込まれ、弄ばれている。

 もしも親指だけが動いているのだったら、平常心のために自己暗示を掛けているイビルアイでもいやらしい事だと気付けたかも知れない。しかし、親指以外の四本の指も太ももをしっかりと揉んでいる。

 五本の指が連動することなく一本一本独立して動くマッサージは、この男にしか出来ない。

 

(あそこに触らないようにしてるし、普通のマッサージ、のはずだ。だが体が……、変な気分だ。マッサージとはこういうものなのか? この体にそんなものの効果があるとは思わなかったが……。本当に見えてないよな? 見えてたら私のあそこが……!)

 

 太ももをさすっていた時と同じで、親指が触れる範囲は徐々に広がっていく。

 触っているのはあくまで周囲の柔肉だが、ショーツに隠れた割れ目の下から上までを撫でている。

 上下の範囲が広がるなら左右もそうで、親指と親指の感覚が狭まってきた。揉みほぐしているのは脚の付け根ではなく、陰唇と言って良い。

 それに釣られてショーツも内側へ追いやられている。

 イビルアイは、はぁと熱い息を吐いて肘掛けをぎゅっと握った。

 

 二半世紀を超える生で、イビルアイの女は生きるために切り離され心の奥底に沈殿していた。

 それがモモンに救われたことで女であることを思い出す。今や男の手でかき回され、体がはっきりと思い出した。

 単なるマッサージだと思い込もうとしているイビルアイは気付かない。心より先に体が気付いた。

 

「あぁ…………。まだ、続ける、のか?」

「少しずつほぐれているのがわかりますよ。もう少しです」

「…………っ!」

 

 親指は狭まりショーツは内側に追いやられ、未成熟な性器を覆うだけとなった。

 ミラに足首を掴まれ吊るされたような姿勢のせいで、少しずつ尻が前に滑っていく。そのせいでショーツが引っ張られ、割れ目に食い込んだ。

 イビルアイの体感では、大切な部分を紐で隠しているようなもの。

 

「ふぅ」

「ひゃぁぁあ! いいいいいきをするな!!」

「無茶言わないでください」

 

 吸血鬼と違って人間は呼吸しないと死んでしまうのだ。

 男が吐いた温かい息が敏感になってしまった内股をくすぐったと、イビルアイが言えるわけがない。

 

「もういい! ここまでだ! マッサージはここまででいい!」

「まだ脚だけなのですが、よろしいのでしょうか?」

「私がいいと言ったらいいんだ! 早く離せ!」

「かしこまりました。続きは明日にいたしましょう。ミラ、離せ」

「はっ」

 

 男は命令を間違えた。離せではなく下ろせと言うべきだった。

 

 高く持ち上げていたイビルアイの足首をミラが離すと、重力に従って二本の足は下がっていった。

 イビルアイの目の前に跪いていた男の肩に太ももがぶつかる。

 

「おっと」

「!?」

 

 大陰唇をほぐしていた親指が左右に引かれ、ショーツの向こうで幼い割れ目がくぱあと開かれた。

 ショーツと言っても押しやられ引っ張られ、ほとんど紐になってしまった薄布である。白いハンカチ越しに、男の目に潤んだ肉色が映った。

 

 事態はまだ止まらない。

 男の肩にぶつかった太ももは膝が曲がって、両足で男の背を打った。見ようによっては、イビルアイが太ももで男の顔を挟み、自身の股間へ押し付けているようでもあった。

 背を打たれた男の顔は前に進み、くぱあとなってしまったイビルアイの内側へ唇が触れた。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

 細い太ももにぎゅっと力が入る。

 男の口が空気を求めて反射的に開く。赤い唇が赤い肉に触れ、イビルアイは咄嗟に男を引き剥がした。

 かつてなく息が荒い。

 

「ハンカチを外してよろしいでしょうか?」

「駄目だ! 私は寝る! 私がベッドに入ってから外せ!」

「……仰せの通りに」

 

 どたばたと慌ただしいイビルアイの気配を感じながら、男は唇を舐めた。

 微かにイビルアイの味がした。




さくっと終わらせる予定だったイビルアイですが属性過多(こじらせ金髪ロリ吸血鬼+あるふぁ)なので勿体ないと思い、あれとこれとそれもと思ったら遅くなりました
()内のあるふぁは3〜5くらいあるんじゃなかろうか

癒やし枠でいてもらおうと思ったエントマについてアンケートです
基本的に一話先は闇なので書いてる本人にもどうなるかさっぱりわかんないですね!


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女たちの逆襲 ▽イビルアイ♯2

色々詰めて約18k字
分割したほうが良かったかもです


 エ・ランテルの大きなお屋敷のエントランスに二頭の馬が牽く豪奢な馬車が停まっています。本来は六頭立ての馬車ですが、市中を廻るのに六頭では過剰なのです。

 若旦那様が先に馬車へ乗り込み、ステップに足を掛けたイビルアイへ手を伸ばすところを、お屋敷の二階の窓から見下ろしている女たちがいました。

 

「おにーさんに接待されちゃっていい気なもんすねー」

「お兄様のお優しさに付け込む品のない女よ」

「エンちゃんはよく平気っすね?」

「んー?」

「エントマ、あなた何食べてるのよ!」

「おにぃちゃんがくれたのぉ。これ食べて頑張りなさいって」

「朝早くから回復頼むってなんのことかと思ったらこれっすかぁ……」

「自分でスパってやっててすごかったよぉ!」

「ここにもお兄様のお優しさに付け込む女が……」

「そんなんじゃないもん! それより二人共暇なら手伝ってよぉ」

 

 お食事部屋のコックローチを全て駆除したエントマですが、続きが待っていました。お食事部屋の隅から隅まで綺麗にしなければならないのです。床はもちろん、壁も天井も、ソファやテーブルなどの調度品も、全てを入念に拭き掃除しなければなりません。コックローチが這ったお部屋なのですから当然です。アルベド様からの厳命です。

 床や調度品だけならまだしも、壁に天井もとなると難易度も労力もかなりのものを必要とします。

 

「残念だけどそんな時間はないわ」

「えぇえええ! 手伝ってよぉ! 一人じゃむりぃ!」

「こっちはこっちで仕事があるんすよ。おにーさんが一時間仕事すると二人掛かりで半日掛かるんすから」

 

 帝国で収集した一次資料の整理が待っているのです。

 ソリュシャンとルプスレギナが書類を広げるのを見て、エントマは肩を落としながらお食事部屋のお掃除に向かいました。

 

「どうかなさいましたか?」

「いや、何でもない」

 

 イビルアイはお屋敷の二階の窓を一瞥してから、若旦那様の手を取って馬車に乗り込みました。

 

 

 

 イビルアイを魔導国に取り込むのが大方針です。そのためには魔導国の良い面を知ってもらうのが一番なのです。

 この日は馬車を流しながらエ・ランテルの案内をして市民の活力を実際に見てもらいます。尤も、蒼の薔薇一行はしばらく前からエ・ランテルに滞在しているそうなので不要だったかも知れません。

 一応の目的地として冒険者ギルドがありました。不在のモモン様について教えてもらうのです。蒼の薔薇一行には守秘を盾に何も語りませんでしたが、お屋敷の若旦那様へ同じ対応は出来ません。若旦那様へ熱い視線を送る受付嬢を後にして奥へ通され、ギルド長と面会することが出来ました。

 ギルド長は、モモン様はアインズ様のご要望でトブの大森林へ行っているらしい、としか知らないようでした。それ以上のことはお城の方へ問い合わせて欲しいとのこと。

 

 モモン様の目的地がわかったので早速追いかけよう、とはさすがのイビルアイでもなりません。

 トブの大森林は滅茶苦茶広いのです。しかも名のごとく「大森林」ですから、鬱蒼とした木々に視界が遮られとても見通しが悪いのです。トブの大森林の何処かにいる誰かを探すなんて、王国全土を捜索するより大変です。

 

 お城の然るべき方にお会いしたいとの要請書を作って一日が終わりました。

 

 

 

「昨夜は来なかったな」

 

 翌日、開口一番に飛び出した皮肉に一番ビックリしたのは、皮肉を飛ばしたイビルアイ自身でした。それでは来てくれなかった事に恨み言を言っているようではありませんか。

 昨夜の若旦那様はイビルアイの元を訪れず、ミラだけを向かわせたのです。吸血鬼同士でしか話せない事もあるのではと気を利かせたのです。が、イビルアイもミラも口が上手い方ではありません。夜が更けてから夜が明けるまで、静寂の支配する時間が八割でした。逆を言えば、二割はそこそこ実のある話が出来たのです。若旦那様の話ばかりでしたが。

 

「それでは今夜も先日のようにイビルアイ様の慰撫をさせていただきます」

「して欲しかったわけではなくて……」

 

 モゴモゴと言葉を濁すイビルアイは拒否まではしないようです。若旦那様はイビルアイの様子に気にせず話を続けます。

 

「今朝早く返書がありました。アインズ様の居城を訪問できるのは明日以降となります。本日は屋敷でお過ごしください。ご希望があれば伺います」

「……特にない」

 

 イビルアイは「この男が吸血鬼をどう思っているのか聞いてみたい」と思いましたが、夜に時間を作ってくれるのならその時で良いと判断しました。

 

「それでは私から一つお願いがございます」

「なんだ?」

 

 柔らかな雰囲気の若旦那様が瞬時にピシッとなりました。何を言われるのもか、イビルアイは警戒しつつも鷹揚に言葉を待ちます。

 

「イビルアイ様のお召し物についてです」

「………………は?」

「赤い外套の下に着ている服はとてもお似合いでした。ですが、それは戦闘服ではございませんか? お言葉ですが、屋敷の中で相応しい装いとは思えません。正体を隠したいお気持ちはわかります。それでも、せめてこの部屋にいる間は着替えていただけないでしょうか?」

「うっ……」

 

 至極尤もな意見でした。真っ赤な外套を脱げば可愛い衣装ですが、可愛くてもところどころに金属部がある武張った戦闘服です。華やかでいながらぎりぎり華美にならない上品なお部屋には相応しくありません。

 

「この部屋には私の許可なく誰も立ち入らないよう命令してあります。昨日の外出中にそこのクローゼットに衣服を用意させておきました。ご自由にお召しください。ミラはイビルアイ様のお手伝いを」

「かしこまりました」

 

 若旦那様は、正直に言うとミラに手伝わせるのはちょっと不安があったりします。こういう事はジュネの方が得意と思うのですが、いないのですから仕方ありません。

 イビルアイに反論の機会を与えず、若旦那様は行ってしまいました。

 

(これが服!? 透けてるだろう!)

(インナーですから)

(同じことだ! それもダメだ! 丈が短すぎる!)

(それならこちらは?)

(派手過ぎる。もっと落ち着いた色彩がいい)

(黒がお好きですね。反対に白は如何ですか?)

(だから透けるだろう!)

(これなら透けません)

(ぶっ! これは服じゃない。紐と言うんだ!!)

 

 ドアの向こうから言い争いを聞いたような気がする若旦那様ですが気にしないことにしました。ソリュシャンとルプスレギナのお仕事をチェックして、新たなお仕事を振らなければならないのです。

 

 

 

 夜半、若旦那様がミラを伴ってイビルアイの部屋を訪問します。お部屋の中はあちこちに色とりどりの衣服が散らかっていました。奮闘の跡が窺えます。明日の日中は外出予定ですので、メイドたちに片付けを命じなければなりません。

 ベッドに突っ伏していましたイビルアイはうっそりと起き上がって先日と同じソファに座ります。

 

「とてもよくお似合いです」

「世辞はいい」

 

 お着替えしたイビルアイは真っ白でした。

 肩から吊るすキャミソールワンピースです。シンプルな衣装は素材が全てです。首から下は無垢で清純なお嬢様に見えました。

 仮面を外して整った顔立ちは隠していないものの、確かな実力が裏打ちする自信が表に出ています。言い方を変えると、やや勝ち気なようにも見えてしまいます。

 どことなく疲れているように見えるのは、慣れない服を着ているからでしょうか。

 若旦那様の後ろで、ミラが密かに拳を作って軽く振りました。渋るイビルアイを着換えさせた事だけは評価しても良いでしょう。

 

 先日と同じように茶器とグラスを用意して血を垂らします。

 切った指をミラに舐めさせ、イビルアイへグラスを差し出します。

 

 グラスを手にしたイビルアイは、すぐには口をつけません。

 若旦那様はソファに座るイビルアイの後ろに回り、失礼しますと断ってから肩揉みを始めました。イビルアイが着ているのはキャミソールワンピースなので、肩には細い肩紐が掛かっているだけで細い首筋も肩もむき出しです。

 素肌に触れられ、んぅと艶めかしい声を上げたイビルアイは、小さく首を振って口を開きました。

 

「お前は吸血鬼に血を振る舞う事をどう思ってるんだ?」

「健康に害が出たり吸血鬼に転化させられるのは困りますが、そうでないのならお喜びいただけて幸いと思っております」

 

 吸血鬼からの吸血による吸血鬼への転化の条件を事細かに調べた若旦那様ですので、たとえ牙を突き立てられても吸われる前に抜けば大丈夫とわかっています。いっそ吸血箇所を切断するのもありでしょう。

 首の場合は色々と覚悟が必要になるでしょうが、敵意ある吸血鬼に首を晒すほど呑気な若旦那様ではありません。

 

「吸血鬼が恐ろしくないのか?」

 

 イビルアイ的には覚悟を要する質問でしたが、この類の問いかけは些か辟易としている若旦那様です。

 

「イビルアイ様が仰るのは、吸血鬼に危険を感じないのかという事でしょうか? 少し例え話をさせていただきます。恥ずかしながら、私は一度眠ってしまうと中々起きられません。一定時間眠らないと、外部の刺激では簡単に目が覚めないようなのです」

 

 ソリュシャンに寝フェラされるかシクススにビンタされるかしないと起きない男です。

 

「もしも眠っている間にメイドたちから包丁を突き立てられたら死んでしまいます。ですが、彼女たちはそんな事を出来てもしません。社会性があるからです。それと全く同じことですよ」

「……そうか」

 

 イビルアイは、言外に「あなたを信頼している」と言われたように感じました。

 冷めてきたグラスに舌をつけます。

 口福に酔いしれながら、心地よい肩揉みに身を委ねました。

 

 

 

 

 

 

「前回のマッサージがお気に召したご様子ですので、今回も同じようにさせていただきます。こちらの椅子にお座りください」

 

 イビルアイがマッサージを希望していると聞いて、ミラに運ばせた椅子である。

 幅が広くて背もたれが高く、座面の下に脚を乗せる部分が伸びている。肘掛けはない。ベッドを椅子の形に折り曲げたような形状である。

 

「倒しますよ」

 

 イビルアイが椅子に座ってから背もたれを後ろへ倒す。同時に足置きが上がっていく。簡易なベッドになるリクライニングチェアベッドなのだ。

 

「それでは失礼します」

「待て! どうして椅子に上る? 足からするんじゃないのか?」

 

 イビルアイの想定では、一昨日のように足から揉まれていくのだと思った。キャミソールワンピースは膝まである上にゆったりとしているので、脚を上げたり開いたりしてもスカート部分の生地が股間を隠してくれるはずである。

 しかし、男は椅子に上がってきた。イビルアイの細い腰を跨いで椅子の座面に両膝をついた。

 

「そちらも施術しますが、まずはお顔から取り掛かります。普段のイビルアイ様は仮面をつけておりますので、表情をあまり意識しないのではありませんか?」

「うっ……」

 

 図星である。顔を隠してこっそりせせら笑う、などと性根の悪いことはしないが、意識して表情を作ることはない。使わない能力はなんであれ衰えるものである。一言で言って表情筋が死んでいた。

 

「私から見られたくないと仰るなら前回のように目隠しをいたしましょう」

「そうは言っても、だな……」

 

 二半世紀を生きてもイビルアイは女の子。見た目だけで心を動かされるほど初心ではないが、間近に男の美顔が迫るのはなんとも面映い。

 

「ミラに見られるのがよろしくないのでしょうか?」

「そうではなくて……」

 

 お前の顔が恥ずかしい、と言ってしまったら誤解を招くのをイビルアイはわかっている。しかし他に言いようがない。綺麗な顔が近くに来て恥ずかしい、とは口が裂けても言えない。

 

「お顔に触れられるのがお嫌というわけではありませんね?」

「それは違う」

 

 女の顔は大切なものだが、それと同じくらい大切な所の近くを触れられている。もしかしたら唇が触れたかも知れない。それに比べたら堪えられないでもないことである。

 

「わかりました。イビルアイ様にも目隠しをしていただきましょう。見ているから気になるのです。見なければ問題ありません。寝台に横たわってマッサージを行う場合、被術者が明かりに目を眩まさないよう目隠しをすることは間々あることです。ミラ、ソファに置いた俺のジャケットのポケットに白いリボンが入ってるから、それでイビルアイ様の目を覆ってくれ」

「かしこまりました」

 

 イビルアイが口を挟む間もなく話が進んでいく。

 見ているから恥ずかしいのは確かだ。見ていないとおかしな事をされるかも知れないとは思うが、前回の様子から大丈夫と信じたい。男の方は既に白いハンカチで目隠しをしている。

 イビルアイがうーとかあーとか言ってる間に、白いリボンを手にしたミラが近付いてくる。

 

「失礼いたします」

 

 白いレースのリボンだ。目を開ければ、多分透けて見える。

 閉じた目の上に優しく巻きつけられる。男が着ていたジャケットの内ポケットに入っていたからか、男の体臭が薄く鼻孔をくすぐる。

 体の力が抜けたのは、不快な匂いではないと思ったからか、視界を閉じてマッサージを受けるためにリラックスしてきたのか。

 

「それでは始めさせていただきます」

 

 

 

 

 

 

 イビルアイの目に巻きつけたのはアルベド様から下賜されたエンゲージリボンである。女の自由を奪い、開放されるには男の精液が必要となる。とは言え、イビルアイの何処かへ何かを突っ込む予定はない。

 エンゲージリボンの効果として、体の力が抜けるのだ。前回のマッサージでは警戒されていたらしく、体が強張っていた。マッサージをするなら心身の力が抜けたほうが良いに決まっている。そのためのエンゲージリボンである。

 

 女心検定の八級にすら落第する男では、緊張と警戒と照れ隠しの区別が出来なかった。女心は未だにさっぱりでも、要望をはっきりと伝えれば誠意をもって応えるところをそれなりに評価されているのは余談である。

 

「失礼いたします」

「ん…………」

 

 吸血鬼の白い頬を男の手が包み込む。

 イビルアイには久しい人肌だ。蒼の薔薇の仲間たちに仮面の下を見せることはあっても、触れさせることはない。手を取り合うことくらいはあっても、素肌を晒さないためにいつもは二の腕まであるロンググローブを着けている。

 手のひらから伝わる温かさが気持ち良い。たったこれだけで癒やしの効果があるのではと思わされる。

 

「医療処置を手当てと呼ぶことがあります。このように手を当てるわけですね」

 

 心を読んだような事を言う。イビルアイの冷たい頬にじんわりと熱が移ってくる。

 

「これからお顔のマッサージを始めます。唇に触れるかも知れませんのでご了承ください」

「わかった」

 

 頬を包むだけだった手が動き出した。

 目の周りを軽く圧したり眉間を摘んで上下に動かしたりはいいが、頬に手を当ててゆっくり回したり圧されたりすると変顔になってしまっているのではないかと気になるが、向こうも目隠しをしているはずなのでイビルアイは気にしないことにした。ミラはこの前と同じように近くに立っているのだろうが、昨夜一晩話したことで真面目な女だとわかっている。まさか笑ったりしないだろう。

 男の指が何度か唇に触れる。

 最初の数度は頬を撫でる拍子に触れてしまったのだろうが、唇の端をほぐされている時はずっと触れている。どうやら中指が唇の端を圧しているようで、二本の人差し指が下唇に触れたままでいる。

 左の人差し指は、さっき血を流した指だ。微かな血臭が残っている。イビルアイの赤い唇を割って、小さな舌がちろと伸びた。

 

「あっ! いや、今のはその……」

「もう一度お召し上がりください」

「そういうつもりでは……。んうっ!」

 

 男の指が口の中に入ってきた。

 舌が小さな切り傷を見つける。舐めても血の味はない。歯を立てるのは憚られる。強く吸うと少しだけ滲んできた。

 ちゅうちゅう吸っても一滴あるかないかの微かな量。それでもグラスからではなく、男の肌からの直飲みだ。男の指を舐めてしゃぶる実感も合わさって何かが高ぶってくる。

 

「そろそろ続けてよろしいでしょうか?」

「んんっ!? …………ちゅぷ……。たのむ…………」

 

 無心で指をしゃぶっていた。

 ちゅぷんと音を立てて引き抜かれた指は、イビルアイの唾液に濡れ光っている。

 

「肩周りをほぐしてからご要望通りに脚の付け根を施術します。そこから徐々に上へ移る予定です」

 

 触れるか触れないかの絶妙な加減で顎から首を撫でる。鎖骨をなぞり、肩を押さえた。

 二の腕を掴んで上へ下へ。右にも左にも。肩を回して肘も曲げる。最後は脇と肩の付け根をぐっと圧す。

 

「痛みますか?」

「いや。だがそこを変にくすぐったりするな」

「わかっております。左も同じようにしますが、腕に疲労は溜まっていないようです」

「それは、な」

 

 イビルアイは吸血鬼なので肉体的疲労とは無縁なのだ。

 左腕にも同じマッサージを受けてから、男が脚の方へ下がっていくのを感じた。

 また昨日と同じことをされるのかとときめいていたら違和感に気付いた。上半身に開放感がある。

 イビルアイが着ているのはゆったりしたキャミワンピ。涼しい服装ではあるものの、こうも外気を感じるものではない。

 

(ま、まさか……。胸が出ちゃってる!?)

 

 鎖骨や肩にマッサージをされてる時に肩紐がずれてしまったのだろうか。脱げてしまったら気付きそうなものだが、注意が肩に集中して気付かなかった。

 目隠しをされているので脱げてしまっているとは思うも確信はない。

 本当に肩紐がずれてしまったのなら直せばよい。しかし、手を動かすと目の前にいる男にぶつかってしまう。あちらも目隠しをしているので見えないはずだ。

 この場で見えているのはただ一人である。

 

「ミラ……、私の格好はおかしくないか?」

「イビルアイ様におかしいところはございません」

「そ、そうか……」

 

 とても疑わしいが大丈夫であるらしい。

 大丈夫でなくとも、見られているのが同性のミラだけなら良しとする。日中、着替えの手伝いで半裸を見せてしまっている。

 

「続けますよ?」

「あ、ああ。すまなかった」

 

 男が膝に触れ、スカートの中に忍び込んでくるのを感じた。

 

 

 

(実年齢は知らないが肉体年齢はシャルティア様と同じくらいか? そう考えると年の割に大きい方かも知れない。シズさんよりは確実に大きいな)

 

 ぺったんこなシャルティアや、仰向けになると真っ平らになってしまうシズに比べると、確実に大きい。

 イビルアイが背を預ける背もたれの角度は120度ほど。重力に負けて薄く広がってしまうほどではないのもある。

 男の目には、白いキャミワンピを胸の下までずり下げられ少女の膨らみを晒しているイビルアイがはっきりと見えていた。

 

 目隠しのハンカチは、イビルアイが目隠ししたと同時に外している。

 エンゲージリボンは薄いレースだが、その上から真っ赤な包帯を巻きつけているのでイビルアイが目を開こうとも見えることはないだろう。赤い包帯はデミウルゴス様からカルカをプレゼントされた時のラッピングである。視界と聴力を完全に封じるマジックアイテムだ。耳までは覆っていないので聞くのは問題ない。

 見られることを気にしているのはイビルアイであり、そのイビルアイの目を封じて見られることを気付かせなければ、こちらが目隠しする必要はないのである。

 キャミワンピをずり下げたのは単純に邪魔だったからだ。マッサージをするなら全裸のほうが望ましい。しかし、イビルアイは脱ぐことに抵抗があるだろう。それ故の妥協である。

 

 なお、胸のサイズ的にブラジャーを着けて乳房を包んでも良かったろうが、部屋でくつろぐのに締め付けるものは適さないようで、インナーにはスリップを着けていた。

 キャミソールもスリップも似たようなものだ。キャミソールはアウター用もインナー用もあるのに対し、スリップはインナー専用である。他にも丈の長さや素材に違いがある。

 イビルアイが着けていたスリップはキャミワンピとは反対の黒。ミラのセレクトである。

 

 男はミラへ向かって拳を突き出し、親指を立てた。

 ミラは恭しく一礼した。

 

 

 

「んぅ…………。いきなりか……」

「脚に疲労は溜まっていないとわかりましたから、前回の続きからいたします。脚を少し広げますよ」

「ああ……」

 

 スカートの中に差し込んだ手が、柔らかな内股に触れる。そろりそろりと這い進み、脚の付け根に届いたら太ももを持ち上げた。

 少しと言ったくせして、股の開かせ具合はとても大きい。股関節の可動域を攻めているような開き方だ。

 股を開かされると上へと持ち上げられ、自然と膝が曲がった。その状態で足置きに足の裏がつく。

 太ももと脛でMの字を作る開脚方法を、イビルアイは知らない。

 

(脚をそんなに持ち上げられるとまたパンツが……。見えてないから大丈夫のはずだ。胸も大丈夫だよな? ミラは大丈夫と言ってたし大丈夫だ見られてない! こいつも目隠ししてるんだから)

 

 膝丈のキャミワンピなので、膝を立てるとスカートの中が見えてしまう。

 目隠しをしていない男にはばっちり見えた。今日は白だった。

 余計な装飾がない光沢ある白いパンツ。太ももと太ももの間を包む生地が柔らかそうに膨らんでいる。

 両太ももの裏側を掴んだ男はゆっくりと手を下げていき、親指がパンツの縁に触れた。頼りない薄布を押しやることなく、親指はパンツの下へ潜り込んだ。

 

「そこは……!」

「この前も同じように揉んだのをお忘れですか?」

「忘れてないが……」

「この前の続きです。お気付きの点がございましたら仰ってください。こちらからお聞きすることもあると思われます。どうか気を楽にして私にお任せください」

「わ、わかった……。んっ……」

 

 イビルアイは世紀を超えた処女で、肉体も未成熟な少女のもの。秘部は無毛の一本筋となっている。

 パンツの中に入った親指は互いに触れ合うところまで近付いて、指と指の僅かな隙間にイビルアイの女が隠れている。

 親指が触れているのはイビルアイの大陰唇だ。柔らかな肉を抑えつけ、上下に動き始めた。

 

「前回の最後はここをほぐしている時にイビルアイ様の脚がぶつかってしまって驚きました。イビルアイ様は大丈夫でしたか?」

「私も驚いたがそれだけだ」

「それではもう一度同じことになっても問題ありませんね」

「え…………? なななっなにをっ!?」

 

 目隠しされていても、自分の体にされていることははっきりとわかる。

 パンツの中に潜り込み柔肌を圧していた親指が、左右へ引かれた。

 パンツの中で、筋に過ぎなかった幼い割れ目が開かれた。

 

 前回も同じことをされてしまったが、あれは事故だったとイビルアイの中では納得している。

 それがいまや、意識的に割れ目を開かれている。これは間違いなくいやらしい事だ。

 

(見えてないからってこんな事を……。くうううぅぅううう! 顔から火が出るとはこの事か!? だが……、体が動かない。いやなら突き飛ばせば済むことなのに。私はされてもいいと思っていると言う事か? こんないやらしいことを……。いやらしいけど、こいつには見えてないし。本当にダメな時はダメと言ってやればいいわけだし……)

 

 男にはばっちり見えている。白い薄布を通して、薄っすらと肉色が見えている。

 大陰唇を押し広げて割れ目を開かせ、そのまま上下に指を動かす。

 顔を近づけて目を凝らすと、開いた内側の上端にほんの小さな突起があるように思えた。割れ目を閉じると突起は消え、開けば現れる。とは言っても僅かなもので、パンツの皺がそう見えていると言われたらそうかも知れない。

 脱がせば話は早いが、そこまでするつもりはない。

 

「あっ! なん、だ? やめろ……」

 

 太ももに添えているだけだった四本の指を滑らせた。

 指はパンツのサイドから内側へ入り込み、パンツを巻き込んで上がっていく。釣られてイビルアイの股間を覆う部分が食い込んでしまう。

 下着を食い込ませたまま、男はイビルアイの割れ目を広げてやった。

 薄布が張り付いた股間には、小さな突起が現れている。パンツの皺は伸ばされて、突起はイビルアイのものだと確信できた。

 イビルアイは、クリトリスを勃起させていた。

 

 イビルアイに目隠しをしてから時計の長針が半周以上回っている。エンゲージリボンのもう一つの効果が出てきたのだ。

 覚醒サキュバスの祝福を受けたリボンである。女を拘束する以外に、発情させる効果があった。

 イビルアイはそれと知らず、体を反応させている。

 女以前の少女であり、かつては人間であったが吸血鬼に転化してからは人を捨て女を捨て孤独な吸血鬼として生きてきた。自分の中に淫らな女を見つけたことは一度もないのだ。

 

「失礼しました。下着を引っ張ってしまったようですね。少し下げてよろしいでしょうか?」

「……少しだけだからな」

 

 引っ張られても生地が伸びたり傷んだりしない丈夫なパンツである。ナザリック製の魔法が掛かったパンツなのだ。

 男の手が、引っ張られたパンツの位置を元に戻す。

 やや行き過ぎて、後ろの方はパンツのゴムが尻の丸みの方にまで来てしまったし、前の方は恥丘が見えてしまって秘部がぎりぎり隠れるところまで下がってしまった。

 イビルアイはパンツの履き心地に違和感があっても体を動かせないので自分では直せないし、見えないし、男からも見えないはずと思って、言及しないことにした。

 

「先程申し上げたように上へ移ります。お腹から下腹部に掛けてですね」

 

 男の指が元あったところに戻らないのを、イビルアイは安堵したのか残念に思ったのか、自分でもわからない。

 男の手はパンツから更に進み、触れたのはへその上だった。

 五指を伸ばして手の平をあてられている。頬を包まれていた時のように、手に平から熱が移ってくる。心地よい暖かさ。

 お腹を直に触れられているが、性器周りを揉まれるのに比べたらいやらしいことではない。

 嫌なら跳ね除ければいいのだから、恥ずかしくは感じても体が動こうとしないのは、本心では嫌ではないと思っているということか。

 

 エンゲージリボンの効果を知らないイビルアイは、体が動かない理由を自分に納得させている。

 本当に嫌ならそうと言えば止める男なので、勘違いとは言い切れない。

 

「あぁ……。さっきのは少し……恥ずかしかったが……。今度のは体が安らぐようだ」

「そう仰っていただけると幸いです。少し力を入れますので驚かれないようにご注意ください」

「ああ……。んっ」

 

 両手を重ねて腹を圧しているようだ。押しながら大きく円を描いている。

 手の平から移る熱が皮下に染み込み、イビルアイの体を熱していく。

 

「ふぅ……、はぁ…………。んんっ……」

 

 手の平は徐々に下がっていく。へその上だったのが下腹に来た。

 そこが子宮の真上だと、イビルアイが気付くわけがない。

 吐息に艶が混じり、イビルアイが長く眠らせていた女が呼び起こされていく。

 手の平の下端がずり下がったパンツの縁に触れるところまで来ると、そこはもう恥丘の上。下腹から恥丘までを執拗に撫で続ける。

 

 適度に下げられたパンツだが一度食い込むまで引っ張られたため、クロッチ部は股間に張り付いたままでいる。

 食い込んだのとは別の要因で張り付いているのを、イビルアイは気付かない。

 固く結んでいた唇が薄く開いている。

 あぁと漏れる少女の声はイビルアイが意識してのものではない。目覚めつつある女が勝手に漏らしている。

 

(さすがはアルベド様から頂いたリボンだな。かなりほぐれてきてる)

 

 それに加えて魂にすら直接触れ得る男の愛撫である。

 鬼に金棒、あるいはドラゴニオにティーゲルハッチ。つまりは絶対無敵なのだ。

 

 重ねていた両手を広げてぬめる下腹に押し当て、上へと滑らせる。

 キャミワンピの裾が捲られ、パンツはもとよりへそまで露わになった。

 ずり下げられたキャミワンピの襟の下から手の平が現れ、乳房に触れる手前で戻っていく。

 白い膨らみに色づく愛らしい乳首は、吸血鬼の常で赤みが濃い。シャルティアたちと比べればやや薄めの色で、ピンクのシズと真っ赤なシャルティアを足して割った色合いだ。

 ふぅと息を吹きかけてみた。

 

「ひゃああぁ!? なななにをした!?」

「息をしただけです。また息をするななどと仰らないでくださいね」

「言わないが……、ひゃっ! ……そこに掛けるのは止せ」

「そことはどこの事でしょう?」

「どこって……」

 

 聞かれて答えられたら困っていない。

 

「ミラ! 私はおかしな格好じゃないって言っただろう!」

「はい、申しました。私はおかしな格好だとは思っておりません」

「思ってないって……!」

 

 こうも敏感に感じるのだから、胸がはだけてしまっているのは確実だ。

 それを、ミラはおかしな事ではないと言っている。

 問い詰めてやりたいが、それをしてしまうと目の前にいる男に「おっぱいが出てしまっている」と伝えるのも同然だ。

 乳首に息を吹きかけられて驚いてしまったなんて言えるわけがない。

 

(うぅ……、なんだか張り詰めてるような。これは……あれか? 立ってるとか言うやつか? 凄く敏感になってる。息を掛けられただけであんななのに、もしも触られたら……)

 

 イビルアイが口中に湧いた唾を飲み込む音は、静かな室内で大きく響いた。

 

「はぁっ……。んっ……、くすぐったい……」

「強めに押してると思うのですがくすぐったいのですか?」

「そうじゃなくて……、息がくすぐったい……」

「それは失礼しました」

 

 勿論、わざと吹きかけたのだ。

 何度も息を掛けていく内に、小さな乳首がむくむくと膨らんでくるのは見ものだった。

 両方にするとさすがに不自然を感じるだろうから、右にだけ息を吹きかけていた。左は小さいままで、右は勃起している。前後の対比を見ることが出来、こんなに変わるものなのかと感心してしまう。

 

「もっとしっかりすればくすぐったくない」

 

 意外なことを聞いたように思った。

 

「吐息だとくすぐったいのなら直に触れば良いでしょうか? 私からは見えませんので誘導してくださいますか?」

「あっ……、いやそのそれは、だな……」

 

 思ってもみないことだとは言い切れない。内心で少しだけ考えたが、して欲しいと言うつもりは全くなかった。

 それなのに、反射的に口をついてしまった。

 

「どこでしょう? またくすぐってしまうのは心苦しいので、イビルアイ様のお望みに沿いたいのです」

「それは……、ひゃっ!」

「また失礼を。私の口の先なのでしょうか?」

「う………………。そう…………だ。ひゃうっ」

 

 確かめるように息を吹きかけてから、男の顔が近付いていく。

 吐息が温かく感じる距離まで近付いて、イビルアイはとても重要なことに気付いた。

 男の両手は下腹をまさぐっている。

 くすぐったのは吐息で、息とは口から吐かれるものだ。

 吐息が当たる部分を目指して近付いてくるのは、男の口に他ならない。

 

「はぁあっ!? あっ、そんなぁ……。んんっ……、あぁっ……!」

 

 だらりと下がった両手が椅子の座面を搔く。

 勃起した乳首に触れたのは、男の唇だった。

 

「ここでよろしかったようですね。手が塞がっておりますので、口で失礼します」

「あっ、んっ……。やぁ、なめるなぁ……。はうぅっ!? だからって、あんっ……。かむなぁ……。ああんっ!!」

 

 唇で挟んだ乳首に、舌で触れた。

 舐めるな噛むなと言うイビルアイの言葉を無視して、れろれろと尖った乳首を舐め回す。

 成熟した女達に比べれば小さな乳首だが、勃起した弾力は大きさに反比例して力強い。舌で転がすと跳ね返ってくるようだ。

 ちゅうと強く吸ってこれまた小さめの乳輪まで口に含み、根本を歯で甘く囚える。弾力を楽しみつつ、リズムをつけて先端をねぶってやると良い声で鳴き始めた。

 

「お腹の方も段々と下げていきます。触れて欲しくない場所がございましたらそこまでと仰ってください」

「だめなばしょ? んう……、じんじんして……。あつくなってる? ちくび、なめるなんて……」

 

 性的な愛撫は初めてのイビルアイだ。

 自分の手で触ってみるならまだしも、触っているのは異性だ。男だ。

 心も体も焦がす熱が一体何なのか、イビルアイにはわからない。

 いけない事なのでは、と思う。いやらしい事だと思う。男の口が乳首に吸い付いた瞬間、こんな事をさせてしまってよいのだろうかと疑問が過ぎった。

 乳首を舐められて自分の口から聞いたこともない声が上がっているのを聞いても、これはいやらしくて本当はいけないことなのだと思う。

 だけれども拒めない。体が動こうとしない。拒否の言葉を上げてるつもりでも、大きな声ではない。心の奥底では止めて欲しくないと思っている。

 

 だから今になってもイビルアイは気付かない。乳首を吸いながら下腹を撫でていた男の手が手首を返したのを。

 上を向いていた指先が下を向いている。

 宣言通り、男の手が下がっていく。

 指先が恥丘を撫で、パンツの縁に届き、パンツの上ではなく中に入ったのを、イビルアイは気付いた。

 気付いて、何も言わなかった。

 口から溢れるのは荒い息と、弱々しい懇願だけ。

 懇願は「やれ」と言っているのか「やめろ」と言っているのか、どちらであっても同じ意味だと思われた。

 

「そこはぁ……。あっ、あっ……。声……、でちゃう。あぁん……」

 

 下着越しでも触れなかったイビルアイの秘部に、男の手が届いていた。

 長い中指を筋の上に乗せ、人差し指と薬指で大陰唇に触れている。

 三本の指は小さく円を描いて、中指だけが割れ目の内側へ沈んでいく。

 中指の腹は当然として、背にも湿り気を感じた。

 イビルアイがパンツに染みを作っていたのは、イビルアイ本人は気付いていた。

 

 イビルアイは濡らしていた。

 執拗な愛撫によって膣から愛液を分泌し、幼い割れ目の内側を潤わせ、肌に張り付く下着に滲ませていた。

 

「はぁ……はぁ……。あんっ……、あんっ♡ そんなとこ、さわるなんてぇ……。ひゃぁああん♡」

 

 甲高く甘い声。

 イビルアイのぬめりをまとった中指は、膣口を狭める薄い肉ひだに触れた。

 入らないではないだろうが入れるつもりはない。イビルアイは初心な処女なのだ。初心者にはまだ早い。初心者向けのところがちゃんとある。

 中指が探り当てたのは、陰唇を揉んでいた時から勃起させていたクリトリスだ。

 

「あっ、あっ、あっ、そんな……、こんなのってぇ♡ だめなのにぃ♡ あぁん……、つまむなぁ……♡」

 

 指先で弾いていた肉芽を、人差し指と薬指で捕えた。

 肉芽の茎を上下に扱き、敏感な部分へは中指をあてがっている。

 

 イビルアイの股間で右手が働いていれば、左手もサボっていない。

 右の乳首をしゃぶっていた口が、イビルアイの柔肌に唾液の筋を残しながら左の乳首に移った。

 舌で触れた瞬間こそ柔らかかった乳首は、ひと舐めふた舐めする内に固く尖ってくる。

 空いた乳房へは左手が伸びた。

 慎ましくとも背格好の割に大きな乳房。シャルティアやシズと違って揉むくらいはある。

 ふにふにと乳肉を揉み、物欲し気な乳首を摘んでやった。

 

「イビルアイ様が摘んで欲しいのはどちらですか?」

「言うなぁ……。あっあっ、きもちいほう……♡」

「どちらも悦んでいるようですよ?」

「どっちもきもちぃ……。んっ……、あぁっ!」

 

 胸も股間も溶けているようで、波打っている。

 押し寄せる波は体中を荒らしまわって、理性を押し流そうとしてくる。

 とっくに押し流されているのかも知れない。性器をなぶられてよがっているのだから。

 快感に身を委ねていると、波の予兆がわかるようになってきた。

 ずっと気持ち良いのは確かだ。それでも浅いのと深いのがある。

 深いのが重なると、叫んでいるような声になってしまう。

 

「イビルアイ様は愛液の量が多いですね。終わったら下着を替える必要があります」

「そんなの……、わからない……。あ……、だめ…………、くる…………んぅ……!」

 

 イビルアイもまた、シャルティアたちと同じように汁気が多い。小さな膣口から溢れる愛液が男の手を濡らし、パンツでは吸いきれず、尻の方まで湿らせている。

 その時、エンゲージリボンで拘束されているのにイビルアイの体が強張った。つま先をきゅっと折り曲げ、歯を食いしばる。

 無駄な抵抗だった。

 男は同じリズムでクリトリスを弾き、右の乳首に歯を立て、左の乳首はきつく抓った。

 イビルアイは決壊した。

 

「あっ、くぅ…………。ああぁぁあああぁぁぁああああああーーーーーーっ♡」

 

 精神が肉体から弾き飛ばされたようだった。

 真っ暗だった視界に光が明滅し、真っ白になる。

 

 尖りきった乳首はそのままに胸を大きく上下させ、立てた太ももがぷるぷると震え、尻が断続的に痙攣している。

 男の手が引き抜かれたパンツは新しい染みを滲ませ、表にまで出てきてしまった汁が光沢ある生地の上をぬるりと流れていく。

 イビルアイの意識が現世に戻ってようやく、自分は絶頂したのだと知った。

 全身に心地よい余韻と気だるさがある。

 体の深いところに熱が宿っている。

 すごかったとしか言えない経験だった。もう一度と思ってしまい、愕然とした

 本当はいけないいやらしい事だと思っているのに、初めての性的快感でとても気持ちよくなって叫んでしまったのにまだ欲しがるのか。

 自分はそんなにも淫らなのか。

 そんな事を思っている間にも体は反応して、外気の僅かな動きにも勃起した乳首が反応する。膣からとろりと溢れてしまっているのを感じる。

 もう一度と思う心は飢えのようで、気付いてしまったら際限なく湧いてくる。

 

 

 

「んぷっ!?」

 

 はしたないことを言おうとした時、口に何かを突っ込まれた。

 さっきもしゃぶってしまった指であるらしい。

 ほんの一瞬だったので舐めるまではいかなかった。爪が長いように感じたのは気のせいだったのだろうか。

 

「そろそろ私の目隠しを外しても良いでしょうか?」

「ダメだ!」

 

 イビルアイの目隠しをミラが解く。

 視界に光が戻ると、イビルアイが座る椅子の前に目元をハンカチで縛った男が跪いていた。

 

 自分の体を見下ろす。

 服がずり下がって胸がはだけているのを見て、改めて頬に熱が戻ってくる。

 スリップとキャミソールワンピースの肩紐を直してからミラを睨みつけた。この女は一部始終を見ていたはずなのだ。

 ミラは左手で口を押さえている。

 手指の動きであちらを向くよう指図して、指示通りにミラが背を向けてから男を立ち上がらせた。

 

 目が隠れているので表情がよくわからない。

 マッサージと言っていたのにあんなことをされてしまって、怒りと凄まじい羞恥と、心身に刻み込まれた快感がこみ上げてくる。

 

「如何でしたでしょうか?」

「うるさい!」

 

 間違いなく絶頂に導いたはずだが、イビルアイの声も態度もとても厳しい。

 何が拙かったのか聞きたいのだが、うるさいと言われたからには黙らなければならない。

 無言で立っていると、シャツの襟を掴まれた。

 ほんの一瞬だけ、唇に何かが触れたように思った。

 

「目隠しは部屋を出てから外せ!」

「かしこまりました」

 

 散らばった衣服を踏まないよう、ミラに手を引かれて退室する。

 部屋を出て、何が拙かったのだろうと首を傾げた。

 

 この男には照れ隠しがわからないのだ。

 

 

 

 

 

 

「今日もお姫様気取りっすねー。おにーさんが嫌々付き合ってるのがわかりそうなもんすけどねー」

「お兄様はお優しいから本心ではお嫌でもアルベド様への貢献を無視出来ないのよ」

「そんな事より手伝ってよぉ! 昨日頑張ったけど半分の半分も終わらないよぉ!」

「半分の半分なら同じこと四回繰り返せばオッケーっすよ?」

「思ったより早く終わりそうで良かったわね」

「二人のいじわるうぅぅ!! 昨日と一昨日の二日で半分の半分なんだからああ!」

 

 イビルアイは屋敷の二階の窓を見上げてから、男に手を引かれて屋敷の門を出た。

 

 今日の目的地はエ・ランテルにてアインズ様が居を構えるお城である。然るべき方からモモン様の予定をお聞きするのだ。

 話は通っているので、お城では速やかにセバス様と会うことが出来た。

 モモン様は春になって活発になったモンスターの調査に赴いているようである。期間は不定とのこと。

 

 エ・ランテルからトブの大森林まで、片道徒歩で二日は掛かる。帰ってくるのに更に二日。

 多少はモンスターの駆除を行うだろうし、わざわざエ・ランテルに戻ってこなくても、拠点としてカルネ村が使える。モモン様がお戻りになる時期はやはり読めない。

 魔導王の抑止としてエ・ランテルにいらっしゃるモモン様なので、長期間不在となるとは思えない。しかし、モモン様と魔導王の仲が良好なのは知られていることで、エ・ランテルの住民たちも魔導王の支配を受け入れている。

 お戻りの時期はやはりわからない。

 

 必要な話を終えた後、少しだけ王都の話になった。

 セバス様は王都に滞在したことがある。蒼の薔薇が拠点としているのは王都だ。

 セバス様は苦笑混じりに王都の治安について語り、イビルアイは仮面の下で苦々しく顔を歪めた。

 そこへセバス様の直属メイドのツアレが訪れたのは大変間が悪いことだった。

 今でこそ健康な姿でメイドを頑張っているツアレだが、王都にいた頃は苦痛を与えられることだけが存在意義と言って過言ではない境遇だったのだ。

 真っ青になったツアレにイビルアイは事情を察し、王国の冒険者として頭を下げた。

 ツアレの代わりにセバス様が謝罪を受け入れ、それとなく二人へ退室を促した。

 

 

 

 

 

 

 屋敷に戻り、夜が来る。

 

「毎日ではイビルアイ様にご負担があります。今夜は私にも所用がありますので話し相手をご所望でしたらミラをお使いください」

「……一人でいい」

 

 昨夜と同じ服装に着替えたイビルアイは、あてがわれた客室のベッドに突っ伏した。

 睡眠が不要なアンデッドだ。ベッドに埋まっても眠気はやってこない。

 冴えた頭の中では目まぐるしく昨夜の体験が駆け回っている。

 期待してなかったと言ったら嘘になる。

 

 イビルアイが頼もしく思って恋慕っているのはモモン様だ。しかし、モモン様へは己が吸血鬼だと知らせていない。

 対してあの男は、自分が吸血鬼だと知っている。知った上で血を振る舞い、あんな事をされてしまった。受け入れてしまった。

 一生で一度の恋と思っていたのに、揺れ動いてしまっている。

 どうすればいいのか答えは出ない。

 堂々巡りする内に昨夜のことを思い出す。

 体の深いところが疼き、飢えにも似た何かが首をもたげる。

 

 目覚めてしまった女を慰めようと手が伸びようとして、ドアが叩かれた。

 

「誰だ?」

 

 返事はない。

 ドアはなおも叩かれる。

 

 もしや、あの男が忍んできたのだろうか。

 期待に胸が高鳴り、それでも一応は仮面をつけてドアを開いた。

 ドアの向こうには、誰もいなかった。

 

 外は月すら薄い夜だろうと、お屋敷の廊下には魔法の明かりが灯っている。

 右を見ても左を見ても誰もいない。

 耳を澄ませば、幽かな足音を捉えた。

 

 コックローチの駆除をした際、屋敷の廊下は一通り歩いている。

 足音が聞こえたのは、屋敷の主要な者たちの私室がある方向だ。

 なんとはなしに廊下へ踏み出し、足を進めた。

 

 同じ形のドアを幾つも通り過ぎる。害虫駆除時には閉まっていたドアなので、中がどうなっているのかまでは知らない。

 無断で入らないよう注意は受けている。

 深夜の散歩のつもりで歩き続け、開きかかったドアを見つけた。

 

「誰かいるのか?」

 

 廊下から声を掛けても返事はない。

 しばし逡巡し、開いているのだからいいだろうとドアを開けて中に入った。

 部屋の中は暗かった。

 使われていない部屋なのか、魔法の明かりが機能していない。

 暗かろうと吸血鬼には関係ない。

 イビルアイの部屋と同じように並んでいるテーブルや椅子を避け、室内を歩き回る。

 

「明るい?」

 

 どこからか光が差し込んでいるようだ。

 窓にはカーテンが閉められているので、星月の明かりではない。

 部屋を見回せばすぐにわかった。壁の一点から光が漏れている。

 イビルアイは火中へ飛び込む夏の夜の虫のように明かりに近付いた。

 顔を近付け、壁に空いた小さな穴を覗き込んだ。

 

 大きな寝台の上で、二つの裸体が絡み合っていた。

 

(ああ、お兄様……♡ ソリュシャンをもっと可愛がってくださいませ♡)

(わかってるよ。ソリュシャンも随分と感じやすくなったな?)

(お兄様がソリュシャンを愛してくださるからですわ。愛しています。ソリュシャンの心も体もお兄様のものです)

(俺も愛してるよ)

(ああ、おにいさまぁ……。もう一度言ってください)

(愛してる。お前は俺の女だ)

(ソリュシャンはその言葉だけで……もう♡)

 

 イビルアイは、わなわなと全身を震わせて後退った。

 尻に椅子がぶつかり、我に返った。

 部屋を飛び出し、自分の部屋に駆け戻った。

 

 ベッドに飛び込み頭までシーツに潜る。

 

 胸中に湧き出る熱いものは、裏切りへの熱い怒りだった。




アンケートがどうしてこうなったと頭を抱えるレベルで拮抗しつつ捻れてる
そのうちどっちかに傾くんだろうか?
反映するにせよ大分先と思うのでしばらく置いときます


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爆誕と失墜 あるいは女たちの失敗と勝利と敗北

書いといてあれですが、序盤のラキュースの大冒険は飛ばしてください


 蒼の薔薇一行がエ・ランテルの大きなお屋敷を訪れてから六日目。蒼の薔薇のリーダーであるラキュースはグランドツーリングよりリターンした。

 生と死が混沌と入り乱れ過去と現在と未来を駆け巡り己自身と深く向き合った果てに三千世界の命運を決する大いなる旅路であった。ラキュースは世界を食い尽くす艱難辛苦を平らげて現世に帰還したのだ!

 千年後にも真の英雄ここにありと讃えられ得る偉業である。

 

 ラキュースは窓を開け朝の清涼な空気を胸いっぱいに吸い込む。平和な街並みを見下ろして人々の安寧を守れた満足感に柔らかく微笑んだ。誰にも知られぬ旅であったがそれで良い。人々に称賛されたくて旅立ったわけでは無いのだから。

 雲一つない青空を見上げ、虹色ではないことに安堵する。

 

 

 虹色の空を貫かんばかりに聳え立つ高貴な月桂樹の樹冠に住み暮らす宇宙大魔道士から悟りを授けてもらうためにラキュースはただ一人で神樹を登り始めるが『一人きりとは酷いなぁ』と左腕に封じられた邪竜がからかい混じりに顔を出してきたのを無視したのが悪かったのか地上へ向けてドラゴンブレスを吐いたために666匹のドラゴンと無限のナメクジたちとの戦争に巻き込まれてしまった。

 ドラゴンの一薙ぎで一億匹のナメクジは昇天するがその間にも無限のナメクジは無限に増殖した末に一兆匹のナメクジがフュージョンしたアルティメットナメクジとなってドラゴンを圧倒する。

 『くくく、平和主義のラキュースちゃんはどうするんだ?』「あなたは黙っていて!」

 旅の道連れは封印竜だけではない。彼女こそラキュースの中に眠る影のラキュース略して影羅が体の支配を奪おうとするのを必死に抗い争いの原因は目玉焼きに掛けるのは塩とソースのどちらかであるかに端を発していると突き止めたラキュースはマヨネーズを提案。無限のナメクジも6666匹に増えたドラゴンもこれには感動。争いは終わった。ラキュースはマヨネーズ神の称号を与えられ平和の象徴ナメクジドラゴン女王として世界を統べることを望まれたが自分には成さなければならないことがあると孤独な旅を続ける。

 ついにたどり着いた月面世界では月の宮に美酒と美食が振る舞われるがラキュースは誘惑を断ち切り旅を続けようとしたのだがラキュースから分離した影羅が酒池肉林に溺れ美男を侍らせエッチなことになりそうだったところを許せないラキュースは封印剣を開放し天地神明に誓って影羅を討伐せんと進撃した。

 影羅はもう一人のラキュースである。ラキュースと影羅の戦いは一進一退。千年手になりそうなところを『僕が力を貸してあげるよ!』と奮い立った邪竜が影羅に攻撃を始め天秤が傾き影羅は地に倒れ伏す。

 『くっ、殺せ!』『一思いにやっちゃいなよ!』「いいえ、影羅はもう一人の私。倒すのではなく受け入れなくてはならないのよ」『ふん、あまちゃんが』『これは計算違いだったなぁ』

 和解しそうだったラキュースと影羅に邪竜が襲いかかる。封印から解き放たれた邪竜はアルティメットナメクジに匹敵する強敵となってラキュースの前に立ちはだかった。しかしラキュースは影羅と一つになった。パーフェクトラキュースの前に敵はない。封印するしかなかった邪竜をラキュースは退治することが出来たのだ。

 『あなたなら次の位階にたどり着けるでしょう』光の船から降りてきた美しい方がラキュースを寿ぐ。『しかしあなたにはまだ現世ですべき事があります。為すべきを為すためにお帰りなさい』

 赤い光と青い光に包まれラキュースはエ・ランテルに帰還した。

 

 

 

 

 

 

「あ、今日は起きてる」

 「ガガーランはまだ寝てる。二人共飲み過ぎ」

「ずっと部屋にこもってるって聞いた」

 「もしかして毎日飲んでた?」

「……………………え?」

 

 振り返れば懐かしい顔。ティアとティナが呆れ顔でドアから顔を覗かせていた。

 

「もらった酒が空になってる!」

 「空!? 私は全然飲んでないのに!」

「え? え? ……もしかして私、ずっとエ・ランテルにいた?」

「エ・ランテルどころか宿から出てない」

 「むしろ部屋から出てない」

「旅立ったはずじゃ……」

「「誰が?」」

「……私?」

 

 ティアとティナは思わしげな顔を見合わせた。

 

「「大丈夫?」」

 

 ラキュースは大丈夫と答えようとしたのだが脚がもつれた。

 ここ数日、食事もろくに取らず最低限の水分しか取っていない。体が弱っている。旅立ったのはラキュースの心だけで肉体はエ・ランテルの黄金の輝き亭の一室で飲んだくれて惰眠を貪っていた。トリップしていたとも言う。

 

 お屋敷の若旦那様の忠告を無視して、ガガーランと一緒に星々を内包した魔酒をストレートで飲んでしまったのだ。

 それでもラキュースは現世に戻ってくることが出来た。しかし、ラキュースより酒量が多かったガガーランは未だ眠ったままでいる。たった二匙で常人の精神を彼岸に連れ去る魔酒である。常人とは比較にならないほど頑健な肉体を誇るガガーランであっても許容量を超えてしまった。

 

 ラキュースは極々軽い食事を取ってから自身に治癒魔法を掛けて体調を戻し、眠り続けるガガーランにも魔法を掛けるが血色が多少良くなる程度で目覚める気配はなし。

 原因はお土産に貰った酒に間違いない。元凶から話を聞くことにした。

 ティアとティナも依頼の中間報告とかで同行するようだ。

 ひとまず入念に身を清め、準備が整った頃には日が傾き始めていた。

 

 

 

 

 

 

「あー、やあっと来てくれたっすねぇ……」

 

 ラキュースたちを出迎えた赤毛の神官は疲れ果てているように見えた。

 ルプスレギナと親しいか人間観察に優れていれば、苛立ちを抑えつけて疲弊していると気付いたかも知れない。

 

「あのちびっ子を早く連れ帰ってくんないすかねぇ」

「ホントあいつ無理」

「え、エントマ……さん?」

 

 かつて対峙したことがある悪魔メイド改めエントマと言う名らしき少女が続く。

 

「ヤルダバオトに支配されてお前たちと戦った記憶はあるし、あいつに言われたことも覚えてる。でもそう言うのと関係なくてあいつ無理ぃ!」

「お嬢様はカンカンになっちゃって部屋から出てこなくなっちゃったんすよ。どーにかしてくんないっすかね? あんのちびっ子の仲間なんすよね?」

「そうだけど……。イビルアイが何か失礼を?」

 

 ハハハとルプスレギナが乾いた声で笑う。

 エントマは笑うどころではないようだ。愛らしい顔をしたまま静かに怒気を撒き散らす。

 

「見たら一発でわかるっすよ」

 

 

 

 

 

 

 子供には優しい男である。マーレ君には肩車をして、ネムちゃんには抱っこ。では、大人か子供で分けると子供に分類されるイビルアイにはどうなるか。

 ルプスレギナの先導でイビルアイの客室にたどり着いたラキュースたちは、静かに開けたドアの隙間から答えを目にしてしまった。

 イビルアイの甲高い声が響いた。

 

「お前なんてモモン様がいなかったら顔がいいだけの雑魚なんだからな!」

「仰る通りです」

「馬が喋るな!」

「ヒヒーン!」

「突っ込むだけの種馬を走らせてやるんだ。ありがたく思え!」

「ヒヒーン!」

「それ行け全力だ! 雑魚でも走ってみせろ! このザコ、ザ〜〜コ!」

 

 仮面を外して清楚なキャミワンピに身を包んだイビルアイは、四つん這いにさせたお屋敷の若旦那様の上に馬乗りになっていた。

 満面の笑みである。

 鬼気迫る狂気じみた笑みである。

 腕を振り上げ、男の尻をパチンと叩いた。

 

 

 

 ソリュシャンとルプスレギナの策略が失敗したのだ。

 

 イビルアイはただでさえ妹の仇である。

 それを自分たちの男が接待しているのは甚だしく不快であった。どうにかすべきと考えた。

 

 接待の内容をミラから聞き取り盗み見た二人。如何にアルベド様へ貢献したとは言え、あんなちびっ子には贅沢が過ぎるというもの。

 彼の男には既に深い関係にある自分たちがいると知らしめ、仮面で顔を隠したちびっ子吸血鬼には不遜過ぎる想いを断ち切らせるのだ。

 

 途中までは上手くいった。

 ソリュシャンとの情交を見せつけられたイビルアイは、翌日から男への態度を硬化。男が声を掛けても返事すらしなくなった。

 しかし最大にして唯一の誤算は、美神の信徒はその程度でアルベド様への貢献を軽んじなかった事である。

 

 声掛けに全く反応しなくなったイビルアイだが、唯一モモン様の話題については食いついてきた。

 男がモモン様を敬う心に偽りはなく、モモン様談義にはイビルアイも男の裏切りを忘れて言葉を返す。

 そこでイビルアイの歓心を買おうと、男が口にした話題が悪かったのだ。

 

『モモン様はいつもハムスケさんに騎乗していらっしゃいますね。イビルアイ様は馬に乗った経験がおありですか?』

『昔、少し、な。今はフライの魔法がある。馬は不要だ』

『それなら昔を思い出してみませんか?』

『ふん。吸血鬼を乗せたがる馬がいるか』

『いなくもないでしょうが、イビルアイ様が吸血鬼であることを周囲に知らせるわけにはいきませんね』

『それならお前が馬代わりになってみるか?』

『……イビルアイ様がお望みでしたらどうぞ』

『えっ』

 

 それが思いの外楽しかったのだ。

 自分を裏切った男を痛めつけるのは復讐の暗い喜びが心を癒やす。

 美貌の男を自分に跪かせて好き勝手にするのは倒錯的な嗜虐心を大いに満たす。

 昨日から始まった屋内騎乗を、今日は朝から行っていた。

 何でも言うことを聞いてしまう男はイビルアイをとてもとても調子に乗らせてしまって、食事の際などは、

 

『座って食事をとる馬がいるか!』

 

 若旦那様に四つん這いのまま犬食いをさせていた。

 惨めな男の姿に、イビルアイは全身を駆け巡る恍惚とした悦びに堕ちてしまった。

 

 一方、事を盗み見たソリュシャンたちは憤死しそうになった。

 あんな小娘相手に何をしているのですかと訴えるのだが、当の男は子供がすることだからと取り合わない。

 人並みの自尊心を持っていない男である。イビルアイのことは女になりかけかと思っていたがどうやら子供心が大きかったようなので、それ相応の対応をしているに過ぎない。

 アルベド様の危険を払ったのだ。子供の我儘に付き合うくらい大した事ではないと考えている。

 

 

 

「ほらほら走れ! 走れザコ馬!」

 

 子供扱いされようとも、男の背に跨ったイビルアイの足は床に届く。

 膝で畳んで床から足を浮かすならまだしも、急加速するために床を蹴ったり、男を頑張らせようと前に伸ばして爪先で男の頬をつつくのは誰をも絶句させた。

 イビルアイ命名種馬ザコ号は窓際を走り、壁に突き当たって方向転換した。開かれたドアを向いた。イビルアイと、ラキュースの目が合った。空間が氷結した。

 コキュートスの守護階層ですらもっと温かみがあると思われた。

 

「イビルアイ!!」

 

 イビルアイは素早かった。

 男の背から飛び降りるなり床に足をつけず飛行の魔法を発動。

 そのまま宙を飛んで窓から外へ飛び出した。

 咄嗟にラキュースが窓に駆け寄って外を眺めるも、イビルアイの姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

 うちのイビルアイがとんだご迷惑を、いえ子供のすることですから。平身低頭のラキュースの謝罪をあっさりいなし、それでも頭を上げないラキュースを散々宥めてようやく本題が始まった。

 

「必ず十倍に割って飲んでくださいと申し上げたでしょう」

 

 魔酒によって遠い世界に旅立ってしまったガガーランについてである。

 それを言われるとラキュースは弱い。忠告は覚えていたので、大ぶりのジョッキになみなみと注いだガガーランに注意はしたのだが、酒豪であるガガーランは取り合わない。反対に自分もストレートで飲むことになってしまった。

 とても美味しくて夢見るような体験であったのは確かだが、夢を見たまま目覚めないのは困るのだ。

 

「飲みすぎて起きなくなったと言われても対処法は知りません。飲料は口に出来るのですね? でしたら栄養のある飲み物を飲ませて経過を見るしかないでしょう」

「そちらの神官様に回復魔法を掛けていただくことは出来ませんか?」

「してもいいっすけど酔い覚ましには効果ないっすよ? 特にあれはきついっすから」

 

 アルコールへの耐性を失わせて泥酔した上ではあるが、100レベルの守護者統括を一発で昏倒させた魔酒である。常人であれば二匙で廃人になった末、緩やかな死を迎える。

 また、肉体の損傷は回復魔法やポーションでどうにかなっても、精神の損傷はどうにもならない。アインズ様であれば精神に干渉する魔法でもってなんとかしてくださるかも知れないが、このような些事でお手を煩わせられるわけがない。

 同じ酒を飲んでも現世に帰ってきたラキュースと言う例がある以上、ガガーランについては様子見となった。

 

 

 

「ウィットニーさんはパン屋に戻るつもりらしい」

 「むしろ戻りたいと言ってた」

 

 ティアとティナは若旦那様からの依頼の中間報告である。

 

「それならどうして冒険者に講習なんてしてるんだ?」

「本業はあくまでパン屋。だけどシーフとしての技術を腐らすのは勿体ない」

 「伝説レベルのシーフだから当然。自分の技術を受け継いでくれる者がいたら憂いなくパン屋に戻るって」

「つまり後継者探しか?」

「そういう事」

 「そんなわけで」

「「ウィットニーさんに弟子入りしました」」

「弟子入り!? そんなの聞いてないわよ!」

「何度も話した」

 「リーダーが寝てただけ」

 

 ティアとティナは忍者である。シーフとは近しい職業だ。二人がシーフの技術を身につけるのは不可能ではない。

 とは言っても、師事するのはティアとティナを驚嘆させる伝説のシーフである。アダマンタイト冒険者であるティアとティナをして、伝説レベルの技術を身につけるのは生半な事ではないだろう。

 簡単に終わりそうにない長期の依頼になりそうだった。

 

 

 

 

 

 

「ミラだけが頼りよ。私はもうあのチビの顔を見たくないわ。ミラだってお兄様があんな目にあってるのは不快でしょう?」

「はい。ですが上手く行くでしょうか?」

「上手く行かせるのよ。仕込みは私とルプーでしてあるわ。お心が広いお兄様でも、あれならきっと」

「今夜、ご主人様が血を振る舞う時に仕掛けます。もしもイビルアイが暴れた際には私一人では抑えきれないと思われますので、ソリュシャン様にお願いいたします」

「ルプーもいるから問題ないわ。エントマは相性が悪かっただけなのよ。頼んだわよ」

「はい、仰せ仕りました」

 

 

 

 

 

 

 ラキュースたちは窓から飛び去ったイビルアイをお説教すべく待ち続け、お屋敷で夕食をとった。

 日はとうに落ち、夜が深まってきてもイビルアイが帰ってくる気配はない。近くでこちらを見張っているのかも知れなかった。

 ルプスレギナは一行に泊まっていくことを進めたが、それではイビルアイ様が帰ってこれないと若旦那様がやんわりと拒否をする。

 ラキュースたちもそこまで甘えるつもりはなく、宿に置いてきたガガーランも気に掛かる。イビルアイが帰ってきたら絶対にこちらへ顔を出すようにと言付けて宿へ帰っていった。

 

 屋敷の屋根の上からラキュースたちを見送ったイビルアイは、ようやっと中に戻ってきた。

 

「お体が冷えたのではありませんか? 湯浴みの準備が整っております」

「体を冷やす吸血鬼がいるか」

 

 部屋では男が待っていた。

 ミラも同席している。

 日中のお馬さんごっこでは席を外してもらっていたが、血を振る舞う際は間違いがあってはいけないと昨夜も同席していた。

 

 イビルアイが長い髪をかき上げ背中に流し、定席となった椅子に座る。何を言うまでもなく、男がテーブルにカップを置いて小さなグラスを温め始める。

 イビルアイはテーブルのグラスを見て、ワゴンの上の多様なグラスに目を走らせる。

 

「イビルアイ様も慣れてきましたようですので、今夜は多めにお召し上がりください」

 

 ペニーグラスをミラに取り出させ、代わりに湯に沈めたのはショットグラス。こちらも小さなグラスだが、上げ底されているペニーグラスに比べれば三倍以上の容量がある。

 ミラの爪で昨夜より深く指を傷つけ、ショットグラスへぽたりぽたりと血を垂らす。

 血に濡れた指はミラに舐め取らせる。

 血を湛えたグラスをイビルアイに差し出した。

 

「ふん」

 

 イビルアイは乱暴に受け取ってやりたかったが、血を溢してしまうのは流石に勿体ない。顔だけの気に入らない男であるが、血液だけは絶品なのだ。

 笑みを浮かべる男の顔から目を逸らしてグラスを両手に持ち、唇をつけて傾けた。

 とろりと至福が流れ込んでくる。

 この時ばかりは男への苦々しさやこの世の憂いを全て忘れ、恍惚とした思いに浸ることが出来る。

 思いを飾るのは今日も昨日もたっぷりと話したモモン様のこと。

 

「ああ、モモン様……。早く帰ってきてください……」

 

 吸血鬼の白い肌を薄っすらと染め、夢見心地に愛しい英雄の名を呟く。

 直後、横殴りに夢から叩き起こされた。

 

「はい、モモン様の婚約者の方もお待ちでございますから。モモン様も早くお会いになりたいことでございましょう」

 

 目を閉じて、表情を窺わせないミラがイビルアイに答えるともなく答えた。

 イビルアイの手の中で、小さなグラスが砕け散った。

 

「ミラ? どうした?」

「モモン様の胸中をお察ししたまででございます。ご主人様もそのように思われませんか?」

「まあ、そうだな」

 

 モモン様の正体はアインズ様である。そして現在のモモン様はパンドラズ・アクターが担っている。

 その上、アインズ様とアインズ様の正妃に立候補していらっしゃるアルベド様は毎日顔を合わせているはずだ。

 内情を知っているはずのミラの言葉は、男にはいささか不可解であった。

 

「そんなわけがあるか!」

 

 しかし、イビルアイは何も知らない。ミラの言葉の表面だけを受け取った。モモン様はご自身の婚約者に早く会いたいのだろう、と受け止めてしまった。

 モモン様に恋い焦がれているイビルアイだ。傍らに立つ男に一時惑わされたが、女に節操がない不埒な色魔だ。到底受け入れられるものではない。

 イビルアイにはモモン様しかいなかった。

 そのモモン様が、自分以外の女に想いを向けているとは信じたくない。嘘に決まっている。嘘を吐かれている。モモン様は騙されている!

 

 もしもイビルアイが冷静であったら、動揺を誘われても表面上は冷静を保つことが出来ただろう。

 吸血鬼泣かせの血を飲んだ直後の今はそうもいかない。しかも昨夜の倍以上を飲んでいる。

 至福に弛緩してしまった心は、現実を認めなかった。

 

「モモン様は騙されているんだ! どうせその婚約者とか言うのは誰にでも股を開くアバズレに決まってる。そんな女はモモン様に相応しくない!」

 

 イビルアイの慟哭に、男は片眉を跳ね上げた。

 イビルアイにモモン様の婚約者について話したことはあったが、名前までは伝えていない。イビルアイに面識はないはずである。理性的にそう考えるからこそ、それだけの反応で済ますことが出来た。しかし、

 

「アルベド様を愚弄するなんて!」

 

 悲鳴じみたミラの叫びが轟いた。

 

「は? アルべっ!?」

 

 突然出てきた魔導国宰相の名にイビルアイが怪訝に聞き返そうとしたところ、頭部に軽い衝撃があった。

 衝撃は頭骨内を乱反射して視界が真っ赤に染まる。平衡感覚が消失する。

 常人ならそのまま彼岸に旅立つ一撃だが、イビルアイは国堕としの異名を持つ強大な吸血鬼だ。椅子から崩れ落ち、床に倒れる前に体の制御を取り戻し手をつこうとして、首に何かが巻き付いてきた。体の自由が失われ、無様に倒れた。

 

「何をする!? 私に何をした!?」

 

 イビルアイが最後に見たのは、自分の顔に近付いてくる真っ赤な包帯だった。

 

 

「アルベド様を愚弄するなんて許せないっすよ! こいつは生かしておけないっすね!」

「お兄様のお怒りはよくわかっております。ご安心ください。生きながら溶かして最大限の苦痛を与えて差し上げますわ!」

「お前らどこから出てきた」

 

 怒りの表情を見せるも目が笑っているソリュシャンとルプスレギナが部屋に飛び込んできた。

 二人して床に転がったまま何かしらを喚くイビルアイを爪先で小突き、サディスティックな笑みを浮かべる。

 

「そんな事よりこれの処遇についてです。処刑方法はお任せください」

「生まれてごめんなさいって言わせてやるっすよー!」

 

 ここ数日の不機嫌はどこへやら、二人はとってもいい笑顔である。

 

「イビルアイの言葉は許せるものじゃないが、それでもアルベド様の危険を払った功績は無視できない」

「それじゃどうするんすか?」

 

 イビルアイを生かしておくと知って、ルプスレギナは不満そうに唇を尖らせた。

 男は冷たい目でイビルアイを見下ろし、うつ伏せに倒れているのを足で仰向けに転がした。

 

「二度とバカな事を言えないよう作り変える」

 

 

 

 

 

 

 就寝のために男が部屋を離れると、ソリュシャンとルプスレギナはハイタッチ。快音を響かせた。

 

 イビルアイがアルベド様への貢献で色々な無礼を許されるなら、アルベド様への非礼で罰を与えさせようと目論んだのだ。

 吸血鬼であるイビルアイの聴力では聞こえ、若旦那様からは聞こえない距離で、モモン様が婚約者をどれほど強く想っているかを繰り返し語る。

 同時に、男心を捉える女とはどのような女かも語る。男に人気がある女とは男好きをする体で、ベッドの上では乱れに乱れ、経験多数で、誰が相手でも厭うことなく受け入れて。

 ここで細心の注意を払わなければならないのは、モモン様の婚約者と男心を捉える女は全く別の存在として語ることだ。もしも同じものとして語ってそれが若旦那様の耳に入るととても大変なことになる。それに、二人はアルベド様を悪し様に言おうとは思ってもいない。ちょっぴり怖いと思うことがあるくらいだ。

 但し、イビルアイの中で二つが結びつくのは問題ない。

 じっくりとイビルアイに刷り込み、ミラにトリガーを引かせた。

 策は見事に成って、イビルアイは言ってくれたのだ。

 

 さーてこのメスガキをどう虐めてくれようかと愉悦する二人は、若旦那様がイビルアイを構っていた時間をお仕事に振り分けられるようになったことに気付かなかった。

 若旦那様が一時間仕事すると二人で半日掛かる。二時間すると丸一日掛かる。半日は精々5・6時間だが、丸一日は24時間である。

 準備や片付けの時間が半分になるし、続けることで効率も上がるからだ。

 いくら高レベルなソリュシャンとルプスレギナでも食事や睡眠を取らずに働き続けることは出来ない。

 それなのに三時間仕事をされるとどうなるか。

 それを毎日続けられるとどうなってしまうのか。

 

 ソリュシャンとルプスレギナが本格的に書類の海に溺れる日がやってきたのだ。




どこかに黒幕がいるのかと思うレベルでアンケートが絶妙に拮抗してる
どうすればいいのだ


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ご褒美と諸問題

今更ですが180話とか凄い長いです
合計文字数は1.5M超
50話ごとに分割したい


 翌朝、朝食の席。

 女たちのジトッとした視線を気付いても動じない男はゆっくりと食事を摂り終えたら口元をナプキンで拭い、口の中をさっぱりさせるために炭酸水を喉へ流し込んだ。炭酸水は果汁を絞って風味をつけてあるだけで甘味ゼロのビターテイストな大人の味。

 朝食を共にする女たちも食事を終えた。男は今日の予定を話そうと口を開きかけたところで、

 

「お兄様はあのちびっ子に何を為さったのですか?」

 

 ソリュシャンに先んじられた。

 もしもソリュシャンたちの言葉に耳を貸さなければ、この先の展開はもっと違ったものになったかも知れない。

 しかし、ここでソリュシャンたちを無視してしまうと後々とても面倒なことになるのは確実である。聞かない選択肢はなかった。

 

「何のことだ?」

「お兄様がちびっ子に施した処置のことです。一体どういう事ですか?」

「拘束して目と耳を封じただけだ。それがどうした?」

 

 カルカのラッピングに使われていた血染めの包帯は目を覆えば光を、耳を覆えば音を完全に遮断する。解こうと思えば誰でも解けるので安眠のお供に最適である。

 

「あんのちびっ子は叩いても蹴っても何してもちゃんと反応しなかったんすよ。あれって首に巻いてるやつの効果っすか?」

 

 昨夜の極悪三姉妹は動けなくなったイビルアイを取り囲んでレッツパーリィイ! だったのだ。

 一番手を譲ってもらったエントマが背中から蜘蛛の大足を生やしてとりゃーとイビルアイの手足に突き立てるが刺さらない。

 ルプスレギナが腕をブンブン回していくっすよーと全力ストレートを叩き込んでも椅子から落とすことすら出来ない。

 取りのソリュシャンはイビルアイを飲み込んで溶かそうとするが、飲み込めたのは体の末端を僅かだけで髪の毛一筋すら溶かせない。

 ここまで来たらもうやっちまおうっすかね、とルプスレギナがアンデッドには禁忌の回復魔法を掛けても無傷。

 イビルアイが中々の強さを持つと知っている三人だが、三人の攻撃を完全に無効化するのは異常であった。

 

「ルプー正解。アルベド様から授かったお力で封じている。指一本くらいは動かせるだろうけど自力で起き上がるのは無理だな。前にソリュシャンを拘束したことがあっただろ? あれと同じだ」

「おにーさんは人間辞めたと思ってたんすけどマジックアイテムだったんすか」

「そういう事だ。エンゲージリボン・ウィズ・サキュバスブレッシングと言う。俺がアルベド様から授かった非常に貴重なアイテムだからおかしなことは絶対にしないように。エンゲージリボンで拘束された女は精液がないと解放されない。それと同時に絶対の防御を誇るようになる。髪の毛一本だって切ることが出来ないはずだ。三人で頑張ってもイビルアイがどうにもならなかったのなら効果の検証は十分だろう」

「……お兄様はその事を隠して私を拘束したのですね」

「知られたら対策されるからな」

「む……」

 

 と、一瞬だけ眉間に皺を寄せたソリュシャンだったが、頭の回転はそこそこに速いし男との付き合いは長い。言外の意味を汲み取った。

 知られたら対策されることを知らせたと言うことは、対策しなくても良くなったと言うことである。秘密があったことはちょっぴり不快でも、信頼が深くなったと感じるのは中々に良い気分だ。

 

 実際にソリュシャンの思う通りで、元々の用途はソリュシャン封じであったエンゲージリボンである。

 けども最近のソリュシャンはこっそりちゅぱちゅぱもとろとろもしなくなった。教えても問題ないと判断した。

 

「えぇ〜、せっかくあいつボコボコにしようと思ったのにぃ」

「エントマさんの不満はわかるけど我慢してください。あれでも一応アルベド様に貢献したんですから」

「むぅ……、おにぃちゃんがそう言うならわかったぁ……」

 

 なんかおにーさんてエンちゃんに甘くないっすか?、子供っぽいからなのかしら?、エンちゃんはシズちゃんとお姉さん争いしてるみたいっすけどこりゃシズちゃんがお姉さんすかね。

 

「それよりエントマさんはお掃除頑張ってください。明日で前回アルベド様がいらしてから丁度一週間になります。今日中に完了させてくださいね」

「えぇええ! 無理だよ! だってすっごく広いし色々置いてあるしベッドの下とか絨毯の下とか床も壁も天井も全部キレイにしてるんだしぃ! そんなの一人で終わるわけないもん!」

「無理?」

 

 あっこれかなりまずいっすね、エントマを手伝ってあげたかったけれど私達にも仕事があったのだから仕方ないわよね、そうそう仕方ないっす一応エンちゃんが叱られたら援護して、私は嫌よお兄様に叱られたくないもの、でもこのままだとエンちゃんが泣かされちゃうっすよ、そうねルプーが泣いてるときほど面白くなさそうだし、ソーちゃぁああん!

 

「頑張ってください。後でご褒美あげますから。どうしても一人では終わらせられないようでしたら手隙の者に手伝ってもらえばいいんですよ。ソリュシャンが仕事をしてる間はシェーダの手が空くでしょうし、今日のメイド教官に頼んでみるのもいいでしょう」

「異議あり!」

 

 ルプスレギナがバーンとテーブルを叩いて立ち上がった。

 

「なんでそーなるんすか!? おにーさんならもっと鬼畜に責めると思ってたのに優しいじゃないっすか!」

 

 アルベド様のお部屋のお掃除なのだ。それを終わらせられない一人じゃ出来ないと言い張ったのだ。おにーさんブチ切れ確定案件のはずなのだ。

 ルプスレギナの予想だと、掃除如きがどうして終えられないのだとこんこんと冷静に如何に無能であるかを解説され、エントマが泣きながら無能を認めたところで無能であることがわかっているのにどうして改善しなかったのだと怠慢を詰られ、無能で怠慢な存在は許されるのかと答えようがない問を突き付けられ、自己否定の渦に叩き込まれるはずだった。

 それが何という事だろう。優しく励まして、頑張ればご褒美があるという。泣かされた事があるルプスレギナは納得がいかない。

 

「人聞きの悪い事を言うな。子供にそんな事したら可哀そうじゃないか。子供だから出来ないことがあるのは仕方ないさ」

 

 やはり男の中でエントマは子供枠だったのだ。

 当のエントマは長い袖に隠れた腕を振って「わたしこどもじゃないよぉ!」と主張するが、その仕草がもう子供である。

 

「子供じゃないなら与えられたお仕事をしっかり頑張ってくださいね。出来るなら今日中。どんなに遅くても明日の昼前までにお願いしますよ」

「はぁい……。それじゃご褒美絶対だからねぇ?」

「わかってます」

「わーい! 今日は手だけじゃなくて足もほしいなぁ♪」

 

 エントマはこてんと小首を傾げる。表情は変わらなくても仕草はとても可愛らしい。

 

「異議ありぃい!!」

 

 ルプスレギナがまたも異議を唱えた。一度目よりボルテージも声の大きさもテーブルを叩く強さも強い。ルプスレギナ的にとても理不尽な事態なのだ。

 

「それ滅茶苦茶贔屓じゃないっすか! エンちゃんは失敗のフォローしてるんすよ? 私は真面目にお仕事してるんすよ? それなのにエンちゃんにはご褒美があって私には何もないなんておかしいっす!」

 

 つまり自分にもご褒美を寄越せである。

 ボルテージの高いルプスレギナとは対照的に、男は冷ややかだった。

 

「ルプスレギナが言いたいのは自分も子供扱いしろってことか?」

「うっ……」

 

 エントマがご褒美を貰えるのは子供扱いされてるからだ。

 大人は真面目にお仕事するのが当然なのにご褒美を求めるのは、エントマと同レベルの扱いを求めるに他ならない。つまり子供扱いである。

 瞬間怯んだルプスレギナは、にんまりと笑ってみせた。

 

「そうっすよ? ルプーはまだまだお子様だからご褒美をたっぷりもらわなきゃお仕事がもう頑張れないっす♪」

 

 ルプスレギナはプライドを捨てた。たっぷりご褒美を貰うためならば、一時子供扱いされるくらい何の苦でもない。

 お手本が目の前にいる。

 この男はイビルアイの機嫌を取るためにお馬さんになったのだ。それに比べたら、ルプスレギナちゃんはがんばってまちゅねぇ、程度は軽いもの。むしろされたいくらいである。

 

「むむ……」

 

 ルプスレギナの意外な反撃に男は圧された。

 

 ルプスレギナが看破した通り人並みの自尊心がない男である。お馬さんになるくらい難しいことは何もない。アルベド様のおっぱいを吸うためなら赤ちゃんにだってなれる。前者は8年前に通った道だし、後者は5年前に通った。

 アルベド様のご命令なら素っ裸でエ・ランテルを一周することだってしてしまえる。異界の歴史書にて、夫の命令で素っ裸で町内を横断した伯爵夫人の逸話を読んだことがある*1。先駆者に出来て自分に出来ない道理はない。

 

「ルプスレギナ姉様が子供扱いされるなら妹の私にもご褒美があって然るべきです」

 

 ソリュシャンが追撃した。

 お兄様第一主義のソリュシャンだが、勝馬が目の前を走ってるならとりあえず乗っておくのがマナーである。

 

「そもそも私達はお兄様の部下と言うわけではありません。私達はお兄様の身分を確かなものとするためであったり、護衛であったり回復役であったり、また妻の役を担っているわけですが、お兄様のお仕事については『手伝っている』わけです。無償で働かせるのは如何なものでしょうか?」

「むむ……、しかしアインズ様のお役に立つ仕事なんだぞ?」

「ええ、わかっております。ですが、それはそれです」

 

 付け加えると、アインズ様のお役に立つであろうお仕事なのは確かでも、アインズ様から命じられたお仕事ではない。言ってしまえば男の趣味の延長である。

 

「ソリュシャンもルプーも俺といる事で色々プラスになることもあるだろう?」

 

 ソリュシャンの夜討ち朝駆けだったり、ルプスレギナのストレス解消であったりするアレのことである。

 

「あるっすね。でもやっぱりそれはそれっすよ」

 

 それはそれ。これはこれ、である。

 それもこれもあれも一緒にカウントしてはいけないのだ。

 

「わかったよ」

 

 男は肩を落として敗北を宣言。ソリュシャンとルプスレギナはハイタッチ。

 喧嘩することもあるけれど、基本的にはとても仲が良い性悪姉妹である。

 

 

 

「それで今日の予定だが」

 

 凄く遠回りをしてから、ようやっと本題を切り出せた。

 

「イビルアイの方が一旦落ち着いたから俺は帝都に行ってくる。まだ一回も行けてないからな」

「毎日行くと仰ったのにまだ一度も行っていないのですか?」

「行ってもまとまった時間が取れなそうだったし」

「それはまずいっすよ。一瞬で行ってこれるんすから五分でも行くべきだったっすね。シクススもソフィーちゃんも怒ってると思うっすよ〜?」

「エ・ランテルに戻ったばかりで慌ただしいとあいつらもわかってるだろ?」

 

 ソリュシャンとルプスレギナは顔を見合わせて異口同音に、

 

「「甘い!」」

 

 と言い放った。

 

 

 

 

 

 

『イビルアイは放置でいい。外に出したり包帯とリボンを解いたりしないように』

 

 男はそう言ってから、書斎の机に設置した狩場直行君に手を乗せた。

 転移の光に包まれ、眩さが消えたら薄暗い部屋にいた。仄かに魔法の明かりが照らしている。

 帝都のお屋敷の書斎は主が不在であるため、窓にはカーテンが閉められていた。開けると穏やかな春の日差しが差し込んでくる。

 書斎は屋敷の主の砦である。お屋敷の三階の眺めが一番良い場所にあり、窓からは屋敷のエントランスと大きな門が正面に見える。その門が開いていた。

 誰かが出入りするなら通用門がある。正門が開いているという事は、帝国の然るべき貴人がやってきたのかも知れない。

 視線を下げれば、出迎えのためか長い金髪をなびかせたメイドの後ろ姿が見えた。

 見ている内に彼女が振り返る。シクススだ。

 シクススが顔を上げこちらに気付くと、男は手を振った。シクススはぽかんと口を開いた。

 

 遠目にも、シクススが目を釣り上げたのがわかる。

 こちらを指差し、手を広げて何かを押さえるように下げる。そこで待っていろとのジェスチャーであるらしい。

 ソファに腰掛けのんびりとシクススを待つ。

 大きなお屋敷である。お屋敷のメイド長であるシクススは廊下を走ったりしないのだ。しばらく待たされ、書斎の扉が開かれた。

 シクススは扉を後ろ手に閉めると駆け寄ってきた。詰め寄ってきたとも言う。

 

「若旦那様は毎日来ると仰ったのにどうして来なかったんですか! 毎日の意味がわからないんですか? 毎日っていうのは昨日も今日も明日も一昨日も毎日って言うことなんですからね!」

「エ・ランテルじゃ色々慌ただしくて時間が作れなかったんだよ」

「でしたらその旨を連絡するべきです! たったの五分の余裕もなかったとは言わせませんからね!」

「うっ」

 

 ソリュシャンとルプスレギナが正解だった。たとえ五分であろうとも顔を出すべきだったのだ。

 アインズ様だって報告連絡相談のほうれんそうは大事だぞと仰っておられる。

 

「わかった。これからはそうするよ。今日は時間が出来たからこっちに来たんだ。向こうのあれこれはまだ終わってないから泊まってはいかないけど、今日はシクススの傍でゆっくりしていくよ」

「私は若旦那様に付きっ切りでいられるほど暇ではありませんから」

「全く時間がないわけじゃないだろう?」

「それは! …………そうですけど」

 

 ぐいと迫られ、怒りに紅潮していたシクススの頬が違う意味で赤くなった。

 あれこれを想像してしまい男の顔を見られなくなったシクススは、赤くなった顔を俯けた。しかし、何かを思い出したようにはっと顔を上げる。

 色惚けた気配はなく、真剣な顔である。

 

「そんな事より大変なんです!」

「大変?」

 

 エ・ランテルではエントマの訪問から始まったG-Shockとイビルアイの接待があったように、帝都のお屋敷でも何かしらの問題が発生してしまったらしい。

 

「ソフィー様が家出してしまわれました!」

「ソフィーが家出ぇ?」

 

 

 

『お父様は毎日来るって言ってたのに全然来ない……。お父様のバカバカ嘘つきカイショなし! 待ってるの飽きた! もうこんなところ出てってやるんだから!』

 

 そう叫んでから、ジュネを連れて馬車に乗って出ていったらしい。出発はほんの数分前だったとか。

 男がさっき窓から見下ろした正門が開いていたのは、ソフィー達が乗った馬車が出ていったからだ。

 エ・ランテルでの朝食の席にて、ソリュシャンたちに捕まらなければソフィーが出ていくのに間に合った可能性が高い。

 しかし、もう行ってしまった。

 

 とは言え、従者を連れて馬車に乗って家出。

 それは一般的にお出かけと言うのではなかろうか。

 

「ソフィー様にもしものことがあったら……」

「いや大丈夫だろう。ソフィーもジュネも危険かどうかの判断くらいつく。それよりも帝国の民に迷惑を掛けないかどうかが心配だ」

 

 ジュネはヴァンパイア・ブライドにてぶっちぎりの最弱である。

 一方のソフィーは、レベル的に父と母を足して二で割ったくらいはある。その気になれば一人で帝都を砂漠にするくらい簡単だろう。されてはとても困ってしまうが。

 プレアデスよりは強いソフィーである。例え守護者が相手だとしても、勝利は絶対不可能でも逃げることは十分可能だ。心配するだけ無駄である。

 ジュネがついているのなら、その内帰ってくることだろう。

 

 

 

 ソフィーたちは放っておくことにして、午前はのんびり過ごした。カルカと近況を軽く話し合い、カルカの専従メイドである双子幼女を構ってやる。

 

 午後はレイナースがカルカを訪ねてきた。

 呪いが解けて女を取り戻したレイナースは、美容にとても熱心になったのだ。その道の第一人者であるカルカにあれこれを教授してもらっている。

 レイナースが帝国から魔導国に移るのはもう少し先になるらしい。帝国四騎士の一だったのだから引き継ぐべきことがいっぱいあるのだ。所領をどうするかも問題である。それらについては、レイナースが魔導国の民となったら生活の基盤は全て男が整えるので着の身着のままで来てくれても問題ない。帝国では然るべき地位にいるレイナースなので身の回りを世話する者が必要になるだろうが、これについてもエ・ランテルのお屋敷でメイド研修を行っているため気に入った者を選んでもらえば良い。帝国で使っている者をそのまま連れてきても良い。

 

 レイナースはアフタヌーンティーをして帰っていった。

 周囲から見えないようこっそりキスをしたのは、レイナースがねだってきたからだ。

 

 夕暮れが少しずつ遅くなっている。

 暗くなりきる前に、前倒しで仕事を終えたシクススが書斎を訪れてきた。

 

「ご主人様はちゃんと毎日来ないとダメなんですからね?」

 

 シクススが「ご主人様」と口にするのは、今は子猫ちゃんメイドですよアピールだ。

 この日は朝一でソリュシャンの朝駆けを受けただけ。子猫ちゃんの子猫ちゃんをたっぷり可愛がってやった。

 

 シクススが身嗜みを整える時間が必要になったので夕食が少し遅い時間になった。

 一週間振りにカルカと食事を共にし、シクススの給仕を受け、これからは毎日来るようにする、とあくまでも確約せずに努力を宣言して、男は書斎から狩場直行君を起動してエ・ランテルに帰っていった。

 見送りのシクススは満足そうに、今日も何もされなかったカルカはちょっぴり寂しそうに。

 

「今お父様がいらしてた!?」

 

 男が帰った直後である。

 一体どこから入ってきたのか、息を荒げたソフィーが書斎の窓際に立っていた。

 シクススが家出と言ったソフィーのお出かけは、本当にただのお出かけだったのだ。

 

 生まれてからずっと帝都のお屋敷にいるソフィーである。ジュネを連れ回して帝都の市場を見て回るだけでも楽しめた。

 お昼はかつての男とアウラがしたように屋台で食べ歩き。これは不味いこれなら食べられるこれはお父様が好きそう。生憎吸血鬼であるジュネは固形物を口にしない。今度は飲食できる誰かを連れてこようと心に決める。

 夕食はアインズ様がお泊りしたこともある帝都一の宿泊施設のレストランで。予約はしていないが、魔導国の紋章を掲げた馬車に乗る傾世の美少女に一般人が物を言えるわけがない。己の美しさと身分の高さを盾にする我儘お嬢様である。にも関わらず、我儘を言われた方が喜んでいるのだからなんともはや。

 そうして帝都のお屋敷に戻り、ただいまーと馬車から飛び降りたところで三階の書斎から強い光が漏れているのを目撃。

 あれは転移の光と慌てて飛び込んできたのだ。

 

「たった今お帰りになったところです。朝方もソフィー様がお出かけになった直後にいらっしゃいました」

「そんな……!」

 

 ソフィーはがっくりと膝をついた。

 

 あからさまに落ち込んだソフィーをどう慰めようかとシクススとカルカは逡巡した。

 すぐにでも「明日もいらっしゃるようです」と言えれば良かった。

 しかし、二人が口を開くよりもソフィーの行動の方が早かった。

 

「今日会えなかったらまた来週? そんなのイヤ! 私、エ・ランテルに行ってくる!」

「ソフィー様!?」

 

 立ち上がって宣言するや否や、ソフィーは窓を目掛けて駆け出し勢いよく飛び上がった。

 窓は閉じたままだ。

 ぶつかる!

 ソフィーは無事でも窓が壊れる。

 後片付けを覚悟したシクススだったが、ソフィーがぶつかった窓は壊れていなかった。ソフィーの姿もない。

 

 書斎に残った二人が窓を開けて見下ろせば、手を振るソフィーが馬車に乗り込むところだった。

 真っ黒なドレスに身を包むジュネが一礼して御者台に乗る。馬車が反転し、正門向けて走り始めた。

 今にも「若旦那様は明日もいらっしゃいます!」と大声で伝えればジュネの耳に届いたかも知れない。

 しかし、この場にいるのはシクススとカルカである。大声を張り上げるなんて品のないことは出来ないのだ。

 

 嵐のような数十秒が過ぎ去った書斎は、酷く微妙な沈黙に満ちていた。

 

「明日、若旦那様にお伝えします。カルカ様はお休みください」

「え、ええ……。そうさせていただきます」

 

 二人は彼の男に丸投げすることにした。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、当の若旦那様はエントマにご褒美を収穫されていた。

 とっても頑張ったエントマは、お食事部屋のお掃除を完了させたのだ。

 

「今日まではエントマさんにご褒美をあげます。でも今度からは有料ですからね」

「有料!? お金とるの!?」

 

 これにはソリュシャンとルプスレギナも目を瞬かせた。

 金銭欲には程遠い男だと思っていたのだ。

 

「有料と言ってもお金を取るわけじゃありませんよ。対価はポーションです」

「私が回復させるんだからいらないんじゃないっすか?」

 

 以前は定期的にポーションが供給されていた。

 しかし、ルプスレギナが派遣されてからはゼロになった。使えば減るポーションと違って、休めばいくらでも回復魔法が使えるルプスレギナがいるのだから当然である。

 そもそもとして、ポーションを使う事態にならないのが一番だ。

 外敵から一度も傷を負ったことがない男であるが、ナザリックの仲間からは何度となく致命傷を与えられていたりする。

 今だって男が血流を操作する技を覚えたので出血はないが、然るべき処置なく放置すれば数分で失血死する重傷であったりするのだ。

 

「こっちじゃルプーがいるけど帝都じゃいないからね。向こうに置いておくつもりだ。それにエントマさんが言ったら貰えると思うようになっても困る。そんなに甘やかしたらエントマさんの成長に悪影響がある」

「そんな事ないよぉ!」

「そういう言葉が出てくる時点で悪影響が窺えますね」

「う〜〜」

「唸っても泣いてもダメです」

「……はぁい」

 

 厳しい言葉を厳しい口調で口にしても、二足歩行出来ない状態なのでソリュシャンに支えられている現状では全く様にならない。

 そのソリュシャンは、抱えている男の向きを反対にして自分と向かい合わせた。

 いつの間にかドレスが脱げている。すぐに全裸になりたがる淫乱スライムである。

 

「それでは私へのご褒美は…………。お兄様に私の中にいらしていただけませんか?」

「……? いつもしてるじゃないか。それに今の俺はこんなだし」

「そういう意味ではありません」

「えぇ……」

 

 男はソリュシャンが言いたいことを汲み取った。

 最近はなかった丸呑みのことである。

 

「けっしておかしな風に溶かしたりしませんわ。意図的に痛みを与えないこともお約束しますから」

「まあ……、そういう事なら」

「うふふ、おにいさまぁ……♡」

 

 男の顔がソリュシャンの豊かな乳房に押し付けられ、そのまま沈んでいった。

 十秒としない内に男の体全てがソリュシャンの中に飲み込まれてしまった。

 

「ああ、お兄様が私の体の中に……♡」

 

 女の悦びに目覚めてもやっぱりスライムである。

 ソリュシャンは自分の体を抱きしめると、妖艶に体をくねらせた。

 

「ルプー、ソリュシャンどうしちゃったのぉ?」

「ソーちゃんは遠いとこに行っちゃったんすよ……」

 

 ルプスレギナがソリュシャンを見る目は遠かった。

 

 

 

 

 

 

(今夜は私の中でお眠りくださいね♡)

(動けないけど苦しくはないし、まあたまにはいいかな)

(お兄様がお望みでしたらソリュシャンを幾らでも自由にしてくださって構いませんわ)

(それなら明日以降も資料の清書を頼む)

(それはそれ、これはこれですわ♪)

 

 それはそれ、これはこれ。

 すごい便利な言葉である。

 

(一つだけお聞かせください。お兄様がイビルアイを封じるのに用いたマジックアイテムは以前の私に使ったものと同じものなのですね?)

(そうだ)

(イビルアイをいつ解放するのですか?)

(早速二つになってるじゃないか。明日は無理だな。アルベド様がいらっしゃるかも知れない。いらっしゃらなくても解放の予定はない。包帯を解いて様子見くらいはするだろうけどね)

(どんなに早くても明後日以降なのですね)

(そうなる)

(左様ですか)

 

 ソリュシャンは考える。

 以前エンゲージリボンで拘束された時、時間が経つに連れて体が熱くなっていった。あれは明らかにエンゲージリボンの効果だった。

 アルベド様から下賜されたマジックアイテムだと言うのだから、女を欲情させる効果があっても不思議はない。アルベド様はサキュバスなのだ。

 あの時拘束されていたのはざっと十時間。体が熱くてもどかしくて切なくて、欲しくて欲しくて堪らないのに与えられなくて、苦しさに涙を流すほどだった。

 

 イビルアイは既にその倍以上の時間を拘束されている。

 明日も開放する予定はないらしい。

 イビルアイは一体どれほどの苦しさの中にいるのか。考えるだけで口元が緩んでしまう。

 妹を傷つけ、お兄様にあのようなことをさせたのだから当然の報いだろう。

 

 ソリュシャンの中で、イビルアイの事は過去になった。

 今は自分の中にいるお兄様だ。

 

(おい、ソリュシャン……。俺を寝かせるんじゃないのか? 何してる?)

(お兄様は楽になさってください。全部ソリュシャンにお任せしてくださればいいのですわ♡)

 

 ソリュシャンは中身スライムである。

 今までも飲食した甘い飲み物を体内でブレンドして、お兄様におっぱいを飲んでもらったことが何度もある。日課であるとさえ言える。

 体の中でも自由自在なのだ。

 

 男はエントマにおかしなものを見せないよう丈の短いズボンを履いていた。

 ズボンの隙間から、ソリュシャンが入り込んできた。

 

(ソリュシャンの顔が見えないのは少し味気ないが)

(嬉しいことを仰ってくださいますこと。目を瞑っていると思ってください。こうして私の声は届くのですから、私の声を聞きながらいっぱい気持ちよくなってくださいませ♡)

 

 しばらく封印していたスライムテクは、久々に開放したら進化していたらしい。

 ソリュシャンは体の中で何度もミルクを放たれ、とても満足いくご褒美を受け取った。

 

 一方の男は手も足もない身動きできない状態で何度も絞られ、一睡も出来なかった。

 翌朝開放された時は疲労困憊である。

 薄ら笑いするルプスレギナから回復魔法を受けて万全となり、とりあえず朝から仮眠を取ることにした。

*1
ゴダイヴァ夫人のこと。チョコレートメーカー「ゴディバ」のモデルになった




アウラがそうだったようにロリ枠は長くならざるを得ないようです


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イビルアイはもう死んだ

「誰かいないのか!?」

 

 叫び声は響かない。自分の耳にも届かない。長く生きたイビルアイをして、自分の声すら聞こえない真の闇は初めてだった。

 おそらくは、最後に見た赤い布の効果。ずっと巻かれたままでいるため感触が曖昧になってきたが、目と耳を覆われているようだ。たかが布切れで光と音を完全に遮断することは出来ない。間違いなくマジックアイテム。

 動けないのも赤い布の効果なのだろうか。

 指一本くらいなら動かせるし、下半身なら僅かに力が入る。それでも起き上がるのは無理だ。脚を開くことは出来ても膝を立てることは出来ない。腕を上げて何かを掴むことも出来ない。ずっと椅子に座ったきりでいる。

 

「お馬さんごっこがそんなに気に入らなかったのか? やろうと言ったのはお前じゃないか。それで私を責めるのは筋違いだろう!」

 

 調子に乗って部屋を何周もしたりお尻ペンペンしたり、拍車代わりに爪先で顔を突いたりしたのは流石にやり過ぎだったと今にして思う。怒って当然だ。しかし、そこまで嫌なら拒否すれば良かったのだ。楽しかったのは確かでも、出来ないと言うことを無理強いするつもりはなかった。エスカレートしていったのは、男が拒否せず全てを受け入れたからだ。

 悪かったとは思う。しかし全ての非を自分に押し付けるのは道理に合わない。

 

「もうしない。しないから拘束を解け!」

 

 幾ら叫んでも答えはない。近くに誰もいないのかも知れなかった。それでも叫ばないではいられない。

 

「それともあれか? ミラが言ったアルベドへの愚弄か? 私はその名を出していない。お前の勘違いだ」

 

 最後に放った言葉を思い出す。モモン様は婚約者をどうこう言われたのが頭に来て、まだ見ぬその女を罵ってしまった。それがどうしてアルベドに繋がるのか。

 アルベドとは魔導国宰相の名。屋敷の主人である男は彼女の相談役に取り上げられたらしい。上役を侮辱されたら怒っても不思議はない。

 簡単に聞いていた男の経歴によると、病気がちだったのを魔導国からもたらされた薬だか魔法だかで癒やされたとか。そこにアルベドが関わっているのなら恩を感じているのはわからなくもない。

 おかしいのは、自分はアルベドの名を出していないことだ。

 

 知らない女を罵ったのは良くないことだろう。しかしそれはあくまでもモモン様の婚約者であってアルベドではない。

 ミラもあの男も、どうして自分の言葉がアルベドを指していると思ったのか。それではまるでモモン様の婚約者がアルベドだと言ってるようではないか。

 そんなわけがない。モモン様は人間の英雄でアルベドは悪魔。二人が結ばれるわけがない。

 だからアルベドがどうこうとは全て誤解か勘違い。自分は勘違いによって拘束されているのだ。

 

「もういいだろう? もう十分だ! だからほどけほどいてくれ!!」

 

 自分の耳にも届かない叫び声だが、喉が痛むほどに声を張り上げている。

 理性では、部屋に誰もいないのではないかと勘付いている。

 拘束された直後は誰かが触れているのを感じたが、もう随分と前のことだ。

 誰もいないとわかっていても叫ばないではいられなかった。

 

「くぅ……、ああああっ!!」

 

 どうしようもない違和感に耐えられなくなってきた。

 例えるなら、睫毛に髪の毛が一本だけ引っかかっているような。払いのければ済むことだが、引っかかったままだと気に障る。痛みも苦しみもないが気に障るのだ。

 それが何倍にも、何十倍にもなって体を犯している。

 体が捩れている。何かがポロポロと欠け落ちていく。折れて曲がって捻れて砕けて、このままだとすぐにも肉体がなくなってしまいそうなのに、厳として肉体はここにあり続ける。

 張り詰めて膨れて爆発してしまいそうだった。

 

「やだぁ……やだやだ! 誰か、誰かいないのか!?」

 

 全くの無知なら大いに戸惑い、肉体が来す変調に嘆くしかなかったことだろう。

 幸いなことに、イビルアイは何が起こっているかわかっていた。

 自分にもあのような事を感じる機能があると教えられたばかり。思い出してしまえば総倍だ。

 何かを見て聞いて気を紛らわせる事が出来ない。脳裏にはあの夜が何度も駆け巡って、自分が欲しいのはあれなのだと思い知らされる。

 それと気付きたくなかったからこそ、誰にも届かないとわかっているのに叫び続けていたのだ。

 

「はあ……はあ……。だれか……、さわって……」

 

 何も見えないからこそ、肉体の変調に敏感になっている。

 胸の先端が張り詰め過ぎて痛みすらある。

 股間を覆うショーツが湿りだして肌に張り付いてくる。

 時折口を開いて尖らせた舌を伸ばすのは、完全に無意識の行為だった。何が欲しくて舌を伸ばしているのかわからず、自分の行いに気付いたら口を閉じて、誰にともなく「何でもない」と言い訳をする。

 そして気付けば同じことを繰り返す。

 

「してくれた……だろ? また……欲しい……。舐めてくれたじゃないかぁ……」

 

 イビルアイは欲情していた。

 どうしてこんなになっているのか、理性的に考えられる領域はとっくに過ぎ去っていた。

 触って欲しい。舐めて欲しい。苦しさを癒やして欲しい。あの夜に教え込まれた快感をもう一度与えて欲しい。

 暗闇の中に、自分に触れてくれた男を思い描く。

 

「あぁっ! そこもっとぉ……、もっと強くぅ!」

 

 動かない体が僅かに跳ね、下着の染みを広げた。

 荒い息を数度吐くと、自分がしたことの嫌悪感と何も得ていない虚しさに涙が溢れる。

 虚しくて一人ぼっちを実感するだけでこんのはもう二度と、と思うそばから欲しくなる。欲しくなってしまえば、今しがた覚えた虚無感は星の彼方に消え失せる。

 

 二度三度、五度六度と繰り返す内に虚しさと寂寥感が濃くなった。

 こんなにも欲しいのに何も与えられていないのだ。

 自分は誰からも見放されてずっと孤りで独りで生きてきた。

 仲間を得たことがあった気もする。あったとしても今は一人で誰もいない。

 

 暗闇の中でどれくらい時間が経ったのかわからない。

 肉体的疲労とは無縁の吸血鬼であっても限度がある。それに、精神は別だ。心がすり減っている。肉体から生じるうねりに絡め取られ締められ散らされて、何も考えられなくなってきた。

 何かの拍子で我に返ると最悪だ。

 視覚と聴覚を封じられても、触覚と嗅覚は吸血鬼の超感覚を発揮する。

 ぐっしょりと濡れそぼったショーツは肌に張り付き冷え切っている。鼻には異臭が届いた。

 絶え間なく供給される分泌液が乾いて臭いを放ちだした。代謝が低い吸血鬼の上にいつも清潔にしているので出したばかりならそうでもなくても、長時間放置して乾き始めるとお世辞にも芳しいとは言えなかった。

 すぐに何もわからなくなるのは幸いなのかどうか。

 体も心も茹だりきって、たった一つしか考えられない。考えているのかもわからない。

 ただただ触れて欲しい。

 あの夜のような愛撫でなくても構わない。

 とうに限界を超えた体を開放して欲しい。

 

 

 

「うぅ……、たのむから……。わたしを……」

 

 何度懇願したことか。

 何度目の懇願だったか。

 

「あ…………」

 

 瞼の裏が明るくなってきた。

 恐る恐る目を開くと、霞んだ視界にぼんやりと像が結ぶ。

 

「俺の声がわかるか?」

「わかる! わかるから!」

 

 ずっと思い描いていた男がいた。

 気遣わしそうな顔がすぐそこにある。

 顔がこれだけ近いなら、手を伸ばせば自分の体に触れられるはずだ。

 

「それなら自分の名前はわかるか?」

「イビルアイ!」

「それは通り名だろう。そんな名前があるか」

「え…………」

 

 イビルアイは、すぐに答えられなかった。

 聞かれたことがわからないほど頭が茹だっているわけではない。自分の名前を訊かれたのだとはっきり認識している。

 それを答えられなかったのは、固い絆で結ばれた仲間たちにも話した事がない名前だからだ。

 古い馴染みは知っている。仲間たちに教えてないのはイビルアイと呼ばれ始めて長かったから。

 きっと仲間たちもその古馴染みから聞き知っているだろうが、それでもその名で呼ばれたことは一度もない。

 

 二秒に満たない逡巡を、男は待たなかった。

 

「キーノ! わたしのなまえはキーノだ! だからまってやめて!」

 

 赤い布切れが近付いてきた。

 ぐっしょりと涙に濡れた布が目を覆い、耳を覆って結ばれる。

 

「キーノだ! キーノ・ファスリス・インベルン! インベルン家のキーノだ!」

 

 繰り返し自分の名前を叫び続けるが、光が戻ってくることはなかった。

 

 

「うわー……。あんなになるんすね」

「あれってそんなに苦しいのぉ?」

「エントマにはまだまだ早いわね」

「はい、解散。暇じゃないんだから」

 

 

 

 

「はっ!?」

 

 窓から差し込む朝日に照らされ、少女の意識は覚醒した。

 心地よい気怠さに全身を包まれている。うぅと呻きながら体に鞭打ち上半身を起こす。大きなベッドに横たわっていたらしい。

 うっ、と再度呻いたのは、何も着ていなかったからではない。シーツに大きな染みを見つけたからだ。

 濡れているのは丁度自分の尻の下で、まるで寝たまま粗々をしてしまったかのようだ。一体どうすればいいのだろうか。

 証拠隠滅をすべきだが、それより先に着る物を確保しようと周囲を見回して、

 

「おはよう。吸血鬼も寝ることがあるんだな」

「!?」

 

 裸の男から声を掛けられた。

 同じベッドの上にいる。そして自分も服を着ていない。昨夜何があったのか。

 記憶は酷く曖昧で、断片的なイメージが頭の中に散らばっている。

 

「ご……、ごしゅじんさま…………、おはよう、ございましゅ……」

「こっちも寝たままだな。ミラはしばらく休んでろ」

「そういうわけに、ございません」

「……いいからそのままでいろ。そんな状態じゃ何も出来ないだろう」

「もうしわけ……ありません」

 

 男を挟んだ反対側に、黒髪が艷やかな女がうつ伏せになっていた。こちらも一糸まとわぬ姿で、尻が丸出しになっている。

 何とかシーツを手繰り寄せて胸元を隠している自分と違って、あちらはそうも行かないようだ。精根尽きたような有様で身動きが取れないらしい。

 

「ミラがそうなったのは俺のせいだからな。午前の内に復活してくれればいい。それとも血を舐めるか?」

「いいえいいえそんな勿体ないことを!」

「ほんの数滴が勿体ないこともないだろう」

「そういうわけでは、はうぅっ!?」

 

 男が女の体を仰向けにひっくり返すと、開かせた口へ唾を垂らした。

 既視感がある光景だった。

 昨夜、何度も同じことをされたのを思い出した。

 癒やされて乾いて、欲しがる自分に血の混じった唾を何度も垂らしてくれたのだ。

 

「あふぅ……♡」

 

 女は恍惚と甘い声を上げ、幸せな夢に浸るがために目を閉じた。

 自分と同じ吸血鬼なので睡眠は不要だしそもそも眠れないはずなのだが、例外はある。昨夜の自分がそうだった。

 

 過度な緊張から開放されて精神が弛緩し、意識を集中することが出来なくなった。

 人間のように眠っていたわけではないが、傍目からは同じようなものにしか見えないだろう。

 意識が曖昧でいる間は周囲の環境を把握出来ないのも睡眠とよく似ている。

 

「さて、キーノ」

「はい!」

 

 キーノは元気よく返事をした。

 短い付き合いでも、この男は決断が非常に早いのを身をもって知らされた。その上決断を実行するのに躊躇しない。つまらない一瞬の戸惑いで、何が起こるのかわからないのだ。

 

「昨夜の話を――」

「あら? 今朝は随分とお早いのですね」

「ああ、おはよう。今日はしてもらわなくて大丈夫だよ」

「昨夜はいらっしゃるご予定とお聞きしていたのでそのつもりはありませんでしたわ。ですがいらっしゃらなかったのですね。残念です。ミラに先を越されてしまいました」

「そのつもりじゃないなら朝早くから何の用だ?」

「お兄様の寝顔を拝見に参りました♡」

 

 薄手のネグリジェを着たお嬢様がノックもなしに入ってきた。

 断りもことなくベッドに上がり、豊満な体を男に擦り寄せる。

 すっと、こちらを一瞥された。

 

「起きていらしたのでしたら話しておきたい事があります。お兄様の本日のご予定ですが」

「少しだけ向こうの様子見に行ってくる。後は昨日と同じように資料作りを」

「それはお休みにしてください」

「まだ一割しか出来てないんだぞ?」

「私とルプーだけではお兄様のペースにとても追いつけません。昨日の分もまだ終えていないのです」

「……まあ、他にもすることはあるからそっちを進めるよ」

「そう為さってくださいませ。それよりも……、大丈夫なのですか?」

 

 お嬢様からまたもちらと一瞥された。

 

「キーノに二つ聞こう。アルベド様は?」

「お美しい」

「アインズ様は?」

「……割と偉大?」

「そこは、とても偉大、だ」

「でも昨日のご主人様はアインズ様のことはあまり話さなかった、と思う」

「ご主人様?」

 

 お嬢様が割り込んできた。少し面白い顔をしている。

 先日までお前呼ばわりしていたのが突然ご主人様なのだから面食らっているのだろう。

 

「ミラがご主人様ご主人様言うから移ったんだ……。今更他の言い方をすると変な感じがする」

 

 昨夜のことだけでなく、吸血鬼同士の語り合いでもミラの言う事はほぼほぼ全てがご主人様賛美だった。

 お嬢様や神官やあの元悪魔メイドは兄呼ばわりしてるようだが、彼女らよりもミラと一緒にいた時間のほうが圧倒的に多い。

 

「問題ないのでしたらこれまで通りイビルアイ様はお兄様にお任せいたします」

「違うな」

「何が違うのですか?」

「イビルアイは冒険者でいる時の通り名だ。仮面を外して冒険者の肩書も下ろしている時は違う。キーノだ。そうだろう? キーノ・ファスリス・インベルン」

「はい!」

 

 キーノは間髪入れずに元気よく返事をした。

 

 

 

 

 

 

 昨夜、アルベド様はお屋敷にいらっしゃらなかったのだ。

 前回訪問時に起こったG-Shockがショックであったようで、当分来ないと仰っておられたのは動揺を誘われて出てきた言葉ではないらしい。さすがのアルベド様は有言実行のお方である。

 

 ぽっかりと空いてしまった時間を、イビルアイにあてることにした。

 エンゲージリボンの効果で正気を失くすレベルで欲情していたのを散々慰めてやったのだ。

 吸血鬼なのに脱水症状を起こして死ぬのではなかろうかと思わされ、頻繁に血を舐めさせて体力を回復してやった。途中からミラの爪を借りて指を切るのが面倒になり、舌を噛み切って血の混じった唾を飲ませた。

 ミラに言わせるとご主人様の血は別の意味で逆効果と言っていたが、吸血鬼の体力を回復する手段が他にないのだから仕方ない。

 

 イビルアイを慰めるのに使ったのは手指だけ。

 けどもアルベド様がいらっしゃるのを見越して体を整えていた。そちらの解消にはミラを使った。全ての穴を二回ずつ使って、最後に放ったのをイビルアイに舐めさせた。直にではなく、ミラが指ですくったのを口に運ばせた。

 エンゲージリボンの効果が失われ、自由に動けるようになったイビルアイはベッドに深く身を沈め吸血鬼にあるまじき眠りについてしまった。

 

 イビルアイを開放したのは、色々と教え込んだのがちゃんとわかったようなのもあるが、一番はまともな会話が困難になってきたからだ。さすがはアルベド様が創造為さったアイテムである。効果が絶大過ぎた。

 

 なお、日中は忘れずに帝都へ顔を出した。

 そこで神妙な顔をしたシクススから「ソフィー様が家出してしまわれました」と報告を受ける。二日続けての家出である。あの娘は一体何をしているのか。

 どうやら前日の夜に発ち、エ・ランテルに向かったようだ。

 アンデッド馬が牽く馬車を使っているので、旅路が順調なら昨日の内に到着しているはずである。しかし、昨日から更に一夜明けた今朝になってもソフィーが来たとは聞いていない。

 どうやらどこぞで寄り道しているのだろう。ソフィーとお供のジュネについては全く心配していないが、帝国へ迷惑を掛けないかどうかは心配だ。事あらば監督責任が問われてしまう。

 面倒を起こさず帝都に戻っていて欲しいものである。

 

 

 

 

 

 

 ソリュシャンはキーノが見守る中、愛しのお兄様へたっぷりと口付けを送ってから、朝食で待っていると言って部屋を出ていった。

 

「さて、ソリュシャンが来て途切れたが、キーノは昨夜の話を覚えてるか?」

「覚えてると言いたいが……、あまり自信がない。どの話だ?」

「キーノの態度が変わったことについてだ」

「うっ……。覚えてるが……、あまり言わないでくれ……」

 

 プライドを捨てたところで怪我もしなければ病気にもならないし死にはしないと知っている。これと言って腹が減ることもないので気にしない男だ。

 しかし、キーノの態度が急変したのは疑問だった。

 どうしてそうなったのか、色々している間に尋ねていた。

 

「あれは……」

 

 言いさして、キーノの頬が赤くなっていく。

 散々な事をしてしまった事については何度も謝った。

 それとは別に、男の言葉から朧気な昨夜の記憶を刺激され、思い出すことがあった。何を言ったか覚えている。

 

 キーノの態度が硬化したのは、男がソリュシャンといたしている所を見てしまったからだ。心を許しかけた男が他の女とあんな事をして、酷く裏切られたように思った。

 しかし、正気を失いかけた状態でそんな事を詳らかに説明出来るわけがない。キーノは極々単純な言葉で答えていた。

 

「ちゃんと覚えているならいい。さっき聞いたように今日は時間が出来たようだ。空いた時間でキーノの練習をしようか」

「練習?」

「したいんだろう? 俺をその気にさせる練習だ」

 

 昨夜のキーノは、男がソリュシャンと寝ていたからだと答えた。

 自分はしてもらってないと言った。

 自分にもして欲しいと訴えた。

 

「でも……どうすれば?」

 

 シーツを体に巻きつけて、上目遣いに男を見る。

 強者であるイビルアイは、男をその気にさせる術を何も知らないのだ。

 イビルアイのままであったら、こんな提案は一蹴していた。しかし、イビルアイはもういない。ここにいるのは少女のまま長きを生きたキーノ・ファスリス・インベルン。

 イビルアイがキーノに戻ってしまうほどに、二日間の拘束と昨夜の体験は衝撃だった。

 

「そこは俺が色々教えよう。俺は着替えてから朝食をとってくる。キーノはその間に……、まずは部屋の外に出られる格好になってくれ」

「うぅ…………」

 

 裸でいるのは同じでも、キーノは股間から太ももが何かしらの液体で湿っている。

 

 恥じらうキーノに男は柔らかく笑いかけると、キーノの顎に手を添えた。

 俯かせた顔を上向かされ、キーノはきゅっと目を閉じた。

 昨夜の男はミラと何度もしていたが、自分は一度もされていない。血が混じった唾だって、直接ではなく垂らされて飲まされた。

 今度こそと期待と覚悟を決めたキーノの額に、柔らかく触れるものがあった。

 

「行ってくるよ」

「………………いってらっしゃい」

 

 ベッドから降りた男を、キーノはのぼせた顔でぽうっと見つめた。

 のぼせた頭に、漆黒の英雄は影すら過ぎらなかった。




迷走するのは取捨選択しないと長くなりすぎるからぽいです
多分次回も何書けばいいのだといい加減唸る気がします
イビルアイ編は毎回こんなん
おそらくは最後の吸血鬼枠で唯一の金髪ロリだからでしょう


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幸せの第一歩 ▽キーノ

本話約15k字


 キーノでいるのは楽だった。

 仮面を外し、戦闘服から黒いキャミソールに着替えただけ。アンデッドの気配を隠す指輪は一応嵌めているが、白い肌と赤い目を見ればわかる者にはわかる。

 

「おはようございます」

「うん、おはよう」

 

 すれ違ったメイドたちが深々と頭を下げる。朝の挨拶をされたので挨拶を返す。

 それだけの事に感じるものがあった。

 

 仮面を着けて正体を隠し、イビルアイでいた時はこれと言って演技をしていたつもりはない。自分としては自然に振る舞っていたつもりだった。

 それは大きな勘違いと気付かされた。以前は肩肘を突っ張って自分を大きく見せることにどれほど力を注いでいたことか。

 自分がアダマンタイト冒険者でなくても、イビルアイでなくても、国堕としでなくても、威嚇しなくても、魔法の腕を見せつけなくても。吸血鬼を恐れる者はいない。害そうとする者もいない。少女の姿を軽んじる者もいない。屋敷の主人の客分として敬ってもらっている。

 

 今までも、吸血鬼である自分を恐れない者たちはいた。蒼の薔薇の仲間たちがその最たるものだ。

 しかし、彼ら彼女らであっても、周囲の行動を変えるには至らなかった。仮面を着けて正体を隠す指輪を嵌めていなければ、人間の街になぞ到底行けるものではなかったのだ。

 

 それがここでは全く気にされていない。

 前例にミラがいる。屋敷の主人は魔導国宰相閣下つまりは悪魔の相談役。そして魔導国の王は骨の姿をしたアンデッド。

 魔導国には亜人やアンデッドが多数と知っていたし自分の目で見聞きしていたが、自分自身で体験するとこうも違うものなのかと驚かされる。

 流石はモモン様が剣を預ける魔導王である。屋敷の主人であるご主人様もアインズ様は割とではなくとっても偉大だと言っていた。

 

 そのご主人様についてだが、その場の勢いと雰囲気と流れとミラによる執拗な刷り込みでご主人様と呼ぶようになってしまったが、あくまでも呼び方がそうであるだけで主従の関係があるわけではない。ではどういう関係かと聞かれたら言葉に詰まる。

 主人と客人、は表層的過ぎる。

 知人以上なのは間違いない。かと言って友人とは違う。

 吸血鬼的にとても美味しい血をしているが、捕食者と被捕食者は絶対違う。これについては、施す者と施される者ではないだろうか。

 恋人、はかなり近い可能性があると判断せざるを得ない経験をしているので断言までは出来ないものの暫定的にはこれではないだろうかと思わなくもないが屋敷のお嬢様やミラとあのような関係を持っているのを目にしているので断定が難しいがここに一票入れざるを得ないのは確か。

 しかし、決定的な行為にまでは至っていない。

 一応の知識はあるが、自分とは全く無縁の事柄と判断してきた。それがここに来て得られるかも知れない。

 序章であれほど凄かったのだ。更に幕が開けば一体どんな事になってしまうのだろう。

 久しく忘れていた未知への期待に胸が高鳴る。

 

 風呂には入った。髪は入念に梳かした。服装は防御力的にいささか心許ないが用意されていたのはこれだけだったのできっとこれで良いはず。

 言われた部屋に入る前に廊下のガラス窓と向き合って、髪と服の皺を最終チェック。

 深呼吸をして、ドアを二度叩いて、入室を促す言葉を聞いてから勢いよくドアを開けた。

 

「たのもー!」

 

 昔々のことである。覚悟を決めて扉を開く時はこのように言うのだと聞いたことがあったのだ。

 

「朝からお元気ですこと」

 

 白い目に迎えられた。

 燃え盛っていた所に水を掛けられたようで、思わず二の足を踏んでしまう。

 

「意地悪なことを言うんじゃない。キーノは俺が呼んだんだ。仕事を手伝ってもらうつもりだ」

「これをでしょうか? 読めるのですか? いえ、そもそも極秘に指定する必要がある情報ですわ」

「そっちじゃない。それはソリュシャンとルプーに引き続き頼むよ。キーノに頼みたいのは別件だ。傍に来てくれ」

「う、うむ……」

 

 お嬢様の冷ややかな視線に晒されるのは、女であれば及び腰になるに決まっている。絶世の美女である上に群を抜いたスタイルをしているのだ。

 何を言われるものかと身構えていたが、お嬢様は後ほど報告に来ると言って部屋を出ていった。

 

 キーノは緊張が解けた安堵からふうと息を吐いて、改めて室内を見回した。

 ゴキブリ駆除の際に一度だけ入った部屋である。その時も思ったものだが、部屋のあちこちから魔法の力を感じられた。

 特に目を引くのが机の上に置かれた金属製の三角錐。

 

「これはどういう効果があるのか聞いてもいいか?」

「移動のためのアイテムだ。設置した場所同士を瞬時に移動することが出来る。今はここと帝都を繋いでる。俺にしか使えないから、皆には綺麗な置物程度の意味しかないけどね」

 

 長くを生きたキーノ的にも素晴らしいを越えて凄まじい効果があるアイテムだった。

 

「有り難くもアインズ様から下賜されたマジックアイテムだ。一応話しておくと、この書斎にはアインズ様が加護の魔法を掛けてくださっている」

「魔導王の……」

 

 魔導王からとても希少なマジックアイテムを下賜され、魔導王直々に書斎に加護の魔法を掛けてもらう。それすなわち、この男はそれだけ魔導王から重用されている証左である。

 

 誤解のようで誤解でもないのだが、とりあえず件のマジックアイテムは在庫が五桁ある。書斎の魔改造はアインズがやってみたかっただけだ。そもそも書斎を改装する必要に迫られたのはシャルティアが暴れたからであって、と言うのはキーノが知る由もない話である。

 

「今日は簡単な仕事を手伝ってもらうつもりだ」

「この山のことか? これは……帝国貴族の?」

 

 上質紙だけで作られた書類が山と積まれている。キーノは目に入ったものを口にした。

 

「読めるのか?」

「神聖語だろう? これでも長く生きている。読めない文字も多いがある程度は……」

 

 キーノが知る限りでは、現在の神聖語は法国の極々一部だけで使われている言語だ。その文字が使われているということは、法国の関与がある事になる。

 しかし魔導国に法国の気配はない。法国から来た文字でないとすれば、魔導国が元から使っていた文字となる。

 では法国が使う神聖語はどこから来たのか。

 考察は途中で打ち切られた。

 

「それは頼みたいこととは別だ。ソリュシャンが言ったように極秘だから、今見たものは公言しないように。されたら帝国がとても困る」

「……わかった」

 

 ちらと見えた範囲では、帝国の一貴族の情報が事細かに載っているようだった。もしも情報が正確で、帝国貴族全てが網羅されているならば、確かに帝国はとても困ったことになるだろう。

 

「しかし私に頼みたいことと言っても……、だな」

「キーノの立場はわかる。一応はまだ王国の冒険者だからな。それとは全く関係ないことだから安心してくれ」

 

 まだであって、いずれはわからない。

 心が揺さぶられる。少なくとも一蹴出来るものでないのは確かだ。

 

「とりあえずこれを見てくれ」

 

 男が机の上に大きな紙を広げ、さらさらとペンを走らせた。

 

 

 

「ご主人の頭はどうなってるんだ!?」

「言い方。どいつもこいつもどうして似たような事ばかり言うんだ」

「いやそれは当然だろう。何か下書きが……なかったな。魔法で転写? そんな気配は……。まさか全部覚えていてそれを書いたのか?」

「……見ての通りだ」

 

 内心では、その気にさせる練習と聞いていたのに仕事の手伝いと言われて、落胆したキーノだ。しかし目の前で見せられた技が何もかも吹っ飛ばした。

 広い紙面へ縦横にペンを走らせ、三本目の線までは出鱈目な落書きなのかと思った。そこへ歪に並行する線が幾本も現れ、どこかで見たような姿となり、最後には記憶にあるいずれよりも詳細な地図となった。

 帝国東部から竜王国全体を示す地図だ。この一枚だけで、持っていくところを選べば一生遊べる金が手に入る。持っていくところを間違えればその場で抹殺される。

 それを目の前で、たったの数分で仕上げられた。

 

「竜王国の地図だ。あちこちに数字が書いてあるだろう? そこの地名を教えて欲しい。色々調べたが帝都じゃ竜王国の地理まではわからないことが多かったんだ。知っての通り魔導国は竜王国と友好関係にあるから、この地図を元に何かが起こる可能性はないよ。地名くらいならいいだろう?」

 

 ビーストマンを駆除するために、竜王国へアンデッド兵をレンタルしている魔導国である。

 

「それはそうだが……。この地図は……。いや、止めておこう」

 

 仕上がった地図がどうなるかは知れている。わかっていることを聞くのは無駄なことだ。

 協力するのは地名だけ。

 

「間違いや記憶違いがあったらその都度修正するから気負わなくていい」

「わかった。それでは一番から……」

 

 キーノが口にした地名を男が別紙に書き記す。地名以外に色々書いているようで、文字らしきものが長く続く。

 文字ではなく「らしき」とつくのは、ペンの試し書きにしか見えないからだ。あれは後から見返して読めるのだろうか。

 書き終わるのを待たず続けてと言われ、順々に地名を挙げていく。知らないもしくは曖昧な所は飛ばす。

 男はペンを滑らせ続けるが、キーノが最後の地名を口にするまで大した時間は掛からなかった。

 

 お手伝いはあっという間に終わってしまった。

 他にして欲しい事がないのなら、書斎に掛けられた魔法の調査や壁一面を占拠する本棚でも見せてもらおうと思った矢先である。

 

「それじゃキーノの練習を始めようか」

 

 男は器用にも右手でペンを使い続け、体はキーノに向き直ってそんな事をのたもうた。

 

「練習? 何のことだ?」

「もう忘れたのか。俺をその気にさせる練習だ」

「んなっ!?」

 

 男女の行為をしたがったキーノである。

 そのためには、キーノ自身は体にあれこれ刻まれて問題ないとしても、男がその気になってくれないと出来ない。つまりは男を興奮させて欲情させるための練習である。

 キーノの顔は一瞬で真っ赤に染まり、両手を振り回して男に食ってかかった。

 

「こんな所でか!? 誰が来るかわかったものじゃないし窓は広いし何を考えてるんだ!」

「いいか、キーノ。よく考えてみろ」

 

 男は真顔である。からかっている様子はない。

 

「ソリュシャンとルプーがいるだろう? あいつらから毎日ベッドに引きずり込まれるんだ。キーノはとても可愛らしいがあいつらとは違うところもある」

「うっ!」

 

 自分の体を見下ろしてみた。

 平坦ではない。腰もくびれている。顔は悪くないと思っているし可愛いと言ってくれたばかり。総合的な自己評価では中々のものと言えよう。

 しかし、あの二人と比べられたら分が悪い。

 

「キーノだけの魅力を俺に見せてくれ」

「う……、しかし、だな……」

 

 書斎である。私室と違って公的な役割を担っている。現にさっきもお嬢様が来ていたばかり。

 不特定多数が出入りする場所でそんな事をするのは、いわゆる公序良俗に反するのではないだろうか。

 一言で言えば恥ずかしいのだ。

 

「いいか、キーノ。よく聞け」

「……なんだ?」

「俺は、やれと言ってるんだ」

「!!」

 

 キーノは男をご主人様と呼ぶが、あくまでも呼んでいるだけであって主従の関係にあるわけではない。

 しかし、色々刷り込まれてしまった。昨夜の記憶は曖昧だが、どうやら体は覚えている。

 ご主人様はあくまでそう呼んでいるだけなのに、強く命じられると逆らえないのだ。

 

 

 

 

 

 

 男は椅子を回して体ごと隣に立つ少女に向き、右手だけが机の上にある。

 右手は机の上を見もせずにペンを走らせ、紙面の余白が埋まると指で弾く。弾かれた紙は机の上を滑って他の紙の上にピタリと止まった。

 うわぁご主人様は器用だなあ、と現実逃避をしたキーノだったが現実からは逃げられない。

 

「誰か来たら……」

「ソリュシャンが報告に来るのはずっと先だ。誰かが来るにせよノックするから問題ない」

 

 極秘書類が散らばってる書斎である。ソリュシャンやルプスレギナであってもノックせずに入室すると怒られる。

 

「これをしないとご主人はその気になれない?」

「そうだ」

 

 男は真顔で真っ赤な嘘を吐いた。なにせネムちゃんに飲ませた大罪人である。ロリ形態のアウラの口を使ったこともある。

 しかし、金髪美少女を苛めるのはとてもそそられるのだから仕方ない。

 

 キーノはちらちらとドアを伺う。

 五度見しても覚悟は決まらない。

 

「まだか?」

 

 右手の仕事が終わったようだ。ペンにはしっかりとキャップを締め、指で回している。

 

 キーノの頭の中では良識と常識と羞恥心と御主人様からの命令が戦っていた。越えてはいけない一線を踏み越えようとしているように思えてならない。

 覚悟は一向に定まらない。昨夜の記憶が鮮明ならこの程度と思えたかも知れなかったが、生憎曖昧だ。イメージの断片ばかりが散らばっている。覚えているのはとても幸せだったこと。そして、強く言われると逆らえなくなるこの体。

 やれと言われた。

 固く握った拳がぷるぷると震える。ドアとご主人の顔を往復していた視線が床を向いた。

 ここが書斎だと思うから恥ずかしい。明るい所で見られるから恥ずかしい。

 キーノが導いた答えは、見ないことだった。

 

「焦らすね。そのまま上に」

「……わかった」

 

 拳がぎこちなく解かれた。

 

 黒のキャミソールワンピースは丈の長さが膝まである。

 キーノは少しだけ屈み、キャミソールの裾をそっと摘んだ。

 裾を摘んだまま、両手をゆっくりと持ち上げる。

 下を向いているせいで、キャミソールをたくし上げているとはっきり自覚してしまう。しかし、それ以外の方向を見れないのだ。

 

 膝頭があらわになり、白い太ももが見え始める。

 立ち位置の関係でキャミソールの内側は影が濃い。そう感じたのは錯覚だとすぐに知れた。

 

「肌が白いから黒いのがよく似合うな」

「うぅ…………」

 

 太ももの根本までたくし上げられ更に上へ。黒い三角形が現れた。

 

 吸血鬼であるキーノに防寒の必要はない。下着は被覆面積が小さいデザイン重視のお洒落なもの。

 サイドの生地は指一本分の幅しかない上に、股間へ向けての角度も鋭いので、鋭角な三角形の頂点を引っ張ったように見える。

 

「こっちを見ろ」

「っ…………、はい……」

 

 顔は赤く、目が潤んでいる。

 一瞬だけ視線がドアの方へ向き、次いで窓の外へ。

 

「アインズ様が防諜のための魔法を掛けてくださっている。窓の外から中は見えないから安心していい」

「…………」

 

 緊張が過ぎて声を出すことが出来なかった。それが気に障ったわけではないだろう。口元が綻んでいるのだ。男は回していたペンを止め、キーノへ向けた。

 顔へ突きつけられたペンが真っ直ぐに下がる。太ももと太ももの間の僅かな隙間に差し込まれ、

 

「ひぅっ……」

「うん? 痛くはないだろう? 触れているだけだし」

「い、痛くは、ないが……」

 

 ペンが下から触れてきた。数度前後に動き、離れていく。

 下着の薄い生地がペンになぞられ少しだけ食い込んで、僅かな筋を作ったのはキーノからは見えなかった。

 男は満足そうに一つ頷いて、ペン先をキャミソールの裾に引っ掛けた。

 

「もっと上に」

「もっと!? でもこれ以上すると……」

 

 小柄なキーノは背が低い。そして机は縦にも横にも大きい。キーノが普通に立つと、机の高さは腰より上になる。

 パンツを見せるまでなら机の陰に隠れるが、それ以上だと見えてしまうのだ。

 

「それなら下からじゃなく上からにするか?」

「うえ!?」

 

 キャミソールワンピースは肩紐で吊り下げているだけのゆったりとした着心地。どこかで締めているわけではない。肩紐をずらせばするりと脱げる。

 ここで全裸になるのだったら、たくし上げた方がまだしもまし。

 

「さっきはキーノに手伝ってもらったからな。今度は俺が手伝ってやろうか?」

「い、いい! だいじょうぶ。一人で、できる……」

 

 キーノはきゅっと目を閉じて、

 

「目を閉じるな」

 

 即座に厳しい声が飛んできた。

 目を開ければ赤と青の光が飛び込んでくる。

 

「は……はずかしい……。こんなところで……」

 

 ついと泣きが入った。

 手は震え、潤んだ目には涙が溜まった。

 

「一人で出来ると言ったろう? キーノにしか出来ないことだ。頑張れ」

 

 これがソリュシャンだとすぐに全部脱いでしまって恥じらいも何もない。本当にキーノにしか出来ないことなのだ。

 キャミソールをたくし上げてパンツを見せ、羞恥に震える様はとても良い。

 期待が徐々に高まっていく。

 

「ひゃっ!」

 

 男の手が細い腰に触れた。

 少しずつ上を目指し、キャミソールの中へ入っていく。それに釣られるようにして、キーノの手も上がっていく。

 キャミソールの黒とパンツの黒に挟まれた白い領域が広がっていき、小さくくぼんだへそが見えた。

 腰を撫でていた男の手は前に回り、白い腹へ手のひらを滑らせる。

 キーノは浮かされたようにキャミソールをたくし上げ、男の指先に柔らかな肉が触れた。

 

「もう少しだ」

「はぃ…………」

 

 平坦だった白い肌が盛り上がり始めた。

 未成熟な少女の体にしては育っている方と言える。

 手の平をぴたりと当てていた男の手は、親指とそれ以外の指とで分かれ下から包んだ。

 

「はあ……はあ…………」

 

 たくし上げているだけなのに、キーノは息を荒らげている。

 黒い布の下にピンク色が見え始めると、すぐに赤く色づいた突起が顔を出した。

 キーノは尚もたくし上げ、両手は鎖骨でようやく止まった。

 

 キーノはブラジャーを着けていなかった。

 サイズ的に着けた方がいいだろうが、男が用意をさせなかった。スリップも着けてない。インナーは黒いパンツだけ。

 

「そのまま」

 

 命じられるままに裸体を晒す。

 目を開けているキーノは、男の視線が自分の乳房に向けられているのがよくわかった。

 

「あんっ……」

 

 甘えた声が出る。

 逞しい指が乳房を掴んでいる。揉むくらいはあると自負する乳肉が男の手指に形を変えられ、張り詰めてきた。

 見なくても感じるし、見下ろせばよく見える。

 乳房の先端に熱が溜まって尖っている。

 

 手招きをされ、キーノは半歩前に出た。

 

「ここを舐めたのを覚えてるか?」

「……覚えてる」

「されたことを言ってみろ」

「…………息を吹きかけられて立ってしまったのを、舐められた。のだと思う」

「もう立ってるな」

「だって……、さわるから……」

 

 椅子に座る男の頭はキーノの胸と高さが同じ。

 

「あ……」

 

 男の手が背中に回る。

 キーノは少しだけ前に押し出され、男の顔に胸が触れた。

 

 谷間と言うほどはないけれど、乳房の間に顔を押し付けすんすんと鼻を鳴らす。きちんと湯を使ったようで、香料に少女の甘い体臭が混ざり合う。ティアがくんかくんかしたがったキーノの匂い。

 ちゅっちゅと乳肉に唇で触れる。ちっぱいは卒業してぎりぎりおっぱいと言える乳房。

 心の中でいただきますと唱え美味しそうなさくらんぼを口に含もうとしたその時、コンコンとドアが鳴ってキーノは瞬時にキャミソールを下ろし内側に巻き込まれた男は視界が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

「失礼いたします。お茶の用意に参りました」

 

 本日のメイド教官がお茶の用意をしている間、キーノはぷるぷる震えていた。

 

「相談役殿に少々お聞きしたいことがございます。よろしいでしょうか?」

「何かな? 答えられることなら何なりと」

「帝都に赴いているシクススはよくやっているのでしょうか?」

 

 シクススからはこまめに手紙をもらっているが、直に接している者から話を聞きたいとのこと。

 以前はシクススと一緒に行動することが多かった彼女で、帝都のお屋敷のメイド長になってしまったシクススを心配するやら羨むやらで複雑であるらしい。

 

 シクススにはとても世話になっている。仕事に抜かりはなく、シクススに任せておけば大抵はうまくいく。先日は連絡が遅れたせいで随分と怒られてしまった。あまり怒らせすぎるとしょっぱい紅茶を飲まされるので注意しなければならない。

 そんな事を話すと、彼女は難しい顔を見せた。

 

「しょっぱい紅茶ですか?」

「ああ。あれは多分シクススのおしっゲフンゲフン!」

 

 眼鏡の奥でメイド教官の目が細められた。

 

「聞かなかったことにいたします」

 

 長話をするつもりはないらしい。お茶の準備を終えると話を切り上げ、一礼して退室した。

 

 書斎のドアが閉まるなり、キーノはいきりたった。

 

「ご主人のバカバカバカ! 人が来るじゃないか!!」

「見られてないんだから大丈夫だろう?」

「そういう問題じゃない!」

 

 それならどういう問題だと聞きたかったが、真っ赤になって怒っているキーノに理性的な話は不可能と思われた。

 

「わかったわかった。それなら今度はキーノじゃなくて俺の番だ」

 

 キーノは裸を見られるリスクを恐れて怒っている。それならリスクを交代すれば良い。

 人並みの自尊心がなければ真っ当な羞恥心もない男だ。かつて、十数名のメイドたちの前で素っ裸に剥かれて射精を見せた事がある。それに比べたら書斎で少々露出する程度は何の問題もない。

 

「何をする気だ!?」

 

 怒り冷めやらぬキーノはひとまず放置して、椅子の座高を低くした。

 脚を開いて浅く座り、スラックスのベルトに手を掛ける。

 

「キーノの手でこれを大きくしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 書斎の絨毯は毛足が長く、掃除も行き届いている。裸で寝っ転がっても快適だ。

 キーノは机の下に潜らされ、へたり込んでいた。

 

「手と口を使うんだ。歯を立てるんじゃないぞ」

「………………」

 

 昨夜、夢うつつに見たような気がするがはっきりとは覚えていない。それが今目の前に。

 男の股間に肉色の棒がぶら下がっている。柔らかそうで下を向いている。朧気な記憶によると、これは真っ直ぐ上を向いていたはず。

 キーノが生まれて初めてはっきりと目の当たりにする男性器であった。

 

「まずは根本を握って軽く上下に扱いてくれ」

 

 生まれて初めてで動転しているのに待ってくれない。キーノの頭を掴んで股間に押し付けようとしてくる。

 キーノは何も考えられず、言われるがままに握ってしまった。

 

(ここここここ……これが…………! おちおちおち……おちんちん、か! 手と口でと言ってもどうやって。……まったくご主人は何を考えているんだこんなところでおちんちんを出して私に触れなんて恥ずかしいとは思わないのか! ……けっこう柔らかいな。昨日の夜はもっとこう上を向いていたと思ったが。大きくしろと言ってたから刺激を与えれば大きくなるのだろうか? 私の乳首も触られたら立ってしまうし)

 

 上目遣いに男の様子を伺いながらゆるゆると上下に扱く。

 強く握れと言われて少しずつ力を加減する。握る力に反発するように逸物が固くなっていく。

 

「ちんこが立つのを勃起と言うんだ。知ってるか?」

「一応、知ってる。……もう固くなってきた。大きくするのはこれでいいのか?」

「まだまだだ。口も使ってないだろう?」

「口って…………舐める?」

「舐めるのもそうだが……」

 

 今まで何人からもフェラチオをされてきた男だ。

 どうされれば具合がいいのかはわかっていても、具体的に指示するのは面倒である。指導者がいてくれれば良いのだが、ぎこちない手付きもそれはそれでそそられる。

 ネムちゃんだって初めてのお口で射精を導けたのだから、キーノならきっと何とか出来るはず。

 

「時間はある。貸してやるからしばらく頑張ってみろ。ダメな事はちゃんと言うから」

「…………わかった」

 

 男の視線がキーノから切られ、机の上に向けられた。紅茶に手を伸ばしているらしい。

 

 キーノの意識は頭上から目の前に。

 始めた時よりは固くなっているが、立っているとまでは言えない。少しだけ持ち上がって、先端がキーノの顔に向いている。

 口を薄く開き、舌を伸ばした。

 舌先が先端に触れた。

 味はわからなかった。

 

(おちんちん舐めちゃった! ご主人は何も言わないからこのまま続ければいいんだろうか? ……熱くなってきたな。おちんちんてこうなるのか。手で扱いたら大きくなったんだから、根元の方は扱いて先っちょの方は舐めて……)

 

 

 

 亀頭に柔らかなものが触れるようになった。

 紅茶で喉を潤しながら見下ろせば、キーノが亀頭に口付けている。

 キスを送るだけだったのが舌を使うようになり、唇が離れると細い糸を引く。

 手を休ませず使い続けているのは高得点で、頭を撫でてやった。

 立たせるだけならここまでで十分と言える。しかしまだまだ序の口だ。最後には入れて欲しいようだから出すところまでは行かなくても、もっと頑張って貰う必要がある。

 

(固い。熱い。さっきより上を向いてる。これがおちんちんの勃起……。こんなに大きくなるなんて……。私の中に入るんだろうか? こんなのが入ってきたら……壊れる。でもミラには入ってたんだ。きっと私にも入るはず。……何ていうか。おちんちんを舐めてると変な気分になるな!)

 

 男性器を勃起させられたことに、キーノは小さな満足感を覚えた。

 反り上がった逸物に舌を這わせ、根本から先端まで舐め上げる。

 先端へはキスするだけだったのが、薄く唇を開くようになった。

 亀頭を唇で挟んで舌を使う。レロレロと舐め回し、もう一度下から上へ。

 唇で挟んでいる時、頭に手が乗せられた。少しだけ押され、すべき事が見えてきた。一流の冒険者であるキーノは対象の分析と対策が習慣付いている。

 

 男性器はおしっこをするところだから汚い、とは毛頭思わない。まさにそのおしっこが出るであろう先端を唇で包んだ。

 さっきと違うのは、そのまま深く受け入れること。歯が当たらないよう気を付けて逸物を口内に迎え入れる。

 口は大きく開いても唇はきゅっとすぼめた。まるで吸い付いてるように感じて、これだと直感した。

 咥えたままちゅうちゅう吸うと、舌も頬の内側の粘膜も熱い肉棒に密着する。これなら手ほど強い刺激は与えられなくても、ぬめって柔らかく包み込める。

 ぬめるのが大事と気付き、舌を使って唾を塗りつけた。吸いながらだといまひとつだったので、一旦口を離してからそそり立つ男へ向かって唾を垂らす。

 亀頭に泡立った唾が垂らされ、竿を伝って流れていく。両手で握って塗り拡げ、もう一度しゃぶりついた。

 男の熱が移ってきた。喉を通る唾液も温まっている。

 

「手を使わないでやってみろ」

「んん……わはっは…………。あむ……、じゅぷじゅぷ……れろ……、んぅ……んっ……」

 

 竿を握っていた両手を下ろし、頭だけを前後に振る。

 

「!?」

 

 頭を撫でられた時はこれで良いのだと褒められたようで嬉しくなった。

 それが両肩を撫でて肩紐をずらしだのだ。

 キャミソールは肩紐で吊るしているので、それを外されると簡単に脱げてしまう。

 両手を下ろしていたので滑らかな生地はキーノ肌を滑り落ち、可愛らしい胸があらわになった。

 

「んんっ……、あんっ……。集中できなくなる。……ああっ! つまむなぁ……」

 

 男の長い腕はキーノの胸に届いた。さわさわと揉み、乳首を引っ張る。

 キーノは腕を肩紐から抜いて、邪魔をするなと言わんばかりに男の手を払い除ける。

 改めて逸物を両手で握り、上下に扱きながら先端に吸い付いた。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー。朝一で働いてきたっすよー」

 

 ノックの音と同時にキーノが停止した。頭を撫でても起動しない。

 今立っているのはキーノが頑張っているからであって、その気になっているのとは少し違う。目の前に扇情的な光景でもあれば違うかも知れないが、半裸のキーノを見るには机の下を覗かなければならない。

 入ってきたルプスレギナから目を逸らすのは不自然で、自然と力をなくしつつあった。

 手に伝わる感触が柔らかくなったことで、ようやくおずおずと唇を付ける。

 それでも先ほどの熱心さはなく、ゆるゆると扱いて先端を軽く口付けているだけだ。

 

「回復魔法掛けたら一応起きたっすよ」

 

 ルプスレギナは、寝込んだガガーランに回復魔法を掛けたと報告に来たのだ。

 ガガーランは目を覚まして食事等は自分でこなせるようになったが、自分が何者かもあやふやであるとか。

 忠告を無視して飲みすぎたのだから、魔法を掛けてやったのは最大限のサービス。後は当人の体力任せである。

 

 報告を終えてもルプスレギナは出ていくつもりはないらしい。

 机の上に腰を下ろし、メイド教官が持ってきたクッキーを口に放り込む。

 

「あのチビスケはどうしたんすか?」

「ここにはいないよ。ミラの様子でも見てるんじゃないか?」

「ふーん」

 

 ルプスレギナの想像力を駆使しても、まさか自分が座っている机の下で半裸になって男にフェラチオをしているとは夢にも思わないらしい。

 

「ソーちゃんから開放したって聞いたっすけど本当だったんすね。ちょっと甘いんじゃないすか? あんな事言ったんすよ?」

「あれはキーノへの罰や報復のつもりはないよ。こっちの話に耳を閉ざすようになったからこじ開けるのに必要だったんだ」

「へ? だってあいつは……」

「それだけどな。あれはキーノが悪かったわけじゃない。環境が悪かったんだ」

「……どういうことっすか?」

「キーノの名前は?」

「キーノじゃないんすか?」

「キーノ・ファスリス・インベルンだ。家名にミドルネームまである。どういうことかわかるか?」

「さっぱり」

「俺の知る限り吸血鬼が国を作った事はない。群れずに個々でしか存在しないなら家名やらミドルネームは必要ない」

 

 ミドルネームが洗礼名なのか父祖の名や家名なのか、はたまた地名なのか称号なのか、そこはどうでもよい。ミドルネームまであることが重要だ。

 

「キーノは元々人間だったってことだよ。年は十四・五じゃないかな。そんな年齢で吸血鬼になったんだ。人間の国でたった一人。あの態度を見れば強く見せなきゃ生きられなかったと想像できる。散々苦労しただろう」

「で?」

「そろそろ帳尻を合わせてもいい頃だ。……まあ、俺も酷い目に遭ってきたからな」

「おにーさんらしくないっすね。同情っすか?」

「同情……、どちらかと言えば代償だろうな」

「ふーん……」

 

 ルプスレギナはつまらなそうに唇を尖らせる。

 机の下ではキーノが再停止してしまった。ルプスレギナに気付かれないよう頭を撫でるとゆっくりと再起動する。

 

「でもあいつはエンちゃ……」

 

 ルプスレギナの言葉が途切れた。

 男が唇の前に人差し指を立て、それから机の下を指す。

 ルプスレギナは唇の端を引きつらせた。

 

「それとだな。ソリュシャンにも言っておけ。次はない」

「げ…………」

 

 唇の端だけでなく頬まで引きつらせた。

 この男は、ソリュシャンとルプスレギナが結託してキーノを誘導し、キーノの暴言の対象をアルベド様だと思わせるようミラを唆したのを全てわかっていたのだ。

 

 怖いと言っただけで泣かされたルプスレギナである。

 キーノの暴言よりランクが幾分下る暴言を吐いたシャルティアは、階層守護者なのにガチ泣きに追い込まれ土下座までさせられた。

 あのような暴言を吐いた者が、たとえアルベド様へ貢献したとしても無事でいられるわけがない。精神的にも肉体的にも分解してからデミウルゴスと一緒に研究していたことだろう。

 キーノが罵ったのは姿形のない虚像であったのだ。

 

「じゃ、じゃあ私も言っとくっすけど、おにーさんからのご褒美はまだ貰ってないんすからね。後になればなるほど利子がつくっすから」

「待て。どうしてそこに利子がつく?」

「そんなの当たり前じゃないっすか」

 

 恐るべしナザリックの常識は男にもまだ遠いようであった。

 

「利子はヒサンでよろしくっす」

「ヒサン……」

 

 トイチより悍ましい響きである。

 

「日に三分っす。計算はおにーさん得意っすよね?」

「一ヶ月で二倍ちょっとか。今月中に何とかすれば大したことないな」

「言ったっすね? 楽しみにしてるっすよ♪」

 

 ルプスレギナは笑顔に戻って書斎を出ていった。

 

 

 

「おおっ!?」

 

 ドアが閉まる音と同時に、先端だけをしゃぶっていたキーノが男の股間へ深く顔を埋める。

 何とか勃起を維持していた逸物が喉奥を突き、苦しそうに喉を鳴らした。

 無理をするなと言っても止まらない。

 続けて深くまで往復し、五度を数えて口を離した。

 ゲホゲホと激しく咳き込み、口からは涎がたらたらと垂れている。

 口元の涎を腕で拭い、もう一度深くまで。

 男の腰に抱きついて頭を前後させ、じゅっぽじゅっぽと鳴っている。

 拙いながらも激しい口淫は、こみ上げるものがあった。

 

「キーノ、そこまで出来れば十分だ」

「はぁはぁ……、おちんちんが大きくなって、ご主人もその気になった?」

「ああ、キーノが頑張ってくれたおかげでな」

「うん、それじゃあ……」

 

 キーノは机の下から這い出してきた。

 顎まで涎が垂れているのはフェラチオの名残だとして、頬まで濡れているのはそれだけ苦しかったからだろうか。

 そうまでしてしゃぶってくれたのだと思うと、僅かな罪悪感がスパイスとなって滾ってくる。

 

「おちんちん、入れてくれるって……約束」

 

 キャミソールは脱がされている。

 最後に残った一枚を、キーノはその場で脱ぎ捨てた。

 股を開いて男の膝上に座り、正面から抱きつく。

 顔と顔が近付いて、キーノから唇を重ねた。生まれて初めてのキスだった。

 

「ちゅっ、ちゅっ、ちゅぅ……。あむっ……、んん……、はぁ、あむっ、れろ…………」

 

 舌使いの練習をしたばかり。

 昨夜と今朝方、男が女たちと交わしていたキスも覚えている。

 口を開いて舌を忍ばせる。体の外側だけでなく内側でも繋がれるように。

 舌を絡めて唾をすすってすすられて。

 

「もう欲しいのか? キーノの準備がまだだろう?」

「いい。すぐに欲しい。痛くてもいい。裂けてもいい。ご主人と繋がりたい。一つになりたい」

 

 キーノの下腹に熱い逸物が押し付けられ脈打っている。

 涙に濡れた目で繋がるべき場所を見下ろす。先端がへそにまで届いている。全部入らないかも知れないとか、本当に入るのだろうかとか、そんな事は考えられない。欲情しているのかもわからない。

 ただ一つだけ確信したことがある。

 この男の傍にいれば、自分は幸せになれると言うことに。

 

「それなら」

「うん、来て。私に入れて欲しい」

 

 男の両手がキーノの尻を掴み、キーノは腰を浮かせた。

 

 大きく股を開いてもキーノの割れ目は閉じたまま。

 筋をなぞる亀頭が濡れているのは、キーノの唾と、筋から溢れるキーノの愛液。

 キーノの体は心に同調して、受け入れる準備を整えつつあった。

 

 

 

 ところで、二度あることは三度ある。

 ノックもなしに扉がバーンと開いて、

 

「邪魔しんすよー」

 

 朝から吸血鬼がやってきた。

 

 シャルティアは机の向こうで重なる二人に目を丸くした。

 

「ほうほう、朝からとは相変わらず性豪でありんすねぇ。私も混ざりたいところでありんすが、今日はちょっと報告に来んした。ソフィーはナザリックにいるから心配いりんせん」

「ソフィーがナザリックに?」

 

 意外なところから出てきた娘の行方に、男の意識がキーノから離れた。

 それでも掴んだ尻はむにむにと揉んでいる。

 揉まれているキーノは完全に機能停止してしまった。

 

「アルベドの娘とは思えんほど賑やかな娘でありんすね。アウラがたじたじになってるのは見ものでありんした」

「正しくはアルベド様が創造なさった、です。一体どのような経緯でナザリックに?」

「私が見つけんした」

 

 シャルティアは豊満な胸を張る。

 お仕事中なのでいっぱい見栄が詰まっているお胸である。

 

 ナザリック航空便の最中にナザリックの馬車を発見。どうしてこんなところにと訪ねてみればアルベドの娘だという。

 傍にはヴァンパイア・ブライドのジュネがいたのでソフィーと名乗った少女に不審は抱かなかった。ジュネがいなくても、少し毛色が違うように感じたがナザリックのシモベの気配があったので敵対することはなかっただろう。

 ソフィーはナザリックの外で生まれたため、ナザリックを知らないという。アルベドの娘でナザリックの仲間なのにナザリックを知らないのは人生の九割九部を損している。

 シャルティアは純粋な厚意でソフィーをナザリックに招いたのだ。聞けばアインズ様への拝謁も済んでいるようで、受け入れに問題は生じなかった。

 

「アルベドの娘と聞いてどうかと思いんしたが中々話がわかる娘でありんす」

 

 アルベドは淫魔。シャルティアは淫吸血鬼。

 アインズ様の正妃を争っているので対立すること多々であるが、それがなかったらベッドの上での事柄を話し合う間柄になっていたかも知れなかった。

 

「シャルティア様にはご迷惑をお掛けしました」

「かまいんせん。その内埋め合わせしてもらいんすから」

 

 にっこりと笑ったシャルティアだったが、突然目付きを鋭くした。

 

「むむ、その女は吸血鬼でありんすね?」

 

 キーノはアンデッドの気配を隠す指輪を嵌めたままでいる。

 それでも高レベル吸血鬼であるシャルティアには感じるものがあったのか、はたまた見え隠れする白い肌から察するものがあったのか。

 

 書斎に入ったところで話していたシャルティアは奥へと入ってきた。

 机の前にまで来ると、

 

「えい」

 

 縦にも横にも大きい重厚な机を持ち上げて横へずらす。

 さすがのシャルティアはすごいぱわーである。脚を擦らずに持ち上げたのは偉かった。

 

 目隠しとなっていた机がどけられたので、男にしがみつくキーノの姿が上から下まであらわになってしまった。

 

「むむむ、どっかで見たような女でありんす」

 

 キーノの髪はとても長い。立てば尻を越えて太ももまで届く。

 シャルティアはキーノの髪を掻き上げて下から覗き込んだ。

 

「むむむむ、私にはわかりんす。これは未通の尻穴でありんすね! 使う前にはちゃんとほぐさないといけんせん。それに……、くんくん。おつゆとおちんぽの匂いでわかりにくいでありんすが、私の鼻は誤魔化されんせん。これは処女の匂いでありんす!」

「…………お見事です」

「えっへん!」

 

 シャルティアはふんぞり返ってから書斎を出て、ゲートの魔法を発動した。

 アインズの加護がある書斎内では、転移の魔法が阻害されるのである。

 

「…………」

「よしよし」

 

 男はキーノの頭を撫でてやった。

 キーノはぷるぷると震えている。

 

「う…………」

 

 しばらくして、キーノが小さく呻く。

 小さかったのは最初だけ。

 

「う…………うぅ………………、うぇええええぇぇええええええええええぇええーーーーーーーーーん!!」

 

 キーノは泣いた。

 

 男の方はとっくに萎えている。

 泣き顔は行けなくもないが、号泣されるとどうにもならない。

 

 

 

 ドアの隙間からルプスレギナが顔を覗かせ、とっても良い笑顔を見せた。




キーノにしばらく未通フラグが立ちました
まあたぶんそのうちいずれおそらくは

アンケートは誰が調整してるんだろう?
投票する前は結果が見えないと思うんですが


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ラキュースの買い取り価格

会話ばかりで15k字


「う゛わ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛ーーーーっん!!」

 

 キーノは逃げた。耳孔以外の頭部の穴から色々な汁を垂らして聞き苦しい大声で喚いて。

 アインズ様のお城へ向かうために屋敷の門で追い抜かれたエントマは、「……あれはない」と小さく独り言ちた。

 

 

 

 

 

 

 それから半日後。

 

「これからの事を話す必要がある」

 

 黄金の輝き亭の一室にて、キーノは真剣な顔で仲間たちに告げた。

 仲間たちが驚いているのは、みっともなく喚いていたキーノが深刻振った雰囲気でいるのが可笑しいからではない。

 

「イビルアイ……、あなた……、仮面は?」

「イビルアイかわゆすくんかくんかしたい、ハアハア!」

「後にしろ」

 「後なら可!? イビルアイがデレた!?」

「そういう問題じゃないでしょう!」

 

 エ・ランテルで一番高級な宿である黄金の輝き亭は顧客のプライバシー保護のために取りうる限りの防諜策を施してある。この場にいるのは蒼の薔薇の仲間たちだけだ。それでも頑なに仮面を被り続けてきたイビルアイが素顔を晒しているのは、ラキュースに小さくない衝撃を与えた。

 

「イビルアイはもう辞めだ。これからはキーノに戻る」

「辞めだ……って」

 

 話し合いの始めから飛んできた不意打ちにラキュースが絶句している一方、ティアとティナは二人からは見えないようハンドサインを送り合う。

 

(これはボスにやられたね)

 (それしか考えられない。モモンの言葉でもイビルアイがこうなるとは思えない)

(次にイビルアイは「魔導国に残る」と言う)

 (イビルアイじゃなくてキーノ)

(キーノ。やっとイビルアイの名前が呼べる! 後で絶対くんかくんかする!)

 (あっそう)

 

 訳がわかってる二人とは違って、ラキュースはイビルアイが仮面を外す事によって生じる問題を考えていた。

 声を変える効果がある仮面を外したイビルアイは、可憐な少女に見える。見た目というのは重要なもので、これからのイビルアイは色々なところで可愛がられることだろう。それはそれで良いことだが、冒険者としては上手くない。小柄な少女が冒険者をしていたら、どうしたって軽んじられる。

 これまで通りに実績を重ね続ければこちらの問題はいずれ解決するだろうが、もう一つの問題がある。

 今はまだアンデッドの気配を隠す指輪を嵌めているので気付かない者も多いだろうが、白い肌に赤い目、そして唇から覗く鋭い牙を見れば吸血鬼であると看破する者が必ず出てくる。

 吸血鬼が王国の冒険者でいられるわけがない。

 イビルアイが仮面を外すと言うことは、冒険者を辞める。つまりは蒼の薔薇から離脱することを意味する。

 

「色々聞きたいことはあるけど順番に行くわ。モモン様にはお会いできたの?」

「残念ながらまだだ。長期の依頼でトブの大森林の調査に向かっているらしい。お帰りは未定と聞いている」

「帰ってくるまで待つつもり?」

「少し違う。待つのは同じだが待ち方が違う」

「どう違うのよ?」

「……話す前に言っておくことがある。私はお前たちが嫌になったわけではない。このまま蒼の薔薇の一員であり続けたいと思っている」

 

 キーノは椅子から立ち上がって仲間たちの一人一人に目を合わせた。

 なお、ガガーランは朝方に回復魔法を受けて目を覚ましたが、食事をとってラキュースが止める間もなく酒瓶を一本空けたらまた寝入ってしまった。今も隣室で寝息すら聞こえない深い眠りに就いている。

 

「私は王国の冒険者を辞め、魔導国の冒険者になるつもりだ」

「なっ…………!」

「「おおー」」

 

 ラキュースはまたも絶句し、ティアとティナは歓声を上げた。

 

「だがお前たちと離れるのは心苦しい。私と一緒に魔導国の冒険者にならないか?」

「異議なし」

 「右に同じ」

「ティアとティナも何言ってるの!? そんな事出来るわけ無いでしょう!」

 

 ラキュースは椅子を蹴って立ち上がった。到底受け入れることなど出来ない提案なのだ。

 

 キーノに王国への帰属意識はない。そもそも吸血鬼でありアンデッドであるキーノが、人間の国家である王国を自分の国と思うわけがなかった。

 ティアとティナも似たようなもの。二人は広義の意味では帝国生まれ。元は暗殺集団イジャニーヤの一員であって、王国以前に国家へ帰属する意識が全くない。

 そんな三人が蒼の薔薇の一員として王国の冒険者であり続けたのは、ラキュースがいたからだ。

 

 ティアとティナはイジャニーヤとしてラキュースの暗殺に失敗して返り討ちにあい、仲間になることを受け入れた。

 キーノはラキュース率いる蒼の薔薇に挑まれ、敗れたことで仲間になった。その時の蒼の薔薇にはキーノの昔馴染みがいて全力を出しづらかったのもある。

 蒼の薔薇の中心はラキュースだ。「蒼の薔薇」と名乗るのは、ラキュースが青薔薇のコサージュで髪を飾っているからだ。

 蒼の薔薇にはラキュースがいなければならない。

 三人は是非にもラキュースに魔導国の冒険者となって欲しいのだが、ラキュースの拒絶は固かった。

 

「私は冒険者よ。国家の縛りを受けてるわけじゃないわ。それでも王国の冒険者を辞めるなんて出来るわけない。王国を捨てるわけにはいかないわ!」

 

 ラキュースのフルネームは、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。王国貴族アインドラ家の令嬢である。冒険者に憧れて出奔した身の上ではあるが、生家との縁は完全に切れたわけではなかった。

 それを王国から魔導国へ移るとなれば、生家との縁が完全に切れてしまう。まして王国と緊張状態にある魔導国。魔導国の冒険者になったら裏切り者呼ばわりされてもおかしくない。

 

「どうして急にそんな事を言い出したの? イビルアイが……いいえ、キーノが魔導国にと言うのはわからなくもないけれど」

 

 吸血鬼であるキーノが、アンデッドの王が治める魔導国に籍を移したがるのはラキュースにも理解できる。しかし、魔導国に来たのは今回が初めてではない。

 顔を見なかった数日で一体何が起こったのか。急過ぎる話だった。

 

「そんなのわかりきってる」

 

 訳知り顔のティアが右手の指を二本立て、一拍遅れて三本にした。

 ティアの左隣に座るティナは左手の親指と人差指で輪を作る。

 ティアが立てた指を、ティナが作った輪に抜き差しした。

 

「何だそれは?」

「キーノは知らなくていいから!」

 

 純粋無垢なキーノの心を守らなければならない!

 ラキュースの心に使命感が燃え盛ったのだが、容赦のない追撃があった。

 

「これがちんこ」

 「こっちはおまんこ」

「それをこうして」

 「入れたり出したり」

「二人共何言ってるのよ!!」

「…………邪魔が入った」

「邪魔!? なにそれ途中まではしたってことなの!?」

 

 混沌としているように見えるのはラキュースが猛っているから。

 他の三人は冷静なもの。からかい半分のティアとティナと違って、キーノの顔はどこか苦い。

 

「リーダー少し落ち着いて」

 「キーノの顔を見れば嫌がってないのはわかるはず」

「だって二人共何言ってるの!? キーノも落ち着いてないで何か言いなさいよ!」

「だから落ち着け。無理やりされたわけじゃ…………、無理やりだったかも知れないが」

「無理やり!? されたってどこまで!? やったのは誰!? あそこの若旦那様!?」

 

 ラキュースは一旦放置して、キーノはティアとティナの目を見た。

 二人は軽く頷く。

 それで大凡を察した。この二人もあの男にあれなことをされたのだ。

 一人喚いていたラキュースは、露骨に無視をされて空回りに気付く。内心は大いに荒れていたが、深呼吸をして外見上は冷静を取り戻した。

 

「それで、キーノは、あの人に、え……え、え、え…………っちな事をされたから魔導国の冒険者になりたいと言うの?」

 

 口にするには抵抗がある言葉らしく、ラキュースの頬は薄っすらと染まっていた。

 

「それは、だな」

「待った。ここからは私が引き継ぐ」

 「リーダーはよくわかってない。キーノもまだ処女で途中までって言うなら私達の言葉の方が説得力がある」

「一体何がわかってないって言うつもり? そんな事で王国の冒険者を辞めるって言う方が理解出来ないわ」

 

 ティアとティナはそろって溜息を付いた。

 カチンときたラキュースだったが、ひとまず二人の言葉の続きを待つ。

 

「まず実際的な問題。ガガーランをどうする?」

 「いつか回復するかも知れないけど今は一人じゃ生活できない」

「それは王国に連れて行って」

「こっちならお屋敷の神官様に回復魔法を掛けてもらえる」

 「王国にはあの神官様以上の信仰系魔法の使い手はいない」

「…………」

 

 それを言われると口を噤まざるを得ない。

 同じく信仰系魔法の使い手であるラキュースをして、お屋敷の神官が行使した回復魔法は伝説の域にあると思わされた。

 

「ガガーランは体力バカだからその内元通りになるとして」

 「あの若旦那様とあれな事が出来るのは王国じゃ絶対無理」

「だからそれが何だって言うのよ!」

 

 ティアとティナはまたもそろって溜息を付いた。

 

「リーダーは想像力が足りてない」

 「お屋敷の若旦那様の顔を思い出して。あんなに綺麗な男を他で見たことある?」

「それは……」

 

 貴族の令嬢であるラキュースは、王国の貴族社会を知っている。何代も続く貴種を見続けてきた。自身がそうであるように、美しい女がいれば美しい男もけっして珍しくない。

 しかし、あの男と比べれば全てが見劣りする。

 美とはあれを指すと言われたらやっぱりそうだったのかと納得してしまう。自分たちが知る美とはあれの陰に過ぎなかったのだ。

 

「若旦那様がいると暗い部屋が明るくなるレベル」

 「帝都じゃ若旦那様に見とれて魂を抜かれたみたいになってるメイドが幾らでもいた」

「その度にメイド長から人目につかない所に押しやられてたけど」

 「あれはちょっと笑えた」

「綺麗な人だっていうのは私も認めるわ。でもそれが何よ?」

「少しでいいから真剣に想像して欲しい」

 「若旦那様の顔を思い出した?」

「……思い出したけど」

 

 脳裏に美麗な男を描く。

 サファイアの右目とルビーの左目。それなら輝く銀髪はプラチナか。通った鼻梁に艶やかな唇はやたらと艶めかしい。

 蒼の薔薇崩壊の危機に直面して固く結んでいた唇が綻ぶ。

 思い描くだけで幸せになれる男だ。

 

「あの顔でおまんこを舐めてくれる」

「っ?!?!」

 

 ラキュースは反射的に股間を押さえた。

 性器は排泄する所でもある。女の嗜みでいつも清潔にしているが、見た目もあわさって綺麗なところとは言い難い。それ以前に誰かに見せるところでもない。厳重に隠している大切なところだ。

 そこを、あの美麗な男が、舌を這わせる。

 羞恥と罪悪感と背徳的な愉悦と、正とも負とも言えない感情が頭を熱した。

 

「舐めるだけじゃない。舌も入れてくる」

 「ヤバい……。濡れてきた」

「後でする?」

 「賛成せざるを得ない」

「バカなこと言わないで!!」

 

 恍惚と顔を緩めた二人を、ラキュースが一喝した。

 蒼の薔薇の未来について話し合っているのに、どうしてそんな猥談になっているのか。

 理解出来ないし、真面目に取り合ってるとも思えない。

 怒って然るべきなのに、二人の目は笑っている。

 

「リーダーは知らないからそんな事言える」

 「女に生まれてあの男を知らないのは人生の9割9分9厘損してる」

「それは違う。女に生まれた意味がない」

「そこまでか……!」

 

 キーノが食いついた。

 彼女はそこまでしてもらっていないのだ。

 

「キーノはどこまでされた?」

 「舐められた?」

「そこまでは……、まだ。性器を指で触られたくらいだ。胸は舐められたぞ」

 

 威張れることではないのだが、シャルティアに圧勝している胸を張る。

 

「そこは性器じゃなくておまんこと言うべき」

 「いやらしい言葉の方が向こうも興奮する」

「おまんこ、か。クリトリスはクリトリスでいいんだな?」

 「それでいい」

「ハアハア……、キーノがおまんこって言ってる。ここは私がキーノのおまんこに異常がないか確かめるシーン!」

「そんなシーンがあるか!」

「あたっ!」

 「でもくんかくんかはしていいって言ってた」

「あーーーーっ!? ティナずるい私もする!」

「こらまとわりつくな!」

 

 女同士の猥談は時に生々しい。

 その内の一人は筋金入りの同性愛者だし、もう一人も女の良さをこれでもかと教え込まれている。

 キーノは二人に左右から抱きつかれ、吸血鬼の聴覚が遠くでドアが閉まる音を捉えた。

 

「……ここまでだ。真面目な話に戻るぞ」

「私はずっと真面目。私にはキーノの性感帯を把握する義務がある!」

「ない! いいから早く椅子に戻れ」

 

 二人は渋々と椅子に座り直すが、内心ではほくそ笑んでいる。

 あのお固かったイビルアイが、キーノになったらかなり柔らかくなった。これは押し続ければいつかは行けるかも知れない。

 二人はそんな事は微塵も感じ取らせず、真面目な顔を繕った。

 

 

 

 キーノが先ほど捉えたドアの音は、ラキュースの部屋のドアが閉まる音。

 猥談に怒ったラキュースは席を立って部屋に戻ってしまったのだ。

 

「ラキュースをどうするか」

 

 キーノはラキュースには聞かせられない本題を切り出した。

 キーノが魔導国に移るのは決定事項。

 ティアとティナはもとよりそのつもり。加えてエ・ランテルでは姉妹と再会してしまった。二人の姉妹はイジャニーヤの頭領。その頭領がエ・ランテルにいたのは、イジャニーヤが魔導国に取り込まれたことを意味する。今更家族の繋がりがどうこう思う二人でなくても、同じ陣営にいるなら頼もしくはある。

 

「聞く耳持たなかったね」

 「処女はこれだから」

「……それを言うなら私もまだそうなんだが」

「そこのとこもっと詳しく」

 「ティアステイ。エロい話ばっかりじゃ進まない」

「そうじゃない。キーノはボスにお触りされただけで魔導国に入ることを決めた?」

 

 二人は徹底調教されて身も心も屈服してしまった。

 キーノはまだ処女と言うならそこまでではないと思われる。半ば無理やりだったそうだから近いことではあるのだろうが、この短期間で処女のままで、あれに匹敵する何かがあったのか。

 ティアはそうじゃないと言いながらも、エロい話から離れていなかった。

 

「それは、だな」

 

 ティアの内心を見通せなかったキーノは真面目な話だと察し、思う所をまっすぐ答えた。

 

 自分が元人間であったこと知っていた。苦労した過去に共感された。苦労はここまでで、これからは幸せになるべきだと言われた。

 今までは自分の力を利用したがる者たちばかりだった。言葉は悪いがラキュースも自分の力を当て込んでいる。しかし、あの男は違った。自分を見た目通りの少女と扱い、女の喜びを教えようとしてくれた。

 

 美化された記憶による捏造が少々入ったが、キーノの言葉はモモン様へ向ける思い以上に重いものがあった。

 

「私の知ってるボスと違う」

 「ボスはもっと鬼畜などすけべ」

「ご主人を悪く言うな!」

「「ご主人?」」

「あ、いや、それは、ご主人様ご主人様言うやつがいて移ったんだ! お前たちもボスってなんだ!?」

「ボスはボス」

 「奥でふんぞり返ってるのがボス」

 

 脱線しつつも話はラキュースのことに戻る。

 王国への帰属意識を全く持ち合わせてない三人と違って、ラキュースは王国貴族の生まれ。簡単に祖国を捨てることが出来ないのはよくわかる。

 しかし、三人ともラキュースと分かち難い絆を感じている。出来るならば共にあり続けたい。

 自分たちが王国の冒険者でいる選択肢がない以上、ラキュースを魔導国に残らせるしかない。それが難しいのだ。

 

 

 

 

 

 

「出てったと思ったら雁首揃えてこんな時間に何の用っすか?」

「一度お帰りなったのですから私達があなたを持て成す理由はないわ」

「待ってくれ。緊急で相談したいことがある。ご主人はいるか?」

 

 三人がいくら唸っても解決策は見つからない。

 ならば頼れるものに頼るのが一番の近道。自分たちが魔導国に入るきっかけになった男へ相談しようとやってきた。

 

「お兄様はお忙しいわ。出ていった者を構うほどお暇ではないのよ」

「そーゆーことっすね。あ、キーノちゃんがまた泣いてくれるならいいっすよ? あれは笑えたっすからね〜」

「う……」

「キーノが泣いた?」

 「なにそれ見てみたい」

 

 ルプスレギナはキーノが泣いて逃げ出したのを間近で見ていた一人だ。

 ティアとティナは怯んだキーノを援護するどころか追い打ちを掛ける。今後の関係性を覗わせる一幕である。

 

「待って。話だけは聞いて欲しい」

 「お嬢様とも無関係じゃない話」

「どういうことかしら?」

「相談はラキュースについて」

 「そもそもラキュースをエ・ランテルに連れてきたのはお嬢様の依頼」

「そうだったんすか?」

「そうだったのか?」

 

 ルプスレギナとキーノには初耳の話だ。

 ラキュースたちは、いずれ起こるとされる魔導国と王国の戦争を防ぐためにモモン様を頼ろうとエ・ランテルにやってきた、と思っている。それはティアとティナが誘導したからだ。そして二人がそんな事をしたのは、ソリュシャンからラキュースを連れてくるようお願いされたから。

 元を辿ればソリュシャンに行き着く話である。

 

「その事はもう良くなったと言ったでしょう。私には関係ないわ」

「お嬢様の狙いはわかってるつもり」

 「ラキュースをボスに喰わせる予定と違った?」

「そうなんすか?」

「そうなのか!?」

「うるさいわね。だからその話はどうでも良くなったと言ったでしょう!」

「まあまあソーちゃんちょっと落ち着くっすよ。どうでもいいなら聞くだけ聞いていいんじゃないっすか?」

 

 声を荒らげたソリュシャンに、ルプスレギナが口角を上げた。

 感情的になるのは、突かれたら痛いところがあるに違いない。

 基本的には仲良し姉妹であっても、からかえる所があるならとりあえず突っ込んでおく性悪姉妹でもあるのだ。

 

「私はキーノよりお嬢様と神官様との付き合いが長い。だから私が話をさせてもらう」

 

 三人の代表をしてティアが相談を口にした。

 

 

 

「つまりラキュースをおにーさんにやらせろってことっすね」

 

 ルプスレギナが身も蓋もないまとめ方をした。

 

「殺るなら私がしてもいいわ」

「そっちのやるじゃなくて犯す方のやるっすよ」

「そう言われるとそうなのだが……」

 

 自分たちで提案しておきながら、キーノの顔は難しい。

 一般的に女を犯すのは罪なのだ。

 羨ましそうな顔をしているティアとティナがおかしいのである。

 

「リーダー羨ましい」

 「出来るなら代わりたい」

「そっちの二人は滅茶苦茶やられてたっすからねー。むしろ私のほうが羨ましいっすよ」

「そ、そこまでなのか……!」

 

 キーノが知っているのは序章まで。

 幕が上がった或いは膜が破られたその先を、三人の女たちがこうも言うのだから、素晴らしいことは間違いないのだろう。

 

「それにリーダーは蘇生魔法も使える。取り込めば魔導国の力になるのは確実」

 「二人から見れば雑魚かも知れないけどアダマンタイト冒険者。王国の戦力弱体化に魔導国の強化。一石二鳥」

「そうなのか?」

 

 ソリュシャンとルプスレギナの化け物っぷりを知ってる二人と違って、キーノにとっては美しい女に過ぎない。

 

「その話は後で」

 「今はリーダーのこと」

「リーダーを手に入れればボスも相手が増える。これで三鳥」

 「私達も今後に繋がる。これで四鳥」

「でも私との時間が減るわ。青い鳥をどうしてあなた達に差し出さなければならないのかしら」

「今更一人二人増えようが同じじゃないっすか。おにーさんの相手って十人くらいいるんじゃないっすかね?」

「ルプーは誰の味方なのよ!」

「そんなのおにーさんの味方に決まってるっす♪」

「十人……そんなにいるのか!」

「あの顔じゃ仕方ない」

 「女の方から幾らでも寄って来る」

「で、一回寝たら逃げられない」

 「お嬢様の焦り方を見たらよくわかる」

 

 話が進むようで進まない。

 女同士の話し合いは際限なく脇道に逸れると決まっている。

 

 キーノは新たな情報に驚き続け、ティアとティナがラキュースを売り込む。

 ソリュシャンは提案に否定的で、ルプスレギナは積極的中立。

 お仕事の最終確認を終えたエントマもやって来てイビルアイもといキーノに因縁を吹っ掛けるが、キーノは潔く謝罪する。エントマを傷つけたのは両者ともに戦闘者であるので思う所はあれど一旦飲み込むことにして、戦闘中にキーノがエントマを挑発したのはそれとは別。

 

「あの時は一秒でも早くエントマを退けて王都に向かわなければならなかった。挑発したのは平常心を失わるためだ。戦闘の駆け引きとは言え詭道ではあった。ヤルダバオトに操られていた時のことを覚えているかわからないが、謝罪する」

「うう……、でも仲良くなんて出来ないんだからぁ!」

 

 ヤルダバオトに扮したデミウルゴスがナザリックのシモベたちを連れて王都を襲撃したゲヘナ作戦の折、エントマが蒼の薔薇と対峙したのはヤルダバオトに操られていたからだ、と言うストーリーになっている。

 ここであれこれぶっちゃけてしまうのはよろしくないのをエントマはわかっている。謝罪を突っぱねて攻撃を仕掛けるのは流石に不味い。

 

 エントマが加わったことにより、話し合いは更に混迷を深めた。

 エントマがキーノに突っかかり、キーノはいなす。

 ルプスレギナは油を注いでソリュシャンはどうやってこいつらを追い払おうかと思考する。

 ティアとティナは男の指遣いを語ってキーノとエントマの興味を引いて時間稼ぎ。

 ソリュシャンの専従メイドであるシェーダがティーセットを持ってきたのは良いが、次に現れたメイド教官は遅い時間に何を騒いでいるのかと小言を繰り出す。

 

 そして日付も変わろうかという時になって、お屋敷の若旦那様がやって来た。

 

「こんな時間に皆揃って何してるんだ?」

 

 今夜は一日遅れでアルベド様がいらしたのだ。

 エントマがお食事部屋の掃除を完璧に完了したと報告。ならばということでアルベド様が訪問なされ、男とエントマを使ってお食事部屋の隅々まで確認させた。

 その後はいつものようにお食事をされ、狩り場直行君の使用制限のために日付が変わる前にお帰りになった。

 日を跨いでも使用に問題はないのだが、そうするとその日は使用できなくなる。連日使用することは稀でも皆無ではない。念のためである。

 

「キーノとエントマさんがいるなら丁度いい。キーノ、こっちに」

「はい!」

 

 名指しされたキーノは嬉しさと誇らしさで胸いっぱいだ。どうやら朝方の痴態は消化できたらしい。

 しかし、男から言われたことに眉をひそめた。

 

「ちょっと俺のことをお兄ちゃんて言ってみろ」

「……は?」

 

 キーノは、ソリュシャンとルプスレギナとエントマを見る。

 三人の美女美少女から兄と呼ばれている男だ。自分もその中に加えたいのだろうか。

 

 キーノは困惑しても、兄呼ばわりしている三人はピンときた。

 

「…………お兄ちゃん?」

「違う!」

「何が違う?」

 

 男は大仰に頭を振る。

 

「もっと甘えたように言うんだ」

「………………お兄ちゃん?」

「全然変わってないじゃないか」

「そう言われてもな」

 

 男は、先ほどアルベド様からエントマとキーノの因縁について聞かされていた。

 

 エントマは自分を傷つけたキーノを酷く恨み、キーノを殺す際はその声をぜひ私に、とアインズ様にお願いしたようなのだ。エントマの地の声はコキュートスのように硬質で、現在の声は口唇蟲を使って出しているとか。

 キーノの身柄についてはアインズ様から一任されたため、アルベド様から命令されない以上殺処分は考えてない。だけども声くらいなら多少痛かろうとも我慢してもらうつもりだ。

 キーノの声がいずれエントマの声になるなら、事前に試してみるのは当然である。

 

「いいか、目を瞑って想像するんだ。

 俺とキーノは二人だけの兄妹だ。生活は慎ましいが平穏な毎日を送っている。ご飯もお風呂も寝る時も一緒でとても仲良しの二人だ。キーノはそんな俺が大好きで、いつだってくっついて離れない」

「う、うむ……」

 

 目を閉じたキーノの唇が緩んでいる。

 

「キーノが俺を大好きなように俺もキーノが大好きだ。

 しかしある日から俺の帰りが遅くなるようになった。キーノは俺のために食事を温めて待っているのに、俺が帰ってくるのは冷めきってから。

 一緒にお風呂は変わらないが俺はすぐに上がってしまう。寝る時だって俺はさっさと寝てしまい、朝はキーノが起きる前に出かけてしまう。

 そんな日が何日も続き、俺の行動を不審に思ったキーノは俺のあとをこっそりつけることにした。

 そこでキーノが見たものは、女と会って笑い合ってる俺だった」

「…………」

 

 キーノの瞼が少しひくついている。

 キーノちゃんはお話にとても感情移入しているらしい。

 

「俺が他の女と付き合って結婚すると思ったキーノは不安で堪らない。生活を支えているのは俺の稼ぎで、キーノはお荷物だって自覚があったからだ。

 それ以上に俺のことが頭にきた。

 ずっと俺のことが好きだったのに、俺もキーノが好きだとあれほど口にしてきたのに、俺は他の女を選ぶんだ」

「………………っ!」

「そしてついにその日がやって来た。

 俺はいつもより早い時間に、泥だらけになって帰ってきたんだ」

「一体何が起こったんだ!?」

「俺は泣きながらキーノに謝る。

 最近朝が早かったり帰りが遅かったりしたのは金を稼ぐためだった。

 稼いだ金で、キーノに誕生日プレゼントを買おうと思ったんだ。

 キーノが俺の恋人だと思った女はプレゼントの相談をしていただけの仕事仲間。俺の一番はいつだってキーノなんだ。

 しかし、プレゼントを手に入れたその帰り道。俺は悪い奴らに絡まれてプレゼントを取られてしまう。挙げ句川に叩き込まれて泥だらけになって帰ってきた。

 正直に話した俺に、キーノは自分が感じていた不安や怒りが全くの見当違いだったと気付くんだ。

 俺にとってのキーノはやっぱり一番でいつだって大切にしてくれて自分のことを考えてくれていると確信できた。

 間抜けな俺をキーノは許してやることにした。

 キーノにとっての俺は、とっても大好きなお兄ちゃんだからな。

 お兄ちゃんが好きな気持ちと、自分のために頑張ってくれた嬉しさと、怪我をしないで良かったっていう安心と、色々な思いを込めて。

 キーノ、目を開けてみろ」

 

 キーノは目を開けた。

 目の前に大好きなお兄ちゃんが柔らかく笑っている。

 

「えへへ……、おにーいたん☆」

「ブフォオッ!!」

 

 ルプスレギナが噴き出した。

 ソリュシャンは顔を背けてスライムらしくぷるぷるしている。

 エントマは表情を変えず、無言で首を振った。

 

「えへへって言った……」

 「おにーいたんって言った……」

「ご主人が言えって言ったんだぞ!!」

 

 ティアとティナは名状しがたいものを目にしてしまった恐怖に互いの体を抱き締めあった。

 

「キーノは可愛かったじゃないか。何がそんなにおかしいんだ? エントマさんだって可愛いと思うでしょう?」

「…………これじゃないぃ」

「あれ?」

 

 肝心のエントマから拒否されてしまった。

 これは一体どうなるのだろう。兎にも角にもアインズ様にご報告して判断を仰がなければならない。

 

 

 

「それでこんな時間に何の用だ?」

「それは……」

 

 ひたすらに遠回りをしていた話がついと本題に切り込んだ。

 

「つまりラキュースを奴隷にしちゃえって話っすよ」

 

 ルプスレギナが強引に話をまとめる。

 

「奴隷か。奴隷を手に入れるには命を助けるか金で贖うかと言うな」

 

 英雄譚にはお姫様の命を助ける英雄の話が頻出する。

 助けられたお姫様は英雄の奴隷となるのだ。奴隷との言葉を使っていないだけで、実質的には同じである。

 

「じゃー誰かがラキュースを襲っておにーさんが助けるんすね」

「魔導国でそんな事を出来るわけがないだろう」

「それではお金で買うのですか? 魔導国に奴隷制はありませんが」

「待ってくれ! ラキュースを魔導国に残らせたいと言ったのは私達だが奴隷にしたいわけじゃない」

 

 王国では撤廃されたが、長く奴隷制があった。

 王国での奴隷がどのように扱われてきたか、蒼の薔薇の三人はよく知っている。自分たちの仲間をそんな目に合わせるわけにはいかない。

 この男が暴力を好むとは思えない。きっと自分たちに賛同してくれると思ったのに、眉間に皺を刻んでいた。

 

「それはお前たちに奴隷についての誤解がある。そうだな……、ルプーは時々大きな杖を使ってるだろう?」

「使うっすね」

 

 ルプスレギナの創造主である獣王メコン川が持たせてくれた大切な装備だ。

 ちなみに、ひとまとめに杖と言うが、杖とは形状や大きさや使用目的によってスティック・ワンド・スタッフ・ロッド・ケイン・ポール・バトン・タクト・セプター・メイス・クラッチと様々な呼び名がある。

 ルプスレギナが持っているのは、その中で言うとメイスである。

 

「少し面白くないことがあったから杖をへし折って捨てた。ソリュシャン、どう思う?」

「気が狂ったと思います」

「そんな事するわけないじゃないっすか!」

「つまりそういう事だ。奴隷とは主人の大切な財産であって、無闇に消費するものじゃない。虐待なんて以ての外だ。王国の奴隷が酷く扱われてたのは安かったからだ。あいつらは人を攫ってそれを売り買いしてたわけだからな。今でも奴隷制がある帝国はちゃんと扱われてるぞ。奴隷が自由を取り戻す手段を用意するのも大切だ」

 

 かつて、アインズ様に魔導国で奴隷制を取り入れるべきと進言した男である。

 奴隷とは痛めつけて消費して使えなくなったら捨てると思ってる王国が異常なのだ。それを言うと、エルフを攫って奴隷にしている法国もその類になる。

 

「ボスはリーダーを、ラキュースを奴隷にしても痛めつけない?」

 「しないとは思うけど、もしもするなら賛成できない」

「理由もないのにするわけ無いだろ。ソリュシャンやルプーと一緒にするな」

 

 わーわー喚くお嬢様と神官様を視界から外し、ティアとティナはハンドサインを送り合う。

 

(理由がなければしない)

 (あればする)

(お嬢様と神官様はあれだけどボスからされたことはなかった)

 (だけどラキュースが素直に奴隷でいられるか難しい)

(アルベド様へ敬意を払う限り問題ないよ)

((!?))

 

 男が無言の会話に加わってきた。

 ティアとティナがハンドサインで意思を交わし合うのは公然のことだが、サインの詳細は二人にしかわからない、はずであった。

 

(帝都でもそれをやってたろう? 見て覚えたんだ)

 

「ちょっとちょっと内緒話はよくないっすよ? ともかくラキュースとか言うのを奴隷にするってことで本決まりっすね。ソーちゃんもそんなに拗ねなくていいじゃないっすか。おにーさんの相手が増えるなんて今更っすよ。どーせ十人くらいいるんすよね?」

「今週は四人だけだ」

「今週だけじゃなくて、この一年で……、おにーさんがアルベド様に助けられてからはどうなんすか?」

「そう言われてもな。馴染みの娼婦は11人いる」

「娼婦!?」

「金もらってボスとセックス!?」

 「羨ましすぎる妬ましすぎる!」

「私というものがありながらお兄様は!」

「待てお前ら! 俺は遊びに行ってるわけじゃない。技術の研鑽に行ってるんだ」

 

 身をもって知ってる女たちである。唯一何も知らないエントマは小首を傾げた。

 

「それじゃ娼婦以外に十人くらいっすか?」

「俺がアルベド様に救われてからと言うと……」

 

 それ以前のラナーは除外していい。むしろ二度と遭わないはずだと思いたいがアインズ様のお言葉があるので一度は会う必要があっても、以降はクライムに押し付けるつもりでいる。

 筆頭に来るのはまずアルベド様。

 順にユリ、ソリュシャン、ルプスレギナ、ナーベラル、シズのエントマを除いたプレアデスの姉妹。

 シャルティア様、アウラ様。

 シャルティア様から遣わされたミラとジュネ。ここにSVB47を加えて数が跳ね上がる。ヴァンパイア・ブライドたちが合わせて49。

 アウラ様のところのエルフメイドが二人。

 ナザリックのメイドでは、シクススとシェーダ。シェーダの同僚であるリファラとキャレット。

 カルネ村ではエンリ大将軍。妹のネムちゃんは除外していいだろう。

 帝国ではレイナース。カルカはいまだ手付かずだが一応数に入れておく。

 ここにいるティアとティナ、キーノはいずれが確定している。

 実の娘であるがアルベド様のご意向もあるのでソフィーも含めておく。

 

「丁度70人だな」

 

   ざわ・・・

 

      ざわ・・・

 

「淫魔か淫獣だと思ってたっすけど……」

「私が知らない間にどこでそんなに……」

「さすがボス……」

 「さすがとしか言えないボス……」

「ご主人の愛は凄まじいのだな……」

「70人って何が凄いのぉ? 食べた人数?」

「エンちゃんは知らない食べ方っすよ」

「知らない食べ方ぁ?」

「エントマにはまだ早いわ」

「また二人して仲間外れにするぅ!」

「お前らうるさい。言っておくがほぼ全員から迫られたんだ。俺からどうこうしたわけじゃない」

「うわぁ…………」

 

 誰かが漏らしたうめき声は、誰もの心も表していた。

 

「俺のことよりラキュースだろう。キーノ、ティア、ティナ、それでいいのか?」

 

 三人は顔を見合わせ、力強く頷いた。

 

「わかった。それなら……」

 

 

 

 

 

 

 翌朝、ラキュースは黄金の輝き亭の一室で目を覚ました。

 頭が重い。眠気を振り払おうと頭を振ったら痛くなった。寝酒が多かったのかも知れない。

 昨夜は就寝直前に、仲間たちからとんでもない話を聞かされてしまったのだ。気を紛らわせたくて酒に手が伸びてしまうのは仕方ない。

 それとは別に、お屋敷の若旦那様から持たされた星々の酒を飲んでからは酒量が増えている。

 月面世界に帰りたくなった。まだ宇宙大魔道士から悟りを授けられていないのだ。あなたにはすべき事があると仰っていた美しい人ともお会いしたい。

 

「はぁ……、こんなのじゃダメね」

 

 あれが夢に過ぎなかったとわかっている。それなのにもう一度と思うのは重症だ。ラキュースたち蒼の薔薇が焼き払ってきた黒粉の中毒者たちも同じだったのだろうか。

 気怠い頭と体に活を入れ、ベッドから出る。

 顔を洗って髪を整え、着替えようとしたところで服がないことに気が付いた。

 服だけではない。数々の装備品に、貴重品を仕舞っておいた袋もない。

 

「どういうこと? ティアかティナが何かしたの? ……これは?」

 

 部屋の隅々まで見て回り、最後にベッドの枕元に一枚の紙片が置かれているのを見つけた。

 

『ラキュース、すまない』

 

 キーノの文字でそう書かれていた。

 

「すまないって……。本当に、イビルアイは……」

 

 書き残された謝罪の言葉。

 キーノは自分を置いて、魔導国の冒険者になることを選んだのだ。

 苦しいことも嬉しいことも共に分かち合った仲間だと思っていたのに、こんな書き置き一つで別れを告げられる。それが悔しくもあり、悲しかった。

 紙片を摘む指に力が入る。

 感情的にくしゃくしゃにしてしまいたくなるのを堪え、裏返した。

 

『少し大変かも』

 『すぐに解決するから』

 

 裏にはティアとティナの文字。

 大変と言われても何のことだかわからない。

 隠された装備の事だろうか。すぐに解決するなら、直に戻ってくると言う事か。

 そう思った瞬間である。

 

「きゃっ」

 

 紙片がぽっと光ったと思ったら炎を上げた。

 ラキュースの手から落ちた紙片は、床に落ちる前に灰すら残さず消えてしまった。

 

「いったい――」

 

 考える時間はなかった。

 紙片が燃え尽きたと同時である。轟音を立てて部屋の壁が吹き飛んだ。

 

「え?」

 

 ラキュースがいた部屋だけでなく、キーノとティアとティナとガガーランがいる部屋の壁まで大穴が空く。

 

「え?」

 

 キーノ、ティアとティナ、ガガーランは昨夜の内に宿を引き払っていた。残っていたのはラキュースただ一人。

 

「え?」

 

 誰かがマジックアイテムが暴発したのではと言っている。

 爆発した部屋にいたのはラキュースだけだ。原因と責任をラキュースに求めるのは当然である。

 

「え?」

 

 黄金の輝き亭はエ・ランテルで一番高級な宿である。

 それが半壊。怪我人が一人も出なかったのは幸いであるが、ここまで壊れてしまうと建て替えたほうが早いだろう。

 

「え?」

 

 建て替え費用。

 働き先を失った雇人たちへの休業補償。

 宿泊客たちへの賠償。

 爆発したのは事故であって故意ではないと思われるので行政からの罰金はなし。

 

「え?」

 

 着の身着のままのラキュースへ、諸々を合わせた費用として金貨二万五千枚が請求された。

 

「……………………え?」

 

 非現実的な事態に直面して現実を受け入れられないラキュースの頭へ具体的な数字が刻まれる。

 

 ラキュースは着の身着のままである。金貨二万五千枚なんて大金を持っているわけがない。

 アダマンタイト冒険者であってもちょっとやそっとでは稼げない大金だ。チーム全体で頑張っても年単位の時間がかかる。

 その上、ラキュースはたった一人。他のメンバーは姿を消している。

 嫌な汗が流れてきた。

 

 何年も掛ければアダマンタイト冒険者であるラキュースなら何とかならない額ではない。

 しかし、頼りにしてきた装備品は一つもない。全て誰かが何処かへ持ち去ってしまった。

 

 キーノたちに間違いない!

 それに自分は爆発するアイテムを持ち込んでいない。これもキーノたちの仕業に間違いない!

 爆破した原因を厳密に調査することを求める!

 

 訴えてごねて喚けば減額された可能性は高かった。

 金貨二万五千枚とは、絶対に不可能とは言わなくても非現実的な金額なのだ。ラキュース個人でどうにかしようと思うと、生家を頼る必要が出てくる。それをしたが最後、冒険者に戻ることは絶対に出来なくなる。アインドラ家の令嬢として相応しい振る舞いを求められ、いずれは何処かへ嫁がされることが確定する。何が何でも絶対に避けたい事態だ。

 ここは何としても戦わなければならないところだったのに借金が確定しまう。

 

 立て替えられてしまったのだ。




3日くらい前まではアルベド憧れの睡眠姦にしようと思ってたんですが気付いたらこうなりました

アンケートはまだ生きてますが出しておくのは本話までにします
結局どうすればいいのだこれは


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返済方法

本話7k字ちょい
このくらいが読みやすいと思いますがいつも出来てないです_(:3 」∠)_


 魔導国宰相閣下の相談役と言えどエ・ランテルの顔の一つと言える黄金の輝き亭の建て替えは決定出来ない。アインズの許可を得た。

 

 黄金の輝き亭の建て替えはちょっと大きな事業である。利点をあれこれプレゼンされてもアインズは即断出来ない。ひとまずモモン役を担うことが多いパンドラズ・アクターにメッセージの魔法で聞いてみた所、意外にも大賛成。守秘の関係でナザリックの手を入れるべきと常々思っていたらしい。

 言われてみればその通りで、漆黒のモモンとナーベが定宿としている黄金の輝き亭に物理的にも魔法的にも完璧な防諜策を施せれば、今までは出来なかった事が出来るようになる。

 周囲に聞き耳を立てる者がいないかどうかはナーベラルが毎回警戒していたわけだが、より安全になるのは好ましい。そのナーベラルもパンドラズ・アクターと同じく賛成しているようだ。

 

 勿論、二人が偉大なるアインズ様へ虚偽を申せようはずがない。わざわざ言うまでもないと判断して言わなかった事があるだけである。

 黄金の輝き亭の防諜が完璧となれば、パンドラズ・アクターは夜毎にナザリックへ戻ってマジックアイテムを愛でることが出来る。

 黄金の輝き亭を建て替えている間、モモンとナーベがエ・ランテルの大きなお屋敷を拠点とするのは当然と言うことはナーベラルにとって割とかなり喜ばしいことである。

 

 アインズが今ひとつ理解出来なかったのは、一番のメリットは借金を背負うことだとのたまう男。解体から立て替えまでの諸費用は全て自分が持つと言う。

 隠れ蓑となってる商家の立場を利用して商売をやってみようと以前から考えていたのだが、生活に不自由がないため金を稼ぐ必要がない。けれども為さねばならぬ目的があるなら始められる。

 アインズはユグドラシル時代を思い出し、漠然と狩りを続けるよりも特定のドロップアイテムを狙ってる方が力が入るようなものか、と何とか納得。

 

 それはそれとして商売は上手くいくのか、建て替え費用等はどうなるのか、と尋ねれば大まかな数字を一瞬で算出する。建て替えに際し人間の人夫だけを使用した場合、デスナイト等のアンデッドを最大限使用した場合の費用の比較もあり、そこまでコストダウン出来るのかと、アインズはいつの間にか建て替え前提で考えている。

 アインズ様の魔法なら一瞬で建造可能でしょうがそれをしてしまうと富の循環に繋がらないとの意見には鷹揚に頷いた。

 商売については、帝国では皇帝の許可が必要だがエ・ランテルではアインズの許可があれば済む。まずは小さく試し、様子を見て投資していく事になった。

 更に続いて銀行業の話に入ろうとしたのはアインズが止めた。そんな事言われても正直言ってわからない。アルベドと相談してから報告せよと命じた。

 

 そうして男は手隙のエルダーリッチを数体捕まえ、アインズ様の許可を得ているので黄金の輝き亭の指定箇所を爆破して欲しいと依頼する。

 確認のための問い合わせを受けたアインズは、早速やるのかと驚いたがうまくやれと言っておく。

 

 と言うのが昨夜の顛末である。

 きっかけとなったのはラキュースを魔導国に留めるためであるが、他の話が大きかったためにアインズはあっさり流した。イビルアイについて一任した以上、蒼の薔薇についても「良いようにせよ」である。

 男の方とて黄金の輝き亭の建て替えや新たな事業に柄にもなく高揚して、城を出た所で待っていたキーノたちに会うまでラキュースの事を忘れていた。

 

 裏で何があったか全く知らないラキュースは着の身着のままで、まずは私どもの屋敷にお出でくださいと招かれた。

 

 

 

 

 

 

「仕組んだのね!」

「さて、何のことでしょう? まずはラキュース様と金についての話をしなければなりません。100や200なら構いませんが、二万五千は大金です。すでに支出が生じたことですし」

 

 まずは見舞金として、黄金の輝き亭の主人に金貨500枚を渡している。彼らが行政と、つまりはアインズ様の側と相談をして実際に建築が始まったら二千枚を支払う約束を交わした。その後は建築の進み具合によって支払うことになる。契約書もきちんと作った。

 その現場をラキュースは見ていた。自分の代わりに支払ったわけだが、その支払い事態が出鱈目なのだ。自分には全く責がない不必要な金。しかし、現に黄金の輝き亭は半壊している。自分が壊したのではないとラキュース自身はよく知っているが、自分とは全く関係がないと言い切れない事にもどかしさがある。

 

「全額をラキュース様から回収しようとは考えていません。五千までは私が出しましょう。残りをお願い致します」

「払えるわけないでしょう!」

 

 ラキュースは、憤懣やる方ないと言った様子で怒鳴り返した。

 寝て起きたら身に覚えがない借金を背負わされた。その額、公金貨にして二万枚。ラキュースほど善良でなければ、対象を殺害して有耶無耶にする選択肢が現れる額である。現実的にはそれしかない。

 

「ですからそれについての相談です。給金を支払いますので、この屋敷に勤めてください」

 

 メイド研修場の顔があるお屋敷である。

 見習いメイドにも給金が支払われるため、希望者が殺到している。エ・ランテルが魔導国の首都となりお屋敷の主人が代わって長いため、外へも話が広まっているのだ。

 金貨一枚を100として、見習いへは職能に応じて120〜180。これだけで一家族を支えることが出来る。

 見習いを卒業すると、お屋敷に勤め続けるのかアインズ様のお城へ上がるのかはたまた帝国へ派遣されるのか様々であるが、最低でも300。メイド長はどこも埋まっているためそこまでは上れないが、700までは十分視野に入る。その上、福利厚生は完璧。帝国や王国の常識では考えられないことに週に一日のお休みがある。

 物凄い高待遇であるが、当然のように狭き門である。

 

「私の身の回りの世話をしてくだされば月に金貨10枚をお支払いしましょう」

「無理に決まってるでしょう!!」

 

 凄い高給取りではある。もしも帝都に置いてきた双子幼女の今は亡き姉がいたら、ワーカーに身を落とすことなく借金を返済出来ていたかも知れない。

 しかし、月に10枚が二万に届くには2000ヶ月。百年掛かっても不可能である。ナザリックの皆が大好きな利子を付けようものなら千年掛かっても借金は減らずに膨らむばかり。

 金貨二万枚とは、個人が支払うには非現実的な額なのだ。

 

「それならこうしましょう」

 

 男はにやりと悪そうに笑った。

 ラキュースは反射的に我が身を抱く。昨夜、キーノたちとした会話が脳裏を過ぎる。

 

「私と閨を共にする度に一時金を出します。額はラキュース様がお好きに決めてください」

「やっぱり私の体が目当てだったのね!」

「その通り。と言いたいところですが、ラキュース様には他に手段がないでしょう?」

「巫山戯ないで!」

 

 ラキュースは金で春を売る女たちを知っている。

 望まずにその仕事に就く女がいれば、自ら望んでその世界に入る女も稀ではない。職場環境はまちまちで、のし上がれば良い生活が手に入る事もある。

 しかし、自分は娼婦ではない。

 自分は冒険者なのだ。危険を冒してモンスターを倒し未知を既知として糧を得てきた。今まではそうして名誉と富を得てきたのだから、これからもそうするのが一番確実である。

 と、答えられれば良かった。

 

「私を軽く見ないでちょうだい。体を汚されても心まで売り渡したりしないわ!」

「……ああ、その気持はとても良くわかる」

「へ?」

 

 数歩の距離を男は無造作に詰め、ラキュースの腕を取った。

 ぐいと引き寄せ、ラキュースが羽織っていたマントを払い落とす。

 

「心はお前のものだ。だが、心以外は俺が買い取った」

「あ、あなたにお前と呼ばれる筋合いはっ!!」

 

 言い切る前に、開いた口を塞がれた。

 

 

 

 

 

 

 ラキュースが今しがた口にした言葉は、いつか言ってみたかった台詞であった。いざという時のために、ラキュースは言うべき台詞を幾つも用意しているのだ。

 絶対に使う日は来ないと思われた台詞だったが、絶好の機会がやって来てしまった。ならば言わなければならない。

 

 ラキュースがこの男と初めて会ったのはもう随分と前のこと。黄金の輝き亭で偶然居合わせてしまい、落日の王国に属していることを皮肉られた。

 まともに会話をしたのはつい先日。まだイビルアイであったキーノがお屋敷の害虫駆除をして、その報酬について話をした。とても誠実な対応だったと思う。自分が知らなかったことを嘲ることなく説明してくれた。

 物腰は紳士的で美貌は言うに及ばず、目には知性の光が宿っている。それにラキュースですら目を見張る美しい女性たちを傍に置いている。

 だから、無体なことはしないと期待してしまった。

 あの台詞を出せば引いてくれると思った。その上で現実的な対応策を話し合うつもりだった。まずはどこかに消えたキーノたちを捕まえて、全てはそれからと思っていた。

 唇を許すつもりはなく、体を許すつもりもない。

 だと言うのに、乙女の唇へ無遠慮に侵入してきた。

 

 奪った男は、奪うに足る理由が三つあった。

 三とは、三角形が安定している事や様々な説話に三つの何やらとあるように印象に残りやすい数である。アインズ様に黄金の輝き亭建て替えをプレゼンする際も三つの利点を上げたのは余談である。

 

 一つ目は言うに及ばずキーノたちからの要望。

 自分たちが知る喜びをラキュースも知れば、自分たちと同じ結論に辿り着くと確信しているらしい。

 二つ目はラキュースの意思。

 女心や感情の機微や空気を読まない男だが、論理的に考えて言葉の裏を読むことは出来る。『体を汚されても心は売り渡さない』とは、意思はあくまでも自分のものであるが体を汚す事には同意している事になる。

 三つ目は口外し辛い。知られたらソリュシャンあたりがうるさいと思われる。

 秘めたる三つ目は、ラキュースを知っていたからだ。

 

 ラナーに囚われていた頃、二回だけラキュースに会わされた。

 会ったと言っても薬で体の自由を奪われた状態で、一言二言交わしただけ。単なる顔合わせに過ぎなかった。

 ラナーがラキュースに引き合わせた理由は察している。後々のことを考えて手を打ったのだ。しかし幸運にもアルベド様に救われ、全ては無意味となった。

 ラナーの思惑はどうでもいい。ラキュースを見たことが重要だ。

 

 当時はラナーの相手をすることだけが生活の全てだった。

 悍ましいことに体の相性はとても良かったが、毎日では幾ら何でも飽きが来る。本当に楽しめたのはラナーの体調不良や外遊などで長期間空いた時くらいだ。

 そこへ現れた違う女。若さよりも幼さが勝るラキュースは、それでも美しい少女だった。華奢なラナーよりも出る所が出ているのがまたよろしい。ラキュースの抱き心地はどうなのだろうと興味を抱いた。

 性欲までは行かなかった。ラナーにたっぷり絞られていたのもあるし、自分の立場上ラキュースとそうなる可能性は皆無だった。

 

 ラナーを抱くのは石の部屋が一番多かったが、深夜を選んで外に出ることもあった。その気になれば逃げ出すことは十分可能だったはず。

 そうしなかったのは、爛れた顔では真っ当に暮らす事が難しいと思われたからだ。

 しかし今にして考えれば、仮面を着けて顔を隠せば良かった。生活の糧は盗めば良かった。

 それを選ばなかったのは、ラナーに囚われ牙を抜かれたからだろう。虜囚の身に甘んじていたと言っても良い。忸怩たる思いである。

 ラナーの事は思い出したくもないのに、時折思い出し怒りや思い出し恨みが湧き上がってくる。

 

 ラナーのことは努めて脳裏から追いやり、今はラキュースだ。

 昔興味を持った少女が女となって眼の前にいる。

 食指を誘った。

 

 

 

 

 

 

 無礼な侵入者を、ラキュースは無意識に撃退した。

 力を込めて口を閉じ、入ってきたものへガリと噛みつく。

 舌に触れる何かは動きを見せず、段々と温度が消えていった。口内に僅かな塩気を感じ、唾とはぬめりが違う液体から血の味を感じた時、慌てて口を開いた。

 

「あっ、あのっ!」

 

 噛みつこうと思って噛み付いたのではない。反射的にやってしまったのだ。

 しかし、男の舌へ思い切り歯を立てて、血が滲むを越えて流れる粋にまで噛み付いてしまったのは確かだ。

 千切れるほどではない。それでも軽い傷ではない。

 ラキュースは口内に残った血を飲み干すのに、二度喉を鳴らした。

 

 噛みつかれた男はちょっぴり眉間に皺を寄せ、ラキュースより一回多く喉を鳴らした。

 

「ラキュースが吸血鬼でなくて良かった。あれだけ噛まれたら転化してるところだったな」

「ごめんなさい。噛もうと思ったわけではなくて吃驚してしまって。傷は大丈夫? 痛みはない?」

「気にしてくれるならラキュースに確かめてもらおうか」

「……それなら見せて」

 

 きつく舌を噛まれたのに男の態度は変わらない。

 痛みを感じない訳ではないが、大した痛みではない。

 最近はされなくなったソリュシャンのトロトロに比べたらそよ風に撫でられているようなもの。エ・ランテルに来る直前にルプスレギナからされた意味不明な鬱憤解消のルプーブローに比べたらおでこをつつかれたも同然。

 千切れたら少し困ったが、切れた程度なら何の問題もない。少々の切り傷ならすぐに治るようになった。空になった精液が数時間でフル装填され三日で溢れ出すのだから、相応に回復力も増してきたのだ。

 あの時、ルプーやシクススたちに土下座させられて以降、一昼夜以上空くことは一度もなかった。今はどうなっているのだろうと思うが、その後を考えると怖くて試す気になれない。

 

「口を開けてくれないと見えないのだけど?」

 

 患部は舌だ。あーんしてべーしてくれないと確認できない。

 

「見なくても確かめる方法はあるだろう?」

 

 男の腕は、今度はラキュースの腰に回った。腕を取った時よりも力強くラキュースを抱き寄せる。

 寝て起きた時から着の身着のままのラキュースは、マントの下は夜着のまま。見た目よりも快適性重視のナイトローブ。裾は足首まであってふわふわの厚手ではあるが、前が開く作りになっている。その下にはラキュースの素肌があった。

 上に羽織っていたマントは床に落ちている。

 

「な、な、何するつもり!?」

「ラキュースが噛み付いたところを確かめてもらうんだ。今度は噛みつくなよ」

「何を言って……!」

 

 顎を掴まれ上向かされる。

 不意打ち気味に近付いてきた先ほどとは違って、薄く開いた唇がゆっくりと距離を詰めてきた。血の匂いはしなかった。

 

「あ…………!」

 

 今度こそ正面からキスをされた。

 唇同士が合わさっている。柔らかな唇同士が押し付けあって僅かに歪む。

 男の舌はすぐにラキュースの中へ入ろうとせず。上唇を唇で挟んでからちろりと舐める。下唇も同じように舐めて軽く吸う。

 自身を傷つけたラキュースの白い歯に触れ、歯と歯の間を通って中に来た。

 

(ししししし舌が! キスだって初めてなのに舌が入ってきてる! キスってこうするものなの!? 唇が触れるだけじゃなかったの!?)

 

 ラキュースの驚きを他所に、男はラキュースの舌に届いた。

 噛まれた意趣返しではないが、上から食らいつくように舌を差し込み強く吸って、ラキュースの舌を吸い出した。好むと好まざるとにかかわらずラキュースの舌は男の舌に絡めとられる。

 

 数十秒して唇が離れると、赤い唇同士を銀色の糸が繋いだ。

 

「噛んだ所を見るんだろう? しっかりしろ」

「きききキスしたくせにぃっ!?」

 

 言い終わる前にもう一度唇を塞がれる。

 不意打ちの一度目と深いキスを教える二度目と、これが三度目の正直。

 

「んっ…………ふぅ……、ん……。れろ……」

 

 ラキュースからも応えた。

 自ら舌を伸ばして男の舌に触れ、自分が噛んだと思われる部分へ舌先を這わせていく。

 唇が重なって舌を絡めて、多少の唾液も行き来しているのに、ラキュースは血の味も匂いも感じなかった。

 舌で感じるのはなめらかな官能だけ。

 薄く目を開いて盗み見すると、赤い目と青い目に自分の目だけが大きく映っている。

 

「あっ! あむっ!? んん……、ちゅっ…………」

 

 腰に回って背中を抱いた腕が下りてきた。

 背中の下には腰があって、その下にあるのは。

 ラキュースの脚の間を男の膝が入ってきた。

 

(お尻触られてる!? ああっ!? 撫でるだけじゃなくて掴んでるぅ!?)

 

 ティアとティナの、おそらくは同性愛者のティアの方から悪戯で尻を撫でられることはあった。

 所詮は触ったのがわかる程度のほんの一瞬。

 それが今、男の大きな手が触れむんずと掴み、揉んでいる。

 尻肉に男の指が食い込んでいるのを感じている。

 

(本当にするつもり!? キスだけじゃなくて? 閨ってここは閨じゃないでしょう!! でも閨を共にって……あれの事しかないわよね?)

 

 ぷはぁっと息も絶え絶えなラキュースが男の胸にしなだれかかった時には、両手が尻を掴んでいた。

 掴みながら引き寄せ、ラキュースの体を自分の体に押し付けている。

 男がラキュースの柔らかさを感じていれば、ラキュースも男の硬さを感じていた。

 男の方が背が高いため、腰の高さが若干違う。ラキュースは下腹に男の股間を押し付けられ、ズボンの奥に固い棒状のものを感じ取った。

 分厚いナイトローブ越しにこうも敏感に感じるものかと思ったら、いつの間にか腰紐を解かれて開かれていた。

 就寝する時の姿なので下着は体を締め付けないように最低限。幸いにも胸の先端は出ていない。しかし、下に履いてるパンツは見えてしまっている。

 

「これから何度もするんだ。一度目を始めようか」

 

 キスをして抱きしめただけだが、昔覚えた興味が甦ってきたようだ。

 何もかも初めてであるらしく初々しい仕草もとてもそそる。

 

「始める……、って。こんな所で!?」

 

 二人がいる部屋にベッドはない。

 外から招いた女をいきなりベッドがある部屋に連れ込む男は、いなくもないだろうがそんな事をしたらラキュースは警戒するに決まってる。

 二人がいるのは応接間だ。かつてモモンとナーベを迎えた部屋である。

 

「驚いてくれたならちょうどいい。その方が思い出に残るだろう」

「きゃ!」

 

 男は広いソファにラキュースを押し倒す。男がアルベドに押し倒された事があるソファだ。

 

「難しいことはない。最初だから俺が色々してやろう。ラキュースは楽にしていればいい」

 

 男はそう言って、ラキュースが着るナイトローブの前を開いた。




銀行に絡んで信用創造の話とかに進めたいのだけど余計な話で話数が嵩むから書くかどうかは未定
オバロ二次に限らず信用創造やってるのはハーメルン内であるんだろうか?
相互確証破壊は二回見たことがあります(一個は消えてますが(ノ∀`)
どれだったかは忘れました


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乙女の売値はプライスレス ▽ラキュース

本話16.4k字


「やっ!」

 

 ラキュースは素早かった。乙女の秘密を暴かれまいと咄嗟に自分の体を抱きしめる。

 男に肌身を晒したことは一度もない。覚悟が出来ているわけがないし、何よりも恥ずかしい。

 

「キーノは見せてくれたのにラキュースは隠すのか?」

「無理やりしたんでしょう! イビルアイから聞いたわ!」

「まさか。見せろと言ったら素直に見せてくれたよ。それも自分で服をたくし上げて」

「ウソよ!」

「本当だ」

 

 ラキュースが険しい目で睨みつけても男は全く怯まない。

 ひとまず胸は諦めたようで、ソファに手をついた。ラキュースは真っ直ぐに見下され、目を逸らしたくなった。心の中を見透かされるようだ。それに目を離したらその隙に何をされるかわからない。

 しかし男の顔が近付いてくるにつれ、意思とは別に目を離せなくなった。間近に迫る美貌から目を逸らすのが惜しいと思ったのか。見られる羞恥より見る快感が勝ったのか。

 

「俺に噛み付いただろう? ちゃんと確認してくれ」

「さっきしたばかりじゃない!」

「結果を聞かせてもらってないよ」

 

 口付けを交わして舌を這わせ、ラキュースが感じた限りでは傷はなかった。しかし、患部を確認しても伝えなければ意味がない。

 

「傷はぁ――っ!」

 

 口を開いた所で唇が降ってきた。

 四度目のキスも最初から舌が入ってくる。

 

 一度目のキスは不意打ちで、二度目三度目を受け入れてしまったのは噛んでしまった負い目があったから。

 とはいえ、敵兵を入れるために門を開く砦はない。拒絶するなら貫くべきだった。招き入れたのは世界一の精鋭なのだ。

 侵入を許せば内側から崩される。

 

「んっふぅ、……っぷはぁ! んちゅぅっ……、んっんっ……ちゅるる、れろ……、んん……」

 

 舌を入れるのは三度目で覚えた。ラキュースからも舌を伸ばし男に応える。

 合わさった唇の内側でぬめる舌が絡み合い、互いの唾液を撹拌した。混じり合って泡立つ唾は、組敷かれているラキュースの口内に流れ込む。

 

「じゅるる……、んっんっ……」

 

 男の唾を、ラキュースは喉を鳴らして飲み込んだ。匂いも味もない。ぬるついて泡立って温かくて。

 吐き出すわけにもいかず反射的に飲み込んだ血とは違って、飲んでいる意識がある。

 男の体液を飲んでいる。

 喉を通って胃の腑に落ちた。

 体の内側に入られたように思った。

 

(あっ! 手が……。でも彼が手を離したらもう一度押さえればいいのだし)

 

 キスの最中に、胸を押さえている手を取られた。

 ナイトローブはまだ開かれてない。開くには手を使う必要があって、男の両手はラキュースの両手を押さえている。これなら胸が出てしまう心配はないと自分を慰める。

 

「あ…………」

 

 男の顔が離れた時、ラキュースは目一杯舌を伸ばして唇を突き出していた。

 まるでキスを惜しむようだったのが悔しくて恥ずかしくて、下唇を噛んだ。

 男は軽く笑い、軽く口付けた。

 上唇を唇で甘く食んで引っ張り、次は顎へ、首筋へ。

 ちゅっちゅと唇を落としながら下がっていき、厚手の白いローブに阻まれた。

 

「え!? 待って!」

「何を待つんだ?」

 

 ラキュースの胸に頬ずりをしている。

 ナイトローブは少しずつずらされ、ラキュースの肌が現れ始めた。しかし、ずらすだけでは山を越えられない。

 ラキュースの胸は蒼の薔薇で一番大きいと言いたいところ、胸囲的な意味ではガガーランが断トツとなるがあれは大胸筋であって雄覇威と呼ぶべき。

 乳房の大きさはティアやティナよりラキュースの方がある。

 越えられない壁を超えるべく、男はナイトローブを咥えて引っ張った。

 ラキュースの左の乳房がさらけ出された。

 

「綺麗な胸だ。それに思ったより大きいな」

 

 以前会った時は全身鎧を着けていたラキュースだ。今回はナイトローブ一枚だが、生地が毛布並に厚くて内側がわからない。

 ラキュースの生乳は仰向けになっても崩れずつんと上向いて、先端が愛らしく色付いている。未使用の綺麗なピンクだ。

 ティアとティナもそうだったが、ラキュースの肌にも傷一つない。冒険者をしてよくぞこうも綺麗な体でと思うが、ラキュース自身が治癒魔法の使い手なのだ。傷はその都度消しているのだろう。

 

「みないで!」

「見るだけで済むわけ無いだろう?」

 

 揉みたがる手はラキュースの手を握っている。

 始めは手首を掴んだが、今は手のひらを合わせて指を絡めあう。手を離してもラキュースは邪魔をしないと思われたが、せっかく口が空いているのだ。

 キスをしていた時のように唇から舌を出し、先端をつついた。

 触れる度に艶を増していくのは、唾を塗られて照り光るのと、充血していくのと。

 舌を尖らせ強くつつけば突起が乳肉に押し込まれる。開放してやると、押し込む前よりも膨らんでいた。

 

「立ってきたな? キーノは立ってきた乳首を触ってくれと言ってたぞ」

「そんな……、イビルアイが……」

 

 呼び慣れないキーノより、イビルアイの名が出てしまうのは余裕がないから。

 左の胸の奥では心臓が激しく脈打っている。頬ずりをされたら鼓動を聞かれてしまいそう。

 動悸を知られるのが恥ずかしければ、手のひらに汗をかいているのを知られるのも恥ずかしい。そう思ってようやく手を握り合っているのに気が付いた。

 慌てて外し、ローブで拭う。

 

「ひゃあっ!? だめ、さわっちゃダメっ……!」

 

 ラキュースの手が離れたと同時に男はローブの中に手を忍ばせきた。

 右の乳房は男の手指がまさぐっている。鷲掴みにして我が物顔に揉みしだき、柔らかな乳肉の形を歪めている。これは自分のものだと言わんばかりの身勝手さだ。

 

「やぁ……、舐めるのもだめだからぁ!」

 

 左の乳房には男が口付けている。

 口へされたように尖った突起を唇で挟み、軽く引っ張る。乳房がたゆんと小さく揺れた。

 再度の口付けは口を大きく開いて乳輪ごと包まれた。吸われるよりも、口内で蠢く舌を強く感じる。歯を立てられた時は体が痺れるようだった。

 

(わ、わたしのおっぱいに……。わたしのおっぱいなのに勝手に揉んだり舐めたりして。誰にも触らせたことなかったのにぃ! でもこんなの、こんなのって。ドキドキしてるのはどうしてなの? あぁ、乳首噛まれてる……。乳首潰れちゃうよぉ。おっぱいも乳首も乱暴にされて痛いのに、どうして? こんなことされちゃったら……、ダメ! 私はラキュース。アインドラ家のラキュースなのよ? 体の自由を奪われても心までは絶対に奪われないんだから!)

 

 ラキュースは口から甘い声が出ないよう歯を食いしばって、自分の胸を自由にする男を睨みつける。自然と自分の体も目に入った。

 ローブは捲られ右の乳房もあらわになって、男の手指に合わせて揺れている。握られ絞られ突き出された乳首は真っ赤に充血して、何かを訴えているようだ。

 左の胸では男の顔が離れた所で、乳首と赤い舌とを唾液の糸が繋いでいる。男の口の中に隠れていた間、何をされていたのかは体が知っている。たっぷりとされたのに、濡れ光る乳首は寂しがっているようだ。

 

「ここまではキーノにもしてやったんだ。とても気に入ったらしい。ラキュースはどうだ?」

「いいわけ、ないでしょう……。あんなこと……。あんっ!」

 

 両の乳首を同時に抓られ、声が出た。

 

「その割に可愛い声で鳴くんだな?」

「お、おどろいただけよ! それに痛かったし。気持ちよくなんてなかったわ!」

「そうか? だとしてもお前を悦ばせたいわけじゃない。俺のしたいようにしてるだけだからな。だがお前の準備も必要だろう?」

「じゅんび?」

 

 ラキュースはオウム返しに男の言葉を繰り返す。準備とは何に備えるものなのか、処女のラキュースにはわからない。

 大きなソファでも二人が寝る広さはない。ラキュースの背は背もたれに押し付けられ、その前に男が向き合って横たわる。ソファから落ちないようラキュースに体を押し付け、逃さないよう頭を掻き抱いて。

 

 男の手がラキュースに触れ、ラキュースはわからないままなのに、体は一瞬で悟った。

 

「どどどどどこを!?」

 

 ラキュースの手が男の手に重なっても、蠢く指遣いは止まらない。

 それどころか下に手を伸ばしたせいで、手の甲に男の股間が触れてしまった。押し倒される前、下腹に押し付けられた男の欲望。

 

「これからここに俺のを入れるんだ。ほぐしておかないとキツいし痛い」

「いれる……って、本当に!?」

「お前、処女だろう? 処女でもそれくらいわかるんじゃないか?」

「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

 わかるともわからないとも言えるわけがない。ラキュースに出来るのは唸るだけ。

 答えようと唸ろうと、男の手は止まらない。

 見せるためのものではないので被覆面積が多く生地は厚いが、下着なのだからたかが知れている。男の指をはっきり感じる。

 男が触れているのは、股間だった。それも下から触れている。

 脚を閉じようにも股の間に膝を差し込まれ、閉じることが出来ない。触られるがままだ。

 

 男は三本の指を揃えてラキュースの股間にあてがい、小さく円を描いていた。

 柔らかな女の肉は心地よいふわふわの手触り。続ける内に、じっとりとラキュースの熱が伝わってくる。

 ラキュースの目が潤み、時折ビクンと体を震わせる。その度に睨んできた。

 

「こうしてると内側までほぐれてくるのがわかるだろう?」

 

 頭を抱き寄せ、耳元で囁く。ついでに耳朶へ息を吹きかける。

 ラキュースの頭が軽く上下したのは、問いかけに頷いたのか吐息に反応したのか。

 

「心はお前のものだ。代わりに体は俺が犯す。わかったか?」

 

 ラキュースの頭がもう一度上下する。

 顔が見えると意地を張るが、見えないとしおらしくなるらしい。首筋にかかるラキュースの吐息がやたらと熱い。

 

「俺のシャツを脱がせろ。ボタンを外すんだ」

 

 今度は頷かない。無言でボタンを外し始める。

 ボタンを一つ外す度に中指を沈ませる。生地が厚い部分だが、ほぐれつつあるラキュースは開き始めているらしい。

 全てのボタンが外れた時には、中指がパンツ越しに沈みきった。指に感じる湿り気が強くなり、薄布にシミが出来つつある。

 

「今度はズボンのベルトだ。外し方はわかるか? これから何回も外すことになる。ちゃんと覚えろ」

「…………」

 

 体が密着して動かしづらい中で、ラキュースは四苦八苦している。

 その間に上着とシャツを脱ぎ捨て、ラキュースの体を抱き寄せた。

 ベルト外しを邪魔しないよう愛撫は一時中断し、尻を撫で始めた。しっかりと肉がついた丸い尻。パンツの隙間から忍ばせて直に触りたかったが、実用重視のパンツは被覆部がかなり多く尻を全て包んでいる。

 下からが駄目なら上から。

 

「ひぅっ!」

 

 生地が伸びるのも構わずパンツの縁から手を突っ込んで、ラキュースの尻を掴んだ。

 ずっとソファに尻をついているので汗ばんでいる。しっとりとした湿り気になめらかな尻肉は指に吸い付く。

 

「生地が、傷むでしょう……」

「だったらどうする?」

「っ!」

 

 鼻が触れ合う距離で見つめ合うラキュースは、頬を上気させ赤い唇を薄く開き、翠の目は揺れている。

 

「脱ぐから……どいて!」

「おっと」

 

 男を押しのけてソファに座り直した。

 すらりとした脚をピッタリと閉じ、上目遣いに男を睨んでから目を閉じた。

 軽く尻を上げ両手を腰に添える。手は太ももを滑って膝まで来ると一旦動きを止め、ローブの前を閉じた。

 爪先までまっすぐに伸ばし、膝で挟んでいたものをするりと抜き取る。

 手の中にある下着へ複雑な顔を向けて、ローブのポケットのねじ込んだ。

 

「これでいいんでしょ? あなたの言うとおりにしたわ」

 

 愛撫を受けていた時はしおらしかったのに、途端に反抗的だ。それはそれで興味深い。

 態度はどうあれ、ラキュースが感じているのはわかっている。それでいて反抗的でい続けるのは新鮮だった。

 今までそんな女を抱いたことは一度もない。全てが双方の同意、どころかあちらから迫ってくるほうが大半だ。

 例外は拘束して犯したティアくらいである。それだって最後は積極的に挑発してくるまでになった。

 ツンとしたラキュースの態度がいつまで続くかわからないが、出来る限り保っていて欲しいものである。

 

「脱いだ次にどうするかは処女のラキュースにはわからないのか? 股を開け」

「くっ!」

 

 ラキュースは真っ赤な顔で上目遣いに睨みつける。視線がぶつかっても男はいやらしい顔で笑うきり。

 

「こっちもよく見えるようにしないとな」

「あっ!」

 

 折角閉じたローブを開かれる。そのまま肩を抜いて脱がされた。

 ラキュースが身にまとうものは何一つなく、最後の砦は固く閉じた太ももだけ。それも開けと命じられたばかり。

 せめてもの抵抗で胸を隠し、焦らすようにゆっくりと股を開いた。

 

「………………」

「……?」

 

 女の大事な所を晒している。

 きっといやらしい事を言われて辱められる。その後はズボン越しに触れてしまったあれを突き立てられ、処女を奪われるのだ。

 そう覚悟していたラキュースだったが、男は無言。

 横目で男を覗き見ると、嗜虐でいやらしく歪んだ顔は真顔になっていた。

 

「ひゃっ!? な、なに!?」

「…………」

 

 開いた股の前に男が屈む。

 そこでそんな格好をされると見られてしまう。

 男がラキュースの膝に左手を置き、右手が股間に伸びてくるのを見て、ラキュースはいよいよと思ったのだが、さっきとは反対に下からではなく上から触れてきた。

 

「お前なあ…………、これはないだろう…………」

 

 呆れたような落胆したような、興奮からは程遠い沈んだ声。

 

「なんのことよ?」

「これだ。見せる相手がいないからって手入れくらいしたらどうなんだ?」

「!?!?!」

 

 男が触れたのはラキュースの下生え。指に巻きつければ優に三周する。

 ラキュースの陰毛はとても長かった。

 

 

 

 豪奢な金髪がとても豊かなラキュースである。

 髪を巻いているのはソリュシャンと同じでも、あちらは前髪でいわゆるお嬢様ロールにしている。対してラキュースは後ろ髪も巻いている。巻いてなお腰まで届く長さ。まっすぐにすれば太ももまで届くだろう。

 不老であるキーノは例外として、カルカにレイナースも髪が長い。髪は女の命と言ったのはルプスレギナだったかソリュシャンだったか、女達が髪に掛ける執念を窺わせる。

 

 髪が豊かで陰毛も豊かといえば、かつてのアルベドがそうだった。髪よりも太くて濃いため、下着がこんもりと盛り上がるほどだった。しかし、丁寧に手を入れて形よく整え、際どい下着を着けようともはみ出ることは一度もなかった。

 手入れをしない自然派と言えばエンリがそうだ。陰毛に隠れた淫裂を探り当てるのは興奮した。結婚してからは手入れをするようになったろうか。

 そしてラキュース。あの時のエンリより長い。エンリより多い。エンリより生えてるエリアが広い。

 髪よりも細いのでモサモサとまで言えないが、とても豊かであるのは確かである。

 湯を浴びたラキュースの陰毛から水滴が滴っているのはとても興奮する情景だろうが、ともかくとても豊かである。

 

 

 

「ここまで長いと下着からはみ出るだろう……」

「そんなの履かないもの! ティアたちと一緒にしないで!」

「……まあ、さっき触った時はわからなかったからはみ出てなかったのかも知れないが」

「ちゃんと仕舞っているわ!」

「長いのは認めるんだな」

「くぅ…………!!」

 

 ラキュースの釣り上がった目に涙が溜まってきた。

 

 ラキュース自身も長いとは思っていた。

 普段は全身鎧を付けるために全身タイツを着る。一応は貴族の令嬢なのでドレス姿になることもあるが、スカートはとても長いし、スカートのボリュームを出すために色々と着けることもある。見られる可能性は皆無だ。

 ずっと貴族のお嬢様をしていれば、ある程度の年齢になった時に然るべき教育を受けただろう。女官たちに風呂を手伝わせ、進言された可能性もあっただろう。

 しかし、冒険者になりたくて世家を出奔してしまったラキュースには、どちらも無縁であった。

 せめて異性に興味をもって秘め事を空想していれば、あるいはティアに寝込みや風呂を襲われていれば。

 いずれかがあったら手入れの必要性を知ることが出来た。

 不幸にもラキュースは知ることなく、今日この時を迎えてしまった。

 

「う……うぅ…………、ぐす…………」

 

 涙が珠になって溢れた。

 

 いやらしい事をされる覚悟は決まりつつあった。恥ずかしいし納得しているわけでもないが、受け入れる道しかないのだ。

 しかし、こんな事で辱められるとは思っていなかった。知らなかったのだ。知らなかっただけなのに、女の大事な部分を嘲られている。

 屈辱だし、悔しかった。女としての価値がないと言われたようだった。

 

 泣き出したラキュースを見て、男はふうと息を吐いた。

 驚きもしたし呆れもしたが、ここで止めるつもりはない。かと言ってこのままだと挿入時に巻き込みそうだ。

 ラキュースの濡れた陰毛は後の楽しみにとっておくとして、今は適切な処置が必要だ。カットすると散らばるのでそれは次回。

 

「なによ……。まだ何かするつもり? ……そんな物出して何するつもり!?」

 

 恨めしい声は、男が手にしたものを見て裏返った。抜身の短刀を持っていたのだ。

 

「とりあえず今は剃ってやる。もっと浅く座って股間を突き出せ」

「い、いやよ止めて!!」

「まさかとは思うが、陰毛を切ってはいけないって家訓や信条があったりするのか?」

「あるわけないでしょう!!」

「だったら早くしろ」

「うぅ…………」

 

 不思議なことに、見るからに切れ味良さそうな刃物への恐怖はなかった。それが自分を傷つけることはないと、ラキュースは心のどこかで確信していた。

 

 再三命じられ、ラキュースは言われたとおりに股間を突き出す。

 股を大きく開いて、見ていられなくて両手で顔を覆い隠して。

 

「つめたっ!」

 

 何かしらの液体を塗りつけられた。

 下腹から恥丘に淫裂の周囲まで丁寧に塗り広げられ、ピカピカに光る短刀がきらめいた。

 冷たい刃先が肌に触れ、ショリショリと根本から刈り取られる。刃が触れた後はタオルで拭われ、染み一つない柔肌が現れた。

 

 男が使っているのは、コキュートスからもらったショートカタナブレイドである。

 ショートカタナブレイドの用途は料理、ディルド作り。そしてここに剃毛が加わった。

 コキュートスが料理に使ったと知ったら不機嫌になる。ディルド作りに使ったと知ったら「何ヲシテイルカア!」と怒鳴りつける。剃毛に使ったと知ったら無言で真っ二つにするだろう。

 この男は聞かれたら何でも答えてしまうが、余計なことは言わない。「ショートカタナブレイドで陰毛を剃りましたか?」と尋ねる者は絶対にいない。ラキュースも剃られたなんて言うわけがない。

 秘密は永遠に保たれるのだ。

 

「やあっ、広げないで!」

「危ないからじっとしてろよ。もっと股を開け」

 

 男はラキュースの股間に顔を寄せ、陰唇を引っ張り割れ目の周囲も丁寧に剃る。一通り剃ってからショートカタナブレイドをタオルで拭う。

 ラキュースは少女の無垢を取り戻した。

 しかし、まだ終わりではない。

 

「今度は尻だ。こっちに突き出せ」

「そこもするの?」

「生えてるからな。それとも抜いてやろうか?」

「いたっ……。や、やめて。引っ張らないで……。言う通りにするから」

 

 男の指が長い毛を摘んでいる。髪よりも細く、色も淡い。縮れておらず、髪と同じで素直な毛質だ。

 

 ラキュースはナイトローブを踏んでソファの上に膝立ちとなって、両手は背もたれを掴んだ。膝を折り曲げ背を反らす。

 ピシャリと尻を叩かれ、揃えていた膝を肩幅に開いた。

 剥き出しの尻を男に突き出した。

 

(ああっ、やだぁ。お尻ひろげてるよぉ……。お尻の穴が見られちゃってる! 大丈夫よね? 綺麗にしてるものきっと大丈夫よね! あっ、つめたっ……。お尻にも塗られて……、剃られちゃってる! お尻の方はそんなに生えてなかったし、長くもないし……。こんなことされちゃって。わたし、わたし……。誰かに知られたら……。誰にも話さないようにお願いしないと……。それくらい聞いてくれるわよね? わたしの……しょ、処女を、あげちゃうんだし。……あっ、なに!?)

 

 鋭い刃は柔肌に毛ほどの傷もつけずに離れた。

 尻を触られていたのは動かないよう押さえるためで、いやらしい意味はなかったと思う。

 それが、突然変わった。

 

 尻を押さえていた手が内側へ滑り落ち、右へ左へと開かれる。内側に外気を感じたと思った瞬間に柔らかい何かが触れてきた。

 おそらく親指を使って広げているので手は違う。

 唇よりはぬめっている。

 股間から幽かな水音が鳴った。

 

「え? え!? ええっ!! やだ、うそ、舐めてるの!?」

 

 振り向いても、男の顔は自分の尻に隠れて見えない。しかし、位置的にそれ以外考えられない。

 股間に顔を埋められ、性器を指で開かれ、内側を舐められている。あの美貌が自分の股を舐めている。

 陰毛の長さを笑われ毛を剃られて、青ざめていた顔が火を吹くほどに赤くなった。

 

「あっ、だめぇ、舐めないでぇ……! きれいじゃないからぁ……。やぁ、ダメなのぃい! ああんっ!」

 

 下半身が溶けて自分の制御から離れたようだ。

 体が熱い。下腹の奥が疼いている。

 胸をいじられた時や下着の上から触られた時も、じわっとかじゅんとか、そうなっているのを自覚していた。

 今はそれどころではない。溢れているのを感じている。

 

「ひっ……。入れないで! おまんこの穴まで舐めちゃだめぇえ! んっ……ぁあああぁぁあっ!」

 

 昨日ティアかティナから聞かされたばかりだ。

 あの顔でおまんこを舐めてくる。舌も入れてくる。その通りになっている。

 舐められているのは股間なのに、どういうわけか胸が張り詰めてきた。触らなくても見なくてもわかる。触られていた時はずっとそうだったのだ。

 

「あっあっああっ!? いまだめっ、ダメっていってるのにぃっ……、ひゃあああぁあんっ!」

 

 見透かしたように胸を触られた。

 ソファに両膝をついた四つん這いなので、乳房は下へ垂れている。中央の突起は腫れきって、摘まれ引っ張られた。

 手指には力が入って乳首が取れてしまうと思うくらい痛いのに、痛み以上の刺激があった。

 背筋が弓なりに反って一層尻を突き出してしまう。

 それが男の顔へ股間を押し付けていることになると、ラキュースは気付かない。もっと深い所にと体が訴えている。

 

 体が溶けてしまいそうだった。

 頭も溶けているかも知れない。性器を嬲られ乳首を抓られ悦んでいるのだから。そうでもなければ、自分がこんなことになるはずがない。

 初めて漕ぎ出す快感の海に身も心も蕩け始めようとして、想像だに出来ない刺激が現世に呼び戻した。

 

「あ? え? どこに? え……、うそ、うそよ……!」

 

 あってはならない場所に異物感がある。

 熱に依らない熱が体の真芯を貫いて、全身が緊張に固まった。

 引き抜かれる時は体の中を引きずり出されるようだった。

 

「どこかわからないのか? お前の尻の穴だ」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 

 ラキュースは声になりきらない声で絶叫した。

 

 

 

 剃毛する前に塗った液体は肌の保護と刃の滑りをよくするため。

 しかし、本来の用途はアナルセックス時の潤滑液である。

 指先に付けただけの微量でも全身に塗りたくれるほどよく伸びる。老廃物を分解して無味無臭にして無害な液体に変えてしまう。

 ラキュースの尻毛を剃るには尻の割れ目に塗る必要があって、ラキュースの肛門にはローションが塗られていたのだ。

 挿入までするなら入り口からよくほぐす必要があるが、指だけならいきなり入れても問題ない。指の一二本は通るように出来ている穴だ。

 

「やめてぬいてそんなところに入れないでぇ……」

「お前からは見えないのが残念だな。入ってるのは俺の左手の中指だ。根本まで簡単に飲み込んだぞ? こっちの素質があるんじゃないか?」

「やああぁぁ!! ぬいてよぉ……。入れるなら…………、違う方に……」

「こっちか?」

 

 肛門のすぐ下にはたっぷり舐めてやった膣口がある。

 舐める前は閉じていた割れ目が、今は薄く開いて肉色を覗かせた。内側は潤って艶かしく濡れ光っている。

 広げてやれば媚肉に埋もれた小さな穴がある。入り口を薄い肉ひだが狭めているせいで、愛液が垂れきらずに溜まっている。

 

「ラキュースの処女膜が見えるな。膜に触ってるのがわかるか?」

「わ、わからない……。入れていいか、らぁああっ! あっ、あっ、なにしてっ!?」

 

 処女膜を破らないよう気を付けて、膣へも指を突き立てた。

 処女であっても両穴を責められるのはとてもいいものであると、ユリで実証している。

 個人差はあるだろうが、ラキュースも悦んでいるようだ。

 言葉では如何に拒否しようと、尻の震えと指の締付けは正直だ。

 

 とても近い位置にあるのに、上の穴と下の穴とでは感触が大分違う。

 今は位置的に上にある肛門は指の根本に食いつき、下の雌穴は柔らかくて隙間なく包んでくる。

 淫らな肉壁を挟んで指を擦り合わせた。

 あひぃ、とラキュースが鳴く。立てていた膝は折れてへたりこんだ。

 ひっくり返してソファに座らせ、太ももを肩に乗せて股間に口付ける。

 

「そこだめ! だめだめぇ! そこすごいのぉおお!」

 

 柔らかな太ももの肉が顔を締めてきた。

 クリトリスを舐められるのはよほど良かったようだ。こちらの頭を押さえるのは自分の股間に押し付けることになるとわかっていてしているのかどうか。

 

 顔と言わず胸と言わず全身を上気させ、乳首だけでなく淫裂の内側も充血している。

 指で感じる熱が明らかに高くなってきた。

 

「あ…………あぁ…………。んっ……んっ……」

 

 息も絶え絶えなラキュースを抱き上げ、口移しで水を飲ませる。

 消耗具合から、達したのは十や二十ではないだろう。

 

 ラキュースに言った「お前を悦ばせるためにしてるわけじゃない」との言葉は売り言葉に買い言葉。第一に来るのはキーノたちからの要望でラキュースに女の喜びを教えることだ。

 娼館通いをしてまで培った技術は処女のラキュースにも十分すぎるほどに通用した。ここまでほぐせば処女であっても問題ない。

 こちらの準備も整っている。抱き寄せたラキュースに逸物を握らせ扱かせていた。

 立たせるだけだから技術も熱意も不要とは言え、思い出補正もあってギンギンにそそり立っている。

 

 水を飲ませ終わっても唇はすぐに離れず、ちゅっちゅと軽い口付けを何度も繰り返した。

 ラキュースの目からは反抗的な色が消え、愛欲に潤んで恍惚としている。

 ちらちらと下を向いて、自分が握っているものを見ては物言いたげな目を向けてくる。

 何を期待しているのか丸わかりだった。

 

「ラキュースは何度もイッてたろう? そろそろ俺の番だ」

「イク? ……わからないわ。あなたの番、って。いれるの?」

「そうだ。俺がたっぷり舐めて指を入れてやったところに入れるんだ。ラキュースがずっと扱いてるそれをな」

「あ、あなたがやれって、言ったんじゃない!」

 

 言葉を交わす間もラキュースの手は止まらない。

 

「ラキュースの穴にはちゃんと処女膜があったぞ。これから俺が破ってやろう」

「いやらしいこと言わないで……。あっ♡」

 

 俯いたラキュースをソファに押し倒す。

 股を開かせれば未通の処女なのに小さく口を開いた。

 脚を押さえていろと命じれば、素直に太ももを抱えて股を開いた状態を維持する。

 反り返った逸物を開きかかった割れ目に潜らせ、何度か上下に動かす。温かい愛液が亀頭を濡らし、先走りの汁と混じり合った。

 

「たっぷりしてやったから痛みは少ないだろう。お前は処女なのに最初のセックスから悦べるんだ」

「そんなこと言われたって……。本当に入れちゃうの?」

「ああ」

 

 処女の雌穴にあてがえば媚肉が吸い付いてきた。腰を進めて処女膜を押しやり、強い弾力に跳ね返され、もう一度押しやって押しのけられ。

 

 男が入ってこようとしている一瞬一瞬に、ラキュースは胸を高鳴らせていた。

 ここまで来てしまってはもう後戻り出来ない。確実に入ってくる。ラキュースの奥底へ至ろうとしている。

 今更になって拒絶の心は湧いてこなかった。女の悦びを教えられ体を開かれ、より深いものへの期待すらある。

 それなのに入り口に留まって、入ってこない。

 自分の準備は出来ているのに、入ろうとしている男はすぐそこにいるのに、至ってないのだ。

 焦れてきた。

 下腹が疼いて熱を持ち、早く早くと急かしてくる。

 言ってしまった。

 

「もしかして……、入れる場所がわからないの?」

 

 男の動きがピキリと固まった。

 

 娼婦とラナーを除いた経験人数は、先日数えたところによると67人。その内のティアとティナ、二人のエルフメイドを除く63人が処女だった。

 最近では、ナザリックのメイドであるリファラとキャレットの処女を散らした。

 入れる場所がわからないわけがない。現に亀頭を膣口にあてがって処女膜に触れている。すぐに挿入しないのは、処女のラキュースを思ってゆっくり入れてやろうと思ったからだ。

 それをわからないのかと言われるのは、僅かに残る男の矜持を逆撫でした。

 

「え? なに?」

 

 ラキュースと抱き合って体を密着させていたが、上体を起こす。

 太ももを抱えて引き寄せ、逃さぬよう腰を掴んで、

 

「いぎぃいいっ…………。ったぁ、い……」

 

 打ち付けるように腰を押し進めた。

 怒張はラキュースの処女膜を破って未通の膣を抉る。

 貫かれた女は血に濡れながら男を包んで、一番奥に来ることを許してしまった。

 太い逸物を突き立てられ、ラキュースの股から鮮血が流れ出る。内股を汚し、下に敷いたナイトローブに吸い取られた。

 

「あ……あ……、入ってる……。私の処女が……。ずっとヴァージンだったのに……」

「いつかはなくすだろう? それが俺だっただけだ」

「そういう意味じゃ……ないわ……」

「それならどういう意味だ?」

「…………」

 

 ラキュースは答えない。

 破瓜の痛みと自分の中で主張する存在感に、本当に処女を奪われてしまったのだと実感する。

 

 ラキュースが昔から使っている全身鎧は、銘をヴァージン・スノー。名のごとくヴァージンしか装備出来ない。

 ヴァージンでなくなったラキュースは、もう装備出来ない。

 失った処女はけっして取り戻せない。

 そんな大切なものを、目の前の男に奪われた。視線を鋭くして睨んでしまっても仕方ない。

 

「入れる場所はちゃんとわかってたろう?」

「ぅ…………」

 

 ラキュースが挑発したから入ってきたのだ。

 

「ゆっくり入れてやろうと思ってたが大丈夫そうだな?」

「……痛かったわ。今だっていっぱいになって、きつくて、それで……」

「それで?」

「それで…………。何でもないわ」

 

 数秒前まで処女だったラキュースの媚肉は、みちみちと男を締め付けている。

 優れた剣士であるラキュースの肉体は鍛え上げられ、締付けも相応に強い。

 初体験なので固いのは仕方ないとして、この締付け具合はレイナースを思い出させた。つまり、育てれば名器になる予感がある。

 そう言えばレイナースとは一度きりだった。近い内に時間を作ろうと心に誓う。

 

「…………他のこと、考えてた?」

 

 ラキュースはちょっぴり唇を尖らせてそんな事を言う。

 男の心を見抜く超能力を、女は生まれながらにして備えているのだ。ラキュースも例外ではないらしい。

 

「今はきついけど使ってれば良くなりそうだって考えてたよ」

「変なこと言わないで! ふあっ……!? う、うごかないで……」

「痛むか?」

「そうじゃなくて……、あっ、ああんっ。なか、こすられるの……、はあっ!? あんっ、だめぇ……」

 

 暴力的に腰を振るのは何年も前に卒業した男だ。

 ラキュースのリズムに合わせて小さく腰を前後する。愛液と血に塗れた膣を逸物が行き来して、肉ひだに隠れた性感を探り出す。

 甘い声を上げ始めたラキュースに覆い被さり、左手はラキュースの右手を握って、右手はラキュースの頬を撫でた。

 あっあっとさえずる唇を軽く吸う。ラキュースは閉じていた目を開いて舌に応えた。

 

「んっんっ、じゅるじゅる……、ちゅうぅ……、あんっ! あっ、あっ、スゴい……、わたしっ! ……セックスしちゃってるううぅ♡」

 

 男の唾をすすりながら、ラキュースは歓喜に鳴いた。

 

 体の中に入ってきている異物は男の体。

 指や舌ではない。女性器に挿入されているのは男性器。

 知識として、性交は知っている。貴族の子女として初歩的な教育は受けていた。本格的な教育になる前に世家を出奔し、蒼の薔薇は女だけのチームなだけあって男とは縁遠かった。

 言い寄ってくる男はいたが他のメンバーが追い払うし、ラキュース自身が歯牙にもかけない。異性を想う気持ちは書物の中の遠い物語。

 そう思っていた自分がセックスしている。

 自分の体には男性器を受け入れる穴が本当にあって、本当に入れられている。

 穴が埋められているのは、自分に足りなかったものを補われているようだった。

 

「してよかったろう?」

「バカ言わないでっ♡ セックスなんて、セックスなんてぇ♡ あああんっ♡ あんっあんっ!」

 

 口では何と言おうと、体は完全に屈服していた。

 処女膜を破られた時こそ痛みはあったが、時間とともに薄れていった。と言うよりも、痛みを痛みとも思わなくなった。

 入っている逸物は太くて膣が目いっぱいに押し広げられ、圧迫感があってキツく感じる。

 太いだけではなく長さもあって、一番奥まで突かれると鈍い痛みがある。

 体は確かに苦しさを訴えた。

 それをかき消して余りある快感が狂わせる。

 

「ふぁっ……、あっあっはうぅっ! あっ、ひぃ……。きてるっ、おくまできてるのぉ♡」

 

 レイナースの時とは違って前戯はたっぷり。

 ラキュースには腰を振るだけに思えるだろうが、リズムを変え角度を変え、弱いところあるいは好むところを確実に刺激している。

 ラキュースよりも初心な田舎娘のエンリをよがらせた実績もある。

 ラキュースは快感を掘り起こされ突きつけられ自分の体に抗えない。

 

 ゆるゆると動いて微かだった水音がじゅぷじゅぷと鳴るようになった。

 亀頭のエラに膣内の愛液が掻き出され、結合部から飛び散った。

 

「ラキュースの中も良くなってきたよ」

「ほんとう? わたしのおまんこきもちいい?」

「ああ」

「うれしい♡」

 

 ソファに座る男にラキュースが跨っている。キーノがやろうとした対面座位だ。

 何度か体位を変え、今はラキュースが上になって腰を上下に振っている。ラキュースに合わせて男は腰を突き上げ、二人は深く繋がった。

 男の目の前でラキュースの乳房がぷるんぷるんとリズムよく揺れる。ラキュースはわざと体を倒して乳首を男の唇に掠めさせる。期待通りにしゃぶってくれて、男の頭を抱きしめた。

 

「わたしもとってもきもちいいわ♡ あなたのおちんこでおまんこがきもちいいの……♡ あん、あんっ♡」

 

 上になって男の顔が見えなくなるなりいやらしい言葉を口にする。

 淫語を口にすることで興奮が深くなるようだ。平素のラキュースからは想像できないほどに乱れている。リーダーとしての重責から解き放たれたからか、乱れる素養があったのか。

 

「あっ!? あ、やさしい……♡ 後ろからする? お尻はダメおまんこにして! ひゃぁぁああん♡」

 

 座った状態から持ち上げられ、入っていた逸物がずるりと抜ける。

 立たされたラキュースはローテーブルに突き倒された。しかし肌に冷たいテーブルが触れることはなく、倒れたのは男が脱いだジャケットの上。

 突き出した尻を開くまでもなく、抜けた逸物が帰ってきた。

 

「あっ、あっ、あっ! あ゛♡ あんっ、あんっ! あはぁんっ♡」

 

 男の下腹がラキュースの尻を打ち、乾いた音がパンパンと響く。

 可憐な唇には男の指が伸びてきた。舌に触れた指をちゅるると吸った。

 行き来する男が熱い。頭の後ろで荒い吐息を感じる。

 ラキュースはジャケットをぎゅっと握った。

 

 男が口にした「いく」が何を指すか、言葉には出来なくても悟っていた。

 行くなのか逝くなのか、こことは違うところへ何度も行ってしまった。

 全身を満たす多幸感はこれまでに一度も感じたことがないほどに深い。

 男性器が入ってきているだけなのに、どうしてこんなにも気持ちよくて幸せなのか。自分が作り変えられたようにも、知らない自分を暴かれたようにも思った。

 それ以上の予感があった。

 知識として性交を知っている。最後に男がどうなるかを、一応は知っている。

 

「きて♡ 出して♡」

 

 後に思い返して散々に悶苦しむ言葉を、ラキュースは躊躇なく口にした。

 

「はあぁぁぁん!」

 

 何度も何度も達している。

 その度に迎えている男をきゅうきゅう締め付けて、今度もそうなった。

 長い逸物は一番奥に届いて、先端を子宮口に押し付けている。太い逸物とラキュースの膣肉は隙間なく密着して、どくどくと脈打った。

 どこにも行き場がないラキュースの最奥で、どぴゅどぴゅと熱い精液が迸った。

 

「はうぅううっ! あっ、ああぁぁぁあああああぁああああーーーーーーーーっ♡」

 

 ラキュースは仰け反っておとがいを上げ、高く叫んだ。

 男の欲望が胎の中で爆発している。

 子宮口を熱く打たれたラキュースは、精神が肉体から離れたように感じた。

 感じたのではなく、きっとその通りだった。

 自分はこのために生きてきたのだと気付いてしまった。

 

 真理の体得を、悟りと言えなくもない。

 天高くそびえる月桂樹の果に至る悟りはこれだったのだ。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 深すぎる絶頂が体の自由を奪っている。幸せの余韻に浸りたくて体を動かしたくない。

 しかし、ラキュースにはしなければならないことがあった。

 体を捩って振り向けば、繋がったままの男が見えた。

 薄っすらとかいた汗が煌めき、比喩ではなく輝いている。輝ける美しい男だ。月面世界で自分を迎えに来てくれた美しい殿方はこの方だったのだ。

 大いなる旅路の終着点は、この男の胸だった。

 

 

 

 

 

 

 二人並んでソファに座り、ラキュースは男に肩を抱かれている。

 髪を撫でられるのが心地よい。男の股間が目に入るのは恥ずかしい。

 ラキュースの中にたっぷり放った逸物は、萎れてはいないが角度が下がっている。濡れているのはラキュースの唾だ。

 事を終えた後は口で綺麗にしろと教え込まれた。実践させられた。

 どうして私がそんな事を、と口では反発しても丁寧に舐めて、尿道に残る精液をちゅるると吸い取った。

 

「それで幾らにする?」

「は?」

 

 ラキュースは何を言われたかわからなかった。

 男は答えを待ってるようだが、考えても何のことだかわからない。

 

「一時金を出すって言ったろう? その事だ」

「は?」

 

 発した言葉は同じでも表情は天と地の差。

 ラキュースの心境も天国と地獄の差。

 

 この男は、あんなにも素晴らしかった交合を金のやり取りで片付けようというのだ。

 頭に血が上って男の首を絞めたくなった。さきほどの一時があれほどに素晴らしくなかったら張り手くらいは浴びせたかも知れない。

 

「勿論限度はある。二万とか言われたらそれきりになるからな。最大で200まで出そう」

「………………」

 

 鈍い男でもラキュースの表情が変わったのはわかる。

 それでもラキュース相手に気を遣うつもりはなく、言葉を続けた男はやはりバカだった。庇護者がアルベドでなければ十回以上は死んでいる。

 

 ラキュースはキレそうだが、男なりの誠意であった。

 公金貨200枚は、最高級の娼婦であってもその十分の一以下。一夜の夢どころか買い取れる額である。

 ラキュースへの借金云々は、ラキュースをエ・ランテルに留めるための方便なのだ。

 200なら百回で二万。週一で抱くとして百週、約二年。それだけの期間があれば、魔導国の王国攻略が完了する。

 その間、ラキュースには不自由なく生活させるつもりでいる。

 

「あなたは私に値段を付けようというのね……」

「一人の女に金貨二万も出す男はいないぞ」

「だからなに?」

「だから、幾らか聞いてるんだ」

「………………」

 

 ソリュシャンやルプスレギナはよくよく知っていることである。

 この男は女心とかデリカシーとかが全くわかっていないことを、ラキュースは初日にして痛感した。

 

 金貨二万枚は大金だ。

 ラキュースの生家だって簡単には出せない額である。だからといって、乙女の体に値段を付けるのは乙女の矜持が許さない。

 高い安いの問題ではない。ラキュースには受け入れられない事なのだ。

 

「私は娼婦じゃないわ。体を売ってお金をもらうなんて絶対にしないから!」

「ふむ……」

 

 つまりは何度やってもタダということである。

 

「それなら食事をとったらもう一度やるか」

「えっ♡」

「……したいのか?」

「違うわ! 今のは驚いただけよ。あんなにしたばかりなのにまたするなんて……。私は初めてだったのよ? 体は重いしまだ入ってるような気がするし」

「ラキュースは治癒魔法を使えるだろう? 自分に掛けておくといい。血も出たしな」

 

 さすがに股間は拭ってあるが、下に敷いていたナイトローブには赤い染みが出来ている。

 

「食事は俺の部屋に運ばせよう。マントだけ羽織ってついてこい」

「裸にマント!?」

「すぐ脱ぐことになる」

 

 昨夜はアルベド様がいらしたため、ソリュシャンの朝駆けを受けてない。

 溜まりきってないからしないのではなく、アルベド様と比べられたくないからしないのだ。

 

 夜半に色々工作したが、男は回復しきっている。

 ラキュースはその全てを注がれた。




次話で蒼薔薇のエピローグ的なのを書いてその次に金策の話をして、あとは未定です

二百話が見えてきてしまった


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ラキュースの秘密

本話約10k
蒼薔薇のエピローグ的な何か


「ゴボッ!! ラキュース、おまえ!」

 

 彼の手から酒盃が落ちた。絨毯に溢れたワインはシュウシュウと白い煙を上げる。焦げ臭い不快な臭いが漂った。

 目論見通りの結果を得た私は開放と復讐の喜びに自然と微笑んでいた。

 

「最後のワインは美味しかったかしら?」

「ゲホ……、きさま……、グゲぇっっ!」

 

 口を開けば言葉の代わりに血が溢れ出る。

 胸を掻きむしって必死で吐き出そうとしているがもう遅い。このまま苦しんで死ぬことだけが唯一の道。

 

「ゲホゲホ…………」

「もう言葉も話せないようね? どうしてこんな事になっているのかあなたにはわからないでしょう。私はあなたを愛していたし、あなたも私を愛していた。その私から毒を盛られるのはどんな気分?」

 

 二人きりの晩餐で、給仕を勤めていたのは私。彼のグラスに毒を入れるのは簡単なことだった。

 苦労して毒を手に入れてからこの日が来るのをどれほど待ち望んでいたことか。

 

「あなたは勘違いしていた。私があなたを愛したのはあなたに疑われないため。あなたが警戒を緩めて私に気を許すようになるまで半年はかかったかしら?」

「…………」

「その間、ずっと考えていたわ。どうやったらあなたに復讐出来るかって。苦しくても私の声が聞こえてるでしょう? 返事をしなさい」

「ぅ…………」

 

 声は出ないようだ。口からは青く変色した血が溢れている。返事の代わりに、彼は早くも虚ろになった目を瞬きさせた。

 

「私はあなたを愛していた。でもその始まりは? あなたは私の家族を人質にとって私の自由を奪ったのよ。私には愛よりも自由が尊かった。家族を奪い、私から自由を奪ったあなたが憎かった。この身を引き換えにしても破滅させてやりたいくらいに憎かったの」

 

 神々しいまでに美しい美貌は最後の輝きを発していた。

 白皙は血の気を失いより白く。血の赤が浮かんだ左目は、血が変色したことにより右目の青より澄んだ蒼に。

 

「まだ死んじゃ駄目よ。あなたには最後まで付き合う義務がある。あなたの栄華がどうやって破滅するのか、その目で見届けなさい」

 

 燭台の炎が私の身振り手振りに煽られ影が踊りだす。

 私は燭台の一つを持ち上げ窓に向かって放り投げた。小さな炎がカーテンに移りあっという間に大きな炎となって、大きくなった私の影を彼の上に落とした。私の影に溶ける彼は、まるで私の一部になったようだ。

 炎が回る。

 カーテンを焼き尽くした炎は天井に燃え移り、四方の壁は炎に包まれて、

 

 

 

 

 

 

 ノックの音が響き、ラキュースは執筆を中断した。ノートを閉じてペンを置き、来客を迎えるために立ち上がった。

 

「開いています。どうぞお入りください」

 

 お屋敷の若旦那様の世話をすることになってしまったラキュースは、立場としてはメイドになったが他のメイドたちとは役割が大きく違う。

 まず、屋敷の維持管理のために駆け回る必要はない。せいぜいが自分の部屋を掃除するくらいで、それだって頼めばお屋敷のメイドがラキュースを遥かに越えた腕前で綺麗にしてくれる。

 ラキュースはこれでも貴族の令嬢であって、行儀作法は様になっている。メイド教官からそのあたりの指導を受ける必要がない。

 結果、空いた時間が相当に出来てしまった。剣を振り回せれば鍛錬にも時間潰しにもなるのだが、今のところ認められていない。

 一人部屋を与えられたので出来ることはないかと空想小説の執筆を始めたら意外にも楽しく、一日三時間は机に向かって執筆をする毎日になった。内容はお屋敷の若旦那様を刺したり毒を盛ったり閉じ込めたり、散々な目に遭わせるものばかりである。

 

 ラキュースがドアを開いて迎えた面々は、ラキュースもよく知る女達だった。

 

「リーダー元気してた?」

 「リーダーじゃなくてラキュースと言うべき」

「ずっと閉じこもっているのか? 出てはいけないわけではないんだろう?」

「あなたたちねえ…………。よくも私の前に顔を出せたものね!!!!」

 

 猛るラキュースに、三人は顔を引き攣らせた。

 三人がラキュースを嵌めたから、ラキュースはお屋敷に囚われる事になってしまったのだ。

 

「あれは不幸な事故だった。凄い爆発だったが怪我人が出なかったことを喜ぶところだろう」

「事故!? 事故ですって!? あなたたちが何かしたのに決まってるでしょう!!」

「いやそのそれはそのそれよりティアティナ! あれを出せ!」

「ラキュースがメイド服とか新鮮過ぎる」

 「鬼リーダーとか鬼ボスとか思ってたけど違和感が仕事してない」

 

 ガーっと吠えるラキュースは鬼リーダーであった頃の片鱗を見せるが、身を包むのは全身鎧ではなくメイド服である。ラキュースはお屋敷の一員にされてしまったが客分ではなくメイド扱い。お嬢様らしいドレスなどは与えられず、他のメイドたち同様にお仕着せを着る羽目になっていた。

 ただし、ヘッドドレスはレース付きカチューシャなどのホワイトブリムではなく、青薔薇のコサージュとなっている。

 

「私をからかいに来たのね!」

「いやそうじゃなくてだな……。ティアティナいい加減にしろ」

 

 ラキュースの周りをくるくる回っていた二人はキーノの一喝でドアの前に退避した。二人掛かりで持ってきた大荷物があるのだ。

 

「私達は遊んでたわけじゃない」

 「盗まれたラキュースの装備を取り返してきた」

 

 取り出したのは銀色に輝く胸甲に手甲と脚甲。いたるところにユニコーンの装飾が施されている。これぞラキュースが愛用していた全身鎧「ヴァージン・スノー」である。

 愛用の品が返ってきたのに、ラキュースは難しい顔を見せた。頬がちょっぴり赤くなっている。

 

「そこに置いておいて」

 

 ラキュースの態度を見て、ティアとティナは悟った。二人顔を見合わせ、深く頷いた。

 

「その前に本物か確かめるべき」

 「私達じゃ装備出来ない。ラキュースが装備して確かめて」

「い、いいわよ……。後で確かめるから」

「もしも偽物だったら一大事」

 「すぐ出来ることを後にするのはよくない」

 

 ティアもティナも、ヴァージン・スノーの装備条件を知っている。

 装備するには乙女でなければならない。言葉を変えればヴァージン。処女のことだ。

 

「装備出来ない?」

 「もしかして偽物?」

「馬鹿な。偽物のわけがないだろう」

 

 キーノたちが隠して保管していたのだ。偽物のわけがない。

 ラキュースも長く使っていた鎧なのだから、本物か偽物は一目でわかる。装備出来ない理由があった。

 

「これはやられたね」

 「うん、やられたね」

「何をやったんだ?」

 

 ティアが左手で輪を作り、ティナが右手の指を三本立てる。輪に指を抜き差しするのを、ラキュースは真っ赤な顔で怒鳴りつけた。

 ティアとティナは怒られて然るべきである。先を越されたと知ったキーノは震えていた。

 

 

 

 ラキュースが凄い剣幕で三人を叱りつけて鬱憤をぶつけてから、ようやっと近況を話し合った。

 三人は王国の冒険者を辞め、魔導国の冒険者になる手続きを始めた。魔導国だけでなく王国の冒険者ギルドも関わる事なので少し時間がかかるようだ。ガガーランは起きてる時間が少し長くなってきた。

 ラキュースは借金返済のためにお屋敷に勤める事になってしまった。返済額は金貨二万枚。月給は金貨十枚。

 話を聞いた三人は複雑だ。借金で縛り付けられるのは哀れだが、三人の胸中にあるのは真逆。ラキュースはここに永久就職するつもりか、である。

 

「それでラキュースはご主人と上手くいってるのか?」

「上手くも下手もないわ。身の回りの世話って言ってもメイドがたくさんいるし、私の仕事はほとんどないもの」

「ラキュースの仕事はこーいうの着けること?」

「勝手に漁らないで!!」

 

 開いたクローゼットの前に立つティアは、手に小さな布切れを広げていた。

 色は黒。微妙に透けて、布越しにティアの顔が見える。細長い三角形をしており、頂点の角度はかなりエグかった。更に後ろは紐状だ。

 言うまでもなくパンツである。下着である。これをつけてもはみ出ないよう手入れをすることがラキュースに義務付けられた。

 

 「こっちはこっちで凄いの書いてる」

「だから勝手に見ないでって言ってるでしょう!」

 

 ティナは机の上にあるノートを開いていた。

 とりあえず若旦那様が酷い目にあって死ぬ小説である。

 

 「こんなの書いて怒られない?」

「……ソリュシャン様もルプスレギナ様も知ってるわ」

 

 ラキュースは立場上メイドなので、様を付けて呼ぶよう命じられている。

 二人はラキュースが書いている小説を知っているどころか、若旦那様に朗読させる。

 自分が只管に死ぬ小説を読まされて、若旦那様がげんなりとした顔をするのは見ものだった。若旦那様にベタベタしている二人でも、心には何かしら思う所があるのだろう。

 そんな小説をいやいやながらも要望に応えて朗読する若旦那様は、思ったより人が良いのかも知れないと思ったラキュースである。

 

「勝手に見ないで。あった所にちゃんと戻して」

 

 ティナからノートを取り返し、机の引き出しに仕舞う。

 ティアにパンツを仕舞わせると余計なことをしそうだったので、こちらも取り返してラキュース自身の手で戻す。

 

「私のものって言うならキリネイラムは? 取り戻せないの?」

 

 ラキュースのメイン武装である魔剣キリネイラムは、伝説に歌われる十三英雄が装備していた四大暗黒剣の一つ。ラキュースの暗黒面である影羅を呼び覚ましたとても大切で貴重な逸品だ。

 

「交渉中だ。少し時間がいる」

「その内取り戻すから安心して待ってて」

 「どこにあるかは把握してる。問題ない」

 

 ラキュースの目はとても白い。装備を隠したのは三人だと確信している目だ。

 しかし、それを言った所でどうにもならない。いざ戻ってきたにせよ、今まで通りに冒険者として活動するのは難しい。冒険者に戻って良いと言われたって困ってしまう。冒険者以外の方法で借金を返せるのだから、わざわざ不確実なものに手を出す必要はない。それにそんな事をすれば一緒の時間が減ってしまうではないか。

 

「兎も角、若旦那様への借金は私の問題なんだからあなた達は手を出さないで」

 

 強引に話を打ち切ったラキュースを、今度は三人が白い目で見る。

 確かにラキュースは大変な目に遭った。その結果、蒼の薔薇の中で一番の勝ち組に躍り出たのではなかろうか。

 本人も自覚があるようで、頬がうっすら染まったままでいる。

 

「それよりお嬢様たちにご挨拶はした? お忙しいみたいだけどそのあたりをきちんと通さないと煩いわよ?」

「ここには真っ直ぐ通されたからな。これからだ。ご主人の顔も見たい」

「ご主人? 若旦那様のこと? あの人は――」

「待った」

 「それなに?」

 

 ティアがラキュースの左腕を捕らえ、ティナがメイド服の袖を捲る。ラキュースの左手首に、金色のブレスレットがあった。

 遠目には細いゴールドブレスレット。近くで見ると金糸を編んだ物と知れる。更に目を寄せれば金糸と白く細い糸が精緻に編まれ、編み目が幾何学的な紋様を形作る。

 貴金属の重量で言えば大したものではない。しかし細工の妙には目を見張る。相当に高価なものではないだろうか。

 

「あの人が手慰みに作ったのを貰ったのよ。もういいでしょ。早く行くわよ!」

 

 ラキュースは嬉しいのを噛み殺しているような怒っているような。さっきよりも顔が赤いのは照れているのか。

 今度こそ話は終わりと、ラキュースは三人を部屋から押し出しドアを閉めた。

 エプロンドレスのポケットから取り出した鍵を鍵穴に差し込みカチャリと捻る。ドアの鍵は自分ともう一人しか持っていないので、これで誰も部屋に入れなくなった。

 

「この時間のソリュシャン様とルプスレギナ様はお仕事をしていると思うわ。邪魔をすると怒られるから本当に挨拶だけね」

「わかった」

「お嬢様たちに用はない」

 

 三人を先導するラキュースは歩きながら説明をする。返事が一つ足りない。振り返ると一人欠けている。

 

「ティアは?」

「ティアは私」

「それならティナは?」

「おしっこに行ってる」

「……ああ、そう」

 

 まともに取り合うと疲れること甚だしい。

 ラキュースは頭を触って案内を再開した。

 

 

 

 ラキュースたちが長い廊下の向こうに消えるのを待って、物陰に隠れていたティナはラキュースの部屋の前に戻った。

 ドアノブを捻れば問題なく開く。ラキュースの目が反れた僅かな時間に、ティナは鍵が掛からないよう鍵穴に細工を施したのだ。

 

 (調べるから任せた)

(了解)

 

 ティナはハンドサインを使って自分の不在を誤魔化すようティアへ伝えていた。

 

 ラキュースの部屋に入ったティナは内側からドアの鍵を閉め、机に向かう。引き出しを開けて中身を取り出したら、机から引き出しそのものを引き抜いた。底板を叩けば音が軽い。中が空洞になっている。

 

 ラキュースがノートを仕舞った引き出しに違和感を覚えたティナは、違和感をそのままにしておかなかった。それこそがティナの本業なのだから。

 仲間の秘密を暴くのに良心の呵責はない。この程度で傷む良心は最初から持ってない。それに今のボスはラキュースではなくお屋敷の若旦那様である。好奇心も大いにある。

 

 引き出しは二重底になっていた。

 開けるのに鍵などは必要なく、窪みに指を引っ掛ければ簡単に秘密が現れる。

 そこには一冊のノートが隠してあった。

 ティナは容赦なく、ラキュースが隠していたノートを開いた。

 

 

 

 

 

 

   ▽月○日

 

 今日もしてもらっちゃった♡

 

 私が下になってあの人が上になるのを正常位って言うみたい。基本中の基本なんだけどヴァリエーションがたくさんあって、私の脚の開き方で大分違う。締まり方が違うって言ってた。私の方も当たる場所とか角度が違って感じる。

 私が下になるのは同じでも私が手と膝をついて後ろからするのは後背位。バックとも言うらしい。後ろからされるとお尻の穴に指を入れられちゃって凄く恥ずかしい。あの人は私はお尻の穴の素質があるって言ってたけど本当かしら? 恥ずかしいけどちょっと良いなって思うから本当かも知れない。でもでもお尻の穴にぬるって入っちゃったのは私のお尻がゆるいんじゃなくてヌルヌルした薬のせいだって知った時はちょっぴり頭に来た。私のお尻はゆるくないもん!

 初めての時ほどじゃないけどこの日も血が出ちゃって治癒魔法を使う。あの人とエッチしちゃうと凄く良くて幸せだけど体はちょっときつかったり。信仰系魔法が使えて良かった。

 終わった後は教えられた通りにお口で綺麗にする。そうしたらまた大きくなっちゃってそのまま二回目♡

 一回目より激しくて私もエッチなことをいっぱい言っちゃった気がする。いつもなら言えないことが言えちゃうんだからなんだか不思議。あの時の私は私じゃないみたい。でもあの時の私もやっぱり私なのは間違いなくて、どんな事をしちゃったかちゃんと覚えてる。その時のことを思い出すと

 思い出したらおかしな気分になっちゃって日記を書いてる途中だったのに一人でしちゃった。自分でするのは初めてだったけどちょっと良くなれた。あの人にしてもらうほどじゃなかったけど。

 シーツにシミが出来なくてよかった。今度からはタオルを敷いてしよう。

 

 

 

   ▽月△日

 

 今日は失敗。思い出すとちょっと落ち込む。

 

 あの人が書斎でお仕事をしている間、机の下に潜って口でしろと言われた。大きくするまでは早かったけど、そこからは時間が掛かった。ただキスをしたり舐めたりするだけじゃダメみたい。しゃぶれって言われてその通りにしてみたし、お掃除の時みたいにちゅうって吸ったりしたけどダメだった。

 一時間はしてたけど全然出なくて、あの人はミラさん(様の方がいいのかしら?)と交代するように言った。

 ミラさんは吸血鬼で牙があるから私より大きく口を開いてた。口に入れて頭を振るのは私もしてたから、きっと舌の使い方に工夫があると思う。ミラさんは十分くらいで終わりにしてた。私に見せつけるように口からあれを手のひらに垂らして、じゅるじゅる吸って舐めとってた。

 悔しかった。私もお口で出来るように練習しないと。

 悔しいけど何かポイントがあるなら教えて欲しいと思ってミラさんに聞いてみたんだけど教えてくれない。あの人も自分で工夫してみろって言う。ジュネがいたら指導させてもいいって言ってたけどジュネって誰だろう?

 

 お口では出来なかったけどしてもらえた♡

 でもまた失敗。今日は失敗しちゃったから素直になって甘えるようにしたのが良くなかったみたい。あの人はちょっと気が乗らない感じで私に上になれって言った。

 あの人が下で私が上になるのが騎乗位。言われてみると馬に乗っているのと同じ姿勢ね。上になるのなんて初めてだから上手く出来なくて時間が掛かっちゃって、最後は後ろからされちゃった。後ろからされるとやっぱりお尻の穴をいじられて、今日は指が三本入っちゃったみたい。そろそろ入れられるなって言ってたけど本当にお尻でしちゃうの?

 そして終わった後はお掃除。これが最悪だった。今日は素直で従順でいようって思ってたからあの人に言われたことは何でもしちゃってて、それでお掃除の時に飲まされた。あんなの飲ませるなんて信じられない!

 あの人は私がちょっと反抗的なくらいが好きみたいだから明日からはそうしよう。でもまた甘えたくなっちゃったらどうしよう? また飲まされちゃうのかな。

 

 

 

   ▽月●日

 

 今日はなかった。

 

 

 

   ▽月▲日

 

 今日もなかった。

 

 

 

   ▽月■日

 

 今日もなかった。

 でも夜になったら部屋に来るように言われてる。これってあの人の部屋で、そのままお泊りよね?

 あの人の部屋でするのは初めての時だけだった。それからは私の部屋だったり書斎だったり。

 しかも夜。朝まで一緒♡ あの人としちゃうと一回だけですごく疲れちゃうんだけど、私は治癒魔法が使えるから続けてでも大丈夫。治癒魔法が使えて本当に良かった。

 

 

 

   ▽月□日

 

 謎は全てこのラキュース・アルベイン・デイル・アインドラが解いたわ!

 

 昨夜のことは一先ず措いて朝のこと。

 あの人に呼ばれるのはいつもお昼過ぎで午前中は最初の時だけだった。どうしてだろうと思ってたら、朝早くからあの人のベッドにソリュシャン様が忍び込んできたの!

 ソリュシャン様の格好は裸よりいやらしいネグリジェだった。あの人のおちんこをとても美味しそうにしゃぶってた。おちんこは長くて私じゃ半分とちょっとしか咥えられないのにソリュシャン様は平気な顔をして根本まで咥えてた。喉が突かれて苦しくないのかしら? 私にも聞こえるくらいジュプジュプっていやらしい音がして、ソリュシャン様は綺麗な金髪を揺らしながら頭を上下に振る。あの人が小さなうめき声を上げるとソリュシャン様の動きも止まって、出たらしいことがわかった。ソリュシャン様のお口がおちんこから離れても一滴もこぼれなかったから全部飲んじゃったんだと思う。

 それからソリュシャン様はあの人に添い寝をして、大きなおっぱいを押し付けていた。私も小さい方じゃないけどソリュシャン様にはとても敵わない。ソリュシャン様はあの人の耳に色々囁いてて、おちんこを優しく撫でてた。あの人はまた大きくしちゃって、お口でするのかなって思ったらソリュシャン様は上に乗ったの! 騎乗位で大きなおっぱいをぷるんぷるん揺らして凄い迫力だった。

 ソリュシャン様はあの人をお兄様って呼んでたけどやっぱり実の兄妹じゃなかった。血の繋がった兄妹であんなことするわけないものね。

 あの人は二回出しちゃった。朝からソリュシャン様があんな事をしてたから、午前中に呼ばれることはなかったってわけ。

 でもそうなると、午前中に呼ばれない日は毎朝ソリュシャン様があの人のベッドに来てるってこと?

 あの人って一日何回してるんだろう? 男の人ってそんなに何回も出来るものなの? それともあの人だけが特別なの?

 謎は全て解けたと思ったら新しい謎が生まれてしまったわ。

 

 昨夜はエッチを始める前にあの人からプレゼントされちゃった♡

 すごく嬉しいけど、綺麗なものなんだけど、どうしてこんなものを選んじゃったのかよくわからない。手慰みって言ってたから最初から私に贈ろうと思ったんじゃなくて何となく作り始めたのかも知れないけど。知らなければすごく良いものに見えるから嬉しいのは嬉しいのだけど、やっぱり複雑。どうしてそれなのって思っちゃう。

 あの人からプレゼントされたのは金糸を編んで作ったブレスレット。細くした絹糸で繋いであって凄く精密な作り。もしもこれと同じものを宝飾細工職人に頼んだら何ヶ月掛かるだろう。作りが細かすぎて作れないかも知れない。それくらい見事な逸品。

 なんだけど、実は、材料が、本当は金じゃない。

 あの人は体毛加工のノウハウが貯まったから試しでやってみたって言ってた。

 これ、私のあそこの毛を使って作ったみたい。初めての時に全部剃られちゃったあそこの毛をとっておいて、綺麗に洗浄してから色々な処置をして絹糸と一緒に編み込んだらしい。

 絹糸もあそこの毛も本当に細くて、どうやって編んだのかわからないくらいに凄いんだけど、どうしてあそこの毛を使っちゃったの。せめて髪の毛を使ってくれれば良かったのに。

 元はあそこの毛なんだけど、完成してから表面に薄く保護液みたいなのを塗ったらしくて、本当の金みたいな艶がある。触ってみると羽毛のように(っていうか毛なんだけど)柔らかい感じがするのに表面は意外に硬くなってるようで簡単には傷がつかないって言ってた。

 凄く嬉しいんだけど、どうしてあそこの毛を使っちゃったの。知らなければ心から喜べたのに。

 昨日じゃなくて今日のことになるけど、ブレスレットをソリュシャン様とルプスレギナ様に見られて問い詰められた。正直に答えると今度はあの人が問い詰められてた。きっと何か作って上げる事になると思う。

 

 それで昨日の夜は、

 

 

 

 (だらだらと昨夜のことを連ねているのでティナは大雑把に読み飛ばす)

 

 

 

   ▽月♡日

 

 そろそろお尻でしようって言われて困っちゃう♡

 

 あの人のおちんこが全部入るようになっちゃった♡ 毎回ちょっとずつ血が出てたけど今日は出なかったの♡ 少しずつ私のおまんこが深くなっちゃったのかな♡ 治癒魔法使えて良かった♡

 エルフのおまんこは最初から深くて久し振りにしたくなったって私の前で言うのはバッテン! でも許してあげちゃおうかな♡

 あの人ったらいつも私のおまんこの中に出しちゃうからこのままだと絶対赤ちゃん出来ちゃう♡ 絶対生みたいけど、あの人ともっとしたいから悩んじゃうな。

 もうすっごく幸せ♡ あんなに色々してくれるんだもの♡ キーノたちが言ってたのもわかる。

 あの人は一回金貨二百って言ってたから、このペースだと三ヶ月は掛からない。あの時お金なんていらないって言って本当に良かった。

 

 たまにはソリュシャン様やルプスレギナ様みたいに好き好きアピールしたいんだけど、あの人が私に求めてるのはちょっと反抗的なラキュースだから我慢しないといけない。

 始めちゃったらそんなの忘れちゃって色々なこと言っちゃってるけど仕方ないわよね♡

 

 ルプスレギナ様のアピールって書いて気付いた。やっぱりあの人はルプスレギナ様ともそうなのよね? ソリュシャン様とはこの前見たし、ミラさんがフェラチオしてるのも見たし、メイドのシェーダ(?)さんのお尻撫でてるの見たし、ティアとティナとキーノもあんな事言ってたから三人もきっとそうだし。一体何人いるの!?

 

 でも仕方ないかなって思っちゃう。一日にあんなのを何回もされちゃって、それが毎日だと治癒魔法が使えても体が保たない。体が保っても心がすごくふわふわしちゃうから日常生活が送れなくなる気がする。

 今日だって夕食の前に私のベッドでされちゃった♡

 でもちょっと困ったことがある。つるつるにされちゃったあそこの毛がちょっぴり生えてきて触るとチクチクする。正常位ですると気になるからって後ろからされちゃうの。後ろもいいんだけど、後ろからだといつもお尻の穴を触られちゃう♡

 その内脱毛剤を用意するからそれまではちゃんと手入れをするようにって言われちゃった。全部は剃らないでエッチなパンツの外側だけ。中は伸ばして適当な長さになったら切ってくれるって。

 伸びてきたら一緒にお風呂入ってくれるって♡ 今から楽しみ♡

 

 されるばっかりじゃなくて私も頑張らないとダメね。

 まずはお口に出してもらうように練習するつもり。指をしゃぶってふやけるまでペロペロしてるんだけどもっと太くて長いのないかな。ミラさんは聞いてくれないし、あの人に聞くのは教えてくれそうだけど私のキャラクター的にちょっとまずいし、ソリュシャン様はすごく上手みたいなんだけどこんな事聞いていいかわからないし、ルプスレギナ様なら気軽に教えてくれそう。ずっとお忙しそうだから時間がありそうな時に聞いてみようかしら。

 

 

 

 

 

 

 ティナは読むに耐えないラキュースの日記を閉じた。




そんな気はしてましたが文字数気にしない人が大多数
気にせずマイペースで書いてきます
本作最初の方は3〜5k字だったもんですが

アンケートは細かくキャラを上げると大変なので大雑把に
とりあえず次話は一旦帝都の予定


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彷徨える娘

まとまったなと思っただけで書き終わったら12k字に


 性悪な美人姉妹が机に向かって黙々とペンを走らせている。

 堪りかねたのか、姉が呻くように言った。

 

「どうしてこうなってるんすか……」

「口より手を動かして」

「だっておかしいじゃないっすか……。ソーちゃんはおにーさんを休ませたんすよね?」

「休ませたわよ。私たちではお兄様に追いつけないからゆっくり休んでくださいって」

「それじゃどーしてこーなってるんすか!」

「お兄様の仕事が早すぎるんだから仕方ないでしょう!」

 

 ルプスレギナに続いてソリュシャンも吼えた。

 二人は終わりの見えない書類の山と格闘している真っ最中なのだ。

 

 二人の仕事は文書を翻訳して清書すること。原本に書かれた文字は下手を通り越して独自の速記となっており、二人以外に読める者がいないのだ。

 原本を作ったのは魔導国宰相閣下にしてナザリック守護者統括の相談役。アインズ様が直々にお認めになり、守護者統括であられるアルベド様が分野によっては自身を上回ると言ったのは伊達ではない。

 彼の男が一時間仕事をするとソリュシャンとルプスレギナの二人がかりで半日掛かる。半日はおよそ5・6時間。

 それが二時間仕事をすると丸一日。二十四時間のことだ。

 そこへ一日仕事をされると、実働は精々8時間なのに二人がかりで十日掛かる。飲まず食わずの不眠不休で最大能率を常に発揮して十日である。当然のことながら、体力お化けである二人でも不眠不休の十日間は不可能だ。とてもとても一生懸命頑張って一ヶ月は必要になる。

 

「それになんすかこれぇ……。この川は大物が狙えるとかワイルドボアの丸焼きが名物とか、こんなの観光案内じゃないっすかぁ……」

「アウラ様にお見せする地図の解説だそうよ。内容の是非は私達が判断することじゃないわ」

「それはそうっすけどぉ……、そんなのわかってるんすけどぉ……」

「だったら口より手を動かしなさい! さっきも言ったでしょう!」

「怒鳴らなくてもいいじゃないっすか!」

 

 帝国の詳細な一次情報を清書するなら、まだ納得できた。しかし、竜王国内の観光案内を書くのは心に来るものがあった。

 つまらない言い合いから熱が入った二人は立ち上がってしばし睨み合い、仕事が遅くなるだけと気付いて座り直した。

 

「はあ……、ジュネが早くおにーさん文字をマスターしてくれないっすかねぇ」

「…………私達だけがお兄様の文字を読めるからお兄様のお傍にいることが許されているのよ。読める者を増やしたくないわ」

「それはわかるっすけど限度ってもんがあるっす………………んん?」

「何よ、突然立ち上がって。休憩にはまだ早いわ」

「そうじゃないっすよ。お客様っす」

 

 ルプスレギナに促され、ソリュシャンも窓の外を見る。

 窓の向こうではお屋敷の正門が開かれ、豪奢な馬車が入ってくるところだった。魔導国の紋章を掲げた馬車だ。

 魔導国あるいはナザリックにおいて、馬車に乗って移動する者は限られる。アインズ様を筆頭に、守護者以上の方々なら魔導国の紋章を掲げた馬車を使っても不思議はないが、大抵は独自の移動手段を用いて訪問する。

 それなのにわざわざ馬車を使うとなれば、体面や形式を重視している事になる。そのような事を二人は何も聞いていない。

 兎にも角にも出迎えようとして、御者台に座る黒い影に首を傾げ、馬車から飛び降りた者を見て目を丸くした。

 

 

 

 

 

 

「何こいつら?」

「どこから出てきた!?」

 

 キーノたちを連れ歩いていたラキュースの前に、見知らぬ少女が突然現れた。

 魔法による転移かと思えたが、いずれも一流の冒険者であるラキュースたちは見逃さなかった。少女は窓と壁をすり抜けて姿を現した。およそ真っ当な存在ではないのは、すり抜けた技だけでなく姿かたちからも窺える。

 腰まで届く黒髪は夜蝶の羽ばたきのように揺らめき、黒炭の目は赤と青の光が煌めいている。桜色の唇は如何にも健康的で少女の魅力を振り撒く。それらを収める輪郭は形良い卵形だ。透き通るほどに白い肌も通った鼻梁も。オフショルダーの黒いドレスに包んだ体は凹凸がはっきりとして、すらりと長い手足が伸びる。絶世と評して不足ない美貌である。いずれ少女の幼さが抜けきれば城を傾け国を滅ぼし時代を荒らす魔性となるのは確実だろう。

 とは言え、美貌とくればお屋敷のお嬢様に神官様も傾世の美女。ラキュースはそこまで及ばないものの美貌で知られるアダマンタイト冒険者。一同が驚いたのは少女の美貌ではない。

 少女は髪の生え際から一対の白い角を生やしていた。腰からは一対の黒翼が濡れたような艶を放っている。明らかに異形種だ。

 

 エ・ランテルの大きなお屋敷は魔導国中枢の方々も訪れるため、人間以外の者がいてもおかしくはない。それを知っているラキュースたちだが、壁をすり抜けて突然目の前に現れれば身構えてしまうのは無理もない。

 

「一人はメイドで、でも他のは違うよね? なんでこんなのがいるの?」

「お前こそ何だ?」

「おまえ? あなたみたいなおチビさんにお前なんて呼ばれる筋合いはないんですけど?」

「うっ……」

 

 少女の視線がキーノを捉え、キーノは捕らわれたように動けなくなった。

 キーノの実力は蒼の薔薇随一で、他のメンバー全員を合わせたよりもキーノ一人の方が強い。ヤルダバオトに操られ悪魔メイドであったエントマを退けたこともある。そのキーノが、視線一つで何も出来なくなった。

 この少女はエントマよりも遥かに強い。彼の魔皇には劣ると思いたいが、余りにも格上過ぎて強さを測りきれない。

 

「このお屋敷にいるのに礼儀を教えられてないの? 一体誰がこんなの雇ったの?」

「わ、私は冒険者だ。今はまだ王国に属しているが近いうちに魔導国から認定を受けることになっている」

「冒険者? それも王国の? ますます何でこんなところにいるの? 誰に呼ばれたわけ?」

「それは私が――」

「あーーーーーーーーっ!!」

 

 少女は奇声を発してラキュースに近付いた。美貌をラキュースの体に寄せ、すんすんと鼻を鳴らす。

 ラキュースの後ろにいたティアがさっと少女の後ろに回り込んでこちらもすんすんと鼻を鳴らして美少女ヤバいいいにほいヤバいとなっているのは誰も気が付かなかった。

 

「……………………お父様の匂いがする」

「お父様?」

 

 ラキュースに、少女の父親であろう年齢の男性に心当たりはない。近くに接した男性はいるが、とてもではないが少女の父親になれる年齢ではない。

 

「私だってまだなのにまた違う女に!」

「え? え? あの……、お父様ってまさか……」

「ソフィー様。何度も申し上げているように窓からではなく扉から出入りしてください」

「「ジュネ!」」

 

 廊下の向こうから歩いてくる黒衣の女性に、少女とティアが異口同音に発する。

 

「「ん?」」

 

 またも異口同音に発して顔を見合わせた。

 

「あなた誰? ジュネを知ってるの?」

「私はティア。帝都の屋敷ではジュネにとても世話になった」

「帝都で? でも私知らない。私がお部屋にいた頃なのかな?」

「ソフィーちゃんじゃないっすか。それにジュネも。いや〜待ってたっすよー!」

「あっ、ルプー!」

 

 黒衣の女性とは反対側からやってきたのは赤毛の神官。

 廊下の真ん中でキーノたちと異形種の少女と黒衣の女性、それに赤毛の神官が集まってとても賑やかなことになっている。

 

「私を待ってたのはお父様よね♡ お父様に会いに遥々エ・ランテルまでやって来たんだから!」

「エ・ランテルと帝都じゃ遥々って言うほど離れてないんじゃないすか?」

「そーいう気分だからいいの! それでそれでお父様はどこ?」

「あー、おにーさんは――」

「ソフィー様!」

 

 キーノたちを置き去りにして賑やかに始まった情報交換を、黒衣の女性がばっさりと断ち切った。

 

「こちらも何度も申し上げていますように、ソフィー様がマイスターを名付け親でいらっしゃることからお父様とお呼びしますと同じくマイスターからジュヌヴィエーヴの名を授かった私もマイスターのことをお父様とお呼びしなければならなくなるのですがマイスターからは拒否されてしまいましたのでソフィー様がマイスターをお父様とお呼びするのはとても不自然なことであり同様に私がソフィー様からお姉様と呼ばれない事の道理が通っておりません。仮に私がソフィー様からお姉様と呼ばれますと甚だしく不遜にして秩序を危うくしかねない事でございますからソフィー様からジュネと呼ばれることを大変嬉しく光栄に思っております。ですがソフィー様がマイスターをお父様とお呼びするのは不自然にして道理にそぐわないことでありますからそのような事を続けますとソフィー様の評価が軽んじられることに繋がりかねません事を危惧しております」

「うへぇ……」

 

 赤毛の神官は一歩引いてよろめいた。

 相変わらず話が長くて何を言ってるかわからない。初対面時に植え付けられた苦手意識は今になっても克服されていなかった。

 一方の少女は一歩も引かない。目尻を釣り上げ反撃した。

 

「もう! ジュネの話はいっつも長いの! 三行で、じゃあれだからスリーワードで!」

 

 今の長い話を単語三つで。

 無理難題に思えたが、黒衣の女性は帽子をとってヴェールに隠れた吸血鬼の白い美貌を婉然と華やかせ、

 

「父と、呼ぶな、馬鹿」

「「「「「!??!」」」」」

 

 真っ直ぐに罵倒した。

 遅れて加わったティナも目を丸くした。

 

 キーノたちは知らないが、ルプスレギナは知っている。

 ジュネとソフィーは、二人とも相談役殿の配下で地位的には同格。しかし、ジュネは数あるヴァンパイア・ブライドの一人に対し、ソフィーはアルベド様を母と呼ぶことが許された一粒種。個としての強さも隔絶している。

 それなのにこんな事言っちゃっていいのかと思うのだが、言われたソフィーはへにゃりと笑った。

 

「やーーーーーん! ジュネったらきびしいぃ♡」

「こんな所で抱きつかないでください」

 

 一同はやはり目を丸くした。

 ティアと目覚めさせられたティナは、私も抱きつかれたいと思っているのは措いておく。

 

 罵倒しようとキツい態度をとろうと、敬意を払っていれば許される。

 ソフィーの父が階層守護者であるシャルティアを引っ叩いて足蹴にして罵倒しても許されているのも同じ理由である。もしもあれがシャルティアを軽んじての行為だったらとっくに生きてない。敬意があるからこそ許されるのだ。

 勿論のこと、敬意が相手に伝わってないと意味がない。

 

「それでマスターはどこに? このお屋敷にいるんでしょ?」

「あー、それっすけど、ね」

 

 キラキラと輝く少女の期待を曇らせるのはルプスレギナの本意ではない、でもないかも知れない。

 いつも笑顔で闊達に見えるルプスレギナだが、本性は極悪サディスト愉悦系ワーウルフなのだ。

 ソフィーに負けず劣らずのいい笑顔を見せ、教えてあげた。

 

「おにーさんはさっき帝都に行っちゃったっす。しばらくあっちで過ごすって言ってたっすよ♪」

 

 ソフィーは膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 娘の涙を知らない父は、三人の美女に囲まれていた。

 

「夏が終わるまでには魔導国へ移れそうです」

 

 対面に座ったレイナースが嬉しそうに報告する。

 今はまだ帝国四騎士の一であるレイナースは、帝都の魔導国公館を訪れる時は全身鎧を装備する。あくまでも儀礼的な装備であって、屋敷に入れば早々に脱いでしまう。

 今は鎧の下に着けている黒いワンピースレオタードだ。以前とは違ってスカートの裾にフリルが付いていたり、ベルトのバックルの装飾が凝っていたり、バストのアンダーにラインが走っていたりと、中々お洒落である。ブーツは太ももまであるが、スカートとの間に肌色が見えている。異本の用語では絶対領域と呼ばれている。

 

「そうなったら魔導国に来てくれてもいいし、この屋敷に住み暮らしてもいい。今まで通りに通うのが楽かも知れないな。そこはレイのいいようにして構わないよ」

「はい、ありがとうございます」

 

 貴族社会の裏表をくぐり抜けたとは思えないほどに、レイナースは綺麗な笑顔を見せた。

 今までと同じに通うとしても、帝国の軍人から魔導国の国民となれば心理的な距離がより近くなる。それが嬉しいのだ。

 レイナースは一番話したかったことを直に話せてから、本日の本題を切り出した。この男を相手取る時は余計な駆け引きは不要と知っている。

 

「本日は学士殿にお願いがあって参りました。以前分けていただいた塗り薬を用立ててはいただけないでしょうか?」

 

 レイナースが今も愛用している魔法のローションのことである。老廃物を分解してくれるので、以前は呪いで爛れてしまった顔に塗っていた。呪いが解けた今は不要になったが、入浴前に全身に塗るとお肌の調子がとても良いのだ。

 

「こっちに置いてある材料だと……、レイに渡した小瓶で五十本は出来るかな。それで足りるか?」

「まずは五本ほどいただけましたら。今後も度々お願いするかも知れません」

 

 理由も聞かずに応えてくれるのが嬉しくなる。とは言え無償で譲ってもらうつもりはなく、そもそもレイナースが欲しているわけでもない。

 

「対価は如何程でございましょうか?」

「レイから取るわけ無いだろう」

 

 男にとって、レイナースはいずれ魔導国に移り自分の下につく可能性が高い。今は違っても未来の部下になるかも知れない女から金を取るつもりはない。部下にならないにしても、お手製ポーションは売ろうと思って作ったわけではないので値付けは全く考えてない。

 

「そういうわけにはございません。陛下からのご要望なのです」

 

 レイナースはいまだ帝国四騎士の一なのに、男の傍に行けることを先に報告して、自国の皇帝陛下からの言葉を後回しにした。

 

 レイナースは美容のために使っている魔法のローションだが、元はシャルティアとのアナルセックス用に開発したローションである。

 ジルクニフ陛下はそちらもお好きなのかと勘ぐった男であるが、レイナースからの話は全く違った。

 

 帝国の皇帝陛下には複数の妻がいる。妻たちは男子禁制の後宮に暮らしている。しかしレイナースは女性であって、後宮に出入りするのに何の問題もない。

 そこで皇帝の妻たちの目がレイナースに留まった。魔導国に移ると公言しているレイナースなので、陛下からの寵愛を奪われるかも、と猜疑や嫉妬が飛んできたのではない。レイナースの美しさが、具体的に言えば肌の艶が目に留まったのだ。

 カルカから美容のノウハウや衣装の見立てを伝授されているレイナースであるが、肌の艶で一番に思いつくのは以前貰った魔法のローション。

 皇妃や側室たちに執拗に請われて話してしまったところ、是非にも分けてもらえないだろうかと来るのは火を見るより明らかだった。

 あの学士殿なら心良くわけてくれるだろうと思いはしたが断言はせず、いずれ離れる国なので無視してもよく、それでも後宮と太い繋がりを持つのは悪いことではないと判断したところで何故か皇帝陛下から話があった。

 皇帝の耳はとても良い。自分の知らない所で自分の妻たちがあの男と密かな繋がりを持つことが甚だ不快なのだ。

 結果、皇帝からの依頼で話を伝えることになった。

 

「陛下は必ず対価をお支払いすると仰せでございましたわ」

 

 只より高いものはない、である。

 人は何かを貰うとお返しをしたくなるものであり、返報性の原理として知られている。ここでお返しが出来ないと上下関係に変じていく。簡単に言えば、親分と小遣いを貰う舎弟の関係だ。

 それを知らないジルクニフではない。あの男と貸し借りはまっぴら御免と思っている。

 

「そう言ってもな。レイだったらあれ一本にいくら払う?」

 

 商品の値段とは、生産コストで決まるものではない。需給のバランスで決まる。

 生産コストは、現状では手作りと言っても調合方法が確立しているし原料も高いものではないのでゼロに近い。

 供給はこの男の手作りのみ。そして需要はさっぱりわからないからレイナースに訊ねている。

 

「以前でしたら金貨500枚でも高いと思わなかったことでしょう」

 

 金銭感覚がいまいちな男と給仕のシクススはピンと来ないが、カルカは目を見張った。

 

 以前は呪いで顔の右半分が爛れていたレイナースである。仮面で顔を隠したかったが汚臭を発する膿がとめどなく分泌されたため、それも出来なかった。

 仮面で顔を隠せるようになったのは、ローションを塗ることによって膿が無色透明で無味無臭な液体になったからだ。

 根本的な治療ではなくても、醜い顔を隠せるようになるだけで大枚を払うに値した。

 

「今となってはあの方、ペストーニャ様と仰られましたでしょうか。ペストーニャ様に呪いを解いていただきました今ではそこまで払うことは出来ません。200、では少し高価に感じます。150なら躊躇しないことでしょう。100ならあるだけ購入したいと思いますわ」

 

 金貨100枚でも相当に高価である。が、指先に付けた微量でも全身に塗りたくれるほどによく伸びて、毎日使っても小瓶一つで一年近くは保ちそうだ。

 下地作りが完璧になるのだから、高貴な女性が美容に掛ける額としては高価過ぎるとまでは言えない。

 

「それなら一つ金貨100枚にしよう。明日取りに来てくれ。それまでに用意しておくよ」

「はい、仰せの通りに。ありがとうございます」

「あの、旦那様? 実は私からもレイナース様と近いお願いがありまして……」

「うん?」

 

 レイナースの話が片付いたと思ったら今度はカルカ。隣に座っているが、間に一人分空けている。

 

 春になって久しく大分暖かくなってきた昨今である。

 カルカのドレスも、ソリュシャンと同じ上乳見せ肩出しドレスになってきた。ソリュシャンのような迫力はなくても程良い大きさの胸が谷間を作っている。パーティーでもないのに攻めたドレスを着ているのは男に見せるためである。着付けには専従となっている双子幼女が頑張ってくれた。

 

「フリアーネ様から髪の手入れについて度々質問を受けてしまって」

「フリアーネ……。魔法学院生徒会長のフリアーネ・ワエリア・ラン・グシモンド、公爵家だな」

「そこまでご存知なのですか?」

「帝国貴族の名は全員覚えてるよ。夜会で二度会った。そう言えばここで働いてるクリアーナとパナシスを見たこともあったな」

 

 今更なのでシクススは驚かないが、カルカとレイナースの胸中は驚愕の一言。

 優れているとは知っていたが、群を抜いているとか優秀だとかの形容では不足が過ぎた。

 

「で、その公爵令嬢が髪の手入れ? カルカが髪を洗ってるのと同じものが欲しいって事か?」

「遠回しではありましたが、そのようです」

 

 遠回しではあっても、公爵家の令嬢がねだるような事を言うのだから相当に執心していると察せる。

 髪は女の命なのだ。

 

「まあ、それも難しいことじゃないが」

「後にしようと思いましたが、私からもございます」

「シクススもか」

 

 お屋敷のメイド長になってしまったシクススが若旦那様を持て成す担当なのは当たり前。

 繊細な刺繍がとても美しいエプロンに、乳房で生地が切り替わるメイド服はいつ見てもやっぱりとてもエッチである。

 

「雇っているメイドたちから、お屋敷の浴室に備えている浴用品はどこで手に入るのでしょうか、と度々聞かれるようになりました」

 

 始めはナザリック製のシャンプーやボディソープが並んでいた。

 しかしいつの日からか、この男が趣味で作ったシャンプーやボディソープになっていた。試しでルプスレギナやシクススが使ってみたところとても品質が高く、ナザリック製のものと比べても遜色がなかったのだ。

 もしもずっとナザリック製の品が並んでいたとしたら、メイドたちの言葉を言語道断と切って捨てたシクススである。今は若旦那様製になっているので、そこまでは思わない。

 

 こんな事を報告することに、シクススは忸怩たる思いを抱いている。

 メイドたちがお屋敷の品を、消耗品と言えど欲しがるのはかつてなかったことだ。それというのも、現在の帝都のお屋敷には御主人様がいないから。

 頼りない若旦那様が一応の御主人様であったが、本当に頼りないし以前はメイドにやり込められる事もあったので関係ない。ソリュシャンの事だ。

 綺麗で怖くて我儘なお嬢様が目を光らせているのだから、メイドたちは息を殺して粛々とお仕事をする毎日だった。しかし、若旦那様にくっついてエ・ランテルに行ってしまった。

 カルカは若旦那様の奥方様ということになっているが、お屋敷に勤めていれば仮初めのものだとすぐに知れる。また、カルカは何をするにもシクススの許可を得る必要があり、お屋敷で振るえる権力がない。もしもカルカが諸々を無視して好き放題するような性格だったら、聖王国が南北に分断されているのを放置しなかっただろう。カルカが自由に動かせるのは専従メイドの双子幼女だけ。

 カルカがダメでもソフィーが残っていた。

 ソフィーは見事にソリュシャンの後を継いで我儘お嬢様になっていた。天真爛漫で無邪気な我儘は可愛く思えるが、ソリュシャンとは別種の怖さがある。ピリピリしてるソリュシャンの前で粗相をすればとても厳しく叱責されるが、ソフィーだと何をされるかわからない。にっこり笑って、もう来なくていいよバイバイ、くらいは平気でやりそうなのだ。そんなソフィーに口答えしようものなら親譲りの聡明な頭脳を納得させなければならず、それ即ち不可能と同意で、大変なペナルティが待っている。解雇された者はいないが、甘く見て泣かされた者はいた。

 しかし、そのソフィーも家出して不在。

 残ったカルカではメイドたちの抑えにならず、お屋敷の権力を一手に握るシクススが御さなければならない。ならないのだけれど、シクススの手に余った。メイドの仕事は完璧でも人を率いるのに向いてない自覚がある。仕えるべきお屋敷の御主人様方がいないのでメイドたちの仕事が不足しているのもある。

 

 とどのつまりは暇をしているメイドたちがちょっぴり甘えてきたという事だ。

 そしてその程度なら、若旦那様にお伝えしてもよいと判断したシクススである。勿論のこと、メイドたちが増長するようなら厳しく締め付けるつもりだ。

 

「ふーむ……」

 

 男は唸った。

 レイナース、カルカ、シクススの要望は、全て女の美容に関わることだった。女たちが美にかける執念恐るべし、である。

 そこまで需要があるのなら一々希望を聞いて渡すよりも、いっそ商品にして売ったほうが早い。

 

 ラキュースのために多額の借金を背負った。返済のための金稼ぎは金貸しをしようと思っていた。

 帝国貴族の懐事情は全て頭に入っており、既に顧客名簿があるも同然。まずは少額の貸付から始めていずれは事業のような太い投資に繋げるつもりだった。

 無論、金貸しには然るべき筋の許可がいる。こっそりやって後で問題になるのは面倒だ。幸いにも帝国の皇帝はとても聡いので、理を説いて利を誘えば許可を得られるだろう。

 だが女たちが欲しがってる美容については、許可を得るどころか向こうからお願いされている。競合品はなくもないが質が違いすぎて相手にならない。

 

 帝国の経済規模、富裕層の割合、年代別性別ごとの人口、生産手段、生産量、生産コスト、販売方法、販売コスト、売上、原価、利益、税率。規模は手工業のレベルまで。期待できる最大と最小と失敗した時のたたみ方。

 あらゆる事を頭の中で計算して、

 

「屋敷に空き部屋が幾つもあるだろう? そこを工房にして生産する。シクススは手先が器用なメイドを五人上げてくれ」

「メイドたちを使って作るのですか?」

「とりあえずはな。正確な量で希釈させるだけだから器用なだけで十分だ。カルカとレイはどんなのが欲しいか教えてくれ。俺にはさっぱりわからない。レイはここにどんなものがあるか知らないだろう。知るために泊まっていってくれないか?」

「よろこんで。日時はどういたしましょうか?」

「いつでも。俺がいない日もあるが気にしないでいい」

「本日はお帰りになられるのですか?」

「2・3日は滞在していく予定だ」

「それでは本日このまま詳しいことをお聞きしたく思いますわ」

 

 他にも考えることはある。皇帝の妻なら金貨100枚出せるだろうが、屋敷に勤めてるメイドでは不可能。メイドたちの給金から捻出できる額で購入できるのは、金貨一枚だとしたら量を百分の一にするのか効能を百分の一にするのか。

 金銭感覚はずれていても金勘定は出来る男なのだ。

 

 とりあえずはレイナースの育成を再開である。

 

 

 

 

 

 

 ルプスレギナは悪い狼である。

 相手が弱ってきたらぐりぐりと弱みをつついて止めを刺すのだ。

 

「ソフィーちゃんておにーさんといっつもすれ違いっすよねー。それってもしかして避けられてるんじゃないっすか? それともすれ違うのが運命かもっすね!」

 

 床に雫を落としていたソフィーは、きっと顔を上げ、ギロリとルプスレギナを睨みつけた。

 ルプスレギナのとってもいい笑顔が引き攣り、頬と言わず額と言わずあちこちに冷たい汗を流し始めた。高位の神官でとっても強いルプスレギナが怖気づくほどに、ソフィーの圧は重かったのだ。

 

 ソフィーが帝都を発ってナザリックに招かれ、エ・ランテルに来るまでこうも時間が掛かったのは、遊んでいたわけではない。そんな事はアインズ様がお許しになってもソフィーの母が許さない。

 ソフィーは戦闘訓練をしていたのだ。

 高レベルのシモベを相手に、時にアルベド直々に、珍しいことをやっているなと見物に来た守護者たちに。

 強い相手ばかりでぐったりしたソフィーを見て、現在の実力を把握したアルベドはこれまでと判断したのだが、アインズ様の琴線に触れてしまった。

 ソフィーのステータスをモニターしていたアインズ様は、ソフィーのレベルが上ったことに気付いたのだ。召喚ではなく限定特殊スキルによる創造であるためか。他のシモベたちと違って、ソフィーには成長する余地が残っていた。

 

 レベルが上がるのだから、上げなければならない!

 

 レベルが上がるのにどうして上げないのか。上げない選択肢はない。上げなければおかしい。上げるのが当たり前。生きていれば息をするようにレベルが上がるなら上げるもの。アインズにとって太陽が東から昇って西に沈むと同じ普遍の法則である。

 恐れ多くもアインズ様監修の元にソフィーのレベル上げが始まってしまった。

 ナザリックの防衛に影響がない範囲で、ソフィーはナザリック内で自然に発生するモンスターをひたすら狩り続けた。上層部のヴァンパイア・ブライドも自然と発生するモンスターであるが、これだけは除外。シャルティアを始めとする一同はアインズ様のお優しさにむせび泣いた。ソフィーもジュネの同僚を手に掛けずに済むのはほっとした。

 ソフィーのレベルはぽこぽこ上がり続け、しかしレベルキャップに当たったのか種族やクラスによる制限でもあるのか、数日もすると全く上がらなくなってしまった。

 必要経験値が増加した可能性もあって更に狩り続けたのだがレベルに変化はなし。

 ひとまずソフィーのレベル上げは終了した。

 100レベルには遠かったが、目に見えて数字が上がっていくのをアインズ様はとても楽しそうにしておられたので全てヨシである。

 

 ソフィーは元々ルプスレギナより強かった。

 今やプレアデスの姉妹が揃ってもソフィーが上である。恐ろしいことにそこへプレアデスの上司であるセバスを加えても、相性の関係でソフィーが有利だったりする。

 ソフィーにパンチされれば、ルプスレギナはとっても痛い目にあってしまう。

 ヤバっと思ってももう遅い。言ってしまったことは取り消せない。謝るべきか冗談だと誤魔化すべきか。

 ルプスレギナが内心で大いにビビっていると、ソフィーは険しい顔のまま、頬に一筋の流れが追加された。

 

「う…………うぅ……、うえぇぇええええーーーーーん!」

「ありゃ、泣いちゃったっすか」

 

 ソフィーはジュネの腰にしがみつき、声を上げて泣き出した。

 蠱惑的な美少女に見えても、ソフィーは年初に生まれたばかりのゼロ歳児。まだまだお子様なのだ。

 

「あなたたちは廊下の真ん中で何をしているのよ」

 

 今度はソリュシャンお嬢様である。

 遅いルプスレギナに業を煮やし一言二言ぶつけてやろうと出向いたらソフィーが床の上で泣いている。

 

「あなたたちは何か用なの? お兄様は不在よ」

「ええと、お嬢様たちにご挨拶をと思いまして」

「いらないわ」

 

 ラキュースの言葉をピシャリと断ち切るお嬢様の貫禄である。

 

 ラキュース率いるキーノたちをしっしと追い払い、性悪姉妹とソフィーとジュネが残った。

 

「ジュネが来たのなら丁度いいわ。お兄様の文字が読めるようになったかしら?」

「私がマイスターの文字を分析し始めたのは――」

「待った! 読めるか読めないかどっちかで答えて欲しいっす」

「読めない、です」

 

 勉強を始めて十日後にソフィーに引っ張られて出かける羽目になり、その後は栄光のナザリックに戻ることが出来た。

 ソフィーの戦闘訓練中は最古図書館にこもって、マイスターから指示された論理学トレーニングの初歩テキストを繰り返し読んでいた。

 ジュネなりに勉強に励んでいたものの、彼の男が作った文書群は帝都のお屋敷にある。そちらはほとんど進んでいない。

 

「それならソフィーは?」

「ツーーーーん」

 

 ぷいとそっぽを向く。

 ソリュシャンから微笑が消えた。

 

「ソーちゃんストップ! 私たちはおにーさんの仕事を手伝ってるんすよ。ソフィーちゃんが手伝ってくれるならおにーさんも喜ぶと思うっすよ?」

「…………」

 

 ソフィーはルプスレギナをちらりと見る。イジメられたばかりなので警戒心が仕事中だ。

 

「おにーさんにもソフィーちゃんのことちゃんとしろって言っておくっすから。二人共間が悪すぎるっていうかソフィーちゃんがじっとしてれば済んだ話っすけど」

「うっ」

「はぁ……、お兄様は帝都に赴かれたけれど明日も一度はこちらにお戻りになると仰っていたわ。その時にこれからのことをきちんと相談してちょうだい」

「……………………はぁい」

「それでソフィーちゃんはおにーさんの字が読めるっすか? 読めるっすよね?」

「んーーーー。ルプーとソリュシャンは何か困ってるの?」

 

 ソフィーが立ち上がってようやく廊下から移動した。

 姉妹が仕事をしていた部屋に通し、書類の山を見せつける。

 これを翻訳して清書するのがお仕事である。

 

「お父様の字ってこんななんだ。最初の三画までは結構違うからそこに注意すれば読めるようになるのは早いかも」

 

 ということは、現在は読めないということである。

 

「でも二人のお仕事って翻訳でしょ? それなら二人は翻訳に専念して、筆記は別の誰かに任せればいいんじゃない? アインズ様にお願いしてエルダーリッチを派遣してもらえれば書くの早いと思うし」

 

 姉妹の目から鱗のようなものがはらりと落ちた。

 

「て、てんさい……」

「それほどでもないですけどぉ♪」

 

 むしろ何故気付かなかったのか。

 作業を分担するのは効率化の第一である。

 

「ソリュシャンは私に言うことないの?」

「……ありがとう」

「それじゃ私がお父様からミルクをもらうの邪魔しないで!」

「何のことかしら?」

「えっ」

 

 ソリュシャンにとぼけている様子はない。演技だとしたらソフィーには見抜けないだろうが、ソリュシャンは本当にとぼけていない。心当たりがないことだ。

 

 ソフィーは、お父様から吸精出来ていないのはソリュシャンが邪魔をしているからだと思っていた。

 確かにソリュシャンは夜討ち朝駆けをして美味しいミルクを堪能してきた。が、ソフィーの邪魔をしていたつもりはない。

 ソリュシャンを口実にして遠ざけていた男がいる。

 

 とても苦しい時の寸止めの恨みは深かったのだ。




ソフィーのタイプはステルスアサシン、先制して一撃必殺
母譲りの防御力と父から受け継いだクラス特性で物理攻撃無効
やはり親譲りで魔法は不得手
魔法には弱く、特にアストラル・スマイトを撃たれると痛くて泣いちゃう

という設定が活躍する日はたぶんこない

アンケートは暫定で「任せる」はおいといて「ナザリック勢(カルネ村含む)」がトップなのはエンリかシズでしょうか
シャルティア、アウラは足があるので
「エ・ランテル(その他組)」はユリとナーベラルが入ってるのだけどもわかりにくかったかもです
一人一人上げると項目多くなってあれなもんですから


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女たちの一歩

 カルカが悶々と独り寝するのを放置してレイナースをベッドに誘った翌朝。

 帝都からエ・ランテルのお屋敷に戻れば娘が待ち構えていた。

 

「お父様! ソフィーはお父様に会いに来たのにどうして出掛けてるんですか!」

「ソフィーがフラフラしてるからだ」

「折角お父様に会いに来たのにどうしてそんな事言うの!?」

「帝都には毎日行ってるし、昨日の朝はここにいたんだ。むしろどうして帝都で待ってなかった?」

「お父様が来なかったからじゃないですか!」

 

 ソフィーは赤い顔で両腕を振り回す。絶世の美少女が怒りの形相で詰め寄っているのに、男の態度は涼しいもの。何を怒ってるのかわからないとでも言うように首を傾げる。

 

「だから行ったじゃないか」

「ソフィーがいる時には来ませんでした!」

「だからそれはソフィーがフラフラしてるからだろう」

「フラフラなんてしてません! 目的をもって行動してました!」

「目的がなんであれじっとしてなかったのは同じだ」

「むっかーーーー!!」

 

 話は全く進展しないのに、ソフィーの感情だけが高ぶっていく。水掛論の中でも悪いやつの典型である。

 はあと溜息を吐いたルプスレギナが、昨日の約束通りに口を挟む。

 

「ストップっす。ソフィーちゃんはちょっと落ち着くっすよ。あっちこっち行ってたソフィーちゃんも良くないっすけど、元はと言えばおにーさんが連絡しなかったせいっすよ? ちょこっと五分でいいから向こうに行って今は忙しいって言えば済んだ話っす」

「むむ」

 

 エ・ランテルの大きなお屋敷を恐怖のどん底に叩き落したG―Shockから始まった諸々で時間を取られていた。そのため、しばらくまとまった時間が取れないと伝えておけば良かった。

 それをしなかったせいでソフィーは家出。ナザリックではアルベドに扱かれ、アインズ様に育成の楽しみを思い出させ、やっと辿り着いたエ・ランテルでは父不在。

 見た目は大人びても中身はお子様なソフィーが怒るのは仕方ない。

 

「そうだったな。すまなかった」

 

 男は素直に頭を下げた。

 感情的な事柄には疎くても、理路整然と非を突き付けられれば事の是非は理解出来る。

 

「別にお父様に謝って欲しいわけじゃなくて……」

 

 ソフィーが怒っていたのは確かだ。だけども、父に頭を下げさせるのは何か違う。

 振り上げた拳をどこに下ろせば良いかわからず、右に左にと視線を彷徨わせた。

 そして、短い謝罪の時間は終わってしまった。下がった頭が上がると、父の顔はちょっぴり厳しかった。

 

「誤解を招くから無闇にお父様と呼ぶなと言ってあるだろう」

「うっ」

「はい、私からもソフィー様へ何度もお伝えいたしました。ソフィー様がマイスターをお父様と呼ぶ度にマイスターはソフィー様の名付け親であることを説明し続けてきました。このままソフィー様がマイスターをお父様とお呼びし続けますとマイスターは私のお父様にもなってしまい私がソフィー様のお姉様となってしまいます」

「…………私はジュネがお姉様でもいいけど」

「そういう問題じゃない」

「私がソフィー様からお姉様と呼ばれるのは大変光栄なことではありますがアルベド様が創造なさったソフィー様からお姉様と呼ばれるのはマイスターが仰る通りに誤解を招き入れる事になりかねませんので私もマイスターをパパとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「そこは分けて考えろ。ソフィーがお父様と呼ぶのとジュネがパパと呼ぶのと、ソフィーがジュネを姉と呼ぶのはそれぞれ別の問題だ」

「あーもう何ややこしい話してんすか!」

 

 素直な少女に、話をひたすら複雑化させる女に、ややこしい話でも飲み込んで論点を整理する男がいると、話が全く進まない。ツッコミ不在の悲劇である。

 業を煮やしたルプスレギナが断ち切った。

 

「そーいうの全部後! 私だっておにーさんのせいで暇じゃないんすから」

 

 翻訳作業の真っ最中だ。ソフィーの提案でエルダーリッチを借りることにしたが、彼らの時間が空くのは主に夜。作業の目処がつくまでは昼夜逆転の生活をしなければならない。昨日だって夜通し頑張り徹夜だった。これから夜に備えて一眠りの予定である。

 

「兎も角、ソフィーはジュネと一緒に帝都に戻れ。シクススが心配してたぞ。俺も向こうでする事が出来た。しばらくは向こうに重点を置く。勿論毎日こっちに戻ってくるよ」

 

 最後はルプスレギナに向けた言葉である。

 

「……それじゃお父様、じゃなくてマスターは今日も帝都に戻るんですか?」

「そうなる」

「明日の夜は帝都にいますか?」

「その予定だ」

「予定じゃなくて約束してください」

「アルベド様かアインズ様に呼ばれない限り帝都にいるよ」

「わかりました。帝都に戻ります」

 

 ソフィーは一礼して踵を返し、窓に向かって飛び上がると顔を打ってその場に蹲った。

 

「いたた……。何ですり抜けられないの!?」

 

 赤くなった鼻をさする。

 ちょっと足りない子に見えてしまう。

 

「アインズ様が加護の魔法を掛けてくださっている。何をしようとしたか知らないが、窓から出入りするな」

「マイスターの仰る通りです。ソフィー様が私の申し上げていたことを聞き入れてくださっていらしたらこのようなことは起こりませんでした」

「うう……。お父様だってバルコニーから出入りしてたのにぃ」

「あれは客の目を楽しませる演出だ」

 

 ピシャリとやられ、ソフィーはうーうー唸りながらドアから出ていった。恭しく頭を下げてジュネも続く。

 ややあって、豪奢な馬車がお屋敷の門を抜けた。ソリュシャンとシェーダがカルカを連れて帝都に乗ってきた馬車は、ソフィーの足になってしまったようだ。

 

 騒がしい娘がいなくなってから、男はルプスレギナの機嫌をとる。ルプスレギナがへそを曲げて文書の翻訳をしてくれないとアインズ様にお見せ出来なくなる。

 ということはソリュシャンの機嫌もとる必要がある。寝室で休んでいたソリュシャンからはミルクを絞られた。

 二人揃ったところで、帝都で美容に関する品を生産して販売する計画を伝えた。

 まずは既にあるものを提供。その後は様子を見て生産量を加減する。需要があるならエ・ランテルでも販売する。これらに関しては、二人共忙しいので手を煩わせるつもりはない。

 ラキュースを捕まえ、浴用品等で欲しい物があるか、あるとすれば幾ら払うか。

 素人錬金術師の工房から手で持てる程度の材料をかき集めて再び帝都へ。待っていたレイナースの前で最強に見える魔法のローションを調合する。

 

 ローションを手に入れたレイナースはその足で皇城に向かったわけだが、一本金貨100枚と聞いたジルクニフは「そんなにするものなのか?」と渋面を作った。皇帝陛下に金貨数百枚が出せないわけがないが、体を潤わせるだけの液体に小瓶一本で100枚は高すぎる。吹っ掛けられているのではと疑念が過ぎった。

 値付けしたのはレイナースである。このローションが如何に優れているかを力説してジルクニフを辟易とさせた。同席していたロクシーが試してみたところ、想定以上の効果に驚きに目を見開いた。

 早速一本追加注文である。

 

 

 

 その夜の男は、カルカが悶々と独り寝するのを気にせずにシクススをベッドに誘って翌日。

 帝都のお屋敷の一室を生産工房にする。当面は原液を希釈して瓶詰めするだけなので、生産設備は簡単なものだ。目盛りがついたフラスコを並べるだけでよい。

 しかし、中身があっても外身がなければどうにもならない。中身を詰める瓶が必要だ。容量を指定し、密封出来る瓶を発注することにする。注文する工房は幾つか目星がついていたがレイナースを通す。事は帝国の皇帝陛下の息が掛かっているので、その旨を帝国四騎士のレイナースから伝えられればおかしな物を掴まされる心配がなくなる。

 

「お父様! 本当にちゃんといた!」

「今度はドアから入ってきたな。偉いぞ」

「えへへ♪」

 

 ソフィーは午前の内に帰ってきた。ジュネが頑張らされたのだろう。

 

「それじゃ早速」

「早速何するつもりだ。昨日も言ったがしばらく帝都でする事がある。日中は忙しくて遊んでる暇はない」

「遊びじゃありませんー。でもそういう事でしたらソフィーは大人しく夜になるのを待ってます」

「待て。手伝え。難しいことは何もないから」

「えーー。お父様の簡単って絶対簡単じゃないです」

「えーってなんだえーって。忘れてるようだから言っておくが、ソフィーは俺の下につく形になってるんだぞ。命令なんだからちゃんとしなさい。それとお父様と呼ぶな」

「ちゃんとした場所ではちゃんとマスターとお呼びします」

「今だってちゃんとした場所だろうが。これからさせる事を説明するところだ」

「お父様が仰ってるのは場所ではなく場面です。私が言ってるちゃんとした場所っていうのは――」

 

 早速ツッコミ不在の弊害が出ていた。

 ここにはルプスレギナもソリュシャンもいないのだ。にこやかに見守っているジュネには不可能むしろあちら側の最北端。シクススはお仕事中。三人の近くでうろうろしているカルカは上位者たちの会話に言葉を挟めないでいる。

 

 ボケばかりでも聡い三人である。身があるようで全く無い言葉遊びをしながらも仕事は進む。

 ジュネは重たいものを運んで、ソフィーは工房となる部屋のレイアウトを担当。作業者の導線を考えながら作業台やら棚やらを配置していく。

 その間に二人の上司は手順書作成。達筆過ぎる日本語だと読める者が帝都にいないが、帝国でも王国でも使われている文字なら大丈夫。シクススが選抜した五人のメイドに読ませ、不明な点を洗い出す。尤も、原液を希釈して定量を瓶詰めするだけなので難しいことは何もない。強いて言うならば、ローションとシャンプーとボディソープを混同しないよう注意することくらい。これにはローションならローションだけ、シャンプーならシャンプーだけと担当を固定すれば問題ない。

 どれも見た目は透明な液体なので、いずれは色付けをして区別出来るようにと考える。

 

 ちゃんとエ・ランテルに戻ってソリュシャンたちのご機嫌伺い。

 この日はソリュシャンだけでなくルプスレギナからも絞られる。

 遊んでばかりではなく、シェーダ同席の上でメイドたちと世間話。各種美容品は当面富裕層だけに売るつもりだが、需要によっては彼女たちも顧客になる可能性もある。庶民感覚が全くない男なので、彼女たちが美容に費やせるのは如何ほどか見当もつかない。

 シェーダの献身によってメイドたちのお尻は若旦那様から守られた。シェーダが一手に引き受けていたとも言う。

 

 

 慌ただしく帝都に戻れば即席工房が完成していた。

 ソフィーの頑張りを褒めそやし、就寝前に時間を取ることを改めて約束する。

 約束を交わしたのは夕食の席で。給仕をしているシクススの耳には当然入る。若旦那様はソフィー様にも、と呆れるやら感心するやら。昨夜たっぷりしたばかりなので嫉妬も羨望もない。

 

「ジュネも来てくれ」

「かしこまりました」

「ジュネもですか? 別にいいですけど……」

 

 不満とまでは行かないがどこか釈然としない様子なのは、父の懸念を薄っすらと感じているのかも知れない。

 対照的に指名されたジュネは誇らしげである。

 そんなジュネと更に対照的な表情を浮かべた女は、プリンに差したスプーンが止まってしまった。

 

 上目遣いに旦那様の顔を覗き見る。残念ながらこちらを見ていない。対面のソフィー様を見る。可愛らしく小首を傾げるが、この後の事を思ってかすぐに華やいだ笑顔を見せた。

 さりげなく左手をテーブルの下に隠した。

 んんっと軽く咳払いしながら、左手で乳房を揺すった。今夜のイブニングドレスはやはり上乳見せのセクシーなドレス。柔らかな乳房がプリンのようにぷるんと揺れた。

 

「お母様のお部屋でどうですか? もういらっしゃらないと思いますから」

「そうだな。アルベド様のお部屋については一任されてる。ソフィーの部屋と繋げてもいいだろう」

 

 アピールに反応するどころか気付いてさえいない。全く相手にされてない。自分をそのような対象と思っていないのは明らかだった。

 

 アルベド様は美の果に至り美の何たるかを衆生にお伝えくださった偉大なお方。比較することすらおこがましい。

 ソリュシャンとルプスレギナ様も大変お美しい女性であるが、自分はけして見劣りしない自負がある。半生を掛けて磨き続けてきたのだ。

 レイナースも綺麗な女性だが、もしも自分と並べば、自分の方が視線を集めるのではと思っている。レイナースを貶すつもりは毛頭ない。騎士であるレイナースと、磨き続けることが出来た自分とでは違いがあって当然だ。比較対象になり得るレイナースが優れていると言うべきである。

 シクススも美しく魅力的な女性である。少しだけあちらの方が大きいのでは、と常々思っている。

 ソフィー様は未だ幼い様子がちらほらと見られるが、いずれ魔性の美貌となるのは確実。だからなのだろうか。

 

 この場にいないお三方はよい。

 声が掛かったソフィー様も、一先ず措いておく。

 シクススと、レイナースだ。

 レイナースは一昨夜。シクススは昨夜。

 それなのに自分はずっと独りで寝ている。一人ではない。独りである。

 

「カルカ様はどうかなさいましたか。手が止まっています。真っ白なクリームがたっぷりと掛かったプリンはとても甘い匂いがして皆様のように食事を取らない私にもとても美味しいものなのではと想像をさせてくれます」

「……いえ、少し考え事をしてしまって。とても美味しく頂いております」

「私の分もお楽しみくださいませ」

 

 大きなダイニングテーブルの端に旦那様。

 ソリュシャンとルプスレギナ様がいた頃はその両隣に座っていらっしゃったが、今はソフィー様が座っている。ソフィー様の後ろには、専従のように黒衣の女性が控えている。

 彼女からは、ソフィー様の対面に座っている自分がよく見えるのだ。向き合っているはずのソフィー様はずっと旦那様を見ている。

 

「ジュネも食事にするか?」

「大変光栄なお言葉ではございますがお食事の席でマイスターの血を流させてしまうのはいささか相応しくない行為ではありませんでしょうか」

「晩餐会なら兎も角誰も気にしないだろ。血が云々言うなら、俺たちが食べてるこれだって獣のしぃたっ!」

 

 シクススが旦那様の頭をお盆でポカリ。

 旦那様は時々無神経でいらっしゃる。

 

「若旦那様には場に相応しい言葉を覚えてくださいますようお願い申し上げます」

「………………はい」

「ふふっ、お父様怒られてる」

「お父様と呼ぶな」

「はぁい、マスター♪」

「伸ばすな」

「若旦那様は失敗したからと言ってソフィー様に当たらないでください」

「………………はい」

 

 旦那様は誤魔化すように咳払いをしてから右手をナプキンで拭い、差し出した。

 

「恐れ多いことでございますが、マイスターの血を飲んでしまうと余りの幸福にして口福に酔いしれてしまいます」

「後にすると時間までに動けるようにならないだろう?」

「ここで倒れちゃっても私が運んであげるよ」

「それでは……、失礼いたします♡」

 

 黒衣の女性は跪いたので、旦那様の陰になってしまって見えなくなった。

 見えたのは、彼女が歩いて、赤い唇が弧を描いて、両膝を折る。それだけでも鮮烈だった。

 

「ちゅぷ…………、んっ……んっ…………。あぁ、マイスターの…………♡」

 

 艶めかしい声が聞こえてくる。

 

 アルベド様にお会い出来たのは一度だけ。

 ソリュシャンとルプスレギナ様はいない。

 レイナースもシクススも、きっとその時になれば違うのだろうが、そんな様子を見せたことがない。

 ソフィー様は無邪気でいらっしゃるので参考にするのは難しい。今まで聞き知った断片から察すると、そのような事は一度もなかったのではないだろうか。

 しかし彼女は。

 旦那様からジュネの名を与えられた彼女は、一挙手一投足が蠱惑的だった。

 

 立つ。歩く。座る。

 たったそれだけの動作に、匂い立つような色気がある。動作が違うのか、体型が違うのか、表情はヴェールに隠していることが多いのでこれは違う。

 幸いなことにジュネは帝都に残った。

 自分には足りていないであろう色香を身につけるために、ジュネの全てを大いに参考にしているのだ。

 しかし、残念なことに成果は未だ出ていない。

 男は知らなくても一人遊びをすることはなくもないので、それなりになってきたと思っているのに足りていないらしい。

 

((カルカ様!))

(ウレイ、クー……)

 

 専従メイドとして後ろに控えているウレイリカとクーデリカ。幼いながらにも仕える主がご主人様から軽んじられていることがわかるようで、少しだけ悔しそうな顔を見せた。

 なお、二人は旦那様と一緒にお風呂に入ったことがある。一緒のベッドで眠ったこともある。風呂は当然、ベッドでも裸で。

 思い出したカルカの目が死んだ。

 

「それじゃ私はジュネを連れていきますね」

 

 成人女性を少女の細い腕が軽々と抱き上げる。ソフィー様が行ってしまう。

 参考にしているのはジュネなのにどうしてソフィー様が行ってしまうと思うのか。

 答えに辿り着く前に口走っていた。

 

「私も見学させていただいてもよろしいでしょうか!?」

「へっ?」

 

 旦那様と、ソフィー様と、シクススの視線が突き刺さる。

 何を見たいと言ってしまったかに気付き、顔が熱くなってきた。

 

「カルカもか? 俺はいいがソフィーは?」

「別にいいですけど……、初めてで上手く出来ないかもだけど。笑ったら怒るからね」

「そんな事は絶対にいたしません!」

「それなら……まあ」

 

 ジュネはちょっと遠いところに行っているが、中心の二人から了承を得たので問題なし。

 カルカは、ありがとうございますと大きく頭を上下させた。

 後ろではよくわかってない双子幼女が、女主人の健闘にガッツポーズをとる。

 

 カルカが思い出したのはソリュシャンの言葉。

 

『お兄様は多情な方だけれど、すごく受け身なのよ。女の方から迫らないと』

 

 カルカは一歩を踏み出した。




なんか流れで


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初めてのお食事 ▽ソフィー・ジュネ

先週は電池が切れてました_(:3 」∠)_
本話約12k字


 食休みの間、美容品の品揃えに生産量や販売方法を考える。当面は需要を掘り起こす形になり、以降は様子を見つつ加減していくことにする。

 その後はお風呂。構って欲しそうな双子幼女と一緒に入った。

 

「ご主人さまのお背中はウレイがあらいます!」

 「それならお腹はクーがあらいます!」

「頼むよ。お礼に二人は俺が洗ってやろう」

「「ふにゃぁ……♡」」

 

 ウレイリカとクーデリカの全身を洗いながら、この体に欲情するよう努力したのは徒労だったなと振り返った。

 のぼせたのかはしゃぎ過ぎたのか、風呂を出るなりダウンしてしまった双子幼女を自室のベッドに寝かせ、かつてのアルベド様のお食事部屋に向かった。今では単なる奥の間だ。いずれソフィーの部屋になることだろう。

 

 見学希望のカルカは部屋に入っていれば良かったのにドアの前で待っていた。

 

「よろしくお願いいたします!」

 

 紅潮した顔を深々と下げる。カルカも風呂を使った後らしく、しっとりとした肌から濡れた香気が漂ってきた。就寝前であることからナイトガウンを羽織って、喉と鎖骨が少しだけ覗いている。上乳見せのドレスより色っぽく見えるのは視覚の不思議だった。長い髪を緩くまとめて肩から前に流してているのも新鮮だ。

 男は口の前に人差し指を立てる。ドアノブに手をかけ慎重に回した。

 

(みるくみっるくー♪ おとうさまのおいしいみーるくー♪)

 

 ドアの隙間からソフィーの歌声が聞こえてくる。

 自他ともに音痴と認める男の歌と比べれば、暗黒神話と春の夜明け。歌詞は兎も角として、旋律も拍子も声質も上の上。聴いているだけで心が踊ってくるのは純粋な喜びを歌声に乗せているから。

 しかし、男は渋面を作った。薄っすらと感じていた懸念が危惧となって姿を現そうとしている。

 

 しかし、約束である。ソフィーとではなく、アルベド様とのお約束なのだ。

 未だソフィーに吸精させていないことを知ったアルベドは、男を叱りつけた。

 

『ソフィーは私と同じサキュバスなのよ。それなのに一度もミルクを与えてないですって? 私のミルクを卒業したら次はあなたのミルクと言ったでしょう! あの時のソフィーはおかしなことを考えて失敗しちゃったけれど、あなたの方がいつまでも引きずっていてはダメよ』

 

 ソフィーとは実の父と娘である。父娘でそのような事は倫理に云々と思う男ではない。実の妹と散々やってきた。

 アルベド様からも指摘されたように、苦しかった時の寸止めが激しく尾を引いていたのは事実。

 だけれども、それだけではなかった。

 

「あっ、お父様♪ もう遅いですよ。準備は出来ていますから早速始めましょう!」

「…………ああ」

 

 ソフィーの後ろではヴァンパイア・ブライドお仕着せのエロ衣装に着替えたジュネが控える。

 ソフィーはいつぞや見せたサキュバススタイルの黒ビキニ。布地は以前より小さく薄い。始める前から立たせているわけではないだろうに、乳房の中央に小さな突起が見える。パンツは大部分が紐。ほとんど裸でとても挑発的な格好であるのに、男の声は歯切れが悪く、顔には微かな諦念が過ぎった。

 

「ソファでいいか?」

「いいですよぉ。そっちの方が楽なくらいです。ささ、座ってくださいね」

 

 男は大きなソファに浅く座り、近づこうとするジュネとカルカを手で制して視界に入らないよう後ろに下がらせた。

 るんるんしてるソフィーはそんな事を気にしない。男の前にペタンと座り、男が羽織るナイトガウンの腰紐を解いた。ペロリと舌なめずりをして、一思いに開く。

 カルカと違って下に何も着てない男である。ソフィーの前に、男の下半身が曝け出された。

 ソフィーは目を丸くして股間を凝視し、父の顔を見上げ、もう一度股間を見つめる。視線が往復する度にぱっちりしたお目々が細められ鋭さを伴った。

 

「小さいじゃないですか! 前は大きかったのにどうして小さいままなんですか!?」

「oh………………」

 

 男は天を仰いだ。危惧していたのはこれだったのだ。

 不満を訴えるソフィーはケーキに苺が乗ってないと騒ぐ子供そのものである。

 ネムちゃんだってもう少し気の利いたことを言った。とすればソフィーはネムちゃん以下か。子供と言えどネムちゃんはもう十二歳。生まれたばかりのソフィーよりずっとお姉さんだ。

 

 ソフィーは蠱惑的な美少女である。ソフィーに誘惑されてその気にならない男はいないだろうが、誘惑の仕方があるというもの。脱がされたらすぐにその気になれるほど男という生き物は単純に出来てない。

 サキュバスにとって口淫による吸精は食事である。と同時に、紛れもない性行為でもある。アルベドはその事をよくわかっていたし体現していた。男へ口も目も開くなと命じていた頃から吸精時には股を濡らして自分で慰めてもいた。

 対するソフィーは、口淫は食事であって性行為とは思っていないようだった。

 

 成長したソフィーと初めて会った時は恥じらいに頬を染め顔を逸らしたものだったが、嫌な方に擦れてしまった。それとも子供らしい純朴を発揮するようになったと言うべきか。

 小さな体が相手でも大きくなれるよう訓練してきた。アウラ様にだって飲ませたのだ。それはあくまでも見た目に慣れるだけに過ぎなかった。見た目ではなく、中身がお子様でも大きくする訓練はしていない。

 

 天を仰ぎ背もたれに頭を乗せ、後方を見やれば二人の女が目に入る。

 

「ジュネ、手伝ってやってくれ」

「かしこまりました」

 

 ジュネを呼んだのは大正解だった。

 

「カルカは邪魔をしなければ好きにしていい。それとも隣に来るか?」

「は、はい! お隣を失礼いたします」

 

 大きく脚を開いているので、カルカは一人分空けて隣に座る。

 男の前には、唇を尖らせたソフィーと、妖艶に微笑むジュネが跪いた。

 

 

 

 

 

 

「ずっと大きいままでいるものではありません。まずはマイスターに大きくしていただいてからでございます」

「それじゃ小さいのはお父様が大きくしようとしてないからなの!?」

「それはこちらから準備を整えるべきなのです。ソフィー様はアルベド様からご教授いただけなかったのですか?」

「……大きくなったらどうするかは教えてもらってるけど」

 

 父の逸物の扱き方と舐め方を教える母と教わる娘。サキュバスなのだから当然である。

 

「大きくなっていただくまでは簡単です。お教えいたしますからその通りに為さってください」

「はぁい」

「まずは上を向かせておちんぽの竿を優しく扱いてください。先端を舐めても構いません。アルベド様から注意があったと思われますが、優しく繊細に扱うのが大切です。ソフィー様でしたらすぐに大きくさせられると思います」

 

 ジュネの指導の元、ソフィーは細い指で男に触れた。

 まだ柔らかい肉棒を親指と中指で摘んで上向かせ、先端へは舌を伸ばす。何の味もなかったようで難しい顔を作り、それでもペロペロと舐め続ける。

 摘んだ指は根本へ下がる。まだ握れるほどの固さはない。二本の指で挟みながら上下に動かした。

 うなだれていた逸物に少しずつ血が通っていく。目に見えて膨らみ、指で支えなくても上を向くようになってきた。

 

「失礼いたします」

「あっ!」

 

 横からジュネが手を出した。

 人差し指をピンと伸ばし、軽く一撫で。それだけで先端がジュネの舌から遠ざかり、跳ね上がる。

 ソフィーが初めて見た時のように、逸物は雄々しく反り返り勃起した。

 

「なんで!?」

「oh………………」

 

 ソフィーは頬を膨らませた。

 頑張って少しずつ大きくしていたのに、ジュネが指一本で力を与えたのが不満であるらしい。

 

「あのな、ソフィー。そーいう風に一々むくれられると立つものも立たなくなるし出るものも出なくなる。もう少しこう…………、ジュネから色々教わってくれ」

「……わかりましたぁ……」

 

 ジュネがしたのは最後の一押し。撫でたのは敏感な裏筋。ソフィーの温かい指にジュネの冷たい指が鮮烈だった。などなど理由はあるが、一番はソフィーが未熟だからである。

 未熟ならいずれは熟すはず。

 不満そうなソフィーだったが、逞しく勃起した逸物を前に頬を緩めるのは母と同じ。口より先に逸物へ口付けるのも母と同じ。

 

「大きくなったならソフィー一人で出来ます。ちゃんと出来るから見ててくださいね。あーん……」

 

 可憐な唇を開いて男の股間に顔を埋めた。

 そのまま頭を上下すると角が刺さりそうなので、角も翼も消している。正確には見えず触れずの状態にしているわけだが、当人以外にはどちらも同じこと。

 亀頭を口に含んでレロレロと舌を蠢かせる。根本を握った両手は上下に振り始めた。

 幼くても流石にサキュバスで、柔らかな舌が絡み吸い付いてくる。アルベドに習ったのは本当であるようだ。

 

「お父様、ソフィーのお口は気持ちいいですか?」

「ああ、その調子で続けてくれ」

「はぁい。ソフィーのお口でいっぱい気持ちよくなって、いっぱいミルクを出してくださいね♡」

 

 あどけなく笑って口付ける。

 

 父の逸物に触れるのはこれが二度目。一度目の時はいきなりで驚いたのと母への対抗意識が首をもたげて上手く出来なかったが、ちゃんとやれば出来るのだ。

 勃起させるのにジュネの手を借りたのは少々悔しいが、手伝ってくれたと思って良しとする。

 大きくなりさえすればこっちのもの。舌を動かす度に手を動かす度に、より固くより熱くなってくる。

 ずっと咥えていると口が形を覚えるようだ。ちゅぷんと口から離し、まじまじと見つめる。

 丸みを帯びた亀頭は膨らんで先端の小さな割れ目が尿道口。ここから精液とおしっこが出てくる。その真下にある筋は感じやすいところであると母から教わった。さっきジュネが撫でたのもこのあたり。長い竿の部分には血管などの筋が幾本も走っている。全体に濡れているのは自分の唾液だ。口に含んでいたからこそ唾液に濡れている。

 これをしゃぶってしまったことに、恥ずかしくも嬉しくなる。

 観察している間もしゅっしゅと扱いていた手を止める。根本だけを握って自分へ向けた。

 

「あむっ! んーっちゅぅ……、んんっじゅるる……」

 

 ぱくりと咥え、頭を下げていく。

 先端だけを咥えていた時と違って、太くて長い逸物を口内に迎え入れる。

 ちゅうちゅう吸って頬の内側を熱い竿に密着させる。なおも受け入れ先端は喉に届いた。

 喉奥を突かれれば苦しいものだが、そこは母と同じくサキュバスであるソフィーだ。サキュバスの体はおちんちんをしゃぶって苦しくなるようにはなってない。

 両手は離して男の太ももに乗せ、唇は根本を包んだ。

 

 

 

「ソフィー?」

 

 アルベド様にもしていただいたディープスロート。娘であるソフィーも同じことが出来て不思議はない。けどもソフィーの動きはそこで止まってしまった。

 苦しいのであれば何かしらの反応があると思われるが、ソフィーは苦もなく根本まで咥えて微動だにしない。舌は微かに動いているので動けなくなったわけではないだろう。

 しかし、問いかけても応えがない。

 

「ジュネ、ソフィーを引離せ」

「かしこまりました」

「ああっ!?」

 

 ジュネがソフィーの頭を掴み持ち上げる。ソフィーは気を失っていたわけではないらしい。逸物から離されるなり未練がましい声を上げた。

 

「どうして邪魔するの!? 折角お父様のおちんちんを味わってたのに!」

「味わうも何も、あれはあれで良かったがあれで出るわけないだろう」

「えっ?」

 

 娘の口内は温かくぬめって包まれて、とても良い感触だった。それはそれとして、それが射精に繋がるかと言えば否である。

 

「あの……、ちゃんと出来てなかったですか?」

「途中までは良かった。さっきは動きが止まって心配だったぞ?」

「えっ?」

「……まさか覚えてないのか?」

「すごく美味しくていい匂いがして……。でも上手に出来てたと思ったんですけど?」

「止まってた」

「えっ」

 

 ソフィーは隣のジュネを見る。頷かれた。父の隣に座るカルカを見る。真っ赤な顔で頷かれた。最後に父の顔を見上げた。やはり頷かれた。中断してしまったのは本当であるらしい。

 

 サキュバスであるため、ソフィーの羞恥感情は普通の女とは大分違う。

 順調に行っていたはずのフェラチオが失敗してしまったのは、心に来るものがあった。母とは違って幼いソフィーは、自分の失敗を認められなかった。母も認められなかったかも知れないが、あれは夢の彼方に葬ってなかったことになっている。

 失敗したのは自分のせいではない。失敗する要因は他にある。ジュネとカルカは見てただけで、ソフィーは全く気にしていなかった。それならば原因はもう一人の人物に依るに違いない。

 

「お父様のせいです!」

「なぬ?」

「お父様のおちんちんが美味しくて、いい匂いがして、匂ってるからうっとりしちゃって止まっちゃったんです!」

「人聞きの悪い事を言うな。ちゃんと洗わせた。おかしな臭いはしてないだろうが」

「おちんちんよりこっちです!」

 

 ソフィーがビシッと指差し摘んだのは、男の陰毛だった。

 

「ここの毛に匂いがこもってるんです。いい匂いがしますけど私が言ってるのはそういうんじゃなくてサキュバスだけに感じる匂いの事なんです!」

「いやだってアルベド様は――」

「お母様と一緒にしないでください! ソフィーは初めてなんですよ? 初めてなんだから初めて用にしてくれてもいいじゃないですか」

「一理あります」

「ジュネ!?」

 

 ジュネはソフィー側につくらしい。深く頷いて納得の素振りを見せた。

 

「……カルカはそんなの気にならないだろう?」

「え、あ、その、えっと、私も経験がありませんから、ソフィー様の仰る事が正しいのでは、と思われます?」

「嘘だろ……」

 

 ソフィーは陰毛の匂いが気になって止まってしまう。であれば原因がなければよい。三対一でソフィーの提案が通ってしまった。

 ここに多数決とは民主主義からかけ離れたものであることが証明された。多数決とは少数意見を抹殺する数の暴力であるのだ。

 

 

 

 元々体毛が薄い男である。特に髭は全く生えない。顔を焼かれ、ポーションで回復しても髭の毛根は死滅したままだった。髭が生え始める前の幼い頃に焼かれた所為だろう。

 体毛についてはソリュシャンが関わっている。今でこそ問題ないが、男と初めて会った頃のソリュシャンは、男に触れただけでうっかり溶かしてしまっていた。ソリュシャン的に無意識に溶かしてしまうほど肉も体液も美味だったのだ。皮膚が爛れるほどになれば然るべき手段で回復してきたが、皮膚が薄くなる程度ならそのまま放置。寝て起きれば元通りになるのだから、ポーションやスクロールなどの消耗品を使うのは勿体ない。

 しかし、皮膚は元通りになっても体毛は溶けたまま。ソリュシャンが触ったところだけ体毛が薄く、それ以外は普通に生えている。自分でしたことながらとても見苦しいと感じたソリュシャンは、全部溶かすことにした。

 頭部と股間以外の体毛はソリュシャンが入念に管理して、どこもかしこもつるつるである。脛毛がぼーぼーなんてことにはなってないのだ。脇だって生えてない。

 

 しかして現在。

 男は生娘のように両手で顔を覆っていた。

 

「ソフィー様、まずはこちらを塗って滑りをよくしなければなりません。それとも私がいたしましょうか?」

「これくらい大丈夫。これでも器用なんだから。ジュネは濡れたタオル持ってきて」

「かしこまりました。少々お待ちください」

「冷たいですか? すぐに終わりますからじっとしててくださいね」

「……………………」

 

 ソフィーの手には鋭いカミソリ。危うげない手付きで男の下腹にあてた。カミソリが動くに連れて縮れた毛が根本から断ち切られる。実の娘にお股をショリショリされている。

 こんな事はラナーにだってされたことはない。先日、ラキュースに剃毛してやった報いなのだろうか。

 

 処理する面積は小さいのであっという間に終わった。濡れタオルでローションを拭い取られると、保護されていた部分に外気が直に触れるのを感じた。

 見下ろせば無毛の股間。幼い子供に戻ったような、守られるべきが守られていないような、なんとも無防備な心細さを感じさせた。

 

「お父様のおちんちんかわいい♡」

「…………………………早く始めてくれ」

「はーい♪」

 

 娘に下の毛を剃られて勃起を続けられる豪胆さはなかった。そそり立っていた逸物は萎れている。

 立っていなくても自分の案が通ったからかソフィーに落胆はないようで、一度目より慣れた手付きで愛撫を始めた。

 ソフィーの手も口も気持ちよく、すぐに元通りに立ち上がってきた。

 実の娘と言えど娘として接した期間は短く、美少女が上目遣いに逸物をしゃぶっているのは目に楽しい。しかしどうしても無毛になった股間が目に入る。

 

「さっきより柔らかい気がするんですけど?」

「…………ジュネ、手伝ってやれ」

「む……、一人で出来ます!」

「初めてなんだろう? 何でも一人でやろうとするな。これから一人でする機会は幾らでもあるだろうし、二人ですることだってあるだろう」

「……はぁい。でもミルクは私が飲むからね?」

「承知しております。それでは私のお口もマイスターに味わっていただきます」

 

 ソフィーの左隣にジュネの体が入ってきた。

 ジュネは頭を振って髪を流し、横から竿へ口付けた。柔らかな唇で軽くついばみ、上へ下へと滑らせる。

 

「ソフィー様も同じように」

「うん……。ちゅっ……」

 

 反対からはソフィーが口付けた。ジュネの動きに合わせて上下する。逸物は二人の唇に挟まれて扱かれている。先程濡れタオルで拭き取られたばかりだが、すぐに二人の唾液に塗れてくる。

 左右から亀頭に口付け舌を使うと、二人の舌が触れ合う時があった。ソフィーは一瞬だけ固まったが、ジュネは構わず続ける。

 交互に亀頭をしゃぶって、ソフィーはジュネの唾を舐め取ることになり、ジュネもまたソフィーの唾を舐めとった。

 

「ちゅぷ……、ソフィー様はマイスターの精液をお望みですが、精液を出していただく過程もまた重要なのです。心を込めて愛撫して、マイスターに気持ちよく楽しんでいただかなければなりません」

「……わかってるもん。んっ……、れろ……、ちゅるる……」

「楽しんでいただくのはおちんぽだけではありません。私と同じように為さってください」

「んん?」

 

 濡れた逸物をしゃぶりながら、ソフィーは目を瞬かせた。

 二人の愛撫によって逸物は一層固く熱くなり、尿道口からは先走りの汁が出ている。量は少ないながらサキュバス的には精液に負けず劣らずの甘露で、ソフィーの脳を痺れさせた。

 それゆえ、少々判断力が落ちたのかも知れない。

 

「大したことではありません」

「!?」

 

 にっこりと笑ったジュネは、衣装をずらした。

 ヴァンパイア・ブライドのお仕着せは、乳房を白い帯が覆っているだけのエロ衣装。帯を少しずらすだけで白い乳房がこぼれ出る。

 胸を出すくらいならソフィーのビキニは最初から八割以上露出している。ジュネが見せたのはそれではない。乳房の先端で色づく赤い突起だった。

 

「ソフィー様も同じように」

「う、うん……」

 

 ソフィーはジュネを見て、父の顔を見上げ、扱いていた時とは違う覚束ない手付きで、乳房を支える黒いビキニに指を引っ掛けた。先端だけを隠していた小さな生地は、ほんの数センチ動かすだけで隠していたものを晒してしまう。

 

「とても愛らしくて綺麗な乳首でいらっしゃいますが……。私はマイスターのおちんぽをしゃぶっているだけで乳首を立たせてしまいましたがソフィー様はそうではないのですね。折角お見せしているのにそのままではまた隠れてしまいます。下着が引っかかるようにソフィー様も乳首を立たせた方がよろしいと思われます。お手伝いいたしましょうか? それともマイスターが為さいますか?」

「じ、自分で出来るから……。んっ……あむぅ……」

 

 ソフィーは自分の胸を揉みながら逸物へ舌を伸ばす。

 お母様ほどではないけれどそれなりを自称するソフィーの胸は、シャルティアが妬ましく思うくらいはある。見た目通りに柔らかい乳肉に細い指が埋まる。自分のものなので扱い方はわかっているらしく、揺するように優しく揉んでから乳首を摘んだ。喉の奥でんっと声を上げ口淫が一瞬止まり、摘んだものを緩急付けて小さく揉む。

 充血して赤く染まった乳首は、母譲りの美しい色合いで透明感がある。

 

「んっ……」

「?」

 

 股間に群がる女達の痴態に見入っていた男は、隣から聞こえた音に振り向いた。

 カルカが頬を染め、真剣な顔でソフィーとジュネを凝視している。太ももをもじもじと動かし、両手は合わせて胸にあてている。ナイトガウンの合わせ目に右手が入っていこうとしたところで目があった。

 

「!?」

 

 カルカは両手を固く握って膝に置いた。顔はさっきより赤い。額に汗をかいている。

 女心検定は落第しっぱなしだが、カルカが何をしようとしていたかはわかる男だ。

 

「カルカ、傍に来い」

「えっ!? あのそのそれはその…………はぃ…………」

 

 二人の女が群がっているので男は大きく脚を開いている。

 カルカは膝を折ってソファの上に座り直し、一人分空けていた距離を埋めた。

 肩同士が触れ合うなり、肩を抱かれて引き寄せられる。

 

「あっ!」

 

 同時に、カルカが忍ばせようとしていたガウンの合わせ目へ、男の手が滑り込んできた。

 逞しい手が乳房に触れる。

 処女の柔肌が初めて男の手を許した時、下でも佳境に入っていた。

 

(この味覚えてる。ちっちゃい時お母様が飲ませてくれたのはやっぱりお父様のミルクだったんだ。でもそれよりもっと前から知ってる気がする。あれはお母様のお腹にいた時? お腹の中にお父様のミルクを届けるなんて……、それってあっちから、なのかな? お父様のおちんちんはお口で味わうから美味しいと思うのになんであっち? そっちもいいの? ああ、そんな事より早く飲ませて!)

 

 幼くてもソフィーはサキュバス。ただの食事だと思っていた口淫の意味を体で悟りつつあった。

 勃起した男性器をしゃぶる興奮に、立たせた乳首が張り詰める。固く尖って黒いビキニが引っかかり、ジュネが言った通りになった。

 ソフィーがしゃぶって亀頭を舐め回している間、ジュネは横から竿へ口付けて舌を這わせている。さりげなく男の太ももに触れ、さわさわと撫でているのはソフィーの知らない技だ。しゃぶりながら早速やってみる。

 

「あんっ……」

 

 頭上から振ってくる艶めかしい女の声。

 フェラチオに夢中だったソフィーが見上げると、カルカが父の体にもたれている。父の手はカルカのガウンの隙間へ忍び込み良からぬ動きをしているのが察せられた。

 自分はこんなに頑張っているのに、父は他の女を悦ばせている。嫉妬と呼べるほど確たるものではなく、けども何となく面白くない。

 ジュネもそうだろうと思って隣を見れば、自信たっぷりに微笑んでいた。

 

「うっ」

 

 今度の呻きは父の声。

 父の怒張をジュネの唇が包み、頭を振る。

 左手の中指と人差し指で根本を挟み、右手は竿を握って上下する。二人でたっぷり塗した唾がにちゃにちゃと粘着質な音を立てた。

 

「はぁ……、ソフィー様も同じように為さってください♡」

「うん……。はむっ、ちゅるる、れろぉ……。んんっ!? 何するの!?」

 

 再開したフェラチオは、ジュネに乳首を撫でられて中断した。

 

「マイスターのおちんぽを舐めながらソフィー様も良くならなければいけません。立たせた乳首をいじりながらフェラチオをしてくださいませ。カルカ様にご説明いたしますと、おちんぽをお口で気持ちよくなっていただくことをフェラチオと言うのです」

「フェラチオ……」

「カルカにもその内覚えてもらおう」

「ぅ………………、はぃ……。あっ、抓られるとぉ!」

 

 カルカが身をくねらせて男に抱きつく。

 ジュネはそんな二人を全く気にせず、ソフィーもジュネに倣うことにした。言われた通りに胸を揉みながら口を使う。竿はジュネが扱いているので、両手を使う事が出来た。

 

「んっ、んっ、ちゅるる、はぁ……。おちんちんから、ぬるぬるいっぱい……♡ あむっ……」

 

 尿道口から滲む先走りの汁が増えてきた。

 亀頭に唇を付け、ちゅぅっと吸い取る。口内で舌を蠢かせ、じっくり味わいたいところだが肝心の逸物を放っておけない。

 

(ソフィー様は乳首を摘むのより引っ掻く方がお好きなのですか?)

(わかんない……)

(先程からそのようにしていらっしゃいましたので。勃起している乳首を拝見いたしますと、ソフィー様も良くなっているのではとお察しいたします)

(ちょっとは……)

(ソフィー様はまだ未通の処女ですから申し上げませんでしたが、おちんぽをしゃぶりながらおまんこをいじるのもとても良いものでございますよ)

 

「おまんこっ!?」

「あら、では私が」

 

 どこまでジュネの仕掛けだったのか、おそらくは全てである。

 

 今はソフィーへ精液を与えるために設けた時間であって、男はじっくり楽しもうとは思っていなかった。股間をとろけさせる女たちの愛撫に身を任せ、その時に至れば耐えることなく吐き出すつもりでいた。

 ソフィーは初めてのフェラチオでありながら舌も唇も逸物へよく馴染み、触れているだけで吸い出される錯覚があるほどだ。無意識にサキュバス的エナジードレインでも使っていたのかも知れない。

 ジュネは吸血鬼であることから唇も舌も冷たい。しかし、覚醒サキュバスの転生体に違いない異常個体である。手触りと舌触りが良ければ技は極上。そんなジュネがその気になればとっくに暴発していたはずである。

 そうなっていないのは、ジュネが手抜きをしたわけではない。アルベドがしていたように、逸物の根本を抑えて射精を留めていたからだ。

 

 耳元で「おまんこをいじるのもよい」と聞かされたソフィーはサキュバスでありながら処女の初心さを見せて逸物から口を離し、マイスターへのご奉仕を途切れさせてはならないとジュネが代わる。

 咥えたのは先端だけ。赤い唇で亀頭を包み、尿道口がやや上を目がけるように調整する。逸物を扱く手を加速させ、根本を抑える二本の指をぱっと開いた。

 開放された逸物は、熱い粘塊をびゅるるとジュネの口に吐き出した。

 

「あーーーーーーーーっ!!」

 

 ソフィーが叫んでも止まらない。

 ジュネの口の中へ、どぴゅどぴゅ、ぴゅっと断続的に精液を放っている。

 脈打つ逸物が落ち着いても、ジュネの口は離れない。握る手をゆっくりと上下させ、最後の一滴まで絞り出すように扱き、ちゅるると吸ってから口を離した。

 

「うーーーーーっ!」

 

 すぐ隣のソフィーは目を釣り上げている。

 ジュネは顎を上げて、口を開いた。

 

「あ……………………」

 

 赤い口の中に、白い粘液が満ちている。

 大小のあぶくが混じって、見るからに粘度が高そうで、出したばかりなので吸血鬼の低い体温でも冷めきらず、ソフィーの鼻へ精臭が届いた。

 ジュネが近付いてくるのを、ソフィーは避けられなかった。

 ずっと欲しかった精液だ。ジュネの口の中にあるからと言って、価値が減じるわけがない。

 

「あ……、んっ……んっ、じゅるじゅる……、れろ……、んんっ……じゅる…………」

 

 二人の唇が触れ合うのは必然だった。

 ジュネはソフィーへ口移しで精液を与え、ソフィーは拒否することなく熱心に啜っている。

 口内へ入ってきた精液を、喉を鳴らして飲み込み、もっと欲しいと言わんばかりに舌を伸ばしてジュネの口内を探りだした

 

 

 

 

 

 

「ふう…………。はあ…………」

 

 男は心地よい虚脱感から息を吐き、失ってしまった喪失感から溜息を吐いた。

 

「マイスター、ソフィー様は私がベッドへお運びします」

「ふにゃあ…………♡」

 

 美しくも淫らな大淫魔の寵愛を一身に受け続ける男の精液である。まだまだ幼いソフィーには強かったらしい。ソフィーは幸せそうな顔で眠ってしまった。

 今よりも小さかった頃、アルベドに口移しで与えられた時もすぐに眠ってしまっている。外身は大きくなっても、中身はその頃と余り変わりがないのかも知れない。

 

「まあ、余り無理をしないようにな」

「承知しております。ソフィー様の処女膜はマイスターに破っていただくべきでございますから」

「いやそういうわけじゃ…………、任せた。色々教えてやってくれ」

「かしこまりました」

 

 夕食時はソフィーがジュネを運び、サキュバスの食事ではジュネがソフィーを抱き上げて隣にあるソフィーの部屋へと連れて行った。

 

「……………………寝るか」

 

 二人の口はとても気持ちよかったが、二人から弄ばれた気がしてならない男だった。

 ナイトガウンの腰紐をしっかりと締め直して立ち上がる。

 ベッドはこの部屋にもあるが、あれはアルベド様がお食事のために備えたベッドである。つまりはセックス専用ベッド。寝るためのものではない。

 自室で眠ろうとして、

 

「あの……、旦那様!」

「ん?」

 

 頬を紅潮させたカルカから呼び止められた。

 

 射精直後は女に冷淡になるのが世の男の常である。しかし、この男はそこのところがしっかりと様々な方面から調教済み。面倒に思っても女を冷たくあしらったりしないのだ。

 とは言え、カルカに何やらをしたわけではない。胸に触れたが、あれはスキンスップの範囲内。

 

「あの! その……、さっきは……さっきの…………うぅ……」

「何だ?」

 

 カルカは何か言いたいことがあるらしい。清楚な美貌を羞恥に染めるのはとてもそそられるはずだが、生憎たっぷり出した直後。早く言えと思うばかりである。

 

「先程の……、私にしていただいたことの続きを、して……、いただけないでしょうか?」

「続き?」

 

 オウム返しに答えた男だが、続きが何を意味するかは察した。

 察していながら疑問なのは、前回があったからだ。

 

「胸を触った続きか? カルカは尻を撫でられただけで泣いて逃げただろう。それなのに続きをして欲しいのか?」

「あれは違います! 旦那様に触られたのが嫌だったわけではありません!」

「……そうなのか?」

「そうなのです! あの時の私は覚悟が足りていませんでした!」

 

 淫乱の気があると言われて逃げ出したくなり、一部始終をウレイリカとクーデリカに見られたと知って泣き出した。

 触られるのが嫌だったわけではない。むしろ望むことであった。

 

「ふーむ……」

 

 男は腕を組んで思案の構え。

 

 射精直後で寝ようと思ったくらいなのだ。そんな気には中々なれない。

 たとえ最後までしなくても、カルカはまだ処女なのだから最初からそこまでしなくても良いと思われる。

 いずれカルカにも手を付けなければと思っていたので、手始めに軽くするのは悪くもない。

 

「そうだな」

「っ…………。はい……」

 

 男が十分の一秒だけ見せた邪悪な笑みに、カルカは怯みつつも頷いた。

 男は、カルカが特別なことを思い出したのだ。

 

 身近な女性は多い。

 ソリュシャンとルプスレギナはいつも傍にいる。ただし、あの二人は部下ではなく補佐のために派遣されている立場だ。ナザリックにてプレアデスの名を与えられた戦闘メイドの次女と三女。無茶ことをしていいわけがない。

 ミラとジュネは直属の部下であるが、シャルティア様から派遣されたヴァンパイア・ブライド。いずれシャルティア様の元へ戻る可能性は皆無ではなく、それなりに大切に扱わなければならない。

 ソフィーも一応部下だが、アルベド様のご息女だ。そして自分の娘でもある。ソフィーについては言うまでもないだろう。

 しかし、カルカは違う。デミウルゴス様からプレゼントされた女だ。自分の所有物と言っていい。

 カルカには、何をしてもいいのだ。それこそ泣こうが喚こうが好きにしていい権利がある。

 

「それならしてやろう。俺の部屋に行く。ついてこい」

「はい」

 

 ついてこいと言いながら、ソファへ座るカルカへ手を差し出してやる。

 カルカの腰を抱いたのは逃さないためであって、そんな心中を知らないカルカはうっとりと男の腕に体を預けた。




R18Gや暴力は絶対に出てこないことをお約束します


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カルカ頑張る ▽カルカ♯2

本話約19k字
どうして文字数が膨れるのだろうと思いますが謎は解けません


 カルカは妙齢の美女である。かつてはローブル聖王国の聖王でありカルカ・ベサーレスを名乗っていた。今ではただのカルカだ。

 ただのカルカになろうとも、ローブルの至宝と謳われた美貌はいささかの陰りもない。それどころか以前より磨きがかかっている。お屋敷のメイドたちがカルカの美貌にほうと溜息を吐くのは珍しいことではなかった。

 魔導国から無制限に提供されるドレスに装身具が身を飾り、一国の王であったカルカですら手にすることが叶わなかった美容品の数々が肌と髪を磨く。一番の理由は恋しい殿方が出来たからだ。

 数々の美容魔法を編み出し半生を掛けて己の美貌を磨き続けてきたのはいつか出会う旦那様のため。

 幸運を越えた僥倖は死んだ己を愛しい殿方に引き合わせてくれた。対外的とか飾りとか、余計な言葉がついているがその御方の妻となることが出来た。

 しかし、やはり飾りである。妻と夫が為すべき男女の行為は一度として行われなかった。

 

 もしもカルカがもっと年若で、恋は知っても色を知らない年ならば寂しさに枕を濡らすだけで済んでいた。

 けれども、如何に箱入りであろうと齢を重ねれば体が訴えてくる。聖王としていつかは然るべき殿方との結婚を望まれていたので、必要とされる教育は受けてきた。その上、帝都のお屋敷に連れて来られたその日、ソリュシャンが旦那様にしていたこと見てしまったし、ルプスレギナ様がアルベド様のご命令でソリュシャンからされていたことを見てしまった。

 殿方の体にはあのようなものがついていて、女の体はあのようなことで悦ぶように出来ていると知った。

 自分で確かめたことも何度となくある。

 

 メイドをお供にして一人でお屋敷の外に出ると誘惑されることは稀ではなかった。美しいカルカに下心から近寄ってくる男は多かったし、魔導国の要人と近しくなりたいと思う者も多かった。

 カルカはいずれの誘惑も跳ね除けてきた。

 絶対に有り得ない仮定として、誘惑に乗ってしまえば怒り心頭になったソリュシャンと満面の笑みを浮かべたルプスレギナが然るべき処置を施し筆舌に尽くしがたい過程を経て最後は大地に帰る事になる。

 理性があり十分に聡いカルカはそんな愚かなことをしなかった。何よりも、愛しい旦那様以外の殿方とそのような事になるは想像も出来なかった。

 とは言え、体を持て余しているのは事実。

 

 アルベド様は旦那様へ「その女を孕ませては駄目よ」と仰ったが、そこはソリュシャンが庇ってくれるらしい。それに、そのような事をしたからといって必ず孕むわけではないことくらい知っている。

 問題はそのような事が一度も起こってないことだ。

 ソリュシャンが言うには、「お兄様は多情だけども受け身、女から迫らないといけない」らしい。

 箱入りの処女で清楚清廉であることを望まれ続けてきたカルカにはハードルがとても高い。カルカの想像では、そのような事は殿方の方から万事為さってくれるものと思っていた。

 しかし、今日。

 ウレイリカとクーデリカの応援を受け、ソフィー様のお食事(?)に同席させていただき、ついに旦那様を誘うことが出来た。

 一瞬だけ見せた凄みのある笑みに怯んだが、旦那様は了承してくださったのだ。

 

 一応の知識として、一度果てた殿方は力を取り戻すのに時間が掛かるものらしいと知っている。もしかしたら今日は最後まで頂けないかも知れない。だとしても、次に繋がる一歩には違いない。

 

 これから起こることを想像して、カルカの胸は高鳴っている。

 腰を抱く旦那様の腕はとても逞しい。

 旦那様も自分もナイトガウンを羽織って、連れ立って寝室に向かっている。客観的に見れば、その後どうなるかは確定したも同然。誰かに今の状況を見られるのはとても恥ずかしいが、それでも誰かに見て欲しいと思ってしまう。

 

 旦那様が寝室の扉を開き、カルカは一度も入ったことがない部屋へ踏み入った。

 魔法の灯りが仄かに照らす寝室はカルカの部屋より広く、ベッドも大きい。優に倍以上の大きさがある。これから自分はあのベッドに横たわるのだ。

 そう思えば、為される事が具体的に脳裏を過ぎってくる。期待が高まって体が熱を持ち、夢の世界に来てしまったような浮遊感がある。

 それが一瞬で現実に引きずり落とされたのは、部屋が明るくなったからだ。

 ベッドの輪郭だけを浮かばせていた仄かな灯りは真昼のように強くなって、部屋の隅から隅までを照らし出した。隅はどうでもよい。問題なのはベッドの上。ベッドには先客がいた。

 カルカの専従メイドであるクーデリカとウレイリカが、ベッドの上で健やかな寝息を立てていた。

 

 

 

「だ、旦那様……、ウレイとクーが……!」

「ああ、構って欲しそうだったから俺の部屋で寝かせたんだ」

 

 動転しているカルカと違って、男は冷静に答えた。クーデリカとウレイリカが自室のベッドで寝ているのを承知した上でカルカを誘ったのだ。

 以前、カルカが尻を触られて泣き出したのは、クーデリカとウレイリカに見られていたからだと察しがついていた。カルカは二人に見られるのが嫌なのだろう。人が嫌がることを率先してやるのだから、ソリュシャンが常々言っているように根は悪い男なのだ。ソフィーとジュネに弄ばれて溜まった鬱憤を、カルカを苛めることによって晴らしたかったのもある。

 

「私の部屋に――」

「おっと」

 

 逃げようとするカルカの腕を取る。

 引き寄せ、顎を掴んで目線を合わせた。

 

「ウレイと、クーが……。旦那様……。ここで…………?」

 

 貞操観念が強ければ羞恥心も強いカルカだ。誰かに見られるのはとても抵抗がある。それも幼いクーデリカとウレイリカに。なんとしても避けたいと思っていた気持ちが、急速に霧散していく。

 眼の前に愛しい殿方の美貌がある。赤と青の瞳は星々の海のようで、夢見た世界に溺れてしまう。

 

 カルカの美貌が磨かれ続けているならば、この男も同じ。生まれついての美貌は覚醒した大淫魔の寵愛を得て、魔性を帯びている。エンリ大将軍の精神防壁を耐性無視防御貫通必中致命確定臨界攻撃にて一撃で貫いたこともある。

 その上、追撃があった。

 

「いいか、よく聞け。お前は俺のものだ。頭の天辺から爪先まで、髪の毛一本に至るまで俺のものだ。お前に拒否する権利はない」

「………………はい」

 

 権利を許さず単なる所有物扱いする乱暴な言葉を、カルカは夢うつつに頷いた。

 

 こちらは男が元々持っていた性向に加えて、ソリュシャンが読ませ続けてきたロマンス小説の影響が大いにあった。

 三桁に達するロマンス小説群にて、主人公であるヒロインの相手役は、ほとんどが強気で傲慢で大上段から女を翻弄する男ばかりだったのだ。

 男性向けではなく女性向けの小説である。同じものをシクススも読んでいたので間違いない。すなわち、女性はそのような男を好むと察せられる。

 アルベドからラキュースまで、組み敷かれる事を好む女は多いのであながち間違いとは言えないだろう。

 

 聖王であった頃から素敵な旦那様を夢見てきたカルカの理想は、紳士的で優しくていつだって気遣いを忘れない素敵な殿方。グイグイ来る俺様系への耐性は皆無だった。

 ここで我を通せるくらいなら聖王国は分断し続けることなく、あのヤルダバオトと交渉することすら出来たかも知れない。

 そうはなってない以上、カルカに出来ることは何もない。

 ナイトガウンが床に落ちて、カルカはベッドの上に突き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 ベッドは広い上に、双子幼女は並んで端に寝ている。大人二人が暴れまわる空間は十分空いていた。

 

「いつもその格好で寝てるのか?」

「い、いえ……。この上にナイトウェアを着ます。これは肌着ですので……」

 

 ガウンの下はシュミーズだった。シュミーズで寝る者もいるが基本的には肌着である。文字通りに肌の上に着る衣服。薄布の下にはカルカの素肌がある。

 肩紐で吊るしているため肩はむき出しだが、透けることはなく体を締め付けない作りなので体のラインはわかりにくい。ただし、突き出た胸と尻の丸みはあらわになっている。

 

「さっきはこの上から触ったわけか」

「は、はい……」

 

 ソフィーとジュネにフェラチオをされながら、カルカの胸をもてあそんでいた。

 カルカの尻を触ったことはあっても胸は初めてだった。初対面時にアルベド様から脱げと命令されたカルカなので、裸を見たことはある。それなりにあると思っていた胸は、触ってみるとまた別の感慨があった。

 

「そこは、今度は直に触ってください、だ。やってみろ」

「ぅ…………、わかり、ました」

 

 男を誘う言葉を吐いて、その通りにしなければならない。

 暗かった部屋は明るくなって、全てを見られてしまう。とても恥ずかしいのに、散ってしまった期待が戻ってきた。

 さきほど戯れで触られたのが、自分で触るのと全く違ったのだ。あれをもう一度と思うだけで体が熱くなってくる。

 顔が熱くなっているのは羞恥だけではなかった。

 

「私の胸を、どうか直接触ってください……」

 

 左腕で胸を抱き、右手で左の肩紐を外した。次にシュミーズがずり落ちないよう右腕で押さえ、左手で右の肩紐を外す。

 男の顔を真っ直ぐに見るのは恥ずかしくて、けども目を逸らすことは許されない。さっきと同じように顎を掴まれる。

 カルカは目に涙を溜め、自分の手でシュミーズを引き下ろした。

 

「へぇ……」

「うぅ…………。あの、いかが、でしょうか?」

 

 胸を見られている。

 初対面時のドタバタでアルベド様のご命令で裸を晒しているが、こんなに近くで見られるのは初めてだ。

 磨き続けたのは肌や髪だけでなく胸の形を含むプロポーション全てなので、綺麗に整っている、はずだ。

 肌は透き通るように白く傷一つない。年齢はそこそこ行ってしまって最早娘を名乗れる年ではないが、誰にも触らせたことのない乳首は黒ずむことなく入念な管理の甲斐あって透明感のあるピンク色だ。

 

「色も形もいい。いいおっぱいだ」

「あ…………、ありがとうございます……。あんっ……」

「肌触りもいい。張りより柔らかさがあるのも悪くない」

 

 正面から、むにゅんと左の乳房を鷲掴みにされた。

 男の手が自分の胸を掴んでいる、揉んでいる。異様な雰囲気に流されたさっきとは違う。自分だけが愛撫を受けている。

 

「こっちも触ってやらないとな」

「あっ!?」

 

 望んだことなのだから、胸を触られるのは歓迎するところ。

 予想外だったのは、はっきり言えば望まなかったのは、体の向きを変えられたこと。

 ベッドの上で互いに向き合っていたのに、カルカは男へ背を向けさせられた。背中に男の胸板を感じる。彼もガウンを脱いだのか、それとも前を開いたのか。

 後ろから回ってきた手が右の乳房も左の乳房も包んで好き勝手に形を変え始めた。

 

「あっ……そんな……、旦那様……。お許しを……」

「ダメだな」

「はぅっ……、あぁ……。あうぅっ!」

 

 許されないとわかっていても許しを乞うてしまう。

 体を見下ろせば、自分の乳房に男の指が張り付いて、指の隙間からピンクの突起が見えた。見る間に充血して色味が増し、むくむくと尖ってくる。

 直に触れる手指は自分の体に溶け込むようだ。気持ち良いところを的確に触れているのか、気持ちの良い触り方なのか、この方だから気持ち良いのか。性的な快感が、触れてもいない乳首を立たせてくる。

 前を見れば幼い双子。

 二人はゆったりしたワンピースを着て並んで眠っている。襟にはリボンが付けられ、青がクーデリカ、赤がウレイリカ。メイドのお仕着せを着てる時は髪に色違いのリボンを結わえている。

 

 カルカは、幼子の前で乳房を揉みしだかれ、喘いでいる。

 そんな事は絶対にしてはいけないことだ。なのに、してしまっている。快感と多幸感で体を熱し、淫らな声を上げている。

 禁忌を犯す罪悪感はカルカを悩ませ苦しませ、さらなる快感への呼び水となった。

 

「あんっ! そんな、つままれるとぉ……、あぁんっ……。声が、でてしまって……」

「俺に聞かせたくて喘いでるんだろう?」

「っ! ですが、乳首がぁ……」

 

 充血した乳首は親指と中指に挟まれている。親指が引けば中指は進み、中指が引けば親指が進む。乳首を擦られ転がされ、しゃぶりながら触っていたソフィーとジュネより張り詰めている。

 

 なめらかな肌が良ければ、柔らかな乳首が弾力を増していくのもとても良い。

 柔らかなおっぱいと来ればソリュシャンだが、あれは大きくて手に余りすぎる。大きさはナーベラルが近いが、あちらは張りが勝る。処女なのに熟れた体をしているのは年齢によるものか。とは言っても、染みも皺も傷もない。匂い立つ女の甘い肉。

 長い髪をまとめて前に流してくれているのが良かった。

 肩に顎を乗せ、白い首筋を強く吸う。微かに唾液が濡らして、それ以上に残ったのは赤く鬱血した痕。自分のものなのだから、印をつけなければならないのだ。

 

「ああ、だんなさま…………」

 

 カルカが潤んだ目で振り返る。目を閉じ、赤い唇を薄く開き、両手を男の手に重ねた。

 温かい吐息が頬を撫で、唇で感じ、柔らかな唇同士が触れ合った。

 

「んっ……ちゅっ……、舌を……、あむっ、れろ……」

 

 押し付け合う唇はゆるく潰れて形を変え、ぬめる舌は唾液を伴って絡み合う。

 

「初めての接吻でした。あっ、んっ……」

「初めてなのに舌を入れるのは知ってたのか?」

「ずっと……、旦那様とこうなることを、想像していました。あんっ……、接吻も、体を触っていただくのも……」

「他にはどんなことを?」

「それは……」

 

 舌先が触れ合える距離で言葉を交わす。なまぬるい互いの吐息を互いに吸って、口を開く度に唇同士が掠めて、相手の瞳には自分の瞳しか映らない。

 言葉の合間にどちらからともなく唇を重ねる。

 カルカからも積極的に舌を入れた。強く吸って唾液を啜った。無味であるはずの唾液がとても甘い。自分の中に男を取り込んでいるようだ。

 もっと言葉を交わしたい。想いを告げて、もっと先へ進んで欲しい。だけどもキスを止められない。

 乳房を触られ揉まれるのは自分でした時とは段違いに感じるものがある。それよりも体の内側で、粘膜同士が触れ合うのは、カルカの想像の延長にはなかった。完全に未知の快感。とても安らいでとても幸せでとても気持ちよくて、叶うならばずっと続けていて欲しい。

 

「ひゃうぅっ! ……あぁ、乳首がピリピリしてしまって」

 

 ずっと摘まれていたと思った乳首は、いつの間にか開放されていた。乳房だけを揉みしだかれ、張り詰めたところを指先で弾かれた。

 キスを続けていたくても、快感に喘がずにはいられない。

 

「それで? 他には?」

「私の………………。あそこを……」

「そこを? 触られるのを想像してたのか?」

「……………………はぃ。あっ」

 

 男の右手が乳房から離れて下がっていく。腹を撫でへそを通り過ぎ、脱げきれてないシュミーズの内側へ滑り落ちる。

 カルカは、下腹に男の手のひらを感じた。

 キスをしたいし、自分を見つめる男の顔を見ていたい。けども、手の行方を確かめずにはいられない。

 

「あっ……そこ……はぁ…………。はぁ……」

 

 背中を男の胸に預けて腰を少し突き出した姿勢。

 ぴったりとあわさっていた太ももは自分から開いた。はしたないとは思ったが、シュミーズで隠れているのが力になった。

 そして脚の付け根の体の中心。尻を撫でられた時に触られた大切なところに、男の指が触れてきた。

 

「あ……、指が……優しくて……。わたしこんな事を想像してしまって、はしたないと思われないでください……」

「想像したのは俺の指だけなんだろう?」

「はい……。旦那様の指を想像して……、自分で……触れることも……」

「それなら許してやる」

「あ……ありがとう、ぞんじます……。んっ……」

 

 左手ではカルカの乳房をたぷたぷして、右手でカルカの股間に触れている。

 股を開いているので手を差し込む隙間が十分にあり、三本の指を揃えて下着の上から優しく撫で回す。

 最早冬ではないので下着の生地は薄く、被覆面積も小さいようだ。そのおかげでカルカの感触が損なわれることなく指に伝わってくる。さらさらで肌触りのよい下着もまた良し。

 カルカで一番したいことはこれだったのだ。

 

 以前触った時は直に少しだけ。

 少しだけでも、カルカの秘部が肉厚でぽってりしてるのはわかった。肉厚でも女の柔らかさはそのままだ。女の体で一番柔らかい部分に触り応えと揉み応えがある。

 触っている内にしっとりとした熱気が指に絡みついてきた。胸を揉まれて唾を啜り合い、それなりに感じているようだ。

 

「ひゃん! ……い、いまのは? あぁんっ、またぁ……!」

 

 中指だけで割れ目をなぞった。厚い肉に包まれた割れ目を掻き、敏感な部分に触れたらしい。

 一度すれば位置を覚える。同じところを掻いてやれば、カルカは良い声で鳴いた。

 

「自分で触ったことがあるんだろう? 今触ったのは」

「うーん…………」

「っ!?」

 

 カルカが全身を硬直させ、息を呑んだ。

 男の方も何が起こったのかと手を止める。

 

「…………ウ、ウレイ?」

 

 カルカの股間から目を上げれば、眠っていた幼女の片割れが寝返りを打ってこちらへ背を向けたところだった。

 カルカの声が大きかったらしい。しばし耳を澄ますと寝息が聞こえるので、起きたわけではないようだ。

 

「あんな声を出して。クリトリスが良かったみたいだな?」

「仰らないで……! これ以上は、ウレイとクーが、あんっ……」

「俺が言ったことを忘れたのか? お前は俺のもので、拒否する権利はない」

「そんな……、んっ! あっ、むぅ……。んっふぅ……、」

 

 双子を意識させるための体勢だが、意識されすぎて一々中断するのも面倒である。

 男は開いた脚の間にカルカを横向きに座らせて、花びらのような唇を貪った。

 左手は細い肩を抱いているのでおっぱいを触れなくなるのは残念だが、右手は動き続けている。

 

「んうっ!」

 

 陰核を掻いた中指を伸ばし、押し付ける。

 下着越しに割れ目が開き、中指全てが沈んでしまった。しっとりとした熱気がじっとりと蒸れ始め、湿り気とぬめり気が指に届く。

 これだけ肉厚なのだから素股をさせればさぞ気持ちいいだろうと思われた。そんな事を考えたせいだろう。

 ナイトガウンは前が開けて上半身があらわになっているだけだったが、密着しているカルカには男の変化がわかってしまった。

 

「あ…………、旦那様も……♡」

 

 体が触れていればわかるだろうし、触れていなくても大きいのだからわかってしまう。

 カルカがちらと視線を落とせば、男の股間がナイトガウンの厚い生地を盛り上げていた。

 

 始めこそその気はなかったが、カルカの体が思ったより良かったのだ。自分で慰めていたと白状したカルカは、処女なのに開発が進んでいるらしく良い反応をしてくれる。

 今日はソリュシャンとルプスレギナに絞られ、ついさっきはソフィーが初めてのお食事をしたばかり。しかし、エ・ランテルを離れる直後にルプスレギナから回復魔法を受けていた。ソフィーが初めてのお食事を迎えるということで、ルプスレギナなりの餞別だったのかも知れない。

 その後はジュネの口に一度だけ。たっぷり出したが残弾多数。立ってしまった以上、出さなければ収まらない。

 

「カルカの魅力がこうさせるんだ」

「あぁ……、嬉しいです♡ あっ?」

 

 カルカの手を取り、ガウンの腰紐に触れさせた。

 それだけで言わんとする事は伝わった。細い指が結わえた紐を引っ張り解く。ちらちらとこちらの顔を覗いながら、ガウンを開いた。

 

 無毛なのはまだ慣れない。

 カルカはそんな事が気にならないようで、男の股間を凝視している。カルカに女を教え込む男の器官が、真っ直ぐに屹立している。

 

「触ってみろ。俺とするのを想像してたんならちんこを想像したこともあるんだろ?」

「ちん…………! そこまでは、まだ……。でも、してみます!」

 

 汚れを知らない清い手が、男の欲望を優しく包んだ。

 

 立っているところはさっき見たばかり。

 触れるのは勿論初めて。まず熱さに驚いた。肌よりも明らかに温度が高い。

 立っていない時は見るからに柔らかそうだったのに、今はとても硬くなっている。それなのに生々しい肉の感触を失わない。

 

「ああ……、こんな……大きくて……! 旦那様の…………」

「俺の?」

「お…………、おち……、こ…………です」

「何だって?」

「旦那様の、おちんこ、です。とても熱くて、とても硬くて」

「カルカのまんこは柔らかいな。肉厚でぷにぷにしてるのがいい。濡れ方も十分だ。愛液は少しさらさらしてるかな」

「そんな事仰らないで!」

 

 真っ赤になって顔を伏せた。

 顔は伏せても目は閉じず、薄く開いて男の股間を覗いている。距離が近くなり、股間の熱気が顔まで届く。

 はぁと熱い息を吐き、先程見て覚えた手付きで上下に扱く。

 頭の上から強く握れと声が降ってきて、言われた通りに力を入れた。力を入れた分だけ手のひらを押し返される。

 

「あ…………。はい……」

 

 張り付いていた男の手が離れると、カルカは軽く尻を浮かせる。

 尻の下からシュミーズが抜き取られ、ベッドの下へ放り投げられた。

 小さなショーツはカルカの手で太ももまで下ろし、そこから先は男が指を引っ掛けてくれたので、左右の脚を交互に抜いた。

 男は丸まったショーツを丁寧に開いてからカルカに手渡した。

 

「ちょっとこれを持ってみろ。親指と人差指を開いて穴に引っ掛けて」

「そんな! どうかご容赦を!」

「ダメだと言ったろう」

「うぅ…………」

 

 言われた通りにせざるを得ない。カルカは泣く泣く広げたショーツを両手で持ち、内側を男へ向けた。

 薄手の白いショーツだ。僅かでも濡れれば染みになるし、部屋の灯りを反射して光って見える。

 太い筋状の染みが真ん中についている。生地が二重になって他より厚くなっている部分なのに、染みは裏から表へ届き、カルカの側からも濡れているのがよく見えた。

 

「ここから出てきたのが濡らしたんだ」

「ああっ!? そんな、いきなり……。いやぁ……、仰らないでぇ……」

 

 ショーツの一番濡れている部分が包んでいたところに、男の指が潜り込んだ。

 薄布を挟まず、今度は直に。

 女の一番柔らかな肉は熱くぬめって、ふっくらした陰唇が伸ばした指を全て包んでしまった。

 

「そうして見せつけてくれるのもいいが、忘れないでくれよ?」

「は、はい」

 

 カルカはショーツを丸めて枕の下に押し込んだ。

 

 パンツを広げて秘部を覆うクロッチを見せつけるのを、異界の用語で「パンツであやとり」と言う。シャルティアが度々披露して啓蒙したのだ。

 シャルティアは誇らしげにしたものだが、カルカのように恥じらいと戦いつつしてくれるのも良い。

 

「あっ、あっ、ゆびがぁ♡ あぁ、だんなさまのも……♡」

 

 潜った指が往復する毎にカルカの声が蕩けていく。

 カルカの手も働いて、両手で逸物を握っている。

 横を向いていたのがいつしか向き合って、口付けを交わしながら互いの性器を愛撫する。

 

「あぁっ! ゆび、ゆびが、……わたしの中に…………」

 

 厚い肉に隠れていようと、奥には女の穴が開いている。

 割れ目に潜った中指が第二関節で折り曲がり、指先を窮屈な穴に忍ばせた。

 

「カルカはちゃんと処女だな。俺の指が処女膜に触ってるのがわかるか?」

「わっ、わかりませんっ。入ってるのは、わかります。はぁ…………、中に、きてます」

「指だけだと膜は破れないんだ。処女のカルカに入るくらいだからな」

 

 指を包む肉は舌よりもなめらかで柔らかい。

 期待に潤んでいるのはカルカの顔も。

 清楚な美貌を淫靡に染めて、ひたと男の顔を見つめている。

 

「破くには……旦那様の?」

「そうだ」

「きゃうぅぅう♡」

 

 中指が膣壁を擦り、外からは皮を剥かれたクリトリスが擦られた。

 悲鳴じみた嬌声を上げ、カルカの背が弓なりに反る。

 男の手はカルカを支えず、カルカはそのままベッドに倒れ込んだ。すぐ隣でウレイリカが眠っているというのに。

 

「あ……あ……♡ 私の、処女膜を…………破っていただけるのですね?」

 

 男は答えず、カルカの脚を押し広げた。

 

「ふーむ……」

 

 男は意外な真理の端緒に触れた哲学者のように唸った。

 たっぷりほぐして指まで入れたのにカルカの割れ目は閉じたまま。処女なのでおかしいことではないが、やはり肉厚だからと思われる。

 ふっくらした陰唇を指で撫でる。ふにふにと柔らかく、つるりとしている。脱毛が完璧なのだ。

 

「ここの毛はどうしたんだ? 生えないのか? それとも剃ったのか?」

「以前は少し……生えておりましたが、適切に処理をいたしました」

「どうやって?」

 

 剃り跡も毛根も見えない無毛の割れ目だ。恥丘から下腹へかけては小さな三角形が飾っている。髪と同じ金色の陰毛は短く、丁寧に手を入れている。

 エンリもレイナースもラキュースも、馴染みとなった娼婦たちも、淫裂の周囲に生えていない者は一人もいなかった。処理したとしても、剃り跡や毛根まではなくせるものではない。

 ラナーは例外で元々薄い質だった。産毛が立派な陰毛になるまで見届けてきたが、割れ目や尻には一本も生えなかった。脇に生えてきたのを指摘したら食事を抜かれたのは苦い記憶だ。脇で見たのはそれきりだった。

 

「それは……」

 

 股を開きながら、カルカは語った。

 不要な部分に生えてきたのは一本一本抜いて、開いた毛穴を冷やして閉じてから治癒魔法を掛けたのとこと。抜く際に毛根が僅かに傷つき、治癒魔法を掛けると傷が癒えると同時に毛根が消えるのだとか。

 

「今のようになるまで三年は掛かりました」

「……………………すごいな」

 

 凄いとしか言えなかった。

 もしも簡単に処理できるならラキュースに施そうと思っていたが、そんなに時間を掛けていられない。ナザリックを訪問して、アルベド様が陰毛を処理した時に用いた脱毛剤を入手するしかないだろう。

 

「……旦那様にお見せしてもおかしくないよう整えておりました」

 

 出会ってまだ数ヶ月だが、処理をしたのは云年は前。けども、いつか出会える素敵な旦那様のために頑張っていたので嘘ではない。

 

「俺のためにしてきたなら好きにさせてもらおうか」

「そんなところを開かれるとぉ……!」

 

 柔らかな割れ目に親指を添え、男は左右へ広げる。

 隠れていても、内側にはカルカの女があった。美肌を最重要に位置づけているカルカの肌は白く、生々しい肉色との対比が鮮烈だ。

 ユリとは真逆でクリトリスを勃起させても埋もれたままだが、開いてやればちゃんと顔を出す。小さな肉の豆は半分以上が包皮に覆われている。勃起させてこれなのだから、小さな時は完全に皮の中だろう。ぽってりして内側を包み隠す陰唇といい剥けきらない肉芽の包皮といい、慎ましいカルカらしい。

 じっくり鑑賞した後は味をみなければならない。

 

「あぁっ!? そんな、口でだなんて! ふあぁぁっっ♡ くぅ…………。ふぅっ!」

 

 隣にウレイリカが寝ているのを思い出したのか、単にはしたないと思ったのか、カルカは両手で口を塞ぐ。にも関わらず襲いかかる快楽に屈服し、声を抑えきれないでいた。

 ずっと隠れていた肉芽はとても刺激に弱いらしい。指で弾かれただけでも鳴いた。今度は男の舌が乗っている。

 舌先でつつき、れろりと舐める。舌と唇を使って包皮を剥いて吸い付いた。

 顔を挟む太ももが汗ばんでくる。背が反って尻が跳ねる。顔をつけているので整えた陰毛が鼻先をくすぐって、蒸れた女の匂いが届く。ソフィーが酔ったのはこの匂いと同種のものか。

 

「んっ! んんっ! くぅぅうぅ…………! はぁ……はぁ……、ああんっ!」

 

 抑えめにして、カルカが口から手を離した瞬間にもう一度。声を抑えられず、甘い悲鳴が響き渡った。

 

「あっ、あっ、じゅるじゅるなさらないでぇ! そんなおつゆを飲まれてはぁ♡」

 

 声の高さに比例して愛液の量も増えてくる。

 内側を舐めあげじゅるりと啜れば、カルカは口で拒否しながらも抗わない。

 

「手が空いてるなら自分で広げるんだ」

「は、はぃ……」

 

 舐めてやるには広げないといけないカルカだが、それはカルカ自身にさせれば済むことである。

 

 美顔を淫靡な悦びに染め、自分の手で秘部を広げて内側を男にさらけ出す。

 愛欲に飢えた女そのものなのに、それでも清楚な雰囲気は失われない。磨き続けた美貌と守り続けた処女が今のカルカを作っている。

 

「ああっ、そんな、いやぁ……、ああん♡ こんな、こんなことってぇ……♡」

 

 顔はカルカの股間に埋めて、両手は乳房を鷲掴みする。クンニリングス中の乳揉みは王道なのだ。

 

 カルカは何度も痙攣したように背筋を反らせ、爪先までピンと伸ばしてはきゅっと折り曲げる。

 乳首は痛々しいほどに尖っている。

 溢れさせた愛液は男が啜りきれず、シーツに吸わせて染みを作った。

 何度も達して視界さえおぼろげになっているのに、割れ目を広げる指は一度も離れなかった。

 

「あぁ……はぁ……はぁ……。だんな、さま?」

 

 澄んだ嬌声は喘鳴になって、熱く乱れた息を吐き続ける。

 カルカが体を見下ろすと、男が体を起こすところだった。

 

「あうっ……」

 

 太ももを抱えられ、引き寄せられる。

 男は膝立ちになっているので、股間がよく見えた。カルカが手指で愛撫した逸物が反り返っている。

 これからあれが入ってくるのだと思うと、言葉にしきれない想いで胸が詰まった。

 

(ああ……、旦那様が私を抱いてくださるのね。旦那様が、やっと私を。今まで大変なことも…………苦しいことも、あったけど。私は旦那様にお会いすることが出来た。旦那様に処女を捧げる事が出来る。…………あんなに努力してきたのにどうして私にはと思っていたわ。でも全ては旦那様にお会いするためだったのよ。…………皆、ごめんなさい。そしてありがとう。私は、ただのカルカは、幸せになります♡)

 

「行くぞ?」

 

 カルカは声が出せない。代わりに何度も頷いた。

 入ってもらうために入り口を自分の指で開いた。男を歓迎する準備はとっくに整っている。

 男が位置を合わせて先端を割れ目に潜らせると、カルカは予感に息を呑んだ。男の顔と股間とを視線が彷徨い、男の顔で止まった。

 入ってくればきっと鳴いてしまう。その前兆か、今だけは静寂が支配していた。

 

 一時間は鳴き続けたカルカが黙ったせいで、あってはならない音が聞こえるようになった。

 

 

「ぐす、…………ひっく……。うぅ…………」

 

 発生源はすぐ隣。

 二人の男女が顔を向ければ、こちらに背を向けた幼子が震えながらすすり泣いていた。

 

「……ウレイ?」

「……………………」

 

 カルカが恐る恐る声を掛けても返事はない。

 ウレイリカは小さな体をぎゅっと丸めて声を殺した。

 

「ウレイ、クー。起きてるなら返事をしろ」

 

 腫れ物に触るようだったカルカの声に対し、男の声は意思がこもっている。

 双子幼女は大きく体を震わせてから、ぐすぐすとべそをかきながら体を起こした。二人の顔は涙に濡れて、泣き腫らした目は赤くなっている。長い間泣き続けていたらしい。

 

「二人共どうして泣いてるんだ?」

 

 あれだけカルカが喘いでいたのだ。幼子とは言え、目は覚めるだろう。

 双子が起きるのは男の想定内だったが、泣き出すのは想定外。双子に何かしたわけでなし、そもそも双子を泣かせたことは一度もない。

 

「ごしゅじんさまぁ」

 「カルカさまを、いじめないでください」

「「おねがいします!!」」

 

 双子の訴えに、カルカは体を隠すのも忘れて男の顔を見た。男も思わずカルカを見た。片やいじめられたとは思ってないし、片やいじめたと言えなくもないが痛めつけたわけでもなく同意の上だ。

 と、大人二人は思っているが幼子にわかるわけがなかった。

 

 性の何たるかを全く知らない幼い双子だ。

 カルカの声は快感からの嬌声だったが、肉体の悦びに声を上げることを知らなければ悲鳴にしか聞こえない。

 どうして悲鳴を上げるのか。虐められて苦しくて悲鳴を上げるのだ。許してと何度も言っていたのに許されずに虐められる。

 大好きなご主人さまが大好きなカルカ様を痛くして泣かせている。しかし、ご主人さまがしている事を止められるわけがない。

 幼い双子に堪えられる事ではなく、声を殺して泣くことしか出来なかった。

 

「私はいじめられていたわけではなくて……」

「でもカルカさま泣いてました」

 「大きな声でずっと」

「ああ…………それは……ですね………………」

 

 日中それなりにお仕事をいっぱい頑張って疲れ果て熟睡していた幼子が目を覚ますほどの嬌声だった。

 言い淀むカルカは顔を真っ赤にして、説明しようにも出来ないでいる。まさかこんな小さな子供に男女の性について教えられるわけがない。

 しかし、カルカには出来なくてもこの男は違った。

 

「クー、傍においで」

 「………………はい」

 

 これからという時に中断されたのに、男の声は優しかった。

 カルカから離れてベッドの上に座り直し、近付いてきたクーデリカを膝に乗せる。

 

「俺はカルカをいじめてたわけじゃないんだ」

 「でもカルカさまは……」

「大きな声で泣いてたって言うんだろ? あれは痛かったわけじゃない」

 「……そうなんですか?」

「ああ」

 

 クーデリカの背を支えて頭を撫でる。涙の跡は残っていても、顔からは深刻な様子が薄れてきた。涙を親指で拭ってやればくすぐったそうに笑みを見せた。

 

「ひゃん!!」

 

 笑ったと思ったクーデリカが大きな声を上げた。

 男の目は笑っている。

 

「どうしたんだ? 痛くはなかったろう?」

 「でもくすぐったかったです!」

 

 男がしたのは大した事ではない。頭を撫でられ気が緩んできたクーデリカの隙をついて、脇腹を撫でただけである。

 不意に脇腹を触られるのはとてもくすぐったいのだ。

 

「カルカもそれと一緒だよ。カルカは痛かったわけじゃないんだ」

 「くすぐったかったんですか?」

「まあ、そんなものだな。カルカはくすぐったがりで触ると大きな声が出るんだ。俺から触られる時だけくすぐったくて気持ちよくなるんだよ」

 「わたしもくすぐったかったけどきもちよかったです!」

「また今度な」

 

 気持ちよかったと聞いて、ウレイリカが羨ましそうに唇を尖らせた。

 

「そういうわけだから二人共心配しなくていい。これからカルカと続けるから、少し向こうに行ってるように」

「「はい!」」

 

 元気のよいお返事は大変結構だが、カルカは大ピンチだった。

 

 双子はベッドの隅に座ってこちらを見ている。

 すっかり目が覚めてしまったらしく、寝てくれる気配がない。

 双子が寝ているのにあんな声を出してしまった自分が悪いと言えば悪いのだが、双子がいるのにここを選んだのは旦那様だ。

 その旦那様は、双子が見ているのに続けると言う。

 

「カルカ、来い」

「ああああああのあの! 二人が見て…………! どうか、それだけは!」

 

 たとえ経験があってもカルカには受け入れられないだろう。その上記念すべき輝ける初体験。出来ることではないし、幼子に見せて良いことでもない。

 

「こうさせたのはお前だろう?」

「ああ、そんなぁ…………」

 

 流石に幼女を膝に乗せていた時は萎えていたが、カルカを抱き寄せ女体の柔らかさを感じれば立ち上がってくる。

 カルカはそれを握らされ、自分の意志では手が離せなくなった。

 

「でもまぁ、始めたら二人が眠れなくなる、か」

「はい! きっと私は声を出してしまって二人が眠るどころではないと思います!」

 

 自分の淫らさを主張するようだが、カルカには乗るしかない。

 しかし、立たせたものは治める必要がある。萎えさせるのは論外で、出さなければならない。

 部屋を移るのも論外。それを選ぶくらいだったら最初から違う部屋を使っている。双子幼女の傍でカルカの痴態を暴くのが目的なのだ。

 挿入するとうるさくなるだろうから、それ以外。

 

「それなら口でしてもらおうか。さっきソフィーとジュネがしてたのを見てただろう?」

「ぅ………………」

 

 双子の前で交わるのと、男性器を口で愛撫するのとどちらがよいか。どっちもどっちだが、どちらかを選ばなければならない。

 カルカは握っているものに目を落とし、小さく頷いた。

 

 

「さっきは俺がたっぷり舐めたからな。今度はカルカの番だ」

「……………………はぃ」

 

(なめたってどこなのかな?)

 (カルカ様がなめるところを見ればきっとわかるよ)

 

 双子の囁きはカルカの耳にも届く。

 双子の睡眠に気を遣って挿入がなくなったのに、双子は寝る素振りもなく目を輝かせてこちらを見ている。

 双子の目の前で、口を使うのだ。

 

 カルカは初心者なので、男はベッドに寝転がず立ち上がっている。横になった状態だと顔を下に向ける必要があり、髪が流れて邪魔になる。カルカへの気遣いであるが、双子からもよく見える。

 

(ご主人さまのおふろの時と形がちがう?)

 (あらった時は下がってたのに上がってる)

(カルカ様はあれをなめるの?)

 (お顔を近くにしてるからたぶんそうだよ)

 

 風呂に入った際、双子が熱心にこちらの体を洗いたがるので好きにさせていた。

 背中を洗い始めたウレイリカに対抗してクーデリカは腹から胸。両腕は一本ずつ担当して足も同じく一本ずつ。となれば足の付根も洗うのは自然な流れだった。

 

「それでは、始めさせて、いただきます」

「ああ」

 

 カルカは膝立ちとなって逸物を扱いていた。

 宣言してから腰を落として顔を近付け、反り返っている逸物を自分の方へ向ける。

 男性器を口に含むなんて想像も出来なかったが、しているところを目にしている。信じられないことであったが、実際に行われることなのだ。自分は単に知らなかっただけ。これからすることはおかしいことでも何でもない。極々当たり前に行われることだ。

 そう自分に言い聞かせ、膨らんだ肉塊に口を付けた。

 

(やっぱりおちんちんなめるんだ!)

 (カルカさまお顔が真っ赤。うれしいのかな?)

 

 カルカは、男性器が排泄するところであることも知っている。とは言え、自分の体に導こうと思っていたくらいなのだから汚いと思うわけがない。

 しかし、男性器を愛撫することが性的なことであることはよくよく知っている。恥ずかしいけれど素晴らしい快感を伴う淫らな秘め事。

 秘すべき事なのに、幼子の前でしてしまっている。してはいけないことをしている罪悪感より、見られる羞恥心の方が遥かに大きい。

 

「手も口も止まってるぞ」

「は、はい。もうしわけ、ありません。…………あむっ、んっふぅ……。れろ……」

 

 亀頭だけを口に含み、恐る恐る舌を使う。

 どうすれば悦んでもらえるかわからず、子猫のようにペロペロ舐めた。

 手はジュネを参考にした。両手で竿を握って熱心に扱く。手の動きで絞られたかのように、舌へ味とも言えない味を感じた。汗のような塩気はなく、唾液より粘り気が強い。小水でないのは確か。

 

(おちんちんをあんなにペロペロしてる……)

 (おいしいのかな? わたしがあらったからきれいだけど……)

 

 純粋な囁きを聞きながら口淫をするのは、カルカには不可能だった。しかし、しなければならない。どちらかを切り捨てるなら前者以外にあり得ない。

 双子の声を聞かないようにするには、行為に夢中になるしかなかった。

 

(うーん…………)

 

 カルカが熱心にしゃぶってくれるのを見下ろし、男は迷っていた。

 初めてのフェラチオだから拙いのは仕方ない。舌は漫然と舐めてるだけだし、吸い付き方も今ひとつ。手で扱いているのは良いが、力の入れ方や触れる場所がずれて快感はそれほどでもない。

 しかし、はらはらと涙を流しながらされるのはとても興奮する。手付きは拙くても扱かれ続ければいずれは達する。

 だけれども、双子幼女に見せるには些か情操教育に悪いと思われた。

 

 口淫を見せてる時点で今更だろうが、そこまでならこの男の中では問題なしなのだ。

 

 色々わかってない双子幼女にカルカが泣いているところを見せてしまうと、これは悲しくて辛い行為と思われる危険性がある。幼女の未来にとってとても良くない。

 カルカにさせるのが良くないのかも知れない。かといって、カルカの頭を押さえてこちらが腰を振るのは、初心者には厳しいと思われる。

 こちらが動いて挿入を伴わず、カルカの負担が軽い行為。

 全てに当てはまるものがあった。

 

「ウレイ、机の上の瓶を取ってきてくれ。蓋がついて半分残ってるやつだ」

「はい!」

 

 ウレイリカが元気よくお返事をしてうんしょとベッドから降りると机に向かって駆け出した。幼女はご主人さまに命令されるのが大好きなのだ。

 

「もってきました!」

「あ、あの……旦那様……。何か、いけなかったでしょうか?」

 

 小瓶を受け取って、しゃぶっていたカルカの頭を軽く押す。

 中断されたカルカは、不手際があったのかと不安に目を揺らした。

 

「そういうわけじゃない。カルカはそこに横になってくれ。入れるわけじゃないから安心しろ」

「はい……」

 

 カルカがベッドに横たわり、男は小瓶の蓋を開けようとして、クーデリカの視線に気付いた。

 

 ウレイリカはご主人さまに命令されてお役に立てたのに、クーデリカは見てただけ。ご主人さまに命令されたいのはクーデリカも同じなのだ。

 ウレイリカにとってのクーデリカは、クーデリカにとってのウレイリカも、最大の理解者にして二人で一人の片割れ同士であり、互いが互いの唯一無二の存在でありながら、最大の好敵手でもある。

 ウレイリカだけが役に立って、クーデリカだけ見てるだけなのは、幼い自尊心を大いに傷つける。

 

「クーはこれを俺に塗ってくれ。よく伸びるからほんの少しだけでいい」

 「はい! ご主人さまのおちんちんにぬればいいんですね?」

「そうだ」

「だ、だんなさま…………」

 

 クーデリカは喜々として小瓶を受け取り、中身を少しだけ指先につけて両手で伸ばすと、躊躇なく男の逸物を握った。

 幼子の小さな手が勃起した逸物を握っている。

 幼子には行為の意味がわかってない。嬉しそうな顔で逸物を扱いている。カルカは目眩がした。

 

「さて……」

 

 男がカルカの体を跨ぐ。膝をついて腰を下ろし、カルカの腹の上に座るような姿勢だが体重は掛けてない。

 

「あ、あの……あんっ♡ あ……、なに、を?」

 

 カルカの上に乗った男は、ゆるく潰れた乳房を一揉みしてから左右から寄せて深い谷間を作った。

 

「十分だな」

 

 谷間の深さを確認した男は体を前に倒し、乳房の間に逸物を乗せる。そしてもう一度左右から乳房を寄せ、谷間に逸物を挟ませた。

 

「カルカはこのまま胸を押さえて俺のちんこを挟んでるんだ。俺が動くから手を離すんじゃないぞ?」

「は……、はい」

「こうやってちんこを胸で挟んでこするのをパイずりと言う。またさせるから覚えておくように」

「わ、わかりました」

 

 なめらかなカルカの肌に柔らかな乳房は挟むのに十分な大きさ。最強のローションによって滑りはよく、自分のペースで動かせる。カルカの顔を見ながら出来るのもよい。

 二度三度試しに腰を動かしてから、男は本格的に動き出した。

 カルカの深い谷間に包まれて、男の逸物がぬりゅぬりゅと往復する。

 

「あっ……ああ…………。わたしのおっぱいに……、ちゅっ……」

 

 順番なので今度はウレイリカに命じてカルカの頭に枕を差し込んだ。顔が上向けば、近付いてきた逸物と口の距離が近くなる。何度か唇すれすれまで突き入れると、カルカは唇を突き出すようになった。

 なお、枕の下に丸まったパンツを見つけたウレイリカは不思議そうな顔をした。どうして湿ってるんだろう?

 

 女が動くパイずりと違って、自分で動くのは面倒でも好きなペースを維持できる。

 女の胸で自慰をしているようにも感じた。

 

「ほら、ちゃんと押さえろ」

「はっ、はいっ! あぁ……旦那様のおちんこが熱くて……、おっぱいが火傷しないのが不思議なくらいです」

「そんなに熱いか? 今日はしないがカルカのまんこに入れて大丈夫かな?」

「それは! …………だいじょうぶ、です」

「そんな事をウレイとクーに聞かせて良いのか?」

「あっ!」

 

 男は腰を使いながら、にやにやと悪そうな顔をして言葉で嬲る。

 カルカは口にしてしまったことに焦るが、幸いなことに双子は言葉の意味がわからなかった様子。まんこってどこだろう、と言っている。

 

「まんこじゃなくて、おまんこって言うように。後でカルカに教えてもらえ。カルカだけから教わるんだぞ?」

「「はい!」」

「うぅ……だんなさまぁ……。あっ? あむぅっ!! んーんーー!」

 

 素直な双子と違って反論しそうだったカルカの口に、逸物をねじ込んだ。

 苦しくないよう三分の一ほど咥えさせ、カルカが舌を使い始めたら胸に戻る。

 フェラチオの時は緊張からか口内が乾き気味だったが、パイずりでは胸を押さえるだけだから余裕があるらしい。舐めさせると、亀頭と舌で糸を引くようになった。

 

「はあ……はあ……。ああ、旦那様に、こんな事をしていただけるなんて……。光栄です……♡」

 

 胸で挟んでいるだけなのに、カルカは息を荒らげて恍惚と目を潤ませている。

 

 乳房に挟む逸物が熱い。

 激しく往復しているので顔に近付いてくるのはすごい迫力だ。男の雄々しさと荒々しさに飲まれてしまう。

 使われているのは乳房で性交とは言えないが、女として扱われる実感に歓びがこみ上げる。

 こちらを見下ろす男の顔は美しく、真剣で、いやらしく、自分だけを見ていてくれる。

 挟んでいる胸が熱ければ、たっぷりと嬲られた女の部分も熱く潤っている。

 

(あっ! カルカさまのおまたがぬれてる?)

 (カルカさまはおもらししないよ?)

 

 濡らしていることを双子に見られても気にならない。

 口淫の時になりたかった夢中の状態になれている。

 するよりもされるのが良いのだろうか。自分には被虐の性質があるのかも知れないと少しだけ思った。

 

「そろそろ出すぞ」

「はい!」

 

 包む逸物が一層熱くなって脈打っている。

 その瞬間は男の顔と胸の間とどちらを見れば良いのだろう。

 どちらも見ていたかったが、男に頭を掴まれ上より下を向かされる。

 充血して膨らんだ亀頭が目前に迫り、先端の割れた尿道口から透明な汁が滲んでいるのが見えた。

 

「あっ♡」

 

 透明な汁を押し退けて、白い液体が吐き出される瞬間を見た。

 乳房の間で小さく震えながら、どぴゅどぴゅと飛ばしている。あんなにも狭い尿道口からこんなにも勢いよく大量に出てくるのは奇跡のように感じた。

 

「あ…………はぃ。ちゅっ……ちゅるる……、れろ…………んっ……」

 

 乳房から離れた逸物が近付いてきて、カルカは極自然に口に含んだ。

 舐めるより吸えと言われ、尿道に残っている汁も吸い取る。

 吸っている間に、頬に飛んだ粘塊が重みで流れ、落ちる前に指ですくって口に運んだ。

 

「その白いのなんですか?」

 「白いからおしっこじゃないですよね?」

「おいしいんですか?」

 「なめても平気ですか?」

「美味しいと言う方もいる。俺は舐めないけどな」

 

 お掃除中のカルカに代わって男が答えた。

 双子はお掃除しているカルカを羨ましそうに見たが。カルカは努めて気付かない振りをした。

 

 

 

 

 

 

「色々終わったから、今度こそ二人はちゃんと寝るんだ。寝坊したら勉強時間を増やすからな」

「「わかりました!」」

 

 双子は寝る前なのに元気いっぱいである。

 興奮して目が冴えてしまったのかも知れない。それでもスイッチを切ったように眠ってしまったのは幼子には遅い時間だからだろう。

 

「俺たちは寝る前に軽く湯を浴びるか。カルカも来い」

「はい、旦那様♡」

 

 最後までしたわけではないのだが、カルカの気分は旦那様と奥様である。

 

「カルカの胸は良かった。やっぱりパイずりは素晴らしい」

「お喜びいただけたのでしたら光栄です」

「今度は俺がしてやろう。さっきは口を使ったから、今度は指でしてやる」

「えっ? あっ…………、あああああああああああああぁぁぁああーーーーーーーーー♡」

 

 アルベドに初めての敗北を与えた指である。

 カルカは生まれてから今日までに達した回数と同じだけ達した。深さは過去最大の数百倍から無限倍。

 

 極地に至り、カルカは女に生まれた意味を悟った。

 

 翌日、首筋に付けられたキスマークをメイドたちに見られ、とても温かく且つ羨望の混じった目を向けられることになる。恥ずかしかったが、隠すことも消すことも許されなかった。

 終始涙目だったカルカは、男の嗜虐心を大いに満足させた。




本年(22年)に投稿したのは132話〜190話(本話)の59話
平均字数を9k字として約530k字

総文字数は1.6m字超でとても長い
こんなに字数が嵩んで一話から読み始める人がいるのだろうかと思わなくもないです
上には上がいると知ってますがやはり長い

本年最後の投稿、皆さん良いお年を


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天意

あけおめことよろです
小正月前なのでセーフ!


 何の憂いもなく快楽を貪った日々は永遠に続くようでしたが振り返ればあっという間だったように思えます。私が女になってしまった以上、様々な事に気を配る必要が出てきたのです。

 

 極端的に申し上げれば初潮が来ました。子供を産める体になったのです。間違っても兄の子を孕むわけにはいきません。今まで以上に注意を払う必要があります。尤も、交われる部分はそこだけではありませんから私達兄妹の一時が途切れることはありません。

 同時に私の商品価値が高まったことを意味します。有り体に申し上げれば政略結婚です。

 私はリ・エスティーゼ王国の第三王女です。国王の威信を高め権力を盤石とするための道具に過ぎません。結婚即ち閨閥の構築は今も昔も、おそらくは遥か未来に至るまでありふれた手段でありましょう。

 

 現在の私に婚約者はおりません。王国の未来を思えば嘆かわしいことです。もしも国王の権力が盤石であれば私が生まれる前から婚約者が決まっていてもおかしくありません。それが初潮を迎えた今になっても婚約者がいないのは、適切な相手がいないことになります。私を嫁がせて国王の権力が強固になるなら喜ばしいことですが、反対に嫁いだ先が王位を狙うようになっては目も当てられません。

 私のためにも王国の未来が暗いものになっては困ります。そうはならないよう子供の疑問を装った政策提言をしておりますが、間に合いません。王国はいずれ先細りとなり、残酷な刃で断ち切られることが決定しています。遅いか早いかの問題です。今後十年は平穏な暮らしを営めるでしょうが、その後は目に見えて衰退が加速していきます。

 兄は国王の命日すら予測してみせました。私は一応王国の第三王女ですから兄の妄言を窘めはしましたが、内心ではその日が思ったより近いことに胸を高ぶらせました。

 

 しかし、遅いです。その日までに私が嫁がされるのは確実です。

 私が未婚の間にその日が来るのなら帝国の後宮に入れられるかも知れませんが、夫を持つ何々夫人となった私はどうでしょうか。兄が予想する帝国の皇帝の為人では、精々が断頭台の露と帰す事になりそうです。私が帝国の皇帝でも同じようにするでしょう。

 

 さりとてそれはまだまだ先のこと。私が嫁がされる方が先になります。

 王宮で私の権勢が高まれば自分で婚約者を選ぶことも出来ます。私を思ってくださる優しい殿方を見出すことはけして不可能ではないはずです。これについては兄に何の相談もしておりません。すれば確実に大笑いされます。あんなになっても抜け目のない兄ですから、その後についても思索を巡らすことでしょう。いえ、私が何も言わなくても何かしらを思い巡らせているかも知れません。

 

 私が嫁ぐ際に近侍を一人二人連れて行くことは十分可能です。

 未婚の女に男の近侍が就くことは本来有り得ないのですが、その程度はどうとでもなります。クライムは別段問題にならないことでしょう。

 クライムは孤児であった時分に私が拾い上げ、育ててきたのです。いずれは立派な騎士になって私に剣を捧げると言ってくれています。クライムの経歴と忠誠の深さがあれば誰であれ納得します。しなくても私がさせます。

 

 問題は兄です。

 私の兄であることを隠しても、顔が焼け爛れた醜い男が受け入れられるわけがありません。兄の美しさは私だけが知っているのです。

 とはいえ、火傷を癒やすのは論外です。

 兄は火傷を負ってから数年が経つ今でも痛みに苦しんでいますが、それは私が塗り薬に酸を混ぜているからです。

 酸が混じっていても薬は確かなものです。痛みを和らげ、けれども皮膚を爛れさせ、爛れた皮膚を癒やして毒を皮下に取り込ませて。

 兄の苦痛を多少なりとも和らげようと黒粉を用い、痛みとともに兄の理性をも溶け流そうと目論んでいるのですが、兄から意思が失われる兆候はありません。我が兄ながら強固な意思をお持ちのようです。

 強固な意思を持つ兄の火傷を癒やしたら最後、私の元から逃げ出してしまうことでしょう。

 いいえ、逃げ出すだけなら可愛いもの。凄惨な復讐を連れて来ても不思議ではありません。

 

 私は火傷を負った兄を偶然見つけて献身的に看病をしました。火傷を負わせたのが私と知らなければ、私に心からの感謝を抱いている事でしょう。最近は見られなくなりましたが、兄の言動から私への感謝を見つけることは稀ではありませんでした。

 同時に兄を閉じ込めているのも私です。兄は自由を求めていました。私は様々な理由を上げて退けてきました。

 ある時から兄は諦めるか受け入れるかしたようで、自由を口にすることはなくなりました。口にしないだけで、内でくすぶっているかも知れません。

 兄の心を折るべく兄を自由にさせられない理由を毎日毎日何年も掛けて説き続けます。いつしか兄は私の気持ちを受け入れてくれました。

 それでも兄が私を恨む気持ちがなくなったわけではありません。

 

 目障りだから。鬱陶しいから。

 たったのそれだけで城下に火を放ち、千を超える人間を焼き払ったのです。

 自由と快適のためにそこまでする兄が明確に復讐を定めたらそれ以上の惨禍を引き起こすのは想像に難くありません。

 王宮内で不審死を続発させ、全ての容疑を私に向けるくらいは造作もないことでしょう。罪に問われた私は王女であることから処刑は免れても命果てるその時まで石の牢獄に繋がれることになります。

 自由を奪われた復讐に自由を奪うのです。いやらしい兄のことですから、私が囚われたら此れ見よがしに王国を繁栄に導くかも知れません。

 

 王国が滅ぼうと繁栄しようと私の生活に関わらなければどうなろうと構いません。

 しかし、私の自由が失われる恐れがある以上、兄の火傷を癒やすことは出来ません。

 かといって、兄を連れて嫁ぐことは出来ません。

 そして兄を手放すことも出来ません。兄がいるから私なのです。私の一部である兄を手放すことなど想像も出来ません。誰だって自分の手足を切り離すのは忌まわしいことです。それと全く同じことをどうして出来ましょうか。

 目下の悩みは嫁ぐ際に兄をどのようにするかとなりました。

 

 アインベルン家の娘と誼を交わしたのは幸いでした。彼女を使って兄を一時的に保護させれば良いのです。

 苦しんでいる人、困っている人を助けるのが自分の為すべきことと思い込んでる女ですから、火傷の苦痛に苛まれ続ける兄を放ってはおかないでしょう。

 兄が余計なことを喋ると困りますから、その時までに喉を潰しておく必要があります。筆談もありますから手指も落とすべきでしょうか。ですがそうしますと、兄の指を永遠に味わえなくなってしまいます。

 意思が強い兄ですので、言い聞かせても私からラキュースの庇護下に移ったと同時に全てを脳裏から追い払うことでしょう。

 あれもそれも困ってしまいます。

 ラキュースへはよくよく言い聞かせ、兄へは強い薬を与えて自我を失わせるしかないかも知れません。どのようになっても強い兄ですから、心が失われてもいつかきっと元通りになってくれることでしょう。

 

 いつかの算段をつけ、時間を掛けて準備を進め、その日が来ました。

 美しい悪魔が私の前に現れたのです。

 

 智に優れている私でも直接的な暴力には無力です。

 暴力がなくとも彼の美しい悪魔を謀ることは出来ません。あの方は私と同等以上に遠く深くを見通しています。

 

 私は全てを語り、悪魔と契約しました。

 

 その翌日のことです。

 いつものように兄の部屋を訪れ、あの方に兄のことを伝えなかったことに気付きました。あえて伝えなかったわけではありません。完全に失念していたのです。

 あの方がいらしたのは兄と交わった直後で胎に兄の精を収めたままでした。私としたことが気恥ずかしく思ったのでしょうか。それとも、兄の存在は余りに当たり前のことであって、一番に伝えたと勘違いしたのでしょうか。

 美しい方でしたから兄を惑わして欲しくなかった、と思わなくもなかった可能性を否定しきれません。兄はあのように醜い顔をしていますから、あの方が兄に興味を持つことはあり得ないというのに。

 兄のことはいずれの機会にお伝えすれば良い。この時はそう思っていました。

 

 そうして幾ばくかの月日が過ぎ去り、王都が炎に包まれます。兄が放った火の比ではありません。

 兄の放った火が私達兄妹の始まりなら、王都を包む炎は私と兄とクライムの、三人の未来を寿ぐ祝福です。

 私が望む未来が始まろうとしているのです。

 

 ですがその日、兄は王宮から姿を消しました。

 

 

 

 

 

 

「イビルアイ様、ティア様、ティナ様の三人は王国の冒険者であることを辞め、魔導国の冒険者になる。そんな噂が流れています。ラキュース様とガガーラン様は冒険者をしばらく休止するとか。あのラキュース様が冒険者を辞めるなんて信じられません。質の悪い中傷に決まっています!」

 

 青年騎士は努めて平静を装ってるつもりでも、顔は白く、指先が小さく震えている。

 見られていることに気付き、クライムはぎゅっと拳を作った。

 

「私を思ってそう言ってくれるのね。ありがとう。でも、もしも根拠がないただの噂話だったらラキュース自身が否定しています。それがない以上、噂は真実に近いことを伝えているのでしょう」

「……ラキュース様が身動きできない状態に、囚われているのかも知れません」

「ラキュースが囚われたならイビルアイたちが動きます。そのイビルアイは魔導国の冒険者になるのでしょう? ラキュースが冒険者に戻っても、きっと王国に戻ってくることはないのでしょうね」

 

 ラナーは儚く笑った。

 王国の王女であるラナーにとって、ラキュースは唯一といって過言ではない心許せる友である。そのラキュースが魔導国に属してしまえば、これまで通りに二人が会うことは不可能だろう。

 主の寂しさを払う術をクライムは知らない。無力が苛み、歯を食いしばった。

 

「ですが、ラキュース様はアインドラ家のご令嬢です。冒険者を休止したのはきっと何かわけがあるはずです。いつか王国に戻ってきてくれるはずです」

「そうですね、おそらくアズスが動くことでしょう」

「アズス様が!?」

 

 アズス・アインドラは、王国のアダマンタイト冒険者チーム「朱の雫」のリーダーであり、ラキュースの叔父でもある。ラキュースは冒険者である叔父に憧れ、生家を出奔して冒険者になったのだ。

 アズスの言葉ならラキュースに響くはず。クライムの顔は光明を見出したように晴れたが、ラナーの顔は沈んだまま。

 ラナーは顔を伏せ、黄金の異名の元となった豪奢な金髪を揺らした。

 

「アズスの言葉で戻るくらいならラキュースはあれほど憧れた冒険者を休止しないでしょう。仮にラキュースが戻ってくるとしても、イビルアイとティアとティナは魔導国の冒険者になってしまいました。ガガーランが戻ってくるかもわかりません。ラキュースだけでは、蒼の薔薇はもう……」

「ラナー様!?」

 

 立ち尽くすクライムに、ラナーはそっと体を寄せた。

 生憎、クライムは純白の全身鎧をまとっている。ラナーが与えた鎧だ。硬い鋼に包まれたクライムの胸元に、ラナーはこつんと額を当てた。

 

「ラキュースも、皆もいなくなってしまっても、クライムだけは私の傍にいてくれますか?」

「も、もちろんでございます!」

「ああ、クライム……」

 

 顔を上げたラナーを、クライムは直視できなかった。

 青い瞳は涙に潤み、けども白い頬は薄く赤らんでいる。

 

「クライム……」

 

 名を呼ばれ、ラナーを見下ろす。

 ラナーはクライムが見守る中、ゆっくりと目を閉じた。

 

 ラナーへの忠義を示すため、生活の全てを騎士になるために費やしてきたクライムは色恋を知らない。全てはラナーに捧げている。

 それでも、ラナーが求めていることは察せられる。

 

「ラナー様……」

 

 クライムは全身全霊の力を振り絞ってラナーの細い肩に両手を置き、そっと押した。

 求められることがわかっても、主であり王女であるラナーに騎士見習いに過ぎない自分が応えるわけにいかないのだ。

 

「鍛錬に戻ります!」

「……はしたないところを見せてしまいました。頑張ってくださいね」

「はっ!」

 

 クライムを見送り、一人きりとなったラナーは窓を閉めカーテンを引いた。

 

 クライムに見せた儚い美貌を熱っぽく歪め、硬い手が触れた肩を撫でた。

 

「クライムには色々と教えなければいけませんね」

 

 兄ならば、内心で何を考えていても望むことをしてくれる。さきのクライムが兄だったら、優しく抱擁してくれたことだろう。

 その後はラナーの時間が許す限り体でもって慰めてくれたはずだ。

 

 しかし、兄はもういない。魔導国にいる。あの日お会いした美しい悪魔の相談役に取り上げられた。

 ラキュースたちの話を聞く限り、火傷は癒やされたようだ。ラナーだけが知っていた美貌は、ラキュースをして見入ってしまうほどだとか。独占していた宝物を晒されるのは少しだけ残念に思う。

 兄の火傷を癒やさなかったのは、美貌を自分だけのものにしたかったのと、逃亡防止のためだった。兄が王宮から離れた以上、醜いままでいる必要はない。いつか確実に再会するその日に兄の顔をもう一度見ることが出来るのはとても楽しみだ。

 

 兄が姿を消した日、心臓を氷柱で貫かれたように感じた。少し考えればわかることなのに、ああも取り乱したのは兄が占める部分がそれだけ大きかったのだろう。

 

 兄が自分から姿を消すことはない。誰かに導かれたのだ。

 痕跡を消し存在を隠しきった兄を知る者は、二度引き合わせたラキュースだけ。しかし、ラキュースが私に断らず兄を連れ去るわけがない。

 ならば該当者は一人だけ。誰にも知られず気付かせず私の前に現れた美しい悪魔。

 あの方は兄から何を見出したのか。

 爛れた顔の向こうに美貌を見たのか、私を馬鹿な小娘扱いする智に触れたのか。

 

 ああ、何ということだろう!

 あれほど悩んだ兄の処遇を完全に解決していただいたのだ。

 

 私が嫁ぐ際に、兄をラキュースに一時保護させるのは、幾つもの決断に危険な橋を渡る必要があった。全てが想定通りに運んだとしても、今まで通りに兄と過ごすことは不可能だ。

 それがいまや、兄はエ・ランテルでかつての美貌を取り戻し、壮健に過ごしている。魔導国宰相閣下相談役に取り上げられたのであれば、ナザリックなる彼の地も知っているはずだ。

 私はその地にて平穏に過ごすことを約束されている。今はまだ何もわからないクライムに時間を掛けて色々と教えてあげることが出来る。

 そして、兄。

 クライムは妬くかも知れないが、私と血の繋がった兄と知れば無下にする事はない。

 クライムと、そして兄と、永遠の平穏を享受する事が出来る。

 如何なる智謀を巡らせても、王国全ての富を費やしても、王国を灰燼と帰す暴威があっても叶わない素晴らしい未来。

 幸運という言葉では収まらない。

 僥倖ですら足りない。

 運命、あるいは宿命。

 いいや、これが天意というものなのだろう。

 

「もう少しです。もう少し……」

 

 

 

 

 

 

「クライムをあてがいます」

「クライム……、あの女が執着していた人間のことね」

「はい」

 

 デミウルゴスが魔皇ヤルダバオトとして王都を攻めた時、手引したラナーはクライムを傷つけないことを条件とした。いつの日かナザリックに入る際もクライムを連れて行くことを望んでいる。

 ラナーがクライムに執心していることは、王宮どころか王都に出入りすれば聞こえてくる話である。

 

「ただ、問題が一つ。クライムは知覚異常の馬鹿なのです」

「馬鹿……それは死んだら治る馬鹿なのかしら?」

「死んでも治らない方でしょう」

 

 死ぬくらいで馬鹿が治る可能性があるならとりあえずでやっちゃうのがナザリッククオリティである。

 

「クライムは王都の通りに住み暮らしていたのをラナーに拾われました。クライムはラナーに大きな恩義を感じているそうで、いつか立派な騎士になってラナーに仕えるのが夢だそうです。そのように思うくらいですから、クライムはラナーを汚れなき清純な乙女と思い込んでいるようなのです。この事から目も耳も正しく機能していないことがわかります」

 

 乙女どころか初潮前に全ての穴を使ってきたラナーである。

 汚れなきどころか王国へ滅びを呼び込んでいるラナーである。こちらに関しては、ラナーが何もしなくても王国がいずれ滅ぶのは確実だったので、遅いか早いか、あるいは誰が滅ぼすかが違うだけとなる。

 

「目も耳も閉じているクライムですので説得は困難。一番の難点はクライムが女を知らないことです」

「それを教えるということね。どうやって教えるつもり?」

 

 アルベドの目がギラリと光った。

 色々とデリカシーのない男である。ここでもしもナザリックの女を使うとか言い出したら厳しく指導しなければならない。

 幸いなことに折檻され済みであった。

 

「娼婦を使います」

「娼婦を抱くくらいならとっくに女遊びを知っているんじゃなくて?」

 

 目と耳が閉じてるクライムなので、異常なほどに清廉潔白であろうとする。それでもクライムなりに様々な事情があると知っているので娼婦を厭う事はないだろうが、金で女の体を自由にすることを良しとしない。そんな金があったら女に与えて、自分は指一本触れないだろう。

 

「仰る通りでございます。そのために使いたい者がおります」

 

 男が上げた名は、アルベドにも覚えがあった。現在は魔導国と王国の戦端を開くため、工作の準備をさせているところだ。

 あれを使えばそちらが遅れる。アインズ様の覇道を遅らせるわけにはいかない。しかし、所詮は開戦の口実作りをさせているに過ぎない。

 戦争とは、始まりは何でも良いのだ。戦争をする能力と、始める意思だけが重要である。国民の士気を高める大義はどうとでもなる。

 検討に要した時間は短かった。

 

「いいでしょう。私の名前で使うことを許可するわ」

「ありがとうございます。クライムが女を知れば目の前にいるラナーを無視できなくなることでしょう。王女であっても女に過ぎないのです。クライムの目がラナーただ一人に注がれるのなら、ラナーが私に目を向ける余裕はなくなるに違いありません」

 

 日常的に、ソリュシャンとルプスレギナとミラとシェーダとラキュースと、帝都ではシクススとジュネに時々レイナース。シャルティア様は気ままに、アウラ様はちょっとご無沙汰である。そろそろモモン様とナーベ様がお戻りになると云うことはナーベラルも加わって、そう言えばユリのところに顔を出してないことを思い出す。素敵な秘薬のお店にも顔を出し、他の同業者からうちにも是非と言われているので近々考えている。

 言うまでもなくアルベド様が一番に来る。

 日常でこれなのだ。それをたった一人に注ぎ込めばどうなるか。ラナーは息をする間もなくなるだろう。

 

「クライムを呼び出す算段は既にございます。準備には時間が掛かるでしょうが、年を跨ぐことはないでしょう」

「……いいわ。あなたの思うようにやりなさい」

「はっ、かしこまりました!」




忠義者のクライムはきっと幸せになります(`;ω;´)

エントマのアンケートはまだ生きてるんですが拮抗したままです
どうしてこうなった(AA略


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言葉が通じない時は仕方ない ▽アルベド♯21

実験的に会話文に空行を挟んでみる
数えたらアルベド回が20話ぶり以上だったので反省


 クライムの調教計画以外にも報告することはあれやこれや。

 黄金の輝き亭の建て替えの段になると、アルベドは長い睫毛を小さく震わせた。

 既に報告書は受け取って目を通している。エ・ランテルにおいてそこそこに大きな事業であるが、アインズ様が判断為さったと言うなら自分が言うべきことは何もない。但し、自分には事前の報告がなかった。

 

 金を稼ぐために商売をするのは、目を瞑って心を落ち着けてから良しと判断した。言ってしまえば道楽の範疇だ。

 当面は商品の価格を設定せずに無償で提供するらしく、利益が出るのは先のことになるとか。

 

 そのあたりの事はアルベドもわかっている。

 商品の価格とは生産コストでは決まらない。生産コストで決まるのは賃金である。価格は需要と供給で決まるのだ。と言いたいところだが、そう簡単なものではない。

 これが生命維持に必須な食料品であれば、購入者はそれぞれが食料品の相場観を持っており、需要と供給に従って適切な価格に落ち着く。

 しかし、美容品の相場観は誰も持ってない。相場がわからないものにどうやって値付けをするのか。

 安くすれば利益が細る。高くしすぎて売れなければ意味がない。高価でも売れる価格はどこにあるのか。そこを探るために無償で提供し、欲しがる者たちが幾らまで出せるか探るのである。

 そのため、レイナースがローションに金貨100枚と値付けしたのはまず良かった。

 

 品質は抜群で、希少価値があり、高ければ高いほど売れる。

 いわゆるヴェブレン品である。品物ではなく情報に金を出させるのだ。

 

 続いての報告に、アルベドははっきりと不快を表した。

 

「あなたが出しゃばる必要はないわ」

 

 銀行についてである。

 

 男が見る限り、魔導国でも帝国でも、流通している貨幣が少なかった。理由は単純。貨幣の絶対量が少ないのだ。

 この地において、貨幣は金貨である。金貨は素材自体が高価で希少であり、だからこそ貨幣として用いられる。しかし、貨幣が金貨でなければならない理由はない。

 貨幣の役割は、極々単純にまとめれば生産と消費の橋渡し。偽造されては困るが、限られた量しかない金貨を使う必要はない。

 貨幣の量が限られていると、様々なところに弊害が出る。

 何かを生産しても買い手に金がないため売れない。鉄の鎌が一本あれば収穫高が増えるとわかっても、買う金がないので買えない。なのに誰も彼も借金だらけ。そんな事態があちこちで起きている。

 そこをどうにかするために銀行改革である。

 金貨の量は簡単に増やせないので、金貨と交換出来る兌換紙幣を刷る。上質な紙は貴重であるが、ナザリックなら問題なく大量生産が可能。

 そして信用創造である。

 こちらも簡単に説明すれば、銀行が預かった金の一部を払い戻しに備えた準備金としてとっておき、残った金を貸出に回す。それを繰り返して総額を増やすのだ。

 

 例えば、アルベドがアインズ銀行に金貨100枚を預ける。アインズ銀行は10枚を準備金として残し、残りの90枚をシャルティアに貸し出す。

 シャルティアはアウラに90枚を支払って、アウラはアインズ銀行に90枚預ける。

 この時点で最初は100枚だった金貨だが、アインズ銀行は190枚預かっていることになる。同じ事を繰り返せば、最終的に1000枚まで膨れ上がる。

 預けた者が一斉に金貨を引き出すと銀行はあっぷあっぷになってしまうが、そんな事はまず起こらない。

 流通する貨幣量が増えれば間違いなく経済は活性化する。大きく金を稼ぐなら銀行制度を整えるのは必須なのだ。

 

 信用創造がどれほど有用かは、アルベドもよくわかっている。しかし、受け入れるわけにはいかなかった。

 

 黄金の輝き亭建て替えはアインズ様のご判断だ。

 美容品販売は趣味や道楽。

 しかし、銀行制度は違う。魔導国において大きな改革となる。そんな大きな話に、この男を使うつもりは毛頭なかった。

 些細なことで意外にも役立ってくれるなら兎も角、役立たせようと思って働かせるつもりはない。

 働かせることも苦労させることもなく、穏やかに健やかに過ごしてくれればいい。傍にいてくれるだけで良いのだ。

 

「そう仰られましても、アインズ様はアルベド様と相談してから報告せよと仰せでございます」

 

「余計なことを!」

 

 アルベドは、斬りつける鋭さで吐き捨てた。

 表立って使うつもりは全く無いのにそんなに重大な話を、あろうことか自分を飛び越えてアインズ様に直接話している。アルベドでなくても、部下が自分を飛び越えて上に直接話を持ち込めば不快になって当然である。

 しかし、気に入らなくても無視は出来ない。

 ナザリックのシモベが、アインズ様のお言葉を聞かなかったことに出来るわけがない。

 

「……アインズ様には時期尚早であると報告しなさい」

 

「かしこまりました。それでは時期尚早である理由をお聞かせ願います」

 

「さっきも言ったでしょう? あなたが出しゃばる必要はないのよ。同じことを何度も言わせないでちょうだい」

 

「……何故私が関わってはいけないのでしょうか?」

 

「わからない子ね。私が必要ないと言ってるのよ」

 

「ですから、その理由をお聞きしています」

 

「仕方ないわね。どうしてもと言うなら聞かせてあげるわ」

 

 不快そうに見開かれていた瞼が下がり、赤い唇が孤を描く。

 男は跪きアルベドは椅子に身を預けているが、物理的な位置とは関係なく、アルベドが男を見る目は遥か下にいる者を見下す目だった。

 

「私が必要ないと言っているのよ!」

 

「………………」

 

 アルベドは、同じ言葉を繰り返した。

 言われる前にわかってなければならない事を、三回も繰り返させたのだ。もう少し賢い男だと思っていたが、買いかぶりだったのだろうか。

 男の愚かさを嘲笑うと同時に、期待していた自分が馬鹿に思えた。

 

「あら? 怒ったのかしら?」

 

 男の目が鋭い。

 アルベドの黄金の目に、赤と青の光が飛び込んでくる。

 

「……アルベド様に怒りを向けるとは、到底考えられないことでございます」

 

「ならその目を止めなさい。あなたの愚かさを見せられてただでさえ不快なのに、そんな目で見られたら尚更不快だわ」

 

「申し訳ございません」

 

「ふん……。困ったものね。顔だけは多少は見れたのに、お前からそんな目を向けられるなんて思ってもみなかったわ」

 

「……失礼いたしました」

 

「顔を伏せろと言ってるわけじゃないわ」

 

 男は深く頭を垂れたが、アルベドは白いドレスから足を伸ばし、爪先で男の顎を持ち上げた。

 一度隠れてから現れた男の顔は、唇を固く結び、眉間には深い皺が刻まれていた。余計なことを口走らないよう、歯を食いしばっているのだ。

 

「何か言いたそうな顔をしているわね?」

 

「……そんな事はございません」

 

「私の言葉が間違っていると言うのかしら? だったらその目を止めなさい。同じことを言わせないで。さっきも同じことを言ったわ。聞いた言葉が右から左へ抜けていくみたい」

 

「いえ、アルベド様の言葉は全て覚えております」

 

「つまり私の言葉を無視しているのね?」

 

「いいえ、違います。それはアルベド様の認識に瑕疵があるだけでございましょう」

 

 アルベドの嘲笑が凍えた。

 それはつまり、お前には目の前のことが見えていないと言うも同然である。

 

「目を開いていても見えないことがあると教えていただきました」

 

「っ! よくも言ってくれたわね!」

 

 直後、鈍い音が鳴った。

 男の頭が僅かに仰け反って、近くに空のグラスが転がっている。

 アルベドが投げつけたのだ。中身は男の髪と顔を濡らし、ぽたりぽたりと絨毯へ滴った。

 

「……答える言葉がないと手が出るのですか。シャルティア様ではありますまいに」

 

「ふふ………………、シャルティアと一緒ですって? この私が?」

 

 セバスに皮肉を飛ばすデミウルゴスとて、「君の頭はシャルティア並かね?」と言ったことは一度もない。

 ナザリックにおいて禁忌とすら言える言葉を、この男は投げつけたのだ。

 

「私は適切に行動しているだけよ。言葉が通じない者に言葉を返しても意味がないでしょう? 獣を躾けるのに言葉は必要ないのよ? 体で教えなくてはならないわ」

 

「…………………………さようでございますか。それでは私も同じようにさせていただきます」

 

「えっ?」

 

 パァン、と。

 乾いた破裂音が響いた。

 アルベドの顔が少しだけ右を向き、左の頬が熱を持ち始める。何をされたかわからず、呆然と頬を押さえた。

 

「言葉を返しても意味がないのでしょう? 体へ伝えさせていただきますよ」

 

 アルベドは立ち上がった男を見上げ、右手が開かれて左へ流れているのを見て、男がしたことを悟った。

 自分は、この男に、頬を張られたのだ。

 

「よくも私にぃ、キャッ!?」

 

 反対の頬も張られ、アルベドは椅子から転げ落ちた。床に崩れ落ちたまま、目に涙を溜めて男を睨みつけた。

 

 防御力ではナザリック随一のアルベドだ。頬を張られただけでダメージはなく、痛みも大したものではない。精々が頬を打たれたのだとわかる程度だ。

 しかし、頬を打たれたのだ。その上、床に這わされている。

 ナザリック守護者統括である己に、何という侮辱と屈辱。怒りが頭も体も熱してくる。

 

 アルベドが怒り心頭になったのを見て、男は自分がしてしまったことに血の気が引いた。

 己の愛しき主人に手を上げてしまったのだ。

 

「アルベド様、申し訳ございません! お怪我はございませんでしょうか!?」

 

「近付かないで!」

 

 叫びにも等しい静止の声に、男が止まったのはほんの一瞬。

 傍へ駆け寄り跪くと、頬を押さえているアルベドの手を取った。

 

 アルベドの白い頬が薄っすらと赤くなっている。

 美顔は険しく歪められ、黄金の瞳は怒り故か、猛るドラゴンのように縦に裂けていた。屈辱か怒りか、溜まった涙が溢れそうだ。

 アルベドの姿も目に入った。床の上に仰向けに倒れて、上半身だけを僅かに起こしている。

 装いは常の白いドレス。

 スカートはタイトで大きな尻の丸みを見せつけながら、サイドが開いており太ももと丸尻の半分以上を露出している。

 上は胸元を飾る蜘蛛の巣を模した黄金のネックレスが視線を誘導する。ネックレスの下にはアルベドの乳房が見えている。上乳を見せつけ、豊満な乳房が深い谷間を主張する。

 どうしようもなく性的で、男を誘う服装だ。劣情を誘った。

 

「なっ、何するつもり!?」

 

「アルベド様……、私の想いを、体でお伝えします」

 

「あんっ!」

 

 男はアルベドを床の上に転がして、豊かな乳房を正面から鷲掴みにした。

 少し冷たい柔肉に指が埋まり、素晴らしい感触を伝えてくる。

 

「やっ、止めなさい! 私が止めなさいと言っているのよ!」

 

「生憎、愚かな私には言葉が通じないのです。アルベド様も私の言葉を聞いてくださらないでしょう? アルベド様のお体から答えを引き出そうと思います」

 

 男は酷薄に嗤った。

 

 何度も体を交えてきたが、頬を打たれるのが初めてならこんな風に迫られるのも初めてだ。

 少しだけ。

 ほんの少しだけをほんの一瞬だけだったが、アルベドはこの男を、怖いと思ってしまった。

 

「ああっ!?」

 

 ドレスをずり下げられる。

 大きくて柔らかい乳房が、たゆんと揺れて曝け出された。

 

 

 

 

 

 

「乳首が立っていますよ。アルベド様も興奮なさっているのですね」

 

「お前がっ…………、おっぱいを触るからよ! くぅっ……」

 

 ドレスの上から数度揉んだだけなのに、薔薇色の乳首は赤みを増して尖っていた。

 アルベドの意思とは関係なく、アルベドの体は応えるようになっている。男の欲望に応え、アルベド自身も快楽を貪れるように。

 

 アルベドの腹に馬乗りになった男は、両手を使って両の乳房を揉みしだいている。

 邪魔なネックレスは外して椅子の上に放り投げた。

 

「興奮していることは否定しないのですね」

 

「っ!」

 

 アルベドはきっと男を睨みつけ、赤くなった顔を反らした。その通りだったからだ。

 かつての快感を思い出してしまっているのか、それとも男が言うようにおっぱいを揉まれて興奮してしまっているのか。

 上に乗られておっぱいを好き勝手に触られて。それなのに気持ち良いと感じている。怒りの余りに引いた血の気が全身を駆け巡っている。体が熱くなっている。

 

「ひゃん♡ …………い、いまのは違うわ!」

 

 思わず甘い声が出た。

 いつもされていたように、緩やかな乳揉みで焦らしてから乳首をきゅうと抓られたのだ。体が覚えているし、声が出てしまっても仕方ない。

 歴然とした理由があるのに、望んで感じたいと思ったわけではないのに、男はくつくつと嗤った。

 

「わかっております。アルベド様がお望みのことを私がわからないわけがありませんから」

 

「な、なに言って、るのよ……。あんっ、……あっ、だめぇ…………」

 

 男の顔が近付いてくる。

 キスをされるのかと身構えていたら、男の顔は乳房に埋まった。

 胸に頬ずりをされ、温かい吐息を感じる。

 僅かに濡れた感触があり、鋭く甘い痛みが胸を刺した。

 

「あぁん! だめぇ、乳首噛んじゃだめなのぉ。痛いのに、気持ちよくて……♡」

 

「気持ち良いのなら駄目なことはないでしょう?」

 

 口の中にアルベドの乳首がある。

 滑らかで柔らかな乳肉の先端で、自分は違うのだと自己主張している。舌触りも当然違う。勃起した乳首は弾力があり、吸い応えがあれば歯応えもあった。

 根本を歯で捕えて先端を舐めてやれば、ますます固くなってくる。

 

「あっ、んぅ……、きゃうぅううん♡ やぁ、かまないでぇ……。アルベドの乳首とれちゃうからぁ……。おっぱい好きにしていいから……、優しくして……」

 

「はて? アルベド様は言葉が通じないと仰ったのですから、お言葉通りに受け取ってはいけませんね」

 

「そんな……。だめよだめぇ! おっぱいいじめないでぇ♡ あふんっ……、むぅうぅっ!? んぅ……、ちゅぅ……れろ……。んっふぅ♡」

 

 甘えた声で鳴くくせに、言葉では拒みたがる艶やかな唇に指を突っ込んだ。

 指は噛まれることなくぬめった舌に包まれる。蠢き続ける舌は、指を指以外の何かに見立てている。

 アルベドが自分で自分を慰める時、指やディルドをしゃぶる事があると聞かされている。

 

「んうっ!? ひゃめ、ひゃめへ……♡」

 

 左手の中指だけを突っ込んでいたが、人差し指と薬指も追加した。

 三本の指が揃えて入れられるのなら、それよりも太くて大きい逸物を根本まで頬張れるアルベドには問題にならない。

 けども指は開いてぬめる舌を摘んだ。

 舌を動かせない。くぐもった声でしか喋れない。口も閉じられない。開いたままの口には涎が溜まり、溢れ出した。

 

「涎を垂らしてしまうなんて、はしたないですよ。はしたない姿のままでいるか、それとも綺麗にして欲しいですか?」

 

「ひ、ひいはら……」

 

「かしこまりました」

 

「あっ、んむぅ…………。ちゅうぅ……、れろ、ちゅるる……♡ んんっ、んっんっ……、れろぉ……」

 

 乳首を吸っていた口がアルベドの口を塞ぎ、溜まった涎を吸い出した。

 じゅるじゅると卑猥な水音が口元で鳴って、アルベドは頬を染めたがどうにもならない。溜まっていた涎が減っていく。あらかた吸われてから舌が入ってきた。

 舌を入れられてしまっては、条件反射で応えてしまう。アルベドからも舌を伸ばし、互いの舌を味わうように絡み合う。

 深い口付けを交わしながら、男の手は下がっていった。

 

(ダメって言ったのにキスしちゃってるぅ。あぁ、私も舌を入れちゃってこの子の唾を飲んじゃってるわ。こんな事するつもりなかったのに。でも……、だめ……。おっぱい触られて、キスもされちゃって。私の体が欲しがっちゃってる……。あっ? 今度はどこを触るつもりなの!?)

 

 男を誘う性的なドレスだ。

 スカートの両サイドは大きく開いて、太ももと尻の丸みを見せつける。

 その大きく開いた隙間に、男の手が忍び込んだ。

 むぎゅうと生尻を強く掴み、さわさわと撫で始める。

 尻の柔らかさを楽しんでいた手指は、太ももをさすりながら内股へ入ってくる。

 太ももの根本付近まで開いているスカートだ。流石に下着は隠れているが、指数本分もずらせば見えてしまう。

 そんなところに入ってくるのだから、触られないわけがなかった。

 

 長い口付けを終え、唇同士が唾液の糸を引きながら離れる。

 男はアルベドを見下ろし、いやらしく笑った。

 

「濡れていますよ」

 

「くぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 

 男の指は、アルベドの股間に届いていた。

 スカートの中は熱がこもって蒸れている。内股はしっとりと汗ばみ、指に吸い付く。目当ては頼りない薄布が覆うアルベドの中心。辿り着いた指は柔らかく沈んだ。

 

「私が触りやすいように股を開いてくださったんですか? アルベド様はここを触って欲しかったのですね。これはこれは、期待に応えなければなりません」

 

「あんっ♡ ゆびいれちゃ、だめぇ……。アルベドの……、だいじなところなんだからぁ」

 

 サキュバスのアルベドが履くショーツだ。

 布地面積はとっても小さい。陰毛がないので下腹は包まれておらず、割れ目の上端が見えかねないほどのローライズ。肝心の割れ目を覆う部分は指一本分の幅しかなく、少し引っ張れば食い込んでしまうし、何かの拍子でずれてしまう事もある。そして後ろは紐になっている。スカートを脱げば、肛門はほとんど丸見えだった。

 アルベドを求める手指が触れれば、侵入を拒むことは出来なかった。

 

「あっ、あっ、あんっ♡ あんっ♡ あっ、だめぇ……、いいのぉ♡ おまんこきもちよくなっちゃうぅ♡」

 

 男の指は、あっさりと女の穴へ侵入した。

 愛欲に潤んだ雌穴は一瞬たりとも抵抗することなく指を飲み込み、体の内側を犯させている。

 

 アルベドはダメと言いながらも男を抱きしめ、唇をねだった。

 上の口ではじゅるじゅると派手に音を立て、下の口では密やかにくちくちと鳴らしている。

 一本だった指が二本になっても、アルベドは受け入れる。

 小さなショーツはとっくに役割を放棄した。履いていても、アルベドの愛液は吸い切れる量ではなかった。乱暴に引っ張られて膝まで下げられた。伸縮性抜群のショーツはその程度で破れたりしない。

 

「あっ、あなたも、おちんぽ立たせてるじゃない! わたしだけじゃないわ!」

 

 アルベドは膝を立てて太ももを男の股間に押し当てた。触れなくてもズボンの奥で膨らんでいるのは見て取れる。

 押し込められて窮屈そうにしている肉棒に、アルベドはズボンの上から包んでやった。

 

「一番始めに、アルベド様も、と申しましたよ?」

 

「こんなに立たせて……。どうするつもり?」

 

「何度もしているのだからおわかりでしょう?」

 

「………………私のおまんこに入れるつもりなのね?」

 

「その通りです」

 

 言葉を交わしながらもちゅっちゅと軽い口付けを挟んで、男は少しずつアルベドのスカートをずり下ろしていた。

 腰から一対の黒翼が生えているので、アルベドのドレスは基本的に上下で分かれている。スカートだけを下ろすことが出来た。

 アルベドは僅かに腰を浮かせて脱がせるのを手伝い、無毛の股間が露わになってしまうと手で隠した。

 隠せていた時間は短く、スカートがショーツ諸共脱がされると、男の手で退けられてしまう。

 

「ああっ!? だめやめてみないでぇ……♡」

 

 挙げ句、大きく股を開かされた。

 濡らしてしまった女の穴を見られてしまっている。

 感じてしまっているけども、今回は望んで始めたわけではない。だというのに、淫らに熟れた肉体は次の行為に期待している。

 心を裏切った体が恥ずかしい。見ていられず、両手で顔を覆った。

 

「ひゃぁあっ♡ あんっ、やあぁ、だめ、なめないでぇ♡ ぺろぺろしちゃだめなんだからぁぁあ♡」

 

 体の真芯を貫く官能に釣られ、顔から手を離せば、自身の股間に男が顔を埋めていた。

 指で広げられ、内側を舐められている。

 柔らかくぬめった舌が陰核を弾き、尖らせたら膣へ入って内側を舐める。

 背が反って尻が跳ねた。

 甘く叫びながら男の頭を押さえ、もう一方の手では自身の乳房を揉みしだく。

 

「くぅううううぅううぅーーーーーーつ♡」

 

 充血しきって弾けそうな乳首を捻り、顎を反らせて舌を伸ばした。

 股間からはぷしゃっと愛液が吹き出て男の顔を濡らす。両膝を立て爪先も立て、きゅうっと力が入って折り曲がった。

 ドレスはずり下げられたくし上げられ、下腹に刻まれた淫紋が淡い光を放ちだす。

 

 子宮が求めている。

 サキュバスの本能と女の性が結託して、子宮に注いで欲しいと訴えている。

 欲しいのは。男の精液だ。

 膣には指や舌ではなく、逞しい逸物を突き立てて欲しい。

 指や舌では届かない深いところに触れて欲しい。

 強引に始まった行為だが、理性は体に抗えなかった。

 

「だめぇ……。もうほしいのぉ……。いじわるしないでぇ……」

 

「何が欲しいのですか?」

 

 立場的にはアルベドが上で男が下。始まりがどうあれ、アルベドが求める形にしなければならない。

 アルベドは悔しそうに唇を噛み、赤い顔を背けて、

 

「…………おちんぽが欲しいの。私のおまんこに、あなたのおちんぽを入れて欲しいのよ……」

 

「入れるだけでいいのですか? アルベド様は入れるだけでは満足なさらないでしょう?」

 

「くっ…………。私のおまんこにおちんぽを入れて……、いっぱいかき混ぜて! 私の腟内で射精して! あなたの熱いミルクを……、精液をいっぱい出して! …………私の子宮をあなたの精液で満たして欲しいの。私のおまんこはあなただけのものだから、私の子宮はあなたの精液だけを入れるところだから。だから……、あなたと、セックスしたいのよ……。おねがい……、私を愛して。愛して、ください……」

 

 激しかったアルベドの言葉は段々弱々しくなり、最後は哀願する響きになって、潤んだ目で男を見上げた。

 

「ここにあなたを、入れてください……♡」

 

 大きく股を開いて、潤んだ割れ目を自ら広げた。

 割れ目の内側には艶めかしい肉色の媚肉が隠れている。

 何度も嬲られ何度も達したクリトリスは包皮が剥けてつるりとしている。

 愛液に紛れて少々の小水を零した尿道口は媚肉に押し潰され、下の口が開け閉めするのに合わせて僅かに口を開く。

 アルベドが欲しがっている雌穴は口を開いたままだ。物欲しそうに涎を垂らし、男を誘っている。

 男の獣性を煽り、男の欲望を受け止め、欲するままに快楽を貪って快楽を与えて、男と一つになるためだけの淫らな器官。

 

 男は余りの淫らさに唾を飲み、唇を濡らすアルベドの汁を舐め取った。

 ズボンのベルトに手を掛けた瞬間、男の股間に釘付けだったアルベドは気付かなかったが、少しだけ眉根を寄せた。

 悩んだが、脱がないわけにはいかないのだ。

 

 男がズボンを脱ぎ閉じ込められていた逸物が跳ね上がると、アルベドは目を丸くした。

 

「どうしたのそれ?」

 

 乗りに乗っていたアルベドは、思わず素で返してしまった。

 

 

 

 

 

 

 言うまでもなく、ここまで全て演技である。

 

 アルベドは、愛しい男が自分を飛び越えてアインズ様に話を通したことを不快に思ったのは本当だが、その程度なら軽く注意すれば済む話である。

 男の方も、銀行の話をアルベドとしたかったのは本当でも、アインズ様に報告することは「時期尚早」と答を得た。

 世に並ぶものがない深い叡智を誇るアインズ様なので、最悪でもそれだけ報告すれば問題ない。とは言えそれだけでは相談役の名が泣こうというもの。時期尚早である理由を考察するのは自分の仕事である。子供ではないのだから、何から何までアルベド様に教えていただくわけにはいかないのだ。

 互いにヒートアップしていったのは事前に打ち合わせた通りである。

 

 怒ったアルベドの手が出るのは、シャルティアとキャットファイトをする事から間々あることではある。

 対して、男の方はそもそも怒る事がない。基本的に温厚な男なのだ。例外はアルベドが関わった時だけ。

 それだって手が出ることはない。物理的な強制力で相手を黙らそうと思えば、ソリュシャンとルプスレギナに玩具を提供するだろう。あるいはミラを使うか。誰もいなければカタナブレイドを抜く。その場で敵わぬと見れば一時退却し、あらゆる手段を用いて物理的強制力を行使する。

 相手を黙らそうと平手打ちするのは、この男の選択肢にないのだ。

 それでもするとすれば、実質的な初対面の時にシャルティアから請われたように、相手から望まれた時だけである。アルベドが望んで平手打ちをさせたのだ。

 

 アルベドがこんな事をしたがったのは、いつぞや中断してしまった喧嘩の後の仲直りセックスをしたかったからである。

 あの時は互いの非を糾弾しあって盛り上がり、アルベドの涙で有耶無耶にした。

 つまらない争いはそれで終わったが、心と体はとても盛り上がったままだった。あの状態でセックスをすればとても良かったはずである。

 が、とても残念なことにお仕事時間中だった。

 とても優秀なアルベドなので、お仕事時間が少々減っても問題なかったが、憎たらしいことにシャルティアが邪魔に来た。その上彼はアインズ様に呼び出されてしまったので仕方ない。

 その後は大浴場で良いことが出来はしたがそれはそれ。

 喧嘩の後の仲直りを是非にもやってみたかったのだ。

 

 互いに手を上げて盛り上がって、凄く順調に始まろうとしていたのに、アルベドが一瞬で素に戻るほど驚いてしまったのは、男の股間を見てしまったからだ。

 何度も見ているし舐めているし咥えているし握っているし胸でも挟んだし素股もしたし膣が形を覚えているくらいなのに、アルベドは初めて見る股間だった。

 

「なんで生えてないの?」

 

「うっ…………」

 

 男の股間は、アルベドと同じ無毛だったのだ。

 前回は銀色の髪とは違って淡い金色の陰毛が逸物の上に茂っていた。

 アルベド的には、陰毛にこもった匂いが芳しく、セックスの時にこすれるのもちょっとしたアクセントで好ましい。

 ないよりあった方がずっと良いのに、ない。

 どうやら剃ってしまったらしい。

 

「……ソフィーに剃られました。根本まで咥えたまま動かなくなりまして、理由を聞いたら毛にこもってる匂いにうっとりしてしまったとか。初めてなのだから初めて用にして欲しいと言われまして」

 

「仕方ない子ね……。でもちゃんとおちんぽミルクを飲ませてあげられたのかしら?」

 

「ソフィーは下手ではなかったのですが度々中断してしまい、最後はジュネの口に放ったのを口移しで与えられていました」

 

「ジュネ……、確かあなたの下についたヴァンパイア・ブライドね?」

 

「はい。ソフィーとは上手くやっているようです」

 

「ふぅん。どんな形でも飲ませてあげられたのならいいでしょう。これからもお願いするわね」

 

「かしこまりました。私の娘でもありますから」

 

「私とあなたの子供よ♡ それにしても…………」

 

 ソフィーの教育と成長はまだまだこれからも続く。先のことは脇に置き、目の前のことである。

 アルベドは、前から横から上から、男の股間をじっくりと鑑賞した。生えていた方が良いが、初めて見る無毛の股間は新鮮でもある。

 

「あの…………、そんなに見ないでいただけますか?」

 

「あら?」

 

 アルベドは元より、女たちに股間を見られるのは日常である。

 逸物を握られない日も、舐められない日もない。

 しかし、好奇に目を輝かせて鑑賞されるのは些か居心地が悪い。

 しかも、涙を流して挿入を乞うた大淫魔が、肉欲を忘れて感心したように唸りながらじいっと見つめてくるのだ。

 アルベドの淫らな姿と部屋に充満する淫臭で萎えはしないが、居心地が悪ければ決まりも悪い。

 一言で言えば照れていた。

 

 そっと顔を逸らす男を見て、アルベドの胸はキュンと高鳴った。

 黒翼がバッサと音を立てて持ち上がった。

 

(何よこの子こんな顔もできるの初めて見たわ可愛いじゃない私に一体何をさせたいのかしらそんな恥ずかしそうな顔しちゃってさっきは私に恥ずかしいことしたんだから今度は交代して私にして欲しいっていうことなのねそうなのねわかったわ!)

 

 アルベドは慈悲と慈愛の象徴に相応しく、女神の如く優しい顔で男に笑いかけた。

 

「うふふ……。あなたのおちんちん、とっても可愛いわ♡」

 

「!?」

 

 娘と同じセリフである。

 ちなみに、ソリュシャンとルプスレギナも同じ言葉を口にした。ミラは態度こそ少し違ったが、賢明なことに口にはしなかった。

 ラキュースに見せたら絶対言うので、そこそこの長さになるまでラキュースとはしないつもりでいる。

 ソリュシャンとルプスレギナに言われても心に来るものがあったのに、アルベドはそれ以上。

 

「あなたの可愛いおちんちん、私がいっぱい可愛がってあげるわ♡」

 

 攻守交代。

 男はアルベドに押し倒された。




今更ですが昨年はAIアートの躍進が凄まじかったですね
進化が止まることないだろうし、一体どうなってしまうのだ


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スキル乱舞 アルベド▽♯22

本話約13k字


 アルベドはナザリックの守護者統括である。アルベドに命令出来るのはアインズのみ。魔導国においては宰相閣下。魔導王に次ぐ地位にある。どちらでもとっても偉い。

 その反動か、シャルティアほどではなくも被虐を好むところがあった。組み敷かれるのが好きだし、先の演技では台本に平手打ちを組み込んだ。

 だからといって、嗜虐がないわけではない。サキュバスなのだからされる一方であるわけがなく、自分から攻めるのも大好きである。

 

 攻めと受け。あるいは矛と盾。

 双方を兼ね備えた最強無敵な大淫魔がアルベドである。

 

 

 

 

 

 

「おちんちんは大人なのにお股は子供ね」

「ぅ………………」

 

 何度もいかされて、演技込みとはいえ泣きながら入れて欲しいと言ったくらいだ。いますぐ欲しい。

 しかし、アルベドは耐えた。

 挿入すれば凄く気持ち良いのは確かでも、それではお股が見えなくなってしまう。

 

「私にしこしこされて気持ちいいの? おちんちんがピクピクしてるのがとっても可愛らしいわ」

「っ、アルベド、さま……!」

 

 アルベドはにたりと嗤って、男の耳孔に舌を差し込んだ。少し冷たい耳朶を唇に感じ、舌にはたっぷりと唾を乗せる。

 

 くちゅくちゅと粘着質な水音が頭の中で鳴り響く。水音は目の前の情景に重なって、アルベドの手指が鳴らしているように感じられた。

 

「ツルツルで子供みたいだけど、私には気持ちよくなってるのがわかるわよ? おちんちんの先から透明なおつゆが出てきてるでしょう? おちんちんが気持ちよくなると出てきちゃうのよ。ほら……、おちんちんが気持ちいいって正直に言いなさいな♡」

「は、い……。気持ちいい、です」

「うふふ、正直で良い子ね。とっても可愛いわ♡」

「うっ!」

 

 サキュバスは男の精液を滋養として体に取り込む。どこでも吸収可能なスライムではないため、口か子宮に注がれなければならない。

 挿入はまだ早い。それではお股が見えないからだ。

 口淫なら無毛の股間が目の前に来る。口で精液を飲むことも出来る。しかし、彼の顔を見ることが出来なくなる。上目遣いで見えなくはないが不十分だ。

 無毛の股間を見られて、恥ずかしがってる彼の顔が一番のご馳走なのだ。股間と彼の顔を同時に見ながら愛撫を行うにはどうすればいいか。

 聡明なアルベドは一瞬で答えを出した。手コキである。

 

 床の上で体を起こした男の後ろから抱きつき、しゅっしゅと扱いてやっている。

 擦り合わせた男の頬はいつもより熱い。顔を赤くして目は遠くの床に向けている。そのくせ下半身には血が集まって、子供のようなのにそこだけ大人な男の一部が屹立していた。

 

「あはっ、おちんちんから出てくるおつゆってこんなに伸びるのね。私のおつゆよりずっとネバネバしてるわ」

 

 アルベドは尿道口に滲んだ透明な雫を指で押さえ、そっと上げる。白い指先と亀頭とを銀色の糸が繋ぎ、アルベド汁の倍以上伸びて千切れた。

 指を擦り合わせて粘り気を確かめてから口に運んだ。

 

「おつゆも美味しいわ。可愛いおちんちんからこんなのが出てくるなんて何だか不思議ね?」

「あ、アルベドさま……、そろそろ……」

「まだダーメ♡」

 

 アルベドは、くすくすと笑って頬ずりをする。

 気持ちよくしてあげたいし、自分も気持ちよくなりたいが、発見したばかりの可愛い顔をすぐに終わらせるなんて余りにも勿体ない。アインズ様だって勿体ない精神を発揮しておられる。アインズ様第一の忠臣である己が欲望に飛びついてはいけないのだ。

 

「それに気持ちいいのはおちんちんだけじゃないでしょう? 折角あててるのに何も言ってくれないなんて寂しいわ」

「も、もちろんわかっております!」

 

 アルベドが身につけているのは、喉を覆う白いネックガードと靴だけになっている。白いドレスは抱きつく前に脱ぎ捨てた。

 男が着ていたシャツはアルベドのスキル「脱衣」によって脱がされた。

 アルベドは男の背中に密着している。たわわな乳房を押し当てている。

 

 男が背中に感じる二つの柔らかな双丘。その中央にある少しだけ尖っているもの。

 けども背中とは鈍感な部分で、小さな突起は感じ難い。そこをきちんと感じられるように、アルベドは絶妙に体を動かす。

 尖った乳首が固い背中に擦られて、男へ存在を伝えると同時にアルベドにも快感を覚えさせる。

 

「私がおっぱいを押し当てるなんてあなただけなのよ? もっと喜んでくれてもいいんじゃないかしら?」

「私だけにとは何と勿体ないお言葉。光栄の至りであります! 先程揉んで吸った時は歓喜に満ち溢れこの世に生を受けた歓びを噛み締めておりました!」

「もう、あなたっていつも大袈裟なんだから。でも私のおっぱいなんだから当然よね♡ もう一度吸わせてあげるわ♡」

 

 アルベドは後ろから支えていた男を引き倒し、自身の太ももに頭を乗せてやった。

 男の頭を優しく抱き、軽く体を倒せば白い乳房が男の頬に触れる。

 

「私の可愛い赤ちゃん、あーんしてごらんなさい♡ ママのおっぱいをいっぱい吸っていいのよ♡」

 

 充血したバラ色の乳首が男の唇に挟まれ、強く吸われる。仄かに色づく小さな乳輪ごと口の中に含まれた。

 ちゅうちゅうと吸われるだけでなく、れろれろと舐められているのを感じる。

 乳首も開発しきってるアルベドなので、稚拙に吸われるだけでも快感がある。誰が吸ってるかが重要だ。

 

「あっふぅん♡ あなたにおっぱい吸われてるだけでとっても気持ちいいの。さっきも乱暴におっぱいをちゅうちゅうされて何回もイッちゃったわ♡ あなたのおちんちんも気持ちいいのね。ネバネバしたのが増えてきたわ。もっともっと気持ちよくしてあげる♡」

 

 アルベドは右手を軽く凹ませて皿を作り、赤い唇を尖らせてじゅるりと唾を垂らした。

 唾を溜めた手のひらは逸物を握り、手コキを再開する。塗り伸ばされた唾は細かな気泡を幾つも作って白く濁り、にちゃにちゃと小さな音を立てるようになった。

 

 膝枕をして、授乳のように乳首を吸わせるのは以前もやったことがある。

 その時と違うのは、本当に授乳できるようになったこと。

 

「!!」

「ちゃんと飲むのよ? 私のおっぱいを飲んでいいのはあなただけなんだから。あなたは私のミルクを飲んで、私はあなたのミルクを飲むの。そしてまた私が飲ませてあげて、私が飲んで………………。うふふ、世界が滅んであなたと私の二人きりになっても大丈夫ね♡」

 

 男の口に隠れたアルベドの乳首から、滋味と滋養に溢れたミルクがピューっと噴き出した。

 直飲みなのでアルベドの温かさがある。仄かな甘みはアルベドの体臭か。味は言葉に尽くせぬ天上の美味。

 男がごくごくと喉を鳴らして飲むに連れ、アルベドの繊手が包む逸物が張り詰めていく。

 

 経産婦となったサキュバスだけが出せるサキュバスおっぱいミルクは、飲んだ男を強制的に勃起させ、女の体に出すまで萎えさせないのだ。

 

「おちんちんがビクビクしてとっても苦しそう。でも大丈夫よ。私のお手々で気持ちよくしてあげるから♡」

 

 アルベドの乳首を無心で吸い、逸物を包む心地よさに浸っている男は、アルベドの指が一瞬だけ根本を挟んだことに気付かなかった。

 

 アルベドの手が加速する。様子を見ながら焦らしていた時と違って、逸物を握る手は根本から先端までを休むことなく往復する。

 にちゃにちゃにちゃにちゃと粘着質な音を立て、アルベドの美声が、

 

「可愛いのに逞しくてエッチなおちんちん♡ とっても熱くてとっても固くて、見てるだけでエッチな気持ちになっちゃうわ♡ 胸がきゅんきゅんしてくるの。おまんこがうずうずしちゃって、エッチなおつゆが出てくるのわかっちゃうわ。あなたのおちんちんだからこうなるのよ? 私が好きなおちんちんはあなたのおちんちんだけなんだから♡ す・き、だぁいすき♡ 好きよ。あなたを愛してるわ♡ あなたも、あなたのおちんちんも、大好きなの♡」

 

 甘く熱く、サキュバスらしく色欲に狂った愛を囁く。

 

「あはっ、ビクビクしてる! そろそろ出ちゃうのね? いいわ、楽になっていいのよ? 私の手でいっぱい気持ちよくなりなさい♡」

「っ!!!」

 

 腰から甘い痺れが込み上げ、アルベドに導かれるまま快感が迸った、はずだった。

 

「な……、なぜ……」

「うふふ…………」

 

 射精感は確かにあった。粘塊が尿道を通って噴き出して、アルベドの手に射精したはずだった。

 それなのに、逸物はビクビクと痙攣するきりで、精液は全く出ていない。激しい快感があったのに、逸物には射精直前の切迫感が留まっている。

 アルベドの手が残滓を絞るようにゆるゆると動き、甘い快感が染み込んできた。しかし、快感と同等の苦しさがあった。

 

 アルベドは妖艶に笑っている。

 進化したスキルの試用は、想定通りの効果を発揮した。

 

 射精直前で愛撫を止める寸止めを、シズはしたことがある。

 挿入しながらも根本だけきつく締め、射精を止めるのはソリュシャンの絶技だ。

 同様に根本を指で押さえて射精を留める寸止めは、ジュネが披露した。

 

 シズの寸止めは焦らしであり、ソリュシャンとジュネの寸止めは物理的に射精を抑える。

 しかし、アルベドの寸止めはいずれとも違う。サキュバススキルに依る射精抑制だ。

 以前は指で押さえないと出来なかったが、今は違う。逸物の根本に、触れることが出来ないピンクのリングが輝いていた。

 

「押さえるだけだとミルクが出ないだけだったけど、今度のはちゃんと気持ちよかったでしょう?」

「確かに、出たと……」

「見てご覧なさい。おちんちんにリングが填まってるのが見えるわね? あれがある限り射精出来ないの。でもちゃんと気持ちよくなれて、射精するまで気持ちいいのがどんどん溜まっていくのよ。最後にはいっぱい出させてあげるから安心しなさい♡」

「そんな、アルベドさま……くっ!」

「うふふ、私はあなたにもっともっと気持ちよくなって欲しいのよ♡ 私とのエッチが気持ちいいって覚えてもらわないと」

「じゅうぶん承知しております!」

 

 快感だけならアルベドに全てを委ねるのは望むところだ。しかし、苦しさを伴っている。

 アルベドの手コキが素晴らしいのは今に知ったことではない。美神の姿を目にするだけで幸せなのに、触れて、握って、並ぶものがない手淫でもって扱いてくれるのだ。アルベドの手に放ったことは何度となくある。

 快感は天にも登るようであるが、射精感だけがあって実際には出してない。天に登ると同時に地に引き止められている。体が引き絞られ捻じり切られるようだった。

 

「おちんちんからぴゅっぴゅしたいのに出来ないのが苦しいのね? あなたがそんな苦しそうな顔をするなんて初めて見たわ」

 

 デミウルゴスの試しを涼しい顔で潜り抜けた男である。痛みにはとても強い。痛みがないところへ精神を避難させるから痛みに囚われずにいられる。だが、アルベドと淫らに耽っている時にそんな事を出来るわけがない。

 記憶の宮殿に潜らなくても痛みに耐えるだけであれば、ソリュシャンのとろとろくらいなら眉根を顰める程度で済ませられるようになった。しかし、苦しくはあっても快感もあるのだ。

 

「ああ……、あなたってそんな顔をしても…………、とても綺麗よ♡」

 

 アルベドは恍惚と頬を染め、男へ口付けを送った。

 男の口内を舌で探りながらも、激しい手コキは止まらない。逸物が手の中でビクンビクンと脈打っている。

 

 男の唾を啜って自身の唾を飲ませ、逞しい逸物をうっとりと見遣りながら自分の胸をまさぐるアルベドは、残酷を嗜む淫らな悪魔だった。

 

「それに、さっきの。本気で私を打ったわね?」

「それは、アルベドさまのご指示で……」

「痛かったわ」

「もうしわけ、ございません!」

 

 男が本気でアルベドの張ったのは事実だ。必要とあらば美女美少女の顔を全力で殴れる男である。

 対して打たれた方は、ペチンと鳴るだけの打った振りだろうと、全力の平手打ちだろうと、いっそカタナブレイドで切られようと、ダメージ皆無である。ナザリックにおいて、アルベドは一番の防御力を誇る。

 痛かったというのは苛める口実だ。

 

 無毛の股間が意外に可愛くて、進化したスキルを試してみたくて、そうしたら苦痛に耐える男が異様に艶かしくて、元々持っていた嗜虐心が刺激されて、もっと見たくなってしまった。

 それに、苦しいだけでなく快感も得ているのも確かだ。だからこそ、こんなにも悩ましい顔をして誘惑してくる。

 

「うっ!」

「あらあら、お手々でまたイッちゃったの? まだまだこれからなんだから。今度はあなたが好きなお口でしてあげるわ♡」

 

 アルベドは男を床に寝かせ、顔を跨いで下半身に辿り着く。

 体勢的にシックスナインに移れるが、それでは顔が見えない。幸いにもさっきたっぷり舐めてもらったばかり。クンニリングスは我慢である。

 手淫で塗り込んだ唾は冷えるどころか、熱に炙られ乾いている。代わりに尿道口に滲む先走りの汁は増える一方。珠の雫となっていたのが流れつつあった。

 顔が見えるように、こっちを向いてと命じてから赤い舌で竿を舐めた。

 

「れろ……。んふふ、やっぱりとっても美味しいわ。可愛いおちんちんなのに大人のおつゆを出しちゃって。美味しかったお礼にいっぱい舐めてあげるわね。私の角を掴んでもいいわよ? 私のお口におちんちんを突っ込んで、好きなようにしていいんだから♡ それじゃ、いただきます♡ あーんっ、…………ちゅっ、ちゅぷっ……、ちゅるる、れろ……♡」

「アルベドさまっ!!」

 

 怒張の先端を艶やかな唇が食み、亀頭が含まれ、長い竿もアルベドの口の中へ消えていく。

 赤い唇が根本を包み、柔らかな口内の粘膜が逸物に隙間なく密着する。先日のソフィーと同じだが、アルベドの舌は玄妙に蠢いて甘い刺激を送り続ける。

 

(いつもより固くて熱くなってるわ。おつゆの量も多いし、それだけ気持ちいいのね。私のおっぱいを飲ませただけじゃこうはならないから、やっぱりぴゅっぴゅを止めてる効果ね。こんなになっちゃって、おちんぽミルクはどうなっちゃうのかしら? お口で飲む? それともおまんこ? さっきは指とお口で何回もイカされちゃったけどやっぱりおちんぽの方がずっといいし。やぁん……。シコシコしてる時も濡れちゃったのに、お口でしてると我慢できなくなっちゃう♡ あっ、私の頭を振るつもりなのね?)

 

 甘い刺激は絶え間なくても、射精に届かせるつもりがない前戯の範疇。

 アルベドが良いと言ったのだから、男はアルベドの頭から生える捻れた白い角を両手で掴み、持ち上げた。淫魔は激しく吸っているらしく、じゅちゅちゅと卑猥な音が鳴る。

 唇が亀頭のエラに引っかかるまで持ち上げて、男は角を押し下げた。

 

「んんっ! んっ! んっ! んうっ! んっふぅ♡」

 

 アルベド自身も、男に合わせて頭を振る。

 とろつく唾液で滑りは十分。柔らかな唇は力を込めて竿を圧迫し、上から下まで扱いていく。高速で上下に頭を振られても、アルベドは男の熱っぽい視線を捉えた。

 射精を止めて苛めているのはアルベドだが、道具のように使われるのは被虐心を刺激する。

 アインズ様にも毎日お見せしている己の顔に、アインズ様へお届けする言葉を紡ぐ己の口に、勃起した逸物をねじ込まれて使われている。男の欲望を吐き出すために使われている。

 

(あぁ……、私がこんな事を許すのはあなただけよ? 私のお口をおまんこの代わりにしていいのはあなただけなんだから♡ ……お口がおまんこの代わりだからお口おまんこかしら? おまんこにおちんぽ入れられるなんてセックスと同じじゃない! あんっ、だめだめ! お口に入れられてるのにイッちゃいそう♡)

 

 アルベドが自分の股に手を差し込むと、ぬるりとぬめっていた。

 中指を第二関節で折り曲げ、引っ掛けるように淫裂を撫でる。指は陰核まで届かず、膣口に囚われた。

 

「ゔっ…………」

 

 アルベドの頭を押さえて股間に押し付け、逸物を根本まで咥えさせる。

 女の口にどくどくと放つ射精感はあるのに、怒張が緩むことはない。

 手で達した時より快感が深い。視界は混沌として目眩すら感じるのに、生の苦しみが旅立つことを許さない。

 

 頭を押さえる手から力が抜け、アルベドは淫靡に笑み崩れて顔を上げた。

 

「お口のおまんこでもイッちゃったのね? おちんぽのおつゆがとろとろって出ちゃってるわ♡ ミルクに比べれば量は少ないんだけどとっても美味しかったわ♡ あなたがイッちゃったのと一緒に、私のおまんこも気持ちよくなっちゃったの。わたし、あなたのおちんぽをしゃぶってるだけでイッちゃったのよ? 私の心だけじゃなくて、私の体もあなたのものになっちゃったのかしら?」

「あ、ある……、あるべど、さま…………」

「辛いの? 今度こそ楽にしてあげるわ……」

 

 快感だけなら心身を蕩けさせるだけだが、辛いのだ。触られるのが気持ちよくあり、皮下を直に触られるような痛みもある。

 苦痛が勝るなら耐えるだけだ。しかし快感のほうが勝っている。アルベドの愛撫は死神を連れてくる天使のようだ。

 逸物だけでなく全身が強張って、動かせば砕けてしまいそう。

 意識ははっきりしているが、まともに口が回らない。

 

 男は苦痛に耐え、快感に呻く。

 アルベドは愛しみを込めて口付けし、男の股間に跨った。

 

「ギッ!」

「あっ……はぁあああぁぁぁああぁああああぁぁああっん♡」

 

 男がアルベドを貫き、否、アルベドが男を飲み込み、大きな尻が男の股間に音を立ててぶつかった。

 焼けた石のような逸物は導かれるままに狭い道を通って、アルベドの最奥に到達する。

 同時にアルベドは男をきゅうと締め付け、体の中でどくどくと脈打つのを感じた。

 

「あ……、あぁ…………♡ 入れただけで、イッちゃったわ♡ あなたのおちんぽが熱くて固くって、私のおまんこから体全部を突き刺してるみたい。あなたも私のおまんこで気持ちよくなってるのね、おちんぽがピクピクしてるのがわかるわ♡」

 

 因果逆転のスキル発動。といえば聞こえは良いが、ただの暴発だ。

 自身の絶頂を代償に射精を強いるサキュバススキル《サクリファイス・イグゾースト》である。貫かれた衝撃で達したアルベドは、男を絶頂させていた。

 アルベドは快楽に身をくねらせているが、男の方は達しても射精できない。快楽を蓄積され、達して尚嬲られる。

 

「でも、これからよ? 私をもっともっと気持ちよくさせてくれるわよね?」

「も……、もちろん、で、ございます……!」

「ああ……、そんないやらしい目で私を見ないで♡ 見られるだけでおまんこがキュンキュンしちゃうの♡ あなたの素敵なおちんぽでぇ……、アルベドのおまんこをいっぱい可愛がって? あぁんっ♡」

 

 理性を焼き切る快楽と肉体を焼き尽くす苦痛の中で、男は腰を跳ね上げた。

 淫らな媚肉をかき分け、亀頭が子宮口を打つ。大きな乳房がたぷんと揺れる。

 男の腰が下がるのに合わせてアルベドは腰を上げ、突き上げに合わせて腰を落とした。アルベドが腰を振るのと同じリズムで、白い乳房がぷるんぷるんと上下に揺れる。

 

「あっあんっあんっ♡ すてき……、すてきよ♡ わたしあなたと一つになってる、あなたとセックスしちゃってる♡ おちんぽが奥まできて、アルベドの一番奥まできちゃってるのぉおおお♡ あっやぁああん、またぁああぁあああ♡ んっちゅううぅうう………………」

 

 アルベドは腰だけ上下に振りながら、男の逞しい体に倒れ込んで唇を貪った。

 舌を絡めて唾を飲ませて、サキュバス式エナジーゲインで生気を吹き込む。

 

 何度も達しているが精液は一度も出せていないのに生気を与えられ、体中に漲る力が溢れて爆発するのではないかと思わされた。

 本当に爆発してこの場で死ぬとしても、とうの昔にアルベド様へ捧げた命。ここで失っても惜しくはない。

 体が軋み、舌に応えるのさえ苦痛が伴う。腰を振るどころか抱きしめるのも困難だ。しかし、そんな事はアルベド様へ奉仕しない理由にはなり得ない。

 

「アルベドォ!!」

「きゃっ♡」

 

 男は怒号とともにアルベドを押し倒した。

 挿入したまま組敷かれたアルベドは、愛欲に潤んだ目で男を見つめ、淫語を放って精液をすするだけの唇は小さく開かれちろちろと赤い舌を伸ばす。

 仰向けになってゆるく潰れる豊満な乳房はしっとりと汗ばみ、中央では仄かなピンク色に始まる乳輪に囲まれ、得も言われぬ美しい色彩の乳首がこれでもかと尖っている。

 アルベドは赤い舌で自身の指を濡らすと、尖った乳首に塗りつけた。もう一度唾で濡らし、今度は男の乳首を軽くつねる。

 もう一方の手は結合部に伸ばし、中指と薬指を開いて陰唇を撫でた。自分を愛撫しているようであり、男のために入り口を広げているようでもあった。

 

「ねぇ…………、もっと、犯して♡」

 

 熱く甘い吐息とともに訴えた。

 

 もう少し余裕があればアルベドの淫らな誘いに応えるべく、大きなおっぱいを揉みしだいたり、体位を変えたり、アルベドの股を開かせたり閉じさせたりして当たる部分を調整したり、口付けを交わしたりと、工夫する所が無数にあった。

 残念ながら複雑な事を考えられるほど理性が残っておらず、残っていても体が思うように動かせない。

 出来るのは、獣のように腰を振るだけだった。

 倒れるように女の体へしがみつき、ゆっくりと腰を引いて、勢いよく打ち付けた。

 

「ひゃああぁぁん! あ…………、あっあっ、あひぃいいぃっ♡」

 

 帰ってきた逸物を肉ひだが絡んで圧迫し、締め付ける。

 男を捉えるのはアルベドの女だけでなく、細腕は男の背中に回って、両脚は男の腰の裏で組み合った。

 男が腰を引いても、アルベドの脚が抜けきることを許さない。

 

「あっあっあっあぁん! そこいいのぉ! ひぁっ!? あっ、イクぅぅううっ♡ またイッちゃうのぉおぉおおお♡」

 

 男をぎゅっと抱きしめ、耳元で絶頂を叫ぶ。

 咥えこんだ女も男をぎゅっと締め付けて離さない。隙間なく埋まっているのに奥から愛欲と淫欲の汁が湧いてくる。ガチガチに勃起している逸物に絡みながら、亀頭のエラに掻き出されて外へ排出された。

 結合部からたらたら溢れる白い汁は、男が射精できない以上精液ではあり得ない。深い絶頂がもたらしたアルベドの本気汁。

 愛しい男を一つになった幸福感は絶大で、この幸せは何物にも替え難い。

 

「すき、すき、大好き♡ もっとわたしを感じて、もっと私を愛して。私は……、アルベドはあなたのものよ? アルベドはあなたの女なの。アルベドのおまんこも、おっぱいも、お口も、お尻の穴だって、全部あなたが好きにしていいんだから♡」

 

 二人で愛を交わす今だけは、ナザリックも魔導国も関係ない。

 守護者統括と相談役ではなく、愛し合う男と女。

 愛し合う男女が体を求め合うのも、女が男に体を差し出すのも、男が女の期待に応えるのも、全て道理に適ったことである。

 

「ああ、そうだ」

 

 答えが返ってくるとは思わなかったアルベドは、童女のように目を瞬かせた。

 自分の体に体を預けきってる男の胸を押し、顔を覗き込む。

 静謐で、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「アルベドは俺の女で、俺はアルベドの男だよ」

「あっ………………」

 

 心身ともに限界を越え、涅槃に片足を突っ込んでいるからこそ、魂の奥底から絞り出された真実の言葉だった。

 

「わたしもっ………………?」

 

 男の言葉がアルベドの心へ落ちてくる。

 初恋が叶った少女のように胸が高鳴り、歓喜が溢れてくる。

 

 サキュバスからただの女になってしまったのか。それとも進化したスキルを初めて使ったので仕様や条件を把握しきれていなかったのか。

 単純な時間経過だったのかも知れない。留める回数に制限があった可能性もある。

 男の思いの丈がサキュバスの封印を打ち破ったのか、はたまたサキュバスからただの女になってスキルの制御が甘くなったか。

 

「うっ!」

「あ゛っ」

 

 男は歯を食いしばった。女は呆けたように口を開いた。

 

 男の逸物から射精抑制していたピンクのリングが消え去った。

 アルベドに挿入していた逸物は、亀頭を奥の壁に押し当てていた。小さく開いた子宮口にまで入り込もうとして、あるいは子宮口が尿道口に吸い付いて。

 爆ぜるように射精した。

 

「あ゛っあ゛あ゛あぁぁああああああああああああああああああああぁぁぁあああああああああぁああああああああああーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!」

 

 アルベドは目一杯背を反らして腰を跳ねさせ、限界まで目を見開いて、絶叫した。

 

 入り口からなだれ込む精液は、奥の小部屋を一瞬で満たす。

 アルベドの中を奥の奥まで染め上げても射精は止まず、びゅるると精液を吐き続ける。

 子宮は満ちているのに、アルベドの女は命の素を取り込もうと淫らに蠕動した。石のような固さから肉の柔らかさを取り戻した逸物を柔らかく締め付ける。

 叫び終えたアルベドは顎をガクガクと震えさせ、本人の意思とは無関係にたらりとよだれを垂らす。

 顎が震えていれば腰も太ももも痙攣している。

 

 アルベドの膣は逸物を締め付けていたが、収めきれない精液が逆流して結合部から押し出されてきた。

 アルベドの尻の割れ目に沿って流れ、あるいは二人が重ねた下腹に広がっていく。

 下腹が密着していたために、アルベドの輝けるサキュバスエンブレムの光は外に漏れなかった。

 

 どくどくびゅびゅっと噴出していた精液が、ぴゅっぴゅっと断続的になる頃には、アルベドは意識を飛ばしていた。

 肉体も精神も遥か高みに突き上げられ、現世に囚われない幸せの国の住人になっていた。

 無意識ながらも両手両足を使って男にしがみつき、全身で悦びを表した。

 

 

 

 サキュバスミルクでブーストし、射精抑制によって5回分を溜めた。

 演技をしていた時も合わせてアルベドが達した回数は17。5の17乗は12桁である。シャルティアが算定した男のレベルより8桁も多い。

 それを一身に受けたのだから、100レベルであろうとアルベドがダウンするのは無理からぬことであった。

 アルベドがスキルを使わなければ、もっと長時間楽しめたはずだった。

 射精を止めて苛めた報いだろうか。

 名付けるとすれば、リベンジ・チャージ・ショットである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝都であれエ・ランテルであれ、アルベドがお屋敷を訪れる時間はまちまちだった。アインズ様がお決めになった週に一日の休日は明るい時間から訪問することもあるが、大抵は夜も更けてからである。

 反対に、帰る時間は遅くとも日付が変わる前。移動に使用する狩場直行君の使用制限は、深夜〇時にリセットされるためである。

 二日続けて訪問することは稀でも、念の為というやつだ。

 

 アルベドがナザリックに帰還すれば、若旦那様がお食事部屋に留まる必要はない。事後のお片付けが色々あっても、若旦那様にそんなむつかしい事は出来ないのだ。

 情事の残滓はソリュシャンがスライムスキルできれいきれいして、お掃除はナザリックのメイドが行う。

 

 その後は寝室に向かって就寝する事が多い若旦那様だが、最近はソリュシャンとルプスレギナを労う。

 美女姉妹は若旦那様の趣味、もとい立派なお仕事のお手伝いで夜更しばかりの毎日なのだ。その甲斐あって、ようやく終わりが見えてきた今日この頃である。

 

 今夜もそろそろ若旦那様が労いに来るだろうと、二人は作業を一時中断して休憩タイムに入った。

 しかし、時計の長針が真上から真下になるまで待ってもやって来ない。

 真下にいた長針がもう一度真上に戻るのを見て、二人は顔を見合わせた。

 義理堅いと言うか、理屈やルールを重視して、一度決めたことは最後まで貫く若旦那様である。就寝前の挨拶がないわけがない。なにせ二人が苦労しているのは若旦那様の所為なのだから。

 

「ちょっと様子を見てきた方がいいっすね」

「そうね。前もアルベド様のお部屋で寝てたことがあるってシクススが言っていたし。今夜はもうお仕舞いにしましょう」

「お疲れっす。後で確認してもらうっすから、番号順に重ねといて欲しいっす。そしたら今日はもういいっすよ」

「かしこまりました」

 

 ルプスレギナは、作業を手伝わせていた二体のエルダーリッチに書類整理を命じてから奥の間を目指した。

 エルダーリッチは速やかに整理を終え、正体を隠すローブにフードまで被ってお屋敷を後にする。

 

「アルベド様はとっくに帰ってるはずっすけど、何かあったんすかね?」

「お帰りになってからもう一度いらしたのかしら? そうだとしても、お兄様から何かあるはずよ」

「盛り上がってて真っ最中かも知れないっすよ?」

「……私がお兄様に処女を差し上げた時はアルベド様が同席されていたわ」

「マジっすか。ソーちゃん進みすぎっすよ。………………あれ? もしかして、やってたら混ざろうとか思ってないっすか?」

「思ってないわよ。アルベド様がお望みだったらお受けしなければならないけれど」

 

 話しながらの道中はあっという間だった。

 ソリュシャンとルプスレギナは、お食事部屋のドアを二度叩いて名乗りを上げる。

 

「ソリュシャンとルプスレギナでございます。アルベド様はいらっしゃいますでしょうか?」

 

 返事はない。

 

「相談役殿がお戻りになりませんので、何か不都合がおありかと思い参りました」

 

 返事はない。

 二人は無言でしばし相談し、譲り合いの精神を発揮してじゃんけんで負けたルプスレギナがドアを開いた。

 

「失礼するっすよー。…………………………うわぁ……」

 

 ルプスレギナはドアの隙間から中を覗くなり、うわぁと頬を引き攣らせた。

 

「アルベド様はいらっしゃったの? お兄様は? ルプー邪魔、どいて頂戴。……お兄様!? アルベド様も!?」

 

 ルプスレギナをどかして中を覗いたソリュシャンは、ドアを開け放って飛び込んだ。二人の男女が床の上に倒れていたのだ。

 

「お兄様しっかりしてください! ルプー回復、早く!」

「いやいや…………、ソーちゃん落ち着いて」

 

 若旦那様を揺り起こそうとするソリュシャンを止め、ルプスレギナは二人の周囲を回ってつくづく眺めた。

 

 若旦那様は仰向けに倒れ、その下にアルベド様が倒れている。

 二人共素っ裸。いや、アルベド様は靴だけ履いている。

 伏せてる若旦那様の顔は見えないが、アルベド様はとても幸せそうな顔で眠っている。こんな状態で眠れるわけがないので、気を失ってそのままなのだろう。

 二人共寝てるだけのようだ。

 

「うわー……、入ったままっすね。すっごい溢れてるっす」

 

 アルベド様は大きく股を開いて、足を若旦那様の腰に絡めている。男を捕えて離さない大好きホールドだ。そんな姿勢なので、下半身側に回ると股間がよく見えた。

 若旦那様はアルベド様に挿入したままだった。

 結合部の真下となるアルベド様のお尻の周りには、白い汁が溜まっている。あれが全部精液だとすると、5回や6回分では足りない。一体何回続けて出したのだろうか。

 

「いーなー。私もくたばるまでセックスしたいっす!」

「馬鹿なこと言ってないで、早くお二人を回復して。外傷はないけどきっと体力を消耗しているから」

「んー。回復すると二人共起きちゃうかもっすよ? おにーさんは兎も角、アルベド様はこんなところ見られたくないって思うんじゃないっすかね?」

 

 アルベド様の前で、ソリュシャンからあへあへにされた事があるルプスレギナだ。

 しかし、あへあへになったアルベド様を見ていい道理はない。アルベド様はとっても偉い守護者統括なのだから。

 

「……それもそうね。私が清めるから、ルプーはアルベド様のお召し物を用意して」

「了解っす」

 

 アルベド様のお食事部屋には様々な調度品が揃っているが、着替えの用意はない。

 ルプスレギナは一先ず退室して、アルベド様に着ていただく服を取りに行くことにした。

 

 ドアを後ろ手に閉めてどんな服がいいかと考えるルプスレギナは、ふと思うことがあって少しだけドアを開いた。

 指一本分の隙間から室内を覗く。

 二人の傍に屈むソリュシャンが見える。小さな独り言が聞こえてきた。

 

(あぁ……、お兄様のミルクがこんなに。温かいはずなのに冷えきって……。私にはこんなに出してくださったことはないのに。やっぱりアルベド様は…………。そんな事を比べても意味がないわ。アルベド様はアルベド様。私は私。んっ……温かいほうがいいけど冷たくても美味しい♡ アルベド様のおつゆがアクセントになってるわね。おつゆだけじゃなくて…………、これはおしっこね。随分といっぱいお出しに……。私がいるからいいけれど、シェーダに掃除させたらどんな顔するかしら? お兄様にお願いして綺麗に出来る溶剤を開発してもらった方がいいわね。あのローションを工夫すれば何とかなると思うのだけど)

 

 人狼であるルプスレギナにはスライムの味覚はわからぬ。

 

 とりあえず、アルベド様の着替えにはメイド服を用意することにした。




空行はなくてもいいかなと判断


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油断大敵!

総文字数4m超の大作読んでたら間が空きました


 ナザリック守護者統括相談役は割りと偉い地位である反面、権力も振るえる権限もほとんどありません。

 守護者統括であられるアルベド様へ直接言葉を届けられるのは凄まじい権力と言えなくもありませんが、言い換えれば何をするにもアルベド様を通さなければなりません。個が持つ権力は微々たるものです。

 そもそもにして、アルベド様が「あの子はお仕事なんかしないで遊んでいてくれればいいの」と仰っておりますので、不相応に過剰な権力は必要ないのです。

 それでも守護者統括相談役。少々のお願いなら聞いてもらえます。ナザリックを訪問するのだって顔パスです。

 

 もう一つのタイトルである魔導国宰相閣下相談役でも同じです。地位はあっても権力はありません。そのくせ、守護者統括相談役よりも制限が多いです。それというのも、アンデッドの王が支配する魔導国にて偉い方々と人間たちとの橋渡し的な役割を担っているからでした。

 宰相閣下相談役になってからは異形種ばかりの魔導国中枢で唯一の人間でありますから、国民からは僕たち私達の期待の星的な目で見られているのです。彼の若旦那様が魔導国に来たばかりの頃は顔がいいだけのヒモと思われていたというのに凄い出世です。

 そんなわけでして、自分勝手な我儘でエ・ランテルを離れられないのです。

 具体的には、モモン様から待ったが掛かりました。

 

 

 

「モモン様! 私も魔導国の冒険者になりました! これまでは魔導国と王国でちょっとあれなこともありましたがこれからは同じ魔導国の冒険者です! 魔導国の冒険者同士今後ともよろしくお願いします!」

 

 イビルアイもといキーノがキラキラと目を輝かせてモモン様に迫っています。

 迫られたモモン様は怪訝な声で応えました。

 

「それよりも……、アンデッドだったのか?」

「あっ」

 

 キーノは、イビルアイであった時分にはいつも被っていた仮面を外して、アンデッドの気配を隠す指輪も外して、吸血鬼の素顔を晒していました。

 仮面の効果で歪んでいた声は少女の軽やかな声となり、吸血『姫』との称号に相応しい整った顔を見せています。

 大変好ましく思われる容貌ですが、吸血鬼です、アンデッドです。

 

 モモン様は報告で知っていましたが知らない振りです。

 

「キーノが魔導国の冒険者となったのは、アインズ様が掲げていらっしゃる『魔導国は種族によって差別しない』との理念に深く共感したからだそうです。モモン様はご存知なかったのですね。キーノは人に害を為す存在ではないことを私が保証いたします。ご安心ください」

 

 お屋敷の若旦那様がキーノを弁護します。

 一同が会しているのはエ・ランテルの大きなお屋敷の応接間。

 モモン様が長期の依頼を終えてエ・ランテルにお戻りになると聞いたキーノが、是非お会いしたいとすっ飛んできたのです。

 

「キーノ? 前はイビルアイと名乗ってたと思ったけれど?」

「イビルアイは名を隠すための通り名です。本名はキーノ・ファスリス・インベルンというそうです」

「……ふぅん」

 

 自分から聞いておきながら興味なさそうなのは、モモン様とセットのナーベ様です。

 ナーベ的には、小娘の名前がイビルアイだろうとキーノだろうとコム・スメだろうとガガンボだろうとカトンボだろうと何でもいいのです。

 名前なんかよりも、キーノの中身が思った以上に整っているのが気に掛かります。上背は低いのですが、その割に胸があるように思えます。キーノにどういうつもりがあるのかわかりませんが、体のラインが出るピッタリとしたワンピースを着ています。モモン様や若旦那様の前でそんな服装をして何を考えているのでしょうか。

 

「それで……ラキュース、だったよな? どうしてメイド服を着ている? まさか冒険者を辞めてメイドに転職したのか?」

「え、ええっとそれは、ですね……」

 

 ラキュースも同席しています。

 モモン様の至極真っ当なツッコミに目を泳がせます。

 黄金の輝き亭を爆破してしまったので建て替え費用を稼ぐためにメイドをしています、とは言えません。余りにも馬鹿過ぎる理由です。

 

「モモン様とナーベ様も御存知の通り、現在黄金の輝き亭は建て替え中です。それに関連した事柄ではありますが、詳細はどうかご容赦を。ラキュースの名誉を守ると思ってくだされば幸いです」

「あ、あはは…………」

 

 乾いた笑い声です。

 黄金の輝き亭爆破が言えなければ、若旦那様のお世話をしたいがためにメイドをしているのも言えません。

 じとーーーっとナーベ様から見られてるのは気付かない振りです。

 

「私達は一応の付き添い」

 「モモン様に話があるのはキーノとラキュース」

 

 ティアとティナもキーノについてきました。蒼の薔薇勢揃いです。

 

 もう一人のメンバーであるガガーランは、最近になって自律して行動できるようになりました。喋ることも剣を振り回すことも出来ます。但し、昔のことはちょっとあやふやなようです。

 剣の番人と炎の番人とドアの隙間から発生する黄色い悪魔を駆逐しなければならない、などと不思議な事を口にします。どうやらラキュースと同じように遠い世界に旅立っていたようです。

 ティアとティナが戦闘訓練を付き合って、リハビリしている真っ最中です。

 

「私からのご挨拶が遅れて申し訳ございません。お久し振りでございます、モモン様、ナーベ様。見聞を広めるために帝国へ赴いておりましたが、この春エ・ランテルに戻ることが出来ました。エ・ランテルに戻って早々に黄金の輝き亭が崩壊して驚きました。モモン様とナーベ様はさぞご不便であると存じます。建て替え中はどうか本屋敷に滞在してください。私どもとしましてはずっと滞在していただきたいものでございますよ」

 

 若旦那様は、自分が絵を描いて黄金の輝き亭を爆破したのに、顔には衷心を浮かべていけしゃあしゃあとそんな事を宣います。

 

「ありがとうございます。私達は冒険者ですから不在が多いでしょう。それでも黄金の輝き亭が再建するまではお世話になります」

 

 モモン様が若旦那様にペコリと頭を下げます。慌ててナーベ様も続きました。

 モモン様に頭を下げられては、若旦那は困ってしまいます。二人に顔を上げてもらってから、改めて漆黒のお二人がお屋敷に滞在することを心良く受け入れました。

 なお、キーノとティアとティナが、私もの目を向けてくるのは無視しました。

 

 ちなみにですが、黄金の輝き亭を再建するには時間がかかります。

 人力のみで行う場合、近隣から人手を掻き集めて三年は掛かることでしょう。しかし現在のエ・ランテルは王国ではなく魔導国の領土です。王国から人手を集める事が出来ません。エ・ランテルに住まう石工や大工たちだけでは、倍以上の期間を要すると思われます。

 だけども魔導国の王様は偉大なアインズ様。アインズ様が使役するアンデッドを無給もとい無休で働かせれば半年も掛かりません。

 それがあるからこそ、アインズ様は黄金の輝き亭爆破にゴーサインを出したのです。

 

 と、ここまでは予定通りです。

 モモン様が若旦那様に待ったを掛けたのは、お屋敷に滞在する挨拶をしたかったからではありません。面倒事を押し付けるためです。

 

 一通りの挨拶を終えてから、キーノとラキュースは視線を交わして真剣な顔で頷きました。

 冒険者休業中のラキュースは若旦那様の後ろに立っているので、一応はお客様であるキーノが蒼の薔薇を代表して口を開きました。

 

「モモン様にお話したいことがあります。私は魔導国の冒険者になったが、王国に滅んで欲しいとまでは思わない。魔導国と王国との間で戦争が起こらないようにモモン様のお力を貸して欲しいんです」

 

 蒼の薔薇がエ・ランテルを訪れたのは、モモン様とお会いして不足の事態に備えるための相談をしたかったからなのです。

 モモン様は、そんな面倒な話に付き合いたくありません。だけども、漆黒の英雄モモンのイメージを崩さないためには、世のため人のために万難を排して平和を守るスタンスを見せなければなりません。

 あちらを立てたいがこちらも無視できない。ちょっとむつかしいです。

 そこをどうにかするために、若旦那様に付き添いを頼んだのでした。

 

「……私は二人よりもアインズのことを知ってるつもりでいる。アインズが意味もなく王国に攻め入るとは思えない」

 

 モモン様とアインズ様は個人的な友誼を結んだ友人同士なのです。

 で、モモンとアインズのイメージを崩さないようにするにはこう言わなければならないのですが、魔導国が王国に侵略するのは決定です。アルベドとデミウルゴスも積極的に賛成しており、アインズ様的にも二人がそう言うならそうだよなと納得してしまいました。

 しかし、こんな事を言ってしまった後で魔導国が王国を侵略してしまうと、「モモン様の嘘つき!」になってしまいます。

 モモン様は嘘を言ったりしてはいけないのですから、そこのとこをどうにかしなければなりません。

 どうにかするために、同席させた男が早速効果を発揮しました。

 

「モモン様はアインズ様と気のおけない親しい関係を築いていると聞き及んでおります。モモン様がそう仰るのでしたら、アインズ様もそのようにお考えになっておられるのでしょう。ですが、個人としてのアインズ様と為政者としてのアインズ様は違います。恐れながら、モモン様のお言葉はアインズ様個人を指しており、魔導国の王としてのアインズ様ではないと愚考します」

「どういうことですか?」

 

 頼むぞ二人を納得させてやれ、と祈りながらモモン様は続きを促しました。

 

「私は恐れ多くも魔導国宰相閣下の相談役として取り上げられました。個人としてのアインズ様はモモン様がお詳しいでしょうが、為政者としてのアインズ様はご存知ではないのではないでしょうか?」

「それはそうでしょうが、アインズが道理の通らないことをするとは思えないんですよ」

「モモン様の仰る通りでございます。アインズ様は大変に度量が大きく、お心が広い方であります。一度や二度の失敗は笑ってお許しになり、三度や四度になっても変わりません」

 

 いやそれでも限度はあるぞ、と思いながらモモン様はしたり顔で頷きます。

 今日のモモン様の中身はアインズ様なのです。

 

「しかし、アインズ様はお許しになっても、臣下の方々と、何より民は違います。言い換えますと、魔導国は許さないと言うことです。魔導国に限らず、全ての国家はすべからく許してはならないのです」

「魔導王は許せることでも、魔導国としては許せない。ご主人はそう言うのか?」

「「ご主人?」」

 

 モモン様とナーベ様が、異口同音にキーノの言葉を拾いました。

 うっかり零してしまった言葉を拾われたキーノは、吸血鬼の白皙を真っ赤にして身振り手振りを伴いながら違うと強く主張するのですが何が違うのかわかりません。

 

「私をご主人様と呼ぶ者もおりますから、キーノに伝染ってしまったのでしょう。キーノが言うように、国家には体面があるということです」

「そそそそいうことです! 別にご主人が本当にご主人さまになったわけじゃなくて」

 

 モモン様の顔は幻術ですが、ナーベ様の顔はナーベ様の顔です。ナーベ様はとても白い目でキーノを睨めつけました。

 零下の視線で羞恥の熱を吹き飛ばされたキーノは縮こまって機能不全に陥り、仕方無しにラキュースが選手交代しました。冒険者休業中でも蒼の薔薇のリーダーはラキュースです。

 

「魔導国にも体面があるのはわかります。そして強大な力を持つことも。だからこそ王国に破局的な未来が訪れないようにモモン様にお願いを」

 

 一応は王国の冒険者だったけども愛国心さっぱりなキーノよりも、王国貴族の令嬢であるラキュースの方が政治はわかるし言葉に熱がこもろうというものです。

 ですが、ラキュースの言葉を若旦那様が手を上げて制止しました。親指と人差指と薬指の、三本の指が立っています。

 

「アインズ様はとても広いお心をお持ちである寛大なお方です。一度や二度の過ちなら笑ってお許しになることでしょう。しかし、三度目はどうか? 先も申しましたように、如何にアインズ様がお許しになろうと民は違います。国家として見過ごすことは出来ないのです」

 

 借金返済のためにメイドをしているラキュースには砕けた態度である若旦那様ですが、今だけは王国を代表する一貴族と扱っているのでしょう。

 蔑むことも嘲笑うこともなく、真面目な顔をしています。

 若旦那様は薬指を折りました。

 

「一度目はアインズ様が王国辺境の農村をお救いになった時の事です。帝国兵に扮した法国の一軍が王国戦士長ガゼフ・ストローノフを討ち取ろうと行動していました。近隣の村を焼き払い、戦士長を誘き出そうとしたのです。モモン様はこの件をアインズ様からお聞きになったことがおありでしょうか?」

「ええ、聞いたことがあります。法国まで絡んでいたとは初耳でしたが」

 

 初耳どころか、モモン様の中身はアインズ様なのですから、最初から最後までよく知っています。

 若旦那様は一つ頷いてから話を続けました。

 

「法国の精鋭だろうとアインズ様の前では小猿が芸をしているようなもの。見事に打ち払ったそうです。辺境とは言え王国の領土をお救いになったのです。さて、王国はアインズ様へどのような礼を払ったでしょうか?」

「それは……」

 

 ラキュースは口ごもりました。

 知らないではない話ですが、聞かされたのは全てが終わって大分経ってからのことです。ラキュース自身はアインズ様へのお礼を決定する立場からとても遠いところにいました。

 それでも想像は出来ます。

 

「何もなかったそうですよ。王国からは恩賞どころか礼の言葉一つなし。戦士長は戦士長としての立場を離れてガゼフ個人がアインズ様へ感謝の言葉と共に幾ばくかの金貨を贈ったそうです。あくまでも、ガゼフ個人として。王国は領土を守ってもらったのに、王国戦士長の命を救ってもらったのに、何もなかったのです」

「無礼ね」

 

 ナーベ様が怒気を伴った鋭い声で一刀しました。若旦那様は我が意を得たとばかりに深く頷きます。キーノとティアとティナも同じ意見のようです。

 王宮内で何が起こったか想像できてしまうラキュースだけが苦い顔です。

 

「王宮内ではアインズ様の行いを、報奨欲しさの自作自演と吹聴する者もいたのではないでしょうか。アインズ様は偉大な魔法使いであられますが、王国において魔法とは、氷を熱して水にする事を指します。アインズ様の魔法を全く理解できないことでしょう」

「い、いや……、王国でも魔法はもうちょっと色々出来ると思われてる、と思う……」

 

 キーノが自信なさげに反論しました。自信がない時点で大幅減点ですし、「氷を水にする事象」を比較対象にする時点で論外です。

 この場ではキーノに匹敵する魔法使いと言う設定になっているナーベ様が、真面目な顔で小首を傾げました。

 

「氷は放っておいたら溶けるんじゃないの?」

「その通りです」

「……よくわからないわね。王国ではそんなのが魔法になるの?」

「なってしまうのです。ですから誰も彼も魔法使いですし、魔法使いは誰でも当たり前に出来ることしか出来ないと思われているのです」

「はあ……、そんなものなのね」

 

 真面目なナーベ様には皮肉がわかりにくかったようです。

 ラキュースとキーノは毛虫でも飲み込んだような顔をして、同じ顔をした忍者は失笑しました。

 

「とかく魔法が軽んじられる王国です。そのため、王国ではアインズ様のお力が理解されませんでした。無理解ゆえに甚だ非礼な態度をとってもおかしいと思わなかったのでしょう。それがどれほど無礼な侮辱であるかも理解せずに」

 

 若旦那様は親指を折りました。

 

「二度目は帝国と王国で行われたカッツェ平野での会戦の時です」

 

 その時の魔導国は、帝国側として轡を並べました。その理由というのが、エ・ランテルは魔導国の領土である、というものでした。

 滅茶苦茶な理由ですが、戦争を始める理由なんて何でもいいのです。それこそ空が青かったから、で始まる戦争もあることでしょう。やる気があるかどうかだけが問題です。

 現に王国は辺境の村々を片っ端から焼かれても何もしてません。つくづくやる気がないのです。

 

「その時は魔導王が圧倒したと聞いたが……」

 

 退場させられたキーノが恐る恐る口を挟みました。

 キーノが伝え聞いたところによると、魔導王のスゴい魔法が王国兵士数万を一瞬で薙ぎ払ったそうなのです。

 同じ魔法使いとして、キーノはそんな事が出来てしまうのを信じがたい思いでいます。ですが、本当だとしたら、魔導王はどれほど凄まじい魔法使いであることでしょうか。

 それはそれとして、魔導国が圧勝した戦争で王国が無礼を働いたというのはおかしな話です。

 

「舞台はカッツェ平野ではありません。アインズ様がお救いになった農村です。王国は正規の王軍を率いて農村を攻めたのですよ。無礼どころでは済まない話です。アインズ様もさぞ驚かれた事でしょう。王国が戦争をする際は、無力にして無辜の民を虐殺することから始まるのですから」

「そんなわけがないわ! いくら王国でもそんな、そんな……」

「ラキュースがそう思いたくなくても実際に起こったことですから。王軍を率いたのは王国第一王位継承者だそうです」

 

 当然のことながら、王軍に攻められたカルネ村は無事。エンリ大将軍に撃退されました。

 命からがら逃げ延びた王国第一王子のバル何とかはルプスレギナがぷちっとやっちゃいました。

 その際、痛めつけては回復してボコボコにしては回復してフルボッコにしてから回復して、とお楽しみだったルプスレギナです。その事を聞かされた若旦那様は、顔を顰めました。

 おにーさんはそーゆーの嫌いなんすか、と鼻白んだルプスレギナでしたが、真逆でした。

 カルネ村はエンリ大将軍が支配するゴブリンの村ですが、人間もちゃんといます。人口は減ったり増えたりで、当時は100前後でしょうか。100人が酷い目に遭う危険に晒されたのですから、同数だけボコボコにすべきと若旦那様は主張したのです。

 でもそんなの逆にしんどいと反論したルプスレギナは正論で袋叩きにされたものです。

 

「王国と戦争をする時は民の虐殺から始めなければならない。他でもない王国が教えたことです」

「そんな! だってそれは……」

 

 ラキュースが若旦那様に訴えているのを眺めながら、モモン様は内心で唸っておりました。

 

 王国虐殺ヒャッハーは既定路線です。

 帝国・聖王国と穏当に支配してきたので、次は厳し目に行くことが決まっていました。鏖殺について特に思うことはないアインズ様ですが、やりすぎて反感を持たれたりしないよな、とも思っておりました。

 ところがところがです。王国の戦争マナーはそうなのだから、それに倣わなければならないという事になってくれました。

 一応、モモン様として口を挟んでおきます。

 

「う、む……。王国が非道だとしても、アインズがそこまでするとは……」

「恐れながら、モモン様はお強いからそう仰れるのです。モモン様でありましたら、たとえ百万の軍勢が相手だろうと生き残ることが出来るでしょう。ですが、無力な民は違います。向こうはお前たちを皆殺しにしようとしているが、魔導国は強大だから飛んでくる矢を払うだけで許してやろう。そう言えますか?」

「うっ……、そう、だな……」

 

 打てば響くとはこの事です。

 

 王国にこれといって忠誠心がないティアとティアはご愁傷さまと内心で唱えます。

 キーノは思うところは大いにあれど、王国の自業自得なのですから一方的に魔導国を責める気にはなれません。

 ラキュースだけは親しい隣人のお葬式を知らされたような顔になっていました。

 

 若旦那様は人差し指を立てています。

 

「もしも魔導国と王国とで戦端が開かれれば、結果は火を見るよりも明らかでしょう。とは言え前から申しておりますように、魔導国は王国と緊張状態にあっても攻め入るつもりはありません。王国が何かを仕掛けない限りは、ではありますが」

 

 そうは言っても、戦争はやる気になりさえすればいつでも始められます。

 魔皇が荒らした聖王国が落ち着いたら戦端が開かれることでしょう。

 

 

 

 モモン様との会談はラキュースが望まない形で終わりました。

 キーノとティアとティナはお屋敷を後にします。

 お屋敷に滞在することになったナーベ様は本日のメイド教官に案内されて応接間を離れました。

 意気消沈しているラキュースですが、どうせ後で若旦那様に慰められて元気になります。ラキュースにとっての若旦那様は、悠久の天を貫く月桂樹の果てより月面世界に降り立った美しき光の化身なのです。若旦那様から悟りをもたらされて静かな心で王国の行く末を見届けることが出来るようになるでしょう。

 

 応接間に残ったモモン様は、アインズ様として口を開きました。

 

「参考までに聞いておきたい。王国が魔導国との戦争を回避する術はあるか?」

「ございます。王国はそれがわからないのか、わかっているのに出来ないのか。おそらくはいずれでもありましょう」

「ふむ……、やはりな。お前は回避させたいと思うか?」

「以前申し上げましたように興味はありません。ですが、魔導国の方針は王国を平らげることですからさせてはならないことでありましょう」

「その通りだ。そうはさせぬために何を為すべきと思う?」

「特に何も。王国では出来ないことと判断しております。おそらく、アルベド様もデミウルゴス様も同様に判断しておられるかと思われます」

 

 アインズ様が聞きたいのはそこなのです。わかってるぞムーブでどうやって聞き出そうかと考えました。

 が、面倒になりました。

 ちょっと弱気を見せたこともあるこの男に、そこまで気を張るのは疲れてしまいます。

 

「仮にお前が王国に属していたらどうやって戦争を回避する?」

 

 若旦那様は嫌そうに顔を顰めました。アインズ様の前でそんな顔が出来るのは若旦那様だけです。

 

「私の本意ではありませんが……」

 

 手っ取り早いのは国王が白旗を上げて王国を魔導国に併合してもらうことです。ですが、そんな事は出来ません。国王がそんな事を言いだしたら、実行する前に暗殺されることでしょう。王国はけして一枚岩ではないのです。

 次善にして最善の策が国を割ることです。

 例えば、ラキュースの実家であるアインドラ家をアインドラ公国として独立させ、親魔導国を掲げます。そうすると自動的に王国内で内戦が発生します。

 国家の一部が独立して好き勝手に振る舞うことなど許していいことではないのです。一度でも許せば、王国は瞬く間にバラバラになることでしょう。

 アインドラ公国は他の領主たちを味方につけて親魔導国派を増やし、王国を反魔導国として滅ぼしてから魔導国に下れば良いのです。

 親魔対反魔の戦争では少なからず犠牲があるでしょうが、そのあたりは内々で話し合っておけば済むことです。

 つまりは革命を起こして、旧勢力を一掃すればよいのです。

 

「ですが実現は不可能です。革命を成就するには王族を反魔導国派として一掃しなければなりません。王国でそこそこに知恵があるのは王派閥ですが、革命を起こしては自分の首を締めるようなもの。王派閥と睨み合う貴族派閥は王族を滅ぼせて万々歳となりそうなものですが、彼らにそこまでの知恵はありません」

 

 特に王国内の貴族派閥は、帝国に甘い毒を注がれて王国を内から腐らせておりました。

 知恵がなければ自分の足で立つ気概もないのです。カタツムリに超位魔法を使えと言っても無理なものは無理なのです。

 その時、アインズ様はピコンと閃きました。

 

「ふーむ……。話は変わるが、法国の向こうにエルフの国があるのは知っているか? そこと魔導国が接触するにはどうすればいいと思う?」

「目的によります。エルフの国と友誼を結ぶのか、王の首をすげ替えるのか、滅ぼすのか。しかし、そのような大戦略はアルベド様とデミウルゴス様が練られていると思うのですが」

「勿論二人の意見も参考にする。それは……あれだ。物事は多角的に見なければならない。アルベドと、デミウルゴスと、そしてお前では物の見方が違うだろう? 私は様々な言葉に耳を傾ける必要がある。それで、だな。お前とアルベドが話し合うと折角複数ある視点が一つになってしまうのだ」

「仰る通りでございます。ですが、そうしますと洗練されていない荒い意見になってしまいますが」

「それでよいのだ。そこをまとめるのが私の仕事だからな」

「アインズ様直々にそこまでお考えになるとは……!」

 

 さすがのアインズ様に若旦那様は深く感服しました。

 アインズ様のお立場的に、そんな細かいことは部下に投げればよいのです。アインズ様のお仕事は決定することなのですから。

 

「よい、頭を上げよ」

「はっ!」

 

 表情を窺わせないお骨のお顔で、アインズ様は鷹揚に声を掛けました。

 だけども内心ではビュンビュンしておりました。

 

(くっくっく……、はっはは……、はーっはっはっはーーー!! よっしゃこれであいつらが何か言ってきても知ったかぶりで焦ることはないぞ!! アルベドもデミウルゴスも分野によってはこいつが上って言ってたくらいだしな! これでもう何もこわく……)

 

 その時、アインズ様の脳裏を懐かしい顔が過りました。

 彼は鳥頭なのに昔のことをよく覚えていたのです。

 

(はっ!? 俺は今何を……? ペロロンさんが言ってたじゃないか、それはフラグだって。大丈夫です、ペロロンチーノさん。俺はもう油断しません!)

 

 アインズ・ウール・ゴウンは油断しないのです。



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おにぃちゃんとお兄ちゃん

週一ペースはまあまあと思ってましたが上には上がいるもんですね
本話11k字


「いってらっしゃ~い」

 

 お屋敷の大きな門を通り抜ける豪奢な馬車へ、ルプスレギナは手を振って送り出す。

 隣ではナーベラルが不満そうに呟いた。

 

「私が来た途端に出かけるなんて……」

「まーまー落ち着いて。おにーさんがナザリックに行くのは結構前から決めてたんすよ。ナーちゃんの顔を見てから出発したって思えばいいじゃないっすか」

「ふん」

 

 荒く鼻を鳴らすナーベラルだったが、ルプスレギナは妹の唇が綻んでいるのに気が付いた。相変わらず真面目で素直なのに、素直に喜ばないのをおかしく思う。

 

「しばらくお屋敷にいるんすよね? これからいくらでも会う機会はあるんすから。それとも我慢できないっすか?」

「別にそういうわけじゃないわ。私にそんなつもりはないもの」

「そんなつもりってどーゆーつもりっすか? どーゆーつもりでもナーちゃんにその気がないなら時間を作ってもらわなくてもオッケーっすね!」

「それとこれとは話が別よ! 向こうがどうしてもっていうなら仕方なく相手をしてあげなくも」

「はいはい、そーっすねー」

「その顔絶対わかってないでしょう!」

 

 ルプスレギナは満足するまでナーベラルをからかってから自室に戻った。

 おにーさんの趣味のような仕事のお手伝いは順調で、おにーさんがお出かけから帰ってくるまでに終わる予定である。この前みたいに夜を徹して頑張る必要はない。

 空いた時間を有効活用すべく、以前から気になっていたことを確認しようと机の上に白紙のノートを広げてペンを持った。

 

 まず、1.03掛ける0.03を計算する。結果は0.0309。元の数を足して1.0609。

 桁数が増えて一気に面倒臭くなった。我慢して頑張って手計算で1.0609を自乗する。まずは1.0609に0.009を掛けて………………。1.12550881と出た。頭を抱えた。0.009は完全に余計だった。

 適当に四捨五入して1.126を自乗する。大体1.27。これで1.03の8乗。1.27を更に自乗して約1.613。これで16乗。

 ここからは自乗を止めて、とりあえず1.27を掛けてみる。

 

「おお!」

 

 何ということだろう!

 16に8を足して24。24日目で2を超えた。正しくは大体2.05。

 一ヶ月には少し余計だがここに1.27を掛けると2.6ちょっと。

 

「一ヶ月で倍ちょっとって嘘じゃないっすか。2.6倍っすよ!」

 

 ナザリックへの訪問はアルベド様のお食事日を考慮して6日間らしい。と言うことはこれまた2日多目になるが、現在から1.27倍になることが確定。

 計算すると大体4.2になった。何日か余計に計算してる気がしないでもないが4倍は確定。そういうことにした。

 

 ルプスレギナはおにーさんからいつぞやのご褒美をまだもらっていなかった。ご褒美にはヒサンの利子が付く。一日三分である。

 ナザリックの最古図書館で見つけた悲惨な漫画に出てきた単語を何となく覚えていただけだったのだが、一日たった三分の利子がこうも素晴らしい結果をもたらすとは想定外。

 

 エントマのご褒美は、左手に加えて両足。

 ソリュシャンのご褒美は、一晩丸呑み。

 ルプスレギナは手足なんか要らないのでソリュシャンを基準にして、一晩が四回分ということは丸二日である。丸二日もあれば色々なことが出来てしまう。

 ご褒美を回収するのも良し。忘れた振りをしてもっと太らせるのも良し。

 一ヶ月以内にご褒美をあげればよいとか言ってたくせして、忘れてる向こうが悪いのである。

 

 

 

 

 

 

 ルプスレギナにご褒美をあげることを綺麗に忘れて複利の恐ろしさを味わうことになる男は車上の人となっていた。エ・ランテルからナザリックへ向かっているところだ。

 ナザリックへは何度も訪れていても、正規のルートである陸路で行くのは初めてだ。

 

「おにぃちゃんはナザリックに行ったことあるのぉ?」

「何度かあるよ。今回で六回目だね」

 

 エントマはG-SHOCK後のお掃除を完了した後、アインズ様のお傍に侍る栄誉に俗していた。悪魔メイドだったけども魔皇の呪縛は完全に解けていますよと外へアピールするためである。

 エントマとしてはずっとお付きをしていたかったが、それではエントマずるいの大合唱になってしまう。お披露目は十分と判断したアインズ様によってお付きの任を解かれてしまった。それに合わせてナザリックに戻ることにした。

 

「うぅ……、やっぱりおにぃちゃんいい匂いするよぉ」

 

 傍らの袋からおやつをちょっとだけ出して一口二口。隣に座る男を見てもう一口。

 男の顔は微妙である。さすがにこの男でも、隣で自分の足を齧られるのは難しい心持ちにさせられるらしい。

 

 エントマがナザリックに戻る一番の理由はポーションの入手だ。今はまだアルベド様のお部屋お掃除中に毎日もらっていたのとご褒美でもらったのを食べきらずに残してあるが、いずれはなくなってしまう。新しいのはポーションと交換と言われてしまった。

 なお、日数が経っている手足であるが、保存の魔法が掛かっている袋なので新鮮である。

 

 エントマの間食が終わってから、男は声を潜めてとっておきの話を切り出した。

 

「今日、お屋敷にアインズ様がモモン様としていらしたんだ。モモン様としてのお話が終わってから、アインズ様へエントマさんのことをこっそり話しておいたよ」

「アインズ様に私のこと?」

 

 昨日までアインズ様のお付きをしていたエントマである。お付きをしていた間、恐れ多くもアインズ様と多くの言葉を交わす光栄を許されていた。

 アインズ様へ自分のことを、しかもこっそりと話すとなると、全く心当たりがない。内緒話にしなければならないマズい話はないはずだ。

 

「キーノの声の事だよ。エントマさんはアインズ様からキーノの声をもらうお許しを貰っていたんだろ? 自分から欲しいって言ったのに後になって要らないとは言い辛いじゃないか。私からアインズ様へ、エントマさんはキーノの声が気に入らないようですって話しておいたから」

「ふえ? …………あっ」

 

 過日、キーノにエントマの口調を真似させたところ、ソリュシャンとルプスレギナは爆笑。ティアとティナは声質と口調のミスマッチに震えて怯え、肝心のエントマは「これじゃない」と明確に拒否した。

 だけれども、エントマはアインズ様直々にキーノの声を自分のものとするお許しを得ている。気に入らないからやっぱなしは無礼千万の鞭打ち万回に値する。エントマからアインズ様へ訴えるのは無理無茶を超えて不可能である。

 代わりにこの男がアインズ様へ耳打ちしたのだ。さすがのアインズ様はお心がとても広く、考慮してくださる様子を見せた。

 この話を聞いたアインズ様はソリュシャンとルプスレギナからその時の様子を訊ねて、二人が本当に爆笑したのを確かめた。エントマが凄く嫌そうな声で拒否したとも聞いた。どうやら本当に嫌であるらしい。

 カルマ極悪であるくせして思いやり溢れているアインズは、嫌なものを無理やり押し付けようとは思わない。エントマにキーノの声云々はなかったことにすることにした。

 

 善意100㌫の行動である。何故ならば自分も同じ境遇だからだ。

 アインズ様から、ラナーと一緒に暮らすと良いと言われた。本当は嫌なのだが口を挟む機会を与えられず、直接の上司であるアルベド様がお受けしてしまった。その場には守護者各位が同席していた。

 今になって覆すことは出来ない。

 自分はダメだが、せめてエントマは何とかなって欲しいと思ったのだ。

 

「あ、ありがとう…………」

 

 余計なお世話であるが、善意からなのは感じられる。エントマは引きつった声で礼を言った。

 

「どういたしまして。それで、だね」

「なぁに?」

「実はエントマさんにお願いしたいことがあるんだ」

 

 あれをしたからこれをしてくれ。ギブアンドテイクと言えば聞こえは良い。

 発端は善意であっても、得になることなら何かしらにつなげたいと思うのは人の常。

 

「エントマさんの顔は仮面と聞いたよ。ちょっとでいいから仮面の下を見せてもらえないかな?」

「えっ、やだ!」

 

 アラクノイドであるエントマの可愛いお顔は仮面である。仮面の下には蜘蛛人らしい顔が隠れている。

 至高の御方々の一柱でありエントマの創造主である源次郎様から与えられた顔であるが、エントマ自身は余り好んでいない事は、常に仮面を被っていることからも察せられる。

 見せてと言われても、気軽に見せてあげる気にはならない。

 

「エントマさんはヤダって言うけどね。もしもアインズ様が絶体絶命のピンチになって私しか助けに行けない時、エントマさんの顔を初めて見て驚いちゃったら助けが間に合わないかも知れない。そうならないためにあらかじめエントマさんの顔を見ておく必要がある」

「アインズ様はピンチにならないもん!」

「むむ、確かに」

 

 さすがのエンちゃんは一発論破である。

 

「じゃあシズさんがピンチの時。シズさんだったら可愛いくまのぬいぐるみに目を奪われてピンチになるかも知れない」

「ありそうだけどぉ……。でもおにぃちゃんが助けに行かなくても私が行くから大丈夫ぅ」

「エントマさんはお腹が減って力が出なかったら俺の出番になるだろ?」

「だったらおにぃちゃんがご飯をくれればいいでしょぉ!」

「エントマさんにあげられるとこがないかも知れないだろ?」

「だったらおにぃちゃんは助けに行けないもん!」

「……確かに」

 

 馬鹿げた問答が数度繰り返される。

 女心検定は赤点を行ったり来たりする男でも、エントマが本当の顔を見せたくない、おそらくは好ましく思っていないことはわかった。

 嫌がってることを無理強いするのは良くないことだ。しかし、好奇心が我慢してくれない。切り口を変えることにした。

 

「エントマさんの創造主は源次郎様と聞いています。エントマさんの顔は源次郎様から与えられたんでしょう?」

「……そうだけどぉ」

 

 創造主から与えられたものを好んでいないと言ってしまうのは、ナザリックのシモベとして少々心に来るものがある。

 

「その仮面も源次郎様から与えられたものなんでしょう?」

「そうだよぉ」

「だったら話は簡単だ。その仮面もエントマさんの本当の顔。仮面の下もエントマさんの本当の顔。どっちもエントマさんの顔で、片方は隠してるだけってことだね」

「どういうこと?」

「難しいことじゃないよ。俺の顔も同じだ。今のこの顔は俺の顔だけど、エントマさんと一緒でこの下にも俺の顔が隠れてる」

「ええぇえぇえええええええええええぇぇ!? どういうこと!?」

 

 エントマはマジマジと男の顔を見詰めた。至高の美に溢れるナザリックを基準にしても、けっして見劣りしない輝かんばかりの美貌である。アルベド様がお側に置くのがよくわかる。

 しかし、どこにも継ぎ目は見当たらない。仮面には見えず、本当の顔に見えた。

 

「この顔を剥ぎ取ると頭蓋骨があるんだ」

「そんなの当たり前じゃん!」

 

 本当に当たり前のことだった。

 

「当たり前のように俺にも顔の下に顔があるってことだよ。エントマさんと違って一度外したらすぐに戻せないけど。もしかしてエントマさんの顔も簡単に戻せなかったりするのかな?」

「そういうわけじゃないけどぉ」

「だったらちょっとでいいから。俺の顔も後で見せるから」

「別にみたくないぃ……」

 

 ぐいぐい来る。

 エントマの顔を見る代償に自分の顔を見せてもいいと言っている。間違いなくとっても痛いだろう。下にどんなのがあるのか他のを見たことがあるので見たいとは思えない。

 頭蓋骨はどうでもいい。仮面の下も、仮面も、どちらも本当の顔と言ってくれた。そうも言われてしまうと心が揺らぐ。

 

「それじゃぁ…………ちょっとだけ。でもでも嫌がったりしたら本当にイヤなんだからね!!」

「わかってる」

 

 男は居住まい正して背筋を伸ばす。

 エントマは両手を頬に添えて、愛らしい少女の顔を上にずらした。

 

「おお!?」

「っ!」

 

 男が驚きに声を上げる。

 その声がエントマに何かしらの感情を想起させる前に、

 

「すげぇ、複眼だ! どういう風に見えてるんだ? やっぱり視野角は広い? 立体の捉え方も違う? 複数の目で一つの対象を像に結ぶと、いやそれよりも複数の像を同時に認識している? 同時? それとも時間差が? 耳で音を聞くと左右の耳から入ってくる僅かな時間差があるのと同じで一つの対象を見ても僅かな時間差がある? いや馬鹿な意見だった、光と音は速度が違う。違うのは入ってくる角度だ。こう考えると角度を分や秒で表すのは適当だな。1メートル先の像を見ると目の位置によって0.5秒から10秒は差がある。俺の目に比べると目と目の距離が、ああっ!? もうちょっと見せてくださいよ!」

「もうだめ! おにぃちゃん難しいことばっかり言って!」

「いやだってコキュートス様も複眼だけど根掘り葉掘り聞けないでしょ? でもほらエントマさんなら……、今はこうして時間があるし」

「今ちょっと間があった、言い訳考えてたぁ!」

「いやそんなつもりは……」

 

 ちょこっとだけ見せてもらった顔は本当にちょこっとだけだった。

 ちなみに仮面の下は、蜘蛛の顔を人のように縦長にして目を増やし、大きな牙を追加したようなものだった。見ようによっては中々可愛い。

 重ねて頼んでも見せてくれない。男は仕方無しに話題を切り替えた。

 

「それじゃシズさんから聞いたんだけど、エントマさんに外性器がないって本当?」

「はアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!? シズのバカ何言ってんのぉおおおおおお!?」

 

 顔の話題が流れたと思ったら、言うに事欠いて性器。間違っても女の子に振る話題ではない。そんな事を話したシズも言語道断。

 エントマは堪忍袋が温まってきた。男は冷静に言葉を続けた。

 

「でも性器がないと生殖活動が出来ないから普段は体の中に隠れてるのかな?」

「う……」

 

 とってもあれな話なのに男の声はどこまでも冷静である。望遠鏡を覗いて星空を眺め、宇宙の深遠に思いを馳せる博士のようだ。

 エントマはとても混乱して恥ずかしいのに、憎たらしいことこの上ない。

 

「ちゃんとあるもん!」

「だったらシズさんが誤解した理由があるのかな。やっぱり隠れてる?」

「そういうんじゃなくてぇ、だからぁ……」

 

 シズが誤解したのは一緒にお風呂に入った時だ。恥ずかしかったから符術を使った幻術で見えなくしただけである。

 逆に堂々と見せていたシズには恥じらいがなさすぎる。

 

「そんなの教えるわけないでしょおにぃちゃんのエッチ!!」

「俺がエッチ!? 遺憾です訂正を求めます。俺は純粋な気持ちでエントマさんの体に興味があるだけなんだぞ!」

「それがエッチだって言ってるのぉ!!」

「エントマさんだって俺の体を欲しがってるじゃないか!」

「そういう意味で欲しがってるわけじゃないぃいい!」

「そういう意味を意識してるエントマさんがエッチだと思います」

「そんなわけないでしょうがぁああ!!」

 

 その時、御者台に通じる窓がコンコンと叩かれた。

 二人が一時休戦して静かになると、音もなく窓が開いて御者をしているミラが顔を覗かせる。

 

「お言葉ではございますが、ご主人様がエッチだと思われます」

「ほらやっぱりぃ!」

「くっ!」

 

 不毛な争いはエントマの勝利で終えた。

 

 

 

 

 

 

「それじゃおにぃちゃんまた後でねぇ」

「ええ、私は明日です。エントマさんはポーションの確保を頑張ってください」

 

 馬車はそのままカルネ村に入っていくが、エントマは馬車から降りてナザリックへ向かう。カルネ村とナザリックの距離はちょっと長い散歩程度である。

 男はカルネ村に一泊して、ナザリックに行くのは翌日だ。ナザリックでの滞在が一日減ってしまうが、カルネ村を素通りする事は出来ない。

 ンフィーレアに用があるし、エンリ大将軍に挨拶をしなければならない。

 エンリ大将軍とは、素手でオーガを撲殺し、素手でナーガの首を引っこ抜き、腕っぷしの強さで五千ものゴブリンを従える女傑である。近くに来たのに挨拶もせずに素通りしたら何が起こるかわからない。両手両足をへし折って新作ポーションの実験に使うと言われても驚かない。

 と、男は思っているが誤解である。エンリは純朴な田舎娘だ。誤解を解く機会があったゴブリンのジュゲムは、誤解を誤解のままにしておいた。きっとこれからも解かれる事はないだろう。

 

 馬車はカルネ村の大通りを進み、止まったのは村を支配するエンリ大将軍の邸宅前である。

 邸宅の前には、主であるエンリと、エンリの夫となったンフィーレアと、二人を護衛するジュゲムが待ち構えていた。三者は豪奢なナザリックの馬車に緊張感を漂わせていたが、馬車の中から男が飛び降りると安堵の息を吐いた。

 

「大変ご無沙汰しております。明日までカルネ村に滞在させていただきたく。エンリさんにお許しをいただけないでしょうか?」

「どどどどどどうぞ! よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくお願いいたします」

 

 男がにっこり笑うと、エンリの顔がぽっと赤くなる。

 ジュゲムは困ったように笑って毛のない頭を掻く。ちらと隣を覗えば、ンフィーレアが眼差し鋭く男を見据えた。生憎ンフィーレアの目は長い前髪に隠れている。この場の誰にも「エンリは僕の奥さんなんだから!」アピールは伝わらなかった。

 軽い挨拶をしてから男は馬車を振り返る。

 

「そういうわけで、俺はカルネ村に泊まってから向かうよ。ミラは先に行って手配を頼む。俺は誰に頼めばいいかわからないからな。多分、ティトゥス様に聞けば教えてくれるだろう」

「かしこまりました。ですが、よろしいのでしょうか?」

「カルネ村に危険はないよ。ジュゲムもいることだし」

 

 ぽんとジュゲムの背を叩く。手のひらに伝わる感触は、まさに鋼の肉体。

 

「うおっと。驚かせないでくだせえ」

「ジュゲムも久し振り。短い間だけど世話になるよ」

「わかりやした。兄さんにはどんな危険にも遭わせやしません」

「と、言うわけだ」

「かしこまりました。私に出来る限りの手配をして参ります」

 

 ミラが気にしたのは危険が云々ではないのだが、ご主人様が大丈夫というのなら大丈夫なのだろう。朝からソリュシャン様と励んでいたことであるし。

 そこの男女は距離の近さから親しい関係であると察せられる。若い女は、もしかしたら人妻。ご主人様でも手は出さないはずだ。たぶん、おそらく、きっと。

 

 御者台の上から白い麗人が一礼し、馬車は来た道を戻って村の外へ出ていった。

 馬車がエ・ランテルを発ったのは昼過ぎだが、疲れ知らずの早馬が引くので一時間と少しの道程だった。まだまだ早い時間である。

 

「ンフィー君も久し振り。早速だけど色々話したいこともあって」

「え、ええ、いいですよ」

 

 ンフィーレアは警戒を露わにするが、気さくに声を掛けてくる男は全く気にしてない様子。

 出てくる話は錬金術のことばかりで、エンリは僕の奥さんなんだぞと警戒していたンフィーレアは肩透かしされたように思った。

 

「あっしもあちらさんについてきますので。姐さんの警護は抜かりないので安心してくだせえ」

「私のことは気にしなくていいわ。あ、ご飯をどうするのかだけ聞いておいてくれる?」

「わかりやした」

 

 ジュゲムは男二人を追いかけていく。

 エンリは遠ざかる三つの背中をしばし見詰め、家の中に戻った。

 

 

 

「あーーーーーーーっ!! お兄ちゃんどうして来なかったの!? ずっと待ってたのに!」

 

 錬金術の話をするならンフィーレアの錬金術工房が適している。

 ンフィーレアの錬金術工房はカルネ村のバレアレ家に併設されている。

 少しややこしいのは、エンリはンフィーレアと結婚したので姓がエモットからバレアレに変わった。さっきまで一同が居たエンリの邸宅もバレアレ家である。若い夫婦はそこで一緒に暮らしているのだ。

 錬金術工房が併設されているのはンフィーレアが以前住んでいた家だ。現在はンフィーレアの祖母のリィジーが残っている。そして若夫婦に気を利かせたエンリの妹のネムもこちらに移り住んだ。

 

 バレアレ家では、男の姿を見るなり目を輝かせたネムが駆け寄ってきた。

 

「もっと早く来たかったんだけどね。命令でついこの前まで帝国にいたんだ。これからはずっとエ・ランテルにいるはずだから、もう少しこまめに来られるはずだよ」

「んー、それなら許してあげる♪」

「ありがとう」

 

 年齢的にまだまだ子供のネムが一人前の女をしていることに、ジュゲムとンフィーレアは笑っていいのやら嗜めるべきなのやら。

 

「それよりお兄ちゃん、ネムに言うことないの?」

「抱っこするかい?」

「違う! ネムもうそんな子供じゃないもん!」

 

 男の胸に飛び込む勢いだったネムは、男から一歩空けて止まっていた。

 赤みがかった濃い茶髪を二つに分けてくくっているのは前と同じでも、随分と長くなって背中まで届く。髪が伸びれば背も高くなった。

 ここで「大きくなったね」と言っては不味いと様々な文献と実体験から学習している男だ。女心はわからなくても、技能と技術は磨かれ続けている。

 

「とても綺麗になったね、見違えたよ」

 

 ネムの頬も、姉と同じように赤くなった。

 

「んふふ……、ありがと♡」

 

 ネムはくすぐったそうに笑って、両手を腰の後ろで組んだ。背伸びしつつ微妙に背を反らして控えめな胸を張る。一瞬だけ真顔に戻り、男についてきた二人の男を牽制の視線で射抜く。

 射られたジュゲムとンフィーレアは、思わぬ不意打ちに一歩引いた。

 

 内緒話かなと思った男は腰を折って耳を近付け、ネムの小さな唇が囁いた。

 

(ネムのおっぱい、ちょっと大きくなってきたんだよ? あとでさわらせてあげるね♡)

 

 ちゅっと男の頬に口付けする。

 男は苦笑し、ジュゲムとンフィーレアは見なかったことにした。

 

「おばあちゃんに用事? ネムが案内するね」

「頼りにしてるよ」

 

 

 

 男三人はリィジーに睨まれながら錬金術工房であれやこれや。

 ジュゲムは一旦エンリ邸に戻り、夕食についてをエンリに伝える。

 ジュゲムが戻ってきてから、男たちは村の外に出た。近隣で自生している薬草などを確認しながら採取する。ゴブリンチームが二人を手伝ってるのは言うまでもない。

 

 あっという間に日が暮れて、夕食は皆で取ることになった。

 エンリ邸のダイニングに、若夫婦にその妹と祖母、ジュゲムもお呼ばれされて、ゲストの男は真ん中に据えられた。

 

「ったく、兄さんには敵いませんよ。あっしらゴブリンでも食べませんって」

「興味くらい持つだろう?」

「いいえ全く。お願いですから今日みたいな目であいつらを見ないでやってくれませんか? あんなんじゃ怯えて使い物になりませんから」

「そんな目で見てるつもりはなかったんだけどなあ」

 

 この男、オーガへの欲望を未だに捨てきれないでいた。

 日中の採集中にジュゲムへこっそりと、「オーガを食べたことあるだろ? どんな味なんだ?」と聞いていた。

 聞かれたジュゲムは唖然とした。聞いてしまったンフィーレアも唖然とした。あれのことだよと指さされたオーガは震えて逃げ出そうとしたところを他のゴブリンに取り押さえられた。

 

「何のこと?」

「ネムは聞かないほうがいいんじゃないかな!」

「そうそう嬢ちゃんは耳に入れちゃいけません!」

「どうせろくでもないことだろうさ!」

 

 本当にろくでもないことである。

 吐き捨てるリィジーは年の割に食が進む。夫の祖母ということは自分の義祖母ということで、エンリは甲斐甲斐しく給仕して自分の食事は後回し。

 

 エンリがよりを掛けて用意した夕食は全員のお腹をいっぱいにさせた。

 食休みが終わって他愛無い話に一段落つけば各々はそれぞれの場所に帰っていく。

 

 若夫婦はエンリ邸で後片付け。

 リィジーとネムはバレアレ家に帰る。安全なカルネ村と言えど、老婆と少女に夜歩きはさせられない。付き添いとしてジュゲムが立ち上がったところで、エンリが久し振りに聞くネムの我が儘が発動した。

 

「ネム、お兄ちゃんのところにお泊りしたい!」

「馬鹿言ってるんじゃないよ!」

 

 間髪入れずにリィジーが却下した。

 枯れて乾ききった老体が潤いかねない美貌の男だ。そんなところへ幼いネムを預けようものなら道を踏み外す。ネムがもう少し大人なら好きにさせたが今はまだ早すぎる。

 

「そうよ、迷惑かけちゃダメ」

 

 エンリとしては、ネムの我が儘を許してやりたかった。

 両親が他界する前は甘えん坊で我が儘なネムだった。以降は大人にならざるを得なくなり、子供らしい我が儘を言わなくなった。そのネムが久々自分の欲求を訴える。叶えてやりたいのは姉の性。だけども我が儘が向かう先はお客様である。

 

「でもンフィーやジュゲムばっかりずるい! ネムもお兄ちゃんともっとお話したいもん!」

「ぼくぅ!?」

「あっしですか?」

 

 ネムが攻撃したのはジュゲムとンフィーレア。二人はお客様が来てからずっと一緒に行動している。明るい時間は村の外へ遊びに行っていた。

 ジュゲムは疲れた顔で愚痴をこぼすが、本人の目の前でそんな事を言えるのだからきっと仲良しなのだ。

 ンフィーレアはずっと楽しそうだ。錬金術工房に採集した薬草を置きに来た時、あの人とこんな話をしたあんな話をしたと子供みたいに話していた。

 だけどもネムは、村の中でずっとおばあちゃんとお姉ちゃんのお手伝い。お話する機会は夕食の時間だけ。それだってンフィーレアやジュゲムが、エ・ランテルが帝国が王国がと難しい話ばかり。聞いてることしか出来なかった。

 

「私なら構いませんよ。小さな家ですが、ネムちゃんが眠る場所くらいありますから」

 

 以前、ルプスレギナが使っていた家だ。

 生活できる一通りが備えられているが、ルプスレギナはほとんど使ったことがないらしい。カルネ村とナザリックの距離を考えれば当然だ。カルネ村で寂しい一人暮らしをするより、ナザリックから通ったほうがずっと良い。

 ルプスレギナがエ・ランテルに移ってからは、定期的にナザリックから誰かが来て整備やら掃除やらをしているらしい。これと言ってマズいものは置いていないが、カルネ村の住人は立ち入り厳禁である。

 一応作ったけどもそれきりである家は、男がカルネ村で宿泊する時専用施設になった。

 

「でもご迷惑じゃ」

「家を荒らされたり散らかされたりしたら困るけど、ネムちゃんはそんな事しないだろう?」

「お兄ちゃんはネムがそんな事するって思ってるの? そんなの絶対しないもん。迷惑じゃないんだからネムがお泊りしてもお姉ちゃんはいいよね?」

「…………いいけど。本当にいい子にしてるのよ?」

「もちろん!」

 

 自分にはそんな時間が与えられない。だけどもネムは一晩も一緒にいることが出来る。

 

「ネムももう子供じゃないし、いいんじゃないかな?」

 

 妻の気配を何とはなしに嗅ぎ取ったンフィーレアはネムを援護する。

 

「あっしが口を出すようなことじゃありませんので」

 

 ジュゲムは賢くも投票放棄。軍人は民意に従わねばならぬシビリアンコントロールである。

 

 残ったのはおばあちゃんだけである。

 

「ネムにおかしなことしたら承知しないよ!」

「しませんよ」

 

 男は両手を上げた。持っていたら白旗も上げたかも知れない。

 ついさっきジュゲムに言われたばかりだ。ネムちゃんをこっそり連れ出して、あそこのオーガを明日の朝ごはんにしちゃおう、なんて出来るわけがない。大人しくしているつもりでいる。

 それはそれとして、触らせてくれるらしいおっぱいにはちょっとだけ、本当にちょっとだけ興味がある。どれだけ成長したのか確かめたい。

 

「えへへ、それじゃお兄ちゃんいっしょに行こ?」

「わかったよ。それでは私はこれで。おやすみなさい」

「おやすみなさーい!」

 

 ネムは男の腕を引っ張り、エンリにだけわかるようにやりと笑った。

 男の方はンフィーレアだけにわかるよう右拳の親指を立てた。

 ンフィーレアは力強く頷き、同じサインを返す。挑戦者の眼差しで隣のエンリを見る。生憎長い前髪に隠れて、ンフィーレアの決意は誰にも伝わらなかった。




ヤフー知恵袋に「エントマは人間と性交できますか?」と質問した剛の者がおりました
すごいですねそんけいします

アラクノイドは「蜘蛛が人の形をしている」もしくは「人の形が蜘蛛の姿を内包している」のどちらで解釈すべきか
177〜183に置いてあるアンケートは未だ拮抗
たぶんおそらくもうどっちかに偏ることはないと思われ


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ネムのこと子供だって思ってるでしょ? ▽ネム♯2

温かくなってきたのはいいんですが花粉が飛んできました
どこに通報すればいいんだろうと毎年思います


 相変わらず辺境の農村は夜が早い。あたりはすっかり暗くなってきた。それでも前回訪れたときに比べれば灯りを漏らす窓が多い。ゴブリンたちの頑張りでカルネ村は急速に発展している。エンリ大将軍が采配を振っているからだ。

 流石は血塗れの覇王エンリ大将軍のゴブリン遣いである。

 

「それでね、お姉ちゃんとンフィーと一緒にアインズ様のなざりっくにお呼ばれしたの。お兄ちゃんは行ったことある? もうすっごいすごかったんだよ!」

「美味しいものも食べたかな?」

「すっごいおいしかった! すっごいやわらかいお肉もおいしかったけど、冷たくて甘いのもすごくって!」

 

 二人は手を繋いで帰路を辿り、ネムが誇らしくナザリックを語る。お兄ちゃんにしてあげようとずっと思っていたとっておきのお話だ。

 拙い言葉でナザリックの素晴らしさを熱弁する。同じ話を繰り返すこともあるが、熱に浮かされているネムは気が付かない。ナザリックは言葉を失うくらいにすごかったのだ。実際にネムは「すごい!」としか言えなかった。

 もう一つは素敵なお兄ちゃんと手を繋いでいるから。一生懸命に言葉を綴っていないと、馬鹿のように見とれて何も言えなくなってしまう確信があった。

 前に会った時もとっても素敵でとっても綺麗なお兄ちゃんと思っていた。今回は前より凄い。何が凄いのかネムの語彙では表現できない。ともかく何かが凄いのだ。

 

 会わなかった間にネムの背が伸びてちょっぴり女らしい体になってきたのと同じで、この男も成長していた。

 今更背が伸びる年ではない。少々鍛えて力は強くなってきたが、セバス様のようなムキムキは体質的に不可能。肉体的なものではないので目で見てどうこう言うのは難しい。

 事実としては、大淫魔である美神の寵愛を受け続け、美神への愛と忠誠を示すために死の門を潜り、愛の結晶を授かった。

 様々な経験と試練がもたらしたものは、枯れきった泉が満ちるほどである。

 

 目的地の小さな家に着いても二人の繋いだ手は離れない。

 男が鍵を開けてドアを開き、ネムが先に入る。男が続き、後ろ手にドアを閉めれば家の中に魔法の明かりが仄かに灯った。

 そこでようやく手が離れた。

 ネムは初めて入る家の中を物珍しげに眺めたが、ドアがきちんと閉まって家の中に誰もいないことを確かめると、くるりと振り向いた。

 顔はのぼせたように赤く、心からの笑みを浮かべて、

 

「二人きりになったね、お兄ちゃん♡」

 

 甘えた声で言う。

 

「そうだね。二人きりでお話をしようか」

「二人きりで、どんなお話するの?」

「ネムちゃんのしたいお話でいいよ」

「こーいう時は男の人がリードしなきゃいけないんだよ?」

「ネムちゃんネムちゃん、どこでそんな言葉を覚えたんだい?」

 

 ネムは、姉の愚痴のような願望のような呟きを耳したことがある。

 カルネ村にはエ・ランテルの冒険者が訪れることもあり、そんな冒険者達はカルネ村の発展を目にしてそのまま居着く事もある。彼ら彼女らは、幼いネムに年の近い子供がいないのを気にかけてか構ってやる事が間々あった。

 ネムが率先して聞き出さなくても大人の世界をこっそり聞かせてくれて、陰に陽にネムの護衛をしているゴブリンたちを困らせたものだ。早いかも知れないが早すぎるとまでは言えないのが悩ましい。

 

「お兄ちゃんはネムのこと子供だって思ってるけど、ネムだっていつまでも子供じゃないんだから」

 

 最大限の知ったかぶりをして大人ぶる。何も知らない小さな子供のままではないのは確かだ。

 入口に連れて行ったのはこの男だ。

 

「それなら大人の女性のようにお相手しないとだね」

「うん!」

 

 ネムは赤い顔のまま元気いっぱいに頷いた。

 

 

 

 小さな家でも寝室は独立している。

 一時滞在するだけの家なので、寝室に飾り気はなく実用一辺倒。ベッドに小さなテーブルと椅子が二脚あるだけだ。但し、ベッドはそれなりに大きい。男と女が並んで寝るだけの広さがある。

 男はジャケットを脱いで椅子の背もたれに引っ掛ける。身軽な格好になってからベッドに腰掛けた。

 

「ネムちゃん、隣においで」

「……でも、ネムの服そんなに綺麗じゃないから」

「十分綺麗な格好だと思うよ。どうせ寝る時は服を脱ぐんだから気にしなくていいよ」

「……うん」

 

 ネムは普段着にしている紺のワンピース。赤いスカーフを襟に巻いているのがワンポイント。質素ながらに可愛らしい服装ではあるが、ナザリックにお呼ばれされた時のようなお出かけ用の装いではない。

 こんなに綺麗でふかふかしてるベッドに上っていいのかと怖じ気づくのだが、躊躇いがちに近付けば手を引かれてポスンと隣に座らされた。

 

「お兄ちゃんってごういんなんだから」

「ネムちゃんは本当にどこでそんなの覚えたんだい?」

「ひ・み・つ♪」

 

 照れ隠しに、いひひと笑っておどけてみせる。

 何も知らなかった前回と違って、今日のネムは少しは知っているのだ。知ってしまった以上、緊張しないではいられない。知らない振りをする選択肢もあったが、それではずっと子供のまま。宣言した通りに、いつまでも子供ではない。

 深呼吸して胸を押さえる。うるさいくらいにドキドキと高鳴っている。

 そんなネムに気付いているのかいないのか、男は何の緊張もなく声を掛けた。

 

「約束通りに触ってもいいかな?」

「…………あのね?」

「何かな?」

「これって本当はイケナイことなんだよね?」

 

 ネムに伸ばした手がピタリと止まる。二度瞬きして、ネムの顔を見た。

 頬は赤らんでいる。潤んだ目を大きく開いて、こちらを真剣な顔で見上げている。

 

「相手を選ぶ必要があるね。誰にでもしていいことじゃない。もしもネムちゃんがそうなったら困る。エンリさんも怒るだろう。イケナイことだと思うなら止めておくかい?」

「ううん。お兄ちゃんは特別だからいいの」

 

 ネムは、うんうんと何度も頷く。

 そのあたりのことでネムが集めた情報によると、両極端な意見があった。一つは、とても大事な事なのだから特別な人以外は絶対ダメ。もう一つは、楽しめるときに楽しむべき。

 両陣営の共通意見として、乱暴で一方的で体を求めるだけの男は論外、であるらしい。ネムにはわからない言葉も多かったし、まだ子供だからということで深い話はしてもらえなかった。

 けれど、お兄ちゃんなら大丈夫。とっても優しいし、とっても綺麗。自分を気遣って止めておこうかと言ってくれた。

 それに、触って欲しいのは自分の方なのだ。

 

「お兄ちゃんはネムにいろんな事を教えてくれたから、お兄ちゃんにだったらいいよ?」

 

 お兄ちゃんは特別と言っても、まさか自分がお兄ちゃんのお嫁さんにだとかは夢にも思わない。ネムはそこまで夢を見てない。

 ネムは、幼くても辺境に生きる女なのだ。現実を見ているし、人が死ぬことも知っている。だからこそ今を精一杯生きて、今この時を目一杯楽しむべきだとわかっている。

 

「光栄だよ。それならネムちゃんのおっぱいがどのくらい大きくなったか、じっくり確かめさせてもらおうかな」

 

 ネムの態度が、触って欲しいわけじゃないけど触りたいなら触っていい、でも本当は触って欲しい、であることを男は察した。どこか既視感があると思ったらナーベラルと同じである。ネムちゃんは本当にどこでこんな事を覚えたのだろうか。それともネムちゃんの心の内から湧いてきたのだろうか。

 ネムの目が愛欲に潤んでも、幼い肢体に欲情する男ではない。今日は一人寝に備えて朝からソリュシャンにたっぷり絞られた。

 だが、ネムちゃんがして欲しいなら応えたほうが良い。そこには少々の打算がある。ネムちゃんはエンリ大将軍の妹だ。ご機嫌を取っておいて損はない。

 まだ子供だから、というのは大いにある。この男が人間に人間らしく接したのは、子供時代に触れ合った子供たちだけだった。子供には優しい男なのだ。邪魔な大人には平気な顔で火を付けたりもしたが。

 可愛いネムちゃんの真っ平らだった胸に膨らみが本当にあるのか、純粋に知的な好奇心もある。

 それに大前提として、女の子の希望は極力叶えなければならない。ソリュシャンにこれでもかと仕込まれている。

 

「うん。ネムのおっぱい、お兄ちゃんなら触っていいよ?」

 

 ネムは両手をベッドについて控えめな胸を張る。

 控えめで慎ましくはあっても、ネムの胸には確かに膨らみが現れていた。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、触るよ? 優しく触るけど、痛かったらちゃんと言うんだよ?」

「うん。……えっ? おっぱいさわるんだよね?」

「そうだよ。何かおかしいかな?」

「だって…………、足?」

 

 ネムは男の左隣に座っている。

 男の左手が小さな肩を抱いて、右手で胸を触られると思った。なのに、手が伸びたのは胸ではなく足。

 

 ネムが着ているワンピースは、昔は足首まであったが、今は背が伸びてきたのでちょっぴり脛が出てしまっている。そろそろ作り直さなければ丈が合わなくなる。今度のはもう少しお洒落なのがいい。と思っているのだが、姉にお願いすると自分でやりなさいと言われるのが確定しているので中々言い出せない。そろそろ本格的に縫い物を覚えるお年頃である。

 男の手は、ちょっぴり出てしまっている脛に触れていた。

 

「おっ、お兄ちゃん!?」

「どうかしたかい?」

「服が……。おっぱいじゃないの?」

「これから触るよ」

 

 足に触れてどうするのかと思ったら、男の手は服の内側に入ってきた。ワンピースの裾をめくりながら、あっという間に膝まで来る。

 ネムはベッドに座っているので、腰まで来ると服が引っかかってしまってそれ以上進めない。

 

 慣れている女なら何も言わずに尻を浮かせてくれるが、ネムちゃんにそこまで期待するのは無理というもの。

 

「このままだと触れないから、少しお尻を持ち上げてくれるかな?」

「でも…………、パンツ、見えちゃう……」

 

 ネムはきゅっと太ももを閉じた。

 清潔にしているがお洒落で綺麗なパンツではない。その上年季が入っている。見られるのが恥ずかしい。と思うのは姉のエンリと一緒だった。

 もう一年も前になる前回は、パンツを見せるのもパンツの上から触られるのも気にしなかった。けども、一年もあればお年頃の女の子は成長するのだ。

 恥ずかしいと思うのは社会的な感情だ。特にネムはそちら方面への情報収集を欠かさず、そういった事は恥ずかしいことなのだと何度も聞いてきた。何とも思わなかったことでも、多方面から何度も恥ずかしい恥ずかしいと言われたら、恥ずかしくなる。

 ネムは本当に、子供のままではいないのだ。

 

「それなら目を瞑っていようか?」

「そんなの目を開けたら見えちゃうもん!」

「ネムちゃんは見られたくないのかな」

「だって、ちょっと汚れてるかも……」

 

 パンツがちょっと汚れてるくらい全く気にしない男である。一日中履いたパンツを顔に被ったことは何度もある。勿論望んでしたことではない。ラナーにされたのだ。臭いが厳しかったこともあった。忌々しさと怒りと屈辱を伴って記憶に刻まれた臭いである。

 

「ネムちゃんはいい匂いがするからね。汚れてなんかいないよ」

「おっ、お兄ちゃん!」

 

 ネムの頭に顔を埋め、すんすんと鼻を鳴らす。

 匂いを嗅がれる恥ずかしさにネムは男を押しのけ、至近で目が合った。

 色褪せた世界で、艶やかな男の顔だけが輝いている。

 

「このままじゃ触れないから、お尻を少し持ち上げて」

「……うん」

 

 ネムは呆けたように頷き、男の顔を見詰めたまま立ち上がる。

 同時に、止まっていた手が上がってきた。

 ネムはインナーに、姉のお下がりのスリップを着ている。当然のようにスリップの下へ潜って少女の素肌を撫でていく。

 飾りのない実用重視の白いパンツは、生地が擦り切れていることもなくネムの股間を覆っている。

 ワンピースと一緒にスリップもめくられ、可愛いおへそが顔を出した。

 帝都に囲っている双子幼女は、幼女体型でお腹がぽっこりしている。幼女を脱して少女になりつつあるネムは、腰つきよりお腹まわりの方が少し細い。

 手は上がり続け、指先が少女の柔肌と質の違う柔らかさに届いた。

 

「ネムちゃんが言ったのは本当だったね。前に触った時より大きくなってるよ」

「うっ、うん。ネムのおっぱい、もっと大きくなるかな?」

「そうだね……」

「んっ」

 

 指を広げて全体を包み、ネムに上擦った声を上げさせる。

 

「見てもいいかな?」

「…………うん。お兄ちゃんなら、いいよ」

 

 一旦手を抜く。ネムを正面に立たせ、ワンピースとスリップを脱がせた。ネムが自分の手で脱いだ。

 脱いだ服は適当に放り投げることなく、きちんと畳んで椅子の上に置く。

 

「どう、かな?」

 

 パンツ一枚の姿になって、ネムは男の前に立った。

 両手はお腹の前で合わせ、もじもじと動かしている。そんな仕草がみっともないと思ったのか、背中に回して腰の後ろで組む。服を着ていた時に何度かしていたように、背をやや反らせて胸を張った。

 少女の手足は折れそうなほどに細く、全体的に肉付きが薄い。それでもお尻のあたりに少し肉がついて丸みを帯びつつある。

 服をたくし上げた時は片腹しか見えなかったが、脱がせてみるとやっぱり腰にくびれが出来ている。

 そして胸には、慎ましくとも確かな膨らみがあった。

 

 妖精が作った繊細な硝子細工に触れるように、男の両手が優しく触れる。

 成長途上の乳房を揉んでしまうと痛いこともあるらしいと知ってる男だ。ラナーに叩かれながらちっぱいの扱いをマスターさせられている。

 外周から包むようにして、大きな弧を描くようにゆっくり動かす。

 小さな乳房を撫でながらも、手指は柔肌へ少しだけ沈んでいる。肌自体は柔らかくても、乳房はまだまだ小さくて固さがある。

 一つのちっぱいの成長過程を見続けた男には予感があった。

 

「間違いなく大きくなるよ」

「ほんとう!?」

「本当だよ。そのためにはこれからもきちんとご飯を食べて健康的な生活を送るように」

「うん!」

 

 姉のエンリを見ればそこそこに成長すると期待できる。

 何よりも大切なのは栄養状態。その点現在のカルネ村は、エンリ大将軍が支配者となってゴブリンを使役することによって格段に食事事情がよくなった。育ち盛りで幼女を脱して少女になろうとしているネムは、栄養があるものをお腹いっぱい食べれるようになった。

 生まれと育ちの両面から、ネムのおっぱいは期待できるとの結論が導かれるのだ。

 ネムには十分な下地がある上に、大きな火種が落とされている。

 

「あっ! お、おにいちゃん……」

「痛いかい?」

「いたくないけど。ドキドキして……」

 

 おっぱい鑑定をしたのに、男の手は離れない。突き出されたネムのちっぱいをまさぐっている。

 ネムは顔の熱が体中に飛んだようで、細い首や小さな乳房がうっすらと赤らんできた。

 わかりやすいのは、薄い乳房で自己主張している小さな突起。突起自体も小さいけれど、胸がまだまだ小さいので尖ってくるとよく目立つ。

 胸を触られて体に染み込んできた熱と、体の奥から湧いてきた熱が一点に集中してしまったかのようだ。

 

「ドキドキしてる?」

「うん……。だって、おにいちゃんにおっぱいさわられて。それで……」

「それで?」

「恥ずかしいけど……。さきっちょが……、乳首がじんじんして……」

 

 情報収集で色々な言葉を知ってしまったネムだ。

 教えてしまった彼ら彼女らはもれなくどこからか天誅がくだったようであるが。

 

「ふあぁっ!」

「本当にドキドキしてるね」

 

 縁をなぞるだけだった大きな手が、全体を包んだ。

 押し付ける強さはない。優しく包んで、けども手指と肌の間に隙間はない。乳肉は押されなくても、充血しきった乳首はそうもいかない。

 突然触られたネムは大きな声を出してしまって、後ろ手に組んだ手をぎゅっと握った。

 高鳴っていた胸は拍車を掛けられたらしく、全身に血と熱を送り続ける。顔も体も一層熱く赤くした。

 

「ビックリさせちゃったかな。ネムちゃん、少し落ち着いてごらん」

「む、むり……。ドキドキして、死んじゃう……」

「それは困るよ」

 

 苦笑したが、苦笑では済ませないほどにネムの動悸は激しい。死にはしないだろうが、倒れるくらいはあるかも知れない。なんとしても落ち着かせなければならない。

 強い刺激は逆効果。敏感な部分に触れたり、強く触ったりしてはいけない。即効して欲しいので、毒をもって毒を制すを狙ってちょっぴり刺激的なのはどこか。

 

「あ」

 

 お目々をぐるぐるさせていたネムは、男の両手に頬を包まれた。

 ひんやりとした手が熱い頬に心地よい。

 このまま目を閉じたら落ち着けるかも知れない。でも、折角お兄ちゃんがいるんだから、見ないで目を閉じるのはとても勿体ないことだ。

 お兄ちゃんの綺麗な顔を見るのはとても心が落ち着いて安らいで気持ち良いのに、お兄ちゃんに顔を向けられると恥ずかしくて体が熱くなっておかしくなるのは今までになかったことだ。

 こっちから見るだけなら問題ないと思いきや、近くにいるのに見られていないのはとても寂しい。

 

 ネムが葛藤している間に、事態は致命的に進行した。ネムの瞳に映る男の顔が大きくなった。

 赤と青の神秘的な瞳に自分の顔が映っているのが見える非現実的な現状。

 瞳に瞳が映っている。

 夜でも寒くない室内で、自分の熱で火照っているネムは、自分のものではない仄かな温かさを鼻先に感じた。

 唇に触れた温かい空気の流れはどこかた出てきたのか。

 距離がうんと近くなって、唇に柔らかいものが触れた。

 

「――――――――――――――」

「ネムちゃん?」

 

 何が起こったか理解する前に、ネムの精神は数瞬だけ肉体から弾き飛ばされた。

 意識がなくても体は反応する。戻ってきたネムは、じわっと来てじゅんとするのを感じた。

 

「嫌だったかな?」

 

 ネムは呆けた顔で首を左右に振る。

 

「もうしたくない?」

 

 ネムは呆けた顔で首を左右に振る。

 

「落ち着いた?」

 

 ネムは呆けた顔で首を左右に振る。

 

「もう一度したい?」

 

 ネムは何度も何度も首を縦に振った。

 意識がなくて同じことしか出来なくなったわけではないらしい。

 

「それなら」

「あっ」

 

 さっきは男が軽く腰を浮かせた。一度だけならそれでいいが、続けてするなら中腰は不安定である。

 ネムは男に抱き寄せられ、男の足を跨いでベッドに膝をつく。

 座っている男と膝立ちのネムとでは、ネムの方が頭が高くなる。ネムの尻が男の太ももに触れるかどうかで高さがあった。

 男はもう一度、啄むようにネムの唇に唇を触れさせた。

 

「ネム……、お兄ちゃんと、キス…………。しちゃった」

「仲が良ければ挨拶のようなものだよ」

「ネムからしてもいい?」

「いいよ」

 

 ネムは小さく震えながら唇を突き出し、男の肩に両手を置いて、ちゅっと軽く口付けた。

 じゅんとしたのがじんわりと広がるのを感じた。

 

 万全だったネムの下地に火種を落としたのはこの男だ。

 ネムの意識とは独立したネムの肉体が、男に応えようと変わっていく。子供の体を女の体に作り変えていく。

 リィジーはネムが道を踏み外す事を心配していたが、それは一年前に通り過ぎている。

 そして今。ネムは後戻りできない道に踏み入った。

 

「ちゅっ……。ちゅっ……。お兄ちゃんとちゅーしてる……♡」

 

 覚えたての拙い子供の口付け。

 閉じた唇が触れ合うだけの、男に言わせれば挨拶のようなもの。

 挨拶に過ぎなくても、ネムにとっては人跡未踏の秘境に等しい未知の世界。自分が知らなかった新たな世界を堪能すべく、ちゅっちゅと何度も繰り返す。

 大きな手が背中を撫でてくれるのも心地よい。触られたところが源流になって体に新しい何かを流し込んでいるかのよう。

 

「キスにも色々あるんだよ。してみるかい?」

「……うん。してみたい。ネム、お兄ちゃんとちゅーするの、好き♡」

 

 舌足らずな甘えた声。

 自分がどんな顔をしているのか自覚せず、迫ってくる美しい顔に見とれている。見られているのが恥ずかしいと感じる気持ちはとうに溶け消えて、恍惚とした官能に身を任せる。

 顔が近付き、唇が触れた。ネムからした時よりも押し付けられ、唇の柔らかさを唇で感じる。

 そこからちょっとだけ先があった。

 

「!!」

 

 未知の感触に、ネムは目を見開いた。

 唇は柔らかかったがもっと柔らかかったというか、温かいのは温かいが温かさの感じ方が違うというか。端的に言ってぬるりと来た。

 ネムを驚かせたのが面白かったのか、男はにやりと笑った。

 

「どういうキスかわかったかな? 今度はネムちゃんも口を開けてごらん」

 

 ネムは夢うつつに頷いた。

 あーんと大きく口を開いて喉の奥まで見せるが、開くのはちょっとでいいと言われ、歯と歯の間からベロが出るくらいに調整する。

 

「噛んじゃダメだよ?」

「わはっは……」

 

 ちゅっと軽いキスをしてから、本格的にキスを始めた。愛らしい唇を男の舌が割って入り、口内に侵入して、縮こまっている舌に触れた。

 

(お兄ちゃんのベロが口の中に入ってきた!!)

 

 男の体が自分の体に入ってくるのは、前の時は指を入れられた。

 今回は舌。

 柔らかで温かでぬるぬるした舌が口の中に入っている。口の中をあちこち動いてから、ネムの舌をつついてくる。口を強く重ねながらちゅうと強く吸われてしまい、固まってる舌を吸い出されてしまう。

 舌と舌が触れ合ってしまうのは、ネムにとって天地開闢的衝撃だった。

 指と違って、粘膜同士の接触は刺激が強すぎた。

 

 続ける内にネムの舌が応えるようになった。目をきゅっと瞑って懸命に舌を伸ばすのが可愛らしい。

 前回にネムと色々したのは、女の子と男の子の体の不思議を教えるため。小さな女の子へ性の知識を与えるための手ほどきだ。

 今回はネムの希望で大人の女性のように扱っている。つまりは明確に快感を与えようと愛撫している。

 体が成熟しきってないので出来ることに制限はあっても手は抜かない。磨き抜いた技でもってネムの舌を蹂躙する。

 

「あっ……はぁ……、おっおにいちゃ……、あんっ。あむぅっ………♡」

 

 ネムの腰が砕け、男の太ももに尻をついてしまいそうになる。

 唇が離れ唾液の糸を引き、千切れる前にまた重なる。ネムが倒れずに済んだのは、男の手が細い裸身を抱きしめたから。

 左手はネムの頭が反らないよう後頭部を押さえ、右手は背中を支える。

 両手は徐々に下がって左手が背中に、右手は小ぶりな尻に来た。

 

「おにいちゃんの手、ネムのお尻さわってる……」

「まだ小さいけど、おっぱいと一緒で大きくなってくるよ」

「うん……。おにいちゃんにさわられるの、ちゅーも…………、すき♡」

「それは光栄だな」

 

 裸のまま抱きしめられ下着越しに尻を撫でられても、ネムは怖がったりしない。

 優しいお兄ちゃんが怖かったり痛かったりするわけがないと信頼しているし、この前はパンツを脱いで大事なところを触られている。

 この前より凄いけど、この前よりソフトなのだ。

 ソフトだったけど、この前に近付いてきた。

 

「あんっ……、あっ、そこ、さわられると、変な声出ちゃう…………」

「可愛い声だよ。この前は隣の部屋でエンリさんが寝てたけど、今は二人だけだからね。声が出ちゃっても心配ないよ」

「でもはずかしいよぉ……、あっ? ネムのおまんこ、ぬれてる? さわってないのに?」

 

 尻を包んでさわさわと撫でていた手が、中指を伸ばした。

 パンツの上から尻の割れ目を辿って奥へ進み、ネムの柔らかくて大事なところにそっと触れる。指は温かく包まれた。

 触られたネムは意識がそちらを向いて、ようやく濡らしていることに気が付いた。

 おっぱいを触られて凄いキスをしていたが、そこには一度も触られていないのに濡れている。そこだけちょっと冷たくなって、パンツに染みてしまっているらしい。

 

「触らなくても濡れることはあるんだよ」

「あっ!」

 

 抱きしめられてくるりと反転し、ネムはベッドに押し倒された。

 男の手がパンツの縁に掛かっているのを見て、今度は言われる前に尻を浮かせる。

 するするとパンツが下ろされていく。

 薄布が股間から離れる前に、ネムは両手で隠した。

 ちょっと汚れてるかも知れなくて濡らしたばかりのパンツを見られるのは恥ずかしいが、それより恥ずかしいことがある。

 

「手をどかしていいかな?」

「……ネムのおまた、この前と違うから」

 

 胸は隠さず股間を隠して視線を彷徨わせるネムに、男は察するものがあった。

 兆しは前のときにはもう見られた。

 

「どう違ってるか当ててあげようか?」

「お兄ちゃん、わかるの?」

「ネムちゃんくらいの年だとそうなるからね。お股に毛が生えてきたのかな?」

「………………………………うん」

 

 ネムの手がおずおずと股間から離れる。

 太ももをきゅっと閉じた三角地帯を、髪の色と同じ濃い茶色の陰毛が申し訳程度に茂っていた。

 前見た時は産毛に過ぎなかったが、今や立派な陰毛だ。それでも長さはさほどではなく、濃いこともないので地肌が見えている。

 

「俺にも生えてるのを見ただろう? 大人になるとそうなるんだ。おかしいことじゃないよ」

「ネム、大人になってきたの?」

「そういうこと」

 

 大人扱いして欲しいのは、まだ大人ではない自覚があるからだ。

 けれども、大人になりつつある証が現れている。

 

「ネムちゃんはここも大人のようにして欲しいかい?」

「うん!」

 

 大人と言われたのが嬉しいのか、ネムは食い気味に頷いた。

 それなら、と言われて股を開くのは恥ずかしく、始めは開こうと思っても鍵がかかったように閉じたままだった。

 それなのに、太ももを撫でられたら魔法のように力が抜けて、大きく脚を開いてしまった。

 

「お兄ちゃん、ネムのおまんこ、変じゃない?」

「変じゃないし、綺麗なおまんこだよ」

 

 少しは大人になっても未通のネムは一本筋。

 筋の周りには毛が生えてない。見る限り産毛もない。これから生えてくるにせよ、ラキュースのようなワイルドにはならないだろう。

 

「あっ! ゆび、きもちいよぉ……。んぅ……、ちゅっ……」

 

 隣に寝そべった男が股間に手を這わせてくる。

 長い指が筋を撫で、割れ目に沈む。ネムのぬめりけを指先にまとわりつかせると、割れ目にもぐったまま小さな肉芽に触れた。

 こするではなく撫でるでもなく、一定のリズムで圧してくる。指先が小さな弾力を感じる頃になると、ネムはくぐもった声で鳴く。

 二人きりで声を出してしまっても迷惑ではないが、口は塞がれている。

 

「舌を出してごらん」

「うん。んーーーっ、んんっ!?」

 

 尖らせた舌を伸ばせばパクリとされる。

 噛んじゃダメと自分で言ったのに、硬い歯に挟まれた。動かせなくなった舌をいたぶるようにレロレロと舐められて、痛くはないけどちょっぴり悔しくなった。

 男の舌が口に入ってきたら仕返ししようと思っていたが、いざ入ってくると何も出来ない。ぬるい唾液を二人の舌で混ぜあった。一滴もこぼすものかと音を立ててじゅるじゅる啜る。

 触られているところは甘い官能で溶けてしまっているかのよう。それなのに逞しい指を感じているのが不思議に思える。

 圧されるだけだったのが動き始めると、痺れるようだ。

 ネムは何度か腰を震わせて、唇同士が掠める距離で甘く鳴いた。

 

「あぁ、おにいちゃん、はぁ、あぁ…………、んっ! はいってるの、わかるよぉ……」

 

 中指がネムの柔らかな内側を往復し、指先で入り口を撫でる。

 ほぐれ始めた小さな穴につぷりと入っていく。

 ネムの呼吸を読みながら、ゆっくりと、第二関節まで。

 

「ネムちゃんはクリトリスのほうが好きだって言ってたけど、こっちでも気持ちよくなれるんだよ」

「おにいちゃんのおちんこが入るところなんだよね? ネムのおまんこ、おちんこ入りそう?」

「それはまだ無理かな」

 

 ラナーが今のネムくらいの年には全ての穴を使っていた。それは年単位の時間を掛けてほぐしていたからだ。男の方もまだ子供だったというのもある。

 

「ネムちゃんの体はこれからも大きくなるし、あと二年か三年は待たないとね」

「そんなに待たなきゃダメなの!?」

「無理にしたら痛いだけで壊れちゃうかも知れないだろう? だから、ネムちゃんがしたくなっても絶対にダメ」

「う〜〜〜〜〜!」

 

 それこそラナーのように熱心にほぐせば多少の時間は短縮出来るだろうが、何もそこまですることはない。

 カルネ村には毎日来れるわけではないのだ。こまめに通っても精々月一。ラナーと同じ回数だけほぐすとなると、十年掛かる。

 ネムちゃんの自主訓練に任せるのは、知識不足もあって些か不安である。

 時間が解決するのだから、急ぐことも焦ることもない。

 一番重要な点は、ネムの体で欲求解消しようとは全く思ってないことだ。現に、ここまでしても立ってない。

 ネムちゃん的には屈辱かも知れないが、幸いなことに快感に翻弄されて気付いていない。

 

「大人になるなら我慢も覚えなきゃいけないよ?」

「……………………でも」

 

 そう言われても、先のことはわからないから今すぐに。今は無理でも出来る限り早くしたい。

 ネムにとって二年はとっても長くて果てしない未来のことなのだ。

 

「ネムちゃんは俺のを知ってるんだから、まだ入りそうにないって自分でわかるだろう?」

「……………………」

 

 わかるけど、わかると言ってしまったら先延ばしが確定する。

 

 不機嫌そうに口を噤んでしまったネムに、男は困った。

 無理なものは無理なのだ。

 どうすればいいか考えて、妥協することにした。

 

「おまんこはダメ。だけど、他のところだったらそんなに時間は掛からない。ネムちゃんが頑張れるなら今年の内に出来るかも知れない」

「………………お口?」

 

 小さなお口でおちんこをペロペロして、赤ちゃんの素を出したことがあるネムである。

 

「この前はネムちゃんに口でしてもらったね。そこじゃなくて、こっち」

「ひゃん!」

 

 小さな穴に入っていた指がぬるりと抜けて、少し下がった。

 

「そこおしりだよ!?」

 

 叫びつつも、前回の記憶が蘇る。

 お口でペロペロしていた時に、お尻の穴に指を入れられた。

 舐めるのに夢中だったのでよく覚えていないが、おまんこより深く入ってた気がする。痛くはなかったが苦しくはあったように思う。

 

「こっちでも出来るんだよ」

 

 ラナーと初めて交わったのもそちらだった。

 体は小さくても、こちらはそこそこ広がるようになっている。

 

「………………でも汚いよ?」

「綺麗に出来るから大丈夫だよ」

 

 アナルセックス用に開発したローションがある。

 

「お尻でも気持ちいいの?」

「なれるさ。ちんこを入れてみる前に、指でほぐすからわかると思うよ」

「……………………それなら」

 

 ネムが首を縦に振って、アナルの開発が始まろうとしたその時である。

 

 

 

 ドンドンと激しく家のドアが叩かれた。

 

『兄さん起きてやすか!?』

 

 外でジュゲムが声を張っている。

 二人は首を傾げて顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

「お休みのところすいません。大至急あっしについてきてくれませんか?」

 

 ネムを寝室に残し、男が外へ通じるドアを開けば焦った様子のジュゲムが口早に言う。

 

「ついてくって、こんな時間にどこへ?」

「エンリの姐さんのところです。姐さんが兄さんをお呼びです。あっしにも詳しいことは」

 

 詳しいことはわからないが、ジュゲムはエンリの叫び声を耳にしている。

 無礼を承知でエンリ邸に足を踏み入れれば、エンリから彼のお客様を呼ぶように言われた。そのまま急いで駆けてきたところである。

 ジュゲムがもう少し冷静だったら、男から男のものではない匂いを感じたかも知れない。

 

「わかった。上着をとってくるから少し待ってくれ」

「わかりやした。どうかお急ぎを」

 

 男は寝室に戻り、椅子に引っ掛けたジャケットを羽織る。

 ネムはベッドの上にちょこんと座って、シーツを手繰り寄せて裸身を隠していた。

 ちょっとそそる光景だったが、今は急がなければならない。

 

「何かあったらしい。行ってくるよ。帰りはわからないからネムちゃんは先に寝ててくれ」

「気をつけてね。………………ちゃんと帰ってくるよね?」

「村の外に行くわけじゃないから大丈夫だよ」

 

 男は柔らかく笑って、ネムの額にキスを落とした。

 

 ベッドの上で見送ったネムは、家のドアが閉まる音を聞いて、こてんと倒れた。

 シーツに顔を埋め、うーうー唸る。

 お兄ちゃんと色々なことをしてしまった記憶と快感が体中を駆け巡り、全身を火照らせて頭を茹だらせる。

 何も知らなかった前回と違って、今回は知った上で色々されてしまったのだ。

 恥ずかしくて嬉しくて恥ずかしくて気持ちよくて恥ずかしくて嬉しくて恥ずかしくて顔を上げられない。

 

「んっ……」

 

 シーツに潜って安全を確保したネムは、右手で股間を撫でた。

 突然ジュゲムが来て驚いてしまったが、思い出した官能がまたも湿らせている。

 

「おにいちゃんはこうやって……、んぅ……。前にした時より……、きもちいい……」

 

 前とは、一年前にされた事ではない。

 三日前に自分でした時のことだ。

 

 一年前に性的な快感を覚えさせられたネムは、誰にも知られぬようこっそりと秘部を触ることがあった。

 下着の上から擦ることがあれば、高さが丁度良くて角が丸い椅子やテーブルに押し付けることもある。

 パンツを脱いで直接触ることは稀だった。

 こんなにも濡れてしまったのは初めてだ。

 

「あっ、あっ……おにいちゃん! ネム、ネムのおまんこ、きもちいよぉ……♡」

 

 シーツの中でくちくちと小さな水音が鳴り続け、ネムは自慰で初めて達した。

 

 

 

 

 

 

「姐さん、お連れしやした!」

 

 ジュゲムがエンリ邸のドアを開ける。

 入る前から否応なく切迫感が高まってきた。

 エンリの声が、悲壮感を伴ってンフィーレアの名を呼んでいるのだ。

 

 皆でテーブルを囲んだダイニングは明かりが落ちている。

 ジュゲムの先導で進み足が止まったのは、男が知る限りエモット邸の寝室前である。

 

「入ってもらって! ンフィーが! ンフィーがこんな!」

 

 若夫婦の寝室には秘密がいっぱいだろうが、主が言うのならば入らなければならない。

 ジュゲムは先を譲り、寝室のドアは男が開いた。

 

「ンフィー君!?」

 

 エンリはゆったりとした夜着をまとい、床の上に座っていた。混乱しきっているようで、見るからに冷静を失っている。

 

「揺すらないで。私が診ますから、まずは落ち着いてください」

「ンフィーが、突然こんなになって!」

「わかっています」

 

 エンリをジュゲムに任せ、男はエンリが座っていたところに屈む。

 一片の情報も逃すまいと真剣な顔で様子を伺う。

 

 ンフィーレアが倒れている。

 おそらくは、自らの血の海の上に。




サスペンス展開にはならないです

前回投稿してから土日は何書けばいいかさっぱり
月にそろそろ書かねばと思い始め
火になんとか1.5k字まで進み
水は寒くて手が動かず
木金と3k字ずつ書いて
今日は残り書いてさっき一応誤字確認して投稿
本話13.6k字


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善意と熱意の化学反応

まとめたら長くなりそうなので分けることにしたら長くなるという不思議


 出血が多い。すぐに止血しなければ命に関わる。もしも外傷によってもたらされた出血なら相当な深手になっているはずだ。

 傷を癒やすならポーション作りの第一人者であり魔法を修めている薬師のリィジーが適任だが、ンフィーレアを傷つけた存在がまだ近くにいる可能性がある。故に己を呼んだのだろう。さすがのエンリ大将軍は取り乱していても判断を誤らない。

 

「ンフィー君! 俺の声が聞こえるか?」

「うぅ…………」

 

 まだ息がある。

 倒れ伏すンフィーレアに近付いても異臭はない。毒を盛られて吐血した可能性もあったが、現状が否定している。となれば、すぐ傍に覇王エンリがいたのに何者かが不意を打ったことになる。

 果たしてそんな事が可能なのだろうか。

 ナザリックにほど近いカルネ村で、多数のゴブリンが昼夜問わずに警護しているのを潜り抜け、恐るべき血塗れの連れ合いに攻撃を加える。

 可能か不可能かで言えば可能。ナザリックの方々なら容易いだろう。

 しかし、ネムから聞かされたところによれば、ンフィーレアは今までになかったポーションを開発した功績により、アインズ様直々にナザリックに招かれている。

 アインズ様がお認めになった者をナザリックのシモベが攻撃できるかと言えば絶対に不可能である。アインズ様からお褒めの言葉を授かったものを妬ましく思えども、危害を加える愚か者はいない。シャルティア様だってハンカチを噛むくらいで済ませるだろう。

 

「んん?」

「ンフィーは大丈夫なんですか!? 一体どうしてこんな事に!!」

「いや、そういうわけではなくて、ですね。部屋を明るくしてもらえますか?」

 

 寝室にあるのは小さなランプが一つ。

 言葉を受け、エンリに指示されたジュゲムがランプを持ってくる。

 明るくなった寝室で、男は首を捻った。

 

「ンフィー君…………、出血してる割にかなり血色がいいですよ」

 

 横臥しているンフィーレアの首筋に触れる。脈拍がやや早い。体温は高めだが正常な範疇。

 顔の前にも手をかざし呼吸を確かめる。こちらは正常より大分荒い。全力疾走をした後のようだ。

 

「うああ……」

「眩しいかな?」

 

 瞼にそっと手を当てればンフィーレアの呻きが止まった。

 それよりも、明るくなったことで出血箇所が明らかになった。

 ンフィーレアの上半身は血の海に浸っているが、下半身にまでは広がっていない。頭部は特にひどく、長めの金髪が血を吸い上げて赤く染まっている。

 どうやら頭部から出血しているらしい。

 

「出血はまだ止まっていませんが、ンフィー君の体に問題はなさそうです。しかし、この出血量は異常です。ひとまず血の汚れを落とします。少し移動させるので、エンリさんは汚れてもいいシーツを。ジュゲムはンフィー君の足を持ってくれ」

「すぐに!」

「わかりやした」

 

 寝室なので、エンリはベッドからシーツを剥がす。

 ンフィーレアの隣にシーツを広げ、まずはシーツの上に移動させる。

 

 男はンフィーレアの頭と肩を押さえながらシーツの上に転がし、ジュゲムは両足を持ってシーツの上に乗せた。

 横臥していたンフィーレアが仰向けになったことで、明らかになってしまった。

 

「えー、なんといいやしょうか……」

「ンフィー君、元気だな……」

「…………………………」

 

 反応は三者三様。しかし、緊迫していた空気が霧散したのは確か。

 とりあえず、出血箇所は判明した。ンフィーレアの鼻から温かい血がとろりとろりと溢れ続けている。

 衣服に傷らしい傷はなく、体に損傷はないようだ。

 ンフィーレアの出血は、全てが鼻血であるらしい。

 

「うっ、うぅ!!」

 

 鼻血で溺れないよう顔の向きを変えようとしたところで、ンフィーレアが眩しさに呻く。

 明かりを消すわけにもいかない。男は遮光効果がある真っ赤な包帯を巻いてやった。

 

「うっ!!」

 

 ンフィーレアが大きく呻く。

 男の手が顔に触れたからか、たまたまタイミングがあっただけか。

 二人の男は後者であると思いたいのだが、肝心なのはエンリがどう思うかである。

 

「………………………………………………」

 

 エンリはさっきまで夫の惨状に取り乱していたのに、今は冷めた目で見下ろしている。

 何も言わないのは慈悲であった。

 

「え、ええと、出血は止まったみたいですね。綺麗にしてから着替えさせようと思うのですが」

「私がします。二人は床掃除してください」

「「ただちに!」」

 

 ンフィーレアの出血は止まった。代わりにズボンの一部が湿りつつあった。

 

 仰向けにした時、その部分が膨らんでいるのを三人は目にした。ズボンの内側に棒でも入れてるような膨らみ方である。

 それが呻きと同時に萎み始め、同時に湿りだした。今やズボンに何かを入れてるようには見えず、その部分だけが円形に湿っている。

 ンフィーレアは暴発してしまったのだ。

 

 その時、男は何かがキラリと光るのを見た。

 

(あれは!?)

 

 ベッドの下に小瓶が転がっている。

 見覚えがある小瓶だ。その瞬間、どうしてこうなったか全てを察した。

 エンリに見られては不味い。

 幸いにもエンリは着替えを取りに行き、ジュゲムは拭き掃除の用意をしている。

 男はベッドの傍で屈み、腕を伸ばす。握りしめた小瓶をポケットに隠せばミッションコンプリート、になるはずであった。

 

「あれ? 兄さん、そんなところで何してるんですか?」

 

 ジュゲムの仕事が早かった。片手に水の入ったバケツを吊るし、片手には雑巾の束を持って寝室に戻ってきた。

 ジュゲムは男の姿勢に首を傾げるだけで不審には思っていない様子。手のひらに隠した小瓶にも気付いていない。

 

「いや、何でもないよ。何か落ちてるかと思ったけど気のせいだった」

「そうですか」

 

 男は何でもなかったかのように立ち上がる。ジュゲムは男の態度を気にせず、掃除を始めようとしたところで、

 

「何を持っているんですか?」

「!!」

 

 覇王の呼び声である。

 隣室からンフィーレアの着替えを持ってきたエンリは、男の手がきらめいているのを見咎めた。

 手のひらに隠せる小さな小瓶だが、部屋を明るくしていたのが裏目に出た。指の僅かな隙間からガラスの小瓶が光を反射してしまったのだ。

 

 着替えをベッドに置いたエンリは、男から小瓶を受け取る。

 矯めつ眇めつ小瓶を検分して眉根を寄せた。

 

「これ………………、ンフィーが使ってる瓶じゃない」

 

 エンリの視線に、男は縫い止められたように動けなくなった。

 

 

 

 

 

 

 惨劇の数時間前、昼尚暗い森の中で。

 彼はンフィーレアと誰にも知られず密談するために、村の外での採集を提案したのだ。

 

「ンフィー君は回復ポーションの改良ばかりでこういったものには手を出してなかったんじゃないか?」

「そうですけど……。本当にそんな効果があるんですか?」

 

 ンフィーレアに手渡されたのはポーション用のものより一回り小さい小瓶だった。中には乳白色の液体が詰められている。

 

「効果は私の体で検証済みさ。精根尽きてもう出来ないと思っても、それを飲めばまた戦えるようになる。失礼を承知で言うが、ンフィー君は華奢で体力が足りてないんじゃないかと思うんだ。それで血塗れの異名を持つエンリさんのお相手は大変だろうと思ってね」

「あ、あはは、はは…………」

 

 ンフィーレアは乾いた声で笑った。前髪に隠れた目はちょっぴり虚ろだ。

 血塗れは誤解であるが、指摘された通りにエンリは凄くて満足させられていないのではと思っていた。

 自分なりに頑張っているつもりではいるのだが、結果を伴っているかと言えばわからない。事実として、終わった後の自分は精根尽きて動けなくなってしまうほどなのに、エンリは元気でいる。

 

「私も色々忙しくて用意できたのは三つだけだ。レシピは確立しているから全部渡しておくよ。気に入ったならンフィー君が作ってくれていいし、売ってくれてもいい。俺には必要ないからね」

「必要ない……。そんなに凄いんですか?」

「ん? 他のもので稼ぐ手段が見つかったからね。申し訳ないけどこっちは秘密だ。上手く軌道に乗ったら完成品を格安で譲るよ」

「そ、そうですか。……ありがとうございます」

 

 ンフィーレアが凄いと言ったのは精力の事だったのだが、行き違いがあったようだ。誤解を正す気にならず、ンフィーレアは三つの小瓶をポシェットに仕舞った。

 小瓶の中身は、彼が作った強壮剤であるらしい。

 強壮剤とは別名を精力剤。

 男性機能を向上させるお薬である。

 

 

 

 そして皆で囲んだ夕食の後、ンフィーレアは貰ったばかりの強壮剤を服用することを決断した。

 

 

 

 彼のお客様は、去り際にンフィーレアに向かって拳を突き出し親指を立てた。頑張れのサインである。

 皆が思い思いに帰宅して夫婦二人きりになったンフィーレアに向かって頑張れというのだから、何を指すのかは知れたこと。

 

 エンリの態度も気になった。

 彼のお客様は、男であるンフィーレアであっても長時間直視してしまうと我を忘れかねない美貌である。そんなお客様を、妻であるエンリがちらちらと盗み見ていた。

 ンフィーレアは、エンリと彼の仲を疑ったことがあった。けども疑いは晴れ、エンリの方から自分との結婚を口にしてくれた。

 エンリは自分の奥さんになってくれたのだ。

 エンリが満足しているかどうかは別として、夫婦の生活もきちんと送っている。

 だからたぶんおそらく大丈夫なんじゃないかなと思いたいが、祖母のリィジーが「十年若かったら」と血迷ってしまう人である。リィジーより云十年若いエンリはどうだろうか。きっと大丈夫だと信じている。

 信じてはいるのだが、不安になってしまうのはどうしようもない。

 心に巣食う不安を打ち消し、エンリは自分の奥さんなんだぞと天地に知らしめるためにンフィーレアは燃えた。燃え盛った。

 

 あの人が自分を応援してくれるために強壮剤を作って持ってきてくれたのだ。活用しない手はない。

 精根尽きても飲めばまた戦えるというのなら、始める前に服用すれば長く戦えるのではないかと考えた。

 エンリが満足してないように見えるのは、自分が早いからなのではと思うのだ。その上、続けて出来るほどの体力がない。

 満足出来ないのを二回より、二倍になった一回を。

 

 エンリと一緒に寝室に入ったンフィーレアは、見えないように強壮剤を一息に飲み干す。

 直後、湧き出た精力は体中を駆け巡って、鼻から迸った。

 

 

 

 

 

 

 少し前は皆で賑やかに囲んでいたテーブルだが、今は重い空気が漂っていた。

 圧に打ち勝ったジュゲムが椅子から立ち上がる。

 

「ジュゲム? まさか行くつもりか?」

「あっしには関わりのねえ事でござんす」

「ジュゲムーーーッ!!」

 

 男が伸ばした手は届かない。ゴブリンジュゲムはクールに去った。

 本当に自分には関わりのない事なのだ。そんな事でエンリの姐さんから怒られるのは真っ平御免である。元凶だけが責任を負うべきだ。

 

 男が伸ばした手は宙を掻き、元あった場所に戻った。

 ジュゲムが座っていた椅子と閉められたドアを眺めてから、おもむろに立ち上がる。

 

「ネムちゃんが心配ですから私も戻ろうかと」

「カルネ村に心配なことなんてありません。それに私からの話が終わってません」

「………………はい」

 

 ジュゲムと違って圧に負け、座り直した。

 今度は寝室に目を向ける。

 

「ンフィー君の様子は」

「よく眠っています。本当にぐっすりと。明日になっても起きなかったらどうにかしてくれますよね?」

「呼吸も脈も体温も正常。症状としては疲れて眠っているだけです。明日になっても目が覚めないようでしたら疲労回復のポーションを試します。それでも目が覚めなかったらエンリさんも知ってるルプスレギナに回復魔法を使わせますので心配いりません」

「……そうですか」

 

 ンフィーレアは本当に深く眠っていた。

 血の汚れを落とすために、濡れた布巾で顔を拭かれても反応しない。ズボンを脱がして汚れてしまった下半身を綺麗にされても反応しない。当然のことながら、下半身はエンリが綺麗にした。

 余りに反応がないのでエンリは心配になったのだが、目に巻いた赤い包帯を取れば眩しさに呻く。

 ンフィーレアの快眠のため、遮光遮音包帯を一晩巻いておくことになった。

 

「それで、この薬はあなたがンフィーに渡したんですね?」

 

 エンリの手は中身が入った小瓶を摘んでいる。

 もう一本と空の小瓶はテーブルの上に。

 

「確かに私がンフィー君に渡したものです。ですが、精力を増強させるだけで体に害があるものではありません」

「せいりょっ………………。それじゃどうしてンフィーはあんなになっちゃったんですか!」

「それは…………」

 

 ンフィーレアには聞こえないとわかっているようで、エンリの声は激しい。

 

「保存の魔法は掛けていませんが、暗所に保管していましたし劣化はしてないはずです。未開封ならそのままでも一年は品質を保つはずです」

「はず、ですよね。絶対じゃないんですね?」

「開発してから一年は経っていないため、実験はしていません。計算では問題ありませんでした。ただ……」

「ただ? やっぱり何か問題があるんですね?」

 

 男はすぐに答えられなかった。

 デリカシー云々に関わる事柄ではなかろうかと思ったのだが、必要なことであるためやむを得ないと判断した。

 恥も衒いも躊躇もなく、真っ直ぐに問いかけた。

 

「エンリさんがンフィー君と最後にセックスしたのはいつですか?」

「そっ…………そんなの言えるわけないじゃないですか!」

 

 エンリはテーブルを叩いて立ち上がる。

 顔は真っ赤だ。

 夫婦生活の込み入った話は、誰であろうと聞かせたくない。

 

「ンフィー君の症状を把握するために必要なことなんです。特に知りたいのは、ンフィー君が最後に射精したのはどれくらい前か、です」

「しゃっ、しゃせい!?」

 

 エンリは何か言おうと口を開くが言葉にならず、立ち上がったままパクパクと口を開閉した。

 これがただいやらしい話をしたいだけだったのなら覇王の一喝で黙らせる所存であるが、男の態度は真剣そのものである。

 糸を切られたように音を立てて腰を下ろし、明後日の方向を見ながら消え入る声で答えた。

 

「…………………………五日前、です」

「五日前!?」

 

 衝撃的な答えに、男は思わず叫んだ。

 

「失礼しました。量はどうでしたか?」

「何の量ですか?」

「精液の量です」

「せいえっ…………!! そんなの普通です! そんなの比べられるわけ………………」

 

 言いながら、比較対象があることに気が付いた。

 

「私が言っているのは、ンフィー君のいつもの量と比べてどうかです」

「あ………………、そそそ、そうです、よね。ええっと…………、普通、だと思います。普通っていうのは、その……、いつも通りと言いますか…………」

 

 誰かとの比較ではなく、ンフィーレアのこれまでについてだ。

 いつも通りだったと思うのだが、確信を持ってそうだとは言えない。手や口にだったら兎も角、中に出された量なんてわかるわけがない。

 それでも、エンリが知ってる唯一の比較対象と比べれば割と少ないのでは、と思う。初夜で驚いてしまったのが記憶に残っている。

 

 色々なことに思いを馳せているエンリと違って、男は真面目に考えていた。

 

「五日前、か。ンフィー君には薬が強すぎたのかも知れません」

 

 自分が五日も出さなかったら、シクススに折檻されてルプスレギナに土下座する羽目になるのは確実だ。ンフィーレアは本当に限界ギリギリまで溜めていたようだ。

 そこへ強壮剤を飲んだものだから器から溢れ、溢れたものは生命力となり、生命力は血液となって、鼻奥の粘膜を突き破ってしまったのだろう。

 もっともらしい推論を立てても疑問は残る。

 

「ですが、あれほど出血する事はないはずです。ンフィー君に渡した完成品を見るまでに何度も実験しましたが、鼻血が出たことは一度もありませんでした」

 

 アルベド様に救われてから、五日も溜めたことは一度もない。ソリュシャンが来てからは乾く暇もない。

 実験のためにソリュシャンを説き伏せて何とか二十時間確保してから服用したところ、量と持続力はいつも以上で、これといった不調はなかった。勿論鼻血は出ていない。

 限界まで溜めてなかったと言われたら返す言葉がないが、やはり出血してしまうのは異常である。アルベド様のミルクに比べたら、効果は細やかなものなのだから。

 

「だったらどうしてンフィーはあんなになったんですか?」

「ンフィー君の体調が悪かったか、体質が強壮剤と合わなかったか。考えられるのはそのくらいなんですが、体調が悪かったらむしろ回復するはずですし、体質についても効果が強く出過ぎただけと言えます」

「その薬に異常はないんですか?」

「ありません」

 

 ンフィーレアに贈るために調合したのだから、丁寧に慎重に事を進めた。むしろ今までで一番良い出来である。魔法が使えない素人錬金術師として異常はないと断言出来る。

 

「だったら……」

 

 エンリは男へ拳を突き出した。手の中には中身が入っている小瓶がある。

 男は反射的に受け取った。小瓶にはエンリの体温が移って温まっている。

 

「異常がないって言うなら飲んで証明してください」

「私が、ですか?」

「そうです!」

 

 エンリの目は据わっていた。

 望んでしたことではなさそうだが、夫をあんな目に遭わされたのだ。

 もしもンフィーレアと同じような症状が出た場合、薬が異常だったことになる。と同時に報復が完了する。

 症状が出なかった場合、ンフィーレアがああなったのは偶々で、無罪の証明となる。

 実際に被害が出ている以上、どちらかになってくれなければ気が済まない。

 

「…………わかりました」

 

 男は真摯に頷いた。

 五千ものゴブリンを従える血塗れの覇王エンリ大将軍の要求である。

 内心では腕の一本や二本引っこ抜かれることを覚悟していたのだ。それに比べたら強壮剤を飲むくらい大した事ではない。強壮剤に異常はないはずだが、最悪でも鼻血を噴いて前後不覚になるだけだ。

 

「それでは」

 

 男は小瓶の蓋を開け、乳白色の液体を一息に飲み干した。

 

 

 

「!」

 

 瞬間、手が震える。

 努めて冷静に、空になった小瓶をテーブルに戻した。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 今更ながら、エンリが顔を曇らせて傍に寄った。

 復讐心に駆られて無茶なことを要求してしまったが、冷静になれば自分がしてしまったことに罪悪感が湧いてくる。

 

「問題ありません。強壮剤は想定通りの効果を発揮しました」

「え……、それって……?」

 

 男が立ち上がる。

 エンリは見た。

 

「あっ、いやっ!!」

 

 エンリは男の腕に囚われた。

 強く抱きしめられ、男の股間が下腹に押し付けられる。

 見てしまったものは錯覚ではなかったと伝えてくる。

 

「私をこうさせたのはあなたですよ?」

「ちっ、ちがっ……、わたしそんなつもりじゃ…………」

 

 頭上から情欲を孕んだ声が降ってくる。

 男の体を押しのけようにも、エンリの力ではびくともしない。

 それどころか、腰に回った手が上がって下がって。

 尻を撫でられると、下腹に感じるものと合わせて甘い官能が滾ってきた。

 

「わかるでしょう? このままでは眠れません」

「でも、でもぉ…………」

 

 男の人がああなってしまうと、落ち着かせないといけないのをエンリは知っている。

 そのためにどうすればいいかも知っている。

 しかし、今の自分はンフィーレアの妻である。出来ることではない。していいことでもない。

 

「ひゃんっ!」

 

 尻と腰の中間あたりをギュッと押され、キュンと来た。

 自分の体に驚き目を上げれば、間近に美しい顔が迫っている。

 

「エンリさん」

「あ…………あ…………」

 

 強壮剤は想定通りの効果を発揮し、いきりたってしまった。ンフィーレアに過剰な効果が出たのは、この男は自分の体を基準に作ったからだ。

 帝国四騎士と打ち合え、条件次第では王国のアダマンタイト冒険者に伍すると言われ、何よりも様々な経験を経てレベルアップしてきたこの男と、少々魔法が使えても工房に籠もっていることが多いンフィーレアとでは、体の出来が違いすぎたのだ。

 つまりは薬が強すぎた。

 

 明日になればどうせシャルティア様に捕まるので今夜はしないつもりでいた男だが、こうなってしまったらどうにもならない。

 ネムちゃんにしてもらうのは不適。絶対に不可能とまでは言えず、一度や二度なら手や口でしてもらえるだろうが、それ以上となると無理をさせる。

 ミラがいたら可愛がってやれたのだが、今夜はそのつもりがなかったのでナザリックに先行させてしまった。

 カルネ村は来ること自体が久々で、他に知人がない。若い女性はいるかも知れないが、今から探して相手をしてくれというのは不可能だ。

 しかし、目の前にエンリがいる。

 エンリの想定の一つと思われた。

 エンリの言葉を覚えている。

 

「子供が出来るような事があっても大丈夫。エンリさんはそう言ったでしょう?」

「そ、それは…………」

 

 前回会った時、別れ際にエンリがこっそり告げた言葉だ。

 あの時は初めての経験に舞い上がって、熱に浮かされた勢いで言ってしまった。

 今は夫がいる。

 豊かとは言えないが、夫と安定した生活を送れている。夫のある身でして良いことではない。

 

「言いましたけど……、でもそれは……」

「それは?」

 

 安定した夫婦生活を送っていると思うが、満足しているかと言われたら即答できない。言葉に詰まってしまうかも知れない。

 もしもンフィーレアしか知らなかったら、こういうものなのだと受け入れていた。

 しかし、エンリは知っている。

 その上、ンフィーレアは良くも悪くも研究馬鹿。食事や睡眠を後回しにすることが頻繁にある。当然、夫婦生活の優先度はその下だ。

 ンフィーレアなりに頑張ってくれていると思うが、頻度や回数は多くなかった。

 

「本当に、出来ちゃったら……」

「大丈夫ですよ」

「えっ?」

 

 彼は何を持って大丈夫と言うのか、エンリは怪訝に見返した。

 男はどこか皮肉げに笑った。

 

「私の髪は今でこそこうですが、生まれた時は金色でした。目の色も本来は両目とも青です。左目の赤は血の色が浮かんでいるんです。金髪と青い目。大丈夫でしょう?」

「あ………………」

 

 エンリが遺伝の法則を知る訳がないが、子が親に似るのは経験的に広く知られている。

 顔貌は似ないこともあると言えても、髪や目の色は決定的だ。

 栗毛色の母と金髪の父から、銀髪の子が生まれることは早々ない。

 だけれども、本当は金色の髪だと言う。

 目の色も、本当は両目とも青だと言う。

 

 体の深いところから湧いてきた熱が、最後のハードルを超えてしまった。

 

「こっちを向いて」

「……………………はい」

 

 男の胸を押している手から力が抜け、言われた通りに上を向く。

 

「口を開けて」

「はい…………。あっ……」

 

 少し前、妹が言われたのと同じこと。

 薄く開いた健康的な唇は、尻肉を掴まれて甘い息を漏らす。

 吐息を吸い取るように男の唇が近付いた。

 

「ちゅっ……、あむぅ……、んっ、ちゅるる……、れろ…………ん、ふぅ…………んんっ……」

 

 妹と違ってキスを知ってるエンリは、最初から舌を伸ばした。

 男の口へ舌を入れ、舌と舌とを絡ませあって互いに吸い合う。

 尻を揉んでいた手が、夜着にしている簡素なシュミーズを手繰り寄せ、素足に外気が触れてくるのも気にならない。

 

 一度目のキスが終わった時には、二人の唇は相手の唾液で濡れていた。

 乾かない内に二度目三度目。

 

「あんっ!」

 

 シュミーズは腰まで捲られて、男の長い腕が太ももを撫でた。

 エンリは口を手で押さえた。思わず上げてしまった声は割りと大きかったのだ。

 ドアを隔てていても、その向こうでンフィーレアが眠っている。

 

 エンリの危惧を察した男は教えてやった。

 

「大丈夫ですよ。ンフィー君はよく眠っているし、目と耳に巻いてる包帯は光と音を完全に遮断します。すぐそこに雷が落ちても聞こえません」

「そ、そうなんですか…………」

 

 エンリの声は上擦っている。

 背徳感と、約束された秘密が高ぶらせてくる。

 

 エンリが見たドアへちらりと視線を向けた男は、心の中で自身の不手際をンフィーレアに詫び、今夜は代わりにエンリを満足させることを約束した。

 いきりたっているものをどうにかしないと眠れないし、エンリの体は火照って愛欲に潤んだ目で見詰めてくる。

 双方の利益のためとは言え、体を持て余している人妻を慰めるのは実父がしていたことと同じで、不思議な感慨を呼んだ。

 

「あの……?」

「失礼しました。何でもありませんよ」

 

 黙ってしまった男に、エンリが不安そうに声を掛ける。

 エンリの不安を解きほぐすべく、男は柔らかな笑みを浮かべた。

 

「ひゃあっ……、あ、あの…………。これ…………」

 

 太ももを撫でていた手が、服の下で背筋を這う。

 もう一方の手はエンリの手を取り、自身の股間に導いた。

 エンリの手は触れてしまったものから離れず、包むように手を開いて上下に撫で始める。

 

「それでは、子供が出来るような事をしましょうか?」

「…………はい♡」

 

 エンリは背伸びして、自分から口付けた。




NTR( ゚∀゚)o彡°

大好物あるいはダメ絶対の人がいるでしょうか
今更といえば今更なんですが


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誤算! ▽エンリ♯2

三回書き直しました_(:3」∠)_
質がどうかは知りません


 芳しい女の体が腕の中にある。劣情の滾りに任せて奪いたくなるのをぐっと我慢する。

 ソリュシャンならまだしも、エンリ大将軍なのだ。自分だけが満足するのはいけない。悦んでもらう必要がある。

 それに、初心な処女から人妻になったエンリがどう変わったか楽しみたくもあった。

 

 体を寄せて愛撫を交わし、淫らなダンスのようにテーブルを一周する。

 男は上着を脱いで椅子に座った。エンリは立ったままだ。

 

「見せてくれるかな?」

「はい……」

 

 のぼせた顔で頷いたエンリは、シュミーズのボタンを外し始めた。

 

 夜着に身を包むエンリを一目した時からそうではないかと思っていた。寝る時にだけ着るシュミーズは生地が薄いのだ。なのにストール等を羽織らず、エンリの胸の膨らみには乳首の突起が浮いていなかった。それだけならネムちゃんのようにインナーとして何かしらを着けている可能性もあったが、尻を撫でて確信した。

 エンリの尻は張りに加えてまろみがあった。夫婦の生活を送り続けた成果だろう。意図せず猛ってしまった現状では、処女を相手にする細かな気遣いが不要となって大変ありがたい。

 が、気付いたのは全く別のこと。尻を包む薄布がとても滑らかな手触りだったのだ。

 

「この前アインズ様のところで頂いて、いつも着けてるわけじゃないんですけど今日は特別に……、って言うわけじゃないんですけど!」

「わかってるよ。エンリさんがそれを着たのは偶々。でも、その偶々を見ることが出来たんだ。とても運命的だね」

「運命……」

 

 シュミーズを脱いだエンリは、前回は頑なに見せたがらなかった下着姿になっている。

 健康的でいてそこそこのボリュームがある乳房はハーフカップのブラジャーに包まれ、乳肉を寄せて上げて深い谷間を作っている。

 人妻になって丸みが出てきた腰回りから太ももに挟まれた三角地帯は、ブラジャーと同じ純白の薄布が隠す。ラキュースと違って毛ははみ出てない。

 どちらの下着も花柄の刺繍が施され、縁をレースが飾っている。カルネ村で手に入る下着ではない。帝国貴族の婦女子どころか、後宮の女たちでも手に入れられないだろう。間違いなくナザリック製の下着である。

 

 エンリたちがナザリックに招かれた折、ナザリック最後の良心が手土産にとプレゼントしたのだ。

 服や装飾品だとカルネ村では悪目立ちする。しかし、下着ならその用途から人目に付かない。裸身を飾るだけでなく、着けた時の快適性や体のラインを綺麗にする効果も見込める。

 こっそりプレゼントされた下着を、エンリは時々こっそり着けることがあった。今日着けているのは本当に偶々だ。

 自分に女の悦びを教えてくれた人と再会して、微塵も期待していなかったとは言えない。しかし、夫がいるのだから可能性はゼロに等しかった。

 だけれども、再会は高揚をもたらした。何事もなければ夫とベッドに入っていたのだから、見せようと思っていたのは当然夫だ。なのに見せているのは夫とは違う男。

 

「とてもよく似合ってるよ。とても綺麗だ。ンフィー君は毎晩こんなに綺麗なエンリさんを見れるんだね」

「……ンフィーにはまだ見せたことないんです」

「それなら私が初めてか。嬉しいよ。ますます運命的だね」

「運命……」

 

 もらったばかりと言うわけでもないが、とても高品質でエンリからすれば下手なドレスより高価に見える下着はおいそれと着けることが出来ない。気分転換にちょこっと着けることはあっても、夫婦の時間に着けてしまうと汚れてしまうかも知れないのだ。

 

 多少汚れたとしても、そこはナザリック製の下着である。泥汚れだって簡単に落ちる。とても丈夫で耐久性も抜群。魔法が掛かっているのでサイズを自動調整してくれる。そんな素晴らしい下着を上下5セットも頂いていてしまった。

 エンリが一生使い続けられる宝物だ。むしろ代々受け継ぐべき家宝である。

 

 シュミーズを着ていた時はわからなかったが、下着姿になれば体のラインがよくわかる。

 尻がそうだったように、全体的に丸みを帯びてきた。けして太ってるわけではない。腰は細く括れている。腰は細いけども、腰回りは豊かになって、胸も記憶より大きい。

 夫婦の生活がエンリの体を変えてきたのだ。

 

「近くに」

「はい……」

 

 下着姿を鑑賞されてる間、赤い顔で所在なげにブラジャーの肩紐を弄んでいたエンリは、素直に男へ近付いた。

 一歩二歩と近付いて爪先同士が触れる。

 

「エンリさん、私の可愛い人、今夜のあなたは私のものだ」

「あっ…………、はい。今夜の私はあなたのものです♡」

 

 男が身を乗り出して抱きついてくるのを、エンリは満ち足りた顔で受け止めた。今夜一晩だけであろうとも、心を砕いて尽くさなければならない。

 運命との言葉に酔ってしまったのもあるし、疑心を膨らませて薬を飲ませてしまったのは自分なのだから責任を持って癒やしてあげなければならないと強く思っている。

 運命と使命感が合わさって、エンリは無敵になった。

 

 

 

 

 

 

 椅子に座ったままなので、顔がエンリの乳房に埋まる。すぅと息を吸い込めば女の匂いが胸に満ちた。

 日中は暑く感じることが増えても夜半はまだ涼しい季節。屋内とは言え肌寒いと思われたが、エンリの肌は火照って胸の谷間は薄く汗ばんでいる。

 ますます滾ってくるが、エンリの準備はこれからだ。すべらかな背中を這っていた手が上に下にと滑っていき、左手がブラジャーのホックを外した。

 

「あっ」

「外して」

「…………はい」

 

 エンリはしばらく四苦八苦したブラジャーのホック外しを片手でされて、手慣れていると思ったけれど口にはしない。

 乳房を包んでいるカップが落ちないよう片手で支え、左右の肩紐を外す。ブラジャーはカップを重ねて後ろ手にテーブルに置いた。

 ブラジャーを外しても、張りのある乳房は垂れたりしない。つんと上向いて、キスで高ぶった気持ちが先端に集まっている。

 

「一年前に見た時より綺麗になってるよ。少し大きくなったね」

「そんな……、恥ずかしいです……。大きくって言われても、ひゃぅうっ!」

 

 男に初めて肌身を晒した時と違って、今のエンリはもう人妻だ。夫には何度も見せているし、触らせてもいる。

 一度だけとは言え体の隅々まで知られてしまった男に胸を見せても、処女だった時のように取り乱したりはしなかった。

 それでも、間近でじっくり見られて感想を言われるのは恥ずかしい。

 恥ずかしさに興奮するわけではないだろうに、乳房が張ってくる。乳首は物欲しそうに立ってしまって、触られただけで声が出てしまいそうだ。

 それなのに、甘美な刺激は触るどころではなかった。

 

(あっ、ダメ! 本当にダメなのに、ダメって言えない。もっとして欲しいって思っちゃってる。だって、気持ちいいし……、おっぱい吸われてるだけなのに。あぁ、乳首ジンジンしてるぅ……。ジンジンして熱くて張ってて痛いくらいなのに。ンフィーでこうなったこと一度もないのに。ダメぇ……、本当にもう…………、濡れてきちゃった……)

 

 乳首に口付けられ、ちゅうと吸われた。吸われながら、口の中でぬめる舌がつついて転がし。

 もう一つの乳房には逞しい手が鷲掴みして乳肉に指が埋まり、好き勝手に形を変え始めた。

 夫と、まだ見ぬ自分の子供以外は触れてはいけない乳房を、夫ではない男が弄んでいる。尖った乳首をたっぷりの唾液に塗らし、指で摘んではこねくり回している。

 自分に女の悦びを教えた男の愛撫は、されているのが胸だけなのに声が抑えられない。甘い痺れが下腹を疼かせる。

 

 キスをしていた時から潤っているのは感じていた。しかし、そこを触られる前に脱がされるだろうから大丈夫と思っていた。

 履いているのは、おそらくはとても高価で貴重な綺麗な下着。これまでなるたけ汚さないよう気を付けて履いてきた。夫婦生活で履かなかったのは汚す可能性が高いからだ。

 なのに、とろ、と溢れた。ような気がする、ではなくて確実に濡れている。

 今すぐに脱げば、ちょっとだけ付いてしまったで済むはずだった。

 

「ああんっ! だめぇ……、ダメなんです! おまんこいじらないでぇ! ふあっ……んっ……、んあぁぁあんっ♡」

 

 股に差し込まれた長い指が、下から股間を掬い上げた。

 下着の上から撫でられて、開き始めた割れ目に薄布ごと沈もうとする。奥からは次から次へと溢れているのに、そんな事をされたら染みてしまう。

 自分の体はちっとも言うことを聞いてくれない。

 濡らしたら汚しちゃうと思っているのに、体は悦んで勝手に応えてしまう。彼を迎えたいと訴えている。

 火照った体は心を引きずった。エンリは自分からキスをした。

 

「んっ、あっ…………、ちゅっ……ちゅっ……、ちゅる、れろぉ…………ぁん♡ じゅるる……、はぁはぁ……あむぅ♡」

 

 男の膝に跨り、正面から抱きつく。

 両手を首に回して引き寄せるのは、夫にもしたことのない情熱的なキス。自分から唾を啜って啜られて、貪るように舌を吸う。

 

「あっあっ、おまんこいいですぅ♡ あっ、そこっ、きもちよくて……♡ ああぁんっ♡ やだぁ、くちゅくちゅいってるぅ♡」

 

 エンリよりナザリック製の下着に詳しい男だ。

 耐久性が抜群なら伸縮性だって十分である。男はショーツの隙間から指を入れ、エンリの膣に突き立てた。

 少し前に、妹の膣に入っていたのと同じ指。妹の好きなところを擦れたのは姉との経験があったから。

 指は温かいエンリの中でふんわりと包まれる。一年前に比べたら固さがとれて柔らかい。

 少女が女になった理由は火を見るより明らかだ。

 

「エンリのここは前よりも良くなってるよ。ンフィー君と何度もしてきたんだね」

「っ!! そんな、こと…………」

「責めてるんじゃなくて褒めてるんだよ。正直に言ってごらん」

 

 夫ではない人とこんな事を。自分のふしだらさや不実を責められたと思ったが、男の声はどこまでも優しくて、愛おしげに髪を撫でてくれる。

 

 事実、この男にそんな事を責めるつもりも責めてよい道理もない。苦しむ自分のために体を張ってくれているのだから感謝している。

 エンリに訊ねているのは推測の確認、と好奇心。ンフィーレアとどんな事をしているのか興味があった。下世話な野次馬根性と違って、夫婦生活改善のためのアドバイスが出来ればと思ってのこと。エンリにはンフィーレアと良い夫婦でいて欲しいと願っている。

 

「ちゃんとここを使ってるんだろう?」

 

 根本まで挿入した中指を、第二関節で折り曲げた。指先が肉ひだを掻き、エンリは鳴いた。

 

「あんっ! …………はぃ。使ってます……。でもこんなに良くなくて、んぅっ……!」

「どんな風に使ってるんだい?」

「あ………………」

 

 中でゆっくりと指が蠢く。

 残酷な質問で冷えたかと思った心は熱いまま。きゅうと締めてしまったのを、してしまってから気が付いた。

 自分の体に気付かなかったのは、彼がズボンのベルトを外したのを見てしまったからだ。

 エンリが答えられずに見入る中で、窮屈そうに押し込められていたものが跳ね上がる。

 そっと手で触れ優しく握れば、火傷しそうなくらいに熱くなっている。

 

「私のここに」

「ここって?」

「私のおまんこに、ンフィーのおちんちんを入れて、ンフィーが動いて。中で出してもらってます……」

「それだけかな?」

「初めての時はンフィーはよくわからなかったみたいで、私が入れる場所を教えてあげました。…………あなたが私にしてくれてたから、教えてあげられたんです」

 

 夫との情事を語りながら、熱っぽい目で男を見た。

 夫はンフィーレアだけども、初めての男はこの人だ。

 

 そんな心情を読めない男は、純粋な疑問を口にした。

 

「口を使ったりしないのか?」

「う………………。あなたにしてもらったのは凄く良かったんですけど、ンフィーからは一度も。いつも手で、それで……。濡れ方が足りない時はこっそり自分でしてみたりして」

「して欲しいって言ったらいいじゃないか」

「言えませんよそんな事!」

 

 男の逸物を握って膣には指を咥えているのに、エンリは真っ赤になって訴えた。それとこれとは恥ずかしさの方向性が違うのだ。

 

「ふーむ…………」

 

 どうやら夫婦間のコミュニケーション不足であるらしい。

 エンリは自分がして欲しいことを主張すべきだ。そこの練習をすべきなのだが、ゆるゆると扱かれてるせいでもっと刺激が欲しくなってきた。

 それに、気にかかる部分は他にもある。

 

「エンリが口ですることはないのかな?」

「私が口で、ですか?」

 

 エンリの知識にはないことだ。

 しかし、自分が口でされるのは、された経験もあって何のことだかわかっている。それを自分の方からするというのは。

 脳裏に浮かんだ映像は、セックスと同等以上に刺激的だった。

 

「あ、あ、あの……。おちんちんを、舐める…………。ですか?」

「正解」

「あうぅ……」

 

 人妻なのだからセックスは日常である。勃起した男性器を見るのも触れるのもいつものこと。

 けども、舐めたことは一度もない。

 自分はされたことながら、自分からするとなれば想像の範囲外の行為で恥ずかしくなる。抵抗もなくはない。

 

「してみようか?」

「……………………はぃ」

 

 今夜はこの人に尽くさなければと思い極めているエンリである。

 拒否できるわけがなかったのだが、

 

 

 

「…………………………ここで、ですか?」

 

 体を竦めて息を殺し、囁き声で問いかけた。

 

「ここで、だよ。見えないし聞こえないから大丈夫。朝まで起きることはないよ」

「で、でもでもぉ……」

 

 エンリのお口の練習なのだが、エンリもお口でされたいらしい。

 どちらかだけならダイニングで出来るが、両方同時だとベッドがいい。

 

 来客予定はなかったのでゲストルームの準備はしていない。ベッドの用意があるのは夫婦の寝室だけだ。

 二人が上ったベッドの隣では、顔に赤い包帯を巻いたンフィーレアが眠っている。静かな寝息が聞こえてくる。

 妻であるエンリには夫が深く眠っているのがわかった。彼の言う通り、滅多な事では起きないだろうし、何もなければ朝まで熟睡してるだろう。

 

「俺が下でエンリが上。注意したことを覚えてるかい?」

「……はい。覚えています」

 

 ベッドには男が先に横たわった。

 エンリは股を開いて彼の体を跨ぐ。両手両膝をベッドに立てたままで、覆いかぶさるまでは至ってない。

 

「ほら、言われた通りにしてごらん」

「は、はぃ……」

 

 エンリの肘が曲がって、ゆっくりと男の体に近付いた。

 顔と顔とが近付くのではない。頭の向きが上と下とで反対だ。エンリの顔が近付くのは男の股間。エンリと同じく、彼も衣服を脱ぎ去っている。

 エンリの口に、勃起した逸物が近付いてきた。

 

「ひぅっ!」

 

 開いた口へ含む前に、尻を叩かれ小さな声を漏らした。

 お尻を叩かれるのは注意の意味だ。エンリは忘れていたことを思い出した。

 

「これから私の口で……おちんちん、しゃぶります……。上手く出来るかわからないけど、頑張ります」

 

 反り返っている逸物を握って向きを調整。唇に熱気が届く。

 勃起した逸物をこんなにも間近で見るのは初めてだ。

 案外かわいいと思ってしまうと同時に、熱さや固さには逞しさを感じる。見ているだけで感じるものがある。この逞しさが自分を愛してくれるのだと思うと、下腹に疼く熱が暴れそうになる。

 はぁはぁ、と熱い息を逸物に吹きかけ、エンリは膨らんだ亀頭と同じくらいに口を開いた。

 そのまま頭を下げ、口の中へ入れていく。途中で唇が少し掠めた。

 半分も入らない内に先端が口蓋の奥に触れた。喉の方へ来るよう角度を上手くすればもう少し行けそうな気がする。

 少しずつと言われていたので無理はせず、パクリと口を閉じた。

 

(わたしわたしおちんちんしゃぶっちゃってる!! ここからおしっことか出るんだよね? でも舐めちゃってる! こんな、こんないやらしいこと……。おちんちんをお口になんて……! でも、やれって言われちゃったし………………してあげたいし。私の口で気持ちよくなって欲しい。あっ、しゃぶってるだけじゃなくて動かなくちゃ)

 

 唇を窄めて竿に圧を掛けながら頭を上げる。唇に亀頭のエラが引っかかるところまで戻ると、もう一度頭を下げた。

 強く吸っているので時折じゅずずと大きな水音が鳴る。

 自分の口がそんな音を立ててしまったことに恥ずかしく思うが、気持ちよくなってもらうのを優先してエンリは頭を振り続け、尻をピシャリと打たれてきゃんと鳴いた。

 

「あ、あの……。ダメだったですか?」

「いや、フェラチオはそれでいいんだ。エンリは他に忘れてることがあるだろう? 言ってくれないとこっちは何も出来ないんだよ」

「あっ……」

 

 エンリには、おちんちんをしゃぶる以外にしなければならないことがあった。

 

 二人は頭の向きを逆にして重なっているのだから、エンリの顔に男の逸物が来ているように、男の顔にはエンリの股間がある。

 エンリは男の顔を跨いでいるのだ。

 

「言わなきゃダメ、ですか?」

「どうしても言えないなら仕方ないけど、エンリの練習なんだ。頑張って言ってごらん」

「はい……」

 

 彼に言われると、どんな事でも許諾してしまうことをエンリは疑問にすら思わなかった。

 見つめ続けると魂を遠いところへ連れ去られるような美貌なのだ。まともな精神をしていたら抗えるわけがない。

 今のエンリが見詰めているのは顔ではなく股間であるが。

 

「あ………………あの!」

 

 エンリは深呼吸してから口を開いた。

 顔が見えないのが幸いしているのかどうか。顔が見えていたら恥ずかしくて堪らないが、反対に自分でも気付かない内にしてしまっているかも知れない。

 どちらであれ、自分の意識はしっかりしていると思っている今のエンリには、口にするには決意が必要だった。

 

「私のおまんこ………………なめてください!」

 

 逸物を見詰めて握って無意識に扱きながら、エンリは言い切った。

 尻を優しく撫でられ、股間を温かい吐息が撫で、もっと柔らかくて温かいものに覆われた。

 

 

 

 舐められながら舐められるのはシックスナインだけである。

 そこへもう一つ、エンリがンフィーレアに出来ていないらしいおねだり練習を加えた。名付けて一石三鳥プレイ。

 エンリのフェラチオは初めてなのでまだまだ拙く、勃起を維持させる意味合いが強い。まずは舐める事に慣れさせるのでこれでいいのだ。

 クンニリングスで悦ぶのは当然エンリ。

 おねだり練習もエンリのため。

 全てエンリのためである。長く奉仕生活を続けていたので、奉仕の精神が根付いている男なのだ。当然のことながら、ソリュシャンやルプスレギナではなくエンリ大将軍が相手というのも大きい。

 

 目の前にあるエンリの秘部は、やはり処女だった時と違っている。

 股を大きく開かせ、指を入れてほぐしたのを差し引いても、淫裂が以前より大きく開いて濡れた内側を覗かせる。小陰唇も少し伸びてきた。

 人妻になったことで使い続けた結果、少女から大人になってきたのだ。

 感じ方も乱れ方も成長したらしく、舌の腹に乗せた小さな肉の豆はピクピク震え、雌穴はくぱくぱと開いては愛液を垂らす。

 尻を揉みながら舌を差し込むと、エンリは背中を仰け反らせて高い声で鳴いた。

 舐め始めて最初のうちは宣言通りにフェラチオを頑張れたが、舐めるのに吸うが加わると口は止まってあえぐだけ。手を離さないのだけは偉かった。

 

「はぁ…………はぁ…………、もう……、くらさい……。いじわるしないで……。おちんちん、いれてください……」

 

 エンリは男の股に顔を埋めながら、息も絶え絶えにそんな事を言う。

 

 おちんちんを舐めるのを頑張るはずだったのに、気持ちよくなってしまって何も出来なくなってしまった。

 同じ部屋で夫が寝ているのも忘れて、甲高い声で何度も何度も叫んでしまった。

 自分だけ気持ちよくなってしまったのが申し訳なくて、でも口では頑張れそうになくて、それだったら自分の体を使って良くなって欲しい。

 クリトリスへの愛撫は自分でするより遥かに良かったが自分でも出来ることであって、自分では出来ない深いところに欲しいと思う気持ちも大いにある。

 

「練習だよ。ちゃんと言ってみなさい」

「はい……♡」

 

 エンリの下から男が抜け出し、エンリが下になった。

 互いの股間を口で愛撫しあってる時は、手や膝を立てていたので密着度がいまいちだった。今度は違う。

 エンリは男の背中を抱きしめて、乳房は胸板で潰れ、下腹には逸物が押し付けられて熱くなって、脚と脚は絡んでいる。

 勇気づけるように口付けされる。

 

「あんっ♡ んっちゅっ……ちゅる……。あの……、私のおまんこに……」

 

 男が体を起こして、エンリは股を開いた。

 たっぷり可愛がられ、濡れそぼって開いている女の割れ目を晒している。それだけでなく、指を添えて左右へ開いた。

 割れ目を開くだけのおまんこくぱあより一歩先。エンリの指が広げたのは自分の膣口だった。

 童貞だったンフィーレアとの初夜は、こうして場所を教えてあげたのだ。

 

「ここに、あなたのおちんちんを、いれてください♡ あっ…………あぅ……、ああぁっ♡」

 

 示した場所に、期待通りに入ってくる。

 開いていた入り口を更に押し広げて、エンリの穴を満たしてきた。

 太ければ長さもあって、どこまでも入ってくる。体の全部に侵入される。圧迫感がとても自己主張して、自分の中に自分のものではない異物が入っているのだと教えるのだが、異物だとは思えない。

 自分から離れていた自分の一部が帰ってきたかのよう。

 

「エンリの奥まで入ったよ。大丈夫かい?」

「はいぃ……。ちょっときついけど、平気です。ンフィーのじゃここまで届かないから……。大丈夫ですから、動いてください。動いて欲しいんです。…………私のおまんこで、おちんちん良くなって……あっあんっ♡」

 

 処女の時は耐えるような仕草を見せたが、今のエンリは満ち足りた顔で微笑んでいる。

 文字通りに空いた部分を満たされたのだ。一つになれた幸福感は言葉に尽くせない。

 もっともっと感じられるように男を抱き締め、受け入れた男を締め付けた。

 

 指を入れた時から察していたが、挿入するとエンリの中がよく感じられた。

 何度も使ってきたことで、会わなかった一年の間に熟れてきたのだ。

 エンリの膣は逸物を根本まで受け入れる深さはないが、咥えてる部分は隙間なく密着して、けども固さはなく柔らかく締め付ける。

 使い続けてるなら娼婦もそうだが、あちらと違ってエンリは擦れてない。媚が拙いとも言える。それなのに膣は熟れて、エンリなりに媚びてくるのが可愛らしい。

 エンリは自分の恋人や妻ではなく、ンフィーレアの妻だ。

 エンリとこうしてセックスしているのは互いの利益が重なったからであるが、他人の妻を支配する優越感が湧いてくる。

 何年も久しく覚えなかった感慨を、おそらくはラナーに囚われる以前の幼少期以来に、他人のものが欲しくなる気持ちを思い出した。もう子供ではないので、その後の手間を十分承知しているが。

 

「エンリの中はとてもいいよ。ンフィー君が何回も何回もちんこを突っ込んできたからだね」

「はっ、はぃっ……。ンフィーと何回もセックスして、いつもおまんこの中に出されてっ、あっ! あんっあんっ♡ おくに、きてますぅ♡ おちんちんが、おまんこの一番おくにぃ♡」

 

 エンリは処女の時から中々だった。

 汁気が多くて逸物に絡みつき、膣へ突き入れる時はふわりと緩むのに奥まで行くと締め付ける。蠢く肉ひだは奥へ奥へと導くようだ。

 引き抜く時は逃すまいときゅうと狭くなるが、すぐに緩んで抽挿を妨げない。

 緩急つけて締め付けてくるのがとてもいいのだ。

 それが人妻になって熟れたことで、処女の時に見られた固さはどこにもない。

 

「ンフィー君のちんこが育ててくれたおかげで、エンリのまんこは良くなってきたんだよ」

「あっ…………はぁ……はぁ……。そう、なんですか? 私のおまんこ、いいですか?」

「とても、ね」

「うれしいです♡ でも、私も…………。ンフィーのおちんちんより………………。あなたのおちんちんの方が……ずっと♡ ンフィーのおちんちんは奥まで来ないですし、太さもそれほどじゃなくて……。こうして入ってるだけでも幸せで、動いてくれると気持ちよくて♡」

 

 言葉を交わしながらなので、激しくは動かない。

 淫らに誘うエンリに媚肉からゆっくり離れ、ゆっくり戻る。

 奥まで戻ればきゅうきゅうと締め付けてくる。最奥の子宮口は亀頭に吸い付いてくるようだ。

 

「入ってなくても抱きしめてくれるだけで、温かくて幸せなんです♡」

 

 エンリはうっとりと目を瞑って、背中に回した腕に力を込めた。

 始めは股を開いていただけだったが、脚を男の腰に回してきた。全身を使って男の体にしがみついている。

 

「あっ!? やぁん!」

 

 くっついているのが幸せと言ったのに、男の体が離れていった。

 追いかけるように腕を伸ばし、伸ばした腕を取られて引かれ、あれと思った時には上下が逆になった。

 挿入はしたままだ。

 男の腰の上に、エンリが跨っている。

 エンリは女が上になるこの形を知らなかったが、体位の基本形の一つとも言える騎乗位である。

 

「エンリが上になることも覚えようか。そのままエンリが好きなように動いてごらん。抜けたらまた入れてあげるから」

「はい♡ んっ、んっ……」

 

 膝をついてしまっているので、初めてのエンリには上下に動けるのがほんの僅かだ。

 している内に段々とストロークが長くなる。男の助言を受けて、前後に体を揺することも覚えた。

 

「はあ……はあ……、あっ♡ ここぉ……♡」

 

 息が荒くなってきたのは、慣れない動きで疲れたのか、気持ち良いところを擦れるようになったのか。

 たぷたぷ揺れる乳房を、男の手が下から支え、揉んでいる。

 

「ああぁぁあぁっっ♡ もう、だめ……」

 

 エンリは前に倒れて、男の胸に体を預けた。膣へ挿入されてる逸物は抜けてない。

 男の手がエンリの尻を掴んで軽く浮かせ、下から突き上げる。肉が肉を打つ音が響き、エンリは男の耳元で淫靡に鳴いた。

 

「あぁぁんっ♡ ま、まって、ください。すこし、やすませて……」

「疲れたかな? 俺のはまだ出てないんだ」

「気持ちよく、なっちゃって……。こんなの久し振りだから……。少し休んだら、だいじょうぶです」

「久し振りって大袈裟だな。五日前だろう?」

「一年前のことです」

 

 五日振りを久し振りだなんてアルベド様みたいなことを、と思ったら一年前のことだった。

 ンフィーレアとではなく、エンリが処女を失った時のことだ。

 

「ンフィー君とは良くないのかい?」

「頑張ってくれてるんですけど、あなたの方が、ずっと……」

 

 言われてみれば、十年は磨いて以降もあらゆる経験を積んで自己研鑽に励んだ自分と、エンリしか知らないンフィー君とでは、比較するのは無茶だろう。

 

 そんな男でエンリは初体験を果たしてしまった。

 

「だけど、さっきも言ったようにンフィー君が育ててくれたんだ。そのおかげでエンリの具合はとてもいい。優しくしてくれてるんだろう?」

「……はい。あの…………、聞きたい、ですか?」

 

 体を重ねて抱き締めあっているので、エンリは男の首筋に顔を埋めている。

 快感と自分が言ってしまったことに小さく震え、それが寒いと思われたのか体にシーツを掛けられた。

 エンリはシーツを引っ張って、頭の上まで持ってきた。

 夜なのもあって、ランプの薄い明かりだけでは照らしきれず真っ暗になった。内緒の話をするにはもってこいだ。

 

「是非聞かせて欲しいな」

 

 エンリの話に察しがついた。さっき中断した話を続けてくれるようだ。

 抱いた女性のほとんどは自分が初めての男で、他の男を全く知らない。ティアとティナはそうではないが、レズとショタの話は当てにならない。

 娼婦たちは経験豊富だが、客にそんな話を進んでするわけがない。聞かせてくれるよう頼んだこともなかった。

 エンリはどれとも違う。初めての男は自分だが、夫が他にいる。夫との回数のほうがずっと多い。

 

「えっと、はい。わかりました。……する時は、ですね。私からしようって言いたくてもンフィーは研究ばかりしてるから疲れてるし時間が合わないことも多くて……、ンフィーが言ってくれるのを待つんです」

 

 男に頭を抱かれて言葉を区切った。

 唇が男の首筋に触れ、無意識にちゅっと口付ける。

 

「ちゅっ……。それで、いつも最初から裸なんです。服を脱いでベッドに上がって、抱き合ってからキスをして。でもンフィーはキスで舌を使うの知らなくて。私から舌を入れるのも恥ずかしいし……。あんっ……、あむぅ、ちゅうぅ……、れろ……、こんなキスは、はむぅ……、じゅるじゅる……。んっ……、ぷはぁっ!」

「キスは覚えた?」

「……はい♡」

「復習しようか」

「はい♡ あむっ……ちゅるる…………。んっ……、んっ♡ あんっ♡」

 

 ンフィーレアへ教えるために、ンフィーレアが知らないキスの練習。

 れろれろと舌を絡ませあう。エンリは唾液を交換するのに夢中になった。ちゅるると唇を重ねるのは良いもので、エンリは満たされている。

 

 一方の男は、動かないことが少々苦しくなってきた。

 ずっと挿入したままだ。エンリの肉ひだが絡んで締めてくるのは良いものであると同時に生殺しでもある。

 エンリが動かないよう腰を抱き、腰を揺すった。中に入っているものが僅かに深くなって、浅くなる。

 

「ンフィーはおっぱいも、さわってくるんです。さわられると乳首が立っちゃって、あんっ♡ ……乳首を、つまんだり、ちゅーちゅーされたりぃ♡ あんっ、ふかくて……♡」

「少しずつ動いてごらん」

「はい♡ でも、お尻はあんまりさわらなくて、あっ? お尻つかんで……? やぁん! 広げちゃダメです、お尻の穴ひろがっちゃうぅ♡」

 

 エンリが腰を振るのを手伝おうと、男はまろみが増した尻肉を掴んだ。

 そこで上下に動かしてやれば手伝いになったのに、掴んだ尻肉を左右に引っ張った。

 エンリの後ろに誰かがいれば、肛門の皺が伸ばされきったのを目にしただろう。

 

「そっ、それから……、おまんこ、です♡ 前に、クリをさわられて、剥けてたからちょっと痛くて、はぁっあぁあん♡ 手のひらで揉むような感じで、ンフィーのおちんちんは、私が手でしてあげて。おっきくなってきたら……、あっ………………、イイ、ですぅ♡ お腹あつくなって……♡」

 

 蕩けそうな甘い声で、エンリは感じていることを告白した。

 下から何度か突き上げられ良いところを擦られて、覚えてしまった。自分からゆるゆると腰を振り、ンフィーレアでは届かないところに届かせる。

 擦らなくても、圧迫感を覚えるほど太くて長くて、締め付けに負けない固さがある。そこを圧されているだけでも快感が深くなる。

 

 僅かな隙間すらないように見える二人の結合部からは、白い汁が滲み始めた。

 精液よりサラサラしている。エンリが垂らした本気汁だ。

 

「わたしのおまんこがぬれてきて、ンフィーのおちんちんが立ったら……」

「ンフィー君が上になるんだろう?」

「そう、です。さっき、入れてくれたみたいに……。あんっ!」

 

 被ったシーツを剥ぎ取って、再度の上下逆転。

 真っ暗に慣れた目には、僅かな明かりでも互いの顔がよく見えた。

 

 エンリの顔は、声から察せられるように愛欲にとろけきって、潤んだ目はキラキラと輝いている。

 何度も何度も達しているのに、今以上を期待している顔だ。

 

「わたしが下で、ンフィーが上にきたら……。おまんこに、おちんちんを、入れてもらうんですっ、あっあぁぁぁああああん♡ あっあっ、はげしっ……、あぁぁんっ♡」

 

 エンリの語りに合わせて、男は腰を使い始めた。

 ンフィーレアが何度も使っていると語ったエンリの雌穴に、猛った逸物を行き来させる。

 肉が肉を打つ音にエンリの嬌声が重なって、穴から掻き出された愛液がシーツに染みを広げていく。

 

「ンフィーもおちんちんうごかしてっ、でも奥までこなくてぇ♡ あっあっ、あんっ、そこまでこなくてぇ♡ あっっはああぁあん♡」

 

 しがみついてくるエンリから何とか体を起こして太ももを抱え、腰を打ち付ける。逸物はきゅうきゅうと締め付けられ、出入りするたびに新しい愛液に濡れた。

 人妻になって柔らかさを増した乳房はぷるぷると揺れている。吸われ続けたことで若干の色味を増した乳首は、ブラジャーを外した時からずっと尖ったままでいる。

 乳房を掴んで揺れを止め、乳首の弾力を確かめてやれば、あぁんと鳴いた。

 

 エンリは日常となった夫とのセックスを疎うことはないし悪くはないと思っているが、こんなにも感じることは一度としてなかったのは確かだ。

 夫が隣で寝ているとわかっているのに、いやらしい言葉を口にして、快感に叫んでしまう。

 遮光遮音されて夫にはわからないはずだが、仮にされていなくても快楽に抗えない。自分の女が悦んでいる。今の自分は誰かの妻ではなく、悦楽を貪る雌なのだ。

 自分ではない自分にされるのは、新しく生まれ変わったようだった。

 

「あっ、だめっ、そこよくておまんこよくてぇ……、あっあっあひいいいぃぃいい♡」

 

 エンリの胸が上下すれば、下腹も上下している。

 下腹の奥では注がれるであろうものを導こうと、逸物に絡みつく肉ひだが蠕動し、膣は痙攣したように締まっては緩んでを繰り返して、腰全外が小刻みに震えた。

 口を閉じられず顎が震え、零れそうな涎は吸い取られた。

 真っ白に明滅する視界の中で、美しい男の顔だけがあった。

 

「まだだよ、私の可愛い人。もっと可愛い声で鳴いてごらん」

「はっ、はひ…………。あっ、あっ、あんっあぁあん…………あ゛っ♡ あっっっあ゛あああああああああぁああああああーーーーーーっ!!」

 

 男が伸し掛かっているのに目一杯背を逸らし、エンリは鳴いた。

 

「あっ、はぁ、ひぅ…………、おまんこ、すごく、よくてぇ……。おちんちんきもちいですぅ……。ンフィーのおちんちんより、あなたのおちんちんがぁ…………。あ……」

 

 快楽の海に揺蕩って戻って来れそうにないエンリが、突然理性を取り戻したわけではなかった。夫婦の夜の生活を事細かに語る時点で理性はとっくに溶けている。語りが途中だったのを思い出したのだ。

 セックスのために裸でベッドに入って、キスをして前戯をして準備が出来たら挿入して。中でいっぱい動いてもらって。最後には。

 

「おちんちん来たら、わたしのおまんこで、精液出すんです。熱いの、中で。おちんちんピクピクして。私のおまんこ……、ンフィーにいっぱい精液かけられてるんです。だから、私に……」

 

 エンリが何かしらを訴える目で見詰めてきた。

 乳房を揉み、下腹を撫で、太ももを掴んで股を開かせていた手をエンリの手に合わせる。

 手のひらが重なれば、エンリは指の股に指を入れ、きゅっと握ってきた。

 エンリの両手を握って体を倒せば、全身でエンリの肉体を囚えたようだ。

 

「エンリ、何が欲しいんだい? 言ってごらん」

「はい……。私のおまんこでおちんちん良くなって、精液をいっぱい出してください……。私のお腹に赤ちゃんの素をいっぱい出して………………。私にあなたの…………」

 

 真っ直ぐに見ていた目が泳ぐ。

 手は繋いだままなので、抱き締められない。

 エンリは少し顔をずらして頭を上げ、男の耳に唇を寄せた。

 

 そして小さな声で囁いた。

 

(あなたの赤ちゃん…………、産ませてください♡)

 

 エンリは自分の言葉で感極まって、潤みきった目から涙を零した。

 体は心と言葉に応えるべく、子宮が下りて男に近付く。

 繋がっている部分は十数度目の痙攣をした。

 

 健気な囁きは胸を打ち、男に使命感を抱かせた。

 エンリの練習でペースを抑えたのは、エンリはとても良かったようだが入れてる方としては焦らされてるのと変わらない。

 ンフィーレアがしている正常位でエンリの中を堪能し、いつでも行けるほどに快感が込み上げている。

 出してやらねばならなかった。

 

「あぁっ!? 出て……、熱いの出て……? あ゛っ……ああああああぁぁあああああああああぁぁああああああーーーーーーーーーっ!!」

 

 子宮口に押し付けた尿道口から、熱い精液がどぴゅどぴゅと噴き出した。

 両手両足を使ってエンリが男へしがみつくように、逸物を包む膣も締まって中に出された精液を逃さない。

 エンリがねだった赤ちゃんの素は、入り口から狭い道を通って子宮へと注がれた。

 

 

 

 強壮剤のせいでいつもより量が多い。

 エンリの子宮を満たしてなお、どぴゅと断続的に吐き出す。みっちり埋まった膣がいっぱいになっても、痙攣しながらぴゅっぴゅと続く。

 太い逸物で目一杯広げられた膣口から、白濁した汁がとろとろと溢れ出す。

 

 温かいエンリの膣内の温度が変わり、ひとまず落ち着いた男は薄く開いたエンリの唇を貪った。

 唇を唇で食み、内側を舌でなぞって口内へ差し込む。

 絶頂した虚脱感からか、エンリの舌は応えなかった。

 

「とても良かったよ。たくさん出たのがわかっただろう? でも、まだこれからだ。あれだけ出したのにまだこうだ」

 

 射精して少しの間は固さが薄れたが、すぐに元通りになった。

 エンリの奥まで挿入したまま固さを取り戻したため、子宮へ注がれなかった精液全てが結合部から溢れた。

 エンリの尻の下はエンリの愛液が染みを作っているが、尻の割れ目に沿って垂れた精液はシーツに吸われきらず、泡が交じる粘塊となって溜まっている。

 

「このまま続けて欲しいかい? それとも………………? エンリ?」

 

 エンリの返事がない。

 

「エンリ? エンリさん? ……まさか!?」

 

 エンリの頬をひたひたと叩く。

 反応はない。

 呼びかけても応えはない。

 エンリの目は閉じられて、幸福の余韻が安らかな顔をさせている。

 

 エンリは深い絶頂と共に、気を失ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 エンリの体力は最低でも3と見積もっていた。

 処女だった時から3回も絞ってくれたのだから、人妻となった今では5はあってもおかしくない。

 それがたったの一度でダウンしてしまった。

 

 人妻になって体力は増強したかも知れないが、感度もまた増していく。

 夫との行為に満足出来ているとは言えないエンリだが、疎んではいない。自分から誘いたいと言うくらいなのだから好んでいる。

 好きでしている事なのだ。磨かれるのは自然である。

 エンリは一年前より淫らに、そして感じやすい体になっていた。

 

 エンリが成長しているように、この男も成長している。

 技術は元より、先日はアルベドの戯れもあったわけだが、一度で美神の精神を彼岸に飛ばした。

 

 体を重ねている間、エンリはじっくりと快感を与えられ、自分の語りでも感じ入るものがあった。

 男の方はエンリに付き合ったために焦らしに焦らされ、強壮剤の効果もあって最後は熱が入った。

 

 体力が多少増したとしても、減少した防御力に増加した攻撃力を重ねたらどうなるか。

 魂も精神も上書きされ、幸せの国へ旅立ったエンリが物語っている。

 

 

 

 男は気絶したエンリの中を数度往復した。

 エンリは微かに呻くが起きる気配はない。

 気絶していても体の方は多少の反応があったが、全身が弛緩しきっているので緩急つけた締め付けは望めない。

 時間を掛ければ行けるだろうが、気絶したエンリ相手に励むのは憚られた。

 

 予定としては、エンリの中に1。練習を兼ねて口で1。最後にもう一度中で1。

 三回出せば落ち着くはずで、中に出すのが2回ならエンリの体力も残ったはずだった。

 しかし、最初の1回で沈んでしまった。

 残り2回をどうすればいいのだろうか。

 

「そうだ! ネムちゃんがいる!」

 

 ろくでもないことを閃いてしまった。

 エンリと始める前、2回までだったらネムちゃんでも可能と判断していた。

 

 大急ぎで身支度を整え、前回と同じようにエンリの体を軽く拭いてやってから毛布を掛ける。

 あちこちが色々湿っているのは、エンリが起きてから自分で何とかしてもらおう。

 

 ネムちゃんが寝てしまう前に戻らなければならない!

 

 男は間男のようにこっそりエンリ邸を後にし、いきり立たせたまま短い帰路を駆け抜けた。




エンリパートが7k字以内だったら一緒にしようと思いましたが本話16k弱

基本的に一話先は闇でプロットなにそれですが、ラナーまでのロードマップを考えてみました
1.クライムイベント準備
2.クライムイベント
3.ラナー
たったのスリーステップ!
しかし各ステップを踏むのに10〜20くらい掛かりそう


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誤算と閃き! ▽ネム♯3

本話17k
前話と一緒にするなんて考えるだけでも無謀でした


 仮宿に急行。到着。真っ直ぐ寝室に駆け込んだ。

 

「ネムちゃん!」

 

 応えはなかった。

 ベッドは膨らんでいない。シーツに触れても温もりは残っておらず、離れてからある程度の時間が経っていると察せられた。

 エ・ランテル基準ではまだ真夜中と言える時間ではないが、カルネ村基準だと遅い時間になる。就寝時間にはまだ早いとしても、こんな時間に外に出ることはないと思われる。

 

 それならと次に探したのはダイニングキッチン。夕食はたっぷりだったのでお腹はまだ減ってないだろうが、甘いものなどを摘みたくなったのかも知れない。

 生憎、この家は一時滞在用の仮宿なので食料品はあまり置いてない。あるのはナザリック第九階層のシークレットルームに並んでいるのと同じ白いボックスだけだ。中には携帯保存食と携帯飲料水が幾らでも入っている。

 ナザリック製レーションはとても甘くて美味しくて、クッキーのような食べ応え。ネムちゃんも気に入るだろう。お腹に溜まってしまうのでいっぱいは食べられないのが難点だ。

 他にはお茶を入れる道具が少々。調理器具はない。お湯を沸かせるだけである。

 

 しかし、ダイニングキッチンにもネムはいなかった。

 小さな家なので、他にいそうなところは一つだけ。もしもそこにいたらとても都合が良い。

 きちんとノックしてから声を掛けた。

 

「ネムちゃん、いるかな?」

(あわわわわわわ! お兄ちゃん!? ごめんなさい助けて!!)

 

 上擦った声が返ってきた。どうやらネムちゃんはとても慌てて焦っているようだ。

 仮宿に着いてすぐに寝室へ連れ込んだため、この部屋の説明をしていなかったことを思い出した。

 

「入ってもいいかい?」

(うん。……でも、ごめんなさい。ネム、知らなかっただけでわざとじゃないから!)

「何となく予想がつくよ。説明しなかったのは私だからね。ネムちゃんは何も悪くないさ。それじゃ、失礼するよ」

 

 ドアを開けるなり、温かく湿った空気が顔を打つ。香料の甘い香りが多分に含まれている。

 

 ネムちゃんは部屋の奥にいるらしい。らしいと言うのは姿が見えず、声がそちらから聞こえてくるから。

 ネムちゃんがいるらしき場所は、白いあぶくが山となっていた。

 

「おにいちゃあん……」

 

 ちょっと泣きそうな声である。

 一人でバスルームに入って入浴チャレンジしたネムちゃんは、ちょっと失敗しちゃったらしい。

 

 

 

 

 

 

 一人遊びを達成したネムは、小さな家に一人残された。

 初めて入る家で一人きりである。子供らしい好奇心がむくむくと湧き上がってきた。脱いだ服を着直して、小さな探検が始まった。

 なお、パンツは履いてない。

 

 ダイニングキッチンでは立派なテーブルと椅子が並んでいるのに、肝心な料理は出来そうにない。

 目に付くのは、白くて縦長の箱のような棚のようなもの。いいのかないいよね、と自問自答してボックスの蓋を開く。銀色の何かに包まれた細長いものが幾つも積まれている。透明な瓶に入っているのは水のように見える。

 中身は何かなと思ったけれど、自分のものではないのだから勝手にしてはいけない。蓋を閉めたらパタンと小気味良い音を立てた。

 

 探検は早速最終エリアに入ってしまった。

 最後の部屋はドアの近くに棚や籠があって、白くて大きなタオルが何枚も積んであった。

 奥には白い舟形が鎮座している。片端に銀色の管が縦横下を向いて付けられており、動きそうな部分を触ってみると回転するところがある。

 首を傾げながら回してみれば、下を向いた管から綺麗な水が流れ出した。もう一つ回りそうな部分を回せば、流れる水が温かくなってきた。

 管から流れるお湯は舟形へ注がれ、底に空いている小さな穴からどこかへ消えていく。

 穴の近くには細い鎖にぶら下がった黒くてまるいものが転がっている。形からして穴にぴったり嵌りそう。嵌めてみると、管から流れるお湯が舟形へ溜まり始めた。

 舟形上部の壁面にはネムの手より小さい丸い格子があり、その高さまでしかお湯は溜まらないようになっているようだ。

 

 ネムは初めて見るものであったが、ここまで来れば察しがつく。

 

「これもしかして……お風呂だ!!」

 

 お風呂であった。

 ネムちゃん大興奮であった。

 

 カルネ村で風呂に入るのは簡単なことではない。

 夏なら水浴びが出来ても、冬はそうはいかない。水はあっても沸かさなければならないのだ。

 昔はとてもではないが入れたものではなかった。人が入れるほどの水をお湯にするには、相当量の薪が必要になる。カルネ村の冬はただでさえ苦しく、そんな余裕はどこの誰にもない。桶いっぱいのお湯がとても贅沢だった。

 現在では、お願いすればゴブリン大軍団のゴブリンメイジが魔法でお湯を沸かしてくれる。毎日は無理でも週に一度なら十分可能。

 お風呂には早々入れなくても、毎日お湯を使って体を拭いているので清潔にしている。ちょっとお風呂に入ってなくてもネムちゃんからはいい匂いがするのだ!

 

 そういうわけで貴重なお湯であるが、ここでは魔法の道具が使われているのかネムの知らない仕組みがあるのか、綺麗なお湯が幾らでも出てくる。

 

「入ってみたいけど勝手に使っちゃったら怒られるかも知れないし」

 

 お風呂に入れば気持ち良いし体を綺麗に出来る(毎日清潔にしているから汚くはないので今よりもっと綺麗に出来ると言う意味での綺麗に出来るである)。

 幼女から女の子になったネムは、お風呂への誘惑を中々断ち切れない。けども、自分はあくまでもお邪魔している立場である。勝手には使い難い。

 うーんうーんと悩んでいる内に、舟形の浴槽には湯が溜まっていく。

 

「ちょっと熱いかな?」

 

 溜まり続けるお湯に手を入れ、温度を確かめる。

 水と湯のレバーハンドルを操作し、体温と同じくらいに調整。

 

「わぁ……湯気がいっぱい! 入ったら温かいんだろうなあ。でも勝手に使っちゃダメだよね。お兄ちゃんに聞かなくちゃ」

 

 自分は誘惑を断ち切れる女の子。ネムはうんうんと一人深く頷いた。

 そんな一人芝居をしている間にも、バスタブには湯が溜まっていく。深さはネムの膝を超えた。入浴するのに問題ない量だ。

 

「ここまでお湯が溜まっちゃったんだからお風呂に入らないほうがもったいないよね!」

 

 完全完璧な理論である。

 勝手に使ってはいけないかも知れないが、使わなければお湯が無駄になってしまうのだ。

 

 ネムはささっとワンピースとスリップを脱ぐ。脱いだ服はきちんと畳んで、濡れないようドアの近くに置いた。

 ささっとバスタブまで駆け戻り、溜まり続ける湯へ恐る恐る爪先を差し入れた。

 

「あったかあい」

 

 ネムは、堕ちた。

 お風呂の誘惑に抗えなかった。

 勝手に使ってはダメと思っていたのに、足を包み込む湯の温かさを感じたらもういけない。気付いたら両足を入れている。ゆっくりと腰を下ろせば全身が湯に浸かる。寒くはなかったが、全身がポカポカと温まるのは格別だ。

 

「ふい〜〜〜」

 

 恍惚と息を吐きながら、手足を伸ばす。

 ピチャピチャと湯面を掻いて波打つ波紋に目を細め、手足を撫で始めた。

 ピチピチのお肌を更に磨くのである。

 

 手足は指の股も丁寧に擦って、足の付根やお腹にも取り掛かる。膨らみ始めたおっぱいは特に優しく。

 その時である。

 浴槽近くの小さな網棚に、寸胴の瓶が三本並んでいるのを見つけた。

 

「なんだろこれ?」

 

 中身が詰まっているらしく、持ち上げるとずしりと来る。入っているのは水よりも重いように感じた。

 瓶の材質はネムの知らないもので、蓋らしき部分もネムの知らない形をしている。

 細長い出っ張りが上に突き出て、その上にまるい板が乗る。そこから細い管が横を向いてついている。

 おそらくはまるい部分を押すのだろうと見当をつけ、少しだけ押してみた。細い管から白い液体がピュッと飛び出た。液体は湯に落ちた。

 途端に甘い香りが広がる。

 今度は瓶を網棚に戻して、管の前に手を置いてから押してみた。

 手のひらに乗った白い液体は、とてもヌルヌルして良い匂いがする。

 

「いい匂い〜。もうちょっと出してみてもいいかな? 出てくるのちょっとだけだし……。他のはどんなのなんだろう?」

 

 一回に出てくるのは少しだけなので、とは言っても消耗品らしいのでいっぱい使うのは憚られ、それぞれを三回ずつに留めた。手のひらいっぱいになった三種類のヌルヌルでいい匂いの液体。

 ネムはくんくんと匂いを嗅いで香りを楽しみ、はたと我に返った。これは一体何に使うもので、どうすればよいのだろうか。

 最初に出たのはお湯に入ってしまった。お湯に香りが移っただけで、特に変わりはないように思えた。

 お湯に入れればいいのかな、と。手のひらを湯に沈める。

 浴槽のお湯はもう十分溜まったので、レバーを捻ってお湯を止めた。

 いい匂いになったお湯を使って、体磨きを再開である。

 

「なにこれ!? どうなっちゃったの!?」

 

 サラサラだったお湯が粘性を帯びていた。それだけなら驚くようなことではない。液体はヌルヌルだったので十分予想できる範疇だ。

 驚いたのは、ネムが湯を掻く度に大小のあぶくが幾つも生まれてきたこと。あわわわわ!?と動けば動くほどに泡が出来る。

 混乱しながらバシャバシャとやっている内に、あぶくは山のようになってネムの全身を包んでしまった。

 

 ネムは知らないが、ポンプ式のボトルに入っていたのはナザリック製ボディソープ、シャンプー、コンディショナーである。

 香りは上品。洗浄力抜群。潤いもばっちり。泡立ちだってたっぷりなのだ。

 

 

 

 

 

 

「ネムちゃんはお風呂に入ろうとしたんだね。使っていいものだし、説明しなかったのは私だからネムちゃんは何も悪くないよ。折角だから私も入っていいかな?」

「うん……。あの、勝手に入ってごめんなさい」

「謝る必要はないけど、ネムちゃんが反省した気持ちはよく伝わったよ」

 

 お風呂に入るのだから服を脱がなければならない。ネムちゃんと違って、この男は脱いだ服を畳むことなく空の籠に放り投げた。

 湯に浸かる前にネムの顔の泡を手で拭ってやる。ちょっぴり涙目のネムちゃんが現れた。

 

「余り口に入れないほうがいいよ。口をすすいだ方がいいね」

 

 ネムが触らなかったレバーハンドルを上に倒し、シャワーから湯を出す。断ってから顔に掛けた。

 ネムはあーんとお口を開いてお湯を受け、言われた通りにくちゅくちゅした。うがいしたお湯は、ちょっと汚いと思ったけれどバスタブへ。

 顔が済んだら頭から。白い泡は湯とともに流れ去り、中から天使のように可愛らしいネムちゃんが現れた。

 

「そこの瓶に入ってるのは体や髪を洗うのに使うんだよ」

 

 男は自分にもシャワーを掛けながら諸々の説明をした。

 これが体、これは髪、これは髪を洗った後につけるもの。つけたら最後は流すように。ここを捻ると水が出てこっちはお湯。ここを倒す向きでお湯が出る場所が変わる。

 

「ふむふむ……」

 

 説明しながらバスタブの湯を抜く。

 お湯を抜いても大量の泡は残ったままだ。シャワーで半分ほど流したらバスタブに栓をして、改めて湯を溜め始めた。

 

「それじゃ、一緒に入ろうか」

「う、うん……」

 

 体の大きい方がバスタブの壁面に寄りかかる。小さい方はその胸に背を預ける。足を伸ばして向き合う広さがあるが、そちらは選択肢に上がらなかった。

 

 裸を見せて色々なことをされたばかりのネムではあるが、二人共裸になってくっつくのは初めてだ。初めての経験はネムの胸を高鳴らせ、けどもドキドキしているのは違うこと。

 未だ泡だらけなのでお互いの体はよく見えない。お湯に入ってしまえば尚更だ。

 しかし、体から泡を流されている時、ネムは見た。

 

(お兄ちゃん…………おちんこ大きくなってる!)

 

 見間違いではなかったはず。

 希望的観測が含まれているような気がしなくもないが多分きっと大きくなってる。

 どういう時に立ってしまうのか、ネムは一年前の言葉を覚えていた。

 

(おちんこが大きいって事は…………ネムのおまんこに入れたくなってるってこと? でもお兄ちゃんはネムにはまだダメだって言ってたし。でも本当に大きくなってるのかな?)

 

 疑問は直後に解消した。

 

「ふにゃっ!?」

「驚かせたかな? 折角一緒に入ってるんだからね」

 

 背中から男へ近付いたネムは、後ろから抱き寄せられた。男の逞しい胸に背がぶつかる。

 そして尻には、固い棒状のものが押し付けられた。

 

「お風呂は気持ちいいかい?」

「うん……。あったかくて、いい匂いして」

「それならもっと気持ちよくなろうか」

「うん!」

 

 元気満点のお返事である。

 

 

 

 

 

 

「あんっ……、おにいちゃん…………」

「なんだい?」

「おっぱい……、やさしくして?」

「わかってるよ」

 

 ネムの小さな体を膝上に乗せ、後ろから育ち始めた乳房に手を這わす。

 ちっぱいをさわさわと撫でながら首筋に顔を埋め、軽く吸った。小さく震えるネムの様子を窺いながら、少しずつ上へ。

 ナザリック製ボディソープで磨いたネムのほっぺはつるつるスベスベぷにぷにだ。

 頬の感触は頬で楽しみ、濡れた髪を上げて耳たぶを唇で食む。

 

「やぁん! 耳されたらくすぐったいよぉ」

「それならこうしたらどうかな?」

「はひっ!?」

 

 柔らかな耳朶に歯を立てる。甘噛みよりちょっと強めで、薄っすらとついた歯型はすぐに消えた。

 ピクリと震える小さな体を逃さず抱き締め、耳の穴へふっと息を吹きかけた。

 噛まれるより刺激が強かったらしい。ネムは咄嗟に耳を押さえ、驚いた顔で振り向いた。

 

「ひゃあぁっ!? 今のなに!? ゾワゾワした!」

「息を掛けただけだよ。ネムちゃんは耳でも感じるみたいだね」

「耳? そんなところで?」

「おかしいことじゃないよ。色々なところで感じるものだし、髪を撫でられるのが気持ちいいっていう人もいるよ」

「そうなの?」

「くすぐったいって事は、敏感で感じやすいってことなんだ。中には脇の下や脇腹みたいにくすぐられると苦しいところもある。気を付けるけど、もしも苦しくなったら教えてね」

「うん、わかった。ちょっとくすぐったいだけなら我慢する」

「ネムちゃんはいい子だね」

「ひゃんっ! また耳にぃ。んむぅっ……」

 

 反論を抑えるためではないだろうが、男の指はネムのぷにぷにした唇を撫で、口内へ這い進んだ。固い歯を越えれば柔らかい舌が待っている。

 耳孔へは舌を差し込み、にちゃにちゃと粘着質な音を響かせる。

 

 ネムなりに色々な事をしてきて知ったつもりでいたが、耳を責められるのは初めてだ。

 くすぐったいだけだと思ったのに、肌が粟立つようなくすぐったさとも快感ともいい難い何かが背筋を走る。

 舌を差し込まれて温かさと柔らかさを感じ、にちゃにちゃと聞こえてきたら、耳で感じるのがどういうことかわかってしまった。

 入らないところに入ってしまって、いやらしい音を立てている。自分の体のどこかが溶けて、自分の中で音が鳴っているようだ。

 唇を撫でる指を舐めてあげようと思っていたのに、口を閉じることすら忘れ、唇の端からは涎が垂れた。

 

(やっぱり耳がいいみたいだね)

「はぅっ!」

 

 耳に唇が触れた状態で話されると、耳の穴へ温かい息が掛かる。

 囁くような小さな声なのに、頭の中に直接届いてくる。

 くらりと力が抜けて男の胸に体重を預け、呆と見上げれば綺麗な顔が微笑んでいた。

 

「お湯はもう少しぬるい方がいいかな?」

「だ、だいじょぶ……。ネムはもう大丈夫だから!」

 

 実のところあまり大丈夫ではないが、頑張って大丈夫ということにするのだ。

 だらしないところばかり見せてしまうのは恥ずかしい。それに謎がまだ解けていない。

 

(お兄ちゃんのおちんこ、大きくなってるよね? お尻にあたってるもん。ネムのおまんこに入れたいのかな?)

 

 大きいので背中にまで届いている。

 お兄ちゃんにはもっとくっつきたいが、体を押し付けてしまうと苦しいかも知れないと思って思い切れない。

 その時、ネムは閃いた。

 

「うんしょ」

「ネムちゃん?」

 

 ネムは前のめりになり、男の膝上から尻を上げた。

 お尻に当たっていたものが離れたところで、男の腹に尻を押し付けつつ座り直す。

 今度は尻ではなく、股の下を通っている。

 風呂の泡はまだ残っているのでお湯の中でどうなっているかは見えないが、太ももの間から顔を出しているのがわかる。

 

「お兄ちゃん、苦しい?」

「ちょっと押されてる感じがするけど大丈夫だよ」

「そっか。……お兄ちゃんのおちんこ、大きくなってるよ? ネムのおまんこに入れたいの?」

 

 いたいけな少女からどストレートな問いかけであった。

 ネムの声も顔も真剣だ。茶化してはいけない。真摯に答えなければならない。

 

「ネムちゃんが可愛くてこうなっちゃったんだ。だけど、ネムちゃんにはまだ入らないよ。絶対ダメって言ったからね」

 

 嘘ではない。

 勃起しているのは強壮剤の効果が続いているからであるが、ネムちゃんといるから萎えないでいる。

 これがもしも裸踊りするジュゲムだったら、たちどころに萎えたことだろう。

 

「でも、おちんこが大きくなったら精液を出して小さくしないといけないんでしょ?」

「よく覚えてたね」

「だってお兄ちゃんが教えてくれたことだもん」

「ちゃんと聞いてくれて嬉しいよ」

「えへへ♪ ……あんっ♡」

 

 お利口で可愛いネムちゃんのちっぱいを揉んであげる。

 有望なのだから、今のうちから教育しておけば未来が確実となる。

 

「それじゃあ……、お兄ちゃんのおちんこはネムが気持ちよくしてあげるね」

「それならお願いしようかな」

「まっかせて!」

 

 力強く頷くネムちゃんは天使であった。

 

 

 

 ソリュシャンであれば、一年前に仕舞った服のポケットから金貨を見つけた庶民のごとく目を輝かせて吸い付いてくる。

 シクススやミラなら、頼むの一言で目の前に跪く。シクススは子猫ちゃんの時を選ばないと叱られてからになるが。

 ルプスレギナは、仕方ないっすねーと不平を垂れつつ満面の笑みでベッドに引きずり込む。

 

 ネムちゃんはいずれとも違う。

 ネムちゃんに、立ったから頼む、と事務的で無味乾燥なことを言えようものか。

 ごく自然な流れでネムちゃんにしてもらえるようそんな雰囲気を作りさり気なく立ってしまったアピールをしたのだ。

 

 

 

「前みたいにお口でしてあげるね。お風呂だと出来ないからお兄ちゃんはここに座って」

 

 いつぞや、アウラと風呂に入った時とは反対の構図である。

 男がバスタブの舳先に足を開いて座り、ネムはバスタブの中で膝を立てる。

 始める前にシャワーで下半身の泡を流す。間近で現れた威容に、ネムは目を瞬かせた。

 

「うわぁ……。お兄ちゃんのおちんこってこんなにおっきいんだ。前は暗かったからよく見えなかったけど、明るいとこで見ると……。ネムのおまんこじゃ……」

 

 股間からそそり立つ肉の棒は、へそまで反り返っている。ネムの細い指を三本合わせてもこちらの方がまだ太い。

 ネムは指を一本だけ、それも入口付近までしか入れたことがない。絶対ダメと言われたのは悔しかったが、どう頑張っても入りそうになかった。

 

「ネムちゃんはこれからまだまだ成長するんだ。それまでは我慢だよ」

「うん……。でもお尻なら今年の間に出来るんだよね?」

「ネムちゃんの頑張り次第さ。だけど、今は駄目。今はネムちゃんの手と口でお願いするよ」

「うん。ネムがいっぱいペロペロするから、お兄ちゃんも気持ちよくなって?」

 

 ネムは熱い逸物を両手で握り、シュッシュと上下に扱きながら先端に口付けた。

 頭を下げるのに合わせて唇を開き、弾力があり丸みを帯びた亀頭を口の中に含んでいく。

 前回は初めてな上に今よりも幼かったので膨らんだ亀頭を咥えたら口がいっぱいになってしまったが、今回はもう少し頭が下がった。

 

「無理はしないようにね」

「らいひょうぶ。ふぅ……はぁ……。ちゅるっ……、んっんっ……、ちゅぷぷ……れろ……」

「おお!?」

 

 ストロークは浅いが、ネムは逸物を口に含んだまま頭を上下に振り始めた。

 たっぷりと唾液を乗せているようで、唇から溢れた涎は顎を伝って、ぽたりぽたりと湯に落ちる。

 舌は唇からやや伸ばして、歯が当たらないようにしているの同時に、逸物を包むようでもあり、逸物の滑りをよくしているようでもある。

 頭の動きが止まれば裏筋を重点的に舐める。しばらくするとまた頭を振って口の奥に。

 

「驚いたよ。上手になってるね」

「本当? お兄ちゃん、おちんこ気持ちいい?」

「とても気持ちいいよ。この調子ならすぐに出せそうだ。ネムちゃんは練習でもしたのかな?」

「えへへ♡ お兄ちゃんに気持ちよくなってもらいたくて、こっそりおちんこ舐める練習してたの。あーんって口を開けて、れろれろってして」

 

 ネムははにかんで口を開け、舌を伸ばしてれろれろと蠢かせた。小さくて可愛いのにやたらとエッチである。

 見るものが見れば、間違いなく性的な仕草であるとわかってしまう。

 

 ネムは一年前の夜をとてもよく覚えているのだ。

 何度も思い返し、その時の行動を何度もなぞった。

 その末に角オナを覚えてしまったのだから、口を使う練習をしないわけがなかった。

 いつか再会出来たらを夢見ないわけではなかったし、叶ったらお兄ちゃんを気持ちよくさせたいと思った。だけれども一番大きな理由は、あの時舐めたものを思い出して舌を蠢かせると、体が熱くなって不思議な感覚が湧いてきたからだ。

 お口の練習をしてから角オナをすると、練習しない時よりも感じるものが多かった。

 気持ちいいことに繋がるのだから、練習しない手はない。

 日課とまではいかなくても、習慣の一つにはなっていた。

 

「お兄ちゃんのおちんこで気持ちいいとこも覚えてるよ? こことか、れろれろ……ちゅぷ、ちゅぱ……、んーーーんっ! ちゅうぅっ…………、どう?」

 

 亀頭と竿の間の裏筋を舌で尖らせ熱心にねぶる。

 両手はずっと竿を扱き続け、絞られるように尿道口から透明な雫が滲んできた。

 

「おちんこからヌルヌルしたの出てきたよ? この前も出てたからおちんこが気持ちいいと出てくるの?」

「そうだよ。ネムちゃんが頑張ってくれてるおかげだね」

 

 咥えることを覚えたばかりの姉よりずっと上手い。

 称賛と感謝を込めて、男はネムの頭を撫でてやった。

 ネムは逸物を握りながらぽおっとこちらを見上げてきた。頭を少しだけ押してやると口淫を再開した。

 さっきまでは目を瞑ったり股間を凝視しながら頭を振っていたが、今度は上目遣いで目を合わせたまま口を使う。

 

「んっんっ、じゅるる……、ちゅうぅ♡ んんっ…………けほ。ネムだいじょうぶだから! あむぅっ……ちゅるるるっ…………、んっふぅ♡」

 

 ストロークが段々深くなっていく。

 亀頭と少しだけしか咥えられなかったのに半分近くにまでなって、手で扱く範囲よりしゃぶる範囲のほうが広くなり、半分を越えてきた。

 深さからして、喉の方へ迎えている。時折、奥を突いてしまうらしい。苦しそうに咽るし、顔が真っ赤になってきた。

 無理はしないようにと言ったばかりなのに、明らかに無理をしている。苦しさに耐えて奉仕してくれている。

 

「けほけほっ、あむっ! んっんっ、じゅぷぷ……、ちゅる、んぐぅうーっ! ……れろれろ、ちゅうぅーーっ♡」

 

 ネムは、知りうる限りの技でもって逸物を舐めた。

 舌で包みながら頭を振って、尖らせた舌で裏筋をなぞり、亀頭を咥えて強く吸う。その度に、自分の唾とは違う味が増えてくる。

 塩気は薄いのでおしっことは違うもの。唾より粘ついて口の中がトロトロしてくる。男の人が気持ちよくなってくると出てくる透明な汁だと直感した。

 例えおしっこだとしても、ネムは飲んでしまえると思った。

 さっきは自分があんなに気持ちよくしてもらったのだ。今度は自分がしなければならない。自分がしてあげられる事で悦んでもらえるなら、少々の苦しさは大したことではなかった。

 

「ネムちゃん……、そろそろ出そうだ」

「んっ! じゅぷじゅぷ……、ちゅっちゅるる……、んっ……、んっふぅ……、ちゅぷ、じゅぷ……」

 

 いたいけな少女が勃起した男性器を咥えて一心不乱に頭を振っている。潤んだ目からは涙が溢れ、唇から溢れる涎と一緒に湯面へ落ちる。

 苦しいだろうが、止めようとは思わなかった。

 ネムちゃんは苦しさを受け入れ、覚悟のフェラチオをしているのだ。止められようものか。

 

 ネムが苦しそうな顔をしているのはあまり関係ないだろうが、献身の甲斐あって射精が近付いてきた。

 エンリの時は快感を引き出すために耐えなければならなかったが、今はその必要がない。ネムの頑張りに応えるには早く射精することが一番なのだ。

 

「出すぞ!」

「んっ! んーーーーーーーーっ!!」

 

 亀頭をネムに咥えさせたまま、どぴゅどぴゅと熱い精液を吐き出した。

 

 口内射精は二回目だからか、ネムはわかっているようだ。

 激しめの一射が終わっても口を離さず、絞るように手で扱きながら口で吸う。

 幼い唇に挟まれながら太い逸物はビクビクと痙攣し、最後の一滴まで口内へ吐き出した。

 

「口を開けてごらん」

「あーーーーーーっん…………」

 

 ネムは零さないように上を向いて口を開く。

 閉じている時は頬が膨らむほどで、ネムの口の中は泡立つ白い粘液と粘塊でいっぱいになっていた。歯も舌も精液に沈んで見えない。

 エンリにもそこそこの量を出したのだが、自家製強壮剤の効果は良好だ。二回目なのにまだまだ多い。

 

「飲んでいいよ」

「んっ…………。こく……こく……、んっ………………、けふ」

 

 ネムは、きゅっと目を閉じて喉を鳴らした。

 再度口を開いた時は、ピンクの舌と白い歯が見えた。

 

 

 

 ボディソープが口に入った時よりも念入りにうがいをさせる。

 長く湯に浸かっていたので少々のぼせてしまったネムを膝に座らせ、小さな肩を抱いて頭を撫でた。

 

「ネムちゃんのおかげで射精出来たよ。ありがとう」

「お兄ちゃん、気持ちよかった? ネム、お口で上手にできた?」

「勿論だ。いっぱい出ただろう?」

「うん。ぴゅぴゅって出てきて口の中がいっぱいになっちゃった。いっぱい出たってことは、いっぱい気持ちよくなったってことなの?」

「そういうことだよ」

「えへへ…………♡」

 

 ネムは照れくさそうに、けども誇らしげに笑みを浮かべる。

 

「お兄ちゃんは大人なのに、お股の毛がネムと同じくらいだったよ?」

「お揃いだね」

「うん、お揃い!」

 

 ソフィーに剃られたのがまだ伸び切っていないのだ。

 エンリは暗い中でだったので気付かなかったらしい。あるいは、気付いても言及する余裕がなかったか。

 

「ネムが飲んだのが精液で、赤ちゃんのもとなんだよね。どんな色してるの? 透明? それともおしっこみたいに黄色かったり?」

「ネムちゃんは見たことなかったのかな?」

「前見た時は暗くてよく見えなかったし、今のは見る前に全部飲んじゃったから」

「そうだったね。基本的に白いよ。真っ白なものの上に出すとちょっと色がついてるように見えるかな」

「ふーん。精液が出る前に出てくるヌルヌルしてるのは透明だよね?」

「そうだよ。そっちに色がついてたら病気かも知れない」

「そっかぁ…………」

 

 他愛無い話をしながらも、ネムの視線はちらちらと下る。

 息苦しさに耐えていた時ほどではないが、顔を赤くして、困ったような嬉しいような複雑な心情を上らせる。

 

「あの………………、ね?」

「なんだい?」

「お兄ちゃんのおちんこ。まだ大きいままだよ?」

 

 ネムちゃんに大量射精したばかりというのに、強壮剤は未だに効果を発揮し続けていた。

 

「もう一回…………、お口でする?」

 

 ネムは躊躇いがちに口にする。

 出来るならば何度でも応えたいと思っている。

 しかし、そうはいかない事情があった。

 

「続けてだと疲れちゃうだろう? 嬉しいけど、ネムちゃんに大変な思いをさせたくないんだ」

「ごめんなさい……。ネム、ちょっと疲れちゃって」

「謝ることないさ。助けてもらってるのはこっちなんだ。それにさっきのはとても気持ちよかったよ」

「……うん!」

 

 ネムにしてもらえるのは一度か二度と判断していた。

 もしもネムが少々緩いペースで、それこそ一年前と同じように咥えるのは亀頭だけにして手コキを優先していたら二回は出来ていただろう。

 しかし、ネムは覚悟のフェラチオを敢行。前回より良かったが、その代償に消耗が激しかった。

 スライムでもサキュバスでもない人間の少女であるネムは、精液を飲んでも体力は回復しない。二回目をする体力が残っていなかった。

 

「でもおちんこが大きいままだとダメなんだよね?」

「そう、だね……」

 

 後一度は出さないと眠れない。かと言ってネムちゃんにこれ以上の無理はさせられない。

 ジュゲムの裸踊りをオーダーしたら気が狂ったと認定される。そしてなんやかんやあってナザリックにも知れ渡りアルベド様の耳にも入ってカタツムリ呼ばわりされた末に放逐されて孤独に死ぬ。絶対に選べない。

 男は難しい顔で俯いた。

 股の間で屹立した肉棒が次の快楽を待っている。

 右の太ももに座らせたネムちゃんはぴったりと太ももを閉じている。股間には生えだした陰毛がゆらゆらと揺れていた。

 幼女から少女になって、大人になろうとしているネムの体。

 その時、閃くものがあった。

 

「ひゃん! お、お兄ちゃん? ネムのおまんこに……入れちゃうの?」

「………………」

 

 男は無言でネムが閉じた太ももの間に手を差し入れ、むにむにと内股の肉を揉みだした。

 まだまだ子供で細い脚だが、女の甘い肉が付き始めている。

 これなら、と思わされた。

 

 

 

「ネムちゃんは疲れてると思うけど、立ってるだけだったら大丈夫かな?」

「疲れちゃったのは手と口だから、立ってるだけだったら平気。どうするの?」

「もう少しネムちゃんに手伝ってもらいたいんだ」

 

 男は改めてシャワーを浴びて泡を流し、バスタブから出る。

 

 籠に脱ぎ入れた上着のポケットを探り、畳まれていたタオルを二枚手に取った。

 どちらも濡らして一枚目は床に敷いて滑り止めに。その上に風呂桶を逆さにして置く。そこへもう一枚のタオルを被せた。

 

「ネムちゃん、この上に立ってくれるかな?」

 

 ネムは疑問を抱きつつも言われた通りにタオルを乗せた風呂桶の上に立つ。

 

「滑ったりグラグラしたりしないかな?」

「大丈夫だけど、壊れたりしない?」

「ネムちゃんが乗ったくらいで壊れないよ」

 

 ナザリック製の風呂桶である。象が乗ったら壊れるが、羽のように軽いネムちゃんなら10人乗っても問題ない。

 

「それなら壁の方を向いて、そこの手すりにつかまって」

「こう?」

 

 手すりではなく、本当はタオル掛けである。

 ネムの立ち位置は壁からやや離れているので、手すりをつかむには手を伸ばさなければならなかった。

 

「倒れたりしないようにしっかりつかまってるんだよ」

「うん。……ひゃん!? お、お兄ちゃん?」

 

 手すりをきゅっと握る。

 と同時に、またも内股へ手が差し込まれた。

 

「ビックリして落っこちないようにね。それと、脚をしっかり閉じていて欲しいんだ」

「う、うん……」

 

 立ったままお股を弄られることを期待もとい覚悟したネムだったが、予想に反して手はすぐに離れていった。

 代わりに、腰を掴まれた。しっかりとした掴まれ方で、撫でたり揉んだりではないらしい。

 何をされるものかと落ち着かない。

 すぐ後ろにいるのはわかる。

 あれを大きくしたままで、自分は背中を向けていて、ということはお尻を向けている。

 

(もしかしてもしかしてお尻に入れちゃうの!? お尻の穴だったらおまんこより早く入るって言ってたけど、前はお尻の穴に指を入れられちゃったけど、でもおちんこはあんなに大きいのに。でもお兄ちゃんが入るって思ってるんなら入っちゃうのかな? 痛いかも知れないけど、でもお兄ちゃんがしてくれるんなら……)

 

 湯上がりのネムは、全身をうっすらと染めている。

 首筋は濡髪に隠れ、平坦な背中から下がって腰でくぼみ、少々肉がついて丸みを帯びた尻がある。

 男は脚を開いて腰を落とし、ネムの高さに合わせた。

 

「!!」

「痛くないから大丈夫だよ。ネムちゃんはしっかり脚を閉じてるんだ」

「う、うん。お兄ちゃん信じてるから!」

 

 ネムの尻に触れた逸物は、尻の割れ目を撫でながら角度を変える。

 真っ直ぐになったところで突き入れた。

 程よい抵抗を押し退け、にゅるんとネムの中へ入っていった。

 

「ふあっ!? おちんこ入ってきた!? ど、どこに!? おまんこじゃなくてお尻でもなくて……………………。あ……」

 

 確実に入ったがどこに入ったかわからない。ネムは自分の体を見下ろして自分の体にはないものを見つけた時、入った場所を知った。

 ネムの股間から、さっきまで一生懸命しゃぶっていた逸物が顔を出していた。

 入ってきたのは、ネムがぴったり閉じた太ももの間だった。

 

 

 

 ネムちゃんは体力の消耗により、手と口が使用不可。

 おまんこはまだ早い。

 お尻の穴は未開発。

 第五の選択肢として、素股が浮上した。

 

 過日、帝国で過ごした夜でアルベド様が披露してくださった素股を思い出したのだ。アルベド様は挿入を伴わず、開いた淫裂で扱いてくださった。

 反対に男が上になる場合は、閉じた太ももに挟む。

 

 先程ネムを膝上に乗せた時、ネムの閉じた太ももに湯が溜まって生え始めた陰毛が海藻のようにゆらゆらと揺れていたのを見た。太ももと股間との間に隙間がないから湯が溜まるのだ。隙間がないならいけるのではないだろうかと判断。

 ネムの股間に最強のお手製ローションを塗り、太ももを固く閉じさせ、尻の割れ目に沿って挿入。

 まだまだ幼くて肉付きが足らず、手や口と比べると圧がいまいちではあるが、十分であった。

 

「わかるかな? ネムちゃんのお股にちんこを挟んでるんだ。ここならネムちゃんは痛くないし、立ってるだけだから疲れないだろう?」

「う、うん。大丈夫。お股熱いけど、痛くないよ。ネムは立ってるだけでいいの?」

「太ももでちんこを挟んでるから、出来るだけ力を入れて脚を閉じてて欲しいんだ。疲れない程度にしてくれればいいから」

「わ、わかっ……、わかりました!」

「いいお返事だね。動くよ?」

「うん!」

 

 ネムが返事をした直後、股の間から顔を出した亀頭がぬるりと引っ込んで、勢いよく戻ってきた。

 男の下腹がネムの尻を打ち、パンと乾いた音を立てる。

 音に驚いたネムは、思わず腰を前に突き出してしまいそうになったが、腰は掴まれたままでいる。

 

「こんな風に動くけど大丈夫かい?」

「ちょっとビックリしたけど、痛くなかったし大丈夫だよ!」

「そう」

 

 腰を掴んでいた手が離れ、ネムの体を妖しく抱き締めた。

 

「さっきはネムちゃんに頑張ってもらって、今度も俺だけじゃ悪いからね。ネムちゃんにも気持ちよくなってもらうよ」

「お、おにい、ちゃん? ふあっ……。あっ、あっ……、あんっ!」

 

 左手はへそから下を撫で、手のひらを下腹に強く押し当てながら大きな円を描きつつ下がっていく。小指が陰毛に触れるまで下がると、そこで上下にさすり始めた。

 手のひらの奥には、ネムがいつか男を受け入れる未通の道がある。道の終着点も上から撫でられ、ネムは熱く潤ってくるのを実感した。

 

「あっあっ!? 乳首なんで……? すごく立ってる…………。あっだめさわっちゃぁぁぁああん♡」

 

 口淫で疲れて少しだけ落ち着いていた体は、ネムの意識より先に思い出した。

 育ち始めたばかりでまだ慎ましい子供の膨らみは、先端だけ大人になったようで赤く熟れて突き出ている。

 指先で撫でられただけで甘く鳴き、摘めば官能的な弾力と快感を叫んだ。

 

「ネムちゃんのおっぱいを強く揉むと痛くなるだろう? でもここなら平気なんじゃないかな」

「だっだっだいじょうぶ。いたくないから……。んぅっ…………、くぅ……、んぁっ…………♡ ぴりぴりして、きもちい、かも……♡」

「もっとしてあげるよ」

「ひゃああぁああああん♡ あっあっ、あんっ……。おにいちゃぁん……ネム、ぜんぶきもちいよぉ……♡」

 

 下腹を撫で、乳首を摘んで引っ張り、首筋に顔を埋める。

 細い首へ舌を這わし、ネムちゃんお好みの場所であるらしい耳を舐め、淫らな愛らしさを囁き声で褒めてやった。

 その間も腰を使って、ネムの股を行き来している。

 自画自賛になるがお手製ローションの効果は抜群であり、ネムちゃんの太ももはつるつるのピチピチのぷにぷにであって、とても滑らかに抽挿できる。

 ネムの嬌声を聞きながら行き来する内に、抵抗が少なくなってきた。太ももの圧は変わらない。ローションの粘り気が変わってきている。

 少々擦ったり伸ばしたりしただけで効果が失われるローションではない。他の液体が混ざってきたようだ。

 

「はぁ……はぁ……、あっ、ひゃぁぁん! おっ、おにいちゃん、そこはぁ……」

「腰は支えてるけど、倒れないようにしっかり手すりに掴まってるんだよ」

「うん……。おにいちゃんのおちんこ……、出たり入ったりしてるのよく見えるよぉ」

 

 ネムは手すりこそ離さなかったが、男の手から逃れるように前へ倒れた。腰を掴まれているので、尻を突き上げ手すりにぶら下がってる形だ。

 触られるのは不快どころかとても気持ちよかったが、立っていられなくなった。

 男の手から何かが滲んで体の中に染み込んできたような。あるいは自分の体が後ろから包み込む大きな体に沈んでいくような。

 ベッドで色々教えられ、指を入れられた時と同じようで、質が違うように思えた。

 

 色々知ったつもりでも、未通のネムには知らないことが幾らでもあるし、自分の体がどうなるのかもわかっていない。男に応えたい女の体の女の器官が呼び起こされつつあった。

 下腹の上からは優しく撫でられたし、いずれ繋がる場所はもっと直接的だった。

 ネムが風呂桶に乗っても男の方が背が高く、腰の位置も高い。ネムが股に挟んでいる逸物は、反り返っているので上に戻ろうとする。

 そのせいで、ネムの幼い筋は逸物に強く押されながら擦られていた。

 じわりと濡らしたのが外へ溢れ、逸物に絡んでいく。

 何度も何度も擦られ、その上ネムの女が応えようとして、閉じた股の中でうっすらと開こうとし始めた。

 

(おまんこが、おにいちゃんのおちんこで、こすられてる……。ひゃあぁつ!? 今のクリちゃんこすった!? すごくピリッとしたけど痛くなくて。おちんこでこすられちゃったの? お股の中で? あっ、またぁ……♡ あ………………ネム、すごい声出しちゃってる。こんな声出したらお姉ちゃんが寝てたら起きちゃいそう。でもあんあんって勝手に出てきちゃうよぉ。これってエッチな声だよね? あの時のお姉ちゃんもこんな声出してたっけ。ネムもこんな声出しちゃうんだ……。ネムがエッチで気持ちよくて、お兄ちゃんも気持ちよくなってくれてるのかな?)

 

 ネムは倒れかかっても、しっかりと太ももを閉じたまま。

 頭が下がって項垂れているので、自分の股から亀頭が顔を出しては引っ込むのがよく見えた。

 始めは透明な液体に濡れているように見えたが、今は少し様子が変わってきている。濡れているのは一緒でも、白っぽくなっていた。

 精液は白いと聞いたが、射精がどのようなものか知っているネムは、まだ出てないとわかっている。

 白いのは精液ではないようだ。

 

 ネムの垂らした愛液が何度も擦られ白く泡立つ。

 逸物に感じる柔らかさも、太ももの張りとぷにっとした幼い割れ目とは、少し違ってきた。もっと生々しい官能的な柔らかさがある。

 ネムの淫裂が開き始めて、亀頭が内側を撫でるようになってきた。

 これだけ開くのなら上に乗ってもらって扱かれるのも気持ち良いだろうが、生憎マットがない。

 今度ここを訪れる時は色々と揃えようと心にメモし、ネムの尻に腰を打ち付ける。

 

 口でしてもらった時は、ネムちゃんの苦しさを一秒でも早く終わらせるため、身を任せて素直に解き放った。

 今は立ってもらっているだけだ。太ももの圧が時々緩むが、掴む場所を腰から太ももにするとすぐに閉めてくれる。ネムちゃん的に大変なことではないのだろう。

 そのため、どこへどう出すか考えるゆとりがあった。

 

「ネムちゃんのおかげでまた出せそうだ」

「うん……。ネムも、おまたきもちい……。おにいちゃんもきもちよくて、出ちゃいそうなの?」

「そうなんだ。ネムちゃんは精液を見たことないって言ってたね。見たいかい?」

「見たいな……。おにいちゃんの……赤ちゃんのもと♡」

「それなら見えるところに出すから、手すりにしっかり掴まって、脚もちゃんと閉じて」

「うん! あっ!?」

 

 直後、ネムの脚が風呂桶から離れた。

 男に腰を掴まれ持ち上げられ、下半身が浮いている。

 驚いたが、手すりを離さず、太ももをきゅっと締めた。

 脚を閉じるよう言われていなくても、割れ目を擦る逸物が離れてしまって反射的に締めていた。

 太ももの間を何度か熱い逸物が行き来して、ネムが見守る中、顔を出した亀頭からどぴゅぴゅっと白い粘液が噴き出した。

 

「ああっ! すごい、おにいちゃんの、出てる……! すごくあっついよぉ♡」

 

 股の間から飛び出てきた粘液はネムの体に掛かって、顔にまで届いた。

 出てきたばかりの精液はとても熱く、体に付いた部分が焼けるようだ。

 

「ほんとに白い……」

 

 床に下ろされたネムは立っていられず、男に抱き留められた。そのまま男は床に座り、ネムは男の膝に座らせられた。

 ネムは頬に精液を付けたまま、乳房を汚す粘液を観察する。

 白くて所々に柔らかな固まりがある粘りが強い液体。それ自体の重みでネムの肌に濡れた跡を付けながらゆっくりと垂れていく。

 ネムは指で粘塊を掬うと、鼻先に持っていき匂いを嗅いでから口に運んだ。

 

「おにいちゃんの味がするよ♡」

「あとでまた綺麗にしないとね。その前に」

「ネム、覚えてるよ。おちんこを舐めて綺麗にするんだよね?」

 

 強壮剤の効果で猛っていた逸物は、三度解き放たれたことでようやく鎮まった。

 半分以上ネムちゃんのおかげである。

 

「よく覚えてたね。あ、でもその前に別のものが出そうだ」

「いいよ?」

 

 ネムはこともなげに言った。

 別のものがわからなかったわけではない。

 口でしている時に、仮にそれでも飲んでしまえると思った。

 それに、精液と同じところから出てくるのだから、汚いわけがない。

 

 実際、無菌である。

 

「それじゃ……」

「うん! あむっ……。いふれもいいお? んっ…………、んっんっ、ごく……ごく…………」

 

 男が立ち上がり、ネムは先端を口に含む。

 しばらくして、温かいものが口の中に注がれてきた。

 精液よりも量が多いが、サラサラして飲みやすい液体を、ネムは一滴残らず飲み干した。

 ネムの体に飛んだ精液はゆるゆると垂れ流れ、幼い肢体を妖しく彩った。

 

 

 

 ネムは飲んでいる間、おそらくは無意識に、閉じた股へ右手を差し込んでいた。

 それを見ていた男は、お世話になった返礼に、寝る前にベッドの上でじっくり舐めてあげようと考えた。

 

 その夜のネムは、気を失ったように深く深く熟睡した。




ナザリック製とつけば何があっても許される安定と信頼のマジックワード!
ナザリック製電磁シールドとか書いても違和感ないですね!


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走り続けないと倒れるもの

200話到達偉い


「う、うーん……。まぶし……もうあさぁ? ……もう朝!?」

 

 朝日の眩しさに起こされたンフィーレアは、朝になってる事に気付くとベッドから跳ね起きた。直後、目眩に襲われくらりとよろめく。

 起きたばかりなのに倦怠感がある。寝る前の自分は何をしていたのだろうか。と思ったところで昨夜の記憶が蘇った。

 昨日の夜、食事の後片付けを終えてエンリと一緒にベッドへ入る前に、エ・ランテルのお客様からもらった強壮剤を一息に飲み干した。凄まじい力が全身に滾ったと思ったら、そこで記憶が途切れている。

 多分おそらく凄くなったと思うのに、今は体を動かすのも億劫だ。一夜眠って尚気だるいほどしてしまったのだろうか。

 してしまった相手は勿論エンリ。どんな事をしてしまったのか。あんなにも滾った状態で自分本位の乱暴な事はしてないだろうか。困ったことに何も覚えていない。

 自分が疲れ切っているのはどうでもよい。一番重要で唯一の問題は、エンリに嫌われてはいないかだ。

 

 不安に苛まれるンフィーレアを救ったのは、ンフィーレアの愛しい女神だった。

 

「ンフィー、起きた? おはよ! よく眠ってたわよ。そろそろご飯が出来るから顔を洗って待っててね♪」

 

 エンリが輝かんばかりの眩しい笑顔で寝室にやってきた。鼻歌が出そうなくらいに上機嫌で、いつもよりお肌が艶々しているように見える。

 エンリが眩しければ眩しいほど、ンフィーレアに濃い影が落ちた。

 

「え、エンリ……。おはよ…………。あの、昨日の僕は……」

 

 エンリが瞬間硬直したのを、シーツに目を落としていたンフィーレアは気付かない。

 

「よく覚えてないんだけど……。どうだったかな?」

「昨日のンフィーは凄かったわ。本当に全部出しちゃったのかと思ったもの。頑張ってくれるのは嬉しいけど無理はしないでね」

「あ……、これは」

 

 エンリから手渡されたのは、二本の空き瓶。

 昨夜飲んだのは一本だけだと思ったのだが、二本も飲んで頑張ってしまったのだろうか。

 

「ンフィーはいつも頑張ってるんだから、こんなのに頼らなくても大丈夫よ。ンフィーはンフィーのままでいいんだから。ほら、起きて。私の旦那様♪」

「あっ……」

 

 ほっぺにチュッとされた。

 エンリの顔は離れず、耳元で小さく囁かれた。

 

(赤ちゃん、出来るといいね♡)

(!?!?!?)

 

 ンフィーレアは、しばし呆然と唇が触れた頬を押さえ、朝食の準備に戻るエンリの後ろ姿を見送った。ややあって、重たかった体に力が漲ってくる。

 

 謎は、全て解けた。

 

 エンリのお肌が艶々でとても上機嫌で、赤ちゃんなんて言葉が出てくると言うことは。昨日の自分はとても頑張ってエンリをとても満足させたのだ。

 全く覚えていないが、それ以外にありえない。

 

(ありがとうございます!!)

 

 ンフィーレアは、特製の強壮剤をプレゼントしてくれたお客様に深い感謝の念を捧げた。

 

 

 

 ふうと一息ついてダイニングテーブルにあれこれ並べ始めたエンリは、ンフィーレアが自分の夫で良かったと改めて感じていた。

 初めての時も凄く好かったが、昨夜の体験は素晴らしいの一言では収まらない。世界と一体化して全能感すら覚える恍惚とした多幸感。

 あれが天高くへ続く(きざはし)の果てだとしたら、ンフィーレアとでは屋根の上まで登れるかどうか。屋根の上が雲の上になっても、昨夜に比べたら誤差の範疇。どちらが良いかと訊かれたら答えるまでもないだろう。

 しかし、毎日では絶対に体が保たない。月に一度くらいなら望むところで次はいつ出来るかなと考えているが、一週間も続いたら駄目になる確信があった。とても素晴らしくて気持ちよくて自分の全てを解放してくれるが、あまりにも度が過ぎている。

 昨夜を思い返すと、官能と共に元に戻れないのではないかという恐怖も感じる。現に、艶めかしい感触を思うだけで潤ってくる。

 そこに加えて、とても素敵でとても綺麗な人。絶対に多くの女性から放って置かれない。ンフィーレアも、エ・ランテルにいた頃は天才錬金術師として持て囃されはしただろうが、彼と比べていいものではないだろう。

 どう考えてもあの人が真っ当な家庭を築けるとは思えない。

 自分と一緒になって家庭を築いてくれるのは、ンフィーレアのように自分だけを見てくれる人だ。

 

 そして自分が感じたことは、その通りであったらしい。

 

「私はそんなに偉くないと言ったでしょう?」

 

 透き通った笑みである。

 全てを諦め何もかもをも捨て去るとこのように笑えるのだと思わされた。

 

 

 

 

 

 

 幼くても可愛くても実は天使でも、辺境に生きる女であるネムは太陽の恵みを無駄にしない。多少夜更かししても、東の空が白む頃には自然と目が覚める。

 方や名ばかりの相談役で給仕係としての仕事だけに専念している男は、太陽がすっかり顔を出しても惰眠を貪っている。ソリュシャンかシクススに起こされないと、一定時間眠らないと生中なことでは目が覚めない。

 

「おにいちゃん、あさだよ? おきて?」

 

 甘ったるい少女の囁きが耳をくすぐる。

 

「おきないとイタズラしちゃうよ? いいの? しちゃうからね♡ チュッ♪」

 

 真っ赤な唇が頬に触れる。

 唇からは赤い舌が伸びて、男の頬をれろりと舐めた。

 

「もう! まだおきないのぉ? ほらはやくぅ、おきてったらぁ!」

 

 囁きでは起きず、頬にキスしても起きず、少女は焦れたように男の肩を揺さぶった。

 

「う〜ん……」

「………………」

 

 ソリュシャンの寝フェラかシクススのビンタでないと起きない男である。かつてアウラが散々苦労して果たせなかった。それ故か、彼女が同じ道を辿るのは運命だったのかも知れない。

 しかし、彼女はアウラより暴力的で気が短かった。

 

「さっさと起きなんし!」

 

 ビタン、ドサッグエッ!

 ベッドから落とされても起きない男であるが、ベッドから壁へ垂直に叩きつけられ、壁から床に垂直に落ちれば幾ら何でも寝ていられない。

 ぶつけたおでこをさすりながら男が見たものは、美麗な顔を怒りに歪め、ベッドの上で仁王立ちするシャルティアだった。

 

「シャルティア様? どうしてここに?」

「お前に用があるから来たに決まってるでありんしょう!」

 

 シャルティアは腰に両手を当て胸を張る。今日はパッドが入っているようだ。

 一緒のベッドに寝てたはずのネムは、ドアの陰から怯えた様子でこちらを覗っている。不安を拭うため、笑顔で手を振ってやった。

 

 

 

 今日はナザリックを訪れる日である。

 ナザリックに行けば必ずシャルティアに捕まると思っていたが、まさか向こうから来るとは想定外。

 

「私はこれからお仕事でありんすのにお前はいい身分でありんすねぇ?」

「シャルティア様の献身あってこそ魔導国の平穏は保たれているのです。アインズ様もさぞやお喜びであるかと存じます」

「まあ? アインズ様にお褒めの言葉をいただいた私でありんすから? 朝からお仕事頑張るのは当然でありんしょう!」

「さすがはシャルティア様でございます。シャルティア様にお時間を割いて頂くことを感謝いたします」

「たっぷり感謝しなんし。私がわざわざ朝からお前のところに来たのは私がお仕事の間にお前をテストするためでありんす」

「テスト、でございますか?」

 

 男は起きた姿のまま、つまりは全裸で怪訝に首を傾げる。

 寄せた眉根はテストの内容を聞くに連れはっきりと皺を刻み、渋面を作った。

 

「どうして私がそのようなことを試されなければならないのですか?」

「ソフィーの面倒を見てやったのが誰か忘れんしたか?」

「ソフィーはシャルティア様からのご恩を生涯忘れない事でしょう」

「まあそれはね?」

 

 シャルティアはえへんと胸を張る。しかし今度は引っ掛からなかった。

 

「だからつべこべ言わずに言う通りにしなんし」

「…………かしこまりました」

 

 微妙な行き違いがあった。

 男が問うたのは、テストの目的。シャルティアが語ったのは、テストを行える権利の主張。

 もしもこの時、もう少し踏み入ってテストの目的を聞き取っていれば、ナザリックでの滞在がより自由になったかも知れない。

 しかし、正当性を訴えるシャルティアはとても手強い。難しいことが苦手なシャルティアが、これは正しいことだと判断しているのだ。そして客観的にも、借りは返さなければならないのは正しい事なのだ。男の部下ということになっているソフィーがシャルティアの世話になったのは事実である。

 滅多に手に出来ない武器を手に入れたシャルティアが、そう簡単に手放すわけがなかった。

 

「着替えたら早速開始でありんす! あいつらにきちんと言い聞かせておきんしたから、サボったりしたらいけんせん!」

「……かしこまりました」

 

 男は不精不精に頷いた。

 シャルティアは意気揚々と寝室を出る。ネムに目を留め、顔を寄せてふんふんと鼻を鳴らす。

 

「たしか、ネムと言いんしたか? そんなに怯えなくても何もしんせん。アインズ様から優先保護対象と言い付かっておりんすから」

 

 突如現れた物凄い美少女に目を白黒させていたネムは、偉大なるお方の名前を聞いて目を見開いた。シャルティア様と言うらしいこの方を従えているらしい偉大なお方の偉大さを改めて実感する。

 先だってナザリックの訪問を許されたネムは、ナザリックの素晴らしさを拙い言葉ながらこれでもかと褒め称え、アインズ様の琴線を大いにかき鳴らした。その結果シャルティアが口にしたように、新型ポーションを開発したンフィーレアに次ぐ優先保護対象として周知されたのだ。

 

(お兄ちゃんと寝たのにまだ処女でありんすね? まだまだちっこいから仕方ありんせん。もうちょっと成長したらお兄ちゃんに処女膜を破ってもらいなんし)

 

 匂いで処女か非処女かを判定できるシャルティアである。好き勝手に要求を突きつけたシャルティアは、ゲートの魔法を使ってお仕事に向かった。

 男は身だしなみを整えつつ、ネムへシャルティア様の事と処女膜についてを説明する。

 シャルティアの言葉を飲み込んだネムは、人間じゃないみたいだけどいい人だ、と誤解した。

 

 人前に出ても恥ずかしくない格好になってから外に出れば、少し困った様子になっていた。

 

「兄さん、どういうことか説明していただけやすか?」

「ご主人様、おはようございます」

 

 仮宿の外では、朝日の下に十一名のヴァンパイア・ブライドが整列していた。白い肌に白い衣装が眩しい。代表して挨拶をしたのは一人だけドレス姿のミラである。

 そんな彼女たちを、倍以上のゴブリンが囲っている。

 ミラは昨日少しだけ顔を見せたのでジュゲムは見知っているのだが、その他に十もの吸血鬼がいたら穏やかではいられない。

 特に家の中に入っていった小柄な吸血鬼は、自分たちが束になっても勝てないと思わされた。この場にいるゴブリンたちが束になっても、ではない。カルネ村に在住する五千もの全ゴブリンが束になっても、だ。間違いなくナザリックから来た恐ろしい方々の一人である。

 

「どこから説明したものかな」

「ご主人様、それよりもシャルティア様から仰せつかったテストを始めてもよろしいでしょうか? テストをしながらでも説明は出来ると思われますので」

「………………わかったよ」

 

 テストが始まるとジュゲムの目が訝しげに細められ、テスト内容を聞くと顔全体で呆れてますと主張し、最後には生暖かい目となった。

 一年前、エンリの姐さんをベッドに引きずり込んだか引きずり込まれたかして、どちらであれ一夜を共にした美貌の男だ。ジュゲムが知るエンリがそのようなことをするとは思えず、言葉を弄して引きずり込んだのではと疑う気持ちはあった。

 しかし、この様子を見ると引きずり込まれたと言うのは嘘ではなかったかも知れない

 

 男は吸血鬼の一体を横抱きにした。いわゆるお姫様抱っこである。

 テスト内容はヴァンパイア・ブライド全員をお姫様抱っこする抱っこ耐久。

 

 先にいらしていた小柄なお方は、アインズ様に仕えるとっても強くてとっても可愛いとっても残酷な吸血鬼であられるシャルティア・ブラッドフォールン様であり、この場にいるヴァンパイア・ブライドたちはシャルティア様にお仕えしている。アインズ様のお言葉により、カルネ村に危害を加える可能性はない。

 男から簡単な説明を聞いたジュゲムは、心の底から湧いてきた疑問を口にした。

 

「えー…………、それで何のためのテストなんで?」

 

 口にした直後、十体のヴァンパイア・ブライドから鋭い視線が突き刺さる。

 シャルティア様の為さることに疑問を抱こうとは不届き千万、ではなくて、下手なことを口にされて抱っこがなくなりでもしたら許せない、である。

 

「それは俺が聞きたい。が、シャルティア様から貸しの対価にやれと言われたら断れるわけがない」

「あのお方に借りを作っちまったので?」

「俺が作った借りじゃない」

「………………さようで」

 

 テスト開始の言葉を聞いた直後は辟易した顔を見せた男だが、今は暗いものを感じさせない澄んだ笑みを浮かべている。何を訴えても無駄と悟っているのだろう。

 自身の美貌を利用して女たちをいいようにする男ではないか、と思ったら真逆であるらしい。美貌に目をつけられ、女たちから好き勝手にされているのだ。

 

「……兄さんも大変でやすね」

「ははは。大変なわけないじゃないか」

 

 聞く者が聞けば涙を誘う乾いた笑い声であった。

 

 

 

 エンリ邸で朝食を取る時もテストは続いている。

 吸血鬼といっても、肌が蒼白なだけの肉惑的な美女だ。美女をお姫様抱っこしながらの朝食。当然のことながら両手は塞がっているので、抱っこされてない美女たちが食事の世話を焼く。

 エンリにンフィーレアにネムにジュゲムは、何と言っていいかわからなかった。吸血鬼たちをいないものと扱っている男から声を掛けられて、ようやく返事をするのが精一杯。

 

 異様な食事風景であるがそれなりに実りはあって、カルネ村で採取した薬草類を定期的にエ・ランテルへ運んでもらえることになった。

 ネムへは、カルネ村の一時宿泊施設の管理をお願い出来るかどうかアインズ様へお伺いしておく、と伝える。昨夜のお風呂を、ネムがとても気に入ったらしいのを男は察していたのだ。

 今度来た時は、帝国で売り出した美容品セットの試用品を持ってくると約束。

 

 去り際に、ンフィーレアから熱い礼の言葉をもらったのは不思議であったが、なにか良いことがあったのだろう。

 エンリからは、

 

「エ・ランテルへは何度か薬草を運んだことがあります」

「そうでしたか。その時はよろしくお願いします」

「わかりました」

 

 滞りなく契約が締結した。

 

 

 

 

 

 

 カルネ村からナザリックへは、ゆっくり歩いて約二時間。やや長めの散歩である。

 馬車等は使わず、始めから徒歩で移動する予定だった。

 

 男は歩きながら昨夜のエンリを思い出し、以前ルプスレギナから物理的に叩き込まれた女の貞節に照らし合わせる。

 

 ルプスレギナが言うには、一人の男を決めた女はドアを閉めて鍵をかけるものらしい。

 だとすると、エンリの振る舞いは疑問である。シャルティア様からのご命令とは言え、初対面の男に体を開いたヴァンパイア・ブライドたちもそうだ。

 

 ルプスレギナが言う女たちと、エンリとヴァンパイア・ブライドたちの違いを考え、思い当たることがあった。

 

 今のカルネ村は平和そのものだが、エンリ大将軍が治める以前はとても厳しい環境であり、冬を越せない者は珍しくなかったとか。ヴァンパイア・ブライドたちは今でこそ無意味に命を散らすことはないが、以前はシャルティア様の気分次第で物理的に首が飛び、死地に追いやられることも多かったようだ。

 対してルプスレギナが口にしたナザリックの女性たちは、己が聞き取った限りでは一人も死んだことがないそうだ。

 つまり両者の違いは、死との距離。

 汚されたら死ぬ、と言えるのは誇り高く思えるが、それ以外で死ぬことがないからこそ言えるのだ。

 誰も彼もが簡単に死んでいく環境なら、死ぬとは口にしないだろう。そんな事を言わなくても簡単に死んでいくのだから。

 死との距離が近い冒険者達も性には奔放だ。よく知るのは蒼の薔薇。

 吸血鬼であることを隠していたキーノと、貴族のお嬢様であったラキュースを別にすれば、ティアとティナとガガーランも男を取っ替え引っ替えであったそうな。ティアが取り替えていたのは女で、ティナはショタ専であったが。

 乱暴にまとめれば、良くも悪くも刹那的。しかし、刹那を生き抜かねば死ぬ。生きている瞬間瞬間を楽しもうと思うのは当然と思えた。

 

 というような事を、面白くはないがつらつらと考える。

 そうでもしないとテストが辛くなってきたのだ。

 

「時間です」

「もうですか? 時計は狂っていませんか?」

「シャルティア様から頂戴した時計です。狂っていません。早く降りなさい」

「そうです次は私の番ですよ!」

 

 抱き上げていたヴァンパイア・ブライドを下ろし、次のヴァンパイア・ブライドを抱き上げる。

 七人目である。

 お姫様抱っこする時間は一人あたり十五分。金色の懐中時計を手にしたミラが時間を計っている。本テストのためにシャルティア様から下賜されたそうで、暇があれば取り出して見入っている。代わりに、ミラの番はない。テスト中は時計係である。

 

「抱き上げるのはいいんだが、少しは休憩を入れてくれないか? 腕が痺れてきたんだ」

「申し訳ございません。シャルティア様からは間を置かずテストせよと仰せつかっております」

「……まあ、いいか」

 

 食事中は膝の上に乗せられたので楽だったが、それ以外はずっと腕の力だけでヴァンパイア・ブライドを抱き上げている。

 持ち上げられないほど重くはないのだが、一人あたり十五分で七人目ということは既に六人を抱き上げたということ。6掛ける15は90である。一時間半もお姫様抱っこをしているのだ。疲れて然るべきである。

 しかし、半分を越えた。今抱き上げているのを合わせて残り四人。ということはあと一時間。

 ちょっと滅気そうになったが、後少しと自分に言い聞かせて一歩を踏み出す。ナザリックへの短い散歩道も一歩からである。

 

「相談役様、同じ景色に飽いてはございませんか?」

「ん?」

 

 腕の中の女がそんな事を言う。視線を下げれば、女は真っ赤な唇で弧を描く。

 彼女は抱かれるのに邪魔にならないよう組んでいた腕を動かし、乳房を覆う白い帯を少しずらした。

 ミラはいつもの白いドレスだが、他のヴァンパイア・ブライドたちはお仕着せのエロ衣装を着ているのだ。

 

「ご主人様のテストを邪魔するようなことは控えなさい!」

「この程度が邪魔になるとは思えませんが? 相談役様は如何思われますでしょうか?」

「いい景色だけと下を見ながらだと歩けないからね」

「それでは見なくても感じられるようにいたします」

「パム!! あなたは何をやっているんですか!!」

 

 パムと呼ばれた女は、男のシャツのボタンを外して胸をはだけさせてから、帯をずらした自分の乳房を押し付けた。

 さすがはシャルティア側近のヴァンパイア・ブライド・エリートシックスである。パムの名はシャルティアから授かったものだ。なおシックスの一であるミラが出向しているので今はファイブであるが、シックスとの呼び名は変わらない。

 

 ミラとパムがやり合う間も時間は経過し、八人目。

 班のリーダーであるパムに倣って次の女も乳房を押し付けようとするがミラの圧に負け、代わりにスカートの中へ手を差し込んだ。

 

「あなたも何をしているんですか!!」

 

 苦笑しながら腕の中であがる嬌声を聞き、痺れるを越えて感覚がなくなってきた腕を突っ張り九人目。

 シャルティアに仕えるヴァンパイア・ブライドであるのにとても優しい性格らしい。腕の負担が減るよう、こちらの首にすがりついてきた。喉に舌を這わされ少しくすぐったい。

 ミラは物言いたげな顔をするが、おっぱいを押し付けるのや自慰を始めるのに比べたらマシだと判断したらしい。

 

 最後の十人目は心を無にした。

 ヴァンパイア・ブライドたちは肉惑的な女性であるからにして、それなりに体重がある。抱き上げるのは苦ではないが、ずっと同じ体勢で抱き上げているのはとても辛い。

 せめて背負う形にすれば相当楽なのだが、シャルティアの指定はお姫様抱っこである。

 

 遠くにナザリック表層部の白い霊廟が見える頃になって、十人目が終わった。

 男は開放された腕を伸ばして曲げて回して凝り固まった筋肉をほぐす。

 手指が何とか動くようになり、腕を下ろすと左右から二人のヴァンパイア・ブライドが近付いてくる。

 極自然に腰を抱いた。

 そんな二人をやはり物言いたげな顔で見遣ったミラは、咳払いを一つして話し始めた。

 

「ご主人様から仰せつかっておりました手配について報告いたします」

「そーいうのは先にして欲しかったな」

「申し訳ございません!」

「いや、時間はあるから構わない。次からは頼む。それで?」

 

 ミラの報告が後回しになったのは、同僚たちのアプローチがいささかはしたなかったので注意しなければならなかったからである。

 

「はい、順に報告いたします。脱毛剤はピッキー様が用意してくださるとのことでございました。今日にも制作なさってくださるそうなので、明日以降に受け取りに来て欲しいと仰っておりました」

 

 ラキュースに使う脱毛剤である。

 大変危険な薬なので直接の手渡しでなければ渡せないそうだ。

 

「各種細工道具に関しましては、サラマンダーの鍛冶師たちが対応します。具体的にどのような物が欲しいのか説明をなさって欲しいそうです」

 

 ラキュースにゴールドブレスレットをプレゼントした。ただし、ラキュースの下の毛製。

 素材が何であれアクセサリでプレゼントなのは確かである。ソリュシャンとルプスレギナも欲しがった。欲しがったのだが、下の毛製は断固拒否である。

 というわけで、貴金属製の何かを作ることになってしまった。しかし材料は兎も角、材料を加工する道具がない。

 素材が糸状であれば編むことが出来るが、貴金属が相手では素手での加工は不可能。何でもスパッと切れるカタナブレイドでも、細かな細工は施せない。

 貴金属を加工するための各種道具を注文したのだ。エ・ランテルの鍛冶師でも対応してくれるだろうが、ナザリック製の方が性能が良いに決まっている。可能ならばナザリック製を選ぶべきである。

 彫金の道具以外に炉も必要だ。

 

「論理学のテキストはティトゥス様が選んでくださいました。習得には時間がかかると思われるため、複製を用意してくださるそうです」

 

 ジュネを教育するためのテキストである。

 ついでにソフィーにも学ばせるつもりでいる。

 

「マーレ様はいつでも良いとのことでございました。ただ、アウラ様から時間が出来次第必ず顔を出すようにと言付かっております」

 

 マーレ様がナザリックに引き入れた者に用がある。特命を受けているらしいのでマーレ様は難色を示されるかも知れないが、アルベド様からお許しを受けている。

 

「最後になりましたが、デミウルゴス様は大変お忙しいようでございます」

 

 一日三十時間の矛盾はアインズ様のお言葉もあって流石に控えているデミウルゴスだが、やることは色々ある。出来る男は自分から仕事を見つけてしまうのだ。アインズ様から命じられた休憩の間も、趣味の人骨アートに費やしているのでやはり時間がない。

 

「ですが、本日の昼過ぎであればお時間をとってくださるそうです」

「なんだ、すぐじゃないか。それなら昼食は後回しにして、先にお伺いすべきだな」

「食事の時間は十分あると思われるのですが」

「デミウルゴス様にお会い出来ると思うと気が逸るんだ」

 

 ナザリックで一番忙しい男である。優秀な部下たちのお陰でかなり楽になってきたアインズ様よりも遥かに忙しい。

 ナザリック守護者統括と魔導国宰相閣下を兼任しているアルベドと同じくらいに忙しい。

 アルベドと違って休憩時間に休憩せず、趣味に全振りしているのでとっても忙しくて時間がない。

 ホワイトを目指しているナザリックのブラックな部分を色々な意味で体現する悪魔である。

 

 

 

「それでは私どもはこれで失礼いたします」 

「いつでもいらしてください」

 

 ナザリックに到着すれば、男とミラは表層部のログハウスから内部へ転移するが、ヴァンパイア・ブライドは霊廟から入って日々の業務に移る。

 男は名残惜しそうなヴァンパイア・ブライドたちへ一人ひとりハグしてからログハウスに入った。

 

「どういう、ことだ!?」

「「「「「お待ちしておりました」」」」」

 

 広いのだが人口密度によってとても狭く感じるログハウスの中には、先と同じ十人のヴァンパイア・ブライドが並んでいた。

 本日のログハウス当番であるらしいミディアムヘアのメイドはちょっぴり迷惑そうな顔をしている。

 

「シャルティア様はヴァンパイア・ブライド全員と仰りませんでしたでしょうか?」

「仰っていたが…………、さっきので全員じゃなかったのか?」

「ヴァンパイア・ブライド全員でございます」

「全員、だと? 俺の記憶が確かで増えたり減ったりしてなければ47いたはずだ」

「増えも減りもしておりません。ご主人様が前回訪れたと同じ者たちがそのまま揃っております」

「47? 全員は47だと?」

 

 10人は消化したので残りは37人。

 37掛ける15。二桁の掛け算なんて複雑すぎて計算出来ない!

 

「よしわかった。皆は何が欲しい?」

「「「「「!?」」」」」

 

 初手買収。頭は良いのに交渉はド下手であった。

 

「私どもはシャルティア様から相談役殿のテストをするよう仰せつかっております。シャルティア様のお言葉に背くようなことは」

「違うそうじゃない。俺はこれからデミウルゴス様にお会いする。シャルティア様の命令を無視しろと言ってるんじゃない。デミウルゴス様に失礼があってはいけないと言っているんだ!」

「それは…………」

 

 ヴァンパイア・ブライドたちは揺れている。

 買収を持ちかける前にこちらを訴えていれば、余計な支払いはしなくて済むはずであった。

 

「それでは私も何か頂けるんでしょうか? アルベド様の相談役に無茶なことを言うつもりはありませんけど、何か良いことがあれば口が固くなる気がするんですよね」

 

 メイドがそんな事を言う。

 肩に届く髪は淡い褐色でやや金色が混じっている。まさに亜麻色の髪の乙女である。落ち着いた髪色とは対照的に、赤い目は光が強い。

 

「私に出来る事なら何なりと」

「私が決めていいんですか? うーん、迷っちゃうな〜」

「私どもの話はまとまりました。デミウルゴス様の階層へは相談役殿お一人で伺っていただきます。ですが、それ以外の場所ではテストを続行していただきます」

 

 メイドを買収している間に、班のリーダーが速やかにまとめてくれた。

 

「私どもが頂けるものでございますが、相談役殿のお時間を少々分けていただければ十分でございます」

 

 残り9人は一斉に頷く。

 ミラの顔は少々渋い。ご主人様はシャルティア様からのテストを破棄するのではなく、デミウルゴス様への礼節を守るために一時中断を主張している。道理であるが、シャルティア様はテストは絶え間なく続けよと仰せであった。

 

「ミラはテストに47名全員が必要な理由を知っているか?」

「いえ、シャルティア様は全員と仰っただけでございました」

「だったら厳密に47である必要はない。シャルティア様の真意は、多数であること、だろう。10人くらい減ってもテストに問題はない」

「そう、でしょうか?」

「そうなんだ」

 

 ここでミラが拒否すると、10人のヴァンパイア・ブライドとメイドは欲しい物がもらえなくなる。

 11人の目とご主人様からの提案に負け、ミラは折れた。

 

 これで10人減って残り27。

 しかし27掛ける15も二桁の掛け算である。

 とても複雑で難解だ!




200話に来てしまった
上には上がいるもんですが長い


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テストの目的

7kくらいで収まると思ったら10kを超える不思議


「私も時期尚早と判断します。しかし、貴方の意見に頷けない訳ではありません」

 

 ヴァンパイア・ブライドたちを第九階層に待たせ、第七階層に来ていた。第七階層『溶岩』は文字通りに溶岩の川が流れ、所々にマグマが噴出する灼熱の地である。

 

 階層の一角には神殿が建っており、そこが階層守護者であるデミウルゴスの住居となっている。しかし、かつては神殿であっても今の主は神ではなく悪魔。悪魔に簒奪された時に破壊されたのか残酷な時の流れに依るものか、かつての荘厳さは失わずとも廃墟のようでもあった。

 朽ち掛けた神殿の中央部にはデミウルゴスが座るべき白い玉座があるが、二人が相対しているのは別室。床も壁も天井も黒一色の広い部屋は、デミウルゴスの趣味の結晶である。

 どこもかしこも真っ黒なのは知れたこと、デミウルゴスの趣味である人骨アートが映えるようにである。

 

 デミウルゴスに招かれた男が人骨チェアを勧められた時、デミウルゴスの側近たちは興味に目を光らせた。

 人間の男である。勧められているのは人間の骨で作った椅子。果たして彼は座るのかどうか。デミウルゴス様に勧められて座らないわけがないだろうが、かつての同胞の変わり果てた姿を尻に敷いて思うことはないのだろうか。

 彼ら彼女らの興味を知らぬ男は、あっさりと椅子に座った。座るなり、座り心地の良さに目を見張った。

 

 座面も人骨で出来ている。人骨は削ったり繋いだりしないと板状に出来ない。そのため、太く長い骨を幾本も並べて座面にしているわけだが、座ったらゴツゴツして痛いんじゃなかろうかと思っていた。

 それが何ともしっくりとくる座り心地。体重の分散をしっかり計算している。

 ほほおと唸りながら肘掛けに手を置いてまたもびっくり。とても滑らかだったのだ。入念に磨いてある。それどころか、一本一本の滑らかさが違う。パーツによって磨き加減を調整してあるようだ。

 趣味とは言え、力を入れすぎだった。ここまで凝るのだから時間が幾らあっても足りなくなるのは当然である。

 

 というような事を素直に述べたらデミウルゴスは深く頷いた。そこまで気付いたのはこの男が初めてだったのだ。

 側近の悪魔たちはじぇらしーだが、自分たちは気付けなくて、この男は気付けたのは確かな事実。

 しばし趣味の話で盛り上がり、力を入れるとは、こだわりとは云々をデミウルゴスが軽く語って本題に入った。

 ナザリック一忙しい男を捕まえて、まさかお宅訪問したかったわけではない。真面目に相談したいことがあったのだ。

 

 テーマは魔導国における金融について。砕けて言えば、金が必要なところへ如何に融通するかだ。そのための銀行業についての是非である。

 アルベドの意見は時期尚早。

 一応は相談役なので主神が時期尚早とした理由を考えた。

 

 銀行から信用創造を行えば、利用者たちは大いに恩恵を被る。しかし信用創造はこの地において新しい概念であるため、始めは躓くことが多いだろう。利用者たちに適切な教育を与えることも重要だ。

 一番の問題点は、金の流れが疎外すること。

 疎外とは、作った物が作った者の手から離れて独自に動き出し、逆に作った者を支配する力となってしまうことを指す。つまりは内に大きな獣を育てるようなものである。獣が穏やかでいる時分は良いが、牙を剥いたら大事だ。

 それでも、全く制御不可能な訳では無い。

 制御のための方策、いわゆる金融政策はデミウルゴスから与えられた課題図書に幾通りも載っていた。専門書を読み解けば様々な事態に対処することも可能だろう。難しくはあっても、得るものが多いと思われる。

 

 という意見を男が述べ、デミウルゴスが肘掛けに頬杖をついて軽く頷いたところである。

 なお、デミウルゴス側近の悪魔たちは話を振られないことを祈っていた。

 

「魔導国は加速度的に勢力を拡大している最中。忙しくはなるでしょうが、国力を高めるのに有用な政策であるのは確かです。それでも時期尚早と判断するのは優先順位の違いです。これからまだまだ大きくなる魔導国ですが、現在の人口はさしたるものではありません。供給しても需要が足りない。それらを支える生産もまだ不十分。ここまでは貴方も飲み込めているはずです」

「仰せのことは理解しております。当面は好不況の波が激しいことでしょう。仮に需要が絶え一時的に活力が下がったとしても、魔導国の生産力であれば飢えるものは出ないはずです。お言葉ですが、時間が解決する問題でございます」

「その通り。ですから私も貴方の意見に頷けないわけではないのですよ。先も言ったように優先順位の違いです。私は貴方が知らないことを知っている。それだけのことです」

「と、仰りますと?」

「一つ聞きましょう。貴方はナザリックの富とは何だと思いますか?」

「知識です。知識を形にした技術。技術を扱う技能。これらがあれば、富を築くのに必要なのは時間だけとなります」

「貴方らしい答えです」

 

 思った通りの答えに、デミウルゴスはふと笑った。

 

「答えからいいましょうか。ナザリックの富とは、金貨そのものです」

「金貨、でございますか」

 

 ナザリック一の知将語るには些か俗な答えである。

 

「その反応も予想通りです。ナザリックにおいて金貨とは、商品を交換する手段となるだけではありません。売ってないものを手に入れることも出来るのです」

 

 当たり前のことだが、売ってないものは金貨が幾らあっても買えないのだ。

 

「例えば、エネルギーに変えることも出来ます。アイテムに魔法を付与することも可能。アウラは金貨を使ってペットの食料を取り出しているようですね。勿論制限はありますが、ナザリックでは金貨から実に様々な事を行えるのですよ。万能の資源。そう言い換えてもいいでしょう」

 

 ここ第七階層では侵入者にダメージを与えるギミックが幾つも施されているが、現在は機能していない。機能させるには金貨がいる。一度死んでしまったシャルティアが復活したのも金貨の力によるものだ。

 兎にも角にも何をするにも金貨が必要になる。割と世知辛い。

 

「なるほど。そのようなことが……」

 

 信用創造によって金の流れを加速させ、人々の生産活動に活力を入れても、金貨の絶対量が増えるわけではない。

 増えるのは帳簿の数字だけで、銀行に収まる金貨の量はそのままだ。

 魔導国は豊かになっても、ナザリックの富は変わらない。それならば急ぐことではないと判断するのは分からなくもない話だ。

 

「貴方へ簡単に金貨の価値を教えましょう。確か、ペストーニャから耐炎耐氷のブレスレットをもらっていましたね?」

「こちらです」

 

 言って、左手を上げる。袖から覗いた手首に、赤と青の宝石が埋まった金のブレスレットがある。

 これがあるからこそ、第七階層でも熱く感じることなく快適でいられる。真冬の氷月の下でもシャルティアと青姦が出来る。

 

「それの価値はざっと金貨五万枚ということころでしょうか。この地で流通している金貨ではありませんよ。ユグドラシル金貨です」

 

 重量換算で現地金貨の倍はあるユグドラシル金貨である。このブレスレット一つで黄金の輝き亭が四軒建つらしい。ますますペストーニャに逆らえなくなってしまった。

 

「今度は右手を上に」

 

 ブレスレットを嵌めているのは左手首。言われた通りに右手を掲げる。

 デミウルゴスは口角を上げると、右手の人差し指を立てた。指の上に火球が現れ、指が振られると男へ向かって飛んでいく。

 火球が命中した右手は、手首から上が綺麗になくなってしまった。

 

「今のは物理を伴わない純粋な火炎属性の攻撃です。もしもそのブレスレットが炎への完全な耐性を備え今の攻撃を防げるのならば、金貨にして五百万枚の価値は軽くあるでしょうね」

「そこまで届くのですか!?」

 

 ユグドラシルのゲームシステム的な話であって、希少な装備効果を持つほど価値が跳ね上がる。

 しかし、ユグドラシルのプレイヤーにとっては高価すぎるとまでは言えない。一度の狩りで数百万枚の金貨を得ることは十分可能だったし、熟練のプレイヤーなら個人資産で金貨億枚を軽く超える。アインズも例に漏れない。

 いずれにせよ、この地からは遠い世界の話である。

 

 手首がなくなったにも関わらず顔色一つ変えない男にデミウルゴスは微苦笑して、配下の悪魔に回復魔法を掛けさせた。

 

「参考までに、このブレスレットに魔法的効果がない場合の価値はどれほどになるのでしょうか?」

「二百から千と言ったところですね。ああ、言いたいことはわかります。美的価値を考慮すれば千。しかし、素材だけを見れば二百。ナザリックには素材を金貨に変換するマジックアイテムがあるのですよ。不用品や加工するのに手間が掛かり過ぎる物はそうして金貨に変えています」

 

 今になっても不思議のナザリックである。ナザリックには本当に何でもあるらしい。

 金貨に変換するマジックアイテム、エクスチェンジボックスで効率的に金貨を得る方法は現在試行錯誤中である。

 

「それにしても相変わらず痛みには強いようですね。そこまでの傷を受けて痛がる素振りを見せない人間は、いえ悪魔であっても貴方くらいですよ。ところで出血が全くありませんね?」

 

 傷口が焼かれたにせよ、血が滲みもしないのは不思議だった。

 今度は男が微苦笑する。以前、ソリュシャンがデミウルゴスのところへ出張する際に手足を収穫し、その時に血流を操作する技を編み出したのだ。

 

「……貴方はそれでいいのですか?」

 

 ナザリック守護者統括相談役の大任を担う前の話であるが、かなりあれな扱いである。

 今のソリュシャンはもう欲しがったりしないが、代わりにエントマがやってきた。ポーションを対価にあげる約束をしている。

 

 デミウルゴスの言葉を聞いた男は驚きに目を見開いて、穏やかな微笑を浮かべた。以前、同じことを言われた事があった。彼女とデミウルゴスとでは色々な面でかなり異なるが、仲間となった者へ向ける気持ちは近しいのだろう。

 改めてナザリックの一員と成ったことを実感する。

 

「以前、シャルティア様も同じことを仰られました」

「!?」

 

 これでもかと趣味に情熱を注ぐデミウルゴス製の人骨チェアだが、突然肘掛けがぐらついたらしい。デミウルゴスは前につんのめり、スマートな黒縁メガネがズレた。

 デミウルゴスはゴホンゴホンと咳払いしてから座り直す。肘掛けを確認しても、別に壊れてはいなかった。突如として不思議な力に襲われたようだ。

 その意趣返しではないのだが、あえて伝えなかった一番重要な事を教えてやった。

 

「最後に一つ教えておきましょう。今の状態で銀行業にまで手を伸ばせば、アルベドが倒れますよ」

「私が浅慮でございました!」

 

 ただでさえ忙しいアルベドである。

 そこへ経済のコントロールまで加わると、適正な人材がいないこともあって出来る者たちへ負担が集中する。つまりはアルベドの負担がとっても増える。

 アルベドであっても、一日三十時間の矛盾を五人分やれと言われたら倒れてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 第七階層から第九階層へ。

 

 デミウルゴスとの対談はとても実りあるものだった。

 中でも意外な収穫は、ヴァンパイア・ブライドをお姫様抱っこしても腕が疲れていないことである。

 

 ヴァンパイア・ブライド一班のお姫様抱っこは何とかこなして、デミウルゴス様との対談中は休むことが出来たが、ログハウスで潰した時間を合わせても二時間程度だ。それだけの時間では疲労が抜けきらなかった。

 しかし、手首がなくなって回復魔法を掛けてもらったら、腕の疲れが綺麗に抜けた。

 一秒後には死体になる肉片だって健康体にしてしまう回復魔法である。疲労が抜けるのは当然だった。

 ということは、疲れたら回復魔法を掛けてもらえば良い。とはいえ、ちょっと疲れたからお願いしますではペストーニャ様であっても難色を示されるだろう。頂いてしまったブレスレットの価値を再確認してしまった後なのだから、ご迷惑はなるたけ掛けたくない。

 であるならば、ペストーニャ様が回復魔法を掛けたくなる状態になればいい。

 

 そんな事を、第九階層のレストランでヴァンパイア・ブライドたちに食事の世話を焼かれながら考える。

 二班は時間を割くことを対価に抱っこを逃れたので現在は第三班。

 なお、一班のリーダーがパム。二班がシリー。以降、順にルル、エマ、ペニーとなっている。命名は全てシャルティアである。

 三班が終わっても残りが二班もあるのだ。その度に疲労をリセットするには、回復魔法が三回必要となる。一度や二度なら何とかなるだろうが、三度目となると難しい。

 

「アルベド様とアウラ様への伝言は?」

「完了いたしました」

 

 ナザリックに来たのだからアルベド様へ挨拶するのは当然だ。しかし、現在お姫様抱っこ中。

 過日、シャルティア様を伴って挨拶をしたら、アルベド様はとてもご気分を損なわれた。お姫様抱っこしながら挨拶を出来るわけがない。

 顔を出すよう言われたアウラ様も同じである。

 お二方へは、シャルティア様からテストを受けているためご挨拶に伺えない非礼を伝えた。

 全ては明日以降である。

 ネムちゃんにカルネ村の一時滞在施設管理をお願いする件でアインズ様にも拝謁したいのだが、こちらは急ぎではないのでエ・ランテルに戻ってからでも良い。

 当面はシャルティア様からのテストを如何に乗り切るかが問題だ。

 

 レストランでは椅子に座れるため、ヴァンパイア・ブライドを抱いていても腕の負担が軽い。なるたけゆっくりと食事をとって時間を掛ける。デミウルゴス様のところへ先に顔を出したので遅い昼食となっており、食事に長く時間をとれるのはまず良かった。

 

 その代償に、周囲から奇異の目で見られている。いつぞやシャルティアの地位失墜を狙ってろくでもないことをした報いかも知れない。不幸中の幸いながら、取り巻いているのがヴァンパイア・ブライドであることからシャルティアが関わっていると察してもらえている。

 何をしていてもシャルティアがしている事なら仕方ないと納得されるのはナザリックの良識である。

 

 副料理長を務めるピッキーに脱毛剤の件で礼を述べ、静かに近付いてきたシズからそっと「借りたものには利子がつく。利子はトイチ。十分で一割」と囁かれたのは聞かなかったことにして、レストランを後にした。

 

 

 

 第三班はレストランで楽をしつつクリア。腕の余力はまだまだ残っている。

 続く四班を抱き上げて向かうのは第十階層の最古図書館。ナザリックに来たからには絶対外せない場所である。

 まずは司書長のティトゥスに論理学のテキストを見せてもらい、学習する順序や他に参考となる文献などを案内してもらう。

 GMDH(グレートモンドダウンヒル)は現在34巻が貸出中だった。借りているのはコキュートス以外にないだろう。50巻までは読んだので、51巻から60巻を借りていくことにする。コキュートスが追いつくのを待つ選択肢はない。

 続いて経済学のテキストを幾つか抜き出し、閲覧室で読み始めた。しかし、ページを捲るのはヴァンパイア・ブライドである。その上専門用語がとかく多い。以前借りた大人向けの日本語辞書にも載っていなかった単語がやたらと出てくる。

 語感や文脈から意味の推察は可能だが、始めの一歩を間違えると大変なことになってしまう。専門用語の辞典と並行して読むことにする。

 すると、先に読み始めたテキストの解説書を発見。その隣にはまた別の解説書が。

 テキストのタイトルには「原論」とついていたので基本的な文献と思われたのだが、時代を経るに連れ様々な解釈がされてきたようである。

 素人がどれが良いと判断することは出来ないため、一通り読むことにしたのだが、たった一冊の書物に十数冊もの解説書が出ているのは不思議だった。

 

 そんなこんなで腕が辛いながらも第四班をクリア。いよいよ最後の五班である。

 第十階層と第九階層を繋ぐ大階段の上に五班のヴァンパイア・ブライドたちが待ち構えていた。

 

 三班、四班でのテストは椅子に座っている時間が長かったため、一班ほどきついものではなかった。とは言っても、お姫様抱っこしながらあちこち歩き回ったので両腕は相当に疲れている。五時間ぶっ通しのお姫様抱っこはとても辛い。美女の柔肌が、などと抜かしている余裕は皆無。

 回復ポイントを使わなければならない。

 

 大階段の一番上まで来た男に、五班のヴァンパイア・ブライドがテストのために近付いてくる。

 その時、男の体がふらりとよろめいた。

 

「おおっと足が滑った!」

「ご主人様!?」

 

 ミラの叫びを置き去りにして、男は踏み出し駆け出し全てを追い越してファーナウェイ!

 

「とーーーーーッウ!」

 

 大階段の一番上から跳躍した。

 

 その気になれば上空3,000㍍から落下しても無傷で着地できる男である。ナザリック製ジャケットの防御力もあって、階段から落ちた程度で怪我をする訳がない。

 しかし、それは着地時の姿勢による。

 両腕を前に突き出し指も真っ直ぐに伸ばして腕から着地すれば、ジャケットからはみ出ている部分は粉砕骨折が確実。最悪でも突き指は避けられない。

 怪我を負えば心優しいペストーニャ様なら回復魔法を掛けてくれるはず。勝率十割であった。

 怪我さえ出来れば、の話であるが。

 

「なっ!?」

 

 第十階層の真っ赤な絨毯が近付いて、あと半秒もあれば着地すると思われたその瞬間である。落下地点に漆黒の球形が現れた。

 闇の扉からは闇色のドレスをまとった乙女が飛び出し、床と正面衝突しようとした男を宙で抱き止めた。

 乙女はふわりと浮いて落下の勢いを殺し、音もなく床に足をついた。

 

「階段から落っこちるなんて案外おっちょこちょいでありんすね」

「シャ……シャルティア、様…………」

 

 突き指しようとしていた男を救ったのは、お仕事から帰ってきたシャルティアだった。

 第五班が最後になったのは、シャルティアの仕事に付き添っていたからだ。五班のメンバーが居るということはすなわち、シャルティアも居るという事である。

 

「ありがとう、ございます……」

「ま、テストで疲れたでありんしょうから足が滑ることもありんしょう。でもテストは終わりじゃありんせん。最後のあいつらを抱っこしなんし」

「…………かしこまりました」

 

 シャルティアに手を引かれて大階段を登り、ミラたちから大いに心配をされてお姫様抱っこ再開である。

 

 第五班は他の班より人数が少なく、七名である。二桁から一桁になったので計算出来るようになった。7掛ける15は105。一時間と四十五分。

 回復していれば何とでもなったろうが、既に五時間連続抱っこ中である。腕はきついや痛いを越えて麻痺してきた。動かそうにも動かせず、抱っこの形で固まっている。

 その上、今度は座ることが出来ずシャルティアに付き従う事になった。

 

 まずはお仕事終了をアインズ様にご報告。抱っこ中の男は外で待たされた。

 報告を終えたシャルティアは早速第二階層へ向かおうとしたのだが、第二階層に行ってしまうとペストーニャと会うことが出来ない。

 良い時間になってきたので食事の必要を訴えて再度レストランへ。

 シャルティアを始めとする吸血鬼たちは食事を取らない。男一人がまたも食事の世話を焼かれる。紅茶をゆっくりと味わっていたシャルティアもあーんをしたがって、抱っこされているヴァンパイア・ブライドをハラハラさせたのは余談である。

 食事が終わっても男は様々な話をシャルティアにねだって時間稼ぎ。

 そうしてようやく最後の抱っこが終わり、今度こそ第二階層へ向かう前に、男はシャルティアに断って少しだけ待ってもらうことに成功した。

 食事中、視界の端にペストーニャを発見したのだ。

 

「疲労ですね。寝て起きれば治ります、わん」

「そこを何とかならないでしょうか?」

「自然治癒に任せるのが一番です。魔法に頼ってばかりではいけませんよ? わん!」

「わかり、ました……」

 

 奇跡そのものである回復魔法は、エナジードリンクの代わりにはなってもマッサージの代わりはしてくれないらしい。

 男は痺れる腕を前に突き出した異様な姿勢のまま、ナザリック地下大墳墓第二階層「墳墓」にあるシャルティアの住居「屍蝋玄室」に連れてこられた。

 

 

 

 

 

 

「テスト結果でありんすが、7人抱っこ出来たから十分でありんすね」

「なん・・・です、と・・・」

 

 7人で十分ならどうして47人も抱っこさせたのか。

 10人はパスして実際に抱っこしたのは37人。途中で回復魔法を掛けてもらったため、連続抱っこは実質27人。27掛ける15は405。6時間と45分。

 対して7掛ける15は105。1時間と45分。5時間も余計である。

 頭を使わなければ47掛ける15の705になっていたはずで、11時間と15分。9時間と30分も多い。

 

「そもそもテストの目的は何だったのでしょうか?」

 

 椅子に掛ける男の前で、シャルティアはヴァンパイア・ブライドたちを使って衣装直しをしている。重厚なドレス姿から裸身を彩るセクシーな下着姿に変身中だ。

 右脚に透け感のある黒いガーターストッキングを履かせながら、眩い銀髪にブラシを入れさせている。

 シャルティア本人は、ヴァンパイア・ブライドたちに幾つものコルセットを持たせ、どれを着けるか選んでいるところだ。

 

「駅弁でありんす」

「駅弁、でございますか?」

 

 駅弁の意味は日本語辞書で学んでいた男だ。

 駅とは様々な交通機関の乗り合い場所、あるいは停留所。弁とは弁当の略で、外出先で食事をするための携帯食を指す。

 双方を合わせた駅弁とは、駅で売っている弁当のこと。

 お姫様抱っこが駅や弁当とどのように繋がるのか全く見当がつかない。

 

「駅弁の意味は先だって日本語辞書から学びました。しかし、本日のテストとの繋がりがわかりません」

「ほーほー? 色々知ってるお兄ちゃんでありんすが、知りんせんこともあるようでありんすねぇ?」

「当然でございます。どうかご教示していただけないでしょうか?」

「仕方ありんせんねぇ」

 

 シャルティアは腕を伸ばし、薄手のドレスグローブを嵌めさせる。

 ガーターストッキングは左右両方を履き終えた。ストラップで吊るさず、ガーターで留めるタイプらしい。

 

「ちょっとそこのお前たち、見本を見せてやりなんし」

 

 シャルティアに命じられた二人のヴァンパイア・ブライドが立ち上がって向き合った。

 一人が片膝を上げ、もう一人が上げられた太ももを抱え持つ。

 脚を上げた方がもう一人の首に腕を回してぶら下がるような姿勢となって、もう一方の太ももも上げてこちらの脚も抱え持たれた。

 最後に抱き上げた方が抱え直して体を密着させ、駅弁完成である。

 

「あーして抱っこしながらセックスするのを駅弁って言うんでありんす!」

 

 駅弁の立ち売りは、弁当が入った箱を首に掛けた紐に吊るして固定した。駅弁売りに似ている体位であることから、男が女を抱え持つ体位を駅弁と呼ぶのだ。

 如何に大人向けの辞書であっても、性交時の体位が載っているわけがなかった。

 

「ずっと抱っこするから体力が必要でありんす。そのためにお前をテストしんした」

 

 男が知らないことを解説出来ているシャルティアは得意満面である。

 選びぬいたセクシーコルセットは、透けているのは当然のことながら、ブラジャーのカップが取り外し可能なもの。シャルティアのちっぱいであっても、コルセットの締め付けが手伝って乳房が強調される。シャルティアのセンスが光った。

 しかし、男の目からは光が消えた。

 

「したッ……! 駅弁しました!!」

「ほえ? そうでありんすか?」

「駅弁はシャルティア様としたことがあります。シャルティア様と過ごした時のことは全て覚えております。間違いありません!」

「そ、そうで、ありんすか……」

 

 シャルティアの目が泳ぎ、白い肌が薄っすらと染まったのを男は気付かなかった。ナザリックでの貴重な一日を無為に付き合わされたのだから怒って然るべきなのだ。

 あれはジュネがジュネの名を持つ前のSVB№26であった時のこと。48人もいるヴァンパイア・ブライド全員を抱くように命じられ、ジュネの前に割り込んだシャルティアを抱いた体位が駅弁だった。

 駅弁をしていた時間は十分少々で、11時間15分どころか1時間45分も必要ない。

 

「それじゃ早速駅弁を試しんしょう!」

 

 お着替え完了。今夜の髪型は珍しく二つに分けて暗赤色のリボンでくくっている。黒でまとめたセクシーランジェリーと統一感があり、このあたりはさすがのシャルティアだった。

 しかし、やはり男の目は死んでいる。魅惑のシャルティアを前にして、皮肉げに自嘲した。

 

「残念ながら腕が動きません。日中、腕を使いすぎたせいです。ペストーニャ様に回復をお願いしましたが、寝て起きれば治ると言われてしまいました」

「貧弱でありんすねぇ」

「お言葉ですが、11時間以上もずっと同じ姿勢でいれば固まるのは当然です」

 

 こうして話している今も、男の腕は不自然に突き出されて自分の膝に乗せている。

 手指は何とか動くのだが、肩と、特に肘関節が凝り固まって動かない。動かそうとすると痛い云々の前に、兎にも角にも動かない。

 

「むぅ……。仕方ありんせん。駅弁は次にとっておいて、今夜はマッサージをしてあげりんしょう!」

「うへあ!?」

 

 シャルティアの合図で、二体のヴァンパイア・ブライドから手を引かれて立たされた。

 腕は痛いが耐えられない痛みではない。しかし痺れているので、言葉にし難いくすぐったさがある。

 肘や肩からゴキュとかグリとか、異音が鳴るのも不安にさせられる。

 

「安心しなんし。じーーーーっくりマッサージしんすから明日には快調快適でありんす」

「……お手柔らかに」

 

 手を取られたまま寝室に連行された。

 同行しているヴァンパイア・ブライドは7人。第五班のメンバーで、シャルティアの仕事に付き添った者たちだ。

 マッサージは彼女らへのご褒美を兼ねているらしい。

 

 大きなベッドの真ん中に寝かされて、吸血鬼たちによるマッサージが始まった。




まだ生きてるエントマのアンケート(177〜183話)は性的がちょっとリード中
どっちであれ反映するのは10話以上先だと思います、たぶん


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深山 ▽シャルティア♯6 +SVB

人数が多いので散らかった感あり
本話16.5k字


 ベッドに寝かされた男に吸血鬼たちが群がってくる。

 

「相談役様、どうぞこちらへ」

「椅子の方が良いと思うんだが」

「椅子では全員が上がれません、相談役様」

「それはそうだが」

「相談役様のお召し物をお預かりいたします」

「腕のマッサージで下を脱がす必要はないだろう」

「ご冗談を仰られては困ります、相談役様」

「相談役様は」「相談役様に」「どうぞ相談役様」

「ううぅるさぁああーーっい! お前ら黙れ!」

 

 シャルティアの怒声が轟き、ヴァンパイア・ブライドたちは口を噤んで動きを止めた。

 以前のシャルティアであったら、この時点でヴァンパイア・ブライドの首が一つ二つと飛んでいる。今や驚いたり恐縮している者はいるが、害される事に怯える者はいない。以前のシャルティアとは違うのだ。

 とはいえ、シャルティアを軽んじる者もいない。皆、居住まいを正して拝聴の構え。

 

「相談役じゃない! お兄ちゃんだ!!」

 

 シャルティアはババーンと言い放った。

 折角エッチな格好をして好い事をするところなのに、相談役相談役言われたら興醒めだ。それではアルベドの紐が付いているようではないか。

 

「お兄ちゃんが言い辛ければ、『お兄ちゃま』でも『お兄たま』でも『お兄様』でも『兄上様』でも『にい様』でも『おにいたん』でも『あにぃ』でも『あに君様』でも『あにくん』でも『アニキ』でも『にぃにぃ』でも『おにぃ』でも『あにちゃま』でも『にいや』でも構いんせん」

 

 シャルティアの創造主であるぺろロンチーのに姉萌えはなくても妹萌えはある。シャルティアにはその全てが注ぎ込まれている。

 

「ではおにいたん、ズボンを脱がしますので脚を伸ばしてください」

「お兄ちゃまは気を楽にしてください」

「にいやは私どもにお任せしてくだされば良いのです」

「わかったよ」

 

 どうしてそれを選ぶのかと思いながら、女達からされるがままに服を脱がされる。

 

「ふん」

 

 ちょっぴりご機嫌斜めになったシャルティアだが、準備が整いつつあれば気分が上がってくる。

 腕が上手く動かないようであの指技がお預けになってしまうのは残念だ。それでも出来ることはいっぱいある、と思ったところで閃いてしまった。

 いつもあの指であへあへにされてしまう。しかし、今夜はお姫様抱っこ耐久により封印。あへあへにされることなく、冷静に行動出来る。

 されないのなら、してやればいい。したくなるように仕向けるのは簡単なことだ。アドバンテージはこちらにある。

 

「くふ」

 

 シャルティアの口角が釣り上がる。

 おバカと言われることがあっても、シャルティアは本当はおバカではない。知恵の使いどころが間違っているだけなのだ。

 

 

 

 男は広いベッドの真ん中に座らされた。

 両足を伸ばし、腕は前に突き出しているので上半身が後ろへ倒れそうになるのを、後頭部が柔らかなヘッドレストに包まれる。

 

「にぃにぃは遠慮せず私の胸に寄りかかってください」

「あにくんの腕は私達がお揉みします。痛むようでしたら仰ってください」

 

 背後には膝立ちとなった女が男を支える。

 左右からは別の女達が突き出された腕をさすり始めた。筋肉痛解消のマッサージなどはしたことがない女達であるが、優しい愛撫は毎日欠かさず行っている。その応用で、的確とは言えなくともマイナスの効果はなさそうだ。

 

 どうでもよいことだが、呼び方は統一しないらしい。むしろ呼ぶ度に呼称を変えている。どれが良いか試しているところなのかも知れない。

 

「時間はたっぷりありんす。こいつらに任せておけばすぐに良くなりんしょう。私も毎日させていんすから太鼓判がペッタンでありんすよ」

 

 彼女らの主であるシャルティアは、男が伸ばした脚を跨いでベッドに膝をついた。

 ジャケットもシャツもズボンもパンツも全部脱がされ素っ裸にされている。脚の付け根には女達にはない肉棒が項垂れている。

 

 シャルティアが考えた当初の予定では、すぐにでも手や口で大きくさせて始めるつもりだった。

 大きくさせるのはいいが、まだまだ始めるつもりはない。

 

「お兄ちゃんは手が動かないでありんしょう? だから、今夜はシャルティアに任せなんし。たあっぷり夢のような思いをさせてあげんすから♡」

 

 シャルティアは膝立ちのまま男に近付いて、尻をついたのは膝より少し進んだところ。肉棒の先端がシャルティアの股間にギリギリ届かない位置である。

 男の股間をチェックしつつ、シャルティアは男の頬を両手で包む。

 

「相変わらずお兄ちゃんは綺麗な顔をしていんす。本当に人間でありんすか?」

「人間ですよ。シャルティア様と初めてお会いした時から変わらない顔でしょう」

「んーー。自分じゃわかりんせんでありんしょうか? 初めて見た時よりエッチな顔になっていんすよ?」

「エッチな、顔……」

「もうエロエロでありんす!」

「エロエロ……」

 

 エッチでエロエロとは、好色そうな顔ということか。そんな目で女性を見ることは間々あるが、顔には出してないつもりだった。

 それなのにエッチでエロエロと言われるのは、かなりの衝撃であった。

 衝撃が駆け抜けた数秒後、そんな顔で見るなと言われるまではこのままでいいだろうと自己弁護する。どんな顔だろうと迷惑を掛けなければいいのだ。

 

「お兄ちゃんはそのままでいいんでありんす」

「そうですか……」

 

 シャルティアに太鼓判を押されても安心材料にはなりそうにない。

 衝撃を与えた当人は、顔を近付けてくる。

 

「本当のところ、目からエロエロビームとか出していんせんよね?」

「出せるわけないでしょう」

「むぅ。そうで、ありんすね……」

 

 太ももに乗ってもシャルティアの方が低い。高さを合わせるべく、ヘッドレストが自動で移動した。

 しばし沈黙が流れる。

 不意に、前のめりだったシャルティアが体を引いた。

 

「どうかなさいましたか?」

「何でもないでありんす! 大人しくマッサージされてなんし!」

「……かしこまりました」

 

 ずっと座っているきりで何もしていない。しかし、反論してもシャルティアの機嫌を損ねるだけ。

 男は無言で、けどもシャルティアから目を逸らすのも失礼と思い、コルセット姿を鑑賞する。

 

 シャルティアが着けているのはところどころで透けている黒のセクシーコルセットで、本来の機能である体形補正より裸身を飾るものと思われる。

 着けているのを見ていたので、ブラジャーのカップ部が取外し可能なのは知っている。

 コルセットの下部には白いフリルがスカートのように付いている。股間までは届いていない。股間には、やはり黒のショーツ。当然のように透けている。近付いて目を凝らせば、シャルティアの淫裂が見えるだろう。

 ヴァンパイア・ブライドたちは肌が白く衣装も白い。シャルティアの肌も白く、衣装の黒が際立っている。自分の魅せ方をわかっている装いだ。

 

 見られているシャルティアは、下からジロリと睨めつけた。

 

「やっぱりお兄ちゃんの目はエッチでありんす!」

「いえ、けしてそんなつもりで見ていたわけでは」

「お兄ちゃんに見られるとエッチになるんでありんす!」

 

 シャルティアは、ぐるると唸って舌を打った。

 

(くっ……! 計算違いでありんす。お兄ちゃんの指がスゴイのは知っていんしたが、まさか見られるだけで濡れてくるとは! これが2,800レベルの実力か! あのアウラにセックスをせがませたのは伊達じゃないでありんすね。これは計画を早めないといけんせん)

 

 至高の美を知るナザリックのシモベたちでさえ見惚れる美貌の男だ。

 エ・ランテルや帝都では、本人の知らないところで多数の女たちから懸想されていた。それが色恋沙汰に繋がらなかったのはソリュシャンたちが囲んでいたのもあるが、恋い慕うよりも崇拝とか尊崇とかで尊ばれていたからだ。

 シャルティアたちは、そこへ加えて何度も体を重ねている。見れば、あるいは見られれば、どうしたってその時のことが思い起こされる。

 男がいやらしい顔をしているのではなく、見たり見られたりしてる女たちがいやらしい思いを抱く。端的に言えば、今のシャルティアのように欲情する。

 

 シャルティアは、このままだと手が使えない男に負けることを確信した。

 しかし、ナザリックの一番槍が手も足も出せずに負けを認めるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

「プランRPでありんす!」

「は? それはどのようなプランなのでしょうか?」

「お兄ちゃんは関係ありんせん! お前らさっさと始めなんし!」

「恐れながら……、私どもはプランRPの内容を聞かされておりません」

「うっ……。仕方ないでありんすね。ちょっと耳を貸しなんし」

 

 ヘッドレストで一人、マッサージを右と左で二人。合わせて三人。ヴァンパイア・ブライドは他に四人余っている。

 シャルティアは一人へこしょこしょと耳打ちする。深く頷いた女は他の女たちにも伝え、四人は指示された位置へ移動した。

 

「んっ……」

「?」

 

 ずっと静かなマッサージだったのに、突然聞こえた声へ男は振り向いた。

 マッサージしていた女と目が合う。彼女はすぐに目を逸らし、唇を固く結んでさすっている腕に視線を落とす。それで堪えられるわけもなく、赤い唇はたびたび綻んで熱っぽい息を漏らす。

 

 女たちが着ているのは、ヴァンパイア・ブライドお仕着せのエロ衣装。

 下半身はスリットが腰まであるスカートだったり、股間と尻を隠すだけの帯だったりと、防御力はとかく低いが違いがある。

 対して上半身は細部こそ違えど大まかな作りは共通で、乳房の半分も隠せない帯が覆うだけとなる。

 その帯の内側に、白い手が入り込んでいた。

 

 右だけでなく左も同じ。

 頭上からも艶っぽい声が降ってくる。胸はヘッドレストになっているので、どこか違うところを触られているのだろうか。

 むせ返るほどに甘い香りに満ちた屍蝋玄室の寝室に、生々しい女の匂いが漂い始めた。

 

 ところで、プランRPの「RP」とは「レズプレイ」の略である。ちなみに女性の同性愛を意味する「レズビアン」の英語表記は「lesbian」である。

 

「くふふ、7人もいるんだから有効に使わないといけんせん。後の一人は……」

 

 シャルティアが男の肩に両手を置き、膝立ちとなった。

 その後ろから白い手が伸びて、シャルティアの細い腰を掴む。体のラインを強調するように細い手指が腰付を撫で、フリルの内側に潜って左右へ引いた。

 と同時に、シャルティアの黒いショーツがはらりと剥がれる。

 シャルティアのパンツは紐パンだったのだ。

 

「お兄ちゃんのエッチな視線をお股に感じんす♡ じっくり見ていいんでありんすよぉ?」

 

 お許しの言葉が出たので視線を固定。

 黒いストッキングは太ももの根本近くまで覆い、コルセットのフリルは下腹を半分以上隠している。

 両者に挟まれた白い領域はシャルティアの肌。

 膝立ちなので距離が近くなり、シャルティアのぷっくりした恥丘が見えた。割れ目はまだ開いてない。

 そこへ白い指が現れた。シャルティアと色違いの白いドレスグローブを嵌めている。見れば他の女たちもドレスグローブを嵌めてるようだ。

 後ろから股に差し込まれた三本の指は、中指を真っ直ぐ伸ばし、人差し指と薬指をシャルティアの陰唇にあてがう。

 左右へ開き、赤い内側を見せた。

 

「んぅ……、始めはクリをこすりなんし。おまんこは濡れていんすけど、入れるのはまだでありんすよ? じぃっくりクリをこすって、おまんこがヒクヒクしてきてからでありんす。そう……、そうでありんすよぉ♡」

 

 伸びていた中指が折れ曲がった。

 器用にも人差し指と薬指で淫裂を広げ、中指の腹を肉芽に押し当てる。快感を与えるためだけでなく、見せるための行為である。

 この男がエリートシックスに伝授した技が伝わったのだ。

 

「お兄ちゃんにはぁ、シャルティアのおっぱいを見せてあげんす♡」

 

 秘部を愛撫させながら、シャルティアはブラジャーのカップ部をぺろりと剥がした。

 ちっぱいは変わらないが、バストのアンダーに沿うコルセットの効果で、いつもより少しだけ大きく見える。

 

「ほうら、よく見なんし。お兄ちゃんの顔がエッチでエロエロだから、シャルティアの乳首はもうビンビンでありんす♡」

「私の顔と言われましても」

「好い顔でありんす♡ お兄ちゃんの顔は好きでありんすよ? 顔以外も色々好きでありんすけど」

「……ありがとうございます」

 

 エロい顔と言われても、一応は褒められて好みらしいので、とりあえずの礼を言っておく。

 そんな応えでも間違いではなかったらしい。

 シャルティアは愉しそうに嗤って、もう一度男の肩に手を置いた。

 

「くふぅ、お兄ちゃんの息がくすぐったいでありんすよぉ♡ シャルティアの乳首は敏感になっていんすから、ふうぅってされるだけで気持ちいいでありんす♡」

 

 自己申告通りに真っ赤な乳首はツンと尖り、目の前に迫ってきた。

 肌が真っ白な上にちっぱいなので、乳首が勃起するととても映える。思わず食指をそそられ口に含もうとしたが、ヘッドレストの腕が体に絡んで顔を動かせなかった。

 

「乳首なら構いんせん。くふっ♡ いっぱいペロペロしてくんなましえ♡」

 

 シャルティアの言葉で拘束が緩み、指二本分の距離だけ前に出た。熱のない乳首でも、艶めかしい弾力は生身のもの。強く吸い付き、舌で転がす。

 このままもう一方の乳首を摘んだり尻を揉みたいものだが、腕はマッサージ中だ。

 せめて舌だけでも楽しんでもらおうと、シャルティア好みにキツく噛む。頭上であひゃぁと鳴り、頭を抱き締められた。

 

「お兄ちゃんは手だけじゃなくてお口も上手でありんすよ♡ その調子で私のお口も味わいなんし。ちゅっ」

 

 小さな唇からは、重なる前から赤い舌が伸びている。

 唇が触れる前に舌同士で触れ合って、蠢き始めた。

 

「んぅっ……、ちゅうっ……ちゅるる。あんっ♡ そろそろ指を入れていれなんし。んっ……、その調子で動きなんし。お兄ちゃんはこっち。あーーーん、ちゅっ♡ れろぉ……、じゅるじゅる……んっふぅ♡」

 

 互いの唾を熱心に撹拌している間も、シャルティアは秘部を愛撫させている。

 クリトリスをこねくり回すのも好いが、中に入れられるのも大好きだ。穴へは後ろのヴァンパイア・ブライドに入れさせて、クリトリスへは自分で指を伸ばした。

 重なった唇からは泡立つ唾がぐちゅぐちゅとやや大きな音を立て、シャルティアの股間からはくちくちと小さく鳴りだした。

 見られるだけで濡れてきた穴は、奥まで十分潤っている。

 挿入された指に愛液が絡み、掻き出され、ぽたりぽたりと滴り始めた。

 

 キスの息継ぎを必要としないシャルティアだが、唇を濡らす唾を舐め取るために一旦離れた。

 赤い舌がれろりと唇を一周して唾液を塗り直し、もう一度。それとももう少し違う趣向を、と思ったところで気が付いた。

 

「ん? おっほぉ♡ お兄ちゃんもぉ、エッチな気持ちになってきたようでありんすねぇ?」

「シャルティア様がそれだけ魅力的なのです」

「そんなことくらいわかっていんす♡ シャルティアもおまんこがヌレヌレでありんすからぁ、お兄ちゃんがおちんぽおっきさせても仕方ないでありんしょう♡」

 

 膝立ちとなったシャルティアの股の下。始まった時は項垂れていた肉棒が、シャルティア目指して固く屹立していた。

 その気になりさえしなければ生乳を揉んでも静かなものである。今は色々と重なってしまった。

 

 前後左右から女の艶っぽい声が聞こえてくる。

 左右どちらを見ても、愛欲に潤んだ肉惑的な美女が切ない顔で見詰めてくる。

 ちっぱいと言えども、固く尖った乳首をしゃぶるのはよいものだ。

 キスの味もシャルティアは熟練で興奮を掻き立てる。

 一番の原因は溜まっていることだ。

 

 昨夜三回出したが、あれは強壮剤の効果を最低限に鎮めて眠るためだ。やろうと思えばもう五回は余裕だった。あの程度では出した内に入らない。

 今日はどうせシャルティアに捕まると思っていたし現に朝から捕まっているため、一度も出せていない。

 今夜出さずに眠れば、明日は夢精してしまうだろう。

 

 半裸の女たちに囲まれ、妖艶さを強調する衣装で迫るシャルティアを前に、大人しくしていられるわけがなかった。

 

「っ!」

「お兄ちゃんのおちんぽはぁ、シャルティアのおまんこに入りたいんでありんすね?」

 

 シャルティアが腰を落とし、恥丘で一逸物を撫でた。挿入はならず、割れ目で裏筋をすべっていく。

 

「ええ、入りたいです。今日はシャルティア様との時間を大切にしようと、体を整えておりました。生憎、腕は使えませんが、あちらはご覧になればおわかりかと存じます」

「いい心がけでありんす! こーしてくっつけてるとおちんこがあっついのがわかりんす。ギンギンになっていんすねぇ? シャルティアのおまんこもぉ……、お兄ちゃんのおちんぽ入れたくて大洪水でありんすから♡」

 

 そうは言うものの、入れようとはせず素股状態のまま腰を滑らせて、逸物に愛液を塗りつける。

 汁気が多いシャルティアなので、小水を漏らしたかのように量が多い。逸物に絡んだ愛液はとろりと流れ、陰嚢も濡らしている。

 

「うんしょ。ほら、手伝いなんし」

 

 シャルティアは腰を上げ、背後のヴァンパイア・ブライドに命じる。ヴァンパイア・ブライドは片手で逸物の角度を調整し、もう一方の手はシャルティアの淫裂を開いた。

 シャルティアがゆっくりと腰を落とす。

 位置も角度も完璧に合っている。

 膨らんだ亀頭がシャルティアの陰部に触れ、開かれた入り口に入り始めた。

 

「シャルティアのおまんこ、ぬれぬれのとろとろでありんしょう? お兄ちゃんのおちんぽが欲しくてこーなっちゃったんでありんすよぉ?」

 

 狭い膣口を押し広げ、シャルティアの真っ赤な内側へ飲まれていく。

 亀頭全てが潜りきると、逸物は期待にピクリと震えた。

 そして、そこで止まってしまった。

 

「シャルティア様? もう少しですが?」

「くふふ……。ここまででありんす♡」

「!?」

 

 シャルティアは、邪悪に嗤った。

 

「お兄ちゃんのおちんぽが欲しいけどぉ、お兄ちゃんがアルベドのって言うのが面白くありんせん。だ・か・らぁ……。アルベドのを辞めてシャルティアのものになるって言いなんし♡」

「なっ!?」

 

 受け入れがたい提案であった。

 反射的に腰を突き上げようとしたが、動けない。女たちに太ももを押さえられている。

 

「おおっとぉ? もちろん今ここだけの話でありんす。ムード作りの一環だと思いなんし。シャルティアはお兄ちゃんとセックスする時に色んなことを言ったでありんしょう? お兄ちゃんも色々言ってくれんした。シャルティアを愛してるって言ったり、シャルティアのおまんこは最高だって言ったり、何回しても飽きないで新しい悦びがあるって言ったりぃ。まるきり嘘じゃないでありんしょうけど、ぜーんぶ真に受けるほどシャルティアはお子様じゃありんせん。それと一緒でありんす」

「ですが、それは……」

「今だけと言ったでありんしょう? ここでの話はどこにも漏れんせん。明日になったらぜーんぶ忘れんす。シャルティアにはこーいうものもありんすが、何もしてないでありんしょう? それが証拠でありんす」

「……まだ持っていたのですか」

「お兄ちゃんからもらったのは全部とってありんすよぉ♡」

 

 シャルティアが虚空から取り出したのは、一枚の紙片。

 そこには拙いひらがなで『わたし は しゃるてぃあ さま の しもべ です』とある。きちんと日時と署名も入っている。

 かつてシャルティアがこの男の日本語教師を買って出た時、最初の授業を始める前に書かせたものだ。

 

「これと一緒で思い出作りの一つでありんすよ。それくらいいいでありんしょう? シャルティアからのお願いでありんす! シャルティアのおまんこぬれぬれで、早くお兄ちゃんのおちんぽが欲しいんでありす! ほらぁ、おちんぽギンギンで、早くシャルティアの中に入りたいって言ってるでありんすよぉ♡」

「くっ…………」

 

 シャルティアが2ミリだけ腰を落とし、3ミリ戻った。

 初心者なら媚肉の弾力で押し退けてしまうが、シャルティアのコントロールは完璧だった。入り口だけで咥えているのに、亀頭を逃さず離さない。

 

「ほらぁ♡ 言っちゃえば楽になりんすよぉ? くふふ……」

 

 シャルティアが甘ったるい声でねだってくる。

 

 その時、男ははたと気付いた。己は吸血鬼たちに囚われている!

 シャルティアの望み通りにしない限り、この場を脱せない。

 ベッドでのピロートークくらい良いかと思わなくもないが、シャルティアのおねだりは一線を越えようとしている。今だけとの言質があっても、越えていいものかどうか。

 

 今更のことであるが、シャルティアは平気で嘘をつける女だ。

 何もしてないと言う件の紙片も有効活用しようとして失敗し、アインズ様から私文書偽造の罪で謹慎三日を言い渡された。

 なのだから、もしも男がそれを口にしようものなら、嬉々としてアルベドに伝えるつもりだ。アルベドは当然、男を問い質すだろう。

 そして、シャルティアはアルベドの頭脳を信頼している。悔しいことこの上ないが、アルベドの頭脳がとても優れているのは認めざるを得ない。

 果たして、この男はアルベドの頭脳を上回る演技が出来るだろうか。おそらく、口にしたことを見抜かれるに違いない。

 この場この時だけの言葉だとしても、口にした言葉は取り消せない。

 二人の間にどのような溝が出来るだろうか。溝さえ出来れば広げて亀裂にするのも可能だろう。亀裂が広がり切ったらこちらに引っ張り上げるだけ。

 そうなったとしても己はとても心が広いと自他ともに認めているので、アルベドがどうしてもと言うのなら相手をさせてやってもいいだろう。

 アルベドがどんな顔をしてお願いをしてくるか、想像するだけで暗い悦びが湧いてくる。

 

 

 

「あっ」

 

 シャルティアが幸せな夢を見ている時、ヴァンパイア・ブライドたちの間抜けが声がした。

 

「はれ?」

 

 シャルティアも何かが違うと感じたが、判断が一瞬遅れた。セクシーコルセットのせいだ。

 コルセットが包む細い腰を掴まれたのだが、何が起こったのかわからなかった。

 

「はうぅうぅっっっ!!」

 

 シャルティアは背を反らせ、高い声で鳴いた。

 腰を引き落とされた。

 入り口で留めていた逸物が、一番奥にまで入ってきた。

 膣内に溜まっていた愛液が押し出され、結合部をしとどに濡らす。

 

「「「シャルティア様!」」」

 

 シャルティアが伝えた計画と違う。ヴァンパイア・ブライドたちがシャルティアを援護しようとするが、抜いてしまえばいいのか、このまま続けるのか、どちらを選ぶべきかわからない。

 

「うでは、うごかない、はずじゃ……?」

「動きませんでした。皆さんのマッサージのおかげです」

 

 浅く達したシャルティアに、男は答えてやった。

 お姫様抱っこ耐久で凝り固まってしまった肩と肘である。シャルティアの腰を掴んだのは、動かないはずの腕だったのだ。

 

 ヴァンパイア・ブライドたちのマッサージの効果も少しはある。それ以上に大きいのが、食事の効果であった。

 昼間はヴァンパイア・ブライドをお姫様抱っこして食事。夜もヴァンパイア・ブライドをお姫様抱っこして食事。シャルティアも一緒になってあーんをしていた。

 シャルティアの悪ふざけに付き合わされているのだと察した料理長が気を利かせて、疲労回復の効果がある食事を出したのだ。

 その甲斐あって、腕はほぼ元通りに動かせるようになった。

 疲労の深さから回復にはもう少し時間がかかるはずだったが、アルベド様への想いが自由を取り戻させたのだ。

 

「今だからこそ話せることですが」

 

 入れられてしまったが、シャルティアは何とか元の計画に戻ろうとして、先手を打たれた。

 耳をくすぐる甘い声に聞き入ってしまった。

 

「初めてシャルティア様を抱いた時はキツくて狭いと感じたものです。実を言えば痛みもありました。今はそんなことはありません。シャルティア様の中が私の形に馴染んできたのでしょう。とても良い具合ですよ」

「うっ……」

「わかりやすく言えば、シャルティア様のおまんこが、私のちんこの形を覚えたということです」

「ふにゃぁ……♡ シャルティアのおまんこはおにいちゃんのおちんぽしか入れたことありんせん♡ お兄ちゃんの形になるのは当然でありんす♡」

 

 男の肩に置いた手が背に回る。シャルティアから抱きつく形になった。

 計画は中止。プレイを続けるようである。

 

「シャルティア様は駅弁をご所望のようでしたが、もっといい体位がありますよ?」

「そうなんでありんすか?」

 

 シャルティアが駅弁をしたかったのは、女は男にしがみつくしか出来ない体位で、自由を奪われ男に振り回される感が良いと思ったからだ。

 そう思ったのは経験したことがあるからなのだが、体は覚えていても頭では覚えていられなかったらしい。

 

 対面座位の形から、男がシャルティアを押し倒して正常位になる。

 小さな体が大きな体に包まれるようで、シャルティアは正常位だって大好きだ。

 

「腕を伸ばしてベッドに広げてください。肩と腕で体を支えるようにして」

「こうでありんすか?」

 

 言われた通りに、シャルティアは腕をハの字に広げた。

 抱き締めていた男が遠ざかり、シャルティアの細い太ももを抱えてまんぐり返しのように押し上げる。

 シャルティアの尻がベッドから少し浮き、上げられた脚は男の肩に乗せられた。

 

「行きますよ?」

「ひゃぁっ!? こ、これはぁ…………!」

 

 男は太ももを抱えたまま、膝立ちになった。

 挿入したままなので、シャルティアの腰も高く浮く。

 シャルティアがベッドについているのは伸ばした腕と肩と頭だけ。

 

「い、いつもと、違うとこに当たっていんす……♡」

 

 深山である。

 人跡未踏の清浄な深山の如き深いところへの挿入を可能とするこの体位を、深山と呼ぶのだ。

 

 この男は駅弁の名前を知らなくても形は知っていたように、名前は知らなくてもあらゆる体位を網羅していた。ラナーと試行錯誤した結果である。

 ラナーとの行為は四桁を軽く超える。二人とも好奇心旺盛な年頃の事であり共に頭脳が優れていることもあって、人体の可動域からどのような体位が可能か様々なことを試していた。

 中には封印した体位があれば、お気に入りになった体位もある。

 深山は十回に一度は行うお気に入りの一つであった。

 

「シャルティア様に見惚れるのはわかるが、皆も協力してくれ」

 

 初めて見る体位に呆けていた女たちは、男の言葉を受けてシャルティアを囲んだ。

 左右に一人ずつ、枕元に一人、男の背後に一人。一人は男から脱がせたジャケットのポケットを探り、透明な液体が入った小瓶を持ってきた。

 

「よく伸びるからほんの少しでいい。あとで簡単に洗い流せる。これは置いておくから使い方を覚えるように。必要になったらまた持ってくるよ」

 

 昨夜、ネムちゃんにも使った最強に見える魔法のローションである。

 

「な、なにをするんでありんす?」

「勿論シャルティア様にお悦び頂くことですよ。これはシャルティア様もご存知でしょう? シャルティア様とアナルセックスをするために開発したローションです。ヌルヌルになるのがお気に召したのを覚えておりますので」

「あっ、ちくびぃ♡ あぁん、もっとはげしくしなんし!」

「激しくはしないように。ゆっくりと同じペースで続けるんだ。摘むのも不可。シャルティア様が何を仰ろうと、俺を信じて転がすだけに留めるように」

「「かしこまりました!」」

 

 左右の女たちはシャルティアの乳首にローションを塗り、指先をあてがって小さな円をひたすらに描き続ける。

 背後の女はシャルティアの太ももを押さえた。深山は挿入されている女が不安定な姿勢であるため、太ももをしっかりと抱えていなければならない。男の腕は動くようになったが、使える女たちがいるのだから使うべきだ。

 枕元の女は、ひとまずシャルティアの乱れた髪を直している。

 

「それでは、動きますよ」

 

 男は軽く腰を引き、シャルティアに打ちつけた。

 女は不安定な姿勢でも、男は膝立ちしているので案外腰が振りやすいのだ。

 

「あっ、あっ、あっ! あんっ、あんっ♡ これっ、イイでありんしゅぅ♡ おちんぽ、ずちゅずちゅしてりゅぅう♡」

「そうでしょう? シャルティア様の奥に当たってるのがわかりますよ。お好きなのはこのあたりでしょうか」

「あ゛あ゛っ! そこしゅきぃいいい!! あっあっ、あっひゃああぁん♡ あっ、あっ、ああっ!? クリもぉぉおおおぉお!?」

 

 右の女が一人増え、結合部に手を伸ばす。

 無垢で無毛の割れ目は開いて、真っ赤に充血した陰核が覗いている。そこへもローションを塗りつけ、乳首と同じようにゆるゆると撫で始める。

 

「あ゛っ! あ゛っ! あ゛っ! こんなのらめぇ! 目がチカチカしてぇ! あっ、らめらめイクぅうぅううう♡」

 

 奥まで来ている逸物をきゅうと締め付け、真っ赤な舌を伸ばして快感を叫ぶ。

 腰と尻をぷるぷると震わせながら、結合部から溢れる愛液が尻の割れ目を伝って、尻を浮かせているので背中へまで流れていく。

 

「シャルティア様が涎で溺れる。吸い取るんだ」

「かしこまりました」

「まっ、まちなんし。よだれでおぼれるわけが、あむうぅ……、んっんっ、じゅる…………。んふぅっ!?」

 

 枕元に控えさせた女に、シャルティアの唾を啜らせる。頭の向きが上下逆なので、キスの69となって舌がべったりと重なり合う。

 シャルティアはは待てと言うのに、積極的に舌を絡ませた。

 

 女が「待て」とか「止めて」と言うのは、もっとやれと云うことなのだ。アルベド様が仰られて真言に偽りはない。

 

 シャルティアがそこそこ深くに達そうと、男の方はまだまだこれから。

 きゅうきゅうと締め付ける膣で逸物を包まれながら、何度も何度も行き来する。

 シャルティアの腰が何度も跳ねているが、そこは男よりも力があるヴァンパイア・ブライドが太ももを押さえている。抜けることはない。

 

「あっ、兄上様……。んっ……」

「にいや様、そこは違う穴でぇ……」

 

 背後に一人、シャルティアの左に一人、右に二人、枕元に一人。まだ二人余っている。

 二人は男の左右に控え、腰を抱かれて引き寄せられた。男に合わせて、きちんと膝立ちになっている。

 折角手が動くようになったのだ。きちんと使わなければ給仕係の名折れである。

 スカートのスリットから手を差し込み、ボリュームのある生尻を鷲掴みにして撫で回す。

 右の女へは唇を合わせて舌を絡める。

 左の女には尻の割れ目に指を添わせて、始めに見つけた穴へ差し入れた。ローションもなく、ほぐしもしていないが、圧をかければ第一関節までは入っていく。腰を振りながら指を進め、シャルティアの鳴き声とともに第二関節まで達した。

 

「シャルティア様、いき過ぎですよ。折角私の形に合ってきた穴が緩くなっています。頑張って締めてください」

「らって、よすぎてぇぇ♡ あっあっ、あひゃあぁぁぁっっんッ♡ またぁ……、あっ、ああっ♡ おにいちゃんのきてりゅううぅぅうううう♡」

 

 達して弛緩するなら、達している間は緊張している。

 シャルティアが絶頂している間にここぞとばかりに抽挿を激しくし、最奥で射精した。

 熱い逸物を受け入れて温まってきた腟内が、真っ白に泡立つ粘液をどぴゅどぴゅと吐き出されて一層温かくなる。

 

「おまんこで、おちんぽがピクピクして……♡ おにいちゃんのせーえきが、シャルティアのおまんこにぃ♡ うぅ……あったかいでありんすよぉ♡」

 

 夢うつつに呟くシャルティアは、子宮口を打たれてまたも達したらしい。とろんと蕩けた目で虚空を見上げた。

 シャルティアから引き抜いてベッドに下ろせば、股を開いたまま足腰を断続的に震わせる。何度か震える内に、閉じきらない膣口から白い粘液がとぷとぷと溢れてきた。

 

「シャルティア様をお清めするように。こっちも頼む」

「ああんっ♡」

 

 先着順である。

 失礼しますと声を掛けてからシャルティアの股に顔を埋める女と、男の逸物にしゃぶりつく女。

 男の両手は別の女たちで埋まり、余ってしまった女は互いに体を寄せ合った。

 

 

 

「さて」

 

 お掃除フェラとお掃除クンニが完了し、男はぐるりと女たちを見回した。

 七人の女は、皆が皆愛欲と熱情に浮かされた目で見詰めてくる。

 

「まだ誰も脱いでないな。」

「「!?」」

 

 女たちは弾かれたように衣服を脱ぎ捨てるが、男が手を伸ばしたのは息も絶え絶えに体を痙攣させているシャルティアだった。

 

「ひゃえっ!? もういちどでありんすか? シャルティアの体がとっても良かったのはわかりんすけどこいつらにも」

「勿論わかっております。夜はまだ長い上に、全員を可愛がる体力は残っておりますよ。シャルティア様の体で先程は満たされなかった部分がありますので」

「それはっ!?」

 

 シャルティアを起こして後ろから抱きしめる。

 股を開かせ、華奢な体を包みながら腰を落とさせ、

 

「そこはぁあぁっ♡」

「違う穴って言ったのがいたな。でもシャルティア様を見るんだ。こっちでもちゃんと使える」

 

 背面座位で挿入したのは後ろの穴。

 一度出しても萎えない逸物を、シャルティアの肛門に突き立てた。

 

「今度はシャルティア様が腰を振ってください。私が出すまでですよ? シャルティア様が終わらせませんと彼女たちの番になりません。彼女たちのために頑張ってください」

「わっ、わかりんした!」

「「お手伝いいたします!」」

「ふあぁあぁぁあっ!?」

 

 シャルティアは男の腰の上に大股を開いて座っている。

 仰け反っている男の胸に背を預けているので、蹂躙されて開いたままの秘部も、挿入を果たしている肛門も丸見えだ。

 そのシャルティアの太ももを、左右から寄ってきた女たちが持ち上げて、息を合わせて上下に振り始めた。

 

「あひっ! あひぃっっ! おちんぽあついいぃぃ♡」

 

 ありえない場所を通る異物は、逸物の熱さ以上に熱によらない熱でシャルティアを炙る。

 腰を振るよう言われたのに自分で自分の体を動かせず、ヴァンパイア・ブライドたちに体を振り回されているのは、自分の体が快感を与え与えられるための道具になったようで被虐心を大いに煽る。

 

「こっちの穴が空いていますね」

「あああああぁああん♡ らめらめイイでありんしゅぅうう♡ おまんこもおしりもぐちゅぐちゅしてぇぇぇえ!」

 

 使われていない穴からは、体を振られる度に愛液が垂れ流れる。

 始める前は閉じていたのに、たっぷり使った今となっては、雌穴が開いたままになっていた。

 そこへ男の指が入り込んだ。自己主張の激しい陰核は包皮を向かれて敏感な内側を擦られる。

 ぷしゅぷしゅっと愛液が噴き出し続けて達していると察せられるが、腰は振られ続けて直腸で逸物を扱かされ続けた。

 

「シャルティア様はどちらの穴で達したのですか?」

「わっわっわかんにゃいぃい♡ どっちもイイのぉおお♡」

 

 せっかくの艶めかしいセクシーコルセットなのに、シャルティアは妖艶さを醸し出すどころか蕩けきった顔を晒している。

 仰向けではないので涎で溺れる心配はなくなったが、赤い唇からは涎が垂れて顎を伝い喉を流れ、ちっぱいの間を通ってコルセットを濡らした。

 

「ひぐぅうううぅううううぅぅうううううぅう♡」

 

 一際大きな声で喘ぎ、シャルティアの体からがっくりと力が抜けた。

 にも関わらず体は振られている。細い首がガクガクと揺れ、涎と悲鳴と嬌声が漏れ出てくる。

 

「まだだけど仕方ないか」

「はひぃ………………」

 

 シャルティアからずるりと抜いた逸物は、始める前と変わらない固さを保っている。

 

「あっ♡ あぁぁあああん♡ おにいたま、おにいたまぁ!」

 

 手近な女を抱き寄せ、正面から挿入する。女の穴は淫靡な熱に煽られ、十分に濡れている。

 それにしても、成人した女性に見えるヴァンパイア・ブライドから「おにいたま」と呼ばれるのは、外見とのミスマッチが過ぎて違和感が大きい。

 

「シャルティア様、今になって返してもらおうとは思いません。ですが、シャルティア様を含めて8人もいるのですから、いつぞやお持ちになったローターとバイブを貸していただけませんか?」

「わ、わかりんした……。あひいぃぃいいっ!? わたしにぃいいい…………!」

 

 シャルティアが虚空から取り出したローターとバイブを受け取り、バイブは早速シャルティアの膣へ。

 

 組み伏した女の豊満な乳房に両手を置いて、けどもそれでは他の女の相手が出来ない。

 乳揉みの楽しさはひとまず中断して、別の女へ手を伸ばす。わかっているようで、背中を向けて近寄ってきた。

 

「あにくんの手が私のおっぱいに♡ もっと揉んでください♡」

「私のお尻の穴も、あにぃのおちんぽが入るようにしてやってください♡」

 

 ヴァンパイア・ブライドに挿入してからは全員で始まった。

 シャルティアを含めて全員の前か後ろの穴には必ずやローターかバイブか、指か舌か、あるいは逸物が挿入されている。

 

 ふぅと一息ついてお掃除フェラをさせている間、咥えている女の背にシャルティアが座ってキスをねだる。

 シャルティアの尻の穴からは紐が伸びており、良いところまで押し込まれた小さな卵形が繊細な振動を送り続ける。

 左右の手はやはり別の女を愛撫して、背中へは別の女がくっついて乳房を押し付けてきた。

 お掃除フェラをしている女へは別の誰かが指を使う。その誰かへはまた他の女が。

 シャルティアの後ろに座ったのが5班のリーダーのペニーで、慣れた手付きでちっぱいを愛撫し始めた。

 どこかでウーと低い音が鳴っているので、バイブは誰かが咥えているのだろう。

 

 帝都にいた頃、六人を同時に相手したことがあったが、あれは順番が決まっていた。女たちの中で序列もあったので優先順位をつけやすかった。

 それより二人も多い八人となると、とても忙しい。大満足したシャルティアはひとまず後回しにしてよいとしても、誰かが手隙にならないよう気を配らなければならない。

 彼女たちは彼女たちの行為に慣れているようだが、甘えきってはいけないのだ。

 

「兄上様、次は彼女らにお願いいたします」

「「お願いいたします。どの穴でもご自由にお使いください♡」」

 

 二人の女が重なって、それぞれの穴を広げて見せる。交互に使えということだろう。

 それはさておき、5班の呼称は「兄上様」に固定したようだ。そしてそのままヴァンパイア・ブライドたち全員が「兄上様」呼びになるのはまだ関係ないことである。

 

 

 

 女たちの白い肉に埋もれながら全員を一度ずつ。

 最強のローションを有効活用して、もう一方の穴も経験してもらう。

 シャルティアへは同時に責めた。

 

「おっほおおおぉおお!? 中でグリグリしてりゅううぅうう♡ こんなのしゅごいのぉおお♡」

 

 騎乗位となって自信満々に腰を振るシャルティアを引き寄せ抱き締め、後ろにいる者たちへ晒した尻穴にバイブを挿入させた。

 ディルドと違ってバイブはそれ自身が振動するので入れたままでも良かったが、折角空いてる手がいっぱいあるので抜き差しが可能なのだ。

 

 大いによがるシャルティアは、ヴァンパイア・ブライドたちから畏怖と羨望の眼差しを向けられた。

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんはタフでありんすねぇ」

 

 男の裸身を撫でながら、シャルティアが沁み沁みと言う。

 

「お前らもそう思いんせんか?」

「兄上様の逞しさには驚かされるばかりでございます」

「私共は腰が抜けてしまった者もおりますのに、兄上様はまだあんなにお元気で」

「シャルティア様のために体を整えてきたと申しましたでしょう? 以前のような無様はもう晒しません」

 

 シャルティアとSVB48全員を相手取った時のことである。

 今回の8人も十分多い。全員の中に出し、尻の穴は開通しただけで中に出せたのは半分に満たないが、合わせて二桁は超えている。

 

「……もしこいつらがいなかったら、全部私に出すつもりでありんしたか?」

「そうなります。シャルティア様の体が受け入れられたら、になりますが」

「そそそ、そうでありんすよね!」

 

 ヴァンパイア・ブライドたちのサポートがあったとは言え、後ろの穴は出される前にダウンしてしまったのだ。あの密度で十回もされたらと思うと、よくわからない感情で頬の肉が引き攣ってくる。

 その感情は恐怖であると、シャルティアは気付かなかった。

 

「「兄上様、失礼いたします」」

「ああ、頼むよ」

 

 前と後ろから、裸の女が乳房をこすりつけてくる。

 行為の続きではなく、バスルームで諸々の汚れを落としているところだ。

 淫液以外にも全員がローションを塗りたくったため、どこもかしこもヌルヌルである。洗い流せば簡単に落ちるわけだが、擦ったほうが早い。

 

 妙に大人しくなったシャルティアを不思議に思いながら女たちに体を任せ、頭の天辺から爪先までピカピカに磨かれた。

 

「ソファでよいので貸してください」

 

 吸血鬼たちは睡眠が不要でも、人間はそうもいかない。

 どれだけタフだろうと眠らなければならないのだ。

 その気になれば2・3日は徹夜できるだろうが、休めるのなら休めるべきである。

 寝室からは離れた別室の客間らしき部屋にて、ソファの上に横たわる。ベッドは柔らかすぎて硬い寝床が良かったのだ。

 シャルティアは大満足したようなので、睡眠の邪魔に来ることはないだろう。

 

 しかし、である。SVBの5班は満足して、2班は後に時間を取ってもらうことを約束されているが、他に30人も残っている。

 彼女たちは全員が吸血鬼。睡眠の必要がない。そこへ眠りこける美貌の男。

 何も起こらないわけがなく、代わる代わる悪戯に訪れた。

 30人がほんのちょっとの十分だけとしても、合わせれば5時間。

 一睡も出来ずに朝が来た。

 

 こんな時に体を張るべき付き人のミラは、久し振りに同胞と再会して、戦闘訓練やRPもといLPに励んでいた。




更新ペースが早かった時はどうだったのだろうか
単に文字数が倍増したのもあるわけですが

次の次か、その次あたりで200話に合わせられなかった趣味回にする予定
予定なので決定ではないです


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アウラの欲

色々ざくざく書いたつもりなのに文字数が多いのは何故かと思ったら色々書いたせいでした
本話12k


 ナザリック地下大墳墓第九階層「ロイヤルスイート」のレストランは、朝早いこともあって閑散としていた。

 あと一時間もすればメイドたちが食事にやってくるだろうが、この時間ではホールの片隅で食事する男に注目する者はいない。

 

「申し訳ございません! 私はご主人様の付き人として選ばれたにも関わらずご主人様の安眠を守ることが出来ませんでした!」

「三回目だぞ。もう気にするな。彼女たちとは早々会えないんだからどの道こうなってたさ。それよりお代わりを頼む」

「ご主人様、なんとお優しい……! 直ちに持って参ります!」

「こら走るな」

「はっ、申し訳ございません!」

 

 ミラが空いた皿をトレイに乗せ、小走りで厨房に向かう。飲食を続ける男は、ようやく人並みの顔色になってきた。

 

 レストランに来た時は全身から血の気が失せ、ただでさえ白い顔は紙の白さになっていた。

 たかだか一夜の寝不足ではこうはならない。休むまもなく悪戯をされていたが、口に含む者はいても一度も出さなかった。それなのに死にそうな顔でレストランに担ぎ込まれたのは、朝一で採血されたからだ。

 いつぞやの大量採血では、収穫部位からの採血で本体は無事だった。加えて一時間ごとの回復魔法。失った部位も血液も瞬時に元通り。

 今回は回復魔法の使い手がおらず、ひたすらに採血されてしまった。

 シャルティアやヴァンパイア・ブライドたちにそのあたりの加減がわかるわけもなく、あとコップ一杯分も採血されていたら安らかな眠りについてリザレクションのお世話になっていたことだろう。

 そのため、失った血液を回復すべく、ひたすら飲んで食べてしている最中である。

 

「うーん、それにしても美味い。濃厚なのは当然としても舌触りがこうも滑らかになるとは。裏漉しするだけでこんなにクリーミーになるんだろうか?」

「ご主人様、持って参りました! どうか給仕は私にさせてください」

「じゃあ頼むよ」

 

 ご主人様が食べているのはレバーペーストである。

 各種香味野菜と適量のミルクとレバーを一緒に煮てから潰し、丹念に裏漉しして滑らかにしたレバーのペーストである。臭みがあるわけがなく、肉の旨味と深い滋味。後味にすっとハーブが香る。

 お代わりしたのはミラが自身の力不足を詫びた回数と同じ三回目だ。

 小さなクラッカーにスプーンで山と盛り付け、ぱくりとやってから数度咀嚼。最後はフレッシュミルクで流し込む。

 レバーペーストもミルクも、そろそろキロ単位で消費しようとしている。重量換算すれば失った血液と釣り合うだろう。

 

「昨日は一日潰れたようなものだが、シャルティア様からの借りを返せたから、まあ良かったのかな。今日はまずアルベド様にご挨拶をして、アウラ様にお会いしなければ。時間の指定はあったか?」

「いいえ、アウラ様は必ず来るよう仰っただけで時間の指定はございませんでした」

「うーむ……」

 

 そういうのが一番困る。

 エ・ランテルにいる時ならいつでもよいが、ナザリックでは他にやりたい事としなければならない事が盛り沢山なのだ。

 

 アルベド様とアウラ様の優先順位を一番上に置くとして、彫金の道具についてサラマンダーの鍛冶師たちと打ち合わせしなければならない。その前にどのような道具があるのか調べておく必要がある。ということは最古図書館に行かなければならない。

 永久脱毛剤は既にピッキー様から受け取ってジャケットの内ポケットに大切に仕舞い込んだ。使われる予定のラキュースは毛量がかなり多いが全て脱毛する必要はないので少し余りそうである。ティアの無駄毛を処理してやるのもいいだろう。シャルティア様からツルツルにされたティナをちょっぴり羨ましそうに見ていたのを覚えている。とくれば、ティナの茶色い乳首をピンクにしてやらねば不公平かも知れない。

 コキュートス様へのご挨拶にも伺いたい。出来ればコキュートス様が直々に鍛えているらしいリザードマンたちとの鍛錬風景を見学したい。

 そして、アインズ様。なんとか拝謁して不老の件を申し出たいと思っていたのだが、手土産となるモモンズ・ブレイドアーツの新技を開発できなかった。モモンズ・ブレイドアーツはブレッヒェン・ロンブスが要であり、全てはそこから派生している。つまり、ブレッヒェン・ロンブスを修得してしまったアインズ様には、どのような技をお見せしても新味がないのだ。右から斬りつけていたのを左からにしたので新技です、などと戯けたことをアインズ様へ申せようものか。どこからかアインズ様がお喜びになるお土産が降ってこないだろうか。

 

 そんなことを考えながら今日の予定をミラと話していると、いつの間にか近付いてきたシズが静かに囁いた。

 

「利子の発生から780分が経過。利子の発生は78回。勿論複利」

「待ってください! 昨日はシャルティア様に拘束され、今日はアウラ様から伺うよう言われているんです。明日はシズさんに付き合いますから」

 

 1割の利子が78回発生すると、元本の1,692倍になる。1.692倍ではない。一千六百九十二倍である。複利とは恐ろしいものなのだ。

 

「他にも埋め合わせと責任と心の修復処置が残っている」

「……明細を要求します」

「うっ……、それは、色々」

「覚えていないんですね?」

「そんなことない! 私におちん」

「シズさんストップここでしていい話じゃありませんわかりましたから明日まで待ってください!」

「……わかった」

 

 一体何を借りて何を返せばいいのかわからないが、明日はシズに付き合うことになってしまった。

 

 ナザリックのメイドたちをも凌駕する食事を終えて食休みをしている内にレストランが賑わってきた。

 ここで待っていればアルベド様がいらっしゃるやもと思うが姿は見えない。朝食は別室でお取りになっているのかも知れない。

 

「シリーたちは明後日だな。全員一緒だと多いから三人ずつ。3322で分けるか、3331にするか、どうするかは任せる。俺が行くとまた捕まるかも知れないからこっちに来るように伝えてくれ。詳細は明日以降。大変だと思うが連絡を頼む」

「はい、かしこまりました」

 

 SVB第2班の10名に作った借りの事である。

 ヴァンパイア・ブライドたちの仕事にはナザリック第一から第三階層までの警邏とシャルティアの世話があるが、47人もいるのだから屍蝋玄室に待機している時間が割りと長い。その時間を私的に使うのはシャルティアが許していることである。

 

 とりあえずすべき話が終わり、食休みもほどほどにとって顔色も戻った。

 忙しくなってきた料理長とピッキーに軽く礼をしてからレストランを辞した。

 

 

 

「執務中よ。あなたに手伝ってもらうことはないわ。わざわざ挨拶に来なくてもいいのよ?」

「失礼いたしました。お目にかかれただけで光栄でございます」

「多分わかってないと思うから言っておくけれど、私のところには来なくていいと言っているのよ」

「……それは拝謁をお許しにならないと仰っておられるのでしょうか?」

「兎も角今は忙しいの! 挨拶を終えたのだから早く出てきなさい」

「…………かしこまりました。おおせのとおりに、でていきます」

 

 アルベド様とはどこでお会いできるのかと執務室に向かったら、早くも書類の山と格闘しエルダーリッチたちへ矢継ぎ早に何事かを指示していた。

 本当にお忙しそうで、お仕事を手伝えない自分が邪魔となるのは理解できるが、「来なくていい早く出ていけ」と言われるのは寿命をヤスリがけされるようだ。アルベド様の執務室を訪れる度にこんなである。

 

 ガックリと肩を落として背を向ける男を憐れんだのか言葉が足りないと思ったのか、アルベドは執務中の厳しさからかけ離れた優しい声音で言った。

 

「少し考えてることがあるのよ。今は教えてあげられないけど、そうね。次の次か、その次にエ・ランテルに行く頃には、ね?」

「承知しました。その日をお待ちしております」

 

 お仕事をしている凛々しいアルベド様をずっと見ていることが出来ないのは残念である。

 しかし、アルベド様から優しいお言葉を頂ければ10年は戦える。

 

 第九階層からアウラ様の階層へ向かおうとしたところ、メイドのリファラとキャレットに遭った。

 二人は風呂での件からアルベド様のお側付きをすることが多くなったらしい。

 二人によると、一昨日と昨日のアルベド様はナザリックにいなかったようなのだ。ナザリック表層部から外に出たのならヴァンパイア・ブライドたちの目に留まるはず。それがなかったということは、狩り場直行君を使ってエ・ランテルに転移していたのだと思われる。

 自分がエ・ランテルにいない時を選んで何を為さっているのだろうかと思うが、待てと仰られたのだから待つべきだ。

 

 それはそれとして、二人から時間が取れないかとそれとなく打診されたのは考えておくと言葉を濁した。

 二人からは言葉を濁して逃げられたが、ログハウスで会ったメイドのフィースはそうもいかない。出来ることなら何なりと、と言質を与えてしまっている。

 フィースはペストーニャ様主催の着せ替え大会には参加していたが、シェーダ主催の鑑賞会にはいなかった。ヴァンパイア・ブライドたちのように時間を少々、の可能性は低いだろう。無茶振りされないことを祈るばかりである。

 

 

 

 ナザリックの昼型たちは朝食の時間なので、そこからは誰かに捕まることなくスムーズに第六階層に着いた。

 アウラ様たちも朝食の最中だろうが待たせてもらうことにして、と思っていたのに不在。

 留守を預かっているエルフメイドたちによると、いつもより早い時間に出発なさったのだとか。早めに戻るつもりなので、己が訪れたら引き止めておくよう命じられたらしい。

 それなら空いた部屋で昼寝でもさせてもらおうとしたところ、ミラがエルフメイドたちを叱りつけた。

 

「ご主人様はアルベド様の相談役です。それなのに、お前たちの態度は!」

「待て。偉いのはアルベド様であって俺じゃない」

 

 エルフメイドたちが男を見る目は、嫌悪が込められた鋭いものだったのだ。そんな目でご主人様を見られることを、ミラは決して許容しない。

 真ん中にいる男はどんな目で見られてもいーじゃねーかと思っているが、それでは沽券に関わりますとミラは譲らず、エルフメイドたちは拝謁することすら叶わぬ上位者の名と間近に迫る暴力に怯えきってしまい、話が中々進まない。

 どうしてこんなことにと思いつつ男が仲介をして、金髪のエルフメイドが目に涙を溜めて言い放った。

 

「マーレ様の貞操は私達がお守りします!」

 

 彼女の言葉は、ミラのキャパシティを越えた。

 マーレ様は男の子である。ご主人様は男性である。ご主人様は同性ではなく女性を好まれるのは自身の身をもってよく知っている。ご主人様を取り囲む女性を数えればそんな事はありえないと断言できる。しかし、アルベド様の名に怯える外から来た無力なエルフが決死の覚悟を持って訴えた言葉には、真実の光が煌めいていた。

 ミラはほんの少しだけ、一秒後には蒸発して痕跡も残さない微量の疑念を抱いてしまった。

 疑念を抱いたまま、ご主人様の顔を見てしまった。

 

「そんなわけがあるか!」

 

 あらぬ疑いを晴らすべく、ミラを使って証明した。

 ミラは倒れた。

 

「それに二人を抱いたことがあったでしょう?」

「えっ!?」

 

 その時、三人のうちの一人はマーレのお供で第九階層に赴いていたのだ。

 青色をした癖毛のエルフメイドが仲間の二人に詰め寄って、二人が認めたことで証明を続行することになった。

 

 

 

 

 

 

「あっ、お兄ちゃん!」

「マーレ様!」

 

 昼を幾分過ぎた頃、アウラとマーレが第六階層のツリーハウスに戻ってきた。

 出迎えた男を認めたマーレは駆け寄って、

 

「部屋の中で肩車するなって言ったでしょ!」

「「……はい」」

 

 揃ってお姉ちゃんに怒られてしまった。

 

「アウラ様とマーレ様のお帰りをお待ちしておりました」

「うん、ちょっと話したいことがあって。あんたもマーレに何か話があるんでしょ?」

「はい。急ぎではないのですが、マーレ様にお願いしたいことがございます」

「僕に?」

「紹介していただきたい者がいるのです」

「そーゆーの後にして。お腹空いてるんだから」

 

 アウラは言葉少なく中に入ってダイニングテーブルにつく。

 急なお戻りとなった可愛いご主人さまを持て成すべく、エルフメイドたちが慌ただしく立ち回る。

 そんな三人を見てアウラはすんすんと鼻を鳴らし、小首を傾げ、何事かに思い至ると鋭い目で男を睨んだ。

 

 

 

 男は食事を終えたマーレに第六階層の案内をしてもらう。

 闘技場では、コキュートスと選ばれしリザードマンたちの訓練時間に当たったのは幸いだった。

 男も参加させてもらい、リザードマンたちとの模擬戦でモモンズ・ブレイドアーツを披露。外骨格であるため、モモンズ・ブレイドアーツを修得できないコキュートスから激しい嫉妬と羨望を向けられた。

 ミラも参加して大人気なくリザードマンたちを叩きのめし、通常のヴァンパイア・ブライドを越える強さをコキュートスに感心されていた。

 

「それじゃマーレは仕事に戻んなさい」

「……はーい」

「返事は伸ばさない!」

「…………はい」

「それではマーレ様、例の件をよろしくお願いいたします」

「うん。本当にアルベドさんの許可があるんですよね?」

「勿論です。確認していただいても構いませんよ」

「わかりました。それじゃ、えーっと」

「いつでも構いませんが、私は帝都にいることもありますので、前日までに連絡を頂けると幸いです」

「はーい」

「だから伸ばすな!」

「……はい。行ってきます」

「「「行ってらっしゃいませ!」」」

 

 エルフメイドたちに見送られてマーレは仕事に戻っていった。

 アウラの仕事は魔導国領域内の警戒である。この男が様々な形で協力したため、アウラの労力はとても少なくて済むようになった。どこかで事有らば、速やかにアウラの耳に入るようになっている。

 対してマーレのお仕事は天候管理。マーレだけに可能なドルイドマジックの行使が必要であって、誰かに代わってもらえるものではない。他にもエ・ランテル近郊に作ったダンジョンの管理のお仕事もあって、こちらの代役を探すのも困難だ。

 ナザリックはホワイトな組織を目指しているので、魔導国建国間もない今はまだマーレの負担が大きいが、いずれはアウラのように楽ができるようになる、はずである。

 

「今度は私に付き合ってもらうわよ」

「そのために朝からお待ちしておりました」

 

 

 

 

 

 

 第六階層は地下にあるにも関わらず、日が差している。日没までは間があるが、直に西の空が染まってくるだろう。

 

「それじゃこっち来て」

「話ならここでも出来るのではないでしょうか?」

「誰かに聞かれるかも知んないでしょ。いいから早く」

 

 アウラお気に入りの魔獣の背に乗って、鬱蒼と木々が生い茂る区画に連れてこられた。ツリーハウスからもリザードマンの住居とも離れている。

 ちなみにマーレ君に第六階層を案内してもらった時は、ずっと合体したままあちこちを歩き回っていた。それを見たエルフメイドが「本当に大丈夫なのですよね?」とミラに念押しをしたのだが、ミラは曖昧に頷くことしか出来なかった。

 

「フェンは誰も近付けないようにして」

 

 魔獣を森の外に置いて、深い木々の中へ入っていく。

 木々の密度は高い反面、下生えは少なく、案外歩きやすい。

 数分ほど歩き、このあたりでいいかな、と先を歩いていたアウラは振り向いた。

 

「私にどのようなご要件でしょうか?」

「この前聞きそびれたこと。あんたが空から落っこちて、ビーストマンを食べてみたいとか言うから。……もうビーストマン食べたいとか言わないよね?」

「…………言いませんよ」

 

 言わなくても、実行するか否かは別問題である。

 

「じゃ、そんな事しないようにミラに言っとくから」

「…………」

 

 アウラは逃げ道を塞いだ。

 ミラに伝えれば、ソリュシャンやルプスレギナたちにも伝わる。

 男の傍には常に誰かしらがついており、彼女らの目を掻い潜ってビーストマンを味見するのは困難だ。

 

「って、話したいのはそんな事じゃなくて」

 

 青と緑の目が男を貫く。

 逃げることを許さない真剣な眼差しだ。

 

「誰かと結婚するとか言ってたよね。誰とするの?」

 

 眼差しと同じく、鋭く切り込んだ。

 

『私が大人になったらお婿さんにしてやってもいい』

 

 アウラ一世一代の告白を、この男は近く結婚すると返したのだ。

 その時に問い詰められなかったのは、空から落としたり森の中で探し回ったりショートカタナブレイドを向けられてキレそうになったと思ったらビーストマンを食べるとか言い出して本当はバカなんじゃないかと思ったり、色々ありすぎて問い詰める気力を根こそぎ奪われてしまった。

 ずっと気になっていたが、勢いがないと口に上らせ難い話題である。

 アウラは少しずつ気力を練り上げては霧散させ、この男がナザリックを訪問すると聞いて覚悟を決めたのだ。

 

「ソリュシャンです」

 

 先の告白同様、口にするにはスゴイ覚悟が必要な質問だったのに、男は至極あっさり答えた。

 

「ソリュシャン、か……」

 

 ソリュシャンは、この男の遠縁のお嬢様として一緒に暮らしている。

 長く共に過ごすうちに何かしらが育っていったのかも知れない。

 そしてソリュシャンは戦闘メイド「プレアデス」の三女。プレアデスは一般メイドと違ってセバスの指揮下となる。今ではそれぞれがそれぞれの役割を担っているのでセバスがプレアデスの指揮を取ることはなさそうだが、ソリュシャンとセバスの距離は、以前は同じ任務についていたこともあり、割と近いと言って良い。

 

「セバスがナザリックのシモベと人間との結婚についてアインズ様に何か言ってたみたいなんだけど、それってあんたが何かしたの?」

「ソリュシャンから相談を受けた際、セバス様のご意見を伺っては、と提案したことはありました」

 

 脚本を書いたのはこの男だが、動いたのはソリュシャンであり、エ・ランテルに詰めるナザリックのシモベたちへ人間との結婚をどう思うかとアンケートをとったのはセバスである。

 セバスは慎重にアンケートを集め、デミウルゴスに皮肉を飛ばされながらもアインズ様へ上申。アインズ様のご様子はセバスの意見に前向きなようである。

 

「ふぅん…………。あんたから言ったんだ」

「結婚を口にしたのはソリュシャンからです。他に、ルプスレギナ、ナーベラル、ユリさんからも結婚しろと言われています」

「…………………………………………はあああぁぁあああ!?」

 

 アウラは、結婚は一対一でするものだと思っていた。

 それなのに、何故かソリュシャン以外に三名の名が挙がる。

 

「帝国では、デミウルゴス様からプレゼントされたカルカを対外的な妻として扱っております。近々帝国から魔導国に移る帝国四騎士の一人であるレイナースを第六夫人にしてはどうかと言ったのはソリュシャンです」

「だいろくうぅ!? なんで六なの!?」

「それはソリュシャンに聞いてください。なお、ソリュシャン、ルプスレギナ、ナーベラル、ユリさんとの結婚についてはアルベド様とアインズ様にお伝えしてあります。アインズ様は最低でも一年は熟慮せよと仰せでございましたので、妻帯するのは早くて年内と申し上げました」

「ちょ……ちょっと待って……」

 

 アウラは渋面を作り、額を押さえた。

 頭痛が痛くなったのだが、押さえた程度では和らがない。

 訳が分からない話なのに、アルベドとアインズ様が了承済みとは一体どういうことなのか。

 

「あんた…………六人と結婚するつもり? 結婚をなんだと思ってるのよ。それにさっきも……」

 

 マーレは気付かなかったようだが、アウラはエルフメイドたちの体から女の匂いではない匂いを嗅ぎ取った。

 匂いが移るような事をしたのだ。

 

「これはソリュシャンたちにも伝えたことですが、私が皆を妻にすると言うよりも、私が皆の共有物になると言ったほうが正確だと思われます。考えてもみてください。私がソリュシャンたちをどうにか出来るとお思いですか?」

「うっ……。それは、そうだけど……」

 

 プレアデスは「戦闘」メイドと言うだけあって、皆が皆とても強いのだ。

 この男が力づくでどうこうするのは不可能である。

 

「そして結婚についてです。魔導国で結婚する場合、当然のことながら魔導国の法に縛られます。ですがナザリックで結婚する場合はどうでしょう? 結婚する前と後で何か変わりますか?」

「えっ?」

 

 それは、アウラが全く考えなかったこと。

 結婚とは親しい男女の想いが高まって一緒になる。その程度の認識しかない。

 

「魔導国の場合、これは帝国や王国でもいいのですが、まず財産の共有があります。妻のものは夫のもの、夫のものは妻のものとなるわけですね。

 他にも税の扱いが変わります。

 ああ、夫か妻のどちらかに合わせて居住地の移動も可能になるでしょう。ところによっては居住地を変えてはならないとの法がありますので。

 一番は子供です。妻が産んだ子供は夫の子供と見做すのです。当たり前のことですが、結婚しなくても子供は出来ます。しかしそれを無闇矢鱈にされると管理が複雑になります。

 夫、妻、子供、これらをひとまとめにした家族という単位は国家が民を扱いやすくするために作り出したアイデアなのです。

 他にも様々な事がありますが、男女が一緒に暮らすことを宣誓する程度の理解で構いません」

 

 アウラはぽかーんと口を開いた。

 結婚とはもっとなんというか素敵でハートフルドリーミングなロマンチックだと思っていたのだが、なんということだろう。

 

「ではナザリックでの結婚はどうでしょうか? 一つ一つ先に上げたことに照らし合わせますと、まず私有財産は認められています。結婚することによって両者の財産を共有するかどうかは、その時々に依るでしょう。制度で縛ることなく、両者の話し合いで解決出来ます。アインズ様のお心を私が推し量ることは出来ませんが、話し合いのお許しを得ることは難しくないと存じます。

 税や居住地については、特に申し上げることはありません。

 子供につきましては、ナザリック全体で育てるのか、それとも父と母が育てるのか。これもその時々に依ると思われます。

 こうも自由なことが出来るのは、アインズ様がナザリックのシモベ一人ひとりをよくご存知でいらっしゃるからです。言い換えますと、如何にナザリックの方々が強力無比であっても総数は少ない。結婚が可能な方々は百を越えるでしょうが千には遠く満たないかと。

 そのために個別の対応が可能であると思われます。ゆえにナザリックでの結婚は細かな制度を定めていないのでしょう」

 

 乱暴に例えれば、一人暮らしの食事と兵士一万人の食事。

 一人暮らしの食事なら、ありもので適当に済ませるのもよし。手間をかけて豪勢な食事にするのもまたよし。

 しかし、食事をするのが一万人もいるとそうはいかない。適切な分量の糧食を仕入れ、決まった時間に調理を始め、決まった手順で調理を行い、決まった場所で食事をとらなければならない。そうしなければ一万人もの食事は用意できない。なんとなくでどうにかなるものではないのだ。

 ナザリックには結婚可能な者が少ないので様々な融通を効かせられる。だからこそ細かな精度を定める必要がない。

 

「で、でも! その……、結婚した相手以外と、えと…………、あれをしちゃいけないでしょ!」

「あれとは何のことでしょう?」

「だから…………!!」

 

 言い淀むアウラは、段々と顔が赤くなっていく。

 色々と経験してシャルティアには結構ぶっちゃけているが、シャルティア以外に話すのは恥ずかしい。そんな事を口にしたら自分のイメージに傷がついてしまう。シャルティアとは違って、アウラは節度ある常識人と思われているのだ。

 

「だから……、さっきのあんたがメイドの子たちとしてたこと!」

「ああ、セックスのことですか?」

「はっきり言うなバカ!」

 

 セックスと言われるのは恥ずかしく、エルフメイドたちとしていた事を認められるのは何だか頭にくる。

 多情を叱りつけてやろうと思ったが、男が続けた言葉は結婚の話と同じで実に理路整然としていた。

 

「アウラ様は私に任じられた役職をご存知のはずです」

「知ってるけどそれが何だって言うのよ」

「確認したく思います。仰っていただけませんか?」

「アルベドの相談役でしょ。それが何?」

「一つ抜けております。給仕係も兼任しております」

 

 給仕係とは、食事の世話をする者を指す。

 アウラが食事をとる場所はツリーハウスがほとんどだが、第九階層のレストランに行くことも稀ではない。今日の朝がそうだったように、アルベドもレストラン以外で食事をとることが多い。

 そんな両者だが、同席したことが何度かあった。

 アルベドの食事の世話を、この男がするのをアウラは一度も見たことがない。

 そもそも普段はナザリックにいない男だ。出来るわけがない。

 

「続けてお聞きします。アウラ様はアルベド様の種族をご存知ですね?」

「サキュバスでしょ」

「それではサキュバスの食事となるのは何でしょうか?」

「それは………………、あっ」

 

 サキュバスは男の精を、言ってしまえば精液を食餌とする。

 

「私をアルベド様の給仕係としたのはアインズ様がお認めになったことです。そして、私がアルベド様と結婚することはありません」

 

 アインズ様の正妃に立候補しているアルベドである。

 

「加えて、私に結婚をどうするのかとお尋ねになったのはアインズ様です。その際に、ソリュシャン、ルプスレギナ、ナーベラル、ユリさんの名を挙げました」

 

 ここまで来れば、アウラにもわかった。

 そこへ踏み込む前に、確認しておくことがある。

 

「それじゃ、シャルティアだけじゃなくて、その…………アルベドとも?」

「はい」

 

 誤解や勘違いではなく、本当にアインズ様公認である。

 尤も、アインズ様から見ればセーフティ。

 セーフティが外れると、自慢のお骨をボリボリされてしまうのだ。

 

「ええと、じゃあ…………」

 

 アウラなりにわかったことを整理する。

 

1.結婚相手以外とセックスするのはいけないことだ。

2.この男はアルベドとセックスしている。サキュバスであるアルベドの食事なのだから仕方ない。アインズ様がお認めになった給仕係である。

3.この男がアルベドと結婚することはない。

4.アインズ様は、この男がソリュシャンたちと結婚することをお認めになっている、らしい。

 

 2と3は絶対だ。2はアインズ様の決定であるし、3は守護者統括が人間と結婚するわけがないのは当然だ。

 そこで4が発生する。これもアインズ様がお認めになったことだ。

 しかし、4が発生しても2は継続する。

 しかしそうすると、明確に1と反する。それでは1と2・4はどちらが重いだろうか。

 1はアウラの考え。2・4はアインズ様がお認めになったこと。後者が重いのは明確だった。

 

「結婚しても名前が変わるわけでもなし。何も変わらないと愚考します。それに結婚相手以外と関係を持つのは、王国や帝国でも珍しいことではありません。現に私はそうして生まれました」

「………………そうかも知れないけど」

 

 アインズ様の言葉に則ればその通りになってしまうのだ。

 しかしアウラは、結婚はもっと神聖で汚れない愛の結晶的な何かを象徴するものだと思っていた。

 胸中に、言葉にしがたいもやもやとしたものが湧き出てくる。正体は不明だが、はっきり言って不快である。この鬱憤はどうやったら綺麗に晴れてすっきりするのか。

 目の前の男を叩きのめせばいいのか。そんな事をしてもアインズ様のお言葉が覆るわけがないのだが。

 

 悶々としているアウラの前に、男は恭しく跪いた。

 

「色々と申し上げましたが、アウラ様のお気持ちは嬉しく思います。我が身には有り余る光栄でございます」

「えっ! べべべべべつにそんなんじゃないんだけど!?」

 

 ここに男と女の非対称があった。

 

 女が興味も関心もない男から想いを寄せられても迷惑なだけだ。直接的な手段に出られるかと思えば、いっそ悍ましく感じることだろう。

 反面、男が興味も関心もない女から想いを寄せられれば、程度の差はあれど興味を持つ。

 事実を述べるとすれば、男は同時に百人の女に自分の子を孕ませることが出来る。百人の男がいても、一人の女が孕めるのは一人の男の子だけ。二人以上の男の子を孕むのは非常に稀だ。

 

「ですが」

 

 男は、ふと嗤った。

 

「私にはアウラ様がお美しく成長なさった姿を見ることが、叶いません」

 

 アインズ様への手土産にしようと思ったモモンズ・ブレイドアーツの新技を開発出来なかったのだ。

 ここを何とかしないと、シャルティア様の牙を受けることになってしまう。何としても避けたい。しかし、妙案が思いつかない。

 己の愚かさを嘲笑う自嘲の笑みだった。

 

「そんなこと……」

 

 しかし、顔が良いのは得だった。

 アウラの目には、とても寂しそうで、悲しそうな顔に見えてしまった。

 寂しくはないがシャルティア様に絶対服従する吸血鬼になってしまうのは悲しいことなので、全くの勘違いというわけでもない。

 

 そして、その問題は既に解決済みである。

 アウラが男に気付かせないよう、不老や長寿化の効果がある果物を色々食べさせていた。

 その事を伝えるだけで男の憂いは払えるのだが、アウラは言わなかった。

 

「アウラ様?」

「見てよ。私は大人になったらこうなるんだから」

 

 アウラが自分の口に放り込んだのは、ちょっぴりほろ苦い大人の味がする不思議な青いキャンディー。

 アインズ様直々に下賜されたマジックアイテムであり、服用者の姿を一時的に大人にする効果がある。

 幼女をなんとか脱しようとしているアウラは、妖艶な美女となった。

 

 男を立たせ、向き合った。

 子供の姿だと、頭の天辺が男の胸まで届かない。今は顎まで届く。少し背伸びをして、向こうに下を向かせれば高さが釣り合う。

 

「気持ちが嬉しくて。それで?」

 

 自分では言えないことを言わせたい。

 もっと顔を見ていたい。

 もしも食べさせた果物の事を教えてしまえば、この顔が見れなくなってしまう。それは少し残念だ。いつかは明るみになるだろうが、自分だけの秘密としてもうしばらくの間はとっておきたい。

 

「お気持ちにお応えしたく思います」

 

 半歩の距離を男が詰め、括れた腰に腕を回した。

 アウラは、んっと小さく声を漏らす。我ながら恥ずかしいことをしてしまったと、頬を染めて俯いた。

 覚悟を決める間もなく顎に指を添えられ上を向かされて、唇を塞がれた。




ヒルマって需要あるんでしょうか?
アンケートにすべきか
いや多分書くような気がしないでもないのですがそうすると話数が嵩んでただでさえ進まない話が更に進まなくなるのは今更なんですが飛ばすべきなら飛ばしてもいいような気も


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大人の体に子供の心 ▽アウラ♯5

本話21.6k
長い
どうにかせねばと思い始めました


 唇を割って入った舌はツルツルの白い歯を撫で、舌裏の柔らかい粘膜を責めた。

 自分の舌でさえあまり触れないところを探られて驚いたアウラだが、幸いと言っていいかどうかシャルティアとキッスの練習を積んでいた。負けじと吸って舌を伸ばした。

 

「んっんっ、ちゅっ、れろ……ちゅるる…………」

 

 入ってきた舌へ大胆に応え、唇で甘く食んだら軽く吸う。舌と舌が絡み合う内に、息が合ってきた。

 蠢く舌に動きを合わせ、ということはアウラの舌も熱心に蠢いて男の口内を探っている。

 んふぅと鼻から息が抜ける。口からは甘い唾が入ってくる。

 唇を重ねたまま喉を鳴らして唾を飲む。男のジャケットを掴むだけだった手は背中に回って、アウラからも男の体を抱き締めた。

 

「んっ…………ぷはぁっ! ちょっと待って……。息が……」

「ダメです。待ちません」

「あむっ!? んふぅ…………、んっ、んっ? んんっ!?」

 

 シャルティアに習おうとまだまだ初心者なアウラは、キスだけに集中していた。

 しかし、男の方は手慣れている。アウラの腰に回った手が働き始めた。

 

(うわぁ……、ベストのボタン外されてる。おっぱい、触るつもりなんだよね? 今は大きくなってるからいいけど……、ってそういう問題じゃないでしょ!? あっ、お尻? じゃなくて、腰? そこ触られると……、イヤじゃなけど。なんか…………。うっうわっ! 足が、私の足に……! やっ……そこ圧されると……)

 

 男の手は白いベストのボタンを外し終えると、アウラの括れた腰の少し下をキュッと引き寄せる。と同時に、アウラの足と足の間に、自分の膝を差し込んた。

 アウラが着ているのはいつもの白いズボンだ。足を開くのに支障はない。キスで爪先立ちになっているところを、男の太ももの上に跨がらされたようなもの。

 股間全体がぐいと圧されている。大人の姿になって成熟した色々なところが刺激を受けている。

 

「まっ……、待ってったら!」

「おっと」

 

 男の体を押しやって、唇が離れた。それでも体は密着したまま。

 アウラは男が唇を舐めるのを見て、自分の唾液を舐められたのだと気付いて顔が熱くなってきた。自分の唇を冷たく濡らすのも同じものなのだ。

 

「私はこんなことしようと思ってたわけじゃなくて……」

 

 結婚するとか言われてもやもやして、でも自分の気持が嬉しいと言われて、でもその時まで生きていられないのが寂しそうで悲しそうで。慰めてやろうと思って結婚出来る姿を見せてあげて。

 そこまでしか考えていなかった。

 心のどこかではそんな事を考えていたかも知れないが、そのためにキャンディーを舐めたのではないことだけは主張しなければならない。

 

「ですが戻ろうにもそのお姿では。マーレ様はキャンディーをご存知ですか?」

「うっ………………。言ってない」

 

 不思議な青いキャンディーの存在は秘密にしなければならないものではないが、無闇矢鱈に使うものではないこともあって言う機会がなかった。

 このままツリーハウスに戻ると、メイドたちに見られる。マーレに伝わる。マーレからどこで手に入れたのか聞かれる。出処を話さなくても、アインズ様からもらったものと気付くだろう。

 マーレは素直で純粋な反面、割と嫉妬深くて面倒くさいところがあるのを姉であるアウラは知っている。アインズ様からもらったと知られたら絶対に面倒なことになる。表面上はいつも通りでいながら、内心ではじとーっとなるのだ。あれはちょっと鬱陶しい。

 いずれマーレに教えるにせよ、もう少し先の違う場面にしたい。

 

「効果が切れるまで私といるしかありませんよ」

「別にあんたといなくたって」

「アウラ様」

「ひゃっ!?」

 

 腰にあった手が尻肉を掴み、男の唇がアウラの長く尖った耳を掠めた。

 

「結婚したら妻と夫が何をするのかご存知ありませんか?」

「それ、は…………」

 

 色々あるだろうが、一番に代表されることでアウラも知っていることは、体を重ねること。

 キャンディーを舐めて、全く思わなかったでもない。

 今も股間を圧されていて、そんな気持ちが高まってくる。

 夢中になってキスをしてしまい、少しじわっときている。

 

「あんっ……、だめ、なんだからぁ……。んぅっ……」

 

 尻を掴んでいた手がさすり始めた。

 耳の先端をカリと噛まれ、耳朶をぬめる舌がなぞっていく。

 男の背に回していた腕から力が抜けて垂れ下がった瞬間に、ベストを剥ぎ取られる。

 

「私がアウラ様を抱きたいんです。アウラ様がご成長なさるまで生きていられない私ですが、今のアウラ様と、結婚した妻と夫のように愛し合いたい」

「うぅ…………」

 

 アウラは、とっくにその気だった。その気にさせられた。

 それでも自分はシャルティアではないのだから、したくなったからしたいとは言い難い。

 だからちょっと強引に始めてくれれば良かった。本当に嫌だったら抵抗すれば済む話で、それをしてないのはそういう事なのだと向こうもちゃんとわかっているはず。

 だけども今の言葉はヤバかった。

 きゅんきゅんと来て疼いてしまった。「されてもいい」から「して欲しい」を一瞬で飛び越えた。

 

「アウラ様」

「あっ……んっちゅぅ……。ん…………」

 

 顎に指を掛けられ上を向かされて唇を奪われる。

 柔らかな唇同士が触れ合うだけの優しいキス。

 二度三度繰り返して離れた時は、唾液の糸が引いた。糸はしばらく繋がっていた。

 

 アウラは男に抱きつき、小さな声で「いいよ」と言った。

 

「何がいいのか仰っていただけませんか?」

「そればっかり……。私に言わせたいの?」

「実はそうなんです」

 

 男はにやりと笑った。アウラが受け入れることを決めて、それでなお言わせようとしている。

 

 アウラは、初めての時を思い出した。

 シャルティアに唆されて色々言わされてしまった。今なら急かされなくても自分から言える。

 

「あんたとエッチ……、セックスしたい。私の……おまんこに、おちんちん入れて?」

「存分に」

 

 男は女を荒々しく抱き締めた。

 

 

 

 アウラ様は大人の姿になろうと、意地を張ったり体面を重視するところがあるようだ。したくなったのならしたいと言えば良いものを、自分から口にすると格が落ちるとでも思うのか中々言い出さない。

 これがシャルティア様なら言うに及ばず。ソリュシャンは無言で脱がせにかかるし、ルプスレギナなら露骨に体を擦り寄せてねだってくる。

 そのため、段階を踏む必要があった。

 アウラ様が口にした「お婿さんにしてもいい」は遠回しな催促なのだから、次へ次へと繋げて事に及ばなければならない。

 催促だとしても、階層守護者であるアウラ様に「結婚を」と言われるのは光栄だ。

 そこまで言ってくれるのだ。言葉通り存分に満足させねばならない。

 

 

 

 

 

 

「これは私は外に出てることが多いからよく使うから持ってるだけでそのために持ってきたんじゃなくていつも持ってるんだからおかしな勘違いしないでよね!」

「承知しておりますよ」

 

 木々に囲まれた狭い空間、と言っても寝転ぶくらいの余裕はある。

 アウラはそこへ、大きな敷物を敷いた。ふわふわの毛皮で色は真っ黒。ここまで乗ってきた魔獣の毛色そっくりだが、まさか毛皮を剥いだわけではないだろう。

 アウラが常用してるだけあって、下が多少凸凹していようと毛皮の上は影響がない。品質は言うまでもなく極上である。

 

「体を低くすれば森の外からは全く見えませんね」

「う、うん……」

 

 その上、ここまで乗ってきた巨狼のフェンに誰も近付けないよう言ってある。多少大きな声が出てしまっても木々の梢に散らされ吸収され、元が何の声であったかわからないだろう。

 位置的にも、誰かがいる場所からは一番遠いところだ。

 

「さあ、アウラ様」

「自分で脱げるから!」

 

 二人して敷物に上がり、男がアウラを脱がせようとする。

 アウラは拒否して背を向けた。

 

 一緒にお風呂に入ったり、シャルティアを交えてエッチしちゃったり、鍵をかけた会議室でも全部脱がされて色々なことをしてしまった。裸を見せるのは初めてではない。

 だけれども躊躇してしまうのは、大人になった姿で、自分一人なのは初めてだからだ。

 前回はシャルティアがいた。シャルティアのせいでおかしな勢いがついてしまった。今は自分だけだ。

 自分だけなのに大人の姿になって裸になるのは、ひどくいやらしい事をしているように思えてならない。

 あんなキスをしてしまって今更だとしても、胸を見せるのが恥ずかしい。

 小さい時は小さい時で恥ずかしかったが、主観的にも客観的にもかなり大きい胸を見せるのは、それはそれで恥ずかしい。

 胸が大きくなるのは嬉しいけれど、はしたない気がしないでもない。とは言っても、慎ましいままでいたいとも思えない。

 

 赤いインナーを半分だけ上げて固まったアウラに焦れたのか、男が後ろから抱きついてきた。

 

「ひゃん!? 自分で脱げるって言ったでしょ!?」

「時間は有限ですよ。そのお姿でいるのも、私の命も」

「そ、そんなこと……。あんっ……、あ……触り方違う? 私のおっぱい揉んでるの?」

「ええ、揉み応えがある素晴らしいおっぱいですよ。柔らかいだけでなく瑞々しい張りがあって、しっとりとして指に吸い付くようです。この胸に抱かれたまま眠れば確実に良い夢が見れます」

 

 アウラの乳房は、大きい上に前に突き出るロケットおっぱい。アウラが仲良しのユリに匹敵する爆乳である。

 ちっぱいだった時は撫でるような触り方だった。今は背後から服の中へ忍び込み、鷲掴みにした。

 赤いインナーで隠れていても、その下で男の手が蠢いている。

 

「アウラ様の夫になると、このおっぱいを自由に出来るのですね」

「さ、さわってるじゃん……。んっ……」

「触ってはいけませんか?」

「いい、けど……。いちいち言わせないでよ。いろいろ……していいから」

「言わせたいんですよ。アウラ様はご存知ないかも知れませんが、言葉にすることによって気分が盛り上がってくるものです。シャルティア様がそうだったのを覚えていませんか?」

 

 初体験の時、同席していたシャルティアは色々なことを言ったし、言わされもした。あのシャルティアが実践しているのだから効果はあるのだろう。

 だとしても、シャルティアの名前を出されるのは少しだけ面白くない。

 

「わかった。私のおっぱい揉んでもいいよ」

「舐めても?」

「ななな、舐めてもいいよ」

「吸っても?」

「う……うん。吸っても、いいよ。……乳首、吸うの?」

「乳首も、ですよ」

「きゃっ!」

 

 アウラは可愛らしい悲鳴を上げて押し倒された。

 半脱ぎのインナーを下のスリップごとたくし上げられ、毬のような双丘がこぼれ出る。

 仰向けになっても潰れず、綺麗な球形が盛り上がっている。覆いかぶさった男が右の乳房を絞るように掴むと、浅黒い肌の中でピンク色の頂点が高くなった。

 

「アウラ様のおっぱいは大きいので、アウラ様からも乳首がよく見えるでしょう? まだ立ってないようですが、これから吸われるためにピンと立ってくるんです。ご存知ですよね」

「そんなこと言わないでよぉ。あっ!?」

「どうしました? まだ触っていませんよ」

「そうじゃなくて、ひざ……。んんっ……、変な気分になっちゃうからぁ……」

 

 上になった男は、アウラの股の間に膝をついた。

 キスをしていた時と同じで、ぐいと進めてくる。

 

「そんな気分になるためにしているんですよ。ほら、アウラ様のお体は応えています。乳首が立ってきましたよ」

「あっ……あっ……。でも、だって……。エッチなことしてるから……」

 

 アウラが見守る中、ピンク色の乳首が少しずつ起き上がってくる。

 見られて、言葉で嬲られて、股間を圧されて子宮が疼いて、心だけでなく体が欲しがってきた。

 体の奥ではとろりと来て、下着を濡らしている。

 

「あんっ! あっ、つよい……、そんなに吸って……。んんっ……、あぁ……、乳首ちゅうちゅうして……、いっぱい吸っていいから……。私のおっぱい好きにしていいからぁ……。あんっ♡」

 

 大人になった影響か、小さな時よりも感じ方が深くなっている。

 アウラは胸に顔を埋めた男を抱きしめようとして、体にまとわりつく服が邪魔になった。脱ぎ捨て、豊かな乳房に男を抱いた。

 少しだけ敗北感がある。

 キスをしてた時、自分はキスだけで精一杯だったのに、彼は手や足を使う余裕があった。子供扱いされてるようで悔しかった。だから、あれだけ褒めてくれて我ながら大きくていい形と思う胸を触らせてあげたら夢中になるのではと考えた。

 そんな考えはあっという間に霧散した。考えたことすら忘れてしまった。

 

「あんっ、そんなに吸ったらまた痕がついちゃうよぉ……。おっぱいにマーキングされてるみたいで恥ずかしいんだからぁ。魔獣の縄張りじゃないんだし………………! 今のなし!」

 

 アウラは自分が何を言ったか気付いて顔を赤くするが、乳房へのマーキングが消えるわけではない。

 

「縄張りと言いますと。アウラ様のおっぱいは私のものだと言って欲しいんですか?」

「そそそそゆうわけじゃ! やっ、噛むのもダメェ!」

 

 所詮は甘噛み。うすく付いた歯型は見る間に消えていく。

 血が滲むほどキツく噛んだとしても、高レベルのアウラなら瞬く間に消える。ダメージではないキスマークだからこそ残ってくれる。

 アウラの胸に顔を埋めながら、男はふむと思案した。

 

 アウラ様はマーキングして欲しい。キスマークでは物足りない。しかし、それ以上の痕は物理的に残せない。アウラ様はとっても強い100レベルなのだ。

 そこで発想の逆転が起こった。

 物理的が不可能なら、精神的にすれば良い。

 

「アウラ様、一つお願いがあります。よろしいでしょうか?」

「な、なに? 聞くだけ聞くけど無理なことは無理だから!」

「大したことでは、いえ、大したことかも知れません。申し上げます前に、ご無礼となってしまうかも知れないことを謝罪いたします」

「なによ、そんなかしこまって。いいから言って」

「はい」

 

 男はアウラの体を這い上がり、顔を寄せる。

 アウラは、緑の右目で赤い目を、青い右目で青い目を見た。

 キスの時は目を瞑っていた。それがこうも近い距離で目を合わせると、赤と青の光に溺れそうになる。星々の中に揺蕩って上下がわからなくなり、陶酔感を伴う目眩がする。

 聞こえる声は体の中で響くようだった。

 

「結婚した妻と夫が敬称をつけて呼ぶことはおかしくないでしょうが、閨の中でも続けるのは些か形式に拘り過ぎている気がいたします。今だけはアウラ様を敬称をつけずにお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「え……っと。それって、どういうこと?」

 

 難しい話ではないが、男の顔に見惚れて頭に入ってこなかった。

 

「夫が妻を呼ぶように、今だけはアウラ様を『アウラ』と呼んでも構いませんか?」

「うん、いいよ」

「夫が閨で妻を扱うように、アウラ様を扱っても構いませんか?」

「アウラって呼ぶんでしょ! それもいいよ」

 

 間髪入れず、アウラはどちらも許した。

 許すなり体を起こされ、抱き締められた。耳元で囁かれた。

 

「アウラ……、今のアウラは俺のものだよ」

「…………うん。私の全部、好きにしていいよ♡」

 

 ユリにアーちゃん呼びを許しているアウラだ。元から上下関係にはシャルティアほどうるさくない。必要な時にちゃんとしてくれればいいのだ。

 心にマーキング完了である。

 

 

 

「アウラ、こっちに。服を脱いで」

「うん。でも私だけじゃなくてそっちも脱いでよ!」

「わかってるよ」

 

 アウラが立ち上がってズボンを下ろす。

 尻がかなり大きくなって脱ぎ辛いらしく、腰を振りながら脱ぐのがやたらと艶めかしい。

 股間を覆うショーツは白。レース地の上品な物で、間違っても子供が履くパンツではない。

 

 そしてアウラが元々持っていたショーツでもない。シャルティア提供だ。

 もらう際、アウラは未使用であることをくどいほど確認した。シャルティアとしては、洗ってからは一度も履いてないので未使用であると答えた。

 男はシャルティアが履いているのを見たことがあったが、それについては何も言わなかった。きっと同じショーツが複数あるのだ。同じショーツを履くほどにアウラ様とシャルティア様は仲良しなのだ。

 

「アウラは俺に見せるために履いてくれたのかな?」

「そういうわけじゃ…………。そういうつもりも、ちょっとは……。でも本当にちょっとだけだから!」

「見せるつもりだってことは、セックスしたかった?」

「…………ちょっとは……」

「今はしたいって思ってるんだろう?」

「……うん。したい。さっきも言ったでしょ? おまんこに、おちんちん入れて欲しいの。あっ……」

 

 アウラを前に立たせ、ショーツの縁に指を入れる。

 股に顔を近付け、ゆっくりと下ろした。

 アウラはさっきまで子供の姿でいたため、肌から子供特有の甘ったるい匂いがする。けども、ショーツを下ろすに連れて生々しい女の匂いが漂ってくる。

 股を開かせれば匂いが濃くなり、閉じた割れ目は濡れている。

 指で軽く触れてみれば、ねっとりと糸を引いた。

 

「あ……ひろげないで…………。あんっ!」

 

 肌は浅黒いのに、内側は淫靡な肉色。

 膣口が小さく開いて入ってくるのを待っている。皮に包まれた肉芽も膨らんでいる。

 これからたっぷり使うのだから、穴はよくほぐさないといけない。経験が少ないアウラには中よりクリトリスのほうが良いだろうから、そちらも可愛がる必要がある。

 

「あっ、ゆびはいって……。あっあっ、なめちゃ……ふぅっ……! はあぁっ……、あっだめ、そんなとこだめなんだからぁ♡」

「アウラを初めて感じさせた時も舐めてあげたね」

「うんっ、きもちよかった……。いまも、いいよぉ……。あっあっあんっ……、ひゃああぁっ♡ いまのすご……、おなかあついぃ……♡」

 

 雌穴へは中指を突き立て、クリトリスには口付ける。

 柔らかく包む肉ひだを指先で掻きながら、クリトリスは包皮から吸い出して舌でつついた。

 

 始めたばかりなのに、アウラの感じ方は以前より激しい。シャルティアとの特訓は終わっても、自主訓練が続いていることを男は知らない。

 キスやフェラチオの練習はしなくてよいと言われたアウラだが、一人で慰めてはいけないとまで言われたわけではなかった。

 一人部屋なこともあって、しない日のほうが少ない。

 一緒に風呂に入って舐められた時のことを思い出し、帝都の会議室で指を使われたのを思い出し。

 皮を被ったままのクリトリスを擦って、愛液が出てきたら塗りたくって皮を剥いてみたり。

 濡れ方が十分になったら場所を覚えてしまった膣へ指を入れてみる。細い指は、いつもすんなり入ってしまった。

 

「あっ、だめっ! 立ってられなくなっちゃうからぁ!」

 

 アウラは立ったままで、男に股間を嬲られている。

 悶えながらも男の顔を股間に押し付け、見ようによっては男の顔に座っているようだった。

 

「あっ、やっ、めっ…………ふあっ!? ああぁっ………………!」

 

 尻が震え、膝が揺れる。

 キスマークをつけた豊満な乳房もぷるんと揺れて、先端の乳首は真っ赤に張り詰めた。

 

「ひうっ!?」

 

 最後にちゅっと吸われ、アウラの股から男の顔が離れた。

 支えを失ったアウラは腰が砕け、男に受け止められた。

 近付いた美貌にうっとりと抱きついたが、この口が自分の大切なところをと思えば気恥ずかしく、顔を伏せて唇を噛んだ。男の股間が目に入った。

 

「私も口でする?」

「そうだね、してもらおうかな」

「うん!」

 

 アウラは長い髪をかき上げ、頭を下げる。

 ふっくらした唇を開き、膨らんだ亀頭へ口付けをする。そのまま頭を下げ続け、長い逸物を半分まで口の中に迎え入れた。

 女らしい丸みを帯びた頬が窪み、内側の粘膜を肉棒に密着させる。口の中の舌は竿を滑らせるように伸ばして、頭を上下に振り始めた。

 たっぷり唾液を絡めている上に強く吸っているので、じゅぷじゅぷと卑猥な水音が意外なほど大きく響いた。

 

「んっんっ、じゅるじゅちゅっ、ちゅうぅっ……。こんな感じでいい?」

「もう少しゆっくりでいいよ。しゃぶらずに舐めるだけでもいいんだ。アウラの口の中に出すんじゃなくて、ちんこを固くしてアウラに入れる準備なんだから」

「でも前にした時は……。私の口に出したんだよね。舐めればいいの? こう?」

「手で軽く扱きながらね。そこを舐めて、しゃぶるなら先端だけで」

「うん。……れろ……、ちゅっちゅっ……。これでも気持ちいい?」

「もちろんだよ」

 

 子供の姿なら兎も角、大人になったアウラは絶世の美女な上に、出るところが出て引くべきは引いて、非常に肉惑的な肉体になっている。

 そんなアウラが上目遣いにちらちらと見遣りながら逸物をしゃぶっているのは、技の拙さを棚上げしていいくらいに滾ってくる。

 

 大人になっても変わらない太陽のような色艶の金髪を撫で、長くなったので流れる髪をかき上げ耳に掛けてやれば、どことなく嬉しそうにまつ毛を震わせた。

 その時、男はわかっていて然るべき事をようやく気付いた。

 

 アウラは常日頃から大人びてマーレの姉であり、シャルティアの姉のようでもあった。

 今は不思議な青いキャンディーの効果で大人の姿になっている。

 しかしそれでも、アウラはまだ子供なのだ。色事にも慣れていない。

 

 アウラとこんな事になるのはこれが四度目。

 一度目は風呂でアウラが女の子であるのかを確かめてから口で慰めた。

 二度目はシャルティア同伴の上で、大人になったアウラの処女をもらった。

 三度目は小さなアウラでも大きくなれるか挑戦し、たっぷり指でした後に口でしてもらった。

 大人の姿になったアウラと、二人きりでこんな事になるのは初めてなのだ。小さい時はすることまで届かず、大人になった時はシャルティアのサポートがあった。

 アウラとしては、今回はある意味で初めてと言っていいだろう。

 初めてなのだからアウラに任せることなく、こちらが色々リードしてやらなければならない。

 

「あっ、なに? もうする?」

 

 男は敷物の上にごろんと寝転んだ。

 

「そうじゃないよ。俺からもアウラを舐めるから尻をこっちに向けて。俺の頭を跨いで膝をつくんだ」

「え……、でもさっきみたいにされると上手く出来なくなっちゃうかも……」

「それでもいいよ。握っててくれるだけでも気持ちいいから」

「……それなら」

 

 散々舐められた後なのに顔を跨ぐのは別種の恥ずかしさがあるようで、アウラは躊躇いがちに男の顔へ下半身を向けた。

 言われた通りに顔を跨ぐと、尻を掴まれる。引き寄せられ腰が下がって、股間に温かくぬめったものが触れてきた。

 

「そそ、それじゃ、私も……。あむっ……んっ、あんっ……私も口で……、ちゅぷ……んふぅっ♡」

 

 握りはするものの口は上手く使えないらしい。舌を伸ばす代わりに、色付いたあえぎをもらしている。

 

 割れ目を広げて淫靡な肉をさらけ出させ、アウラの体で一番柔らかな部分に舌を這わせれば、体に染み込んだ動きが勝手に快感をほじくり出してしまう。

 それはそれで悪くないが、アウラをよがらせるだけでなく、アウラに色々教えて色事への自信を持たせたいのだから手加減しなければならない。

 舌の動きは意図的に押さえて敏感になってる肉芽を責めたりはせず、柔い内側をなぞって開き始めて雌穴をつついた。準備が整っているアウラは、次から次へと溢れさせてくる。

 

「こうして同時に舐め合うのをシックスナインと言うんだ。69はひっくり返しても69だろう? 今はアウラが上になってるけど、俺が上になったり互いに横になったりして幾つか体位があるんだよ」

「そ、そうなんだ……。ちゅっちゅぷぷ……、おちんちんおっきい。こんなに大きいのに私の中に入るんだよね?」

「入れたことがあるしね。ちゃんと入るよ」

「……うん。良かったけど。……ちょっと痛かったんだから」

「今度はそれほどじゃないさ」

「だといいな。……あっ?」

 

 男の手が尻を撫でているのは気付いていた。

 大事なところを見られて舐められているのだから、尻を触るくらい大したことではない。

 それが大したことになった。尻を撫でていた手が内側に進んで、尻の割れ目をなぞり始めた。長い指が止まったのは舐められているところより少し上。

 尻の穴で指先が留まっている。入ろうとはしてないようだが、尻の穴で指先が小さな円を描くのは、固いものを優しくほぐすような動きだった。

 

「そそそ、そこ、お尻の……!」

「小さな体でもアナルセックスなら出来るっていったの覚えてるかな?」

「………………そう言えば」

 

 シャルティアを伴った初エッチ直前に言われたこと。あの時はその後の期待と覚悟と緊張でいっぱいいっぱいだったが、言葉にされれば思い出す。

 小さくてもアナルセックスなら可能と言って、シャルティアがそっちもいいと言っていた。一週間もすれば出来るとかなんとか。

 

「アナルセックスっていうのは、ここの穴を使うことなんだ」

「あうっ!? あっ、だめ! そっち違うよぉ! 汚いから入れちゃだめだってぇ……!」

 

 圧力がかかり、つぷりと指先が潜り込んだ。

 中指を第一関節だけだったが、間違いなく入っている。感じてはならない場所に異物感がある。

 

「今日はしないけど、いずれは、だね。シャルティア様もこっちはお好きなんだ」

「………………。私とセックスするんだからわざわざシャルティアの名前を出さないでよ。おちんちんおっきくなってるんだから早く入れて」

「そうだね。時間は有限なことだし」

 

 今になっても、情事の際は違う女の名前を出してはいけないと覚えられないらしい。

 複数の女たちに囲まれすぎている弊害である。一番の原因はデリカシーが育っていないからだ。

 

 アウラが男の体から降りて、けどもどうすればいいかわからないらしく所在投げに敷物を見回し、男に優しく抱かれて押し倒された。

 

「これからアウラの中に入れるんだ。入れやすいように股を開いて」

「うん……」

 

 甘い肉がついた太ももをめいっぱい開いて、男の前に入口をさらけ出す。

 入り口は潤って、小さく、時に大きく口を開いた。

 

「股の開き方も色々だよ。アウラが膝に手を入れて太ももを持ち上げたり、腰を上げてまんこを上に向かせたり」

「今はこれでいい?」

「それでいいよ。入れるよ?」

「……うん。来て。私のおまんこにおちんちん入れて? んぅっ…………、くぅ……。あぁ……きて、る……♡」

 

 アウラの雌穴は太い逸物に大きく広げられ、中へ中へと受け入れていく。

 狭かった穴を太いものが通って、奥を目指して進んでいく。

 アウラは目を潤ませて男を見上げ、体が満ちていくのを実感した。

 

 柔らかな抵抗を押し退けてアウラの中を抉る。股間同士がぶつかり、根本までアウラの中に入った。

 エルフの膣は深く、長い逸物でも無理なく全てを包む。

 深くても緩いわけがなく、隙間なく密着して媚肉が蠢いた。

 

「……はいった?」

「見えるかな? 根本まで全部入ったよ。アウラは痛くないかい?」

「ちょっと痛いかなって思ったけど全然平気。おちんちん入ってるの、……わかるよ♡」

 

 アウラは無理のない自然な笑みを浮かべて、自身に重なる男を抱き締めた。

 全身に掛かる男の重みが心地よい。硬い体が良ければ肌から直に伝わる熱も良い。首筋に顔を埋めてすんすんと鼻を鳴らし、男の匂いを満喫する。

 一番は一つになっていること。

 

(ああ、本当におちんちん入ってる♡ 前にした時はシャルティアがいてちょっと焦っちゃったりしたけど。指とか入れて入るとこがあるのも知ってたけど。本当に入ってるんだ♡ 入れてるだけなのになんでこんな気持ちいいんだろ? おちんちんから何か出てないよね? って、おちんちんから出るんだよね)

 

 今のアウラは何が出るのか知っている。

 名前だけを知っていた頃とは違うのだ。

 

「セックスって、私の中で出すんだよね? 前もそうだったし」

「外に出したり体に掛けたりすることもあるよ。アウラはどこに出して欲しい?」

「え。え、ええっと…………。な、中がいいかな? ってそうじゃなくて!」

 

 言いたいことはそれではない。

 この男に喋らせると、ペースを奪われて何を話したかったのか忘れてしまう。シャルティアはそれで何度も有耶無耶にされてきたが、アウラはシャルティアとは違うのだ。

 

「精液って前は名前しか知らなかった。初めて見たのはあんたがミラとしてた時だったの」

 

 アウラの実年齢は兎も角、肉体はまだまだ幼い。精液を見る機会があるわけがなかった。

 あと300年位は知らずに済んでいたかも知れないが、変な気を利かせた男が見せてしまった。

 

「おちんちんから出るのってその時初めて知ったし。精液ってその…………。子供が出来ちゃうんだよね?」

「まんこの中に出したら出来る可能性があるね」

「それじゃ私も子供が出来ちゃう?」

 

 アウラは期待とも恐れともつかない表情で問いかけた。

 そうなったら嬉しいが、そうなってしまうと困る。

 もしも出来てしまってお腹が大きくなってきても、幻術でどうとでも誤魔化せると思う。

 しかしその後に出産子育て。どちらもアウラには経験がない。見たこともない。上手くやれる自信は全く無かった。

 幸か不幸か、疑問にははっきりとした答えがあった。

 

「アウラがずっと大人の姿でいたら出来るかも知れないけどね。今のアウラならその心配はないよ」

「………………そっか」

 

 いずれアウラが大人になったとしても簡単には出来ないだろう。非常に長寿で強大な力を持つアウラなのだ。

 命の摂理として、強くて寿命が長いものは子が少ない。強い力を持って天敵がおらず、時に多淫の代名詞ともされるドラゴンだが、世界がドラゴンに満ち溢れているかと言えばそうはなってない。

 

「俺の子供を産みたい?」

「べっ、別にそういうわけじゃないけど!! ………………でも、私がいつか大人になって、あんたがお婿さんになって。そうしたら……、いつか出来るかも知れないでしょ?」

「そうなったら産んでくれるかい?」

「う…………………………。いい、よ?」

 

 とんでもないことを言ってしまった気がした。

 それを言うなら「お婿さんにしてもいい」もスゴイ事だが、「子供を産みたい」はずっと直接的だ。

 しかし、言ってしまった。快感とは別の熱が顔を火照らせる。

 

「そ、それよりなんで動かないの!? 私を子供扱いしてるんじゃないよね? だったら怒るから!」

 

 照れ隠しにそんな事を言ってしまった。

 事実、挿入してからほとんど動いてない。だからゆっくり話す余裕があった。

 

「そうじゃないよ。激しく動くだけがセックスじゃない。こういうやり方もあるんだ。それにアウラの中に入れてるだけでも気持ちいい。アウラはそうじゃないのかな?」

「そうじゃないこともないけど……。でも……」

「でも? して欲しい事があったら言ってごらん」

「……気持ちいいとおちんちんから精液出るんだよね? まだ出てないから、そうでもないのかなって」

「そう言ってくれるなら、アウラにしてもらおうか」

「わっ!」

 

 繋がったまま、男はアウラを抱き起こした。

 座る男の上にアウラが向き合って座る形。シクススが好きな体位だ。

 そうして今度は男が寝そべった。

 

「これならアウラが動きやすいだろう?」

「……私が動くの?」

「前は俺が上になってばかりだったからね。騎乗位って言うんだ。アウラに俺のちんこを気持ちよくしてもらおうか」

「う、うん。…………んっ……、んぁあぁっ!? や……、なに今の?」

 

 アウラが少しだけ尻を持ち上げ、落とした。

 それだけの動きで背を反らせ、高い声で鳴いた。

 

「それだけで終わりじゃないだろう? もっと腰を振って、頑張るんだ」

「んっ……、んっ! あっ、あんっ、あんっ! やぁ、あっ、あっ、こんなぁ♡ あぁ、おまんこいいよぉ♡ すごいきもちい♡ あんっ♡」

 

 アウラは男の腹に両手をついて、リズム良く腰を振り始めた。

 快感に驚いた一度目とは違い、止まることなく上下に動き続ける。

 アウラが腰を上げれば真っ直ぐに屹立した逸物が二人を繋ぐのが見え、アウラが腰を落とすとアウラの中に隠れてしまう。

 上下に動く度に豊かな乳房がゆさゆさと揺れるのは壮観だ。揺れすぎてアウラの負担にならないよう男が下から手を伸ばして支えてやった。

 

「あんっおっぱいぃ♡ あっ、あっ、うっくぅうぅうう♡ あんっ♡ ああんっ♡」

「ほら、さっき言っただろう? 言葉にすると気分が盛り上がるって」

「わ、わかったぁ。あっ、あんっ……くぅ……、おまんこいいよぉ! おちんちんが奥まできてっ♡ わたしのおまんこ、おちんちん入ってきもちくなってるよぉ♡ あっはぁあん♡」

 

 アウラが腰を落とす度に結合部の水気が多くなっていく。

 十数度目に腰を上げた時は、重なりあう太ももの間に糸を引き出した。

 アウラの愛液が溢れて飛沫となって、二人の股を濡らしている。

 

「はあんっ、おっぱい吸っちゃうのぉ? いっぱい吸って、ちゅうちゅうしてぇ♡ 私の口もちゅうちゅう吸って♡ んーーーーーっちゅっ♡ あんあんっ♡ あ゛っ……、ああああぁぁああああああああっ!」

 

 男が体を起こしてアウラの乳首に吸い付けば、アウラは動きを止めてキスをねだった。

 キスをしながら動くのは初心者のアウラには難しくとも、男の方はそうでもない。絶妙に突き上げ、アウラの中を擦った。

 キスの最中にアウラが鳴き、抱きついてきたと思ったら逸物がきゅうと締め付けられた。子宮が下りて子宮口が尿道口に口付けた。

 

「い、いまのだめ…………。いっちゃった…………。自分じゃこんなになれないのに……」

 

 アウラは自慰を告白したことに気付かなかった。

 

 アウラが初めての騎乗位で達してしまったのは自分の言葉で盛り上がったのも多少はある。大半の要因は、男が周到に準備したからだ。

 口でした時は加減をして、アウラは浅く達したようだが体の準備に留めた。

 挿入してから動かなかったのも、お喋りやスローセックスを教えること以外に、アウラの好きなところを圧し続けて高ぶらせていた。アウラの性感帯は処女を頂いた時に把握済みなのだ。

 そしてアウラの好きなように動かせたと思わせて、動きを合わせて下から突いていた。

 キスをしながらの一突きがダメ押しになったらしい。

 

 アウラは男の体にもたれかかって、ピクピクと腰を震わせた。

 繋がっている部分もきゅっと締まっては緩み、中に吐き出されるであろうものを取り込もうと蠢いている。

 子宮口も口を開け、注がれるものを待ち構えていた。

 アウラが産んでもいいと言ったのに応えているのか、アウラの子宮は孕みたがっているようだった。

 

「アウラはそんなに良かったのかい?」

「……うん。気持ちよかった。なんか真っ白になって、体がふわふわして。あれがイッちゃう、なんだよね? 指でされた時より凄かった」

「アウラが悦んでくれたら俺も嬉しいよ」

「うん。でも、まだ、だよね?」

 

 男を気持ちよくさせて射精させるためにアウラから動いていた。それなのに、先に達してしまった。

 不甲斐ないと思う。でもとても気持ちよかった。でも気持ちよくさせないといけない。でもしばらく動けそうにない。

 でもが幾つも重なって頭の中をぐるぐると駆け回り、けども快感の余韻が幸福感を運んでこのままでいいかとも思い、

 

 

 

「あっ……」

 

 抱き締められたまま、ころんと半回転した。

 

「え?」

 

 ずるりと中から逸物が引き抜かれる。

 埋まっていたものが離れてしまって少し寂しくなり、またもころんと半回転させられた。

 アウラだけがうつ伏せに横たわって、形の良い大きな尻を男に向けている。

 

「あっ」

 

 尻肉を掴まれ、左右へ広げられた。

 シックスナインをしていた時に指先を入れられた肛門と、さっきまで挿入されていた膣口が見えてしまう。

 アウラの穴は閉じきらずに淫らな内側を覗かせて、物欲しそうに涎を垂らしていた。

 

「あっ!?」

 

 ここまではアウラのための行為だった。

 その甲斐あってアウラは大いにあえぎ、気持ちよかったと言ってくれた。膣の締め付け具合からして、演技ではないだろう。

 ここからは少し激しく、自分のために。

 

「ああっ!」

 

 寝転がるアウラへ、後ろから突き入れた。

 アウラは尻を上げずに敷物の上に伏せているので、後背位の中でも俗に寝バックと呼ばれる体位。

 深く達したアウラの膣は僅かに緩み、挿入するのに抵抗はなかった。

 

「今度は俺が出すまで頑張ってもらうよ?」

「ま、まって……、あっあっ、あんっ! あっ、だめ、いまイッたばかりぃ、はああぁあんっ! あっ、やぁ……あぁっ♡」

 

 男の下腹がアウラの大きな尻に打ち付けられ、乾いた音を響かせた。

 尻肉が波打ち、元の形に戻る前にもう一度打ち付けられる。

 その度にアウラの穴は深く抉られ、体の芯まで届く衝撃を受け止めた。

 

 アウラがセックスするのは今回が二度目だ。

 一度目はシャルティアがいて、どちらかが達してしまったら交代できた。今回はアウラだけ。アウラだけがずっと挿入されている。

 アウラにもっと経験があれば口や乳房を使うことが出来たかも知れない。アウラが思いつかなくても、男の方で提案することも出来た。

 が、していない。

 アウラも男も知らない計算外が重なっていた。

 

 この日、アウラが来るまでにミラやエルフメイドたちとしていた男だ。マーレ様の貞操を心配する必要はないと彼女たちの体を使い、それぞれに放っていた。

 精力的に問題なくても、四度も出した後なら次の一度は少々時間が掛かる。

 前回のようにアウラの口を使うのは負担が大きいと思われた。イラマチオは上級者向けで、初心者のアウラは涙を流しながら口内射精を受け入れた。アウラなりのフェラチオだとやはり時間がかかるだろう。

 ならばせっかくの爆乳を使ってパイズリしようも、アウラはやり方を知らない初心者だ。

 挿入しているのだから、わざわざ口や胸を使うよりもそのまま続ける方が自然である。

 

 一番重要なのは時間制限があることだ。

 不思議な青いキャンディーで大人の姿でいるのは一定の時間であって効果がずっと続くわけではない。キャンディーを追加で舐めれば大人になっている時間は伸びるが、そうするとツリーハウスに戻れる時間が遅くなる。

 キャンディーを追加使用せず、終えなければならない。

 アウラが元に戻ってからするのは論外だ。

 

 加えて、料理長の厚意がまたもあった。

 死にそうな顔でレストランに現れたのだから、何とかしてやろうと思う情けが料理長にはあった。

 効果は体力回復。真っ白な顔色から血を抜かれたと察して血液増幅。が、血液増幅なんてピンポイントな効果の料理はなかった。

 料理長がちょっとだけ考えて選んだ効果は、魔法的な効果がない一般の料理でも聞かれるもの。

 よりにもよって精力回復だった。

 

「あ゛っあ゛っあ゛あぁぁああああっ! らっらめぇえええええぇぇええーーーーーっ! またぁああああぁぁああああーーーーっ♡」

 

 森の外で丸くなっていたフェンが首をもたげたが、危険な気配はないことを確認して元の姿勢に戻った。

 

「やっあっ、あんっ! あっあっ、あっはあぁぁああっ♡ らめらめこわれちゃのぉおおおおおぉ♡ ひゃあっあ………………、くぅ〜〜〜〜〜〜〜〜っ♡」

 

 背中に伸し掛かる男に両肩を押さえられ、何度も何度も腰を打ち付けられる。

 スプリングの効いたベッドの上ならいざ知らず、ふかふかの敷物を敷こうと打ち付けられた衝撃は逃げずにアウラは全てを受け止めている。

 パンパンと乾いた音が軽快に鳴り響き、根本までアウラの淫液に濡れた逸物が何度もアウラの中を往復した。

 

 アウラの視界は目を閉じていても真っ白に明滅して、多幸感に全身を侵されている。

 この男以外の経験が多数なティアやティナなら気付いたが、セックス自体が二度目のアウラにはわからない。

 全身を侵してなお滴るような快楽は、肉体で感じられる限度を越えていた。

 心の襞を撫でては入り込み、魂にすら染み込んでくる。

 体だけでなく、心も魂も染められていく。

 

「俺の子供を産みたいって言っただろう?」

「うんっ、ほしいのっ! おとなになったら、あかちゃんうませてっ♡ おまんこにいっぱい出して♡ ふぅっ……! あっ、はぁあ……。あぁ、はぁ……。あの、ね?」

 

 快感に悶えながらも、アウラは息を整えて振り向いた。

 青と緑の目は潤んでいる。

 快感に揺蕩いながらも、真剣な顔だ。

 

「あの……。うん……。私が大人になってもあんたが元気で生きてたら、私をお嫁さんにして? 私といっぱいセックスして、私のおまんこにいっぱい精液出して……。私と子供作ってくれる?」

「もちろんだよ」

 

 いつぞやナーベラルと果たされることのない約束をしたように、遠い未来の不確定な約束はとてもロマンチックである。

 

「…………あはっ♡」

 

 その一言で、アウラは達した。

 体の真ん中で何かがきゅんきゅんと歓喜している。

 

 アウラの想いに応えるべく、男は数多のロマンス小説から学んだ適切な一語をアウラに送った。

 乱れた金髪を手櫛で整え長い耳に口を寄せ、腰を打ち付けながら囁いた。

 

(アウラを愛してるよ。これからもずっと)

 

 大人の姿になったアウラなら兎も角として、本当のアウラはネムちゃんより小さな子供である。

 そんな子供へ愛を囁くのはどうかと思えるが、要は言われた相手がどう受け止めるかだ。

 

 アウラは瞬間現実を忘れ、呆とした忘我の様で男と目を合わせた。

 男は身を捩って振り向くアウラの唇を奪い、アウラから抜けきる寸前まで腰を引くと、一息で奥まで突き入れた。

 雄の本能で女の奥を目指し、逸物をより深く潜らせる。亀頭が子宮口に押し付けられ、どぴゅどぴゅと熱い精液を吐き出した。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

 アウラは声にならない声で叫び、潤んだ目からは涙がこぼれた。

 上になっていた時に達したよりも遥かに深い。きゅんきゅんと蠕動する媚肉は精液を奥へ奥へと送り込み、口を開いた子宮口へ注がれていく。

 アウラの肉体が整っていたら、孕んでいたかも知れなかった。

 

 どくどくと長い射精が続いている間、唇を重ねていた。

 男から離れ、アウラはあっと切なそうな声を上げた。

 

「アウラの中に出たのがわかる?」

「うん。おまんこの中で熱いの出てる。おちんちんがピクピクしてるのもわかるよ。私のおまんこ気持ちよかった?」

「とても、ね」

「よかった……♡」

 

 心底幸せそうに笑ってちゅっとキスをしてくるアウラは、妖艶な美女の姿でも可愛らしい。

 

 

 

「さて、と」

「あっ! なに? なにするの!?」

 

 アウラは中で、男のものが固さを失っていくのを感じていた。とても気持ちよくて満ち足りて幸せだったが、終わったのなら離れるのは仕方ない。

 仕方ないが、抱き上げられたのはどうしてか。

 これが横抱きにされたのならいいが、後ろから抱え持たれている。それも両膝の裏に手を入れられた持ち上げ方。背中が男の胸にぶつかって、自然と股間が前に出てしまう。

 乙女としてかなり恥ずかしい持ち上げられ方だ。

 

「そろそろキャンディーの効果時間が切れるからね」

「だからってこんな……、あっ」

 

 アウラが言いかけるなり、キャンディーの効果が切れた。効果を発揮する時が一瞬だったように、効果が切れて元の姿に戻るのも一瞬。妖艶な美女は男の腕の中で美幼女に、ぎりぎり美少女の姿になってしまった。

 アウラは行為に夢中だったのに、この男は冷静に時間を見ていた。前回は挿入中に小さくなってしまい、大変なことになったのだ。同じ過ちを繰り返すほど愚かな男ではないのである。

 

 体が小さくなれば色々なところも相応に縮んでしまう。アウラの中に放たれた精液が、トロトロと股から溢れて木の根に滴った。

 綺麗な敷物なのだから精液で汚すのよろしくない。既にアウラのおつゆが垂れてたりするが、おつゆと違って精液は乾くと落とし辛い。

 

「う〜〜〜」

 

 汚さないようにとの意図はアウラにもわかったが、他にやりようはなかったのか。こんな乙女心を傷つきかねないポーズは甚だ心外である。

 そして、それどころではなくなってしまった。

 

「あっ!? ダメ下ろして放り投げていいから!」

「アウラ様にそんなことを出来るわけがないでしょう。落としてしまうから暴れないでください。お運びしますよ」

「そんな悠長な、あぁっ! だめぇえええぇぇえええええええええええええぇぇぇええええ!!」

「あっ」

 

 アウラは咄嗟に両手で顔を覆う。

 見られたくない、見たくない。咄嗟に出来る現実逃避が、顔を隠すことだった。

 

 男がアウラの膝を高く持ち上げて、股間が前を向いているのが幸いした。 

 アウラの股から金色の放物線が生み出され、木漏れ日に煌めきながら木の幹に降り注いだ。

 しゃーっと爽快な音が響いた。

 

「うっ、うぅ………………!」

 

 情事の後は催すことが間々ある。あるいは大人から子供に戻った影響もあるのだろうか。

 アウラはしっこのポーズで、おしっこを出してしまった。

 

「だ……だめって、いったのに…………! うっ、ぐす…………、ひっく…………、う、うえぇぇえええぇぇええええええん!!」

 

 アウラの嗚咽が静かな森の奥に響き渡る。顔を隠した両手の隙間から、透明な雫がポタポタと落ちてきた。

 もう少し程度が低ければ男に怒ってスッキリすることも出来たろうが、おしっこである。

 しっこのポーズでおしっこである。

 アウラはまだまだ子供でも精神は大人びている。男の前でおしっこをしてしまうのは、精神が耐えきれなかった。

 

「事の後で女性が催すのは珍しいことではありません。私は何度も見てきましたし、誰とは申せませんが見せるのを好む女性もいます」

「そんなのと一緒に………………っ!?」

 

 アウラは、そんなのと一緒にするなと怒鳴りつけようと思った。しかし、重要な事実に気付いて言葉を続けられなかった。

 

「見せるどころか、私に顔面騎乗している時を選んで放尿するんです。顔に掛けるんですよ。その度に飲まされんですから堪ったものではありません」

「そ、そうなんだ…………」

 

 アウラが冷静だったら、吐き捨てるような男の言葉に違和感を抱いて違う結論を出したかも知れない。しかし、冷静からは程遠い心境。言葉の表層しか見えないでいる。

 

 彼は守護者統括相談役。

 大した権限は持ってないが、地位としてはかなり偉い。守護者である自分たちに提言することも出来る。

 そんな彼が言えない相手。守護者以上の者であると察せられた。

 となれば、アウラが知っている者だとシャルティアが筆頭に来る。吸血鬼であるシャルティアは固形物を口にしないが飲料は口にするので、小水なら出すだろう。アウラは見たことがないと言うか見たくもないことだが。

 しかし、シャルティアである。シャルティアが程度の過ぎる行為を好んでいても不思議ではないし、秘密にする必要もない。

 であればもう一人。

 アルベドである。

 

 アルベドは、男の顔に跨って、おしっこをして、飲ませるのが好きなのだ。

 

 衝撃であった。

 

 アウラから見たアルベドは、アインズ様が関わると少々暴走することもあるが、基本的には極めて優秀で頭脳はナザリックにて群を抜く。

 過日この男が言っていたように、アインズ様が偉大であり続けられるのはアルベドが支えているからだ。

 そのアルベドが、美貌でも女としての肉体でも極めて優れているアルベドが、おしっこを掛けて飲ませるのを好むという。

 彼の前でおしっこしてしまったのを忘れてしまうくらいには衝撃であった。

 

「そうなんだ……」

「ええ。ですから、この程度のことをアウラ様がお気になさる必要はありませんよ。それに、恥じらうアウラ様はとても可愛らしかったですよ?」

「うっさい! いいから下ろして!」

「かしこまりました。それでは服を着ましょうか。その前に私のものを綺麗にしていただけますか?」

「……いいけど。もう大きくしないでよね。そんな時間ないんだから」

「善処します」

 

 誤解があった。

 

 男が「申せません」と言ったのは、「言えない」ではなく「言いたくない」である。

 おしっこを掛けてきたのはアルベドではなくラナーだ。

 ラナーの名前を出したくなかったがために、酷い誤解が生まれてしまった。

 しかし、アウラがアルベドへ問い質すわけがない。誤解は誤解のままアウラの胸に秘められ続けることになる。

 

 

 

 

 

 

 二人がツリーハウスに戻ってしばらくすると、マーレがお仕事から帰ってきた。

 エルフメイドたちに給仕をさせ、和気あいあいと夕食を囲む。相変わらず聞き上手な男がマーレのお仕事っぷりを聞き出して穏やかな時間が流れる。

 食休みを終えてそろそろという時に、男が言った。

 

「今夜はこちらに泊めていただくことになりました。折角ですので、私と一緒にお風呂に入りませんか?」

 

 一同に衝撃が走る。

 男が提案した相手はアウラではない。男とアウラの関係を知っているのは、当のアウラと、一度目に一緒だったシャルティアと、全てを見通すアルベド様だけ。アウラが口止めをしている秘密の関係なのだから、皆の前でお風呂などと言うわけがない。

 当然のことながら、エルフメイドたちでもない。

 マーレだった。

 

「えっ!? ぼ、ぼくお風呂くらい一人で入れます!」

「男同士なんですから、お風呂を一緒に入るくらいおかしなことではありませんよ? それに私は」

 

 男は両手を上げて指を広げ、10本の指をわきわきと蠢かせた。

 

「頭を洗うのが得意なんです」

 

 指は隣り合った指と連動せず、それぞれが独立して動いている。まるで蜘蛛の足が蠢くようであり、関節がない軟体生物の触手のようでもあった。

 誰かが唾を飲み込む音がした。

 

「お髪を失礼」

「あっ!」

 

 断ってから、マーレの頭に手を伸ばす。

 輝く金髪の中にいやらしい指が沈んでいく。

 

「あ……あ……、あへ……。あぁ……あへあ…………」

 

 揺れていたマーレの目がクルンと寄って、どこを見ているともわからない上目遣いになった。頬の肉は弛緩し、口はだらしなく開く。俗に言うアヘ顔である。

 小さなお口から涎が垂れそうになったところで、男の手が離れた。マーレの乱れた髪を整えてから、指でマーレの口元を拭う。

 男の指は、険しい顔をしたエルフメイドが布巾で拭った。

 エルフメイドの一人がアウラに囁く。

 

(アウラ様、このままではマーレ様が道を誤ってしまいます!)

 

 アウラは力強く頷いた。

 

「男同士でお風呂なんておかしいでしょ! お風呂入るならこっちと一緒に入りなさい!」

「「「かしこまりました。私どもがマーレ様のお風呂をお手伝いさせていただきます!」」」

「ええっ!?!?」

 

 マーレは抵抗するが、お姉ちゃん命令には逆らえない。

 こうしてマーレの貞操は守られた。

 

「………………それじゃお姉ちゃんはお兄ちゃんとお風呂はいるの?」

 

 エルフメイドたちの顔が輝いているのと対照的に、ぐったりしてお風呂から戻ってきたマーレがそんな事を言う。

 

「別に私は一人で入れるし」

「マーレ様に付き添いがあったのですから、アウラ様お一人で入らせるわけにはいきません。私がお手伝いいたします」

「ええっ!?!?」

 

 アウラもぐったりしてお風呂から戻ってきた。

 マーレが入っていた時間より長かった。

 

「マーレ様、私達が風呂から出るのを待っていてくださったのですか? それなら今夜は一緒に眠りませんか? 男同士なら一緒に寝るくらいおかしなことではありません」

「えっ? もっとお話したいけど。でもベッド一つしかないし……」

「一緒に寝るのはお嫌ですか? こう言っては失礼かも知れませんが、マーレ様のお体は小さいので一つのベッドで問題ありません」

「そういうことなら」

 

 エルフメイドの一人がアウラに囁く。

 

(アウラ様、このままではマーレ様が道を誤ってしまいます!)

 

 アウラは力強く頷いた。

 

「男同士で寝るなんておかしいでしょ! 寝るならこっちと一緒にしなさい!」

「「「かしこまりました。私どもがマーレ様に添い寝させていただきます!」」」

「ええっ!?!?」

 

 しかし、マーレが如何に小柄だろうと四人は一緒に眠れない。

 三人のエルフメイドは総当たり戦のジャンケンを三度もして、総計9回のジャンケン勝負で勝率一位だった茶髪のエルフメイドが添い寝の栄光を勝ち取った。レンジャーであったので、他の二人より目が良いのが勝因だったのかも知れない。

 こうしてマーレの貞操は守られた。

 

「……それじゃお姉ちゃんはお兄ちゃんと一緒に寝るの?」

「別に私は一人で寝れるし」

「マーレ様に添い寝があるのですから、アウラ様をお一人で床へ入らせるわけにはまいりません。私が添い寝いたします」

「ええっ!?!?」

「さ、アウラ様」

 

 マーレに性的な知識はない。エルフメイドたちもミラも、如何にこの男が好色でもアウラ様にそのようなことはしないだろうと思っている。

 

「ご主人様、私は明日の打ち合わせのために第二階層に赴いてもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わないよ。四つに分けて、その内訳。一つ最低三時間。一日じゃ大変だから二日に分けて。明日の夜以降から明明後日の昼まで。そのあたりを聞いてくれ。細かな事は明日以降で」

「かしこまりました」

「何のこと?」

「今後の予定についてです。私がナザリックに滞在しているのは明明後日まででして、その夜にはエ・ランテルに戻ります。予定の半分は消化したのですが、まだ半分残っておりますので」

「う……、まあ、今日は一日付き合わせたし」

 

 アウラたちはお仕事でいなかったのに待っているよう言われたため、朝からずっと第六階層に拘束されていた。

 今回のナザリック滞在で最重要だったマーレ様とのつなぎがとれたので、少々の浪費は我慢しなければならないだろう。

 

「それでは、マーレ様、おやすみなさいませ。どうか良い夢をご覧になってください」

「はーい、おやすみなさい!」

 

 夜の挨拶くらいは、アウラも伸ばすなと注意しないらしい。

 

 アウラの寝室のドアがパタンと閉まる。

 部屋の主はキャンディーを口に放り込んで両手を広げた。

 

「ほら。私の胸に抱かれて寝るといい夢見れるんでしょ? してあげるから」

 

 日中、言われたことをアウラは覚えていた。

 

「あ、ちょっと! そんなつもりじゃなくて、明日もあるんだから!」

「男と女がベッドに入って、何もない訳がないでしょう?」

「あっ、やっ、ダメ……。あぁっ♡」

 

 昨夜は一睡もしてない男である。

 今日はエルフメイド三人と、ミラと、アウラと、五回している。

 けども日に十度は余裕な男だし、朝食では料理長の厚意によって体力と精力が回復してしまった。

 ロリアウラなら兎も角として、シャルティア曰くドスケベボディのアウラに何もしないわけがない。

 

 アウラは飲まされ掛けられ中にも出され、気を失った。

 不思議な青いキャンディーは3つ消費した。




次回、前々回あとがきに書いた趣味回になる予定


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趣味

予告通りの無駄に長い趣味回
17.4kになったので後書きに本話を一行でまとめました


 アウラがいつもより遅い起床となったのは、いぎたない男を起こすのに手間取ったからだ。

 いつぞやは散々苦労して結局シクススの世話になった。シクススに倣って平手打ちを決めようと思ったが、ルプスレギナが言っていたようにこの顔は殴りにくい。自分が提案したボディに行こうも、昨夜を思い出せばやり辛い。

 考えた末に、顔へ水を掛け一発で起こすことに成功。しかも、色々なシミがついたシーツの証拠隠滅まで出来る一石二鳥のクレバーな解決策。

 それでもなんだかんだと時間を取られて出遅れてしまったため、お仕事前に第二階層へ赴いたのは空振りとなってしまった。

 

 その頃、アウラの寝坊の原因となった男は、シズから直視し難い現実を突き付けられていた。

 

「お前は音痴過ぎる」

「恥ずかしながらそのようで」

 

 第九階層のシズの部屋で二人は向かい合っていた。

 可愛いもの好きなシズらしく、壁紙はカラフルな花柄。室内の調度は白や薄ピンクが多い。部屋の一角にはシズの武装整備のために無骨な道具が並ぶ作業台があるのがとてもアンビバレントである。

 

 昨日の約束通り、男は朝からシズを訪ねていた。明細不明の借りを返すために、今日は一日シズに付き合わなければならないのだ。

 

「わかってない」

「何がわかってないのでしょう?」

 

 音痴の自覚がある男だ。忸怩たる思いでシズの言葉を肯定したのだが、シズは大仰に頭を振った。

 

「お前の声はいい」

「ありがとうございます」

「だけど音痴過ぎる。その声であの歌声は冒涜的。太古の時代に闇の深淵に封じられた冒涜的存在を呼び起こしかねない」

「そ、そこまで……ですか……」

 

 この男、音楽の快不快はわかる。音の高低もわかる。しかし、それらを再現しようとすると奇天烈なものに成り下がってしまう。音感が鈍い上に、歌の経験がほぼ皆無なのだ。

 長く火傷を負っていた男だ。幸いにも喉は焼けなかったので発声に不自由はなかったが、唇が爛れていたため、発音には不明瞭なところがあった。ラナー以外では何を話しているのか聞き取るのに苦労したかも知れない。

 つまりは全てラナーのせいである。

 

 ちなみにシズの「お前」呼びだが、最初は「相談役殿」と呼んだ。しかし、シズからはお前と呼ばれ続けていた男である。今更相談役と呼ばれるのはなんともこそばゆい。

 

『アルベド様のお立場を考慮してくださるなら何と呼んでくれても構いません』

 

 と言ったところ、お前呼ばわりに戻った。

 

「だけどリズム感はいいと思う。リファラとキャレットもそう言っていた」

「……ありがとうございます」

 

 スパリゾートナザリックで鼻歌を聞かれた時のことだ。

 リラックスすれば鼻歌が出てくるくらいなので、音楽が嫌いなわけではない。むしろ好きな部類だろう。再現が冒涜的で致命的な事態を引き起こしかねないというだけで。

 

「だけど、今から歌の訓練をしても歌えるようになるとは思えない」

「……そうですね」

 

 シズは発言する度に逆接の接続詞をつける。褒められているのかけなされているのかわからない。

 シズとしては事実を羅列しているだけであるが、真実は時として人を傷つけるのだ。

 

「だけど、お前がやたら器用なのは知っている。だから歌は捨てて器用さを活かすべき」

「……つまり楽器をやれと?」

「その通り」

 

 火傷が癒えて声は良くなった。しかしこれまでの経緯から、音感が冒涜的な致命的である。けども、リズム感は確かなものがある。手指の器用さは、アルベドを筆頭に様々な者たちが折り紙を出すだろう。

 リズム感があって器用である。ならば楽器を使えばよい。

 喉を楽器とする歌は、本人の音感のなさから冒涜的存在を呼び覚ます可能性があるので封印しなければならないが、楽器であれば指定通りに弾けば音の再現が誰であっても可能なのだ。

 

 

 

 

 

 

「という訳でこいつ、じゃなくて相談役殿に楽器を習わせることにした」

「左様でございましたか」

 

 ナザリック第九階層にある音楽室である。

 音楽ホールに隣接する音楽室には大小様々な楽器が並び、壁の一面には高い天井にまで届く本棚に何かしらの書籍がびっちりと詰まっている。

 広い割に人は少ない。数人の楽団員が本棚の前で物色したり、楽器の整備をしているだけだ。

 音楽室は、楽器や譜面の保管や、楽団員全体のミーティングや音の合わせに使用する場所であって、楽器を練習する場所ではない。もしも音楽室で全員が練習したら、ヴァイオリン奏者の隣で別のヴァイオリン奏者が違う曲を弾いて、その隣でシンバルとチェロが鳴り響いてうるさくて仕方ない。練習室は別にある。

 

「それではどのような楽器を始めるのでしょうか?」

「と、言われましても」

 

 音楽室の主は指揮者にして楽団長である。帝都でのアインズ様の祝勝会では仮面をつけていたが、今は素顔を晒している。楽団長のお顔は黒猫であった。

 アウラと同じくらいの背丈をした可愛いにゃんこだ。シズが早速頭を撫でている。会話の途中にゴロゴロと喉を鳴らすのがまた可愛らしい。

 

 黒猫楽団長の可愛さはさておき、そのようなことを聞かれても楽器を始めると聞かされたばかりの男である。そもそも楽器の種類を知らない。

 知識としては辞書から得ているが、実物を見るのは帝都での祝勝会を除くとこれが初めてなのだ。

 

「私の周りに楽器を使う者はおりません。一人で弾いても様になる楽器が望ましいです」

 

 楽団員たちはオーケストラの構成員だ。つまりは合奏が基本となる。

 楽器とは様々で、それぞれ単独で弾いても様になるものであるが、当然のことながら独奏向きと合奏向きがある。

 

「そうしますと、ピアノが最初の候補になります」

「ピアノ、ですか」

 

 音楽室の中央にでかいピアノがででんと鎮座していた。黒いボディは隈なく磨き上げられ、近付けば鏡のように顔が映る。黒いボディの中に並ぶ白と黒の鍵盤は、ここから新しい世界が始まると言っているかのようだ。

 

「ん。ピアノなら良い」

 

 シズがゴーサインを出した。

 黒猫楽団長も男の長い指を見て、これならと思っている。

 しかし、問題点があった。

 

「大きいですね。持ち運びには苦労しそうです」

 

 得てして鍵盤楽器は大きいのだ。

 

「左様ですか。それでは持ち運びが可能な鍵盤楽器と言いますと、手風琴(アコーディオン)なら如何でしょうか?」

 

 手風琴は鍵盤楽器の一種で、手で蛇腹状の筐体を操作することによって空気を送って音を鳴らす。左右にはボタン鍵盤と鍵盤がついている。

 重さは物によりけりだが、重いものでも持ち運ぶのは十分可能である。

 しかし、待ったが掛かった。

 

「アコーディオンは可愛い。でも今回はカッコいいのが良い」

 

 今日の主役はシズちゃんである。シズちゃんがノーと言うのならノーなのだ。

 鍵盤楽器ではなく打楽器の類になるが、木琴や鉄琴なら持ち運びは可能だろう。しかし、どちらも伴奏楽器として使用される事が多い。独奏にはやや不向きである。

 こうして鍵盤楽器は全滅した。

 

「それなら管楽器は如何でしょう? 様々なものを取り揃えてあります」

 

 管楽器は楽器内部に息を吹き込んで音を鳴らす楽器の総称だ。

 黒猫楽団長の言う通りに様々な種類があり、音域も広い。柔らかな音色の木管楽器。力強い音色の金管楽器。どれも甲乙つけられない。

 

「顔が隠れるのはダメ。それにほっぺが膨らむ」

 

 しかし、一発で却下された。

 シズ的には、折角顔がいいのだから僅かでも隠れてしまうのは勿体ないと思うのだ。全ての管楽器奏者に喧嘩を売るが如きだが、あの顔がぷくーっと頬を膨らませるのは避けたいとも思っている。

 

「そうなりますと……」

 

 打楽器はまず不可。叩いて音を鳴らすのはとても楽しいし、奏者はリズムに浸れるが、独奏には向いてない。

 音楽室に揃えてある楽器でシズの要望を満たすのは、

 

「弦楽器ですね。こちらも様々な種類がございます。単独で弾かれるのでしたら、中低音域を担当するものは除外しましょう」

 

 ヴァイオリンより大きいビオラ、更に大きく床に立てて引くチェロ、それより更に大きく人の背丈を越えるコントラバスは、大きくなるに連れて音域が低くなる。どれもベース音を担当することが多く、どちらかと言えば合奏向きだ。

 

「弦楽器でしたらヴァイオリンが筆頭に来ます。高音域の表現力が特に豊かで、情感溢れる旋律を奏でることが出来ます。無伴奏の曲も多いため、独奏との条件にも当てはまります。見ての通りの大きさですから持ち運びに問題はありません」

「ん。ヴァイオリンなら良い」

 

 ピアノに続いて二度目のシズちゃんゴーサイン。黒猫楽団長も頷いている。

 ヴァイオリンに決まりかと思われたが、当の男が首を傾げた。

 

「ヴァイオリンは、確か弓を使って弾くのですよね? 一度に一本の弦を弾くのでは和音が出せないのではないですか?」

 

 単音を奏でるだけでは少々面白くないと思うのだ。

 しかし、黒猫楽団長は否と唱える。

 

「ヴァイオリンでも和音を奏でることが出来ます。ヴァイオリンでは和音のことを重音と呼びます」

「それではもう一つ。無伴奏の曲も多いと仰ったのは、伴奏がある曲の方が多いと言うことでしょうか?」

「確かに伴奏曲の方が豊かではあります。他の楽器と組み合わせることによってより多彩な表現が可能となるのです」

「じゃあヴァイオリンで良い」

「じゃあってなんですかじゃあって。練習するのは私になるんですから、私の意見を聞いてくれてもいいじゃないですか」

「覚えてないようだからもう一度言っておく。これは貸しの清算。反対意見を却下する権限が私にはある」

「お言葉ですが、楽器の演奏技術が今日一日でどうにかなるとは思えません。明日以降も練習を続けるかどうかは私の意思次第なんですよ?」

「むぅ……、ずるい」

「何がずるいんですか、何が」

 

 くだらない言い争いを始めた二人を於いて、黒猫楽団長は考えた。

 弦楽器、持ち運びが容易、顔が隠れない、可愛いよりカッコいい、無伴奏曲が多い独奏向きの楽器は他にもある。その楽器に習熟した楽団員がいないので候補に上げなかった。ナザリックオーケストラには組み込まれていない楽器なのだ。ナザリックに限らず、オーケストラに使用されることは稀な楽器だ。他の楽器に比べると音量が小さいため、音響バランスをとるのが難しいのである。

 けれども、全くの初心者に指導する程度ならば、特に習熟していなくとも可能だろう。

 

「わかりました」

 

 二人は言い争いを止め、黒猫楽団長のつぶらなお目々に目を向けた。

 

「こちらにしましょう」

 

 これまでと違って断定的な言葉である。日々の業務を邪魔されて、いささか疲れてきたのかも知れない。

 黒猫楽団長が持ってきたのは黒いハードケース。弦楽器であるらしく、ボディは女性的な丸みを帯びてそこからネックが伸びている。大きさはビオラより大きく、チェロより小さい。

 留め具を外してパカリと開いて現れたのは、弦が六本ある楽器だった。

 

「クラシックギターです。ギターでしたら無伴奏の曲が豊富です。小さなオーケストラと呼ばれるくらいですので表現力も非常に多彩です。少々お待ち下さい。担当の者を呼んでまいります」

「楽団長が指導してくださるのではないのですか?」

「私は指揮者ですので」

 

 言うなり、黒猫楽団長は行ってしまった。

 

「む。まあ、ギターなら良し」

 

 シズちゃんの合格点も貰えたようだ。

 ケースに収まったままのギターの弦をポロンポロンと鳴らしている。

 

 やや待たされ、黒猫楽団長が連れてきたのは真っ赤な髪を靡かせる若い女性だった。何故か目を伏せている。

 女性の肌は真っ白だが頬には僅かに赤みが差しているので、アンデッドではないようだ。代わりに頭部には一対の短い角が生えている。悪魔であるらしい。

 

「セシルと申します。楽団ではヴァイオリンを担当しております。楽団長より相談役殿にクラシックギターの指導をせよと仰せ仕りました」

 

 鮮やかに青いワンピースドレスをまとったセシルは、シズの向こうを張れるくらいの無表情で一礼した。無愛想は彼女の素なのか、練習の邪魔をされて思うところがあるのか。

 どちらであれ、そのようなことを気にする男ではない。涼し気な笑みで礼を返し、手を差し伸べた。

 

「ギターにつきましては中級者の域に留まりますことをご了承ください。基本は抑えてありますので初学者への指導なら問題はありません。ギターを始めるにあたって目標はございますか?」

 

 男の手を握ることなく言葉を続ける。

 話してる間ずっと男は手を差し伸べていたので、言葉を終えてから握ってやった。

 男の手が僅かに見開かれるが、自分からは離そうとしない。セシルは少しだけ感心したように男を見やってから手を離した。セシルの目は赤かった。

 

「私は氷の悪魔でございます。不用意に触らないようご注意をお願いします」

「わかりました」

 

 男は差し出した右手を振って苦笑した。耐炎耐氷のブレスレットはジャケットのポケットの中だ。一昨日、デミウルゴス様の階層を退去してからはずっと外したままだった。

 ヴァンパイア・ブライドたちの肌は冷たいが、それは人肌に比べて冷たいと言う意味で精々が室温と同程度の体温である。セシルの冷たさはその比でなく、流れる血液すら凍りつく冷たさ。あれだけ冷たいと肌に霜が降りるだろうが、その様子はない。常に冷たいわけではないらしい。

 

「この曲がいい」

 

 二人が初めましてをしている間、シズが本棚から一冊の楽譜を抜き出して持ってきた。ページを開き、とある楽曲を指し示す。

 ずっと無表情だったセシルが眉間に皺を寄せた。

 

「シズ様、これは上級者向けの曲です」

「でもこれがいい」

「どうしてこの曲を選ばれたのでしょうか?」

「曲名。なんだか楽しそう」

「……………………さようですか」

 

 シズに楽譜が読めるわけがない。ナザリックに常駐しているので様々な音楽を聞いているが、曲と曲名は一致していない。そんなシズが曲を選ぶ基準は曲名だけである。

 

 男も譜面を覗き込む。

 五本の線が等間隔に引かれ、線上へ所狭しと黒丸と白丸が無数に打たれ、それぞれが棒や羽を生やしている。

 五線の左端にある記号がト音記号と呼ばれるのは知っていたが、逆を言えばそれしか知らない。

 ページの上部中央に『Sonatina meridonal(Campo.Allegretto)』とある。英語の文法はいまいちだが、辞書は読み漁った男だ。Sonatinaはソナチネ。meridonalは南方の。Campo.Allegrettoはわからない。英語ではなさそうだ。

 どうやら「南のソナチネ」という曲名であるらしい。

 ソナチネは、ソナタ形式の器楽曲。小さなソナタでも通じる。そしてソナタとは、器楽曲の一形式。

 だからなんだと言われたらわからない。音楽には無縁な男だったので、辞書的な意味しかわからないのだ。

 

「……それではこちらの曲の練習を始めましょう。ギターを構えてください」

 

 セシルは諦めるか投げるかしたらしい。

 ガチ初心者に上級者向けの曲はどうなのだと男が声を伴わずに問いかけるが、見えず聞こえずらしく、ケースからギターを取り出して男へ押し付けた。

 いささか投げやりな態度であるが、それなりに指導はするつもりであるらしい。男を椅子に座らせ、足台を持ってきて構え方を教える。

 クラシックギターを弾く時は左足を足台に乗せ、浮いた左太股にボディの括れを乗せて構えるのだ。

 

「相談役殿は右利きですね?」

「どちらでも同じように使えるつもりです」

「では右利きとして始めます。まずは弦の調律からです。私もギターを持ちますから、同じようにしてください」

 

 ギターのチューニングには音叉を使う。セシルが音叉で椅子の足を叩くと、キーンと澄んだ音が響いた。

 

「この音が440HzのAになります。五弦の開放弦と同じ音です。この音と五弦が同じ音になるようペグを捻って調律してください。正しく調律すれば音叉と五弦が共振します」

 

 いきなり情報量が多かった。

 クラシックギターは、ボディの下部からネックの上部まで張られた弦を弾いて音を出す。音は空洞のボディ内部で増幅し、ボディの中央に空いたサウンドホールから音が出る。

 弦はネックの上端まで張られて弦巻と呼ばれる木の軸に巻きつけられ、ペグと呼ばれる摘みを回して張り具合を調整して音の高低を合わせる。

 弦は六本あり、下から一弦二弦と数え、一番上が六弦となる。一弦が高音で六弦が低音だ。なお、Aとは音階を七音階でアルファベット表記した際の基本となる音である。

 

 ギターのチューニングは初心者でも音の高低がわかれば難しすぎるものではない。

 音叉の音に耳を澄ませ、五弦を弾いて音を合わせ、鳴らした音が消える前にペグを回して調整する。

 

 男が音叉を耳元に近付けて四苦八苦している間、同じようにギターを構えてチューニングを始めたセシルは、音叉を口に咥えていた。ギターの音も男とは違って高音で柔らかく聞こえる。

 柔らかい音をどうやって出すのかわからないのでそこは後回しにして、男もセシルに倣って音叉を咥えてみると、幽かにしか聞こえなかった音が頭の中で大きく響く。

 

 男が親指で五弦を弾きながらチューニングしている間、シズは本棚の前でクラシックギターの楽譜を片端から抜き出していた。

 

「これで五弦の調律が完了しました。次は六弦です。六弦の5フレと五弦の開放弦が同じ音です。同じように調律してください」

「ゴフレとは何のことですか?」

「5フレットのことです。左端から1フレ2フレと数え、その5番目」

 

 クラシックギターのネックには黒い指板が張ってあり、そこへ等間隔に金属の棒が埋め込まれている。その棒をフレットと呼ぶ。クラシックギターは、このフレットに弦を押し付けて音階を変えるのだ。

 

「六弦を終えたら次は四弦です。五弦の5フレと四弦の開放弦。四弦の5フレと三弦の開放弦。二弦の開放弦は三弦の4フレなので注意してください。一弦はこれまで通り二弦の5フレです」

 

 難しいことをさらっと言ってくれる。セシルの指導は厳しいというか簡潔というのか。

 男がポーンポーンと六弦を合わせている間に、セシルは全ての弦のチューニングを終えていた。そもそも音の鳴らし方が違う。

 男はそこが気になっているが、言わないということはまだ必要ないことなのだろうと判断して何も言わずに弦を弾いてペグを回した。

 

 男が何とかチューニングを終えた頃、シズは床の上に楽譜を山と積み上げていた。高さはシズの身長の半分を超えている。

 

「それでは南のソナチネですね。私も弾けない曲です。それと言い遅れましたが、ネックの握り方が違います。親指はネックの裏に。指板の上に来ないようにしてください。弦を押さえる時は指を立てて指先で押さえるよう意識してください。調律なので何も言いませんでしたが、右手は手首は浮かせてボディにつけないように。上から弦を摘むような形です」

 

 構え方の指導はさておき、さらっと大変なことを言ってくれた。

 これから先生も弾けない曲を弾けるようにならなければいけないのだ。

 

「最初はコードですので簡単です。私と同じように押さえてください」

 

 コードとは和音のこと。二弦三弦の2フレを押さえるだけである。

 

「全ての弦を同時に鳴らしてください」

 

 男は、言われた通りに一弦には小指を、二弦には薬指を、同じように三弦四弦には中指人差し指を引っ掛け、五弦六弦は親指で弾くことにして、全ての弦を同時に弾いた。

 和音とは心地よく聞こえる音階を組み合わせた音なので、ガチ素人が弾いてもそれなりに聞こえた。

 と思ったのは本人だけで、セシルは首を振った。

 

 なお、シズは高い椅子に座って両膝に頬杖をつき、足をプラプラさせている。

 

「ギターでコードを弾く場合、通常は六弦から一弦に向けて弾きます」

 

 言うだけでやってみせはしないらしい。

 ならばということで、今度は親指を使って六弦から一弦に向けてかき鳴らす。

 音の構成は先と同じ。しかし、先よりも遥かに重層的な音となって広い音楽室に響き渡る。

 これならば、と思うのはやはり男だけで、セシルはまたも首を振った。

 

「それでも悪くありませんが、この曲はこのように弾いてください」

 

 セシルは右手を宙に掲げ、軽く握ってから小指から薬指中指人差し指と、順に開いた。

 男も同じように宙に掲げ、何度か手を開いては閉じ、段々と開く速度を上げていく。

 

「では」

 

 きっかり二十回練習してからギターを構え直す。

 コードを押さえ、右手は軽く握ってサウンドホールの上に。

 練習したのと同じように右手を開いてギターを鳴らした。

 

 扉が開いた。

 色とりどりの断片が垣間見えた。

 

「次はどうなるのですか?」

 

 しばしギターを見つめていた男が顔を上げる。

 セシルは無表情を崩さず、内心でへえと思った。

 

 セシルはオーケストラのヴァイオリンだ。ヴァイオリンを弾くのが仕事であって、初心者に畑違いのクラシックギターの指導をすることではない。プレアデスであるシズの要請で、楽団長から命令されたので仕方なく付き合っている。

 男の態度もよろしくなかった。真面目にやってはいるが自発的に始めたわけではないようで、やらされている感が拭えない。

 それが、コードを掻き鳴らした途端に顔が変わった。

 次の言葉の返答次第で指導を考える必要が出てきた。 

 

「この次はハンマリング*1、プリング*2を多用しているので初心者には難しいです。基礎から練習する必要があります」

「わかりました。基礎からお願いします」

 

 男は間をおくことなく頷いた。これからの指導方針が決まった。

 

「それでは練習室に移動しましょう。ギターを持ってついてきてください。シズ様は譜面を運んでください」

「わかりました」

「ん、わかった」

「ご主人様、こちらにいらっしゃいましたか。シリーたちからの希望は」

「あなたは最古図書館からクラシックギターの教本とギターのコード表を借りてきてください。司書長にお願いすればすぐに出してくださるはずです」

「え? あ、その、私は……」

「ミラ、頼んだ」

「……かしこまりました。こちらがシリーたちからの希望をメモしたものでございます」

「明日の夜明けまでは私が予約してる。だから今夜のは明日の夜にして」

「だそうで」

「……かしこまりました。最古図書館に赴いて指定の図書を借りてから第二階層へ向かいます」

 

 第二階層から戻ってきたばかりのミラは、早速あちこち飛び回ることになった。

 前日からわかっていたことだが、今日のミラは一日ずっとこんなんである。

 

 

 

 練習室は壁に防音処置が施されているだけの狭い部屋だ。面積で言えば、屍蝋玄室にあるシャルティアのベッドより小さい。

 

「まずはこちらを」

 

 セシルが男に手渡したのは、革製のリングに尖った薄板が付けられたものである。

 

「クラシックギターは基本的に爪で弾きます。相談役殿は右手も左手も爪が短いので、爪輪を使用してください。ギター用ではありませんが構わないでしょう。必要に応じて爪を削ってください」

 

 こんなものでも魔法が掛かっているらしく、指に嵌めればキュッと締まってぐらつかない。右手の小指から親指まで全ての指に嵌めた。

 突然爪が伸びて猫にでもなった気分だ。

 

「まずは半音階からです。六弦の1フレから12フレまで、12フレまで来たら1フレに戻ります。その次は五弦、四弦と続けます。メトロノームのリズムに合わせてください。右手も左手もフォームを崩さないように」

 

 メトロノームは縦長の三角形の上部を平坦にした箱で、前面に重りをつけた長い針がある。セシルが針を左に振ると、針は右に左にカチ…カチ…と同じ間隔で揺れ始めた。

 

 

 

 タンタンタンタンと淡々と二人が半音階の練習をしている間に、音階について解説する。

 

 音階は12あり、その中でよく使う7音階が基本となる。いわゆる「ドレミファソラシド」である。

 五線譜の左端にあったト音記号は、記号が強調する下から二番目の線が「ト音」となる。「イロハニホヘト」のトだ。

 ギターのチューニングに使った音はA。「ABCDEFG」のAである。

 

 7音階は、「ドレミファソラシド」「イロハニホヘト」「ABCDEFG」の三種で表す。

 忌々しいことに「ド≠イ≠A」である。「ド=ハ=C」となっている。

 統一する動きはない。全くない。

 音階はドレミかABC、コードはABCかイロハが使われることが多い。Aメジャーをイ長調と言うように。

 

 

 

「右手を意識してください。人差し指と中指以外の指も。弾き方も変えて」

 

 半音階は、基本的に弦を押さえる左手の練習だ。

 1フレは人差し指、2フレは中指、3フレは薬指、4フレは小指、そして5フレにきたら手を移動させて人差し指で押さえる。以降、繰り返し。

 右手は人差し指と中指で交互に弦を弾き、弾いた後はその上の弦に指が触れる。それを触れないように弾けばアルペジオの練習にもなる。

 アルペジオは分散和音のことで、コードを構成する音を別々に弾く。ギターの場合、違う弦を違う指で弾くことを指す。

 

 二人が熱心に練習している間、見ているだけのシズは暇だった。カチ…カチ…と鳴っているメトロノームを弄り始めた。

 メトロノームは針に付けられた重りの位置でテンポが変わる。

 始めにセシルが設定したのは、♪=72(BPM=72、一分間に四分音符が72個)のANDANTE(アンダンテ、歩くような速さで)だった。

 シズが重りを一番上にしたところ、40のGRAVE(グラーヴェ、重々しく)になった。カチ……カチ……と非常にスローなペースだ。

 遅いより速いほうがよいと考えたシズは、重りを再度移動。132のALLEGRO(アレグロ、快速に)へ。

 

 変則的に動かされるメトロノームのテンポに、二人はリズムを崩すことなくついていく。

 シズは更に重りを動かす。160のVIVACE(ヴィヴァーチェ、活発に)になると、メトロノームは絶え間なくカチカチと鳴る。

 テンポを変えた直後は僅かに遅れる男だが、すぐにリズムを取り戻してついていく。この頃になると、セシルはギターから手を離して見ているだけだ。

 ついにシズは重りを一番下に下げた。208のPRESTISSIMO(プレスティッシモ、極めて速く)。カチカチカチカチと鳴ってとても急かされる。

 男は真剣な顔で指板を覗き込みながら両手指を動かし、六弦を親指で弾く段になって渋面を作った。

 複数の指で弾ける五弦以下と違って、六弦は親指で弾く。親指だけでは間に合わない。親指で弾くのを諦め、他の指を使うことで何とかついていく。

 

「ご主人様、借りて……」

 

 十冊の本を持ったミラが入ってきたが、セシルの冷たい目に射抜かれて口を閉じた。

 ミラが来てから、六弦から一弦まで、一弦から六弦までを二往復してメトロノームが止められた。

 男はギターから手を離し、両手を振った。普段使わない筋肉を使って少々疲れたらしい。

 教本に目を落とすセシルは、顔を上げずに口を開く。

 

「こちらの本は誰の名義で借りましたか?」

「私の名前で借りてきました」

「それでは私と楽団長の名前で借り直してください」

「ミラ、頼んだ」

「……わかりました」

 

 今日のミラは終日パシリである。来たばかりなのに最古図書館へ引き返した。

 

「相談役殿の指が意外に動くので驚きました。曲の練習を始めても良いのですが、折角教本が届いたのでコードにしましょう」

「わかりました」

 

 セシルは知らないことだが、趣味でカタナブレイドを振り回している男である。

 当然のことながら握力が必要だ。握り方が違えども、ギターの弦を押さえるのは難しいことではない。

 初心者は小指で弦を押さえるのに苦労するものだが、カタナブレイドで握りの一番下となる左手の小指は要と言って良く、小指も鍛えられている。

 そして、アインズがロボ疑惑を持った男の器用さと時間感覚。

 アインズへモモンズ・ブレイドアーツを伝授した際は0.1秒単位で動きを把握し修正させた。

 54枚のトランプを宙に放ってトランプタワーを築く異質な器用さ。

 両手指のフィンガリングは、ギターのフィンガリングとは全く違う働きだが毎日活躍している。

 

「Aからでは無難ですのでFからにしましょう」

 

 無難なAにすべきところを初心者の壁とされるFである。

 Fは1フレの一弦から六弦までを人差し指一本ですべて押さえる(セーハと云う)のが難しい。セーハする際は指をやや寝かせると成功しやすい。

 

 

 

 握力があり小指の力もある男なのでFに苦労はしなそうだが、ここでコードについて解説する。

 

 コード(和音)は基本的に三音で構成される。トライアドと呼ぶ。

 例としてFを取り上げる。

 基本となる根音のFから三度上、FからFGAと来てA。根音から五度上、FGABCと来てCと行きたいところだがBとCは一度ではなく半音しか離れていないため、C♯。

 FAC♯でコードのFM(Fメジャー)となる。

 三度上ではなく短三度の場合、FではAの代わりにA♭(あるいはG♯)にするとFm(Fマイナー)となる。

 

 BCと同様にEFも半音しか離れていないため注意を要する。

 

 

 

「相談役殿は指が長い上に関節が柔らかいですね」

 

 コードの中には人差し指と小指が離れて、小指に力を入れにくいものもある。指が長く関節が柔らかければそれだけ有利となる。

 基本となるメジャー・マイナーコードに、七度を加えたセブンスコードも押さえさせる。

 コードチェンジもGAC、AmCmaj7♯5C/Gと基本的なコード進行を幾つかさせたが、左手に淀みはない。アインズがロボ疑惑を持っただけはある。

 コードは及第点。右手のフィンガリングも上々。

 曲の練習に入ってもよいと判断した。

 

「……私はもう一度第二階層へ行ってまいります」

 

 本を借り直してきたミラが、練習の合間に報告する。

 色々と良い思いをしているので、たまには頑張らなければならないのだ。

 

「曲の練習に入ります。初心者向けの曲ですと、ロマンス*3が代表です。他にはラクリマ*4、大聖堂*5もいいでしょう。グリーンスリーブス*6も捨てがたい」

 

 そう言われても、男にはさっぱりわからない。

 曲を聞いたことがあるかも知れないシズも、曲名から曲を連想出来ない。

 

「ですが相談役殿の上達が早いので」

 

 言って広げた譜面は「Leyenda*7」。

 

「これにはタブ譜がついているので相談役殿でも読みやすいでしょう」

 

 楽譜は基本的に五線譜で書かれている。

 まず、五線譜から音階を読み取る。音階と弾く場所が一対一のピアノならば話は早いが、ギターは同じ音階を複数の箇所で鳴らすことが出来る。

 C(ド)は五弦3フレが基本だが、六弦8フレも同じ音が出る。どちらを選ぶかは、前後の音やその時のコードによって異なる。

 ギターでは音階を読み取った後、どこを押さえるか探さなければならないのだ。

 それがタブ(TAB)譜だと、どこを押さえるかがそのまま記されている。

 例としてまたFを取り上げタブで書くと、

 

e|----1----|

B|----1----|

G|----2----|

D|----3----|

A|----3----|

E|----1----|

 

 となる。弦の上に書かれた数字が押さえるフレット数だ。左端に書かれた英字は開放弦の音階である。

 なお、3フレは五弦を薬指、四弦を小指で押さえる。二本の指を使わず薬指の腹を使って五弦四弦を同時に押さえる方法もある。出来れば後者に慣れたほうが良い。

 

 

 

 レイエンダの譜面は、低音がメロディを担当し、高音は同じ音が連続して並んでいる。

 セシルが親指で五弦六弦を弾いて低音のメロディだけを鳴らした。

 続いて高音部を薬指、中指、人差し指の三本を使って軽やかにかき鳴らす。

 

「これを譜面通り、同時にやってください」

「セシルさんが手本を見せてくれるのではないのですか?」

「私はヴァイオリニストです。ヴァイオリンは弦楽器の基本なので指導役として選ばれましたが、ギターではなくヴァイオリンが専門です」

「……弾けないのですか?」

「専門ではないと申し上げました。相談役殿の基礎技術なら、少なくとも前半部は弾けると判断しました。もしも弾けなかった場合、相談役殿が手を抜いたと判断します」

 

 すごく嫌な信頼だった。

 単調な練習風景を見てるだけで退屈だったシズは、ペラペラ捲っていた楽譜を置いて男を向いて座り直す。

 いつもの無表情が心なし踊っているように見えた。

 

「それでは…………」

 

 男がレイエンダを弾き始めた。

 アインズがロボ疑惑を持った男であっても、いきなり高難度の曲は弾きこなせない。

 始めはゆっくり。ベース音を鳴らしてから高音部の三連符を丁寧に弾く。

 まずは練習であるらしく、同じ小節を二度三度、五度六度と繰り返す。

 次の小節に移り、やはりゆっくりと。

 そこで止めた。

 

「ふむ…………」

 

 レイエンダの前半は、左手の難易度は高くない。弦を弾く右手のフィンガリングがとかく忙しい。

 男は左手を掲げて宙で何度か指を動かした後、レイエンダを弾き始めた。

 

(おお!)

 

 シズは静かに唸り、セシルは伏せた目を見開いた。

 

 遠くで早鐘が鳴っている。そこへ荘厳なメロディが絡んでいる。

 

 弾いている男も旋律に酔っていた。ポロンポロンと鳴るだけだったギターから、このようなメロディが生まれるとは想像も出来なかったのだ。

 今日がギターに初めて触った初心者とは思えないが、いささか単調ではあった。

 タブ譜なので譜面は読めても、強弱を指定する音楽記号を読めないのだ。

 途中、コードを押さえてジャランと掻き鳴らす。

 やがて曲調がゆっくりとなり、

 

「……ここはどうやって弾くのですか?」

 

 Harmと書いてある。文字を無視して弾くとしっくりこない。

 

「ハーモニクスです。フレットの上を軽く押さえて弾きます」

 

 セシルが実演してみせた。ポーンと柔らかい音が長く響く。

 チューニングの時にセシルが使っていたのはハーモニクスだった。

 

「そのあたりは教本に書いてあるので熟読して下さい。ひとまず休憩にいたしましょう。そろそろ昼食の時間です」

「私は練習しています。お二人はどうぞ」

「ではそうさせていただきます」

 

 二人は男に付き合う素振りを微塵も見せず、練習室を後にした。

 一人残った男はギターをスタンドに立て、教本を開いた。

 

 集中力は凄い男である。

 どれほど集中するかと言えば、ソリュシャンに腕を溶かされても気付かないほど。

 記憶力も凄い男である。

 意識して読んだ物は全て記憶の宮殿に収め、いつでもどこでも寸分違わず思い出すことが出来る。

 速読も凄い男である。

 1ページあたり二千字超を秒単位で把握して記憶の宮殿に放り込む。

 

 教本とギターのコード表を全て読み終えたらひたすらギターを掻き鳴らす。

 音楽に触れるのが純粋に楽しいのだ。

 

 ナザリックは兎も角として、エ・ランテルのお屋敷にも帝都のお屋敷にも音響機器はない。当たり前である。

 音楽に触れたければ、生歌か生演奏しかないのだ。

 それを自分の手で生み出すことが出来る。

 楽しくないわけがない。

 旋律に酔いしれ身を任せ、恍惚としながら音の世界に浸り切る。

 

 昼食に行った二人が帰ってきたことも気付かない。

 手が止まるのは、タブ譜ではなく五線譜を見て押さえる場所を試行錯誤している時だけ。

 

 口に何かを差し込まれ、無意識にチュウチュウ吸った。シズ専用超高カロリー甘々飲料だった。

 無駄に頭を使い続けている男なので基礎代謝が高く、食事量もそれなりに多い。今日はそれに輪をかけて、新しいことに夢中になっている。シズ専用ドリンクは一杯で成人男性の一日の必要カロリーを超えるが、男は何の問題もなく飲み切って、空になってなおストローを吸い、ズズズと鳴らした。

 

「ねえねえセシル。これとこれって同じ曲? 名前が似てる」

「朱色の塔とCrimsonTowersですか。前者は知っていますが後者は知りません。こんな曲があったのですね。あとで相談役殿に弾かせましょう」

「そうする」

 

 朱色の塔はクラシックギターの曲であり、レイエンダと同じくアルベニス作、セゴビア編曲。

 CrimsonTowers*8も名前を和訳すれば朱色の塔かも知れないが、ブラックメタルバンド*9のインストナンバーである。

 

「相談役殿にギターを触らせたのはシズ様の慧眼でした」

「我ながらそう思う。出来るとは思ったけどどハマリしてる」

 

 何度か音楽室に顔を出したミラは、セシルから睨まれ、シズから静かな圧力を受け、ご主人様に伝言を伝えること叶わず物言わぬ彫像となった。動かなくても耳は聞こえる。

 ご主人様の指から生まれる旋律に心身を浸らせ、立ちっぱなしでいることも気にならず、時間を忘れて聞き入った。

 

 

 

「ここまでにしましょう」

 

 突然、セシルが横からギターのネックを握った。どんな音を鳴らしていても、弦に触られると音が止まる。

 我に返った男が時計を見ると、夕食時を回っていた。

 

「む、まだ南のソナチネを聞いてない」

「それは後にしてください。私には私の都合があります」

「じゃあセシルが行った後で弾かせることにする」

「休ませてください。朝から弾き通しです。休憩が必要です」

「いえ、私はまだ」

「休憩が必要と申し上げました」

 

 シズが相手でも有無を言わさない。

 セシルは、ナザリックへの忠誠心が薄いわけではなく、上位者への敬意がないわけでもない。仕事に忠実なだけなのだ。

 セシルの仕事とはヴァイオリンを弾きこなすこと。ヴァイオリンに関わることなら兎も角、それ以外のことはたとえ上位者の言葉であろうとヴァイオリンより下に来る。

 アルベドら上位者たちは楽団員たちの扱いをわかっているので、問題が生じたことはない。

 そもそもにして、ヴァイオリン弾きに給仕せよ、などと無関係な命令をする方が無茶なのだ。

 

「続けるにせよ、夕食をきちんと取ってからにしてください。ですがその前に」

 

 いつの間にかセシルの左手に優美な曲線を持つヴァイオリンが、右手には真っ直ぐな弓があった。

 

「私の担当はクラシックギターではなくヴァイオリンです。ソリストを務めることもございます。私がヴァイオリニストであることを思い出していただきます」

 

 ヴァイオリンを左肩に乗せ、細い顎と挟んで固定する。

 右手は弓を掲げる。セシルの肌は白く、弓は黒い。長く伸びた青い爪が映えている。

 セシルは目を閉じたまま、弓を引いた。

 物静かに始まった曲は、段々と激しく情熱を帯びていく。

 氷の悪魔であるのに、揺れる赤髪は炎のようだ。

 

 セシルの選曲は24のカプリース。超絶技巧を要する高難易度で知られるヴァイオリンの独奏曲。曲を書いたのはパガニーニ。

 パガニーニの超絶的演奏技術は悪魔に魂を売って得たと恐れられ、死後数十年は埋葬の許可が出なかった。

 

 悪魔に魂を売った男が書いた曲を、本物の悪魔が悪魔的技巧を駆使して弾いている。

 悪魔に魂を売ってでも聴く価値があった。

 

 セシルが弓を下げると、三人の聴衆は割れんばかりの拍手を送った。

 セシルは弓を掴んだ右手でスカートを摘んで膝を折り、

 

「ありがとうございます」

 

 初めて笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 セシルとの交渉の結果、練習に使ったクラシックギターは貰えることになった。

 生成に要するコストはユグドラシル金貨で30枚。金貨30枚と言うなかれ。伝統ある伯爵家の家宝になっていてもおかしくない超高級ギターである。

 金貨30枚はセシルのポケットマネーから出た。給金を貰わない生活を送るセシルであるが、生活に必要なものは全て支給され、金貨を使ってまでして欲しいものがない。最初から持っていた僅かなお金から捻出した。

 

 ところで、セシルは楽団員である。楽団員が楽器を欲しいと言えば、当然無償で提供される。ギターの価値は正しくても、消費したコストはすぐに補填される。

 セシルはナザリックの悪魔である。極悪集団ナザリックに相応しくカルマは負に振れている。息をするように悪を為すのだ。

 クラシックギターを貰えて心がビュンビュンしてる男が、返せない借りはとても高いと知るのはまだ先である。

 ペストーニャからブレスレットを貰って借りの高さを思い知ったはずなのだが、そこまで頭が回らなかった。

 だから賢いのにバカと呼ばれるのだ。

 

 ギターは練習室に置いてきた。明日以降も通うつもりでいる。

 それとは別に、サラマンダーたちとの打ち合わせがまだ残っている。シリーたちに借りを返さなければならない。その内フィースにも捕まるだろう。ナザリックに滞在できるのは明後日の昼までだ。

 

「それじゃこれからは大人の時間」

「夜明けまでお付き合いしますよ。一睡くらいはしたいものですが」

「一応検討しておく。でも南のソナチネ*10を聞いてない。だから確約は出来ない」

「……さようで」

 

 夕食は固形物を取りたかったが、昼と同じでシズが持ってきた甘々ドリンクになってしまった。

 特製ドリンクを食事にすると、食事時間が短くて済み、簡単にお腹が膨れる。味覚がバカになりそうなくらい甘いが、これはこれで割と美味しい。けれどもドリンク。少々味気ない。

 今のシズはじっくり食事より時短を優先するようだ。

 

「むっふー」

 

 シズは、並んで歩いていた男の手を取る。

 そのまま腕を組んで、慎ましくもちゃんとある膨らみを押し付けた。

 

 ミラはいない。一旦エ・ランテルに戻るようだ。何があったかは、二人共聞かされていない。問題が生じたなら一番に報告するはずで、それがないのだから私的な事なのだろう。

 

「私の部屋に行ってもいいけど、お風呂に入りたい。どこのお風呂が良い?」

「私が知っているのは前回入った露天風呂だけです。シズさんの部屋にもお風呂がついているんですか?」

「ちっちゃいけどついてる。お風呂じゃなくてシャワーならセーフティルームにもついてた」

「そこはまた次の機会にしましょう」

 

 ヴァンパイア・ブライドのシリー達と会うのに使うつもりなのだ。

 

「んーーー。じゃ、露天風呂。まだ時間が早いから誰も入ってないはず。お風呂に入って、それから私の部屋」

 

 男が「承知しました」と応えようとしたところ、ああーーーーっ!! と大きな声に遮られた。

 

「おにぃちゃん昨日も今日もどこにいたのぉ!? ずーっと探してたんだよぉ!」

「昨日はアウラ様のところに。今日はシズさんに付き合っていました。それより…………」

 

 男は二度三度瞬きしてから、傍らのシズを見た。

 シズはぽかーんと口を開いてエントマを見ている。

 

 駆け寄ってきたエントマは、声に喜色が乗っているのは良いとして、ニコニコと笑っていたのだ。

*1
鳴っている弦のフレットを叩くように押さえて音階を上げること

*2
指板上で弦を引っ掻くようにして音を鳴らし、音域を下げること

*3
愛のロマンス。映画タイトルの「禁じられた遊び」として有名。初心者向けと言われるが結構難しい

*4
曲っぽくなるのは結構簡単。いい感じにしようと思うと要技術

*5
数多ある大聖堂の中で、ここで言っているのはバリオスの「LA cathedral Preludio(プレリュード)」のこと。左手はコード、右手はスローなアルペジオ。ロマンスより簡単だと思う。エース・コンバット4のあちこちで流れていた

*6
有名なイングランド民謡。様々なアレンジがある。ジェフ・ベックのは少し難しいがカッコいい

*7
レイエンダ。アストゥリアス(Asturias)の方が有名か。アルベニス作。元はピアノ曲だったがギター神セゴビアがギター曲として編曲した。名曲。とても難しい

*8
作者が初めて耳コピした曲である

*9
Dissection。ボーカル・ギターのジョン・ノトヴェイトはファッションではないブラックだった。つまりは悪魔崇拝。BURZUMのカウント・グリシュナックといい、真面目にブラックメタルをしてる奴らと来たらもう……

*10
今更の注だが、メキシコ出身のポンセが作曲した。一音目から引き込まれる華やかで明るい名曲である。とても難しい




音痴を越えるためにギターを始めたら借りが増えて、シズとお風呂に行こうとしたらエントマ登場

セシルの名はクラシックギター奏者イェラン・セルシェルから
以下、イメージ

【挿絵表示】

PixAIで作成
どうやってもセクシー且つ幼くなる
角は白で服は青で髪はそうじゃなくてってさっきと画風違うじゃんとか何度もやりながら作成
でも楽しかったです
簡単に何かを作った気分になれるのがいいですね!


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私が姉でそっちが妹

本話10kちょい


 固まっていたシズがこう言った。

 

「顔が変」

「はア?」

 

 エントマの声は尻上がり。ホワイトピンクになりつつあった空気が固まった。

 

 プレアデスの姉妹は基本的には良好な関係を保っている。が、シズとエントマは時として対立することがある。どちらが末妹かを争っているのだ。

 シズもエントマも、自分が姉であっちが妹と譲らない。事あるごとにぶつかって、それでもやっぱり仲良しなので仲直りも早い。この時も、何事も無ければすぐに仲直りするはずであった。

 余計な男が余計な口を挟まなければ、この後の悲喜劇は避けられたかも知れない。

 

「今のはシズさんの言葉が足りなかったですね。シズさんは、そして私も、エントマさんが可愛く笑ってたので驚いたんですよ。その顔は仮面なんですよね?」

「仮面だけどぉ……。こっちの顔も本当の顔って言ったのはおにぃちゃんでしょぉおお!」

「そうでした」

 

 数日前、エ・ランテルからナザリックに向かう馬車の中で話したこと。エントマの本当の顔を見たいがためにあれこれ言い募った。とはいえ、口にしたことは本心でもある。エントマと自分の顔の違いは、取り外しが可能であるか否かだけと思っている。今は整っていると評価される自分の顔も、すぐ下には爛れた顔があり、その下には頭骨がある。

 長く灼かれた顔でいたこの男ならではの価値観だ。

 

「だからぁ、ティトゥスとかに手伝ってもらって幻術で色々工夫したのぉ。ずっとは無理だけど、一回掛ければ一日くらい平気ぃ」

 

 以前から幻術を使い、物を食べる時は仮面の口から食べているように見せる事があった。それを少し応用して、感情に相応しい表情が出るようにしただけである。

 アインズはモモンとしての顔を見せる際、お骨のお顔に肉のある顔を映して様々な表情を見せる。それに比べれば、仮面の表情を変えるくらいは難しいことではない。

 アインズは卓越した魔法使いなのでさらりと幻術を使うが、蟲使いで符術が専門のエントマはちょっと頑張らなければならなかったが。

 

「とても可愛らしいですよ。エントマさんが笑うとそのようになるんですね。皆さんもエントマさんの笑顔で心を癒されるに違いありません」

「えへへ、そうかなぁ〜?」

「そうですとも」

 

 エントマは、仮面であることを特に意識しないでいた。仮面の下の顔を皆に見せても、ナザリックは異形種に溢れているのだから何か言われるわけがないし思われる事もない。

 それが、仮面もエントマの本当の顔と言われた。仮面であってもエントマの創造主である源次郎から与えられた顔なのだ。紛うことなきエントマ自身の顔である。

 自分の顔なのだからもう少しお手入れを、と。男がカルネ村にいた一昨昨日に幻術を完成させ、ナザリックにいる皆に見せて回った。男が言ったように大好評であった。アインズ様からも「うむ、いいぞ」とお褒めの言葉を授かりエンちゃん大満足である。

 

「それでねそれでね? ポーションももらってきたよぉ! ピッキーにおねだりして下級ポーションが3つだけだったけど。でもでもおにぃちゃんならこれで回復するよね? ねぇねぇ、お肉ちょーだい♡」

「まあ、約束しましたからね」

 

 とっても可愛いエントマが、満面の笑みを浮かべて、おねだりしてくるのは人肉である。見た目と発言のギャップに男は苦笑した。

 

「ですが、エ・ランテルに戻るまで待ってください。ナザリックでは手足を落としても回復できませんから」

「えぇええええーーーーーーーーっ!! ペストーニャがいるもん! ルプーよりすごい回復魔法使えるんだよぉ!?」

「エントマさん、ちょっと考えてもみてください。もしもペストーニャ様に、「お肉食べたいから手足もぎました。回復してください」なんて言ったら何と言われると思いますか?」

「………………あ」

 

 ナザリック最後の良心にして、ナザリックのメイドたちを束ねるメイド長にして、ナザリック第九階層「ロイヤルスイート」の管理を担う高レベル神官にして、可愛いわんこのペストーニャ様である。

 かくかくしかじかで回復してくださいと言おうものなら絶対に怒られるのが目に見えていた。

 特にこの男は、ペストーニャからは魔法のブレスレット(黄金の輝き亭四軒分)をもらったり、超高級ポーション(贅沢なことに破瓜の痛み止めになった)をもらったり、何度も回復魔法のお世話になったり、ロイヤルスイートで行き倒れたのを助けてもらったり、果てはリザレクションもかけてもらったりと、返そうにも返せない借りが大量にある。

 そこへ新たな項目を重ねるのは、叶うならば避けたい。

 エントマもペストーニャに怒られるのを予想したようで、ぷんぷんしたお顔が固まった。

 

「うーーーー、じゃぁエ・ランテルに戻るまで我慢するぅ……。我慢するから、戻ったら左腕だけじゃなくて足も欲しいなぁ?」

「わかりました。手足を三回分ですね。回復するまでの間隔を一時間以上空ける必要がありますから、その時の都合次第で少し時間がかかるかも知れません。そこは留意しておいてくださいね」

「はーい♡」

 

 ちょっとしょんぼりして上目遣いになったエントマは、目を輝かせ太陽のように明るい満面の笑みを見せた。

 今までは声だけで感情を伝えてきたエントマだったが、表情を表すようになると実にコロコロと変わって可愛らしい。ニコニコしているエントマを見ると、見ている方もニコニコしてしまうのは仕方ないことだろう。

 しかし、もう一人の人物はニコニコしていなかった。

 笑ってはいる。嗤って、の方が適切かもしれない。

 

「おにく………………。ふっ」

 

 シズが鼻で笑った。無表情ながらに口角をわずかに釣り上げ、肩を微かに震わせる。

 

「………………なに?」

「別に。お肉で喜べるエントマが羨ましいだけ」

「……おにぃちゃんがくれるって言ったんだもん」

「そこには興味ない。私の興味は別にある」

「何のこと?」

「エントマにはまだ早い」

「………………はア?」

 

 平坦なシズの言葉と違って、エントマの声はまたも尻上がり。

 シズは口角を上げたまま男の腕に腕を絡めて引き寄せる。エントマと似たような身長なのに、大上段からこう言った。

 

「私が摂取するのは動物性タンパク質」

「お肉のスープでも飲むのぉ?」

 

 これでは伝わらないかと、シズは言い直した。

 

「これから一緒にお風呂に入る」

「!?」

「体を洗いっ子したりする」

「!?!?」

「隅から隅まで全部洗う」

「!?!?!?」

「もちろん私も洗ってもらう」

「ししシズどうしたのぉおお!?」

「子供じゃない大人の時間」

 

 シズの口角が更に上がる。シズはニヤリと嗤った。エントマはピタリと固まった。

 シズは言葉を伴わずにこう言っているのだ。

 

『私が姉でそっちが妹』

 

 男はマズイと思った。このままではシズとエントマの仲が危うくなってしまう。咄嗟にフォローした。

 

「シズさんはああ言ってますが、一緒にお風呂に入ったからと言って大人とは限りません」

「……おにぃちゃんはそう思うぅ?」

「ええ、勿論です。エントマさんは十分素敵な大人の女性ですよ」

「………………」

 

 男はデリカシー(偽)を発動した!

 

 先程、エントマとシズが衝突しかかったのを止められたのは、自分にデリカシーが備わってきたのだと自画自賛してたのだ。一度出来たのだから、もう一度デリカシーを発揮してエントマを宥めなければならない。

 しかし、それは全くの勘違いである。デリカシーを覚えたのではなく、飛び火を恐れた保身であった。

 

 エントマが自分のことを子供だと思って落ち込まないよう言葉を尽くす。

 心から思っていることでも言葉にしなければ伝わらない。一方、全く思っていないことでも言葉にすれば相手に伝わる。ソリュシャンから押し付けられた数多のロマンス小説から、男は学んでいたのだ。ロマンス小説から引用した美辞麗句でもってエントマが如何に大人の女性であるかを賛美する。

 

 男が言葉を続ければ続けるほど、エントマの顔から表情が抜けていく。コロコロ変わって愛らしかったエントマの顔は、元の仮面のようになった。

 エントマの顔は更に変わり、ぱっちりしたお目々は細められ、愛らしい小さな唇は固く結ばれる。柔らかそうなほっぺたはヒクヒクと引き攣った。

 

 子供子供言われるのは、まだいい。

 彼は大人の男性だ。彼から見て自分が子供に見えるのは仕方ない。

 しかし、大人だ大人と言われるのは頭に来た。どう考えても絶対に大人だと思われていない。いつぞや、ソリュシャンとルプスレギナを交えてご褒美の話になった時、直接ではなかったが暗に、子供扱いしている、と言われている。甘やかしたら成長に悪影響、なんて言うのは露骨な子供扱いだ。

 思ってもいないのに、素敵な大人の女性と言ってくる。

 凄く凄く頭に来たが、彼の顔を見ればからかっているのではないことはわかる。多分おそらく自分を慰めてくれているのだろう、致命的に間違っているが。ナザリック第九階層「ロイヤルスイート」で、史上初の傷害事件を発生させるのは何とか耐えられた。

 しかし、このまま言われっ放しなのは自分の矜持が許さない。シズではなく彼に、自分は子供っぽいだけじゃないと主張しなければならない。

 気付けばこんな事を言っていた。

 

「私も一緒にお風呂入るぅ!」

「えっ」

 

 驚く男の傍らでは、シズが頭を振って嘆息した。

 

「お前やっぱりバカ」

「失礼な。撤回を求めます!」

「おにぃちゃんのバカ!」

「エントマさんまで!?」

 

 やっぱりバカであるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 スパリゾートナザリックの天然神造温泉は地上もとい地下の楽園である。男女が一緒に入るのだから、選んだのは当然混浴露天風呂だ。

 いつぞや述べたように、混浴露天風呂を使うのはアルベドだけである。シズとリファラとキャレットがスパリゾートを利用した事で他のシモベたちも時々利用するようになったが、女性たちは混浴するのが恥ずかしいし、男性たちは混浴に入って有らぬ誤解を受けては堪らぬと敬遠している。

 脱衣所は男湯・女湯・混浴湯でそれぞれ分かれているため、中で鉢合わせる事はない。

 先に入った男は、今回も開放感溢れる広い風呂を独り占めした。

 

 じゃぶんとかけ湯をして、静かに大きな露天風呂に浸かる。風呂の縁石に頭をもたれ、ふいーと手足を伸ばした。

 ふと思うことがあり、じっと手を見る。小指から人差し指へ順に動かし、次は逆に動かす。五指を滑らかに動かして湯面を叩いた。風呂に入る前より動きが軽やかに滑らかになっている。ナザリックの神造温泉には傷を癒やす効果があるのだ。

 この日は朝からずっとギターを弾いていたので、気付かないうちに手指が炎症を起こしていたらしい。慣れない筋肉を酷使しすぎたのである。自覚症状はなかったが、隣で聴いていたセシルは気付いたのだろう。セシルが続けての練習を止めたのは正解だった。

 クラシックギターをもらった事もあり、セシルへの感謝を深くしてから記憶の宮殿に埋没する。

 

 イメージトレーニングは誰しもすることだが、この男は極地の一つに達している。

 風呂に浸かりながらも譜面を広げてクラシックギターを掻き鳴らす。残念なのは、ギターを幾ら弾いても音がしないことだ。左手でフレットを押さえ右手でフィンガリングするのは実際にしているのと変わらないが、音だけはしない。音感が致命的なのである。

 音が鳴らなくても運指の練習は可能。南のソナチネの五線譜を見ながら、どこを押さえてどう弾けばいいかを試行錯誤。明日にはシズを満足させる演奏が可能だろう。

 

 運指を把握して二度弾き通した頃、ようやく女性脱衣所の戸が開く音が聞こえた。お風呂に入る時も、女の子の準備は時間が掛かるものらしい。

 

「待たせた」

「先に楽しんでいましたからお気になさらず。シズさんは…………。ええと、何といいましょうか……」

 

 風呂の中で振り返った男の先に、シズが男らしく仁王立ちしていた。前回と同じく水着姿である。今回はスクール水着ではない。とてもコメントに困る水着だった。

 

 シズの両肩から細い紐が伸びている。紐は胸元でクロスして申し訳程度に幅を増してから乳房の中央を通って背中に消える。それと入れ替わるように背中から現れた二本の紐は股間へ向かって合流する。角度は非常に鋭く、面積も極小。

 シズがくるりと回転すれば、後ろはまんまXY。背中の真ん中でクロスして、腰骨の上から尻の割れ目に向かう。フロントは生地らしきものが少しはあったのに、バックは完全に紐だった。

 とてもセクシーな水着である。しかし、着ているのはシズである。腰はくびれて健康的な色っぽさが少々あるものの、色々なボリュームが絶対的に足りてない。とてもコメントに困る水着である。着替えたシズを見たエントマは「シズの変態エッチさん!」と叫んだ。ちなみに色は濃紺だ。

 

「とても洗練されたデザインの水着ですね」

「判断が遅い!」

「わぷっ」

 

 シズは、手にした桶でじゃぶんと男の顔にぶっ掛けた。

 

「それでエントマさんは……」

「うぅ………………」

「服を着たまま入るんですか?」

「服じゃないもん浴衣だもん! お風呂は浴衣着て入ってもいいの!」

 

 エントマは服を着たままだった。いつも来ている装束と構造が似ている。男が知っている衣服で言うと、ナイトローブの丈を詰めて薄手にしたようなもの。

 手は依然として長い袖の中に隠れているが、脚は膝から下が見えている。エントマの脚はほっそりとした少女の脚だった。

 

 

 

 エントマはアラクノイドである。別名が蜘蛛人であり、人の形をした蜘蛛である。

 当初のエントマは蜘蛛人の名のごとく、蜘蛛を人の形に押し込んだ姿をしていた。体色は蜘蛛と同じ黒や茶や黄色に緑の斑模様。全身に繊毛がびっしりと生え、蜘蛛らしくところどころに結節があった。

 しかし、アインズが今もなお折に触れて焦がれる懐かしき時代に、とある勇者が訴えた。

 

『源次郎さん! それじゃエントマが可愛そうでしょうどうして蜘蛛のままなんですかエントマはプレアデスの一人なんですからそのままじゃダメですってこのままだと姉妹から仲間外れされちゃいますよ考えてもみてくださいもしもいつかプレアデスが全員でお風呂に入ったら皆はちゃんとした女の子なのにエントマだけ蜘蛛ってありえないでしょうちょっとこれはないですよおかしいと思いませんか思いますよね? ね? ね? こんなの絶対間違ってますって大丈夫大丈夫擬態って設定がちゃーんとあるんですからエントマが人間になるわけじゃなくてアラクノイドのままです見た目がちょっといい感じになるだけですから問題はまったく何もありませんしいつもは割烹着の下に隠れてるんですから見た目が変わるわけじゃありません全くおんなじです気分の問題なだけなんですからいいですよね? ね? ね? ね? 俺たちみんな仲間ですもんね固い絆に結ばれちゃってますよね? ね? ね? ね? ホワイトブリムさんとか折角スゴい人がいるんですから手伝ってもらわないなんて勿体ないって思いますよね? ね? ね? ね? ね? よっしゃ!! みんなー源次郎さんのオーケー出たからエントマの外装いじるの手伝ってー』

 

 彼は鳥の姿であるのに、全ての女の子の味方であった。

 

 

 

「そう言えば辞書の一つで読んだことがあります。湯浴み着と言いましたか。着たまま風呂に入るための衣服だとか。浴衣は入浴の浴に衣と書きます。浴衣は湯浴み着の一種だったのですね」

「そうなの! だから着たままでいいの!」

 

 エントマは細い腰紐を固く結んで、襟をしっかり合わせている。しかし袖口も裾も襟も広く、丈が短いのもあって入浴に適していると言われたらそうなのだろう。

 生地は薄手で色は白。透けて見えても良さそうだが、どんな服でも魔法がかかってるナザリック製の衣服は、目的外で透けさせることはけしてなかった。

 

 シズは腰を折って湯を汲んだ。

 エントマは両膝を揃えてその場に屈む。浴衣は丈が短く膝上なので、しゃがまれると奥が見えるのではと期待してしまうのは男の性。残念ながら、上品にピッタリと太股を合わせているので、膝頭しか見えない。

 シズがじゃぶんと湯を被る。

 エントマは静かに肩から掛ける。浴衣が湯を吸って肌に張り付き、エントマの体のラインが浮き出てきた。薄手なのもあって、細かな凹凸も見えそうだ。

 

「おにぃちゃんのエッチ! こっち見ちゃダメ!」

「わぷっ」

 

 シズに続いてエントマからもお湯を掛けられてしまった。

 エントマは怒ってる顔もとても可愛い。

 

 掛け湯をした二人も風呂に入った。

 100人同時に入れる広い風呂である。シズは男のすぐ隣に。エントマはやや離れたところに。

 

 色々なことをしてきたシズは裸のお付き合いは歓迎するところであるが、エントマとしてはやっぱり恥ずかしい。お風呂なので彼は裸だし、自分は浴衣を着てはいるものの入浴用なので生地が薄いわ丈は短いわで恥ずかしい。浴衣の下には下着なんてつけていないのだ。

 風呂はとても広い上に一人用浴槽も複数あるので、どうしても恥ずかしくて嫌ならば離れて入ったり別の浴槽に入ることも出来る。しかし、露骨に距離をとったら彼を避けてるようで心を傷つけてしまうのではと考えた。

 エントマはお肉大好きでも、カルマは中立よりである。性悪姉妹に極悪認定されてる男よりよっぽど思いやりに満ちているのだ。

 

「エントマさんは昨日も一昨日も私を探してくれていたんですね。さっき話したように、今日はシズさんに付き合って楽団員のセシルさんからクラシックギターを習っていました。昨日は一日中アウラ様のところにお邪魔して、一昨日は色々動き回っていましたからすれ違ったようです。デミウルゴス様に時間をとって頂きまして、シャルティア様からのご恩返しを少々」

「おにぃちゃんギター弾けるようになったのぉ?」

「中級者にはなれたと思います。明日は明日で色々忙しいですけど、ギターを貰えることになりました。エ・ランテルに戻ったらお聞かせしますよ」

「へーーーーーっ! それじゃ楽しみにしてるねぇ♪」

「ご視聴に耐える腕前になっておきます」

 

 他愛無い会話で緊張がほぐれてくる。

 一緒にお風呂と言っても、体の隅から隅までを見せたり触ったりする必要はないのだ。いつもよりちょっと無防備な格好でお湯に浸かっているだけ。恥ずかしくて緊張していた自分が子供っぽさを証明してるようでちょっぴり恥ずかしくなってきた。

 お湯の中に半分顔を沈め、ぶくぶくとあぶくを湧かせた。

 

 平和になったエントマの隣は少し大変になっていた。

 

(ちょっとシズさん! 隣にエントマさんが入ってるんですから!)

(だから?)

(だから、じゃないですって。風呂から出たらシズさんの部屋に行くんですから、それまで我慢してください)

(我慢できてないのはそっち。ちょっと立ってきてる)

(触るからですよ)

 

 丸一日でフル装填可能な男である。様々な経験によってそちらの回復力が凄いのだ。

 そこへナザリックの神造温泉。癒やしの効果で失ったものが回復していく。更にその上、この日は朝から一度もしてない。ギターに夢中になって、そんな事は思いもしなかった。思いはしなくても体は別。体感的には一週間禁欲を続けたようなもの。シズの手に逞しく反応しつつある。

 

(このままではまずい!)

 

 シズにはいつも好き勝手されている。

 どういうわけかいつの間にか上下関係が形成されて、これまたどういうわけかシズが上になっている。

 そこへ一石を投じなければならない。

 力づくでシズの手を跳ね除けるのは不可能。

 言葉でどうにかなるなら困ってない。強く言えば聞いてくれるかも知れないが、それではエントマに気付かれる。

 そこで男は、はたと閃いた。この場にはエントマがいるのだ。

 

「エントマさん、ちょっといいですか?」

「なぁにぃ? 浴衣は脱がないよぉ?」

「そうじゃありませんよ。ポーションを頂いた先払い、と云うのは少しおかしいですが、今ならちょっとかじってもいいですよ」

「えっ!」

 

 エントマは大きな目をぱちりぱちり。目を丸くして男を見つめた。

 

「エントマさんは知りませんでしたか? この温泉には癒やしの効果があるようです。少しくらいの傷ならすぐに回復するんです」

「そうなのぉ?」

 

 エントマは、女湯には入ったことがある。そちらでも癒やしの効果を含め、様々な効能がある。が、怪我をした状態で風呂に入ったことはない。怪我をすればポーションなり回復魔法で回復する。療養を目的に風呂に入ったりしないのだ。

 

「まずは試しに少しだけ。とれたりするようなのはダメですよ?」

「はーい。それじゃ、ちょっとだけぇ……」

 

 エントマは男のすぐ隣に来て、男が伸ばした左腕を両手で掴み、前腕をちょこっとだけパクっといった。齧ったところからは少々血が滲むだけで流れ出たりはしない。

 男は湯の中に腕を沈め、十秒経過。

 

「おぉ〜〜〜〜!」

 

 湯から上がった腕は元通りになっていた。

 しかも、ポーションや回復魔法と違って瞬間的に回復するわけではなく、いわゆるリジェネ効果で時間経過によって少しずつ回復するため、お腹に入ったお肉が消えた感覚はない。

 

「色々試してみましょう。今度はもうちょっと多めにどうぞ」

「はーい♡」

 

 風呂に入ったばかりの緊張は完全に消えていた。喜色満面でわーいと男の腕をぱくりぱくり。

 今度も十秒で傷は跡形もない。

 続いて二口。更に二口。段々お腹に溜まってきた。

 

(うーむ……。あまり痛くない。これがソリュシャンだといい気付けになるんだが)

 

 痛みを与える目的でじわじわ溶かすソリュシャンと違って、エントマは鋭い牙でサクッと齧り取る。鈍らな刃で傷つけば痛いが、鋭いと痛いよりも熱い。痛みには強い男であり、その上負った傷はすぐに回復してしまう。

 痛みでシズの手に対抗するのはいいアイデアに思えたが、順調とは言い難かった。

 

「あっ!?」

 

 突然エントマが声を上げ、背中を向けた。

 

「どうしました? もっといいですよ?」

「ご飯食べた後だもん。もうお腹いっぱいになっちゃったのぉ」

 

 お肉大好きなエントマだが、ソリュシャンと違って人一人を丸呑みできたりはしない。小柄な体格相応、よりもちょっと多目かもしれないが、大食漢と云う訳ではないのだ。

 お腹が膨れたエントマは、美味しいお肉以外に目を向けることが出来た。出来てしまった。

 

 夜である。

 露天風呂は外の時間と同期して周囲は暗くなっている。夜空を楽しめるように眩い光はなく、仄かな間接照明が辺りを照らす。

 それでも長時間暗がりにいれば目が慣れてくる。白い湯煙の下が薄っすらと見えてくる。暗視のスキルがなくても、エントマは男より夜目が効く。

 エントマは見てしまった。

 

 湯の下で男が脚を伸ばしている。

 脚の付け根の股間のあたり。何かが動いていると思ったのは、ずっと静かでいたシズの手が動いていたからだ。

 シズの手が何かを握って、上下に動かしていた。何を握っているか、察しがついた。ついてしまった。

 子供扱いされて我ながら子供っぽいと思う時はあるけれど、あれが何であるかの知識は持っている。

 恥ずかしくて堪らなくて見ていられなくて、しかし距離を取る選択肢は思いつかなかった。

 

 

 

(俺の都合で食べ過ぎちゃったかな?)

 

 エントマが見たものを知らない男は、そんな事を思っていた。

 気付けのために何度もパクパクさせてしまった。一回あたりの量は少なくても、合計した体積は腕一本を越えただろう。腕一本とは言え、重量にすれば4キロを越える。

 普通に夕食を食べた後で、お肉を4キロも食べれば明らかに食べ過ぎだ。エントマは食べ過ぎてお腹が苦しくなってきたのかも知れない。

 折角お風呂に入っているのだから、苦しい思いをさせるのは申し訳ない。

 

「ふあぁぁっっ!? なななななななななにぃ!?!?」

「エントマさんに無理をさせちゃったみたいですね。こうすれば少しは落ち着くんじゃないですか?」

 

 男の脳裏には、エントマとのこれまでが過ぎっていた。

 エントマとの初対面時、頭を撫でてあげたのは反応が今ひとつだった。それ以前に食べ過ぎで頭を撫でるのは意味不明である。

 食べたものが溜まるのはお腹。エントマのお腹を撫でてあげたら、リラックスした気持ちの良さそうな声を出していたのを覚えている。

 

 男が左腕を伸ばし、エントマの脇腹を掠めて前に回って、優しく撫で始めたのは以前撫でた場所と同じところだった。

 固く結ばれた腰紐より下。食べたものが溜まるところよりも少し下。エントマの下腹だった。

 

 お湯の中でエントマはバタバタしていたため、浴衣の裾が揺らいでいた。

 男の手は、たまたまふわりと浮いた裾の下を通ってしまった。

 五指を広げてエントマの下腹にピタリをあて、優しく撫で回す。

 

 本当にそれだけであったら、エントマから緊張が抜けさえすればリラックスの効果があったかも知れない。

 しかし、身を寄せたシズが負けてなるものかと大きくさせようと頑張っている。

 ちょっとだったのが湯の上からエントマに見られるくらいになり、固さを増してきた。

 そんな気分が手指に乗っている。

 

「あ…………ふあぁ……。んっ……、んぅ…………」

 

 エントマの声に艶が出てきた。

 湯の中でピッタリと閉じていた太股が、少しだけ開き始めた。




拮抗してましたがアンケートの結果と、覚悟までしてる方がいましたのでこうなりました


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姉に至る試練 ▽エントマ+シズ

風邪引きました、連休の疲れが出たようです_(:3 」∠)_
連休はとても慌ただしく(盆も正月もGWもいらん!)、本話の進捗は
6k、0,5k、0、0、3k、3k、7kで19k字超


(これは……!)

 

 エントマの状態を知らない男は、手のひらに伝わる感触に驚かされていた。

 肌触りがすべすべなのは、お手入れ抜群のナザリックのシモベたちの常で、素晴らしいとは思うが驚く程ではない。特筆すべきは柔らかさである。

 エントマのお腹はふんわりしていたのだ。ブヨブヨやプニプニとは違う。ふんわりである。

 言葉には尽くせない柔らかさは、アルベド様のふんわり感を思わせた。

 

「ひうっ……」

 

 指先でしっかりと撫で回せば、皮下の肉も感じ取れる。

 アラクノイドとは、自分の目で確かめた通りに蜘蛛の器官がある。聞くところによれば背中から大きな蜘蛛の足を生やせるとか。しかし蜘蛛『人』であって、人間の器官もあるようだ。末端が蜘蛛ならば中央は人間なのだろうか。

 

 そして柔らかさとくれば、是非にも確かめねばならない箇所がある!

 

 お腹を撫でたことでエントマは気持ちよさそうな声を出しているが、食べたものが溜まるところはもう少し上なのだ。もっと上に行く必要がある。

 

 男の手はエントマの危機感を煽った。それ以上の驚愕があった。

 

(えぇぇっ!? なんでっ!? 私ちゃんと結んだのにどうして解けてるのぉ!? おにぃちゃんの手は……片手だけだよね? 私が自分で解いた…………わけないじゃん!)

 

 エントマは浴衣の腰紐を固く結んでいた。位置的にはおへそのやや上。キツく結ぶと苦しいので少々の余裕を持たせたが、手が入る隙間はなかったはずだ。

 それが何故か、男の手が腰紐の位置より上に来ている。まさかと思って確かめれば腰紐が解けている。どうやって解いたのか。それとも勝手に解けたのか。

 驚いている間にも、男の手は舐めるようにエントマの肌を這い上がる。

 

(そこはだめぇ!)

 

 ぎゅっと自分の体を抱きしめる。エントマが守ったのは女の子の大事な部分。

 幸いにもそこまで届かず、大きな手のひらは指を広げて、エントマのお腹でゆっくりと円を描き始めた。

 

「ふぅ…………、はぁ…………」

「お腹の具合は大丈夫ですか!?」

「ふあっ!? だだだいじょうぶぅ! お腹いっぱいだけどこれくらい平気だからぁ!」

「それは良かった」

「んんっ……!」

 

 エントマとしては、暗に撫でてもらわなくても大丈夫と言ったつもりだった。しかし、残念なことに受信側が壊れている。エントマの真意は伝わらず、手指の動きが大きくなる。描く円が少しずつ大きくなる。

 

 この場にいるのが二人だけであれば、緩やかにスキンシップが進んで、どこかで止まるかどこまでも行くかしていたはずだった。

 

(……………………チッ)

 

 だけれども、シズがいた。

 男を慰めてやっているのは自分の手なのに、当の男はエントマを構いっぱなし。そこは自分の方に手を伸ばすべきと訴えたかったが、出来ないでいる。

 自分は栄えあるプレアデスの一人なのだ。

 口で噛み付いて勝利を得ても、そんなものは偽りの勝利に過ぎない。姉に相応しい実力でもって勝利をもぎ取らねばならぬ。

 

 姉に相応しい実力などと聞かされても、誰であろうと首を傾げるだろうが、シズにとってはいたって真面目な問題だ。

 もしもここでシズが声を掛けていれば、している方は何の自覚もなく単なるマッサージだと思っているので何の反応もないだろうが、されてる方はされてる事を自覚して止めるように声を上げる可能性が高かった。

 しかし、姉に相応しい矜持(?)がシズの口を噤ませた。

 

(シズさん?)

 

 シズの手が男から離れる。

 やっと悪戯を止めてくれたかと安堵したのは数秒。シズもエントマのようにくるりと背を向けた。男の手を取り、脇の下を通らせて自分の体の前に回す。

 

「んっ……」

 

 初心でねんねのエントマとは違う。シズが導いた場所は、慎ましくもきちんと膨らんでいる乳房だった。

 

 

 

 

 

 

 シズの水着はほとんど紐。その上、非常に優れた伸縮性を持つ。指を引っ掛けるだけで大きくずれるし、水着の下に手を潜らせるのに何の支障もない。

 男の手はシズの乳房へ、間に何も挟まず直に触れた。おっぱいに触れば揉みたくなるのが男の性。おっぱい以前のちっぱいといえども変わらない。

 下から包むように優しく触れて、手指で撫でる。柔らかな乳肉の感触が楽しく、愛らしい突起に触れれば心が弾む。

 

「んっ……、もっと」

 

 期待に応えて、指が少し沈むくらいに力を入れる。揉みながらも中指の腹を突起に乗せて、優しく押し込み、優しく擦る。繰り返す内に押し返すような弾力が現れてくる。

 

「ひゃっ!? くすぐったい。いきなり舐めるのは不許可」

「失礼しました。シズさんが髪を上げてるのは珍しいので」

 

 風呂なのだ。シズは長い髪を上げてタオルで包んでいる。いつもは隠れているうなじが目の前にあり、男は誘惑に駆られてレロと舌で触れてしまった。

 

「んあっ! んっ……、それなら……、イイ……。もっと強くて平気」

 

 シズの乳首は立っている。不意打ちのようにキュッと摘んでやった。強めでも痛がる様子はなく、もっともっととねだってくる。

 シズには強めにしても、もう一方はそうはいかない。

 

「あ……、あ……んぅ……。だ……だめぇ……。そこ、だめなんだからぁ……」

「駄目なことはありませんよ。シズさんにも同じマッサージをしていますから」

「でも、でもぉ……、だってぇ…………。はぁ……、あぁ…………」

 

 エントマのお腹を撫でる手は、描いていた円を徐々に大きくしていった。固く守っていたエントマの腕とぶつかるが、気にすることなくマッサージを続けていく。

 続ける内に守りに綻びが出たようで、親指が下乳に触れるようになった。それですぐに食いついては警戒を高めるだけの下策である。撫でているのはあくまでお腹。

 エントマの腕が胸から離れきったところで、円運動は上下運動に以降。アウラと初めて一緒にお風呂をした時と同じである。

 エントマが守っていた女の子の膨らみは、男の手に捉えられた。

 

 大きさはシズと似たりよったりだが、僅かながらエントマの方があるように思えた。普段のエントマはシズ以上に体形のわかりにく服を着ているので、余計にそう思えるのかも知れない。

 そしてやはり、とても柔らかい。お腹がふんわりしていたように、エントマのおっぱいもまたふわふわだ。

 昆虫の外骨格は硬いものだが、幼虫の体や蜘蛛の腹は柔らかいものである。それと同じだろうかと思うも答えは出ない。

 確かなのは、エントマのおっぱいはとても触り心地が良いことだ。惜しむらくは小さいことだが、それはそれで悪くない。

 

 エントマの乳房はシズよりも優しく触る。間違っても痛くならないように揉むよりも撫でるであり、それでもエントマの体は反応している。

 触り始めたときより僅かに張ってきて、時折指に触れる突起も立ち上がってきたようだ。

 

(なんで私おにぃちゃんにおっぱい触られてるのぉ!? シズにも同じことをって言ってたけど……。でもシズのバカはおにいちゃんのあんな……さわって……。うぅ……、でもぉ……でもお……! 私の体溶かされちゃってる? おにぃちゃんに触られるとトロトロしちゃってるみたいで……。でもでもこんなのエッチなことなんだよね!?)

 

「んあっ!?」

 

 体がトロトロとするような優しい触り方だったのに、突然鋭い刺激が走った。意図せずに高い声が出た。

 

「痛かったですか?」

「エントマはまだまだ子供。子供扱いしないとダメ。代わりに私には強くしていいぃっ! い、いまの、よかった……」

「別に痛かったわけじゃなくてびっくりしただけだもん! あれくらい平気なのぉ!」

「それではもう一度」

「ふぅっ……! あっ……つねっちゃだめぇ……。あんっ!」

 

 乳房の中央から走る鋭い刺激は体中を駆け抜けて、一端は喉から甘い声を響かせ、一端は体の奥底に溜まっていく。

 乳首を触られているだけでどうしてこうなるのか、エントマにはわからない。知識はあっても自慰の経験は全くの皆無。試したことはおろか、思ったことすらない。それなのに、男の手が体の奥に眠っていた快感を強引に掘り起こしていく。

 

(シズさん、私のもしてもらえませんか?)

(やめろって言ったのはそっち)

(それはそうですが、そう言った時と今は違うでしょう?)

 

 普通に風呂に入るつもりでいたら突然扱かれたのと、左右から美少女の嬌声が聞こえてくる現状では全く違う。シズの手で立たされてしまったのもあり、更なる刺激を求めていた。

 まさかエントマにしてもらうわけにはいかない。責任者が責任を取るべきだ。

 

(そこまで言われたら仕方ない)

 

 そこまで言ったつもりはなかったのだが、シズ的にはそこまでの事のようである。

 

(手と口とどこがいい? それともおまんこ?)

 

 挿入はまだ早いというか、エントマがいるので不可。口だと、シズお得意のサブマリンフェラはとても良かった覚えがある。しかし、出すまで離れない可能性があるので今はまだ不可。候補は必然的に絞られた。

 

(手でお願いします)

(わかった。それじゃあっち向いて)

 

 三人とも同じ方を向いて、先頭がエントマで最後がシズ。

 シズは、男の背に抱きついた。ご丁寧に水着の紐をずらし、乳房を押し付ける。蛍光ピンクの乳首は立ったままだ。

 男の胸を弄りながら手は下がっていき、男の股間にたどり着いた。

 

(ん、ちゃんと立ってる)

 

 シズの手が離れてしばらく経っているのに、肉棒は固く屹立したまま。立たせたまま何もされないのは可愛そうと思う慈悲の心がシズにはあった。

 両手で握り、上下に動かし始めた。

 

「あっ……あっ……、おっぱいどっちもぉ……。あん……、こんなのダメなのにぃ……」

「ダメですか?」

「だってぇ……、おっぱいさわるなんてぇ……。エッチなのダメなんだからぁ……。んっ……」

 

 人間の多くは右利きだ。そのため、女性の乳房で揉まれるのは左が多くなる。それが続くと大きさが偏ってしまうのだ。

 ということをラナーから叩き込まれている男は、いつだって触るのが偏らないように両方の乳房を愛撫する。

 右手がシズから開放されたので、エントマの可愛らしい乳房を両手を使って揉み始めた。

 エントマのおっぱいはちっぱいなのに触り心地が素晴らしく、舌足らずで甘ったるい嬌声も可愛らしい。シズからの手コキも上達が目覚ましく、滾ってくる。

 その上で、おっぱいがダメと言われてしまった。エントマの希望なのだから、もう一つの選択肢に進まざるを得ない。

 

「あ…………」

 

 男の手が乳房から離れた。

 エントマがまたも意図しない声を上げたのは、安堵したのか残念に思ったのか。ダメと言ったのは口だけの事で本当は続けて欲しかったのか。

 

「あっ!?」

「おっぱいはダメなんでしょう?」

 

 男の手がするすると下がっていく。

 腹を撫で、細い腰を掴み、始めに撫でていた下腹も通り過ぎて更に下。

 若年ゆえに細いながらもふにふにふんわりと柔らかい太ももを掴んだ。

 

 風呂に入ったばかりのエントマは、異性がいることの緊張で最初は正座をしていた。

 風呂の深さ的にも、正座でないとお湯が肩から上に来てしまう。

 それが徐々に緩んで崩れて、今は足を崩した女の子座り。太ももはピッタリと合わさっているわけではない。

 太ももを掴んだ男の手は、滑るように近付いてきた。脚の付け根にまで来ると、するりと内側へ落ちていく。

 そこはおっぱいよりも大切なところだ。エントマは咄嗟に止めようとしたのだが、

 

「大丈夫ですよ。痛いことはありませんから、気を楽にしてください。マッサージの続きです」

「でも、でもぉ……! そこはぁ……! うぅ……。おにぃちゃんの…………」

 

 エッチ、と続けたかった。言葉になりきらなかった。

 

 後ろから抱きつかれてるも同然の体勢で、肩と頭が男の胸に触れている。それだけだったら一緒にお風呂の範疇。それだけと思えないのは下半身。

 背中側は浴衣が完全にガードしているが、触られたらわかる。小振りな尻を越えて浴衣に留めてある腰紐よりやや上あたり。棒状の先端らしきものが頻繁に触れた。

 男性の股間についているもの。シズが扱いていたもの。それが固くなって、背中に触れている。

 時折、シズの手がぶつかった。

 見なくてもわかってしまう。シズは最初にやったのと同じことをしている。

 

「ふああぁぁぁ………………!」

 

 エントマは、浴衣のたもとに隠れた手で顔を覆った。見ていられなかったしお湯の中なので詳しく見えるわけではなかったが、せずにはいられなかった。

 内側に落ちた手が、手と手の間を狭めたのだ。

 

(シズさんはエントマさんの外性器がどうのと言ってたけど、エントマさん本人の言葉が正解だったな)

 

 女の体でとても柔らかなおっぱいが不可ならば、そこよりも柔らかいところを求めたくなる。

 男が触れたのは、エントマの外性器。の外側。外陰唇だ。アラクノイドでも、外から触る限りでは人間の女の子と変わらないようだ。

 ただし、シズが誤解した理由がわかる気がした。エントマは下付きだったのだ。

 

 上付き下付きとは、女性が仰向けの状態における性器の位置を指している。

 形が人に依るのと同じように、位置もまた人それぞれ。どちらであっても個性の範疇。ただ、位置によってとりやすい体位が変わってくる。下付きだと正常位より後背位がやりやすい。

 

 下付きなのでエントマの股間が前を向くように体を傾けさせ、必然的に背中が後ろへ倒れる。

 エントマは背中に触れる逸物に体を固くするが、それよりも大きく開かされた股をどうにかすべきと考えて、

 

「ちんこがだいぶ固くなってる。そろそろ出したい? 口? それともおまんこ?」

「まだ大丈夫ですって」

「どうしても入れたくなったら入れさせてあげてもいい」

「入れたいのはシズさんでは?」

「口答え厳禁。お前は明日の夜明けまで私に奉仕する義務がある!」

「……ご随意に」

 

 いつの間にか奉仕の義務になったようだ。

 それは馬鹿な男の自業自得として、エントマはまたも固まった。

 

(ちんこぉ!? おまんこぉおお!? 中に入れちゃうのぉおおおお!? そそそそそそそそそれって………………。エッチ……、だよね? そんな気はしてたけどぉ……。ていうかシズはおにぃちゃんのあれにあんなことしてあんなことするのかなって気もしてたけどぉ! …………シズとおにぃちゃんてエッチしてるんだぁ。…………………………って私も!??!?!)

 

 遅ればせながら、エントマはその可能性に気付いた。それは現在進行形で広げられている。

 

「あっ……あっ…………、はぁ……、あぁだめぇ……だめなんだからぁ……」

「わかってます。ダメなことはしませんから」

「だからぁ、それだめぇ……。あっ…………んぅ……」

 

 筋を挟んで触れ合う指はゆっくり上下に動き続け、口を開いている間も止まらない。

 時間が経つごとにほぐれていき、エントマの体から力が抜けていく。なんとか浴衣の合わせを押さえていた腕もだらりと下がって、何を求めているのか、たもとの中でもどかしげに指が動く。

 

「エントマさんのおっぱいはとても綺麗ですよ」

「!??!?」

 

 エントマの方が男よりも大分背が低いので、男の胸に寄りかかってしまうと上からは体の前面が見えてしまう。閉じられていた浴衣は押さえを失って湯になびき、エントマの体を晒していた。

 小さくはあるけれど形は良く細い体とバランスが取れている。手のひらに収まる慎ましさはエントマの愛らしさを表しているようで殊更に可愛らしい。

 

「見ちゃだめなんだからぁ!」

「ご心配なく。お湯の中ですからよく見えるわけではありませんよ」

「だったら恥ずかしいこといわなぁひぃぃいっ!? なっ……、なにしたのぉ?」

 

 エントマの注意を反らして事を進めたつもりはない。しかし、している当人にそのつもりはなくとも、そうなっている。エントマの体から力が抜けるまで外側をほぐしたのだ。外が終われば中に行くのは道理である。

 おっぱいに気を取られたエントマは、内側を許してしまった。長い中指が割れ目の上にあてがわれ、薄く開いた筋へ沈む。

 指は内側を掻くように上に動いて、包皮に包まれた柔らかな肉芽に辿り着いた。

 

「あっ? あっ? あっ!? なに、これぇ……! あっ……あぁんっ!」

 

 エントマの知らないものが、下腹部から這い上がってきた。

 下腹を侵して胸を高鳴らせ、頭を茹だらせる。腰はビクリと跳ね、太ももは震えてつま先に力が入った。

 

「痛くはないようですね。続けますよ」

「あっやっ、まっ……てぇ……、はあんっ! やぁ……、こんなのしらないぃ……くぅぅっ、……あぁぁっ!」

 

 外側が人間と同じなら、内側も変わらないようだ。

 エントマのクリトリスに触れる指は優しく圧しながら小さな円を描く。左手は下腹を抑え、人間の女の子と同じと仮定して皮下の器官を起こそうと企んでいる。

 

 エントマの体が揺れて湯を波立たせ、甘ったるい嬌声を響かせる。

 初めての感覚に恐れに近いものがあるようだが痛みはないらしい。

 指先に感じる弾力が強くなり、薬指を乗せながら人差し指で根本を押さえて包皮を剥く。直に触れられても反応が良くなるだけでやはり痛くはないようだ。

 

「あっ、あっ、なっ……なんでぇ!? こっ、こんなのぉ……こんなのぉ……、はじめてぇ…………! あ……、やぁあぁん♡」

 

 クリトリスを執拗に責められて、自分が感じているものは恐ろしくも不快でもないことを、体が気付き始めた。

 

「おっ、おにぃちゃぁあん……、これぇ……、きもちぃのぉ……♡」

「気持ちよくなれるマッサージですよ。エントマさんの体は大分ほぐれてきたようですね」

「うっ、うん……、とろとろに溶けちゃってるみたいぃ……」

「それではこちらの様子を見ようと思います」

「こちらぁ? どこのことぉ? ……あっ!?」

 

 内側の下の部分。

 小さな穴に指が届いた。

 入り口からすぐの部分に薄い膜がある。

 完全に塞がっていたシズが特別なのであって、エントマの膜にはちゃんと裂け目があった。指が入る程度の隙間は空いている。

 

「ぬるぬるしているのはお湯じゃありませんね。エントマさんが分泌している液体ですよ」

「私から何かでてるのぉ?」

「指よりもずっと太いものを入れるための潤滑液です。滑りを良くして内側の粘膜を保護するためのものですね」

「指より太い…………。そ、それってぇ……。ひゃぁあん♡」

 

 柔らかな内側を進み、第二関節まで入ったら軽く折り曲げる。内側の肉を掻き、外では陰核を擦り、エントマの声も体もますますとろけていく。

 このままだと指よりも太いものが入るのは秒読みと思われたが、この場にいるのは二人だけではないのだ。

 

(ちんこが急に固くなった!)

 

 シズである。

 男の背に乳房を擦りつけ、両手で扱いていたのはいつの間にか片手だけになり、空いた手は自分の股間に伸びていた。

 片手になっても休まず扱き続けていたが、同じペースで扱いていたのであって急に固くなるのはおかしい。しかし、心当たりがあった。

 

 この男は、エントマの嬌声を聞いて興奮したのだ!

 なんたる屈辱であることか!

 

 扱いているのは自分なのに、明日の夜明けまでたっぷりずっぽりを予約しているのに、前の穴も後ろの穴も当然口だって全部使わせてやっているというのに、初心でねんねのエントマの声を聞いてちんこを固くしている。

 断罪すべきであった。

 

「あっ」

「シズさん!?」

「………………」

 

 シズは無言で男をエントマから引き離した。

 エントマに入っていた指は膜を傷つけることなく離れていく。

 

「わわわっ!!」

 

 振り向いたエントマは目を覆った。とはいえ所詮はポーズ。大きく空いた隙間から見えている。

 引き立てられた男は、風呂の縁石に座らされたのだ。湯の中に隠れていたものが顔を出している。男の股間からは、太く長い肉棒が屹立していた。

 

 実を言うと、男性器を見るのは初めてではないエントマだ。アベリオン丘陵にあるデミウルゴスの牧場見学をした際に何度か見ている。

 しかし、勃起した状態は初めてだ。それに、さっき聞かされた指より太いものがあれなのだという知識がある。準備をさせられた自分に入るのはあれなのだ。

 

「いてっ!」

 

 エントマをチラ見したシズは、男を押し倒した。勢いがよく、男の後頭部が石床にぶつかろうと気にしない。

 湯から上がって男の体を跨いだシズは、膝を折り、後ろ手を男の太ももについて尚も腰を下げ、水着をずらし反り返っている逸物を上向かせて位置を合わせ、つぷりと先端が潜ったら、小尻が男の股間にぶつかるまで一息に落とした。

 

「んっ…………。全部、入った。……ちんこおっきぃ。おまんこの中がいっぱいでお腹が圧されてる」

「急に入れるのは……」

「大丈夫。ちゃんと濡れてる。私のおまんこはもうとろとろになってる。……私の中はお前のちんこの形になってるから。んっ……、あっ……、あっあっ、あんっ♡ あんっ♡」

 

 シズが男の上で腰を振り始めた。

 二人が密着している時は、単にシズが上に座っているだけに見える。

 それがシズが腰を上げると、二人の間を男の逸物がつなぐ。男から伸びた長い肉棒はシズの股の間に刺さって、シズが腰を落とせば中に飲み込まれていく。

 肉が肉を打つ音に、粘着質な水音が絡んで、シズが甘い声で鳴き続ける。

 

 エントマは膝立ちになって二人の交わりを凝視していた。

 浴衣の合わせを直すのも忘れている。湯の中に沈めたたもとからは細い指が覗いて、自身の股間を押さえた。

 陰部を圧すような押さえ方で、やがて前後に動き始めた。

 

「あっあっあっ、あんっ♡ ちんこきもちい♡ あぁんっ! 下から突くなっあっ! あああぁぁーーっ! あんっあんっ♡ んああぁーーっ♡」

 

 エントマに見られているのを忘れているのか気にしないのか。アルベドとリファラとキャレットの前でセックスしたことがあるシズなのだから、気にしないどころか見せつけているのかも知れない。

 自分で準備して濡れそぼっている膣は太い逸物を問題なく受け入れて、淫らな肉壁で包み込む。

 さっきまで湯の中にいたが、湯より熱い逸物は、熱に依らない熱で体を焦がしていくようだ。あまりの熱さに体が溶けて、二人が一つに溶け合っていく。

 熱を生んでいるのは子宮なのか、熱を受け止めているのが子宮なのか、シズの全身を際限のない快感が覆い尽くす。快感は多幸感と幸福感を呼び寄せて、シズの体も心も満たしていく。

 蛍光ピンクの乳首は固く尖って充血し、白い乳肉の上で激しく自己主張している。

 男が手を伸ばして摘んでやれば、シズは背を反らして大きく鳴いた。

 シズの上下運動は止まることなく。髪を包んでいたタオルが落ちて長い髪を振り乱した。

 

「あっ、あっ、あっ、ひゃうんっ♡ あぁ、あぁんっ♡ あ……くぅ……。いっ……クぅ……。いく……、いく、イク……イっちゃ…………」

 

 エントマは呆然と見つめながらも、どこに行くのだろうと考えた。

 シズは白皙を赤く染めて背を弓なりに反らし、男が腰を掴んでいなければ湯の中に落ちてしまいそうだ。

 そんな様でも腰は上下に動き続け、シズが腰を落とすのに合わせて男は下から突き上げ、シズのぬかるんだ内側の一番奥に亀頭を押し付け、

 

「ひゃぁっ……、あっあああああああああアああぁぁぁああーーーっ♡」

 

 尿道口からどぴゅどぴゅと吐き出された熱い粘塊がシズの子宮口を打ち、一滴も逃すまいとシズの膣がきゅうと締まった。

 シズはぴくぴくと腰を震わせ、震えに同期して肉ひだが蠕動し、最奥で射精された精液を子宮へ送る。

 顎まで反らせて絶頂を叫んだシズは、湯の中に落ちることなく反対側に倒れ込んだ。

 男の胸に顔を埋め、エントマをちらりと見る。

 激しい快感と多幸感に包まれているのに虚脱した顔は見せず、口角を上げた。

 

「!?」

 

 笑みが意味するところを、エントマは悟った。

 あれは、勝者の笑み。シズは言葉を伴わずして勝ち名乗りをしているのだ。

 

 

 

 シズはエントマから目を逸らさず、下に敷いてる男へ問いかけた。

 

「気持ちよかった?」

「ええ、とても。シズさんは上になるのが上手ですよね」

「それほどでもある。すごくいっぱい出たから気持ちよかったのは知ってる。あんなに出されるとお腹いっぱいになる。まだピクピクしてて出てる感じ」

「食事が良かったのと、やっぱりシズさんが魅力的だからですよ」

「ふふん」

 

 にんまりと嗤う。

 男との会話は、エントマに聞かせるためなのだ。

 

「やっぱりセックス出来るのが大人だと思う?」

「そう、ですね。子供を相手にするのは褒められたことじゃありませんから」

 

 ネムちゃんに、あまつさえ子供形態のアウラにアナルセックスを提案した男が口にしていい言葉ではなかった。

 しかし、それはそれ。これはこれ。求められているのだから応えないでは男が廃るというもの。大人失格であるかも知れないが。

 

「それじゃセックスしてないのは子供だと思う?」

「いやそれは――っ!」

 

 否定の言葉が出そうな口を、シズは瞬時に押さえた。

 さすがのシズは判断が早いのである。

 

「エントマも聞いてた? セックスをしてるのが大人。してないのは子供。姉になるのは当然大人。子供が姉になっていい道理はない」

「そっ……そんなことないもん!」

「そんなことある。誰がいつどこでどう考えても姉になるのは大人の役割。つまり、私が姉でエントマが妹。わかった?」

「勝手なこと言わないでぇ!」

「それじゃセックスする?」

「えっ」

 

 酷い理屈である。筋が通っているようで通ってない。しかし、エントマへは説得力を持って届いたらしく、返す言葉が出てこなかった。

 

「無理にする必要はありませんよ。さっき指を入れた感触だと、大分狭いようでしたから。入れるとなるとおそらく痛みます」

「エントマはコドモだから痛いことをわざわざする必要はない。痛みの向こうにあるものは大人だけのもの。エントマにはまだ早い」

「むぅ……! そんなこと言われてもしないもん!」

 

 シズが煽っているのはわかった。挑発にのってやってしまうは、まさに子供の所業。シズの思い通りになるのも気に食わない。

 

「だから、しないならしないでいい。どっちが姉か決まるだけ」

「だからそんなことで決まったりしないもん!」

「だけど」

 

 挑発的なシズの態度が変わった。

 ようやく男の上から立ち上がって、湯の中に立ち、エントマと向き合う。

 

「私には外性器が備わっている。エントマにはないと思ってたけどちゃんとあった」

「……だからなに?」

「私達の体は至高の御方々から頂いたもの。至高の御方々が授けてくださった機能を使わないのは至高の御方々を侮辱するのも同然の行為」

「!??!?!!」

 

 筋が全く通っていないようでいて、今度は割と通っていた。

 

 シズは人間の少女に見えるが、種族としてはオートマトンである。生殖をしないため、外性器は不要となる。しかし、シズの体にはきちんと備わっていた。だから器官の機能を活用するのは理に適っている。

 それではエントマはどうか。

 エントマはアラクノイドである。別名を蜘蛛人。蜘蛛の器官とは別に人間の器官も備わっている。ここで論点になっているのは外性器。外性器があるのだから、相応しい役割を与えるべきだ。しかしそれを言うなら人間の女性たちはどうなのかとなるが、それとは話が少々違う。

 エントマはアラクノイドであり本来なら人の形をした蜘蛛なのだが、人間の少女の姿をしている。少女に相応しい外性器を持っている。どうして少女の姿をして、外性器が備わっているのか。至高の御方々が人間の男と交わるよう仰せであるからなのだ。

 

 本当は勇者ペロロンチーノが活躍したからであるが、それを知るものはもうどこにもいない。アインズとて知らない話だ。

 知らなければ、シズの言葉は尤もであった。

 なお、傍で聞いてる男は黙っている。至高の御方々が関わる話に自分が口を出していい道理はない。たとえ、それがどんな無茶な話であろうとも。

 

「エントマがこれから誰かとセックスしたくなる日までしないというならそれでもいい。でもさっきは感じてて、私達がセックスしてるのもじっと見てた。欲情してないとは言わせない。それでもしないと言うなら……」

 

 どっちが姉でどっちが妹であるかの判断基準は、シズの中では大人か子供のどちらであるかとなっている。

 では大人か子供の判断基準は、性行為を経験しているか否か。

 自分は機会に恵まれ大人になれたが、ずっと聖王国に出張していたエントマには機会がなかった。ゆえに、チャンスを与えているのだ。

 黙っていれば自分が姉になれるというのに、それでは卑怯というもの。姉たるにはフェアネス精神も必要なのだ。

 そしてもう一つ。

 もしもここでエントマが否と言うなら、痛みを恐れて逃げ帰る臆病者となる。臆病者では姉失格だ。せっかくのチャンスを無駄にするのも話にならない。

 シズは無茶なことを言っているようでいて、エントマの精神力を試しているのだ。

 

「…………………………――」

 

 俯き、浴衣の裾をぎゅっと握ったエントマは、小さな声で呟いた。

 

「何? 聞こえない」

「するって言ったのぉ! 私は子供じゃないし源次郎様を侮辱したりしないんだからぁ!!」

 

 エントマは真っ赤な顔で叫んだ。

 エントマは怒っていてもとても可愛い。

 

「まあ……、ここのお風呂は回復効果がありますから、痛んだとしてもすぐに和らぐでしょう。キャレットの時もそうしましたし」

「キャレット!?」

 

 突如出てきたメイドの名前にエントマは面食らうが、取り合う者はいない。

 

「エントマさんの腰よりも深いところがいいでしょう。そうして後ろからすれば大丈夫のはずです」

 

 利用者はアルベドくらいだが、100人は同時に入れる広い露天風呂である。その上様々な異形種に対応して、一番深いところになるとシズの肩まである。ちょっとしたプール並みの深さだ。

 男は深いところへ移動するべく、湯の中に入ってエントマへ腕を伸ばした。

 エントマの準備はさっきそこそこにしたが、初めてなのだからしすぎて悪いことはない。

 

「ひゃん!」

 

 浴衣の裾をめくって小尻を掴む。エントマは尻の肉もふわふわして柔らかい。

 

「あ、あの…………ね?」

「どうかしましたか?」

 

 じぃっと見てくるシズを極力気付かない振りをして、エントマはそっと耳打ちした。

 

(やっぱりちょっとこわいぃ……。いたいの? どれくらいいたいの?)

(怖いなら止めておきますか?)

 

 シズに放ったばかりであるが、男の男は二回戦に向けて上向いている。たとえエントマが出来なかろうと、シズともう一度すればよいだけだ。

 

「ちゃんとするもん!」

「……そうですか」

 

 エントマは意地を張っているように思えるが、事は至高の御方々が関わること。迂闊に口を挟めない。

 求められるままに応えるしかなかった。

 

(でもこわいからぁ、後ろからじゃなくて前からがいいなぁ。痛くてもおにぃちゃんの顔見ながらだったら我慢できるからぁ)

(エントマさん……)

 

 健気なことを言う。

 エントマが可愛らしくて、ますます固くなってきた。

 

「それなら、エントマさんには縁に座ってもらいます。そこで私が前から。それでどうですか?」

「………………うん」

 

 ただし、エントマは下付きなので、前からするなら少し工夫がいる。それはエントマに言うでもないことである。男の方で工夫すればいいのだ。

 

 

 

「ここでいい?」

「ええ、ここで」

 

 キャレットが処女を失った場所より浅いところだ。深さは男の太ももの中ほどまで。風呂としては相当に深いと言える。

 

「これを使うといい」

「あっ…………ありがとぉ」

 

 シズが広げたマットは、いつぞやこの場で有効活用されたものである。風呂の縁に広げられたマットに、エントマが尻を乗せた。

 

「あぁっ!? やぁんはずかしいよぉ!」

 

 座るなり脚を持ち上げられ股を開かされた。エントマは咄嗟に脚の付け根を隠そうとするが、脚は尚も持ち上げられる。体が倒れて、手を後ろにつかないと頭をぶつけてしまう。ぶつけたとしても、さっき男がぶつけた時と違ってマットが敷いてあるが、倒れそうなときに体を支えようとするのは本能だ。

 

「へえ。ちゃんと割れ目がある」

「シズのバカ! エッチなこと言わないでぇ!」

 

 シズが男の横から覗き込み、そんな事を言う。

 

「エントマさんが大事な瞬間を迎えるんですから、シズさんは妨げにならないようお願いしますね。エントマさんは脚が戻らないよう押さえてください」

「うぅ……、恥ずかしいよぉ……!」

 

 エントマの脚は更に上げられ、その状態で膝裏に手を差し込んで押さえると股間を突き出した姿勢になった。まんぐり返しまではいかないが、尻がマットから少し浮く。尻の下に隠れていた肛門も顔を出し、性器も同様に。これなら下付きでも前から可能となる。

 

「さて、と」

「っ!? そっちちがうぅ! どうしておっぱい出すのぉ!?」

「可愛くてきれいなおっぱいですよ」

 

 性交のための体勢なのに、男はエントマの浴衣を大きく開いた。

 触りはしたが見ることは叶わなかったエントマのおっぱいが晒される。仰向けなのでなだらかではあるが、膨らみは確かにあった。ピンクの乳首がぷっくりと膨らんでいる。

 改めてちっぱいを楽しみたくなるも、次の段階に移らなければならない。

 

「っ!!」

 

 エントマは、閉じていた場所を外気が撫でるのを感じた。

 広げられている。

 広げている張本人は股間の前に屈んでいる。

 内側を見られている事実に体中が熱を持って顔が熱くなった。

 あまりにも恥ずかしすぎる。見ないで、とか、止めて、とか叫んでしまいたい。しかし、それをやってしまうとシズから妹判定されてしまう。試練の時なのだ。ここを切り抜けなければ姉になることは叶わない。

 

 エントマの忍耐は男へ鑑賞の時間を許し、内側をくまなく観察した男は感心したように頷いた。

 外側が人間と同じなら、内側も同じだった。割れ目の内側は生々しい肉色をして、上の方には小さなクリトリスが剥かれたままの状態で膨らんで、小さな尿道口があり、そこから少し下には膣口が小さく開いている。

 見続ける内に、小さな穴から一筋の汁が垂れてきた。とろついた垂れ方から、お湯ではない。エントマの愛液だった。

 

「もう一度準備から始めようと思っていましたが大丈夫そうですね。よく濡れてますよ」

 

 エントマには指まで入れてほどほどにほぐしたが、間にシズとの行為を挟んだので時間が経っている。けれどもエントマは乾くことなく濡れたままでいた。

 二人の行為を見ながら興奮したのもあるし、無意識に自分の手でさすってもいた。エントマの体は何が欲しいのか気付いているのに、エントマ自身はまだ恥ずかしさの方が大きいらしい。

 それがこれから逆転しようとしていた。

 

「それでは、始めますよ」

「う…………うん……。あっあの! ………………やさしくしてぇ……」

「……勿論です」

 

 これから自分の体が貫かれようとしているのに、こんな時までエントマは可愛らしかった。

 エントマの心は男の胸を打ち、同時に獣欲を駆り立てる。

 シズの手助けが要らないくらいに勃起していた逸物は、固さをなおも増してきた。

 男はエントマの前に立ち、細い太ももを掴んで一歩進んだ。

 

「ひっ」

 

 割れ目にピタリとあてられ、エントマが息を呑む。

 すぐには入ってこようとしない。

 エントマはまだ男の逸物に触れたことがなかった。初めて触れた場所が女の入り口。

 

「あぁっ……」

 

 太い亀頭は小さな筋を上下になぞって、何度目かに内側へ潜った。粘膜に直に触れ、小さな入り口を掠めて、肉芽をこすり、また入り口に戻ってくる。

 

「あっ……はいった、のぉ?」

「まだですよ」

 

 入り口に少しだけ圧を掛け、入ることなく上下に動く。

 二度三度、五度六度と同じ動きを繰り返し、動きが止まった。エントマが逃げないよう細い腰を掴み、

 

「あっ……あぐぅ…………、いっ…………ぎぃ……!」

 

 入り口に入り始め、エントマが呻いた。

 ただでさえ狭い穴を更に狭める処女膜が、男の侵入に耐えきれず裂けだした。

 エントマはきゅっとつま先を折り曲げ、脚を押さえる手に力が入る。

 二人がつながろうとしている場所から、色のついた汁が垂れ始めた。汁の色は赤かった。

 

 アラクノイドであろうとも体液は赤なのか、それともこれもまた幻術に依るものなのか。エントマから破瓜の血が流れ、尻の割れ目へと伝っていく。

 処女膜が破かれようとも、まだ入り口に過ぎない。これから細い道を抉られる。

 

「いっ……たぁいぃ……。いたいよぉ……! おにぃちゃぁん……、やさしくて、いったのにぃ…………」

「避けられない痛みなんです。もう少しだけ耐えてください。シズさん、風呂の湯をお願いします」

 

 癒やしの効果がある温泉の湯は、傷を癒やして痛みを抑える。湯の中で初体験をしたキャレットは、処女を失った痛みをほとんど感じていなかった。

 エントマはキャレットよりずっと小柄だし、体のどこも温泉に浸かっていない。処女を喪失した痛みが和らぐことなくエントマを襲っている。

 しかし、シズはつれなかった。

 

「奥まで入ったら掛けてあげる。それまではダメ。姉以前にプレアデスの一員がこんな事で泣くな」

 

 戦闘メイド「プレアデス」に相応しく戦闘経験があるエントマだ。しかし、内側の肉を裂かれる痛みは初めてのもの。軽い興奮状態にある戦闘時に傷を負うのとは種類が違う。エントマより高レベルのアウラでさえ、子供形態の時に受け入れてしまった時は痛みに叫んだのだ。

 

「だ、だってぇ……、いたいのぉ……。うぅ…………、いたいよぉ……! ひぎぃっ!? 動かないでぇ……!」

「あと少しですよ」

 

 入れる方とて、あまりに狭いと痛みがある。狭い上に処女のエントマは押し返そうとする弾力が強く、力を抜いたら入り口に戻されてしまいそうだ。

 負けないように力を入れて腰を進め、けどもエントマに負担が掛かり過ぎないよう慎重に。

 

「ひぅっ!? いっ…………、くぅ……! いたい、からぁ! ほんとにぃ、いたいんだからぁ……!」

「エントマさん……」

 

 エントマが掛けた幻術は、エントマの感情に合わせて仮面の表情を変える。

 様々な協力を得て完成させた幻術は、涙も再現するらしい。

 エントマは大きな目を見開いて、ポロポロと涙を零し始めた。

 とても可哀想で、哀れみを誘う。とっても可愛いエントマが痛みに泣いているのだから、誰であろうと障害を取り除かねばと決意することだろう。

 

 と同時に、滾ってきた男だった。

 女が泣き叫んでいるのを無理やり犯すプレイは、ラナーと何度もしている。ラナーの演技はまさに迫真で、泣き叫んで許しを請うのを腕力で組伏せ犯したものだった。女優が一流なら男優も一流。ラナーに合わせて少々暴力的な行為もあった。

 というプレイは、翌日にラキュースが訪れるのに合わせて行われきた。ドレスで隠れた部分についた痣や傷は、便利な親友のおかげで綺麗に消えている。

 

「あっ、やっ、ダメェッ! いぎぃ……! あああぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

 シズが叫んでいたのとは全く違う叫び声。

 痛みに泣き叫んでも、男の動きは止まらない。とはいえラナーが相手ではないので、乱暴にはせずゆっくりと押し進め、処女地を貫くというよりも押し破って、奥の壁まで辿り着いた。

 

「一番奥まで入りましたよ。よく頑張りましたね」

「うぅ、ぐすっ……。おにぃちゃんのばかぁ……。すごくいたかったんだからぁ!」

「しばらくこのままでいます」

 

 エントマに入ったのは半分と少し。小柄な体格相応と言うべきか、アラクノイドだからなのか。同じくらいの体格でも全部入ったシズが特別なのだ。

 

「それじゃ掛けてあげる。入ったのはまだ始まり。中で出すまでやるのがセックス」

「最初からしてよぉ! シズのバカ!」

 

 シズが無茶な事を言いながら、結合部に温泉の湯を掛けた。

 破瓜の血が洗い流され、エントマの表情も和らいできた。

 と同時に、男への締付け具合も変わってきた。

 

(こ、これは……!!)

 

 エントマの下腹を触った時と同種の感動。

 挿入したまま傷を癒やされたせいで、膣の形が男のものになっていく。あれほど狭くてきつかったのに、急速に柔らかくなってきた。

 締め付けていながらふんわりとしているこの感触は、アルベド様を思わせた。

 残念なことに半分強しか入らないこと。悩みも苦しみも痛みも悲しさも全てを包み込んでしまうアルベド様には遠く及ばない。それでも、とても良い具合であるのは確かである。

 

「動きますよ?」

「えっ? あっ、まってぇ! そんなはげしくぅ! だめぇこわれちゃうからぁ! あっあっ、やああぁぁっ!」

 

 男を知ったばかりの穴を、遠慮なく行き来する。

 エントマはダメと叫びながらも、痛みはなくなったようで中が潤い、抽挿に問題はない。

 ふんわりとした膣内はとてもなめらかで、ほんの少し前まで処女だったとは思えないほど。

 

「あっ、あっ、おに……、おにぃ…………、あんっ!」

 

 エントマの鳴き声も変わってきた。

 心を抉る泣き声とは全く違い、興奮を煽る甘さが混じりつつある。

 体の方はエントマよりも早く反応して、エントマの中を往復する逸物は、一突きごとに湯とは違う液体に塗れていく。

 亀頭のエラが少女の膣内を掻き出し。結合部からエントマの汁を溢れさせた。

 

(私の中に……、おにぃちゃんのおちんちんがはいってるぅ! ほんとにはいってるぅ。私のお腹のなか……、おにぃちゃんのおちんちんが……。わたし、おにぃちゃんとエッチしちゃってるのぉ!? ほんとうにおまんこの中に入っちゃって…………。すごく痛かったけどぉ……。平気になったのは温泉の効果? おにぃちゃんを食べちゃったとこが治ったの見たけどぉ。わたしのおまんこも……。あんなにいたかったのに……。今は…………)

 

 エントマが潤んだ目で見つめている。

 小さな唇は愛らしく鳴き続け、脚を押さえていた手を離して男へ向かって伸ばした。

 股間を突き出すように上げていた脚が下がっても、挿入を果たした今なら大きな問題はない。

 

「んっ、んっ……。……んっ! んっ!!」

 

 エントマはあえぎながらも、何かをアピールしている。

 心の機微がわからないおとこでも、エントマが何を望んでいるかは察せられた。

 繋がったまま体を倒し、エントマの腕が首に巻き付いた。

 

「おにぃちゃぁん……、んっ、あっ……あっあっ、あんっ。あっ、なんでぇ? なんでこんなにぃ……」

 

 痛みが抜けきって男に抱きついたエントマは、理屈がわからなくても体で感じていた。

 単に抱きついているだけではけして得られない一体感がある。

 体の中に男の一部が入って、文字通りに繋がって一つになっている。

 この世に生を受けてからこれまで、ナザリックの仲間たちに囲まれていたので寂しさを覚えたことはない。けども、今。自分はずっと一人だったことを気付かされた。気付けたのは、一人ではないと感じたから。

 シズが味わっていた充足感がエントマを満たしていく。

 視線を少し逸らせばジト目のシズが見えるが、見られていることが気にならない。行為を見られる羞恥が些細なものと言い切れる素晴らしいものを味わっている。

 

 奥に感じる圧が強くなり、体が浮く。

 エントマが、あっと思ったときには、男は立ち上がっていた。

 繋がったままだ。男はエントマの太ももをしっかり掴んでいて、エントマは男の首筋にすがりついている。それでも結合部に加わる負荷は増していく。

 

「ああっ!? あっ、やっ! おちちゃうからぁ!」

「しっかり掴まっていれば大丈夫ですよ」

「でっでもぉっ、あんっ! あぁんっ♡ すごいぃ♡ はじめてなのにぃ……! はじめてでもきもちぃのぉ♡ おにぃちゃんとのエッチ、きもちぃよぉ! はああぁんっ♡」

「私も気持ちいいですよ」

「おにぃちゃんもぉ? わたしももっときもちぃからぁ♡ おちんちんいっぱいうごかしてぇ……、わたしのおまんこぐちゅぐちゅしてぇ? ふああぁぁっ、あぁっ、お腹おされてるぅ♡」

 

 エントマはシャルティアよりも僅かに背が高い。当人同士では大きな差かも知れないが、男から見ればどっちもどっち。体重も似たようなものだろう。

 すなわち、エントマに駅弁が出来るならばシャルティアにも十分可能ということだ。

 この場にいないシャルティアへ思い知らせるため、エントマを抱き上げて腰を打ち付ける。

 

 全部は入り切らなくても、エントマの具合はとても良い。甘い嬌声はもっと好い。

 シズに放ったばかりだが、腰に快感がこみ上げてきた。

 

「っ!」

「あっ」

 

 男の呻き声と、シズが思わず上げた声はエントマの耳に入らなかったらしい。

 男にぎゅっと抱きついて、首筋に顔を埋めている。

 顔を埋めて、かぷりとやったのだ。

 

 エントマの口は小さくて可愛らしいが、あくまでも仮面の口である。エントマが飲食物を摂取する口は、仮面の下にある。仮面の口が噛み付いたように見えるということは、仮面の下の口が噛み付いたということ。

 仮面の下は可愛らしいお口と違って、人間の首くらいは訳もなく噛み切ってしまえる。

 出血はないようだから大丈夫なのだろうか。大丈夫でなくても温泉に潜れば回復するはず。第一、噛みつかれているのに男は腰を振り続けている。心配するだけ無駄と思って、シズは温泉の縁に腰掛けて観戦を続けた。

 

 

「エントマさん、そろそろっ!」

 

 男の声は掠れている。

 エントマは男の首から顔を上げ、

 

「うんっ、いいよぉ♡ わたしのなかにぃ、いっぱいだしてぇ♡」

 

 勃起を知らなかった三女の姉よりも、エントマは男の生理を知っているらしかった。

 

 エントマの許しがあろうとなかろうと、男はエントマに腰を打ち付け、

 

「ふああぁぁぁぁぁあぁぁああっ♡」

 

 何度も浅く達していたエントマは、子宮口を精液で打たれ、押し寄せる波に全てを押し流された。

 最奥でどぴゅどぴゅと吐き出された精液は、エントマの膣内に収まりきらず中を満たして、結合部から滲み始めた。

 

 男を満足させた実感はエントマを満たし、体中が湧き上がったように感じて、自分一人しかいないのに幸福に満ちた素晴らしい世界に脚を踏み入れ、

 

「きゃあっ!」

 

 あっという間に現実に引き戻された。

 

「おっおにぃちゃん!?」

「………………」

 

 答えはない。ぶくぶくとあぶくが浮くだけである。

 

 男はエントマへ射精すると、その場で後ろ向きに倒れたのだ。駅弁スタイルだったエントマを道連れにして。

 慌てるエントマと目を丸くするシズが見守って数秒、ぷはっと顔を出した。

 

「噛みつかれて大変だったんですよ。温泉に入っていたのは幸いでした」

「えっ? あっ! ご、ごめんなさいぃ! わざとじゃなくてついしちゃっただけだからぁ!」

 

 初対面時に、男の腕をぱくりとしちゃった時と同じである。

 噛みつかれた腕はルプスレギナが回復魔法を掛け、今は温泉の癒やしの効果でかじられた首は元通り。

 

「次は後ろからしますからね。エントマさんの体格的にもそっちの方がやりやすいですから」

「……次もあるのぉ?」

「勿論あります」

「もちろん、なんだぁ♡」

「ええ……、いてっ!」

 

 どこかから風呂桶が飛んできた。

 男は再度湯に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

「それで、私とエントマと、どっちが姉に相応しいと思う?」

 

 事を終え、エントマが中から溢れてきた精液を流していると、シズがそんな事を言ってきた。

 赤い顔をして行為をしてしまった実感を噛み締めていたエントマは、動きを止めて振り向いた。

 

 シズの慈悲の心によって、エントマに与えたチャンスが形になった結果、二人は同じ位置に立った。

 これで条件は五分と五分。

 どちらが姉に相応しいか決めるときが来たのだ。

 

「それは私に聞いているんですよね?」

「お前しかいない」

 

 男はマットの上にうつ伏せになって、シズに乗られている。二人の間にはボディソープがたっぷりと。

 シズは体を使って男を洗ってやっているのだ。なお、水着は結んで桶の中。

 その状態で聞くのはいささかフェアネス精神に欠けるような気がしないでもないが、条件はフィフティフィフティになったのでシズ的には問題ない。

 

「そう、ですね」

 

 間違った方向でしかデリカシーを発揮しない男であるが、これまでのやり取りからシズとエントマがどちらが姉であるかを争っているのはわかった。どちらも自分が姉でありたいと思っているらしいのも察している。

 言葉を替えればプレアデス内での序列決め。とても重大な決断を要する。

 しかし、相も変わらず男の態度は涼しいもの。

 

「それではシズさんとエントマさんに最大限の尊厳と敬意を払って厳粛にお答えしましょう。姉に相応しい者とは克明なる優しさと深遠なる包容力を併せ持つという、謙虚ながらも確かな評価を得ることができる者です。他者に対して思いやりをもって接し、多岐にわたる価値観や立場に対し寛容な心構えを保ちつつ、包括的な視点からの受容を示すという特異な特性を具備しています。誰に対しても、特に一定の関係を持った者へ対しては一層の慈悲深さを発揮させることが期待されます。その観点から申し上げますと」

 

 男の舌がペラペラと回る。

 聞かされ続ける内に、賑やかだったエントマの顔から表情が抜けていった。

 元から無表情だったシズの顔は凍えていった。

 

 男の言葉は長ったらしくて回りくどくて形式的で冗長が過ぎるが、まとめてしまえば「扱いをよくしろ」の一言に尽きた。

 特にシズに対しては、「債権と債務の交換は不適当」とわかりづらいことを言ってくれたが、とどのつまりは貸しの取り立てをやめろ、である。

 

 この男、自分がどちらが姉であるかの決定権を握った瞬間に権力を振りかざしてきたのだ。

 性悪姉妹から極悪認定されるだけはあった。

 

「調子に乗るな!」

「おにぃちゃんのバカ!」

 

 ドカバキグェッボッチャン。

 

 姉妹のコンビネーションにより、男は再三沈められた。




AIイラストに手を出してしまい、せっかくなので挿絵をちょこっと
205話あとがきにセシルのイメージ(健全です)
37話(つづくの最初のやつ)にアルベド(健全です)

ハーメルンはイラスト投稿サイトじゃないので以降は未定


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連休最終日

慌ただしく駆け足でナザリック滞在終了
色々詰めて11k字


 一睡も出来ずに夜が明けた。

 

 明けたはずである。ナザリックは地下大墳墓であるため、日の光が差さない。あちこちに据えられた照明は昼夜で明るさが変わるが、基本的にはいつも明るい。時間を知るには時計を頼るのが確実だ。

 ベッドの枕元に置かれた目覚まし時計(指定時刻になるとアラームが鳴る時計)は朝の5時過ぎを指していた。しばらく前に太陽は顔を出したはず。

 ナザリックに滞在できるのは明日の昼まで。夕刻にはエ・ランテルに着いている必要がある。ナザリックからエ・ランテルにまで移動するのに必要な時間は、馬車を飛ばせば二時間。乗り心地を無視して周囲を驚かすことを良しとすれば一時間でも可能。ナザリックを発つのは、無難なところで15時。ギリギリまで粘って16時。

 ナザリックでの滞在時間は、最大で35時間残っている。

 しかし徹夜明けである。昨夜はシズとエントマを構い通しだったのだ。

 

「もう時間?」

「うぅ……、もうあさぁ? わたしまだねてるぅ……」

 

 ベッドの上にはシズとエントマが。

 オートマトンであるため睡眠不要のシズは、気だるい雰囲気を漂わせながらも起き出した。もう一方のエントマは枕に埋めた顔を少しだけ見せたと思ったらすぐに目を閉じてしまった。

 

 シズは男との時間を、エントマにおすそ分けしていた。

 シズちゃんは心優しくて慈悲の心に満ちていると言いたいところだが、この男を一人で相手するのは手に余ると思っただけである。それだったら早い時間に開放するか、睡眠の時間を与えても良かったはず。しかし、寝ずの奉仕を求めた。債権を振りかざし、債務を最大限に取り立てたのだ。アインズ様に倣っているのか、割と吝嗇家である。

 アインズ様は先を見据えて消費を効率化しているのに対し、シズのはただのケチである。けちん坊に姉の資格なし。ではエントマはというと、彼女には残念だが無謀な挑戦としか言いようがない。

 

 男は二人に先んじてベッドを降りた。

 

「夜明けです。シズさんへの借りはこれで精算できました。私は今日もすべきことが詰まっているので、着替えたら失礼いたします」

「もっとゆっくりしていっていい。寝たいなら私の部屋を使うのも可」

「……ありがたい申し出ですが。一先ずシャワーをお借りします。このままでは外に出れませんから」

「だったら私も付き合う」

「本当にシャワーを浴びるだけですからね? 本当に時間がないんですから」

「わかってる。あれだけ絞ったんだからまだ出るとは思ってない」

「……挑発には乗りませんよ?」

 

 一度寝たら生半なことでは起きない男である。

 もしもこのままシズのベッドに潜ってしまったら、まず十時間は起きない。すると35引くことの10で25。

 

 ヴァンパイア・ブライドのシリーたちの相手もある。

 10人を4班に分けて、各3時間ずつ。密会の場所をロイヤルスイートのセーフティルームにしたため、一度入ると3時間は出られないのだ。そうすると、4掛けることの3で12。25引く12をしてしまうと、残りはなんと13時間!

 空間の秘密はある程度解き明かしたつもりでいる男だが、時間の秘密とはなんと難解であることか。

 

 各種細工道具を注文するためにサラマンダーの鍛冶師たちと相談しなければならない。その前に図書館で調べものをして、音楽室でギターも触りたい。13時間ではどうにもならない。どうせどこかで誰かしらか何かしらに時間を取られるに決まっているのだ。

 

「やむを得ない、か……」

 

 案の定、シャワーではシズに絡まれた。

 5分で出るつもりが1時間近くも取られた。13時間が早速12時間に減少。寝るのを諦め、昨日エントマからもらったばかりのポーションを飲み干す。瞬時に疲労が消えて体力が回復し、色々な力が漲ってきた。

 外に持っていけば神の血の如き貴重なポーションが、ナザリックではエナジードリンクである。これぞナザリッククオリティ!

 

 

 

 シャワーを終えて着替えてから向かったのはレストラン。時短のために、朝食はまたもシズ専用特製ドリンク。

 シズですらストローを使って飲むドリンクをゴキュゴキュと喉へ流し込み、朝食に要した時間は僅かに30秒。すぐに席を立ち、まずは最古図書館へ向かおうとしたのだが、早速掴まった。

 

「相談役殿はこちらにいらしたんですか。もう、どこにいたんですか。探しましたよ? それで、ですね。決まりました。ここじゃちょっとあれですから、私の朝食が終わるのを待っててください」

「随分と朝が早いのですね」

「メイドですから」

 

 昨日見た楽譜の中に『亜麻色の髪の乙女』という曲があったのを思い出した。

 亜麻色の髪の乙女であるフィースには、口止めのために出来ることなら何なりと、と言質を与えてしまっていた。

 

 フィースに限らず、ナザリックのメイドたちは見た目に依らず健啖家ばかりである。

 大きなプレート皿に色とりどりの料理が盛り付けられ、片端からフィースの口の中に消えていく。

 

「そんなにじっと見ないでください!」

「失礼しました」

 

 大食が恥ずかしいのか、食事風景を見られるのが嫌なのか、フィースは顔を赤くしてフォークを突きつける。男は軽く謝罪して、朝の紅茶を楽しむことにした。

 

 どうして時計の針は回るのだろうか。自分が身を任せている時間は動的時間と静的時間のいずれなのか。巡る太陽に支配されるのは静的時間と思えなくもないが同じ日は一度としてやってこない。一瞬も止まることなく動き続ける思考は動的時間に属している。しかし、静的時間は確実にある。ミクロとマクロに現れ、その間は揺らいでいる。やはり時間の秘密は難解だ。

 答えが出ない問を問い続け、時計の長針が半周。

 エ・ランテルに戻っていたミラが帰ってきた。

 

「ご主人様、おはようございます。昨夜は私事で時間をいただき、申し訳ございませんでした」

「いや、いい。それより用事は済んだのか?」

「……今夜もお時間をいただけますでしょうか?」

「どうせ寝てるか他の用事があるかだから構わない。明日の昼までには確実に戻っていてくれ」

「かしこまりました!」

 

 ミラの私事に興味はない。すべきことをこなしてくれれば、空いている時間に何をしていても構わない。が、なんとはなしに察するものがあった。

 メイドのリファラとキャレットによれば、ここ数日のアルベド様は夜になるとエ・ランテルに転移しているらしい。ミラは夜を選んでエ・ランテルに戻っている。ミラの私事とは、おそらくアルベド様が関わる事柄。

 アルベド様が為さることを勘ぐるのは不届き千万。いつか必要となれば自分の耳にも入れてくださることだろう。

 

「それで、ですね。これは相談役殿でも難しいと思います。というかほとんどダメ元ですからそのつもりで聞いてください。出来ればすっごく嬉しいんですけど」

 

 朝食を終えたフィースに別室へ連れられ、要求されたのは恐れ多いものだった。他のメイドたちに聞かれたら非難轟々となるのは確実。

 フィースの望みは、あろうことかアインズ様当番を増やすことだったのだ!

 

 メイドたちのアインズ様当番とは何か。

 その日一日をアインズ様に付き従い、服装のコーディネートやアインズ様が移動する際の扉の開閉や、来客の取次や、お休みしているアインズ様を見守るお仕事である。メイドたちはアインズ様当番のために働いている、とまで言うと過言だが、アインズ様当番の前日はしっかり休んで英気を養ってから挑むほどに最重要視している。

 それを増やせというのは、守護者統括相談役の手に余る。はずだった。

 

「どのような任務であるかはシクススやシェーダたちから聞かされています。メイドたちのシフトはペストーニャ様のご担当でしょうから、私が口を挟むのは困難です。ですが」

「ですが!?」

 

 無理めな注文と思っていたのに思いもよらない言葉が出てきて、フィースの目は輝いた。

 

「現在のシクススが帝都の魔導国公館でメイド長を担っているのはご存知でしょうか?」

「知っています。フォアイルたちには時々手紙が届くらしいですけど、ずっと行ったきりですよね。ちょっと可愛そうかな、って」

 

 ナザリックのシモベたちにとってナザリックこそが至高であり、それ以外は全て下に位置する。そのナザリックに中々戻ってこれないシクススを哀れんでいるのだ。

 

「シクスス本人も指導するなら兎も角、自分にメイド長は向いてないと言っていました。ですが、ナザリックやエ・ランテルへ帰還の希望を出すことなく、帝都に留まっています」

 

 この男が帝都への左遷を解除された時、シクススはお屋敷のメイド長なのだから帝都に残るよう告げた。

 しかし、この男にメイドたちへの人事権はない。要請は出来てもシクススがイヤだと言えば通らないし、ナザリックのメイド長であるペストーニャが呼び戻そうと思えば可能である。そうはなっていない以上、帝都に残る明確なメリットがあるのだ。

 

「ここだけの話ですが」

 

 男は思わせぶりに周囲を見回した。

 無人の休憩室だ。ドアは閉まっており、誰かに聞かれる心配はない。

 

「アインズ様は時折帝都を訪れていらっしゃるご様子です」

「アインズ様が!?」

 

 本当である。

 G-Shock事件以降、毎日帝都へ顔を出しているこの男も、帝都のお屋敷でアインズ様と行き合わせたことがあった。

 シクススやソフィーによれば、週に2・3度はいらっしゃるらしい。滞在するのは精々2・3時間だそうだが、シクススによると常のアインズ様よりだいぶ気を抜いてリラックスしていらっしゃるご様子だとか。

 

 帝都の公館でナザリックのシモベというと、シクススとヴァンパイア・ブライドのジュネ、それにソフィーの三者しかいない(三者以外にも実は他数あるが、それらは口を開くことなく屋敷の警備に従事しているので数に含めない)。中でもソフィーはアルベドが創造した(ということになっている)存在であるため、他のシモベたちのようなガチ過ぎる忠誠を主張しない。アインズにとっては孫のようなものである。

 そのため、アインズは肩肘を張ることなくリラックスして心を休めることが出来るのだ。アインズ的に帝都のお屋敷の貴賓室は、ナザリックの自室の次に気を抜ける場所になっていた。

 

「朝からアインズ様に侍ることは叶いませんが。シクススたちはアインズ様からお言葉をいただくことも多いとか」

 

 幾らでも湧いてくるヴァンパイア・ブライドの中でもぶっちぎりの最弱であるジュネも、アインズ様からお声を掛けていただいて感涙したことがある。

 

「シクススが望まない限り立場を交換することは出来ないでしょうが、応援という形でフィースさんが一時的に帝都の公館に赴くことは可能ではないでしょうか?」

「それは……………………かなりイイですね!」

 

 フィースの赤い目が爛々と輝いている。瞳孔も開き気味だ。どうやら、男の提案がとてもお気に召したらしい。

 予定外に時間を取られたがミッションクリアである。

 

 

 

 そして続くミッションで引っかかった。

 

「こんなに道具があるのか……」

 

 最古図書館へ移動し、彫金のための道具を調べ始め、思わず唸った。

 貴金属に細工を施すのだから、当初は細かい彫刻刀の類があれば十分だと思っていた。甘かった。

 

 彫金用の彫刻刀は勿論必要だがそれ以外に、金属を切るための道具。細かなパーツをつまむためのピンセット。ロウ付け等の加工で火を扱うため、熱したパーツを掴むやっとこ。加工時に対象を固定するための道具各種。宝石を嵌め込み、あるいは外すためのヘラ。磨くための道具も必要だ。そこへ計測器等も必要になるのだが、ここだけは目測で十分。

 

 宝石細工や指輪等のアクセサリ加工のテキストへ一通り目を通し、必要と思われるもの全てを頭に叩き込む。と同時に左手でペンを握り、必要な道具の図面を書く。

 字は下手だが絵は上手い男だ。直線も曲線も真円も自由自在。寸法は数字で記せばよいため、少々下手でも判読可能である。

 

「ご主人様、こちらがティトゥス様に選んでいただいた教本です」

「ああ、そこに置いて……そんなにあるのか!」

 

 書物を抱えたミラを一瞥し、二度見して抱えている本の量に目を見開いた。

 こちらはジュネへの参考書である。論理学にばかり気を取られて、統計について叩き込むことを忘れていたのだ。統計学に必要なテキストを司書長のティトゥスに選んでもらったのだが、統計学を学ぶにあたって前提とする書物がやたらと多い。

 ジュネに自主学習させるわけにはいかず、教師となるこの男もテキストの内容を修めておかなければならない。

 

「ご主人様、時間でございます」

「もうそんな時間か!」

 

 ヴァンパイア・ブライドたちへ口止め報酬を支払う時間である。これについてはさくっと行くのは不可能。最低でも3時間必要となる。今更ながら、密会の場所を他にすれば良かったと思うのだが時遅し。

 

「ミラは俺が書いたメモを鍛冶師たちのところへ持っていってくれ。3時間経ったら俺も行くから」

「ですが、私はご主人様のお傍にいた方が」

 

 もしもご主人様がヴァンパイア・ブライドたちに吸血されたらレッサーヴァンパイアに転化してしまう。万が一に備えて同行しようと思うミラだが、所詮建前。並のヴァンパイア・ブライドなら吸血しようにも血が舌に乗った時点で酩酊するし、そこへご主人様の魔技が合わさればシャルティア様だろうと抗えない。

 

「不要だ。また後で」

「……かしこまりました」

 

 近くを通りかかった司書の一人に、また来るので広げた本の山はそのままにしていて欲しいと伝え、第九階層へ。

 時間よりも早く待っていた三人のヴァンパイア・ブライドは、あまり足を踏み入れないロイヤルスイートに落ち着かない様子ながら、期待を隠せないようだった。

 彼女たちを伴ってセーフティルームへ。

 

 セーフティルームの存在はシズしか知らなかったが、本来の目的を思えば周知しておいた方が良い。そうなっていないのは、有事の際の混乱を避け、シズが避難誘導を担うからなのだろう。但し、メイド長のペストーニャだけは知っておくべき。シズに会ったらそのように提言することを決め、女の腰を抱いた。

 これから3時間は時間を忘れて彼女たちを楽しませ、自分もまた楽しむべきなのだ。

 

 3人の合わせて9つの穴を全て使い、心地よい疲れとともにロイヤルスイートに帰還。

 ヴァンパイア・ブライドたちは幸せそうな顔をして床にへたりこんだが、後の事まで面倒を見ていられない。セーフティルームを出る前にシャワーだけは浴びさせた。色々な匂いはさせていないから問題ないだろう。

 

 

 

 早足で鍛冶師たちの工房へ移動。

 

「図面にこれだけ詳しく書いてあるなら問題ありません。ただ数が多いですから納品に時間がかかります」

 

 サラマンダーたちは炉を使うことなく、口から炎を吐いて自前の火力で鉄を熱する。工房の中は凄まじい熱さだが、デミウルゴス様の階層と比べたら涼しいもの。それに少々暑かろうとペストーニャ様から頂いたブレスレットが効果を発揮している。

 代わりにミラは少々辛そうである。

 

 ミラに頼んだメモは、打ち合わせの下敷きにするつもりでテキストに載っていた工具を片端から書き写したものだ。そこから必要となるものを絞っていく予定だった。

 ところが、全ての工具を作ってもらえるらしい。打ち合わせに使うつもりだった時間が丸々余ってくれた。

 

 これでナザリックを訪問した目的が全てこなせたことになる。

 ようやく回ってきた自由時間である。

 当初は最古図書館へ籠ろうと思っていたが、ギターを知ってしまった。というわけで音楽室へ。ミラには最古図書館へ向かわせて散らかした本の後片付けをさせる。

 そろそろ昼食の時間になるが、朝食のシズ専用特製ドリンクのおかげでお腹は全く減ってない。

 音楽室では昨日と同じ青いワンピースドレスに身を包んだセシルがいた。

 

「譜面は複製を用意しましたのでお持ち帰りください。ギターの教本とコード表は私と楽団帳の名義で借りてあります。こちらもお持ちください。但し、期日までに返却していただきます」

「ありがとうございます。譜面はありがたく。ですが、教本とコード表は全て暗記しました」

「本当ですか?」

 

 セシルの赤い目も疑わしいと言っている。

 試しにクラシックギターの手入れやマイナーなコード(短調のことではなく、あまり使われない方のマイナー)を聞いてみれば全てに正答する。

 人間の身でありながら守護者統括相談役に取り上げられたのは伊達ではないと、セシルはいたく感心した。

 

「相談役の滞在は明日の昼までと伺いました。基礎的な演奏技術は一定度身についたと思われますので、今日は表現の幅について説明します」

「お願いします」

 

 教本を丸暗記したのだから、音楽記号は全て把握している。しかし、本を読んでもわからないことは幾らでもある。強弱記号が代表の一つで、mf(メゾフォルテ)のやや強くとはどれくらい強く弾けばいいのか。そのあたりは実際に曲を聴くなり弾くなりして確かめなければならない。

 

 練習中にミラが戻り、暇そうなシズとエントマも顔を出した。

 昨日、イメージトレーニングした南のソナチネを弾き通し、シズちゃん大満足と思われた。が、

 

「これとこれは?」

「カンポ・アンダンテとフィエスタ・アレグロ・コン・ブリオですね。相談役殿が弾いたのは一番のカンポ・アレグレットです」

「!」

 

 なんと、南のソナチネは三番まであった!

 果たしたと思ったシズちゃんのオーダーがまだ残っていたことを意味する。とは言え、ギターを弾くのは男も望むところ。セシルの指導もあり、二番のカンポ・アンダンテが視聴に耐える出来になるのは早かった。

 エントマは盛大に拍手する。シズちゃんは自分が弾いたわけでもないのに得意げである。やはりシズちゃんに姉の座を任せるのは止めたほうが賢明であろう。

 

「もうじき夕食の時間になりますね。相談役殿はどうされますか?」

「いえ、私は」

「またギターを弾き続けるおつもりですか?」

「そうしたいところですが、最古図書館で作業が残ってるんです」

「……そうですか」

 

 昨日とは違って食事を一緒に、のお誘いだったのだが、ほのめかしは理解しない方が多い男である。

 セシルは重ねて誘うことなく、レストランへ向かった。シズとエントマも一緒に行く。プレアデスの二人とロイヤルスイートの廊下を歩きながらセシルは思う。

 

 教本やコード表を丸暗記されたのは誤算だったが、罠はもう仕掛けてある。気付いた時には大いに苦しみ、ナザリックの音楽室に戻ってくることだろう。

 

 息をするように悪を為す。

 それがナザリックの悪魔なのだ。

 

 

 

 最古図書館ではジュネ用のテキストに一通り目を通して中身を把握。部下に学習させるので複製を用意してもらえるよう司書に依頼する。

 そしたら次は好奇心が赴くままにと行きたいところ、した方が良いことが残っている。ソリュシャンとルプスレギナにアクセサリーを作ることになってしまったので、どのようなアクセサリがあるか調べることにした。

 指輪であれネックレスであれ、大きな宝石が映えるデザインが多い。小さな宝石を幾つも使っているものも多い。彫刻が美しいものも多数。どこに着けるかによってデザインが違う。目的によっても違う。調べれば調べるほど無数に出てきた。

 アイアンワークが楽そうで良いが、間違いなく怒られるので止めておくことにした。

 アイアンワークのアクセサリーは文字通りに鉄製のアクセサリー。型を作れば幾らでも量産できる。気の利いたデザインで色を付ければ裕福でなくても手が届く値段に抑えられ、そこそこに需要があるのではと思うが、金稼ぎは一先ず美容品のみに絞ることにする。

 

「ご主人様、もうじき時間になります」

「ああ、わかった」

 

 シャルティアから懐中時計を下賜されたミラはずっと時計係である。

 ヴァンパイア・ブライドたちをお相手する時間がやってきた。これが二度目。あと二回残っている。

 

 すでに日が落ちているからか、三人のヴァンパイア・ブライドは生き生きとしていた。先に体験した者たちから話を聞かされ期待が高まっているのかも知れない。

 一度目の時は一人ひとり順番に三往復したが、二度目は趣向を変えて三人同時に。三人を並べて尻を突き出させ、交互に突く。入れてないものへは指や唇で。

 一度目から時間が経っており、十分に回復していた。それに三人同時と言うことは、三人ともずっと可愛がられていることになる。

 なお、一度目と違って二度目はミラが同席した。ミラは時計係なのでお預けである。一人でずっとスカートの中に手を差し込み、あえいでいた。

 

 二度目の三人もとても満足したようで、セーフティルームを出るなり床の上にへたりこんだ。ミラが担いでどこかへ運んでいった。

 ミラはそのままエ・ランテルに戻って朝方に帰って来るらしい。

 

 図書館に戻った男は様々な種類のアクセサリーが載った図鑑を広げ、ユグドラシルに存在したマジックアイテムの図録も広げ、ついでに古今東西に存在した宮廷事情の読本を読み漁り、気付いたら知らない天井を見上げていた。

 

「起きましたか。図書館で居眠りする者はおりましたが、眠りこけた者はあなたが初めてです。ナザリックでの滞在がとても心ゆくものなのはわかります。ですが、あなたはアルベド様の相談役なのですから、もう少し品位を気にすべきです。わん!」

「ペストーニャ様!? ここは? 私は寝ていた? 時間は? ……ペストーニャ様にはご面倒をお掛けしてしまいました」

「運んだのは私ではありません。それと、あなたはもう少し身だしなみに気を付けるべきです、わん」

 

 この男の記憶にはないが、寝かされていたのはいつぞや運ばれたメイドたちの休憩室のソファ。何故かシャツのボタンが外されて胸元がはだけている。

 

 服が乱れているのはメイドたちの悪戯だが、それはそれとして図書館で寝落ちした男はぐっすり眠ってしまった。睡眠時間はきっかり10時間。そろそろ昼時だ。

 昨夜、ヴァンパイア・ブライドたちの相手をしたあとにポーションを飲んでいれば体力回復して夜通し活動出来たろうが、アインズ様に倣って吝嗇を発揮した結果、ナザリックでの貴重な滞在時間が10時間目減りしてしまった。シズといい、この男といい、素人はアインズ様の真似をすべきではないのである。

 

「ご主人様、お目覚めでございますか? その、申し難いのですが……、時間が……」

「わかった、急ぐ。ペストーニャ様にはまたもご面倒をおかけしてしまい、まことにありがとうございます。ペストーニャ様へはもう少し感謝を表したいのですが生憎所用が詰まっておりまして」

「構いません。これからは規則正しい生活を送るよう望みます、わん」

 

 所用といっても、ヴァンパイア・ブライドの三度目のお相手である。一時間は遅れてしまったが、ヴァンパイア・ブライドたちは警備シフトぎりぎりで設定したわけではないのでまだ余裕はある。

 男は顔だけ洗って食事はまたもシズ専用特製ドリンクで済ませ、ヴァンパイア・ブライドたちを伴って三度目のセーフティルームへ。

 

 三度目のヴァンパイア・ブライドは三人いた。ということは、最後はシリー一人だけとなる。どうやらシリーが一人だけを望んだわけではなく、他のヴァンパイア・ブライドたちがシリーと組むのを遠慮したらしい。ヴァンパイア・ブライド・エリートシックスの一であるシリーは、アインズ様からお褒めの言葉を授かったこともあるまさにエリート・ヴァンパイア・ブライドなのだ。他のヴァンパイア・ブライドからすれば憧れ的な位置にあるらしい。シャルティアにとってはどんぐりの背比べではあるけれど。

 

 三番目は前回前々回とも趣向を変え、三人で一人を責めることにした。

 責められてる一人は、挿入されながら舐められ吸われ揉まれてとても良い思いが出来る上に、男の負担がやや軽くなる一石二鳥の策。

 しかしながら、二人目を相手する時は最初の一人がダウンしてしまい、四人同時となるには復活を待たなければならなかった。

 

 そうして三度目の相手を終えたが、寝過ごしてしまったために四度目の時間がなくなってしまった。

 馬車を駆り立てればナザリックとエ・ランテル間は一時間の距離なのだが、そうすると積み込んだ荷物、特にクラシックギターが痛む可能性があるのだ。無難な15時より前にはナザリックを発つ必要がある。荷物を積み込む時間も必要だ。各所に挨拶もしなければならない。

 最終日こそ余裕をもってと思っていたのに、時間は全く足りなかった。

 

「それでは私はミラと一緒に相談役殿をエ・ランテルまでお送りします。今夜のうちには戻ります」

 

 そう言って、シリーも馬車に乗り込んだ。シリーの相手は馬車の中で。時間の秘密が解けない以上、どこかで工夫せねばならないのだ。

 

 

 

 

 

 

「おにーさんおっかえりー………………」

 

 ボッグハッナゼ……。

 

 エ・ランテルのお屋敷に戻り、馬車から降りた男を出迎えたルプスレギナは、男へ近付くなり眉間に皺を刻み、渾身のルプーブローを叩き込んだ。

 人狼であるルプスレギナは鼻が利く。男からプンプン匂い立つ女の匂いに、つい手が出ちゃっても仕方ないのである。

 だからお屋敷での若旦那様はメイドたちから甘く見られるのだが、これはもう今更で挽回は不可能であった。

 

「おにーさんがいない間も色々あって大変だったんすよ? 変な客も来るし」

「それは俺には関係ないだろう」

「おおありっすよ!」

 

 ミラが馬車から荷物を運び出す。同じく馬車に乗っていたシリーはアンデッドであるくせして幸せな夢の中。動けるようになったらミラが馬車でナザリックまで送る手筈になっている。

 

「とりあえず着替えてくるよ。ナザリックでの話は夕食の時でいいだろう。俺は生まれ変わったんだ! ルプーも皆も驚くといい」

「はいはいっす」

 

 お屋敷のメイドたちは久々の若旦那様を盛大に出迎えた。

 ソリュシャンはルプスレギナと一緒に外へ駆け出したかったが、一応はお嬢様ポジションなので愛しのお兄様が帰還の挨拶をしてくれるのをおしとやかに待つ。

 

「ルプーが言ってたように何かあったみたいだな?」

「それは直にわかりますわ。招かれざる客が何度も来ているのもありますが」

 

 ソリュシャンもルプスレギナと同じことを言う。

 招かれざる客なら物理的強制力でもって叩き出せば良いが、それはしていないらしい。

 

「申し訳ございません!」

「だから何のことだ?」

 

 ラキュースからは勝ち気な素振りが消えて、ひたすら頭を下げてくる。

 

「それは……」

「若旦那様、お客様がお見えになりました」

 

 ラキュースが話しだそうとした時に、メイドの一人が来客を告げた。

 ルプスレギナはつまらなそうに深く息を吐き、ソリュシャンの美貌には険が走る。どうやら原因であるらしいラキュースは美顔を固まらせ、冷たい汗をかき出した。

 

 男にはわけがわからずも、目当てが自分であるらしいので会うことを告げ、応接間に通すように言う。

 ソリュシャンとルプスレギナは付き合うつもりがないらしい。代わりにシェーダを同席させ、ご主人様とはいつも一緒のミラと、何故か平身低頭のラキュースもついてくる。

 ラキュースがついてくる理由はわからないが、断る理由はなく、そもそも誰が来たのかも聞いていない。話からすると、自分が不在の間に何度も来ているようだ。

 

「お前がここの坊っちゃんか」

「はい。魔導国宰相閣下であられるアルベド様の相談役に取り上げていただき、この屋敷の管理を任されております」

 

 応接間で待っていたのは中年の男だった。なんともチグハグな印象を与える男である。

 厳しい顔つきに引き締まった肉体。装いは冒険者のように思える。しかし、立つ姿、座る姿にどことなく気品がある。冒険者にしては品があり、貴族にしては野卑が過ぎる。間をとって没落貴族かと思えたが、それにしては虚栄心を感じさせず、自信に溢れているように見えた。

 

 はて誰だろうと思ったところで、その全てに当てはまる女性がすぐ傍にいることを思い出した。

 

「ラキュースの叔父上であるアズス・アインドラ様ですね。私にどのような御用でしょうか?」

「俺からの用件は一つだ。ラキュースを返してもらう」

 

 王国が誇るアダマンタイト冒険者チーム「朱の雫」のリーダーであり、ラキュースの叔父であり、ラキュースが憧れ冒険者を志す発端となった男が、単身で乗り込んできた。




次回はアズス回でその次は何を書くつもりだったのか
本作はどこに着地するんだろう?
書いてる自分がわかりません


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遠路遥々やって来た特大ボーナス

本話11.5k


 お屋敷の若旦那様と話し始めて五分と経たない内に、アズスは初手を誤ったのを痛感し始めた。

 

「だからそんなもんをラキューが払う必要はないって言ってんだよ!」

 

 拳をテーブルに振り下ろす。

 格調高いテーブルでありながら重厚な作りで、アズスが殴ったくらいでは壊れない。紅茶が少々波打つ程度。

 代わりに大きな音が響き、ティーセットを並べたシェーダは顔を強ばらせた。アズスには見えないよう、顔にはありありと嫌悪を浮かべる。

 

「それを判断するのはアズス様ではありません。訴える権利があるのはラキュースだけです。どのみち契約は既に締結されています。それにご覧になったでしょう? 現に黄金の輝き亭は崩壊しています。再建は必須です」

「そうよ! これは私の問題なんだから叔父様は口を出さないで!」

「アズス様と話しているのは私だ。ラキュースの事だから同席させてるが発言を求めない限り黙っているように」

「あ……、はい。ごめんなさ……、申し訳ございません」

「チッ……」

 

 お転婆だった姪っ子が躾けられつつある。アズスは露骨に舌を打った。

 顔を顰めたのはラキュースだけだった。

 

 

 

 

 

 

 王国が誇る最高位の冒険者チーム「蒼の薔薇」が事実上解散したのは重大な事件だった。王国内に動揺が走るのは勿論のこと、事は評議国に住み暮らしていたアズスの耳にも届いた。

 アズスが聞き知ったところによれば、蒼の薔薇の中核であったイビルアイと、ティアとティナは魔導国に移籍。リーダーであったラキュースとガガーランは冒険者を休止。

 

 ラキュースはアズスの姪である。アズスは、ラキュースが幼かった頃から知っている。冒険譚に目を輝かせ、冒険者である自分に憧れ、その末に生家を出奔してガガーランと共に冒険者チーム「蒼の薔薇」を立ち上げた。

 仲間を得て力をつけ、彼の「国堕とし」すら下した。蒼の薔薇は冒険者の最高位であるアダマンタイトの称号を得るに至った。

 お転婆で可愛い姪っ子が自分と並び立つのは、生意気だと思うし、誇りにも感じ、喜ばしくもあった。

 

 そのラキュースが冒険者を休止するという。あれほど憧れ、生家から逃げ出してまでして冒険者になったというのに。これは絶対に裏がある。

 蒼の薔薇の他のメンバーが頼りに出来ず、王国が表立って魔導国に干渉するわけにもいかず、自分が動くしかないと判断して魔導国を訪れてみれば、ラキュースはメイドになっていた。

 

「私はラキュースを拘束しているわけではありません。アズス様は私が不在の間に何度か訪問されていたそうですからおわかりのはずです。私はラキュースに給金を払って雇っているのですよ」

「それで金貨二万枚稼げだと? だったら冒険者に戻した方がずっと早いだろうが」

「仰る通りです。ですが、担保がありません。言い換えますと、魔導国の一員である私は、王国の冒険者であるラキュースを無制限に信頼することは出来ないということです。それに、イビルアイ、ティア、ティナの三名は魔導国に移籍しています。ガガーラン様は調子を崩されているようで療養しているそうです。ラキュース一人を王国に戻し、金貨二万枚を稼ぐのにどれほど時間がかかるのか。加えてラキュースの――」

「話が長い! もっと短くまとめろ」

「要点を抜き出せと仰っしゃりますか? それをするには互いの認識が共通であることを確認してからでないといけません。私がアズス様に知っていて当然と期待する部分をアズス様がご存知でない場合、誤解が積み重なって後々の問題となる可能性が無視できません。逆もまた然りでございますから、アズス様が省略した箇所を私が想像で埋めてしまいますと」

「だから! チッ!」

 

 魔導国を訪れたアズスは、蒼の薔薇の他のメンバーには会えなかったがラキュースを見つけるのは早かった。あろうことか、魔導国の公館でメイドになっていたのだ。

 ラキュースが失敗を誤魔化す子供のような顔で話した内容は、聞くに連れ頭痛が痛んだ。

 普通に考えれば、黄金の輝き亭が爆発した責めをラキュース個人が負うのは間違っている。どうして金貨二万枚もの大金をラキュースが一人で返すことになっているのか。百万歩譲って爆発の原因が蒼の薔薇が持っていたマジックアイテムのせいだとしても、他のメンバーも等しく責任を負うべきだ。

 ラキュースは絶対にハメられたのだと確信したが、当のラキュースは何を言っても動かない。どういうわけか借金とは無関係にこの屋敷に留まりたがっているように見えた。

 ならば次善の策。ラキュースの雇い主となった男を説き伏せるのだ。

 

 生憎不在のようで二度目以降の訪問は丁重に追い返されたが、件の男の情報を集める時間を得たので都合が良かったとも言える。

 一番に聞くのは美貌。暗がりに仄光る程だそうで、男女問わず彼の男の美貌には抗えないとか。異形種が支配する魔導国において、人間の身でありながら魔導国宰相相談役に取り上げられたのに威圧的なところも身分を傘に着る事もない穏やかな人物。おそらくは見目の良さから拾われたのだろうと察した。

 こちらはアダマンタイト冒険者「朱の雫」のリーダー。軽く脅してやれば見た目だけのお坊っちゃんはどうとでもなると判断した。

 

「ここでならば衣食住を完全に保証され、安全に給金を得ることが出来ます。ラキュースの選択を私は――」

「だからそんな無茶が通るわけ無いだろって言ってるだろうが!」

「それを判断するのはアズス様ではありませんよ。以前、ラキュースたちにも話したことですが、王国にはアダマンタイトすら石ころに変えてしまう大魔法が掛かっているようですね。ラキュースは借金を背負い、私が肩代わりしている。それだけのことがおわかりになりませんか?」

「てめえ!」

 

 眼光鋭く睨みつけても、男は眉根一筋動かさず、穏やかな笑みを崩さない。

 どれほど威圧を掛けても全く意に介さない。舐められているのか、アダマンタイト冒険者を脅威ではないと思っているのか。

 これだったらいつものように猫を被り、搦手で行った方がマシだった。

 

「再三申し上げていますように、ラキュースが本邸に留まっているのは給金を得るためです。私が立て替えた額は公金貨二万枚。ラキュースがそれだけを私に返済できるのなら、あえて雇う必要はありません」

「……おい、ラキュー」

「私は叔父様から金貨一枚たりとも受け取りません。私がちゃんと一人で返済します。だいたい叔父様は評議国にいたのにどうしてここまで来ちゃうの!? 私はもう子供じゃないんだから自分のことくらい自分でなんとかします! もう帰ってください!」

「だそうで」

 

 金貨二万枚はアズスにとっても大金だ。それでも蒼の薔薇より長くアダマンタイト冒険者であり続けたこともあり、なんとかならない額ではない。金を借りるあてもある。

 しかし、ラキュースは受け取りそうもない。

 

「私が契約しているのはラキュースとです。ですが、アズス様はラキュースの叔父上とのこと。もしもアズス様がラキュースの代わりにお支払いいただけるのでしたら、私はそれでも構いません」

「そんな!?」

 

 ラキュースが驚きに悲しみが入り混じって声で叫ぶが、男は気付かない振り。

 実のところ、少々面倒になってきて話をまとめに掛かったのだ。

 ナザリックから馬車の旅で帰ってきたばかりなのに予定外の話し合い。お腹も減ってきた。手足を伸ばして休みたい。ラキュースの叔父で遠くからやって来たお客様だそうだから相手をしているが、自分勝手な我儘を言ってくる厳ついヒゲのおじさんの相手は極力したくない。ヒゲの手入れをセバス様に習うべきである。

 

「但しアズス様から受け取る場合、二万枚という訳には参りません。黄金の輝き亭再建に必要なのは二万五千。ラキュースが支払うのなら私が幾ばくか出しても良いのですが、アズス様とは初めてお会いしたわけですから私が負担する義理はありません」

 

 二万が早速五千増えた。

 

「アズス様と黄金の輝き亭とを仲介するため、手数料として一割いただきます。債務の発生から日数が経っておりますから利子がつきます。日割りして計算すれば二割ほどでしょうか。ですが、一割は私が負担いたしましょう」

 

 二万五千が二割増えて三万に。

 

「他に大きな問題が一つ。爆発によって散逸したラキュースの装備品の捜索です。ヴァージン・スノーは見つけたのですが、他のものはまだ見つかっておりません。捜査費用にざっと一万」

「ふざけるな! そんなにかかるわけ無いだろうが!!」

「お忘れのようですね。ラキュースが持っていたものの中でも、魔剣キリネイラムは彼の十三英雄が持っていた装備です。闇で売れば如何程にになると思います?」

「あんなもんがそうそう簡単に売れるか! どこかのバカが買ったとしてもラキュースが返還を求めれば済む話だ!」

「そんなものはどうとでもなります。例えば、買って百年は仕舞っておけばいい。個人では難しくとも、組織や国家ならその程度は簡単に出来ることです。そのため、キリネイラムの発見者には相応の報酬を出さないと持ち逃げされる恐れがあるのですよ。尤も? アズス様がキリネイラムはどうでもよいと仰るのならばこちらの費用は上乗せしません。当然のことながら、発見に至ってもラキュースに返還するわけにはいかなくなりますが」

 

 三万に一万上乗せして四万。ラキュースの借金の倍である。

 

「アズス様が黄金の輝き亭再建に協力してくださるなら、私の負担がなくなります。そうなったらラキュースを専属冒険者として雇ってもいいですね」

「是非そうしてください!」

「お前は黙ってろ!」

「叔父様こそ口を挟まないで!」

「黙るのはお前だ、ラキュース。発言を求めない限り黙っていろと言っただろう」

「申し訳ございません!」

「あークソっ!!」

 

 アズスは乱暴に頭を掻いた。

 まるで堅物役人か海千山千の狸を相手にしているような気分だ。自分に全く臆さずこうも口が回るのなら、宰相の相談役になれたのは顔だけではないのだろう。

 

「顔だけの男が良くもまあそんな口が聞けたもんだな?」

「アズス様にもお褒めいただくとは光栄です」

 

 皮肉も揶揄も通じない。

 

「代わりに話が通じないみたいだな」

「自分の意見が通らないことを話が通じないと仰るのですか? それは初めて聞く使い方です。勉強になりました。私が使うことはありませんが」

「勉強熱心なようでなによりだよ!」

「至らないことが多い身でございますから」

 

 どうすればこの男を揺さぶれるのかさっぱり見当がつかない。

 ふと思いついたことがあり口を開きかけたが、何も言わなかった。個人攻撃ならまだしも、魔導国への侮辱となれば個人間の問題ではなくなる。

 王国とは仮想敵国である魔導国の公館に単身で正面切って乗り込んできたのは、エ・ランテルでは魔導国の評判が悪くなかったからだ。街で集めた情報も、この男が危険な存在と示唆するものは一つもなかった。

 しかし、個人から国家の話に上げると面倒なことになりかねない。貴族の称号を捨てたアズスだが、国家内の政治力学がとてつもなく面倒なことはよく知っている。

 

 アズスは地獄への最短直通路に踏み入ることなく、立ち上がった。

 

「今日のとこは帰る。ここじゃ客に酒も出してくれないようだからな」

「ああ、それなら紹介状を書きましょうか? 黄金の輝き亭は再建中ですが、美味しい食事を出すところは他にもありますから」

「………………いらねえ」

 

 一緒に食事をする選択肢は、どちらの男にもないようだった。

 

「ふん」 

 

 アズスが鼻を鳴らして応接間を出ようとするも、男は座ったまま。見送るつもりはないらしい。アズスを見送るより夕ご飯の方が大切なのだ。

 その時である。

 

 

 

 アズスが伸ばした腕を、ずっと無言でいたミラが手刀で大胆にカット!

 間髪入れずに拳を繰り出した。

 

「グハッ!!」

 

 貫通属性があるルプーブローと違って、ミラのボディブローは吹き飛ばし属性。アズスは諸々を巻き込んで床と水平に飛び、部屋の出入り口から反対側の壁に叩きつけられた。

 ずるずると壁から滑り落ち、床に倒れる時は水たまりを踏んだような音が響いた。倒れたきり、アズスは起きなかった。

 

 若旦那様も、ラキュースも、お茶を出すだけで給仕も何もしなかったシェーダも、ぽっかーんと目と口を丸くした。

 

「そちらのお客様がシェーダさんのお尻を触ろうとしましたので阻ませていただきました」

 

 嫌悪と怒りがシェーダの顔を染め、両手でお尻を抑えた。お尻を許せるのは若旦那様だけなのだ。

 

「叔父様、サイテー」

 

 叔父が瀕死になったというのに、ラキュースの視線は凍えている。

 腕が大胆にカットされたりなくなったりするのは、若旦那様で何度も見ている。嫌なものに慣れてしまった。

 それに大怪我をしようと、お屋敷にはラキュース以上の超一流の神官が常駐している。

 

「あー…………。とりあえず止血するから、シェーダはルプーを呼んできてくれ。ラキュースはここの後片付けだな」

「…………はい」

 

 早速神官様を呼んでもらえたのはアズスの親族として嬉しいが、吹き飛んだテーブルや椅子や飛び散った破片で傷ついた壁や血の汚れを落とすのはかなり大変そうだ。

 

「なんすか? 話は終わったっすか? お、ついにやっちゃったんすね!」

「俺じゃないし俺がやらせたわけでもない。とりあえず回復してやってくれ」

「これって一応王国の冒険者なんすよね? ラキュースの叔父とか聞いたっすけど。回復させちゃっていーんすか? 面倒なことにはならないっすよね? いっそ埋めちゃった方が早くないっすか?」

「そこのとこはどうにかするから早く」

「らじゃっす」

 

 どんな理由があろうと、話し合いの席で暴力を出すのは良くない。法に措いて、暴力を振るった方が金を取られると決まっている。

 ミラもそこのところはわかっているつもりなのだが、ご主人様への度重なる侮辱で切れそうなのを必死で堪えていたのだ。そこへシェーダのお尻を守る大義名分が加わり、実行。ご主人様からお叱りを受けるかも知れないが、悔いはない。少なくとも、シェーダは味方をしてくれるはずである。

 

《大治癒!》

 

 ルプスレギナの回復魔法により、アズスのなくなった腕が元通りに。

 土気色になりつつあった顔色には血の気が戻り、虫のような吐息にうめき声が混じり始め、若旦那様がカーンと頭をひっぱたいた。

 以前、キーノを昏倒させたのと同じ打法である。力を入れて打つと死んでしまうので、十分以上に手加減をして。

 回復したアズスはまたも気を失った。

 

「夢だったと思ってもらおう」

 

 一同はまたもポカーンと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 ラキュースとシェーダは応接間の後片付け。

 若旦那様の後をアズスを引きずるミラが続く。

 

「二階に運ぶんすか? こんなのそこらへんに放り込んどけばいーじゃないっすか」

「招いたわけじゃないけど一応お客様だからな」

 

 ついてくるよう言われたルプスレギナは、アズスにお屋敷の客室は勿体ないと不満をこぼす。

 お屋敷の二階は、ナザリックの関係者だけが入っていい場所なのだ。二階での滞在を許されたキーノは、アルベド様を危機から救った功績ゆえである。呼んでもないのにやってきて文句ばかり垂れるおじさんには贅沢が過ぎるというもの。

 

「何よそれ?」

 

 現在のお屋敷は、黄金の輝き亭が再建中なので冒険者チーム「漆黒」が滞在中である。

 モモン役のパンドラズ・アクターは夜が来るたびにナザリックに戻ってマジックアイテムを愛でているので、美姫ナーベことナーベラルだけが残っている。

 

「ナーベ様がいらっしゃったのなら話が早い」

「何のこと?」

 

 一同は書斎へ。お屋敷でアルベド様のお食事部屋を除けば随一の防諜処置が施されている部屋である。

 男は気絶しているアズスを椅子に座らせ、目と耳に血染めの包帯を巻きつけた。

 

「守護者統括相談役としてナーベラルに要請します。今すぐアルベド様に連絡をとってください。緊急です。王国の冒険者アズス・アインドラについての報告があります。ルプーは確か完全不可視可の魔法が使えたな。姿を消して屋敷の周りを警戒。多分、アズス様のお仲間がいるだろうから」

「わざわざそんなんしなくても屋敷の周りはずっと警戒中っすよ?」

「じゃあいいや。兎も角アルベド様のご判断を仰ぐ。指示をいただくまで待機」

「わかんないっすね。こいつに何かあるんすか?」

「なかったからおかしいんだ」

「はあ?」

 

 何もないからおかしいと言う。

 面倒でアズスとの話に同席しなかったルプスレギナには何のことだかさっぱりわからない。アズスが倒れていたのだって、ミラがぶっ飛ばしただけでおかしいことは何もないように思える。

 相変わらずこの男が何を考えているのかわからないが、守護者統括相談役の名を出して今すぐにと言うのは初めてのことだ。自分にはわからないが、何かに気付いたのだろう。

 何もなかった場合、怒られるのはこの男だけであるし。

 

「えっ!? そのようなことをしていただくわけには……。まだ不確定の話でございますので……」

 

 ナーベラルがかしこまっている。アルベド様へメッセージを飛ばしているのだから当然だが、それにしては様子がおかしい。

 他の面々は顔を見合わせ首を傾げ、何があったのだろうと思ったその時である。

 書斎の中央に闇の扉が現れた。

 ゲートの魔法を使うのはシャルティア様。そして、

 

「何があったのだ?」

「「「アインズ様!」」」

 

 一同はその場に跪いた。

 

 

 

 ナーベラルから緊急のメッセージを受け取ったアルベドは、何が起こったのか詳細を把握するために自分がエ・ランテルに赴こうとした。しかし、移動アイテムの狩場直行君は昨夜使って帰ってきたのは夜更けである。日付が変わらないと再使用が出来ない。

 それならシャルティアを使ってゲートの魔法を使わせるか、それよりも先にメッセージの魔法が使える誰かを捕まえて簡易な報告を受け取るべきだ。

 そう思って足早にロイヤルスイートの廊下を歩いていたところ、幸運なことにアインズ様とばったりお会いすることが出来た。

 お会い出来たこと自体は幸運だが、今はいささか急いでいる。しかし、急いでいるからと言ってアインズ様へおざなりな態度を取ろうものなら万死に値する。緊急のメッセージを受け取ったので事の仔細を確かめるべく連絡を取ろうとしているとご報告したところ、アインズ様が直々にエ・ランテルへ赴かれると仰せになった。

 不確定の情報であるのでアインズ様にご足労いただくわけにはと固辞するアルベドであったが、アインズ様は「構わん」の一言で行ってしまわれた。

 

 ルプスレギナとナーベラルが男の口から出てきた「緊急」に驚いたように、アルベドも意外に感じた。

 そしてアインズはと言うと、ビビっていた。

 

 アルベドが関わらない限り、どのようなことがあっても、それこそ自分が死ぬことになっても、常に穏やかな態度を崩さず余裕を持って行動していた男が「緊急」と言うのだ。

 間違いなく本当にやばいレベルの緊急事態に決まっている。まさかエ・ランテルで革命の兆しを見つけたわけではないと思いたいが、アインズが理解を投げ捨てた男の頭脳だ。何が起こったか全く見当がつかない。兎にも角にも一刻も早く対処する必要がある。そのためにはまず情報収集。

 アルベドがエルダーリッチたちを教育してくれたおかげで、エ・ランテルの内政には余裕が出てきた。デミウルゴスの出張も終わり、ナザリックの防衛体勢も揺るぎない。どうせ夜はアインズ様当番のメイドに見守られているだけなので時間はある。一日の反省タイムが削られるが、あの男が口にした「緊急」の方が遥かに重要だ。

 そうしてエ・ランテルへ転移の魔法で来てみれば、王国の冒険者であるアズスを確保したという。

 男が緊急と付け加えたのは、時間制限が夜明けまでであるかららしい。

 

「うむ? よくわからんな。どういうことだ?」

 

 内心ガクブルだったのだが、蓋を開けてみれば王国の冒険者を捕らえただけ。

 

「アインズ様にご足労いただくとは」

「簡潔に話せ」

「はっ!」

 

 黄金の輝き亭を爆破してラキュースに借金を背負わせ、屋敷のメイドにしたのはアインズも知るところ。

 アズスはそのラキュースを取り返しに来たが、当のラキュースから拒否された。

 

「帰り際に、ミラが手刀でアズスの手を落としました」

「ふむ」

「その後、腹部を強打し、昏倒させました」

「ふむ?」

 

 元凶のミラは額を床に擦りつけている。

 

「アズスは反応も出来ないようでした」

「……それがどうしたのだ?」

「そこがおかしいのです」

 

 ミラはヴァンパイア・ブライド・エリートシックスにて最強の個体である。

 シャルティアからこの男の元に派遣されてから、戦闘経験は兎も角として、至高の鮮血を何度となく下賜され、あるいは無理に飲まされ、種としての限界を少しずつ越えていった。今や単なるヴァンパイア・ブライドを超越している。シャルティアから見れば大して変わってないようでも、他のヴァンパイア・ブライドたちと比べれば歴然である。

 とは言ってもやはり元がヴァンパイア・ブライド。元々がそこまで強い種族ではない。シャルティアが彼女らに任せるのは身の回りの世話が主であって、ナザリック上層部での防衛の主軸には置いていない。

 

 ミラの実力は帝国四騎士を越えている。

 帝都のお屋敷でミラがレイナースと打ち合う事は一度もなかったが、ティアとティナのサビ落としには付き合っていた。

 ティアとティナが少々訛っていた状態で、二人掛かりでミラと良い勝負になった。万全でも一対一ならミラが八割勝つだろう。

 実際に剣を合わせたティアの所感では、ラキュースとは相性の関係で不利。イビルアイは色々特別なので除外。他のアダマンタイト冒険者とは互角以上。

 そのミラに、アズスは無抵抗で吹き飛ばされた。

 

「アズスは仮にもアダマンタイト冒険者です。ですが、その割に弱すぎるのです。初撃は不意打ちでしたので受けるのも仕方ないでしょうが、その後の拳に反応も出来ていないのは不可解です。私でも避けられるとは申しませんが、後ろに飛ぶか打点をずらすくらいは出来ました。アズスはそのいずれも出来ていません。それなのにアダマンタイト冒険者であり続けています」

「弱いのにアダマンタイト冒険者であるのがおかしい。そういうことか?」

「左様でございます。アインズ様はよくよくご存知であることですが、王国と言えど冒険者は実力社会。人脈や金銭を積めば上位の冒険者になれるわけではありません。相応の実力が絶対に必要です」

「弱さをひっくり返す何かを持っている。そういうことだな?」

「その通りでございます」

 

 男は深々と頭を下げた。

 

 冒険者たちの実態と、アダマンタイト冒険者たちの実力を知っているこの男でなければ気付かないことだった。それとて以前なら、弱いアダマンタイト冒険者もいるものかと何の疑問も感じなかったことだろう。

 

 全てはグレート・モンド・ダウン・ヒル(GMDH)のおかげである!

 

 GMDHの主人公デスク・ドラゴニオは暗黒カタナテックの頂点であるラウンドムーンキリングテックを極め鏖殺師の称号を持つ無敵のカタナテックマスターである。

 しかし、ドラゴニオが強いのはカタナテックが優れているからだけではない。寸時の油断もない常在戦場の心構えと、針一本見逃さない優れた観察力と思考力があるからだ。

 ある時は生花の切り口から敵の太刀筋を探り、ある時は足跡から敵の構えを見極める。常人なら日常に埋もれてしまうであろう些細なことも見逃さず、全てを糧として勝利につなげる。

 

 ドラゴニオに倣い、おかしいと感じたことを放置せず、どうしてそうなのかと考え続けたが故にアズスの異常に気付けたのだ。

 

「……………………まぁ、折角来たことだし」

 

 ドラゴニオがどうたらのくだりを、アインズたちは聞かなかったことにした。

 アインズたちは聞かなかったことにしたのに、GMDHについて熱弁した男は、この名作はナザリック全体の課題図書にした方が良いのではと考え、かくの如き上申書を提出して件名を一瞥されただけで却下されることになるのは余談である。

 

《ドミネイト・パースン》

 

 アインズが放った支配の魔法が気絶しているアズスへ直撃した。跪いていた男は、アズスの耳から血染めの包帯を外す。

 ややあって、アズスの口から唸り声が漏れてきた。

 魔法の効果で気絶から覚醒したのか、単にアズスの回復力によるものか。

 

 緊急と聞いてビクビクしながら飛んできたアインズ様は肩透かしである。

 ちなみに緊急で夜明けが制限時間となっているのは、エ・ランテル内あるいは近郊に、朱の雫の他のメンバーが待機してアズスの帰りを待っていると推測されるからであるらしい。2・3聞いたら帰すつもりなので、時間は問題にならないだろう。

 アインズは仰々しく咳払いをしてから問いかけた。

 

「アズスよ。弱いお前がアダマンタイト冒険者になれたのは何故だ? 弱さを補う何かを持っているのか?」

「パワードスーツだ」

「……………………………………………………は?」

 

 アズスから発せられた端的な答えは、アインズの思考を止めた。

 

 魔法が発達しているせいで機械文明がさっぱりなこの世界で、パワードスーツと聞かされるのは違和感が酷い。

 違和感だけで済むならまだしも、もしもアズスが言ったパワードスーツとアインズが知っているパワードスーツが同じ物を指していた場合、軽視して良いものではなくなる。

 

「パワードスーツとはどのようなものだ?」

「でかい全身鎧だ。攻撃力・防御力・機動力の全てを大幅に引き上げる。飛行能力もある。蒼薔薇のチビより速く飛べる」

「……攻撃力について答えろ」

「魔法武装だ。俺が使えない上位の魔法を発動できる。一番使えるのは魔導銃だ。俺の親指くらいの弾丸を超高速で連射できる。大抵のモンスターならこれだけで方が付く」

「そんなものをどこで……。ナーベラル!」

「はっ!」

「シャルティアにメッセージを。今すぐ来いと伝えろ。ペストーニャも連れてこい。その後でアルベドとデミウルゴスだ。ルプスレギナはソリュシャンを呼んでこい。ここであったことを全て記録させる。お前は何を聞くべきか考えろ。俺は魔法の維持にかかりきりになる。パンドラはどこにいる!?」

「かしこまりました」

「すぐに呼んでまいります」

「パンドラズ・アクター様はナザリックにお戻りになったと聞いております」

「あのバカ! 当分謹慎だ!」

 

 移動の足にシャルティア。魔法を維持するための魔力タンクとしてペストーニャ。アルベドとデミウルゴスはナザリックの頭脳。

 お屋敷の書斎がかつてない人口密度を誇る中、アズスの口から次から次へと情報が吐き出された。

 

 パワードスーツ。魔導武装。魔導銃。魔神。十三英雄。リク・アガネイア。白金の鎧。評議国。ツアー。白金の竜王。強力な剣らしきもの。

 

 

 

「アルベド、デミウルゴス。得た情報を元に対策を考えよ」

「「はっ!」」

「今はまだ評議国を刺激したくない。こいつの記憶を操作し何もなかったことにする。ペストーニャは魔力の譲渡を」

「かしこまりました、わん!」

 

 そして誰も彼もが一睡もしないまま夜が明けた。

 

 何も知らないアズスは強い酒で酔い潰れたと言うことにして、朝になってからラキュースに追い立てられ屋敷を退去した。

 ナザリックから来た者たちはナザリックに戻り、急遽の対策会議。まずはアルベドとデミウルゴスが議論をしてたたき台を作る。

 お屋敷にはお屋敷に元々滞在していた者たちと、アインズが残った。

 

「お手柄、だな」

 

 ユグドラシル製のパワードスーツは、後発ユーザー救済のためにファンタジックな世界観を無視して強引に追加された要素である。当時はロボットモノが流行っていたのだ。

 カンストプレイヤーには歯が立たないが、装備によっては80レベルに匹敵する。プレアデスではまず勝ち目がない。そんな危険を事前に知ることが出来た。

 竜王がどうのとは非常に嫌な情報であったが、パンドラを除く智者三人の意見は、何らかの理由があって動くことが出来ないと断定した。おそらくは何かを守っている。それは世界を荒らした魔神たちを倒すことより優先される事であるらしい。魔神を越える脅威がない限り動くことはないと思われた。対策は必須だが、当面は静観しても問題ない。

 

「何か望むものはあるか? 何でも良い。望むものを与えよう」

 

 ナザリックはホワイトな組織を目指しているのだ。であるならば、功績に相応しい報奨を与えるのは当然である。

 

「それでは……」

 

 ラキュースが屋敷に来たのはソリュシャンの気紛れが発端だ。

 アズスが弱いのに気付けたのは、シェーダのお尻とミラの逆上のおかげ。

 しかし全てはこの男がいなければわからなかったことである。

 

「老いぬ体と長い命を望みます」

 

 男の言葉にアインズは、気付いてなかったのか、と言いかけたのをギリギリで堪えた。




ここでツアーがどうこうって話になると本作の方向が散らかるので、以降は多分フレーバー程度にしか触れないと思います


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ご褒美色々

本話12k
5kくらいで終わりそうで短くなりすぎるかもと思ったらこの文字数


 アインズは、この男に寿命がなくなったのを知っている。確証はないが老化も止まっているはずだ。アウラが色々してきた事をアインズは知らないので、寿命が伸びたという話ではない。種族も人間のままである。不老と寿命の克服はクラス特性に依るものだ。

 ナザリックでは人間でありながら不老不死の存在が一人だけいる。不老不死の人間はありえないではない。

 

「不老不死を望むというのか? お前がそれを望むとは思わなかったが、心変わりでもしたのか?」

「アルベド様に、アインズ様に、そしてナザリックへ長く尽くすためでございます」

 

 アインズ様の御前であるのに、相変わらずアインズ様が二番目にくる男である。

 

 男は先だってジュネと交わしたやり取りを説明した。

 ジュネには千年先まで使える技能を仕込むつもりでいるが、それならば万年先まで使える技を持っている己の命を長らえさせるべきとやり返されてしまった。もしも果たせない場合には,シャルティア様の牙を受けヴァンパイアに転化すべきとも。

 ヴァンパイアになることに抵抗はないが、そうするとシャルティア様に絶対服従となってしまいアルベド様への忠義が曇る可能性がある。世界の真理たる美の光を翳らせないためにも絶対に取れない手段である。

 

「ふむ……、そうだな……」

 

 男がいつの間にか得ていた隠しクラスの特性を教えるだけで済む話ではある。

 しかしそうすると、別の褒美を与えなければならない。それはそれで構わないのだが、折角知らないでいるのだから知らないままにさせておいた方が良いのではないだろうか。

 

「よかろう」

「おお! ありがとうございます!」

 

 鷹揚に頷いたアインズ様に男は快哉の声を上げ、跪いていたソリュシャンとルプスレギナは内心でガッツポーズ。ミラは書斎の外で出入り口を守っているので聞こえていない。

 なお、ミラがナザリックへ送り届ける予定だったシリーは、明け方になってシャルティアと一緒に帰還した。守護者統括と階層守護者と一緒に帰還するのはアンデッドでありながら寿命が縮む思いだったようだ。

 

「ついてこい」

「はっ!」

 

 アインズがゲートの魔法を発動する。暗い球形の扉に、アインズに続いて男も姿を消した。

 扉が完全に消え去ってから、ソリュシャンとルプスレギナは立ち上がった。向き合い互いに右手を高く上げて打ち合って、パァンと高い音を響かせた。

 

 

 

 

 

 

 大規模MMORPGであったユグドラシルには、実に様々な種族と職業(クラス)があった。中には取得条件が公開されていない隠しクラスもある。アインズが取得している「エクリプス」はその一つ。種族をオーバーロードにした上で死霊系魔法を極めて初めて取得出来る。死者の魔法使いロールをしていたアインズが偶然取得できたクラスだ。

 

 アインズは思うことがありこの男のクラス構成を調べたことがある。ギルドマスターであるアインズ直々にナザリックに受け入れることを決定した男なので、玉座の間でのみ使用可能なマスターソースで男の情報が閲覧できた。

 男のクラスには隠者だとか大隠遁だとかが並び、どこまで隠れるのが好きな男なんだと思ったものである。その中に見覚えのないクラスがあった。わからない事は調べるのが一番である。早速百科事典を開いた。

 全てのユグドラシルプレイヤーに与えられる百科事典は遭遇したモンスターの情報が自動で書き込まれるものだが、アインズが開いたのはそれ以外の情報も書き込まれるアーカイブのようなものである。

 そこで男が得ていたクラスの詳細を調べたアインズは、実に久しぶりにユグドラシル運営を心の底から罵倒した。

 

 ユグドラシルにおいて、プレイヤーやエネミーの強さは数値で表される。代表がレベルだ。それ以外の数値ではHP・MP、物理・魔法それぞれの攻撃力・防御力。素早さ。状態異常等への耐性があった。

 しかしユグドラシルのデータ分析班(有志のプレイヤー集団)は、それらは最終数値であって奥に隠された数値があると推測していた。

 アインズはゲーム内でロールプレイするくらいなのだからデータ分析に過度の興味は持たなかったがマスクデータの存在は感じていた。マスクデータがわかったところで最終的な強さが変わるわけでない。所詮は趣味の範疇である。それでも公開されてる情報なら調べちゃうのがユグドラシル愛に溢れたアインズ様である。

 データ分析班によれば、ユグドラシルも伝統的なゲームと同じようなステータス構成をしているらしい。表に現れる数値はレベルを除外して9個だが、実際には十以上あるのだとか。

 例えば、力が上がればHP微増、物理攻撃力増加、物理防御力微増。体力が上がればHP増加、物理防御力微増といったように。

 マスクデータなので各々の名称は違う可能性が高いが、便宜的に魔法に関わるステータスを魔力・知力・精神力とする。魔法に関わるステータスなのだから、魔法が使えなければ話にならない。

 ところがアインズが百科事典で得た情報を意訳すると、あの男が得たクラスを取得するには魔法を封じた上で知力と精神力を一定以上に高める必要があるとあった。高い知力が空間の秘密を解き明かし、高い精神力が秘密の衝撃に耐えるとかなんとか。

 そこまでなら多数のプレイヤーがいたユグドラシルだ。酔狂なプレイヤーがロールプレイしていた可能性は大いにある。問題は「深い思索」と「生まれ持った才」である。ユグドラシル内での「深い思索」はフレーバーテキストに過ぎなかったろうが、「生まれ持った才」は大問題だ。

 ユグドラシルにおいて、アバター作成時の初期ステータスは同一ではない。個体差がある。ダイスを振って決められていたわけだ。

 

 つまりどういうことかというと、スタート時に「隠れているステータス」で「才」と称されるほどの数値を得て、全く意味がない酔狂なロールプレイをした末に取得できる可能性があるクラス、ということになる。

 

 隠しクラスの存在を確信していたとしても、初期ステータスからマスクデータの高低を推測するのは不可能だ。分が悪すぎる賭けである。

 これを知ったアインズが「バッカじゃねえの!? もうほんとバカぁ……。わかるわけねーだろこんなもん! このクソッ! クソ運営があぁぁぁああああぁっ!!」となったのは無理からぬことであった。

 取得難易度が高過ぎる代わりにクラス性能は異常の一言。チート(不正改造)を越えてデバッグモードレベルではと思わされた。

 強さは全くない。ステータスは魔法職寄りだが魔法の使用は不可。ならば物理と行きたいところだがステータスは魔法職寄り。戦闘では使いようがない。真価は情報収集である。空間の秘密を解いたのだから、距離もあらゆる障壁も無視して情報を得ることが出来るのだ。

 もしもかつてのギルドメンバーであったナザリックの軍師ぷにっと萌えがこのクラスを取得していたら、ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」はユグドラシルで不動のNO1ギルドであり続けたことだろう。人間種にしか取得できないクラスらしいので無理な前提ではあるのだが。

 

 

 

「そう言えばアルベドが言っていたな。お前は分野によってはアルベドやデミウルゴスを凌駕しているとか。お前が得意とするものでアルベドやデミウルゴスを越えていると言えるものが何かあるか?」

「アルベド様にデミウルゴス様を越えるとは恐れ多いことでございます。ですが皆様に驚かれた例を上げますと、数を数えるのは得手でございます」

「どんなものを数えたのだ?」

「アウラ様とマーレ様が起居されているツリーハウスがつけている葉の数を数えたことがあります。以前数えた際は387万飛んで66枚の葉をつけていました。先日訪れた時は10万と108枚増えておりました。温かくなってきましたので木々の力が増してきたのでしょう」

「…………そうか」

 

 アインズも、アウラとシャルティアと同じ感想を抱いた。すなわち「やばいなこいつ変態だ」である。

 

 二人が歩いているのはナザリック最下層。第十階層「玉座」に至る広い通路である。今になっても、アインズは男へクラス特性を告げるかどうか悩んでいた。

 情報チートクラスであるが、情報収集なら他の魔法で代替可能なのだ。特にこの世界においては情報系魔法に対する防御が弱い。覗き見に対するカウンターも容易だ。しかし、それらを凌駕する性能は魅力的。己の命を躊躇なく捧げるこの男ならナザリックを裏切ることは絶対にないことであるし、と思ったところでアインズは決断した。

 

(やっぱり止めておくか。こいつが忠誠を捧げてるのはアルベドだからな)

 

 ついさっきもアインズの上にアルベドを置いたばかりの男である。伝えられたクラス特性をアルベドに報告するのは間違いない。アルベドはクラスの性能を思う存分に使わせることだろう。

 アルベドがナザリックを裏切る可能性もないが、アルベドの興味の矛先がアインズに向く可能性は大いにある。ないわけがない。すると、誰にも見られてはならないあれやこれやが露見する可能性があるのだ。

 具体的には、アインズが考えた支配者っぽいセリフや振る舞いを書いたメモ帳である。

 異空間収納ボックスことインベントリの中にダミーを噛ませて仕舞ってあるが、空間の秘密を解き明かしたとかわけわかんない事が書いてある相手だ。絶対とは言い切れない。

 アインズはとても慎重な性格をしているのだ。もしもこの男のクラス性能が必要な事態になったら、その時に明かせば良い。それまで先送りである。

 

「これを飲むと良い」

「これは?」

「不死を与える秘薬だ」

 

 玉座の間にてアインズと男の二人だけとなり、アインズがインベントリから取り出したのは金の杯。清浄な光を発しているのは杯ではなく、内に満たされた液体であるようだ。

 

「一息に飲み干すのだ」

「はっ! 頂戴いたします」

 

 秘薬自体も杯と同じく金色をしている。

 男は言われるままにアインズから受け取った秘薬に口を着けた。赤と青の目が大きく見開かれた。

 

「はっ!?」

 

 男が気付いた時には、杯は空になっていた。

 アインズから杯を受け取り、口を着け、杯を傾けたところで記憶が飛んでいる。確かに飲んだはずなのだが、どのような味をしていたのか全く覚えていない。

 

「うむ、ちゃんと飲み干したな。それでどんな味だった? 私はこの体だからな。飲食物を味わうことが出来んのだ」

「それが……覚えておりません。アインズ様がお目にしたのですから私が飲んだのは確実だと思われるのですが、私の主観ですと気付いた時には杯が空になっていたとしか申せません。口内にも後味は全く残っておりません」

「……そうか。いやなに、気にするな。単なる好奇心だ」

 

 クラス特性により、すでに不老不死を得ている男だ。

 不老不死を与えるアイテムは幾つかあるが、それらを今更になって与える意味はない。種族を変更したわけでもない。そのようなアイテムも多数あるが、人間種限定クラスなのだから変えてしまうわけにはいかない。

 

 アインズが今与えた秘薬は、「とても美味しいドリンク」である。効果はアイテム名から察せられる通り、とっても美味しいのだ! それ以外は特にない。お使いイベントで入手したはいいが、使いみちが全くないアイテムである。

 男が望むものは既に持っているので適当なアイテムで誤魔化しても良かったのだが、それでは忠実な部下に対して詐欺を働くも同然。かといって真実を告げるのは躊躇われる。

 折衷案として、ナザリックの誰もが味わったことのない美味しいものを与えたのだ。

 アイテム名に「とても美味しい」と付くくらいなのだから本当にとても美味しいのだろうが、飲んだ当人は味を全く覚えていない様子。あまりの美味しさに夢中になって美味しさを覚えておくことすら出来ないようである。

 

「これでお前は不老不死を得たことになる。種族が変わったわけではないので今までと変わったところはないはずだ。大丈夫だとは思うが、もしもアイテムの効果が不十分で老いが見えたとしても若返りのアイテムがある。その時はそれを使えばいいだけだ」

「はっ、アインズ様のご慈悲に感謝いたします」

 

 内心では、効果が不十分? と疑問に思わなくもなかったが、アインズ様が仰せなのだからこれでいいはずである。

 

 

 ところで。

 ソフィーのレベル上げを監督していたアインズは、ソフィーのレベル構成を把握している。

 種族レベルはアルベドが創造したからか、創造主であるアルベドに似通っている。

 クラスレベルはアサシン構成。その中に「余剰次元の住人」とあったのを、アインズは珍しいクラスだ、としか思わなかった。最初から持っていたクラスなので創造時にアルベドが工夫したか、アルベドの設定に引きずられたかしたのだろうと判断した。

 存在する次元をずらして物をすり抜けたり転移したりは普通に魔法で出来ることなのだ。ソフィーは魔法が使えないため、クラススキルで代替しているに過ぎない。

 

 が、アインズがもう少し考察していれば、あの男のクラスとソフィーのクラスの共通点に気付いたかも知れない。

 気付いたとしても、我が安寧のために頑張るのだ! と応援するに留めただろう。 

 

 なお、アインズは玉座の間から宝物庫に向かい、マジックアイテムに頬ずりをしているパンドラズ・アクターに説教を噛ましてナザリックへの帰還を十日間禁止するのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 アインズ様にエ・ランテルへ送り届けたもらった男は、ソリュシャンとルプスレギナから熱烈な歓迎を受けた。

 

 ナザリックのシモベたちは、寿命がある者よりない者の方がずっと多い。見た目は傾世の美女だが、実態は異形種であるソリュシャンとルプスレギナも例に漏れない。

 しかし男は人間だった。いずれは老いて朽ちる定命の者。いつかの別れが確定していた。

 それが覆ったのだ。アインズ様がお認めになった上で。

 二人の喜びようは一通りのものではなく、くっついて離れないのを説き伏せようにもどうにもならず、男の腹が鳴ったところでようやく朝食になった。

 昨夜はアズスからの情報抽出で一晩中掛かりきりだった。夕食だって食べてないし一睡もしていない。そんな時に活躍するのがルプスレギナの回復魔法である。

 奇跡そのものである高位の回復魔法は、エナジードリンクの代わりになれば眠気覚ましにも使えるのだ。

 

 朝食の席ではナザリックでのお土産話。

 カルネ村のエンリ大将軍と契約を交わし、エンリ大将軍が直々に薬草をエ・ランテルまで運んでくれることになった。日帰りでは厳しいので、訪問時は一泊していく予定。ルプスレギナが将軍は色を好むんすねえと感心する。

 デミウルゴス様と有意義な会話が出来たのだが、聞き役の二人は興味がない様子。

 シャルティア様からはヴァンパイア・ブライドたちを一日中お姫様抱っこする課題を与えられ何かと思ったら駅弁のテスト。ソリュシャンから朝食の席で上げて良い話題ではないと叱られる。今度自分に試すべきとも付け加えられた。

 アウラ様のご厚意で、マーレ様から第六階層を案内してもらう。コキュートス様とリザードマンたちとの訓練に参加できたのは運が良かった。

 シズさんに借りを返すとか何とかで一日捕まる。

 

「そこで俺は生まれ変わったんだ」

「それ昨日も言ってたっすよね。何か覚えたんすか?」

 

 男はニヤリと笑った。

 

「クラシックギターを覚えた」

「へー」

「まあ」

 

 ルプスレギナは適当に流し、ソリュシャンは驚いたような声を上げるが演技なのが丸わかりである。

 

「まあ、後で聴かせよう」

 

 ナザリックオーケストラのヴァイオリニストであるセシルの視聴に耐える出来である。二人は感嘆することになるのだが、それはまだ先の話。

 続く話が二人にとっての本題である。

 

「彫金道具はサラマンダーの鍛冶師たちに作ってもらえることになった。ただ数が多いから納品に時間がかかるらしい。急ぎじゃないから全部出来たらまとめて送ってくれと言っておいたよ。半月くらいで出来るみたいだ」

 

 彫金道具云々は二人がアクセサリーを作ってもらいたがったからである。

 ラキュースだけブレスレットを貰うのはずるの依怙贔屓である。たとえ素材があれな毛だとしても。自分たちにも何か素敵で素晴らしいのを贈るべきなのだ。

 

「で、二人に希望はあるか? 材料次第だけど大抵の物は出来ると思うよ」

 

 二人は顔を見合わせてから男へ顔を向け、

 

「「指輪!」」

 

 異口同音に強く言い放った。言われた男は渋い顔。

 

「指輪? もっとこう大きさがあって存在感があるやつの方が良いんじゃないか? ルプーだったら狼をモチーフにしてブローチを作るのも面白いな。ソリュシャンは金髪が映えるようにサークレットやティアラが似合いそうだ」

「とても嬉しい提案ですが、私がお兄様から頂きたいのは指輪です」

「何でもいいんすよね? だったら指輪でもいいじゃないっすか」

「うーん、指輪かぁ……」

「指輪を作ることに何か不都合がおありですか?」

「ないけど、指輪なぁ……」

「煮えきらないっすね。何が気に入らないんすか」

「どうせ作るならもっと凝ったの作りたい」

 

 寝落ちするまで最古図書館にこもってアクセサリーについて調べたのだ。アクセサリーとは指輪以外に様々な種類があると知った。知ってしまったのだから有効活用したくなる。

 

「では凝ったデザインの指輪にしてください」

「そもそもおにーさんは指輪なんて作ったことないっすよね? 本当に作れるんすか?」

「二人のを作る前に何個か試作するよ」

 

 試作品の行方に関して揉める者が出てくるのだが、それもまた先の話。

 

 

 

 朝食の場で一日の事を話し合ったら、男は狩場直行君を起動して帝都へ。

 シクススとジュネとソフィーにアインズ様から不老不死を授かったことを報告して、性悪姉妹と同等以上に喜ばれた。

 ソフィーは満面の笑みでお父様に抱きつき頬ずりをしていたのだが、続く言葉で固まった。

 

「ティトゥス様からジュネ用に統計を学ぶためのテキストを複製して頂いた。ソフィーも一緒に学ぶように」

 

 ソフィーは逃げ出した!

 余剰次元の住人であるソフィーは、三次元世界から余剰次元に移動して姿を消したり物をすり抜けたりすることが出来るのだ。頻繁に叱られているのに中々止められない窓や壁からの出入りに、角と翼を任意に消せるのもこの特性に依る。

 

「きゃん!」

「こら逃げるな」

 

 しかし、次元移動のスキルは父のクラスから派生したものである。子が親に敵う事なく、あっさりと首根っこを掴まれた。

 

「なんでお父様はソフィーが捕まえられるの!?」

「なんでソフィーは逃げるんだ。どうせいつも遊んでるんだから勉強くらいちゃんとしろ」

「むっかーっ! ソフィーは遊んでるだけじゃありません。毎日ちゃんとしています!」

「ソフィー様の仰る通りでございます。マイスターはずっと帝都にいらっしゃるわけではございませんからご存知ないのは無理からぬことと存知ますが、ソフィー様はマイスターがいらっしゃない無聊を怠惰に過ごすことなくマイスターに代わって帝都の市井を熱心に観察されておりまして、時にはカルカ様をお連れになることもございます。先日は正体を隠して闘技場へお出かけになり闘技場のチャンピオンである武王に挑もうとしたところをレイナース様に止められる一幕がございました」

 

 人、それを遊び回ってると言う。人ならずアンデッドや悪魔でも遊び回ってると言うだろう。

 

「ジュネはなんで言っちゃうの!?」

「ソフィー様はご自身の為さり様を誇れないではないと考えておりましたのでマイスターにご報告することに問題は何もないと判断しておりましたがソフィー様のお言葉を考えますとマイスターにご報告することでソフィー様に不都合が発生するのでしょうか? まさかソフィー様がマイスターの意にそぐわないことをしているとは想像も出来ませんでしたので」

「だからジュネは話が長いの!」

「……レイナースには後で礼を言っておく。ソフィーはジュネと一緒に俺の講義を聞くように。後でテストするからな。それともアルベド様にお時間を割いていただくべきか?」

「……お母様にはご迷惑をお掛けしたくないのでお父様に習いますぅ……」

 

 ソフィーの反抗期はまだまだ続いているらしい。

 

 男は二人に数学の授業をし、カルカからは美容品の生産や配布について報告を受ける。美容品はそろそろお金になってきたようだ。

 シクススへは、もしかしたらフィースが応援に来るかも知れないと伝えておく。シクススは、若旦那様がフィースにも手を出したのかと目を釣り上げた。

 その気になれば幾らでも言葉を弄して誤魔化せる若旦那様だが、基本的に嘘は言わない。聞かせては不味いこともポロポロ喋ってしまう。その若旦那様が、フィースとはそのような関係にないと断言したので、シクススは一先ず信用することにした。

 それはそれとして、シクススは後でちょっとした相談があるという。ご主人様と呼びかけられたので大きな声で言えないことなのかも知れない。

 

 帝都のお屋敷では大半をジュネとソフィーへの講義に費やした。

 統計を学ぶための数学的素養を身につけるためなので、基礎を教えたらひたすら演習である。アインズがかつて存在していた世界の過去における高校生が夏休みの宿題に出される分量の課題を一晩でこなせと言ったところ、ソフィーから大いに反発された。ジュネは不満こそ言わなかったものの、時間的に不可能である可能性が高いと言う。

 数字の問題は見るだけで答えが出せる男が、自分を基準にして出した課題である。ジュネもソフィーも素質は高いのだが、無理なものは無理であるらしい。

 半分の半分でもまだ多いので、更に半分の半分にして、ソフィーはようやく納得した。

 

 

 

 昼食は帝都でとったので、夕食はエ・ランテルで取る。

 この日はアルベド様のお食事日。ナザリックでの滞在はアルベド様のお食事日に合わせたのだ。

 ところがアズスから色々な情報を抜き出してしまったため、アルベド様はとても忙しくなってしまった。じっくりお食事をする時間がない。

 

「ルプスレギナ、この子を回復させておいてちょうだい」

「かしこまりました」

 

 かと言って、お食事をしないわけではない。サキュバス的に少々はしたないが、雑に精気と生気を吸ってしまったのは時間がないので仕方ない。

 半死半生となった男をルプスレギナに渡し、ルプスレギナが早速回復魔法を使おうとしたのを止めた。

 

「わかっていると思うけど、例の話はこの子には内緒よ。後で驚かせたいの」

「承知しております」

 

 アルベド様が奥の間にお戻りになるのを見届けてから、ルプスレギナは男を書斎に連れ込んだ。

 そろそろ虫の息が止まりそうである。

 

 ルプスレギナの心境はちょっぴり複雑だ。

 おにーさんが晴れて不老不死となったのはとても喜ばしい。指輪を作ってもらえるのも期待に胸が高鳴っている。

 しかし、アルベド様の計画が形になってしまうと、今まで通りに過ごせない可能性が大である。恒久的なものではないようなのが幸いだが、帝都で過ごした日々が懐かしく思えてならない。あの頃はソリュシャンもおらず、おにーさんを独り占めできたのだ。

 そして今。ルプスレギナはおにーさんを独り占めする権利を持っている。

 もう少し寝かせて利子を膨らませても良かったが、そろそろ回収しないと機を逃してしまう。

 

 

 

 

 

 

「ここは……書斎か。アルベド様はお帰りに?」

「帰ったっすよ。当分はお忙しいみたいっすね」

「まあ……仕方ないか」

 

 対応を誤ればナザリックの存続が危ぶまれる可能性がある問題である。ナザリックの頭脳が忙しくなるのは当然だ。

 だとしても、アルベド様とお会いできる時間が減るのはとても悲しいことだ。叶うならば守護者統括相談役として事に当たりたいのだが、アルベド様はお許しにならない。昨夜の情報抽出に同席したのは特例である。

 ふうとため息を吐いた男を、ルプスレギナは小突いた。

 

「なんだ? そろそろ寝ようと思うんだが」

「なんだじゃないっすよ。おにーさんは私に借りがあるのを忘れてるんすか? 利子はヒサン。おにーさんは計算得意っすよね?」

「…………あ」

 

 ソリュシャンとルプスレギナに頼んだ帝国貴族の一次情報についてのまとめである。二人が頑張った結果、翻訳清書作業は一通り終了した。後はこの男が確認してから提出するだけである。

 その際、頑張ったのだからご褒美が必要ということになり、ソリュシャンは一晩丸呑み。ルプスレギナはヒサンの利子をつけて寝かせておいた。

 ヒサンとは日に三分。十日で一割のトイチより遥かに凶悪な利率である。参考までに、ヒサンで十日経つと元本の1.34倍になる。

 

「誤魔化そうとしてもダメっすよ。ちゃーんと計算したんすから!」

 

 手書きの計算ノートを突きつけた。

 ところどころで都合がいいように四捨五入したり計算の都合で一週間が八日になっていたりするが、最終結果は一割と違っていない。

 

「大負けに負けて四倍でいいっすよ? 本当はあと一年くらい寝かせても良かったんすけどそーするとおにーさんが大変っすからやめといたっす。いやー、私って優しいっすねー。感謝していいっすよ?」

 

 ヒサンの利子を一年放置すると、元本の5万倍弱になる。訴えたら確実に勝てる悪徳金利であるが、訴える先はどこにもない。

 

「待て。支払うには他の支払いがどうだったか参考にする必要がある。エントマさんには左腕と両足。ソリュシャンには一晩丸呑みされた。ルプーは手足なんていらないだろうからソリュシャンを参考にしよう。その時の俺は左腕両足がなかった。つまりいつもの四分の一。丸呑みされてた時間は約八時間。四分の一を八時間で二時間だ。その四倍をルプーに支払うとして、正味八時間がルプーに支払える時間となる」

「なんすかその無茶苦茶な計算! おにーさんは私にご褒美あげるのがそんなにイヤなんすか!?」

 

 口にした直後、ルプスレギナは凍りついた。軽口を叩いていた男の顔が、突如真剣なものになったのだ。

 まさか図星を突かれて表情を変えたのだろうか。

 

 今日まで、男とは良好な関係を維持してきたと思っていた。

 昨日もそうだったように、時々貫通属性があるルプーブローを食らわせてしまったりもするが、ちゃんといつも回復させている。初対面時に全身複雑怪奇骨折させてしまっても気にしてない様子だったので、ついやってしまっている側面は大いにある。

 しかし、表に出さないだけで本当は不快だったのだろうか。

 確かに事あるごとに貫通させられれば面白くないや不快を通り越して怖がるところだろうが、この男にそんな素振りは全くなかった。それはないと思いたいのだが、ないとは言い切れない自分がいる。もしも逆の立場だったら、自分は好意を抱くどころか絶対に近づかなくなるだろう。

 未来のお婿さんにする予定で、既に婚約は確定済みのつもりで、指輪まで贈ってもらえる事になっているのに、本当は嫌われているのだとしたら。

 

 男が口を開くまでの数秒が、ルプスレギナにはとてもとても長かった。

 

「わからない」

「!?」

「ルプーに利子がどうこう言われたら反射的に値切っていた。ルプーにはいつも感謝してるし借りを返すのもご褒美をあげるのも嫌じゃないが、利子がどうのと言われると……こう、なんだろう? 何かに負けた気がして値切らなきゃならない気になって」

「紛らわしいことするなーーーーっ!!」

 

 ボッグハァッ!!

 昨日とは違ってナザリック製のジャケットを着ていない。ルプーブローは貫通属性を見事に発揮した。

 

 

 

「わかったわかった。ルプーちゃんはご褒美が欲しいんだな。ちゃんと利子をつけたのをあげるから心配しなくていい。ソリュシャンに倣って時間でもいいし、俺があげられる物ならそれでもいい。ルプーちゃんはエントマさんみたいに手足が欲しいわけじゃないよな?」

「なんすかそのルプーちゃんって。バカにしてるんすか?」

 

 嫌われてるかもと言うのが杞憂だったのは一安心だが、バカにされるのは面白くない。

 眉間に皺を作って抗議するが、男は呆れたように言った。

 

「ルプーちゃんは自分で言ったことを忘れたのか? 子供扱いされたいんだろ?」

「……………………あ」

 

 そもそもにして、ルプスレギナたちがご褒美を貰うことになったのは、エントマが子供扱いされているのを見て自分たちにもと訴えたからだ。

 その際、ルプスレギナは自分の口で「ルプーはまだまだお子様だから」と言っている。子供扱いされることがご褒美を貰う条件なのである。

 

「それとも止めておくか?」

「ルプーちゃんでいいっす。その代わりちゃんと四倍っすからね?」

「わかってるよ。ほら、ルプーちゃんこっちにおいで。抱っこしてあげるから」

「はーい♪」

 

 ルプスレギナはお子様のルプーちゃんになりきって、ソファに座る男に正面から抱きついた。

 くっつけば頭を撫でられ背中をさすられる。愛おしさを感じる愛撫に体温と体臭が心地よい。

 

「それで、ルプーちゃんが言ってた紛らわしい事って何だったんだ?」

 

 変に鋭くて変に鈍い男だが、反省すべきは反省できる男でもある。過ちがあったのなら省みなければならない。

 

「それは……」

 

 男に頬ずりをしていたルプスレギナは口籠って逡巡する。

 いつものルプスレギナなら、そんな事はどうでもいいと流すところだが、今のルプスレギナはお子様のルプーちゃん。照れくさいことでも、子供になりきっていると驚くほど抵抗なく口から滑り出てきた。

 

「おにーさんが私を嫌いになったからご褒美あげるのがイヤなのかなって思っちゃったんすよ」

「俺がルプーちゃんを嫌うわけがないだろう」

「!」

 

 肩を押されて密着していた体を少しだけ離され、顎に指を掛けられ顔の向きを固定される。

 赤と青の目に、強制的に向き合わされた。

 

「ルプーちゃんにはいつも回復してもらってるしとても感謝してるよ。素直な性格だからあまり気を遣わなくていいのも肩が凝らなくて助かってる。セックスだって何回もしてきただろう? ルプーちゃんは口も中も温かくてとても気持ちいいんだ」

「おにーさん……」

 

 内心では自分にも気を遣えと思わなくもなかったが、子供の振りをしても本当は大人なルプスレギナは口にしなかった。

 

「ご褒美の手始めに、今夜はルプーちゃんを隅々まで可愛がってあげるよ」

「あ……」

 

 背中をさすっていた手が下りて、スカートのスリットから内側に忍び込んできた。

 顎に掛けられた指が頬を掴み、引き寄せられる。

 ルプスレギナは目を閉じた。

 子供扱いされてるはずなのに、大人のキスが降ってきた。




クレマンティーヌの絵を生成しときながら本作では名前すら出てない
原作でも行方不明のまま完結しそう
需要は間違いなくあるんだろうがどう扱えばいいかさっぱりな人


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ルプーちゃんにごほうび ▽ルプスレギナ+

ルプーは日常感が強くて書きづらい
それでも本話14kちょい


 精液が目当てのソリュシャンと違って、ルプスレギナが最後までするのは三日に一度のペース。代わりにハグやキスは毎日している。情は込めても気軽な挨拶のようなもの。

 今されているのは全く違う。

 挨拶のキスで舌は入ってこないし、吸われもしないし、唾を飲まされることもない。

 すぐ離れるハグと違って、背中に回った手は絶妙な加減で背筋をなぞり、スカートの内側に入った手は尻を撫で回す。

 

「ん……ちゅっ、んんっ……、あんっ。こんなの子供にするキスじゃないっすよ?」

「子供に色々教えるのは大人の役割だろう?」

「おにーさんのスケベ♡」

「ルプーちゃんが可愛いから可愛がりたくて仕方ないんだよ」

「えへへ♡ それじゃー仕方ないっすね!」

 

 ルプスレギナからも男に抱きつき、唇を押し付けた。

 さっきのお返しとばかりに舌を入れ、口内の粘膜を舐め回す。膝を男の脚の間に入れてぐいと押しやれば、股間が膨らんできているのを感じた。にんまりとするも、男の手付きが変わった。

 小さなショーツに指が引っ掛けられた。いつもの事ながら片手で器用に下ろしていく。

 

「あっ? もうっすか?」

「ルプーちゃんは知らないのかな? このままだと下着を汚しちゃうんだ」

 

 まだ汚れるほどではないが、遠からずそうなるのはルプスレギナ自身がよくわかっている。

 

「ルプーちゃんの体が俺と一つになりたがると濡れてくるんだよ」

「それっておにーさんもルプーと一つになりたいってことっすよね?」

「その通り。よく知ってるね」

 

 知ってるどころか何度も実践済み。自分の体がどうなるか、男の体がどうなるかも、ルプスレギナはよく知っている。何度めであっても、自分の体に欲情されるのは気分がいい。

 するすると下ろされていくショーツが太ももまで来た。脚を開いていると脱がせづらいので両膝を揃える。と同時に膝まで下ろされ、交互に膝を上げてやった。

 ややあってつま先から抜け、黒い小さな布切れが男の手に収まった。

 

「でも手遅れだったみたいだ」

「あっ!?」

 

 男が布切れを裏返す。生地が二重になってルプスレギナの大切なところ覆っていた部分が、僅かに変色していた。そこだけ部屋の明かりを反射して光っている。

 

「うぅ……、おにーさんのキスがエロかったからっすよ!」

 

 ルプスレギナが反射的に言い返してしまったのは、自分でも気付かない内に臨戦態勢になっていたのが恥ずかしく、キス一つでその気にさせられたのが何かに負けたようで悔しかったのもある。

 

「あんっ!」

 

 しかし、自尊心を守るための戦いは一瞬で終了した。

 尻の肉を直に掴まれ、くびれた腰を抱かれて引き寄せられる。

 男の顔が近付き、距離がなくなり、唇が重なるのかと思ったら僅かな浮遊感。

 上下が反転し、ルプスレギナは男に組み敷かれた。

 

「ルプーちゃんには口の聞き方から教えないといけないかな?」

「あ…………」

 

 男の言葉が威圧的だったわけでも、嗜虐的だったわけでもない。それなのに、ルプスレギナはぞくりと来た。

 後に思い出した時、無力な子供の振りをしていたので演技と雰囲気に流されてしまったのかもと思えた。

 

「自分のことはちゃんと認めないとダメだぞ?」

「は……はい。ルプーはちょっと……濡らしちゃったっす……」

「よしよし、いい子だ」

「あっ……」

 

 前髪をかき上げられ、あらわになった額に唇を落とされる。

 まるきり子供扱いなのに、ルプスレギナの胸は期待に高鳴った。

 キスは子供向けでも手付きは大人向き。魔改造メイド服の襟が引っ張られ、大きな乳房がこぼれ出た。

 

 

 

 

 

 

 昨日までのナザリック滞在で、子供の相手はたっぷりしてきた男だ。まずはカルネ村のネムちゃん。ナザリックでは大人ぶってるシズちゃんとエントマちゃん。アウラ様は子供に見えて色々と大人である。大人にしてしまったとも言う。

 基本的に大人より子供が好きな男で、と表現すると大いに誤解を招くので言い換えると、子供には優しく心の障壁もぐっと下がる。だからこそエントマの甘えを許し、ご褒美まであげた。あれがもしもルプスレギナだったら、馬鹿言ってないで働け、と切って捨てていただろう。そしてルプーブローを貰うのである。

 ルプスレギナ自ら子供扱いを求めているのだから、優しくするのも可愛がるのもやぶさかではない。好きなだけ甘やかして、けれども成長に悪影響がないよう適度に躾けてやるのが大人の役割。ダメなところはきちんと叱るべき。

 

「ルプーちゃんのご褒美なんだから、ルプーちゃんがして欲しいことをしてあげるよ」

「おにーさんにいっぱい可愛がって欲しいっす」

「それはもちろんだよ」

「あんっ」

 

 手のひらをルプスレギナの頬にひたりと当てる。男の手は触れるか触れないかの加減でルプスレギナの頬を撫で、首筋を這い、こんもりと盛り上がる乳房を鷲掴みにした。

 大きいのに柔らかいだけではなく適度な弾力と張りがあるいいおっぱい。仰向けになっても形が崩れない。やたらとエロいソリュシャンに比べて、ルプスレギナには野生美と健康美がある。駆け引きを強いることなく、素直に反応するのが可愛らしい。

 

「ルプーちゃんのおっぱいは少し揉んだだけで乳首が立ってきたよ?」

「だっておにーさんが触るから……。おにーさんに触られて立っちゃうんすよぉ……」

「ちゃんと言えたね。偉いぞ」

「あっ……」

 

 今度は触ってきた男の所為にしなかった。

 叱るべきは叱らないといけないと同時に、褒めるべきはきちんと褒めてあげるのが子供の成長に良い影響を与えるのだ。

 男はルプスレギナの額にキスをする。そして手付きは大人向き。

 

「あんっ! 乳首くりくりされると……、声でちゃうっすよぉ……」

「ルプーちゃんの声はとっても可愛いからね。いっぱい聞かせてくれないかな? ここなら外に聞こえることもないから大丈夫」

「そんなこと言ってぇ……。んっ……あんっ……あっちゅっ…………ん……、んんっ……」

 

 子供に口答えさせないのは大人の特権。子供は良いことも悪いこともよくわからないのだから、有無を言わせることなく大人が教えてやらないといけないのだ。

 ルプスレギナの口を口で塞ぎ、最初のキスと同じように舌を差し込む。

 舌で探る口内は熱い。高ぶっているのがこれだけでわかる。それ以前に、ルプスレギナの舌が積極的に応えてくる。舌で舌を舐めあって、貪るように強く吸う。

 じゅるると音が響き、どちらかがどちらかの唾をすすっている。どちらの喉も軽く鳴って、すすった唾を飲み込んだ。

 

「あっあっ……、キスもっとぉ……、でもおっぱいもぉ……、んんっ! もっと強く吸っていいっすからぁ……、噛んでもいいっすよ?」

 

 たっぷりと唾液を交換しあった唇が離れれば、男の頭が下がっていく。

 キスをしながら揉んでいた乳房に顔を埋め、乞われるままに強く吸う。ルプスレギナの肌は褐色なのでキスマークは目立たない。目立たないのをいいことに幾つもマーキングし、乳肉に歯を立てた。

 

「ルプーの体にいっぱい痕つけていいっすからぁ。ルプーの体中におにーさんのしるしを付けて欲しいっす♡」

 

 アウラもマーキングされたがったものだが、人狼であるルプスレギナはより積極的だった。

 ご希望通りにちゅっちゅと痕を付ける前に、尖った乳首をちゅうと吸った。

 

「あんっ♡ おにーさん、赤ちゃんみたいっすよ? ルプーの乳首は赤ちゃんが吸うとこなんすからぁ。おにーさんはルプーにいっぱい赤ちゃん産ませないとだめなんすからね?」

「ルプーちゃんが欲しいだけ作ってあげるよ」

「あはっ♪ 絶対約束っすよ?」

「わかってるよ」

 

 晴れて不老不死になった(ということになってる)男と、ナザリックのプレアデスの次女であるルプスレギナ。前者は強者というより希少者で、後者は純粋な強者である。命の法則として簡単に子供が出来るわけがないのだが、することを続けていればいずれは出来るだろう。

 ソフィーはルプスレギナより力があるアルベドの子供であるが、あちらはアルベドがサキュバススキルを駆使して、二度と会えない(と思い込んだ)男との証を強く望んだからだ。

 

 ルプスレギナは純粋に望み、男の方はその内出来るだろうと安請け合い。結果がどうであれすることは変わらない。

 

「ルプーちゃんの乳首は赤ちゃんに吸わせるためって言ったね。それならこうして乳首を立たせてるのは俺に吸わせるためなんだろう?」

「そうっすよ? おにーさんにいっぱいちゅうちゅうして欲しくて立っちゃったっす。ソーちゃんみたいにおっぱいはまだ出ないっすけど……。出るようになったらおにーさんも飲んでいいっすよぉ? あっ、んっ……。おっぱいあげる練習っすね♡ ああんっ、噛んじゃダメっすけどぉ、おにーさんなら何してもいいっすからぁ……♡」

 

 大きな乳房の先端で、ピンクの突起が突き出ている。吸い過ぎて黒くなりつつあったが、お手製の色素吸着剤の効果は抜群だ。

 充血した乳首は弾力があり、舌で転がしても跳ね返ってくる。れろれろと舐め回し、ちゅうと吸っては歯を立てる。多少強く噛んでもルプスレギナが痛がる事はなく、男の頭をかき抱いて自分の胸に押し付けた。

 

 ルプスレギナの背が弓なりに反るのは、甘い刺激で体が跳ねるのと、服を脱がせやすいようにと。

 服の袖を腕と肩から抜いたのはルプスレギナ自身。そこまですれば、男の手が脱がせていく。

 シクススから女性の服の構造を叩き込まれ、日々実践しているのだ。今更になってルプスレギナを脱がせるのに手間取ることはない。

 ルプスレギナが腰を浮かせればするりと抜いて、脱がせた服はテーブルの上に放り投げた。

 

「裸になっちゃったっす……。これからルプーはどうされちゃうんすか?」

「ルプーちゃんは痕をつけて欲しいんだろう?」

「舐められちゃうんすか?」

「それもいいが……」

 

 男もシャツを脱ぎ捨てた。

 ルプーブローによって穴が空いてしまったため、補修は不可。捨てるか、欲しがるメイドがいたら与えても良い。そのまま着たり使ったりするわけではなく、上等な生地なので縫い目を丁寧に解いてから再利用するのだ。

 

「あ…………、な、なん、すか?」

「ルプーちゃんとはいつもしてるだろう? どうしたんだ?」

「それは、そうっすけど……」

 

 狼の耳を隠している帽子も脱がせてテーブルの上へ。

 裸になった女の上にのしかかっただけ。大きな乳房が胸板で潰れ、密着感が増していく。男は女の腕を掴み、情熱的に潤む美貌へ顔を寄せた。

 さっきは何度もキスをした。同じことをしているだけで、違うと言えばルプスレギナが全裸になったことくらい。大きな違いと言えばそうなのだが、何度もしてきていることだ。

 

「ルプーは……、これからおにーさんに食べられちゃうって思ったら……なんか……。ドキドキしてきちゃったっす♡」

 

 ルプスレギナは、潤んだ目でそう言った。

 

 セックスは日常茶飯事だ。何度も入れてもらって何度も出されてきた。

 互いに全裸の時があれば、衣服を少々崩しただけの時もある。

 裸で絡み合ってキスをするのは何度も経験済みのはずなのに、こみ上げてくるものがあった。

 

「食べたがるのはルプーちゃんだろう? 俺のがルプーちゃんの中に入っていくんだから」

「でもおにーさんのちんちんがおっきくなんなかったら入んないっすよ?」

「ルプーちゃんとこうして立たないわけないじゃないか」

 

 股間はとっくに膨らんでいる。密着しているのだから、ルプスレギナもわかっている。

 男は疑問に思いつつも、口には出さなかった。ここは問答する場面ではない。

 

「ルプーちゃんが可愛いからね」

「おにーさんもとってもカッコいいっすよ♡」

 

 男がズボンを脱ぎ捨て、待ってましたとばかりにルプスレギナは抱きついた。

 胸の動悸が伝わるのが少し気恥ずかしくても、我慢できない。

 

 発言したのがすぐにルプーブローを出してくるルプスレギナではなく、ルプスレギナよりずっとか弱いシクススだったら、男にもわからないではなかったかも知れない。

 男の腕の中で無防備な裸になって、色々なところを、大切なところも触られ見られ舐められて好き放題されてしまう。信頼しているから、何よりも愛しい男が相手だからこそ出来ること。

 けれども、実はとっても強いルプスレギナ。何があってもルプーブローで一発逆転できる。だからどんな事になっても大丈夫なはずなのに、最後の壁が消えてしまったかのよう。

 ルプスレギナでは上手く説明できない。出来たとしても、戦闘メイドであるプレアデスの次女が言っていいことではない。自分がとても弱くなって何も出来ず、無抵抗で自分の体を明け渡すなんて口にしてはいけないことだ。

 普通の女ならとっくにわかっている感慨を今更になって悟るのは、無力な子供の振りをしているのが一つ。男がアインズ様から永い命を与えられたのが一つ。

 いつかの別れがなくなり、ルプスレギナはとても高ぶっている。

 

 

 

「おにーさんのちんちんすっごくおっきいっす。これからルプーの中に入れられちゃうんすね?」

「ルプーちゃんこそよく濡れてるよ。もう入れられそうだ」

 

 ルプスレギナは男の体にしなだれかかる。乳房を押し付け、上目遣いに男の顔を覗き、視線を落とす。柔らかく握り、上下に振れば固さも熱さも増してくる。

 ルプスレギナが扱いていれば、男の方もルプスレギナに指をあてる。脱がす前から湿らせていた女は簡単に飲み込んだ。中は熱く熟れ、入れる前からほぐれている。

 その気になれば、薬指を中に入れてかき混ぜつつ親指で肉芽を擦り、もう一方の手で肛門を弄ることが出来る。CVAアタックはスライムであるソリュシャンだけの技ではないのだ。しかしながら、ルプスレギナから「イジメるんじゃなくて可愛がるんすよ?」と釘を刺された。激しくするのは不許可で、とろけるような愛撫がお望みなのだ。

 そして、そろそろ次に移って欲しいらしい。

 

「あんっ♡」

 

 もう一度ルプスレギナをソファに押し倒す。両足を高く上げさせ、股を開かせた。

 髪と同じに赤い陰毛は汗と淫液で肌に張り付いている。長すぎたラキュースと違って形も長さも整えてあり、入り口がきちんと見える。褐色の肌の中で息づく膣口は、物欲しそうに涎を垂らす。

 焦らしはしない。逸物をあてがい、腰を押し進めた。

 

「あぁ……、入ってきたっす♡ おにーさんのおっきいちんちん、ルプーの中に入ってきちゃったっすよぉ♡」

 

 いつ入れてもルプスレギナの中は熱い。締め付けも上々で吸い付いてくる。アルベド様と変幻自在のソリュシャンを除けば、暫定一位であるだけはある。

 

「これからルプーちゃんの中をちんこでかき回して、精液を出すんだ。精液が赤ちゃんの素だってことはルプーちゃんも知ってるかな?」

「知ってるっすよぉ。ルプーのお腹の中にいっぱい出して欲しいっす。ルプーはおにーさんの赤ちゃんが欲しいんすからぁ」

「ルプーちゃんとこれから何度も頑張れば大丈夫だよ」

「はい……♡ ルプーはおにーさんといっぱいセックスするっす!」

「いい返事だ」

「あ……、なんか、いつもと違うっす。もっと動かないんすか?」

 

 ルプスレギナの好みもあって、いつもはもっと激しい。人狼であるルプスレギナとは後背位ばかりで、正常位でするのは稀だ。

 だけども今は股を開かせ、前から挿入している。抽挿もゆっくりだ。

 

「ルプーちゃんの中がとても気持ちいいんだ。速く動くと出ちゃいそうで、しばらくゆっくりでもいいかな?」

「いいっすよぉ♡ ルプーのおまんこはおにーさん専用なんすから好きに使っちゃっていいんすから♡」

「中は熱くて気持ちいいし、おっぱいの揉み心地も十分。声も可愛くて、ルプーちゃんに言うことなんて何もないよ」

「えへへ、そうっすかぁ? ルプーもおにーさんのちんちん入れてるだけで気持ちいいっす! 顔も綺麗だしエッチは上手だし、一緒にいて楽しいし。ルプーもおにーさんに言うことなんて……」

 

 デリカシーがいまいちな事とか空気を読まない事とか、色んな女に手を出してるところは不可抗力なところもあるかも知れないがやっぱり本人の隙が大きい影響も大で、言いたいことは実はいっぱいあったりするが、子供扱いされていても実は大人なルプスレギナは言葉を飲み込んだ。

 

「ともかく大好きっす!」

 

 強引にまとめて抱きついた。

 腰がやや浮いて挿入が深くなり、体が反射的に締め付ける。

 

「ルプーちゃんは可愛いね。可愛いルプーちゃんが大好きだよ」

「うぅ……、入ってるだけできもちいいんすよぉ……。だから今のはぁ……」

「わかってる。さあ、俺にしっかり掴まって」

「はいっす!」

 

 男の首に腕を回し、すがりつくように強く抱きつく。

 広げられた太ももを抱え持たれて、これから激しくされるのだと思った。

 

「ひゃあっ!? なななんすか!?」

 

 しかしそうはならず、男はルプスレギナを抱え持ったまま立ち上がった。挿入はされたままだ。

 これぞ今日の朝食で話したらソリュシャンに叱られた体位、駅弁である。

 

「折角だからソリュシャンより先にルプーちゃんに楽しんでもらおうと思うんだ」

「それは嬉しいっすけど、落っことしたりしないっすよね?」

 

 ルプスレギナの体も脚も浮いている。お姫様抱っこならされたことがあるが、正面から抱きついたまま立たれるのは初めてだ。

 深い挿入を楽しむよりも、落とされるかもとの不安が過る。

 

「大丈夫だよ。ルプーちゃんを抱っこするくらい軽いものさ」

「それなら……、ってどこ行くつもりっすか!?」

 

 いつもと違う体位なら許容範囲。しかし男は腰を振ることなく、ルプスレギナと繋がったまま歩き始めた。

 ルプスレギナは男と視界が反対になっているが、どこへ向かっているかは予想がつく。

 男が進む先は書斎の出入り口。この男は、書斎の外へ出ようとしている!

 

「ルプーちゃん好みに激しくするならソファーは少し狭くてね。やっぱりベッドがいいだろう?」

「大丈夫っすよ! それに前からじゃなくて後ろからだったら問題ないっす!」

 

 ベッドのみならず、書斎でいたしたことだって何度かある。完全な防音にしてアインズ様に魔法的な加護を与えられた書斎は、秘密のことをするのにもってこいなのだ。

 その時はルプスレギナお好みの後背位。ソファに乗って後ろからだったり、机に手をついて立ったままだったり。

 

「俺の部屋はすぐそこだよ。皆寝てるし、ルプーちゃんが静かにしてたら大丈夫さ」

「でもぉ……」

「それに見たり見られたりは今更だろう?」

「そーいうのとは違うんすよぉ」

 

 見るのは一先ずあっちに置いて、見せるのはそんな気分の時だけだ。今はお子様のルプーちゃんになっておにーさんを独占しているのだから、極力見られたくない。ルプーちゃんと呼ばれたり、自分のことをルプーと呼んでるのを聞かれたら恥ずかしい。行為中なのだから尚更だ。第一、廊下は裸で歩くものではない。

 儚い抵抗をしている間にも男は歩き続け、ドアがすぐそこに。

 

「ルプーちゃんが開けてくれないかな? 俺は開けるとルプーちゃんを落としちゃうかも知れない」

「絶対絶対まっすぐ部屋に行くんすからね? 寄り道したりわざと変なことしたら本当に怒るっすから!」

「しないよ」

 

 

 

 ルプスレギナを辱めたいのだったら、もっと違うことを選んでいる。

 あえて駅弁をしているのは朝方話題に出したのと、なにかの間違いでルプスレギナが駅弁のための抱っこ耐久とか言い出さないようにだ。

 ここでルプスレギナに駅弁をしてやればソリュシャンたちにも伝わって、彼女たちが抱っこ耐久などとバカな事を言い出すことはなくなるだろう。

 書斎から移動するのはルプスレギナに伝えた通りベッドを使うためだ。今夜は射精してすっきりするのが目的ではなく、ルプスレギナを楽しませるためなのだ。ソファでの行為はそれなりに良いものがあるが、座るためのものなのでどうしても狭い。ルプスレギナは立ったままも好きだが、それだって寝室で出来ることだ。

 

「あんっ!」

 

 ルプスレギナがドアを開け、男が一歩踏み出すなり、甘い声が静かな廊下に響き渡った。

 鳴いた女はしまったと言わんばかりに口を押さえる。廊下は静まり返っている。しかし今は静かでも、先の嬌声がなかったことになるわけではない。

 

(静かにって言っただろう?)

(でもでもおにーさんが歩いたら深くなってキュンときてぇ……。ゆっくり歩いて欲しいっす……)

(ルプーちゃんこそ静かにね)

(うぅ…………、こんなの頭が沸騰しちゃうっすよぉ!)

 

 ルプスレギナはきゅっと目をつむって男にしがみついた。よく知ってる廊下が恐ろしい魔境に変じたかのように。

 視界が閉ざされただけ敏感になり、自分の中に来ている男を強く感じてしまう。男が一歩進む毎に「んっんっ」と小さく鳴く。

 

「ドアを開けてくれ」

 

 とてつもなく遠い道のりが終わって男の部屋のドアを開けた時、安堵と開放感はこれまでに感じたことがないほど大きかった。

 

「こんなのもうこれっきりに、あぁんっ!」

 

 パタンと後ろ手にドアを締め、文句を言ってやろうとしたら強く突き上げられた。

 中に入っている先端が一番奥を叩き、体の中から染め上げようと企んでいる。

 

「そろそろルプーちゃんの中に馴染んできたからね。今度はルプーちゃんが好きなように激しくしてあげるよ」

「そんなのでごまかされぇっ……! あっあっあっ、やっ、はげしっ! ちんちんきてるっすよぉ! ……あ゛、ん゛っ!」

 

 ぎゅうと男にしがみつく。

 太ももはがっちり押さえられ、男の股間が叩きつけられる。ルプスレギナの雌穴は雄を受け入れ、飛沫を散らした。

 

「前からもいいだろう?」

「でっ、でもぉ! あぁんっ♡ おくまできてるぅ! あっあんっあぁんっ! まえもすきぃ♡ だいすきぃ♡」

 

 ベッドに下ろされても繋がったまま。

 ルプスレギナは密着していたかったのに体が離れ、腕を伸ばすが掴まれた。股を大きく開かされ腕を捉えられ、入ってきている男は我が物顔で内側から侵してくる。

 

 犯すではなく侵す。

 一突き毎に自分の中に侵入され、浸潤され、自分が書き換えられて変わっていく。

 絶頂するだけならいつもそうだが、心も体も溶け合って自分が男の一部になると感じられるのは、月に一度かそれ以下しかない。

 好きとか愛しいとかを通り越し、自分はこのためだけに生まれたのだと確信する。

 

「あ゛っ! らめ、イク…………! ルプーイッちゃううぅう! おにーさんもルプーにっ」

 

 女心検定は頻繁に赤点をとる男だが、情事の作法は心得ている。

 女の目に溜まった涙を唇で吸い取り、そのままきつく抱きしめた。

 ルプスレギナは男の腰に足を回す。足首同士を絡めてロックし、逃さない。両腕だって男の背に回っている。

 子宮口を何度も叩かれ、膣壁の感じやすい部分を的確に擦られ、耳元で愛の言葉をたっぷり囁かれ、ルプスレギナには言葉の意味がわからなくなってきた。

 理性は消し飛び、心と体で交感している。

 

 貪るようなキスをしていたのにルプスレギナから口を離し、背を弓なりに反らしておとがいも上げ高く鳴くのを、壁の向こうから黒い目がじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 現在のお屋敷にいるのは、いつもの面々だけではない。黄金の輝き亭崩壊に伴って、彼の宿を拠点としていた冒険者チーム漆黒の二人が加わっている。

 モモン扮するパンドラズ・アクターは偉大な父上から「そんなに暇なら夜の間も仕事しろ」と命じられ、アインズ様に変身してエ・ランテルの城で書類仕事に勤しんでいる。

 漆黒のもう一人は大きなお屋敷で夜を過ごす。

 ナザリックから戻ってきた男と一つ屋根の下にいることに中々寝付けなかった彼女は、鋭い聴覚が異音を捉え、ラビッツ・イヤーと唱えた。三つある兎さん魔法の一つラビッツ・イヤーは聴覚を強化するのだ。

 ドアの向こうから聞こえる異音に耳を澄ませた彼女は、遠くからドアの音が閉まる音を聞くと部屋から飛び出した。

 

 彼女は初体験の翌日、お屋敷のお嬢様から「夕べはお楽しみでしたわね」と言われていた。それだけなら揶揄や皮肉の範疇であるが、「あなたの強さを教えて」は看過できない。あれは何があったかその目で見て、その耳で聞かなければ出てこない言葉だ。

 すなわち、覗いていた。覗くための何かがある。

 

 彼の部屋の場所も、隣が空き部屋なのもとっくに把握済み。彼女は男の隣室に移動した。

 ナザリックの手が入っているお屋敷はどの部屋にも魔法の灯りが設置されており、誰かが入室すれば自動で明かりが灯る。しかし、その部屋は入っても暗いまま。暗いからこそ気付けた。

 壁に小さな光点がある。隣室の明かりが漏れているのだ。

 彼女はそっと目を近付けた。

 

(あっあっあっ、あんっ! ああっ、イイッ! イイっすよぉ♡ おまんこいじめてぇっ! あっすごっ……、ひゃあぁぁああああぁぁアァぁああンっ♡)

 

 彼女は声が漏れないよう、反射的に口を押さえた。

 壁の向こうでは、赤毛の美女と男が激しく体を絡ませていたのだ。

 

 覗き穴の位置は隣室のベッドの上がよく見えるよう計算されており、二人の交わりがよく見えてしまう。

 男が腰を振るたびに美女の乳房がぷるんぷるんと大きく揺れるのもよく見える。二人が体位を変える時は男の逸物も見えてしまう。

 股間から雄々しくそそり立つのは、とても暴力的で、まさに男の象徴で、気付かない内に口中に湧いた唾を飲み込んだ。

 

「あ……あんなことするなんて……」

 

 男の手が美女の胸に伸びるのに合わせて、彼女も自分の乳房に手を伸ばした。

 

 彼女が着ている夜着は、お屋敷のお嬢様のようなネグリジェではなく、着心地だけを重視した飾り気のないパジャマである。ゆったりしているので隙間は多く、脱ぐのも簡単だ。

 寝るのに合わせてブラジャーは外している。

 パジャマの裾から入り込んだ手は繊細な乳肉を乱暴に握り、親指と人差し指で乳首を摘んだ。

 

「んっ……、私が来てるのに……ルプーとするなんて……。あ……、乳首立ってる……。んんっ……」

 

 顔を壁に貼り付かせ、両手で乳房を揉みしだく。

 赤い唇はだらしなく開き、はあはあと熱い息を吐き始めた。

 

「ダメッ……。こんなことしてちゃ……。あ……おちんこ舐めてる。あんなに嬉しそうな顔をして……いやらしい! 私だったらあんな顔しないのに……。私がした時は精液だって全部飲んであげたんだから……」

 

 腰をくねらせながらパジャマのズボンを下ろしていく。

 覗き穴の位置は高さが低いので、屈まないと見にくい。それを見越してか、すぐ傍に丁度いい高さの椅子があった。

 椅子の脚につま先を引っ掛けて近くに寄せ、腰を下ろした。脚はやや開いて、太ももと太ももの間に隙間が出来ている。

 乳房を嬲っていた手は股間に伸びた。

 

「はあ……はあ……、また入れるの? さっき出したばかりじゃない! ルプーのおまんこなんていっぱい出したから白いのがあんなに……。あ、入った……」

 

 肌触りの良い下着の下は、とっても柔らかな媚肉が隠れている。

 彼女の細い指は下着に触れ、隠れた割れ目に沈んだ。沈むなり薄い生地にシミが広がっていく。

 右手の中指が割れ目を上下してシミを広げ、左手は割れ目の上端をほぐしにかかる。割れ目に隠れた肉芽は熱心に擦られて膨らみ始め、彼女に快感を与え始めた。

 シミはますます広がって下着の上にまで滲み出し、彼女の指はぬめる汁に塗れていく。

 

(あぁんっ! ぜんぶきてるぅ! おにーさんの全部がルプーのなかにぃ! ルプーのなか、おにーさんでいっぱいになっちゃってるっすよぉ♡ あはっ♪ あ、あんっ、あんっ、そこいいっすぅううぅ♡ あっだめきすぅ……、んっちゅうぅうぅ…………、じゅる…………んんっ…………♡)

 

 彼女の口は半開きで、何かをねだるように舌を伸ばした。

 右手の薬指と中指で舌を摘み、唾液を絡めて丹念に舐める。自分の愛液を舐めていることには気付いていない。

 舐めたら指を揃えて真っ直ぐに伸ばし、口の中を前後に動かした。唇で指を挟んで舌を絡めて強く吸って、指は唾液に濡れそぼり、手のひらにまで伝っていく。

 軽く腰を浮かせてもどかしげに下着を脱いだ。

 

「こんなことダメなのに! でも濡れちゃってる……。ああ、わたしおまんこ濡らしちゃってる……。おちんこ入れて欲しくておつゆがいっぱい出ちゃってる……。わたしのおまんこ、こんなに濡れてるのよ? あなたのおちんこが欲しくて濡れちゃってるのよ? だから、入れて? 奥まで入れて。わたしのおまんこをあなたでいっぱいにして……。んん…………」

 

 根本まで唾液に濡れた中指と薬指を入り口にあてがった。

 第二関節で折り曲げれば、つぷりと中へ入っていく。

 

「あっダメ、そこ弱くて……。んぅ……、そこ……そこなのぉ……。あぁっ……、そんなにいじめないで……♡」

 

 壁の向こうでは、四足をついた姉が後ろから犯されている。

 パンパンと肉が肉を打つ音に、あられもない姉の嬌声。

 時折振り向いてキスをせがんでいる。

 キスに合わせて、彼女は自身の舌を弄んだ。

 

 腰を浮かせて指を動かし、下の口から垂れる汁が椅子の座面を汚していく。

 パジャマの下では乳首が尖りきって、触ってもいないのに服の生地とこすれる度に甘やかな刺激を伝えてくる。

 額をコツンと壁にあて、黒い目は壁の向こうから離れない。

 右手の抽挿に加えて、左手は肉芽を擦り始めた。

 

 姉の姿に自分を重ね、犯されているのは自分なのだと思い込む。

 尻を突き出した姉が戸惑い気味に振り返る。

 男は大きな尻を両手で撫で回し、動きが止まったところだ。

 

(あんっ、そこちがうっすよぉ! そっちの穴もいじられるとルプーおかしくなっちゃうんすからぁ♡ あ、だめだめ入れちゃだめなのにぃいい、あっはああぁああん♡)

 

 止まっていた間に何をしていたのかは、彼女からは見えなかった。

 男の腰が姉の尻から離れ、根本まで濡れた長い逸物が現れたのはよく見える。

 尻の割れ目をなぞった逸物は、さっきの場所より少し上で止まり、男の腰がまたも姉の尻に打ち付けられた。

 見えなくても、どうなっているかの想像が可能だった。

 

「し、信じらんない! あんなところに入れるなんて! あんな、あんな……、穴はあるけど……。ルプーはあんなになって……。お尻の穴って、そんなにいいの?」

 

 左手が後ろに回る。

 すっと伸ばした中指が尻の割れ目をなぞって、固く閉じられた窄まりを見つけた。穴はあるけど入りそうにない。入れる代わりに、あてがった指先が小さく動き出した。

 右手は膣に入っている。溢れた愛液は股間を濡らし、太ももに垂れ、椅子の座面まで汚してしまって。そして、肛門にも届いている。

 ぬるつく尻穴を撫で回し続け、指先がほんの少しだけ入ってしまう。

 

 彼女は「もしかして」とか「まさか」と思いながら、力を入れた。

 細い指が熱い弾力を乗り越えて、広いところへ届いてしまった。

 

「こんなのダメ絶対ダメぇ! 彼にだってさせてないのにこんなところ弄るなんて絶対ダメよ! しちゃうなら彼に……、あっやあぁ…、熱くないのにどうして熱いのぉ?」

 

 尻はもう椅子についてない。

 膝を曲げて股を開いたがに股で、彼女は前と後ろの穴へ指を入れている。

 男の腰つきに同期させて指を動かす。尻の穴へは第一関節までしか入らなかったのに、第二関節になってもまだ足りない。中指だけだったのに、薬指まで入ってしまう。

 

「うっ、ダメ、イク……、お尻で……」

 

(あ゛っあ゛っあ゛っぁああぁ! お尻で出しちゃダメっす、出すならおまんこでぇぇぇええ、あぁっぁあああああああああああぁぁぁあーーーーーっ!!)

 

「くぅっ!!」

 

 咄嗟に唇を噛んだ。

 切れて血が滲むのも気付かない。

 足腰がガクガクと震え、力が抜ける。

 下腹から熱い波が押し寄せ、体全体を包んでいく。

 

「あっ………………はぁ…………………………。あぁ、私……。こんなことを…………」

 

 椅子の上に戻った彼女は、目の前に両手を広げた。

 右手も左手も自身が分泌した汁に濡れ、我に返った今となっては異臭としか思えない匂いをさせている。

 

 

 

 姉の艶姿を覗きながら初めての自慰をしてしまったのは、覗きの罪悪感はなくとも虚無感が酷かった。

 何も得られないのにどうしてこんな馬鹿げた事をしてしまったのか。得られないどころか自尊心がガリガリと削られる。

 情けなくて涙が出そうになる。

 そこでようやく唇が切れていることに気付き、つくづく自分の愚かしさが嫌になった。

 とりあえず何かで手を拭って服を整えて、壁の向こうから気になることが聞こえてきた。

 

(あれ? 何してるんすか? 指?)

(指のサイズを見てるんだよ。ルプーちゃんの指はよく知ってるけど、きちんと確認したほういいからね)

(薬指! 大事なのは薬指っすよ! おにーさんに作ってもらう指輪は薬指につけるんすから!)

(作った後でも寸法は変えられるよ。だからそんなに慌てる必要はないさ)

(そーいう問題じゃないっすよ。ともかく、ルプーの指輪は左手の薬指っす! 絶対っすからね!)

(はいはい)

 

 彼女は、二人の会話を反芻した。

 

「……………………指輪? それも左手の薬指に?」

 

 それが何を意味するかを、ナーベラルはよく知っている。

 

 

 

 

 

 

 翌日もルプーちゃんは続く予定だったが、予定に反してルプスレギナは通常モードに戻った。

 利子はつけないからご褒美の続きはまた後で、という事らしい。

 

 実に今更ながら、ルプスレギナはこれまでを思い出した。

 セックスまでするのは三日に一度なのは、ソリュシャンを始めとして色々な女が増えてきたからだと思っていた。

 しかし、帝都のお屋敷で我が世の春を謳歌していた時も三日に一度だった。あの頃は手や口を日に何度も使っていたから、もっと頻度が高かったような気がしていただけで、セックスの頻度は今と変わってない。

 ねだれば時間が許す限り何度もしてくれたのに、どうして三日に一度だったのか。

 一晩中可愛がってもらえて、答えを思い出した。

 

 あれはナーベラルの言葉だったが、猿になってしまうのだ。

 あまりに気持ちよくて浸りすぎて元の世界に戻るのが困難になり、あーんされないと食事もとれない有様になる。それに懲りて三日に一度にしようと、理性ではなく体が決めたはずだったのだ。自己を保つための本能が機能したとも言う。

 それなら回復魔法を使えば、と言いたいところだが、回復魔法は肉体の損傷や疲労を癒やすのであって、ダメになった精神は時間経過でないと戻らない。なお、スライムエクスパンドズームパンチも同様の効果を発揮する。

 急ぎの用事は特にないのでスライムスキルは発揮されず、ルプスレギナは自室のベッドでうへうへしている。

 

「それでは冒険者組合に行ってきます。依頼次第では外泊することになるかも知れません」

「かしこまりました。どうかお気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

 朝になれば、冒険者である漆黒の二人は冒険者としての活動を開始する。

 お二人は賓客であるため、お屋敷の暫定ご主人様である若旦那様が見送らないわけにはいかない。

 

「私に何か?」

 

 挨拶を交わしてさあ出発という段になって、美姫ナーベが若旦那様に手を差し出した。

 若旦那様は小首を傾げつつも、手を差し出されたのだから握手なのだろうと判断して手を握ろうとするが、すっと避けられる。

 

「そうじゃなくて、指」

「指?」

「指の太さ」

 

 握手にしては妙だった。

 ナーベが差し出したのは左手で、五指を大きく開いている。

 若旦那様は、ひとまずナーベの指を確認。見るだけで0.1ミリメートルのオーダーでわかるが、触ればその二つ下まで把握できる。

 

「確認しましたが、それが何か?」

 

 ナーベは、すっと若旦那様の耳に口を寄せ、小さく囁いた。

 

(私の指輪も作るのよ。左手の薬指。わかったわね?)

 

 若旦那様の応えを待つことなく、ナーベは身を翻し、

 

「モモンさん、行きましょう」

 

 モモン様より先に行ってしまい、慌てて戻ってからモモン様についてお屋敷を後にした。

 

 お嬢様はジト目で若旦那様を睨みつけた。

 

「お兄様はナーベラルに話してしまったんですか?」

「何も言ってないが……、どうせ幾つも試作するつもりだし、二個が三個になっても変わらないだろ」

 

 お嬢様はため息を吐いた。

 三個が四個になって、五、六、と増えるのが目に見えていた。




次回以降あれな都合でちょっと時空が歪むかもです
アルベドの計画発動前にあれとあれとあれを突っ込まねば
しかしそうするとアルベドの登場が遠のいてしまい、うーん

ハーメルンの仕様が変わり、助言もあって、あらすじを変えようと思ったのだけど思うだけで変えられない
変えても本文から抜粋するだけと思うんですが


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激突! エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ vs キーノ・ファスリス・インベルン

時空を歪めなくてもあれこれ先送りすればいいことに気付きました
誰も時系列なんて気にしてないでしょうが

本話17kちょい
いつの間にか平均字数が9k超えました


 新情報を入手してナザリックの一部はとても忙しくなりました。けれども一部以外は、具体的に言うとアルベド様とデミウルゴス様以外は平常通りです。アインズ様は新情報にちょっぴり気を揉んでいますが、現状では頼りになる二人に頼りきりです。つまりは気を揉むだけで特に何もしていません。出来ることは何もないとも言います。

 なお、本件には箝口令が敷かれています。迂闊に触れ回ると、「そんな大トカゲは私の槍のサビにしてやりんす!」と宣いながら突撃してしまう迂闊者が出て来るかも知れないのです。

 

 魔導国宰相閣下の相談役にして我らがお屋敷の若旦那様は、以前より少しだけ忙しくなりました。忙しいと言っても元が元なのでたかが知れています。

 相談役のお仕事は高きより至高の光を伴ってこの地に降臨なされたアルベド様から余計な事はしなくていいと言われてしまっているので、新情報については関与していません。

 給仕係としてのお仕事も美という概念が形を成した美神であられるアルベド様がとてもお忙しくなってしまい、前回のお食事日も時短でした。

 若旦那様が忙しくなったのはクラシックギターを覚えたからです。

 

 ナザリックオーケストラのソリストの視聴に耐える演奏です。ナザリックにて様々な音楽に触れているソリュシャンにルプスレギナ、シェーダにミラに、メイド教官たちもこれには大いに驚き、褒め称えました。

 ラキュースを含む現地で雇ったメイドたちは驚嘆の一言です。

 

 演奏技術もさることながら、楽曲が素晴らしいのです。

 勿論、王国や帝国には宮廷音楽なるものがあります。

 庶民たちにだって祭りなどで音楽を楽しむ機会があります。流しの楽師が大通りや酒場などの人の集まる場所で弾き語ることもあるでしょう。偉大なるモモン様の英雄譚が遠くまで知れ渡るのは彼らの働きが無視できません。

 しかし、若旦那様が弾く楽曲は違います。ナザリックから提供された楽曲なのです。

 はっきり言ってしまいますと、近隣諸国で楽しまれている音楽とナザリックが抱えている音楽とでは、歴史の積み重ねが段違いなのです。ナザリックの音楽の方が遥かに洗練され、演奏技術も磨かれ抜かれています。

 カタツムリとタイラントドラゴン、とは言いません。パピードラゴンとグレートドラゴンでしょうか。パピーが厳しい修行を長い年月に渡って積み重ねていけばいずれグレートに至るかも知れません。それはあくまでも遥か未来の話であって、現時点では大きな差があるのです。

 仮にナザリックオーケストラのヴァイオリニストであるセシルが帝国貴族たちの前で24のカプリースを弾けば、凄まじい演奏技術から悪魔認定されても不思議ではありません。実際悪魔ですが。

 

 そんなわけで、若旦那様のギターは大人気です。

 もっぱら書斎で弾いているのですが皆に聴かせようと窓を開け放って弾くので、繊細にして情熱的な旋律に耳を傾けるのに男女の差はありません。

 ソリュシャンにルプスレギナも暇があれば聴きたがります。

 

 幸いと言っていいのかどうかわかりませんが、現時点で若旦那様が弾く楽曲はシズちゃんに覚えさせられた南のソナチネを筆頭に丸暗記したものばかり。譜面を読み込んで記憶の宮殿に保管したものだけとなっています。

 若旦那様は記憶の宮殿内でいつでもどこでもギターの練習が出来るのですが、音感がさっぱりなため実際に弾いてみないとどんな曲かわからないのです。当面は覚えた曲がどのような曲なのか確認して弾き熟す毎日でしょう。セシルから贈られた譜面にはまだ目を通していないのです。

 セシルの罠はまだ発動していません。

 

 若旦那様は、モモン様とナーベ様にギターを聴いて頂くこともありました。ナーベ様はいつでもナーベラルなのと違って、モモン様はパンドラズ・アクター様にアインズ様の時もありました。

 パンドラズ・アクター様は純粋に若旦那様の技量を褒め、アインズ様は(変態だと何でも出来るんだな)と微妙な感想を持ちました。完全に若旦那様への理解を投げ捨てたのです。

 

 ナーベ様の視線が日毎にキツくなっていくのはさておき、漆黒のお二人がいるということはハムスケさんもお屋敷にいるのです。

 若旦那様はハムスケさんと交渉するのですが、成果は芳しくありません。

 

「もう嫌でござる!」

「暖かくなってきたんですからいいじゃないですか。むしろ涼しいですよ。水浴びと似たようなものです」

「そういう問題じゃないでござる。某は殿の騎獣でござる。毛を刈られるためにいるわけじゃないでござるよ!」

「……いえ、うまく行ったら必ずしも毛を刈る必要はありません」

「上手く行かなかったらどうするでござる?」

「その時は仕方ありません。一度丸刈りにして毛生え薬を塗って」

「ほおらみるでござる! 某は羊じゃないでござる! もう騙されないでござるよ!」

 

 ハムスケさんの態度は頑なでした。

 若旦那様は、ハムスケさんを今度こそもふもふにしてやろうと思っていたのですが、肝心のハムスケさんの協力が得られません。

 ハムスケさんの殿であるモモン様も、中身がパンドラズ・アクター様の時は我関せず。中身がアインズ様の時は、「本人が……本獣? がこう言っていますから」とハムスケさんを味方します。他の方々に口添えを頼もうにも、アインズ様に言われてしまっては諦めざるを得ませんでした。

 さすがのアインズ様は若旦那様の嘘を見抜いていたのでしょう。若旦那様がハムスケさんをもふもふにしたいと言うのは嘘だったのです。

 

 ナザリックでは金貨が富であるとデミウルゴス様から教えていただいた若旦那様です。そして、ナザリックには素材を金貨に変えるマジックアイテムがあるのだとか。

 ハムスケさんの毛皮から紡いだ毛糸は中々の高品質で、体も大きいため一回刈取れば相当量の毛糸が収穫できるのです。若旦那様は、ハムスケさんを素材にして金貨をたくさん作ってやろうと目論んでいました。

 しかし、上述の理由によりハムスケ案は断念。

 それならばということで、若旦那様は腹案を実行することに決めました。

 

 

 

 

 

 

「随分妙な顔ぶれでありんすね」

 

 その日、お屋敷の中庭に集まった面々はシャルティア様が小首を傾げるくらいには妙なものでした。

 まず、お屋敷の若旦那様。本日の企画の立案者です。若旦那様からは片時も離れたくない護衛兼荷物持ちのミラ。回復係のルプスレギナは本日必須です。それと、帝都のお屋敷から単身飛んできたソフィー。

 

「シャルティア様お久しぶりです。マスターったら酷いんですよ? 皆で遊びに行くのにお前は勉強してろって言うんです! 息抜きは絶対必要です! アインズ様だって週に一日はしっかり休めって仰ってるんですから!」

「ソフィーは相変わらず元気でありんすねえ。しっかり息抜きしなんし。今日はジュネはいないでありんすか?」

「ジュネはピクニックに行くより勉強してる方が好きみたいです。そんなの絶対おかしいですよね? シャルティア様だっておかしいと思いますよね?」

「ピクニックより勉強!? それはおかしいでありんす! ……あいつは本当にヴァンパイア・ブライドなのか?」

 

 というわけでジュネは帝都のお屋敷で勉強中であるため、ソフィーは一人で帝都からエ・ランテルまでの間を飛んできました。ソフィーの翼は飾りではないのです。

 

「ピクニックに行くわけじゃ……、似たようなものかも知れないがちゃんと目的があるんだからそっちを忘れないように」

 

 ソフィーが来たことに若旦那様は渋い顔ですが、来てしまったのですから仕方ありません。空気を読まない若旦那様でも、これから出発の段になって帰れとは言いづらいです。

 遠くにお出かけするのは確かでもピクニックではないつもりです。尤も、ソフィーくらいの強さがあれば血噴き肉落ちる過酷な戦場であってもピクニックと似たようなものでしょう。ソフィーがどれくらい強くなったかと言うと、階層守護者の方々には敵いませんが、物理主体であるセバス様ならワンチャンあるくらいには強くなってしまいました。反面、魔法マスターであるアインズ様には全く敵いません。

 これから向かう先で荒事がある予定ですがソフィーの戦力は過剰が過ぎます。ソフィー的には本当にピクニックです。

 

「エントマもこっちに来た……、いたんでありんすね」

「はい、シャルティア様。アインズ様のお許しを得ましたので、当面はあちらとこちらで交互に過ごす予定でございます」

 

 エントマさんは昨日来たところです。今日の予定を聞いて、それなら私も行くと手を上げました。

 ソリュシャンお嬢様はお嬢様なので体面的に同行出来ないため、エントマさんはソリュシャンお嬢様からくれぐれもお兄様にお怪我がないようにと何度も念を押されました。

 なお、昨日の夜にポーションの対価を一回分もらっています。早速ピクニックの携帯食です。

 なお、皆の携帯食はミラが持っている大きなバスケットにたっぷり詰まっています。

 

「で、こいつらは?」

 

 シャルティア様とエントマさんが言葉を選んだのは彼女たちがいるからでした。

 

「ティナはいいとしてそっちは珍しい顔でありんす。それにそいつは……」

 

 シャルティア様の視線がやや険しくなったのは、金髪のちびっ子が視界に入ったからです。ちびっ子は絶対強者の敵意に身じろぎしました。

 ティナと呼ばれた彼女は、難しい顔をしてシャルティア様に訴えました。

 

「シャルティア様のお世話になったティナは留守番。私はティア」

「ほーん? 全く区別が出来んせん」

 

 過日、調教競争とかいう頭痛が痛くなる競争の際に、シャルティア様が担当したのはティナでした。

 ここにいるのはティナではなくティアなのです。二人が一緒にいる時は、髪を留める紐の色などで区別出来るようになっているのですが、一人だけだとどっちがどっちかわかりません。

 ティアとしては、ここでシャルティア様に自己主張する必要は特にありません。けれども、シャルティア様がすっごく強くて魔導国でも重要な立場にあることは察しています。それに加えて、銀髪美少女であるシャルティア様はレズビアンであるティアのどストライクでもありました。積極的に歓心を買うべきなのです。

 ティアはちょっぴり顔を赤くして右腕を高く上げます。ティアの装備は忍ばない忍者スタイルなので、とても動きやすく軽快な装いです。端的に言えば露出過剰です。そんな服装で腕を上げると、脇の下が丸見えでした。

 

「……ティナはシャルティア様にツルツルにされたけど、私はまだちょっと、本当にちょっとでちゃんと剃ってるけど、ちょっとだけ生えてる」

「むむ、確かに」

 

 シャルティア様が覗き込むティアの脇の下は、ちゃんと剃っているけれどちょこっとだけ顔を出している脇毛がありました。

 

「あとでボスに脱毛してもらう予定」

「それじゃ区別が出来なくなりんす!」

「…………下の方はそのままにしてもらう予定」

「ほうほう! 区別するには素っ裸にひん剥いて欲しいというんでありんすね。良い心がけでありんす」

「いやちがっ…………」

 

 ティアの抗弁には耳を貸さず、シャルティア様の興味は隣に移りました。

 ちなみにティアが口にしたように、ティナはお留守番です。今日は遠出するので、ちょっとまだ怪しいガガーランを連れて行くのは不安でした。ティナはガガーランの面倒を見ています。イカサマありありのコイントスで負けたのです。ティナもイカサマをしたので、コイントスというよりイカサマ勝負でした。

 

「そいつはメイドじゃなかったでありんすか?」

「私はこれでもアダマンタイト冒険者よ!」

「元、だろう」

「……元アダマンタイト冒険者です」

 

 ラキュースが元アダマンタイト冒険者なのは、正式に王国の冒険者を辞め、魔導国に移ったからです。魔導国ではまだ冒険者としての活動が出来ていないため、魔導国の冒険者ギルドからアダマンタイト認定を受けていないのです。

 以前のラキュースは処女しか装備出来ない頭がおかしい鎧をつけていましたが、諸々の事情により装備できなくなりました。今はモモン様の口利きによりさるところから澄んだ青色の鎧を貸与されいます。今日の働き如何によって貸与が贈与になる予定です。

 

「で、こいつは? どうしてここにいる?」

「わ、私はご主人から頼まれて……あ、いや、その。そこの相談役殿から依頼されて来ている。それだけだ!」

「ふっっうぅうううぅーーーーーん?」

 

 シャルティア様、ジト目です。

 最後の一人、金髪のちびっ子吸血鬼ことイビルアイこと本名がキーノ・ファスリス・インベルンはエントマの敵なのです。エントマさんはアインズ様の御前で、「あの者を殺す際は声を私に」と訴え、受け入れられています。

 そのキーノがこの場にいるのは違和感があります。キーノを罠に嵌めて寄って集ってやっつけるのなら話はわかりますが、今日の目的が違うことはシャルティア様も聞いていました。

 

「キーノは既に魔導国の冒険者となりました。エントマさんと和解したとまでは言いませんが、魔導国の旗の下に集う同士です。争われては困ります」

「そうだ! ……そうです」

 

 いつもは威勢がいいキーノでも、とっても強くてとっても可愛いシャルティア様の前では大人しくなってしまいます。

 胡乱な目のシャルティア様に、若旦那様が耳打ちしました。

 

(エントマさんはキーノの声を私にとアインズ様に申し上げたそうですが、どうやらキーノの声が気に入らないようで取り下げたのです。アインズ様もお認めになりました)

(それは初耳でありんす。本当でありんしょうね?)

(私がアインズ様の名を騙ったと仰せですか? ありえません)

(それはそうでありんすね。だがそいつがエントマを傷つけたことに変わりはない!)

(戦闘でしたから仕方がなかった、とは申しません。ですが正式に魔導国の冒険者になったのです。まずは様子見をしていただけないでしょうか?)

(むう……。ま、仕方ありんせん)

 

 魔導国の冒険者をシャルティア様がやっつけてしまうととても不味い事態になってしまいます。それこそ、我らがモモン様がシャルティア様を討伐する一芝居が必要となるくらいに。ホニョペニョコ再びです。

 

「新生蒼の薔薇、というには若干メンバーが足りていませんが、彼女たちには私から正式に依頼しました。本日の件は難易度は高くないのですが、人手がいるのです。何より重要なのは信頼です。彼女たちなら情報を漏らすことは絶対にないでしょう」

 

 若旦那様直々に調教したティアは、若旦那様のためなら姉妹の首の骨を蹴り折るほどです。実際、ティナへ延髄切りを食らわせて痙攣させたことがあります。

 ラキュースはメイドとして過ごしながら心身を若旦那様に侵されています。それに、ラキュースにとっての若旦那様は、いと高き世界から自分を迎えるため月面世界に降り立った悟りを授けてくれる大賢者なのです。若旦那様に対しては、裏切るという発想がそもそも存在しません。

 キーノが王国から魔導国に移籍したのは、言うまでもなくモモン様の影響大でありますが、決定打は若旦那様です。吸血鬼としての自分の力を利用せず、今まで苦労したのだからこれからは帳尻を合わせるために幸せになるべきだ、と言われました。長い吸血鬼生で初めてです。若旦那様に弓を引くのは初めて得られた幸せを投げ捨てるも同意。それに、とっても美味しい血を厭わずに提供してくれたりします。離れる選択肢はありません。

 

 若旦那様に、ルプスレギナ、エントマ、ミラ、ソフィー。新生蒼の薔薇からラキュース、ティア、キーノ。合わせて八名が今日のお出かけメンバーです。

 

「それではシャルティア様、お願いいたします」

「わかりんした。今日のでこの前の借りはチャラでありんす!」

「承知しております。それとこちらは昨日採血したものです。量はありませんがお持ちください。今度いらっしゃる時までに一定量をご用意しておきます」

 

 若旦那様がシャルティア様に渡したのは、昨夜エントマさん用に収穫した手足から抜いた血液です。少ないと言いつつも左腕に加えて脚二本分はそこそこの量で、いつもの小瓶で十本もありました。強い血ですので、シャルティア様だって一日一本は飲みきれません。

 シャルティア様が口にした「借り」とはお姫様抱っこ耐久とは関係ありません。あれは若旦那様の借りでした。その後で採血しすぎて死にかけた件のことです。

 

「それじゃお前ら、こっちに来なんし」

 

 シャルティア様がゲートの魔法を発動します。

 一行は順々に闇の扉を潜りました。

 トンネルの向こうは木々が生い茂る森の中でした。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ後で迎えに来んす」

「よろしくお願いいたします」

 

 シャルティア様はお一人だけもう一度扉を潜り、一行を残してエ・ランテルに帰りました。

 若旦那様が皆に呼びかけます。

 

「皆集合。俺たちがいるのはここだ。目的地はここ。ゆっくり歩いても一時間は掛からない。先走ってもいいけど、今日の目的を忘れないように。特にソフィー」

「なんで私!? 言われたことくらいちゃんと出来ますう! それにこの中じゃ私が一番強いんですよ!」

「そういうところだぞ。今日の目的はビーストマンなんだからそんなに強くなくてもいいんだ」

 

 若旦那様が地図を広げながら皆に説明します。

 ラキュースとティアとキーノは、高精細な地図に面食らいました。若旦那様がアウラ様に献上する予定の地図の写しなのです。この世界のどこにも存在しなかった詳細な地図なので、驚くのは無理もありません。

 

「ここには集落があった。今はビーストマンが駐留してるはずだ。二月以上前の情報からの予測だからいない可能性もある。いた場合、最大で二千体」

 

 一行がいるのは竜王国の南東部です。

 若旦那様は竜王国の地図を作るために、竜王国上空をアウラ様と一緒に飛んでいました。あちこちでビーストマンの集団を見たものです。その時に見たビーストマンの位置と、竜王国側の抵抗と、魔導国がレンタルしているアンデッド兵の戦力と、諸々を加味して検討した結果、一定数以上の新鮮なビーストマンがいるであろう場所を予測したのです。

 

「ミラは荷物持ち」

「かしこまりました」

「今日のルプーには頑張ってもらう予定だから、前には出ないでゆっくりしててくれ」

「了解っす。先に言っとくっすけど、二千回とか絶対無理っすからね? 外側を塞ぐだけでも頑張って百回くらいっすから」

「厳選するよ。他の皆はそれぞれ協力して事に当たるように」

 

 返事は微妙でしたが、若旦那様は気にせず周囲の地形などを説明します。

 この場にいる皆はそれなりに強いのです。ビーストマンなんて敵じゃありません。若旦那様も今日はカタナブレイドを持ってきていますから、十体くらいに囲まれても楽勝です。アウラ様と空のお散歩中に落っこちた時は、一体だけでしたが素手で完勝しています。

 ですが散らばって逃げられると面倒です。そうはさせないよう要所を押さえておく必要があるのです。

 

「最後にもう一度注意しておく。なるたけ殺さないように無力化するんだ。ルプーが大変だから極力外傷をつけないように。それじゃ気をつけて行こう。森の中は歩きにくいから転ばないように」

 

 若旦那様の締まらない言葉で作戦開始です。

 

 今日の目的はビーストマンの駆除です。ビーストマンは人間に敵対的な亜人として広く知られています。かつての蒼の薔薇もビーストマンの駆除に協力したことがありました。新生蒼の薔薇の手始めとして全く問題ありません。

 

 作戦開始と同時に、エントマはキーノをキツく睨みつけて飛び立ちました。エントマ自身に空を飛ぶ能力はありませんが、蟲使いのスキルで飛べる蟲を召喚して背中に貼り付け、飛ぶことが出来るのです。

 なんだか不思議な理由でキーノをやっつけることが出来なくなってしまったのですが、仲良く協力なんてやってられません。キーノに負けるのも以ての外です。

 キーノよりたくさんビーストマンをやっつけて若旦那様に褒めてもらって、手とか足をご褒美に貰うのです。もしも貰えなかったら、ちょっと恥ずかしいことで可愛がって貰うのも大歓迎です。この前、シズちゃんと一緒に体験したことはすごい体験でした。毎日はしなくていいですが、偶にはと思っているのです。

 

 エントマに睨まれたキーノは一瞬だけ眉間に皺を作ると、フライの魔法を唱えて宙に浮かびました。そしてそのまま高速で木々の間を飛んでいきます。ソフィーの全力飛行に比べたらアヒルとシルフィードですが、人が走るよりずっと速いです。

 キーノとしてはエントマと競うつもりはさらさらありませんが、ビーストマンをたくさんやっつけて若旦那様に褒めてもらってご褒美を貰おうと思ってるのは一緒です。

 実のところ、今日のメンバーの中で、キーノは仲間外れでした。場の空気からなんとなく感じているのです。

 ミラはキーノ自身の目で見ています。ルプスレギナとソフィーは若旦那様にベタベタしているので、おそらくそうなのだろうと察せられます。ソフィーについてはまだなのですが、サキュバスなのでいずれが確定してます。

 ラキュースとティアも若旦那様との距離感がなんかあれです。

 キーノもその中に入りたいのです。入って欲しいとも言います。そのために目に見える功績を打ち立ててご褒美ゲット計画です。気合が入っています。

 

 ティアは忍者らしく姿を消して、ラキュースは真っ直ぐに駆け出しました。チームワークなんてあったもんじゃありません。

 荷物持ちのミラは兎も角、残る三人は呑気です。

 

「ねえねえお父様、今日のお弁当はなんですか?」

「だからお父様と……。今はいいか。ソフィーは食べたことがないだろう。ウィットニーさんが焼いたパンを使ったサンドイッチだ」

「おっ! あのパン屋が再開したんすか?」

 

 ルプスレギナも一回だけウィットニーさんのパンを食べたことがありました。その時に使用された小麦粉はナザリックから提供された上質なもので、味は極上。ナザリックのレストランで提供してもどこからも不満が出ないであろう出来でした。

 ですが、ウィットニーさんはそれを機にパン屋を休業。冒険者に戻ってしまいました。ティアとティナが聞き出したところによると、満足行くパンが焼けたので心残りがなくなったのだとか。美味しいパンを焼いて欲しいがために若旦那様が口を利いたのですが、それがウィットニーさんにパン屋の休業を決断させるとは皮肉なものです。

 実は伝説の凄腕シーフであったウィットニーさんにティアとティナが弟子入り。修行は順調なようで、ウィットニーさんは時々パンを焼くようになりました。遠からずウィットニーさんのパン屋が開店することでしょう。

 

「何も挟んでないバゲットやカンパーニュも用意してある。そのまま食べても美味しいけど、何か良さそうなものがあったらそれを使ってもいいな」

 

 その時、ミラの赤い目がキラリと光りました。

 

「アウラ様から仰せつかっております。ご主人様の口にけしてビーストマンの肉を入れないようにとのことでございました」

「ビーストマンって食べられるの?」

「いやいや食べないっすよ。食べないっすよね?」

「…………肉じゃなくて骨ならいいんだな?」

「訂正します。ビーストマンの肉体全てでございます」

「いいかよく聞け。俺は私利私欲や好奇心を満たすためにビーストマンを食べようとしてるんじゃないんだ。いつか魔導国に食糧難が来るかも知れない。その時に備えて豊富な食糧としてビーストマンが利用できないかと研究を……」

 

 ビーストマンについてよくわかってないソフィーは可愛らしく小首を傾げますが、ビーストマンが亜人の一種であると見知っているルプスレギナは、こいつマジかの目になりました。

 アルベド様以外だったら誰からどんな目で見られようと一向に気にしない若旦那様です。ミラを説得にかかるのですが、ミラは顔を強張らせて首を左右に振るきりです。

 ご主人様の希望に沿いたいミラですが、アウラ様から厳命されていますし、固形物を口にしないヴァンパイア・ブライドの目からしてもビーストマンが食用に適しているとは思えないのです。

 ルプスレギナが否定派なこともあって、若旦那様はビーストマンを諦めざるを得ませんでした。食の道は険しいようです。

 

「それじゃソフィーもちょっと行ってきまーす」

「あんまり傷をつけないようにな」

「そーいうの得意だから大丈夫。ついでにお弁当食べる場所も探してきますね」

 

 行く先にビーストマンの大群が待っているかも知れないのに、ソフィーは呑気なものです。まるきりピクニックです。

 空を飛べるソフィーは、翼をはためかせて宙に浮いたと思ったらあっという間に見えなくなりました。帝都とエ・ランテルの間を自前の翼で飛んでくるだけはあります。戦闘能力は兎も角、飛行能力は母よりあるのです。

 

「ルプーに頼むのは再収穫したくなるくらい良いのがあった時くらいだから」

「一回掛けたら一時間待ちっすからね。同じの何回も使ってたら日が暮れるっすよ?」

「数がいるから大丈夫だろう。これから行くところは水場が近いし、竜王国が構築した戦線からも遠い。想定最大数に近いビーストマンがいるはずだ」

 

 こちらはのんびりしていますが、先行した者たちは早くも接敵しました。

 若旦那様の予測は見事に的中したのです。

 

 

 

 森の中の開けた空間には朽ち掛けた廃屋が立ち並び、粗末な天幕が幾つも張られています。あちらこちらに両端が丸みを帯びた白い棒が転がっています。大きめな白く丸い石もあります。どの石も二つの穴が並んで空いていました。

 位置的に戦線から遠いため、略奪部隊あるいはビーストマン軍の後方駐屯地のようなものなのでしょう。

 突如現れた小柄な少女をビーストマンたちが不思議に思い、次いでご馳走がやってきたと舌なめずりする間にもエントマが先手を取りました。

 

「えぇえええーーーーーいっ!!」

 

 エントマが両腕を振ると同時に、ビーストマンたちが血しぶきを上げてバッタバッタと倒れていきます。

 これぞエントマの遠距離攻撃「鋼弾蟲」です。親指大の細長い蟲を高速で射出して敵を貫くのです。ビーストマンくらいならさくっとパイ生地を型抜きするように貫通できます。

 奇襲に成功したエントマは、ヒット&アウェイの原則に則らず吶喊した勢いのまま、ビーストマンたちが密集しているところへ突っ込みました。

 

「とりゃあああぁあーーーーーっ!!」

 

 エントマの腕に長いムカデが現れました。長さはざっと10メートル。これぞエントマが誇る近接攻撃手段にして最大の攻撃手段である千鞭蟲です。ビーストマンたちはエントマが振り回す千鞭蟲に触れるなり真っ二つになって宙を舞います。

 エントマが接敵して僅か一分少々で、ビーストマンたちの戦力は一割弱が中立化されてしまいました。

 ビーストマンたちの数は若旦那様が推測した最大数近かったというのに、恐ろしい勢いですり減っていきます。

 

 

 

「敵にすれば恐ろしいが、味方になれば頼もしいものだな」

 

 離れた位置からエントマの活躍を目撃したキーノは、ポツリと零します。キーノとエントマの仲は険悪を通り越して一触即発だったりしますが、強さは認めているのです。エントマには絶対聞かせたくありませんが。

 

「私も良いところを見せないと、な」

 

 大活躍中のエントマを制圧するのは不可能と判断したビーストマンの一群は撤退を選択しました。キーノが降り立ったのはビーストマンたちの進行方向です。

 

 がおがおがおーと怖いビーストマンたちの前にまたも小柄な美少女が現れました。先程の少女と同様に、こちらの少女もビーストマンたちに怯える様子がありません。それどころか不敵に笑ってみせました。

 

《サンド・フィールド オール!》

 

 キーノを轢き殺す勢いで突っ込んできたビーストマンたちに砂塵が襲いかかります。

 これぞキーノが得意とする行動阻害魔法《砂の領域・全域》です。キーノは単なる行動阻害魔法からひと工夫して、動きを阻害した対象の生命力を削ることが出来るようにしました。

 しかし、エントマ大活躍中なので、のんびりとはしていられません。

 

《クリスタルダガー!》

 

 呪文名の通りに水晶の短剣が現れ、動けないビーストマンたちの脳天に突き刺さっていきます。相手が動けないため、百発百中の無駄撃ちが皆無です。

 

 第一陣を壊滅させたキーノも、エントマと同じように突っ込んでいきます。

 一体一体を確実に仕留めるのは大切なことですが、このままではスコアがエントマより大分劣ったものになりかねません。

 上空から移動してビーストマンたちが密集しているところまで来ると、

 

《シャード・バックショット!》

 

 水晶の散弾を撒き散らす魔法を唱えました。キーノ的に攻撃力は大したことがない魔法なのですが、ビーストマン相手ならこれで十分です。ビーストマンたちは結晶散弾に貫かれて、やはりバッタバッタと倒れていきます。

 

 

 

「二人とも凄いわね。もう終わっちゃいそうじゃない」

 

 ラキュースは最短距離を駆け抜けてきたのに、ビーストマンの駐屯地は死屍累々でありました。

 それでも、幾ばくか残ったビーストマンたちが僅かな活路を求めて押し寄せてきます。

 百には届きませんが、十は遥かに越えるビーストマンたちに、ラキュースは怯えません。真剣な眼差しで背中に担いでいた大剣を引き抜きました。

 

「起きなさい、キリネイラム!」

 

 ラキュースの呼びかけに応えるように、漆黒の大剣が唸りました。但し、唸り声が聞こえるのはラキュースだけです。

 これぞラキュースが失った魔剣キリネイラムです。伝説の十三英雄の一人が所持していたと伝わる暗黒剣は、以前のラキュースが装備していたものでした。

 今回のお出かけに合わせて、ティアとティナが見つけてきてくれたのです。そもそもその二人が隠していたのはラキュースも薄々察していました。過去はともあれ、こうして自分の手に戻ってきたのです。

 

「無辜の民を苦しめるあなた達を、私はけっして許しはしない!」

 

 ラキュースはキリネイラムを構えました。

 

「行くわよ! 超技!」

 

 キリネイラムに暗黒のエネルギーが集う!

 ラキュースの美貌が苦悶に歪みました。

 

「くっ……! 久し振りだから、今の私なら簡単に乗っ取れると思っているの!?」

 

 魔剣キリネイラムはラキュースの暗黒面を引き出し、大爆発を引き起こすことが出来るのです。しかし、それは諸刃の剣。

 暗黒面に引きずり込まれないよう、魔剣キリネイラムの所有者は自身のダークサイドと日々戦っているのです。

 ラキュースがキリネイラムの力を引き出すのは久し振りです。ラキュースの暗黒面であるダークラキュースこと影羅が、ラキュースの体を乗っ取ろうと深淵より這い上がってきます。

 しかし、ラキュースは今までのラキュースとは違います。

 キリネイラムと離れていたのは確かでも、その間は高き世界から降臨なされた光り輝く美しい方と何度も交合して己の位階を高めてきたのです。影羅との対峙が久し振りであろうと、負けるつもりはありません。

 

「今の私は誰にも負けない! 秘技! 暗黒刃超弩級衝撃――」

 

(待て、ラキュース!)

 

「はっ!?」

 

 どこかから聞こえてきた声に、ラキュースの集中が解かれてしまいました。キリネイラムに宿った暗黒のエネルギーも霧散します。

 その間に近付いてきたビーストマンは、キリネイラムで横殴りにふっ飛ばしました。

 

 ビーストマン如きに魔剣キリネイラムのダークブレードメガインパクトは過剰です。ラキュースはこれでも元アダマンタイト冒険者なのですから、ビーストマンなぞ敵ではありません。

 千や二千を超えるなら兎も角、百や二百なら剣一本で十分です。

 

 ビーストマンをふっ飛ばしながらラキュースは自問しました。

 

(今の声は影羅? 私を止めたと言うの?)

 

「あっ……」

 

 ラキュースに一体一体無力化されているビーストマンたちに、横殴りの暴風が襲いかかりました。

 ラキュースがあっと呟いた間に、ビーストマンたちは大穴が空いたり真っ二つになったりズタボロになったりと散々です。暴風はラキュースが無力化したビーストマンたちも見逃さず、一体一体どころか十体二十体をまとめて潰していきます。

 

「今のは私がやっつけたんだからぁ!」

「いや違う傷口をよく見ろ。急所に刺さったのは私の魔法だ!」

「そんなの私がやっつけた後にやっただけだもん!」

「それはこっちの台詞だ!」

「いいから邪魔しないでぇ!」

「私が来た方にそっちが来たんじゃないか!」

 

 暴風の名を、エントマとキーノと言いました。

 

 若旦那様たちがのんびりお喋りしながらビーストマンたちの駐屯地に着いた時には、新鮮なビーストマンは一つもありませんでした。

 代わりに、焼くか埋めるかした方が良い廃棄物ばかりになっていました。

 

 

 

 

 

 

「で、二人とも俺が言ったことを忘れていたようだな。始める前に俺がなんと言ったか復唱しろ」

「………………」

「………………」

 

 仁王立ちする若旦那様の前に、暴風から無風になったエントマとキーノが座っています。

 地面の上に直座りです。その上、両膝を揃えて曲げる座り方は正座と呼ばれています。

 若旦那様の前で正座をさせられている二人は、俯いて地面を見つめていました。

 

「二人は忘れてるようだから、ラキュース。代わりに言ってみろ」

「ええ。作戦開始前に若旦那様はこう言ってたわ。「なるたけ殺さないように無力化する。極力傷を付けないように」と。だから私はキリネイラムの腹でビーストマンの頭を狙って気絶させていたんだけど……。二人が……」

「というわけだ。殺すなと言ったのに全滅だ。傷つけるなと言ったのにどれも穴が空いてるわ真っ二つだわ木っ端微塵だわで、どうやっても使えないものばかりだ。しかもうち漏らしはゼロ。通常の駆除作業なら満点だが、俺は殺さずに無力化、あるいは極力傷つけないようにと言ったはずだ」

 

 うち漏らしがゼロなのは、ビーストマンたちの逃走ルートを押さえていたティアが確認しています。駐屯地の周囲を回るようにしてお弁当エリアを探していたソフィーも、逃げ出したビーストマンは一つも見ませんでした。

 その二人は現在、ソフィーが飛んでティアを吊るし持ち、近くにビーストマンの集団がないか探しに行っています。

 

(おにーさん、アルベド様の事じゃないのに珍しく怒ってるっすね)

(シャルティア様にお願いして連れてきていただいたのが不意になったのですから、無理もないかと)

 

 ルプスレギナとミラはこそこそお話します。

 叱られてるキーノについてはざまーみろ。エントマはちょっと可愛そうだけど自業自得。手を差し伸べるつもりはありません。

 若旦那様が怒ってる時に口を出すと、酷い飛び火があるのをルプスレギナは身を持って知っているのです。ミラにご主人様へ諫言できる胆力がありません。むしろご主人様の気持ちに寄り添って、二人のことをけしからんと思っています。

 

「俺が二人に聞いているのは、失敗の鬱憤を晴らしたいからじゃない。同じ間違いを繰り返して欲しくないからだ。簡単なことを失敗したんだからそこには原因がある。原因を探って対策を立てるのは当たり前のことだろう? 二人は失敗の原因を放置して同じ失敗を繰り返す者を馬鹿だと思わないか? 二人ともそこまで馬鹿じゃないのなら俺の意見に賛同するだろう? 失敗の原因を探りたいと思うのがそれほどおかしくて不思議なことだと思うか? 思わないならきちんと答えるように。俺の要請を無視したのはどうしてなんだ?」

 

 これは迂闊に答えると心が折られるのを、ルプスレギナは経験済みです。

 子供枠である二人には割と甘かった若旦那様ですが、今回は見逃さないようでした。

 

「それは…………」

「それは?」

 

 若旦那様の優しさを信じて、エントマが小さな声で答えます。

 

「こいつに負けたくないって思ってぇ……。それで、頑張ればおにぃちゃんに褒めてもらえると思ってぇ……」

「こいつとはキーノの事かな。エントマさんはキーノを相手に遅れを取るまいと張り切ってしまって、力が入った。そういうことでいいのかな?」

「…………そう、ですぅ……」

「俺の要請を完全に忘れて無視するくらいにはキーノへの対抗意識が強かったということだな?」

「う………………。そう…………かもぉ」

「かも? そうである可能性はあるが、そうではない可能性もある。そういうことだな? それならそれ以外にどんな要因があって俺の言葉を無視したんた?」

「無視したわけじゃなくてぇ……そのぉ……、えぇとぉ…………」

 

 今日もエントマは仮面の表情を変える魔法を使っています。

 声が濡れていれば顔は曇って、可愛らしい顔は今にも泣きそうでした。

 しかし相手は若旦那様です。美少女が泣こうが喚こうが容赦しません。若旦那様の辞書に斟酌という言葉はないようです。

 

「エントマさんは、キーノへの対抗意識を知られたくないほど強い対抗意識がある。そう理解すればいいかな?」

「うぅ………………そう、ですぅ………………。くすん……」

 

 エントマは泣き出してしまいました。とっても可愛そうですが、自業自得です。

 エントマが失敗した原因がわかったところで、若旦那様は次に移りました。

 

「で、キーノ。お前が俺の言葉を無視したのはどうしてだ? まさか忘れていたのか? ラキュースはきちんと覚えていて復唱出来たのに、キーノはあんな短い命令文も覚えられないのか?」

「それは、その…………。わ、私はちゃんと覚えていたんだ! だから最初は行動力を奪うだけで…………」

「出来てないだろう。五体満足なビーストマンは一体もいない。二千近くいたはずなのに一体もいない。どういうことだ? キーノは自分がやろうとしていたことが出来ないのか? それともやろうと思っていなかったのか? どっちだ?」

「うっ……その言い方は……、あ、いや、ごめんなさい……です……。やろうと思っていたが、忘れてしまって……」

 

 エントマが泣くまで責められたのを見たキーノは、素直に白状しました。

 

「忘れた。忘れるほどの何かがあったという事だな。何があった? そんな衝撃的な出来事がそんな短い時間の間に起こっていたのか?」

「……エントマがビーストマンを駆除しているのを見て………………、つい」

「つい、なんだ? エントマさんがビーストマンを駆除するのと、キーノの記憶喪失とどんな関係がある?」

「あの勢いで駆除され続けると私の分が…………、私が活躍できなくなると思って……」

「整合性が見えない。俺が聞いているのは、エントマさんの活躍とキーノの記憶喪失との関係だ。活躍が意味するにも不明だ。察するにビーストマンを駆除すること指して活躍と言ってるんだな?」

「はい……そうです……」

「エントマさんが活躍すればキーノが倒すビーストマンの数が減る。それはわかる。それがどうして記憶喪失につながる?」

「それはその……」

 

 キーノはぐすぐすしてるエントマをちらりと横目で見ました。

 

「私も対抗意識が出てきてしまって、負けたくないと思ったら力が入って、つい……」

「キーノもエントマさんへの対抗意識が高じて力が入った。結果、ビーストマンが全滅した。そういう理解でいいな?」

「はい……。そうです……」

 

 キーノは下手に抗弁しなかったので泣くまでは行きませんでしたが、地面から目が離せません。

 二人が叱られているのを見たラキュースは、あの時の声は影羅が自分を助けてくれたのだと確信しました。月面世界にて影羅との合一を果たしたパーフェクトラキュースに隙はないのです。

 

 原因を聞き出した若旦那様は、大きなため息を吐きました。

 二人の間に確執があるのは知っています。仲良くして欲しいとは思っていません。けれども互いが互いの足を引っ張り合うのは困りものです。

 こんな事になるならどっちかをエ・ランテルに置いてくればよかったのですが、既に竜王国に来てしまっています。今この場で何とかしなければなりませんでした。

 

「わかった。二人が仲良くするのは難しいだろう。しかし、今は一緒に行動している。互いに意識され続けるとこっちが困る」

 

 若旦那様は妙案を思いついてしまいました。

 

「だから、二人が互いを呼ぶ時は「ちゃん」をつけるように」

「「ちゃん!?」」

 

 エントマとキーノが弾かれたように顔を上げ、互いに見合い、そっぽを向きました。

 

 二人とも相手のことをちゃん付けで呼ぶなんてさらさら御免でしょう。嫌なことはしたくないのが道理です。嫌なことをしたくないがために、二人は自然と距離を取るはずです。

 二人が揃うと対抗意識が芽生えてろくでもないことになるのなら、二人を引き離せばよいのです。

 

「こいつにちゃんを付けるなんて……」

「エントマさん」

 

 吐き捨てるように言ったエントマを、若旦那様が咎めました。

 

「ちゃんを付けるようにと言ったばかりでしょう? ほんの十秒前に言ったことだ。三つの子供だって覚えていられる。それなのにエントマさんは俺が言ったことをもう忘れたのかな? それとも、エントマさんは短期記憶力に問題でもあるのかな? もしもあるならアインズ様に上申するから療養するといい」

「そういうわけじゃなくてぇ…………ごめんなさいぃ……」

「謝る必要はありませんよ。俺が言っているのは、出来るならやれ。出来ないなら療養すべき。それだけです。わかったかな?」

「……………………はぃ」

 

 エントマはしょんぼりと頷きました。

 

「ふん、いい気味だ」

 

 若旦那様に叱られて面白くないキーノは、叱られる原因となったエントマに苛立ちをぶつけました。

 ぼそっと呟いたのにエントマの耳にはきちんと届き、凄い目で睨みつけられました。

 けれども、キーノが怖いのはエントマの睨みより若旦那様の冷たい目でした。

 

「今のは俺に言ったんじゃないだろうな? 今日はシャルティア様にお願いして竜王国にまで運んでもらったのに現状では大失敗だ。キーノの言う通りに散々だよ。で、散々な原因となったキーノが、俺に向かって、いい気味だと言うのか?」

「それちがっ……! 私が言ったのはご主人じゃなくてそっち……」

「そっち? 指示語じゃなくてちゃんと名称を使え。それともキーノはここにいる皆の名前がわからないのか? 自己紹介が必要か?」

「いや…………大丈夫、です……」

「大丈夫ならちゃんと言え。そっちとは誰のことだ?」

「…………………………………………エントマ……ちゃん。です……」

 

 キーノは絞り出すように言いました。

 今度はエントマが噴き出します。

 

「ぷぷっ…………、キーノちゃんのばーか!」

「なっ!! 元はと言えばエントマちゃんが先走るからだろう!」

「そんなの関係ないもん! キーノちゃんが自分で失敗しただけで私は関係ないですぅ」

「私がやりすぎたのはエントマちゃんがビーストマンをなぎ倒してるのを見ちゃったからだ!」

「そんなの釣られたキーノちゃんがバカなのに決まってるでしょぉ!」

「それを言うなら先に始めたエントマちゃんの方が馬鹿じゃないか!」

「バカって言う方がバカなんですぅ。だからキーノちゃんのばーか!」

「先に言ったのはエントマちゃんだ! 馬鹿なのはエントマちゃんだ!」

「キーノちゃんのバカ!」

「エントマちゃんのバカ!」

 

 罵り合いを始めた二人を若旦那様は放置です。

 ちゃん付けをしたくないなら離れればいいのに、一緒にいるのが不思議ではありますが、罵り合うのだからそのうち離れることでしょう。

 

 一方、ルプスレギナは混乱しました。

 

「なんすかこれぇ」

 

 罵り合っていますが、ちゃん付けです。

 下手をすれば殺し合いに発展しかねなかった二人なのに、今や喧嘩するほど何とやらにしか見えませんでした。




50話くらい前から書きたかったエピソード

次回、残酷な描写タグが必要になるかもです
ソフトにするつもりですが、これはセーフかどうかと考えながら書くのは面倒でして


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乱獲ダメ絶対

本話21k
のんびり書きすぎたようです


 エントマちゃんとキーノちゃんについては本人同士に任せて作戦続行です。

 幸いな事に、ソフィーとティアがこちらに向かってくるビーストマンの一団を発見しました。先にあったのはエントマとキーノが頑張ったせいであっという間に壊滅しましたが、ここはビーストマンたちの駐屯地です。新しく補充されても不思議はありません。

 

「きゃーたすけてー」

 

 悲鳴を上げながらソフィーが逃げ惑います。色々な意味で美味しそうなソフィーに、ビーストマンたちは目を輝かせて追いかけてきます。

 ビーストマンたちにもう少し知恵があればソフィーの服装をおかしく思ったことでしょう。ソフィーの服装は綺麗なドレスだったのです。靴だって踵が高く、森の中ではとても歩きにくいはずです。それなのにソフィーは転ぶことなく、ビーストマンたちとの距離が離れることも縮まることもなく走り続けます。

 やがてソフィーの行く末に二人の少女が現れました。

 

「二人とも今度はちゃんとしてね」

「「………………」」

 

 二人の少女は無言で頷きます。

 ソフィーは距離を置いて佇む二人の少女の間を駆け抜けると、宙に浮かんでどこかへ消えてしまいました。

 

 追いすがって来たビーストマンたちは、目当ての少女が消えて新しい少女たちが現れたことに、獲物が増えたと喜んでいます。

 ビーストマンたちの思惑はさておき、二人の少女は目前に迫る毛むくじゃらたちより、隣に立つ少女の方を強く意識していました。

 

「……キーノちゃんから行けば?」

「エントマちゃんだって出来るんだろう?」

「あーーーっ、キーノちゃんって傷つけないで無力化出来ないんだぁ。出来ないなら邪魔だから帰っていいよぉ?」

「エントマちゃんこそどうなんだ? 私はエントマちゃんの攻撃力が凄いのは知ってるが、あれが敵の沈静化に使えるとは思えないな」

「ちゃんできますぅ」

「だったらしてみたらどうだ?」

「グォォオオオオオオオオオオ!」

「「うるさい!」」

 

 一番乗りした足の速いビーストマンが、美味しいとこは俺が頂くぜとばかりに前足もとい右手を振りかぶりました。

 ナイフのように鋭い爪が、人間よりずっと膂力があるビーストマンの腕力で叩きつけられるのです。可愛い女の子なんて簡単に引き裂いてしまえます。

 が、長い爪が少女に叩きつけられることはなく、ビーストマンはその場にばたりと倒れました。近くでよく見れば小さく痙攣しているのがわかります。

 

「…………ふん。やれば出来るんじゃないか」

「だから出来るって言いましたぁ。私はキーノちゃんとは違うんですぅ」

 

 最初のビーストマンが襲いかかったのはエントマの方でした。エントマは太くて長い蟲を召喚すると、ビーストマンに突きつけたのです。されたビーストマンには何が何やらさっぱりの内に意識がなくなりましたが、隣にいたキーノは見ていました。蟲から伸びる細長い針が、ビーストマンをぷすりとやったのです。

 効果は見ての通り。

 倒れたビーストマンは動かなくなっても痙攣はしているので、死んではいないのでしょう。どうやら対象を麻痺させる毒を注入したようです。また若旦那様に叱られるのは嫌なので慎重です。

 

「即効性があり非常に強力なようだな。しかし、これだけ数がいると一々刺して回れないだろう?」

「む!」

 

 キーノに煽られたエントマが頬を膨らませる間にもビーストマンが続けて襲いかかってきます。

 最初の一体は倒れているわけですが、ビーストマンたちは何かの間違いかラッキーヒットだと思い込み、エントマを脅威に思う者は一つもいませんでした。棒読みのソフィーに釣られるだけはありました。

 

「まとめて相手をする時はこうするんだ!」

 

 キーノが魔法を発動します。

 

《サンド・フィールド オール!》

 

 さっきも使った行動阻害魔法です。十体のビーストマンが囚われ、少しずつ生命力を奪われ衰弱していきます。

 

「へ、へ〜〜〜。でもそれじゃ時間がかかって他のに逃げられちゃうもん」

「む!」

 

 エントマは逃げを打ち始めたビーストマンをぷすりぷすりと刺していきます。一体一体にしか攻撃できませんが、こちらは即効性があります。

 エントマのドヤ顔に頬を引き攣らせたキーノは、砂塵に囚われていたビーストマンたちが衰弱しきって動けなくなったのを確認すると、同じ魔法を発動します。しかし、今度は五体しか捉えられませんでした。

 

「キーノちゃんはそこでゆっくりしてたらぁ? 私はいっぱい頑張っておにぃちゃんに褒めてもらうからぁ」

「数は似たようなものじゃないか! むしろ私のほうが多いぞ!」

「ぐだぐだ言ってないで協力すればいいじゃないっすか」

 

 二人がのんびりしてる間に後続がやってきました。

 ルプスレギナの声かけに、二人はしばし見つめ合いました。睨み合ったとも言います。

 

「絶対ヤダ!」

「私一人で十分だ!」

「ぐぬぬ!」

「ぐぎぎ!」

 

 激しい視殺戦です。二人は目からビームを撃っているが如く、視線が交わる宙空にバチバチと火花が散っているようでした。

 二人が行動を共にしているのは、間違っても協力するためではありません。互いに互いを監視するためなのです。相手の失点を見つけて若旦那様に報告して、もう一度叱ってもらうのです。

 

 相変わらずの二人に、ルプスレギナは大きなため息を吐きました。ルプスレギナ的には妹であるエントマを応援するのは当然なのですが、二人がこの調子だとMVPは他に奪われることになりかねないのです。

 ティアは忍者らしく森の中に姿を消して、散らばったビーストマンを処理しています。

 ラキュースはのんびりしている二人を追い越して、ビーストマンをふっ飛ばしています。

 

 

 

 ソフィーはビーストマンたちを釣った後、再度ビーストマンたちの後方に戻りました。

 

「お父様はどうしてこんなの食べたいんだろ? 美味しそうに見えないんだけどな」

 

 ソフィーは地に倒れるビーストマンたちを眺めながら、お肉の種類を思い出していました。お肉に加工される前の動物たちに、こんな毛むくじゃらはいなかったと思うのです。

 それとも自分が知らないだけで、毛むくじゃらでも美味しいのがいるのかもと思いましたが、ルプスレギナやラキュースたちの反応を思いだせば、やはり食用には適さないだろうとの結論が得られます。

 ビーストマンが食用に適さないのは確かでも、まだまだお子様なソフィーは羊や山羊をすぐに思い付けませんでした。

 

「今回は食べるためじゃないし、アウラ様に言われたみたいだから食べないよね、きっと。あっ」

 

 倒れているビーストマンから顔を上げたソフィーの目の前に、高速で飛来する矢がありました。

 木々の陰に潜んでいた一体のビーストマンが、恐るべき美しい少女の隙をずっと狙っていたのです。自分の爪が主武装のビーストマンですが、弓や剣を使う個体もあるようです。道具を使える分、他の個体より知恵があったのでしょう。

 矢は狙い違わずソフィーの顔に突き刺さり貫通し、全く勢いを落とすことなく飛び去って向こうの木に刺さりました。

 

「けっこう頑張ったと思うからもういいかなって思ってたんだけど。エントマたちはまだなのかな?」

 

 釣られたのをエントマたちが、釣られなかったのをソフィーが、散らばってしまったのは協力して。これがすごく大雑把な作戦内容です。

 ソフィーはビーストマンの後詰めを全滅させたので、もう十分働いたかなと思っていたのです。思っていても、向こうから来るのなら別でしょう。

 

 ソフィーは音もなくビーストマンとの距離を詰めました。浮いているのだから音がないのは当然でしたが。

 言うまでもなく、矢が貫通したソフィーの顔に傷はありません。余剰次元の住人であるソフィーに物理攻撃を当てるのは、攻撃者が余剰次元に干渉する能力を持つか、攻撃に任意の効果を付与するしかありません。ビーストマンがどんなに頑張っても、ソフィーに傷を付けることは不可能でした。

 

「えいっ」

 

 ビーストマンは大きな木の向こうに隠れていたのに、ソフィーは無造作に手を突き出します。

 ソフィーの手は木をすり抜け、ビーストマンの皮革もすり抜け、肉もすり抜け、指先で主要な臓器をちょっとだけ突っつきます。アインズ様が使う即死魔法《トゥルー・デス》を物理攻撃で再現したようなものです。

 攻撃の性質上、物理防御を無視します。一定以上のレベルがないと即死してしまう凶悪攻撃です。その上、本気で攻撃する時は姿を消して不意を打つため、回避が非常に難しかったりするのです。

 とは言え格上には中々通用せず、特にアウラ様が相手だと姿を消していてもなんとなくで位置を見破られたりして、ナザリックでのレベル上げや課題の洗い出しにお世話になったものです。

 

「よし、これで私の担当終了! おべんとおべんと楽しみだなー」

 

 バタリと倒れたビーストマンには毛ほどの傷もありませんでした。

 人が転べば怪我をするものですが、ビーストマンたちは毛皮を持っているのでそのくらいで傷が出来たりしないのです。

 その毛皮こそが、今日の目的でありました。

 

 

 

 

 

 

「皆お疲れ様。今度は上手くいって本当に良かった」

 

 若旦那様の労う言葉に皆は歓声と拍手で応えます。

 

「ここからは俺たちの仕事だから、皆は休んでくれ。少し早いがお弁当を食べても構わないよ」

 

 そう言われても、若旦那様を差し置いてお弁当を開こうとする者は一人もいません。ルプスレギナはそちら側かも知れませんが、前半のお仕事を見てるだけだったので後半のお仕事が待っているのです。

 頑張ってくれた彼女たちが気持ちよく休めるように、若旦那様は早速作業を開始しました。

 

 数えたところ、素材は全部で200個弱あるようです。

 半数はソフィーがとても綺麗に仕留めてくれました。えっへんと胸を張るのも納得の仕事です。ちょっと残念なのは、どれも回復魔法が効きそうにない事でした。どうやら後詰めの方にビーストマン的に身分だか階級だかが高いものが多いようで、毛並みや大きさが立派なのが多かったのです。

 もう半数はエントマ、キーノ、ラキュース、ティアが再利用可能な形で仕留めたものです。スコアはエントマとキーノがほぼ同数。ラキュースはその半分。ティアは更にその半分ですが、散らばったのを主に仕留めていたので、陰の功労者と言っても良いかも知れません。

 

 再利用可能なのは一先ず動けないように拘束して、先に加工するのはソフィーが仕留めたものからです。

 今日は試しのつもりでいたので、全部加工するつもりはありません。半分もあれば十分です。というわけで、まずは選別です。

 良さそうなのを選り分け使わないのは廃棄、と言いたいところですが数があってそこそこ嵩張る上に時間が経つと色々な問題が出てきます。そうならないよう、エントマにお友達を召喚してもらってキレイにしてもらいます。エントマとキーノが張り切って作ってしまった廃棄物も同様に処理してもらいます。

 これで近くの水場でお弁当を広げても臭いが気になることはありません。

 

 要らないのをミラにあっちへ運ばせて、若旦那様が加工を始めました。

 手早く切れ目を入れて、ショートカタナブレイドを差し込みながら毛皮を剥いでいきます。ここでポイントとなるのが、利用する皮の方に脂肪が付かないようにすることです。極寒の地で一時的に防寒に利用するなら脂肪があっても良いのですが、普通は入念に除去します。脂肪が残っていると酸化したり腐ったりで色々と困ることが出てきてしまうのです。

 そのあたりのことをきちんと学習済みな若旦那様の仕事はとても丁寧です。無造作に剥いでるように見えて、皮の方には全く脂肪が付いていません。足などの少々凹凸が大きい部分はショートカタナブレイドから小さなナイフに替えて作業します。

 最初の一個目は時折手を止めて考えながら作業していたので時間が掛かりました、と言っても五分強でしたが。

 それが二個目になると作業時間が半分に。三個目は更に半分に、とまでは行きませんでしたが、ミラが片時も離さない金の懐中時計でカウントすると秒針が二周で完了していました。

 ルプスレギナの目には、ボトルに貼られているラベルをペリペリ剥ぐのより簡単に見えました。簡単そうで面白そうなので試しにナイフを借りてやってみたところ、削りすぎて皮に脂肪がいっぱい付いてしまったり、肝心な皮が破けてしまったりと中々上手く行かないようです。挙げ句、手が汚れた臭くなったとブー垂れる始末。

 現在作業しているビーストマンには回復魔法が効かなくなっているので、ルプスレギナの出番はもうちょっと先なのです。

 

 自分たちの担当が終わったとはいえ、若旦那様だけに作業させるわけにはいかないと考えた新生蒼の薔薇は、ティアを中心に作業を始めました。

 彼女たちは一応冒険者なので、獲物を料理する際に皮剥などを経験済みなようです。手が血や脂で汚れるのも気にせず、サクサクと皮を剥いでいきます。どうやらラキュースが胴体や背中などの面積が広い部分を、細かな作業が必要な部分はティアが担当するようです。二人ともビーストマンを加工することに、自分がこんな事をすることになろうとはと思いはしても、忌避感はないようです。これが人の皮だったら色々あれでしょうが、ビーストマンは人間の天敵でありますから。

 もう一人の蒼の薔薇。人間であった時分はいいところのお姫様で、吸血鬼になってからは飲食不要になったので獲物の加工は全くの無縁で、つまりはキーノは何の役にも立てないようです。

 そんなキーノにエントマが「あれれぇ~~? キーノちゃん見てるだけなのぉ? お手伝いしないのぉ? あー、不器用そうだもんねぇ、そんなの出来ないよねぇ」と煽るのはお約束です。キーノはプルプルするきりで有効な反論が思いつかないようでした。

 煽り散らすエントマは、皮を剥いで不要となった中身を処分するお仕事で活躍しているのです。

 

 なお、キーノ以上にお姫様でお嬢様のソフィーはお弁当エリアの探索を再開しました。暇なので散歩しているとも言います。

 

 剥いだ毛皮は口のところに紐を通して一纏めにしたら水に浸けておきます。

 ソフィーが見つけたお弁当エリアは川のほとりで、その少し下流側に流されないように固定しておくことにしました。

 

 ミラが廃棄物の処理と毛皮を水に浸ける作業とであっちにこっちに何度も往復して、お昼の時間を少し過ぎた頃に作業が一段落付きました。

 ようやっとお弁当の時間です。

 

 

 

 

 

 

 サンドイッチは、中に挟まれている具材が美味しいのは当然ですが、主役はパンなのです。

 ウィットニーさんのパンは、生まれた時から高級食材しか口にしたことがないソフィーも大満足のようです。顔を輝かせてパクパクしておりました。

 

「ソフィーちゃん、こっちも美味しい。食べさせてあげるからあーんして」

「あーん……、んっ! これも美味しい! うー、でもそれ全部食べちゃうとこっちが食べ切れないし」

「ダイジョブ問題ナイ。こっちは私がきちんと処理しておくからソフィーちゃんはもっと色々食べて大丈夫。大丈夫、食べきれなかったら私がいる」

「そうなの? それじゃあっちの味見したいからこれ食べちゃって」

「喜んで!」

 

 ソフィーの注意が向こうに向かったのを確認してから、ティアは手渡されたサンドイッチを見詰めて生唾を飲み込みました。

 とても美味しそうなサンドイッチですし、なによりもたった今つけられたばかりの新鮮な歯型があるのです!

 ティアは若旦那様に感謝を捧げ、ちゅっと歯型へ唇で触れてからはむはむと少しずつ歯型の部分からサンドイッチを食べました。

 

 シャルティア様の歓心を積極的に買いたいティアです。ソフィーの美貌はシャルティア様に負けず劣らずで、吸血鬼であるシャルティア様と違って肌が温かいのも高得点です。一緒に近隣のビーストマンを探し回った時は、柔らかで滑らかで傷一つなくてぷにぷにで繊細な手のひらに思わずはあはあしたものです。

 気安くちゃん付けで呼んでも気にしません。オチビと違って素直で明るいところも凄くいいです。

 

 ところで、サンドイッチは二十人分も用意してありました。体をいっぱい使う予定だったので、お腹が減ると思われたからです。それでも二十人分は多すぎます。その他にバゲットやカンパーニュも用意してあるのですから。

 ソフィーはたくさんのサンドイッチをいっぱい味見することが出来ました。その代償に、ティアは五人分も食べる羽目になりました。細身ながら冒険者なので一般女性より食欲が旺盛だったりしますが、倍は食べません。明らかに食べ過ぎでした。

 しかし、ティアに一片の悔いもありません。どのサンドイッチにも綺麗な歯型がついていたのですから。

 

 

 

「すごく美味しいぃーっ!」

 

 と、過剰に美味しさアピールするのはエントマです。

 

「こんなに美味しいのにキーノちゃんは食べないんだぁ。残念だねぇ? あーかわいそ」

「ぐぬぬ!」

 

 エントマは何をするにもキーノを煽ります。ちゃん付けのハードルを越えた途端にこれです。

 エントマのカルマは、ソリュシャンやルプスレギナに比べたらずっと中立寄りで、その二人から極悪認定されてる若旦那様からは見たら善良と言って過言ではないくらいですが、因縁がある相手には別のようです。エントマは可愛くても極悪集団ナザリックの一員ですから、不思議ではありません。

 なお、キーノと同じく吸血鬼であるミラもサンドイッチを食べないのですが、エントマはそこのところは失念しているようです。まだ子供ですから仕方ないでしょう。

 

「そうだな。キーノの食事だけないのもあれだから」

 

 若旦那様がキーノを手招きします。

 ショックを受けて顔を硬直させたエントマに、キーノは勝ち誇った顔を向けてから若旦那様の隣に行きました。若旦那様はナイフを取り出すと、刃を左手の中指でなぞります。指先に小さな血の珠が浮いてきます。

 なお、皮剥に使ったのとは別のナイフです。色々と無神経な若旦那様は、バゲットやカンパーニュを切り分けるのも皮剥に使ったショートカタナブレイドを使おうとしたのですが、ルプスレギナが止めさせました。

 

「ほら」

「う、うむ」

 

 若旦那様の血はかなり強いので人前で飲むところは見せたくないキーノですが、エントマに見せつけられるのなら別です。

 長い指に舌を這わせて官能に酔いしれ、パクリと指を咥えてちゅうちゅう吸いました。目がとろんとして頬が赤くなってきます。その様子を、エントマは食い入るように見詰めていました。

 キーノが、はふうなのかハァンなのか、艶っぽい息を吐いて離れると、エントマはすかさず手を上げました。

 

「私もおにぃちゃんの手かじっていい!?」

「ダメです」

「!?」

 

 間髪入れずに却下されました。

 

「でもルプーがいるし!」

「ルプーにはこの後頑張ってもらうんですよ。温存しててもらわないと困るんです。エントマさんは昨日あげたのを持ってきてるんでしょう?」

「持ってきてるけどぉ……、でもぉ……」

「エントマさんはかなり失敗したけどその後で頑張ってもらったからお礼をしたい気持ちはありますが、今は無理です。我慢してください」

「うぅ…………、それじゃ後でくれるぅ?」

「後でならいいですよ」

「はぁい。今は我慢するぅ……」

「良かったじゃないっすか」

「良かったけどぉ……」

 

 ルプスレギナに励まされますが、そうではないのです。キーノに己の優位を見せつけたかったのです。

 若旦那様と違ってルプスレギナにはエントマの気持ちがわかりました。だからといって、回復魔法を無駄打ちして後で使えなくなったら怒られるのは自分です。エントマには少し我慢してもらわなければなりません。

 

「キーノが済んだから、ミラ」

「はい。私でございますか?」

 

 キーノと一緒でミラも吸血鬼です。サンドイッチではなく血液が主食です。

 

「あ……、あの?」

 

 しかし、ミラの時はキーノとは違いました。

 座っていた若旦那様は立ち上がり、ミラへ指を差し出すことなくそっと抱き寄せます。

 

「「「「あーーーーーーーーーっっっ!!」」」」

「あっ……、んむぅっ!」

 

 皆の悲鳴をBGMに、若旦那様はミラの唇を奪いました。舌を差し込み鋭い牙を探り当て、舌先をちょっとだけ傷付けます。滲みでた血を唾液と一緒に飲ませるのです。

 んっんっとミラの喉が上下します。ミラの手は若旦那様のジャケットを掴んでいたのですが、やがて力なく下がってしまいます。ビクンと腰が少しだけ跳ねたのを、いずれも一流の戦闘者である皆は見逃しません。

 長い口付けが終わった時、二人の唇を銀色の糸が繋いでいました。

 若旦那様の表情はキスの前と変わりませんが、ミラは恍惚の一言です。

 

「キーノより少ないかも知れないが十分だろう?」

「はい…………」

 

 十分であろうとなかろうと、今のミラは若旦那様からの言葉に「はい」としか言えなくなっていました。

 

「はいはいはーいっ!!」

 

 衝撃的な情景に女たちが互いに牽制しあう最中、ソフィーが元気よく手を上げます。

 

「それじゃ私はマスターのミルクが欲しいです! 頑張ったんだからそれくらいいいですよね?」

 

 女たちにまたも衝撃が走りました。

 素直で愛らしくて現世の汚れを何一つ知らなそうなソフィーなのでまさかとの思いがありました。ナザリック勢はソフィーの種族がサキュバスと知っていますが、新生蒼の薔薇の面々はとっても綺麗でかなり強い女の子としか知らないのです。

 けれどもこの場の全員が若旦那様とそんな事をしたことがあるため、ミルクとはどのようなミルクなのか想像出来てしまいました。若旦那様のミルクと来れば答えは一つです

 

 とっても愛らしいソフィーのおねだりに、若旦那様の答えはとっても連れないものでした。

 

「バカ」

「バカ!? よりにもよってバカ!? ソフィーはあんなに頑張ってお父様も褒めてくれたのにどうしてバカなんですか! バカって言う方がバカなんですよ!」

「それじゃ俺もバカでいいよ。作業はまだ半分以上残ってるのにそんな事してる暇はない。そーいうのは全部の作業が終わって、時間が余ったらだ。というか明日でもいいだろうが。エントマさんだって我慢したんだし。それとお父様と言うな」

「じゃあ頑張って終わらせてください」

「だったらソフィーも遊んでないで手伝うように」

「うぅ、私すっごい頑張ったのにまだ何かしなきゃダメなの?」

「ソフィーが手伝えば空き時間が増えるかも知れない。手伝わなかったら増えない。それだけだ」

「横暴です!」

「何が横暴だ、どこが横暴だ」

 

 帝都のお屋敷にて、ソリュシャンの跡を継いで我儘お嬢様をしているだけはありました。

 

 

 

 

 

 

 午後のお仕事も基本的に午前の続きです。

 午前はソフィーが仕留めたビーストマンを処理したわけですが、皮を剥いだのは30個ほどでした。残りの70個は古傷などがあって少々見苦しかったのです。

 数が増減しようと所詮は試しなので気にしません。それに、再利用可能なのがまだ100個も残っているのでどうとでもなります。

 

 若旦那様は皮剥ぎ続行ですが、そちらの作業を始める前に午前に剥いだのを適切に処理しなければなりません。

 いわゆる皮なめしです。

 

 剥いだ皮は、まず丁寧に脂肪や汚れを落とします。薬品を使うことも多いです。

 次に加工しやすくするため、水などに浸して皮を柔らかくします。

 柔らかくなった皮を叩いて更に柔らかくします。

 その次がいよいよ皮なめしです。皮にタンニンを添加して、固く耐久性がある皮に変えるのです。

 タンニンは様々な植物に含まれています。それとは別に伝統的な皮なめしの方法に、ブレインタンニングなるものがあります。動物の脳みそにはタンニンが含まれているのです。脳みそを細かくすり潰して皮に塗るのです。

 若旦那様はどの方法も使いません。皮なめし用の薬液を調合済みですので、それをひたすら塗布していきます。

 

 川から毛皮を引き上げ、毛は後日処理するので皮の側に薬液を塗っていきます。最強のローション同様によく伸びるので大きな刷毛を使って豪快に、けども漏れなく塗っていきます。

 こちらの作業は新生蒼の薔薇とついでにソフィーに任せます。食べ過ぎたティアが戦力外になってしまったので、ソフィーには頑張って欲しいものです。

 

 若旦那様は、午前と同じように選別から始めました。使えなさそうなのに止めを刺し、エントマに綺麗にしてもらいます。

 これはいらないあれもいらない、これならなんとか、これは良さげで何枚か取ろう云々。

 

 確保してあるビーストマンはどれも衰弱しきっていたり、エントマが使った蟲の毒で朦朧としていたり、少々変形しているのはラキュースが力加減を間違えた物です。

 だけども生きていれば回復可能。古傷だって小さなものなら消してしまえます。

 但し、回復魔法を使うと一時間以上空けないと本体から離れた部位が消えてしまいます。なので再利用したいものから処理します。

 

 以前キーノを昏倒させた打法で頭をカーンと引っぱたきます。

 意識を失ってガックリしたビーストマンから手際よくペリペリ。剥ぎ終わったのは逃げないように移動手段を壊しておきます。どうせ再利用する時は回復するのだからと、ルプスレギナが雑に処置しました。

 少々傷がついてるけれど体が大きくて毛並みが立派なのはルプスレギナに回復させてから作業します。ルプスレギナのお仕事がやっと回ってきました。

 

 作業は順調に進んでいきます。なめし作業の監督も忘れません。若旦那様が20個ほど剥いだ頃には何とかティアが復活しました。ソフィーちゃんに汚れ仕事はさせられないと気合が入っています。

 この調子なら空き時間がそこそこ出来そうです。ソフィーがサキュバスらしく舌なめずりをしたその時、事件が起きました。

 

「死ねえええええええええええぇぇええ!!」

 

 なんと、皮剥ぎのために草地へ放り投げたビーストマンが若旦那様に襲い掛かったのです!

 

 

 

 このビーストマンはただのビーストマンではありませんでした。ビーストマンたちの中では勇猛で知られ、一部隊を預かるビーストマンブレイバーだったのです。他の個体より体が大きく、必然的に体力もそれなりにあり回復力も相応です。キーノの魔法で体力を削り取られ消耗しきっていましたが、放っておかれる内に何とか動けるくらいには回復しました。

 意識を取り戻したビーストマンブレイバーは、化け物たちの恐るべき所業を目の当たりにさせられました。

 仲間たちを助けるのは不可能。自分が100人いても化け物たちに抗うことは不可能。体力と気力と装備が万全であってもこの場から逃げ出すことは不可能。

 どうあっても助からない命です。それならば最後の気力を振り絞って、化け物たちに一矢報いることを決意したのです。しかし、自分に魔法を掛けた小さな化け物には敵いません。その隣で仲間たちを昏倒させていた別の小さな化け物にも敵いません。自分たちを小石のように放り投げる白い女、おそらくは吸血鬼にも敵いません。褐色肌の赤毛の女は皮を剥がれた仲間たちの脚を無造作にへし折る恐ろしい膂力を持っています。

 自分にも何とかなりそうなのは、仲間たちの皮を剥ぎ続けている男でした。自分たちビーストマンの餌に過ぎない人間が牙を剥くなんて許されないことなのです。

 仲間たちを苦しめ続ける男には憎さ百倍。自分の皮を剥ぐ時には他の化け物たちはそれぞれの作業に移るため、絶好の機会でありました。

 

 倒れた状態から左腕の力だけで体を跳ね起こし、鋭い爪を備えた右手を開いて振りかぶります。

 あとは男へ叩きつけるだけで命が奪えることでしょう。

 

(は?)

 

 白い吸血鬼は背を向けています。赤毛の化け物は恐ろしい顔をして皮を剥がれた仲間たちを眺めています。他の化け物たちは違うところにいるようです。助けは間に合わないはずです。確実に殺ったと思ったのですが、ビーストマンブレイバーの目に映ったものはおかしなものでした。

 ほんの一瞬前まで男は右手に小さな短剣を持っているだけでした。それが何故か、どこから取り出したのか細い長剣を抜き放って構えています。

 叩きつけた右手は男を捉えること適わず、伸ばした指先に長剣がちくりと刺さります。

 

「つぅっ!」

 

 長剣は指先から手のひらへ、腕へ肩へと切り裂きました。しかし、浅いです。皮は切れても肉には届かず。これなら痛みに耐えるまでもなく、二撃目を送り込むことができます。

 だけれども、二撃目を繰り出すより男が長剣を振り上げる方が速かったのでした。

 体の中央にちくりと刺さり、股間から顎の下まで切り上げられます。こちらも先と同様に浅い剣。皮は切れましたが肉には届かず、行動に支障はありません。

 めげずに攻撃を繰り出そうとしたところで、白い吸血鬼に取り押さえられてしまいました。

 

 

 

「ご主人様お怪我はございませんか!? 申し訳ございません! これを始末した後に疾く自裁を果たし我が罪を――」

「何言ってるんだ? それより切れ目を入れたんだからそこに寝かせてくれ」

「え? は、はあ……」

 

 若旦那様にはビーストマンに襲い掛かられた意識がありませんでした。むしろ、単調な作業に飽きが来たと察したミラが気を利かせたのだとすら思っていました。

 誰も知らないことですが、モモン様がグレートソードから繰り出すモモンズ・ブレイドアーツは、若旦那様が開祖なのです。

 若旦那様は剣士系統のクラスを持っていないため攻撃力はへなちょこでも、技量はアインズ様の剣の師であるコキュートス様と同等にあると豪語し、見事な抜刀術でアイモン様もといアインズ様を驚かせたことがあります。

 間近から襲い掛かるビーストマンを抜刀術で迎え撃ち、殺傷することなく皮剥ぎのための切れ目を入れるくらいに余裕がありました。

 しかし、呑気なのは若旦那様だけでした。

 

「いやー、そーいうわけにはいかないっすねー」

 

 ルプスレギナが呑気な口調で近付いてきます。ただし、呑気なのは口調だけ。いつも笑顔を浮かべている情熱的な美貌は、とても珍しいことに真顔でした。上位者の方々を前にした時以外でルプスレギナが真顔でいるのは、若旦那様が真顔でいる時よりも遥かにレアです。

 ルプスレギナはビーストマンを取り押さえているミラに手招きします。

 手招きの意味を悟ったミラはビーストマンに逃げられないよう足を踏み潰してから、透き通った表情でルプスレギナに近付きました。

 

「いくっすよ?」

 

 ルプスレギナの宣言に、ミラは無言で頷きます。

 次の瞬間に起こったことは、何が何やらさっぱりの若旦那様を大いに驚かせました。

 

「ぐぅっ!」

 

 ルプスレギナが右手で拳を固めたと思ったら、全力でミラの腹部に叩き込んだのです。手加減なしのルプーブローです。ヴァンパイア・ブライドでありながら割と強くなってきたミラなので貫通はしませんでした。しかし、無傷というわけには行かず、盛大に吐血します。

 体をくの字に折り、それでも膝をつかないのがミラのプライドでありました。

 

「おにーさんが無傷であーだからこれくらいで勘弁してやるっす」

「は……はい……。寛大な、処置に、感謝、いたします」

「おいおい何してるんだ!?」

 

 若旦那様は二人のやりとりが全く分かりません。そんな若旦那様に、ルプスレギナは深いため息を吐きました。色々と鈍感な若旦那様に説明するのは面倒です。

 

 ルプスレギナがミラにルプーブローを叩き込んだのは、若旦那様を危険に晒した報いでした。

 ビーストマンの回復力が自分たちの想像よりあったのが計算外でしたが、だからと言って若旦那様を危険に晒してよい道理はありません。結果として、若旦那様は危険にあったという認識すらなかったようですが、それはそれ。ミラには相応の罰が必要でした。

 そして、それ以上に罰が必要なものがあります。

 罰を与えるべく、ルプスレギナは毛むくじゃらの頭を掴みました。

 

「ちょっと待て。これからそれを剥ぐんだから、何の用か知らないが後にしてくれ」

「おにーさんこそちょっと待っててくれないっすかね? 他にもいっぱいあるんだから順番がちょっと違ってもいいじゃないっすか」

「そりゃそうだけど」

「ルプスレギナ様、私もご一緒してよろしいでしょうか?」

「いいっすよ」

「いや良くない。ミラにはこっちの手伝いをしてもらわないと」

「ご主人様、申し訳ございません。少しだけ猶予を頂けないでしょうか?」

 

 ミラが真剣な顔つきで頭を下げます。

 若旦那様には何が何やらさっぱりでも、二人が真剣なのは感じ取りました。だけども手が減るのは困りものです。

 ソフィーがやってきたのはちょうどいいタイミングでした。

 

「お父様、こっちの調子はどうですか?」

「ちょうどよかった、こっちを手伝ってくれ。でかいの運ぶだけだから簡単だ」

「えっ」

 

 ティアとバトンタッチしたソフィーが様子見に来たことで力仕事の懸念は解消されました。

 ビーストマンの図体はでかくて相応に重く、若旦那様が運ぶと引き摺ってしまうのです。

 問題が解決したことでルプスレギナは笑顔に戻り、ビーストマンを引き摺るミラと一緒に木立の向こうに消えました。

 

 

 

 

 

 

 それからビーストマンブレイバーは大変な目にあいました。

 若旦那様を殺傷しようと攻撃を仕掛けたのです。ルプスレギナとミラは絶対に許しません。たとえアインズ様がお許しになろうと、闇討ちをせよということだ、と曲解するほどキテいました。

 

 叩いて凹ませて叩いて窪ませて叩いて潰して叩いて千切って回復して。

 カットしてカットしてカットしてカットしてカットしてカットしてカットして体積が半分になったら回復して。

 折って折って折って折って折って折って折って折って陸に上げられたクラゲも斯くやという有様にしたら回復して。

 開いて外して引っ張って加減を間違え慌てて回復して。

 

 酷い目にあっているのに、ビーストマンブレイバーは悲鳴を上げません。歯を食いしばり、力みすぎて牙が砕け口の中が血だらけになったりします。

 それ以前に口がなくなって悲鳴どころではない状態の方が多いです。

 そんな状態になっても、ビーストマンブレイバーは諦めていませんでした。

 生存に望みを繋いでいるわけではありません。自分がこの場で死ぬことはとっくにわかっています。苦しみぬいて遠からず死ぬのです。死ぬとわかっているからこそ出来る覚悟というものがありました。

 ビーストマンブレイバーには二人のしていることがわかっていたのです。

 これは、苦しめるためだけの遊びです。ビーストマンブレイバー自身も、捕らえた人間相手にやったことがありました。残酷な手段で責めて苦しめて、悲鳴をあげさせる遊びなのです。悲鳴をあげればあげるほど、相手を喜ばすことになるのです。

 どうせ死ぬのだから、ビーストマンブレイバーの誇りに掛けて二人を喜ばせまいとしているのです。

 

 二人にもビーストマンブレイバーの覚悟は伝わりました。

 ミラはヴァンパイア・ブライドらしく残酷を厭わず、ルプスレギナはむしろ大好物です。

 しかし、二人とも責めることは出来ても効果的な責め方というものを知りませんでした。ナザリックにはそちら方面の専門家が何人もおります。腕力に物を言わせることしか出来ない二人では、どうしても専門家たちには劣ってしまいます。

 二人はどうしてもこのビーストマンに絶望の悲鳴をあげさせたいのです。そうでなければ気が済みません。なにせこの毛むくじゃらは、若旦那様に攻撃を仕掛けたのですから。

 夢中になっている二人には時間の経過が曖昧になっていました。

 

「ルプー、そろそろこっちを頼む。出来るのは一通り終わって、後はルプーの回復待ちなんだ」

「うーーー、手が臭くなったーーーー! お父様はあとで絶対にご褒美ですよ!」

「自分で勝手についてきたんじゃないか。それに運んでただけだろうが」

「だってこんなことするつもりはなかったですもん。それに剥いだ後のってぬるぬるして気持ち悪いーーー!」

「あとで綺麗にすれば大丈夫だろう」

「手は綺麗になっても心の傷は別ですよ!」

 

 獣臭い毛むくじゃらを運ぶのは、お姫様でお嬢様のソフィーに心の傷を与えたようです。

 

 いつでも呑気な二人にルプスレギナの毒気が抜かれます。ミラも、二人のやり取りに荒立った気持ちが凪いでいくのを感じます。

 二人が隙を見せたからでしょうか、回復直後の毛むくじゃらが吠えました。

 

「女に庇われる腰抜けが!!」

 

 あれだけの目にあってまだ反骨心があるのだから大したものです。

 ビーストマンブレイバーはビーストマンにしては頭が回り、若旦那様が一行の中心と見抜いていました。勝ちの目は皆無ながらも、せめて心にダメージを与えたかったのです。獣臭さでソフィーに心の傷を与えていたりしますが、それは与り知らない事でしょう。

 

 ルプスレギナとミラは瞬時に激怒しますが、言われた若旦那様は吞気なものです。

 

「ビーストマンの価値観はそうなのか? 後々効率的に集めるためにも社会構成を知っておくのは悪くないな。喋れそうなのを何個か持って帰るか。そうしたら向こうでも毛皮が剥げるし」

 

 罵り言葉からビーストマンの社会を想像する若旦那様です。何を言われようと右から左に流す若旦那様ですので、毛むくじゃらが何を吠えようと気にするわけがありません。

 ですがその時、ルプスレギナの脳裏に極悪集団ナザリックに相応しい禁じ手が過りました。まさに禁じ手です。大きな代償を必要とするかも知れません。

 それでも、ルプスレギナはなんとしてもこの毛むくじゃらを泣かせたかったのです。

 言ってしまいました。

 

「おにーさんの精神って化け物っすからね。アルベド様のことを悪く言わない限り何を言われてもへっちゃらっすよ」

「おい、ルプー」

 

 変な文脈で出てきたアルベド様のお名前に若旦那様が眉間に皺を作ります。

 そして、毛むくじゃらがまたも吠えました。

 

「アルベドとは醜い化け物のことか!」

「うっ……」

 

 毛むくじゃらが吠えた直後、若旦那様は顔を押さえて体を折りました。

 

「おにーさん!?」

「ご主人様!?」

「お父様!?」

 

 女たちがそれぞれに若旦那様を呼びます。

 若旦那様が顔を押さえた手の隙間から、真っ赤な血がぽたりぽたりと落ちてきたのです。

 

「…………目が、見えなくなった。ルプー、回復」

「は、はい」

 

 想定外の効果があった禁じ手に、ルプスレギナが慄きながら回復魔法を唱えます。

 ミラは毛むくじゃらを拘束し続けます。ソフィーは、気遣わし気に若旦那様の顔を清潔なハンカチで拭います。

 若旦那様の血が拭われ、三人は何が起こったのかを知りました。若旦那様の目が真っ赤になっていたのです。

 目の色が赤いというレベルではありません。眼球が真っ赤なのです。見る間に眼のふちに血が溜まり、頬を伝って流れていきます。

 毛むくじゃらも、若旦那様の異相に息を飲みます。

 

 若旦那様は無言で毛むくじゃらの鼻面を平手打ちしました。

 

「お前はアルベド様を知らない。知らないが故の言葉だ。だから許してやろう」

 

 目の前でアルベド様を罵倒されたというのに、許すと言います。

 若旦那様のアルベド様への忠誠を知る三人はどういうことかと思うのですが、口を挟めません。

 毛むくじゃらも何も言えません。若旦那様の平手打ちは、手のひらの厚い部分を効果的に使った掌底と言うべきで、その一撃で顎の関節を外されてしまったのです。

 

 若旦那様はミラに毛むくじゃらの拘束を解かせ、毛皮に包まれた腕を引っ張りました。

 それだけで、手首、肘、肩の関節がごきゅごきゃぽくんと小気味よい音を立てて外れます。

 右腕に続いて左腕。

 胸を押しながら足払いを仕掛けて地に転がし、足首、膝、股関節の連結も外しました。

 何十体ものビーストマンの皮剥ぎをしていた若旦那様ですから、体の構造をとっくに把握済みなのです。

 

「しかし、罪の重さは知るべきだ」

 

 若旦那様は目にも留まらぬ速さでカタナブレイドを抜き放つと、さっと一閃しました。毛むくじゃらの目を封じたのです。

 それから毛むくじゃらの腹に足を乗せ、カタナブレイドの切っ先を胸部の中央に落としました。貫いてはいません。ほんのちょっとだけ沈んだだけです。

 そこは肉体の構造上、筋肉が薄いところでした。刃先はすぐにカツンと硬いものに触れます。

 直後でした。

 

「――――――――――――――――!!」

 

 空気が揺れます。顎が外れていなければ、さぞや見事な咆哮となったことでしょう。

 毛むくじゃらは体中の関節を外されているというのに、釣りたての魚のようにビチビチと跳ねます。

 

 若旦那様は、カツンカツンとカタナブレイドを落としていきます。その度に毛むくじゃらは体を跳ねさせます。

 どこをどうすれば痛くなるのか、若旦那様は熟知していたのでした。

 

 怒りであれ愉悦であれ、感情による残酷は限度があります。感情が発散されたらそれまでだからです。

 しかし、理性による残酷は違います。限度などありません。理性的に合理的に目的をもって残酷を行使するのです。

 理性による残酷がどれほど恐ろしいかは、魔導国の法に記されていたりします。つまり感情に任せた、いわゆる魔が差した犯行より、計画的な犯行の方がずっと罪が重いのです。魔導国は王国や帝国よりずっと進んだ法を整備しているのです。

 

 目の前の光景に、ルプスレギナは思わず唸ってしまいました。

 痛めつけるのが大好きなルプスレギナですから、悲鳴や苦悶の表情が好きだったりするのです。だけれども、若旦那様がしている事は違います。痛みを与えることだけに注力しています。ルプスレギナには思いつかない発想です。

 

 ミラが若旦那様を見る目には尊敬が宿っています。若旦那様をご主人様に頂くミラなのです。為すべきを為すご主人様がとても素敵に見えてなりませんでした。

 

 ソフィーはちょっとだけずれています。お父様がお母様をどれほど大切に思っているかが強く伝わってきて、羨ましいやらずるいやら素敵やら、一言ではとてもとても表せません。

 

 やがて、毛むくじゃらの口からぶくぶくと白い泡が噴いてきました。赤いものが混じっているのは、声が出ないのに吠えすぎて喉が切れたようです。

 あぶくで窒息されては困るので、命じられたミラがひっくり返しました。

 背中からもカツンカツンと軽く刺していきます。毛むくじゃらはビクンビクンと跳ねるのですが、段々と跳ね方が小さくなっていきました。刺しながらコリコリしてる時は微動だにしません。刺した直後は小さく跳ねるので、死んでしまったわけではありません。痛みが余りにも酷くて、体を跳ねさせる体力すら失ってしまったのです。

 

「あれ?」

 

 若旦那様は毛むくじゃらを痛めつけたいわけではありません。罪の重さを教えているだけなのです。よって、毛むくじゃらがどれだけ痛がろうと関係ありません。決めたことを決めた通りに実行するだけです。

 ところが、決めたことを半分ほど消化したところで手が止まってしまいました。

 色つやがよかった毛むくじゃらの毛皮が色褪せてきたのです。体も小さくなったように見えます。何とも不思議な光景でした。

 ルプスレギナたちは感心して見ているのですが、若旦那様はちょっと困ってしまいました。

 この毛むくじゃらは体が大きくて毛皮も立派で、何度か収穫しようと思っていたのです。それなのに色褪せてしまっては価値が減じてしまいます。

 

「ルプー、回復」

「はいっす」

 

 ルプスレギナが毛むくじゃらに回復魔法を掛けます。しかし、毛皮は色褪せたまま。

 この現象に、若旦那様は察しがつきました。自分にも同じことが起こっていたからです。

 

 それは幼い日のこと。

 煮えた油で顔を焼かれた時、激しい痛みのショックで髪の色が抜けてしまったのです。今では同じ目にあっても、痛くて熱いだけでそんな事にはならないはずです。

 とすると、痛くて色褪せてしまった毛むくじゃらは子供なのでしょうか。疑問が口をつきました。

 

「図体はでかいけど子供なのかな?」

「……数えで、36、です」

 

 意外なことに答えがありました。

 顔面を地に擦り付けながら毛むくじゃらが返事をしたのです。

 

「ビーストマンの年齢だとか社会だとかは知らないな。成人の概念はあるのか? 一人前と見做されるのは幾つだ?」

「12で、狩りの訓練が始まる。始まり、ます。一人で獲物を仕留められれば、一人前、とみます」

 

 毛むくじゃらが気持ち悪いくらい素直です。

 三人の女たちは、どういうことかと顔を見合わせました。

 

 若旦那様が立てと言えば素直に立ちます。座れと言えばお座りできます。

 今やブレイバーの面影はどこにもなく、若旦那様に怯え切っているようです。

 

「そんなに痛かったのか? 大人なのに情けないな」

「はい。俺は情けない奴です」

 

 ビーストマンブレイバーだった毛むくじゃらは、若旦那様の言葉を全肯定です。

 痛さのあまりに精神が漂白され自我が砕け、絶対服従を体に刻み込まれてしまったのです。死ねと言われたら、喜びに涙を流しながら命を捧げるほどに。

 

「どうしようか、これ」

 

 そんな事を訊かれても、女たちに答えがあるわけがありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 毛皮集めからしばらくして、若旦那様はナザリックの玉座の間にて跪いていました。

 玉座にはアインズ様がいらっしゃいます。この日の若旦那様は、わざわざアインズ様に拝謁の許可を頂いてこの場に臨んだのです。

 玉座の周囲には、アウラ様とマーレ様、シャルティア様がいらっしゃいました。お三方は話を聞きつけて好奇心が赴くままにやってきたのです。他の偉い方々はそれぞれのお仕事中です。なんだか大人組と子供組が分かれているように思えます。

 

「本日は偉大なるアインズ様の御前に拝し奉る栄光を許され、謹んで感謝申し上げます」

 

 形式的な言葉の後に、早速本題に入ります。半分以上遊び人な若旦那様と違って、アインズ様はお忙しいのです。

 

「こちらの品を献上いたしたく」

 

 黒木の献上台を持ったミラが一歩進みます。

 幾ら強くなろうとも、ミラはヴァンパイア・ブライドです。それが、アインズ様に献上品をお届けする大任を担おうとは想像だに出来ない事でした。ガッチガッチに緊張しきって、両手が塞がっていなければ右手と右足が同時に出ていたことでしょう。

 

「ビーストマンの毛皮でございます」

「ビーストマンの毛皮ぁ?」

 

 アインズ様の御前であるのに、ちょっぴり短気なシャルティア様が鼻を鳴らします。口にこそしませんが、アウラ様とマーレ様も態度から察せられます。

 ビーストマンとは、東の方に国を構え、竜王国にちょっかいを出し続ける弱っちい毛むくじゃらの亜人です。そんなものの毛皮に価値があるとは思えません。それをアインズ様に献上するというのです。

 お忙しいアインズ様の時間を割いて頂いているのにそんなつまらない品を献上しようとは、若旦那様でなければ木っ端微塵になっているところでした。

 

 偉大にして寛大であるアインズ様は若旦那様を怪しからんとは思いませんでしたが、意外には思いました。アインズ様も、たかがビーストマンと思っていたのです。それでも、この男がつまらないものを献上するとは思えません。その差異が不思議でありました。

 

「ミラ」

「はっ!」

 

 若旦那様に促されたミラが、献上台を掲げてアインズ様のすぐ傍にまで歩み寄ります。もう緊張が凄すぎてガッチガチです。ロボのようにカクカクです。

 台に乗せられた毛皮は、アインズ様が知識として知っているライオンの毛皮のようでした。幾重にも畳まれているようですが、案外厚みがありません。それなのに一番上に来ている部分はもふもふの毛が盛り上がっています。

 

「ふむ……」

 

 献上したいと言うのがビーストマンの毛皮というのに少々がっかりなアインズ様ですが、くれると言うなら貰っておくのがアインズ様です。

 台の上の毛皮に手を伸ばし、「うむ?」と首を傾げました。

 アインズ様が毛皮を撫でます。ミラは台を揺らさないように全身全霊を掛けています。

 

「ほう……、すごいな、これは。お前たちも触ってみろ」

 

 何やら感心している様子のアインズ様を不思議に思いながら、アウラ様とマーレ様とシャルティア様が毛皮を撫でます。ミラはプルプルしています。

 

「うわすごっ。フェンよりずっとふわふわ」

「ビーストマンの毛皮ってこんななんですか!?」

「うむぅ、まさかあれがこんなになるとは、このシャルティアの目をしても見抜けなかったでありんす!」

 

 三者三様に驚きます。

 若旦那様は、内心でにやりとしました。

 

 ハムスケさんを加工するために、毛皮加工のノウハウを積み重ねていた若旦那様です。

 持てる技術を最大限に駆使して加工したビーストマンの毛皮は、もふもふやふわふわを超えたさらさらの域に届きました。

 触れたのがわからないほどの柔らかさ。そのくせ手を沈めればしっかりと包み込んで暖かく、柔らかさの中に程よい弾力があります。手を離せば毛並みは元通りの形になって、変な癖がつくこともありません。

 ナザリックで使われている敷物や、寝台に使われる寝具よりも上等な感触なのです。それがたかがビーストマンの毛皮から得られたということに、アインズ様たちは驚きを隠せませんでした。

 

 ここで若旦那様は毛皮を入手した目的を話しました。

 ビーストマンはたくさんいるため、毛皮は大量生産が可能です。この毛皮を不思議なアイテムで金貨に変えれば、ナザリックの富として役立つのではないかと考えたのです。

 

 実をいうと、若旦那様の考えは本人の意図とは別に歴史的な面がありました。

 

 ナザリックでは金貨を富としています。

 帝国や王国では、金貨を貨幣として使用しています。貨幣の機能とはざっくりいうと三つあり、それぞれは価値の尺度、財の貯蔵、商品を交換する手段です。

 では貨幣が登場する前はどうだったかというと、色々な過程がありましたが、物々交換があった時代もありました。浜辺に住む人と山に住む人が、お魚とお肉の交換をしたことがあったかも知れません。

 ここで問題が一つ。お魚もお肉も、時間が経つと傷んでしまうのです。

 そこで登場したのが毛皮でした。

 毛皮はそれ自体に価値があります。身にまとってよし、寝具にしてよし、土地によっては天幕に使うこともあるでしょう。素材としての価値があるのです。貨幣には、素材として価値があることが重要なのです。だから希少で素材としての価値がある金が貨幣に選ばれているのです。

 そして毛皮はお魚やお肉と違って、簡単には傷みません。貯蔵することが出来るのです。財の貯蔵する機能があるのです。

 と来れば、お魚これだけに対して毛皮何枚、といった取引を思いつくこともあるでしょう。商品を交換する手段として利用できるのです。

 そこへ加えて、毛皮の利用には緊急性がありません。これが食べ物ですと、余裕がない時には交換することが出来ません。何かと交換するより、自分たちが食べれなければどうしようもありませんから。ですが、毛皮が本当に役に立つのは冬季です。食べ物と違って、常に絶対必要というわけではないのです。

 

 このように、毛皮は貨幣としての機能を十分満たしているのです。

 と言ったところで、アインズ様に献上した毛皮はエクスチェンジボックス、通称シュレッダーに突っ込まれて速やかに金貨にすることが可能だったりします。

 

「そう言うことなら。少し惜しいとは思うが」

「この場に持って参りましたのは一枚だけでございますが、別室に五十枚置かせて頂いております」

「それだけあるなら試しに入れてみるか」

 

 はしたなくも物欲しそうな顔をしている子供たちにも分けてあげるつもりのアインズ様です。

 アインズ様が持ってこさせたエクスチェンジボックスは、上部に細い投入口がある細長い箱でした。投入口に毛皮を近付けますと、明らかに毛皮の方が大きいのにするっと入ってしまいました。

 それから箱の脇についているボタンを押すと、ボックスの下側が開いて金貨が転がってきました。

 

「ふむ……、素晴らしい手触りだったが特殊効果のある品ではないからな。こんなものだろう」

 

 金貨の数は20枚でした。アインズ様がユグドラシルで集めていたドロップアイテムに比べれば雀の涙です。それでも毛皮一枚で20枚なのですから、かなりの高額査定と言ってもいいでしょう。ビーストマンの生涯収入が金貨20枚というとちょっと悲しくなってしまいますが。

 

「ビーストマンは東方に複数の国家を作っているそうです。聞き知った話からの推定になりますが、生息数は最低でも五千万を超えると思われます」

「ほう」

 

 一枚一枚は安価でも、五千万あれば十億です。金貨十億枚は至高の豊かさを誇るナザリックであっても無視してよい数字ではありません。

 それに毛皮を剥いだビーストマンを回復させて再利用すれば、一つから何回も収穫できます。

 アインズ様は頭の中ででそろばんを弾きます。

 魔導国の大戦略としては、堅実に足固めをしてから王国を攻略することが決まっています。でも金貨10億枚。

 

 ルックイースト政策が始まってしまうのかも知れません。




ここで水浴びやルプーにペナルティやブレイバーの行く末を書こうと思うとさらに20kでも足りなそうなので割愛
ティアティナラキュとシクススの話が済んだらアルベドの計画、の予定
諸々をカットしてクライムをどうにかの話に進めるのもありとは思う
字数が嵩んでも話が進まないのは進めようとしてないからなのだろうか_(:3 」∠)_


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オーダーメイド

本話10k
暑くなってきました
これからもっと熱くなると思うと_(:3 」∠)_


 アインズ様に毛皮を献上するのは少し先の話。

 毛皮収穫に行ってからの男は、珍しい事に不機嫌な日が多くなっていた。思いがけず露呈した致命的な弱点を克服するための特別訓練が始まってしまったのだ。

 

「それでこっちに来てるんですか? お父様がいるのは嬉しいけど、イヤなことから逃げるのって子供みたいですよ?」

 

 子供に子供と言われる父である。

 

「違うそうじゃない。自分のことだからこそよくわかっている。俺には休憩が必要なんだ」

 

 そして子供の純粋な意見を屁理屈でねじ伏せる父である。

 

「ふーん。今日の課題は終わったから出かけてきまーす!」

 

 そして父がいるのが嬉しいと言いながら早速出かける娘である。

 ソフィーは机の上に広げたテキストとノートを閉じて重ねると、ドアからではなく壁をすり抜けて部屋から出て行った。何度も注意されているのに改めようとしないのは一体誰が悪いのか、はたまた甘いのか。

 

「今日のソフィー様はレイナースとお約束がありますので馬車を駆るために私にも同行を求められました。マイスターと一緒に過ごしたいのは山々なのですが断腸の思いでソフィー様のお供をいたします」

 

 一緒に講義を受けていたジュネがソフィーの勉強道具も片付ける。ジュネはテキストやノート以外にも、筆記具を一つにまとめる。

 ソフィーにもジュネにもこだわりがなく、筆記具は共用だ。書ければなんでもいいらしい。

 

「ソフィー様はレイナースに多大な恩を感じているご様子ですので機会がある毎に一緒にお出かけになっていらっしゃいます」

 

 ソフィーも極悪集団ナザリックの一員である。実の父が人間でありナザリック生まれではないため人間蔑視とまではいかないが、人間だから無条件で仲間とは思ってない。自分たちと姿かたちは似ているけれど見た目いまいちが多くて基本的に弱っちい不思議な生き物だと思っている。が、レイナースは別だった。

 レイナースは絶世の美女とまではいかなくもソリュシャンのお眼鏡に適うくらいには整った容姿を誇り、帝国四騎士の一なのだから弱いには弱いけど弱すぎるとまではいかない。

 そこへ加えてジュネが口にしたように、ソフィーはレイナースに大きな恩があるのだ。

 

 ソフィーがナザリック守護者統括相談役である男を父と呼ぶのは、自身の名付け親であるからであるのは周知である。だけどもその男、ネーミングセンスが死んでいた。

 

 この男が友人の名付けの相談をレイナースにした時、男ならゲンキ、女ならゲンキ子、と挙げたのをレイナースは強固に否定した。

 そしてこの男にそんな友人がいないのも周知である。であるならば誰の名付けか。アルベド様が創造した娘の名付けであるとの想像は容易だった。

 何かの間違いが起こっていれば、ソフィーはゲンキ子と名付けられてしまったかも知れないのだ。

 というようなことを先日の毛皮収穫の際にルプスレギナから聞かされたソフィーである。ソフィーがレイナースに深く感謝するのは当然だった。

 

「ここのところこっちでレイナースを見てないのはソフィーが引っ張り回してるからか」

 

 ジュネは男の疑問には真っすぐ答えず、真理を告げた。

 

「ソフィー様はとても自由なお方です。何物にも縛られず心の赴くままに為さりたいことを為さっております」

「いやそれはダメだろう」

「そうは仰りますが、為すべきは為されておりますので問題はないと愚考します。現にマイスターから与えられた課題の進捗は私よりもソフィー様の方が進みが早く、さすがはアルベド様のご息女であられると様々なところで痛切に認識いたします。そのようなソフィー様ですのでマイスターの為さりように憂慮を抱くことがございません」

 

 聞きようによっては考えなしのおバカに思えてしまう。ジュネの話は続きそうなので男は口を挟まず続きを待った。

 

「ですが、私は違います。浅学非才にしてヴァンパイア・ブライドの恥と言えるほどに無力な私に自由な振る舞いは叶わずあらゆるものに縛られ己の心すら自由にならない有様となっております」

 

 ナザリックのシモベだから自由がないと言ってるわけではないことはわかる。それ以外ではジュネも十分すぎるほどに自由だと思えたが、本人がそう思っているのならそうなのだと思うことにした。

 ではそれが何を意味するのか。ジュネは解説することなく、退室の礼をすると部屋から出て行ってしまった。

 

「……何だったんだ?」

「わからない若旦那様がバカなんです」

「バカって言う方がバカなんだぞ?」

「でしたら鈍感と言い換えて差し上げます。若旦那様の鈍感。ずっと鈍感のままでいてください」

 

 シクススまでよくわからない事を言う。

 誰も解説してくれず、そのままでいいと言うのだから男は考えるのを止めた。

 

 

 

 なお、この男のネーミングセンスは遺憾なく発揮され続けている。先の毛皮収穫で連れ帰った一体のビーストマンに名付けたのだ。

 そのビーストマンは体が大きい個体で毛並みも見事だったが、男が少々責めたら不思議なことに体が縮み、毛皮も色あせて艶がなくなってしまった。商品価値が激減である。

 その場で処分しても良かったし、当のビーストマンもそう望んでいるようだった。けれども、ビーストマンの社会を知るためにまともに口が利ける個体を持って帰ることを決めたばかり。その個体はどういうわけかとても素直になって反抗心がなくなったので都合がよく、他の個体から探すのが面倒だったのもある。

 そうして付けようとした名前は、ビーストマンだから略してビーマン。

 ビーマンの名は一同を爆笑の渦に叩き込んだ。

 

 非常に釈然としない男はビーマンを取り消し、毛むくじゃらなのでケムとした。しかしそれでは単純が過ぎる。

 同じ毛むくじゃらの先輩であるハムスケさんリスペクトでケムスケとしようと思ったが、名前が似すぎているので却下。ケムキチに決定した。

 

 エ・ランテルは亜人や異形種が多々暮らす街であるが、人間の天敵として知れ渡るビーストマンのケムキチが飼うには少々問題があった。

 まず、住民を傷つけるのは絶対禁止。禁を破ったら飼い主である男に連絡がいく。

 破ろうにも、ケムキチが飼われるお屋敷は陰に陽にケムキチを歯牙にもかけない者たちが警護している。迂闊なことをしたらギリギリ死なないくらいに痛めつけられてから飼い主である男に連絡がいく。

 ケムキチはビーストマンなので爪が長く、お屋敷のメイドたちは怯える者があった。よって爪を隠す手袋の着用を厳命された。外しているところを誰かが見かけたら飼い主である男に連絡がいく。

 ケムキチの住むところはお屋敷の敷地内にある厩舎、にしたかったところだが、現在はハムスケさんが占拠している。ハムスケさんに迷惑を掛けたくないと考えた男は、敷地内にケムキチ用の天幕を張ってやった。寝具もきちんと用意して、とても思いやりがあると当の男は自画自賛したのだが、天幕も寝具も丁寧に加工するまでもないと判断したビーストマンの毛皮から出来ている。

 おにーさん半端ないっすねとルプスレギナはいたく感心した。

 

 ビーストマンの社会について情報を吐き出すためだけのケムキチだった。が、男には全くの想定外の用途が出来てしまった。冒頭に挙げた特別訓練である。

 毛皮収穫からエ・ランテルに戻った男は、おかしな文脈でアルベド様のお名前を挙げたルプスレギナを叱ろうとしたら、

 

『せっかく不老不死になったのにこのままじゃその内死んじゃうっすよ?』

 

 ルプスレギナには珍しく真剣な顔で突き付けられた。

 曰く、アルベド様の悪口を言われただけで失明するのは忠誠心の深さの証明と言えるが、もしも戦闘中だったら重大な隙となる。それどころか悪口を言われただけで憤死しかねない。何としても克服する必要がある。

 しかし、戦場に行く予定はなく、荒事は護衛のミラが片付ける。男はエ・ランテルでアルベド様を侮辱する愚か者がいるわけがないと抗弁したのだが、

 

『おにーさんはアルベド様を侮辱した奴に罰を与える前に死んじゃってもいいんすか?』

 

 男は特別訓練を受けることを決意した。

 悪口を言うのに選ばれたのがケムキチである。ケムキチはアルベド様の偉大さと美しさを思い知ったようで泣いて嫌がったのだが、飼い主にやれと言われたらやらざるを得ない。

 

 特別訓練はとても過酷だった。

 

 訓練後のケムキチは魂が薄れて昇天しそうになるのをミラにぶっ飛ばされて活を入れられ、男の方は精神が荒れに荒れルプスレギナを犯しに犯しぬいて翌日は使い物にならないくらいに狂いよがらせ何とか落ち着きを取り戻す。

 犯されるローテーションは、ルプスレギナ・ソリュシャン・ミラ・ラキュース・シェーダである。ただし、メイドとしてのお仕事があるラキュースとシェーダが使い物にならなくなるのは困るので、足りない分はソリュシャンが肩代わりしてとても満足していたりする。

 

 訓練の成果は少しずつ見え始め、今では失明することはなく、血涙も流さず、視界が真っ赤に染まるだけになったのでもう十分と思うのだが、毎日訓練させられる。

 そこにはハードプレイに味を占めた誰かの意図があったりする。遠からず訓練は終了しなければならないと決まっているので、今の内というやつなのだ。何が起こっているのか知らないのはこの男だけである。

 

 

 

 賑やかなソフィーがいなくなり、静けさが戻った書斎で男は机に突っ伏した。

 今日は朝早くから帝都のお屋敷に転移し、このまま泊まっていく予定だ。今日は特別訓練をしなくて済むのである。なんと心が安らぐことであるか。しかし、僅かな安らぎを許さない者がいた。

 

「いてっ」

 

 安らいでいたところを、シクススにポカリとやられた。

 

「いつも申し上げていることですが、私がお仕事を頑張っている時にだらしない姿を見せないでください」

 

 横暴である。しかし、シクススはお屋敷のメイド長であり、つまりは権力者である。ついでに弱みを握られていたりする。あれをソフィーに知られたら絶対に揶揄われる。逆らってよいことはない。

 男が姿勢を正したのを見てシクススは一つ頷き、窓辺に移動した。窓の外では豪華な馬車が門を潜るところだった。ソフィーが出かけたのを見届け、全ての窓のカーテンを閉める。

 男が首を傾げて見守る中で、シクススは書斎のドアに鍵を掛けた。掛けたはいいがドアの方を向いたままで、こちらには背を見せている。

 ややあって振り向いたシクススは、顔を赤くしていた。

 

 シクススを抱くのは稀ではなく、そういう時は薄っすらと頬を染め、可愛らしい子猫ちゃんになる。

 わざわざ密室にしたのだからそういうことなのだろうと思ったが、いつもより緊張感が漂っていた。

 

「若旦那様は、以前私から相談したいことがあると申し上げたのを覚えていらっしゃいますか?」

「覚えてるよ」

 

 その時はご主人様と呼ばれたのでそちらの事だと思っていたのだが、今は若旦那様と呼ぶ。

 

「相談内容は絶対に誰にも秘密にして欲しいんです。もしも誰かに話したりしたら、私は手段を選びませんからね!」

「話すなと言われたことを話したりしないよ」

 

 聞かれてないことまで話しちゃう口が軽い男である。しかし、約束事は守る男でもある。絶対に秘密と念を押されたのだから、アルベド様に聞かれない限りは秘密を守ることが出来るだろう。アルベド様に聞かれたら致し方なし。その結果、シクススの最終手段が発動したら誰も幸せにならない。

 そこまで考えた男は、心苦しくもアルベド様に聞かれても言葉を濁す決意を固めた。

 

 男の決意を感じたシクススは、赤い顔のまま男に近付いた。

 カーテンを閉めドアには施錠して密室にしたのに、キョロキョロと周囲を窺い、書斎には二人きりであることをこれでもかと確認してから、エプロンのポケットからある物を取り出した。

 

 ナザリックのメイドであるシクススが着るメイド服は、雇っているメイドたちが着るメイド服より遥かに高品質である。防御力は男が着るナザリック製ジャケットほどにあるし、丈夫で汚れにくく耐久性抜群である。魔法が掛かっているため着用者に合わせてサイズが変わるが、シクススのメイド服はシクスス専用で、スタイルに気を遣っているシクススの体形が変わったりしないので余り役には立っていない。

 重要なのは、男が着るジャケット同様にエプロンポケットの中に見た目よりいっぱい入ることだ。ポケットにいっぱい入れても膨らんで見えないのも重要な機能である。

 シクススのエプロンポケットは真っ平で、中に何かが入っているようには見えなかった。

 

 シクススが取り出したものを見て、男は目を丸くした。

 

「まさかいつも持ち歩いてるのか?」

「そんなわけないに決まってるでしょ若旦那様のバカ! これの相談だから持ってきただけです!」

 

 それは白い円柱だった。一端は平坦で、もう一端には球を潰して斜めに付けたような形。表面はツルツルのピカピカで滑らかな触り心地。

 男が作った試作品をシクススが処分するという名目で引き取ったものである。

 ディルドであった。

 

 

 

 

 

 

 ディルドについての相談なら誰かに知られなくないだろうと思えるくらいにはデリカシーが備わってきた男である。尤も、食事の席で駅弁の話題を出すのだから及第点には程遠い。

 

「見たところ傷はなさそうだ。ああ、これは象牙製だからちょっと重いかな? 軽いのが良ければこれの芯をくり抜いてもいいし、材料はこっちに置いてあるから新しく作ってもいい」

「いえ、重くはないです。でも新しく作ってくれるならもう少し細い方が。これってご主人様と同じくらい大きいので一人でするときはちょっときついかなって」

 

 可愛い女の子に見えてもホムンクルスであるシクススはちょっと力持ちである。少々重いくらいなら問題ない。試作品であっても仕上げはアルベド様に献上した完成品と同等なので使い心地は上々のようだ。

 

「少し軽くなるが素材は別のにしていいか? そうすれば今日にも新しいのが完成するよ」

「そこは大丈夫です」

 

 シクススをソファの隣に座らせる。メイドとしての遠慮なのか少しだけ離れた位置に座ったので距離を詰め、肩を触れ合わせた。

 呼び方がご主人様に変わったのもきちんと気付いている。シクススがご主人様と呼ぶということは、凛としたメイド長から甘えたがりでちょっぴり意地悪をされるのが好きな子猫ちゃんになってますよアピールである。

 ちょっぴり意地悪してあげないといけないのだ。

 受け取ったディルドを返し、シクススの肩を抱き寄せた。

 

「シクススが愛用してるようで良かったよ。作った甲斐があった」

 

 シクススの目がキラリと光った。

 

「いてっ!」

 

 この男、痛みにはめっぽう強いが痛みを感じないわけではない。ビックリさせる要領で意識外からやればきちんと痛がる。

 シクススは肩に乗った男の手を抓ろうと見せかけて足を踏みつけたのだ。

 

「愛用してるわけじゃありません! それに私からの話はまだ終わってませんから」

 

 男は少しだけ思い違いをしていた。シクススがご主人様と呼ぶ時は、必ずしも子猫ちゃんモードになってるわけではない。意識的に切り替えるためである。

 先ほどは約束を順守して欲しいので、真面目な話アピールで若旦那様と呼んだ。

 次にご主人様と呼び分けたのは、自分を守るためである。

 シクススは帝都のお屋敷のメイド長だ。メイド長は一時的な役割だとしても、栄光に包まれたナザリックのメイドである。いかがわしい話に耽ったりしないのだ。第一、そんな話をするのも聞くのも恥ずかしい。

 だけれども、本当はそんな話に興味津々であった。

 ナザリックにいた頃は冒涜的な異本に魅入られていた。エ・ランテルのお屋敷に来てからは若旦那様が現地で雇い入れたメイドたちにいかがわしいことをしないよう、夢精をして恥ずかしい思いをしないよう、積極的に手伝ってあげた。帝都のお屋敷に来てからというもの、当初はルプスレギナとシクススとミラの三名しかいなかったため、日に何度もお手伝いをして、週に一度以上は自分の体を満たしてもらっていた。男がエ・ランテルに戻ってからはお手伝いの頻度が激減しているが、満たしてもらう頻度は変わっていない。

 けども先述したように、そちら方面の話を自分から振るのは恥ずかしい。こちらの雰囲気を察して向こうから持ち掛けてくれればいいのだが、この男にそのような事を期待するのは無理である。

 そこで思い付いたのがご主人様呼び。シクススがさり気なくおねだりする時はご主人様と呼ぶのが暗黙の了解となった。ただし、ご主人様呼びしたからおねだりというわけではない。

 普段の自分と切り替えて、今の自分はいつもと違うんですよ、いつもはこんな事を話したりしないんですよ、と主張するためである。誰に主張してるかと言えば、自分自身だ。

 つまりはシクススなりの自己防衛。誰にもわかってもらえないかも知れないが、シクススが自分で納得しているからこれでよいのである。

 

 そして、話は戻る。

 シクススは愛用してるディルドを新調してもらうために相談を持ち掛けたわけではなかった。

 

「愛用してるわけじゃありませんが、こうなったらいいなっていう希望があって……」

 

 いつもの自分と切り替えても、恥ずかしいものは恥ずかしいらしい。

 凛としたメイド長だったシクススが、頬を染めて言い淀むのはとても可愛らしい。

 

「これって使う時は自分の手で動かさないといけないんです」

「まあ、ディルドだからね」

 

 ディルドとは、勃起した男性器の形を模した張り型である。

 覚醒したサキュバスであるアルベドなら、サキュバススキルの淫具創造によってうねうねと動くバイブや小さく震えるローターを作り出せるが、この男にそんな事は出来ない。動力を組み込むのは不可能ではなくも少々面倒だ。

 

「動くようにしろというなら少なくとも一か月は見て欲しい。動かす方法は幾つか思い付いたけど動力源をどうするかが問題だ。アルベド様にお願いすれば作ってくださるかも知れないが」

「い、いえ! そこまでしていただくわけには……。それに動いて欲しいわけじゃありませんから」

「それなら何だろう?」

「そこまで難しいことじゃないと思うんですけど……。固定できるようにして欲しいんです」

 

 ディルドは動かない。刺激を得るには自分の手で動かす必要がある。それはそれで手だけでは得られない刺激を得られる。だけども、例えば立てて固定することが出来れば、腰を振れば刺激が得られる。手を動かすのと違ってしている感があると思われるのだ。きっとその時と変わらない盛り上がりが得られる、ような気がする。

 ということを思いついたシクススは、自分なりに縛ってみたり吸盤をくっつけようとしたりとあれこれ工夫したが、ディルドを傷付けずには上手く出来そうになかった。ならば開発元にお願いするのが一番である。

 

「それくらいなら簡単だ。固定する場所は平らで硬いものを想定してるがそれでいいかな?」

「はい、十分です」

 

 シクススの想定は、例えばお風呂のタイル。お風呂なら壁にくっつけるのも良さそう。床の上はちょっとあれなので却下。他には持ち運びできるプレートに固定して、そのプレートを丸めた毛布などに縛り付けてさらに固定することまで考えている。それは上になっているのと変わらないのではないだろうか。

 考えていることがちょっとだけ顔に出た。

 

「あっ!? ちょ、ちょっとご主人様!」

 

 その隙を突かれ、今度は肩ではなく腰に男の腕が回ってきた。

 強い力で抱き寄せられ、シクススは男の胸にもたれてしまった。

 

「私はこの後も仕事が残ってるんです! ご主人様とそんな事をしてる時間は――」

「ご主人様のために体を使うのも立派な仕事だろう? 俺の可愛いシクススはご主人様の言うことが聞けないのかな?」

「そんなことは…………ない、ですけど…………。でも……」

「シクススのためでもあるんだ。どんな形ならシクススにピッタリ合うのか。折角新しく作るんだから丁寧に調べる必要がある」

「そんな……」

「シクススはこれを愛用してるんだろう?」

 

 シクススは白いディルドを握ったままでいる。何度も使ってきたディルドだ。

 そんなものを見続けているのは恥ずかしく、しかし、顔を上げてしまえば男と目が合ってしまう。至近距離で見つめられると飲まれてしまうのは何度も経験している。

 

「あ…………愛用、してます……」

「使う頻度は?」

「その……。毎日というわけじゃなくて……。三日に一度くらい、です」

「それなら三日に一度と言えばいいのに毎日を否定するのは、使う日は何度も使うのか?」

「うぅ…………そう、です……」

 

 完成品と同等の仕上げを施された試作品は、何度使おうと未使用時と変わらない艶を放っている。シクススが綺麗に磨いてから持ってきたからだろう。使用時にはシクススの汁に塗れて、シクススの中に埋まるのだろう。

 最善を期すために、使用時の風景を見る必要があった。

 

「どう使うのか見せてもらおうか」

 

 シクススの顔が跳ね上がった。

 話の内容が内容なので顔は真っ赤だが、艶めいた雰囲気はなく必死さを感じさせる。

 

「どうか! どうか、それだけは……許してください!」

 

 体を何度も重ねてきて、体の隅から隅まで見られて触られて舐められて。

 それでも見せたくないものはある。

 例えば朝から夜まで一日中ずっと着けていた下着。手鏡を持ってムダ毛をチェックしてる時。自分で慰めているところはその中でも上位に位置する。

 性欲があると知られるのは恥ずかしい。性欲を密かに発散してると知られるのはもっと恥ずかしい。誰にも知られず一人でこっそりすることを見せるのはもっともっと恥ずかしい。

 

 しかし、秘密にされれば暴きたくなるのが人の性。ソリュシャンとルプスレギナから人の心がないと言われる男は、好奇心がとても旺盛だった。

 

「シクスス、俺の可愛い子猫ちゃん。シクススはご主人様に隠し事なんてしないだろう?」

「…………はぃ…………」

 

 シクススは、はらりと涙を落とした。

 

 なお、シクススは本当に見せたくないわけではなく、見せたくない振りをして興奮を煽っているのだと思っている男である。見せたくなかったら凛としたメイド長に戻って跳ねのければいい話なのだ。

 

 シクススは、ぐすっと鼻をすすり、エプロンドレスの紐を解いた。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、エ・ランテルの大きなお屋敷で一番豪華な部屋に、女たちが整列していた。

 

「今日中に終わらせるのよ。私が少しずつ進めていたから問題ないでしょう」

「「「かしこまりました」」」

「エントマはこの部屋を隅々まで掃除したことがあったわね。どこに何があるかわかっているかしら?」

「はい、承知しております」

「それなら小物はエントマにお願いするわ。大きなものは……ミラと言ったわね」

「名前を覚えていただき光栄でございます」

「シャルティアにしてはセンスがある名前ね。ミラはルプスレギナと一緒に重いものを運びなさい」

「かしこまりました」

「ソリュシャンはメイドたちと一緒に整えて。今日の夕方にはナザリックからリファラとキャレットが来るわ。私の専属になるから以前のようにシェーダと同じ仕事というわけにはいかなくなるけれど」

「……かしこまりました。後ほど話し合いの時間を儲けようと存じます」

「私はいないことが多いと思うからそのあたりは任せるわ」

「承知いたしました」

「私はナザリックに戻るわ。こっちに来れるのは、やっぱり明日の夜になるかしら? 後の事は頼んだわよ」

「「「はっ!」」」

 

 眩い転移の光が消えて数秒後、ルプスレギナが深い息を吐いた。

 

「あーーーーー、いつかこんな日が来るんじゃないかと思ってたっすけどついに来ちゃったっすねぇ」

「無駄口叩かないで始めるわよ。私たちに気を遣ってくださって前から話し合いの場を設けてくださったじゃない」

「それはそうっすけどー。ソーちゃんはそれでいいんすか?」

「……私はお兄様を信じてるわ」

「露骨に雑にはなんないと思いたいっすけど。おにーさんって言わないとわかんないところがあるっすからねー」

「…………私はお兄様を信じてるわ」

「じゃ、ソーちゃんはそれでいいっすよ。私はおにーさんへの注意をまとめとくっすから」

「………………念のために私の事も入れておいて」

「はいはい」

「もう二人ともちゃんと働いてよぉ。今日中って言われてるんだしぃ」

「アルベド様が来るのは明日っすから余裕っすよ。それよりおにーさんの足止めの方が重要っす。アルベド様は驚かせたいみたいっすから」

「交代で誰かが見張りに出る必要があるわね。今日のお兄様は帝都で過ごすと仰っていたから多分大丈夫とは思うのだけれど」

「それじゃ最初は私が」

「ルプスレギナ様、こちらを運ぶのを手伝っていただけませんか? 私一人では傾けてしまいますので」

「仕方ないっすね。でもやっぱアルベド様はお優しいっす。ユリ姉やナーちゃんは当然としても、あいつらにまで声掛けるんすから」

「……………………それだけお兄様が魅力的なのよ」

「それだけとは思えないっすけど。ま、ともかくテキパキやっちゃおうっすかね!」




色々先送りしたり後回しにしてもきっと誰も困らない、書いてる自分がややこしく思うだけ
そろそろクライムイベント1を出さねばと思うのだが
とりあえずキーノとカルカの開通が遠いです


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深度調査 ▽シクスス♯3

本話9.2k弱


 下着姿になったシクススは涙目でメイド服を畳んだ。これで良いかと視線で男に問うと、真面目腐った顔で顎をしゃくってきた。続けよということだ。シクススは泣き顔でショーツに手を掛けた。

 

 見守る男の態度はとても真剣なものである。下心あってシクススを辱めているわけではないのだ。シクススにぴったりのディルドを作るための調査である。シクススの愛らしさに惑わされず、見極めなければならない。ただし、自分の下心は否定しない。その時はディルドだけでは満足できないかも知れないシクススを助けてやればいい。

 

「こっちに」

「……はい。あっ」

 

 下着姿からショーツだけ脱いだシクススを手招きし、近付いてきたのを抱き寄せる。綺麗な背中を撫でまわしつつ、ブラジャーのホックを外した。

 

「ぜんぶ……、脱がしちゃうんですか?」

「折角なら綺麗なシクススを見たいんだ」

「ご主人様がおっぱい見たいだけじゃないですか」

「否定はしない」

「ご主人様のエッチ! んっ! んぅ……、ちゅる……、んんっ……」

 

 細い肩から肩紐を外しつつ、唇を重ねる。

 キスはいつもの始まりのように互いの口内を舌でまさぐりあった。

 

 シクススがディルドを使うに至るにはある程度の準備が必要だ。準備段階からじっくり鑑賞するのはとても興味深いが、シクススはまだ仕事が残っているらしい。時間を短縮するために手伝うのはとても合理的である。いやらしいことをしたいからではない。

 ただし、下心は否定しない。その時はシクススの仕事が増えるかも知れないだけである。

 

 

 

 

 

 

 ソファに座った男の膝上にシクススがいる。横を向いて座るのは、シャルティア曰く大人の女の座り方。

 男の上で裸になった大人の女なのに、シクススの太ももはぴったりと閉じられ、両手は股間の上で重ねられた。キスで少しは高ぶっても、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 始めは真逆だった。シクススは着衣のまま男のものを取り出し、あるいは半裸にさせ、手や口で慰めてきた。

 真逆の今は、男は服を着ているのにシクススが着けているのはガーターストッキングだけ。

 

「俺も手伝うから、シクススがいつもしてるようにやってみるんだ」

「いつもしてるわけじゃ……。あんっ!」

 

 たぷんたぷんと揺らしていた大きな乳房を、男が強めに鷲掴みした。

 強めと言っても、盛り上がっている時はシクススも普通にされる強さ。けども、最初からされるのは少々痛みが勝ったらしい。シクススは眉を寄せて痛みを訴えた。

 

「い、いたいです……。もっと、優しくしてください……」

「シクススの分もしようと思ったら気が急いたんだよ」

「……ご主人様の噓つき、エッチ。私が自分でしてるのがそんなに見たいんですか?」

「勿論だ。とても見たい」

「ご主人様のエッチ! でもそんなに言うなら……。ご主人様も手伝ってくれるんですよね?」

「シクススが望む通りに」

「私がして欲しいって言うじゃなくて、ご主人様がしたいって言ってください」

 

 シクスス的に重要なポイントである。

 

「俺がシクススを可愛がりたいんだ」

「それなら……」

 

 股間の上で重なっていた手が上げられる。未だ閉じられた太ももに挟まれ、淡い金色の茂みが顔を出す。

 シクススの左手は男の腕と交差して、右の乳房に触れた。右手はもう一度茂みの上に重なる。むっちりとした太ももの間を、掘り進むように少しずつ進んでいく。

 

「あっあっ……ごしゅじんさまぁ。キス、してください。ちゅっ……ちゅっちゅぅ……、んっ、れろ……」

 

 愛らしい唇を啄み、啄まれ、シクススから舌を伸ばした。舌と舌が触れ合えば激しく求めあい、互いの口内を熱心に行き来する。温度が溶け合った唾液を啜り啜られ、シクススは強く吸った。

 泡立った唾は甘露のよう。なめらかで甘い上に、心が喜び体が熱くなる。触れていただけの左手に力が入った。指が沈み、柔肉の形を変え始めた。

 左の乳房はそれより先に進んでいる。ひんやりとしていた乳肉は薄っすらと汗ばんで、男の大きな手の平との密着感が強くなる。いやらしく揉まれ続け、乳首はとっくに立っている。

 

 長く続いた口付けが終わって唇が離れると、シクススは熱っぽい目で男の目を見返した。

 

「この次はどうするんだ?」

「あ…………、おっぱいを揉んでると乳首が立っちゃうから……。摘まんだりして、んぅ……あっ、いやっ! ご主人様もしてください!」

 

 シクススがすぐに答えられなかったのは、薄く唇を開いて舌を伸ばしていたから。

 いつもの行為を説明しながら実践する。この期に及んで自分だけが摘まむのは恥ずかしいらしく、同じようにすることをねだった。二人でする時に自分の体を愛撫するのはいつもの事でも、色々な過程を経て挿入してからがほとんどだ。

 

「わかってるよ」

「はい……。あっ……、ご主人様やさしい……♡」

 

 希望通りに優しく摘まんでやった。

 男はシクススへ優しい微笑みを向けながら、観察を怠らない。

 シクススが胸を揉んでいるのは左手だ。右手は股間に伸びていた。中指と薬指が太ももに挟まれて見えなくなっている。よくよく見れば、他愛ない話をしながらも手が僅かに動いている。

 シクススから女の匂いが立ち上ってくるようだった。

 

「シクススはそろそろ準備が出来たかい?」

「……まだです。シクススはご主人様にしてもらわないとダメなんです。ご主人様が……シクススの子猫ちゃんを可愛がってください♡」

「もちろんだよ」

 

 シクススに色々させようと思っても、いつの間にか色々する方に回るのはいつものことである。

 

 

 

「あんっ! クリちゃんさわっちゃダメですぅ、気持ちよくなっちゃうんですからぁ。あぁぁあんっ! ダメっていってるのにぃい♡」

 

「あっあっやぁっだめぇ……そんなにじっくり見ないでくださいぃ。ご主人様にいじめられて気持ちよくて…………、シクススのおまんこぬれちゃってるんですからぁ……」

 

「えっ? えっ? えぇっ! そんなのだめぇ……。舐めちゃダメなんですよ? 舐めるのは子猫ちゃんなんですからぁああぁあんっ♡ あん、やだぁ……はぅう……、なめちゃダメなんですぅ、あぁぁあんっ♡」

 

 シクススのおねだりによって何をするかを指定されるのもいつもの事。ダメとかヤメテはして欲しいを意味するのだ。

 まことアルベド様のお言葉は真言である。

 

 

 

 荒い息を吐くのと同期して豊かな乳房が上下する。ソファに押し倒された姿勢で股を大きく開かされ、閉じられないよう男の手が太ももを押さえている。

 愛欲に揺蕩っていた目が僅かな理性を取り戻し、潤んだ目で男を見つめた。

 

「あの…………、そろそろご主人様のおちんちんも……。私がペロペロしてあげますから」

 

 何度も達していたシクススが、次を求め始めた。

 いつもならシクススがここまで乱れる前に、手や口を使わせている。けども、今日の目的は違うのだ。

 

「シクススはディルドを忘れてるのかな?」

「あっ」

 

 たっぷりの前戯はディルドを挿入するためである。シクススはバツが悪そうに、琥珀色の目を泳がせた。

 

「でも……」

「うっ」

 

 シクススは男の手を避け、足を伸ばす。ガーターストッキングに包まれたつま先が男の股間に触れた。

 

「ご主人様のおちんちんはこんなに大きくなってますよ。私がしてあげますから」

「どこでこんな技を……」

 

 調査のための下準備とはいえ、我慢するつもりがなかった男はズボンの下で股間を張り詰めさせていた。

 それを、シクススはピンと伸ばしたつま先で優しくさすってきた。

 足コキ、の前段階である。

 

 アルベド様を筆頭に、何人もの女性を何度も抱いてきたが、足でされたことは一度もない。好んでいるプレイではないため、させようとは思わなかった。アルベド様に出会う以前に一生分の足コキをされていたからだ。

 『お前には足でしてあげれば十分ね』と言われながらラナーにされたことが何度あったことか。

 

 それをシクススからされている。

 苦い屈辱の記憶が蘇るが、案外悪いものではないと感じるのが不思議だった。

 それ以上に不思議なのは、シクススが足コキを知っている事。一体どこで覚えたのか。

 

「どこで覚えたかは秘密です♪ いつものようにお口でしてあげますね」

 

 異本で覚えた技であることを告白出来るわけがない。

 シクススは雌豹のポーズで男へにじり寄り、手慣れた手付きで服を脱がせる。逸物が跳ね上がって下腹を打った。

 衣服は軽く畳んで隣のソファに。

 長い髪をかき上げ耳に掛け、反り返った逸物の根元を握って先端を自分に向けて、目をつむってあーんと口を開ければ温かい吐息が男をくすぐり、

 

「待った!」

「……なんですか? ご主人様は口でして欲しいんじゃないんですか?」

 

 上目遣いで責めるように言う。とてもではないが、泣き顔で許してと言った同一人物とは思えない。

 

「して欲しいのは確かだが」

 

 キスをしてイチャイチャして、たっぷり前戯をしたら舐めてもらう。そうしたら次にすべきは決まっている。しかしそれではディルドの出番がなくなってしまう。

 舐めてもらった後にディルドを使うのは不可能だ。入れたくなるに決まっている。しかし舐めてもらいたい。

 難しいことは何もなかった。同時にすればよいのだ。

 

 

 

「ゆっくり入れるんですからね? いきなり奥までしたら怒りますよ?」

「わかってる」

 

 ソファに横たわった男の上に、シクススが頭の向きを逆にして重なっている。

 互いの性器を同時に舐めあう69の体勢。ただし、舐めるのはシクススだけ。男の手には白いディルドが握られている。

 

「それじゃシクスス、してくれ」

「…………はい。ご主人様のおちんちんをいっぱいペロペロしていっぱい気持ちよくしてあげますから、ご主人様はシクススの子猫ちゃんに優しくしてくださいね? 酷いことしたら泣いちゃうんですから」

「シクススに酷いことなんてしたことないだろう?」

「ご主人様の嘘つき。…………あーんっ……、んっんっ……、ちゅぷっ……。ご主人様のおちんちん、すごくおっきいです♡ あむっ、んー……。じゅぷぷ……ちゅうぅっ! ちゅっ」

 

 逸物が温かく包まれる。柔らかくぬめった感触と思えば強く吸われ、尿道から吸い出されるのを感じる。

 シクススの口淫は日課だったこともあり、とても具合がいい。どこをどんなリズムで責めればいいかわかっている。

 頭は激しく振らず舌を使うのは、これで出させるつもりがなく、シクススとしても前戯のつもりだからだろう。

 このままシクススの口を楽しんでいたくもあるが、しなければならないことがあった。

 

「あんっ。あんまり広げちゃ恥ずかしいですぅ。シクススの子猫ちゃんはご主人様に可愛がってもらったから……、おねだりしちゃってるんです。いっぱい濡れちゃってるのはご主人様のせいなんですからね?」

 

 69でシクススの脚がこちらの顔を跨いでいるのだから、シクススの股間が目の前にあった。

 淡い金色の陰毛は股間の三角地帯にだけ形よく茂り、陰唇や肛門の周りはつるりとしている。ラキュースとは大いに違うところで、そろそろ脱毛してやらないと思うがそれは後回し。

 たっぷりと舐め中までよくほぐしたため、シクススの淫裂は薄く開いて赤ピンクの内側を覗かせていた。中はてらてらと濡れ光り、女の欲を訴えている。

 クリトリスは包皮を被っている。少し触ってやれば膨らんで、剝けてくるのはさっき見たばかりだ。

 こちらも口を使うなら控えめに見えて実はいやらしい肉芽に吸い付くところだが、用があるのはその上。

 すべすべとして豊かな尻を掴んで引き寄せると、シクススは膝をつく位置を僅かに変える。割れ目が少しだけ下を向き、ということはさらに上にある尻の穴までよく見えた。

 何度も使って茶褐色になってるラナーと違って、シクススの色は薄い。とても興味をそそられるが、我慢しなければならない。

 

「あっ! 本当に優しくゆっくりですからね!? 自分でする時だって最初はゆっくり入れるんですから!」

 

 シクススが自分の手で入れてるところを是非観賞したかったものである。それはいつかの機会にとっておき、ディルドの先端をシクススの穴にあてがった。

 

 己の勃起した逸物を参考に作ったディルドは、長さがあれば太さもある。シクススのディルドは最初に作った試作品で、持つ部分を考慮して長めにしてある。

 どこまで入ってしまうのか。

 亀頭を模した部分が柔らかい穴に入りきった。

 

「んうっ……。ゆっくりだったら、入れていいですから……」

 

 白い棒がシクススの中に埋まっていく。外側に出てる部分がどんどん短くなるということは、他の部分がシクススの中に入っているということ。抵抗はややあるが、拒むというほどではない。

 半分以上入ってもシクススに変わったところは見られない。きちんとフェラチオを続けている。

 ディルドは亀頭を模した先端部が一番太く、竿部の太さは一定だ。シクススの雌穴は、ディルドを飲み込む広さまで開いたまま。

 入れる前は小さかった穴がずっと開いたままでいるのは、入っているところを近くで見るのは初めてなのもあって新鮮な驚きがあった。

 

「奥まで、来たみたい、です」

 

 外には持ち手の部分が少しだけ余っている。これ以上入れるとシクススの体を傷つけてしまう。

 手で出し入れするなら深さを調節出来るだろうが、固定してシクススが腰を振る場合は勢いがついて深く入ってしまうかも知れない。そうならないよう新しく作るディルドは短くしてシクススの深さぴったりにするか、ストッパーをつけるかする必要がある。

 それに気づいただけでも、ディルドを使った意味があった。

 

「痛くないかい?」

「大丈夫、です。ご主人様がいっぱいしてくれたから……」

 

 シクススは、自分一人で慰めるより誰かにしてもらった方が、もっと言えば彼にしてもらった時の方がよく濡れて遥かに感じる。ほぐれ具合も相応で、太いディルドを難なく飲み込めてしまうくらいに。

 同じ太さの逸物を受け入れるための準備なのだから、当然と言えば当然だ。

 

 長さについては有用な知見が得られたが、太さについては要検討である。

 

「あんっ♡ 動かしちゃだめですぅ、あっやぁあんっ、じゅぽじゅぽしないでぇええ♡」

「口を忘れてるよ」

「だってだってぇええ♡ ご主人さま上手でぇ、あっあっあふぅうんっ♡」

 

 可憐な唇はあえぐだけ。快感に悶えながらも逸物からは手を放さず、上下に扱く。

 素晴らしい光景を目の当たりにしてる事もあり、萎える気配は全くない。ディルドの白とシクススの肉色が、印象的なコントラストを生み出している。

 

「あんっ、そこぉ……、中でぐりぐりしてるぅ♡ かたいのあたってますぅうう。そんなにいじめちゃダメなんですからぁ♡」

 

 シクススが一人でディルドを使う時は息が荒くなって多少の嬌声をこぼすが、こうもあえぐことはない。

 膣内に挿入されているのは逸物ではなくディルドであっても、自分でするのとされるのとでは全く違う。あちらは一人遊びに対して、こちらは行為の一環だ。

 快感と充足感が違うのはもちろんのこと、シクススは本人が意識していないところで、男の興奮を煽ろうと乱れている。

 股を開いて秘部を見せつけ、下の口から涎を垂らして快感に泣き叫ぶ。

 シクススが乱れれば乱れるほど、ずっと握っている逸物に血が通う。

 

 シクススは何度も浅く達して、ディルドが入ってからは深くなってきた。全身を包む波の予感から次はもっと深くなるのがわかっている。

 いつも使ってるディルドでこうも感じてしまうのが意外であり驚きでもある。

 深く達してしまったらしばらく動けなくなるが、ご主人様は休ませてくれない。ディルドを使わない時だって二度三度続けるのはいつもの事だ。続ける度に深くなって、最後は失神してしまうのは珍しいことではない。

 今日は時間が早いから何度もすることはないだろうが、ディルドの次があるのは確実。とても気持ち良いけれど、浸りきってしまうと次の仕事が出来なくなる。

 シクススは誘惑を断ち切って、声を上げた。

 

「シクススの子猫ちゃんばかり気持ちよくなって……。ご主人さまのおちんちんも気持ちよくなりたいですよね?」

 

 先端の尿道口に透明な雫が滲むのを見て、シクススは無意識にぺろりと舐めた。

 シクススに鈍感と告げられたばかりの男だが、こういう時は察しが良い。

 

「シクススはディルドじゃなくてちんこが欲しいのかな?」

「…………はい。シクススの子猫ちゃんに、食べさせてください♡」

「それならちゃんと言ってごらん。シクススは処女だった時もちゃんと言えただろう?」

「ご主人様のエッチ!」

 

 シクススはこの男に処女を捧げる時、いやらしいおねだりを言わされている。

 始めというのは肝心なもので、その時の経験がなければシクススがいやらしい言葉を口にすることはなかっただろう。

 

 男の上から降りたシクススは、怒っているのを装って頬を膨らませる。

 すぐに愛欲に蕩けた顔になり、男に抱き着いて裸体を絡めた。

 言葉を発するエネルギーを蓄えるかのようにちゅっちゅと口付けを繰り返し、重なった唇の間からにちゃにちゃと粘着質な音を響かせ、男の耳に唇を寄せた。

 いつもは凛々しいメイド長で、厳しい叱責や指導を飛ばす愛らしい唇が、小さく開いた。

 

「ご主人さまに可愛がられてシクススのおまんこはいっぱい気持ちよくなって、いっぱい濡れちゃってるんです。とろとろになっちゃってますから、ご主人さまのおっきなおちんちんでも全部入っちゃいます。シクススのおまんこにご主人さまのおちんちんを入れてください♡ いっぱい可愛がって、いっぱい愛してください」

 

 ちゅっと頬に口付け、もう一度唇へ。

 間近で見ると飲まれてしまうのを承知で、シクススは青と赤の目を覗き込んだ。

 浮遊感がある。

 現実感が薄れていくようなのに、逞しい体は確実に存在して、自分の体を抱きしめている。

 シクススは男の吐息を吸い込み、唇が唇を掠める距離で思いを告げた。

 

「大好きなご主人さま、私だけのご主人さま。わたしの全部をもらってください♡」

 

 いつもは凛々しいメイド長だが、二人きりの時は見栄を張る必要がない。

 シクススの中には甘えん坊な子猫ちゃんが住んでいるのだ。

 

「シクスス……。それなら……」

 

 一方、思いを告げられた男は冷静に思案していた。

 シクススを抱くのは決定でも、抱き方がある。

 この場はあくまでも、シクスス専用ディルドを作るための調査なのだ。長さ、太さ、形状はさておき、追加する新機能がきちんと使えるか試しておく必要があった。

 

 男の提案に、シクススは渋った。

 

「ご主人さまの顔を見ながらがいいです」

「最後はそうするよ。大丈夫、シクススなら出来るさ」

「……わかりました」

 

 男が大きく足を開いてソファに浅く座る。

 シクススは男に背を向け、男の両膝に手を突いた。後ろを見ながらゆっくりと腰を落とせば、尻に熱いものが触れる。

 

「最初は何もしないからシクススが自分で入れてごらん」

「入れてくれないんですか?」

「シクススの練習だからね。上になったことは何回かあるだろう?」

「ありますけど……。全部前からだったし……」

 

 シクススが好きなのは対面座位。座ったまま重なることがあれば、騎乗位から移行する時もある。どちらも互いに向き合った姿勢で、背中を向けて乗ったことは一度もなかった。背を向ける時は全て後背位だ。

 シクススが背面座位に挑戦しているのは、固定したディルドに乗るのを想定した練習である。

 ベッドなら騎乗位でも良かったが、ソファだとやや手狭だった。

 

 シクススも少しだけ股を開き、股の間に手を入れて逸物の角度を合わせる。

 尻の割れ目に亀頭を滑らせ、入り口に触れた。

 そのまま入れようにも、シクスス側の角度があってない。このまま入れようとすると、アルベドが男が寝てる時を襲った時のような惨劇が発生する。

 初めての体位でも、セックス自体は何度もしているシクススだ。後ろから入れられる時はどうすれば良いかわかっている。

 体を前に倒しつつ背を反らして尻を突き出す。その姿勢で腰を落とせば、入り口に入ってきた。

 

「大丈夫だよ。シクススの好きなようにしてごらん」

「はぃ。……んぅ……、入って、きてます♡」

 

 さっきまで入っていたディルドと近い形状でも、道具と愛しい男の一部とでは全然違う。

 入れている、あるいは咥えられている方も、途切れ途切れだったフェラチオと違って、隙間なく包まれるのはとても気持ちがいい。

 

 入り始めたのでシクススは逸物から手を離し、再度男の両膝に手を突いた。

 

「あ……、んっ!」

 

 シクススの尻が男の下腹にぶつかった。

 尻はすぐに離れ、戻ってくる。肉が肉を打ってパンと鳴った。

 

「はぁ……んっ、あっ、あっ、ご主人さまっ、きもちいですかっ?」

「ああ、だけど俺よりシクススだ。俺のちんこを貸すから、イクまで動くんだ」

「あっあっ、やっ、そんなぁ……。ご主人さまもぉ! いっしょにぃ! あんっ♡」

「シクススの練習だって言ったろ? 俺はこっちだ」

「あんっ♡ おっぱいさわるなんてぇ♡ いっぱいさわってください♡ ご主人さまのおちんちんはっ、シクススのおまんこで、きもちよくしますからぁ♡」

 

 シクススが腰を振る度に揺れる豊かな乳房は、男が後ろから鷲掴みする。

 むにむにと揉んで柔らかさを楽しみ、尖った乳首は摘まんで抓って引っ張って、シクススの甘い声が高くなる。

 

 慣れない体位で、滅多にやらないシクスス上位で、それでも男を受け入れていることに変わりはない。

 自分を貫くために固く滾らせて、体の中に入ってきている。

 胸を揉まれるのが気持ち良ければ、触られる全てが心地よい。

 体も頭も痺れるようで、味とも匂いともつかない何かがこみ上げている。

 口はずっと開いたままで、快感にあえぐかいやらしい言葉を口走るか。

 

(またおまんこって言っちゃった。だっておまんこって言うとご主人さまは興奮するみたいだし。それにエッチなこと言っちゃうと、私もなんだか……夢中になっちゃう? ご主人さましか見えなくなっちゃう? でもご主人さまと私の二人きりだし。エッチになっても大丈夫だから。シクススのエッチな子猫ちゃんは、ご主人さまのおっきなおちんちんを食べさせてもらってすっごい悦んでるの。……こんなこと言っちゃったらエッチすぎる? それとも喜んでくれる? 私をエッチにしたのはご主人さまなんだからご主人さまに責任があるにきまってるわ)

 

 内心の思いは、途中から口に出た。

 自分の言葉でますます高ぶり、快感が深くなっていく。

 男は全く動かないまま、ディルドの時よりずっと深いところに辿り着こうとして、

 

「ただいまー。外すっごい暑くて帰ってきましたー……、って」

 

 第三者の声が響いた。

 

 

 

 二人が使うソファは窓に背を向けている。

 声の主はふわりと宙に浮かび、窓辺から一足で二人の前に降り立った。

 少女はまるい目で二人を見て数秒後、

 

「お父様とシクススがセックスしてるーーーーーーーっ!」

「ソフィー様!? ヤダダメ、見ないでくださいッッ!!」

「こら、大声を出すな。はしたない」

 

 全身を赤く染めて胸を隠すシクススとは対照的に、男はこんな時も冷静だった。




暑いので帰ってきました
38度とかバカじゃなかろうか


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練習と予行練習 ▽シクスス+

本話14kちょい


 帝都の大きなお屋敷は皇帝の離宮と言って過言ではないほどに広く豪華で、造りも念が入っている。そこに加えてナザリックの威信を掛けた魔改造が施されていた。ナザリックのロイヤルスイートに及ばないのは当然としても、屋敷の内部はとても快適である。

 夏は涼しく、冬は暖かい。たとえ真冬であろうと、肩だし上乳見せドレスを着ても寒くない。そのままの服装で外に出るのはソリュシャンくらいだが。

 

 生まれてからずっとそのような環境で育ったソフィーは、暑さ寒さに弱かった。

 割と高レベルなのでけして耐えられないわけではない。その気になりさえすれば、ナザリックの第五階層「氷河」も第七階層「溶岩」もへっちゃらである。

 ただし、それはそれ。これはこれ。暑いものは暑いのだ。

 

 お屋敷から出てナザリック製の豪奢な馬車に乗るまでは問題なかった。馬車の中は言うまでもなく快適そのもの。

 馬車から降りて待ち合わせていたレイナースを見つけ、二言三言交わしたらもう嫌になってしまった。暑いのだから仕方ない。

 暑さから逃れ快適な場所で過ごすべく、ジュネとレイナースを置いて帰ってきた。

 

 自分からレイナースと約束して呼び出したのに、暑いから諸々をキャンセルして一人で帰ってくる。ソフィーの唯我独尊もとい傍若無人もとい自由奔放なところは、間違いなく父からの遺伝と思われた。

 ソフィーの我儘が一向に改まらないのは、お屋敷でソフィーを叱ることが出来る者がいないからだ。そのくせ、アインズを始めとした上位者がいると、品行方正を座右の銘にしておりますとばかりに礼節と貞節を保った態度をとることが出来る。こちらは母の教育が物を言っているのだろう。

 

 

 

 何度注意されても止めようとしない窓からの出入りで書斎に入ってきたソフィーは、父とシクススが体を重ねている場面を目撃した。

 ソフィーは目を輝かせて二人に詰め寄った。

 

「二人がセックスしてるところを見てていいですか? いいですよね、お父様はそんなの気にしないですよね。お父様はこう言ってるんだからシクススもいいよね?」

「だっだだ、ダメです!!」

 

 シクススは赤いまま叫んだ。

 ダメと言うのなら男から離れて衣服を整えればいいのに、細い腕で胸を隠しているだけ。ソフィーを追い払ったら続きを、と思っているわけではなく、気が動転してそこまで考えが及ばない。第一、離れようにも男の腕が腹に回っている。

 

「お願い、一生のお願い! 私はまだセックスしたことないからどんなのかよく見てみたいの。こんなことお願いできるのはシクススだけなんだもん。いいでしょ? ね? ね? ね? 私のお願い聞いてくれるのはシクススだけなのに、シクススから見放されたら私は一体どうすればいいの!?」

「そんな事を仰られても……。ジュネさんではいけないのですか?」

 

 シクススはジュネを生贄に差し出した!

 しかし、まことに尤もな提案である。

 

 ジュネはヴァンパイア・ブライドである。ナザリックに於いて、ヴァンパイア・ブライドとはシャルティアの愛妾を意味する。ナザリックの外にいるミラとジュネはドレスを着るが、それ以外のヴァンパイア・ブライドはエロ衣装か全裸が基本だ。それを疑問に思うヴァンパイア・ブライドは一人もいない。

 ヴァンパイア・ブライドに真っ当な羞恥心はない。中でもジュネはエロテックの習得のために派遣されていたくらいなので、セックスを見たいと言われれば「是非ご覧ください」と言うに決まっている。しかし、ソフィーの希望は一度たりとも叶えられていない。

 

「ジュネったらいつも私を先にするから一度も見せてもらってないの!」

 

 ソフィーと同レベルで自由に見えるジュネであるが、あれでもシャルティアの下にいたため上下関係を重んじる。

 ソフィーもジュネも共に守護者統括相談役の配下であり階級的には同じ位置にあるが、方や最弱のヴァンパイア・ブライド(ただし、おそらくは覚醒サキュバスの転生体)、方やアルベドを母と呼ぶことを許された一粒種。どちらが上であるかは言うまでもない。

 ならばソフィーのお願いに従ってもいいものだが、ジュネがセックスした後だと、ソフィーの吸精が薄くて量が少ないものになってしまう。

 この男なら一度や二度で量が減ったりしないが、気分の問題だ。

 例えばアインズ様に紅茶の香りを楽しんでいただく時、「香りは薄まらないので出涸らしでも良いでしょうか」と言うシモベはナザリックにいない。

 

「それならソフィー様の後では……」

「シクススの意地悪!」

「えぇ……?」

 

 ジュネが先にすることを良しとしないなら、後にすればいい。こちらも真っ当な提案なのだが、ソフィーは可愛らしく頬を膨らませた。

 

 陰毛にこもっていた匂いで朦朧としたソフィーである。今やそこまでにはならず、男は再度の剃毛を避けられたが、吸精するとダウンしてしまうのは変わらない。

 外見は育っても中身はお子様なのだ。母が酔いしれる精液は、お子様のソフィーにはまだ早いらしい。

 

「それが出来るならとっくにしてるもん! 邪魔しないから見ててもいいでしょ? シクススがお父様とセックスしてるのは前も見たことあるし、その時と同じだから。シクススが見せてくれないと私が初めての時に失敗して心に傷が出来て一生お外に出られなくなっちゃう! 私の一生がシクススにかかってるの! 一生のお願い! シクススがセックスしてるとこ見せて!」

 

 シクススは情事をソフィーに見られたことがあるが、あの時は他に五人もいた。あの時も恥ずかしかったものだが、一人である今は恥ずかしさが五倍である。

 ソフィーが誰とセックスするにせよ、失敗するとは思えない。相手がこの男なら失敗はあり得ない。たとえ失敗しても心に傷を負うとは思えない。心に傷を負っても一生に外に出られなくなるわけがない。むしろ雪辱に燃えると思われる。

 しかし、ソフィーの真剣さはシクススの胸を打った。

 

「そこまで仰るのなぁぁあんっ!」

「俺を忘れないでくれるかな?」

 

 ソフィーと言葉を交わしている間、シクススはずっと男の上に座っていた。

 太ももをぴったりと閉じているのでソフィーからは肝心なところが全く見えないが、挿入をされたままだ。

 下から突き上げられ、シクススは甘い声で鳴いた。

 

「ご主人さま!? ダメですソフィー様が見て――」

「見てもいいって言いかけただろ?」

 

 盛り上がって挿入していいところに来ているのに、我慢しろとは酷な話。

 これでも二人の話がまとまるまで大人しくしていたのだ。

 

「見ててもいいが邪魔するんじゃないぞ?」

「は~~~い。お父様大好き♡」

「あぁ、いやぁ……。ダメッ、みないでくださいぃ…………」

 

 シクススの腹に回っていた男の腕が、シクススの膝裏を掴んだ。

 持ち上げ左右に開けば、二人が繋がっている部分が露になる。

 ソフィーはシクススの股の間に屈んで顔を近付けた。淫臭が鼻に届き、思わず喉を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

「うわあ……。お父様のおちんちんがシクススの中に全部入っちゃってる」

「いわないでっ、あんっ! ください……。んぅっ! んっ……くぅ……!」

 

 ソフィーは初めてのお食事以降、合わせて五回は精飲している。初めての時はジュネから口移しで飲ませてもらったわけだが、二回目以降は直飲みだ。父の太さの長さも知っている。

 それが全てシクススの中に収まっているのは、知ってはいるし遠目に見たことはあったが、間近で見ると新鮮な驚きがあった。

 

「お父様のおちんちんって長さがこれくらいあるから……」

 

 右手の親指と人差し指を目いっぱい開く。それでも少し足りないので左手の指も使って長さを表し、シクススのどこまで入っているか測ってみた。

 細い指が結合部を差し、すすすと上がって可愛らしいおへそを越え、尚も上がった。

 

「シクススわかる? シクススのここまでお父様のおちんちんが入ってるの。こんなところまで来ちゃって平気?」

「だいじょうぶですからぁ……。いわないでくださいぃ……」

 

 シクススは大股を開かされ、下から貫かれている。

 膣に刺さった逸物のせいで女の割れ目が開かされ、ソフィーからはクリトリスもよく見えた。

 

「あ…………」

 

 男がシクススの太ももをゆっくりと持ち上げ、シクススに収まっていた逸物が少しずつ現れる。逞しい肉棒はぬらぬらと濡れている。シクススの愛液だ。

 逸物がずるずると抜け、ソフィーが何度も舐めたことがある裏筋が見えた。裏筋は亀頭と竿を繋ぐ部分で、あと指二本分も抜けば抜けきってしまう。

 

「あひぃいっっ!」

 

 抜け切る寸前に、男は手から力を抜いた。

 シクススの体が男の上に落ち、勃起した逸物はまたも全部がシクススの中に入ってしまう。

 不意打ち気味に奥を打たれ、シクススは苦悶じみた声で鳴いた。

 

「ご、しゅじん、さまぁ……。やさしく、て言ったのにぃ……」

 

 シクススの声には涙が混じっていた。

 

「シクススを虐めたいわけじゃないんだ。ゆっくり下すのが少し大変で」

 

 半分以上は嘘である。

 重いものをゆっくり持ち上げるのとゆっくり下すのでは後者の方が気を遣うものだが、シクススは重くない。それなりにレベルが上がって力がついたこの男なら難しいことではない。それにシクススを上げ下げしなくても、上げた状態で下から突けば注挿は十分可能。

 そうしないのは、シクススの練習だからだ。

 

 男はシクススの太ももを下した。ただし、足は床ではなくソファの座面に置かせる。

 

「自分で腰を振ってごらん。ソフィーは気にしなくていいから」

「でもぉ……」

 

 そう言われても、股間を凝視されながら腰を使うのはハードルが高い。シクススが子猫ちゃんになれるのは二人きりの時限定なのだ。

 いつぞやは他に五人もいる状態で乱れてしまったが、あれはその場の空気に流されただけであってシクススの中ではなかったことになっている。アルベドが残した淫の気に蝕まれていたので、一時の気の迷いと言うのは間違いとは言い切れない。

 異本を読み漁り、ナザリックのメイドたちの中では先駆者と言えるシクススであるが、人前での行為は羞恥心の限度を超えていた。

 

「それならさっきのを使ってみるか?」

「………………このままで、お願いします。…………んっ……ぅ……」

 

 さっきのがわからないソフィーは首を傾げた。二人はソフィーの疑問に答えることはなく、シクススが腰を振り始めた。

 さっきまで使っていたディルドは、ハンカチに包んで服の下に突っ込んである。

 

 

 

 シクススは男の太ももを跨ぐ形で足を開いているため、ソフィーからは結合部がよく見える。

 シクススが腰を上げれば、ずるりと長い逸物が現れ、抜け切る前に腰を落として深くまで受け入れる。

 始めの内は断続的で一往復する度に止まっていたが、続けるうちにスムーズになってきた。リズムよく腰を上下する。動きに合わせて豊かな乳房がたぷんと揺れ、後ろから男が触ってきそうなものだったがシクススの腰を押さえて腰を振るのを助けていた。

 

「んっんっ……あんっ、どう、ですかっ?」

「いい感じだ。その調子で頑張ってごらん」

「はいっ、あぁ……はぁ、んっ……んっ……、あぁ、はぁ……」

 

 騎乗位でシクススが上になることは珍しくなくても、プレイ中の繋ぎがほとんどだ。大半は男が腰を振って、シクススがこれほど長く上になることは一度もなかった。騎乗位でそれなのだから、ソファの上での変則的な背面座位は初めてだ。

 ソファの柔らかな座面は、座るならいいが足をつくにはいささか不安定。その状態で腰を振らなければならない。

 人間よりちょっぴり力持ちなホムンクルスであるシクススだが、不安定な足場でスクワットをしているようなもの。外とは違って涼しい室内であっても、全身に汗を浮かばせてきた。

 

「あんっ! あぁ……ごしゅじんさまぁ……、あむぅ……ちゅっ……、んっあんっ、あぁ……もっとぉ……」

 

 シクススが腰を落としたタイミングで、後ろから揺れる乳房を鷲掴みした。

 しっとりと汗ばむ乳房が指に吸い付き、密着感が増して離れられそうにない。

 いやらしく揉みながら乳首を抓むと、シクススが懇願するように振り向いてきた。

 肩越しに唇を奪い、舌を差し込む。シクススは応え、けどもしっかりと唇は合わせられず、舌に乗った唾液が垂れた。

 

 ソフィーが何度目か、喉を鳴らした。

 男はソフィーの真剣な顔をちらりと見ると、すぐシクススに戻る。

 

「あっ、だめぇ、クリちゃんいじめちゃ……あぁんっ! いやぁん、ごしゅじんさまエッチですぅ♡ きゃんっ♡」

 

 左手で胸を揉みながら、右手は結合部へ。

 シクススは男に寄り掛かる姿勢なので秘部が前を向いている。

 男の長い手は問題なくシクススに届き、膨れた肉芽を引っ搔いた。

 外から見てるだけのソフィーにはわからないだろうが、シクススはきゅうと締めた。

 

「今、シクススのまんこが締まったぞ? 自分で締めたのか? それとも勝手に締まったのか?」

「やぁん、言わないでください……。……………………ご主人さまに触られたのが嬉しくて、もっと一つになりたいと思ったら……」

「思ったら?」

「……思ったら、おまんこがきゅっとしちゃったんです……」

 

 シクススは囁き声で告白した。自分がしたことを告白している間も断続的に締め付ける。

 逸物は隙間なくシクススの膣肉と密着しているのに、さらに締められるのは絞り出そうとしているようだ。

 

「入れてるだけじゃなくて、緩めたり締めたりするのがとても気持ちいいよ」

「はい♡ シクススの子猫ちゃんでもっと気持ちよくなってくださいね♡」

 

 キスを交わしてソフィーが視界から外れたからか、シクススが大胆になってきた。

 そのソフィーに聞かせるための会話である。二人の行為は、見ているだけではわからないことがいっぱいあるのだ。

 

 蕩けた声で奉仕の続行を口にしたシクススだったが、腰が中々上がらない。激しい運動をしてから小休止を挟んでしまったため、力が抜けてしまった。

 ご主人さまが動いてくださいと言いたくも、ご奉仕すると言ったばかり。少しだけ困った顔を見せるのはとても可愛らしい。シクススを困らせるのはとても楽しいのだ。

 度が過ぎると怒られるので、とても貴重な時間である。それはそれとして、続けて欲しい。

 シクススの中で、怒張が開放を求めていきり立っている。

 

「ご主人さま?」

 

 男がシクススの太ももを持ち上げ、今度は足を床に下した。

 シクススを乗せたまま座る位置を浅くしたので、上に乗ったシクススは前のめりになる。倒れそうになるところを、男が支えるまでもなくソフィーが支えた。

 

「ソフィーはゆっくりシクススを下すんだ。シクススは床に膝を突いてごらん。今度は後ろからする練習だ。上になるより足は辛くないだろう?」

 

 書斎の床は全裸で寝転がってもふかふかな絨毯が敷かれている。

 シクススは両手両膝を床について、四つん這いになった。

 ゆっくり姿勢を変えたので抜けてない。後ろから挿入されたままでいる。

 

「そのまま動くんだ」

「はぃ……。んっ……、あっ、あっ……、ちがうとこあたって……、あんっ♡」

 

 シクススの尻が前後に動き始めた。

 大きな尻は男の股間にぶつかり、柔らかく波打つ。

 動くにつれて背中を覆っていた長い金髪が流れ、染み一つない背中が現れる。男の指が背筋を撫でた。

 背中が反り、顎が上がった。

 

「ひゃあっ! いまの、ぞくっとしてぇ……」

 

 振り返り見上げるシクススは、目に涙を溜めている。

 男に優しく見下ろされ、恍惚とした顔に戻って前後運動を再開する。

 

 男は動かず、シクススに任せている。

 これもまたディルドを使う時の練習なのだ。

 壁などに固定して使う時は、上下ではなく前後に動く必要がある。

 ただし、ディルドと実物はやはり違う。ディルドは完全に固定した形状だが、実物は弾力がある。

 今のシクススは前後に動いて後ろから挿入しているわけだが、シクススに入っている逸物は真横を向いているわけではなく上に反ろうとしている。必然、膣の肛門側を擦ることになる。

 ディルドでこれを再現しようと思ったら、完全な固体ではなく柔軟性がある素材が必要だ。

 木で形を作って塗装するだけならすぐにも用意できるが、素材から見直すとなる時間がかかる。そちらは後日、サプライズとしてシクススにプレゼントすることを決めた。

 当然のことながら、シクスス用に試作したらアルベド様に改良品を献上するのである。

 

 

 

「後ろからだとこう見えるんだ……。前からだと入ってる感じだったけど、後ろからだと本当に刺さってるみたい」

 

 男の隣に座ったソフィーが、上から覗き込む。

 前からだと僅かに見える淫裂が、後ろからだと尻肉に埋もれて全く見えない。膣口は淫裂の中でも下端に空いているので猶更だ。

 代わりにもう一つの穴が見えた。

 

「あぁんっ! 広げちゃだめですぅ……。恥ずかしいところ見えちゃいますからぁ……」

 

 背筋を撫で、尻を撫でまわしていた手が、尻肉を掴んだ。

 尻を触られるくらいだったら情事の時以外も許しているシクススだが、親指が尻の割れ間に入ってきたのを感じて高い声を上げた。

 逞しい指は肉を開いて、隠れている部分を晒しだす。シクススは閉じている部分に外気を感じた。

 そこへ冷たいものが塗られると、緊張で体が強張った。

 次にどうなるか知っているのだ。

 

「あっ、だめぇっ……。お尻までいじめちゃいやですからぁぁああんっ! あうぅ……、ダメっていったのにぃ……」

 

 肛門に触れられている。

 少しずつ力が加わってくる。

 シクススは拒もうと力を入れるが、そうすると締め付けも強くなって良いところを擦られてしまう。

 圧力は弱まらず、一線を越えるとシクススの抵抗むなしく、つぷりと入ってきた。

 

「ほら、動きが止まってるぞ?」

「はいぃ……」

 

 後ろからする時は、肛門をいじるのが礼儀だと思っている男である。

 ラキュースへは重点的に責め、シクススにも何度もしている。ただし、どちらも挿入まではしていない。今のところ指までだ。

 

 シクススは肛門に親指を受け入れたまま尻を前後に動かす。伏せた顔からはぽたりと涙が落ちた。

 泣いてしまうほど恥ずかしいのに、腰の動きは止まらない。

 羞恥も屈辱も、体を好き勝手にされる悲しさも、行為を盛り上げるためのスパイスだと体が知っている。それどころか好んでいる。そうでもなければ、虐められるのが好きな子猫ちゃんになるわけがない。

 虐められて甘えて、心も体もぐちゃぐちゃに溶けて、全てを愛しいご主人さまに受け止めてもらう。

 どんなに虐められても最後は好きだよと言わせて、もとい、言われると何でも許してしまえるのだ。

 

 

 

「お尻でもしちゃうんだ……」

 

 ソフィーは生唾を飲み込んだ。

 もじもじと太ももを擦り合わせる。

 始めこそ、いずれ自分が経験するための予習として真面目に観察していたが、見続ける内に見方が変わってきた。

 

(シクスス、泣いちゃってるのにちゃんと動いてる。お父様が好きだから出来るの? それとも、おちんちん入れてもらってるのがそんなに気持ちいいの? クリトリス触られてたのは気持ちよさそうだったな。私もクリはしたことあるけど中はまだだから。ジュネも入り口を舐めるだけだし。クリなら……。でもおちんちん入れるのはおまんこなんだよね。私でもちゃんと入るかな?)

 

 ソフィーは、自分の姉にしてもいいかなと思ってるジュネから、あれこれと手ほどきを受けていた。

 もとは同性愛のためのエロテク研修で派遣されていたジュネなので、そちらの技は今やシャルティアを凌駕する。ソフィーは処女であってもサキュバスであり、急速に開発されつつあった。

 が、ジュネ曰く「ソフィー様の処女膜を破るのはマイスターのおちんぽ」であるため、膣は入口より先に進んでこない。

 膣内でどう感じるかは未知の世界だ。

 その世界で、シクススがよがっている。

 太い逸物を後ろから挿入され、自ら腰を振ってあえいでいる。時折リズムを変え、または男の方から腰を使って、鳴き声が甲高くなった。

 いつしかシクススの痴態に自分を重ね合わせていた。体が熱を持ってきた。

 

「あ……」

 

 父と目が合う。父は人差し指を唇の前に立てた。

 

(わわわわわ!!)

 

 シクススが上になっていた時は、ソフィーに見られるのが恥ずかしかったらしく両手で顔を覆っていた。今度はソフィーの番になった。

 両手で口を押さえなければ、声を出してしまったに違いなかった。

 男は唇の前に立てた指をソフィーに伸ばし、スカートを手繰り始めた。

 

 ソフィーのドレスはワンピースドレス。色は黒で要所に金糸で刺繍が施されている。夏なのに黒を選ぶから暑いのだ。それでも夏用のドレスで生地が薄い。スカート部分はレース生地。

 スカートが膝まで手繰り寄せられると、素肌を見つけた男の手が内側へ潜ってきた。太ももと太ももの間は、夏の暑さかソフィーが発する熱かで蒸れている。

 きめ細かく滑らかな肌を男の指が這い進み、肉に阻まれることなく奥まで辿り着けたのは、ソフィーが股を開いたから。

 未だ処女でもサキュバスであるソフィーは、男の指がどこを目指しているのかよくわかっている。

 

(お父様はシクススとセックスしてるのにソフィーに触ってくるなんて……。だからお母さまはお父様を選んだのかな? あの時はソリュシャンとルプーと……、6人も一緒に相手してたし。ソフィーが数えてただけでも20回はしてたし。シクススの後でされちゃうのかな? あーどうしよう!? 嬉しいけど嬉しいんだけど!?)

 

 ソフィーが思うあの夜は、アルベドのシークレットサキュバススキル「サキュバスおっぱいミルク」でバフが掛かっていた上に、ルプスレギナが度々回復魔法を掛けていたせいでもある。回復魔法がなくても十回は続けて出来るだろうが、余程の相手でないとそこまで気が乗らなかったりする。なので、劣情を催してソフィーに手を伸ばしたわけではない。

 周囲からの評価とは真逆に、精力はともかく性欲は強くないと思っている男である。今はシクススが頑張ってくれているので満足している。それでもソフィーに手を出したのは、この男なりの思い遣りであった。

 

 真隣に座っているソフィーが上気した真顔で何度も固唾を呑み、太ももと太ももを擦り合わせていれば、行為にあてられて欲情していると察するのは容易だった。

 それなら自分ですればいいものを、やり方を知らないのか隣でするのは恥ずかしいと思っているのか、もじもじするだけで何もしようとしない。

 自分で出来ないのならこちらで解消してやろうと考えたのだ。

 

 親の心子知らず。

 ソフィーは胸を高鳴らせて股を開き、じれったいほどゆっくりとしか進んで来ない手指を迎えようと、座る位置を前にずらした。

 それなのに太ももに乗った手は、奥へ進もうとしない。進めば退いて、また進んでは退いて、少女の太ももをさすっている。

 

「あんっ! ごしゅじんさまぁ♡ シクススの子猫ちゃん、どうですかぁ? おつゆがいっぱい出て、おちんちん全部ほおばって♡ あんっ、あっはぁぁあぁあんっっ!」

 

 シクススの甲高い嬌声に、ソフィーはビクリと震えた。

 

「子猫ちゃんじゃないだろう? ちゃんと言うんだ」

「はいっ、シクススのおまんこです♡ おちんちんで、おまんこいいですぅ♡ あっ、いイッ! あんっ、あっ、ま……たぁ……。あぁ……、ご主人さまはまだなのに、シクススのおまんこは、またイッちゃいました……。あんっ、まってくださひぃいぃあぁぁああぁぁんっ♡」

 

 後背位になってソフィーの姿が完全に見えなくなってから、シクススが乱れに乱れ始めた。

 絶頂を告白した直後は大きな尻を男の股間に押し付け、逸物を根元まで咥えこんだまま息を整える。だけども休める時間は短く、肛門に入った指が親指から中指に変わり、前後に動き出した。

 直腸と膣を隔てる薄壁を擦られ、シクススがまたも高い声で鳴く。

 

「あっ!」

 

 シクススの嬌声に紛れて、ソフィーが声を漏らした。

 太ももをさすっていた手が、いつの間にか奥まで来ている。

 微かに汗ばみ、汗以外でしっとりと湿った薄布に、指が触れている。触れているのがわかる程度の幽かな力加減。触ってなかったのが触ってきたから気付けたが、数秒もそのままでいると本当に触っているのか疑わしくなった。不満と不安と疑問と期待を愛らしい顔に張り付け、ソフィーは父の横顔を睨みつけた。

 父の視線はシクススの背中に向けられている。自分の主張が伝わっているのか不安になる。

 しかし、余計な心配だったらしい。感じるものがあった。

 

(あ…………、なに、これ……? ジュネと違う……。触ってるのに触ってないみたいで。すごい優しいけどそんなに気持ちよくは……)

 

 初めてのお食事の後でジュネに解放されて以降、いずれ来る日のために感度を高めておくことが必要だと言われ、色々なことをされてきたソフィーだ。秘部を触られるのも舐められるのも経験済み。今されていることはそのどれとも違う感触。

 多分おそらく触れてはいる。ショーツ越しに自分のものではない熱をうっすらと感じている。けれども触られている感覚はない。特にその部分はショーツの生地が二重になっているところだ。生地に触れているかどうかでは、感じるどころか触られいるのかどうかすらわからない。それなのに、

 

(ッ!! いまぬるっと来た!? え、うそ、わたし濡れちゃった!? ちょっとそんな感じだったけど、何もされてないのに!? あっ……?)

 

 湿らせている自覚はあった。それが明らかに増えてきた。小さな穴を通って、奥から汁が溢れるのを感じた。

 いやらしい愛撫で濡れてくるのなら経験があるが、触っているのすらわからないような手つきで感じるとは思えない。現に、心地よいとは思っても気持ちいいには届いてない。だけども体は熱くなっている。

 ソフィーが濡れたのを自覚したと同時に、指が離れてしまった。触っているかどうかわからなかったが、離れたのはすぐにわかった。確かに触っていたらしい。

 あれを続けてもらっていたらもう少し感じるものがあったかも、と思うの間もなく、

 

(指が入ってきた!!)

 

 両手で口をしっかりと押える。

 スカートの内側では、男の指がショーツの縁から内側に入ってきた。

 ソフィーが濡れたのを自覚するくらいなのだから、閉じた割れ目の内側は当然ぬかるんでいる。

 逞しい指は割れ目に沈んでぬかるみに浸る。

 中指はすぐに入り口を探り当てた。入り口を狭める薄い膜に触れ、ジュネの指とは違って裂け目を見つけると、容赦なく侵入してくる。

 

「んっ!!」

 

 ソフィーは、膣に指を入れられるのは初めてだ。自分で入れたこともない。

 それを今、されている。

 入ってきた指は初めて入った場所だというのによく知っているらしい。内側で指を折り曲げ、柔らかな肉を優しく掻いて、一点で軽く押した。

 

「んっ………………、んん…………っ、ふにゅぅっ!」

 

 押されただけでソフィーがどうにかなったわけではない。

 押され続ける内に堪らなくなってきた。

 気持ちいいのは確かでも、それ以外の何かが確実にある。何であるかは言葉に出来ない。ジュネにされている時も気持ちよいと感じていたが、それ以上なのか、それとも全く違うたぐいのものなのか。

 男がそっと顔を寄せてきた。

 

(ジュネから色々聞いてる。ソフィーは自分でクリトリスを擦ってみろ。やり方はわかるだろう?)

(は…………はい……。してみます。……んっ……)

 

 ソフィーの手もスカートの中に潜ってきた。

 二人の手が協力してショーツを下す。足首から抜かれたショーツはドレスと同じ黒。

 男がショーツの中に手を差し入れたのは、ソフィーが濡らしたのを察したので汚さないためだった。その甲斐あってシミは出来てないようである。

 

 シクススがソフィーに見られているのを忘れて乱れているように、ソフィーはシクススから見られてないのをいいことにスカートを大きくたくし上げた。

 在りし日のアルベドとは違って無毛の股間。

 大きく股を開き、男の指を受け入れる。

 白く細い指は上から肉芽を押さえつけ、小刻みに動き始めた。

 

 

 

 シクススの肛門に差し込んでいた指を抜き、括れた腰を掴んで腰を叩きつける。

 座っているので少々動きにくかったが、シクススの動きに合わせているので刺激は上々のようだった。

 

 ソフィーは自分の指を嚙みながらクリトリスを愛撫している。

 未通の膣へ差し込んだ指に愛液が絡み、何度か締め付けられた。締め付けた回数だけ達しているだろうに、ソフィーの愛撫は止まない。

 ソフィーに合わせてシクススをよがらせ、ソフィーが終わったらシクススも終えようと思っていたが、残念ながらそこまで保ちそうになかった。

 

(続きはまたしてやろう)

(約束ですよ? 絶対ですからね?)

 

 ソフィーにそっと囁き、頬にそっとキスをされた。

 

「シクスス、そろそろ」

「はいっ! シクススの中にっ!」

 

 腰を引き、シクススの中から抜けた逸物が跳ね上がる。

 ソフィーの視線を感じながら、男はシクススを引き起こした。

 シクススの視線がソフィーに注がれ、存在を忘れていたのか「あっ」と口を開いた。それも男に抱き寄せられる一瞬の事。今度は互いに向き合った状態で、男の上に座らされた。

 シクススの好きな対面座位で、シクススは男に抱き着きながら下から何度か突き上げられた。

 シクススは言葉になりきらない声で男への愛と快感を叫び、きゅうきゅうと媚肉で逸物を絞めつけながら、一番深いところでどぴゅどぴゅと男が愛してくれた証を吐き出された。

 

「あぁ……ごしゅじんさまぁ……♡ ご主人さまを感じます♡ シクススの中でいっぱい出してくれて、ありがとうございます。大好きです♡ これからもシクススをいっぱい愛してくださいね?」

「もちろんだよ。愛してる」

「あぁあぁああぁぁぁぁ………………♡」

 

 シクススは男を受け入れたまま全身でしがみつき、しばらくの間ダメになってしまった。

 ダメになってる間は優しく愛を囁き、髪を撫で、背筋を撫で、頬を擦り合わせてキスをする。事後の礼儀である。

 そんな二人を、ソフィーは羨ましそうな目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 この日の男は帝都のお屋敷に泊まる予定である。大事なく時は進んで夜を迎えた。

 夜はソフィーのお食事がある。ソフィーはお食事をとるとほにゃーとなってしまうので、就寝前にするのが常だった。

 今日のお食事はすこし違う予定であった。

 

「それじゃお昼の続きをしてくれるんですよね?」

「私が不在の間にマイスターとソフィー様の間で何かしらの合意があったのですか?」

「少しだけだったけどお父様に指でしてもらったの! ジュネにされるのよりすごくなかったんだけどジュネよりすごくてあれをもっとされたらどうなっちゃうんだろうって」

「マイスターは私のマイスターでございますから私の遥か上におられるのは当然でございます」

「そう言えばそんな事言ってたっけ? お父様にしてもらうのって初めてだったから少し恥ずかしかったけど、あれだけであんなになっちゃうならもっとされたらもっとすごいんだよね?」

「何回もちんこ咥えてて恥ずかしいも何もないだろ」

「………………」

「………………」

 

 華やいでいた空気が死んだ。

 

「うわぁ…………、お父様サイテー。デリカシーゼロ」

「待て! 俺はソフィーにもデリカシーを発揮しないといけないのか?」

「当たり前です! ソフィーはお父様の娘だけど女の子なんですよ! ちゃんと女の子扱いしてください!」

「だったらお父様と言うな。知らない奴が聞いたら誤解するだろう」

「お父様は私の名付け親なんですからお父様って呼んでもいいじゃないですか!」

「それでしたらマイスターからジュヌヴィエーヴの名を頂いた私もマイスターの娘と言うことになりソフィー様の姉と言うことになってしまいます」

「私はジュネがお姉さまになってもいいよ?」

「そう仰られるのは大変光栄でございますがアルベド様のご息女であられるソフィー様が私を姉と呼ぶのは秩序を危うくしかねる可能性がございます」

「それじゃ言わないで思うだけにするね」

「そのようなことを仰せにならないでください」

 

 貴種の妾腹が本妻の子を敬称をつけて敬い仕える事は間々あることである。

 ソフィーとジュネの関係には掠りもしないかも知れないが。

 

「それより始めないのか?」

「……やっぱりお父様サイテー。空気を読んでください」

「シクススも言ってたけどな。空気は読むんじゃなくて吸うものだ」

「神聖語に不慣れなマイスターはご存じないかも知れませんが、空気を読むとは慣用表現でございまして言葉によらずにその場の雰囲気を察して状況が求める適切な行動をとることを空気を読むと表現するのでございます」

「それは知ってる。日本語辞書は漢字辞典やことわざ辞典も暗記してる。俺が言いたいのは状況に流されて自身の行動を縛るよりもすべき事や予め合意があった事を果たすべきだと言ってるんだ」

 

 突っ込みが不在だと際限なく漫才を繰り広げてしまう三人である。

 どうしょもない掛け合いをしばし続け、熱が失せてしまったソフィーは昼の続きを求めることなくお食事となった。

 

 幸せそうな顔で眠ってしまったソフィーを寝かせてからジュネの番。

 一度や二度では量が減らない精液が薄くなるまで絞り、あるいは吐き出され、ソフィーよりも幸せになってヴァンパイア・ブライドであるにも関わらず夢の世界に旅立った。

 

 

 

 

 

 

 翌日はカルカと双子幼女の相手をする。

 双子幼女はともかくとして、カルカへは可愛がるだけでなく、帝都で始めた美容品の販売についての話し合いがあった。

 生産量や新製品についての要望や相談をしてから、熟れた体を持て余す処女を慰めてやる。

 口や胸でさせてる内に入れたくなってしまったが、この日はエ・ランテルに戻る予定だ。時間がある時に、出来るならば夜になってからが望ましい。

 しかし、帝都の夜はソフィーにとられる。単にしたい時なら、シクススはあちらの気分や都合に左右されるので難しいが、ジュネならいつでも大丈夫。昨日出かけてたのは珍しいことなのだ。

 カルカとはその内機会があるだろうと軽く考えている。

 

 そしてエ・ランテルに戻る時間が来た。

 帝都のお屋敷には毎日来ているのが、ソフィー・シクスス・ジュネ・カルカはいつも見送りに来る。

 

「それじゃ、また明日」

「はーい、おやすみなさい」

 

 毎日来ているのだから別れの言葉も送る言葉も軽いもの。

 帰るのだって机の上の狩場直行君に触るだけ。

 男は机の上の三角錐に手を振り下ろそうとして、

 

「あれ?」

 

 下した手は三角錐に触れず、机を叩いた。

 何かが手を弾いたのだ。

 

「えっと…………。ごめんね?」

「アウラ様?」

 

 何故か書斎にアウラがいた。手にはアウラ愛用の鞭。アウラが鞭を放って男の手を弾いたらしい。

 アウラの背後には闇色の球形。ゲートの魔法である。

 

「これからエ・ランテルに戻るところでございます。何か急ぎの要件がございますでしょうか?」

「うん。だから、えっと……ごめん!」

「うおっ!?」

 

 アウラが再度放った鞭は、男の胴に巻き付いた。

 魚を釣り上げるがごとく男の体は釣り上げられ、ゲートの向こうに放られた。

 

「えーーー………………。明日には返すはずだから! ………………たぶん」

 

 アウラはバツが悪そうに指先で頬を掻き目を泳がせ、誰とも目を合わせずゲートの向こうに姿を消した。

 

 

 

「お父様が…………さらわれた!?」

「マイスターをお招きしたのはシャルティア様だと思われますのでアウラ様が仰っておりましたように明日にはお戻りになるのではないでしょうか」

「それもそっか」

 

 緊迫した空気は一瞬で霧散した。




暑くなければアルベドの出番があるはずでした
アルベドの計画は、次話は無理っぽいのでその次も無理っぽいのでその次あたりに、たぶん


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略奪愛?

本話7.5k
これくらいが読みやすいと思いますがいつもできてないです


「もうエ・ランテルに帰って来てもいい時間よ。あなたは一体どこにいるの? は? わからない? ふざけてるの? えっ…………アウラ様が? ちょっと待ってて。……相談役殿はアウラ様がお連れになったそうです。如何為さいますか?」

「アウラにメッセージを飛ばしなさい」

「はっ! ……アウラ様、ナーベラルでございます。失礼ながら突然メッセージの魔法を使用したことを何卒ご容赦くださいますようお願い申し上げます。火急の件がございます。アルベド様の相談役殿をアウラ様がお連れになったと……シャルティア様でございますか? 相談役をお連れになったのはアウラ様ではなくシャルティア様なのでしょうか? 僭越ながら、いったいどのようなご用件でございますか? …………はい、かしこまりました。仰せの通りに。……相談役殿はシャルティア様がお連れになったそうでございます。お二方は行動を共にしているようでございました」

「シャルティアが? 時々貸してあげてるのに何か勘違いしたようね。シャルティアにメッセージを。すぐに返しなさいと伝えなさい」

「はっ! ……シャルティア様、ナーベラルで…………っっ! いえ、そのような事は……。アルベド様が相談役殿の行方を…………っっ! そう仰られましても、アルベド様はすぐに返すよう…………っっ! ………………、メッセージが切られました。シャルティア様は……、激しい感情をお見せになりまして、私の言葉を受け取ってくださらないご様子です。相談役殿は明日中にエ・ランテルに戻すと仰せでございました」

「シャルティアが癇癪を起してるの? あの子はうまくシャルティアを扱っていたと思ったのだけど」

 

 アウラとシャルティアが一緒に行動しているのは不思議ではない。

 時折口や手が出ることはあっても、創造主が姉弟であるからか、表面上はともかく深いところでは通じ合ってる。

 しかし、シャルティアは癇癪を起しているという。アウラがそんな時のシャルティアに付き合うのは意外だ。率先してシャルティアを窘めるか、口や手が出るか、はたまた相手にしないだろう。

 それでも付き合ってやるのは、シャルティアに弱みでも握られたのだろうか。

 

 シャルティアが癇癪を起した理由も気になる。

 あの淫乱吸血鬼は、自分がいない時を選んで彼と度々会っているようだ。こちらとしてもそれくらいは認めている。自分の前でプレイしていた時は殺意すら抱いたものだが。彼は大いに反省したようなので、同じ過ちは繰り返さないだろう。

 自分が知る限り、彼がシャルティアを怒らせるようなことを仕出かした事はない。

 自分が知らない事ならその限りではないが、聞いてもない事まで報告してくるあの子が自分に隠し事をしているとは思えない。あの女の事だけが唯一の例外で、あれは腹立たしいすれ違いだった。

 あの女はともかく、彼がシャルティアについて自分に隠していることはないだろう。

 彼に付き従っているヴァンパイア・ブライドのミラからも、彼とシャルティアの関係は良好であると聞いている。

 シャルティアとアウラがどんな要件で彼を連れて行ったのか見当がつかない。

 

 彼をシャルティアに貸すくらいなら構わないが、どうして今夜を選んだのか。

 評議国の件で予定がずれにずれていたのがようやっと形なったのだ。今夜は彼が驚く顔を楽しみにしていたというのに。

 シャルティアが癇癪を起したのなら今夜の彼は責められるかも知れない。

 しかし、精神は異常にタフで、肉体は少々の疲労があってもルプスレギナに回復魔法を使わせれば万全となる。

 一日延びるのは残念でも、演出を考える猶予が出来たと思えば悪くない。

 さて、帰ってくるのは朝か夜か。

 

 アルベドが思索に沈む傍らで、ナーベラルが表現しがたい顔になった。

 いつものいい子ちゃんな真面目顔に、不安が浮かぶのはわかるが不満を見せるのはアルベド様の御前だというのに如何なものだろうか。

 

「何か言いたそうな顔をしているわね?」

「申し訳ございません! けしてアルベド様のご判断に意見があるわけではございません!」

「ナーベラルもしばらくこの屋敷に滞在するのでしょう? 私がいるからってずっと肩肘を張っている必要はないわ。ルプスレギナを見習えとは言わないけれど、もう少し肩の力を抜きなさい」

「そうっすよ。せっかくアルベド様がこー仰ってるんだし、ナーちゃんはもっと楽を覚えた方がいいっすよ?」

 

 ルプスレギナはふにゃりと笑う。

 アルベドは、シャルティアほどではないが上下関係に厳しい。ただし、プライベートは別である。形式を重んじない場で格を毀損しなければ、砕けた態度を許している。

 そう思われていないのは、シャルティアと違って常に言葉遣いと所作が美しいからだ。

 砕けた態度で良いと言われても、アルベドの前に来ると背筋が伸びてしまう者は多い。いい子ちゃんで真面目ちゃんなナーベラルはその筆頭である。なお、ゆるゆるの筆頭がルプスレギナである。

 

「い、いえ! アルベド様に申し上げたいことがあるわけでは……」

「私じゃないのなら誰に言いたいのかしら? ソリュシャンやルプスレギナたちになら言えないわけないわよね。メイドたちも違う。パンドラズ・アクターが相手ならわかるけど、ここでする顔じゃないわ。すると、残るのはあの子ね?」

「そ、れ、は…………」

 

 さすがのアルベド様である。ナーベラルが何かしらを言いたい相手を一瞬で探り当てた。

 

「ナーちゃん、言っちゃったほうがいいっすよ? この前も私たちにぐちぐち言ってたじゃないっすか」

「ナーベラルが言えないなら私からアルベド様に伝えてもいいのよ? 知られたくないのなら言わないけど、そうじゃないわよね?」

「うう…………。実は……、アルベド様の相談役殿のことなのですが………………」

 

 ナーベラルはたっぷり10秒溜めてからこう言った。

 

「私が傍にいると……、胸が痛むと口にするようになりまして……」

「胸が痛むぅ!?」

 

 あの男に痛む良心があるのだろうか。いや、ない。

 あり得ないことを言われたのだから、アルベドが驚くのも無理はなかった。

 

 胸が痛んだ現場に居合わせたソリュシャンが苦笑を浮かべ、説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 ナーベラルのお悩み相談の原因となった男は、どことも知れない場所に囚われていた。

 

 ナザリックのシャルティアの守護階層である「屍蝋玄室」なら、噎せ返るほどの甘ったるい香りが充満している。それ以外の場所では「墳墓」特有の乾いた臭いがある。しかし、いずれもない。

 アウラの守護階層である「ジャングル」でも、空気の湿度と匂いだけでわかる。しかし、こちらも違う。

 

 屋内であるのはわかる。

 部屋の中は暗く、細部まで見渡せない。見える範囲において、掃除が行き届いているらしく散らかってはいない。ただし、それほど豪華な部屋ではない。それどころか、質素と言ってもよいだろう。

 はっきりと見える足元は単なる板張りの床。これと言って磨いてはない。床板が見えるのだから敷物もない。

 果たして、ナザリック内にこんなにも質素な部屋があるだろうか。

 ナザリックを隅から隅まで知っているとは言えないので、絶対にないとは言い切れないが、可能性は低い。

 第九階層にある緊急時用のシークレットルームでも、床はきちんと磨き上げられていた。それ以前に材質が違う。ナザリックでは木製の床が少ないのだ。

 どこかの階層で木造小屋あるいは部屋を新設したとも思えない。場所はいくらでもあるだろうが、空気が違う。室内に忍び寄る空気は夏の夜気。

 ナザリックの外に建てられた小屋であると推測できる。

 それがどこであるかは、候補地がありすぎて見当がつかなかった。

 

「せめてほどいて頂けませんか? このようにされなくともどこにも逃げません。そもそも逃げられません」

 

 足元しか見えないのは動けないからだ。椅子に座らせられ、体を背もたれに縛り付けられている。

 縛っているのは長い鞭。

 

「私もそうしてやりたいんだけどね。言っても聞いてくれなくて」

 

 暗い室内で、仄かに光る幼い美貌。帝都の屋敷で己を拘束したのはアウラである。

 アウラ単独の行動なら、魔獣を使って移動したと思われる。が、使ったのはゲートの魔法。アウラが使える魔法ではない。

 ゲートの魔法を使用するのは、まずアインズ様。しかしアインズ様の命令で連れてこられたのなら、拘束時に「ごめん」と謝る必要はない。アインズ様のお名前を挙げてついてこいと言えば済む話である。

 必然的にもうお一方になる。

 

「シャルティア様は私がこの場から逃げるとでもお思いですか?」

「……………………」

 

 アウラの態度から、用があるのはシャルティアだと察せられた。

 そのシャルティアは姿を見せない。ただし、気配はある。椅子の後ろにいるようだ。椅子に縛られながら限界ぎりぎりまで振り返ると、仄白い影が見えるような気がした。

 この距離でシャルティアに聞こえないわけがない。視線でアウラに問うと肩を竦ませた。

 シャルティアが何を思っているかわからないが、アウラの言葉さえ届かないなら自分の言葉が届くわけがない。アウラの言葉が届かないほどに、何かしらの感情が高ぶっているらしい。

 

 ミラとジュネから聞いたところによる以前のシャルティアは、些細なことで癇癪を爆発させてその度にヴァンパイア・ブライドたちの首を物理的に飛ばしていたとか。

 今のシャルティアがそこまですると思いたくないが、扱いを注意するに越したことはない。己の命はアルベド様のものなのだ。シャルティアの気分で失うわけにはいかない。

 

「それではこのような姿勢ではありますが、お話を拝聴させていただきます。私をこの場に連れてきたのはどのようなご用件でございましょうか?」

 

 話があるなら普通に帝都でもエ・ランテルでも、どちらかの屋敷を訪問してくれればいい。それを帝都にいる時に拉致されたのだから、間違いなく声を大にしては語れない話。

 シャルティアとアウラの気質は大分素直だと思っていたので、このような内緒話は少々意外に思えた。

 

「ほら、シャルティア」

「………………」

「連れてこいって言ったのシャルティアじゃん。いつまでも黙ってたんじゃわかんないでしょ? そりゃ、私があんな話をしたせいかも知れないけどさ」

「アウラ様がシャルティア様にどのようなお話をなさったのでしょうか? 私が関わる話なのですね?」

「まあ……そうなんだけどね」

 

 アウラの歯切れが悪い。

 本人不在の場でシャルティアに話をしてしまったことを後ろめたく思っているらしい。アウラが善良である所以である。もしもシャルティアとアウラの立場が逆だったら、シャルティアが悪びれることは絶対にないだろう。

 

「私の事で、アウラ様がわざわざシャルティア様にお話為さるような件がございましたでしょうか?」

「わざわざって言うか。もののついでに話したって言うか」

 

 アウラの歯切れはやはり悪い。わざわざ時間を作ってシャルティアと話をする場を設けたのだ。

 件の話を聞いた翌日の朝にシャルティアのところを訪れたのだが、その日は寝坊してしまったため生憎の空振り。考える時間が出来てしまった。

 シャルティアに話すか否か。話したところでどうにかなるとは思えないしどうにかしたいのかもわからない。

 散々悩んだ末に悩むのが馬鹿らしくなり、思い切ってシャルティアに話したのが数時間前。

 シャルティアの決断と行動はとても迅速だった。

 

「あんた、結婚するとか言ったでしょ?」

 

 男の背後で気配が動いた。

 

「申しましたが、それが何か?」

「私に話した時色々言ってたじゃん。それと同じ話をシャルティアにしてやって。わかりやすくね」

「かしこまりました」

 

 先日ナザリックを訪れた折、アウラから誰と結婚するのかと尋ねられた。

 複数人の名を挙げ、どうしてそうなったのか、そんなことが可能なのかと重ねて問われ、解説した。

 同じことをシャルティア向けに嚙み砕いて話をする。

 

「私との結婚を求めたのは、順番にソリュシャン、ルプスレギナ、ユリ、ナーベラルの四名です。帝国ではデミウルゴスさまから頂いたカルカを対外的な妻として扱っています。もうじき帝国から魔導国に移るレイナースを第六夫人にしてはどうかとソリュシャンから提案されていますが、レイナースの意思もあるため、これは未定となっております」

「…………」

 

 背後の気配が揺らぐ。

 シャルティアの顔は未だ見えず、シャルティアの顔が見えているアウラは頬を引き攣らせた。

 

「複数人との結婚は魔導国では禁じられておりますが、この件に関しましてはアインズ様から一任されております。アルベド様からのご了承も得ております」

 

 アインズ様はどうにかしろと仰ったのだから、解決する方策を一任するということである。

 アルベド様に一連の件について報告したら各々の事情を問うだけで否定は為されなかっただから、許可を出したということである。

 

「勿論すぐに、というわけではありません。アインズ様は最低でも一年は熟慮せよと仰せでございましたが、実際に婚姻関係となるのは更に先となりましょう。まずは婚約となると思われます」

 

 シャルティア向けの話なので細かいところは割愛する。

 割愛した部分を述べると、セバスを動かしてナザリックのシモベたちが結婚出来る制度に道筋をつけた。

 順番から言えば、新制度が適用される第一号はセバスその人になるだろう。セバスが副官としているツアレと憎からず思う仲であるのは周知なのだ。セバスが先であることは、結婚を一番に言い出したソリュシャンも納得している。

 結婚するのが先の事だとしても、それまで何もないのはソリュシャンたちがうるさいと思われる。破るつもりはないが、現状では口約束しか交わしていない。

 結婚する約束を確かなものにするために婚約をするのだ。安心材料を与えてガス抜きをするとも言える。

 

「様々な方が興味をお持ちなのは、結婚後の生活だと思われます」

「……」

「……うん」

 

 無言のシャルティアをアウラが代弁する。アウラ自身も大いに気にかかる部分だ。

 

「アウラ様には簡単にお話したことですが、結婚以前と大きくは変わりません。結婚すると申しましても、私がソリュシャンたちを妻として所有するわけではないからです。むしろ私の方がソリュシャンたちに共有される事になります。中でもアウラ様がお気になさっていた性生活については」

「わわわわわたしはそんな事言ってないでしょ!?」

「左様でしたでしょうか? 私が思い違いをしていたようです。ですが、折角ですのでそちらの話をさせていただきます。こちらも今までと変わりはありません。こちらを制限されますと、私の存在意義がなくなります。アウラ様もシャルティア様もご存知の通り、私はアルベド様の給仕係です。サキュバスであるアルベド様に精液を提供、つまりはセックスですね。アルベド様とセックスすることが私の最優先すべき役割ですので、結婚したからと言ってそちらを制限されるわけにはいかないのです。であれば、アウラ様とシャルティア様との関係もこれまで通りに」

「別に私は…………」

 

 アウラは赤い顔で横を向く。

 結婚云々の話を聞かされた直後に激しく抱かれているアウラである。

 

「わかりんした」

 

 ずっと黙っていたシャルティアが、初めて口を開いた。

 アウラは色ぼけた顔を元に戻した。

 男の向こうでシャルティアが嗤っていた。

 

「アウラからお兄ちゃんが結婚がどうのと聞いて、つい話を聞きたくなったんでありんす。お兄ちゃんの話はよーっくわかりんした」

「わかっていただけたのなら幸いです。それではこれをほどいて頂けませんか?」

「もう少しそのままでいなんし。すぐ終わりんすから」

「何を為さるのでしょうか?」

「だからすぐに終わりんす」

 

 背後からシャルティアの手が首筋に触れた。愛しむように優しく撫でられ、冷たい肌が心地よい。

 

「ちょっとシャルティア!? 何するつもりなの!?」

「黙りなんし。アウラが私に話したのはこーいうことでありんしょう?」

 

 色を成すアウラに、シャルティアは取り合わない。

 男が着るジャケットとシャルの襟の下に手を差し入れたが、このままでは邪魔だった。

 ジャケットは左右に引っ張れば良いとして、シャツはボタンを外して襟を広げた。肩まで露出させたいところだが、腕もろとも椅子に縛り付けてあるのでこれ以上は脱がせない。破るのと汚れるのでは、汚れる方がマシだろう。

 

「それはまずいって!」

「黙れええぇぇえ!!」

「うわっ!」

 

 止めようとするアウラの手を、シャルティアは力任せに打ち払った。弾き飛ばされたアウラは、宙で一回転してから着地した。

 

 シャルティアの目からは赤光が漏れ、赤い唇からは吸血鬼の白い牙が覗く。

 ここにいたって、男もようやくシャルティアがしようとしていることに察しがついた。

 それは、かなり、不味い。

 かつては僅かながらに考慮することもあったが、今となっては絶対に避けるべきことなのだ。

 

「シャルティア様! 私の話がわかっていただけたのではないのですか!?」

「よーーーーーーっくわかりんしたよ? こーするしかないって事が」

 

 プライドの高いシャルティアだ。ナザリックで一番親しいアウラであろうと言えないことがある。

 

 シャルティアはアインズ様の正妃に立候補している。図々しいことにアルベドも立候補している。

 己の勝利を疑わないシャルティアだが、勝者が出れば敗者も出るのが道理。

 その時、負けた方はアインズ様の第二夫人になるのか、それ以外の道があるのか。

 それ以外の道として、シャルティアは目を付けた男がいた。

 絶対に誰にも言えない事だが、もし万が一に何かの間違いが起こったら、この男を夫にしてもよい。密かにそう思っていた。

 そしてその時のアルベドはアインズ様の正妃になっているのだから、有無を言わせるつもりはない。

 だというのに、自分を差し置いて、他の女と結婚するという。

 そんな事は道理が狂っている。許してはいけない事だ。正さなければならない。

 

「お待ちください! 私が結婚してもシャルティア様とはこれまで通りに」

「はいはい、ぜーんぶわかりんした。すぐ終わるから大人しくしなんし」

「私はアルベド様直属です! アルベド様と、そしてアインズ様にどうお話するおつもりですか!」

「それは後でお前が考えなんし。私のために喜んで知恵を振り絞るようになりんすから」

 

 この男は、アルベドとデミウルゴスが認めるほどの能力がある。自分には全く思いつかないが、この男なら正当な理由をどこからか捻り出してくるだろう。

 

「まっ…………」

「シャルティア!!」

 

 男の声にも、アウラの声にも耳を貸さない。

 

 シャルティアは男の首筋に口付ける。

 鋭い牙が皮膚を破き、頸動脈に穴をあける。熱い血潮が口内に溢れかえった。

 

 シャルティアは、至高の美味に喉を鳴らした。




一週間先まで最高気温が38度くらいでどこを訴えればいいのかわかりません


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イス

本話14k


 初めて口にした時から虜になった。

 月光を溶かしたかの如き滑らかな舌触り。吸血鬼であるからこそ感じる濃厚な旨味。どんな美酒だろうと麻薬だろうと再現できない天にも昇る陶酔感。悲しみも苦しみも全てを忘れさせる酩酊感。

 

 それだけであるならとっくに飽きていた。

 幾ら美味でも続けて飲めば飽きるもの。偉大なるペロロンチーノ様も「カレーはうまいけど三日も続くと飽きる」と真理を述べられておられる。

 

 この男の血は単に美味であるだけでなく、奥深いのだ。

 まるで男が生きてきたこれまでをなぞっているような、或いは官能的な一夜を共に過ごしているような。

 飲む度に新たな発見がある。

 採血してから時間が経ったものを飲んでも至福だというのに、口移しで直飲みする時は言葉にならない。吸血鬼として生を受けた意味の一つは、これを味わうためと断言できる。これを知らなければ生まれた意味がなく、これを知ったからこそ生に彩りがある。

 もしも限られた量しかなかったら、宝物庫の奥深くに仕舞い込んで善き日を祝う時しか口をつけられない事だろう。

 

 これからはそうなるのだ。

 

 この男の配下となったヴァンパイア・ブライドのミラから、吸血によって被吸血者が吸血鬼に転化する条件を詳しく聞いている。

 吸血によって吸血鬼にするには、肉に牙を刺した状態で血を飲むこと。男の首筋に嚙みついたシャルティアは、完全に条件を満たしている。

 吸血鬼になってしまったら、温かい血は流れない。吸血鬼が吸血鬼の血を飲むことは、不可能とは言わないが稀である。不味い上に滋養にはならないのだから。

 

「んっ……んっ…………」

 

 温かい血が喉を通り、体を熱してくる。頭が熱せられるのが先かも知れない。

 いつもなら官能的な美味に酔いしれるところだが、今日は違った。

 これが最後なのだ。

 最初で最後の、己の牙を使った吸血。

 首筋から唇を離せば、この血を永遠に失ってしまう。

 

「んっ……うぅ……」

「シャルティア…………」

 

 見ていることしか出来ないアウラは、思わず声を掛けた。シャルティアを罵倒したかったのに、声音には慰めの湿り気があった。

 

 シャルティアは、泣いていた。泣きながら血を啜っていた。

 永遠に失うが、新たに得るものもある。

 それが失ったものに釣り合うかはわからない。

 寂しいのか悲しいのかわからない。

 失うのだから喪失感がある。何かに見放されたような寂寥感もある。取り返しのつかない事をしてしまったこの気持ちを何と呼ぶか、シャルティアにはわからない。

 後悔なのか、後悔せざるを得ない事をしたのは一体何に背中を押されたのか。どうしてこんな事をしたのか。シャルティアにはわからなくなった。

 

「あぁ…………」

 

 肉から牙が抜け、首筋から唇が離れ、シャルティアは男の背中に抱き着いた。

 心がどんなに荒れ狂おうと、肉体を支配する強い酩酊感に立っていられなくなった。

 

 ややあって、声が響いた。

 

「……アウラ様、私の拘束を解いて頂けませんか?」

「………………うん」

 

 シャルティアには男の声が遠く、アウラには硬質に聞こえた。

 

 アウラは男を縛る鞭の持ち手を掴むと、軽く引っ張っただけで拘束が解けた。

 男は自身にすがりつくシャルティアの手を優しく包み、シャルティアが倒れてしまわないよう注意して立ち上がる。

 空いた椅子にはシャルティアを座らせた。

 

「アウラ様、その鞭をお借りできませんか?」

「いいけど……、何するの?」

「すぐお分かりになります」

「はにゃ?」

 

 シャルティアが呆けた声を出す。

 最後の吸血で酔いしれていても、自分の体が縛り付けられればわかるらしい。

 男は先ほどまでの自分がされていたように、長い鞭を使って椅子の背もたれにシャルティアの細い体を縛り付けたのだ。

 

「にゃっ……にゃにを、すりゅぅう!!」

 

 シャルティアの怒声は呂律が回ってない。

 酔っていなければさぞや迫力ある顔を見せたろうが、残念ながら酩酊状態。酩酊していなくとも、シャルティアの怒声で怯む男ではなかった。

 

「それはこちらの台詞です。いきなり血を吸うなんてどういうおつもりですか? あーいう風に血を吸うと吸血鬼になってしまうと、ミラから報告が行っていたはずですよ?」

「ほえ?」

 

 そーいう風に血を吸われた男は吸血鬼に転化したはずだった。

 吸血鬼による吸血によって吸血鬼になった者は、闇の父あるいは闇の母に絶対服従となる。よろめく母を椅子に座らせるのはおかしなことではないが、その後に縛り付けるのは異常事態だ。

 

 男は厳しい目でシャルティアを見下ろす。

 何がどうなっているのか、シャルティアは考えがまとまらない。アウラが代弁した。

 

「あんた、ちょっとこっち来て口開けて」

「私がバンパイアになったかを確認するためでしょうか?」

「いいから早く」

 

 男は言われた通りにアウラの前に跪き、口を開ける。歯は白く艶がある。歯並びもよい。肝心の犬歯は伸びてない。

 アウラは指を男の口に突っ込んで犬歯をつついてみる。犬歯なので鋭いことは鋭いが、吸血鬼の牙とは明らかに違う。

 続いてほっぺをなでなで。肌触りや柔らかさは措いておき、温かい。これまた体温がなくなる吸血鬼とは違う。

 ついでにシャルティアが噛んだ場所を確認。首筋には小さな傷が二つ並んでいる。シャルティアの牙を見れば深い穴が空いてもおかしくなさそうだが、少しだけ皮膚が破れているようにしか見えない。

 男には脈がある。つまり心臓が動いているのだから、シャルティアがつけた傷がそのまま残っていると、噴水のように血が噴き出る。そうなってない以上、傷が癒えたと考えられた。

 

 アウラはシャルティアに向かって首を左右に振って見せた。

 どこからどう見ても吸血鬼ではない。男は人間のままだった。

 

 シャルティアは真祖の吸血鬼である。闇の父も闇の母もない生まれながらの力ある吸血鬼。

 そのシャルティアに吸血されたのだから吸血鬼にならないとおかしい。

 道理を捻じ曲げる何かがこの男に働いている。それがなんであるか、当事者である男は思い当たるものがあった。

 

「アウラ様とシャルティア様にはまだ報告しておりませんでしたが、私はとある功績によってアインズ様から褒美を下賜されたのです。その件に関しましては、アインズ様は慎重に扱うことをお決めになりましたので詳しいことをお話し出来ない事をご了承ください」

 

 アズスから色々な話を聞きだした件である。この件が漏れると、どこぞの吸血鬼が吶喊してしまう危険性があるため緘口令が敷かれているのだ。

 

「私はアルベド様に、アインズ様に、ひいてはナザリックに長く仕えるため、アインズ様に不老不死を望み、与えられたのです!」

「「!!!!!」」

 

 アインズ様がお持ちの不老不死を与えるアイテムと、シャルティアの吸血鬼としての特性では、誰が判断しても前者が勝る。男の言葉は説得力を持って二人に響いた。

 が、件のアイテムはとても美味しいだけのドリンクである。と、アインズだけは知っている。吸血鬼化を防いだのは、この男が持つクラス特性によるものだ。

 

 

 

 アインズだけが気付いていることであるが、この男はセバスが死亡判定を出した状態でアインズの話を聞いていた。

 死亡判定を出したのは他ではないセバスである。心臓の鼓動も呼吸もない事を確かめ、気を操る術に優れたセバスが死んだと判断したのだ。肉体は確実に死んでいた。

 肉体が死んでいても話を聞くことが出来たのは、精神は生きていたからだ。

 お骨になったアインズが死んだ目でデバッグモードレベルと見做すクラスである。肉体が死んだ程度で真の死は与えられない。肉体があってこその精神だが、逆転している。精神があるから肉体がある。

 

 少々の傷ならすぐに治るようになってきたのを、上等な食事にポーションや回復魔法の多用で体が丈夫になってきた、と当人は思っている。

 実のところ、精神に合わせて肉体が戻っている。ソリュシャンにトロトロされたりエントマにモグモグされても、当人が自身のクラス特性を把握して意識さえすればすぐに元通りになる。残念ながらアインズの懸念によってクラス特性を知らされていないため、そうはなってない。これからもルプスレギナを手放せない日々が続くことだろう。

 そこでシャルティアの吸血である。吸血によって人間の肉体に死を与え、吸血鬼として新たな生を与える。しかし、この男へは吸血によって死を与えることが出来ない。転化のための儀式が完了しないのだ。

 アインズがぶちぎれるレベルの隠しクラスが、ただの吸血でなくなるわけがなかった。

 

 

 

 男が人間のままでいることに、アウラは胸を撫で下ろしたがシャルティアは冷や汗だらだらである。

 吸血して吸血鬼にしようとした理由は、この男に考えさせるつもりだった。それが叶わなかった以上、正当な理由を考えなければならない。

 さもなくば本件をアルベドはいいとしてもアインズ様に報告され、叱られてしまう。そしてそれ以上に恐れることがあった。

 

 普段はピンク色のシャルティアの頭脳が、この時ばかりは灰色になって高速で回転した。

 

「違うでありんす!」

「何が違うのでしょうか?」

 

 わけも分からず吸血鬼にされそうになったのだ。男の声は依然硬い。

 

「今のはあれでありんす。あれはそう……これではなくて…………」

「指示語ばかりでは何のことだかわかりかねます。あれとこれとはいったい何のことでしょうか?」

「だからあれでありんすからにして…………」

 

 必死で言い訳を捻り出そうとしていると、男の向こうでアウラが苦笑しているのが見えた。

 シャルティアは閃いた。

 

「あれはそう……、テストでありんす!」

「テスト?」

「お前は知りんせんようでありんしたが、アウラが今までお前に色々食べさせてたのは魔法の効果がある果物だったんでありんすよ!」

 

 男はパチパチと二度瞬き。

 初めて聞く話の真偽を確かめようとアウラを見れば、露骨に狼狽えていた。どうやら本当であるらしい。

 

「それはもうすっごい効果があって? 寿命が延びたり老化が止まったり回復力が増したり無敵になったりといい事尽くめでありんす!」

 

 シャルティアの舌がペラペラと回る。

 

「効果は一時的じゃありんせん。ずーーーっと続くんでありんす! お前は気付いてなかったようでありんすが、食べる前に比べたらずっとずーーーっパワーアップしてるんでありんすよ!」

 

 アウラから「差し入れた果物はメイドたちにあげてないよね?」と確認されたことを、男は覚えている。

 美味しいだけではなくそのような特殊効果があるのなら、雇っただけに過ぎないメイドたちに振舞えないのは当然だ。アウラに答えた通り、一番食べていたのは自分である。次にソリュシャンとルプスレギナ。そこにカルカが加わっていたりする。

 最近のカルカは以前よりも肌と髪の艶が良くなってきたそうで、各種美容品の効果を絶賛していた。が、もしかしたらアウラから差し入れられた果物の効果なのかも知れない。

 美容品についてはレイナースも褒めていたので品質は高いと思いたい。

 それはそれとして、カルカ以外に試作品の試用者を増やすことを決めた。

 

「だから、……そう! 血を吸ってもヴァンパイアにならないことはわかっていんした。それを確かめるためのテストでありんす!」

 

 シャルティアは自信満々にババーンと言い放った。

 

 シャルティアはシャルティアだからと言われるシャルティアであるが、けしておバカではない。知恵の使いどころが間違っているだけなのだ。

 仮に説得対象がアウラであれば、疑惑の眼差しを向けられるだろうが何とか飲み込んでくれたことだろう。階級が階層守護者未満の者であれば、階層守護者の威光でもって有無を言わせない。

 しかし、今回は相手が悪かった。整合性をとても気にかけ、道理から外れれば主神にすら反論する男である。

 

「なるほど、筋が通っているように思えます」

「そうでありんしょう!? だからすぐにこれをほどきなんし。階層守護者である私を? 椅子に縛り付けるなんて不届き千万でありんすが? 今すぐにほどくなら不問にしてやらないでもないでありんすよ? お前は私の優しさに感激してむせび泣きなんし!」

 

 シャルティアは勝利を確信した。たちどころにいつものペースに戻り、この件はこちらからあちらへの貸しと云うことにしてどういう形で取り立ててやろうかと考えた始めたところで遮られた。

 

「ですが、前後のやり取りを振り返りますと、シャルティア様もアウラ様も私がバンパイアに転化することを前提としていらっしゃるご様子でした」

「そんな事ありんせん! お前の気のせいでありんす!」

「吸血前に、アウラ様は「それはまずい」と仰いました。シャルティア様は「吸血した理由は後で私に考えされればよい」と仰いました。何よりも先ほどの説明では、こうするしかないと仰った理由が不明です。また吸血後のアウラ様のご様子は、私がバンパイアに転化しているものと思われていたようです」

「う…………」

「アウラ様は如何思われます?」

「えーーーっと。確かにあんたにはいろんな効果がある果物をあげてたけど……」

「そうでありんす! 私はアウラの計画に乗ってやっただけで全部ぜーんぶアウラが考えたことでありんす!」

 

 揺れていたアウラの目が一瞬で据わり、冷え切った。

 このおバカな吸血鬼は、擁護してやろうとした自分に全てを押し付けようとしたのだ。シャルティアに隙を見せてはいけないとよーっくわかった。

 

「私は何も聞いてないよ。あんたを連れてきたのは私の話が原因だから手伝っただけ。果物の効果の検証とか全部嘘。シャルティアがいきなり吸血して、あんたを吸血鬼にするつもりだったみたい」

「アウラァアアァァアアア!!」

「なに? 私に何も言わないでいきなり血を吸ったのはシャルティアじゃん」

 

 血も涙もないアウラの裏切りに、シャルティアの心は怒りに燃えた。何としてもこのちびっ子ダークエルフに事の道理を教え込んでやらねば気が済まぬ。

 しかしそれは、目の前の難事を見ない振りするための現実逃避に過ぎなかった。

 

「やはり私をバンパイアにしてシャルティア様の眷属にするためだったのですね。どういうおつもりですか? 理由如何によってはアインズ様にご報告する必要が出てきます。私はアルベド様の配下にありますが、それをシャルティア様が強奪しようとしたのですから。そのような事をされては組織の運営に関わります。大きな問題になりかねません」

「うっ……。アインズ様には内緒にして欲しいでありんす……」

「私も叶うならばそうしたいと思っております。結果として何も起こらなかったわけですから、大事にはしたくありません。ですが、同じことが繰り返されるととても困ります。困るのは私だけではありませんよ? 組織に、つまりナザリックに関わる者全てです。アインズ様がお困りになるのですよ。シャルティア様はアインズ様を困らせたいわけではありませんでしょう?」

「もちろんでありんす!」

「そのためには、同じことが起こらない保証が必要になります。シャルティア様がお話になる理由から同じことが起こらない確信が得られれば、この件は私の胸に納めることをお約束します」

「それは…………」

 

 俯くシャルティアを、アウラは腕組みして見下ろす。

 シャルティアが行動した理由はわからなくもないが、助けてやる気はもう失せた。これはシャルティアの自己責任もとい自業自得である。

 

「アインズ様にご報告した場合、シャルティア様は私への接触禁止令が出ることでしょう」

「!!」

 

 シャルティアの顔が跳ね上がった。

 アインズ様に叱られるのはとても厳しくて悲しい事だが耐えられないでもない。現に叱られたことが何度となくある。しかし、もう一つは受け入れられない。

 意思を込めて見返した目は、どこまでも冷静だった。

 

「おかしなことではありません。同じ問題が起きないよう対処するのは当然のことです」

「お前は私に二度と会えなくてもいいのか!?」

「ですからそれを避けるために理由をお話しくださいと言っています。何もわからなければあった事をご報告するしかありません」

「うぅ………………」

 

 シャルティアの頭が、またもがっくりと項垂れた。

 このまま口を噤んでいると、アインズ様に厳しく叱られてこの男への接触禁止令が出る。

 理由を話すのは、心に秘めた計画が露見する可能性がある。そして恥をかく。

 

「……話したらアインズ様に報告しないと約束しなんし」

「出来かねます」

「だからお前はぁあアア!!」

 

 力ある吸血鬼が目から赤光を漏らして怒りの叫びをあげても、男の態度は変わらない。

 冷めた目でシャルティアを見下ろし、正直に話せと迫り続ける。

 二度と会えなくなるかも知れないのに、男の態度は冷めきっている。

 男を見続ける内に、シャルティアは自分が馬鹿に思えてきた。

 

 男を吸血した理由を一言でいえば、盗られたくないからだ。

 愛の行為を交わし、愛の言葉を交わし、至高の血を差し出され続けてきた。男の血と命と心が、自分の中にある。確実にある。

 己は至高の御方であられる尊きペロロンチーノ様に創造された。今やこの男の一部が自分を形作っている。いや、一部なのだろうか。己を新しく作り直したのではなかったか。

 男の一部でも自分の一部ではなく、全部なのではないだろうか。

 血と命と心が重なって混じりあって、一つに溶け合って新しく生まれたのではなかったか。

 新しくなったのは自分だけで、この男は違うと云うことか。

 そうでもなければ、二度と会えなくなるかも知れないのにこんなにも冷めているはずがない。

 そうでもなければ、アインズ様に報告しようとするはずがない。

 想うのは自分だけで、向こうは何とも思っていなかったのか。

 有象無象の一つとでも思っているのか。

 

 怒りは間違いなくある。

 それ以上に、醒めてしまった。

 美味な血に酔いしれ、血の狂乱を抑えるために力を振り絞って、最後と思った吸血は言葉に言い表せるものではなく。

 それが、全て、醒めてしまった。

 

 全てが馬鹿らしく思えて仕方なかった。

 どうなろうと構わない。でもアインズ様に叱られるのはやっぱりきつい。それだったら全て話した方がずっとまし。

 失うものは何もない。

 得ていたと思ったものは、空っぽだったのだから。

 たとえアインズ様が認めた男であろうと、人間の男に心を預けたのが馬鹿だったのだ。

 

「お前が結婚するのが気に入らなかったでありんす。吸血して眷属にすれば私の命令に服従するでありんすから。そうすればお前はずっと私のものでありんした。でも安心しなんし。もうそんな気はありんせん。そんな事するよりずっと血を絞ってた方がお得でありんす。アインズ様に報告するのは好きにしなんし。その場合もちゃんと血を寄越しなんし。接触禁止令が出てもそのくらいなら構いんせんでありんしょう?」

 

 葛藤はどこに行ったのか、全てを話した。

 後は野となれ山となれ。どうなろうと構わない。どう思われようと構わない。

 

「そういうことでしたか」

 

 冷めた表情が和らいだ。

 だとしても、関係断絶を前にしてあんなにも冷めていた男だ。シャルティアの冷え切った心は動かない。動かないはずだった。

 

「シャルティア様のお気持ちはとても嬉しく思います」

「は?」

 

 呆けた声を出したのはアウラだ。

 シャルティアは、何を言われたのかわからなかった。

 

「仮に私がバンパイアとなってどのような理由を述べようとも、シャルティア様がアインズ様からお叱りを受けることは避けられなかったことでしょう。シャルティア様はそこまでして私を欲してくださったのでしょう? 光栄に思わないわけがありません」

 

 今までを振り返り、自ら行動して己を求めてくれたのはシャルティアが初めてなのだ。それも、アインズ様からのお叱りを覚悟して。

 嫉妬めいたことは他の者も見せることはあった。特にソリュシャンは、ユリと結婚すると話したら突然ドアをぶち破って攻撃を仕掛けてきた。どんな攻撃を仕掛けようと思ったのか、かなり致命的な状態に陥ったのは間違いない。それとて一方的な行動。痛い目に遭うのは自分だけだ。

 シャルティアはそこから一歩進み、自分が傷つくことを受け入れて行動した。そこまで高く評価している、と云うことである。

 

 なお、ユリとの結婚話を聞いたソリュシャンは、この男を速やかに殺害した後は自裁するつもりであった事を、当の男は全く知らないでいる。

 

「お……、お前は…………」

「はい、なんでしょうか?」

 

 男はシャルティアを見下ろしてはいない。

 縛られたシャルティアの前に膝を突き、柔らかな微笑を見せている。

 

「私が……、お前を自分のものにするのを、嬉しいと。そう言いんしたね?」

「はい。シャルティア様からそう思われて嬉しくないわけがありません。私はアルベド様直属なのでご希望には添えかねますが」

「だったらどうして私以外と結婚する!!」

「はい?」

「だってそうでありんしょう! 私にあんなに好きとか愛してるとか言ったくせに私以外の女と結婚するんだろう! そうしたら……そうしたら……!」

 

 それ以上は言葉にならなかった。言葉にしたくなかった。

 結婚とは愛し合う男女がするものだ。結婚してしまったら、結婚した相手以外とイチャイチャラブラブすることは不可能。自分以外の女と結婚するのだから、今までの関係は完全に失われてしまう。シャルティアはそう思っていた。

 

「結婚したら、何でしょうか?」

「こっっのっっっっバカッッッッッッ!!!」

 

 シャルティア様はシャルティア様だからと言われるシャルティア様にバカと言われるのは心に来るものがあった。

 

「お前が結婚したら……!」

「結婚したら?」

「結婚したら…………」

 

 シャルティアの顔が、怒り以外の赤に染まっていく。

 これまでベッドの上で、好きとか愛してるとか、愛の言葉を何度も言ったし言わせてもいた。言えたのはベッドの上だからだ。全く思わないでもない言葉ではあるが、こんな状況で、しかもアウラがいる場所では口にしづらい。

 口ごもるシャルティアに、男は察するものがあった。

 

「もしかするとシャルティア様は、私の話を聞き流していたのではありませんか? アウラ様からもご説明があったのではと思うのですが」

「何のことでありんす?」

「まず、私はソリュシャンたちと結婚する予定です。アルベド様とアインズ様にも通した話ですので、確定と考えてくださって結構です」

「…………」

「ですが、結婚するだけです。シャルティア様との関係はこれまでと何ら変わりません。シャルティア様がお望みでしたら、の話になりますが」

「はえ? ど、どういうことでありんすか!?」

「どうもこうもありません。シャルティア様は結婚を何だと思っているのですか」

 

 お前こそなんだと思っているのか。

 シャルティアは男の顔を見返した。真面目な顔だ。ふざけている様には見えない。

 アウラの顔を見た。アウラは両手を上げて首を左右に振っている。

 

「結婚とは、男女が結婚すると宣言する以上の意味を持ちません。そこには個人の意思も感情も不要です。何故ならば結婚とは、国家が個人を管理するための方策の一つに過ぎないからです」

 

 王国の貴族社会に詳しい男である。

 そこには愛のない結婚があれば、互いに見知らぬ者同士なのに結婚する場合も多々あった。結婚とは権力者たちが権力を維持または強固にするための手段の一つに過ぎない。そして管理を容易にするため。

 正当な結婚関係ではない両親から生まれた男である。結婚とは書面で交わす契約と全く変わらないと思っている。契約書が一枚増えるだけ。契約内容はその時々によりけりだろうが、ナザリックでの結婚契約に不自由な拘束はないと確信している。仮にあっても交渉で何とでもなると見ていた。

 

「私が結婚したとしても、これまでと変わることは何もありません。アウラ様はシャルティア様にそれらを説明なさらなかったのですか?」

「一応ね」

「そんなの聞いてないでありんす!」

「ちゃんと説明したでしょ! 聞いてなかったのはシャルティアじゃん!」

「うっ……」

 

 もしもこの男が結婚して結婚相手以外との関係を断絶するのなら、アウラは話を聞いた直後に然るべき行動に移っていた。それが今日まで何の行動にも移らなかったのは、どうしたいのかわからなかったからだ。

 シャルティアに相談したのは何かをしたかったわけではなく、意見が聞きたかっただけ。男の拉致に手を貸したのは、シャルティアも直接話を聞きたかったからなのだろうと思っていた。

 

「……お兄ちゃんは、結婚しても、変わらない?」

「変わるつもりも予定もありません。シャルティア様とも、アウラ様とも親しい関係でいたいと思っております。お二人が望まれないのでしたら私からは何も出来ませんが」

「…………」

 

 シャルティアはシャルティアだからシャルティアなのだ。

 自他ともに短絡で直情的と認めるシャルティアである。

 この男が結婚すると聞いて頭に血が上り、以降の話は全く頭に入っていなかった。

 他の女と結婚すると聞いて酷い裏切りを受けたと思って行動したのだが、全部自分が先走ってしまった事だとしたら。

 

 最大の懸念は、吸血して眷属にしようとした事で嫌われる事だった。しかし、嬉しいと言ってくれた。許してくれるに違いない。アインズ様に報告されるのもきっと止めてくれるはず。

 そうすると後に残るのは、先走った己の愚かさだけ。

 

「………………このことをアインズ様には……」

「ご報告いたしません。シャルティア様の為さった事がアルベド様のお立場を危うくするおつもりでしたらそういうわけには行きませんでしたが、そうではないのでしょう?」

「そんなつもりはこれっぽっちも思ってないでありんすよ!?」

 

 もしもそのつもりであったら、微塵の容赦もなく色々な罪や懸念で嵩増しして封印するのも止む無しと持っていくのも仕方なかった。

 そうならなかったのは幸いだ。シャルティアとの付き合いは長く深く、配下のジュネが愛し忠誠を捧げているとも言っていた。

 

「シャルティア様が為さった事に驚きはしましたが、重大な結果は生じていません。むしろ直接吸血されても影響がない事がわかったのは幸いです。迂闊に試せない事ですから。これからは直接飲んでいただいても構いませんよ」

 

 甘々な裁定に、アウラはやれやれと首を横に振り、シャルティアはうんうんと縦に振る。

 アルベドが関わることなら兎も角、実害が生じてない以上、男には大事にするつもりはなかったのだ。

 しかし、無罪放免とはいかなかった。

 

「但し、シャルティア様には罰が必要です」

「罰!? どうしてでありんすか!? お兄ちゃんは嬉しかったんでありんすよね? お兄ちゃんはシャルティアを許してくれたんでありんしょう?」

「それとこれとは別の問題です。私がシャルティア様を罰したいわけではありません。シャルティア様のためなのです」

「私のため?」

「その通りです。例えば、アウラ様がシャルティア様を崖から突き落としたとします」

 

 酷い例えに、アウラとシャルティアは頬を引き攣らせた。

 

「あんたもしかして…………、割と怒ってる?」

「怒ってはいませんよ。先ほどは厳しい態度を取りましたが、あれはシャルティア様に正直に話していただきたかったからです。事後になりましたが、ご容赦ください」

 

 上空3,000㍍から落っこちても無傷だった男である。崖から突き落とされようと悪戯の範疇としか思わない。

 

「話を続けさせていただきます。崖から突き落とされたシャルティア様は、下手人がアウラ様であると知りました。アウラ様もシャルティア様に知られてしまった事を把握します。ですが、シャルティア様はアウラ様を責めることなく、笑ってお許しになりました。さて、アウラ様はどう思われますか?」

「すっごい気持ち悪い」

「気持ち悪いだと!?」

「だってシャルティアが許すわけないじゃん。後で絶対仕返しするでしょ?」

「そんなのあったりまえでありんす! 絶対に倍にしてやり返すに決まってるでありんしょう!」

「と、シャルティア様は思っていらっしゃるわけですが、表面上はお許しになるわけです。さて、アウラ様はどう思われますか?」

「私が油断したころに仕返しするとしか思えない」

「と、言うわけです」

「何がというわけでありんすか!」

「シャルティア様が私から報復されることを恐れず、すっきりするためです。アウラ様も禍根を残すよりその場で解決したいとお思いになるでしょう?」

「まあ、思うけど」

「でもでも私はお兄ちゃんを信じていんす!! お兄ちゃんは後で仕返しとか絶対やりんせん! アウラとは違うんでありんす!」

「私じゃなくてあんたとでしょーが!」

 

 信じきれなかったから吸血したり不貞腐れたりしたのだが、シャルティアの頭脳には記憶されてない。都合が悪い事実は全てなかったことに出来る。シャルティアはとても楽しい吸血鬼生を送れる才能を持っているのだ。

 

「シャルティア様からの信頼をとても嬉しく思います。ですが、もう一つ理由があるのです。事前に連絡を頂けるなら兎も角、突然このような事をされると困ります。現にナーベラルからメッセージの魔法で不満をぶつけられました。同じ事を繰り返さないよう体で覚えていただく必要があります」

「か、体でありんすか?」

 

 シャルティアはごくりと唾を飲み込んだ。

 頬が、怒りや羞恥とはまた別の赤で染まっていく。シャルティアは高レベルなのだ。

 

「と申しましても、以前の罰ゲームのように後で行うことは出来ません。この場で済ませられるものが望ましいです」

「何をするつもりでありんす?」

「そうですね……」

 

 今この場で完結しなければならないので、大仰な事は出来ない。

 罰なのだから肉体か精神に苦痛を与えるものが妥当だろうが、高レベルなシャルティアなので前者は不可能。後者も、以前のように変装させて連れ回すなどの手間がかかることは出来ない。

 ふと思い出したのはティナである。

 

「そう言えば、シャルティア様はティナに椅子になる事を覚えさせていましたね」

 

 調教競争でティナが披露した芸である。あれのおかげで不戦勝に近い結果を得られた。

 

「……わかりんした」

 

 シャルティアは何かがわかったらしい。

 

「ふんっ!」

「千切れるでしょ! ほどくからちょっと待って!」

 

 シャルティアを縛り付けているのはアウラの鞭だ。とても強いシャルティアなので、頑張れば引き千切れる。

 愛用の鞭を壊されては堪らないと、アウラは慌ててほどいた。

 

「私の姿を見るがいい!」

「シャルティア!?」

 

 椅子から立ち上がって仁王立ちしたシャルティアは、ババっとドレスを脱ぎ捨てた!

 サキュバススキルの脱衣を使ったかの如き早業である。

 一瞬で下着姿になったシャルティアは、黒のブラジャーも外した。ブラジャーを外すとおっぱいのボリュームが数ランクダウンしてしまうのは、パッドがいっぱい詰まっているからである。

 ガーターベルトとガーターストッキングはそのままに、一思いにショーツを下す。なお、ガーターベルトの上にショーツを穿くのが正しい穿き方である。さもないと、ショーツを着脱する度にガーターベルトを外す必要が出てくる。

 白い裸身に黒いガーターベルトとガーターストッキングだけになったシャルティアは、その場に跪いた。

 両手も床に突き四つん這いとなって顔を上げる。

 シャルティアの目には決意があった。

 

「さあ! 座りなんし!」

 

 アインズ様にしか許したことがないシャルティア椅子である。シャルティアが出来る最上級の謝罪の形。

 しかし、男は眉間に皺を寄せる。呆れているらしかった。

 

「どうしてそれが罰になるんですか?」

「なん・・・だと・・・!?」

 

 最上級の謝罪の形を、この男は一蹴した。

 

 椅子になるのは、文字通り尻に敷かれることから屈辱感がある。しかし、率先してお馬さんになれる男だ。その程度で屈辱を感じる心はとうに失っている。

 では肉体的にはどうか。椅子になる、すなわち四つん這い。両手両膝を床につくだけで、姿勢としてはかなり楽である。吸血鬼である上にとても力が強いシャルティアなので、丸一日椅子になっても肉体的には何の痛痒もないだろう。

 精神肉体の両面で、椅子になるのは罰として不適である。

 

「椅子になるのでしたら反対でしょう?」

「反対? お兄ちゃんが椅子になるんでありんしょうか?」

「違います。私が申しあげた反対とは、シャルティア様の体勢です。背中を上にするのではなく、腹を上にしてください。つまり、ブリッジの姿勢です」

「ブリッジ!?」

 

 ブリッジとは、四つん這いの反対。

 両手を床につくのは同じでも、膝ではなく足の裏をつける。そして、背中を下に、腹を上に。

 四つん這いに比べれば、難易度も疲労度も遥かに高い。

 

「シャルティア様には簡単な事でしょうから、やはり他の罰を」

「やりんす! すっごく大変な罰でありんすが、お兄ちゃんを思えば頑張れるでありんす!」

 

 男に任せればどんな恐ろしい罰が来るか見当がつかない。シャルティアは四つん這いを崩し、その場に寝転んだ。

 両膝を立てて足の裏を床につけ、両手は逆手にして両耳の脇につく。

 

「ふんぬぅっ!」

 

 体を押し上げるというより、床を押し込む。

 力が強ければ柔軟性も高いシャルティアだ。シャルティアの体は一息で上がり、見事なアーチを形作った。ちっぱいが重力に負けて真っ平になっている。

 

「さ……、さあ! すわりなんし!!」

 

 逆さまになったシャルティアの顔は、長い髪が床につく。

 四つん這いの時よりも高さがあり、椅子としてならこちらの方が上。

 

「それでは遠慮なく」

「ぐふぅっ!」

 

 本当に遠慮なく、男はシャルティアの上に座った。

 ブリッジだと一番高くなるのはへその辺り。男が座ったのはそこからやや上。柔らかなお腹の上だ。

 

「おっ……おにいちゃんは、きちくでありんすぅ……」

「失礼な。これはシャルティア様への罰であることをお忘れなく。私がいいと言うまで今の姿勢を保ってください。長くても朝までですから大したことではありません」

「あ、あさ……!?」

 

 体力無限大の力ある吸血鬼であるシャルティアであっても、ブリッジをして腹の上に座られるのは大変であるらしい。

 たらりと冷たい汗をかくが、いつもとは反対方向に流れていく。

 

「それでは次にアウラ様への罰ですが」

「私!? なんで!? やらかしたのシャルティアじゃん!」

 

 安全圏から苦笑して見ていたアウラに、照準が定められた。

 

「先ほどシャルティア様へ申し上げたように、アウラ様のためです。尤も、アウラ様がシャルティア様が為された事に一片の責任も罪悪感も覚えないと仰るなら不要です。如何ですか?」

「そうでありんす! 私はアウラにそそのかされたんでありんすよ!」

「くっ……! きたない…………!!」

 

 もしもシャルティアがアウラの立場にいれば、全責任をアウラに押し付けていた。カルマ極悪は伊達ではない。

 しかし、アウラはそこまで開き直れない。アウラはとっても良い子なのだ。

 

「シャルティア様と同じことをしろとは申しません。アウラ様には……予習をしていただきましょう」

 

 男はアウラに手招きする。

 歯ぎしりして恐る恐る近付くアウラは、色々と覚悟した。

 

 とりあえず、この男は間違いなくカルマが極悪であると確信した。




気力体力が尽きてました
全部夏が悪い
本話で総文字数2m到達、長い


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げふー ▽アウラ+シャルティア♯3

何とか八月中に投稿
本話10k


「ぐふっ!」

 

 男がアウラを抱えると椅子が少しだけ沈む。シャルティア椅子は沈んでもすぐ元の高さに戻った。

 男の膝に乗せられたアウラは体を固くする。

 

「私に罰って何するつもり?」

 

 言いつつも、いやらしい事であるのは察しがついている。現にシャルティアは素っ裸だ。

 いやらしい事は今まで何度もされてきた。罰という名目でされるのはとても気に入らないが、厳しすぎるとは思わない。ブリッジしてその上に座られてるシャルティアよりずっとマシ。そのシャルティアと一緒にあんな事をしてしまった事もある。エッチなことくらい恐れるに足らずなのだ。

 

「先ほど申し上げましたように、予習です」

「予習って何の!?」

 

 アウラの推測を裏付けるように、膝上に座らされたままズボンのベルトを外されていく。

 部屋は暗いままなので男の目には見えていないはずだが、アウラの目にはズボンのジッパーの隙間から白いパンツが覗き見えた。

 

「お忘れですか? 以前、アウラ様が小さいお体のままでも交われると申し上げたことがございます。アナルセックスの事ですよ」

「それって!?」

「おっほお! アウラの尻穴を開通するんでありんすね! アナルセックスならアウラがおチビのままでも」

「ふん!」

「ぐへっ!」

 

 アウラは体のバネを使って男の太ももから少しだけ体を浮かせ、勢いよく尻を落とした。衝撃は減衰することなくシャルティア椅子に伝わり、奇怪な音を響かせる。

 床に足がついていなくても、この程度は軽いもの。しかし、迂闊であった。シャルティアをやっつけて留飲を下げていたら、下半身が涼しいことに気が付いた。まさかと思って見下ろせば、自分の太ももが見える。

 

「いつの間に!?」

「脱がすために尻を浮かせてくれたのではなかったのですか?」

 

 体を浮かせた瞬間にズボンがひざ下までずり下されたらしく、靴に引っかかっている。

 

「ズボンを汚さないよう、靴もお脱ぎください」

「うう、重いでありんすー。アウラがズボンを脱げば少しは軽くなりんすのにー」

「それとも私が脱がせましょうか?」

「アウラは私を苦しめたいんでありんすね! およよ……、アウラを信じていんしたのにー」

「シャルティア様はあのように仰いましたが、今日は予習です。最後までする予定はありませんので、お気を楽にしてください」

 

 大して苦しくもないだろうに、シャルティアがわざとらしく呻く。

 シャルティアへの同情は皆無だが再三促され、アウラは靴を脱いだ。ズボンが床に落ちた。

 下手に抵抗するとろくでもない事になるのは、シャルティアを見ていれば誰しも学ぶのだ。

 

「ありがとうございます。それでは始めましょうか」

 

 頭上から響く声は、とてもいやらしかった。

 

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

 腰を掴まれたと思ったら一瞬だけ浮遊感があり、アウラは男の太ももの上で腹這いにさせられた。

 いわゆるお尻ぺんぺんのポーズである。お尻をぺんぺんするポーズなだけあって、とてもお尻が触りやすい。

 男の手が無遠慮に小さな尻を撫で始めた。

 

「アウラ様には少しだけ経験してもらっていますが、まず手順を説明いたします」

「おお? さすがのお兄ちゃんはアウラの尻穴をほじほじしたことがありんすね?」

「うるさい!」

「ひょわっ!?」

 

 アウラの頭はシャルティアの足側を向いている。アウラが振った手はシャルティアの膝裏にぶつかり、シャルティア椅子がガクンと沈んだ。

 不安定だが、すぐに復元するのがシャルティア椅子の良いところだ。

 

「危ないでありんしょう!!」

「だったら変なこと言うな!!」

「シャルティア様は随分と余裕がありますね。これでは罰になりそうにありませんね。やはり他の事をして頂いた方が」

「うー。腕がしびれるでありんすー。苦しくて苦しくて耐えられそうにないでありんすー」

「……さようですか。それではそのままでお願いいたします」

「わかりんした!」

 

 シャルティアは大変であるらしい。

 アウラは白い目でシャルティアの白い脚を見た。

 男はこほんと咳払いをして口を開く。

 

「アウラ様の肛門に指を入れたことはありますが、今回もほぐすところから始めます。何度セックスしようとも、始める前に前戯が必要なのと同じですね。いきなり中には入れず、まずは入り口を撫でていきます。ある程度ほぐれたら指を挿入します。今日は二本入るところまで目指しましょう。注意点として、肛門はおまんこと違って潤滑液が出ません。ほぐれても潤滑液なしで挿入しようとすると痛みます。そこはシャルティア様に協力願います」

「とっても苦しいでありんすが、アウラのためなら何でも協力しんすよ!」

 

 ブリッジして椅子になっているのに、シャルティアは元気だ。

 その元気の半分でいいから分けて欲しいと思うくらいに、アウラは追い詰められていた。

 

 まだパンツを穿いているとは言え、お尻を出した格好でこれからされる事を宣言されるのはとても恥ずかしいし屈辱を感じる。

 それなのに、さわさわとお尻を撫でられるのが悪くないと思えてしまうのがわからない。もっと違うパンツを穿いてきてたら、と思ってしまった時は自分が信じられなくなった。

 今日のパンツは快適さだけを追求してデザイン性は皆無。刺繍やリボンなどのワンポイントは全くなしで、お尻全体をさらさらの生地が包んでいる。

 

「あっ!」

 

 幸か不幸か、パンツに言及されることなく脱がされた。

 男の手が直にお尻に触れている。

 撫でるだけだったのが揉み始め、尻の割れ目に近付いてきた。

 

「始める前ですから、固く締まってるのがわかりますよ」

「そんな事言わないでよぉ……」

 

 男の指が尻の割れ目を這い進む。指先はすぐに窄まりを探り当てた。固く閉じた入り口は、何も出さない何も入れないとばかりに締まっている。

 けれども、ここには確実に穴が空いている。

 入り口にあてがわれた指は、幾本もの皺を伸ばすように優しく動き始めた。

 

「アウラ様は私の大きさをご存じでしょう? 今は固く閉じていますが、あれが入るくらいには開くようになるんです」

「…………」

 

 アウラは、知らず湧いた唾を飲み込んだ。

 信じがたいと思うだけではなかった。

 

 大きくなったあれを、何度か見ているし触っている。口でさせられた事もあった。太さと長さを体が覚えている。

 あんなに大きいものが閉じ切ったあそこに入るとは思えない。だけども本当に入ってしまうのだとしたら。

 

「?」

 

 肛門を撫でまわす男の指が、時々離れるのには気付いていた。

 離れている間に何をしているかは触られてる場所が場所なので見えないが、離れている間にくちゅくちゅと水音が鳴るのは聞こえた。

 下半身だけを全部脱がされた変態的な格好でお尻を撫でられ、おかしなところを触られて、何も思わないでもないアウラだ。

 けれども、あんな音がするほどになっているわけがない。仮に少々湿ってしまったとしても、触られていないのだから音がするわけがない。

 何だろう、と思ったところで気が付いた。

 

 エッチな事をされて体が熱くなって、触られているところも熱を持って、特にお尻の割れ目というところは尻肉に挟まれているので汗をかきやすい。だからと思っていたのだが、違った。

 指の動きが滑らかになっている。ぬるつく汁のようなものが塗りたくられている。

 

「んちゅぅ……ちゅぷっ」

 

 尻の方から聞こえる音は、自分が立てている音ではない。シャルティアだ。シャルティアがくちゅくちゅと鳴るような事をしている。

 肛門を湿らせているのは自分の汗ではなく、シャルティアの唾であると気付いてしまった。

 

 男はアウラの肛門を撫でる指をシャルティアの口に突っ込み、たっぷりと唾をまとわせてアウラへの愛撫を再開する。

 何度も繰り返した甲斐あって、アウラの肛門は直に舐めたのと変わらないくらいに濡れてきた。

 アウラのほぐれ方も順調だ。大人形態の時に指入れまではしてあるし、そうでなくとも指くらいは軽く入るくらいに広がる部分でもある。

 触れる部分を指の腹から指先に変えた。

 

「まっ……」 

 

 待てと言われて待つわけがない。指先は軽い抵抗を押しのけて小さな穴に侵入した。

 第一関節を越えて第二関節まで入ると、指先は広いところに辿り着く。入り口の圧は強いのに、奥は広がっているのがもう一つの穴と違うところ。

 

「そう言えばここはどこなのですか? ナザリックの中ではありませんよね?」

「えっ?」

 

 絶対にいやらしい事を言われると思ったのに、唐突な話題転換。

 

「ナザリックの近くだけど……」

「私も知ってる場所でしょうか?」

「多分知らないと思う」

 

 ここはナザリック近くのダミーナザリックである。

 

 異世界に転移した当初のナザリック勢は外敵の目を欺くため、ナザリック地下大墳墓には隠蔽工作を施した。外敵を誘導するため、周辺の土を盛り上げてナザリックに見えるような施設を作ろうとした。

 が、必要ないと判断したのかそれ以外の要因があったものか、ダミーナザリックの建設は途中で放棄。代わりにトブの大森林内に緊急時の避難所を建設した。

 放棄されたダミーナザリックには利用者のない小屋が幾つか並び、ここはそんな小屋の一つだと云う。

 守護者統括相談役である立場上、避難所は知っていた男だが、ダミーナザリックは知らなかった。

 

「前回アウラ様にお会いした翌日に、オーケストラのヴァイオリニストであるセシルさんからクラシックギターを習いました」

「へーーー、弾けるようになったの?」

「セシルさんの視聴に耐えうる程度にはなっています。機会があればアウラ様にもお聞きいただきたいですね」

「うん、楽しみにしてるね」

 

 楽団員の数は多く、直接関わらないアウラは全員の顔と名前は一致していない。

 けども、セシルはソリストを務める。オーケストラの中では指揮者の次に目立つポジションだ。氷の悪魔に相応しく玲瓏の言葉が似合う美貌で、冷静沈着なイメージが強い。それなのに奏でる音色は情熱的だ。

 今度、音楽室に遊びに行って何か曲を聞かせてもらおうと思いついた。

 

 そんな風に他愛ない言葉を交わす内に、アウラは今どうなっているか忘れつつあった。忘れたかったのかもしれないが、意識しなくなったのは確かだ。

 指を挿入された直後は異物感が自己主張してどうしても意識がそちらに割かれてしまった。

 今や全く気にならない。中に入った指が動くことはなく、入れられている事すら忘れていた。

 だから、全くの不意打ちになった。

 

あんっ♡

 

 アウラは慌てて口を押える。出そうと思って出した声ではなかった。得も言われぬ感覚が口をこじ開けた声。

 排泄感のようで、とはいえそれだけではなく、自分が知っている快感とは違う種類の、初めて知る未知の快感だった。

 されたのは、会話の途中で指を引き抜かれただけ。

 肛門から指が出ていくのが気持ちよく、肛門に指が入っていたことを思い出して恥ずかしくなり、肛門への刺激で気持ちよくなってしまったのが一層の羞恥を煽る。

 

「アウラ様はアナルセックスで感じる才能をお持ちのようで」

「変な事いわないでぇっ……んっっ」

 

 出て行った指が間をおいて入ってきた。

 今度は入ってくるだけではない。ゆっくりと出たり入ったりを繰り返す。

 指は完全に抜けきって、少しの間をおいて入ってくる。

 少しの間にはさっきと同じ卑猥な水音が響き、シャルティアに指を舐めさせていると察せられた。

 

 お尻の穴に入った指をシャルティアに舐められている!

 

 思い至れば全身が熱を持つ。

 肛門に入ってくる指が焼けるほど熱く、全身を内側から焼いているかのようにいるかのように錯覚した。

 

「あっ、やぁだめぇ……くぅっ……!」

 

 いやらしい声を聞かせまいと、口を押えた。

 入ってきた指は出て行かなくなり、入ってはいけない場所で往復している。

 抜ける時の快感と、入ってくる時の圧迫感を伴う快感が何度も何度も続けられる。

 今度こそいやらしい事も言われるようになった。

 

「アウラ様の肛門は私の指が馴染んできたようですね。指への締め付けが段々弱くなってきていますよ? もっと太いのが欲しいですか?」

「ちっ、力が抜けちゃってるだけだからぁ!」

「そうは仰いますが、おまんこが湿ってきていますよ? 肛門に指を入れられて、濡らすほど感じているんですね」

「あぁ……、そっちさわらないでぇ……」

 

 入っているのは中指。人差し指と薬指は空いている。

 肛門のすぐ下にはアウラの幼い筋があり、男の指は問題なく届いた。二本の指で筋を開けば、幼い穴から染み出た汁がつつつと零れる。

 

「あうぅっ! く、くるしい、から……」

「おまんこを触るなと言われてしまいましたので、こちらの注力することを望まれているのかと。大丈夫です。すぐに馴染んできますから」

 

 指が二本に増えた。一本から二本になったのだから、太さは倍。

 気持ちいいと感じる余裕さえあった圧迫感が、自分を押し潰そうとしているかのよう。

 

 指二本でこれなのだから、彼のものを入れられたらどうなるか、と考える余裕はアウラにはなかった。

 時間が経つにつれて馴染んでいく自分に驚いているのもあるが、さっきからずっと静かなシャルティアが気になった。

 お尻の穴であんな声を出してしまったら、シャルティアは絶対に揶揄ってくる。けども何も言われてない。

 意識すれば男が小刻みに震えているのを感じる。正しくは、男が座るシャルティアが震えているらしい。

 何が起こっているのかと、背を反らして顔を上げたら答えがあった。

 

 

 

 男は椅子に手を突いていた。

 

 アウラを責めているのは右手だ。

 左手はアウラの頭を撫でることなく、ずっと椅子に突いていた。

 男が座っているのはシャルティアの腹の上。

 手を突いたのは下腹の上。

 男の手は、触られているシャルティアが気付かないほどにゆっくりと下腹を滑り、無毛の股間に辿り着いた。

 割れ目の上にあてがわれた指は、ゆっくりと沈んでいく。

 シャルティアが男から手マンの練習を受け入れた時と同じで強い刺激は一度もなかったのに、シャルティアは息を荒げていた。

 

 下腹の奥が疼き、甘い痺れが四肢を走って力が抜けそうになるのを必死に耐える。

 鳴いてしまいそうになるのは歯を食いしばった。そうでもしなければブリッジを保てなくなる。

 アウラが指を入れたままにされている時、シャルティアはクリトリスを弾かれていた。

 何度かあひぃと鳴いたのを、アナルに夢中になってるアウラは聞いていなかったらしい。

 しばらくしてから、口の中に指を突っ込まれたのは試練だった。

 

(まさかアウラの尻穴に突っ込まれた指を舐める日が来ようとは! おまんこは舐めたことがあってもアナルはまだでありんしたね。今度レズックスする時はそっちも責めてやってもぉっ!? おっ……お兄ちゃんの指が、おまんこにぃ……! お兄ちゃんは、わたしを椅子にしてるのをぉ、くうぅううううぅううっ! こんなになってもお兄ちゃんの指はきもちいでありんす! 指から変な汁が出てるんじゃありんせんか!? お兄ちゃんの汁がわたしの中に……。うへへへへ!)

 

 口に入ってきた指は二本だ。アウラに二本入れるらしい。

 どうなっているか見たくなって横を向いても、アウラの尻は見えない。代わりに、ぽたりと雫が落ちる音を捉えた。

 自分のお股はとっくに大洪水。尻の割れ目や太ももを伝っているのを感じている。ぽたぽたしていても不思議はない。

 けども、シャルティアは見た。

 アウラの股の真下に、小さな水滴が落ちているのを。

 アウラは肛門を弄られて滴るほどに感じている。

 その事実は、シャルティアの興奮を否応なく激しく煽った。

 同時に、入っている指が中で曲げられ、膣壁の敏感な部分を引っ掻いた。

 

「あひゃぁあっ♡」

「うわっ!?」

 

 手足から力が抜ける。

 ブリッジが崩れ、アウラが驚きの声を上げ、背中が床にぶつかる寸前に四肢に力を入れて数秒は拮抗していたが、

 

「げふーっ!」

 

 背中が床に激突した。

 柔らかいお腹に成人男性一人分と幼女一人分の体重が押しかかる。

 シャルティアが見た目通りの少女だったら割と致命的な事態になった可能性は高かったが、シャルティアはとっても強いのだ。呻くだけで大事にはならなかった。

 

 

 

 

 

 

「大変そうなのは演技だと思っていたのですが、シャルティア様への負担は思ったより大きかったようですね」

「お兄ちゃんがあんな事するからでありんしょう!」

 

 ブリッジ中に手マンをされていなければ、体力的には一晩続けても問題なかったはずである。

 なお、アウラは男に抱き上げられ、どこもぶつけていない。吠えるシャルティアから目を反らし、床の上に膝立ちとなって股間を両手で隠している。

 

「わかりました。今度は楽な姿勢でお願いします」

「また私に座るつもりでありんすか!?」

 

 ブリッジよりずっと楽なので却下された四つん這いである。

 鬼畜と思っていたがそこまでか、と驚愕するシャルティアに、男は苦笑して首を振った。

 

「違いますよ。シャルティア様にはアウラ様の予習に協力していただきますと申しましたでしょう?」

「またわたし!?」

「アウラの尻穴に唾を塗るだけじゃないんでありんすか?」

「尻穴って言うな!」

「尻穴は尻穴でありんしょう?」

「はい、そこまで。私の話が途中です」

 

 男は手を打ち鳴らして二人のじゃれ合いを止めた。

 

「アウラ様のアナルセックスのためです。以前、私は開発を一週間ほど続ければアウラ様でもお楽しみ出来るようになると申しました。ですがそれは、毎日開発を続けた場合です。残念ですが、毎日続けるのは難しいのが現状だと思われます」

 

 男が帝都のお屋敷にいた頃、アウラはお仕事の話もあって割とまめに男のもとへ通っていた。男がエ・ランテルに戻ってからは、急ぎの用事がないのと近いからと油断しているのもあって、一度も訪問していない。

 男がナザリックを訪問するのは図書館の貸し出し期限に合わせて月に一度。七度の開発を完了するのに七か月掛かる。そこへ加えて、間が空いてしまうと折角開発したのが元に戻ってしまうのだ。

 

 肛虐に凝っていた頃のラナーは、広がってしまってラキュースから回復魔法を受けないと日常生活が送れない状態になる事が間々あった。しかし、いつも都合よくラキュースが訪れてくれるわけではなく、ラキュースの訪問に合わせようにも我慢できない事もあった。

 そのような時は体調不良と云うことにして一日臥せっていると、何とか日常生活が送れるレベルに戻ってくれたのだ。

 

 つまり、開発をするなら出来る限り毎日する必要がある。

 なお、ジュネはティアを対象に一晩で未通からグーまで行けるようにしたが、あれは論外である。階層守護者であるアウラにそこまでハードな開発を出来ようはずがない。

 

「おわかりでしょうか? アウラ様には自習をしていただく必要があるのです。尤も、アウラ様が私との一時が遠ざかっても問題ないと仰せでしたら不要となります。アウラ様にお会い出来るのが月に一度だとしても、一年もあれば何とかなる事でしょう」

「私に自分で自分にしろって言うの!?」

「それとも私にアウラを開発しろと言いんすか!!」

「させるかバカッ!」

 

 シャルティアの目がアウラとは対照的にとても輝いている。夜が深くなってきたので、吸血鬼は元気になってくるのだろう。

 

「逸らないでください。ですから、そのための予習なのです。何もかも未体験のアウラ様に、いきなり開発をと言っても困難であるとわかっております。ですが、ここにはシャルティア様がいらっしゃいます。シャルティア様とは何度もアナルセックスをしているため、開発され切っていると言っても過言ではありません」

「……まさか……」

 

 愕然とするアウラを横目に、シャルティアの頭脳がピンク色に戻って高速で回転した。

 ここは下手な事を言わないで流れに任せるのが吉。この男なら、自分が口を挟まなくてもきっと最善の未来をつかみ取ってくれると信頼している。

 

「シャルティア様でしたら、アウラ様のやり方が少々拙くても大丈夫です。アウラ様はシャルティア様をお相手にほぐす練習をしていただきます」

 

 残酷で無慈悲な言葉に、アウラは固まった。

 シャルティアは、さっと顔を逸らす。今の顔をアウラに見せてしまったら、色々とこじれてしまうかも知れない。

 

「アウラ様がどうしてもお嫌のようでしたら、シャルティア様からアウラ様に実演していただきます。アウラ様にはその後で実習していただきましょう」

 

 シャルティアにするか、シャルティアにされた後で二人の前で実習するか。

 酷すぎる二択がアウラに突き付けられたが、どうしても絶対に何があっても嫌だ、と言えるほどの嫌悪感がないのが選択を一層困難にさせた。

 

 アウラはシャルティアと舌の練習をしたことがある。手付きの練習もしたことがある。具体的には舌を絡めるディープキスと手マン。

 そこから進んで、貝合わせをしてしまった事もある。

 その辺りの事に比べれば、アナルを少々は許容範囲と言えなくもない。

 二人きりではなく男の目があるが、それを言ったら初体験はシャルティアに付き添ってもらっている。

 

 シャルティアは素っ裸でアウラは下半身を露出して、暗くて狭い密室には淫臭が立ち籠めて、異様な現状はアウラから正常心を失わせ、

 

「…………わかった」

 

 と言ってしまった。

 

「それではシャルティア様はこちらに。アウラ様はそちらへ」

 

 シャルティアは四つん這いになり、アウラへ尻を向ける。

 アウラはシャルティアの後ろで床に膝を突いた。敷物がない硬い床板の上で素足だが、その程度を苦にするアウラではない。そんな事を気にしている場合ではない。

 これからシャルティアの肛門を弄らなければならないのだ。

 

「先ほど注意しましたように、肛門からは潤滑液が出ません。まずはアウラ様の唾を塗りたくってください」

「っ!」

 

 アウラが無言でシャルティアの尻に触れると、小尻は一瞬だけ小さく震えた。

 

 シャルティアの尻は白い。

 夜目に優れたアウラの目には、窄まりの皺さえよく見える。

 固形物を摂取しない吸血鬼であるためか、窄まりに着色はなく肌と同じで真っ白だ。

 狙いを外さないよう顔を近付ければ、尻の割れ目に何かしらの液体が通った跡が見えた。ブリッジしている時に何をされたものか、シャルティアは垂れるほどに濡らしていたらしい。

 罰じゃなくてご褒美だったじゃん、と思いながら頬を窄ませ唾を垂らそうとして、

 

「お待ちください」

 

 待ったが掛かった。

 

 男はいつの間にかシャルティアの前に座っていた。床に直に座っているのしては高さがある。

 いつも持っているショートカタナブレイドを使って椅子の足を切り落として高さを整えたのだ。雑に切ったように見えて、足の長さは完全に揃っている。

 

「シャルティア様の開発が十分でも、アウラ様が不慣れなのは変わりません。始めから指を使うのはお勧め出来ません」

「だったらどうするの?」

 

 きょとんとしているアウラと違って、シャルティアは先が読めた。小さなお胸がトゥンクと高鳴り、アウラには見せられない顔になる。アウラに向けているのが尻なのは幸いだった。

 

「力加減がわからないでしょう? 加減がわからないのですから、指よりも柔らかい部分が望ましいのです」

「は?」

 

 アウラの体で、指よりも柔らかくて、指のようにそこそこ器用に動かせる部分。

 どこであるか察しはついたが、頭が理解を拒んだ。

 

「舌です」

「はアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

「あ……あうら…………」

 

 シャルティアは顔を伏せたまま、声は掠れている。

 

「あうらなら……かまいんせん……」

「シャルティア様はこう仰ってくださっています。アウラ様も加減を間違えてシャルティア様に苦痛を与えるのは望んでおられないのではないでしょうか」

「だ、だ、だ、だから、って……!!」

 

 アナルをほぐすのに、指ではなく舌。舐めると云うことだ。

 シャルティアに色々な練習を付き合わされたアウラだが、舌を使うのは口とだけ。女性器を口や舌で愛撫するクンニリングスは、されたことはあっても一度もしていない。それを、女性器から遠いようでとても近くにある肛門へ。

 

「アウラ様の懸念はわかっております。シャルティア様はアウラ様もご存知の通り吸血鬼ですから、肛門もその中も、とても綺麗ですよ」

「そ……そっ…………」

 

 そういうわけじゃないと言いたかったが、言葉にならない。

 クンニリングスは拒否したのに、アナル舐め。どちらのハードルが高いのか、アウラには全く分からない。

 男の言葉は一々アウラの良心を刺激して、訳が分からなくなってくる。

 

「あうら……。うぅ…………」

「シャルティア……」

 

 シャルティアの掠れた声は、柄にもなく怯えているように聞こえた。

 シャルティアは何を怖がっているのか。ほぐすのを失敗される事か、自分が拒否することか。

 

 真実は全然違う。

 期待が高まりすぎて、抑えないと喜びに叫んでしまいそうだからだ。

 シャルティアは耐えた。

 二人のやり取りに口を挟まないよう歯を食いしばって固く口を閉じた。開いてしまえば笑い声が漏れてしまう。

 それからどれほどの時間が経ったのか、無になっていたシャルティアにはわからない。

 

 

 

「…………………………わかった」

 

 アウラが頷いたのを聞いた時、シャルティアは浅く達した。




げふーと来ればフリーゲーム「おっさん or die」のボーナスタイム
今までいろんなゲームをしてきましたが、「おっさん or die」の閣下戦が一番燃えました
vs閣下のBGMのタイトルが「Love Violence」
↓から聞けます、投稿者は私じゃないです
https://youtu.be/ixbveDkyDuY?si=E41LNEWD9hnQJZBo&t=281
名曲と思うのだが、やはり100時間かけて閣下に辿り着かないとあの感動は得られない

それにしても暑い_(:3 」∠)_


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罰かはたまたご褒美か ▽アウラ+シャルティア♯4

本話15k


 アウラは目を閉じ心を無にして頭を下げた。

 見てはならない、感じてはならない。なのに、優秀なレンジャーであるアウラの知覚は、甘ったるいシャルティアの体臭を鼻に届けた。生々しい女の匂いもある。

 知ってる匂いだが、努めて忘れた。両手が掴む柔らかいものが何であるかも忘れる。どこを舐めるのかも考えない。

 ただ舐めるだけである。

 ソフトクリームを舐めるのと同じ。ペロペロキャンディーをペロリンするのと同じ。ちょっと勿体ないなと思ってカップアイスクリームの蓋を舐めるのと同じ。プリンを食べた後でスプーンにちょっとだけ残ったカラメルソースを舐めるのと同じ。

 ただ舐めるだけであるのだから難しい事は何もないはずである。

 

 それはそれとして出来る限り距離を離すために舌の上へたっぷりと唾を乗せた。

 舐めるために舌を伸ばせば、舌先からとろりと垂れる。すぐそこに垂れ落ちたような気がしなくもないがきっと気のせいであるので気にしない。

 

「ひゃん♡」

「…………」

 

 変な音が聞こえたような気がするがきっと気のせいだ。

 舌で何かに触れたような気がしなくもないが、たっぷりと唾を乗せた涎ガードのおかげで舌には何の感触も何の味もなかったので舐めはしたが舐めてないのと同じであるはずなのできっと舐めてない。

 

 この調子でいけばダメージを受けずにたっぷり濡らすことが出来る。

 そう思っていたのだが、理不尽で残酷な現実を突き付けられた。

 

「指の代わりに舌を使うのですから、漫然と舐めるのではなく舌先で肛門をつついてください。アウラ様も歯の隙間に挟まったナッツなどをご自身の舌で探ることがあるのではないでしょうか。それと同じようにしてください」

「…………」

 

 アウラは答えられない。

 

「適切にされているかどうかはシャルティア様がお分かりですよ」

「とてもとてもとっても苦しく厳しい試練でありんすがアウラのためならどんな苦難も耐えてみせんしょう!」

 

 四つん這いのシャルティアが振り向き、台詞とは真逆の輝かんばかりの笑顔を見せた。

 

 アウラにはどうしてこうなったのかわからない。

 ぐぎぎと歯ぎしりをして大きな息を吐いて深く息を吸い込んで、覚悟した。あるいは何かを諦めた。

 

 シャルティアの尻に乗せているだけであった両手から親指だけを伸ばし、尻の割れ目の内側に滑らせる。

 内側へ入った親指は、窄まりの部分で左右に引いた。

 

「おほっ♡」

 

 シャルティアの声は聞かない。意識から追い払う。

 アウラはもう一度深く息を吸って、止めた。

 小さな唇から赤い舌を伸ばし、親指と親指の間に届かせた。

 

 

 

 

 

 

 指と舌では、指の方が対象の形状を把握する能力に優れている。触覚受容体が豊富なのだ。けども舌は指より柔らかい。指が入らない細かな部分を、つまり対象表面の微細な形状を知覚できる。

 

 アウラは、舌先に感じた細い溝らしきものが何であるかを考えない。舐める前に見た窄まりには皺があったような気がするが、舌が触れているものと結び付けてはいけない。

 皺、もとい溝に沿って舌を動かし、というほど距離が離れているわけではなく、舌先は溝の中心に触れてしまった。

 舐める前にシャルティアが垂らした汁はさっきの唾で流れたらしく、おかしな味や臭いはない。イメージと違って思ったより柔らかいのは何度も使っているからか。

 などと湧き出てしまった思いは努めて追い払った。心を無にしてやらなければダメージを受けてしまう。

 

「シャルティア様はアナルもお好きで何回も使ってきていますから、ほぐすのに時間は掛からないはずです」

 

 それなのに、この男は何をしているか突き付けてくる。

 自分がそっちの予習をするはずだったのに、どうしてシャルティアが出てくるのか。わけがわからない理不尽に心が沸々としてくる。

 

「アウラ様にアナルのほぐし方を覚えていただければ、わざわざ魔法のキャンディーを舐めていただかなくてもアウラ様と体を重ねることが出来るようになります。その日を楽しみにしておりますよ」

 

 沸々としたものは燃え盛らず。けども鎮火までは行かず、燻っている。燻らせた湿り気がなんであるか、自分はまだ怒っているのだ。

 怒っていながらも、尖らせた舌先で何度もつつく。

 少し圧を掛けると、柔らかな肌の向こうに硬いものを感じて、腕や足とは違うちょっと特別な部分なのだと気付かされる。

 それは、気付いてはいけない事だ。ここはそのようなところであるとだけわかっていればいい。どこであるかは考えない。

 何も考えず何も思わず、目的達成に向けて動くだけ。

 

 同じことを繰り返す内にアウラは無の境地に辿り着いた。具体的に言うと、行為の意味を本当に忘れて飽きてきた。シャルティアの甘ったるい体臭にも慣れてしまった。

 舌でつんつんし続けても対象に全く変化が現れないのだ。やりたくてやってる事ではないのだから、飽きが来ても仕方ない。

 

 舌に触れているのが何であるかは忘れたが、伝わる感触は柔らかく、奥は固いまま。いずれはほぐれて奥まで柔らかくなるのだとか。

 今のところ軽くつついてるだけなのでやり方が違うのだろうかとも思うが、間違っていたらシャルティアが何か言うはず。そのシャルティアは始めてからずっと無言だ。

 こんな事で工夫なんてしたくないが、このままでは埒が明かない。

 

 舌先を尖らせ、何であるかは忘れたが、細い溝が集う小さな窪みに押し当てる。

 今までは軽く押したらすぐに引いていた。今度は引かずに押し続ける。

 

「!?!?!?!?!」

 

 喉の奥から声にならない叫びが出そうになり、反射的に身を引いた。

 剥きだしの尻をぺたんと床についてしまうが、冷たさは感じなかった。

 

「アウラ様? どうされました?」

 

 アウラは答えられない。

 口を押え、ふるふると首を振る。

 

 舌で感じてしまったものを忘れようときつく口を閉じるが、感じたのは舌であって口ではない。その程度では忘れられない。

 さっき、押した瞬間に開いたのだ。

 柔らかいようで硬い何かに包まれた。肉の硬さと柔らかさに、粘膜だか粘液だかのぬめる感触。

 間違いなく、舌が入ってしまった。

 どこに入ってしまったのかは、目の前に答えがある。

 シャルティアが白い尻を突き出して、尻の割れ目はべったりと濡れていた。

 濡れた部分が始まるところは、幾本もの皺が集う窄まり。

 名前を呼びたくないあの場所に、自分の舌が入ってしまった。

 

 シャルティアの罠であった、とアウラは気が付いた。

 自分だって力を入れれば、きゅっと閉じることが出来るし、開くまではいかなくても少しくらいなら緩めることが出来る。

 熟練のシャルティアなら、自分の意思で開くことが出来てもおかしくない。

 シャルティアは、自分の中に舌を入れさせるために、ハメたのだ。

 

 屈辱やら怒りやら羞恥やら悔しさやらで、顔が熱くなる。

 どうしようもなくシャルティアの尻を蹴っ飛ばしたくなって、尻もち状態から膝立ちに復帰し、見えてしまった。

 

「な、な、なに、してるの?」

「アウラ様には予習を兼ねてシャルティア様の準備をして頂いております。シャルティア様には私の準備を手伝っていただいております」

 

 アウラの予習が始まってからずっと無言だったシャルティアだ。

 尻を触って尻の割れ目を開いただけで嬌声を上げたシャルティアが、ずっと無言だった。

 アウラに尻の穴を舐めさせ、舌先でつつかせて、尻穴にアウラの舌が入ってきたにも関わらず、ずっと無言だった。

 シャルティアなら一々嬌声を上げてどのように感じているか解説したりアウラを煽ったりしているはず。シャルティアなら絶対やると、アウラは確信している。なのに、なかった。

 答えは単純だ。

 単に口が塞がっていただけだった。

 

 

 

 四つん這いになっているシャルティアの前には男が座っている。椅子の足を切り落としてわざわざ高さを揃えたのはこのためだった。

 低い位置で座る男は長い脚を投げ出している。

 頭を伏せているシャルティアは、男の股間に顔を埋めていた。

 

「んっんっ、ちゅうぅう……ちゅぷぷ……。んっっちゅうぅうう……、じゅぷ……」

 

 静かな小屋の中に水音が響く。

 音を立てるのは、目の前の情景に縫い留められたアウラではない。音の発生源は、シャルティアの顔のあたり。

 銀色の頭が上下する。同時にじゅぷじゅぷと卑猥な音が鳴る。

 

「シャルティア様はお上手ですから私の準備が整ってきました」

 

 男はシャルティアの長い銀髪を掴んでいる。

 髪が落ちて邪魔にならないよう手助けしているわけだが、アウラの目にはシャルティアの頭を吊るしているように見えた。

 男がシャルティアを支配しているように見えなくもない。

 それをシャルティアは拒まず受け入れ、男の股間で頭を振る。

 

「はむう、ちゅうう……んっんっ、んぐぅ…………ぷはぁっ!」

 

 吸血鬼であるシャルティアに息継ぎは必要ないだろうが、苦しそうに呻いて顔を上げた。

 

「けほっ……。ちょっと喉に来ちゃったでありんす」

 

 その程度、シャルティアなら大して苦しいものではないが、あえて無理をする所ではない。少し休憩してもよいかと顔を上げ、目線で男に問いかけた。

 男の右手はシャルティアの髪を掴んでいる。左手でシャルティアの頬を撫でた。

 吸血鬼の赤光と、赤と青の視線が絡んだ。

 

「お綺麗ですよ、シャルティア様」

 

 シャルティアの望んだ答えではない。ご奉仕への労いでもない。

 だけれども、シャルティアの心に刺さった。

 アウラにアナルを舐めさせ、自分はフェラチオを強要され、頭も体も愛欲にゆるんで滾っている。

 そこをいやらしい目で見つめられ、優しく頬を撫でられる。

 言葉なんて何でもいい。自分を見てくれるだけでいい。

 

(うっ…………、これはお兄ちゃんの必殺技「目からエロビーム」でありんす! 指からはエッチな汁が出て目からエロビームが出るなんて、お兄ちゃんはやっぱり人間じゃありんせん! アインズ様はお兄ちゃんを淫魔か淫獣に変えたんでありんしょうか? はっ!? だとしたらお兄ちゃんとのエッチが前より最高になるってことでありんすか!? エロエロでエッチなお兄ちゃんは最高だったのにさらに上があると云うことか! それはもう……無敵でありんす!!)

 

 シャルティアは最高な無敵を予感し、喉を鳴らした。

 下の口では飲み込むことが出来ず、とろりと溢れさせ太ももを伝って流れていく。

 

「シャルティア様のおかげで私の準備は整いつつありますが、シャルティア様にはもう少し準備が必要でしょう。アウラ様、お願いいたします。舌では十分と思われますので、次は指を使ってください」

「う……うん……」

 

 シャルティア命名「目からエロビーム」をアウラも受けた。

 膝立ちのままシャルティアに近付き、右手を掲げる。

 

「中指をお勧めします。指だけでほぐすなら入り口のマッサージから始めるところですが、そこは飛ばしても構いません。シャルティア様の肛門に挿入してください」

 

 アウラは一つ頷き、右手の薬指以外の指を折った。

 突き出された薬指はシャルティアを指差し、少しずつ近付いていく。

 左手はシャルティアの小尻を掴んで、今度は割れ目を広げるためではなく、目標が動かないように押さえつけた。

 

「あはっ♡」

 

 窄まりに指をあてればシャルティアが振り向いた。

 

「アウラの練習だから構いんせん。私のアナルにアウラの細い指を入れてくんなましえ。お兄ちゃんのおちんぽも入るんでありんすから、アウラの指でも問題なく入りんすよぉ?」

「シャルティア様は私の方をお願いします。勃起はしましたが、アウラ様の前で実演するまで維持しなければなりませんので」

「わかりんした! あーーーむっ……」

 

 シャルティアは顔を伏せ、もう一度男の股間に顔を埋めた。

 小さな唇で膨らんだ亀頭に口付けし、ゆっくり頭を下げて口内に迎え入れる。

 射精させるなら兎も角、維持させるだけなので竿までは行かずに含むのは亀頭だけ。

 ちゅるちゅる吸いながら舌を使い、たっぷりと唾液を絡ませた。

 

 アウラの方は、指先に力を込める。

 大きな声で言えることではないが、自分の指を自分の穴に入れてしまった事がある。その時は抵抗なく、ぬるりと入った。それと同じくらいの力で押し込んでいるのに入らない。

 さっきは舌が入ってしまったのに指が入らないと云うことは、シャルティアが締めて邪魔をしているに違いない。

 白い尻から顔を上げて銀色の頭を睨みつければ、男と目が合った。

 

「肛門は膣と違って入り口の締め付けが一番強いのです。少しずつ力を加えてみてください」

 

 ちょっとあれで繊細な部分だが、シャルティアだ。少しくらい加減を間違えても大丈夫だろうと指先に力を加え、

 

「わわわっ!」

 

 一点を超えると、ぬぷりと指の根元まで入ってしまった。

 肛門には陰唇やら何やらがあるわけではなく、小さな穴が空いているだけ。

 そんなところに入れてしまうとアナルの皺が伸びて、見ただけでは本当に穴が空いているのかわからなくなる。しかし、自分の指は確実にシャルティアの中に入っている。

 入れていると言うより、飲み込まれているようだった。

 

「だっだっだいじょうぶなの? こんなとこに入れて……」

「大丈夫ですよ。シャルティア様とは何度もそこで交わっていますから」

「そうじゃなくて…………、私の指。なんか……ぎゅっとされて」

 

 もう一つの穴は柔らかいが、こちらは如何にも固く締め付けてくる。

 飲み込まれるから食いつかれるに代わり、食いちぎられるのではと思わされる。

 

「心配いりませんよ。アウラ様の懸念は古くから伝わっております。古い昔話では、男はセックスで女に噛み切られるようだと震えたそうです。何とも素朴な心配事ですね。アウラ様は純粋ですからそのように思われるのでしょう」

 

 ヴァギナ・デンタータの事である。直訳すれば歯の生えた膣。膣へ挿入したら逸物を噛み切られてしまう、とする古い伝承があったりする。

 アウラが入れているのはアナルなので、この場合はアナル・デンタータかも知れない。

 

「ですが、そうも固く感じるのなら潤滑液が不十分かも知れませんね。唾を垂らして指を動かしてください。シャルティア様の中に塗りたくるようにして」

「うん……。んっ、じゅる……、ぷちゅっ」

 

 アウラは唇を突き出し、垂らした涎は狙いたがわず指に落ちた。

 泡立つ涎は指を行き来させる度に少しずつシャルティアの中に入っていく。

 それよりも狭い入口に阻まれて流れてしまう方がずっと多い。

 アウラの涎はシャルティアの秘部で愛液と合流し、シャルティアの太ももを汚していく。

 

 指を抜き差しするアウラは、指の先が何を感じているかを感じたくなかったし考えたくもなかった。

 指は真っすぐに伸ばして機械的に前後させ、唾を垂らす。

 繰り返す内に男から増量の許可が出て、二本に増やした。

 さっきの自分が入れられた本数。

 

「はぁぁあん♡ アウラの指が増えたのわかりんすよぉ? アウラは苦しかったようでありんすが、私はまだ大丈夫でありんす! アウラの指で私の尻穴をぬぷぬぷしてくんなまし♡」

「シャルティア様はお喋りよりもこちらをお願いしますよ?」

「はーーーい♡ ちゅっちゅっ、れろぉ……。あぁ……、お兄ちゃんのおちんぽおっきいでありんすよぉ♡ あーーんっ」

 

 シャルティアは男の逸物をれろりと舐めてから口に含む。

 ちゅうっと吸って頬の内側の粘膜に逞しい逸物を隙間なく密着させ、恍惚と頭を下げる。

 口の中に男が満ちて喉奥まで届くと、通った道を男が出て行く。

 自分で頭を上げたわけではない。髪を引っ張られて頭を上げられる。

 

(私の口をオナホにするなんて! くうううぅうううっ! これが私への罰でありんしょうか!? こんな罰なら大歓迎でありんす! それにあのアウラが私の尻穴を舐めて舌を入れて…………、思い出すだけで濡れてきんす。後でオナネタにしんしょう。指を入れられるのもたまりんせん! ぺちゃぺちゃ唾を垂らして、私の尻穴にアウラの唾が入って来てるでありんす! こんなの、こんなの……アウラに犯されてるのと同じでありんす! ああっ! 私はお兄ちゃんとアウラに滅茶苦茶にされるんでありんすね♡ …………んっ?)

 

 シャルティアは男の股に顔を埋めているため、視界が非常に狭い。

 しかし、夜の吸血鬼であり、知覚は非常に鋭敏だ。見えなくても周囲の環境を完全に把握できる。

 シャルティアは、真後ろにいたアウラが横に移動しているのを知った。

 

「んっちゅっ……、ちゅっ……ちゅる……ちゅぷ、じゅるる…………んっ……」

 

 シャルティアではなく、アウラが立てている音。

 アウラはシャルティアに指を入れたまま、男の傍に来ていた。

 膝立ちのアウラより、低くした椅子に座っている男の方が位置が高い。男は体を前に倒し、アウラは上を向いて、唇を重ねていた。

 何度も唾を垂らしたアウラは、喉が渇いてしまったのだ。

 

 もう随分前の事。

 男はアルベド様から唾を飲ますよう何度もせがまれ、喉が渇いたことがあった。

 渇きを訴えると、アルベド様は甘露の如き唾を飲ませてくださったのだ。

 アルベド様と初めて唇を重ねた時の事である。

 

 その時のアルベド様に倣って、喉が渇いたアウラに唾を飲ませている。

 幼いながらも艶やかな唇に唇を重ね、舌を差し込めば応えてくる。

 自然と湧き出る唾は二人の舌で攪拌しあって泡立たせ、アウラの口内に注がれる。

 零れないようしっかりと唇を密着させ、アウラは喉を鳴らして飲み込んだ。

 

「あんっ♡」

 

 体を震わせ、堪らずと言ったように可愛い声をあげるのは、男の手に尻を掴まれているから。

 下半身は何も着けてないままのアウラだ。

 剥きだしの生尻を男に撫でられ、長い指は尻の割れ目に届く。

 先ほど教え込まれた快感を復習するかのように、指先が肛門に突き立てられ、入ってきた。

 

 アウラはシャルティアのアナルに指を入れ、シャルティアは男の逸物を深く咥え、男はアウラのアナルに指を入れている。

 三身一体であった。

 

 

 

「そろそろいいでしょう」

「あっ……」

「ぷはっ! 待っていんした! アウラのおかげで私の尻穴はばっちりでありんすよ!」

 

 男の唇もシャルティアの唇も離れ、準備完了を宣言すればアウラだけが名残惜しそうな声を上げた。唇と指と、アウラがどちらを惜しく思ったのかはわからない。

 シャルティアはその場で反転する。指を持っていかれそうになったアウラは慌てて引き抜いた。

 アウラは顔を歪めて自分の右手中指と薬指を睨み、ベストのポケットから取り出したハンカチで入念に拭った。

 アウラの指を折りそうになったシャルティアは、些細な事を気を掛けず、四つん這いで男に尻を突き出した。

 

「おまんこでもアナルでもどっちでもいいでありんす!」

 

 ふりふりと尻を振る。

 尻の割れ目は窄まりから淫裂までべっとりと濡れ、太ももにまで垂れている。どこまでがアウラの唾でシャルティアの愛液なのか、ところどころで泡立っているのはアウラの唾であるようだ。

 アナルの方はアウラが頑張ったので当然としても、淫裂も薄く開いて内側を覗かせる。ぬらりとした膣も奥を見せる。そちらは一度も触られていないが、アウラにアナルを責められてシャルティアが興奮しないわけがない。

 

「アウラ様のための実演ですから、今日はこちらを頂きます。アウラ様、よく見えるようもっと近くにおいで下さい」

「うん……」

 

 アウラは頷きながらも、今更ながらどうしてこうなっているのかわからない。

 振り返れば、いわゆる普通のセックスも目の前で見せられた事がある。あの時は色々ショックでうっかりユリに相談してしまった。あれは間違いだったかもと思う。今度こそユリには何も言えない。

 そのユリは、初体験時に両方の穴を開通していることをアウラは知らないでいる。

 

「行きますよ?」

 

 男も椅子から降りて床の上に膝立ちとなる。

 片手はシャルティアの尻肉を掴んで引き寄せ、もう一方の手で逸物の位置を合わせた。

 亀頭をあてがうのは、アウラがほぐしたシャルティアのアナル。

 

「おっ……おっ……、入って、きんした!」

「あっ!」

 

 長い逸物は少しずつシャルティアの中に入って、と見えたのは最初だけだった。

 アウラが体験したように、アナルは入口の圧が一番強い。そこを抜ければ奥は広がっている。

 小さな窄まりに少しずつ圧を掛け、閾値を超えればずっぽりと奥まで入る。

 狭い入口を破って押し入るような、めり込むような入り方だった。

 

「おっほぉおおおぉお! お兄ちゃんのおちんぽ、とってもあっついでありんすぅううぅうう♡」

「シャルティア様のアナルもよい締め付けです。アウラ様を驚かせたようにもっと締めてみてください。シャルティア様に食いちぎられるほど私は柔ではありませんので」

「いいんしたね? 勝負でありんす! ふんっ!」

 

 シャルティアは挑発を真正面から受け、きゅうと締め付けた。締めれば締めただけ、入っているものを強く感じる。

 吸血鬼の冷たい体に、固く勃起した逸物は焼けるほど熱い。膣へ迎えてもそうなのに、入っているのはアナル。

 本来は入らない場所に入っているのは異物感が強く、自分の中に入られていると一層強く感じてしまう。誰かが思った熱に依らない熱さを、シャルティアも感じていた。

 焼けた杭が自分の体を貫いているようだ。

 体を内側から焼き尽くそうとしているのに、熱さによる痛みも苦しさも全くない。

 だのに心も体も焼かれそう。

 

 尻に男の下腹が勢いよくぶつかって、パンと小気味よい音を立てた。

 シャルティアは、カリと床に爪を立てた。

 

「うっ、うっ……、あうっ! あうぅっ! 負けそうで、ありんすぅっ!」

 

 締めているから強く感じる。

 長く太い逸物が自分の中に入ってくるのは、蹂躙されているかのよう。

 出て行くときは体の芯が引っこ抜かれ、虚脱してしまうかのよう。

 入ってくるのが気持ち良ければ、出て行くときも気持ちよい。

 それが休む間もなく繰り返される。

 アウラがたっぷりと舐めて肛門の中にも注いだ唾は、シャルティアの穴と男の逸物で何度も擦られ、白い汁になって男の逸物を満遍なく包んでいる。ということは、シャルティアの中でも白い汁でいっぱいになっている。

 

「あっ、あっ、はうぅううんっ♡ おちんぽしゅごいのぉおおっ♡ おにいちゃああぁあん♡」

 

 四つん這いのシャルティアは左手だけで体を支え、右手は自分の股に伸ばした。

 アナルは塞がっていても、もう一つの穴が空いている。肛虐が始まってからも大洪水のままで、右手はくちゅくちゅと水音を立てだした。

 自分から勝負と言ったくせして勝負を忘れ、快感に身をくべた。

 そしてそれは、正しい選択だった。

 

「ひゃわっ!?」

「シャルティア様は勝負と仰いましたが、これは二人の営みでしょう? 違いませんか?」

 

 シャルティアは体を抱え起こされ、背中に感じるのは男の体。

 挿入はされたままで、シャルティアの尻は男の股に乗っている。

 形としては背面座位。

 シャルティアの裸身に男の手が這い始めた。

 

「ち……ちがいん、せん。……あんっ♡」

「でしたら、互いに感じ合って昇り詰めるものでしょう?」

「そのとおりでありんす……」

 

 シャルティアが上気した顔で潤んだ目で振り返れば、期待通りに唇が降ってきた。

 ちろちろと舌で舌を舐め、男の手が乳房をまさぐる。

 小さいながらも柔らかい肉に指を埋め、真っ赤に尖った乳首をきゅうと抓った。

 シャルティアは鳴き、腰をくねらせ、もっともっととねだるように、入ってもいないのに膣が締まって涎を垂らす。

 唇を繋ぐ糸が切れると、上に乗ったシャルティアが腰を振り始めた。

 

 実演観察ということで近くで見ているアウラは、驚けばいいのか引けばいいのか。

 

(う……うわぁ………………。こんなのエッチ過ぎるじゃん! シャルティアのやつ、あんな顔して……。あれってクリ触ってるの? あ、中に…………)

 

 初体験はシャルティアを交えて三人でしてしまったアウラだ。当然、シャルティアがセックスしているところを間近で見ている。

 淫吸血鬼であるシャルティアが乱れるのはそれ以外でも見たことがあるのだが、目の前の情景はそのいずれよりも淫らだった。

 

 シャルティアは愛欲に蕩けた顔で高く鳴き、腰を振る。入っているのはアナルだ。

 暗い部屋でも夜目が利くアウラだが、後背位から背面座位になったので入っているところは良く見えない。ただ、シャルティアが腰を上げると男の股から反り返った逸物が少しだけ見えて、シャルティアが腰を下ろすと隠れてしまう。

 シャルティアの割れ目には何も入ってないので、繋がっているのは後ろの穴なのは間違いない。

 割れ目の方には男の指が伸びて、と思ったところで、シャルティアが大きく股を開いたままなのに気が付いた。

 アナルセックスなのだからあんなに股を開く必要はないのに開いている。自分に見せつけるためなのだ。

 そうと気付けば、シャルティアがこちらに向ける顔も意味ありげなものに見えてくる。

 

 シャルティアは気持ちよくなってだらしない顔やら耐えるような真顔やらでいるが、時々にっこり笑ってこちらを見てくる。

 彼の手でおっぱいを触られたりあそこを弄られたりしてすぐに歪むが、間違いなく意識してこちらを見ている。

 見せつけているのだと察しがついた。

 

 それもそのはずで、シャルティアはアウラに見せつけている。

 愛しい男と交わって快感を得ている優越感と愉悦、だけと云うわけではない。

 勿論大いにあるが、本題はアウラにアナルセックスを見せるため。

 アウラにアナルセックスの予習をさせるためなのだから、アナルセックスは気持ちよいものだと思ってもらわなければならないのだ。

 けっしておバカではないシャルティアは、男の意をきちんと受け取って、己の役割をこなしている。

 

 それはそれとして、本気で感じている。

 腰を振る度にアウラへ見せる笑顔は減って、苦しそうに切なそうに男へ振り向いた。

 

「あっあっ、おっおにぃっ、あぁぁぁあぁぁんっ♡ わっわた……、おしりでぇっぇえええ…………!」

「お尻で、なんですか?」

「おしりでイッちゃうのぉおおぉお……♡」

「違うでしょう? イッちゃうではなく、何度もイッてるのを感じますよ?」

「そうなのぉおお♡ おにいちゃんのおちんぽで、シャルティアのお尻のあなきもちよくてぇ♡ あっはぁぁあぁぁあんっ♡」

「ですが、私はまだです」

「おにいちゃんならぁ……シャルティアのお尻のあな、いっぱい使っていいよぉ?」

 

 シャルティアは男へ媚を売り、ちゅっちゅとキスをする間も横目でアウラへ視線を飛ばす。

 アウラは、シャルティアの視線の意味がすぐにわかったわけではない。だけども何だかカチンと来た。

 

「あんっ♡ おにいちゃんはシャルティアのお尻を本格的に使うつもりでありんすね?」

「私もそろそろ出そうなんです」

 

 三度目の体位は、シャルティアを椅子に座らせた。

 浅く座らせ、男がシャルティアの太ももを抱えて引っ張ったので、座面に乗るのはシャルティアの背中。頭は背もたれにぶつかっている。

 シャルティアの尻は浮いて、今度こそ必要のために大股を開かされた。

 股の間には男が入っている。

 

「あっ……あうっ! あうっ! あっあっ、あっくぅうううぅうっ……! はぁぁっぁあああぁぁんっ!!」

 

 椅子の足と床板が激しく擦れ、キシキシと鳴る。

 シャルティアはそれよりもずっと大きな声で鳴き、激しく揺すられる体を支えるためか快感に耐えるためか、床板に爪を突き立てた。

 男の腕はシャルティアの体を支えるために塞がって、代わりに腰遣いが激しい。

 太い肉棒がシャルティアの小さな穴を抉っては戻り、抉っては戻り。

 潤滑液が足りなくなったのか、唾を垂らした。激しく動いているせいで目標より少し前に落ちる。

 泡立つ唾はシャルティアの割れ目の内側に落ちた。唾はシャルティアの内側を流れ、愛液と混じり、すぐ下の結合部に。

 注挿する逸物に巻き込まれシャルティアの中に入ってはかき混ぜられ掻き出され、シャルティアの尻を汚していった。

 

「そろそろっ」

「はうぅっ、だしてだして! シャルティアのおけつにおにいちゃんのぉおおおぉお♡」

 

 シャルティアの叫びは、果てがないとも思える快楽に安らぎが欲しくなったのか、愛しい男の愛を受け取りたかったのか、自分の肉体で感じている証が欲しかったのか。

 

「あっ、あっ、またおけつで、イッちゃうぅう……! イクぅっ、イッちゃううぅう! あっ、ああぁっ、ひゃあぁぁぁあああぁぁあああああん♡」

 

 シャルティアの背が弓なりに反り、ブリッジをしていた時のようなアーチを作った。

 肛門には男の逸物が根元まで刺さり、深いところでどぴゅどぴゅと熱い精液を吐き出した。

 シャルティアの背が椅子に落ちても、尻の穴の中では男の逸物がピクピクと震え、ぴゅっぴゅと断続的に吐き出している。

 

「はうぅううぅう…………。お兄ちゃんのおちんぽ、おまんこじゃなくて違う穴なのに、すっごい良かったでありんすぅ♡ ちゅっ!」

「私も同じですよ、シャルティア様」

 

 男は抜く前に、シャルティアに軽いキスを送った。

 終わった時は、具合の良さを褒め称えるのが礼儀である。

 

 

 

 

 

 

 アウラはジト目で二人を見ている。

 

「れろれろ……。あむっ……ちゅっ……ちゅるる……んーーーーっ」

 

 立ち上がった男の前に、シャルティアは膝立ちとなって口を使う。

 終わった後に女を褒め称えるのが男の礼儀なら、お掃除フェラするのが女のマナーである、とシャルティアは思っている。

 と云うことを教えたのはこの男である。

 拭いたり洗ったりするものがこの場には何もないのだから仕方ない。

 とはいえ、しているシャルティアも教え込まれた他の女たちも、満更ではなかったりする。

 

「次はおまんこでしてもいいでありんしょう?」

 

 終わったばかりのシャルティアは、口で清めた逸物をしゅっしゅと手で扱きながらそんな事を言う。

 お口とお手てで、一時萎れた逸物は角度が上向いてきた。

 

「魅力的な提案ですが、まずはアウラ様です。如何でしたでしょうか? アウラ様は驚かれたようでしたが、アナルセックスも良いものなのです」

「すっごくいいでありんすよぉ? ちゅっ」

 

 シャルティアがキスを送るのは、後でと言われたのに手放さない逸物である。

 

「………………そうかも、だけど」

 

 アウラの声は固い。

 二人の交わりで、アウラから見てもシャルティアはとても気持ちよさそうだった。しかし、釈然としない思いが大いに残る。

 そして、それ以外にも重大な問題があった。

 

「シャルティアならいいかも知れないけど…………」

「アウラも慣れれば尻穴で良くなりんすよ?」

「そーいうんじゃなくて! …………お尻の穴って……綺麗じゃないじゃん」

 

 なのである。

 シャルティアは吸血鬼であるため固形物を口にしない。いっぱい使ってるお尻の穴は未使用だ。けども、アウラは違う。

 おしっこは色がついてたり臭いがあったりするが、体内で濾過され無菌である。

 だけれども、もう一つの排泄物は違うのだ。

 

 男はアウラの懸念を察した。

 

「心配いりません」

 

 床に広げたジャケットを拾い上げた。

 実は行為の最中、自分だけジャケットを床に敷いていた。とっても強いシャルティアとアウラと違って、固い床板の上で膝立ちになれば痛くなってしまうのだ。

 二人を優先しなかったのは、こんなところに連れてきたのは二人の方と自己完結している。

 

 男がジャケットのポケットから取り出したのは小瓶である。

 

「ソリュシャンと共同開発したローションです。よく伸びて粘性も強いです。一番は老廃物を分解することです。アナルセックス用に開発しました。これはアウラ様が自習用にお持ちください」

「あっ、それ私も欲しいでありんす!」

「シャルティア様へは先日お渡ししたばかりではありませんか?」

「あれはもう終わりんした」

「もうですか?」

 

 指にちょこんと乗せるだけで全身に塗りたくれるほどよく伸びる最強で無敵のローションである。

 毎日使っても小瓶一つ使い終わるのに一年掛かると算定したのはレイナース。

 そのローションを、シャルティアは一晩で一瓶使い切った。

 

 全身ぬるぬるぐちょぐちょプレイはヴァンパイア・ブライドたちと行った。

 とても良かったが、洗い流すのにとても苦労した。

 シャルティアがぬるぬるから解放されるのに、シャワーを浴び続けて三十分。

 ヴァンパイア・ブライドたちはそこまで時間を掛けるわけにはいかず、第四階層の地底湖に飛び込んで洗い流した。第四階層の階層守護者であるガルガンチュアが知性を持っていたら、アインズ様に苦情を伝えたかも知れない。

 

「よく伸びるので使う際はほんの少量と申し上げたはずですが」

「うるさいでありんす。それはぬるぬるになりすぎでありんすよ! もっと簡単にぬるぬるが取れるように改良しなんし!」

 

 シャルティアの言葉で、男ははたと閃いた。

 最強無敵の魔法のローションは一瓶金貨100枚で販売中。カルカもレイナースも、ローションの性能には満足していたのでそこで思考を止めてしまった。

 だけどももっと希釈して伸びを抑えるようにすれば量を増やせる。と云うことは安価で売れる。と云うことは手を出せる者たちが増え、販売量の増加を見込める。と云うことはもっと稼げる。

 尤も、これ以上売り上げを増やさなくても黄金の輝き亭再建に必要な利益は出ている。とはいえ、儲けが増えて困ることはない。

 

「前向きに検討いたします。近日中に改良品を完成させましょう」

 

 二人が建設的な会話に勤しんでいるところ、アウラの目には険があった。

 

「……なに? それがあれば唾とかいらないの?」

「そうなります。潤滑液の代わりを十分果たせます。また、行為の前に直腸の洗浄が不要となります」

 

 ラナーとアナルセックスをする際に、ラナーを洗うのは男の役目だった。

 おしっこと違って、さすがにこちらを掛けられたことはない。

 だがしかし、そんな事をさせられて、この女には恥の概念がないのだなと強く思ったものである。

 

「それ持ってるのに、何で私の唾とか言ったわけ?」

 

 アウラの声が、固いを越えて鋭くなってきた。

 気持ちよくなってルンルンのシャルティアは気付かず、男の方は元より気付く能力がない。いや、声の調子が変わったことくらいはわかるが、原因については全くわかっていなかった。

 

「唾が基本だからです。初めてなのですから、応用より基本から入るべきでしょう。ただし唾は乾きやすいので、シャルティア様の愛液に助けられた面もあります」

「…………じゃあ……」

 

 アウラは言いかけて、口を噤んだ。

 この男の口が上手いのは良く知っている。

 口論をしても言い包められて訳が分からないのに納得させられるのが目に見えている。

 そこで心まで納得できれば良いが、何を言われようとシャルティアのあんなところを舐めさせられた事に納得していいわけがない!

 理不尽な辱めを受けたアウラは、怒っているのだ。

 

 そこには、行為の間に優越感を主張していたシャルティアへの苛立ちが大いにあるのだが、それには気付かない振りをした。

 

「おおっ!? 急に何をするんですか!」

 

 アウラは鞭を振るい、男の両手を体に縛り付けた。

 足は動くが、下半身は脱いだままだ。これならどこにも行けないだろう。行けないはずだ。行ってはいけないはずなのだ。行かせるつもりもないが。

 

 アウラは怒っているのだ。

 自分を辱めたこの男へ正当な復讐を果たすべく、しかし何をすればやり返せるのかわからない。

 痛い目に遭わせるのは、この際だから良しとする。

 けども、ソリュシャンに半日丸呑みされて頭と胴体だけになっても、最初に口にした台詞が「今日は本が読めなかった」であったと聞いたことがある。

 痛い目に遭わせるのは不適だろう。出来れば自分だってやりたくない。

 おそらくアルベドに叱ってもらうのが一番効果があるだろうが、一体何を言って叱ってもらえばよいのか。シャルティアのお尻を舐めさせられたから叱って、などと言おうものなら自分の恥を上塗りするだけである。

 同様にアインズ様に訴えるのは絶対無理。言えるわけがない。

 

 復讐に燃えるアウラは、手段を選ばなかった。

 

「こいつをちょっと懲らしめたいんだけど、シャルティアにはなんかいいアイデアがある?」

「アウラ様!? 一体何を仰るんですか!」

「あんたは黙ってて! で、シャルティア?」

「お兄ちゃんにでありんすか? うーーーーん、まあ、ない事もないでありんすけど」

「シャルティア様!? そんな理不尽なことに手を貸すのですか!?」

「理不尽はあんたでしょーが!! じゃ、シャルティア。それやっちゃって」

「アウラ様! 一体どうなされたのですか? 私の振る舞いに不都合がおありだったのでしょうか?」

「もういいから黙ってて! あんたはちょっとくらい痛い目にあった方がいいの!」

 

 言葉を交わせば惑わされる。

 最善は無視して為すべきを為すことなのだ。

 アウラは男の傍に長いソリュシャンやルプスレギナでさえ至らないところへ到達した。

 子供の癇癪が爆発したとも言う。

 

「アウラがこうまで言うなら仕方ありんせん。お兄ちゃんにはちょーーーーっと頑張ってもらいんしょう♡」

 

 シャルティアは、赤い舌で唇を一周させた。

 暗がりに艶やかな唇が濡れ光る。

 

 この男が痛みにやたらと強いのはシャルティアも知っている。

 しかし、シャルティアはこの男が焦燥しきって許しを請うたのを見たことがある。

 

 あれは、シャルティアを含むSVB48で男を相手取った時の事だ。40人までは驚異の技術と精力でこなしたが、10人を残して力尽き、されるがままとなっていた。

 その後、シャルティアとジュネを引いたSVB47が相手の時は恐るべきことに完勝。2,800と算出したレベルを、3,500に上方修正したものだ。

 しかし、である。

 どちらの場合も互いに楽しむための行為であった。

 それを一方的なものにしたらどうなるか。

 いかに精力が高かろうと、絶大な攻撃力を封じれば恐れるに足らず。勝ち確である。

 

 今度はおまんこでと嗤うシャルティアを、復讐に目が眩んだアウラには見えなかった。




まだあっつい
一週間後は涼しくなるとテレビで言ってました
暑さ寒さも彼岸までと云うから本当だと思いたい
それにしても暑い
なんで9月になって35度_(:3 」∠)_


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新しい生活 ▽

やった夏が終わったと思いきや明日の最高気温は33度だとか(´・ω・`)
本話16kちょい


 ルプスレギナはものすごく既視感を覚えた。

 

「お兄様! ああ、こんな……酷い……。何というお姿に……。シャルティア様、これはどのような事態でございましょうか!?」

 

 エ・ランテルの大きなお屋敷の書斎にて、ぽいっと放られたのは白いシーツに包まれた若旦那様。シーツからはみ出た顔はシーツに負けず劣らずに白い。いつぞやと違って意識はないようだ。

 そんな若旦那様を目の当たりにして、ソリュシャンは舌鋒鋭く言葉の刃で斬りつけた。

 言葉の刃と言えど、相手は階層守護者。尋常ならざる覚悟があった。

 

 愛しのお兄様が傷付けられればソリュシャンは黙っていられない、と言うのはソリュシャンの姉としても男の女としても、ルプスレギナにはよくわかる。

 が、そこまでの事か、とも思う。

 この男が色々絞られてヘロヘロになるのは初めてではない上に割とよくある。上位者に食って掛かる根性を発揮するよりも回復させる方が先ではないのか。今までのソリュシャンだったらそうしていたはず。

 ルプスレギナは内心で首を傾げながら男へ回復魔法を掛けるべく近付こうとして、ソリュシャンから手で制された。

 

 ルプスレギナが何故と思うより先に、ソリュシャンは男に巻き付けられたシーツを捲る。

 男の首筋には、刺し傷のような小さな傷痕が並んで付いていた。傷と傷の間隔は狭い。それはまるで吸血鬼が噛みついた痕のような。

 驚愕とともに男の顔を見れば白いシーツと同じ色。血の気の失せた土気色。

 まつ毛や唇が時折震えるので死んではいないと思ったし、何よりもシャルティア様が守護者統括相談役を害する理由がない。死んでないのだから、多少絞られても回復魔法を掛けてやれば、と思っていた。

 しかし、回復魔法が利かない状態にあるとするならば。

 吸血鬼に吸血され、吸血鬼に転化したしまったのだとすれば。

 

 アンデッドの気配はない。しかし、アンデッドの気配を隠すアイテムが存在する。

 もしも守護者統括相談役がシャルティアの吸血によって吸血鬼に転化してしまったのだとすれば、尋常ならざる一大事であった。

 しかし、当のシャルティアは問題が生じたとは感じていないようだ。ソリュシャンの態度も気にしていないようである。

 

「ちょっと血を吸いんしたが心配いりんせん。そいつは人間のままでありんす。なにせアインズ様公認でありんすからなーんにも問題なしでありんす!」

「アインズ様が!?」

「それよりソーちゃん、おにーさんの体調チェックっすよ」

「そ、そうね……」

 

 ソリュシャンは慌てて男の首筋に手を当てる。

 体温は低い。が、低いに収まる範疇でアンデッドの冷たさではない。紫色になっている唇を捲れば歯並びは良く、犬歯は伸びていなかった。どうやら人間のままであるようだ。

 

 なお、シャルティアは昨夜から今に掛けて、アインズ様に拝謁出来ていない。

 それなのにどうしてアインズ様公認との言葉が出たかと言えば、この男はアインズ様から下賜されたアイテムで不老不死となった。そのアイテムの効果によって吸血による転化を防いだ。すなわちアインズ様がシャルティアの吸血を見越してアイテムを下賜されたに違いないとの結論が得られるのだ。

 

 このように現実認識を自分に都合よく改変出来る能力こそがシャルティア力とも言うべき楽しい吸血鬼生を送る才能である。

 

「ですが、ここまで吸血する必要はないのではないでしょうか? 相談役殿でしたらシャルティア様の要請に応えて血を献じる事を厭わないと思われます」

 

 アインズ様公認とはいえ、限度があって然るべき。お兄様にはいつも健やかにいて欲しいソリュシャンである。

 言われたシャルティアは、白い美貌に苦さを滲ませた。三者から目を逸らし、窓の向こうを見やる。

 

「あれはとても苦しい戦いでありんした」

 

 絶世の美少女が物憂げに遠い目をするのはとても絵になるように思えるがシャルティアである。

 ソリュシャンとルプスレギナは似合わないと思ったのだが、口にはしなかった。

 

「ともかく何の問題もありんせん!」

 

 強く言い切った。とても苦しい戦いの詳細を語るつもりはないようだ。

 シャルティアは書斎から出ると、ゲートの魔法を発動して扉の向こうに姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

 昨夜、ダミーナザリックの小屋から屍蝋玄室へ男を拉致したシャルティアは、アウラの要請に従って徹底的に絞りきるつもりでいた。

 アウラがやってくれと言ったのだ。何が起ころうと何を言われようと自分は無罪である。無罪カードを手に入れたシャルティアは無敵である、はずだった。

 

 男をベッドに押し倒し、両手を拘束させて上に乗る。

 自分一人だけであったら数度で満足してしまうが、ヴァンパイア・ブライドは47もいるのだ。その上、男の手を押さえて絶大な攻撃力を封じれば生かすも殺すも自由自在。圧倒的なアドバンテージの元に完勝できるはずであった。

 

 一番乗りは当然シャルティア。文字通りに上に乗って腰を使い、繋がっている部分以外はヴァンパイア・ブライドたちに愛撫させる。

 シャルティアが騎乗位しながらヴァンパイア・ブライドたちに男へアナル舐めさせる超変則的な体位は、他では得られない快感であろう。小屋で後ろの穴を使わせた時よりも早かった。

 次に乗ったのはヴァンパイア・ブライド・エリートシックスのパム。余力を考えずに激しく腰を使うが出させる前に力尽き、選手交代。次の次で男は達した。

 その次に出させるには5人を要した。回を重ねるごとに時間が掛かるようになるのはシャルティアも承知している。

 合間合間には最低5人からなる全身リップ。ヴァンパイア・ブライドたちは常日頃の訓練の成果を十二分に発揮し、力をなくした男はあっという間に元気になった。

 順番待ちのヴァンパイア・ブライドたちは隣同士で絡み合う。

 広い寝室のそこかしこから嬌声が響き、シャルティアは一層盛り上がってきてもう一度上に乗った。

 

 それが間違いであった。

 

 最初に乗った時と違って、男はシャルティアに合わせて下から突き上げる。

 シャルティアの快感は段々深くなり、体も段々と前に倒れて男の美顔が近付き、無意識に唇を重ねた。そこで舌が差し込まれるのは良い。拙かったのは、血の味がしたことである。

 男は自身の舌を噛み切り、シャルティアに飲ませたのだ。

 吸血鬼にとっては至高の血であり、男の血をよく知るミラに言わせれば、「味覚を幾つも超越した超次元における味覚が存在するのなら美味と評しても良い」となる。

 そこへ下から深く突き上げられ、シャルティアの精神は肉体から乖離した。

 

 シャルティアが気を飛ばしていたのはどれほどの時間だったか。

 意識を戻したシャルティアが目にしたものは、ベッドに倒れ伏す女たち。ある者は仰向けで大股を開いたままで、ある者は尻を高く持ち上げて、誰もかれもが股を濡らしている。

 あーーーっ! と叫び声が響き、反射的に目を向ければ、叫び声の発生源より床上の惨状が目に入った。

 床の上もベッドの上と似たり寄ったり。あちらこちらで所狭しと女たちが倒れ伏し、股を濡らしていた。白い汁を零している者も多い。精液にしては粘性が低いように見えるので、大半は本気汁と思われた。

 愕然としながら現状を把握したシャルティアは、改めて悲鳴の発生源を見た。ヴァンパイア・ブライドの一人が、後ろから男に腰を打ち付けられていた。

 

 女はいつぞやのように壁に手をついている。突き出した尻には男の股間が重なる。それだけでなく、男の手は後ろから女の体をまさぐっているようだ。

 豊かな乳房を揉みしだき、結合部へ伸びる手は下腹を撫でているのか陰核を擦っているのか。

 女の声は悲鳴にしか聞こえなかった。それが突然止んだのは、男の指が女の口に差し込まれたからだ。

 指が口から抜けると、鮮やかだった悲鳴が掠れたものになる。

 男が幽かに呻いて動きを止め、女の悲鳴は甘くくぐもったものに。

 男は女を振り向かせると、唇を重ねた。

 ややあって女の全身から力が抜け、その場にどさりと崩れ落ちた。

 

 男は血に濡れた唇を舐め、次の獲物を見定める。

 狙われた女には怯えと、怯えの枷を食い破る愛欲があった。

 

 何が起こっているのかシャルティアにはわからなかったが、とても不味い事になっているのはよくわかった。

 ヴァンパイア・ブライドは47もいたのに、今や自分の足で立っているのは片手の指に満たないのだから。

 

 シャルティアが手段を選ばず男を絞り切ろうとしたのと同様に、男も手段を選ばなかった。

 シャルティアが意識を失ったら、まずは自身を押さえつけるヴァンパイア・ブライドたちを言葉巧みに惑わした。

 

『このままでは皆を抱きしめることが出来ない。シャルティア様が私の腕を押さえるよう仰ったのは女性上位の体位を楽しむため。だけど、皆が皆上に乗るのが好きなわけじゃないだろう?』

 

 むしろ上に乗られる方が好きな者が多い。

 そうして自由を取り戻した男が使ったのは、己の血であった。

 並みのヴァンパイア・ブライドならスプーン一匙で気を失う。単なるヴァンパイア・ブライドから逸脱したミラであっても、直飲みしてしまえば強い陶酔感と酩酊感で立っていられない。彼女らの上に立つシャルティアも同じで酩酊感からの復帰がやや早い程度。

 時に口移しで、時に彼女らの爪を使って肌を傷つけ滲む血を舐めさせる。

 

 力で押さえつけられるなら男の勝ち目は薄かった。

 しかし、ヴァンパイア・ブライドたちは主目的を知らず、男はシャルティアを除いたSVB47には完勝したことがある。そこへシャルティア曰く吸血鬼泣かせの血を用いれば、何度か絞られた後であろうと勝ち確である。

 

 シャルティアが呆然としている間にも、また一人崩れ落ちる。

 勝ち確だと思っていたのに、このままでは完敗してしまう。焦燥に駆られたシャルティアは、男の背後から飛びついた。

 首筋に牙を立て、ちゅうちゅうと吸えば心身に満ちる多幸感。しかし、このまま幸せになってしまうと負けてしまう。

 もはや、アウラの要請で男を懲らしめると言うのは頭から抜けていた。

 ヴァンパイア・ブライド全員を率いて自分にとても有利な条件で始まった戦いなのに、完敗してしまうのは我慢ならなかった。

 

『おっおっ、おまえたちもぉ……、てつだえぇ……!』

 

 あへあへしてるのに必死の声を絞り出すシャルティアの姿は、ヴァンパイア・ブライドたちの胸を打った。

 幸せの国で揺蕩っていたが、一人、また一人と起き上がって男に食らいつく。牙を突き立てるどころか滲む血を一舐めするだけで退場してしまうが、一つ一つは小さな力でも束ねれば大きな力となるのだ。

 女たちの海に飲み込まれた男は懸命に抗ったが、多勢に無勢である。

 最後には順番が来ていなかった女たちが乗って、力尽きた。

 

 シャルティア陣営は辛くも勝利を収めた。

 血を飲み過ぎたかやられ過ぎたかして、ヴァンパイア・ブライドの8割以上が倒れたままだ。

 本当に苦しい戦いであった。

 

 なお、正々堂々勝負すれば、シャルティア+SVB47+ミラでも男に勝算がある。

 そこへジュネを加えると男の負け確となる。

 シャルティア+ジュネでも男に負けの目が出てくる。

 最弱のヴァンパイア・ブライドであるのにバランスブレイカーな女である。

 

 

 

 ちなみにであるが、いつぞやのシズのように寸止めをしてやれば、シャルティアは労せず勝利を収めたはずだった。

 しかし、ヴァンパイア・ブライドたちに初体験を味あわせてやった時は勝利している。

 その時はジュネがいたから勝てたわけだが、たった一度の成功体験はシャルティアの戦略を誤らせてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 シャルティアが去った書斎には、一時静寂が戻った。

 兎にも角にも若旦那様を回復させるのが最優先。ルプスレギナは改めて若旦那様に近付こうとしたら、またもソリュシャンに制された。

 

「今度はなんすか? おにーさんは割と丈夫っすけど早く回復してやった方がいいっすよ?」

「お兄様の症状は過度の疲労と貧血ね。噛みつかれた痕が幾つもあるけどそれ以外に外傷はないわ」

「それがなんなんすか? 早く回復させればいいじゃないっすか。明日からは今日みたいにいかないんすよ?」

「それはわかってるけど……。回復魔法やポーションを使わなくても、栄養ある物を取って温かくしていれば大丈夫よ」

「煮え切らないっすね。だから一体なんなんすか?」

 

 ソリュシャンは、はあと息を吐いて頭を振った。ルプスレギナは神官なのに意外と鈍い。それとも神官だからこそと言うべきか。

 あからさまにバカにされて、かっちーんと来たルプスレギナは、妹をとっちめるべきか男を回復させるべきかしばし悩み、ソリュシャンが言った。

 

「お兄様を看病したいの」

 

 ルプスレギナの目から鱗のようなものがはらりと落ちた。

 

 手が取れても足が取れても体に大穴が空いても、睡眠不足でも肩凝りでも諸々の体液が足りない時でも、とりあえず回復魔法を掛ければ全快する。

 だからこそ、ルプスレギナは癒し手である神官なのに看病する選択肢を知らなかった。

 

「お兄様の体力なら明日には元通りになるわ。私が看病するからルプーは回復魔法を掛けたりしないでちょうだい」

「待った! それ私もしたいっす!」

「ご飯は私があげるわよ?」

「それじゃ私は温めるっす!」

 

 看病する発想がなければ、動けない若旦那様に尽くす発想もなかった。回復魔法を除けば、ルプスレギナはいつも尽くしてもらう側なのだ。

 

 シーツに包まれた若旦那様の上半身をソリュシャンが持ち、両脚をルプスレギナが持って若旦那様の寝室に運ぶ。

 そんな光景を、幾人かのメイド見習いに目撃された。そんなだからお屋敷における若旦那様の立場や扱いが微妙なものになるのだが、今更の事である。

 

 

 

「お兄様、お目覚めになって。そのままでは体を損なってしまいます」

 

 ベッドに寝かされた若旦那様は意識を失ったまま。

 ソリュシャンとしては栄養補給におっぱいを飲んで欲しいのだが、これでは吸ってもらえそうにない。

 若旦那様のこけた頬を撫で、乱れた髪を手櫛で整え、色の失せた唇に口付ける。

 

「んっ……れろ……」

 

 しっかりと唇を重ねたら、舌を差し込んで口を開けさせる。

 薄く開いた隙間へ流し込むのは、とろみのあるソリュシャンエキス。

 ソリュシャンは日々の食事やティータイムで飲食したものから適量の甘味や栄養を分離して自身の体液とブレンドし、栄養たっぷりのソリュシャン汁として保存しているのだ。

 それと云うのも愛しのお兄様に飲んでいただくため。

 いつもはおっぱいから飲んでもらう。今回は舌で押し込む必要があるため口移し。

 

 とろとろと甘い汁を流し込み、舌で押しやれば男の喉が僅かに上下する。

 手ごたえを感じたソリュシャンは、少しずつ量を増やしていった。

 

「それじゃ私はこっちっすね」

 

 ルプスレギナはベッドの中に潜り込む。

 男に掛けられた毛布の中へ頭から足まですっぽり入り、中でごそごそ。ややあって毛布の中から出てきた手は、ルプスレギナ専用改造メイド服を握っていた。

 冷え切った男の体に自身の体を密着させ、脚には脚を絡めて両手は男の手を握る。

 男の頬へ頬ずりまでしたいところだが、首から上はソリュシャンの担当。

 

 甘いものが胃に入ったのと体が温まってきたのとで、男が薄く目を開いた。

 

「うう…………、そるしゃん?」

「はい、お兄様。どうかそのままで体を休めてくださいませ」

「私もいるっすよ!」

 

 ルプスレギナが毛布から頭だけ出す。すると、ソリュシャンがドレスの襟を引き下ろして豊かな乳房をこぼれさせていた。

 

「お兄様はもう少し栄養を取る必要があると存じますわ。どうかソリュシャンのおっぱいを飲んでくださいませ」

「それよりかいふくまほうを」

「私がいるからって回復魔法に頼りきりじゃいけないっすよ?」

「む……」

 

 前回ナザリックを訪問した際、ペストーニャ様から魔法に頼ってばかりではいけないと言われたばかりである。

 ソリュシャンは男の体から力が抜けるのを察すると、男の頭を持ち上げて膝枕に移行。ルプスレギナの頭が邪魔なので、毛布の中に追い返した。

 

「お兄様、あーんしてください♡」

 

 ソリュシャンは体を倒し、あーんと開けられた口へ乳房の先端を近付けた。

 男の顔が乳肉に埋まり、ピンクの乳首が紫色から赤みが増してきた唇に食まれる。ちゅうと吸われれば、滲むようにソリュシャン汁が分泌する。

 

 乳首から出ても母乳とは違うので、汁の出方はソリュシャンの自由自在。強く吸われれば吸われるだけ量が増えていく。

 変幻自在のスライムであるソリュシャンだが、乳首の表面から分泌しているのとは少し違う。そうすることも可能でも、おっぱいを飲んでもらう時は変えている。まず人間の肉体を模して、母乳が出る乳腺らしきところにソリュシャン汁を溜める。そこから汁が通る乳管を乳首へ通じさせ、乳首の微小な穴から分泌する。

 口付けられている感触は別として、滲む程度ならソリュシャンが感じる程でもない。薄く汗をかくようなものだ。それが男の喉が何度も上下して嚥下する量になると、体の中に溜めた汁が外へ出て行くのを強く感じる。

 

「ああ、お兄様ぁ。もっと飲んでください♡」

 

 愛しのお兄様のミルクがソリュシャンの滋養となり、ソリュシャンが分泌するソリュシャン汁がお兄様の滋養となる。自分がお兄様を支えてお兄様の一部になっていることを強く感じられる。

 ソリュシャンは、お兄様におっぱいを飲んでもらうのが大好きなのだ。

 

 おっぱいが出せないルプスレギナはちょっぴり悔しい。

 代わりに、猫がマーキングするかのように男の胸板に頬ずりをした。

 

「るぷー、おもい。おりろ」

「重いってなんすか! おにーさんをあっためてるんすよ!?」

 

 女性に向かって重いと言ってはいけない。シズから教えられていた男だが、気を回す元気がないのだ。

 

「温かくて気持ちいいけど今はおりてくれ。たのむ」

「むー、わかったっす」

 

 ルプスレギナは素直に上から下りて、横から男に抱き着いた。

 もう少し食らいつきたい気持ちはあったけれど、弱っているおにーさんは何だか素直でかわいいのだ。

 大きな乳房を男の脇腹にむにゅんと押し付け、伸ばした手は男の体を温めるべく、胸板を優しくさすり始めた。

 

「おっぱいはもういいから、水を」

「はい、ただいまお持ちします」

 

 ソリュシャンが部屋から出て行く。

 毛布に潜っていたルプスレギナはもう一度顔を出し、今度こそ頬と頬を擦り合わせた。

 

「このままおにーさんをあっためてあげるっすから。早く元気になるんすよ?」

「……ああ」

 

 返事はあったものの、眠そうな声だ。

 

「そのまま寝ちゃってもいいっすよ? ルプーがおにーさんをずっとずっと温めてあげるっすから♡」

「……ああ」

「だから、おにーさんはルプーに優しくしないとダメなんすからね? 今日だけじゃなくて、明日も明後日も、ずーっとっすよ?」

「…………ああ」

 

 返事の間が段々と開いていく。

 激しく色々されるのも良いが、こんなのも悪くない。安心しきって体をゆだねる男が、ルプスレギナにはとても可愛くて思えた。

 瞼を下す男の顔へちゅっちゅと唇を落とし、へにゃりと笑う。

 ぎゅっと抱きしめたいところだが、そうすると起こしてしまうかもなので、男の腕を引っ張って腕枕で許してやることにした。

 

 水を持ってきたソリュシャンは口移しで飲ませ、ルプスレギナの反対側に潜り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 看病なのか玩具にしているのかわからないが、男は昼過ぎに目を覚ました。とはいえ、本調子には遠く、気だるげにベッドへ身を横たえている。

 体は動かなくても頭は動く。

 ソリュシャンは男へ一枚の紙片を差し出した。シャルティアが去り際に置いていったものだ。アウラからの伝言であるらしい。折りたたまれただけの紙だが、ソリュシャンもルプスレギナも中身は読んでない。無防備で無造作でも、上位者の私信を勝手に読んではいけないのだ。

 男が紙片を開くと、

 

『あんたが悪い』

 

 とあった。

 二人から何をしたのかと詰め寄られる男だが、何が悪いのか全く分からない。

 

 昨夜、アウラ様にしたことと言えば、アナル開発の予習。自習のための練習。

 罰と云う名目ではあったが、どうしても嫌なら拒否すればよい。階層守護者へ嫌な事を無理強い出来るわけがない。

 であるならば、アナルセックスを楽しんだシャルティア様が羨ましかったのだろうか。

 昨夜は誤解から始まったシャルティア様への罰だったわけだが、罰なのにシャルティア様は大いに楽しんでいた。そこに不満を持ったのかも知れないと推測できる。

 それはそれとして、その後はとても苦しい戦いであった。

 ヴァンパイア・ブライドが10や20なら何とでもなるが、やはりシャルティア様が指揮をとるフルメンバーは難敵であると云うことか。最後がどうなったか全く記憶にないが、いつの間にかエ・ランテルの屋敷で寝ていたことを思うと、負けてしまったと思われた。

 同じことが起こらないよう、次の機会があったらヴァンパイア・ブライドを一人ずつ徹底的にやってしまおうと思うも47もいる。

 やはり数の力は大きい。

 

 と、近いようで遠い事を考えつつ紙面を読み進めれば、男がサラマンダーの鍛冶師に注文した道具を明日マーレが持っていくとあった。

 

 アクセサリ加工のための彫金道具その他はそろそろ出来上がると思っていた。それをマーレ様がわざわざ持ってきてくれるとなると、例の件が何とかなったようである。

 こちらはアルベド様の許可が出ている話だ。油断なく慎重に事を進めなければならない。

 緊急ではないのでその件は明後日以降にして、明日マーレ様がいらっしゃるなら、エ・ランテルの街を一緒に散策することを予定に加える。

 

「いよいよ指輪造りが始まるんすね!」

 

 私信を覗き見たルプスレギナは目を輝かせる。

 

「お兄様がどんな指輪を作ってくださるのか楽しみにしております」

 

 ソリュシャンは男を信頼しきっている。愛しのお兄様が自分のために結婚指輪を作ってくれるのだから、おかしなものを作るわけがないのだ。

 しかし、ルプスレギナはそこまで盲目的に思えない。

 

「どんなの作るつもりなんすか?」

「どんなって言われてもな。デザインは幾つか頭にあるが……、二人こそどんなのが欲しい?」

 

 ナザリックの最古図書館で宝飾品について色々読んできた男だ。指輪のデザインも様々なものが頭に入っている。

 ソリュシャンとルプスレギナの髪や目の色に合わせて宝石を選び、それをどのように魅せるべきか。

 

「じゃ、ちょっと描いて欲しいっす」

 

 ルプスレギナがベッドテーブルにノートを広げ、ソリュシャンは男へペンを手渡す。

 字は下手だが絵は上手い男なのだ。不安定な場所だろうと真円も直線も自由自在。

 次から次へと描かれる指輪の絵は、大きな石を強調するものから小さな石を幾つもちりばめたものに、さらに小さな石を使って極小のモザイク画を作るものまで。

 

 さらさらと走るペン先に、二人の女の胸は高鳴った。

 これもいい、あれもいい、それもいい、どれも良すぎて選べない。

 すっとぼけた所を多々見せる男であるが、女心にクリティカルを出す時も多々あるのだ。

 まして今回は結婚指輪。

 女心がときめかないわけがない。

 

 なお、作成予定者は指輪はただの指輪だと思っている。事の始まりは、ラキュースに作ってやった体毛製ブレスレットを二人がずるいと言い張ったからなのだ。

 それでも指輪を左手の薬指に嵌める意味はさすがに知っている。結婚はまだ先になる予定なので婚約指輪になるのだろうが、体毛製ブレスレットと同等品を婚約指輪にして良いものかどうか。もちろんちゃんと作るつもりだが、やはり体毛製ブレスレットがきっかけと云うのは。

 この男にしては珍しく良心が働いたと言えよう。しかし、外部には現れないので、ないも同然とも言えよう。

 

「二人はどれがいい? 指輪を作ったことはないから製作期間は何とも言えない。何個か試作するつもりだし、ずっと掛かりきりになるわけにもいかない。まあ、何か月も掛かる事はないだろう」

「そうですわね」

「そうっすね」

 

 二人は聞いてるようで聞いていない。

 二人とも栄光のナザリックに仕える戦闘メイド「プレアデス」の次女と三女であり、帝都で皇帝主催の夜会に出たこともある。必要となれば様々な宝飾品が無制限に提供される。ナザリックの宝飾品はどれも素晴らしいものばかりだ。

 しかし、これはそれらとはわけが違う。結婚指輪カタログである。

 

 結婚指輪を作ってもらう。

 愛しい男から手ずから左手の薬指に嵌めてもらう。

 それを思えば、精神が未来に旅立って幸せになってしまうのだ!

 

 ぽややんしている二人は選べない。

 夢見るような声で、お兄様にお任せします、とソリュシャンが言う。ルプスレギナは無言でこくこく頷き、ソリュシャンと同意見であるようだ。そこでずっと夢見ていれば良かった。

 ふと我に返ったソリュシャンが、

 

「お兄様も同じ指輪をつけてくださいね?」

「俺も?」

「もちろん私の指輪と同じ指輪っすよ!」

「つける指は私と同じ左手の薬指でお願いします」

「私の指輪も左手の薬指につけるんすからね?」

「……俺の左手の薬指は一本しかないんだが」

 

 一本の指に指輪を重ね付けするのは、なくもない。そのようなデザインの指輪も当然ある。

 しかし、二人の指輪はそれぞれ全く違うデザインにする予定だった。二つを一本の指につけるのは少々不格好である。今しがたスケッチした指輪はどれも不適なので、違うデザインを考えなければならない。

 

 この時の発言をソリュシャンがとても悔やむのは先の話である。

 

 

 

 男がベッドから起きたのは夕食時になってから。

 体力はとっくに回復していたが、ソリュシャンとルプスレギナがベッドから出してくれなかった。

 ベッドの上であれやこれやをしている時に、ルプスレギナから明日からもこれまで通りにちゃんと相手をして優しくするようにと注意されたのは不思議である。これにはソリュシャンも追随し、明日以降も日に一回以上ミルクを提供することを約束させられた。

 さらに不思議なのは、夕食の給仕にリファラとキャレットが加わっている事である。

 シェーダの親しい同僚であった二人は、ナザリックにいたはずだった。それが昨日からエ・ランテルのお屋敷勤めに変わったのだとか。

 それと並行して、交代制であったメイド教官が二人に固定するらしい。エ・ランテルの大きなお屋敷は、メイド研修所を兼ねているのだ。

 二人は意味ありげに、これからよろしくお願いしますと頭を下げた。

 

 日中色々絞ったからか、夜になってソリュシャンかルプスレギナが忍んで来ることはなかった。

 それならミラを抱き枕にしようと考えた男だが、朝方のご主人様を思いますと今夜は体を冷やさない方がよろしいのではないでしょうか、と辞退された。暑くなってきたので、吸血鬼のミラを抱き枕にすることが多い今日この頃である。

 それなら今夜はこのまま寝ようとして、今日は帝都に顔を出してない事を思い出した。一昨日向こうに泊まったばかりだからいいだろうと判断し、男はそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 昨夜は就寝が早く、夜に疲れるようなことをしなかった。その甲斐あっていつもより早く目が覚めた。爽快な目覚めである。

 今日は幸せな一日となると思えるのは、目覚める直前の夢見がとても良かったからだ。

 良い夢なら目覚めずに続きを見たくなるところだが、目が覚めても気持ちよさが続いている。

 体の上には柔らかく心地よい重み。昨日ぐったりしていた時はルプスレギナに乗られて重かったが、元気な時なら大歓迎である。

 

 重みよりも感じるのは、ぬめる温かさ。暑い季節なので温かいものは遠慮したくなるが、そこは別である。誰かが股間で頑張ってくれているらしい。

 手でも気持ち良いが、感じる温かさが違う。では上の口か下の口か、難しい問題だ。どちらでも全体を包まれて温かい。

 おそらくはソリュシャンが口を使っている。

 ソリュシャンの寝フェラはほぼ日課。朝からソリュシャンの口に出すことで、気だるい心地よさと共に目を覚ますことが出来るのだ。

 されている最中に目を覚ますのは珍しい。珍しいどころか、記憶を辿ると一度もない。一度口に出してから、それでもソリュシャンの口が離れないと云うことは何度もある。

 股間に滾る熱さから、まだ出していないと感じた。

 

「んっんっ……じゅぷ、じゅぷっ……、んっふうぅ♡ ちゅっちゅっあむぅっ……、ちゅるる……。じゅるる……」

 

 戻ってきた聴覚が卑猥な水音を捉えた。やはり上の口を使っているようだ。下の口ではこうは鳴らない。

 寝起きの逸物は固く勃起し、柔らかな粘膜に根元まで包まれる。

 先端だけに口付けされ強く吸われる間も、竿が上下に扱かれている。

 扱かれるのが良ければ吸われるのも良い。包まれる時も吸われているようで、逸物全体が満遍なく柔らかな粘膜に触れている。

 

 ソリュシャンは絶世の美女だが正体は不定形の淫乱スライム。

 スライムテクによるフェラチオは初めてされた時から良かったものだが、日々進歩しているのを感じていた。具体的には早くなって量が増えた。こちらは気持ちよく、ソリュシャンも満足。ウィンウィンである。

 今朝のフェラチオはそこから一段階昇ったらしい。

 今にも出してしまいそうな快感が上ってきているのに、甘い刺激を徐々に溜めていくかのような絶妙な舌使い。

 高めるための前戯とは違う。射精させるための激しさとも違う。

 どちらも際限なく高めていく狂おしさと気持ちよさ。

 

 昨日の午後は指輪の話をした後、ソリュシャンに乗られて絞られた。その間、ルプスレギナは顔の上に乗ってきた。

 二人は場所を交代してルプスレギナが乗ろうとしたが、残念ながら打ち止め。何とか起き上がれるようになっても疲労と貧血で寝込んでいたのだ。ルプスレギナが頑張っても元気にならなかった。

 そこで光るのが回復魔法。

 回復魔法に頼りきりはいけないと言ったくせして、失った血液の回復には使わなくても精液の回復には使うらしい。やはりルプスレギナは発情狼である。

 

 それはさておき、昨日されたばかりのフェラチオと違い過ぎる。

 たった一晩でソリュシャンは一体何に覚醒したのか。

 そう思って重さが消えつつある瞼を持ち上げると、白く張った布が目に入った。

 

 布は縦に細長く、幅は指三本程度か。両サイドの縁には補強のための縁取りがある。

 白い布は柔らかな何かを覆っているようでふっくらとしていた。

 布以外の部分は肌色。

 それが何を意味するのかが意識へ浮上する前に、手が伸びていた。

 

「あんっ。……んふふ♡ あーんっ、ちゅるっ、れろぉ……。くちゅくちゅ……、じゅぷぷっ…………。うふっ♡」

 

 白い布は顔の間近だ。肌色部が顔の両脇へと伸びているため、邪魔になって手が届かない。

 手が届いたのは、布地が視界から消える向こう側。

 丸く柔らかく、しっとりとして肌に吸い付く。触っているだけで幸せになり、撫でていると勃起している逸物に一層血が通ってしまう。

 

 触ってから、尻であると気が付いた。

 三桁を越えて四桁は触っているソリュシャンの尻ではない。

 初めて触ったカルカの尻を同定した尻ソムリエの名に懸けて、ソリュシャンの尻を間違えるわけがない。

 誰の尻であるかは答えが出た。

 しかし、その御名を上げてはいけない。

 期待が裏切られたら、と消極的な事とは正反対。期待を高めに高め、喜びを強めるためだ。

 

「うふふ、あなたのおちんぽをしゃぶっているだけで……」

 

 空気を揺らす音がここまで美しくなれるのだと天上天下に知らしめる美声である。

 それもそのはず。

 声の主はいと高き彼方より美の何たるかを衆生に教えるために降臨為さったお方なのだ。

 

「んっ……」

「おお…………!」

 

 男が見つめる白い布に、ほっそりとした三本の指が現れた。

 指はふっくらしている布地を押しながら上下に動き、真ん中の指は他の指より深く沈む。

 指が往復する度に布地はふっくらとした何物かに張り付いて、小さな光点が見え始めた。

 

 光っているのは光を反射しているからだ。

 点だったものは縦に長く、筋状へ姿を変えていく。段々と広がっていく。

 男の鼻へ艶めかしくも生々しい雌の匂いが届いてきた。

 

「んっ! んっ! じゅぷっ、じゅるるるるるぅっ……! んぅうっ、じゅぷぷっ……ちゅうぅうううぅぅ……。あっ、はうぅんっ♡」

「くっ!」

 

 指が往復する速さに同期して、逸物への快感も加速していく。

 上に乗る女は、夏の夜に寝汗をかいたままで寝起きの男の体を、男が小便を出す排泄器を。宝玉の例えさえ不敬な汚れなき珠玉の唇で咥えている。

 

 白いショーツに広がるシミはますます広がっていく。

 口淫をして、自身で慰めて、ショーツから滲むほどに愛液を溢れさせている。

 いまや薄布はぴったりと秘部に張り付き、欲情して開いてしまった雌の形をあらわにしていた。

 

「っ!」

「んっ? んっ、んっ、んんんんっ! んうぅぅ………………。んっ……んっ……。こく……。んっ……」

 

 女の口へ、どぴゅどぴゅどくどくと吐き出した。

 昨夜は出さず、寝起きで濃厚なフェラチオによるファーストショット。

 度重なる経験とレベルアップで多めになっている量が、ボーナスの如く割り増しになった。

 

 女は頬が膨れるほどに吐き出された精液を、喉を鳴らして飲み込んだ。

 いつもなら口中で舌で転がして味わうところ、余裕がなくなるくらいに量が多かった。

 

 精飲したらお掃除フェラ。

 もう一度深く咥えて竿を綺麗にしたら、尿道口に唇をつけて強く吸う。尿道に残っている精液を吸い取るためだ。

 しかし、不要であったらしい。

 

「んんっ!?」

 

 射精してから竿を数度往復する間に、少し柔らかくなってきたのを女は感じていた。

 出せばそうなるのをよく知っている。

 出しても固いままにさせる方法もよく知っている。朝一なので、その手の技は使わなかった。

 だからであろうか、弛緩した尿道を本来の液体が流れる。寝起きに催してしまうのは仕方ない。不可抗力である。ソリュシャンにもいっぱい飲んでもらってきた。

 

「んーーーーーーーーーーっ! んっんっんっ……」

 

 お掃除フェラで吸ってあげようとして、亀頭を咥えたままだ。

 その状態で、口の中へ勢いよく放尿された。

 口の中に温かい液体が溜まってくる。出された端から飲まないと零してしまう。何度も喉を鳴らして飲み干した。

 舌で感じるのは精液より塩気が濃く、水のようにさらりとして、ほんのりと温かく。

 

「あひぃっっっっん♡」

 

 男が僅かに頭を上げて白い布地に顔を埋め、女は逸物から口を離して鳴いてしまった。

 丁度全部飲み終えたところだったので、一滴も零していない。

 そう思っていたが尿道口に雫が見えた。唇だけで触れてちゅっと吸い取った。

 

「こぼしてしまうところだったでしょう?」

 

 内容こそ男を叱るものだが、声音には悦びが溢れている。

 声の主は男の上で前後を入れ替える。輝く美顔に笑みを湛え、男を上から見下ろした。

 

「おはよう。朝から元気ね。とっても美味しかったわ♡」

 

 ああ、何と云うことであろうか。

 朝目が覚めて最初に見るのがアルベド様のお顔なのだ。

 創生から終末に至るあらゆる過程において、これ以上に幸せな目覚めはない。

 己は至高にして究極の目覚めを手にしたのだ。

 今日は絶対いい日である。

 

「おはようございます。この上なく良い夢を見ておりました。目覚めた今も夢の続きを見ているのかと思うほどに幸せに満ち溢れております。朝からアルベド様にお会いできる光栄を頂けましたことを心より感謝申し上げます」

「もう、あなたったらいつも大袈裟ね。でも、私も朝からあなたに会えて嬉しいわ。ちゅっ♡」

 

 二人の顔はアルベドの長い髪が降りて囲み、外からは見えない。互いに互いの顔しか目に入らない。黒髪の檻は高さを下げ、檻の中の二人は幾度も口付けを繰り返した。

 口付けに飽きる二人ではないし、繰り返す内に男の男に血が通うのを、アルベドは困ったように笑った。

 

「続きをしてあげたいけど今はお預けね。朝食にするからあなたも身だしなみを整えなさい。私はその後でナザリックに戻るわ」

 

 アルベドの言葉に異を唱える男ではない。

 しかし、アルベドの言葉は重大な事実を示唆していた。

 

 ナザリックに戻るなら、お食事部屋に設置した狩場直行君を使用すると思われる。シャルティア様が移動の手伝いをするのは少々考え難い。

 狩場直行君には使用制限があり、一度起動したら日を跨がないと再使用することが出来ない。アルベド様は朝のこの一時だけのためにナザリックからいらした、と云うことになる。アルベド様に救われてからこの日まで、一度としてなかったことだ。

 それ以外にもう一つの可能性がある。ナザリックへお戻りになったアルベド様がもう一度エ・ランテルにいらっしゃる場合だ。

 前述したように狩場直行君には使用制限があるため、一日の内に行って帰ってもう一度行くことは出来ない。可能なのは、行って帰るだけだ。しかし、もしもアルベド様が今日中にエ・ランテルに再訪なさると仮定すると、アルベド様がエ・ランテルにいらっしゃったのは日を跨ぐ前、と云うことになるのだ。

 

 

 

 

 

 

 果たして答えはどちらであるのか。

 可能性としては後者に重きがと思いつつ朝食の席に臨めばアルベド様がいらっしゃる。早速給仕を、と思ったところで座らせられた。アルベド様の給仕には昨日来たばかりのリファラとキャレットが付くらしい。

 お屋敷ではお嬢様として通っているソリュシャンと、時に守護女神になるルプスレギナも朝食を共にする。

 いつものメンバーにアルベド様が加わった状態だ。

 

 朝食の場では他愛ない話の他に一日の予定を擦り合わせることが多い。

 メイド見習いがいる時もあるのでナザリックに関する具体的な話はしないが、そこはわかる者同士の認識で補完できる。

 どうやらアルベド様はナザリックにお戻りになって必要な事をこなした後、再度エランテルの屋敷にいらっしゃるらしい。シャルティア様が移動を助けるではなく、狩場直行君で移動するようである。

 と云うことは、アルベド様は昨夜からこのお屋敷にいらしていたと云うことになる。

 

 一体何が起こっているのか。

 男としてはアルベド様がお傍にいたのに奉公できなかったのは痛恨の極み。

 それ以上にアルベド様がエ・ランテルの屋敷に滞在してくださるのは喜ばしい。

 

 

 

「ついてきなさい」

「はっ」

 

 朝食を終えれば、さして休むことなくアルベドは席を立ち、男を伴ってお食事部屋に向かう。

 朝食の後に次のお食事を、ではなくて、ナザリックに移動するための狩場直行君はお食事部屋に設置してあるからだ。

 

「さあ、入りなさい」

「これは……」

 

 部屋のドアはアルベドが開ける。

 何度も入っているお食事部屋に通され、男は目を見張った。

 アルベドは悪戯が大成功した幼子のように、あどけない笑みを浮かべた。

 

 お食事部屋は広い部屋。ダンスホール並みとは言わないが、先ほど朝食をとったダイニングより広い。四方は分厚い石壁に囲まれ、中央に大きなベッドが一つ。黒曜石から削り出したテーブルに椅子が二脚。寝心地抜群の長椅子。

 月日が経つに連れ、壁に棚やチェストの収納スペース。一人掛けから三人掛けまでの座り心地抜群のソファに、それに合わせたローテーブル。

 細かな物が増えはしても減りはせず、けどもとても広い部屋なので閑散とした印象は否めなかった。

 

 それが、様変わりしていた。

 

 一番は部屋が狭くなっている事。

 よく見れば、壁と同色のカーテンで仕切っているようだ。

 カーテンで仕切られたドア側の空間には、先述したテーブルセットに書類棚が囲む。

 

「こっちはクローゼットにしたわ」

 

 アルベドがカーテンを開いた空間は入口部分の空間より狭く、所狭しと美しいドレスが吊るされている。

 

「ここは下着ね。私に着て欲しいのをあなたが選んでもいいのよ?」

 

 細かく区切られた純白の衣装棚から一つ引っ張ると、春の花園に蝶が舞うかの如き色とりどりの小さな布地が丁寧に収められている。

 

「そしてここは……」

 

 アルベドが更にカーテンを捲って奥に進む。

 一番広い空間を占拠するのは天蓋付きの大きなベッド。アルベドがサキュバス的お食事をする秘密で特別な空間だ。

 

「これはいったい……どのような事でございましょうか?」

 

 男は呆然とアルベドに問いかけた。

 

 様変わりしたお食事部屋。

 おそらくは昨夜から屋敷に滞在しているアルベド。

 合わせれば答えが出るが、高まりすぎた期待が答えを出させない。

 寝起きの時とは違う。

 喜びを高めるために曖昧にしているのではなく、期待が裏切られた時の落胆が恐ろしい。

 だけれども、状況はそれを指している。

 

「ふふ、わからないの?」

 

 アルベドは、悪戯のネタ晴らしをする子供のように笑う。

 揶揄いたくて笑っているのではなく、喜びが抑えきれずに笑みが零れてしまう。

 

「わかるような気がいたします。ですが間違っている可能性を思うと軽々に口にすることが出来ません」

「仕方ないわね。それじゃあ……、教えてあげる♪」

 

 アルベドは、すっと男の体を寄せ、男の耳元に艶やかな唇を近付けた。

 

(わたし、今日からここで暮らすことにしたの♡)

 

 アルベドの宣言に数秒沈黙した男は、輝かんばかりの笑顔を見せた。

 




もうすぐ10月なのになんでこんなに暑いのか
暑い最中にも投稿してる方はいっぱいいて、みんな富士山の山頂や南半球に住んでるんじゃなかろうかと思うことしばし


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新プロジェクト始動!

本話9kちょい


 輝く笑顔にアルベドの胸はトゥンクと高鳴り朝食を取ったばかりにも関わらずサキュバス的食欲が高まるもこれからお仕事であるからにしてそんな時間はない。代わりにいってらっしゃいのキスをもらおうと思ったがそうするとサキュバス的食欲が(以下略)。

 

「行ってらっしゃいませ。お帰りを心よりお待ちしております」

「……ええ。行ってくるわ」

 

 男からキスされそうになるのを断腸の思いで制し、アルベドは狩場直行君を起動してナザリックの自室に転移した。

 

 アルベドを見送った男はキスを拒否されたことに一瞬だけ寂しさを浮かべたが、すぐに気を取り戻す。今日中にまた会えるのだ。それに比べたら、しばらく会えない事なぞ何の苦でもない。

 男が上機嫌でお食事部屋を出ると、部屋の外ではソリュシャンとルプスレギナが待っていた。

 

「アルベド様はナザリックに向かわれた。お帰りの時間は仰らなかった。今日だけお泊りになるなら兎も角、アルベド様はこの屋敷でお暮しになると仰られた。お帰りになるまで待機している必要はないだろう」

 

 一拍おいて、男は柔らかく笑った。

 

「ルプーにはこれからも世話になる。頼りにしてるよ」

「ふにゃっ!?」

 

 ルプスレギナの不意を打つような滑らかな動きでそっと抱き寄せ、張りのある頬へちゅっと唇を鳴らす。

 目を白黒させるルプスレギナから離れると、次はソリュシャンを抱き寄せる。

 

「今朝はアルベド様がいらっしゃった。ソリュシャンは物足りないだろう? 後で頼むよ」

「は、はい! お任せください!」

 

 ソリュシャンは力強く返事をする。

 

 男が崇め奉るアルベドがエ・ランテルのお屋敷に住む暮らすことになったのだ。信徒たる男はアルベドのためだけに全てを注ぎ、その他の事は少々おざなりになるのでは、と危惧されていた。

 危惧していたのはソリュシャンとルプスレギナだけではなく、アルベド自身もである。

 アルベドとしては歓迎すると思われるかもしれないが、ナザリックに於いて慈悲と慈愛の象徴であるお優しいアルベド様である。男へ心を砕き尽くしてきた女たちを哀れに思った。

 よって、自身がエ・ランテルに移る前から女たちを集め、話し合いの場を設けてきた。丁度、男がナザリックを訪問していた時期である。夜毎にミラがエ・ランテルに戻ったのは話し合いに参加するためだった。尤もミラに発言権はなく、聞いているだけであったが、守護者統括が主催する場に臨席させていただくだけでも大変な名誉である。

 

 しかし、懸念は良い方に大外れした。幸いなことに、男の視野はそれほど狭くなかったようである。

 なにせアルベド様と一つ屋根の下に。それはとてもとても幸せな事だ。

 流れ星を見かけて願い事を唱えようとしたら唱えている間に流星群が100以上流れるようなもの。それは吉兆ではなく凶兆かも知れないと云うのは措いておく。

 つまりは願い事の成就が確約されたも同然。幸せと喜びと悦びと期待に満ちた日々が始まるのだ。機嫌が良くなるのは当然である。

 機嫌が良くなれば周囲への当たりは柔らかくなり、優しくなれる。幸せのおすそ分けと云うやつだ。

 それに、男がソリュシャンとルプスレギナに日々感謝しているのは本当である。感謝を形にしてもよいと思えてくる。いつもは面倒だからしないのだ。

 

 但し、万事と万難を押しのけてアルベドが第一に来るのは変わらない。

 この日から、夜の予定が遥か先まで決定したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 魔導国アインズ・ウール・ゴウンの首都エ・ランテルの上空に大きなドラゴンが姿を現したのは、太陽が高くなってきた頃でした。

 魔導国では飛行するモンスターを利用した航空便が実用化しているので、ドラゴンが飛んできたくらいで騒ぐ者は余りいません。大きなお屋敷のメイドたちはよく訓練されているのもあって、ドラゴンが中庭に降り立とうとしているのを見ても恐れも叫びもせず、メイド教官の指揮のもとに外に出て整列します。

 若旦那様が知る二人のメイド教官はちょっと色惚けていると云うか欲求に素直と云うか、そんな姿しか見ていなかったので教官なんて務まるのかと思っていましたが、けして急がせるわけでもなく声を荒げることもなく、むしろゆったりとした動作で声も穏やかに聞こえるのに、声か姿勢か理念のどこかに筋金が入っているかのようで威厳すら感じさせる優雅さがあり、それをリファラとキャレットは鏡写しのように行うのですから、超が付く一流であることに疑いを持てようはずがありません。

 ナザリック第九階層「ロイヤルスイート」でメイドを勤めていたのは名だけの事ではないようです。

 

 メイド見習いたちが外に出て整列しているのは、本日は貴人が来訪されると事前に知らされていたからでした。

 出迎えの先頭は、お屋敷の責任者である若旦那様。

 

 今までは名だけの責任者であった若旦那様ですが、アルベド様がお越しになったのだからこれからは指導力を発揮してアルベド様が過ごしやすいようにお屋敷を大改革しようと思ったのですが、自分が何もしなくても今までは上手く行っていたのだから何もしない方がいいだろうと判断して結局何もしていません。

 下手の考え休みに似たり、どころではなく、下手が口を出すと害悪にしかならない事を知っていたからです。若旦那様は自分の無力をよく知っていました。下手なのに口を出したがるのを俗に馬鹿と呼びます。若旦那様は割と賢いのです。

 

 お屋敷の平穏が保たれたのは措いておき、ドラゴンに乗ってエ・ランテルまでやってきたのはナザリックからのお客様です。

 ドラゴンの背からひょいと顔を出したのは、美貌の幼いダークエルフ。色々と大人っぽくなってきたアウラちゃんではありません。きょろきょろと周囲を見下ろし、若旦那様を見つけると心細そうな顔をぱあっと華やかせたのは、アウラちゃんの双子の弟、マーレ君でした。

 

「マーレ様!」

「お兄ちゃん!」

 

 マーレ君はドラゴンの背中から飛び降りました。空中でくるっと一回転してから細い足を下へ向けます。足がちょっと開き気味なのは、着地する場所が地面ではないからでした。目指すのは若旦那様の肩の上です。若旦那様の首筋にお股を乗せるつもりなのです。

 さすがのマーレ君ですから狙いは外れません。しかしこのまま接触してしまうと、マーレ君のお股にダメージ必死です!

 しかし、そこは慣れてる若旦那様。

 マーレ君のお股が首筋に触れると同時に足首を折り、膝を曲げ、接触の衝撃を極限まで殺します。マーレ君のお股はダメージを受けるどころか、ふわふわクッションに飛び込んだような感触だったことでしょう。

 若旦那様は見事にマーレ君を受け止めると、ゆっくり立ち上がりました。合体完成です。

 ここでは口うるさいお姉ちゃんはいませんし、仮にいたとしたって屋外なのですから怒られることはないはずです。

 

「え? え?」

 

 肩車が成るなり、パチパチと拍手の音が鳴り響きます。どうして拍手されるのだろうと、マーレ君はやはりきょろきょろして、若旦那様にすがるような目を向けました。

 

「マーレ様を歓迎しているのです。お手数でなければ手を振ってやってください」

「う、うん。これでいい?」

「はい。皆、マーレ様をお迎えできたことを喜んでいるのです。もちろん私もですよ?」

「うん。えへへ!」

 

 マーレ君はとっても純心で可愛いのです。

 尤も、皆が拍手しているのはマーレ君の歓迎のためではなく、飛び降りて肩車をきめた見事な技へ対してです。

 若旦那様は手を振って拍手を止めました。それを見計らっていたかのように、リファラとキャレットがメイドたちへ指示を出します。メイドたちはマーレ君に一礼してそれぞれのお仕事に戻りました。

 

「今日のご予定を伺う前に、マーレ様にお運びいただいた品を預かってもよろしいでしょうか?」

「首に吊るしてあるのがそうだよ」

 

 ドラゴンの首には、大人が二人は詰め込めそうな大きな箱が吊るしてありました。

 若旦那様がサラマンダーの鍛冶師たちに注文した趣味の細工道具一式です。注文した道具は数があっても一つ一つは小さいのですが、火を扱うための炉も注文したので嵩張るようです。

 

「確認は後ほどさせていただきます。ミラ、そのままアトリエに運んでおいてくれ」

「私が運ぶっす!」

 

 いつなんどきも若旦那様の三歩後ろを歩いていたいミラが「かしこまりました」と返事をするより早く、ルプスレギナが手を上げました。

 若旦那様としては、運んでくれるのが誰であろうと構いません。ルプスレギナに運んでもらうことにしました。

 

 若旦那様にとっては趣味の道具ですが、ルプスレギナにとっては結婚指輪への道そのものです。譲れません。

 如何にも重そうで実際すごい重い箱を、ルプスレギナはひょいっと持ち上げました。ルプスレギナは力持ちなのです。ソリュシャンでも可能でしょう。プレアデスの姉妹なら全員、と言いたいところですが、ちっちゃくて可愛いエンちゃんだけはお友達を召喚しないと難しいかも知れません。重量は100キロや200キロでは効かないのですから。

 

「それともう一つ。以前、マーレ様にお願いした件はどうなったのでしょうか? 本日はそのためにお越しくださったのだと思っておりました」

「あっ!」

 

 マーレ君はしまったと言わんばかりに両手で口を押えて、上を向きました。青空が見えました。

 

「ちょっとドラゴンの方を向いてください」

 

 若旦那様は言われた通りに振り向きます。おっきなドラゴンが行儀正しく座っています。

 

「降りてきてくださーい!」

「で、で、ですが!?」

 

 頭上から声が聞こえます。女性の声のようです。

 ドラゴンは座っていても見上げるくらいに大きいので、若旦那様たちからは背中の上が全く見えません。

 

「……降りて来てくれないと困るんですけど?」

「!!」

 

 マーレ君の声がちょっぴり低くなると、ドラゴンの背中の上から激しく動揺した気配が伝わってきます。

 

「あっ」

 

 呆けた声は若旦那様です。

 ドラゴンの上から、先ほどのマーレ君のように誰かが飛び降りてきました。

 

「ギャーーー!」

 

 しかし着地失敗!

 足から着地したことだけは良かったのですが、着地時の衝撃で足首が変な方に曲がり、バランスを崩して前方に倒れとっさに手を突き出したものの手首も変な方に曲がり、転倒を堪えきれずに顔面を地面に叩きつけてしまいました。

 

「うぅ、ぐぎぃ…………!」

「えぇ…………」

 

 若旦那様は変な声が出ました。

 

 とりあえず回復させようと思いましたが、ルプスレギナは荷運び中。ソリュシャンが残っていたので、ルプスレギナに回復させたら適当な部屋で待たせておくよう言付けます。

 気を取り直して、改めてマーレ君に今日の予定を尋ねました。

 

「夜ご飯までには帰りますけど、それまではこっちにいてもいいですか?」

「もちろんですとも! 昼食はお済みでしょうか?」

「まだです。たまには違うところでご飯にしようかなって。前にお兄ちゃんがツリーハウスで食べたご飯が美味しかったって言ってたし」

「そのことですか。マーレ様と初めて食事を共にした時の事ですね。よく覚えております」

 

 若旦那様が初めてナザリックを訪問、もといシャルティア様に拉致られ、ナザリック第六階層のツリーハウスでマーレ君と一緒にご飯を食べた時の事です。マーレ君にとってはいつものご飯でしたが、若旦那様は絶賛しました。その際、「マーレ様も様々な経験をすると日々の食事がどれほど素晴らしいかわかるようになります」と言っていました。

 マーレ君は古い言葉を覚えていてくれたのです。若旦那様はちょっと感激しました。

 とは言え、ツリーハウスの食事の素晴らしさを知るために、マーレ君に美味しくないものを食べさせるのは言語道断です。とっても美味しいものを食べてもらわなければなりません。

 答えは一つです。

 

「マーレ様のお好みはアウラ様に近いと考えてよろしいでしょうか?」

「お姉ちゃんが好きなのは大体僕も好きですよ」

 

 双子だからというよりも、まだまだ幼いお子様舌だからでしょうか。マーレ君も甘いものが好きなようです。

 

「ミラ、厨房に行ってAセットとピクニックセットを持ってきてくれ。すぐに出るから急げ」

「はっ、かしこまりました!」

 

 AセットのAとは、アウラ様のAです。

 ミラが戻る前に、もう一度ソリュシャンに言付けます。アウラちゃんに献上予定の地図をマーレ君に持って行ってもらうので、その用意です。それと、帝国の一次情報を清書した資料がようやく完成し、若旦那様の最終確認を終えたので、こちらはエ・ランテルにあるアインズ様のお城に持っていくよう頼んでおきます。

 

 

 

 この日の午後になりますが、帝国マル秘情報をお届けされたアインズ様は「なにこれぇ」と困惑しました。

 机の上の紙束は、背が高いアインズ様の頭より高く積まれたのです。それが二つも。

 ちらっちらっと紙面を流し見たアインズ様はそれ以上手をつけず、デミウルゴスに任せることにしました。これをよこした男には、内容を百分の一に、いや千分の一に要約したものを寄越すよう命じることにします。

 なお、資料を渡されたデミウルゴスは、アインズ様が帝国の情報をこれほどまでに深く広く調べ上げたことに尊敬の念を増々深めるのは当然の事でした。帝国は完全に掌の中です。

 

 

 

 若旦那様はマーレ君を肩車したまま屋敷の端っこにある天幕まで歩きます。

 

「ケムキチ、出てこい。散歩に行くぞ」

「はいただいまー!!」

 

 毛皮製の天幕から出てきたのはビーストマンのケムキチです。

 外が騒がしいのでひょいと覗いてみたらドラゴン襲来。顎が外れるほど驚いて、逃げようとしましたが逃げ場などどこにもなく、下手に逃げようものなら若旦那様に躾けられてしまいます。出来るのは天幕の中で蹲って丸くなるだけでした。

 そこで勇気を発揮してドラゴンに立ち向かっておやつになっていたら楽になれたかもしれませんが、怖いものは怖いのです。

 

「これってビーストマンですよね? お兄ちゃんが飼ってるの?」

「ええ、この前捕まえたのを飼うことにしました」

 

 若旦那様がアインズ様にビーストマンの毛皮を献上するのはもう少し先の事です。毛皮加工の手順はちゃんと確立しているのですが数が多く、時間が掛かるのです。現在は屋敷の裏手で陰干しています。

 

 ケムキチはドラゴンの襲来にガクブルで、若旦那様に呼び出されたことでまたもあの恐ろしい特別訓練が始まるのかと思いましたが、それは昨日までです。これからはアルベド様が滞在するのですから、アルベド様を悪く言う訓練が出来るわけがありません。訓練は一昨日が最後です。

 そのことを、ソリュシャンもルプスレギナもミラも、誰も若旦那様とケムキチに伝えていませんでした。報告連絡相談のほうれんそうがなっていません。お屋敷の責任者である若旦那様が色々と雑なので、うつってしまったのでしょう。

 

「ご主人様、持って参りました!」

「ご苦労様。それを持ってついてきてくれ」

「はっ!」

 

 マーレ君を肩車した若旦那様を先頭に、バスケットを持ったミラと、丈夫な手袋をしたケムキチでエ・ランテルの散策に出発進行です。

 

 

 

 

 

 

 一行の中ではビーストマンであるケムキチが一番体が大きく強そうに見えますが、実際は一番弱いです。

 一番小っちゃくて可愛いマーレ君が最強だったりします。それどころかナザリックにおいて階層守護者の序列二位だったりします。広範囲殲滅最強とまで言われています。滅茶苦茶強いのです。

 ナザリックの外にはあまり興味がないマーレ君ですが、エ・ランテルはアインズ様が魔導国の首都にしたこともあって、少しくらいは関心があります。

 それと、エ・ランテル近郊にある魔導国冒険者御用達初心者研修用ダンジョンの管理運営はマーレ君のお仕事だったりしますので、エ・ランテルの冒険者ギルドとは割と関りがあったりします。エ・ランテルでも知る人ぞ知るのがマーレ君なのです。

 

 若旦那様は冒険者ギルドには用がありません。目的はお昼ご飯の確保。目的地はウィットニーさんのパン屋さんです。

 ティアとティナの仕上がりはウィットニーさんをそこそこ満足させているようで、時々パン屋の営業をしてくれるようになったのです。先日、竜王国にピクニックに行った時もそうです。

 ウィットニーさんのパン屋さんは果たして、大盛況でした。

 お嬢様でお姫様のソフィーの舌を満足させ、ナザリックのレストランで出しても問題がない極上のパンをお求めやすい価格で売っているのですから、人気になるのも当然です。これでは店の中に入るのも一苦労です。

 ですが、そこはエ・ランテルで知られている若旦那様。ビーストマンのケムキチに驚いて身を引いてしまう者もいます。怯えさせるなと若旦那様が軽く一瞥すれば、意を酌んだミラが軽く小突きます。軽くとは言ってもミラですので、当たり所が良ければ昏倒するくらいの弱さです。ミラは、ケムキチが若旦那様に攻撃を仕掛けたことを未だに許していません。絶対に許しません。永劫に許しません。隙あらば蹴飛ばします。

 ケムキチとしてはいっそ楽にして欲しいのですが、若旦那様にそのつもりはありませんでした。最低でも、毛皮が生え変わる冬と夏をそれぞれ二度以上過ごさせて経過を見る予定でいます。

 

 ケムキチの未来が暗澹としているのはどうでもよい事です。

 パン屋の中では肩車をするわけにはいかずにマーレ君を降ろし、あれやこれやと売り子をしているティアに注文します。

 ウィットニーさんがパン屋をしている時、ティアとティナは修業を受けられないので、パン屋のお手伝いをするようです。どういうわけかウィットニーさんは売り子を雇いたがらないので、二人が手伝わなければ店が回らないのです。

 世界広しと言えども、アダマンタイト冒険者に売り子をさせるのはウィットニーさんだけでしょう。さすがは伝説の凄腕シーフにして最高のパン屋さんであるだけはあります。

 しかしティアとティナが免許皆伝したらどうするつもりなのでしょうか。メイド村のメイド族みたいな都合の良い種族がいればよいのですが、残念ながら未発見です。

 

 美味しいパンを確保したら散策続行。次に目指すのは黄金の輝き亭です。

 

 色々やって爆破解体した黄金の輝き亭は、現在、解体作業がほぼ完了したところです。これもアインズ様が貸し出したデスナイトたちが昼夜問わずに働き続けたおかげです。

 一等地なのに広い空間が開けているのは何ともアンバランスな可笑しさがある光景です。マーレ君もちょっと物珍し気にきょろきょろします。

 現場で作業している偉い人に許可を取り、座り心地が良さそうな廃材の一個をケムキチに運ばせて、と思ったら重くて持ち上がらないようで、ミラに運ばせます。

 ケムキチは乾いた声で笑いました。ビーストマンブレイバーの誇りとか矜持とか意地とかはもう全部どこかに行ってます。あの時気合が入っていたのは、死ぬのが確定していると思ったからなのです。死にたいとは割とよく頻繁に思っているのですが、やはり生きてる間は生きていたいのです。

 

 廃材の上にピクニックセットから出したレジャーシートを敷いて若旦那様とマーレ君は並んで座り、ウィットニーさんのパン屋さんで買ったパンを出します。

 そのまま食べても美味しいのですが、ここで光るのがAセット。Aセットの中身は、アウラちゃん好みの甘々ジャムセットです。素材はナザリック提供で、レシピ開発は何と若旦那様。料理とは手順と分量をきちんとすれば何とかなるものですから、やろうと思えば料理が出来ちゃう若旦那様なのです。

 

 ウィットニーさんのパンに甘々ジャムをたっぷり塗ったパンにかぶりついたマーレ君は、大きな目を真ん丸に見開きました。

 若旦那様から「お味は如何です?」と問われたら、真顔でぶんぶんと頭を上下に振ります。どうやら美味しかったようです。若旦那様もニッコリでした。

 

 

 

 

 

 

 そのように散策組はとても楽しく過ごしていたが、突然エ・ランテルに連れられ一人残された女は地獄だった。

 

「なんすかこの女?」

「まさかお兄様がまた新しい女を……、なわけないわね。こんなのを相手にするとは思えないわ。お兄様もこれのみすぼらしさには驚かれていらっしゃったようだし」

「あう……その……、治療を、していただけると……」

「あ?」

「ひいっ!? ななななななんでもございません! 申し訳ございません!」

 

 マーレが連れてきた女は客室の一つに放り込まれ、二人の美女から詰め寄られていた。

 女は美女たちの怒りを和らげるべく、居住まいを正して額を床に擦り付けようとしたが、膝を曲げて座りなおすことが出来ない。両足は床に投げ出されたまま動かせそうにない。

 両膝を折って座れたにせよ、両手を床につくことが出来ない。両手首はおかしな方へ曲がったままで、指も関節とは逆方向に曲がっているものがある。

 顔は苦渋に歪み、鼻は潰れて額は擦り切れ、脂汗をたらたらと流している。酷い形相だ。それよりも、やつれ果てたが過言でない痩せ具合が目を引く。

 

 ソリュシャンは若旦那様から、この女をルプスレギナに回復させて待たせておけ、と言付かっている。ルプスレギナもソリュシャンからその通りの言葉を聞いた。

 が、すぐに回復しろとは言われていない。若旦那様が帰ってくる時までに回復させればよいのだ。

 その間折れたところはずっと痛いままだろうが、その程度で死にはしないので全く問題ない。

 

 ソリュシャンとルプスレギナは、若旦那様が新しい女を増やすことに積極的な反対はしない。

 ソリュシャンは多妻を勧めたくらいで、愛しのお兄様が満足するなら不満はあっても幸せでいられる。

 ルプスレギナは人狼であって、感性や価値観がやや野生側に触れている。変な女にかまけて自分を雑に扱うなら怒るが、そうでなければどうでもよい。

 しかし、何事にも限度はある。そして節度があって欲しいと思っているがこちらはとうに諦めた。それに男が積極的に増やしているわけではなく、ほぼ全員から迫られているのが事実である。例外は蒼薔薇の三人くらいだ。それも必要に迫られてである。

 

 新しく現れた女は、どう見ても美女には程遠い。可愛らしさもない。若くもない。見どころはない。怪我だらけなので醜女と呼ぶのは迷うが、異相であるのは確かだ。

 

 

 

(どうしてこんなことに!!)

 

 女は昨日まで真面目に仕事をしていた。

 そこへ十日ほど前に、今の仕事を引き上げエ・ランテルに向かえと命令を受けた。これまでの仕事は一端凍結するのだとか。

 仕事先で築いたコネクションなどが壊れないよう丁寧に後処理して再利用出来る形にしたのが何とか昨日の夜。

 明けた朝は恐れ多くもマーレ様とドラゴンに同乗し、今に至る。

 

 仕事が凍結された理由はわからない。

 エ・ランテルに連れてこられた理由もわからない。

 何もわからないのに、両手両足が折れた状態で美女二人から責められている。

 

 自分が一体何をした、と言いたくなったが今まで散々してきたことを思い出し救いの神はない事を確信し、はらりと涙を流した。




風邪をひく
不幸中の幸いだったのは休み直前だったこと
三日で50時間眠り何とか復帰
これというのも寒暖の差が云々、こないだまですごい暑かったのに云々

ヒルマが頑張ると多少話数が膨れますが本作は大きなストーリーを追ってるわけではなく横道は今更なので気にしない事にしました


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娼婦(?)の用途

本話12k


「お前は一体何なの? どうしてここに来たのかしら?」

 

 ソリュシャンの声は冷たいだけとは言い切れない。無用な石ころを見る無関心に、恐ろしきGを目撃してしまった恐怖もとい嫌悪もとい驚きのような何かに、失望と疑念が幾分絡み合って、一言では言い表せない。

 

「ま、ま、マーレ様に、連れてきていただきました!」

「そんなの見てたんだからわかるっすよ。それとも? 私たちは見てわかる事がわかんないよーな馬鹿だって言いたいんすか?」

 

 ソリュシャンほどではなくとも、ルプスレギナも面白くない。聖域を土足で踏みにじられるに似た不快感がある。割とかなりプチっとやっちゃいたくなっている。

 

「ちちちちちちがいます! 私も急に連れてこられたので何もわからないのでございます!」

 

 女の叫びには必死の響きがあった。嘘ではないだろうし嘘を言える場面でもない。

 

 言葉を間違えれば死ぬ、ならば良い方で、いつぞやの洗礼と同じように生きたまま苦痛の極地に叩き込まれる危険性があった。

 己をそのような場に導いたマーレ様が連れてきてくださった場所なのだ。そうして会わされているのが人間であることが疑わしく思えるほどに美しい二人の女。極々理性的に考えれば、二人ともあちら側だろう。絶対に間違ってはならない。虚言を弄するなど以ての外だ。

 

「それなら今までどこで何をしていたか言いなさい」

 

 何が起こっているのか当人にもわからないのであれば、これまでの履歴からこれからを推測するのは理に適った判断である。

 

「王国内で情報を集めておりました!」

 

 女の言葉に、二人は顔をしかめた。

 

「一応聞いておくっすけど、誰の命令っすか?」

「アルベド様でございます!」

 

 予感が的中してしまった。二人はふうと息を吐き、つと額を押さえる。

 王国内での情報収集は、間違いなく重要な諜報活動である。加えてアルベド様のご命令と言い切った。ナザリック内での序列では高い位置にあるプレアデスであっても、戦略や政略に関わる高度な計画には立ち入れない。

 しかし、そうすると疑問が深まる。

 高度で重要な活動を任せていた女を、どうしてエ・ランテルに呼び寄せたのか。エ・ランテルでも城の方なら話はわかるが、こちらのお屋敷は重要な施設ではあってもナザリックや魔導国の戦略に関わる機関はない。

 一番の違いは、アルベド様の相談役がいることだ。

 

「ここに来たのはアルベド様のご命令なのかしら?」

「わかりません! 今から十日ほど前に準備が整い次第エ・ランテルに向かえと仰せつかっただけでございます!」

 

 そうは言うが、アルベド様のご命令で活動していたのを呼び出すのならば、アルベド様かアインズ様のご許可がいる。来たのがこちらのお屋敷である以上、アルベド様のご命令と推測できる。

 

 アルベド様がご自身の相談役あるいは給仕係を可愛がっているのはナザリック内にて周知、とまでは行かないのは相談役の露出の多寡であって、近くに接していればよくわかる。

 現にソリュシャンとルプスレギナは繋がったまま気を失っている二人を見ている。

 故に、相談役を可愛がるために新しい女を、と考えるのは、目の前の女を見ればあり得ないと断じざるを得ない。

 だけども、諜報活動を行っていた女をわざわざ呼び寄せて何をさせるのかと言うと見当がつかない。そして振り出しに戻るのである。

 一言で言えば、わからない事が起こっているのが不快なのだ。

 

 女が骨折の痛みと張り詰めた空気で脂汗をたらたらと流していると、部屋のドアが軽やかに叩かれた。

 

「失礼いたします。ソリュシャン様、ルプスレギナ様、昼食は如何なさいますか?」

 

 許可を得て入室したメイドは、ソリュシャンの専従メイドであるシェーダ、に指導されているラキュースだった。

 

 シェーダはソリュシャンの専従メイドである。ソリュシャンの身の回りの世話をするのが仕事だ。しかし、そのソリュシャンも実態はメイド。自分の事は自分で出来、あまり手が掛からない。

 これが現地で雇ったメイド相手だったら我儘を言って当たり散らして振り回すだろうが、自身と創造主を同じくするシェーダにそんな事を出来るわけがない。元よりシェーダの仕事は完璧だ。

 と云うわけで、シェーダには空いた時間が多かった。

 帝都にいた頃は、空いた時間を利用してカルカや双子幼女にナザリックの事や作法を教えてきた。しかし、彼女らは帝都に残り、エ・ランテルに戻ったシェーダは再び時間を持て余した。その時間を若旦那様が使ってくれるなら良かったが、いつでもと云うわけには行かなかった。

 そこに現れたのが、シェーダと親しい同僚であるリファラとキャレットである。二人はアルベド様の専従としてエ・ランテルにやってきた。そこには5Pをした縁があったわけだが、当事者以外知らない事である。

 アルベド様は週に一度の休日を除けば、エ・ランテルにいらっしゃるのは夜間のみ。日中の二人は時間があった。その時間を有効活用すべく、二人がメイド研修所でもあるお屋敷のメイド教官に手を挙げたのだ。

 

 二人は日中もお仕事をしているのにシェーダは暇である。そこで目についたのがラキュースだった。

 生まれが貴族のお嬢様であったラキュースは、場に相応しい美しい所作を身に付けている。今はメイドであっても、他のメイドたちとは立場が違うので屋敷の維持管理に駆け回る必要がない。暇な時間は小説執筆にあてているが、皆は働いているのに自分一人だけ部屋に籠りきりというのは気が引けた。

 双方の思惑が嚙み合って、シェーダはラキュースにメイドとしての教育を施すことにしたのだ。

 

 これによってラキュースの給金に変化はない。むしろ授業料として支払いたいと思うくらいである。ラキュースなりに、礼儀は身に付けているつもりでも、使用人としての心構えはまるでなかったのだから。

 というのは建前であり、本音はお屋敷に留まる期間を出来る限り延ばしたいからである。

 先の毛皮収穫では、新生蒼の薔薇に一人当たり金貨100枚の報酬が出た。それをラキュースは受け取らず、留守番をしていたティナとガガーランへ渡している。

 金貨二万枚の借金は、月額金貨十枚のお給金で完済するのだ。また、これを機に若旦那様専従という夢を見ていたりもする。

 

 そのような事情はさておき、入室したラキュースは、知らない女が倒れていることに目を丸くした。

 ラキュースのみならず、ソリュシャンとルプスレギナの目を瞬かせたのは、女がラキュースの名を呼んだからだ。

 

「もしかして……ラキュース!? 王国の冒険者を辞めたとは聞いていたけれど、こんなところにいるなんて……」

「知り合いっすか?」

「いえ……私に心当たりは……」

 

 美女姉妹から目を向けられても、ラキュースは答えられない。

 王国のアダマンタイト冒険者であったラキュースは、美貌と偉業と強さでもって王国内では広く知られている。情報に聡ければラキュースと会った事がなくとも、ラキュースを見ればわかるだろう。

 向こうが知っていても、こちらが知っているとは限らないと云う事だ。

 それ以前に、傷だらけの顔では知った顔でも見間違う。

 

「回復させてもよろしいでしょうか?」

「ま、仕方ないっすね」

 

 ルプスレギナが掛けてやろうとしたが、ラキュースが先に女へ近付いた。

 

「へぇ……」

 

 ラキュースが行使した治癒魔法は、女の傷も骨折も全てを癒す。

 思ったより効果があることにルプスレギナは感心した。アダマンタイト冒険者なんてザッコとか思っていたのだ。

 

 その認識は割と正しく、ラキュースの治癒魔法は以前より効力が増している。

 ラキュースはお屋敷の若旦那様との交合を経て、位階がちょっとだけ上がったのだ。ラキュース的にはなんらおかしくも不思議でもない事である。

 

 傷一つなくなった女の顔は、やはり痩せすぎとしか言いようがない。美醜で言えば間違いなく醜に傾く。諜報員とするなら美醜のいずれかに酷く傾かなければどうでも良いだろうが、この屋敷に招くとなるとどうしても疑問が湧き出る。

 

「どこかで見たような気はするのですが……」

 

 ラキュースに見覚えがあるのなら、王国内での事になる。しかし、今までずっと王国にいた。無数に見かけた誰かしらの誰であるかまでは同定できない。

 悩むラキュースに煮え切らないとでも思ったのか、女が叫んだ。

 

「ヒルマよ!」

「あっ!? ヒルマ? 八本指の? ここで何してるのよ!」

 

 八本指とは、王国に巣くう手が長ければ根も深い犯罪組織のことだ。

 王国の治安を守るべく日夜戦い続けたラキュースにとっては宿敵と言って過言ではない。それをエ・ランテルの大きなお屋敷で、窶れ果てた姿で見ようとは夢にも思わなかった。

 

「はいそこまで」

 

 ルプスレギナが渋面で止める。

 続いて口を開いたソリュシャンも渋い顔だ。

 

「八本指と言ったわね。その時の立場を正確に言いなさい」

「はいっ! ヒルマ・シュグネウスと申します。王国の裏にて権勢をふるっていた組織『八本指』にて麻薬部門の長を務めておりました!」

「「ああ~~……」」

 

 ようやく知れた女の名に、美女姉妹は疲れたため息を吐いた。

 

 八本指の名は、二人も知っている。

 最初に知ったのは、王国内にそのような犯罪組織があること。八本指の幾人かにナザリック式洗礼を受けさせて、心を入れ替えた者を使っている。ヒルマはその内の一人なのだろう。

 次に聞いたのが帝都にいた時、屋敷に侵入したティアとティナを捕まえた際に話の流れで上がった。

 最後に聞いたのが若旦那様。八本指に少し迷惑を掛けたことがあると言っていた。

 その上、ヒルマは麻薬部門の長。王国名産の黒粉を扱っている部門だ。黒粉を若旦那様は割と好きであるらしく、帝都の裏市場で見つけたのを懐かしそうに購入していた。

 

 もしかしてもしかすると、昔迷惑を掛けて、好物である黒粉を扱っていたヒルマに恩返しを、と云うところまで考えて二人は却下した。

 あの男に、そういった人並みの情はない。昔の話は昔の話と切り捨てる潔さがある。

 

「ソリュシャン様とルプスレギナ様は何かご存知なのですか?」

 

 ラキュースに問われ、ルプスレギナの愉悦系ワーウルフが目を覚ます!

 にやりと悪そうに笑い、問い返した。

 

「おにーさんてむかーし八本指の連中を千人くらい殺してるんすけど、そこのとこラキュースはどう思うっすか?」

「「えっ?」」

 

 ヒルマも驚きに声を上げる。

 

 ヒルマはどうでも良いとして、ラキュースだ。

 下心や虚栄心や憧れやら色々なものが混じっていようと、ラキュースが冒険者になった理由の一つに「人々を守るため」は確実にあった。八本指は犯罪組織と言えど、モンスターや亜人などではなく人間だ。その人間を大量に殺した男をどう思うか。

 それで心が離れるならよし。そうなったら飼い殺しにするだけである。

 ルプスレギナ的にはどちらに転ぼうと何の問題もない。単に、かつて起こった事実を述べただけ。

 

「八本指は若旦那様の邪魔をしたのではないでしょうか。だとしたら仕方がない事だと思います」

 

 しかし、ラキュースは一瞬だけ動揺を見せたものの、落ち着いた様子で言葉を返す。

 ルプスレギナとソリュシャンは感心したようにラキュースを見る。残った一人、ヒルマはラキュースよりも動揺して目を見開いた。

 

 八本指の一部門の長として、ラキュース率いる蒼の薔薇と敵対していたヒルマだ。ラキュースの事は細かく調べ上げていた。

 以前得た情報では、ラキュースは情に厚い。敵対者には容赦しなくとも過度な攻撃を加えることはなく、よく言えば思い遣りがあり、悪く言えば甘かった。

 それが千人も殺されたと聞かされても、一瞬眉根を寄せただけ。

 メイド服を着ているこの女は、本当に自分が知るラキュースなのかと疑わしく思えてきた。

 

 と、ヒルマが疑うのも、ルプスレギナとソリュシャンが感心するのも無理はない。ラキュースは以前のラキュースとは違うのだ。

 ラキュースの主観では、高き所から自分を教え導くために降臨為さって下さったお方と高い次元での交合を繰り返して高きに導かれてきた。或いは上書きされている。高き所からいらっしゃった天上人の歩みを地上人が妨げることは許されない。それは人が蟻を踏んでしまうようなもの、とまで言ってしまうと過言だが、あの方の邪魔をしてしまったのなら仕方ないと断言できてしまう程度には染まっていた。

 相手が犯罪組織の八本指と云うのなら猶更である。

 

 が、実態はもう少し酷い。

 八本指の構成員が千人も死んだら組織が存続できなくなる。いなくなったのは当時の奴隷部門の上の方で、犠牲者の大半は八本指の構成員ではなかった。

 尤も、治安が特に悪い地区で起こった事なので、八本指と無関係な者ばかりではなかったろう。

 今や詳細は誰にもつかめない事である。

 

「そ、それは、いつ頃に起こった事なのでしょうか?」

 

 ヒルマが恐る恐る質問する。

 ソリュシャンとルプスレギナはそっと目を合わせた。

 わざわざ質問に答えてやることはない。が、事の仔細は二人も知らない。当事者である八本指であったヒルマなら何か知っているかも知れない。

 

「お兄様は子供のころと仰っていたから」

「十年以上前なのは確実っすね」

「十年前……あっ!」

「なんか知ってるんすか? 知ってたら全部話した方いいっすよ?」

「は、はい。以前、王都の一画で大火がありまして……」

 

 八本指の奴隷部門が焼かれたのは先述した通り。

 それによって、八本指の上の椅子がごっそり空いた。当時はまだまだ現役だったヒルマが若くして一部門の長となれたのは、その時の大火が遠因だった。

 

 皆は男の逸話をふむふむと興味深く聞き、シェーダがやってきたことでお開きになった。

 ラキュースは、昼食について聞きに来ていたのだ。仕事をこなせなかったラキュースが小言をもらったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 アルベドのお仕事が終わる時間は不定であるが、エ・ランテルに戻る時間を何時にするかは幾つか決めていた。

 

 ある時間までに戻れたら屋敷で夕食を取る。ナザリックの24時間営業レストランと違って、こちらでは食事の準備に時間が必要だ。代わりに味はそこそこ。ナザリックから高品質な素材を供給されているし、お嬢様として君臨してきたソリュシャンが我儘を言い続け、メイド教官たちが料理が出来ないなりにあれこれと注文を付け続けた成果である。アルベドも今朝の朝食には及第点を出した。

 夕食時間に間に合わなかったら、ある程度の時間を置いてから戻る。どんな時間に戻ろうとも自分の出迎えのために、少なくとも自分の専従となったリファラとキャレットと、彼が出向いてくるのは確実だ。憩いの時間を邪魔しないがための気遣いである。その際はナザリックで夕食を取る。それはそれとして夜食はきちんと取る。この時間に戻ることを夜食時間とする。なお、夕食時間に戻っても夜食は取る。

 夜食時間に間に合わなかったら、その日はもう仕方ない。夜の時間は、ソリュシャンかルプスレギナか他の誰かが有効に使うだろう。その場合、朝一のファーストショットは絶対だ。今朝方は時間の都合があって精飲にしたが、時間があったら睡眠姦をしたかった。それこそが住まいをエ・ランテルに移した目的の一つなのだ。近々絶対にやると心に決めている。

 当然のことながら、するだけでなくされたい。とてもされたい。以前、寝たふりをして誘ったことがあるのだが残念ながら不発。あの時描いていた絵はどうなったのだろう。

 聞けば、彼は朝がとても弱いのだとか。自然に睡眠姦に持っていくのは難易度が高いかも知れない。予め言い含めておけばしてくれるだろうが、それではサキュバス的矜持に関わる。どうすればと悩ましく思うも時間はある。これからは一つ屋根の下に住み暮らすのだ。

 

 この日、アルベドがエ・ランテルの屋敷に戻ったのは夕食時間より少し前。

 引越しした一日目なのだからお仕事をいつもより頑張って、終わらなかった分は明日に回した。その分、明日は夜食時間に間に合うか微妙である。

 

「「アルベド様、お帰りなさいませ」」

「ええ、今戻ったところよ」

 

 アルベドがエ・ランテルのお食事部屋改めアルベドの私室に戻るなりドアが恭しくノックされた。帰還を知らせる鈴はきちんと機能している。夜食時間を過ぎたら鳴らないように設定した方が良いかと考える。

 入室を許せば、リファラとキャレットが帰還の喜びを告げた。

 一人足りないとアルベドが眉をひそめたのをキャレットが気付く。リファラも優秀なメイドだが、キャレットに比べると少々おっとりしていた。

 

「相談役殿、いえ、若旦那様はマーレ様をお送りしているところでございます」

 

 公的な場なら相談役殿と呼ぶ。しかし、エ・ランテルの大きなお屋敷はアルベドのお食事処で私的な場所。公私のメリハリをつけるようにとアルベドが命じたため、この屋敷では若旦那様は若旦那様なのだ。ソリュシャンとルプスレギナも、おにーさんやお兄様と呼び続けることをアルベド直々に許している。

 

「マーレが来た? するとあれが届いたのね」

 

 マーレが届けたものをアルベドは知っている。彼の計画に理解を示し、アルベドが許可したのだから知らないわけがない。

 

「私も会うわ。どこに置いてあるのかしら?」

 

 

 

 そうして始まったのがヒルマへの圧迫面接その2であった。

 

 場所は空いた客室から書斎へ。

 ヒルマはポツンと椅子に座らせられ、正面には一人掛けのソファに座る男。アルベドは男が座るソファに両手を突いている。ヒルマは男とアルベドのどちらに視線を合わせるべきかと真剣に悩み、高速で視線を上下に動かした。

 

「アルベド様はお座りにならないのですか?」

「ここでいいわ。今日はずっと座りっぱなしだったもの。立っていたいの」

 

 ナザリックではデスクワークが大半のアルベドだ。視察をすることも稀にあるが、わざわざ見に行くまでもなく正確な情報がアルベドの元に集まるようになっている。

 

 男は、頭上にあるアルベドの胸に触りたくて仕方がなかった。顔を埋めるのでもいい。午前、マーレが来るまでにソリュシャンとルプスレギナに色々してされているが、アルベドのおっぱいは別ぱいである。

 しかし、これから重要な話をしなければならない。舌を噛み切った痛みで紛らわせ、誘惑に耐えた。

 

「私たちはそれの名を聞いただけでございます」

「おにーさんに言われて回復させてからは放置してたっす」

 

 午後になって、アインズ様へ帝国の一次資料を届けたのはソリュシャンだ。

 お嬢様ロールをしているソリュシャンには重量的に運べる量ではなく、お嬢様ロールをしていなくとも体積的に困難で、二体のデスナイトを使って運び入れた。

 その資料は速やかにデミウルゴスの手に渡り、デミウルゴスが久しぶりに一日三十時間の矛盾をすることになるのは余談である。

 

 ソリュシャンとルプスレギナは男が座るソファの両脇に立つ。

 ミラはヒルマの真後ろだ。ヒルマに至らないところがあったら制裁を加えるためである。

 

 凄い面々に包囲されたヒルマは、冷たい汗をかきっぱなしだ。媚びへつらって追従笑いをしたいのだが、顔面が引きつってまともな表情が作れなくなっている。

 そんなヒルマを見て、男は唸った。

 

「うーん……。ヒルマ、で合ってるよな?」

「はいっ! 八本指の麻薬部門をまとめておりましたヒルマ・シュグネウスと申します!」

「本当にヒルマなのか。なんだか聞いてたのと少し違うな……」

 

 ヒルマが男の美貌に驚いていたのとは真逆の驚きが、男にはあった。

 兎にも角にも痩せすぎである。ゆったりとした服から覗く手足は骨の形が浮かび、目の下は窪んで頬がこけている。

 金色の髪は豊かで唇は赤く塗っているのが一層異様に感じる。

 

「元は高級娼婦と聞いてたんだが、それで合ってるか?」

「はい! 部門の長に就いてからは客を取ることはありませんでしたが、以前は娼婦として勤めておりました! 客には王国の貴族や名のある商人たちが連ねておりました!」

「うーん……」

 

 高級娼婦と言うのなら教養があり、顔もそこそこ見れるものだったのだろうが、骨に少々肉付けした程度にしか見えない今のヒルマに、その頃の面影はない。面影はないが、本人がそう言うのなら本当にヒルマなのだろう。以前聞いていたのと大分違うが。

 

 娼婦と聞き、ソファの両脇から男へ強い視線が注がれる。

 アルベドが安心させるように目配せすれば、視線は男からヒルマへ戻った。

 

「何でそんなに痩せてるんだ? 食事を取ってないのか?」

「それは……その……。固形物が喉を通らなくなってしまいまして、スープしか飲むことが出来ないのです……」

「どうして?」

「それは、何と申しましょうか……」

 

 言葉に詰まるヒルマへ、背後のミラがさっさと話せと殺気を注ぐ。

 首筋を冷やす視線にヒルマの舌がますますもつれる。

 事情を知ってるルプスレギナが話してやった。

 

「恐怖公のところで躾けられたって聞いてるっすよ」

「うっ!」

 

 その時の事を思い出したのか、ヒルマの顔色が真っ青になった。

 細身を越えた骨身のヒルマが真っ青になっていると、そのまま死んでしまいそうだ。

 

「恐怖公……。確かエントマさんのおやつを召喚した方だとか」

 

 コックローチである。

 ヒルマは無数のコックローチに責められ、飲まされ、もぐもぐされてしまって心を入れ替えた。

 今でこそ窶れ果てたヒルマであるが、それはその時の経験が心に傷を残し、固形物を飲み込むことが出来なくなったからだ。

 ナザリック式洗礼の直後は焦燥しきってはいたものの、体におかしなところはなく窶れていたわけではなかった。

 ヒルマが八本指の一部門の長に上り詰めたのは、心の機微などを察する能力に優れていたからだ。肉体的や精神的に格別優れていたわけではない

 

 一方、ビーストマンの中でブレイバーの称号を得るほどに優れたケムキチは、ガチギレしたルプスレギナとミラの責めに耐えた。けれども、男が責めたら毛皮は色褪せ体は縮んだ。

 

 洗礼直後のヒルマとケムキチの様子を見れば、ケムキチの方が大変だった。とは言え、ケムキチは今でもきちんとご飯を食べれている。

 どちらの洗礼がより有効であるかは、時と場合に依るだろう。

 

「恐怖公……コックローチ……。そうだ!」

 

 ヒルマがコックローチによって心に傷を負ったのだと察した男は、閃いてしまった!

 

「コックローチのせいで食事を取れなくなったのなら、コックローチで癒せばいい」

「「「?」」」

 

 男がいつものように変な事を言いだした。

 

「簡単な事だ。この前エントマさんと話したことを実行する。動いていると逃げられるから、熱した油で素揚げして」

「ルプスレギナ」

「はいっす」

 

 フンッボッグハッ! 男は赤い血を吐いた。

 

 アルベド様公認物理的強制力によって男の提案は妨げられてしまった。アルベド自身も貫通させたり真っ二つにしたり綺麗な顔を吹っ飛ばしたりしている。ボディに行くくらい大したことではない。

 すぐに回復されたのが悪かったのか、男はめげなかった。

 

「私はコックローチを皆の主食にしようとしているわけではありません。いつか訪れるかも知れない食糧難に備えて新たな食糧を開発しようと」

「ダメよ」

 

 男の提言を、アルベドは切って捨てた。

 もしもデミウルゴスが相手だったら、男の言葉に一定の理解を示してしまったかも知れない。賢い男の弱点で、理詰めで来られると弱いのだ。賢いが故に言葉の正しさを認めてしまう。

 しかし、女には嫌なものは嫌と言える強かさがあった。

 

「もしもそんなのを食べでもしたら二度と口でしてあげないわよ」

「うっ………………。かしこまりました……」

 

 アルベド様のお口カードに勝てる札を、男は持ち合わせていなかった。

 ヒルマの主食をコックローチにするだけなら、アルベドも賛成したことだろう。しかし、この男は絶対に自分でも食べたがる。オーガがどうとかビーストマンがどうとかは、アルベドの耳にも入っていた。

 嫌な事を皆に強制する男ではないが、コックローチを食べた唇にキスしたいと思う女はいない。エントマは行けるかも知れないが、女と呼ぶよりまだまだ女の子である。

 

 こうしてヒルマの主食がコックローチになる事は避けられた。ヒルマは五体投地してアルベドへ感謝を捧げるべきであった。

 

「仕方ないか」

 

 男は立ち上がり、机の引き出しを開ける。

 取り出したのはやや大きめの蓋付きカップ。ヒルマへ投げ渡した。

 

「それを飲むといい。栄養不足で作戦中に倒れられたら困るからな。飲み方はわかるか?」

「は、はいっ! ええと……」

 

 わからなかったらしい。

 男が教えるまでもなく、ヒルマの後ろにいたミラがカップに付属のストローを剥がして取り出し、蓋に刻まれた十字に刺す。

 ミラからストロー付きカップを渡されたヒルマは、男から顎でしゃくられ、恐る恐るストローに口をつけ吸い込んだ。

 中身の液体が舌に触れるなり目を見開く。

 美味しい、とは思うのだが兎も角甘い。甘さは粘性を感じる程だったが、液体であるので苦も無く喉を通る。

 胃に溜まるに連れて、久しく感じていなかった満腹感が出てきた。スープなどで胃が膨らんだだけとは明らかに違う。

 三分の一も飲めばお腹いっぱいになった。

 

「全部飲むように」

 

 言われ、何とか飲み続ける。

 満腹感があっても、量的には大したものではない。強い酒などなら兎も角、お腹に溜まるだけの液体なら何とか飲み干せる。

 

「これは一体……」

 

 飲み終えたヒルマは口を押さえ、独り言ちた。

 

「あれはもしかしてシズの、ですか?」

「ソリュシャン、正解。この前行ったときにお土産でもらったんだ。忙しい時用にとっておいたんだが、仕方ない。あと幾つかあるけど、それがなくなったら」

「そうしたら私が持ってきてあげるわ」

「アルベド様にそのようなお手数をおかけするわけにはいきません!」

「あなたの考えが上手くいって欲しいのは私もよ」

「アルベド様、ああ、なんとお優しい……!」

「私如きのために何と申し上げればよいか言葉を選ぶことが出来ません! お優しいアルベド様の御心に心からの感謝を捧げます!」

 

 何か言われる前に、睨まれる前に、ヒルマはとっさに椅子から下りて床の上に跪いた。

 自分が何を飲んだかはわからないが、アルベド様が自分のために何かをしてくださることだけはわかったのだ。

 そこのところが分からなかった場合、ケムキチがやせ細った洗礼を受ける可能性があった。幸いにもナザリック式洗礼を受けているヒルマは、礼儀がなっていたようである。

 

 言うまでもなく、ヒルマが飲んだのはシズちゃん専用甘々ドリンクである。

 たった一杯で成人男性に必要な一日分の栄養素がたっぷり詰まっている。ガリガリになっているヒルマなら、一杯飲めば三日は食事をしなくて済む。

 

「出来るなら食事を取れるようになった方がいいが、当面はそれを一日一杯飲むように」

「は、はいっ! お慈悲に感謝いたします!」

 

 三日で一杯で足りるところを、毎日飲まされるらしい。

 

 

 

 ヒルマの栄養補給が何とかなったところで、ようやく本題に入った。

 王国への潜入情報収集よりも重要な指令があるのだ。

 

「元とは言え高級娼婦だったのなら、男をその気にさせたり悦ばせる技術に長けているんだろう?」

「はい! 旦那様が……」

 

 ご所望でしたら何なりと、と続けようとしたが、重い視線に舌が縫い留められる。

 反射的に答えようとしたものの少し考えれば、今の己を燐光を放つような美貌の男が求めるとは思えない。

 

「その技術を伝えることは出来るか?」

「出来ます! 今までも新人に指導したことが何度もありました!」

「……元気がいいのはわかったから、少し落ち着け」

「ももも申し訳ございません!」

「だから、声の調子を落とせ」

「…………はい」

 

 アインズ様なら仕方ないと諦めるところを、この男はめげなかった。めげない末に物理的強制力を行使されるのはついさっきもあった事だ。

 

 技術を伝える云々で、アルベド以外の女がこっそりと顔をしかめた。

 今までの自分たちが至らなかったからこの女に指導させると言われでもしたら、女心が酷く傷つく。

 アルベド様がお許しになった事なのだからそれはないと思いたいが、果たして男の要求は女たちが思うこととは全く違った。

 

「その技術を活かして、娼婦を一人仕立てて欲しい。先に言っておくが俺が使うわけじゃない」

 

 この男にとって娼婦とは、自分が楽しむための存在ではない。技術の研鑽や開発のための練習相手だ。特に、複数人を同時に相手取る時はどのようにされるのがいいかを詳しく聞き取っていたりする。

 今までは魅惑の秘薬を売ってる店を使ってきたが、是非にと誘われている事もあり、そろそろトロトロの蜂蜜を売ってる店に顔を出そうと考えている。

 

「それでは誰の相手を用意させるのですか?」

「まさか髭のおっさん、はもういないっすよね」

 

 アルベドは微笑を崩さない。

 ミラはヒルマの牽制役で口を開かない。

 髭のおっさんことラキュースの叔父はとっくにエ・ランテルを離れている。まだ滞在していたとしても、わざわざ娼婦を紹介するわけがない。この男はそんな気を利かせられない。そもそも気を利かせていい事がある相手ではない。

 

「俺の古い知人だよ。そろそろ会いたくなったからその時のプレゼントさ」

「うっそだー」

 

 ルプスレギナは一瞬で男の嘘を見破った。

 誤魔化そうと思えばややこしい事をややこしいままに話してけむに巻けるが、基本的に嘘は下手な男である。

 

「古い知人なのは本当だよ。そいつに女の良さを教えてやりたい」

 

 女の良さを教え、溺れさせる。求めるのはただそれだけ。

 

「年は俺より大分下かな? 目が悪いのか頭が悪いのかわからないが知覚機能に異常があるようだ。清楚可憐な美しいお姫様に……」

 

 実際とはかけ離れた言葉を口にしたせいで、男は気分が悪くなった。

 だけれども、アルベド様が撫でてくれたおかげで瞬時に回復。言葉を続けた。

 

「清楚可憐と思い込んでるお姫様に貞操を捧げてる真面目しか取り柄のない青年騎士だ」

 

 美しい姫。

 姫にかしずく青年騎士。

 

 王国の事情に聡いヒルマには、誰であるか瞬時に分かった。

 王国の王女ラナーが拾ったと聞く騎士見習い、クライムのことであると察しがついた。




夏が暑かったり風邪引いたりで下がった投稿ペースを戻したいと思うがさぼり癖が付いたような気がしないでもないです

成人女性が一日に必要とするカロリーは1,7~2k
ヒルマは省エネになってるので1,5kと仮定
甘々ドリンクのカロリーは4kと仮定
脂肪1kgのカロリーは7,2k
以上から、ヒルマが毎日飲むと三日で1kg太ります


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とても重要なぷろじぇくと

本話5kちょい


 クライム。

 肉体的には健康な男子。孤児であり爵位等もないため、家名はない。孤児故に出生が不明で本人に覚えもなく、正確な生年は不明。推定で16から17歳。

 物心ついた頃から王都の路上を住処としていたが、早々に限界が訪れる。そのまま誰にも知られず独り息絶えるところを王国の第三王女ラナーに拾われる。

 以降、立派な騎士を目指し厳しい修練を己に課して来た。が、クライムをよく知る者たちからは秀でた才能はないと評された。

 それでも折れず曲がらず腐らず、クライムはひたむきに修練を重ね続ける。

 全ては王女のためである。

 王女が自分に気を掛けてくれているのをクライムは強く自覚していた。何の功績も後ろ盾もないクライムにはとても有難い事であると同時に重責でもあり、陰に陽に揶揄されてきた。

 ならば王女が気に掛けるに相応しい立場と実力があればよい。

 クライムは生活全てを、王女の期待に応えるためだけに費やしている。

 実力はさておき、心の有り様は騎士の鑑と言えた。

 

 ところが、クライムが忠誠を捧げるのは王国ではない。

 勿論国王でもなければランポッサ個人でもなかった。

 貧しい孤児であったクライムに、国家だとか尊い血だとかはわからない。頭ではわかっても納得できないと言うべきか。クライムにとって王侯貴族は、民から収奪する偉そうな奴らでしかない。騎士見習いになって多少は見方が変わっても、無条件で尊ぶことは出来なかった。

 そして実を言えば、王女に忠誠を捧げているわけでもない。王女が献策した政策でクライムの目にもわかる成果を上げて尊敬の念を深くすることはあっても、忠誠云々とは直接関わらない。

 

 クライムが忠誠を捧げているのは、あくまでもラナー個人である。クライムが王国や王族を尊んでいるように見えるのは、それがラナーの属性の一つだからだ。

 故に、もしも王国が滅びラナーが王女でなくなっても、クライムがラナーに捧げる忠誠心に変わりはない。

 

 ラナーが全てのクライムに、女遊びをする心のゆとりは皆無である。色恋を知っているかどうかも怪しい。

 但し、意識しているか無意識かは定かでないが、ラナーに思慕の念を抱いているのは確実だ。ラナーがクライムを憎からず思っているのも、ラナーのクライムに対する扱い、いわゆる贔屓を見れば誰であれ察する。

 

 両者の関係が深まらないのはラナーとクライムの属性が邪魔をしている。

 方や王女、方や騎士見習い。どうにかなって良い訳がない。

 クライムには更に、色恋を知らないと追加される。

 

 クライムについての情報を共有した後、男は改めてヒルマへ告げた。

 

「クライムに女の良さを教える。そのために娼婦を仕立てて欲しい。どんな女を選んでどう育てるかは任せる」

「そのクライムとか言うのに女をあてがって、それからどうなさるのですか?」

「あげるだけじゃないっすよね? 私が知ってるおにーさんはそんなプレゼント絶対しないっすから!」

 

 ソリュシャンはともかく、ルプスレギナは酷い言い様だった。しかし全くもってその通りであり、全ての罵声を右から左への男なので目くじらを立てることはない。

 傍で聞いているアルベドも薄く微笑んだままだ。

 

「ずっと遊ばせておくわけじゃない。ある程度の期間を置いたら引き離す。大任を果たした女は幸せに暮らしてもらおう。エ・ランテルで暮らすのもよし。カルネ村に行くのもよし。望むなら帝国でも聖王国でもいい。構いませんか?」

「ええ、構わないわ。そのくらいは私の権限を使うまでもない。あなたの好きにしていいわよ」

 

 男とアルベドにはわかっていても、ソリュシャンとルプスレギナには何を狙っての事か不明だ。

 が、ソリュシャンには察するものはあった。

 

「女を引き上げさせたらクライムってのもついてくるんすかね?」

「そして王女は別離に苦しむ。それが狙いなのでしょうか?」

 

 男は癒えない火傷の痛みに苦しみながら長く監禁されていた。それをしたのが王国の王女ラナーであると、ソリュシャンは察していた。男はラナーの名を聞くのすら嫌がるのだから間違いない。

 王女がクライムとやらに執着を越えた想いを抱いているとして。愛する人と別れ離れるのはとても苦しいと想像できる。もしも自分がそんな事になったら、と思ったところでソリュシャンは考えることを止めた。有り得ない事を想像しても意味がない。

 かつて王都を火の海にしたゲヘナ作戦の折、クライムを傷つけるなと命じられた。今でも有効な命令であるが、クライムが自ら王女の元を離れるのは約定に反しないはず。王女からクライムを引き離すのはとても効果的な復讐に思える。

 しかし、愛しのお兄様がそんな復讐を考えるだろうか。

 以前、王女への復讐には興味がないと言っていた。それにとても陰湿なやり方だ。これがアルベド様のお考えであるなら頷けなくもないが、アルベド様は「あなたの考え」と仰った。

 お兄様には聊か似合わないやり方。やるのならもっと簡単にするはず。

 復讐をするのなら直接的に、いっそクライムを密かに処分して自ら遠くへ旅立った事にした方がよほど早い。

 

 ソリュシャンは色々考えたが、どうやら的外れらしかった。

 

「二人はクライムを知らないからそう思う。あれはちょっと……いや、かなりバカなんだ。その程度で王女から離れることは絶対ない。ラキュースもクライムの事を知ってるらしいから、気が向いたら聞いてみるといい。俺と同じ意見のはずだ」

 

 男がクライムをバカと呼ぶのは、ラナーの表面的な演技に惑わされ中身を全く知らないからだ。その基準で言うと、王国のほとんどがバカとなってしまう。

 男に言わせれば、アダマンタイトすら石ころに変える大魔法が掛かっている王国。なので、バカばかりでも不思議はないと思っている。

 

「……クライムに女を教え、一定期間経ったら引き上げる。それだけでよろしいのでしょうか?」

 

 滅茶苦茶な命令に思えるが、ヒルマは真剣に考え恐る恐る質問した。

 

「幾つか条件がある。手を出させるのはクライムから。女から無理やりは絶対にしないように。どんな状況でもいいが、ともかくクライムから手を出させること。それと、クライムに女の扱いを教える事。ただ、こっちは加減が難しい。クライムから初々しさがなくならない程度にしてくれ」

「期限はございますか?」

「早ければ早いほどいい。と言いたいとこだがすぐには無理だろう。どんなに遅くとも年内。出来れば冬の前に」

 

 意味不明な命令に、ヒルマは真剣に向き合った。

 目的やら真意やらを探ることなく、どうすれば命令を果たせるかだけを考える。余計な事を考えてもいい事はない。己は言われたことをこなすだけでよい。

 

 以前からクライムの事は聞き知っていたヒルマである。今聞かされた人物像と遠くない。

 どんな女をあてがうのが良いか、早速考え始めた。

 

 黄金と謳われるラナーに近いなら、美しい女は不適。どんな女でも見劣りする。すぐそこにいるお三方ならけして見劣りしないが、考えるだけで不敬である。

 美しさより可愛らしさや愛嬌。

 一般的に男が好むタイプなら同情を買いやすい哀れな女。ヒルマは現役時代に作り話をした事が何度もあった。しかし、現在の王国で哀れな女は掃いて捨てるほどいる。余りにい過ぎて生き腐れている。クライムとて何度も目にしているはずだ。

 それよりも行動的な女の方が良いかも知れない。

 加えて、出来れば処女がいい。相手は女に手を出したことがない童貞の騎士見習い。処女なら前の男と比べられる事がない。変に委縮することもないだろう。

 

「女はどのように調達すればよいでしょうか?」

「それも含めて任せる。但し、手荒な事はしないように。金が必要なら必要なだけ出そう。その辺りの報告は口頭でも文書でもどっちでもいい」

 

 攫うとなれば聊か手間が掛かる。しかし、金を使うなら問題ない。

 王国は先の帝国との会戦で、男手を大きく失った。上から下まで、困窮しているところは幾らでもある。そこへ幾ばくかの金を放ってやれば、娘を売るのも自身を売る者も幾らでもいる。

 そうして売られた女は娼婦として仕込まれ、仕事を少しばかりこなせば自由が待っている。魔導国宰相閣下であられるアルベド様がお認めになっているのだ。

 これは間違いなくとても良い話である。叶うならば自分が立候補したいくらいに。

 

「クライムと引き合わせる場は俺が作る。で、経過報告だが……?」

 

 男は最後まで言えなかった。

 後ろから繊細な手で頭を包まれ、上を向かされる。この世に真の美をもたらした天上の光と目が合う。

 次いで横を向かされソリュシャンと、反対を向かされルプスレギナと、最後に正面を向かされてヒルマと目が合った。

 

「経過報告はいいけれど、あてがう女にあなたは会ってはダメよ」

「私もそう思います」

「会った瞬間に計画がパーっすね」

「恐れながら、私も皆様と同じ意見でございます」

 

 終始無言のミラを除き、全員が接触禁止を主張した。

 男にはわけがわからない。

 

「まさか私がその女に手を出すとお思いですか?」

「違うわ。理由がわからないなら余計にダメ」

「……かしこまりました」

 

 ともかく駄目であるらしい。理由が不明でも、アルベド様が仰せなのだからきっとその通りなのだろう。

 

 ヒルマへ大雑把な方針を伝え、より詳しい話は後になった。

 そろそろ夕食の時間なのである。

 

 

 

 ヒルマは勿論、ソリュシャンとルプスレギナにとっても意味不明な命令である。アルベド公認と云うところが一層拍車をかける。

 男と旧知らしいクライムへ女をあてがうのは、らしくないがプレゼントと言うなら理解できなくもない。

 しかし、仲が深まったら引き離すことが決定している。それでクライムを引き抜くのかと思いきや、クライムが王国を離れることは絶対ないと言う。

 女の味を知ったクライム。そこで強調されるのがラナー。騎士見習いと王女であるのに互いに憎からず思う仲であるとか。女を知ったクライムは、ラナーを前にして前と同じでいられるだろうか。切っ掛けがあれば何かが起こってしまうかも知れない。

 見方によってはクライムとラナーの恋を応援しているように思えた。そんな事をどうしてわざわざ手間も暇も金もかけてするのか。意味不明で理解不能である。

 アルベドもアルベドの相談役も非常に聡明な頭脳を持っていると、ソリュシャンとルプスレギナは良く知っている。二人が無意味な事をするわけがない。

 自分たちには理解不能であるが、きっと重要な何かが裏に隠れているのだろう。

 

 ところが、そんなものは全くない。クライムとラナーの仲を一歩も二歩も進展させるのが目的だ。

 アインズ様のお言葉により一度は妹に会う必要がある兄だが、クライムがこれまで通り全てを妹に捧げてくれれば妹は余計な事をする余裕がなくなる。

 どうか二人きりで愛欲の海に溺れて沈んで欲しいと願う兄である。

 

 それはそれとして、男にとってクライムは大いなる謎だった。

 真っ当に生きてきた十代後半の男子なら、異性への関心が強くなるはず。関心に正比例して性欲が高まり、体内で相応の精液が生産されるはずなのだ。

 クライムは、一体どこでそれを処理しているのだろう。

 自分で処理するのか、はたまた夢精してしまうのか。そうなるくらいだったら素直に女を買うのが手っ取り早い。騎士見習いと言えど多少の給金はあるのだから。

 しかし、ティアやティナから話を聞く限り、そういった気配は皆無であるとか。

 やはりクライムは謎である。

 

 

 

 ヒルマは翌々日の早朝に、手下を引き連れてエ・ランテルを発った。

 定期報告のため、娼婦候補の教育はエ・ランテル内で行う。昨日の内に小さいがしっかりした造りの家を確保した。資金はお屋敷の若旦那様提供である。

 教育内容は素材を見て考える。今は一刻も早く候補となる女を見つけなければならい。

 

 出発がこの日になったのは、アルベド様がヒルマ用に特製ドリンクを持ってきてくださったからだ。

 その数、十二。

 一日一本飲めと言われている。

 すなわち、十二日以内に候補を確保してエ・ランテルに戻ってこいと云うことに他ならない。

 金はあるので集めることは簡単だが、兎にも角にも時間がなかった。

 移動の時間を考えるだけで眩暈がするようだ。

 

 なお十二本なのは、アルベドがドリンクをもらいに行った時の在庫がそれだけだったからだ。常飲しているのはシズだけなのでその程度の在庫でも十分すぎる。

 アルベドは、十二日以内にエ・ランテルに戻れ、と言うつもりでドリンクを渡したわけではなかった。ヒルマが忖度を過剰発揮しただけである。

 ヒルマはそこで一言でも問いかければ良かったのがだ、余計な質問は自分の首を絞めるだけと思い極めていた。

 なのだから、計画の目的を問うこともしない。

 自身に与えられた役割を万全にこなすことだけに注力するのだ。




試験的に場面で区切って投稿してみる
次話は24時間以内に投稿予定
あくまで予定です


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胸の痛みの癒し方

20時間前に前話を投稿しています
本話7kちょい


 ヒルマが旅立って数日後。

 その日のアルベドは、帰りは夜食時間と男へ言い渡してナザリックに転移した。夕食はナザリックで取り、帰ったらサキュバス的食事をベッドで取ると云うことだ。

 

 夕食を取った男は体を清め、体力諸々は万全だが言われた通りにルプスレギナから回復魔法を受け、アルベドの私室に入った。部屋の鍵を事前に預けられており、部屋で待つようにと言われている。

 鍵を持つのは、アルベド専従となってアルベドの私室の維持管理を任されたリファラとキャレットである。鍵は二人が一本ずつ管理し、今日の男はリファラから借りた形になっている。

 

 アルベドの私室は、入ってすぐがラウンジのように寛げる空間になっている。

 一室を三分割した内の一つだが、元がとても広い部屋なので屋敷の応接間くらいの広さがある。調度も相応で、座り心地抜群のソファやローテーブルが数学的に美しい位置関係で配置されている。

 棚やチェストの他にも小物が多く、ローテーブルにはペン立てに筆記具がささる。如何にも私的な空間を思わせた。

 残りの空間は細長いクローゼットルームと大きなベッドがある寝室。

 無断でそちらへ立ち入ることは出来ず、男はソファの一つに腰かけた。三人掛けのソファだ。一昨日はこのソファの上で盛り上がった。昨日は遅いお帰り。

 

 アルベドがエ・ランテルの屋敷に住まいを移して一週間と経っていないが、夕食を屋敷で取るのは休日を除いて週に一日。二・三日に一度は帰りが夜食時間を過ぎる。アルベドはそのように見ていた。今のところアルベドの予想通りになっている。魔導国及びナザリックで緊急の件がない限り、アルベドの思う通りになるだろう。

 それでも夜食は週に四回以上取れる。夜食が取れない日は朝食前の特別な朝食を取る。今までは週に一度で、最近は評議国の件があったためその週一すら時短の食事。

 現在は体も心もとても満足いく贅沢な食事事情である。あまりに贅沢なので、二度目の夜食はシェーダとリファラとで分かち合った。

 

 そのアルベドは、ナザリックの自室に備えてあるバスルームで体を清めている。エ・ランテルの屋敷に戻る予定の時間まで、まだ間があった。

 一人待つ男は、待つのを承知で待機している。

 元より退屈しない男だ。一人きりで何もない空間に閉じ込められても、記憶の宮殿に潜れば何でもある。何年、何十年と苦も無く過ごすことだろう。

 まして、今はアルベドの私室にいる。座っているのは先日も座ったソファ。色々な事が思い起こされた。

 しかし思い出に耽る時間は短く、部屋のドアがノックされた。

 

「失礼いたします。キャレットからこちらの部屋で待つよう伝えられました」

 

 頭を下げつつ入ってきた女性を見た男は、柄にもなく少々居心地の悪い思いを抱いた。

 

「ユリさん! ご無沙汰しております」

「あっ! ……んんっ。……アルベド様はまだお帰りになっていないのですか?」

「まだです。お帰りになる時間までもう少しありますね」

「そう。それじゃボクもここで待たせてもらうよ」

 

 入ってきたのはプレアデスの長女、ユリ・アルファ。

 男が帝国からエ・ランテルに戻って、会うのは初めてだ。

 忘れていたつもりはない。エ・ランテルに戻って早々に色々あって慌ただしかったのは確か。そして、ユリに会いに行かなかったのも確かである。

 ユリがそこを恨めしく思っているのかどうか、男からは離れた位置の一人掛けのソファに腰を下ろした。

 

「エ・ランテルに戻れたというのに、ユリさんへご挨拶に伺えなくて申し訳ございません」

「……それはいいよ。君にも立場が出来たし、こっちからも行かなかったからさ」

「そう言っていただけると助かります。一度はユリさんの孤児院に顔を出そうとは思っているのですが」

「それは止めてもらえるかな」

 

 エ・ランテルでは孤児院の管理運営をアインズ様から任されているユリである。子供たちを教育していずれは魔導国に役立てるために、と言うのは建前で、親を亡くした子供たちが可哀そうだから、と言うのが一番の理由だ。

 妹たちと違って、お姉ちゃんはとても心優しいのである。

 

 ユリが運営しているのを抜きにしても、孤児院には前から興味を持っていた男だ。

 男が真っ当な、とはとても言い難いが、一応は社会生活を営んでいた頃、周囲にいたのは子供ばかりだった。子供には大人より優しい男である。相手が子供なら、邪魔だからとりあえず焼いておこうとは考えない。

 だけれども、孤児院への訪問を一も二もなく拒否された。

 

「私が孤児院に行くと何か不味い事があるのでしょうか?」

「あるよ。君が悪いわけじゃないんだけど。君ってちょっとこう……目を引くからね」

 

 美貌の男であり、魔導国宰相閣下の相談役に取り上げられた。

 そんな男が孤児院を訪問すれば、大層目を引くのは間違いない。それは魔導国としても孤児院を軽視していないとのアピールにつながる。悪い事はないと思われるのだが駄目であるらしい。

 

「残念ですが、そう仰るなら」

「悪いね」

 

 駄目である理由は、ヒルマが仕上げる女に会ってはいけないのと同じ理由である。

 

 孤児院の子供たちは長く路上生活を送ってきたわけではなく、王国と帝国の会戦で親をなくしたばかりの子供たちだ。過酷な環境でふるいにかけられたわけではないので、男女比がほぼ半々になっている。若干女児が多い。

 幼い上に身寄りがなく、生活を保障されても不安を抱えている女の子たちがこの男を目にしたらどうなるか。けして乱暴な事はせず、孤児院を支援するためにやってきたと知ったらどうなってしまうのか。

 間違いなく、価値観が狂う。

 

 事実を述べると、エ・ランテルのお屋敷に勤めているメイド及びメイド見習いたちに既婚者はいない。教育を受ける余地がある若い女を集めたのだからそれは良いとしても、恋人がいる女はいない。いた者はいる。中でも、若旦那様が調子に乗ってお尻をぺろりんとタッチしたメイドは重症だ。

 わかりやすい例が、カルネ村のネムちゃんである。男が色々な事をしなかったとしても、抱っこされて、間近で顔を見て、言葉を交わした。それだけで、ネムちゃんは完全に手遅れになった。治療するには男と絶対に会えない環境に置いた上で、最低でも十年以上の時間が掛かる。

 つまりは他の男が男と見えなくなる。

 

 カルネ村に同行したユリは少しだけ知っている。子供には優しい男なのだ。

 孤児院に行ったら、性別問わずに声をかけ、請われるままに抱っこしてしまうだろう。そうなったら全滅だ。十数年後のエ・ランテルで出生数が激減する。

 ユリは危険物を迂闊にうろつかせるほど愚かではなかった。

 

「わかりました。それではユリさんに会いたくなったらこちらにいらっしゃるのを待つしかないわけですね」

「ん…………、まあ、そうなる、かな? えっと、ボクがここに来なかったのは用もなく来るわけにはいかなかったからさ」

「今日はアルベド様がお呼びになったのですね」

「うん。まあ、そうなんだけど」

「それはどのような用件なのでしょう?」

「ボクも詳しいことは聞かされてないよ。この時間に来て欲しいって言われただけだから」

 

 ユリの服装はいつものメイド服。

 男と会った時は毎回メイド服で、孤児院で仕事をしている時もメイド服。

 ナザリックのメイド服は、大きいと胸部で生地が切り替わるデザインになっており、下に着ているブラウスが上に来るようになっている。とても大きいユリは当然こちらのタイプ。とても目が幸せになるメイド服だ。

 

 男が目を幸せにしていると、またも部屋のドアが叩かれた。

 アルベドならこの部屋へ直接転移する。今度は誰が来たのかとドアへ二人の視線が注がれると、入ってきたのは男が初めて見る姿だった。

 

「失礼いたします。お呼びいただきましたので……ユリ姉様!? それに…………!」

 

 入ってきたのはナーベラル。但し、こちらもメイド服。

 ナーベとして冒険者を装っている時のナーベラルは、シャツとズボンのパンツルックばかり。生地が厚手か薄手かの違いがあるくらいだ。

 男はバニーガールとなったナーベラルを見たことがあったが、あれは唯一の例外である。

 そのナーベラルがメイド服。スカート姿を見る事すら男には初めてだ。

 初めて見るメイド服姿は、ナーベラルにとてもよく馴染んでいた。ナーベラルは戦闘メイド「プレアデス」の三女。ナザリックではメイドとして勤めていたと聞いてはいたが、今の姿を見ると本当の事であるようだ。

 

「ナーベラルもアルベド様に呼ばれたのかな。それよりも早く入ったらどうだろう?」

「え、ええ……」

 

 男はナーベラルに睨まれるのを気にせず、初めての姿をじっと見つめる。

 ナーベラルのメイド服も、ユリと同じで胸部で生地が切り替わっている。ナーベラルも中々あるのだ。

 

「今日は胸が痛いとか言わないのね?」

「……いえ、痛まないわけではないですが、ナーベラルの装いが珍しくて。初めて拝見します。とてもお似合いですよ」

「…………そう」

「ナーベラルもアルベド様に呼ばれたの?」

「ユリ姉様も?」

「私は何も伺っていませんよ。ここで待てと言われただけです」

 

 三人は待てと言われただけ。

 話を弾ませようにも適切な場所ではなく、何とはなしに沈黙が降りた。

 

 

 

 アルベドが光を伴って現れたのは、ナーベラルが来て間もなくだった。

 

「「「お帰りなさいませ」」」

 

 跪くまではしない。しかし座って迎える愚者はいない。

 アルベドは優雅に微笑み、今戻ったわ、と応えた。

 

「三人とも揃ってるわね。着替えるから、ユリ、ナーベラル、手伝いなさい」

「「かしこまりました」」

 

 アルベドはすぐにクローゼットルームに姿を消してしまった。

 部屋の区切りはカーテンで、それぞれの部屋の出入り口はカーテンの一部だけを開くようにしたものだ。カーテンは遮光性と共に遮音性も高く、衣擦れの音はおろか話し声も聞こえない。

 ややあって、カーテンの隙間からアルベドが顔だけ覗かせた。

 

「下の色は何がいいかしら? あなたに選ばせてあげるわ」

「白でお願いします」

 

 即答である。

 アルベド様なら白も黒も赤も紫もピンクでも、どの色でも似あう。その中で一番に上げるならば白なのだ。

 

 アルベドはニッコリ笑うと、もう一度カーテンの向こうに姿を消した。

 それから少しだけ待たされ、姿を現したアルベドに男は息を飲み、感嘆の息を吐いた。

 アルベドもメイド服に着替えたのだ!

 

 ユリやナーベラルと同じデザインである。

 肌の露出は普段の白いドレスと比べて大幅に下がっているが、胸で生地が切り替わるため、乳房の大きさが強調されるのがとても素晴らしい。

 注目すべきは胸元である。アルベドの胸がいつもより大きく見える。

 目で見るだけでミリ単位の寸法が分かる男である。アルベドの胸はいつもより確実に大きい。

 それに、僅かな動きでたゆんと揺れる。

 よくよく目を凝らせば、白いブラウスの然るべき位置に、本当に薄っすらとピンク色が透けている。

 一歩毎にたゆんたゆんと揺れている。

 それだけでなく生地が擦れるのが刺激になるのか、歩みを進める毎に突起が目立ってきた。

 ふふふと微笑むアルベドは、ソファが囲む重厚なローテーブルをひょいと持ち上げ脇に置く。テーブルの上に置かれた筆記具は揺れもしない。アルベド様もすごいぱわーがあるのだ。

 

 アルベドは男の正面のソファに座り、所在無げにしていた二人は男の両脇に座らせた。

 

「ナーベラルのためにこの場を設けたのよ。ユリはお手本ね。私でもいいのだけれど、顔を見せてなかったのでしょう? おかしな遠慮をしないで時々通うようにしなさい」

「私如きのためにありがとうございます!」

「私がお手本、でございますか?」

 

 よくわからないながらも自分のためと言われたナーベラルは、深々と頭を下げた。

 ユリは通う云々よりも、お手本が気に掛かる。

 

「聞いたわよ」

 

 そして残る男には、微笑みを消して真剣な眼差しを送った。

 

「ナーベラルがいると胸が痛むそうね?」

 

 数日前、男がシャルティアとアウラに拉致され、アルベドがエ・ランテルに引っ越しをしたその夜の事である。

 ナーベラルは姉妹に応援され、アルベドにとある相談を持ち掛けた。半ば強制されたとも言う。

 その内容が、自分が傍にいると彼の男は胸が痛むと言うようになった、と云うものであった。

 

 

 

 

 

 

 詳しい内容を話せなかったナーベラルに代わり、胸が痛んだ現場に居合わせたソリュシャンが説明をした。

 

「ナーベラルがお兄様と初めて会った時の事です。アルベド様もご存知と思われますが、その時のナーベラルは人間に触られても過度な反応をしないようにと、アインズ様から申し付けられておりました。訓練の相手に選ばれたのがお兄様です。お兄様はまずナーベラルの反応を見ようと、アインズ様のお許しを得てナーベラルに触れました。お尻を撫でられたのは耐えたのですが、胸をこう……鷲掴みにされた時は反射的に手が出てしまったようで……」

 

 ハートブローを食らわせてしまったのだ。

 その結果、胸骨陥没。

 奥にあるとても重要な臓器が損傷し、アインズ様がポーションをお持ちでなければ速やかにリザレクションが必要な体になっていた。

 

「そのような事がございまして、お兄様はナーベラルが傍にいるとその時の事を思い出してしまうようなのです」

「でもそれって嘘っすよね」

 

 ルプスレギナが容赦なく突っ込んだ。

 ソリュシャンは苦笑せざるを得ないし、ナーベラルは悔しそうに顔を歪めた。

 どれほど酷い痛みであっても、事前の覚悟があれば涼しい顔で受け流す男である。覚悟の時間がなくても驚くのが精々。痛みに苦しむことはまずない。

 だというのに過去の痛みを思い出して、などとは嘘に決まっていた。

 

 痛がる素振りを見せると、ナーベラルが露骨に狼狽えて申し訳なさそうな顔をするのが珍しくて楽しんでいるのだ。なお、男よりもルプスレギナの方が楽しんでいるのは余談である。

 基本的に温厚な男だが、ソリュシャンが看破したように根は悪い。ナーベラルに隙が大きすぎると言えなくもない。

 ルプスレギナがナーベラルの困り顔に飽きた上で、ナーベラルが素直にごめんなさいをしてごめんなさいプレイをするまで男の胸は痛んでいる予定だった。

 

「その頃はあの子が来てそれほど時間が経っていなかったわね。ルプスレギナもおかしなことをしていたし」

「うっ!? それはその、きちんと謝って許してもらえて……」

 

 ナーベラルがハートブローをしたなら、ルプスレギナは全身複雑怪奇骨折をさせていた。

 現場をアルベドに押さえられ、厳しく指導されたものである。

 そこまでなら、良くはないが許容範囲だ。アルベドの指導には物理的強制力を伴ったにせよ、行き過ぎではない。その後に比べたら全く問題ない日常茶飯事。

 思い出したルプスレギナは、言葉にし難い顔になった。

 

「ルプスレギナはどうしたの?」

「実は……その後で……」

 

 ソリュシャンの苦笑が深くなる。

 ルプスレギナが餌をねだる野良犬のような顔で見てきたが、ソリュシャンは容赦なくアルベドへ耳打ちした。ナーベラルに聞こえないようにしたのはソリュシャンの慈悲であった。

 

「ま、まあ、それは私にも責任があるわね。今聞いたことは忘れるわ」

「ありがとう、ございます…………!!」

 

 ルプスレギナの目は潤んでいた。

 おもゲフンゲフンらしを屋敷中に触れ回れた事は忘れる以前になかったことにしたい。そのためならエ・ランテルを壊滅させたっていい。アインズ様がお許しになるわけがないので叶わない夢であるが。

 

「それでナーベラルの事だけど……」

 

 

 

 

 

 

 

「とっくに完治しているでしょう? それでも痛むのは心の痛みよ」

「その通りでございます。体は痛みませんが、痛みを思い出してしまうとどうしても……」

「うぅ……」

 

 アルベドは嘘だとわかっている。

 ナーベラルも嘘だと思っているし、嘘だろうと伝えられてもいる。

 それでも強く出れないのは、実際にやってしまったからだ。

 

 言いたいことは色々ある。

 あの時は初対面だった。

 今とは立場が違えば関係も違った。

 そもそも初対面で、アインズ様のお許しがあったにせよ試しで胸を鷲掴みするのはどうなのか。

 触るだけでなく何度も揉まれた。

 初対面であれだけされたら、自分でなくても手が出る者は多いはず。

 

 だから自分は悪くない。と言い切れないくらいにナーベラルは真面目だった。

 

「心が痛むのね、可哀そうに。この問題を解決するには心の痛みを解消する必要があるわ」

「どのように解消すればよろしいのでしょうか!?」

 

 茶番じみているが、ナーベラルはどこまでも真面目である。

 

「簡単な事よ」

 

 アルベドの笑みが変わる。

 優しい笑みから妖艶な微笑へ。

 

「胸の痛みは胸で癒せばいいわ」

 

 そうきたか。男は真理を述べられたアルベド様に深く感服した。

 一方、ナーベラルは、どうして呼ばれたかわからないユリも、何のことだかわからないらしい。

 

「二人にはまだわからないのかしら?」

 

 アルベドは、やれやれと立ち上がると、ナーベラルを立たせた。

 

「アルベド様?」

 

 三人の目には、アルベドが手をかざしただけに見えた。

 されたナーベラルはわからずとも、隣で見ている二人にはわかった。

 

 ナーベラルのメイド服は胸で生地が切り替わり、下に着ているブラウスが上に来ている。

 そのブラウスの、第一第二、第三を飛ばして、第四ボタンが外されたのだ。更にはブラウスが包む膨らみの形が微妙に変わる。

 何が起こったか、アルベドの手に答えがあった。

 アルベドの手には、白いブラジャーが摘まれていたのだ!

 

「!?」

 

 一瞬遅れて何が起こったか知ったナーベラルは、顔を真っ赤にして両手で胸を隠した。

 

 サキュバススキルを極めたアルベドである。サキュバススキル「脱衣」を応用すれば、ブラジャーを抜き取るくらいわけはない。

 

「ユリは自分で外しなさい。お手本なんだからユリが先よ」

「わ、わたしも、でございますか!?」

「お手伝いしましょうか?」

「自分で出来るよ!」

 

 ユリも同じようにボタンを外した。アルベドを見た。ユリを見ている。

 ユリは顔を伏せ、前屈みになりながら背中に手を回す。メイド服越しに指先が背中を掻き、服の中に腕を引っ込める。

 右腕を引いて元に戻し、左腕を引いて元に戻し、深く腕まくりした左腕に右手を伸ばし、ゆっくりと引っ張られて出てきたのはピンク色のブラジャー。

 ブラジャーはカップがとても大きい。カップを重ねてたたみ、後ろ手に持った。

 

 アルベドも第三ボタン以外を外す。

 予感が形になりつつあることに、男の期待が膨らんできた。

 

「胸の痛みは胸で癒す。……おっぱいで気持ちよくしてあげるのよ♪」

 

 アルベドのサキュバス的慧眼は真理を見抜いていた。




前話、本話合わせて13k
長すぎはしないが分割しても問題ないと思われる
だったらこれからも分けてもいいのだがそれで投稿ペースが上がるかどうかは別問題

当初はナーベラルがラビッツ・イヤーで情報収集し得たキーワードの詳細をユリに尋ねて云々になる予定でしたがこうなりました
場を整えるのに一年半かかった


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おっぱいは全てを癒す ▽ユリ・アルベド・ナーベラル

色々読んでたら遅れました
本話17kちょい


 乳房が強調される服を着て、ブラウスの第一第二第四ボタンを外し、ブラジャーを抜く。その状態で、おっぱいで気持ちよくさせる。

 ユリは何を意味するか悟ったが、ナーベラルにはわからない。赤い顔のまま、ただただ固まっている。

 

「そんなおっぱいをして、使った事がないとは言わせないわよ?」

 

 ユリの胸はとても大きい。ルプスレギナがスイカップと呼ぶくらいに大きい。有効活用してないわけがない。

 サキュバスアイはおっぱいの履歴すら見抜く。

 

「それは……はい。ですが今ここで、でございますか?」

「ユリを呼んだのはそのためよ。出来るでしょう?」

 

 ユリは傍らの妹をちらと見た。妹に見せてよいものかどうか。しかし、お手本のために呼んだと言われた。妹へ見せるために呼ばれたのだ。

 

「ナーベラルのためよ」

「……かしこまりました」

「ユリ姉様!?」

 

 ナーベラルは愕然として、信じがたい思いで姉を見た。敬愛する長姉は自分側だと思っていた。

 アルベド様はサキュバス。すなわち淫魔。

 何も知らなかった時とは違って色々と経験したナーベラルは、サキュバスが男の精液を食餌とするのを知っている。座る男はアインズ様もお認めになったアルベド様の給仕係。聞き知った話と併せて考えれば、そうなのだろうと察することが出来る。

 姉は男と結婚がどうのと言っているようなので、そうではないかとは思っていた。

 しかし、いつだって淑女然としている姉である。淑女としての振る舞いで姉を手本にした事は幾度となくある。それをこちらの手本にもしなければならないのか。

 

 姉が男に近付き、大きく開いた脚の間で膝を折る。

 ナーベラルは両手で口を押えた。

 

「それでは……」 

 

 ユリは男のズボンを留める紐に手を掛けた。

 

 これからすることをアルベド様と妹に見られるのはとても恥ずかしい。が、妹のためでもある。それに、前と比べれは遥かにまし。

 あの時はルプスレギナがすぐそばで見守る中、体の動きを完全に封じられた上で体の全部を蹂躙され、両方の処女を奪われた。

 その直後は気分的にとても盛り上がった。結婚の約束をしたのだ。自由に動けるようになった体で、自分から腰を使ってしまった。ルプスレギナが見ていたのに。

 今はどこも露出していない。まずとりあえずは胸でするだけ。

 胸でした後に色々する予感と期待はひとまず忘れる。

 

「ブラウスのボタンは全部外さなくてもよろしいのでしょうか?」

「それがいいのよ」

「わかりました。では……失礼します」

 

 室内着のズボンは柔らかい素材で出来ている。

 ユリは留め紐を解く。それに合わせて男は腰を浮かせた。

 ユリもナーベラルに負けず劣らず赤い顔になって、下に穿くパンツもろとも引き下ろした。

 

 

 

 アルベドには幾つか思惑があった。

 

 第一は、これを機にナーベラルを揶揄うのを止めさせること。

 昔の事を引っ張り出して真面目なナーベラルを揶揄うのは意地が悪い。とはいえ、ナーベラルがもっと素直になっていれば揶揄いの種を提供することもなかった。酌量の余地を認めなくもない。

 

 第二は、先日のリファラとキャレットと同じで幸せのお裾分け。だけとも言い難い。

 彼女たちにも素晴らしい一時を楽しんでもらいたいと思う気持ちに嘘はない。その他に、自分一人では勿体無いと云うか、持て余してしまうと言えなくもないかも知れない。サキュバス的に忸怩たる思いであるが。

 その気になれば一晩に十回は絞る自信がある。但し、現在の連続記録は六回まで。手や口を含めればもう少しいく。

 手や口を使わず連続して休まずの抜かずで十回はさすがに厳しい。続けざまに何度も中に出され、吸収しきれずに溢れさせてしまった事がある。あれはとても恥ずかしかった。

 

「ルプスレギナから回復魔法をちゃんと受けたかしら?」

「受けて参りました」

 

 しかし、事の前に満タンにしないのは勿体ないと思ってしまう。たとえ一人でもサキュバスミルクさえ飲まさなければ大丈夫のはずだ。

 

 第三に、囲い込み。

 まさか彼があの女の元に戻るとは夢にも思わない。絶対にあり得ないと断言できる。それについ先日、あの女を封じ込める作戦を開始したばかり。

 だから大丈夫と思って手を抜くのは論外である。出来る事はしておくべき。他の女たちも使って、愛しい男の心身を捕らえるのだ。加わりたい者たちへは積極的に背を押す。

 極論、自分一人だけで十分。けして強いるつもりはない。

 それはそれとして、複数人でするのも良いものである。

 

 

 

「あなたは動いてはダメよ? まずはユリに任せなさい。この手は悪戯しないように私が握っててあげるわ」

「お命じ頂けたら動きませんが?」

「あなたの手を握っていたいのよ♡」

 

 背もたれに寄り掛かる男に、アルベドは後ろから抱き着いて男の手を握る。手のひらと手のひらを合わせ、指を絡める握り方。

 

「お手本なんだから、ナーベラルはよく見えるように座りなさい」

「は、は、はぃ……」

 

 ナーベラルは男の隣に座りなおす。視線の先では、下半身を露出した男の脚の間にユリが跪いている。

 ユリは努めてソファの上から目を逸らす。覚悟は決まっても見られるのは恥ずかしい。目の前のものを見るのを恥ずかしく思う気持ちは卒業させられた。

 

「何をすればいいかわかっているでしょう? まずは大きくしてあげないと。ユリもしたことあるわよね?」

「…………はい。ございます」

「固いわ。この屋敷はプライベートな場所なんだから、そんなにかしこまる必要はないのよ? ナーベラルはまだ慣れないようだけれど」

「はい。かしこま……んんっ。わかりました」

 

 見られるのを意識したくなくとも意識させられる。

 この恥ずかしさを脱するにはどうすればいいかを、ユリは経験していた。ルプスレギナの前で腰を使った時だ。行為に集中すれば外部が気にならなくなる。

 改めて覚悟を決め、そっと触れた。

 

 股の間で項垂れている逸物は、思ったより熱があった。立つまでは行かなくても、通常時より血が通っている。

 これならすぐに大きくさせられると思い、握った手を上下に動かそうとして、

 

「ユリはどうやって大きくするのかしら?」

 

 ちょっぴり厳しい声が耳朶を打つ。ユリは思わず顔を上げた。

 アルベドは目を細めてこう言った。

 

「手でも口でもおっぱいでもいいわ。でも漠然とするのはダメ。そんな事したら飽きられちゃうわよ?」

 

 握ったまま、ユリがピシリと固まる。ナーベラルもピキリと固まった。

 ナーベラルはいささか間が抜けた顔だが、咥えようとして口が半開きになっているユリは少しエッチである。

 

「お言葉ですが、私がお二人に飽きることは」

「あなたは私に意見すると言うの?」

「私の事ですから」

 

 相手が愛しき主神であっても物申せる男である。

 但し、肩に顎を乗せられ頬を擦り合わせ、両手は恋人握り。その上、下半身は脱がされて違う女に握られている。

 主神がサキュバスでなければあり得ない状況だ。

 

「一般的な傾向の話よ。余計な口を挟まないで」

「……かしこまりました」

 

 アルベド様の金言はとても有り難い。それよりもシュッシュやペロペロを優先して欲しいのが男の性。残念ながらあとちょっとお預けになった。

 

 勿論の事、アルベドが一般的な男の性的嗜好を知っているわけがない。

 各種文献や他の性向などから演繹的に推測したものである。ナザリックにて群を抜く知を誇るアルベドなのだ。その身で知らずとも、推測した事柄の精度は確かなもの。サキュバスの本能も大いに囁く。

 ちなみに、文献には様々な異本が含まれている。

 

「あなた、今日は何回セックスしたの?」

「三人と五回です」

 

 アルベドが同じ屋敷で過ごすようになり、お食事日前日当日翌朝を遠慮する暗黙の了解はどこかに消えた。元より回復力が高いし、回復魔法を使えばどうとでもなる。回復魔法で精液も回復することがいつの間にかソリュシャンにもばれていた。

 

 五回の内訳は、ソリュシャン1、ラキュース2、ミラ2である。

 ソリュシャンとは、朝駆けを受けてその流れで。

 最近のラキュースは自分に求められるものを理解してきた。行為の時はやや反抗的になって拒む素振りを見せる。中でも自作小説の登場人物になりきって、作中のラキュースが作中の若旦那様に止めを刺そうとしたところで逆襲されるプレイがかなり盛り上がる。ラキュースはイメージプレイを身に付けたのだ。位階が上がったのは伊達ではない。

 現在は夏の盛りである。お屋敷の中は快適でも、ちょっと外に出たり窓辺で日差しを浴びるととても暑い。そんな時は涼を求めて、男は体温が低いミラを抱き寄せることが多い。肌と肌が直に触れ合うとより効果的。そして涼しさを求めていたのに汗をかく羽目になる。

 

「射精は何回?」

「七回です。寝てる間に何度もされていたらわかりませんが」

 

 ソリュシャンに寝フェラされると起きる男である。それが一度で起きるか否かはソリュシャンしか知らない。

 そのソリュシャンは、アルベド主催の話し合いで実に今更ながらミルク摂取がアルベド公認になっていたことを知った。知らなくてもすることはずっとしていたので、本当に今更の事である。

 

 七回から五回を引いた残り二回の内訳は、ソリュシャンからされた寝フェラで1。帝都のお屋敷でシクススのお口で1。

 いつもミルクを欲しがるソフィーはジュネとカルカを連れて外出しており、男がいる間に帰ってこなかった。連日のお勉強で鬱憤が溜まりに溜まってしまったらしい。それについて、男はシクススから加減しなさいと小言をもらった。守護者統括相談役となり割と偉くなった今もシクススには頭が上がらない。シクススに無理無茶を通すと、なんやかんやあってナザリックから放逐されて孤独に死ぬ羽目になってしまうのだ。

 

「昨日もいっぱいしてあげたのに頼もしいわね♡」

「恐縮です」

 

 覚醒サキュバスと男の会話に美女姉妹はついていけない。

 しかし、続く言葉は否応なく姉妹の心を貫いた。

 

「相手がそれだけいるんですもの。このままだと二人は憐れみや気まぐれでたまに抱かれるだけになっちゃうわよ?」

「「?!?!」」

 

 固まるどころではない。紅潮していた頬は血の気が引いて、わなわなと震え始めた。

 様々な事情があったにせよ、現にアルベドの言葉通りになっているのだ。

 

「そうさせないためには……」

 

 姉妹は身を乗り出してアルベドの言葉に耳を傾ける。

 挟まれている男は、早く続きをして欲しかった。姉妹と遠ざかっていたのは少々の悪戯心と場と間が悪かっただけ。二人には二人の良さがあり、二人からしか摂取できないエロスがあるのだ。

 

「心を込めて尽くさないとダメ。上から目線で「してあげる」じゃなくて、奉仕の心で「気持ちよくなってください」ってさせてもらうの。いい? よく聞きなさい。気持ちよくなって欲しいと思う心が一番大切なのよ」

 

 奇しくも、男がシャルティアに仕えるヴァンパイア・ブライドたちに述べた訓示と同じだった。

 

 アルベドに限らず、この男と関係した女たちは男の技が常軌を逸しているのを知っている。

 技があるのは良い。問題は、自分が楽しむのより女を楽しませようとする傾向がある事だ。

 アルベドは、そこに前の女の影を見る。それがどうしようもなく気に入らない。と同時に、自分を悦ばせようとしてくれる事は間違いなく嬉しいので難しい。

 それらについて、アルベドはシャルティアやソリュシャンたちと共有するつもりはない。あんな小娘に脅威を抱いていると知られるわけにはいかないのだ。

 いいや、脅威ではないはずである。全ては過ぎ去った事。

 過去へ押し流すために使えるものは何でも使う。

 

「私の言葉を踏まえて大きくなってもらいなさい」

「は……はい……」

 

 ユリは緊張から湧いた唾を飲み込み、真剣な顔で男の股間と向き合った。

 繊細な手つきでまだ柔らかい肉棒を上向かせ、艶やかに赤い唇で先端を口に含もうとして、

 

「気持ちは言葉にしないと伝わらないわよ?」

 

 これまた真理である。

 一定以上の読心術を使える者は極々稀だ。特にこの男は洞察力があるようでない。あるように見えるのは、推論の精度が図抜けて高いからだ。それは心情を読み取る能力とは全く別物である。

 

「……わかりました!」

 

 青ざめた頬に赤みが戻る。

 ユリの目は様々な想いで潤み、輝いている。これから自分がすることを、そしてどうなって欲しいのかを、そこにどんな気持ちを込めるかを、ユリは口を開いては閉じ、開いては閉じ、三度繰り返してようやく口にした。

 

「頑張るから、おちんちん大きくなって? 君のおちんちんが気持ち良くなるんだったらボクはどんなことでもするしどんなことをしてくれてもいい。だから……」

「あら?」

 

 ユリの言葉は途中で、まだ行動に移っていない。

 しかし、項垂れていた逸物は雄々しく立ち上がった。硬度も角度も実用レベル。口付けようとしていたユリの顔を隠すほどに逞しく勃起した。

 

 アルベドの体臭が間近からずっと匂っているのだ。三人の美女はご奉仕のためのメイド服でブラジャーを外している。それでもきちんと空気を読んでずっと抑えていた。

 そこにユリの宣言。

 GOサインが出た以上、解き放たれた獣の如くであった。

 

 

 

 

 

 

 少々締まらない始まり方だったが、ようやっと始まった。ナーベラルにさせるためのユリのお手本である。

 アルベドに指導されるまでもなく、ユリは何をすべきか知っていた。

 

「大きくなってくれたから……、次はボクのおっぱいで気持ちよくするね」

 

 カーペットの上にペタリと座っていたユリは、膝立ちになって男に体を寄せた。その間も逸物を上下に扱き、勃起を維持させる。擦る度に熱が手の平に伝わり、一層固くなってくるように思えた。

 

 見ているだけのナーベラルにはまだわからない。

 あっと思ったのは、逸物の先端がブラウスの第四ボタンの隙間に入ってからだ。

 

「ああ……すごく熱いよ……。火傷しちゃいそうなくらい」

 

 ユリはデュラハンすなわちアンデッド。体温が低めなので温かさを敏感に感じる。

 ユリでなくとも熱いと思う逸物は、ブラウスの開けた部分から内側へ迎え入れられ、ユリが腰を落とすにつれて隠れていく。ユリがやや前のめりの姿勢でもう一度ペタンと座った時には根元まで包まれた。

 根元を握っていた細い指は、豊満な乳房を両側から押さえている。

 勃起した逸物は、ユリの豊かな乳房の谷間に挟まれていた。スイカップと称されるほどなのに、先端が谷間から顔を出している。

 

「おちんぽをおっぱいで挟んで扱くのよ。パイズリって言うわ。次はナーベラルがするんだから、よく見ておきなさい」

「……………………? ……!? はいっ!」

 

 ナーベラルは呆然として、目の前の情景に見入っていた。

 

 男女一通りのことはしたつもりだった。お尻の穴は許していないが、そこはそういうことをする部分ではないとの意識が強い。きっと使わないのが普通のはず。

 手でした事がある。口でした事もある。口でしながら口でされた事もある。

 おっぱいを触られた事も揉まれた事も舐められた事も吸われた事もある。出会って間もない頃の特別訓練で、おっぱいをひたすら揉まれて気持ちよくなってしまった事を覚えている。

 しかし、おっぱいで挟んだことはなかった。おっぱいでそんな事をするのは、ナーベラルの想像力を越えていた。

 おっぱいをされるのが気持ちいいなら、おっぱいでするのも気持ちいいのだろうか。

 

「ボクのおっぱいで気持ちよくなってくれてるの? さっきより固くて熱くてなってきたよ?」

 

 ユリは体を動かさずに、両手で支えている両乳房だけを上下に動かしている。時々リズムを変えて、乳房を逸物に擦り付けるように左右で上下を逆に動かす。

 ナーベラルが隣に座る男を盗み見れば、緩んだ顔をしていた。手や口より刺激が弱いと思えたが、あれでも気持ちがいいようだ。確かに姉のおっぱいは柔らかくて大きくてすべすべだ。触ると気持ち良いのはよくわかる。あそこで触れるのも良いらしい。

 

「私が思った通りユリはパイズリをしたことがあるのね。基本がちゃんと出来てるわ」

「は、はい……。あの時はベッドの上でしたので、今は少し勝手が違いますが……」

「おっぱいでぴゅっぴゅさせてあげた?」

「……はい。いっぱい出してくれました。顔に掛けられそうになって……。髪についたら大変と思って、おっぱいで出してもらいました」

「顔に出されたら私が舐めてあげるわ♪ おちんぽミルクを無駄にしてはダメよ? サキュバスの私にはとっても美味しいんだけど、ユリたちは違うのでしょう? でもちゃんと飲んだほうがいいの。美容に効果があるんだから」

 

 驚く姉妹を他所に、男はシクススを思い出した。

 シクススは初めてしてくれた時から精液を飲んでいた。口に出した時は元より、手に出した時もである。毎回飲むのを疑問に思い、何かの折に美味しいのか尋ねたら美味しくないと返ってきた。それなら何故飲むのかと重ねて問えば、美容にいいから仕方なく飲んでいるとか。

 アルベド様もこう仰るのだから、精液が美容にいいのは真実であろう。これからは皆に積極的に飲ませようと密かに誓う。

 

 ちなみに、アルベドもシクススも情報源は異本である。双方が情報をすり合わせるわけがないので、誤解が解かれる事はない。

 嘘も付き通せば真実になると言うように、精液が美容にいいのもいずれは真実になるのだろう。

 

 

 

 ユリのパイズリが十分ほど続き、男がむずむずしてきた頃にアルベドが立ち上がった。

 

「選手交代しましょう。今度は私がお手本を見せるわ」

「えっ! …………それは、私が何か至らなかったのでしょうか?」

「ユリはきちんと出来ていたわ。でも同じ物を見ていても見る方向によって見え方が違う。それと同じよ。ナーベラルには多面的に物事を見て欲しいの」

「私のために……。アルベド様、光栄でございます!」

「ナーベラルのためだもの。何の苦でもないわ」

 

 大仰な言い方をしても、やることはパイズリである。しかし、ナーベラルは本気でアルベドに感謝をしていた。

 

 アルベドに場所を譲ったユリは、男の隣に座る。

 

「あっ……」

 

 ユリが小さく声を上げた。男に肩を抱かれたからだ。

 アルベドの手が離れて自由になった男の手は、早速良からぬことをし始めた。

 ただし、ナーベラルには手を出さない。ナーベラルに触れると胸が痛むのだ、と言うのは嘘である。ナーベラルにはアルベド様のパイズリをきちんと観察して覚えてもらいたい。

 

 しかし、気持ちは言葉にしなければ伝わらないとアルベド様が真理を告げられたばかり。姉は肩を抱かれているのに自分には、と思うナーベラルの気持ちが男にわかるわけがない。

 ナーベラルが下唇を噛んだのを、アルベドを見ていた男は気付かなかった。

 

「早速悪戯を始めたわね? でもいつまでそんな余裕でいられるかしら?」

「楽しみにしております」

「ほーら。あなたのおちんぽが私のおっぱいの中に来たわ♡」

 

 ユリと同じに、第四ボタンを外した隙間から逸物をブラウスの内に導く。

 肉棒は大きな乳房の間を突き進み、谷間からちょこんと顔を出した。

 

「ユリはしていなかったけど、こうするのもいいのよ? んっ…………、れろぉ……」

 

 アルベドは口の中で舌を蠢かせると、唇を突き出した。小さく開いた隙間から出てくるのは小さなあぶくを無数に内包した唾である。

 とろりと垂らした唾は、逸物の先端にぺちゃりと落ちた。唾が流れる落ちるのを待たず、乳房で扱く。

 数度繰り返し、逸物は根元から先端まで、アルベドの唾が塗り伸ばされた。

 

「唾を垂らすと滑りが良くなるわ。おっぱいがぬるぬるになって気持ちいいでしょう?」

 

 唾を垂らすのはユリも知っていた。しなかったのは、メイド服が汚れてしまうからだ。

 着替えれば済むアルベドと違って、ユリは着て来た服を着て帰らなければならない。あるいは、事に臨む覚悟の違いかも知れない。

 違うのはそれだけではなかった。

 

「おっぱいとおちんぽがこすれてにちゃにちゃ言ってるわ。とってもいやらしい音♪ おまんこに入ってる時もこんな音をさせてるのかしら? うふふ、アルベドのおっぱいまんこね♡」

 

 アルベドも乳房を上下に動かし始める。ユリと同じように見えて、少し違う。

 ユリは谷間の奥まで逸物を迎えた。アルベドは奥まで行かせない。真ん中あたりで挟む事によって、肉棒全体を乳肉で包むことが出来るのだ。密着度が上がれば乳圧も高められる。

 アルベドは自分の乳房を圧し潰さんばかりに寄せて扱く。

 

「おちんぽ気持ちいいの? おつゆが出てきちゃってるわ。あむっ……ちゅるる……、んふふ♡」

 

 顔を伏せ、顔を出す亀頭を舐める。

 尿道口から滲み出た先走りの汁を舐めるだけかと思いきや、亀頭全体を唇で含み、舌で舐め回す。

 口で可愛がってる間は乳房を動かせない。代わりに、アルベドは指先を使う。

 乳房を掴む手の中指だけを動かし、ブラウスの上から自身の乳首を引っ掻いている。ブラウスに現れた小さな突起が一層目立つ。

 

「アルベドのおっぱいまんこで気持ちよくなって? アルベドのおっぱいはあなたのおちんぽのためにあるんだから♡」

 

 アルベドは艶然と笑って乳房を揺らす。

 ユリとナーベラルにとって、ナザリックの守護者統括が男の前に跪いてそのような事を口にするのは驚きだった。かつてシズたちが感じたことと同じである。

 この場では守護者統括と相談役ではなく、男と女と云うことか。アルベド自身も、ここはプライベートな場所と何度も言っていた。今はそのような事を気にせず、奉仕しなければならないと云うことなのだろう。

 さすがはアルベド様である。姉妹は固唾を飲み、改めて男の下半身を注視した。

 

 アルベドとユリのパイズリで違う点は、乳房の大きさや張りに柔らかさに温度、あるいは技術そのもの等、一々上げれば限がない。

 中でも一番違うのは表情である。

 ユリは羞恥を滲ませる赤い顔で、微笑もうと頑張っていた。けれども二人きりなら兎も角、妹のお手本である。監督役もいらっしゃる。いつも通りにするのは難しく、笑みは強張った。

 対するアルベドは淫らな顔。気持ちよくさせるだけでなく、奉仕している自身も快感を得ている。奉仕する自分に興奮しているし、パイズリをしながら器用に指を使って敏感なところを愛撫している。

 ナーベラルがどちらをお手本にしやすいかと言えば、言うまでもなくユリ。しかし、アルベドスタイルの方が好ましい。しかし、わかっていても出来ない事がある。

 

 ナーベラルが悩む間も、アルベドは体を揺すっている。

 

「こうすれば……どう? 緩くないかしら?」

「しっかり包まれているのを感じます。アルベド様こそ窮屈ではありませんか?」

「これくらい問題ないわ」

 

 アルベドの手が乳房から離れても乳圧は変わらない。ブラウスが締め付けている。

 ナザリック製の衣服は例外なく魔法が掛かっており、自動で着用者のサイズに合う。サイズ調整機能の応用なのか、アルベドが着るブラウスのサイズがちょっとだけ小さくなった。

 白い生地が大きな乳房を窮屈そうに締め付けて、残った第三ボタンは弾け飛びそうなくらいにボタンホールを引っ張っている。

 尖った乳首はより自己主張し、谷間を行き来する逸物は、左右から寄せなくても程よい圧で包まれる。

 

 乳房を寄せなくても済むようになり、アルベドの手が空いた。

 男の左手はユリの肩を抱いたままで、右手が空いている。

 アルベドは男の手を握り、自身の右手は体に隠した。ソファに座る三人からは見えないようにスカートの中を這い進み、奥を目指す。

 

「んっんっ……、ちょっと大変だけど、こうすることも出来るのよ?」

 

 手で揺すっていた代わりに、今度は上半身全体を上下に動かす。五往復毎にチュッと亀頭に口付ける。

 

「は、はい。勉強に、なります……」

 

 ナーベラルへの指導である。

 

 されている男は、包まれる快感に浸りながらも少々焦れてきていた。

 ユリとアルベドのパイズリはナーベラルへのお手本であるため、丁寧であっても激しさがない。言わば行為の前に高めるための前戯と同じ。

 よく言えば甘やかな快感が続き、悪く言えば生殺しである。

 もう少し刺激が欲しいと思うのは贅沢だろうか。

 

「んっ……、なに?」

 

 そんな気持ちが表に出たのか、左手がユリの肩から浮き、頬を撫で耳たぶを軽く搔いた。

 ユリの髪型は長い黒髪を丁寧に結い上げているので、耳が出ている。ついつい触れてしまうのだ。

 

 突然触られたユリは、何かあるのかと男へ顔を向けた。

 呼ばれた男もユリを見た。

 

「あっ……、んぅ……、ちゅぅ…………」

 

 目の前におっぱいがあればついつい触ってしまうように、目の前に艶やかな唇があればついつい合わせたくなってしまう。

 男がほんの少しだけユリの頭を引き寄せ、ほんの少しだけユリの方へ顔を傾ければ縮まってしまう距離だったのだから。

 

 合わさった唇の間を男の舌が進み、ユリの舌も応えて男の口内へ忍び入った。

 舌が絡み出す頃には男の手がユリの頭を押さえる必要はなくなり、頬を撫で肩を掴み、背中側から乳房に触れた。

 

 それを、アルベドはソファの下からじっと見ていた。

 他の女とキスをするのは良い。セックスするのも良い。以前から許可していたし、今は自分から積極的に推奨している。

 シズやリファラとキャレットたちのように、自分が同席した上で色々していた事もあった。

 先日の夜食時間に間に合わなかった時は、もしやと思って男の寝室の隣室に移動し、覗き穴から隣の部屋を見てしまった。空かない夜はないと思っていたのはその通りで、ソリュシャンとシェーダが乱れていた。翌朝は自分で慰めながら朝一のファーストショットを堪能したものである。

 覗き見は措いておき、複数人で行為したことがあるのだから、自分が奉仕している間に他の女と何かをしている事は経験済みだ。キスの時があれば違うところへキスしている時もあり、手指を使っている事も、両方だった時もある。

 しかし、である。

 彼の特別で断トツの一番は自分なのだから、最初のキスは自分にしてくれても良いのではないだろうか。今日はナザリックから戻って早速このような事を始めたため、二人きりの時間は一瞬たりとも取れていないのだ。

 嫉妬のような苛立ちのような敗北感は違うけれど似て非なるものがあるようなないような。

 だったら違うものの一番は自分が得るべきであろう。

 

 アルベドの思考は言葉を伴わずに刹那の間に結論を得た。

 

「おお! アルベド様、その調子で、お願いします!」

「ええ、わかっているわ。気持ちよくなっていいのよ♡」

 

 アルベドの手は男の手を離し、スカートの内側をまさぐっていた手も戻ってきた。

 縮んだブラウスで乳房が押し込められているのに、更に両手で乳房を押して寄せる。

 ぺちゃりぺちゃりと唾を垂らし、滑りが良くなった谷間で激しく上下に動かした。

 顔を伏せて亀頭にしゃぶりつき、たわわな乳房をこねくり回す。

 前戯の愛撫とは違う。男を求める情熱的な扱き方。

 

 男はユリに口付ける余裕をなくし、前のめりになってアルベドの頭に手を置いた。

 場所が場所なら無礼千万な振る舞いをアルベドは受け入れ、唇で強く挟み、舌は熱心に蠢いて強く吸う。

 唾に塗れた逸物が何度も乳房の間を往復し、尚も唾は垂らされて、アルベドのへそまで流れていく。

 

「っ! そろそろ……!」

「いいわ。来て?」

 

 男が宣言してもアルベドは手を緩めない。慈愛の笑みを男に向けて乳房を揺らす。アルベドの許しを得た男は、耐えなかった。

 乳房の間で脈打つのを感じたアルベドは、咄嗟に顔を俯けて先端を口に含んだ。

 れろりと舐めたと同時に、熱い粘塊がどぴゅどぴゅと噴き出てきた。

 とろつく舌触りに男の匂いと味が口内に満ちる。

 回復魔法を受けたばかりで、たっぷりと焦らしたのだ。射精は長く、精液の量も多い。

 

「あーん♡」

 

 仕上げにちゅるると吸う前、アルベドはあーんと口を開いて口の中を三人に見せた。

 口内は白濁した粘液に溢れ、舌が隠れている。上を向いた顔が前を向くだけで零れてしまいそうだ。

 アルベドは口を閉じて舌でかき回し、精液を飲み干した。

 最後はきちんと亀頭に口付け、尿道に残っている精液を吸い上げる。お掃除フェラはマナーなのだ。

 

「どう? 気持ちよかったかしら?」

「ええ……とっても……」

 

 キスの一番はユリに盗られても、射精の一番を得たアルベドはとっても良い顔である。

 焦らしプレイから解放された男は全身の力を抜いて一息ついている。射精の直後に男だけが得られる静謐である。

 ナーベラルは一連の行為を真剣な眼差しで、ただし耳まで赤くして見詰めていた。

 残る一人。ユリは微妙な顔をしていた。

 

「あの……………………。それは、ナーベラルにさせるのではなかったのですか?」

「え? ………………あっ」

 

 上位者が部下たちへ向ける気遣いが、性欲と食欲と嫉妬に負けてしまったのだ。

 

 

 

 アルベドは立ち上がると、胸の谷間を濡らしたタオルで拭った。とても決まりが悪い。食欲やら何やらに負けたのがユリに気付かれている。

 しかし、ナーベラルはわかってないらしい。それが不幸中の幸い、とまでは言えなかった。

 

「次はナーベラルの番よ。大丈夫。あなたなら出来るわ。頑張って!」

「はい! アルベド様の期待を裏切らぬよう精一杯頑張ります!」

「ぅっ……」

 

 ナーベラルのお返事が良ければ良いほど、アルベドの胸が痛む。一時の欲に負け、無駄に難易度を上げてしまったのだ。

 

「パイズリのため、まずはおちんこに勃起してもらいます」

「……ああ、頼むよ」

 

 姉と監督役が見守る中で緊張しているのか、何かを勘違いしているのか、ナーベラルは妙に意気込んでいる。

 対する男はソファに深く身を沈めて余裕の構え。射精直後の男という生き物は、とても穏やかになれる。見方を変えれば情熱が失せている。

 ナーベラルはそんな状態の男に、情熱を取り戻させなければならない。

 

「私が見ていてあげるわ」

「はっ、ありがとうございます!」

 

 アルベドはナーベラルの後ろに回ってフォロー役。責任を感じているようだ。

 

「……あむっ」

 

 ナーベラルは力をなくし湿っている逸物を自分の顔に向けると、躊躇なく口に含んだ。

 帝都で過ごした冬休みに、二人きりにちょっとおまけがついたお出かけで勤しんだ事がある。特別な格好を見せただけで大きくしてくれたのを覚えている。

 それから口でしてあげた。とても評価が高かった。

 その時に覚えた敏感な場所に舌を這わせれば柔らかかった逸物が固くなってくる。勃起し始めた逸物を軽く握って上下に振れば、あっという間に上向いてきた。

 

「それではパイズリを始めます」

「ナーベラルのおっぱいに挟んだことはなかったね。お二人のを見て覚えたろう? してごらん」

「……わかってるわ」

 

 ペタンと座っていたのを膝立ちになって、熱い逸物をブラウスの隙間から迎え入れた。長い逸物が谷間を通って襟元から顔を出す。顔に迫っても口で咥えるわけではない。

 ナーベラルも二人がしていたように、乳房を押さえて寄せて、肉棒に乳肉を擦り付けた。

 

「動くわ」

 

 ナーベラルの乳房は、客観的に見て大きい。手で触れば五指を伸ばしても包みきれない。裸で歩かせればたぷたぷ揺れる。しかし、セルフパイ舐めまでは出来ない。ナーベラルの前にパイズリをした二人は、二人とも出来る。

 ナザリックにおいて、おっぱいの大きさで一二を争うのがユリとアルベドだ。そこにソリュシャンも加われる。大人形態になったアウラもいい線を行く。後者二人はこの場にいないので於いておき、ユリとアルベドを相手におっぱいで競うのは分が悪い。

 胸の谷間から顔を出す逸物は、ユリとアルベドが挟んだ時よりも出ている部分が多かった。

 

「んっ、……んっんっ……。どう? これで大丈夫?」

「ああ、その調子で続けてくれ」

 

 ユリのように乳房だけを動かすのではなく、アルベドがしたのを真似て上半身全体を動かして扱く。

 目線は胸元よりも座る男へ。

 脚を伸ばして背もたれによりかかり、左手はまたも姉の肩を抱いている。

 右手は自分の方に伸びてきた。

 

「ナーベラルのおっぱいで挟まれてると、胸の痛みが癒えていくのを感じるよ。時間がかかるかも知れないけど最後まで頑張って欲しい」

「わかってるわ。途中で投げ出したりしないから」

「それなら良かった。そのまま続けて」

「ええ」

 

 男の手はナーベラルの頭を一撫でして戻った。

 

(なっ!?)

 

 手の行く先を見て、ナーベラルは目を見張った。

 ソファの上に投げ出されるなら良かった。それならさっきまでと同じである。

 

 男はユリを抱き寄せ、自分の体にもたれさせた。ユリは倒れてナーベラルの邪魔にならないよう背もたれを掴み、男の体に倒れ込むような不自然な姿勢に。

 

「あっ、ちょっ…………なに、するんだよぉ……!」

「いけなくはないでしょう? アルベド様は動かすなとは仰いませんでした。いけませんか?」

「構わないわ」

 

 最後はアルベドに向けた言葉である。

 アルベドが良しとした以上、ナーベラルは異を唱えられない。

 

「あっ……んっ……、見られてる、のにぃ……」

「ルプーに見られながらセックスしたでしょう?」

「そう、だけど……。んんっ! つまんじゃ……」

「さっきはここに挟まれてたんですね」

 

 ユリのブラウスの隙間から、男の手が忍び入った。

 たわわな乳肉をさすっては揉み、好き勝手に形を変える様子が、白いブラウス越しに見て取れた。

 乳房を覆っていた手が離れると、小さな突起が現れる。

 

「ちょ、ちょっと! あっ、んんっ! ん……ふぅ……、あむ……ちゅ……」

 

 妹と監督役の前で辱められるのは百歩譲ってよしとしても、その妹は床の上に跪いて奉仕をしている真っ最中だ。

 それなのにおっぱいを揉まれてしまっていいのだろうか。良い訳がない。申し訳なさと罪悪感が湧き、止めようとしたら唇を塞がれた。

 アルベドがパイズリをしている時もキスをされて思わず応えてしまって、今度は胸を触られている。拒めるわけがなく、受け入れ差し出し、強く吸って喉を鳴らした。

 

(わ、わ、わたしが、パイズリしているのに!)

 

 ご奉仕中のナーベラルは穏やかではいられなかった。

 おっぱいで逸物を挟んで熱心に上下しているのに、自分以外のことに気を取られている。アルベドがチリリと感じた苛立ち以上の屈辱感が胸を焦がす。

 屈辱は間をおかず焦燥になった。

 

 激しく動いているつもりだ。

 ナーベラルも騎乗位をしたことがあり、腰を振って出させたことがある。その時のペースより速いし、乳房をぎゅっと押し付けているので圧も十分なはず。

 メイド服が汚れるのも構わずアルベドに倣ってペチャリペチャリと唾を垂らして滑りを良くし、亀頭が顔に迫るたびにキスを落とした。

 アルベドが見せた技を真似て、先端だけを口に含んでれろれろと舐めながら乳房で扱くのもやってみた。

 現時点で知りうる限りの技を使っているのに、気配が全く変わらない。萎えはしないけども、先に進む様子が見られない。すでに二人がしていたのと同じ時間を頑張っているにも関わらず。

 

(もしかして、わたし………………へた…………なの?)

 

「ナーベラル、おっぱいが止まってるよ」

「え、ええ……。つづける、わ」

 

 下手だから、彼は姉と戯れているのだろうか。

 あの時は上手だとか素晴らしいとか色々言ってくれたのに、全部お世辞だったのだろうか。

 自分は、哀れみや気まぐれで抱かれる程度の価値しかないのだろうか。

 

 そんなことをちらとでも思ってしまえば、あれもこれも疑わしく、悪循環する思考は螺旋を描いて下へ下へと落ちていく。

 同じ場所にいるのに、自分だけ世界から爪弾きにされたような疎外感。

 悔しさやら悲しさやら寂しさやら、胸にこみ上げるもので視界が滲む。

 そんな自分を、彼は見ていない。姉と見つめ合って舌で触れ合っている。

 

 続けろと言われたが、果たして続ける意味はあるのだろうか。

 ナーベラルの望みが果てようとしたその時である。

 

(大丈夫よ。そのまま続けなさい。ナーベラルはちゃんと出来ているわ)

(あ、アルベド様!? ですが、このままでは……。いつまで経っても……)

(ナーベラルにはまだ感じ取れないだけよ。おちんぽはちゃんと気持ちよくなっているわ。このまま続けなさい。大丈夫、私を信じて)

(は、はいっ!)

 

 アルベドの囁きで力を取り戻した。

 目を潤ませて顔は泣き出しそうなほどに歪んだが、助言に従って動き続ける。

 

 ナーベラルが折れなかったのに、アルベドはそっと安堵の息を吐いた。

 なにせ射精直後である。時間がかかるのは当然なのだ。その上出させたのは己である。ナーベラルよりも何段階も上の技術を修めている自負がある。自分がした時に比べれば大人しいものと感じても仕方がない。

 更に付け加えればパイズリ。パイズリはアクセントとしての意味合いが強く、メインのプレイには適さない。

 第三ボタンは留めたままで見せないでいるのは想像力を掻き立てる効果があるが、有効なのは最初の内だけ。一度出してしまった以上、物足りなさを覚えるのは無理もない。

 これだけ悪材料が重なっているのだから、ナーベラルが中々出せないでいるのは当然だ。

 

 それなのに余計なことをされて中断したら、冗談ではなく心に傷がつく。そうさせないがために、アルベドはナーベラルの後ろからあれこれと男へ指示を出していた。

 余計なことを口走りそうになったら止める。ナーベラルの頭に手を置いたのは深く咥えさせるためのと見抜き、両手でバッテンを作ってからユリを指差した。

 ユリに色々するのを許可したのは時間稼ぎではない。

 パイズリだけでは刺激が弱いなら、外部から付足せば良い。ユリのおっぱいを弄んでいやらしいキスをすれば興奮が高まるはずだ。

 

(あっ! さっきよりおちんこが元気になってきた気がします。時々ビクッとするようになりました!)

(ナーベラルが頑張っているからよ。ちゃんと出来ているから安心なさい。あとちょっとよ)

(はい!)

 

 ナーベラルは目を潤ませたまま、表情に輝きが戻った。

 乳房で挟む逸物から熱が移ったか、頬にも赤みが差してくる。

 んっんっと声を漏らしながら乳房を揺するナーベラルは、乱れるユリに負けず劣らずいやらしい。

 アルベドは、もうひと押し必要であると考えた。色々忙しいが、全部自分のせいなので仕方ない。

 

(あっ!? あ、アルベド様? 何を……。もしかして何か失敗をしてしまったのでしょうか? ひゃんっ!?)

 

 自分の乳房を掴むナーベラルの手に、アルベドの手が重なった。

 アルベドはナーベラルのリズムに合わせて上下に揺すりながら、自分がしていた時のように中指をすっと伸ばす。

 指先は、乳房の先端で自己主張する突起に届いた。

 

 ナーベラルは自分の乳房を掴んで逸物を扱き続けているのに、固くなっていない。淫らに身を任せるよりも緊張感が勝っていた。けども、刺激を受ければ別である。

 自分でするよりも、誰かにされる方が同じ刺激でも感じ方が強くなる。

 ナーベラルに同性愛の経験も願望も皆無であるが、触っているのは覚醒サキュバス。指先で数度掻かれるだけで、痛いほど張り詰めてきた。

 

(おっぱいでしてあげたら、次はどうなるかわかってるでしょう?)

(それは…………)

 

 目の前の行為だけに集中していたのに、言われれば想像してしまう。

 

(ちゃんと出してあげられたら、一番はナーベラルに譲ってあげるわ。欲しいんでしょう?)

(でも……それは……ですが……)

(素直になりなさい。あの子が胸の痛みなんて言ってるのも、ナーベラルが素直になれなかったからなのよ? 自分の心と体に向き合えば欲しいものがわかるはずよ)

 

 ソファの上の二人に聞かれないよう、アルベドはナーベラルの耳に唇を寄せて囁いている。

 覚醒サキュバスが放つ淫の気が、ナーベラルの耳孔から体の中に染み込んでいく。

 

 かつて帝都の屋敷にて、アルベドは拘束されたまま何度もよがらされ何度も達して乱れに乱れたことがあった。

 その直後、アルベドが乱れたベッドに上った女達は自他の境界を忘れて愛しい男と交わった。女同士で口付けをすれば、触れ合い舐め合うこともあった。先駆者たるシャルティアに仕込まれたミラとジュネがいたにせよ、貞淑で二人きりを厳守してきたシクススも混じってしまった。

 アルベドが残した淫の気に惑わされてしまったからだ。

 

 アルベドに同性愛の嗜好はなく、かといって嫌悪するわけでもない。女たちに快楽を求めさせるだけである。

 

(ナーベラルはどうされたいの? こんなに乳首を立たせて、吸って欲しいんじゃないの? それだけでは満足できないわよね? 他にどんなことをされたいのかしら? 素直におなりなさい。ここではあなたを咎めるものは何もないわ)

(わ……わたしは…………)

 

 期待が熱を生み出し体中を駆け巡った。

 一番熱いのは、乳房で挟む男の体。気付くと同時に違って見えた。

 さっきまでは義務的にパイズリをして、まだ出ないのか早く出して欲しいと思っていた。

 違うのだ。

 愛しい男の一部であり、自分を愛してくれる大切な部分。愛してくれるのだから愛してやりたくなるし、気持ち良くなって欲しくなる。

 その先に素晴らしいものが待っている。

 

『気持ちは言葉にしないと伝わらないわよ?』

 

 アルベド様の金言が脳裏を過ぎった。

 

 

 

「私は!」

 

 パイズリをしているナーベラルが、突然大きな声を出した。

 ユリをもみもみしてチュッチュしていた男は久し振りに前を向く。

 股の下で跪くナーベラルが、乳房を揺すりながら紅潮した顔で見上げていた。

 

「乳首を立たせています!」

「なななななーべらるなにを!?」

 

 ナーベラルの宣言に驚くのはユリだけである。

 

「あなたに吸って欲しくて立ってしまったんです!」

「ふむ……」

 

 ナーベラルの乳房の持ち方は、下から持ち上げるより横から寄せる方式で、乳房の先端部は手指に隠れておらず見ることが出来た。

 言葉通りにブラウスには突起が浮いている。膨らむ過程がぜひ見たかったと男は悔やんだ。

 

「乳首だけではなくて……その……お、お、……おまんこも濡らしています……。おつゆが、あの……ぬるりとするのが、わかるんです……」

 

 恥ずかしいことを告白して羞恥に耐えかねたのか、顔を伏せた。が、そうすると目が合うのは先端に透明な汁を滲ませる逸物である。

 ナーベラルはちゅるりと吸ってから顔を上げた。

 

「おちんこを入れて欲しくて、濡らしてしまったんです……。おちんこを入れてもらうとすごく気持ちよくて幸せになれて……。だから……お返し、というわけじゃないんだけど……」

 

 言葉は途切れ途切れでもパイズリは止まらない。

 口内に溜まった唾は飲み込まずに谷間へ垂らすため、唇の端から涎が垂れている。両手は乳房を寄せているので涎は拭えず、舌で舐めとろうにも垂れ流れて顎へ伝ってしまう。

 

「私のおっぱいで気持ちよくなって! このまま出していいから、私にいっぱいかけていいから、私がかけて欲しいから……」

 

 ナーベラルは、乳房の間で脈打つのを感じた。

 頭の片隅に僅かに残った理性が、そろそろだと囁いてきた。このまま続ければすぐにも出させることが出来る。

 けども、思いは止まらない。

 頭で考えるよりもずっと早く、ナーベラルの気持ちは口をついて出ていった。

 

「あなたの精液でわたしの全部を染めてください!」

「っ!」

「きゃっ!」

 

 男が小さく呻く。ナーベラルは咄嗟に下を見た。ずっと待っていたのだ。

 魔法使いであるだけでなく、剣士としての技能もあるナーベラルの動体視力は、尿道口から白い粘塊が噴出する瞬間を捉えた。

 

「あっ……あっ……、こんなに…………♡」

 

 胸の谷間から精液がびゅるるとほとばしる。

 頬に飛び、額に届き、髪にまで飛んで、唇を汚し、鼻の頭に乗った粘液はゆるゆると流れて落ちていく。目には入らないよう掛かりそうな瞬間だけ目を閉じた。

 どくどくと続く射精は始めの勢いを失って、ナーベラルの胸元を濡らす。

 顔は精液まみれで胸の谷間とブラウスまで汚されても、ナーベラルは会心の笑みで顔射を受け入れた。

 

 

 

 ナーベラルの胸で果てた男は、あったような気が少しする胸の痛みが綺麗に溶け消えていくのを感じた。

 アルベドは、ナーベラルがきちんとパイズリを完遂出来たことに一安心。自分が食欲と性欲に負けたせいでナーベラルが心に傷を負いでもしたら目も当てられない。

 都合よく使われただけではなかろうかと思うユリだけが釈然としない思いを抱いていた。が、妹がとても喜んでいるようなので飲み込むことにする。

 ユリはナーベラルが敬愛するお姉さんなのだ。




ハーメルン内の作品を計7M字ほど読んでました
よく読んだなあと我ながら感心
そして本作は無駄に字数多いなあと省みるも治すつもりは余りなく


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これもまた準備である ▽ユリ・アルベド・ナーベラル♯2

本話11k


「あ、アルベド様!?」

「なあに? 私が舐め取ってあげるって言ったでしょう?」

「はっ……はぃ……」

 

 ナーベラルの顔は至近距離の顔射でベトベトだ。頬からとろりと垂れるのを、アルベドがれろりと舐め取った。

 

「あっあっ、アルベド、様?」

「ナーベラルが早く舐めないからよ。こういうのを気にするのかしら?」

「い、いえ……、驚いてしまいまして」

「それなら続けるわ」

 

 アルベドの舌がナーベラルの唇の端を掠める。柔らかい部分の接触はナーベラルを大いに動揺させた。

 複数人で行為するなら同性同士の濃厚な接触が必至である。ナーベラルに慣れさせるため、との意図がアルベドにはあった。

 

 ソファの二人は、ユリがんっんっと綺麗にしている。

 

「あっ、また!」

「後で私が整えますよ」

 

 男は後始末するユリの頭を撫で、丁寧に結い上げられている髪を崩した。

 彼は女の髪の扱いに熟練している。ユリは身を以て知っていた。

 

「折角だからナーベラルの髪も解きましょう。いいわね?」

「はい」

 

 一つにまとめられていたナーベラルの長い髪が解かれ、アルベドが手櫛で梳くとさらりと広がった。

 顔も髪にも残滓はない。アルベドが舐めとり、タオルで拭った。にちゃにちゃした胸の谷間も綺麗にした。

 

 ちなみにであるが、タオルを湿らせるのは水ではない。無味無臭の特製洗浄液だ。最強で無敵のローションをシクススが掃除に使っているのを見た男が新たに開発したものである。

 ローションから粘性を除き希釈した。生産コストはローションの十分の一以下である。

 

「約束通りナーベラルが一番よ。異存はないわね?」

「勿論です」

 

 答えるのは男だけ。ユリとナーベラルは何も言えない。

 にっこり笑ったアルベドは、第三ボタンを外した。

 姉妹も慌てて続く。

 

「ほーら♡」

 

 アルベドが、ばばっとブラウスの前を開く。一拍遅れて姉妹も続いた。

 

「おお!」

 

 御開帳である。隠れていたものが暴かれたのだ。

 見るからに柔らかそうな魅力的な曲線。支えずとも崩れない完ぺきな形。二つの丘が深い谷間を形作る。

 魅惑的に盛り上がった乳房の先端部は、ピンクに色づく乳輪が小さな突起を囲む。ふっくらとした乳首は乳輪よりも色が濃く、赤みがかっている。にもかかわらずに透明感があり、まるで神秘と淫秘の宝石のようだ。

 

 その上、姉妹は長い髪を解いて流していた。黒髪ロングである。

 黒髪ロングに大きなおっぱい。

 美の極致たるアルベド様がおわしても、添え物にならない存在感が、二人にはあった。

 

「おあずけはここまでよ。あなたが好きなところを好きなだけ見せてあげるわ。もちろん、触っても、ね♡」

「はい!」

 

 しかし、男は臨戦状態に至らなかった。意志の力で耐えたのだ。

 耐えれば、三人が準備を整えてくれる確信があった。

 

「これからナーベラルを可愛がってもらうのに元気がないわね。でも大丈夫。私たちが元気にしてあげる♡」

「ぜひお願いします」

 

 耐えた甲斐があった。ナーベラルに乗るまで、まだまだご奉仕してくれるようである。

 

 

 

 

 

 

 アルベドは腰から一対の黒翼が生えているため、座っても障らないよう背もたれがない椅子も多い。

 男は背もたれがない寝椅子の上に寝転んだ。かろうじて着ていたシャツも脱がされ、素っ裸だ。

 三人は胸をはだけていてもメイド服を着ている。服を着ている女たちに囲まれて全裸になるのは、シェーダ主催の観賞会を思い出す。何とも倒錯的な興奮が湧き出てくる。

 

「ユリは私と反対側に座りなさい。私と同じようにすればいいわ」

「……わかりました」

 

 アルベドとユリは、横たわる男を挟んで膝立ちになる。アルベドは妖艶に笑って手を伸ばした。

 ユリは手や口で本格的に始める前に言葉だけで立たせた。一度目ボーナスである。二度目のナーベラルはお口で少々頑張った。三度目のアルベドは中指を裏に添え、すっと一撫でする。それだけで立ち上がり反り返り、元の位置に戻ってこない。

 魔法的な手腕に姉妹は目を見張った。

 

「うふふ、二回も出したばっかりなのにもうこんなに元気になって。もっともっと元気になってもらわないと、ね?」

 

 ただでさえ突き出ている乳房をアルベドは下から支え持って、寄せながら体を前に倒す。

 アルベドと向き合っているユリも同じように。

 

「ユリのおっぱいも乳首が立ってるわね。彼に触られて気持ち良かったのかしら?」

「は……、はい……」

「そう思うなら尚更気持ちよくなってもらわないとダメよ? 遠慮せずにもっと近付きなさい」

「わかりました……。うぅ……」

 

 揉まれていたのを指摘されたのが恥ずかしいわけではない。今している事が恥ずかしい。

 胸をはだけて乳房を支え持ち、向き合って近付けば接触するのは当然なのだ。

 どちらかが位置を微調整したのかたまたまなのか、アルベドの乳首とユリの乳首が触れ合った。

 

 相手の乳首にアルベドは冷たさを、ユリは熱さを感じる。なおも距離を詰めれば柔らかな乳房が押し合ってむにゅんと潰れ、間に挟まれば生きとし生ける者全てが幸せになるのは必然と言えた。

 男はその必然を甘受したのだ。

 

「あはっ♡ 私とユリのおっぱいで気持ちよくなってるのね。あなたが感じてるのを感じるわ。もっともっと気持ちよくなっていいのよ? ユリもそう思うでしょう?」

「……はい」

「さっき私が言ったことをもう忘れたのかしら? ナーベラルが頑張ったからと言ってユリは油断しちゃだめよ? 気持ちは言葉にしなければ伝わらないの。わかった?」

「…………はい。……アルベド様と私の…………おっぱいでおちんちんを挟む……扱く? 扱くから、うんと気持ちよくなってね?」

「よくできました♪ さあ、私と動きを合わせて。私と同じように」

「はい……」

 

 二つの大きなおっぱいに挟まれたのは、男の逸物である。アルベドとユリが乳房を合わせ、ゆさゆさと揺すって扱いている。

 二つのおっぱいが織り成すWパイズリだ。

 

 パイズリをされる、もといさせる頻度が上がっても、Wパイズリは久し振りだった。

 娼館を除けば、リファラとキャレットにされた事がある。

 リファラとキャレットは、リファラの方が少しだけ大きい。その他の張りや柔らかさに温かさはほとんど同じ。

 アルベドとユリは、大きさは甲乙つけがたい。柔らかさは微妙に違い、温かさは全然違う。デュラハンであるユリは体温が低いのだ。温度差のあるWパイズリはとても刺激的で、如何に覚醒サキュバスたるアルベドあっても単独では出来ない技であろう。

 股間に奉仕する二人は、谷間から顔を出す亀頭へ交互に口付け、次第に舐めるようになり、唇で包むようになった。

 ユリの口で綺麗にされた逸物が、再び唾液で濡れていく。谷間に垂れていっても二人は拭わない。アルベドは蕩けた顔で、ユリは緊張を滲ませて乳房を揺すり、口を使う。

 残る一人。ナーベラルは二人の行為を見ているだけではなかった。二人が始める前にアルベドから、『ナーベラルは彼に準備をしてもらいなさい』と言われている。

 

「お、お、お……おねがい、するわ……」

 

 男の手が届く範囲に立ったナーベラルは、情熱的な告白をしても恥ずかしいものは恥ずかしいらしく、赤い顔を背けてメイド服の長いスカートをぎゅっと握った。

 手がゆっくりと上がる。白いストッキングが脚線美を引き立てている。ストッキングはガーターで留められ、ナーベラルの絶対領域が現れると、ブラジャーと揃いの白いショーツが股間を包んでいた。

 遠目だと三角形に見えるショーツは、近くで見るとふっくらとした印象を持つ。生地は薄く、黒々とした茂みが透けて見える。とはいえ陰毛が盛り上がっているのとは違って、包まれるナーベラル自身がふっくらとして柔らかい。

 

「あっ!」

 

 股の間に入った男の指が、とんとんと軽く叩く。

 繊細な生地はナーベラルに張り付き水気を吸って湿りだした。それがナーベラルの形をあらわにする。全貌を暴くべく、じっくりとなぞってやれば陰唇が開いているのも、陰唇に包まれているはずのクリトリスの位置もわかる。

 柔らかな肉芽をノックし続ければ弾力をもって押し返すようになり、膨らんできた。

 

「ナーベラルはさっき言ったことを忘れたのかな?」

「な、んっ……の、こと、よ……?」

 

 男の指は肉芽から離れない。ショーツの滑らかな肌触りとナーベラルの細やかな弾力を楽しんでいる。連れてショーツのシミが広くなり、滲み出てきた。

 ユリがWパイズリよりもナーベラルへの愛撫に集中していれば、男の指にピンクの光を見たかも知れない。

 

「パイズリしてた時、俺に乳首を吸って欲しいって言っただろう?」

「っ!! …………言った、けど……」

 

 一時的にとても気持ちが盛り上がって出てきてしまった言葉、ではあるのだが嘘ではない。

 言われれば意識する。胸での刺激から遠ざかり、落ち着き始めたのが立ってくる。男は今度こそ、ナーベラルの乳首が固くなっていく過程をその目に収めた。

 可愛かったのがむくむくと尖ってくるのはとてもいやらしい。それよりもいやらしいのがナーベラルの表情だ。

 パイズリをしてた時のアルベドほどには振り切れていない。羞恥心が堰となっている。それが絶大な効果をもたらし、ナーベラルの魅力を引き立てる。 

 敏感な部分をどちらも立たせて滲むほどに濡らすのだから、欲情してないわけがない。男がショーツの隙間から指を潜らせれば、ぬるりと飲み込んで締め付けた。

 とても欲しがっていて、すぐにでも欲しいと思っているのに言い出せない。愛撫される悦びと新たな提案への嬉しさを表に出さないよう噛み殺そうとして全く出来ていない。

 いつだって素直になれないナーベラルがアルベドの指導を受けたにも関わらず素直になりきれないのは、そのアルベドと姉のユリがいるから遠慮する気持ちが大きい。

 だけども体は欲しがって、抑えきれていない。そこがとてもいやらしい。

 

「スカートを離すから……ぁんんっ! 離すけど、離れちゃいや……」

「わかってる」

 

 魅惑の三角地帯がスカートの中に隠れてしまっても、男の指は柔らかくて熱くてぬるつくナーベラルを感じている。

 スカートを手放したナーベラルは、寝椅子の縁に手をついた。

 

 アルベドの部屋にあるものは全てナザリック製である。寝椅子の足は床に固定してないが、荷重の掛け方が不均一になってもひっくり返ったりしないのだ。

 

「……………………」

 

 ナーベラルは、ちらちらと男の下半身を伺う。二人が挟み、交互に口を使っている。行為に集中してこちらには注意を向けていない。

 男に顔を寄せ、ちゅっと軽いキスをした。軽くにしないと続けたくなって濃厚なのが欲しくなって当初の目的を忘れる確信があるのでほんの一瞬触れ合うだけのキス。

 

(わたしの乳首、いっぱい吸って? あなたに吸って欲しくて立ったのよ? いっぱい吸って、気持ちよくして。わたしの全部をあなたに求めて欲しいの……あぁン♡)

 

 男の顔に覆いかぶさった。

 アルベドとユリがいるので小さく見えてしまうマジックがかかっていても、割と大きいナーベラル。上から来られるとたわわに実る果実のよう。絶対に美味しい。

 男が吸い付くなりナーベラルは甘く鳴き、寝椅子を掴む手が震える。

 おっぱいで窒息させてはならないと、倒れてしまわないよう力を込める。けれども指を入れられちゅうと吸われては甘く鋭く歯を立てられ、下唇を噛んでいたのがはしたなくも開きっぱなしになり、飲み込めきれない涎を垂らした。

 下の口からも垂れている。シミだったのが滲み出し、太ももを伝っていく。シャルティアに鑑定させれば大洪水との評価を出すだろう。

 

「そろそろ良さそうね」

 

 パイズリをしながらもナーベラルの様子を窺っていたアルベドは、突き出された尻がピクピクと震えるのを何度か見ていた。

 奉仕していた逸物もピクピクしている。扱くたびに絞られるように先走りの汁が滲み、ユリと交互に舐めとった。

 どちらも準備は十分だ。

 

 

 

「あの……ここで、でございますか?」

「そうよ。ベッドまで行ってたら冷めちゃうわ」

 

 ナーベラルが座らせられたのはローテーブルをどかした床の上。毛足の長いカーペットが敷いてあり、リファラとキャレットがいつも綺麗にしていても、やはり床の上である。

 

「ナーベラルはベッド以外でセックスしたことがある?」

「……ございません」

「立ってしたこともないの?」

「…………ございません」

 

 そもそもナーベラルは経験が少ない。

 初体験はこの屋敷の男の寝室で。次は帝都で過ごした冬休みに馬車の中。その夜は帝都の高級宿で。いずれもベッドの上だった。

 

「それならいい経験になるわ。感じ方がだいぶ違うから、騙されたと思ってやってみなさい」

「……かしこまりました」

 

 かしこまる必要はないのにかしこまってしまうようだ。

 

 ナーベラルはメイド服を着たままでカーペットの上に横たわる。

 靴を脱がされ遠くに放られ、スカートをめくり上げられる前に男の手が入ってきた。

 軽く腰を浮かせ、男の手が戻ってくるとナーベラルの足から白いショーツが抜き取られる。

 受け取ったアルベドは丸まった部分を戻してから、両手で広げた。パンツであやとりである。

 

「ナーベラルったらこんなに濡らしちゃったのね。おまんこをいじられて気持ちよかった?」

「うぅ…………はいぃ…………」

 

 秘部を覆うクロッチがびっしょりと濡れている。ナーベラルは見ていられず、両手で顔を隠した。

 しかし、恥ずかしがっていても何かが変わるわけではない。

 今度はスカートが大きくめくられ下腹まで外気にさらされ、股を開かされた。

 いきり立った男の逸物が近付いてくる。

 

「ダメよ、ちゃんと見てなくちゃ」

「あっ?」

「ユリはそっちをお願い」

「はい。……ごめんね?」

「ユリ姉様!?」

 

 右手はアルベドに、左手はユリに握られた。

 羞恥に悶える顔を見せたくない。だけども顔を隠せない。

 美麗な顔が徐々に近付き、逞しい指が頬を撫でた。

 

「ナーベラルに言われた通り。内側から俺で染めてやろう」

「ひゃ……………………ぅ……」

 

 瞬間、ナーベラルの知覚からアルベドとユリが消えた。

 受け入れる準備が万端のそこへ、焦らすことなく入ってくる。

 顔も近付き、吐息が唇に届いてきた。

 

「あ……あ……」

 

 欠けたところが満ちていくのを感じながら唇が唇にそっと触れ、どちらが舌を差し入れたのかはわからない。

 深く絡み合った時、一番奥にまで届いていた。

 

「あっ……あっ、あっあんっ♡ あっ、キスもっとぉんんっ……んっんっ、ちゅぷぷ♡ あっハァああぁああんッ!」

 

 手を握るのが誰か忘れているのだ。声を抑えようと思うわけがない。

 中を抉られて甘く鳴き、キスをねだって唾液を交換しようと思えば深く突かれる。

 乱暴に腰を打ち付けているように思えて、ナーベラルが特に好むところを擦っている事に、一人の男しか知らないナーベラルは気付かない。

 体を重ねれば幸せになれる事だけを知っている。

 

「あっ、むねぇ……おっぱいもぉ……♡」

 

 唇が離れるのを惜しく思う間もなく、前後に揺れる乳房に手を乗せられた。

 腰の動きはリズムよく、乳房をこね回す手指は緩急つけて狂わせてくる。

 自分の全部を支配されたように錯覚してしまう。

 

 ナーベラルはよがりながらも、前の時より力強いと感じた。それこそが、アルベドがベッドではなく床の上を選んだ効果である。

 お屋敷のベッドの調度はどれも極上。アルベドのベッドは最上である。とても寝心地が良く、マットレスのスプリングやその他の素材やらで適度な反発と弾力がある。

 それが邪魔なのだ。

 下が固ければマットレス等の弾力で勢いが減衰することなく直に伝わる。ナーベラルが力強いと感じたのは錯覚でも何でもない。本当にそうなのだ。

 

 アルベドは、床の上で男と交わった時にその事を知った。以来、ベッドのマットレスをどうにかしようと検討している。とても広いベッドなので固いエリアを従来通りのエリアの二つに分けても問題ない。

 ちなみに、固いエリアに一番適した床材は畳である。ナザリックには和室もあるので、アルベドもいずれは気付くだろう。

 

 アルベドの手が、きゅっきゅと強く握られる。

 ナーベラルは敏感に感じているようだ。恍惚とした顔を見ればよくわかる。しかし、感じて乱れるだけではいささか不足。ナーベラルにはもう少し頑張って欲しい。

 

「とても気持ちいいのね。いい顔をしているわ♡ そんなに気持ちよくなってるんだから、彼のためにも頑張らないとダメよ?」

「ひゃっ……ひゃぃ……、あっんぅ! くうぅうう……♡ が、がんばり、ましゅぅ……!」

「ナーベラルはとても頑張ってくれていますよ?」

「もう少し先があるの。女だけの話よ」

「さようですか」

 

 ナーベラルを支配する男は、それ以上口を挟まなかった。

 ナーベラルをよがらせるのは当然として、自分も十分な快感がある。

 手や口におっぱいでされるのはとても良いし、すっきりさせてもらった事は数えきれない。あと数か月あれば、ソリュシャンだけでも四桁に届いてしまうかも知れない。

 しかし、やはりセックスの方が好ましい。時間と体力とその時の気分が大きかったりするが、すっきりするならいつでもこちらがいい。気分が乗らない時もあるので、いつでもとは言い難いような気がしなくもないが。

 

 潤んだ膣に逸物を挿入して包まれるのは、他の行為では得られない満足感がある。

 文字通り一つになる事によって、自分が拡張したような。あるいは自分に従属したように乱れる女に、支配欲と言うのか征服感とでも言うのか、何かが満たされる。

 もっと単純に、隙間なく密着して包まれるのが気持ちよい。包まれるではなく、入っていく、と言う方が正しいかも知れない。

 回数は少なくても、ナーベラルの膣内を覚えている。

 乱れ始めれば往復する度に深まっていくのも記憶通り。深さは十分な域に達したらしく、時折きゅうと締め付けてきた。

 

「ユリもよく聞きなさい。ナーベラルは手やお口でおちんぽを扱くとき、きゅって握ったり強く吸ったりするでしょう? それと同じなの。おまんこでおちんぽを扱くんだから、おちんぽの動きに合わせて締めてあげるの」

「あっあっあんっ、あんっ! れっ、れもぉっ……! くぅ、んっんっ、んっ…ふぅぅう……ああぁぁぁっ!!」

「頑張りきれないようね」

 

 アルベドの手は強く握られたままだ。

 アルベドは苦笑して、ここまで乱れてしまうと意識しての行動は難しいだろうと判断した。ならば、意識せずに行動させればよい。

 

「アルベド様?」

 

 ナーベラルがキス顔をしたので近付いたが、アルベドに制される。

 主神の指示に抗うわけにはいかぬと、男の手はナーベラルの胸に戻り、充血しきった乳首を抓った。

 ナーベラルが高く鳴き、きゅうと締められる。

 始める前のWパイズリで高まっていたのもあり、近付いて来るのを感じた。

 

「頑張れるように手伝ってあげるわ」

「あっ? おっ!? あっあっ、あるべっ……あぁぁぁああああああーーっっっ!」

「おおっ!?」

 

 アルベドの手は、左手はナーベラルの手を握り、右手は結合部を隠すスカートをめくった。

 ナーベラルの脚は長く腰は高く、スカートをめいっぱいめくれば下腹があらわになる。へそへ指の腹をあて、すすすと下げれば程よく飾る薄い茂みに辿り着く。アルベドが失ってしまった陰毛だ。

 誇り高きサキュバスエンブレムを刻んだことに悔いはないが、こうしてみると生えたままもまた良いと思わされる。

 柔らかな陰毛は薄く、地肌に触れながら尚も進め、飛沫を散らす結合部の少し上。ナーベラルのクリトリス。

 アルベドは同性愛者ではなくとも、毎日自分で弄っているところである。どう擦れば高ぶって、どんなリズムだと深くなるのかよく知っている。

 何度も浅く達していたナーベラルは、中と外を同時に責められ、抗えなかった。

 

「あ゛っ、あ゛うっ! あ゛っ、らめぇぇええっ! イッってるのにぃいいいぃいいいッッ♡」

 

 ナーベラルが意識的に頑張れないなら、体を反応させればいい。

 女の体は絶頂すると、精液を取り込もうとして膣が締まり、膣壁が蠕動する。

 ナーベラルをいかせれば良いのだから簡単な事だ。

 

「それでいいのよ? いっぱいイキなさい♡ いっぱいおまんこでイッて、幸せになりなさい。そうすればもっともっとおちんぽを気持ちよく出来るのよ♡」

「ひゃあぁぁあああんっ! おっおっ、おまんこイッてますぅううぅう♡ ぜんぶっ、ぜんぶイッっちゃってぇぇええ、あっあぁぁぁああんっ♡」

 

 アルベドの指は一定のリズムで小刻みに、しかし素早く動く。指に感じる弾力は始める前より強くなり、頻繁に痙攣する。

 ナーベラルの好みはわからなかったが、アルベドの好みで当然包皮は剥いている。

 

「くっ!」

「ひゃあぁぁん♡」

 

 男の手が乱暴にナーベラルの乳房を鷲掴みして、指の間から乳肉が溢れた。ナーベラルが感じたのは痛みか快楽かいずれもか。

 腰も強く打ち付け、精を取り込もうと開き気味の子宮口に亀頭を押し付けた。

 尿道口から吐き出される精液に打たれ、ナーベラルも達した。膣がきゅっと締まり、陰核は痙攣し、腰から尻まで震えが走る。

 どぴゅどぴゅと、内側から染められた。

 

「あ…………あぁ…………」

 

 ナーベラルは達した瞬間に叫んだのか、静かに受け止めたのかわからない。

 完全に放心してしまって、現世のことがわからない。

 わかっているのは、とても幸せな事。

 ちゅっと優しいキスを送られ、耳元で愛してるとか素晴らしかったとか囁かれても意味を認識できない。幸せになれる言葉を囁かれたのはわかる。

 

 

 

「次は私の番よ。ユリは最後になってしまうけれど、いいわよね?」

「……は、はい。もちろんです」

 

 ナーベラルは幸せの国に旅立っているけども、復帰を待っていられない。

 ナーベラルのよがりようは、アルベドの欲を大いに刺激したのだ。股間を濡らしたサキュバスが我慢できるわけがない。

 

「ナーベラルは起きられるかしら?」

「…………………………はい」

 

 返事はあるものの虚ろである。逸物を引き抜かれ、膣口からこぽりと精液が溢れスカートを汚しているのもわかっていないらしい。

 アルベドは舐めてやりたくなったが、すぐに生でもらえるのだから我慢する。次が自分の番でなかったら我慢しなかったかも知れない。

 

 溢れた精液は難しい顔をしたユリが拭ってやった。

 見られた事はあっても見るのは初めてだった。見ていいものだったのかどうか判断できない。

 

「さっきは私とユリで準備したわ。今度はユリとナーベラルでしてちょうだい」

 

 準備とは何をすればよいのか。

 ナーベラルは放心中。一応はまだ理性的な思考が残っているユリは、自分が率先して何かをすべきなのだろうと考えるも答えは出ない。

 

「とりあえずナーベラルを起して座らせなさい。倒れずに座っているくらい出来るでしょう」

「……わかりました」

 

 何が出来るかわからないのだから言われた通りにするしかない。

 抱き起す前に、姉の目に妹の股間が映った。開いてひくついて、満足した雌の穴。

 目を背けてスカートを直し、妹の体を起こして床の上に座らせた。

 

「アルベド様がしてくださるのですか?」

「ん? んーーーー、ちゅっぷん。……私は綺麗にしてあげるだけよ。続きは二人に任せるわ」

 

 ユリがナーベラルの世話を焼く間、アルベドは項垂れた逸物をしゃぶってちゅうと吸う。尿道内に残る精液を丁寧に吸い出したら舌で少々。

 三度出したのに上向いてきた。

 

「ユリはナーベラルと向き合うように座りなさい。ユリは正座でいいわ。ナーベラルはクッションを敷いた方がいいわね」

「わかりました」

 

 ユリは、わからないなりに指示に従う。

 アルベドが選んだクッションの上にナーベラルを座らせると、正座するユリと頭の高さが同じになった。ナーベラルにだけ敷物を用意することに不満とまではいかなくとも疑問を抱いたが、高さを揃える為だったのなら頷ける。何のためにそろえるのかは未だにわからない。

 

「向き合って座って、もっと近付きなさい」

「こう、でしょうか?」

 

 ナーベラルの体はふらつきはしないものの、自分では動けない。ユリが合わせるしかなかった。

 

「で、私は……」

「アルベド様?」

「こっちを向いてはダメよ? 二人が準備するんだから」

「………………かしこまりました」

 

 アルベドは男の背後に回った。後ろで何をしているかわからない。だけれども、アルベドが着ていたメイド服が放られるのは見えた。

 エプロン、スカート、ブラウスが飛んでいく。男は是非にも振り返りたいが駄目であるらしい。

 代わりに後ろから抱き着かれた。

 逸物を挟んでくれた豊かな乳房が背中に押し付けられる。

 のみならず微妙に動かすため、比較的感度が鈍い背中でも、小さな突起が擦れるのを感じられた。

 

「こっちよ♪」

 

 抱き着かれたまま押され、座る二人の前に移動した。

 

 ユリは、高さ調整した意味を知った。

 顔の高さ、具体的には口の位置が、男の股間の位置と合っている。口でするなら丁度いい高さだ。

 二人並んで座らされたのは、交互に口でさせるのだろうか。しかし、それなら向き合って座るのはいささか不都合。

 謎はすぐに解けた。

 

「二人は顎を上げて唇を突き出すのよ。唇と唇でおちんぽを挟んであげるの♡」

「!!」

 

 まだ帰ってこないナーベラルは、夢うつつで唇を突き出す。

 

「ぅ………………」

 

 ユリは小さく呻き、同じように唇を突き出した。

 ナーベラルとの距離は指一本分。たったそれだけの距離を埋めてしまえば、妹と口付けをしてしまう。

 とても倒錯的で普通じゃない。

 それでもしてしまえたのは、アルベドとニアミス。ニアミスから本格的なミスに至っていたからだ。

 

 Wパイズリで乳首を擦り合わせ、乳房を圧しつけ合い、交互に舐めた。

 アルベドの唾を舐めとってしまったし、自分の唾を舐めとられていた。

 続ける内に同時に舐めるよう柔らかく要請され、気を付けていても何度か舌が触れ合ってしまった。

 初めて触れてしまった時は硬直したユリだが、二度三度と繰り返す内に、慣れはしなくても固まらないようにはなってきた。

 それに比べたら相手は妹で、間に挟むのだから距離がある。まだしも気が楽だった。

 

 

 

 言う間でもなく、ユリに慣れさせるための意図的な接触である。複数人でするのだから、その程度は慣れてもらわないと困るのだ。

 舌が触れる程度で硬直していたら、リファラとキャレットが混じったら卒倒してしまうかも知れない。

 唆したのは自分かも知れないが、サキュバスである己をしてあの二人は凄かった。一体どこで覚えたのだろう。それとも生まれ持った素質なのだろうか。

 思えば、ソリュシャンはお食事に付き合わせた時、その日が初対面だったはずなのに上の口ではなく下の口を使った。処女だったはずなのに。

 シェーダは真面目でお固く見えるのに、鑑賞会を主催したと聞いた。主演は彼とシェーダ自身だったとか。凄いとしか言いようがない。サキュバスとして忸怩たる思いであるが、自分はまだそこまでの勇気を持てない。無力な一般メイドであろうと尊敬に値する。

 彼女らはいずれも創造主を同じくしている。と云うことは、そういうことはまだまだ早そうなデクリメントやいつでも冷静沈着なインクリメントもそうなのだろうか。

 

 ナザリックを捨てモモンガ様に孤独の苦しみを与えたあれらには憎悪を抱くアルベドだが、彼女らの創造主であるヘロヘロには言葉にしがたい畏怖を覚えた。

 直後、つまらない事を考えた己を自嘲し、確かな熱を持つ男の体を抱きしめる。

 

「準備は二人。でも挟めるくらいにはしないといけないわね♡」

「ああ……、そのまま続けてくださっても良いのですが?」

「だーめ。順番よ」

 

 お掃除で半立ちに戻ったものを手で扱く。

 上向き、反り返ってきたところを前に倒した。

 

「えいっ♡」

「「!!」」

 

 アルベドが男の腰を押す。

 突き出された逸物は、姉妹の唇に挟まれた。




続けると更に10kでも足りなそうなので投稿
月光超Gさんと嘆きの大平原さんの感想がなかったら五行くらいのダイジェストで流して次の話に行ってたとこでした

私事ですが、アズレンにて待ち望んでいた島風復刻イベントで島風入手できず
もう云年待つのはやなのでこの機に引退
丁度二年プレイしました
引退記念にシャンパーニュのイラスト生成
代わりに5年放置したアイギス復帰しようと思わなくもないが攻略復習面倒で
まあ無理にゲームすることはないですね


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何事からも学ぶべきである ▽ユリ・アルベド・ナーベラル♯3

本話16k


 ナーベラルが少しずつ浮上する。

 

 始めに自分が座っている事に気が付いた。クッションを尻の下に敷き、背筋を伸ばしている。意識が曖昧でも姿勢を正していられた事に安堵と、我ながら成っていると自画自賛する。

 唇に何かが触れているのもわかった。熱くて固くて長くて、艶めかしい弾力がある。さっきまで自分を愛してくれていたもの。意識して唇を押し付け、舌を伸ばした。唾でぬめり、するすると動く。

 真正面に誰かが座っているのを感じる。女性だ。姉だ。ユリ姉様だ。ユリ姉様が自分に向き合って同じ姿勢で唇を突き出している。

 舌に触れるものが彼の固いものだけでなく柔らかいものもあると感じた時、我に返った。

 

「うむぅっ!? んっ……、んっちゅううぅ……、ちゅぷぷ……」

 

 信じがたい状況に目を白黒させても、繰り返した動きを体が覚えている。

 

 唇で啄んでいた逸物が、口の中に入ってきた。

 内側から押されて頬が膨らむのを感じる。抵抗せずに受け入れて、顔の向きを変えると深く入ってくる。何度かしていたように強く吸い、舌を使う。

 頭を押さえられ数度振られ、出て行ったらすぐに姉へ。

 

「ちゅっ、ちゅっ、あむっ……れろれろ……」

 

 出て行ったら終わりと言うわけではない。

 亀頭をユリがしゃぶっている間、ナーベラルは竿を食む。唇を軽く開いて下唇には舌を乗せ、唾液をたっぷり乗せながら左右に振る。

 ナーベラルが亀頭をしゃぶっている間に、ユリも同じことをしていた。

 

「ちゅっ、ちゅっ」

「あむっ……、ちゅる……」

 

 二人の口を使ったら、次は亀頭を左右から同時に。

 勃起して膨らんでいると言っても一人で咥えられる逸物だ。その亀頭へ同時にしゃぶりつくのだから、上唇は触れ合い、伸ばした舌もぶつかってしまう。互いの唾を舐めてしまう。

 

 夢うつつだったナーベラルは、姉の唇と触れ合うことに全く抵抗がなかった。心が遠くに行っていたのだから意識出来なかった。

 躊躇わないナーベラルにユリは覚悟を決め、妹に負けじと口を使った。

 それどころか手も使っている。

 

(ユリ姉様!? あのユリ姉様が……あんなことを……)

 

 ユリは口を使いながら、自身の乳房を弄んでいた。

 豊かな乳房を両手で揉みしだき、親指と薬指は乳首を摘まんで、転がしたり引っ張ったりと忙しい。

 頬を淫らに上気させ、艶っぽい息を吐くのだから間違いなく感じ入っている。

 

「あんっ……」

 

 しかし耳に届く嬌声は、ユリの声ではなかった。

 アルベドの声とも違う。

 ナーベラルが自分の声であると気付いた時、顔から火が出るほどに熱くなった。

 

 ナーベラルも自分の手で自分の乳房を揉みしだいていた。

 ユリが自分を慰めているのは、ナーベラルがしているのを見たからだ。

 姉妹は自分の胸を揉みながら、男の逸物をしゃぶっている。

 もしもメイド服を着たままでなかったら、間違いなく胸だけでは済まなかった。

 

 

 

「うふふ、元気になってきてるわね♡」

「ええ。二人とも丁寧にしてくれていますし、次はアルベド様と思うだけでこみ上げてくる思いがあります」

「嬉しいわ。ちゅっ♡」

 

 男に抱き着いたままのアルベドは、背伸びして男の頬に唇で触れる。

 肝心なところは姉妹に任せていようと、サキュバスの愛撫が軽いキスで終わるわけがない。さわさわと男の体を撫でまわし、小さな乳首を優しく抓る。

 

「ちゅっ、れろぉ…………。ふぅーーーーっ」

 

 耳たぶをくにくにと弄りキスをして、耳孔に舌を差し入れたと思ったら唇を尖らせ息を吹きかけた。

 

「……とてもゾクゾクしてきます」

「気持ちいい?」

「とっても」

「あなたの気持ちいところは全部知ってるんだもの♡ あむっ!」

 

 かぷりと肩に歯を立てる。

 所かまわずちゅっちゅとキスの雨を降らせ、手が届く範囲全てを愛おし気に撫でまわす。

 欲を言えば、彼には後ろに手を回して欲しかった。生憎、姉妹の頭を押さえている。ここは我儘を言わずに我慢して、自分の手を股間に伸ばす。

 

「あなたの体を感じるだけで高ぶってくるわ♡」

「実は私もそうなんです」

「そんなことずっと前から知ってたわよ♡」

 

 始める前のナーベラルと同じレベル。

 繊細な生地はぐっしょりと湿って張り付き、細い指が何度も撫でて沈めている。

 中はまだとっておく。代わりに下着越しにもわかる突起を弾く。

 

「んっ♡ んっ♡ あんっ♡」

 

 男の背に体をぴったりと押し付けまま、ビクンと腰を震わせる。

 内緒話をするように、男の耳に唇を寄せ、そっと囁いた。

 

(今ね、クリちゃんを擦ってたらイッちゃったの♡ 気持ちよかったわ。でも……)

 

 言い止して、アルベドは我慢できなくなった。

 

「「あっ!?」」

 

 男の肩を掴み、後ろに引き倒した。

 同時に先端を責めていた姉妹は間に挟むものを奪われて、距離がなくなった。唇を突き出していたので、歯がぶつかる無様は避けられた。

 

「おっと」

 

 男は倒れることなく、優しくカーペットの上に寝かされる。裸で寝ても、毛足が長い極上カーペットの寝心地は抜群だ。

 

「おちんぽはもう十分元気になったわよね? 今度は私の番よ♡」

「おお……!」

 

 アルベドは、白いショーツ一枚の姿で男の顔を跨いだ。

 そしてその場で膝を付く。

 男の吐息が股間にかかる距離だ。

 

「このパンツはあなたが選んだパンツよ。あなたが白いのがいいって言うから、このパンツを穿いたままパイズリをしたりフェラをしていたの。おちんぽを可愛がっていた時はちょっとシミてただけだったのに、もうすぐ私の順番って思ったらこんなになっちゃった♡」

 

 純白で光沢がある生地に繊細な刺繍が施されている。縁はレースが飾り、どこかが透けてるようなことはない。とても綺麗で上品なショーツである。

 今はアルベドの愛液で濡れそぼっている。

 濡れているので、奥で開いているアルベドの肉色が薄っすらと透けている。とても薄い生地な上に張り付いているのだから形もよくわかる。

 

 アルベドが股間を近付けた時、男の逸物が軽く跳ねたのを姉妹は目にした。

 

「こんなに濡らしちゃうんだからぁ……私はこんなになってるの♡」

「ああ……、とてもお綺麗です。これから私を迎えていただくと思うと、光栄の至りです」

「そんなこと言わなくていいのよ? 私だって欲しいんだから♡」

 

 アルベドは両膝を床に付いていた。

 白いショーツはサイドを紐で結ぶタイプではなく、脚を抜いて着脱する極々普通のショーツである。

 しかし次の瞬間、アルベドの股間を覆うものは何もなくなり、ショーツはアルベドの手にあった。

 

 サキュバススキルの『脱衣』である。

 ナーベラルがブラジャーを抜き取られた時はそのような技術だと思っていた姉妹だが、今しがたアルベドがショーツを脱いだ技は物理法則を越えていた。

 

「ほらぁ、アルベドのおまんこはこんなに欲しがってるわ……♡」

 

 指を添え、開いて見せた。

 陰唇はぽってりと膨らみ、内側の媚肉は充血して淫液に濡れ光り、女の肉が形作る雌穴は小さな口を開いている。

 

「ここにぃ……、あなたのおちんぽが欲しいの♡」

「ぜひ」

 

 男の言葉は短い。言葉を弄する場面ではない。余裕もない。

 姉妹は余りの淫らさに息を飲んだ。男を誘惑して興奮させるにはあのようにすればよいのかと学びを深くする。

 

 アルベドは膝立ちのまま、少しずつ後ろへ下がる。

 男の股間の上にまで来たら、反り返った逸物を二度扱いてから上向ける。

 腰を下ろし、先端が触れるとはにかんだ笑顔を覗かせた。

 

 ナーベラルによる彼の胸の痛みが解消されても、ユリとナーベラルへの教育は続いている。

 お手本のつもりでいるのに、本気で楽しみにしているのがいささか欲張りではしたないように思えて気恥ずかしい。

 でもすることはする。

 位置が合うと、両手は男の胸に付き、ゆっくりと腰を落とした。

 

「んんっ……、わたしの中をあなたが広げていくのがわかるわ。わたしの中に入って来てるの。わたしとあなたが一つになるの♡」

 

 半分ほど入れたら、ギリギリ抜けないところまで腰を浮かせる。

 その次はもうちょっと深くまで入れて、また腰を浮かせて。

 繰り返す内に男の顔が苦しそうに歪んでくる。男の手が腰に伸びようとするのをやんわりと制し、アルベドは自分の胸を触らせた。

 

 ユリとナーベラルは、アルベドの後ろにいる。

 少し離れている上に二人とも床に座ったままなので、繋がろうとしている部分が良く見えた。

 男の逸物は固く勃起して上向いている。そこへアルベドが腰を落とし、体の中に飲み込んでいく。一部はずっと繋がったままで、アルベドの中に男が幾らでも入っていくかのように錯覚した。

 

 見なくても、姉妹に見られているのがアルベドには気配でわかった。全部入れてしまったらきっとわからなかった。

 男は姉妹の存在を忘れて、アルベドだけに集中している。

 アルベドはにんまりと笑い、尻を男の股間にまで落とした。剛直が全てアルベドに包まれ、先端が奥に届いて押し上げる。

 

「あはっ♡ おちんぽが全部入っちゃったわ♡ 私のおっぱいに出して、ナーベラルのおっぱいに出して、それからナーベラルのおまんこにも出したのにとっても元気よ♡ アルベドのおまんこがあなたのおちんぽでいっぱいになっちゃってるわ♡」

「あっ、アルベドさまっ!」

 

 奥まで入れた以上、アルベドは焦らさなかった。

 腰をくねらせ前後左右にグラインドし、大きく上下に腰を振る。

 ナーベラルに教えたように、膣で締めるのも忘れない。上下する度にリズムよく締めては緩める。締め付けを意識したのは最初の数度だけ。あとは肉体が覚えている。

 

「あんっ、あんっ♡ すてき、とってもすてきよ♡ あたなのおちんぽ、あっ……、あぁぁんっ♡ あんっ、おちんぽイイのぉ♡」

 

 愛欲に美顔を蕩けさせ、男の股に乗って腰を振る。

 卑猥な言葉はアルベド自身を一層興奮させ、快感と幸福感が深くなる。

 

 乗られている男も幸せになっている。

 温かく滑らかで柔らかく締め付けてくるアルベドの中が最高なのは当然として、眼福なのだ。

 アルベドの豊かな乳房を押さえていた手はいつしか外れ、括れた腰を支えるようになった。

 すると、抑えから逃れた乳房が暴れ出した。

 アルベドが腰を振る度に、ゆさゆさやぷるんぷるんを越えて大きく揺れる。

 一言で言って素晴らしい光景である。二言で言ってとても素晴らしい光景である。

 陶然とアルベドに身を任せ、昇り詰めていく。

 

「あぁっ! ふかいっ、ふかいわぁ♡ おちんぽ奥まできちゃってるのぉおぉおお♡」

 

 アルベドは全身を満たす多幸感に酔いしれながら、後ろの気配を伺った。どうやら二人はずっと見ている。

 その内の一人、ユリはこの次だ。もうしばらく続けていたいが、そろそろユリにも幸せを与えた方が良い。

 ユリが終わったらベッドに移って四人で何度もするつもりなので、最初の一回が少々短くなっても惜しくない。

 

(サクリファイス・イグゾースト!)

 

 それは基本にして奥義。自身の絶頂を代償に射精を強制するサキュバススキルである。

 

「うっ!」

「はァっっっ……あぁぁぁああああああああああぁあぁぁぁーーーーーっっんんっ♡」

 

 最奥にてスキルが発動した瞬間、アルベドの深いところでどぴゅぴゅっと男の欲望が吐き出される。

 男と同時に絶頂したアルベドは、子宮口にびゅるびゅると打ち付けてくる精液を逃すまいと締め付けた。

 男の逸物がびくびくと震えれば、アルベドの膣も痙攣する。大きな尻を震わせながら男の体に倒れこみ、近付いた顔にキスをした。ふと、今日は朝を除いてキスをしていなかったことを思い出す。さっきはキスの一番をユリに盗られた。

 

「あむっ……ちゅっちゅっ、れろ……れろぉ、ちゅぷぷ……んっんっ、じゅる……んふぅ……んっ……」

 

 仇をとるようにキスをする。

 舌を差し込み絡め合い、唾が零れないようしっかりと唇を合わせて混ざる唾を二人の舌で攪拌し、吸われては吸い返し、甘露の如き甘い唾を喉を鳴らして飲み込んだ。

 男は床に寝ているので、アルベドからは抱きしめづらい。抱きしめて欲しいのにされてないと思ったら、尻を撫でまわされていた。

 胸同様に豊かな尻肉を乱暴に掴まれ、揉まれるのは大歓迎。

 尻たぶを掴まれたまま左右に開かれると、お尻の穴も広がって開いてしまいそうになるのが少しだけ恥ずかしい。後ろから見られているのだ。

 

 そう言えば、見ている二人は静かである。

 気を利かせて黙っているのかと、キスを一旦中断して振り向いた。

 ユリとナーベラルは、真顔でこちらを見つめていた。わずかに怯えを滲ませているように思える。

 見てはいけないものを見てしまったような、信じ難いものを見てしまったような顔である。

 

 

 

 アルベドはナザリックの守護者統括である。アインズ・ウール・ゴウン魔導国の宰相である。

 魔導国の魔導王であられるアインズ様が世界征服を成し遂げた時、アインズ様の正妃になる事が決定している、とアルベドは確信している。アルベドがアインズへ捧げる愛は今もって聊かの陰りはない。

 それとは別に、自身の給仕係であるこの男にだけ与え与えられる愛がある。

 そこにはサキュバスとしての生理が大きく関わっている。それを知るアインズ様もお認めになっているはずである。

 二人はそれを知らないのか。知っているから今日この場に来たのではなかったのか。

 

 知らなかったとしたら説明が少し面倒ね、とアルベドが思ったその時である。

 声なき声がアルベドに届いた。

 

 

 

『ユリ姉様……。アルベド様は絶頂してしまわれたのでしょうか?』

『そう……、みたいだね。さっきはあんなに激しく動いてたのに今は止まってるし』

『もうですか? 早すぎませんか? それではアルベド様は雑魚マンコになってしまいます』

『こらっ! アルベド様に向かってなんてこと言うんだ。そこはザコじゃなくて……、ええと……、よわよわって言いなよ』

『雑魚マンコじゃなくて、よわよわまんこ…………。ぷぷっ』

『笑うんじゃないって。アルベド様はいつだってお忙しいだろう? だから時短に対応出来るようになってるんだよ、きっと』

『時短マンコ(笑)』

 

 

 

 アルベドに読心スキルはない。ほぼ正確に推測出来ても、思う事そのままがわかるわけではない。

 ユリとナーベラルの心を正確に読み取れない以上、アルベドの被害妄想である。プレアデスの中でも真面目ちゃんなユリとナーベラルがアルベドに向けてそんな事を思うわけがない。

 二人が思う事はアルベドの妄想とは少し違い、『アルベド様はとても繊細……もとい敏感……むしろ過敏でいらっしゃるご様子』であった。

 表現は全く違うが、指し示す事柄はほとんど同じ。

 この事から、同じ事を言っていても口の利き方はとても重要であると知ることが出来る。

 

 幸せいっぱいに男へキスをしていたアルベドは、すっと表情を消した。

 

 アルベドが男から離れるのを、姉妹は後ろから見ている。アルベドの中からずるりと男が引き抜かれるところをじっと見ている。屹立していた逸物は、時間が経つに連れて硬度を失い、角度も失う。それよりも、二人が思わず注視してしまったのはアルベドの股間である。

 アルベドは前傾姿勢から立ち上がったので、二人からは秘部が良く見えた。濡れ光ってひくついている。ナーベラルの時のように白い粘液が溢れたりはしていない。

 サキュバスであるアルベドは、子宮から精液を吸収することが出来る。姉妹はそれを知っているはずである。

 けども事実として確認出来るのは、アルベドが絶頂したこと。アルベドの秘部から精液が溢れていないこと。

 アルベドだけがイッてしまって、彼はまだなのではないだろうか、との疑念がほんの少しだけ湧いてきてしまった。

 

 アルベドは最初のソファに座った。両足も座面に乗せ、両膝を抱える。さらには黒翼で体を包み、ユリを見た。

 

「そこまで言うのだったら私の手伝いは要らないわよね? ユリは一人だけで十分なんでしょう?」

「えぇ……?」

 

 ユリは何も言ってない。

 しかし、もの言いたげな目はしてしまったかも知れない。

 不敬の罰として、アルベドの助力なくセックスする事になった。

 

「まずは脱いでもらえますか?」

「う……、うん」

 

 男はユリに指示を出しつつ、拗ねてるアルベド様のお姿は大変貴重であると横目に盗み見た。

 両膝を抱えて膝の間に顔を埋め、上目遣いのジト目でこちらを睨むアルベド様は大変可愛らしい。全てを細部まで記憶し、記憶の宮殿に保管する。

 

 ユリは脱いだメイド服を畳んで空いた椅子に置き、眼鏡も外す。パンツはどうしようかと逡巡し、脱げと言われたのだから脱ぐべきだろうと前かがみになったのは判断が遅かった。

 

「それは私が脱がせますよ」

「うっ……。うん……」

 

 男に屈まれてしまった。

 

「あっ! こらぁ……」

「いい匂いがします」

 

 ショーツのサイドに指を入れた男は、ユリの下腹に顔を埋めた。

 ユリの欲情した臭いを嗅ぎながら、ピンクのショーツをずり下げる。肉付きの良い太ももを通ると薄布はくるくると丸まりながら下りていく。鼻先に触れるものがさらりとした下着から、ふわふわの陰毛に変わっていく。

 ユリは銀色の頭を押しのけたかったが、アルベドに見られていると思うと何も出来ない。両手は宙を彷徨い、足を交互に上げてショーツを抜かれた。

 

「ふむ……」

「見るなよぉ!」

 

 アルベドがナーベラルのショーツにしていたように、男はユリのショーツを広げて裏返した。

 秘部に触れていた部分が部屋の明かりを反射している。

 ユリの胸を揉んでキスをしていた時から時間が経っている。アルベドと男の行為を見ていた時か、それともその前に口を使われていた時からか。

 

 クッションから降りて正座していたナーベラルは、全裸になったユリを見て、キョロキョロと周囲を見回した。何を思ったか、慌てて服を脱いだ。

 

「私の準備もそうですが、ユリさんも準備しないといけませんね」

「で、でも……。もう、濡れてる、し」

「いつから濡らしてました? 見たところ、ずっと濡らしていたようですが?」

「うぅ……。ソファでキスした時……かな?」

「おっぱいで挟んだ時は何ともなかったですか?」

「それは、ちょっとは。湿ったかなってくらいで」

「ナーベラルとしていた時はよく見ていたでしょう?」

「だって、ナーベラルが、あんな」

「ナーベラルと一緒に口でしてくれましたね」

「……うん」

「その時も?」

「…………うん。濡れてた、かも」

 

 男の声は段々小さくなっていくのに、ユリにはよく聞こえた。抱きしめられて、長い髪をかき上げられ耳元で囁かれている。

 ユリの位置からソファに座るアルベドは見えず、アルベドが声を発することもない。

 

「アルベド様との時は?」

「すごいって思って。ボクもアルベド様のようにした方がいい?」

「ユリさんにはユリさんの良さがあります。それにアルベド様に倣わなくても、乱れたユリさんも中々ですよ?」

「そうさせるのは君じゃないかぁ。あっ……」

 

 ユリも男の背に腕を回す。

 反対に男の手はユリの背筋をなぞって下がり、左手は腰に、右手は尻に届いた。

 腰を抱かれ、股間が押し付けられる。尻は一撫でだけされると、指が尻の割れ目を進んできた。

 

「あっ! そっち違うからぁ……。ナーベラルもアルベド様も、おまんこだったじゃないかぁ……!」

「前戯でこっちを弄ってもいいでしょう? ユリさんはこっちの穴も使えるんだし」

 

 ユリの窄まりに辿り着いた中指は、第二関節で曲がって圧を掛け、ユリの抵抗むなしくつぷりと埋まった。

 大した愛撫もなく入った指は、短い距離を往復しながらユリの中を掘り進む。きつい圧を抜けて広いところに辿り着けば、引っ掻けるように指が曲がった。

 

「あぅううっ!!」

 

 ユリは、体の真芯を揺さぶられているように感じた。

 軸がぶれるのだからまともに立っていられない。足腰から力が萎え、すがりつくように男にもたれ、

 

(ザコアナル)

「!?!?」

 

 とても不名誉で屈辱的な称号を付けられた気がして、体ごと振り向いた。

 

 ナーベラルは全裸で正座している。両手で口を押えながらも、両目はしっかりと開いている。

 アルベドはソファで両膝を抱えたまま。一体何が気に障ったのか、つーんと明後日の方向を向いている。

 

「うわっ!?」

 

 突然、膝の裏を押されてよろめいた。ルプスレギナが稀に仕掛けてくる膝カックンだ。

 バランスを崩して後ろへ倒れそうになるところを男に抱えられ、事なきを得たと言うのは早すぎた。

 

「お二人は、ユリさんと来ればおっぱいが大きいと思っているでしょう?」

 

 背後の男がそんな事を言いだした。

 

「あんっ……、なっ、なんだよぉ!?」

 

 ユリを支えるついでに両乳房を鷲掴みした手が、両手とも下がっていく。目指すのはユリの下腹を越えて更に下。

 

 よろめいたまま真っすぐ立てていないユリは、肩が男の胸にもたれて脚はやや開き気味になり、股間を突き出したような不格好な姿勢でいる。

 体勢を立て直そうにも、バランスが悪すぎた。下手に踏み出せば後ろに引っ繰り返ってしまう。後ろに下がろうにも男の体にぶつかっている。開いてしまった脚を少しずつ閉じる事なら出来そうだが、脚の間に男が手を差し込んできた。

 

「あっ、やっ! やめぇ……、ダメだってぇ……! みえちゃう、だろ?」

「そのためにしてるんですよ。ユリさんもお二人を見ていたでしょう」

「そうだけどぉおお! うっ……、くぅぅうぅぅっ!! うあぁあぁぁ……!」

 

 男の両手がユリの股間で重なった。先行した右手は秘部を覆い、遅れた左手は中指だけを伸ばして割れ目の上端で小さく動く。

 

 刺激を受け、ユリは体が意思に反して反応してしまっているのを実感した。彼が何を見せようとしたいるのか、不幸にも察しがついた。

 わからなければ、見られる羞恥に焦がされながら乱れたかも知れない。わかってしまった以上、叶うならば見せたくない。

 自分ではおかしいと思っているわけではないが、大きい大きいと言われ続ければ気になってしまう。

 胸の方は、幸か不幸か言われ慣れた。

 もう一方を知るのは、あの日最初から最後まで同席していたルプスレギナだけのはず。

 

「ダメって言ってるだろ!」

「……さすがに力がお強い」

 

 乙女の矜持を力に変えて、男の左手を引き剝がした。両手をどかしてしまうと見えてしまうから出来ないのが辛いところ。

 

「そう来るのなら……」

 

 騒ぐユリに、拗ねているアルベドも興味を引かれたようだ。

 ご機嫌斜めを装って二人を見れば、男がユリの頭をきゅっぽんと引き抜いたところだった。

 

「わわわ!? 何するんだよ!!」

「やはり前後が逆だと安定しませんね。ユリさんが持っていてください」

「え、ちょっ!」

 

 頭を所定の位置に収めても前後が逆。きちんと嵌めるには正しい向きでなければいけないのだ。

 男の手が離れ、落っこちそうな頭をユリは咄嗟に両手で支えた。必然的にガードがなくなる。

 男の両手が股の間に再侵入し、人差し指で陰唇を押さえると容赦なく左右へ引いた。

 

「アルベド様の位置からご覧になれますか? ユリさんはクリトリスも大きいんです」

「うわあぁぁぁああぁっぁああああぁぁあ、むぅっ!? ん゛ー! んー! ん-……、んっ……」

 

 ユリの頭は前後が逆だ。顔は男と向き合っている。

 喚き散らす口を、男の口で塞がれた。零れた涙が唇にも伝って、ほんの少しだけ塩気が混じる。唾で薄まり舐めとられ、すぐにわからなくなった。

 

「んぅっ……、んっ、ふぅぅ……、んっ♡ あ……、あんっ、らめぇ……♡」

 

 情熱的なキスが心に刺さり、優しい愛撫が潤せてくる。

 ユリの割れ目は男が触らずとも薄く開き、上端では充血した肉の豆。本来は包皮に包まれているはずが剥けきっている。まるで吸い出されたかのように突き出ている。

 男の指が膣から溢れた愛液を塗りたくると、ユリは腰を震わせた。

 

「ここを擦っていれば、ユリさんの準備はすぐに整いますね」

「いやらしいこと、いうなよぉ……。あんっ! ピリピリするから、もっと、やさしく、あぁっ!? らめらめ、やさしくぅうううぅう♡ んんっ……」

 

 ツルツルのクリトリスを擦れば甘く鳴き、ねだるように口を開いて舌を尖らせる。

 男は唇同士が触れる前にユリの舌を唇で包み、舌先を歯で捕らえた。困り顔で涙目になるユリがとても可愛らしい。こちらの準備もして欲しくなってきた。

 

 ユリの裸体と痴態を味わって、熱く血が通ってきた。今はユリの尻に挟まれている。

 腰を落として位置を正せば、逸物はユリの股を撫でながら前に出た。

 ユリは脚を開いているので、生憎太ももの感触は得られない。

 

「俺の準備はナーベラルに任せるよ。してくれるだろう?」

「ははははいっ!?」

「む……」

 

 ユリのクリトリスを観賞するために、アルベドはソファを降りて二人の前に陣取っていた。なのに自分を指名しないのは何事かと思ったのだが、自分は手伝わないと宣言したのを思い出す。

 仕方なく、指名されたナーベラルに場所を譲る。拗ねた振りをしてソファに戻った。

 

「そっ、それでは、失礼して……」

 

 ユリの股の間から、男の先端だけが顔を出している。

 手でしようにも位置的に不可能。先端だけを口でする必要があった。

 但し、ユリの股の間を通ってきているのだ。

 竿はユリの割れ目に押し付けられ、ユリの淫液に濡れている。それを言うなら自分の後始末をアルベド様にしてもらった。自分のおつゆを舐めてもらったのに、自分には出来ないとは言えない。

 問題は位置。

 ユリは股間を突き出しその間から先端が突き出ている。それを口に含むと、唇がユリに触れる。鼻先が陰毛に触れる。先ほど事故的にキスをしてしまった時よりハードルが高い。

 しかし、やれと言われてしまった。やると答えてしまった。

 

「はあぁっ!? なに? だれ? なにしてるのっ!?」

 

 男の手は、ユリの胸を楽しんでいた。

 ユリは尖った乳首を摘ままれ引っ張られ、好き勝手に弄ばれているのに屈辱は感じず、触れている部分から熱が生まれて体を駆け巡っている。それを、右の乳房も左の乳房も。

 それなのに、乳首より敏感なところを優しく触れられていた。

 

「ちゅっちゅっ、れろ……」

 

 ユリは会話を聞いていなかったらしい。ナーベラルにとって、それはちょっとだけ救いだった。

 本当に先端だけに唇を付けて舐めるだけなら姉との接触は避けられた。最初はそうしようと思っていた。いざ始めてみると、半ば無意識に亀頭全部を咥えてしまった。

 上唇が姉に触れ、鼻先を陰毛がくすぐる。

 その上、舌で感じる味は姉の味。

 ナーベラルは吹っ切れた。

 

 三人から少し離れて見ているアルベドには、ナーベラルがユリの股を舐めているようにしか見えない。ナーベラルはユリの太ももを掴んで顔を埋めているので尚更だ。

 顔が見えないユリだけが甘い声を上げている。時折途切れるのは何かしらを囁き合っているのか、キスをしているのか。

 男の手がユリの胸から括れた腰に下りた。

 

「ナーベラル、頼んだ」

「えっ?」

「ひゃああぁあぁぁぁっ!?」

 

 ユリは腰を引かれ背を押された。前に突き倒された形でバランスを崩し頭を落とす。

 ナーベラルは正座のまま後ろへ飛び退き、放られたユリの頭を危うげなく受け取った。

 

「あっあっ、だめっ! こんなのダメなんらからぁぁぁあああっ! やっ、やんっ! らめぇぇぇええ♡」

 

 パン、と。肉が肉を打つ乾いた音が響く。

 男の下腹がユリの大きな尻に打ち付けられ、ナーベラルが頑張っていた逸物はユリの中に。

 後ろから挿入されたユリは、ナーベラルの腕の中であえぐ。前が見えないため両手が宙を掻き、偶然触れたものにしがみついた。

 

「やっ、だめっ、みないでぇ……、ぐりぐりしちゃだめだったらぁああ! ひっ……!? はうぅうううぅううんっ♡ らめっていってるのにぃいい……♡」

 

 ユリが掴んだのは、最初のソファの肘掛け。すぐそこにアルベドが座っている。

 アルベドはユリを冷徹な目で観察しながら、だめったらだめなんだからプレイはしたことがなかったと学びを深くした。

 ユリの頭はナーベラルが持っている、と言うことは、ユリにはどうなっているのかよく見えていないはず。目隠しプレイもありと考慮する。

 

「あっ!? ナーベラル!? やあぁあ、こんな顔みないでぇぇぇえ…………!!」

「………………ユリ姉様」

 

 アンデッドの体を煮え滾らせる快感の中、薄っすらと開いたユリの目に、呆然とした妹の顔が映った。

 妹と向き合っている。

 自分の体はセックスをしてよがっている。

 頭と体が離れていても、体が感じることを頭へ伝えることに、これほど忌々しく思ったことはない。

 恐ろしい事に、忌々しいと思った次の瞬間にはどうでもよくなる。

 そして妹の存在を認識すると同時に痴態を見られる羞恥に嘆く。

 

「あんっ、あんっ♡ やぁぁあんっ♡ きもちいからぁ、きもちくなってるからぁ……♡」

 

 だから許してと続けたいのに続けられない。続けたところで無視されるし、続けて欲しいとも思っている。

 

 快感に乱れ蕩けた顔する姉を見て、妹は口中に湧いた唾を飲み込んだ。

 敬愛する姉がセックスしている。気持ちいいと口にしている。だらしなく開いた口からは唇の端から涎が垂れ、犬のように舌を突き出す。いつだって淑女の鑑であった姉が、こんなにも乱れている。

 あの姉がこうも乱れるのだから、自分ももっと素直に乱れていいのではないだろうか。

 見栄や体面を考えて色々と我慢していたが、時と場合によっては解放されてもいいのではないだろうか。

 あんあん、と姉が喘ぐ度に下腹が疼いてくる。キュンときて、再びぬるりとするのを自覚する。

 ナーベラルは意識的に太ももを擦り合わせた。ユリの頭を持っているので両手が使えなかった。

 

「あっ? な、なーべ、ひゃあぁぁっぁああん!?」

 

 ユリの頭が体に戻った。

 ユリは、戻してくれたナーベラルを見ようとして、視界が回る。

 全身に軽い衝撃。男との繋がりが深くなり、一番深いところを押し上げられる。

 男がソファに座ったのだと、ユリが気付くにはそれから十往復もしてからだった。

 足を座面に置かれたと思ったら自分からも腰を振る。

 

 ユリが腰を落とすに合わせて男は突き上げ、結合部から飛沫が散りだした。

 

「あんっ、こんなっ……こんなのぉおっ! あんっ、らめっ! らめになっちゃうぅううう♡」

 

 ユリが腰を振ってくれるので、男はユリの太ももを抱えなくてもよくなった。つまりは両手が使える。背面座位の利点である。

 おっぱいはそこそこ楽しんだので、ナーベラルの時のアルベド様に倣ってクリトリスを撫で始めた。充血して膨らみっぱなしのクリトリスは触り応えがある。

 心を乱れさせず一定のリズムで表面を撫で、根を扱き、深く突くのに合わせてきゅうと抓った。

 ユリは悲鳴のように叫び、締め付けてくる。愛撫を始めてから締め付ける頻度が多くなってきた。

 

「あぁぁぁああああああああぁぁああああああぁあーーーーーーーーーーっ!!」

 

 そして一際甲高く叫ぶと、きゅうきゅう締め付けながら痙攣し、上下運動が止まった。

 体からはぐったりと力が抜け、背もたれを掴んでいた手も離れてしまった。

 

「あう…………」

 

 男がユリの両太ももを抱え、持ち上げる。

 ユリの中から、長い逸物がずるりと引き抜かれた。

 淫液にまみれ、湯気が立ちそうなほど屹立したままでいる。

 ユリは達しても、男はまだだった。

 

「あ……? あ、ひぎぃいいい! やっ…………、あああぁんっ!」

 

 そしてもう一度ユリの中へ。さっきとは微妙に体勢が違い、ユリの体がやや後ろに倒れ、股間をより突き出している。

 

 二人の前で膝立ちになり、両手で股間を覆っているナーベラルからは、ユリの秘部が良く見えた。

 さっきまで男が入っていた穴は、抜けた今も閉じ切らずに薄く開いている。

 陰唇が充血して、内側を見せたままで、肉色の小陰唇が伸びたように見えるのは、なんだか疲れ切ったようにも思えた。

 ユリの穴は空いているのに、ユリの尻は男の股間にぶつかって、あんなにも長い逸物の姿はどこにも見えない。ユリの中に入っているから見えないでいる。

 どこに入っているか気付いた時、ナーベラルは認めざるを得なかった。

 

 普通ではない場所だから避けていた。

 しかし、自分で弄った事はある。悪くなかったかも知れない。

 姉はそこへ挿入され、おとがいを高く反らせてあえいでいる。

 そこでするのも気持ちよくて、もしかしたら普通の事。

 

 男が挿入したのはユリの肛門だった。

 ユリは深く絶頂して全身の力が抜けてしまったので、男がユリの体を支えなければならない。力がついてきた男なので軽いもの。

 後ろからユリの太ももを抱えて浮かせ、下から突き上げる。

 肛門は入口の圧が強めで気持ちよく扱いてくれる。奥の方は広がっているため、先端の方の刺激がいまいちなのが少々残念なところ。

 それでも、膣より先に肛門の処女を失ったユリなのだから、こちらも責めてやらなければならない。

 前で終わっていたら不要だったが、幸か不幸か終わらなかった。

 暗黙の了解として、全員に一度ずつ射精するまで、となっていたのだ。

 

「あっ、あっ、あひっ、あんっ、……あんっ♡ ひゅぅっ……、ぁんっ♡ くるぅ……♡ あぁぁぁあんっ♡」

 

 ユリの意識はどこへ行っているのか、可憐な唇からは意味ある言葉が出てこなくなった。

 突かれるたびに大きな乳房をたぷたぷ揺らし、めいっぱい仰け反りながら甘く鳴く。

 股はずっと開いたままで淫裂が前を向き、ひくつく膣口からは透明な汁が垂れ流れる。

 全身がうっすらとピンク色に上気し、とても美しく、いやらしい。

 心も体も幸せの国で幸せになっているから美しくいられる。

 

(…………少し長いわね)

 

 乱れるユリの隣で、アルベドがポツリと呟いた。

 ユリが幸せになるのはいい事だ。それを狙って招いたのだから、目的達成は喜ばしい。

 それはそれとして、長い。

 彼は四度も射精した後で、その上さっきは自分だった。

 出すまでに時間が掛かるようになるのは当然だ。

 当然とわかっていても、少々嫉ましい。

 自分だって長く欲しかったのを我慢して、ユリに譲ったのだ。そろそろ次に移っても良い頃合い。

 

「ひゃっ!?」

 

 長い髪を振り乱し、仰け反っていたユリの顔が前を向く。

 そこにはアルベドがいた。美しい慈愛の微笑を湛えている。

 

「準備は手伝わなかったからこっちを手伝ってあげるわ。ナーベラルにもしてあげたんだし、ユリにしてあげないのは不公平よね」

「あっ、あるべっ!? はぁぁぁっぁあああぁっ!?」

 

 前を向いたユリの膣。

 そこへ、アルベドの細い指が入っていった。

 

「っ! っ!? っ!!!? あっ!!?!!?」

 

 ユリには何をされているのかわからない。

 わかるのは、体の内側を蹂躙されている事だけ。

 クリトリスも撫でられ、外側と内側から女が感じるところを的確に愛撫される。

 その間も後ろの穴を行き来され、体がどこかへ抜け落ちていくかのように。

 

「っ! アルベド、さま!」

「あなたにもしてあげる。ふふっ、ユリ越しにあなたを感じるわ♡」

「ひっ……」

 

 ユリが息を飲む。

 中でアルベドの指が向きを変え、蠢きだした。

 直腸と膣は薄い壁で隔てるだけ。

 アルベドの指は、ユリの膣壁越しにアナルを行き来する男の逸物に触れていた。

 触れるのみならず、扱きだす。

 アナルでは奥が広がっているため、根元から竿への圧は良くても、先端の方はストロークを多くとらないといまいちだ。そこを補完するアルベドの技。

 挟まれているユリは、顎をガクガクと震わせて、口を閉じられずに涎を垂らす。顎を伝って喉を伝って胸の谷間へ流れていく。シャルティアがそうであるように、アンデッドであるユリは汁気が多いようだ。

 

「っ!」

「いいわよ? だしてあげなさい♡」

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!」

 

 ユリが声になりきらない声で絶叫した。

 目がくるんと回り、全身が強張る。次の瞬間には弛緩して、直腸の深いところでどぴゅどぴゅと射精された。

 

 ユリがびくんびくんと全身を痙攣させる。

 アナルから逸物が引き抜かれても、ソファに倒れたまま震え続ける。

 声をかけても反応がない。

 アンデッドであるにも関わらず、完全に意識を飛ばしていた。

 過日、睡眠不要であるのにお昼寝してしまった時と同じである。

 

 

 

「これで折り返し地点かしら? そうよね?」

「はい。まだ私からは何も出来ていませんから」

 

 五回出してまだ半分。アルベドは満足そうに頷いた。

 

「それなら次は」

 

 寝室に繋がるカーテンを見る。

 続きはベッドだ。

 

 アルベドが先に立った。

 男は気絶したユリを抱き上げる。

 

「ナーベラルも来るでしょう?」

「はい! ぜひお供させていただきます!」

 

 何度言ってもお固いままのナーベラルに、アルベドはふっと微苦笑した。

 

 

 

 ベッドの上で、四人は絡み合った。

 まずはユリのアナルである。

 膣と違って基本的に閉じているため、中に出されたのは自然に出てこない。

 ユリは意識を飛ばしたまま。

 アルベドが掻き出してやり、ナーベラルに舐めとらせた。

 そのナーベラルは男にアナルを舐められて、されている事をユリに行う。舐め、舌を入れ、指を入れた。三本まで増えた。

 ナーベラルが後ろの処女を捧げる前にアルベドが乗られたがって、その間にユリが復活。

 気絶している間にナーベラルからどんなことをしてもらったのかを事細かく説明されて姉の尊厳を破壊され、返礼が必要だろうと主張されて決意する。

 

 後半はアルベドが三で姉妹が一度ずつ。

 姉妹の時は寸前で引き抜き、姉か妹の口に出した。

 乗られている姉か妹は意識が曖昧になっているので、どこに出されたかわかっていない。

 アルベドは全て中。

 姉妹とは違って、深く絶頂しても意識を保ったままである。

 

 やはりアルベド様は凄いのだと、姉妹は尊敬を深くした。

 

 

 

 

 

 

 翌朝早く。

 男が自室でソリュシャンから身嗜みを整えられている時に、ユリとナーベラルがやってきた。

 

 一時を邪魔されたソリュシャンは、少しだけ眉根を寄せる。

 愛しのお兄様を自分好みに着飾らせるのはソリュシャンの娯楽の一つだ。幸いな事に、ルプスレギナは興味がない様子。

 本来はメイドたちの仕事であるが、こんなにも楽しい事をソリュシャンが譲るわけがない。長らくソリュシャンだけの仕事である。

 

 男の用意が整うのを待って、ユリが口を開いた。

 

「ボクは朝食前に孤児院に戻るよ」

「わかりました。お見送りいたします」

「それはいいから。ここに来たのは挨拶したかったからじゃなくて」

 

 ユリはナーベラルに目配せする。

 ナーベラルは深く頷いた。

 

「ナーベラルから、君が皆に指輪を作るって聞いたんだ。ボクのも作ってくれるよね?」

「ユリ姉様に話したの?」

「当然よ」

 

 昨夜遅く、アルベドの部屋からそれぞれの部屋に戻る際、ナーベラルは聞き知った事をユリに話していた。

 

「ユリさんもソリュシャンとルプスレギナと同じで、私にも同じ指輪を付けろと仰いますか?」

「当然!」

「私の指輪もよ」

「……薬指に?」

「「もちろん!」」

 

 お兄様はどうして余計な事を言うのかと念じるが、通じるわけがない。

 姉妹からは見えないよう背中を抓った。

 

 

 

「ふーむ……」

 

 朝食を終え、アトリエに籠った男は唸っていた。

 ソリュシャンとルプスレギナと同じ指輪を付けるのは、案があった。

 一本の指に二つの指輪を付けるダブルリングについては、ナザリックの最古図書館で読んだ書籍から学んでいた。が、四個同時はない。

 

 四個の指輪を同時に薬指に付けるには、薬指を四本に増やす必要がある。

 その場合、内側から親指、人差し指、中指改め愛指(めでゆび)。色々覚えている指なのだ。そして中指、薬指、薬があるなら毒があってもいいだろうということで毒指。次を小指にして、最後は約束事に使うことがある指なので、誓指。

 

 親指、人差し指、中指、薬指、小指。

 これが八本に増えることによって、親指、人差し指、、愛指、中指、薬指、毒指、小指、誓指とする。

 

 俺のネーミングセンスも中々じゃないか、と自画自賛する。毒が入ってる時点で駄目なのは気付かない。

 しかし、却下した。八本に増えたところで、薬指は一本のままなのだ。

 薬指を四本にしなければならない。しかし、多種多様な異形種に溢れるナザリックでも、薬指が途中で分岐して四本になっている者を見たことは一度もない。

 バランスが悪くて使いづらいのだろうとは想像に難くない。

 

「そうだ!」

 

 男は閃いてしまった。

 自分一人ではアイデアが出ないなら、他を頼ればよい。

 幸いな事に、現在の屋敷には審美眼に優れていると思われる方が滞在している。

 非常に多くのマジックアイテムに造詣が深いあの方なら、美的センスも優れているに違いない。

 

 男はパンドラズ・アクターを頼ることにした。




186話のアンケート内容はこれで全て消化したはず
40話も掛かったのかと驚愕

現在進行しているあれこれを羅列してみる

1.指輪作成→たぶん次回か近々に一段落?
2.クライムイベントの用意→おいおい

3.アウラの自習→いつか
4.ティアティナラキュの脱色脱毛→作中時系列的に近々にせねばと思うが先送り可でもある
5.毛皮の仕上げ→たぶんさくっと完了予定
6.キーノ、カルカ、ソフィー→いつか

他にもなんかあった気がするんですが思い出せない
これ忘れてるってのがあったら教えて下さい

上記とは全く無関係なものを突っ込む可能性がすごくあるのでご了承ください


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四つを一つに、一つを四つに

本話15k強


 ヒルマがエ・ランテルに戻ってきた。ヒルマだけが先行し、集めた女たちは数日遅れた。

 

 注文した男は女たちへの接触禁止が言い渡されている。代わりにもう一人の注文主であるアルベドが正体を隠して確認に赴いた。女の数は三で、アルベドの目からは若さ以外に取り柄がないように思えた。

 これが使えるのかと疑問をヒルマにぶつければ、対象の性格や立場を考慮して、女たちには美しさや気品よりも、愛嬌や行動力を重視したと答えが返ってきた。自分から自分の身を売った女だけを選んだようだ。大当たりを引いた女たちを、ヒルマは内心で激しく嫉んだ。

 三人の中から最終的に一番適切と思われる女を使う。使わなかったのは適当に娼館に放り込んでよし、放逐するのもよし。ヒルマの差配次第である。

 

 女たちがエ・ランテルの大きなお屋敷に来ることはない。お屋敷の若旦那様に会わせないこと以外に、誰の客となるか勘違いさせないためだ。

 若旦那様は自分の目で女の仕上がりを確認できないので、ヒルマに定期報告するよう求めた。シズちゃん専用甘々ドリンクを提供する関係で、報告は週一である。

 

 ヒルマが一度目の報告を終えた後、男はナザリックを訪問した。ビーストマンの毛皮を献上するのだ。

 つまらないようで割と面白かった献上品はアインズを喜ばせ、褒美を下賜される流れになった。が、男はこれを辞退。何かが欲しくて献上したわけではない。ナザリックの財源の候補を提案したかっただけである。

 その際、毛皮を剥いだ残りを有効活用すべく食用にならないか研究を、と言いかけたところで同席していたアウラに却下される。そしてアインズは聞き流した。しかし、ネムちゃんについては耳を傾けてくれた。

 カルネ村にあるナザリック関係者専用宿泊施設の管理をネムちゃんに任せることについては、ネムが望むなら、と言うことで検討してくださる様子。現在はメイドたちが定期的に通って管理しているらしい。

 後日、ネムちゃんはメイドたちから、タオルやシーツの洗い方・干し方、掃除の手順や使う洗剤などを厳しくレクチャーされ、抜き打ちのチェックを危うげなく潜り抜け、管理者の称号を手に入れる。報酬として、使っても減らないものなら持ち出し可。カルネ村の生活環境を大いに改善させることになる。

 

 アインズ様への謁見を終えた男はいつも通りに最古図書館へ赴きGMDH(グレート・モンド・ダウンヒル)を借りる。この時は本編ではなく初めて外伝を借りた。

 その後は音楽室へ。ギターの師であるセシルではなく黒猫楽団長との面会を求め、新しいギターの提供をお願いした。

 実は若旦那様、ギターを壊してしまったのだ。

 

 どこかが損壊したわけではないので、正しくは故障したので修理中と言うべきか。

 ギターとは、弦が張られている。ネックは常に弦によって引っ張られているわけだ。そのため、使わない時は弦を緩めて保管する。また、木製であることから高温や湿度に弱い。使わない時は除湿剤を入れたギターケースにしまうのである。

 そこをわかっていながら、若旦那様はギターを出しっぱなしにしてしまった。せざるを得なかった。ギターを聞かせていたら、ソリュシャンが盛り上がってしまってベッドに拉致されたのだ。そうして一回戦、二回戦。

 ギターが出しっぱなしであるのを忘れて翌日。夏の日差しに照らされたギターは、ネックが反ってしまった。

 ギターの教本にはネックの反りの直し方が書いてあったので早速分解して修理を始めた。反ってしまったのだから、反対方向へ力を加えて反りを元に戻すのである。この時、急に力を加えると破損してしまう。時間を掛けてゆっくりと戻さなければならない。当然のことながら、修理中はギターを弾けない。つまりは予備のギターを求めたのである。

 

 楽器を大切に扱わない男に、黒猫楽団長は露骨に機嫌を悪くし、新しい楽器を与えてよいものかどうか判断しかねた。そこでアウラがギターの生産コストを出してくれることになった。アウラにとっては金貨の数十枚くらい軽いものである。

 それに男が献上した毛皮を、アウラもアインズ様から数枚もらっていた。金貨に換算すればギターのコストを上回る枚数となる。

 

 アウラが顔を出したのは、男の顔を見てセシルに何か聞かせてもらおうと思ったのを思い出したからだ。

 そのセシルの耳にも、男が新しいギターを求めたことが聞こえてきた。

 ギターの新調を望む男は、折角もらったギターを故障させたことに痛切な表情を見せたが、それ以外にはこれと言って思うところはないようだった。守護者統括相談役に取り上げられようと根は単純、と見たセシルには聊か意外だった。

 

「相談役殿はようやく譜面を見たのですね?」

 

 セシルは男へクラシックギターをプレゼントする際に、多数の譜面をつけた。教本やコード表をセシルや楽団長の名義で借りて後日返しに来させる作戦は全てを丸暗記されて不発だったが、こちらは発動したのだろうか。

 

「いえ、まだ見ておりません。今のところは覚えた楽曲を弾きこなすだけで精一杯です。早く見たいとは思うのですが、以前コキュートス様から少しずつ大切に楽しめと訓示を頂いたことがありましたので、それに倣っております」

 

 コキュートスからはGDMHの読み方についてだった。

 書物であれば、ほぼ一瞬で読み取る男である。しかし音楽とは絶対に時間が必要となる。譜面は一瞬で読み取り覚えられても、頭の中でそれらの音色は再現できない。実際に演奏しなければならない。

 現在でも覚えた楽曲は数多くある。現在は、それらを弾いて聞かせて満足している。

 満足できなくなったら、いよいよ新しい譜面に手を出すのだ。

 コキュートスがGDMHを読む際は、そのようにしてじっくり楽しんでいるのだろう。

 

「そう、ですか。折角お渡ししたのにまだ見てもいないと言われるのは少々不快です」

「そこにあるだけで嬉しいのです。楽しみが約束されている、とでも言いましょうか。申し訳ありませんが、もう少し今のまま楽しみにさせていただけませんか?」

「既に相談役殿のものですから、どのように楽しまれようとご自由に」

「ありがとうございます」

 

 セシルの罠はまだ発動していない。

 

 

 

 ナザリックからの帰り道ではカルネ村で一泊する。この時はミラがずっと一緒にいたため、おかしなお泊りが発生することはなく、ネムちゃんの教育も先送りである。代わりにネムちゃんにはお土産話があって、ナザリック関係者専用宿泊施設の管理を任せることになるかも知れないと伝えた。ネムちゃんはとてもやる気を出したようだ。髪もお肌も磨かれて、天使のような可愛いネムちゃんが大天使のようにとても可愛いネムちゃんになる事が確実となった。

 ンフィーレアから分けてもらう予定の薬草は、採集したばかりで乾燥が不十分であるらしく、持って帰ることが出来なかった。後日、エンリ大将軍が直々に届けてくれるとか。

 

 

 

 ヒルマが二度目の報告に来る。

 最初に見た時は骨に皮が張り付いている様だった。それが僅かな間で随分と肉がつき、まだまだ痩せすぎではあるものの何とか生きた人間に見えるようになった。体調も大分良いらしく、候補たちの教育も順調なようだ。

 

 時々、ティアとティナがウィットニーさんのパンを配達に来る。

 世界広しと言えど、アダマンタイト冒険者をパン屋の売り子にして配達をさせるのはウィットニーさんだけである。さすがは伝説のウィットニーさんである。

 ウィットニーさんがパン屋を開くのは精々週一なので、今のところはティアとティナが手を貸せば何とかなる。しかしながら、ティアとティナにずっと売り子をさせるわけにはいかないだろう。是非にも売り子を雇うべきである。とはいえ、メイド村のメイド族のような種族の悪魔は未発見である。売り子を普通に雇おうにも、ウィットニーさんは職人気質でかなりの頑固であり、メイド族やアダマンタイト冒険者くらいの根性がないと怖く感じてしまう。

 ウィットニーさんが本格的にパン屋を再開した時のため、お屋敷のメイドから売り子を選抜することにした。ソリュシャンからいびられても泣かずに働けるのが条件である。

 

 ティアとティナの配達にはキーノも同行する。理由をこじつけて若旦那様に会いに来るのだ。が、どういうわけかキーノが来る時に限ってエントマがいたりする。

 

「ガルル!」

「グルル!」

 

 と唸る二人は毎回何かしらの勝負をする。

 戦闘行為は禁止なので、あっち向いてホイなどのお手軽なゲームになる。対決する二人の様子を、皆は微笑ましく見守っている。

 馬鹿らしい対決だと当の二人も思っているのだが、勝者は若旦那様が盛大に称えるので熱が入ってしまう。

 なお、若旦那様は二人を煽ってるつもりはない。子供たちが頑張ってるのだから褒めてやりたくなるのが人情。若旦那様は人情味に溢れているのだ!

 

 そしてとある日、アルベドは昼過ぎにエ・ランテルの屋敷に戻った。

 

 

 

 

 

 

 お休みでも半休でもない。一休みしたら魔導国の行政機関である城に向かう予定だ。

 アルベドは、ナザリック守護者統括であると同時に魔導国宰相閣下であるため、エ・ランテルの城には休みを除いて毎日赴いている。いつもなら、ナザリックからアインズやシャルティアの魔法で直接転移する。

 今回、お屋敷を経由したのはただの気紛れである。たまにはお屋敷から歩いて城に向かうのも良いと思ったのだ。

 今日は朝からいつもとは違う時間に戻るつもりでいたため、帰還を知らせる鈴は機能させていない。アルベドはお屋敷の誰にも知られずこっそりと戻り、愛しい男の顔を見てから城に向かおうと思っていた。

 長い廊下でミラと会ったのは偶然である。

 

「アルベド様! お帰りでございましたのですね。すぐにご主人様に報告してまいります」

「すぐに城へ向かうから構わないわ。リファラとキャレットのどちらかに供をさせるから呼んで来てくれるかしら? ああ、一応彼の顔も見ていくからどこにいるかだけ教えてちょうだい」

「かしこまりました。ご主人様はアトリエにいると思われます。ご案内いたします」

 

 ローションや美容品や強壮剤やら魔酒やらを調合したり、何かしらの細工をしたりと、頭より手を動かす場所である。今は修理中のギターを微調整しているところ。

 アルベドが寝起きする場所をエ・ランテルのお屋敷に移してそれなりの日数が経つが、一度も入ったことがない。アルベド様がいらっしゃるような場所ではありません、と止められている。

 丁度良い機会と思った。

 

「場所はわかるから一人で行くわ。それよりもリファラとキャレットをお願い。急いではいないから」

「かしこまりました。お二人にお伝えしてまいります」

 

 ミラは品よく右手と左手を下腹の上で重ね、一礼した。

 日中の屋内であるため、帽子やヴェールは被っておらず吸血鬼の素顔を見せている。服は全身を隠す白いドレス。胸元が空いているようなことはなく喉元まで覆い、スカートは足首まで届く。腕には白いドレスグローブ。

 肌の露出はどこにもないがドレスは体の線を主張する作りで、豊かな胸と括れた腰を強調する。

 

「あら?」

 

 アルベドが気になったのは、ドレスグローブである。

 

 守護者統括相談役の配下であるミラは、以前はシャルティア直属の側近だった。

 シャルティアの部下であるヴァンパイア・ブライドたちは、それぞれが様々なアクセサリを身に着けている。大半は大きなイアリングを着ける。額を飾るサークレットを着ける者もいる。サッシュベルトの飾りは同じようでいて微妙に違う。

 なのだから、指輪を着ける者がいてもおかしくはないだろう。おかしくはないが、ミラが指輪らしきものを着けている事に今初めて気付いたと云う事は、今までは着けていなかったと思われる。

 おかしい事はまだある。シャルティアから与えられたアクセサリなら、誇示するように見せているはず。しかし、ミラはドレスグローブの下に指輪を嵌めているらしい。ドレスグローブの左手の薬指に指輪らしきものの節が浮かんでいるのだ。

 

「それ、指輪よね。今まで着けていたかしら?」

「っ! …………はい、指輪でございます。ご主人様が試作したものを私にくださいました」

「あの子が? へぇ……、どんなのを作ったのかしら?」

 

 彼が手慰み程度に細工をしているのはアルベドも聞き知っていた。

 

「それは……」

 

 アルベドからの言葉だというのに、ミラはすぐに答えられなかった。本来なら無礼を咎めても良いところを、アルベドは淡く苦笑する。

 愛しのご主人様から与えられたものなら、何であれ大切だろう。誰にも渡したくないと思うのは想像に難くない。

 

「シャルティアじゃないんだから取り上げたりしないわ。あの子が作ったんでしょう? どうしても欲しくなったらあの子にお願いするもの。心配しなくていいわ」

「……かしこまりました」

 

 ミラが手を上げ、左手からドレスグローブを外す。

 白い薬指に嵌められた指輪が何であるか認識した瞬間、アルベドは時間を忘れた。

 

 

 

 

 

 

 サラマンダーの鍛冶師たちから彫金道具一式を届けられた男は、早速試作を始めた。素材は金にした。

 銀を選ぼうものならルプーブローを食らう。人狼であるルプスレギナは銀が大嫌いなのだ。カトラリーだって銀製は触ろうともしない。

 それ以外の希少金属、ミスリルやオリハルコンにアダマンタイトだと硬いので加工が面倒な上に量が少ない。

 その点、金なら金貨がいっぱいある。柔らかいため、加工も容易だ。耐蝕性が高いのも良い。

 

 それならばプラチナでも良かったのだが、褐色肌のルプスレギナはともかく、ソリュシャンとユリとナーベラルたちの肌には白いプラチナより、金の方が映える。特にソリュシャンなら金髪との相性も良い。

 

 公金貨をくり抜いて指輪にできれば楽だったが、生憎鋳造である。

 鋳造とは、金属を溶かして型に流し込み成型する作り方であり、大量生産に適している。但し、一旦溶かすので金属内に微細な隙間が発生してしまう。隙間があると脆く柔らかくなってしまうのだ。指輪を長く使うなら不適である。折角作るのだから使い捨てにはされたくない。

 

 そのため、鍛造する必要があった。

 素材を溶かすのは鋳造と同じ。そこから叩いて形を整える。叩いて鍛えて成形するから鍛造と言う。

 トンカンしたのはミラだ。

 真っ赤に熱した地金を叩いて伸ばし、炙っては叩き、叩いて伸ばし、四方から叩き固めて細長い板を作る。まさに鍛錬。ここでの仕事が指輪の質に直結する。

 

 ここまでがほぼミラの仕事。ここからがご主人様の仕事である。

 

 板が出来たら適当な長さに切断。指輪と同じ太さの棒に板をあてがい、叩いて丸く成形する。

 切断面をロウ付け。隙間に純金ロウを挟んで溶接するのだ。ロウ付けが出来たら純金指輪の完成、と言いたいところだがまだまだ先がある。

 

 このままだと素材は金でも板を丸めただけである。

 再びハンマーを持ち、リングの角を叩いて丸みを付ける。これが硬い金属ならやすりを使えたが、純金は柔らかいのでここでも鍛造となってしまうのだ。

 そうしておおよその形が出来たらやすりを掛けて形を整えつつサイズを微調整。

 ここまで来たらいよいよ完成、と言いたいところだが本当はまだ先がある。

 

 やすりの痕を消し、光沢を出すためにひたすら磨かねばならない。

 磨き作業はひたすらに時間が掛かり、本来なら何段階にも分けて作業する必要が出てくる。が、そこは何でもあるナザリック。彫金道具セットには一発で磨き作業が完了する魔法のヘラが付いていた。

 ヘラを端的に言えば細い金属棒である。ヘラを加減しながら押し付けて磨いていく。魔法のヘラは、力加減によって素材を光らせることも、鏡面仕上げにすることも可能である。

 リングがピッカピカに光って顔が映るくらいにまでなって、今度こそ本当に完成である。

 

「指輪とはそのように作るのですね」

 

 アトリエまでお茶の用意に来てくれたシェーダが物珍しそうに言う。

 

「とりあえずの試作品だね。シェーダが着けてみるか?」

「そう仰って下さるのなら喜んで」

 

 何も言ってないのに、何故か左手の薬指に嵌める。やや大きいようで、簡単に抜けてしまいそうだった。

 折角なのでサイズ調整の練習である。

 大きくサイズが違うなら一部切断して縮めるが、ほんのちょっとなのですり鉢状の穴に入れて叩いて締める。叩いた痕がついてしまったらもう一度磨き直し。

 

「シェーダが着けるならこうするか」

 

 輝く純金の指輪は良いものだ。

 もっとよくするために、男は指輪の表面に紋章を刻んだ。至高の御方の一柱でありシェーダの創造主であるヘロヘロの紋章を縦に長く引き伸ばした意匠である。

 シェーダは大いに喜び、お仕事時間中なのに男へ情熱的なキスをした。

 

 シェーダは喜び、キスをされた男も喜び、ご主人様の力になれたミラも喜ぶ。

 めでたしめでたしで終わりそうだった話には、続きが出来てしまった。

 

「シェーダは若旦那様から指輪をもらったようですね」

「若旦那様にははっきり言わないと伝わらないわよ? だからはっきり言いますね。私の指輪も作ってください」

「私もお願いします」

 

 キャレットが切り込み、リファラが突っ込む。シェーダが同僚に話さないわけがなかった。

 

「まあ、材料はいっぱいあるし、俺よりミラの方が仕事量が多いし」

「私はご主人様の言葉に従うだけでございます」

「……まだ練習中だし構わないが、左手は止せ。せめて右手にしろ」

 

 あらぬ誤解が増えては堪らぬと思う男だが、指輪を贈る時点で今更である。

 試作品その2とその3も練習である。ヘロヘロの紋章を刻むのは同じでも、指輪の幅や形状を変え、同じデザインとは見えないように仕上げた。

 

 そしていよいよ本命製作、の前にもう一つ試作する必要があった。

 ソリュシャンたちへ贈る指輪には宝石を乗せるため、その練習でもある。尤も、そちらは石のカットが肝。石のカットを始めたら、上手くいったものはそのまま指輪に使う。赤い鋼玉を使う予定だ。

 作るものが決まっているのは、手を動かすだけで退屈でもある。

 よって、試作品その4は持てる知識と技術の全てを注ぎ込むことにした。

 

 板を丸めてリングを作るところまでは同じ。今度はリングの表面に溝を掘る。

 そこで数日考えた。デザインは決まっているので、石をどのように配置するかだ。

 

「ミラは好きな数字があるか? 100以上で頼む」

「好きな数字ですか? それは……ええと……、151を好ましく感じます」

「由来がある数字なのか?」

 

 151は回文素数。回文数とは151や1221のように逆から並べても同じ数になる数。素数は1と自分自身以外で割り切れない数。151の逆数となる1/151は循環小数となって同じ数列が繰り返され、循環節は75。男はそこから更に、151が結果となる数式を幾つか思いつく。

 ミラが思い浮かべたことはどれとも違った。

 

「それは……、私どもとシャルティア様とご主人様を合わせた数に100を足した数になります。このようなことにご主人様を加えてしまい申し訳ございません!」

「そんなの気にすることじゃないだろう」

 

 書斎でぼんやりしてるご主人様から突然聞かれたため、この時の答えが何になるか、ミラには全くわからなかった。

 

 リングを磨いたら、掘った溝に151の石を配置する。

 石は小さな宝石だ。大きさは砂粒大から砂粒三つ分程度。このような石があったら欲しいと伝えておいたら、鍛冶師たちが彫金細工セットのおまけにつけてくれたのだ。ナザリック的にはクズ石以下の廃棄物。山のようについてきた。彫金細工セットが入ってたボックスがやたらと重たかったのはこれのせいでもある。

 

 溝に接着剤を塗り、上から石を振りかける。

 プレイングカードを撒いただけでトランプタワーを作れる男だ。雑な仕事に見えて石は計算通りの位置に収まる。

 そしてここからが知識を駆使して知恵を振り絞ったところだった。

 

 宝石は光を反射する。だから光って見える。

 透明なので内部にも光が通り、石の内部でも光が反射する。だから内から輝いて見える。

 そこへ、石の上から硬化液を塗った。物体がどれほどの光を透過するか、その割合を透過率と呼ぶ。石の透過率と同じ透過率に調整した硬化液だ。

 石は種類によって透過率が異なるため、全ての石の透過率を計測し、同じ透過率の硬化液を調合し、151の石一つずつに丁寧に塗っていく。

 表面に厚く塗られた硬化液と内部の宝石は光の透過率が同じになるため、硬化液と宝石の境界が見えなくなり、石の色だけが見える。

 また、硬化液の効果で内部に届く光が少なくなり、暗く奥深い色合いを醸し出す。

 

 完成品を目にしたミラは、この指輪は生きている、と直感した。

 

「着けてみろ。色々ごちゃごちゃ入ってるし髪や目の色と合わせたわけじゃないけど試作品だからいいだろ?」

「……………………………………………………なんと仰いましたか?」

 

 ミラは、何と言われたのかわかったがわからなかった。

 

「ミラが指に嵌めてみろって言ったんだ。……割と頑張ったつもりなんだが、攻め過ぎたかな?」

「いえ、…………いいえ! とても素晴らしい作品でございます! このように素晴らしい指輪を私が嵌めてしまうのは余りにも恐れ多く余りにも身の程知らずで私とは到底釣り合いが取れておりませんので」

「自分には似合わないから要らないってことか?」

「違います断じて違います!」

「ちゃんと聞こえてるから声の調子を落とせ」

「……申し訳ございません」

 

 固辞するミラだが、最終的に指輪を貰い受けた。

 どうせ試作品だし要らないなら溶かして金を再利用する、などと言われてしまっては貰わないわけにはいかなかった。

 

 以前からご主人様は形あるものへの執着が薄く、何かを作っている時は楽しそうでも完成してしまうと興味を失う傾向があった。

 だからといって、このような指輪を簡単に作って簡単に下賜されるのはとても困る。

 

 指輪を貰えてしまったミラは、死ねなくなった。

 ご主人様のためなら、アインズ様のご命令であれば、いつだって命を捧げる覚悟が出来ていた。が、自分が死ぬとこの指輪が自分以外の誰かの手に渡る。それを受け入れることが出来ない。ならば死ぬ直前に指輪を破壊しようにも、自分の手で命なき命を剪むことは出来そうにない。

 とても困ってしまった。

 しかし、全身を歓喜に包まれ続ける。

 

 

 

 

 

 

 ミラが嵌める指輪を見たアルベドは、最初は陶器かと思った。

 表面が平坦で色とりどりに輝いている。焼けばガラス質になる釉薬を工夫すれば多彩な色合いを表現できる。

 そう思った次の瞬間に、色合いが動いていた。

 

 青、濃い青、藍色水色に白い光も混じり、ところどころに赤や黄色もある。それぞれが流れるように動いている。

 一瞬たりとも同じ色を見せず、ほんの少しでも光の加減や見る角度を変えると、全く違う表情を見せる。

 魔法を掛けて幻術で光を投影しているのかと思った。逆を言えば、魔法が掛けられた品だとしか思えない。

 

 全くの無意識でミラの手を取り、顔に近付ける。

 指輪を真横から眺めると、光の底に無数の宝石が精緻に配置されているのが見えた。まるで宝石の海のよう。

 

「……………………これを、あの子が? あなたに?」

「はい。ご主人様は試作品としてこの指輪をお作りになりました」

 

 アルベドは、このように幻惑的に輝く指輪を見たことが一度もなかった。

 作り手は魔法の才能が皆無なので、魔法が掛けられた品ではない。宝石の大きさはどれも小さく、指輪なので使われている金の量も少ない。エクスチェンジボックスに放り込めば、金貨が一枚出てくるかどうかだろう。

 しかし、宝飾品として見ればどうか。

 ナザリックの宝物庫にあってもおかしくない。宝物庫が相応しい時点で、金貨にすれば数千から数万の価値が確実にある。

 

「あくまでも試作品でございます。ご主人様は完成品の練習のために作ったと仰せでした。完成品はソリュシャン様たちの指輪となります。ご主人様はユリ様、ルプスレギナ様、ソリュシャン様、ナーベラル様の結婚指輪を作成する練習のために試作為さいました」

「…………………………………………は?」

 

 ミラの口から聞き捨てならない言葉が零れ出て、アルベドはようやく指輪から目を上げた。

 

「結婚指輪でございます。ご主人様はユリ様、ルプスレギナ様、ソリュシャン様、ナーベラル様と結婚するご予定でございます。始めは指輪になるのか他のアクセサリになるか不定でございましたところをソリュシャン様が結婚指輪をご所望となりご主人様は快くお受け為さいましてナザリックの鍛冶師たちから彫金道具一式を融通していただき結婚指輪を作成し始めたところでございますところを私は力仕事などを手伝う事が出来ましたので気紛れの試作品を一つ下賜していただきましたのはあくまでも皆様への結婚指輪を作るための練習でございます」

 

 ミラの舌がかつてなくペラペラと回る。

 アルベド様からご主人様に頂いた指輪を羨ましがられるのはとても居心地が悪く、何かの間違いで欲しいとでも思われたら堪らない。この指輪には、自分のために151の宝石が使われているのだ。

 アルベド様の関心を指輪から逸らすべく、あれこれと話してしまうのはご主人様を生贄に捧げるようではあるがアルベド様に隠し事が出来るわけがないので裏も表も全て話すのはナザリックの一員として太陽が東から上って西に沈むのと同じ絶対の法則であるのだから当然である。けっしてご主人様を生贄にしたわけではない。

 

「あの子が、結婚?」

「はい。アルベド様がお認めになり、アインズ様からのお許しも得たと伺っております」

 

 

 

 

 

 

 話を聞き、ミラと別れたアルベドは真っ直ぐにアトリエを目指した。

 自分の給仕係が結婚をどうのとは一度だけ聞いたことがある。許した覚えはない。しかし禁止した覚えもない。その話を聞かされた直後に、ラナーがどうのと聞かされたため、記憶から吹き飛んでしまったのだ。

 それが何がどうなってアインズ様のお許しに繋がったのか。

 ふと思い出せば、セバスがナザリックのシモベたちと現地の人間たちとの結婚がどうのという意見を集約してアインズ様へ上奏していた。あれは彼が発案だと聞いていたはずなのに、どうして今になるまで放置していたのか。

 

「入るわよ!」

 

 考えがまとまらず、ノックもせずにアトリエの扉を開いた。

 

「アルベド様! お帰りでございましたか! お出迎えが出来ずに」

 

 言い募る男を手で制す。

 男はギターの指板を磨いているところだった。男が弾くギターを、アルベドは聞いたことがある。見事な腕前と思うと同時に、ギターよりも自分を鳴らして欲しいと思ったものだ。

 今はそれよりも指輪のこと。

 

「聞いたわよ。ソリュシャンたちに指輪を作るそうね。どんな指輪を作るつもりなのかしら?」

「まだ取り掛かっておりません。デザイン画はございます。こちらです」

 

 デザイン画も設計図も、全てを頭の中に収めている男だ。

 この指輪に関しては、パンドラズ・アクターと相談しながらデザインしたため、絵に落としていた。

 

 男がスケッチブックを開く。

 見せられたアルベドは、ガガーン!と来た。

 

 仮定の話として、アルベドがアインズからこれと同じデザインの指輪を貰ったらとても困る。

 結婚指輪として貰ったら、真意を疑う。本当に自分と結婚するつもりなのか、それとも悪質な冗談なのか。本当に結婚指輪としてくださったのなら、相手がアインズ様であろうと心に修羅を宿して物申さずにはいられない。

 

「こっ……………………これを、ソリュシャンたちの、結婚指輪、に?」

「結婚はまだ先になりますので、ひとまずは婚約指輪になる予定です」

「婚約指輪に、これを? ソリュシャンたちは何か言わなかったの?」

「もちろん話してあります。私にも同じ指輪をつけるように求めてきましたので、デザインは私に一任されました」

「だ、だからといって、これは…………。いくらなんでもこれはないでしょう……!」

 

 アルベドは、絞り出すような声で言った。

 デザインの衝撃が余りにも大きく、結婚やら婚約やらの話はまたも頭から吹き飛んでしまった。

 

「お言葉ですが、彼女たちに好みのデザインを聞いたところ、私の好きなようにして欲しいと言ってきたのです。パンドラズ・アクター様と相談してこのように素敵なデザインを得ることが出来ました。それなのに、どのような根拠をもってこれはないと仰るのですか?」

 

 男の声はやや鋭い。自分はカッコイイと思ってるのに、いきなりダメ出しされるのはちょっとあれである。ソリュシャンたちも自分の好きなようにして良いと言っていた。

 理屈っぽく、変なところで頑固な男である。そんな面があるから、職人気質のウィットニーさんを贔屓しているのかも知れない。

 

「そ……そうね……」

 

 アルベドは、諦めた。

 この男は、こうと決めたらやり通す意志の強さがあるのを知っている。自分に関わることではないため、問答しても得るものはない。時間の無駄である。

 

「……私は城に行くわ。リファラかキャレットを連れて行くから見送りはいらないわ。あなたは…………頑張りなさい」

「はい! アルベド様の応援を胸に一層励みます! ありがとうございます!」

「…………ええ」

 

 肩を落としたアルベドがアトリエを去り、程なくして扉が乱暴に開かれた。

 

「お兄様はどのような指輪を作ってくださるのですか!?」

「デザインは出来てるって聞いたっす。見せてもらうっすよ」

 

 血相を変えたソリュシャンとルプスレギナが飛び込んできた。

 

 二人は、どんな指輪が出来るのか心から本当に楽しみにしていた。

 シェーダに贈られた試作品を見た。シンプルなゴールドリングだが基本は押さえているようだ。

 リファラとキャレットに贈られた試作品を見た。最初の試作品よりずっと洗練されている。

 ミラに贈られた試作品を見た。魔法を使わず神ならぬ人の手でこのような指輪が出来るのかと驚愕した。

 

 試作品であれだったのだ。自分たちに贈られる指輪はそれ以上に素晴らしいものだと信じて疑っていなかった。

 が、つい先程。とても気まずそうなアルベド様が目を逸らしながら、「指輪のデザインを確認したほうがいいわ。絶対に」と仰った。

 とても嫌な予感を覚えた二人は真相を知るべくやってきたのだ。

 

「アルベド様から聞いたのか? これだよ」

 

 男が無造作に開いたスケッチブックを見た二人は、アルベド以上にガガガーン!!と来た。

 

 

 

 男に相談されたパンドラズ・アクターはこう言った。

 

『4つを1つにするのが難しいなら、1つを4つにすればよい』

 

 ユリの指輪は┓型の石を乗せる。ルプスレギナの指輪は┛型の石を乗せる。ソリュシャンの指輪は┗型の石を乗せる。ナーベラルの指輪は┏型の石を乗せる。

 4つの石が合体して作る形はスワスティカ。

 マンジとも呼ぶ。形は鍵十字だ。口にすることすら憚られ、忌み嫌われるその名はハーケンクロイツ。

 

 アインズが創造したシモベであるパンドラズ・アクターは、とある時代に存在したドイツ帝国の軍服をモチーフとした衣装を着ている。

 設定は外見のみならず内部にも反映され、パンドラズ・アクターはドイツ語を使える。

 ならば、パンドラズ・アクターの中にあのシンボルが刻まれているのは道理。諸々の事情があってパンドラズ・アクターの外装には取り入れていないし、使おうものなら一発でBANされても不思議ではないあのシンボル。

 

 パンドラズ・アクターが提案したシンボルを見た男は、一目でかっけぇ!と思ってしまった。

 指輪にして身につければ間違いなくカッコいい。素敵である。みんなの憧れ間違いなしである。

 婚約指輪には、卍を分解した各パーツの石を乗せることにした。

 

 

 

 スケッチブックを見た二人は、わなわなと震え始めた。

 言うまでもなく、感動しているわけではない。言語能力を喪失するほどにキレている。

 

 結婚指輪なのだ。

 試作品はどれも素晴らしい出来だった。

 それが、どうして、こんなジョークアイテム染みた指輪になるのか。

 何もかも間違っている。世界の法則が崩れてしまう。太陽が西から上って中天に達したら落っこちて世界が滅んでしまう。

 間違いは、正さなければならなかった。

 

「なんですかこれは!!!!」

「巫山戯てるんすか? 巫山戯てるんすよね? マジじゃないっすよね? おにーさんは時々頭おかしいと思ってたっすけどここまでおかしくないっすよね? 何かの間違いっすよね? 間違いって言え」

「何だ二人とも。俺が好きなのを作ればいいって言ったじゃないか」

 

 心外だと言わんばかりに眉根を寄せる男に、二人は声が出なかった。

 デリカシーとか女心の理解に乏しいところを見せること多々な男であると知っていた。

 しかし、限度がある。

 女の一生を華々しく飾る素敵なアイテムを、どうして悪質なジョークアイテムにしてしまえるのか。

 頭が理解を拒む。

 言ってわからないなら体で教え込むべきか。

 いいや、それは何度もやってきた。何度もやってきた結果がこれなのだ。

 最早矯正は不可能なのだろうか。

 いいや、これから長い時間を共にするのだ。何とかしなければならない。

 今までだって少しずつ色々なことを教え込み、素敵な愛の言葉を息をするように紡ぐようになってきた。

 好みのセンスをどうにかするのは難しくても、贈り物のセンスはどうにかさせなければならない。

 

 ソリュシャンは、指輪のデザインをお兄様に任せたことを心の底から後悔した。せめて同じ指輪をつけるように言わなかったらこんなことにはならなかった。

 いいや、まだ間に合うはずである。

 完成してしまったなら兎も角、まだ作り始めてない。

 

「どうしてこれを選んだのですか! 以前見せていただいたデザインにはもっと素敵な指輪があったではありませんか!!」

 

 スケッチブックを掴む手は強張って、紙を破って貫通してしまいそうだ。

 ソリュシャンは理性の力を総動員して力を緩め、前に見たデザインを確認しようとしてスケッチブックをめくり、

 

「いいっすか? おにーさんがカッコいいって思っても私は違うんすよ。私はおにーさんでもパンドラズ・アクター様でもなくてルプスレギナ・ベータっす。このデザインは絶対に嫌っす! 大体なんのマークなんすか。十字なら変に尖らせないで普通の十字とか太陽十字にすればいいじゃないっすか。ダメっすよこれ。もう色んな方面からダメって言われるっす。間違いないっすよ」

「……そこまで言わなくていいじゃないか。カッコいいだろうが」

「ダメっす。本当にダメっす。冗談でもなんでもなくて本気でダメっす!」

 

 本当にダメである。

 作ったのを身に着けたが最後、有無を言わさずアインズに破壊されるのが確定している。

 シンボルの意味を知っていようが知らなかろうが兎も角絶対にダメである。

 

「ソーちゃんももっと色々言わなきゃダメじゃないっすか。おにーさんはボケボケでも言ったらちゃんとわかるお利口さんなんすから、ダメなことはちゃんとダメって教えないと」

 

 ソリュシャンはスケッチブックを開いたまま固まっていた。

 スケッチブックを握りつぶさんばかりに掴んでいた手からは力が抜け、表情からも険が抜けている。口は半開きで目は大きく見開き、呆然としているように見えた。

 

「他のデザイン見てるんすか? 結構いいやつがあったの覚えてるっす。今度はおにーさんに任せないでちゃんと選んで……」

 

 ソリュシャンの隣からスケッチブックを覗いたルプスレギナも、妹と同じように時間を忘れた。

 瞬時に色々な疑問が過ぎったが、言葉に出来ない。ただただ見入ってしまった。

 

 ソリュシャンがめくったページには、絵が描かれていた。自分たちの絵だ。自分たちが絵になっていることがとても不思議で、どうして自分がそんなところにいるのかと思ってしまう。

 絵の中の二人は、紙束を見ていた。華やいだ笑顔を浮かべている。

 どうしてそんなに喜んでいるのかと思ったら、紙束に描かれているものに覚えがある。様々なデザインの指輪だ。結婚指輪カタログの絵を、絵の中の二人は見ている。

 あの時、とても楽しくて嬉しかったのを思い出す。絵の中の二人はとても楽しそうで、その時の喜びを追体験する。

 本当にとても嬉しくて楽しくて心が華やいで、幸福感がこみ上げてくる。

 蘇った幸せが、怒りを忘れさせた。

 

「あの……、お兄様? この絵は?」

 

 数分間の追憶から戻ってきたソリュシャンが、絵から目を離さずに口を開く。

 ルプスレギナは絵の中に入ったままだ。

 

「二人がとても楽しそうだったからね。思い出して描いてみたんだ」

「そう、ですか……。はい。……とても楽しくて幸せでした。この絵は、頂いてもよろしいでしょうか?」

「構わないよ」

「ありがとうございます。劣化しないよう保護処置を施してから額装をしませんと」

「そこまでのものじゃないだろう」

 

 気紛れの手慰みで描いた絵だ。実物と見紛うアルベドの絵と比べたら、線は太く荒い。それが写真などではなく絵であることを教えてくる。着色は淡い色で施され、線をはみ出している箇所も多い。それが手書きの味わいとなっている。

 字は下手でも絵はとても上手い男なのだ。

 

「いいえ、私にとってはそこまでのものなのです。……お兄様、ソリュシャンはとても嬉しいです♡」

 

 ソリュシャンはスケッチブックを胸に抱き、男の頬に唇を押し付けた。

 

「あっ、あっ、わたしも欲しいっす!」

 

 絵が視界から消えたことで、ルプスレギナも現世に戻ってくる。

 

「1つしかないから交代で飾ればいいだろう?」

「うーーー」

 

 お願いすれば描いてくれるような気がする。

 しかし、1つしかないから価値があるとも言える。

 

「あっ、こら! ソリュシャン待て!」

「いいえ、待てません。お兄様には私の想いを感じ取っていただかなくては」

「私もっすよ?」

 

 ソリュシャンが男の服を脱がせにかかる。ルプスレギナも便乗した。

 

「だから待て! この前はそのせいでギターがおかしくなって、ナザリックじゃ楽団長に怒られたんだぞ。同じこと繰り返したら音楽室が立ち入り禁止になる。片付けるから少し待て!」

「お手伝いいたします」

「……分解したギターの組み立てなんて出来ないだろう? すぐ終わらせるから待っててくれ」

「はーい♡」

「ルプーもちょっと待て。くっつくな」

 

 ピンク色の瘴気を漂わせる二人に見守られながら、男はギターを組み立てる。

 完成してケースに収めた瞬間、押し倒された。

 アトリエの床は他の部屋と違ってカーペットを敷いてない。尻もちをついてちょっと痛かったのだが、二人は気にしないどころか気付いてもいなかった。

 

 

 

 なお、二人は結婚指輪のデザインについて細かく注文することを完全に失念した。

 とてもカッコいいデザインについて散々ダメ出しされた男は制作を中断。二人からの注文待ちとなる。

 そしてアルベドは、結婚するとはどういうことかを問い正そうとしたのを忘れてしまった。色々な思い全てをぶっ飛ばすくらいにあのシンボルの威力は凄かった。どの道、アインズからの許可が出ているため、アルベドがどうこう出来る段階を超えてしまっている。

 

 やはりあれは、忌まわしきマークであった。




近々迷走して二進も三進もいかなくなる可能性が出てきました
だったらそっちに行かなきゃいいんですが、そっちに道が見えてしまったんです
どんな道かは多分次々回


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秘密と秘密

本話5k弱
次と方向がかなり違うので分割しました


 エ・ランテルのお屋敷では色々あっても、帝都のお屋敷では平和な時間が流れていた。あちらでも若旦那様な若旦那様が始めた事業、美容品の製造販売は順調である。

 

 新製品のアイデア出しと製造にあたるメイドたちの指揮と品質管理と一部営業と販売はカルカが担っている。とても負担が大きいように思えて、曲がりなりにも一国の元首であったカルカは難なく熟す。事業の規模が小さい事も大きい。現状では事業を拡大する予定はない。なお、カルカの友人となった公爵家令嬢のフリアーネは、カルカから直接美容品を購入出来るのが結構な利権に成長しつつあった。

 レイナースはカルカとは別ルートの営業と販売及び容器の仕入れ等を担う。事業が始まったのはレイナースの要望が発端だったので、レイナースなりに責任を感じて付き合い始めたらずるずるときてしまった。近々帝国から魔導国に移ることになっているが、住まいは帝都のままにしておいた方が色々な方面にとって都合が良い。

 ジュネは数学の演習を兼ねて帳簿付けである。数学というより簿記である。一緒にあれやこれやの講義を受け続けているソフィーに比べると計算は遅いが正確だ。また、思考の方向性がソフィーより鋭い。確実に穴を埋めて次に進むのは、性格が大きいのだろう。

 残るソフィーは友軍である。まだまだお子様なソフィーに責任ある仕事を任せるのは酷と云うもの、と若旦那様が告げたところ「出来るもん!」と豪語するだけで実際の作業に当たるとすぐに飽きてしまうのは間違いなく父の血である。

 

 

 

 以前、ソフィーが家出した事もあって、男は帝都への日参を続けている。ソフィーが家出しようとあれでもとても強いので、放置してもソフィーに危険はない。ソフィーが危険をばら撒く可能性の方が高い。そして、問題を起こされると困る。それでシャルティアからの意味不明な抱っこ耐久に繋がった。

 

 日中、時間が合えばレイナースと。定期的にシクススと。二人とも明るい時間だろうと気にしないようになった。

 

 週に一度のお泊りでは、ソフィーのお食事が絶対である。

 ソフィーは一度のお食事で気持ちよくなってふらふらしてしまうため、その後はジュネが搾る。搾りつくす。ジュネは乱れに乱れ、息も絶え絶えな有様になっても、

 

『マイスターがお望みでしたら、どうぞジュネの体をお使いください♡』

 

 妖艶な笑みを見せた。

 男がジュネを完全に征服したと思えた時は血を使ったり、ルプスレギナに回復魔法を掛けてもらったりした。覚醒サキュバスの転生体であるのは伊達ではない。底の知れない女である。

 

 カルカはその後になる。

 男はジュネに絞られた後なので、なかなかその気になれない。凄く頑張れば出来ないでもないだろうが、そこまで頑張りたくない。手や口でしてやるのがほとんどだ。

 折角なので、処女のまま色々開発しようと考えている。中でも外でもイケるようになってきたので、次は胸だけでイケることを目指している。なお、ベッドの隅では双子幼女が眠っている。カルカの羞恥を煽る小道具として寝かせているのだ。二人がこっそり目を覚ましてこっそり覗くことがあるのを、二人は知らない。

 

 

 

「お父様! 今日は夜までいるんですよね? 私がちょっと出かけてる間に帰っちゃったりしないですよね?」

「しないよ。昨日は来るのが遅かったからな。アルベド様にもその旨をお伝えしてある」

 

 朝からの講義が一段落付き、ジュネが参考資料や筆記具を片付ける。

 ソフィーは男に詰め寄って予定を再確認しながら、夜に思いを馳せた。

 狩場直行君の使用制限の関係で、父は日付が変わる前に帰らなければならない。日付が変わるまでは帝都にいる。夕食の後で夜のお食事をする時間は十分ある。

 昨夜も夜食を取ったので二日連続だ。想像し、顔をほころばせた。

 

「あっそうだ! お父様も一緒に行く? レイナースも使ったことがある仕立て屋で、ナザリックで作ったドレスの方がずっといいけど見るだけなら面白いかなって思って。別に作るわけじゃないからうちに呼んでもあれでしょ? その後は市場をぶらぶらして。あ、だいじょぶ大丈夫! お小遣いばっちりだから。この前闘技場でちょっと大儲けしちゃって」

「ちょっと待て。出たわけじゃないだろうな?」

「賭ける方で儲けたの! 出ても私が一番強いって決まってるんだから出ても仕方ないでしょ?」

 

 そう言いつつも、レイナースから必死に出場を止められた事があるソフィーである。

 

「遊びに使う金くらいあるだろう?」

 

 美容品事業で出た利益の一割はソフィーのポケットに入っても構わない。そのあたりは帳簿を管理するジュネの差配でどうとでもなるはずだ。

 

「わかってないなあ。賭けて勝つのがいいの!」

 

 ソフィーは、力強く言い切った。

 男はジュネを見る。

 ジュネはにっこり笑った。男の懸念は伝わったのだろうか。

 

「まあ……、賭け事で身を持ち崩すのは王道だから、そこだけは気を付けるように」

「お財布はジュネに持たせてるから大丈夫です」

 

 そのジュネと結託されて裏金を作られては面倒である。

 提供した原料の量から各種製品の製造量、販売個数、在庫、利益等を一瞬で計算できる男なので、何かが起こったら気付ける、はずだ、おそらく。

 何かが起こってしまったら謹慎させることになるだろう。それだって、ソフィーは下手なところに閉じ込めておけない。余剰次元の住人であるため、大抵のものはすり抜けてしまえる。

 

「ジュネ、ソフィーを頼むぞ」

「私に命じられるよりもマイスターが同行為された方が確実でございますし、ソフィー様もお喜びなります」

「シクススもカルカもいるから今日は止めておくよ。ソフィーが羽目を外し過ぎないようによく見ていてくれ」

「賜りました。ご安心ください。ソフィー様が目に余るほどに賭け事へのめり込む事態になってしまわれましたら一瞬で飽きさせて御覧に入れます」

「……そうか」

 

 一体何をして飽きさせるつもりなのか。

 自信満々に言い切るジュネに、男は何も言えなかった。聞くことを躊躇わせ理解を諦めさせるその気持ちこそが、男が周囲へ頻繁に味合わせている気持ちである。

 

 ソフィーは相変わらず壁をすり抜けて自室に戻り、ジュネに手伝ってもらって着替えた姿を父に見せて可愛いと綺麗を両方言わせてから出かけていった。

 男が書斎の窓からソフィーたちが乗った馬車を見送っている時である。予定通りにメッセージの魔法が届いた。

 

『そろそろ時間だ。そっちは大丈夫か?』

「問題ありません。たったいまソフィーがジュネを連れて帝都の街へ向かったところです。書斎には私とシクススだけがおります」

『わかった』

 

 若旦那様が突然の独り言。

 奇行が多い若旦那様でも、今のはメッセージの魔法へ答えていたのだと察したシクススである。

 

「今のはメッセージの魔法ですか? どちらから届いたのでしょうか?」

「すぐにわかるよ」

 

 男はシクススの手を引いて、書斎の壁際に移動した。

 それに合わせて、中央に闇色の球形が現れる。ゲートの魔法だ。扉の大きさから、小柄なシャルティアではない。姿を現したのは、豪奢なローブに身を包む我らが偉大な主である。

 

「ようこそおいで下さいました」

「よい。楽にせよ」

 

 少しの間呆けてしまったシクススは、男の隣で慌てて頭を下げた。

 アインズ様がいらしたことに驚きはしても、帝都にお越し下さることはとても有難いことに稀ではない。アインズ様はナザリックから離れた帝都にいる自分たちを機に掛けてくださっているのだと歓喜に包まれる。

 ああアインズ様アインズ様なんとお優しいアインズ様、御方のお優しさはまさに海よりも深く天よりも高く、御方の優しさに包まれ我らは安らぎを得る、御心に従い、全ての者を救済する御方。シクススの脳裏にアインズ様賛歌第九番が流れるのはいつもの事だ。

 アインズ様賛歌は12番まで出来ている。

 

 アインズ様のお優しさはさておき、シクススが思わず呆けてしまったのは、アインズ様に同行者がいたからである。

 

「シクススに話は通っていたか? フィースがシクススの力になりたいというので連れてきたのだ。シクススには帝都で慣れない仕事を任せしまっているからな。何でもとは言えんが、希望があれば出来るだけ叶えよう」

「いいえ、とんでもないことでございます! こうしてアインズ様にいらしていただける以上に私が望むことは何もございません」

「そうか。いつまでと決めているわけではないが、フィースと協力してこれからもここの管理を頼む」

「かしこまりました」

「そう言えば、フィースもシクススと同じで創造主はホワイトブリムさんだったな」

「はい、覚えていてくださって光栄です! 帝都へ出張しているシクススを以前から気になっておりました。今回はわたくしめの我儘のために帝都までお連れ頂き誠にありがとうございます!」

「仲間を思う事を我儘と言うのか? そんな我儘なら幾らでも言うと良い」

「アインズ様のお言葉を励みに全力で頑張ります!」

 

 亜麻色の髪の乙女、フィースはとても元気が良い。

 赤い目を輝かせて意気込みを語り、アインズに仄かな喜びを、シクススに仄かな疑念を抱かせた。

 フィースとの取引が上手くいった若旦那様は一安心である。

 

「シクススはフィースに屋敷を案内してくれ。アインズ様のお相手は私が務めさせていただくから」

「うむ、世上の話を耳に入れるのも割と重要でな。私たちの事は構わん。帰る時には声を掛ける」

「「かしこまりました」」

 

 アインズ様にそう言われてしまっては居座るわけにいかない。二人は丁重に礼をして書斎を出た。

 

 鼻唄を歌ってスキップしそうなフィースに、シクススは袖を引っ張った。

 

「若旦那様から聞いてたけど、どうしてこっちに来たの? 若旦那様と何かあったわけじゃないんでしょ?」

「ん-、あったと言えばあったかな。でも秘密にしてって言われてるから」

「えっ」

 

 シクススの頭の中で秘密の事柄が幾つも過る。

 最早秘密でもなんでもないかも知れないが、若旦那様との関係は秘密だ。頭に公然の、と付くが。子猫ちゃんになるのは本当に秘密だ。ルプスレギナから覗いていた事を教えられたが。ディルドを使って、あまつさえ若旦那様の前で使用したことがあるのも絶対に秘密だ。ソフィーに見られたかもしれないが。ディルドを新しく作ってもらってベッドの上で腰を振る事が稀によくあるのは本当に絶対に秘密だ。ソフィーには絶対に覗いたりしないようにと強く言ってある。

 フィースと若旦那様との秘密は一体どれなのだろうか。

 

「秘密って何? フィースが秘密にしたい事? まさか若旦那様が秘密にしてくれって言ったわけじゃないでしょうね?」

「こっちじゃ相談役殿じゃなくて若旦那様って呼んだ方がいい?」

「それよりも秘密って何? フィースが知られたくないのよね?」

「私にそんな秘密はないよ! 向こうから秘密にしてくれって言ってきたんだから。そんな事よりお屋敷を案内してくれるんじゃないの?」

「そんな事、じゃないわ! 若旦那様はフィースに秘密な事をしたの!? どんな事!?」

「ちょ、ちょっと……、シクススどうしたの? 顔が怖いんだけど?」

「何を隠してるか聞いてるだけでしょ? 何? 答えられないの?」

「だから秘密なんだって」

「その秘密を聞いてるの!」

 

 若旦那様がシャルティアに課せられた抱っこ耐久で、ヴァンパイア・ブライドたちを買収した件についてである。若旦那様は、その場に同席していたフィースに、買収した件を黙ってもらうために、アインズ様との接点が多い帝都勤めを提案したのだ。シクススが思う秘密とは掠ってもいない。

 二人はやんややんやとやりあい続け、それでも屋敷のメイドたちとすれ違えば完璧で一流のメイドに戻る。

 エ・ランテルのメイド見習いと違って、帝都のお屋敷で使っているメイドたちは全員が貴族の子女であり、きちんと教育済みなのだ。恥ずかしいところを見せるわけにいかなかった。

 

 二人が抱える秘密は重さが違いすぎる。重い方が先に潰れるのは自明の理であろう。




次話は今書いてるとこです
本話投稿時点で10kちょい書きました
あと何字増えるかは未定


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王国滅亡が予約されました

本話13k強
少し前に230話を投稿しています


 書斎に残った二人の内、男は窓のカーテンを閉める。全部閉めると怪しまれるのでレースのカーテンだけ。

 アインズは幾つかの魔法を発動した。まずは壁や床を通り抜けられないよう防御の魔法を掛け、覗き見や盗聴防止の魔法を掛ける。

 これから内緒話をするのだ。秘匿性はそれなりに高いけども、何が何でも絶対に漏れては困るとはまではいかないので、いつぞやと違ってマジックアイテムまでは使わない。

 男はローテーブルに数枚の紙を重ねて置き、アインズはインベントリからホワイトボードを取り出して設置する。二人とも行動は速やかで準備万端だ。

 アインズが帝都のお屋敷を訪れたのは、偶然ではない。フィースを連れてきたのは、はっきり言っておまけである。

 男が先だってナザリックを訪問し毛皮を献上した時に、この日のこの時間に帝都で落ち合うよう命じていたのだ。

 

 ナザリックやエ・ランテルでまとまった時間を共有すると、会話の内容が漏れなくとも周囲から推測される。それが複雑に絡みぶつかり合い、どういうわけかモモンズ・ブレイドアーツの修得に至った。

 あれはあれで満足しているアインズである。単純な腕力ではなく技量によって強くなれるのは喜ばしいし、何よりカッコイイ。カッコイイのはとても重要だ。

 しかし、毎回カバーストーリーを作るのは面倒である。ならば偶然を装えばよい。

 アインズが時折気晴らしで帝都の屋敷を訪れているのは知られている。男が毎日帝都を訪れ、時に宿泊するのも周知だ。二人が帝都で偶然顔を合わせるのは過去に何度かあった事。

 二人が帝都の屋敷で時間を共有しても、誰も疑問に思わないだろう。予め示し合わせて互いに時間を作ったのだ。

 

「シクススとフィースはこちらから声を掛けない限り近付かないでしょう。ソフィーは出掛けたばかりです。外はまだまだ暑いのですが、今日は幾分過ごしやすいです。しばらくは戻らないはずです」

「うむ。壁抜けも防止した。気紛れで戻って来ても片付ける時間は稼げるだろう」

「私としましては壁抜けを止めさせたいと思っております。何度注意しても止めません。本人は時と場合は選んでいると言い張るばかりでございまして」

「子供のすることだ。迷惑が掛からん限り目くじらを立てるものではあるまい」

「……かしこまりました」

 

 シクススが尊厳の危機を迎えたりもしたのだが、この場にシクススはいなかった。彼女なりに対策してもらわなければならないだろう。

 

「では早速始めさせていただきます。そちらの用紙には本日お話する内容を簡単にまとめておきました。後ほどご確認ください。王国を打倒する必要性についてご理解いただくために、まずは王国の成り立ちから解説させていただきます」

「頼む。いずれシャルティアに説明することを考慮して、な?」

「承知しております」

 

 アインズが口裏合わせをして男の時間を求めたのは、王国攻略の是非についてだった。

 それについてはナザリック内で結論が出ている。円卓会議で男に説明をさせた事もある。が、あれはあくまでも内向きの言葉。外向きの言葉が必要なのだ。外交用、とは少し違う。それよりも広い視点での話だ。

 

 とても強い無敵のナザリックであっても、ナザリックの長であるアインズはとても慎重な性格をしている。絶対に油断しない。問題が想定されれば、事に取り掛かる前に策を講じる。

 そこで王国の攻略である。ナザリックでの円卓会議で決定したため、覆ることはない。しかし、問題の発生が予想出来た。

 

 アインズが警戒する対象は幾つもある。

 まずは王国の南にある法国。プレイヤーの気配が濃厚に漂い、けして油断できない。

 評議国も警戒に値する。アズスから聞き出したところによれば、強大なドラゴンが幾匹もいる。中でも評議員の中で永久評議員とされる白金の竜王は、最強の竜王だと言う。ユグドラシル基準でカンスト、あるいは100レベルを超えていてもおかしくない。ただし、諸事情あって動けないらしいというのは好材料だ。

 

 そしてアインズが最も警戒するのは、自分以外のユグドラシルプレイヤーである。

 

 法国を作ったとされる六大神や伝説に残る八欲王はプレイヤーである事がほぼ確定だ。それ以外にもプレイヤーと思わしき伝承を残す存在がある。

 今現在も、アインズ以外のプレイヤーが存在している可能性はけして否めない。

 アインズがこうしてギルド拠点ごと異世界に転移したことから、今後もプレイヤーがこの世界にやって来る可能性がある。

 もしも彼らが、王国を滅ぼした魔導国を見たらどう思うか。

 

『やはりアインズ・ウール・ゴウンは悪の中二DQNギルド! 許すまじ! やっつけてやる!』

 

 とでもなったらとても困る。

 ユグドラシル時代にはナザリックに押し寄せた総勢1,500人のプレイヤーと傭兵NPC混成軍を返り討ちしたことがある。が、その時はギルドメンバーが全員揃っていた。今はアインズただ一人。

 今やNPCを越えた存在となったシモベ達がいるにせよ、不安は拭い切れない。そうならないのが一番だ。

 そうはさせないために彼ら向けの言葉を、つまりは王国を攻略する是非についての理論武装を求めた。

 

 そういった事ならアルベドやデミウルゴスが頼りになりそうではあるが、基本的に人間を蔑視しており、ユグドラシル時代に他のプレイヤーから討ち取られた事を覚えているようで、ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」以外のプレイヤーには激しい憎悪を抱いているようだ。

 二人に聞いたところで、人間の国を亡ぼすのに理由が必要だろうか、と来るのは想像に難くない。

 ならばと云うことで選ばれたのがこの男である。なお、パンドラズ・アクターは最初から選択肢に入れなかった。忘れていたとも言う。

 

 アインズは、幅広い視点を持つために云々と適当な言い訳をして男に助言を求めた。アルベドには内緒だぞ、と付け加えて。

 男のやる気は99%に届いた。

 

 魔導国やナザリックでのお仕事からは、アルベドの意向で遠ざけられている。そこへ、いい話あるよ知的なお仕事だよ、と囁かれれば飛びつかないわけがない。しかもアインズ様からの要請なのだ。

 準備はばっちりである。

 

 

 

「詳細をお求めでしたらメモに添付した参考資料をご覧ください。この場ではいずれシャルティア様にご説明することを想定して簡易な内容にしております」

「うむ」

 

 シャルティアに分かるなら俺にだってわかるはずだ理論である。

 下手に説明させると難しいものを難しいまま教えようとするので、こういった手順を踏む必要があるのだ。

 

「ほとんど唯一にして最大の問題が、かつて王国と帝国は一つの国であった事。そしてアゼルリシア山脈を挟み西は王国に、東は帝国になった事です」

 

 さすがはシャルティア向けの説明である。最初からクライマックスだった。

 

「まず、王国と帝国の違いを説明いたします。リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国ではなく、広義の意味における王国と帝国と捉えてください。ご理解いただくために、それぞれに住み暮らす者たちについて取り上げます。

 この地には様々な種族がおります。まずはアインズ様の種族であるオーバーロード。オーバーロードやヴァンパイアなどを大きく括り、アンデッドとします。

 アルベド様やデミウルゴス様の種族である悪魔。悪魔にも多様な種族があると聞いておりますが、ここでは悪魔とまとめます。

 そして私の種族である人間。アンデッドや悪魔に様々な種族があるように、人間にも様々な種族があります。エルフやドワーフもその一つです。亜人などもひとまずここに入れてしまいましょう。

 これら様々な種族の中で、最も大きな集団を作るのが人間です。言い換えますと、国家を作るのは人間だけと言うことです」

 

「うむ? 東方にはビーストマンの国家があるのだろう? エルフの国も確認されている。それとも亜人も人間だから、と言うことか? それに評議国はドラゴンが治める亜人の国だ」

 

「仰る通りでございます。確かにケムキチから聞き取ったところによると、東方ではビーストマンの国家が複数あるようです。ですが、国家とは言え私たちが想像する国家とは形態が異なるようです。国があり、都市もある。けれども民は非常に流動的だそうです。平時は点在し、必要となったら一つにまとまる。人間たちの諸国家のように常に一つにまとまっているわけではないようです。

 エルフや亜人たちは、おそらく本来は国家を作りません。精々が部族単位の集落でしょう。これらが国家を作るに至ったのは、外力の影響です。人間たちが国家を作った事に影響されたのだと推測できます。

 そのため、人間の国家が基本となるのです」

 

「なるほど……」

 

 大仰に頷きつつも、アインズの頭の中で「ケムキチ」がリフレインしていた。

 ケムキチ。

 いい名前である。

 

「人間以外の種族が大きな集団を作らないのは強いからです。強いからまとまる必要がない。弱いから集団を作らねば生きていけない。他にも認知機能などを上げるべきですが、余計な話となりますので今回は割愛いたします。興味がおありであればメモに末記した資料をご参考ください。

 ここから人間の分類について掘り下げていきます。

 まず、外見で区別します。髪の色、目の色、肌の色、顔かたち、体格、背の高さ。つまりは人種です。帝国には複数の人種がありますが、王国では大抵一つの人種しかありません。

 人種の下の階層に語族があります。使う言語によって分けるわけですが、近隣諸国では単一の言語しか用いていないため、ここでは考慮しなくて構いません。

 同じ人種、同じ語族。ここから更に無数に分類されていきます。

 信仰、結婚形態、食事などの生活習慣。挨拶の違いで分けてもいいでしょう。違いはどんなに些細な事でも構いません。些細な事であればあるほど良いかも知れませんね。こう考えると凡俗の法則に似ている気がいたします」

 

「聞き慣れぬ法則だな?」

 

「ナザリックでは凡俗の法則が適用される者がいらっしゃいませんから。

 凡俗の法則とは、高度で複雑な問題は粛々と専門家たちが処理する反面、凡俗でつまらない問題、例えば食後には紅茶を出すか珈琲を出すかと言ったような極々些細な問題だと誰もが口を出して自分の主張を譲らない事を言います。難しい事には口を出せなくとも、自分がわかる事ならば物事を自分の意思で左右させたいと思うのでしょう。

 凡俗の法則の如き些細な事で区別された者たちが集まり、自らを「我々」と意識したその時に発生するのが民族です。逆を言いますと、違いがあっても区別せず意識させなければ民族は生まれません」

 

「民族の定義、か。ここまで段階を踏んで説明するならシャルティアでもわかるだろう」

 

 男が板書するホワイトボードには幾つかの円が重なり合い、外側から種族・語族・人種・様々な生活習慣を表し中央に民族が現れる。

 なお、アインズはここまで段階を踏まなくても理解できた。シャルティアとは違うのだ。

 

「ありがとうございます。

 ここで最初の話に戻ります。帝国は複数の人種や民族を受け入れます。反対に王国は一つの人種・一つの民族だけで構成されます。

 リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国はかつて一つの国でした。帝国には多様な人種・民族があるのに、王国には単一の民族だけです。さて、アゼルリシア山脈の西には一つの民族だけが住み、東には多様な人種・民族が住む。そんな事があり得るでしょうか?」

 

「ないな。王国には平野があれば海に面した土地も多い。一つの民族だけで、この場に合わせれば生活習慣と言うべきかな? 一つの文化しかないとは思えん」

 

 ホワイトボードからは民族を示す階層図が消され、王国と帝国の地図が描かれた。

 アインズは男が描いた地図を一目して、以前アウラから献上された地図の真の作成者に気付いた。アウラはこいつを便利に使っているのだなと思うがアインズも一緒である。気付かなかったことにした。

 

「ご推察の通りでございます。

 アゼルリシア山脈の西にも多様な人種・民族がいたことでしょう。ですが、今はいません。彼らはどこへ行ったのか?

 同化させたか追い出したか、となります。

 私は帝国に滞在していた折に、帝国貴族の来歴を調べたことがあります。少なくはありましたが、先祖が現在の王国に住み暮らしていた者たちもあったようです。ゆえに、帝国貴族には王国征服を熱望した者もおりました。

 また、追い出し方も様々です。土地から追いやるなら良い方で、この世から追い出された者も少なくなかったでしょう」

 

「王国の手も血に濡れている、と言うことか」

 

「勿論歴史には残っていません。死人に口無しと言いますから。

 王国が建国されたのはざっと200年前。伝説に歌われる十三英雄が魔神を討った時代に重なります。魔神の仕業に見せかけて滅ぼした諸族が幾つもあったことでしょう」

 

「……そこまでするか? 魔神とは当時の人類にとって天敵にも等しい存在だったはずだ。難事だからこそ手を取り合うべきだろう」

 

 魔神はかつてこの地に訪れたプレイヤーがギルドごと連れてきたNPCであると推測される。

 それを討った十三英雄には、それこそプレイヤーが含まれていたことだろう。

 

「仲間同士なら手を取り合うでしょう。ですが、仲間と思えないから国を割ったのです。

 こんな言葉があります。

 似たような者たちが住んでいるのに、どうしても一つになれなかったから国境を引く。

 隣国同士とは基本的に仲が悪いのです」

 

「ふーむ……」

 

 人間はやはり愚かしいと思うべきか、違う世界だからなのか。

 もしもここにデミウルゴスの創造主であるウルベルト・アレイン・オードルがいたら、人間なんてそんなものだと嘲た事だろう。

 

「王国の性質が明らかになりました。次に、このまま王国が存続し続ける仮定の話をいたします。

 王国が今のままで、国境の外にけして出てこないのならば構いません。ですが、エ・ランテルは人々の移動に寛容であり、王国からも人の行き来があることでしょう。

 発展し続けるエ・ランテルや帝国から富の流入を得て、以前よりも豊かになっていきます。富とは必ずしも財貨だけではなく、知識や技術も含みます。豊かとは言いましたが、王国では階級による格差が激しいため、豊かになるのは上層に位置する者だけとなります。

 以前より余裕がある生活を得た者たちは暇を持て余します。そこで非常に危険な考えが発生する可能性がとても高いのです」

 

「その考えが生まれる可能性があるから王国は存在してはならない。そういうわけか?」

 

 たった一つのアイデアが生まれるかも知れないだけで滅ぼすのに値する。

 アインズにはちょっと思いつかない。

 

「王国は一つの民族による国民国家です。

 その考えとは、自分たちのことは自分たちで決めるべきだ、です。

 王国からこのようなメッセージが発信され、諸民族が受け取ったら大変なことになります。

 多様な人種・民族を抱える帝国は一瞬で解体し、終わりのない内戦に突入します。

 複数の亜人種がいる評議国も似たようなもの。また、魔導国も同じ道を辿ることになるやも知れません。

 世界の統一は夢のまた夢と成り果て、分断と争いの時代に突入することになります」

 

「ふむ……」

 

 ここまで聞いて、アインズは「イデオロギーか!」とピンときた。

 元は単純だったものを、兎も角複雑にしてややこしくして解決不能にさせてしまう。しかも形がないものだからどうにもならない。

 

「王国には不治の病が蔓延っていると申しました。

 病は既に芽吹いています。手遅れにならないうちに何としても剪まなければなりません」

 

「うーむ。それならエ・ランテルはどうなのだ? 今は魔導国の首都だが、王国の都市であった時代もあった」

 

 言い方に気を遣ったアインズである。

 色々な経験を経て、政治的な事柄に気を遣えるようになってきたのだ。

 

「エ・ランテルは位置的に帝国文化の影響を受けております。王都に比べれば遥かに健全でしょう。辺境に位置するカルネ村も中央から遠いことが幸いして毒されてはおりません。

 魔導国の橋頭堡及び首都としてカルネ村とエ・ランテルをアインズ様がお選びになったのはまさに慧眼でありました。

 これが王都を選んでいたら統治どころではなかったかも知れません」

 

「もしも魔導国が王都を統治しようとしたらどうなっていたのだ?」

 

 なんだこいついやに持ち上げるなと思ったが、興味が勝った。

 

「恐れながら、エ・ランテルを統治するのも様々な困難があったと推察しております」

 

 アルベド様のお食事頻度などから察していた男である。

 あの頃のアルベドは本当に大変だった。エ・ランテルのお屋敷で美味しいご飯と温かいベッドなんてそれこそ夢のまた夢だった。

 

「それが王都を統治するとなれば、絶対に人手が足りません。王都の人間を使わなければ統治どころか荒れ果てる一方となりましょう。

 そこが、魔導国の支配をよしとしない抵抗勢力、反体制派とでも言いましょうか。それらの狙いどころとなるのです」

 

「正面から魔導国に挑んでも勝ち目はない。だから魔導国に従うものを標的にするわけだな?」

 

「少し違います。狙うのは、その者たちの家族です」

 

「えぇ……」

 

 予想を上回る答えに、変な声が漏れた。

 

「手法は残酷であればあるほど望ましいです。

 そうすれば体制に協力するものは恐れをなして逃げ出すことでしょう。

 ここで反体制派を取り締まることが出来ればいいのですが、誰が反体制派なのかわかりません。結局は国民を弾圧することになります。体制側は不満が高まる国民を力で押さえつけなければなりません。それでも抵抗運動が続くと、いずれは不満が爆発することになります。そこまでして統治するくらいなら、最初から鏖殺して人間は他所から入植させた方が効率的です。

 しかし、どうしても王都の統治を必要とするのであれば間接統治が有効でしょう。税を取る代わりに自治を認めるわけです。但し、これでは病の芽を剪みきれません」

 

 無論のこと、男が戦争や反体制派の抵抗運動、いわゆるレジスタンス活動をその身で知っているわけがない。ナザリックの最古図書館から得た知識を統合したものだ。

 これにはソリュシャンからの課題図書も意外と役立っている。悲恋の舞台として、戦争を取り上げたものが幾つもあったのだ。レジスタンスの男と体制側の女による悲恋は、読むものが読めば感涙するだろう。この男は悲恋の原因を、優先順位が付けられないことと登場人物たちの無能によると一刀両断した。ソリュシャンとルプスレギナとシクススは凄い目で見た。

 ロマンス小説は読者が問題解決を探るものではない。男が作品の読み方を間違えただけであって、人の心がないわけではないはずである。

 

「ならば聖王国はどうなる? あそこも王国だろう」

 

 デミウルゴスがとても頑張ってマッチポンプして属国化したローブル聖王国である。

 統治は順調で、魔導国からの支援も滞りない。が、それはヤルダバオトが齎した混乱から脱していないだけで、いずれは王国と同じ問題が発生するのではないだろうか。

 

「ローブル聖王国が魔導国からの干渉を受けることなく長い時間を経れば、王国と同じ道を辿る可能性がありました。ですが、現在ならば問題ありません。聖王国は王国よりも若いのです。若いと言いましたが、実際の時間の流れは関係ありません。成熟の度合いと捉えてください。

 王国と違って、聖王国は宗教国家です。権威が王ではなく宗教にあるのです。現にカルカが王に選ばれたのは血筋ではなく、神官としての力量が神殿から大きく評価されたからです。

 権威は統治の正統性を裏付けるものです。王国では王に権威がありました。聖王国はその段階にまで成熟しておらず、宗教による権威がなければ王になれないのです。

 聖王国の神は法国を築いた六大神です。神殿がそれらを崇めています。その座にアインズ様が座るだけでございますから、聖王国の統治は王国よりも遥かに容易く行えることでしょう。

 また、亜人の集落と隣接する緊張状態にあるのに女を王としました。良くも悪くも寛容な体質なのでしょう」

 

 聖王国ではアインズを神と崇める宗教が密かに起こっているのも、宗教的な土壌が濃い土地であることの裏付けとなる。

 

「そうすると法国も宗教国家だ。魔導国による統治は可能だと思うか?」

 

 アインズの中に湧いてきた疑問を、男は首を左右に振った。

 

「スレイン法国が宗教国家なのは形だけです。現在は完全に形骸化しています。実態は官僚国家です。六大神に准えて六つの宗派だとか六色のなんたらだとかありますが、派閥政治に過ぎません。

 また、法国には神人なる者がいるそうです。これはキーノから聞き取った話になり、書面で報告したものとなります。神人とは、名実ともに六大神の血を引き、その力を覚醒した者を指すそうです。法国ではこの神人を特殊作戦に従事させる事があるとか。法国が真に六大神を崇める宗教国家であればあり得ないことです」

 

「そうか? その者にしか出来ないことであればやむを得ないだろう?」

 

「それはアインズ様がお優しいからそう仰るのです。

 これまでもアインズ様が様々な事態の正面に立ってきたと聞き及んでおります。アインズ様はナザリックの方々に傷ついて欲しくないと思われているからだと推察しますが、皆様はアインズ様が矢面に立つことを歓迎していないのではないでしょうか?」

 

「うっ……、まあ、そうだな」

 

 男の言う通りである。

 冒険心を満たしたかったりナザリックでじっとしているのに飽きてしまったりと他の要素も多分にあるが、仲間たちの子であるナザリックのシモベたちを危険から遠ざけたい気持ちは確実にあった。

 過日、シャルティアが操られた件などはまさにそれだ。あの時の犯人はまだ見つかっていない。見つけたら絶対に容赦しない。

 

「仮定に仮定を重ねた話をご容赦ください。

 500年後の魔導国にて、アインズ様が何かしらの事情によって魔導国を離れたとします。魔導国にはアインズ様の血を引き、アインズ様と同等の力を宿す者がいたとします」

 

「………………うむ」

 

 お骨の体でどうやって子孫を残すのかは、仮定に仮定を重ねた話なので考慮する必要がないのだ。

 

「魔導国の中枢は、アインズ様の子孫でありお力を宿すその者に、特殊作戦への従事を命じます。魔導国がアインズ様へ尊崇の念を抱いていたら絶対にあり得ません。アルベド様やデミウルゴス様がそのようなことを為さるか想像できるでしょうか?

 もしもそのような事態があり得るとしたら、魔導国からアインズ様への尊崇が消えた時です。法国はそれを行っています。ゆえに、法国における六大神への信仰は形だけのものなのです。

 アインズ様が仰ったように、その者だけに解決する問題だとしても、それは最終手段です。始めから選択肢に上げて良いものではありません」

 

「確かに信仰する神を尊ばないようでは、形だけと言われても仕方がないな」

 

「はい。その上、異種族排斥を国是にしています。王国以上に頑迷な国です。

 ただ、伝え聞くところによると汚職が少ないことだけは評価できるでしょう。反面、家族の絆は強固とは言えないでしょうが」

 

「汚職がないとどうして家族仲が悪くなるのだ?」

 

「家族・血族での絆が強固であれば、官僚は得た利権を最大限利用して家族や親族に利益を誘導するからです。中には良好な家族を築くものもいるでしょうが、法国では少ないかと。

 法国は王国が帝国に飲み込まれるよう画策しておりました。事がなってしばらくは良好な関係を築くかも知れませんが、帝国と法国では価値観に違いがあります。いずれは軋轢となり、問題が噴出することでしょう。

 この点に置きましても、多様な文化を有する帝国と誼を結んだアインズ様のご慧眼は素晴らしいものと言えます」

 

「……まあ、そう褒めるな」

 

「失礼いたしました」

 

 アインズには、変に言葉の裏を取られて持ち上げられることがよくある。本当によくある。そのせいで何故か「深遠なる智謀を持つ端倪すべからざるお方」などと思われていたりする。

 が、成した事実を列挙され、選択の正しさと効果を讃えられるとどうにもくすぐったい。半分は運で、半分は成り行きなのだが。

 

「多様な種族を抱く魔導国と、多様な文化を有する帝国ではとても相性が良いと愚考します。

 帝国の多様性は、アインズ様のご友人であるジルクニフ皇帝陛下が体現しております。陛下の後宮には様々な人種や民族の者がいるそうです。陛下ご自身がそのようなことで区別をしないからこそなのでしょう」

 

 後宮云々はレイナースから聞いた話である。

 

 ジルクニフが体現する帝国の多様性や寛容には、他の証拠もある。

 アゼルリシア山脈に生息していたクアゴアという亜人種は魔導王の遠征によって魔導国の支配下となった。クアゴアたちの王ペ・リユロは偶然出会ったジルクニフとたちまち胸襟を開きあい、あっという間に親友と言って差し支えない仲になった。

 魔導国に支配された者同士という境遇が手伝ったにせよ、ジルクニフの性向が寛容でなければ友になるどころか序列を付けていたことだろう。

 

「多様性や寛容の精神と申しますと、評議国もそちらに入ります」

 

「評議国とはぶつかるよりも友好をというわけか?」

 

「王国や法国に比べればその可能性があるという話でございます。評議国とて種族や民族が分断して争い始めたら困るでしょうから。王国が孕む病を聞かせれば、聞く耳を持たないということはないでしょう」

 

「どの道王国を滅ぼすのは必要ということだな」

 

「その通りでございます」

 

 

 

 そこからは男がアインズの疑問に答えたり、細かい話となった。

 が、国家の体質を決定づける要因やらはシャルティアには難しい。アインズには何とか理解可能。聞いてる時には尤もらしく聞こえても、いくつか前の話を振り返ると「あれ?」と思う事もあるので、きちんと復習しなければならないだろう。

 

 他愛ない話にもなり、アインズがシクススへ話したように世上の事も話題に上がった。

 そこからどこがどうなって元の話に戻ったものか、会話の流れはとても流動的である。

 とある話をアインズが漏らした瞬間、男の時間が凍り付いた。

 

「……いま、なんと仰いましたか?」

「王国との会戦の事か?」

「はい。守護者の方々が幾人か出陣なさると仰せになられたようでしたが……」

「アルベドも、だな。決定ではないしそんな話が出ている程度だ。そうなったとしても心配いらんぞ? アルベドの防御力は守護者の中でも随一だ。王国が全軍をもってしても傷一つ付けることすら不可能だろう。アルベドの専用鎧はもっと凄い。ヘルメス・トリスメギストスと言う神器級の全身鎧だ。見た目は薄いが三層構造になっている。防御力は本当に凄いぞ。俺が持つ防具もあれほどの防御力があるものはない。なにせ超位魔法に耐えるレベルだからな」

 

 アインズはパンドラズ・アクターの創造主であるだけあって、特殊なアイテムの話になると早口になる。

 

「それでしたら……心配は要らないのですね。アルベド様が前線に出ることもないでしょうし」

「いや……まあ……そうなってもアルベド用の武装がある。問題はない」

「アルベド様の武装? どのような武器を使われるのでしょうか?」

「それは、だな」

 

 アインズがぱっと思い付いたのはギンヌンガガプ。「真なる無」とも呼ぶワールドアイテムで、冗談抜きの最強武器。

 様々な状態異常に耐性を持つシャルティアが操られたことから、シモベ達が危険を伴う任務に携わる時はとても希少なワールドアイテムを持たせることがある。しかし、ギンヌンガププは過剰すぎる。何かの間違いでおかしな事に使われたらとんでもないことになりかねない。

 

「以前、私を斬ったバルディッシュでしょうか?」

「……そうなる」

 

 自分を真っ二つにした武器だからアインズ様は言い淀んだのだ、と男が思ったのは誤解である。

 バルディッシュには「3F」という名前が付いていたりするが、気遣いのアインズ様は解説しなかった。

 

「そうですか……。あのバルディッシュが……」

 

 鎧については、アインズ様が力を入れて語るので問題ないだろう。

 しかし、わが身に受けたあのバルディッシュには不安があった。確かに自分は一撃で真っ二つになったが、それを基準にして良いものではない。あれは武器に求める機能を万全に果たせるのだろうか。それ以前に武器に求める機能とは何か。

 

 アインズはカルマ極悪に相応しく、男に悩みの種を落としてナザリックに帰還した。

 

 

 

 

 

 

 ナザリックに戻ったアインズは、いつものように諸々の報告を受け、執務をこなし、一日を終える。夜は眠れないなりに自室のベッドで休むのが習慣だ。

 この日の夜はベッドに横たわることなく、机に向かった。

 

 男の話を聞きながら取っていたメモを開き、男から渡されたメモにも目を通して復習するのである。

 その様子を見守っているアインズ当番のメイドは、ああお優しいアインズ様アインズ様、なんと偉大なる御方よ、全知全能の御力により、世界を統べる御方よ、アインズ様、アインズ様、我らが崇める御君よ、とアインズ様賛歌の一番を脳裏で流した。

 

 アインズは、(うわ、字が汚いなあ。だからソリュシャンとルプスレギナに代筆させてるんだな。代筆させてないってことは誰にも言ってない証拠だと思うか)などと思いながら王国打倒の正当性を固めていく。

 目指すのはシャルティアに説明する事ではなく、いつか来るかもしれないプレイヤーに対して訴えるためだ。復習には念が入っている。

 

 幸いな事に、ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」にはリアルで教師をしているやまいこがいた。アインズは彼女から、効果的な勉強方法を教えてもらったことがあった。

 音読やら仲間と勉強するやら色々あるが、中でも一番効果的なのは、勉強したことを誰かに教える事である。

 

 中にはその効果を利用するため、自分で学びながら生徒に教える教師もあるとか。

 教師の学びは深くなるだろうが、最初の生徒にとっては災難である。

 

 

 

「と、言う事だそうです。私がアインズから聞かされた話はそのようなものでした。アインズがそこまで先の事を見通しているとは考えた事もありませんでした。残念ながら私には有効な反論が思い付きません。王国が軽挙に出ない事を祈るばかりです」

「……そう、ですか……」

 

 アインズがモモンとして訪れているのは、エ・ランテルのお屋敷である。生徒役に選ばれたのがラキュースだ。

 

 アルベドたちに知られないよう王国打倒の理論武装を求めたので、ナザリックのシモベたちは生徒役に適さない。

 ジルクニフなら話しても良いが、まだ復習中なので突っ込まれるとボロが出てしまうかもなので却下。

 屋敷に勤めるメイドたちにそんな事を話しても興味を持ってもらえない。冒険者たちも似たようなものだろう。

 消去法で選ばれたのが、エ・ランテルの屋敷で何故かメイドになってるラキュースである。

 

 冒険者と言えど、貴族出身であるラキュースなら国家間の諸問題に興味があるだろうし、理解する頭もある。

 いざとなれば記憶操作してしまえばいいのだ。先日のアズスから色々聞きだした件で、そのあたりのノウハウが溜まっている。

 

「私は今はこうしてメイドをしていても、王国の一員であると思っています」

「……そうでしょうね」

 

 祖国が滅ぼされる可能性が濃厚であると聞かされれば、正義感が強いラキュースでなくとも同じように感じるだろう。

 復習は上手くいったが記憶操作した方がいいかな、とアインズは思ったのだが、ラキュースが続けた言葉は意外なものだった。

 

「ですが、王国の存在が災いを齎すのであれば……。しかも既に芽吹いていると言われると……、残念ですが、心当たりがあります。災厄を広げないために止むを得ないのであれば……。とても悲しい事ですが……止めることは、出来ません」

 

 ラキュースの答えを、アインズがいざという時のフォロー役として置いておいた男はうんうんと頷いている。

 

「たとえ王国が滅んでも、いつかはまた人々が明るい笑顔を見せる日が来ると、信じています」

 

 ラキュースが男の顔を盗み見て、薄く頬を染めて下腹を軽くさする意味を、アインズは察せなかった。

 勿論、既に、と言う意味ではない。いつかは、という期待だ。

 尤もラキュースの体は、ラキュースが気付かない内にソリュシャンが定期的にチェックしている。ソリュシャンが良しと思うまでは出来ない事が確定している。どんなに早くても、ソリュシャンがちゃんとお嫁さんになれた後になるだろう。

 

 ラキュースの将来への展望を知らないアインズは、とても意外に感じた。

 ラキュースと少し話せば、生家を離れて冒険者になろうとも祖国への思いは強く、人々の安寧な暮らしに気を掛ける高潔な精神が伝わってくる。少なくとも、今までモモンとして接した限りではそのように感じていた。

 それが仮定の未来の話であろうと、祖国の滅亡を受け入れるとは思いも寄らなかった。復習が上手く行こうが行かなかろうが、最終的には記憶操作が必要だと思っていた。隣室にはこっそりとペストーニャを待機させている。

 男をちらと見れば、満足そうに頷く。アインズが話した内容が及第点を越えていたのと、ラキュースの態度に満足したからだろう。

 

 昨日の話では、仮定として王国の民の矯正は可能かどうかと言うのも上がった。集団が相手となると、教育でどうにかなるものではないと返ってきた。王国の性質は固着してしまった体質なのだと言う。

 しかしそれは、相手が集団の場合である。ラキュースのように個人が相手ならばその限りではないようだ。

 

(ふむ…………。ずっとほったらかしにしてたが、こいつにあれを任せてみるのもいいかも知れないな。何と言うか……暇そうだし)

 

 暇そうに見えて頭の中では新たに降って湧いた課題に集中している男なのだが、頭の中は見えないものである。

 アインズからは、とても暇そうにしか見えなかった。




一部トッドを参考にしています
巨人はどの時代にもいるもんですね

チート武器作成フラグ
お目見え未定
次話も未定


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氷穴からのさるべーじ

 魔導国が建国し、それなりに時間が経っている。当初はアルベドがとても大変だった内政も随分と余裕が出来てきた。

 勿論、大変だったのはアインズもである。

 アインズは好奇心を抑えきれず、周囲の制止を押し切って冒険者のモモンとして活動を始めてしまったため、一人二役を熟さなければならなかった。絶対君主になったのに、平社員だった時よりも忙しくなったくらいである。アンデッドの体になっていなければ、間違いなく心身が持たなかっただろう。

 が、やはり限度はあった。

 アインズがどんなに頑張っても一日の長さは変わらない。忖度し続ける悪魔と違って、アインズの一日は30時間ではなく24時間であったのだ。どうしても犠牲になるものがあった。

 

 犠牲が言い過ぎであれば、優先順位の低さにより後回しにしてきたことと言うべきか。後回しに出来るだけあって、放置しても問題はない。現にそんな事があった事を、アインズすっかり忘れていた。

 放置していたあれやこれやは、アインズが忙しくなり始めた頃に集中している。具体的には、アインズが扮する漆黒の英雄モモンの名が広まり始めた頃だ。あの時は立て続けに様々な事が起こり、アインズは心身ともにとても大変だった。アンデッドの体でなければ心か体のどちらか、あるいは両方を損なっていたのは間違いない。

 大きな事が起こってしまったので、ついつい忘れてしまっていたとも言う。

 

 その点、今はとても余裕があった。

 デミウルゴスは本人の熱意が溢れているので仕方がないとしても、アルベドが他のシモベたちと同じように週休一日を満喫出来るくらいの余裕ができた。

 ナザリックで忙しいランキング上位常連のアルベドに余裕ができたのだから、アインズだって余裕がある。アインズの影武者を勤めるパンドラズ・アクターにも余裕がある。あいつは余裕過ぎて毎晩ナザリックに戻ってマジックアイテムに頬擦りしていた罪があったが、たまになら笑って許せるくらいに全ては順調である。

 パンドラズ・アクターの功罪はさておき、時間的余裕を手に入れたアインズは、後回しにして忘れていたものをこの機に片付けようと考えた。

 

 

 

 

 

 

 甘い香りが漂っている。

 仄かな芳しさには清涼感があり、野に咲く花々が優しい夜風に身を任せているかのようだ。

 

「さすがはアインズ様ですわん。見事なお手前でございました。ですがアインズ様にこうも見事なお手前を披露されますと、私の存在意義がなくなってしまいますわん、よよよ……」

 

 視界が霞んでいる。大柄な何かが身を捩っているように見えるが、それが何かまではわからない。代わりに耳はしっかり仕事をしているようだ。すぐそこで話す声は、口調に反し男のものに聞こえた。

 

「仕事をとってすまんな。効率的な記憶操作を試したかったのだ。だが……ふむ。処分せずにとっておいて良かった。こんなところに情報源があったとは」

 

 聞き覚えがある声。これは誰の声なのか、胃の腑が焼けてくる。

 

「法国出身と聞いてもしやと思ったが、やはり家族の仲は悪いのか」

「たったのそれだけで家族関係すら把握してしまうアインズ様の叡智は私如きには到底はかり知れません! ああ、アインズ様! そんなに素敵でいらっしゃって一体わたしをどうするおつもりなのかしらん!」

「……どうもせん。それよりもまだ目覚めないのか?」

「いいえ、とっくに目覚めているようですねん。もう、寝たふりなんかしちゃってなんて悪い子なのかしらん。アインズ様をお待たせしちゃいけないわよん?」

「待て待て。折角無傷で全てを終えたのだ。最後まで貫こうではないか」

「初志貫徹を徹底なさるなんてさすがはアインズ様でございますわん。この子ったら秘薬の効果で朦朧としているようでございますからん、トーチャーに回復させてはいかがかしらん?」

「そうだな」

 

 倦怠感が消え去った。

 まだ目は開かない。その前に状況把握。

 空気の流れと冷たさから、屋内であるとわかる。広さまではわからない。確実に閉じた部屋。目の前にあれとでかいのと他に複数。

 体の重さが消え力が戻る。気付かれないように、軽く握ったままの拳に力を入れる。手首に違和感。拘束されている。

 腕は吊るされても足は床についている。爪先に力を入れ、蹴り上げようと思ったが届く距離ではなさそうだ。

 諦めて目を開いた。事前の覚悟で、無様な声を上げずに済んだ。

 

「あーらら、死んだと思ったけど生き返された?」

「その通りだ。自分に何が起こったか把握しているようだな」

 

 あれが答える。

 死ぬ直前に見せられた兜の内側。

 皮も肉もない頭蓋骨が喋っている。

 

「お嬢ちゃん? アインズ様にそんな態度はいけないわよん? わたしが色々教えてあげようかしらん」

 

 こっちは青ざめた蛸を乗せた水死体。アンデッドでなければ悪魔だろう。

 

「ふーん? 私ったらこれから色々教え込まれちゃうんだ。しかもこんなところに連れ込まれて。モモン様にこんな趣味があるなんて知らなかったなー」

 

 表情がない骨の顔は動じない。代わりに周りが色めきだった。

 早速色々教えられるのかとわが身の不幸を嘲笑う。挑発しようが従順でいようが、これから起こることに変わりはない。だったら好きなようにさせてもらうまで。

 しかし、あれが右手を上げると、周りが沈黙する。

 どう見ても超一級品のローブを着ている事から、あれが頭だと思っていたらその通りであるようだ。

 

「威勢がいいのは結構な事だ。万全に回復したようだな。だが、軽口を叩くなら時と場合を選ぶべきだな。今この場ではお勧めしないぞ? 予定を変更してニューロリストに任せることになる」

「そんなこと言ってー。そっちのタコさんにチョメチョメさせちゃうんじゃないの? 油断させる作戦だとしたらちょっとありきたりだねー」

「そっちを選びたいならそうさせてやろう」

 

 あれが尖った顎を傍らへしゃくった。

 ざっと周囲を見渡せば、壁には得体のしれない器具が幾つもぶら下がっている。

 

(どれを使われちゃうのかなー、でも簡単には音を上げないからねー。うわお、あれとかすごっ。うわー……。あー…………。……クソクソ、クソがあっ! …………あれ?)

 

 しかし、タコはどれも手に取らず、両手を吊るす手枷を外した。

 思いがけずに拘束を解かれ、反撃も逃走も選べない。ずっと手枷をされていた手首は思ったほど傷んでいない。擦り傷もない。少々赤くなっている程度で痣も残りそうにない。

 まさかこのまま自由にするわけがない。

 死ぬ前の自分は、あれと致命的に敵対したのだ。あれがアンデッドでさえなければ、確実に命を奪っていたはず。

 疑問が尽きない。

 どうして自由に、とか、何をさせるつもりなのか、とかではない。もっと別の根本的なもの。

 

 あれが異様に大きいのだ。顔を見るには、首が痛くなるほど上を向かなければならなかった。

 あれは確かに大柄な戦士の姿をしていた。しかし、見上げるほど大きかったわけではないはず。これではまるでオーガのアンデッドだ。

 でかいアンデッドは幾つもいるが、人型で肉がない骨の姿をして、ここまで大きかったものはいない。新たに発生した新種なのだろうか。

 

「そう警戒するな。取って食うわけではない。一応言っておくと、取って食いたい奴は幾らでもいる」

「……私って美味しそう?」

「知らん。食うなとは言ってあるが、目に余るようだと考えが変わるかも知れんな」

「…………気を付けるね」

 

 判断がつきかねた。

 生存の可能性があるなら全力で媚を売るのも吝かではない。それが通じるか否かが問題だ。

 少なくとも、今すぐこの場でどうにかされることはなさそうだった。

 

「暇をしている者がいてな。そいつにお前の教育を任せようと考えている。本来ならお前程度の者はいてもいなくても構わんのだが……、まあ退屈しのぎというやつだ」

「わざわざそんな事してなくても助けてくれるなら何でもしちゃうよ? とりあえず靴でも舐めよっか?」

「ははは、それはいいな。だが、私はお前がどんな人間だったかよーっく覚えているぞ? 残念だがそう簡単に信用するわけにはいかん」

「チッ……、忠誠心テストでもするつもり?」

「無論、目安はある。言っておくが教えるつもりはない。それではテストの答えを教えるのも同然だからな」

「それじゃ私は何をすればいいの?」

 

 悪態をつきたくなるが、我慢する。

 どんな教育をされてどんなテストをされようとも、ここから逃げ出せれば勝ちだ。拷問に耐えに耐え、あちらが飽きるまでチョメチョメされるのに比べたら天国と地獄の差。

 当分は大人しく従順になった振りをして、どこかの暇人の相手をしながら待ち続ける。自由になる機会は絶対にある。なくても作る。絶対に自由になる。

 

「何をさせるかはあいつ次第だ。それと言い忘れたが、お前の戦闘能力は中々だった。自分ではそれなりに出来ていたつもりだったが……、力任せだけでは駄目だな。あれは良い学びになった。尤も、今の私が相手ならわからんがな」

「……それはどーも」

「そんなお前をそのままにさせておくわけにはいかん。戦闘能力は封じさせてもらった」

「は?」

 

 得体の知れない場所で拘束されているのだから、武装は何一つない。愛用のスティレットは返して欲しいものだが、言ったところで無駄だろう。それを指して戦闘能力と言われたと思ったのだが、違ったらしい。

 

 タコさんが大きな鏡を持ってきた。

 正面に置かれた。

 どうやら自分が映っている。

 鏡に映る像は、どうやら自分の動きに合わせて腕を上げ下げする。

 頬を抓ってみた。痛い。鏡の中の自分も頬を抓っている。間抜け面に涙が出そうだ。出そうだではなく、本当に出てきた。

 

「と、いうわけだ」

 

 モモンなのかアインズなのか、あれが言う。どうやら巨体なアンデッドではないようだ。

 

 鏡を見て、あれを見上げて、自分の体を見下ろす。

 体が勝手に震え始めた。

 

「はああああぁぁぁああ!?!??! なっっっっっっ…………なんじゃこりゃああぁああああああああああああぁぁあああああぁぁああああああーーーーーっっっ!!!!!」

 

 鐘が割れ響くような叫び声。

 演技ではない素の声は、とても甲高かった。

 

「ははははっ。その顔が見たかった。成ったと思ったら元に戻す事を考えてやろう」

 

 アインズの笑い声はとても楽しそうだった。




いつも前書きに字数表記するのは、PSPで読む際に字数多いと1ページで表示出来ないのでページ移動をしやすくするためだったのです
PCやタブレットやスマホよりPSPの方が読みやすいものでして
で、本話は4K


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モモンズからの頼み事

本話9k強
本文が短くても前書きあった方が便利と気付きました


 若旦那様の様子が少し変である。いつもやってる突然の奇行とは明らかに違う。若旦那様に特別近しくなくても、屋敷に勤めているなら誰しも気付いた。

 わかりやすいところでは、毎日暇があれば掻き鳴らしていたギターを弾かなくなった。弾く時は窓を開け放つのだから、全く弾かなくなればすぐにわかる。

 

 おかしいところは他にもう一つ。こちらは既に実害が出ている。と言って何かをするわけではない。突然動きを止めるだけだ。

 カタナブレイドを振り回して遊んでいる時。食事の途中。庭を散策している時。更にはエ・ランテルの街に出ている時も。

 何の前触れもなくぴたりと動きを止め、どこか遠いところを物憂げに見詰めるのだ。今までシクススが体を張って隠してきた若旦那様の物憂げな様子である。

 性別年齢種族問わずに見入ってしまい、お屋敷のメイドたちが見とれて仕事を忘れるくらいなら良い方で、街中でそんな事をされると事故につながる。

 シクススがいれば頭をどついたり耳を引っ張ったりして事なきを得られるのだが、若旦那様の部下であるミラや、シクススから色々教えてもらっていたシェーダでは荷が重い。結果、犠牲者が増えるのである。

 これには恍惚と鑑賞するソリュシャンやルプスレギナも危機感を覚え、屋敷内はともかく、外に出ている時は一秒でも早く若旦那様を隠すようにと、ミラに命じた。自分たちでは出来ないらしい。

 とてもらしくないことに、若旦那様は何かを思い悩んでいるらしい。

 ソリュシャンたちは悩みの原因を尋ねるのだが、当の若旦那様は「何のことだ?」と言って取り合わない。正気を戻した若旦那様はいつもの若旦那様なのだ。

 あちらに行ってる時間が極端に増えたのが問題なわけで。

 

 男がアルベドの前では呆けたところを見せるわけがない。見せないのだからアルベドは何も知らない。知らないのだけれどソリュシャンたちから男の様子がおかしい事を伝えられ、それとなく「心配事でもあるのかしら?」と尋ねた。

 男はアルベドの心遣いに感激して恐縮するも、心配事はないと言う。

 アルベドが重ねて「それなら悩んでいる事は?」と聞いても答えは同じ。アルベドが更に強く聞くと、「アルベド様にお話しすることではありませんが」と前置いた上で、

 

『パンに塗るのはジャムか、バターの上にシナモンシュガーを掛けたものか、どちらがいいか悩んでおりました』

『……………あっそう』

 

 美味しいものは油と砂糖で出来ている。バターとシナモンシュガーの組み合わせは最強だ。

 

 アルベドが強く聞いてもこれである。本当に悩んでいる事はないようだ。

 アルベドはソリュシャンたちに一連のやり取りを話して安心させてやった。

 

 が、翌日以降も若旦那様が突如動きを止めるのは変わらない。

 アルベドが強く言った上でこれなのだから、ソリュシャンたちには打つ手がなかった。

 

 

 

 本当のところ、男は何も悩んでいない。

 日本語辞書を熟読している男は、「悩み」の意味をきちんと把握しているので彼女らの問いかけを間違って受け取ったわけでもない。「悩み」とは多義語で、精神的に苦痛・負担を感じること。物事が上手く行かずに苦しむこと。どうすれば良いか迷うこと、などがある。

 男がアルベドに答えたトーストについては、三番目の意味になる。

 多方面から精神は化け物と評される男なので、多少のことで精神的に苦痛や負担を感じるわけがない。

 

 男が時間を割いているのは悩み事ではなく、考え事であった。アルベドが対王国戦に参戦することである。

 目指す目的ははっきりしている。アルベドに危険が及ばないことだ。目的達成には幾つかの道筋があった。

 

 一つは王国との戦争を起こさないこと。

 魔導国による王国攻略は必須なので、他の手段で滅ぼす必要がある。内戦を起こして疲弊させるのが一番楽だ。以前アインズ様に語ったように、王国の貴族を独立させ革命を起こさせる。

 まずラキュースの生家で当主や継承権がある者を片端から片付ける。ミラは戦力的に十分でも目立つ。ソフィーにこっそりキレイキレイしてもらうのが確実だ。

 そうしてラキュースを生家に戻す。ラキュースが今までエ・ランテルにいたのは、魔導国の動向を探るためとでも言えば支持を得られるだろう。魔導国の強大さを知らしめ敵対する無謀を説き、王国へ反旗を翻すのだ。

 

 が、却下。話にもならない。

 王国内で革命を起こすのは、アインズ様がさせてはならないと仰った事だ。禁じられたことを出来るわけがない。それに、これでは討ち漏らしがでる。

 アインズ様が王国との大規模な会戦を想定しているのは、散らばっているものを片付けるより、一つにまとまったものを片付ける方が遥かに容易で早いからだ。

 男は悪あがきとして、魔導鎧で武装したアズスや、ツアーが遠隔操作する白金鎧が参戦する可能性を指摘したのだが、さすがのアインズ様は織り込み済みであるらしい。魔導国が王国を平らげるのに障害は何一つないのだ。

 ゆえに、魔導国と王国の会戦は必至。アルベド様の参戦もほぼ決定となる。

 ならば、戦闘時でのアルベド様の安全確保が唯一の道となる。

 

 防御については、アインズ様が熱く語ったヘルメス・トリスメギストスなる鎧があるそうなので、万全と思う他ない。

 攻撃については、僭越と思いつつも不安があった。

 

 あの時使用した漆黒のバルディッシュは、確かに逸品なのだろう。

 しかし、自分の目から逸品と判断出来るような品では困る。切れ味が鋭い程度の武器では不足である。切りつけたら対象が爆発四散したり、攻撃の射程が7㌖くらいあるなら良いが、自分が切られた時は真っ二つになっただけだった。

 そもそも切れ味が鋭いと言っても、何でも切れるのだろうか。それこそ盾と矛の逸話通り、あのバルディッシュでヘルメス・トリスメギストスを切りつけたらどうなるのだろう。いや、問うまでもなく答えは出ている。アインズ様が仰った超位魔法がどのようなものかは知らなくとも、凄まじい威力があると察せられる。その超位魔法に耐えるヘルメス・トリスメギストスを、あのバルディッシュで破れるわけがない。

 理性的に考えれば、アルベド様がお持ちの武器は攻撃力が不足過ぎる。アルベド様に相応しい武器が必要だ。

 

 武器の形状・素材などを考える前に、武器が必要とする機能を詰める。

 武器は敵を倒すものだ。一振りでどんなに離れた敵でも一撃で倒せる武器が望ましい。が、現状では不可能。非常に残念ながら近接武器に限られる。

 では近接武器を使ってどのように倒すのか。

 

 

 

 と、男はそのような事を只管考え続けている。

 ドラゴニオがいれば斬国剣で王国を一刀両断できるのに、と思ったところで思考を打ち切った。

 夢のような願望に傾く時点で思考が濁っている。夢に浸るくらいなら、ハイエンド・オブ・ラウンドムーンキリングテックの斬国剣発動時にて、妖刀ティーゲルハッチの剣長を20㌖に伸ばす機構は何なのかと考えた方が遥かに建設的である。一瞬でそんなものはないと結論を得てしまったが。

 

 モモンから呼ばれたのはそんな時だった。

 

 

 

 

 

 

「……アルベドも来たのか。呼んだつもりはなかったのですが?」

「彼は私の相談役よ。勝手に動かさないでもらえるかしら? 用があるなら私を通しなさい」

「ご安心ください。モモン様が魔導国の不利益となる事を為さるわけがございません」

「それは私に同席するなと言ってるのかしら? 私に内緒で何をするつもり? あなたは誰の味方なの?」

「もちろんアルベド様でございます。万が一にもアルベド様にご面倒をお掛けする話であれば、委細全てを漏れなく報告いたします」

 

 男はアルベドの味方であると主張しつつ、内緒話をすると言い切った。アルベドが関わる話でなければ報告しないと言っているも同然なのだ。

 図々しいのか面の皮が厚いのか、穏やかな表情はいつもと全く変わらない。帝国皇帝のジルクニフを辟易させてきたのは伊達ではない。

 尤も、本人にアルベドへの悪意があるわけがなく、アルベドに面倒を掛けたくないだけである。

 

「アルベドに用があるわけではないのですが、同席したいと言うなら構いません。全く関りがない事でもないでしょうから」

「だったら余計な事は言わずに最初から認めて欲しいものね」

 

 アルベドとモモンの関係は大分面倒くさい。

 モモンは言わずと知れた漆黒の英雄であり、アインズが支配する魔導国の民、つまりは人間たちの味方である。いざという時は我が身を犠牲にしてもアインズを討つと決意している。そのアインズとモモンは親しい友人であるので、アインズが余程道を誤らない限りは起こりえない事だ。

 アルベドは魔導国の宰相閣下であり、アインズの臣下だ。アルベドはモモンの事を、ぽっと出のくせにアインズ様に近付いた得体の知れない男と見ており、嫉妬を絡めて警戒している。

 そんな二人は、間違っても良好な関係とは言えなかった。と言う設定である。

 

 アルベドが日中を屋敷で過ごすのは週に一日で、モモンは冒険者としての活動から外泊が多い。それでも同じ屋敷で寝起きするのだから、これまでも顔を合わせることはあった。その度にとげとげしい言葉を応酬している。

 モモン役を担うのはパンドラズ・アクターな事が多いし、アインズ様がモモン役をしたとしても屋敷に来るなりドッペルゲンガーと交代してしまう。アルベドがつれなくなるのは、対外的な演技を抜きにしても当然である。

 表向きにはモモンを憎々しく思っている、と言う設定になっているアルベドなので、モモンへはさっさと出て行って欲しい、と言う演技をしている。

 けども実のところ、アルベドが住処をエ・ランテルのお屋敷に移せたのはモモンの影響大であった。

 

 エ・ランテルの大きなお屋敷はアルベドのお食事処である。が、それは裏の話。

 お屋敷の表向きの履歴を語ると、魔導国建国時の混乱に乗じて商家のお嬢様であるソリュシャンが買い取り魔導国へ提供した、と云う形になっている。

 表向きには屋敷の責任者にして主人となっている若旦那様は、ソリュシャンの遠縁であり療養のために身を寄せたのが始まり。優れた能力が魔導国中枢の目に留まり、宰相閣下相談役に取り上げられた。人間であるのに、異形種溢れる魔導国中枢に食い込んだ。と言う設定である。

 魔導国に住まう人間たちからすれば我らの出世頭だ。民からは人間側に立っていると期待されている。そのため魔導国宰相閣下相談役であるのに、どちらか一方に重きを傾けるわけにはいかない。

 若旦那様は魔導国宰相閣下相談役になったのだから、若旦那様が住むお屋敷はせめて人間のものであって欲しいという期待が、民にはあった。

 そこにアルベドが住んでしまうとバランスが崩れる。バランスを崩さないためには反対側に重しを乗せる必要があり、それがモモンなのだ。

 つまりは民心への配慮である。面倒だが仕方ない。魔導国を支配するのは民を蔑ろにする暴君ではないのだ。

 

 なお、パンドラズ・アクターも冒険者チーム漆黒はずっとお屋敷を拠点にして欲しいと思っている。屋敷に戻ればドッペルゲンガーと交代してナザリックに戻れる時もあるからだ。

 モモンのパートナーであるナーベも同じ。お屋敷に滞在していればいい事が出来る機会があるからだ。

 しかし、黄金の輝き亭の建設は始まっている。次の春には完成してしまうだろう。内装工事で引っ張っても、更に半年は伸ばせそうにない。その時にどうなるかはアインズ様次第である。

 

 

 

 時刻は夜。

 応接間に通されたモモンたちは、テーブルを挟んで向き合った。

 モモンからの話と云うことで、モモンのパートナーであるナーベも同席している。恐縮しながらモモンの隣に座った。

 アルベドはモモンの対面だ。

 若旦那様はアルベドの隣に座りたいところなのだが、政治的な配慮でどちらとも向き合わないテーブルの端。

 

「本題はわかっていると思いますが、その前に」

 

 モモンがヘルムを脱いで白い玉顔を現した。ここからはモモンではなくアインズである。今日のモモンはアインズであるからこそ、アルベドは食い下がったのだ。

 アルベドもナーベラルも、即座にソファを降りて跪こうとするのを、アインズは手で制す。なお、重しがある若旦那様は降りる素振りを見せなかった。

 

「そのままでよい。モモンの口調を崩すだけだ」

「モモン様はアインズ様でいらっしゃいますが、今のアインズ様のお言葉はモモン様のものとして扱えと仰せなのですね。それではモモンズ様と」

「それは止せ」

 

 この男は真面目にやっているのか、笑いを取りに行こうとしているのか、時折真剣に悩むアインズである。

 それでもアインモモンサマンよりマシか、と思い出して小さく肩を震わせた。

 

「これからする話は命令ではない。重く受け取るなと云うことだ」

「賜りました。何なりとお話しください」

「うむ。で、だ。お前、子供が好きなのか?」

 

 アインズの視線が男に注がれる。アルベドとナーベラルも男を見る。視線の先は男の顔より少し下。幼女の緊張した顔である。

 男は膝の上に、小さな女の子を座らせていた。

 

 男はナーベラルが連れてきた女の子を見るなり屈んで目線を合わせ、こっちにおいで、と手招きした。

 女の子は、モモン様がとっても怖いお骨であると知っている。意識的にも無意識的にも距離を取ろうとする心が働いた。男の顔が美麗だったのも大いにある。

 男は躊躇いがちに近付いてきた女の子をさっと抱き上げ、そのままソファに座ってしまった。

 アインズもアルベドも、口を挟む隙がないほどに自然な動作だった。

 

「特に子供好きであるとは思っておりません。ただ、子供は大人と違って体面を気にしない事が多いので気安く接しやすいと思っております。マーレ様とお話する時もこのように。これがコキュートス様になりますと体格的に不可能でございます」

「そりゃそうだろう!」

 

 男の真面目な顔を見る限り、ボケたつもりはないらしい。

 ここにジュネが加わると毒にも薬にもならない話を延々と回し続け、ルプスレギナが爆破するのが帝都での日常だった。

 

「まあ……、子供嫌いでないなら丁度いい。お前に頼みたいのはそいつの世話だ。言ったように、アインズからの命令ではなくモモンからの頼み事だ。重く捉える必要はない」

「かしこまりました。どのように世話をすれば良いでしょうか? 目標や成長してからの用途などはございますか?」

「特にない。お前が適正を見定め、良いように育てろ」

「承知いたしました。最後に一つだけお聞きしたく存じます。彼女は一体どのような……」

 

 男はそこまで言って、大きく目を見開いた。脳髄にドラゴンライトニングを撃たれたかの如き衝撃!

 後ろから弄んでいた幼女の小さな手を離し、細い太ももの上に戻す。

 アインズは、とても嫌な予感を覚えた。

 

「お前……、何を考えた?」

「いえ、大したことではございません。けして口外しないことを誓います。申し訳ございませんが、アルベド様のお言葉であってもお話しする事は出来ません」

「私にも言えないこと? さっき、私が関わることなら何でも話すと言ったわよね? 私には絶対に関わりがないことと誓えるのかしら?」

「……アルベド様が大変に優れた叡智と理性をお持ちと存じておりますから、アルベド様はご自身の益不益に関わらないと判断為されると確信しております」

 

 短く言えばアルベドの主観次第。もっとわかりやすく言えば、気分次第で捉え方が変わるということ。気にしないでください、ということだ。

 勿体ぶった言い方に、アルベドは眉間に皺を寄せ、アインズの嫌な予感はますます強くなっていく。

 

「いいから言え。何を言おうと構わん」

「…………そう仰るのでしたら」

 

 男は深呼吸して、声が震えないよう注意した。

 額には薄っすらと汗が浮いている。季節問わず快適なお屋敷で、お客様を入れる応接間はいつだって適温だ。暑いわけではない。冷や汗である。

 

 幼女の髪の色は金色で、肩に触れない長さで真っ直ぐに切り揃えてある。目の色は紫。シェーダたちより暗く感じるのは色合いよりも目付きのせいかも知れない。顔立ちは、言われてみればとても利発そうだ。とても可愛らしいお子様である。

 まだまだ小さいのに、膝上に乗せられて大人しくしている。大人たちの話は退屈でつまらないだろうにきちんと我慢が出来ている。この一事だけをとっても、普通の子供ではない。

 ヒントはモモンが連れてきたことだ。

 モモンが連れてきたけれどアインズに戻った上で、モモンの言葉として捉えよと言う。箱の中に入った箱が外箱になっているような、複雑な入れ子構造である。

 加えて、お子様にはモモンがアインズであると知らせてしまった。これは元から知っていたと考えるべきだろう。

 であるならば、答えは絞られる。

 

「こちらの少女は……………………アインズ様の隠し子でしょうか?」

「!??!?!?!」

 

 アルベドが椅子を蹴って立ち上がった。

 三人がけの大きなソファは、黒翼に弾かれてひっくり返る。

 麗しい金眼は瞳孔が縦に裂けた。

 アルベドが放つ怒気は実体世界にも影響し、長い黒髪が蛇のようにうねって逆立った。

 

「待て待て待てバカおい落ち着けどうしてそうなるこのバカ俺の子のわけがないだろうステイステイ違うふざけるなバカ濡れ衣だ違うって言えどうしてそうなった!!!!!!!」

 

 アルベドがローテーブルを踏み潰したところで、アインズの必死の言葉が届いたらしい。

 しかし、髪はまだうねっている。般若を越えた本成である。言い訳は通じない。

 

「だから落ち着け! テーブルに乗るな! こいつはアルベドも知ってるはずだ! ちゃんと報告してある。まさか私からの報告書を読んでないわけではあるまいな!!」

「私が知っている者なのですか?」

 

 アインズが上位者らしく部下の怠慢を咎める言葉を出したことで、アルベドはようやく沈静化した。

 しかし、アルベドの記憶に少女の顔はない。

 

「クレマンティーヌだ」

「あっ」

 

 見たことはなくとも、その名は記憶にあった。モモンの名声を高めた立役者だ。

 

 かつてエ・ランテルの共同墓地で、アンデッドが異常増殖する死の螺旋が起こった。死の螺旋は、一定数以上のアンデッドが集まると更に強いアンデッドを呼び寄せる現象を指す。死の螺旋が発生すると、発生源を止めない限りアンデッドが増え続け、死の土地となってしまう。そうさせないために、どこの土地も死体は厳重に管理しているはずだった。

 エ・ランテルにて死の螺旋を引き起こした片割れがクレマンティーヌであり、止めたのが漆黒のモモンだ。

 クレマンティーヌは人間にしては卓越した戦士でモモンを追い詰めたらしい。モモンの中身がアインズでなければ致命的な痛撃をもらっていた可能性が高かったとか。

 死の螺旋の首謀者二人は適切に処理した後、死体を回収してナザリック第五階層「氷河」で保管した。後々で何かに使えるかと思われたからだ。

 が、直後にシャルティアがナザリックを離反。それどころではなくなった。

 シャルティアは何者かに操られたらしく、アインズがこれを解決。

 そしてクレマンティーヌの事はそのまま忘れ去られた。

 それを先日復活させ、情報収集を行ったとはアルベドにも報告があった。

 

「大変失礼を致しました。アインズ様が仰せの名は確かに記憶にございます。ですが、ご報告いただいたものと姿形が異なるようでございますが?」

 

 アルベドはクレマンティーヌと直接会った事はない。ナザリックでクレマンティーヌを知っているのは、先の情報収集に同席した者を除くと、モモンが適切に処理した後の姿をナーベラルが確認したくらいだろう。

 アインズが事の次第をまとめて報告したので名前は知っていても、見たことがある者は少なかった。

 

 ナーベラルがかつて見たクレマンティーヌの姿は、アルベドが読んだ報告書にあったクレマンティーヌの容姿は、少なくとも成人女性であった。

 男の膝上に座っているのは、どう見ても幼女。

 顔立ちの美醜以前に、表情が悪いので色々と論外。笑おうとして目元を下げ口角を上げようと努力しているのが完全な失敗に終わり、単に滑稽な顔になっている。

 

「アルベドの記憶が正しい。それについての口外は不要だ」

 

 復活させ、魔法を使って情報を抜き出していた時までは成人女性だった。その後、若返りの秘薬を使用した。

 ユグドラシル時代には特殊効果があるけども実際には使用できないイベントアイテムが無数にあった。ゲームでは記念品に過ぎなかったそれらが、この地に転移したことで謳われた通りの効果を発揮するようになった。その一つである。

 クレマンティーヌはモモンを追い詰めるほどの戦士だ。そのままにしておくわけにはいかず、戦闘能力を封じるために子供にしたのである。

 

「私もその件について伺ってもよろしいでしょうか?」

「いや、お前は知らん方がいいだろう。その方が先入観を持たずにいられる。アルベドもナーベラルも余計な事を言わないようにしておけ」

「「かしこまりました」」

「私もクレマンティーヌと呼べばよろしいでしょうか?」

「好きに呼べ」

「クレマンティーヌと呼んでも構わないかな?」

 

 男は幼女の顔を覗き込み、幼女の顎に指を添え、顔を上向かせて視線を合わせてそう言った。

 

「はい。クレマンティーヌです。クレマンティーヌと呼んでくださいね☆」

 

 めいっぱい媚を売った甘い声。

 アルベドの顔はつまらないものを見るものとなり、ナーベラルは眉間の皺を深くする。

 鋭い視線が刺さった幼女は、急所を貫かれたらしく強張った笑顔のまま冷や汗を流した。

 

「私がクレマンティーヌについて他に把握しておくべきことはございますでしょうか?」

「特にないな。強いて言うなら勝手に外に出さないようにしろ」

「かしこまりました」

「私からも一つお聞きしてよろしいでしょうか?」

 

 アルベドがひっくり返したソファを戻し、座り直してからアインズに問う。

 

「なんだ?」

「どうしてこれの世話をこの者に任せるのでしょうか? 教育をするなら他の場所でも可能です。生かすだけならユリのところでも構わないと思われます」

「それは、だな」

 

 ストレートに、暇そうだから暇つぶしの玩具に、と言うのは躊躇われた。

 暇にさせてるのはアルベドである。アルベドに慮って、と言うわけでもない。アルベドの部下なのだから好きにさせればよいと思っている。

 しかしここで「暇そうだから」と言ってしまうと、適切な仕事を振られる可能性があった。ちゃんと仕事をさせて忙しくさせてしまうと、先日の理論武装を考えさせたように、都合よく使えなくなってしまう。男が忙しくなったらアウラも困るだろう。

 幸いにも、言い訳に使えるネタをその時に仕入れたばかりだった。

 

「思想の変遷を観察するためだ。アルベドにはクレマンティーヌについての報告が行っているだろう? 中々手強い経歴をしている。人格も極端だ。それが穏やかで適切な教育を受けることによってどのように変わっていくか。魔導国はこれからもますます大きくなっていく。国民は平和と安寧を享受するだろう。そうなった時に、民草の荒れ果てた心がどのように安定していくのか予想出来れば政策立案に活かせるのだ」

「……ああ、なんとお優しいアインズ様。まさかアインズ様が下々の事をそこまでお気に為さっているとは……。このアルベド、我が身の浅慮を恥じるばかりでございます」

「為政者として当然だ」

 

 アルベドとナーベラルはアインズの深い展望にますます感服し、深く頭を垂れた。

 そんな一大事を任されてしまった男は自分に務まるだろうかと一瞬だけ思ったが、アインズ様は良いように育てろと仰るだけで細かい事を語られなかった。基本的に好きにすればよいのだろうと判断する。

 

 当事者であるクレマンティーヌはわけがわからない。

 だけれども、一つだけわかった事がある。

 

 どうやら自分は、玩具になってしまったらしい。




このエピソードが終わったら「もどる」を閉めて次に行くんだ
ちゃんと終わるかどうかは知りません


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低すぎる人間率

本話6k強


 その夜、クレマンティーヌは美味しい夕食を一人で食べて、清潔で広いお風呂に一人で入ることを許されて、ふかふかの大きなベッドを独占することが出来た。

 

 状況が全く分からない中で精神的な緊張を強いられた一時は中々に手強く、場当たり的な対応しか出来なかった。

 様々な肉体的欲求を最高品質で過不足なく満たされた今は、頭を回す余裕が出来た。

 短くなってしまった手足を大の字に広げて高い天井を見上げる。

 

「一体どうなっちゃうのかなー……。てかここって何なんだろ?」

 

 気が抜けて内心を口にしてしまってから、監視の可能性に気が付いた。

 苦々しく顔を歪める。シーツを頭まで被って寝たふりをした。

 

(あんのお骨様は何が目的? 思想の変遷がどうのとか言ってたけど、このクレマンティーヌ様が簡単に変わると思ってたらお笑いだね。そりゃこっちに鞍替えした方が色々お得みたいだけど。あーーーーしくったなー。あの骨がすっごいお骨様だったなんてねー。つーか魔導国って何! 私が死んでる間に勝手に国作ってんじゃねーよ!)

 

 クレマンティーヌは法国の生まれだ。色々あって国を捨て、特大の土産を持って秘密結社に合流した。土産は法国の至宝の一つで、それを使って死の螺旋を引き起こした、ところまでは良かった。

 そこでモモンが現れたのが全ての間違い。

 あそこでモモンが正体を見せて自己紹介してたら秘密結社を抜けてそっちに行っていた可能性がかなりあったはず。

 戦士としてのモモンは自分に食い下がるくらい強かったのに、実はアンデッドの魔法使いだったとは何の冗談か。おそらくは、法国の六大神に匹敵する存在。ぷれいやーである可能性が高い。ぷれいやーの存在を僅かでも知っていたら、敵対するのは愚の骨頂。

 しかしそうはならず、見事なまでに踏み台にされた。

 

 それから大分時間が経ったらしい。

 自分たちが死の都にしようと目論んでいたエ・ランテルは、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の首都になっていた。

 

(アインズ・ウール・ゴウン魔導国。で、お骨様はアインズとか呼ばれてたっけ。自分の名前を国の名前にするなんてどんだけ目立ちたがりなのかね)

 

 生き返らされ、子供の姿にされた自分が連れてこられたのは、エ・ランテルの大きなお屋敷。

 生前と云うか、前回エ・ランテルを訪れた時は、共同墓地がある外周部と市民が生活する内周部での活動が多かった。秘密結社が共同墓地を拠点にしていた関係もある。

 お屋敷が位置するのは最内周部。つまりは行政区画だ。普通の市民は用もなく近付けない。そこにあるお屋敷は、重要な場所なのだろう。

 その屋敷の責任者が重要な人物でないわけがない。

 自分が預けられるのはその人物なのだ。

 

(あいつ……絶対に人間じゃない)

 

 モモンことアインズはアンデッドだった。自分が生き返らされた場所にいたのは異形種ばかり。モモンがアンデッドと知ってパートナーをしているナーベラルも怪しい。

 連れられた屋敷でも、アルベドと言った女はまさに魔性の美貌。部分部分は人間に見えても角と翼がある。

 ならば残る男がそうだったとしても不思議はない。

 

(悪魔か何かかな? あれって絶対に魅了系の何かを発動してる。そうじゃなきゃ……)

 

 この自分が、言われるがままに初対面の男の膝上に座ってしまったのだ。抗う意思が全く湧いてこなかった。

 男の姿を思い出しただけで頬が赤らんでくる。あんな美貌がただの人間なわけがない。

 魅了系の魔法かタレントか何かを掛けられたのだろうが、何の抵抗も出来なかったのは地味にショックだった。抵抗できたとしても、アインズの隣よりそっちを選んでいただろうが。

 

 それよりもショックだったのは、生き返らされた場所でいい匂いがしていた事。爽やかな花のような匂いだった。

 あそこには色々な器具やら拘束具やらが揃っていたことから、拷問などに使われる場所だろう。臭い消しにしてはセンスがあると思ったものだ。しかし実は、あの匂いはタコさんの匂いだった。

 これから花を嗅ぐ度にタコさんを思い出してしまいそうだ。本当に真剣に止めて欲しい。拷問する場所なら悪臭むんむんでも良いだろうに。

 

(ともかく、ここがどんな場所なのか把握しないと。まずは屋敷と敷地の間取りを確かめて。それから……)

 

 一人になれた時間を利用して自由になる算段をする予定だったが、幼くなった体が休息を欲している。

 お客様用のベッドに横たわっているうちに、いつしか深い眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 翌日、お屋敷の主要な面々が朝食を取った食休み中に、若旦那様がクレマンティーヌを紹介した。アルベド様はナザリックに赴き、モモン様とナーベ様はお仕事に行った後である。

 

「アインズ様がモモン様としてお連れになった。詳しい経歴は聞かされてない。アルベド様とナーベラルは知ってるようだったが、アインズ様は口外不要と仰っていたからね。多分、聞いても教えてくれないだろう。自己紹介できるか?」

「はい。クレマンティーヌといいます。モモンさまにつれてきてもらいました。これからよろしくおねがいします」

 

 幼女クレマンティーヌはぺこりと頭を下げる。とてもお行儀が良い。

 しかし、聴衆の反応は冷めていた。

 

「ソーちゃん、知ってるっすか?」

「ナーベラルが口にしたのを聞いたような気はするのだけど……、何だったかしら?」

「ナーちゃんが? いつ頃っすか?」

「…………ダメ。思い出せないわ。覚えてないんだから大したことじゃないはずよ」

「ナーベラルはモモン様のパートナーを務めている。クレマンティーヌはモモン様が連れてきたのだから、ナーベラルが知っていても不思議じゃない」

「ふーん」

 

 ルプスレギナは、自分から聞いておきながら反応が薄い。聞いてみただけで大して興味はないようだ。

 姉より頭を使えるソリュシャンが続けて訊いた。

 

「人間のようですね?」

「はい。そうです。にんげんです」

「人間の子供を、モモン様がわざわざお連れになった? それにモモン様がアインズ様だと知っているわけですね?」

「クレマンティーヌの前で、モモン様はヘルムをお脱ぎになったよ。前から知ってたんだろうな。ああ、リファラとキャレットは仕事に戻ってくれ」

 

 二人合わせて白金のメイドは、メイド教官のお仕事をこなしながら見習いメイドたちを駆使して広いお屋敷の維持管理を担っているのだ。

 もう一人の黒いシェーダはソリュシャンの専従なのでこの場に残る。

 

「私が留意しておくことは何かございますでしょうか?」

「敷地の外に出さないようにしろ。アインズ様からのご命令だ」

「かしこまりました。警護の者たちへ周知しておきます」

 

 わきまえているミラは余計な事を訊かない。

 

「かってにでていったりしません。だいじょうぶです」

「それは良かった。皆が余計な仕事をしなくて済みそうだ」

「……それでは周知しなくてもよろしいのでしょうか?」

「余計な仕事って言うのは、外に出そうなクレマンティーヌを捕まえることだ。周知はちゃんとしておいてくれ」

「差し出がましい事を申しました! すぐに周知して参ります!」

「あっ」

 

 という間にミラは飛び出て行った。

 

「……ほんとうにだいじょうぶですよ?」

「それは良かった。俺がいつまでクレマンティーヌを預かるのか知らないが、余計な仕事が増えないのはいい事だからな」

「…………そうですね」

 

 若旦那様は健気さを見せる幼女に取り合わない。

 期待をするのと有事に備えるのは両立する。

 

 そんなに簡単にいくわけがないかと、クレマンティーヌは内心で毒づいた。

 そうして気を張らないと、変な笑いが出てきそうだった。

 

 まず、お嬢様と紹介されたソリュシャン。人間なのかと訊いてきた。人間ではないものが多いような言い方だ。本人もそうなのだろう。

 そのソリュシャンをソーちゃんと愛称で呼ぶ神官のルプスレギナ。暫定で人間ではないソリュシャンと同等のような口の利き方。

 この場にはいないナーベラルは、モモンのパートナーであるナーベの名前らしい。ナーベが偽名だとしたら安直すぎる。そのナーベは、自分がモモンと戦っていたあの夜に、スケリトル・ドラゴンを相手取っていたはず。

 スケリトル・ドラゴンは骨の竜。竜だけあって巨体で、魔法に絶対耐性を持つ。魔法詠唱者であるナーベには天敵だったはずなのに、ナーベは今日も無事でいる。スケリトル・ドラゴンを下せる魔法詠唱者が真っ当な人間なわけがない。

 そんな三者の共通点として、タイプこそ違えど三人とも絶世の美女だ。

 クレマンティーヌは、昨夜会ったアルベドを除くと三人ほどの美女を見たことがない。美貌を謳われる王国の黄金とローブルの至宝と比べてどうなのだろう。並べても見劣りするどころか、あちらが引き立て役になりそうな存在感がある。

 一人でも稀な美貌が幾人も揃っている。偶然でなければ必然だ。

 

 三人のメイドはわからない。が、人間のように見えておそらく違う。こんなに顔が似通った美女が揃うわけがない。三つ子だとしたら髪の色が違いすぎる。

 さっき部屋を飛び出た女はあからさまに吸血鬼だった。

 どれも見た目は華やかなのに、人間率が低すぎる。

 

「アインズ様は良いように育てろと仰せだった。クレマンティーヌの経歴を知る必要がないって事は知らなくていいって事だ」

 

 お嬢様と赤毛の神官が幼女を見る目は胡乱である。

 クレマンティーヌの素性を測りかね、どう扱えばいいものか思案している。

 

 誰も気付いていないが、クレマンティーヌにとってとても幸運な勘違いが起きていた。

 この場にいる者たちは、クレマンティーヌを連れてきたのがアインズであることを重要視している。人間の子供とは言え、アインズが直々に連れてきたのだ。経歴を探らないようにと念押しした上で。アインズはクレマンティーヌを重要な何かだと捉えているのだと察せられる。

 が、真逆である。アインズが直々に足を運んだのは、若旦那様に顔を見せるためだ。先日の理論武装の件で苦労を掛けた労いである。クレマンティーヌがおまけなのだ。

 アインズがクレマンティーヌの存在を思い出し、生き返らせて情報を抜いたところで、クレマンティーヌは不要となった。有効活用しようにも、モモンを手こずらせる程度の力量では用途が限られる。いてもいなくても構わない。

 そんなクレマンティーヌの力を封じた上でお屋敷に連れてきたのは、ラキュースの考えをあれだけ変えさせた男ならクレマンティーヌもどうにかなるかも知れないと考えたのもある。男が暇そうだったので暇つぶしの玩具提供の意味もある。割と大きな理由は、子供にしたクレマンティーヌの驚く顔が見たかったからだ。

 モモンと敵対していた時のクレマンティーヌは随分と小憎たらしい態度を取った。言わばささやかな意趣返しである。

 

 アインズは若旦那様を気にかけての訪問だったが、そういう心遣いがよくわからない男である。気遣いのアインズ様がわざわざ口にすることはなく、受け取る当人が理解不能である以上、重視されているのはクレマンティーヌだと判断された。

 判断したのは若旦那様自身であり、その若旦那様がそのつもりでクレマンティーヌを紹介するのだから、皆もそのように思うしかない。

 

 無論、アルベドはわかっていた。アインズが気晴らしにこの男と話すことがあるとは聞いていた話だ。クレマンティーヌの存在が重要なわけがないとわかっている。

 わかっていたのだが馬鹿な男が馬鹿な事を言ったために荒れに荒れ、その夜は夜通し乱れに乱れて貪り続け、双方が限界を迎えるまでいったところで爽やかな朝を迎えた。

 クレマンティーヌの事を脳裏から追い出したアルベドはいつも通りである。

 

「アインズ様がモモン様として連れてきたわけだが、クレマンティーヌがアインズ様の隠し子ってわけじゃない。特別に気に掛けることはないだろう」

 

 食堂の空気が凍り付いた。

 皆、ぎょっとして男を見る。得体の知れない怪物を見る目だ。

 ソリュシャンが勇気を振り絞った。

 

「あの……お兄様? まさかその事を…………。アルベド様にお話になってはいませんよね?」

「昨夜はアルベド様も同席された」

「なんてことを…………」

 

 ソリュシャンは頭を抱えた。ルプスレギナも頭を抱えた。シェーダは瞑目し、心の目で窓の向こうを眺めた。

 

「言っておくけどな。俺に話すつもりはなかったんだ。アインズ様がいいから言えと仰ったから止む無く」

 

 本人はそう言い張っても、思ったことが顔に出過ぎた時点で駄目である。

 

「すっごく聞きたくないっすけど。それ聞いてアルベド様はどうしちゃったんすか?」

「アインズ様は口外厳禁と言い渡された」

 

 口外不要であるなら、喋ったとしても注意で済む。それが口外厳禁になると、喋ったが最後重大なペナルティが発生する。

 ナザリックにて序列第一位と第二位があんな無様を晒した事を吹聴されては堪らない。当然の処置である。

 

「クレマンティーヌも昨夜の事は絶対に話さないように」

「わかってます!」

 

 クレマンティーヌの中で、アルベドは絶対に逆らってはいけない怒らせてはいけない暫定1位になった。

 あれは凄まじく物凄い迫力だった。あれは法国のアンチクショウより上かも知れない。勝つとか負けるとか逃げるとか以前に、絶対に敵対してはいけない存在だ。

 そのアルベドを、あのお骨は言葉で諫めていた。本当は凄いお骨様なのかもと改めて感じた。

 

「ああ……お兄様は本当にいつまで経ってもお兄様で……」

「げ」

 

 男が呻く。

 クレマンティーヌは釣られて男の見るものを見て、目を剥いた。

 

 痴女だ。痴女がいる。

 

 ちょっと目を離した隙に、お嬢様がドレスを全て脱ぎ捨てていた。上乳見せドレスで見せつけているように、やっぱりおっぱいが凄く大きい。

 自分の平坦な体を見下ろし、ない胸が僅かに痛んだ。

 

「待てソリュシャン! こんな所でそんな恰好になってどうするつもりだ。今日も忙しいんだぞ!」

「イソガシイ? キョウモ? お兄様が? だとしてもご安心ください。私はお兄様を支えるだけですから」

「なんだその言い方は! まさか俺が暇をしてるとでも思ってるのか?」

「実際暇してるじゃないっすか」

 

 男の正面から抱き着いたソリュシャンは、愛しい男の体を自分へ僅かに癒着させながらするりと背中に回る。

 さわさわと男が着るシャツのボタンを外し、めくりあげた。細身に見えて、しなやかに鍛え上げられた割れた腹筋が現れる。

 ルプスレギナは男の前に立ち、右手で拳を作ると大きく後ろに引く。

 

「どうかご理解ください。私は本当にこんな事をしたくないんです。でもこのままにしておいては、私たちがアルベド様からお叱りを受けてしまいます」

「ほんとーに何で言っちゃうんすかねー? 不味いってわからなかったんすか?」

「だから話すつもりはなかったって言っただろうが!」

「それでも、っすよ。ま、ちょっとくらいなら成長を認めてやってもいいっすけど、話しちゃった時点でダメダメっすよ」

「アインズ様のお言葉だったんだぞ?」

「でしたら、アインズ様だけにお聞かせすれば良かったのです。事情があるなら、アインズ様は耳打ちする無礼をお許し下さったのではないでしょうか?」

「その手があったか……!」

「なんで気付かないんすか」

 

 相変わらずデリカシーに乏しい男だった。

 発言を躊躇した事から成長が認められなくもないが、ダメなものはダメである。体に教え込まなければならない。

 ボッグハッ!

 貫通属性のルプーブロー。肘まで行った。

 

 拳は背中から出てるはずなのに、男と密着しているソリュシャンは痛がる様子を見せない。クレマンティーヌの推察通り、人間ではない事が確定した。

 

 その後、ルプスレギナが回復魔法を掛けて大穴を塞ぎ、ソリュシャンが男の衣服を直す。めくったおかけで服に穴は空いてない。

 ソリュシャンがくっついたのは、食堂に飛び散らせないためである。

 男はしみじみと言った。

 

「……朝食取ったばかりだってのに、もう一度か」

 

 朝食は体の一部と共にルプーブローで吹き飛ばされ、ソリュシャンに吸収されてしまったのだ。

 

 瀕死から復活して第一声がそれなのかと、クレマンティーヌはこいつもやっぱり人間じゃなかったと確信した。




字数短めがしばらく続くような気がします
迷走しながらあちこちにぶつかってうっすら道が見えてきたような気がしないでもないです
Cl編が何話続くかはわかりません
wって打つと予測変換でWパイズリが出てきて面喰います


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悪魔の罠の攻略法

本話12kちょい


 クレマンティーヌは幼女である。年の頃は帝都に置いてきた双子幼女よりも上。背格好はアウラよりちょっと大きい。でも幼女である。アウラも幼女かも知れないが色々大人な部分があったりするのできっと幼女ではないはずだ。

 ウレイリカとクーデリカと違って、クレマンティーヌは働く必要はない。子供はよく食べてよく寝たら、よく学んでよく遊ぶのが仕事である。

 クレマンティーヌにお勉強が待っていた。

 

 

 

 

 

 

 アインズ様はクレマンティーヌについて「適正を見定めて育てよ」と仰せになった。しかし、会ったばかりで適正も何もわからない。よって、教育をしておいても損はないこと、普遍的なこと。読み書き計算から始まることになった。

 

 教室は書斎。先生は若旦那様。まずは現地語の読み書きからである。

 書見台に乗る本は、近隣に広く伝わる説話集。以前、若旦那様が要約してアインズ様に提出した本の一冊だ。

 若旦那様が本の中身を朗読し、続けてクレマンティーヌに読ませ、書き取らせる。と言ってもいきなりは出来ないと思われるので、一字ごとに文字の発音と形を教える。クレマンティーヌはとても覚えがよく、引っかかることなくページが進む。これなら文字の一覧表を用意せずとも、読み書きの習得は問題はなさそうだった。

 

 クレマンティーヌは幼女に見えて、中身は成人女性なのだから当然だ。しかも、法国にいた頃はエリートと云って差し支えない立場だった。神聖語こと日本語の読み書きも、表音文字までなら何とかなる。

 授業内容が日本語の読み書きに移行しても当分は問題ない。

 しかし、初日から音を上げそうだった。

 

「あの……、恥ずかしいんですけど?」

「字を書き難いわけじゃないだろう? ちゃんと書けてる。次のページに行くか、それとも今のページをもう一度書き写すか、どっちがいい?」

「……………………次のページをお願いします」

 

 男が本のページを捲り、内容を朗読する。続いてクレマンティーヌが同じように朗読し、本の中身をノートに書き写す。

 

 このノート、上質紙を何枚も重ねて細い紐で閉じ、冊子状にしたものだ。クレマンティーヌは割と驚かされた。

 法国でも帝国でもその他でも、製紙技術が未熟だ。こんなにも白くて薄くて丈夫な紙を作るのは不可能である。それを子供の落書きに消費させるのだから、魔導国の技術が如何に高いかを物語っているというもの。

 

 余談だが、帝都で売り始めた美容品の偽造防止にも紙が使われている。美容品が入った瓶の蓋を、細長い紙で封をするのだ。紙には接着剤を浸透させ固まらせる。紙を剥がそうにも固まっているので不可能。開封時には必ず紙が割れる。よって、押印された紙できちんと封をされている事が、純正品の証となる。瓶だけ回収して中身を詰め替えても、紙で封がしてなければ一発で偽造品と露見する。

 瓶の封印を監督するのはカルカの重要な仕事の一つである。

 

 帝都では今日も美容品の瓶詰めが行われていることだろう。

 カルカは紙をペタペタ貼るだけだが、こちらでは一生懸命にペンを走らせなければならない。書斎で紙面に向かっているのは、クレマンティーヌだけではなかった。

 クレマンティーヌ以外の二人は手元から顔を上げ、お勉強している二人を睨めつけた。

 

「二人ともさっき渡したのはもう終わったのか? 前回の経験のおかげかな。前と比べれば大分早い。まだまだいっぱいあるから頼りにしてるよ」

 

 若旦那様がペンから手を離すと、傍らに立つミラがすぐさま紙面を押さえる文鎮を持ち上げる。

 若旦那様の指先が紙面の端を弾けば、紙はくるくる回りながらデスクを滑り、離陸して、しばし滞空すると離れた位置にあるローテーブルに着陸して尚も滑り、途中で二つに別れて二人の前でピタリと止まった。

 どちらの紙も二人に対して正方向。無駄に冴えてる技である。

 

「アインズ様のご要望は可及的速やかに、だ」

「……わかっております」

「この前より少ないっすよね?」

「ざっと十分の一だから安心しろ」

「……前のは寝ずに一ヶ月コースだったんすけど」

「なんだ。それならたった三日で終わるじゃないか」

 

 軽く言ってくれた言葉に、ルプスレギナはイラッと来る。

 ソリュシャンは姉を目で制し、清書作業を再開した。

 

 二人が清書しているのは、若旦那様が作った帝国貴族の資料である。無論、前回とは違う。前回の資料は詳細極まる一次資料だった。今回のはそれを要約したものだ。

 一次資料は余りに量が多く、アインズ様から千分の一に要約しろと言われてしまった。しかし、数千枚、万に届きそうな資料を数枚にまとめるのは不可能。よって、段階を踏む必要があった。

 まずは資料の圧縮。

 少貴族は属する派閥にまとめて数を減らし、図やグラフを多用して文字情報を極力削除。基礎資料改は前回の十分の一ほどになった。

 次に、それらから読み取れる情報を箇条書き。ジルクニフをキレさせかけた帝国の最大兵員数や継戦能力に工業技術の度合いとそれらの生産能力などである。ここだけなら数枚に抑えることが可能だった。

 最後に、箇条書きした情報の根拠をまとめたもの。これらは一項目に付き数ページから十数ページ。量的には基礎資料改の一割強。

 合計して一千ページを少し超えるくらいの量となった。

 

 若旦那様は先日帝都でアインズ様とお会いした折に、あれはどうなってると催促されてしまったのだ。

 アインズ様に催促されては急がないわけにはいかない。早速資料を作って、翻訳係であるソリュシャンとルプスレギナに清書してもらっているのだ。

 

 なお、本当なら基礎資料改は不要である。あれば読みやすいのは間違いないが、なくても問題ない。情報を要約したものにはそれぞれ引用元を記入してあるので、詳細な情報を求める場合にはそちらをあたってもらえば良いだけだ。

 それでもあえて基礎資料改を作ったのは、二人への意趣返しである。

 

 ここのところずっと、アルベド様の安全をどうやって確保すべきかと考え続けていた。それを二人して「暇している」と言ってきたのだ。カッチーンと来た。

 アインズ様と違って器が小さければ度量は狭い男である。だったらわかりやすく忙しくしてやろうと、二人には資料作りを頑張らせることにしたのだ。

 

「クレマンティーヌは見なくていいことだ」

「……見てもわかりません」

「だったらこっちはこっちで進めていこう。また俺が読むから聞いてるように」

「はい、わかりました。……んっ…………。あ、なんでもないです読んでください!」

 

 若旦那様は右手でペンを走らせる。書きなぐる紙面は見てもいない。片手で書いても、紙は文鎮で押さえているのでずれたりしない。書き終えるとミラが文鎮を外し、出来上がった書類を性悪姉妹の元に届ける。

 左手は読み聞かせ再開の合図のつもりで、クレマンティーヌを抱え直した。

 

 若旦那様は、昨日の夜と同じように、クレマンティーヌを膝上に乗せて読み聞かせをしつつ帝国の資料を作っていた。左腕では、クレマンティーヌの小さな体を抱えている。

 性悪姉妹が睨んでいたのは、若旦那様に抱っこされるクレマンティーヌが妬ましかったからだ。二人から睨まれるクレマンティーヌは、堪ったものではなかった。

 

(こいつ昨日といい今日といい私にベタベタしてくれちゃって、幼女趣味の変態ってわけじゃないよね? もしもそーだったらどーしよ。こんな体で絶対ムリだから! つーか男のくせにいやに良い匂いさせてるのは何? タコさんのお友達? 見た目はいいけどもしかして中身はあんなん? だったら最悪なんだけど! …………チッ、また見られてる。お前ら仕事しろよ! お骨様からの命令なんでしょーが!)

 

 人間でないものから敵意を含む視線を向けられるのは精神的にきつい。

 人間だとしても、あれだけの美女が睨むと凄い迫力でやっぱりきつい。

 そのせいで、いやに体が熱くなっている。体がしっとりと汗ばんでいるのを自覚する。

 上は通気性が良い丈の短いシャツなのでいいが、下は膝まであるスカートなので中がじわりと蒸れている。太ももを擦り合わせれば明らかな水気があった。汗の臭いをさせやしないかと気になってしまう。

 

「そこ、書いてる字が違うぞ」

「あっ!? ごめんなさい!」

「字自体は違ってもちゃんと書けてるな。読み書きは問題ないようだが……、折角だしこの本は全部写すか」

「……はい」

「「…………」」

 

 やはり姉妹はじっと見てくる。

 クレマンティーヌは、とっくに習得してる読み書きで何度も書き間違えるのは、二人が見ているせいだと思うことにした。

 

 

 長時間作業を続けると段々と能率が落ちてくる。

 一旦休憩を入れ、授業再開。

 但し、読み書き練習をずっと続けても飽きる。クレマンティーヌとしてはぬるい授業なのでずっと続けてもらってもいいが、若旦那様は飽きるだろうと判断した。

 一休みの後は運動の時間だ。まだまだ発育途上のクレマンティーヌには、机に向かうばかりではなく、適切な運動をさせなければならない。

 体育の監督にはルプスレギナが手を上げた。

 

「ほらほら、全力で走らないと大変なことになるっすよー」

「クソクソクソーーッ!! こっち来んなーーーーーーっ!!!!」

「ガオータベチャウゾー」

 

 運動はお外の演習場。若旦那様が時々カタナブレイドで遊ぶ場所だ。

 そこでは、クレマンティーヌとビーストマンのケムキチが鬼ごっこをしていた。

 普通にするとケムキチが圧勝して当たり前なので、ハンディキャップ付き。足の指を左右一本ずつ、ルプスレギナがペキリとやった。ケムキチは痛みに耐えながらクレマンティーヌを追いかけなければならない。見事捕まえたらご褒美に腕一本である。クレマンティーヌの腕である。腕が取れても回復魔法で元通り。

 

 クレマンティーヌは必死に走った。

 クレマンティーヌは、法国の最強特殊部隊漆黒聖典の第九席次だった。本来の武装がなくとも、ビーストマンの十や二十はなんの問題なく処理できる。

 しかし今は無力な幼女。ビーストマンに捕まったら最後、抵抗する術なくむしゃむしゃされてしまう。

 

「あーいい顔っすねー。チビちゃんがずっとそんな顔してくれてたらちょっとは好きになれそうっす」

 

 クレマンティーヌにはルプスレギナを睨むどころか悪態をつく余裕もない。

 拷問や虐待には元々の所属柄そこそこの耐性があるつもりでも、好き好んで腕を食わせる趣味はない。食べるのが、数が多いだけのけむくじゃらとしか思ってなかったビーストマンとでもなれば尚更だ。

 

 走りながら咄嗟に首をすくめると、頭の上で豪快な風切り音が鳴る。

 

「ほとんど距離がなくなったっすね。チビちゃんちびだからケムキチだとちょっち捕まえづらいっすかね?」

 

 人より巨体なビーストマンの中でも体格に優れていたケムキチに対し、クレマンティーヌは幼女だ。頭の高さはケムキチの腰くらいしかない。追いかけるだけなら兎も角、捕まえるのは少々面倒だ

 

 クレマンティーヌは直感頼りに前へ飛ぶ。直感は出鱈目や当てずっぽうではない。膨大な経験から一瞬で引き出した最適解である。

 

「おお?」

 

 ルプスレギナはちょっとだけ感心した。

 

 クレマンティーヌは地面の上を転がって距離をとったはいいが、脚は止まった。

 ケムキチは足を庇いつつ、けども大股で幼女との距離を数歩で詰め、長く鋭い爪を振り下ろそうとして、

 

「ってーーーーーーーーーっ!?」

 

 転げながら方向転換したクレマンティーヌに、折れた足の指を叩かれた。

 

 ケムキチがもんどり打ってる間に、クレマンティーヌは十分な距離を取って荒れた呼吸を落ち着かせようと努めた。

 体中から滝のような汗が流れてる。頭からも額からもとめどなく流れ、目に入って痛んだ。

 吐く息は熱く、喉が焼けるようだ。

 立っているのも辛くなり、体を折って両手を両膝についた。

 息を整えようにも心臓が荒れ狂う一方だ。

 

(やば……)

 

 と思ったときには視界が暗くなっていた。

 

「ありゃ?」

 

 体力がない幼女が、炎天下で全力疾走を続ければこうなる。

 クレマンティーヌがパタリと倒れたのを見て、ルプスレギナはポリポリと頭を掻いた。

 とりあえず、クレマンティーヌを捕まえられなかったケムキチにはお仕置きである。ポキリポキリとやって、夜ご飯の時間になったら治してやった。

 

 ハード過ぎる体育の授業は、クレマンティーヌとケムキチにとって不幸なことに毎日続けられることになった。

 あれだけ動けば翌日は筋肉痛になるし、ポキポキやられれば数週間から数カ月は動けなくなる。

 そこで便利な回復魔法。寝不足解消から重傷の完治まで何でも来いである。

 

 

 

 

 

 

 遊びの時間は自由時間。

 クレマンティーヌは、屋敷内と敷地内のあちこちを散策する権利を得られた。但し、立ち入り厳禁の場所が幾つかある。アルベド様のお部屋がその筆頭だ。クレマンティーヌは絶対に近付かないことを誓った。

 

 当初の予定では、自由になる時間を利用して自由になる算段をつける予定だった。

 が、体育の授業で色々なものが削られて体力がなければ気力もない。与えられた一人部屋でぐったりしていると、いつの間にか日が暮れている。

 たっぷりのお昼寝で体力は回復しているはずなのに、気力が湧いてこない。数日過ごしただけで、ここから逃げるのは不可能ではないかと思い始めていた。屋敷の警護をかわす方法が全く思いつかないのだ。

 

 どうして伝説のアンデッドが何体も並んでいるのか。

 

 幾年か前にカッツェ平野で発生し、帝国兵に多大な損害を与えたという話を法国にいた頃に聞いていた。帝国の魔法狂が支配しようとして叶わなかったとか。

 そんな伝説レベルのアンデッドらしいデスナイトがずらりとしている。幼女になる前だったら容易く振り切れたろうし、一体や二体だったら相手取ることも出来たはず。今は叶わない話だ。

 それにミラと呼ばれた吸血鬼から、見えないところにも多数の警護を配置しているので絶対におかしな真似を考えないように、と釘を刺された。

 

 一人でこっそり抜け出すのが不可能なら、誰かの手を借りるしかない。

 しかし、これも難しい。

 住み込みや通いのメイドに使用人たちと話す機会があっても、あてにはならない。何気なく一緒に敷地から出ようとしたらあっさりと警護に止められ、上に話が行った。その時は話に夢中になって気が付かなかったと言い訳できたが、二度以降は無理だろう。同じことを繰り返したら何かしらの罰がありそうだ。

 そのメイドたちの中で王国の蒼薔薇に似た女を見たが、幾らなんでも王国のアダマンタイト冒険者がメイドをやってるわけがない。他人の空似と思うことにした。

 

 広い自室に私物は少ない。

 少々の着替えと、語学の練習ノートが数冊。それだけだ。花の一輪もない。

 殺風景過ぎる部屋を眺めていると心が荒んでくる。お前には何もないと言われているようだ。

 せめて窓の外を眺めようにも、日は落ちていた。

 壁のこちら側で青白い燐光が幾つか見えるのは、アンデッドたちの眼光か得体の知れない化け物たちか。見ているだけで滅入ってくる。

 

「はあ……」

 

 気分は落ちていても、体は欲求を覚えるようだ。お腹が減っていた。そう言えば夕食を取っていなかったのを思い出す。

 化け物ばかりで毎日死にものぐるいで走らされても、食事がとても美味しいのは数少ない美点だ。

 厨房で何かを摘ませてもらおうと、部屋を出た。

 

「…………? なにこれ? 音楽?」

 

 部屋を出て、数歩と歩かないうちに気がついた。

 どこかで耳に心地よい音が鳴っている。国を捨ててから久しく聴いていなかった音楽だ。聴いたことがない旋律。

 疲れと諦念が聞かせる幻聴ではなさそうだ。その証拠に、音に誘われて進むに連れ大きくなってくる。

 音の出どころは、自室の次によく来ているところ。

 いつもは閉まっているドアが少しだけ開いている。そっと開き、覗いてみた。吸血鬼がいた。

 

 

 

 ミラは、ドアの隙間に幼女の顔を認めると眉根を寄せた。が、出て行けとも入れとも言えない。ご主人様が演奏中である。演奏の邪魔をするなんて以ての外だ。幼女へは唇の前に人差し指を立て、静かにするよう伝えた。

 それをどう受け取ったものか、幼女は静かにドアを開けて、忍び足で中に入ってきた。幼女はぽおっとした目でギターを弾くご主人様を眺める。ギターの音色に心を絡めとられて自分を忘れてしまったようだ。ミラ自身も何度もそうなったからよくわかる。

 

 曲のテンポは速く軽やかだ。

 華やかさには乏しく、どちらかと言えば静かな雰囲気である。それはけしてメロディがない事を意味せず、静けさの中に情熱を秘めているようにも聞こえた。

 曲目は大聖堂。

 以前、セシルが男へ話した初心者向けの曲、の続きである。

 セシルが初心者向けとしたのは、「LA cathedral Preludio(プレリュード)」。男が今弾いているのは「LA cathedral Allegretto(アレグレット)」である。

 

 セシルが男へ一番初めに教えた曲はレイエンダ。これもテンポが速く、物静かで荘厳な印象を与える。

 レイエンダが好きなセシルなら大聖堂も好きだろうと思った男は、次にナザリックを訪問した時に聞かせようと考えた。そのために練習をしているところである。最近は忙しくて遠ざかっていたので、少し鈍っているのを修正しなければならない。

 譜面を読み込み記憶の宮殿で何度も練習し、実際に弾いても通しで弾けるようになった。次は音楽記号に注意して弾く。叶うならば何度も弾いて自分なりに曲を解釈して弾きたいところではあるが、自分の耳が信じきれない男なのでそこまでは踏み込めない。そこに至る前に、通しで弾いて十分聞ける音と思うので満足してしまう。これ以上を望むなら、それこそセシルの指導が必要だろう。

 

 大聖堂のアレグレットを弾き終えてしばし瞑目する。

 目を閉じたまま、今度は大聖堂のプレリュードをゆったりと弾き始め、プレリュードの余韻を残しながら情緒的なAndante(アンダンテ)に移り、最後にもう一度アレグレット。

 どれも短い曲なので、三曲全部弾いても十分と掛からない。

 ふぅとこみ上げてきた情熱を逃がし、目を開けて前を向けば、ミラは弾き始める前と同じ位置に。ドアの隣にはクレマンティーヌがいた。

 

 クレマンティーヌは昼食後の体育の後、ぶっ倒れるように寝てしまった。

 夕食を取ったか聞いてみれば、まだであるらしい。折角なので男も軽食を取ることにした。しかしギターの練習中。こんな時に活躍するのがシズちゃん専用甘々ドリンク。

 机の引き出しから一つ取り出し、付属のストローを刺してちゅうと吸った。

 

「食事がまだならこれでも飲むといい。後で食事を取りたいならほんの一口だけにしておくように」

「え。あの……はい……」

 

 男は手にしている飲み物をクレマンティーヌに差し出した。クレマンティーヌは、立場的に受け取らざるを得ない。ということは飲まなければならない。男が口を付けたものを。

 そんな事で恥ずかしがる年かと自嘲し、ストローに口を付けた。言われた通りに一口だけ。

 

「美味しいけど、すごく甘いです」

「それ一本飲むと一日食事をしなくても大丈夫だ」

「…………そんな飲み物を夕食の後で飲んで平気なんですか?」

「困った事はないな」

 

 クレマンティーヌの目から見て、男には無駄な肉がついているようには見えない。この前見てしまったお腹は、腹筋が見事に割れていた。

 

 男はクレマンティーヌから返されたドリンクを飲み干し、空になったカップをミラへ投げ渡す。

 簡易なくせしてインパクト抜群の軽食を終え、練習を再開しようとしてふと思った。

 食事がまだと言うクレマンティーヌがこの場に残るのは、ギターを聞きたいからだろう。聞かせるのは吝かではない。むしろ歓迎する。それよりも弾かせるのはどうだろうか。

 授業を終えた後のクレマンティーヌはいつもぐったりとして、楽しみの一つもないように思えたのだ。年の割に落ち着いているようでも、勉強と走るだけの毎日はつまらないに決まってる。そこでギターを覚えれば生活に彩りが出る事間違いなし。ギター仲間を作りたかったとも言う。

 ソリュシャンとルプスレギナは論外。聞く専門で弾くことは想像の外であるらしい。ミラは恐れ多い事ですと固辞してばかり。メイドたちに覚えさせるわけには行かず、お忙しいアルベド様には聞いて頂くだけで十分だ。

 消極的選択として、クレマンティーヌしか残らなかった。

 

「クレマンティーヌも弾いてみるか?」

「「えっ?」」

「ミラも触るだけ触ってみろ。折角二本あるんだから、持って構えるくらいいいだろう?」

「私も、でございますか?」

「とりあえず座れ」

 

 男は強引にミラの手を取り、椅子へ突き飛ばした。

 あうあうして目を白黒させるミラをよそに足台をセット。手にしたギターを押し付けた。

 

「南のソナチネの最初のコードなら何度も見てたな? そこだけでいいから弾いてみろ」

「え、ええと……」

「コードはこことここだ」

「そういうわけでは…………わかりました……」

 

 ミラは左足を足台に乗せ、ギターのボディを左太ももに乗せた。

 夜なのでヴァンパイア・ブライドお仕着せのエロ衣装。上半身はあれでも下半身は一見ロングスカート。深いスリットはひとまず置いておく。白いロングスカートでクラシックギターを構えるのは、正規の演奏会であるような品があった。

 

 ご主人様から何と言われても、ギターを弾くことを固辞してきたミラである。自分ではあんなにも繊細な演奏が出来るわけがないとわかっていたからだ。出来もしない事に手を出すのは無駄である。だが、憧れはあった。せめてギターに触れるくらいなら、構えるくらいなら、弦を掻いて音を出すくらいなら。

 演奏は出来なくても、音を出すのは弦を弾くだけでいい。しかし、ご主人様がとても大切にしているギターを、ものの試しでちょっと触らせてくださいと言えるわけがない。

 だけれども!

 ご主人様から無理やり押し付けられて鳴らすだけなら拒否する方が失礼である。

 内心で憧れていた事が形になろうとして、ミラの胸は高鳴ってきた。

 ドレスグローブを嵌めた左手で、言われた通りのフレットを押さえる。右手はサウンドホールの上で親指を突き出した。

 

「それでは……最初のコードだけを鳴らさせていただきます」

 

 ミラは緩みそうになる口元を引き締め、上から下へと親指を振り下ろした。

 

 バチバチバチチン!!

 

「「「…………………………」」」

 

 破裂音を響かせ、六弦から一弦までの全てが一発で切断された。

 

 ヴァンパイア・ブライドの爪はメインウェポン。とっても鋭いのだ。日常生活に不便はないので、爪を使うと意識すると鋭くなるらしい。

 

「………………」

 

 ミラは、すっと表情を消した。

 椅子から立ち上がり、全ての弦が切断されたギターを慎重な手つきで椅子の座面に乗せ、背もたれに立てかける。左手の薬指を抓みながらドレスグローブを外すと、丁寧に畳んでギターの裏に置いた。

 スカートの裾を払い、乱れぬよう手で押さえながら膝を折る。そのまま床に両膝をついた。普通の正座と違うのは、何故か両手を背中に回し、腰のあたりで手首を交差させているところ。

 そして、勢いよく頭を前に振った。長い黒髪が前に流れた。

 額が床に触れるまで頭を下げたので、普段は隠れている白いうなじがさらけ出される。

 

 クレマンティーヌには、何のポーズだかよくわかった。

 

「どうか……、ご主人様の手で、私の罪を雪いで頂きますことを。……お願いいたします」

 

 若旦那様は、はあとため息を吐いてこう言った。

 

「どうしてお前はすぐに死のうとするんだ。アインズ様だって死ぬなと仰ったんだぞ? 弦は張り替えれば済む。アトリエに予備があるから取って来てくれ。ついでにスペアのギターも」

「ただちに!」

「走るな!」

 

 男の声が聞こえたのかどうか、ミラは書斎から飛び出ていった。

 クレマンティーヌは、あの吸血鬼は結構間抜けだと思った。

 

「……クレマンティーヌなら、ギターを弾いても弦が切れる事はないだろう」

「普通は切れないですよね」

「普通はな」

 

 弦の張り替えはミラが戻ってくるまで後回し。男は本棚の一画に手を伸ばした。

 ミラにギターを教えるのは無理そうでも、クレマンティーヌはこれからだ。折角なので基礎から教えることにする。

 構え方、弾き方、メンテナンスなどは頭に入っている。基礎練習や様々なコードも把握済み。しかし、基礎練習だけでは絶対に飽きる。

 自分がギターに惹かれたのは、南のソナチネを是非にも弾きたいと思ったからだ。目標があったからこそ始められた。練習にも飽きなかった。飽きないためには、目標とする曲があった方が良い。

 初心者向けの曲も頭に入っているが、クレマンティーヌにずっと付きっきりで教えるのも難しい。曲を譜面に落とすのも面倒だ。

 だったら、既に譜面になっている曲から探せばいい。

 セシルから渡された譜面の中に、初心者向けの曲が一つや二つはあるだろう。

 

 ずっと楽しみにとっておいた譜面をこんな機会に開くことになるのは何だかおかしい、と男は軽く笑った。

 物事は切っ掛けがないと中々前に進まないものなのだと実感する。

 

「ご主人様、持って参りました」

「ああ、机の上にでも置いてくれ」

「はっ!」

 

 本棚に向かっているご主人様を邪魔しないよう、ミラは音を立てずにギターケースを机に乗せる。

 自分が弦を切断してしまったギターを見て壮絶な顔を見せつつも、ギターの裏に置いたドレスグローブを手に取って頬ずりをした。そもそもどうして左手だけドレスグローブをしているのか、クレマンティーヌには疑問だった。

 男はペラペラと譜面をめくる。最後のページまでめくると、無言で本棚に戻し、別の譜面を手に取った。

 今度は猛烈な勢いでページを繰っている。左手だけを上げ、何度か指を折り曲げた。

 

「はっ!」

 

 以心伝心、ミラはさっとご主人様の傍らへ。隣に立つなり、譜面を手渡された。

 男は次の譜面を読み始め、読み終えると本棚に戻す手間を惜しみ、ミラに持たせる。

 次の譜面も同じ。その次の譜面も同じ。

 男が譜面を読み進むにつれ、表情が強張っていくのを、ミラは見ていた。

 

「なん・・・だ・・・、これは・・・!!」

 

 焦燥に駆られ、絶望を突き付けられたような声だった。セシルの罠がついに発動したのだ!

 

 男はミラが持ってきたギターをケースから取り出すと、音叉を鳴らして咥えて素早く調律。

 椅子に座る手間すら惜しみ、机の上に座って足を組んだ。

 ギターを構え、読み取った曲の一つを早速弾き始める。

 

 コードがじゃらんと響き、続く音は単音がポンポーンと鳴るだけだ。コード進行は理にかなっているので曲に聞こえなくもないが、単音が続くだけで酷く単純に聞こえる。

 続けて弾いた曲は、さっきの曲とコードもリズムも同じ。ただし、やはり単音が鳴り続けるだけで曲としては不完全である。

 

 不完全なのは当然の事。

 男が弾いた曲はどちらも同じ曲である。

 つまり、二つの曲を同時に弾かなければならない。いや、それは正確な表現ではない。

 ギター二本で弾く曲なのだ。

 

 クラシックギターは小さなオーケストラと言われるくらいで、表現力に優れ、独奏曲がとても多い。それと同時に合奏向けの楽器でもある。

 音量の関係で他の楽器と合わせることは少なくても、ギター同士を合わせる曲は幾らでもあるのだ。

 セシルが男に持たせた譜面は、どれも複数のギターで弾く曲ばかりだった。

 

 セシルが見るに、男はとてもクラシックギターにのめり込んでいた。食事も休憩も忘れるくらいなのだから余程のものだ。

 そこへ、一人では弾けない曲を提示されたらどうなるか。今の男の有様がよく物語っている。

 ちゃんと弾けて音が出せているのに、曲にはならない。

 至高の宝物がすぐそこに、手の届く場所にあるのに、絶対に手に取れない。狂おしいほどにもどかしく、体が捻じれてしまいそうだ

 狂おしさを解消するには、完成した曲を聞ければいい。しかし、一人では出来ない。

 

 男が記憶の宮殿に籠って幾らギターを掻き鳴らそうと、音はしないのだ。

 

 男は血走った目で、録音機器を作ることを真剣に考えた。

 音を記録する原理はかなり単純だ。音は空気の振動であり、それを目に見える形にするだけでよい。極論を言えば、空気の振動を受ける紙と、振動を描く針と、針に描かせる蝋があれば録音機ができる。

 が、再生が難しい。

 それでは音の記録と再生が出来るだけで、音量が小さいのだ。どうにかして増幅させなければならない。が、自分が知る技術だけでは不可能だ。

 だったら両方のギターパートを録音して、二つの再生機で再生すれば。と云うところまで考えて馬鹿々々しいと却下した。そんな事をするくらいだったら、ナザリックに行ってセシルを拝み倒して一緒に弾いてもらう方がいい。

 

 それこそがセシルの狙いであった。

 

 氷の悪魔は、男が音楽に向ける情熱を評価していた。

 技術を修得する早さも中々だ。好きなギター曲のレイエンダを弾きこなしてくれたことも評価出来る。見た目は、まあそれなりと認めている。

 そんな男を手に入れる手段があるのならば、使わない選択肢はない。

 オーケストラのヴァイオリニストであろうと悪魔は悪魔。ナザリックのシモベに相応しく、カルマは負に振れていた。

 

 男は夜の予定を考える。

 アルベド様は遅いお帰りの予定。よって夜はなくても、朝には必須。

 今夜はソリュシャンと考えて、昼にその事を話してあった。が、延期は可能。今日は三度絞られてるので、一回くらい飛ばしても大丈夫、のはず。

 ここからナザリックまでは、急げば一時間で着く。今から行って帰って朝に戻ってくることは十分可能。

 

「ミラ、これから……」

 

 本棚を背にし、幼女が暇そうに座っているのが目に付いた。

 

「これからナザリックに行って子供用のギターを用意してもらってこい。なければないでいい。その時はセシルさんに「あれは何なのか!」と聞いてこい。ギターが用意出来そうなら生成コストは」

 

 棚を開ければ公金貨の山が何列何行にも積んである。

 

「公金貨でも交換できると聞いた。とりあえず千枚。余ったら置いてきてもいい。ああ、楽団長に迷惑を掛けたから進呈してこい。急げ。走れ。明日の朝にまでは戻れ」

「は、はっ! かしこまりました!」

 

 ミラはずっしりと公金貨が詰まった袋を受け取ると、再びドアから飛び出ていった。

 これから自分の脚で、ナザリックまで行って帰ってこなければならない。とても大変だが、罰を求めていたのでちょうど良かったとも言える。

 

 男は、唖然としているクレマンティーヌの肩を優しく叩いた。

 

「クレマンティーヌにギターを教えよう。読み書きはもういいよな? 出来るんだろ? 計算は……、四則演算までは教えるか。ルプーの体育もほどほどでいい。あとはギターの練習だ。大丈夫。やれば出来る。出来るまでやらせるから大丈夫だ」

「…………はい」

 

 クレマンティーヌはギタリストになる事が決定した。




二本で弾く曲はGolden Dawn
クレマンティーヌはいつかAmberdawnとか弾くと思います

警戒と幼女のどっちかだけだったらさくっと行ってたでしょうが合わさると長くなるようです
Cl編はあと3~5話くらい、かも知れない、気がします、たぶん
二進も三進もいかなくなってどこにも行けなくなったルートはなくなったはずです、たぶん

年内に次の投稿が出来るか怪しいのでひとまず、よいお年を


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見つけた鍵

本話9kちょい


「なーんかあれっすよねーーー」

 

 ルプスレギナは書類仕事に飽きた。もといとっくに飽きてる。前回のように、男が趣味の範疇で始めた仕事なら投げ出していた。今回はアインズ様から催促されてしまったとかで、仕方なしに頑張っている。

 仕事量が前回の十分の一なのは何の慰めにもならない。寝ずに一か月が十分の一になっても、寝ずに丸三日だ。しかも、最大能率を常に発揮して三日である。

 いわゆるフルタイムで専念して丸一週間。休みなし、残業ありあり。

 普通に考えて能率は上がったり下がったりなので、そこを考慮すれば早くて十日。

 雑事や所用が混ざったりしてなんとか半月。

 

 若旦那様は三日で終わるとほざいてくれたが、常識的に考えればその五倍は掛かる量なのだ。

 イラっと来て八つ当たりしてしまうのは正当な行為である。

 

「音が出るだけならギターじゃなくて空き瓶でも叩いてりゃいーんじゃないっすか?」

「………………」

 

 クレマンティーヌの手がピタリと止まる。ギターのネックから上目遣いにルプスレギナへ視線を移す。

 一瞬だけギラリと光ったのを、ルプスレギナはにんまりと受け止めた。

 

 ギターを指導してる若旦那様はすぐ傍にいるのに、ルプスレギナの軽口を咎めることはなく、手が止まったクレマンティーヌを促すこともない。ルプスレギナには清書する書類の原本を渡してあるし、クレマンティーヌには課題を与えてある。後は進展があるかどこかで詰まるかするまで放置するつもりでいる。一応、クレマンティーヌのフォームは時々確認している。

 本人は寝椅子に寝転がって長い脚を投げ出し、ナザリックの最古図書館で借りた本を読んでいるところだ。

 読んでいるのはGMDH(グレードモンド・ダウンヒル)の外伝である。

 

 GMDHの外伝では、主人公のデスク・ドラゴニオは諸事情あって愛剣のティーゲルハッチが封印され、カタナブレイド以外の武器で戦う内容となっている。ストーリーは本編と全く同じ。悪逆非道のドラゴニオが極悪虐殺をし続ける。

 ちなみに外伝1巻の武器は徒手だった。

 

「おにーさんはあっという間にマスターしたのにおチビちゃんは全然っすね」

 

 クレマンティーヌは子供用ギターを構え、ドレミの練習をしていた。

 ギターにはドレミの位置に音階を示すシールが貼ってあり、チューニングや音階で多用する5フレットには線が引いてあってわかりやすい。ボディのカラーリングも子供らしくピンクである。

 

 先日、ナザリックまでダッシュで行ってきたミラが仕入れてきたギターである。生成コストは用立てた公金貨で足りたらしく、余ったものは楽団長に献上してきたとのこと。ちなみにコストは大人用ギターの三分の一。ナザリック的にはおもちゃである。

 ミラはセシルにも会うことが出来、「先日ご主人様がいただいた譜面は何だったのでしょうか?」と聞いたところ、「ギター用の譜面です」と真っすぐな答えがあったとか。

 セシルとしては譜面を見た男の反応を聞きたかったのだが、プライドが口を閉ざした。

 

「はっきり聞こえないし音もちっさいし、そんなんじゃギターが勿体ないっすよ」

「………………」

 

 大人用ギターだとクレマンティーヌの小さな体はボディで隠れてしまうが、子供用ギターは相応に小さく、きちんと構えることが出来ていた。ネックも握れるようだ。ミラと違って、爪で弦を弾いても切断することもない。音は出ている。が、きちんと出ているかと問われれば疑問符がついた。

 フレットの押さえ方が甘いので、音階がはっきりしないし音を出してもすぐに消えてしまう。右手の運指はたどたどしく、続けて音を出すことが出来ない。

 如何にもな初心者そのままだった。

 

「クレマンティーヌは俺じゃないんだからいいんだよ。今は基本の構え方が出来てればいい。ずっと触ってれば効率的な音の出し方がわかってくる。で、わかってないことを指摘しとくと、左手はフレットぎりぎりを押さえた方がいい。フレット自体には触れないように」

「……あっ」

 

 今まではフレットとフレットの真ん中を押さえていたので、フレットに押し付ける弦のテンションがいまいちだった。それがフレットぎりぎりを押さえると、弦は効果的にフレットに押し付けられ、弾かれて振動する間にフレットから離れることがなくなる。

 言われた通りに押さえて鳴らすと音の響きが明らかに変わり、幼女は少しだけ顔をほころばせた。

 

「……おにーさんはどっちの味方なんすか?」

 

 幼女はちょっとだけ機嫌をよくしたが、幼女を弁護されてルプスレギナは面白くない。書類を作っていた手が完全に止まった。

 

「こんな事で敵も味方もないだろう。……いいか、ルプー。もしもアインズ様がお一人で何でもこなせてしまったら、俺やルプーは要らなくなっちゃうんだぞ。アインズ様でも手が回らない事があるからこそ、俺たちはお役に立てる。何でも出来なくていーんだ。むしろ出来たら困る」

「…………そっすね。チビちゃんはずっと出来ないままでいていいっすよ」

「それじゃ俺が困る。まずはドレミを弾けるようになれ」

「はい、頑張ります!」

「頑張らなくていいから出来るようになれ」

「………………はい」

 

 

 

 

 

 

「とか言ってたけど怪しいっすねー。ケムキチと走らせてる時とかたまに口が悪いっすよ? あれは結構性悪っすね」

 

 同類ゆえに嗅ぎ取れる臭いとでも言うべきか。

 虐めるのが大好きなルプスレギナは、クレマンティーヌから同種の気配を感じていた。

 

「ルプーはあんなのを随分と気にかけてるのね。でも、今ここで出して欲しい話題じゃないわね」

「ソーちゃんは2回もしてもらった後じゃないっすか。まだ物足りないんすか?」

「そういう問題じゃないわ。ムードの話よ」

「えー。終わった後でもっすか? あ、でもおにーさんがもう一回って言うならいいっすよ♡」

「だったら続けたくなるようなムードにしなさい」

「そーゆーのたまにでいいじゃないっすか。毎回だとお腹いっぱいになっちゃうっす」

「ルプー姉様はお腹に溜まるのね。私は胸に溜まるからルプー姉様とは違うの」

「あ?」

「二人とも俺を挟んで言い合うな」

 

 ルプスレギナは男の左腕を枕に、右腕はソリュシャンが枕にしている。

 3人はベッドの上で、いずれも一糸まとわぬ姿でいる。朝と呼べる時間から、3人でいい汗をかいた後であった。

 

 昨夜はアルベド様が。今夜は遅い帰りが決まっているので朝一で。

 お兄様成分が足りないと訴えたソリュシャンにルプスレギナが便乗して、朝食後にクレマンティーヌへ課題を与えたら3人で寝室に籠っていた。

 いつでもどこでも裸になりたがる淫乱スライムと違って、ルプスレギナは妹の前で行為することに抵抗があったが、帝都の屋敷でソリュシャンに辱められ、7Pしてから吹っ切れた。それにソリュシャンがいると、溢れた淫液を拭き取る必要がなくなるので便利である。

 ソリュシャンは、姉の愛液が混じった精液を吸収することに全く抵抗がない。勢いよく迸るお兄様の小水を口で受け止め溜まるペースに負けずに飲み干すことが特技の一つだ。ルプスレギナには全く理解できないししたいとも思えないことであるが。

 

「おにーさんはわかってなさそーだし、ソーちゃんはこれだから私が言わなくちゃならないんすよ」

 

 クレマンティーヌの事は特に気に掛けなくていいと言われたので気に掛けていないソリュシャンである。結果、無視をしていた。目の前にいてもいないものとして扱っている。

 その事に呵責を覚える良心を、ソリュシャンは持ってない。ナザリックでは持ってる者の方が少ない。少なすぎて希少ですらある。

 

「あのチビちゃんは警戒心剥き出しっすね。誰も信用してないっす。おにーさんの事も例外じゃないっすよ?」

 

 野外でチビちゃんの相手をするルプスレギナは、チビちゃんが屋敷の警備体制を探っているのを感じていた。本人としてはさり気なく見てるつもりだろうが、ルプスレギナの目は誤魔化されない。そのあたりを注意して見ていれば、こちらの誰にも気を許していないのが見て取れた。

 

「別に信用されなくても構わないだろ。そうだな……、例えばケムキチがとち狂って爪を出したまま屋敷の中に飛び込んできたとする。出来ると思うか?」

「無理っすね」

 

 ケムキチがケムキチ専用天幕から出て爪を隠す手袋を外した時点で、陰に陽に屋敷を警護する者たちの目に留まる。ケムキチの注意が屋敷に向いた時点で警戒態勢に移行。屋敷に飛び込む前に取り押さえられるのが確実だ。

 

「それと同じで、クレマンティーヌがどう思っていようと出来る事はない。ギター壊されたら怒るが、怒られるだけの事をするほど馬鹿じゃないさ」

「うーーん……」

 

 左側で唸るルプスレギナとは対照的に、右側ではソリュシャンが僅かに体を起こして向きを変え、男の体に豊かな乳房を押し付けつつ右手を男の股間に伸ばした。枕にしていた腕は背中に回させ自分の尻を撫でさせる。

 つまらない話を聞くより、愛しい男の体を愛でる方が万倍も良い。

 しかし、自分の名前を上げられカチンと固まった。

 

「それじゃ例えば、実はソリュシャンは俺の事が嫌いだとする」

「何を仰るんですか!? 私がお兄様を嫌ってるわけがありません!」

「ソリュシャンは口ではそう言うけど、口では何とでも言える。真実しか口に出来ないなら詐欺師が生まれるわけがない」

 

 想いを否定された上で詐欺師呼ばわり。

 たとえ話とわかっていても、体が震えるのを抑えられない。

 

「……でしたら今この時はどう説明するおつもりですか? 私はお兄様に全てを委ねているんですよ? 私はお兄様の全てを受け止めました。それでも嫌っていると仰るのですか?」

「だったら娼婦はどうなる。金と一夜の夢を交換してるんだ。どんな行動をとるかは関係ない」

 

 言うに事を欠いて、今度は娼婦呼ばわり。

 ソリュシャンの震えが止まった。微動だにしなくなった。

 

「どんな言動をとろうと内心はわからない。見えないんだから見えるところから判断するしかない。で、見えるところから判断すると、ソリュシャンとこうするのは一度や二度じゃないし、想いも何度も伝えられてきた。一時だけじゃない。今までずっとだ。嫌ってたら中々出来る事じゃない。ソリュシャンがそんな事をする必要もない。すると前提が覆る。ソリュシャンは俺を嫌ってないって事になる」

「……まあ、そうっすね」

 

 ルプスレギナは男の腕枕から抜け出し、距離を取った。

 

「クレマンティーヌが内心でどう思ってるかはわからない。今のところは問題を起こすことなく大人しくしてる。いざ問題を起こしても対処する余裕がある。だからルプーは気にし過ぎってことに――」

 

 男の言葉は突然途切れた。それどころか姿もない。

 男が消える瞬間、ソリュシャンの体が一瞬だけ波打った。

 立ち上がったソリュシャンの顔は、割と厳しかった。

 

「お兄様のお話がたとえ話だったことは理解しています。理解していますけど、どうしてそんなありもしない事を例えたのですか? 私はずっとお兄様に尽くし続けて来ました。お兄様の事ならどんな事でも受け止めるつもりでいます。だからと言って何を言われようと構わないわけではありません。口にしていい事と悪い事があるのをお兄様には未だに理解していただけないのですか? ……ですから、例え話と言っても限度があると言ってるんです! よりにもよって私がお兄様を嫌ってるなんて…………!! お兄様こそ私の事をお嫌いなわけではないでしょうね? ……ええ、わかってます。お兄様が私の事を仰ったように、お兄様が私に触れる手はいつだって優しかった。お兄様の思いは十分受け取っております。ですが思いが通じていれば何を言っても良いとでも? どうしてお兄様はお兄様でいつまで経ってもお兄様なんですか! ……いえ、はい。確かに成長は認められます。ですからたとえ例え話であっても、ですよ?」

 

 全裸でぷんぷんしながら独り言をループさせるソリュシャンは、客観的に見て怖かった。

 もちろんソリュシャンがおかしくなったのではなく、丸呑みして体の内部に取り込んだ男に対して苦言を突き付けているのだ。

 

 ルプスレギナの心情は妹寄り。確かに、例え話と前置いてもあれはないと思われる。

 痛みに耐性がある男なので、少々どころか凄く痛い目に遭わせても全く懲りない。ならば今のソリュシャンのように、逃げられない状態でひたすらお説教するのは意外と効果があるのかも知れない。

 

「言い訳は聞きたくありません! それは詭弁です! 道理が通っていようといまいと、それは駄目だと言っているんです! ……ええ、ですからお兄様の考えもお気持ちもわかっています。表現の仕方に良くないところがあると言っています。いいですか? 例え話であっても、あんな事をたとえてはいけないんです。ええと、限度と節度について仰っていたのは何方だったかしら? きっとお兄様の辞書には限度という言葉は載っていないのでしょうね。だから限度の事はいったん忘れてください。節度です。常に節度を保っていれば口にしてはいけない事は出てこないはずなんです。いいですか? 今まで何度も申してきましたが、ずっと一つの事を言っているんです。お兄様にはデリカシーが足りないんです!」

 

 話が何度もループしている。

 これは時間が掛かると見たルプスレギナは、服を着てそっと部屋を抜け出した。

 

「大体今の話の結論を得るのに私のたとえ話が必要でしたか? ……わかりやすかっただろう、ですって! …………アインズ様のお名前を出せば私が引き下がるとお思いでしたら大間違いであると教えて差し上げます。それにアインズ様が仰ったのは言葉には行動が伴うべきだと伺っております。私が申し上げているのは気持ちの事です。……ええ、ええ、確かにお兄様の仰る通り。ですから、気持ちの橋渡しをするのは言葉と行動なんです。言葉が気持ちを届けるのですから、たとえ話としても言っていい事と悪い事があるんです。いいですか? いいえ、聞きません。私の言葉を遮らないでください。いいですか? 気持ちが通じ合っていると思っても確認し合うことが必要なんです。お兄様は既に知っているはずです。知っているからこそ愛してると仰って下さるのでしょう? ……ええ、もちろん私も愛しています。愛しているからこそお兄様には間違ったことをして欲しくないのです」

 

 ソリュシャンは昼を過ぎても部屋から出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

 お嬢様が突然書斎にやってきたのは夕刻である。

 今までずっとお嬢様から無視されてきたクレマンティーヌだ。自分がいるところにお嬢様が来ることに驚かされた。

 そのお嬢様が突然ドレスを脱いだのは、痴女と知ってはいても気が狂ったのだと思った。

 

「ちょっとちょっとソーちゃん。チビちゃんがいるっすのに」

 

 お嬢様に続いて赤毛の嗜虐者。

 次に神妙な顔をした吸血鬼。珍しい事に、いつも引っ付いてるゴシュジンサマはいないようだ。お嬢様が脱いでるのを見ると、慌ててドアを閉めた。

 つまりお嬢様はドアが開いてるのに素っ裸になった。狂ったのでなければそういう趣味だ。痴女の上に変態である。

 

「あー……久し振りっすねぇ……」

「うえ……」

 

 クレマンティーヌは思わず声を漏らす。目の前の光景はいささか衝撃が強かった。

 

 全裸のお嬢様からぬるりと出てきたのは一体の人間だった。頭部と胴体はあっても手足がない。床に落ちた人物はうつ伏せになったが、髪の色から誰であるか察しが付く。

 

「ルプー、お願い」

「はいはいっす」

 

 赤毛の掛ける回復魔法で、男の手足が生えてきた。

 法国の漆黒聖典でも、ここまでの回復魔法を軽々と扱える者はいない。今更ながら、赤毛はただの赤毛ではないと思い知らされる。

 

「申し上げたいことは全て申し上げました。お兄様が私の言葉を活かしてくださることを期待しております。いえ、期待しております、じゃ駄目ね。必ず活かしてください」

 

 床に落ちたドレスをお嬢様が踏むと、ドレスは裸体に吸い込まれ、裸の中からドレスが浮いてきた。化け物の着替えはやはり人間離れしている。さすがに部屋の外へ出る時は服を着るらしい。

 お嬢様が部屋から出ても、倒れた男は動かない。化け物の体内で手足を溶かされたのだからショックが強かったのかも知れない。中身はお嬢様や赤毛と同類の化け物なのだろうが。

 

「ほらほら、おにーさんはさっさと起きて着替えるっすよ」

 

 赤毛は男の体の下に爪先を突っ込み、足でひっくり返す。仰向けにされた男は、呆然と虚空を見上げていた。

 どこでもないところを見つめる顔はどこか現実離れしていて、どこを見ているのか気になってしまう。目を離せず、引きずり込もうとする引力がある。

 

「ミラ」

「はっ!」

 

 赤毛の呼びかけで吸血鬼が男の体にマントを掛けたところで、男が全裸だったことに気が付いた。

 吸血鬼がマントを掛けようと屈んだ時、ほんの一瞬だけそっちに目が行った。

 ほんの一瞬だけ、男の裸を見てしまった。

 男女で特に顕著な違いがある部分は、吸血鬼の体に隠れて見えなかったのが残念、と思った事に自己嫌悪する。

 

「今度は何考えてるんすか? 本読めなくて残念っすか?」

「…………俺のカタナブレイドを取って来てくれ」

「ただちに!」

 

 吸血鬼が部屋を飛び出る。

 戻ってくるまでの間に、男はズボンだけ身に着けた。

 

 男がズボンのベルトに刺したのは、緩やかにカーブするロングソード。刀であると、クレマンティーヌは知っていた。

 

「ふむ……」

 

 男は机の上に置いてあった金貨を手にする。

 親指でピンと弾き、煌めきながら落ちてくる金貨へ刀が一閃。

 

 左手だけの抜刀。左手の親指で鍔を押し上げ、刀の峰に親指を添わせて勢いよく鞘から摺り上げ、刀が宙に浮いたところで柄を握って振り上げる。

 金貨は澄んだ音を立てて宙で二つに分かれ、片方は男の右手が、片方は刀の剣先が受け止める。男が刀を軽く動かせば、剣先の金貨は弧を描いて男の右手に収まった。

 

「相変わらず器用っすねー。で、それがどーかしたんすか?」

「金貨が切れた」

 

 金貨は側面から真っすぐに切断された。

 

「見りゃわかるっすよ」

「ルプーはそのままの位置で。俺が動くから」

「何すか?」

 

 赤毛も吸血鬼も、男がしている事がわからないらしい。

 

 男は吸血鬼が持ってきた服を探り、どこに入っていたのか、ショートソードを取り出した。刀と拵えが似ている。

 鞘から取り出したショートソードを宙に放り投げ、またも刀を一閃。

 今度は両手を使って抜刀し、高く構えて振り下ろした。

 ガチンと火花が散った。

 

「おわっ!? 危ないじゃないっすか!」

「ルプーなら取れるだろう。ほら、ちゃんと取ってくれた」

「やるんだったら先に言って欲しいっすね」

 

 宙で切り付けられたショートソードは、真っ直ぐに赤毛のところへ飛んで行った。

 残念な事に、片手で軽々と受け止められた。

 

「む……ちょっと欠けたな」

「あーあぁ。それってコキュートス様から頂いたものっすよね? こんな事で欠いちゃったら怒られるっすよ?」

「どうして欠けたと思う?」

「へ? そりゃ切り付けたからに決まってるっす。こっちもちょっと欠けたっすよ」

 

 刀がぶつかったのはショートソードの刀身。散った火花は欠けた一部だろう。

 

「じゃあどうして金貨は切れた?」

「柔らかいからっすね。てゆーか、そんなのおにーさんもわかってるっすよね。何考えてるんすか?」

「……どうして欠けたか考えてる」

「はあ……」

 

 男は二つになった金貨と欠けた刀身を、じっと見詰めている。

 赤毛は付き合い切れなくなったらしく、ため息を吐いて部屋を出て行った。

 

 

 男は、どうしてソリュシャンに手足を溶かされたか、溶かされながら考えていた。ソリュシャンが溶かすに至った理由ではなく、溶けた理由である。

 脆いからだ、と結論付けた。

 金貨を切断したのはその確認である。

 ショートカタナブレイドに斬り付けたのもその延長だ。

 

 脆いから溶けた。

 柔らかいから切れた。

 切れずに欠けた。欠けたのは脆いからだ。

 

 金貨を斬る前に空気に触れていた。空気はカタナブレイドの進路を邪魔しなかった。

 水の中で斬る事も想像する。水は空気よりも遥かに大きな抵抗となって、刀を振り切るのは大変だろう。しかし、水も空気と同様にカタナブレイドの進路を邪魔できない。

 金の中ではどうか。柔らかい金の中だ。十分な膂力があれば可能だろう。

 カタナブレイドの刀身と同等の刃金の中ではどうか。問題になるのは膂力だろうか。カタナブレイドも欠けてしまった。

 空気と水と金貨では、気体・液体・固体とそれぞれ違う。

 空気は水の進行を阻止できない。水は金貨が沈むのを止められない。

 浮力つまり密度、それとも重量否質量。どこかに答えがある。

 空気に対しての水のように、水に対しての金貨のように。では金貨に対して何があるか。固体であるのは間違いない。

 固体を固体足らしめているのは何だろうか。

 金貨は切断できた。

 カタナブレイドは欠けた。

 切れず、欠けず、しかし気体でも液体でもないもの。

 

 アルベド様の武装に使うべき素材の片鱗を、掴んだように思えた。

 

 

 

 

 

 

 と云う事を男が考えているのを誰も知らない。

 知らなくても、男がよくわからない事に思考を沈めて帰ってこなくなるのはよくある事だ。

 それをよく知ってるルプスレギナは、呆れて行ってしまった。一旦ああなると、ソリュシャンに腕を溶かされても気付かない。シクススに引っ叩かせるか、放置して戻ってくるのを待つしかない。

 ご主人様を己の命以上の存在としているミラは、立ち尽くすご主人様の衣服を恭しく整えた。

 

 しかし、クレマンティーヌは何も知らない。

 

 クレマンティーヌにとって、この屋敷は魔窟である。味方はいない。

 アルベド様は怖くて近付けない。そもそも会う機会がない。朝と夜に見かけることがある程度。

 お骨様とは全く会わない。モモンは時々やって来るが、周囲の反応から中身が違うらしいと気付いた。

 お嬢様は論外。完全に無視をされている。目の前を通りがかった時にぺこりと頭を下げても無反応。心の中でギッタギッタにしてやった。

 赤毛の神官は駄目。あれは人を甚振るのが大好きな性悪だ。自分もそうだからよくわかる。

 吸血鬼はゴシュジンサマの言葉しか聞かない。

 そのゴシュジンサマは、優しいのだけれど甘くはない。赤毛の指導が厳しいと訴えても、「生きてるだろ」の一言で終わらされた時はぶっ飛ばしてやりたくなった。頑張れの一言もなく出来るまでやれとは何様のつもりか。

 

 けども、今の一幕。

 金貨を斬ったのは、金髪に見立てたのだ。

 ショートソードは赤毛に叩きつけた。

 

 赤毛には腹をぶち抜かれて、お嬢様には手足を溶かされた。

 思うところの一つや二つがあって当たり前だ。

 化け物同士だろうと、仲良しなわけではないらしい。

 

 あの男をどうにかするのが鍵になる。

 自由を閉ざす扉の鍵だ。




今度こそ今年最後の投稿
本年は本作をお読みいただき誠にありがとうございますm(__)m
来年も読んでいただけると嬉しいです

Cl編はあとたぶん4~5話で終わるような気がします
前話の後書きより伸びてるのは何故なのか


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心の闇

本話11k強
ぎりぎり三が日
あけおめことよろでございますm(__)m


 クレマンティーヌが来てからはシャッキリしていた若旦那様が、またあっちへ旅立っていることが多くなりました。

 アルベド様の武装のヒントを得たのだから、若旦那様が思索を深くするのは当然でした。

 

 切れず、欠けず、金貨やカタナブレイドの刃金を空気や水のように扱えるもの。

 若旦那様はそんなものを見たことはありません。若旦那様どころか、ありとあらゆるマジックアイテムやワールドアイテムの造詣に深いアインズ様であっても見たことも聞いたこともありません。つまり、そんなものは存在しません。存在しないものを求めているのです。

 方向だけは見えていますが、どうやってそこへ至ればいいか全くわかっていない状態です。

 

 考えてもわかるわけがないので、まずは目標とする素材の条件を考えます。

 切れず欠けずとは、究極の硬度と究極の靭性を持つということです。なお、靭性とは外力によって破壊されにくい性質を指します。靭性が高いとは壊れにくいということです。

 硬度や靭性が高いとはどのような状態を言うのでしょうか。硬いとは何なのかを考えなければなりません。壊れるとはどうして壊れるのか考えなければなりません。

 しかし如何に靭性が高かろうとも、変形しては意味がないのです。ここでまたもヒントが増えました。壊れてはならず、変形してもならないのです。よって弾性がある物体は却下。

 弾性を簡単に言えば、伸び縮みすることです。ゴムが代表です。実を言えば、とても硬そうで実際硬い鋼鉄にも弾性があります。

 若旦那様は「伸び縮みしないもの」と考え始めて頭を振りました。既存の物質を探しても答えはないのです。

 

 目標は無限と思えるほど高いのに、手元にあるのは有限の手段だけです。つまりは実現不可能。しかし、有限の手段に合わせて目標を下げるのでは本末転倒。手段を広げるしかありません。

 何を広げればいいかも考えなければならないのです。

 

 

 

 

 

 

 手持ちの材料が少ないので、若旦那様は先日ほど向こうに行ったきりではありませんでした。時々はこちらに戻ってきて、クレマンティーヌのフォームを確認しています。

 珍しい事に、書斎には若旦那様とクレマンティーヌの二人だけです。珍しいどころか、クレマンティーヌが屋敷に預けられてから初めての事でした。

 ソリュシャンやルプスレギナが席を外すことは多くても、若旦那様を我が君と崇め命を捧げているミラもいないのは非常に稀な事です。

 

「吸血鬼の方はいないのですか?」

「いないよ。ファからソに移るのが遅い。単音を鳴らす時は指を寝かせず立てて押さえろ」

「……はい」

 

 若旦那様はあっちに行っていても、簡単な事なら受け答えが出来ます。頭を使わずに反射で喋っています。ただし、クレマンティーヌの指導には最低限のリソースを振ってあるようです。クレマンティーヌには早くクラシックギターの技術を上達してもらって、二人で合わせて弾きたいのです。

 

 なお、ギターでドレミを弾く場合、ド(C)は五弦の3フレを中指で、レ(D)は五弦5フレを小指で。そしてミ(E)は四弦2フレを人差し指、ファ(F)は四弦3フレを中指、ソ(G)は四弦5フレを小指で押さえます。

 ミとファは隣り合っているので楽勝でも、ソは少し離れて小指で押さえなければならないのが難しいようです。

 音を出すだけならソは三弦の開放弦なのですが、練習の目的は弦を押さえて音を出すことです。小指で弦を押さえなければなりません。

 

 クレマンティーヌは「何で私がこんなことを」と思いつつドレミを弾き続けます。やってる内にちょっと楽しいかもと思い始めても、楽しまないように自分を節しています。

 

「お嬢様も朝から見ていません。どこかにお出かけしてるんですか?」

「いないな。出かけてる」

 

 若旦那様の答えは相変わらず簡潔です。こんな時の若旦那様にちゃんとした答えを求めても無駄なのです。それと知ってるソリュシャンたちは、ぼーっとしてる若旦那様には事務連絡程度のやり取りしかしません。

 しかし、クレマンティーヌは知りません。若旦那様の冷淡にも思える言葉は、それだけソリュシャンと距離があるように思えてなりませんでした。

 確証バイアスです。先入観に基づいて自分に都合がいい情報ばかり集めてしまうのです。クレマンティーヌは自身の認知に歪みがある事を自覚できません。

 

「お戻りは?」

「さあ?」

 

 ソリュシャンの予定は流動的です。はっきりと決まっていません。事前に細かなところまで決められなかったのです。

 若旦那様は生返事でしたが、ソリュシャンがどこへ行っているのか知っています。ソリュシャンは昨夜遅くに帝都へ向かいました。ミラが駆るアンデッド馬の馬車を使っての旅路です。

 一か月以上前から決まっていた話なので、当初の予定を優先しただけであって書類仕事から逃げ出したわけではありません。その証拠に、お出かけの前夜は夜を徹して当日もお兄様成分を我慢して机にかじりつき、自分の担当を終わらせました。

 帝都に行ったら、社交界で忘れられないように夜会や舞踏会に顔を出したりする予定です。勿論、若旦那様も一緒です。尤も、それが帝都行の目的ではありません。帝国の社交界如きを気にするソリュシャンではありませんから。

 ソリュシャンがわざわざ帝都まで行くのは、カルカとレイナースの体を確認することです。

 もしも出来ていた場合、半年も放置すると本人が自覚するのは勿論の事、体形にも変化が現れます。ここまで来てしまってからどうにかするのは外聞が悪いでしょう。

 ですからその半分の三か月で。出来るならば二か月に一度は確認したいと考えていました。

 もしも出来ていたら回収します。本人の意思は関係ありません。当面は、回収できたものを育てる予定もありません。

 

「神官様も見ていません。体育の時間までには戻ってきますか?」

「知らないな。今日はケムキチと適当に走ってればいい」

 

 ソリュシャンとは違って、ルプスレギナは逃げました。

 いつもなら「ソーちゃんがいないからおにーさん独占」とか言ってイチャイチャべたべたするところでしたが、今回は書類仕事がいっぱいあるのです。下手に刺激を与えて仕事が増えては堪りません。ソリュシャンが不在なので、増えた仕事はルプスレギナが一人で処理しなければならないのですから。

 とは言ってもアインズ様に提出する書類のお仕事です。完全に投げ出すことはせず、エ・ランテルのお城に行って手すきのエルダーリッチを一人借りて、口述筆記で清書してもらっています。

 

 と云う事情をクレマンティーヌは全く知りません。若旦那様も語りません。

 クレマンティーヌにとって確かな事は、自分と若旦那様の二人きりと云うことです。千載一遇の機会です。慎重に切り出しました。

 

「妹とは」

「チッ、嫌な事を聞くな」

 

 言い終わる前に、とても機嫌が悪そうな舌打ちと共に吐き捨てられました。

 若旦那様とソリュシャンとルプスレギナの間には溝があると思っていたら、溝どころか断絶かも知れません。

 

「えっと、……嫌いなんですか?」

「嫌い、だと? 好きに見えるのか? 任務でなけりゃあんなのと誰が会うか!」

 

 予想以上の手応えです。まさかそこまでとは思っていませんでした。

 その割にはいつもにこやかに穏やかに二人と接しているように見えるのですが、宰相閣下の相談役を担えるくらいですからその程度の腹芸は簡単なものなのでしょう。

 

「俺の見てないとこでこっそり死んでてくれてたらなぁ」

 

 クレマンティーヌは、内心で快哉を叫びました。

 

「それなら私が手伝いますよ?」

「ん?」

 

 若旦那様の意識がようやく現世に戻ってきました。

 あちらに行っていてもクレマンティーヌとの問答を覚えています。内容が刺激的だったから戻ってきたのです。

 クレマンティーヌが妹の事を知っている事に、若旦那様は疑問を覚えませんでした。その事については、アインズ様とナザリックの階層守護者の方々の御前で話しています。アルベド様もご存知です。アルベド様がソリュシャンたちに話し、ソリュシャンたちがクレマンティーヌに話したのでしょう。

 嫌な事ですから口にしないだけで、秘密にしているわけではないのです。

 

「そう言ってくれてもな。手に掛けたいわけじゃない。だから見えないとこで死んで欲しい。それにクレマンティーヌに出来る事は何もないだろう? 余計な事は気にしないでギターの練習を続けるように」

「でも、お辛そうなのを放っておけません!」

 

 クレマンティーヌは自分のキャラではないと思いつつ、力を入れました。

 ここが突破口です。ここを何とかすれば自由への道が見えてくるのです。

 

「……そんな風に見えるか?」

「はい。いつも傷ついて辛そうにしています。お力になりたいんです」

「ふむ……」

 

 若旦那様はクレマンティーヌが何を言ってるかわからなくても、自分のために何かしたいと言っているのは理解しました。

 

「あ……」

「気持ちは嬉しい。だがさっき言ったように、クレマンティーヌは与えられた課題をこなしていればいい」

 

 若旦那様はクレマンティーヌの頭を優しく撫でました。

 クレマンティーヌは自分の無力を嘆いてか恥ずかしがってか、顔を俯けます。

 

「でも……」

 

 クレマンティーヌは必死に考えます。ここで若旦那様を動かさないと、事態が進展してくれません。それに、良からぬことも言ってしまいました。それを言うなら、死んで欲しいなんて言うあっちの方が遥かに過激ですから問題にはならないと思いたいです。

 

 一方の若旦那様は、幼女の頭を撫でて不思議な感慨を覚えます。カルネ村のネムちゃんや、帝都に置いてきたウレイリカとクーデリカの頭を撫でた時とは違う感覚です。

 日常生活の中にクレマンティーヌがいるからだと気付きました。ウレイリカとクーデリカも近しかったのですが、あちらは奴隷として買い入れ使用人として使っていますから、どうしても違うのです。

 世話をして色々教えて、となると娘でしょうか。娘にしては随分と育っています。

 

 クレマンティーヌより育ってる実の娘がいたりします。が、ソフィーの幼い頃はあっという間に過ぎ去ってほとんど見ていないため、娘との実感が薄かったりもします。とは言っても、ソフィーに対しては随分と気安くしてしまってる自覚があります。心のどこかでは、やはりソフィーは自分の娘と認識しているからでしょう。

 

 で、クレマンティーヌです。

 娘にしては育ち過ぎです。もしもクレマンティーヌくらいの娘がいるとするならば、若旦那様はクレマンティーヌくらいの年の頃に仕込んだ事になります。色々と無理でしょう。

 娘でなければ年の離れた妹。これならありです。

 ルプスレギナは色々言っていましたが、若旦那様の前では素直でお行儀の良いクレマンティーヌです。理想的な妹と言ってよいでしょう。

 

「クレマンティーヌが妹だったらなぁ」

 

 若旦那様は、本当にしみじみと言いました。

 クレマンティーヌが本当に妹だったら、あれほど苦労する羽目にはなっていなかったはずです。しかしそうすると、あらゆることが上手く行きすぎて目論見通りに帝国へ行ってそれなりの暮らしを送っていた事でしょう。それはそれで悪くありませんが、そうするとアルベド様にお会いできなくなっていたかも知れません。禍福は糾える縄の如しと言いますが、まさにそれです。

 

「はい! 妹になります! おにーさまって呼んでもいいですか?」

「構わないよ。但し、時と場合をわきまえる様に」

「わかってます!」

 

 クレマンティーヌは、うげぇと思いつつもやったぁと思いました。実は血のつながった兄がいるのです。あっちの兄は優秀さがとにかく鼻について、そのせいで色々なところで不遇に見舞われてきました。あいつがいなければと思ったことは百や千ではありません。兄なんてまっぴらごめんです。

 ですが、お屋敷の若旦那様と義理の兄妹になれれば、色々な事で有利になる事間違いなしです。なにせ魔導国宰相閣下の相談役なのですから。権力も財力も相応のものがあるに違いありません。

 クレマンティーヌは降って湧いた幸運に気が逸って、色々な事をまくし立てました。

 おにーさまの気持ちがわかりますだとか、私の心はおにーさまと一緒ですだとか、とりあえずおにーさまを盛り立てて良い気分にさせる作戦です。

 若旦那様の反応はいまいちでしたが、大声を出して笑ったりしない若旦那様ですので、クレマンティーヌはあまり気にしませんでした。あっさりと釣り上がった大当たりに舞い上がっているのです。

 

 

 ギターの練習や座学が終わって、お昼を挟んで食休みの後は体育です。

 今日はルプスレギナがお出かけしているので、若旦那様がケムキチに「適当に運動させてくれ。怪我はさせないように」と言いました。ケムキチは背筋をまっすぐ伸ばしてお返事します。

 お返事は良かったのに、若旦那様の姿がお屋敷の中に消えるなり、「はぁ……」とだれてしまいます。

 

「今日も暑い。演習場を2・3周もすれば十分だ。好きにやってろ」

「はあ? そんなんでいーの? ルプー様がいないからって雑過ぎない?」

「毎日あんなに走る方が毒だ」

「……そーかもね」

 

 今は幼女をやっていても、その前はバリバリの一線で輝いていたクレマンティーヌです。体の鍛え方は基礎からわかっており、体を苛め抜く悪影響も知っています。体力をつけるのが重要なら、体の柔軟性を養うのも重要です。この日は体をほぐすことに決めました。

 屈伸したり前屈したり、体のあちこちの筋を伸ばしていきます。

 ケムキチはその場にどかっと座り、ぼーっとこちらを見ているだけです。

 そんなケムキチを見ていると、様々な疑問がわいてきました。その中で、クレマンティーヌは一番気になる事を口にしました。

 

「ケムリンってさ。追いかけっこしてる時に手抜きしてたよね? なんで? ルプー様にぶっ飛ばされるのが好きなの?」

 

 ケムキチはビーストマンです。ライオンタイプのビーストマンです。顔の作りは人間とは全く違って、毛むくじゃらです。それでも、ケムキチの顔がとても嫌そうに歪んだのは、誰が見てもわかった事でしょう。

 

「そんなわけあるか!」

「それじゃどーして? 私って美味しそうに見えるらしいんだけど?」

 

 ルプスレギナに課されてしまった追いかけっこで、クレマンティーヌはケムキチに捕まりそうな時が何度もありました。その都度、ケムキチは絶妙に失敗して空ぶってしまうのです。一度や二度ならただのミスと思えましたが、三度や四度となると必然です。明らかな手抜きでした。

 ケムキチはクレマンティーヌを捕まえると、ご褒美に腕一本です。クレマンティーヌの腕です。

 人間の事は歩いてる骨付き肉くらいにしか思ってないビーストマンなので、手抜きをする必要は全くありません。全力で捕まえて然るべきでしょう。

 

「旨いのかもな。だがお前には関係ない。俺のためだ」

「じゃーなんで? 私が可哀そうって思った?」

「そうだなとてもかわいそうだ」

「あからさまな嘘つくんじゃねーよ。このクレマンティーヌ様に哀れみだと? ふざけるな!」

「何だっていいだろうが」

「良くないから訊いてんだろーが!」

 

 ケムキチが手抜きするのは良いのです。理由がわからないのが気に入らないのです。もしもその理由が崩れた時には、腕をボリボリされてしまうのですから。

 危険を回避している担保が何であるか知りたいのです。

 

「ついてくるな。運動の時間は終わってないだろ」

「それだったらケムリンは見てないとダメでしょ? ねーねーなんで? 減るもんじゃないじゃん」

 

 演習場から離れるケムキチに、クレマンティーヌはついていきます。一人残されても暇ですし、若旦那様の攻略が上手く行ってはしゃいでるのもあります。

 ケムキチが向かったのは、お屋敷の敷地の端っこに建てられた天幕でした。

 クレマンティーヌは、初めて見た時からあれは何だろうと思っていました。どうやらケムキチのお家だったようです。

 

 ケムキチに続いて、クレマンティーヌも遠慮なく天幕の中に入ります。

 中は意外に広く、立派な寝台に煮炊きが出来る設備も揃っていました。

 上からは獣の脚がぶらんと吊るされており、クレマンティーヌは一瞬だけぎょっとしたものの、何やら良い匂いを嗅ぎ取ります。生肉ではなく、燻煙してあるようです。天幕の中で燻製は出来ませんから、別の場所で作ったものがケムキチに与えられたのでしょう。

 

「さっさと出てけ」

「別にいーじゃない。ケムリンって結構いい暮らししてるんだねー。床もしっかりしてるしさ」

 

 天幕の床は板敷です。割と高級な木材を使っています。実は黄金の輝き亭の廃材を利用しているのです。ペットのお家にしてはとても豪華です。

 

「そこまで隠されると逆に気になるんだけど? 何か秘密があるわけ?」

 

 クレマンティーヌは寝台に腰を下ろそうとして、ケムキチが使ってる寝台はきっと獣臭いから止めとこうと思い、それなら椅子にしようと思ったけれどやっぱり獣臭そうで、結局中央の柱に寄り掛かりました。

 なお、寝台も椅子も毛皮が貼ってあります。どこもかしこも毛皮だらけで、やはり豪華に見えてしまいます。

 

「どーしても話してくんないんなら、ケムリンに連れ込まれたーって大声出すよ?」

「それは絶対やめろお!!」

「わっ」

 

 天幕が震えるほどの大声です。ケムリンは本気でした。

 クレマンティーヌが見た目通りの子供だったら、今の大声で怯えてしまうところですが、中身は一流の戦士です。ビーストマン如きの咆哮で怯む心は持っていません。怯むどころか、ますます興味をそそられました。

 

「それじゃなになに? 余計なこと言わないから教えてよ」

「…………………………はぁ」

 

 ケムキチはくそバカでかいため息を吐きました。

 好奇心旺盛な子供は本当の事を言うまで食らいつくつもりらしいです。

 ケムキチはがっくりと項垂れ、心を削るような声で言いました。

 

「お前があの方の預かりだからだ」

「あの方? お骨様、じゃないよね? 若旦那様って言われてるあの坊ちゃん?」

「バッ………………!! 迂闊な事を言うな聞かれたらどうする聞かれても俺はおかしなことは言ってないからな何も言ってない何も言ってないぞ!!」

「そんなにビックリすることないじゃん。みんな若旦那様って言ってるよ? 坊ちゃんってのは聞いたことないけど」

「だからあの方をそんな風に呼ぶな! 誰が聞いてるかわからんぞ!?」

「はいはい。それじゃ、私が若旦那様の預かりだと何で手抜きするわけ?」

 

 クレマンティーヌのおにーさまになった若旦那様である。

 なるほど、確かに宰相閣下相談役に取り上げられる能力はあるようだ。

 クレマンティーヌを膝に乗せ字の読み書きを教えながら、右手で文書を作っていた。文書の方は見もしない。書いてあることは読めなかったが、チラチラと盗み見した限りでは、帝国の精緻な地図があった。あんなものを空で書けるのだ。

 そして性向は温厚。たまに不機嫌になる事はあっても、感情を爆発させる人物ではない。地位を笠に着て居丈高になる事もない。それであの美貌なのだから、年若いメイドたちが夢中になるのもよくわかる。

 

 総合して、ケムキチが若旦那様に怯える理由がさっぱりわかりません。

 

「…………ルプスレギナ様を怒らせたらどうなると思う?」

「はあ? なにそれ関係あんの?」

「わからないならいい」

「わかったって。ルプー様怒らせたらぼっこぼこにされるんじゃない? 回復魔法凄いし、ぼこされて回復されてぼこされてってすっごくやりそう」

「その通りだ」

「ケムリン、体育の度にやられてるもんね。私を捕まえられたらされないのに」

「捕まえても理由をつけてやるに決まってる。ルプスレギナ様は未だに俺を許してないからな」

「……ケムリン、何やったの?」

「あの方に攻撃を仕掛けた」

「ふーん」

 

 ルプスレギナの事を、どっかで死んでて欲しいと言ってた若旦那様です。とても嫌っているようです。けれど、ルプスレギナの方はそうでもなかったようです。

 

「ミラも何かあればすぐに手を出してくる」

 

 ミラが若旦那様に傾倒してるのは、ちょっと見ればよくわかります。事あるごとにミラから蹴飛ばされぶっ飛ばされてるケムキチなのです。

 

「だが、あの方に責められるより遥かにましだ」

「は?」

 

 クレマンティーヌには理解できませんでした。

 手足をぽきぽきされる方がずっとマシだとは、一体何なのでしょうか。

 

「え? なに? ケムリンって若旦那様怒らせたの? ってか怒るのあの人? いや、人? 悪魔かな?」

「……………………」

 

 ケムキチは答えません。

 椅子に深く座り、両手で自分の体を抱きました。

 手袋をして爪は出ていないのに、両手の指が二の腕に食い込みます。

 カタカタと震え出しました。

 

「……この椅子は俺の副長だった」

「は?」

「そこの寝台は同じ部隊の仲間だった。顔も名前も思い出せない。あいつとあいつとあいつと……、天幕は何人分だ? 十人か? 二十人か? 俺たちは二百もいたんだ。あそこは二千以上の大隊だった。もう何もない。全部ない。あいつは……あの方は……」

「ちょっとちょっと……」

 

 クレマンティーヌはケムキチに問いかけつつも、うっすらと気付いてしまいました。椅子や寝台に天幕になってる毛皮は、ビーストマンの毛皮だということに。

 何も知らなければ単なる毛皮で、知ったとしてもビーストマンの毛皮で済む話です。

 ですが、そこに住んでるのはビーストマンのケムキチです。ビーストマンがビーストマンの毛皮の中で暮らしているのです。

 

「あの方を怒らせたらどうなると思う?」

 

 ケムキチの声からは、色も温度も抜け落ちていました。意思も感情も刮ぎ取られ、水底の石ころが喋っているかのようです。

 

「残酷とか残虐なんかじゃない。そんなものは俺も散々やってきた。だがあの方のは、そんなんじゃない。きっと何もない。何とも思ってない。俺は、あの方が……」

「ケムリン、ケムリン! 血が出てるって!」

 

 カタカタと震えていたのが、ガタガタと椅子が鳴りだしました。

 

「あの方が…………こわい……」

 

 ケムキチが搾りだした声は、子供が泣いてるような声でした。

 

 

 

 

 

 

 クレマンティーヌは、若旦那様の表層しか知らなかったことを自覚しました。

 魔導国宰相閣下相談役で、お骨様と面識があるというのは、あの恐ろしくも美しい場所を知ってるに違いありません。あの場で見た数々の異形種も知っているはずです。それなのに魔導国宰相閣下相談役を続けているということは、若旦那様もあちら側と察するのは容易です。

 どうして今まで気付かなかったのか、わが身の迂闊を呪うばかりです。

 もしかしたら妹がどうのと言っていたのも、自分を誘導して本心を口にさせるための演技だったのかも知れません。

 よくよく考えてみれば、いくら自分が幼くて警戒に値しない存在だとしても、新参者に「妹に死んでて欲しい」なんて本心を言うわけがありません。宰相閣下の相談役がそんな事を口にしたら、魔導国の秩序が保てません。

 やはり自分は誘導されたのだと思う他ありませんでした。

 

 それでも日は沈み夜は明け、新しい日がやってきます。

 

 クレマンティーヌは、若旦那様をおにーさまと呼んで甘える素振りを見せつつ警戒を強め、それとなくお嬢様や神官様の話を振ってみます。若旦那様の言葉は、死んで欲しいと願う相手に思う事ではないように思えます。

 若旦那様は何事もなかったかのように、ギターの指導をします。読み書きは省いて、数の扱い方を教えます。クレマンティーヌは、どうしても身が入りません。死線を歩いているように思えてならないのです。

 

 夜にはルプスレギナが帰ってきたようで、午後の体育はケムキチとの過酷な追いかけっこが続きます。ケムキチは相変わらず手抜きをしてくれました。ルプスレギナはそれを織り込み済みで、ケムキチをぽきぽきやってしまいます。若旦那様が様子見をする時は、すぐに治してやるようでした。

 

 数日が経ち、お嬢様も帰ってきました。

 クレマンティーヌは完全に無視をされているので、お嬢様がいようがどこかに出かけてようが関係ありません。

 ただし、妹を嫌ってる若旦那様はどうでしょうか。クレマンティーヌが見る限り、お嬢様と険悪な様子はないようです。これとあれとどっちが演技だったのか、クレマンティーヌにはわかりませんでした。

 いいえ、わからないと云うのは希望的観測を多分に含んでいます。あちらに確定してしまうと、自分は二人の抹殺を提案して肯定したということになってしまうのですから。

 そうなってしまったら生き返らされたあの場所に戻され、タコさんのお楽しみが始まってしまうのです。

 

 

 

 クレマンティーヌが大いにやきもきする日は長くは続きませんでした。

 モモン様が帰ってきたのです。

 

 モモン様とナーベ様はお屋敷を臨時の拠点にしているので毎日とは言わずとも定期的に戻ってくるのですが、中身がその時々で違うようです。お出迎えするだけのメイドたちでは気付かないでしょうが、クレマンティーヌにはわかります。若旦那様やルプー様、お嬢様の反応が違うのです。

 この日のモモン様は、お骨様のようでした。

 その翌日の事です。

 

「おはよう」

「……………………え?」

「クレマンティーヌと言ったわね。あなたはおはようと挨拶されたら何と返せばいいのか知らないのかしら?」

「あ、ごめんなさい。おはようございます、お嬢様」

「あなたは使用人ではないでしょう? 名前でいいわ」

「……ソリュシャン様?」

「ええ」

 

 今までずっとガン無視されてきたお嬢様に挨拶をされたのです。

 クレマンティーヌから挨拶されたのに返されたのではなく、お嬢様から挨拶をしてきたのです。

 お嬢様が自発的にそんな事をするわけがありません。何かがあったのです。

 

「今日は適当に流してくれればいいっすよ。やり過ぎは体に悪いっすから。一緒に柔軟でもやるっすかね? 怪我したらすぐに言うんすよ? すぐに治すっす」

「……ありがとうございます」

 

 痛めつけるのが大好きなルプー様がこれです。

 昨日までは、「チビちゃんがいい顔しないからもう一度」とか言って血反吐を吐くまで追い込まれてました。何を言われたか知りませんが、変わりすぎです。

 

 そんな二人の共通点として、可哀そうなものを見る目をしていました。

 哀れみの目です。

 どうしてそんな目で見られるのかさっぱりわかりません、と言えたら幸いでした。

 不幸な事に、クレマンティーヌには推測出来てしまいました。

 

 どうやら、若旦那様が、あの日の事を、お骨様に報告したのでしょう。

 

 ケムキチをあれだけ怯えさせる若旦那様です。

 追いかけっこするうちに、ケムキチは割と優れた戦士なのでは、とクレマンティーヌは察しました。ぽつぽつと話した言葉が本当なら、一部隊を預かる長だったのでしょう。しかし、全滅。今やケムキチの天幕に。ケムキチだけが生き残ってます。

 ルプー様にぽきぽきやられても無駄に騒がないケムキチです。中々の精神力です。そんなケムキチが、子供のように怯え切って若旦那様が怖いと泣くのです。

 

 きっと若旦那様は、目的のために手段を選びません。

 自分はそれに引っかかってしまったのです。

 

 自分があの二人に憐れまれるのは、自分のこれからが決まったからなのでしょう。

 

 怖いかと言われたら、とても怖いです。

 同時にふざけるなとも思います。卑怯とは言いません。引っかかった自分が間抜けなのです。

 しかし、座して死を待つつもりはありません。かといって実力行使は不可能。死期が早まるならまだしも、死んでも済まないかも知れません。

 

 

 

 

 

 

 アルベド様の夜食時間は、今までの習慣から日付が変わる前に終わることが多い。

 それでも夕食をとって一休みしてから体を清め、時にはそれを省いて始まるお夜食は、たっぷり三時間は取ることが出来る。アルベドの疲れと心と体を癒すのに十分な量と回数を確保できる。

 その後に一緒のベッドで眠ることはない。アルベドとしては少し気をそそられるが、寝起きの顔を見られるのはちょっぴり恥ずかしい。男の方も辞退する。

 いつかは、と思ってもまだ出来ていない。

 

 アルベドの部屋を辞した男は、自室には向かわず書斎に入った。

 窓を開け、夜風を浴びて火照った体を冷ます。

 素晴らしい一時を思い返しながら、あのお体に傷をつけてはならぬと、武装の素材について考える。

 月が目に映った。

 

 月に見入って、思考を沈めていたから気付かなかった。

 

「おにーさまは何を考えてるのかな?」

「……まだ寝ないのか?」

 

 クレマンティーヌの口調がいつもより砕けている。紫の瞳はキラリと光っている。

 いつ入ってきたのか、全く気付かなかった。

 書斎の入り口にはミラがいたはずだが、クレマンティーヌなら黙って通したかも知れない。

 

「こんな時間にどうしたんだ? 寝付けないなら一緒に寝てやろうか?」

「それはいらない。どうしても知りたいことが出来て、それがわからないと眠れそうになくってさ」

「なにかな?」

「私の処刑っていつになったの?」

 

 クレマンティーヌの言葉に、男は気を引き締めた。

 驚きはしても、あらかじめ覚悟していたのだ。それもこれも、アインズ様のお言葉があってのこと。

 やはりアインズ様は全てを見通すお方。クレマンティーヌの状態を正確に見抜いていた。

 

 クレマンティーヌの心が闇に囚われているとは本当だったのだ。

 なんとしても心の闇を払わなければならない。




Cl編は一月中に終わるはずです
たぶんあとちょっとです


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心の闇の正体

本話7k


 アインズの元にアルベドの相談役から連絡があった。

 

 以前、事前に何の連絡もなく、ズシンズシンと書類の山を持ってこられた。二つに分けて積んで尚、それぞれがアインズの頭を越える高さ。

 文書はチラ見しただけでそのままデミウルゴスに流したわけだが、持って帰れと言わないだけ有情であった。持ってきたのがソリュシャンではなくあの男だったら言っていたかも知れない。

 あんなものを突然持ってこられても困る。次からは事前に連絡を入れてから持ってくるようにと命じておいた。

 ナーベラルを通して届いたのはその報告である。

 

 アインズがわざわざ確認に訪れたのは、文書量を確かめるためである。

 もしも前回のようにズシンと書類の山を築かれたら、作成にどれほどの手間が掛かっていようと、容赦なくやり直しを命じるつもりでいた。思い遣りに溢れたアインズであるが、カルマは下限の極悪なのだ。

 

「こちらになります」

 

 エ・ランテルの大きなお屋敷の書斎にて、ズシンと書類の山が置かれた。アインズは思った。こいつわかってねえと。

 確かに、前回に比べれば小さな山だ。小さくても山だ。高さにして軽くメートルを超えた前回の十分の一程度だが、大人用の分厚い日本語辞書だって厚さは8センチ。それよりもかなり高い。

 頑張ったのだろうが要求を満たしていない。アインズのオーダーは、前回の千分の一であった。

 残念ながらやり直し、とアインズが言いかけたところで、男がぺらい紙束を取り出した。

 

「そしてこちらが、私がこれらの資料から読み取れた情報となります。私の主観による優先度の順で箇条書きにしてあります」

「ほお」

 

 アインズが直接受け取った紙は、僅かに三枚!

 帝国では秘中の秘であろう情報が無造作に書いてある。こういうのでいいのだ。

 

「更にこちらは、それらの情報の根拠を提示したものになります。数字などの引用元を末尾に記載しましたので、必要に応じて参照していただければ幸いです」

 

 書類の山から抜いたのは約1センチ。これくらいだったら、アインズでも要約した情報と照らし合わせることが出来る。

 要求を適切に満たしている十分な仕事だった。

 

 しかしそもそもを言えば、絶対君主に詳細な一次資料を提出する方が間違っている。アインズが受け取るべきなのは、今受け取った箇条書きの文書だけで十分である。

 資料の分析は他の者たちの仕事となる。デミウルゴスが目を爛々と輝かせて頑張っているところだ。

 

「よくぞここまでまとめてくれた。三人ともご苦労だった。ルプスレギナとソリュシャンは続いての慣れない仕事に苦労しただろう」

「「勿体ないお言葉でございます」」

 

 性悪姉妹は歓喜を胸に頭を垂れる。それをナーベラルが羨ましそうに見ていた。

 ナザリックのシモベにとって、アインズの言葉は無上の喜びを与えるのだ。

 

 心の喜びだけでなく体の悦びも伴うあちらの方が上の可能性がなきにしもあらずだがそういう事柄は比べるものではないのでどちらが上とも言えないのでアインズ様のお言葉はやはり無上の喜びである。

 

「長期間、帝都に遊学させていただいたのです。ようやくある程度の成果を示せたように思えます。胸のつかえがとれました」

 

 この場の幾人かは「お前はそんなん感じねーだろ」と思ったが、殊勝に跪く男に誰も何も言わなかった。

 

「重ね重ねご苦労だった。ルプスレギナとソリュシャンはこれからもこいつの補佐を頼む」

「「はっ! かしこまりました!」

 

 性悪姉妹には、現状維持にアインズ様のお墨付きを与えられることが何よりのご褒美である。やはりナーベラルが羨ましそうな目で見た。

 

「さて、お前には……、ふむ。何か望むものがあるか?」

 

 ナザリックはホワイトを目指している職場なので、信賞必罰が必要だ。

 先日の王国攻略の理論武装といい、今回の報告書といい、どちらも中々の成果である。何もなしと言うわけにはいかなかった。

 

「先だって、アインズ様から過大な報奨を頂いたばかりでございます。私は私の務めを果たしただけに過ぎません」

 

 アズスの件で不老不死を授かった、という事になっている。今回の報告書は、厳密に言えばこの男の仕事ではないかも知れない。が、帝都に遊学して何の成果もないのが論外なのも確か。

 不老不死の秘薬が美味しいドリンクに過ぎないことを知っているアインズは、僅かに残っている良心がちょっぴり痛んだ。理由あってのことではあれど、あれは詐欺も同然。追いの手を打った。

 男の言葉から、欲しいものが何もないと言ってるわけではないことに気付いたのだ。

 

「それほどの仕事ではなかったと言うのか? それなら私の気紛れだと思え。何かを与えたくなる気分の時もあるのだぞ?」

「そう仰って頂けるのでしたら……」

 

 男も気紛れで、ミラに凝った指輪を贈ったところだ。アインズの気紛れがわからないではなかった。

 とは言え、欲しいものがないのは確か。形あるものが欲しいわけではない。

 

「このようなことをアインズ様にお願いするのは大変おこがましいことであると承知しているのですが……」

「なんだ? 叶えられるかはわからんが、試しに言ってみると良い」

「一つ、ご相談したいことがあるのです。経験がないことですので、少々私の手に余るのではと思い始めたところでございまして」

「うむ?」

 

 物であれば与えれば済む話。持っていなかったら諦めろで終わること。

 それが相談となると、難しい。

 ナザリックにて知力担当のアルベドやデミウルゴスが認める男からの相談となると、何が飛び出てくるのか見当がつかない。もしも答えられないことだったら、全力で支配者ロールを駆使して自分が関わることではないと回避するつもりでいる。

 

「クレマンティーヌの事なのです」

「ふむ」

 

 アインズがモモンとして連れてきたクレマンティーヌである。報告によると、クレマンティーヌは概ねお行儀よく日々を過ごしているようだ。

 が、生前と言うか、モモンと敵対していた時のクレマンティーヌは、随分と尖った性格をしていた。安穏と過ごす内に素を出して、問題でも起こしたのだろうか。

 

「クレマンティーヌは幼いことから、どうやら想像力が豊かなようなのです」

「うむ?」

 

 アインズの予想とはかけ離れた言葉が続いた。

 クレマンティーヌが幼いと言っても、秘薬で若返らせたのであって、本来は成人女性なのだ。

 

「想像力が豊かな事だけでしたら、私にも経験があります。子供なのだから当然と言っても良いでしょう。ですがクレマンティーヌは想像と現実の境を曖昧にする傾向があるようで……。いえ、おそらくは本人も理解しているのでしょうが、曖昧にしたがると申しましょうか。あるいは想像にのめり込んでいると言った方が適切なのかも知れません」

「よくわからんな? どんな状態なのだ?」

 

 アインズは、ちらと性悪姉妹を見た。姉妹は首を左右に振った。二人に思い当たることはないようだ。

 クレマンティーヌは復活させた後、精神操作系の魔法で知りうる情報を粗方喋らせ、その後に記憶操作して魔法による尋問の記憶を失わせた。そのあたりの事が影響して、物事を認識する能力に瑕疵が出来てしまったのだろうか。もしもそうであった場合、元通りに回復するかどうかは未知数だ。

 

「私も実際に見るのは初めての症状ですので、上手く言葉に出来ません。幸いにも類例を書物で読んだことがありました。典型的な例を演じてみても構わないでしょうか?」

「構わん」

「それでは……。ルプー、俺を何かであおいで風を起こしてくれないか? ほんの少しでいい」

「いいっすけど……」

 

 アインズがわからなければ、ルプスレギナにもわからない。

 何の意味があるかわからないまま帽子を脱ぎ、えいっとあおいで男に風を送った。

 男へルプーの匂いが届き、銀髪が僅かに揺れ動いた。

 

 男は髪を抑えると、明後日の方向を見てこう言った。

 

「この風…………、悲しんでる」

 

 三姉妹はポッカーンと口を開いた。

 アインズは顔を背けた。

 

 

 

 

 

 

 GMDH(グレートモンドダウンヒル)はひとまず於いて、男はソリュシャンから様々な小説を読まように強いられてきた。女心にぐっと来る愛の言葉やシチュエーションを脳髄に叩き込むためだ。

 

 本当にいっぱい読まされてきた。何十何百と読まされてきた。ちゃんと読んだかテストもされた。

 短期間に大量に読まされたせいで、登場人物名に混乱することもあった。人物に個々の名前はつけず、いっそ全て役名で書いて欲しいと思ったものだ。もしくは役柄によって名前を共通させるか。

 

 作品では、まず主人公。ロマンス小説が主だったので、主人公の相手役。味方と敵。そしてそれぞれが細分化していく。

 中には敵にも味方にも分類されない者が多数あった。作品の臨場感を盛り上げる役だ。

 そんな盛り上げ役にも類型がある。その中の一つに、妙なものが頻出した。中立ではあっても主人公に好意的な例も多く、味方の一種である助言者に分類しても良いかも知れない。

 それは「真実を見抜く子供」であった。

 

 「真実を見抜く子供」は本当に何でも見抜く。大抵の作品には一度しか出番がないのだが、幾つもの作品に似たような存在が頻出する。

 子供が何を見抜くかと言うと、主人公の心を見抜くのがほとんどだった。

 ただの子供なのに心を見抜くのだ。見抜く相手は主人公。

 

 主人公は作品の主人公を張るくらいなのだから、凡庸な人物ではない。

 歴史ある国家の王宮にて海千山千の形容が相応しい老獪な政治家たちと渡り合う事も、凄惨な戦場で苛烈な戦いを潜り抜けることも、幼少期から厳しい教育を多方面から施されていることもある。

 なのに、ただの子供が心を見抜く。

 悲願の復讐を遂げようとする主人公へ『どうしてそんなに悲しそうなの?』と言ってみたり、仇敵の元に嫁がされる令嬢へ『お姉さんは良いことあったの?』と言ってみたり。

 経緯を見れば的外れな言葉なのに、何故か主人公の心あるいは未来を暗示するものとなっている。

 

 言ってしまえば作品を盛り上げる舞台装置だ。

 しかし、妙なことにまで整合性を求める男は、子供がどのような存在であるか考察してみた。

 

 その1。実はただの子供ではない。何者かが子供の姿をとって主人公を導いている。但し作中では何の言及もないので、いささか無理な解釈である。

 その2。神託。子供は神から託された言葉を主人公に届けている。神とはつまり作品の作者である。元も子もないが、これが一番可能性が高い。と言うか、これ以外にない。

 

 しかし男は更に考えた。

 

 その3。子供の妄想。子供は何となく頭に浮かんだことを出たとこ任せで主人公に告げたのだ。それが偶然にも主人公の心を突いたに過ぎない。

 これはそれと思わせる描写もあって、子供は『太陽が笑ってる』とか『星が歌ってる』とか『風が悲しんでる』とか、奇妙な言葉を口にする。

 言うまでもなく、太陽は笑わないし星は歌わないし風は悲しまない。子供の想像力の産物と言って良い。子供は自身が想像したものを現実に重ね合わせているのだ。

 

 男がここまで考察を進めた時、ラキュースの内なるラキュースである影羅が『私を忘れるなよ』とラキュースに囁いたのかどうか定かではない。

 

 クレマンティーヌはその3の子供と同じである。

 読み書きに四則演算が問題なく出来ることから、高度な教育を受けてきたと察せられる。きっと様々な物語に触れる機会もあったことだろう。

 そんなクレマンティーヌだから、こっちは全く辛くないのに『辛そうです』とか『気持ちがわかります』だとか『心は一つです』と言ってしまったのだ。

 

 ちなみにGDMHにも似たような子供が出てきた。ドラゴニオに向かって「剣が悲しんでる」と指差した子供に、ドラゴニオは「よくぞ見抜いた馳走をやろう」と言って頭の天辺から真っ二つにした。

 いつものドラゴニオなので、子供の言葉が真実を突いたか否かは謎である。

 

 

 

 

 

 

 男の寸劇に、三姉妹は中々反応できなかった。

 いち早く我に返ったのはソリュシャンだ。

 

「誰かが不可視化してお兄様に何かを告げたのでしょうか? 誰!? アインズ様の御前なのよ! 姿を現しなさい!」

「それともメッセージの魔法が届いたの? アインズ様がいらっしゃるのだから、少し待ってもらうことは出来そう?」

「いやいやいや…………。二人とも何言っちゃってるんすか。私があおいだ風っすよ? 不可視化した誰かとかメッセージとかあるわけないっすよ。こんなこと言いたくないんすけど…………、おにーさん。……頭おかしくなっちゃったっすか?」

「やめてさしあげないか!!」

「「「はっ!」」」

 

 アインズの一喝に、三姉妹は跪いた。

 

「いいか? クレマンティーヌはだな。悲しい過去があるのだ。家族から見放され、国を捨てる羽目になり、汚い仕事に手を染めてきた。そうしなければ生きてこれなかったのだ。それがやっと平穏な生活を手に入れたんだぞ? 少しくらい想像力が豊かになったくらいでとやかく言うのは好ましくないな」

「「「はっ!」」」

「心に闇があるのだ。ゆえに辛い現実から目を逸らし、空想の世界に心を遊ばせているのだろう。言うなれば闇の時代からの反動と言えよう」

 

 三姉妹に加えて男も跪き、アインズの言葉を拝聴する。

 クレマンティーヌはアインズが連れてきた子供であることから、それなりに重要な存在と捉えてきた男である。が、アインズがここまで言葉を尽くすとなると、相当に気を掛けているのだと察せられる。

 三姉妹は、たかが人間の子供にアインズが言葉を重ねるのに驚くと同時に、人間の子供にまで慈悲を与えるアインズの寛大に心打たれた。

 

 しかし、アインズがクレマンティーヌを気に掛けているわけがない。

 情報を抜いた後で処分しても良かったくらいなのだから、言ってしまえばどうでもよい。

 にも関わらずアインズが言葉を尽くすのは、自分のためだった。

 

 仮に、アインズの親しい友であるペロロンチーノと、そっち方面に詳しいウルベルトにダブラを加えて博識である朱雀がこの場に現れ、

『あの時のモモンガがドイツ帝国の軍服に惹かれたのは軍服が主張する精神性とモモンガのこのような願望が重ねあったからであり』だとか『ドイツ語の響きは日常的な言葉であっても日本語話者である我々からするとシャープな印象があり、無駄を削ぎ落としたように感じられ、モモンガの嗜好がそちらに向かったのは』だとか『実用重視に見えてパンドラズ・アクターの振る舞いを見るとモモンガが必ずしも質実剛健だけを目指したわけではないと分析出来る』だとか『ぶっちゃけいい年してるのに遅れてやってきた中二病ですよね!』だとか言われたら死んでも済まない。

 

 かつて、守護者一同に「Wenn es meines Gottes Wille!(我が神のお望みとあらば!)」をやられた時は精神の死を迎えた。

 その時は死の支配者であることから何とか復活できたが、もしも中二病時代の事を解説されでもしたら、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを全て回収し侵入の手段をなくしてから宝物庫に永遠に引きこもるか、ナザリックを捨てて自分を知る者がどこにもいない新天地に旅立つ。

 

 幸いにも、三姉妹の言葉はアインズを指してるわけではない。クレマンティーヌの症例を実演した男に対してだ。

 それでも、アインズは見ていられなかった。

 共感性羞恥である。見てるだけで恥ずかしいというあれだ。とてもいたたまれない。居た堪れない、だ。居るだけで辛い。

 クレマンティーヌがどうのとはどうでもいい。兎にも角にも一刻も早く止めさせなければならなかった。

 

「優しくしてやるのだ。少しおかしな事を言っても無闇に否定してはいかんぞ? 基本的には優しく肯定してから、少しずつ正してやるといい。荒療治はいかん! 本人も心のどこかでわかっているはずなのだ。少しずつ、少しずつ解きほぐすべきだ」

 

 アインズがそっち方面に偏っていた時代にやって欲しいと思う対応である。

 頭ごなしに言われたら、反発できるほど若くないので、きっと恥ずかしくて堪らなくなるだろう。それはダメゼッタイである。

 

「お前ならクレマンティーヌの心の闇を払えると信じて任せたのだ。だが臆することはないお前なら出来る全てはお前に任せているから以降は私に報告する必要はないお前が良いと思うようにするといいうむそれがいいそれでいい報告書ご苦労だった確かに受け取ったでは頼んだぞ私はナザリックに戻るこれでもすべきことが中々多いのだ」

 

 息継ぎの必要がないアインズは早口で言い終えると、跪く男の肩をポンと叩くなりゲートの魔法を発動して姿を消した。

 書斎には様々な防御の魔法が掛かっているが、例外としてアインズだけはどのような魔法も問題なく発動できる。書斎設計時に抜け穴を作っていたのだ。

それがこの時に役立とうとは、アインズであっても見通せなかったことであろう。

 

「ソリュシャン、ルプー、アインズ様のお言葉を聞いたな? これからはアインズ様のお言葉を念頭に置いて行動するように」

 

 性悪姉妹は深く頷く。クレマンティーヌと接点がないナーベラルはちょっと仲間外れである。

 

 こうしてみんなはクレマンティーヌに優しくなった。

 

 

 

 

 

 

「私の処刑っていつになったの?」

 

 深夜の書斎にて、クレマンティーヌが言う。気負いはなく、自身が発した重大な言葉は、既に確定したものと思っているようだった。辛く苦しい過去がクレマンティーヌの心を闇で覆い、現実の認識を誤らせているのだ。

 もしかしたらきちんと認識して色々とわかった上で言ってみてるだけの可能性も大いにあるが、アインズによるとそこを指摘してはいけないらしい。

 

 とても難しい。

 難しいと思ったから、男はアインズに相談したのだ。

 だが、「信じて任せる、お前なら出来る」と言われては応えないわけにはいかない。

 

 アインズ様のお言葉を、自分には荷が重いと投げ出せるわけがない。そんなことを、アルベド様はけっしてお許しにならない。

 何とかしなければならなかった。

 

 クレマンティーヌの心の闇を払うのだ!




たぶんあとちょっと、たぶん

2・3日くらい前に後書きか前書きで何か書くべきことがあったように思ってたんですが綺麗に忘れました
ヒルマの需要だったか、クレマンかロリマンかどっちかって事だったのか、書いててもピンと来ないのでたぶん違います


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あれはお片付けのお掃除である

本話10k


 アインズ様は無闇に否定してはいかんと仰せだった。しかし、処刑とは想像力が逞し過ぎである。ここは否定しなければならない。

 

「クレマンティーヌが処刑される予定はないよ」

「それじゃなんでお骨様が来たわけ?」

「お骨様じゃなくてアインズ様とお呼びするように。魔導国はアインズ様のお力によって平和が保たれている。敬意と感謝の気持ちを忘れてはいけないぞ」

「ハイハイ。で、なんで?」

 

 素直でお行儀が良かったクレマンティーヌに反抗期が来てしまったようだ。

 面倒だが、男には義兄としての義務と、アインズ様からのお言葉がある。ちゃんと答えなければならない。

 

「俺はこの春まで帝都にいたからね。その時の成果を提出したんだよ」

「でも私の話もあったんでしょ? それは?」

 

 アインズが来た前後で、ソリュシャンとルプスレギナの態度が180度変わった。何かがあったと思わない方がおかしい。

 

「クレマンティーヌに優しくしてやれと仰せだったよ。クレマンティーヌはアインズ様のご慈悲にちゃんと感謝するんだぞ?」

「悪いけど信じらんない。ここに来る前の私って、アインズ様とって言うかモモンの方だったけど殺し合いをした仲なの。それでどうして優しくなんて出てくるわけ?」

 

 そう来たか。

 男にはクレマンティーヌの心が薄っすらと見えてきた。

 

 アインズ様は元より、モモン様だって大英雄だ。そのモモン様と殺し合うならば、相当の力量が必要となる。小っちゃくて可愛いクレマンティーヌにはどう頑張っても無理そうである。

 だが、男には経験があった。自身の経験ではなく、付き合いがあった子供たちだ。

 子供たちは自分たちを英雄に見立ててごっこ遊びに励んでいた。当時は帝国と王国との戦争は静かなものでガゼフのように名の通った英雄は少なかった。人気だったのは魔神を倒した十三英雄だ。中でも魔法使いより戦士が好まれた。

 クレマンティーヌも英雄ごっごをして、自分をモモン様と対等の戦士であると見立てて遊んでいるのだろう。

 しかし、その設定には無理があると指摘しなければならない。

 

「わかった。クレマンティーヌはモモン様と渡り合えるくらいの凄い戦士なんだろう。だから敵対した自分は処刑されるって考えたのか。だけどちょっと考えてごらん。クレマンティーヌはモモン様がアインズ様だと知ってるだろう? クレマンティーヌはアインズ様と戦えるほどの戦士だったのかな?」

「あれは無理」

 

 クレマンティーヌが戦ったのは、あくまでモモン。

 その時のモモンは膂力に任せて剣を振り回すことしか出来ていなかった。素早さと技術で勝るクレマンティーヌは隙をつき、痛打を浴びせることが出来た。結局は無効だったわけだが。

 それがアインズが相手となると、勝負の土俵にすら立てない。存在を認識された瞬間に魔法でやられるのが目に見えている。

 

「そうだろう。アインズ様は帝国と王国との会戦に介入され、たった一つの魔法で王国兵数万を薙ぎ払ったそうだよ。クレマンティーヌがどんなに強くてもさすがに無理だったろうね。で、アインズ様にとっては何の脅威でもないクレマンティーヌをわざわざ処刑すると思うかい?」

「……でも敵対してたんだよ?」

「だったら俺にクレマンティーヌの面倒を見ろなんて命じるわけがない。ああ、命令ではなく頼みって形だったかな。すぐに処刑するんだったらそんな事をしても無駄なだけだ。アインズ様は無駄な事を好まれない」

 

 無駄を好むどころか、真逆の吝嗇家である。以前敵対したから、と言うのは処刑の理由として弱すぎた。

 だったら心配要らない、と思えるクレマンティーヌではなかった。

 

「危険だと思ったんじゃない? 私って、実は人殺しだし」

「む」

 

 ごっこ遊びにしては刺激的な言葉が飛び出た。

 男の知る限り、クレマンティーヌが誰かを殺した事はない。それでも一応の確認で、ドアの外にいるミラに声をかけ、クレマンティーヌが来てから屋敷のメイドや使用人たちに欠員が出たかどうかリファラかキャレットに聞いてくるよう命じた。

 クレマンティーヌは、呆れてますと言わんばかりに渋面を作った。

 

「常識的に考えて屋敷の誰かなわけないでしょ。外の連中」

「それこそ無理だ。クレマンティーヌが外に出ないよう周知してある。まさかそれを避けて出たのか? もしもそうだったら、屋敷の警備体制を見直す必要が出てくる」

「だから、私がここに来る前の話だって」

「だったらモモン様がクレマンティーヌを連れてくるわけないだろう?」

 

 魔導国で殺人を犯すと、極刑が視野に入る。

 魔導国における極刑は死刑ではない。ナザリックでの研究材料である。

 

「だから……」

 

 話の噛み合わなさに、クレマンティーヌは床を蹴った。そう言えば、どうしてここに連れてこられたのか未だにわからない。

 真実はアインズの気紛れなのだから、クレマンティーヌにわかるわけがない。

 

「ともかくそうなの! もうザクザク殺してエ・ランテルでも殺して殺し続けて、最後にモモンにやられてここに来たわけ!」

「……そうか、すごいな」

「ああ!? なに? でたらめ言ってると思ってるの?」

「いやそうじゃなくてだな」

 

 クレマンティーヌの膨らみ続ける設定に、ちょっと面倒くさいと思っただけである。

 子供の話に整合性を求めるのは無茶と思っても、クレマンティーヌの話は飛び過ぎた。それでも投げ出してはいけない。どうしたらクレマンティーヌの話に筋を通せるかと考えて、一つだけ道があった。

 

「もしかして、エ・ランテルが魔導国の首都になる前の事か?」

「そーだよ。気付いたら王国から魔導国なんてのになっててさ。ま、他の国でも結構やったけどね」

「ああ、それだったら」

 

 謎は解けたが、そうするとクレマンティーヌは今より小さかった頃にザクザク殺していたと云うことになる。それはそれで無理そうだが、現在のエ・ランテルで大量殺人より実現可能性がある話だった。

 とりあえずそういうことにして話を続けようとしたところ、ドアが小さく鳴った。ミラが戻ってきたようだ。

 

「キャレットさんに聞いてまいりました。クレマンティーヌが来てから屋敷の使用人に欠員はないそうです。今年に入ってからですと、帝都勤めを拒否したメイドが一人辞めたそうです。率先して行動する者だったようで、その時の教官は惜しんだようです。それと……」

 

 ミラは言いづらそうに口ごもってから、

 

「キャレットさんから伝言です。『明日も早いのにこんな時間に起こされて、若旦那様には相応の埋め合わせを要求します』とのことでした」

「…………そうか」

 

 必要がない質問をしたせいで借りが増えてしまったようだ。悲しいがいつもの事である。

 退室しようとしたミラを止め、男は言葉を続けた。

 

「どうやらクレマンティーヌは人を殺してはいけないって思ってるみたいだな。この際教えておくが、魔導国では人を殺してはいけないなんて法はないぞ?」

「うそ!? それほんと!?」

「本当だ。殺したら相応の罰が定められているだけだ」

「……あっそう」

 

 それでは実質的に同じ事である。と、クレマンティーヌは思うが微妙に違う。

 

「ミラに聞こう。戦場で相対した王国兵士を殺してはいけないと思うか?」

「むしろ積極的に処分するべきかと存じます」

「ならエ・ランテルの民を殺してはいけないと思うか?」

「それは……場合によりけりかと。ご主人様が法に定められていると仰いましたし、アインズ様からも極力害さないよう仰せつかっております」

「ここのメイドたちは?」

「そんな事をしたらキャレットさんとリファラさんに叱られてしまいます」

「最後だ。シリーたちを殺していいと思うか?」

「そのように思う者共を率先して排除したく存じます」

 

 シリーはミラの同僚であるヴァンパイア・ブライド・エリートシックスの一人である。

 

「と言うわけだ」

「何が?」

 

 集団としての規模が小さいナザリックの一員であるミラは的確な答えを出してくれたのだが、クレマンティーヌにはさっぱりわからなかった。

 

「……アインズ様から詮索は禁じられてるんだが、クレマンティーヌはそこそこの名家の出だったりするのか?」

「そうだよ。ま、あんな家、こっちから捨ててやったけどね」

「やっぱりか」

 

 だから高度な教育を受けられた。

 と同時に、子供に十分な教育を受けさせられる余裕がある規模の集団と察せられる。規模が大きく、おそらくは歴史もそこそこにある。だから誤解とは言わないまでも、事の本質を知ることがなかったのだ。

 

「クレマンティーヌは勘違いしてるようだな。人を殺してはいけないわけじゃない。それは順序が逆なんだよ」

「逆?」

「殺人がダメってのは、人が集まって決めた事じゃない。前提として殺人をしないから人が集まったんだ」

 

 男は軽く説明した。先日の王国攻略理論武装の件で、アインズに話したことと一部重なる。

 人は弱いから集団を作った。自分たちの身を守るための集団である。その集団内で殺人が横行すると本末転倒であり、自分たちの身を守ることが出来なくなる。そのため、事前に殺人を行わないことに同意した者だけが集まった。戦争してる二国が和平を結んでから交流するようなものである。

 言葉を換えれば、防衛のためのコストや経済合理性などが当てはまるかも知れない。が、それらは全て後知恵である。クレマンティーヌが思うのは順序が逆なのだ。

 

「人って大きく括るから変な話になる。それぞれの属性を考えればすっきりする。自分の安全を守ってくれる仲間とそれ以外。ミラに聞いたシリーは仲間だ。で、エ・ランテルの民やメイドたちは決まり事だから守ってる。クレマンティーヌだって、自分を守ってくれる仲間たちは殺さなかっただろう?」

「それは……まあ、そうだったけど……」

 

 法国にいた頃、共に学んで仲間だと思っていた者たちを手に掛けたことはない。

 法国を捨てた時、仲間だと思っていた者は仲間ではなくなった。気に入らなかった奴を片付けたりもした。追っ手を始末したことも数えきれず。

 それでも新たな仲間たちを殺そうと思ったことはない。モモンと敵対する少し前に加入した秘密結社ズーラーノーンの事だ。仲間に愛称をつけて呼び、殺すどころか危険から守ってやったくらいだ。

 

「国家単位になっても同じだ。仲間だから殺さない。人であっても仲間じゃなければあっさり殺す。どの国だって戦争すれば似たようなものだし、死刑もある。人を殺してはいけないってのは勘違いだよ。それに楽しみで人を殺す連中なんて幾らでもいるしな」

 

 男が言っているのは王国の腐敗、だけではなかった。ごく普通の大衆の事だ。

 危険がなく罪に問われなければ、人々は楽しみのためだけに他者を殺める。

 

「と言うわけで、これからエ・ランテルの誰かを殺したりするなら法で裁く事になる。以前の事だったら関係ない。魔導国には遡及処罰の禁止っていうのがあるんだぞ? 簡単に言えば、昔やった事を今の法で裁けないって事だな」

「……もしかしておにーさまも結構人殺してきた?」

「うっ……。まあ、そこそこは。でも今言ったとおりだ。仲間は守るべきで、片付けたのは邪魔だったから片付けたわけだ」

「何人?」

 

 純粋な好奇心である。

 クレマンティーヌは、内心でお坊ちゃんと思ってたおにーさまなのだ。あのルプー様とソリュシャン様が妹であるにせよ、お坊ちゃんのおにーさまがどこまでやったか興味がある。ケムキチをあれだけ怯えさせるのだから、やる時にはやるのかも知れない。

 

「そんな事はいいじゃないか」

「私にあんなこと言わせておにーさまはダンマリするわけね」

 

 自分から言ったんだろうが、と言いかけた男を止めたのは、アインズ様のお言葉だった。クレマンティーヌには優しくしてやらなければならない。

 

「数えたわけじゃないが、おおよそで推測できるところは……」

「そんなの私だって数えてないし。10人くらい? もっと多かったりする?」

「もうちょっと多いかな」

「それじゃ15人?」

「もうちょっと」

「……20いく?」

「いってるかなぁ」

「何人よ?」

 

 クレマンティーヌが最初に上げた数字は多めに見積もっていた。

 痛めつけるのが大好きそうな妹と違って、こちらは好んでいないように見える。ケムキチが随分と怖い目にあったのは怒らせたからだとか。

 そういったことがなければ積極的に人を害するとは思えない。逆を言えば、過去に数人くらいはこの男を怒らせただろう。

 20人以上が酷く怒らせたのだとしたら、思ったより短気な男なのかも知れない。

 

「……千人くらいかな」

「はあ!? それって全然ちょっとじゃないでしょ!」

「クレマンティーヌは知らないのか? 『ちょっと』には『ほんの少し』って意味のほかに、逆説的に『存外』とか『かなり』を意味することも」

「そんな事は聞いてない」

「……そうだね」

 

 クレマンティーヌはザクザク殺してきたと言うだけあって、相当の数を殺してきた。確実に三桁はいっている。が、そこから更に一桁上。意外にもほどがあった。

 

 実を云うと、千を超えるキルスコアはナザリックにて単独三位を誇っていたりする。

 一位は当然アインズ。帝国と王国との会戦で万を超える兵を屠ったのは伊達ではない。

 二位はデミウルゴス。魔皇ヤルダバオトをしていた時に相当稼いだ。ヤルダバオトによる被害が全てデミウルゴスのスコアに還元されるなら単独一位になっても不思議ではないが、大半はデミウルゴス配下の悪魔や、支配下に置いた亜人たちのスコアである。

 

「何で殺したの?」

「……邪魔だったから?」

「何で疑問形なのかな?」

 

 クレマンティーヌが聞きたかったのは手段だ。返ってきたのは自信なさげな疑問形。

 

「過ぎた話なんだからいいじゃないか」

「でも聞きたい。おにーさまはその手で殺したの?」

「そんなことしたら手が汚れるし危ないだろ」

「うわぁ……」

 

 クレマンティーヌは、少なくとも『人』を殺したと思っていた。

 対するこの男は、動く障害物を片付けたとしか思っていない。この男の価値観によると、片付けたのは仲間ではなかったのだ。放置すれば自分たちに危険が及ぶ。そして片付ける手段がある。やらない理由がない。と、当時は思っていた。

 振り返れば、犯罪組織とその周辺が鬱陶しくはあっても、差し迫った危険があったわけではない。自分を含む仲間たちに被害はなかった。それでもやってしまったのは若気の至りである。

 あの時の大火が自分の存在をラナーに知らせる狼煙となったのだから、なおさら余計な事をしたと後悔している。別の手段で静かに片付ければ良かったのだ。

 

「おにーさまってすっごい悪人だったんだね」

「クレマンティーヌにはそんな事で善悪を測る狭量な価値観を身に着けて欲しくないな」

「うわぁ……」

 

 人を殺した事を、本当に何とも思っていないようだった。

 クレマンティーヌは自分の事を悪人だと思ってきたが、目の前の男には負ける。そんな事を思う内に、あれほど焦がれていた殺人がつまらないものに思えてきた。

 クレマンティーヌのお気に入りは冒険者。冒険者が着けている身分証のプレートを集めるのが趣味だった。腕に自信がある冒険者を仕留め、自分は生きている。完全に不可逆的な形で優劣を証明するのだ。それは禁忌を破る事。人殺しは忌避され禁忌とされているからこそ、それを犯す事に喜びを覚える。

 だと思っていたのに、この男に言わせれば人ではなく単なる障害物。人殺しと掃除の区別がついてなさそうだ。

 

「ともかく、過去の事を今の法で裁く事はない。だから安心するように」

「でも……」

 

 そう言われても安心からは遠い。

 人殺し云々は、アインズが知っている事。それをどこまで知らされているか知らないが、知っていてもおかしくない。

 最大の問題は、ルプスレギナとソリュシャンの抹殺を提案したことである。

 

「妹のことが」

「だからそれは、クレマンティーヌが何とか出来る事じゃないって言っただろう? 詳しい説明はしてやれないが、あれは魔導国の戦略に関わってる。後の身分もアインズ様が保証なさっているようだ。基本的に手出しは厳禁だ」

「へ?」

「今の話は他でするなよ? ソリュシャンたちならある程度は聞いてるだろうが、メイドたちには絶対聞かせないように。それくらいは守れるだろう?」

「守れる、けど……。おにーさまの妹って何人いるの?」

「一人だろう。俺の知らないところで作ってたらわからないけどな」

「それって悪魔か何かですか?」

「あれが悪魔だったらアルベド様に、デミウルゴス様にも失礼だ」

「じゃあお兄様が悪魔?」

「俺は人間だ」

「うそぉ!」

「どうしてそこで驚く?」

「あはは……」

 

 クレマンティーヌは、決定的な勘違いにようやく気付いた。

 おにーさまの妹は一人。この時点で、ルプスレギナとソリュシャンの両方が妹である事はない。

 魔導国の戦略に関わる。ルプスレギナとソリュシャンはそこそこの立場だろうが、そこまで大それた存在とは思えない。

 疑わしいがおにーさまが人間と云うことは妹も人間である可能性がある。ルプスレギナとソリュシャンは明らかに人間ではない。

 つまり、おにーさまの妹は、ルプスレギナとソリュシャンではないということだ。

 

 自分は二人の抹殺を提案したつもりだったが、幸運な事にそうは受け取っていなかったらしい。

 

(うおおぉおおお、やっばーー! セーーーーーーーーーーーフ!!)

 

 自分に処刑がどうのとは、本当にただの思い込みの勘違いだったらしい。

 どうせなら妹が誰なのか聞きたいが、そうすると自分が勘違いしてたことに気付かれてしまうかも知れない。とりあえずは知った振りをして、いずれ誰かを巻き込んで聞き出すことにした。

 

「クレマンティーヌがどうしても不安だって言うなら、もしもアインズ様が処刑の判断を下すようなことがあったら俺が弁護しよう」

「……それ本当?」

「ああ。そんな事はあり得ないが、クレマンティーヌが安心するなら。証書でも作るか? 証人をつけてもいいぞ?」

「証書とかなくしそうだから証人で」

「それなら、ミラ。今、俺がクレマンティーヌに話した事の証人となって」

「待った。ミラはおにーさまの言うことなら何でも聞いちゃうでしょ? おにーさまがそんなこと言わなかったって言ったらミラは従っちゃいそう」

「そんな事はないだろう……。ミラ」

「はっ!」

 

 証人になると聞かされ、ミラはいつも以上に背筋を伸ばして男の前に立った。

 

「俺の髪は黒いだろう?」

「……いえ、ご主人様の髪は輝く銀髪でございます」

「良く聞こえなかったな。俺の髪が銀色のわけないだろ。黒だよな?」

「いいえ、銀色をしていらっしゃいます」

「おかしいな。俺の目には黒に見えるんだ。俺は黒がとっても好きで、銀色の髪なんて虫唾が走る。俺の髪が銀のわけないだろう? 黒だよな? それともミラの目には黒に見えないのか? 俺の目がおかしいって言いたいのか?」

 

 ミラは透き通った微笑を見せた。

 

「はい。ご主人様の髪は漆黒でございます」

「ダメじゃん」

「………………うん、ダメだな」

 

 ミラは心で泣いた。

 なお、今の男は明らかにパワーハラスメントである。アインズに知られたらちょっと叱られる。ミラが男の前に仕えていたシャルティアはパワハラどころではなかったが。

 

「キャレットを呼べばいいんじゃない? さっき起こしちゃったんでしょ?」

「もう遅いし明日じゃダメか?」

「ダメ。気が変わったとか言われるかも知んないし」

「……キャレットを呼んで来てくれ」

「かしこまりました」

 

 ミラは一礼して書斎を出た。

 色々面倒であっても、クレマンティーヌの心の闇がいよいよ払えそうなのだ。少々の手間は我慢しなければならなかった。

 

 待つことしばし。

 不機嫌そうなキャレットが、夜着にストールを羽織って現れた。

 

「こんな時間に何ですか? さっきも言ったように明日も早いんですけど?」

「すぐ済むよ。もしもアインズ様がクレマンティーヌに過去の事で罰を下そうとしたら、俺が弁護する。俺がそう言ったって事の証人になって欲しい」

「アインズ様だけじゃなくて他の方の時も」

「他の方の時も俺が弁護する。それでいいか?」

「うん」

「……若旦那様がクレマンティーヌの弁護をする。確かに聞きました。もういいですか?」

「ああ、こんな時間にすまなかった。明日、もう一度確認すると思うが、今はとりあえずそれだけでいい」

「はあ……、明日も早いのに……」

 

 キャレットは深く息を吐く。とっても迷惑なんですけどアピールだ。

 けども、上げた顔には悪戯な色が漂っていた。

 

「明日のお仕事は寝不足で大変かもしれません。ですけど、若旦那様が寝る前にマッサージしてくれたらよく眠れるかも知れません」

 

 肩に羽織り、胸元で合わせていたストールを少しだけ開いた。

 キャレットの夜着は、白のロングネグリジェだ。夏用なので生地が薄く、明るくして近くで見れば透けて見える。

 寝ていたところなので、ネグリジェの下には何も着けていない。双丘が生地を丸く大きく盛り上げている。

 

「若旦那様の予定は聞いていました。でも、迷惑を掛けた私を労うべきじゃありませんか? …………あら?」

 

 キャレットは、アルベド様がお一人でお夜食を取った事を知っている。時間的に、お夜食の後だ。と言うことは、今夜これからの若旦那様はもう寝るだけである。

 何度もしてきたけれど、二人きりは一度もなかった。この機に、と思ったところで邪魔が入った。

 

「おにーさまは私に添い寝するの」

 

 キャレットを遮るように、クレマンティーヌが割り込んできた。

 

「さっき一緒に寝ようかって言ったよね?」

「確かに言ったが……」

 

 直後に「いらない」と言われている。クレマンティーヌの気分が変わったのだろうか。

 それともキャレットにマッサージをして、快眠の手伝いをするべきだろうか。そうすれば明日のキャレットが寝不足に悩まされることはなく、後の埋め合わせをなかったことに出来るかも知れない。

 

 男が迷ってる間に、キャレットが答えてしまった。

 

「先約があるなら仕方ないですね。若旦那様には後でよろしくお願いします。それではおやすみなさいませ。私は失礼させていただきます」

「……ああ、おやすみ」

「おやすみなさいませ」

 

 ミラはきちんと挨拶したのに、クレマンティーヌは無言でキャレットを睨みつけた。

 男がクレマンティーヌに挨拶を促す間もなく、キャレットは行ってしまった。

 

 なお、翌朝のキャレットは眠い目を擦ってルプスレギナを起こし、回復魔法を掛けてもらって寝不足をすっきりさせる。そして朝早く起こされたルプスレギナは、心の帳簿に男への貸し一と付けることになる。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ寝るか。ミラは書斎を閉めたら好きにしてくれ」

「かしこまりました」

「クレマンティーヌ」

「……うん」

 

 クレマンティーヌは、男が差し出した手を握った。

 クレマンティーヌ自身も、自分の言葉が意外だった。反射的に口から出ていた。

 

 男と女がこんな夜中にマッサージだなんて、何をするか決まっている。

 それを邪魔したくて、添い寝と言ってしまった。この男を取られたくないと、強烈に思ってしまった。

 

 アインズに連れてこられたこの屋敷を、無条件に信じることは出来ない。不思議な事にルプスレギナとソリュシャンは優しくなったが魔窟であるとの認識は大して変わっていない。

 が、この男は自分を弁護すると言ってくれた。証人までつけた。始めに思ったのと少し違う形だが、自分の味方をしてくれる。自分が魔導国の法を破らない限り、自分が裏切らない限り、味方でいてくれる。きっと人情とか思い遣りとかではない。法の遵守に過ぎないのだろう。

 どんな形だろうと味方なのは確かだ。味方との絆を強固にするのに理由は要らない。

 とは全て後付けの理由であると、クレマンティーヌはわかっていた。

 

 今まで膝に何度も乗せられた。ルプスレギナたちの視線がきつかったわけだが、あれがなければ悪くはなかった。

 あの安らぎと安心を感じたいのかも知れない。

 広いお屋敷にただ一人の味方なのだから、一緒にいたくなるのはきっと当然の事だ。

 

 そんな取り留めのない事を思いながら歩くに連れて、苛立ちがこみ上げてきた。

 

 書斎では窓が開いていた。話の内容が内容だったので、距離を取っていた。

 それが、こうして手を繋いで歩いていると感じ取れる。

 

 男と女の、情事の匂い。

 

 おにーさまはこの顔だ。見とれたのは一度や二度じゃない。ミラなんて、何か言い付けられるまでずっと見入っている。

 ソリュシャンとの仲を勘違いした一件でちらと見た裸身は、均整がとれて引き締まっていた。

 そしてこの屋敷には女が幾らでもいる。

 考えてみれば、そんな事をしてない方がおかしい。子供の体になっているから想像が及ばなかった。

 それを汚らわしいと思うほど子供ではない。

 男がいて、女がいて、なるようになっただけ。

 そうとわかっていても、苛立ちが収まらない。

 

「クレマンティーヌの部屋は案外物がないな。欲しい物があったら用意させるぞ?」

「それは後でいい。着替えるからあっち向いて。…………おにーさまはその格好で寝るつもり?」

「そのつもりだ。脱ぐこともあるな」

 

 アルベドもソリュシャンもルプスレギナも、大抵は全裸で寝る。何かを着る時は、男を誘う時くらいだ。

 男はナイトガウン一枚が多い。

 

「着たままで寝て」

「わかったよ」

 

 男はドアを向いたまま、衣擦れの音を聞いている。

 ややあって、魔法の明かりが小さくなった。

 

「もういいよ」

 

 クレマンティーヌの夜着はいつものシュミーズ。

 キャレットたちに対抗意識を抱いても、今の体は幼い子供。出来る事はないし、やろうと思われても困る。

 これまでの触れ合いから、子供に欲情する男ではないとわかっている。それを悔しく思う自分が不可解だ。

 

「それじゃ、どーぞ」

「お邪魔するよ」

 

 クレマンティーヌのベッドに男が入ってくる。

 ベッドの主はちょこんと座っているのに、図々しく先に横になった。

 

「わっ」

「さあ、早く寝よう」

 

 男がクレマンティーヌの手を引く。小さな体は男の上に倒れこんだ。

 

 体が小さいからか、胸の鼓動が速くなっていく。

 生まれた熱に、クレマンティーヌは覚えがあった。

 死闘を制した時に感じるあの悦び。

 禁忌を犯す快感に似ていた。



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ロリマンティーヌ?

本話15k弱


 男の腕の中で、クレマンティーヌは動かなかった。息すら止めて微動だにしない。

 そのせいでやたらと胸の鼓動が高まっていく。動機は激しく眠るどころではない上に男にも気付かれそうだ。最優先で鎮めるべき。

 ゆっくりと息を吐いてゆっくりと吸う。一呼吸に最低でも十を数え、繰り返す内に動機が治まっていく。

 顔が熱いままなのはこの際仕方がない。多少熱かろうとも、くっついているのだからおかしくない。

 

 落ち着きを取り戻してから、固く瞑っていた目を開いた。

 腕を引かれて倒れたせいで、自分は男の体にすがり付いて横になっている。男の胸板が目に映った。

 素肌だ。夜着の前が少し開いたらしい。

 唾を飲み込みつつ顔を上げれば美しい男の顔。目は閉じている。

 赤い目と青い目を近くで見たらどうなのか気になっていたので、少しだけ残念に思う。

 

「……おにーさま」

 

 小さな声で呼びかける。応えはない。

 

「おにーさま?」

 

 続けて呼びかけても応えはない。規則正しい息が聞こえるだけだ。

 

「うっそ、もう寝たの? 早すぎじゃない? それとも寝たふり?」

 

 うるさくならない程度の声量で問いかける。密着しているのだから聞こえていないわけがない。だけれども返事はなかった。

 

「ほんとに寝ちゃったの?」

 

 やや大胆になって男の上に跨り、頬を指で突いてみた。大人の男でも頬は柔らかい。悪戯心が顔を出し、鼻をつまんでやりたくなったが我慢する。代わりに指を滑らせた。

 

「うわ、男のくせにお肌ツルツル」

 

 指が手の平になり、頬を撫でた。手は頬から首へ下がる。無防備に喉元をあらわにしている。ここを一突きしてやれば確実に死ぬ。

 こんな状況になる前、何度もやってきたことだ。愛用のスティレットで急所を穿ち、ダメ押しでスティレットに込められた魔法を発動するのがクレマンティーヌの必勝パターン。モモンに食らわせた最後の一撃もそれだった。

 この男の命を簡単に奪える現状に、下腹が熱くなる。やってしまえば間違いなく素晴らしい快感を得られる。

 が、しない。

 殺したところですぐに生き返らせるだろう。そして自分はタコさんのお部屋へ。破滅的欲求に身を任せて全てを棒に振るほど馬鹿ではない。

 喉でしばし止まった手は更に下がっていく。

 

「体は結構引き締まってるんだね。ブヨブヨよりずっといいけど」

 

 クレマンティーヌは、男が羽織るナイトガウンの前を開く。男の固い胸板に手を這わせても、咎める者はここにはいない。

 危険がなく罪に問われなければ、人はとても大胆な事でもしてしまえるのだ。

 

「ここまでしても起きないって事はほんとに寝てるんだ? もしも寝たふりだったら私にこんな事されたいからだって思っちゃうよ?」

 

 男の裸身を小さな手の平で撫でまわす。聞こえるのは規則正しい寝息だけ。

 本当に寝ていようと、寝たふりだろうと、ここまでされて目を開けないなら同じ事だ。

 たとえ目を開けられても、クレマンティーヌの中でふつふつと湧き上がる好奇心は止まらなかったと思われた。

 

「最後に一応聞いてあげる。おにーさま起きてる? それとも寝てる? 悪戯しちゃうよ?」

 

 最後通告にも、男の応えはなかった。

 クレマンティーヌの口角が歪に吊り上がった。

 

「はい、返事なし。私が何しても無罪決定」

 

 免罪符を手に入れ、クレマンティーヌは男の上で体の向きを変えた。

 

「ちんこ見てやろ。ちっちゃかったら笑ってやろうっと」

 

 小さな手が、ナイトガウンの腰紐を解いた。

 

 

 

 

 

 

 寝返りを打とうとして打てず、それを三回繰り返したところで男の意識が浮上した。

 とりあえず体を起こそうとして、出来なかった。腕を曲げられない。横を見れば両腕を大きく開いている。引いても動かない。両手首が縛られ固定されていた。

 

「なんだ? なんで縛られてる?」

 

 腕が動かせないなら脚も動かせない。腕と同じで足首を縛られているようだ。軽く開かされているのはわかる。ちょうど大の字にさせられている。

 

「あれ? おにーさまやっと起きたの? こっちはずっと起きてたのに」

「クレマンティーヌか? 俺を縛ったのはお前か? 早くほどけ!」

「だーめ。折角楽しくなってきたのに。それにほどいたら続きをしてあげらんなくなっちゃうよ?」

「なにを…………っ!」

 

 男が顔を上げれば、クレマンティーヌの背中が見えた。

 自分の体に跨って、背中を向けている。

 何をしているのか、と問うまでもなかった。股間に苦しさにも似た快感があった。

 

「こっちはさっきから起きてたよー? おにーさまはぐっすりだったのに、ちょっと扱いてやったら起きちゃってさ。元気だね。キャレットに使えなくて残念だったかな?」

「やっ、やめるんだ! 自分が何をしているのかわかっているのか? こんな事はすぐにやめっ! くっ!」

 

 クレマンティーヌは答えない。代わりに手の動きを速めてやった。男が目を覚ます前からやっていた事だ。

 たっぷりと唾を垂らして先端から根元まで滑りを良くし、両手で握ってやってから上下に動かす。

 何度もしているせいで唾が泡立ち、にちゃにちゃと粘着質な水音を立てた。

 

「おにーさまのちんこは止めて欲しくないって言ってるよ? すっごいガッチガチ。ちんこの先っちょからネトネトした汁が出て私の手に付いちゃってるんだけど?」

 

 クレマンティーヌは扱く手を止め、自分の方を向く先端に指をあてた。ゆっくりと指を上げれば、先端と指との間で長い糸を引く。

 指先を擦り合わせると、唾より粘性が高くてねとついている。

 

「正直に言いなよ。私の手で扱かれてガチガチにおっ立てちゃって、ちんこ気持ちいいでしょ?」

「……すぐに俺を解放するんだ」

「おにーさまが悪いんだよ? 私は人殺しの悪い奴だって教えてあげたのに、隣で無防備に寝てるんだから。それより続けて欲しい? 止めて欲しい?」

「そんなの決まってる。早くこれをほどくんだ」

「言っておくけど、どーしても止めて欲しいって言い張ったら、おにーさまはこのままにして皆を呼びに行くかんね? おにーさまが縛られてちんこ立ててるとこをルプー様にもキャレットにもケムリンにも、皆に見られちゃうよ?」

「くっ!」

「そんな事になるくらいだったら続けてもらった方がずっといいでしょ? 私の手でおにーさまのちんこを気持ちよくしてあげるからさ」

「そんな……事を……うぅ……」

「往生際が悪いなー。男なら覚悟を決めてビシッと行かないと」

 

 萎えさせないように手の動きは止めず、いかさないように激しくはせず、クレマンティーヌは逸物を扱き続ける。

 肉の熱さが手の平から体へ伝わり、立ち上るオスの匂いに喉を鳴らす。

 

「それじゃ、ちょっとサービス。あーんっ……れろっ……」

「っ!」

 

 小さな口を開いて舌を出し、先端を舐め上げた。先走りの汁を舐めとり味わって、亀頭を舌で舐め回す。

 両手で扱くだけなら兎も角、口も使うとなると男の腹を跨いだ姿勢ではやり辛い。小尻は男の上を滑って腹から胸板へ。細い脚が男の顔を跨ぎ、尻は男の顔に届いた。

 逸物をしゃぶっていたクレマンティーヌは振り向いてにんまりと笑うと、シュミーズの裾を引っ張った。

 

「!!」

「私のおまんこ、見えちゃったかな? クレマンティーヌ様のロリロリまんこ。とっても美味しいよ? あんっ♡」

 

 クレマンティーヌは、股にぬめったものを感じた。

 パンツは最初から脱いでいる。男の顔に押し付けたのは自身の秘部。そこへ舌を差し込まれた。

 股を開いても筋でしかない幼い割れ目を、男が舐めている。あの美しい顔をした男が、懸命に舌を伸ばして股を舐めている。

 想像するだけで疼く光景が現実のものとなった。

 体の奥で情欲が煮え、女の穴から滴るのを感じた。

 そこにも舌が入ってきた。

 

「あぁああんっ♡ やぁん、おにーさまったらどこ舐めてるの? わたしのロリまんこそんなに美味しいのぉ? もっともっと舐めていーよ♡」

 

 クレマンティーヌは男の顔に股を押し付けつつ、自分も手と口の動きを加速させた。

 じゅっぽじゅっぽと音を立てながら頭を振って、両手はにちゃにちゃと竿を扱く。

 逸物が熱く固くなってくる。張り詰めてくるのを感じた。

 

「おにーさまのちんこ、そろそろいっちゃいそうだね? でもダーメ。いかせてやんない」

「な……、なぜ?」

「だって続けて欲しいって言ってないでしょ?」

「続けて欲しい」

「あははっ、おにーさまったらよわよわじゃん! そんなに私にちんこをしゃぶって欲しいの?」

「そうだ。クレマンティーヌにしゃぶって欲しい!」

「そこまで言われちゃ仕方ないにゃー♡」

 

 手と口を再開して、すぐだった。

 

「うむぅぅうううーーーーーっ♡」

 

 クレマンティーヌの口の中に、熱い精液がどぴゅどぴゅと吐き出される。

 口内に満ちる雄の匂いと味に酔いしれながら、クレマンティーヌは一滴も零さない。

 

「んっ……んっ……」

 

 喉を鳴らす。粘塊はそのままだと飲みづらいので、咀嚼してから飲み込んだ。

 たっぷりと射精して飲まされたのに、口を離しても逸物は固くそそり立っていた。

 

「こんなにいっぱい出しちゃって、私のお口が妊娠しちゃう♡ なのにおにーさまったらまだまだ元気いっぱいだね?」

「うっ……、それ、は……」

「お口は疲れちゃったからー、次はこっちかなー?」

 

 クレマンティーヌはシュミーズを脱ぎ捨て、男の股に跨った。

 軽く腰を落とせば、膨らんだ亀頭が割れ目に潜る。軽く前後させて汁を擦り付け、位置を合わせた。

 

「おにーさまが犬みたいに舐めるせいで私のおまんこもぬれぬれなんだよね。おにーさまのちんこも満足できてないみたいだしぃ? おにーさまももっと良くなりたいんでしょ?」

「う……」

「あはっ、犬みたいな顔してくれちゃって。そんな顔されるともっと虐めたくなっちゃう♡ でも私は優しいからぁ……」

「…………」

「おにーさまのちんこが私専用になるなら入れてあげる♡」

「そっそれは……」

「ほらほらー、先っちょだけ入っちゃったよ? ちゃんと言えないと入れてあげないよ?」

 

 亀頭の半分だけが入り口に潜り、すぐに出てくる。次は亀頭全体が。

 その次は先端を触れさせるに留まり、クレマンティーヌの指が裏筋を撫でた。逸物が跳ねて位置がずれ、クレマンティーヌは苦笑しながら位置を正す。

 

「な…………な、る……」

「あれれー? 良く聞こえなかったなー? おにーさまは何になるんだっけー?」

「クレマンティーヌの……専用の……」

「私専用の、なーに?」

「クレマンティーヌ専用のちんこになるっ!」

「あははっ♡ よくできましたっっと。っくぅうう~~~~……、奥まで来たぁ♡」

 

 男が答えると同時にクレマンティーヌは腰を落とす。

 逸物は筋に隠れた女の穴に飲み込まれ、クレマンティーヌを貫いた。

 

「これでおにーさまのちんこは私専用に………………あれ?」

 

 クレマンティーヌは上だったはず。それが何故か、天井が見えた。

 いつの間にかベッドを背にしている。

 

「よくも好き放題してくれたな!」

「え? ふああぁっ!? あっあっあぁぁあっっんっ! あんっらめなにこれぇぇぇえええ♡」

 

 クレマンティーヌは膝裏を掴まれて大股を開かされ、股の間に男の腰が打ち付けられた。

 太い逸物に膣を押し広げられ、無遠慮に突き進められ、先端が子宮口を打つ。衝撃は臓腑に響いて体中を駆け巡り、チカチカと火花が散った。

 逸物が抜かれる度に膣内の愛液が掻き出され、逸物が奥まで来る度に膣内の愛液が押し出される。

 目に見える愛欲の形は尽きることがなく、尻の割れ目にも垂れていく。

 

「らっらめらめぇえ、イッてるからぁぁあああ♡ おまんこイッてるんだからぁあああ! ひゃぁぁああぁああんっ!!」

 

 叫んでも止めてくれない。

 きつく締まる膣の中を男は暴力的に抉り、感じやすいところを執拗に擦って来る。

 何度目かの絶頂で、ぷしゃっと潮を噴いた。

 それでも注挿は止まない。

 腰が跳ね、ベッドから浮く。

 そのまま上から打ち付けられて、結合部から溢れた汁が下腹へ流れてくる。

 

「あんっ、らめぇ……、んっ、ちゅぅうう……じゅるる、ちゅぷ、ちゅるる……んんっ……あぁっ!」

 

 唇を奪われた。

 舌をねじ込まれ口内を蹂躙され、舌を吸い出されてクレマンティーヌからも舐め返す。強く吸って唾液を啜り、のぼせ上った目で男の目を見つめ返した。

 

「俺のちんこがクレマンティーヌ専用なんじゃない。お前のまんこが俺専用なんだ。わかったか?」

「はいぃ……。わたしのロリロリおまんこは、おにーさまのちんこ専用なんですぅ……。あ゛あ゛っ! またイッっちゃ…………、あ? なん、で?」

 

 次に突かれたら深いところで達してしまう。

 そう感じて期待で体も心も高まったのに、逸物は入口まで戻ったところで帰ってこない。

 下の口が欲しがって吸い付いている。浅いところをゆっくりと動いてるせいで、達せないまま高まっていく。

 

「次に入れたら射精しそうだ。クレマンティーヌは中で出して欲しいか?」

「はい! おにーさまのせーえき、わたしのおまんこに出してください! わたし、おにーさまの子供孕むから、いっぱい出してぇ!」

「よく言えたな。クレマンティーヌは俺の妹じゃない。俺の妻にするために育ててるんだ」

「うれしい♡ わたし、おにーさまのお嫁さんになる♡ だからおにーさまのせーえきいっぱいちょーだい♡」

 

 クレマンティーヌは一番深いところで射精された。

 膣の中で逸物が脈打ってるのを感じる。どくどくどぴゅどぴゅとたっぷり出されている。

 声に成りきらない声で叫び、歓喜と恍惚の中で至福の絶頂を迎えた。

 

「ああ……、おにーさまの赤ちゃんのもとが……わたしの中にきてるぅ♡」

 

 濃厚な精液を注ぎ込まれ、子宮へ届くのが見えた。

 

「わたしのお腹、おにーさまとわたしの赤ちゃん育てるの♡ おにーさま大好き♡ これからもクレマンティーヌのロリマンをいっぱい可愛がってね♡」

 

 クレマンティーヌは、夢見心地で恍惚と訴えた。

 

 

 

 

 

 

 そこで目が覚めた。

 視界には最早見慣れた天井。窓から差し込む光の加減で、いつもより少し遅い起床だと知った。

 隣を見ても誰もいない。ベッドに温もりはなく、とっくに起きてどこかに行ったようだ。

 

 クレマンティーヌは無になった。

 

 そこへ理解してはいけない現実が忍び寄ってくる。

 一縷の望みを託し、パンツを脱いだ。どのみち着替えなければならない。

 パンツは着心地重視でお尻をしっかり包むお子様パンツ。そのせいで肌に張り付く面積が広く、とても不快だ。案の定、パンツは前も後ろもぐっしょり濡れてる。濡らした液体の正体に加えて生乾きであり、異臭を放っている。丸めて窓から投げ捨てたくなる衝動を抑え、床に叩きつけた。

 ベッドに座ったら脚を開き、前かがみになって股の間を覗き込む。

 毛はない。つるつるだ。その下は無垢で汚れを知らない一本筋。この時点で真実を悟ったが、最後の悪あがきとして筋を開いてみた。

 特に異常はない。強いて言うなら少々湿っていることくらい。

 白濁した白い液体が溢れてくることも、奥から鈍痛が響くこともない。

 

 どうやら、おにーさまと、色々したのは、夢であったらしい。もう寝ちゃったのはおにーさまではなく自分の方だったようだ。

 クレマンティーヌは死にたくなった。

 

 

 クレマンティーヌは知らない事だが、昨夜遅くに邂逅した男はアルベド様がたっぷりお食事を取った後であった。ちっちゃくてかわいいクレマンティーヌが何を頑張ったところで立ったりしない。お夜食の後でなくても無理だろう。クレマンティーヌより小さい子供形態のアウラが口に出させたことがあったのは、大人形態時に色々と経験したからだ。

 そして、そのお夜食の影響が甚大であった。

 クレマンティーヌは二十年と少し生きて、あのように淫らな夢を見たことは一度としてなかった。一度もなかったことが起こったのだから、必ずや原因がある。男が添い寝した所為、ではない。男が淫らに乱れた覚醒サキュバスの淫の気をまとっていたからだ。ある意味、クレマンティーヌは被害者である。幸か不幸か真実は誰も知らない。

 非常に鮮明な夢であった。

 夢から覚めても、クレマンティーヌは夢の内容を漏らさず覚えている。自分が何を言ったかも覚えている。

 

 願望を夢に見ることは稀だ。そんな都合の良い夢ばかりだったら、世界はもっと平和になっている。クレマンティーヌがあのように淫らな願望を抱いていたわけではない。クレマンティーヌ自身も、そこはなんとか納得した。

 しかし夢の中の自分が抱いた情動は、まるきり嘘だったとは言い難い。自分のことなのだからわかってしまう。

 何よりも現実の肉体に及ぼした影響を否定できない。

 あんな事をしてあんな事を言って、あんな事をされてあんな事を言われて、パンツが絞れるほどになってしまった。シュミーズを通り越してシーツにも染みて、寝ながら粗相してしまったかのような有様だ。

 クレマンティーヌはシーツにコップの水をぶちまけた。

 

「ははははは……。死ねよ、わたし」

 

 笑わなければ死にたくなってしまう。

 生きるためには夢を乗り越えなければならない。

 クレマンティーヌは、魔導国に骨を埋める覚悟を決めた。

 

 

 贅沢にもいつでも入れるお風呂を使って軽い朝食を取り、書斎に行けばいつもの面々が集まっていた。

 

 男は机に向かって何やら書き物をしている。ソリュシャンとルプスレギナは別のテーブルに何かのカードを並べている。カードゲームでどっちが先かを決めているのだ。ソリュシャンがいるのだからシェーダもいるし、ミラはドアを開けてすぐのところに佇んでいる。

 入ってきたクレマンティーヌに、男が顔を上げた。

 

「遅かったな。昨夜は遅かったし、午前は無理せず読書でもして」

「アインズ様にお会いしたい。おにーさまから伝えてくれる?」

 

 幼女の言葉に性悪姉妹はけしきばむ。アインズ様は軽々にお会いできる方ではない。それをぽっと出の幼女が呼び出そうというのだ。

 男は二人ほどには感じなくとも、アインズ様は会おうと思って会える方ではないと知っている。

 

「アインズ様は大変にお忙しいお方だ。会いたいと言って簡単にお会いできるお方ではないよ」

「アインズ様と約束してるの。クレマンティーヌが成ったと言えば会ってくれるはず」

 

 真偽はわからなくても、アインズ様と約束と言うなら伝えなければならない。

 

(アインズ様とお約束?)

(やっぱり重要人物?)

 

 性悪姉妹の勘違いは続く。

 

 その夜、冒険者活動から帰ってきたモモンにクレマンティーヌからの要望を伝えたところ、早速時間を取っていただけることになった。

 本日のモモンがアインズだったにせよ、こうも迅速な対応を取ってもらえるとは誰も思っていなかった。その上、面会場所は書斎。アルベドのお食事部屋を除けば、屋敷で一番の防諜処置が施されている場所だ。更に人払いも加わるのだから、クレマンティーヌとの約束が余程重要と察せられる。

 やはりクレマンティーヌは重要人物、と誤解が重なっていく。

 

 本当のところは、最近のアインズは時間が余ってるだけである。

 人払いをしたのだって、クレマンティーヌとの約束を果たすことになったら周囲に知られては面倒な事があるだけだ。

 

 夜の書斎でクレマンティーヌとアインズが向かい合い、お屋敷の若旦那様だけが立ち会った。

 

 

 

 

 

 

「成ったと思ったら元に戻す事を考えてやる。確かにそう言った。しかし変わったようには見えんぞ? 何が成ったと言うのだ?」

「別に変わる必要はないって気付いただけ。……です。でも私は魔導国を絶対裏切らない。そんな事しても無駄だし、出来るわけないってわかったから」

「ほう? だが、言葉だけなら何とでも言える。言葉には行動を伴うべきだからな」

「それってアインズ様が何かテストしてくれるんじゃなかったの? 目安があるって言ったの覚えてるよ? ……覚えてますよ?」

 

 クレマンティーヌが復活して、自意識を取り戻して間もなくのことだ。助けてくれるなら何でもすると言ったクレマンティーヌに対し、アインズは簡単には信用できないと返した。

 言葉には行動を伴うべきと云うのはアインズの信念の一つ。しかし、それには時間が掛かる。そのための目安を、アインズは用意していた。

 

「幾つか質問しよう。それに全て答えられたら考えなくもない」

「いいよ。何でも聞いて……ください。知らない事は答えられないけど」

「お前に聞くわけではない」

 

 どちらとも向き合わない位置に座る男である。

 

「お前はこいつの出自を聞いたか?」

「いいえ、聞いておりません。そこそこの名家の出とだけ聞きました。クレマンティーヌについてはアインズ様から詮索無用とうかがいましたので、私からは聞かないようにしておりました」

「そう言えばそうだったな」

 

 クレマンティーヌがどこまで自分から話すか。男がクレマンティーヌに対して先入観を抱かないように。また、クレマンティーヌに課したテストの一環として詮索しないようにさせていた。

 

「私も詳しい事は知らん。話せるなら聞かせてもらおう」

 

 詳しい事は知らないどころか、思いつく限りの事を質問して聞き出している。クレマンティーヌにその時の記憶はない。

 この時に答え合わせをするため、記憶を操作したのだ。

 

「法国のクインティアってクソッたれな家に生まれちゃった。家がクソなら国もクソで結局捨てたんだけど、捨てる前は漆黒聖典の第九席次だったよ。漆黒聖典はわかる? 一応、法国で一番の特殊部隊。他のメンバーの事も話そうか? 番外のアンチクショウはアインズ様も少しは警戒した方がいいと思う」

「それは後ほど聞かせてもらう、しかしいいのか? 捨てたとは言え自分が生まれた国だろう。私が滅ぼすかも知れんぞ?」

「そう思うくらいだったら捨てたりしない。あんなクソつまんない国ない方がいいよ。エ・ランテルの方が多分ずっとまし。ここに来て外に出たことないからメイドとかから聞いた話だけどね」

 

 クレマンティーヌが国を捨てた要因に、優秀な兄への劣等感は多分にあった。それを糧に漆黒聖典第九席次にまで至ったのだから、クレマンティーヌの非凡は結果が証明している。それでもクレマンティーヌは満たされなかった。国家も周囲の環境も満たそうとしなかった。

 それが法国の方針であると言えばそれまでだが、クレマンティーヌとは致命的に合わなかった。とは言え、クレマンティーヌ自身の性格にとても問題があったのは否定できない事である。

 

「それなら法国を出てからはどうだ? 一体何をしていた? お前は聞いているか?」

 

 アインズから続いての質問。ということは第一段階はクリアである。

 

「それも全部話しました。あっちで殺してこっちで殺して、モモンと敵対したって事も。あ、ズーラーノーンに入った事は話さなかったかも? あれは本当に入ったばかりだったから私もろくな事知らないんです」

「あの時のお前は人殺しが随分と好きだったようだぞ? モモンの英雄譚の語り部を処理されて少しばかり頭に来たな」

「でも私たちがやらかした騒ぎのおかげでモモンの名声が高まったって聞いたんですけど!?」

「それは結果論だ。まあ、それはいい。人殺しが好きなお前がこれからもしないとどうして言える? そこが納得できん限り判断は下せんな」

「それはまあ、していいならしたいけど、しません。今まで殺してきたのって私と無関係で仲間でも何でもなかったし? 殺しても楽しいだけで私は困らなかったから。でも魔導国の一員になったらそうじゃない。決まってることくらいちゃんと守れます。罰とか受けたくないです。前の事は魔導国が出来る前の事だから、ソキューショバツの禁止? とかで罪には問われないはずです」

「うむそうだな確かにその通りだ」

 

 アインズが(ソキューショバツ? ショバツは処罰でソキューって何だ?)と思っているのは二人に伝わらない。お骨の顔のポーカーフェイスは完璧である。

 

「だが疑問だな。隙あらば逃げ出そうと思っていただろう? それがどうしてこんな短期間で考えが変わったのだ?」

 

 復活直後の精神操作時に聞き出した事である。

 それを知らないクレマンティーヌは、アインズの洞察力に目を見張る。

 

「今はそんな事思ってないです。やろうとしても絶対無理だし、お利口にしてればいい暮らしできるし、それに……」

 

 クレマンティーヌはちょっぴり照れくさそうな、それでいてどこか誇らしげな顔をして、傍らの男を一瞥した。

 

「私はおにーさま、じゃなくて相談役? 相談役を信じたし、相談役も私を信じてくれた。私は生まれた国を捨てたけど、裏切ったわけじゃない。あっちが私をてきとーに扱うから嫌になったんだ。汚い仕事ばっかさせたくせに何で仕事をすればするほど生活が悪くなるのか理解できない! 仕事して偉くなったら報いるべきでしょ!? あそこの連中って」

「なんだ?」

 

 愚痴になりつつあるクレマンティーヌを遮ったのはアインズの声。クレマンティーヌに続きを促したのではなく、挙手した男への発言の許可である。

 

「私から意見を申し上げます。クレマンティーヌが私を信じるのはクレマンティーヌの主観なので私が何か言うべきではありません。ですが、私がクレマンティーヌを信じたというのは違います」

「えっ」

 

 饒舌に語っていたクレマンティーヌは、真っ青になった。

 魔窟と思うお屋敷にて、唯一信じられる味方だから色々話したのだ。色々聞かされもした。

 

「だって……、だって私に話してくれたじゃん!」

「どれの事だ?」

「おにーさまが千人も殺したって事! 私を信じたから話してくれたんじゃないの!?」

「お前そんな殺してるの?」

 

 アインズが思わず素を出してしまうほど意外過ぎる新情報であった。人類絶滅とか馬鹿な論文を書いた前科があるので人の命を何とも思ってないのは知っていたが、実際にやっていたとまでは思っていなかった。

 男は恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

「若気の至りで、つい」

「つい、で千人も殺すのか?」

「当時も少しは考えたのですが、絶好の機会がありましたのでやらないのは損と思ってしまったばかりに。お恥ずかしい限りでございます」

 

 ソリュシャンたちに触りを話している。クレマンティーヌにはそれよりも少しだけ詳しく話した。

 隠してはいても話せない事ではない。口外したがらないのは、若気の至りで結果的に失敗に繋がってしまったからである。いわゆる黒歴史に分類される話だ。

 罪の意識を感じて後ろめたく思い、ということは全くない。

 

 ということに、クレマンティーヌも思い至った。

 人殺しを何とも思ってないおにーさまなのだから、自分だけに特別話してくれたと思うのは思い込みに過ぎなかったのだ。

 

「私の事ではなく、クレマンティーヌについてです。私がクレマンティーヌに思う事は」

 

 黒歴史から、強引に話題転換。

 かなり強引であるが、アインズは突っ込むことなく続きを待った。

 

「先ほどの話からアインズ様もお察しになった通り、クレマンティーヌには何が魔導国の不利益となるか判断する能力があります。禁じられた事をしないだけの分別もあります。本人の学習能力と意欲から、これから様々な分野で魔導国に貢献することが期待できます。もしもお許し頂けるのでしたら、クレマンティーヌを一時の預かりではなく、私にお任せくださいませんでしょうか? 立派なギタリストに育て上げてみせます!」

 

 アインズは、何でギタリスト、と思った。

 クレマンティーヌはキレた。

 

 

 

「ザッケンナこらあぁぁあああああー!!!」

 

 

 

 真っ赤な顔をくしゃくしゃに歪め、男に殴りかかった。

 怒りに吊り上がった双眸からは、ぽろぽろと涙がこぼれた。

 

「こら、アインズ様の御前なのにはしたない」

「おまえふざけんなあっ! 何が……なにが……信じないだこらあああ!! 捨てられるとおもっちゃったじゃんかああああああああ!! ザッケンナこのおぉ…………!! このクソッたれのふにゃちんがあああああああああ!!」

 

 クレマンティーヌが渾身の力で殴りつけても所詮は幼女。男からすれば、子供がポカポカとぐるぐるパンチをしてるのと大差ない。

 殴り続ける内に、ダメージを与えてない事にクレマンティーヌも気付いた。

 

「アインズ様! わたしはコイツに一発お見舞いする権利があると思うんですけど!?」

「認めよう」

「アインズ様!? 何を仰るのですか! 私の言葉に問題はありませんでした」

「……お前、それ本気で言ってるのか?」

「勿論でございます。言葉は定義を確認してから正しく使わなければなりません。アインズ様に曖昧な言葉を伝えるわけにまいりませんから」

 

 何とも妙な事であるが、アインズは真面目な顔で言い繕う男を見て、自信を持った。

 

 アインズは、かつて人間だった。

 それがこの地に転移したことで肉のないオーバーロードの体となり、人間への共感を失った。種族特性により感情の振れ幅が小さくなり、時間が経つにつれ人間としての心が擦り減っていくのを実感していた。

 このままではいずれ心のない怪物になってしまうだろう。その事に嫌悪も恐怖も感じない。自分は人間ではなくなったのだとつくづく思うだけだ。

 が、こいつよりマシだと思った。

 アンデッドの自分でも、クレマンティーヌが怒ってる理由はわかる。それがこの男はさっぱりわかっていないらしい。

 自分がこれからどのように心を失うにせよ、こいつよりはマシだろうと思えた。

 

「それはその通りだ。しかし、信じる事を否定する必要はなかったな。お前の言葉は『能力があると信じている』と言い換えても良かったはずだ」

「それは……仰せの通りでございます。ですが、すぐに詳細をお話いたしました」

「うん、そうだな」

 

 頭は回る男である。言っても無駄というやつだ。

 アインズは男へ生返事で応えると、虚空から飾り気のない大きな瓶を取り出した。

 

「これを一つ舐めると良い」

 

 クレマンティーヌはテーブルに置かれた瓶を奪い取るようにして掴み、蓋を開けて中身の青い粒を口に放り込んだ。

 青いキャンディーは大人の味。お子様はちょっぴり苦手なほろ苦さ。

 

 不思議な青いキャンディーは一瞬で効果を発揮する。幼女の背は高くなり、手足も伸びた。顔立ちからは幼さが抜け、体付きも大人の女のものとなっていく。

 大人の姿になったクレマンティーヌは、顔を俯け両手で覆った。

 

 なお、クレマンティーヌが着ているワンピースにはきちんと魔法が掛かっている。背丈が伸びても、服の丈が足りなくなることはなかった。

 

 

 

「アインズ様、あのキャンディーは……」

「知っているのか?」

「何度か見たことがございます」

「ならばわかってるな?」

「承知しております。口外いたしません」

「それでよい」

 

 男二人がこそこそと話している傍らで、クレマンティーヌは死にたくなっていた。

 

 見捨てられたと勘違いしたにせよ、泣くことはなかった。なのに自分は真っ赤な顔で大泣きした。

 その前の夢は所詮夢なのでどうでも良い。

 どうして処刑されると勘違いしたのか、今にして思えば理解できない。いくら何でも短絡過ぎだ。

 妹の誤解もそうだ。仮にも宰相閣下の相談役が、補佐をしてくれてるルプスレギナとソリュシャンに死んで欲しいなんて言うわけがない。様子を見てれば思うわけもないのがわかる。思ったにせよ、それを自分に言うわけがない。

 おにーさまもそうだ。なんでおにーさまと呼ぶ羽目になっているのか。邪魔で目障りだとしか思ってなかったあっちと比べれば遥かにマシだが、どうしてよりにもよっておにーさま。今更他の呼び方をすると、距離を取ってるように思えて出来そうにない。連鎖的におにーさまのお嫁さんとか思い出して死んでしまえ。

 ギターは悪くないからよしとする。

 そもそもここから逃げ出すと考えたのが間違いの始まり。冷静に周囲を観察していれば自分を害そうと思ってない事はわかったはず。ルプー様は厳しかったが、行き過ぎれば回復魔法を掛けてくれた。

 ずっといい子ちゃんでいれば何の問題もなかったのだ。

 

 それもこれも子供に変えられたから。

 自分では大人の時と同じ冷静な思考を保っていると思っていたが、実際に大人に戻ると何とも浅はかであっちにふらふらこっちにふらふらしてるようにしか見えない。

 子供の自分が余りにもバカすぎて死にたくなった。

 死ぬ前に、やらなければならない事がある。

 

「……それじゃ、おにーさま。こっち来て」

「わかった」

 

 この男に、一発お見舞いしなければならない。

 

 男はクレマンティーヌの前に立つ。大人に戻ったクレマンティーヌより、男の方が背が高い。

 

「じゃ、キツイの行くから目を瞑って」

 

 男は言われた通りに目を瞑り、歯を食いしばった。

 ルプスレギナからは何度もやられてきたが、全て腹部だった。顔面は一度もない。顔面を貫通すると即死するからだ。

 

「歯を食いしばっちゃダメージ半減しちゃうでしょ? おにーさまは痛い目見なきゃいけないんだから、もっとだらーっと口開けてよ」

 

 少しだけ口を開く。

 目を瞑って口を開いているのは、少々間抜けである。

 

 かつてアルベドに頬を張られ、下顎粉砕したことがあった。

 それに比べたら、クレマンティーヌに無防備な顔面を殴られることくらい大したことではないだろう。大したことになったら回復してもらえばよいのだ。

 

「それじゃ……いっくよー?」

 

 クレマンティーヌは、男の胸倉を掴んで引き寄せた。

 

 男を目の前に立たせるまでは、本気で殴るつもりでいた。

 しかし、子供の時は子供なりの浅はかさでバカな事をしてしまったように、大人に戻ったら戻ったで子供の時には感じないものを感じるようになった。

 

 美しいとしか言えない男が、自分の前で無防備でいる。

 男のくせに艶やかな唇が目に付く。

 今朝見た夢は、子供の体では不可能な事。

 急激に体が潤ってくる。

 ペロリと唇を舐め、軽く濡らした。

 アインズの存在を、完全に失念した。

 男は目を閉じて、自分を見ていない。自分が何をしてもわからない。

 

 クレマンティーヌは男の胸倉を掴んで引き寄せ、近付いてきた顔に顔を近付け、唇に唇を重ねた。

 半開きにさせた口へ舌を差し入れた。

 つついても応えがないのが不満で、強く吸って吸い出し絡める。

 胸倉から外した手は男の後頭部を押さえて、体全体を男に押し付け、膨らみを取り戻した乳房が柔らかく押し潰つぶされる。

 

 カツンと硬質で大きな音が響き、クレマンティーヌは飛び退いた。アインズがいたことを綺麗に忘れていたのだ。

 指でテーブルを叩いたアインズは、無言でクレマンティーヌを見ていた。

 

「あっ……いや、これは、その……」

 

 クレマンティーヌは泣いてた時と同じくらいに赤い顔で、けども何を言えばいいのかさっぱりわからない。

 今してしまった事は、自分にも意外な衝動に突き動かされたからであって、しようと思ってしたわけではなかった。

 一発お見舞いと言ったのは、間違いなく殴るつもりだったのだ。

 

「その様子なら裏切る事はないだろう」

「うえ…………、はい! 絶対ないです!」

 

 クレマンティーヌのお返事はとても良い。

 一方、突然キスをされた男は何もわかってない。クレマンティーヌに不思議な青いキャンディーを下賜された理由もわからない。前後の文脈から、元は大人で子供の姿にされていた事は察した。クレマンティーヌの妄想だと思っていた話が本当であったことも察した。へーとしか思わなかった。

 

「お前が厳重に管理せよ」

「はっ、かしこまりました」

 

 アインズはテーブルの上にキャンディーポットを残し、ゲートの魔法で屋敷から去った。

 書斎には男と女が残された。

 

 

 

 キスをアインズに見られてへどもどしていた姿はどこへやら。

 クレマンティーヌは男へすり寄った。

 今度は胸倉ではなく背中へ手を回し、獲物を見つけた猫の顔で男を見上げた。嗜虐と期待と悪戯心を不等分に混ぜた顔だ。一番を占めているのは期待の部分。

 

「私っておにーさまに厳重に管理されちゃうんだ? どーいう風に管理されちゃうのかなー? やっぱり不平不満とか足りないとことか、あれとか、ぶっちゃけ欲求不満とか、そーいうのもどーにかしてくれちゃったりするんだろうなー」

「いや、それは……」

 

 アインズが言ったのは、キャンディーポットの方だ。

 不思議な青いキャンディーはアウラも下賜されている。それと同じ物を何の功績もない人間であるクレマンティーヌに下賜されたと知ったら、大いに不快に感じる事だろう。

 が、クレマンティーヌにはひとまず伝えない事にした。

 先日、ソリュシャンからたっぷりとお説教をもらったばかりだ。今しがたのアインズも、言葉を間違えていると言っていたように思う。

 下手な事は言わない方が吉である。

 

「クレマンティーヌは欲求不満なのか?」

「ちょっと違うかな? おにーさまがそうさせたんだよ?」

 

 男に抱き着きながら、脚と脚の間に太ももを差し込んだ。

 逆から見れば、男の脚がクレマンティーヌの股へ入っている。

 男もクレマンティーヌの腰を抱き、引き寄せれば股に触れる。

 

「おにーさまって……」

 

 さっきの男は、目を閉じていた。

 今は目を開けている。赤い光と青い光が飛び込んできた。自分が飛び込んでいるのかも知れない。

 見ているだけなのに、心地よい酩酊感がある。

 はあと熱い息が男の唇を撫でた。

 

 どちらからともなく距離が縮まった。

 

 

 

 アインズが人払いをした書斎である。

 邪魔が入る可能性は皆無だった。

 

 なお、お屋敷のメイドたちの間にクレマンティーヌのおねしょ疑惑が持ち上がっていた。




あと二話で閉まるはずです

ところで理想郷が閉まってしまいました
いつでも読めると思ってたのであれもこれもそれも保存してない!
いやまあお前が言うなと言われるかもしれませんが

アーカイブ探さねば


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クレマンティーヌ ▽クレマンティーヌ

本話19k弱


 クレマンティーヌにまともな男性経験はない。

 近隣では文化水準が一番高い法国の生まれなので、それなりの教養はある。所詮はそれなりである。

 そんなクレマンティーヌのキスはとても稚拙だ。それ故に、相手と一つになりたい欲求を形にした情熱的な口付け。

 唇を強く押し付け、粘膜の接触面積を広くするために舌を深く入れ、相手を取り込もうと強く吸う。抱きしめる腕にも力が入った。

 ぷはっと息継ぎするのも一瞬だけ。すぐに唇を押し付け舌をねじ込んだ。

 拙いながらも舌を絡ませ唾を啜り、唇から零れた涎が顎にまで伝ったところでようやく離れた。

 夢中になっていても、涎を垂らしてしまうのは恥ずかしい。手の甲で拭おうとして、先んじられた。

 

 男の唇が顎に触れ、軽く吸いながら涎の垂れた跡をたどっていく。もう一度唇を重ね、軽く顔を傾けた。

 角度が変われば触れ方が変わるし、舌が届く範囲も変わる。何より鼻がぶつからない。

 舌を差し込むだけだったクレマンティーヌとは違う。歯と歯茎の境目を舌先でなぞり、唇の裏にも入り込む。

 クレマンティーヌの背中に回った男の手は背筋を撫で、腰に回った手は女の体を強く引き寄せる。交差した脚が深くなった。

 

「んっ」

 

 と、クレマンティーヌが小さく呻く。

 目を開けて下を確認したかったが見えるわけがない。感じている事から、そうなっているのだろうと思うだけ。

 股の間が押されている。男の太ももが脚と脚の間に入ってきて、股間を圧してる。

 尻もそうだ。腰を抱かれていると思っていたら、いつの間にか尻を撫でられている。

 反面、背中を撫でる手は子供をあやすようにとても優しい。

 キスの味は言うまでもない。クレマンティーヌ自身も知らなかったところを暴かれ、刺激されていく。

 高まっていくと同時に、対抗意識が滲んできた。力任せでは駄目だと教えられているかのようだ。さながら膂力だけのモモンをクレマンティーヌが技で翻弄したかの如く。

 

「……おにーさま、すっごい手慣れてる。さりげなく私のお尻撫でてるし。私なんて……、あ」

「どうした?」

 

 クレマンティーヌが一瞬だけ気まずそうに視線を泳がせた。その上意味ありげに言い淀むのだから、何かあるので聞いてくれ、と言ってるようなもの。

 

「おにーさまはそーいうの気にしないと思うんだけど」

「内容によりけりだな」

「大したことじゃないんだけど……ね?」

 

 尚も言い淀むクレマンティーヌに、男はイヤな予感がした。

 実はおしっこを飲ませるのが大好きなの、などと言われてしまったら一考せざるを得ない。それはラナーで一生分どころか、来世とそのまた来世の分もやっている。アルベド様以外は遠慮して欲しいところだ。

 

 クレマンティーヌは、ふぅっと息を吐き、悪ぶった顔でこう言った。

 

「私って男どもから目茶苦茶に犯されたことあるんだけど、そーゆーのっておにーさまはどう思う?」

 

 この年まで処女だとは思ってないだろうし、黙っていればわからない。なのに話してしまったのは、クレマンティーヌにもわからない。ただなんとなく、黙っているのは決まりが悪かった。知ったところで汚らわしいと思う男ではないはずだ。

 

 男は険しい顔を見せた。クレマンティーヌはちょっとだけ怯んだが、信じると決めたのだ。

 

「クレマンティーヌは漆黒聖典の一員だったんだろう? そのクレマンティーヌを捕らえる集団がいるのか?」

「……私が弱っちかった頃のこと。強くなってから全員ぶっ殺したけどね」

「そういうことか」

 

 漆黒聖典の一員すら捕らえる集団があるとしたら、アルベド様にご報告しなければならない。そう思ったのだが過ぎた事だったらしい。

 

「……それだけ?」

 

 クレマンティーヌは、責めるような目で男を見上げる。遠い昔の話であり、今や何とも思っていない過去。しかし、当時はとても大きく受け止めた。それを話したのだからもう少し何かあって欲しい、と思うのは欲のかき過ぎか。ついさっきのやり取りから、この男はかなりずれてると悟ったばかり。

 

 クレマンティーヌの思う通り、男の中に慰めの言葉はない。

 慰めの代わりに頬を撫で、宣言した。

 

「そんな事はもう起こらない。何かあったら俺が守るよ。そのくらいの権限はあるからね」

「…………うん」

 

 クレマンティーヌは、まじまじと男の顔を見た。その場しのぎの言葉とは思えない。

 短い付き合いでも、感情の機微がわかってない男なのは身をもって知らされた。悪びれるどころか恥ずかしそうに千人も殺したと告白する人でなしだ。

 しかし、嘘を言う男ではない。何かあったら弁護すると証人も立てて宣言した。アインズの前で期待していると言ってくれた。守ると言ったのも本気で本当だろう。

 昨日までだったら、守られるほど弱くないと突っぱねたかも知れない。

 今は違う。肩の力が抜けて心が浮ついている。

 

 

 

 昨日までのクレマンティーヌは独りで生きてきた。

 幼い頃、両親の愛情は優れた兄にだけ注がれた。長じてからもあれの妹扱いばかりされてきた。法国で出来た唯一の友人は死んでしまった。友の復讐もばっちりやったのは言うまでもない。

 国を捨てズーラーノーンに入り、そこで何かしらの関係を築く前にモモンに敗れた。

 そして今。クレマンティーヌは、生まれて初めて庇護者を得た。

 心が浮ついて、柄にもなくはしゃぎたくなった。それでは子供に戻された時と同じだ。唇が緩みそうになり、下唇を噛んだ。

 

「あっ! ちょっと、手が……」

 

 心を飛ばしてちょっとだけ惚けていた間に、男の手がワンピースの中に入ってきた。

 後ろでは服越しに撫でられていた尻を触られている。穿いてるのはやっぱりお子様パンツ。見られたら恥ずかしい。

 前では服の中を這い上がってきた。気付いた時には腹まで来ていた。素肌を触られている。ブラジャーを着けられる体ではなかったので、下着にしているスリップの下だ。

 魔法が掛かってるワンピースは、強引に捲られたくらいで伸びたりしないようだ。男の手が上るに連れて素肌に外気を感じる。

 胸まで来たとき、クレマンティーヌは服の上から男の手を押さえた。動きを止めるためではない。乳房を優しく包む手を強く押し付ける。

 

「おにーさまだったら私の全部を好きにしていーよ。おっぱいも触りたかったらいっぱい触って?」

 

 思い返せば、夢では胸を触られなかったし見せもしなかった。見せられる胸ではなかったと思う心が反映されたのだろうか。

 

「そうさせてもらうよ」

「うん。……んっ」

 

 クレマンティーヌの手が離れてから、男は優しく乳房を撫でる。

 力を入れて握ったりはせず、輪郭をなぞり、手のひら全体を使ってゆっくりさする。

 

 男は男であるが故に女が犯された時の恐怖や屈辱はさっぱりわからなくても、並外れて倒錯的な被虐趣味でない限り忌まわしい経験であろうとは想像できた。

 ならば、記憶を塗り替える経験をさせればよい。

 最近はアルベドがナザリックから屋敷に居を移したため、技は尚も磨かれ冴えわたっている。

 

「え? いつの間に?」

 

 クレマンティーヌの着るワンピースは後ろにボタンがある。

 着脱の度に背中のボタンを留めたり外したりが面倒で、クレマンティーヌは頭から潜って着ていた。きちんとボタンを使えば、頭からではなく下から着たり脱いだりが出来る。

 そのボタンをいつの間にか外され、襟元が大きく開いた。引っ張るまでもなく、ワンピースはすとんと落ちた。引っかかる部分がなかったわけではない。襟が大きく開いたからだ。

 肌着にしていたスリップも、肩紐を外せばするりと落ちる。クレマンティーヌは反射的に胸を抱き、ずり落ちるスリップを止めた。

 

「おにーさまってばすっごい手が早いね? 私を裸にしたかったら先にパンツ脱がせて。言っとくけど脱がしたの絶対見ちゃダメだからね? 途中から自分でするから」

「わかったよ」

 

 見られたら恥ずかしいお子様パンツである。

 男の手がパンツの縁を摘まみ、引っ張った時に剥がれるような感触があった。さっき守ると言われた時、きゅんと来てじわっとしたのは気のせいではなかったらしい。

 

「そこでストップ!」

 

 太ももを越えて、膝から下は自分の手で脱いだ。スリップが落ちて乳房が見えてしまうのは気にならない。

 脱いだパンツがどうなってるか確認したくなったが、見られないようにするのが先だ。丸めてスリップに包んだ。

 全裸になり、腰に右手を置いて軽くしなを作った。尻にもちゃんと肉がついてる。

 

「ルプー様やソリュシャン様ほどじゃないけど、私のおっぱいも揉むくらいはあるでしょ?」

 

 自己申告通りの乳房が形よく上向いている。体には余計な肉がなく、しなやかな肢体だ。ソリュシャンたちとは違う野生美を感じさせた。

 男の目を特に引いたのは、乳房の先端だった。

 

「ああ、とても綺麗だよ」

「嘘つき、っては言わないであげる」

「本当だよ。綺麗な色だ」

「え? ……あれ?」

 

 肩を抱かれながら乳房を触られた。

 下から包み絞るような触り方。そのせいで先端が強調される。自己主張するように尖っているのもある。

 クレマンティーヌの乳首は、透明感のあるピンク色をしていた。

 

 見覚えがあるけども違和感のある色だった。

 黒とは言わないまでも、もう少し茶色がかっていた。

 子供の体にされたのでそこの色も薄くなっていたが、大人に戻ったら元の色に戻ると思っていた。

 それがそのままだ。子供になっていたボーナスだろうか。なんであれ、綺麗なのは嬉しい。

 

「ふふ……。でも、これからおにーさまに染められちゃうんだよね?」

「そうなるな」

 

 肩を抱かれたまま、ソファに座った。大きいソファだ。座面が深くて余裕で寝転べる。

 男が隣に座った。胸はずっと触られている。

 顔と顔が近付いて、互いの吐息が唇を撫でた。

 乳房を包む手はどこまでも優しい。優しすぎて触られてるのを忘れそうになる。そのくせ体は張り詰めていく。

 乳首が立っているのがわかる。敏感になりすぎて、空気の動きすら感じてしまう。

 

「んぅ…………」

 

 見つめ合うだけで言葉はない。

 唇が唇を掠めても、合わさりはしない。

 

 クレマンティーヌは抱き着きたくなるのを耐えた。自分からキスをしたり抱き着いたりしては、なんだか負けたような気分になる。

 もどかしい思いは太ももを擦り合わせ、拙い手で男のシャツのボタンを外す。

 全部のボタンを外したところで、全身が痺れた。焦らされて熱が溜まった乳首を摘ままれただけ。

 声は出せない。口を塞がれた。

 ソファに押し倒され、両方の乳房を揉まれている。右も左も気持ちいい。

 勝ち負けを忘れ、男の首筋を掻き抱く。下になってるせいで立ってた時よりも注がれる唾が多い。すぐに飲み込んでは勿体ない。二人分の舌でれろれろとかき混ぜてから、泡立った唾を少しずつ嚥下する。

 

 男が半裸になるなり、クレマンティーヌは堪らずと云った様子で抱きついた。

 

「ふふっ、おにーさまっ♡ ちゅっ」

 

 今度はクレマンティーヌが上。座る男の脚を跨ぎ、ソファに両膝をつく。

 裸で抱き合いたかったし、キスは何度しても飽きそうにない。それ以外の策略があった。

 

(あはっ、やっぱり来た! おにーさまはエッチなんだから♡)

 

 尻は撫でられた。胸を揉まれて乳首を摘まれた。そっちをもっとしてもらうのも捨てがたいが、それ以上にして欲しい所がある。そのためにわざわざ股を開いたのだ。

 狙い通りに、男の手が股の間に伸びてきた。

 

「んぅ……、ちゅっ、れろ……。んっ……」

 

 キスをしてるせいでくぐもった声しか出てこない。だけども体はちゃんと感じていた。

 秘部の上に添えられた手が、小さな円を描いている。触れられてる部分が温かい。奥で生まれた熱がじわりと落ちてくる。

 

「あんっ♡」

 

 唇が離れた瞬間に、指が割れ目に沈んできた。

 なめらかな内側を撫で、隠れていた肉芽に触れる。思わず甘い声が出た。キスの途中なのだから、熱い吐息が男の唇を湿らせる。

 美しい男がじっと見ている。

 

「可愛い声が出るんだな」

「うっ……。つい出ちゃっただけだから!」

 

 クレマンティーヌは赤くなった顔を背けた。

 

 ろくな男性経験がなかった。感じて声を出してしまうのは、一人遊びの時でも稀だった。

 男に触れられて声が出るのが初めてなら、気持ち良いと思ったことすら初めてだ。

 自分ですら聞いたことがない声を指摘されるのは、経験の少なさをからかわれてるように感じてしまう。

 

「褒めてるんだよ。もっと聞かせておくれ」

「んっ……、あんっ! あぁっ、そんなつまんじゃ、んぅぅっ♡」

「クレマンティーヌとこうするのは初めてだろう? どこをどうされるのがいいか教えてくれないか?」

「えっ……。でも、そんなの……。あぁ……、はぁ……。それ……イイ……」

「どっちだ?」

「…………こすられるほう……。あぁんっ♡」

 

 クリトリスを探り当てた指は、根本を軽く押して包皮をむき、つるりとした肉芽を直に撫で始めた。

 指が二度三度と上下する内に膨らんでくる。湿っていた内側がぬかるみを増してくる。

 クレマンティーヌに、キスをする余裕はなかった。男の首筋にすがりついて甘い声で鳴くだけ。足腰が痺れて膝を立てるのすら難しくなっていく。

 男の左手に尻肉を揉まれて掴まれ、尻の割れ目を広げられる。後ろから見られたら、肛門が広がってるのを見られてしまう。恥ずかしいからそんな事しないでと言いたいのに、口からは意味のある言葉が出てこない。

 

「あっあっ、あんっ♡ それっ……、それして?」

「どれのことだ?」

「くっ……、くりの、ほう……。あっだめソっちはぁ……!」

「痛むか?」

「いっ、いたく、ないけど……、ひゃんっ!」

 

 男の長い指は尻の割れ目に届いていた。裸になっていてもちょっぴり汗ばんでる部分だ。

 熱気を掻き出すように指先が割れ目を撫で、窄まりで止まった。

 右手がクリトリスを撫でるなら、左手は肛門を撫で始める。止めろと言いたいのに言えない内に、圧力が増していった。ダメと言えたのは、指先が入ってから。

 感じたことのない異物感に背筋が粟立ち、ぬるりと抜けたときの開放感と気持ちよさは言葉に出来ない上に言えるわけがない。敗北感を噛み締め、恨めしい目で睨むのが精一杯。

 

「力が抜けただろう?」

「……わたし、そっちでしたことないんだけど?」

「次の楽しみにとっておくよ」

「決定なんだ? おにーさまのヘンタイ!」

「失礼な!」

 

 言葉で応酬する間も右手は蠢き続けている。

 割れ目の内側をぬるりと下がっていき、女の穴にたどり着く。

 指先で入り口を軽く撫で、

 

「あれ?」

「なっ、なに? 入れるんじゃないの?」

 

 クレマンティーヌは、指が入ってくるのを期待していた。なのに入り口を撫でるだけで入ってこない。

 

「わっ!? ちょっとなに!?」

 

 直後、ソファの上に押し倒された。太ももを押されて股を開かされ、女の割れ目を広げられる。

 これから何をするか自覚があっても、じっくり見られるのは恥ずかしい。

 男という生き物は女が恥ずかしがる様を好むと聞いたことがあったので、そのためかと思ったら違った。怪訝そうな男の言葉に、かなりイラッと来た。

 

「クレマンティーヌ、処女?」

「……違うって言ったでしょ? それとも素人処女とかって言いたいわけ?」

 

 犯されたと告白したばかりだ。それ以降、男性経験はない。欲求を覚えても殺人衝動にすり替わった。やってやった時は甘美な快感を味わった。

 そんなクレマンティーヌに恋人や情夫がいたわけがない。

 わかりきった事を聞く場合、言外の意図がある。推測出来る意図は、どれもこれも面白くないものばかりだ。

 

「そうじゃなくてだな……。見たほうが早い」

「なっなに!?」

「こら、暴れるな。危ないだろ。すぐ済むよ」

 

 クレマンティーヌは、ソファから立たされたと思ったら抱きあげられた。それも後ろから。

 男の両手は両膝の裏に入っている。必然的に股を開き、股間を突き出すポーズになった。

 

「カーテンを開けてくれ」

「はあ!? するわけないでしょ! おにーさまやっぱり変態? 下ろしてくれないなら飛び降りるけど?」

 

 挙げ句、窓辺にまで移動してカーテンを開けろと言う。一体誰に見せるつもりなのか、クレマンティーヌの趣味からは大きく外れる。

 かつてはビキニアーマー装備だったが、そこまでさらけ出すつもりはない。

 

「お前は俺を何だと思ってるんだ。窓を鏡にするだけだ。アインズ様が魔法を掛けてくださってるから外からは見えないよ」

 

 アルベドと窓辺でアナルセックスをしたことがある。覗き見防止は実証済みだ。

 

「……実は外から見えたってなったら許さないからね」

 

 変態だと思ってるとは言わないでおいた。既に言ってるかも知れないが、それはそれだ。

 思い切ってカーテンを開ければ、窓の外は闇が濃い。窓ガラスは鏡のようにクレマンティーヌの姿をくっきり映した。

 後ろから両膝を持ち上げられて、大股を開くとても恥ずかしい格好。今度こそ羞恥を煽るため。効果は抜群だ。自分でなければ笑ってやれたが、自分となるとただただ恥ずかしい。子供にされていたからか、無毛なのでなおさらだ。

 そこに追い打ちがあった。

 

「自分で広げてみろ」

「う……うん……」

 

 この格好で、広げろと言われたら場所は一つ。

 股を開かされても閉じたままの割れ目に触れ、ふっくらとした陰唇を左右から広げた。顔は背けた。見ていられなかった。

 

「ほら、自分で見てみろ。処女膜があるだろ?」

「えっ?」

 

 言われ、窓を見る。煽情的な格好をした自分の姿がある。広げた部分に目を凝らした。

 割れ目の内側はしっとりと濡れ光り、ねだって嬲られたクリトリスが膨らんでいる。その下には小さな膣口。距離があるので入り口は良く見えない。言われてみれば、小さな肉ひだが入り口を狭めているように見えなくもない。

 陰唇を押さえる指を伸ばし、恐る恐る触れてみた。確かに膜が付いている。

 そんなところを意識して見たことも触れたこともなかったので前と比べてどうとは言えないが、処女膜としか思えない。

 

「うそ……。なんで?」

「アインズ様の元で回復魔法を掛けてもらった事はないか? 俺も古傷を癒してもらったし、その効果じゃないかな」

「おにーさまも? でもこれ……ほんとに?」

 

 膜を破かないように指を入れてみた。

 濡れているので入らなくもないがきつくて狭い。記憶にない異物感。指を増やして痛みを感じるかどうか試そうと思って、思い留まった。本当に処女の体になったのなら、指で破るのは勿体ない。

 

 腕から下ろしてもらい、男の手を引いてソファに戻る。

 自分が上か下か迷ったが、先にすることがあった。

 男のズボンをえいっと脱がせば逸物が跳ね上がる。股間が膨らんでいた事から立ってる事はわかっていた。生で見ると凄い迫力だ。

 

「うわぁ……、おにーさまのちんこすっご。これじゃ子供の私だと入んないよね」

 

 夢で見たのよりずっと大きい。

 男をソファに座らせて、股間に顔を近付ければ匂いがあるし熱も感じる。夢を辿るように握って上下に振り、先端だけをぺろりと舐めた。

 

 

 

 二人はクレマンティーヌの処女膜を回復魔法で治ったのだと思ったが、実際は違う。若返りの秘薬の効果である。

 若返らせ方には二つの方式があった。一つは単に肉体を若返らせる。もう一つが肉体の時間を巻き戻す。

 どちらも同じ結果を得られるが、後者だとそこに加えて体で得た経験の全てが消える。いわゆる体で覚えた動きが出来なくなる。そのため、頭ではわかっているのに体が思うように動かない事が多発する。クレマンティーヌは生き返ってから武器を持って戦うことが一度もなかったため、気が付かなかった。

 アインズはクレマンティーヌを弱体化させるために若返らせたのだから、より戦闘能力がなくなる時間を巻き戻す方式を選ぶのは必然だった。

 

 クレマンティーヌは何の経験もない十歳児の体にされてから大人の体になったのだ。

 不思議の青いキャンディーの効果は子供を大人の体にするだけ。それ以外は何も足さない何も引かない。

 十歳のクレマンティーヌが持っていたものを、当たり前のように持っている。それだけである。

 

 

 

 クレマンティーヌの舌と亀頭とで糸を引く。拙い技でも熱心にしたおかげで、湯気が立つほど熱くなっている。

 

「これだけシコシコしたんだから十分だよね? 早く入れて?」

 

 クレマンティーヌは、ソファの上で股を開いた。座面に足を乗せるM字開脚。恥ずかしいポーズでも、さっき窓辺でしてしまったのに比べたらずっと大人しい。

 割れ目も広げた。高まった期待が濡らしている。

 

「もっとほぐした方がいい。そんなに焦らなくてもいいだろう?」

「ダメ。早く!」

 

 触って少しは濡れてきたが、中はまだ触れてない。処女に戻ったというなら良くほぐさないと痛むというのに、クレマンティーヌは聞こうとしない。

 男はソファの前に膝立ちとなって、位置を合わせた。

 早く早くと急かされて、内側を亀頭で撫でる事もなく入り口にあてがう。

 軽く押しても入らない。ただでさえ狭い穴を処女膜が狭めている。

 

「早く入れて。おにーさまのちんこじゃなきゃダメなの。痛くても平気だから、早く」

「……クレマンティーヌはそのまま広げていてくれ」

「うん」

 

 ゆっくり押しても押し返されるだけ。

 クレマンティーヌの細い腰を掴み、動かないよう固定する。前傾姿勢になってクレマンティーヌに軽く口付け、軽く腰を引く。勢いをつけ、押し込んだ。

 

「いっ…………ぎぃ……!」

 

 引き締まった体。未通の穴。入り口が狭ければ中も狭い。男の逸物がこじ開け貫き、侵入していく。

 肉の穴は男が通る部分を開かされ、一番奥まで侵された。

 入ってきたものをきつく締め付けるのは処女の固さ。

 

「ははっ……、あはははっ! おにーさまのおっきいから……、すっごく痛いよ」

 

 クレマンティーヌは虚ろに呟き、結合部に手を伸ばす。

 指先で感じるぬめったものは、赤い色が付いていた。

 

「血も出ちゃってる。わたし、ほんとーに処女になってたんだ」

 

 クレマンティーヌは笑った。痛むのか、泣き笑いのような表情だ。

 

「ほぐしてからの方が良かっただろう?」

「いーの。痛くしたかったから。でも、わたし処女だったよね? わたしのおまんこに入ったのっておにーさまのちんこだけだよね?」

「そうだな。この固さで処女じゃないってことはない」

「固さとか言わないでよ。何か比べられてるみたいじゃない。これからおにーさまにが育ててくれればいいでしょ?」

「時間はある。じっくり育てるよ」

「あはっ……。おにーさまの色に染めちゃっていーよ? とりあえず真っ白にしちゃうのかな?」

「掛けて欲しいのか?」

「変態。あれの色が白だから真っ白ってこと」

 

 内側から真っ白に、だ。

 そうすればいつか子供が出来るかも知れない。おにーさまの子供だったら産んであげるのは悪くない。子供まで作ったらただの使用人や部下扱いは出来ないはず。夢で見たおにーさまのお嫁さんはちょっと行き過ぎな気がしないでもないので一先ず保留。少なくとも愛人かそれ以上の立場を得られるのは確実だ。今より高待遇が見込める。

 一瞬でそこまで計算した。絵に描いた餅となるか否かはこれから次第。

 

「私のおまんこって新品になったけど、おにーさまに早速使われちゃったから。そろそろ痛くなくなってきたし、動いていいよ? 中で出していーからね?」

 

 元々が優れた戦士だったクレマンティーヌだ。処女に戻ったので体を貫かれる破瓜の痛みはそれなりだったが、耐えられないでもない。

 言葉を交わす内に、痛みに慣れてきた。今や痛いというより熱いと感じる。

 

「もちろんそうする。ここまで来て、途中で止められるわけがない」

「うっ……うん……」

 

 体を重ねた状態で、間近で男が囁いた。

 赤と青の目に少しだけ嗜虐的な色が混じり、クレマンティーヌはちょっぴり気圧された。怖いとは思わない。何をしてくれるのかと期待がもたげる。

 

 クレマンティーヌは、おにーさまは自分を気遣って全く動いてないと思った。実のところは動いている。

 男はクレマンティーヌの呼吸と脈動を読み、体が緩んだ隙に少しずつ動いていた。おおよそにして3秒に1ミリ。アルベド曰く「動いてないのに蛇のように蠢いている」動きである。

 クレマンティーヌは全く気付いていない。しかし、体は応えている。狭い穴の内側を少しずつ把握されていく。

 

「ちゅっ……れろ……。ふふっ♡ んっ……、あんっ」

 

 軽いキス。互いに舌を伸ばして舌先だけで触れ合い、口内に溜まった唾が溢れる前に塞ぎ合う。

 挿入が果たせたので、男の手は腰から乳房へ移った。撫でていた時より力が入り、柔肉に指が埋まる。少々強めで暴力的な方がクレマンティーヌの好みに適った。ともすれば、乳房を握る指が体の中に溶け込んできたような。

 

「あっ……、ちくび、つまんでいいよぉ? おにーさまなら吸ってもいいから……。でも……ぬいちゃだめ」

 

 3秒に1ミリでも、同じ方向に進み続ければクレマンティーヌでもわかる。

 キスをしている間に、入っているものが抜けかかっているのを感じた。

 痛みはかなり薄れてきた。快感とまではいかないが、一つになってる充足感がある。入ってくれてるだけでいい。

 

「わかってるよ。中で出していいんだろ?」

「うん……。んっ、あんっ♡ そのこすられるの、つままれるより好きかも……。うぅ……、声でちゃうぅ……。ひゃあぁぁあんっ♡」

 

 固く尖った乳首は、触れるか触れないかの距離で先端だけを擦られ続ける。張り詰めていくのを感じ、キスの合間にそっと下を見れば、見たことがないほど勃起している。

 そこへ不意打ち気味に摘ままれた。快感が口をこじ開け、甘い叫びが飛び出てくる。

 恥ずかしいと思ったし、自分の体を支配されてるとも思った。だけども、抗おうとは思えない。

 折角気持ちいいのだから、委ねてしまった方がいい。

 

「そろそろ、かな」

「え? あっ……なに? あっ、あっ? あぁっ!? あっ、なにこれ? えっ? あっあっ、うごいてるのぉ?」

 

 クレマンティーヌが気付かないペースで動いていた逸物が、クレマンティーヌでもわかる速さで動き始めた。

 あくまでもわかる程度で、注挿はごく静か。ゆっくりと抜けて、ゆっくりと戻る。

 動き始めてから、クレマンティーヌは痛みがないことに気が付いた。

 

 体の中を、男の体が往復している。

 欠けた部分を満たされた充足感に、快感が絡みつつある。苦痛どころから幸福感が湧いてきた。

 体を飛ばされまいと男の体にしがみつく。

 

「あんっだめぇ……! あっあっ、あんっ♡ あんっ♡ えっ? えっ? なっ、なにしてるの?」

「愛し合ってるんだよ。クレマンティーヌは知らなかったのか?」

「しらないぃっ……。だって、だってぇ……!」

「だって?」

「こんなの……、はじめて♡」

 

 覚醒サキュバス御用達の体と技である。

 逸物を膣に馴染ませ内側を把握して、感じるであろうところを的確に擦っていく。

 ペースはほんの少しだけ速くなる。クレマンティーヌの締め付けが動きを遮る事もない。処女の固さは取り切れなくても、男が通る道をきちんと開いて受け入れる。

 逸物にまとわりついていた破瓜の血は、行き来する度に流れていった。

 

 男が腰を打ち付け先端が子宮口を叩いても、クレマンティーヌに痛みはない。奥から響いて、体全体を駆け巡る。男にしがみついていなければ、自分がどこにいるのかわからなくなったかも知れない。

 

「すごいっ、きもちいっ♡ あんっ♡ セックスって、こんなにイイの? ああんっ! ……腰振っておっぱい触るなんて、おにーさまってすっごいきよぉっ♡」

 

 さっきと強弱が違うだけなのに、クレマンティーヌには全くの初体験だった。痛いほど尖った乳首は、抓られれば痛いだろうに快感がある。

 自分の体を支配する男の体は暴力的で、入って来た時は痛みに呻くほどだった。それがいまや自分から求めている。抜ける時は逃がすまいと締め付けて、戻る時は緩んでしまう。

 圧倒され過ぎて、反射的に憎まれ口が出てきた。

 向こうはそうと受け取らなかった。

 

「こんな事で器用と言われても、な」

「あんっ、ぬいちゃだめだってぇ……。あっ?」

 

 大きく開いた脚を、右だけ持ち上げられる。

 男は脚をくぐってクレマンティーヌの後ろに入り、ソファに横たわった。

 ずっと挿入したままだ。クレマンティーヌもソファに引き倒され、落ちないよう後ろから支えられた。

 左脚は下になって、右脚だけ上げられている。

 

「こっちも反応が良かったな」

「やぁぁあぁあんっ♡ こんなの、あるの? んぅっ……、あはっ♡ やああぁぁぁあんっ♡」

 

 座面が深いソファなので、腰を振る広さは十分あった。

 二人とも横たわって、男が後ろから挿入する側位の形。

 男の下腹がクレマンティーヌの尻にぶつかり、逸物が膣を深く抉る。

 男の手は前に回って、割れ目の上端に指先を伸ばした。勃起したままのクリトリスを圧し、小刻みに上下に擦る。

 膣の潤いが増して、きゅうと締まった。

 

 クレマンティーヌは、言葉にする余裕がない。

 何もかも初めてで、されるがままに受け入れている。

 自分の中に男が入っている実感が心も体も満たしている。

 触られる部分の全てが素晴らしいのだから、深く繋がれば繋がるほど満たされる。

 あえぐばかりの口からは、たらりと涎が垂れてきた。

 

「あっ♡ あっ♡ あっ、うむぅ……、んっ……ちゅる、じゅるる……んっふぅ……♡」

 

 無理な姿勢で強引に振り向かされ、唇を奪われる。

 舌を入れられたっぷり唾を注がれたのを、喉を鳴らして飲み込んだ。

 抵抗できないのはいつかと同じ。けども全然違う、次元すら違う。出来ないではなくしたくない。自分の全てを委ねたい。子供を産んでいいと本気で思うくらいに委ねてしまう。

 

「あっ、かお見せて……。あぁ、おにーさま……」

 

 夢の中では気取った事を言えたのに、今の自分は蕩けきっている。赤と青の光に溺れたようだ。

 いつの間にか体位が変わって、自分がソファを背にしていた。おにーさまは上から包んでくれている。重さが苦しいどころか心地よい。

 一体感が素晴らしい。今までの自分は欠けていたのだと思い知らされる。繋がった今こそが正しく完成した形なのだ。

 

「ああ……、おにーさまがわたし見てる。もっと見て。もっと犯して? おにーさまのちんこなら、どんなに犯されてもいいから」

「犯して欲しいの間違いだろう?」

「ほんとはそうなの♡ ずっと入れてて欲しくなっちゃう♡ あっうぅ……。これ、すごくてぇ♡ チュッ♡」

 

 クレマンティーヌは余裕ぶって男の頬を両手で包み、啄むように口付けをする。

 開いているだけだった脚はピンと上に伸ばしてから、男の腰に回して足首同士でロックした。

 紫色の目は淫靡に輝く。赤と青に映る自分の目を見ていた。

 

 破瓜の痛みはどこにもない。名残は股を少々汚す血の跡だけ。

 挿入されてる一体感はもちろんの事、裸で抱き合ってるだけでも気持ちよい。南の海に浮かびながら、美しい蛇が全身に絡みついているかのようだ。温かく、なめらかで、優しいくせに力強く、自分の体を隅から隅まで這いずっている。

 

「もう痛まないみたいだな?」

「そんなのとっくに。男なんて腰を振るしか能がないって思ってたのに、おにーさまってすっごく優しいんだもん。じっくりされ過ぎちゃって、おまんこがおにーさまのちんこ覚えちゃった。私の中に、おにーさまの形があるの。嬉しい? もう私のおまんこはおにーさまのちんこじゃないと満足できないかも?」

 

 注挿はずっと静かだ。止まっている時の方が多い。動く時も短い距離を往復して、入り口から奥まで一息に来たのは最初だけ。

 

「でも、おにーさまも満足しないと不満かな? 出していいって言ったのにまだ全然だよね? 激しくしてもへーきだよ? もう痛くないし、少しくらい痛くてもだいじょーぶだから」

 

 記憶を上書きして処女に気遣った優しい動きは、きちんと成果が出ているようだ。

 クレマンティーヌはいやらしく微笑んでいる。

 体の反応も上々で、胸板に擦れる乳首がずっと立ったままなら、逸物を締め付ける膣肉は隙間なく密着しながら締め付けに緩急が出てきた。中で動くと、溢れる愛液が流れるのを感じた。

 一度抜ける寸前まで引いてから、同じ速さで奥に戻る。侵入を拒もうとする弾力はない。むしろ欲しがっているかのように媚肉が絡む。

 そろそろ動いても良さそうだった。

 

「行くぞ?」

「うん……。ひゃあっ!?」

 

 さっきと同じ動き。速さだけは倍以上。先端は子宮口を叩いて、受ける衝撃も強くなった。体の真芯を打ちぬかれた。

 顎が上がって声が出る。瞬間、視界が真っ白になった。

 

「あっ……あんっ! はっ、あっ、あぁんっ♡ あふぅっ……。んっんぅっ……。あっあっあっ、あっっはぁぁぁああぁああんっ♡」

 

 男は女の体を逃がすまいと肩を抱き、股の間に腰を打ち付ける。

 クレマンティーヌの穴を男の逸物が何度も通る。内側の粘膜を全て把握している肉棒だ。乱暴な注挿に見えて、感じやすい部分を重点的に擦っている。

 膣肉がきゅうきゅうと締めてきても止まらない。激しくしても、と言ったのはクレマンティーヌ自身だ。知らないから言ってしまった。

 

「あんっ、あっ、おっおにー、あ゛あ゛っっ! っくぅうう……。いっ……イッて……♡ あ…………、あ゛っっっ、はあぁぁああああぁぁあぁぁああんっ!」

 

 聞く者の耳を蕩けさす甘い声は、叫び声に似てきた。

 腰が跳ね、背が弓なりになって顎を反らせる。開いた口からは舌を伸ばし、涎を垂らした。目は大きく見開いてるのに、焦点が合ってない。

 

 覚醒サキュバス御用達の技と体なのだ。それが全力で全てを駆使している。肉体の快楽は言うに及ばず、魂まで侵してきた。

 肉体が精神に反映されるなら肉体は精神に応え、何度も絶頂して痙攣しても、健気に男を締め付ける。

 いつでも受け入れられるように子宮口は小さな口を開いたままで、膣壁は奥へ取り込もうと蠕動している。

 

 何度も達するどころではなく、絶頂が続いていた。

 経験があれば、果ても底もないことに恐怖を感じたかも知れない。

 クレマンティーヌはそこまで知らない。知っていたとしても、優れた戦士であるクレマンティーヌは未知を恐れない。我が身を火にくべ禁忌の至福で焼き尽くす。

 

「そろそろ、出すぞ!」

「うんっ、うんっ! うっ! あっ! あぁん……あぁ、ぁ、あっあっはあんっ……! あ゛っ、ーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!」

 

 クレマンティーヌは訳も分からず頷いた。

 股間と股間がぶつかって乾いた音に泡が弾ける音が混じり、子宮口に押し付けられた尿道口がどぴゅどぴゅと熱い精液を吐き出した。

 処女の膣は、男の形も味も覚えさせられた。

 

 逸物がぴくぴくと震えるのを、きゅううと締まった膣が感じている。

 最奥で出された精液に逃げ場はなく、唯一開いた子宮口へ流れていった。

 夢ではない。クレマンティーヌは、男の精液を子宮で受け止めた。

 

 この世の全てを手に入れたかのような全能感。

 絶対に逃がさないように、クレマンティーヌは男の体を強く抱きしめた。

 入ったままの逸物も締め付ける。果てたのに固いままだ。

 クレマンティーヌの呼吸が落ち着いてから男が切り出す。

 

「もう一度しようか?」

「……うん」

 

 クレマンティーヌは、のぼせた顔で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 二度目もソファの上で。

 クレマンティーヌがソファの背もたれを掴んでソファの上に膝立ちとなり、男が後ろから挿入する。

 下腹が尻を打つたびに、尻肉が波打つのが目に楽しい。

 続ける内に、クレマンティーヌは背もたれを掴んでいられなくなった。膝立ちだから良かったものの、床の上に立っていたら、立っていられなくなったことだろう。

 最後はソファの上に崩れてしまい、男がクレマンティーヌの脚を抱えて腰を使った。

 二度目もクレマンティーヌの希望通りに中で出す。

 

 三度目の前に、クレマンティーヌの口を使った。まずは基本のお掃除フェラ。ちゅううと吸わせて吸い出させる。精液の味と、自分の愛液の味も知った事だろう。

 舐める以外に口で頬張ることを覚えさせる。舌使いはまだまだでも、しゃぶらせていれば元気になって来る。しなくても元気でいられる男だ。

 三度目は上に乗る事を教えた。挿入は男がリードして、腰を振らせる。

 男も動きを合わせて下から突き上げ、クレマンティーヌは動けなくなった。ぐったりと男の体に倒れこみ、尻を小刻みに震わせる。

 仕方なしに男がクレマンティーヌの腰を支えて下から突けば、クレマンティーヌは鳴いて泣いた。

 三度目も膣内で射精した。

 

 

 

「………………わたし、おにーさまのお嫁さんになる」

 

 男の体に身を預け、独白するように宣言した。

 

 体を許したから、処女を捧げたから結婚する。なんて価値観をクレマンティーヌが持っているわけがない。

 おにーさまから離れず傍に居続けるのに、それ以外の方法が思い付かなかっただけである。

 セックスがとても良くて、今まで抱いていた価値観を粉砕されたが、それだけではない。それだけで選んだらただの淫乱だ。とても大きな部分を占めるかも知れないが、けしてそれだけではない。

 自分を信じて、守るとまで言ってくれたのだから、離れたくないと思うのは当然だ。それに、こんなにも濃厚なセックスをしてしまったら、孕んだかも知れない。孕んでなくとも、これから何回もしていればいつかは出来る。

 おにーさまは人でなしだが、やり捨てする男ではないと信じている。きっと色よい返事が返ってくる、はずだった。

 

「俺の妻は六人まで決まってるらしいんだ。クレマンティーヌは七人目になるが、他のがどう言うかな」

「はあ!? 六人!? おにーさまって結婚してたの!? って言うか六人ってなに!? なんで六人もいるの!?」

「結婚はまだだよ。予定が六人ってだけで」

「………………誰?」

 

 物凄い美男で凄まじくセックスが上手くて、ちょっとしたお使いに金貨を千枚も出す財力があり、一国の宰相閣下相談役の地位がある。

 これを逃す女は馬鹿だ、と思ったら先約があったにせよ六人である。結婚は一人とするものではなかったのか。クレマンティーヌの想像を越えていた。

 

「三人はクレマンティーヌも知ってるよ。後の三人はどうかな?」

「私が知ってる三人? …………………………アルベド様、は違うよね?」

「アルベド様が俺と結婚なさるわけないだろう」

 

 アルベド様は、いずれアインズ様の正妃となられるお方だ。

 自分が六人と結婚することをアインズ様お認めになっているので、魔導国はともかくとしてナザリックでは重婚が可能。ならば、女性が複数と男性と結婚することも可能だろう。しかし、アルベド様と自分では身分が違い過ぎる。望んだところで叶わない。

 

 実のところ、アインズは重婚を認めたわけではない。姉妹喧嘩の飛び火を恐れて思考停止しただけである。しかしソリュシャンを始めとして、事態はそちらへ動いている。最早アインズであろうと止められない流れになっていた。

 

「じゃあ誰?」

「一番始めに言い出したのはソリュシャンだよ。ユリさんが続いたけど、クレマンティーヌは会った事がないはずだ。エ・ランテルで孤児院を運営してるしここに来ることもある。その内会う機会があるだろう」

「……美人?」

「ソリュシャンとルプーとナーベラルの姉、って言えば想像つくかな?」

「………………」

 

 あれは姉妹だったのか。似てなさすぎる。何にせよどれも絶世の美女である。見た目で比べられたら勝ち目がない。

 そして、ちょうど三人だ。

 

「その三人が私の知ってるっていう?」

「そうなる」

「くっ!」

 

 予感が的中してしまった。

 残る二人は自分でも何とかなる相手だろうか。

 

「あとの二人は?」

「聞いたことあるかも知れないが……。ローブル聖王国の聖王カルカ・ベサーレスは死んだ。いいな?」

「……? ヤルダバオトってのにやられてアインズ様が助けに行ったって聞いたけど。カルカってのは死んだの? すっごい美人って聞いたことあるよ」

 

 クレマンティーヌが死んで冷凍保存されてた間の話である。

 その辺りの事は、お勉強の時間に色々聞かされていた。魔導国が建国してから国際情勢が変わりすぎである。

 

「その通り。カルカ・ベサーレスは死んだ。だから、カルカは聖王国とは関係ないただのカルカだ」

「…………」

 

 嫌な予感がしてきた。

 自分のように、死んでから生き返らされたのかも知れない。

 

「そのカルカで一人。正式な婚姻関係ってよりは対外的に見せる相手だけどな」

「くっ!」

 

 またも予感的中!

 美貌が近隣諸国に鳴り響く女だ。とても分が悪い。

 

「……最後の一人は?」

「帝国四騎士とか言ってたから聞いたことがあるかも知れないな」

「もしかしてそれって、レイナース?」

 

 元漆黒聖典の一員として、帝国の有力者の名は頭に入っている。

 帝国四騎士で女と言えば、レイナース・ロックブルズしかいないはず。

 

「でもたしか……、顔があれだったとか聞いたけど……?」

 

 レイナースは呪いを受けて顔が醜く変容し、呪いを解く方法を求めて帝国に仕えているのは知られた話だ。

 しかし人でなしのおにーさま。価値観はうっすらとわかってきたが、女性の好みまではわからない。

 

「ペストーニャ様のご厚意で呪いは解けたよ。ペストーニャ様にお会いする機会もいつかあるだろう」

「へえ……。でもレイナース、ね。……よし!」

 

 呪いを受ける前はそこそこ見れる顔だったらしいとは聞いていた。

 だが、他の錚々たる名前に比べれば勝ち目がある。自分とてそれなりでいるつもりだ。現に三回も続けてやってもらった。大丈夫悪くないイケてるはず。

 そう、たっぷり出してもらったのだ。

 

「でもでもー、おにーさまってば私のおまんこにいっぱい出したよね? 子供が出来ちゃったらどーするのかなー? 一人で産めとか言わないよね?」

「いや、無理だろ」

「は?」

 

 言下に切り捨てられた。

 心と体が言葉を拒否する。

 どういうことか問い質そうとして、男がわけがわからない言葉を続けた。

 

「そろそろだ」

「そろそろって、何が?」

 

 男はソファの上に寝転んで、クレマンティーヌはその上に乗っている。

 股は一応拭いてあるが、中に出されたのはそのままだ。量が多かったのでそれなりに溢れてしまったが、わざわざ掻き出したりしない。

 それが突然、とぷりと溢れてきた。

 

「え?」

 

 男の顔が遠くなった。

 何が起こったか把握しようと体を起こせば、手足を突っ張ってるのに高さがおかしい。

 呆然と、右手を顔の前に持ってきた。

 ちっちゃくて可愛い手だった。

 

「はあぁぁああ!?」

 

 飛び起き、窓辺に駆け寄った。

 ガラス窓に映る己の姿は、背丈がなければ太ももも細くなっている。内股をとろつく粘液が流れていく。

 なによりも、おっぱいがない。揉むこともできない。触ればふにっとしている程度。

 ほっぺを触れば、窓に映る姿もほっぺを触っている。

 大人に戻ったはずの自分の体が、小さな子供に戻っていた。

 現実を認識すると、体が勝手に震え始めた。

 

「あんのほねえええええええぇえええ!!! わたしをだましたなーーーーーーーーーっ!!」

「こら、骨じゃなくてアインズ様とお呼びするようにって言っただろ」

「だってアインズ様わたし騙したんだよ!? 元に戻すって言ったのに戻ってないじゃん!」

 

 クレマンティーヌの認識では、子供だったのが一時的な姿で、元の大人の体に戻してくれたと思っていた。

 それが、逆だった。子供が本当の姿で、一時的だったのは大人の体だったのだ。

 

「大人になろうと思えばキャンディーを舐めればいいんだからいいじゃないか。但し、アインズ様から管理するよう言われたのは俺だ。いつでもどこでもってわけにはいかない」

「……もらったのは私なんだけど?」

「自由に使われると面倒な事が起こるかも知れないんだよ。同じ品をアインズ様から頂いた方がいて、その方がクレマンティーヌも同じ品をもらったと知ったら嫉ましく思うかも知れない」

「……その方っておにーさまより偉いの?」

「偉い」

「ルプー様より?」

「……ずっと偉いし、ルプーたちが束になっても敵わないお方だ」

 

 クレマンティーヌの認識では俺よりルプーが上なのかと、男はちょっぴり肩を落とした。

 

「若返ったと思えばいいだろ? 寿命が十年は延びたんじゃないかな?」

「そうだけど……」

 

 子供のままでは、子供を産もうにもその前の行為が不可能だ。

 だったら大人の姿でやってから、と思ったところで子供に戻ってしまったら孕もうにも孕めない。

 子供が作れる体になるまで、早くて無理して三年は要る。安定をとるなら最低でも五年は待ちたい。

 そうすると男も五年は齢を重ねることになる。五年や十年で衰える美貌ではないだろうが、叶うならば旬の時期に合わせたいと思ったところでピンときた。

 

「おにーさまって人間だよね? 実は悪魔で、ってか淫魔で年を取らないとか言わないよね?」

「ルプーみたいなことを言うな。ちゃんと人間だ」

 

 ことあらば淫魔淫獣呼ばわりするルプスレギナである。

 

 言葉を区切った男はちょっと得意げな顔をして、

 

「だが、年を取る事はない。アインズ様から不老不死を授かったんだ」

「それ本当!? お願いすればもらえるの?」

「簡単に頂けるわけないだろ。俺の場合は詳細は話せないが、とある功績をあげたので下賜してくださった。言っておくが、聞いて回るなよ? アインズ様は緘口令を敷かれた」

「…………」

 

 緘口令を敷くほどの情報であるなら、余程重大なものなのだろうと察しが付く。

 残念ながら、今のクレマンティーヌでは同じことを出来そうにない。

 

「どうすればもらえると思う?」

「アインズ様のお気持ちが大きいだろうが……、一つは大きな功績を上げる事」

「もう一つは?」

「代え難い人材であると証明する事。俺はこっちの理由もある」

「それって何すればいいと思う?」

「そう言われてもな……」

 

 魔導国ではなくナザリックとして捉えると、国家として見れば小規模だ。

 それなのにありとあらゆる人材が、非常に高度なレベルで揃っている。そこに並ぼうと思えば、生中な事では届かない。

 また、男もナザリックのシモベ全てを知っているわけではない。果たして足りない者があるのだろうかと考えて、一つだけ思い付いた。

 

「俺のギターは楽団員のお一人から習ったんだ。だけどその方の本業はヴァイオリン。クラシックギターが専門じゃないらしい。で、その方が教えてくれることになったのは、クラシックギターを専門とする方がいなかったからだ。俺よりギターが上手くなれば代え難いって言ってもいいだろうな」

「おにーさまより……」

 

 男がギターを弾く姿は、ネックの上で蜘蛛が長い脚を伸ばしてダンスしてるような有様だ。人の指があんなにも動くものなのかと驚いた。それを越えろと言うのか。

 しかし、他に道が見えない。

 

 知では絶対無理。

 馬鹿なつもりはないが、おにーさまを基準にされたらどうにもならない。大量の書類や地図を、何も見ずに、手元すら見ずに量産していたのを覚えている。あれは人間業ではなかった。

 

 武でも厳しい。

 元漆黒聖典の第九席次。英雄の領域に足を踏み入れているが、アインズ様レベルが出てくると吹けば飛ぶ程度でしかない。最低でも番外のアンチクショウレベルは欲しい。自分では絶対に届かないと何度思い知らされたことか。

 

 しかしクラシックギターなら、何とか理解できる。

 とても遠い上に、自分はドレミを覚えたところだ。だけども道は繋がっている。

 今すぐである必要はない。

 この体が十歳だとして、少なく見ても十年は猶予がある。

 二十年掛かったとしても、必要であると思ってもらえたら適切な年齢にまで若返らせてくれるかも知れない。

 

 クレマンティーヌは、クラシックギターを極めることを決意した。




綱渡りで何度か落っこちた気がしないでもないCL編終了
次回でもどるを閉める予定
そっからさきはわかんないですね


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青があれば赤もある

本話17k強


 クレマンティーヌは、子供にされたことをアインズ様につくづく感謝した。子供でいるとおにーさまが優しいのだ。

 お勉強の時間はお膝に抱っこが基本。そこにお茶の時間が来ると、おにーさまが手ずからお菓子を食べさせてくれる。美人姉妹の視線をビシバシ感じる。

 

「チビちゃんの取り柄はちっこいことだけっすからね?」

「お兄様はとってもお優しい方なの。勘違いしないようになさい」

「もちろんちゃんとわかってます」

 

 実力行使に出られたらひとたまりもないが、皮肉が飛んでくるだけなら大したことではない。それどころか大歓迎であった。上面では神妙な顔をしながらも、内心ではによによしている。

 始めこそ新顔が優遇されてるのが気に入らないのだろうと思っていた。しかし、二人がおにーさまのお嫁さん候補と知れば真意を察せる。

 簡単に言えば羨ましがられてる。こちらの優位を認め嫉妬している。嫉妬である。

 絶世の美女の形容ですら不足に思える美女姉妹が嫉妬しているのだ。

 物凄く気持ちいい。

 

 法国にいた頃も漆黒聖典の座を羨まれたが、それよりも圧倒的に『あれの妹』扱いの方が多かった。絶対に越えられない壁もあった。そもそも雑魚に羨望されてもウザいだけ。

 美人姉妹は雑魚どころか最上級の極上レベル。法国にこの姉妹ほどの美女は一人もいない。それどころか建国史上一人もいなかった。いたら歴史に残ってる。

 そんな美女が自分を羨んで嫉妬している。一言で言って最高だった。二言で言って超きもちい。

 嫉妬が心の栄養になる事を初めて知った。

 

 ギターの練習も楽しくなってきた。単音を弾く練習と並行してコード(和音)の練習が加わった。

 おにーさまが弾きたい曲はAパートとBパートに分かれており、当初は自分がBパートを担当する予定だったらしい。Bパートにコードはなく、単音を鳴らすだけだった。が、テンポが速く、右手が忙しければ左手も大変だ。

 対するAパートはコードが幾つもあり、押さえるのが大変だがゆっくりだ。

 総合してAパートの方が難易度が低いらしい。と云うわけで、曲に使われてるコード以外も覚えることになった。

 コードはそれだけで聞ける音になる。ジャカジャカとリズムを刻んで気持ちよい。アルペジオ(分散和音)で弾いても様になる。

 今までのギター練習の楽しさが10だとしたら、一気に50くらいにレベルアップした感じだ。

 

 魔窟で処刑を待ってると思い込んでいた時に比べたら毎日がとても楽しくなってきた。

 尤も、立場が立場なので自分が加われない話は幾らでもある。少々疎外感を覚えるも、下手に首を突っ込まない方が良いくらいの処世術は弁えていた。

 

 

 

 

 

 

「ずーっと思ってたんすけど、ちょっといいっすか?」

 

 週末の安穏とした午後に、ルプスレギナが切り出した。

 ずっと思っていたのに今まで何も言わなかったのなら大したことではない、と判断した男は顔を上げるだけ。膝にはクレマンティーヌを乗せている。

 ギターの練習に熱が入りだしたクレマンティーヌに一層の指導をするため、神聖語を教え始めた。

 

 単に演奏技術だけを教えるなら口頭と実演で何とかなっても、様々な曲を弾くには譜面が必須。譜面に書かれた音階の読み方はもちろんの事、曲のタイトルや歌詞も読めた方がいい。タイトルや歌詞は神聖語で書かれている。日本語だけでなく、アルファベットもある。

 文字とは絵と違って見るだけでわかるものではなく、形が意味するものを覚えなければならない。まずは表音文字の書き取りから始まった。

 クレマンティーヌの書き取りノートを見たソリュシャンとルプスレギナが「あっちより上手い」と言ったのは、男には少なからずショックだった。

 

「毎週来させることないんじゃないっすか? 仕上がったら知らせろで十分だと思うんすけどね」

 

 言われた男は、きょとんと目を瞬かせた。

 

「それを言うなら時間を掛け過ぎではないでしょうか。あの界隈の事は全く知りませんが、研修に何か月も掛けるものではないことは想像がつきます」

 

 ソリュシャンが続く。

 男はちょっとだけ眉間に皺を寄せた。

 言われたことがわからないわけではない。二人の言葉が自分も知らなかった自分を指したことに、軽い驚きを覚えていた。

 

 ヒルマの事である。

 ヒルマにはクライムにあてがう女の教育をさせている。経過を週に一度の頻度で報告に来る。

 しかし、娼婦の教育に何か月も掛けることはない。研修などあって一日。安い店ならその日から客を取る。これが高級店なら行儀見習いとして、しばらくは先輩の姐さんのお付きをするだろう。それはあくまで客を取れない子供の話。客を取れる体ならそこまで時間を掛けない。時間を掛けて仕込むのは、クライムを溺れさせる技を身に着けさせるためだ。

 それでも週に一度の報告は多すぎる。

 最近は実際に娼館に出て実地で教え始めたらしい。処女である事が望ましいため、客を取っても手や口まで。秘薬のお店は若旦那様が通っているため、トロトロの蜂蜜の方を使っているようだ。なお、蜂蜜娼館の正式名称は『琥珀の蜂蜜』である。

 娼婦の仕上がり具合に詳しい者はお屋敷にいない。その道の熟練者であるヒルマに任せるのが一番だ。それなのに週に一度の報告を求めるのは合理的でない。

 男は少しだけ考え、答えと思われることに思い至った。

 

「ふむ……。どうやら俺はクライムと再会するのが楽しみらしい。昔馴染みなんて、生きてるのは多分あいつだけだろうからな」

 

 ラナーに囚われる前の事。

 幼くして路上を我が城としていた男は、自分より年下の子供たちを使って食糧を集めた。自分の存在を悟らせず情報を撹乱させる意味が大きかったが、子供たちを使い捨てにすることはなく、安全には気を配った。自分がいた頃に脱落者は一人もいなかった。

 それから十年以上が経過している。安否が明らかなのはクライムだけだ。当時餌付けしていたクライムは、いずれ食糧収集に使うつもりでいた。結局、一度も使えずに終わった。

 ラナーに拾われ命を繋いだクライムは幸運だった。それ以外はどうだろう。

 大の大人とて、仕事にありつけず路上で住み暮らしていれば末路が見えている。まして幼い子供たちが。

 

 男がちょっとだけしんみりしているのに、性悪姉妹は目を見張った。

 

「おにーさんにそんな人間みたいな心があるなんて……」

「お兄様はそれらを探しにエ・ランテルを離れるなんて仰いませんですわよね!?」

「そんな面倒をするわけがないだろう。するんだったらとっくにやってる。それと、俺は人間だ。クレマンティーヌもそう思うだろう?」

「はい、おにーさまはちゃんと人間です!」

「よしよし、クレマンティーヌはいい子だなあ」

 

 膝上のクレマンティーヌの頭をなでなで。

 ルプスレギナの目はとっても白い。反対にソリュシャンの目には熱がある。嫉妬の目だ。

 

 クレマンティーヌが来る前は、休憩やお茶の時間にイチャイチャべたべたが出来ていた。おっぱいも飲んでもらっていた。それが、出来ていない。

 先日までは書類仕事でとても忙しかったから仕方ない。終わったら甘い日々が再びと思っていたのに、小さいのが邪魔をしている。

 帝都にいた頃、ウレイリカとクーデリカの扱いから子供には甘いと思っていた。あちらは使用人だったからまだいい。こちらはアインズ様が目を掛けていらっしゃっており、お兄様が世話をすることになってしまった。

 そこをどけと言ってやりたい。しかし、あんな子供に本気で嫉妬するのはプライドが許さない。震えながら睨みつけるのが精一杯だ。

 とは言え、このまま現状が続くといつか耐えきれなくなるのがわかっていた。そうなってしまったらみっともなくプライドを捨てるか、実力行使に出るか。後者はアインズ様が目を掛けているので実行不可。必然的に前者になる。

 そうはならないよう、ソリュシャンは手を打っていた。

 自分に出来ない事なら、出来る者にさせればよいのだ。

 

「おにーさまの昔馴染みですか? それじゃおにーさまの妹は」

 

 クレマンティーヌが口を挟んだ直後である。

 書斎の扉が、ノックもなしにバーンと音を立てて開かれた。

 

 お屋敷内で、書斎に入れる者は限られる。事前の許可なく入れる者は更に限られる。ノックもなしに入る事を許されるのはアルベドだけである。そこにナザリックの守護者以上の者なら加えても良い。

 その中で、乱暴に扉を開けるのはシャルティアか何かしらで気分が高ぶっているアウラか。

 闖入者はいずれでもなかった。黒髪をなびかせる少女は男を鋭く睨みつけた。

 

「お父様! その子供は何ですか! どーしてそんなの抱っこしてるんですか!!」

「一人で来たのか? 昨日は何も言ってなかったじゃないか」

「そんな事はどうでもいいんです! それよりそのちっちゃいのなんですか!」

 

 書斎にずかずかと入り込み、声を荒げるのは黒の美少女。ソフィーだった。

 夏なのに黒いドレスなのはジュネの影響か。黒でも生地が薄くて胸元が大きく開き、開き過ぎておへそまで見えてるから涼しいのだろう。外で着て欲しくないドレスである。前面の露出に対して背中はきちんと覆っているため、翼は仕舞ってあるようだ。翼に合わせているつもりなのか、角も出してない。一見するととても綺麗なだけの女の子に見える。

 一見が数秒になると、長い黒髪の先端やドレスの袖や裾が不自然に揺らめいているのがわかる。揺れているのではない。陽炎のように見えたり見えなかったりしている。

 異形の部分を見せていないのに真っ当な人間でない事がすぐにわかった。

 

「ちっちゃいのってクレマンティーヌの事か? と言うかだな。こっちに来るなら昨日言ってくれたらよかったじゃないか」

「言ったら警戒されてました。現場を押さえるためです!」

「現場」

 

 ソフィーの言葉は男の理解を越えた。

 男はクレマンティーヌが来てからもきちんと帝都のお屋敷に日参している。昨日も行ってソフィーと会った。その際にエ・ランテルに来るとは聞いてない。それが現場を押さえるためと言われても、何のことだかさっぱりわからない。

 

「だからそれの事です! 私だってあんまり抱っこされてないのに、どうしてそんなの抱っこしてるんですか!?」

 

 男はクレマンティーヌの事をソフィーに話してない。わざわざ話すまでもないと思っていた。ほうれんそうが出来てない男である。

 ソフィーはソリュシャンから聞いたのだ。

 

 ソリュシャンは、お兄様が幼女を可愛がってる事が面白くなかった。それを自分から指摘してしまうのは嫉妬丸出しでみっともない。まして相手は幼女。幼女に嫉妬しているとでも思われたらとても恥ずかしい。

 そこで思い付いたのがソフィーである。

 ソフィーは自身の名付け親であるお兄様の事を、実の父のように慕っている。サキュバスなので美味しいお食事で餌付けされたのだろう。

 そこにぽっと出の幼女が可愛がられてると聞かされたら嫉妬するのは必至。

 クレマンティーヌへの牽制にソフィーを利用したのだ。

 

「そんな事のためにわざわざエ・ランテルまで来たのか? 昨日まで帝都にいたのに」

「昨日までじゃなくて今日のお昼までいました」

 

 高馬力で不眠不休で飛ばせるアンデッド馬の馬車でも一昼夜掛かる帝都とエ・ランテルの距離を、ソフィーがそこそこ頑張ると一時間である。

 知らせず一人エ・ランテルに急行したのは、お父様がぽっと出を可愛がってる現場を押さえて言い逃れさせないためであった。

 

「そんな事よりそれです! 私とそれとどっちが大事なんですか!!」

「そんなのは決まってるだろ。それは……」

 

 猛るソフィーを目の前にして、若旦那様のお膝にいるクレマンティーヌは首をすくめながらソリュシャンをチラと見た。

 

 おにーさまがマジックアイテムを使って毎日帝都に行ってるのは知っている。話の流れから、おにーさまが帝都にいた少女に自分の事を話したのではないと察した。

 でなければ、先日帝都に行っていたらしいソリュシャンしかいない。

 ずっとソリュシャンからは無視されてきた。けども実際のところは割と意識されていたようだ。何ともこそばゆい満足感が湧いてきた。

 

 そのソリュシャンは第六感が働いた。

 ソフィーをぶつけるところまでは上手く行った。このままクレマンティーヌを糾弾してくれればなおよい。しかし、問いの立て方が悪いと感じた。

 お兄様との付き合いが長い。ソフィーに何と返すか予想できる。

 下手な返事をしてお兄様が痛い目を見るなら後で癒してあげる。クレマンティーヌが巻き込まれるのは望むところ。けれども、ソフィーが癇癪を起して飛び火すると大変だ。

 ソフィーはあれでとても強い。もしも暴れられたら、止められる者はこの場にいない。

 

 スライムエクスパンドパンチ! グハッキャアッ。

 

 中身スライムであるソリュシャンは、手足を自在に伸ばすことが出来る。

 目にも留まらぬ速さで伸びたソリュシャンの腕は男の脇腹を打ち、そのまま服を掴んで自分のところまで引き寄せた。クレマンティーヌが椅子から転げ落ちたのはどうでもよい。

 

「お兄様は今何と答えようとしたのですか? いえ、仰らなくても構いません。答える前に私からの注意を聞いてください。お兄様はいつも結論だけを仰います。ですがそれだけではお兄様が本当に仰りたいことが伝わらないのです。どうしてそのような結論に達したのか、過程を説明してから結論に移ってください。順を追ってお話いただきたいんです」

「……結論だけで十分だろう?」

「ですから、その過程が必要なんです。ええと、何て言えばいいのかしら……。ソフィーは納得が欲しいんです。お兄様から正論を押し付けられたいわけではないんです。いいですか? ちゃんと結論に至った過程を説明してください」

「わかったよ」

 

 男は打たれた脇腹をさする。手加減してくれたようで穴は空いてない。凄く痛いだけだ。ルプスレギナが痛いの痛いの飛んでいけをしてくれた。

 

「まず、クレマンティーヌは子供だ。見た通りの子供だ。それはわかるな?」

「子供だから何なんですか! それだったら私はお父様の子供です!」

「誤解を招くからお父様は止めろ」

 

 ソフィーが実の娘なのは、娘本人と父と母しか知らない事である。ソフィーはアルベドが多大な代償を必要とする限定スキルを使用して創造した、と云うことになっている。

 

「子供と言ってもソフィーは強い。この前何てビーストマンを百匹は一人で片付けてたな。あれは綺麗に処理してくれたから助かった」

「あれくらい簡単です。百匹が百億匹になっても余裕ですよ?」

「いや百億は無理だろ。一秒で百匹片付けても三年以上掛かるぞ」

「物の例えですぅ!」

 

 少数が相手なら理不尽に強いソフィーは、対多数は苦手である。負けることはなくても、片付けるのに時間が掛かってしまうのだ。

 

「……数学の演習問題をちゃんとやってるのは知ってる。後でテストするからな」

「うっ……。そ、そんな事より子供だから何ですか! 子供だから甘やかすんですか!?」

「それはあるかも知れないな」

 

 男が真っ当とは言えないけども曲がりなりにも社会生活を営んでいた頃、周囲に置いたのは自分より年下の子供ばかりだった。その影響はとても大きく、今になっても大人より子供の方が距離が近い。

 

「勿論それだけじゃない。クレマンティーヌは子供だから、同じ子供でもソフィーと違ってとても弱いんだよ。弱いから守ってやらないとすぐ死ぬ。ソフィーはそんな事ないだろう? 俺はソフィーを信じてるから一人にさせておける。ソフィーが大事なのは当然だ」

 

 アインズ様から「信じる」の使い方を習ったばかりの男である。

 効果はそれなりにあったようで、プンプンしていたソフィーが沈静化してきた。頬は赤いままでも表情が和らぎ、目を泳がせた。

 

「ふ……、ふーん。マスターがちゃんと私を大事にしてくれるならいいです。でもこの……えっと、なんとかティーヌ?」

「クレマンティーヌ」

「クレマンティーヌがマスターのお膝に抱っこされるのは」

 

 ソフィーは椅子に座り直したクレマンティーヌを、足元から頭のてっぺんまでじろじろと睨めつける。露骨な品定めである。品定めされる方は面白くない。もしもケムキチにされていたら足が出ていた。ソフィーが相手ならそうはいかない。

 気圧されるほどの美貌だ。目の色は真っ黒なのに煌めいているのは何の不思議か。その上、ビーストマン百億匹が余裕とは尋常な強さではない。人間ではなさそうな事から、彼女もあちら側と察せられた。

 

 突然、ソフィーはクレマンティーヌに顔を寄せ、すんすんと鼻を鳴らした。

 目を吊り上げ、クレマンティーヌを指差しこう言った。

 

「こいつお父様とセックスしてるーーーーーーーーーっ!!!」

「「「「!?!?」」」」

 

 ソリュシャンとルプスレギナは、直立不動のミラに黙々と給仕していたシェーダも、驚きに目を見開いた。

 

 アルベドは挿入した逸物の履歴を知ることが出来る。ソフィーは父がセックスした女を知ることが出来る。

 母娘共にとてもサキュバスらしい特技であった。

 

「いやそれ………………マジっすか? ソフィーちゃんが嘘言ってるとは思わないっすけど、チビちゃんじゃ無理っすよね?」

 

 クレマンティーヌは幼女である。アウラよりちょっと大きいくらい。お胸はシュッとして腰つきはストンと来る。そんな体に男が興奮するか否か以前に性行為が可能な体ではない。

 しかし、ソフィーは険しい顔のまま首を振った。

 

「こいつからお父様の匂いがしてるんだもん。絶対に間違いないよ!」

「チッ」

 

 クレマンティーヌは事態の推移に狼狽え、周囲は驚愕の事実に驚愕して物も言えない。

 肝心の男は、真実を見抜かれたことに舌を打った。

 

 クレマンティーヌとすることをしたと知られるのはどうでも良い。問題なのは、出来ないことが何故出来たか知られることだ。

 不思議な青いキャンディーの存在が露見すると、いつかアウラに知られるかも知れない。知られたらアウラの機嫌が悪くなるのは想像に難くない。その結果、自分にペナルティが降って来るであろうことを予想できる。叶うならば避けたい。避けなければならない。

 どうやって避けるか考えてる間に、ソリュシャンが動いた。

 

「キャッ!? ……そっそっ、ソリュシャン、さま?」

 

 ソリュシャンは椅子に座ったクレマンティーヌを立たせ、後ろから抱きついた。

 

「あっ、あの? あのっ!? あっ!? あっ、やっ、やぁぁぁああああっ!!」

 

 可憐な悲鳴が響き渡った。

 クレマンティーヌの装いはシンプルなワンピース。夏用なので裾が膝上のショート丈。ソリュシャンの手は、ワンピースの裾から内側へ入っていった。

 細い太ももを這い上がり、指先がお子様パンツに触れたら容赦なく内側へ滑り込ませる。未成熟な割れ目に割って入り、小さな穴を探り当てた。

 

「やっ、やめぇ……、やめてったらぁああ!!」

 

 穴に入った指はヌルヌルと伸びていく。

 一番奥に辿り着いたら細くなり、更に進んだ。幼くても女の体が備える小部屋を隅から隅まで入念に探った。

 

「…………間違いないわ。クレマンティーヌの中にお兄様の残滓がありました」

「うぅ…………」

 

 同性に大事なところを探られたクレマンティーヌは、べそをかきながら床に尻もちをついた。

 

「それともう一つ。クレマンティーヌにお兄様のおちんちんは入りません。狭くて無理です」

 

 奥を探りながら穴を測っていた。ソリュシャンが体で覚えている大きさと比較して、不可能と断言できる。

 それでも男は怯まない。胸を張って言い切った。

 

「無理やり突っ込んだ。凄く興奮したと言っておこう! 多少裂けたがポーションで回復した。クレマンティーヌは痛いほうが好きなんだ!」

「なにいってんのぉおおぉお!?」

 

 男の繰り出す捨て身の特攻に、クレマンティーヌは吠えた。

 痛くしたかったと言ったのは確かだ。しかし、それはそういう意味ではない。誤解を解かずにいると「チビちゃんは痛いの好きっすよね」とかやられる気がしてならない。

 

「おにーさま、じゃなくて若旦那様とセックスしたのは本当。でもこの体じゃなくて、大人の体に戻ってしたんです!」

「あっ、バカ!」

 

 クレマンティーヌは本当のことを言ってしまった。男が何としても隠したかったことだ。あらかじめ注意したのに、残念ながら意識の差があったらしい。

 

「先に言っておくと、アインズ様のおかげです。アインズ様は厳重に管理しろって言っただけで秘密にしろとは言わなかったでしょ? もういいじゃん。皆に黙っててって言っとけば」

「くっ!」

 

 唯一の味方が敵に回り、何故か男が包囲された。

 男が口を閉ざしても、クレマンティーヌがペラペラ話す。

 男はガックリと項垂れ、ジャケットのポケットからキャンディーポットを取り出した。

 

「これの効果だ。舐めれば一時的に大人の姿になる。絶対に他言しないように! アウラ様もこれと同じ品をアインズ様から下賜されている。俺が管理してるわけだが、クレマンティーヌも貰ったって知ったら快く思わないのはわかるだろう?」

「……アウラ様も同じものを持っていらっしゃるのですね?」

「その通り。とりあえず実演するか。クレマンティーヌ」

「はーい♪」

 

 幼女があーんと口を開く。

 男が青いキャンディーを放り入れると、一瞬で大人の姿に戻った。

 

「ま、こーゆーわけ。この姿の時にいっぱいセックスしてもらっちゃったのよね」

 

 大人の姿になったのだから男に甘えようとして近付こうとしたところを、誰かに襟首を掴まれ引き倒された。

 

「チビちゃん、じゃなくてクレマンティーヌ? 何やろうとしてるんすか?」

「ひっ!? でもでも私はアインズ様に期待されたから子供にされて大人になるアイテムも貰ったんですよ!?」

「……ま、とりあえずいーっすよ」

「へ?」

 

 ソフィーとクレマンティーヌを除くこの場の全員が、重要な事実に気付いた。

 

 アウラ様のお体はまだまだ幼い。クレマンティーヌ以上に無理である。

 そこに大人になれる不思議な青いキャンディーが現れた。アウラ様がキャンディーを持っている事を、若旦那様が知っている。アウラ様は若旦那様の前でキャンディーを使用して大人の体になったと思われると云うことは何があったか察するに十分すぎた。

 

「そうだ!」

 

 ひとまず見逃されて安堵したクレマンティーヌと違って、ソフィーはキャンディーについて考察していた。そして、閃いてしまった。

 

「待て!」

 

 書斎にアインズ様が魔法を掛けてくださっていなければ、ソフィーは壁なり床なりをすり抜けていたかも知れない。幸いにもすり抜け不可の書斎である。

 ソフィーが部屋を飛び出る前に、男は少女の腕を掴むことに成功した。

 

「どこに行くつもりだ?」

「アインズ様のところです」

「アインズ様? 何のために?」

「そっちのティーヌがもらえたんなら私だってもらえるはずです」

「管理してるのは俺だ。どうしても使いたければ俺に言えばいい」

「チッチッチ。そうじゃないんです。お父様も、皆にもわかんなかったかなー?」

「……わからなかった。ソフィーは何がわかったんだ?」

「それは大人になれるキャンディーです。だったら子供になれるキャンディーもあるはずです。それをアインズ様におねだりに行くんです!」

「バカ!」

「バカ!? どうして私がバカなんですか! バカって言った方がバカなんですよ!」

 

 ソフィーの推察は筋が通っていても、絶対に他言無用と言ったばかり。言われた直後に秘密を話すというのだからバカ呼ばわりも仕方ない。ソフィーはアインズ様も知ってる事と反論する。しかしアインズ様に話してしまったら相手によっては秘密を話すと云うも同然。

 話し合いはしばし平行線を辿り、最終的に男が折れた。

 ソリュシャンたちがソフィー側についてしまった。納得してないソフィーが後で話すかも知れないと言われたら、先に手を打った方がマシだった。

 

 止む無く顛末書を作成し、ソリュシャンが清書する。

 やったーと書類を掲げたソフィーは、窓を開けて飛び去った。

 

 

 

 顛末書の内容はソリュシャンとルプスレギナの意見を取り入れ、クレマンティーヌが大人に戻っていたところをソフィーが壁抜けして露見してしまった、と云うことにした。

 クレマンティーヌがセックスをどうのこうのは全て割愛した。その辺りの事を記してしまうと、ソリュシャンたちが寄ってたかって事実を追求したことが明るみに出てしまう。アウラ様の不興を買いかねない以上、リスクは避けるべきなのだ。保身に走ったとも言う。

 

「はあ……。まあ、仕方ない、か。ソリュシャンもルプーも、ミラもシェーダも絶対話さないように。クレマンティーヌもだぞ?」

 

 諦念交じりの男の言葉に、皆は思い思いに返事をする。

 

「折角キャンディーを使ったんだから今日は大人用のギターを使って……、なんだ?」

「そんなのは後でいいじゃありませんか。お兄様がいらっしゃらない時もあるのですから、一人で練習することも覚えなければなりません」

 

 男の腕に、ソリュシャンが絡みついてきた。

 

「それはそうだが。ここから出したら誰かに見られる」

「それなら見せてやればいいではありませんか♡」

「だからそれがダメだって……」

「ななななな!」

 

 驚いているのはクレマンティーヌ一人だけ。

 ミラは瞑目し、シェーダは深い息を吐いて、ルプスレギナは様子を見ている。

 

「子供の教育に悪いと配慮していましたが、子供ではないなら構いませんわよね?」

 

 ソリュシャンのお嬢様ルックは、いつでも上乳見せのセクシードレス。襟をちょっと引っ張ればたわわな乳房がぽろんとこぼれ出る。

 愛しのお兄様の手を自分の乳房に誘導しながら、自分の手はお兄様の股間に触れ、さすり始めた。三度上下したところで膨らんでくるのを感じた。

 

 男は、ソリュシャンがクレマンティーヌの情操教育を気に掛けていたことに嘘だろと思いつつ、流れに任せた。

 本当は子供ではないのだから、情操教育を気にする必要はない。さっきルプスレギナに回復魔法を掛けられたおかげで色々回復してしまった。アインズ様に提出する文書が仕上がったので、急ぎの要件は特にない。強いて言うならアルベド様の武器だが、考察する材料が不足しているので保留中。次にナザリックに赴く機会があったら、その辺りを調べてこようと考えている。

 

「きゃんっ♡」

 

 ソファにソリュシャンを押し倒し、仰向けになってなお豊かな乳房に顔を埋めた。

 乳肉を鷲掴みして乳首に吸い付き、空いた手で立ち並ぶ者たちへ手招きする。

 

「クレマンティーヌにキャンディーの効果が出てる間はドアを開けないように」

 

 シェーダが退室する前に、ミラは施錠した。

 

 クレマンティーヌは、冗談で言ったおにーさま淫魔説は真実ではと思わされた。

 

 

 

 

 

 

「アインズさまー! これ見てください!」

「帝都からナザリックまで飛んできたのか? 何があった? それは何だ?」

 

 ナザリック第九階層にあるアインズの執務室に、ソフィーが飛び込んできた。エ・ランテルのお屋敷とは違って、ちゃんとノックしてメイドに取り次いでもらってからの入室である。なお、ソフィーはナザリックに来る前にエ・ランテルのお城にも寄っていた。お城でセバスからアインズ様の予定を聞いてからの訪問である。

 アインズはソフィーを一目するなり、その格好はどうなんだと思ったがアルベドが創造したのだから当然かと思い考えるのを止めた。

 

「マスターに書いてもらいました。アインズ様だけに読んで欲しいんです」

「うむ? むむむ……」

 

 ソフィーが見せた文書は、不思議な青いキャンディーの存在が露見してしまった次第を書いた顛末書である。

 丁重極まる謝罪の言葉と共に、ソフィーが一時的に子供になれるアイテムを求めている事も記してあった。

 

「ちっちゃいからって甘えられるのはずるいです! アインズ様はそういうアイテムをお持ちじゃないですか? もしもお持ちで、いっぱいあるんでしたらちょっとだけでいいからお借りしたいなあって思うんです」

 

 ソフィーのおねだりに、アインズ様当番のメイドはちょっぴり目じりを上げる。

 アインズの方はと云うと、仕方ないなあと思っていた。

 

 アインズにとって、ナザリックのシモベたちは仲間が残した子供たち。我が子も同然と言える。しかし、シモベでもある。アインズを我が君と称え、我がままなんて言語道断。甘える事すらない。アインズの方が気遣って優しい言葉を掛けると感涙されてしまう。下手な事を言ったら、既に限界を越えてる忠誠心が更に限界突破しそうだ。それと同時に今でさえ過剰な自分への評価も限界突破しそうで怖い。アインズにハードルを上げる趣味はない。

 その点ソフィーは、アルベドがナザリックのリソースを使わずに創造したためか、ナザリックへの帰属意識と忠誠心はしっかりと持っていながら緩いところがある。言葉を変えれば子供っぽい。子供らしい素直さを発揮して、今のように甘えてくることがあった。

 そこがアインズには割りと嬉しい。

 頑張ってくれてる子にはご褒美をあげたくなるもの。しかし迂闊にあげると忠誠心が(以下略)。

 ソフィーに心配は要らないだろう。

 アインズ的には孫娘がお小遣いをねだってるようなものである。

 

「あるにはある。不思議な赤いキャンディーという。但し、悪戯に使うんじゃないぞ?」

「わあああーっ! アインズ様だいすきー♡」

「こらこら、止めないか」

 

 ソフィーはふわりと浮いてアインズの首にすがりつくと、お骨の顔にちゅっちゅとキスの雨を降らせた。

 このようなスキンシップを取れることがソフィーの強みである。他のシモベ達ではとてもではないが出来そうにない。想像すら出来ない。

 されてるアインズは、言葉では窘めてもお骨の顔でなければゆるゆるに緩んでいた。性欲がどこかに行ってしまったのでソフィーに女を感じるわけではなく、孫娘や子猫がじゃれついてるようで可愛いのだ。

 アインズ様当番のメイドもソフィーの喜びように、仕方ないわねと苦笑で済ませた。

 

 しかしナザリックには、ソフィーの無体を絶対に許さない女がいた。彼女は入室するなり、大きく目を見開いた。黄金の瞳は縦に裂けた。

 

「ソフィーーーーーーーーーーーー!!!! あなたはアインズ様に一体何をしているの!! 即刻離れて謝罪しなさい!!!!」

「お母さま!? じゃなくてアルベド様!」

 

 アルベドである。

 いずれアインズ様の正妃になると確信しているアルベドである。誰であろうとアインズ様に過剰なスキンシップを取る事をけして許さない。ましてそれをしているのが実の娘となれば何をいわんや。

 

「あっ、アルベド!? いやこれはだな!」

 

 アインズは浮気の現場を妻に目撃された夫のようだ。

 どうして俺が言い訳せねばならんのだと思う間もなく、ともかくアルベドを鎮静化させなければならない。隠し子がどうのと言われた時より遥かにマシだが、ほっぺにちゅうは事実である。

 

「アインズ様! どうかソフィーを甘やかさないようにお願い申し上げます。アインズ様のお優しさはよくよく承知の事でございますが、未だ幼いソフィーはアインズ様のお優しさを取り違えることがございましょう。……ソフィー、最終通告よ。すぐにアインズ様から離れなさい!」

 

 ソフィーは未だアインズの首にすがりついている。

 アルベドの美顔に微笑はなく、黒髪がうねり始めた。

 

「まだ子供なんだからそこまで厳しく言うことはないだろう?」

「いーえ、子供だからこそ厳しく躾けなければならないと愚考いたします!」

 

 アインズがアルベドの注意を引いた瞬間である。

 

「隙あり!」

 

 ソフィーはアインズが取り出したキャンディーポットの蓋を開け、取り出した一粒のキャンディーをアルベドの口めがけて放り投げた。

 アルベドのお口が大きかったのか、ソフィーの狙いが良かったのか、キャンディーは見事にアルベドの口に届いた。

 

 赤いキャンディーはとっても甘い。子供は大好きイチゴ味。

 

「えっ…………?」

 

 キャンディーは一瞬で効果を発揮した。

 突然視界が低くなったアルベドは、呆然と自分の手を見て、頬を抓り、体を見下ろした。ストンとしていた。震える手で恐る恐るあるべきものがあった部分に触れてみる。

 何もなかった。

 

「きゃーーーーーーーっ!? みっ、みないでください! こんなみすぼらしいすがたをアインズ様にお見せするわけにはまいりません!!」

 

 叫んでその場に蹲った。

 アルベドは、子供の姿になってしまったのだ。

 豊満な体はどこへ消えたのか。胸がストンとしていれば腰はシュッとしている。凹凸はない。アウラより小さな幼女である。着用していた白いドレスは魔法が掛かっているため、幼女になっても脱げなかったのが不幸中の幸いだった。

 着てるものが同じなだけ、いつもとの差異を感じさせた。

 

「わーーーーっ! アルベド様かっわいいっ!」

「そっそふぃー!? こら、やめ、やめなさい!」

「えっへへ、私でも抱っこできちゃう♪」

「お、お、おろしなさいぃい!」

 

 ソフィーの外見は十代半ばから後半に差し掛かるところ。今のアルベドは、四捨五入するならなんとか十歳。ソフィーが見た目通りの少女だとしても、脇に手を入れて持ち上げるのは何ら苦ではないサイズと重さだった。

 

「アインズ様! 私、皆にお裾分けしてきますね!」

「う、うむ?」

 

 アインズが答えられない内に、ソフィーはアインズ様当番のメイドにもキャンディーを舐めさせた。ちっちゃくてかわいくなった。

 アルベドは蹲ってめそめそしている。

 ソフィーは執務室を飛び出て行った。

 混乱が始まった。

 

 

 

 ソフィーは第九階層を隅々まで回り、出会った者全員にキャンディーを振舞った。アインズ様から下賜されたキャンディーと聞いては、ナザリックに断る者はいない。

 第九階層を制覇したソフィーは、玉座や図書館がある第十階層は選ばず無人の第八階層を飛ばし、デミウルゴスがいる第七階層へ。

 

「デミウルゴス様! これ見て見て! アインズ様に頂いたんです。皆にいっぱいあげたけど食べても減らないみたいだから、デミウルゴス様にもお裾分けに来ました!」

「それは羨ましいですね。私が頂いてしまってもよろしいのですか?」

「もちろんです! この前の特訓じゃデミウルゴス様のところの皆にいっぱい協力してもらいました。だから代表してデミウルゴス様が舐めてください♪」

 

 過日の特訓で、無償で湧いてくる悪魔たちをひたすら潰していった。無論、アインズ様監修である。

 

「そういう事でしたら、喜んでいただきましょう」

 

 デミウルゴスの口にも赤いキャンディーが。

 

「こ、これは!?」

「わっわっ!? でっ、デミウルゴス様がこんなにかわいく!?」

 

 でみうるごす君5歳である。

 ソフィーは心行くまでなでなでした。

 

 

 

 第七階層の次は第六階層。アウラとマーレは大きなツリーハウスに住んでいる。

 ツリーハウスの前では、黒い毛並みの大きな狼が丸まっていた。

 

「えっと、アウラ様のとこのフェンだっけ? アウラ様いる? あ、フェンもキャンディー舐める? アインズ様にもらったの」

 

 フェンは面長の顔を自分の体に埋めたまま少しだけ目を開き、ソフィーを一瞥するとまた目を閉じてしまった。

 

「いらないの? それじゃまた後でね。アウラ様とマーレ様いるかなー?」

 

 ツリーハウスの入り口で、アウラ様とマーレ様いらっしゃいますかーと元気よく声を掛けると、姿を現したのはマーレだけだった。

 

「ソフィーこっちに来たの? お姉ちゃんに何か用?」

「マーレ様にも会いたかったんです。アインズ様からキャンディーもらったんです。だからお裾分けに来ました!」

「えっ!? いいなぁ……」

「いいでしょー。はい、どーぞ」

「うん……、ありがと。あ……、あまくて美味しい……」

 

 マーレ君はキャンディーを舐めてもマーレ君のままだった。

 子供が舐めても姿は変わらないようだ。使用して効果を発揮させるには、実年齢ではなく肉体年齢制限があるのかも知れない。

 

「アウラ様はいないんですか?」

「え、えっと。お姉ちゃんはちょっと……どこに行ったのかなあ?」

「ふーん……。アウラ様にも会いたかったけどいないんなら仕方ないかなあ。残念だけど。また来ますね!」

「はーい」

 

 ソフィーの姿が消えてしばし。

 

「お姉ちゃん、ソフィーいなくなったよ」

 

 マーレの言葉で、丸まっていたフェンが立ち上がる。フェンの足元には、アウラが座っていた。

 壁でも床でも何でもすり抜けるソフィーが相手だと居留守は不可能。アウラは丸まったフェンの中に隠れていたのだ。

 立ち上がったアウラは、難しい顔をして頭を掻いた。

 

「ソフィーが嫌いなの? 悪い子じゃないと思うんだけど?」

「嫌いじゃないしいい子なのも知ってるけど。でもソフィーってこう……賑やか過ぎじゃない? そこがちょっと、ね?」

「うーん、そうかも」

「そーでしょ?」

 

 ソフィーとシャルティアのマシンガントークに、ちょっと引いたことがあるアウラである。

 この場合のちょっとは「ほんの少し」ではなく「かなり」の方のちょっとである。

 

 

 

 ソフィーは更に進んで第五階層へ。

 

「コキュートスさまー! コキュートス様ってキャンディー舐めれますか? かじるのでも大丈夫ですよ?」

「ヌウ? 食ベレナクモナイ。一体ドウシタ?」

「アインズ様にもらったキャンディーをお裾分けに来ました!」

 

 それは全ナザリックに通用する殺し文句。

 

「ヌオオオオ!?」

「幼虫じゃなくてそのままちっちゃくなるんですね! 不完全変態って言うんですよね? あ、じゃあじゃあコキュートス様って脱皮とかしたんですか? 抜け殻とかあったり?」

「ソンナモノハナイ! 早ク元ニ戻セ!」

「えーっと。時間が経ったら戻るみたいです」

「ナンダトオ!?」

「わわわっ!? 失礼しましたー!」

 

 

 

 慌てて第五階層を後にしたソフィーは静かな湖畔の第四階層を飛ばしてナザリック最上層部へ。

 第四階層から第三階層に移動すると、転移門をくぐって第二階層に来ることが出来る。シャルティアが住処としている屍蝋玄室はすぐそこだ。

 

「シャルティア様いらっしゃいますかー?」

「ここまでよくきんした!」

「遊びに来ました。シャルティア様は今日もとっても可愛くてとっても綺麗です! それでですね、実はアインズ様から」

「ちょっと待ちなんし! ソフィーを連れて行きたいところがあるんでありんす」

「えっえっ? どこですか? ゲートの魔法使うんですよね? 楽しみだな~」

「うっ……。まっ、まあ、すぐわかりんす」

 

 シャルティアの魔法で闇色の扉が現れた。

 

「先に行きなんし。私は後からついていきんすから」

「はーい!」

 

 ソフィーは元気なお返事をして、球形の扉をくぐった。

 扉の向こうはには荘厳な廊下が広がっていた。さっきまでいたナザリック第九階層である。しかし、ソフィーはどこに転移したかわからない。周囲の様子よりも、真正面の圧力に絡めとられた。

 

「ソフィー。私が怒ってるの、わかるわよね?」

「あ、あるべど、さま……」

 

 アルベドがたおやかな微笑を浮かべて待ち構えていた。ソフィーがあちこち冒険してる間に、キャンディーの効果が切れたらしい。

 ソフィーは反射的に後ずさりしたが、下がれなかった。

 

「シャルティア様!?」

「アインズ様のご命令でありんす。大人しくお縄につきなんし」

「うぅ……わかりました…………」

 

 ソフィーの冒険は終わってしまった。

 

 

 

 

 

 

「謹慎一週間」

「はい……。寛大なご処断を、まことにありがとうございます。……ぐす……」

 

 玉座の間にて、ソフィーへの罰がアインズから言い渡された。

 

「あなたはアインズ様のお優しさがわかってないようね。本来なら内乱罪を適用して極刑相当となるのを謹慎でお許しくださっているのよ? 死すらなまぬるいところを大した罰を与えることなく謹慎でお許しくださったの。アインズ様のお優しさに最大限の感謝を捧げなさい!」

「……はい。アインズ様のお優しさでこの身を永らえさせるお許しを頂けたことに、深く、深く感謝いたします……。ひっく……」

 

 玉座にはアインズが座り、その右斜め前方にアルベドが立つ。玉座の周囲は階層守護者たちが並んでいる。跪くソフィーの両脇には、メイドや男性使用人たちが囲む。一番前はペストーニャだ。ソフィーからキャンディーをお裾分けされた者たちである。

 誰もかれもが難しい顔をしていた。

 

 ソフィーによってナザリックが一時混乱したのは確かだ。しかし、ソフィーに悪意はなく、アインズ様から頂いた品をお裾分けしたかっただけである。怒るに怒れない。怒っているのはアルベドだけである。

 一番の年少で可愛いソフィーがぐすぐすしてるのはとても可哀そうで「怒るのはそのくらいにして」と、アインズも言ってやりたいのだがアルベドが怒っている。何を言おうとアルベドの怒りに油を注ぐだけで、誰も何も言えないでいた。言えるのは空気を読まないバカだけである。

 

「寛大なお言葉に感謝いたします。ソフィーを監督しきれなかった責を負い、ソフィーの謹慎期間中は私が監視いたします」

 

 ソフィーが仕出かした事は速やかにエ・ランテルのお屋敷にも伝わり、ソフィーの直属の上司が呼び出されていた。元はと言えばこいつが悪いのだが、幸いな事にどこにも伝わっていなかった。

 更に幸いな事に、ナザリックの最古図書館に用が出来たところだ。まさに渡りに船であった。

 

「ソフィー、もう一度アインズ様に感謝を。そして皆様に謝罪の言葉を」

「はぃ……。アインズ様、ありがとうございます。それと……、ご迷惑をお掛けしてごめんなさい!」

 

 玉座に向かってペコリ。玉座の左右にそれぞれペコリ。右を向いて左を向いて後ろを向いてもペコリ。

 

「謝罪はそこまででよい。それ以上されると、ソフィーを止めなかった私も頭を下げることになりかねん」

「ああ、アインズ様! ソフィーにそのようにお優しい言葉を頂けるとは!」

 

 感激したアルベドが跪き、守護者たちに居並ぶ使用人たちも続く。

 そして合唱されるアインズ様賛歌。

 

 ソフィーによってナザリックが一時機能不全に陥った。しかし、誰もかれもがちっちゃくてかわいくなり、アインズ様はちょっと楽しかったのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 ナザリック総幼児化事件から数日。

 第六階層の円形闘技場に、複数のモンスターが放たれていた。ナザリックの外で捕らえたものがあれば、使用制限が緩いスキルで召喚したものもある。どれも極度の興奮で狂乱し、目前の小さな人影を圧し潰そうと駆け出した。

 小さな人影はアウラである。

 魔獣の供はなく、愛用の鞭も構えていない。手にしているのはY字形の棒である。二股に分かれた先端にはゴム紐が張ってある。スリングショットだ。水着のスリングショットではなく、武器のスリングショットである。パチンコの俗称の方がわかりやすいかも知れない。

 アウラはスリングショットのゴム紐を引き、赤い球を撃ち出した。

 

「おお!」

 

 闘技場の観客席から幾つかの歓声が上がる。

 アウラが撃った球はモンスターたちの口の中に命中し、即座に効果を発揮した。

 どれもこれもちっちゃくて可愛くなったのだ。

 

 アウラが使用した弾は不思議な赤いキャンディーである。守護者たちにも効果を発揮するのだから、それより遥か格下のモンスターに通用しないわけがない。どうやらあらゆる耐性を無視して効果を発揮するようだ。

 口の中に入れなければならないにせよ、どんな相手でも一撃で無力化してしまう。

 ユグドラシル時代はイベントでしか使えなかったが、使用制限がなくなったことで最強のアイテムになってしまった!

 

 と思えたのは短い間。

 不思議な赤いキャンディーを使用したものは例外なくとても可愛く思えてしまい、どんなに頑張っても攻撃を加える気になれなかったのだ。

 しかし、話し合いに持っていくための無力化や、緊急時の危険回避には有用であった。

 

 なんだかんだとアインズは満足いく知見を得られた。




もどるはここまで
始続終余はメジャーな兄弟で、戻は字面からして妹でしょうか
もどるがエ・ランテルに戻って始まってクレマンティーヌが戻って終わるとは思いもせず
章が進むごとに話数が増えるのは何故だろう


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サキュバスの性教育 ▽アルベド♯23


本話20k
どこに進むかはわかりません


「今日から一週間、この部屋で過ごしなさい」

 

 ソフィーが連れてこられた部屋は第九階層のゲストルーム。広くて豪奢でバスルームもついている。まさしくスイートルームである。

 素晴らしい部屋に案内されたのだから喜ぶところだろうが、ソフィーは顔を青くした。

 

「私一人で、ですか?」

「あなたは謹慎を何だと思っているのかしら? 罪に対しての罰なのよ? 罰が楽しいわけないでしょう」

「そうです、けど……」

「けど? 謹慎で済ませてくださったのはアインズ様のご温情と教えてあげたわよね? それなのにどうしたら「けど」なんて言葉が出てくるのかしら? まさかアインズ様のご裁決に不満があるわけではないでしょうね。もっと厳しい処分が欲しければそう言いなさい。私からアインズ様に申し上げるから」

「そうじゃないです。わかりました……」

「あなたでも壁をすり抜けられないようになっているわ。おかしなことは考えないようになさい」

「はい……。ぐす……」

 

 一縷の望みを断たれ、ソフィーは目に涙を溜めた。俯いた拍子に頬へと流れた。

 

 ソフィーは生まれてから今日に至るまで、一人きりになったことが一度もない。

 小さかった頃は母が忙しい時間を縫って傍に居てくれた。最近ではジュネがずっと傍に居る。立場的には同僚だが、半分以上自分の付き人のようになっている。

 一人だけと云うと、帝都からエ・ランテルの間を飛んでいる時くらいだ。

 それが一週間も一人で過ごさなければならない。つまんないとか退屈とかいう言う以前に、寂しくて堪らない。一人でご飯を食べて一人で寝る事を想像しただけで涙が出てくる。

 

 アルベドは深く息を吐く。心を鬼にするのはここまでだった。

 

「私が毎日様子見に来ます。それに誰が監視に手を上げたか忘れたの?」

 

 ソフィーは、はっとして顔を上げた。

 母と父がいる。二人の顔は穏やかで怒ってはいないようだ。しかし父は兎も角として、母は表情を繕うのが非常に巧みだ。表面だけで判断出来ない。

 

「でも……、お母様すごく怒ってたし」

 

 極刑を口にしていた。アインズ様が苦笑混じりに謹慎を言い渡す中で、母だけが手ぬるいと言わんばかりだった。

 未だぐずつくソフィーに、アルベドは今度こそ呆れを隠そうとせず大きな息を吐いた。

 

「アインズ様がお許しになってしまったんですもの。私が叱るしかないでしょう? それともデミウルゴスからお説教されたかったのかしら?」

「デミウルゴス様のお説教?」

 

 ソフィーは父を上目遣いで覗き見た。

 父がお説教してるところは一度見たことがある。ビーストマン収穫ピクニックで、張り切りすぎたエントマとちびっ子吸血鬼にやっていた。自分はやられたくないと強く思った。

 知的な悪魔であるデミウルゴスが、あれより甘いとは考えにくい。そこに思い至ったと同時に、ソフィーは目を見開いた。

 母は呆れた様子を見せながら、口元は優しい微笑を湛えている。

 

「お母さま大好き!」

「大きくなってもまだまだ子供ね」

 

 アルベドは、飛びついてきたソフィーを優しく抱き止め、頭を撫でてやった。

 アインズ様に失礼を働いて頭に血が上ったのは本当。子供の姿にされて屈辱だったのも本当。しかし、根に持つことはない。やはりソフィーは可愛い娘なのだ。

 

 アインズが裁決を下した場で、ソフィーがアルベドから感じた怒気は本物だった。

 が、八割はソフィーとは直接関わらない事が要因である。そちらの問題は未解決。どうにかしたくても、どうにもならない。非常に口惜しいが譲歩するしかなかった。

 いずれにせよ、ソフィーとも、今この場とも関係ない話である。

 

 

 

 

 

 

 何かおかしい。男はそう思ったが、口には出せないでいた。

 

「謹慎と言ってもずっと閉じ込めておくつもりはないわ。アインズ様もそこまではお望みでいらっしゃいらないから」

「それじゃ好きにしてていいの?」

「それは駄目よ。一応謹慎なんだから。明日は私に付き添って、私がナザリックでどんな仕事をしているか見学していなさい」

「……絶対退屈な気がします」

「謹慎中なのを忘れないように。いつかソフィーのためになるわ。勉強するつもりでよく見ておくのよ?」

「はーい」

「その間、私は如何しましょうか? お許しいただけるのでしたら図書館に行きたいと思っております」

「そっ、そうね……。あなたに頼みたいことがあるかも知れないけれど、基本的には自由にして構わないわ」

「私をおいてっちゃヤです!」

「調べ物がしたいんだ。お許し頂けるなら一緒に図書館に行こう。静かにしててもらうけどな」

 

 娘と、父と母が並んで座っている。とても穏やかで和やかな時間が流れていた。なのに疑問を抱かせるのは並び順である。

 元気いっぱいな娘がいるのだから、父と母は娘を挟んで座るのが自然だろう。しかし何故か、父が母と娘に挟まれて座っている。

 

「ソリュシャンが言ってたの本当かなって思ってエ・ランテルに行ったら、お父様が変なちっちゃいの抱っこしてたんです! お膝に乗せてました。お父様は私よりよその子をだっこするんですよ? ひどくないですか?」

「アインズ様があれをお連れになった時も膝に乗せていたわ。アインズ様と私がいたと言うのに。こんなに可愛いソフィーを放ってあんなのを抱っこするなんて、酷いお父様ね」

「私もちっちゃくなったらお父様に抱っこしてもらえるかなって思って、それで……」

「大丈夫よ。ソフィーはとっても可愛いから。ソフィーを抱っこしてあげないお父様がおかしいのよ」

「………………」

 

 娘と母が結託して父を糾弾している。挟まれているため逃げ場はない。反論しても倍返しになるか恨みを買うかのどちらかしかない事は身をもって学習済み。口が出せなければ手も出せない。

 

「ソフィーはちゃんとお父様からミルクをもらえているの?」

「最低でも週に一度は飲ませています」

「まだまだ育ち盛りだから、週に一度では栄養が足らないんじゃないかしら?」

「お父様のミルクはすっごく美味しいんですけど、一回だけでお腹がいっぱいになっちゃいます」

「お父様は量が多いものね。ソフィーは一回で満足しても、お父様は違うでしょう?」

「臨機応変に立ち回っておりますから」

「私、知ってます! 私のあとでジュネとしてるみたいです」

 

 男は、母と娘との認識が誤っていた事を悟った。アルベドとソフィーは母と娘であると同時に二人の女で、そのまえに二体のサキュバスだ。

 母と娘に挟まれる父は違和感があっても、サキュバスに挟まれる男であれば自然である。

 

「ジュネはシャルティアの所から来て、正式にお父様の部下になったのよね? 私の相談役の配下になるんだから私にも命令権があるわね」

「ジュネに変な事させちゃヤですよ?」

「戦闘力はありませんが多方面で有能です。それと、ソフィーがミルクを飲む際は必ず手伝わせています」

「何かするつもりもさせるつもりもないわ。だけど必ず手伝うってどういうこと? ソフィーは一人でミルクを出せないの? 私が色々教えてあげたはずよ?」

「ソフィー。お母さまにミルクの歌を歌って差し上げろ」

「何でお父様が知ってるんですか? もしかして盗み聞きしてた?」

「大きな声で歌うから聞こえるんだよ。ほら、お母様がお待ちだ」

「わかりましたー。それでは、んんっ。……みるくみっるくー♪ おとうさまのおいしいみーるくー♪ とろーりのうこうとってもおいしー♪」

 

 聞いてるだけで心が楽しくなってくる喜びの歌である。

 アルベドは難しい顔をして額を押さえた。

 

「上手ね。そこはお父様に似なくて良かったわ」

「えへへー♪」

 

 お父様の音痴は全ナザリックが知っている。

 それはさておき、アルベドはソフィーを褒めているのだけれど褒めているわけではない。そこにソフィーはまだ気付けない。

 

「……そう。そうなのね。だからジュネに手伝ってもらっているのね」

 

 子供なのだから当然とはいえ、楽しい歌声からは子供らしさや幼さが伝わってくる。これでは見た目が可愛らしくて女らしい体付きをしていても、なかなかその気になれないだろう。お食事に手伝いが必要なわけである。

 今は手伝いが必要でも、いつかは一人で出来るようにならなければならない。いつまでも手伝ってもらってるようでは恥ずかしい。サキュバスとして落第である。

 アルベドには、母として娘を導く義務があった。

 

「ソフィーはお父様がセックスしてるところを見たことがあるでしょう? 見ていれば、どこが上手く行っていないのかわかると思うの」

「えっ……。私、上手く出来てないんですか?」

 

 アルベドは男の太腿に手を乗せた。男は一つ頷くと口を開く。

 

「概ね上手く出来てる。いつも口に出してるだろう? ソフィーの口は上手だよ。それでもジュネが手伝ってるのは、ソフィーに足りないところを補ってるからだ。お母様が仰ってるのはその部分なんだ」

 

 太腿は抓られなかった。ソフィーは頬を膨らせた。

 

 つまり、ソフィーはアウラと真逆である。

 アウラは大きくさせるところまでは問題なくとも、精神に反して肉体が未成熟で技術も未熟であるため、出させるにはイラマチオを敢行するしかなかった。

 ソフィーは母譲りの才能と母からの英才教育により、手もお口も極上。ちゃんと始めればぴゅっぴゅは容易。しかし、ミルクの歌で大きくなるには特殊な素質がいる。あるいは特殊な訓練を受けるか。父にはそのどちらもなかった。

 

「むぅ。セックスはお父様と皆がしてるの見た事あったけど遠くから見ただけだし。でもシクススとしてるのは近くで見ました。お父様のおっきいのに全部入っちゃってました。とっても気持ちよさそうだったです」

「最初から見たのかしら?」

「途中からです。お父様がソファに座って、シクススはお父様の上に座ってました」

「そうだったの」

 

 アルベドは、シクススが自分の男と寝ているのは大分前から知っている。とやかく思う事も言う事もない。けれども、シクススが気兼ねなく出来るように声を掛けても良いかと思った。

 

「ソフィーもいつかはお父様に可愛がって欲しいでしょう?」

「欲しいです! シクススがしてる時に指でちょっとしてもらいました。でもお父様がしてくれたのってその時だけで、あとはあんまり……。お父様ったらデリカシーないし、ムード壊すしぃ!」

 

 お父様は無になった。無になったので何も見えない何も聞こえない。

 その間も母と娘の会話は続いている。

 

「お父様はそういうところがあるのよね。時々おかしなことを口走るし」「お父様って酷いんですよ? お前がそんな事で恥ずかしがるわけないだろうとか言ってくるし」「ソリュシャンたちが色々教えてるようだけどまだまだ不足があるようね」「ジュネは褒められてるのに私はあんまり褒めてくれないです」「お父様はソフィーなら出来て当然って思ってるのよ」「でもでもちゃんと褒めて欲しいです!」「私からきちんと言っておくわ」「お母様にもおかしなこと言うんですか?」「あまりないけれど、時々ずれた事を言うのよ」「うわあ、お母様にもそうなんだ」「でも、お父様の気持ちはわかってるわ♡ ちゃんと言葉でも伝えてくれるのよ?」「お母様、いいなあ……。お母様もお父様が好きなの?」「もちろんそうよ。そうでなかったらソフィーを産むわけがないでしょう?」「ソフィーはお母様とお父様が好き合ってるから生まれたんですね!」「うふふ、お父様がね? 私と赤ちゃん作りたいって。私に赤ちゃん産ませたいって言ってきたの♡」「……もう赤ちゃん作っちゃヤです」「あらあら? お父様とお母様が取られちゃうと思ってるの?」「…………」「大丈夫よ。お父様もお母様もソフィーを愛してるわ」「……知ってます。ソフィーもお父様とお母様大好き!」「お父様のミルクはちゃんと吸収してるから出来ちゃったりしないわ。ソフィーもいつかちゃんと吸収出来るようになるから」「でも私に足りないところがあるって……」「それはこれから覚えなさい。よく見ているのよ」

 

 アルベドに腕を取られ、男は現世に戻ってきた。

 腕が胸の谷間に挟まれ、瞬時に幸せになる。

 

「私がお父様とセックスするから、私がどんなことを言ってどんな事をするのかよく見ていなさい」

「わかりました!」

 

 母と父による実演である。

 母は妖艶に笑うと、ソファから立ち上がってベッドに誘う。

 娘はソファをベッドの隣に移動させ、お行儀よく座って観戦の構え。

 

「私たちがどれだけ愛し合っているか、ソフィーに見せてあげましょう?」

「かしこま――」

 

 言い切る前に、アルベドの指が唇を押さえた。

 

「そうじゃないでしょう? 『アルベド様』は禁止。上司と部下じゃなくて対等になったつもりでいなさい。恋人同士に上も下もないって言ったじゃない。いつものが悪いわけじゃないけど、今はソフィーに教えるんだから……」

 

 口にしてる途中で、アルベドはふと思い付いた。

 抱き合う男の顔を見上げ、真剣な顔をしているソフィーを見る。実の娘が見ている。サキュバスなのだから、娘の前でセックスを実演することに抵抗はない。むしろ、娘を教え導くのは母の義務。心に引っかかったのはそこではない。

 

「……アルベド?」

 

 男は怪訝にアルベドを見下ろす。

 恋人プレイは何度もしてきた。今更緊張することはないだろうに、アルベドの頬は上気して、目に真剣な色が混じってきた。

 

「何を?」

 

 アルベドの腕が男の首筋に回る。

 そのまま抱き寄せ、男の耳に赤い唇を寄せた。熱く甘い吐息と共に、鈴の音でかき消される掠れ声で囁いた。

 

(ソフィーは私たちの娘なの。だから恋人同士じゃなくて……。夫と妻のように愛し合いましょう? 今だけは、私はあなたの妻になるの。私の全てはあなたのものよ♡)

 

 アルベドは、少しだけはにかんで下唇を噛んだ。とっておきの悪戯をしたような、驚かせたくて特大プレゼントをしたような。

 男はしばし呆然として、言葉の意味が頭に染み込むなりアルベドを強く抱きしめた。

 

「あんっ、待って。ソフィーに見せてあげなくちゃ」

「わかってるよ」

 

 わかってない。アルベドの全てが欲しくて心も体も逸っている。アルベドがソフィーに見せようとした過程は全てすっ飛び、ズボンの中が窮屈になっている。

 抱き合えばアルベドの下腹に触れ、アルベドの目が潤んできた。距離が縮まる前に娘へ顔を向けて、

 

「始めはキスからよ? いちいちキスをするとか言わなくてもちゃんと、んっ……」

 

 顎に指を掛けられ、上を向かされた。唇が降って来た。アルベドからも応えた。

 

 

 

 

 

 

 最初はキス。

 唇同士が重なって、口内では互いの舌が応酬している。

 ソフィーに見せるお手本ならソフトキスから始めるべきだったが、柔らかな唇が触れ合うなり互いに押し付け貪った。

 男が舌を入れて来れば、アルベドは軽く吸って口内に招く。舌が舌に触れ、歯をなぞり、舌の裏にも入り込む。

 繰り返す内に唾が湧く。意識せずとも、少しずつ喉を通っていった。

 

「ちゅっちゅっ、ちゅうぅう……。ちゅぷ……、ちゅぷぷ……」

 

 二人はベッドの上で抱き合いキスをして、娘の存在を忘れていないアルベドは「ちゃんと見るのよ」と目だけを娘に向けた。

 

 ソフィーは真剣な顔で見入りながらも、内心では不満がある。母はよく見てよく聞くようにと言っていたのに、父にこしょこしょと内緒話をしていた。あれで父の雰囲気が変わった。強い目で母を見て、強く抱きしめた。何を言ったか気になるが、ひとまず見に徹する。ここで何か言ってしまえば、自分が父に言ったのと同じデリカシーゼロである。

 母は母でも女なのだから、邪魔をしてはいけない。幼くてもサキュバスで女であるソフィーには、その事がきちんとわかっている。

 

「ソフィーはお父様とキスをした事があるかしら? こういう風にするのよ。れろれろ……、こんなふうに、れろ……。舌を絡めて……。あっ、垂れちゃう。ちゅうぅぅっ、じゅるる……」

 

 ソフィーのファーストキスはジュネだ。父のミルクを口移しで飲ませてもらった。

 本当なら自分の口に出してもらうはずだったのに、ジュネにとられた。自分の後で父とセックスするのもそう。ジュネにはそんな所がある。わざとやってるのかと思ったが、本人にそのつもりはないらしい。天然というやつだ。毎日楽しそうで羨ましい。時々ずるいと思う。

 

「あんっ♡ お父様は、おっぱいが好きなの。乱暴な時もあるけど、お願いすればとっても優しくしてくれるわ。今はお父様の好きなようにしてもらってるから、はぁ……。あぁ……、お母様も触られるの好きだからぁ……。んっ……」

 

 ドレスの上から大きなおっぱいを鷲掴み。乱暴に揉まれているように見えるが、母は気持ち良さそうに笑み崩れる。

 乱暴にされるのが好きなのか、乱暴に見えて気持ちいい揉み方なのか、父にされた事がないソフィーにはわからない。代わりにジュネから揉まれている。

 揉んだり撫でたり吸われたり。先端も見逃されない。

 

「ソフィーはおっぱいを卒業したからぁ、吸われなくて淋しいの。だからあなたがいっぱい吸って? あなたに吸って欲しくて乳首が立っちゃってるの……」

 

 胸の谷間を見せるドレスは大きく開いた襟口に指を引っ掛けるだけでポロリとする。上から付けていた封印の如き蜘蛛の巣状ネックレスはとっくに床の上。

 母のおっぱいは大きかった。ブラジャーで支えなくても崩れることのない形はいつだって完璧だ。先端を飾る突起は輝くスタールビーのよう。

 いつか自分も母のように大きくなるのだろうかと、ソフィーは自身の乳房に触れる。形はツンとしてプルンとして、悪くないはず。ドレスの襟を引っ張って中を覗けば、先端の色は母より薄い。

 

「ちゅっちゅしていいのよ? ……いいえ、ごめんなさいね。私がちゅっちゅして欲しいの。あんっ♡ うふふ、私の乳首はあなた専用よ♪」

 

 充血して腫れた乳首に、父が唇を寄せた。唇の広がり方と位置的に、歯で甘く噛んで引っ張っている。おっぱいがふんわりと柔らかいのが伝わってくる。

 母は父の頭を胸に抱くと、右手の人差し指を立てた。

 

「え? え? 今のどうなったの?」

 

 口を挟むつもりはなかったが、疑問が口をついてしまった。

 母は父のシャツへ指を振り下ろすと、それだけでシャツのボタンが全て外れた。ズボンのベルトまで解けている。

 ボタンを引っ張ると外れなくもないが生地が痛む。ベルトは一本指では絶対に不可能だ。

 

「ソフィーにもいつか出来るようになるわ」

「そうなんですか?」

 

 母がそう言うならそうなのだろう。サキュバスのスキルなのかも知れない。詳細は後で教えてもらうことにする。

 

 娘にサキュバススキルを開示できて得意顔なアルベドに対し、男の声は少し厳しくなった。

 

「ソフィーに出来ないことを見せても意味がないだろう?」

 

 夫婦の営みでも、あくまで娘へのお手本である。応用は後回しにして、出来ることを教えるのが優先されるべき。

 

「あっ、ごめんなさい。見せびらかしたくなっちゃって……。もうしませんから」

「気を付けてくれればいいんだ」

「はい……。チュッ♡」

 

 萎れた顔はすぐに咲き誇る。

 

 ズボンのベルトが解けたのだから、脱ぐのも脱がせるのも簡単だ。

 母は甲斐甲斐しく父のシャツとズボンを脱がせると、自分のドレスも脱ぎ捨てた。

 ソフィーの目が釘付けになったのは、まずは父の股間。ズボンを下ろすなり勢いよく跳ね上がった。最初からすごく大きくなっている。自分がする時は小さい時から始まって、ジュネに手伝ってもらわないと大きくなってくれない。それが最初から二人で手と口を使ってそろそろ、というくらいに固くなってる。

 やはり初めに母が囁いた言葉が重要だったのだろう。一体何を言ったのか激しく気になる。終わったあとで聞いてみることに決めた。母から教えてもらうべきことは、これでもう二つ目だ。

 囁きを除けば、いっぱいキスをして、おっぱいを揉んでもらって。だけどもソフィーは父にされたことが一度もない。それについては大いに不満。それがなくても最後はミルクをもらうので満足してる。そこで満足するのがいけないのだろうか。ジュネには実践的な技術を実地で習っているが、心構え的なものは聞いたことがなかった。

 

「セックスの前には、手や口でおちんぽに気持ちよくなってもらうの。ソフィーにはたくさん教えたわよね? あれはミルクを出してもらうためだから、そこまで一生懸命にしなくていいわ。でも心を込めてちゃんとするのよ? お父様のおちんぽはこんなに固くて、逞しくて……♡ どう? 私の手で気持ちよくなってくれてるかしら?」

「ああ。アルベドの手はいつだって最高だよ」

 

 ソフィーからよく見えるように、父は脚を投げ出して座った。

 母は後ろから抱きついて、父の肩に顎を乗せている。両手は父の股間だ。勃起した逸物を握って上下に振っている。動きは意外に速い。ソフィーが手で出させる速さだ。

 前戯で出させるつもりがないのなら、速くても握る強さが違うのかも知れない。よく見ていれば、ずっと速いままではなく時々ゆっくりになっている。

 

「おちんぽの先からにちゃにちゃしたのが出てきたわ。ソフィーも知ってるでしょう? このおつゆもとっても美味しいの。……ねえ、あなた。お口でしてもいいかしら?」

「頼むよ」

「はい♡」

 

 母は父の言葉に従順だ。気持ちいいかどうか聞いて、次にすることにも伺いを立ててる。

 ソフィーが覗いたセックスも、父は自分が主導してソリュシャンたちやシクススにしていた。あれこれと自己主張するより、大人しく従っていたほうが良いのかも知れない。と思った瞬間に、母は乳首を吸って欲しいとおねだりしたのを思い出す。お願いすれば優しくしてくれるとも。

 して欲しいことは言っても良いが、しつこく食い下がってはいけないのかもだ。

 

「あーーんっ……、んっふうぅ、じゅぷ、じゅぷぷ……、ちゅぅ……ちゅぷ……」

 

 母は長い髪をかき上げ、肝心な所が隠れないようにする。

 太さの分だけ開いた口を近付けて、そのまま顔を下げていく。唇が陰毛に触れるところまできた。大きな逸物を全部口の中に頬張っている。それくらいソフィーにも出来る。ただ、するのはいつも真正面からで、母のように横からはしたことがなかった。

 母の顔は父の股間に埋まっている。頭を上げると、赤い唇に包まれているのが見える。見えた部分は少しだけ濡れてる。母はたっぷりと唾を絡めているようだ。

 

「んん? ふふ♡」

 

 口を使ってるときに頭を撫でられると嬉しくなる。ソフィーも何度か撫でてもらった。母も同じ気持ちらしい。目が嬉しそうに細められてる。

 父は手持ち無沙汰なようで、もう一方の手はたぷたぷと揺れる乳房に伸ばした。

 

「んんっ! ぁんっ、じゅるる、ちゅぷ、ちゅるる……れろ……。はぁ……、んっ♡ じゅぷ……」

 

 父がちょっぴり意地悪だ。母の乳首を摘んでいる。

 頭を上げると引っ張られてしまう。口でされていた時より引っ張られている。痛くは無いようで、母の横顔がとろけていくのがわかった。引っ張られても負けてない。じゅっぷじゅっぷじゅぷじゅぷじゅぷぷと、頭の振りが速くなっていく。

 あの速さは、イカせる時のラストスパート。手コキのように圧を緩めているかと思ったが、母の窪んだ頬を見れば強く吸っているのがわかる。

 自分があれだけの時間を口でしてたら、父は出しているはず。なのにまだ続いている。父は真剣な顔に苦しさを滲ませて母の頭を撫でている。

 

 ソフィーは、気付かざるを得なかった。

 自分が手や口でしている時、父は耐えずに出していたのだ。手心を加えられたとも言える。

 母がしている時は耐えている。これからセックスをするからだ、と安易な結論に飛び込めるほどソフィーは幼稚ではない。

 自分の後でジュネとしている父なのだ。一度や二度で萎えるわけがない。一度出してもすぐ次に移れる。それをあえて耐えるのは、お口を続けて欲しいからだ。

 自分はその域にない事が悔しく、甘やかしてくれる父が恨めしくも嬉しくあり、高みにいる母に尊敬の念が湧いてくる。

 

「あんっ! せっかくお口でしてるのに」

 

 不意に母が顔を上げた。父の手が母の尻に伸びているのが見えた。指先は尻の割れ目に隠れている。父の指は長いから、きっと届いている。

 

「俺もアルベドを可愛がりたいんだよ」

「うれしい♡ でも、わたしはもうぐしょぐしょだから、いつ入れてくれても大丈夫よ?」

「ソフィーに見せるんだからそれじゃダメだよ。準備なしで入れるのが当たり前と思われたら困る」

「それもそうね。それじゃぁ……、あっ!? こ、こんな格好で?」

 

 父はベッドの上で、ソフィーを向いて座っている。母はその上に座らされた。

 背中を父の胸に預けて後ろへ傾き、脚を開かされた。女の割れ目が前を向き、とろりと涎を垂らした。

 

「お母様……、すてき……」

 

 豊かな胸に括れた腰。女の内側が淫猥に開き、鮮やかなピンク色を見せている。

 しかし、ソフィーの目を引いたのは、女体美の極致ではなかった。

 ぬめる下腹を飾る深紅の紋様。うっすらと輝くハート形。それを貫く剣は女の道。覚醒したサキュバスだけが身にまとうサキュバスエンブレム。

 母と同じくサキュバスであるソフィーが、憧れて止まない淫紋である。

 

「お母様のここも、良くなってもらわないとね」

「あんっ♡ ソフィーが見てるのにぃ……。んっ、あっあっ、気持ちよくなっちゃうぅ♡」

 

 父がシクススとセックスしてた時、ついでとばかりに指でされた。

 自分でもジュネにも入れられた事のない穴に入れられ、内側から擦られた。初めての場所なのに気持ちよいところを的確に圧されて堪らなくなった。

 それを母がされている。

 外ではクリトリスの包皮を剥かれ、剥き出しにされて擦られている。

 

「あっ、あっ、あぁんっ! あっ、はぁっ、ソフィー? よく、見ておくの……よ? セックスのまえに、ちゃんと、ほぐすの、っ♡」

 

 行き来する指が、くちくちくちゅくちゅ鳴らしている。

 穴からは少し粘りがある汁が垂れ続け、ベッドのシーツに染みを作った。

 

 母は上気した顔で笑みを作っている。苦しいものではなく、とても良いものだと伝わってくる。

 ソフィーのところにまで淫臭が届いた。ソフィーは鼻をひくつかせ、生唾を飲み込んで匂いの元を凝視する。

 下半身に力が入り、ぎゅっと太もも同士を押し付けた。その奥で、じわりと来てるのに気付かないほど集中して見詰めている。父にされた思い出と、今の母を重ね合わせた。

 母は何度か下半身を震わせた。

 いつの間にか自分で自分の胸を揉んでいる。揉むのはどうして片乳だけなのかと思ったら、右手は後ろに回していた。きっと父の逸物を手でしている。されているのが自分だったら、そこまで気が回らなかった。

 セックスはしてもらうだけでもしてあげるだけでも駄目なのだ。

 

「ねぇ……そろそろ、いいでしょう?」

 

 母が甘えた声で言う。

 顔も違う。優しい笑みの中に、切なさと懇願があった。媚びている、と言えるかもしれない。

 声と顔と全身を使って、父におねだりしている。

 どこか既視感があると思ったら、父に対するジュネから今の母のような気配を何度も感じたことがあった。ジュネはとてもエッチだと再認識。

 

「そう、だな。ソフィー、もっと近くに。見やすいところで」

「はい!」

 

 ソフィーに浮ついた雰囲気はない。好奇心50㌫面白50㌫でシクススとの行為を覗いた時とは違い、真剣そのものだ。居住まいを正し、両手を太ももに乗せて前傾姿勢。

 父は一つ苦笑して手招きした。

 

「激しくするつもりはないからもっと近くで大丈夫だ。俺が上でいいだろう?」

「……ええ。セックスには色々な体位があるけど、ソフィーにはお父様から教えて頂こうと思ってたから詳しく話してなかったわね。正常位が基本の一つよ。こうやって、私が下になるの」

 

 母はベッドの真ん中で仰向けに横たわる。両膝を立てて肩幅より広く開く。父は母の向かいだ。膝立ちのまま近付いて、母の太ももに手を乗せた。

 その様子を、ソフィーはベッドサイドにちょこんと座り、やはり前傾姿勢で注視の構え。

 

「ソフィー、上から見ててもいいわよ? お父様のおちんぽがお母様のおまんこに入るところをよく見ていなさい」

「はい!」

 

 母子共にサキュバス。

 サキュバスにとって、自分のセックスを娘に見せることは教育の一環である。アルベドに恥も衒いもない。

 

「あなた……、きて♡」

 

 しかし始まる瞬間は、アルベドは娘の存在を忘れ愛しい男だけをひたと見詰める。

 男はソフィーから良く見えるように、いつもとは違って体を密着させず、上半身を起こしたまま腰だけを進めた。アルベドの太ももを押して軽く尻を上げさせ、女の穴を上向かせる。

 位置はアルベドが合わせた。そそり立つ逸物を優しく摘まんで軽く下げる。先端が割れ目に潜り、膣口に軽く沈んだ。

 

「んっ♡」

 

 何度も使ってる穴だ。挿入にはとてもスムーズだった。

 亀頭が潜れば抵抗なくぬるぬると進んでいき、ソフィーが瞬きする間もなく根元まで入りきって、男の股間がアルベドの股間にぶつかった。

 

「あぁ、全部入ったわ。お母様のおまんこは、お父様のおちんぽにいっぱい可愛がってもらってるの。おちんぽが入ってるのが当たり前なくらいに。だからすんなり入っちゃうけど、ソフィーが初めての時はもっとゆっくりにしてもらいなさい。私も手伝ってあげるから」

「ええと、ありがとうございます。その時はジュネも一緒でいいですか?」

「ジュネ? どうして?」

「初めての時って血が出るんですよね? その血を舐めさせてあげるって約束したんです」

 

 処女サキュバスと、覚醒サキュバスの転生体なヴァンパイア・ブライドの約束である。とても「らしい」約束だった。

 

「……わかったわ。その時になったらそうしましょう。今は最後まで見せてあげるわね。あなた、私たちが愛し合ってるのをソフィーに見せてあげましょう? 私のおまんこでいっぱい気持ちよくなってくださいね♡」

「愛し合うなら、俺だけじゃなくアルベドも、ね」

「はい♡ うれしいです♡」

 

 男は先端をアルベドの奥に押し付け軽く揺する。左手はアルベドの右手を捕らえ、手のひらを合わせて指を絡める恋人握り。左手は結合部を撫で始めた。

 

「あんっ♡ そんなにじっくりしてくれるなんて……。もっと乱暴にしてもいいのに」

「アルベドに包まれてるだけで気持ちいいんだ。ずっとこうしていたいよ」

「いつだってしてあげるわ。……ううん、私がして欲しいんだから、これから何回でもセックスしましょう?」

「嬉しいよ。愛してる」

「私も愛してるわ♡」

 

 ソフィーは微妙な気持ちになった。

 

 母は守護者統括の立場があるので、表立ってソフィーを自分の娘と言うことが出来ない。限定スキルで創造したことになってるので似たようなものだが、微妙にニュアンスが違う。

 だけども親子三人だけの場なら関係ない。父と母が仲良しなのはとても良い事だ。

 しかし如何にサキュバスと言えども、父と母がセックスをして愛を囁き合うところを見せられるのは何と云うか。ちょっと仲良し過ぎではなかろうかと思わなくもなかった。

 両親の愛情を独占したくてもう子供は作らないでとお願いしたが、言わなかったら何人出来るかわかったものではない。

 

 そこは母の約束を信じるとして、ここからが本番だ。

 セックスの流れはつかめた。合体してからも色々あるだろうが、シクススとしてたのを間近で見ているので大体はわかってる。体位のあれこれはジュネに聞いてもいい。今は母だ。

 母が怒っていたのはデミウルゴス様からのお説教を防ぐためだったらしいが、振りではなく本当に怒っていた。今はセックスを実演して教えてくれるのだから、もう怒ってないはずである。しかし、母の愛に甘えてばかりではいけない。愛をもらったら、愛を返さなければならない。自分はいつまでも小さいだけの子供ではないのだ。

 幸いな事に、ジュネから女の悦ばせ方を色々実地で教わっている。されてもいるし、してもいる。及第点はもらっていた。今こそ技を発揮すべき。

 

 セックスの流れを一通り見せたと思うのは男も同じ。

 キスから始まって、乳房や性器への愛撫。愛の言葉はほどほどに。ソフィーの問題点はそこだけではないのだが、ひとまずの教習は完了したと判断した。ソフィーとて、挿入まで行けばミルクの歌が出ることもないだろう。指でした時は大人しかったものだ。

 よって、ここからはアルベドを悦ばせるべき。

 恋人を越えて、妻のように扱えを仰せであった。結婚とか何それと常々思っている男なので難易度が高い。恋人プレイよりやや男性上位に振舞ったのは、上手く行っていたようだ。このまま上になって感じさせればいい。

 

 

 

 神か淫魔の悪戯か、父と娘の目的が完全に合致した。

 

 

 

「ね、ねえ? 動いてくれないの? 奥にあなたを感じるのもいいけれど、それだけじゃ物足りないわ……」

「こうしてるのも好きだろう? 時々締めつけてるよ。それにここはこんなに腫れてる」

「だってぇ、ずっと弄ってるんだもの。あんっ……、くりちゃんも好きよ? でもぉ……」

 

 アルベドの雌穴は男の逸物を根元まで受け入れ、子宮口に亀頭を押し当てられている。大きくは動かず、軽い圧が何度も掛けられた。

 片手は恋人握りをして、男の左手はアルベドの下腹に。手の平で優しくさすり、親指は割れ目の上端を撫でていた。肉芽にそえられ、子宮口にされてると同じリズムで軽く圧され続けている。

 

「ね……ねぇ……? いやじゃない。いやじゃないけど……。ソフィーに見せてるのよ? ちゃんとしたセックスを見せてあげないと」

「大丈夫だよ。アルベドは何も心配しなくていい」

 

 不安そうな顔で不満を口にしても、アルベドの女が乾くことはない。ぬめる汁をまとって男を包み、一層の熱を帯びてくる。

 今更アルベドの中を探る必要はなく、どこをどうすれば高ぶって来るか把握している。

 

「ソフィーに見せてるのよ? 普通にしてるのじゃなきゃうんっ!? そっ、そんな風に動かないでぇ……」

「俺は動いてないよ。アルベドが動いてるんだ」

「!?」

 

 男は奥に押し当てるだけ。アルベドが無意識に腰をくねらせている。本人の意思に反して、肉ひだが期待にざわめいた。

 男が動くともなく動き始めると、アルベドは怯えを滲ませた。

 

 自分の事だからわかっている。このままではとても気持ちよくなってしまう事に!

 

 娘が見ているのだから無様は晒せない。

 セックスは余裕をもって優雅に受け入れ、慈愛の微笑を浮かべながら夫を満足させなければならない。

 気持ちよくなるのは大前提でも、よがって乱れるのは駄目だ。それをするには、夫の快感を十分に引き出して一匹の獣に変えてから。

 夫に合わせてよがり狂うのは良くても、その反対は受け入れられない。

 しかし、準備が完全に整ってしまった。子宮を奥から揺すられて、クリトリスにじわりと圧を掛けられ、もう一押しされたら決壊してしまう予感があった。

 ここから逆転するにはサキュバススキルしかない。サクリファイス・イグゾーストを使えば射精させられる。代償に自分も絶頂してしまうが、同時イキなら子宮口を精液で打たれたからと言い訳が立つ。

 

 今は奥からじわりじわりと抜かれているところだ。

 2ミリ下がって1ミリ進み、3ミリ下がって2ミリ進み。それを呼吸と脈動に合わせてやっているから、本当に意識を集中させないと動いている事が全く分からない。

 動いているのがわからないのにしっかりと動いているから、何もされてないと思っている内に気持ちよくさせられてしまう。

 動き始めた、とわかった時には手遅れだ。とても乱れていやらしい言葉を口走りながら快感に喘いでしまう。今まで何度もやられて来たから間違いない。きちんと手順を踏めばこんなにも素晴らしい快感が得られると感動してしまうほどなのだ。

 始めの内は焦れったいと思って体が勝手に動いてしまうが、そこまで来たら天国への扉がすぐそこに。

 

(はっ!? 駄目よ私ったら何考えてるの!? 彼に気持ちよくなってもらうのに私がよがってたらダメじゃない! ソフィーにも私のおまんこが雑魚とかよわよわとか思われちゃったら母親の面目が丸つぶれよ! 何とかして彼を先にイカせないと。大丈夫よアルベド、あなたならきっと出来るわ。きっと抜けるギリギリまで来たら私の中に帰って来るわ。その直前にサクリファイス・イグゾーストを使えばいいのよ。そうすれば奥で直にミルクを掛けられるのは避けられるはず。スキルの代償でイっちゃうのは仕方ないけど、深いのが重なったりしないわ。大丈夫、きっと大丈夫。焦らないで、慎重に!)

 

 タイミングを計っていたのはアルベドだけではなかった。

 

 逸物で肉ひだの締め付けを楽しみつつゆっくりと引いていた男は、間近で淫の気が立ち昇るのを感じた。

 アルベドではない、と感じた瞬間に手を離した。

 

「えっ?」

 

 恋人握りしていた手が離れ、肉芽への圧も消えた。

 アルベドがほんの一瞬だけ呆けた隙に、両手首を男に捕らえられた。

 

「あ゛っ!?」

 

 入れ替わりに尖った乳首と腫れたクリトリスをきゅうと抓られる。

 

「あ゛っ♡」

 

 ほとんど同時に、入り口まで来ていた逸物が、抜ける時の百倍の速さで奥へと戻り、子宮口を亀頭で押しやった。

 アルベドの背が弓なりに反り、ベッドから腰が浮く。膝立ちになっている男が腰を使うのにちょうど良い高さ。

 男がアルベドの体が離れないよう掴んだ手首を引きながら、腰を打ち付けた。

 アルベドの雌穴は悦んで男の逸物を受け入れ締め付け、隙間なく肉ひだが絡みつく。締め付けはきついのに膣の内部はふんわりと柔らかで、男を愛おしく捕らえて逃がさない。覚醒したサキュバスが、一人の男だけを愛するために備える器官。

 

「あ゛ーっ♡ あ゛ーっ♡ あっあっあっああぁあんっっ♡ らめぇ、おまんこいいのぉおおぉおお♡ んんっ!? んむぅうううぅう♡」

 

 アルベドは顎を上げ、焦点の定まらない目を大きく開く。伸ばした舌は細い指に摘ままれ、弄ばれた。

 

 アルベドの乳首とクリトリスを摘まみ、快感を叫ぶ口に指を突っ込んだのはソフィーだ。

 父と娘は言葉を伴わず視線すら交わさず、完璧な連携でアルベドを責めた。

 それと云うのも母を悦ばせたいがため。

 親子の絆である。

 

「んっ♡ んっ♡ あんっ、イタズラしちゃあぁんっ♡ あんっそこよわいのぉおお♡ あっらめいくぅうう……! きゃうっ!?」

 

 ソフィーがアルベドの乳首に歯を立てた。加減は最適だ。ジュネから実地で習っていた数々の技術は、本番で遺憾なく成果を発揮している。

 

 アルベドの両手がシーツを掴む。これならソフィーの邪魔をすることはないと判断した男は、女の手首を解放して太ももを抱え持つ。

 引き寄せつつ腰を使えば、動きがベッドのスプリングで減衰することなくアルベドの中に伝わる。

 何度も往復しない内に、宙を掻くアルベドの爪先がきゅっと折り曲がった。太ももにも尻にも腰にも力が入り、逸物がきゅうきゅうと締められる。

 している女は蕩けた顔で鳴いている。

 

「ああ……お母様、すっごくきれい……♡」

 

 母を見つめる娘の顔は、陶酔と尊敬で上気している。母の面目は保たれているようだ。

 ソフィーはサキュバスらしくいやらしい笑みで舌なめずりし、母の乳首にちゅっと口付けた。

 触って舐めた感触から、母の乳首は自分より少し大きいように思えるが、おっぱいが大きいので相対的に小さく見える不思議。色艶も鮮やかでとても綺麗なのが羨ましい。

 羨望を振り切り、いつか自分もと視線を切れば、額に汗を浮かばせて腰を使う父と目が合った。

 母が手を伸ばしているのも感じる。きっと父を求めているのだ。

 父は母に応えようと体を倒す。

 求め求められる二人を羨ましく思いながら身を引こうとして、その前にチュと父の唇に唇を合わせた。

 

「あんっ! あんっ♡ らめ、ふかいぃい♡ 赤ちゃんのへやこんこんされちゃってるぅ♡ あぁ、こっちでもキスしてぇ、んっちゅっうううぅ……♡」

 

 アルベドは娘と夫の口付けに気付いたかどうか。気付いたとしても、何も思わなかった。

 夫が娘を愛してるのは当然で、娘が自分の夫を求めるのも、妻である自分が夫と激しく求めあって愛し合うのも当然だ。

 体の一部どころか全部で繋がろうとして、近付く夫を強く抱きしめ唇を貪った。

 唾を啜って啜られ、理性を蕩かしながらも舌での接触面積を最大にするために工夫を凝らす。

 

 最早、母の体面がどうのとは頭の中のどこにもない。理性は快楽に駆逐された。サキュバスの理性が快楽に勝てるわけがないのだ。サキュバスが理性で快楽を制御するのは、カタツムリがブレスで第七階層の炎を吹き消すようなものである。

 

「ーーーーーーーーーーーっっ♡」

 

 アルベドが一際大きな声で鳴き、体を震わせた。

 口は開いたままで荒い息を吐き続ける。潤んだ瞳で男を見上げ、ねだるように舌を伸ばすが、愛しい男は離れてしまった。

 ずるりと抜けた逸物は固さを失わずに跳ね上がり、膣口は上の口と同じように開いては閉じてを繰り返す。

 切なく顔を歪めるアルベドを見下ろし、男は言った。

 

「アルベド、尻をこっちに向けるんだ」

「は……はい……♡」

 

 アルベドは両手両膝をベッドにつき、四つん這いになった。

 両手を両肘に替え、大きな尻を高く持ち上げる。ふりふりと左右に振った。

 おねだりは尚も止まらず、股の間から右手を覗かせ、人差し指と中指でV字を作り、閉じ切らない割れ目をくぱあと開く。

 下の口も、はしたなく涎を垂らした。

 

「ああんっ♡」

 

 後ろから男が入っていく。

 引き締まった下腹が柔らかな桃尻に打ち付けられ、ぱんぱんと乾いた音を立てた。

 

「こっこれがっ、バッグっていうの、きゃんっ!!」

 

 男の手がアルベドの尻をピシャンと叩く。

 

「バッグじゃなくてバックだ」

「バックっていうのっ♡ あたるとこがかわって♡ おちんぽいいのぉ……♡ んっ♡ んっ♡ ぁんっ♡」

 

 アルベドの声は掠れ、くぐもっていく。

 ベッドについた手は男に囚われ、顔が枕に埋もれてしまった。

 時折腕を引かれて顔を上げ、だらしない顔で嬌声を上げた。

 体もベッドから浮くので、下を向いた乳房がぷるんぷるんと大きく揺れる。

 下腹を飾る淫紋は光が強くなってきた。

 

 両手を取られて自由を封じられ、後ろから犯されている。

 女の真芯を男に貫かれ、一つになれたことを歓喜している。

 二人で一人な事を実感する。

 あるいは男に従属しているのか、それよりも隷属しているのか。

 生きることも死ぬことも、子供を孕むことさえ望み通りにしてしまう。

 娘には作らないでと言われたけども、夫に孕めと言われたら抗えない。

 自分の子宮は夫のために在るのだから、夫の望みに応えるのは当然のこと。

 

 胎の中で脈打っている。

 自分の一部だけど夫の一部でもある逸物が、膣の中で猛っている。

 

「あんっ、きてっ♡ おまんこにだしてぇっ♡ アルベドをあなたの全部でそめあげてぇっ♡」

「まだだな」

「あっ、あっ、あんっ! あっ、すごいぃい……♡」

 

 強く腕を引かれて体が起きる。

 今度はアルベドが上になっていた。背面騎乗位の形。アルベドの足がベッドを捉え、休む間もなく腰を上下に振り始めた。

 

 正常位や後背位より、騎乗位の方が出たり入ったりするところが良く見える。

 サポートを終えたソフィーは、アルベドの正面からじっくりと見た。

 両足を崩した女の子座りで、両手はスカートの中に潜っている。母の痴態に感想を零す余裕はない。

 下着を脱ぐタイミングを逃して、ぐっしょりと湿った上から揉みほぐし、生地の上からでもわかるクリトリスを撫でている。 

 

「あんっ、もうっ……。もうらめぇぇ……! イってるからぁ……。くぅっ……!」

 

 アルベドの美顔がいっそ悲痛に歪み、潤んだ目から涙が零れる。

 呻きながら腰を振り、後ろから伸びた手が乳房を掴む。

 

「うっ、くっ……あっ……、あああああああぁぁっぁぁあああぁぁあああーーーーーーっっ♡♡」

 

 脱力したように腰を落として深く貫かれ、深い絶頂と共に絶叫した。淫紋がピンクに輝いた。

 

「くっ!」

 

 きゅうきゅうと締め付けられ肉ひだが蠕動する。男は耐えられなかった。

 口を開いた子宮口へ目掛け、どぴゅどぴゅと熱い精液を吐き出した。

 

 びゅるびゅると出続ける精液は、全てが子宮口に吸われて子宮へと注がれる。

 アルベドの膣は更に搾り取ろうと締め付ける。

 アルベド自身は挿入されたまま体の向きを変え、男に抱き着いてキスをねだった。

 

「ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ♡ ……すごくイっちゃったの。あなたのおちんぽがとっても素敵で。おっぱいもおまんこも温かくなって。好き♡ 愛してるわ♡」

「俺も愛してるよ」

「嬉しいわ♡ 私はもっと愛してるから♡」

 

 深い絶頂でもまだ一度目だからか、甘いキスをしている間にアルベドの体力が回復してきた。膣内に射精された精液を吸収し、回復しているのもある。

 孕めと言われなかったので全部吸収する予定。言われたとしても必ず孕めるとは限らない。ソフィーの時は特殊過ぎる状況で必死だった。

 

 アルベドは甘えるように抱き着き胸を押し当て唇を食む。ずっと挿入されたままなので、意識的に締めては緩めるを繰り返す。

 果てても萎え切らない逸物が、固さを取り戻してきた。

 上になったまま軽く腰を上げ、落とす。

 

「………………二回目も始まる感じですか?」

「えっ」

 

 我に返ったアルベドが振り向けば、娘が赤い顔で湿った視線を送ってきた。

 

 

 

 

 

 

「一通り見てもらったわね。大体あんな感じよ」

「……そうですか」

 

 ソフィーの視線は湿ったままだ。

 視線を向けられてるアルベドは、娘の存在を思い出した時こそ怯んだが、ありのままを全て見せてしまった事は開き直った。

 裸のまま男の腕に抱かれている。全裸なので乳房も出たままだ。男の手が弄ぶようにたぷたぷとしている。

 アルベドは男の逸物をゆるゆると扱く。膣からは抜いてしまったが、折角元気になってもらったのを萎えさせるようではサキュバスではない。

 どこに出すかは未定だが、ソフィーと話したら気持ちよくなってもらうつもりだ。

 

「色々わかりました。でも……」

 

 ソフィーの目は母から父へ。

 湿った視線に非難の色が混じる。

 

「お父様のおちんちんがおっきく出来たなら、お口じゃなくてセックスしてくれてもいいんじゃないですか?」

「……それもそうね」

 

 アルベドも男を見た。

 

 ソフィーの問題点は、性欲より食欲が先に来ること。食欲が勝ってしまうので、食への期待が子供心を押し出してしまう。

 しかしサキュバスなのだから、性欲がないわけがない。むしろ強い方である。

 父と母の行為を見ながら自分の手指で慰めていた。父に指で可愛がられた時は愛欲に乱れ、次への期待に胸を高ぶらせた。

 ソフィー一人では雰囲気やら何やらで難しくとも、覚醒サキュバスの転生体であるジュネがいれば何の問題もない。現にジュネが手伝うことで、ソフィーはお食事が出来ている。

 摂取する場所が変わるだけである。

 

「ソフィーの困ったところはそこだけじゃないんだ。ソフィーは自覚してると思ったんだけどな」

「う……。でもたぶん大丈夫です!」

「多分じゃ困るよ。アルベド……」

「……わかったわ」

 

 男がアルベドに耳打ちする。

 アルベドは男の股間に顔を埋め、逸物を頬張るとぐっぽぐっぽを口を使い始めた。

 ちゅうちゅう吸いながら頭を振り、喉奥まで迎える。苦しいどころか、奥まで来てくれることに喜びすら覚えるようになった。

 舌で責めるのも忘れない。気持ちよくなってねと心を込めて裏筋を舐め回す。

 尿道口にぷくりと滲む甘露の雫は役得である。れろりと舐めとってちゅるると吸い取る。

 そろそろ、と判断して根元にピンクのリングを嵌めた。

 

 非実体のリングはサキュバススキル「寸止め」のリングである。

 口を離しても、手では扱き続ける。

 逸物が苦しそうに脈打ってる。早く楽にしてあげたかった。

 

「ソフィー、いらっしゃい」

「……はい」

 

 母の次は娘である。

 ソフィーは躊躇いがちに男の逸物に口付け、亀頭だけを口に含んだ。

 母がたっぷり舐めた直後で唾に濡れているが、そんな事は気にしない。ジュネとそれより凄い事を経験済みだ。

 

「いくわよ」

「んっ」

 

 アルベドの宣言に、ソフィーは喉を鳴らして応えた。

 ピンクのリングが消え、堰き止められていた精液が、勢いよく尿道を駆け上った。

 

「んんーーーーーーーーーっ♡」

 

 母のフェラチオで射精した父の精液が、娘の口内にどぴゅどぴゅと解き放たれる。

 二度や三度では量が減らないし薄くもならない精液が、あどけないピンクの口の中に溜まっていく。

 熱くて濃厚で官能的なとろみがあり、咀嚼しないと喉を通らない粘塊もある。

 

「ソフィー?」

 

 お掃除フェラもせず、ソフィーは逸物から離れた。

 うっとりと目を閉じて白濁した粘液を舌でかき混ぜ、唾と共に嚥下していく。

 

「ふにゅう…………♡」

「ソフィー!?」

 

 ソフィーは幸せそうな顔をして、ベッドにころんと寝転がった。

 慌てたアルベドが確かめれば、寝息を立てている。

 

「と、いうわけだ」

「……あなたのミルクはとっても美味しいから、ソフィーには美味しすぎるのかも知れないわね」

 

 ソフィーが精飲すると眠ってしまうのは、小さなころから変わっていなかった。

 

 口で摂取してこれなのだから、下の口から摂取するとどうなるか予想がつかない。

 よって、保留になっているのである。

 

「大丈夫だとは思うけれど……。あなたはソフィーが心配でセックスしていなかったのね」

「俺たちの娘だからね。俺の独断ではどうにも出来なかった。お母様を頼りにしてるよ」

「初めての時は私が付き添うわ。ジュネも一緒にと言ってたわね」

「そんな先の事よりも」

「あら♡」

 

 二度や三度では量が減らないし薄くもならない。まだ二度目だ。

 回復魔法やポーションがなくとも五回や六回は続けられる。相手によっては二桁に乗る。アルベドはその筆頭だ。

 

 アルベドが勃起したままの逸物を握って上下に動かせば、出切らなかった精液が尿道口からぬるぬると溢れてきた。

 亀頭から流れて竿へ伝い、アルベドの手を汚した。

 

「今度は向き合ってしましょう♡」

 

 アルベドが男を押し倒し、上になった。

 精液に汚れた逸物を、拭うことも舐めとる事もなく受け入れる。

 手についた粘つく汁は、指の一本一本を丁寧に舐め上げた。

 

「今度はあなたを先にイかせてあげるわ♡」

 

 娘が眠る隣で、アルベドは腰を使い始めた。




花粉などのアレルゲンが飛んでるらしく外気を吸うと眩暈がします
毎年のことながら試練の三月

理想復活全回収!
ついでにハーメルンのあれこれも回収


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図書館とお姉さん

本話12k


 若旦那様が幸せになってる一方で、エ・ランテルのお屋敷は悲喜こもごもだった。

 

「お兄様が謹慎!? そんな……、そんな嘘よ! ずっと私といたのにそんな事になるはずがないわ!」

 

 悲の代表はソリュシャンである。

 一報が耳に入るなりテーブルを叩いて立ち上がった。手から滑り落ちたカップは気にしない。シェーダが素早く片付けた。

 

「ちょっと落ち着いたらどうっすか? 謹慎はおにーさんじゃなくてソフィーちゃんみたいっすね。おにーさんはソフィーちゃんの上司だから謹慎中の監督するみたいっすよ」

「同じ事よ! お兄様がお帰りならないのよ? 一週間もお兄様と会えないのよ? 私にどうしろって言うのよ!!」

「……どーもしなくていいっすよ」

「ルプーはお兄様にお会いできなくても構わないと言うの!?」

「そーじゃないっすけど」

 

 ルプスレギナとて、若旦那様が戻らないのは残念だ。

 しかし、世界の破滅を告げられたかのように嘆くソリュシャンを見たら冷静にもなる。残念は残念でも、ソリュシャンほどには反応できない。

 

「前はもっと離れてた時があったじゃないっすか。ソーちゃんはこの前も何日か帝都に行ってたっすよね? それと一緒っすよ」

「その時は準備と覚悟があったから耐えられたのよ」

「準備と覚悟」

 

 ルプスレギナはおうむ返しに応えた。思い返せば、準備の手伝いをした事もあった。今回は急な話で、詳細は文書で飛んできたものだから何の準備も出来ていない。

 

「ああ、お兄様……! ソフィーのために一週間も謹慎だなんて。お可哀そうに!」

「いや、結構喜んでるんじゃないっすか? 図書館行きたいってずっと言ってたし、チャンスとか思ったかもっすね」

「お兄様が私から離れることをお選びになるわけがないわ!」

「その自信はどっから出てくるんすか……」

「私がお兄様の一部だからよ!」

 

 ルプスレギナは聞こえないように呟いたつもりだが、聞こえてしまったようだ。

 

「お兄様は私を愛してくださっているわ。私もお兄様を愛しています。愛し合っているのよ。体だけの事じゃないわよ? 心で愛し合って繋がっているの。肉体を凌駕して心で繋がっていると言う事は、体が二つに分かれているように見えても本当は二人で一つになっていて、つまりお兄様と私は一つなのだから私がお兄様の一部と言う事は」

「あーはいはい!」

 

 ソリュシャンの超理論なのか妄想なのか、戯言に付き合うのは苦痛である。

 ルプスレギナは乱暴に会話を打ち切って立ち上がった。ソリュシャンが落ち着くまで距離を置いた方がよさそうである。

 

「ごちそうさまっす。私はチビちゃんを構ってくるっすよ」

 

 立ち上がって、ふと思いついた。

 

「シェーダからリファラとキャレットに言っといてくれないっすか? 今日はおにーさんの部屋はベッドメイクしなくていいっすよ。シーツも枕カバーもそのままにして欲しいっす。私が使うっすから」

 

 若旦那様はいないのだから仕方ない。せめて若旦那様の匂いにつつまれて眠るのだ。

 

「え? 待って! 私が使うわ!」

「何言ってんすか。私が使うんすよ」

「ルプーはお兄様とお会いできなくても辛そうに見えないわ。だったら私に譲ってくれてもいいでしょう?」

「ソーちゃんこそおにーさんとは離れてても繋がってるんすよね? じゃーいーじゃないっすか」

「それとこれとは話が別よ!」

「都合よく別の話にしないで欲しいっすね」

 

 時々喧嘩するが、これでも仲良し姉妹である。

 仲良しのためにか、喧嘩はあっさりと終止符が打たれた。

 

「大変申し上げにくいのですが、若旦那様のベッドは既に整えてあります」

 

 シェーダが今朝の仕事を告げた。

 毎晩色々な事で汚れることが多い若旦那様のベッドは、基本的に朝一で綺麗にされるのだ。

 

 ルプスレギナとソリュシャンは振り上げた拳をどこに下せばいいかわからず、かと言って争い続ける燃料は揮発し、気まずそうに笑い合った。

 

 

 

 

「若旦那様が謹慎!? 一週間もいないのか!? ウオオオオオオオオオオオ! やあああああ…………………………ったああああああああああーーーーーーっっっ!!!」

「……ケムリン、そんなに大きな声出すと外に聞こえるよ? あと、謹慎は若旦那様じゃなくてソフィー様? の方だってさ」

 

 悲の代表がソリュシャンなら、喜の代表はケムキチである。むしろケムキチだけである。

 ケムキチは、クレマンティーヌから若旦那様の不在を告げられるなり快哉の雄たけびを上げた。今この時だけ、かつてのビーストマンブレイバーに戻ったかのようだ。

 

「ご主人様がいらっしゃらない事をよくもまあそこまで喜べるものですね!」

 

 しかし、往時の輝きは一瞬で消えた。

 

「グワーーーーーーーーーーッッ!!」

 

 ミラに蹴飛ばされ、天幕の外に弾き出された。

 

 ミラの仕事には、クレマンティーヌの安全確保が一応含まれている。

 若旦那様がいないのでクレマンティーヌに目を配っていたら不届き千万な叫びが聞こえた。早速仕置き執行である。

 

 ぽきりとなったケムキチは、遅れてやってきたルプスレギナにも蹴飛ばされ、着地する前にミラに蹴飛ばされ、再度ルプスレギナに蹴り上げられ、地上に戻るのにしばしの時間を要した。

 一部がひき肉になって一部が取れて一部が零れてコックがゴミ捨て場を勘違いするような有様になってから回復魔法を掛けてもらった。

 

「そうか。若旦那様がいないのか。残念だがいないなら仕方ないな!」

「……ケムリン元気だね」

 

 ケムキチは若旦那様からもたらされる精神的重圧が酷過ぎて、相対的にそれ以外の苦痛を小さく感じるようになっていた。

 ペットが飼い主に似るのは本当であるようだった。

 

 

 

 

 

 

 その若旦那様は自由時間を得ていた。

 要監視のソフィーは、ぐったりしながらアルベドに連れていかれた。ソフィーがぐったりしてるのは、父と二人きりの朝食で数学のテストをされていたからである。

 

 数学のテストは不思議なキャンディーの効果時間の計算から始まった。

 不思議なキャンディーは、赤も青も効果発動中に追加で舐めると、効果時間が増加する。加算される時間は前に舐めたキャンディーの半分である。よって、不思議な赤いキャンディーを舐め続けて不老不死を実現するのは不可能となる。

 では、大量に舐めた場合の効果時間は一つだけ舐めた時の何倍になるか。

 

『2です』

 

 ソフィーはあっさり正解。問題が簡単すぎたようである。

 なので、増加する効果時間を67%と仮定すると幾つになるか。

 

『大体3です』

 

 正解である。細かく言えば、3,0303…となる。

 どちらの問題も等比数列を知っていれば簡単だ。数列を知らなくても、代数の概念がわかれば答えがでる。

 先生としては一般化して解答して欲しかったのだが、ソフィーは強引に計算してしまった。

 

 続いての問題は、13の平方根は幾つになるか。

 

『……大体3,6です』

 

 正解である。ソフィーは4の自乗、3,9の自乗と計算して解に近付いていった。

 先生としては平方根の近似式を考えて欲しかったのだが、ソフィーはまたも力技で計算してしまった。

 

 三乗根の問題も、ソフィーは強引に計算してしまう。計算能力は父譲りであるようだ。

 

『お父様は色々課題を出しますけど、あれって意味あるんですか? どれも使う数字がちょっと違ったり多かったりするだけですよね? 数学の問題なんて全部計算しちゃえばいいんじゃないですか?』

 

 ソフィーの舐め腐った態度に、先生は割と真剣に悩んでしまった。

 

 勉強をしたくないための言い訳に過ぎない、とは断言できない。勉強を嫌がる素振りは多々見せるものの、課題を出せばきちんとこなす。本当に数学とは計算能力が全てと思っている可能性もある。

 ソフィーの真意がどちらであるか判別できない先生は、絶対に計算しきれない問題を出した。*1

 

『そんなの計算出来るわけないじゃないですか!!』*2

『どうして計算出来ないんだ?』

『数が多すぎます!』*3

『計算出来ない問題もあるってわかっただろ?』

『でもそんなのできなくてもよくないですか? できなくても困らないです』

 

 ソフィーは言ってはいけない事を言ってしまった。

 

『いいか、ソフィー。それは出来ない奴がやりたくない時に言う常套句だ。大体出来もしないくせに出来なくても困らない、だと? 出来ないくせにどうしてそんな事がわかる? わからないのにわかってるとはどういう状態だ? そう言うことは出来るようになってから言え。まさかとは思うが、勉強したくないから言ってるわけじゃないだろうな?』

『ちがいますぅ!』

 

 先生もソリュシャンから課されたロマンス小説の件で全く同じ反論をして全く同じお説教を食らっていた。

 娘に同じ轍を踏んで欲しくないがための親心である。

 

 こうしてぐったりしてしまったソフィーはアルベドに引き取られたのだ。

 

 色々悔しかったソフィーは、父から出された難問を母にぶつけた。母が非常に聡い事を知っていても、数学は専門外のはず。わからなくて狼狽えているところを見てやろうと思ったのだ。

 

『普通に計算するのは無理よね。だったら部分集合の和とそれぞれの個数が出る多項式を考えて、そこに5の倍数だけ出てくるフィルターのようなものを掛ければいいんじゃないかしら? 具体的な計算までは出来ないけれど、考え方はそれで合ってると思うわ』

 

 アルベド、大正解である。ソフィーは目から鱗のようなものが落ちた。*4

 賢さが極まるとそんなところにまで応用が出来るのかと感心も感動もして、母への尊敬の念がますます強くなった。

 

 

 

 

 

 

 ソフィーが母の偉大さを知りながらお仕事見学をしている間、自由時間を得た男は早速図書館に向かった。

 譜面の件でセシルに物申したい気持ちはあったが、為すべきことを為さなければならない。アルベドの武装に用いる素材についてだ。

 求める素材は、全ての固体を液体のように扱える物質である。言うまでもなく、そんなものは存在しない。存在しないので新しく作らなければならない。作るには何が必要か調べなければならない。しかし何を調べればいいかもわかっていない。

 求めるものは明確でも、そこへ至る道が全くの不明である。道があるかどうかすらわかっていない状況だ。

 よって、まずとりあえずは武具や金属や物質に関わる書籍を司書長のティトゥスにリスト化してもらった。

 リストを見ながら迷宮の如き広大な図書館を歩き、リストにある本や関連すると思われる本を抜き出して台車に放り込む。台車はあっという間に積載上限に達した。当然のことながら、貸出上限を超えている。そこは司書長との交渉があった。ソフィーの謹慎期間に合わせて、一時的に貸出上限を撤廃してもらった。代わりに貸出期間が一週間厳守である。

 リストにある本は、どれも借り手が稀だから取れた優遇措置であるらしい。稀どころか皆無に近いようだ。唯一の例外は、冶金関連の本をサラマンダーの鍛冶師が借りた事があったとか。武器の製作について、いずれ彼らの手を借りるかも知れない。

 

 そうして重い台車を貸し出しカウンターまで運び、司書長直々に貸し出し手続きを行ってもらった男は試練に直面した。

 

「……どうやって登ろう」

 

 最古図書館がある第十階層と第九階層を繋ぐ大階段を仰ぎ見て、途方に暮れた。

 

 本を読むだけだったら閲覧室を利用すればよい。

 しかし、一応は謹慎しているソフィーの監視役である。現在のソフィーがアルベド様のお仕事見学をしているにせよ、長時間持ち場を離れるのは好ましくない。

 加えて、あちこちをうろうろしていると誰かしらに捕まる可能性が高い。具体的には、シズとかシズとかシャルティアとかシズとか、エントマがいる可能性もある。ナザリックには遊びに来ているわけではないので断る名目はある。しかし、不思議な力と不可解な理論によって再び貸しを押し付けられるかも知れない。目的がある今は遠慮願いたいのだ。遭遇しないのが一番である。そのため、閲覧室ではなく指定の部屋で読書をしたい。

 

 台車を押すのも重い本の山。持ち上げて階段を登るのは不可能である。

 持てるだけの冊数に止めるくらいなら閲覧室で読んだ方が早い。それをしたくないから本を吟味することなく、ティトゥスにリストを出してもらったのだ。

 しかし、どう頑張っても登れそうにない。悩んでも考えても無理なものは無理なのだと実感する。誰かに頼むしかない。誰に頼むのかが問題だ。

 

 ナザリックはとても広い反面人員は少なく、現在は午前も早い時間なので誰もかれもお仕事中だ。最古図書館まで訪れる者は非常に少ない。

 図書館を回ってる間にちらほらと数名のメイドを見かけたが、彼女たち全員の協力を得ても一度では運べそうにない。ホムンクルスである彼女たちは、普通の人間よりもちょっぴり力持ちであるが、あくまでちょっぴりである。自分の体重の云倍は無理である。

 それとも忙しそうな司書の手を借りるか。お骨である彼らもしくは彼女らはスケルトン・メイジであるティトゥスと違って、アインズ様と同じ種族であるオーバーロードであるらしい。重い荷物を運ぶくらいお手の物だろう。

 

「お困りのようですね。私がお手伝いいたしましょうか?」

 

 ティトゥスに誰かを貸してもらおうかと考えていたところに、声が掛かった。優しくありながら軽やかに聞こえる声は、階段を仰ぎ見る男が面白かったのか。

 男が振り返れば、一人のメイドが上品に口元を手で隠し、目だけで柔らかく笑っていた。知的で上品な上におっぱいがとても大きく、更には親しみも感じさせる完璧なメイドである。ナザリックのメイドはおっぱいが大きい者ばかりだが、ここまで大きいメイドはただ一人。

 意外な場所での邂逅に男は軽く驚き、すぐに心からの笑みを浮かべた。

 

「ユリさん、こちらにいらしていたのですね。ぜひお願いします」

「かしこまりました。私も時にはナザリックに戻っているんです。相談役殿がいらっしゃるのは不定期ですから、こうしてタイミングが合うのは初めてでしたね」

 

 ユリはとっても力持ち。メイドの体重の云倍は軽くある台車を軽々と持ち上げ、危うげなく階段を登り始めた。

 

「相談役殿は先の事を考えて行動した方が良かったですね」

「仰る通りです。本当に助かりました」

「せめて手で持てるだけにすれば良かったのではないでしょうか? こんなにもたくさんの本を借りては、読み切るのに相当の時間が掛かると思いますよ?」

 

 台車の重さを抜きにしても、やはりメイドの体重の云倍はある。冊数は三桁を超えていた。

 

「読み切れなかったら再度借ります。ですが、読むだけなら問題ないでしょう。理解が追い付かない部分があるでしょうが、あとで追い付かせるだけですから」

「そ、そうですか……」

 

 ユリは本の山から話題を逸らすことにした。読書は嫌いではないが、これに付き合わされたらと思うと嫌な汗が湧いてくる。

 

 他愛ない話をしながら階段を登り終え、ユリは台車を床に下した。ここからは手伝わなくても大丈夫だろうが、折角なので目的地まで付き合うことにする。話したいことも残っている。

 

「あれから少し時間が経っています。完成しているとは思いませんが、どのようなものにするかくらいは決まったのではないでしょうか?」

「何のことです?」

「……まさかお忘れではないですよね? 相談役殿がはっきりと約束してくださったことです」

「…………ああ。勿論忘れてはおりませんよ。幾つか試作しましたので、基本は押さえたと判断しています。デザインも完成させました。ですが、それではいけないと強く制止されてしまいまして」

「待って! こっちに!」

 

 突然、ユリは男の袖を引いて手近な部屋に飛び込んだ。廊下に敷かれたふかふかの絨毯が幸いして、台車がガラガラと鳴る事はなかった。

 入った部屋は、利用者がいないゲストルームの一つである。利用者がいなくとも、メイドたちが完璧に管理している。

 ユリは台車を部屋の奥に押しやると、ドアを少しだけ開いて聞き耳を立てた。

 

「ユリさん? 何かあったのですか?」

「しっ! ちょっと静かにしてて!」

 

 ユリはスキルによって気配を探知することが出来る。男が気付かなかった何かに気付いたようだ。

 ややあって、気配の正体がドアの向こうに現れた。

 

(うーー、見つからないでありんす! さっきまで図書館にいたのは確かでありんしょうから近くにいるはずでありんすのに)

 

 現れたのは、男が見つかりたくないと思っていたうちの一人。シャルティアであった。

 尋ね人が見つからないらしく、ご機嫌斜めであるようだ。

 

(アルベドに話は通しんしたから文句は言わせんせん。お兄ちゃんが私に文句なんて言うわけないでありんすけどー)

 

 シャルティアが探しているのはお兄ちゃんであるらしい。シャルティアがお兄ちゃんと呼ぶのは一人である。ユリは、思わず尋ねられ人と顔を合わせた。複雑に苦笑していた。

 

「シャルティア様がお探しなのは私のようですね」

 

 見つかると時間を取られるので避けたいと思っていたが、あちらから探されては仕方ない。アルベドの名が出たことも気になる。出て行くしかないだろうとドアに手を掛け、ユリに肩を掴まれた。

 

(ユリも来てるらしいでありんすね。私のオフにお兄ちゃんとユリがいるのは初めてでありんす。これはお兄ちゃんと一緒にユリをあへあへのトロトロのねちょねちょのぬぷぬぷにしろというお告げに違いありんせん! ここは神託に従うべきでありんしょう! くっふっふ……、きーっひっひっ!!)

 

 吸血鬼の悍ましい笑い声が、ユリの背筋を冷たく撫でた。

 

 淫吸血鬼として全ナザリックに知られるシャルティアは、様々な性的嗜好を持つ。中でも特に強い性質が、レズビアン、ネクロフィリア、そしてオッパイスキーである。

 おっぱいデュラハンであるユリは、不幸にも全ての条件を満たしていた。ユリはシャルティアの好みのドストライクなのだ。

 

 ユリは男女一通りのことを経験済みである。お口も前も後ろも使われ、初体験は妹が目の前にいた。先日はどうしてそうなったかよくわからないが、協力プレイをすることになった。自分の手や口に色々なところがアルベドやナーベラルに触れてしまった。逆もまた然りである。

 しかし、同性愛の気はない。同性を責めることに抵抗があれば、同性に責められる事にも強く抵抗を感じる。だからこそシャルティアの行動には注意を払い、迂闊に二人きりにならないようにしてきた。

 今ここでシャルティアに見つかったら、きっと取り返しがつかない事が起こる。絶対に見つかってはならない。

 

(うーーーん? どうしてこのドアは開けっ放しでありんすか?)

 

 第九階層の部屋はメイドたちが完璧に管理している。僅かな隙間であろうとも、ドアが開いているのはとても目を引いてしまうのだ。

 

「こっちに来る! 隠れて!」

「え、いや、ちょっと!」

 

 直後、部屋のドアが大きく開かれる。

 シャルティアが見たものは、台車に乗った本の山だけだった。

 中には誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

「本、でありんすね。どうしてこんなところにある? 置き忘れか?」

 

 部屋に踏み入るシャルティアに、二人は固唾を飲んだ。

 

(私は隠れなくても良かったのではないでしょうか?)

(咄嗟に体が動いちゃったんだよ!)

 

 二人はクローゼットの中にいた。

 クローゼットの扉はルーバータイプである。ルーバーとは細長い羽板を隙間を空けて平行に並べたものだ。通気性が良く、お洒落度も高い。隙間があっても、羽板は傾けて取り付けてあるので見えるのは近くの床ばかりである。

 但し、物音は良く聞こえる。二人の耳に、シャルティアが室内を歩く音が届いた。

 

「こんなに本を借りるのはお兄ちゃんくらいでありんしょうが……、ここはお兄ちゃんの部屋じゃないでありんすぇ。間違ったんでありんしょうか?」

 

 二人は隠れても、台車を隠す余裕はなかった。

 誰も使ってない部屋に本の山があれば、どうしてそんなものがあるのか気になるのは当然である。

 

(声を出すんじゃないぞ? もしもわざと見つかったりしたら本当に怒るからな!)

(しませんよ。それよりもう少し離れて頂けますか?)

(狭いんだから仕方ないだろ!)

 

 クローゼットの内部はとても広い。ナザリック第九階層ロイヤルスイートのゲストルームなのだから当然だ。コキュートスが寝そべる事も出来る。

 しかし内部で仕切られていた。二人が隠れたのは、仕切られた内の狭い方であった。男が両手を伸ばせば左右の壁に届く広さである。大人二人が隠れる余裕はあっても、全く触れ合わずにいるのは難しい。

 

(言っておくけど、絶対に変な気を起こさないでおくれよね。君ってすぐに変な事やろうとするから)

 

 ユリ的には至極真っ当な忠告である。この男からは実に様々な事をされてきた。それがこんな狭いところで二人きりになれば、懸念を持って然るべきである。

 だと言うのに、男は鼻で笑った。

 

(ふっ、問題ありませんよ。ユリさんこそおかしな気を起こさないでくださいね)

 

 淫魔淫獣と指差される男であるが、本人はそれほど性欲が強いとは思っていない。直接的に色々されたら反応するのは仕方ないにせよ、ナーベラルの生乳を揉んでも立たせなかった実績がある。狭いところでユリと二人きりになった程度で興奮したりしないのだ。昨夜アルベドとたっぷりしていたのもある。

 余裕の態度でユリの懸念を拭ったつもりだったが、ユリには全く伝わっていなかった。

 

(は?)

 

 ユリの声は、とても硬質だった。

 それではまるで、お前では立たないと言われたも同然である。今まであんなに色々な事をしてさせて来たのに、一体どういうつもりなのか。

 ここはおっぱいを押し付けて本当にその気にならないか試すべきではないか、と思ったところで理性が働いた。

 今はシャルティアから隠れることが優先である。

 

「ギャーーーーーーーーッ!!!!」

((!?!?))

 

 突如、シャルティアの悲鳴が響き渡った。

 

 シャルティアから隠れていても、シャルティアの身に大変な事が起こったのであれば見捨てることなど出来はしない。

 男の方はシャルティアの自助努力に任せる判断をするかも知れないが、カルマが善であるユリにそんな事は出来ない。

 反射的にクローゼットのドアを開けようとして、

 

「字がちっちゃいいいぃい! 数字に記号がいっぱいあるぅううう! 何だこの本は! どうしてこんなものが存在している!!」

 

 続く叫びに思い留まった。

 

 男が借りた本は、様々な分野の入門書から専門書まで多数ある。シャルティアは専門書のどれかを開いてしまったらしい。どうやらとても難しい本のようだ。

 

「ぐぅうう……、魔導書の類でありんしょうか!? これはアインズ様にお願いして封印してもらうしかないでありんす!」

 

 シャルティアがいつものようにおバカな事を言いだした。

 折角借りた本を封印されては堪らないと、今度は男がクローゼットのドアを開けようとして、

 

「って、魔導書のわけないでありんすね。…………今の叫びを誰も聞いてないだろうな? 聞かれていたら口を封じる必要がありんす……」

 

 男も思い留まった。

 

 叫んだのはシャルティアの小芝居だったらしい。本人なりに出来はいまいちだったようで、物騒な事を言いだした。

 隠れていた二人はますます出ていけなくなった。

 

「うー……。頭がくらくらするでありんす。ここで少し休んで行きんしょう」

 

 柔らかく乾いた音が響く。シャルティアはソファに身を投げたようだ。

 

(……シャルティア様はいつまでここにいらっしゃるおつもりでしょうか? いえそれよりも、いつまで隠れているつもりですか?)

(そんなのボクに聞かないでよ。シャルティア様がいらっしゃる間は出て行けないだろ?)

(私は構いませんが?)

(ボクが構うんだよ)

 

 男はさっさとクローゼットから出たかった。

 シャルティアが物騒な事を言っていたが、いつもの事である。少々要求が厳しくなるだけだ。いずれにせよシャルティアはアルベドの名を挙げていたため、ずっと避け続けるわけにはいかない。読書時間は睡眠時間をあてるとして、さっさとシャルティアからの要件をこなした方が良さそうだ。

 減った睡眠時間はポーションや回復魔法で何とかすればよい。

 

 けども、ユリは見つかりたくなかった。

 シャルティアから口封じを受けたくない。あへあへのトロトロのねちょねちょのぬぷぬぷなんて以ての外だ。シャルティアとはそのような行為を含まない友好的な関係でいたい。

 

 ここに、二人の利益が相反してしまった。

 クローゼットの中は緊迫しつつあったが、外は呑気なものである。

 

「ふーん。これは図鑑でありんすね。こーいうのだったら私にもちゃーんと読めんす。……ほむほむ、クズ石だと思っていんしたが、こー見ると結構綺麗なもんでありんすねぇ。今度おっきいのを磨かせてみたら面白いかも知れんせん」

 

 多数の本には図鑑が幾冊も含まれている。

 ソファに寝転がったシャルティアは、気晴らしに柄にもなく読書を始めてしまったらしい。図鑑なら解説文より絵や写真の占める割合が多く、シャルティアでも読み進めることが出来るようだ。

 シャルティアがいつまでこの部屋にいるのか、本格的にわからなくなってきた。

 

(ユリさん、申し訳ないのですが、時間を無駄にしたくありません。一緒にシャルティア様のご用件をお聞きしましょう)

(何言ってるんだよ! されるのはボクなんだぞ! そんなのダメに決まってるだろ!?)

(そう仰られても、困るのはユリさんであって私ではありませんから)

(なんてこと言うんだ!)

 

 ユリの脳裏に初体験の記憶が蘇る。

 あの時のこの男は、後で酷いぞと脅すユリに対し、後で起こる事をどうして今恐れるのか、と真正面から打ち返してきた。打ち返されたユリは、膝をついて場外ホームランを見送ることしか出来なかった。

 このままではあの時より酷い事になってしまう。何とかして男を引き留めなければならない。

 ユリは、覚悟を決めた。

 

(ユリさん? どうしました? それとも本当におかしな気でも起こしましたか?)

(そんなわけないだろ! そんなわけない、けど……)

 

 半歩詰めた。

 クローゼットの中だ。半歩も動けば密着する。

 

(責任とるって言ったよね?)

 

 男の胸に顔を埋め、か細い声を絞り出した。

 

(確かに言いました。ですが先ほど申し上げたように、指輪はまだデザインが)

(そっちじゃなくて)

(でしたらどちらでしょう?)

 

 責任を取ってユリと結婚することになっている。

 責任がどうして結婚に結びつくのか未だに疑問な男だが、そういうものなのだと受け入れることにした。ユリにもその件を話してあるし、アインズとアルベドに話を通したことも報告済みである。

 そして何故か婚約指輪を作る事になったが、デザイン段階で待ったが掛けられた。それも話したばかりだ。

 それらを全て飛ばしてすぐに結婚は、アインズから熟慮せよと言われたため不可能。

 現状で出来る事は何もない。

 

(ユリさんと結婚することを忘れたわけではありませんよ? 私から孤児院に訪問することは止められてしまいましたが、ユリさんが屋敷を訪れるのはいつだって歓迎します。ソリュシャンとルプスレギナも喜ぶことでしょう)

(……だからそっちじゃなくて)

 

 ジャケットを掴む手に力が入った。伏せた顔は真っ赤である。

 クローゼットの中は光が少なく、暗視のスキルがない限りはっきりとは見えないだろうが、見せられない顔になっている。

 そんな顔をしてでも言わなければならない事があった。

 

(君が、さ。責任って与えられた役割とか任務って言ったよね?)

(言いました。私がそう言ったのは、確か……)

(だからそう言う事だよ!)

(どういう事なのでしょう?)

(だから……)

 

 男は、ユリに責任の辞書的な意味を話した時の事を思い出した。どんな文脈で話したかも覚えている。

 しかし、ユリがそれを言い出すだろうか。いや、言い出しても不思議ではない。ならばユリの気持ちを察してこちらから行動に移るべし、とまでは思えない。言葉通りに行動したのに、体の真ん中あたりが破裂する羽目になった。

 下手な忖度は身を滅ぼす。ここはユリの言葉を待つべきである。

 

(だから……)

 

 ユリは中々続けられない。

 言い淀んでいる内にシャルティアが出て行ってくれることを祈るも、ふんふふふん♪と鼻唄が聞こえてきた。とてもリラックスして、本格的に読書を始めてしまったようだ。

 

 シャルティアに期待するのは無理らしい。

 彼に言わせようと思って体を摺り寄せ、あの時の事を匂わせても言ってくれない。

 自分で言うしかなかった。

 

(ボクが……、せ…………セックス、したくなったら。相手をするって言っただろ……)

 

 途切れ途切れに言い切った。

 言われた男はユリを抱きしめはしなかった。代わりに首を傾げる。

 

(それでしたら、ここを出てシャルティア様のご用件を聞くのが早いのでは?)

(そうするとボクが後回しになっちゃうだろ。ボクが先にして欲しいの。先って、その触ったりとかじゃなくて、だから、あの……。入れて欲しくて……)

(うーむぅ……)

 

 男は唸ってしまった。

 ユリと一緒にクローゼットから出れば、シャルティアを交えて色々あるだろう。その際、シャルティアと一緒にユリを責めるのは間違いない。けども、先に入れたがるのはシャルティアだ。ユリはそれを阻めない。

 しかし、ユリの言葉が方便なのは気が付いた。

 頭がいいバカとか空気が読めないとか無神経だとか様々な悪評を叩きつけられてきたが、文脈は読める。ユリがセックスしたいと言い出したのは、シャルティアに捕まりたくないからだろう。

 ユリの言葉には乗っても乗らなくても構わない。

 

(あっ)

 

 柔らかな体を抱きしめ、顎に指を掛けた。

 顔を上げさせれば、眼鏡の向こうで目が潤んでいる。

 

(ユリさんが声を抑えられなくても責任は取れませんよ?)

(だっ、だいじょうぶ! 我慢、するから)

(そうも仰るのでしたら)

(あっ……んっ…………)

 

 腰に回った手が下がり、スカートの上から尻を撫でた。

 

 

 

 ユリの言葉には乗っても乗らなくてもよい。

 しかし、そこまで言わせたのを無下にしたら、ソリュシャンを筆頭に多方面から怒られるのは確実だ。

 方便であろうと、したいと言ったのはユリである。

 言われたからには、責任を取る義務があった。

*1
1から2000の集合の部分集合の和で、5の倍数となるのは幾つあるか?

*2
部分集合の個数は集合に幾つの要素があるかによって変わる。この場合、要素は1から2000。部分集合は任意の数字を含めるか含めないかの選択を要素の数だけ行う。全て含めない時が空集合。すなわち、部分集合の個数は2^2000となる

*3
一秒間に10億回計算したとして10^585年以上掛かる。一兆年の10^573倍である

*4
フィルターには複素平面を使う。なお、答えは「(2^2000-4・2^400)/5」となる




現在youtubeでファンタスティック・プラネットが期間限定公開してます
あと一週間は公開されてるようです
ずっと見たいと思ってたのです

50年前のとてもシュールなフランスアニメ映画
物好きな方はどうぞ


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お姉さんと秘密のクローゼット ▽ユリ♯5

色々あって遅れました
本話15k


『ふんふふんふふー♪ あっ! これは第四階層で見たことがありんす!』

 

 シャルティアの鼻歌はアップテンポ。とても上機嫌に読書を続けている。

 これまで恐ろしい苦行と思っていた読書が、意外や意外にも楽しく出来ている。新たな知識を得ることが面白ければ、苦手を克服した達成感も心地よい。機嫌もよくなろうと云うものである。

 ちなみに、読んでいるのは鉱物図鑑。様々な鉱石がフルカラーの大きな写真でいっぱい載ってる。見てるだけで楽しいやつだ。

 

 そんなシャルティアのすぐ傍である。

 

「んっ! ……急にされたら驚くだろ。声我慢してるんだから、君だって協力してよ」

「仰せの通りに」

「君、面白がってるだろ?」

「とんでもないことでございます」

「どうだか」

 

 ソファに寝そべるシャルティアから離れること8メートル。クローゼットの中では、二人の男女が体を寄せ合っていた。距離を取ろうにも、狭いクローゼット内ではどちらかが半歩動くだけで密着してしまう。外に出られない以上、互いの体が触れ合うのは必然だ。

 ましてや、女の方から求めている。けっしてそのつもりでいたわけではないが、そうしないと男を引き留められない。外に出られたらシャルティアに見つかってしまう。

 外に出られなくても、声や音でシャルティアに気付かれたら本末転倒だ。もしもあれな声で見つかったら、普通に見つかるよりずっと酷い事になる。まさに背水の陣。

 

「次にすることをちゃんとお話ししますよ。このままユリさんの尻を揉みながら唇を頂きます」

 

 間近に迫る異色虹彩を、ユリは負けじと睨み返した。体が痺れて頭の奥に熱が生まれた。

 飲まれては不味いと心を強くする。

 

「んっ、ちゅっ……。いやらしいこと言うなよ」

「驚かせないように気を配っていると言って欲しいですね。ユリさんはキスに応えてください。それとも吸い出して欲しいですか?」

「だからいやらしいこと言うなって」

「突然されるよりいいでしょう?」

「うぅ……。ボクも、舌を入れるから……。ちゅっ、れろ……」

 

 クローゼットの外が気に掛かる。聞こえるのは楽しそうな鼻唄と、ページをめくる音。ひとまずは大丈夫そうだと判断して、キスに応えた。

 最初のキスは、向こうの舌が強引に入って来た。口内をぬらりと舐められ、舌に触れると帰ってしまった。

 今度はユリからも舌を差し入れる。柔らかな舌は唾液をまとって温かくぬめつき、触れるだけでおかしな気分になってくる。

 

「ユリさんの胸も触りますよ」

 

 触ってくると思ったら、ブラウスのボタンを外し始めた。片手で器用に、だけどもゆっくりと。下から一つずつ外されていく。隙間から外気が入り肌を舐めた。

 

「いいけど……、脱がさないで。脱いでも置く場所がないし、下に落としたら踏んじゃうし」

 

 幸か不幸か、ユリのメイド服は胸部で生地が切り替わる。胸の部分はブラウスが表にでて、その下はブラジャーだ。代わりに、全部脱ぐには先にエプロンドレスを脱ぐ必要がある。

 

「はだけるだけですよ。ユリさんの魅力的な部分を愛さないのは大変失礼ですから」

「変な事いうなよぉ……」

「ユリさんはご自分の魅力をご存知でないのですか?」

「……おっぱいが大きいとか言うじゃないだろうね?」

「おっぱいも、ですよ」

「あっ」

 

 外せるボタンを全て外され、ブラウスの前を開かれた。丸く盛り上がった乳房は薄いグリーンのブラジャーに包まれている。花柄の模様が可愛らしい。

 

「さすがはユリさん。見えない部分もお洒落です。それとも私に見せるつもりでしたか?」

「そっ、そんなわけないだろう……」

「それは良かった」

「は?」

 

 ユリの声はちょっぴり低い。

 見せるつもり云々以前に、ナザリックで鉢合わせるとも思っていなかった。図書館で会ったのは本当に偶然だ。下着がお洒落なのは誰かに見せることを意識したわけではなく、見えないところにまで気を配るのが当然だからだ。お洒落をすると色々と気合が入る効果もある。

 しかし、見せるつもりではなかったのを良かったと言うのはどういうことであろうか。

 見たくなかったのか、それとも彼以外の誰かに見せるつもりだとでも思われたのか。発言の真意はわからずとも、肯定的な意見ではないのはわかる。

 そんな事を言われると、乙女心的な何かが荒ぶってくる。

 

「すぐに脱がしてしまいますから」

「へ?」

 

 ブラジャーの下に指を差し込まれた。

 

「ひゃっ!?」

 

 直後にずり上げられる。ルプスレギナが称えるスイカップがぶるんとこぼれ出た。

 

 

 

 

 

 

 僅かな身動きでもたゆんと揺れるユリおっぱいを支配すべく男の手が近付いていく。

 手の平を広げて下乳を包むように、けども触れるまではいかなかった。ユリと男に髪の毛一筋ほどの距離もなく、手指の熱がユリに伝わる。広げた手は乳房の輪郭をなぞるように動き、柔肌には触れようとしない。ユリが焦れて胸を突き出しても、進んだ距離だけ引いてしまう。

 

「ユリさんを驚かせないように注意してるんですよ? 次にすることをちゃんと宣告しますからそんなに焦らないでください」

「別に、焦ってなんかないよ」

 

 ユリの声は少しだけ上擦った。頬を赤くしたユリが目を逸らすと、耳に男の唇がすっと近付く。耳朶に生暖かい吐息が掛かる距離で囁かれた。

 

「これからユリさんのおっぱいをじっくり揉ませていただきますよ。乳首もちゃんと弄りますから安心してください。出来れば口に含みたいところですが、ここでは少々手狭ですね。それは前回たっぷりしましたから今回は我慢しましょう」

「う……」

 

 突然されると驚くかもしれないが、前もって言われていたら覚悟できる。そう思えていたのに、実際に宣告されると途轍もなく恥ずかしい。何をされるか分かった上で、全部受け入れると言っているのと同じなのだ。

 色々な事をしてきてしまったし、それらを気持ちよい事だとわからされている。だけども、自分からねだるのははしたない。

 もっと雰囲気がある場面でその時の流れに身を任せて自然とそうなるのなら歓迎するが、シャルティアから隠れて逃げ込んだクローゼットの中は、雰囲気があるどころか、どこをどう間違ってもそのような事をする場所ではない。

 そんなところでそんな事をおねだりするのは、控えめに言って好色とか多淫と呼ばれる存在だ。自分はそこまでのつもりはないのに、そうである事を余儀なくされている。

 

「おや? 乳首が立ってきましたよ? ご自分でわかりますか? 触ってもないのにユリさんは乳首を立たせてるんです。目が慣れてきましたので、乳首の色が変わってきたのがわかります」

「いっ……、いうなよぉ……。ボクのおっぱい、触るんだろ?」

「ええ、もちろん。優しくして欲しいですか? それとも激しい方がいいですか?」

「……やさしくでお願い」

「わかりました」

「んっ」

 

 炙られるようだった乳房に、男の熱が直に伝わってきた。宣言通りの優しい触り方。但し、触れているのは肌の部分だけ。確かに触っているけれど、乳肉は揺れもしないし、指が埋まる事もない。それでいて両手の五指全てが乳房に触れて、縦横に動いている。

 手指の熱に誘き出され、体の奥から何かが引きずり出されている。

 

「うぅ……」

「なにか?」

 

 恨めしい目つきで睨んでも、男の顔は涼しいもの。

 壁に背を預けたユリは、進むことが出来ない。されるなら受け入れても、自分から求めるのは非常に危うかった。

 もしも今までのように夢中になってしまえば、理性が働かくなって声を出してしまうかも知れない。そうしたらシャルティアに見つかってしまう。それだけは絶対に避けなければならない。

 

「優しくして欲しいと言ったのに、ユリさんは随分と物足りなそうですね?」

「物足りないのは君だろ?」

「実はそうなんです。お許しいただけるなら自由に揉みたいのですがよろしいでしょうか?」

「……いいよ」

「それでは驚いて声を出さないでくださいね? 自分で口を押えるのと、キスをするのと、どっちがいいですか?」

「ちゅっ……」

 

 ユリは答えず、軽く踵を浮かせてキスをした。それだけでは何かの拍子で離れてしまうかも知れないので、男の首筋に腕を回す。抱きしめて唇を押し付けて、開いた口から舌を伸ばした。

 

「んんっ♡」

 

 張り詰め過ぎて痛いほどだった乳首を、きゅっと抓られた。

 痛みが一瞬だけ走り、すぐに解放されて柔らかな温かさと痺れるような快感が広がってくる。

 大きな手の平は乳房を掴み、指が乳肉に埋まりながら揉みしだいているのを感じられた。

 

「んぅ……、れろれろ……じゅぷ、ちゅぅぅ……。ぷはっ……」

 

 唇が離れると、唾液の糸がしばし繋いだ。

 突然何かをされて驚かされたり、執拗に責められて耐えられなくなったりしない限り、愛撫されていても我慢できる。まだ胸を触られているだけなのだから、それで乱れきってしまえば淫乱そのもの。

 ユリは、自分では淫乱ではないと自認しているのだ。けっして次を求めているわけではないと、誰にともなく主張する。

 

「君のが……大きくなってるだろ」

 

 上半身は胸を触るために離れていても、下半身は密着している。男の方から押し付けている。ユリは下腹に男を感じていた。大きくなってきたらどうして欲しいかを知っている。

 

「ユリさんがしてくれるんですね。どうやって?」

「どうやって、って……。その、手で?」

 

 口や胸では場所的に難しい。手しかないわけだが、口にすると頬も体も熱を持ってくる。

 

「手で? 私が驚いて声を出さないように、具体的に教えてくれませんか?」

「くっ……。君ってやつは……!」

 

 男のいやらしい笑みを見なくても、言わせたいのだとわかっている。こちらを辱めたいのだ。しかし口惜しい事に、拒否する選択肢はなかった。

 せめて顔を背けようとしても、さっきと同じように耳を責められるかも知れない。

 ユリは辱めに負けないよう心を強くして、男を睨みつけた。

 

「君の、お……おちんちんを……」

「私のちんこを? 私のちんこがどうなってますか?」

「お、大きく、してるだろ? だから、手で扱いてあげて」

「はぁ……。ユリさんはアルベド様のお言葉をお忘れなのですか?」

「えっ?」

 

 恥ずかしい事を言わされているのに、呆れたようなため息。ユリがむっと不快を露わにするより先に、アルベドの名を上げられた。

 ユリはアルベドから様々な言葉を賜ってきた。その中で、このような時に適用される言葉は多くない。

 

「漠然としてはいけない。心を込めて尽くすように。アルベド様はユリさんにそう仰せであったのをお忘れですか?」

「あっ」

 

 ユリとナーベラルがアルベドの指導の下で男の胸の痛みを癒した時のこと。偉大なるアルベド様は、更に続けて仰られた。

 

『彼に飽きられて同情や憐れみで抱かれるようになっちゃうわよ?』

 

 男を囲む環境から、非常に説得力があるお言葉であった。ユリもナーベラルも激しく納得させられた。

 アルベド様のお言葉を今この時にこそ、正しく体現しなければならない。

 

 あの夜と違って、今はユリ一人だけ。しかも行為に夢中になってはいけない。全てを理性で制御する必要がある。自分がしている事を客観的に見なければならない。それは淫らな言葉と行為の全てを、自分の心で受け止めるのと同じである。快感に溺れることが出来ない以上、感じる羞恥は生中なものではなかった。

 恥ずかしさの余り、目に涙が浮かんできた。

 

「それとも? ユリさんにそのおつもりがないのでしたら」

「待って!」

 

 男は策が成ったのを確信した。

 アルベド様は、「心を込めて奉仕しないと飽きられる」などと仰せであったが、そんな事はないと断言できる。中でもユリは、アルベド様の影を踏めるおっぱいを持っている。飽きるわけがない。揉んでるだけでとても楽しい。

 それでもあえてアルベド様のお言葉を引用したのは、ユリに積極的になって欲しいからだ。しかし、積極的になりすぎるとシャルティアに気付かれる。そのせめぎ合いが見たい。

 初めておっぱいを揉んだ時のユリは、大いに恥じらって快感に耐える健気さを見せてくれた。ところが初体験を終えてからはとても積極的になり、デュラハンしか出来ない行為を披露してくれたこともあった。

 それはそれでとても良いのだが、恥じらってるところも見たいのだ。初心忘るべからずである。

 

「幾らでもお待ちします。と言いたいところですが、私を待っている方は他にいらっしゃるようです。お早くお願いできますか?」

「うぅ……、わかってるよ」

 

 赤い顔で男を見つめるユリは、真剣勝負に臨むサムライマスターのようであった。

 

「君に気持ちよくなって欲しいの。ここだと口じゃ出来ないから、ボクの手で……。君のおちんちんを握って、しゅっしゅって扱いて、気持ちよくなってもらって、それで……」

「それで?」

「ボクの……」

 

 クローゼットの外を気にして、男の顔を見ながらこれ以上口にするのは無理だった。

 ユリは言葉を区切って顔を俯け、乳首の先端を擦られ「ひゃうっ」と顔を上げた。

 

「おまんこに、入れて欲しいの……。…………ダメ?」

 

 潤んだ目で男を見つめ、憐れみを感じさせる声と顔で訴えた。

 それでいて、ズボンの上から男の股間にそっと触れる。両手を添わせて優しく上下にさすり、ジッパーを下ろした。音を立てないよう、焦れったいほどにゆっくりと。

 

「ダメなわけがありませんよ」

 

 さすがはユリである。涙目の上目遣いで股間が窮屈になってしまった。優しい愛撫もとても気持ちよい。是非にも応えなければならない。

 次に至るため、一つ手伝ってもらうことがあった。

 

「ユリさんに扱いてもらう間に、私もユリさんの準備を手伝いますよ。おまんこをほぐさないと入りにくいでしょう? ですから、スカートを捲ってください」

「……うん」

 

 ナザリックのメイド服はデザインが統一されている。しかしスカート丈はそれそれで、シクススのスカートは足首まであり、フィースはそれから手の平一つ分短く、一番短い類のフォアイルは膝上だ。

 それが戦闘メイド『プレアデス』となるとデザインが個々で大きく異なり、一番短いソリュシャンはマイクロミニ。段差が大きい階段を登ればパンツが見える。一見ロングに見えるルプスレギナは深いスリットが入っているため、階段を登らなくてもパンツが見える。

 ではユリはどうか。プレアデスだけでなくメイドたち全員の長女でもあるユリのスカートはフロア丈。スカートが床まで届くという意味だ。靴すら見えない超ロングである。

 

 ユリはその場で屈むとスカートの縁を両手で摘まみ、ゆっくりと上に持ち上げた。丈が長いので途中で摘まむ位置を変え、尚も上げる。

 豊満な肉体に相応しいむっちりとした脚は黒いストッキングに包まれている。二歩離れて鑑賞すれば脛が見え、膝が見えただろう。密着している男からは、ユリの大きなおっぱいに阻まれて何も見えない。ユリレベルになると、足元が見えないのだ。

 

「これで、いい?」

「ええ。ありがとうございます」

「んっ」

 

 乳房をこねていた手が、ユリの太ももの間に差し込まれた。

 手指が触れたストッキングはすぐに途切れ、すべすべの柔肌に変わった。ユリが着けているのはガーターストッキングらしい。太ももをさすれば、ストッキングを吊るすサスペンダーがあった。今回はそちらに用はなく、手は股の間を上がっていく。

 

「スカートを下ろしても構いませんよ。ユリさんは私のちんこを扱いてください」

「うっ、うん……」

 

 ユリの声は上擦っている。先ほどは上擦った声が出たことを恥ずかしく思ったが、今度はそれくらいで恥ずかしがっていられない。自分の声を意識する余裕もなかった。

 

「んっ……、んぅ……。おちんちん、出すね……」

 

 ユリの手は震えていた。おぼつかない手つきで男の股間をまさぐり、苦戦しつつも道を見つければ、解放された逸物が飛び出てくる。

 熱く固くなっている。ユリからもおっぱいが邪魔をして下を見ることが出来ないが、逞しくそそり立っているのがわかった。左手で先端を包みながら軽く揉み、右手は竿部を握って前後に扱く。

 その間ずっと、股間をまさぐられていた。

 

 スカートの内側に入って来た男の手は、ユリに触れていた。

 下着の上からとは言え、下から上ってきた手は始めから秘部に触れた。女の体で一番柔らかく一番大切な淫らな場所。ショーツの生地は極上で手触りはとても滑らか。それが包むユリの陰唇はふにふにと頼りないほど柔らかく、官能的だ。

 男は三本の指を揃えてユリに押し当て、全体を揉むように大きめの円を描く。円運動が前後に変わると、真ん中の中指が少しだけ沈んだ。

 

「指が湿ってきたのを感じます。ユリさんの愛液が下着に滲んできたようですね」

「っ……。君も、おちんちんがピクピクしてるよ? ボクの手で、気持ちよくなってる?」

「物足りなくもありますが、こんな場所ですからね。ユリさんの手はとてもいいです。ユリさんは如何ですか?」

「それは……」

 

 濡れてきてるんだからわかってるだろ、と言いかけて考え直した。

 心を込めなければならないのだから、正直に答えるべきだ。それに曖昧な事を言って激しくされてしまったら声を出してしまうかも知れない。恥ずかしくても言うべきだ。

 

「うん……。気持ちいいよ。君にお、お……、おまんこ触られて、濡れちゃって、気持ちよくなってる。君がおちんちんおっきくしてくれるのも嬉しいよ」

 

 きゅっと下唇を噛んでから言い切った。

 目は逸らせない。赤と青の目で縫い留められた。

 

「わかってます。ユリさんは良くなるとクリトリスを勃起させますから」

「なっ、あむぅ……んっ……、んひゅうっ!? んん……」

 

 ユリのクリトリスは平均より大分大きく、勃起すると包皮がひとりでに剥けて下着の上からわかるほど膨らんでくる。

 ユリとしては、コンプレックスとまではいかなくとも恥ずかしい事だと思っている。淫らに感じる器官が人一倍と言われているようなものなのだ。こんな事になる度に指摘されて辱められる。

 恥ずかしさで思わず大きな声を上げてしまいそうになったところを、口で塞がれた。

 強く押し付けられて声もろとも押さえつけられ、その隙にきゅっと抓られた。普段は割れ目の奥に隠れ、更に包皮に守られているとても敏感な部分だ。下着の上からでも刺激はとても強く、塞がれていなければ間違いなくクローゼットの外に届かせていた。

 

「ユリさんのクリトリスは大きさ相応に敏感ですから、前もって宣言しても声が出ちゃったかもしれませんね」

「だ、だってぇ……。ピリッとしちゃって、あんなの、もう……」

「わかりますか? 今は撫でてるだけですよ。これだけでも感じてくれてるようで、愛液が増えていますね。下着の外にまで染み出ています」

「はずかしいから……。あんまりいわないで……」

「きちんと報告しないと、予想外の事で驚いてしまうかも知れないでしょう?」

 

 いっつも報告が出来ていないのはこの男の方である。

 

「このままクリトリスを触りながら、ユリさんのお尻を触ります。肛門にまで指が届くでしょうが、挿入まではできませんね」

「そっちはいいからぁ……。んっ……」

 

 乳房を揉んでいた左手もスカートの中に。尻肉をさわさわと撫でてから、むにっと掴んだ。

 性器を愛撫されるのに比べたら、尻を揉まれる刺激は強くない。しかし、男の指は長かった。指先がショーツの内側に潜ったと思ったら、尻の割れ目にまで入って来た。宣言通りに、後ろの穴に触れてきた。

 

「手が止まっていますよ」

「あぁ……、だってぇ……。おねがい、やさしくして……」

「わかっています。それと……」

 

 ユリは頷き、男のシャツのボタンを外し始めた。上に着るジャケットのボタンは、逸物を取り出すときに外している。

 全てのボタンを外すと、シャツの前を開いた。細身ながらも引き締まった胸板が露わになる。ユリの視界に入った時間は短く、僅かな距離を男が詰めた。

 ユリの豊満な乳房は、男の胸板に押し付けられ、むにゅんと潰れた。

 

「うぅ……、はぁ、はぁ……。んっ、あっうぅ……」

「上からは十分ですね。指を入れますよ」

「入れるのは、ゆっくりして。敏感になっちゃってるから……。んぅっ……」

 

 ユリは頻繁に唇を噛む。そうしないと、声を出してしまいそうだ。今は男の肩に顎を乗せ、両手は逸物を扱いている。

 男からは入念に触られて、閉じていた割れ目が開いてきた。秘部は濡れそぼってショーツを湿らせる。もしも下から覗けば、ぴったりと張り付いてユリの形が見えていた事だろう。

 男の左手はとっくにショーツの内側に来ている。尻を揉みながら、何度も指を伸ばして肛門を弄っていく。入り口を軽く撫でるくらいで入れられてない。

 右手はずっと股間に張り付いていた。クリトリスに指を乗せて擦っているのに、陰部全体を揉みほぐすのはどうやっているのかわからない。中に入ってきていないのに、下着の上からなのに、男の手から何かが体の中に染み込んでくるようだ。

 上からされるだけでこれなのに、今度は直にされてしまう。

 

「こえ、出そうだから」

 

 竿部を扱いていた右手を上げ、顔に近付ける。手からは僅かに男の匂いがした。淫らな匂いに頭が茹る。思わず視線を下げるが、顎を肩に預けているので何も見えない。きゅっと目を瞑ってから、逸物を振れていた手を口に押し付けた。

 数瞬だけ股間への刺激が消え、隙間から入って来た。

 

「脚を開いて」

「………………」

 

 言われるがままに脚を開く。股の下に拳一つが入るくらい。すぐに来た。

 

「んぅっ♡」

 

 膣の中に指が来た。

 何の抵抗も感じてない滑らかな動きでぬるりと入り、中で軽く曲げられた。

 足腰から力が抜ける。尻を掴まれて壁に押し付けられていなければ、この場で崩れ落ちていた。

 

「よく濡れていますね。これなら私のちんこもすぐに入りそうです」

 

 ユリは答える代わりに、何度も頷いた。

 

「あ……」

 

 頷いたのが良かったのか悪かったのか、指は一度だけ往復すると抜けてしまった。

 尻を揉んでいた手も離れていく。但し離れ切らず、スカートを大きく捲り上げたまま。

 

「左脚を上げてください」

「え……、うん……。あの……、入れる、の?」

「ユリさんは早く入れて欲しいんでしょう?」

「うっ…………うん。入れて欲しい。君のおちんちんを、ボクのおまんこに……。入れて欲しいんだ……」

 

 早く入れて欲しいから、シャルティアの用件を後回しにして見つからないようにして事に至っている。という建前で隠れているのだ。建前であっても、或いは建前であるからこそ拒否することは出来ない。建前がなくても拒否は出来なかった。

 ユリは言われた通りに左脚を上げ、スカートの中からストッキングに包まれた艶めかしい太ももが顔を出す。男が太ももの下に手を入れ、更に上げた。

 片足の爪先立ちとなり、ユリは壁に手をつく。

 

「ユリさんは下着をずらしてください」

 

 ユリのショーツに秘密の小窓はついてない。脱がすのが難しい以上、挿入するにはずらして道を空ける必要があった。

 

「それなら……」

 

 ユリの手がスカートに潜る。しかし、目的地が男の要望とは違った。腰を右に左にと回り、戻ってきたユリの手は、黒一色でありながら刺繍が美しい小さな布切れを摘まんでいた。

 

「パンツは、脱いじゃったから……」

 

 消え入りそうな声で言った。

 ユリのショーツは、サイドで紐を留める紐パンだった。男は目を丸くした。

 

「君とエッチしようと思って選んだんじゃなくてお洒落で可愛いから着けてただけなんだからな!」

 

 小声ながらも語尾が強い。

 紐パンはお洒落かも知れないが、紐をほどくだけで脱ぐことが出来る。いつでも臨戦態勢と云うも同然な非常に煽情的な下着でもあった。

 

「ですが、今はしたいんでしょう?」

「うっ! …………うん。あの……」

 

 続きを口にする前に、ユリはクローゼットの外に意識を向けた。

 シャルティアはまだいる。こちらに気付いた様子はない。意外にも程があるが、集中して読書を続けているようだ。「ふーんふふふふ♪」と鼻唄が途切れないのが幸いして、こちらの物音は聞こえていないらしい。これから始まる事が終わる前に出て行って欲しい。

 

「君のおちんちんが欲しいの。ボクのおまんこを気持ちよくして? 君のおちんちんも……、ボクのおまんこで気持ちよくなって?」

 

 頼りない薄布だったがあるのとないのとでは大違い。脱いでしまったせいで愛液が留められることなく、太ももをつつつと伝っていく。

 入れやすくするためにユリはスカートをたくし上げ、男は腰を突き出した。

 

「んぅ……」

 

 逸物が割れ目を撫で、ユリが悩ましい声を上げる。

 竿が行き来していたのが亀頭になって、入り口に潜り始めた。

 ユリは反射的に下を向き、やはりおっぱいで視界が遮られる。

 正面には男の顔。下を意識してるだろうに、真っすぐに見返してきた。彼が少しだけ苦笑したのに、ユリは不思議な気持ちを抱いた。

 

「泣かないでくださいよ?」

「えっ? うむぅっ!?」

 

 男の手が口を塞いできた。強く押されて後頭部がガツンと壁にぶつかった。

 音は響かず、ユリはその程度で痛みを感じない。衝撃で一瞬だけ目が眩んだだけだ。

 

「ん゛ん゛っ!?」

 

 それと同時に入って来た。

 焼けるように熱い逸物に体の奥まで貫かれる。中から焼かれるようだ。自分の中に男が入って来ている事をわからされる。

 

「ユリさんがよく濡れてるおかげですんなり入りましたよ。そんなにセックスしたかったんですか?」

「ん゙っ!?」

 

 ユリの口は塞がれたまま。反論は出来ず、くぐもった声しか上げられない。そこへ容赦のない追撃があった。

 

「ユリさんときちんと言葉を交わしたのは馬車の上が初めてでしたね。おっぱいを触って欲しいとおねだりされたのを覚えています。どうやらそのような事がとてもお好きなようで」

「~~~~~~~~っ!!」

 

 誤解である。彼はプレアデスの妹たちに手を出したのに、自分には性的な目を向けなかった。ソリュシャンやルプスレギナにナーベラルは兎も角として、シズにも手を出したというのに。

 自分には女の魅力がきちんと備わっているのか不安になり、衝動的に口走ってしまっただけである。それも「触って欲しい」ではなくて「触りたいと思うか」と聞いたのだ。触って欲しかったわけではない。

 しかし反論は出来ない。口を塞がれている。体の中で男の一部が蠢いているのが快感のみならず、悔しいと思えた。

 

「ルプーに聞かされましたよ。ユリさんと一緒に馬車に乗ったあの夜、私がルプーを抱いていたのを覗いていたそうですね? ユリさんはご自分がするだけではなく、行為を覗くのもお好きなのですか?」

「!?!?」

 

 完全に誤解である。結果として覗いたのは確かだが、あれは彼の安全を気にかけての事。けれども、安全を確認して以降もその場に留まった事を指摘されたら何も言えなくなってしまう。

 

「ユリさんがご覧になったように、ルプーはあの通りです。ソリュシャンはより激しくて、私を求めない日は一日としてありません。ナーベラルはそうでもないと思っていたのですが、先日ご一緒した時の事を覚えていらっしゃるでしょう? シズさんも事あらば時間を共にしようとしてきます。そっとしてくれるのはエントマさんだけですね。ですがそのエントマさんも期待をしなくはないようです。今は食欲が勝っているので目立たないだけかも知れません」

「ん゙っーっ ん゙ーっ!」

 

 言うに事を欠いて妹たちを侮辱するとはどういうつもりか。こんなところでこんな事をしていなければ手が出ていた。出せない代わりに睨みつけるが、男は笑みを深めるばかり。口を塞がれたまま、耳に男の唇が近付いてきた。

 

「彼女たちの姉がユリさんです。ユリさんが淫らでないわけがなかったですね」

「う゛……」

「むしろお姉さんを見習ったからこそなのでしょうか? 処女だったのに尻の穴まで使わせてくれたのはユリさんだけでしたよ」

「う…………」

 

 断じて違う。あれは体の自由を封じられて奪われたのだ。自分から捧げたわけではない。

 

「あの時は入念に準備した甲斐あって、尻の穴もお気に召したようで幸いでした」

「うぅ…………」

 

 涙が出てきた。

 物事の表層だけを辿ればその通りかも知れないが、自分は淫らではないし、妹たちは自分に倣って淫らなわけでもない。しかし、言葉が出なかった。

 口を塞がれているし、迂闊に声を上げたらシャルティアに気付かれる。そして、快感を得ているのも事実だった。

 

「んぅっ……」

「ユリさんの中がうねっていますよ? 欲しがっていたものを得られて満足しているのですか?」

「くぅ……!」

 

 立ったままの挿入で、大きな音を立てるわけにはいかないから注挿はゆっくりだ。奥に来たまま小刻みに揺すられる。それがひたすら高ぶらせていく。

 屈辱的な言葉に怒りを感じても抗えない。このような状況でなくとも、されるがままになっていただろう。それは彼の言葉全てを肯定するようで、自分は淫らな女だと認めるも同然だ。

 心も体も暴力的に犯されているのに、どうして受け入れてしまっているのか。彼に全てを支配される自分が、とても矮小な存在に思えてしまう。

 溜まった涙が溢れて零れ、頬を伝って流れていく。泣き顔を隠そうと首を振るが、口を押えられているので弱弱しい抵抗にしかならない。

 

「そんなユリさんがとても可愛らしいですよ」

「んっ!?」

 

 口を押える力が強くなる。男は腰を落として抜ける寸前まで引いてから、同じ速さで戻ってきた。

 往復は何度も続く。

 ユリは太ももに垂れるほどだったのだから、男の逸物は根元までユリの愛液に塗れていた。

 

「そろそろ慣れてきましたか? 手を離しても大丈夫でしょうか?」

「んっ…………、ぷはっ!」

「声を出してはいけませんよ?」 

「……わかってる」

 

 言われるままだったのを解放され、ユリは男をきつく睨んだ。しかし体の一部が繋がったままで、男の体を感じる度に緩んでいく。

 

「我慢してください。出来ないようでしたらもう一度塞ぎますから」

「だっ……、だいじょうぶぅ……。んっ……、ふぅ……」

 

 ユリは両手を壁について体を支えている。それを左手だけに任せ、右手は男の体にしがみついた。

 互いに愛撫していた時のように男の肩に顎を乗せ、熱っぽい息を吐く。時折良いところを擦られて声を出してしまいそうになるが、その寸前に「我慢ですよ」と忠告される。唇を噛んで耐えた。

 激しく乱れることは出来なくても、肉体は感じている。発散する場をなくし、内側で猛っている。

 

「くぅっ……♡」

「今締めたのはユリさんの意思ですか? それとも達してしまいましたか?」

「そんなこと…………。うぅ、イッちゃったんだよぉ……。恥ずかしいんだから言わせないで……」

「不慮の事態があって困るのはユリさんですよ? 正直に報告してください」

「だからぁ……イッちゃったの……」

「感じてくれて嬉しいです。ですが、何度も言ってるように我慢してください」

「わかってるけどぉ……、きもちよくて……、ぁっんっ」

 

 ユリは咄嗟に唇を噛み、嬌声を嚙み殺した。

 声を出さない事だけに注意しているので、唇の端から涎が零れているのは気付かない。頬は涙に濡れたままだ。

 男の支配を受け入れ愛欲に乱れつつも、流されてはならないと引き締める顔は、とてもではないが誰にも見せられない。

 

「それなら今度はユリさんの意思で締めてくれませんか? 激しく動けないので、このままだと時間が掛かりそうです」

「……時間掛けたいんだけど。でも、君にもよくなって欲しいから……。んっ……、こんな感じ?」

「その調子でお願いします。くれぐれも声を上げたり物音を立てたりしないように」

「わかってるよぉ」

 

 ユリは順調だった。

 

 男が殊更に屈辱的な言葉をユリに突き付けたのは、ユリを辱めたかったからだけではなかった。その気持ちが大いにあったことは否定出来ないが、真の目的は別にある。相互愛撫の時に仕掛けたのと同じである。初心のためであった。

 ユリの魅力は黒髪おっぱいを筆頭に無数にあるが、特別に取り上げたいのは恥じらいである。羞恥と快感に耐え忍び、恥じらうところを見せて欲しい。それは自分が見たいからだけではない。ユリのためでもある。

 我が身に照らし合わせれば、二日禁欲してからのセックスはとても素晴らしいものだ。わざわざ禁欲しなくても、アルベド様やソリュシャンやシズちゃんにされたように、寸止めして焦らしてからの射精は言葉に尽くせない解放感がある。それと同じだ。

 ユリも快感に耐えて耐えて、我慢を重ねてから解き放たれれば、得られる快感は層倍となるだろう。

 シャルティアから隠れることが目的のセックスでも、手を抜いてよい道理はない。建前であれ何であれ、ユリから声を掛けてくれたのだから、期待以上に応える責務があった。

 

「んっ♡ んっ♡ あぁ……、だめぇ……」

「駄目ですよ。我慢してください。それともシャルティア様にお願いしますか?」

「そっ、それはだめっ。でも……、きもちよくて……♡」

 

 二人とも、不慣れな立位に慣れてきた。

 ユリは壁を背にして右手で男を掴んでいるため、片足の爪先立ちでも姿勢は安定している。

 男の方は、クローゼットの中は初めてでも立位は何度もこなしてきた。好奇心と知識欲が旺盛な妹に強いられてきたのだ。

 

 ユリは言われた通りに膣を締める。入り口だけの時があれば奥まで全体の時もある。その度に男に褒められた。

 膣肉の締め付けを褒められるなんて、褒められて嬉しく彼を悦ばせているのも嬉しく、しかし自分の淫らさをあげつらわれているようで恥ずかしくもなり、我慢しろと釘を刺される。

 そこで意図せずに締めてしまい、意識的な締め付けかどうかを問い詰められ、本当のことを暴かれる。

 

「あっ!? だめだって……!」

「ユリさんは感じすぎてるんですよ。こっちも弄れば気が紛れるでしょう?」

「そっ、そんなわけ、ないだろ……。ひぅっ……」

 

 ユリのショーツはスカートのポケットに。ガーターベルトは着けていても、秘部を覆うものは何もない。だから難なく挿入できてる。前が空いているのだから、当然後ろも隠されてない。男の指がそこを暴き始めた。

 

「やっ……、はいってるからぁ……」

「入れてるんですよ。ユリさんはこっちもお好きなようでしたから。ですが、我慢ですよ?」

「だっ、だめぇ……。こえでちゃうからぁ……。口、ふさいで?」

「む?」

 

 右手はユリの太ももを支えている。こちらの腰に絡ませてくれればいいが、今のユリにそこまで気を回すことは出来そうにない。

 左手は違う仕事を始めたばかりだ。ユリの愛液は会陰を伝って肛門を濡らし、それを使って突き立てた。膣を締めるのと同じタイミングで締まるのがとても楽しく感じられる。抜けと言われるのはとても残念だ。

 しかし、ユリの目当ては手ではなかったらしい。

 ユリは男にしがみついていた手を離し、眼鏡を外した。頬には涙の痕が乾ききらない。潤んだ目で見つめられれば、答えは一つである。

 

「ちゅっ……んっ……。ぁんっ……。んんっ……♡」

 

 愛撫を始めた時のように、口で塞いだ。

 ユリからは男の首に腕を回し、離れないように押し付ける。

 柔らかな唇同士は軽く開いて、相手を求めて舌を伸ばし、貪るように強く吸った。上の口では舌が絡み合い、ユリの下の口は男を全部頬張っている。

 時折唇が離れても、舌と舌は触れ合っている。舌を尖らせレロレロと舐めあって、口内に湧いた唾が零れる前に唇を合わせた。混じった唾は、どちらからともなく嚥下した。

 

「んっ♡ んっ♡ んーーっ♡ んぅんんっ♡」

 

 男が器用に腰を使い、ユリのお気に入りを責めても唇は離れない。むしろ男を抱く腕に力が入って、一層強く唇を押し付ける。

 腕だけでなく全身に力が入り、肛門に入った指を締め付ければ、子宮口に届く逸物も締め付けた。

 

「ふぅ……♡ ふぅ……♡ んっ……」

 

 ユリは、壁に手をついているのが惜しくなってきた。自分のバランス感覚なら片足の爪先立ちでも倒れるわけがなく、わざわざ壁に手をつく必要はない。

 それでも一応の念のため、彼に支えられてる左脚の膝を伸ばし、彼の腰に回して固定した。

 恐る恐る左手を壁から離し、彼の体を抱きしめる。唇や繋がってる部分と違って、少し離れがちだった乳房が彼の胸板に押し付けられた。

 爪先立ちで僅かに調整すると、自分の乳首を彼の乳首に擦れさせることが出来た。ずっと勃起している乳首は内側から焼けるようで、擦れることで癒されるようで。

 太ももを支える必要がなくなった彼の手は、左手と同じにお尻へ回る。

 むにむにと撫でられ揉まれ、強く掴まれた。

 

「ん~~~~~~~~~~っっ♡」

 

 お尻を掴んだ手で引き寄せられ、強く腰を打ち付けられた。

 今日一番激しい侵入は、子宮口を強く打って子宮に響いた。

 

 子宮なのか心なのかそれ以外かどこもかしこか。

 とてもすごくキュンと来た。

 

 心と体が溶けて彼の中に取り込まれている。あるいは取り込んでしまっている。

 体が勝手に彼を締め付けている。下半身が震えているのが自分でもわかった。

 キスをしていなければ、間違いなく快感の叫びを上げていた。

 

「んん…………♡ じゅるる……、ちゅぅぅううぅっ!」

 

 快感の余韻が消えきらぬ中、男の唾を強く啜った。

 まだ出してもらってないのだから、代わりのものを少しでも取り込みたかった。

 

 そして彼がまだ終わってない以上、続きをしなければならない。

 達したばかりなのに、もう次が欲しくなっている。

 自分の中にはまだ彼が来ている。

 声が出せない代わりに、まだ続けられると応えるつもりで強く締め付け、

 

 

 

『カチャン……』

 

「「!?」」

 

 小さいが、良く響く硬質な音が鳴った。

 

 全身を弛緩させたユリは、男に尻を掴まれていたので倒れることはなく、キスをしていたので声を上げることもなかった。

 しかし、指からは力が抜けた。持っていた眼鏡が手から滑り落ち、硬い床にぶつかった。

 

 二人は動きを止め息を殺し、クローゼットの外に注意を向ける。

 現実は無情だった。

 

『んー? 今何か音がしんしたか?』

 

 シャルティアが、図鑑から顔を上げた。




どうしてこの作品は自分が書かないと続きが読めないのだろうと何度自問自答してもいつの間にか続きが投稿されたことは一度もありませんでした


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察知と探知 ▽ユリ♯6

本話17k


「ま、気のせいでありんしょう!」

 

 さすがのシャルティアは小さな事を気にしなかった。

 五感が鋭くても注意力がない、或いは目先の楽しみを優先させる。それだけ読書にハマったとも言えた。

 お仕事であればお供のヴァンパイア・ブライドたちから進言される。プライベートの今は何を優先しようと問題なし。小さな物音はきっと気のせいである。

 もしも読んでいたのがミステリーかサスペンスかホラーだったら大事件の兆しを嗅ぎ取って注意したかも知れないが、読んでいるのは鉱物図鑑。そもそもシャルティアが文字ばかりの本を読むわけがなかった。読むならば最低でも5ページに1ページ以上の挿絵が必要である。文字の大きさと漢字の頻度も重要だ。

 些事を気に掛けることなく読書に戻ろうと本に目を落とし、ふと顔を上げた。

 

「……何か臭いんすね」

 

 すんすんと鼻を鳴らす。

 第九階層はいつでもどこでも清浄だ。おかしな臭いがすることはない。匂うとすれば品の良い香を誰かが薫いたか、甘いお菓子か香り高い紅茶か。

 嗅ぎ取った臭いはいずれでもない。

 

「これは……いやらしい匂いでありんしょうか?」

 

 シャルティアの呟きに、クローゼットの二人は体を強張らせた。

 二人が隠れるクローゼットの扉はルーバータイプ。細長い羽板を幾本も斜めに取り付けたものだ。とても通気性が良い。と同時に羽板と羽板の隙間に埃が溜まりやすい構造であり、メイドたちがマツイ棒を使って掃除に勤しんでいるのは余談である。

 しばし難しい顔で鼻をひくつかせていたシャルティアは、目を見開いて叫んだ。

 

「むむ……、このグリーンオブシディアンライトのような匂いは…………エッチなおつゆの匂いでありんす!!」

((!!))

 

 読んでいた本から引用である。シャルティアの知性が光った。

 しかし、グリーンオブシディアンライトのような匂いと言っても誰にも伝わらない。きっとシャルティア自身にもわからない。それ以前にグリーンオブシディアンライトと云う名の鉱石はない。図鑑から拾い上げた単語を出鱈目につなぎ合わせただけである。

 シャルティアの語彙能力がなんであれ、真実を嗅ぎ取ったのは確かだった。

 

 クローゼットの内部では男と女が交じり合っている。内部には淫臭が充満していた。ルーバーの隙間から匂いが漏れ、シャルティアのところまで届いてしまったようだ。眼鏡を落として音を立てていなくとも、いずれは気付かれていた事だろう。

 

(ちょっと離れて!)

(残念ですが、仕方ありませんね)

 

 深く達してはいたけれど、虚脱するほどではなかったユリは最大限に理性を働かせ、男から離れるや否やメイド服のスカートを下ろす。匂いの発生源はユリの秘部がほとんどなのだ。

 それだけで匂い全てが消えるわけがなかったが、新たに供給されることもない。シャルティアは小首を傾げて部屋を見回した。

 

「うむむ? 確かに匂いんすが……、薄くなってきたような気も。いや、薄くてもちゃんと匂いんす! 誰かがおまんこを濡らしてるのに違いありんせん!」

 

 シャルティアが、ついにソファーから立ち上がってしまった。

 発生源は突き止めてないようだが、広い部屋でも一室の内部を隅から隅まで探すのに時間は掛からない。

 

 

 

(これは時間の問題ですね)

(黙って!)

 

 呑気な男とは対照的に、ユリは真剣そのものだ。

 もしもシャルティアに見つかってしまったら、あへあへのトロトロのねちょねちょのぬぷぬぷ、では済みそうにない。ただ隠れているだけではなく、セックスをしてしまっている。何をされてしまうのか、ユリの想像を越えた。

 

(ユリさんがスカートを下ろしても、臭いの元はここにもありますから。それに途中でしたからいささか辛く感じてしまいます。これはシャルティア様にお願いするべきでしょうか?)

(君ってやつはあぁぁぁあ!)

 

 ある程度すっきりしたユリと違って、男はまだ果てていない。屹立した逸物はユリの汁に塗れている。

 

(……してやるから絶対に声を出すんじゃないぞ!)

(わざと見つかるようなことは何もしていませんよ)

(いいから黙ってじっとしてろ!)

 

 ユリは奉仕の心云々を綺麗に忘れていた。それどころではないのだから仕方ない。命が掛かっている。命が大袈裟なら尊厳だ。見つかったら生きていけないような目に遭ってしまう。

 

(おお?)

 

 ユリは意識をクローゼットの外から男へ戻すと、両手で頭を押さえた。そのまま持ち上げ、頭部をきゅっぽんと首から外した。

 デュラハンであるユリは、頭の取り外しが可能なのである。

 取り外した頭をお腹の位置にまで下げれば、何をしようとしているのか男へ伝わった。

 

(うむぅっ!!)

 

 ユリの口目掛けて、男は腰を突き出した。

 長い逸物はユリの口の中へ入って行き、先端は喉奥を打って更に進もうとして、陰毛がユリの唇に触れた。

 

(うぅ……)

 

 男の逸物は根元までユリの愛液に濡れているのだから、ユリの匂いを放っている。匂いの拡散を止めなければならない。続きを求める男は、シャルティアを選ぼうとした。

 匂いの元を隠し、男へ愛撫する。双方を同時に満たすためにユリが選んだのが、口淫だった。

 クローゼットの中は狭いので、この場に屈んでするのは難しい。だから頭部を取り外したのだ。

 

(う゛っ……! ぐぐ……)

 

 根元まで隠さないと匂いを止めきれない。ユリの唇は逸物の根元を包み、上唇は陰毛にくすぐられる。

 その程度ならいいが、中では喉奥に届いている。

 呼吸の必要がないアンデッドであるとは言え、喉の奥に触れられるのは異物感が酷い。耐えられない苦しさではないが、許されるなら咳き込んでしまいたい。

 

(ん゛っ!? ん゛ーーっ!! ん゛ーーっ!!)

 

 ただでさえ大変なのに、男が腰を動かし始めた。

 ゆっくりと出てゆっくりと戻り、あまつさえ胸に触れてくる。

 

(舌も使ってください)

 

 勝手な事をと言いたかったが、もしも要求に応えないで裏切られたら尊厳の死だ。

 受け入れるために縮こまらせた舌を逸物に押し当てた。動かせと言ってもどう動かせばいいかわからない。一先ず経験のある口の使い方をしてみた。

 唇で根元を強めに挟み、入っているものを吸って頬を窄める。頬の内側の粘膜が逸物に密着して、口の中が温かくなってきた。

 間違ってはいなかったようで、男は腰を突き出したまま動かなくなった。

 

(おお……!)

 

 されるよりする方が苦しくない。

 ユリはゆっくりと頭を引き、再度押し込む。逸物が多少外気に触れるが、濡れていたものは全て舐めとり吸い取った。

 大人しくしていてくれるなら、このくらいは構わない。

 

 

 

「むーん……。あんまり匂わなくなったでありんすね。気のせいじゃないと思いんすが? うーん、むーん……」

 

 シャルティアはソファーから立ち上がって三歩進んだが、そこで手掛かりが途切れてしまった。

 クローゼットの中の二人には幸いな事に、手当たり次第探す気はないらしい。更に幸運な事に、シャルティアが進んだ方向はクローゼットから遠ざかっている。

 

「シャルティア様、失礼いたします。経過報告に参りました」

 

 その時、ノックの音もドアを開ける音もなく、第三者の声が響いた。

 ナザリックには転移系の魔法を使ってドアを使うことなく移動できる者もいる。代表がシャルティアだ。しかし現れた第三者はそんな大仰な事をしたわけではなく、単にシャルティアがドアを開け放っていただけであった。

 二人のヴァンパイア・ブライドはシャルティアの前に跪き、深く頭を垂れる。

 

「報告いたします。第十第九階層を」

 

 報告の途中で突然言葉を止めた。シャルティアが発言する気配を察知したからだ。顔を伏せていようと、ヴァンパイア・ブライドたちにとってシャルティアの行動を察するのは容易い。ヴァンパイア・ブライドは全員がスキル「気察知(シャルティア専用)」を取得しているのだ。

 シャルティアは、重々しい声でこう言った。

 

「お前たち、おまんこを濡らしていんすか?」

「「勿論でございます」」

 

 二人のヴァンパイア・ブライドは、間髪入れずに答えた。

 

「兄上様がナザリックに訪問していると聞いて、股を濡らさないヴァンパイア・ブライドは一人もおりません」

 

 守護者統括相談役をシャルティアのシモベであるヴァンパイア・ブライドたちが呼ぶときは『兄上様』とする事が正式決定していた。元々はヴァンパイア・ブライドたちを班分けした第五班が呼び始めたものが、他班との会議を経て他の候補を選別し、更に全ヴァンパイア・ブライドを対象とした投票で決定した。

 

「誰もがそのようになってしまうと予想することは容易でありましたため、シャルティア様からパンツの装着をお許し願ったのでございます」

 

 ヴァンパイア・ブライドの衣装はシャルティア好みのエロ衣装。一見ロングスカートだが、サイドにはルプスレギナのメイド服より深いスリットが入っている。スカートには到底見えない帯状の前垂れの者も多い。もしもパンツを穿いていたら横から見えてしまう。見えてしまったら大変見苦しいため、下着を着けない。もちろん上だってノーブラである。

 平時ならそれで良かったが、相談役がいると聞いただけで濡らしてしまう。そうなると遮るものがないため、太ももを伝って流れてしまうのだ。それを留めるために、パンツ着用の許可をシャルティアから得ていた。ヴァンパイア・ブライドのみならず、吸血鬼はおつゆが多いのだ。

 

「シリーなどは兄上様がいらしたと聞いただけで気をやってしまいました」

 

 シリーはヴァンパイア・ブライド・エリートシックスの一人で、第二班のリーダーである。

 第二班は過日の抱っこ耐久の折、相談役がデミウルゴス様に面会する際に抱っこを逃れる事を黙秘する対価に相談役との一時を望んだ。シリー以外のヴァンパイア・ブライドは、三人一組で事に臨んだ。シリーの時は一人だ。シリーは、ナザリックを発った馬車がエ・ランテルのお屋敷に着くまでの数時間を、たった一人で相談役から責められた。その時の経験が心身に深く刻まれているようだ。

 

「もしやすると兄上様は……遠隔セックスが可能なのではないでしょうか?」

「!?」

 

 シャルティアの脳髄に魔法最強化したチェイン・ドラゴン・ライトニングを撃ち込まれたかの如き衝撃が走った。

 

「ありうる!」

(ねーよ!)

 

 クローゼットの中の男は反射的に突っ込んでいた。ユリを気遣って、声は出していない。デュラハンイラマチオに励んでいるユリには聞こえていなかったようだ。

 

 かつてのシャルティアは、気分次第でヴァンパイア・ブライドたちの首を物理的に飛ばしていた。故に、全ヴァンパイア・ブライドが「気察知(シャルティア専用)」を取得するのは必須だった。

 それを大事に扱うようにと男から忠告され、渋々と従ったところアインズ様からの任務を果たすことが出来、評価も上がった。シャルティアがシモベであるヴァンパイア・ブライドたちにお土産を持っていった時などは、アインズは感情抑制を発動するほどに感動してしまった。

 また、ヴァンパイア・ブライドたちは長く生存することによって経験と知識が蓄積してきた。戦闘面では連携が格段に上達した。以前は一対一で人間の剣士に手こずった事もあるが、今や複数体による連携で完全に封殺できることだろう。

 ベッドの上での連携も上達している。シャルティアのどこをどのようにどんな順番で責めるか、それぞれの強弱も完璧だ。相談役による指導があってこそ上達したわけだが、彼女たちの経験と努力が実ってきたのは言うまでもない。

 中々使えるようになってきたヴァンパイア・ブライドたちに、シャルティアは愛着を抱き始めた。今や彼女らの首を飛ばすどころか、危機あらば助ける事だろう。

 

 しかし、良い事ばかりではなかった。

 ヴァンパイア・ブライドたちはシャルティアに長く接し続けてきたため、シャルティアが感染ってしまったのだ。

 

「お前たちは私が100レベルなのを知っていんすね?」

「「存じ上げております」」

「ここだけの話でありんすが……、お兄ちゃんのレベルは3,500でありんす」

「「!!!」」

 

 跪く二人は絶句した。

 これまで最高レベルは100だと思っていたのに、それを遥かに超えている。戦闘になれば、勝利の可能性を考えるだけ無駄なレベル差であった。

 

「ちっとは考えてみなんし。お前らお兄ちゃんと二人きりになったら勝てると思いんすか?」

「「……絶対に無理でございます」」

 

 シャルティアはベッドの上を想定していたが、二人は戦闘になることを考えた。

 初手で致命の一撃を与えられれば良いが、初手を繰り出す前に血を流されたらそれだけで酔ってしまう。戦闘どころか冷静に判断することすら不可能となる。そして一滴でも口に入ったら足腰が立たなくなる。勝てるわけがない。

 シャルティアが「吸血鬼泣かせの血」と称したのは伊達ではなかった。

 

「二人じゃなくてお前ら全員でも無理でありんす。お兄ちゃんに蹂躙されるのも、それはそれで楽しそうでありんすが」

 

 前回、シャルティアとSVB(シャルティアのヴァンパイア・ブライド)47で襲い掛かったが返り討ちになるところだった。その時を思い出し、シャルティアは頬を緩める。

 

「アルベドと話はつけんした。今日は難しいかも知れんせんが、これからはお前たちにもいい目を見せてあげりんしょう!」

「「さすがはシャルティア様でございます!」」

 

 シャルティアと二人の齟齬がようやく埋まった。

 そしてようやっと報告再開である。

 

「第十第九階層を全て捜索いたしました」

「シャルティア様のお名前でも入れない部屋がございました。ですが、メイドたちから聞き取りを行っております。兄上様がそのような場所にいる可能性はございません」

「他の者たちは待機させております。お許しいただけるのでしたら、第七階層の捜索を始めたいと存じます」

「デミウルゴス様の守護階層であるため、まずはシャルティア様にご報告をと判断いたしました」

「デミウルゴスのとこでありんすか。お兄ちゃんはデミウルゴスと仲良しみたいでありんすから……」

 

 先に抱っこ耐久を課した時も、真っ先にデミウルゴスのところに向かったと報告を受けている。

 デミウルゴスはシャルティアと階級を同じくする階層守護者だ。シャルティアがデミウルゴスの守護階層に赴いても問題はない。問題は、デミウルゴスは難しい話をする事だ。

 

「うーーー。仕方ありんせん。お前らを行かせるわけにはいきんせんから私がデミウルゴスと話をつけんしょう」

 

 シャルティアが嗅ぎ取ったいやらしい匂いは、ヴァンパイア・ブライドのおつゆと言う事になったらしい。

 もはや部屋のどこかから発生していたと思う事はない。デミウルゴスと対峙するために気合を入れ、部屋を出て行った。

 僅かに遅れて二人のヴァンパイア・ブライドが続き、出る時はきちんと部屋のドアを閉めて行った。

 

 クローゼットの中の男は、ふうと安堵の息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

「あっ? なに?」

 

 男は無言でユリの口から逸物を引き抜き、頭部を正しい位置に戻した。次いで頬を撫で、乱れた髪を直す。

 

「シャルティア様は……」

 

 ユリが口淫している間に、シャルティアは部屋を出て行ったらしい。

 部屋に誰もいないならクローゼットに隠れている必要はない。クローゼットから外に出て、シャルティアに見つからないよう部屋を出ればよい。

 彼の方はシャルティアから探されているようなので仕方ない。それを言うなら自分もそうだが、それはそれ。寝所を共に、などと無茶なことを要求されたら毅然と断れば済む話である。いたしていた現場を押さえられなければ大丈夫だ。最初からそうしていたらクローゼットに隠れることはなかったと思い至り、ちょっぴり頭痛が痛くなった。

 

「いないみたいだね。それじゃすぐに部屋を出て……? ちょっと!」

 

 クローゼットの扉を開けようとしたところで、男に阻まれた。スカートを大きく捲られ、閉じ込められていた淫臭がむわっと広がる。

 男を押し退けようと手を伸ばしたが、狭いクローゼットの中では距離を取れない。

 

「何するんだよ! それどころじゃないだろ! 早くここから出ないと!」

「続きをするに決まっているでしょう?」

「待って!?」

 

 スカートの中に潜った手が、太ももを抱え持った。片足立ちにされ、よろめいて背中が壁にぶつかった。

 太ももはさっきよりも高く上げられ、と言う事はそれだけ大きく股を開かされている。

 

 ユリはシャルティアに見つかる恐怖を忘れようとして、口淫に集中していた。夢中になって逸物をしゃぶって吸って舐めていたのだから、感じるものがあった。

 胸をずっと揉まれていた。乱暴に、時に優しく。尖らせた乳首が見逃されるわけがなく、摘ままれ転がされ、引っ張られた。

 乾くわけがなく、むしろ潤いが増している。

 そして寸前までセックスをしていた。淫裂は緩く開いたままだ。

 股を大きく開かされて、淫裂に隠れていた膣口も開いてしまった。

 

「あうぅっ!」

 

 ユリがずっとしゃぶって固さを保っていた逸物が、膣に突き立てられた。

 口を押えていなかったので、衝撃と熱さと充足感に声を抑えられなかった。

 脚の開き方が違うからか、さっきより深いところまで来ている。最奥にきて、更に圧されているのを感じた。

 

「ユリさんの奥にぶつかってるのがわかりますよ」

「ばっ……ばかあっ! こんなことしてる場合じゃ、はううぅぅっ!?」

 

 ユリは自分の体を支えようとして、壁に両手を突いた。それがいけなかった。

 ユリの体が倒れてしまったら、狭いクローゼットの中では行為が出来ない。しかし、自分で自分の体を支えてくれるなら、男はユリの姿勢を気にする必要がない。

 

 男が抱えたのはユリの左太もも。右脚は爪先立ちを頑張っていた。その右脚も、男は抱え持った。

 ユリの足は両方とも床についてない。ユリの体を支えるのは男が抱える太ももと壁に預けた背中と両手、それと男と繋がっている部分だけ。繋がった部分が一層深くなった。

 駅弁と似てるようで全く違う。駅弁なら女の体が逃げないよう押さえなければならないが、ユリは壁を背にしている。駅弁や立位よりも正常位に似ていた。

 

「ま、まてってぇっ! ああんっ!」

「声を抑えられないのですか?」

 

 ユリの体が壁からずり落ちそうになっても、男が下から突き上げる。入るところまで入りきって、体の重さを支えられる。

 数度往復すれば互いに要点がわかってきた。

 ユリは中を抉られても体勢を崩さないように男に抱きついて、男の方はリズムよく腰を打ち付ける。微妙に角度を変えて、ユリが好きなところを擦るのも忘れない。

 

「うっ、うっ、あっあぅうっ! らめらってぇ……!」

 

 シャルティアは部屋を出て行ったのだから、ユリは一刻も早くこの場から離れたかった。

 なのに行為を続けている。何度も止めてと口にしているが、体は応えてしまっていた。

 

「声が可愛らしくなってきましたよ? ユリさんも楽しんでいただけているようですね」

「なっ、なにいって……あんっ! あっ、やんっ……。はやく、おわってぇぇえ……! くぅうぅっ……!」

 

 ユリの両足は宙を掻き、靴の中で爪先がきゅっと折り曲げられた。一番奥まで貫かれていたので、膣肉が満遍なく逸物を締め付けた。

 ユリがピクピクと震えている間、男は注挿を止めて蠕動する肉ひだを楽しんでいる。

 吸血鬼と同じアンデッドであるユリは汁気が多く、結合部からポタリと雫が落ちた。

 

「早く終わって? どういった状態を指すんですか? ユリさんはいったばかりでしょう。もっと感じたいんですか?」

「そうじゃ、なくてぇ……」

 

 シャルティアが部屋にいた時の緊張感が残っているのか、早くこの場を逃れたいのか、ユリはされるがままでいる。それが男の征服欲を大いに煽った。

 ベッドの上で奔放に振舞われるのも、快感と羞恥に悶える姿も素晴らしい。やはりユリには恥じらいを捨てずに淑女のようでいて欲しい。そして当然のことながら、淑女が乱れる姿もとても素晴らしいのは真理である。

 

「あっ、んぅ……。おまんこに、だしてよぉ……」

 

 ユリが男の顔を見つめれば、怪訝に笑って首を傾げていた。

 何を言ってるかわかってるはずなのに、知らない振りをされるのは少しだけ頭に来た。と思っても、中で1ミリでも動かれると霧散する。自分の中に彼の熱いものが来ているのを意識すると、こんなところでこんな事をと恥ずかしくなる。繋がっているのが嬉しくなる。

 何よりも気持ちよい。体が勝手に反応して、首筋に回した腕に力が入れば口は半開きになって舌を出してしまい、入っているものを締め付けてしまう。

 

 注挿は止まる事があっても、一定以上の激しさにはならない。ユリは何度かしてきた経験から、男が出すにはそれなりの圧力と速さが要る事を知っている。胸でした時に乳圧がどうのと言われたのを覚えていた。激しくならないと言う事は、まだ終わる気がないと言う事だ。

 繋がってゆっくり動いてもらうだけでとても気持ちいいのだから、このままずっと、とは言えない。早く終わらせて欲しいと思うのも本当なのだ。

 さっきからそう言っているのにわからない振りをされるのは、恥ずかしい事を言わせたいのだと察しがついた。

 

「あっ、あっ、だからあぁ……。おまんこにだしてぇ! ボクの中にせいえき出して欲しいのぉ! ひゃんっ!」

 

 太ももを支えていた手が尻に回った。ユリは咄嗟に両脚を男の腰に絡め、両足首を引っ掻けてロックする。ベッドの上なら大好きホールドと言われる形だ。

 

「中に出して欲しいんですか? ユリさんはいやらしい事を仰るんですね」

「なっ!? いやらしいのは君だろ!」

「仰せの通りです。それはユリさんがいやらしい事を否定するわけではありませんよ?」

「うぅ……。あんっ……、はなしてるときはぁあぁっ! うっ! あっ、あっ、やんっ、らめえぇ…………っ!」

 

 甘い声が高くなってきた。

 ユリは言葉を交わすために男の顔を見ていたのに、力が入って男の肩に顎を乗せる。目は固く瞑って唇を噛んだ。

 口を押えられていた時は構わずに没入できたが、今は自分で抑えなければならない。手を使えないので、耐えるしかなかった。

 耐えてるつもりでもくぐもった声が何度も漏れて、男から喘ぎ声が出てると指摘される。

 それでもそれなりに声は抑えられ、クローゼットの中には粘着質な水音が大きく響いた。

 

「ふぅ……あうぅ……、はっ、あっ! あんっ♡ んっ…………、くっ、んっんっ……!」

 

 ユリの中に入れているだけで気持ちよいし、健気に耐えようとする姿も可愛らしい。

 少しだけ休ませてから動くと、可愛い声で鳴いてくれる。

 それが心にも体にも楽しくて、何度もやってしまっていた。

 ユリの方も、締め付け具合から感じているのが伝わってくる。

 

「あぁ……そっちらめらからぁ……」

 

 挿入しながらユリの尻を掴んでいるので、ユリの股間は前を向いている。奥まで入れるのが楽な上に、尻を揉める一石二鳥である。

 尻を撫でる段階はとっくに通り越して、指が食い込むほど強く尻肉を掴み、伸ばした指は尻の割れ目に届く。侵入を許したばかりの穴は、容易く指を飲み込んだ。

 尻を掴んでいなければならないので抜き差しは出来なくても、肛門が締まってくるのは感じられる。

 

「ユリさんがいくと肛門も締まるんですね」

「くぅううううぅ………………!」

 

 ユリは悔し涙を見せた。

 辱められている言葉は、全部その通りだった。

 それが恥ずかしくて悔しくて気持ちよくて逃げられなくて、体のみならず心まで支配されているのを感じてしまう。

 

「ほら、また締まった」

「うぅ……、もうやめてよぉ……!」

 

 涙がぽろぽろと落ちてくる。

 涙が浮かんだだけなら兎も角、流れてしまって懇願している時点で、悔し涙ではなくなっていた。

 

「私は本当のことを言ってるだけですよ? ユリさんが悦んでくれて嬉しいんです。ユリさんがいやらしい体をしていて本当に良かった」

「だからやめろよぉ……。いじわるするなぁ……」

「意地悪のつもりはないんですが」

 

 勿論意地悪のつもりだった。

 完璧な淑女然としているユリが泣いているのはとても心に来る。このままもっと泣かせたら、と思ってしまう。

 しかしそこまですると、耐え忍んだ仕上げの開放が難しくなってしまう。

 ユリを泣かせたまま自分だけ終わるのは本意ではないのだ。というか、それをやってしまうと色々なところからとても責められる。

 

 後で起こる事をどうして今恐れるのか、と真顔で言う男なのでただ責められるだけなら苦にしないが、そこにアルベドが加わる可能性が高いなら話は別である。特にユリは、アルベドとナーベラルを交えて4Pをした事がある。

 この男であっても、冒せる危険と冒せない危険があった。

 

「いつもお綺麗なユリさんがとても可愛らしいので、もっと可愛らしいところを引き出したくなったんです」

「なにいってるんだよぉ……」

「意地悪と言いましたが、エ・ランテルのユリさんの部屋でした時はもっと色々な事を言ってくれたでしょう?」

「なにいってるんだよ!?」

 

 男が帝都に左遷中だった時の事だ。

 セバスとの対話を求めた男が一時的にエ・ランテルに戻り、たまたま城に来ていたユリの仕事を手伝った。

 その対価、というと順序が逆だが、たっぷりやった。口でも中でも、胸ですることも覚えさせた。

 

「ユリは俺の妻になるんだから、愛したくなるのは当然だろう?」

「!!!」

 

 女との関係で、結婚をちらつかせる男は悪い男だと決まっている。

 尤も、既にアルベドとアインズに通した話であるので決定と言ってよい。

 

「シャルティア様はとっくに部屋を出てる。ユリが声を我慢する必要はないんだ。ユリが本当に感じてるのか、俺に教えてくれないか?」

「わっ……わかってるだろ!」

 

 締まってるとかいってるだろとか言われている。わかってる事をわざわざ教えろと云うのは、馬鹿にされてるようにも感じる。

 

「ユリの声が好きなんだよ」

「う……」

「我慢しないで聞かせてごらん」

「うっ……あっ…………」

 

 話してる間は止まっていた動きが再開した。

 中から引き抜かれて、抜け切る前に戻って奥まで叩きつけられる。尻を掴む手にも力が入って、ぎゅっと握られた。

 あっと開いた口には口が被さってきて、舌を吸い出され唾を啜られる。

 ユリはぎゅっと抱き着いて舌に応えた。耳の中でくちくちくちゅくちゅと鳴り、クローゼットの内部はぱんぱんぐちゅぐちょと鳴り響いた。狭い場所だから、いつもよりずっと大きく聞こえる。

 

「あっ、……んっ♡」

 

 全身が甘く痺れている。

 今ここがどこであるか、わからなくなってきた。

 そんな些細な事がわからなくても、愛しい男と体を交えているのは確かな事だ。

 自由に動けなくても、出来る事は無限にある。

 

「あっあっあんっ♡ あんっ♡ おちんちんきてるのぉおお♡ おまんことってもきもちいいのおおおおおーーーっ♡」

 

 壁を突き破るように、快感を叫んだ。

 男の首にぶら下がるように両手を組んで、背中を壁に押し付けながら腰を突き出す。下を向けば大きな乳房が邪魔しても、繋がっているのが僅かに見える。見えなくても貫かれているのはわかっている。

 大きな逸物が行き来する度に、膣が押し広げられて奥まで届く。奥の壁をとんとんと圧されれば、堪らなくなってしまう。

 

(あぁ……、もうだめ! こんなところでセックスしてちゃいけないのに、何回もイッちゃってる! してって言ったのボクからだし、いっぱい意地悪な事言われちゃったし、泣いちゃったし……。でも……。なんでこんなに幸せなの? おちんちん入ってるだけでキュンキュンしちゃってる♡ おまんこの奥の……、子宮? 精液が入っちゃうとこだよね? そこがキュンってして……、体も熱くなって……。うぅ…………、こいつってエッチで意地悪でルプーたちやシズにエントマもって言ってたよな! 見境なさすぎだろ! なのに、なんでこんなカッコいいんだよぉ……。ボクの全部を愛してくれて……)

 

「愛してるよ。愛してるから、ユリの全てを見たいんだ」

「!?!??!?」

 

 ユリの内心の独白に応えるようなタイミングで囁かれる愛の言葉は、ソリュシャンを始めとしたたくさんの女からの施されてきた教育の成果である。

 ユリはそんな事を知る由もないし、仮に知っていたとしてもこの瞬間は忘れていたに違いない。

 ビクンと腰を跳ねさせ膣が締まって膣壁は蠕動し、子宮も下がった。乳首は痛いほど勃起して、呆けたように開いた口からは掠れた声しか出てこない。潤んだ瞳は暗がりにもキラキラと輝いて、男の顔だけを映している。

 男の顔だけである。視界の範囲的にクローゼットの内部も映っているはずだが、ユリには全く見えてない。

 

「しっかり俺にしがみつくんだ」

「あっぶな……!」

 

 足首のロックを強めなければ、床に落ちてしまうところだった。

 男は両手で尻を掴んでいたのに、左手が離れた。右手は中指が尻の穴に入っている。

 

「んっ……、おっぱいなんて、いくらでも触っていいのに」

「いま触りたいんだよ」

 

 左手がユリの乳房を握りしめた。

 愛撫の時とは違う乱暴な触り方で、指が乳肉に食い込んだ。強めの愛撫でも、今のユリには強く男を感じられるとしか思わない。

 胸を揉まれながら腰を打ち付けられ、数度の注挿を経たら右手も前に回ってきた。

 ユリは男にしがみついて離れない。両手と両脚の全身を使ってくっついている。

 一番肝心なところは力強く支えられ、ユリの体は上下に弾んだ。

 ユリは耐えも我慢もしなかった。

 

「あんっ♡ あんっ♡ あひぃいぃっ♡ ちくびとれちゃ……あぁぁぁあんっっ♡ あんっ、こんなのぉおお♡ んっちゅううぅうう……」

 

 どちらから唇を求めているかわからない。

 但し、男は適度に吸ってもユリは下の口に集中して、唇が離れる時は唾液の糸が長く引いた。

 集中しているだけあってきちんと締める。男が終わるには速さと圧力が必要と体で分かっている。それに締めれば締めるほど、自分の中に来ている事を実感できた。

 いつぞやのようにユリの頭部を分離して二人の真下に置けば、ユリの膣口がめいっぱい広げられて太い逸物を受け入れているのが見えていた。それよりも、ぽたりぽたりと垂れる雫に視界を邪魔されるかも知れない。

 クローゼットの床に、ユリが垂らした汁が点々と散っていた。

 

「あっ♡ あっ♡ あっ……。いいよぉ…………。おまんこきもちいのぉ……。うぅ……………………、すき」 

 

 甲高い声は段々とすすり泣くように。

 男の体を感じられるように、キスよりも抱きしめることを選んだ。

 大きな乳房も押し付けられ、男の手はユリの尻に戻った。尻を掴んで引き寄せ、腰を振る。

 ユリは顎をガクガクと震わせて、閉じられない口から涎を垂らした。

 

「すき……すきなのぉ……。いじわるしていいからあ……。いっぱいかわいがって? ボクにあきないで?」

 

 アルベドに言われたことが棘となり、ユリの心に刺さっていた。

 薄っすらと思わなくもなかったし、現にアルベドから声を掛けられるまで遠ざかっていた。

 ユリから積極的に通えば良かった話なのだが、ユリに出来る事ではなかった。ソリュシャンやルプスレギナとは違うのだ。

 

 ユリの懇願に、男は内心で苦笑する。顔には出さない。

 アルベドが言った時も飽きることはないとはっきりと口にしたが、アインズが言った通り言葉だけではなく行動を伴わなければならないようだった。

 

「飽きるわけないだろう?」

「あっ♡」

 

 鼻と鼻を突き合わせ、深く繋がったまま真っすぐ応えた。

 

「ユリはこんなにいやらしい体をしてるんだから、何度したって飽きられるもんじゃない」

「……ほんとうに?」

「勿論本当だ」

 

 本当、愛してる、好きだ、と何度言ったところで繰り返し求められる。

 言葉には行動を伴わなければならないのだ。

 

「あんっ♡ …………いまの、ふかくて……。おちんちんがピクピクしてるよ……?」

「ユリの中がとっても気持ちいいんだ」

「あっ……♡ もっと気持ちよくなって? ボクのおまんこで、おちんちんよくなって♡ あっ……あぁんっ♡ あっあっあっ、はあぁんっ♡ あっぁうぅっ♡」

 

 注挿が激しくなってきた。

 ずっとユリの膣内を堪能してきた男は、いよいよ込み上げてきた。

 ユリからセックスをして欲しいと言われたため、手早く射精して安易に満足することなく、焦らしに焦らしてユリを高めていた。

 淑女然とした様を崩して乱れる姿は淫蕩で、懇願や泣き声を漏らしていた口からは意味ある言葉が出なくなった。声は甘く、顔は蕩けて、押し付けられる乳房は乳首を尖らせ、溶けるような媚肉は逸物をしっかり包んで逃がさない。

 

「そろそろ出そうだ」

「らめ、もっとぉ♡ ボクのおまんこにいっぱいだしてぇ♡ あっはぁぁぁんっ♡」

 

 矛盾を口にしてる事にも気付いてない。

 膣の締め付けは腰の震えを伴っているから意識的なものではないようだ。何度も達しながらもっともっととねだっている。さすがは発情狼に淫乱スライムに搾精人形の長女である。

 ユリの体は淫らだった。

 

「ああぁぁぁあぁあぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ♡」

 

 深く届いたところできゅうっと締まった。

 ユリの叫びは長く尾を引き、出せる声を出し切ると声にならない喘鳴が続いた。

 膣壁が中へ取り込もうと蠕動し、包まれる男は最奥でどぴゅどぴゅと熱い粘液を吐き出した。

 この日はまだ一度も出してなかった上に、たっぷりと焦らして楽しんだため射精が長い。ぴゅるぴゅるぴゅっと続き、射精が終わらない内に結合部から溢れてきた。

 

「おっと」

 

 ユリからがっくりと力が抜ける。

 男が尻を掴んでいても、ユリがしがみついて背中を壁に押し付けていたから安定していた。

 ユリは壁を背にしたままずるずるとその場に崩れ、倒れてしまわないよう男が肩を持ってやった。ユリのためだけにしてやった事ではない。

 

「あ……う? あぁ…………」

 

 床にペタンと座ってしまったユリの顔を上向かせる。

 呆けて閉じ切らない唇に、精液と愛液に塗れた亀頭を擦り付けた。

 果てたばかりで硬さを失い切ってない。亀頭で唇をこじ開け、逸物をねじ込んだ。

 

「んむ……ちゅる…………。んっ……。じゅるる……」

 

 意識が薄れていても、すべきことはわかっている様だった。

 

 

 

 

 

 

 夢うつつのままお掃除フェラをさせられている途中で、ユリの意識が戻ってきた。

 自分がしている事を自覚しても、ちゃんと舐めてちゃんと吸い出す。事の後に綺麗にするのは、アルベドから直々に教わってもいた。

 お掃除を終えたユリは、ペタンと座り込んだまま男を見上げる。冷たい目だ。

 

「なあんで大きくしてるんだよ。早くしまいなよ」

「ユリさんが魅力的なんですよ。そのまま胸でしていただけませんか?」

「ばか」

「いてっ!?」

 

 痛みには強い男だが、おちんちんをぺちっと指で弾かれればとっても痛い。慌ててズボンの中に仕舞い込んだ。立ったままなので窮屈だが我慢である。

 男がズボンを直しても、ユリは立ち上がらない。スカートのポケットからハンカチを取り出した。

 

「もうちょっとじっとしてて」

 

 ハンカチで男の股間を拭い始めた。性的な愛撫のつもりは全くない。後始末である。

 デュラハンのユリはおつゆが多い。事の最中でもぽたぽた垂らしていた。最後の方は激しかったので飛沫が散ってしまった。それが男のズボンに付着していた。自分のおつゆがついたズボンを履いたまま出歩かせるわけにはいかない。ハンカチで拭っているのはそれである。

 戦闘メイド「プレアデス」は戦闘に重きを置いていても一流メイド。一流メイドの目で付着個所を漏れなく把握し、手早く拭いとる。

 

「これでよし。それじゃ今度こそ出るよ」

「出たら続きをしましょうか? ユリさんの部屋では如何です?」

「バカッ! まだ外は明るいんだぞ! それどころかお昼にもなってない。こんな時間から一体何を考えてるんだ!」

 

 今日一番力が入った「バカ」である。しかし、セックスしたいと先に言ったのはユリなのだ。それを忘れているのだろうか。

 男はそれを指摘してやろうと思って、まずとりあえずはクローゼットの扉を開いた。その瞬間、外へ弾き飛ばされた。

 宙を舞う男が顔だけ振り向き見たものは、険しい顔で手を突き出すユリだった。

 

 無様に着地することを何とか避けられた男は、ユリに一言言ってやろうとしたところでクローゼットの扉が勢いよく閉まった。ユリが内側から閉めたようだ。

 何がなんだかわからない男は、クローゼットに近付こうとして、部屋のドアが勝手に開いた。

 

「やっぱあの本は借りて……」

「あ」

「あーーーーーーーーーーーーっ!!! お前一体どこにいた!!」

 

 入って来たのはシャルティアだった。

 ユリはスキル「気探知」の警告に従い、難を避けたのである。男を救う余裕はなかった。けして生贄にしたわけではない。

 

「ずっと探させていたのに、まさか私から隠れていたのか!?」

 

 シャルティアはお冠であるらしかった。

 そんなシャルティアに、男は大袈裟に驚いてみせた。

 

「私はこの部屋で休憩していたところ思うところがありまして部屋の隅で瞑想をしておりましたソリュシャンたちから頻繁に指摘されるのですが一旦集中すると外部への注意が疎かになってしまうようですシャルティア様はお言葉から察するとこの部屋で本をお読みだったのでしょうかお読みだったのですね私が同じ部屋にいたのにお気付きになりませんでしたかそれはそれは素晴らしい集中力でございます集中力には注意を広げて何事も見落とさないものと一点に集中するものがありますシャルティア様が発揮した集中力は後者でありますねなんと素晴らしい事でしょうさすがはシャルティア様です読書でそこまでの集中力を発揮なさるとは感服いたしました。ですが私が借りた本を持っていかれてしまうと又貸しになってしまいますので、ティトゥス様から怒られてしまいます。その本だけ返却いたしますからシャルティア様のお名前で借りなおしましょう。シャルティア様がかような本をお借りになればティトゥス様は驚かれるかも知れませんがきっとお喜びになるかと。お話はきっとアインズ様に伝わる事でしょう。シャルティア様が知的な作業に勤しんでいるとアインズ様がお知りになればきっとお喜びになられますよ」

 

 男の舌がペラペラ回った。シャルティアは何を言われているのかわからない。しかし、褒められているのはわかる。

 シャルティアの機嫌が段々よくなってきたところに、男は追い打ちを掛けた。

 

「シャルティア様は私をお探しになってくださっていたのですね。私のために手を掛けてくださって大変ありがとうございます。私もシャルティア様にお目通り出来ればと思っておりました。私はシャルティア様にお会い出来るだけで光栄なのですが、シャルティア様は私にどのような用事があったのでございましょうか?」

「それは後にしんしょう。まずは図書館に行きんす!」

 

 シャルティアはふんすと胸を張る。

 ぷんぷんしていた機嫌は良くなったようだ。

 

 

 

 二人が部屋から出て戻ってこないのを確かめてから、ユリはクローゼットを出た。

 男の口車とそれに乗ってしまったシャルティアに複雑な思いを抱いたが、危機を脱したのは確かだった。男に売られることもなかった。シャルティアに何かしらを気付かれることもなかった。

 男を売って、もとい生贄にして、もとい犠牲にして、もとい手を差し伸べられなかったのは仕方ない。

 

「はあ……。脱がされなくて良かった」

 

 はだけた胸はブラジャーを着けなおして、ブラウスのボタンも閉めた。

 スカートのポケットから取り出したのは、右手にハンカチ。左手は脱いでしまった紐パンだ。

 

 今朝、ネグリジェから着替えた時の事である。

 偶には攻めたお洒落をしてみようと、セクシーランジェリーに分類される下着を手に取った。紐パンがそれである。

 紐パンを穿いて姿見の前に立ち、ちょっぴりポーズを取って見れば我ながら中々と思わされた。

 続いてセットのブラジャーを身に着け、断念した。とても煽情的である以前に、実用に耐えなかったのだ。

 なにせバストのトップが覆われてない。先端が擦れるくらいならまだしも、ちゃんと支えられないのでとても揺れる。その上、ブラウスの上から先端の形が見えてしまう。

 これは駄目だと判断して、ブラジャーは違うものを着けた。

 ショーツも替えようと思ったのだが姿見の前に立っていた時間が長かったらしく、時間が押していた。

 誰かの前で脱ぐ予定はなし、下着は上下不揃いにしてしまった。

 

 ナザリックの一員として、下着が上下でセットではないものを着けるのは大変恥ずかしい事である。ナザリック云々以前に、女としてみっともない。

 もしもメイド服を脱がされて下着だけの姿にされていたら、大変な事になるところだった。

 幸か不幸か、彼は下着よりも中身に夢中だったようである。

 

 一人深く反省したユリは、シャルティアが寝転がっていたソファーに座ってスカートを捲り上げた。

 

「うぅ……、こんなになってる……」

 

 スカートの内側は、大変な事になっていた。穿いたままエッチをしていたので、色々な汁が飛び散っている。

 スカートよりも脚がひどい。垂らしてしまった汁が内股を垂れていったし、中に出されて収まりきらなかったものも溢れている。シャルティアが勘付いた匂いもある。

 ユリは取り出したハンカチで内股を垂れた汁を拭う。

 ある程度綺麗に出来たら、入れられていたところだ。

 

 どこでも吸収できるソリュシャンや、子宮で吸収するアルベドや、子宮に一定量を保管できるシズと違って、ユリは中に出されたものがそのまま出てくる。

 

「んっ……」

 

 汚れが広がらないよう指で広げ、下腹に力を込めると、こぷりと溢れてきた。

 溢れてきたのを拭き取ろうとハンカチをあてがったところで、ユリのスキル「気探知」が警告を発した。

 咄嗟にスカートを戻した。

 

「失礼いたします。あれ? ユリお姉さま? どうしてこちらにいらしているのですか?」

 

 ドアをノックすることもなく、メイドがドアを開けて入って来た。

 

「私の事よりも、今ノックをしませんでしたね? 無人である事がわかっていても、ドアを開ける際は必ずノックをしなければいけませんよ」

「あっ! 失礼いたしました!」

 

 メイドは慌てて頭を下げた。

 頭を上げさせて話を聞けば、部屋にある本を移動させて欲しいと相談役から頼まれたとのこと。

 本の山を目の前にして、メイドは呆然とユリを見た。

 

「私も手伝います。相談役殿は本の量を伝えておくべきでした。あなたの不手際ではありません」

「はい! ありがとうございます!」

 

 ユリはメイドと一緒に、台車に積まれた本の山を運ぶことになった。

 

 紐パンはポケットの中だ。

 ハンカチは股の間である。こぷりと出てきた粘液を拭き取ったところであった。フロア丈のスカートであるため、周囲に気付かれずにハンカチを取る事は不可能だ。

 

 ユリはこれから、股の間に精液を吸ったハンカチを挟んだまま、本を運ばなければならなくなった。

 もしもハンカチを落としてしまったら死ぬ。

 首を吊って「デュラハンジョークです☆」とやる羽目になるかも知れない。

 

 淫乱だと思われるくらいだったら、笑われ者になる方がまだマシであった。




PSPでハーメルンにログイン出来なくなってしまいました
閲覧出来るのが不幸中の幸い
古い機種ですから仕方ないですね


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気になってたこと

本話10k


 ユリとメイドは二人で大量の本を運ぶ。

 台車に載っているためユリだけで可能な仕事だが、頼まれたのはメイドだ。自分の仕事を他者に押し付けるメイドはナザリックにいない。二人は一緒に台車を押した。二人で一つの台車を押すのだから、歩調を合わせねばならなかった。

 

 メイドは何も問題ない。いつも通りに歩くだけである。強いて付け加えるなら、いつもはエ・ランテルで孤児院の運営に勤しんでいるユリお姉さまとお喋り出来るのがとても楽しい。

 一方のユリはそうもいかない。股の間にハンカチを挟んでいる。ハンカチには粘液が付着しているが、ずっと股に張り付いているほど粘性は高くない。太ももを閉じていなければ落ちてしまう。そのため、膝から上を動かすことが出来なかった。

 幸いにもユリのスカートはフロア丈。足元は見えない。かなり不自然な歩き方でも気付かれず、むしろいつも以上に上体が揺れない歩き方となっており、さすがはユリお姉さまですと尊敬を深くされていた。

 

 ユリにとっては果てがないと思われる長い長い廊下であったが、絶えず一歩を進めていればいつかは辿り着く。何度目かの角を曲がったところで、目的地が見えた。

 メイドはユリとの語らいが終わる事を残念に思って、と同時に一つのお仕事を終えることに満足する。表に出すのは後者だけだ。明るい声を出した。

 

「相談役殿とソフィー様がお使いになっている部屋はあちらですね」

「ご苦労様です。ここからは私がっ!?」

「ユリお姉さま? どうかなさいましたか?」

「えっ……、ええ。何でもありません」

 

 目的地が見えたことで、ユリに油断が生じた。

 足を踏み出す距離を誤り、太ももと太ももが離れてしまった。さながら断崖絶壁に掴まって耐えていたのに、救助の目の前で落ちてしまったかの如き。

 

(待って!!)

 

 内心で激しく叫んだが、ハンカチがユリの声を聞くわけがない。太ももで挟んでいたハンカチは無情にもはらりと落ちて、咄嗟に脚を閉じることで床に落とすことは避けられた。

 挟めたのはふくらはぎである。ねちゃりと冷たく湿った感触があった。事態が露見することは避けられたが、動けなくなってしまった。

 動くにはハンカチを適切に処理する必要がある。それには傍らに誰かがいては不可能だ。

 

「ここまで来たのですから、あなたの仕事は完了です。あとは私が運び入れておきます」

「そういうわけには行きません。部屋に運ぶように頼まれました。こんな中途半端なところに置いてしまっては叱られてしまいます」

「ですから、後は私が運びます」

「はい、あと少しですね。部屋まで入れてしまいましょう」

「ですから私が運んでおきます」

「はい、手伝って下さってありがとうございます。ここまで来て、最後をユリお姉さまに任せてしまうことは出来ません」

「そう、ですか。ですが、その……」

「何でしょうか?」

 

 純粋無垢で疑うことを知らない眼差しが、ユリにはとても痛かった。頼りになるユリお姉さまと思ってくれているのに、とてつもない隠し事をしてしまっているのだ。

 

「少し考えたいことがあるのです。その……何かを忘れてしまった気がしてならないのですが思い出せなくて」

「あっ、私もたまにあります! 思い出せそうなのに思い出せなくて、もやもやしてしまいますよね」

「そうなんです! ここから一歩でも動いたら手掛かりが消えてしまいそうなんです。少しこのままにしておいてくれませんか? 本はきちんと運んでおきますから」

「そうなのですか? 軽い頼まれごとなので報告はいらないと仰っていましたが、お会いしたらユリお姉さまのお名前を出してもいいでしょうか?」

「構いません。何かあったら私が口添えしますから心配いりませんよ」

「そう言う事でしたら……」

 

 更に二三言を交わし、メイドは二度振り返ってユリに頭を下げてからその場を離れた。

 

 ユリは周囲に人気がなくなってから、更にスキルを使って近くに誰もいない事を確かめた。

 無人とわかっていてもキョロキョロと周囲を見回し、さっと屈んだ。

 素早くスカートの中に手を突っ込み、ふくらはぎで留めていたハンカチを抜き取る。

 

「うっ……」

 

 見ずに掴んだものだから、手が粘液に触れてしまった。拭おうにもハンカチは使用に堪えない。

 とりあえず、ハンカチは濡れている面を内側に折り畳んでポケットにしまう。濡れた手が問題だ。手の平にべっとりいってしまった。

 このまま台車のハンドルを握ることは出来ない。どこかに擦り付けるのは以ての外だ。拭き取るのに適したものがポケットの中に入っていただろうかと模索するも何もない。

 止む無く手の平を顔の前にかざし、舌を伸ばした。

 

「ユリ姉、何してる?」

「!?!?」

 

 ペロリとしたところで、背後から声を掛けられた。

 アンデッドの凍えた心臓が口から飛び出たと思った。

 

「シズ!? ボクに何か用!?」

「用があるのはユリ姉。こんなところでしゃがんで何してる? 探し物だったら手伝う」

「!?」

 

 声の主は、プレアデスの末妹の一人、シズだった。屈んだところを目撃されたらしい。

 ユリのスキル「気探知」には引っかからなかった。ロイヤルスイートの廊下はとても長く、遥か後方のスキルの有効範囲外にいたようだ。

 

「別に何も探してないよ。この本を運んでくれって言われたんだ。もうすぐそこだからシズに手伝ってもらうことは何もないよ。またね」

「ふーん?」

 

 シズは内心を窺わせない顔でユリの爪先から顔までをじっくりと観察する。視線が止まるのは、ユリの足元と手と顔だ。

 

「ほら、早く行きなよ。こんなところで油を売ってる暇はないだろ?」

「結構ある。だからユリ姉の手伝いをしたい」

「ボクは大丈夫だって!」

 

 手伝ってもらうことは何もない。ユリが願うのは、一刻も早く誰もいないところに行くことだ。

 手が少々あれなのは我慢することにした。ぎゅっと拳を作り、ハンドルは握らずに台車を押し始め、

 

「ひゃっ!? キャアアアアーーーーーーーーッッッ! シズ!! 何するん、だ……よ…………」

 

 下半身に外気を感じた。背後から思い切りスカートを捲られたのだ。

 とんでもない事を仕出かしたシズを叱るべく眼尻を釣り上げ振り向けば、シズの内心を窺わせない顔と目が合った。真っすぐな目だった。言い訳を許さず、真実を明らかにしろと強いる目だった。

 

「ユリ姉…………、どうしてパンツ穿いてない?」

「そ……れ……は………………」

 

 ユリは窮地に陥った。

 

 

 

 

 

 

 ナザリック総幼児化事件の際、シャルティアが速やかにソフィー確保に動けたのは何故か。ソフィーの罪を言い渡す場に於いて、アルベドの機嫌が地を這っていたのは何故か。

 

 シャルティアがずっと近くにいたからである。

 ソフィーと入れ違いでアインズの執務室に入ったシャルティアは、幼女となったアルベドを目の当たりにした。

 いつもと全く違うアルベドをシャルティアが見過ごすわけがなく、心の底から煽った。煽り倒した。アルベドが泣くまでやった。

 

『ふむふむふーむぅ……。守護者統括様は随分とちぃっちゃくおなりでありんすねぇ。いつもは随分と重そうなものを吊るしていんしたが、大層軽うなって幸いでありんしたねぇ? まっっっっっったいらになって身軽になりんしたのはまことにおめでとうございんすぇ。とは言っても? 折角身軽になりんしたのにそのドレスでは折角の身軽を活かせそうにありんせん。守護者統括様もまっっっったいらになって軽うなった体を楽しみたいでありんしょう? わらわがまっっっったいらに相応しいドレスを選んで差し上げんすよ。まっっっったいらでも着れるドレスが探せばどこかにありんしょうから』

 

 アインズは一連の出来事を目の当たりにしていたが、出来る事は何もなかった。

 女性同士がおっぱいの大きさについて語る非常にセンシティブな問題に口を出せようものか。偉大な魔法使いであるアインズであっても、出来る事と出来ない事が厳として存在するのだ。魔法使いだからこそ出来なかったのかも知れない。

 後にソフィーが泣いたのは大体シャルティアのせいであった。

 

 では、どうしてシャルティアはアルベドの傍に居たのか。

 

 

 

 

 

 

「アルベドに話は通しんした。これから週に一日は私の仕事を手伝ってもらいんす」

「……アルベド様に確認してもよろしいでしょうか?」

「もちろん構いんせん。アルベドははっきりと許しんしたよ」

 

 図書館で鉱物図鑑を借りなおした二人は、第十階層を歩きながら言葉を交わしていた。

 

「これからアルベド様の元へ向かってもよろしいでしょうか?」

「それは後にしなんし。あっちは仕事中でありんしょう? 邪魔してはいけんせん」

「……かしこまりました。それでは今夜にでもお聞きいたします」

「そうしなんし。それまではわたしに付き合ってもらいんす。手伝ってもらうのは今日じゃなくてこれからの事でありんすから。いつだったかお前には丸一日命令されたことがありんしたねえ。お前と違ってわたしは無茶な事を言うつもりは全くありんせん! 手伝いはかるーいものでありんす。ちょぉっとマッサージしてもらうくらいでありんしょうから。くーっふっふ……!」

「…………」

 

 過日の調教競争の折、男は勝利したことでシャルティアへの一日命令権を得た。その時シャルティアが賭けたのは、男へ週に一日命令する権利だった。命令から手伝いにグレードダウンしたにせよ、負けて得られなかったものを得たと言ってよい。

 これがシャルティアが言い張るだけの事であったら無視する男であるが、アルベドの名前を出されてはそうはいかない。

 シャルティア様はシャルティア様だからと言われるシャルティアと言えど、すぐに露見する嘘を言うほど愚かではない。自信満々であることからも、アルベドと話をつけたのは真実と思われた。

 

 

 シャルティアは、本当にアルベドと話をつけたのだ。

 ナザリック総幼児化事件の直前の事である。シャルティアはアルベドへこう言った。

 

『お食事は週に一度。アルベドは守っていんすか?』

『っ!』

 

 今や古い話である。アルベドが異色光彩の美男を拾って季節が一つ過ぎたかどうかと言った頃。エ・ランテルのお屋敷にてアルベドとシャルティアが鉢合わせたことがあった。

 その時はちょっとした騒動になってしまい、場を治めたアインズがアルベドへ「ご馳走はたまにだから価値がある。週に一度に抑えるように」と言っていた。

 シャルティアは自分の耳でアインズの言葉を聞いている。直接言われたアルベドも覚えていなければならない。

 

 瞬間怯んだアルベドは、いつもの微笑を湛えて答えてやった。

 

『アインズ様のお言葉ですもの。勿論守っているわ』

『その割には毎日髪も肌も艶々でありんすねぇ? 栄養が多すぎじゃありんせんか?』

『きちんと磨いているだけよ。食事だけじゃないわ』

『言いんすねぇ。それならあいつに聞いてもいいんでありんすね?』

『構わないわ。私はお食事をしているのではありません。彼とはセックスをしているのよ』

 

 アルベドは、恥も衒いもなく言い切った。

 

 ナザリックのシモベたちにとって、アインズの言葉は絶対だ。ナザリックにて序列二位であるアルベドも例外ではない。アインズが「お食事は週一」と言ったら週一なのだ。

 では、日々している事は何か。

 特にアルベドが居をエ・ランテルに移してからは、朝か夜かどちらもか、毎日欠かさず行われてきた。

 あれはお食事ではない。

 おセックスである。

 互いの愛を確かめ合う行為であって、サキュバスが食欲を満たすための行為ではない。

 お食事ではないのだから、週一どころか毎日行っても問題はないのである。

 

『セックスって言うならおちんぽミルクは飲んでないわけでありんすね?』

『うっ』

 

 シャルティアは一撃でアルベドを論破した。

 

 あれは食事ではなく愛を確かめ合う行為だと言い張ったとしても、サキュバスが精液を飲まないわけがない。雨が降ったら地に染み込むのと同じ自然の摂理である。

 

『まさか守護者統括様がアインズ様のお言葉を違えるわけがないでありんしょうから、お食事じゃないって言ったらそうなんでありんしょうねえ?』

『……何が言いたいのかしら?』

『難しい事じゃありんせん。あいつはアインズ様が直々に守護者統括様の相談役にお認めになさるくらいだから? 色々と器用で物知りでありんす』

『……そうね』

『だから? 時々わたしを手伝って欲しいんでありんすよ。そのくらい心の広い守護者統括様はお許しになるでありんしょう?』

『今までも勝手に連れていってるじゃない』

『勝手じゃなくなればお互いに安心できるでありんしょう? 週の半分は手伝って欲しいでありんすねぇ』

『そんなに認めるわけないでしょう! あの子は私の相談役なのよ!』

『仕方ありんせん。それじゃその半分で』

『駄目よ。週に一日。それ以上は認めないわ』

『ま、そのくらいが落としどころでありんすか』

 

 典型的なドア・イン・ザ・フェイスである。最初に過大な要求をぶつけてから譲歩したと見せかけて本当の要求を通すテクニックを指す。

 アルベドも熟知している交渉術の初歩の初歩であったが、アインズの言葉を出されては撥ねつけるわけにはいかなかった。

 

 アインズの執務室を訪れたアルベドがキレ気味だったのは大体シャルティアのせいであった。

 

 

 

 

 

 

 アルベドとシャルティアの間で一体どのようなやり取りがあったものかと男は考えるが、シャルティアに話す気配はない。であるならアルベドが話すこともないと思われる。

 何であれアルベドが認めた以上、シャルティアの言葉に従わざるを得なかった。

 命令ではなく手伝いと云うのだから、無茶な事はないだろうと思うがシャルティアなので過度な期待は厳禁である。

 

 さしあたって、今のシャルティアが目指している場所は男もずっと気に掛けていた。

 

「あれから一度くらい行きんしたか?」

「それが一度もお会い出来ておりません。強く印象に残ったでしょうから、お忘れにはなっていないはずです」

「仕方ないやつでありんすね。わたしがあれだけ協力したんでありんすから無駄にはさせんせん!」

「頼りにしております」

「ほほーう? お兄ちゃんに頼られたら仕方ないでありんすねえ? お礼はたーーーっぷり期待しておりんす♡」

「……ご期待に応えられるよう微力を尽くします」

「そこは全力を尽くしなんし!」

「……努力いたします」

 

 実に今更になって、シャルティアに社交辞令を述べると言葉通りに受け取られてしまうことを、男は知った。これまで口車に乗せて良い様に回してきた報いかも知れない。

 憮然と崩れたがる表情を繕ってシャルティアの相手を続けた。

 

 道程は短く、と言うのはシャルティアのゲートの魔法で移動したからだ。

 第十階層の片隅で魔法を発動し、闇の扉を潜れば目的地の前である。

 

「ちょうどお昼でありんす。ちゃんとご飯に戻ってるでありんしょう。もちろん? わたしのご飯も構いんせんね?」

「ご随意に。ただし、採血はご遠慮ください。直に飲むだけに留めてくださいますようお願い申し上げます」

「瓶に入ったのはたっぷり残っていんす」

 

 シャルティアは男へ声を掛けながら、ドアノブに手を伸ばした。ノックをするとか声を掛けると言った配慮はないらしい。乱暴にガチャっと捻って勢いよく開け放った。

 

「アウラー! 逃げずに出てきなんしー!」

 

 ゲートの魔法が繋いだのはナザリック第六階層。階層守護者であるアウラとマーレが住むツリーハウスの前だった。

 シャルティアの声はよく通り、さして待たされることなく一人のエルフメイドと、目当てのアウラの弟であるマーレが姿を現した。

 

「シャルティアさん!? とお兄ちゃん。あの……そろそろお昼なんですけど……」

 

 三人いるメイドが一人しか来ないのは、お昼の準備をしているかららしい。

 茶髪のメイドはマーレの一歩後ろに控え、一応は主人であるマーレがおどおどと対応した。

 

「お昼だから来たんでありんす。この時間ならアウラもいるでありんしょう? さっさと出しなんし」

「あの……それが……」

「あぁン? まさかいないってことはないでありんしょうね?」

「その…………、いないんです」

「はアァあん!? いない? いないってどういう事でありんすか!」

「そんなこと僕に言われても…………」

 

 二人の目当てはアウラである。在宅であろう時間を狙ってきたのに、不在であるらしかった。

 逃げ続けるアウラに堪忍袋が温まってきたシャルティアは、マーレの制止も聞かず家探しを決行。ツリーハウスのドアと言うドアを片端から開け始めた。もしも一時間前にこのまめさを発揮していたら、あられもない姿のユリを発見出来ていた事だろう。

 男は家探しには加わらず、厚かましくも自身の昼食を注文した。エルフメイドたちはちょっぴりムッと来たが、私たちのマーレ様がお願いしますと云うのだから喜んで準備せざるを得ない。

 一通りバタンバタンやって満足したか諦めがついたかしたシャルティアがダイニングにやって来たところで昼食となった。

 

「いんせんでありんした!」

 

 シャルティアはむっすーと頬を膨らませる。マーレはとても居心地悪そうに俯いた。

 

「今日のお姉ちゃんは朝からお弁当を持って出かけてます」

「はあ!? それを早く言いなんし!」

「ごっ、ごめんなさいっ!」

 

 二人がアウラの元を訪れたのは、開発の自習がちゃんと進んでいるか確認するためである。

 シャルティアは度々訪れていたが、アウラは言葉を濁して確認させなかった。それならば開発を主導した男を連れて行けば言い逃れ出来ないだろうと二人連れで踏み込んだらかくの如し。

 二人が揃ったら絶対にろくでもない事になると確信したアウラは、顔を合わせないのが一番だと判断してナザリックを離れたのであった。

 離れると言っても一時的で、夜には帰ってくる予定である。夜になったら男はソフィーの監視に戻るため、乗り込まれる危険はない。シャルティアはいつものようにかわせば良い。

 アウラがこうも距離を取るのは、開発の内容が問題だからだ。なにせアナルの自主開発である。

 そんなものを確かめられるわけにはいかなかった。

 

「まったく! 無駄足じゃありんせんか!」

「そう仰らないでください。アウラ様がいらっしゃらなくても、こうしてマーレ様と食事を取る事が出来るのですから」

「……えへへ」

 

 はにかみ笑いをするマーレ君はとても可愛い。

 

「わたしもお昼にしんす!」

 

 仲間外れにされた気分のシャルティアは頬が膨らんだままだ。食事をする男の背後に立ち、後ろから男のシャツの襟を広げた。男が前もって襟のボタンを外していたので、シャツが破かれることはなかった。

 

「あっ!」

 

 マーレが思わず声を上げた。

 男が首を傾けると、あらわになった首筋へシャルティアがカプリとやったのだ。

 シャルティアは吸血鬼である。吸血鬼に血を吸われた人間は、吸血鬼になってしまう。慌てて止めようにも時遅し。

 顔を白くするマーレに、男がネタ晴らし。

 

「私はアインズ様から授かったアイテムのおかげで、シャルティア様から吸血されようと吸血鬼に転化する事はありません。既に何度かお試しいただいております。ご心配ありがとうございます」

「あ……そうなんですか」

「うぅ~~~っ。いつのんでもおいしいでありんしゅう♡」

 

 ナザリックの全吸血鬼が認める吸血鬼泣かせの鮮血を直飲みである。シャルティアはぷんぷんしていたのも忘れ、恍惚と鮮血に酔った。

 

 

 

 人間も吸血鬼もダークエルフもエルフも昼食を終え、食後の紅茶がやってきた。

 実は紅茶通なシャルティアであり、エルフメイドたちは世話焼きを鬱陶しく思われていても紅茶を淹れる技術は評価されている。シャルティアはふむふむと頷いて紅茶を楽しんだ。

 いつものように楽しめないのは、シャルティアの対面に座るマーレである。

 

「シャルティアさんはどうしてお兄ちゃんの膝に座っているんですか?」

 

 マーレには今しがたの弱気な様子が全くない。可愛らしいお顔からは表情が抜け、目はしっかりと据わり、抑揚のない声をシャルティアに突き付けた。

 シャルティアはふふんと鼻を高くして、ティーカップを傾けた。マーレは目を細めた。

 

 いつもは自分が座っているお兄ちゃんのお膝にシャルティアさんが座っているのだ。

 いつもは自分が座っているお兄ちゃんのお膝なのにシャルティアさんが座っているのだ。

 いつもならお兄ちゃんはこっちが何を言うまでもなくさっと抱き上げ時に肩車をしてお膝に乗せてくれるのに何故かシャルティアさんが座っているのだ。

 どう考えても異常な事態である。

 お兄ちゃんが自分よりシャルティアさんをお膝に乗せることを選ぶのは考えにくいため、シャルティアさんが強いているとしか考えられない。

 シャルティアさんは嫌がるお兄ちゃんのお膝に無理やり乗っているのだ。

 お兄ちゃんは人間なのにアルベドさんに拾われてアインズ様に認められた。自分と会えば毎回楽しい話をしてくれたり一緒に遊んでくれたりしてくれる。

 そのお兄ちゃんに、シャルティアさんは無理やり嫌な事をさせている。

 そんな事は絶対に間違いだ。

 間違いは正さなければならない。

 

 マーレの信念は固い。間違いを正すためなら少々の事は止む無しと思っている。

 今のマーレを姉のアウラが見たら、そーいうとこがめんどくさいと言うだろうが、言って治るくらいならこうなっていなかった。

 

 決意を秘めたマーレに対し、シャルティアは余裕である。

 余裕を持って言ってやった。

 

「こいつが男で、わたしは女だからでありんす。マーレも膝に座りたかったらそっちを使えばいいでありんしょう」

「えっ?」

 

 それはマーレが思ってもみなかった分類であった。

 お膝に乗るには男女が対になっていなければならないのであろうか。しかし、そう言われても今まではお兄ちゃんのお膝に乗っていた。男同士である。必ずしも男女が対でなければならないわけではないはずだ。

 

「「「マーレ様がお望みでしたらどうぞ私の膝をお使いください」」」

「えっ?」

 

 マーレが反論しようとした直前に、エルフメイドたちが異口同音にメイド服のエプロンを摘み上げ波打たせた。

 優雅で主人に仕える喜びを感じさせる仕草だったが、シャルティアは難しい顔を見せた。

 

「お前たち、ちゃんとマーレに尽くしていんすか?」

 

 思ったことをそのまま口にするのがシャルティアである。とは言っても、相手はナザリックの外から来たエルフのメイド。シャルティアでなくとも思ったことを口にしたかも知れない。

 問われたエルフメイドたちは自分たちに何か至らないところがあったのかと大いに戸惑う。出来る限りの力を尽くして仕えてきたつもりなのだ。だけれども、シャルティアの目には足りていなかったようだ。

 シャルティアの事をもう少し知っていればどういう事かと詳細を問い直したろうが、ナザリックの序列では下から数えた方が早い彼女たちにそんな事は出来ない。

 その事を敏感に感じ取ったマーレが立ち上がった。

 

「みんなはよくやってくれてます。着替えや歯磨きまで手伝おうとするのはちょっと困るけど……。シャルティアさんが心配することは何もありません」

 

 今のマーレはちょっとアグレッシブである。不当な弾圧には頑として抵抗する勇気が宿っている。エルフメイドたちは感動して目を潤ませた。

 見ようによっては幼い主人が勇気を振り絞って部下を庇う感動的な場面に見えなくもない。

 しかし、マーレの言葉はシャルティアが出した的から大きく外れていた。

 

「そう言う事じゃありんせん。わざわざナザリックに受け入れたんでありんすから、よく働くのは当然でありんす」

「だったら何ですか?」

 

 両手を上げて大仰に首を振るシャルティアが、マーレにはちょっと気に食わない。ふざけているのか揶揄っているのかと思ってしまう。

 

 シャルティアにはどちらのつもりもなかった。

 シャルティア的に極々真っ当な事を聞いたつもりでいる。

 

「わたしが聞いたのは、マーレに尽くすってとこでありんす。アウラは関係ありんせん。マーレでありんすよ」

「みんなお姉ちゃんにもちゃんとしてくれてます。……お姉ちゃんも時々迷惑そうですけど」

「「「マーレ様!?」」」

「あっ! 時々ですから! 時々、です」

 

 迷惑がられていると聞かされショックを受けるエルフメイドたちに、マーレは即座にフォローしてしまう。そのせいでこれからも過度な世話焼きが続くのだが、それはまた別の話である。

 今はエルフメイドたちがマーレに如何に尽くしているかだ。

 

「だーかーらー、それは当然でありんす!」

「私が整理いたしましょうか」

「お前は黙ってなんし!」

「かしこまりました」

 

 シャルティアに座られる男が口を挟むが、黙っていなければならないようだ。

 

「そいつらがアウラとマーレによく尽くすのは当然でありんす。そこはちゃんとやっているんでありんしょう? それはわかっておりんす。それ以外にマーレに尽くしているかって事でありんしょうが!」

「それ以外ですか?」

 

 マーレもエルフメイドたちも、シャルティアの話がよく飲み込めない。

 シャルティアの椅子は話が見えてきた。以前、アウラとマーレの性別を勘違いしていた事があり、正しく認識してから少し気に掛けていた事である。

 

「マーレも黙って聞きなんし。わたしが聞いてるのはそっちでありんす」

 

 黙れと言われたマーレ君は、堪忍袋が温まっていたのもあって珍しいことに可愛いお顔の眉間に皺を刻む。次にシャルティアが誰かを虐めるようなことを言ったら、ちょっと強く出ていいよねと決意した。

 しかして、シャルティアが口にした言葉はマーレの知識にないものであった。

 

 

 

「お前ら、マーレの童貞を食いんしたか?」

 

 

 

 マーレの童貞。

 

 シャルティアが発した真言は、エルフメイドたちの心象をヴァーミリオンノヴァで一切合切を焼き尽くすかの如き効果があった。

 三人は無になった。

 

 虚無の世界で、マーレの姿だけが光り輝いていた。




エルフメイドの名前は金茶青をモチーフに適当につけようかと思います


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