鬼滅の金庫番 (新グロモント)
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01:始まり

意図的に、鬼殺隊から鬼滅隊に変えております@@
似た世界的な意味でね!!

「鬼滅の刃」面白いです。
なので、こういう展開もありかなと思い投稿してみる。

需要があれば嬉しい。



 人の世をはばかり「鬼」と呼ばれる者が存在する。

 

 「鬼」の主食は人間であり、人とは相容れぬ存在だ。「鬼」は、人より強靱な肉体を持ち、特殊な方法でしか殺す事ができない。極めつけは、全盛期の肉体を持ち、不老不死という特性だ。

 

 それほどまでに人知を超越した存在が、世界の頂点に君臨できないのには理由がある。

 

 「日光を浴びると灰になる」「生殖機能を備えていない」というのが致命的な欠点だ。

 

 「日光を浴びると灰になる」――これは、鬼が消滅するという意味である。世の中、日照時間中、活動ができない。日の出(ひので) 及び 日の入りの時間帯を考えれば、活動時間は大きく()がれる。よって、「鬼」達は、日陰に隠れて過ごしている。

 

 「生殖機能を備えていない」――これは、鬼が子孫を残す事ができないという意味である。ならば、どのように増えるかというと、鬼の始祖的存在の鬼舞辻無惨が血を分け与える事で人が「鬼」へと変貌する。すなわち、一人の男が夜な夜な歩いて、日本各地を回りセコセコと種付け…でなく、血を与えて回って増やすという地味な作業だ。

 

 それだけならば、「鬼」という種族が世界を闊歩(かっぽ)してそうだが、どのような勢力に対しても反抗勢力という物は存在する。それが、鬼を狩る鬼滅隊という組織だ。鬼滅隊は、鬼を駆逐するために、日光が蓄えられた鋼で造られた刀――【日輪刀(にちりんとう)】という刀を作り上げた。その刀で、日輪刀で「(くび)」を落とすことで絶命させられる。

 

 そして、そんな鬼滅隊に勤めているのが、裏金銀治郎という冴えない中間管理職である。

 

 この世に生をうけて、30年……数々の鬼達を葬り、柱にまで上り詰め、五体満足で引退した。その実力は、今の時代の柱と比較すれば一段劣っている。現柱達は、歴代最強だと名高い者達なのだ。

 

 裏金銀治郎……鬼滅隊の資産運用を一任されている男だ。鬼狩で得た給与を資産運用で何倍にも増やした手腕を買われたのだ。

 

 大事な事だが、裏金銀治郎は資産運用が得意という訳ではない。将来的(・・・)に繁栄する会社を知っているだけだ。だからこそ、何の憂いもなく全資産を投資に回せる。言わば、インサイダーというに相応(ふさわ)しいだろう。

 

 だが、別に悪いことではない。将来のため、頑張っているだけにすぎない。鬼退治が終わってからの生活も考えれば、貯金しておくのは当然だ。大正の世は、昭和や平成、令和のように社会保険制度は、充実していない。自分の身を守れるのは自分だけなのだ。

 

 自らの将来を守りつつも裏金銀治郎は、今日も真面目に仕事に取り組んでいた。各所から上げられてくる報告書を取りまとめ、かかった費用を精算する。そして、隊員達の給与が滞りなく届くように手配を怠らない。

 

 鬼滅隊という組織の中で、誰よりも真面目に組織運用を頑張る裏金銀治郎は、今、頭を悩ませていた。

 

「持ってあと一年……【鬼滅の刃】の原作だと、そんな事は無かったぞ。俺のせいなのか」

 

 目下の重要課題は、金の調達方法だ。

 

 裏金銀治郎は、本来の歴史ならば自らのポジションに未来を見通し、資産運用を完璧にこなしていた陰の立て役者がいたのではないかと考えたのだ。

 

 だが、それが事実であったとしても、今更どうしようも無いのが現実だ。

 

 鬼滅隊とは、政府非公認(・・・・・)の組織である。これが何を意味するかというと言わば、個人事業主が日本各地に潜む「鬼」を数百人も居る社員を率いて倒すボランティアだ。なぜ、仕事ではなくボランティアかというと、「鬼」を殺したところで誰もお金をくれないからだ。

 

 勿論、鬼から助けられたという人達が善意で寄付などをしてくれる事も多い。だが、数百人の組織の維持管理費用、お国に納める税金。いかに、産屋敷の家が国内屈指の大富豪であったとしても、限界がある。

 

 現当主の産屋敷耀哉は、鬼滅隊第97代当主だ。病弱ながら知に優れ、築いた財で鬼滅隊を支えているが、それも時代錯誤であった。近代化された社会の中で、家柄が古いだけではどうしようもない。

 

 それに危機感を覚えて、裏金銀治郎は、産屋敷耀哉に資産獲得の為の案を提案したことがあった。鬼滅隊を政府高官や有権者達のボディーガードとして派遣し、金銭を得るという物だ。特殊な呼吸法を取得した鬼とも対峙できる人型兵器といっても差し支えない隊員達が守るのだから身の安全は保証されたような物だ。金だけでなく、政府にコネ作りもできて一石二鳥という名案であった。実現の為、賄賂を積み有権者から政府高官までコネクションも築き上げていた。後は、当主である産屋敷耀哉の承認サインだけであったが、不許可であった。

 

 このままでは、鬼舞辻無惨を倒す前に鬼滅隊が破産する。鬼滅隊の隊員は、特殊な呼吸法を身につけており、職を失えばどうなるか……犯罪者にでもなられたら、笑えない事態になる。

 

「「鬼」という明確な悪がおり、それを恨む者もおおい。そんな対象を殺して、お金がもらえるからこそ、鬼滅隊という組織が成り立っている。やはり、やるしかないか……」

 

 裏金銀治郎は、決意した。生き残り、鬼を駆逐するため、いかなる手段も辞さないと。

 

………

……

 

 産屋敷の館の一室で、産屋敷耀哉と裏金銀治郎が対面して座っている。テーブルには、組織の現状を纏めた資料があり、お付きの者が目が見えない産屋敷耀哉の為に読み上げる。

 

 その内容を耳にし、部屋の空気が重くなる。

 

 頭の良い産屋敷耀哉は、読み上げられた資料だけで事の重大さを理解した。だが、産屋敷耀哉とて、見て見ぬふりをしていたのではない。神職の嫁を貰っている家系である為、親族達の実家に援助の依頼を度々依頼している。加えて、藤の家と呼ばれる鬼滅隊を支援してくれる家に対してもお礼状と共に、支援の依頼をしていたのだ。

 

 だが、その成果は、(かんば)しくなかった。どの家にも生活がある。余剰分を利用しての支援ならまだしも、自らの分まで削って支援など行うはずもない。

 

 現在社会において、情に訴えるという手段は古いのだ。何事もギブアンドテイクの時代である。

 

「お館様、鬼滅隊という組織が大事なのは理解しております。しかし、このままでは破綻を逃れられません。どうか、例の件について、許可を頂けないでしょうか」

 

「どうしても他の手段はないのかい?」

 

 親が子を諭すかのような菩薩の声で、産屋敷耀哉が口を開く。

 

 人は、霞を食べては生きていけない。それに、過去の遺産を食いつぶして、食いつなぐのも限界だ。組織を維持するためには、商売をしないとダメなのだ。

 

 現に、マフィアだって麻薬や銃などを売り、資金を集める。何かしら商売しなければ、金はなくなる一方である。

 

「毎月数百人分の給与。鬼退治で怪我をした者達の治療費。必要物資の手配や各地方警察への賄賂など……このままでは、後数ヶ月のうちに残る資産は、消えてしまいます。現状、資産運用する資金すら確保できていません」

 

 廃刀令が施行された時代……刀を持った鬼滅隊が逮捕されないのは、根回しをしているからだ。それも全国にだ!!

 

「だが、銀治郎が持ってきた案件は、鬼滅隊の根幹を揺るがしかねない内容だ。元・柱である君が理解できないとは思えないが」

 

「人は、食わねば生きていけませぬ。それに、金の切れ目が縁の切れ目という諺もございます。確かに、鬼に恨みがある者達が集まっている鬼滅隊ではございますが、今では金のために鬼を狩っている者達も少なからずおります」

 

 ちなみに、裏金銀治郎は金のために鬼を狩る代表格である。

 

 鬼滅隊という組織に入隊した者達……その大半が、学歴社会においていかれた社会不適合者達なのだ。そんな連中を鬼滅隊につなぎ止めているのが、「恨み」と「金」だ。だが、人の感情は浮き沈みが激しい。時間が経つに連れ、心は癒やされる。すなわち、そんな連中は「金」の為に鬼を殺しているのだ。

 

 真実とは、劇薬だ。

 

  裏金銀治郎がいう事が事実である事は、産屋敷耀哉にも理解できた。二人がいる一室も過去には、壺や絵など価値ある調度品が多数飾られていたが、今では綺麗さっぱり無くなっている。金になる物は、だいたい質屋にいれて金に換えたのだ。

 

「――少し、考える時間をもらいたい。近日中に、回答を出そう」

 

「承知致しました。こういう言い方は卑怯かも知れませんが、お子達により良い形で家を継がせるのは大人の責務でございます。その為にも、ご英断を期待しております」

 

裏金銀治郎は、一礼をして部屋を退出した。

 

 二人が会談を行ったテーブルの上には、二つの計画書が残されていた。

 

 一つ目は、「強化人間計画」という物だ。内容は至って単純であり、隊員全員の能力値の底上げ計画である。しかも、費用対効果は特上であるのは間違いなかった。鬼を食べる事で身体能力が向上するだけで無く、治癒能力も上がることは既に臨床実験で判明していた。場合によっては、肉体的な部位欠損すら治癒可能だ。勿論、表だって実行すると隊員達から不満が出る事は必須である為、選ばれた者達のみに施すといった内容だ。

 

「治療費が減るだけで無く、生存率も跳ね上がる。加えて、引退した柱達や実力者を現役復帰させる画期的な方法がコレという訳か」

 

 ため息をする産屋敷耀哉。肉体的欠損まで復元でき、全盛期の肉体に近づけるなど恩恵は計り知れない。歴代最強の柱達に加え、引退した柱達も加われば、一気に鬼を殲滅できる可能性すら見える計画である。

 

 しかも、実践するに当たり手間も費用も全く掛からないというコストパフォーマンスだけをみれば、完璧な施策だった。外部の手を借りずに、鬼を自分の代で駆逐できる可能性が一番高い計画なのは疑いようが無かった。

 

 二つ目は、「資金調達」に関する計画書だ。一つ目の計画から派生といっても過言では無い。世の中、金で健康や若さを買いたいという輩は多い。そんな者達に鬼の血肉を錠剤化して、売るという計画だ。鬼を増やせるのは 鬼舞辻無惨だけだ。この方法で、鬼が増えないのは判明している。更に、薬の売り先は後ろ暗い商売をしている者達に限定するという事なので、万が一副作用があったとしても誰も困らない。

 

「幻聴などに悩まされる副作用があったと報告書にあったが――」

 

 金に余裕があるときならば、下らない計画と破棄できたが、台所が火の車である鬼滅隊だ。

 

 

◆◆

 

 数日後、裏金銀治郎は荷造りをしていた。

 

 産屋敷耀哉からの回答次第では、即日鬼滅隊を抜け出るつもりでいたのだ。理由は、簡単だ。無駄に忠誠心の高い柱達ならば、無給で鬼狩りを続けるだろう。そんな者達が、敬愛する産屋敷耀哉に悩みの種を植え付ける者をどう見るかと言えば、想像に容易い。

 

 更に、都合が悪い事に、裏金銀治郎は、金庫番という職である。資金の出し渋りなどで、色々と難癖を付けられたことも数知れない。裏金銀治郎という存在を快く思っていない柱達もいる、という事だ。

 

 廊下を歩く足音が響く。そして、裏金銀治郎の部屋が開かれた。

 

 蝶の羽根飾りをつけ、ピンク色の羽織をきた小柄な女性が笑みを浮かべていた。

 

「蟲柱の胡蝶しのぶさんが、男性の部屋を訪れるなんて誰かに見られて勘違いされる前に、早く立ち去った方がよろしいですよ。あらぬ噂がたつと宜しくないでしょう?」

 

「ご心配なさらずに、金柱の裏金銀治郎さん。で、荷造りして夜逃げでもするんですか?」

 

 夜逃げ…今は昼なのだから、引っ越しですよと冗談を言いたい気分の裏金銀治郎であった。だが、雰囲気的に冗談が言える場でない事は理解していた。

 

「ご想像にお任せしますよ。で、貴方がここに来たという事は、私の手伝いをしてくれるという事でよろしいので?後、私は、引退したので柱というのは不適切ですよ。元です」

 

 胡蝶しのぶと裏金銀治郎は、少なからず縁があった。

 

 鬼を殺す毒を作るに当たり、生きた検体や隔離施設、違法薬物の手配など様々な事を手助けしていた。言わば、胡蝶しのぶの蟲柱という地位への就任において、裏金銀治郎は最大の功労者でもあった。

 

「そうでしたね。お館様より、話を伺いました。ハッキリ申し上げて、頭おかしいんじゃないですか。なんですか、あの計画書。まともな神経の人が書く内容じゃありませんでしたよ」

 

「でも、その有用性は貴方も理解できたから、ここに居るのでしょう。鬼滅隊が無くなれば、敵である上弦を討つことはもはや不可能になる。復讐のためならば、私の手を取るのが最善ですよ」

 

 裏金銀治郎は、手を差し出す。

 

 胡蝶しのぶは、食えない男ですねと言い、手を取る。

 




鬼って、死なないし怪我も治る。

たしか、下弦に可愛い鬼っ子いましたよね。
頭さえ残っていれば、頸からしたは何度も再生できたよね。

つまり……顔を上手に隠しさえすれば、隊員専用の遊郭すら夢じゃ無いってことだよ。




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02:壁ドン

感想ありがとうございます。
頂けるとやる気が出ます^-^

こんな作品ですが、読んでくれてありがとう。
ニッチな内容で需要を獲得できるように頑張ります。




 月も出ない新月の夜、二人の男女が藤の花が咲き誇る山奥を歩いていた。

 

 藤の花は、鬼が苦手とする花である。それを利用し、鬼滅隊の重要拠点には重宝されている。だが、時間が時間だ……こんな夜道を10代の麗しき乙女と30歳のおじさんが一緒に歩いていたら、どう思われるだろうか。

 

 控えめに言って売春。悪ければ人買いに見えるだろう。

 

「胡蝶しのぶさん、鬼とは一体どこから来たのでしょうか?」

 

「なんですか、その質問。哲学ですか?」

 

「いえいえ、純粋に気になっているのですよ。ちなみに、私の見解としては、国外からだと考えています。噂話を出ない程度ですが、国外には血を吸う鬼と書いて、吸血鬼といった存在がいるそうです。もっとも、日本で言う鬼と同様に一般人からしたら、おとぎ話の産物らしいです」

 

「物知りなんですね。でも、血を吸うだけの鬼なら怖くありませんよ?」

 

「吸血鬼というのは、血を吸う事で対象を眷属……言わば、グールという理性のない下級の鬼に変貌させる事が出来る。そのグールが人を襲うとその人もグールへと変わる。だから、ねずみ算式に鬼が増えるという訳です。――まぁ、それが事実なら既に海外は、滅んでいるでしょうから、私の見解は大外れって事になるんですけどね」

 

 そして、二人は目的地に着いた。

 

 人目がつかず、鬼も寄ってこない場所。鬼滅隊でも、この場所を知る者は、両手で足りる。現役の柱でこの場所を知る者は、蟲柱である胡蝶しのぶだけだ。

 

「まぁ、隠れて研究するならココになりますよね。分かっていましたが」

 

「胡蝶しのぶさんの古巣だというのに、浮かない顔をされますね。あぁ、ご安心ください。既に、生きた検体の方は、何匹か運び入れております。今すぐにでも、始められますよ」

 

 二人は、鉄と石でできた堅牢な建物の中を進んだ。

 

 建物自体は、日の光をよく通す造りをしている。万が一の場合、鬼の逃亡を防ぐ事と研究施設にある鬼という研究材料を消去するためだ。

 

 日の光の当たらない部屋に、裏金銀治郎は既に何匹かの鬼を捕獲していた。

 

 鬼は、普通の刀で頸を切断され頭部だけ残されている。更に、脳髄に日輪刀の素材である猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石から作られた針金を差し込み活き締めにしている。藤の花に囲まれたこの施設は、花の良い匂いが漂っており、鬼は生きた屍となっていた。

 

 鬼を活き締めにする――金の呼吸 弐の型「金縛り」であった。裏金銀治郎が、岩の呼吸と雷の呼吸を合わせる事で新たに開発した呼吸であり、非常に優れた補助技が多数ある。なかでも、黄金コンボと呼ばれるのが壱の型「珠砕き」で悶絶させ、弐の型「金縛り」で相手の動きを封じる。現時点で、この技を食らって生きながらえた男の鬼は誰も居ない。

 

「いつ見ても、悪趣味です」

 

「おや、画期的な方法でしょう? その恩恵を貴方も十分受けたはずです。さて。時は金なりです。鬼滅隊の存亡を賭けて、このプロジェクトを成功させましょう」

 

 机や壁には、国内外から集めた様々な器具を揃えた。医療器具から拷問器具まである。特殊な器具が必要な場合は、刀鍛冶の里へ依頼しすぐにでも作成する手配も整えている。

 

「はぁ~、この話はやめましょう。で、元・金柱の裏金銀治郎……あなたは、私に何を望むのですか?」

 

「【強化人間計画】と【資金調達】どちらも急務です。ですが、貴方の仕事を減らして、研究時間を稼ぐ為、強化人間を優先しましょう。その過程でできた物を資金調達に回せばよい」

 

 負傷した隊員というのは、厄介な存在だ。下手な重傷なら、死んでくれた方が有り難いというのは戦場の常だ。事実、戦争において、意図的に殺さず負傷者の手当などに人員を割かせるという悪質な戦法がある。

 

 鬼滅隊においては、本来なら見捨てたい重傷者でも手厚く介護し、現役へと復帰をさせる為、鋭意努力している。実戦経験を積み、生き残った隊員というのは得がたい存在だ。

 

「ですから~、具体的に何をするのでしょう?」

 

「鬼の血肉を利用し、治癒と肉体強化の実験をします。そして、鬼を殺す毒も配合し、摂取者への影響を減らす微調整をして貰いたい。ある程度効果が見込めれば、蝶屋敷の患者に同様の事を行い、早々に現場復帰させます」

 

 働かざる者、食うべからず。治療費を貰っているわけでもない患者をいつまでも蝶屋敷に置いておく必要はない。

 

 胡蝶しのぶが、日輪刀を抜刀した。その剣先が裏金銀治郎の眉間を軽く突き刺した。血を流すが、裏金銀治郎は意に介さない。この行動は、裏金銀治郎の想定の範囲内であった。

 

 いかに、お館様の命令があったとは言え、胡蝶しのぶが診ている患者に対して、鬼の血肉を与えるなど許しがたいことであった。その何処へも発散できない鬱憤を、元から受け止めるつもりであったのだ。

 

「防げたでしょう。なぜ、何もしないんですか?」

 

「貴方の気持ちが晴れるならば、死なない程度に受け止めましょう。貴方ほどで無いにしろ、私も鬼を滅ぼしたい」

 

 裏金銀治郎は、胡蝶しのぶの日輪刀を掴んだ。そして、一歩ずつ詰め寄り、壁際まで押しやった。そして、もう片方の手を壁にドンと押しつける。

 

 血が流れるのも気にとめず、真摯な眼で胡蝶しのぶを見つめる。真夜中で、男女が二人っきりの隔離施設。お隣には、仮眠室というがある。勿論、ベッドまであり、意味深なご休憩も可能な設備は整っていた。

 

 裏金銀治郎……彼はスペック的に言えば、間違いなくモテる。体格は178cmと大正時代を考えれば長身である。体型については、現役引退したとはいえ元柱である為、男性の理想型とも言える肉体美だ。更に、鬼滅隊の中で言えばかなり裕福な部類である。だが、唯一にして最大の欠点が――人の心が分からないサイコパス的なところがあり、()()の女性にとっては受け入れにくい性格だ。むしろ、上弦の鬼である童磨と相性がよいだろう。

 

 しかし、一般人でない鬼滅隊の中では結婚したい男性ランキングでTOP5に入る男であった。高身長、高収入、高学歴……俗に言う3高である。

 

「わ、分かりました。だから、刀を握ったまま私を壁に追いやらないでください。それに、近い!! 近いですって!!」

 

「女性である貴方に負担を掛けないよう、努める事を誓いましょう。何かあれば、私に強要されたと言えばいい。どの道、金庫番として疎まれていることは知っている。一つ二つくらいそこに何かが加わったところで痛くもない」

 

 裏金銀治郎は、刀から手を離した。

 

 胡蝶しのぶからしてみれば、漢気を感じる場面でもあった。柱という存在は、強い……めっぽう強い。その証拠に、大半の隊員は、胡蝶しのぶ……性別:柱 といった感じでおり、もはや超越者のように(あが)められている。

 

 医療に身を置く事から男性と接する機会も多いが、女扱いされる事や心配されるといった事に免疫が無かった。

 

 未来で流行する壁ドンのおかげで集中力が切れた胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の怪我(・・)が完治している事に気づく事はなかった。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、鬼滅隊の為、日々研究に勤しんだ。

 

 元々、鬼を食えば身体能力が向上するなど様々な恩恵がある事は既に分かっている。加えて、鬼を殺す毒を作る際に、口外できないほどの非人道的な事をやってきた経験と知識のおかげもあり、成果が出るまで非常に短期間であった。

 

 動物実験を終え、すぐさま蝶屋敷ではそれが活用された。鬼を殺す毒と鬼肉と牛肉のハンバーグなどが提供され始めた。濃い味付けの料理に混ぜ込み、違和感をなくす作戦だ。急に洋食が提供されては違和感がある為、この日に備えて、日本各地から特産品を集め、料理として提供した。鹿肉、イノシシ肉、羊肉、ウサギ肉など……おかげで、多少食べたことが無い肉であっても誰も抵抗感を抱く事はない。

 

 勿論、勘の良い柱達や嗅覚や味覚が優れているような特殊能力を有する者達には、別メニューが用意される。

 

 ある者は、全治三ヶ月の怪我が、一ヶ月で完治した。機能回復訓練においては、誰しもが怪我をする前より明らかに強くなっている。目のあたりにした成果に、うれしさ半分、後ろめたさ半分といった感じになる胡蝶しのぶがいた。

 

「いや~、胡蝶様のところで治療されてから、前より強くなった気がする。蟲柱様々だ」

 

 蝶屋敷で退院する者達が、そんなことを口走るようになった。皆から感謝される度に、心のどこかがチクチクする痛みを伴っていた。

 

 裏金銀治郎は、「早く退院できるだけでなく、後遺症無しで前より強くなり死ににくくなったんだ。感謝されど恨まれる筋合いは無い」と平然と口を開いた。だが、考えて欲しい……蝶屋敷で胡蝶しのぶが治療を行ったという事実がある。つまりは、矢面に立たされているのは、胡蝶しのぶである。

 

 できる男である裏金銀治郎は、「負担を掛けない」と誓った事を忘れない。

 

「確かに、胡蝶様の献身的な治療のおかげもあるが、金柱様が国内外から最新の医療器具や古今東西の薬品を取り寄せた事で治療が捗ったって聞いたぞ。後、病院食で食っていたあれって、金柱様が我々の為に手配してくれたってさ」

 

「そうなのか!? 人の血が通ってないと言われる金柱様がね~」

 

「あまり金柱様の事を悪く言うと、査定に響くぞ。お前は知らないかも知れないが、金柱様が金庫番をやられてから、提出書類は増えたが、きちんとした理由があれば、色々と都合立てして貰える。以前なんて、鬼狩りに行った先での宿泊費や食事代なんて自費だったんだからな」

 

 そんな退院する者達の会話を盗み聞きしてしまった胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の評価を上げた。約束通り、私に負担や非難が来ないように全ての責を一心に背負おうという心意気は、男前だ。

 

 事実、胡蝶屋敷の医療器具や薬などは、裏金銀治郎がコネをもちいて集めた物が増えており、その事実を裏付けしていた。

 

 つまり、裏金銀治郎が用意した薬を使い治癒したという事実が加わる。これにより、何かあった際は、裏金銀治郎が自分の知らない間に薬の中身を換えていたなど色々と逃げ道ができたのだ。

 

 外国語表記の医学書や、機材の説明書は全て裏金銀治郎自ら翻訳し、要点を纏めて胡蝶しのぶに渡すまでの徹底ぶりである。

 

「全く、あの人は……。今度、おはぎでも作って持っていってあげましょう」

 

 胡蝶しのぶの足取りが、普段より軽やかであった事は、継子である栗花落カナヲにしか分からない程度のものであった。

 

◆◆◆

 

 胡蝶しのぶが蝶屋敷でおはぎ作りをしている頃、裏金銀治郎は産屋敷耀哉に近況報告を行っていた。

 

 捕獲している鬼の数、管理方法。それらを活用した研究成果――より具体的には、蝶屋敷での隊員の早期復帰や身体能力向上のなど吉報を届けた。

 

 非の打ち所がない成果を上げてきた裏金銀治郎に対して、産屋敷耀哉の心には未だにシコリが残っていた。鬼を狩るために外道に堕ちたのではないかと。

 

「素晴らしい成果だね、銀治郎」

 

「お館様、無理にお褒めいただかなくても構いません。例え、背に腹は代えられぬとは言え、理解できるが納得していないお気持ちは、察しております」

 

 裏金銀治郎……当然口だけである。察しているが、別段気にしていないのだ。

 

「そうか、君にも苦労を掛けるね。引き続き、よろしく頼む」

 

「承知致しました。では、今後の予定を説明致します」

 

 裏金銀治郎は、A4用紙10枚にもおよぶ企画書を提出した。資料自体は、後ほど産屋敷の一族が確認し情報共有する為の物なので、裏金銀治郎が内容を読み上げる。

 

 歴代最高の柱達が集うこの時代……裏金銀治郎は、下弦の鬼、上弦の鬼だけに留まらず鬼舞辻無惨が動くことを知っていた。激戦の末、上弦の鬼達を撃破する主人公一同。

 

 まだ現れぬ者達が最高の働きをできる下地を粛々と整えて、このビッグウェーブに乗るつもり満々であった。

 

 その為、企画書には、柱専用の緊急活性薬という品物を準備する方針が書かれている。高濃度に圧縮した鬼の血液を摂取する事で傷が癒え、身体能力向上……場合によっては、血鬼術に目覚めるという特典までつく。

 

「これは、必要なのかね?」

 

「必要です。鬼と異なり我々は、部位欠損を補う手段も即時回復する手段も持っておりません。代えの利かない柱達です……この薬が、鬼舞辻無惨を倒す起死回生の一手になるやもしれません。備えあれば憂い無しという諺もございます」

 

 柱として、数多くの鬼…下弦の鬼すら倒している身である裏金銀治郎の言葉は、軽い物ではない。鬼とは、それだけ強い。幾人もの柱が亡き者にされている為、産屋敷耀哉も重々理解していた。

 

「………許可しよう」

 

「ありがとうございます。では、薬ができ次第改めてご連絡致します。柱達への説明は、お館様からお願いいたします。敬愛されるお館様の言葉なら皆も耳を傾けるでしょう」

 

 薬は用意するが、仕様に関する説明は当主がやるのは当然である。別に損な役回りを押しつけているわけではない。責任者として、仕事を全うしてくれとお願いしたのだ。

 

 産屋敷耀哉は、「わかった」と笑顔で頷いた。




不老長寿の薬とか若返りの薬とかで商売を始めようかしら。

モンハン的に鬼を原料にした武器鎧っていいよね^-^
幾らでも再生するし、材料取り放題。

……大事な事ですが、作者は胡蝶しのぶが大好きです。
よって、ヒロインポジは誰だかは言うまでもありませんよね!!


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03:胡蝶しのぶ30歳

感想ありがとうございます。
すごく励みになります^-^


 胡蝶しのぶは、私室で悩んでいた。

 

 先日、裏金銀治郎から「錠剤化にも成功したので、そろそろ売り込みにいく」から準備しておくようにと言われ、翌日に胡蝶しのぶは、100回分の錠剤……胡蝶印のバイアグラを用意した。バイアグラという未来を先取りするネーミングであったが、語呂が良くなぜか元気が出そうな響きである事から誰も必要以上に薬名について追及はしなかった。

 

 遠い未来……米国で同じ名前の薬が販売され、wikiに元祖バイアグラの開発者として胡蝶しのぶという偉人の名が残る事になるだろう。英霊召喚されたならば、知名度補正は思うがままである事は言うまでもない。

 

 よって、バイアグラを、裏金銀治郎に渡すだけで終わりだと思っていたが、そうは問屋が卸さない。

 

………

……

 

 胡蝶しのぶの私室に並べられた洋服。流行の最先端であり、上流階級の者達の中では当たり前となったドレスが何着も飾られていた。また、それに合う宝飾品まで用意してある。

 

「手伝いましょうか?」

 

「だ、大丈夫よ。カナヲ」

 

 胡蝶しのぶの継子である栗花落カナヲが悩む師に手助けを申し出たが断った。

 

「ならば、私がお手伝いしましょうか? 着慣れないドレスでしょうから、力のある男手が必要でしょう。それに、いい加減意地を張るのは止めましょう」

 

 その瞬間、裏金銀治郎の鳩尾に肘鉄が決まる。あまりに、見事な動きであった為、防ぐ事ができず、その場でもがき苦しむ裏金銀治郎。

 

「誰が意地を張っているですって!? ドレスくらい着れますよ!! というか、いつまで部屋に居るんですか、早く出て行ってください」

 

 胡蝶しのぶの私室に用意された数々の品は、裏金銀治郎が全て用意した。これから、バイアグラを売りに行く際、鬼滅隊の様な格好では、商売の土俵にすら立てない。これから、向かう先は、そのような場所なのだ。

 

「ゴッホゴホ……む、無理でしょう。さっきから既に20分も経っているじゃありませんか。裾上げとか、腰回りの調整とか、胸回りの調整とか色々やらないとドレスは――」

 

 器用な手先で、裁縫もお手の物であると伝えようとしたが、思わぬ反撃をされてしまった。追撃で、床を転げて苦しむ裏金銀治郎の顔があった位置に日輪刀が突き刺さる。

 

 今の攻撃は、回避せねば確実に脳天を貫いていた。

 

「腹囲と胸囲がどうしたんですか? 裏金銀治郎さん――着替えるからいい加減出て行きなさい!」

 

 胡蝶しのぶの絶対零度の視線が突き刺さる。

 

 ドレスを着る際、万が一、ウエスト的問題で無様を(さら)すような事は避けたかった……そもそも、服を着替えるんだから、気を利かせ何も言われずとも出て行くのが常識であるが、それを察してやれない者が悪い。

 

 裏金銀治郎は、栗花落カナヲと一緒に部屋を退出した。

 

 私室の外で待機する二人組。実に、シュールな組み合わせであった。親子にも等しい年齢差があり、鬼滅隊の最高位であった柱と現役柱の継子……どういう状況で部屋の外で仲良く待機しているのかと、遠目で二人を確認した者達は、思っていた。

 

「ちゃんと、飯くってるか?」

 

「はい」

 

 裏金銀治郎は、「そうか」と言うだけであった。

 

 この二人……面識はあるのだ。胡蝶しのぶが、鬼を殺す毒開発に睡眠時間すら削っていた頃、栗花落カナヲを放置してる時期があった。偶然、依頼された薬を持ってきた際、空腹で倒れている彼女を裏金銀治郎が助けたという経緯がある。

 

 九死に一生を得たのだ。その後も、裏金銀治郎は様々な事――勉学、料理や裁縫技術など、自らが持つ多岐に渡る知識を教えた。他にも将来を見越し、市販されているファッション誌や情報誌などが彼女の許に毎月届けられていた。

 

 だからこそ、ドレスを着る手伝いや化粧の手伝いを申し出る事ができた。その女子力は、鬼滅隊でトップを張れるほどだ。

 

 優しい彼女は、その女子力を胡蝶しのぶの前では披露しない。直感で、どうなるか目に見えているからだ。

 

「それならいい。―――はっ!!」

 

 裏金銀治郎の脳裏に素晴らしいアイディアが浮かんでしまった。まさに、悪魔的発想!! 胡蝶印のバイアグラの価値を最大限にする方法を!!

 

「コイントスで決めて構わない。表がでたら、胡蝶しのぶと一緒にパーティーへいくぞ。服や装飾品は、用意した物を自由に使っていい。何をしている迷ったらコイントスで決めるんだろう」

 

 胡蝶しのぶの年齢が17歳、栗花落カナヲの年齢が15歳。裏金銀治郎の年齢が30歳。

 

 ギリギリいけると、判断したのだ。

 

「……迷ってない。行かない」

 

「では、胡蝶しのぶの為に一緒にパーティに出席してやれ。年齢が近い同性が一人でも居た方が彼女も心強いだろう。コインで裏がでたら、蝶屋敷の運営費を私のできる権限の範囲で増額してやる」

 

 裏金銀治郎は、胡蝶しのぶの為とか欠片もそんな事は思っていなかった。

 

 だが、聞こえのいい理由を付けて、彼女もパーティーへ連れ出したかったのだ。事実、胡蝶しのぶ的にも、彼女がいた方が安心するのは事実だ。

 

 彼女の手からコインが弾かれる。

 

「あぁ、それと、コインで表がでたらもう一つお願いを聞いて欲しい」

 

 コインの結果に絶対従うと決めている彼女である。弾かれた時にお願い事を追加する裏金銀治郎は、卑怯であった。

 

 将来的に、鬼滅隊の柱に並ぶ実力を有するようになる彼女だが……現時点では、金柱であった裏金銀治郎の方が上である。バレずに、コインが常に表がでるように細工をするなど朝飯前であった。

 

 

◆◆◆

 

 その日、蝶屋敷に激震が走った。

 

 鬼滅隊の隊服――どこからどう見ても、学ラン服であった。男女とも同じ服を着る習わしである為、女性隊員も学ラン姿だ。つまりは、美しい女性が学ラン姿をしているとする……ファッションセンス皆無や気狂いかと、疑う者も少なからずいる。

 

 もっとも、女性隊員だけセーラー服にミニスカだった場合、防御面では不安が生じるが男性隊員には好評を得ることは間違いない。

 

 要するに……普段、隊服を着用しており色気すら感じさせない蟲柱の胡蝶しのぶと継子の栗花落カナヲが、華族の御令嬢と言わんばかりのドレス姿を見せれば誰でも目を疑う。

 

「お二人ともよくお似合いです。分かっていましたが、元が良いから、衣装一つで更に美人に磨きが掛かっています。私がもう10歳若ければ、今すぐにでも結婚を前提にお付き合いを申し出ている所です」

 

 胡蝶しのぶは、薄ピンクをベースにしたドレスを。カナヲは、黒がベースで胸元が開けた大人っぽいドレスを着ている。

 

 ここで、今後の計画に問題が生じてしまった。化粧を施し、ドレス姿となった二人を見比べる。言うまでも無く、双方中々お目にかかれない美人であった。

 

「ありがとうございます。――なんか、カナヲの方が大人っぽいドレスじゃありませんか?」

 

 裏金銀治郎がマジマジと栗花落カナヲを見つめる。

 

 感情の起伏が薄い彼女が若干恥じらい、胸元を隠す。隠すくらいなら、最初からそんな露出の高い服を選ばなければ良かったのだが、黒がベースのドレスはそれ一着だけであったのだ。

 

 下から上へと()めるように観察する目に……当然、二本の指が突き刺さる。

 

「ぐぁぁぁぁ!! 目がぁぁぁぁ!! 目がぁぁぁぁぁ」

 

「レディーに対して、その目は失礼ですよ」

 

 栗花落カナヲばかりみる裏金銀治郎にイラっとした胡蝶しのぶは、思ったより力をいれて眼球をズブッとやってしまった事を少し悪いと思った。

 

 それから、裏金銀治郎が復活してから、ドレス姿に刀という和と洋をチャンポンした格好でパーティー会場へと向かう車に搭乗した。車に乗るまでの間、すれ違った者達から綺麗と褒め言葉を沢山貰う事になった女性陣営であった。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎が車を運転し、2時間後……目的地の陽明館と呼ばれる歴史ある建物に到着した。そこには、何台もの車が連ねており、集まった人達の多さがよく分かる。それだけでない。車から降りる者達の身なりから、上流階級の人である事が一目で分かるほどだ。

 

 本日、そこに集まる者達は、政財界の大物とその御息女達だ。顔つなぎも兼ねた合コンみたいな物である。勿論、健全な事もあれば、不健全な事も数多い。様々な利権を売り買いする場所にもなっている。

 

「目的地、間違っていませんか? 見るからに、偉そうな人達ばかりいそうな所じゃありませんか」

 

「合っている。招待状もあるから、正面玄関から堂々と行くぞ。後、絶対に騒ぎを起こさないでくれよ。このパーティーを逃せば、鬼滅隊は破産を逃れられない」

 

 これから、鬼滅隊の存亡を賭けた営業回りが始まる。

 

 今日ここに集まっている者達は、金と権力を無駄に持ち合わせているが、若さや体に不自由を抱えている者達ばかりである。日本が誇る老害達が集まっているとも言える。その権力で数々の犯罪をなかった事にしてもみ消し、考えられる悪事は概ねやり尽くした連中だ。

 

 そんな者達が一堂に集まったのには、理由があった。

 

 「健康な肉体が手に入る」「若返る」「病気が治る」という情報を耳にしたからだ。今まで散々類似した情報に踊られてた者達であったが、今回はそれをその場で実証するという話だからこそ集まってきたのだ。

 

 会場の案内役が三人が乗る車に近づいてきた。

 

「裏金様でございますね。お車はこちらでお預かり致します。それと――そちらの御婦人達は?」

 

「家内と娘だ」

 

 しれっと、二人を家内と娘と紹介する裏金銀治郎。

 

 実に厳しい!! 年齢的に言えば、まだ二人を娘と言う方が信じられるだろう。だが、バイアグラの効果を考えれば、この程度インパクトがある方がちょうど良いとも言える。

 

 只……問題なのは、胡蝶しのぶの顔にあり得ないくらいの青筋が立っている事だ。身からわき出る怒りのオーラが周りに伝わる。それもそのはず、未婚の女性なのにいきなり家内と紹介された。更には、子持ちという設定まで盛られてしまったのだ。

 

 年齢=彼氏ない歴である胡蝶しのぶではあるが、女性に対して言って良い事と悪い事がある。女性としては、文句の一つどころか、後ろからズブリと刺したい気分であっただろう。

 

 蝶屋敷や鬼滅隊が有する土地ならば、間違いなく傷害事件が発生した。被害者は、全治一ヶ月で、退院するまでマズイ病院食を無理矢理食わされる。そして、激痛の伴う治療が行われる事は、間違いない。

 

 だが、気にとめない裏金銀治郎である。車を早々におり、二人を呼ぶ。

 

「行こうお母さん、お父さんが呼んでる」

 

 カナヲのそのセリフに、胡蝶しのぶが人生で上から数えた方が早いほどの衝撃を受けた。

 

 まさかの裏切りであった。あの人見知りで、自分と姉以外と碌に会話ができない可愛い継子であった栗花落カナヲが、あろう事か「お母さん」と呼ぶのだ。せめて、「お姉さん」と呼ぶべきじゃないかと。

 

 だが、驚きはそれだけでなく、裏金銀治郎の事を「お父さん」と呼んでいる事だ。

 

 裏金銀治郎から、「家内」と呼ばれ、カナヲからは「お母さん」と呼ばれ、胡蝶しのぶの頭は混乱していた。鬼からの血鬼術を疑うレベルだ。

 

「ちょ、ちょっと待って。か、かかかカナヲ……どうして、私がお母さんなの?それに、お父さんって」

 

「え、だって――」

 

 カナヲは、言葉を途中で切り裏金銀治郎の方を見た。

 

 誰の差し金であったかを理解した。そして、裏金銀治郎の横まで移動し、とても良い笑顔になる。

 

「裏金銀治郎さん、可愛いカナヲに何を吹き込んでくれるんですか。あれですか、私に何か恨みでもあるんですか? あまり巫山戯(ふざけ)ていると潰しますよ」

 

「おや? 気に入りませんでしたか。蝶屋敷では、患者から「お母さん」と呼ばれる事もしばしばあると伺いました。実質、カナヲの母親的な存在でもあるでしょう。それに、考えてもみてください――バイアグラで10代の美貌を持つ美しい女性という立ち位置の方が受けが良い。我々は、商売をしに来ているのですから」

 

 ちなみに、栗花落カナヲが母親で胡蝶しのぶが子供という設定も一考していたのだ。大人っぽい彼女の方が――とも思ったが、鬼滅隊の立場を気にして、この配役を決めた。という、事は口にしない裏金銀治郎であった。

 

「つまりは、私は実際は30歳近くて、カナヲくらいの年の娘がいるという設定ですか?」

 

「理解が早くて助かります。戸籍の方は、伝手を使い年齢を改竄しております。誰が調べたとしても真実は露見しませんよ。流石に、結婚歴を残すのは申し訳なかったので、籍を入れていない夫婦的な事でお願いしますね」

 

 この時、胡蝶しのぶ30歳……一人娘の栗花落カナヲ改め胡蝶カナヲという情報が資料に刻まれた。

 

 おめでとう胡蝶しのぶ。長生きすれば、ギネスだって夢じゃ無くなったぞ。

 

 




戦闘描写より、こういうブラックジョークやネタ展開を続けたい作者がココにいる@@

捕獲してきたら鬼の管理を鬼にさせよう。
管理する鬼は待遇を少しマシにすればどうとでもなるだろう。
そして、自分たちを管理する隔離施設の拡張も鬼達にやらすぞ!!

銀治郎「しっかり働けば、殺してやる」

と平然にいう男がここに居る。


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04:鬼畜

 集められた政財界の重鎮達。

 

 当然、怪しい品物である胡蝶印のバイアグラを噂半分程度にも考えていなかった。立場が立場だけに、そういった売り込みをしてくる輩は多い。相手にとっては、数ある詐欺師の一人程度にしか考えられてなかった、

 

 よって、その効能を証明する事になった。

 

「では、早速証明して貰いましょう。なーに、我々が用意した相手を圧倒して貰えればいいですよ。なにせ、そのバイアグラとやらで貴方達は、既に完成された肉体を手に入れているのだから、造作もない事だろう?」

 

 元陸軍中将で、(いま)だに軍部には多大の影響力を持つ一人が裏金銀治郎に問いかけた。

 

 だが、彼等としては当然の事を依頼しているだけだ。人に勧めるのだから当然本人達はそれを行った上での事だと。人に儲け話をする際、誰しもが「お前は当然それに投資しているんだよな?」と言うのは、当たり前である。この手の話と同じである。

 

 それに、実証すると口にしているのは裏金銀治郎なのだから、それに答える事は当然だと考えている。

 

「分かりました。では、そのバイアグラを用いて鍛え上げた力を見せしましょう」

 

………

……

 

 そうして、連れてこられたのが陽明館の地下に作られたデスマッチ会場だ。四方と天井まで檻に囲まれた場所。床には血痕まで残っており、今までどれだけの人間がここで死んでいったか(うかが)えるほどだ。

 

 周りある観客席には、人の生き死にを楽しむ外道達が裏金銀治郎が刻まれる時を待ちわびていた。

 

「おや?ココを見て、驚かない貴方は、よほど修羅場を潜られているんですね」

 

「私のように貴方達に商売をしようとして帰らぬ人達が多いのは調べています。その者達の末路なんて想像に容易(たやす)い」

 

 大事な事だが、騙そうとする者達が悪い。それこそ政財界の大物達なのだから、その報いは死しか待っていないのは当然だ。ハイリスクハイリターンなのは、商売の常だ。

 

「あらあら、日本にもこんな場所があるんですね」

 

「人は鬼より業が深いからな。では、上着と刀を預かっていてくれ」

 

 周囲の傷跡や惨状から察するにこれから戦う相手が獣である事は分かっていた。そんな相手を素手で圧倒してこそのパフォーマンスである。

 

 裏金銀治郎がリングに上がると、出入り口が施錠される。そして、対戦相手であるロシアから取り寄せられたヒグマがご来場してきた。2mを越える体格に加え数百キロの体重を誇るため、下手な鬼より強い。どこからどう見ても殺人ショーにも関わらず、観客達は大喜びだ。

 

 ヒグマは、屈強な大人が10人掛かりで縄を押さえつけていた。少しでも力を抜けば今すぐにでも虐殺ショーが始まる。だが、そうならないのは挨拶を待っているからだ。

 

 何人ものボディーガードに囲まれた老人が近寄ってきた。老人ではあるが、年を感じさせない雰囲気を身に纏う者――日本銀行頭取。日本経済の要を担う一人である

 

「我々が持つ富と権力に這い寄るゴミが多くてね。そういった者達か否かを選別するために、様々な趣向を凝らしているのだよ。安心したまえ、君の妻と娘は吉原に売り飛ばす。だが、勝つことができれば話を聞こう」

 

 確実に死ぬことが前提で話が進められたが、裏金銀治郎は、過去最大級のやる気が沸いた。今回のパーティーに、まさか日本銀行頭取まで来ているとは思っていなかった。

 

 頭取から、「放て」という合図と同時にヒグマが巨悪な牙をむく。巨躯の体から繰り出される横殴りの攻撃。鋭く太い爪だけで一般人ならボロ雑巾の様になるだろう。

 

「金の呼吸 参ノ型 不動金剛」

 

 攻撃を捨て防御に完全特化の呼吸法。水の呼吸のように攻撃を受け流す技ではない。攻撃の衝撃を全て足から地面に追いやり、ダメージを地面になすり付ける技である。

 

 地面に亀裂が入る。

 

 グルルルルと唸りを上げ、自らの手を確認するヒグマ。日頃一撃で獲物を葬ってきたにも関わらず、死なない獲物を不思議に思っていた。

 

「「「「「「オオオオオォォォォ!!」」」」」」

 

「す、凄いわ!! 今の一撃で死ななかったの初めてじゃない!?」

 

「それより、無傷な体よ。あの薬は、本物!?」

 

 歓声がとまらない。

 

 ヒグマの一撃を受け止めただけだと考える、胡蝶しのぶと栗花落カナヲは不思議に思った。柱なのだからヒグマの一撃くらい無傷で受け止められて当然だという常人から逸した考えだ。

 

 それからも、一切手を出さずにヒグマの猛攻を無傷で受け止める。

 

「まぁ、あの人ならその程度できて当然です」

 

「よほど旦那を信頼しているのですね。今まで何人も食い殺したヒグマ相手に――バイアグラという物の性能はそれほどなのか」

 

 胡蝶しのぶの横に座る頭取。

 

 裏金銀治郎の事を旦那と言われて違うと叫びたいが――鬼滅隊の為、怒りを抑える彼女であった。代わりに、綺麗な顔には青筋が目立つ。先ほどから、旦那旦那と……彼氏すらいた事がなく独身にも関わらず、既にこの場の誰もが夫を信頼する良き妻と娘といったポジションで彼女たちを認識していた。

 

「あのレベルとまでは、明言できません。ですが、全治三ヶ月の怪我が一ヶ月で治りました。他にも身体能力の向上も確認できております。後は~滋養強壮もありますよ」

 

「儂の視力は、それで戻るかね?」

 

 白内障……年を取れば誰でもなる病気である。だが、この時代その明確な対応方法は確立されていない。死病ではないが、厄介な病であった。

 

 胡蝶しのぶは、今までの経験則からバイアグラなら完治できると確信した。

 

「バイアグラを毎日一錠、一週間もすれば劇的に改善します。試されますか?」

 

「手始めに、持ってきた薬の半分を貰おうか。こちらで実験し、症状が改善されれば試そう」

 

 裏金銀治郎が、超人的な事を披露する事で集まった外道達が、誰もがあのようになりたいと羨望するようになった。圧倒的な肉体を目のあたりにし、先刻まで眉唾物だと疑われていた薬が霊薬にも思えてきたのだ。

 

 実に悪くない流れであった。

 

 健康な肉体と若さという金を幾ら積んでも手に入らないと思われた品が手の届く所にあるのだ。それを欲せずして、上流階級とは言えない。

 

「頭取……そろそろ、ヒグマを処分してもよいだろうか?」

 

「構わんよ。もはや、そいつは不要だ」

 

 ヒグマに頭から(かじ)られているが血すら流さぬ裏金銀治郎を見て、ほくそ笑む頭取。彼は、見てみたくなったのだ、人類とはどこまで強くなれるのか。彼も男であった。強さにロマンを感じるのはいつになっても変わらない。

 

 裏金銀治郎がヒグマの腹に手を当てる。

 

「金の呼吸 肆ノ型 化合爆砕」

 

 金の呼吸の最強にして最大の攻撃技を放った。体内のメタンや水素を混ぜ合わせ火種を与えることで体内から爆発して吹き飛ばす技だ。外皮が硬い鬼であっても、体内からの爆発には耐えられない事が多いため、殺傷能力が非常に高い攻撃である。

 

 爆発音と共に、ヒグマの下半身が吹き飛んだ。

 

「「「「す、すげぇぇぇぇぇ」」」」

 

 裏金銀治郎が腕を高く上げ勝利宣言をする。

 

 獣相手に勝利を収めたところで鬼滅隊の柱であった事を考えると、褒められる要素など何一つなかった。だが、大衆受けは最高だ。派手なパフォーマンスも加わり、あの力が自分にもと、集まった者達の手のひら返しは早かった。

 

 それから、三人は改めて応接間に呼ばれ最高級のおもてなしを受けた。何よりもめたのは、用意した100錠の分配である。

 

 余るほど持ってきたつもりであったが、誰しも欲が深く、一個でも多く手に入れようと汚い争いが始まる始末だ。

 

 

◆◆◆

 

 それから、三人が解放され蝶屋敷に帰ったのは翌朝の8時を回っていた。

 

「なんであの年寄りと女性達は、あんなに元気なんですか」

 

「……疲れた」

 

 胡蝶しのぶと栗花落カナヲが玄関先で倒れ込む。

 

 陽明館では、【健康】と【若さ】を売る我々に、鬼気迫る形相で沢山の者達が詰め寄ってきたのだ。手土産と一緒に名刺まで渡された。その名刺を縦に重ねるだけで、タウンページを越える厚さになる。

 

「疲れるのは早いですよ胡蝶しのぶさん。どう考えても、今のままでは人手がたりません。薬の増産が間に合わない……商売において、需要と供給だけでなく納期も厳守する必要がある」

 

 商売とは信頼関係である。相手が望むときに望む物を用意してこそ、信頼を勝ち取れるのだ。一週間もすれば、薬の噂が広がり、我も我もと金に糸目も付けず、注文が殺到するだろう。

 

「そうですね。流石に、私一人じゃ生産量に限界があります。ですが――」

 

 隔離施設の場所は、知られてはいけない。

 

 やっている事がやっている事なので、継子である栗花落カナヲでも駄目であった。信用とか信頼とかそんな次元の話ではない。この一件は、知る者が少ないという事が大事なのだ。情報とは知る者が多いほど露見する。

 

「簡単ですよ。()なら余っている者がいるでしょう」

 

………

……

 

 藤の花が咲き誇る場所にある隔離施設。

 

 今そこで施設の拡張工事と機械化が進められていた。莫大な利益を生むバイアグラ……その製造拠点になるのだから当然だ。だが、何事にも人手がいる。そこで働き手として選ばれたのが――

 

「選ばせてやる。このまま、材料になるか、我々に手を貸すか。手を貸す場合は、猿の血肉程度は用意してやろう。人間は元は猿から進化したと言われている。遺伝子情報も似ていると聞いたことがあるから、問題ないな」

 

 一匹の鬼が活き締めを解除され、裏金銀治郎の前に立たされていた。生きたまま刻まれ苦痛を味わった鬼は、たかが人間である者に恐怖していた。自らを鬼にした鬼舞辻無惨とは、別ベクトルの恐ろしさを感じていた。

 

「鬼を材料に薬を作る工場の手伝いをしろとか、貴様は本当に人間か?」

 

「面白い事を言う。人間だから、ここまでやれるんだよ」

 

 元人間であった鬼という存在をまるで、家畜同様にしか考えていないような冷酷な目を直視した鬼は、心が折れかけた。逆らえない……逆らったら死ぬと。

 

 今こそ窮地であるが、鬼には希望があった。

 

 鬼舞辻無惨は、鬼の位置が分かる能力を保有している事を知る鬼はおおい。きっと、複数の鬼達が一箇所に集まっていれば不審に思い、下弦か上弦などが派遣されると推察していた。

 

 その時こそ、復讐し、この場所から解放されると信じていた。

 

「分かった」

 

「素直なのは、いいことだよ。君は選ばれた……あそこで、材料になる為、再生と解体を繰り返される者とは違う」

 

 そこには、裏金銀治郎に心をへし折られた鬼が黙々と同族である鬼を解体していた。そのおぞましい光景に、救いを待つという希望の光すら陰りそうな程だ。

 

 鬼の肩にそっと手を置いて、裏金銀治郎はトドメを刺す。

 

「この施設周辺では、血鬼術が使えない。だから、鬼舞辻無惨の呪いも発動しないし、監視もされない。だから、安心して働いてくれ。期限内に仕事が終わらなかったり、逃亡を企てたら君は材料行きだよ」

 

 裏金銀治郎の左手に立方体の形をした半透明な物質が浮いている。

 

「それは!?」

 

「下弦の鬼を喰らい身につけた、血鬼術――血界(けっかい)。設置型ではあるが、血鬼術を無力化する物だ」

 

「血鬼術を無効化する血鬼術!?」

 

 鬼の中でもその力を身につけられるのは強い鬼だけだ。

 

 それを人間が手に入れているなど、隔離施設にいる鬼にしてみれば悪夢だ。しかも、それを使うのが鬼滅隊の金柱という最高位の剣士だ。悪魔みたいな者が自らの陣営が持つ特別な力まで兼ね備えている。

 

「今まで疑問に思わなかったのか? このような行いをしていて、鬼舞辻無惨が介入してこない事を。鬼達が自殺する為に呪いを発動させない事」

 

 藤の花に囲まれた陸の孤島――血鬼術により、外部との連絡も途絶えた――脱出用の血鬼術に目覚めても封じられる。

 

 ポキ

 

 心が折れる音を聞いた鬼は、解体係の鬼同様に心を閉じた。

 




色々と制約を課すつもりですが、こんな血鬼術でいきます!!
※完全無効化というチート能力ではありませぬ。

力がある鬼を使えば、施設拡張なんてすぐだよね!!
材料を運び込む必要はるけど、必要な人ではそれだけになる。

これでだいぶ捗るぞ~。


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05:企業戦士

 胡蝶印のバイアグラを製品化にあたり起業届けを出すなど様々な手続きを裏金銀治郎は率先して行った。鬼滅隊のフロント企業扱いで社員は総勢二人……胡蝶しのぶを社長に据えたアンブレラ・コーポレーションと流行にのり横文字企業だ。

 

 そのおかげで、鬼滅隊の経済状況が改善されつつあった。

 

 裏金銀治郎の説得もあり、鬼達による自主的な隔離施設の環境改善も順調だ。おかげで、胡蝶印のバイアグラの生産量は日に50錠まで伸びた。一錠あたりの価格は、300円――これは、柱を除く隊士の平均給与は、月額35円であるので、毎日400人分以上の隊士月給を稼ぎ出している事になる。

 

 それだけ見れば、とてつもない額に見える。だが、実際は、ここに税金などが課せられる。その為、純利益は、売上の六割程度だ。

 

 そこから!! 鬼滅隊が保有する施設の固定資産税や土地代……施設の維持管理費用の固定費が引かれる。光熱費など当然払う必要がある。これで残った売上の三割が消し飛び――残りは三割。

 

 更に更に!! 鬼滅隊と密接な関係にある刀鍛冶の里への援助金も必要になる。廃刀令が施行されており、里の収入源は極めて少ない。本来なら、切り捨てたいが……鬼が居るうちは、捨てるに捨てられない。これで売上の一割が消し飛び――残りは二割。

 

 ココで終わらないのが鬼滅隊だ!!

 

 育手への援助という物がある。元鬼滅隊に所属している者が才能がある者を集め、鬼狩へと育てる者達の事だ。鬼滅隊の所属者は、基本的にここの出身者だ。組織維持の為にも切り捨てにくい。これで残りの売上の一割が消し飛び――残りは、一割。

 

 商売を始め収入が増えたはずにも関わらず、裏金銀治郎の苦労は絶えなかった。

 

「こ、これでも黒字に傾かないだと!!」

 

 ベキと万年筆をへし折った。

 

 ちなみに、残った売上の一割は、各地の警察や地元名士達への賄賂で消えた。刀で武装した者達が捕まらないためにもこれは必要経費なのだ。

 

「あの~、裏金銀治郎さん。私も忙しいのに、なぜ!? 手伝わないといけないのですか?」

 

「胡蝶印のバイアグラで得た利益です。表に出せないので、事実を知る者だけで処理するのは当然でしょう」

 

「だったら、貴方だけでも十分じゃありませんか?本職でしょう?」

 

「組織の健全化を維持するためです。これだけの大金、私が幾らか懐に入れたらどうするんですか?お互いがお互いを監視する程度がちょうど良いんですよ」

 

 裏金銀治郎の執務室には、予備の机がだされ、そこで胡蝶しのぶが書類と向き合っていた。その理由は、彼の言うとおりである。大金であるからこそ、何重にも確認する必要がある。

 

 それから数刻の間、胡蝶しのぶは文句を言いながら裏金銀治郎の手伝いをした。彼と一緒に仕事をする事で、鬼滅隊の経済状況を目の当たりにして顔が引きつる場面が多々あったのは言うまでもない。

 

………

……

 

 胡蝶しのぶが帰ってからも裏金銀治郎の仕事は終わらない。資金源を確保できたので、支出を抑える事で財政の黒字化を図る方法を検討しているのだ。

 

 鬼という金のなる――じゃなく、脅威に立ち向かうため、掛けるべき所にはお金は惜しまない。だが、資金は有限だ。限りある資金を無為に食いつぶす部門は切り捨てるべきだ。

 

「パソコンが欲しい、できればExcelも欲しい……」

 

 数字の羅列に目眩(めまい)を感じ始めていた。

 

 だが、その成果もあり幾つか書類に不審な点を発見した。具体的には、育手からの過剰申請だ。

 

 残念な事に鬼滅隊に所属する大半は、【宵越しの銭は持たぬ】という気風がある。明日死ぬかも知れない身であるから、理解できる。つまりは――元鬼滅隊であり現育手は、無一文が大半だ。鬼を狩る人を育てるからお金はそっち持ちでねという、人材派遣会社も真っ青な事業主に近い。煉獄家の様に自費で隊士を育てるという家は滅多に……いいや煉獄家しか存在しなかった。

 

 そんな理由もあり、裏金銀治郎の炎柱である煉獄杏寿郎の評価は非常に高い。次に高いのが音柱である宇髄天元だ。音柱の妻達はくノ一である事から諜報任務を自主的にやってくれている。だから、給与には奥様達分と危険手当まで付けている。

 

「はぁ~、いい加減にして欲しいわ」

 

 裏金銀治郎は、ため息を吐きながら部屋にある資料を漁った。探しているのは、最終選抜の受験者リストとその育手の情報だ。そこから、不正を見つけ出すのだ。

 

 育手が援助欲しさに、碌に育てもしていない隊士候補を送り込んでいる気配があったのだ。しかも、そういう育手に限って、多くの弟子を取っており申請してくる経費が馬鹿にならない。

 

 推測が立てば、後は理論付けで証拠を集めるだけの作業であった。人を信じる産屋敷耀哉に対して、人を疑う裏金銀治郎である。疑って資料を確認すれば、馬鹿を見つけるのは簡単だ。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎は、見つけた馬鹿の処分について上司の意向を仰ぐことにした。上司から呼び出しもあったので渡りに船である。

 

 育手に対して、良い感情を抱いていない風柱である不死川実弥にでも情報をリークすれば、即日バラバラにされたことは間違いないだろう。お館様の資金で私腹を肥やすだけでなく、使えもしない隊士を送り出していたのだ。

 

 こうみえて、裏金銀治郎のお手々は真っ白である。

 

 昇進の為に人も殺してないし、誰かをはめるような事もしていない。ジャンプの主人公達同様に真っ白である。

 

「報告書は確認した。銀治郎には、色々と苦労を掛けたね」

 

「お館様のお力になれたのであれば、この上ない喜びです。しかし、まだ安心出来ない状態です。今は、ようやくスタートラインに立ったに過ぎません」

 

 全ては、これからだ。

 

 今の鬼滅隊の状況は、資産が減り続けるという状態が急減速したに過ぎない。それも、胡蝶印のバイアグラに支えられている状態だ。裏金銀治郎の頭の中には、膿を出し切った後のプランもできあがっていた。

 

「このところ、色々な所から予算がついて、できる事が増えたと感謝の言葉が届いている。それを銀治郎にも伝えたかった。本当にありがとう」

 

 金庫番をしている裏金銀治郎の所には、一切の感謝状は届いていなかった。誰しもが全てお館様の手腕で資金繰りが良くなったと思っているのだ。その事を気遣い産屋敷耀哉は、裏金銀治郎を呼び寄せたのだ。

 

「勿体ないお言葉です。この場でお知らせするのは恐縮ですが、一つ残念な報告がございます」

 

 鬼滅隊にとって、裏金銀治郎は必要不可欠の存在へとなっていた。そんな彼から残念な報告と聞いただけで、産屋敷耀哉の平常心に揺らぎを与えた。

 

 だが、この時、裏金銀治郎は全く残念だと思っていない。

 

 鬼滅隊だけに留まらず、産屋敷耀哉の周りにはYesマンしか居ない事に大変危険を覚えていた。頑張ればいつかは鬼を駆逐できるとか――体育会系の思考だ。予算がこの程度必要ですに対して「はい、わかりました」ではない!! その内訳と何故必要なのかよく精査する必要がある。

 

 勿論、これは金庫番についている裏金銀治郎にもチェックが漏れてたので責任もある。だが、就任時期や彼の抱えている仕事量を考えれば、どう頑張っても限界があるのだ。

 

「何があったんだい?」

 

「育手に、経費を水増して不正を働いている輩がおります」

 

 報告書を産屋敷耀哉の付き添いも兼ねた彼の実子が確認し読み上げた。その内容を聞き、産屋敷耀哉は涙を流す。記憶力が優れている彼は、今まで出会った全ての隊士を記憶している。だからこそ、不正を行った者の人となりを理解していた。

 

 裏金銀治郎にしてみれば、出会ったときは澄んだ心を持った青年だったかもしれない。だが、立場上、常に接していたわけでもあるまい――時間とは残酷だ。人は変わるのだ、と言うだろう。

 

 空気が読める裏金銀治郎は口を噤む。

 

「そうか………彼が、そんなことを」

 

 鬼滅隊の者達を子供のように考える産屋敷耀哉にしてみれば、我が子が悪事を働いていたなど信じられない事であろう。だが事実である。

 

 色々準備し、鬼滅隊の為、資金調達を頑張る裏金銀治郎という聖人もいれば、鬼滅隊の為と称し外道に堕ちる者もいた。

 

「近くに風柱である不死川実弥がおります。今ならば彼に任すのが最適解かと愚行致します」

 

 何を任すかと言えば簡単だ。柱ではなかったとはいえ、呼吸法を身につけた育手である。下手な者を送り込んでも、そんな者来なかったとなりかねない。ならば、最初から最強の駒をぶつけるのは、戦法的に正しい。

 

「実弥は、少し過激なところがある。他の手はないのかい」

 

「――あまり気が進みませんが、司法の手に任せてみてはいかがでしょうか? 」

 

 逆恨みという言葉がある。

 

 不正を暴露した相手に対して、報復をするという事もそれに含まれる。裏金銀治郎は、身の安全を守るため最善を尽くす所存でいた。陽明館のパーティーで貰った名刺には、警察から裁判官まで良り取り緑である。

 

 元鬼滅隊というだけで、叩けば埃なんぞ幾らでも出せる。

 

 なぜかというと、鬼という存在は認知されていない。鬼が世間的に何に分類されるかといえば、人間だ。

 

 上司である産屋敷耀哉の意向を最大限にくみ取り、裏金銀治郎は動く。

 

◆◆◆

 

 数日後、四国地方のローカル新聞で、ある事件が1面を飾った。

 

 殺人剣を教えていた殺人犯が逮捕されるといった記事だ。しかも、身寄りのない子供達にその術を教え込むという恐ろしい事件として扱われていた。保護されるまでの間、何人もの子供が行方不明になっているという事実まで判明したとの事。

 

「恐ろしい事件もあるものですね。そうそう、ブラジル産の良い珈琲豆が手に入りましたので胡蝶しのぶさんも一杯どうぞ」

 

 裏金銀治郎は、持っていた新聞を胡蝶しのぶに渡した。彼女もその記事を注目する。このご時世に殺人剣など思い当たる節は一つしかなかった。

 

「そういえば、先日四国の土産にうどんを頂きましたよね。――これは、貴方の仕業ですか?」

 

「育手にも関わらず、碌に教えもしない。経費は割り増し請求。お館様のご意向で司法にて処罰して貰う方向になりました」

 

 ありのままの真実を胡蝶しのぶに告げた。

 

 責任ある大人として、自らに何かあった際の仕事を引き継げる者がいる。鬼滅隊でそれができるのが唯一胡蝶しのぶだけだ。

 

「私は鬼を狩るのが仕事です。裏方まで教えられても困りますよ」

 

「知っております。それに、貴方だから正直に全てを話すんですよ。私は仕事を真面目にこなすほど、恨みをかってしまう性分のようで」

 

 「馬鹿ですかね」と小声で言いつつ、煎れられた珈琲に口を付けた。苦いはずなのに、どこか甘いと思ってしまう胡蝶しのぶである。

 




次話から原作時間軸へ。

水柱さんが、不祥事を隠し始めました。


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06:勘の良いガキは嫌いだよ

 蝶屋敷で負傷した隊士の看護をする神崎アオイがいる。彼女は、有能である。最終選抜を通過したが心が折れてしまい、裏方へと回る事になった。だが、それは彼女には天職であった。鬼を殺す才能より、人を生かす才能があったのだ。

 

 だが、ここ最近は、看護の仕事以外にも時間が取られて困っていた。

 

「アオイ!! アオイ!! お願いします。金柱様を紹介して~、この通り」

 

 かつての同期が頭を深く下げてきた。

 

 毎日のように、呼び止められたと言えば要件は大体コレである。現役の柱に近づく事は、難しい。それに、誰もが性格に一癖も二癖もある為、男女の仲に発展するのは現実的ではない事は、火を見るより明らかだ。

 

 勿論、隊士の間で結婚するに至った者も極めて少ないがいる。

 

 花の寿命は短い――その為、結婚という事に関して、女性が焦る気持ちは、男性では想像できない。チャンスを掴む為なら、プライドすら投げ捨てて頭を下げるのだ。

 

「……サクラ、貴方はどんな話を聞いてここに来たの?」

 

「そりゃ~、金柱様と蟲柱様が夜な夜な出かけて、朝帰りする事も多いって。つまり!! 私にもチャンスがあるって事でしょ」

 

 その何処にチャンスがあると考えたのか、じっくり話し合いたいと神崎アオイは、思った。

 

 裏金銀治郎は、結婚したい男性TOPランキングに入るが、周りに女の影も形もない事から男色ではないかと、腐女子達の間では様々なカップリングがされていた。

 

 しかし、そんな薔薇色の噂も終焉を迎えた。

 

「どう考えれば、そうなるのよ。ここ最近、頻繁にお見かけしますけど、胡蝶様とカナヲ様以外とは会話しているのを見たことないわよ。つまりは、無駄よ」

 

「カナヲ様って、あのミニスカ隊士の?」

 

 栗花落カナヲは、隊士の中では有名であった。

 

 正式な隊士でないにも関わらず、蟲柱の継子に選ばれた天才――という事と、風変わりな隊服を着る隊士として。ちなみに、後者は、男性隊士達からは絶大な評価を得ている。女性隊士の隊服変更の署名活動まであった程だ。

 

 裏金銀治郎の所にも、予算都合立ての嘆願書が届いた事もあった。却下すると、隊服運動をする隊士達が自らの給与を使っても構わないと、纏まった金を用意されたこともある。

 

「継子のカナヲ様ね!! 変な覚え方しないでください」

 

 服装に関しては、前衛的であるとは彼女も思っていたのでそれ以上の反論はできなかった。以前に洗濯物に紛れていたスカートをこっそり履いた過去があったが、鏡に映った自分を見て、「何やってんだろう私」と心がえぐられた過去を持つ悲しい女性である。

 

「つまりは、私もミニスカにして迫ればワンチャンあると。カナヲ様の部屋には、予備のスカートくらいあるわよね。――お願い」

 

 最終選抜の為、蝶屋敷を離れている栗花落カナヲ。

 

 つまり、今部屋に入って服を漁るなど造作もない。だが、そんなお願いを素直に聞くような者は蝶屋敷にはいない。人様の部屋に勝手にはいり、本人の許諾なしに洋服の貸し借りなど許されるはずも無い。

 

「それだと、金柱様が変態に聞こえますよ。そんなこと言っている暇があれば、さっさと退院して鬼でも狩ってきてください」

 

「うーーー、じゃあ!! 金柱様が来たら一声掛けて。後は、こっちで何とかするから」

 

 そういい、サクラはステップを踏みながら病室へと戻っていった。

 

 三日前まで松葉杖がないと歩行すら困難であったのが嘘のようであった。胡蝶しのぶの治療のおかげと信じて疑わない神崎アオイ。そんな、胡蝶しのぶのようになりたい――それが無理なら力になりたいと真剣に考えていた。

 

「もしかして、薬を変えたのかしら? そういえば――去年に同じような怪我で入院していた人が居たわね」

 

 胡蝶しのぶは、誠実に仕事を行う。その為、過去の治療に関するカルテは全て残っている。つまりは、サクラのカルテともう一つのカルテを見比べれば――。

 

 そんな独り言を口走り、仕事に戻る神崎アオイ。この時、竈門炭治郎が側にいたならば、物陰にいる男性の香水に気がつけただろう。

 

………

……

 

 その日、胡蝶しのぶは、料理の本を開きお菓子を作っていた。

 

 年を重ねるにつれ、女としての色気が栗花落カナヲに負けているのではないかと薄々気がつき始めたのだ。継子の成長は嬉しい……だが、女として負けてはならない事もあった。

 

「嬉しさ半分、悲しさ半分とは、まさにこの事です」

 

 妹のような存在が、成長するのは嬉しい事であった。言われなければ、何もできなかったあの子が……などと思ってしまうのは仕方がない。

 

 そして、自らの女子力を証明する為にも、お菓子作りをしているのだ。カナヲが最終選別でいないタイミングで少しでも腕前を上げる算段であった。普通なら、身を心配する所なのだが――既に、全集中常中を会得し、花の呼吸まで扱える。その為、只の鬼退治など彼女にとっては、雑草を刈るのと同程度だと分かっていたのだ。

 

「それに、それに!! なにより気にくわないのはあの男です!! ケーキを焼いたのでお裾分けに来ましたとか、馬鹿ですか!?」

 

 イチゴのショートケーキを持ってきたあの日を胡蝶しのぶは、決して忘れる事はない。日持ちしないため、蝶屋敷の勤め人と一緒に食べたが、誰もが彼女が作ったと思い込み「美味しいです。胡蝶様」と称賛を浴びせた。否定しようとしたところ、次々と称賛を貰い否定するタイミングを失ってしまったのだ。

 

 そのケーキ……実に美味だったのだ。

 

 同じ材料を使っても、同じ味を出せる自信が全く無いほどに。乙女の尊厳が完全に砕かれたのだ。柱として、鬼狩りや修行に忙しかったからお菓子作りなんてと言い訳しようものなら、裏金銀治郎とて同じだ。むしろ、良い年したオッサンがお菓子作りが得意なんて誰が想像できるだろう。

 

 胡蝶しのぶは、想像ができた数少ない一人だ。だが、考えないようにしていたのだ。

 

 そもそも、蝶屋敷の患者に提供している食事は、裏金銀治郎が考案したメニューである。洋食という奇抜な選択で、素材が何なのかという疑問を消し去るというアイディアも盛り込まれており、感心してしまうほどだ。

 

 つまりは、裏金銀治郎は料理も得意という事である。ならば、お菓子もと考えられる可能性であった。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎の執務室で、金つばとお茶を食しつつ、休憩する二人の男女がいる。

 

「手作りですか――美味しいです」

 

「どういたしまして。カナヲが最終選抜を合格してくるでしょうから、そのお祝いの予行練習です」

 

 胡蝶しのぶは、詰めが甘かった。

 

 市販ではなく手作りである為、相応の手間が掛かっているのは簡単に分かる。それこそ、料理やお菓子作りにおいて、自身以上に得意であろう者に提供しているのだ。練習で作るような物でない事は直ぐに分かった。

 

「てっきり、私の為に作ってくれたと思ったのですが、違いましたか?」

 

「はぁ? 自意識過剰ですか? 練習といったでしょう。耳でも悪くなったんですか」

 

 「酷いな~」と笑いながら裏金銀治郎は、黙々と金つばを食べた。

 

 そして、いつ例の話題を切り出そうか、迷っていた。裏金銀治郎が持つ権力やコネを使えば、鬼滅隊の隊士の一人くらい、明日にでも鬼の餌にできる。だが、協力者との関係上、それを行うと破綻するだろうと理解していた。

 

「裏金銀治郎さん、一つ聞きたいことがあります。ちょっと小耳に挟んだたわいない世間話なんですが~」

 

「なんでしょう?」

 

「カナヲのスカートを用意したのが、貴方だと聞いたのですが本当ですか?」

 

 空気が凍り付いた。

 

 スカートどころか、昔……そう、胡蝶しのぶが、鬼を殺す毒を開発する時、下着一式まで全て用意したのが裏金銀治郎であった。一瞬、その事までバレたのでは無いかと思い、背中に嫌な汗をかいていた。

 

「誤解されないように、私の言い分も聞いて貰えるかな?」

 

「あら、否定されないんですね。いいですよ、聞きましょう」

 

 カナヲ自身から、ズボンはださいからスカートが欲しいと直訴があった。あのカナヲが自らの意志を伝えてきたのだから、それに応えてやるのが親心という物だと力説した裏金銀治郎である。

 

 ちなみに、スカートに関しては、生地を用意したのだという正しい情報も共有した。

 

「そもそも、彼女にお小遣いとか渡していますか?」

 

「……あげて…あげてません。ごめんなさい」

 

 カナヲの立場は、鬼滅隊に所属しない継子という物だ。つまりは、鬼を殺しても鬼滅隊から給与はでない。裏金銀治郎も、隊士以外に給与などださない。例外を認めてしまえば、一般人が鬼を殺したと報告が有れば全て対応する事になるからだ。

 

「じゃあ、どうやって彼女の私物が増えていったと思います?」

 

 衣服にかかわらず、カナヲの部屋は充実していた。ファッション誌、専門書、勉強机にベッド……外出用の服、ハイカラな靴などを胡蝶しのぶは思い浮かべた。どれもが、自分が買い与えた物ではない。

 

「ほ、ほら!! カナヲって、私に付いてきて鬼を切っているので」

 

「隊士でも無いのに給料が出せるはず無いでしょう。鬼滅隊の赤字状況を知らないとは言わせませんよ」

 

 その発言で理解したのだ。栗花落カナヲは、裏金銀治郎の厚意で色々な物を手に入れていたのだと。ちなみに、栗花落カナヲとしては、鬼滅隊から支給されていると思っており、双方で認識の相違があった。

 

 裏金銀治郎は、気がついていたが訂正する事はなかった。売れる恩は売っておくべきだと考えたのだ。

 

「えーーと、先ほどの発言は撤回しますね。改めてお礼を言った方がよろしいですか?」

 

「誤解が解けたなら何よりです。それに、先行投資だと思えば安い」

 

 将来、栗花落カナヲは上弦を撃破する要の一人になる。明るい未来のため、そういった人材には、お金は惜しまないのだ。

 

◆◆◆

 

 世間話も終わり、胡蝶しのぶが部屋を退出する際、裏金銀治郎は呼び止めた。

 

「胡蝶さん、少し真面目な話があります」

 

「胡蝶さん……ですか、フルネームで呼ぶのが貴方だと思っておりましたが」

 

「お気に召しませんでしたか?私の事は、裏金さんでも銀治郎さんで構いませんよ」

 

 いい加減フルネームで呼び合うのは長ったらしいので、まぁ良いかと思う二人である。それに、秘密を共有する仲でもあり、距離感は縮まっていた。

 

「はいはい、裏金さん。どういったご用件ですか?」

 

「神崎アオイが、カルテを確認する恐れがある。鬼肉を食べる前と後で治療方法が変わらないのに、怪我の治りが明らかに早いと怪しまれかねない」

 

「まさか!?」

 

 その話を聞いて、胡蝶しのぶは青ざめた。

 

 何を考えたかと言えば、一つだ。すでに、消されているという想像だ。目的のためならば、手段を選ばない男であると、彼女も分かっていた。

 

「何もしていない。廊下で盗み聞きしただけだ。私一人で処理するのは、朝飯前だ。だが、胡蝶さんとの協力関係を破綻させる気はない。だからこそ、こうして話している」

 

「裏金さんに任せた場合は、どうなるのですか?」

 

「勘の良いガキは嫌いだよ。不穏の芽は、早めに摘む必要がある。つまりは、死んで貰う。強権で急な人事異動という事もできるが、確実性を取りたい」

 

「そうですよね、貴方はそういう人間ですよね。はぁ~、分かりました。こちらでここ最近の患者には新しい治療方法を行っていると嘘の報告を書いておきます。彼女の事ですから、それで問題ないはずです」

 

 それならば、良いでしょうといい裏金銀治郎は、彼女を見送った。

 

 医師である彼女が、患者のカルテを改竄するとは、成長を喜ばしく思う裏金銀治郎であった。

 




さぁ、主人公!!

裏金銀治郎が君のことを頸を長くしてまっているぞ。
君が望むすべてをあたえよう^-^
だから、上弦と下弦・・・その上司もよろしくね。

さて、そろそろ、例の下弦を探しに向かうか。
首から上があればいいから、下半身は吉原の最下層風俗で稼がせるか。


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07:そうだ京都、行こう

 隔離施設に絶叫が響き渡る。

 

 それを気に留めないほど調教された鬼達は、胡蝶印のバイアグラの製造に従事する。隔離施設に新たに搬入されてくる鬼は、その様子を見て絶句する。人間など餌にしか思っていない鬼が、同胞である鬼を解体して機械に放り込んでいるのだ。

 

 目の前で繰り返される惨状を前に自らの行く末を心配するのは、正常な反応だ。

 

 普通の刀で首だけにされた鬼が、裏金銀治郎を前に脂汗をかく。

 

「楽にしたまえ。私は、(こうべ)を垂れなかったからと言って、無為に貴様等を殺すような事はしない」

 

 この時、鬼は、頭だけにしておいて(こうべ)を垂れるも糞もないだろうと思っていた。事実、その通りである。

 

「なんなんだ!! ここは!? これが人間のやることか」

 

 鬼が声を荒立てた瞬間、一閃が走る。

 

 その瞬間、鬼の頭部の半分から上が床に落ちて赤いしみを作る。鋭い切れ味で、鬼は床に落ちた物が何かを認識するまで痛みすら感じていなかった。

 

「よいか、貴様が今やるべき事は、いかに私の機嫌をとるかという一点に尽きる。私が満足できる答えを持っていたときのみ貴様は解放されるのだから」

 

 裏金銀治郎は、どこぞの上司のモノマネをしてみたが、効果は抜群であった。

 

 鬼視点では、鬼舞辻無惨の陰が見えるほどに冷酷で、絶対的な恐怖を感じ取った。裏金銀治郎の実力は、雑魚鬼と比較すれば遙か高みにある。だからこそ、そのように感じてしまったのだ。実際は、鬼舞辻無惨の方が更に雲の上だ。

 

「知っていることは何でも話す!! いいや話させて頂きます。どうかお慈悲を!!」

 

「素直な鬼は、好感が持てます。実は、探している鬼がいるのでその所在を知っているか確認したい。なーに、鬼の中では有名のはず」

 

 誰のことかを察したのか、鬼の顔は青ざめる。

 

 前門の裏金銀治郎、後門の鬼舞辻無惨であった。黙っていれば、生き地獄。しゃべればあの世――鬼は、生涯通じて、これほどまで理不尽な状況はないと確信していた。

 

「あ、あの方の所在は――」

 

「そっちじゃない。下弦の肆――二本の角を生やした女の鬼だ。名を零余子という」

 

 隔離施設は、一言でいって花がない……外で咲き誇る藤の花が~とか意味では無く、女性的な意味の花がないのだ。胡蝶しのぶという女性を除いてと言う意味でだ。そこで、むさ苦しい環境に花を飾りたいというのが、目的の一つだ。ただ、チヤホヤされるのではなく、生け花の如く飾られる。

 

 施設にいる鬼達には、全員同じ事を確認していたが誰も情報を持っておらず、殺して貰えるという報酬を手にする鬼は誰もいなかった。

 

「その方なら、一ヶ月前京都で見かけました!!」

 

「――真実か?」

 

 鬼は、必死に情報を伝える。

 

 人を見る目がある裏金銀治郎は、鬼の表情、口調や仕草などからそれが真実であったと考えた。嘘であった場合には、大型のミキサー機で生涯ハンバーグの材料を生成し続ける、リアル増える肉状態になる。

 

「本当だ、だからお慈悲を!!」

 

 裏金銀治郎は、日輪刀を構えた。

 

「勿論だ。下弦の肆を捕まえて戻ってきたら、真っ先に殺してやろう。この私に囚われたことを感謝するといい。慈悲をくれてやる――金の呼吸 弐ノ型 金縛り!! 苦しむのは、僅かな時間だ」

 

 鬼の脳髄に針金を打ち込み活き締めにした。

 

 持っている情報を嘘偽り無く伝えたにも関わらず、地獄に送られるのは何故だ!! と、声を荒立てたかったが、もはやそれも叶わない。だが、鬼は知らない。己がどれだけ恵まれているのかを。

 

 隔離施設において、殺して貰えるというのは何よりも幸せなことなのだ。

 

………

……

 

 それから、その日のうちに裏金銀治郎は、産屋敷耀哉に面会を求めた。

 

 報連相――それは、社会人として常識である。部下の行動を常に上司が把握する必要がある。勿論、責任を押しつけられないようにする為の施策でもあった。

 

「先日ぶりだね銀治郎。なにかあったのかい?」

 

 穏やかな声の産屋敷耀哉だったが、心の中では、何が報告されるか不安に思っていた。基本的に、吉報が届くがそのどれもが単純に喜べない物が多かったからだ。だが、確実に成果を上げる裏金銀治郎の手腕を評価していた。

 

「二つございます。一つは、ここ最近、蝶屋敷で新しい治療法を行うようになってから隊士の質が改善されております。その証拠に、蝶屋敷に入院しに来る患者の大半は、入院経験が無い者達でございます」

 

「そのようだね。私の所にも、鬼討伐の報告が多数挙がってきている。しかも、重傷者の数も激減している。良いことだね」

 

 実戦経験を積み、肉体能力が向上した隊士達は、一皮むけた大人になったのだ。

 

 鬼滅隊として、喜ばしい限りである。

 

「その通りでございます。しかし、それが思わぬところで悪影響がありました。隊士の質が向上し、鬼を順調に狩る事から階級を上げる者が多数おります。つまりは、人件費に多大な負担が発生してしまいました。急減速した赤字が、加速度的に以前の水準にまで数字が戻りつつあります」

 

 裏金銀治郎としても、笑えない事態であった。良かれと思い、隊士を強化したら人件費にそれが直撃するなど考えられなかったのだ。問題というのは、往々にして後から見つかる物だ。今までは、死人が多く出る事で組織のピラミッド構造が維持できていたのだ。

 

 それが裏金銀治郎と胡蝶しのぶの手により、平成時代の人口統計みたいな歪な形へと変わりつつあった。これでは、破産の危機に陥るのは時間の問題だ。

 

「一難去ってまた一難。銀治郎の事だから、何か対策も考えてきているのだろう」

 

「勿論でございます。まず、鬼滅隊の隊服……特許申請して、警察や軍に売りましょう。雑魚鬼の爪や牙を防げる時点で、現代において画期的な技術です。許可を頂けるのでしたら、各方面との調整などは全てお任せください」

 

 実現すれば、赤字を黒字に変える事ができる素晴らしいものである。

 

「あれは一族の秘伝の技術だが――そうもいってられないか、許可しよう」

 

「ありがとうございます。技術というのは、いつか発見されます。誰かが漏洩するかもしれません。機会を逃さず英断してくださった事に感謝致します」

 

 感謝どころか、そういう技術があるなら早く金にしておけと内心思っていても口にしないのが裏金銀治郎の良いところである。

 

「構わないよ。それで、二つ目は?」

 

「下弦の鬼を京都で見たと口走る鬼がございました。是非とも、私と蟲柱の胡蝶しのぶを派遣して頂きたくお願いいたします。是が非でも、下弦の鬼を捕獲したい所存でございます」

 

「下弦の鬼を捕まえて何をするのかな?まずは、それを聞いてから判断したい」

 

 裏金銀治郎は、厚めの資料を机に置いた。

 

 それを産屋敷耀哉の子供が手に取り、読み上げる。そこには、予てより計画していた柱専用の緊急活性薬のメイン素材として使われる事が書かれていた。鬼との戦闘中での使用が前提となるため、即効性が求められる品物だ。その為、材料となる鬼にも品質が求められる。

 

 詰まるところ、材料は、十二鬼月しかいない。十二鬼月を倒すために、そいつの素材を……とか、矛盾も甚だしいが、ゲームではよくある事だ。

 

「何度も言いますが、備えあれば憂いなしといいます。用意できたとしても最終的に使用するか否かを判断するのは当事者達です。現柱達は、私と異なり代えが利かない実力者達です。失う可能性を少しでも下げておくのが責務かと存じます」

 

「分かった、許可しよう。ところで、鬼を利用した壁屋という遊郭を作ると書かれてあったが、ちょっと、私には理解できなかったので説明をして貰えるかな」

 

 ちなみに、産屋敷耀哉はちょっとどころでは無く、全く理解できなかったのだ。それもそのはず……気立ての良い美人の妻を持ち、子供もいる。理想的な家庭を築き上げている勝利者からしてみれば、独身貴族の気持ちなど推し量る事が難しいのだ。

 

 その為、裏金銀治郎は懇切丁寧に説明した。首から上を隔離施設で管理、首から下を吉原以外の遊郭で働き手として活用するという物だ。首から上がない事を不審がられないように、壁から……と、未来を先取る遊郭を作るという物だ。男なんぞ、顔が見えなくても綺麗な肉付きの体があれば、それで十分だと考える獣だ。しかも、自動修復機能までついているから、ぞんざいな扱いもできる。

 

 時代が時代ならセクサロイドと呼ばれるだろう。

 

「ごめんね銀治郎。それは不許可」

 

「そうですか……ならば、隊士専用にして福利厚生を手厚くするというのはいかがでしょうか!? 利用料を多少取れば、財政にも!!」

 

「却下」

 

 鬼滅隊から魔法使いの誕生を良しとする当主であった。

 

 そのおかげで、裏金銀治郎が、喪男の救世主になる事はなくなった。

 

 

◆◆◆

 

 蝶屋敷へと足を運んだ裏金銀治郎。

 

「そうだ、京都へ行こう」

 

「なんですか、いきなり部屋に来たと思えば~」

 

 それだけの会話で、胡蝶しのぶはクローゼットにしまい込んであった。ドレスに手を掛ける。アンブレラ・コーポレーションの代表として、今までに数々のパーティーへと連れ出され、染みついてしまった行動であった。

 

「何をやっているんですか、胡蝶さん」

 

「なにって、衣装ケースにドレスを……」

 

「有りか無しかで言えば、有りですが~。隊服なんぞ、有っても無くても同じようなものだからね」

 

「――!! もしかして、鬼ですか?」

 

 京都へ向かう目的を理解した胡蝶しのぶは、何事も無かったかのようにクローゼットを閉じた。そのクローゼットの中には、代わり映えしない隊服が何着もあるのを見つけてしまった。裏金銀治郎は、出かけ先で服を何着かプレゼントしようと考えた。

 

「別にドレス姿でも構いませんよ。相手は、下弦の肆です。隊服なんぞ、紙切れみたいな物。むしろ、あんな目立つ服を着ていては、相手が逃げてしまう可能性もある」

 

 これから向かう先は、下弦の鬼が居る場所だ。例のパワハラ上司曰く……柱を見ると常に逃げることを前提に行動すると指摘された鬼だ。

 

 つまりは、私服で一般人に紛れ込んだ方が遭遇率は高い。

 

「ですが、京都ですと冨岡さんが担当じゃありませんか?」

 

「殺すだけなら、彼一人でも十分でしょう。だけど、目的は生け捕りです。勿論、お館様から許可も頂いております」

 

 現役柱である胡蝶しのぶ、加えて元柱である裏金銀治郎……この組み合わせを派遣する時点で、表に出せない仕事であるのは明白であった。しかし、相手の戦力も考慮すれば、これが最適解でもある。

 

「生け捕りって、正気ですか!? 施設で管理している鬼達とは別格ですよ」

 

「正気なら、鬼滅隊に所属していません。ですが、これはチャンスです。予てより計画していた柱専用の緊急活性薬。材料に相応しいと思いませんか?」

 

 柱専用の緊急活性薬については、目下研究中だが成果は芳しくなかった。求められるのは即効性だ。全治一ヶ月が一日で治りますとかそんなレベルでは無い。全治一ヶ月が、1分で治るといったそういうレベルが求められる。

 

 数百体の鬼を活き締めして管理できる施設が用意できるのならば、実現できる。集めた鬼の血肉をひたすら煮詰めていくという地味な作業をこなすことで。だが、そのような大規模な施設は現実的でない。

 

「相応しいですが、他に手が無いのも事実ですよね」

 

 そういい、胡蝶しのぶは、刀を手にし、出かける準備を始めた。着替えを持たないことから、裏金銀治郎が「ドレスをお忘れですよ」と、からかっていた。

 

 

 




哀れな鬼の子に救いの手をさしのべる。

鬼滅隊に所属にも関わらず、仏のような裏金銀治郎です。

皮膚が硬い鬼とかはぎ取れば、防具の素材になるよね^-^
鬼っ子の角だって粉末すれば漢方薬みたいに滋養強壮にいいはず。

まっててね!!迎えに行くから。


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08:お客様のお呼び出しを致します

何時も読んでくれてありがとうございます。

感想を書いてくれた読者の皆様、本当にありがとう!!
執筆意欲がモリモリ沸きます^-^


 京都……歴史的建造物が建ち並ぶ日本が誇る都である。

 

 観光客も多く訪れるため、人の出入りが激しい都市であった。人口も多く、人が多少行方不明になったとしても誰も気にとめない。そもそも、情報化が進んでいないこのご時世、行方不明なんぞ身内でもなければ、騒ぐ者はいない。

 

 新聞で掲載されたとしても誰かの記憶に残らない。人は、他人に無関心だ。

 

 そんな場所へ向かう列車の中、洋服を着た男女が一等客室に乗っていた。裏金銀治郎と胡蝶しのぶである。だが、見るからに不機嫌な胡蝶しのぶが裏金銀治郎を顎で使う。

 

「胡蝶さん、お茶を買って参りました」

 

「ご苦労」

 

 列車の乗車前後で色々とやらかした裏金銀治郎が原因である。彼自身も調子に乗りすぎたと反省していた。

 

 

 

 ――5時間前。

 

 下弦の肆に不意打ちを食らわせるため、鬼滅隊の隊服は相応しくないと説得した裏金銀治郎。効率よく鬼を倒すためならばと、デパートに洋服を買いに行った時に事件は起こった。

 

「同性としても羨ましいほどのスタイルと美しさです。それに、素敵な旦那様で美男美女とは、この事ですね」

 

 裏金銀治郎は、胡蝶しのぶのファッションセンスを疑っているわけでないが、店員に一式揃えてくれるように依頼した。それに、今回の鬼捕獲は、秘密裏に行う必要があった。そんな状況で隊服では問題がある。

 

 元が良いと何を着ても似合うのは、当たり前だ。店員が胡蝶しのぶをべた褒めする。

 

「私は、未婚ですがなにか?」

 

 胡蝶しのぶの眉間がピクピクと動く。

 

 一流デパートの店員は、動じない。名誉挽回のため、即座に二人の関係を脳内でシミュレートした。この洋服売り場は海外からの輸入品も扱い華族の方にも好評なお店だ。その為、利用客の大半は富裕層の夫婦だ。

 

 愛人関係、親子関係、恋人関係の三択に絞られた。

 

「失礼を致しました。デパートを出て、南に三つ進んだ十字路を左に曲がると、ご休憩ができるホテルがございます。お詫びに無料券をお納めください」

 

「――へぇ~、そういう風に見えますか」

 

 店員が選んだ選択肢は、愛人でも恋人であっても問題ないベターな選択肢だ。青筋の数が倍増する胡蝶しのぶである。

 

 裏金銀治郎はそのやり取りをみるだけで吹き出しそうになった。

 

 実に面白い物が見られたと、代金を支払い早々にお店を出た。その間、胡蝶しのぶは不機嫌で「二度とお店に来ません」と言うほどだ。

 

 

 ――1時間前。

 

 そして次の事件があったのが、列車に乗車してからだ。

 

 列車の一等客席という事で、金に余裕のある者か品格のある人達しか乗ってこない。一組の老夫婦が乗り合わせてきた。偶然にも二人の横の座席に座る。

 

 お年寄りとは何かとお節介好きが多い。

 

「綺麗なお嬢さんですね。よかったら、みかんでもいかが?」

 

「ありがとうございます、おばあちゃん」

 

 お嬢さんと言われ、胡蝶しのぶはご機嫌であった。

 

 鬼滅隊では、お母さんなど年齢以上の扱いしか受けていないから、新鮮に感じていた。それに、孫を可愛がるような口調で品の良い人から言われれば誰だって、気分は良いだろう。

 

 愛情に飢えている胡蝶しのぶには、それが染み渡る。

 

お父さん(・・・・)もどうですか?」

 

「ぶほっ!!ごほっほほごほ」

 

 お父さんとは、誰のことだろうと思考を巡らす裏金銀治郎。思わず、左右を見渡してみた。当然誰もいない。子持ちでもないのにお父さんとは地味にショックを受けていた。彼は、呼吸法と下弦の鬼を食べた影響で老化が抑えられている。そのおかげもあり、年の割には若く見えると評判だったが、お年寄りは鋭い。

 

 だが、実年齢で計算しても胡蝶しのぶみたいな大きな子供がいる年齢ではない。居たとしたら、それは10代前半でやらかした性犯罪者だ。

 

 悩む裏金銀治郎の顔をみて、胡蝶しのぶがミカンの果肉を鼻から吹き出すほどの勢いで咳き込む。美人が台無しになっていた。一度、笑いのツボに入ってしまった人は、そこから中々抜ける事はできない。

 

「御婦人……()が失礼をしました。ほら、しのぶ、パパも謝るから頭を下げなさい」

 

 老夫婦が勘違いしている親子という設定で話に乗ることにした裏金銀治郎。

 

 裏金銀治郎が自らを「パパ」というあたりが更にツボに入り、胡蝶しのぶが「お願いですから、もう止めてください」と、笑いを必死に堪えて懇願していた。

 

 その顔をみて、加虐心がそそられると思ってしまった彼である。

 

 この時、二人は知らなかった。一等車両に鬼滅隊事後処理部隊『(カクシ)』の後藤と呼ばれる男性が帰省のため、乗り合わせていたのだ。普段から顔を隠している彼等の素顔を知る者は殆どいない。当然、二人も知らなかった。

 

 後藤は、蟲柱と金柱が想像の遙か上をいく関係であったと勘違いする事になる。後藤は、酒に酔うと口が軽くなるタチであり、その誤った情報が拡散するのは、時間の問題だ。

 

 

◆◆◆

 

 京都に到着した。

 

 裏金銀治郎の根回しの良さを信じていた胡蝶しのぶは、酷い裏切りに会うとは思わなかった。鬼を倒すのは柱の役目で間違いない。つまりは、鬼を探索するのは別の者が担当するのが常識であった。

 

「で、裏金さんの私兵の皆様は?」

 

「何を言っているんですか? 勤め人の私に私兵なんているはずないでしょ。それに、発想を変えましょう。彼女(・・)の方から、こちらに来て貰えば良いんですよ」

 

 信じられないという顔をする胡蝶しのぶであった。

 

 今までの仕事ぶりを見ているからこそ、秘密裏に動かせる部隊を作っていると確信があったのだ。何かあれば鬼滅隊もろとも自爆するだろうとも。

 

 だが、事実は全く違う。裏金銀治郎は、正しく職務を全うする隊士の鑑のような存在である。胡蝶しのぶは、そのあたりが理解できていない。

 

「――あれ? 裏金さん、もしかして下弦の鬼とお知り合いだったりしますか?」

 

 裏金銀治郎が口にした彼女という言葉が胡蝶しのぶは、気になった。隔離施設で血も涙も無いような事を行う人が、下弦の鬼に対して一瞬でも優しい声になった。

 

 胡蝶しのぶが真っ先に考えたのが、裏金銀治郎の身内の誰かではないかという事だ。それならば捕獲したいのも納得がいく。他の柱に見つかれば殺害しか選択肢はないからだ。

 

「知っている情報なんて殆どありませんよ。そうですね……鬼に同情する訳ではありませんが、不憫な鬼です。何年かぶりに上司に呼び出されたら、(こうべ)を垂れて土下座しなかっただけで文句をいわれ、指摘に対して反論したら反論するな的な事を言われて殺される――僅か10数コマしか生存できない子ですよ」

 

「ちょっと、何を言っているか分かりませんよ」

 

「そうでしょうね。真面目に知っている情報を共有します。下弦の肆で二本の角を生やした女の鬼。名前を零余子という。能力は不明ですが、柱との戦闘を極力避けている事から戦闘向きの能力ではない可能性も高い。容姿は、こんな感じの鬼です」

 

 裏金銀治郎は、知りうる限りの情報を提示した。似顔絵だって、絵師に依頼して何度も修正し、ほぼ完璧に再現している。下弦の鬼相手にそれだけの情報を持っているだけでも普通ならあり得ない事だ。

 

 十二鬼月を相手にする場合、普通は初見なのだ。

 

「詳しいですね。まるで、見てきたかのようです。もしかして、裏金さんって鬼側のスパイだったりしますか?」

 

 もちろん、冗談で言っている胡蝶しのぶである。そもそも、裏金銀治郎が鬼ならば、勝手に自滅していた鬼滅隊で裏方を頑張ったりしない。

 

「違いますよ。鬼滅隊に()いませんよ。どこぞの遊郭の上客や宗教法人の信者、どこぞの車掌なら別ですがね――そろそろ、待ち合わせの時間だ」

 

 裏金銀治郎は、胡蝶しのぶに嘘はつかない。大前提として、聞かれなければ答えない。

 

 裏金銀治郎の意味深なセリフを問いただそうとした時、二人の前に外車が停車する。中から運転手がおりてきて深く頭を下げる。

 

「裏金銀治郎様と胡蝶しのぶ様でございますね。府知事がお待ちです。どうぞ、お車にお乗りください」

 

「あぁ、お迎え感謝する。さぁ、お手をどうぞ」

 

 裏金銀治郎は、私兵など持っていない。だけど、権力者とのコネを最大限活用する術を知っている。胡蝶印のバイアグラと多額の賄賂を携えこの場にもきていた。大正の世で世渡りするには、こういう男が必要なのだ。

 

 その夜、府知事主催の真っ黒いパーティーへの出席を余儀なくされた二人。当然、立場はアンブレラ・コーポレーションとして、胡蝶印のバイアグラの販路拡大にも努める事になった。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎は、府知事という特権階級の協力を得ることに成功した。

 

 下弦の肆を隠れ家からあぶり出すため、行方不明者が多発している地区で、ある放送を流して貰う事と人気の無い倉庫のレンタルを依頼した。その依頼内容が、簡単であったため、府知事側としてはお安いご用だと快諾した

 

 念のため、大きめの建物にも同様の放送を流された。とあるデパートでは――

 

「お客様のお呼び出しを致します。零余子様、上司の無惨様が二日後の17日の19時に京都海運17番倉庫でお待ちしているとの事です。繰り返し、お伝え致します――」

 

 デパート内の放送にも関わらず、海際の倉庫への呼び出しとか理解に苦しむ内容であった。その為、一般人にしたら悪戯だと考える。

 

 だが、偶然にもデパートという快適な空間を拠点としている鬼がいた。日陰の空間、品揃えなど便利の一言に尽きた場所であった。

 

「お呼び出し!? そんな馬鹿な!! 今まで、強制移動させられていたのに何故!? 」

 

 彼女――下弦の鬼である零余子が考えたのは、罠という線だ。今までは、いつの間にか鬼舞辻無惨が現れ、パワハラプレーをして帰るという事が常であった。だというのに、唐突の呼び出しである。

 

 しかし!! 鬼舞辻無惨という名前が出てきた以上、無視できないのも事実であった。

 

 真実であった場合、呼び出しに応じなかったらどうなるかと言われれば、100%殺されるのだ。つまりは、100%嘘だという確証がない限り、この呼び出しに応じる他なかった。

 

 零余子側からは、コンタクトは取れない。彼女の上司は、上弦の鬼ならばまだしも、入れ替わりの激しい下弦の鬼に連絡方法など教えていないのだ。

 

「どうすれば……でも、私の名前を」

 

 館内放送で呼ばれた「零余子」という名前が、この呼び出しが嘘だと言い切れないポイントになっていた。彼女の本名を知る者など、鬼舞辻無惨以外にあり得ないのだ。

 

 そんな出来事があった為、彼女の精神に多大な負荷がかかった。そして、彼女の思考は迷走し、一種の回答に至った。

 

 今までの働きが認められて遂に上司のお気に入りに成れたのではないかと、ポジティブな発想へとシフトしていた。上司とて、男である――女である自分の方が下弦の伍の子供より何倍も役に立てると考えた。

 

「間違いないわ!! 綺麗な服を用意しないといけないわね」

 

 彼女は、自らの先見の明を褒め称えていた。

 

 デパートならば、望む品が全て揃う。だが、彼女は知らない……パワハラ上司は女にもなれるという事実を。そして、女になった時は、「その格好はなんだ?私への当てつけか?」と、己より高級な身なりをしていたら、殺されるという事実を。  




裏金銀治郎が、怪盗キッドみたいに変声機なしで無惨のマネをできたら、こいつなら操れるんじゃねと思ってしまった。

さぁ、狩りの時間だ。
モンハン的に言えば、閃光玉と罠を現地調合分まで持ち込んでのスタートである。



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09:全て上司が悪い

 胡蝶しのぶは、事前に作戦を聞いて不安しかなかった。

 

 その作戦とは、呼び出しに応じた馬鹿な鬼がノコノコとやってくる。そこで、裏金銀治郎が無惨ロールを行い、ひれ伏せと命令し……そこを、胡蝶しのぶが日輪刀を使い麻痺させる。

 

 その一瞬のスキで、金の呼吸で絞めるという作戦である。

 

「あの~、正直、私達二人掛かりなら正面切っても十分やり合えると思いますよ。今からでも、作戦を変更しませんか?」

 

「胡蝶さんは、少し思い違いをしております。現役柱達は過去最高戦力であると、お館様も絶賛するほどだ。元柱ではありましたが、私は貴方達より数段劣るんです」

 

 金の呼吸という新しい呼吸法と下弦の鬼を食い殺した功績で柱になったに過ぎない裏金銀治郎。勿論、平均的な柱の実力は有している。

 

「はぁ~、そうは思えませんけど。で、裏金さんは先ほどから何をしているんですか?」

 

 数時間後戦場となる倉庫。その壁に、血文字を書いていた。鬼滅隊には、色々な地方出身者がおり、地方固有の祈願とか色々ある。その一種ではないかと推察していた。

 

「完封するための準備ですよ。下弦の鬼ともなれば、血鬼術を保有している。逃げ特化や索敵特化の場合、面倒だと思いませんか。ですが、血鬼術が使えない……もしくは、著しく発動を阻害する事ができれば、戦いが楽になる。違いませんか?」

 

「えっ!? そんな事が可能なんですか!!」

 

 胡蝶しのぶは、驚きを隠せなかった。

 

 もし、裏金銀治郎が言う事が事実であるなら、本当に下弦や上弦に留まらず鬼舞辻無惨を倒す力になると思っていたからだ。そして、姉の敵である鬼を倒すにも、有効である事は間違いなかった。

 

 だが、そのような話は、鬼滅隊の最高戦力である柱の彼女でも知らなかった。

 

「勿論できますよ。だから、隔離施設は鬼舞辻無惨の襲撃を逃れている。鬼舞辻無惨は、鬼の居場所を把握できるし、鬼が視覚範囲にいれば思考が読めます。他には、鬼に呪いを掛けており自らの情報を喋ろうとしたら、どこに居ても殺す事もできる」

 

「鬼がそんな情報を!? それとも、鬼舞辻無惨に遭遇した事でもあるんですか?」

 

 胡蝶しのぶは、混乱していた。まるで、明日の天気を話すように誰も知らないとされるラスボスの能力が公開されたのだ。

 

「私が生き残る為に胡蝶さんだけには、色々と教えてあげます。私は、貴方だけには正直ですよ。安心してください、私は人間側です。例え、勧誘好きな鬼が来ても逃げ切ります」

 

「裏金さん、このタイミングで色々と暴露するとか、性格が悪いと言われたことありませんか? それに、少し前ならいざ知らず、今の貴方は鬼滅隊で代えが居ない立場です。一緒に仕事をして理解しましたが、組織はきれい事だけでは成り立たない」

 

 鬼を滅する為なら、今すぐにでも裏金銀治郎が持つ情報を残らず絞るのが正しい判断であった。だが、腐っても元柱であり、その実力は高い。まもなく、下弦の鬼がくるにも関わらず、金柱である裏金銀治郎を無力化できる自信は彼女にはなかった。

 

 裏金銀治郎もその事が分かっているからこそ、このタイミングで話したのだ。

 

「聖人のような性格だと自負しております。大丈夫です……鬼を駆逐して楽して安全に暮らしたいのが目標です。これでも、柱として貴方より長く在籍していたので、機を見て色々情報開示いたしますよ。勿論、知っている事ならば、聞かれればお答えします」

 

「はぁ~、食えない性格ですね。分かりました。一応、裏金さんの事は全面的に信用します。信頼はしていませんけどね。で、血鬼術を妨げると言っていたソレはなんですか?」

 

 胡蝶しのぶは、お館様からの依頼があったとはいえ、裏金銀治郎の手を取ったのだ。その時より、姉の敵を討てるならと清濁併せ飲むと決めた心を思い出した。

 

 既に、後戻りなんてできない。

 

「血鬼術――血界(けっかい)。四方と天井に血文字を刻むことでその空間での血鬼術の発動を阻害します。血鬼術を阻害させる度に血文字が薄れていくので、効果時間は血文字を確認してください」

 

「得心がいきました、裏金さんが討伐したという下弦の鬼を食べましたね」

 

 胡蝶しのぶも、そこまで説明されれば理解できた。隊の規約として、鬼を食べてはいけないなんて項目はない。前例こそあれど、倫理的に書く必要はないとされている内容であった。

 

「下弦の鬼を倒した際、私も瀕死の重傷を負いました。生きるためだったと言い訳だけはさせてください。それに、鬼滅隊の歴史の中では、鬼を食べた隊士は、さして珍しくはありません」

 

「はい、ストップ!! これ以上、鬼滅隊の黒い情報を教えないでください。一人で抱えてくださいね」

 

 既に、黒い情報でお腹がいっぱいの胡蝶しのぶであった。

 

 裏金銀治郎は、折角の機会だったのにと悲しみに暮れていた。鬼舞辻無惨が産屋敷一族出身である事、産屋敷耀哉が珠代という知古の鬼がいる事、上弦の壱が元鬼滅隊の柱である事など胃痛がする話題は盛りだくさんであった。

 

「仕方がありません。では、そろそろ配置に、狩りの時間です」

 

 無惨ロールをする為、刀を隠した。少しでもパワハラ上司に近づけるように不機嫌なオーラ……濃厚な殺気がばらまかれる。無作為に飛ばされる殺気を身に感じた胡蝶しのぶは、十分現役の柱に通じると評価する。

 

 

◆◆◆

 

 京都海運17番倉庫。元より海際にある倉庫で、日中でも人が少ないが夜になれば地域全体が無人となる。

 

 コツンコツンと下駄の音が響く。漆で加工され花柄が描かれた品であり、赤色の着物とよく合う。そんな、京都のデパートで一番高級な和服に身を包んだ女性……そこはかとなく気品があった。

 

 場違い感が漂うが、着物に身を包んだ女性――下弦の肆である零余子は、お持ち帰りにも対応できる準備をしてくるほど気合いバッチリであった。

 

 鬼舞辻無惨から名指しでの呼び出しがされてから、今までポジティブな考えが進行し頭が花畑となってしまった。これも全て、部下に過剰なストレスを掛けていた上司のせいである。

 

 正しい思考ができないまでに追い込んでいたのが原因であった。

 

「あぁ~、無惨様。早くお会いしとうございます」

 

 常日頃、パワハラにしか遭わない残念な子が、名前を呼ばれただけでこの惨状。彼女自身がメンヘラであった事と鬼舞辻無惨の洗脳に近いパワハラが混ざり酷い事になっていた。

 

 零余子は、呼び出された倉庫前に到着し、中から伝わってくる殺気に下半身が疼いていた。

 

 

………

……

 

 倉庫の扉が開き、一人の女性が入ってくる。

 

 その様子に胡蝶しのぶは、色々な意味で絶句した。呼び出されてくる馬鹿がいるとは思わなかったという意味と何故に着飾っているかという点である。しかも、裏金銀治郎が持ってきた似顔絵より美人であったのが、いけ好かなかった。

 

 だが、「私の方が美人ですね」と客観的視点からの評価を下し、満足する胡蝶しのぶ。

 

 この時、裏金銀治郎は鬼に背を向けている。自殺行為にも等しい行為だ。背丈が近い事と洋服を着ている事、それから放たれる殺気で下半身がキュンキュンしている事で零余子も正常な判断ができていなかった。

 

『いつまで頭を上げている。(こうべ)を垂れろ』

 

 裏金銀治郎は、鬼の血の力を最大限に利用した。声帯を弄り声色を変え、一点に集中した殺気を放つ。

 

………

……

 

 瞬間的に本物に近い精度を誇った。

 

 だが、一向に頭を垂れて許しを請う声が聞こえない事に裏金銀治郎は、不安に思った。

 

「無惨様じゃない!! 無惨様は、そんな理不尽なことは言わない!! 貴様は、だれだ」

 

 恋する乙女の中では、いつの間にか無惨の像が聖人化されていた。

 

「蟲の呼吸 蝶ノ舞」

 

 死角より、胡蝶しのぶが技を放つ。

 

 当初の計画通りではなかったにせよ、スキが生じたのは事実であった。それを見逃さないのは、流石柱である。

 

 しかし、下弦の鬼とて、伊達に長く生きているわけではない。胡蝶しのぶが死角から現れた瞬間を知覚している。だが、動くことはなかった。

 

「血鬼術――転換」

 

 彼女が持つ血鬼術、それは視界に入った者と自らの位置を入れ替える術である。そうすることで、同士討ちも誘えるし、遠くの者と位置を交換する事で逃げることもできる。彼女の性格がそのまま反映されたような術であった。

 

 そして、今回彼女の血鬼術の対象になったのが、目の前で無惨ロールを行っている裏金銀治郎だ。

 

 ズブリと喉元を貫く音がする。そう、貫かれたのは、血鬼術で同士討ちを誘おうとした鬼の方であった。

 

「裏金さん、全然計画通りになってないじゃないですか。しっかり、してくださいよ」

 

「ごふっ、貴様一体何をした!!」

 

 藤の毒をふんだんに使った麻痺毒をもらい動けるのは、下弦の鬼だからだ。並の鬼なら即座に昏倒する量であった。

 

 下弦の鬼は、毒を中和するため少しでも時間を稼ぎたかった。だが、絶対に逃がさない意気込みの裏金銀治郎は、刀を手にし、殺しに掛かる。

 

「話は、こいつを絞めてからだ。金の呼吸 伍ノ型 精神剥奪」

 

 裏金銀治郎の刀の先は、釣り針のように返しが付いている。そこに、神経を引っかけて引きずり出すという繊細な技である。生きたまま、神経を抜かれる鬼としては、手足を切断されるとは比較にならない激痛を感じる。

 

「ギャア゛ァァァァァァ――」

 

 鬼といえども痛覚はある。無駄に再生能力がある為、痛みに鈍感になる者が多い。だから、忘れていた痛覚を思い出させるのが伍ノ型である。

 

 激痛で気絶し、ピクピクと痙攣している。口からは、泡と吐瀉物で綺麗な服が台無しになっている。その様は無様で有り、鬼舞辻無惨が見たら、即刻解体されるほどでだ。

 

「うわぁぁ~、痛そう。金の呼吸って、そんな技ばかりですよね」

 

「攻撃に優れた呼吸ではありませんから、搦め手が多いんですよ。それに、今の技を決められたのは、胡蝶さんの毒で動きが遅かったからです」

 

 裏金銀治郎の日輪刀に白い繊維のような物が掛かっている。下弦の肆から抜き取られた鬼の神経である。そして、神経を綺麗にたたみ清潔な布で覆いポケットにしまい込む裏金銀治郎。

 

 もし、下弦の肆の血鬼術が発動できる条件下であれば、二人では苦戦を強いられていただろう。切る直前に入れ替わりが起こった場合、同士討ちになる。初見殺しの術であったが、発動しなければ只のカモであった。

 

「うわー、見てください裏金さん。壁の血文字が消えかかってますよ」

 

「恐らく、何度も発動していたんでしょうね。さて、首だけにしたら、頭と胴は毒で処理してください」

 

 裏金銀治郎は、鉄製の小さな箱を取り出した。本当に首だけを持ち帰るためだけに用意された特注品だ。鬼舞辻無惨からの位置特定を防ぐ為、血鬼術も使用している。

 

 拍子抜けするほど簡単に下弦の鬼を倒すことに成功した二人であった。

 

 だが、それは下準備がされた状況に追い込めば下弦の鬼なんぞまな板の上の鯉にすぎない証明でもあった。事実、一部の柱にとっては、下弦など若干体力を消耗する程度の労力で倒せるほどである。

 

 何事もなかったの如く首を箱に詰める裏金銀治郎。その様子をみて、胡蝶しのぶは問いを投げかけた。

 

「裏金さんは、胡蝶カナエ――私の姉をご存じですよね?」

 

「知っている。一時期は、同じ柱として仕事もしたことがある。胡蝶さんが、姉の敵を取るために鬼滅隊に所属している事も把握している。最初に言ったはずです、復讐のためならば、私の手を取るのが最善ですよと」

 

「ですよね~。今回の一件で、貴方が自信をもってその発言をした理由を理解しました。貴方の血鬼術――上弦の鬼が相手でも効果がありますよね?」

 

「当然だ――と言いたいですが、下弦と違い長持ちはしないと思います。協力は、惜しみませんので短期決戦にしてくださいね」

 

 胡蝶しのぶは、裏金銀治郎が希望の光に思えた。彼女にとって、彼ほど頼りになる男は、現れないだろう。

 

「ありがとうございます。銀治郎(・・・)さん」

 

 胡蝶しのぶは、顔を隠し涙を流した。復讐に協力してくれるという心強い味方ができ、緊張の糸が切れたのだ。

 

「どう致しまして、しのぶ(・・・)さん」

 

 できる男である裏金銀治郎は、上着をそっと胡蝶しのぶに掛けた。

 




この頃、主人公一同は、元下弦鬼さんのところで奮闘中。

そろそろ、那谷蜘蛛山です^-^
銀治郎も、欲しい子がいるからお出かけです。

隊服の新素材を集めに狩猟の時間だ。

銀治郎「よく考えて選べ。今死ぬか、後で死ぬかだ」

PS:
月曜日は、リアル都合で投稿がありませんので
本日二話投稿で許してクレメンス。


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10:ハローワーク

 裏金銀治郎は、給与管理を行っており、その中に新人隊士達――竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助の三名分についても漏れずに管理されている。

 

 今までの任務状況を確認し、事が全て原作通りに進んである事に彼は安堵していた。つまるところ、主人公達は順調に成長を遂げている。成長のキーとなる鬼達は、踏み台という役目をしっかり全うした。

 

 それだけで、鬼に感謝しても良いとすら思っていた。

 

 

「裏金銀治郎様、今月分の書類を持ってまいりました」

 

「そこに置いておいてくれ」

 

 事後処理部隊『隠』の者が、今月の諸経費を纏めた書類を置いていった。

 

 月末になると積み上げられる書類の山。だが、全集中・常中の呼吸は、戦闘以外にも使い道はある。それが、事務処理の効率化だ。圧倒的な集中力と速度をもって、常人の何倍もの仕事をする。

 

 本当なら、胡蝶しのぶという助っ人がいるはずなのだが、水柱の冨岡義勇と一緒に呼び出しされている。

 

「時代が動くか」

 

 裏金銀治郎は、先日完成したばかりの、柱専用の緊急活性薬(・・・・・)を引き出しから取り出した。厳重に施錠されたケースの中には、赤い液体が詰まったインスリンの注射器のような物がしまわれている。

 

 人の英知の結晶であった。

 

 ケースに収められている数は、全部で10本。柱9人分と裏金銀治郎の分だ。たった、10本作るのに、下弦の肆がもう殺してくれと言うほどすり潰されていた。そして、重要なのは、その効果なのだが、既に人体実験(・・・・)も完了した。

 

 材料の下弦の肆は、再生ができないようにアイアンメイデンを参考にして作られた特注の箱に詰められている。箱のサイズは小さく、肉体を完全に再生できない。血鬼術もそんな状態では使えないし、使えたとして血界により打ち消される。

 

 その箱――蛇口が付けられており、血が滴り落ちるドリンクサーバーになっている。

 

 今まで数多くの人を殺したのだ。その報いを受けているだけだ。因果応報とはこの事である。この様子をみれば、被害者とて少しは気が晴れるだろう。

 

………

……

 

 裏金銀治郎同様に、天性の勘を持つ産屋敷耀哉も、時代の動きを察していた。

 

 歴代最高の柱、下弦の鬼を捕獲、鬼舞辻無惨との遭遇、人を食べない鬼である竈門禰豆子。長い歴史の中でも、短期間でこれほどの事件が起こることはなかった。

 

 そして、鬼滅隊の能力も過去最高である。

 

 裏金銀治郎がケースに収まった薬を産屋敷耀哉に渡した。半年に一度の柱会議までに、完成にこぎ着けたのは、裏金銀治郎の日頃の行いの賜である。

 

「お館様、こちらが完成した緊急活性薬でございます」

 

「苦労を掛けたね銀治郎。後は約束通り、こちらで対応しよう」

 

 依頼された物を完璧な形で納品したのだから、後は上司の仕事であると裏金銀治郎は思っていた。今回の柱会議では、竈門禰豆子の処遇を決めるターニングポイントでもある。そんな場面の後に、緊急活性薬の話なんぞ寝耳に水なのは間違いなかった。

 

「重ね重ね感謝致します。それと、小耳に挟んだのですが、那谷蜘蛛山が大変な事になっていると……」

 

「かなり奮闘しているが下弦の鬼がいるかもしれなかったので、義勇としのぶを向かわせた」

 

 裏金銀治郎は、義勇一人で下弦を秒殺するシーンを思い出した。それに付随して、裏金銀治郎は大事な事を思い出した。この仕事の後、主人公一行が蝶屋敷に入院する事になる。

 

 犬並みの嗅覚を誇る竈門炭治郎に、鬼肉を隠し通すのは至難だ。だが、証拠も無く疑う事はしないのが彼の良いところである。すなわち、鬼肉の現物さえ処分しておけばよいのだ。

 

「お館様、私もその場に行っても宜しいでしょうか?」

 

「理由を聞いても良いかい?」

 

 既に、柱二名も派遣しており下弦の鬼ならば討伐は確実であった。にも、関わらず自ら志願する裏金銀治郎には別の目的があると察していた。

 

「勿論でございます。隊士の質が向上している鬼滅隊が苦戦しているというこの状況……つまりは、現場には強力な鬼が複数体いると推察致します。なにより、隔離施設で管理している鬼も量から質へとシフトしたいと考えております」

 

「より、強い鬼を管理するのは危険が伴うのでは?」

 

「既に、下弦の鬼の管理にも成功しております。それに――鬼の心の折り方は、鬼滅隊でも柱に並ぶ物だと自負しておりますので、ご安心ください。そして、何より、私の勘が隊服を作る良い素材が手に入ると訴えているのです。必ずや、鬼滅隊の利益に貢献致します」

 

 柱に並ぶどころか、心をへし折る方法については歴代最高であった。

 

「わかった、許可しよう。但し、現場には『隠』の者達もいる。分かっていると思うが、事は穏便にね」

 

 御意と裏金銀治郎は、返事をして部屋を退出した。

 

 向かう途中に、蝶屋敷により鬼肉の処分も忘れていない。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 『隠』の後藤は、那谷蜘蛛山の近くで待機していた。剣士としての才能に恵まれなかった彼等が、激戦区に足を運ぶのは事が済んでからだ。

 

 だが、一向にその報告が届かず、部隊全体に不穏な空気が流れ始めた。

 

 山の中に雷が落ちるような音がした。

 

「やったか」

 

 『隠』の一人が、言ってはいけない事を口にした。

 

 だが、そのセリフと同時に二人の剣士――最高戦力の柱が到着した。『隠』の者達は、二人も柱が来たことに安堵し、勝利を確信した。それほどまでに、柱という存在は絶対的だ。

 

「あらら、到着が遅かったですかね~。冨岡さん」

 

「行くぞ」

 

 この時、後藤だけが内心ビクビクしていた。

 

 京都へ向かう一等車両での出来事……あの場にいたことがバレたら、どうなるか恐ろしかった。

 

………

……

 

 一人、那谷蜘蛛山に別ルートから侵入を図る裏金銀治郎。

 

「蜘蛛とか好きでは無いのですがね」

 

 文句を言いつつ、奥へと進んでいった。向かう先は、鬼の気配が強い方向だ。だが、一番強い方向へは向かわない。そこに居るのは、下弦であり目的とは異なるからだ。

 

 今回の裏金銀治郎の標的は、下弦の伍の姉だ。

 

 その鬼は、血鬼術で大量の糸を吐き出せる。人が溶ける溶解液にも耐え、柔らかく堅い……理想的な隊服素材だ。更に、服だけ溶かすという液体も、ロマンを感じさせる物である。色々と成分を調整した上で、ペ○ローションという製品でアンブレラ・コーポレーションから売り出す計画もできあがっていた。

 

 表に出せる製品の一つや二つないと、フロント企業とて怪しまれる。こういった、細かい気遣いができる男なのだ。

 

「鬼は嫌いですが、鬼という材料には好感を持てます」

 

 遠くで木が倒れる音がした。それから、空を見上げると遠くで竈門炭治郎が空を飛んでいるのが目に映る。原作主人公を初めて見かけたのが、まさか空を飛ぶシーンだとは裏金銀治郎も想像していなかった。

 

………

……

 

 胡蝶しのぶは冨岡義勇と分かれ、我妻善逸を救った。

 

 毒に精通していた彼女だからこそ、蜘蛛へと変貌を遂げた者達を人へと戻せる。柱として必要不可欠な存在だ。那谷蜘蛛山の残党駆除に精を出していた。

 

 そして、童女の見た目をした鬼相手に彼女なりの救いを説いていた。だが、当然、そんな内容を鬼側が聞き入れるはずもない。

 

「その痛み苦しみを耐え抜いた時、貴方の罪は許される」

 

 裏金銀治郎も大概だが、胡蝶しのぶも存外壊れている。

 

 拷問をしてあげるから一緒に頑張りましょうなど言われて、「はい」と言う鬼はいない。その狂気に当てられ、鬼は寒気がした。

 

 逃げ切る事はできないと本能で理解した鬼は、愚策にも柱を相手にする。鬼の手から大量の糸が放出され、胡蝶しのぶを絡め取り溶かそうとするが、その糸が彼女に触れる事はない。

 

「蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ」

 

 胡蝶しのぶが技を放つ態勢に入ったのを目にした裏金銀治郎は、焦った。夜の山中を走り回り、ようやく見つけたと思ったら、目標が死ぬ三秒前だったのだ。

 

 ここで死なれては、骨折り損のくたびれもうけ。

 

 裏金銀治郎が体勢を低くし、刀を構える。

 

「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」

 

 全呼吸の中で最速と言われている雷の呼吸。裏金銀治郎も一応というレベルで扱う事ができた。元々、金の呼吸は岩と雷を掛け合わせた呼吸である。元となった呼吸ができないわけはない。

 

 しかし、雷の呼吸の適性は乏しい。我妻善逸よりも遅い……だが、本気でない胡蝶しのぶより、早く首を切り落とすには十分であった。スパっと、痛快な音と共に切り飛ばされる首。そして、残った胴体をみて、「おやおや」と口にする胡蝶しのぶ。

 

「横取りは、少しマナー違反じゃありませんか? それに、その刀……日輪刀ではないですよね」

 

「えぇ、良い刀でしょう? 伝手で手に入れた長曽祢虎徹という刀です。前に、府知事とパーティーした際に、刀が好きだといったら、安価で譲ってくれました」

 

 鬼の首すら落とせる名刀。男であるからには、一度は手にしてみたかった世にも名が知れている刀である。そんな、刀の話で盛り上がる二人の足下には、首と胴だけになった可愛そうな鬼がいた。

 

 鬼は、考えた。

 

 日輪刀を使って首を切断しなかったのは、何故かと。理由は分からないが、今現れた男なら、自分を助けてくれると淡い期待を抱いた。見た目は童女……そして、相手は男である。女と違い、男相手なら多少は同情が引けると考えていた。

 

「た、たすけて!! おねがい」

 

「あの~銀治郎さん、分かっていると思いますがその子は、鬼ですよ。助けてしまうと鬼滅隊の規則的にもちょっと~」

 

 胡蝶しのぶは、心にも思っていないセリフを口にした。

 

 裏金銀治郎が、鬼を助けるなど露程も思っていない。だけど、何処で誰が見ているか分からないので、一応のパフォーマンスをしてるだけに過ぎない。

 

「私としては、しのぶさんが鬼に慈悲の心を見せていたと思いましたよ。何十人も殺している鬼ですよ。その分、しっかりと回収しないと」

 

 裏金銀治郎のセリフに、底知れぬ恐怖を感じる鬼。

 

 その直感は正しかった。これから、連れて行かれる施設で心を折られ、死ぬまで蜘蛛糸を生成する工業部品とされるとは、思ってもみなかっただろう。

 

「つまりは、彼女も施設送りに?」

 

「施設送りとは表現が悪いですよ。就職難のこの時代に、彼女にぴったりな職場を斡旋して上げるだけです。鬼ともなれば、働き先は限られますからね。しかし、問題は逃亡癖がある。下弦の伍が鬼舞辻無惨に呼び出されている隙に仲間と逃げ出そうとする程です。まぁ、私は、鬼ほど甘くはありませんけどね」

 

 誰も知るはずのない情報。まるでその場にいたかのように言われて、恐ろしさが倍増した。

 

 隔離施設に連れて行かれる前に、鬼の心は既にズタボロであった。

 

「では、私は繭にされた隊士を助けに行きますので、そちらはお任せしますね」

 

「あぁ、頑張ってくれ。では、新しい住まいに移動だ。空をよく見ておけ、これが最後だ」

 

 これからは、いつ死ねるかと天井の染みを数えるだけになる彼女である。

 




柱会議……果たして、元柱で裏方仕事をしている主人公の達位置が困るぜ。



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11:等価交換

読者の皆様へ、何時もありがとうございます!!

日間ランキングにのることができビックリしました。

これからもよろしくお願い致します。


 良い上司とは、部下の気持ちを察し、言われずとも動く者である。また、部下も上司が求めることを察し、理解し率先して行動する。組織運営を円滑に行うためには、そういった人材が必要だ。

 

 裏金銀治郎は、そういった意味では理想的な部下である。そして、上司でもある。

 

 隔離施設にて、那谷蜘蛛山の唯一の生き残りが肉体を再生し蘇生した。首だけの状態にされ、箱詰めされた絶望と苦痛は彼女の精神を蝕んだ。彼女は、何処にいるかも定かで分かっていない。

 

「目が覚めたなら、仕事の時間だ。働かざる者食うべからず」

 

 姉蜘蛛は、目の前にいる裏金銀治郎を見て、隔離施設に連行されるまでの記憶が呼び起こされた。首を切断され、頭部を粉砕された。そんな、悪魔みたいな男が目の前にいたら、鬼だって顔が青ざめる。

 

 だが、ソレを彼女はぐっと堪えた。

 

「お、おはようございます」

 

「――いい心がけだ。では、施設を案内しよう」

 

 挨拶こそコミュニケーションの基本。ソレができる鬼は少ない。下弦の伍を相手に、失敗した事がないのは、伊達ではない。パワハラ耐性は、鬼の中でも上位だ。

 

 そんな彼女であるが、隔離施設内を少し案内されるだけで、血の気が引いていった。

 

………

……

 

「あ、あれは―」

 

 姉蜘蛛は、上司であった下弦の伍に近い力を感じ取った。だが、そこに鬼の姿はない。あるのは、とても厳重に管理されている小さな箱。それに付いている謎の蛇口。そして、蛇口からは血がしたたり機械へと貯められている。

 

「少し前に捕獲した下弦の肆の零余子だ」

 

 ギシギシと、彼女の心が折れそうになる。視界は、モノクロへと変わった。

 

 十二鬼月と呼ばれる最上位の一人が、あられもない姿に変えられていた。それだけに留まらず、血を搾り取られるだけの物質に変えられている。

 

「ぁ――」

 

「人をあれだけ殺しておいて、いざ自分の番になったら心を閉ざすとは良いご身分だ。こちらとしても仕事さえして貰えればかまわないがな」

 

 裏金銀治郎は、姉蜘蛛の髪の毛を掴み彼女専用に作った仕事部屋に押し込んだ。

 

 そして、両腕を壁に突っ込ませ身動きが取れないように固定する。隔離施設内では、血鬼術は使えない。だが、その範囲から外れれば別である。分厚い壁の向こうに手だけ出させる。

 

「な、何でもするから」

 

「当たり前だろう。血鬼術で糸を出せ、必要に応じて溶解液も出して貰おう。だが、こちらが指示するまでは、糸を出し続けろ。働きに応じて、飯のグレードをあげてやる」

 

 最高グレードで猿肉までしか上がる事はない。そして、働きが足りない場合は当然飯のグレードが下がる。最低グレードは、下弦の肆の残骸と隊士達の食べ残しの残飯をブレンドしたこの世に二つとない食事だ。

 

 鬼をすり潰した際に出る肉片を鬼自身を使い濾過する。未来志向のエコ対策だ。

 

「言うまでもないが、持ち場を離れたり逃亡を企てたら、言われなくても分かっているな」

 

 裏金銀治郎は、懐から白い糸状の物を取り出した。そして、爪で引っ掻く。それは、金の呼吸にて、抜き取った姉蜘蛛の神経だ。

 

 その瞬間、姉蜘蛛が激痛を感じ取る。

 

「ギャアァァッァ」

 

 鬼は、頭部と下半身にわかれても、下半身の異常を察する事が可能だ。つまりは、裏金銀治郎は鬼の神経を使い、苦痛を与えられる。鬼は、無駄に高い回復力から、神経は何度も再生する。その神経を沢山集めたら、どうなるか考えるに容易い。

 

 ポキ

 

 聞こえるはずの無い心が折れる音を姉蜘蛛は聞いた。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎は、執務室で仕事をやり終えて安堵していた。

 

 なぞのお館様パワーによる金策がないこの世界。あの手この手で鬼滅隊を支えた事がようやく実ってきたのだ。

 

「僅かに黒字になった」

 

 そう、この1000年赤字を垂れ流してきた鬼滅隊の経営が遂に黒字になったのだ。これは、上弦の鬼を倒す快挙どころか、鬼舞辻無惨をあと一歩まで追い込むに等しい功績である。

 

 更に、この黒字はこれからも加速する予定であった。隊服に使われている技術特許で得られる収入がドンドン伸びているからだ。

 

 だが!! そうは問屋が卸さないのが鬼滅隊である。貧乏神に憑かれているのではないかと疑うレベルの事が待ち受けている。裏金銀治郎が頑張れば頑張るほど、収入が増えるが支出も増えるのだ。

 

 理由は、簡単だ。

 

 今まで、鬼滅隊の資金繰りが苦しい事から請求がこなかった「藤の家」からも、領収書が届き始めた。だが、悪い言い方をすれば善意につけこむ形でなし崩しにしていた事が正常な形に戻ったのだ。

 

 文句一つ言わずに全ての支払いに応じるのは、裏金銀治郎の思いやりである。金の切れ目が縁の切れ目という言葉があるように、各地にある「藤の家」との繋がりを切るわけにはいかなかった。

 

「だが、全然足りない」

 

 裏金銀治郎は、この後起きる出来事をしっている。だからこそ、更なる金策を急ぐ必要があった。国鉄の列車を吹き飛ばす事件を。『隠』の事後処理能力では追いつかない事態になるのは、火を見るより明らかだ。

 

 つまりは、裏金銀治郎が各方面に賄賂を送り、証拠を隠滅する必要がある。それと、被害に遭った人への口止め料とお見舞い金などが待ち受けている。

 

「裕福層にぺ○ローションを高値で売りさばくか」

 

 未来を先取るローションプレイができるとならば、大金を積むだろう。商品化のためには、時間を要するが胡蝶しのぶが持つ薬学の知識と技術があればその実現も早い。鬼滅隊の未来と男の未来を一心に背負う若き乙女である。

 

 裏金銀治郎は、時計を確認し、そろそろかと立ち上がる。日輪刀と赤い液体が入った試験管を片手に部屋を出た。

 

………

……

 

 蝶屋敷の縁側に座り、時を待つ裏金銀治郎。

 

 この時、竈門炭治郎は、蝶屋敷に近づくにつれ強烈な鬼の匂いがする事を疑問に思っていた。だが、鬼滅隊の拠点であるこの場所に鬼などいるはずもない……だが、妹と同じく例外が存在するのではと淡い期待をする一面もあった。

 

 その直感は正しい。例外的存在はいる。隔離施設で鬼滅隊のため、働く鬼達が。

 

「ごめんください―――」

 

 玄関先から声が聞こえてくる。

 

 返事がないので、訪れた者達は中庭へと回った。だが、そこを訪れた『隠』の者達は、非常に見覚えのある顔が二つもあり驚いていた。すぐさま、立場を理解し頭を上げる。

 

「裏金銀治郎様、栗花落カナヲ様。胡蝶しのぶ様の申し付けで参りました。お屋敷にあがってもよろしいですか?」

 

「ここは、私の屋敷ではないから許可は出せないな。でも、背負っている竈門炭治郎君と話がしたいから、席を外してくれないかい?」

 

 裏金銀治郎からの要請に戸惑う『隠』の者達。柱会議での一件を知る彼等としては、鬼を連れている竈門炭治郎に何かするのではと、不安があった。

 

 お館様と現役柱達は、竈門禰豆子の存在を承知している。だが、その情報は、まだ何処にも伝わっていない。よって、裏金銀治郎が二人に手を掛けるのではないかと考えたのだ。

 

「裏金銀治郎様!! 竈門炭治郎が連れている鬼については……」

 

「危害を加えるつもりはないから、安心してくれ。それに、君も私と話したいだろう?」

 

 裏金銀治郎は、血液が入った試験管を僅かに見せた。

 

 鼻がよい竈門炭治郎は、それが何かを理解する。そして、裏金銀治郎が言っていることも本当であると。

 

「俺は、ここで大丈夫です。ありがとうございました」

 

「話が終わり次第、私が送り届ける。体中が痛いと思うが、少し離れよう。我妻善逸君もここに入院しているからね。彼の聴力は、君の嗅覚同様に異常だ」

 

◆◆◆

 

 蝶屋敷から十分な距離をとった竹林の中で、裏金銀治郎は竈門炭治郎と向き合った。

 

「こちらだけ君の事を一方的に知っているのはフェアじゃない。自己紹介をしよう。私は、鬼滅隊の金庫番をしている者で裏金銀治郎という。主な仕事は、給与管理と資産運用だ」

 

 クンクンと竈門炭治郎の鼻が動く。

 

 裏金銀治郎が嘘偽り無い情報を告げていることを理解した。目の前に男に対して、彼は色々と聞きたい事があった。

 

「竈門炭治郎と言います!! 裏金さんは、一体俺にどういうご用でしょうか」

 

「取引しよう。君の妹である竈門禰豆子を人間に戻す事に協力する。具体性をアピールするため、下弦の肆の血液を君にあげよう。柱にも内緒で、珠世という鬼に血を渡している事も黙っておく。他にも、君やその仲間が必要な物資があればいついかなる場合であっても用意する。人、物、金……なんでもだ」

 

 裏金銀治郎の本気ぶりに、竈門炭治郎も流石にたじろいだ。

 

 初対面にも関わらず、なりふり構わぬ全力支援ぶりに混乱するのは当然だ。鬼舞辻無惨に近い血を集めている事など誰にも言っていないのに把握されており、しかも全力で支援すると言われれば尚更である。

 

「えっ!? なにそれ、怖い。はっ!! ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 思った事をそのまま口にしてしまう。慌てて口を塞ぐが遅い。

 

 現状、竈門炭治郎の立場は微妙と言わざるを得ない。鬼を連れた隊士など前代未聞である。鬼滅隊の中で全力で支援するという裏金銀治郎の存在は、頼りになるのも事実だ。

 

 匂いで強さがある程度分かるため、裏金銀治郎の実力が並の隊士ではない事は分かっていた。柱に匹敵しかねないとも。

 

 だが、そこはかとなくする胡散臭さを感じ取る嗅覚は天性のものだ。

 

「謝る必要はない。で、君の返事を聞かせて貰いたい」

 

「あの~、取引といってもこちらは何をすればいいんですか?」

 

 存外頭がいいと裏金銀治郎は思った。

 

 圧倒的な支援を前に、何を要求するか誤魔化したまま取引を成立させようとしていた。

 

「難しいことじゃない。蝶屋敷には、何故か鬼の匂いがする。それを、知らないふりをして貰えれば良い。それ以上は、求めない。例え、君が断ったとしても何もしない。ただ、協力してくれるのならば、君の妹を人間に戻す為に尽力する事を確約する」

 

 下弦の肆の血液を見せる。

 

 妹の為、水柱である冨岡義勇にも挑み、鬼滅隊にも入隊した男だ。全ての原動力は、竈門禰豆子にある。ここで頷かなければ、何が目的であったか分からない。

 

「……一つ、教えてください。なぜ、蝶屋敷には鬼の匂いがするんですか?」

 

「教えても構わない。だが、それを聞けば私の手を取る以外の道はなくなる。それでも、構わないかね?」

 

 竈門炭治郎の疑問に答えるのは簡単であった。

 

 だが、それはターニングポイントである。理由を聞けば、それ以降、知らぬ存ぜぬは通じない。

 だが、お屋形様認可の下で、鬼肉を食わせて隊士を強化しているという事実。それを知ったところで、何もできないのも事実である。情報が漏洩すれば鬼滅隊が崩壊する危険もある。そうなれば、生きている間に妹が人間に戻る事はない。

 

「俺は!! 妹を人間にするなら迷わないと決めました!!」

 

「良い返事だ。君に鬼滅隊の真実を教えよう」

 

 頑張れ炭治郎!! 負けるな炭治郎!!

 

 妹の為、全てを賭けると誓ったその時から、君は裏金銀治郎と同類なのだ。

 

 人は、何かを得る為には何かを捨てなければならない。

 

 等価交換の法則だ。

 

 




ギリギリ、本日中に滑り込んだ!!


今後、言わせてみたい台詞

煉獄杏寿郎「ローションがなかったら死んでいた」

さぁ、このセリフからシーンを連想してみよう。

PS
水曜日分をあやまって即時投稿してしまったw


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12:珠世所長

何時もありがとうございます!!

裏金銀治郎、約束を守る為尽力する。



 主人公である竈門炭治郎を自陣側に引き込めたのは僥倖であったと裏金銀治郎は、満足げであった。

 

 人格・能力・運……あらゆる要素を持ち合わすジャンプが誇る主人公。彼が味方にいるだけで未来は明るくなる。だが、その光をダークサイドへと誘う裏金銀治郎。ジェダイの戦士も闇へと堕ちることでボス属性を得て強くなる的な展開もあった。

 

 闇の力を得て更に強くなるのも良し!!

 

 闇を克服し更に明るい光へと変わるも良し!!

 

 どちらに倒れても美味しいと思っている裏金銀治郎である。つまるところ、ボスを倒しきるまで、持てば良い――その後の事など誰も知らないのだから。

 

 約束通り、本格的に支援を始めることにした裏金銀治郎。だが、執務室を出ようとしたところ、扉が開けられた。そこには、笑顔の胡蝶しのぶが待ち構えている。眉間がピクピクと動いており、負の感情が表れている。

 

「あら~、何処にお出かけですか?」

 

「怒っていらっしゃいますか?あまり、怒ると美人が台無しですよ」

 

 裏金銀治郎は、何故怒っているか理解できなかった。

 

 彼は、部屋の中に胡蝶しのぶを招き入れ持てなす。お茶請けと珈琲を用意しご機嫌を取る。そして、頃合いをみて胡蝶しのぶが話し出した。

 

「柱会議……なんで、出席してないんですか?お館様が、緊急活性薬を全員に配るという話を聞いていましたから、絶対に居ると思っていました。酷い裏切りです」

 

 元々、先行量産分として現役柱と裏金銀治郎分があったのだ。

 

 そして、企画から完成まで携わった人が、説明の場にいないのはどういう事だと思っていた。だが、裏金銀治郎からすれば、出るとは一言も言っていない。なにせ、今回の柱会議は、厄ネタが盛り沢山であった。

 

 配布に際し、説明こそ産屋敷耀哉がするが、そんな薬をいつ誰が何処で研究していたかなど、柱達も思うところがある。

 

 当然、そんな疑惑の目が誰に行くかは明らかだ。毒と薬は表裏一体というように、鬼を殺す毒を使い薬学に精通する胡蝶しのぶへと向かうのだ。材料の言及こそ、産屋敷耀哉の無言の圧力で潰されたが、全員が察していた。

 

「私は、柱じゃありませんよ。それに、その場に私が居たとして話が纏まりますか? 誰とは言いませんが、鬼が怖くて柱を辞めて裏方にいったとか、金の亡者だとか色々という人達がいるでしょう」

 

「確かに、そういう風に言う人もいますね。よく、耳にします。でも、引退したのも鬼滅隊を支える為じゃありませんか」

 

「それが理解できるほど、理性的な柱は半数もいません。それに、信用と信頼とは実績の積み重ねです。現役の柱達は、任務を一緒にこなす事も多かったので横繋がりがあります。ですが、私はありません。なんせ、世代が違いますから」

 

 裏金銀治郎の世代は、現役より一つ上。つまりは、亡くなった花柱と同じ世代だ。今の世代の柱とは、一緒に鬼退治をしたことはない。

 

「気むずかしい人達が多いですからね。それでも、一緒に立ち会いしてくれるのが人情じゃありませんか?」

 

「嫌ですよ。代わりに、お館様への根回しをしました。根掘り葉掘りは、聞かれなかったでしょう。鬼を滅ぼす事と万が一の備えという事。みなが、敬愛するお館様たっての願いなら、しぶしぶ受け入れてくれたはず。それに――人を食べない鬼である竈門禰豆子の方がネタ的に盛り上がったでしょう?」

 

 裏金銀治郎も秘密裏に那谷蜘蛛山に居たので、竈門禰豆子の存在を知っている可能性は確かにあった。だが、人を食べない事については、あの現場にでもいないと分からないと胡蝶しのぶは考えていた。

 

 その為、鬼滅隊の中に独自の情報網を築いているのではないかと疑ってしまう。

 

「やっぱり、近くに居ませんでしたか? 会議が終わって、直接ここにきたんですよ」

 

「いいえ、私は蝶屋敷で炭治郎君を待ち伏せしていました。その後も、彼を私達側(・・・)に引き込むのが忙しくて、会議を盗み聞きなんてしてません」

 

 この時、胡蝶しのぶは、聞き間違ったのではないかと考えた。

 

 一度も会っていない竈門炭治郎をなぜ、自らの屋敷で待ち伏せしているのか。それに、こちら側(・・・・)とは、何処を示しているのか。最近、隊士になった若者をどうして、裏金銀治郎が引き込むか。

 

 まだ、隠している秘密の一端がバレたから処理に困っていると頼られるのならば、彼女も理解できた。神崎アオイの時は、バレそうだったからといって相談されたのに、今回に限っては、その様子すら見せないのが不思議でならなかった。

 

 秘密は、知る者が少ない方が良いという男が、秘密を教える行動にでるなど、首を傾げるしかない。

 

 胡蝶しのぶは、裏金銀治郎に詰め寄った。

 

「どういう事ですか!! あれほど厳重に管理している秘密をわざわざ教えるとか、何を考えているんです。納得のいく説明をして貰えるんですよね」

 

「しのぶさんが望まれるのでしたら、お答えします。まず、炭治郎君の鼻は異常だ。犬並みの嗅覚だけに留まらず、言葉の真偽までかぎ分ける。その為、鬼肉の存在は隠蔽不可能。だから、妹を人間に戻す事に協力する事と私が持てる全てを以て支援する事を対価に、見て見ぬふりをして欲しいとね。彼は、快諾してくれたよ」

 

 鬼を殺す毒を研究した胡蝶しのぶにしてみれば、できない約束をしましたね、というのが本音であった。だが、前者より後者の方が問題だと思った。前者については、努力目標である為、実質的にいえば実現しなくても問題ない。

 

 だが、鬼滅隊の金庫番で、政財界や裏社会にも伝手がある男が全力支援する。一隊士には過剰な支援だ。

 

「竈門炭治郎君には、私も会いました。あの純粋無垢な少年が、よく鵜呑みにして、快諾しましたね」

 

「人を鬼にできるのですから、鬼から人間に戻す事だって可能に決まっているじゃありませんか」

 

「理論的には、そうかもしれません。その理論なら、鬼から人に戻せるのは鬼舞辻無惨だけです」

 

「時代と共に技術も日進月歩です。病気だって、昔なら死病と言われた物でも今では特効薬があったりします。時間を掛けて研究すれば、必ずや人間に戻す特効薬も作れます」

 

 その言葉に、胡蝶しのぶは甘いと考えた。

 

 どんな薬だっても、長い研究と臨床実験をする必要がある。鬼を人間にする研究をしている存在など居るはずもないと考えるのは当然の帰結だ。そもそも、鬼は殺すのが当たり前で有り、裏金銀治郎の様に材料扱いする存在も例外的なのだ。

 

 だが、胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の言葉を安く見ない。信用と信頼とは実績の積み重ねである。つまりは――。

 

「薬の現物を持っているのですか!?」

 

 期待の眼差しを裏金銀治郎に向けるが、流石の彼も未来から来たネコ形ロボットではない。言われた物がポケットから出てくるほど準備は良くないのだ。

 

「しのぶさんは、私が何でも持っていると勘違いしてませんか? 流石に、そんな薬の現物があったら、鬼なんて全滅していますよ。まぁ、その薬の研究をしている珠世という鬼をこれからスカウトに行くんですけどね」

 

 叩けば埃がでる布団ではないが、叩けば叩くほど情報がポロポロ出てくる裏金銀治郎に彼女は、怒りを覚え始めた。そして、ついにはその両手で彼の顔を鷲掴みにする

 

「銀治郎さん、わたし……そろそろ、怒ってもいいですよね?」

 

「じゃあ、何が知りたいですか? 珠世という鬼の事ですか? それとも、鬼舞辻無惨が鬼になった経緯ですか? 竈門禰豆子の血鬼術についてですか?」

 

 他にも、上弦の鬼の能力なども把握していたがあえて選択肢から外している裏金銀治郎。情報は、適切なタイミングで提供するのが一番である。

 

「……他にも色々隠していますよね?」

 

「勿論」

 

 その日、裏金銀治郎の執務室から電気が消える事はなかった。翌日、蝶屋敷に朝帰りする胡蝶しのぶ……嗅覚の優れた竈門炭治郎が、悪意もなく朝まで裏金さんと一緒だったんですね、と言わないでいい事を口走る。

 

 

◆◆◆

 

 埼玉県の某所に、裏金銀治郎と胡蝶しのぶが足を運んだ。

 

 そこには、三階建ての住居が有り、中からはうっすらと鬼の気配がする。柱であっても、最初から鬼がいると疑って掛からねば見逃すほどだ。

 

「銀治郎さん。本当に、ここに珠世という鬼が居るんですよね?」

 

「勿論――と、言いたいのですがこれで四件目ですからね。居ることを祈りましょう」

 

 産屋敷耀哉は、人の人脈を使い居場所を特定したが裏金銀治郎は違った。金の流れで探したのだ。そもそも、表社会に戸籍もない上に、夜しか行動できない彼等が真っ当な方法で家を手に入れることは困難。

 

 それに、珠世も世間的に言えば、かなりの美人であり人の記憶に残りやすい。そんな情報を元に裏社会に協力を仰いで得た情報だ。似たような方法で、一般人に紛れ込んでいた鬼の女もおり、ここに到着するまでの全てのゴミ達は、二人によって処分された。

 

 裏金銀治郎は、紳士的にドアをノックする。

 

「珠世さんは、ご在宅でしょうか? 鬼舞辻無惨を処分する為、我々と手を組みましょう。貴方達の行動時間に合わせて、夜分遅くに来た我々の紳士的な対応を理解して頂きたい」

 

 紳士という発言に、胡蝶しのぶが自らを指しアピールする。次から、紳士淑女とアピールするように心がけた。

 

 二人の呼びかけには応じないが、中からはドタドタと走る音が響く。

 

「愈史郎君も落ち着きなさい。実年齢35歳なのですから、いい加減に母離れしてもイイ頃ですよ」

 

「銀治郎さん、35歳にもなって母離れできてないって、もう死んだ方が良いですよ。気持ち悪いです」

 

 悪気もない一般論が愈史郎を殺しに掛かる。既に、彼のライフは0であった。ショタおじさんなんて属性は、未来永劫現れない。

 

 この時、珠世一行は、焦っていた。何故場所がバレたのかと。浅草から逃げた先は、竈門炭治郎にも伝えていない。場所の特定方法が分からない限り逃亡を続けても無駄だ。

 

 そして、裏金銀治郎と胡蝶しのぶを招き入れる決意をする。

 

………

……

 

 裏金銀治郎は、部屋に入ると同時に血文字の札を壁と天井に刺した。

 

「これは、血鬼術!!」

 

 珠世は、裏金銀治郎が何をしたかを理解した。まさか、鬼滅隊の者が血鬼術を使えるとは想像できず、反応が遅れる。騙されたと感じ取る珠世一行だが、それも仕方がない反応だ。

 

 だが、珠世一行の血鬼術は警戒に値するレベルであるので、紳士的な話し合いの場を作るにはこのくらいは当然だ。

 

「あぁ、ご安心ください。これは、血鬼術を無効化する術です。珠世さんの幻術、愈史郎君の認識阻害、浅草で貴方が拾った鬼の拘束棘。どれも怖いですからね。だが、これではフェアじゃない」

 

 交渉とは、フェアに行う物である。

 

 裏金銀治郎の計画には、珠世の存在は必要不可欠であった。その為、彼も誠意を見せる。日輪刀を愈史郎君に渡し、自らの首をいつでも切り落とせる準備をして構わないと告げる。

 

「珠世様!! やっちゃいましょう。一人倒せば、残りは一人です」

 

「勝手な行動は許しません。……で、お名前を聞いても宜しいですか?」

 

 珠世の言葉に、今の今まで名乗りを上げていなかった事に初めて気がついた裏金銀治郎と胡蝶しのぶ。自称、紳士淑女は自称の域をでなかった。

 

「蟲柱の胡蝶しのぶです」

 

「裏金銀治郎。給与管理と資産運用を担当している」

 

 二人の自己紹介に珠世は疑問に思った。特に、裏金銀治郎の方だ。蟲柱と同等以上に鬼を殺している雰囲気があるにも関わらず、裏方と言い張る。

 

「こちらの自己紹介は、必要ですか? 随分と詳しいようですが……」

 

「それは、おいおいでも構わないでしょう。それで、私達と手を取り合って鬼舞辻無惨を倒しませんか? こちらは、貴方の研究に場所と資材を提供します。それと鬼を殺す毒を開発し薬学に精通するしのぶさんも手伝いをします」

 

「不本意ではありますが、その研究成果があれば私の目的にも大きく役に立ちます」

 

 逃亡生活をしつつ、鬼を人間に戻す研究をするのにも限界があった。だからこそ、鬼滅隊からの申し出は渡りに船でもある。

 

 だが、鬼滅隊という存在を信じ切れなかった。

 

「罠ではないという確証はあるのですか?」

 

「珠世さん、罠であるという証明ができないのと同じように、罠でないという証明はできません。私を信じろなんてセリフはいいません。ですが、私は竈門炭治郎君と約束しました。妹を人間に戻す事に尽力すると……だから、貴方の許に足を運んだのです」

 

 竈門炭治郎という名前の効果は抜群だ。しかも、妹の話も持ち出し、揺さぶりを掛けていた。

 

 そして、裏金銀治郎は、珠世に利き腕を差し出す。

 

「何のつもりですか?」

 

「頭の良い貴方なら理解できるでしょう? 手を取り合いましょう。鬼舞辻無惨……あれは、生かしていてはいけない存在です。これ以上、貴方と同じような被害者を出さないためにも。そして、貴方を母のように慕う竈門禰豆子の為にも」

 

 迷う珠世だが、数秒考えた後に裏金銀治郎の手を取る。この瞬間、珠世所長が誕生した。

 

 自分の為ではない誰かの為に……そんな文句で釣れると裏金銀治郎は確信していた。そして、内心でチョロイと思っていたが口走る事はない。

 




次は、蝶屋敷に入院している三名のご様子でも^-^

ハンバーグ定食
ミックスグリル定食
98%豚骨ラーメン
レバニラ定食
餃子定食

選択式の病院食があります^-^


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13:お前がママになるんだよ

何時もありがとうございます。
読者の皆様がいるから執筆が続けられます。

そして、感想をくださった皆様本当にありがとうございます。
何時も読ませて頂くのが楽しみでたまりません^-^


感想で頂きました鉄血☆宰相様のネタを一部拝借させて頂きました。
もし不都合がありましたら、ご連絡ください^-^


 蝶屋敷の食事は、大変美味しいと鬼滅隊の中でも評判である。

 

 日本各地から集まる名産品、国外からの輸入品など普段では食べる事ができない料理を口にできる数少ない場所だ。しかも、若くて綺麗な女性が看護してくれるサービスもあるので、鬼滅隊の隊士達は、わざと入院しようと画策する者が居るほどだ。

 

 だが、殆どの者が2回目の入院を実現できない。身体能力が向上した肉体はそれほどの物なのだ。

 

「炭治郎さん、また残してますね。好き嫌いしていたら、退院できませんよ!!」

 

 神崎アオイが丹精込めて作ったハンバーグが綺麗に残っていた。

 

 入院してくる隊士達は、多かれ少なかれ好き嫌いはある。だが、肉系に全く手が付かないのは過去にないパターンだ。このご時世、食事の食べ残しなどマナーが疑われるレベルだ。

 

「あれ~?炭治郎は、お肉嫌いだっけ?美味しいよ、このハンバーグ」

 

 竈門炭治郎の思考は、高速で巡る。

 

 我妻善逸の聴力は、竈門炭治郎の嗅覚と同レベルであった。だからこそ、ソレを誤魔化す術も当人には分かる。大人になるとは、そういう事だ。

 

「俺、洋食より日本食の方が好きなんだよ」

 

 決して、肉が嫌いとか言わない。話の論点をずらして回答する事で偽証する。あの純粋だった長男は、大人への階段を上がる。

 

「炭治郎さん、他の人を見てください。綺麗に食べていますよ、それにここの食事……毎朝、みんなが早起きして作っているんです。申し訳ないとは思わないんですか」

 

 何も知らない神崎アオイは、無自覚に竈門炭治郎の心をえぐる。

 

 彼女には、国産(・・)の上質なお肉とだけ伝わっている。その正体は、当然――裏金銀治郎がプロデュースする家畜(・・)の肉だ。蝶屋敷でしか食べられない貴重な物だ。

 

 そもそも、彼自身も残したくて残しているわけでは無い。ニンニクたっぷりのガーリックソースがあっても、鬼肉の異臭を感じ取った。この時ほど、不便だと考えたことは無かっただろう。

 

「にくぅぅぅ!! いらねーなら俺が貰うぜぇぇぇ」

 

「あぁ!! ずりぃぃ。俺が狙ってたんだぞ!!」

 

 横から嘴平伊之助が、ハンバーグを奪い一口でぺろりと平らげる。食べ物を奪い合う醜い争いがそこにはあった。これが普通の反応だ。

 

 そんな時、飯時を狙って裏金銀治郎が訪れる。何が目的かと言えば、竈門炭治郎の様子見だ。

 

「食事中に失礼。みんな、思ったより元気そうで何よりだね」

 

「……誰?」

 

 我妻善逸は、裏金銀治郎とは初対面だ。そして、本当に嬉しいと思っている事が音を聞いて分かった。それもそのはずだ。原作主人公達が元気で育っており、原作をなぞっているのだ。これ以上喜ばしい事はない。

 

「鳴柱の桑島慈悟郎さんに、一時期お世話になった裏金銀治郎といいます。鬼滅隊では、主に給与管理と資産運用を担当しているので、以後よしなに」

 

「金柱様!? 」

 

 神崎アオイがあえて金柱と呼ぶ。鬼滅隊の中で、権力を有する人に対して失礼をしないようにと釘を刺すためだ。

 

「ちょっと待ってよ!! そこの人が柱って!? もしかして、あの美人(胡蝶しのぶ)さんと同じ立場のお偉い様なの!? 女にもモテそうな顔している上に、柱ってどんだけだよ!!」

 

 基本的、女にモテる男が嫌いな我妻善逸である。自分よりモテる人間が全滅すれば、自分が一番モテる男になれるとまで考える。健全な思考を持つ男であった。

 

「善逸君。女にモテたいのかい?」

 

「当たり前だろ!! 可愛い子と結婚して、毎日エロいことして楽に暮らしたいと思ってるわ!! 」

 

 欲望を口にする我妻善逸を、白い目で見る神崎アオイ。

 

 男性の欲望については、理解はしているがここまで堂々と言われると清々しかった。

 

「分かった。君が、真面目に鬼狩りをするなら今すぐにでもその願いを聞き届けよう。どんな女の子が希望かね?」

 

「……え、マジで叶えてくれるの。じゃぁじゃぁ!! 禰豆子ちゃんみたいな子!!」

 

「分かった。彼女ほどの美少女だと一週間は掛かる。で、何人欲しい?」

 

「じゃぁじゃぁ、一杯!!」

 

 鬼を人に戻す薬を用意するより簡単すぎる仕事であった。

 

 裏金銀治郎の表の立場は、アンブレラ・コーポレーションのトップの一人だ。胡蝶印のバイアグラを少しでも欲しいと考える政財界の汚い男達が、電話一本で綺麗どころをダースで用意してくれる。

 

「分かった。代わりに、しっかり鬼を退治してくれよ。支援とて、タダじゃ無い」

 

 竈門炭治郎と我妻善逸には、裏金銀治郎が本気で言っているのが分かった。

 

 我妻善逸は、喜びウキョーーと騒ぎ、元気に跳ね起きる。先日まで、蜘蛛になりかけていた事など嘘のような回復だ。彼が優秀な隊士である為、効果抜群であった。

 

「伊之助君も欲しい物があれば用意しよう。だが、その前に炭治郎君に報告が……すこし、彼を借りるね。吉報だよ」

 

 竈門炭治郎と裏金銀治郎の取引を行って僅か一週間。

 

 たった、それだけの期間でもう進展があったのかと竈門炭治郎は驚いた。自分が生きている間にと思っていた妹の問題が解決したのかと心が弾んだ。

 

 だからこそ、我妻善逸の耳にもそれ以上の事を察する事ができない。

 

 

………

……

 

 人払いされた蝶屋敷の診療室にて、椅子に腰を掛ける裏金銀治郎。

 

「炭治郎君、困りますよ。見て見ぬふりをするという約束……病院食に手を付けないのは頂けない。上手に誤魔化しているつもりでしょうが、内心ひやひやします。気持ちは理解できますが、好き嫌いは止めて頂きたい」

 

「すみません」

 

 見た目も分からないようにして、味付けも配慮された病院食。何が気に入らないのか疑問でならなかった。食べたところで、人体への影響は極小だ。その極小のリスクを背負って得られるパワーは絶大であった。

 

 ローリスクハイリターンという言葉が相応しい。

 

「まぁ、よいでしょう。これから、改善してくれれば構いません。まずは、報告からです。珠世一行と鬼滅隊が手を組みました。これからは、しのぶさんも鬼を人に戻す薬の開発に尽力します」

 

「ほ、本当ですか!!」

 

 まさに、吉報であった。

 

 鬼の毒で蜘蛛になった隊士を元に戻せる胡蝶しのぶが、手を貸すのだ。そのパワーは百人力である。

 

「えぇ、私は尽力すると約束をしました。炭治郎君も態度で示して、欲しいものです」

 

 裏金銀治郎からしてみれば当然の要望だ。

 

 竈門炭治郎の嗅覚は、訴えていた。態度で示さなければ、それ相応の対応が待っている。だからこそ、彼は焦る。目の前にいる裏金銀治郎という男が、味方から敵になったらどうなるのか、考えるだけで恐ろしい。

 

「わかっています!! これからは、ちゃんと食事も食べます!!」

 

「……いまは、それでいいでしょう。君の妹はいずれ人間に戻れる。ですが、人に戻った後、どうするか考えたことはありますか? そんな未来が訪れた時、君は誰を頼るべきかよく考えておくことです」

 

 鬼滅隊で鬼を殺す仕事がおわれば、何をするのか。

 

 みんな目の前の事だけを考えている。だが、未来を見つめる必要もある。ソレができなかったからこそ、鬼滅隊が資金難になるのだ。

 

「はい!!」

 

「良い返事です。大事な事ですが、体は隊士の基本。ここでの治療は、確実に君を強くする。分かっていると思いますが、君達兄妹の立場は危うい。炭治郎君が死ねば、残された妹はどうなると思います?」

 

 竈門炭治郎は、決して考えないようにしていた事を裏金銀治郎から指摘された。

 

 現役柱達は、期待できないのは間違いなかった。寧ろ、喜んで竈門禰豆子を鬼として殺しに来るのが目に浮かぶ。育手である鱗滝左近次という元水柱がいるが、権力と年齢の問題からとても妹が守れるとは思えなかった。

 

 事実、人を襲えば腹を切るとまで約束をしたが、現役柱達には何の効力もなかった。

 

 竈門炭治郎は、裏金銀治郎が頼りになる男だと理解した。

 

「裏金銀治郎さん!! 俺に、何かあったら禰豆子の事をお願いできないでしょうか」

 

 裏金銀治郎は、予定通りだと内心ほくそ笑んだ。

 

 勿論、竈門炭治郎の嗅覚がそれを感知する事を承知の上でだ。

 

 裏金銀治郎は、竈門炭治郎の肩に手を置く。そして、耳元で囁く。

 

「だったら、どうすればよいか分かっていますよね」

 

 竈門炭治郎は、竈門禰豆子の事を理解できていない。

 

 竈門炭治郎に万が一の事があれば、後追い自殺するのは確実である。勿論、その時に生きていれば面倒をみるつもりで返事をしているため、嗅覚には掛からない。

 

 裏金銀治郎の含みのある発言を鵜呑みにして最大限努力せざるをえなくなった。だが、それもある意味当然だ。妹を人間に戻す為、最大限努力をせずしてなんとする。

 

「勿論です!! 早く元気になって鬼を倒してきます。それでは、ご飯を食べてきますので失礼します」

 

 元気な声で退出する竈門炭治郎。ずぶずぶと底なし沼にはまるような感覚を覚えるが、もはや戻る道は無かった。

 

 

◆◆◆

 

 鬼滅隊の当主として、次代の事を考え始めた産屋敷耀哉。

 

 彼の体調は、日を追うごとに悪くなる。鬼舞辻無惨の呪いで短命だと言われているがその事実は分からない。どちらにせよ、刻一刻と命の灯火が消えようとするのをハッキリと感じ取っていた。

 

 だからこそ、産屋敷耀哉は裏金銀治郎に相談を持ちかけたのだ。

 

 裏金銀治郎は、何故私なのだと苦悩する。産屋敷耀哉を崇拝せず、組織維持のみを大事にするという一点では誰よりも優れていた。だからこそ、産屋敷耀哉も彼を呼んだのだ。

 

「忙しいところ済まないね。体調がこのところ芳しくないから、以前より君が進言していた跡目について考えようと思ってね」

 

「そうでしたか、私でお役に立てることがありましたら何なりとお申し付けください」

 

 この時、裏金銀治郎はヒシヒシと嫌な予感がしていた。

 

 そもそも、跡目など息子である産屋敷輝利哉以外に選択肢などない。そして、産屋敷輝利哉の将来は神職の妻を娶り、子孫繁栄に努めるのだ。そんな規定ルートがあるはずなのに、相談とは何事なのだろうと。

 

「輝利哉以外の子供達についてだよ。銀治郎、君ならどうすべきだと考える?」

 

 裏金銀治郎は、これからの発言に対して咎めない事を約束してもらった。組織維持を考えて、最大限に上司の子供を利用するアイディアを提案するのだ。親側からしたら、気分が良い物でないのを分かっていた。

 

「そうですね。やはり、リスクは分散すべきでしょう。娘達は、早々に嫁がせるべきです。候補としては、煉獄杏寿郎、時透無一郎当たりが筆頭です。煉獄家は、歴史も古く万が一の場合には、鬼滅隊を率いる事も可能でしょう。時透無一郎は、才能の一言に尽きます。彼の子が100人も居れば鬼など一ヶ月で滅ぼせる。お館様のご息女と結婚できるなら、二人も喜ぶでしょう」

 

 あまりにも完璧な計画であった。

 

 特に、時透無一郎には種馬になって貰い、毎日十人ほど女性を抱いて欲しいとすら本気で考えている裏金銀治郎。時透無一郎の性格が性欲塗れのクズ男で無かったのが残念だと心底思っていた。

 

「やはり、銀治郎は優秀だ。君が居なければ、鬼滅隊は無くなっていただろう。そんな君を組織につなぎ止めるのも私の勤め。ひなきと結婚する気はないかい?」

 

 裏金銀治郎は、上司である産屋敷耀哉に対し、不敬にも馬鹿ではないかと思っていた。

 

 今し方、懇切丁寧に娘達を有効活用する方法を提示した。今代で鬼を滅ぼせなかった場合のセカンドプランまで話したというのに、なぜ結婚の話が出てくるか理解に苦しんだ。

 

 だが、産屋敷耀哉とて当然、こんな発言を無意味にする男でも無い。

 

 裏金銀治郎という存在は代えがたい。鬼を殺す事だけを考えさせれば、産屋敷耀哉ですら勝てないと思わせるほどだ。次代を支える一人とするため、鬼滅隊に人生を捧げさせたかった。その為、娘の人生を使い潰す気でいた。

 

「お断り致します」

 

 現役柱達には決してできない回答(・・・・・・・・・・・・・・・)を平気で口にするのが裏金銀治郎である。しかも、全く悪気もない。

 

「そうか、話は以上だ。引き続き、仕事を頼んだよ」

 

 産屋敷耀哉に一礼し、裏金銀治郎は退出した。だが、産屋敷耀哉は有能だ。裏金銀治郎と胡蝶しのぶの微妙な関係性を既に見破っている。

 

………

……

 

 その翌日……なぜか、胡蝶しのぶがひなきの新しいママになっていた。

 




裏金銀治郎が無理なら胡蝶しのぶを狙う上司。
胡蝶しのぶを手に入れるともれなく、ひなきも付いてくる。
つまりは、そういうことだ。


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14:直ちに影響はない

何時もありがとうございます。
皆様のお声があるから頑張れます!!

そして、投稿が遅くなり申し訳ありません。




 鬼が隠れ人を襲う世の中、平和な日常を送りたいと願う裏金銀治郎。

 

 だが、平和の時間というのは長くは続かない。裏金銀治郎の執務室に、珍客が訪れていた。蝶を模した髪飾りを付けミニスカ隊服を着た栗花落カナヲである。自主的に動くことが珍しい彼女が、一人で執務室を訪れる事を彼も想像できなかった。

 

 別に悪い事はしていないはずなのに、裏金銀治郎は、誰かが彼女が執務室に来たのを目撃していないかと不安を感じていた。若い女性の隊士と給与管理をしている男が二人っきり。

 

 誠に世間体が宜しくない。

 

 裏金銀治郎は、先行投資として栗花落カナヲに私費で色々と配慮していた。言い換えれば、援助していたのだ。裏金銀治郎の心中を知らないものからしてみれば、どう見られるかは簡単だ。鬼滅の金庫番と言われた金銭管理に厳しい男が……美少女に物を買い与えているんだ。そりゃ、盛大に、肉体関係を疑われる。

 

「子供ができました」

 

 持てなすために珈琲を用意していた裏金銀治郎が思わずカップを落とす。

 

 だが、直ぐに冷静さを取り戻した裏金銀治郎。そして、胡蝶しのぶに文句を言ってやろうと思っていた。親代わり改め……戸籍上で実子となっている栗花落カナヲに対して教育ができていないのは、母親失格だ。

 

「栗花落カナヲさん、貴方は、私を社会的に殺す気ですか? この状況下で、そんな発言をしたら、まるで私が貴方を妊娠させたみたいでしょう」

 

 胡蝶しのぶに代わり、裏金銀治郎が教育パパとなる。

 

 栗花落カナヲは、決して馬鹿ではない。だから、指摘すれば正しく矯正できる。それが、水柱の冨岡義勇とは違うところだ。

 

「……胡蝶様に、子供ができました」

 

「――それだとしのぶさんがご懐妊したと誤解されます。悪気は無いでしょうが、しのぶさんを社会的に抹殺したくなければ、気をつけなさい」

 

 僅かに前進した説明ではあったが、大事な説明が省かれる。その為、事情を知らなければ勘違いしてしまう。

 

 胡蝶しのぶは、大正の世でいえば、結婚していても可笑しくない年齢だ。寧ろ、美貌を鑑みれば、結婚していなければ可笑しいとすら言っても間違いではない。結婚したことすらないのに子供がいるとか、端から見たら地雷にしか思えないだろうが……。

 

 そんな事を考えている裏金銀治郎。だが、彼は胡蝶印のバイアグラを売るために、胡蝶しのぶと栗花落カナヲの戸籍を改竄している。書類上、胡蝶しのぶは30歳……そして、その娘に胡蝶カナヲが居ることになっている。

 

 そこに、お館様の子供が加わるのだ。

 

 誰も血縁者がいないのに、二人も子供がいるとかレベルが高すぎる。大正の世、ここまで複雑な家族構成の人は、片手で足りるだろう。

 

「どうすればいい?」

 

 裏金銀治郎は、栗花落カナヲに対して、なぜ私にそんな事を聞くと本気で聞き返したかった。そもそも、彼は独身だ。子供だっていない。そんな男が何の役に立つというのだろうか。

 

 だが、彼女の中では、裏金銀治郎は困ったときのお助けキャラ的存在であった。胡蝶しのぶに放置された時に何も言わずに手をさしのべてくれた。だからこそ、今回もと考えていた。

 

「どうすればいいという発想は、よくありません。何をしたいかで物事を考えるべきです。例えば、しのぶさんに甘えたいとか、構って欲しいとか色々あるでしょう」

 

 栗花落カナヲは、焦っていた。

 

 彼女にとって、胡蝶しのぶという存在は全てに等しい。そんな彼女の暮らしに、お邪魔虫がきたのだ。当然、彼女からしたらお館様の子供など、どうでも良い存在であった。

 

 そもそも、産屋敷耀哉と接点があるのは、柱クラスの人間だけだ。つまり、彼女の状況を現代風に言い換えれば、母親が勤め先の社長の子供を養子にし、この子が今日から貴方の妹よ、という感じである。

 

 それが、何の前触れもなく唐突であったのだから、彼女も困惑していた。自らの立場を奪われるのではと、ダークサイドへの一歩を踏み込もうとする。

 

「甘えたいし、構って欲しい」

 

 彼女は、素直な気持ちを口にした。

 

 胡蝶しのぶは、独身であり類いまれな母性の持ち主だ。だからこそ、言える。愛情に飢えた栗花落カナヲに母性を注いでいれば、依存するのは当たり前。そんな体にしたのならば、責任を取るのが筋である。

 

 つまり、回答は――

 

「だったら、「ママ!! 私を捨てないで」とでも言えば、一発ですよ」

 

 この場に、第三者がいたら、何が一発なのか問いただしてくれただろう。

 

 ちなみに、栗花落カナヲは、裏金銀治郎の執務室に来るまで、似たような質問を他の者にもしていた。炎柱と恋柱とか……目は良いが人を見る目がない彼女であった。

 

………

……

 

 その日、炎柱と恋柱が盛大に勘違いして、赤ちゃん用品を届ける事件が蝶屋敷で起きる。そして、裏金銀治郎の言葉を一言一句その通りに「ママ!! 私を捨てないで」というセリフを言う勇者がいた。

 

 夜になると、胡蝶しのぶが、般若になっていた。

 

 鬼を人に戻す薬を開発する際に、人を鬼にする薬ができちゃった的な展開かと思うほどであった。しかも、その手には、裏金銀治郎が大事にしている長曽祢虎徹が握られていた。

 

「しのぶさん、その刀――私の私室から勝手に持ち出さないでください」

 

「これ、貴方の部屋に落ちていたんですよ。いや~、まさかこんな時間までお仕事をしているとは思いませんでしたよ」

 

 胡蝶しのぶは、裏金銀治郎を問い詰めるために来たのだ。夜であったため、家に押し入ったが誰も居なかったので執務室までやってきた。

 

「こうみえて、抱えている問題が多くて仕事が終わらないんですよ。――栗花落カナヲの一件なら私は無実ですよ。彼女が、「胡蝶様に、子供ができました」と私に相談に来たんです。私は、誠実に対応したまでです」

 

「ソレが、「ママ!! 私を捨てないで」ですか?」

 

「……本当に、それやったの!? 」

 

 裏金銀治郎とて、本気でやるとは思っていなかった。

 

 どんな状況でそうなったか、是非とも再現して欲しいと胡蝶しのぶに頼んでしまう。

 

「この刀、長曽祢虎徹でしたっけ? ()なら、銀治郎さんの首もスパっとやれますよ」

 

 瞬時に逃亡を図る裏金銀治郎を追いかけて、朝帰りする胡蝶しのぶであった。

 

◆◆◆

 

 陽光山――そこでは、鬼滅隊で使用される日輪刀の原材料が採掘される。「猩々緋砂鉄(しょうじょうひさてつ)」「猩々緋鉱石(しょうじょうひこうせき)」、この二つの素材がキーアイテムだ。

 

 だが、形ある物がいつかは無くなる。ソレと同じく、鉱石だって掘り続ければ枯渇する。

 

「どうするんだよコレ」

 

 裏金銀治郎は、執務室で頭を抱えていた。刀鍛冶の里から、緊急の知らせが来たと思えば、日輪刀の原材料が枯渇したから、早く次の採掘場所を……とか謎の連絡を受けたのだ。

 

 彼が何より許せないのが、資源が枯渇してから連絡をしてくる愚か者共であった。採掘量から推察すれば、もっと早い時期にも分かるはずだ。そうすれば、対策の一つや二つを考える時間もあった。

 

 1000年という時間の中で、代替え技術が全く研究されていない。本当に鬼を全滅させる気があるか疑わしい程だ。そもそも、1000年で鬼を殺す新たな方法が、胡蝶しのぶが発見した毒しかないとか、笑い話にしかならない。

 

 一体、どれだけ鬼滅隊の破滅要因があるのかと、胃痛を感じ始める裏金銀治郎。

 

………

……

 

 翌日、裏金銀治郎は蝶屋敷を訪れた。

 

 この時、胡蝶しのぶは、裏金銀治郎と同等に忙しい日々を送っている。鬼を人間に戻す薬の開発、産屋敷耀哉の子供を養女にする件、栗花落カナヲへの対応などなど、柱として鬼を狩る仕事に手が回らない程だ。

 

 だが、幸い、隊士の質は素晴らしい。下弦級の鬼でも無い限り、重傷者はでるが退治ができているのが現状であった。柱の出番は、大きく減りつつある。

 

 そんな多忙な彼女を助けるのではなく、裏金銀治郎は、一直線に竈門炭治郎達の部屋に向かった。その部屋には、主人公一行とは関係ない女の子がいた。裏金銀治郎の手によって、用意された我妻善逸への報酬である

 

 名をシルヴィという。体に火傷のある異国の少女だ。人が発する音から感情まで理解する我妻善逸に、下手な女性は用意できなかった。どんな男であれ本気で寄り添い、無償の愛を注げる綺麗な心を持つ女性――そんな都合の良い女性を用意できたのは、奇跡的であった。

 

 裏金銀治郎も権力者に色々と条件を電話で伝えたら、まさか異国の少女を連れてこられるとは思わなかったのだ。戸籍もないらしく、まさに日本の闇を感じさせられる事案である。

 

「ご主人様、あーーん」

 

「はい、あーーーん!! 美味しい!! 俺は、幸せだなシルヴィちゃんみたいな子と一緒にいられて」

 

 一昔前まで、竈門禰豆子を狙っていた様子は、影も形もなくなっていた。竈門炭治郎からしてみれば、妹にあれだけすり寄っていたのに、なんて男だという感情も少なからずあった。だが、今の我妻善逸を見て、竈門禰豆子をこんな男にはやれないと思う気持ちが芽生える。

 

 匂いや音で感情を理解できない裏金銀治郎にも分かるほど、二人からピンクの空気が漂っていた。

 

「善逸君、シルヴィ……時と場所を弁えなさい」

 

「裏金さん!! 挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」

 

 我妻善逸は、裏金銀治郎を見ると、雷の呼吸ノ型にも匹敵する速度で彼の前に跪いた。そのさまは、忠臣であった。

 

 彼視点でみれば、裏金銀治郎に後光が見える。一ノ型しか使えない自分を理解し、褒めてくれるだけでなく、女の子まで手配してくれる。そんな理想の上司は、いないだろう。どこぞのパワハラ上司とはここが違うのだ。

 

「君に相応しい女性は、私の伝手でもなかなか難しくてね。近いうちに、後数名も必ず探して届けるから待っていてくれ」

 

 エロゲーにリアル出演しても不思議でないほどのチョロインを集めるのは、裏金銀治郎でも大変であった。我妻善逸の信用を得るため、努力を怠らない裏金銀治郎である。

 

「今日はどうしたんですか?」

 

「あぁ、炭治郎君にちょっと仕事を頼みたくてね。少し、社会見学にいこうか」

 

………

……

 

 原材料がないなら、現物を溶かして再利用するしかあるまい。当座の間は、この方法でしのげるだろうと考えていた。だが、一番の問題は、どれが日輪刀であるかという問題だ。

 

 色代わりの刀と言われるので、持てば分かる。そもそも、色が変わるほどの才能を持つ者が少ない。そんな連中は、現場に回しており、招集を掛けたとしても集まりはよろしくない。よって、活用されるのが竈門炭治郎の嗅覚だ。

 

 警察の押収物が纏められている倉庫……そこには、裏金銀治郎からの要請で警察のお偉い様が、各地から押収した刀が山のように並べられている。

 

「裏金様!! 所長から伝言がございます。刀一本で一錠との事です」

 

「ありがとう。君も、これを一錠キメて待っていてくれ。少し時間がかかるだろうから」

 

 裏金銀治郎は、胡蝶印のバイアグラを賄賂として案内役に手渡した。

 

 竈門炭治郎の嗅覚は、知りたくない真実を知ってしまう。病院食だけでなく、薬として既にアレが世間に出回っているのかと驚きを隠せなかった。

 

 そして、人気が居なくなったタイミングで裏金銀治郎に問いかける。

 

「今の薬からは、鬼の匂いがしました」

 

「勿論、説明しよう。だが、その前に時間が惜しいから、君の嗅覚を使ってこの山のようにある刀から日輪刀を探してくれ。刀鍛冶の里で原材料が無くなったと連絡がきてね……このままでは、鬼を倒す武器がなくなる」

 

「え!? 冗談……じゃないんですね」

 

「1000年も同じ場所から材料を採掘していれば材料だってなくなるさ。それに、引退した鬼滅隊の連中は、刀を返さず辞める馬鹿が多くてね。会社の備品は退職した際に返すのが常識だというのに」

 

 竈門炭治郎は、裏金銀治郎の発言から怒りの匂いを感じ取った。

 

 だが、その怒りは当然だとも彼も思っている。実家が炭を売る商売をしてたから、資源の大切さは分かるのだ。

 

「コレとソレ……後、そっちの右上のも」

 

 竈門炭治郎は、押収品の中から次々と日輪刀を見つけていく。馬鹿みたいに簡単に見つかるのには理由があった。鬼滅隊では、刀の再支給が簡単に行われる。その為、紛失や警察に押収された場合、新しい刀が打たれるのだ。刀鍛冶の里も仕事で、お給金がはいりwin-winであった。

 

「やはり、君を連れてきて良かった。私一人だと、色代わりをさせないと分からないからね。で、さきほどの質問に回答しよう。あの薬は、胡蝶印のバイアグラとして政財界の重鎮達に鬼滅隊が売っている。今では、鬼滅隊を支える資金源だ」

 

 裏金銀治郎は、竈門炭治郎になんでも用意すると約束した。そこには情報も含まれている。

 

 だが、彼から提供される情報は、十五歳の少年である竈門炭治郎には、あまりにも重い。妹を人間に戻すという目的が無ければ、直ぐにでも逃げ去りたいと少なからず思ってしまった。

 

「その薬は、安全なんですか? 飲み続けたら鬼になったりしないんですか?」

 

 竈門炭治郎は、蝶屋敷で鬼肉の入った病院食を食べている。だから、気になってしまったのだ。薬を飲み続けるも鬼肉を食べ続けるも最終的にどうなるのかと。

 

「少なくとも、()()()()()()()()。それに、万が一鬼になる事になっても問題ないでしょう。お忘れですか? 私達が、鬼を人に戻す薬を開発しているんですよ」

 

 竈門炭治郎は、裏金銀治郎の発想に狂気を感じた。その時、胃袋の中身をはき出さなかったのは、彼が成長している証である。

 




シルヴィって誰よと思う方……XXとの生活のあの子です。
それ以上、深くの追求は受け付けません!!

さて、そろそろ、ヌルヌル列車が迫ってきました。



武器、防具、回復アイテム。
そろそろ、新しい武器も欲しいよね

裏金銀治郎「半天狗、私は君に会うためにここまで来た!!」

今後のアップデートでは、属性武器が実装予定。
雷属性と風属性!!



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15:お前が言うな

今日も投稿が間に合いました><

読者の皆様、いつもありがとうございます!!




 主人公一行の機能回復訓練は、順調であった。寧ろ、かなり早い段階で全集中・常中を習得した。肉体的スペックがあがった彼等の力は既に鬼滅隊でも上位だ。

 

 コレも全て裏金銀治郎がぶら下げた餌のおかげである。

 

 竈門炭治郎には、妹を餌に。

 

 我妻善逸には、女。

 

 嘴平伊之助には、幼少の頃、一時期面倒を見てくれた老人が無事に過ごせるよう手配した。具体的には、鬼滅隊の隊士の巡回ルートを変える事と死ぬまで生活費を援助する事で釣った。

 

 そして、主人公一行が診察結果次第で退院するので、心優しい裏金銀治郎は、みんなを送り出すために蝶屋敷まで足を運んでいた。胡蝶しのぶが、竈門炭治郎の診察を終えるのを静かに待つ。

 

「うん、顎は問題ないですね」

 

 竈門炭治郎は、完治する。それどころか、明らかに入院前よりも強くなっていると自覚できるほどである。勿論、機能回復訓練を行った事や全集中・常中を覚えたこともある。だが、一番の理由は、鬼肉のおかげで人間としてのスペックが上のステージへとあがったのだ。

 

「おめでとう炭治郎君。また、鬼狩りに行くことになるだろうが、薬の進展については定期的に情報を送ろう」

 

「ありがとうございます!! お二人のおかげで、妹を人間に戻せる目処が立ちました!! 最後に一つ聞きたい事があって……」

 

「何でしょう?」

 

 竈門炭治郎は、二人のおかげで胃痛が絶えなかった。我妻善逸も居るため、下手に感づかれてはならない。それに、自分の気も知らないで、シルヴィとイチャイチャする我妻善逸をしばき倒したいと思うほどであった。

 

 本当に彼は、人間として成長したのだ。

 

「"ヒノカミ神楽"って聞いたことありますか?」

 

「私は、ありませんね~? 銀治郎さんなら、ご存じではありませんか?」

 

 胡蝶しのぶの中では、叩けば情報が出てくる裏金銀治郎。

 

「あまり情報は、持っていませんよ。"ヒノカミ神楽"――竈門家に代々伝わる神事で、正月に先祖と炭窯の神に奉納する際に使われていました。神楽を舞い続ける過酷なものであり、寿命を縮めかねない。だが、神楽は『日の呼吸』を模している物であるらしい。炭治郎君の父である竈門炭十郎が病弱だったのも、神楽の負荷に耐えられなかったのが原因だろう」

 

 あまりにも詳しすぎる情報に、血の気が引く竈門炭治郎。父親について、誰にも話した事が無いのに本名まで知っていれば、驚く。

 

 頼りがいがあるとか、もはや別次元であった。

 

「やっぱり、情報をお持ちでしたね。ですが、『火の呼吸』ではなく『炎の呼吸』ですよ。元柱なんですから、そこら辺を間違って後輩に教えないでくださいね」

 

「同じでは無いんですか?」

 

 このやり取りに、やはり誤解していると裏金銀治郎は理解した。そして、一度聞かれたからには、情報を提供する彼である。

 

「しのぶさん、字が違いますよ。日光の日の字の方です。『日の呼吸』は、今となっては使い手がいないので知名度がありませんが、全ての呼吸の元となった呼吸法です。元炎柱の煉獄槇寿郎なら、多少はご存じでしょう」

 

 出てくる情報を聞いているだけで、竈門炭治郎はドンドン気分が悪くなってきた。

 

 人は、理解できない者を前にすると思考が拒絶する。それが、彼の中で起こっていた。鬼滅隊の隊士であるのか、疑わしいとまで思い始めたのだ。寧ろ、目の前の男が鬼舞辻無惨であると言われても、納得してしまうだろう。

 

 そんな事を思われているとは露程もしらず、裏金銀治郎は説明をおえた。

 

「炭治郎君、銀治郎さんについて深く考えてはダメです。恐らく、必要な時に必要な情報は提供してくれます」

 

「酷いですね。私は、聞かれたから答えただけだというのに。炭治郎君、私から一つアドバイスをしておきます。辛い現実から目を背け夢を見続けたい人は多いでしょう。だが、その夢から覚める必要があったならば、君はどうやって目を覚ます?炎柱に会うまでに考えておくといい。きっと、鬼狩りが楽になるはずだ」

 

 竈門炭治郎は、裏金銀治郎が何を言いたいのか分からなかった。夢から目を覚ます方法が鬼狩りの何処に役に立つのか。だが、裏金銀治郎は無駄なことをしない。役に立つと言ったら、役に立つのが事実である。

 

「よく分からないけど、分かりました!! では、次の任務も頑張ってきます」

 

 裏金銀治郎は、笑顔でソレを見送る。

 

 胡蝶しのぶも「頑張ってきてください」と、見送った。そして、竈門炭治郎が部屋を出てしばらくしてから彼女は裏金銀治郎の方を見た。

 

「で、今度は何をするつもりなんですか? 以前に、下弦の鬼を捕獲しに行った時以上に、物々しい感じがしますよ」

 

「すこし、上弦の参にトドメを刺しに。本当なら、捕獲したいのですが、あのレベルを捕獲できる施設と戦力がないのが残念です」

 

 裏金銀治郎の発言に、流石の胡蝶しのぶも信じられないといった顔をしていた。この100年間、柱の死因は上弦の鬼との戦闘による物である。上弦の鬼の強さは別格だ。しかも、それが上位ナンバーであれば、もはや裏金銀治郎がまともに戦えるレベルを越えている。

 

「はぁ!? どうやって倒すんですか?」

 

「――しのぶさん、我々は鬼を全滅させる為に、ここで働いているんですよ。現役柱ともあろうしのぶさんが、その台詞はダメです。せめて、どんな毒ならとか、どんな作戦ですかと言った台詞にしてください」

 

 だが、この時、二人の前提は大きく異なっていた。

 

 胡蝶しのぶとしては、裏金銀治郎一人でどうやって上弦の参という強大な鬼を倒すのか疑問だった。彼の剣士としての腕前も知っており、鬼をコロコロする事に関しては人一倍の才能。ソレを前提に考えても、答えに行き着けなかったのだ。

 

 だが、裏金銀治郎としては、胡蝶しのぶを戦力として数えている。一蓮托生とも言える二人の関係だ。だからこそ、言わずとも分かってくれると思っていた。

 

「……つまりは、私も一緒ですよね? まぁ、そうだと思っていました」

 

「むしろ、上弦の参を倒しに行くというのに、何故私単独で撃破を試みないといけないんです。そんな事ができるのは、霞柱の時透無一郎さん位ですよ。それに、上弦の参を殺せなくては、胡蝶カナエさんの仇が取れません。仇である童磨は、上弦の弐の地位を血戦で奪い取った実力者です。すなわち、実力で劣る参を殺せずして、弐を殺せると考えない方がよい」

 

 胡蝶しのぶの生きる目的である姉の仇に関する情報がしれっと提供された。

 

 どんな些細な情報でも欲しい胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の胸元を掴み上げ迫った。だが、そんな行動を気にもとめない裏金銀治郎。そして、落ち着いてくださいとゆっくりと、胡蝶しのぶの手を解いていった。

 

「少し、取り乱しました。でも、銀治郎さん……私は悪くありませんよ。どうせ、わかって、今情報を教えてきたんでしょう?」

 

「勿論です。物事には順序があります。然るべき手順を踏めば、殺せない相手など存在しません。ですから、上弦の参を殺せたら、上弦の弐について私が知りうる全てを教えるというのはどうでしょう? 殺る気がでてきたでしょう?」

 

 裏金銀治郎の言葉に、文字通り殺る気が出てきた胡蝶しのぶである。身から溢れる闘志は、蝶屋敷に居た隊士達を震わす程であった。

 

 彼女は、平常心を取り戻し歓喜する。お館様と同じ以上に、『絶対に、こいつは逃がさない』と決意した瞬間であった。

 

「じゃあ、今後の事について色々と話し合いましょう。今夜は、寝かしませんよ」

 

「しのぶさんの様な美人から、そんな甘い囁きをされたら断れませんね」

 

 勿論、裏金銀治郎がパパになる的な展開は発生しない。

 

 

◆◆◆

 

 隔離施設という充実した環境で、鬼舞辻無惨を倒す方法の研究も行われている。その方法が、鬼を人間に戻すという方法だ。鬼だから倒せない……ならば、人間にしてから殺せば良いという素晴らしい着眼点の倒し方だ。

 

 その研究を一手に担っていたのが珠世という鬼である。そして、その研究に途中参加したのが、鬼滅隊が誇る天才薬学者である胡蝶しのぶだ。

 

 二人の力によって、研究は順調に進んでおり、その成果の一応の形を成した。

 

「これが、鬼を人に戻す毒ですか」

 

「薬です。ですが、実験しない事には確証がありません」

 

 珠世は、研究成果を裏金銀治郎に報告していた。

 

 長年の女の勘は、この男は危険だとアラートを鳴らしている。そもそも、こんな研究施設を鬼滅隊が抱えている事が危ないと考えていた。鬼舞辻無惨を倒した後、鬼滅隊が……裏金銀治郎が第二の鬼舞辻無惨になるのではないかと。

 

 薬の入った試験管を胡蝶しのぶが確認する。

 

「大丈夫、本物です」

 

「では、上弦で試しましょう。効果があれば、鬼舞辻無惨にも有効であると証明できます」

 

 裏金銀治郎は、珠世の事を信じていない。

 

 この場で偽物を掴まされることも考えていた。胡蝶しのぶを共同研究者にしたのも、薬の真偽が判断できるからという一つの理由もあった。

 

 鬼を全滅させる事が目的の鬼滅隊である。つまりは、最終的に隔離施設にいる鬼達もあの世に送る必要があるのだ。

 

「裏金銀治郎さん、一つお聞かせください。この隔離施設は、貴方が用意したと聞きました。ここに居る鬼達への仕打ちは、あまりにも惨い。貴方は、なぜそこまで鬼を恨むのでしょうか?」

 

「恨みなどは、ありませんよ。ただ、人より強い鬼が、何の制約もなくノウノウと生きているのが嫌いなんです。管理できない存在ならば、いない方がよい」

 

「――危険な発想です。鬼舞辻無惨を倒した後は、鬼滅隊や貴方が第二の鬼舞辻無惨になるのではないかと思うほどに」

 

「それはありえませんよ。それに、鏡をみて仰ってください。鬼舞辻無惨以外で人を鬼にした貴方がソレを口にする権利はないかと愚考します」

 

 礼には礼をもって応える裏金銀治郎。

 

 珠世の第二の鬼舞辻無惨などという失礼な発言に久しぶりに苛立ちを覚えていた。パワハラ上司と一緒にされるなど、失礼極まりない。彼ほど、鬼退治に尽力した陰の功労者は少ないだろうに。

 

 だが、寛容な心を持つ裏金銀治郎は、珠世一行に何もしない。使い道が残っている限りは、協力関係を維持する必要がある。

 

………

……

 

 鬼滅隊の隊士達に、新しい隊服が配られ始めた。

 

 今までの隊服では、中級の鬼相手ならば爪や牙が通らないという物であった。裏金銀治郎の手によって、生まれた隊服は、上級の鬼相手でも牙と爪が通らない程の性能である。下弦級の鬼でもなければ、破ることが難しい程の伸縮性と強度を誇った。

 

 しかも、柱の者達が着る隊服は、下弦の肆からはぎ取った首の皮膚を裏地に縫い付けられている。下弦の肆ともなれば、急所を守る皮膚は非常に硬い。だからこそ、上弦を相手にしても一定の効果が見込める仕上がりを見せていた。

 

 そして、開発に携わった裏金銀治郎が自ら、炎柱の煉獄杏寿郎に説明を行った。

 

「色々と説明は省くが、新しい隊服は従来比の三倍の強度と伸縮性を誇っています。柱の皆様が着ている隊服は、一部に特殊な繊維を用いておりますので、よほどの強敵でも無い限り服が傷つく事はないでしょう」

 

「実に素晴らしいではないか!! で、このペ○ローション藤の香という、よく分からない物は何に使うんだ?」

 

「良い質問です。しのぶさんが、鬼を殺すのに使う毒を使用した潤滑油になります。拭き取りにくく、洗い落とすのも困難。鬼に被せるも良いですし、体に塗って敵の打撃を逸らすと同時に毒にするなど使い方は様々です」

 

「よく分からんが、とりあえず貰っておこう。要は、服や体に塗って鬼と戦えばよいのだろう」

 

「えぇ、理解が早くて助かります。煉獄さんを相手に、体に触れる事ができる鬼は早々いないでしょうがね」

 

 ぺ○ローションを懐に仕舞い鬼退治に向かう煉獄杏寿郎。ソレを見送る裏金銀治郎は、一つ思ったことがある……しまらないな~と。

 




みんな大好きな、ヌルヌルローション列車。


さぁ、上弦の参というG級モンスターを狩るハンター達の出陣だ。


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16:夢と現実

いつもありがとうございます!!

今更と言われるかも知れませんが、誤字脱字報告もありがとうございます。
沢山あり、皆様に読み汚しをさせている自覚はあるんですorz
音声読み上げ機能を使い、確認作業もしているのですがごめんなさい。

とりあえず日次投稿を維持するため頑張っているという事で許してクレメンス。




 無限列車……鬼が出ると噂され乗客が行方不明になる事件が発生していた。その為、鬼滅隊から隊士が派遣されたが、帰ることはない。そこで派遣される事になったのが、炎柱と原作主人公一同だ。

 

 そして、秘密裏に動く裏金銀治郎と胡蝶しのぶ。

 

 二人は、人間離れした身体能力を有しており、動いている列車に飛び乗ることすら可能であった。そして、人知れず最後尾の屋根に無賃乗車をする悪がいた。

 

「銀治郎さん、なぜ発車した列車に私達は飛び乗らないといけないんでしょうか? というか、この列車は煉獄さんが乗車しているアレですよね」

 

「下弦の壱とその手下に我々の存在を隠匿する為です。我々の存在に気がつかれたら、そもそも上弦の参がこない可能性があります。一番最悪なパターンは、他の上弦がおまけで派遣される事です」

 

 この時、二人の格好は隊服を着ていない。両名とも洋服を着込み、カツラまで付けている。人相から二人が鬼滅隊であるとは誰も想像ができない。

 

 鬼舞辻無惨は、鬼と視界を共有できる。

 

 つまり、裏金銀治郎という男は、鬼舞辻無惨に素性がバレたくないと考えている。人を餌にして鬼を退治するのは問題ないが、自分が餌になるなどあり得ないと考える良識人であった。

 

 鬼舞辻無惨とて、認識していない相手に手持ちの戦力が次々削られているとは思っていない。裏金銀治郎は、比較的安全なポジションで鬼を効率的に狩る……そんな男である。

 

「ねぇ、銀治郎さん。私、上弦の参の話は聞きましたよ。でも、下弦の壱がいるって全く聞いていません。そこら辺、どうお考えですか?」

 

「人を眠らせる能力を持つ鬼です。しかし、夢の中で自決すれば目が覚めます。だから、柱にしてみれば、大した敵ではありません。上弦の参が控えているこの状況なら、前座にもならないでしょう」

 

「なるほど、だから炭治郎君にアドバイスをしたんですね。――本当に、銀治郎さんは何者なんでしょうね。凄く気になります」

 

 裏金銀治郎ににじり寄る胡蝶しのぶ。そして、彼の耳元で「絶対に逃がしませんから」艶っぽい声で囁く。

 

 

◆◆◆

 

 竈門炭治郎は、煉獄杏寿郎と合流を果たしていた。

 

 彼は、少し話しただけで煉獄杏寿郎という人柄を把握する。柱会議での印象は既に無くなった。人のため、鬼を倒すという強い意志が匂いから読み取れたのだ。

 

「しかし、裏金殿は物知りだな。俺でも知らない事を知っていようとは」

 

「煉獄さんから見た裏金さんってどんな人なんでしょうか?」

 

 竈門炭治郎は、裏金銀治郎という男の評価が気になってしまった。色々と世話になっている身とは言え、裏で想像を絶する事をやっているのを知り、大人になった。

 

 だからこそ、現役柱達は、彼の何を知っているのだろうか。鬼滅隊の資金源を知っているか、探りを入れたくなったのだ。

 

「難しいな!! 彼は、新しい呼吸を生み出したと言うだけで天才だ!少なくとも、俺には同じ事はできない。彼が引退し、裏方に回ってから異様に金回りの管理が厳しくなったな!! だから、彼が嫌いな者も多いだろう!!」

 

「煉獄さんは、裏金さんの事が嫌いなんですか?」

 

「嫌いでも無いが好きでも無いな!! 人を一面だけ見て評価するのは良くない事だ。俺は、彼の執務室の電気が何時も最後まで点いていることを知っている。――まぁ!! 若い女性隊士や蟲柱を連れ込んでいるとも最近は耳にする」

 

 あまりにもまともな意見であった。その髪型やしゃべり方からは想像もできないほど、人をよく見ている。だが、竈門炭治郎は噂の真実を知っていた。夜遅くまで、鬼滅隊の資金繰りをやっていたのだ。

 

「なんで、みんな裏金さんの事が苦手なんだろうね。すごく、いい人じゃん!! 音だって、凄く澄んでるよ」

 

 我妻善逸は、裏金銀治郎という男の綺麗な部分しか見えていない。なにより、シルヴィという世界中探しても出会うことが難しいであろう理想の女性を連れてきてくれた恩人であった。加えて、裏金銀治郎は我妻善逸に対して期待しかしていない。

 

 だから、綺麗な音しかでない。

 

「あの~、切符を拝見いたします」

 

 病的なまでにやつれている車掌が切符を切りに来た。

 

 竈門炭治郎は、嫌な匂いを感じた。だが、身につけている隊服から放たれる匂いかと思い、深く追及はしなかった。

 

………

……

 

 車掌の手によって、乗客が全員眠りに落ちる。

 

 最後尾車両で、そんな眠りに落ちた客に混ざり平然としている二人の男女……裏金銀治郎と胡蝶しのぶ。寝静まった観客を確認し、車内へと移動してきたのだ。

 

「つまりは、この列車自体が下弦の壱と融合を果たすという事ですね。だったら、融合したタイミングで私が壁でも一突きすれば、すぐに終わりますよ」

 

「あっ、その発想はなかった。ですが……このままやり過ごします」

 

 下弦の壱と胡蝶しのぶは、相性が良い。列車と融合したでかい鬼なんて、何処を突いても倒せる。だからこそ、裏金銀治郎は天秤に掛けた。国鉄列車を壊す事の賠償金 と 主人公一行の成長 どちらを取るべきかと。

 

 だが、原作を可能な限りなぞる事が大事である。

 

「いいのですか? 鬼の体内に居るという事は、一般人が犠牲になるかも知れませんよ」

 

「毒でも同じです。列車と融合していると言う事は、毒でもがき苦しむと脱線事故を起こします。ならば、鬼の首が切り落とされるまで大人しく、乗客に紛れていましょう。我々の目的は、上弦の参だけです」

 

 裏金銀治郎の説明に、胡蝶しのぶも納得した。そもそも、柱の中でも上位の実力者である煉獄杏寿郎がこの場に居合わせている。下弦の壱に後れを取るなど、考えもしていない。加えて、機能回復訓練でめざましい成長を遂げた主人公一行もここに加わるのだ。これで倒せない下弦が居るはずも無い。

 

「では、このまま二人で寝たふりを続けましょうか。……ところで、少し気になっていたんですが、アンブレラ・コーポレーションでペ○ローション藤の香って商品を売り始めましたよね」

 

「えぇ。鬼滅隊のフロント企業ですが、何の商品も販売しないのは問題でしょう? それに、あの商品は画期的です。間違いなく、世間の闇に隠れ潜む鬼を退治してくれます」

 

 年齢=彼氏無しの歴の胡蝶しのぶには、ローションという商品の使い道が分かっていない。製品として売り出したのに、そこの企業トップが詳細を知らないとは些か以上に問題があった。だが、鬼を人に戻す薬の開発などで多忙であったから、仕方ないとも言える。

 

「確かに、鬼に対してかなり強力な毒を配合していますが……どういった状況で鬼が倒せるのかがサッパリです」

 

「子作りする際、濡れてないと色々と不便でしょう? その代わりになるのがローションです。人間のふりをして一般社会に紛れ込む鬼を殺すのには最適です。男女一緒に居ればやる事は大体決まっています。これが、一家に一本というレベルで普及すれば、一般人が勝手に鬼を殺してくれるわけです」

 

 事実、販売から一ヶ月しか経過していないのに、濡れ場で鬼が死ぬ事件が多発した。しかも、警察が駆けつけたときには死体は残っておらず、事件は迷宮入りしている。そもそも、鬼という存在は戸籍が無かったり、既に死亡扱いされている者達が殆どで、税金で動く警察が非納税者の為に、真剣に働く事はない。

 

 当然、裏金銀治郎が賄賂をばらまいているので、世間的にこの事件が大きく取り上げられる事はない。その事まで、丁寧に胡蝶しのぶへと説明がされた。

 

「えっ!? そんな話、初耳ですよ」

 

「しのぶさんが、お忙しいと思ったので此方で全て対応しました。安心してください。ちゃんと、正しい使い方をして夜の生活が充実したと感謝の手紙を沢山頂いております。それに、政財界の重鎮達にもご好評で、援助金も頂けました」

 

 この男はぁぁぁ!! この男はぁぁぁぁ!! と、隣に座って寝たふりを続ける裏金銀治郎に肘鉄を続ける胡蝶しのぶ。

 

 世の中の男性達からの信仰を一心に集めつつある胡蝶しのぶは、順調に英霊への階段を登っていた。しかも、その容姿も極まって良い為、信仰は留まることを知らない。夜の生活の守護者として、冬木の○杯戦争に参戦する事も夢ではないだろう。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶが寝たふりを続けている時、竈門炭治郎は、夢を見ていた。

 

 その夢は、鬼舞辻無惨に殺されたはずの家族がいる。何事もない日常を渇望する彼にとっては、理想郷の世界。夢の世界に人を留めるという血鬼術は、素晴らしいものだ。

 

 だが、幸か不幸か竈門炭治郎は、夢を夢だと自覚する。

 

「お兄ちゃんどこ行くの?」

 

 竈門禰豆子がいた。鬼にもならず、普通に過ごしている妹。彼が望むものが全てそこには揃っている。

 

「禰豆子、俺は!!」

 

 振り返り、最後に一目家族の姿を目にしようとした竈門炭治郎。だが、そこには、夢も希望もないシーンが待っていた。

 

 竈門炭治郎がよく知る人物……鬼滅隊で世話になり力になってくれている裏金銀治郎がなぜか居たのだ。そして、竈門禰豆子を抱き寄せていた。

 

「お兄ちゃん、私、銀治郎さんと結婚するの」

 

「これから、お兄さん(・・・・)と呼んだ方が良いかな?炭治郎君」

 

 頬を赤く染め女の顔をする禰豆子を見た。その時、彼に掛かった精神的負荷は、自決するにも等しい物だ。

 

………

……

 

「うああああぁぁぁぁぁぁ!! 禰豆子!! 考え直すんだ!! お兄ちゃんは、絶対許さないからな」

 

 悪夢から目を覚ました竈門炭治郎は、竈門禰豆子を抱きしめた。

 

 そして、温厚な彼であったが、久しぶりにぶち切れた。下弦の壱、絶対ぶっ殺すマンが生まれたのだ。

 

 

◆◆◆

 

 我妻善逸は、夢の中でシルヴィと素晴らしい日々を堪能していた。

 

 朝起きて、シルヴィを撫でる。昼も撫でる。夜も撫でる。そして、夜戦……人がおおよそ夢見る最終形であった。

 

 だが、流石は下弦の壱である。そこに、竈門禰豆子という存在が追加されるのだ。

 

「善逸さん、私もシルヴィちゃんみたいに…好きにしていいですよ」

 

 ちなみに、我妻善逸は、既に夢だと自覚している。だが、自覚してなお、この夢を満喫する彼は、男の中の男であった。

 

『善逸!! 起きろ!! 夢で禰豆子を出演させるんじゃない!! 』

 

「やめろーーー炭治郎!! お前は、俺になんの恨みがあるんだよ!! 少しくらい良いだろう!!」

 

 夢から覚めたくない我妻善逸は、必死の抵抗を見せた。竈門炭治郎の物理攻撃と竈門禰豆子の血鬼術に抵抗し、夢を継続させる彼の強い意志は、この場に居るだれにも負けなかっただろう。

 

『善逸……これ以上、寝ているなら。裏金さんに、善逸が働きませんでしたと報告するぞ。そうなれば、シルヴィちゃんが可愛そうな事に』

 

 我妻善逸は、我に返った。

 

 よくよく、考えれば現実に戻ってもシルヴィちゃんとは夢と同じような性活(・・)を送っているのだ。自分を慕う女性を不幸にするのは、彼の矜持が許さなかった。

 

「ごめんな。シルヴィちゃん、禰豆子ちゃん。俺、起きないといけない」

 

 覚悟を決めた善逸は、現実で守るべき女のため、自決した。

 




これで、下弦の壱は、死んだも同然だ!!

吉原で、ぺ○ローションを採用していない遊郭がある。
……じつに怪しいですよね^-^


PS:
禰豆子の名前を一太郎から転記すると謎のスペースが入る現象が困るw
SS投稿した時にしか分からないので、何も考えずに投稿するとスペースがはいるのよね。


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17:汚される思い出

いつもありがとうございます!!

毎日楽しく執筆及び感想を拝見させて頂いております><
感想を読むと元気が沸いてくる^-^



 主人公一行の頑張りがあり、下弦の壱が遂に本気を出し始めた。つまりは、乗客を食べて更に強くなろうとしている。列車の異常を察して、本来なら逃げるなり行動が起こりそうだが、幸いなことに乗客達は夢の中だ。

 

 裏金銀治郎は、馬鹿な鬼だと思っていた。

 

 立場が違えば、間違いなく乗客達の目を覚まさせた。そして、その混乱を活用する。鬼舞辻無惨の教育不足である。

 

「銀治郎さん、そろそろ出番じゃありません?」

 

「あまり気乗りはしませんね。ですが、仕方ない」

 

 裏金銀治郎は、日輪刀を構え面倒くさそうに行動を開始した。

 

 彼の中では、上弦の参を前にしたこの状況で、列車の乗客の命は勘定の外にあった。しかし、胡蝶しのぶや煉獄杏寿郎は乗客を見捨てたとあっては、快く思わない。だから、刀を取ったのだ。

 

 決して、人命がとか崇高な理由ではない。目的のために、死なれては困る……ただそれだけであった。これが、誠実な男の仕事ぶりである。

 

「銀治郎さん。私の手伝いは必要ですか?」

 

「いいえ。しのぶさんは体力を温存しておいてください。短期決戦しないといけませんので。それに、下弦の鬼本体ならまだしも……この程度の触手に遅れるほど、弱くはありませんよ。2車両分位なら、十分守れます」

 

 裏金銀治郎が日輪刀を振るう。

 

 乗客達に襲いかかる触手が次々に落とされていく。切れ味や抜刀速度、型の美しさなど、柱であった事が納得できるものであった。

 

「綺麗な太刀筋ですね。今からでも柱に復帰しませんか? 私で良ければ推薦します」

 

「ソレには及びません。これ以上、働いたら死んでしまいます。むしろ、しのぶさんこそ、現役引退して裏方にどうですか? 私としのぶさんなら、きっと運営が楽になりますよ」

 

 胡蝶しのぶは、彼の思わぬ返しに一考してしまった。

 

 ここ最近、柱としての任務は行っていない。寧ろ、裏金銀治郎と一緒で裏方仕事をしている。隊士の質が向上した今、十二鬼月以外ではもはや柱の出番はない。

 

 時代は、裏金銀治郎と胡蝶しのぶの手に依って変わったのだ。ローションがあれば、下弦より弱い鬼など退治に苦労はしない。更に十二鬼月ですら、鬼を人に戻す薬ができあがれば、柱で無くても倒せるようになる。

 

 現役を退いて、鬼を人に戻す薬の研究に注力した方が何倍も役に立つという事実に気がついてしまった。

 

 ドンっと音を立て、車両のドアが蹴り破られる。そして、抜き身の刀を持った煉獄杏寿郎が乗客を守る為、突入してきた。

 

「失礼する!! おや、貴方がこの車両の乗客を守ってくれたのか!! 柱として不甲斐ない。だが、その刀は日輪刀であろう。……そちらで寝たふりをしているご婦人もかなりの使い手だな!! 悪いが、鬼を退治するため協力して貰おう」

 

「炎柱様のお願いとあれば、断れません。私と家内で、後ろの2車両を担当しましょう」

 

「おや、夫婦だったのか!! では、任せた」

 

 煉獄杏寿郎は、二人の正体に気がつく事はない。時間的猶予があるならまだしも、今も乗客が危険にさらされる中、使えそうな者達の素性などどうでも良かった。

 

 裏金銀治郎は、手を振り煉獄杏寿郎を見送る。走り際に、周辺の壁や天井などに、細かい技を決めていく素晴らしい手際は、柱上位に恥じない仕事であった。同じ事は、裏金銀治郎には出来ない。

 

「銀治郎さん、煉獄さんは鈍いですから良いですよ。私達の事は、バレないでしょう。ですが、もう少し良い紹介文は無かったんですか?」

 

「私の風貌から、しのぶさんを娘と紹介すると色々と犯罪臭がするでしょう。まぁ、家内と紹介しても似たような――ごふ」

 

 青筋を立てる胡蝶しのぶのレバーブローが食い込む。

 

 具体的な紹介文も提示されないのに、理不尽な暴力にあう裏金銀治郎。日常化したやり取りに二人の緊張感は場違いであった。良くも悪くも、胡蝶しのぶも毒されてきた証拠だ。

 

「銀治郎さん、折角なので姉さんの話を聞かせて貰えませんか? 任務で何度か一緒になったと言っていましたよね」

 

「あの~、私が必死で触手を斬り倒しているのが眼に入らないんですか?」

 

「いいじゃありませんか。元柱ともある人が、まさか鬼を斬りながら世間話もできないんですか?」

 

 胡蝶しのぶは、教育者としても優れている。褒めて伸ばす事ができる希有な教育者だ。だが、いくら何でもそれが年上である裏金銀治郎には通用しない。人生経験が違うのだから。

 

「――私は、善逸君や伊之助君のように単純じゃありませんよ。そうですね~、胡蝶カナエさんのお話をする代わりに、お弁当を作っては貰えませんか?」

 

「鬼肉入りのですか?」

 

 冗談を言ってよい場面と駄目な場面がある。彼女が、未だに独身である理由の一つが露見する。相手が裏金銀治郎だからこそ受け流せるが、まじめな人間が聞いたら、顔が真っ青になるだろう。

 

「普通のでいいです。代わりに、私がしのぶさんのお弁当を作りましょう」

 

「ま、まぁいいでしょう。美味しいお弁当にしてくださいよね」

 

 嬉しそうな顔をする胡蝶しのぶ。

 

 やはり、女性には笑顔で居て欲しいと考えるフェミニストの裏金銀治郎。だが、彼が優しいのは、とても狭い範囲であることは言うまでもない。その範囲は、彼にとって有益か無益かという非常にわかりやすい分け方だ。

 

………

……

 

「胡蝶カナエさんは、男性隊士にモテましたね。包容力があり、女性らしさもあり、男の理想を具現化したような女性とは彼女のような事をいうのでしょう。先代の炎柱さんとかも、密かに食事に誘ったりと――」

 

「ちょっと待ってください!! 先代って煉獄さんのお父さんですよね!! その時、煉獄杏寿郎さんが生まれていましたよね」

 

 想像と違う話が始まり、思わず口を挟んでしまった胡蝶しのぶ。同じ列車に現役の炎柱がいるにも関わらず、その父親の話をあえて選択するなど、流石は裏金銀治郎であった。

 

「えぇ。煉獄家は、鬼滅隊の柱を何度も出す古い家柄です。つまり、発言力もお館様に次ぐレベルがありました。先代炎柱は、荒れている時期があり、それを(いさ)めたのが胡蝶カナエさんです。そんな彼女に、先代炎柱は――」

 

「はいストップ!! その話は、なぜか先を聞いたら駄目な気がします。銀治郎さんと姉さんのお話をしてくださいよ。そうしましょう!!」

 

 これから、酒に溺れる先代の話が始まる所で止められてしまい残念だと思う裏金銀治郎。だが、胡蝶しのぶが聞きたいという話があるなら仕方がないと話を切り替えた。

 

 そんな話の最中、切り刻まれる触手は、モブどころか背景役となり下がる。

 

「分かりました。そうですね~、胡蝶カナエさんに料理を教えたのは実は私なんですよ」

 

「フォォ!!」

 

 胡蝶しのぶが本日一番驚いた。

 

 それもそのはず。今まで、胡蝶カナエと一緒に食べた食事の思い出の中に、いきなり男の影が出てきたのだ。しかも、下手すればお袋の味ではなく、親父の味という悲しい現実がそこにはあった。

 

「待ってください!! 待ってください!! 理解が追いつかないのですが、どんな状況でそうなったんですか? 銀治郎さん、今なら嘘と言ってくれれば許して上げますよ」

 

「私は、しのぶさんには嘘も言いませんし、知りたいと言われれば全部教えますよ。そう言ったでしょう」

 

 裏金銀治郎は、優しい嘘という言葉は持ち合わせていない。

 

「自慢ではありませんが、私は料理が人並み以上に得意です。国外の料理でも有名どころなら大体作れます。少し特殊な人生送っているので、経験も知識もありますしね。私が任務でお弁当を持参したのが切っ掛けで、教えていたんですよ。ほら、鬼滅隊で料理ができそうな人に心当たりがありますか?」

 

「――いないですね。あ、『隠』の人なら」

 

 知りたくない事実でドンドン外堀が埋まっていく。

 

「料理ができる人もいるでしょう。ですが、私が料理の先生に選ばれた理由は、私より上手い人がいなかったんですよ。それに、身に覚えがありませんか? 胡蝶カナエさんが、行った事もない地方の料理を振る舞ったり、新品の料理器具が揃えられたりと」

 

「――あります。その節は、ありがとうございました」

 

 胡蝶しのぶが、身に覚えがありすぎて、お礼を口にした。

 

 まさか、自分の姉が知らないうちに男に料理を教わっていたとは、知りたくなかった彼女である。これで確定してしまった……姉の料理は、母親の味ではなく、親父の味であった。

 

 つまりは、裏金銀治郎は既にパパ的存在であった。

 

 汚されていく姉との思い出に、もう止めてと言いたくなる胡蝶しのぶ。

 

「ふむ……この話は、しのぶさんにダメージが大きいようなので話を変えましょう。では、胡蝶カナエさんと箱根に鬼退治に行った時です」

 

「箱根って、あの温泉街の箱根の事じゃありませんよね?」

 

「寧ろ、そこ以外に箱根ってありましたっけ?」

 

 胡蝶しのぶは、上弦の弐より先に目の前の男を退治しないといけないのではないかと、ダークな感情が湧いてきた。

 

 問い詰めようと思った瞬間、鬼の断末魔と共に列車が宙を舞った。

 

「後で、色々と問い詰めますからね!!」

 

「分かりました。では、実験を開始しましょう」

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶが、列車から脱出した。乗客達は、鬼が肉壁となり死なないと分かっていたので見捨てる辺り、成長ぶりが窺える。

 

◆◆◆

 

 横転する列車……それを見た裏金銀治郎は、鬼滅隊の財政が傾くなと静かに怒りを覚えていた。商品を増やし資金調達を頑張っている彼にしてみれば、泣きたいとも思える事態だ。

 

 だが、鬼を殺す事が本分である鬼滅隊の仕事を全うして起こった事故だ。しかも、原因が鬼にあれば文句も言えない。

 

「これだけの惨劇で死者が0とか奇跡です。銀治郎さん」

 

「そうですね。あちらも無事のようです」

 

 無傷の煉獄杏寿郎、主人公一同も多少怪我は目立つが即座に戦線復帰できるほどの軽傷だった。腹部の傷に刺し傷も無い事から、新しい隊服の強度は十分である事を証明していた。

 

「しかし、間もなく夜明けなのに本当にこんな場所にくるんでしょうか? 正直、そんな命令を出す鬼舞辻無惨なら、私達の敵じゃないと思うんですが」

 

「鬼舞辻無惨を皆さん、甘く見すぎです。鬼舞辻無惨は、柱に倒される下弦の鬼が弱すぎると自らの手で下弦の壱を残して全て殺した程です。許されるならば、私がお館様に鬼柱として鬼舞辻無惨を推薦して上げてもイイほどの働きをしてくれました」

 

 胡蝶しのぶが、「こいつ、何いってんだ」という怪訝な顔をしている。

 

 だが、紛れもない事実である。しかも、平成の世でも真っ青な程の圧迫面接を行った末の惨殺だ。きっと、その事実が出回れば、鬼になると自ら口にする者はいなくなるだろう。上司の気分一つで、殺されるのだから。

 

「何処情報ですかそれ?」

 

「集○社情報です」

 

 真実を答えているのに、信じる気が全くない胡蝶しのぶ。

 

 普段、自分にだけは嘘を言わないなんて口走る男が、平然と嘘をつくその様が気に入らなかった。

 

 ドォン!!

 

 煉獄杏寿郎の直ぐ側に、一匹の鬼が飛来してきた。その目には、上弦の参と数字がある。全鬼の中で参番目に強い鬼の到来であった。

 




準備は整った!!
物理攻撃特化など、このローションの敵では無いわ!!



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18:ローションがなければ死んでいた

何時もありがとうございます。

感想などで、以下のようなご指摘を多数頂けております。
× 鬼滅隊
○ 鬼殺隊
本SSでは、類似世界的設定であり、意図的に「鬼滅隊」としております。
誤字ではないのでよろしくお願い致します!!


 上弦の参――猗窩座。その身から発する威圧感だけで、並の隊士なら動けなくなるほどだ。柱であっても目をそらせば、一瞬で肉塊へと変えられてしまう。

 

 そんな相手に、最初の一撃から、竈門炭治郎を救うだけでなく、反撃で腕を真っ二つにする煉獄杏寿郎。強者が大好きな猗窩座が鬼に誘うのも頷ける。だが、残念な事にスカウトマンとしての才能はイマイチであった。

 

 誘い文句は、永遠に鍛錬し至高の領域を目指そうなどという武人らしい誘いだ。そもそも、何年も鍛錬してその域に達する事ができない男が、言うのはおかしい。できない奴は、何年やってもできない。時間があれば良いという問題ではない。1000年勉強したらアインシュタインを超えられるかと言われればNoだと言えよう。

 

 要するに、生まれ持った物が違うのだ。

 

 鬼への勧誘中に、割り込むのも悪いと思ったが裏金銀治郎は行動にでた。

 

「炎柱様、微力ながら助太刀します」

 

「――なんだ貴様は? 闘気もたいした事ない。俺は、今、杏寿郎と話しているんだ。雑魚は引っ込んでろ」

 

 猗窩座の実力から鑑みれば、裏金銀治郎は雑魚である。だが、強者を倒すのはいつでも弱者だ。戦いで実力が全てというのは、遭遇戦に限ったことだ。モンハンでも、罠と閃光玉を用意して挑めば強敵だってソロ撃破できる。狩る対象が鬼に変わっても同じだ。

 

「炎柱様、私が可能な限り相手の手の内を晒します。だから、必ず仕留めてくださいね」

 

「死ぬぞ。――名を何という?鬼滅隊の者であろう」

 

 煉獄杏寿郎の正しい戦力分析がなされる。だが、上弦の参という鬼を相手にする際、手の内を知ると知らないでは大きな差が出てくる。鬼を倒す事と隊士の命を天秤に掛けた。

 

狛治(・・)です。そして、家内は恋雪(・・)

 

 竈門炭治郎は、匂いで気がついた。目の前の変装した男が裏金銀治郎だと。

 

 心の中で助けを求めたら、本当に助けが来た。列車の移動速度から考えて、最初から乗車していなければ、あり得ない状況。竈門炭治郎の中で、裏金銀治郎という存在の恐ろしさがドンドン増していく。

 

 しかも、この場で平然と偽名を名乗る当たり、その神経の図太さは鬼滅隊随一だ。

 

「――おぃ!! 貴様、今なんと言ったぁぁぁ」

 

「金の呼吸 参ノ型 不動金剛」

 

 裏金銀治郎の煽りレベルは、誰にもマネできない。武人である猗窩座だが、彼によって抉られた過去は、冷静さを失わす程であった。人間だった頃の猗窩座の本名とその恋人の名を平然と使ったのだ。

 

 猗窩座から繰り出される一撃一撃が必殺の攻撃だ。それを、刀で一つ二つと受け流す裏金銀治郎。だが、実力差がある為、良い攻撃をその身に受ける。その瞬間、裏金銀治郎の足下に大きな亀裂が入る。

 

 防御特化の型である不動金剛でダメージを地面へと流していた。だが、猗窩座の攻撃を受け流せるほどの性能は、持ち合わせていない。その為、確実にダメージが蓄積されていく。

 

 強化された隊服とペ○ローション、更には防御の型……これら全てが合わさることで、猗窩座を前にしても立っていられる。打撃攻撃がローションという潤滑油のおかげで、威力が半減しているのだ。

 

 猗窩座と裏金銀治郎の間には、ローションの糸が引いていた。その糸には、裏金銀治郎の血が混ざり、運命の赤い糸のようだ。これほど見苦しい運命の糸は、他では見れない。

 

「狛治殿!! 素晴らしいな!! まさか、その身にあの攻撃を受けてほぼ無傷とは」

 

 煉獄杏寿郎が賞賛する。彼の目からしても受け流せなかった攻撃をその身に受けているのが分かっていた。だが、あの威力を身に受けて立っているのだ。原理こそ理解できなかったが、その胆力は賞賛するに値した。

 

 裏金銀治郎は、骨や内蔵に痛手を負っている。既に治りかけているとはいえ、初手でこれだけ痛めつけられるなど、上弦の鬼の強さに嫌気がさしていた。

 

「くそ!! なんだ、この液体は!! 取れんぞ」

 

 ローションという商品は、武人である猗窩座に無縁の品。特殊な職場で働く上弦を除けば、ローションを知る機会などあるはずもない。

 

 腕を振るうと液体が地面に飛び散る。そして、自らの足場をユルユルにしていった。だが、それでも完全には拭いきれない。ローションを洗い流すにはお湯が一番であるが、今この場にそんな物はない。

 

 しかも、藤の花の毒でローションに触れた箇所がボロボロになっていく猗窩座。腕を再生させる為、切り落としを考えていたが……そんなスキを見せれば、煉獄杏寿郎が動くと本能で分かっていた。

 

 そのあまりの有用性から、煉獄杏寿郎が懐から取り出したローションを服や体に塗り塗りしている。そして、手に付いたローションを炎の呼吸で蒸発させていた。

 

 その様子を猗窩座は、「ちょっと、ずるくない」といった風に見ている。

 

「煉獄杏寿郎さん、鬼の腕一本を不能にしますから勝ってくださいね」

 

「勿論だ。その呼吸を使える者は、裏――」

 

「猗窩座!!もし、私に勝てたら、剣道場の井戸に毒をいれた生き残りの子孫を教えてやる!!」

 

 裏金銀次郎は、ばれたくない名前を言われる前に大声で叫んだ。

 

 事はすべて計画通りに進んでいる。その一言で猗窩座は、裏金銀次郎を殺せなくなった。なぜなら、猗窩座の怨敵が生き残っている可能性が示唆されたからだ。彼の中で、ぶち殺したい順位が「怨敵 > 裏金銀次郎」となる。

 

 情報を聞き出すまでは殺せない。弱い人間に本気を出せば殺してしまう。

 

「調子にのるな人間!! 破壊殺・乱式」

 

「金の呼吸 陸ノ型 神威縫合」

 

 金の呼吸 陸ノ型 神威縫合……鬼を斬ると同時に切断した神経を別の神経に繋ぐ。鬼はその再生力から、即座に肉体を治そうとする。治る先に別の神経や血管があれば、異常な配線であっても繋ぎ直してしまう。鬼とて、治っている神経を治すことはできない。

 

 上弦の参の攻撃をその身に受けながら、左腕の神経配線を異常にした裏金銀次郎は、この戦いにおいて十分な戦果を出した。

 

「よくやった!! あとは、俺に任せておけ」

 

 と、裏金銀治郎が吹き飛ばされる最中、煉獄杏寿郎が頼もしい言葉をかける。

 

 

◆◆◆

 

  竈門炭治郎の真横を吹き飛ぶような勢いで通過した裏金銀次郎。そのまま、列車にぶつかり崩れ落ちた。

 

 濃厚な血の匂いから、重傷である事は理解する。大人になった竈門炭治郎は、彼が死んだ場合の最悪のシナリオが浮かび上がる。

 

 鬼滅隊の資金調達を担うキーマン、鬼を人間に戻す薬開発にも携わる重要人物。竈門炭治郎の中でも妹を人間に戻すまで(・・・・・・・・・)は、その命の価値は自らより上に置いていた。

 

「伊之助!! 俺を狛治さんのところに連れてってくれ」

 

「お、おぅ分かった!!」

 

 血を吐き、手足が変な方向に曲がっている裏金銀次郎。こんな状態でも呼吸法を維持しているのは、さすが元柱である。

 

「大丈夫ですか!? 狛治さん」

 

「ごっほ!!ごほ。私の意図を汲んで狛治と呼んでくれる。君も、大人になったね。後ね……このぉ、状態で――だ、大丈夫に見えるなら、医師を紹介するよ」

 

 竈門炭治郎は、どこから手を付ければいいか迷っていた。隊士として、多少の怪我なら対処できる教育を受けている。だが、重症ともなれば、何が正しいのか判断できない。下手に動かせば状況が悪化することだってある。

 

「もう、喋らないでください。すぐに助けを」

 

「喉はもう治した。腰につけているケースに注射器が入っている。手が治るまで時間がかかるから、頼んだよ」

 

 竈門炭治郎は、すぐに注射器を取り出した。その中身の赤い液体から漂う匂いが、鬼の物であると理解した。だが、躊躇なく裏金銀次郎へ投与する。鬼肉の存在があったのだから、今更驚く程の事ではなかった。

 

 柱専用の緊急活性薬の効果は、素晴らしい物だ。折れたはずの手足を瞬く間に再生していく。そして、猗窩座によって、粉砕された耳を元通りの形に再生した。その再生能力は、上弦に届かなくても下弦の鬼に匹敵する速度である。

 

「どうなってんだよ!! みるみる傷が治っていきやがる」

 

「この為に用意していた薬だからね。伊之助君、この薬の事は内緒だよ。柱の人達しかもってない秘密の薬だからね。もし、バラしたら君の口を封じないといけない」

 

「お、おう」

 

 勘の良い嘴平伊之助。口にこそ出さなかったが、直感で目の前の男が裏金銀治郎だと理解した。そして、口封じに関しても本気でやると分かってしまった。しかも、世話になった者達含めて、綺麗にサッパリなかった事にされると。

 

「炭治郎君、僅かだが私の刀身に猗窩座の血液が付着している。回収しておいてくれ。私は、傷が癒えたら再度応援に行ってくる」

 

「そんな体で無茶ですって!! いくら、傷が治っても体力が持ちませんよ」

 

「私は、君と約束しただろう。全力で支援すると。あれは、鬼を人間に戻すいい研究材料になる」

 

 竈門炭治郎の嗅覚は、約束を守るため全力を尽くす裏金銀治郎の匂いを嗅ぎ取った。

 

 確かに、裏金銀治郎は竈門炭治郎との約束通り、全力で支援するつもりだ。勿論、自身の目的もある為、利害が一致しているに過ぎない。鬼を人間に戻す薬……すなわち、どんな鬼でも殺せる方法だ。

 

 しかし、竈門炭治郎の眼には、妹の為、そこまで頑張ってくれる男であったと嬉しい勘違いがあった。竈門炭治郎に人を見る目があれば、妹の為ではなく、彼が自分のために動いていた事に気がつけただろう。

 

 人生経験がまだ足りていない証拠だ。

 

「俺!! 裏金さんの事、誤解していました。俺、絶対に強くなって役に立ってみせます」

 

「……あぁ、私は君への支援は惜しまない。期待している」

 

 裏金銀治郎は、いつも以上にやる気に満ちあふれる竈門炭治郎に疑問が生じた。だが、ここは流れに乗るのが得策だと適当に話を合わせる。

 

◆◆◆◆

 

 裏金銀治郎が治癒に専念する最中、煉獄杏寿郎は激戦を繰り広げていた。善戦している。それには、裏金銀治郎が身を挺して腕一本の神経を可笑しくした事が功を成していた。

 

 勿論、腕を切り落として再生させれば完治する。だが、煉獄杏寿郎を前に、そんなスキを作れなかった。

 

「この素晴らしい剣技も失われていく。杏寿郎、悲しくはないのか!!」

 

「誰もがそうだ!! 人間なら!! 当然のことだ!!」

 

 双方の連撃の応酬。ヌチャヌチャと、場にそぐわない音がするが、そんなのが気にならない程だ。――殴っている猗窩座ただ一人を除いて。

 

 煉獄杏寿郎は、ローションの特性と隊服の強度を理解していた。その為、絶妙な回避を行い猗窩座にローションダメージを蓄積していった。上弦の鬼とはいえ、鬼を殺す猛毒を分解するのに多少の手間は掛かる。

 

 攻撃特化と言われる炎の呼吸に、新しい戦法が加わりつつあった。

 

「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎」

 

「破壊殺・乱式」

 

 手加減など一切なしの猗窩座は、片腕であっても煉獄杏寿郎を負傷させた。あばら骨は砕け、内臓を傷つけ、今すぐ治療を受けねば致命傷になる程だ。

 

 煉獄杏寿郎の重傷を目にし、猗窩座は既に勝った気でいた。

 

「どう足掻いても人間では、鬼に勝てない」

 

「それは、驕りが過ぎるぞ!! 人間は鬼になんて負けない」

 

 煉獄杏寿郎は、目の前の鬼を殺す為、緊急活性薬を自らに打ち込んだ。

 

 そう、今こそ100年の負の連鎖を打ち切るチャンスであると理解したのだ。片腕が使えない鬼、日の出が近い、ローション戦術……二度と揃わない好条件だ。だからこそ、例え鬼由来の薬であっても今使わずしてどうすると、決意した。

 

「俺は俺の責務を全うする!! ここにいる者は誰も死なせない!!」

 

「素晴らしい闘気だ…それ程の怪我でぇ!! 貴様、どうして完治している!!」

 

 鬼にも匹敵する回復速度で治った煉獄杏寿郎に驚いていた。

 

 だが、それならそれで構わないと猗窩座も全力で迎え撃つ。寧ろ、弱った状態の敵でなくて幸いだと心を躍らせていた。

 

「炎の呼吸 奥義!! 玖ノ型 煉獄」

 

「破壊殺・滅式」

 

 必殺の一撃が双方を放つ瞬間、笑みを浮かべる男が居た。裏金銀治郎である。

 

血界(けっかい)

 

 その一言で血鬼術が発動し、一瞬だが猗窩座の血鬼術を無効化した。

 

 四方と上下を囲まないと発動できない術だが、この戦いの間に条件が満たされていた。四方には、胡蝶しのぶが血文字が書かれた札を貼り付けていた。そして、地面には彼自身が、空には彼の鎹鴉が札をもって飛んでいる。

 

………

……

 

 二人の技はぶつかり合いドオっと轟音を立てた。砂埃が舞い、二人の様子が分からない。その様子を見ていた誰もが煉獄杏寿郎の無事を祈った。そして、絶対に勝ってくれと。

 

 煙が晴れて現れたのは、脇腹を抉られながらも猗窩座の首に日輪刀を食い込ませる男の姿だった。本来であれば、猗窩座の腕が急所を貫いており絶命五秒前になるはずが、彼は運命に勝ったのだ。

 

「オオオオオオ!!」

 

 ありったけの力で首を切り落としに掛かる煉獄杏寿郎。猗窩座とて、無抵抗に首を落とされるはずもない。動く片腕で煉獄杏寿郎にトドメを刺そうとする。だが、その腕は、届く事はない。煉獄杏寿郎に止められ、膠着状態となる。

 

「狛治さん!! 早く鬼の首を」

 

「その必要はない。切り札とは最後まで取っておくものだ。そうでしょう、恋雪(・・)さん」

 

 今の今まで、存在を隠蔽し続け絶好の機会を狙っていた胡蝶しのぶ。

 

「蟲の呼吸 蜈蚣の舞い 百足蛇腹」

 

 グサと良い音がした。

 

 上弦の弐ですら回避できない速度の突き技。炎柱と膠着状態である猗窩座は、その存在を認識するまでもなく、喉を突かれた。そして、流し込まれる鬼を人間にする毒――。

 

 猗窩座は、すぐに肉体の異変に気がつく。肉体の破損箇所に痛みを覚えてきた。それも、徐々に強くなり、それは耐えがたい苦痛へと変わっていく。

 

「一体俺に何をしたぁぁぁぁ!!」

 

「敵に手の内を教えるはずないでしょう。貴方は、馬鹿ですか?」

 

 傷を完治させた裏金銀治郎。そんな彼から正論を言われ、文句の一つも言ってやりたいが、それは既に叶わない事になっていた。

 

 半ば(・・)人間に戻った猗窩座は、煉獄杏寿郎に首を飛ばされる。そして、日が昇り、猗窩座の死体は崩れ落ちていく。

 

 さりげなく、血を大量に回収する裏金銀治郎。だが、それを咎める者は居なかった。上弦の鬼を撃破という偉業に、誰しもが感動をしている。そう……裏金銀治郎と胡蝶しのぶ以外は。

 

………

……

 

 その後、しばらくして『隠』も到着した。

 

 警察も到着し、裏金銀治郎自ら対応し、賄賂を片手に脱線事故である旨を伝えた。列車の機関部分が真っ二つにされているにも関わらず、脱線事故とは無理もあるが、そこを調整できるのが彼であった。

 

「五体満足で何よりです。煉獄杏寿郎さん、怪我の方はもう宜しいので?」

 

「狛治とは、裏金殿だったのか!! 体の方は、問題ない!! 例の緊急活性薬……役に立ったぞ。後、このローションもな!! むしろ、ローションがなければ死んでいた」

 

 裏金銀治郎は、この時ほど申し訳なかったと感じたことはない。そんな笑顔でローションが入っていた容器を片手に、そんな台詞は聞きたくはなかった。

   




みんな大好き煉獄さん生存ルートだ!!
たまに、ローションに人生を狂わされた人も救われた人も居るはず。
そんな、世界線があっても良いよね^-^







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19:大体、貴方が悪い

いつもありがとうございます!!
みんな、兄貴の生存とローションの組み合わせを喜んで頂けたようで何よりでした(ぇ




 鬼滅隊に届けられた上弦の参の退治報告。それは、お屋形様を筆頭に誰しもが喜んだ。何百年ぶりの快挙である。検査入院している炎柱の許には、現役柱達がお見舞い品をもって続々と足を運んでいた。勢いは、まさに鬼滅隊にあるかのように思われた。

 

 だが、その陰では、裏金銀治郎が青ざめている。

 

 機関車両含めて計9両編成の弁償である。川崎造船が製造した蒸気機関車である為、国内で修理も可能であったのが、不幸中の幸いであった。その為、想像より安い額であったが、それでも鬼滅隊の懐事情では、賄うことは不可能。列車の修理費だけで、鬼滅隊を25年運用するだけの資金である。

 

 これで、鬼滅隊は破産……という訳にはいかなかったので、裏金銀治郎も頑張った。

 

 政財界のVIP達の力添えもあり、列車に関しては強引に保険適用してもらった。そのおかげで、保険会社の者達が何人も首を吊る事になり、鬼と関係ない人達が酷い被害を受けた。おまけに、裏金銀治郎自身も「やり過ぎは困るよ、裏金君。我々でも隠蔽には限度がある」とまでお電話を頂いていた。

 

「銀治郎さん、よく保険なんて適用できましたね」

 

「鬼滅隊は、列車を乗っ取った犯罪者から乗客を守った。そして、最後の抵抗で犯罪者が列車を脱線させて破壊したというストーリーで話は既に纏めてきた。犯罪者という、明確な犯人さえ用意できれば、後は日本の闇に任せればこの通りよ。全て問題ない」

 

 裏金銀治郎の行動は、組織を守る為、仕方が無かった事だ。

 

 好調な胡蝶印のバイアグラとペ○ローションの売上げでは、賄いきれない額だから仕方が無い。鬼滅隊のお財布事情は、裏金銀治郎と胡蝶しのぶの努力もあり、5年は組織を維持できるだけの金を集めていた。列車の弁償分だけで、運用費25年分という途方もない額の捻出など、一組織の努力で何とかなるレベルではないのでお国の力を借りたまでだ。

 

 だが、鬼滅隊としても持てる資産を全て放出した。被害者への治療費や賠償金や線路の整備費用、代理列車の手配費用を支払った。裏金銀治郎が中心となり、『隠』の者達が不眠不休でやったのだ。

 

「銀治郎さん、その事故の犯罪者が本日死刑になったと、この新聞に掲載されていますが、何処が問題ないのでしょうか。お館様は、死者0で大変お喜びになっておりましたよ」

 

列車事故(・・・・)での死者は0であったのだから問題ないだろう。私としても、責任を取ってくれる者達が生きていてくれて嬉しい限りだよ」

 

 社会の常識だが、やった事には責任が伴う。鬼に与して、人殺しに荷担していた連中がやらかしてお咎めなしなど、天が許しても裏金銀治郎は許さない。どうせ、死ぬ人間なのだから、そいつらの身に覚えのある罪を一つ二つ付けてやっても問題にすらならない。

 

「私だって、列車事故で責任を負ってくれる者達が生きていてくれて喜んでいますよ。それに、安心してください。鬼の事が漏れないように、警察や看守、裁判官にも根回しは、完璧です。今頃、不審火で裁判記録が灰になっている頃です」

 

「確かに、彼等は許されない事をしたかもしれません。ですが、やり過ぎではありませんか? お館様に相談したなら、もっと良い案がでるかもしれませんよ」

 

「ありませんよ。お館様も彼等に司法の裁きを受けさせる事は、承知済みです。そもそも、彼等は隊士を殺した殺人犯です。元より死刑にされる身でありました。ならば、最後に鬼滅隊の役に立って貰ったんです。彼等としても、最後くらい人の役に立てて幸せだったでしょう」

 

 裏金銀治郎は、お館様に確認した。鬼に荷担し隊士達を何人も殺した者達を救って破産するか、絶好調の鬼滅隊を取るか、二つの道を選んで貰ったのだ。勿論、双方のメリットデメリットを纏めてわかりやすく説明をしてきた。

 

 当然、前者になどメリットはない。組織のトップとして、どうすべきかは決まっていた。

 

「世知辛い世の中ですね。納得は、まだできませんが、理解はしました」

 

「それだけで十分です。ため込んだ資金も使い果たし、0からのスタートとなりましたが……アンブレラ・コーポレーションがあるだけマシですよ」

 

 フロント企業の存在がなければ、詰んでいる。鬼滅隊の生命線を握る二人の価値は、お館様の中で跡目の息子に次ぐ物へと格上げされていた。

 

 鬼滅隊は、鬼を狩るごとにお金が減るとは誠に不思議な組織である。お金を払って鬼退治をしていると言える。現代で言えば、金を払って仕事をしているなど、全くもって理解の外にある事象だ。

 

 そんな理不尽を物ともせず働く二人は企業戦士に相応しいだろう。

 

「なんで、こうも苦難が続くんでしょう。流石にもう、何も起こりませんよね?」

 

「――吉原あたりで、大暴れする人達がどれだけ被害を出すか次第かな。あそこは、権力者達もうるさいだろうし、責任取らされるよな~」

 

 胡蝶しのぶは、耳を疑った。

 

 彼女も女である。吉原がどういう場所なのかは当然知っている。大暴れして責任とは、一体何なのか。そもそも、責任なら取るべき相手が近くにいるんじゃありませんかと思っていた。

 

「吉原? はぁ!? なんで、今、吉原の話なんて出てくるんです?」

 

「そりゃ、宇髄天元さんの奥様達が上弦の鬼が潜んでいる可能性があるとかで、現地調査を行っているからです。もしかしたら、格上げされた上弦の伍が、花魁なんてやっていたりするかもしれませんよ」

 

 裏金銀治郎は、事実しか伝えていない。だが、胡蝶しのぶは、彼から吉原の話を聞くとなぜかムカムカしていた。思わず足先を踏みつけてしまうほどに。

 

「なんで、鬼が花魁なんてやっているんですか」

 

「そりゃ、鬼側もお金がないと暮らせないですからね。部下を遊郭で働かせて、その金で悠々自適な生活をしている鬼舞辻無惨が居ても不思議じゃありませんよ」

 

 胡蝶しのぶの視線が更に冷たい物へと変わっていく。裏金銀治郎の言葉を信じたい。だけど、流石にあり得ないという気持ちが大きかった。それを口にしている裏金銀治郎ですら、信じられないかも知れないがと枕詞を付けたくなるほどだ。

 

「仮に事実だとして。女性に体を売らせた金で自分は好きなことをするとか、最低のクズですね」

 

「本当ですよね。お館様と同じ一族(・・・・・・・・)出身とはとても思えませんよね」

 

 胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の胸元を掴みに掛かった。そして、ソファーに押し倒す。端から見たら色々とマズイ体勢だ。

 

「ぎ~ん~じ~ろ~さ~ん。前々から言っていますよね。会話の各所に爆弾情報を埋め込まないでくださいって。今の私の気持ち分かりますか? お館様にこれから会う時、どんな顔をすればいいんですか?」

 

「何時も通り、その綺麗な顔のままでいいんじゃありませんか。――今日は、お化粧されていますね。いつにもまして綺麗ですよ」

 

 顔が近い事もあり、化粧に気がつくとはできる男である裏金銀治郎。

 

「当然です。私は、いつも綺麗なんですよ。で、本題はそっちじゃありません!! 同じ一族ってどういう事ですか?」

 

「難しい事では、ありません。鬼舞辻無惨は、産屋敷家に繋がる平安の貴族の出身です。病弱であった彼は20歳まで生存できないと言われ、当時の医師が作った試験的な薬を服用し鬼になりました。まぁ、そんな経緯です」

 

 胡蝶しのぶは、掴んだ胸元を力一杯前後に振る。存外痛いなと思いつつも、裏金銀治郎は甘んじて受けた。自分に何かあった際に、全てを引き継げるのは彼女しかいない。だから、少しずつ真実を渡しているのだ。

 

 そんな二人の状況を気にする事も無く扉が大きく開いた。

 

 扉を開けた人物は、今現在話題沸騰中の音柱の宇髄天元である。宇髄天元は、給料を受け取る際に近状報告と嫁達の任務状況を丁寧に報告してくれる希有な人材である。その為、裏金銀治郎も彼と奥様達にも、配慮を欠かさない。給与面しかり、装備面しかりと。

 

「おう!! 今月の給料を貰いに来てやったぜぇぇ……」

 

 そんな、まめな性格の宇髄天元だが裏金銀治郎と胡蝶しのぶを見て、理解した。忍者とは空気すら読める。

 

「宇髄天元さん、今は手が離せないので私の机の引き出し……右上にある封筒をもっていってください。奥様達にもよろしくお伝えください。それと、ローションの使い心地は、どうでしたか?」

 

「最高だったぜ!! それと、間が悪くてすまんかったな。今度、埋め合わせはするからな」

 

 噂は、本当だったと忍者は情報の精度を上げた。できる男である宇髄天元は、そのまま華麗に部屋を退出しようとする。

 

「ちょっと待って!! なんで、私の事に触れないで華麗にスルーして部屋を退出しようとするんですか。ちゃんと、銀治郎さん(・・・・・)と、この状況になった訳を説明しますから」

 

しのぶさん(・・・・・)、説明できるんですか?」

 

 お館様が実は、鬼滅隊の最終討伐目標である鬼舞辻無惨と同族なんです。流石に、真実をバラすのは早すぎる。時と場所を選ばなければ、組織が空中分解する可能性もある。

 

 上弦の鬼が遊郭で体を売って日銭を稼いでいる事だって同じである。花魁をしているとか、なぜ現在情報収集をしている音柱達より詳しいのか、納得のいく説明ができるはずもない。

 

「――大体、貴方が悪い」

 

「分かった、分かった。裏金さんよ、嫁が三人もいる俺からの有り難いアドバイスだ。女は怒らすとこえーーからな。最低限、ドアに鍵くらい閉めとけよ」

 

 そんな台詞を残してスタイリッシュに部屋を退出して行った。

 

 その後も、胡蝶しのぶは、「どうしてくれるんですか!! あの人、忍者の癖して口が軽いんですよ」と、裏金銀治郎を責め立てる。その声は、扉を閉めた部屋の外まで漏れていた。

 

 

◆◆◆

 

 無限列車での怪我が原因で主人公一同は、蝶屋敷に再入院していた。その一行で我妻善逸だけは、蝶屋敷で個室を与えられている。大部屋では、色々と不健全でと判断され、特別な計らいがされていた。

 

「喜べ善逸君。約束の二人目を連れてきた」

 

「月村すずかです。不束者ですが、よろしくお願い致します」

 

 月村すずか……保険会社を営む一族の者であったが、不幸な列車事故の一件で、首が回らなくなり娘が売りに出されたのだ。そこを、救いの手を差し伸べたのが裏金銀治郎である。

 

 教養があり、容姿も整っている彼女は、汚い大人達のオモチャにされる予定だった。そこを聖人の心をもって救ったのが裏金銀治郎だ。彼としても、実に良い拾い物をしたと思っている。

 

 シルヴィのような境遇でなかったため、善逸への無償の愛はすぐには難しいだろう。だが、自らの境遇を理解し、相手を愛そうとする心を持つのが月村すずかである。

 

「す、すげぇぇぇ!! 裏金さん!! まじ、こんな可愛い子が本当にお嫁さんになってくれるの?」

 

「あぁ、善逸君。愛とは与えられるばかりではダメだ。シルヴィを基準に考えてはダメだぞ。シルヴィは、ゲームで言えばイージーモードだ。月村すずかは、ノーマルモードだ。今の君ならそこら辺も機敏に対応できるだろう。私は、君に期待しているのだよ」

 

 当然、そんなモードではない。強いて言えば、サキュバスモードが相応しいだろう。黄色い太陽を拝む日は、遠くない。

 

 我妻善逸が二人目を娶った情報は、上弦の鬼撃破の報告と同等の速度で男隊士達へと伝わった。

 

………

……

 

 鬼滅隊の隊士の中で、一番殺したい男に堂々トップを飾る我妻善逸。隊士同士の殺し合いが御法度でなければ、早々に殺されていたに違いない。

 

 ある雷の呼吸の継承権を持つ隊士曰く……鬼舞辻無惨より我妻善逸を殺したいと口にする者まで現れるほどだった。

  




月村すずか が誰だって?Google先生で検索してトップに出てくるキャラです。
それ以上の質問は受け付けません。

吉原行く前に、もうちょっと話を挟みます。
胡蝶カナエとの昔話とお弁当編を@@


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20:鬼と仲良く

いつもありがとうございます。

感想を本当に楽しく読ませて頂いております。
執筆意欲がわきまくりです!!

夜の一族が大人気過ぎて、仲間がたくさんいて嬉しい限りです。
でも、ネタ出演なのであしからず^-^






 

 蝶屋敷の台所に、普段いない人物が居た。胡蝶しのぶ、その人である。

 

 普段忙しくて料理する時間すら取れない彼女が、今回ばかりは違っていた。ブランクが有り、感覚を取り戻すために努力している。彼女は、決して料理の腕が低いわけではない。料理なんて、レシピ通りに作れば良いという理系である。

 

 鬼気迫るような彼女の料理への姿勢は、胡蝶家の食卓にも影響が出していた。

 

「どうですかカナヲ、ひなき。新しいレシピを試してみたのですが……」

 

「美味しいです、胡蝶様」

 

「少し、味付けが濃い気がしますが美味しいです。お母様」

 

 食卓には、肉がメインの料理が並べられていた。胡蝶しのぶが食事当番である時は、野菜や魚メインの食事だというのに、ここ一週間ほどずっと当番を引き受け、肉料理が出され続けていた。

 

 いい加減、肉料理以外を食べたい彼女達であったが、嬉しそうに料理をする胡蝶しのぶを邪魔する事はできなかった。

 

 この時、産屋敷ひなき改め胡蝶ひなきは、父親から言い渡された使命を全うする。裏金銀治郎は、鬼滅隊に必要な人材だ。決して逃がしてはならない。だが、それと同時に上弦の鬼を撃破し、勢いがある鬼滅隊も維持しないといけない。

 

 ヤれば、できる!! と、いう言葉があるように、この状況で最高戦力である柱が戦力外通告を受けるのを避けないといけない。つまり――

 

「お母様、避妊はしてくださいね」

 

 まさか、食事の場でそんな話題が出てくるとは思わず、暖かい食卓が一転して南極のような凍りつく風が吹く。

 

「ひなき、時と場所は考えて発言しないとダメですよ。それに、どうしてそんな発想に?」

 

「あまねお母様が言っておりました、女が急に料理を始めるときは男の影があると。大丈夫です、あの人がお父様なら構いません」

 

 あの人とは誰のことか、栗花落カナヲ以外は分かっていた。

 

「胡蝶様は結婚なんてしない!! ずっと、蝶屋敷で一緒に暮らすんです」

 

 さらりと、胡蝶しのぶを生涯独身であると宣言する継子がいる。女の幸せを平然と潰そうとする可愛いが、可愛くない継子がこの場に誕生した。

 

………

……

 

 裏金銀治郎の執務室で、胡蝶しのぶが先日の食卓での大事件を話していた。

 

「お子さんが二人も居ると大変ですね。どうですか、母親の気分は?」

 

「だ、誰のせいだと思っているんですか!! 分かっていますか、あ・な・た ですよ!!」

 

 そんな可愛い胡蝶しのぶを虐めたくなるのは男の性だ。

 

 勿論、彼女自身も裏金銀治郎が、本気でそんなことを言っていないのは分かっていた。ただの言葉遊びであると。裏金銀治郎との会話は疲れるが、彼女は嫌いではなかった。それは、裏金銀治郎が柱や胡蝶カナエの妹といった立場を見ずに、彼女だけを真摯に見ていたからだ。

 

「分かっていますよ。だから、責任を取りましょうか」

 

 裏金銀治郎は、席を立ち上がりソファーに座る胡蝶しのぶに詰め寄る。先日、音柱が来た時と同じだが、今回は立場が逆だ。一歩間違えば、セクハラで裏金銀治郎は懲戒免職へ。

 

「えっ!! ちょ、ちょっと、銀治郎さん。マズイですよ!!」

 

「大丈夫です。ちゃんと、鍵は閉めてますから―――困った顔も素敵ですよ。しのぶさん」

 

 顔を近づけて、そっと耳元で囁く裏金銀治郎。普段、胡蝶しのぶのお家芸である耳元でささやくをお返ししたのだ。だが、女性から男性にやる場合は許されるが、その逆は許されない事は沢山ある。

 

 顔を真っ赤にする胡蝶しのぶ。神速の抜刀術により、裏金銀治郎の前髪がスッパリ切り落とされた。上弦の参というG級モンスターから採取した血液を投与していなければ、半歩後ろに下がるのが遅れて、今頃は額が割かれていた。

 

「銀治郎さん、乙女心を弄ぶと殺しますよ。どうせ、一度や二度心臓をさしても死なないんでしょう。だったら、私の気の済むまで切り刻んでもいいんですよ」

 

「すみません、私が悪かったです。ほら、そろそろお昼の時間なので、一緒に食事でもどうですか? 今日は、しのぶさんの為に、私が腕によりを掛けて作ってきました」

 

 お昼時もあり、胡蝶しのぶも怒りを収めた。

 

 そして、予てより約束していたお弁当の交換会が始まったのだ。

 

「いいでしょう。言っておきますが、私のお弁当も力作ですよ。今日この日をもって姉の味を超えて見せます。ですが、約束を覚えていますよね?」

 

 姉の味を超えなければ、姉の料理を思い出す度に男の影がうつる。だからこそ、超える必要があった。母の味を本当に母の味にする為に!!

 

「勿論です。胡蝶カナエさんと、箱根に鬼退治にいった件ですよね」

 

「そう、それです!! そもそも、姉さんは強かったのに、銀治郎さんもその場に居た理由がわかりません」

 

 当時、実力的に同じ柱であっても裏金銀治郎と胡蝶カナエでは、100回闘っても胡蝶カナエが全て勝利する。それほど、確実な差があった。

 

「それは、同じ志を持つ同士として、胡蝶カナエさんに呼ばれたんです。鬼と仲良く(意味深)したいなんて、鬼滅隊の中でも異端でした。それについて、お話したいと言われてノコノコと付いて行ったのが私です」

 

「――仲良くですか? 確かに、姉さんは、鬼と仲良くしたいと言っていました。本当ですか? ただ、美人な姉さんに近づきたかっただけとか、邪な気持ちがあったんじゃないですか?」

 

 胡蝶カナエは、鬼滅隊の中で1位2位を争うレベルの美女であった。男なら誰だって、誘われたらホイホイ付いていく。仕事に誠実な裏金銀治郎は、違った。今現在も、鋼の心で胡蝶しのぶを押し倒さない男だ。一時の感情に身を任せると滅びが待っていることを彼は知っている。

 

「しのぶさん、私を見くびらないで頂きたい。どこぞの先代炎柱とは違います。酒に酔った勢いで彼女をお持ち帰りしようとした人と比べないで欲しい。私は、それを殴って止めて柱から資産運用係に左遷された人材です。邪な気持ちなんて、ありません。ただ、辛そうな彼女を――」

 

「まって!! 今、おかしな話が紛れ込みませんでしたか!! 絶対、わざと挟んでいますよね」

 

 鬼滅隊でも一部の者しか知らない真実。

 

 だが、結果的に先代炎柱の行動は、鬼滅隊にとって利益となった。柱として、前線で働くより、現役引退し後衛に回された彼の働きは、並の柱の比ではない。

 

「話を戻しますね。で、箱根に潜む鬼ですが……どうにも、山奥の秘湯に現れるとの事で大変でした。しかも、女性が入浴しているときにだけ現れる鬼とかで」

 

「あの、銀治郎さん。そんな変態な鬼がいるはずないでしょ!! 」

 

「そんな鬼なんて、序の口です。鬼舞辻無惨なんて、強引に呼び集めた下弦の鬼達を目の前に女装して現れてパワハラ面接を始める程ですよ。それに比べたら、入浴中の女性を襲う鬼の方がまだ健全です」

 

 真実しか告げていない裏金銀治郎。

 

 だが、毎度のことだが、胡蝶しのぶの絶対零度の疑いの眼差しが降り注ぐ。当然、胡蝶しのぶのご機嫌はドンドン悪くなっていく。胡蝶しのぶの中で姉は完璧な存在であった。貴方のような人は姉には相応しくない。だから、私ぐらいで我慢しておきなさいと……心のどこかでそんな思いが燻っていた。

 

「いい加減に嘘をつくのは止めましょうよ。姉さんの風呂を覗いたんでしょ? そう言いましょうよ。今なら、指一本詰めたら許して上げます」

 

「私は、しのぶさんには嘘はつきません。お風呂は、覗いていませんよ。入浴中にしか現れない鬼でしたので、鬼が来た際に色々と見たのだけは認めますが―」

 

 胡蝶しのぶがニッコリとほほえみ。

 

 彼女は指に力を溜めて、全力のデコピンを放った。その破壊力は、カボチャの堅い皮を吹き飛ばし中身を抉る威力がある。そんな、殺人的な威力をその身に受けた裏金銀治郎は悶え苦しんだ。

 

「ぐあああぁぁ。ひ、酷い。正直に申告したら、この仕打ち。私が一体何をしたって言うんですか?」

 

「結局は、姉さんの裸を見た事実は、変わらないじゃないですか!! 嫁入り前の乙女の肌は、安くないんですよ」

 

 ムカムカが止まらない胡蝶しのぶ。大好きな姉の話だというのに、この男は!! という感情しかわかなかった。だが、完全に裏金銀治郎は冤罪だ。そもそも、箱根での鬼退治ネタという時点でこのような王道展開は、当たり前である。それを責められる彼の方が可哀そうだ。

 

「えぇ、その後、箱根で豪遊した費用は全部私持ちでしたよ。ほら、胡蝶さんの部屋にあった金魚鉢……イイ値段すると思いませんか?」

 

「も、もしかして、あの時ですか!! でも、姉さんが、現地の人がお土産を沢山くれたって」

 

「えぇ、その現地の人が私ですね。一緒に、箱根に居ましたからね。良い仕立屋で着物まで買わされました。しばらく、米と塩だけの生活でした」

 

 明かされる衝撃の真実。姉からの思い出のプレゼントにそんな過去があったとは、考えたこともなかった。むしろ、知りたくなかった。話を聞けば聞くほど、泥沼にハマるような裏金銀治郎との会話。

 

「銀治郎さん――ご飯にしましょう。箱根の件は、大体分かりました。財布に打撃を受けたと言う事で一応許して上げます。それにしても、過去は人間関係、今は金銭問題と鬼滅隊、大丈夫なんですか?」

 

「少なくとも、しのぶさんが居なければ即死でした。じゃあ、約束通り、コレが私が作ってきたお弁当です。お弁当の中身を確認したら、一応じゃなくて絶対許してくれる気持ちになりますよ」

 

 二人がお弁当を交換する。

 

 胡蝶しのぶが用意したのは、男性が好きなのり弁に唐揚げが入っており、男が好きなお弁当を体現化した物であった。茶色一色のお弁当だ。

 

 裏金銀治郎が、用意したお弁当を開けた胡蝶しのぶ。その中身を見て、動きが止まった。お弁当を凝視している。そして、まるで理解ができないと言った雰囲気が感じ取れるほどだった。

 

「銀治郎さん……どう反応すればよいか困ります。ですが、温泉の件は、許して上げます」

 

「デフォルメ化した胡蝶カナエさんを再現するのは、苦労しました。ですが、喜んでくれて何よりです」

 

 用意されたお弁当は、未来で大流行するキャラ弁であった。そこには、胡蝶カナエが『よく頑張りました、貴方は私の誇りです。後、銀治郎さんを許してあげてね。お姉ちゃんからのお願いです』と台詞まで付けており、手の込みようが尋常じゃない。

 

 海苔を使ってここまで精巧に再現するあたり、才能の無駄遣いであった。

 

「すこし、食べるのが勿体ないですね」

 

「早起きして作ったので、食べてください。好物の生姜の佃煮も力作ですよ」

 

 一度も教えた事がない好物を何故知っているかという疑問に尽きなかった胡蝶しのぶだが。裏金銀治郎だから仕方がないとあきらめの境地に達していた。

 

 その夜、男物のお弁当箱を洗う胡蝶しのぶを見つめる栗花落カナヲ。日輪刀を片手に、そのお弁当箱の持ち主を夜な夜な探す姿が目撃された。

 




さて、そろそろ 吉原編ですよね。
兄貴の方は、要りませんが……妹の方は若干欲しいなorz



音柱「俺は神だ」

善逸「はぁ!? 神は、裏金さんでしょ。アンタに、シルヴィちゃんやすずかちゃんみたいな天使を俺の嫁にできるの?」



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21:リーサルウェポン

日次投稿ができず、落としてしまい申し訳ありませんorz
どうしても執筆時間がとれなく許してクレメンス。

そして、運営からクロスオーバーいれろと怒られてしまったorz





 蝶屋敷では、主人公一同が煉獄杏寿郎から鍛錬を受けている。同じ入院患者として、体が鈍らないようにと、実に有り難いものであった。だが、そんな主人公達がドンドン強くなる最中、裏金銀治郎の前に各方面から金の無心がされていた。

 

 無限列車のせいで、鬼滅隊の財政状況は極めて悪い。だが、それを知る者達は僅かである。つまりは、平常運転で領収書や請求書が集まってくるという誰もが逃げ出したくなる職場だ。

 

 鬼滅隊の金庫番として、裏金銀治郎は金策アイディアを提案し、認可を取るため産屋敷耀哉と面談していた。産屋敷耀哉も組織のトップとして、裏金銀治郎からの報告を確認しており、そろそろ来る頃だと思っていた。

 

 産屋敷耀哉の体調は日に日に悪くなっており、現時点で半ば寝たきりである。そんな病人に対しても、容赦なく現実を突きつける男は仕事に誠実な裏金銀治郎だからできる事だ。

 

「お加減は宜しくないようですね、お館様。ですが、鬼滅隊の為、新たな金策アイディアをもって参りました」

 

「銀治郎には、何時も苦労をかけるね。今度は、どんなアイディアなんだい」

 

 産屋敷耀哉は、自らの勘で裏金銀治郎という男を見つけ、鬼滅隊に加入させた事を密かに自慢に思っていた。産屋敷家は、幾度もあった苦難を勘で乗り切ってきた。

 

 例えば、日輪刀の材料となる鉱石を見つけた勘、鬼に見つからない土地を当てる勘、嫁さんの排卵日を当てる勘など、様々だ。今代は、その中でも人材を見つける勘が極めて冴えていたと言える。

 

「いくつか空里を取り壊して、アンブレラ・コーポレーションの工場を建設しましょう。今の時代、人の出入りがある以上、完全な隠蔽は不可能です。なにより、維持経費も馬鹿になりません。土地の有効利用をすべきです」

 

「わかった。空里の選定は、任せよう。それで、何の工場を建てるんだい?」

 

 裏金銀治郎は、空里というシステムも必要性も理解している。だが、そんな予算はないのが現実だ。今後、刀鍛冶の里が襲撃されるのを知っているから、一つは残しておくべきだとも分かっており、それが彼にとっての妥協点であった。

 

 なにより裏金銀治郎が気にくわなかったのが、刀鍛冶の里の連中からの金の無心だ。空里の用意も里の連中からの依頼で幾つも建築された。援助金を貰って、空里まで用意させられ、維持管理費も出さされるとは、笑い話にもならない。

 

「ペ○ローションと新商品のコン○ームの大生産拠点にする予定です。これで、鬼滅隊の資金繰りも改善する見込みがございます。鬼滅隊は、人々の()活を守る為、尽力すべきです。それが、鬼を全滅させる近道です」

 

 鬼滅隊は、裏で鬼を斬る。一般人は、鬼をヌルヌルにして殺す……または、突いて殺す。鬼を狩る人手不足すら、解消してしまう有能な提案であった。こんなマネができる男は、この時代に二人と居ない。

 

「期待しているよ銀治郎。そして、私に何かあったときは、輝利哉の事を頼んだよ」

 

 裏金銀治郎は、危うく「お任せください」と言うところであった。産屋敷耀哉の無駄に人の心を和ませる声色は、こういう場面にこそ使われるべきである。

 

 認可がされたと同時に息子を頼むとか平然と会話に混ぜてくるやり方。まさに、裏金銀治郎がいつも胡蝶しのぶにやっている手である。

 

「何度もお伝えしておりますが、イヤでございます。ご子息の事でしたら、他の柱にご依頼ください。お館様のお体の事は理解しております。ですが、それとこれとは別の事です」

 

「残念だ。気が変わったらいつでも言ってくれ」

 

 裏金銀治郎は、お館様に会釈して退室した。

 

 そして、人々の()活を守る戦いが始まりを告げる。日本中の男達は、もはや蝶屋敷……いいや、胡蝶しのぶが居る方角に足を向けて寝れない。遠い未来、NHK特番「その時、時代がうごいた」が組まれる数で誰にも抜かれない記録を誇るのが彼女である。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎の執務室に、胡蝶しのぶがソファーに深々と座り寛いでいる。しかも、部屋にあった輸入品の珈琲豆を勝手に使うあたり、既に持ち主と同じくらい部屋の構造を知り尽くしていた。

 

 その対面には、裏金銀治郎も座っている。

 

「それで、銀治郎さん。いつになったら、姉さんの仇の情報を教えてくれるんですか?」

 

「聞いても、直ぐに飛び出していかないとお約束頂けるのでしたら、いつでも」

 

 裏金銀治郎は、当然約束を守るつもりでいる。だが、情報を聞いた瞬間に、飛び出す未来が見えたから、胡蝶しのぶから急かされるまで黙っていた。

 

「――もしかして、近くに居るんですか!?」

 

「まぁ、現在地は把握しております。ですが、しのぶさんが特攻しても無駄死にします。準備が整うまで大人しく待って頂きたい」

 

 胡蝶しのぶは、怒っていた。

 

 それも当然だ。胡蝶カナエとも面識があり、自らが鬼滅隊に居る理由が復讐だと知っている男が、姉の仇について一切の情報を鬼滅隊にすら提供していない。しかも、その仇が今どこに居るかも把握しているとなれば、誰だって怒る。

 

 彼女からしてみれば、上弦の参を特に苦労せず完封できており、上弦の弐である鬼を相手にしても負けることは無いと思っていた。勿論、それには裏金銀治郎というキーマンが必要なのも事実である。

 

「上弦の弐を殺す時は、銀治郎さんも惜しみない協力を期待して宜しいのですよね?」

 

「約束します。ですから、しのぶさんも無茶しないでください。しのぶさんが死んだら、私が仇を取るとか期待しては駄目です。しのぶさんが居ない鬼滅隊なら、国外に逃げ込んで天寿を全うするまで隠れ住みます」

 

 鬼滅隊を見限る事を何とも思わない裏金銀治郎。ここまで清々しい男は、鬼滅隊でも殆どいない。

 

「約束と違うと言いたいですが……分かりました。まず、姉さんの仇と言っていた上弦の弐の素性を教えてください」

 

「名を童磨といいます。風貌は、胡蝶カナエさんがしのぶさんに伝えた通りですよ。頭から血を被ったような文様の髪に、洋風の着物を着た青年の鬼。虹色の瞳が特徴的です。後は、扇子を武器にしています」

 

 胡蝶しのぶとしては、姉が亡くなる際に自分だけに伝えた事をなぜ知っているのかと疑問に思っていた。だが、知っているだろうとも思っていた。それほどまでに、謎が多い男のポジションにいるのが裏金銀治郎である。

 

 いつも集○社情報と伝えているのだが、全く信じて貰えないのは裏金銀治郎の人徳のなさである。

 

「本当に!! 色々と物知りなんですね!! 私以外なら、情報を無理矢理吐かされて殺されている可能性もありますよ」

 

「何時も言っているじゃないですか、しのぶさんだから教えているんですって。それに、私は殺されるくらいなら逃げますよ」

 

 胡蝶しのぶのコーヒーカップが空になった。そして、何も言わずに新しい珈琲を注ぐ事ができる男が、そこに一人いる。砂糖とミルクまでいれて、渡す所まで完璧な動作である。

 

「それで、素性の続きです。童磨は、新興宗教「万世極楽教」の教祖をしています。本当に、上弦の鬼はおかしな連中ばかりです。吉原の花魁、ツボを作る芸術家、臆病者、脳筋、教祖、呼吸の使い手とか。そのうち、琵琶を弾く女とか誰かの兄弟子とか加わる未来もあるかもしれません」

 

「……その名前の新興宗教なら耳にしたことがあります。なるほど、あそこの教祖が鬼でしたか」

 

 裏金銀治郎が聞いてもいない、他の上弦の情報を公開したがスルーする彼女。良い具合に成長している。その位のスルー力がなければ、若白髪になってしまうだろう。

 

「では、私が無駄死にするといった理由は?」

 

「しのぶさんの毒では、殺しきれないからです。上弦の鬼ともなれば、毒への耐性は神がかっています。耐性もついて、効果も薄れてしまう。最後には、鬼の餌食になります」

 

「でしたら、例の鬼を人間に戻す薬を使えば良いだけじゃありませんか」

 

「……やっぱり、そこに気がつきます? 正直、その通りです。上弦の参相手に、一定以上の効果がありました。その改良版ともなれば、上弦の弐相手でも効果はあるでしょう」

 

 薬の開発者ともなれば、当然行き着く結論であった。裏金銀治郎もそれを切り札の一つ(・・)としている。鬼舞辻無惨を除けば、その方法で殺せない鬼は存在しない。

 

「ならば、簡単じゃないですか。銀治郎さんの血鬼術_血界(けっかい)で相手の血鬼術を封じて、私が相手に毒を与える。毒が効いている間に首を落とせば良いだけです」

 

「問題は、その血鬼術です。上弦の弐の血鬼術は、恐らく全鬼でも最強です。私の血鬼術のキャパを超えています。冷気を操る血鬼術で、肺を壊死させたり、自動攻撃する氷、広範囲の凍結攻撃。なにより恐ろしいのが、本体と同等の戦闘力を持つ分身を複数体つくれる事です。場合によっては、薬品が凍結して薬の役目を果たさない可能性もあります」

 

 まさに、上弦の弐だけで、鬼滅隊を壊滅させられる強さを誇っている。チートオブチートだ。

 

「なんですか、それ。卑怯じゃありませんか。ですが、手はあります」

 

 胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の手助けがなくても殺す算段は考えていた。だが、胡蝶しのぶの身を案じる男としては、許しがたい行動であった。

 

「鬼に喰われる事を前提に自爆など、不確定要素が多いのでお勧めしませんよ」

 

 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をする胡蝶しのぶ。なぜ、誰にも言っていない秘策がバレたのかと。

 

 だが、それならそれで彼女は勝ち筋が明るくなったと思っていた。裏金銀治郎がその手を既に考慮していたなら、それを上回る手段を用意していると践んだのだ。鬼を殺す事に関しては、柱の誰よりもやり手である男だと信頼している証拠である。

 

 否定するなら代案はあるべきだ。それは、社会人として当然である。

 

「分かりました。銀治郎さん、それでは上弦の弐を殺す方法を教えてください」

 

「数に限りが有るので絶対に無くさないでくださいよ」

 

 裏金銀治郎は、何の変哲も無い刀を一本テーブルの上に置いた。それは、日輪刀ではない。だが、鬼に対して絶対的な武器となる。

 

「普通の刀に見えますが……これがなにか?」

 

「しのぶさんは、日輪刀の材料をご存じですよね? 陽光山という一年中陽が差している山から取れた鉱石。……世の中には、太陽の光が更に当たる場所が有るんですよ。それも、地上とは比にならない程にね」

 

「えーーと、つまり、どういう事ですか?」

 

「隕鉄で作られた刀……流星刀です。既に、何匹かの鬼で試しましたが、凄まじいですよ」

 

 知識人である胡蝶しのぶは理解した。

 

 日本でも希少で数に限りがある品物で、裏金銀治郎の伝手でも集められたのは数本だけだった。そんな希少な一本を胡蝶しのぶに惜しみなく渡す。

 

「銀治郎さん、そんな素敵な刀をお持ちだったのに、誰にも内緒にしていたなんて罪な男ですよ。すこし、施設の下弦相手に試し切りしてもよろしいですか?」

 

「えぇ、私も試しました。その刀と()のしのぶさんの力なら、上弦の鬼相手でも首を落とせます」

 

 刀の刀身を眺めて、素敵な笑顔になる胡蝶しのぶ。その笑みは、ぞくりと背筋が凍る程冷たく、美しい物だった。

 

 下弦が切れれば、上弦はどうなのかと気になるのは人の性である。都合の良いことに、政財界のVIP達が大好きな吉原……そこの被害を最小限に抑える必要がある。煮ても焼いても美味しい、更には斬っても楽しい鬼退治の時間が始まる。

 




***************大正コソコソなんとか!!***********
竈門炭治郎「善逸、禰豆子が何処にいるか知らない?」

我妻善逸「禰豆子ちゃんなら、シルヴィちゃんとすずかちゃんと遊んでるよ。なんでも、夜の呼吸法を教えるとかで」

竈門炭治郎は、底知れぬ恐怖を感じてしまった。
*********************************************
↑こんな感じ原作一行についても、少し触れようかなと。







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22:男の()

投稿速度が維持できなくてごめんなさい!!

誤字脱字もそして許してクレメンス…がんばるねん。




 無限城――血鬼術で作られた異空間。

 

 上弦の弐が血鬼術での戦闘能力がトップならば、異空間を作る鳴女の血鬼術は、汎用性でトップである。その能力は、わかりやすく言えば「どこでもドア」と「四次元ポケット」を組み合わせたような能力だ。

 

 その空間に、今上弦達が集められていた。

 

 集められた上弦の誰もが思った。これから、下弦の鬼達に行われた恐ろしい面接が始まるのだと。上弦の鬼達も下弦の鬼達が、唐突に戦力外通告を受けて、リアル頸にされたのを知っていた。

 

 今まで汗水垂らして会社に勤めたら、集合を掛けられ頸にされるとか血も涙もない。鬼かと言いたくなるが……上司はリアル鬼であった。

 

 ベベンという琵琶の音が響く。

 

 そして、現れる和服女装をした変態――その名は、鬼の中の鬼である鬼舞辻無惨であった。精巧な擬態能力があるにせよワザワザ女に変わるあたり、未来を先取った男である。男の娘とか、まさに鬼舞辻無惨が元祖であった。

 

 しかし、その擬態能力を活かし切れていないのは、鬼から奪った能力だからである。能力を奪う前に、持ち主から使い方を伝授して貰わなかったのが、この結果である。所詮は奪い取った力であるとよく分かる例だ。

 

 そして、未来を先取った男の娘を見せられた上弦の鬼達も伊達ではなかった。変態だと大声で叫びたいのも我慢し、空気を読み即座に土下座!! プライドの高い鬼達ではあったが、鬼舞辻無惨から放たれる不機嫌オーラから命と天秤に掛けたのだ。

 

「ほほぅ、流石は上弦だ。即座に頭を垂れるあたり下弦とはデキが違う」

 

 だが、その内心で鬼舞辻無惨は全くそんな事を思っていない。口だけである。

 

 その様子に上弦達の心が一つになった「誰か、あの格好について突っ込め」と。しかし、その事を鬼舞辻無惨が読むことはできない。

 

 当然、彼等とて、上司とは長い付き合い。視界に映る範囲に居れば心が読めることなど知っている。上弦の鬼になって、まず覚えることは……いかにして、思考と心を分離するかだ。

 

 それができなければ、上弦としてやっていけない。事実、上弦のメンバー補充があるときは、上司の機嫌を取り損ねた愚か者がいる時が常だ。

 

「やっぱり、呼び出されたのは猗窩座殿の件ですか?」

 

「そうだ。下弦が弱いのは、まだ理解できる。だが、上弦の貴様等が柱一人に殺されるなど、呆れて言葉も出ない。お前等は、どこまで無能なんだ。何百年も鬼滅隊を滅ぼせない。青い彼岸花も見つけられない!! 」

 

 鬼舞辻無惨の怒りのボルテージがドンドン上がっていく。前者については、確かに鬼達は無能である。それは、言い訳の余地などない。裏金銀治郎が鬼側に居れば、50年で鬼滅隊の財政を悪化させて、木っ端微塵にしていただろう。

 

 だが、後者の青い彼岸花については、完全に鬼舞辻無惨が悪い。情報が曖昧すぎて、部下が困惑するのは当然だ。だから、鬼達もこの件については本気で探していない。

 

「申し訳ございません。無惨様……産屋敷は、巧妙に」

 

「黒死牟、貴様がそれを言うか。元鬼滅隊の隊士であろう。なぜ、所在すら知らぬ!!」

 

 黒死牟の全身を激痛が駆ける。呪いの効果で、肉体の崩壊が始まった。上弦の壱である男でも鬼舞辻無惨の呪いの前では無力である。

 

 しかし、黒死牟も責められて当然。裏切りの手土産に、元上司の頸くらいもってくる物だ。なのに、上司の場所は知りませんとか、話にならない。

 

「なぜだ!! 何故、貴様等はこうも無能の集まりなんだ!! 太陽は克服できない!! 鬼滅隊も滅ぼせない!! 青い彼岸花も見つけられない!! 」

 

 鬼舞辻無惨に鏡を見せてやりたいと誰しもが思っていた。そもそも、最強の鬼と自称する上司が、太陽を克服できないのだ。それを自分より劣る部下に期待するのもどうなのだ。

 

 そんなパワハラが横行するから、誰も真面目に仕事をしない。もし、真面目に仕事をやらせるのならば、太陽を克服した後のビジョンも見せるべきである。現状では、太陽を克服したら『お前達は、用なしだ。裏切られる前に全部殺しておく』とか平然と言いそうだ。だから、非協力的になる。

 

「いや~索敵系は苦手で……」

 

「童磨、最近信者が減っているそうだな。何故だと思う?教えてやろう……本気で取り組んでいないからだ」

 

 この時、童磨はしくじったと思った。

 

 黙って、黒死牟を生け贄にして場を乗り切るべきだったと。少しでも、頑張っているアピールが敗因であった。

 

「金も食料も色々と――これ以上は、すこし無理かも~」

 

「言い訳か? 貴様に許された返事は、『はい』か『イエス』のみだ。分かったか!! 他の者達もだ!!」

 

「はい」

 

 童磨のポジションは、鬼滅隊でいう裏金銀治郎と同じだ。ただ、その上司が天使と悪魔くらい開きがある。彼は、新興宗教の割には勢力も大きく、頑張っていた。鬼滅隊の柱も殺すし、資金も稼ぐ、餌となる人間も沢山確保している。これ以上、要求するのは酷である。

 

 上弦の鬼達の誰もが、嵐が過ぎ去るのを待っていた。口を開けば、何を言ってもネチネチと嫌みを言われる。しかも、激痛というおまけ付きでだ。

 

 そして、最後に、鬼舞辻無惨から有り難いお言葉が言い渡される。

 

「『無理』というのは、嘘吐きの言葉だ。途中で止めてしまうから無理になる。上弦の鬼たるものが『無理』と嘘をいうなど許せない。今後、『無理』と言う事を禁じる!! 途中で止めなければ必ずややり通せる。お前達は不死身なのだから」

 

 この時、無惨の呪いに『無理』というキーワードも追加された。

 

 そして、部下に一方的なお説教と呪いの枷を追加し、満足げに退場していく鬼舞辻無惨。それを見送る部下達は、災害にあったと思う事にした。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎は、これから動く時代に向けて粛々と準備をしている。

 

 むかし、偉い人が言ったように切り札を晒すときは、更に切り札をもっておくべきだと……実に良い言葉である。それを、くそ真面目に実践しているのが彼だ。

 

 裏金銀治郎の狙いは、不死川玄弥という主人公達の同期だ。彼は、特異体質持ちで一時的に鬼の力を使う事ができる。その一点の才能で言えば鬼滅隊最強である事は間違いない。普通、鬼を食べても彼ほど力を付けることはできない。

 

 そんな逸材と取引をする為、呼び寄せたのだ。

 

「不死川玄弥君、君は素晴らしい才能がある。是非、私と取引しよう」

 

「何の用事で呼び出されたと思えば、くだらね!! 悪いが他を当たれ」

 

 兄同様に実に柄の悪い男であった。だが、鬼退治を確実に行うその仕事の実績は評価に値する。数字上では、主人公一行の中で鬼討伐数はトップであった。

 

 不死川玄弥が席を立ち上がり、退出しようとする。

 

「私からは、下弦の肆の血肉。君が使う二連散弾銃の整備費用や弾薬を全て経費で提供しよう。後、私の権限で君に優先的に鬼討伐をさせる。そして、最後に――上弦の参から採取した血液を少量だが君に渡す用意もできている」

 

「あんた……まさか!!」

 

 不死川玄弥が欲しい物を全て提示できるのが裏金銀治郎だ。利口な男なら分かるはずだ。誰に付いていくべきかと。

 

「鬼を喰っているのが、自分だけだと思っているのか? 君が最速で柱になるには誰の手を取るべきだ?さぁ、椅子に座りたまえ」

 

「あんた最高にイカれているぜ。……いいぜ、その話のってやる」

 

 不死川玄弥は、自らの目的に裏金銀治郎を利用しようと考えていた。鬼滅隊でも、柱に次いで名前が売れている男である。そんな男が自分を必要だと思い、取引を持ちかけてきたのだ。

 

 実の兄に認められるため頑張っていたが、それより先に裏金銀治郎にその才能を認められる事態になる。それが、彼にとって内心複雑であった。

 

………

……

 

 隔離施設では、日々、珠世と胡蝶しのぶが鬼を人間にする薬の開発をしている。

 

 研究成果は、施設の鬼達で実験が行われるので、何時も裏金銀治郎が補充してくるのだ。その為、鬼達は、やっと死ねると彼女達を崇拝し始めていた。鬼達から女神様とか天使様とか賛美される彼女達は、とてもイヤな顔をしている。

 

「そそられますね」

 

「――今の発言は聞かなかったことにしてあげます」

 

 胡蝶しのぶが素敵な顔をしていた為、思わず本音を口にしてしまった裏金銀治郎。だが、その気持ちが理解できる男も多いだろう。胡蝶しのぶほど、青筋やイヤな顔が似合う女性は少ない。

 

「失言でした。研究が進むかと思い、面白い血液を持ってきましたので、是非使ってください」

 

「今度は誰の血ですか? 上弦ですか? まさかの鬼舞辻無惨ですか?」

 

「鬼舞辻無惨は、流石に難しいですよ。あの男が、花魁に会う際に狙うという事も出来なく無いですが、確実に私が死にます」

 

 鬼舞辻無惨の出現情報をさらりと教える裏金銀治郎。既に、パターン化した流れで有り、胡蝶しのぶの冷たい視線が突き刺さっていた。

 

「貴方は、無惨の居場所が分かるのですか!!」

 

「違うと思いますよ。銀治郎さんは、分かるのではなく――知っている……そうなんでしょう?」

 

 この時、珠世は裏金銀治郎が未来視や予知ができる特異能力者だと考えた。妥当な線である。事実、そうでもなければ辻褄が合わない事が多すぎたのだ。

 

 未来を先取って行動しなければ、実現不可能な事を幾つもやってきた。特に、上弦の参がまさにそれだ。あれほどの準備を整えて挑めるなど本来ありえない。

 

「しのぶさんには、今度二人っきりの時に教えて上げます。今は、この血液を調べてみてください。鬼喰いをしている不死川玄弥の物です。彼は、一時的ですが、鬼に近い状態になれる極めて希有な存在です。更に、兄同様に稀血だと思われます」

 

「カナヲの同期じゃないですか。あの世代、色々と偏りすぎじゃないですか」

 

 胡蝶しのぶが嘆くのも当然だ。あの世代はおかしいのだ。実力的にも全員が柱となれる才能がある。

 

「それで、貴方はこの血をどうしろと?」

 

「目的は二つ。不死川玄弥の体質を第三者でも手に入れられる薬が欲しい。二つ目は、不死川玄弥の兄の稀血は、上弦の壱すら酔わすほど強力だ。弟の血でもそれを再現して欲しい。上弦の上位ナンバーを相手取るなら手数は多いに越したことはない」

 

 珠世は、勝利に何処までも貪欲な裏金銀治郎を恐ろしく思っていた。これが人間なのかと。だが、それが人間である!!

 




きっと、善逸の嫁にまさかの!!って思った人は残念でした><
みんな大好きなあの人の事です。



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23:プチ柱会議

いつもありがとうございます。

パワハラ面接上弦版……思いの外好評でうれしかった^-^
きっと、あんな感じになるよね。


 裏金銀治郎は、報告書を片手に頭を抱えていた。

 

 そこには、政財界VIP達の吉原事情が載っている。そのような調査を行ったのには当然理由がある。まもなく、上弦の伍と吉原で死闘が行われる。目を覆いたくなる被害が出るのは当然の帰結。

 

 その戦いで政財界VIPのお気に入りが死ぬ事態になれば、鬼滅隊も窮地に立たされる。鬼滅隊が大正の世で特別扱いをされているのには、彼等の大いなる力が働いているからだ。胡蝶印のバイアグラという餌を提供しているが、列車事故の隠蔽などにも多大に尽力してもらったので、貸しより借りが多い状態だ。

 

 つまり!! 裏金銀治郎は、政財界VIPのお気に入りだけでも吉原から遠ざけるつもりでいた。だが、大きな問題は……やはり金である。理想的には、身請けして政財界VIP達に何時もお世話になっていますとプレゼントすることだ。列車事故前ならそれも可能であったが、今の財政状況ではそれは不可能。

 

 そして、思いついた案が隊士に守らせるという行為である!! その為、裏金銀治郎は鬼滅隊の運営資金から特別予算を捻出した。

 

「口が堅く、剣の腕にある程度自信がある者を選出して欲しい。階級に拘りはない。万が一の場合には、女を連れて安全圏に逃げられること。それだけでいい」

 

「あの~裏金様。口出す事じゃないのですが、本当に宜しいのですか?」

 

「後藤君――君は、大の大人を背負ってかなりの距離を走れるね。安心しなさい、君の席は確保済みだ。リストの中から好きな女性を先に選んでいい」

 

 会社の金で、女が抱けるとなれば靡かない男は少ない。しかも、政財界VIP達のお気に入りともなれば、上玉である。

 

 裏金銀治郎の執務室に呼ばれた『隠』の後藤は、当初困惑していた。いきなりのお偉いさんからの呼び出し。そして話を聞いてみれば、会社の経費で女を抱く人選をしてこいなど聞き間違いを疑うレベルだ。

 

 鬼滅隊の金庫番と呼ばれ、金に細かい男に何があったのかと!! 中身の入れ替わりを疑う程だ。

 

 しかし、後藤という男は、忠実であった……欲望に!!

 

「この後藤にお任せください。必ずや、裏金様のご期待に添う隊士を集めて参ります!!」

 

後藤は、『隠』と呼ばれる事後処理部隊の者。つまり、鬼滅隊の中で最も隊士の側にいる者達だ。だからこそ、隊士の人柄についても知っている事が多い。本人が知らなくても仲間の誰かが知っているなど普通にある。

 

 後藤は、かつて無いほどのやる気を見せて、部屋を退出した。当然だが、その人選候補に我妻善逸が挙げられる事は決して無かった。

 

………

……

 

 独身男性隊士にとって、理想的な上司である裏金銀治郎。どこぞの上司とは、次元が違う男である。だが、情報とは人が多いほどバレる物だ。口が堅いという条件で探させたが、「誰にも言うなよ」的な事で漏洩していくのは、過去も未来も変わらない。

 

 だが、酷い事に噂には尾びれ背びれが付く。

 

 何を間違ったのが、噂は二転三転し……裏金銀治郎に認められた者は、第二の我妻善逸になれるという噂話になってしまった。

 

 コレに関しては、裏金銀治郎も何をどう間違ったのか理解を超えていた。そして、裏金銀治郎の執務室には、我先にと己を売り込む独身隊士達が長蛇の列を成していた。

 

「階級は、乙。水の呼吸を使います。下弦と戦い生き残った経験もあります。必ずや、金柱様のお力になれます!!」

 

「近衛幸村君ですか、戦歴も申し分有りません。可視化できるほどの水の呼吸の使い手というのも非常にポイントが高い。しかし、君は噂を聞いて、ここに来たのではないのかね?」

 

「あの憎き――いえ、我妻善逸と同じく理想の嫁を探して貰えるというアレでしょうか。私は、そのような噂に踊らされてはおりません。吉原で最高の女が経費で抱けると『隠』の者から選抜された一人です」

 

「ならば、なぜ私と直接面談を求めたのかね?」

 

「勿論、金柱の裏金銀治郎様にお名前を覚えて頂くためです」

 

 裏金銀治郎は、彼の事を覚えた。鬼滅隊にしては、珍しい有能タイプであった。事実、その通りである。責任がない立場で適当に鬼を処理して、お金が貰えれば良いと考えている者だ。某サイコロステーキ先輩の上位互換版だ。だが、男である以上、理想の嫁は欲しいと考える極普通の思考の隊士である。異常者の集まりの中では希有な者であった。

 

「私としても君のような有能な人材が、隠れていたとは驚きだ。働きぶり次第では、色々と融通しよう」

 

 裏金銀治郎が差し出した手を、握り返す隊士。

 

 そして、彼が退出すると新しい隊士が部屋を訪れる。それが、夕方まで続いた。

 

 

 それから数日後。

 

 裏金銀治郎は、お呼び出しを喰らっていた。これから、吉原で人命を守る為、画策しなければいけないこの時期に何故だと不満に思った。

 

 その呼び出したのは、お館様である。そして、その脇には風柱・不死川実弥と炎柱・煉獄杏寿郎の両名が付き添っていた。実に、物々しいと言わざるを得ない。柱の中でも上位の実力と言われる二人が揃ってこの場にいるのだ。

 

「すまないね銀治郎。この二人が、どうしても同席したいと言ってね」

 

「いいえ、お構いなくお館様。それで、本日はどういったご用件でしょうか?」

 

 この時、裏金銀治郎は大体の要件を察していた。流石に目立ちすぎたと後悔したが、後の祭りである。

 

 そして、この場に呼ばれていない胡蝶しのぶ。裏金銀治郎と色々と噂があるため、公平を期すために、外されたのだ。

 

「てめぇ!! 何を企んでやがる。何日か前、何人もの隊士がお前と会っているのを知らねーとでも思っているのか。腕の立つ隊士が何人もいたそうじゃねーか」

 

「不死川実弥さん、私が隊士と会って何か問題でもあるんでしょうか? 話した内容ですが、鬼退治に伴う人命救助を依頼していただけです。誓って嘘ではありません」

 

 このような下らない詰問をする為に、柱2名も同席させたのかと裏金銀治郎は、少し失望していた。だが、感情で動く風柱が殴り込んで来ないで済んだのは、産屋敷耀哉が止めたからに他ならない。

 

「だから、言ったではないか。裏金殿が謀反など企むわけがないと」

 

「だが、謀反を企んでいない証拠にもなっていない。柱が各地にいっている隙に、一部の隊士と裏金がいれば、決してできない事じゃない」

 

 風柱は、産屋敷耀哉を崇拝するあまり、周りがよく見えていない。

 

 産屋敷家がいてこそ成り立つ鬼滅隊である。謀反を起こして、実権を握ったとしてもトップが裏金銀治郎では、志の高い隊士は従わないだろう。金目的で働く隊士は別だが。

 

「実弥は、銀治郎が謀反を起こすと懸念しているんだね。それはない。銀治郎は、輝利哉の後見人を断った程だ。それなのに、謀反を起こしてまで鬼滅隊を手に入れようとは思わないよ」

 

「なんと!! お館様のお願いを断るとは、理解しがたい!! どういった理由で断ったのだ」

 

 柱の両名は、後見人を断ったという事より、後見人になぜこの男がと思っていた。風柱の中では、納得ができなかった。彼は、自分が選ばれる事は決してないことは理解していた。

 

 では、誰が後見人に相応しいかと言われれば――胡蝶しのぶ。現役柱達は、口を揃えて彼女の名前を口にするだろう。戦闘力以外の面で、彼女はどの柱よりも優れていた。それに、女性だからこそ、輝利哉と子供を作れる。そうなれば、色々と安泰だとすら思っていた。

 

 そんな夢物語が実現された場合は、鬼とは別の新勢力が誕生する可能性もある。場合によっては、新しい上弦の鬼が誕生するだろう。

 

「柱の皆様のそういう所です。お館様を崇拝するのは構いませんが、ソレを他人に強要しないでください。柱の皆様と私では、主義主張が違いすぎます。そんな私が、輝利哉の後見人になったら、柱の誰かが私を殺しにくるのは明白。私は死にたくありませんので」

 

「気にくわね~、気にくわね~!! 五体満足のくせに柱を引退して裏方に移動し、コソコソ動く奴が、偉そうな主張をしやがる」

 

 裏金銀治郎は、煉獄杏寿郎を見た。誰のせいで柱を引退して資産運用をするようになったのか、この場でぶちまけてもいいのだが、配慮した。煉獄杏寿郎とは、友好的な関係でいたいため、親の恥を晒すのは申し訳ないと判断していた。

 

「実弥が言いたいことも分かる。だけど、銀治郎が居るおかげで鬼滅隊が回っているのも事実。それを見ないふりして、一方的に文句をいうのは良くない。銀治郎も、一言二言多い。相手に合わせて会話する事も君ならできるはずだ」

 

「申し訳ありません、お館様。ですが、謀反の可能性を否定し切れたわけではありません。給与管理と資産運用を担当する身であれば、鬼滅隊の資金を私的利用している可能性もあります。謀反とは、武力以外でも起こせる可能性は十分にございます」

 

 人、物、金――その全てを操作できる立場にいる裏金銀治郎。だからこそ、疑われても仕方が無いところもあった。事実、遊郭費用などは人助けという名目ではあるが、会計上グレーである。

 

 しかし、その程度の金額は、裏金銀治郎が鬼滅隊の為に稼いだ金額と比較すればゴミみたいな物だ。

 

「良い視点をお持ちです。ですが、お館様も先ほど仰ったように私には鬼滅隊を乗っ取るメリットがない。なので、不死川実弥さんが危惧するような事態にはなり得ません。お館様の意を汲んで、この平行線な話し合いを止めましょう」

 

 双方不完全燃焼ではあったが、お館様の取りなしにより、解散となった。

 

 

◆◆◆

 

 胡蝶しのぶは、栗花落カナヲの変化に気がついた。

 

 以前にも増して、話をするようになった。感情も表に出すようになった。

 

 ――とある雑誌には、「女を変えるのは男」という素晴らしい言葉が掲載されている。女子力を絶賛強化中である胡蝶しのぶもその雑誌には目を通していた。

 

 そこで、大きな問題が出てくる。

 

 任務以外では蝶屋敷から殆ど出ない栗花落カナヲ。そんな彼女に影響を与える男とは誰なのか。蝶屋敷の入院患者という線が濃厚だ。しかし、栗花落カナヲに影響を与えそうなほどの男は、一人しか思いつかなかった。

 

「師範、男の人って何をあげれば喜ばれますか?」

 

「――ねぇ、カナヲ。プレゼントをあげる相手が分からないと、流石に答えられないかな」

 

 無自覚に胡蝶しのぶの心にダメージを与える継子の栗花落カナヲ。年齢=彼氏いない歴の彼女に、男性へのプレゼントとか、ハイレベルな質問をする。剣術では師範であるが、女子力では栗花落カナヲの方が師範であった。

 

「……」

 

 顔を赤らめてそっぽを向く栗花落カナヲ。

 

 胡蝶しのぶは、日輪刀を持ち「少し出かけてきます」と、栗花落カナヲに告げる。その夜、元金柱の屋敷に刀を持った強盗が押し入る事件が発生した。その犯人は、一夜を強盗先で過ごす。

 




さて、花魁でもたべにいこう^-^
男の肉はまずそうだから、女の方が良いよね。


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24:ハメられた(意味深)

いつもありがとうございます。
感想も本当にありがとうございます。

誤字脱字指摘も助かっております><
読み汚し誠に申し訳ありません。

何時もより短くなってしまったけど、無理に話をかくより
切りよくという事で許してクレメンス。


 胡蝶しのぶは、甘露寺蜜璃と茶屋で食事を楽しんでいた。

 

 鬼滅隊御用達の茶屋であり、運営を鬼滅隊OBや隊士の親族が行っている。その為、普通のお店では話せないような鬼の話題や鬼滅隊の裏事情などが、よく飛び交う。

 

 柱達も利用するこのお店――気を利かせて、柱の人は専用の個室へと案内される。柱と一緒では飯がまずくなると一般隊士に気を遣っている結果だ。

 

「しのぶちゃんは、最近変わったよね。いつにもまして綺麗だし、更に女らしくなった気がする。」

 

「そうですか、別にそんな事はないと思いますよ。それより、そんなに食べて大丈夫ですか?」

 

 甘露寺蜜璃の前には、ぜんざいがバケツ一杯というレベルで置かれている。見ているだけで吐き気がするほどの量であった。しかし、それを当然の如く食べる彼女は、恵まれた体質が故にだ。

 

 女というのは、スタイルを気にする。古今東西それは変わらず、美しさを保つため食事にも気を遣う必要がある。だが、彼女はいくら食べても太らないという女性なら誰でもうらやむ特異体質だ。

 

「大丈夫です!! だって、鬼討伐の帰りだから全部経費精算だよ」

 

「そういう意図じゃ~。でも、そんな事がよく認められましたね」

 

 食費だけで、並の隊士の給与分は軽く食べる彼女である。それが高級店であれば、柱の彼女の給料でも支払は厳しい物があった。だが、そんな彼女の事情を知る者が手を差し伸べたのだ。

 

 経営者視点で考えれば――飯代を経費精算するだけで、柱が喜んで鬼退治をしてくれる。コストパフォーマンスを考えれば、悪くない。

 

「裏金さんが、『君の働きは、隊士数十人分だ。プライベートの食費は、自己負担してくれ。但し、鬼退治の帰りならば全て経費精算しよう』なんて、言ってくれたのよ。年齢の割に若く見えますし、元柱で実力もある。それに、見た目もかっこいいし、お金持ちみたい――狙ってみようかしら」

 

 それに対して、間髪入れずに胡蝶しのぶが反論した。

 

「止めておきなさい甘露寺さん。あの男は、ケダモノ(・・・・)です。甘露寺さんのような、チョロイ人にはお勧めしません。伊黒さんにしておきなさい。彼は、貴方に気があるようですし、告白すればそのままゴールイン確定です。保証します」

 

 男は、みんなケダモノである。当然、(けだもの)の呼吸的な意味ではない。

 

 胡蝶しのぶは、先日の事を思い出していた。継子である栗花落カナヲが、裏金銀治郎の家に胡蝶しのぶが向かうように仕向けた日の事を!!

 

 栗花落カナヲは、竈門炭治郎の事が気になっていた。それを察した裏金銀治郎は、彼が持つ竈門炭治郎の情報を全て渡したのだ。家族構成から好物、今までの任務状況、過去の女性関係、親族の情報。何も言わないでも、必要な時に必要な物を提供してくれる裏金銀治郎は、栗花落カナヲにとって、恩人であった。

 

 そして、出来る女である栗花落カナヲは、行動を起こした。

 

 胡蝶しのぶと裏金銀治郎の双方の気持ちを理解している彼女は、恋のキューピットになる事を決意する。胡蝶しのぶが、裏金銀治郎の誕生日を把握していれば、もっと別の手段に出ていただろう。思い人から誕生日にプレゼントの一つも貰えないのは可愛そうだと思い、今までの恩を返す事にした。

 

 そして、師範がプレゼントになれば良いと、彼の誕生日にプレゼント(胡蝶しのぶ)を贈った。まさに、天才であった。花の呼吸が使えるのは伊達ではない。師匠の花すら散らすのだから―。

 

 独身男性の家に、夜にお邪魔するなど色々とアウトである。当然、朝まで同じ寝床を共にする。誕生日の夜に独身男性の家に訪れれば当然の結果。勿論、合意の上でと付け足しておこう。

 

 翌朝、胡蝶しのぶの朝帰りを待っていた栗花落カナヲ。最初の台詞は、お帰りなさいでは無く、「昨日はお楽しみでしたね」という名台詞だった。この時ほど、胡蝶しのぶは、栗花落カナヲが誰の継子なのか疑問に思ったことはなかった。

 

 大事な事だが、竈門炭治郎が自分の気持ちに素直になれといったせいである。

 

「――もしかして!! しのぶちゃん、おめでとう!! それなら、早く言ってよ。それで、それで、出会いからシッポリと行くまでの経緯を詳しく教えてね。私も参考にするから」

 

銀治郎(・・・)さんとは、ビジネスライクな関係です。甘露寺さんが考えているようなやましい関係ではありません!!」

 

「しのぶちゃん~、ソレは無理があるかな。だって、お店に来る途中から歩き方に違和感があったよ」

 

 甘露寺蜜璃も柱である。恋話が好きで、自分より強い男と結婚する為に鬼滅隊にいるとはいえ、剣士としての実力は最高位。つまり、胡蝶しのぶの体の異常にも気がつく。当初は、女の子の日と思っていたが、話を聞く内に確信に至ったのだ。

 

 既に、女として一歩先に進んでいると。

 

「……銀治郎さんには、お世話になっているので。そのお礼で」

 

「ダウト!! しのぶちゃんって、そんな人じゃありませんよね。お世話になっているからといって、そんな事をする人じゃありません」

 

 人の恋話ほど楽しい物はない。自分には一切被害が及ばない上に、ネタとして美味しいことこの上ない。しかも、甘露寺蜜璃が鬼滅隊に入った目的を鑑みれば、胡蝶しのぶは良い観察対象であった。

 

 同じ道を辿れば、自分もと考えていた。だが、彼女は何故、伊黒小芭内という存在に目を向けないのか、誰しもが疑問に思っている。伊黒小芭内が、空気過ぎて不憫である。

 

 だが、柱の男達は、絶食系男子かと言うほど、へたれが多かったので仕方が無い。

 

「あの~、甘露寺さん。そんなに、人の話を聞いて面白いですか?」

 

「もちろんよ!! だって、しのぶちゃんとあの裏金さんだよ!! 何処がどうなって、どう繋がったのか気になるじゃない!! 」

 

 現役柱の胡蝶しのぶは、その美貌から惚れる男性隊士も数多い。蝶屋敷での治療もあり、その人気は留まることを知らない。一方、裏金銀治郎……女性隊士から人気がある反面、鬼滅隊の金庫番として現場からは疎まれている傾向がある。

 

 美男美女である二人が、男女の仲になったとあれば、そりゃ話を聞きたくなる。だが、既に、色々と噂されていた二人だ。なるべくしてなったとしか考えていない者達が大半だ。

 

「下世話な話はしませんからね!!」

 

「えぇ~!! しのぶちゃんのケチ~、減るものじゃないからいいじゃない」

 

 甘露寺蜜璃は、胡蝶しのぶの話を聞いて一つ思ったことがあった。裏金銀治郎は、よく我慢してたなと。

 

 

◆◆◆

 

 産屋敷耀哉は、体調が悪いにも関わらずとても喜んでいた。上弦の参を倒した時と同じほどに。

 

「そうか!! よくやった、しのぶ」

 

 産屋敷耀哉は、持ち前の勘で今日あたり、裏金銀治郎と胡蝶しのぶが男女の関係になるのではないかと察していた。そして、鎹烏が秘密裏に二人の行動を監視させていた。

 

 これで、裏金銀治郎では無く、胡蝶しのぶを鬼滅隊に縛り付ければ必然的に裏金銀治郎も付いてくる。これも、産屋敷耀哉の努力の結果でもあった。二人の予定が合うようになるべく鬼退治を振らずにいた。しかも、夜は可能な限り二人ともフリーになるように画策も行っていた。

 

 裏金銀治郎ともあろう男が、ハメていたと思ったら、実はハメられていたという驚愕の事実である。

 

「では、早々に式の準備に取りかかりましょう」

 

「あまね、銀治郎は鋭い。私達が裏で動いていたとなれば、この理想的な状況が崩れかねない。大丈夫だ、彼は誠実な男だ。仕事にも女性にも」

 

 ここまで来たら何もしないのが一番良い。胡蝶しのぶは、産屋敷ひなきを養子にしている。どのように転んだとしても、産屋敷の血筋が途絶えることはない。

 

「裏金銀治郎が優秀な隊士である事は分かっております。しかし、彼は危険ではないでしょうか。今までの仕事は把握していますが、異常です。恐らく、私達に報告していないような事も色々と行っているでしょう」

 

「そうだね、あまねの心配はもっともだ。だが、銀治郎でなければ、鬼滅隊は支えられない。事実、彼がいなければ何ヶ月も前に鬼滅隊は無くなっていた」

 

 産屋敷あまねも、裏金銀治郎からの報告書を目にして、頭を抱えたことを思い出した。

 

 信じられない財政状況であり、何から手を付けるべきかも分からない程であった。それなのに、裏金銀治郎は誰にもマネできない方法でお金を稼ぎ出し、一気に状況を好転させていった。

 

 その手腕は、神がかりである。

 

「分かりました。裏金銀治郎には、このまま何もしないでおきます」

 

「ソレで頼むよ、あまね。私の勘では、裏金銀治郎という存在は、鬼舞辻無惨への最大の切り札になるはずだ」

 

 ローションにコ○ドーム……それだけで、鬼達がどれだけ死に至ったか、数えるのが困難になっていた。新聞でも消える死体という、怪奇現象が紹介されるほどだ。それらに関わっている裏金銀治郎。

 

 この男が居なければ、無惨の呪いキーワードに『無理』という恐ろしい言語が追加されることもなかった。この呪いのせいで、鬼舞辻無惨が100年掛けて増やした鬼が僅か2週間で死ぬほどの被害がでた。

 

 その為、切り札といっても過言ではない。

 

 

 




次こそは、吉原へ!!


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25:気持ちは、本当に分かります

いつもありがとうございます!!
本来なら感想をお返ししてから投稿しておりましたが、日次投稿を優先しました。
明日にはお返しさせて頂きます。

読者の皆様の通勤時間の暇潰しになれば幸いです。

誤字脱字報告いつもありがとうございます。
大変助かっております。


 音柱……大正の世まで生き残った忍者の宇髄天元である。忍びというからには隠密に優れているかというと、残念だ。某忍者漫画も同じだが、堪え忍ぶという大前提が抜け落ちてしまっている。

 

 そんな、男が裏金銀治郎の執務室を訪れていた。

 

「嫁からの連絡が途絶えた。これから吉原に向かう。裏金さん、同じ鬼滅隊の者同士協力しよーじゃねーか」

 

「協力といいましても、何時も協力している気がしますよ宇髄天元さん」

 

 音柱は、真剣であった。

 

 大事な嫁との連絡が途絶えて、今すぐにでも吉原で捜索を開始したかった。だが、無策で挑めば、嫁すら助けられずに返り討ちにあう可能性もある。よって、裏金銀治郎に協力の依頼を持ちかけたのだ。

 

 他の柱でも無く、裏金銀治郎が選ばれた事にはそれ相応の理由があった。

 

「吉原の遊郭に隊士を派遣するそうじゃねーか。しかも、時期が俺が現地入りするタイミングとドンピシャだ。あれだけの隊士を動かせる人物は、鬼滅隊でも二人しかいない。お館様と裏金さん――あんただ。まさか、何の情報もなくあれだけの人と金を動かすはずはねーだろう?」

 

「私は、鬼滅隊を支援してくれている人達のお気に入りを避難させたいだけですが、私は柱の皆様と仲良くしたいので、持っている情報を提供しましょう」

 

 裏金銀治郎は、引き出しから調査資料を提供した。

 

 その資料は、吉原の遊郭でペ○ローションを採用していないお店やコンドームを使っていない遊女の情報だ。つまり、鬼である可能性がある女の情報である。夜の道具が、鬼をあぶり出す道具に早変わりする。

 

 資料の情報と宇髄天元が持っている情報を合わせれば、鬼が潜む場を厳選する事ができる。

 

「いい資料もってんじゃねーか!! これで、派手に鬼を殺しに行けるぜ。だが、その前に!! 風柱の一件は聞いている。悪かったな、何も口添えできなくて。言い訳になるが、俺が知ったのは、全てが終わった後だ」

 

「別に気にしないでください。私は、これでも自分の立場をよく理解しています。現場の柱の人が快く思わないのも当然です」

 

「まったく、損な性格してるな~」

 

 宇髄天元は、裏金銀治郎の事を高く評価していた。宇髄天元の嫁については、誰しもがセットで考えている。音柱の嫁1、嫁2、嫁3のように。その為、裏金銀治郎が給与管理を担当するまで、不憫な思いばかりをしていたのだ。つまり、給料は宇髄天元の分だけ。

 

 全くもって酷い話だ。くノ一である彼の嫁達は、大変優秀である。潜入任務もでき、諜報活動もできる。世間では評価されない項目かも知れないが、鬼滅隊では評価されるべき項目であった。だから、裏金銀治郎が改革したのだ。

 

 待遇改善により、彼等の生活や任務が劇的に効率化された。最近では、ローションとコンドームという女の武器も手に入り、下手な隊士より鬼を殺している。 

 

「当たり前のことをしているだけです。それと、吉原には恐らく相当強い鬼が居るでしょう。宇髄天元さんに、心ばかりのプレゼントを用意させて頂きました。柱専用の緊急活性薬と上弦の鬼すら酩酊させる臭い玉、業務用ローション」

 

 机に並べられる最新の鬼退治武器だ。

 

 音柱も火薬玉など忍具を用意していた。忍具は、確かに強い……だが、ソレは対人においての話だ。自己回復する鬼には、効果は薄い。

 

「なぁ、裏金さんよ~。ここ最近、色々と新しい物を作りすぎじゃねーか。俺は、鬼が殺せて嫁達が安全に暮らせるなら何でもイイがな。その材料(・・)が何であれ気にしない」

 

「古来より、敵の兵器を鹵獲して使うのは戦争の常です。私も、宇髄天元さんに同意ですね。貴方とは、仲良くできそうです」

 

 彼の中で、裏金銀治郎という男は、岩柱同様に得体の知れない存在に位置づけられていた。表向きには胡蝶しのぶが作ったとされている最新兵器が、裏金銀治郎考案だとウスウス勘づいていたのだ。

 

 だが、賢い男はそれを口にしない。

 

………

……

 

 任務を終えて、愛しの妻達が待つ蝶屋敷に戻ってきた我妻善逸。

 

 鬼退治に連れて行くには危ないので、血の涙を流し妻達をおいて仕事に赴いていたのだ。仕事をしないという選択肢は、我妻善逸には存在しない。裏金銀治郎との契約を守る使命があった。

 

「まっててね~、お土産沢山買ってきたから」

 

 我妻善逸の給料は、全て妻達へのお土産と変わっていた。お土産の中に業務用ローションや箱入りコンドームがダース単位であるのを除けば、至って普通のお土産である。鬼滅隊のフロント企業の商品を隊士が買う……そして、その売上げが給料になる。

 

 鬼滅隊の隊士達は、我妻善逸の性活のおかげで飯を食っている事になる。これが知られれば、我妻善逸ブッコロし隊の隊士は、首を吊るかも知れない。

 

 朝の訓練、昼の訓練、夜の訓練と柱も真っ青な訓練のおかげで、我妻善逸の能力は飛躍的に向上していた。下半身の強化により、重心が安定したのだ。今では、壱ノ型 霹靂一閃 神速を3連続で使える程になっていた。

 

 流石は、原作でも一度も刀を折った事がない有能である。その才能は、竈門炭治郎より上ではないかと裏金銀治郎は考えていた。

 

「助けてくださいご主人様」

 

「善逸様~」

 

 蝶屋敷の方から聞こえてくる妻達の声。声を聞くと同時に、トップスピードで妻達の許に駆け寄る。その速度は、音柱でも油断をすれば危ないと思うほどで有り、並の隊士が出せる速度でない。

 

 そこには、宇髄天元が二人の我妻善逸の妻達を抱えていた。その目的は、吉原での潜入任務に女が必要であったので、蝶屋敷で調達していた。そこで、目に付いたのが何処に出しても恥ずかしくない淫魔がいたので、採用したに過ぎない。

 

 彼女達に目を付けた宇髄天元の目は正しい。彼女達なら、花魁も夢では無い。

 

「シルヴィちゃんとすずかちゃんを返して貰おう。例え、あんたが筋肉の化け物であっても俺は一歩も引かない」

 

「……」

 

 我妻善逸から迸る殺る気は、ヒシヒシと宇髄天元にも伝わっていた。自信に満ちたその声は、訓練の成果と実績、嫁達の前で恥ずかしい姿は見せられないという意地からきたものだ。

 

 だが、それでも負けないのが柱である。宇髄天元も対抗し殺気を飛ばす。

 

「あっそぉ。じゃあ一緒に来て貰おうか。こいつ等の代わりに来るんだから、それ相応の働きはして貰うぞ。で、こいつ等はお前の親戚か? 俺の目から見ても、かなりの女だ。誇って良いぞ」

 

「俺の嫁達だ」

 

 我妻善逸の言葉に、嘘だと断定する宇髄天元。コレほどの上玉が、へんちくりんの嫁など、天地がひっくり返っても無いと考えていた。隊士の誰もがそう考えていた。よって、一つの結論に行き着く。

 

「おめぇ~、幾らモテないからって脅迫とかサイテーだぞ」

 

「ちげぇーーーよ!! 本当に俺の嫁だって!! そうだろう、炭治郎!!」

 

「気持ちは、本当に分かりますが……善逸の言っていることは本当なんです。裏金さんが、連れてきた子です」

 

 竈門炭治郎も匂いで分かるとは言え、裏金銀治郎が絡んで居なければとうてい信じられなかった。町で評判の美人と言われた妹と同等以上の女の子を簡単に見つけ出して、我妻善逸の嫁に仕立て上げたのだ。しかも、相思相愛に至っているなど誰が信じられるか。

 

「武器だけじゃなくて、人まで売り買いしているのか……何やってんだか」

 

 本人の居ないところで酷い言われ様の裏金銀治郎。

 

 

◆◆◆

 

 吉原の一角にある空き屋。

 

 鬼滅隊が所有している物件の一つだ。本来であれば、壁屋という一風変わった遊郭がオープンしている筈だった。だが、組織のトップであるお館様の意向で不認可となり、事前に確保していた土地と家だけが残っていた。

 

 後から吉原の鬼退治で拠点として利用しようと思っていたので、そのまま残していたのだ。日輪刀、緊急活性薬、爆薬、銃、ローション、コンドームなど必要物資が全て揃っていた。

 

 その拠点には、裏金銀治郎と胡蝶しのぶが滞在している。

 

 上弦の鬼との戦いを目前だというのに、胡蝶しのぶの機嫌はとても悪かった。流星刀の実験ができる絶好の機会だというのに、何故だろうかと裏金銀治郎は納得がいかなかった。

 

「しのぶさん、ほら笑顔笑顔」

 

 裏金銀治郎は、両手で胡蝶しのぶの頬を触り笑顔を作り上げる。頬を触ると、赤らめて女の顔になる胡蝶しのぶ。男に顔を触られるなど、今まで想像した事もなかった彼女だが、存外悪くないと思ってしまう。

 

 甘露寺蜜璃にチョロイと言っていた本人も存外チョロかった。

 

「銀治郎さん、私ってそんなに子供っぽく見えますか? ここに来るまで、どいつもこいつも!! なぜ、お父さんに売られる子供だとみんな勘違いしてくるんです!!」

 

 だが、裏金銀治郎とて同じであった。なぜ、父親だと勘違いされ、『あんた、娘を売るつもりかい? 人間のくずだね……で、幾ら欲しいんだい?』とあからさまな値段交渉が幾度も行われた。

 

 胡蝶しのぶ程の器量の女性なら、吉原で花魁確定である。見る目があるスカウトマンがこぞって声を掛けるのは当然だ。

 

「大丈夫です。しのぶさんは、大人(・・)です。私が一番理解しています」

 

「……なんか、含みがある言い方ですね。で、鬼滅隊の拠点が吉原にあるなんて聞いたことありませんでした。普段、金がないと嘆いていたのに、何故こんなのがあるんですか?」

 

 胡蝶しのぶへの回答を一瞬迷ってしまう裏金銀治郎。だが、常日頃、彼女にだけは正直でいようとする男であるので、素直に教える。

 

「隔離施設で確保している下弦の肆。アレの下半身だけをここで遊女として活用しようと思ったんです。鬼滅隊の新たな資金源としてお館様に提案したら却下されました」

 

「へぇ~、初耳ですよ。でも、下弦の肆といえば、私も協力して確保したアレですよね。裏金さんは私を口説きつつ、陰では女の裸をね~」

 

 可愛らしい人だ。それが、彼女の今を見た裏金銀治郎の感想だ。

 

 胡蝶しのぶの色々な顔を見てたい。反応を楽しみたいと考えてしまうのは男の性だ。決して、裏金銀治郎は悪くない。彼女の方から誘っているのだ。

 

「しのぶさん、いじらしい貴方は本当に可愛らしい。私は、しのぶさんの事を好きになれて本当に幸せです」

 

「この男はぁぁぁぁ!! どうして、二人っきりの時にそんな台詞を言うんですか。真顔でそんなこと言わないでください。恥ずかしいでしょ、銀治郎さん」

 

 二人以外だれも居ない吉原の一角。鬼退治の備品……ローションとコンドーム。必要な物は全て揃っていた。当然、布団も一つはあった。

 

「そういえば、甘露寺蜜璃さんが領収書を持ってきた際、『裏金さんって、ケダモノだったんですね』と言っておりました。どういうことでしょうね、しのぶさん」

 

「さ、さぁ。どうしてでしょうね」

 

 マズイと思った胡蝶しのぶ。だが、後の祭りである。すでに、裏金銀治郎によってホールドされていた。

 

「知っていましたか、上弦の鬼との戦いは、明後日なんです。つまり、今夜から明日は、お互いフリーです。今度は紳士的にと思っておりましたが、気が変わりました。ケダモノはケダモノらしくやらせてもらいます」

 

「話し合いましょう!! 落ち着いてください。まだ、本調子じゃないんですって」

 

 布団に押し倒される胡蝶しのぶ。だが、逃げ出すことはしない彼女は、割とこの展開を望んでいた節があった。

 




アンケート機能なるものがあるらしいので、今度使ってみます。

『陰』の後藤の話、鬼柱の話、我妻善逸の3人目の嫁の話、裏金銀治郎とお館様の出会い、胡蝶しのぶが強盗に入った日の話など色々候補を検討中です^-^


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26:鬼に人権はない

いつもありがとうございます。

誤字脱字報告も本当に助かっております^-^




 夜の町で大繁盛する吉原。そして、今日ほど鬼滅隊の隊士がこの場に集まった事はかつてない。口が堅く優れた隊士達が、全裸待機していたのだ。何処に出しても恥ずかしくない隊士達なのだが、この時ばかりは、何処にも出せない隊士になっていた。

 

 そんな馬鹿げた事実を胡蝶しのぶは、裏金銀治郎から伝えられた。

 

「銀治郎さん、鬼滅隊の運用費でなんて事をやっているんですか!! バレたら、問題ですよ」

 

「大丈夫です。私が資産運用をしているんですよ。監査も私の仕事です」

 

 鬼滅隊の資産運用における透明性は、全て裏金銀治郎によって制御されている。

 

 組織として、どうなのかと疑問に思うが、彼以外にその仕事を行える者がいない為、産屋敷耀哉も見て見ぬふりをしている。それに、使った分以上に金を稼いでくるのだから、誰もその事を問題にはしていなかった。大正時代における内部監査など、あってないようなものだ。

 

 たわいない会話をしつつ、二人は闇夜に紛れて移動していた。その目的地は、「京極屋」。世のため人の為に、上弦に挑むわけではない。主人公一同に合流し、一緒に上弦を倒そうという気兼ねも無い。

 

 ちなみに、今現在主人公一同が必死に上弦と闘っている。派手な音がすれば、全裸男達がすぐさま己の剣を納めて、要救助者を連れて郊外まで脱出する手筈になっている。

 

「宇髄さんと合流して、上弦の鬼を倒しに行かないんですか? 上弦で流星刀の効果を確かめるって言っていたじゃありませんか」

 

「大丈夫ですよ。あの兄妹は、両方同時に頸を切らないと死にません。その特性を理解するまで時間が掛かります。それに、我々が助けに行ったら、彼等が成長しません。可愛い子には旅をさせろというじゃありませんか」

 

 胡蝶しのぶは、冷たい目で裏金銀治郎を見る。頸を切っても死なないとか、兄妹とか、どうしてそんな大事な情報を今言うのだと。

 

「もう良いです。銀治郎さんは、そう言う人でしたね。で、私達は何故!! 遊郭に忍び込んでいるんですか?」

 

「そりゃ、金目の物を物色する為ですよ」

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、上弦の伍である花魁蕨姫の私室に潜入していた。そして、彼は金になりそうな物を次々と物色していった。貴金属から洋服、現金など部屋にある物を平然と集める。

 

 その手際の良さは、本職の泥棒も真っ青な程であった。僅か数分で、部屋から金目の物が一切なくなるのだから。

 

「ちょっと!! それ泥棒ですよ!!」

 

「しのぶさん。人から物を取ったら泥棒です。ですが、鬼から何をとっても無罪なんですよ。その証拠に、我々は、鬼から命を取り立てているじゃありませんか。これらは、鬼退治にかかった費用の補填になるんです」

 

「隊士の中には、鬼を殺して金銭を奪っている人がいると噂で聞いたことがありますが……」

 

 噂でも何でも無い。隊士の中では、鬼が持っていた財布や財産を懐に入れることなど当たり前であった。律儀に鬼滅隊の運用費に回す裏金銀治郎が希有な例だ。

 

「誰ですか、そんな嘘を流布した人は。鬼が人間に何をしても罪に問われないように、我々も鬼に何をしても罪に問われないんですよ」

 

 鬼に人権はない。

 

 今回の獲物は花魁である。百年単位で花魁をやっているのだから、しこたま金を貯めている。鬼側へダメージを与えつつ、鬼滅隊の経済状況をよくする為にも、しっかりと回収するのは当然だ。

 

 胡蝶しのぶも裏金銀治郎の言葉に納得した。そもそも、彼女は鬼に対して同情するなど一切の優しさを持ち合わせていない。鬼が苦しむなら、それはそれで有りだと思うほどに成長していた。

 

「なるほど、その通りですね。では、私は足抜けしたとお手紙を残しておきますね」

 

 現役柱と元柱……そんな鬼滅隊の最高位の剣士が、鬼の居ぬ間になんとやら@@

 

………

……

 

 鬼滅隊の吉原拠点には、現金は勿論、金品や美術品が沢山並べられていた。

 

「こうみると壮観ですね。これ、葛飾北斎の絵じゃありません?」

 

「美術品の鑑定には自信がありません。それにしても、回収した物には、日輪刀までありましたよ。やられた状況が、手に取るように分かりますよ。男って本当に馬鹿ですよね」

 

 胡蝶しのぶは、裏金銀治郎をヤるならば、どのタイミングが理想的かと脳内シミュレーションしていた。その結果、実に簡単に殺せる事実に気がついた。古今東西、寝床で女に殺される男は腐るほど居る。

 

「たぶん、しのぶさんが考えているようなピンクな妄想じゃないと思いますよ。だって、兄の妓夫太郎が15人、妹の梅が7人の柱を殺していますからね。きっと、真面目に闘った結果だと思います」

 

「――!! わ、わかってますよ。人を変態みたいに言わないでください!! 」

 

 数週間前まで処女をこじらせていた胡蝶しのぶ。だが、年齢=彼氏居ない歴を卒業した彼女は、今や普通の女になっていた。姉が望んだその姿が今ここにあったのだ。

 

「はいはい、そう言うことにしてあげます、しのぶさん。では、私達も鬼滅隊として、市民を守る為に働きますか」

 

「そうしましょう。先ほどから響く音……宇髄さんが派手に暴れているはず」

 

 響く爆音。裏金銀治郎が、鬼の活動資金を奪う最中、主人公一同もしっかりとその役目を果たしていた。

 

「あの人、忍者なのに目立ちすぎですよね。人質救出の為に、地面を掘っているのだから仕方がありませんが~。しのぶさん、上弦の伍について、知りたい事はありますか?」

 

「なぜ、この場に居ない宇髄さんの行動や人質について知っている事は、もはや問いません。その兄妹が持つ血鬼術は?」

 

「兄の妓夫太郎は、血でできた鎌のような猛毒の血鬼術です。その猛毒は、毒に対して耐性がない我々では、苦しむでしょうね……普通ならね」

 

 裏金銀治郎は、ポケットから血文字が書かれた札を彼女に渡した。血鬼術である毒だ。裏金銀治郎の血鬼術を無効化にする血界で対処は容易い。

 

「用意が良いですね。ですが、そういう抜け目の無いところが銀治郎さんです。で、女の方は?」

 

「帯を使った物理攻撃です。ただ、帯に人を取り込む能力があります。取り込まれた者は、腐りもせず時間が止まったような状態になります。そういう、概念的な能力を持つ血鬼術は本当に珍しく強力なんですけど……使い手は馬鹿なんでしょうね」

 

 その能力を裏金銀治郎が持っていたならば、堕姫より遙かに使いこなしていただろう。鬼達は、自らの身体能力を強化するために人間を食べる以外に、血鬼術をどう活かせるか考えるべきであった。

 

「――上弦の参と比べたら、随分と劣りますね。銀治郎さん一人でも倒せるんじゃありませんか?」

 

「歴代最強の柱達と一緒にしないでください。堕姫の方ならば、苦戦するでしょうが殺せる。ですが、妓夫太郎は……地力の差で勝てませんね」

 

 金の呼吸を使う裏金銀治郎もある意味、歴代最強。だが、その呼吸法を誰にも教えるつもりはない。過去に、何度か継子になりたいと志願者こそいたが、鬼を殺したいならば、他の呼吸を学べと門前払いしていた。

 

 そもそも、鬼を殺す事に人生を捧げるような者が、ただの仕事として鬼を殺している裏金銀治郎とそりが合うはずも無い。だから、お互い不幸にならない為、それが最善であった。

 

地力では(・・・・)、と言うあたり銀治郎さんらしいですね」

 

「私が倒せないなら、倒せる者にお願いするとか、鬼を倒す武器を用意するとか色々しますよ」

 

 鬼の頸が切れるようになった胡蝶しのぶとか、流星刀とかローションとか銃とかそう言うことである。

 

◆◆◆

 

 上弦の鬼との戦いで、竈門炭治郎は覚醒する。上弦の鬼の手によって、惨殺された市民を見て激怒している。

 

 その様子を隠れて眺めていた裏金銀治郎は、マズイと思った。

 

「些か、沸点が低いな。あの程度で怒っていたら、日本の闇を見たら怒りのあまり死んでしまうぞ」

 

「いや、助けにいきましょうよ。彼しんじゃいますよ」

 

 お互いに、竈門炭治郎の事を心配しているが、二人とも全く違う理由からであった。

 

 裏金銀治郎は、竈門禰豆子が人間に戻った後、二人の扱いをどうするか検討を始めた。竈門炭治郎をコントロールするには、妹を使うのが一番だ。つまるところ、身寄りの居ない二人の親代わりとなり、生活全般の面倒を見る方向で飼い殺しするのが理想だ。

 

 鬼が居なくなれば、鬼滅隊はその規模が縮小される。言い換えれば、リストラの嵐だ。当然、裏金銀治郎が主導となり、銃刀法違反や殺人容疑で片っ端から檻の中へ送り込む。そんな状況で、妹を守る為、誰を頼るべきか分からない馬鹿ではない。

 

 勿論、器量が良い妹が吉原堕ちする事で兄の生活を支える展開もあるだろうが、それを良しとする竈門炭治郎ではない。

 

 しかし、そうなると、胡蝶しのぶの家系図や経歴が面白おかしくなる。将来、あの偉人の家系図を大公開なんて、特番があった日にはみんな目を疑う事になるだろう。

 

「いいえ、折角の上弦との戦闘です。彼等にはもっと成長して貰わないといけないので見守りつつ、最良のタイミングで殺しに入りましょう。鬼舞辻無惨がどのタイミングで覗き見しているか分かりませんので、姿が見えないように一撃で殺す」

 

「そうですね。ですが、本当に目的はそれだけですか? それなら、こんな近くに居る必要ありませんよね? 出番は、まだ先でしょうから」

 

 裏金銀治郎は、「よくできました」と胡蝶しのぶの頭を撫でる。撫でられる胡蝶しのぶの顔には青筋が目立っていた。この場合、青ポとでもいうのだろうか。どこぞのMP回復薬みたいだ。

 

「折角なので、緊急活性薬Gを作りたいので、その材料集めです。そこに落ちている上弦の足とか……上弦の鬼に匹敵する強さになった竈門 禰豆子の体とか色々集まるんですよ、この場所は」

 

「随分と女性のお体がお好きなようで――」

 

 胡蝶しのぶが、裏金銀治郎の足をぐりぐりと踏み踏みしている。

 

 

◆◆◆

 

 胡蝶しのぶが、花を散らす三日前。

 

 鬼滅隊の事後処理部隊『隠』――そこに所属する後藤は、恐ろしい情報を手にしていた。

 

 彼は、蟲柱である胡蝶しのぶと元金柱の裏金銀治郎との関係を密かに調べていた。その目的は、仲間内で賭けた二人の関係が何処までいくかという物であった。『隠』では、そういった男女の仲を賭けの対象にする事がはやっており、常にネタを欲していた。

 

 そして、今彼の手にあるのは……役所に勤めている親戚から入手した胡蝶しのぶの戸籍謄本だ。当然、真っ当な方法で入手していないため、犯罪である。バレれば、即逮捕レベルだ。

 

「――や、やべーーよ。こんなの、他の連中に教えられねーよ」

 

 後藤は、二人の関係が親子であるという大穴に賭けていた。京都に向かう列車の中で、「パパ」「娘」という言葉を聞いていたから、既に勝利を確信していた。だが、蓋を開けてみれば、もっと恐ろしい事態だった。

 

 胡蝶しのぶ30歳(・・・)、胡蝶カナヲ1X歳、胡蝶ひなき8歳。それは、見てはいけない情報であった。胡蝶ひなきについては、鬼滅隊でも養子にしたと周知の事実であったので問題ない。

 

 だが、問題は胡蝶しのぶの年齢と続柄、胡蝶カナヲの続柄だ。常識的に考えれば、実子を継子として育てていると捉えらえられる。むしろ、そうとしか考えられない。

 

「でも、それならそれで納得だな。裏金様がお二人に優しいのは、つまりそういう事か。胡蝶様は、裏金様と出かけたら、朝帰り。しかし、そうなると、胡蝶様って異常に若作りだ。10代にしか見えないからな」

 

………

……

 

 『隠』の飲み会にて、後藤は酔い潰れていた。後藤以外にも、『隠』が誇る独身部隊……佐藤、田中、鈴木といった、よくある名前のオンパレードが揃っていた。そして、各々が日頃の不満をぶちまける。

 

「鬼滅隊って本当に、女が居ない!! 甘露寺様に近づこうものなら、伊黒様に殺されるかの如く睨まれる」

 

「分かる分かる。だが、胡蝶様も悪くない。寧ろ、あんな美人に診察して貰えるなら金を払ってもいい。そう思うだろう?後藤!!」

 

「馬鹿か!! 俺は、人妻(・・)になんて興味はないね!! そうだな、狙うなら竈門禰豆子ちゃんだぜ―――あれ?みんな、急に静かになって」

 

 後藤は、酔いが覚めていった。今自分が何を発言したのか思い出した。

 

 すぐさま、その場を立ち去ろうとしたが、独身部隊の連中は強かった。剣士としての才能はなかったが、呼吸法だけはキッチリ身につけている変態達である。

 

「おぃおぃ、後藤。独身部隊の仲じゃねーか。もう少し、詳しく話していこうぜ。女将さん!! 度数の強いお酒をあるだけ持ってきて」

 

「そうだぞ、後藤。まだ、夜は始まったばかりだ。胡蝶様を人妻と断定したと言うことは、貴様、この間の賭けについて何か新しい情報を手に入れているよな」

 

「水くさいぞ後藤!! それに、栗花落様という選択肢をあえて触れずに、例の鬼の子をいうあたり、まだ隠し事があるだろう」

 

 鬼滅隊の剣士と並んでも遜色ない体格を誇る佐藤、田中、鈴木。そんな男に左右をがっちり押さえられる。

 

「や、やめろーーー!! お前等、本当にヤバいんだって!! 」

 

 だが、その叫びで助けは誰も来なかった。

 

………

……

 

 翌日――胡蝶しのぶに、若さを保つ秘訣を聞きに来る女性隊士が続々と現れる。そして、この手の話は、大体犯人が決まっており、無実の罪が裏金銀治郎を襲う。

 

「銀治郎さん、最近、年の割に若く見える胡蝶様!! どうか、その若さを保つ秘訣を教えてくださいって聞きに来る人が増えているんですが、心当たりありますよね?」

 

「しのぶさんって、実年齢18歳でしたよね? 一体、女性はどんだけ若さを求めているんですか」

 

 年の割に若くじゃなくて、リアルに若い彼女にそんな事を聞きに来る隊士は、何なのだと本気で思う裏金銀治郎。

 

「えぇ……なんでも、私の年齢が30歳って話が出回っているそうなんですよ。身に覚えありますよね?」

 

「つまり、どこかで情報が漏れていると」

 

「そうじゃありません!! 漏れているとかそう言う次元じゃありません!! 私の年齢が改竄されていることが問題なんです。どう責任取ってくれるんですか!?」

 

「しのぶさんが相手なら、いつでも責任を取る準備は整っていますよ」

 

 割と本気で言っている裏金銀治郎だが、いつも胡蝶しのぶに、この男はぁぁぁぁと腹部を殴られる。

 

 




後藤ネタは、投函!!

アンケートは廃止して、前の話の後書きに書いたネタは全部やります。


PS:
土日のどちらかは、作者お休みするねん><
流石に、ここまで連続投稿したのは初めてで、だいぶ来てますorz
読者の皆様にはご迷惑をおかけしております。


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27:君達は、用済みです

何時もありがとうございます!!

自分でも、柱会議あたりで倒れると思っておりましたが
無事に吉原まで来られて良かったです。




 竈門炭治郎の成長ぶりは、素晴らしいの一言だ。血鬼術を使う鬼、下弦との戦い、それらが全て彼の中で成長の糧となっていた。段階を踏むように用意された鬼のおかげだ。コレも全て鬼柱の配慮であったに違いないと裏金銀治郎は感謝の念すら感じていた。

 

「炭治郎君の成長は、目を見張る物があります。ですが、妹の方もおかしいですよね? 人を食べていない鬼が上弦の片割れを圧倒しています」

 

「理由はよく分かりません。竈門禰豆子は、日光を克服する鬼(・・・・・・・・)です。ですから、普通の鬼とは何かが違うのでしょう。鬼舞辻無惨もパワハラ上司など言われ、陰で鬼柱と揶揄される存在ですが、彼女に目を付けたのだけは素晴らしいと思います」

 

 鬼柱――それは、ここ最近、鬼滅隊でも噂されている誰も知らない柱の存在。鬼が「貴様等が鬼に勝つなんぞ、『無理』なんだよ」というお決まりの台詞を言った瞬間、鬼が自滅する事象が報告されている。隊士にも鬼も察せられず、鬼を殺せるなど柱しかいないという事で鬼柱という存在が、隊士の中で信仰を集めていた。

 

 窮地を助けてくれ、何も言わずに去って行く……そんな仏のような男にお礼を言いたいと、何処の誰なのかと裏金銀治郎の所にも問い合わせがあるほどだ。

 

 裏金銀治郎もその噂を聞き、誰の事かは何となく察していた。

 

「相変わらず色々な事をご存じなんですね。はい、これは禰豆子さんの足です」

 

「ありがとうございます。私の足では、彼等にバレずに回収するのは困難でしたから助かります。それに、宇髄天元さんもご到着のようですので、身を隠すついでに市民の手当でもしておきましょう」

 

 死人に口なしという言葉があるように、死者は何も語らない。

 

 鬼に出会い生き残った一般人ほど、面倒な存在は居なかった。『隠』の者達もそれをよく理解していた。説明や口止めが非常に大変になる。だから、できる事なら死んでいて欲しいと言うのが組織の管理職としての言葉だ。

 

 勿論、現場隊士からしても大半は死んでいて欲しいと考えていた。鬼退治の邪魔になるし、下手をすればもっと早く助けに来て欲しかったなど色々言われるのだ。

 

「あら、お優しいのですね。てっきり、女性にだけ優しいと思っていましたが」

 

「それは誤解です。私は、しのぶさん以外の人には優しくないつもりですよ。一部の知り合いを除けば、平等に扱っているだけです」

 

 裏金銀治郎は、上弦の攻撃で手首を失った男の事など、気にしていない。ただ、この場に居たことがバレた時に、市民の手当てをしていたと言うていの良い言い訳が欲しかった。

 

 関係ない一般人の生死など、無関心である。

 

 音柱のように市民を守って、鬼退治をするという者達が多いのは事実だ。だが、それで負傷や怪我を負ってしまい、怪我人も隊士も共倒れになる。これが、隊士が死ぬ理由の上位にランクインしている。

 

「そう言うことにしておきますね銀治郎さん。ですが、手首が切断されている彼をどうするんですか?」

 

「少し、勿体ないですがコレを使いましょう。切れた腕は、まだあるので少量でも繋げられる」

 

 裏金銀治郎は、懐から柱専用の緊急活性薬を取り出した。それを用いれば、理論的に一般人であっても手足の再生も可能だ。それさえ、使えば怪我人が幾ら「鬼が現れて手首を切られたんだ」と言っても、手首が繋がっているのだから誰も取り合わない。

 

 この場に、胡蝶しのぶが居なければ、旋風で切断されたという強引なストーリーで世間を丸め込んだのは間違いなかった。ただの、治療に当たり患者への心配など一切していない裏金銀治郎である。

 

………

……

 

 竈門炭治郎は、妓夫太郎と対峙して己の実力不足を理解した。飛躍的に実力が向上している彼であったが、足を引っ張る結果になっている。だが、それでも食らいつき宇髄天元と共闘するあたりは、流石は主人公だ。

 

「宇髄さん!! 他の柱の人は、まだなんですか!!」

 

「応援がくるまでは、まだ時間が掛かるだろう。その前に、派手に終わらせるぞ」

 

 竈門炭治郎と宇髄天元の認識には、違いがあった。

 

 竈門炭治郎は、犬にも勝る嗅覚で近くに裏金銀治郎と胡蝶しのぶが居る事を理解していた。戦いの最中であっても、ハッキリとかぎ分けていた。なぜ、この場にいるのか分からない。どうして、今も戦いに参加しないのかも分からない。そんな思いが、彼の中で渦巻いていた。

 

 しかし、二人の匂いは、絶望感が全くない。ただ、日常と変わらないそんな匂い。捉え方を変えれば実に頼もしいの一言だ。

 

 きっと、助けに来てくれると信じ、竈門炭治郎は目の前の戦いに集中した。

 

◆◆◆

 

 戦いが佳境に入り、遂に動く裏金銀治郎。

 

「善逸君。呼吸を保ちなさい。君が死ねば、愛しの妻達は、汚い大人の餌食です。それに、まだ3人目(・・・)を君に紹介していない。私の苦労を無駄にする気ですか」

 

「――あぁ、(裏金銀治郎)!! 申し訳ありません。あの時、ローションで足が滑らなければこんな失態は……」

 

 瓦礫に埋もれる我妻善逸。

 

 悲しい事にローションが入った容器が割られ、足が滑って原作通りになってしまった。本来なら、強化された我妻善逸は、竈門炭治郎を攻撃から守った上でも逃げ切れた。

 

「神は、寛容です。君にもう一度チャンスを与えます。この流星刀で、鬼の頸を落としなさい。その為に、更なる力を与えよう」

 

 神と呼ばれたので、ノリノリで便乗する裏金銀治郎。懐から緊急活性薬を取り出し、投与を始めた。

 

 音柱と嘴平伊之助が毒で倒れ、竈門炭治郎が妓夫太郎からネチネチと嫌みを言われている。そんな最中に、裏金銀治郎は顔を隠して戦場に現れたのだ。

 

 本来、裏金銀治郎が自ら頸を落とそうかと考えていたが、確実性を取るために我妻善逸を採用した。鬼側からしたら、日輪刀も流星刀も同じである。刀の微々たる違いなど分かる者の方が少ない。

 

 鬼側で分かる事と言えば、誰に殺されたかという程度だ。だからこそ、我妻善逸を矢面に立てる。今までイイ思いをしたのだから、この程度引き受けなければ罰があたる。

 

 裏金銀治郎から流星刀を託された我妻善逸は、己の肉体回復に専念する。その凄まじい回復速度に、やはり神であったと信仰心は更に拡大していった。そして、3人目の嫁が楽しみであり、彼のもう一つの剣が雄々しく天をさしている。

 

「おぃおぃ、変なのが一匹紛れ込んできてやがる。ほれ、良かったなお前の仲間が助けに来たぞ。だが、俺達を倒そうなんぞ『無………不可能だぜ」

 

「ちょっと、お兄ちゃん!! そんな死に方イヤだからね」

 

 上弦の鬼達は、思わず冷や汗を掻いていた。

 

 一歩間違えば死んでいたのだ。それも、上司が設定したキーワードの『無理』という単語のおかげで。だが、ぎりぎりの所で助かる。キーワードを知らない有象無象の鬼達とは違うのだ。上司に選ばれた存在は、後から追加されたキーワードを把握している。

 

「えぇーーと……」

 

「竈門炭治郎君。私の事は妓夫太郎と呼んでくれ。そして、妹の方は梅だ」

 

 大人である竈門炭治郎は、鬼の居る場で裏金銀治郎の本名を呼ばない。実に賢い男になりつつあった。そして、妹というのが誰を示しているかも大体察しが付いていた。

 

 その偽名は、上弦の鬼達の本名だ。現代で知る者など、ほぼ居ない。知りうるとしたら、鬼しかあり得ない。

 

「でめぇ、何者だ。ただの隊士かと思ったら、そうじゃねーだろう。その名前を知っているって事は、アイツの関係者か?」

 

「アイツとは、貴方達兄妹を鬼にした当時上弦の陸だった、教祖の事ですか?」

 

 裏金銀治郎は、時間稼ぎをしているに過ぎない。自らに注目を集めている間に、我妻善逸の準備が整うのを待っていた。その時こそ、全てが終わるのだ。

 

 だが、その時間稼ぎに用いられる話題が酷いのは、裏金銀治郎の性格故にだ。

 

「なるほど、分かったぜ。ここ数年、鬼の数が激減した。下弦の鬼も死んだ。上弦の参もだ……次は、俺等ってわけか。野心と向上心がある奴だと思っていたが、まさか鬼滅隊と繋がっていたとはな!!」

 

「ちょっと、お兄ちゃん冗談でしょ。だって、この間の招集で――あり得なくも無いわね」

 

 上弦の鬼に求められる必須技能。それは、上司に心が読まれないように思考と心の分離だ。これを、上弦の参は、至高(思考)の領域(笑)と呼んでいた。つまり、鬼達は実際何を腹に抱えているか分からない。

 

「――バレては仕方がありません。君達は、用済みです」

 

 この会話を聞いていた我妻善逸は、『流石は、神だ』と感心していた。口上だけで、上弦の鬼を相手に、時間を稼いだのだ。竈門炭治郎は、匂いから『相手が勘違いした事に全力で乗る気だ』と分かってしまった。

 

「おもしれーな、俺達兄妹がお前なんかに負けると思っているのか」

 

 まるで、どちらが悪役なのか分からない。

 

 だが、上半身裸の変態に、露出狂の遊女という二人組。刀、銃、ローションとコンドームを持った男。そこだけでみれば、どちらも世間的には悪だ。

 

 その様子に、胡蝶しのぶですら『あれ? 銀治郎さんが鬼側でしたっけ?』と苦笑していた。

 

「梅さん、私は紳士でありたいと何時も言っておりますよね。後で、楽しみにしていてください」

 

 胡蝶しのぶは、無自覚に誘い受けをしている。全くもって、悪女だ。

 

 上弦の鬼は、この時初めて梅と呼ばれていた第三者の存在を把握した。だが、遅かった。

 

 胡蝶しのぶの最高速度は、既にどの柱よりも速い。上弦の弐を殺す為、裏金銀治郎同様に鬼を食べた。下弦の肆、上弦の参、上弦の伍、竈門禰豆子……を取り込む事で、その小さな体で冨岡義勇に匹敵する腕力を有している。

 

 彼女は、一呼吸で鬼の背後から消えたかのように距離を詰める。そして、抜刀した流星刀が鬼の頸に触れる。宇宙で太陽光を億年単位で浴びた物から作られた刀である。地上の山の中から採取された鉱石とは、桁が違う。

 

 頸の切断と言うより、崩壊であった。ポテトチップスをナイフで切るかの如く、一瞬でボロボロになる。これほどの威力ならば、元々の力でも鬼の頸を飛ばすことは可能であっただろう。

 

 スパっと堅いはずの鬼の頸が一瞬で飛ぶ。

 

「弱いですね~、これが上弦の伍ですか。拍子抜けも良いところです。やはり、然るべき準備と手順を踏めば、上弦の鬼は恐れるに足りません」

 

「頸が切られたのか……堕姫!! にげろぉぉぉ」

 

 状況を把握した妓夫太郎が妹を遠ざけようとした。双方の頸が同時に切られていない限り死なない鬼だ。片方が生きていれば、逆転の目はある。

 

 ドンと音が響く。

 

 我妻善逸が瓦礫を吹き飛ばす。あれだけの瓦礫を足の力で吹き飛ばすとは、既に人間を辞めているなと裏金銀治郎は思った。

 

「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 神速」

 

 嫁達の為、これから増える嫁の為……覚醒した我妻善逸。流星刀を持つ彼の攻撃を頸に受けて生きられる鬼など存在しない。堕姫の頸も地面に落ちた。

 

「す、凄い。上弦の鬼があっさりと」

 

 竈門炭治郎は、目の前の鬼達が普通の鬼だったのかと錯覚する。途中から来たとは言え、無傷で上弦の鬼二人を倒しきる。多少、卑怯では無いかという点はあったにせよ。同じ事は彼にはできない。

 

「よっしゃーー!! 譜面は……あれ、鬼は?嘘だろう!! なんで、死んでんだよ!! 俺様がこれから派手に活躍する予定が台無しじゃねーーか」

 

 片手を失い、毒が回りつつも立ち上がった宇髄天元。その悲惨な状況に彼の嫁達も顔を覆っていた。もう、辞めたげて宇髄天元のHPは0よと。

 

「梅さん、その肉体が自爆するので札の使用を。そして、離れてくださいね。全く、頸が離れても体が動かせるとかどういう原理をしているんでしょうね」

 

「もちろん」

 

 何十枚と用意された血文字の札が周辺に大量に張られた。自爆と同時にかなりの数の血文字が消し飛ばされたが、被害は最小限に収まる。

 

………

……

 

 宇髄天元が横になり、寄り添う嫁達。

 

「いやあああ、死なないでぇ!! 天元様~」

 

「鬼の毒なんてどうすればいいんですか。解毒薬が効かないのよ」

 

 泣き叫ぶ嫁達。

 

 そして、期待の眼差しが裏金銀治郎と胡蝶しのぶへ向けられていた。本来、この場に居るはずの無い二人。終盤に現れて、鬼を片手間で倒す手際の良さを見せた。忍者視点からみても、得体の知れなさは鬼滅隊でぶっちぎりのトップである。

 

「腕は繋がりましたが、毒までは無理でしたか。やはり、緊急活性薬Gの製造を急がなければいけません。――まぁ、貴方達なら口が堅いでしょうから、いいでしょう。ここで見たことは、秘密ですよ」

 

 裏金銀治郎は、宇髄天元にペタペタと血文字の札を張った。その瞬間、血鬼術が無力化され解毒される。瞬く間に、血の気が回復した。

 

「こりゃ一体どういうことだ?毒が消えた」

 

「鬼由来の技術ですよ。どうですか?体の調子は?」

 

 ここで恩を売っておけば、後々便利になると考えた裏金銀治郎。音柱達も裏金銀治郎が血鬼術を使ったと理解していた。だが、それを深く追及はしない。彼等の中では、遂にそこまで相手の技術を物にしたのかという感心の一言であった。

 

 だが、鬼滅隊の事情も分かっているので、大きくは宣伝できない技術である。そもそも、恩がある裏金銀治郎を売るような忍はいない。

 

「あぁ、問題ねー。寧ろ、前よりイイくらいだ」

 

「それは何よりです。後、私としのぶさんは非番でしたので二人で温泉旅行中です。この後、蛇柱や『隠』の人達が来た際はよしなに」

 

「そういう事にして置いてください。鬼達は、貴方達が死闘の末に倒した」

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶから、二人が関わったことは黙っておけと圧力がかかる。音柱達は、目的は分からないが、素直に従う。長いものには巻かれろである。

 

「最後に教えてくれ、さっきの術でお館様は治らねーのか」

 

「既に試しましたが駄目でした。お館様のアレは呪いでなく病気です。恐らく、先天性の遺伝子欠陥でしょう」

 

「――!! ちょっと、そんな話初めて聞きましたよ。銀治郎さんは、どうしていつもいつも~」

 

 吉原から去る二人は、まるで仲の良い夫婦のようであった。

 

 宇髄天元は、今回のお礼も兼ねて、くノ一仕込みの房中術を胡蝶しのぶに教えるようにと嫁達に指示を出していた。

 




(鬼)柱会議を挟んで、刀鍛冶の里へ^-^
刀鍛冶の人は、時間があればローションとコンドームの生産工場で働いております。
働かざる者食うべからず!!

手に職を持つ男って大事よね。


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28:柱面談

何時もありがとうございます。

アンケートを計画しておりましたが、全部というご要望も多く頂けましたので
鬼柱編を投稿します!!

※作者の独断と偏見を多く、混ざっているのでご容赦を。


 無限城……そこに呼びだされた生き残った上弦達。

 

 上弦の壱、黒死牟。上弦の弐、童磨。上弦の参、半天狗。上弦の肆、玉壺。

 

 彼等の中では、これから始まる事に対して頭痛と目眩、吐き気、胃痛を感じでいた。鬼になってから、ここまでの体調不良は皆、初めてであった。そんな、苦しみを共有するはずの上弦の伍が、リタイアしており……今日の会議は荒れると皆が確信していた。

 

 つまり、これからまたネチネチと嫌みが言われる面談が始まるのだ。鬼滅隊を倒すため、青い彼岸花を探すため、働く最中、唐突な呼び出しをされては仕事にならない。

 

 上弦の鬼は、この無限城という希有な血鬼術を持つ鳴女を不慮の事故で殺してしまおうかと考えている者もいた。強制招集を可能とするこの能力は、危険だ。早く何とかしないと身の危険があると。

 

 ベベン

 

 琵琶の音と共に現れる鬼舞辻無惨。

 

 この時、上弦の誰もが願った……『どうか、普通の姿でありますように!! どうか、普通の姿でありますように』と。大事な事だから二度言いました。

 

 前回の招集では、いきなり女装に目覚めた上司を見せつけられたのだ。誰も笑わずに、その場を乗り切っただけで評価に値した。

 

 だが、現実は何時も非情だ。現れたのは、またまた女装した上司であった。今度は和服では無く洋服――しかも白のワンピースである。そんな姿を見せられて、どんな反応をすればよいか理解に苦しむ上弦の鬼達。

 

 とりあえず、土下座!! 長年の経験で得た最適解を実行した。

 

 鬼舞辻無惨の行動は、働く社員の為に行われていた。労働意欲を削ぐためではなく、労働意欲向上を考えた施策である。彼は、企業運用に関するハウツー本を読み実践していた。企業運用において、社員の労働意欲向上は非常に大事だ。"やりがい"、"給与"、"福利厚生"など社員が喜ぶ事を実践しましょうと書かれている物だ。

 

 そこで鬼舞辻無惨は、考えた。不老不死という金銭では買えない報酬を既に渡している。鬼滅隊を滅ぼす事と青い彼岸花を探す事と言うやりがいのある仕事も与えている。ならば、後は何を与えるべきなのだと……その本に、職場環境に女性を用意しましょうと書かれていた。

 

 確かに、職場に花があった方が労働意欲がわく。つまり、自分が花になれば、上弦達は喜んで働くだろうという間違った結果に行き着いたのだ。趣味と実益が両立する素晴らしいアイディアを実行しているのだ。

 

「どうした皆の者、前回と比べて頭を垂れるタイミングが遅かったぞ」

 

 巫山戯るな!! そんな上司の見たくも無い女装ワンピースを見せられれば、誰だって目を疑う。この場に鬼滅隊の柱がいたら全員の頸を切っても余る時間があっただろう。

 

「も、申し訳ありません無惨様」

 

 黒死牟が代表として謝った。彼等の中で、順列を考えろと何時も言っている男だ。今こそ、それを態度で示したのだ。そして、上弦の誰もが、絶対に上がりたくないと思った瞬間であった。

 

「殊勝な心がけだな。今日は呼んだ理由は、いくつかある。まず、前回の宿題事項の確認だ。まさか、これだけの期間があって何一つ成果がないとは言うまい。そうだろう、童磨」

 

 前回呼ばれてまだ、数ヶ月しか経っていない。その前は、百数十年ぶりだったのに、前回と比較すれば期間が短すぎる。鬼の時間感覚で言えば、この間呼ばれたのは昨日の事のように感じでいた。

 

 だが、そんな言い訳ができる雰囲気でも無かった。前回より、明らかに不機嫌オーラが高い。

 

「申し訳ありません。準備に手間取っており、まだご報告できる程の進展は――」

 

「ほぉ、一体どんな準備をしている。それで、いつ終わる。今すぐに、その計画の詳細を説明してみろ」

 

 実は、何もしていない童磨。だが、そうでも言わないと殺されかねない。命を繋ぐための嘘であった。だが、伊達に口だけで教祖をやっているわけではない。その場を濁すことにかけては、上弦の壱すら上回る。

 

「青い彼岸花についての情報収集でございます。国内だけに留まらず海外に視野を広げる計画をしております。国外遠征の為、信者を使います。現在、渡航手続きを行っているところです」

 

「で、その計画の進捗状況を言ってみろ。あれから数ヶ月あったのだ、何も進んでないなど愚かな上弦ではあるまいな」

 

 架空の計画に進捗などあるはずも無い。つまりは、進捗は0%である。下手に進捗があるように伝えたら今後鬼フォローがある。引いても地獄、進んでも地獄。

 

「まだ、全体からみれば進捗は……0%でございます。申し訳ありません、無惨様」

 

「貴様等は、謝ることしかできないのか。既に、理解していると思うが堕姫と妓夫太郎が死んだ。猗窩座が死んでから、立て続けで上弦が討伐されている。何故だと思う?玉壺」

 

「よ、弱かったからでございます」

 

 玉壺は、心の中で願った。どうか、上司と同じ答えでありますようにと。

 

「それもあるだろう。上弦ともあろう者が、また柱一人にやられた。貴様等は、鬼なのだ!! 人間なら致命傷であっても瞬く間に回復する鬼が!! なぜ、敗北する!! 血鬼術もあるんだろう、一体なぜだぁぁぁ」

 

「「「「……」」」」

 

 上弦の弱さに、怒りを覚える。決して、上弦が弱いという事は無い。

 

 その場に居る上弦の肉体にヒビが入っていく。言葉だけで無く、物理的な拷問まで行う鬼舞辻無惨。部下である上弦のやる気はドンドン下がっていく。他人の失敗まで責められる始末。部下の失敗は、上司の責任という概念がない。

 

「本来なら、貴様等をこの場で解体したい程だが……私とて、鬼ではない」

 

「「「「(いや、お前、鬼だからね)」」」」

 

 だれか、突っ込めーー!! と、上弦達の連携度が上がった。仲間意識が強くなるとはこういうことだ。

 

「ここ最近、鬼達が次々と死んでいる。その速度も尋常では無い。鬼滅隊の10番目の柱と言われる存在が絡んでいるとわかった。そいつの頸を献上しろ。さすれば、更に血をやろう」

 

「10番目の柱とか恐ろしや~」

 

 その噂は、実はこの場に居る上弦達は皆知っていた。鬼滅隊を滅ぼせとの命令通り、適度に仕事をする中、『鬼柱様が来れば、お前等なんて!!』という死に際の言葉を耳にしていたからだ。

 

 その言葉を聞いて、パワハラ上司の姿が浮かんだのは言うまでもない。だが、それを誰も報告に挙げていない。『無理』というキーワードは、上司の失策ですとか進言したら、間違いなく殺される。

 

 だからこそ、「半天狗――無茶しやがって」と、皆が思った。同時に、その行動は上弦の鬼達からは、賞賛されていた。10番目の幻の柱が、今目の前に居るのにそんな危険な発言を平然と行う半天狗。彼を卑怯者などという鬼は、誰も居ない。仮に居たとしたならば、それは全ての上弦を敵に回す事になるだろう。

 

「他の者はどうした? 貴様等に許された返事は『はい』か『Yes』だったと記憶しているが、まさか、私の記憶違いだったというつもりか?」

 

「「「「はい!!」」」」

 

「貴様等は、返事だけは一人前だ。上弦に無能は不要だという事を覚えておけ」

 

 だれか、鏡を!!

 

 黒死牟が童磨に視線を送った。お前の血鬼術なら鏡同然の氷を出せる。今がその時だと。

 

「喜べ、お前達にはもう一つ聞きたい事がある。堕姫が殺される所を覗いていた。その時に、隊士の一人が『梅』と言う名を呼んでいた(・・・・・)。コレに、聞き覚えがある者は?」

 

 呼んでいた――上弦達は、その言葉に驚愕した。視界を盗む事までは分かっていた。だが、同時に聴力も盗めるのかと。もし、それが事実ならば今後は発言にすら気をつけないといけないと、更に気分が悪くなっていた。

 

 だが、事実は違う。読唇術という、どうでも良い技能があるのだ。1000年の間に、他に学ぶべき事はなかったのかと疑問だ。

 

「ご、ございます。確か、堕姫の本名だったかと記憶しております」

 

 童磨は、イヤな予感がヒシヒシしていた。鬼舞辻無惨だけでなく、上弦の鬼達も童磨を見た。これは非常にマズイ状況だと彼自身も理解した。

 

「確か、猗窩座も何かとお前には手を出していたな。鬱陶しく思っていたのでは無いか?」

 

「いいえ!! そんな事はございません。猗窩座殿とは、ただのじゃれ合いで…」

 

「貴様は、私が言うことを否定するのか!! いいか、私の言ったことが正しい。私が、空が赤と言えば赤だ。いいか、返事は『はい』か『Yes』のみで答えろ」

 

 この上司は、文字通り鬼であった。

 

 肯定すれば罪が増える。否定しても、肯定しろと強要される。この場から逃げ切る方法があるなら大金を積んでもいいとすら思う童磨であった。

 

「は、はい。些か鬱陶しいと思っておりました」

 

 鬼になってから、順調に強くなり多大な貢献もした童磨。だというのに、この扱いだ。誰かにはめられているかのような状況。疑心暗鬼になりつつあった。

 

「鬼側の内情を知らない限り、知り得ない事を鬼滅隊が知っている。おかしいとは、思わないか?半天狗」

 

「そ、その通りでございます無惨様」

 

 無惨の腕が変貌し、気色悪い肉塊をあらわにした。

 

「童磨――私は、貴様の事を高く評価していた。あの二人を鬼に推薦したのは、お前だったな。あれの本名を知っているのは、お前の他に居ない。私を裏切るような鬼は不要だ」

 

「無惨様、違います!! 私は裏切りなんて」

 

 童磨は、肉塊に囚われながらも必死に無実を訴える。

 

 ここで血鬼術を使い抵抗する事も彼にはできた。本気で抵抗すれば、言い逃れは不可能になる。つまり、無抵抗こそ最良の選択だ。

 

「いいや、違わない。貴様は私が間違っていると言うつもりか? 驕るな」

 

 理不尽。圧倒的理不尽であった。

 

 本来であれば、上弦の鬼達は童磨を見捨てた。だが、上弦の鬼の残数。そして、呼び出される頻度……少しでも被害を減らすため、童磨という存在は必要であった。それに、彼が居なくなったら、お金と餌が賄えなくなる。

 

 つまり!! 童磨が行っていた仕事が他の上弦に振り分けされる。そして、それができなければ責められるという悪循環が始まるのだ。まさに、ブラック企業。

 

「割り込み失礼致します無惨様!! 童磨に疑いを晴らすチャンスをお願い致します」

 

「わ、私からもお願い致します」

 

「私からも」

 

 黒死牟、半天狗、玉壺が深く頭を下げて願い出た。

 

 この時、上弦の中で仲間意識が芽生えたのだ。誰かが、あの理不尽にあったときは、お互い協力していこうという体制ができあがりつつあった。

 

「黒死牟……みんな、俺のことを」

 

「ほほぅ、良い同僚を持ったな童磨。いいや、私が選んだ上弦だったか、私も鼻が高いぞ」

 

 色々と突っ込みたい衝動を我慢する鬼達。なぜ、これほどまでの理不尽を身に浴びなければならないのだと心底思っていた。だが、それは人間が鬼に襲われた時と同じだ。たまには、その身に受けてみるべきである。

 

「チャンスか……いいだろう。この本にも書いてあった部下を許す器量を持てと。だが、貴様に与えた血の一部は没収とする。安心しろ、少し階級が下がるだけだ」

 

 鬼舞辻無惨は、慈悲の心をもって童磨から血を奪い返した。鬼の力は、鬼舞辻無惨の血の量が大きく関わっている。つまり、それが奪われるという事態は、弱体化に繋がるのだ。

 

 弱体化で命が助かるのなら安い物であった。何百年かかけて力を取り戻せば良いのだ。

 

「ぐっああぁっぁぁぁ……」

 

 童磨の目の刻印が上弦の肆まで下がる。

 

「では、引き続き仕事に戻れ。10番目の柱の頸も忘れるなよ。寛容な私にも限度という物がある」

 

 満足げに立ち去る鬼舞辻無惨。その後には、さりげなく本が置かれていた。『上司が求める理想の部下』、『理想の上司』と書かれた2冊の本。共に、著者が"裏金銀治郎"である。

 

 そして、議論される。この著者に会って、教えを請うべきかという指示なのか。それとも、著者を殺してこいと指示なのか。そして大討論の結果、前者であると結論がでた。




次は、我妻善逸の嫁とか、我妻善逸ブッコロし隊とか、裏金銀治郎とお館様の出会いとかそのあたりかしら^-^



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29:モゲロ!!

いつもありがとうございます!!

最強の鬼柱様が大好きな人が多くて嬉しい限りでした。

感想と誤字指摘、ありがとうございます!!


 新たに討伐された上弦の伍。吉原で多少の被害は出たが、上弦との戦いを考慮すれば最小限であったと言える。その報に誰もが喜んだ。産屋敷耀哉も、2体目の上弦撃破を聞き、歓喜した。

 

 自分の代で、全てのケリがつく可能性が出てきたのだ。流れは、確実に鬼滅隊にある。

 

 そんな中、特段喜びもせず普通に業務をこなす者もいる。裏金銀治郎と胡蝶しのぶだ。

 この二人にしてみれば、上弦など倒せて当たり前というレベルに達していた。

 

 その二人は、裏金銀治郎の私邸に居た。

 

「しのぶさん、人を鬼にする薬の開発はどうなっていますか?」

 

「逆です!! 鬼を人間に戻す薬の開発です。完成度は、非常に高い。9割人間に戻せると言ったところです。ただ、効果が出るまでに時間が掛かるのが欠点ですかね」

 

「残りの1割は、やはり太陽を克服した竈門禰豆子の血液が必要ですか。それまでの間は、様々なタイプを用意してください。鬼舞辻無惨でも解毒困難にする為、即効性、遅効性など、あらゆるタイプ。理想は、人間に戻っている事に気がつけないのがよい」

 

「人使いが荒いですね。できる限り用意します。じゃあ、もうすぐ日が昇るので、お風呂を借りてから帰ります。カナヲ達に朝ご飯を作らないといけないので」

 

 寝室――そこには、胡蝶しのぶが生まれたままの姿で横になっている。その肌は、ツヤツヤしており、完全に事後であった。その反面、裏金銀治郎は敗北の味を味わっていた。

 

 喰う立場から喰われる立場になってしまったのだ。

 

 ケダモノは、より強いケダモノに倒される。自然の摂理だ。それもそのはず、裏金銀治郎と胡蝶しのぶでは、ポテンシャルが違うのだ。歴代最強の柱に数えられる女が、鬼を食べて、くノ一仕込みの房中術まで覚えたら勝てるはずもない。彼女のスタミナと技術の前に勝てる者は居ない。

 

「しのぶさん、今は幸せですか?」

 

「どうしたんですか急に。そうですね~教えてあ・げ・ま・せ・ん」

 

 可愛らしく人差し指を口にあてる仕草。誘い受けをされては、乗るのが男である。リベンジマッチが開始された。

 

 その日、蝶屋敷での朝食は栗花落カナヲが用意した。養子の育児を放棄する胡蝶しのぶは、世間的には酷い女であろう。

 

 モゲロ!!

 

………

……

 

 上弦の伍を倒して、一ヶ月。

 

 裏金銀治郎は、寄せられる嘆願書に目を通していた。鬼の絶対数が減った事で出世の機会を失った者達から、どうにかならないかという相談だ。人事評価も行っているから、規約改定も裏金銀治郎にはできた。それだけの権限を有している。

 

 だが、今から出世の基準を見直した場合、頑張って鬼を殺していた者達はどのように思うだろうか。ハッキリ言って、巫山戯るなと言うだろう。

 

「鬼舞辻無惨に、隊士が鬼を狩るので増産してくれと依頼するなど不可能だ。本末転倒だな。お館様に回す案件でもない却下だ」

 

 裏金銀治郎は、鬼舞辻無惨を殺すまでは隊士達を手放す事は考えていない。

 

 一人でも多い肉壁は必要になる。その為、希望退職者を募るような事はしない。鬼を退治していない者に払う給料も必要経費だと割り切っていた。

 

 却下するだけでは相手に不満が溜まる。出世は無理だが、副業を許す事にする。アンブレラ・コーポレーションが誇るローションとコ○ドームの生産工場での期間工兼護衛だ。本来の給料以外に纏まった額の金が手に入るように手配する。

 

 温泉街という事もあり、鬼退治に疲れた体をローションと温泉が癒やしてくれる。話の分かる上司である裏金銀治郎が、大々的に希望者を募る。少ない枠を巡り、壮絶なバトルが繰り広げられる事になるとは、この時知る由もなかった。

 

 

◆◆◆

 

 茨城重工……親族経営の零細企業である。母親が悪い宗教にハマり、会社の金まで献金してしまった。茨城夫妻は、美しい二人の娘――姉の香取、妹の鹿島がいた。金がなくなり、遂に娘まで献上しようとしたところ離婚が成立した。二人は、父親に引き取られた。

 

 その零細企業に、大口の仕事を持ち込んだのがアンブレラ・コーポレーションである。零細企業は持ち直した。そして、来年度の更なる受注を視野に入れ、銀行からお金を借りてまで設備投資を行った。

 

 来期の注文は、未だに無い。

 

 このままでは、返済が焦げ付いて会社は倒産。家族は散り散りになる。働く従業員の運命も……。献身的な妹の鹿島は、アンブレラ・コーポレーションのトップである裏金銀治郎との直接面談にこぎ着けた。

 

「鹿島嬢、手短に頼む。私は、忙しいのでね」

 

 裏金銀治郎は、本当に忙しかった。鬼滅隊で毎日起こる問題解決で血反吐が吐くほどだ。広範囲殲滅が得意の風柱が、建築物ごと鬼を斬る事がおおく、その修繕費の捻出に頭を痛めていた。

 

 まれに、新築の家を倒壊させる事もあった。その為、その家に住む家族には、家を建て直すまでのホテル滞在費や家具一式の新調費用など、柱の年収を超える額が消える。いい加減、罰金制度で減給してやろうかとも考えていた。

 

「貴重なお時間をありがとうございます、裏金様。来期の茨城重工への発注の件ですが――今年と同じ水準でなにとぞお願いできないでしょうか」

 

「鹿島嬢、企業とは慈善事業ではありません。まぁ、今年度は貴方達家族の状況に同情したから、多少割高でも発注をかけました。それで、凌げたはずでは?」

 

 裏金銀治郎は、全てを分かった上で発注を掛けていない。我妻善逸の3人目を確保するためにも、あの手この手を使っていたのだ。彼は、誠実に約束を守る男である。

 

「そ、それが……その~」

 

「来期の発注を見越して、銀行からお金を借り設備投資でしたっけ?」

 

 鹿島嬢は、何故ソレをと裏金銀治郎を見た。

 

 裏金銀治郎が知っているのは、当然だ。銀行の融資審査が通りやすくなるよう、手を打っていた。有能な鹿島嬢には分かってしまった。全て、仕組まれていたと。しかし、何一つ法に触れることはしていない。

 

「姉は、許してください。私で良ければ、ご自由にして構いませんので……」

 

「私が悪人に見える言い方は、辞めて貰えませんか。今の発言は、私が脅して君に体を要求しているように見えるでしょう。事実は、君が色仕掛けで仕事を受注しようとしている。悲劇のヒロインのまねごとは辞めたまえ」

 

 納得がいかない鹿島嬢。

 

 状況証拠でしか無いが、全て自分を手に入れる為に画策していたと考えていた。彼女は自分の容姿に自信があった。それなのに、全く靡かない裏金銀治郎に些か疑問を感じていた。そう…実は、女ではなく男の方が好きなのではと。

 

 そう疑われても仕方が無い。

 

 誰もが振り向く美少女が体を好きにして良いといって、お前何勘違いしているんだと言われれば誰だってその反応だ。

 

「では、どうすれば仕事を発注していただけますか」

 

「それでいい。ビジネスとはお互いが対等でなければならない。我妻善逸という男と結婚してくれれば、君達が夫婦の間は茨城重工に例年通りの発注を行おう」

 

「――誰ですか、それ?」

 

 裏金従兄弟とか裏金弟とか、一族なら理解できただろう。だが、全くの赤の他人と結婚しろとか、理解に苦しむのは当然だ。だからこそ、余計に不安が募っていた。裏金銀治郎と同じ血筋ならある程度容姿は保証されたようなものだ。

 

 だが、我妻善逸という知らない男は、ギャンブルにも等しい。しかし、ギャンブルのテーブルから降りる事はできない。既に退路は、裏金銀治郎によって断たれていた。

 

「私の同僚で、何時も結婚したいと叫んでいる男だ。ちなみに、君の他に既に二人の嫁がいる」

 

「はぁ!? 二人ってどういう事ですか!! どんな変態なんですか――くっ、分かりました。せめて、もう少し情報を頂けますか。私は家族の為、善逸様の妻となります」

 

「覚悟を持った良い目だ。では、一人目がシルヴィという少女だ」

 

 裏金銀治郎が、シルヴィの写真を一枚渡した。その写真には、痛々しい火傷の跡が写っており、鹿島の顔が青ざめる。控えめに見ても、酷いDVが容易に想像がつく物だ。世の中、色々な趣味の男がいる。特殊性癖があると勘違いしたのだ。

 

「せ、せめて服から見える部分は、許して貰えませんか」

 

「勘違いしているようだな。その火傷は、彼女の前の持ち主が拷問で付けた物だ。彼女は、お偉いさんのオモチャにされていた所を私が助けて、我妻善逸の嫁に宛がった。今では、幸せな家族となっている」

 

 疑いの眼差しが裏金銀治郎を貫く。そもそも、写真の選定が悪い。我妻善逸と仲良く写っている写真でも見せれば良いのに、悪意しか感じない。

 

「写真でもかなり若く見えますが……お二人目は?」

 

「あぁ、若いな。二人目は、月村すずかという少女だ。以前に、列車脱線事故があっただろう。両親が保険会社でね……責任を取って首を吊った。そして、残された一人娘が売られるところを私が救いの手を差し伸べた。そして、我妻善逸の嫁に宛がった」

 

 写真を渡す裏金銀治郎。そこには、幼い少女とその両親が写っていた。利発そうな可愛らしい女の子であるのがよく分かる。

 

「あの~、裏金様。善逸様というのは、若い子が好きな……その~、崇高なご趣味がおありでしょうか?」

 

「ないはずだ。美幼女、美少女、美女……容姿の優れた女性が大好きな男だ」

 

 一体どんな変態の夫になるのか鹿島には不安が募っていった。零細企業の娘として、取引先の男性と結婚する可能性は覚悟していた。だが、その男がド変態ともなれば、誰でも不安に思う。

 

「それで、善逸様というのは……」

 

「この写真の男だ」

 

 裏金銀治郎が取り出したのは、竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助の三名が写った写真だ。鹿島嬢の反応が面白いから、わざと集合写真を出していた。この男は面白ければ、それでよかった。

 

「何年前の写真でしょうか? 一人、人間じゃなさそうな人も写っておりますが」

 

「ここ一年以内の物だが、何か疑問がありましたか鹿島嬢」

 

 話の流れ的に、完全に中年か年寄りが出てくるかと思っていた鹿島。だが、写真に写る少年達は、どう見ても10代である。だからこそ、なおのこと理解できなかった。年頃の男の子が何人もの女性を嫁にするという発想に至るのかと。

 

「高貴な身分のご出身とか」

 

「いいや、ただの一般市民だ」

 

「刀とかも写っていますが?」

 

「あぁ、仕事道具だからね。彼の仕事の詮索は、許さない。見聞きした事を外に話すこともだ。安心しろ、彼は愛妻家だ。悪いようには、されないさ」

 

 刀が仕事道具とか、完全にやべー奴である。

 

 その何処に安心する要素があるのだと鹿島は、疑問しかなかった。だが、ショタ好きな彼女としては、悪くないと内心楽しみでいた。

 

………

……

 

 我妻善逸は、裏金銀治郎の事を神と崇めていた。大国主命の生まれ変わりと言われても信じるほどに。

 

 なぜなら、今まさに3人目の嫁が紹介されたのだ。

 

「初めまして善逸様。今日から貴方の妻になる鹿島といいます。よろしくお願い致します」

 

「え、まじ!? まじで、こんな可愛い子がお嫁さんになってくれるのぉぉぉぉぉ!!」

 

「ご主人様のお嫁さんに、また美人さんが」

 

「善逸様~、私達の事も忘れちゃダメですからね」

 

 そんな微笑ましい光景なのだが、この部屋を遠くから覗く隊士からは下弦の鬼すら圧倒する殺意が撒き散らされる。恨みで人が死ぬのならば、我妻善逸は毎日何回も死んでいるだろう。

 

「善逸君。最初に教えておく。鹿島嬢は、とある会社のご令嬢だ。会社の経営を守る為、君の嫁になった。だが、君も男だ……彼女を惚れさせてみせろ。イージーとノーマルを経験したのだ。そろそろ、ハードモードでもいいだろう」

 

「分かりました神!!」

 

 では、後は若い者達で仲良くしてくれと立ち去る裏金銀治郎。竈門炭治郎が、昏睡から目覚めない間に増える新しい嫁。竈門炭治郎は、目覚めたときに呆れた顔をするだろう。

 

 




我妻善逸の三人目…戦艦が擬人化された鹿島です。
雷の呼吸は、下半身が大事らしいので……これで更に強化されるはず。

えーーと、とりあえず残りは、以下二つか@@
裏金銀治郎とお館様の出会いの話
胡蝶しのぶが強盗に入った日の話
ちょっと、お時間ください。

あまり脇道にそれると本編が進まないので^-^
竈門炭治郎が目覚めるまで後1.2話挟む予定。
そうしたら温泉編です。


次回は、裏金銀治郎と上弦の鬼が……


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30:有罪(ギルディ)

いつもありがとうございます。

これで30話目になりました!!
10/20の初投稿から、日次投稿を続けられたのも読者様のおかげです^-^
※途中途絶えたけど、日に二話投稿した事もあったのでセーフで。

どこまでこのペースを守れるか分かりませんが、よろしくお願い致します^-^

感想を何時も楽しく読ませて頂いております。
鬼柱様のファンが多かったので、次回ネタも考えねばと苦悩中@@


PS:
誤字脱字報告、ありがとうございます!!


 裏金銀治郎の執務室に積まれている決裁書を片付けていく裏金銀治郎と胡蝶しのぶ。例年であれば、彼一人で対応した。だが、裏の仕事も理解している彼女のおかげで、書類は通常の倍の速度で片付く。

 

 そのお礼に彼が珈琲を入れている最中、電話が鳴る。

 

「すみません、今手が離せないので対応をお願いします。大方、賄賂の催促かクレームのどちらかですよ」

 

「いえ、だから出たくないんですが……」

 

 賄賂を求める者達やクレーマーに鬼滅隊がお世話になっているのも事実だ。彼等が居なければ、鬼滅隊は存続できない。

 

 だからこそ、出たくない電話でも取らないといけない。それが仕事だ。勤め人の悲しい宿命だ。

 

『お待たせしました。裏金銀治郎に代わり、ご用件を伺わせて頂きます』

 

『あら、女性の方がでるのは初めてですね。すみませんが、銀治郎に替わって貰えますか?』

 

 銀治郎――電話の主は、声からして女性。しかも、銀治郎と当たり前に呼ぶ人であった。短いやり取りだが、度々電話をしてきている様子が窺える。胡蝶しのぶは、このまま電話を切ってやろうかと思っていた。

 

 だが、万が一政財界VIPであったら困ると思い、ムカムカを我慢して胡蝶しのぶは電話の相手を確認した。場合によっては、夜にじっくり話し合わないといけない。

 

『申し訳ありません。どちら様でしょうか?』

 

『失礼しました。裏金小夜子(・・・・・)と申します』

 

 胡蝶しのぶに到来した試練。

 

 人様の経歴を面白おかしくした裏金銀治郎と同じ姓を名乗る女性。考えられる関係で一番高いのは、肉親である。声から察するに母親、姉、妻といった順であった。ちなみに、最後の候補であった場合、彼の脳天を彼女の日輪刀が貫く結果になる。

 

 裏金銀治郎は、電話から漏れ聞こえた声で理解した。そして、胡蝶しのぶの耳元で囁く。「大丈夫、母ですよ」と。この時ほど彼女は、裏金銀治郎が人の子であったと思ったことはなかった。

 

 胡蝶しのぶですら、裏金銀治郎の経歴や家族構成などは知らない。鬼滅隊にあるはずの書類は、軒並み破棄されている。唯一知るのは、産屋敷耀哉のみだ……生きている者で。

 

『銀治郎さんのお義母様でしたか、直ぐにお電話をお替わり致しますね』

 

 電話を替わる胡蝶しのぶ。だが、堂々と電話の中身を盗み聞きする為、裏金銀治郎と顔をくっつける。その動作は、無自覚であるが男心を揺さぶる。悪女である。

 

『母さん、今日はどうしたの?』

 

『銀治郎に聞きたい事があるのよ。いい加減、年なんだからそろそろ身を固めましょう。お母さん、そろそろ孫の顔を見たいわ。必要ならお見合い相手を探しても良いのよ』

 

 横に居る胡蝶しのぶがご機嫌になる。

 

 裏金銀治郎が胡蝶しのぶと結婚した瞬間、もれなく孫が二人も見れるのだ。だから、安心してよい。下手したら、大きい方の子供が竈門炭治郎と結婚して、曾孫を見れる日も遠くはない。

 

 ツンツンと胡蝶しのぶが彼の頬をつつく。無言のアピールだ。

 

『大丈夫です。今、とても素敵な女性とお付き合いしておりますので、その内ご紹介も兼ねて連れて行きます』

 

 ぐりぐり げしげし

 

 胡蝶しのぶから、肉体的ダメージを受ける裏金銀治郎。照れ隠しの攻撃は思ったよりも威力があった。そろそろ、彼女も自分の肉体スペックを考えるべきである。既に冨岡義勇に匹敵するパワーを秘めているのだ。

 

『あらぁ!! 前に連れてきたカナエさん(・・・・・)ってお嬢さんかしら』

 

 空気が凍り付く。先ほどまでの暖かな雰囲気は一変し、部屋の温度が一気に氷点下に下がったかのようだ。

 

 裏金銀治郎は真横にいる胡蝶しのぶの整った顔が、今日ほど恐ろしいと感じた事はない。美人故に、その怒った顔は怖い。裏金銀治郎の頬から汗が垂れる。

 

「どうしたんですか、銀治郎さん。早く話を続けてください」

 

 裏金銀治郎の腰に提げられた長曽祢虎徹が奪い取られ、頸元に当てられていた。

 

『その話は、息子の命に関わるので下手な発言は辞めて……で、今日はその話をするためだけに電話を?』

 

『違うわ。銀治郎が、変な宗教にハマっていないか不安に思って電話したのよ。えーーと、万世極楽教(・・・・・)の人が是非貴方に会いたいと家を訪れてね。ね~、警察関係の仕事だっけ?下手なところから恨みとか買ってない?』

 

『職業柄、身に覚えの一つや二つはあります。それで、その人達は?』

 

『息子さんと連絡が取れたら、是非教えてくれと名刺を残して帰ったわ。今朝に』

 

 裏金銀治郎は、どこから素性が漏れたのか考えた。

 

 一応、柱として働いていた期間もあったが、逆恨みを恐れて極力素性が分からないように努力していた。鬼滅隊にある書類にも自らの情報が分からないように手を尽くしている。産屋敷耀哉が鬼側に情報を漏らさない限り、バレることはない。唯一、知っていた胡蝶カナエは既に故人であるのだから。

 

『ありがとう。直ぐに帰るから、その名刺は残しておいて』

 

『えぇ~、構わないけど随分と急ね』

 

 受話器を置いた。

 

 流石の胡蝶しのぶも既に刀を鞘に納めている。色々と聞きたい事ができたのは事実だが、万世極楽教が誰も知らないはずの彼の親族に接触してきた事実が大変危険だ。

 

 鬼滅隊の、代えが利かない男となっている裏金銀治郎。その親族が鬼側の手に落ちれば、彼が鬼滅隊を裏切る事もあり得た。そうなれば、全ての内情を知る男が敵側に回ったら、組織は終わりだ。

 

「しのぶさん、一緒に実家に来てくれませんか。私には、貴方が必要です」

 

「もう少し別のシーンで聞きたかった言葉です。構いませんが、行き際に姉さんがご実家にお邪魔した件について詳しく聞かせて頂きますからね」

 

「えぇ、その位でしたらお安いご用です。なーに、つまらない話ですよ」

 

………

……

 

 火急の用件との事で、裏金銀治郎は産屋敷耀哉に面会を求めた。

 

 具合が悪く寝たきりの産屋敷耀哉。数日と持たないと医者から言われる彼だが、鬼舞辻無惨を倒すために命を繋ぐその意志は素晴らしい。

 

「やぁ、銀治郎。寝たままで済まないね。それで、どうしたんだい?」

 

「私の実家に、鬼の手の者が接触してきました。親が心配なので、しばらくお暇を頂きたく思います。場合によっては、上弦との戦いになるやもしれませんので、しのぶさんもご同行して頂く予定です」

 

 鬼滅隊の代えが利かない二人がお暇を頂きますとか、組織のトップとしては許可を出したくない案件だ。だが、行くなとは言えない。代わりに柱を向かわせるとしても、確定情報でもないのに柱は動かせない。裏を知らない一般家庭である裏金家に、日輪刀を持った者は滞在できない。

 

 そもそも、裏金銀治郎が情報封鎖をしている実家に隊士を派遣するとか彼が許さない。

 

「許可しよう。小夜子さんにもよろしく伝えてくれ。仕事の方は、あまねと子供達で対応するから、気にせず行ってきなさい」

 

「ありがとうございます」

 

 産屋敷耀哉は、裏金銀治郎を見送る事しかできなかった。彼の親族について詳細を知るのは、産屋敷耀哉だけである。つまり、この場では何も言わなかったが、不信感を募らせていただろうと察していた。

 

 産屋敷一族は、鎹鴉を使った監視も行っている。色々と裏金銀治郎に対して言えない事をしていた。鬼滅隊の為、誠実に仕事をこなす者に対して組織のトップは彼の行動を監視する暴挙を行っていたのだ。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎は普段通りの顔をしているが、その内心は焦っていた。

 

 一体、何処の誰が自分を売ったのかと。そもそも情報を可能な限り隠蔽しており、裏金銀治郎が鬼滅隊の隊士である情報など、外部の者は知らない。そして、彼の親の情報を知るのは産屋敷耀哉のみ。情報共有されていれば、産屋敷一族という事になる。

 

「しのぶさん、私は鬼滅隊から売られたのかな? これでも鬼滅隊の為、役に立っていたと自覚していたんですが」

 

「少なくとも、私が知る範囲で銀治郎さんを売ろうなど考える愚か者は居ません。それに、本当なんですか? お館様以外に、小夜子お義母様(・・・・・・・)の事を知る人がいないというのは?」

 

「いない。身内が人質にされないように、徹底した管理を行っていた。普通に、私の事を調べても出てくる情報はせいぜい警察の下請けをしている個人事業主や本の著者という程度だ」

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、車で移動している。時間がなかったにも関わらず、胡蝶しのぶは化粧をして身だしなみをしっかり整えていた。気合いが入りまくっているのがよく分かる。

 

 そんな胡蝶しのぶとは裏腹に、車に物騒な物が沢山積み込まれていた。

 

 日本刀、銃、注射器、弾丸……警察に止められれば一発アウトな品物を多数積み込んでいた。開発中の鬼を人間に戻す薬も持ってきており、最悪に備えていた。

 

「本当に、徹底されていますね。まぁ、安心してください。どんなことになっても、私は銀治郎さんの味方ですよ。貴方が、私の味方で居てくれる限り」

 

「頼りにしています、しのぶさん。実家は神保町なので遠くはありません。着くまでの間に、胡蝶カナエさんについて誤解を解いておきます」

 

 裏金銀治郎は、胡蝶しのぶに快く協力して貰うためにも、胸くそ悪い事件について話す事にした。

 

「えぇ、是非。私が銃の整備を間違って、引き金を引かないような話を期待しています」

 

「大した話じゃありませんよ。以前に、胡蝶カナエさんが元炎柱に酔い潰されて(・・・・・・)お持ち帰りされそうになった話をしたでしょう」

 

「いやいや!! 酔い潰されたって初めて聞きましたよ!! 以前は『元炎柱が、酒に酔った勢いで』だったじゃないですか!! どういう事ですか。何者ですか、煉獄さんのお父さんは」

 

「えぇ、ですから~元炎柱は酔った勢いで持ち帰ろうとしたんですよ。酔いつぶした彼女を。で、元炎柱は酒と女とギャンブルが好きな一般的な男かと。煉獄さんには、お前は大した男にはなれないと酷い暴言をいう亭主関白で古い考えの男性です」

 

 冒頭だけで胡蝶しのぶは、裏金銀治郎に感謝の念を覚えた。万が一、そんな男が自分のお義兄さんになっていた可能性があったのだ。

 

「それで、続きは?」

 

「神保町近辺で鬼が出たと耳にしたので、プライベートで現場に向かいました。すると、胡蝶カナエさんと元炎柱が共闘して鬼討伐していました。不思議ですよね~、元炎柱の担当エリアは別の場所なのに」

 

「……元炎柱は、なぜそこに?」

 

「胡蝶カナエさんの尻でも追っかけていたんでしょう。だって、ご自身の担当エリアの鬼は、他の隊士にやらせていましたから」

 

 煉獄杏寿郎という立派な青年を知る胡蝶しのぶは、鳶が鷹を生むとはこの事かと納得していた。親が反面教師になるとは、こういう事例をいうのだと。

 

「煉獄さんに罪はありませんが、ぶん殴りたくなってきました。それで、続きは?」

 

「私は関わりたく無かったので、遠目で観察しました。仕事が終わって食事に無理矢理付き合わされたようです。隊士の中でもあれほどの美人は居ないですからね。立場上、断れず……仕方なく胡蝶カナエさんが付いていくのが見えたので、気乗りはしませんでしたが尾行しました」

 

「銀治郎さんも同類じゃありませんか!! やっぱり、男はみんな姉さんみたいな人がいいんですか!?」

 

「私はしのぶさんが居たから彼女を尾行したんですよ。あの時から貴方一筋です」

 

 裏金銀治郎という存在を知るより遙か前から自分がロックオンされていたとは、彼女自身も驚いていた。一体、何年掛けて獲物を捕らえたのかと。悪い気はしなかったが若干病んでいると感じてしまう。

 

「銀治郎さんが常軌を逸した変態だったのは理解しました。続きを!!」

 

「顔が真っ赤に照れるしのぶさんも可愛いです。まぁ、そんな訳で寒空の下、居酒屋から出てくる二人を待ちました。見事酔いつぶされた胡蝶カナエさんに肩をかし、HOTELに入ろうとした所を私が殴り飛ばしたんです。背後からの強襲で意識が刈り取れたのが良かったですね……殺し合いでは勝てませんでしたから」

 

「だんだん聞いていてムカムカしてきました。今度、煉獄さんのお父さんに焼きを入れに行きます」

 

「お供しましょう。まぁ、そんな訳で胡蝶カナエさんを放置するわけにも行かず、実家で母に介抱して貰ったというストーリーです。さて、裁判長、私は有罪ですか?無罪ですか?」

 

「姉さんを運んだ時の感想は?」

 

「酒臭かった点を除けば、女性らしい肉付きで最高でした。役得とはまさにあの事ですね。ですが私の一番はしのぶさんですよ」

 

「銀治郎さんがお持ち帰りしているじゃないですかぁ!!有罪!!」

 

 裏金銀治郎は、太ももを抓られながらも安全運転を心がけた。そして、昔話が終わる頃には裏金銀治郎の実家の前に到着した。

 

 『裏金書房』――神保町にある平凡な本屋であった。胡蝶しのぶの想像とは違っていた。大豪邸でもない。ヤクザの事務所でもない。個人金融でもない。鬼滅隊の金庫番と呼ばれる男からは想像すらできないほど平凡であった。

 

「どうしました、しのぶさん。まるで駅を降り間違った人のような顔をしていますよ」

 

「何を売っているお店ですか?」

 

「……言わんとしていることは分かりますが、本以外売っていませんよ」

 

 信じられないという顔をする胡蝶しのぶ。彼女は、存外失礼であった。




後1話、日常編を挟んでから温泉や!!
日常編にあまり時間は読者の皆様を退屈させそうなのでサクサク終わらす!!

現物ドロップの半天狗様の出番や^-^



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31:鬼○隊

いつもありがとうございます!!

色々考えましたが、あっさり風味で行くことにしました。




 裏金実家を訪れた珍客――胡蝶しのぶ。

 

 彼が、女性を連れてくる事など、今回含めて2回しかない。姉妹揃ってお持ち帰りしてくるあたり、鬼滅隊の隊士が聞けば、手が滑って刺してしまうような事態だ。実に、業が深い。

 

 『裏金書房』で待っていたのは、彼の母親であった裏金小夜子。和服を身につけた品の良い女性であった。だが、やはり彼の母親だけあり、些か近寄りにくい雰囲気がある。威圧感があるのだ。

 

「まぁ~、器量が良さそうなお嬢さんじゃない。よくやりました銀治郎。初孫を期待していますからね」

 

「気が早い。えーと、紹介します。胡蝶しのぶさんです」

 

「初めまして小夜子お義母様。胡蝶しのぶといいます。銀治郎さんとお付き合いさせていただいています」

 

 無難な自己紹介であった。鬼滅隊という極悪なキーワードなど出せないので。必要最小限しか情報を提供してはいけない。

 

「……胡蝶?もしかして、胡蝶カナエさんの姉妹の方?」

 

「はい。胡蝶カナエは、私の()です。以前に、介抱していただいたとの事で、ありがとうございます」

 

 姉という発言に裏金銀治郎は、失敗したと思った。

 

 今現在の胡蝶しのぶは、戸籍上30歳だ。当時の胡蝶カナエの年齢を考慮しても、彼女が胡蝶カナエの事を姉と言っては色々と辻褄が合わない。ここは、無理にでも妹とさせておくべきだったと。妹でも、色々と無理があるのは事実だ。特に、女性的な体格で…。

 

「やっぱり!! 面影があるわね。それにしても、銀治郎がこんな可愛い子を連れてくるなんて、今日は良い日だわ。やっぱり、男の子より女の子よね~。さぁ、狭い家ですが是非あがっていってね」

 

「お母さん、それより名刺を…。しのぶさんは、悪いが相手をしてあげて」

 

「はいはいコレよ。さぁ、しのぶちゃん我が家へようこそ。何だったら、銀治郎の部屋を漁っても良いわよ」

 

 母親の事は、胡蝶しのぶに託して名刺を確認した。柱である彼女が一緒なら、何とかなるだろうという考えだ。そこには、紛れもなく「万世極楽教 教祖 童磨」と、書かれていた。ご丁寧に電話番号まであり、掛けてこいと言わんばかりだ。

 

………

……

 

 どうしてこうなった!! という感情が裏金銀治郎の心の中を満たしていた。

 

 電話を掛けたら、直接会って話したいと言われた。人気の多い場所で会いたいと伝えたら普通にOKが出て、何が何だか裏金銀治郎も困惑するばかり。

 

 カランと喫茶店の扉が開いた。

 

「えーーと、居た居た~。先生!! 裏金先生でしょ?」

 

「童磨さん、でしょうか?」

 

 裏金銀治郎は、理解できなかった。初対面にも関わらず、長年の待ち人にようやく会えた感じがヒシヒシと伝わってきていたのだ。目元には涙まで浮かべており、お店に居る他の客からの注目がえぐい。

 

 大の大人が、夜の喫茶店で密会。片方は、涙を流した西洋かぶれの美青年。もう一人も美青年……完全に危ない世界である。人目も気にせず抱き合うなど完全にアウトだ。

 

「そうだよ。いや~、こんなに早く会えるなんて助かりました。本当に!!」

 

「やめてください!! 周りの人から誤解されるでしょう!!」

 

 一般人を装う為、丸腰の裏金銀治郎。童磨は、血鬼術も凄いが戦闘に関しても、ずば抜けた才能を持っている。下手な物を身につけて正体がばれないように気を遣ったのだ。

 

「あぁ、そうだね。店員さん、おれはブラックコーヒーで」

 

 椅子に座り向き合う裏金銀治郎と童磨。

 

 人間側と鬼側の財政担当をする二人。こんな場所で密会など、バレたら両者とも完全に裏切り者扱いになる。一方的に正体を知る裏金銀治郎にとっては、胃が痛い面会だ。通路を挟んだ反対側の席から、見守る胡蝶しのぶ。当然、抱き合うシーンも目撃していた。彼女の足下には、握力で粉砕されたテーブルの破片が落ちている。

 

「それで、どうして私のような者に新興宗教の教祖様が?」

 

「実は、恥ずかしい話だけど……上司が、君が執筆した本を気に入ってね。教えを請えと暗にいわれて」

 

 この時、裏金銀治郎は目の前が真っ暗になった。そのまま、倒れそうになったが気合いで持ち直すことに成功する。まさか、そんな場所から自分の名前が鬼側に知られるなど誰も想像できなかったからだ。

 

 未来を先取った考えを盛り込んだ企業運営に関する本をいくつか出したが、売れ行きが良くなかった。大正の世では、法整備が間に合っておらず机上の空論部分が多かったからだ。

 

「そうですか。ちなみに、どの本でしょうか? 何冊か出したことがありますので、宜しければかみ砕いてお教え致しますよ」

 

「『上司が求める理想の部下』、『理想の上司』って2冊なんだ」

 

 童磨から提示された2冊を見た瞬間、鬼側の内情が何となく理解できた裏金銀治郎。

 

「なるほど、つまり職場の人間関係でお悩みという事ですね。つかぬ事を伺い致しますが、教祖の方の上司とは一体…」

 

「あ~、えーっとね。詳しくは言えないから、とりあえず上司って事だけで勘弁して」

 

 例のパワハラ面談を知る裏金銀治郎。この世界線での無惨様も実力はいかほどのものか非常に気になっていた。くそ真面目に鬼側の者と夜の喫茶店で企業運営や上司と部下の関係について講義する男は、今後も出てこないだろう。

 

………

……

 

 当たり障りの無い情報に無難な答えを与えて、相手に満足させて終わらせたかった裏金銀治郎。だが、彼の悪い癖が出てしまった。仕事に誠実なのである。

 

「お伺いする限り、幾つか問題点があります。勿論、上司の方もですが――部下の方にも問題があります。まず、"青い彼岸花"でしたっけ? ソレを探すのに、何処で何をしたかです」

 

「そりゃ~、この足で人に聞いて回ったよ。結構長い時間を掛けて。それなのに、見つからなかったと報告したら酷い仕打ちで」

 

 鬼滅隊以上に脳筋集団の集まりだと感じたのが裏金銀治郎の感想であった。問題が多すぎる。無駄が多すぎる。目的を共有できていないなど挙げればキリがない。だが、その会話が聞かれている可能性も考慮し、彼は、上司をターゲットにせず部下である上弦に助言をする。

 

「"青い彼岸花"が実在する前提でお話ししますね。まず、彼岸花という花について、お調べにはなりましたか?色が違えど、開花時期や気候など変わらないでしょう。植物図鑑を調べ、学者から意見を聞き、地域を絞って探すことで効率化を図りましたか?」

 

「いや~、聞き込みだけかな。花の詳しい事はサッパリ」

 

 1000年経っても何一つ目的に向かって進んでいないのがよく分かる答えであった。そのおかげで鬼滅隊も存続していたのだから、有り難い事だ。

 

「やはり、そういう所から意識改善をされるべきかと思われます。1を聴いて10を知れなど難しい事はできないでしょう。ですが、1を聴いて2や3を知る事はできます。部下たる者、上司の思いを察して、1つ2つ先の手を打っておくべきです」

 

「はははは、厳しいな~裏金先生は。だけど、確かに効率化は大事だね。ちなみに、先生なら国外に"青い彼岸花"を探しに行くならどうする?」

 

 裏金銀治郎は、正気を疑いたかった。

 

 国内でもこのずさんな調査だ。国外になんて無謀の一言に尽きた。海外に派遣されるのは間違いなく信者であることは理解していた。

 

「国外は、時期尚早かと思われます。第一に、童磨さんの上司は、不定期に報告を求めてこられるとの事です。その際に、連絡が来てないからと言って進展がありませんと許してくれるのでしょうか?国内と海外では、勝手が違います。何より、外来語に明るい人でないと厳しいでしょう」

 

「う、裏金先生!! 実は、もう上司に海外渡航計画を立てているって報告しているんです。何とかなりませんか……先生のお力で」

 

 手を握ってくる童磨。

 

 周りからヒソヒソと言われる裏金銀治郎。鬼の被害は理不尽な事が多いと言われるが、誠にもってその通りである。最悪な事に、このお店……裏金銀治郎の実家の近くである。『裏金書房』の長男じゃ無かったかしらとか、微妙に聞こえるあたり、彼の評判は地に落ちただろう。

 

手を振り払い、裏金銀治郎は殺してやろうかと殺意を胸に秘め会話を続けた。

 

「あの~、私は付き合っている女性もいるので、そう言う誤解を招く行動は控えてください。ここ、近所なので……」

 

「えぇ~、先生が僕の部屋じゃイヤだって言うから来たのに」

 

「やめろぉ!! 誤解されんだろ!!」

 

 誰かが言っていた、鬼に殺されるのは災害みたいな物だと。これも災害なのだろうか。裏金銀治郎は、社会的に殺されようとしていた。この時代、男性同士の恋愛には寛容では無い。

 

 声を荒立ててキレたのは久しぶりの裏金銀治郎。そして、こいつは絶対殺すと心の中で誓う。

 

「冗談、冗談だって~。で、裏金先生なら海外渡航はどうやるの?」

 

「次はありませんからね。海外といっても国は無数にあります、何処に向かわれるのですか?」

 

「とりあえず、清かな」

 

「なるほど。あの大国なら国内に無い花もあるかもしれません。良い着眼点です、童磨さん。広い大国を効率よく探すために、彼岸花について調べた上で現地ガイドを雇いましょう」

 

「いいね~いいね~。だんだんと希望が見えてきたよ。やっぱり、()には相談してみる物だね」

 

 満足する童磨。

 

 自分では何も考えていなかったが、"青い彼岸花"という存在が見つかる可能性が見えてきた。しかも。上司への報告も裏金銀治郎の言葉をリスペクトして伝えれば良いのだ。楽な仕事だ。

 

◆◆◆

 

 それからも童磨は、裏金銀治郎を解放しなかった。

 

 青い彼岸花の次は、上司……鬼舞辻無惨への対応を相談されたのだ。そんなの、お前で何とかしろと言いたかったが、誠実に対応する。

 

「な、なるほど、上司の方がいきなり男性から女性に変わったと。私も経験した事がないレベルの話です」

 

「だろ~。長年付き合っていたから分かったけどさ……本当にどうしたらいいのさ。同僚もみんな困っていてさ」

 

 そんな相談をされた方が一番困るに決まっている。女装した鬼舞辻無惨とか、どう対応しろというのだ。並の者では不可能だ。よって、上弦だけで解決させるため、必死で頭を回す裏金銀治郎。

 

「しかし、良い上司ではありませんか。私の本を読まれたと言う事は、職場環境を改善したいという気持ちがあるという事です。もし、貴方達部下に興味が無ければ、無関心で居るはずです。いいですか、好きの反対は嫌いでは無いんです。――無関心。つまり、上司は決して貴方達の事を嫌っているわけではありません」

 

「うーーーん、うーーーん。そう言われると、そんな気も……」

 

「人の悪い部分というのは、目立つ物です。良い箇所が10個あっても、1個の悪い事でそれが覆ることもあります。その上司の良いところを探してみてはいかがでしょうか?例えば、髪が綺麗だとか、声が綺麗だとか、色っぽいとか」

 

 心にも思っていないことも、すらすらと挙げる裏金銀治郎。その言葉のせいで、童磨は口を付けていたコーヒーが気管に入り苦しんでいた。

 

「やめてください、裏金先生。実物を見た事が、無いから言えるんですよ。正直、かなりキツいよ」

 

 そんなの知っていると言いたいが我慢した彼である。あまりに、我慢しすぎて、白髪が増えるのでは無いかと心配するほどに。

 

「それでも、上司の良いところを探して好きになりなさい。それが、良い部下です。後は、同僚の方とよく連携する事です。話を聞く限り、同僚とはいえ疎遠に思えました。同じ上司を持つ者同士、何かと相談する事もあるでしょう。それに、"青い彼岸花"を探すにしても役割分担が必要です」

 

「そんな事が期待できる同僚じゃないですね。だって、剣士と臆病者と芸術家だよ」

 

「個性溢れる仲間ですね。では、連携力を高めるため、チーム名みたいなのを付けるのはどうでしょうか? 私の職場には、かまぼこ隊という三人組がいます。そのチーム名が付けられてからは、なにかと連携が高まりました。仲間意識という奴です」

 

「良いアイディアだね。さすが裏金先生!! じゃあ――鬼(上司を)殺(し)隊なんてどうだろう? これなら、鬼(滅隊を)殺(し)隊とも取れるし、いけるいける!!」

 

 童磨がまさか平行世界の鬼殺隊を結成するとは夢にも思わず、裏金銀治郎は驚いていた。これがバタフライエフェクトかと。

 

「ぶっそうな、名前ですが……私には分からない二重の意味を込められていますね。表の意味と裏の意味を同じ言葉に持たすのは良い事です。普段、口にしても何ら支障にはなりませんから」

 

「さすが、裏金先生!! よく分かっていらっしゃる。今日は相談に乗ってくれてありがとうね。是非、今後も色々アドバイスを頂きたい。どうだろうか? 万世極楽教でその手腕を振るってみない? 好待遇を約束するよ」

 

 これから潰しに行く万世極楽教など冗談では無いと内心思いつつ、申し訳なさそうな顔をする裏金銀治郎。

 

「お誘いは嬉しいのですが、やりかけの仕事を中断する事はできません。ですが、童磨さんとは気が合いそうです。今後も相談がありましたら、いつでも電話してください。職場の直通番号を渡しておきますので」

 

「裏金先生って男は、本当に!! 本当に!! 人間のままにしておくのは惜しい!! 今度、会うときは素敵なプレゼントを持ってくるからね」

 

 余計なお世話だ。やめろと言いたい衝動に駆られる裏金銀治郎。話の流れ的に、鬼舞辻無惨の血で鬼になるというストーリーが浮かんだ。その役目は、雷の呼吸を使う獪岳がいるだろうと思っていた。

 

 その後、童磨から熱い抱擁を受けて解放された。

 

 その夜、裏金家の実家で胡蝶しのぶから『当分、一人で寝てください。あの男の匂いがする内は近寄らないでくださいね』と悲しい宣告を受けた。胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の私室を奪い取って寝た。部屋から閉め出される彼を、何やってんのと慰める母親と馬鹿だな~という裏金父も居た。




裏金父もご存命だからね。
鬼に殺されたとか悲しい話は無い!!

そろそろ、主人公が目覚める@@

温泉、温泉!!
ローション風呂に、はいりにいきましょう。


次の投稿は、金曜日になるかも@@
そうなったらごめんなさい。


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32:彼の匂いがする

何時もありがとうございます。

そして、温泉回を期待していた読者様ごめんなさい。

実は、頂いた感想を確認している時に、この話を書きなさいと啓示を受けました。

NNN。様
素敵なネタ提供ありがとうございます!!


 胡蝶しのぶ――花も恥じらう乙女である。裏金銀治郎により戸籍上、面白おかしくなっている点を除けば、実年齢18歳の立派な女性である。

 

 その彼女は、現状を正しく理解する。清いお付き合いを既に通り越した彼の実家にいる。ご両親にも挨拶をした上で、お泊まりする事にまでなった。そして、寝床として略奪したのが裏金銀治郎の私室である。

 

 だが、部屋の主を追い出して今は一人だ。

 

「なんだか、罪悪感があります。でも、銀治郎さんが悪いんですよ」

 

 胡蝶しのぶは、喫茶店でのやり取りを思い出していた。

 

 殺しても足りないほど恨みがある上弦の鬼と仲良く抱き合ったり、握手したり……その様子を思いだし、ムカムカが抑えきれなくなる。ベッドから枕を持ち上げて、ボコボコと殴る。

 

「いいですか、銀治郎()さん。私は、怒っているんです」

 

 枕に独り言をつぶやく胡蝶しのぶ。

 

 怒っているという割に、枕を抱きしめて深呼吸する彼女は、実に可愛らしい。

 

「でも、感謝もしています。貴方が居なければ、あの鬼を確実に倒せると言えなかったかも知れません」

 

 男の部屋で裏金銀治郎の枕を抱きしめる彼女。裏金銀治郎がここに居たら、『枕、そこを代われ』と言って、枕を両断しただろう。枕を抱いたまま、ベッドに倒れ込む胡蝶しのぶ。

 

 風呂上がりの彼女の良い匂いが部屋を満たしていく。日帰りを想定していた彼女は、寝間着など持ち合わせていない。勝手に部屋を物色して、裏金銀治郎のYシャツを拝借していた。

 

 白いYシャツと下着姿――些か以上に、魅力的であった。時代の最先端を行く彼女の誘い受けスタイルは、将来の男の為に、役立つだろう。

 

銀治郎()さん、以前に今は幸せかと聞きましたね。――幸せです。こんな時間が長く続いて欲しいとすら思っています。小夜子お義母様も秋月お義父様も、とても良い人です。でも、姉さんの方がちょっぴり先に出会っていたのが、残念です」

 

 自らより先に裏金実家を訪れていた胡蝶カナエ。それについて、実の姉から何一つ報告がなされていなかった。もちろん、姉の交友関係に口を出すつもりはない。しかし、男性の家にお世話になって、介抱されたのなら一言くらい教えて欲しかったのだ。

 

 それが原因で、裏金銀治郎は柱という職を追いやられて資産運用をしている。結果的に言えば、元炎柱の行動は鬼滅隊の為になったとも言える。

 

「でも、姉さんも銀治郎さんの部屋には泊まったことありませんよね。これで、姉さんに一つ勝ちましたよ」

 

 胡蝶しのぶは、気がついていない。そもそも、介抱する為に連れてきた女性――胡蝶カナエを何故、男のベッドで寝かすのかと。客間と客用の布団がちゃんとある。恋は盲目とはこの事だ。

 

「……何やってんだろう。これでは恋する乙女みたいじゃないですか!! ――寝ましょう。今日は、色々あって疲れました」

 

 22時前だというのに一人(・・)で毛布に入る彼女。そして、目を閉じる。

 

………

……

 

 人間は、視覚からの情報量は8割から9割と言われている。目を閉じる事で、他の器官が情報を得ようと鋭敏になる。

 

「彼の匂いがする」

 

 彼女の嗅覚が部屋の主の匂いを感じ取った。

 

 胡蝶しのぶは、少し前までは、こんな関係になるなど想像も付かなかった男性の事を思い浮かべた。だが、そう思っていたのは彼女だけである。あらゆる方向から外堀を埋められて、今の状況だ。

 

 それに、彼女も決して悪い気はしていない。彼女も女だ。全力で自分を求めてくれる男性に心が惹かれた。それに、望む物を全て与えてくれる男は、裏金銀治郎以外にいない。

 

「銀治郎さん、客間で寝ているのかな。――少し、悪い事をしてしまった」

 

 仮にも、彼氏の実家で部屋の主を追い出して占拠するなど、普通ではありえない。だが、裏金両親は、胡蝶しのぶの事を大層気に入っており、息子なんて外で寝れば良いのよ。どうせ、風邪なんて引かないんだからと言う始末だ。

 

 もはや、裏金銀治郎の実家では、『胡蝶しのぶ > (越えられない壁) > 裏金銀治郎』の扱いが確定していた。女の子に恵まれなかった裏金実家において、男のヒエラルキーは大変低い。

 

 ゴロゴロ

 

 ゴロゴロ

 

 寝付きは良い方の彼女であったが、睡魔は一向に訪れない。一人で眠る事が減った彼女。自室ならまだしも、男の部屋で一人で寝るなど異常事態。柱とて平常心を保つには、至らなかった。

 

 落ち着かせる為、スーーーハーーーと深呼吸するがその効果は無い。

 

 ムラムラ

 

 そんな彼女の頭を横切る睡眠するためのアイディア。だが、そのアイディアは、完全に駄目な方向の物であった。

 

「……いやいやいや、無いって!! 流石に、人様の家で、銀治郎さんのベッドで!! 落ち着きなさい、胡蝶しのぶ」

 

 人間の三大欲求と言われる――『食欲』『睡眠欲』『性欲』がある。

 

 鬼を食べた事により、身体能力が向上すると同時に、これらの欲求も向上するのだ。ご飯を食べて満たされた『食欲』。残る二つを一気に解消する事が、胡蝶しのぶの勇気で実現できる。

 

 更に、背徳感とシチュエーションという相乗効果もあり、胡蝶しのぶの欲求のボルテージは上がっていった。頭では分かっていても、彼女の手が動く。

 

「す、少しだけ」

 

 裏金銀治郎のベッドの脇に、白い三角の布が落ちる。そして、しなやかな指でなぞる。

 

………

……

 

 翌日、裏金銀治郎は客間で目を覚まし、胡蝶しのぶを起こしに向かった。快眠している胡蝶しのぶがいる部屋を開ける。

 

 部屋の淫靡な匂いを嗅ぎ、床に落ちている女性物の三角の布を確認した。

 

「誘い受けされているのか……」

 

 Yシャツ一枚であられもない姿で寝る彼女を前にする裏金銀治郎。素足が見えており、毛布が絶妙に大事な部分を隠している。少年ジャンプの謎の力が働いたおかげで、見えないからこそ逆にエロくなるという不思議な現象が目の前にはあった。

 

 この状況で裏金銀治郎が手を出したとしても彼に罪は無い。

 

 実家で朝っぱらからプロレスとかハイレベルな戦いはできないと、煩悩に勝利した裏金銀治郎。昨日、童磨に抱きつかれなければ、今の枕ポジションに自分が居たのだと思うと、絶対にアイツは殺すと心に誓う男が生まれる。

 

 できる男の裏金銀治郎は、そーーと部屋を退出し、扉を閉めた。そして、外からノックして起こす。何も見なかった事にしてあげる優しい男である。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、早々に神保町を後にした。長い時間、鬼滅隊を離れる事もできない。それに、鬼の脅威は一応去った。

 

 そして、事が事だけに直接、お館様に報告を行う。信憑性を担保する為、胡蝶しのぶが同席する。鬼舞辻無惨についても、情報があると伝えると……産屋敷あまねも同席。

 

 産屋敷あまねは、僅か一日だったにも関わらず、疲れが顔に表れている。裏金銀治郎の一日の仕事量が、産屋敷あまねとその子供達では終わらなかったのだ。勿論、勝手を知らないという事もあるが、明らかに一人で行う仕事量ではない。

 

「おかえり銀治郎。短い休みで済まなかったね。鬼の件について、報告を」

 

「まず、実家に接触してきたのは、童磨という鬼でございました。上弦の()という刻印を確認しております」

 

 それには、裏金銀治郎も驚いた。上弦の弐であった男が、降格していたのだ。考えられる可能性は二つだ。入れ替え戦で序列が変わった――この場合、あのチートより強い鬼が出てきたことになる。もう一つは、パワハラ上司による理不尽な降格である。

 

 原作を知る彼は、後者だと見抜いていた。

 

「わかった。無事で何よりだ。それで、鬼の目的は分かったかい?」

 

「私に助言を求めて訪ねてきておりました。私が、出版した『上司が求める理想の部下』、『理想の上司』を鬼舞辻無惨が読んだらしいのです。そして、上弦に教えを請えと……」

 

 寝たきりの産屋敷耀哉も流石に困惑した。理解に苦しんでいる。

 

 当然、同席している産屋敷あまねも同じ意見だ。あまりに突拍子のない話に、産屋敷あまねは疑いを持った。上弦の鬼と接触して無傷で帰ってくる男……謎が多すぎる。裏で手を組んだと言われた方が、辻褄が合う。

 

「鬼が?人間に?信じがたいですね」

 

「あまね様、お気持ちは分かりますが……私も聞いておりましたので間違いございません。銀治郎さんに教えを請いに来たのです。ですが、衝撃を受けた内容は他にもございます」

 

 胡蝶しのぶが、目で訴える。

 

 女装パワハラ上司については、裏金銀治郎の口から報告しろと。酷い話だ。

 

「後で、報告書を纏めますので、ご確認ください。それと、鬼舞辻無惨の目的が、一つ判明しました。"青い彼岸花"を探しております。話を聞くに、杜撰な探し方であったので、アドバイスを致しました」

 

「"青い彼岸花"か……なるほど、彼は今でもそれを探しているのか。銀治郎の事だ、アドバイスをした目的があったのだろう?」

 

 産屋敷あまねと違い産屋敷耀哉は、裏金銀治郎の事を信頼している。疑わしい事も多いが結果的に鬼滅隊の不利になることはしないと。

 

「今回の事である程度の信頼は得られました。直接の連絡先も教えたので、適度に連絡を取っていく予定です。そして、鬼滅隊の財布代わりにします。"青い彼岸花"の情報を手にする為、伝手を使うのに金が要ると言えば、用意するでしょう」

 

 胡蝶しのぶは、やっぱり~と理解を示していた。

 

 宗教法人は税制面で優遇されており、お金を持っている。なぜなら、寄付は非課税だ!! 人の金を奪うのは罪だが、鬼から奪うのは罪にならない。鬼を殺す資金は、鬼に出して貰う健全なアイディアである。

 

「裏金殿、そのお金は鬼に騙された人の物ではありませんか?」

 

「あまね様、それは既に鬼の金です。鬼滅隊には、運用資金が必要です。私の仕事を代行して、ご理解頂けたはず。毎日、あれだけの金額を消費しております。以前の列車事故のような事が今後も起きないとも限りません」

 

 大事な事だが、胡蝶しのぶと裏金銀治郎は、鬼滅隊の大スポンサーでもある。フロント企業の利益を全て鬼滅隊に還元している善良を通り越した異常者だ。勿論、部下という立場もあるので、両者の距離感は微妙だ。

 

「銀治郎、上弦の肆については君に一任しよう。だが、くれぐれも注意してくれ。もし、戦力が必要な場合は、直ぐに柱を動かそう」

 

「ありがとうございます、お館様。最後に、鬼舞辻無惨についてです。上弦の鬼から得た情報では、炭治郎達が倒した下弦の壱を残して、女装姿で全て一掃したらしいのです。上弦にも度々女装姿を見せつけて困っているとか」

 

「――すまない銀治郎。どうやら、聞き間違ったようだ。聴力には自信があったのだが、病が進行したかもしれない」

 

 長年の宿敵である鬼舞辻無惨の一面。その情報は、産屋敷耀哉の体調を悪化させた。鬼だけでなく、鬼滅隊にもダメージが及ぶ女装……鬼柱様の強さは伊達ではなかった。存在自体が、危険物だ。

 

 よもや、長年の宿敵が想像の斜め上をいく趣味を開花させていたとは、勘が優れている産屋敷でも察する事ができなかった。勘が働かない産屋敷一族は、無能である。

 

「お館様、聞き間違いではございません。無惨が、女装姿で下弦を一掃し、上弦に日々嫌がらせをしております。ネチネチと……蛇柱も真っ青な位に」

 

「冗談ならタチが悪いです。その情報は、誠なのですか?しのぶさん」

 

「少なくとも、上弦の鬼が発言していた事は間違いありません。下弦とは、明言しておりませんでしたが……話の流れ的に誤りはないかと」

 

 裏金銀治郎の発言の裏を取る産屋敷あまね。気持ちは理解できるが、本人を目の前で失礼である。

 

「このように考えれば良いのです、あまね様。その程度の器量しかない鬼舞辻無惨だからこそ、1000年も産屋敷一族が……鬼滅隊が存続できたのです」

 

 理解したくない事実を忠言する裏金銀治郎。組織には、こういう男が必要だ。

 

「銀治郎さん、柱としてお館様とお話がありますので、退室を」

 

 話す事がなくなった裏金銀治郎は、先に退席した。

 

………

……

 

 そして、胡蝶しのぶが話を切り出した。

 

「お館様、差し出がましいかも知れませんが……銀治郎さんの監視、良くないかと。鎹烏をお使いでしょうが、バレております。対応には細心の注意を払ってください。どうしても、監視をされたいのでしたら、宇髄さんに依頼するのが最適かと思います」

 

 車移動の際、一定距離を保って烏が付いてくればバレるに決まっている。町中ならまだしも、田舎道で空を見上げれば烏が何時も飛んでいる。裏金銀治郎達が、休憩すれば烏も休憩する。

 

「失礼しました。裏金殿には、後で私から謝罪を致します。しかし、此方の事情も理解して頂きたい。鬼滅隊の状況は綱渡りで、その綱を握っているのが裏金殿です。彼が綱を握る手を離せば、どうなるか…しのぶさんならお分かりでしょう」

 

「分かります。監視という体裁は、辞めましょう。身の潔白を証明という体裁ならば、対外的に悪くありません。いざというとき、お館様達が銀治郎さんの後ろ盾になるのです。具体的には、あまね様を筆頭にお子様達と銀治郎さんの業務を手伝うという風にすればよいかと」

 

 人手が足りていない資産運用。それに、今後を考えても、産屋敷一族の誰かが資産運用を引き継げるようにしておくべきである。そうすれば、仕事も早く終わり二人の時間が確保できるという、まさに一石二鳥の提案であった。

 

 胡蝶しのぶも中々に染まってきていた。

 




作者の文章力では、これが限界だorz
後は読者の脳内保管で頼んだ!!

強盗の夜の日……まだ書いていないけど、代わりに本話で当面は許してクレメンス@@
手が回らない。

だ、大事な事だが今度こそ休むぞ!!
本当に投稿しないからね!!

週末は筆を休め、体力回復に努める^-^





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33:覚醒

いつもありがとうございます。

感想も本当にありがとうございます。


 鬼滅隊の資産運用兼給与管理を担う仕事部屋。人員増加に伴い、裏金銀治郎の執務室と隣の部屋の壁を取り壊し、拡張された。素晴らしい事に業務知識がある程度あり、仕事を覚える事に対して向上心のある要員が来るのだから、裏金銀治郎もこの上ない喜びであった。

 

 それが、産屋敷耀哉――上司の息子と娘であっても一切関係ない。産屋敷あまねは、介護の為、子供達が駆り出された。

 

 例え上司の子供であっても、職場においては裏金銀治郎が上司である。働いてお金を貰う以上、子供であっても手加減などしない。それが、誠実な仕事への向き合い方だ。

 

 そのおかげで思わぬ自由時間ができた裏金銀治郎。蝶屋敷に足を運んでいた。目覚めたと話があった竈門炭治郎へのお見舞いと経過報告をする為だ。病室に近づくにつれて賑やかになる。竈門炭治郎の目覚めを喜ぶ者達が多く、彼の人望は留まる事を知らない。

 

 だが、その陰で女同士の激しい戦いが繰り広げられている。

 

 天然ジゴロの竈門炭治郎は、神崎アオイと栗花落カナヲの双方から思いを寄せられている。目覚めたばかりの彼のお世話をしようとする二人。割り込むのも申し訳ないとおもいつつ、裏金銀治郎が声を掛けた。

 

「炭治郎君、元気そうでなによりです。それと、二人とも席を外してくれ。彼と個人的な話がある」

 

「裏金さん」

 

 起き上がろうとする竈門炭治郎を止めた。病人なのだから、大人しく横になっていろと指示したのだ。

 

「金柱様……炭治郎さんは、病み上がりなので」

 

「分かりました」

 

 素直に引き下がる彼女達。裏金銀治郎が相手では、彼女たちも分が悪かった。立場もそうだが、色々と世話になっている身だ。彼の意見は無碍に出来ないのが実情だ。

 

「直接話すのは二ヶ月ぶりだね炭治郎君。まず、吉原では言いそびれていた――私の名前を呼ばないでくれてありがとう。おかげで、スムーズに鬼を処理できた」

 

「こちらこそ。そういえば!! 善逸が使っていた刀って何なんですか!? 日輪刀じゃありませんよね?」

 

 覚えていたかと裏金銀治郎は思った。あれについては、秘匿しておきたいのが本音である。個人的な伝手で手に入れた流星刀……その有用性がバレれば、提供しろと言われる可能性が高かった。

 

 だが、約束どおり情報を提供する裏金銀治郎。今の状況で、竈門炭治郎が裏切る事はないと確信しているからだ。

 

「あれは、流星刀といいます。隕石を加工して作った刀です。太陽の光を宇宙で億年単位で浴びた物から作った品物。数に限りがあるので、私でも数本しか所有していません。ちなみに、しのぶさん以外では炭治郎君しか知りません。……わかっていますね?」

 

「分かっています!! 大丈夫です。俺は、何も聞いていません」

 

 大人になる竈門炭治郎。

 

「よろしい。では、次の報告だ。君の尽力も有り、あれから薬の開発は順調だ。現在の完成度は9割。残る1割も目処が立っている。おめでとう、君の妹は1年もしないうちに人間に戻れるだろう」

 

「本当ですか!! あででで」

 

 裏金銀治郎の言葉を聞き、歓喜する竈門炭治郎。そうなれば、妹が普通の人間として暮らせるようになる。彼は、自分の事のように喜んだ。

 

「喜ぶのは良いが、病み上がりなのを忘れないでくれ。それで、続きの報告だ。残りの1割は、残った上弦の4名の内2名分と太陽を克服した竈門禰豆子の血液があれば完成する」

 

「裏金さん、頑張りますといいたいのですが上弦の鬼ってそんな簡単に出会えるものじゃ~」

 

 裏金銀治郎の言葉に嘘偽りがないのは、分かっている。だが、その条件が無理難題であった。1年内に上弦の鬼2体と出会い、竈門禰豆子が太陽を克服するなど無理難題にしか思えなかった。

 

 当然、他の誰もが聞いてもそう思うだろう。

 

「上弦の肆と鬼滅隊はコネクションを築いている。そこから、情報を手に入れる。これについては、しのぶさんと産屋敷一族しか知らないから、口外しない方が良いよ」

 

 病み上がりの竈門炭治郎を襲う裏金銀治郎の猛烈なブロー。倒すべき敵である鬼……しかも、上弦と接点を持っているとは、どういう事か。既に、彼の理解を超えていた。

 

 しかも、知っているメンバーに追加される竈門炭治郎。分不相応ではないかと自覚し、胃痛を感じていた。

 

「一体、この二ヶ月に何があったんですか!?」

 

「知りたいのならば、教えよう。上弦の肆である童磨と鬼滅隊を代表して喫茶店でお茶を飲んできた。何でも、上司である鬼舞辻無惨が女装して、下弦の鬼を一掃するわ。上弦をネチネチ虐めるわ。血を奪うわで大変だから上司との付き合い方を教えてくれと」

 

 クンクン

 

 竈門炭治郎が必死で嘘の匂いを嗅ぎ取る努力をする。真実とは、常に思い描く姿をしていないものだ。竈門炭治郎の目から涙がこぼれた。理不尽に家族を奪った憎い怨敵が、本当に理不尽な存在だった。その行き場のない怒りは、涙へと形を変えた。

 

「お願いです、裏金さん。嘘だと言ってください。そんな男に家族が殺されたなんて、俺……どうしたらいいんですか!!」

 

「炭治郎君、私は嘘など言わない。それに、君のなすべき事は決まっている。上弦の鬼を倒して、妹を人間にする。そして、鬼舞辻無惨を殺す。それだけだ」

 

 竈門炭治郎の気持ちも理解できる裏金銀治郎。だが、彼にはどうする事もできない。

 鬼舞辻無惨の女装癖を辞めさせることも。今更、男の姿で出てこられても、それはそれで困る。今日の鬼舞辻無惨は、女装していない!! 何故だと言う無意味な自問自答がされてしまうからだ。

 

 鬼舞辻無惨の女装癖が、鬼滅隊への精神的な攻撃であるなら、策士である。

 

「そうだ。あの男は、生きていちゃ駄目な奴だ」

 

 怒りから痣が浮かび上がる。覚醒する竈門炭治郎。深淵へと片足を突っ込む。きっと、刀を持てば、漆黒の刃がより美しくなるだろう。

 

「あぁ、だから殺すんだ。その為にも、傷を癒やしてから体力を回復させなさい。来週には、刀の整備も兼ねて刀鍛冶の里に行けるように手配しておこう」

 

 そこで、上弦の弐と参を倒してきてくれと心の中でつぶやく裏金銀治郎。

 

 何も知らない竈門炭治郎は、部屋を出る彼にお礼を言う。

 

………

……

 

 竈門炭治郎は、我妻善逸に出会い驚愕した。

 

 増えていたのだ――嫁が。二人でもあり得ない事態だったのに、音柱と並び3人目の嫁とか鬼滅隊でもトップになった。何より、恐ろしいのは、その全員が淫魔であった事だ。彼の嗅覚は、彼女達の身から漏れ出す妖艶な香りを嗅ぎ取っていた。

 

「なぁ~善逸。頼むから、夜10時以降にベッドをギシギシさせないでくれ。隣の部屋で休んでいる俺の気持ちにもなってくれ!!」

 

「ごめん、炭治郎。耳栓と鼻栓を用意するから、それで許して。だって~、蝶屋敷以外だと嫁さん達が心配で仕事に行けないんだよ。鬼がいつ来るかも分からないしさ、それに!! 禰豆子ちゃんとも仲が良いんだよ彼女たち。だから、ここに居させてくれーーよ」

 

 竈門炭治郎も男だ。隣の部屋でナニが行われているかなど理解している。それに、匂ってくるのだから……。

 

「え、ちょっとまって善逸。禰豆子に、とんでもない事を教えていたら許さないからな!!」

 

 思わず我妻善逸を締めあげる。

 

「苦しい炭治郎。大丈夫だと思うよ。確かに、夜は凄いけど、ちゃんと良識あるから……たぶん」

 

「禰豆子~、今、お兄ちゃんが助けにいくからな~」

 

 蝶屋敷を駆け回る竈門炭治郎。だが、二ヶ月も間があったのだ。幼女から大人にまでなれる竈門禰豆子に色々教え込むには時間は十分あった。

 

 その日、善逸ブッコロし隊に将来有望な男が一人加入した。彼の刀身は、漆黒であるにも関わらず、水の呼吸の全ての型を使え、ヒノカミ神楽という特別な型まで使えるという。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎の執務室の電話が鳴る。それは、童磨の為だけに用意した専用線だ。

 

『お待たせしました。裏金事務所です』

 

『その声は、裏金先生。分かる?俺だよ俺』

 

 オレオレ詐欺。未来で流行し、猛威を振るう詐欺は鬼が発祥であった。上弦の鬼が鬼滅隊の拠点に電話を掛けてくるなど、色々と可笑しい状況だ。

 

 当然、部下となった産屋敷耀哉の子供達は聞き耳を立てる。裏金銀治郎の口から一言、鬼滅隊の場所を伝えたら、その日の夜には鬼達からの襲撃がある。

 

『童磨さん、ダメですよ。電話の場合は、相手に名前をちゃんと伝えないと意思疎通ができません』

 

『俺と裏金先生との仲じゃない。この間の話を上司にしたらさ、なかなか受けが良くてね。定期報告する事になっちゃった……助けて~』

 

 裏金銀治郎一人ならまだしも、部下がいる場で変な発言をされると誤解を招く。今の電話の会話だけでは、完全に裏金銀治郎は鬼側に聞こえる。鬼滅隊の足場を崩壊させる作戦ならば、実に有効的だ。

 

『先日、喫茶店で貴方に抱きつかれたせいで……恋人に男の匂いがするので、一人で寝てくださいと言われました。恋人の機嫌を取るためにも、物入りです。なので、"青い彼岸花"を見つけるまでコンサルしましょうか? 勿論、お代は頂きますが』

 

『それは、ごめんね。今度、同僚が作った壺をプレゼントするから許してね。デパートとかでも売られている品だから、出来映えは保証するよ。裏金先生のコンサルは、上司への報告もして貰える?』

 

 壺より現金が欲しいと思う裏金銀治郎。だが、例え現金を積まれたとしても鬼舞辻無惨への報告など冗談ではなかった。人間が鬼側トップに進捗報告とか、どれだけ上司が嫌いなんだよとツッコミ所が多すぎる。

 

 そんな事をしていると、終いには殺される。

 

『ご冗談を。先日、喫茶店で上司の話を聞いて、頷くと思っています?』

 

『ハハハハ、だよね~。報告は、同僚と持ち回りでやるよ。じゃあ、早速だけどコンサルを依頼したい。予算は、幾らでも使ってイイよ。報酬は、不老不死ってのでどう?』

 

『童磨さん、そういう丼勘定をしていると私がコンサルしている今の会社みたいになります。報酬は、夢物語の品でなく、お金にしてください。ですが、私に任せておけば、安心です。実は、お電話があると思って、彼岸花の開花時期や季候、清の季候も調査済みです。警察の知り合いに軽く聞いたのですが、密輸で捕まった清国出身者がおりました。日本語も母国語も達者だそうです……金さえあれば、釈放できますよ』

 

『いやいや、流石に嘘でしょう裏金先生。まだ、数日だよ』

 

『その認識が甘いのです、童磨さん。もう、数日経ったんです。私は、1手、2手先を読んで動いております。商売とは、その位機敏で無ければなりません。で、童磨さんは、私に幾ら払えますか?』

 

『月給1,500円。"青い彼岸花"を見つければ、成功報酬で50万でどう? 勿論、経費は全て此方持ち』

 

『報酬が高すぎる気がします。見つけた瞬間、お前はもう用済みだと言われそうな気がする金額です。信用して良いのですか?』

 

『そうだね~、じゃあ成功報酬の2割を前金で渡すよ。それで、どうだい? 但し、見つからなかったら返して貰うけどね』

 

 鬼滅隊より遙かに好待遇であった。給与面での文句はない。どの柱よりも高い給与であった。何も事情を知らなければ、間違いなく再就職を決めていただろう。

 

『分かりました。お引き受けしましょう。今後の作業に関してロードマップを作成した上で、進め方についてお話したい。二日後に、以前の喫茶店でどうでしょう?』

 

『最高だよ、裏金先生!! いや~、仕事が早いっていいね』

 

『ビジネスとしてこのくらい当然ですよ。恐らく、貴方の上司もこのくらいを望まれているかと思います。あぁ、それと、今度は抱きつかないでくださいよ。恋人に嫌われたくないので』

 

 ガチャリと電話を切る。

 

 当然、注目されている裏金銀治郎。だが、裏切りの心配はない。裏切るなら既に見限っている。それを理解できていないのが部下達である。今からでも、鬼側に乗り換えるのではないかと。

 

「魚が餌に掛かりました。私は、鬼側のコンサルで忙しくなるので、鬼滅隊の仕事は基本的に君達に任せます。進捗確認と不明点などを聞く時間を毎日設けますので、それまでに準備しておくように」

 

「裏金さん、信じていますから」

 

 産屋敷輝利哉は、言わないでいい事を伝える。それでは、『疑惑が残っていますが、鬼滅隊の為、貴方を信じる事にしました』と、聞こえる。

 

「期待には応えましょう。だから、早く仕事を終わらせてくださいね。これから、私は鬼側のコンサルに注力しますので」

 

 鬼側から金を搾り取るため、様々なプランを検討する裏金銀治郎。

 

 そう……どうせ、潰れる宗教団体だ。多少、グレーなことに手を染めさせて資金を集め、それを回収したとしても悪い事ではない。罪は全て鬼にある。

 

 この時代、『ネズミ講』や『オレオレ詐欺』を止める法律は存在していない。

 




ふぅ、なぜ休もうと思ったのに執筆しているのだろうと思ってしまう作者orz

さぁ、宗教法人で稼いだお金を根こそぎ貰うぞ。





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34:師範と継子

いつもありがとうございます^-^

感想も本当にありがとうございます!!
皆様からのアドバイスや共感がいただけたりと本当に楽しく読んでおります。




 裏金銀治郎は、万世極楽教のコンサルを行った。

 

 信徒達の情報を収集し、それぞれをランク付けした。そして、有能な者達を選抜し海外渡航組を結成したのだ。当然、渡航組達の心配は現地での生活である。国内ならまだしも海外となると誰でも尻込みする。

 

 その問題を解決する為、裏金銀治郎は今日も喫茶店で打ち合わせをしていた。

 

 いい加減、周りの目線が痛い彼であった。

 

「お膳立ては、我々でも可能。ですが、実際に現地で活動する者達が率先して動ける準備はしてあげる必要があります。無策に、海外に信徒を送り出すだけなら馬鹿でもできる」

 

「なるほど、裏金先生の解決策は?」

 

 童磨は、裏金銀治郎に一定以上の信頼を寄せていた。万世極楽教の雑な管理体制を見直し、資産管理を行う事で財政状況が明確になった。更に、税制対策まで行う事で万世極楽教において確固たる地位を築いていた。

 

 前任者も裏金銀治郎の手腕を褒め、全幅の信頼を寄せるまでに至っている。

 

 鬼滅隊と異なり、剣の腕や腕力が物言う世界とは違う。ここが現実世界なのだ。

 

「金です。人は俗物です。現地で何不自由ない生活を保障し、潤沢な活動資金があれば人は動きます。それに、彼等は信仰心があるので、現地での裏切りは心配ありません」

 

「えっ!? まだ、お金が必要なの? 信徒達だって現地に行けば、やってけるんじゃない」

 

 上司への報告の為、よりスピードが求められた。

 

 そこで、裏金銀治郎は提案したのだ。通常の手続きルートを無視する為、賄賂を積んだ。名目は学術調査とする為、大学所属の研究員など嘘の経歴を作るにも苦労していた。それらを全て解決する為に金を湯水のように使った。

 

 勿論、かなり水増しして請求しており、鬼滅隊の懐へと流れている。

 

「時間を金で解決していますからね。当然です。ですが、お金なら稼げば良い。いいですか……これから私が言うことは独り言です。それを童磨さんが聞いて信徒に指示したとしても私は一切関係ありません」

 

 近い将来、猛威を振るう『ネズミ講』『デート商法』の詳細が話された。『オレオレ詐欺』には、まだ電話の機能が付いていかないので残念ながら却下である。

 

 勿論、独り言である為、それを誰かが聞いて勝手に実践したとしても裏金銀治郎の知るよしではない。そして、集金されたお金が第三者に渡れば既に綺麗なお金である。

 

 事実、国家機関の警察ですら、犯罪者から押収したお金は被害者へ返さず懐へしまい込む。被害総額○○○円と告知して仕事は終了なのだ。

 

 よって、詐欺教団から奪った金を裏金銀治郎が鬼滅隊の給与に充てたとしても何ら問題はない。

 

「裏金先生。控えめに言って、天才ですか? 今日ほど、先生が鬼だと感じたことはありませんよ」

 

「いいえ、私は人間ですよ。人間だから、こんな事を思いつくんです」

 

 鬼から、鬼と言われて微妙な気分の裏金銀治郎。

 

………

……

 

 どの時代でも人間は醜い。

 

 目先の利益を求め、知り合いに高額商品を売りつける事が横行した。まさに、ねずみ算式に被害者は増えていった。だが、その被害者の数に応じた利益が万世極楽教へと流れていく。

 

 毎日座っているだけで、凄まじい金額が流れ込むのだ。

 

 鬼舞辻無惨が研究の為、金の無心をしてきても痛くも痒くもない財政状況に童磨も喜んだ。しかも、あの上司からもよくやったと褒められたらしい。

 

 だが、『私が薦めた本のお陰だ。私の言う事が正しいと証明された。これからも、……』などと戯言を言っている。部下の手柄は全て自分の手柄、失敗は部下のせい。

 

「すごいね裏金先生。これなら、海外に何人送っても問題ないよね」

 

「勿論です。それにしても、童磨さんも悪いお人だ。最終的にどうなるか教えて上げたのに、平然と実践するとは。鬼ですか、貴方は」

 

 何時もの喫茶店で密会する男二人。既に、裏金銀治郎の世間的評価は、地に落ちた。

 

「そう!! 実は、鬼なんだよ。これでも少し前までNo.2だったんだけどね。でも、今回の仕事が上手くいけば昇格もあり得るから。その時は、裏金先生にもお礼は弾むよ」

 

「今でも十分な報酬を頂いておりますが、期待しています」

 

 事実、既に相当な金額を横流ししている。鬼滅隊の懐事情が肥えていた。

 

「そうだ!! 裏金先生。折角だから、もう一仕事やってみない? こちらも報酬を弾むよ。受けてくれるなら、今の給料を3倍にしてもいいよ。こっちの仕事の成功報酬は100万でどう?」

 

「乗りかかった船です。この際、トコトンやりましょう。ただし、給料は5倍にして貰いましょう。その位、稼いでいますよね。なんせ、私が資産を管理しているんです。その位、お見通しです」

 

 本来ではあり得ないような給料額。だが、童磨も笑ってそれを許した。鬼側の問題解決にあたり、既に裏金銀治郎という存在は不可欠になりつつある。金で解決出来る問題なら、それが一番だと童磨も分かっていた。

 

「裏金先生は、本当にお金が好きだね。いいよ、その位で仕事を引き受けてくれるなら大歓迎さ。それで、依頼内容だけど――"うぶやしき"って人を見つけて欲しい。上司と少なからず因縁がある人らしくてね」

 

「人捜し?その程度で、随分と大金を積みますね。名前から察するに日本人でしょう。――珍しい名字ですが、どのような漢字を書くんですか?」

 

 その時、童磨の目が点になった。

 

 実は、この時初めて気がついたのだ。探していた男の漢字を知らないという事実を。その事に気がついてしまった裏金銀治郎。鬼側の内情がコレほど杜撰であったのかと、嘆かわしい。

 

「か、漢字ね!! えーーと、それは後で電話で伝えるから待っててね。裏金先生なら、その人をどうやって探す?」

 

「顔色が悪いですよ? まさか、上司から探せと言われて今まで名字の漢字すら知らなかったとか止めてください。いい加減、上司の方が激怒しますよ」

 

 絶望する童磨。鬼舞辻無惨に、探し人の漢字を今更聞くなどできるはずもない。同僚に聞いても同じ事だ。話が漏れれば、粛正待ったなし。降格か死の二択しか待っていない。"青い彼岸花"に関する調査で得た功績を鑑みてもマイナスに天元突破するだろう。

 

「裏金先生。助けてクレメンス」

 

「大金を貰っていますし、漢字が分からなくても何とかしましょう。但し!! 候補が増えて時間が掛かるのは、許容して頂きますよ。探し方ですが……地道に役所で管理している戸籍謄本と納税記録から当たります。生きている人ならば、そこら辺が管理されているはずです。私一人で全国は回れませんので、現地の探偵や役所への賄賂は経費にさせて貰います」

 

 裏金銀治郎は、内心ほくそ笑みつつ仕事を引き受けた。

 

 情報を小出しにして、金を限界まで搾り取る算段を立てていた。鬼滅隊では、上司である産屋敷耀哉の意向を最大限にくみ取り、良識の範囲でしか金儲けをしなかったが……ここでは、雇い主の意向を最大限にくみ取って仕事をしている。裏金銀治郎がイキイキしている仕事場であった。

 

◆◆◆

 

 蝶屋敷から竈門炭治郎が刀鍛冶の里に出かける。

 

 同時期に、甘露寺蜜璃と時透無一郎と不死川玄弥までもが現地入りしていた。当然、その情報を把握している裏金銀治郎。つまり、彼の取るべき行動はただ一つである。

 

 鬼滅の刃にて、現物武器をドロップする半天狗に会いに行く事だ。特に、風を操る芭蕉扇と雷を操る杖とかロマン兵器といって過言ではない。コレに関しては、令和の世が来ても実現できない武器であるのは間違いなかった。ある意味、流星刀より貴重な物だ。

 

「しのぶさん、一緒に温泉でも行きませんか?寧ろ、行きますよね?温泉」

 

「箱根の秘湯ならお付き合いしますよ」

 

 姉との思い出を自らで上書きしようとする可愛らしい行動であった。なに、この可愛い生き物は!!と、裏金銀治郎は、思わず頷きかけてしまった。

 

「いえ、ちょっと上弦の弐から幾つか武器を奪いたいなと。鬼が死んでも武器は残る可能性は高いです。血と同じで日光に当たらなければ――と言うわけで、刀鍛冶の里へ行きましょう」

 

「はぁ~、それは誰情報ですか?あの上弦の肆ですか?集英社ですか?」

 

 いつも直前になって提示される上弦の鬼に関する情報。情報の精度は高い。事実、今まで上弦の出現情報を外した事はなかった。つまり、僅か1年もしないうちに、上弦の壱を除いて全てと顔合わせする。

 

 今まで、上弦と出会った事がない柱が多いというのに、現役柱で弱い方に入る蟲柱と引退した元・金柱の二人が色々とおかしい。勿論、主人公一行も同様であった。

 

「無論、集英社です。流石に、上弦の肆も同僚が攻める場所を漏らすほど馬鹿ではありません。ですが、表向きにはそうしましょう」

 

「いいです。信じて上げます。だから……少しだけ、このままでいさせてください」

 

 胡蝶しのぶが歩み寄り裏金銀治郎に抱きついた。そして、体を預ける。裏金銀治郎も腰に手を回し、片手で頭を撫でる。

 

 裏金銀治郎の執務室では、色々と教育に悪い上、人目もある。つまり、甘える事ができる場所が限られてしまったという事だ。彼女とて、人の子である。柱としての重い責務を背負うには若すぎる。

 

 時代が時代なら高校三年生である彼女――犯罪だな(確信)。

 

 そんな彼女が甘えられる唯一の存在であり異性である裏金銀治郎。

 

「しのぶさんには、私がいます。必ず、私達の手で童磨の頸を落としましょう。それにしても、今日のしのぶさんは、子供っぽくて可愛いです。偶には、年相応に甘えてもいいんですよ」

 

「銀治郎さん、私は子供じゃありませんよ。そんな事言うと、今度夜にパパって呼んじゃいますよ」

 

 大歓迎だと思う裏金銀治郎。無自覚に男心を的確に付く彼女……淫魔であった。

 

 ガタン

 

 二人がいる部屋の扉が勢いよく開けられた。その一瞬のタイミングで胡蝶しのぶは離れようとしたが、全力で阻止する裏金銀治郎。なぜなら、部屋を訪れたのが栗花落カナヲであったからだ。

 

 実は、この時……裏金銀治郎は、栗花落カナヲから依頼を受けていた。内容は、『炭治郎さんと仲良くなりたい』と、いう物であった。そこで、彼女の師範である胡蝶しのぶの"誘い受け"を教えて貰えば良いと教えたのだ。

 

 そして、胡蝶しのぶの実力を見せるため、二人っきりになる状況を作っていた。

 

「か、カナヲ!! これは違うのよ!! 銀治郎さんも早く離れてください。いつまで腰に手を回しているんですか」

 

「師範。"誘い受け"の方法……教えて欲しい。アオイは、強敵です。勝つためには、剣(意味深)の指導と併せて教えてください」

 

 捨てられた子犬のような目で見つめる栗花落カナヲ。その行動は可愛らしいが、教える内容がとても人に言えるような事ではなかった。

 

「カナヲ、まるで私が銀治郎さんを誘っているみたいじゃありませんか。私は、襲われているんです。コレを見て分からないのですか?」

 

「えっ!? 師範、ちょっと何を言っているか分かりません」

 

「いいじゃありませんか、可愛い子供が男の子を射止める為に教えを請うている。くノ一から伝授された夜の四十八手を教えてくれと言われるより遙かにマシでしょう」

 

 くノ一の秘伝と言われる四十八手。その威力は絶大である。だからこそ、使い手を選ぶ技だが……未来の柱候補である栗花落カナヲには、その資格は十分であった。

 

「誘い受け以外に師範に得意な型があるなんて聞いていません(・・・・・・・)

 

 この状況を仕組んだ犯人がバレてしまった。

 

 胡蝶しのぶは、犯人を逃がすまいと抱きついた腕に力をいれる。青筋を浮かべる顔がいつにもまして可愛いのは仕様であった。そんな女性の頭をなで続けており、胡蝶しのぶが照れながら怒るという器用な事を披露している。

 

「栗花落カナヲさん、わざとでしょう? しのぶさんの特技を見るために、私を売りましたね」

 

「何の事だか分かりませんが……師範は、可愛いです」

 

 そんな師範や恩人を自らの恋を成就する為ならば、生け贄にしても構わないと思う彼女は、本当に自分の心に素直になった。

 

 




実は、鬼滅の刃のSSで感想数トップに立てて嬉しい><
読者の皆様ありがとうございます!!

この手のSSにここまで需要があるとは嬉しい限りです。
作者はこんな風なSSしか書けませんが、需要が有り本当に嬉しいです。

ここまで来たら最後まで終わらせてみせる!!


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35:未開の地

いつもありがとうございます!!

感想を何時も楽しく読んでおります。

あの手この手の詐欺が感想で記載されるとは、鬼より鬼らしい読者がいっぱいで嬉しい限りです。是非、鬼滅隊の資産運用係に採用したい程の逸材が多いわ。


※類似世界という設定ですので、群馬という県はこの世界では存在しません!!
 いいですか!! 感想で地名が間違っていますとかは無しでお願いします。


 グンマーの秘境にある温泉地帯。その一角にあるのが刀鍛冶の里だ。前人未踏とも言われるこの場所だからこそ、長年の間、鬼側の発見を逃れていた。まさか、かの地に人里があるとは誰も思わない。

 

 竈門炭治郎より半日遅れて、到着した裏金銀治郎と胡蝶しのぶ。本来ならば、もっと早く到着する予定だったが、彼女の継子である栗花落カナヲの一件で出発が遅れたのだ。最終的に、色々(・・)と指導する事で落としどころが着いた。

 

 可愛い子供が、好きな男の子を射止めたいという切実な願いを無碍にする事は、胡蝶しのぶにはできなかった。それに、度々朝ご飯当番を代わって貰っており、『その理由を詳しく教えて貰っても良いんですよ、師範』など、脅迫まがいな事までするようになった継子は本当に成長した。

 

 全く、誰の継子やらと思えば……二人の継子であった。

 

「念の為、戦力を補充します。恐らく、甘露寺蜜璃さんの刀の研ぎが終わった頃です。最終調整で工房に居るので、引き入れます。ついでに、しのぶさんの刀も研ぎをしてもらいましょう」

 

「なんで着いたばかりなのに、そんな事が――。まぁ、いつもの集英社ですね。はいはい、私が連れてきます。それで、銀治郎さんの刀は、どうしますか?」

 

 胡蝶しのぶや甘露寺蜜璃の刀ほどではないが、彼の刀も特殊な部類に入っていた。先端に釣り針の返しの様な物が着いている刀。その制作者は、彼女と同じく鉄地河原鉄珍である。

 

「では、一緒にお願いしてもイイですか?私の刀も鉄地河原鉄珍さんの作品です」

 

「そうなんですか!? よく刀を打ってくれましたね。あの人、腕は確かですが……女性にしか刀を作らないことで有名です」

 

「お館様の口添えと札束と女……この三点セットで頷いてくれました。私から依頼するより、しのぶさんからの依頼の方が受けが良いでしょう。お任せします」

 

 そのやり取りが目に浮かぶと思った胡蝶しのぶ。

 

 剣士として最高の刀を求めるなら、最高の技術を持つ刀鍛冶に依頼するのは当然だ。だから、納得するだけの材料を用意したまでだった。

 

 彼女は刀を受け取り、部屋を出て行く。

 

………

……

 

 それから、数時間後、胡蝶しのぶは甘露寺蜜璃を連れて戻ってきた。

 

 何一つ事情を知らされていない甘露寺蜜璃。知り合いに連れられて、食事かと思えば、待ち受けていたのが裏金銀治郎では、驚くのも当然だ。鬼滅隊でも胡蝶しのぶ30歳(・・・)と仲を噂される男であり、黒い噂が絶えない人物なのだから。

 

「えーーと、しのぶさん(・・・・・)。一体、これはどういう事?」

 

「以前は、しのぶちゃんと言われていた気がしましたが」

 

「ほ、ほら!! 年上の方には敬意を払うようにって、教えられてて」

 

 胡蝶しのぶが刺すような視線で裏金銀治郎を睨む。

 

 だが、彼は無実である。全ては、『隠』所属の後藤という悪の手先が情報をばらまいた。勿論、戸籍を弄った張本人が無実という事はない。情報漏洩は罪である為、裏金銀治郎が調査をし、犯人には然るべき処置が行われる事になる。後藤の運命の日は、刻一刻と迫っていた。

 

「銀治郎さん、これ絶対貴方のせいですよ。責任を取ってくださいますよね」

 

「えぇ、ですから責任は何時も取っています。両親にも紹介しました。私の家にしのぶさん用の枕や生活用品だって用意したじゃありませんか」

 

 ほぼ毎晩お泊まりしている胡蝶しのぶ。彼女の為に、裏金銀治郎は生活必需品を全て揃えた。親にも紹介しているので、これで責任を取っていないと言う彼女がおかしいのである。

 

「キャーーー!! 素敵な生活だわ。是非是非、しのぶさんには色々指導して欲しいわ」

 

 婚活目的で鬼滅隊に入った彼女が胡蝶しのぶに教えを求めるのは自然の流れだ。そもそも、彼女の見た目で結婚できない方が不思議でならないと考える裏金銀治郎。蛇柱を押し倒せばそれで目的は達成できるだろうに、草食系女子なのだろうか。

 

「継子への指導と一緒に教えて上げれば良いじゃありませんか。そろそろ、真面目な話をしても宜しいですか?」

 

「そうですね、甘露寺さん。貴方も馬鹿じゃなければ、少し真面目に話を聞いてください」

 

 静かになった。

 

 表に出てこない裏金銀治郎と現役柱の胡蝶しのぶ。甘露寺蜜璃は、少なからず良からぬ企みをしているのではないかと疑っていた。胡蝶しのぶも、裏金銀治郎と関係をもつようになり、良くない噂が広まっている。

 

 柱専用の緊急活性薬がその良い例だ。材料が鬼であるのは、明白。それが作れるという事は材料となる鬼が密かに確保されていると同義であった。

 

 全ては鬼滅隊の為に行っている事だが、人は一面からしか物事を見ない。そのおかげで、あらぬ疑いが掛かっていた。大事な事だが、その薬のお陰で炎柱や音柱が五体満足で現役でいられるという実績を忘れてはいけない。それを鑑みて、評価できる人物が鬼滅隊には殆どいない。

 

「約一週間後、刀鍛冶の里を上弦の弐と上弦の参が襲撃してきます。対応の為、甘露寺蜜璃さんの力を貸してください。貴方の担当エリアには、階級が高く使える隊士を多数派遣しました。当面の間は、不在でも問題ありません」

 

「えっ!? えぇーーー!! この里が襲われちゃうの!!あっ、でも分かっているなら、柱のみんなを呼べば楽勝ね!!」

 

 それができれば良いのだが、世の中甘くはない。

 

 柱という重要な戦力は、問題が起こってからしか動かない。問題発生前に、動くという例外的な行動を取っている裏金銀治郎と胡蝶しのぶが異常であった。本来であれば、処罰対象だが……実際、上弦の鬼と遭遇しているので文句がでるはずもない。

 

「私の権限では、柱までは動かせません。実際、上弦の鬼が来るというのは、私の予想に過ぎない。なので、刀を研ぎに来ていた貴方に協力をお願いしたい。今なら、休暇も兼ねて滞在する方便で通ります。勿論、タダとは言いません。しのぶさんが赤裸々な話をしてくれます。どうぞ、恋を成就する参考にしてください」

 

「ちょ、ちょっと!! 聞いてませんよ、銀治郎さん」

 

「分かりました!! やります」

 

 本来ならば後から駆けつける彼女が初めからいれば、里への被害も減る。加えて、事前に鬼に関する情報を提供すれば、戦闘がより楽になる。勿論、ドロップアイテムを手に入れる為、事前に調整すべき事はやっておく必要はあった。

 

「では、鬼が来るまでの一週間は、ご自由にして構いません。里に居る炭治郎君をそれとなく気にして貰えると有り難い。それと、上弦の鬼について、私が知りうる情報を教えますので、対応策も考えておいてください。ここを襲撃する鬼は、半天狗と玉壺という鬼になります。その血鬼術は……」

 

「はいはい!! 裏金さん、なんで上弦の鬼について、知っているんですか?」

 

「知っていては何か問題ですか? 細かい事を気にしていては、素敵な恋人と出会えませんよ」

 

「あ、はい。何でもありません」

 

 鬼に恨みが無く、婚活の為に入った女性は細かい事を気にしない。実にチョロイと思いつつ、裏金銀治郎は上弦の鬼達の風貌と血鬼術の内容を伝えた。そして、完璧な状態で鬼達を迎え撃つ準備を整えていった。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎不在時に鬼滅隊の資産運用と給与管理の全権を持つ事になった産屋敷輝利哉は、有能であるが故に苦悩していた。裏金銀治郎が万世極楽教から横流しする金額の大きさに手が震えていた。

 

 鬼が運営する組織である為、そこから資金を巻き上げても特に問題ないと考えていたが、その金額の大きさに今更ながら尻込みしてしまっていた。当然、鬼滅隊への利益を最大限にする為、宗教団体にて資金調達をする報告が裏金銀治郎からなされており、産屋敷輝利哉もそれを了承した。

 

「お父様が裏金さんの事を天才だと褒めていた理由がよく分かった」

 

 新聞の片隅には、『ネズミ講』被害者の嘆きの声が載っていた。本来であれば、もっと大きな一面を飾る内容だが、新聞社の編集長は買収済み。代わりに大きく一面を飾るのが、『米価の上昇』と言う物だ。

 

 当然、このような突発的な事は裏で鬼が糸を引いている。その糸を手繰れば、宗教団体へと繋がる。全国を巻き込むほどの被害を、鬼側のコンサルを引き受けて短期間で実現した。しかも、鬼滅隊の業務もこなしながらである為、片手間でやった事だ。

 

「お兄様、裏金さんを止められないのですか?」

 

「無理だ。裏金さんは、鬼滅隊の為に仕事を遂行しているに過ぎない。彼に、一切の悪意はない」

 

 だが、そんな男の稼ぎで良い暮らしができているのが産屋敷一族だ。何不自由なく、安全な場所で、美味しいご飯が食べられるのも彼のおかげだ。そして、産屋敷耀哉の治療代も、裏金銀治郎によって賄われている。

 

 仮に、産屋敷あまねやその子供達が働いたところで、鬼滅隊の運営費どころか、生活費すら稼げない。そう……彼等の生活は、鬼被害者の嘆きの上に成り立っている。

 

 よって、裏金銀治郎は、感謝されど恨まれる筋合いはない。少なくとも、産屋敷一族や鬼滅隊の者達にはその権利はない。

 

「ですが、それでは無関係の人達の生活が」

 

「分かっている。裏金さんにもその旨を既に伝えた。そうしたら、代案を用意してから出直してこいと言われた。文句を言うだけなら誰でもできると……」

 

 代案など不可能だ。

 

 それが可能であるなら、鬼滅隊破産の危機など訪れていない。現在の鬼滅隊の運用資金は、胡蝶しのぶと裏金銀治郎が100%に近い水準で稼いでいる。若干、隊服の特殊素材の特許もあるが、占める割合は少ない。

 

 そもそも、子供に大金を稼ぐアイディアがあったとしても、伝手もない。結局の所、大人の手が必要になる。そして、誰が頼りになるかと言えば政財界や裏社会にも繋がりのある裏金銀治郎だ。

 

「味方であればこの上なく頼もしいですが、裏金さんが敵に回れば鬼舞辻無惨以上に危険かもしれない」

 

 裏金銀治郎がいないのを良いことに、言いたい放題の兄妹である。その認識は正しい物であった。だが、考え方に色々と問題がある。

 

 裏切った場合の心配をするより、どうしたら裏切らないかという健全的な思考ができないのだろうか。裏金銀治郎という男を鬼滅隊に縛り付けるには、何が必要か。胡蝶しのぶという楔が打ち込まれているのだから、彼女をつなぎ止める努力をすべきであった。そうすれば、おまけで裏金銀治郎がついてくるのだから。

 




ふぅ~、やっと温泉編にはいれたよ。

ここで霧柱と恋柱には痣を発現してもらって
鬼を倒して貰えば全ての仕事が終わる。

元柱を込みで現地に柱が四名も居れば鬼に遅れは取らないでしょうからね。


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36:おまわりさんコイツです!!

いつもありがとうございます。

今日もお休み予定でしたが、投稿ができて良かったです!!

感想も本当にありがとうございます。
実は、感想の方が本編より面白いのではと思うほどです。







 鬼滅隊に入って十数年……一週間という纏まった休暇は初めてであった裏金銀治郎。宿泊する場所が、刀鍛冶の里に併設されている隊士用の宿でなければ、今ごろ淫靡な日々を送っていた彼であった。

 

 胡蝶しのぶは、甘露寺蜜璃と同室である為、女部屋に忍び込む事はできない。報酬の前渡しで、彼女が赤裸々な話をしており、流石にその場に居合わせたくないと裏金銀治郎も思っていた。

 

 朝風呂に向かう途中、女性二人組と出会う。

 

「う、裏金さん……流石に気絶してまで続けるのは、良くないと思います。もっと、女の子の事を考えた方がいいですよ。キャーーー、言っちゃった」

 

 周りに誰もいなかったから良かったが、一体どんな話が伝わっているのかと裏金銀治郎は不安に駆られていた。初期の頃ならまだしも、今じゃ立場が…。

 

 反論する前に、猛スピードで遠ざかった。言いたい事だけ言い残していなくなる。

 

「そうですよ、銀治郎さん。女の子には、優しくしてあげないとダメですよ。えいえい」

 

 朝風呂上がりの胡蝶しのぶから良い匂いがする。浴衣姿と上目遣いという理性に大ダメージを与えてくる彼女。その綺麗な指で頬をつつく仕草は、可愛らしいの一言であった。

 

 ここが、彼の部屋の近くであったなら、そのままお持ち帰りは確定だ。しかし!! 良識ある裏金銀治郎は、歯を食いしばり耐えた。宿内にある室内温泉への通路であり、いつ人が来るか分からない場所で、お互いの評判を落とすような事はできない。

 

「しのぶさん、ここは人目がありますよ」

 

「コホン――清掃中の看板を立ててきました。女湯には、私達が出てから誰も入浴してません。一週間ぶりに……ね」

 

 裏金銀治郎の頭の中で天使と悪魔が闘っていた。

 

 裏金天使『いけません。男湯にすべき』

 裏金悪魔『馬鹿野郎。男湯には他の客が居るかも知れないだろう。人が来る前に、早く女湯へ』

 裏金天使『その通りですね。では、女湯へ行きましょう』

 

 天使と悪魔は、結局同じ結論に行き着く。

 

 柱の身体能力があれば、女湯から飛び出て男湯に飛び移ることも可能だ。呼吸法の力とは、このためにあったのだと裏金銀治郎は悪魔の声に従った。

 

「しのぶさん、その言い方は狡いですよ」

 

 胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の手を引いて女湯へと入っていった。繋ぐ手は、指を絡ませており、彼女の愛らしさが溢れている。

 

 当然だが、男が女湯に入るのは犯罪だ。『おまわりさんコイツです!!』と、呼ばれればそれで鬼滅隊の金庫番は解任され、組織も崩壊する。

 

………

……

 

 ポタポタと血が垂れる。

 

 女湯が覗ける絶好のスポットで、ピンクの髪をした女性が鼻血を垂らしていた。甘露寺蜜璃は、胡蝶しのぶを置き去りにしたのを思い出し戻ってきていたのだ。その際、二人の雰囲気を察して物陰に隠れて話を聞いていた。

 

「しのぶさんなんて失礼な呼び方はできないわ。これからは、しのぶ様と呼ぶ事にするわ。キャーーー!! 嘘でしょ、しのぶ様。あんな格好でなんて!! これは、勉強になるわ」

 

 大事な事だが、彼女は胡蝶しのぶの名誉を守る為に、この位置を守っていた。男が多い刀鍛冶の里では、女湯が覗かれるという不埒な事件が発生している。そんな不埒な輩から、大先輩である胡蝶しのぶを守る為、柱である彼女が守りについたのだ。

 

 と、いう方便である。

 

◆◆◆

 

 襲撃のある夜、蟲柱と恋柱、金柱は完全武装で待機していた。

 

 霞柱は仲間外れである。その理由は、男だからとか悲しい理由ではない。彼の協調性のなさが原因だ。痣に目覚めて貰う為にも、彼には何も知らせていなかった。

 

しのぶ様(・・・・)と一緒に、半天狗って鬼の方にいけばいいのね!!」

 

「それでお願いします。私としのぶさんは、基本的に里の人を守る為に動きますので、全力を出して頂いて問題ありません。ですが、半天狗が持つ武器については、可能な限り回収をお願いします」

 

「あ、あの~何故、様付けなんですか?甘露寺さん。この間までは、しのぶさんでしたよね?」

 

「だ、だって!! あんなの見せられたら……さぁ!! 鬼退治に行ってきますね」

 

 顔を真っ赤にして走り去っていった。まだ、襲撃の合図がないというのに、行動が早い彼女である。だが、早めに待機していても問題ないだろうと見送った。

 

 胡蝶しのぶは、甘露寺蜜璃の行動で理解した。朝の出来事が覗かれていたと思うと、顔が真っ赤になる。彼女の中では、何処まで見られたのか、どうやって口止めするかなど様々な事が巡っていた。

 

 これから上弦の鬼がくるというのに、鬼退治より口止めをしなければと胡蝶しのぶは考えていた。優先度が完全に入れ替わっている。

 

「イヤァーーー!! 嘘でしょう!! どうするんですか、銀治郎さん!!」

 

「しのぶさん、覗いていたのが甘露寺蜜璃さんで良かったじゃありませんか。男なら、私が殺していました」

 

 裏金銀治郎は、真剣であった。

 

 胡蝶しのぶの裸を覗く野郎は、隔離施設の鬼達の餌にしてやってもいいとすら思っていた。刀鍛冶の里の連中とて容赦はしない。男の場合、スポンサー様の裸を覗いたら、死罪は当然だ。

 

「私は、今すぐに追いかけます!! 半天狗は、此方で処理します。玉壺の方は、任せても大丈夫ですか?」

 

「勿論。時透無一郎さんだけで、倒せる鬼です。私は周りのゴミ掃除くらいしかやる事はありません。終われば、手伝いに行きます」

 

 ズドンという音が響いた。

 

 宿を揺らすような一撃。竈門炭治郎達がいる部屋に鬼が現れた証拠だ。そして、飛ばされる時透無一郎が窓の外からよく見えた。人間とは、あれほど見事に空を飛べるのだと、二人は思った。

 

「えっ!? 今、時透さんが飛ばされていきましたよ」

 

「えぇ、全て予定通りです。私は、彼の元へ向かいます。それと、顔を隠して名前も変えてくださいね。鬼舞辻無惨は、此方を覗いている可能性があります。今回は、"巌勝"と"縁壱"で行きましょう。男性名ですが、我慢してください」

 

 蝶の羽根飾りを外し、髪を縛り上げる胡蝶しのぶ。そして、狐のお面を付けて顔を隠す。残念な事に、残っているのは狸のお面であった。

 

「それで、今回の名前は誰のですか?狸さん」

 

「"巌勝"と呼んでください。"巌勝"は、上弦の壱の本名です。"縁壱"は、双子の弟の名前です。弟は、日の呼吸という始まりの呼吸の使い手。兄は、派生である月の呼吸の使い手になります」

 

 胡蝶しのぶから、またですか?と言った雰囲気が漂う。さらりと、最後の上弦の情報が公開される。だが、今は目の前の事に集中する事に決めた彼女。裏金銀治郎に「また、後で」と言い残し、鬼退治に出かけた。

 

………

……

 

 森の中を進む裏金銀治郎。道中逃げ遅れた刀鍛冶達を助けつつ、玉壺が居ると思われる場所へと向かっていた。

 

「金の呼吸 肆ノ型 化合爆砕」

 

 血鬼術で作られた魚の化け物が砕け散る。体内のメタンと水素を化合させて内部から吹き飛ばす技。壺がどこに引っ付いていても体ごと吹き飛ばせば壺も割れるというやり方だ。

 

 裏金銀治郎は実感していた。以前にも増して技の切れも威力も増している事を。鬼を喰らう事で身体能力が飛躍的に上がっている。特に、上弦と竈門禰豆子の血肉を食べてからは、それが顕著に表れた。

 

「た、狸のお人!? 助かりました。他の者達もお願い致します」

 

「任せておけ、露払いくらいは私でもできる」

 

 雑魚を倒して感謝されるなど、ぼろい商売だと思っている男である。血鬼術で作られた壺が弱点の存在など、元柱である彼の敵ではない。それからも、霞柱の元へ行くまでの間に何人も助け、辿り着く。

 

 裏金銀治郎は、上弦の鬼を目視すると直ぐに物陰に隠れ気配を断つ。

 

 そこには、水の牢に囚われた時透無一郎が最後の酸素を使い技を放ったタイミングであった。だが、無念にも刃こぼれした刀では、血鬼術は破れず朽ち果てるのを待つばかりである。

 

 鬼滅隊の隊士として、助けるならば今しかないのだが……裏金銀治郎は動かなかった。この後、痣に覚醒するイベントが待っているのを知っている彼。だから、見捨てたわけではない。

 

「なかなか、心苦しいですね」

 

  時透無一郎を助けるため、刀鍛冶の子供が必死に水の牢を攻撃している。しかも、血鬼術で作られた魚人に攻撃されながらだ。だが、そこで裏金銀治郎は気がついてしまった。原作では、炎柱の鍔で急所を守ったが、ここではどうなると!!

 

  現役で仕事をしている炎柱がいるのだから、あの子供は腹に攻撃を受けたら致命傷になる。しかし、子供一人の命で柱が痣に目覚めるなら安い物だと華麗にスルーする裏金銀治郎。

 

「ギャ!! 痛っ…!!うわあ血が!!」

 

 ドスっと魚人の刃が子供に突き刺さった。そして、倒れる。本来であれば、よろめきながら、空気を時透無一郎に託すのだが、子供が急所を刺されて歩けるはずもない。現実とは、こういうものである。

 

「くそ!! 予定変更!! 雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」

 

 裏金銀治郎は、即座に助けに入る方針へ転換した。金の呼吸ほど得意でないが、次に得意な雷の呼吸は、こういう急ぐ場面では大いに活用される。

 

 そして、魚人と水の牢を切り裂いた。内部からは、破壊しにくい水の牢であっても、外部からは脆い。そして、何喰わぬ顔で今駆けつけた雰囲気を醸し出す男……裏金銀治郎。

 

「ゴッホゴホ!! ガッハゴフ……はぁはぁ。ゲッホゲホ」

 

「時透無一郎さん、ご無事で何よりです。無理に喋らないでください。鬼の毒が回ります。直ぐに、治療をしましょう」

 

 時透無一郎は、目の前にいる男を……裏金銀治郎だとは気がつかない。だが、太刀筋から、柱に匹敵する実力者という事だけは察していた。狸の仮面を付けた怪しさ抜群ではあったが、日輪刀を持っており、隊士だと判断した。

 

「俺の事より、こ…小鉄君を」

 

「深手です。あの傷では助かりません。それより、貴方の怪我を」

 

 まだ死んでいないが、小鉄の命は間もなく尽きる。傷が深い為、裏金銀治郎では対応ができない。だから、死んだ怒りで覚醒しろと心の中で応援する男がそこには居た。

 

「これを、小鉄に使ってくれ!! これなら、その程度の傷は治る」

 

「柱専用の緊急活性薬ですか~。それを使えば、貴方の傷が治りません。上弦の鬼がまだ健在なのですから、ご自身に使うべきでは?」

 

 柱の命の価値は、そこら辺の子供とは訳が違うという持論を常日頃持っている時透無一郎。そんな彼が、人の心を理解し子供の命を優先するようにまで成長したのだ。手のひら返しが、素晴らしい事この上ない。

 

「いいから、早くしろ!!」

 

 裏金銀治郎は、自らの懐から緊急活性薬を取り出して投与した。その様子を見た時透無一郎は、何故それを持っているという顔をしている。柱専用であるこの品物は、お館様より万が一にと渡された物だ。

 

 狸のお面を付けた柱など、時透無一郎は知らない。雰囲気からも現役の柱ではないと、理解していた。だが、時透無一郎には心当たりがあった。

 

「これで、大丈夫でしょう。時透無一郎さん、後は貴方の仕事です。無限の力を引き出して、鬼を殺してください。私では、あの鬼に勝てませんので」

 

「あぁ、分かったよ。そして、ありがとう。金柱さん(・・・・)

 

 時透無一郎は、全身に突き刺さった棘を抜き、自らの体に緊急活性薬を投与した。みるみる肉体が再生したが、顔に出ている()までは消すことはなかった。

 

 時透無一郎は、激怒していた。己の不甲斐なさと鬼への憎しみで覚醒をはたす。

 

「二週間だけの指導でしたが、覚えていましたか。ここでは、巌勝と呼んでください」

 

「刀鍛冶の人達は、頼みます。俺が鬼を倒すので」

 

 最小の努力で最大の結果を得るため、裏金銀治郎は時透無一郎を笑顔で送り出した。もっとも、狸の仮面のお陰で、その表情を見るのは誰もいない。

 




今日も、しのぶさんの"誘い受け"講座が投稿できて満足しました。
これで年齢で言えば、リアルJK何ですぜ。犯罪だよ、まったく。

金の話よりしのぶさんの話の方が多い気がするのは、まぁ、可愛いからいいよね!!

>十三カイダン様、人食い椎茸様
 遅れながら推薦ありがとうございます。
 作者側で通知などがなく、今気がつきました。
 推薦を頂けたのは、初めて嬉しい限りです^-^
 作者より作品の説明が上手で悔しいと思うほどです
 これからも、執筆頑張ります!!


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37:淫魔は、罪である

いつもありがとうございます。
感想ありがとうございます!!

うーーん、この話は書きにくいw
そのそも戦いって苦手!!

日常編の方が執筆しやすいのよね。






 裏金銀治郎は約束通り、刀鍛冶の首根っこを掴んで安全地帯に放り投げた。その一人に、一心不乱に刀を研ぐ変態がいる。その尋常でない集中力は、褒められるが死んでは元も子もない。

 

「助かりました。狸の隊士の方。我々の事はいいので、時透殿の支援を」

 

「鉄穴森さん、あの戦いに私が割り込むと邪魔になりそうですが……まぁ、美味しいところだけ頂戴する方向でいきます」

 

 玉壺の血鬼術を物ともしない時透無一郎の剣術。身体能力が向上した裏金銀治郎の動体視力でも、一瞬ぶれる程だ。人間に出来る動きではない。彼ならば、いつか銃弾を斬る事すら可能とするだろう。

 

 裏金銀治郎は、気配を断ちベストポジションへと移動した。そして、流星刀に持ち替える。触れれば勝ちの刀だが、卑怯でも何でもない。鬼の血鬼術は、初見殺しが沢山ある。人間側にも初見殺しがあって、初めて平等だ。

 

「それは貴様の目玉が腐っているからだろうがアアアア!!」

 

 玉壺が無数の魚を呼び寄せた。血鬼術で作られた魚で、切断されても毒を撒き散らすという二段構えの攻撃である。正直、この攻撃に毒が無ければ、未来に訪れる食料飢饉対策になる。

 

 だが、覚醒した時透無一郎の前には、たった二回の技で全てが無意味となった。一万の魚を切る技とか異次元過ぎて裏金銀治郎の中で、柱のやべー奴ランキング上位にその名を刻む事になった。

 

「そろそろか……」

 

 裏金銀治郎が構えに入る。全身全霊を一刀に賭ける技……黄色い髪の毛をした淫魔を三人も嫁にしているエロイ(・・・)男に教わったこの技を玉壺への手向けとする。そう、下半身が大事な雷の呼吸。すなわち、裏金銀治郎に使えるのは、当然であった。

 

 全身から視覚できるほどの雷が迸る。

 

 時透無一郎との闘いの末、ついに玉壺が壺からその身を出した。ナメプでは限界を感じたのだ。だが、時既に遅し…。

 

「お前には――」

 

「雷の呼吸 霹靂一閃・神速」

 

 ズドンと音が響く。

 

 本家本元より遅い。だが、変身途中の玉壺には、その不意打ちに反応できない。音に反応して、本能的に頸を金剛石より硬い鱗で覆う。その強度ならば、並の使い手なら刀の方が折れるだろう。だが、並の刀ではなければ、何も問題がない。

 

 パリンと頸が砕ける音が響く。玉壺の頭部が宙を舞い地面へと落下した。

 

「えっ!? き、貴様ぁぁぁぁぁ!! 変身途中に攻撃してくるとは、それでも正義の味方か!? 今まで殺した柱ですら変身途中は攻撃してこなかったぞぉぉぉぉ」

 

「ねぇ、ちょっと待ってよ。俺、これから本気を出すところだったんだよ」

 

 鬼の頸が落ちたのを悲しげに見る時透無一郎。

 

 上弦の鬼を倒したにも関わらず、この塩対応は流石に酷いの一言であった。本来ならば、褒められるべき所なのだが、味方である時透無一郎ですら、裏金銀治郎のやり方に異議を唱えた。

 

「変身途中に攻撃して何が悪い。今までの柱が馬鹿だった。私は、ベジータのように、セルを完全体にするような愚かなマネはしない。弱いうちに殺す!!」

 

 裏金銀治郎は、何も悪くない。敵が強くなるのを待つなど愚か者だ。効率よく敵を始末するとはこうやるのだ。

 

「まぁ、いいや。さっさと、これを地獄に送って向こうに加勢に行こう」

 

「私は、死体を処理してから行きますのでお先にどうぞ」

 

 上弦の鬼は、首をはねてもしぶとく生きる。肉体も血も……それだけの時間があれば、回収には十分の時間だ。そんな思いを秘める裏金銀治郎を後に残して、時透無一郎は半天狗の討伐へと向かった。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎が鬼退治を頑張る最中、胡蝶しのぶも仕事を全うしていた。

 

 刀鍛冶の里に出現した魚人討伐。怪我人の手当など、蟲柱として久しぶりに任務を真っ当していた。当然、上弦の鬼の武器確保が最優先であり、それを忘れずにこなす彼女。

 

「鬼の武器が人でも使えるのは、革命的ですね」

 

 胡蝶しのぶが集めた武器は、扇3個と錫杖2個というほぼ理想値であった。一部欠損している物もあったが、それでも武器としては十分活用できる。

 

 やるべき事を終えてから、遅れながら胡蝶しのぶは、甘露寺蜜璃と合流した。

 

 そこに待ち受けていたのは、最終形態の憎珀天。もちろん、能力やその詳細は既に裏金銀治郎から連絡されており、二人とも特に驚く様子はなかった。だが、憎珀天は言ってはいけない一言を言ってしまう。

 

「貴様、あばずれだな。儂には分かるぞ、男を堕落させる淫魔の力が」

 

「酷い言われようですね、甘露寺さん。怒っても良いんですよ」

 

「えぇぇぇ!! 今のって私の事なの!? し――縁壱様の事じゃないの」

 

 憎珀天の一言で、仲間の絆にヒビが入る。

 

 血鬼術で作られた存在の割に有能であった。女同士の絆とは、脆く崩れやすい。そこにつけ込むとは、鬼の鑑である。

 

「淫魔は、罪である。存在その者が男を堕落させる、犯罪に走らせる。この、極悪人共が」

 

 男を惑わす罪は重い。独身男性隊士がいれば、鬼に共感しただろう。そして、議論されただろう。胡蝶しのぶと甘露寺蜜璃――この二人のどちらがより淫乱なのかと。

 

「憎珀天でしたね。先ほどの問いですが、私と横のエロイ服の女性……どちらに向かって言ったのですか?回答次第では、楽に殺してあげます」

 

「二人共に決まっているだろう。愚か者共め」

 

「撤回しても許しませんから」

 

 胡蝶しのぶが笑みを浮かべる。笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である。静かにぶち切れた彼女。裏金銀治郎より『心拍数と体温が上がると痣が出現します。寿命の前借りで力を得られますが、25歳までに死ぬので止めてください』と釘を刺されてなければ、痣が出ていただろう。

 

「見た目、子供だからって許さないんだから!!」

 

 悲しい事に、甘露寺蜜璃の寿命はこの時25歳までが限界となってしまった。淫魔と言われて、胡蝶しのぶと裏金銀治郎の濡れ場を思い出し興奮した。更に、胡蝶しのぶと同じ淫魔扱いされた事がトドメを刺した。彼女も、胡蝶しのぶ同様に裏金銀治郎から痣の出現条件を教わっていたのに、この結果である。

 

「血鬼術で作られた鬼には、どんな毒が効くんでしょう――蟲の呼吸 蜂牙の舞い 真靡き」

 

 瞬きするより早く突きが、憎珀天の目を抉る。

 

 だが、やはり血鬼術で作られた鬼には効果はイマイチであった。毒による効果がない為、単なる物理ダメージとなる。頸がもげても死なない鬼にとって、目玉一つなど蚊に刺された様な物であった。

 

「これなら、先ほどのガキ共の方がまだマシだったぞ」

 

「まぁ、予想の範囲内でした。甘露寺さん、前衛は任せました。私は不意打ちでアレをバラバラにします。何度もバラせばいずれ力尽きるでしょう。私達が倒れるのが先か、相手が倒れるのが先か勝負といきましょう」

 

 胡蝶しのぶは、刀を持ち替えた。鬼に対するメタ兵器である流星刀。血鬼術への効果を確認する目的もあり、その威力が存分に発揮される。

 

………

……

 

 竈門炭治郎は、必死に逃げる上弦の鬼を追いかけていた。よもや、ネズミほどのサイズであるとは、戦略的には素晴らしい鬼であった。本体だと思われる鬼を幾ら倒しても、血鬼術であり、力が続く限り何度でも蘇る。

 

 血鬼術の詳細がバレなければ、童磨とも良い勝負ができる鬼であった。

 

「貴様ァァァ!! 逃げるなァァァ!! 責任から、逃げるなァァァ」

 

 竈門炭治郎の叫びを半天狗は、華麗にスルーする。待てと言われて、待つ馬鹿はいなかった。命が掛かっていれば当然だ。それに、彼が逃げるのは当然である。

 

 この状況で真面目に向き合って闘うなど自殺行為を行えば、例え生き残ったとしてもパワハラ上司改め鬼柱様から、折檻が待っている。お前は無能かとネチネチ言われるのだ。心が弱い半天狗には耐えがたい苦行である。

 

 竈門禰豆子と不死川玄弥も攻撃に徹するが、的が小さい事と逃げる事に関しては相手が一枚上手であり、決定打に欠けていた。

 

 その時、竈門炭治郎は思い出した。追いつけない半天狗を切り捨てる方法を。我妻善逸の言葉――『雷の呼吸ってさ~下半身じゃなかった、一番足に意識を…』という有り難い言葉であった。やるせない気持ちになりつつも、足に力を溜めて一気に解放した!!

 

 激痛に耐えながらも、竈門炭治郎の刀は半天狗の頸に届く。肉に食い込み、あと少しと所まで追い詰める。

 

「お前はぁぁぁ、儂があああ、可哀相だと思わないのかァァァァ!!」

 

 絶叫し巨大化した半天狗が竈門炭治郎に襲いかかる。

 

 半天狗のような鬼を誰が可哀相だと思うのだろうか、真剣に話し合いたいと誰もが思った。竈門禰豆子のような可愛い鬼ならまだしも、このオッサンが可哀相だと思う人がいたら医者に掛かるべきである。

 

 襲いかかった半天狗だが、力の大半を憎珀天に使われていた。その為、竈門炭治郎を握りつぶす絶好の機会だというのに、無念に終わる。

 

 彼の仲間である不死川玄弥と竈門禰豆子が助けに入った。不死川玄弥が鬼の腕を引きちぎり、竈門禰豆子が爆血で鬼に致命傷を与える。だが、位置が悪かった。鬼が逃れるために、竈門兄妹を連れて崖から落ちたのだ。

 

………

……

 

 日が昇りつつある状況を確認し、崖の下から彼等を見守る裏金銀治郎。

 

 竈門炭治郎は頑張った。崖から落下した後にも、体を動かして半天狗の頸を落としたのだ。その強靱な肉体と精神は賞賛ものだ。だが、半天狗の方が一枚上手であり、その頸が偽物であったのだ。

 

「原作通りとは、有り難い。やはり、日頃の行いのおかげであろう。しかし、酷いな炭治郎君。私だからって、妹の方を優先するとは……」

 

 全身負傷した半天狗が再生もできないほど衰弱していた。そして、目の前にいる人間を喰い体力を補充しようと裏金銀治郎の方へ駆け寄る。

 

「会いたかったよ半天狗。君にお礼が言いたかったんだ――ロマン兵器をありがとう。そして、さようなら」

 

 裏金銀治郎は、この日のために外国からある物を取り寄せていた。彼の横には、大きなボンベがあり「N2」と書かれている。そう、これこそ液体金属のターミネーターすら倒した有名な物だ。

 

 ボンベを半天狗へと投げる裏金銀治郎。そして、背中から散弾銃を取り出し狙いを定める。そして、引き金を引く。弾丸は、ボンベを撃ち抜く。

 

 液体窒素が飛び散り、半天狗を襲う。

 

 温度差により半天狗周辺に白い霧が立ちこめた。霧が晴れると、そこには、実に醜い氷の像があった。

 

「き……なにをした」

 

「このあたりだったな」

 

 ズブリ

 

 氷の像となった半天狗。その本体が隠れている場所に流星刀でトドメを刺した。そして、太陽の日差しがあたりを照らす……そんな日差しの下を歩く竈門禰豆子。

 

 おめでとう竈門禰豆子。これからは、君を巡った争いが始まる。




やっとここまできた!!

柱が揃ってやる訓練・・・蟲柱様の訓練は、"誘い受け"かしらね!!
まぁないけどね!! 絶対だからね!!


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38:緊急柱合会議(滅)

いつもありがとうございます。

ふぅ~、この手の話の方がスムーズに執筆できる。
作者の性格故かしら^-^

感想ありがとうございます!!





 上弦の鬼――半天狗と玉壺の撃破。これで上弦の鬼を4体も倒した事になり、鬼滅隊の歴史上、コレほど多くの上弦が倒された事は無かった。今回に至っては、刀鍛冶への里へのダメージは、極めて少なく理想的だったとも言える。

 

 だからこそ、裏金銀治郎は納得がいかなかった。

 

「困りますよ、鉄地河原鉄珍さん。この里建造と維持管理に毎年幾ら投資していると思っているんですか?」

 

「鬼に位置がバレたこの里は、放棄する。これは、刀鍛冶達の総意。止められてもワシ達は空里へ移住する」

 

 その言い分も理解はできた。だが、コレほどの設備は空里には当然ない。生き残りを全員収容可能だが、食料や医療物資まで破棄していくつもりなのだ。刀鍛冶の者達は、空里に着いたら、真っ先に金の無心をして生活基盤を整える算段をしていた。

 

 だが、鬼滅隊の資産管理を行う立場として断固して、反対であった。

 

「この里は、業者に買い取りをして貰います。温泉街にすれば収益は見込めるので買い手はつくでしょう。後、空里での生活は、刀鍛冶の皆様で整えてくださいね。貴方達の状況も理解できますが、此方の懐事情も分かって頂きたい」

 

「はぁ? 鬼滅隊は、ワシらを見捨てるって事かね。鬼滅隊は、以後、刀の整備も新調も不要と……そう理解してもいいのかえ?元・金柱の裏金銀治郎さん」

 

 刀鍛冶の里の一番偉い長として、裏金銀治郎の提案は受け入れられなかった。鬼滅隊への刀を提供していたから、襲われた。だから補填は鬼滅隊がすべきという主張だ。援助金は生活費などに既に消えており、刀鍛冶の者達は貯蓄という概念を持ち合わせて居なかった。金なら、鬼滅隊に無心すればいいのだから。

 

「譲歩した提案のつもりでしたが、ご納得頂けないとは心外です。日輪刀の原材料である猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石が枯渇した今、その原料は私が調達しています。この里の売却は譲れません……だが、私も鬼ではありません。売価は、全て貴方達に渡しましょう。それで生活基盤を整える」

 

「まぁ、そのあたりが落としどころか」

 

 完全に上から目線である刀鍛冶の里。だから、こいつ等は嫌いなんだと裏金銀治郎は思っていた。職人の技術力が求められる日輪刀……鬼滅隊の隊士の必需品だからこそ強気でいられる。

 

 ローション配備が順調に進む鬼滅隊。そろそろ、一般隊士が日輪刀を持つ時代が終わりを迎える。近接して頸を切るよりローションに含まれる藤の毒で殺す方が安全で効果的だからだ。

 

「では、交渉成立です。これからも、鬼滅隊は刀鍛冶の里と良き関係でいられることを祈っています」

 

「ほんとうに。今度からは、交渉役は女性にするように」

 

 次があれば(・・・・・)、考えても良いと思った裏金銀治郎。

 

 戦いは既に終盤に入った。鬼舞辻無惨を殺した後、鬼滅隊の方針について考える必要がでてきた。何処を切り捨てるかだ。勿論、裏金銀治郎が切り捨てられる可能性もある。だが、その時はスポンサー企業が撤退するだけだ。

 

◆◆◆

 

 お館様が住む屋敷には、柱の全員が集まっていた。

 

 半年の一度の定例会議以外では、集まるのは緊急の要件のみであり、今まさにこの時であった。太陽を克服した鬼の出現により、鬼舞辻無惨が竈門禰豆子を確保すべく動き始めたのだ。

 

 それを察した産屋敷耀哉は、最終決戦に向けた準備に入る事を決意する。だが、当の本人は既に、半分死人であった。起き上がることすら困難になり、寝たきりだ。

 

 そして、お館様を待つ部屋に……原作には居なかった炎柱と音柱。そして、元・金柱の裏金銀治郎が座して待っていた。裏金銀治郎にしてみれば、本当に居心地が悪いの一言である。

 

 現役柱達が集合しているのに、裏方に異動した元・柱がいるのだから、『お前、居場所が間違っている』と目で訴えてくる輩が居る。蛇柱と風柱である。

 

「おぃ、どういうことだ。柱でもない奴が緊急柱合会議に混じって居るぞ。下座に座っているとは言え、立場をよく理解していないみたいだ」

 

 ネチネチと嫌みを言ってくる蛇柱。

 

 だが、裏金銀治郎とて、この場に居たいとは思っていない。お館様の言葉と産屋敷あまねが頭を下げなければ決してこの場には来なかった。裏金銀治郎が抱えている案件は多い。その多忙さは、柱以上であるのは間違いない。

 

 アンブレラ・コーポレーションのトップという立場。鬼滅隊の金庫番としての立場。宗教団体のコンサルの立場。それらの業務を全てこなしているのだから、人間を辞めている働きぶりだ。

 

「まぁ、良いでは無いか!! 裏金殿は、引退したとは言え柱!! それに、彼が居たお陰で俺は生きている。きっと、ここに居るのにも理由があるはず」

 

「その件も含めて、お館様から話があるだろう」

 

 炎柱と水柱が、裏金銀治郎の肩を持つ。実に珍しい組み合わせだと全員が思った。勿論、裏金銀治郎も同じであった。そもそも、彼は冨岡義勇と縁が全くない。それなのに、肩を持たれる理由がなかったのだ。

 

 不思議に思っていると真打ちが登場した。お館様に変わり、産屋敷あまねが代理で現れる。

 

「大変お待たせしました。本日の柱合会議、産屋敷耀哉の代理を産屋敷あまねが務めさせて頂きます。裏金殿は、私がお呼び致しましたのでご承知おきください」

 

 頭を下げて、当主不在の理由を告げる産屋敷あまね。お館様を敬愛する柱達が頭を下げて心の底から心配していたが、一人だけ早く終わらないかなと会議が始まる前から終わりを祈る不敬な輩――それが裏金銀治郎だ。

 

 それから、産屋敷あまねの口から太陽を克服した竈門禰豆子とそれを狙ってくるであろう鬼舞辻無惨。大攻勢に向けて、備えてくれとおおざっぱな指示がなされた。具体性の無い指示だが、彼女の管理能力ではそれが限界であった。元より、神職の家系で嫁いできた彼女。殺人集団への訓練指示などできるはずもない。

 

「上弦の弐と参との戦いで甘露寺様と時透様のお二人に独特な紋様の痣が発現したという報告が上がっております。お二人には、痣の出現条件を御教示頂きたく存じます」

 

「痣って、裏金さんが言っていた事ですよね。……あれ!? いっちゃ不味かった!?」

 

 甘露寺蜜璃も裏金銀治郎の顔色を確認し、まずかったと認識した。彼女も成長した証拠である。だが、周りの柱達は、彼に注目していた。痣という謎の模様について、何を知っている。何故知っていると、蟲柱と恋柱を除く皆が考えた。

 

「やはり、ご存じでしたか裏金殿。是非、御教示願います」

 

 ちなみに、裏金銀治郎はこの為だけに呼ばれていた。恐らく、痣について何か知っているだろうと予想していたら案の定だった。

 

「産屋敷あまね様、一言余計です。『やはり、ご存じでしたか』など言われたら、私が悪者にしか聞こえません。当主代理で発言している事をお忘れなくお願い致します。痣の発現条件ですが、体温39℃以上 且つ 心拍数200以上で間違いありません。ですよね、時透無一郎さん」

 

 産屋敷あまねに注意をする裏金銀治郎。柱の者達は、そのやり取りが理解できなかったようだ。当主である者に注意するなど、理解に苦しむ様子であった。只一人、胡蝶しのぶだけが、『やっぱり、言っちゃいましたか』と、納得する。

 

 柱のほぼ全員が、ブラック企業精神に汚染された戦士となっている。何でも、Yesと答えていれば最善な状況になると勘違いしている。

 

「うん。でも、その言い方は辞めた方が良いよ。一応、先日のお礼もあるから味方にはなるけど、危ないよ」

 

 出待ちしていた裏金銀治郎に恩義を感じる時透無一郎。彼は、実に優れた人間性を獲得しているのがよく分かる。礼には礼で応えるのは、人間性が高まった証拠だ。

 

「そうですね、私も不死川実弥さんや伊黒小芭内さんに殺されたくありません。産屋敷あまね様、ご無礼な発言をして申し訳ありませんでした。この裏金銀治郎、半年ばかり謹慎して心を入れ替えて参ります」

 

「いい心構えじゃねーーか。お前の方から、俺の前から消えるなら何も問題がねぇ。さっさと、出て行け」

 

「二度と甘露寺の前に姿が出てこないのなら、今の発言を忘れてもいい」

 

 半年と冗談で言ったつもりが、まさか風柱と蛇柱の後押しもあり実現する事になった裏金銀治郎。中間管理職として、役員会議で決まったことは従うのが社員である。鬼滅隊で無くなったとしても、胡蝶しのぶとの約束は守るつもりで居るいい男がここにいた。

 

「それでは、皆様お元気で。"痣"とは、寿命の前借りで力を得る手段です。その為、発現した者は、25歳までに死にます。私は、二人ほどそれを回避した人物を知っていますが、必要ありませんね。それと、大日本帝国陸軍との爆薬の取引は、私が居なくても頑張ってください」

 

 当主代理にも嫌われ、幹部達にも嫌われた裏金銀治郎。産屋敷あまねと裏金銀治郎は、基本的にそりが合わない。その子供達もだが……裏金銀治郎の事を信じていないのだ。勿論、彼自身の疑わしい行動が全ての原因ではある。だが、産屋敷耀哉はそれでも全て許容して全幅の信頼を寄せていた。

 

「待て待て裏金さんよ~!! 産屋敷あまね様も悪気があったわけじゃねーんだ。他の連中だって、本気で言っているわけじゃねーんだから、分かるだろう?」

 

「そうですよ、銀治郎さん。私、言いましたよね。絶対に逃がしませんと」

 

「宇髄天元さん、少なからず理解者がいて嬉しい限りです。後、大丈夫ですよ、しのぶさん。仇の頸は、必ず一緒に落とします。鬼滅隊の業務が無くなった方がサポートできる範囲も広がるので、寧ろ好都合です」

 

 ここまでやっても、未だに謝罪の言葉一つもない。実に、悲しい事だ。これだけの時間があれば、両者を取り持つなど色々できる事は多かったはず。だが、彼女は待っていたのだ裏金銀治郎が折れて謝罪するのを。

 

 だが、それは無駄である。

 

「あまね様……危ない橋を渡るのは止めてください。銀治郎さんを少しは信じてください。彼は、職業鬼滅隊という人です。鬼に恨みも持っていない人なので、直ぐ辞めたがります」

 

「失礼しました裏金殿。私の発言が至らぬばかりに、不穏を招いてしまいました」

 

「謝罪を受け入れます。では、続きをどうぞ」

 

 煽りの呼吸を極めている裏金銀治郎は、この場で『先日も同じ謝罪をされましたよね。鎹鴉で人を監視していたとかで。頭を下げるなら、猿にもできる』と本音を言わないだけ大人であった。

 

「ちっ。今回は、聞かなかった事にしてやる。"痣"が発現で寿命が25歳が限界となると……二人ほど、やべーな」

 

「あぁ、発現した瞬間に死なれたら寝覚めがわるいからね。仕方ないね」

 

「なーに、気にするな蟲柱!! その分、俺達が頑張れば良いことだ!!」

 

「馬鹿かお前等!! 女性に年のことを言うからモテねーんだよ」

 

「しのぶ様、気を悪くしないで。みんな、しのぶ様の事を気遣っているだけだからね」

 

「皆の者、いい加減にしろ。子を持つ女性に無理をさせては、ならぬ。こういうときこそ、男の出番だ」

 

「蟲柱って、凄い若作りだったんだ。産屋敷あまね様より年上だとは思わなかったよ」

 

「俺には、関係ない」

 

 上から順に風柱、蛇柱、炎柱、音柱、恋柱、岩柱、霞柱、水柱である。みんな、胡蝶しのぶ30歳という噂を信じている。それ故に、気を遣った発言であった。悪気の欠片もなかったが、胡蝶しのぶへのダイレクトアタックが決まる。

 

 青筋を立てながら、横に座る裏金銀治郎を睨む彼女は今日も美しい。

 




裏金銀治郎の鬼滅隊での立ち位置は、こんな感じかなと^-^
……書いていて思ったこと、理解者が居ないと裏切るわね。

次は、緊急柱合会議(殺)になります。

最強の柱が、大暴れしてくれると信じましょう。


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39:緊急柱合会議(殺)

いつもありがとうございます。

感想も沢山頂けて嬉しい限りです!!

もう一つの緊急柱合会議……きっと、こんな感じかなと。
作者の独断と偏見が盛りだくさんですが、笑ってみて許してください。


 無限城――そこに呼び出された黒死牟と童磨は、お互いの無事を確認し安堵した。だが、いつまで待っても来ない二人の存在に嘆きを覚える。四人で受ける筈の攻撃をたった二人で凌がなければならない。

 

 単純比で二倍の攻撃を受ける事になる。歴史史上最強の鬼柱の攻撃は、歴代最強の月柱(笑)や氷柱(笑)であっても無抵抗にやられるほどである。

 

「鬼殺隊の同士がまたやられたか――」

 

「黒死牟殿。ここは、我々が先手を打って場を乗り切る方法でどうだろう。裏金先生から、女性の気を引くなら花束だと言われた」

 

 裏金銀治郎は、胡蝶しのぶに"赤色のアネモネ"を贈りご機嫌を取った事があり、そのリスペクトをパワハラ上司に対して実行させようとしていた。ちなみに、"赤い色のアネモネ"の花言葉は、『あなたを愛します』という。

 

 童磨は、容姿に優れている。よって、この手を使うべきだと強く勧めた鬼畜がいたのだ。当然、花言葉などは一切教えずに。上手くいけば、上司と密な関係になり責められる事もなくなると……その話を聞いた時、童磨は吐いていた。

 

 それが人の考える事かと、唯の人間に恐怖すら感じた瞬間であった。しかし、何を血迷ったのか、童磨は、"赤色のアネモネ"を用意していた。備えあれば憂い無しという裏金銀治郎の指導のもと、常に携帯していたのだ。

 

「なるほど、半天狗や玉壺の話題に触れられる前に先手をうつのか。悪くない……」

 

「じゃあ、俺より呼吸法が使える黒死牟殿がお願いね。死んだら骨くらい拾って上げるから」

 

 冗談にもならない言葉であった。そして、二人でお前が渡せと押しつけあう醜い争いが始まる。その作戦は、双方とも自分が行わない前提で話しており、成功した場合は次回より導入しようという算段であった。

 

 大事な事だが、無限城に呼ばれたと言う事は、鳴女が既にいる。その様子は、しっかりと観察されていた。鳴女も、この場に鬼舞辻無惨を呼ぶと恐ろしい事態になると思い、引き延ばしていた。この醜い男二人は、彼女に最大級の感謝を述べるべきである。

 

………

……

 

 黒死牟と童磨は、前回の失敗を活かして、最初から土下座スタイルで待っていた。

 

 これから見せられる女装姿に耐える準備も万全である。パワハラ上司は言っていた『これからは、もっと死に物狂いでやった方が良い』と……だから、二人は努力した。

 

 万世極楽教の信者や男の鬼に女装をさせて、その姿を見ても平常心を保つという訓練に身を費やしていたのだ。そして、彼等は手に入れたのだ。例え、どんな変態な上司であっても、平常心を保てる鉄の心を!! どんな変態であっても上司の良いところを見つけて褒める技術を!!

 

 裏金銀治郎のアドバイスにより実現した。新たな力を手に入れた上弦の鬼は、より駄目な方向にパワーアップを遂げたのだ。

 

 ベベン!!

 

 琵琶の音と共に現れる鬼舞辻無惨。優れた上弦の鬼達は、上司の雰囲気を感じ取る。だが、喜びと怒りの半々であり、微妙な所であった。

 

「今回は、頭を垂れていたか。ようやく、教育が行き届いたか」

 

「勿論でございます。無惨様!! 本日は、いつにもましてお美しい!! 今日は、童磨より日頃の感謝を込めて贈り物がございます」

 

 黒死牟……上司の方を一切見ずに、床に話しかける。そして、平然と童磨が贈り物をすると口走った。勿論、どちらが上司に花をプレゼントするかという議論に結論は出ていない。つまり、黒死牟は童磨を生け贄に捧げたのだ。

 

 童磨も決意した。既に、引けぬ所まで来てしまっていた。

 

 女性相手(・・・・)ならば絶対に大丈夫と言われた裏金銀治郎の言葉から勇気を貰い。上司が求める理想の部下となる為、一歩を踏み出した。

 

「貴方様の為に、アネモネの花を用意して参りまし――」

 

 顔を上げた童磨は、驚愕した。今日に限って、鬼舞辻無惨は男の姿をしていたのだ。趣味と実益を兼ねて、女装して部下を鼓舞していたあの変態に対して、花束まで準備した今日に限り男であった。

 

 無惨の怒りのボルテージが上昇していく。片腕から肉塊が飛び出して童磨を捕らえた。そして、メキメキと骨を砕いていく。

 

「気持ち悪い事、この上ない。童磨、私は貴様の趣味(衆道)にとやかく言うつもりは無い。だが、自分の趣味に私を巻き込むな。このゲスが」

 

「ち、違います無惨様!! 俺は、貴方の女性姿に……」

 

 そもそも、女装姿を披露していた男が趣味に巻き込むなとか言って良い台詞ではない。童磨があまりにも哀れに思えて、黒死牟の目には心の汗が流れていた。

 

「やはり、私は上弦の鬼だからと言って甘やかしていたようだ。童磨――ここ最近は、非常に優秀だと思っていたが、私の勘違いだった。なぜだか、分かるか?」

 

 必死に思考を巡らすが、回答に行き着く事はできなかった。

 

「"青い彼岸花"を見つけられていないからでございます!!」

 

「あぁ、それならもう不要だ」

 

 その瞬間、童磨だけでなく黒死牟までもが、聞き間違ったと考えた。

 

 あれほど、固執していた"青い彼岸花"がもう要らないとか冗談にしか思えない。しかも、聞かれて思い出したかのように、言うのだから苦労していた童磨にしてみれば、巫山戯るなであった。

 

「海外に信徒を派遣し現地の者とも交渉が」

 

「貴様は、私の言ったことに口答えするのか。物覚えが悪いようだから、再度教えてやる。貴様等に、許された回答は、"はい" か "Yes"のみだ。理解したか」

 

「「はい」」

 

 上司のたった一言で、莫大な金と時間と労力の全てが失われた。物事には、セカンドプランが必要だ。だが、アイディアを提案したら、口答えするのかと言われて痛い思いをする。

 

 上司のターンは、まだ終わっていない。

 

「黒死牟、『はい』と言ったからには分かっているな。私が、なぜ怒っているのかを」

 

 無理である。

 

 こんな上司の心が分かるのならば、もっと上手に立ち回っていた。剣の腕を極める為に鬼となった黒死牟。当時は、上司もそれをよしとしていた。だが、今、回答をしくじれば、鬼殺隊の仲間――童磨を見捨てる事になる。

 

 童磨を失えば、次は我が身であるのは明白であった。

 

 加えて、この状況下で鬼滅隊と戦う事になれば、全ての柱と一人で闘うなど不利な展開が待ち受けている。上弦の鬼達を、誰一人欠ける事無くスムーズに討伐する鬼滅隊と闘うなど冗談では無かった。

 

「それは、我々が無惨様が求める理想の部下に程遠いからでございます。未だ、鬼柱の頸も献上できず、産屋敷も見つけられず、太陽も克服出来ず、"青い彼岸花"も見つけられていないからでございます」

 

「その通りだ。貴様等は何一つ仕事を全うできない無能だ。もっと、力を効率よく使う事を覚えなければならない」

 

 黒死牟が本気を出せば、今すぐにでも鬼柱の頸を献上できる。だが、命と引き替えにするのは割が合わない。そもそも、最強の鬼である上司だって、部下に言った言葉が全て言える。

 

 鬼滅隊の当主である産屋敷耀哉のように病気で動けないならまだしも、最強の鬼であって血鬼術を使いこなす上司が、日陰で優雅に過ごしているだけだ。電話指示や電文なども一切ない。

 

「だが、今日は機嫌が良い。今日という祝いの日を感謝するといい」

 

 土下座させられて、男上司にアネモネの花をプレゼントし、衆道と疑われ、骨を砕かれた日の何を祝えというのだろうかと童磨は思った。これがお祝いだというなら、普通の日は一体どんな地獄なのだと。

 

 黒死牟と童磨が心で話し合う。どう考えても、上司に対して何か喜ばしい事があったのですかと聞くシーンだと。お互いが絶対に地雷だから聞きたくないと、譲り合いの精神を見せる。

 

 反応が無いため、重圧が増す。負傷している童磨が血反吐を吐くほどのものであった。このままでは、童磨が死ぬ可能性が見えた黒死牟が決意する。

 

 お前だけ楽にさせないと!!

 

「無惨様、もしや半天狗と玉壺が不在な事に関係がございますか?」

 

「ようやく、その質問か。もっと早く、あると思っていたが遅かったな」

 

 鬼殺隊の二人が思った。ウゼーーー!! 何様だコイツは!? だが、よく見なくても二人の上司である。

 

「そうだ!! 半天狗がついに、太陽を克服した鬼を見つけ出した。鬼滅隊の隊士が連れている禰豆子という鬼だ」

 

 その言葉に、話の流れが見え始めた二人。どうせ、探し出せと言われるのだと。だからこそ、聞いておかねばならない事が二つある。

 

「おめでとうございます、無惨様。して、どのような風貌の鬼でしょうか。それと名の漢字を教えて頂ければ、全力で探して参ります」

 

「探す? 鬼柱も探せず、産屋敷も探せず、"青い彼岸花"も探せない貴様が?」

 

「"青い彼岸花"は、もう要らぬとっ!!」

 

 ブチという音を立て、黒死牟の頭部が粉砕された。無惨の呪いにより、再生も遅い。激痛に耐える黒死牟。

 

 黒死牟が思わず言い返してしまった。"青い彼岸花"については、終わったことなのにネチネチいうから、無意識に言葉にしてしまった。だから、彼に罪は無い。

 

「貴様達は、人の揚げ足を取るのが好きなようだな。口だけは達者だ。成果も出さないくせに、図々しいにも程がある」

 

 全部、お前のせいだ!! と叫ぶわけにもいかない二人。何時もの如く、平謝りでやり過ごす。建設的な会話などまるで発生しない。

 

「無惨様!! どうか、挽回のチャンスを!!」

 

「チャンス? それは、前回くれてやったはずだ。……だが、"青い彼岸花"の捜索や産屋敷の捜索で一定の成果があったのは認めてやろう。故に、最後のチャンスをくれてやる」

 

 鬼舞辻無惨は、裏金銀治郎の本に書かれていたことを実践していた。落として上げる!! 一度限界まで下げてから、ちょっとだけ褒める。そうすると、不思議と人はやる気を出すという摩訶不思議の現象だ。

 

「寛大なご慈悲を感謝致します!! 童磨と共にあらゆる手段をとって見つけ出して見せます」

 

「お任せください。裏金先生より"産屋敷"の姓を持つ人間の洗い出しをしております。信徒全員を導入し、必ずや探して見せます」

 

「有能な男から学ぶことは良い事だ。あの本を薦めた私も鼻が高い。それと、欠けた上弦を補充する為、新たに血を分けておく。私は有能な()が好きだ……分かっているな?」

 

 上司に頭ごなしに全て否定される上弦達は言葉どおりの意味で理解した。そして、無能な女になりたいと、真剣に考える日がやってきた。

 

 そして、和製マイケルジャクソンは身を翻して、言いたいことだけ言い残して立ち去る。大事な事だが、禰豆子という漢字を知らない上司に罪は無い。あの字は、普通読めないし書けない。

 




あまり、緊急柱合会議を長くなると本編に進めないので「緊急柱合会議(淫)」をやって、柱稽古かなと^-^

流石に、「緊急柱合会議(淫)」を一日で書き上げる自信がないので時間が欲しいなと><
大事な事ですが、本SSは健全な作品ですのでR-18とかR-15のタグは付きません。

ひっそりと、"誘い受け"ネタも募集しております。
頂けたネタも全てを実現できるわけではありませんのでご承知頂ければと思います。


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40:緊急柱合会議(淫)

何時もありがとうございます!!
そして、お休みありがとうございました。

感想で鬼側への愛が聞けて嬉しかったです。


最後の緊急柱合会議になります^-^

作者の力量では、このレベルが限界でした。
もっとエロく書ける実力が欲しいorz


 緊急柱合会議の帰り途中で雨に見舞われる裏金銀治郎と胡蝶しのぶ。木陰で雨宿りする二人の距離は、必然的に近くなる。雨音が良い音色をたてる。

 

 気温が下がっているのを体感し、裏金銀治郎は上着を脱ぐ。そして、胡蝶しのぶの肩に掛けた。暖かな上着と男性特有の匂いが胡蝶しのぶを刺激する。自然な流れで、上着の匂いを嗅ぐ。

 

「あ、ありがとうございます。その優しさの一割でもあまね様とかに向けられないんですかね」

 

「私が、しのぶさんだけに優しいのは嫌ですか。愛している女性にだけ優しくしたいという我が儘を言ってはダメですか」

 

 裏金銀治郎は、胡蝶しのぶを抱きしめながら囁いた。お互いの心臓の音がハッキリと聞こえるほど強く抱きしめる。

 

「銀治郎さん……女たらしって言われたことありません?」

 

「しのぶさんにしか、言われたことありませんよ」

 

 裏金銀治郎を振りほどき、真っ赤な顔で雨の中を走って行った。雨の中、後を追う二人は、仲の良い恋人そのものである。

 

………

……

 

 蝶屋敷まで胡蝶しのぶを送り届けた裏金銀治郎は、雨が止まぬ中、早々に私邸まで帰ろうとする。そんな彼の服を顔を赤らめながら掴む胡蝶しのぶ。

 

「そのままじゃ、風邪を引いちゃいます」

 

「いえ、だから早く帰ってお風呂に入ろうかと」

 

 胡蝶しのぶが、裏金銀治郎の背中に"の"の字を書き続ける。裏金銀治郎も鈍い男ではない。だから、言わんとすることは分かっていた。

 

「カナヲは、仕事で明日まで帰りません。ひなき様は、ご実家にお泊まりです。今日は誰もいません」

 

 するりと恋人繋ぎし、胸を押しつける胡蝶しのぶ。

 

 "今日は誰もいません"という誘い文句は、襲ってくださいと同意義だ。男の急所ばかり狙う蟲の呼吸の使い手――その"誘い受け"スタイルに勝てる男はいない。

 

 胡蝶しのぶは、悪い魔女だ。

 

 そんな、魔法の言葉を使いこなすとは、本当に大正時代の女性かと、裏金銀治郎は疑いを持ち始めた。平成とか令和の世から来た裏金銀治郎抹殺用のターミネーターだと言われても納得してしまう。もし、未来から鬼舞辻無惨が送り込んだ存在なら、今すぐにでも鬼側に馳せ参じるだろう。

 

「お、お風呂を借りるだけですからね」

 

「そういって、いつもオオカミさんになっちゃう子は誰でしたっけ?」

 

 どう考えても胡蝶しのぶが悪い。裏金銀治郎に一切の罪はないと誰もが思う。だが、一言だけ言わせて貰おう……モゲロ!!

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、二人で浴室へと向かう。

 

………

……

 

 脱衣所からここまでの間、既に制御不能になっていた柱(意味深)を覗き見て、彼女は文句を言う。

 

「銀治郎さん、日頃のお礼を兼ねて背中を流して上げているのに~。エッチなのは、イケないと思います」

 

 今目の前にある鏡を見てから、その台詞を言うべきであった。

 

「あの、しのぶさん背中にね~、柔らかいモノが当たっています。言っておきますが、男性100人に聞いても絶対私は悪くないと言うと思います」

 

 子供がいる家の風呂場で、ハッスルするのは世間体が悪いと必死に堪え忍んだ裏金銀治郎。

 

「知ってますか、銀治郎さん。わざと当てているんです」

 

 耳を軽く噛みつつ、そんなことを呟く悪女……"誘い受け"が裏金銀治郎に突き刺さる。

 

 そのまま、風呂場や寝室で何試合も柱稽古をする男女が居た。まだ、他の柱達が稽古すら始めていないのに、率先して行う者は鬼滅隊隊士の鑑である。

 

 翌朝、帰ってきた継子のカナヲは、『昨晩は、お楽しみでしたね』とお決まりの台詞で二人にトドメを刺した。カナヲは、仕事が早く終わり夜の内に帰ってきたのだが、空気を読んで、師範の稽古の姿を覗いていた。カナヲの視力は、伊達ではない。

 

 

◆◆◆

 

 

 裏金銀治郎の執務室を訪れた胡蝶しのぶ。そこには、完全武装で出かける直前の彼がいた。実に珍しい事であった。裏方の男が完全武装で出かけるなど。

 

「銀治郎さん、お出かけですか?折角、カステラを持ってきたのに」

 

「年休です。ちょっと、神保町周辺で鬼が出たらしいので掃除してきます」

 

 この時、胡蝶しのぶが出かける裏金銀治郎を止める。神保町には、裏金銀治郎の実家がある場所だ。そして、胡蝶カナエがお持ち帰りされた現場でもある。

 

「実は、私も年休になりました……(チラ」

 

「一緒に行きますか?」

 

 勿論と、喜ぶ胡蝶しのぶ。

 

 この時、神保町で人を食った鬼は絶望しただろう。これから訪れる隊士を相手に生き残れる可能性が0になる。上弦でも無い鬼にメタ装備の裏金銀治郎と胡蝶しのぶである。

 

………

……

 

 その夜、鬼退治の後に裏金銀治郎は、胡蝶しのぶに食事に行きたいなと催促される。銀治郎は、すぐに銀座の良い店を予約しようとした。

 

「居酒屋です。銀治郎さん……」

 

 ツンツンと胸元を突いて、訴える胡蝶しのぶ。洋服を着た彼女の服装は、劣情を呼び起こす。甘い香水の匂いが、それに拍車を掛ける。

 

「しかし、夜の居酒屋は柄が悪い連中が多いです。しのぶさんの姿を見て、襲ってくる輩がいるかもしれません」

 

「でも、守ってくれるんですよね」

 

 勿論ですと、胡蝶しのぶと手を繋ぎ夜の町を案内した。その道は、元・炎柱が胡蝶カナエを連れ回したルートを辿った。その道すがら、デパートで下着選びを手伝わされる裏金銀治郎。

 

 男性が女性の下着売り場で待たされるなど拷問にも等しかった。

 

 大事な事だが――裏金銀治郎の実家が近くにあるのだ。当然、顔を知る知り合いも要るに決まっている。裏金銀治郎は、良い意味で目立っていた。背丈が高く、容姿も良い……更に、金を持っている雰囲気も漂っており、女性から見れば美味しいお菓子にみえる。

 

 ヒソヒソと聞こえる裏金書房のお子さんじゃなかったかしらと。某喫茶店では男との関係を噂され、某デパートでは女性下着売り場を彷徨く変態と噂される。社会的に抹殺されかけていた。

 

「銀治郎さん、見たいですか?」

 

「あの~ですね。しのぶさん、店員さんがコチラをずーーーと見ているんですよ。後で、好きな物を買ってあげますから、早く買い物を終わらせてください」

 

 裏金銀治郎、店の店員が黒い下着……大事な所に穴がある不思議なショーツを片手に筆談してきた。『こっそり、入れ替えておきますか』と。有能な店員だと思いチップをはずむ裏金銀治郎。

 

 胡蝶しのぶ――そんな下着を継子に見つかる不手際をやらかす日は遠くなかった。

 

 そして、洋服やバッグなど年相応の買い物を楽しむ胡蝶しのぶ。世間的には、これをデートと呼ぶ。未来ならば、援助交際で逮捕まっしぐらな年齢差だが、この時代で助かった裏金銀治郎だ。

 

 そのデートの最後の締めくくりが、胡蝶カナエが酔いつぶされたお店だ。元・炎柱が利用しただけあって居酒屋といえども、そこそこマトモであった。酒に強くない彼女が、無茶な飲み方をするのを優しく見守る裏金銀治郎。

 

「しのぶさん、飲み過ぎると後が大変ですよ」

 

「知ってます!! 今日くらいは、いいんです。折角ですから、銀治郎さんの事を少し教えてください。ここなら、誰も聞いていませんから、いいでしょう」

 

 酒の酔いが回ってきたのか、胡蝶しのぶが裏金銀治郎にすり寄る。そして、手を重ねる。お酒のせいか、その手は温かく柔らかかった。そして、『熱いですね~』といい、胸元をパサパサと開いて閉じる。

 

 目のやり場に困るその仕草。汗ばんだ彼女は不思議と良い匂いがした。女性とは実に不思議である――汗の匂いすら香水のように甘いのだから。

 

 裏金銀治郎の理性が揺らぐ。

 

「私の話ですか? 聞いても面白い事はありませんが、何が知りたいですか?」

 

「何でもいいです。銀治郎さんは、私の事をよく知っていますが、私が銀治郎さんを知らないのは不公平です」

 

 頬を膨らます彼女が愛らしく、思わず頭を撫でてしまう裏金銀治郎。その行動に、子供じゃありませんという彼女はどこか満足げであった。

 

「分かりました。絶対に内緒ですよ。私は、鬼滅隊に入る際、藤襲山の最終選抜をやっておりません。言わば、裏口入学です。ですから、冨岡義勇さんが、『俺は、お前達みたいに鬼を倒して最終選抜を生き残っていない。同期に助けられ気絶している間に試験が終わり採用された。他の柱と並ぶには相応しくない人間だ』と悩んでいるのが不思議でなりません」

 

「またまた、色々とツッコミどころ満載な発言をしますね。冨岡さんのあの言葉にそんな裏があったんですか……それよりも!! 最終選抜をやっていないってどういうことですか!!」

 

 胡蝶しのぶが酒の入ったグラスを空にしつつ、更に距離を詰めてきた。

 

「私は、町でお館様にスカウトされた口です。なんか、ティンと来たとか言われましてね。幸い、私は産屋敷一族が鬼退治する組織のトップだと知っていたので喜んでと採用されましたよ。鬼が居る世の中で呼吸法を学べるチャンスが向こうから飛び込んできたんです。なので、私は採用されてから鳴柱の元で指導を受けたという訳です」

 

「おかしいでしょう!! それだったら、呼吸法を学んだ後に最終選抜を受けるのが筋じゃないんですか!!」

 

 お酒をじゃんじゃん飲む胡蝶しのぶ。絡みの度合いが上がってくる。裏金銀治郎の足に手を置いてスリスリとイヤらしい手つきを見せる。こんな人の多い場所で誘っているのかと思ってしまう程だ。

 

「だって、私の採用枠は裏方ですからね……裏方でも自衛できる力が欲しいと言ったら、鳴柱を紹介してくれたんですよ。そうしたら、思わぬ才能があったようで、鬼で自らの成長度合いを試すうちに下弦を倒して柱に昇格したんです」

 

「はぁ~、銀治郎さんらしいというか。鬼を自分の成長を図る物差しにするとか初めて聞きました」

 

 だが、実はそのような事をしている隊士は多い。金の為に、鬼を狩る隊士は何人喰った鬼までなら倒せるなどをよく調査して、安全マージンの範囲で鬼狩りをしている。

 

………

……

 

 それから、胡蝶しのぶは酔いつぶれるまで飲み続けた。

 

 裏金銀治郎に背負われて、夜の町を歩く。背中で気持ち悪いと飲み過ぎを後悔する胡蝶しのぶ。しかし、今がチャンスだと両手でしっかりと抱きついた。

 

「銀治郎さん、えい!! ――どうですか? 可愛い女の子から抱きつかれて役得ですか?」

 

「えぇ、世界一可愛い女性から抱きつかれたのですから役得です」

 

 可愛らしいと裏金銀治郎は思った。

 

「お酒くさいですか?」

 

「えぇ、飲み過ぎですよ。全く」

 

 胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の記憶の上塗りを実行していた。姉である胡蝶カナエではなく、自分を見て欲しいという可愛らしい嫉妬。そんな微笑ましい行動の彼女がいて最高だと裏金銀治郎は誰かに自慢したいほどだ。

 

 元・炎柱を殴ったHOTEL前で胡蝶しのぶが一歩を踏み出した

 

「じゃあ――最後に、女らしい体つきか確かめてください」

 

 裏金銀治郎は、既に女らしい体つきである事は知っている。何度、裸で柱稽古をしたか数え切れない。

 

 背中から降りた胡蝶しのぶは、妖艶な色気を放っていた。その桜色の唇が触れる。小声で、魔法の言葉を放つ。

 

「何でもしてあげます」

 

 裏金銀治郎の理性は、ここまでしか持たなかった。

 




これからも、ちょこちょこ、しのぶさんネタを挟んで行こうと思います!!

さて、柱稽古編にはいりますか。
だいぶ原作に近くなってきたぞ……早く新刊でないとネタが詰まるorz


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41:ホウ酸団子

いつもありがとうございます!!
感想が面白くて悔しい><

緊急柱合会議(淫)のおかげで、日中に日間ランキング2位まで浮上した!!

ありがとうございます^-^

みんなどれだけ、エッチな話がすきなんですか。
まぁ、作者は大好きですが。







 柱稽古――それは、階級が柱未満の者達が順に柱が出す課題をクリアして回るという訓練だ。本来、柱は多忙である為、このような訓練は行わない。つまり、継子と同じような訓練を課せられる。

 

 普通の隊士にしてみれば、雲の上にいるような人達から直接指導を受けられる滅多に無い機会となる。柱達としては、隊士達との訓練で"痣"に目覚める可能性もある。隊士と柱の双方に得がある一石二鳥の考えであった。

 

 太陽を克服した鬼――竈門禰豆子の存在のお陰で、鬼達がなりを潜めた。だからこそ、実現できた訓練だ。日頃の鬼退治がなくなるのだから、訓練に力を注げるという事だ。

 

「"柱稽古"については、理解します。でも、今年度の予算で、この金額を出せと言われても困ります、産屋敷輝利哉君。この業務に携わり、多少なりとも理解したはずです。柱達がやると言い出したのだから、お金の準備から手配までを彼等にやらせなさい」

 

 大事な事だが、全国各地にいる隊士を一点に呼び集めて訓練を施す。それには、莫大な金が掛かる。仕事で訓練するのだから、宿代と食事代と出張代。他にも過酷な訓練だからこそ薬や医者も手配が必要だ。

 

 裏金銀治郎は困っていた。

 

 "柱稽古"をやると決めたからには、既に計画から予算まで全て終わっていると思っていたのだ。それが、始めるから全部の準備を丸投げされては、笑えない。

 

「分かっています、裏金さん。ですが、この金額なら今の鬼滅隊で出せます。隊士達の招集は私達が担当しますので、認可をください」

 

「隊士の訓練でこれだけの費用をね~……いいでしょう。条件付きで認可します」

 

 鬼を倒した後、一斉リストラしたら暴動が起きるのである程度の貯蓄は必要であった。徐々に使えない隊士を放逐するにも年単位かかる。その為に、貯めておいたのだが、次期当主が今使うべきだというのだから、従う裏金銀治郎。

 

 産屋敷輝利哉は、彼に条件を伺った。

 

「条件とはなんですか、裏金さん」

 

「滞在中の隊士に出す食事は、特別メニューにします。鬼を倒す為の柱稽古なのですから、目的達成の手伝いをするのは元・柱としても当たり前です」

 

「一応、お伺いします。そのメニューは、例の鬼肉ですか?」

 

「いいえ。現状、それより効率が良い方法です。藤の毒を体内に蓄積してもらいます。最終決戦に向けて、鬼側も総力を挙げて来るでしょう。つまり、死んだ隊士は鬼に喰われる事を前提に作戦を立てるべきです」

 

 死んでも死体を活用する二段構えの構えで挑む最終決戦。

 

 そんな素晴らしいアイディアに心を打たれる産屋敷輝利哉。だが、"目は口ほどに物を言う"という諺がある。裏金銀治郎という存在が、子供の目には、どのように映ったのだろうか。そして、その眼差しで勘の鋭い大人が何を読み取るか理解できているのだろうか。

 

「裏金さん、貴方に人の心はあるのですか? 隊士の命を何だと思っているのですか」

 

「これから隊士を死地に向かわせる次代当主とは思えない言葉です。隊士の命ですか……鬼の命の重さと変わりはありませんね。命の価値に差などあってはいけません」

 

 聖人である裏金銀治郎は、命の重さを子供に説いた。

 

「……わかりました。その条件で認可をお願いします」

 

「産屋敷輝利哉君。君は有能だよ。組織のトップに立つ以上、効率的になる必要がある。私は、君が考えている事を理解した上で指摘しているに過ぎない。だが、君も分かっているはずだ――私の意見が鬼を殺す上で最善であると」

 

 最後にフォローを忘れない裏金銀治郎。鬼舞辻無惨という存在がいる限り、まだ潰れて貰っては困る鬼滅隊。産屋敷輝利哉の利用価値があるうちは、持ちつ持たれつの関係が望ましいと考える裏金銀治郎である。

 

………

……

 

 蝶屋敷にて、裏金銀治郎は柱稽古で出すメニューを胡蝶しのぶの力を借りる事にしていた。元々、彼女が発案し実行しようとしていた計画であったが、裏金銀治郎が止めたのだ。それに、鬼肉を食い過ぎた彼女は、既に藤の毒を体内に溜められる体ではない。

 

「鬼側との最終決戦までおよそ三ヶ月です。その間、体調を崩さない限界の範囲で体内に毒を蓄積させます。しのぶさん、手伝っていただけますよね?」

 

「今の話の経緯を聞いて、どうして手伝って貰えると思ったんですか。普通に訓練すれば、いいじゃないですか。隊士の質ですが、良いと思いますよ。一部隊士は、少し前の炭治郎君くらいの実力はあるんじゃないかしら」

 

「しかし、鬼舞辻無惨が潜む無限城には、下弦級にまで強化された鬼が無数にいます。それに対抗する為にも、第二第三の手は持っておくべきです」

 

 胡蝶しのぶの目線が何時もの如く突き刺さる。

 

 鬼舞辻無惨の潜伏先情報など初耳であったからだ。それに、鬼が急にいなくなった原因までしれっと公開するあたり、『この男はぁぁぁぁぁ!!』と、いいながら足をフミフミする動作は可愛いと裏金銀治郎は思っていた。

 

 これが見たい為に、情報を小出ししている気配すらある。

 

「――わかりました。当初計画していた専用は難しいですが、汎用的な物なら比較的簡単に用意できます。食事より、錠剤タイプにして服用させましょう」

 

「もう少し渋ると思いましたが、ありがとうございます。やはり、理解ある人は好きです」

 

 飯に混ぜるより、柱訓練が過酷であるから疲労軽減のための薬と言った方が効果的である。それに、胡蝶しのぶが作った薬なら安全性は高いと隊士も疑う事もない。彼女の思考もだんだんと染まってきていた。

 

「どうせ、私が協力しなくても実行できる準備はしていたんでしょう?」

 

「効率は落ちますが、色々と方法はあります。では、しのぶさんがやる気を出すためにいい事を教えてあげます。次に、童磨と会うタイミングが決まりました。世間を騒がした宗教団体にも警察の手が入るように手配も終わっております。潮時です」

 

 万世極楽教という日本国民を不幸のどん底に陥れた悪しき宗教団体。

 

 そのコンサルを行い資産管理を手始めに経営の全てを抑えた。よって、無限城を待たずにこの場で討ち滅ぼす事が最善だと裏金銀治郎は考えた。今こそ、万全な準備で挑める絶好の機会であった。

 

「それは、素敵なお知らせです。銀治郎さん、今日の晩ご飯はウナギとスッポンの生き血です。だから、夜まではコレで我慢してください」

 

 胡蝶しのぶの唇が触れる。そして、裏金銀治郎を部屋に一人残して立ち去って行った。

 

◆◆◆

 

 "柱稽古"に強くなれると喜ぶ者と嫌々参加する者達に二分した。

 

 ノウノウと鬼を殺してお金が貯まったらドロップアウトを検討していた後者のグループである。そこで、何とかならないかと何故か裏金銀治郎の元に相談がきたのだ。

 

 元とはいえ、柱なのだから稽古すべきと理論で責められた裏金銀治郎。だったら、元・水柱とか元・炎柱とかはどうなのだと言い返したかったが、堪えるのが大人である。

 

 そんな依頼がどこから来たかというと産屋敷あまねであった。お館様代理として、皆を鼓舞するのにカリスマ性が足りていなかった。それに、柱と一部の者を除けば、産屋敷あまねって誰?というレベルの知名度である。

 

「都合の良いときだけ、お願いに来るのですね。予算を認可しただけでも満足して頂きたかったが……お館様の顔を潰すわけにもいきませんから、承知致しました。方法は、任せて頂きますよ」

 

「お願い致します」

 

 頭を下げる産屋敷あまね。もはや、産屋敷あまねという存在は、裏金銀治郎の中では、そのあたりに転がっている石ころ程に興味がない存在であった。

 

………

……

 

 裏金銀治郎の私邸が、柱稽古のスタート地点だ。

 

 集まった隊士達は、これから始まる地獄にモチベーションは最低であった。だが、それも直ぐに終わる。裏金銀治郎が手招きすると、我妻善逸の嫁である淫魔三人衆が一同に並んだのだ。

 

 一部隊士が、前屈みになる。

 

「"柱稽古"に集まった隊士の諸君。資産運用担当の裏金銀治郎だ。君達が気持ちよく訓練に望めるように、縁談の話を用意している。ご存じの通り、我妻善逸の嫁であるシルヴィ、月村すずか、鹿島の三人は私が彼に宛がった。今回は、縁談の話を10席用意している。全柱の稽古を突破した者達から、縁談の話を選ばせよう。勿論、縁談より金が欲しい者については、金5万を渡そう」

 

 裏金銀治郎の言葉に、集まった隊士達が奮起した。

 

「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉーーー!! 金柱様、すげーーーー」」」」」」」」」」

 

 男達の叫びは、空気を揺らす。そして、全身から水や火、雷など漏れ出す隊士達が幾人もいた。実力を隠してノウノウと鬼狩りをしていた連中にも火が付いた。

 

「神!! 質問よろしいでしょうか?」

 

「なにかね、善逸君」

 

「俺が通過した場合でも、縁談の話はあるのでしょうか?」

 

「当たり前です。あぁ、それと……隊士同士で訓練と称してつぶし合うのはありですよ。ただし、殺しはダメです」

 

 善逸ブッコロし隊の連中……男性隊士で構成された隠密部隊が動き始めた。

 

 それも当然だ。三人もあのレベルの淫魔を抱えているのに四人目を欲しがるなど、万死に値する行為だ。今この瞬間、鬼舞辻無惨より恨みを買う男が誕生した。鬼滅隊の隊士でなければ闇討ちされて、死ぬレベルであった。

 

「他に質問はありますか?」

 

「はい!! 師範の柱(意味深)稽古は、風柱様の後でしょうか?」

 

 胡蝶しのぶの柱稽古は、残念ながら予定されていない。その時間で、仇をコロコロしに行く予定だからだ。

 

 だが、そんな行動は誰も知らない。女性隊士達が、ものすごく聞き耳を立てている。胡蝶しのぶの"誘い受け"講習を受ければ、その日のうちに結婚が可能とすら噂されるレベルとなっていた。

 

 彼女達は、意中の男性を堕とす術を求めているのだ。結婚したい男性隊士のランカーである裏金銀治郎を堕とした手腕の指導を求めていた。

 

 男も女も欲望に素直である。欲望こそ、人が生きる動力源であるのがよく分かる構図であった。

 

「栗花落カナヲさん、残念ながら蟲柱の柱稽古は予定されていません。最後の戦いに向けて、色々忙しいので理解してあげてください」

 

 生暖かい視線と憎しみの視線が裏金銀治郎に届く。

 

 最後の戦いに向けて、二人だけの時間を楽しむ男女に思われたのだ。女性は、暖かく見守り、男性からはぶちころしてやるという思いがよく伝わる。

 

「では、質問も出尽くしたようなので最後に一言を言っておく。第二の我妻善逸になれる最初で最後のチャンスだ。勝ち取って見せろ」

 

 裏金銀治郎の有り難い言葉が終わると、会場は戦場へと早変わりした。誰よりも早く駆け抜ける!! 前を走る者を半殺しにしてでも勝ち抜いてやるという、素晴らしいやる気を見せる隊士達。

 

「我妻善逸!! 天誅!!」

 

「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 12連!!」

 

 3人の嫁達が見守るこの場で、無様な姿を見せられない我妻善逸。襲ってくる暴徒の意識を一瞬で狩り落とす。だが、何名かが呼吸で相殺する。その一人が、我らが主人公竈門炭治郎であった。

 




無限城の中をカサカサ動く黒い服の集団を使って下弦級を一掃できる。
胡蝶しのぶが原作でとった作戦は、隊士全員でやるべきですよね。
もちろん、しのぶさん以外でな!!

上手くいけば、鬼柱様にもダメージいける!!

1話2話挟んで、しのぶさんとの約束を果たしに行きます。
挟む話は以下のいずれかか両方の予定です。
 我妻善逸ブッコロし隊
 元・炎柱のお宅に突撃晩ご飯


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42:大きくなったな

いつもありがとうございます。
感想ありがとうございます!!





 裏金銀治郎が隊士全員に餌を提示したおかげで、素晴らしいやる気に満ちた"柱稽古"が実現した。柱達も無駄にやる気がある隊士達に満足し、高い水準の訓練を課す。

 

 何より素晴らしいのが、訓練の最中であっても隊士達が率先して技を磨いている事だ。皆が先陣を走る者達を蹴落とすため、技を繰り出す。それの応酬が実に美しい。基本呼吸の全てが見られる、技の市場と化していた。

 

「ギェェェェ!! なんでだよ炭治郎!! 俺達、死線を共にした戦友だろう!! なんで、炭治郎がそっち側なんだよ」

 

「禰豆子がな!! "お兄ちゃん、背中を流すよ"とか。"寒いから一緒に寝よ"とか大変だったんだぞ。見ろこの顔の怪我!! カナヲに殴られたんだからな」

 

 ミイラ取りがミイラになる。竈門炭治郎は、独身隊士達の気持ちを理解できていなかった。彼等は、我妻善逸が憎い……だが、それと同時にモテる男が総じて憎いだけなのだ。

 

「えっ!! それ、ただの役得じゃん。みんなーーー!! ここにユダがいるぞ!!」

 

「やはり、貴様は裏切り者だったか!! 竈門炭治郎!! 炎の呼吸 伍ノ型 炎虎」

 

「我ら独身隊士の力を見せてやる!! 雷の呼吸 肆ノ型 遠雷」

 

「裏切ったな。僕の気持ちを裏切ったんだ。水の呼吸 捌ノ型 滝壺」

 

「お義兄さん、禰豆子さんを僕にください!! 風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風」

 

 一糸乱れぬ連携に高レベルの技の応酬。

 

 風柱や蛇柱が隊士の質が低いと言っていたが、これをみてもそれが言えるんだろうかと本気で裏金銀治郎は思っていた。

 

「炭治郎~。みんなを敵に回すより、手を組もうよ。このままじゃ、俺とあっちの双方を敵に回す事になるよ。仲間だろ~炭治郎」

 

「ぐっ!! 卑怯だぞ、善逸。だが、一時休戦だ!!」

 

 怪我をしても全ての"柱稽古"をクリアする為、這ってでも進む意気込み。勝ち残るため、無自覚に全集中・常中を覚え、止血まで使えるようになる者が続出した。

 

「見えますか、しのぶさん。一般隊士を隠れ蓑にしていた準柱級の逸材達が」

 

「認めたくありませんけど~。でも、彼等はなんで上を目指そうと思わなかったのでしょうね。柱って、かなり厚遇されているじゃありませんか」

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、歩きながら隊士達の訓練を確認していた。向かう目的地は、色々と世話になった方の所だ。

 

「ハッキリ言いますが、歴代最高と言われる柱の皆様……異常です。その戦闘力も当然ながら、何より人間性に問題がある人達が多すぎます。協調性がなさ過ぎて、彼等と連携するなら、適当な地位で鬼を狩った方がよいと理解したのでしょう。ある程度の地位なら給与は十分ですからね」

 

「納得です。確かに、カナヲ以外に継子がいない時点で問題があります。煉獄さんの継子だった甘露寺さんは、柱になりましたからね。皆さん、もっと下の教育に力をいれればいいのに」

 

 現役柱の大半は、育成に力を入れていない。

 

 隊士は勝手に育つ者だと考えているのだ。勿論、本人の努力も大事だ。だが、一人で鍛えるのには限界がある。柱は、そういった人物がより才能を発揮できるように指導すべきであった。

 

 事実、柱級の実力を有している栗花落カナヲは、胡蝶しのぶの正しい指導により今がある。

 

「問題しかありません。ですが、鬼に対する恨みや実力と言う面では、現役の柱達を信用しています。だからこそ、高い給与や好待遇を許しているんです。そうでなければ、費用対効果が悪すぎます」

 

「銀治郎さんらしい考えですね。それで、最終決戦が近いと言う事は、上弦の壱については、いつ皆さんに教えるんですか? 銀治郎さん一人だと、また揉め事になるので良ければ私が口添えしますよ」

 

 残る上弦についての情報など、今の鬼滅隊にとっては万金にもなる情報だ。敵を知っていれば対策なども見えてきて、スムーズに鬼退治ができる可能性もある。だが、裏金銀治郎は、胡蝶しのぶ以外に肩入れする気はなかった。

 

「教える気はありません。岩柱と霞柱と風柱と不死川玄弥君あたりで闘う事になるでしょうが、大丈夫です。私の読み通りなら、柱三人が"痣"に覚醒し、霞柱と不死川玄弥君が犠牲で倒せるでしょう」

 

「なんか、えらく具体的すぎませんか? 実は、未来が見える血鬼術とか目覚めてます? 私には、何でも教えてくれるんじゃありませんでしたっけ?」

 

「いえ、ですから集英社情報です」

 

「むむ~、またそんな事を言って煙に巻くんですか。そんな会社がないのは、調べました!!あ~あ、コレを贈ってくれた時に、約束したはずなのにな~。隠し事はしないって」

 

 真実しか告げていない裏金銀治郎の言葉を信じてくれない彼女。だが、そんな彼女はご機嫌であった。

 

 彼女の左手の薬指には、銀の指輪。それを愛おしそうに撫でる彼女は、女の顔をしている。胡蝶しのぶは、姉の遺言通り、女の幸せを手に入れていた。天国にいる姉が生暖かい視線で見ているだろう。

 

 まさか、裏金銀治郎と胡蝶しのぶ のカップリングなど胡蝶カナエでも予見できなかった。存命中は接点がなかったので当然と言えば当然だ。ちなみに、胡蝶カナエの未来予想では、冨岡義勇とのカップリングが最有力であった。

 

「しのぶさん、そんな道すがら指輪を見られると……隊士から凄い恨みの視線が私に当てられるんですが」

 

「私は、別に痛くも痒くもありません」

 

 恋人繋ぎして歩く二人に隊士達が声を上げて言う。

 

「祝ってやる!!」

 

「おめでとうございます金柱様!! 祝ってやる!! 祝われろ!!」

 

 祝われているはずなのに、"呪われろ"と聞こえる口調であった。

 

◆◆◆

 

 呪いのような祝いの言葉を受け止めた裏金銀治郎。

 

 そんな呪詛を携えて、煉獄家にやってきた二人。最終決戦に向けて、思い残した事は綺麗に片づけておきたいと考えたのだ。その一つが……胡蝶カナエの件に対してのお礼参りであった。

 

 家を訪ねると"柱稽古"で巡ってくる隊士を待っていたのか、煉獄杏寿郎が勢いよく玄関を開けて歓迎してくれた。

 

「裏金殿ではないか、それに胡蝶殿も!! "柱稽古"の見回りかな!! 残念だが、まだ俺の所まで回ってきている隊士は居ないぞ!!」

 

「本日は、煉獄槇寿郎さんにご用事があって参りました。ご在宅ですよね? こんにちは~煉獄槇寿郎さん。裏金銀治郎です。ご無沙汰しております~」

 

 訪れるにあたり、既に在宅している事は調べが付いている。

 

 開いた玄関からよく聞こえるように名を告げる裏金銀治郎。酒に逃げて無気力の人生を生きる男だが、嫌いな相手にだけは何故か元気になる。

 

 家の中から足音が聞こえる。酒瓶を片手に持ち、無精髭が伸びている男が玄関先までやってきた。

 

「どの面下げて俺の前に来やがった裏金!! 」

 

「父上、お客人に対して失礼では」

 

 この手のパターンになるのは読めていた裏金銀治郎は、気にしないでくださいと煉獄杏寿郎に伝える。それに、今日は彼の用事ではなく、胡蝶しのぶの為に訪れていた。

 

「こんにちは、煉獄槇寿郎さん。蟲柱の胡蝶しのぶです」

 

 現役柱にとっては、裏金銀治郎と胡蝶しのぶという組み合わせは珍しくない。裏方で一緒に仕事をしている事は周知の事実だ。だが、鬼滅隊の隊士でない煉獄千寿郎は、二人を何度も見る。

 

「あぁ、久しいな。花柱の葬式以来か……大きくなったな」

 

 胡蝶しのぶの背丈は、今と昔を比較してもそこまで大きくなっていない。一体、何処を見て大きくなったと言ったのだろうか。不思議で仕方が無い。

 

「えぇ、その節はお世話になりました。生前、姉にはよくして頂いたようで、そのお礼(・・)に参りました」

 

「裏金、てめぇ!! 神保町のあの件を教えやがったな!! あれは、最終的にてめぇがお持ち帰りしたんだろう。都合の良いところだけ教えただろう」

 

 胡蝶しのぶからの負のオーラを察した煉獄槇寿郎が暴露する。

 

 未だにそこで息子さんが、頭を傾げている。その大きな声のお陰で、煉獄杏寿郎の弟までが聞き耳を立て始めた。

 

「1から10まで、全てしのぶさんに話しましたよ。そのお陰でこの間は――ありがとうございました、煉獄槇寿郎さん!! 」

 

 心の底からの感謝を告げた裏金銀治郎。

 

 目の前の気にくわない男に全力でお礼を言って頭を下げても構わないという思うほど、美味しい思いをしたのだ。礼儀を忘れないのは殊勝な心がけである。

 

「お礼をいうなんて気持ち悪いな。胡蝶カナエの妹さんよ……左手を見ればどんな関係か分かるが、こいつは最低だぞ。酒に酔ったカナエさんを介抱しようとした俺を殴って、彼女をお持ち帰りした奴だ」

 

「なんと!! 裏金殿……女性には優しくすべきであろう」

 

 ついさっきまで、"都合の良いところだけ教えただろう"とか何とか言っていた人の台詞とは思えなかった。そして、父親の支援すべく煉獄杏寿郎が口を挟むが、裏金銀治郎も胡蝶しのぶもダメージがでかくなるから辞めておけと心の中で思っていた。

 

「介抱するために、神保町にある連れ込み専用のHOTELを選ぶ必要は無かったはずですよね」

 

「……ち、違うぞ。病院だったはずだ。裏金が嘘を言っているんだ」

 

 確かに、一理あった。

 

 裏金銀治郎の言い分を一方的に信じるのは良くない。だが、言い訳ができる余地を残してこの場に来るほど裏金銀治郎は愚かでは無かった。外堀を埋めてから動くのは彼の得意技だ。

 

「刀を持った男が倒れていると警察に通報があり、その時の調書が残っております。その調書サインに煉獄槇寿郎としっかりと記載されておりますが、ご確認なさいますか?」

 

「父上~、早く謝った方が」

 

「いいや、まだだ!! 俺は、何もしてない!! 酒に酔いつぶれた胡蝶カナエが仕事に復帰したのは、翌日以降だ!! つまり、裏金は酔っている女性相手に」

 

 非を認めない、煉獄槇寿郎。

 

 極めて黒に近いグレーである事は間違いなかった。事実、煉獄槇寿郎は嘘を一つも言っていないのだ。上手に裏金銀治郎がお持ち帰りして翌朝以降に胡蝶カナエが仕事に戻った事だけに目が行くようにしている。

 

 これだけ聞けば、人によっては騙されるだろう。

 

「言いたい事はそれだけですか、元・炎柱さん(・・・・・・)。いや~口が上手いですね。銀治郎さんから事前に話を聞いていなかったらコロッと騙されそうでしたよ」

 

「そんな胡散臭い男の言う事なんて信じるな、蟲柱!! お館様も俺の言葉を信じて、裏金を柱から外して裏方に回した程だ。他の柱達もみな賛同した」

 

 お館様は、得意の勘でこのチャンスを逃す手は無いと煉獄槇寿郎からの提案を利用し裏金銀治郎を裏方へと異動させた。つまり、彼はお館様に利用された。

 

 その発言に胡蝶しのぶは、裏金銀治郎を確認した。柱の皆が賛同したという件については、聞いていなかったのだ。

 

「誤解をする発言は、止めてください。皆というのは、煉獄家の力が及ぶ範囲でしょう。岩柱は、"お館様に一任します"と言った。胡蝶カナエさんは、最後まで反対してくれたはずでしたが」

 

「そりゃ~、脅されていたんだろう」

 

「あり得ません。そもそも、あの日……銀治郎さんは、姉をご実家に連れて行って介抱してくれた事は分かっています。ご両親にも確認済みです。さて、そこの人(・・・・)――受け身を取る事をお勧めします」

 

 "煉獄槇寿郎さん"、"元・炎柱"、"そこの人"とグレードが低下していく。

 

 胡蝶しのぶの全力。

 

 彼女の肉体は、太陽を克服した竈門禰豆子の血も取り込んでおりパワーで言えばゴリラといい勝負であった。つまり、その小さい体にゴリラ並みのパワーが秘められている。

 

 そんな、彼女の全力の拳は鬼の頸を飛ばす程の力があった。

 

「まて!! 話せばわかだっ――ぐうおぇ!!」

 

 ガシャーーン

 

 胡蝶しのぶの鉄拳が煉獄槇寿郎の腹部にめり込んだ。そして、大の大人がトラックに衝突したかのように玄関の扉をぶち破り、家の中に水平に飛んでいった。

 

「ち、父上ーーーー!!」

 

 煉獄千寿郎が見事に飛んでいった父親を駆け寄る。

 

「しのぶさん、あれ死んだんじゃありません? 人が水平に飛ぶのって初めて見ましたよ」

 

 カチャリ

 

 煉獄杏寿郎が正座して、切腹の構えをする。

 

「裏金殿、胡蝶殿!! 腹を切って詫びるのでどうか。父上を許してやって欲しい」

 

「なんで、こんな立派な煉獄さんのお父さんが……。煉獄さん、今の一発で水に流します。だから、腹を切るとか止めてください。少しでも申し訳ないとか、助けた恩を感じてくれているなら、鬼舞辻無惨と鬼を退治して返してください」

 

「誠にかたじけない!! この恩は、いつか返させて貰おう!!」

 

「いいえ、それと……緊急活性薬を一本だけ渡しておきます。死んでなければコレで治りますので」

 

 ピクピクと痙攣を起こして血反吐を吐いている煉獄槇寿郎。

 

 胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の手を引っ張り退散した。

 




12月に入り年末年始で仕事が忙しくなり、更新ペースを維持できません。
それに、来月には引っ越しもあり多忙ですorz

投稿間隔が落ちてしまいますが、気長にお待ち頂けると幸いです。

童磨を倒して、無惨ブッコロしにいく!!

だいぶ終わりが近づいてきた^-^


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43:尊い犠牲

いつもありがとうございます。
感想ありがとうございます。

投稿間隔が遅くなり申し訳ありません。

しのぶさんの"誘い受け"が書きたかったんです。



 裏金銀治郎は、胡蝶しのぶと作戦会議をするため、秘密の場所へと案内した。

 

 会議場所は、東京湾の倉庫にある一角――の地下だ。そこには、テロリストの拠点かと言える程の物資が揃っている。警察に押収された日輪刀数十本、大日本帝国陸軍が正式採用している三八式機関銃が20丁及びその弾薬、爆薬600キロ、液体窒素500キロ、その他諸々の劇薬が多数。

 

 他にも、下弦の鬼の皮膚を剥いで作った特性の隊服が数着、柱専用の緊急活性薬が20本も揃えられている。

 

「万が一に備えて、私がコツコツ集めたコレクションです。この場所を知っているのは、しのぶさんだけです」

 

「あれ~、銀治郎さんって職業は、死の商人でしたっけ? いいえ、言わなくても分かっています。それで、この外国語で書かれた書類は、何ですか?」

 

 胡蝶しのぶは、写真が貼られている書類を確認した。何が書かれているか分からないが、重要な書類である事は、理解できた。

 

「それは、金で買った外国籍です。両親と私、しのぶさんと栗花落カナヲさん……おまけで、産屋敷ひなきさんの分があります。アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス分を用意しました。胡蝶印のバイアグラを渡したら、すぐに用意してくれました。換金した外貨も準備済みです」

 

「鬼滅隊が負けたら、海外ですか……。勝てますよね?」

 

 未来を見通しているような行動を取る裏金銀治郎。そんな男が、既に逃げる支度をしているのだから、不安に駆られるのも当然だ。

 

「犠牲は出ますが、勝てると思います。これは、鬼舞辻無惨を倒した後に必要になります。今は、材料()があるから胡蝶印のバイアグラを資金源にできます。鬼舞辻無惨が死ねば、全ての鬼が滅ぶ可能性が濃厚です。つまり、資金源がなくなれば賄賂を払えない。賄賂は、払い始めるのは簡単です。ですが、止めるのは難しい」

 

「厄介ですね。でも、それを見据えてお金も貯めていますよね。 徐々に、賄賂を減らしていけば良いじゃありませんか。ここ最近、例の宗教団体から横流しで潤っているのは知っています」

 

 裏方の手伝いで胡蝶しのぶは、鬼滅隊の財政状況を知っていた。だが、それは少し古い情報だ。

 

「"柱訓練"とお館様が自爆特攻する為の爆薬代金で、お金は殆ど残っていません。定期的な賄賂が無くなれば、国家機関各所から鬼滅隊が追われます。それこそ、我々が鬼を探して殺していたように。次期当主は、未成年なので少年法で守られるのが、不幸中の幸いです」

 

「銀治郎さん、どうしてそんな状況になっているんですか!! 姉さんの仇を倒すのは、大事です。でも、鬼滅隊が無くなったら鬼舞辻無惨は、どうするんですか!?」

 

 詰め寄る彼女をなだめる裏金銀治郎。青筋を立てる彼女は今日も美しい。

 

「次期当主命令だったから、中間管理職の私にはどうする事もできない。後の事を考えて貯めていた資金を、一気に放出させられました。しかし、彼は本当に有能です。未成年という特権を最大限に利用すれば、どんな罪でも問題にならない。全ての罪を被ってくれるはずです」

 

「その何処に、問題がないんですか!!」

 

 大事な事だが、そんな事は一切考えていない。当然、罪を被って投獄される心構えも産屋敷輝利哉は、持ち合わせていない。裏金銀治郎の勝手な解釈に過ぎない。

 

 だが、その発想は悪魔的に素晴らしかった。当主は、責任者である。その責任者が未成年なら名前の公表も控えられるし、情状酌量の余地もあると捉えられる。

 

「"柱稽古"に向けての資金利用が決まった段階で、私は勿論、しのぶさん、栗花落カナヲさん、産屋敷ひなきさんが鬼滅隊と関わっていた証拠は全て破棄済みです。蝶屋敷の利権も全て、私の方で処理しました。国家機関の手が及んでも我々との関係性は、書類からは見つけられません。隊士の事情聴取がなされている間に、海外渡航すれば、誰も追いかけられません」

 

 胡蝶しのぶがため息を吐いて、裏金銀治郎に寄りかかる。そして思い出したのだ。彼は、こういう男である。一人でこの先に起こる問題に対して、対策を練っている。

 

 彼女も裏金銀治郎の話を聞き理解してしまう。全ては救えない。救うならば、この人だけは、というポイントをしっかりと押さえて、話を持ってくるあたり卑怯であった。代案が出せないほど用意周到である。

 

「なんで、私に一言も相談してくれないんですか」

 

「しのぶさんは、優しすぎる。この手の役割は、私が適任です。安心してください。しのぶさんだけは何があっても守り抜きます。私は、中々できる男なんですよ」

 

 最大の資金源である胡蝶印のバイアグラがなくなれば、鬼滅隊を支えるなど到底不可能。政財界は、金が掃いて捨てるほどある為、バイアグラが要求される。そんな、日本の闇を敵に回して鬼滅隊が生存できる可能性はない。

 

 だが、胡蝶しのぶの目の前に不可能を可能にできそうな人物がいた。そして、胡蝶しのぶも覚悟する。この際、恥を忍んで頼むしかないと。

 

「何とかする方法を教えてくれたら……あのエッチな下着を履いてあげます」

 

 胡蝶しのぶがイヤらしい手つきで裏金銀治郎の体を触る。服の隙間から、手を差し込み筋肉に触れ優しく撫でる。胸を押し当てつつ、上目遣いでおねだりまでされては……男ならば誰でも我慢ができなくなる。

 

「くっ!! しのぶさん、幾ら私でも"できる事"と"できない事"が……」

 

 だが、胡蝶しのぶはその反応で気がついてしまった。

 

 裏金銀治郎と肌を重ねるうちに、彼の考えていることが分かるようになった。ちょっとした、筋肉の動きから隠し事があるかないかなど、全てお見通しである。彼女に対して、嘘は言わない裏金銀治郎。よって、できる事を口にしていないだけである。つまり嘘はついていない。

 

 胡蝶しのぶは、ベッドに座った。アンブレラ・コーポレーションの売れ筋商品の未使用"近藤さん"を口に咥える。そして、何故か目元を手で隠す。

 

「今なら、いっぱいサービスしちゃいますよ。ぱぱ(・・)

 

 裏金銀治郎は、夢遊病患者のように胡蝶しのぶに吸い寄せられていった。

 

 胡蝶しのぶの得意技……"誘い受け"の餌食になるまいと必死に堪えるが本能が逆らうことを拒絶してしまう。本当に彼女は大正時代の人間なのだろうか、確かめたいと思う裏金銀治郎。

 

「方法は、あるにはあります。鬼舞辻無惨を殺した上で、鬼滅隊を支えられる唯一の方法が」

 

 胡蝶しのぶが、さりげなく黒い下着を見せつける。それは間違いなく、デパートの店員がこっそり入れ替えてくれた穴ショーツである。そもそも、彼女は最初からエッチな下着を履いている。

 

 これから、鬼退治なのに、とんでもない下着を履いて一体ナニ(・・)を狩りにいくのだろうか。一度本気で話し合うべきだ。

 

「コッチは、こんなに素直なのに~」

 

「聞いたら、絶対協力して貰います。その覚悟がありますか」

 

 裏金銀治郎は、ベッドに胡蝶しのぶを押し倒した。そして、一枚ずつ服を脱がしていく。

 

「真面目な話ですか……だったら、一度椅子に」

 

「大丈夫です。ベッドの中でも教えられます。それに、しのぶさんが悪いんですからね」

 

 アンブレラ・コーポレーションのトップの二人は、自社製品の使い心地を責任を持ってレビューする義務がある。そして、使用感を人に説明できる位になるのが責任者だ。

 

◆◆◆

 

 胡蝶しのぶは、聞いて後悔した。

 

 裏金銀治郎からの提案は、鬼舞辻無惨を倒した後を考えれば最善である。その案を実行しなければ、鬼滅隊が人滅隊になりかねない。鬼が居なくなったら、国を相手に殺し合いなど狂気の沙汰である。

 

 だが、高確率で実現するであろう予想図だ。捕まった次期当主を取り戻そうとする柱達……間違いなく、テロまっしぐらだ。

 

「あぁ~、もう!! どうして、問題を解決しても問題しか起きないのよ!! 銀治郎さんの案は理解できますよ。それだけは――でも、他に案がないのも事実ですが~」

 

「だから、聞いたら後悔するって言ったじゃありませんか。約束通り手伝って貰います。毒と薬は、表裏一体。"鬼を人間にする薬"が製造できたなら、その逆ができない理屈はありません」

 

 大事な事だが、鬼滅隊の目的は"鬼舞辻無惨"を倒す事だ。その過程で鬼を滅ぼしているに過ぎない。では、鬼舞辻無惨が討伐対象になったのは何故か。それは、人を襲ったからだ。

 

「血が少量でも生きられる鬼、太陽を克服した鬼……確かに、これだけ揃っているのだから銀治郎さんがいう事も不可能じゃありませんよ。でも、肝心の原材料と言われる"青い彼岸花"が……」

 

「――これ、な~んだ」

 

 裏金銀治郎がベッドの下からガラスのケースに入った、青い花を見せた。赤い彼岸花と異なり、その花の色は青い。胡蝶しのぶは、思わず目の前の花を見つめ直してしまった。

 

 鬼達があれほど探して見つけられなかった品が、つい先ほどまで二人で汗を流していたベッドの下から出てきたのだ。

 

「ぎ、銀治郎さん。これをどこで……」

 

「正倉院。政財界VIPと親しくなったお陰で、色々と探せる範囲が広がりましてね。目録で見つけたので、こっそりと拝借しました。悪いとは思いましたが、コレも世界平和のためです」

 

 柱の身体能力を悪事に使う者がここに居た。

 

「"青い彼岸花"について知ったのは、それほど昔じゃありませんよね!!」

 

「えぇ、鬼達が"青い彼岸花"を探しているのは最初から知っていました。なので、ずーーと探していたんですよ。一人で」

 

 裏金銀治郎は、永遠の命に興味はない。だが、備えは必要だ。両親が天寿を全うする為、鬼舞辻無惨が脅威であるなら、それを排除する為、あらゆる手段を取るつもりでいた。

 

 鬼を殺すなら、鬼になるしかないという究極の選択だ。

 

 勿論、無惨配下の鬼では意味がない。同格の鬼になる必要がある。

 

「この男はぁぁぁぁぁ!! なんで、こんな男を愛しちゃったんですか、私!! これじゃあ、珠世さんが第二の無惨とか言っていた事が、現実味が出てきたじゃありませんか」

 

「女装癖があるパワハラ上司と一緒にするとは、失礼です。血が少量で生きる術もある。太陽を克服した鬼も手元にいる。血肉も既に押さえているので、太陽克服も目処が立っている。鬼側陣営と違いコチラは、全てが揃っています」

 

「でも、他に手がない。鬼が滅んだら、鬼滅隊が滅びる。かるく詰んでいる状況ですよね」

 

「だから、あの貯金は使いたくなかったんです。私だって、しのぶさんとイチャイチャして年を取りたいです。皆を見捨てないというなら、選べる道は他にない。不幸中の幸いなのは、私が鬼になれば全てが解決できる点です」

 

 胡蝶しのぶが、裏金銀治郎に抱きついた。

 

 あれほど鬼滅隊で冷遇されているにも関わらず、裏で全てを背負って働く彼があまりにも報われないと胡蝶しのぶは涙した。鬼滅隊の為、尊い犠牲といえば聞こえは良いだろう。

 

 だが、裏金銀治郎は、鬼になったらなったで楽しい人生を送る気でいた。その為、落ち着いたら普通に胡蝶しのぶにも誘いを掛ける気でいる。愛する女性と一緒に静かに暮らしたいのだ。

 

 そして、"日本が誇る偉人の胡蝶しのぶ"という番組をリアルタイムで、本人と一緒にテレビ視聴するという野望がある。その時、彼女が恥ずかしがり顔を真っ赤にするのを是非見たいと思っていた

 

「――一緒じゃなきゃイヤです」

 

「元よりそのつもりです。私を逃がしたらダメですよ。見張っていないと、やんちゃしちゃいます。――必要な機材は、新たに手配します。ここで研究を進めてください」

 

 童磨と会う日だというのに、いつまでもベッドの中で抱き合う二人。それを邪魔する者は誰も居なかった。

 




やっぱり、そうなったかという流れですが><仕方がなんです!!
材料がないと、みんな死んじゃうんだからorz
ローションとコン○ームじゃ、支えられないです。

最初は、「第二の・・・」ってタイトルにしたんですが
内容がバレるのはつまらないとおもって変えました。


章管理したかったけど、区切りが分からなくなっている始末。
こんな章立て予定だったけど……まぁ、いいか!!
"材料確保"編
"柱会議"編
"ローション列車"編
"吉原"編
"温泉"編
"柱稽古"編 ← now


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44:騙して悪いが

いつもありがとうございます!!
感想本当にありがとうございます。楽しく確認させて頂いております^-^

12月は忙しいねん…ゆっくり更新になりますが許してクレメンス。




 この日、童磨には、"青い彼岸花"の捜索中止を伝える役目があった。

 

 企画から派遣まで様々な事を行ったのに、先日の上司から有り難いお言葉で全てが水の泡。今は、『産屋敷の捜索』のみに注力するよう依頼する予定だった。しかし、待ち合わせ場所の喫茶店には、裏金銀治郎は現れない。

 

 代わりに残されていたのが、一通の手紙だ。

 

「いや~、参ったね。まさか、裏金先生を拉致して俺を呼ぶとか正気じゃないね」

 

 童磨は、相手の正気を疑っていた。以前と比較して力が落ちたとはいえ、血鬼術は健在だ。戦闘においては、未だに絶対の自信があった。

 

 手紙の筆跡からして女性……――ご丁寧に蟲柱と書かれている。実に食欲がそそられていた。強い女を食べる事で更に強くなる。だからこそ、好都合であった。鬼になれば腹が空く。お世話になったお礼と"青い彼岸花"の一件のお詫びとしては、最高の食事が向こうからやってきたのだから。

 

「十中八九罠だろうけど――でも、それも一興だよね」

 

 童磨は、鬼舞辻無惨の血が入った酒瓶を片手に待ち受けているであろう女性に会いたいと思った。そして、裏金銀治郎に最初に食べさせる人間に相応しいと考えたのだ。

 

………

……

 

 東京郊外にある廃工場。

 

 童磨は、血の臭いを嗅ぎ取った。男性……それも30歳前後の物であると特定した。思ったより状況は悪いかもと察する。

 

 残された手紙には、『"産屋敷"について、調べている男を帰して欲しければ、一人で廃工場まで来い』との事だった。つまり、この血の臭いは鬼滅隊の誰かが、裏金銀治郎に制裁を加えた可能性もあった。

 

 異常者達の集まりである鬼滅隊。呼吸法を使える人間凶器が、暴行するのはハンマーやナイフで殴るのに等しいものだ。一部の過激な隊士は、鬼を殺す為に列車に乗る乗客の命すら無視して、鬼を殺すという狂気の沙汰を行った事を鬼側も知っていた。

 

「お願いだから生きていてよ。生きてさえいたら、直ぐに治してあげるから」

 

 廃工場を進むにつれて血の臭いは、よりハッキリとし、藤の花の香りが充満する。だが、上弦の弐ともなれば、たかが藤の花の匂いなど問題にならない。一般人がタバコの臭いに嫌悪感を覚える程度の物である。

 

 開けた場所に出ると、そこには目隠しをされた裏金銀治郎が横たわっていた。鞭打ちされた痕から血が流れ、血溜まりを作っている。更に、赤い蝋の痕が目立つ。首を絞められた痕もあり、痛々しい。

 

 酷い拷問である……大事な事だが、酷い拷問!! だ。

 

「こんにちは、教祖さん――いいえ、上弦の童磨」

 

「へぇ~俺の事を知っているんだ。さては、裏金先生から聞いたのかな? 酷い事するよね、鬼滅隊が一般人にそんな手荒な事をするなんて。裏金先生、生きてます?直ぐに助けて治療してあげるから」

 

 童磨は、横たわる裏金銀治郎が息をしている事を確認し、間に合うと安堵した。だが、問題は目の前の女性であった。実力は定かで無いが、血鬼術なしで闘うのは若干不利を感じる。

 

 広範囲殲滅を得意とする童磨の血鬼術では、裏金銀治郎にトドメを刺しかねない。鬼舞辻無惨の血とて、死人を蘇らすことはできない。つまり、早々に裏金銀治郎を取り戻し、血を飲ませて、安全地帯に移す必要があった。

 

「――私の姉を殺した鬼を知っていて当然です。この羽織に見覚えはないか」

 

「あぁ!! 花の呼吸を使っていた女の子かな? 優しくて可愛い子だったな。朝日が昇って食べ損ねた子だよ。覚えている。確か、金柱さん……とか最後に、呟いていたような」

 

 その瞬間、胡蝶しのぶが無慈悲に満身創痍の裏金銀治郎の手を踏みつぶす。

 

 重傷の男にあれほど容赦ない責めを行う胡蝶しのぶに、童磨は早く助けないと殺されてしまうと思う。

 

 胡蝶カナエは、最後まで柱の皆の誤解を解けなかった事を悔いていたのだ。裏金銀治郎は、そんな事情を知らない胡蝶しのぶから制裁を受けた。

 

「あ゛あぁぁぁぁぁ。童磨さん、助けてください!!」

 

「蟲柱といったかな。人質を解放しろ、彼は関係ないだろう。今なら、俺が一対一で闘ってあげるよ。姉の無念を晴らしたいだろう?」

 

「無関係? ご冗談を……"産屋敷"の事を調べていた人ですよ。それに、この男の為に、本当に一人でノコノコやってきた鬼がいる。つまり、この男はそれほどまでに重要という事です」

 

 童磨は、周囲の気配を探っていたがこの場に居る者以外だれもいない。随分と舐められたものだと考えていた。ならば、手足の数本犠牲にすれば裏金銀治郎を確保できると。

 

 動こうとした瞬間、胡蝶しのぶが抜刀した。

 

「あぁ、止めた方が良いですよ。私の方が確実に早い。ですが、貴方がコチラの要求を飲むならば、この男を解放してあげてもいい」

 

「優しいね。いいよ、条件を言ってごらん」

 

 余裕綽々の童磨。胡蝶しのぶの抜刀速度は確かに速い。だが、力量を測るのには十分であった。戦いになれば負けることはないと。つまり、人質が解放された時点で勝利する事は確定していた。

 

「鬼舞辻無惨の現在地」

 

「それは、教えられない。教えたら、俺が死んじゃうからね。他には?」

 

「上弦の壱の血鬼術」

 

「刀を作る事だよ。確か、なんでも昔は隊士で呼吸法が使えるみたい。詳しくは知らないかな」

 

「童磨の血鬼術」

 

「俺のかい? 色々あるけど、広範囲の凍結攻撃とか分身作ったりとか色々だよ。氷が関係する事なら大体のことはできる」

 

「最後に、遺言があるなら聞いてあげます」

 

「女の子に言いたくないんだけど、お風呂は入った方が良いよ。前に男と寝た直後の女性信者を食べた事があるんだけど。酷い臭いだった。可哀相に裏金先生。大丈夫だよ、信者の可愛い子で口直しさせてあげるから」

 

 裏金銀治郎の秘密基地にも無い物がある。

 

 地下室にベッドはあるが、お風呂なんて物は無い。体を拭く位は当然行ったが、鬼の嗅覚はそれすらも嗅ぎ取った。そして、童磨は胡蝶しのぶが裏金銀治郎を無理矢理……と解釈していた。

 

 宗教団体には、色々な者が所属している。そして、その手の趣味の者から相談を受けたこともあり、童磨は物知りで寛容であった。

 

 童磨は処女厨であった。そして、裏金も当然仲間だと思っていたのだ。だからこそ、善意で彼は口直しなど申し出たのだ。これを、世間では余計なお世話という。

 

 胡蝶しのぶから殺気が放たれる。勘が鋭い者ならば空気が軋むのが分かっただろう。

 

 それを感じ取った裏金銀治郎はマズイと感じ取る。女性に臭いとか言ってはいけない。それは一般常識であったが、鬼には通じない。

 

「童磨さん!! 私がこんな状況なのに、相手を挑発しないでください。本当に死んじゃいます」

 

「いや~、ごめんごめん。じゃあ、約束通り裏金先生をコチラに渡して貰うよ。あぁ、無事に引き渡したら別に逃げてもイイよ。追わないから――最初に食べる人間がこんな"あばずれ"じゃ、裏金先生に申し訳ないからね」

 

 無自覚に煽る童磨。

 

 人は理解していても、人に言われると嫌な事がある。胡蝶しのぶは、"あばずれ"なんてものではない。そんなものと比べては失礼である。『昼は淑女、夜は娼婦な女性』を無自覚に行う才女である。

 

「いい加減にしろ、童磨。私を助けたいのか、見捨てたいのかどっちなんだよ!!」

 

 どう考えても、後から被害を被るのは裏金銀治郎であった。ベッドの中で、『私、エッチじゃありませんよね』と迫る彼女になんて答えるのだろうか。

 

「思ったより元気そうでよかった、裏金先生。約束守ったんだし、早く解放してよ」

 

「……ちっ!! いいでしょう。歩けないから、受け取りなさい」

 

 胡蝶しのぶが、裏金銀治郎を軽々持ち上げて童磨の方に投げた。

 

 勿論、童磨も馬鹿では無い。このタイミングで、胡蝶しのぶが仕掛けてくることを察していた。鬼を殺すなら狙いは頸であった。つまり、頸さえ防げば問題にならない。

 

 宙を舞う裏金銀治郎。怪我の度合いから受け止めなければ、死ぬ可能性もある。どちらの手で受け止めるかによって、守る方向が決まる。

 

 勝負は……童磨が守るのが早いか、胡蝶しのぶが頸を落とすのが早いかであった。

 

 全神経を集中し、童磨は胡蝶しのぶを観察する。

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎……血まみれになった姿で男の胸にダイブするなど、人生初の経験であった。しかも、その男が、彼の実家で噂されている相手となれば泣きたくもなる。この姿が近所の人に目撃されたなら、もう社会的に死んだも同然であった。

 

 この時、既に裏金銀治郎の血鬼術――血界が発動している。

 

「"産屋敷"を見つけました!! 」

 

 裏金銀治郎の言葉で童磨は、絶対に助けなければいけなくなる。つまり、裏金銀治郎をキャッチする必要がでてきたのだ。

 

「最高だよ裏金先生!! さぁ、鬼になろう。これからは、一緒に無惨様に土下座しよう」

 

 酷い誘い文句であった。

 

 鬼になって世界征服とかでなく、土下座しようなど誰が喜んで頷くと思っているのだろうか。上司と部下の関係が土下座から始まるなど嘆かわしい限りだ。だが、鬼滅隊でも柱会議をみれば、実質同じような物かも知れない。やはり、血筋なのだろう。

 

 童磨が裏金銀治郎をキャッチした。彼は、そのまま腕を背中まで回す。

 

 袖の中に隠していた注射器でプスっと刺す。中身に入っているのは、完成したばかりの"鬼を人間に戻す薬"。背中に注射器が刺さったのに反応がない童磨。彼は、全神経を目の前の胡蝶しのぶに集中している事と痛覚には鈍感である為、裏金銀治郎の行動に気がつかなかった。

 

「千載一遇のチャンスだったのに、動かないなんてどうしたんだい? 今の瞬間を逃せば俺は殺せないよ」

 

「いいえ、童磨。猗窩座、半天狗、玉壺、堕姫、妓夫太郎――全て殺してきました。ですが、どれも大した事はありませんでした。そこに、貴方が加わるだけです」

 

「強気だね。まぁ、別にイイよ。裏金先生ならきっと素晴らしい鬼になる。俺と裏金先生を一緒に相手にして勝てるというなら勝ってみるとイイ」

 

 裏金銀治郎は、鬼側から素晴らしい評価を貰っていた。鬼滅隊の連中に、童磨の爪の垢でも飲ませてやれば改善されるだろうか。

 

「だ、そうですよ。銀治郎さん。しかし、鬼側からの評価が高すぎませんか。鬼滅隊の評価と真逆で困惑します。私で無ければ、鬼側のスパイと勘違いしてしまいますよ」

 

 童磨は、目の前の女性が何を言っているのか理解できなかった。いいや、理解したくなかった。あれほど親身に話を聞いてくれて、協力して仕事をした仲間。初めてできた親友が……。

 

 血だらけであった裏金銀治郎は、既に完治していた。距離をとり、何時もと変わらぬ顔をしている。

 

「う、嘘だよね。裏金先生……」

 

「だまして悪いが、仕事なんでな。死んでもらおう」

 

 童磨は、この時初めて理解した。信者が裏切られた、と言う時の感情を。

 




いよいよ、最新刊に追いつきそう。
童磨と猗窩座の二大巨頭が……ここではてるでしょw

黒死牟は、流石に柱組が働く!!
ここまでお膳立てして、装備も整えているのに負けないでしょ。

鳴女のスカウトしかねーーー。
待遇は保証するよと。


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45:それが人間のやることかよぉぉぉぉぉ

いつもありがとうございます!!
感想ありがとうございます!!


感想であの童磨に同情の声が集まるとは……裏金さんの人徳のせいかしら^-^

そして、感想からネタを拾える作者は幸せだ!!
ありがとうございます、佐土様!!


作者、初めて記号に色を塗る技を手に入れたので活用してみた!!
まさか、最初に使う色文字が文字通り色文字になってしまったよ。


 裏金銀治郎は、鬼滅隊として当然の仕事をしたまでであった。

 

「酷いよ。今までの俺との関係は、嘘だったんだね」

 

「辞めろって言っているだろう!! その絶妙に誤解を招く発言はワザと言っているだろう。ご近所様から生暖かい目で見られる気持ちにもなってみろ」

 

 泣き真似をする鬼を前に裏金銀治郎は、着々と装備を整える。特性の服を着て、流星刀、散弾銃、ローションと万全の構えであった。

 

 この時、童磨は時間稼ぎをしていた。鬼舞辻無惨が視界を覗き見ており、裏金銀治郎の裏切りに気がついたと思っていた。そして、仲間の派遣か、鳴女により無限城への強制招集を待っていた。

 

 だが、そんな都合の良い事はいつまでも起こらない。

 

「――でも、いいのかな? 鬼の味方にならないって事は、裏金書房に鬼が襲いかかるかもよ。今なら撤回してもいいよ」

 

「何度も言っておりますが、常に先読みして行動しないと上司のご機嫌は取れません。鳴女による無限城への強制転移など不可能。無惨による視覚ジャックもできませんよ。後、両親を狙うとか言われてたら、温厚な私でも我慢できません。――跪け」

 

 裏金銀治郎は、持っていた散弾銃で童磨の足を打ち抜く。その様子を笑顔で見守る胡蝶しのぶ。

 

 銃なんて引き金を引くタイミングに合わせて、頸を扇で守れば良いと浅はかな考えをしている童磨。だが、裏金銀治郎の指を追うことが()の彼にはできなかった。

 

 ズドンという音と共に忘れていた激痛が駆け巡った。

 

「ぎゃーー!! あだだだだっ!! な、なんで……治らない」

 

「いい気味ですね。姉の仇が、地面にひれ伏すなんて滑稽です。確か、鬼舞辻無惨なら、こう言うんでしたっけ?『何様のつもりだ、頭を垂れろ』と」

 

 何が起こったのか全く理解できない童磨。

 

 この程度の傷なんて、再生に時間を要する物でなかった。本来であれば、食らったと同時に治癒する程度のかすり傷。何かしらの要因で鬼の力が封じられている事を理解した。

 

 ならば、再度力を付けるべく鬼舞辻無惨の血が入った酒瓶を探す。あの量の血を取り込めば、状況を打破できると考えたのだ。だが、あったはずの瓶は何処にも無かった。

 

「お探しの酒瓶はこれですかな? 無駄ですよ。私程度の動きが目で追えなくなっている時点で、もう勝ち目は無い。血鬼術を使っても良いんですよ」

 

「――あれ? ど、どういうこと!? 俺の血鬼術がぁぁぁぁぁ」

 

「滑稽ですね。100年以上討伐された事がなかった上弦の鬼が無様。こんな鬼に姉さんがやられたなんて信じられないほどに」

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、容赦がない。無力化した敵だとはいえ、無意味に長生きはさせない。往々にして、助けが来たり突発的な出来事が起こるのを避けるためだ。

 

 なにより、既に鬼を人間にする薬の検証も終わった。

 

「童磨さん、冥土の土産です。万世極楽教の資金を横領して、これらの準備を整えました。他にも、鬼滅隊の隊士の給料とか様々な事に利用させて頂きました。本当に感謝しています。そして、貯まった資金も全て回収させて貰いますので安心してください。万世極楽教の方は、日本国内を騒がした最悪の宗教団体として長く歴史に残る。鬼滅隊の為に、資金を稼いでくれてありがとう」

 

「それが人間のやることかよぉぉぉぉぉ」

 

 長年かけて築き上げた宗教団体。それは、童磨にとって存在意義でもあった。それを、奪うだけに飽き足らず、罪まで被せて闇に葬ろうとする裏金銀治郎。まさに、悪魔みたいな存在だ。

 

「いいえ、銀治郎さんだから、そこまでやるんですよ。感謝しなさい……楽に死ねるのだから」

 

 スパン!! と良い音が響く。

 

 胡蝶しのぶが流星刀を抜刀し、童磨の頸を切り落とす。

 

 その速度は、柱最速といっても過言で無い程であった。頭部を更にみじん切りにする。鬼から人間に戻った童磨は、消失せず肉片が床に散らばる。

 

 長年追っていた怨敵を討ち滅ぼしたというのに、何故か悲しさがあった胡蝶しのぶ。死闘の末に倒すという事もなく、唯の鬼を倒すより簡単に殺せてしまった事に不完全燃焼していた。

 

「後は、液体窒素で固めます。日光に当てて最終確認してから、残っているようだったら灰にしましょう。鬼舞辻無惨も童磨の存在が感知できなくなった事に気がついているでしょうから、早々に撤収です」

 

「銀治郎さん、ありがとうございます。色々と思う事は、ありますが…姉の仇を討つ事ができました」

 

「どういたしまして。私もしのぶさんと約束が果たせて良かったです。後は、鬼舞辻無惨と黒死牟だけです。もう一踏ん張りです」

 

 胡蝶しのぶは、裏金銀治郎の胸で涙を流していた。姉の仇を討つ事で緊張の糸が切れた。そんな彼女を優しく撫でる裏金銀治郎。美人の涙で服が汚れるのは、男の勲章である。

 

「……でも、姉さんの最後の言葉については、お話を聞かせて貰います」

 

「冤罪ですよ。私は、しのぶさん以外と肉体関係を持ったことはありません。今すぐに証拠をお見せしたいのですが、とりあえず早々に死体を回収して撤収しましょう」

 

 頬を膨らませて拗ねる胡蝶しのぶ。

 

 そんな可愛らしい彼女で遊びつつ、裏金銀治郎は液体窒素で固めた死体を回収した。

 

………

……

 

 "柱稽古"の真っ最中である現在、柱なのに稽古を行わない蟲柱と元・金柱。不思議な事に、後者である裏金銀治郎をこういう時だけ「柱としての自覚が足りない」とか理解不能な文句を付ける蛇柱や風柱がいる。

 

 しかも、胡蝶しのぶとの仲が公然となった為、拍車をかけて非難されていた。

 

 男と付き合い始めたせいで、本来やるべき稽古をやらないと。しかし、"柱稽古"に参加している隊士達にしてみれば、そのような理不尽な意見は全く理解できないものであった。

 

 医療で隊士の健康管理を支える蟲柱の胡蝶しのぶ。鬼滅隊の資金を管理し、"柱稽古"では、やる気を出す為、景品を用意してくれた裏金銀治郎。この二人が居なければ、"柱稽古"どころでは、無かった。

 

 上弦である童磨の死体を灰にした後、鬼滅隊に一本の電話が掛かる。電話の先は、鬼滅隊の資産運用係。産屋敷輝利哉は、恐る恐る電話を取った。

 

『輝利哉様ですか? 胡蝶しのぶです』

 

『あぁ、良かった胡蝶さんでしたか。一体、今どこに居るんですか? 休みを取ると言って一切連絡がなかったので心配しました』

 

 休みの日にも女性の行動を把握しようなど、とんでもないストーカー行為である。会社といえど、休日の社員行動は自由であるべきだ。

 

『色々と立て込んでいたので……良い報告と悪い報告があります。どちらから聞きたいですか?』

 

『……物言いが、裏金さんに似てきましたね。良い報告からお願い致します』

 

 胡蝶しのぶは、電話先で若干ショックを受けていた。

 

 鬼よりも鬼らしい恋人に似てきたと言われたのだ。

 

『上弦の肆を殺しました。万世極楽教にも国家機関の手がはいりっ!!……す、全ての罪を被って消えます』

 

『えっ!? 待ってください。上弦の肆を倒したって!? どうして、そんな大きな事をやるのに連絡が無かったんです。他の柱の人達に協力だって……いいえ、終わった事でしたね。皆には私から伝えておきます。悪い方の報告は?』

 

『――銀治郎さんが、上弦の肆との戦いで重傷を負いました。私もしばらくは、戻れません。ですが、アァン心してください。銀治郎さんの仕事机の引き出しに隊士への報償金とお見合い写真があるので、"柱稽古"突破者への対応はお願い致します』

 

 産屋敷輝利哉は、悪い報告が想像以上で耳を疑った。それに、音声が何故か艶っぽい謎もあるが電話のせいだろう。

 

 裏金銀治郎が重傷。胡蝶しのぶは当面帰らない。ハッキリ言って、他の柱が不在より問題があった。今現在だって、寝る間も惜しんで仕事をしているほどなのに、悪い冗談だと思えた。

 

『困ります!! 裏金さんの看病ですか? それなら、屋敷に連れてこれない程でしたら、他の者を代わりに向かわせます。どうか、胡蝶さんだけでも戻ってきて貰えませんか』

 

 仮にも指輪を付けている既婚者。新婚ホヤホヤの相手に重傷の夫を捨てて、仕事に戻れとは時代が時代ならパワハラで訴えられている。子供は純粋だから思ったことを口にする。だが、言って良い事と悪い事がある。

 

『最終決戦には、間に合わせます。また、れんらくァ……します』

 

 上弦の肆を撃破というのは、吉報であった。この報告があれば、"柱稽古"を蔑ろにしていると言われる二人の評価は、変わるのは間違いない。

 

 だが、その二人が鬼滅隊に戻らないという事は伝えるべきか伏せるべきか判断できない産屋敷輝利哉であった。

 

 

◆◆◆

 

 鳴柱……桑島慈悟郎。

 

 雷の呼吸の使い手で有り、育手として数々の隊士を輩出した男である。その一人に、裏金銀治郎も含まれる。呼吸法を知らない彼に対して、懇切丁寧に指導し才能を開花させた。

 

 今、その男は、腹を割いていた。

 

 理由は、雷の呼吸の継承権を持つ男が鬼となり、人を襲い食らったからという下らない事だ。そもそも、呼吸法が使える男が鬼になる事例は、上弦の壱がいる。その時に、上司である産屋敷が腹を切ったという情報はない。

 

 竈門禰豆子が人を食った場合、腹を切ると申し出た柱も居たが……桑島慈悟郎は、育てた隊士が鬼になったからといって腹を切るという事は約束していない。そもそも、腹を切ったからといって何の解決にもならない。

 

 寧ろ、優れた育手が死ぬだけという。鬼側に得しかない。

 

「ぐぐぐぐああぁぁぁぁ」

 

 切腹とは、腹を切る。苦しまないように頸を落とすまでが一連の動作である。人間、腹を切っても直ぐには死なない。つまり、頸を斬られないと言う事は、苦しみが増すだけである。

 

「一歩遅かったですね。ですが、この程度の怪我なら、何とでもなります。お久しぶりです。桑島先生、裏金銀治郎です」

 

「銀治郎さん。そんなことを言っていないで、緊急活性薬を」

 

 裏金銀治郎が桑島慈悟郎の一世一代の切腹を水の泡にする。緊急活性薬は、直ぐに切腹した傷を癒やした。

 

「何がおこったんじゃーー!! って、裏金じゃないか。いいや、それより、儂は腹を切らねばならんのじゃ」

 

「折角助けたのに、止めてください。それに一度腹を切ったので十分ですよ。獪岳が鬼になったからといって、優秀な育手が死んでは鬼側に利が多すぎます。私は、恩師である貴方の死ぬ姿なんて見たくありません」

 

 礼節を重んじる裏金銀治郎。鬼滅隊には重傷と報告してあるにも関わらず、恩師が腹を切る事を思い出して、足を運んだのだ。

 

「じゃが、儂が教えた雷の呼吸を悪用して罪も無い人を殺したんじゃ。儂が腹を切って詫びるしかない」

 

「別に、月の呼吸を使う上弦の壱もおりますので特に気にしないでもイイと思います。それに、獪岳は藤の香を消して鬼を寺に呼び寄せた過去を持っています。そのせいで何名もの犠牲者がでました。彼は、才能はあったでしょう。ですが、人間性はお世辞にも褒められた物ではありません」

 

 桑島慈悟郎は、上弦の壱が呼吸法を使う鬼だったのかと驚いた。獪岳の性格については、その通りだと思うところが多かったので、素直に受け入れてしまう。

 

「ならば、儂は殺された者達にどう詫びればいいんじゃ」

 

「詫びるのは、獪岳でしょう? それに、腹を切って自己満足されては困ります。我妻善逸君が悲しみますよ。彼、今凄く成長しました。まともに闘っては、私では勝てないでしょうね。そんな彼の成長を見たくはないのですか……ついでに、美人な奥さんを三人も娶っていますよ」

 

 あまりの正論に、桑島慈悟郎も冷静になってしまった。詫びて腹を切っても何にもならない。解決する為には、もっと他のことをすべきだと。

 

「なんじゃと!! 善逸の奴、いつからそんなにモテるようになったんじゃ」

 

 善逸が嫁を連れて、桑島慈悟郎へ挨拶に来る日も近い。だが、その時こそ、真の我妻善逸ブッコロし隊の刺客が増える。まさか、絶世の美女達を何人も侍らしているとは鳴柱の目を持っても見抜けなかった。




電話の音声が……まぁ、時代が時代だから電話線の状態がね!!
仕方が無い事故だ。

無限城編までもうすぐじゃ!!

次は、"柱稽古"の様子をやろうかしら^-^



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46:ONI

いつもありがとうございます^-^

感想を楽しく読ませて頂いております。
童磨に同情したけど、やっぱ死んでとか……みんな厳しい!!

感想も本当にありがとうございます。
おかげさまで、感想数が1000を超える快挙を取れました^-^

そして、初のアンケート機能でネタ閑話を執筆しようかと……決して時間稼ぎじゃないからね。回答締め切りは、12/10の24時を予定しております。



"柱稽古"に参加する隊士達……後半に進むにつれて、徐々に徒党を組むようになった。『第一勢力:高額な賞金を得るため、山分けを前提に手を取り合うグループ』『第二勢力:第二の我妻善逸を目指すグループ』『第三勢力:漁夫の利を狙うグループ』に概ね区分けされる。

 

 数の暴力という言葉があるように、我妻善逸とユダである竈門炭治郎は第一勢力と第二勢力の猛攻を受けていた。だが、捨てる神が居れば拾う神もいる。この時を待っていた者が動いた。

 

 汗すらも良い香りがする女性隊士であり、スカートの隊服を着る美しい女性。絶対領域という未来を先取り、男の視線を釘付けにする。

 

「炭治郎さん、私で良ければ加勢します。お代は、美味しく頂きますが」

 

「カナヲ……助かる!! 後で、お礼でも何でもするから(・・・・・・・)

 

 忘れてはいけない。栗花落カナヲは、胡蝶しのぶの継子だ。

 

 そして、胡蝶しのぶは可愛い継子からの脅迫まがいのお願いにより、裏金銀治郎に対して行った様々な"柱稽古(意味深)"の詳細を赤裸々に教えていた。

 

「今何でもするって言ったよね? その言葉を忘れたらダメですからね、炭治郎さん」

 

 竈門炭治郎は、栗花落カナヲの匂いが変わったのを嗅ぎ取った。妖艶で淫靡な香りに変わる。舌で唇を舐める動作は、獲物を狙う肉食獣のようだ。

 

 迫り来る我妻善逸と竈門炭治郎を襲う勢力を前に、たった一人で立ちはだかる。彼女は、既に柱級の実力を有している。だが、準柱級やその他大勢を一度に相手をするには至らない。

 

「炭治郎、ようこそコチラ側に。コレ、俺からのプレゼントだよ」

 

 我妻善逸が常備しているコン○ームの束を竈門炭治郎に贈った。だが、純粋無垢な竈門炭治郎には、その商品の使用目的が分からない。本当に気を遣って贈ってくれた品なのは、匂いで分かったのでお礼を述べる。

 

「風柱様の所に行くまでに、少し間引いてあげます。私は、師範ほど、手加減はできません」

 

 栗花落カナヲ――胡蝶しのぶより、万が一に備えて渡されていた柱専用の緊急活性薬を躊躇なく使った。鬼の細胞を取り込む事で劇的に身体能力を向上させる。

 

 風柱の所に行く前に、花柱からの訓練が追加される隊士達。隊士の質は、歴史史上最高の練度へと持ち上がる。

 

………

……

 

 風柱の所で訓練に勤しむ我妻善逸に、手紙を携えた鎹鴉改め雀がやってきた。

 

『チュンチュン』

 

「チュン太郎、手紙か。誰からだろう」

 

 手紙を確認し、我妻善逸は目を疑った。

 

 裏金銀治郎が上弦の肆との戦闘で重傷、鬼滅隊復帰が遅れる事が書かれていた。そして、獪岳が鬼になった為、桑島慈悟郎が一人切腹したところを裏金銀治郎と胡蝶しのぶが助けた旨が書かれている。

 

 この時点で、彼の信仰心は天元突破してしまう。世界を裏金銀治郎が作ったと言っても、信じるまでに至る。

 

 裏金銀治郎は、絶世の美少女、美女を嫁として紹介した。そして、育ての親である桑島慈悟郎までも救ったのだ。与えられてばかりである彼……溜まる恩を一体どのような形で返せば良いか迷ってしまう。

 

「おぃ!! 俺の訓練中に手紙を読んで休憩とは、偉くなったもんだなぁぁぁぁ」

 

「大事な手紙なんで、少し休憩してきます」

 

 訓練の邪魔になるのは、悪いと理解していた我妻善逸。冷静な対応で風柱に答える。だが、その冷静さが気に入らないのが風柱である。スカした態度は、許さない。

 

「俺が、休んでイイと言うまで訓練は終わらねぇ。その手紙が、お館様というなら話は別だがな。誰からだ?」

 

(裏金銀治郎)からです」

 

(お館様)か、10分間だけ休憩をやる。太刀筋も悪くねぇ、やる気もある。見所があるな、貴様」

 

 お互い信仰対象を勘違いして何事もなく終わる。

 

 その様子を横で聞いて竈門炭治郎は、冷や汗をかいていた。一歩間違えば、殺し合いになりかねない状況なのを理解していた。

 

◆◆◆

 

 産屋敷輝利哉は、電話の内容を産屋敷耀哉と相談していた。

 

 最終決戦に向けたこの状況で、戦力として期待できる現役柱と元・柱の両名が欠ける。勿論、上弦の肆を倒したという鬼滅隊の歴史に残る成果を上げているが、二人の不在は鬼滅隊の存続に直結する。

 

 何より問題なのは、裏金銀治郎と胡蝶しのぶの所在が不明。鬼滅隊側からの連絡手段が一切存在しないという点に尽きる。連絡は、全て一方的な物のみであった。

 

「そうか、銀治郎が重傷とはね。戻ってくると言っていたのだから、何もしないのがいい。それが最善の結果を生む」

 

「なぜ、言い切れるのですか?」

 

 そこまで絶対的な信頼が裏金銀治郎に寄せられるのか、集まった産屋敷一族は疑問に思った。陰で何をしているか分からないNo.1の男だ。今までの成果は理解できるが、その常軌を逸した発想や行動力は危険きわまりないと考えていた。その発想に、鬼滅隊の財政が助けられた事とは別だと都合の良い解釈をする者達がこの場にはいる。

 

 だが、それも仕方が無い。

 

 裏金銀治郎が目立ちたくないので、上弦の鬼を倒した成果は全て胡蝶しのぶに上乗せして貰っていた。その方が信憑性も増す。

 

「話せるうちに教えておく。今日までに討伐された上弦の全ては、裏金銀治郎と胡蝶しのぶが討伐しているんだよ。上弦の壱を除く全てだ。この成果は、鬼滅隊の歴史を見ても無い」

 

「そ、それほどまでの実力があったのですか!! それなら、後方でなく前線で闘うべきだったのではないでしょうか!?」

 

「いいや、銀治郎の実力は柱としては平均的だ。歴代最高の柱と言われる今代には劣る。なのに、上弦を倒して見せた。鬼を倒すのに力任せの時代は、終わりつつあると言う事だよ。銀治郎を目立たせないように、重宝しなさい。それが最適解だ」

 

「お父様、ですが裏金殿は、私の話や言う事を聞いてくれません。胡蝶殿もです」

 

 当たり前である。裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、産屋敷輝利哉に雇用されているわけでは無い。恩義のある現当主のご子息様という事で最低限の礼儀を払っているに過ぎない。

 

「輝利哉。組織のトップとは、ただ偉いからと言葉を言うだけではダメだ。行動で示す必要がある。私は、今の柱達を集めるため行動で示した。輝利哉も何かを与えずに、指示を出すだけではダメだよ。それでは、人は動かない」

 

「無理です。人・物・金の全てにおいて、私より裏金殿の方が上手です。子供の私には、彼に勝てる物なんてありません」

 

「だろうね。銀治郎は、逸材だよ。だから、何も与えられないのなら、好きにさせてあげなさい。その結果、決して悪いようにはならないだろう。彼は、礼節を重んじる情に厚い男だ」

 

 全てにおいて結果を残してきた男である裏金銀治郎。

 

 その扱いに関しても、産屋敷耀哉は理解していた。放置しておけば、勝手に鬼を殺してくれる有能な隊士であると。だが、産屋敷耀哉の唯一の誤算は、安全装置であるはずの胡蝶しのぶが機能不全に陥っている事だ。

 

「分かりました、お父様」

 

 産屋敷耀哉は、察していた。何人(なんぴと)でも既に裏金銀治郎を止めることはできないと。裏で何をしているか知らない産屋敷耀哉だが、持ち前の勘が訴えていた。鬼舞辻無惨を超える鬼が誕生する予感。

 

 最後にそれを誰にも伝えなかったのは、鬼滅隊の子供達が余生を無事に過ごす為であった。鬼滅隊と裏金銀治郎&胡蝶しのぶが衝突した場合、想像を絶する被害がでる。勿論、被害が出るのは鬼滅隊側だ。

 

 

◆◆◆

 

 東京湾の港にある倉庫――の地下で、胡蝶しのぶが注射器を手にしていた。その中身には、青色の液体が入っている。かき氷に掛ければブルーハワイ味で美味しそうな色だが、それが血液中に入ると思うと誰でも気が重くなる。

 

「銀治郎さん、以前にお館様が自爆特攻すると仰っていたじゃありませんか。効果はあるんですか?」

 

「鬼舞辻無惨の肉体を損傷させる事はできます。その再生のタイミングで、珠世が"鬼を人に戻す薬"を吸収させる事くらいはできます。恐らく、解毒されるでしょうが柱が全員集まるまでの時間稼ぎにはなるでしょう」

 

 裏金銀治郎が拘束具で押さえつけられる。

 

 鉄製のワイヤーで何重にも巻かれている。勿論、特殊プレイ用なんて物ではない。

 

「いつもながら、具体的ですね。――理論上、完成しておりますが人体実験なしに投与したくは無いです。開発者の私で試しましょうか?」

 

「問題ありません。集英社情報が正しければ、徐々に鬼へと変化する筈です。無惨が鬼化させるように一気に凶暴化する事は考えにくいでしょう。それに、万が一の場合、私にしのぶさんは斬れません」

 

「私も同じです。ですから、絶対に自我を保ってください。"鬼を人に戻す薬"があるとは言え、肉体が変異している途中に投与した実験は行ってません」

 

 最終決戦に向けて、今まさに裏金銀治郎が鬼舞辻無惨と同格の鬼へとその身を変えようとしていた。鬼が滅んだ後、鬼滅隊が政府に滅ぼされないようにするため、尊い犠牲になる。

 

 裏金銀治郎の計画は、5年で徐々に組織を弱体化して自然消滅させるつもりでいる。

 

 タイムチャートは作成済みだ。

 

 第一に、胡蝶ひなきを煉獄杏寿郎と結婚させて、排除する。これで、後の面倒は煉獄家が鬼滅隊を支える柱となる。今までの事を考えれば当然拒否権はないし、お館様の直系ならば光栄な事だと思うだろう。

 

 第二に、退職金を付けて早期退職者を募る。鬼舞辻無惨という巨悪が倒されたら、鬼が増える事は無いと誰しも考える。つまり、絶滅危惧種となった鬼を殺し続けても出世は望めない。ならば、貰える物が貰えるうちに転職すべきだと誰もが考える。

 

「しのぶさん……投与される前に一つだけ聞いていいですか?」

 

「はい。なんですか、銀治郎さん」

 

 胡蝶しのぶは、この時カナヲの隊服を着ていた。スカートがある学生服みたいであり、いやらしさが際立つ。地下室という密室にスカート隊服JKと30代の拘束されたおじさん……控えめに言っても犯罪だ。

 

 ベッドに縛られている裏金銀治郎に跨がりスカートの中をワザと覗かせる。そして、鼻息が荒いですよと誘い文句をいう悪女。

 

「暴れないようにこれだけ拘束されているのに、その誘いは汚いですよ!! 」

 

「でも、こういうの好きでしょう、お兄ちゃん。大丈夫です、暴れん坊さんは、面倒を見てあげますから」

 

 胡蝶しのぶのイヤらしい手が、裏金銀治郎の下半身に伸びる。

 

………

……

 

 

 裏金銀治郎が注射(意味深)している最中、胡蝶しのぶが開発した"人を鬼にする薬"が投与される。過去にも未来にもこんなタイミングで鬼に変えられた者は現れない。




やばい、とうとう漫画に追いつく!!
無限城入る前に、1.2話挟んでからいくか^-^

リアルがマジ忙しいので日曜日まで更新がないかもしれません。

ぱっとこんな感じのラインナップで考えてみました。よくある過去編で先延ばしも考えましたが、それではつまらないと思い、ネタが満載できそうな選出にしてみた。

上弦の新人研修
胡蝶しのぶサイン会
零余子のプリズンブレイク


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47:中には誰もいませんよ

いつもありがとうございます。

アンケートが大接戦で嬉しい限りです。

こんな話を書いている体力あるならアンケートの話を書けと言われそうですが…
許してクレメンス。

なんか、感想みてたら急にカナヲネタ書きたくなったねん。

何時もより短いですが、ご容赦を。



 朝日が昇る。

 

 その柔らかな日差しで目を覚ます栗花落カナヲ。彼女の鍛え上げられた肉体、女性らしさを残す絶妙なバランスを実現したプロポーションは、鬼滅隊隊士を前屈みにさせる程だ。

 

 彼女は、何も身につけていない。寝る時に裸で寝るというタイプの人間ではない。

 

 彼女の横でシーツに(くる)まっている竈門炭治郎が原因だ。彼は、疲れ切って寝てしまっていた。シーツを涙で汚した後が残っており、彼女はそれを見て、言い表せぬ感情が芽生えつつあった。

 

「あぁ~、師範。男の人の寝顔を見るのは、そそられます。師範の気持ちも分かります」

 

 初体験後の朝、男性より先に起きるといい事があると胡蝶しのぶから教えられていた。勿論、その感情は母性的な物であったが……彼女とは、異なる感情である。彼女の中で胡蝶しのぶは、やはり師範であったと再認識する瞬間であった。

 

「すーすー」

 

 栗花落カナヲは、竈門炭治郎の髪を優しく撫でる。そして、使用済みのゴミを纏める。水風船のような物体の先端に穴が開いている。まるで、誰かが意図的に開けたような穴……きっと、不良品だったのだろう。アンブレラ・コーポレーションの正規品にも関わらず、品質が疑われる。

 

 髪飾りの針と同じくらいのサイズであったが、偶然でしか無い。

 

「炭治郎さん、あんまり無防備で寝ていると襲っちゃいますよ」

 

「後5分~」

 

 肉食獣を前に、ノーガード作戦をする竈門炭治郎。どうなるかは火を見るより明らかであった。

 

………

……

 

 栗花落カナヲは、肌をツヤツヤさせている。

 

 そして、朝の訓練があるので一足先に眠る竈門炭治郎を残して部屋から出た。だが、その瞬間でばったりと知り合いに会う。女性隊士が男性の部屋から早朝に出てくる。コレが何を意味するか分からない者はいない。

 

「カ、カナヲ!! 今、炭治郎さんの部屋から出てこなかった?」

 

「ふふ、可愛かったわよ炭治郎さん。ごちそうさま」

 

 栗花落カナヲは、神崎アオイが竈門炭治郎に惹かれている事を知っていた。親友とも呼べる仲ではあったが、譲れない物があった。女の友情は、男が絡むと複雑になる。まさに、良い例であった。

 

「ねぇ、まさか!! 嘘でしょ、カナヲ!!」

 

「確かめてみたら? 炭治郎さんは、渡さない。私の方が、炭治郎さんを満足させられる。絶対に渡さない」

 

 独占欲の塊である。

 

 ()柱の継子であるカナヲの肉体は、お腹が出ている(・・・・・・・)アオイより、魅力的であった。ここ最近、アオイは酸っぱいものを好んで食べる。更に、いきなり嘔吐するような事も多々あった。

 

 絶対に渡さないと宣言する栗花落カナヲ。彼女が、戦闘力的でも性的でも圧倒的に上手であるのは間違いなかった。

 

 だが、その行動を滑稽だと笑みを浮かべる神崎アオイ。

 

 忘れてはいけない。竈門炭治郎は、何ヶ月も昏睡状態であった。寝ている間の世話は誰がしたのだろうか。体が固まらないように運動(意味深)を手伝ったのは誰であろうか。

 

「酷いわ、カナヲ。でも、別に構わないわ。だって、炭治郎さんの初めては私だもの。ほら~今、お腹を蹴ったわ」

 

 その言葉に、栗花落カナヲは目の前が真っ暗になった。

 

 元親友のお腹の中に、最愛の男性の子供が居る。自分よりも先にだ。許しがたい裏切りであった。

 

 お腹を愛おしそうに摩る神崎アオイ。既に女の顔から母の顔になっていた。

 

「う、嘘よ。だって、炭治郎さんも初めてって」

 

「馬鹿ね~カナヲ。誰が昏睡状態の炭治郎さんのお世話(意味深)をしていたと思っているの。いつか、こうなると思って先手を打たせて貰ったわ。悪く思わないでね」

 

 信じられない。信じたくない。否定的な感情が、栗花落カナヲの中を渦巻く。そして、一つの名案が閃く。

 

 日輪刀に手を掛ける。

 

「今なら嘘と言えば許してあげます、アオイ」

 

「事実から目をそらすのは良くないわ、カナヲ」

 

 二人の女性を同時に愛するという行為は、実に難しい物だ。その絶妙なバランスを保って何人もの女性を囲う男は、甲斐性的にも素晴らしい者だ。

 

 最も、この場合一方的な感情ではある。だが、その原因を作ったのは、竈門炭治郎だ。釣り上げた魚に餌を与えないのはよろしくない。

 

………

……

 

 血の臭いを嗅ぎ取り、竈門炭治郎の意識が覚醒する。

 

 そして、目の前の光景に絶望した。日輪刀を持った栗花落カナヲが、神崎アオイの腹を割いていたのだ。血まみれになり、笑顔を向ける。

 

 ぐちゃぐちゃと腹をかき回して、恐ろしい一言を言う。

 

「中には誰もいませんよ」

 

 彼女が何に対して、そのような発言をしたかは竈門炭治郎には理解できなかった。だが、目の前で、一人の女性が死んでいる事実を理解した。

 

「アオイーーー!!」

 

 

 

◇◇◇

 

 

「アオイーーー!!」

 

 布団から起き上がり、大声で叫ぶ竈門炭治郎。

 

 そして、あたりを見渡す。だが、どこにも腹を割かれた神崎アオイも血まみれで日輪刀を持った栗花落カナヲも居なかった。

 

「はぁはぁはぁ……夢か」

 

 夢だとようやく理解した彼。

 

 だが、全身びっしょりと汗をかいており、人生でこれ以上の悪夢を見る事はないという程であった。知り合いの女性同士が殺し合い、目の前にその死体が晒されるなど冗談ではない。

 

 クンクン

 

 だが、彼の嗅覚が血の匂いを捉える。匂いの発生源は、同じ布団の中。更に、とある女性の匂いも凄く近くからしていた。そして、思い出す――何でもするからと言った約束を果たした事を。

 

 彼は、文字通り一皮むけた。

 

「炭治郎さん、どうしてアオイの名前が今出てくるんですか?」

 

 シーツの膨らみから顔をだす栗花落カナヲ。その目は、一切の感情の色が無かった。まさに深淵。感情が全く感じられない。

 

「……ゆ、夢で俺達の結婚式でアオイが俺の黒歴史をバラそうとしていたから止めたんだ」

 

  竈門炭治郎は、大人になった。

 

 もはや、彼の夢の中に入っても、澄んだ心はない。だが、澄んだ心があったら、夢が現実になっていた可能性がある。修羅場を避けるため、嘘を許容する男になった。

 

「気が早いです、炭治郎さん」

 

………

……

 

 竈門炭治郎は、今朝の夢の事が忘れられなかった。

 

 誰しもが思う。俺は大丈夫だと……だが、天然ジゴロとしての自覚が無い竈門炭治郎。彼に思いを寄せる女性は、多い。『隠』の女性、隊士の女性など様々だ。

 

 風柱の元で訓練する最中、彼は、我妻善逸に相談を持ちかけた。

 

「なぁ、善逸。もしも、俺がモテたとする。二人の女性と肉体関係があったらどうなるかな」

 

「そりゃ、殺されるでしょ。カナヲに」

 

 ノータイムで即答する我妻善逸。

 

 我妻善逸は、女性を見る目がある。三人の嫁を均等に愛し、夜の生活のバランスも保つ男は一味も二味も違った。栗花落カナヲが竈門炭治郎に恋しているのも知っているし、昨晩、漢になったのも雰囲気で察していた。

 

「いやいやいや、流石にないでしょ」

 

「炭治郎は、無自覚に愛想を振りまきすぎなんだよ。その内、後ろから刺されるよ。炭治郎は、ブッコロし隊に刺されるより女性に刺される事になると思うんだよね」

 

 笑えない冗談をいう我妻善逸。

 

 だが、全く身に覚えないとも言えない竈門炭治郎。女性には優しくしなさいと教育されたツケがきたのだ。優しくするのは当然だが、釣り上げた女性を放置してはいけない。




きっと、夢オチになるネタですが^-^
夢って、あり得る未来の一つでもあるんですよね…きっと。

今のアンケート状況は、こんな感じでした^-^
(532) 上弦の新人研修
(518) 胡蝶しのぶサイン会
(512) 零余子のプリズンブレイク




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48:上弦の新人研修

アンケートへのご協力ありがとうございました^-^
アンケート結果があまりに接戦でしたので、全部の話を前向きに頑張ります。
閑話の時系列は、まぁ細かくは気にしたら負けと言う事で!!

いつもありがとうございます!!





 上弦の鬼……それは、鬼ならば誰もが目指す最上位の地位である。

 

 だが、昨今の鬼柱の一件や、下弦を一掃したパワハラ面談。更には、上弦の鬼への無茶ぶりといった情報が漏洩した。その為、誰も上弦の地位になろうとはしなかった。

 

 ならば、何も知らない者をスカウトして連れてくるしかない。それが、鬼殺隊の黒死牟と童磨の結論。

 

 鬼舞辻無惨の推薦で裏金銀治郎という期待の新人を童磨が連れてくる。分け与えられる血の量から適合すれば上弦入りは間違いない。適合せずに死ぬ確率もあったが、その不安は一切無かった。

 

 自らの手を汚さず、人間を平然と苦しめるアイディアを幾多にも編み出す男。古今東西見ても、ここまで鬼に相応しい男は二人と居ないというのが、鬼側の評価である。特殊詐欺のお陰で軽く四桁の人間が首を吊った。間接的とはいえ短期間で、これだけの数を殺した事は、あの鬼舞辻無惨ですら、できない偉業だ。

 

 そして、これを機に上司のご機嫌を取るために、更なる施策を行っていた鬼殺隊。それは、戦闘員になる男をスカウトする事だ。その担当が、黒死牟である。鬼舞辻無惨からの呼び出しには、その二人を同時に紹介する事でスムーズに事を終わらせる気でいた。

 

 だが、世の中、思い描いた通りにいかない事も多々ある。

 

「童磨め、先に死ぬとは――どうすんだよ!! 俺一人で、何とかできるってレベルじゃねーーぞ」

 

 だが、黒死牟には、羨ましいと思う時間も無かった。

 

 あろう事か童磨が死亡。更には、期待の新人予定だった裏金銀治郎のスカウト失敗。問題なのは、この件に関しては童磨に一任していたので裏金銀治郎の実家やその他の情報を黒死牟が知らなかった事だ。

 

 そもそも、童磨が死ぬと言う事があり得ないと考えていた。

 

 泣き面に蜂という諺があるように、不幸は連続する。童磨が死亡したと同時に、万世極楽教に政府の手が入った。その為、溜めていた財産や餌である人間が全て消える事態となる。

 

 鬼側の財政基盤が一気に消失した。黒死牟は、他の上弦と違い稼ぐ手段を持っていない。だからこそ、彼は恐れていた。パワハラ上司が、童磨に金を無心するかの如く、自分にもその無茶ぶりがされるのでは無いかと。

 

 ベベンと琵琶の音がなる。

 

 その瞬間、黒死牟は、神速の土下座スタイル。考えるより早く、反射神経に刻み込まれた動作――鬼滅隊を殺す最中、町中で琵琶の音が響いた瞬間、このポーズを取ってしまう事もあった。おかげで、ただの隊士相手に一撃を貰う。鬼柱による弱体化効果は確実に現れている。

 

「私です。上弦の壱様」

 

「鳴女か、無惨様はもう来られるのか?」

 

 何事も無かったかのように立ち上がる黒死牟。

 

 この日、最悪な事に鬼舞辻無惨が生き残りの上弦を招集していた。恐ろしい事に、鬼舞辻無惨自ら、研修のお知らせを事前配布する異常事態。『理想の上司』という本を元に、上司が部下に対して企業がなんたるかを説明する機会を作るべしと載っており実践する気でいた。

 

 しかも、裏金銀治郎が居た場合であっても行う気でいた鬼舞辻無惨。研修後、色々と問題点などを聞き改善を図る算段があったのだ。だが、その男は無限城には現れない。

 

「いいえ、準備があるとの事で1時間後くらいになるかと。上弦の参様を呼びましょうか?1時間で上弦の壱様が最低限の礼儀作法を教えるのが宜しいかと」

 

「ハッキリ言って、あの男は無能だ。土下座スタイルが妙に様になっていたから鬼に誘ったに過ぎない。本来であれば、裏金銀治郎を――待てよ」

 

 この時、黒死牟に起死回生の名案が浮かんだ。

 

 有能な男が好きな鬼舞辻無惨。だが、その有能な男は、上弦入りを果たしていない。だが、ピンチをチャンスに変える。これは、裏金銀治郎の『上司が求める理想の部下』に書かれていた言葉だ。上司の意向で、上弦の全員が強制的に内容を覚えさせられている。

 

「何か名案でも?」

 

「あぁ、このままでは無惨様に殺されかねない。ならば、あの男を裏金銀治郎に仕立て上げるぞ」

 

「ム――無謀では無いでしょうか。なんと言いますか、品位が欠ける男です」

 

「いいや、途中で止めるから『無謀』になる。止めさせなければ『無謀』じゃなくなる」

 

 黒死牟の思考は、ブラック企業体質に染まりつつあった。完全に上司のリスペクトとなっている事に気がついていない。目先の問題を先延ばしにするだけであったが、やり遂げなければ未来は無い。

 

………

……

 

 獪岳は、上弦の参という高い地位に満足していた。

 

 上弦の壱である黒死牟。上弦の弐である鳴女。つまり、鬼舞辻無惨を除けば鬼の中でNo.3という地位である。特別扱いされたい男としては、最高の気分である。

 

 しかも、鬼舞辻無惨へのお目通りも予定されており、まさに人生の出世街道まっしぐらだ。鬼滅隊にいた頃は、産屋敷どころか柱にも滅多に会う機会が無い程だったが、鬼側では違うと意気込んでいた。

 

 ベベンという琵琶の音が響く。

 

 一瞬で場所が移動した。移動先に居たのは、黒死牟と鳴女。鳴女の能力だと察するが、その力量の差までは理解できなかった。

 

「今から、貴様に上弦の鬼の必須技能を教える」

 

「一体がはっ!!」

 

 その瞬間、獪岳の肉体が18分割される。黒死牟が、月の呼吸で分断したのだ。圧倒的実力差故に、鬼になった獪岳であっても、その予備動作すら見えない。

 

「返事は、『はい』か『Yes』で答えろ。分かったな」

 

「なにしやがぁぁぁぁぁ」

 

 肉体を再生しながら文句を言う獪岳に、追い打ちの斬撃が飛ぶ。人間だった頃は、あれほど素直に土下座して許しを請うたのに、鬼になった途端、この有様だ。その様子に、黒死牟は落胆した。

 

 土下座だけが取り柄の男が、特技を忘れているのだ。

 

「最後通告だ。土下座しろ」

 

「はい」

 

 獪岳は、呼び出された途端に、この理不尽な扱い。納得できる物ではなかった。同じ上弦として最低限の扱いすらして貰えないのかと。同僚ではないのかと。

 

 だが、この程度の理不尽……鬼舞辻無惨の行動に比べたら序の口である。

 

「上弦の参だが、貴様の序列は相応しくない。それを理解しているか」

 

「は、はい!!」

 

「いい心構えだ。ならば、床に頭をこすりつける位に頭を垂れろ」

 

「はいぃぃぃ!!」

 

 ズドンと音がする。

 

 黒死牟は、この時心のどこかでスーーと気が晴れるのを感じた。日頃の鬼舞辻無惨からのストレスをこの場で解消していた。上司が上司なら部下も部下……"鬼の呼吸"を無意識に使い始めたのだ。

 

「よし、その調子だ。無惨様への挨拶は土下座から始まる。上弦の鬼ともなれば、一糸乱れぬ土下座が求められる。なぜだか、分かるか?」

 

「はい」

 

「では、答えてみろ」

 

「えっ!!」

 

 獪岳の首がポトリと落ちる。これが日輪刀だったら、死んでいた。殺さないのは、黒死牟の優しさである。

 

 返事は、『はい』か『Yes』しか許さない状況でこのやり方……鬼舞辻無惨の理不尽を知って貰うわかりやすい手法だ。

 

「いいか!! 無惨様が話し途中でも必ず質問には答えられるように頭をフル回転させろ。貴様の失敗が連帯責任で周りにも被害が及ぶ。無惨様の気分一つで、我々は殺される。もっと、真剣にやれ。それが、終わったら思考の領域(・・・・・)を教えてやる」

 

「しこうの領域?」

 

「そうだ、無惨様は心を読む。だから、思考と心を完全分離させる方法だ。これができない上弦は、無惨様に淘汰された。その数は、10を超える」

 

 その真剣な表情は、嘘偽りなどないと獪岳も感じ取る。上弦の鬼のキルスコアトップは、裏金銀治郎ではなく鬼舞辻無惨である。鬼柱に恥じない働きをしている。

 

………

……

 

 それからも、理不尽な面談練習が行われた。黒死牟に切断され、鳴女に潰され、数えるのも億劫になるほど死んだ。肉体的には死なないが、心がすり減らされる理不尽さに、鬼の身で有りながら吐き気を感じていた。

 

「では、最後に……貴様の名は?」

 

「獪岳です。黒死牟殿」

 

 今この瞬間まで、上弦の先輩二人は、この男の名前を知らなかった。寧ろ、知る必要もないとすら思っていた。どうせ、直ぐに入れ替わると。

 

「いいや、貴様の名前は、今この瞬間から『裏金銀治郎(獪岳)』となる。分かったな?」

 

「裏金銀治郎……それってぇあ゛あ゛ぁぁぁぁ」

 

 黒死牟が裏金銀治郎(偽)の頭部に刀を差し込んで、左右にクチュクチュとかき回す。求められている返事をしないから、いけないのだ。上司が求める正解を常に出し続けることが必要な鬼の業界。

 

「貴様は、無能か? 返事は、『はい』か『Yes』で答えろ。そして、貴様にはこの時より裏金銀治郎(獪岳)の代役として動いて貰う。ここに、その男の本と今まで無惨様に行った報告資料がある。コレを読み込んで、無惨様の研修を乗り切れ」

 

 実に無理がある仕事であった。

 

 鬼舞辻無惨は、童磨の視界を覗いて裏金銀治郎の顔を知っている。だが、鬼となる事で姿形が変貌する者も多い。土下座スタイルでやり通せば、無理を通せると考えたのだ。いいや、やり通してみせると。

 

 当然の事だが、鬼側は裏金銀治郎が鬼滅隊である事は、考えていない。そもそも、上司が、鬼滅隊の工作員を引き込むなどあり得ない――という、洗脳がされている。上司の言う事に疑いを持ってはいけない。

 

「は、はい」

 

 圧倒的強者からの否応無い強制。"鬼の呼吸"の使い手に完全覚醒した黒死牟。その被害者第一号は、鬼滅隊を裏切り、人間を喰った化け物である。同情の余地など何処にも無かった。

 

「念の為、少し顔を整形してやろう。無惨様は、裏金銀治郎の顔を知っている。鬼になった際、多少崩れる事はよくあることだ。顔を治したら、分かっているな?」

 

 黒死牟が刀を抜刀する。そして、止めてくれと逃げようとする裏金銀治郎(偽)。だが、"鬼の呼吸"を極めた者からは逃げることはできない。

 

 

◇◇◇

 

 可能な限り、裏金銀治郎(偽)の顔を隠す為、土下座スタイルで待機する上弦の鬼。

 

 唯一の例外が許される鳴女ですら、今回は黒死牟の協力者であった。勿論、彼女も上弦入りを果たした為、とばっちりで被害を被りたくない一心。

 

 ベベンという、琵琶の音と共に入場する鬼舞辻無惨。

 

 今日は、男か女か……まさに、ギャンブルである。酷い事に声が変わらないため、姿を見ないと性別が分からない。と、思われるが、黒死牟は進化した。匂いで性別を嗅ぎ取る能力を開花させていた。

 

 クンクン

 

 そして、今日は女だと嗅ぎ取った。上弦の壱は、常に成長する。女装した変態を前にしても動じず褒める鋼の心、匂いで性別を判定する嗅覚、そして"鬼の呼吸"。序列一位は伊達では無い。

 

「毎度毎度、出会い頭になぜ私は貴様等に無能かと問わねばならない。童磨が死んだ事は知っているな? 黒死牟、その時、貴様は何をしていた?」

 

 鬼の視界を覗けるのは、パワハラ上司だけだ。むしろ、何故お前が動いてないと当然の疑問がわく。黒死牟は、誰かから連絡が無ければ童磨の窮地など知るはずもない。だからこそ、その時何をしていたかと言えば……無能な新人をスカウトしていたのだ。

 

 だが、そんな事を言えば、殺されるのは明白。

 

「う、裏金銀治郎(獪岳)をスカウトしておりました。そして、本日はこの場に連れてきております」

 

「ほぉ!! だが、裏金銀治郎は、"産屋敷"を探っていた事が鬼滅隊にバレて、拉致監禁されていたはずだ。それを助け出したのか。それに関しては、よくやったと褒めてやろう。だが、なぜ、童磨を助けに行かなかった。近くに居たはずだろう」

 

 黒死牟と鳴女は、裏金銀治郎が拉致監禁されていたなど知らない情報であった。そんな情報が部下に連携されていないとは、いい加減にしろと文句も言いたくなる。これでは、下手に裏金銀治郎(偽)を用意したら、逆に立場が悪くなる。

 

 だが、時既に遅し。

 

 裏金銀治郎(偽)をこの場に連れてきたと妄言を吐いたのだ。これで、実は嘘でしたとか言って許してくれるなら、鬼舞辻無惨は、鬼柱と揶揄されないだろう。

 

「も、勿論でございます。童磨が負けるとは思えず、裏金銀治郎(獪岳)の救出を優先しました」

 

「言いたいことは多々あるが、新たな上弦を迎えられた事から良しとしよう。今から、上弦の心得を教えてやる――だが、その前に、自己紹介をして貰おうか。裏金銀治郎」

 

 裏金銀治郎(偽)は、混乱していた。鬼舞辻無惨という理不尽な存在。それに対して、低姿勢の上弦ノ鬼、裏金銀治郎という鬼滅隊の金庫番と同じ名を持つ無駄に期待される男。だが、唯一つだけ分かっている事があった。

 

 答えを間違えれば命が危ないと。

 

 

◆◆◆

 

 裏金銀治郎(偽)は、鬼舞辻無惨が自己紹介しろという命令に対応すべく顔を上げた。

 

 そこに居るのは、黒いドレス姿の胸元が見える妖艶の女性。だが、先ほどまで聞こえていた声は確実に男であった。謎が深まるばかりである。誰も会ったことが無い鬼舞辻無惨は、声から察するに男性だと思っていたが、その姿は女性。

 

裏金銀治郎(獪岳)と申します、無惨様!! 得意なことは、資産管理と人を騙す事でございます」

 

「……上司が求める理想の部下とは?」

 

 裏金銀治郎(偽)の顔は、鬼舞辻無惨が知る顔とは異なっていた。具体的には、崩れているという表現が正しい。鬼の血に適合できなかったのかと鬼舞辻無惨は疑った。あれほどの逸材がまさかと……。

 

 だが、目には確かに上弦の参と刻まれている。だからこそ、本人か試してみる事にした。

 

「理想の部下とは、上司の考えを常に一手、二手先を読み、あらゆる事態に対応できる準備ができる者でございます」

 

「この程度は当然か……では、私が上弦の鬼に何を求めているか、答えてみよ」

 

 黒死牟が上司の性格的に聞いてきそうな箇所に付箋を貼って勉強ポイントをしぼっていた。上弦の壱とは、既に戦闘力を求められるポジションでは無くなっているのかと疑う程であった。

 

 黒死牟は、全ては想定の範囲内とほくそ笑んでいた。鳴女も同じである。鬼舞辻無惨の言動を側で聞く彼女は、常々愚痴を聞く立ち位置にいた。その為、何が求められているかをよく知っている。

 

 そして、無能にしっかりと教えていた。だが、無能を甘く見てはいけない。一度に沢山覚えられるなら有能なのだ。

 

「そ、それは……鬼滅隊を滅ぼす事でございます」

 

 その答えを聞いた瞬間、鬼舞辻無惨から発する威圧感が増す。

 

 パチンと指を鳴らす。すると、その場に居る上弦達の首が一斉に落ちる。勿論、殺すつもりなどないので、首をたんに落としたに過ぎない。

 

 上弦の先輩二人は、即座に首を付けなおす。だが、新入りは無様に首を探す始末。滑稽な様子が披露される。

 

「連帯責任だ。ふむ、鬼化には色々な事例がある。姿形が変わる者、理性を失う者……知能が低下する者。まさか、その全てに該当する事になるとはな。一瞬だけ期待した私が馬鹿みたいだった。正解は、私が太陽を克服する事だ。貴様等は、その為だけに生かされている」

 

 女装変態上司が太陽を克服する為の上弦……悲しい現実が露見してしまった。太陽を克服したら、あの女装が太陽の下を闊歩する事になる。その手助けをする上弦は、実に罪深い。

 

「どうか、発言する許可をください。無惨様!!」

 

「有能を無能に変えた黒死牟か。発言を許可する」

 

 酷い言われようだった。

 

 凄く無能を無能まで昇格させた功績があるのに、この扱い。だが、甘んじて受けるしか無い。実は、無能をスカウトしてきましたとは、口が裂けても言えない。嘘を一度ついたら、つき続けて真実に変えるしかない。

 

裏金銀治郎(獪岳)は、確かに知能が落ちたかも知れません。ですが、代わりに雷の呼吸を体得致しました!! 思いの外、呼吸法の才能があり私自ら指導致しました。そうだろう!! 裏金銀治郎(獪岳)

 

「はい!! その通りでございます。この無能の私に、無惨様のご指導を頂きたくお願い致します」

 

 鬼舞辻無惨は、無能と成り下がった裏金銀治郎(偽)に失望した。だが、同時に安堵していた。有能すぎる部下は、不要という理論がある。適度に愚かな部下である必要がある。それに、元有能を教育して楽しむという事もできる。優越感に浸れる実に良い遊びであった。

 

「なるほど、知性を犠牲にして呼吸法を手に入れたと……では、試してやろう。理想の上司たる者、その実力を見せてやる必要がある。そうだな、もし一撃でも私に攻撃を当てられたら、更に血をくれてやろう」

 

 新人研修(物理)が始まる事になる。

 

 歴代最強の鬼柱、その実力は上弦と下弦が束になっても勝てない存在だ。それに、たった一人で挑むことになる新人。それは、無謀という。

 

………

……

 

 グシャリ

 

 人間がプレスされた音が響く。

 

「これで、99回目。実力は、下弦程度か……期待外れだな。いいや、私が有能すぎるのが問題なのか。有能である事が怖いほどだ」

 

 裏金銀治郎(偽)が無様に何度も殺される様子を見守る上弦達。

 

 胸元の開いた黒いドレス姿の鬼舞辻無惨。何度かスカートが持ち上がり下着が見えたときは、上弦達は嘔吐した。だが、口に含みそのまま飲み直す根性は、忠臣であった。

 

 なぜ、こんな恐ろしい格好になっているかというと――「正しい華の呼吸全集:著者 胡蝶しのぶ」を鬼舞辻無惨が愛読していたからだ。女らしさを身につける為、勉強した成果。万が一、有能な男が、性的に鬼舞辻無惨を求めてきたらと言う場合を想定し、一手二手先を考えた誤った勉強をしていた。

 

 そんな上司の姿も見たくないし、無能な部下にも早く死んで欲しい上弦達は、決して助けない。むしろ、無能な味方ほど不要な存在はいない。早く、殺してくれないかと内心思っていた。ボロが出る前に死ねと!!

 

 これが仲間である。

 

「お、俺は……もっと強くなる」

 

「強くなる必要は無い。元々あった知性を取り戻す努力とその醜い顔を元に戻す努力をすると良い。私は、有能な者には寛容だ。そうそう、忘れていた。"産屋敷"の調査はどうなっている?勿論、所在を掴んでいるな?」

 

 上弦の鬼達は、この瞬間絶望した。

 

 無能である為、そのトップが居る場所など知るはずも無いと考えていた。だが、神は彼等に味方した。"柱稽古"に際し全ての隊士が、柱の家と"産屋敷"がいる場所に招集されていた。

 

 つまり、この無能の男でも使える情報を持っていたのだ。

 

「も、勿論です、無惨様!! "産屋敷"は――」

 

 隊士全員を招集して"柱稽古"をやれば、遅かれ早かれ情報が抜かれる。コレに関しては、裏金銀治郎(偽)に罪は無かった。

 

 獪岳は、裏金銀治郎の名を語る罪の重さを理解していない。これからこの男は、裏金銀治郎の名で悪事を働く。更には、我妻善逸の前でもその名を語る。 




想像以上に難産でした。
書き始め前は、以外といけるんじゃ無いかと思ったけど難しいorz

カナヲネタみたいに、突発的に浮かんだネタの方が書きやすい謎現象。


完全怠惰宣言様
感想で頂いた、しのぶさんの書籍を使わせて頂きました。

つまり、次の閑話はそう言うことです!!
サイン会……誰が来るんでしょうね。(すっとぼけ


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49:胡蝶しのぶサイン会

いつもありがとうございます!!
感想も本当に嬉しい限りです。
執筆意欲がわいて頑張れます^-^

アンケートの二位でないく、三位から書いた事について順番が前後して申し訳ありません。

零余子のプリズンブレイクは、中々骨を折りそうだったので
先に我らが○柱様ネタから書きました。


完全怠惰宣言様へ
素敵な本のタイトルネタありがとうございます!!
著者名は、裏金しのぶではなく、胡蝶しのぶとさせて頂きたことをお詫び申し上げます><


 三日ぶりの太陽を浴びる裏金銀治郎。その瞳は、紅梅色に変化し、ネコのような縦長の瞳孔になっている。

 

 鬼化という現象を事細かく調査するという名目で、体液(意味深)を絞り取られた裏金銀治郎。外界と完全に切り離された地下室には、淫臭が篭もっている。中に居た二人は、嗅覚が馬鹿になっており、感じていなかったが……外の空気を吸う事で初めて状況を理解する。

 

「調子は、どうですか銀治郎さん」

 

 "人を鬼にする薬"は、裏金銀治郎に適合した。更に、童磨から回収した鬼舞辻無惨の血液もある為、栄養は十分。鬼の始祖になりたての裏金銀治郎を劇的に強化する事になる。

 

「日差しが、少し眩しいです。全体的に異常はありませんが、大事な所が痛い。30を超えたあたりから数えていませんでした。で、検査結果は?」

 

「味の変化は、ありませんでした。……コホン、特に問題ありません」

 

 本当に検査だったのか疑わしい発言が聞こえたが、裏金銀治郎は幻聴だったと理解した。鬼化という人生で二度と無いであろう肉体変化の最中、まさかテイスティングされているなど、あるはずが無いと。

 

「そうですか。しのぶさん、当然、ご自身の番になったら、分かっていますよね」

 

「……エッチ」

 

 裏金銀治郎が、ニッコリと胡蝶しのぶにほほえむ。

 

 裏金銀治郎での臨床実験が終わったら次は、胡蝶しのぶの番である。今回の結果を踏まえて改善と改良が加わるのだから、安全性は増す。だが、検査は必要だ。

 

 胡蝶しのぶが行った検査は、血液でも問題はない。だが、敢えて別の体液を選んだのは、彼女の趣味であった。今現在も、ネグリジェというスケベな服で地下室の外にいる。幾ら人目が無いからと言って、痴女認定は避けられないだろう。

 

 彼女を痴女認定したい裏金銀治郎だが、彼の格好も人の事は言えない。

 

 三日間着た拘束具を外し、ほぼ全裸の状態であった。腰にタオルを巻いているが、これで地下室の外にでた男も常識が麻痺していた。地下室でエロい事ばかりしていれば、倫理観も崩壊すると言う物だ。

 

 そのタオルの一部が雄々しく盛り上がっている。胡蝶しのぶが、それに手を添えて囁く。ネグリジェをきた彼女が胸を押しつけてくる。否応なしに、大事な所が元気になるのは、男の仕様だ。神は、男に対して制御不能な部位を備えさせた。

 

「垂れてきちゃいました。銀治郎さん……無責任な子作りしたくありませんか」

 

「しのぶさん。そんな刺さる言い方されたら、断れないの知っているでしょ」

 

「ふふ、じゃあご褒美をあげちゃいます。銀治郎さんより先に私がダウンしたら、何でもお願いを一つ聞いてあげます。ですが、銀治郎さんがダウンしたら、私の言う事を何でも一つ聞いてください」

 

 どちらに転んでも、エロい事になる。つまり、胡蝶しのぶにしてみれば、勝っても負けても美味しい。賭けが成立していない。

 

 鬼の体力は無尽蔵……だが、精力が無尽蔵とは限らない。しかし、裏金銀治郎も男である。何でもお願いを聞いてくれるとなれば、あの手この手を使うしかないと考えていた。小手先の技術では、裏金銀治郎の方が上手であった。

 

 

◆◆◆

 

 胡蝶しのぶは、裏金銀治郎のお願いで彼の実家を訪れていた。

 

 彼女は、忘れていた。結婚後のご挨拶という大事なイベント。家族認定されていたとはいえ、筋は通さないといけない。だが、その事に対して彼女は不満を持っていた。

 

 裏金銀治郎との夜戦で敗北した結果……そのお願いが、裏金実家へ行く事だったのだ。結婚報告もあるし、ちょっとしたお願いがあるという事だったのだ。その程度の事なら、お願いされずとも叶う範囲である。

 

 だからこそ、彼女は若干ふて腐れていた。何でもお願いを聞いてあげると言ったのに、そのお願い事項が実家のお手伝いというのだ。期待に胸をときめかせていたのに、裏切る行為。

 

 だが、その思いは裏金実家に着いた瞬間、消え失せた。

 

 実家に着いたと同時に、裏金両親が裏金銀治郎を家の奥へと連れて行った。しばらくして、帰ってきた時には彼の顔は、アンパン○ンみたいに膨れあがっていた。一家揃って、土下座していた。

 

 これだけで理解が追いつかない彼女。結婚の報告をしに来たら、相手側の一家が揃って土下座している。

 

「ど、どうしたんですか、小夜子お義母様、秋月お義父様」

 

「しのぶちゃん、銀治郎が本当に申し訳無い事をしました。女の子にあんな酷い事をさせる男に育てた覚えはありませんでした。後で、ケジメは付けさせます」

 

「本当に申し訳ない。息子がこんな変態だったとは、裏金家の風上にもおけない。煮るなり焼くなり好きにして構いません。全部、俺がやったことにします」

 

 裏金両親が誠意をもって謝罪している感がヒシヒシと伝わる。

 

 何があったか、胡蝶しのぶは考えた。裏金銀治郎が胡蝶しのぶに行った数々の行為。心当たりはいくつかあった。だが、どれも必要であったので仕方が無いと理解していた。ならば、誤解を解くのが妻としての役目である。

 

「私の戸籍を弄って30歳にした事については、気にしないでください。仕事の為、仕方がない事でした」

 

「しのぶちゃん……少し待っていてください。アナタ、銀治郎を裏へ」

 

「馬鹿息子!! 」

 

「待って待って!! 最後まで、しのぶさんの話を聞いて」

 

 一般人であり良識ある裏金両親の行動は当然であった。だが、裏金銀治郎は必死に両親に話を聞くように説得する。鬼になっても、親には勝てない。

 

「じゃあ、戸籍を弄ってカナヲを私の実子にした事ですか? 大丈夫です、元より妹みたいな子でしたが、書類上の実子になっても気にしていません」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

「本当にすまねーー。どこで育て方を間違ったのか」

 

「違う!! そうじゃないでしょ、しのぶさん」

 

 裏金家での彼の株がストップ安になる。しかし、常識的に考えれば、当然だ。

 

「あの夜私を押し倒して処女を奪った事ですか? 夜に男性の家に行った、私が悪かったんですから、気にしないでください」

 

「アナタ、銀治郎を埋めますよ」

 

「任せておけ」

 

「お願いだから、話を聞いて!! しのぶさんとは、偽装結婚でも何でも無い。近所で噂されている男との関係を誤魔化す為とかないから。しのぶさんも誤解を解いてください」

 

 ここでようやく、胡蝶しのぶは何故この事態になっているか理解した。

 

 裏金銀治郎と童磨が、夜の喫茶店で密会。仲よさげに抱き合っているのが目撃されている。それと同時に、胡蝶しのぶと下着を買いに行った情報も出回っている。つまり、男色家が、世間体を誤魔化す為に胡蝶しのぶと偽りの関係を持っているという設定になったのだ。ご近所様が、話のネタは面白い方が良いと思った結果、こうなったのだ。

 

 というのが、理由の一つだ。

 

「あぁ~、そう言うことでしたか。安心してください、銀治郎さんと私は愛し合っています。あの男については……そうですね、姉と少なからず因縁があった者です。銀治郎さんの力を借りて、少しお灸を据えました」

 

「そう!! だから、誤解って言ったじゃん」

 

 徐々に、裏金銀治郎の株が上がってきた。だが、問題は次の課題であった。

 

「では、この本に書かれている事を銀治郎が強要した事実は無いと? 銀治郎が、しのぶちゃんの日記を元に、出版していた『正しい華の呼吸全集』という物ですが……」

 

強要されました(・・・・・・・)

 

 胡蝶しのぶは、迷わず即答した。

 

 彼女は、乙女である。裏金銀治郎との赤裸々な事を密かに纏めていた。その日記は、裏金銀治郎の手に渡り出版されている。その事実を彼女は、この時初めて知る。

 

 ちなみに、日記が裏金銀治郎の手に渡ったのは、彼女の不手際である。

 

 胡蝶しのぶは、薬学に精通している。特に鬼の毒に関する事に対しては、彼女より詳しい人は居ない。よって、彼女の研究資料を纏めた本を後世に残す為、裏金銀治郎の手で出版された。鬼に関する部分を伏せてという大前提である為、一般の薬学からはかけ離れた物だ。

 

 その資料を持ってきた継子の栗花落カナヲが後世の為に日記を同梱していた。

 

「ぇ!? 嘘でしょ、しのぶさん」

 

「そうでしたか。あんな卑猥な事をしのぶちゃんがするはずありませんよね。しのぶちゃん、どうしようもない息子ですが――どうか、見捨てないであげてください!! 」

 

「小夜子お義母様、私はそれも含めて銀治郎さんの事を愛しております。見捨てるなんて事はありません。私が見捨てられないように頑張るだけです」

 

 今までの"誘い受け"を強要された事にして、裏金家での地位を確立する胡蝶しのぶ。裏金銀治郎の株がまた下がっていく。それも仕方が無い事だ。彼女も女である。相手の親族から変態扱いされるのは避けたかった。その為の体の良い犠牲となる裏金銀治郎。

 

 こう言う場合、往々にして男の言い訳は見苦しいと言われ意見は闇に葬られる。

 

 その夜、裏金銀治郎は外で寝る。落ち込んだ所に、慰めて寝技に持ち込む新手の新技(慰め○クス)を披露しに来る胡蝶しのぶ。

 

◇◇◇

 

 吉原の界隈で、とある本が有名になっていた。その本の内容を実践する事で、太客が付いた。本を読んだら、身請けされた。本を読んだら、結婚できたなど様々な情報が出回る。

 

 量産ができない時代である為、販売数が非常に少ない。だが、人の手で写本され続け、吉原にいる遊女達で知らない者はいない。

 

 その本こそ、「正しい華の呼吸全集:著者 胡蝶しのぶ」――歴史に名を残す艶本である。未来を先取るかのような男心を抉る誘う方法は、吉原遊女の想像の斜め上をいく物であった。壱巻から伍巻まで、発売されている。

 

 新刊の陸巻「胡蝶だった女、堕ちていく快楽~こうして私は彼の虜になっていった~」を裏金書房で先行発売。それに伴いサイン会を行う事になった。

 

「銀治郎さん、どうしてこうなったか説明して頂けるんですよね?」

 

「刊行本は宣伝のため、吉原遊郭に配っております。後生にその技術を残すのは、先輩である我々の義務でしょう。――ごめんなさい。遊女達経由で、政財界VIPに話題が飛び火したんです。胡蝶印のバイアグラの件もあって、しのぶさんを知るお偉いさん達から要請がありました」

 

 遊女達が著者である胡蝶しのぶのエロさに感銘を受けて、是非お会いしたいという事になった。遊女と外でデートする切っ掛けにもなるので、新刊発売に伴いサイン会をやれといわれた。

 

 鬼舞辻無惨との最終決戦に向けて、町中で派手に殺し合いを演じる可能性がある。だからこそ、要請は断れない。恩は、売れるときに売る必要がある。

 

 そんな馬鹿みたいな事だが、エロの力は凄い。お偉いさん達の一言で、過去に出版した本も全て重版される事になった。しかも、費用は全てお偉いさん達が出資してくれる。それに乗じて、胡蝶しのぶが過去に行ったプレイで使用した衣装や小道具のセットを販売する事になったのだ。

 

 アンブレラ・コーポレーション、女性下着メーカー、紳士服メーカー等が協賛として名を連ねる。本からは具体的なシーンが分からないという事で、彼女が行った"誘い受け"のポーズを収めた写真集が一冊だけ用意された。勿論、非売品である、写真集に限っては、胡蝶しのぶが本当に渋った為、何でもお願いを聞いてくれる券をココで利用していた。

 

 男性には見せないという条件で、彼女も承服する。将来、歴史美術館に偉人の写真として収められる日が来るとは、誰も思っていない。

 

「銀治郎さん、あそこで並んでいる人達って」

 

「凄いですね~、200人ほどでしょうか。インターネットが無い時代なのに、よくこれだけ集まりましたね」

 

 サイン会開催一時間前で、この列。

 

 何も知らない者達からすれば、何があるのか誰しもが振り返る。身なりの良い男性と美女の組み合わせが延々と続いている。しかも、男性側に至っては、新聞で見た事があるような顔ぶれもいる。

 

 流石に、その光景に裏金両親も血の気が引き始めた。

 

 胡蝶しのぶや裏金銀治郎の裏の顔を知らない両親にしてみれば、当然の反応だ。

 

「銀治郎。しのぶちゃんは、もしかして良家のご令嬢だったりするのかしら? カナエさんも品が良かったので……」

 

「不慮の事件で、ご家族を失いましたが一般家庭出身です。吉原にしのぶさんの本を宣伝代わりに流したので、きっと、それが原因かと」

 

 その一言で、全てを納得する裏金両親。それだけ、あの本は効果的だとよく知っている。ちなみに、サイン一号は、裏金両親へと贈られた。当然、小道具セットも一緒である。遠くない未来に、年の離れた弟ができるかもしれない裏金銀治郎。

 

………

……

 

 表向きには30歳の胡蝶しのぶの美貌に、圧倒される遊女達。普段いい女に見慣れている政財界VIPでも彼女の色香に惑わされそうになる。

 

 

X人目のお客様―元吉原の遊女。

 

 胡蝶しのぶの手を握る遊女。

 

「胡蝶先生!! 先生の本のお陰で、身請けして貰えました。本当にありがとうございます。新刊と小道具セットもください。新刊へのサインは、――」

 

「そんな事は、ありません。全ては、貴方の努力が実った結果です。興味本位ですが、どうして身請けされたのですか?」

 

「男物のYシャツを着て、誘ったら激しく朝までコースでした。他にも、胡蝶先生がやってきた歴史を辿ったら、大変気に入られました」

 

 涙を流して幸せを訴える女性にサイン入り新刊を渡す胡蝶しのぶ。その心境は、複雑であった。よもや、自分の日記がこれだけの人を助けたとは想像できなかった。薬の本はサッパリ売れないのに、艶本が売れるという事態……よくある事だ。

 

 

X+20人目のお客様―大手出版社のお偉い様。

 

 胡蝶しのぶが胃痛を感じ始めた。だが、まだまだお客様は残っている。

 

「いや~、パーティー以来ですな胡蝶君と裏金君。まさか、君達がモデルだったとはね。あぁ、本は全巻セットを三つ頼むよ。保存用、読書用、布教用としてね。外国語翻訳は、任せておきなさい。売上げは、期待してくれよ」

 

「いいえ、気にしないでください!! 本当に」

 

「胡蝶君は、謙虚だね。大丈夫、儂に任せておきなさい!!」

 

 胡蝶しのぶの必死の願いは、届かなかった。出版社のトップとして、世に広めたいと思える素晴らしい本であった。だからこそ、彼は大人として後世のために尽くすことを決意する。

 

 

X+30人目のお客様―休暇中の蝶屋敷勤め人。

 

 胡蝶しのぶの眼が点になる。

 

 絶対に見つかりたくない事が見つかった。まさに、それであった。例えるなら、エロ本を読んでいる所を部屋に入ってきた母親に見つかる……まさに、それである。

 

 だが、お互い知らぬふりをする。それが大人のマナーである。

 

「新刊をください。サイン、神崎アオイでお願いします」

 

「体調不良で長期休暇だと聞いていたので心配していました。何かあればいつでも頼って良いのよ。はい、いつもありがとうございます」

 

「ありがとうございます、胡蝶様。今は、大事な時期(・・・・・)なので全部おわったら、相談に乗ってください」

 

 その相談の重さに、目眩を感じる事になるとは彼女は想像できていなかった。そして、柔らかな表情になった神崎アオイ。彼女の雰囲気には、母性が宿っていた。

 

 家族と物販に勤しむ裏金銀治郎は、そんな二人の会話を聞いていた。当然、裏金実家を知る数少ない者が増える。つまり、口封じも視野に入れる必要がある。鬼の始祖として覚醒した裏金銀治郎ならば、指を鳴らすだけでも常人を消すことは簡単だ。

 

 彼女は、裏金銀治郎の前にやってきた。

 

「小道具セット一つください。――初対面(・・・)の方に、失礼を承知でお願いします。助けてください」

 

「銀治郎。理由は分かりませんが、女の子を見捨てるような子に育てた覚えはありませんよ」

 

 裏金母は、神崎アオイと裏金銀治郎のやり取りを見て横から助け船を出した。息子の性格を知る故、見捨てると察していた。その通りであった。裏金銀治郎にとって、神崎アオイは石ころと等価である。興味すら無い存在だ。

 

「はぁ~、他のお客様に迷惑だ。後で、しのぶさんと話を聞いてやるから、家の中で待ってろ」

 

 裏金銀治郎は、彼女から二つの命を感じていた。鬼の始祖に目覚めた事により、数々の無駄能力に開花していった。

 

 

X+??人目のお客様―歴代最強の柱様。

 

 日が沈み、サイン会も終わりを迎えた頃、圧倒的存在感を放つ着物姿の女性がやってきた。

 

 柱は、下弦や上弦といった強い鬼を判別する事ができる。唯の鬼とは違い隔絶した雰囲気を持っている。つまり、そんな鬼が、サインの列に並んで近づいてくれば、否応なく分かってしまう。

 

 だが、それに動じない胆力を備えた胡蝶しのぶ。人生において、このサイン会程の羞恥を経験した事は無い。つまり、もはや目の前に誰が現れたとしても動じる事は一切無い。事前に、パワハラ女装変態上司が存在する事を知っていたのは、動じない大きな要因でもあった。

 

「初めまして、胡蝶しのぶ先生。貴方の本は、非常に興味深い。男性を意のままに魅了する手口は、神業といってもいい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 この時、胡蝶しのぶは対応に困っていた。見た目が女性で声が男性。つまり、目の前の存在が、鬼滅隊が探し続けていた鬼舞辻無惨だ。そして、その雑な擬態で女に成りきったつもりなのかと抗議をしたかった。

 

「あぁ、全巻セットを一つもらおう。全てにサインを頼む」

 

「喜んで、それで名前はどうしましょうか?」

 

「鬼舞辻無惨で頼もうか」

 

 胡蝶しのぶは、サイン会で敵側の親玉相手にサインを書く経験をする事になるとは、想像すらしていなかった。サインを書いて鬼舞辻無惨と握手を交わす……この場面だけ見れば、完全に裏切り者扱いになるだろう。

 

 その後、当然のように物販列にやってくる鬼舞辻無惨。

 

 コレには、裏金銀治郎も肝が冷えた。本気でこの衣装を着るつもりなのかと。正気を疑うってレベルではなかった。

 

 だが、この程度の苦境を乗り切れない裏金銀治郎ではない。自らの肉体を操作して、肉体年齢を10歳ほど若返らせた。竈門禰豆子の血肉を食らってたのだから、できない道理はない。

 

「小道具セットを一つ。――ティンときた。少年……なかなか有能な気配がある。名前は?」

 

「う、裏金金太郎(・・・)

 

 偽名でやり過ごそうとする裏金銀治郎。彼は、鬼舞辻無惨も産屋敷一族だなとしみじみ感じていた。産屋敷耀哉と同じ誘い文句に思わず笑い出しそうになった。

 

「やはり、兄弟か。変わる前の兄とよく似ている」

 

「ありがとうございます。綺麗なお姉さん(・・・・・・・)

 

 裏金銀治郎は、心にも無い褒め言葉をいう。嘘をつくのがコレほど難しいと感じた瞬間はなかっただろう。

 

「ふむ、気に入った。神保町は、私直轄にしてやろう。安心して暮らすといい」

 

 胡蝶しのぶのサイン本と小道具一式を携えて帰って行く、鬼舞辻無惨。

 

 その後ろ姿を見る裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、こんなのを相手に鬼滅隊が千年も闘っていたのかと、どんよりした気持ちになっていた。

 

 だが、現実は何時も非情だ……その男こそ倒すべき最終ゴールである。




本編を進めつつ話を書いてみました^-^

投稿期間が空いてしまいますが、
なにとぞご容赦頂きたくお願い致します。

次は話の予定は、零余子のプリズンブレイクになります。
時系列的には、サイン会の後になります!!



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50:零余子のプリズンブレイク

長らく時間を空けてしまい申し訳ありません。

感想をいつもありがとうございます!!

執筆前は、案外簡単に執筆できるとおもっておりましたが中々難しかった。

そして、気がつけば50話という事実に作者が驚いてしまった。
読者様がいてこそ続けられました。
ありがとうございます!!




 鬼滅隊が保有する隔離施設。隊士達の生活を支える鬼達が暮らす施設だ。

 

 ここで暮らす鬼達は、幸せな事に鬼滅隊の隊士達に殺される心配も無い。働きに応じて、猿肉など動物の肉が提供される。毎日の仕事といえば、肉塊となる事だ。考え方によっては、安全な施設で毎日人の為になれる仕事まで提供してくれるこの場所は天国だ。通勤時間0という素晴らしい立地である。

 

 だが、その天国から脱出を試みている鬼がいる。その鬼の名は、零余子。

 

 今現在の彼女は、日輪刀と同じ素材から作られた箱にバラバラにして詰め込まれている。その箱には蛇口が付いている。蛇口を捻ると流れ出る血液が、柱専用の緊急活性薬の原材料となる。

 

 本来であれば、そんな状態で脱出など不可能だ。

 

 この施設では、裏金銀治郎の血鬼術――血界により、血鬼術の発動が阻害され。また、この施設には、珠世一派も暮らしている。"鬼を人間にする薬"の開発をする重要拠点にもなっていた。

 

 だが、厳重に管理している施設であっても、穴がある。

 

「珠世様が居るんだから、常に綺麗にしておけよ!! 汚れた所は、お前等で掃除しろ」

 

「わかりました」

 

 零余子がいる場所も血で汚れていた。裏金銀治郎が特注の隊服を作る為、箱から出した事が何度かある。その際に、命乞いをする彼女の生皮を剥いだ時にあちこち汚れたのだ。だが、その時は裏金銀治郎が自ら掃除を行った。

 

 この場所の重要性を考えれば、当然だ。

 

 だが、下弦の鬼を閉じ込めている箱がある場所を鬼に掃除させようとする愚か者がいる。従順な犬となった鬼とはいえ、掃除を命じて目を離すとは頂けない。どんな厳重な施設でも、管理人が手を抜けばどうなるか。大人なら誰でも理解できる事だ。

 

 真面目に掃除する累の姉を演じていた姉蜘蛛。監視の目が無くなったのを確認し、行動を開始する。

 

「零余子様、監視の巡回タイミングは把握しました。施設も壁は厚いですが、作りは単純です。薄い箇所なら零余子様で壊せるかと」

 

『よくやった。次は、箱の鍵を探せ』

 

 零余子は、何度か外に出されたタイミングで施設内を比較的に自由に行動が許されている姉蜘蛛を見つけた。そして、コンタクトを取る事に成功したのだ。蛇口から肉片を外に出して、排水溝の中で再生させた。

 

 少しずつ肉体を再生し、配水管の中を移動させ姉蜘蛛の場所まで辿り着いた。まさに執念の成果であった。そして、『外に出たくないか』と魅力的な言葉で姉蜘蛛を仲間に引き込んだのだ。その肉片は、バレないように姉蜘蛛が食べて処理する。

 

 肉片を少しずつ蛇口の外に出して再生するには時間が掛かりすぎる。だからこそ、仲間が必要だったのだ。

 

………

……

 

 零余子は、裏金銀治郎に捕まってから今まで何度も命乞いをした。当初は、死ねれば幸いという思いで、鬼舞辻無惨の情報すら彼女は提供した。当然、裏金銀治郎は彼女を解放しない。

 

 彼女は、生きる事を諦めなかった。

 

 いつか月明かりが照らす世界に再び戻る事を夢見る。いつか役に立つと思い、ここからの逃亡パターンを考える事だけが彼女の生きがいだ。そうでもしなければ、正気が保てない。鬼とはいえ、精神的に死んでいく。

 

 そして、彼女が逃げだそうと決意したのは、裏金銀治郎が上弦の弐と闘って重傷を負った事が珠世一派から漏れ聞こえたからだ。人間とは思えない程、冷酷で血の涙もない男がいないのだ。

 

 鬼の居ぬ間になんとやらとはこの事である。

 

「あの男の性格です。鍵は、本人しか持っていない事もありえませんか」

 

『ありえる。ならば、外から箱を分解しろ。できるな?』

 

「鬼をバラバラにしている施設があるわ。そこなら、機械を修理する工具があるはず」

 

『猶予はあまりない。どんな方法でも構わない、この箱を分解する工具を手に入れろ』

 

 人が作った物である以上、壊せない物は存在しない。特に、この手の物ならば作った手順の逆を行えば必然的に壊せる。箱の外側にあるネジを回せば良い。

 

「わかりました。――愈史郎様、血の汚れが酷いので、精肉部屋から洗浄液を持ってきてもよいでしょうか? このままでは珠世様がご不快に思ってしまうかも知れません」

 

 大声は、珠世一派が居る場所にまで届く。

 

 そして、珠世第一に考える鬼は、珠世という枕詞が付けば大体の事に対して許可を出す。これが、長年ここに住んでいる姉蜘蛛が知った豆知識だ。だからこそ、姉蜘蛛も脱獄の話に乗った。

 

 自らの力だけでは脱出不可能。勿論、ココの鬼の中で一番好待遇で猿肉を食えるという特権階級だが、それは感覚が麻痺しているに過ぎない。世間一般の鬼からしたら、ゴミを漁っていると大差ない。

 

「なんだと!! 早く掃除しておけ。珠世様の視界が血で汚れるなど許さないからな」

 

「愈史郎様、直ぐに掃除します。洗浄液が飛び散るので、少し離れていてください」

 

 こうして、着々と準備を整えていく零余子と姉蜘蛛。零余子の力は、ここからの脱出で必要不可欠。動ける姉蜘蛛という駒も不可欠であった。双方が協力して初めて事が成せる。本来鬼同士に仲間意識は希薄だ。だが、そんな鬼にも友情が芽生える瞬間であった。

 

◇◇◇

 

 工具を片手に掃除のフリをして、箱を分解しようと尽力する姉蜘蛛。

 

 堅いネジを少しずつ回していく。急ぎすぎて失敗すれば二度目のチャンスはない。だからこそ、丁寧に且つ迅速に事を行う必要があった。

 

 零余子としても、心が安まらない時である。一世一代の賭け。零余子の中では、既に裏金銀治郎の方が鬼舞辻無惨より恐ろしい人物に昇格している。人間というカテゴリーに分類されないにしても、同じ人型で女性の姿をしている者にコレほど無慈悲なことをできる存在が世の中にどのくらい居るだろうか。

 

 ギリギリと箱が音を立て始める。ネジを緩めた事で中に無理矢理押し込まれた零余子の血肉が漏れ始めた。あたりに血の臭いが立ちこめる。当然、鬼である珠世一派が気がつかない筈が無い。

 

「おい!! 血の臭いがするぞ、何をやっている? 飯の時間は、まだ先だ」

 

 異常を察知して、愈史郎が確認にやってくる。愈史郎の実力は、血鬼術があったにせよ鳴女を不意打ちできる程だ。姉蜘蛛でどうにかなる相手ではない。この段階で計画を破棄するにしても、二人は運命共同体。言い逃れは不可能。

 

『頭をぶつけて砕け。洗浄液で滑った事にすればやり過ごせる。後、あの男は童貞くさいから、上着も脱いでおけ』

 

「ば、馬鹿じゃないの!! そんな事で誤魔化せるはずないでしょ。それより、まだ出てこれないの!!」

 

 幾ら下弦の肆だからといって、流れ出た血肉で肉体を短時間で構成するのは不可能だ。肉体の重要な器官は、僅かな隙間から出すのは不可能。

 

 よって、否応にも時間稼ぎする必要があった。

 

『無理だ。ネジをもっと外せ。後、いいからヤれ。やらないと二人とも、二度と月明かりは拝めないぞ』

 

「わ、わかったわよ!! もう、どうなっても知らないからね」

 

 姉蜘蛛は、工具で自らの頭を砕く。血が噴水のように飛び出して、血の臭いを濃くする。そして、言われたとおり、服を脱いで全裸になる。もはや、鬼になって何十年も生きており、恥も外聞もなかった。

 

………

……

 

 箱の状態を確認されるより早く、姉蜘蛛は愈史郎の前に飛び出した。全裸で、頭を再生しながらの登場に、流石の愈史郎も困惑する。一体、どういう状況だと。だが、彼も男であった。目線が下半身や胸などイヤらしい所で固定される。

 

「申し訳ありません、愈史郎様。洗浄液で足を滑らして箱の角で頭をぶつけてしまいました」

 

「いいから、服を着ろ!! なんで、全裸で掃除しているんだよ」

 

「予備の服がありませんので、汚れないため脱いでおりました。掃除にはもう少し時間が掛かりそうですので、待って貰えませんか」

 

 童貞には、些か刺激が強かった。

 

 だが、濃厚な血の臭いが気になる愈史郎。しかし、運は鬼に味方する。

 

「どうしましたか、愈史郎」

 

「珠世様!! この状況を見られたら……後、30分だけやる。それまでに掃除を終わらせろ!! いいな」

 

 全裸の姉蜘蛛と愈史郎。

 

 この状況を見られて、誤解される事態だけは避けたかった。珠世一筋と謳っているのに、鬼を全裸にして楽しむ外道だと思われたら、生きていけないと結論がでた。よって、この部屋から最大の難敵であった珠世一派が勝手に離れていく事態になる。

 

「えぇ、それだけあれば十分です」

 

 彼が童貞で無ければ、この場に留まらず箱の確認に向かっただろう。

 

 姉蜘蛛は、愚か者の背を見送り、直ぐに作業を続けた。そして、格闘の末10分後、箱を留めていた主要なネジが全て外された。

 

 分解された箱の中から、バラバラになった肉片や骨が流れ出す。発声器官だけをこの中で再生し声を出せる状態にしたのは、零余子の執念である。

 

「少し待ってろ、体を治す」

 

「早く!! 早く!! 」

 

 零余子の肉体は、散らばった肉片を集め再構成を始める。

 

 再生を終えた零余子は、天にも昇る気分であった。今この時をもって、こんな最悪な場所からおさらばできる未来が見えている。

 

「くっくっく、よくやった。さぁ、こんな場所から早く逃げ出すぞ」

 

「はい!! 零余子様」

 

 裏金銀治郎が鬼の安住の地として用意した場所から、逃亡を図る二人。最大の難関であった監視の目は、ない。箱の外に出てしまえば、下弦の肆である彼女を正面から抑えられるのは珠世一派のみ。この施設で血鬼術が使えないのは、珠世一派も同じ。

 

 決死の覚悟で逃亡を図る下弦を地力で取り押さえる事が必要だ。それが可能な鬼は、この施設にはいない。珠世が本気になればそれも可能であったが、彼女はこの施設を快く思っていない。

 

 既に、"鬼を人間にする薬"の開発を完了しテストも終わっている。珠世一派にしてみれば、この施設は用なしだ。最悪、鬼が逃亡したところで、珠世一派としては支障は無い。

 

 零余子と姉蜘蛛は、施設で暮らす鬼達にも見つからないように、物陰に隠れつつ移動する。逃げ出す最中に気をつけるべきは、巡回を行う鬼。裏金銀治郎の手で心が折られて従順な犬となっている。同胞の鬼を監視するという仕事……この場所においては、特権階級であり猿肉を与えられる数少ない職だ。そんな鬼に見つかれば、事の露見が早まる。

 

「チッ!! 雑魚なんだけど、鬼は死なないのが厄介ね」

 

「もうすぐ、別の牢に移動しますので待ちましょう。零余子様」

 

 どこかに都合良く日輪刀が落ちていないかと思ってしまう零余子。この時ばかりは、鬼滅隊に代わり鬼退治をしても良いとすら思っていた。

 

 鬼が鬼を殺す新時代……そんな夜明けは、裏金銀治郎が望む時代であった。ゴミはゴミ同士で殺し合うという真っ当な世界になればよいと誰しもが考えている。

 

 鬼の巡回をやり過ごした彼女たちは、資材搬入口へと急いだ。数少ない外へと通じる出入り口である。胡蝶印のバイアグラを製造する機材を持ち運んだ場所であり、珠世一派が普段居る場所からも遠い。ここからなら、比較的安全に脱出可能だ。

 

 勿論、普段は厳重に封鎖されている。並の鬼の力では破壊不可能な扉もある。

 

「ここで私の出番って訳ね。確かに、この扉は並の鬼じゃ壊せないわね。私でも壊すのに時間がかかるわ。でも……」

 

「はい!! この先は、間違いなく外に繋がっています!! 」

 

 扉は確かに厳重であった。だが、馬鹿正直に扉を壊すなどしない。扉の横にある壁を破壊する。それが最適解であった。

 

 だが、何事も順調にはいかないのがセオリーである。普段は絶対にない。だが、こういうときに限り、巡回の鬼がやってくる。気が向いたから、仕事を頑張って報酬を更に貰おうとしたから等の理由は様々だ。

 

 眼が死んでいる鬼が、資材搬入口の扉の前にいる不審な鬼を見つけた。

 

「お前達、何をしている。早く牢に戻れ」

 

 この時、零余子達は選択に迫られる。

 

 この巡回中の鬼を仲間に引き入れるか、しばらく再起不能にしておくかだ。どちらの選択肢にもリスクがあった。

 

 だが、答えは直ぐに決まる。

 

「分かった。貴様は、そこでしばらく死んでおけ」

 

 ただの鬼が、下弦に勝てるはずも無い。本気を出した零余子の力を前に、仕事に従順な鬼はバラバラにされる。

 

………

……

 

 愈史郎は、いつまでも掃除が終わらない事に腹を立てて様子を確認して、愕然としていた。下弦が格納されているはずの箱が分解されている。そして、中身の下弦や掃除をしているはずの姉蜘蛛がその場から消えていたのだ。

 

「大変だ!! 珠世様の身を守らなければ!!」

 

 主人の事を第一に考える男であった。

 

 捉え方次第では、有能かも知れないが……死なない鬼を守る必要が何処にあるのだろうか。この場に、裏金銀治郎が居たならば、そう言っていただろう。

 

 

◇◇◇

 

 資財搬入口の壁が破壊され、見事に外へ通じる通路に脱出を果たす二人の鬼。

 

 そんな二人は、月明かりがさす出口に向かい一歩ずつ歩みを進める。これからの明るい未来を楽しみに、浮かれていた。人里から離れた場所に隠居して、細々と人間を襲えば見つからない……そんな事を考えていた。

 

「外に出たら京都へ行こう。あそこなら、私の拠点だったから鬼滅隊が来てもなんとでもなるわ。貴方は、有能だから連れてってあげるわ」

 

「ありがとうございます。零余子様!! 誠心誠意お仕え致します」

 

 姉蜘蛛にとっても、渡りに船である。下弦の庇護が無い状態で、今の世の中を暮らしていける自信は無かった。無駄に目立つ容姿である為、人目に付いてしまう。この先を生き残るには強い鬼による庇護が絶対不可欠である。

 

 

 出口の月明かりが、陰る。

 

 

 異様な雰囲気を纏っている人影がふたつ。その雰囲気に体と心に刻まれた恐怖が呼び起こされる。零余子と姉蜘蛛は、出口を前にして足を止めてしまった。

 

「あら~、そんなに急いでどちらに行かれるのですか? まだ、殺した人の罪を洗い流せてないじゃないですか。早く罪を洗い流して生まれ変わりましょうよ」

 

「はぁ~、しのぶさんの予感(・・)が的中しました。蟲の知らせとでもいうんですかね。これから、ラスボスを相手に準備が忙しい時に止めて欲しいです。貴方達の為、鬼滅隊の予算を削って用意したこの施設の何が気にくわないって言うんですか」

 

 胡蝶しのぶと裏金銀治郎。鬼側の視点で言えば、異常者であった。どちらも本気で言っており、正気を疑うに十分である。

 

 裏金銀治郎が投擲した一本の錫杖が姉蜘蛛を貫いた。

 

「ギャアアアアアアーーー」

 

 錫杖から迸る電流が鬼の肉体や神経を内部から焼く。死ぬに死ねない鬼にしてみれば、良い拷問道具であった。

 

「ば、馬鹿な!! これは、半天狗様の!? でも、ここで何故血鬼術が」

 

「あぁ、それは、私の(・・)血鬼術として再構成したからです。成功する可能性は、半々でしたが上手くいったようです」

 

 裏金銀治郎は、半天狗から回収した扇と錫杖を食らっていた。

 

 冗談で胡蝶しのぶに伝えたら、醤油とバターで炒めればなんでも食べられるでしょと料理してくれたのだ。人生で初めて、女性からアーーンと料理を食べさせられたのが鬼由来の道具という悲しい過去を背負う裏金銀治郎。

 

「何を言っているか分からない。お願いだ。もう人は喰わないと誓う。だから、許してくれ」

 

「どうしますか、銀治郎さん。割と本気で言っていますよ彼女」

 

 胡蝶しのぶも裏金銀治郎がどのような回答をするか予想していた。

 

「本当なら、ドリンクサーバーに逆戻りです。ですが、君達は運が良い……死んで貰いましょう」

 

 鬼化した裏金銀治郎の存在が露見するのは、まだ早い。

 

 鬼舞辻無惨という存在。珠世一派という存在。鬼滅隊の柱達という存在。だからこそ、胡蝶しのぶが未だに人間に留まっている。裏金銀治郎不在を人側から誤魔化すには彼女ほど適任はいない。

 

「だったら!! 意地でも逃げ切ってやる」

 

 零余子は、ここまで連れ添った姉蜘蛛を見捨てる事を決意した。柱一人でも勝率は低いというのに、それが二人。足手まといを連れてどうにかできる相手ではない。致命傷となる首だけを守り、血鬼術が発動できる外に逃げれれば、なんとかなるという希望的観測であった。

 

「だそうですよ。私がやってもいいですが、鬼とは言え裸の女性を相手にすると、しのぶさんが怖いのでお願いしますね」

 

「じゃあ、あちらで焼け焦げている鬼の処分をお願いします。私は、下弦と遊んであげます」

 

 胡蝶しのぶが、扇を振るう。その瞬間、視認できない風の刃――鎌鼬が発生した。その鋭さは、コンクリート壁に亀裂を残す。半天狗の扇は、面で押しつぶすタイプであったが、裏金銀治郎産の扇は殺傷能力重視。

 

 零余子は、勘で回避行動を取った。腕が切断されるが、直ぐに生やす。抜刀されないうちに横から逃げ切ろうとしたが、胡蝶しのぶが腕力だけで零余子を捉えて、床に押さえつける。

 

「ガッ!! この女、本当に人間か!? 」

 

「失礼ですね~。私の何処が人間に見えないって言うんですか? 私、柱の中でも一番力が弱いんですよ。それに力負けする鬼とか、恥ずかしくないんですか?」

 

 全身の力を込めて、胡蝶しのぶの拘束を解こうとする零余子。だが、ビクともしなかった。下弦の肆ともなれば、馬力計算できる程だ。それを上回る胡蝶しのぶは、一体何馬力なのだろうか。

 

 胡蝶しのぶは、鬼の始祖の体液(意味深)を大量に摂取している。鬼の強さは、人間を食らう事でも上がるが、鬼の始祖の体液摂取量を増やす事でも大幅に向上する。勿論、人間であっても強い鬼を食えば食うほど強くなるし、強い鬼の体液を摂取すればそれだけ……。

 

「嘘をつけ!! 貴様のような人間が居てたまるか!! この淫魔め」

 

 その台詞を聞き取った裏金銀治郎は、何故分かった!! と思わず声を上げそうになったが堪えた。ここ最近、女性らしい色気が更にましてイヤらしいオーラを無自覚に振りまいている胡蝶しのぶ。一つ一つの仕草や行動が男のツボを刺激している。

 

 胡蝶しのぶに腕力で骨が砕かれるが悲鳴一つあげない零余子。彼女にしてみれば、箱に詰め込まれてドリンクサーバーにされた苦痛に比べればこの程度の痛みは無いに等しい。鬼の中で一番痛みに強いのは彼女である。

 

「しのぶさんを怒らせてどうするんでしょうね。まぁ、珠世一派が来る前に処理しましょう。最後に言い残すことは?」

 

 裏金銀治郎が、今まで隊服の材料に貢献してくれた姉蜘蛛に最後の情けを掛けた。彼女の働きが、鬼滅隊の一部を支えていたことは間違いない。

 

 電撃に焼かれ苦痛を味わいながらも姉蜘蛛は必死に口を開いた。

 

「今より、もっと働きます。だから!!」

 

「糸や溶解液なら、私でも生成できるからもう不要だ。便利な能力をありがとう」

 

 無惨産の鬼は全滅すべき。それが裏金銀治郎が出している結論であった。

 

「助けてよ。お願い」

 

「あぁ、じゃあ死のうか」

 

 裏金銀治郎の日輪刀が姉蜘蛛の首をはねた。

 

◇◇◇

 

 珠世は、下弦の鬼が逃亡したとの報告を受けて直ぐに行動を開始した。

 

 施設内を探し回った末に、資材搬入口に辿り着く。内部から壁が破壊されている事から逃亡に利用されたのは間違いないと判断する。一刻も早く鬼を捕らえるため、搬入口の鍵を掛けて外へとでた。

 

 そこには、胡蝶しのぶが一人立っていた。

 

 あたりは鬼との争いがあったのか、血しぶきで真っ赤に染まっている。胡蝶しのぶを淫魔呼ばわりした下弦の鬼の頭部が何度も粉砕された跡であった。

 

「遅かったですね珠世さん。ダメですよ、鬼はしっかり管理して貰わないと。私が居なかったら、下弦の肆と糸を出していた鬼が逃亡していました」

 

「それについては、コチラの不手際です。申し訳ありません。――、これは胡蝶さんが?」

 

「えぇ、多少時間が掛かりましたが、しっかりと処分しておきました。今後は気をつけてください」

 

 珠世は、胡蝶しのぶの雰囲気が以前と微妙に異なる事に気がついた。

 

 だが、鬼のせいで旦那の裏金銀治郎が重傷だ。そのせいで、気が立っているのは当たり前と追求はしなかった。

 

「分かりました。しかし、明日の夜には我々もココを出なければなりません。産屋敷の屋敷で無惨を待ちます。ここの鬼達はどうしましょうか」

 

「ならば、処分します。私も鬼舞辻無惨を倒すのに参加します。この施設を誰も居ない状態で放置は危険です」

 

 今まで役に立ってきた鬼を簡単に処分しようという胡蝶しのぶに、珠世は裏金銀治郎と同様に危険な存在だと認知し始めた。




ふぅ、何とかアンケートを全部消化できた^-^
年末年始は本当に忙しくて執筆に時間が割けなかった。

さて、無限城編へと突入だ!!



*************嘘予告*************
裏金産の血鬼術に目覚めた胡蝶しのぶ。
その血鬼術は、過去の自分に意識を上書きする物であった。
そして、一つの可能性に気がつく……胡蝶カナエを救う事ができると。

胡蝶しのぶは、裏金銀治郎から過去改変の危険性を説明される。だが、彼の制止を振り払い、血鬼術を行使した。その結果、姉であるカナエを助ける事に成功する。

だが、それにより未来に変化が生じる。裏金銀治郎と胡蝶カナエという、元居た世界線ではあり得ないカップリングが発生する。

最愛の男を唯一の家族に取られる結果を胡蝶しのぶは黙って居るほど大人しい女性ではない。

20020(・・・・・)年1月1日投稿予定――時間跳躍のバイアグラ(・・・・・)をこうご期待ください。
*****************************

タイトルをシュタゲ風にしてみました。


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51:友情

いつもありがとうございます。
感想ありがとうございます!!

24:00に投稿がまにあえーーーと思い執筆しました!!


 鬼舞辻無惨との最終決戦を前に、鬼滅隊は歓喜と嘆きが交差していた。

 

 全ての"柱稽古"を突破した者達とそれ以外の者達だ。一位通過は、栗花落カナヲであった。前に立つ隊士を文字通りなぎ払って、堂々の一位通過である。そもそも、"柱稽古"に柱級の実力を持つ隊士が居る時点で出来レース感が否めない。

 

 だが、彼女は当然お見合いなど興味は無かった。この時代、百合の花は咲かない。彼女は、竈門炭治郎と末永く暮らす為、お金を選んだ。まさに、良妻賢母である。竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助の三人はトップ10入りを果たしている。

 

 当然だが、竈門炭治郎の選択肢にお金以外は存在しない。

 

 我妻善逸は、鬼滅隊で音柱を抜くトップへと君臨する。あれだけの淫魔を抱えて、まだ足りないのかとある者は羨望の眼差しを送り、ある者は呪詛を唱え始める。

 

 我妻善逸は、嫁が増える事より、最近噂になっている事の方が気になっていた。"柱稽古"に勤しむ隊士達の間でもヒソヒソと囁かれている。だが、そんな噂を信じるような狂信者ではない。

 

「おぃ、聞いたか。金柱様が鬼になったって噂」

 

「確かに最近お見かけしなくなった。俺は、上弦と闘って負傷したと聞いたぞ」

 

「現場の検証じゃ、雷の呼吸を使える隊士でなければ、あの惨状はできないって言っていたぞ」

 

 ブチ

 

 我妻善逸の堪忍袋の緒が切れた。

 

 耳が良い彼は、小声でする噂話など全て耳に入ってくる。つまり、常に神の陰口が耳に入る。平常心を保つにも限界がある。それに、獪岳が鬼になった事実を知っているため、事の主犯について彼は予想していた。

 

(裏金銀治郎)の陰口を俺の聞こえる所でいうとはいい度胸だな。いいか!! 鬼になったのは、獪岳という俺の兄弟子の方だ。不敬にも神の名をかたって、悪事を働いているに決まっている。神がどれだけ鬼滅隊に貢献していると思っている。――次、陰口を言えば、隊士であっても手足の一本は落とす」

 

 全身から雷を迸らせて殺気をばらまく我妻善逸。その殺気に当てられた者は、自らの首が一瞬にして刎ねられるビジョンを浮かばせるほどだ。一切の冗談を許さない、それがヒシヒシと伝わった。

 

「あぁ、悪い。そうだったな、裏金様ほど俺達のことを考えてくれた人はいなかったな」

 

「そうそう、裏金様が裏方になられてから現場隊士の待遇は、よくなったよな」

 

 隊士達も噂話を鵜呑みにするのは良くないと理解した。

 

 だが、噂もあながち間違いでは無かった。裏金銀治郎は、鬼の始祖となっている。

 

 

◇◇◇

 

 胡蝶しのぶは、鬼滅隊へ復帰の挨拶をする。表向きには、裏金銀治郎の看病という事になっていたので、体裁は大事だ。入隊以来初めての長期休暇……その大半は、裏金銀治郎とのプロレス時間であった。

 

 資産管理の執務室に顔を出すと、そこには目の下にクマを作っている産屋敷の子供達が居た。死屍累々とは、この事である。

 

 裏金銀治郎不在の間に、外交筋から賄賂の滞りに関する苦情が多発。見せしめとして、育手の道場が幾つかガサ入れされて逮捕者が続出した。刀を使った殺人術を教え込む道場として、罪状など自由に適用できる。

 

 コレが政府の力だ。人の人生を終わらせる事など、卵を割るより簡単にできる。そんな連中と裏金銀治郎は、外交をしていた。

 

「輝利哉様、急なお休みを頂きありがとうございました。これ、差し入れです。銀座で買ってきました洋菓子になります」

 

 胡蝶しのぶは、何事もなかったかの如くお土産を配る。旅行に行った者がお土産を配るのとまるで変わらない仕草。

 

 産屋敷輝利哉にしてみれば、若干思うところがあった。上弦の弐の撃破という偉業は当然すばらしい。だが、もう少し連絡をくれても良かったのではないかと。

 

「胡蝶さん、お帰りなさい。早速で申し訳ありませんが、私では決済できない事が多く……助けて貰えませんか?」

 

「構いませんよ。ですが、銀治郎さんの心配はなさらないんですね」

 

 胡蝶しのぶの冷たい眼が、産屋敷輝利哉を貫く。

 

 組織とは、人が居てこそ成り立つ。それを蔑ろにすれば、当然の報いが待っている。人心が離れるというデメリット。

 

「胡蝶さんが戻ってこられたという事は、裏金さんは回復したという事でしょ?」

 

「えぇ、本調子ではありませんが……それで、これらの書類を決算するにはお金が必要です。予算は、どこに?」

 

 鬼舞辻無惨戦を前に、隊士達の給料日がやってきた。不払いなどしたら、戦に影響を与える事は明白だ。無給で命を賭けろなど、あり得ない。そんなやる気のある連中は、柱や一部隊士だけだ。

 

 だが、優れた柱であっても無からお金を生み出す術は持ち合わせていない。そんな人がいたら、世界経済は崩壊する。

 

「それが、分からないからご協力を依頼しました。アンブレラ・コーポレーションから幾らか予算を都合してください」

 

「無茶を言わないでください。"柱稽古"をする為に、アンブレラ・コーポレーションからも予算を吸い上げたじゃありませんか。少ないとは言え、あちらで働く社員達への給料もあるんですよ。それに、ウチへの支払は、月末〆なので来月にならないとお金はありません」

 

 胡蝶しのぶの胃がキリキリし始めた。

 

 裏金銀治郎がこのような職場で働いていたかと思うと、胃痛を感じ始めていた。金は振って出てくる物ではない。一切の申し訳なさが感じられない子供の言葉は、憎しみすら覚えそうであった。

 

「そうですか、裏金さんが"柱稽古"の報償金で用意していた。50万の残金も使いましたが足りなくて……何か妙案はありませんか?」

 

「えっ!? あの50万円って、銀治郎さんのポケットマネーですよ。なぜ、報償金以外の事にご利用されているんです」

 

 "柱稽古"を全て突破した者が、全員お金を希望した場合には総額50万円になる。それに対応できるように裏金銀治郎は、50万円を用意していた。出所は、万世極楽教からの仕事報酬だ。

 

 お館様への最後の奉公的な意味も兼ねて、私財を大放出した裏金銀治郎。だが、その大事な金を残ったからと言って勝手に使われるとは裏金銀治郎とて想像していなかった。幾ら現金で机にしまっていたとはいえ、やり過ぎだ。

 

「そうだったんですか!! それは知りませんでした。後で、お返ししましょう」

 

 その返済方法は、裏金銀治郎と胡蝶しのぶが汗水流して働いたアンブレラ・コーポレーションからの資金である事は言うまでも無い。

 

 胡蝶しのぶに危機感が宿る。

 

 この後の未来予想を裏金銀治郎から聞いている彼女。産屋敷耀哉と産屋敷あまねが同時に亡くなる。そして、子供を連れて死ぬ。このまま順当に行けば、間違いなく生活だけでなく、結婚相手まで探す未来図が予想するに容易かった。

 

 はやく、煉獄家に面倒を見て貰わなければと裏金銀治郎の思考と一致してくる胡蝶しのぶ。彼女は、カリスマの洗脳が解けて、真人間へと変わっていた。

 

 裏金銀治郎は、鱗滝左近次という男なら誰もが憧れる催眠術の使い手を活用するという案を考えていた。彼の手に掛かれば、どんな女でも産屋敷輝利哉の妻にすることは容易い。後世に伝え残してはいけない技術であり、裏金銀治郎が危険視している男の一人だ。

 

 あの竈門禰豆子すら思いのままに操れるほど強力な催眠術の使い手だ。つまり、鬼も人間も鱗滝左近次の手に掛かれば、操り人形にできるという証明でもある。

 

………

……

 

 産屋敷耀哉の命の灯火は、尽きようとしていた。

 

 そんな彼の元を胡蝶しのぶが訪れている。人払いも終えており、この場に居るのは胡蝶しのぶと産屋敷耀哉のみ。

 

「やぁ、しのぶ。無事に戻ってきてくれてなによりだ。銀治郎の事で何かできることがあれば、言ってくれ。最善を尽くそう」

 

「ありがとうございます。単刀直入にお伺い致します、お館様。その病を治す手立てがあるとしたらどうしますか?」

 

 本来であれば、遺伝子欠陥で死ぬ患者を救うことなどできない。だが、唯一それを可能とする手立てが存在した。余命がない為、捨て身の覚悟を決めている人には、申し出にくい内容だ。

 

「ふふ、それは私が鬼になって病を治してから人間に戻るという方法かな」

 

「……何処までご存じなのですか?」

 

 人を鬼にできる存在は、珠世という例外を除けば鬼の始祖のみ。成功例の愈史郎が存在する以上、その発想に至っても不思議でない。

 

「いいや、勘だよ。そうか、銀治郎(・・・)が鬼になったか。彼とは仲よくできているかい」

 

「どうして、銀治郎さんだと?珠世さんは、鬼を作る事に成功しております。彼女より銀治郎さんだと確信を持ったのは、なぜでしょうか」

 

 恐ろしいまでに冴えた勘。その勘がもっと早く発動していれば、明るい未来だったのにと誰しもが思った。

 

「そうだね。やっぱり、勘だね。銀治郎の事は、誰にも言わないから安心して欲しい。銀治郎は、私に一番長く仕えた柱だ。鬼滅隊を支えてくれた事にも感謝している。――そこに居るんだろう銀治郎」

 

 胡蝶しのぶの影から這い上がる裏金銀治郎。胡蝶しのぶという圧倒的存在感の影に隠れ潜んでいた。気配を極限まで抑えれば、柱とて感知できない。そもそも、胡蝶しのぶの影に鬼が隠れているなど普通は想像しない。

 

 人間も食べていないので嗅覚特化の竈門炭治郎でも感知は困難を極める。

 

「失礼しました、お館様。裏金銀治郎、ただいま戻りました。留守の間、ご子息様にはご迷惑をおかけした事をお詫び致します」

 

「相変わらず心がこもってないね、銀治郎。まぁ、そこが君らしくて良いところだ。今まで(・・・)、鬼滅隊と私を支えてくれてありがとう。最後くらい昔みたいに呼んでもいいんだよ」

 

 カリスマが高い人から言われたら、応えたくなる。だから嫌いなんだと、ぼやく裏金銀治郎。

 

「色々と世話になった、耀哉君。正直、ティンと来たとか言われて誘われた時は、怪しい宗教かと思ったほどだ。そうそう、実家でしのぶさんのサイン会をやったら、鬼舞辻無惨が女装してやってきたぞ」

 

「ははは、それは見てみたかったな。1000年の怨敵がどんな姿をしているか、この目では見ることは叶わない」

 

 裏金銀治郎は、迷ってしまう。

 

 そんなに見たいなら見せる事ができてしまうからだ。血鬼術を使えば、映像を直接送ることができる。だが、あの鬼舞辻無惨を直視して、産屋敷耀哉が耐えきれず死んでしまう可能性もある。

 

 あと数日で死ぬと言われて、半年も生きながらえた男が今夜の決死の反撃を前に、女装した怨敵をみて死ぬとか笑い話だ。

 

「仕方ないな耀哉君。死んでも責任は取らないからな」

 

 産屋敷耀哉の顔の上に裏金銀治郎が手を乗せる。そして、物販列で小道具セットを買った鬼舞辻無惨が彼の脳内に投影される。

 

「銀治郎。今夜、ここに鬼舞辻無惨がくる。もう、このイメージで固定されてしまったよ。どうしてくれるんだい?」

 

「女装趣味の変態とでも煽ってやればいいだろう」

 

 笑い合う二人。

 

 胡蝶しのぶは、男の友情とはこういう物かと改めて理解した。

 




日次投稿はまだ難しいですが
可能な限り頑張ります!!


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52:○○が許されるのは(以下、略

いつもありがとうございます。
感想も本当に嬉し限りです^-^


煽りの呼吸って……いいよね。


 

 人払いされた蝶屋敷。その庭で焚き火に当たる裏金銀治郎。

 

 その背中には哀愁が漂っていた。胡蝶しのぶは、そんな彼の背中に引き寄せられる。そして、そっと抱きしめる。古くからの知り合いが今日亡くなる。それを悲しんでいると感じたのだ。

 

「銀治郎さんにしては、珍しく悲しそうな顔をしています。お館様とのお別れが辛いんですか?」

 

「まぁ、子供の頃から知っていますからね。私より年下が、先に死ぬのは少し悲しいですよ」

 

 素直な感想であった。

 

 裏金銀治郎の脳内では、今でも産屋敷耀哉との初めての出会いが鮮明に思い出せる。

 

「折角なので、銀治郎さんとお館様の出会いを教えてください。夜までは、時間がたっぷり(・・・・)あります。なんなら、診察室でも構いませんよ。せ・ん・せ・い」

 

「しのぶさん、エッチなのは大好きですが今日は控えましょう。代わりに、思い出話をしてあげます。お館様の名誉の為、色々と伏せますが……私が最初にお館様に言った言葉は、『この本は、未成年には売れないな。後、10年してから買いにおいで』です」

 

 人の思い出を汚す事を何よりの生きがいにしているのではないかと思ってしまう発言であった。胡蝶しのぶは、また知りたくもない事実を知ってしまう。

 

 彼女は、まだ可能性はあると、希望を捨てなかった。

 

「なるほどなるほど、難しい専門書だったんですね。裏金書房には、その手の類いも沢山ありましたね」

 

「いいえ、エロ本ですよ」

 

………

……

 

「この男はぁぁぁぁぁ!! いいですよ!! 分かっていましたよ。でも、こんな時くらい配慮してくれてもいいんじゃありませんか」

 

「イヤですよ。私は、しのぶさんには嘘は言わないって何時も言っているでしょ。それに、知りたいと言ったから教えたのに」

 

 胡蝶しのぶのホールドする力が増していく。既に、ドラム缶が凹む程の圧力が掛かっている。

 

 何時もの事ながら、彼女は知りたい情報を聞いたら、怒り出す。世の中、知らない方が幸せな事など沢山あるのだから、求める情報は取捨選択すべきだ。

 

「銀治郎さん、まさかと思いますが、その焚き火の材料に投げ込んでいる本って」

 

「友達との生前の約束を果たしています。死んだら、エロ本を処分してくれと依頼されていました。少し早いですが、問題無いでしょ。既に、絶版の本もあるというのに悲しい事だ。実家が本屋の私に本を焼けとか、鬼か悪魔かと言いたくなります。そうそう、耀哉君は裏金書房のお得意様ですよ」

 

 産屋敷耀哉だけが、裏金書房の所在を知っていた理由はコレに尽きる。

 

「さっきまで、男の友情が素晴らしいと思っていた私に謝ってください!!」

 

「ごめんなさい。しのぶさん。これが男の友情です。ですが、よく考えてください。亡くなった後に、これだけのエロ本が旦那の書斎から出てきたら、残された家族は泣きたくなるでしょ。私は、耀哉君の名誉のためやっているんです。あ、一緒に投げ込みますか?」

 

 まるで、養豚場の豚を見るかのような目で裏金銀治郎をみる胡蝶しのぶ。

 

 女には、男の友情を理解するのは難しい。だが、彼女は黙って本を投げ込んでいく。なぜか、ぱらぱらと速読してから投げ込んでいるのは、裏金銀治郎の目の錯覚であろう。

 

「はぁ~、また汚されちゃった」

 

「またとは、人聞きが悪い。いいじゃありませんか、カリスマを持つ男にも汚点があったと思えば。女装癖がある鬼側のトップより遙かにマシです。男性ですから、エロ本の一つや二つ持っていて当然ですよ」

 

 エロ本を持っていない男の方が不健全である。それは、世界の真理だ。健全な男である裏金銀治郎だって、部屋にエロ本の一つや二つある。

 

「へぇ~、じゃあ銀治郎さんも持っているんですか?」

 

「えぇ、著者しのぶさんの『正しい華の呼吸全集』。しのぶさん、エッチなのは構いませんが……しれっと、私のせいでエッチになったとか、嘘を書いてはいけません。完全に、しのぶさんの"誘い受け"でしたよね!! 」

 

「きゃーーーー!! なんで、読んでいるんですか!! 普通、読みますか!?」

 

「普通、読むでしょ!! しのぶさんが、私を思って書いてくれた日記ですよ。読まないと失礼でしょ」

 

 お天道様が高いうちから、服に手を入れてくる女性。男冥利に尽きるが、流石に蝶屋敷の庭というのはよくない。だが、人の気配を察して、胡蝶しのぶがとっさに手を引っ込めた。

 

 神速の早さで駆けつけてきた我妻善逸。

 

 我妻善逸の耳には、裏金銀治郎の声が届いていた。そして、神の帰還を迎えるべく駆けつけてきたのだ。そして、跪く。

 

「神!! お帰りをお待ちしておりました。鬼との戦いで負傷したと聞いた時から無事なお姿を見るまで、心安まる時はございませんでした」

 

「ねぇ~銀治郎さん。洗脳でもしたんですか。信者というより狂信者のレベルになっていますよ彼」

 

「ここまで信仰されるのは私も予想以上です。善逸君も無事で何よりです。それと、"柱稽古"を二番で突破でしたね。君ならできると信じてました。よく頑張りました」

 

 人は誰しも承認欲がある。

 

 誰かに認められたい。だからこそ、我妻善逸は自らを認めて望む全てを与えてくれる裏金銀治郎を神として崇める。

 

「勿体ないお言葉。神、兄弟子が不敬にも神の名を騙り悪事を働いております。じいちゃんを助けてくれた恩人を貶める行為、許しがたい。そのせいで、神が鬼になったと噂まで立ち、申し訳ございません」

 

「善逸君、君のせいではない。それに――君の聴覚ならば、既に気がついているだろう」

 

 裏金銀治郎は、鬼の始祖である。

 

 聴覚で鬼を判別できる我妻善逸は、出会った瞬間から既に人間でない事には気がついていた。だが、その程度の事で信仰が揺らぐようでは狂信者ではない。

 

「神が鬼であっても、大した問題ではありません。なぜなら、神なのですから!!」

 

「善逸君、君のような信徒をもった私は幸運だ。では、私から最初で最後のお願いです。今宵、鬼舞辻無惨がここを襲撃にきます。君の鍛え上げた力を以って、目の前に立つ全ての鬼を殲滅して欲しい。その為に、私は君に全てを与えてきた。できますね?」

 

 裏金銀治郎は、影から一個のケースを取り出す。

 

 その中には、流星刀と裏金銀治郎の血液から作り上げた特別製の緊急活性薬が二本と扇。そして、半天狗の錫杖を変形させて作った十寸釘が大量に格納されている。鬼に刺さる事で瞬間的に電流を流して消失する使い捨ての飛び道具。一瞬とはいえ、鬼の動きを止められるので、我妻善逸が頸を刈るのに十分な時間を確保できる。

 

「これは!?」

 

「鬼を効率よく殺す為、私からの贈り物だ。流星刀は、言うまでも無いね。扇は、鎌鼬を発生させる。その切れ味は、遠くに居る鬼でもバラバラにする。下弦であっても、切断可能だと実証済みだ。針は、こう使うんです」

 

 裏金銀治郎が近くに木に釘を投げる。刺さるとパーーンと弾けるような音と同時に電流が流れ木の一部が黒くなる。

 

「必ずや、獪岳の頸を落として参ります!! 」

 

「あぁ、獪岳だけでなく他の鬼や上弦も頼んだよ。鬼舞辻無惨を相手に良い働きを見せてくれたら、望む物を全て上げよう。金、女、永遠に若い肉体……頑張りたまえ少年。未来は、君の手で掴むんだ」

 

 我妻善逸は、裏金銀治郎と胡蝶しのぶの逢瀬の時間を邪魔しないため、即座に立ち去る。そして、これからの戦いに向けて与えられた道具の使い方を覚える。その素晴らしい姿勢は、まさに神の信徒である。

 

◇◇◇

 

 歴代最高の当主といっても過言でない産屋敷耀哉。

 

 彼が居なければ歴代最高の柱を集める事はできなかった。つまり、彼こそ本当の功労者である。病に侵されながらも、怨敵を倒す事を第一に考える。その集大成が、いまであった。

 

 彼は、裏金銀治郎からの延命方法を断っていた。人間→鬼→人間という究極の治療法だというのに、鬼になるという事は彼の矜持が許さない。崇高な人間である。それが、子供の人生に多大な影響があったとしても考えは変わらなかった。

 

 月明かりがさす産屋敷邸の庭に、鬼舞辻無惨が現れる。鳴女の血鬼術による移動であった。その利便性故に鬼舞辻無惨も重宝している。勿論、裏金銀治郎からは絶対確保したい能力だと狙いを定められている。

 

「……やぁ、来たのかい。初めましてだね。鬼舞辻無惨」

 

「何とも醜悪な姿だな産屋敷」

 

 1000年の時を経て、産屋敷一族と鬼舞辻無惨が初めて出会う。よく1000年もお互いにすれ違っていたと悪い意味で褒めたくなる。お互い本気で探していたのかと、この場にいたら裏金銀治郎が質問を投げかけただろう。

 

「あまね。彼はどのような姿形をしている」

 

「20代半ばから後半あたりの男性にみえます。ただし、瞳は紅梅色……」

 

 産屋敷耀哉は、妻から男性と言われるが既に頭の中では裏金銀治郎のせいで女性の姿が思い浮かんでいた。人の一世一代の場面になんて物を思い出させるんだと、産屋敷耀哉は内心で笑っていた。

 

………

……

 

 鬼舞辻無惨との身の上話で時間を稼ぐ産屋敷耀哉。この間に、柱達が一斉に集結し始める。

 

「君の夢は、叶わないよ無惨。」

 

「禰豆子の隠し場所によほどの自信があるらしいな。だが、私の時間は無限だ。いつか必ず見つける」

 

 産屋敷耀哉は、お互いの思いに誤解がある事に気がついた。この時、既に太陽を克服する事は不可能となっている。胡蝶しのぶと珠世により、原作より遙かに強力な"鬼を人間にする薬"が開発されている。

 

 既に、人間に戻り疲労困憊で寝ている禰豆子を食らっても太陽を克服する事はできない。

 

「君は思い違いをしている。それは、君の気持ち悪い女装は、永遠に変わらないと言う事だ」

 

「何だと?」

 

 鬼舞辻無惨としては、くそ真面目に部下のやる気を出させる為、女装をしたというのに何故だと思っていた。それに、何故それを知っていると疑問でもあった。可能性はただ一つ……鬼側から情報が漏れている。と、誰もが考える。それが普通の発想だ。裏金銀治郎というイレギュラーなど想像するのは、不可能。

 

 産屋敷耀哉は、死に際だというのに鬼舞辻無惨を煽るのが楽しくて仕方が無かった。今まで散々苦しめられた恨みを少しでも晴らせるのだ。年甲斐もなくウキウキしていた。

 

「最後に一つだけいいかい?」

 

「言ってみろ」

 

  鬼舞辻無惨が部屋の中に入り、産屋敷耀哉の横に立つ。射程圏内に収められており、手を軽く振るうだけで産屋敷耀哉は殺される。

 

「童貞が許されるのは、20歳までだよ無惨。そんな大事に1000年も守っても価値すらない。女を知らない男が女装など、君は馬鹿だね」

 

 鬼滅隊の男性隊士に聞かれていたら、半数以上がやる気を削がれていただろう。ちなみに、裏金銀治郎は胡蝶しのぶで卒業するまで童貞であった。つまり、30歳過ぎまで大事に守っていた。

 

 産屋敷耀哉の最後の言葉は、鬼舞辻無惨の心を抉る。継国縁壱の攻撃が物理ダメージトップとすれば、精神ダメージトップは産屋敷耀哉だ。

 

 そして、さりげなく、友人すらディスる産屋敷耀哉の最後の言葉である。

 

 日本帝国陸軍から大量に仕入れた爆薬に、一斉に火が点く。その威力は、産屋敷邸の周辺まで吹き飛ばす程であった。

 




これが、『男の友情』ですよね!!
ふぅ、無限城に辿り着いたぞーーー!!



感想で凄く面白そうなネタを頂けましたので嘘予告してみました^-^

****嘘予告(part2)****

 裏金銀治郎産の血鬼術を発動した胡蝶しのぶ。

 姉を助ける為、意識だけを過去に上書きした彼女が辿り着いてしまった世界。そこには、『裏金銀治郎』も『鬼滅隊』も存在しなかった。あるのは、『鬼殺隊』というほぼ同一の組織。

 若返りした彼女は、裏金銀治郎を驚かせようと探した。だが、彼を知る者は誰も居ない。裏方として嫌われ者だから、皆が冗談を言っていると思っていた彼女だが……徐々に、事の重大さに気がついく。

 彼女は、裏金銀治郎を探した。彼との思い出の場所を全てを探した。だが、存在の影も見つける事はできない。

「銀治郎さん……お願い。私を一人にしないでよ」

 裏金銀治郎の執務室は、物置となっている。涙を流して叫ぶ彼女に答える者は誰も居ない。最愛の男であり、夫である者との生き別れる。姉を救ったとがその代償は大きかった。

 愛する男の元に辿り着くため、愛する女の元に辿り着くため、二人は歩き出す。


公開予定未定……時空淫界のドグマ
**************

また、アンケートをやろうと思います。

1)しのぶさんと未来でNHK特番を見る話
2)しのぶさんが過去改変しちゃう話(嘘予告2版)
3)考え中


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53:おつとめ

いつもありがとうございます。

感想もありがとうございます!!

年末年始の投稿予定は、未定ですのでご容赦頂けると幸いです。




 産屋敷耀哉の最期を見届けた裏金銀治郎。

 

 その命をもって鬼舞辻無惨に一撃を与えた事は、賞賛に値する。周辺まで吹き飛ばす爆薬で鬼舞辻無惨の肉体は半壊していた。人間なら木っ端微塵で原型すら留めていない威力だ。それが半壊で済んだのは最強の鬼と言われるだけの事はあった。

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、近くの木の陰に隠れて爆発をやり過ごしていた。

 

「ねぇ、銀治郎さん。ふと、思ったんですが……手を抜きましたね?」

 

「えぇ。珠世さんの自爆特攻で薬を取り込んだタイミングで液体窒素で二人とも凍らせる。血界で、無限城への移動を不可能にして、柱全員で万全な状態で倒すという事もできたでしょうね」

 

 さらりと暴露する鬼舞辻無惨を完封する方法。

 

 胡蝶しのぶは、怒りを通り越して呆れていた。裏金銀治郎の性格を知っているが故に、諦めた。だが、結果的に鬼舞辻無惨を殺すであろう事は信頼していた。

 

「理由を聞いてもイイですか?」

 

「勿論。理由は、二つです。一つ目は、鬼舞辻無惨が死んだ後、鬼の始祖がもう一人居る事が露見したら喜んで殺しに来る人がいます。私は人間を誰一人殺していないのに、お構いなしでくるでしょう」

 

 胡蝶しのぶも心当たりがあった。裏金銀治郎は、竈門禰豆子のように特別扱いはされない。世の中、特別扱いされるのは性別や年齢、容姿などが必要とされる。それらを、裏金銀治郎は満たせていない。

 

 世の中、美少女というだけで特権階級なのだ。

 

「いらっしゃいますね。説得も難しそうな人達が……つまり、銀治郎さんは、自らの手を汚さず亡き者にしようと」

 

「否定はしません。悪い事を何一つしていないのに、殺されるのは承服しかねます。それに、彼等には高い給料を払っていたんです。上弦や無惨と闘って貰わないと割が合わない」

 

「あの~、もう少し仲よくできませんか? 私の同僚でもあるんですよ」

 

「私としては、最大限の歩み寄りをしております。それに、上弦や無惨と闘うのは、柱の使命でしょう。最後くらい、闘って欲しいですね。今までの上弦は全て、私としのぶさんが倒したようなものですから」

 

 同僚と恋人……仲よくできないものかと胡蝶しのぶは考えた。不仲の原因である胡蝶カナエの事件について、誤解を解けば多少改善されるだろう。だが、それを裏金銀治郎の妻となった胡蝶しのぶの口から言っては効果が薄い。

 

 煉獄槇寿郎が自らの罪を暴露する必要がある。そうなれば、煉獄杏寿郎が腹を切って詫びる可能性が高かった。あの好青年が責任をとって腹を切るのは忍びない。

 

「はぁ~。銀治郎さんの性格は、分かっていましたよ。で、二つ目の理由は?」

 

「鳴女の血鬼術は、絶対に奪う!! あの力があれば、誰にもバレない場所で胡蝶印のバイアグラの生産工場が作れます。あれほどの血鬼術を持つ鬼が今後現れるとも限りません。今、食らっておく必要があります」

 

 情報化される未来を知る裏金銀治郎。

 

 鬼を材料にした工場は、いずれ発見される。政府の人間に知られれば、全面戦争になる可能性もあった。この世界において、鬼の始祖が本気でゲリラ作戦に持ち込めば勝てる戦いだ。影で平和に暮らしたい裏金銀治郎としては望む展開ではない。

 

「銀治郎さん、お願いです。可能な限り、柱の皆さんを助けてください。銀治郎さんに思うところがあるのは分かります。誰とは言いませんが、一部柱の人が貴方を害する行動にでるなら、私が守ります」

 

 彼女は、真剣であった。裏金銀治郎と柱の二つを天秤に掛ければ、裏金銀治郎の方を優先する。だが、双方を救える可能性があるなら、どちらも選びたいと考えた。そんな夢のような選択が、実現できる。

 

 その鍵を握っているのが、裏金銀治郎である。

 

「はぁ~、しのぶさんにとっては、良き同僚ですからね。風柱も蛇柱にも、恩を売ればなんとかなるでしょう。分かりました。ですが、貸し一ですからね」

 

 裏金銀治郎は、しぶしぶ承諾した。

 

………

……

 

 産屋敷邸の爆心地では、予定通りの行動がなされていた。珠世一派による決死の攻撃。"鬼を人間に戻す薬"を取り込ませる素晴らしい案であった。そして、トドメに岩柱・悲鳴嶼行冥のハンマーが鬼舞辻無惨の頭部を粉砕する。

 

「流石は、悲鳴嶼さん!! 」

 

「最強の称号は、伊達じゃありませんね。ですが、殺せません。鬼の始祖は、頸を落とした程度では死なない」

 

 鬼舞辻無惨と同格になった男の台詞は重みが違った。実際、頸を粉砕しても即座に再生する。異常な再生力……まさに、その一言に尽きる。唯一殺せる手段は、太陽だけだ。

 

 だが、そうなると……太陽を克服している裏金銀治郎を殺す術は、あるのだろうか。万が一敵に回れば、鬼滅隊の脅威ではなく人類の脅威になりかねない。胡蝶しのぶですら、彼を殺す術は想像できなかった。

 

 集合する柱達が鬼舞辻無惨を初めて目撃する。そして、産屋敷邸の跡地をみて理解した。産屋敷耀哉が既に亡き人になっている事を。敬愛する産屋敷耀哉の死に怒りをあらわにする柱達。

 

「そうそう、しのぶさん。鳴女に捕捉されていない我々の足下には、無限城への扉が開かないと思います。なので、誰かが落ちた穴が閉じないように押さえてください」

 

「もっと早くそれを言ってください!!」

 

 胡蝶しのぶが、柱達に一歩遅れて飛び出した。

 

 鳴女の血鬼術……優秀だが攻略の方法は存在する。

 

 この手の能力は、閉じられた空間を転移させる物だ。つまり、閉鎖空間の境界となる部屋同士の隙間に異物を挟み込めば転移を阻害できる。同種の能力を持っていた元下弦の陸の力は、それで妨害できる事を確認していた。

 

 裏金銀治郎は、珠世がご丁寧に竈門炭治郎が集めてきた血液を使い切らずに残しておいてくれた事に感謝している。おかげで、出会ったことが無い鬼の能力まで手に入ったのだから。

 

「町中で、対無惨戦なんてできませんからね。この跡地を最終決戦地にする」

 

 鬼滅隊の財政状況では、物損を支払う程の余裕はない。町中で、最終決戦なんて行われたら、借金地獄どころか牢屋で人生を終わらせる事になる。

 

 裏金銀治郎は、L字型の鉄柱を片手に持った。閉じる襖をこれで閉まらなくする。そして、長いロープも準備していた。部屋を移動する際にもコレを垂れ流すことで襖が閉じられなくなり、相手の能力を封殺していく構えでいた。

 

 裏金銀治郎が鉄柱を抱えて近づくと同時に胡蝶しのぶを除く全員が落ちていった。歴代最高の柱達が何もできないで落ちていく。鳴女が優秀過ぎる事を証明した。

 

「銀治郎さん、早くこっちに来て手伝ってください」

 

 胡蝶しのぶが鳴女が必死で閉じようとしている襖を腕力で開けていた。胡蝶しのぶ以外でこのような芸当が可能なのは、岩柱・悲鳴嶼行冥だけだ。裏金銀治郎は、胡蝶しのぶが強引に開けている襖に鉄柱を置く。

 

 これで、伝令役の鎹鴉も出入り自由になる。

 

「ここにガソリンを流し込んで火あぶりにする手もあったんですけどね。"鬼を人間に戻す薬"を使った鬼舞辻無惨ごと丸焼きにする。木造だから、よく燃えますよ」

 

「それだと、柱の皆さんや隊士達も丸焼けじゃありませんか」

 

「そうですね。しのぶさんからのお願いを無下にはしませんよ。では、我々も鬼退治にいきますか」

 

「えぇ。銀治郎さん、皆をお願いしますよ」

 

 この日の為に、あらゆる努力をしてきた裏金銀治郎。これ以上の万全な準備は不可能……といえる状況だ。対鬼に対するメタ装備に加え、半天狗から奪った血鬼術で作り上げたロマン兵器で武装もしていた。

 

◇◇◇

 

 黒死牟は、無限城に入ってきた鬼滅隊の隊士達を感じ取っていた。

 

 鳴女により、移動先の選定が行われる。鬼舞辻無惨の元へ柱を行かせるわけには行かないので必然的に、黒死牟の下へと案内される柱達。

 

 岩柱、風柱、霞柱、水柱、炎柱、音柱と竈門炭治郎、嘴平伊之助、栗花落カナヲ、不死川玄弥。まさに、オールスターに近かった。本来、童磨と猗窩座の下に案内されるべき者達までココに集結する。

 

 単体の戦闘力で見れば、黒死牟に敵う者はいない。だが、総力で計算すれば軍配は、鬼滅隊に上がる。

 

「鳴女ーーー!!」

 

 流石の黒死牟も文句を言いたかった。柱を倒すのは構わないが、順序よく連れてこれなかったのかと。一度にこれだけの柱を相手にどうしろと困惑していた。

 

 しかし、鳴女も手一杯であった。自身を付け狙ってくる蛇柱と恋柱から身を守りつつ、隊士達全員の行動を監視もしなければならない。処理能力は限界に達していた。その為、柱を一点に集中させる手段をとった。

 

 そうでもしなければ、あっという間に柱が鬼舞辻無惨の元に辿り着く。

 

 裏金銀治郎(偽)は……戦力的に期待されていない為、隊士達の間引き役となっていた。そして、神の狂信者と巡り会う。

 

「なんだ、てめーーらまでココに来たのかよ。流石に集まりすぎだろう」

 

 不死川実弥の発言にこの場の誰もが同意した。

 

 寧ろ人数が多すぎて、攻撃しにくいとすら感じる程だ。協調性にかける柱達では連携力がお粗末。

 

「おぃおぃ、あれは上弦の壱じゃねーーか。こりゃ、派手な戦いになるな」

 

「その通りだ!! だが、我々柱だけで対処できる」

 

 柱の中でも上弦との戦闘経験がある数少ない音柱と炎柱。上弦討伐の陰の功労者である裏金銀治郎と胡蝶しのぶが居ない事を不安に思っていた。影ながらいつでも、支えてくれる存在というのは、大きい。

 

 黒死牟は、戦略的撤退を考えた。だが、それはできない相談だ。逃げれば、後から鬼舞辻無惨に殺される。逃げなければ、何人かは道づれにできるだろうが、敗北するだろう未来が見えていた。

 

「貴様等に提案がある。剣士らしく、一対一の決闘を申し込む」

 

 騎士道に則った素晴らしい提案であった。その真摯な姿勢は、評価できる……通常時であれば。

 

 だが、産屋敷耀哉が死んだ直後、気が立っている鬼滅隊の隊士にとっては飲めない提案だ。鬼を皆殺しにしてやるという気構えで居る。つまり、答えは決まっていた。

 

「嘆かわしい。鬼は殺すのみ」

 

 残念だが当たり前の回答が返ってくる。

 

 だが、黒死牟もそれならそれで一命を賭して闘う覚悟が決まる。鬼舞辻無惨が日頃の労働に対する褒美として、渡された「おめこ券」を使わずに死ねるのだと、内心では喜んでいた。

 

 最後のおつとめを果たすため、彼は最初からクライマックスだ。

 

 ちなみに、柱を一人倒すごとに「おめこ券」が一枚贈呈されるシステムが導入されている。著者胡蝶しのぶの本の影響で、間違った報奨制度が始まったのだ。万が一、この場に集った柱全員を倒した場合、黒死牟の未来は真っ暗であった。

 

 最強の鬼柱は、いつでも鬼滅隊のサポートを忘れない。

 




上弦の弐と参が居なければ、こうなりますよね@@

上弦の壱は、銀治郎達は不干渉予定です@@
集まりすぎて収拾がね~。



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54:隊律違反

いつもありがとうございます!!

感想本当に楽しく確認させて頂いております^-^




 我妻善逸。

 

 雷の呼吸の使い手で元・鳴柱である桑島慈悟郎によって育てられた天才。天才には、色々なタイプが存在する。満遍なく才能を発揮する万能タイプ、一分野において突出した才能を発揮する特化タイプ……彼は、後者であった。

 

 我妻善逸の前には、無数の鬼達が待ち受けている。下弦級の力を備えた鬼達だ。だが、彼は全く怯むことは無い。それどころか、敬愛する神に恩を返す時だと武者震いしていた。泣き虫の我妻善逸は、もう存在しない。

 

 実力と自信に満ちあふれた男へと生まれ変わっていた。

 

 上弦の鬼の防御すら紙となるメタ装備……流星刀。我妻善逸が真価を発揮させる。

 

「邪魔だ。雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 8連」

 

 我妻善逸の刀が鬼に触れた瞬間、鬼が崩壊して消滅する。下弦級の鬼では、我妻善逸の速さについていけない。唯の的でしか無かった。防御が意味をなさない流星刀を前に、集まった鬼達は、ただの昇格ポイントだ。

 

 その様子を見た隊士達は、我妻善逸への期待度がぐーーんと上がった。柱達が不在のこの場で頼りになる存在がいる。それだけで、安心感が段違い。

 

「嘘だろう!! 今の一瞬で!? 鬼が20体はいたぞ」

 

「あれが、我妻善逸か~。こぇーーな」

 

「流石は、金柱様のお気に入り。あの実力なら納得だ。さて、俺達も本気でやるとしよう。折角のお見合い前に死んでも死にきれない」

 

 "柱稽古"の早期クリアのランカー達。歴代最高の柱達に鍛えられ、実力は平均的な柱へと近づいていた。下弦級が相手でも、対等以上にやり合える存在へとなっている。

 

………

……

 

 無限城に集められた鬼達が、続々と死んでいく。強化された隊士を苦労して倒した鬼達が、栄養補給の為に隊士を食らう。そして、続々と猛毒で死んでいったのだ。裏金銀治郎が行ったホウ酸団子作戦は、しっかりと効果を上げている。

 

 拾い上げた獪岳の心音を頼りに足を進めた。

 

 我妻善逸の心の中は、負の感情で満ちていた。怒り、恨み、憎しみ……まさに、人の原動力となる根源の力である。それら全ては、獪岳を殺す事にぶつけられる。獪岳が我妻善逸を殺したいと思っているのとは比にならないレベルに達していた。

 

「いるんだろうクズ、出てこい。3秒だけ待ってやる。土下座して、床に頭をこすりつけて神への不敬を謝罪するなら、苦しめて殺してやる。そうでなければ、更に苦しめて殺してやる」

 

「口の利き方がなってねぇぞ。兄弟子の裏金銀治郎(獪岳)にむかって。少しは、マシに……!!」

 

 狂信者の前で神の名を騙る。罪深い行為だ。獪岳は、我妻善逸の肉体から迸る雷をみた。まさに、閃光と呼べる速度で、頸がはねられるビジョンが浮かぶも、上弦の壱に鬼になるように迫られた圧力には劣る。

 

 だが、この一瞬で自らより格上である事を本能で理解してしまった。

 

「相手してやるよ。じいちゃんの分まで、しっかりその身に刻んでやる」

 

「あぁ、あの爺死んだか。見る目が無い糞爺だったぜ。俺があれだけ尽くしてやったのに後継に選ばねーとはな。耄碌したら元・柱といえどもお終いだな」

 

 堪忍袋の緒はとうに切れている我妻善逸。

 

 彼の目には、既に目の前に居る存在は人の形をした異物にしか映っていなかった。怒りが天元突破した彼の顔に"痣"が浮かび上がる。体温も心拍数も抑える事は不可能であった。

 

「神……この手で、ゴミを殺すチャンスをくれた事に感謝致します。じいちゃん、俺が他の型も使えるように頑張って鍛えるから待っていてね」

 

「死に晒せーーー!! 雷の呼吸 肆ノ型 遠雷」

 

 血鬼術で強化された獪岳の呼吸法……殲滅力特化といえる雷の呼吸を更に強くする、理想的な血鬼術である。だが、所詮は鬼になりたての新米。能力を十全に使いこなせていない。万が一、この段階で十全に使いこなせていれば、多少はマシな戦いができていただろう。

 

「おせーんだよ。クズ」

 

 広範囲の攻撃を回避し、獪岳の両腕を切断する我妻善逸。切断面が崩壊する。腐っても上弦であれば、腕を再生するのに僅かな時間ですむ。だが、流星刀で切断された場所を再生するには、それ相応の労力が必要になる。

 

「バカな!! 」

 

「これは、鬼滅隊を裏切った分だ。どうした?早く腕を再生しろ。まだ、ツケの精算は残っているぞ」

 

 殺意が部屋を満たしていく。

 

 獪岳は、生存本能から頭を下げて許しを請おうとした。だが、彼の反骨心がそれを止めた。もっとも、それで許してくれるほど、狂信者は甘くない。異教徒は根絶やしにされるのが常だ。

 

 肩の部分からごっそりとそぎ落とし、肉体を再生させた獪岳。流星刀で切断された際の最適解である。再生した腕で再び刀を握る。

 

「俺がぁぁぁ!! 貴様のような出来損ないに負けるはずがねーーんだよ!!」

 

「次は、右足。その次は、胴体。次は、頭。最後は、頸だ。安心しろ、クズの血鬼術だけは、しっかりと神へ献上する。神の一部となれる事を感謝しろ」

 

 文字通り鍛え方が違う我妻善逸。"痣"にも覚醒した彼の戦闘力は、柱上位に匹敵するレベルに達していた。猗窩座が存命ならば、鬼になれと熱烈なスカウトがされるレベルである。

 

 獪岳は、弟弟子に完膚なきまでに敗北する。ダルマにされ、惨めに頸を斬られて死を迎えるが、死に際の顔は安らぎに満ちていた。懐の"おめこ券"を使わずに済んだと…。

 

 

◇◇◇

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、ロープを垂らしつつ無限城の扉をドンドン開けていった。徐々に移動制限を掛けられる鳴女は、追い詰められていた。

 

 下弦級の鬼を使って縄を切断させようにも、隊士達が無駄に強く、下弦級を相手に善戦する。更に、鬼の絶対数が鬼柱のお陰で激減しているため、鬼側の総力は乏しいというのが致命的であった。

 

「銀治郎さん、皆さんは勝てるでしょうか?」

 

「上弦の壱に関して知っている情報は全て鎹鴉経由でお館様に連絡しました。それの情報をどのように使うかは、彼等次第でしょう」

 

 新任のお館様である産屋敷輝利哉。

 

 鎹鴉で情報を取りまとめている産屋敷輝利哉に情報を提供していた。重傷を負ったという件以来、音沙汰が無かった裏金銀治郎からの突然の連絡。しかも、無限城で胡蝶しのぶと一緒と言われれば、不審さが際立つのは言うまでも無い。

 

 だが、状況が状況だけに、産屋敷輝利哉も裏金銀治郎を信じる事にした。そして、提供された情報は一字一句間違わず伝達される。経歴、名前、能力、家族構成等だ。

 

「あら?この鬼は、肉体や外皮を硬くする能力を持っています。……!! ぎ・ん・じ・ろ・う・さ・ん。ねぇ~、この能力貰っておきましょう」

 

「持っていない能力です。回収しておきます。しかし、鳴女はやり手ですね。蛇柱と恋柱も接近を防ぎつつ、我々への警戒も怠っていない。見える位置に居るのですが距離が縮まらないとはね」

 

 二人は、目標である鳴女を確保に向かう道中で邪魔な鬼達を殺し尽くしていた。そして同時並行して、血鬼術も蒐集している。この二人を止められるほどの鬼は、無限城では上弦の壱しかいない。

 

「愈史郎君の血鬼術なら、いけるんじゃありませんか?」

 

「可能性は高いです。それは裏技的な攻略法ですから、最終手段にしましょう。転移させられる場所も限られてきたでしょうから、そろそろチェックメイトですよ」

 

 裏金銀治郎は影の中から、扇を取り出した。そして、鳴女に向けて振るう。

 

 ベベンという琵琶の音が鳴り響く。

 

 扇から発生した鎌鼬は、鳴女に届く事無く転移先の壁を切り裂く。

 

「やりますね。不可視の鎌鼬を咄嗟に感知するとは……彼女、もしかして鬼舞辻無惨より有能ではないでしょうか」

 

「あり得そうで怖いですね。空間把握能力に関しては、鬼の中で随一です。しかし、代わりに他の能力は軒並み低レベル。近づければ、新米隊士でも彼女を殺せるでしょう」

 

 二人は、鳴女を追い詰めるため、確実に一手ずつ詰めていく。徐々に喉元に刃を近づけられる鳴女としては、早く味方である鬼舞辻無惨か黒死牟、裏金銀治郎(偽)が駆けつける事を期待している。だが、みんなが手一杯であった。

 

………

……

 

 裏金銀治郎、胡蝶しのぶ、伊黒小芭内、甘露寺蜜璃が出会ってしまう。

 

 鳴女による転移で偶発的な事故が発生した。本来、柱同士の合流を防ぐ為、あの手この手を尽くしていた。だが、移動先が絞られてきた為、このような事態が起こった。

 

「しのぶ様と裏金さん? あれ、裏金さん雰囲気変わりました?」

 

「下がれ甘露寺!! そいつは、人間じゃない。鬼だ」

 

 日輪刀を抜刀し、いつでも裏金銀治郎の頸を切り落とす心構えの伊黒小芭内。だが、即座に行動にでなかったのは、胡蝶しのぶが同行していたからだ。柱は、直感的に鬼を判別できる。それが強い鬼となれば尚更だ。

 

「嘘でしょ!? 伊黒さん、だって裏金さんは……」

 

「いいや、間違いないね。噂通り鬼になっていたとは驚いたね。鬼滅隊の面汚しが本当の面汚しになった」

 

 胡蝶しのぶは、この不運を呪った。

 

 出会うには、早すぎた。裏金銀治郎がこの戦いに誰もが認めるほどの成果を上げる事で様々な事を黙認させる計画があった。仮に、その前に鬼である事が露見するにしても、話の分かる相手でいる事を祈っていた。中でも一番出会いたくないと考えていたのが、蛇柱と風柱である。

 

「あぁ~、なんで今、出会っちゃうかな。銀治郎さん、日頃の行いが悪いからじゃありませんか」

 

「仕方ありません。そう言う巡り合わせなんでしょう。伊黒小芭内さん、鬼舞辻無惨と鳴女を殺すまでは見なかった事にして貰えませんか?コチラにも色々と事情がありますが、説明の時間がありません」

 

 今は、鬼滅隊の柱同士が争っている時間はない。

 

 鬼舞辻無惨が"鬼を人間にする薬"を服薬しているのだ。刻一刻と絶好のチャンスが失われていく。

 

「問題無いね。ここで、鬼を殺してから鬼舞辻無惨も殺す」

 

「柱の中でも実力上位の伊黒小芭内さんと殺し合いは、割に合わない。取引したい……貴方の肉体を元通りにします。その包帯の下を治療したいでしょう。更に、甘露寺蜜璃さんの延命、更に命の危機から一度だけ助けましょう」

 

 伊黒小芭内は、己の過去を知る裏金銀治郎を殺したいと考えた。だが、今も刀を振るわないのは、「甘露寺蜜璃の延命」という極大の餌があったからだ。"痣"に目覚めた者の宿命は、決まっている。

 

 一瞬考慮したが答えは、直ぐに出た。

 

「……やっぱりダメだね。鬼は、殺す。それが、鬼滅隊のやるべき事だ。蛇の呼吸 弐ノ型 狭頭の毒牙」

 

 伊黒小芭内の刀は、裏金銀治郎の頸を落とすべく正確無比な攻撃をした。

 

 だが、刃は届かない。胡蝶しのぶが立ちふさがる。その手に握られる日輪刀によって、防がれた。伊黒小芭内も胡蝶しのぶも腕力型ではなく技能型の使い手だ。だが、今の胡蝶しのぶは両方兼ね備えたハイブリッドな存在。

 

 伊黒小芭内の一撃を軽いと感じていた。

 

「伊黒さん。銀治郎さんに仇なすなら、私がお相手致します。甘露寺さんも馬鹿じゃないなら、どっちの味方をすれば良いか分かっていますよね?」

 

「鬼退治の妨害は隊律違反。分かっているのか、胡蝶」

 

「えぇ。昔ならいざ知らず、今の私に勝てますか? 伊黒さん」

 

 胡蝶しのぶのどす黒い殺気。

 

 それは、歴代最高の柱を後ずさりさせる程だった。

 




やっと、完結が見えてきた!!

作品をエタらずに完結させるのって本当に大変だと理解しました。
ノリと勢いで投稿を頑張って正解だと思いました。

最後まで、頑張るぞ~。


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55:復活のR

いつもありがとうございます。

感想本当に感謝感謝です!!
読んでいるだけで執筆意欲がわいてきます。

間もなく新年……読者の皆様も体調には気をつけてください。


 胡蝶しのぶは、裏金銀治郎との約束通り彼を守る。

 

「伊黒さんの方こそ、隊律違反です。隊士同士の殺し合いは御法度です。私が止めなければ危なかった」

 

「なーに、巫山戯た事を言っている。裏金は、間違いなく鬼だ。それが分からないほど耄碌したわけじゃないだろう」

 

 胡蝶しのぶは、那谷蜘蛛山の一件を思い出した。冨岡義勇が、竈門禰豆子を守った。まさに、そのリスペクトだと。だが、違うとするならば、守っている存在……裏金銀治郎が柱と戦える実力を持っている事だ。

 

「あぁ、分かった。裏金に脅されているんだろう。その首筋の鞭打ち傷――拷問でもされたか」

 

「えぇーー!! そうなんですか、しのぶ様」

 

 胡蝶しのぶは、咄嗟に首筋を隠した。

 

 鬼の体液をその身に取り込み抜群の治癒能力を有している胡蝶しのぶ。本来であれば、鞭打ち傷など簡単に治る。だが、それだと色々と捗らない為、敢えて傷を残しておいた事が状況を悪化させる。

 

 似たような事が過去にもあった気がしてならない裏金銀治郎。

 

「時間の無駄だとは思わないのですか、伊黒小芭内さん。我々が言い争いをしている間にも鬼舞辻無惨を殺す絶好の機会が刻一刻と去っています。"鬼を人間に戻す薬"を解毒しているあの男は、今無防備。殺すには、又と無い機会です」

 

「そう思うんだったら、今すぐ殺されろ。そうすれば、直ぐに終わる」

 

「あ、あの~、禰豆子ちゃんの時も同じような事があったので――お館様がこの事を把握していないとは思えません。一度聞いてみてからでは」

 

 甘露寺蜜璃の素晴らしい提案がなされる。

 

 元・柱が鬼となって蟲柱と行動を共にしている事を知らないはずがないと明言する。先代のお館様という枕詞があるなら、間違っていない。だが、今代のお館様は就任してまだ数時間も経っていない。

 

「いいだろう。ただし、お館様が知らないと言えば、殺すね」

 

「お館様にお伺いするのは承知しました。ですが、知らないと言われても――私も銀治郎さんも殺されたくありませんので抵抗はさせて頂きます」

 

 一匹の鎹鴉が伊黒小芭内の元にやってくる。そして、事の真相を確認する為、産屋敷輝利哉へと連絡される。

 

 

◇◇◇

 

 伝達される情報を元に無限城のマッピングを行っている産屋敷一族。聞いた情報だけで正確な図面を引く能力は、大人顔負けであった。

 

 だが、マッピングの手を止めるほどの重大な情報がもたらされる。

 

『裏金銀治郎は、鬼だ――恐らくは、上弦級。そして、胡蝶しのぶと行動を共にしているが、事情は把握しているか確認したい』

 

 伊黒小芭内からの情報に産屋敷輝利哉は吐き気を催した。

 

 まさに、混沌の状況であった。

 

 鬼滅隊の中枢を担っている裏金銀治郎と胡蝶しのぶ。いつ鬼になったと言う事もあるが、休暇明けのご挨拶の時には裏金銀治郎が鬼になっていたと考えるのが普通。胡蝶しのぶが意図的に報告していなかったと結論が出る。

 

 この場で、知らないと回答するのは簡単だ。

 

 だが、回答すれば産屋敷と二人の関係に修復不可能な傷が入る事は確実。今後の組織運用を考えれば、知っていて見逃しているという体裁を作るのがベストアンサーだ。

 

 その時!! 立ち上がる一人の男が居た。部屋の中から漏れ聞こえてくる音を盗み聞きしていたのだ。

 

「お館様、この私に名案がございます」

 

 返答に困る産屋敷輝利哉に助け船を出す忠臣……煉獄槇寿郎。彼は、胡蝶しのぶから致命傷にもなる一撃を受けて、目が覚めた。そして、改めて鬼を滅する為、立ち上がった男である。産屋敷輝利哉を守る為、元・柱として警備も兼ねて鱗滝左近次と共にこの場に居た。

 

「どういった案でしょうか、煉獄さん」

 

「鬼を生かしておく必要はございません。幸いな事に実力を兼ね備えた隊士達や柱が何人も現場におります。裏金銀治郎は、危険な存在。今、殺さなければ、力を蓄えて殺す事がより困難になります」

 

 まさに正論であった。

 

 それについては、産屋敷輝利哉も危惧している。鬼滅隊の全てを知っている裏金銀治郎が敵となったら、破滅の道を一直線だ。だが、裏金銀治郎という人柄を信じて、清濁を飲み込めば鬼滅隊も滅ばず、誰もが幸せになる道が開ける可能性もある。

 

「裏金さんと胡蝶さんを切り捨てるのは鬼滅隊の破滅を意味します」

 

「お館様は、勘違いをされています。人間である胡蝶しのぶを殺す必要がどこにあります?彼女なら、裏金銀治郎の代役が務まるのでしょう? 簡単じゃありませんか、彼女を生け捕りにすれば、後は鱗滝の刷り込み技術で()を裏金と思い込ませれば事は解決です」

 

 悪魔の囁きであった。

 

 煉獄槇寿郎の言葉の通り、胡蝶しのぶさえ手中に収めてしまえば鬼滅隊の運営は回せる。裏金銀治郎の排除後に懸念される胡蝶しのぶへの対応も鱗滝左近次の催眠術をもってすれば不可能ではない。それを、竈門禰豆子で証明していた。

 

「ほ、本当に大丈夫なのですね」

 

「勿論でございます。煉獄家は古くから鬼滅隊に尽くしてきております。どうか、信じてください。いざとなれば、煉獄家が産屋敷家をお支え致します」

 

 煉獄槇寿郎は、心の中で上手くいったと思っていた。

 

 今まで散々邪魔され、世間的な立場を失った事への復讐が今行われようとしている。ここまで順調に事が進んだのも産屋敷輝利哉が子供であったという点が大きい。子供には大人が必要だ……そして、今の産屋敷輝利哉にとって頼れる大人は煉獄槇寿郎だけだ。

 

 鬼の襲撃に備えて、自ら立ち上がり守ってくれる頼りがいのある男に見えていた。そして、古くから鬼滅隊に仕え産屋敷と共に居た事も大きく起因している。

 

「分かりました、煉獄さん」

 

「ご英断感謝致します、お館様。では、私が全隊士へ連絡しましょう。辛い役目は、子供がやる必要はございません。大人である私の勤めです」

 

 煉獄槇寿郎は、産屋敷輝利哉の札を自らに付けた。

 

 

◇◇◇

 

 裏金銀治郎は、返答が遅い事を疑問に思っていた。

 

 容認している以外に返事が出せるはずも無いと信じ切っている。鬼滅隊の財政と外交を掌握している為、切っても切れない関係である事は明白。

 

『お館様に代わり……元・炎柱煉獄槇寿郎が全隊士に連絡する。元・金柱である裏金銀治郎が鬼になった。嘆かわしい事に、蟲柱胡蝶しのぶがその男の手によって洗脳されている可能性が高い。胡蝶しのぶは、生きて捕らえるようにとお館様からの厳命だ。裏金銀治郎は、鬼として処理するように。伊黒君、応援が駆けつけるまで頑張ってくれ』

 

 鎹鴉から伝達される声に裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、耳を疑った。

 

「はぁ~、これ私が言って良い台詞じゃないんですが――それが人間のやることかよぉぉぉぉぉ」

 

「銀治郎さん。大丈夫です、私はちゃんと分かっていますから」

 

 裏金銀治郎の心にも流石にダメージがあった。

 

 毎日朝から晩まで働いて尽くしてきた鬼滅隊。隊士達を路頭に迷わせないように、鬼討伐で被害のあった者が少しでも元通りの生活を取り戻せるように尽力した日々。まさか、切り捨てられるとは想像の斜め上を行っていた。

 

 胡蝶しのぶからのお願いで柱達を少しでも助けてあげようと上弦の壱に関する情報を惜しみなく提供したのにコレがそのお返しだ。

 

「そういうわけだ裏金。煉獄さんからの依頼だ。胡蝶しのぶは生け捕り……裏金銀治郎は殺す。甘露寺は、裏金を殺せ。胡蝶しのぶだと、流石にやりにくいだろう」

 

「あのあの!! 伊黒さん、裏金さんにも色々と融通してもらった恩があるので助けられない?」

 

 甘露寺蜜璃は、存外頭が良かった。

 

 美味しい物をお腹いっぱい食べるには誰を救うべきかという計算で動いている。鬼に恨みがない彼女ならではの思考である。

 

「甘露寺蜜璃さん、だったら何もしないでください。鬼討伐の邪魔をしたら隊律違反ですが、何もしないのは違反ではありません。私は、手を出してこない限り何もしませんので」

 

「すみません、甘露寺さん。私、今まで貴方の事を唯のお馬鹿さんと思っていた事がありました。訂正しますね……貴方は、伊黒さんと違って、とても賢い人です」

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶの中で甘露寺蜜璃の株が上昇した。

 

「じゃあ、ここはしのぶさんに任せて私は鳴女を確保しに行きます。甘露寺蜜璃さん、全てが終わったら美味しい物を食べきれないほどごちそうします。期待していてください」

 

「伊黒さんを黙らせたら、私も後を追いかけます」

 

 裏金銀治郎は、胡蝶しのぶと二人を残して部屋を後にした。彼は、胡蝶しのぶの実力に絶対的な信頼があった。一手先の未来を読んでいると錯覚するほどの動き――鬼の始祖に目覚めた裏金銀治郎と本気で試合をやっても彼女を組み伏せるに至らなかった。

 

………

……

 

 無限城を駆ける裏金銀治郎。

 

 道中で幾人もの隊士達とすれ違う。異能の鬼に苦戦している隊士がいれば、能力を奪うついでに助けて回った。だが、既に全隊士に向けて、裏金銀治郎が鬼になったと連絡がされている。

 

 彼に、助けられた一人の隊士が裏金銀治郎に問いかける。

 

「金柱様……貴方は、本当に鬼になられたんですか?」

 

「また、その質問か。その通りだ。で、君はどっち側だ? 見て見ぬふりをするなら、そうしておけ……命を粗末にする必要は無い」

 

 鬼絶対殺すマンという隊士は少なからず存在する。その鬼が裏金銀治郎であっても例外では無い。殺しに掛かってくる隊士は正当防衛の下、裏金銀治郎も処分していた。死体は後から鬼に喰われて、鬼を殺す餌になる。無駄死にはならない。

 

「俺は、誰にも会っておりません」

 

「良い判断だ近衛幸村隊士。これは、私の独り言だが……鬼舞辻無惨を殺した後、再就職先に困るようならアンブレラ・コーポレーションを訪ねるといい。私と胡蝶しのぶが代表を務める企業だ」

 

 アンブレラ・コーポレーションという企業は、大人なら誰でも知っている企業になっている。鬼を討伐し終えた後の生活を考えれば、どうすべきかは簡単に答えは出た。

 

「信用できる仲間を誘っても宜しいですか?」

 

「勿論だ。鬼滅隊の全員の給料を支えていた企業だ。頭のいい君なら理解できるね。100人以上誘う場合は、事前に相談してくれよ」

 

 鬼滅隊の中でも、裏金銀治郎を信じる者も存在していた。

 

 彼が真摯に仕事をする姿勢をしっかりと見ている隊士もいるのだ。その事が、裏金銀治郎にとっても救いであった。

 




執筆を終えた作者の思い……どうしてこうなった!!
だが、筆がのったから仕方ないと思い、この路線で進める事を決意した。




少し気が早いかも知れませんが、アンケートを実施したいと思います^-^
怪しいタイトルもありますが、本SS同様に全て健全な内容となる予定です。
エッチなのは、いけませんからね。

アンケートって20文字しか入れられないから、色々削りました。
本当は、こんな感じで書きたかった。

1)NHK特番(その時歴史が動いた~東洋のジャンヌダルク~)
2)時間跳躍のバイアグラ(50話の後書き参照)
3)時空淫界のドグマ(52話の後書き参照)
4)キメツ学園~JK3年生の夜の部活動~


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56:胡蝶の夢

いつもありがとうございます。
感想も本当にありがとうございます。


 刀同士がぶつかり火花を散らす。

 

 蛇のようにうねる太刀筋……刀身も特殊であり、その軌道は非常に読みにくい。だが、胡蝶しのぶは、初見で蛇の呼吸の型を全て防いでみせた。それだけなら、伊黒小芭内も納得できた。相手より技能が劣るだけだと。

 

 だが、現実は違う。

 

 胡蝶しのぶの圧倒的なパワー。刀がぶつかりハッキリした……まるで岩壁でも攻撃しているかのような手応え。

 

「伊黒さん、貴方ほどの人なら分かっているでしょう。銀治郎さんが人を食べていない事くらい。それに、変だとは思わないんですか? 何故、元・炎柱がいきなり現れたのか。隠居している人と裏方で鬼滅隊を支えた人、どちらの言葉が重たいか分かるでしょう?」

 

「五月蠅い。鬼討伐の邪魔をするなら、誰であっても容赦しない」

 

 本気では無いとはいえ、胡蝶しのぶの攻撃をぎりぎりのタイミングで回避し続ける蛇柱は、有能である。だが、それも長くは続かない。

 

 伊黒小芭内の息が上がってきたからだ。

 

「はぁ~、何故貴方達は理解してくれないんです。銀治郎さんが、何故鬼になる必要があったのか、少しは考えた事がありますか? 貴方達が着ている服や食事のお金は誰が稼いだ物だと思っているんです?」

 

「お館様のお金だ。それがどうした?」

 

 胡蝶しのぶは、柱であってもその程度の認識かと落胆した。

 

 裏金銀治郎は可能な限り表に出ないように手を尽くした。その為、過去に類を見ない功績を挙げても、全て無かった事にしている。よって、自ら率先して情報収集しない限り、彼の功績を見つける事は不可能だ。

 

 蟲柱のようにどっぷり裏方に居ない限り、知り得ないのだ。

 

「いいえ、もう結構です。甘露寺さんに恨まれたくないので、避けてくださいね。本気で攻撃します。ココを狙いますからね」

 

 胡蝶しのぶは、額をコツコツと叩き狙う場所を教えた。

 

 伊黒小芭内は生まれて初めて背筋が凍るという感覚を理解する。上弦であっても対等以上に戦えるという自負を完全に打ち砕かれるレベルであった。胡蝶しのぶの挙動に全神経を集中した。気づかぬうちに"痣"まで覚醒させている。そうまでしなければ、次の攻撃を回避すらできないと本能が理解していた。

 

 眼前から胡蝶しのぶが消えた瞬間、伊黒小芭内は反射的に頭部を右にズラした。

 

 だが、胡蝶しのぶの日輪刀の先端は、的確に額の皮を刺している。少しでも胡蝶しのぶが前に刀を突き出せば、それで脳天がぶち抜かれる。

 

「なんだ、その速さ!! 一体、どんな手品だ」

 

「いえいえ、伊黒さんが遅すぎるだけですよ。――今の一撃は、同僚のよしみで止めました。ですが、次は止めません」

 

 "痣"に目覚めていない胡蝶しのぶと"痣"に目覚めた伊黒小芭内。その力量の差は、客観的に見ても歴然であった。甘露寺蜜璃は、既に勝敗が決まったと判断する。元々、どちらかが殺される前に手を出すつもりでいた。

 

「伊黒さん、これ以上は無理です。しのぶ様も謝ればきっと許してくれるわ!! 裏金さんには、私からも頭をさげるから。なんだか、分からないけど絶対に勝てない気がするのよ」

 

「分かっている甘露寺。だから、他の柱が来るまで時間稼ぎをしている」

 

 その時間稼ぎすらできないと、彼は分かっていない。

 

 胡蝶しのぶは、透き通る世界を感じ取っている。服の上からでも的確に裏金銀治郎の急所を責める事で目覚めてしまった力であった。普段は夜の生活で重宝している能力であり、まさに能力の無駄遣いである。それを戦いに転用した結果、彼女を更に強くする。

 

「伊黒さん。私の私見では、銀治郎さんを討伐しようと考える柱は不死川さんと伊黒さん。黙認が宇髄さん、煉獄さん、時透さん、甘露寺さん。読めないのが、悲鳴嶼さんと冨岡さんです」

 

「だからどうした。それでも、やる事は変わらない」

 

 伊黒小芭内は、懐から柱専用の緊急活性薬を取り出した。鬼との戦闘で負傷した際に利用する薬だが……下弦の鬼を材料に使った薬だ。治療だけでなく、肉体を強化するにも十分使える。

 

「へぇ、その薬を使うんですか。ご存じだと思いますが、鬼を材料にして作った薬ですよ。その原材料は、下弦の肆――私と銀治郎さんで捕獲した鬼です。伊黒さんが知らない所で、上弦だけでなく、下弦も討伐していたんですよ、私達」

 

「えぇーーー!! このお薬の材料って鬼だったの!?」

 

「当たり前でしょ。重傷の怪我を即座に治す薬が存在する訳ないじゃないですか~。伊黒さん、言っておきますけどその薬を使ったところで私には勝てませんよ。私は、毎日それより強い鬼を食べていますから」

 

 伊黒小芭内は、裏金銀治郎を殺す為、目の前の障害を排除すべく刀を振るう。全ての型が先読みされたかのように防がれる……ならば、誰にも見せた事がない型で挑むしかないと考えた。未知の型ならば、胡蝶しのぶの守りを突破できると考えた。

 

 だが、それは甘い考えだ。

 

 胡蝶しのぶの血鬼術――"胡蝶の夢"。それは、数秒先の自分を今の自分に上書きする能力だ。未来の経験を自分にフィードバックさせる事ができる。つまり、あらゆる攻撃が彼女にとって既知になる。

 

「生け捕りは中止だ……蛇の呼吸 終ノ型 ――」

 

「あらあら、勝手に糞野郎の指示を無視するんですか。無理だと思いますよ~……だって、その攻撃既に知っていますから(・・・・・・・・・・)

 

 蛇のようにうねる軌道の刀。

 

 防ぐ事が困難なその攻撃は、伊黒小芭内の絶対的な自信の象徴だ。だからこそ、音柱に上弦の陸程度を倒して負傷したことに文句を言ったのだ。確かに、それを言うだけの実力が彼には備わっている。

 

 だが、相手が悪い。

 

 胡蝶しのぶは、伊黒小芭内の日輪刀を指で白羽取りした。そして、力を込める。

 

「ば、バカな」

 

「酷いですね。お馬鹿さんは、伊黒さんの方じゃありませんか。どうしたんですか? 早く刀を引き戻さないとへし折っていきますよ」

 

 胡蝶しのぶが親指に力を入れていく、刀身が軋む音と共にパキンと折れる。

 

 その出来事に、甘露寺蜜璃までも息を飲んだ。筋力数倍の特異体質の彼女でも、指だけで日輪刀をへし折る事などできないからだ。

 

 それからもパキンパキンとまるでカッターナイフの刃を折るかの如く、伊黒小芭内の日輪刀が短くなった。そして、付け根まで到達する。その様は、伊黒小芭内の心をへし折った。

 

「胡蝶、貴様も鬼になっていたのか」

 

「鬼は、貴方達でしょ。人でなし」

 

 胡蝶しのぶは、その豪腕を振るう。

 

 トラックに衝突したかのように、襖を何枚も吹き飛ばし三つ先の部屋で倒れ込んだ。ピクピクとカエルのように痙攣している事から、生きている事だけは分かる。胡蝶しのぶが、甘露寺蜜璃に配慮して情けを掛けたのだ。

 

「伊黒さーーーん!! 生きてる!? 生きてますよね!!」

 

「安心してください、甘露寺さん。当分は、入院生活でしょうが殺していません。後で、隊士が回収するでしょうから、貴方は予定通り鬼舞辻無惨を殺しに行きなさい。私達の目標はその男だけのはずです」

 

 甘露寺蜜璃は、胡蝶しのぶの提案に乗った。

 

 婚活目的で鬼滅隊にいる彼女にとって、美味しいご飯を沢山食べるシステムを用意してくれる人こそ正義である。なにより、裏金銀治郎が鬼であっても、大した問題だとは彼女は思っていない。

 

◇◇◇

 

 上弦の壱……黒死牟を相手に柱達は善戦していた。

 

 伝達された情報があったからこそ、最小の被害で対応できたといって過言では無い。だが、誤算があるとするならば、戦闘中に煉獄槇寿郎からもたらされた情報だ。

 

 その衝撃的な情報のお陰で、煉獄杏寿郎は上弦の壱を目の前にして棒立ちしてしまう失敗をやらかしてしまった。そして、利き腕を失う大失態を晒してしまう。

 

「何をやっている煉獄!! 早く、腕を繋げてこい」

 

 風柱が腕を回収して、後ろへ投げ飛ばす。柱専用の緊急活性薬ならば、再結合が可能だと分かっていた。それが例え鬼由来の物であっても使える物は使うという考えだ。

 

 だが、煉獄杏寿郎の眼は死んでいた。

 

 戦場のキャパ的に予備兵力として待機していた竈門炭治郎達が救護班の働きをする。

 

「煉獄さん!! 直ぐに止血の呼吸を」

 

「あぁ、竈門少年か。――悪いが、死なせてくれ。俺は、死んで詫びなければならない男だ」

 

 その言葉で竈門炭治郎は、理解した。

 

 先ほど全隊士向けに伝達された『裏金銀治郎の討伐命令と胡蝶しのぶの確保命令』。この場にいる者達は、目の前の上弦の壱討伐で手一杯だ。その命令に関して考えるのは後回しにしていた。

 

 だが、後回しにできなかったのが煉獄杏寿郎だ。

 

「煉獄さんが、詫びる必要はないです。そんな事は、裏金さんも望んでいません!! 大丈夫です。俺とカナヲは、あんな命令に従う気はありません。よく分かりませんが、煉獄さんにとっても、裏金さんは恩人なのでしょ? だったら、生きてください」

 

「生きてくださいか。聞いてくれるか、俺の父親は……胡蝶しのぶの姉である胡蝶カナエを酔いつぶしホテルに連れ込もうとした。それを殴って止めたのが裏金殿だ。それから――」

 

 心が弱っている煉獄杏寿郎は、洗いざらいをぶちまけてしまった。それを聞く側となった救護班組。誰もが少なからず裏金銀治郎と接点があり、彼が切腹を止めたことをよくやったと思っていた。

 

「大丈夫です。煉獄さん、切腹すべきはその糞野郎です。裏金さんからは、無惨を倒して欲しいと言われているんですよね。だったら、それで恩を返しましょう!! 大丈夫ですよ、裏金さんは、俺が知る限り最高の大人ですから」

 

 竈門炭治郎は、妹である竈門禰豆子を人間に戻してくれた最大の功労者への恩を忘れない。

 

 狂信者ほどではないにしろ、誰についていくかと言われれば答えは一つしかない。今まで全ての問題を完璧にクリアしてきた男の実績を正しく評価しているのだ。

 

「……そうだったな!! スマン竈門少年!! この俺が引導を渡してやらずしてどうする。これでは柱失格だな。穴があったら入りたい!!」

 

 竈門炭治郎は、柱一人のやる気を取り戻し現場復帰させるという偉業をやり遂げた。

 

 裏金銀治郎に恩を返したいと思う竈門炭治郎。だが、それにはもう一つ理由があった……神崎アオイの一件について、鎹鴉経由で連絡があったのだ。手紙の送り主は、当然裏金銀治郎だ。

 

 内容は、『竈門炭治郎君へ、神崎アオイが君の子供を妊娠している。今は、私の実家で匿っているが栗花落カナヲに知られたら、どうなるだろうか。私としのぶさんの説得なら、彼女も受け入れてくれるだろう。君には期待しています、竈門炭治郎君』であった。

 

 その手紙を見た瞬間、竈門炭治郎の運命は裏金銀治郎のさじ加減一つで決まる事が決定した。裏金銀治郎を信仰する信徒が新たに誕生していたのだ。

 

「そうです!! 煉獄さん、一緒に頑張りましょう!!」

 

 どんな手を使ってでも味方を鼓舞して鬼を倒す。清らかな心を持った昔の竈門炭治郎は何処にもいない。

 




"胡蝶の夢"は、しのぶさんの夢的な意味じゃなく……中国の思想家による説話を元ネタにしています。エッチな夢じゃないのですよ!!

そろそろ、鳴女とエンカウントしそうです。



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57:ずっと俺のターン

いつもありがとうございます。

感想ありがとうございます^-^
本当に嬉しい限りです。


 裏金銀治郎は、無限城内部を駆け抜ける。

 

 徐々に、鳴女による転移も限界に達し、追い詰めるまであと一歩まで迫っていた。そして、その道中に懐かしい顔と再会を果たした。

 

「おや、これは珠世さん。ご無沙汰ぶりですね。お元気そうでは……なさそうです」

 

「裏金銀治郎、やはり鬼になったのですね。さぁ、早く私ごと無惨を殺してください。今しか、あの男を倒すチャンスはありません」

 

 珠世は、運が良いと思った。

 

 この場に最初に辿り着いたのが元・柱であり鬼舞辻無惨を殺せる力を持つ男だったからだ。それが鬼であっても、些細な問題であった。それに、鬼であれば鬼舞辻無惨を殺せば死ぬのだから、裏金銀治郎が鬼であっても問題では無いと考えている。

 

 だが、現実は違う。新たな鬼の始祖であり、鬼舞辻無惨が死んでも裏金銀治郎は滅びない。そんな事実を彼女は知らない。

 

「やはりって、失礼ですね。それに、貴方も聞こえていたでしょう。私は、鬼滅隊から切り捨てられました。鬼舞辻無惨が、どうなろうと知ったことでは無い。そうですよね、産屋敷輝利哉(・・・・・・)

 

 裏金銀治郎は、長年付き添った鎹鴉の頭を撫でながら問いかけた。彼の鎹鴉は、頭が良く、鬼滅隊ではなく甲斐甲斐しく世話をしてくれていた裏金銀治郎へ鞍替えしている。

 

 愈史郎の血鬼術も既に手中に収めている裏金銀治郎は、自らが作った交信用の札を鎹鴉に取り付けていた。

 

『裏金さん!! 父の仇を』

 

「あぁ、耀哉君との約束は果たそう……だが、それは今では無い。全てが終わったら、しのぶさんと一緒に挨拶に行くから楽しみに待っていろ」

 

 裏金銀治郎は、交信用の札を破壊した。

 

 そして、珠世に手を振って部屋を退出する。遠くで、「お願い戻ってきて!! 」など美人さんからのお誘いがあるが、無視する男であった。そもそも、鳴女の確保前に鬼舞辻無惨を殺しては、血鬼術が確保できない。だから、できない相談なのだ。

 

………

……

 

 ベベンと琵琶の音が鳴り響く時間が終わった。

 

 そして、畳の上に靴で立つという日本人にあるまじき行為をしている裏金銀治郎。彼の目の前に、黒い和服を着た鬼女が一人……上弦の弐である鳴女が、静かに時を待っていた。

 

「初めまして、鳴女。私は、裏金銀治郎と言う者だ。詳しい紹介は必要かね?」

 

「いいえ、元上弦の弐様からお話は聞いておりました。無惨様からも……貴方が本物なのですね」

 

 勝手に偽物を用意して、本物に本物ですかとは失礼極まりない。そもそも、裏金銀治郎自身も偽物を用意するなら、獪岳ではなくもう少しマシな駒を用意できなかったのかと文句が言いたいほどであった。

 

 あれでは、自分の品格が落とされると。

 

「逃げないのかね鳴女。鬼とはいえ、無抵抗の女性を殺すのは些か心苦しい」

 

「顔が笑っていますよ、裏金銀治郎。逃がす気が無いのに酷い男です」

 

 誰だって笑顔になる。

 

 最高の血鬼術が手に入るのだ。これで、将来安泰になるだけでなく、鬼舞辻無惨への切り札にもなる。誰もが油断する今だからこそ、裏金銀治郎は鳴女の挙動を見逃さないように注意する。

 

 彼女は有能だ。最後に手を抜いては痛手を被る可能性がある。

 

「鬼舞辻無惨が解毒を終えるまで時間があるだろう。助けは来ない……遺言があるなら聞いておこう」

 

「来世は、芸者になりたいわ」

 

 鳴女の本音であった。

 

 鬼舞辻無惨に目を付けられ、鬼となった彼女。本来であれば、音楽の道を進んで生計を立て普通の人生を送っただろう。平凡な人生こそ彼女の願いであった。

 

「生まれ変わってもアンブレラ・コーポレーションがあれば、訪ねてくるといい。歓迎しよう。では、鳴女……恨みは無いが死んで貰おう」

 

 裏金銀治郎の手が女の胸を貫いた。鳴女の能力と血を回収する。みるみるうちに鳴女が崩れていく、その最中、彼女が一枚のチケットを差し出してきた。裏金銀治郎は、最後の贈り物と思い受け取ってしまう。

 

「ありがとう、受け取ってくれて。使う機会が無かったのよ――それ、捨てられない呪いが掛かっているから」

 

 安らかな死を迎えた鳴女。

 

 無限城は、そのまま裏金銀治郎へと主導権が譲渡され、崩壊せずに済んだ。だが、裏金銀治郎の手に残る一枚のチケット……"おめこ券"。裏金銀治郎は、一瞬、鳴女が相手かと思ったが、チケットの詳細をよくよく確認したら相手が鬼舞辻無惨だと知り、今朝食べた朝ご飯が逆流してきた。

 

「オオォォォエエエ!! 鳴女ーーー!! 貴様、謀ったなぁぁぁぁぁ」

 

 最高の血鬼術という贈り物をくれた彼女、だが同時に最低の贈り物をくれた彼女……裏金銀治郎の中では、最高に有能から最低の女へと評価が一新される事になる。

 

 

 裏金銀治郎の叫びを聞いて、神の下へ参上する狂信者が一人……我妻善逸である。上弦の参を相手に無傷で勝利を収め、獪岳の血液を持ってきた有能だ。

 

(裏金銀治郎)、神の名を騙る愚か者を処理して参りました。これは、回収した獪岳の血液でございます。雷を強化する血鬼術でしたので回収して参りました。それと、ご命令を頂けるのでしたら、地上へ赴き煉獄槇寿郎と産屋敷一族をこの手で討ち滅ぼしましょう」

 

 我妻善逸の怒りは鎮まらなかった。鬼滅隊にあれほど尽力した裏金銀治郎を、このタイミングで切り捨てるなど許しがたい所行である。勿論、世間一般的に神の所行は一般人には理解できない所がある事実も分かっている我妻善逸。

 

 だからといって、鬼舞辻無惨との最終決戦の場で味方の戦力を削る愚行をする組織など見限るべきだと結論づけていた。幸い、嫁達に関しても神の力があれば安全地帯に避難できる事も分かった今、鬼滅隊という悪の組織に未練など一つもなかった。

 

「よくやりました、善逸君。私は、これから無限城の完全掌握に入ります。5分程、ココを動けないでしょう。私が能力を十全に行使するため、この伸ばした縄を回収してください。部屋と部屋の境界にあると転移ができません。後、可能であれば上弦の壱が使っている刀身の一部を回収してください。まだ、持っていない血鬼術です」

 

「承知致しました、神!! それと、鬼滅隊の隊士達はいかが致しましょう」

 

 "痣"に覚醒した我妻善逸ならば、隊士が束になっても敵わないのは明白だ。裏金銀治郎が、道中に出会った隊士を全て殺せと言ったら喜んでその刃を振るう。それでは、有能な俗物隊士まで殺されてしまう。

 

 この時、一部隊士の中で鬼滅隊に見切りを付けて裏金銀治郎に乗り換えようとする動きが水面下であった。そもそも、元・炎柱とか産屋敷とか一般隊士からしてみれば誰だそれレベルだ。現場レベルで知り得る人の中で、権限が一番高い裏金銀治郎の方が何倍も信頼がある。

 

「放っておきなさい。彼等の中にも、私に賛同する者達がいます。見た目で判断する事は、難しいでしょう。一人一人問いかけて回るには時間の無駄です」

 

「はっ!! では、吉報をお待ちください」

 

 我妻善逸が神速の速度で縄の回収を始める。

 

 徐々に転移先が解放されていくのが裏金銀治郎には手に取るように分かった。これが、無限城を管理していた血鬼術なのかと。

 

 

◇◇◇

 

 地上にある産屋敷輝利哉がいる拠点では、今も無限城の図面が引かれていた。だが、ある時を境に、一部隊士達が一箇所に固まって籠城の構えを見せ始めた。いち早く、鬼舞辻無惨の場所へ赴き殺さなければならないのに何をしているのだと考えていた。

 

「あそこで固まっている隊士で一番位が高いのはだれだ?」

 

「近衛幸村隊士です、お兄様」

 

 付近の鬼を殲滅したにも関わらず何をしているのか、問いただす事にした産屋敷輝利哉。

 柱級では無いにしろ、これだけの一線級の実力者が鬼舞辻無惨の下へ辿り着けば、倒しきれないにしても十分なダメージが与えられると確信があった。

 

 "柱稽古"は、無駄では無かったと自らの英断を内心で褒めていた。

 

『近衛幸村隊士、廊下を出て右に進んでください。二つほど進んだ先の部屋を――』

 

『悪いが、お断りだね。今更だが、誰だよ。子供の声じゃん。後、さっきの伝達でも元・炎柱? 安全地帯から良いご身分だね。元・柱でも現場で鬼退治をして俺達を助けてくれた人だっているのにな~』

 

 命がけの現場で突然子供からの命令だ。今の今まで必死すぎて疑問に思わなかったが、落ち着いたら色々と変だと気がついた有能な俗物隊士達。有能だからこそ、気がついてしまった。下弦級の鬼を倒した際に支払われる特別報償金の存在について。

 

『僕は、産屋敷輝利哉です。産屋敷耀哉に代わり鬼滅隊を纏めている者です。ですから、指示に従ってください。貴方達の近くに鬼舞辻無惨がいます』

 

『……分かった、詳しい場所を教えてくれ』

 

  産屋敷輝利哉は、一時はどうなるかと思ったが、話が通じて良かったと思っていた。そして、鬼舞辻無惨の位置や復活が近い為、なるべくダメージを与えて欲しいと伝えることに成功した。

 

『恐らく、珠世という女性の鬼が取り込まれようとしております。可能であれば助け出してください』

 

『おぃ、みんな聞いたか!? 裏金様は切り捨てて、珠世という鬼は助けろだってさ。怖い怖い、無惨が復活する前にさっさと離れよう。場所は聞いたから逆に行けば良いだろう』

 

 産屋敷輝利哉は、理解できず硬直してしまった。

 

 鬼滅隊の隊士は、鬼舞辻無惨という巨悪を打倒する為、命を懸けて闘う者ではないかと本気で思っていた。俗物は、裏金銀治郎のようなごく一部だけだと思っていたのだ。だが、事実は違う。

 

『待ってください!! 今が、絶好のチャンスなんです。身動きが取れない鬼舞辻無惨が直ぐそこにいるんです』

 

『だからに、決まっているだろう!! 鬼舞辻無惨が万が一目覚めたら俺達が全滅するのは確実だ。現地に向かわせるなら柱にしろ。その位も分からないのか』

 

 現場隊士と総指揮官は完全に話が平行線となってしまった。

 

 指示を出す側としては、今がチャンスというのは間違いない。だが、柱到着までの時間稼ぎの捨て駒になれと命じられ、分かりましたと命を捨てられる程、彼等は従順な犬ではない。

 

『今、動ける柱が居ません。お願いします』

 

『居たけど、あんたらが金柱様と蟲柱様を切り捨てたからだろう!! 本当にいい加減にしてくれよ。悪いが、命あっての物種だ。だが、仕事だから貰う物は貰う。下弦級の討伐報酬は、家一軒か3万円だったよな。この場に居る20人で100体近く倒しているから精算を期待している』

 

 12鬼月の撃破は、柱になる条件の一つだ。本来、滅多に支給されないこのシステム……それが、無限城では大盤振る舞いとなる。当然、現状の鬼滅隊の財政で支払えるはずもない。

 

 産屋敷輝利哉は、そんな制度を知らない。だが、事実存在している。

 

 救いを求めるかのように煉獄槇寿郎を見る産屋敷輝利哉。それに応えるかのように、頼もしい大人がお館様に代わり、隊士へありがたい一言を贈る。

 

『全隊士に連絡する。鬼滅隊の隊士でありながら、鬼側に与する不届き者が居る。これから名を上げる隊士は、鬼として処理するように。なお、彼等を一人倒せば報償金1万円を煉獄槇寿郎の名で約束しよう。近衛幸村、天堂サクラ、伊集院栄司、神薙命――』

 

 挙げられる名前は、一般隊士ならば一度は聞いた事があるような者達であった。その者達の殆どが、"柱稽古"の突破上位達通過者達であった。

 

 煉獄槇寿郎が司令塔に居る限り、煉獄のターンは、終わらない。

 

………

……

 

 竈門炭治郎は、必死に煉獄杏寿郎を止めている。

 

「落ち着いてください、煉獄さん!!」

 

「竈門少年、やはり俺は切腹して詫びるべきだろう」

 

「いい加減にしろ、煉獄!! あの化け物は頸を落としても死んでないんだぞ。さっさと持ち場につけ!!」

 

 またしても、全隊士向けの放送を耳にして煉獄杏寿郎が自決に走っていた。しかも、頸を落としてもまだ動く上弦の壱を目の前に棒立ちになる。そして今度は両足を失う大失態をやらかす。柱専用の緊急活性薬がなければ、死んでいただろう。

  




おや、そろそろ無惨さんが目を覚ます!!

呪われたアイテム……"おめこ券"。捨てても何故か懐に戻ってくる人知を超えたアイテム。裏金銀治郎の血界でも消し去れない程のパワーが秘められている。これを消滅させるには、作った本人を殺すしか無い。

コレを頸に巻けば、日輪刀で切られる事も無いでしょう……生き恥をさらす覚悟が必要ですけどね。

年末年始はちょっとだけお休み予定。
ここ数日頑張ったから許してクレメンス。


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58:日本人にあるまじき行為

新年明けましておめでとうございます!!
今年もよろしくお願い致します^-^

いつもありがとうございます。




 裏金銀治郎は、鳴女から回収した血鬼術を馴染ませていた。

 

 鳴女の血鬼術は、空間に作用する血鬼術として最高峰の能力であり、並の鬼では扱う事すら難しい。鬼の始祖になった裏金銀治郎とて、直ぐには扱えない程だ。だが、元現代人を舐めてはいけない。3Dゲームや体感型ゲームを嗜んだ経験がココで活きてくる。

 

「あれだけの過剰戦力が揃っているのに、倒すのにここまで苦労するとは上弦の壱は化け物だ。首を落としても、崩壊が始まるまでが長すぎる」

 

 裏金銀治郎は、無限城で起こっている出来事を覗き見していた。柱専用の緊急活性薬のお陰で、死傷者こそ出ていないが大半が重傷だ。炎柱が何度も重傷を負ったせいで薬不足になり、回復が間に合っていない。

 

 黒死牟を前に棒立ちで何度も重傷を負った煉獄杏寿郎。これがバタフライエフェクトと言われる現象なのかと。原作通りならば、居ない筈の男がこの場で奮戦している。だが、それが事実ならば、裏金銀治郎という存在も同様である。すなわち、考えすぎだ。

 

 歯磨きを終えて、口の中の清潔感を取り戻した裏金銀治郎。彼は、胡蝶しのぶが転移可能な場所に居る事を把握した。そして、指をパチンとならし転移させる。距離が意味をなさないこの能力は誠に素晴らしいと裏金銀治郎は興奮していた。

 

「おかえり、しのぶさん。伊黒さんを殺さなかったんですね。お優しいことで」

 

「ただいま、銀治郎さん。計画は順調のようですね……あの糞野郎の一件を除けば。次は、どうします? 鬼舞辻無惨ですか? 黒死牟ですか? それとも、鬼滅隊ですか?」

 

 胡蝶しのぶの瞳は濁っていた。

 

 彼女は、鬼滅隊に世話になった過去がある。産屋敷耀哉という最高の当主に恩もあった。恩に応えるだけの働きを彼女は行っている。彼女のお陰で何人もの隊士の命が助かっている。彼女がいたからこそ、隊士達が大幅に強化され、文字通り鬼滅隊を支えた。

 

 そんな彼女を見かねた裏金銀治郎が、胡蝶しのぶをそっと抱き寄せる。青筋を立てるのは美しいが、濁った彼女の瞳は美貌を損なう――それが、裏金銀治郎の持論であった。そして、子供をあやすかのように背中を優しく叩く。

 

「大丈夫です、しのぶさん。いつかこうなる気もしておりました。だから、責任を感じないでください。汚れ役は私だけで十分です……ほら、私って何かと胡散臭いでしょ。そういう役にピッタリじゃないですか」

 

「――そう言う言い方は、卑怯です。銀治郎さんが、あまりにも不憫じゃないですか。まぁ、確かに胡散臭いですし、そんな役回りはピッタリかもしれませんよ。ですが、私の大好きな旦那さんなんです。私が怒るのは変ですか?」

 

 この可愛い生物は何というのだろうと裏金銀治郎は思っていた。

 

 胡蝶しのぶは、包容力のある胸に抱かれ心なしか顔を赤らめて嬉しそうにする。そんな二人の奮起を遠目で眺める隊士達。床にペッと唾を吐き捨てていた。

 

「私のために怒ってくれたのは嬉しいです。アレ(煉獄槇寿郎)については、私が原因ですから、気に病む必要はありません。あの時、もっと上手に取りなしていたら問題にはならなかったでしょう。だから、冷静になってください。そうしないと、足下をすくわれます。――例えば、首を狙ってくる愈史郎君とかに」

 

 裏金銀治郎や胡蝶しのぶに致命の一撃を与える可能性を持つ鬼がもう一人この場に居る。目くらましの術という鬼舞辻無惨の知覚能力すら上回る血鬼術。その使い手が、機を狙っていたのだ。

 

 胡蝶しのぶは、その存在を裏金銀治郎の言葉で思い出した。咄嗟に、血鬼術"胡蝶の夢"を発動させる。彼女の血鬼術は、常時発動型ではない。それなりの体力を消耗する能力であった。

 

「2秒後、私の右後ろ5m」

 

 胡蝶しのぶが経験をフィードバックさせる。そして、出現座標を正確に伝達した。裏金銀治郎は、両指の間に深紅の糸を生成する。下弦の伍から回収した血鬼術だ。だが、鬼の始祖が繰り出す威力は、下弦とは規模と威力の桁が違う。

 

「一度、こういうのやってみたかったんですよ。血鬼術―"聖剣乱舞(エクスカリバー)"」

 

 裏金銀治郎の指から網の目となった糸が放たれる。

 

 その網の目のサイズは、1cmとサイコロステーキを作るには丁度良いサイズであった。広範囲且つ高速で広がっていく規則正しい形状の網。あらゆる物を切断するその力は、鬼の始祖に恥じない物であった。そして、数十メートル進んで消失する。

 

 グシャリという肉が崩れる音と共に無限城の一部が盛大に崩壊する。

 

 だが、切れ味が良すぎるというのは欠点でもあった。鬼という再生力を持つ者にとって、繋げやすいという結果を生む。愈史郎は、裏金銀治郎の攻撃を受けた傷を再生させていた……だが、無傷では無い。衣服と目くらましの札が消し飛んだ為当然全裸となり、鬼の形相で裏金銀治郎をにらみ付けていた。

 

「きさまぁぁぁ!! 珠世様を助けられたのに見捨てたなぁぁぁぁ」

 

「見捨てるって……人間を大量に殺した鬼を何故助ける必要があったんです? そもそも、自爆特攻を覚悟していたんでしょう。流石に、怒りの矛先を間違っているでしょう。私より、鬼舞辻無惨を殺しに向かってくださいよ」

 

「嘘をつけ、珠世様は人を殺してない!!」

 

「いいや、殺している。実の子供と夫をその手で殺し、自暴自棄になって沢山の人を殺している。それにさ~、珠世を殺したのは鬼舞辻無惨でしょ。何でここに来るかね?」

 

 鬼舞辻無惨がこの無限城に隠れている限り、鬼滅隊に勝利はない。

 

 愈史郎は、鬼舞辻無惨を太陽の下へあぶり出す為、鳴女を処理しにここに来ていた。居るはずの目標が不在、代わりに裏金銀治郎と胡蝶しのぶを発見したのだ。彼は、今現在無限城が崩壊していない事から一つの仮説に行き着いた。裏金銀治郎が何かしらの方法で、無限城を維持している。

 

 その維持している力を使えば、鬼舞辻無惨に一矢報いる事ができる。

 

「鬼舞辻無惨を地上に叩き出すためだ!! その為に、貴様の血鬼術を使わせて貰おう」

 

「銀治郎さん、彼馬鹿ですかね。そんなの普通に頼めば良いじゃありませんか。鬼舞辻無惨を殺すのは、銀治郎さんの目的の一つなんだし、何故暴力に訴えようとするんでしょう」

 

「良い疑問です、しのぶさん。そりゃ、無惨産の鬼だからに決まっている。愈史郎君も目障りだから、死んでくれ(・・・・・)――金の呼吸 肆ノ型 化合爆砕」

 

 女性の前でいつまで全裸で汚い物を見せつけてくるのだと裏金銀治郎はイライラしていた。血鬼術を回収済みの鬼なんて、早々に殺す。それは、変わらない基本方針だ。

 

 裏金銀治郎の流星刀が愈史郎の首をはねる。首から下が風船のように膨らみ爆発して木っ端微塵となった。実に、汚い花火だ。

 

「あらあら、殺しちゃったんですか、銀治郎さん。隔離施設じゃあれだけ働いてくれたのに~。さて、邪魔者も居なくなりましたね!! コホン、銀治郎さん。さっきの続きしてくれてもいいんですよ」

 

「おいで。多少予定外の事もありましたが、問題ありません。だから、しのぶさんは冷静に事に対処してください。それと――愛していますよ」

 

 ぽかぽかと可愛らしく裏金銀治郎の胸を叩く胡蝶しのぶ。

 

最終決戦を前に愛を告げられる事は、よくある展開。胡蝶しのぶは耳まで真っ赤にしていた。淫柱と言われる割に純情である。だからこそ、"誘い受け"の威力が破壊的なのだ。

 

「ずるいずるいーー!! なんで、それを今言いますか!! 恥ずかしいじゃないですか。わ、私も銀治郎さんの事を愛していますよ。喜んでください、こんなに若くて可愛い女の子から愛してると言われるなんて、普通ありえないんですよ」

 

「分かっていますよ。可愛くてエッチな女の子だってね」

 

 胡蝶しのぶが、裏金銀治郎の口を塞いだ。そして、唾液が糸を引く……その様子を見てしまった隊士達。無限城の畳に大量の唾が吐き捨てられる。畳に唾を吐き捨てるなど行儀が悪い。日本人にあるまじき行為である。

 

◇◇◇

 

 俗物有能隊士達は、裏金銀治郎と胡蝶しのぶのやり取りをしっかりと見ていた。

 

「やっぱり、金柱様って鬼だな。俺達独身隊士になんて物を見せ付けてくれる!! なに、あれ!? 最終決戦前に胡蝶様とイチャイチャ!! 羨ましすぎるだろう。そうだろう、幸村!!」

 

「いや、俺彼女居るし、普通だろう。あのくらい」

 

 20人の固い結束に綻びが生じる。だが、戦いとは同じレベルでしか発生しない。彼女持ちというステータスだけで、彼女無しは敗北が決まっていた。男同士の醜い殴り合いが発生する。

 

 馬鹿丸出しの行為だが、雰囲気が明るくなる。戦場の張り詰めた雰囲気は、彼等には無かった。

 

「いいな~胡蝶様。私もそれなりのスタイルだし~、愛人枠ならいけると思うんだけど。 アオイには金柱様のご実家を教えた恩もあるし、期待できるわよね」

 

「サクラ、何でお前は金柱様の実家を知っているんだ。あぁ、言っておくが実家の場所なんて俺達に言うなよ。後藤みたいになりたくないからな」

 

 天堂サクラ……神崎アオイの同期にして数少ない女性、そして俗物隊士の一人であった。彼女こそ裏金実家を神崎アオイに教えた張本人である。彼女が裏金実家を知る理由は、実に簡単だ。彼女の実家は裏金銀治郎と童磨が密会していた喫茶店だ。つまり、ご近所様という事だ。

 

「えっ、後藤って『隠』のあの人でしょ? 胡蝶様の戸籍情報を漏洩したまでは知っているけど、どうなったの?」

 

「あいつ、今、網走監獄で終身刑にされているぞ。二度とシャバ復帰は不可能だろうな」

 

「――今の話、みんな聞かなかった事にしてよ。今度、可愛い女の子紹介してあげるから」

 

 言われなくても報告するつもりなど無かった。

 

 言った言わないの話で刑務所送りなどごめんである俗物達。だから、何も知らない事にして可愛い女性を紹介してもらおうと考える。俗物に恥じない隊士達であった。

 

「俺、アオイちゃんを紹介して欲しい!! なんだかんだで、あの子可愛いからね」

 

「アオイは、産休だから無理よ。諦めなさい」

 

 俗物男性隊士が涙を流して崩れ落ちた。休暇ならまだしも、好きだった女性が産休で休みとか心を抉るに十分な攻撃だ。

 

「嘘だぁぁぁ!! 相手は、誰だよ!! 今なら、炎の呼吸の奥義が使える自信があるぞ。ぶっころしてやる」

 

「さぁ、父親は教えてくれなかったけど~、竈門炭治郎かな。女の勘だけど」

 

 女の勘とは、こういう時は無駄に鋭い。男性では、気がつけないような事を平然と言い当てる。そして、俗物男性隊士が何人も崩れ落ちた。数少ない可愛い女性隊士の下事情がドンドン暴かれて、絶望のどん底であった。

 

「え、でもアイツって胡蝶様の継子の栗花落カナヲとヤっているだろう。"柱稽古"の途中から態度があからさまだったしな。……あぁ~、だから産休で金柱様の所に避難したのか」

 

………

……

 

 俗物達は、人の不幸を笑っていた。人の不幸は蜜の味という、有り難い言葉の意味をかみしめている。そして、嫉妬の力を下弦級の鬼へとぶつけていた。

 

 遠くで鬼舞辻無惨が産声を上げて、お館様によって捧げられた生け贄を大量に食しているにも関わらず、元気なのは良いことだ。こういう奴等が大体最後まで生き残る。

 




アンケートへのご協力ありがとうございます^-^
前回ほどアンケートが拮抗しないで、少し安心しました!!

男の子なら誰でも一度はやってみたいよね!!




○どうでもいい作者の愚痴
新年になると、携帯ゲームがこぞって課金パック出してきて財布が痛いですorz
読者の皆様も、課金はご計画的にね^-^
※ネット○ーブルなんて滅びてしまえ!!


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59:大切な物を忘れてきた

いつもありがとうございます。

感想もありがとうございます^-^


 原作より強力になっている"鬼を人間に戻す薬"。その効果は、間違いなくあった。本来であれば、解毒には長時間を要する。

 

 だが、それを短時間で終わらせる方法が存在していた。

 

『無惨が復活する!! 柱以外の者達は直ぐに退避を!!』

 

 鎹鴉により鬼舞辻無惨の元に辿り着いた隊士達へ連絡される。だが、着いたと思ったら、直ぐに退避しろと言われても現場は混乱する。それなら、最初から柱を呼べと現場隊士の誰もが思った。

 

「ハッハッハ!! 産屋敷め!! これで、もう気持ち悪いなんぞ言わせないぞ。久しぶりに腹が減ったな」

 

 肉塊の様な繭から這い上がる一人の女性(・・)。その姿に、誰もが息を飲んだ。圧倒的な存在感。それは、隊士達に絶望感を与えるに十分であった。なにより、姿は女性なのに男の声という時点で理解の限界を超えている。

 

 そう!! 鬼舞辻無惨は、復活を急ぐ為、大切な物を繭においてきた。いいや、そうしなければ、復活に時間が掛かり命が危なかったので仕方がない事であった。この男にそこまでの覚悟をさせたのは、産屋敷耀哉の最後の一言が原因だ。

 

 女装が気持ち悪いというなら、本当に女になってやろうという結論に至る。理想の上司を目指す者は、性別すら超越する存在になったのだ。

 

………

……

 

 産屋敷輝利哉は、鬼滅隊の司令塔であり常に冷静な判断を求められる。

 

 だが、彼の経験不足云々をこの時ばかりは責める大人は居ない。産屋敷邸を訪れた時は、男であった1000年の怨敵が、女になって復活してきたのだ。目を疑うレベルの大事件だ。しかも、声だけ変わっていない。

 

「お兄様、指示を!! このままでは、全滅してしまいます」

 

「分かっている。だけど……どうすればいいんだ」

 

 頭を抱えて悩む産屋敷輝利哉。

 

 柱が居る場所から鬼舞辻無惨の居る場所まで遠い。その間、道中に居る隊士達の生存は絶望的だ。柱以下の隊士など何人いても、鬼舞辻無惨の栄養にしかならない。一般隊士達を大量に喰わせる事が最上の作戦だ。だが、お子様には、ホウ酸団子作戦の詳細は知らされていない。

 

 "柱稽古"に参加した隊士達は、その身に藤の毒を蓄積している。肉体そのものが鬼にとって猛毒だ。それを大量に喰えば、鬼舞辻無惨とて無事では済まない。全隊士を生け贄にする覚悟があれば、倒す可能性すらあった。

 

【銀治郎に任せてみなさい。きっと、上手くいく】

 

 産屋敷輝利哉の耳にハッキリと聞こえた。亡き父親の産屋敷耀哉の、後は裏金銀治郎に全てを任せておけという、都合の良い空耳。そして、今だけその声に従うことにした今代当主。

 

「お父様の声が聞こえました。現場は、現場に任せましょう。我々ができる事はもうありません」

 

「えっ!? お兄様!! しっかりしてください。死んだ人の声が聞こえるはずないでしょう」

 

 産屋敷輝利哉の妹の方は、突然死者の声が聞こえたという兄を本気で心配していた。このタイミングで壊れてしまったのかと。

 

 その様子を見かねた彼の姉である産屋敷ひなき――改め、胡蝶ひなきは、静かに部屋を退出した。金になりそうな物をかき集める。そして、静かに呼ばれる時を待つことにした。

 

 胡蝶ひなきが両親から託された思いは、産屋敷一族の存続。すなわち、ココで死ぬことはできない。その為ならば、兄弟すら見捨てる心構えがあった。

 

◇◇◇

 

 無限城を掌握している裏金銀治郎は、早すぎる鬼舞辻無惨復活に驚いていた。

 

 強力な"鬼を人間に戻す薬"を取り込んで、コレほど早く解毒ができるとは計算外であった。それは、裏金銀治郎だけでなく、胡蝶しのぶも同様だ。

 

「しのぶさん――無惨が復活しました。即効性、遅効性など薬のバリエーションは用意していましたよね?」

 

「当然です。どうします? 私達で迎え撃ちますか?」

 

 この時、裏金銀治郎はとてつもなく嫌な予感がしていた。

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶのペアならば、復活した鬼舞辻無惨を相手にしても後れは取らない。朝日が昇るまで耐えられるスペックは有している。

 

「なにか、嫌な予感がします。とりあえず、柱達をぶつけて様子見しましょう。動くのはそれからでも十分です」

 

 裏金銀治郎は、相手の手の内を確認するため、鬼滅隊の柱達を利用する事を決めた。上弦の壱との激戦を終えた直後だというのに、まさに鬼である。だが、鬼退治をする事が彼等の仕事だ。その最終目標を目の前に連れてきてくれる裏金銀治郎は、ある意味では神と言える。

 

「なかなか、酷い事をしますね。柱以外の方は、こちらに呼び寄せてください」

 

「栗花落カナヲさんの同期は、一人を除いて柱級の実力を持っています。鬼舞辻無惨討伐には、役に立つと思うんですが……、分かりました。丁度、善逸君があの部屋の縄を回収し終えた。なので、後は指を鳴らすだけ。ですが、まずは柱達に最高のプレゼントを贈りましょう」

 

 パチンと裏金銀治郎が指を鳴らす。

 

 鬼舞辻無惨を転移させた際、とてつもない違和感に気がついてしまった。想像より軽く、胸の膨らみ……そして、下半身にあるべき物がないという驚愕の事実。事実を確認すべく、裏金銀治郎は全能力を駆使して状況を把握してしまう。

 

 そして、鬼柱の全てを見てしまった。上から下まで隅々にだ……この時ほど、能力が向上した力を悔やんだことは無い。不幸中の幸いだったのが、既に吐く物がなかった事だ。

 

「銀治郎さん~、早くカナヲ達をこっちに連れてきてください。聞いてます?顔が真っ青ですよ、大丈夫ですか?」

 

「気分は、控えめに言って最悪です。今、コチラに呼び寄せます。それと、心して聞いてください。……鬼舞辻無惨が女になっていました」

 

「はい? こんな時に冗談を言うのは止めてくださいよ。仮に事実だとしても何の意味があるんですか? もしかして、嫌がらせでしょうか。……で、いつもの集英社情報を早く教えてください」

 

 むしろ、裏金銀治郎も教えて欲しい程であった。

 

 女装するくらいだから、女として復活しても可笑しくはない。だが、そのタイミングが何故今なんだと、裏金銀治郎にだって分からない事はある。それに、そんな情報は集英社とて持っていない。

 

………

……

 

 上弦の壱を決死の覚悟で討伐した柱一同。

 

 疲労困憊で負傷も多いが、誰一人欠けずに討伐した事に全員の眼には希望が宿っている。これだけの戦力が揃って最終決戦にいける。だからこそ、負ける事は無いと考えていた。

 

 そして、これからの彼等の課題は大きく二つになる。

 

 一つ目が、予定通りに鬼舞辻無惨を討伐する事だ。これは、兼ねてからの計画であり不変。産屋敷耀哉の弔い合戦でもあるので、最優先事項であった。無限城にいる誰もが納得する目標だ。

 

 二つ目が、煉獄槇寿郎からの伝達内容だ。裏金銀治郎の討伐と胡蝶しのぶの確保……簡単に言うが、難しい案件であった。困難な理由の一つが、難色を示す柱達がいる点である。コレに関しては、内部でも事前確認しておかなければ不要な争いを生む案件であった。

 

 裏金銀治郎討伐反対派筆頭である音柱は、一段落した所で全員の意志を改めて確認する。

 

「俺は、鬼舞辻無惨の討伐には当然参加する。だが、元・炎柱の伝達――「裏金銀治郎の討伐」と「胡蝶しのぶの確保」は絶対にやらねーからな。場合によっては、派手に敵対するぜ」

 

「俺も音柱に賛成だ。あの二人に手を出すようなら、俺が相手をしよう。恩を仇で返すような男は、男に非ず!! 」

 

 柱専用の緊急活性薬を何度も投与した事により、この場で誰よりも怪我をしていない柱である煉獄杏寿郎。彼が敵に回ると言うだけで、裏金銀治郎討伐賛成派は不利になる。

 

「なんだぁ、てめーら揃いも揃って!! 鬼は、皆殺しだろう」

 

「あ、僕は金柱さん相手なら中立で」

 

 好戦派の風柱。だが、彼に賛同する者はまだ居ない。反対派の音柱、炎柱、中立の霞柱。意思表明していない柱に無言の圧力が掛かる。

 

「鬼は、殺す」

 

「珍しく意見があったな、冨岡。そうだ、鬼は殺す。それでいい」

 

「私の寿命は、今日限りであろう。だから、鬼舞辻無惨を殺して時間があれば、鬼退治だけ(・・)は手伝おう」

 

 好戦派に水柱が加わり、条件付きで岩柱までもが加わった。

 

 つまり、この時点で狂信者が殺すべきターゲットが決定した事になる。幸いな事に、我妻善逸は裏金銀治郎の命令で上弦の壱の刀身を回収に来ていた。だが、少し遅くなり依頼の物が回収できない失態をおかす。

 

 そんな失態を神への反逆者を始末する事で挽回しようと刀を抜いていた。彼の奇襲ならば、最低柱一人は道連れにできる。だが、それが実現しなかったのは、この場に第三者が突然、出現した事だ。

 

「ここは……黒死牟に守らせていた場所か。あぁ、死んだのか。コレだから無能は嫌いなんだ。侵入者を誰一人殺さず死ぬなど、上弦の面汚しめ」

 

 全裸の女……体の所々にワニの様な口があり、人間でない事は明らかだ。鬼にしても、造形が整いすぎている。面こそ汚れていないが、色々と真っ黒な彼女である。とりあえず、鏡を見て誰が面汚しなのか考えるべきだ。

 

 何者であるか最初に気がついたのは、視覚からの情報に惑わされない鬼滅隊最強の男であった。

 

「無惨だ!! こいつが、鬼舞辻無惨で間違いない」

 

「霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り」

 

「水の呼吸 参ノ型 流流舞い」

 

「風の呼吸 漆ノ方 勁風・天狗風」

 

「なんだ、この気持ち悪い女は!! 音の呼吸 伍ノ型 鳴弦奏々」

 

「声が男の物だ!! あれは無い!! 炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天」

 

 柱達の総攻撃が始まった。

 

 音柱と炎柱以外は、鬼舞辻無惨(女)に全く動じない。精神力故か、理由は定かで無い。もしかしたら、動じない柱は女とは、こんなものかと思っている可能性がある。もし、そうならば、全国の女性に土下座だ。

 

 上弦の壱との戦い同様に、岩柱が竈門炭治郎達には後方支援を命ずるが……そこには誰もいなかった。裏金銀治郎の手で彼の元へ転移させられている。

 

 全柱の攻撃に対して、背中に触手を生やして対応する鬼舞辻無惨。一体、何処の変態鬼がこんな血鬼術を開発したのだろうか、裏金銀治郎は褒めたい気持ちであった。そして、その触手を見て、「ぎ・ん・じ・ろ・う・さ・ん」とおねだりする人が居るとか居ないとか。

 

「鳴女ぇぇぇぇぇ!! 柱をさっさと分断しろ。鳴女……いないだと」

 

 鬼舞辻無惨は、無限城がある事から鳴女が健在だと信じていた。

 

 自らの配下に既に鳴女が不在で、無限城が奪われている事に気がついた瞬間だ。太陽の当たらない無限城の中、ココこそが無敵の安全地帯だと思っていた男だが……場合によってはいつでも外に投げ出される可能性がある事に焦りを覚えた。

 

 鬼舞辻無惨は、全ての柱を殺した上で無限城のコントロールを乗っ取っている誰かを日の出までに殺さないといけないミッションを背負う。

 




よし、無惨様大復活!!

原作で無惨様の新能力が公開されないと触手プレイしか見せ場が無くなってしまう。



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60:異常者

いつもありがとうございます。
感想もありがとうございます!!


 裏金銀治郎は、竈門炭治郎達が混乱しているのも無理がないと思っている。

 

 目の前に女体化した鬼舞辻無惨があられもない姿で登場したと思ったら、いきなり別の場所に転移させられた。転移先にいるのが、裏金銀治郎と胡蝶しのぶの二人である。今現在、鬼滅隊から絶賛指名手配を受けている二人。

 

「お久しぶりですね。栗花落カナヲさん、かまぼこ隊のみなさん、不死川玄弥君。こうして、また再会できた事を喜ばしく思います」

 

「銀治郎さん、その言い方だとすごーーーく胡散臭いですよ。実は、貴方が黒幕でした的な感じがします」

 

 丁寧に再会の喜びを伝えたら、胡蝶しのぶから酷いツッコミがはいる。本人は、至って真面目であった。人とのコミュニケーションは挨拶から始まる……それを実直に行っていた。だが、それは、聞く側にとっては不安を大きくする。

 

「師範!! 今まで何処でナニをしてたんですか。指導してくれるって約束したのに」

 

「カナヲ、心配をかけましたね。色々、あったんです。全てが終わったら、お話しましょう」

 

 栗花落カナヲは、胡蝶しのぶに抱きついた。

 

 その絵図は、再会を果たした姉妹のように見える。だが、絵面だけだ!! 淫魔見習いを淫魔へと育て上げる話し合いになるに決まっている。そして、その美味しい被害者になるのが、不安そうな顔をしている竈門炭治郎だ。

 

「美しい姉妹愛ですね……戸籍上は、親子ですけど。単刀直入に聞きます。鎹鴉から全隊士向けに連絡があったように、私が鬼になった事は事実です。降りかかる火の粉は払いますが、それ以上はしたくありません。だからこそ、君達一人一人に問いたいのです。私の味方か敵対か――中立かを。ちなみに、味方でなければ、無惨とのデスマッチに放り込みます。聞くまでもありませんが、善逸君」

 

「私は(裏金銀治郎)の下僕でございます。この場を借りて、謝罪したい事がございます。神より賜った仕事を達成できませんでした。この我妻善逸に挽回のチャンスを頂きたくお願い申し上げます」

 

 額に血が滲むほど頭をこすりつけて土下座するその様は、嘴平伊之助と不死川玄弥をドン引きさせる。裏金銀治郎を信仰しているのは彼等も知っていたが、ここまで常軌を逸しているとは想像できていなかった。

 

「君は何時も期待以上の働きをしてくれる。君の全力で間に合わないなら、他の誰でも無理だ。そうそう、竈門禰豆子さんは、元・炎柱がいる部屋の横の布団で寝ている。鱗滝左近次がトイレ休憩とかで席を外すときもあると思うんだよね。元・炎柱は、しのぶさんの姉である胡蝶カナエを酔いつぶしてホテルに連れ込もうとした過去がある。私なら今すぐにでも彼女をこの安全地帯に連れてこれる――で、炭治郎君はどっちの味方だっけ?」

 

(裏金銀治郎)の味方です。どうか、禰豆子を助け出してください。俺、頑張るんで、あっち(神崎アオイ)の件もどうかお願いします」

 

 竈門炭治郎も裏金銀治郎の前に膝を折った。そして、忠誠を誓う。それ以外に彼には選択肢が残されていなかった。他を選べば破滅する可能性が極大だ。大人になった彼は、この世知辛い大正時代を生き抜く為、きれい事だけではダメだと知る。

 

 家族ができれば、明日食べる食事を手に入れるためお金が要る。炭屋という選択肢もあるが、このご時世、それでは生活が日を追うごとに辛くなる。妹や家族……生まれてくる子供を支えるには稼ぎが必要だ。

 

 恩もあるので、膝を折るのに十分な理由であった。

 

「炭治郎もやっと、神の素晴らしさが分かったんだね。何か、分からない事があったら俺に聞いてくれよ。これからも、仲よくやっていこう」

 

「善逸、本当に!! 本当に期待しているからな」

 

 竈門炭治郎は、これから降りかかる女性問題を解決すべく、我妻善逸を師と仰ぐ事を決意する。

 

「次に、伊之助君。鬼が滅べば、君の大好きなお爺様も安全だろう。君は、母親の仇を討った私と敵対するかね?それとも、味方になるかね?」

 

「俺に母親はいねぇぇぇぇぇ。鬼は、本当に嫌いだ。だが、味方してやる。さっきから、しのぶがすげーーーこぇんだよ。俺が敵対したら、絶対に殺される気がしてるわ」

 

「伊之助君、しのぶさんは美人で優しいですから恋心を抱くのは構いませんよ。私も妻がモテるというのは鼻が高い……だけど、手を出そうものなら肉片一つ残さずこの世から焼却します」

 

 ビリビリと空気が震えた。

 

 獣の世界では、NTRとかも当たり前かも知れないと思い、裏金銀治郎が念のため釘を刺した。その圧倒的な圧力は、上弦の壱を凌ぐ程だと彼等は理解する。

 

「お、おう」

 

「素直で宜しい、伊之助君。では、次に不死川玄弥君。君はどうしますか? 貴方の兄である風柱は鬼は殲滅する心構えです。同調した柱もいます。一時的とはいえ、鬼化できる君は人間とは言えないでしょう」

 

 裏金銀治郎は、風柱が都合の良いときだけ弟は人間だと解釈をする汚い人間だとは思っていない。まさか、あれだけでかい口を叩いて弟だけは許してやるとかいう軟弱な意見は許されない。

 

「それでも、俺は兄貴の元へ帰りたい。兄貴に死なれたら寝覚めが悪い。裏金さんには、恩もある。俺が短期間で(きのえ)になれたのも感謝している。だから、中立をとらせてくれ」

 

「美しい兄弟愛だな。まぁ、いいだろう。どうせ、止めても兄の元へ行くんだろう。散弾銃じゃ心許ないだろうから、コレを持っていけ」

 

 裏金銀治郎は、影の中に格納していた三八式機関銃を予備マガジンと一緒にプレゼントした。剣士としての才能が乏しい不死川玄弥では、鬼舞辻無惨に近づく事は困難だ。だが、近づかずに攻撃する手段があれば話は別だ。

 

 不死川玄弥は、裏金銀治郎からのプレゼントを受け取り頭を下げた。そして、ココに残るといった同期達に最期の挨拶をする。兄とは違い実にできた弟である。見た目は、どこからみても不良だが……人は見た目で判断してはいけない典型だ。

 

「最後に、栗花落カナヲさん。聞くまでもありませんが、貴方はどうしますか?」

 

「あちら側に居る意味があるのでしょうか?勿論、師範と炭治郎さんが居ますので、コチラ側です。裏金さんと敵対してもいい事ありません」

 

 裏金銀治郎は、予定通りになったと喜んでいた。

 

 柱達が鬼舞辻無惨を倒すか、鬼舞辻無惨が柱を倒すか高みの見物を決め込む裏金一派。どちらが勝っても、ラスボスは裏金銀治郎である。彼自身も何故こうなってしまったのか、何処で道を誤ったのか分からなかった。

 

 だが。心強い仲間が居る事に安心していた。

 

◇◇◇

 

 鬼の始祖である鬼舞辻無惨は、柱全員を相手に凌げるスペックを有していた。

 

 柱達もその異常性に気がつく。身体能力もさることながら、その再生能力が問題であった。切り刻んでも即座に回復してしまう。ダメージを蓄積する事ができない。

 

 危険な賭けにでて、腕を切り落としても即座に接合されてしまう。体力が有限である柱達にとっては、悪夢のような相手である。

 

 そんな無謀とも言える特攻を仕掛けてくる鬼滅隊の柱に鬼舞辻無惨は嫌気がさしていた。朝日が昇るまでに、無限城を取り戻さないといけないという使命があるのにココで時間を食うわけにはいかない。

 

「しつこい。何故、自分を亡き者にしようとするのか?それは、自分が彼等の親の、子の、兄弟の生命を奪った鬼の首魁だからか? だとすれば、筋違いだ。過去の私は、もう居ない。見よ、この美しい体を」

 

 鬼舞辻無惨は、柱達に同意を求めた。

 

 彼自身、既に男である自分は捨ててきているのでそれで罪は洗い流されたと自負している。だからこそ、女性体となった自分を執拗に付け狙うのが疑問でならなかった。美しすぎる事が罪なのかとすら思っていた。

 

「何を言ってんだぁぁぁ、オィ」

 

「落ち着け、不死川。これは、無惨の策略だ。冷静になれ」

 

 悲鳴嶼行冥は、好機だと考えた。鬼舞辻無惨が自ら手を休めて、棒立ちだ。そして、長々と演説を始めた。つまり、朝日が昇るまでの時間を自ら消費している。ここは、話に乗るべきだと冷静に判断する。

 

 盲目であるが、透き通る世界を感じ始めている悲鳴嶼行冥。他の者達より視覚的ダメージは少ないが、疲労が蓄積していた。

 

「貴様等は、恥ずかしくないのか? 女を相手に、刀を手に集団で襲いかかるなど、日本男子にあるまじき行為であろう。恥を知れ」

 

「貴様、何を言っているんだ!!」

 

 冨岡義勇が、柱全員の心を代弁する。普段無口な彼だが、この時ばかりは冴えていた。普段からこれならば、対人関係はマシになっていただろう。

 

 仮に、地獄からこの光景が眺める事ができたのなら、12鬼月達が全員口を揃えて言うだろう、「おまえが、言うな」と。そして、心が通い合った鬼と人間が手を取る時代を迎える事ができたかもしれない。

 

「分からぬか? 私を殺したとしても、死んだ人間が生き返ることはないのだ。いつまでもそんな事に拘ってないで日銭を稼いで暮らせば良いだろう。殆どの人間がそうしている。何故お前達はそうしない? いい加減、前を見て生きろ。過去に囚われると碌な事にならない」

 

 過去を清算して女体化した鬼の言う事は正論であった。そんな真っ当な良い台詞は全て書物からの引用である。だが、この場において、スラスラと口にできるのは、彼が勉強した成果だ。

 

 ただし、それを鬼滅隊の柱達が受け入れるかは別問題だ。

 

「ふ、巫山戯るな!! 一体、貴様のせいで何人死んだと思っていやがる」

 

「貴様は、今まで食べる為に殺した牛や豚の数を覚えているのか? 諦めろ、その問いに何の意味も無い。人間は過去を忘れ、明日を生きる生き物だ。何故、それが貴様等にできない。理由は、ひとつ――鬼狩りは、異常者の集まりだからだ。異常者の相手は疲れた。いい加減、終わりにしたいのは私の方だ」

 

 鬼に異常者呼ばわりされる柱達。だが、否定する要素は無かった。特に、元忍者であり過酷な訓練を経験した宇髄天元は、世間一般的には異常者で間違いない。

 

「だからこそ、貴様等に提案がある。双方に利益のある話だ。『敵の敵は味方』という、素晴らしい言葉がある。無限城のコントロールを奪った者を倒すのを手伝え。これは、貴様等にとっても死活問題だ。この空間が閉鎖されれば、貴様等は生き埋めだ。私以外助からん」

 

「できない相談だ、鬼舞辻無惨!! 俺には、何となく誰が裏で動いているか見当が付いている!! だからこそ、貴様の言葉より、(裏金銀治郎)の方を信頼できる。貴様を殺して、恩を返す」

 

 信頼とは簡単に手に入る物ではない。実績の積み上げが大事である。煉獄杏寿郎の信頼を勝ち取るのは、鬼舞辻無惨には不可能だ。

 

 それを覆す事ができる方法もあった。莫大な報酬などが良い例である。そして、全てを失いつつある鬼舞辻無惨が用意できる報酬は一つだけあった。古来より、男への最大の報酬は美女である。見た目だけは、美女である鬼舞辻無惨。

 

 上弦達が泣いて喜んだ"おめこ券"が遂に柱達へ配られる瞬間であった。

 

「つまり、私の味方をするにあたり報酬が欲しいと言う事だな。受け取るがいい。その券を持つ限り、貴様等の未来は私が保証しよう」

 

 鬼舞辻無惨が夜なべして、一枚一枚丁寧に作った"おめこ券"が紙吹雪のように舞い散る。この券が裏金銀治郎の全力でも消し飛ばせない紙切れだとは誰も知らなかった。

 

 柱全員が何かと思い手に取り、呪いのアイテムを手に入れる。

 

 




漫画無いのでネット情報で調べながらだと大変でした。

後は、恋柱と蛇柱も参戦させましょうか。
蛇柱が泣いて詫びるのが目に浮かぶ。


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61:銃は剣より強いし

何時もありがとうございます。
感想もありがとうございます!!

アンケートですが、1/5(日)24:00までになります^-^
このまま行けば、ぶっちぎりでNHK特番!!
(1319) 1)NHK特番(東洋のジャンヌダルク)



 裏金銀治郎は、鳴女から奪い取った無限城の能力に手を加えていた。

 

 柱達との戦闘を把握できるのが、無限城の管理者である裏金銀治郎だけでは不安があった。対鬼舞辻無惨戦や対柱戦を想定したとしても手の内を知ると知らないとでは雲泥の差が生じる。

 

 現場の様子を安全地帯で退屈そうにしている者達に見せるには二つの方法が存在した。脳髄あたりにズブリとプラグの様な物を差し込んで映像を直接流し込む方法とテレビのように映像を映し出す方法だ。

 

 簡単なのは前者だ。だが、控えめに言って心地よい物では無い。だから、時代をかなり先取る事を決意した。複数の血鬼術を併用する事で実現させた遠見の鏡である。鳴女が使っていた目玉のおやじ的なアレからの情報を鏡に映し出す。裏金銀治郎であっても、コレを使っているときは動けないほど負荷が掛かる。

 

 畳二畳はある大きな鏡が鬼舞辻無惨の活躍を映し出した。床に"おめこ券"が散らばる中、必死に戦い続ける柱達が映し出される。壁に耳あり、障子に目ありというように……戦場となっている部屋の壁一面に耳が出現し、実に気持ち悪いバトル空間を作り上げてしまう。

 

「凄いですね、銀治郎さん。これ、どういう原理で向こうが映っているんですか?」

 

「私も詳しい原理は分かりませんが、やろうと思ったら出来ました。血鬼術とは、本当に便利な物です。ですが、後30年もすればテレビという物が普及してこれと近い事が身近になります。カラーだと更に先です」

 

 戦いの様子は、どう見ても柱達がじり貧であった。

 

 不死身で疲労しない鬼舞辻無惨と生身で疲労する柱であれば、持久戦で勝てる要素は何処にも無い。それに、刀とて耐久度に限界がある。岩をも砕く攻撃を何度も防いでは、いずれは壊れる。

 

「やはり、戦力的に不利ですか……甘露寺蜜璃さんと伊黒小芭内さんを投入しましょう。幸い、彼女が持っていた緊急活性薬で伊黒小芭内さんが復活しております。無限城を走り回っているみたいですから、ちょうどいい」

 

「こりない人ですね~。でも、伊黒さんの刀はへし折りましたから、代わりを渡さないと的にもなりません」

 

 映像で映る柱を必死に応援する者達。その様子に、裏金銀治郎はまるでスポーツ観戦だと思っていた。安全な場所から頑張る人を応援するとは、本当にいいご身分の者達である。

 

「あれほど特殊な日輪刀は、ありません。ですが、この日の為に集めた物資を彼等に開放しましょう。あの倉庫にあった物資は、全て持ち込んでいます。では、怨敵の前に送ります」

 

 裏金銀治郎が指をパチンとならす。

 

 予備の日輪刀と隊服などの物資と一緒に、戦場の場に柱二人が届けられる。彼女達は、何が起こったか理解できなかった。だが、柱達が総出で闘う存在が鬼の首魁であると理解する。

 

………

……

 

 映像を見て必死に応援をする裏金一派。実に気楽であった。柱達は、カオス的状況なのに奮闘している。だが、カオスと言えば裏金達も同じであった。

 

 竈門禰豆子の身の安全を守る為、無限城へ収納したまでは良かった。我妻善逸も妻達が心配だと頭突きで畳が凹む程頭を下げてきた。そして、淫魔三人衆までもここに呼ぶ事になった。

 

 女子供が心配になるのは当然だ。ほぼ全ての鬼が無限城に居るとは言え、鬼舞辻無惨や鳴女が秘密裏に鬼滅隊の拠点襲撃を計画していたかも知れない。おまけに、こう言う場合は鬼より人間の方が恐ろしい。

 

 後先無い人間が、女性を暴行する事件なんぞ世の中何処でも発生している。

 

「冨岡さんの刀が折れたぁぁぁぁ!! (裏金さん)、新しい刀を送ってあげてください。後、包帯と隊服も追加でお願いします」

 

「手が焼けますね。折角だし、あの床に散らばっている券を隊服の裏地に縛り付けよう」

 

 竈門炭治郎の願いに応える裏金銀治郎。

 

 裏金銀治郎は、しれっと懐にある一枚の"おめこ券"までを隊服の裏地に縛り付けた。下弦の伍から頂戴した能力にこんな使い道があるとは、嬉しい誤算であった。そして、隊服を受け取ると同時に"おめこ券"の所有権も譲渡されるという素晴らしいアイディアだ。

 

 

◇◇◇

 

 宇髄天元は、この場を覗いて居るであろう裏金銀治郎の存在に気がついた。

 

 先ほどから、絶妙なタイミングで物資が支給されてくる。日輪刀、医療品、隊服、弾薬をここまで準備できる存在は一人しか居ない。そして、この場に胡蝶しのぶが居ないと言うだけで、犯人は確定している様なものだ。

 

「くっそ、近付くのすら困難だ。何か派手に良い手は……」

 

「兄貴!! 弾の装填がおわった。正面は、任せてくれ」

 

 対鬼舞辻無惨戦で一番のダメージソースとなっている不死川玄弥。弾速は、鬼舞辻無惨であっても回避不能な速度だ。速度、威力、攻撃速度……どれを取っても不足は無い。

 

 音柱も無防備な案山子相手であれば、同程度のダメージは出せる。だが、近づけない、攻撃も滅多に与えられない。それに、毒でドンドン体力が落ちるこの状況下。

 

「ヨッシャー!! 裏金さん、見てんだろ!! 俺にもその銃を持ってこいやーー。後、毒を消すため例の札も頼んだぜ。そうしたら、派手に倒してみせる」

 

 忍者として、時代に沿った兵器の取り扱いを熟知するのは当然の嗜みである。敵が近代兵器で武装している可能性もあるので、勤勉な忍者は手を抜かない。

 

 ガシャガシャと何もないところに突然送られてくる武器弾薬。そして、無敵の防御力を誇る隊服。派手に倒してやると言った手前、彼は無敵の隊服を手に取った。

 

………

……

 

 毒まで用いた方法で柱達を全滅させようとする鬼舞辻無惨のやり方は、地味に強力だ。"痣"に覚醒していない者であれば、直ぐに命を落とす猛毒……覚醒している柱であっても長時間耐える事は出来ない。

 

 それを解毒できる事を知っているのは宇髄天元だけであった。彼は、吉原の一件で裏金銀治郎の血鬼術を体験している。そして、当時の約束どおりに秘密を守っていた。目の前で仲間が猛毒で苦戦しても、教えていない。

 

 送られてきた札は数が少なかった。宇髄天元は、使い切りなのか使用回数制限があるのか、理解していない。だからこそ、使うのは自分に限定する必要があると割り切っている。この場で冷静な判断で行動でき、万が一の場合には、理解ある仲間を引き連れて裏金一派に鞍替えする。その先頭となる必要が彼にはある。だから、死ぬわけにはいかない。

 

 宇髄天元が引き金を引き続けるほど、鬼舞辻無惨が面白いように肉を散らす。

 

「一体、どこまで知った上で準備していたか気になる。それに……この派手さが最高だ!! 時代は、銃だな。ガキ、派手に撃ちまくるぞ!!」

 

 宇髄天元と不死川玄弥の攻撃のお陰で柱達もかなり余裕が出てきた。

 

 だが、余裕が出たからといって、毒は確実に柱達の体を侵食している。そもそも、かすり傷一つで死ぬような猛毒とは、ラスボスが使って良い方法では無い。

 

 激戦の最中、鬼舞辻無惨は、執拗に甘露寺蜜璃を狙っていた。その理由は、醜い嫉妬だ。美貌という点では負けていないという無駄な自負がある鬼舞辻無惨。だからこそ、その女性を守るナイト的な存在がいる事に苛立ちを覚えていた。そして、ほぼ全裸である自分より、何故かエロイ甘露寺蜜璃……女として許しがたかったのだ。

 

「キャーー」

 

「甘露寺!! 今、助けにいく」

 

 甘露寺蜜璃の体には毒が回っていた。狙われ続けた事でかすり傷を受け、他の柱より多くの毒を受けている。その結果、足を取られて戦線離脱を余儀なくする程の怪我を負う。片耳を削がれて血が止まらない。更には、胸には大きな傷を残す。

 

 伊黒小芭内は、甘露寺蜜璃を抱えて後方へと移動した。

 

 機関銃が乱射されるその場所には、医療物資もある。包帯と傷薬といった軽傷向けの者ばかりだ。だが、重傷であっても治癒を可能とする柱専用の緊急活性薬を知る彼は、それを探した。だが、当然あるはずもない。

 

「宇髄!! お前が持っている緊急活性薬があるだろう。それを早く甘露寺に」

 

「諦めろ、伊黒。仮に傷は治っても、毒が回りきっている。緊急活性薬を使うなら、悲鳴嶼さんにしろ。それが最良だ」

 

「巫山戯るな!! 貴様、忍者だろう。毒消し位は持っているだろう、出せ」

 

「鬼の毒が消せるなら、俺は上弦相手に死にかけなかった。だが、女性を見捨てるのは……男として、ダメだよな。これ本当は口止めされているんだが……よく、聞けよ!! 鬼の毒を消せる方法と緊急活性薬を手に入る方法が一つだけある」

 

 いい男である宇髄天元。

 

 彼は、見捨てようと思ったが女性を見捨てる事と男同士の約束を天秤に掛けていた。そして、女性を見捨てては男が廃ると結論に至る。勿論、後から色々言われるだろうが甘んじて罰を受ける覚悟もあった。

 

「裏金さんに、頭を下げてお願いしてこい。分かってんだろう、都合良く日輪刀などの物資が突然現れるわけない。今、裏金さんの支援が途切れたら、俺達は全滅だ。だから、俺から緊急活性薬を無理矢理奪おうとするのは止めておけ」

 

 伊黒小芭内は、一度裏金銀治郎からの誘いを拒んでいる。それどころか、命を狙おうとした。逆の立場であれば、今更何を言っているんだというレベルだ。

 

「だが、奴は鬼になり、胡蝶を洗脳して」

 

「馬鹿か!! あんな雌の顔をした女が洗脳されているわけないだろう。ありゃ、喰われているのは裏金さんの方だ。間違っていたら、俺が坊主にでもなってやる。そんな事もわからねーーのか。だから、女にモテねーんだよ」

 

 宇髄天元……先代お館様である産屋敷耀哉の命令で、裏金銀治郎を監視する任務に一時的についていた。胡蝶しのぶが提案した通り、バレずに監視するならばこのレベルの者が必要であると言われたからだ。

 

 そして、寒い夜の下で双眼鏡を片手に、思わず殺意が芽生えるほど下事情を見せ付けられていた。恩人に対して、失礼のないように報告書ではそこら辺を割愛してくれる程の男前である。

 

「裏金ーーー!! 聞こえているんだろう。頼む、甘露寺を助けてくれ」

 

 伊黒小芭内は、頭を僅かに下げるが、それはお願いする態度とは程遠かった。握り拳から血が滲むほど、彼には耐えがたい苦痛である。彼の中では、過去に自分を救ってくれた元・炎柱の言葉が何よりも重い。

 




最近ジャンプも読んでおりますが、単行本派の作者には新刊が待ち遠しい限りです。

(おめこ)券は銃より強いんだけどね!!


11月から投稿を頑張って、ここまでこぎ着けた!!
来週は引っ越しとかで色々忙しいので、更新予定は未定です。
本来なら、引っ越しまでに完結させて、後日談をまったり執筆予定だったが、スケジュールがダメだった。
行き先はあの有名な関ヶ原がある県……美味し食べ物がいっぱいありますように



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62:ネコを崇めよ

何時もありがとうございます。
感想も本当に嬉しいです^-^

アンケートへのご協力ありがとうございました。
大変多くの投票を頂き、「1)NHK特番(東洋のジャンヌダルク) 」が、一位を獲得出来ました。つきましては、本編完結後に執筆して投稿したいと思います。

○アンケート結果
(1364) 1)NHK特番(東洋のジャンヌダルク)
(333) 2)時間跳躍のバイアグラ(50話後書き)
(163) 3)時空淫界のドグマ(52話後書き参照)
(682) 4)キメツ学園~JK3年生の夜の部活動~


 裏金銀治郎は、非戦闘員を近くの部屋に隔離した。その際、眠りについている竈門禰豆子と淫魔三人を見送る竈門炭治郎は、大丈夫だろうかと不安でたまらなかった。毎晩複数プレイを嗜む我妻善逸は、妻達がどっちもいける口だと知っている。だが、無駄な不安を煽る為、竈門炭治郎には伝えない。

 

 竈門禰豆子にとって、幸せとは何なのだろうか。彼女は、兄である竈門炭治郎をとても優れた男性(・・)であると認識している。己の身を呈して、守り通すその姿勢は、大事な何処か(・・・・・・)がキュンキュンと反応する程だ。だが、彼女と竈門炭治郎は間違いなく血の繋がった兄妹。

 

 世の中、"カッコウの雛"と呼ばれる事象が存在している。古今東西、未来に至るまでその被害者となる男性は数知れない。竈門禰豆子の周りに居る男性は、血縁者を除けば裏金銀治郎、我妻善逸、嘴平伊之助の三名である。つまり、そう言うことだ。

 

………

……

 

 裏金銀治郎は、伊黒小芭内が華麗な手のひら返しをする事に対して不信感しか持っていない。勿論、伊黒小芭内の心情も理解している裏金銀治郎。だが、理解していても納得するかは別問題だ。

 

「ここで、甘露寺蜜璃さんを助ける事は難しいことでは無い。しかし助けたとしても、伊黒小芭内さんは無惨を殺し終えたら、私を殺しに来る事には恐らく変わりは無い」

 

「まぁ~、そうなるでしょう。禰豆子さんの一件でも、最後まで頑として認めなかった数少ない柱です。その鬼が銀治郎さんともなれば尚更です。正当防衛とはいえ、既に鬼滅隊の隊士を手に掛けているなら、言い分はいくらでもあります」

 

 酷い話だが、その通りである。裏金銀治郎は、襲ってくる隊士を既に殺害している。ここが、竈門禰豆子と違い庇う事が難しいポイントだ。

 

 日の出まで後90分近くもあるのに、柱に脱落者が出ては伊黒小芭内は当然として、鬼滅隊側のモチベーションは落ちる。毒の回り具合からも考えて、音柱のような退路を確保済みの柱を除けば、後10~15分もてば御の字の状態だ。

 

「伊黒小芭内さんには、何ら関心も湧かない。あんな親の敵を見るような目でお願いして意味があると思っているんでしょうか。しのぶさんとの約束もあるので、助けたい気持ちはあるんですが……正直、どうしたいです?」

 

「甘露寺さん()、助けましょう。伊黒さん云々は、関係ありません。私が、甘露寺さんを助けたいから助けるんです。だって、彼女いい人ですから」

 

 胡蝶しのぶの一言で助ける事が決定した。その決定に安堵するかまぼこ隊の者達。"柱稽古"を経験し、縁がある女性が死ぬのは心苦しさを感じていた。

 

 そんな心配が解決した所で新たな問題が発生する。

 

 最終決戦の場所に、一匹の猫が紛れ込んでくる。それも、珠世が子飼いにしていた優秀なネコである。

 

「神、ネコが紛れ込んでいます」

 

「あぁぁぁぁ!! あれは、珠世さんのネコ!? どうして、こんな場所に?」

 

 我妻善逸と竈門炭治郎が存在に気がついた。映像越しだというのによく観察している二人である。ネコが、甘露寺蜜璃へと近付く。その行動の意図が全く読めない裏金一派。ネコ一匹で戦場が好転するなら柱なんて要らないとすら考えていた。

 

 だが、その考えは裏金銀治郎が甘かったと言える。

 

 ネコが背負う鞄から、柱専用の緊急活性薬が大量に出てきた。それを確認した、伊黒小芭内は目を疑ったが、直ぐに緊急活性薬を甘露寺蜜璃に投与する。その傍らで、ネコが鬼舞辻無惨の毒を一時的に中和する薬を彼女に投与していた。

 

「なんだよ、あのネコ。知能高いとかそんなレベルじゃないぞ。あそこまでいくと、ネコの姿をした別の生き物だぞ。しかも、緊急活性薬を横領までしていたとは許せないな」

 

「えぇー、銀治郎さんも結構な数を懐にしまっていましたよね」

 

 下弦の鬼から搾り取った血液を凝縮して作る薬の為、製造から加工までにそれなりの労力を要する。市場に出回れば、お値段が付けられない代物だ。それを、何本も懐にしまっている裏金銀治郎も大概であった。

 

「私は、施設の管理者兼計画立案者だから良いんですよ。素材も資金もこの手で集めていたんですから。彼女は、外部協力者です。"鬼を人間に戻す薬"の研究をさせていたのに、傍らで横領とか許されませんよ」

 

「まぁ、彼女達への監視は杜撰でした。それに、鬼なんですから、人の常識で考えちゃ駄目です。で、どうします? 伊黒さんが何事も無かったかのように、戦いに向かいましたよ」

 

 伊黒小芭内は、ネコから回収した緊急活性薬と中和薬を闘う柱達に配った。だが、その配布先は、限定される。鬼舞辻無惨討伐後、裏金銀治郎を殺すと明言した者だけだ。中立派や殺害反対派には、鞍替えする事を条件で提供する心づもりだ。

 

 だが、そんな心づもりならそれでも裏金銀治郎は構わないと思っていた。

 

「仲間同士で足の引っ張り合いとは、醜い。最終決戦をしているという自覚はあるんでしょうか。あぁ、私は別に良いんですよ。彼等の味方というわけではありません」

 

 珠世の飼いネコ……裏金銀治郎は、そこから何か忘れているのでは無いかと考えた。喉まで出かけているがあと少し足りない。そんな思いをしていた。

 

 その時、裏金銀治郎達が控えている場所に肉の胞子が落ちてくる。

 

「ただの雑魚鬼だと思っていましたが、思わぬ伏兵でしたか。全く、私じゃ無くて鬼舞辻無惨を狙って欲しいものですけどね」

 

 これだけのメンツ相手に直前まで気配を悟られない有能さ。目くらましの術がないのに、素晴らしい。鬼になる為に生まれてきた浅草の男が残っていた。だが、惜しい……無限城の中で無ければ手傷を負わせる事も出来ただろう。

 

「大丈夫です。銀治郎さんが、血鬼術を処理します。あの天井に引っ付いている鬼は、任せましたよ」

 

「「御意」」

 

 竈門炭治郎と我妻善逸……裏金銀治郎への貢献度を稼ぐ為、二人は率先して鬼狩りに出陣した。何処に逃げ隠れしようとも匂いと音で察知できる人間ソナーが二人も居ては逃亡は不可能。

 

 彼は、"鬼を人間に戻す薬"が完成していたのに、人間に戻して貰えなかった。それは、対鬼舞辻無惨で有効な血鬼術を持っていたからだ。今となっては、珠世が全てが終わってから本当に人間に戻すつもりがあったかは、誰も知る術はない。

 

 彼が、恨むならば珠世か鬼舞辻無惨であるのは間違いない。

 

 

◇◇◇

 

 煉獄杏寿郎は、絶対に死ねない戦いをしていた。

 

 彼は、鬼舞辻無惨を倒してお終いではない。煉獄家の長男として、やる事が残っていた。彼の弟である煉獄千寿郎もできた男だ。そして、胡蝶カナエの一件も知っている。今回の一件も耳にすれば、兄同様に腹を切って死ぬ可能性が濃厚であった。

 

 つまり、彼の死は弟の死にも直結する可能性を秘めている。

 

 だが、立場上安全地帯から宇髄天元や不死川玄弥のように銃で攻撃する訳にもいかなかった。使い方が分からないという事もあるし、前衛が足りなくなれば鬼舞辻無惨が後衛を殺しに行くのは目に見えている。

 

 肉壁になってでも、鬼舞辻無惨を留める必要がある。

 

「俺にも中和剤と緊急活性薬を!!」

 

「ダメだね。これは、俺が手に入れた物だ。どうしても欲しければ、裏金を殺すとこの場で誓え」

 

 煉獄杏寿郎は、聞き間違いだと思った。

 

 だが、伊黒小芭内の眼は真剣である。断腸の思いで頭を下げたのに、甘露寺蜜璃を救わなかった裏金銀治郎は、もはや一分一秒でも早く殺したい鬼である。その憎しみは、鬼舞辻無惨に匹敵する程にまで膨らんでいた。

 

「わかった。もう頼まん!! だが、鬼舞辻無惨退治だけは必ずやり遂げてみせる」

 

「貴様等は、仲間割れをするのか。私と一時休戦して無限城を取り戻すか、いい加減どちらかにしろ!! 敵の敵は味方という理論を知らないのか」

 

 鬼舞辻無惨は、いい加減にして欲しかった。早く殺したい柱達が継続的に攻めてくる。猛毒を与えたにも関わらず、中和剤などを準備しており生き残る。更には、怪我すら治療する謎の薬。極めつけは、目の前で仲間割れだ。

 

 こんな状況でぎりぎりの所で耐え、あまつさえ、自らを切り刻んでいる柱達。胸くそ悪い光景を見せられてイライラも絶頂であった。

 

「知らぬ!! 今まで沢山の隊士が鬼の手によって殺された。俺達は、彼等の思いに報いる義務がある。だから、この場で貴様を倒す」

 

「この期に及んで、仲間割れをしている貴様等は、やはり異常者だ。だが、貴様等は忘れていることがある。鬼滅隊の手によって、私の大切な部下が何人も殺されている。だが、私は貴様等を恨んでなどいない」

 

 下弦という鬼の中でも上位に位置する存在を、その手で葬った男の言葉は説得力の欠片もない。それに、無理というキーワードを追加したお陰で、史上最高の数を討伐した男でもある。

 

 鬼舞辻無惨が鬼滅隊に鬼が討伐されても恨まないのは当然だ。興味が無いからである。だが、殺された鬼側は、鬼舞辻無惨に恨みを持って死んだ者達も多い。特に、上弦や下弦は恨んでいたのは間違いない。

 

「だからなんだと言う。もしかして、恨みを忘れて生きろとでも言うのか」

 

「その通りだ。鬼に殺された事は災害だと思えばいい。私も貴様等の事は災害とでも思うことにする。それに、そろそろ貴様は限界だ。今立ち去るというなら見逃してやる」

 

 煉獄杏寿郎の体力は限界に近かった。

 

 刀を持つ手には握力は殆ど残っていない。気を抜けば倒れそうな程だ。中和剤があれば状況は変わるだろう。だが、現物が無いなら持っていそうな人物から貰えば良いという結論に至る。

 

「それはどうかな。裏金殿、俺にも中和剤を!!」

 

 虚空に向かって叫ぶ煉獄杏寿郎。

 

 そして、中和剤ではなく真っ赤な血液が降り注ぐ。鬼の血鬼術を無効化するだけでなく、刀身に炎が宿る。血鬼術――"爆血"であった。毒を消し去り、攻撃力を上げるバフまで提供される。

 

 当然だが、同じ事を伊黒小芭内や不死川実弥が行っても実現はされない。

 

「裏金? まさか、裏金銀治郎の事か!?」

 

 鬼舞辻無惨は、この時初めて無限城を奪った存在が誰なのかを理解した。勿論、本物の方ではなく、裏金銀治郎(偽)の顔が思い浮かんだ。だが、その存在が感知できない事から珠世や竈門禰豆子同様に何かしらの手段で監視の目を逃れたと考えていた。

 

「無惨にまで名前が知られているとは、裏金殿は人気者だな」

 

「当然だ。私の血を与えて鬼にした。だが、恩を忘れて裏切りおって!! 八つ裂きにしてくれるわ」

 

「いいや、八つ裂きにされて死ぬのは貴様だ、鬼舞辻無惨!! 」

 

 絶妙にすれ違う煉獄杏寿郎と鬼舞辻無惨の会話。名前は同じだが、全く別人を示しているとは二人とも分かっていない。その会話を聞いている裏金銀治郎達も、どうしてこうなったと頭を悩ませている。

 

 煉獄杏寿郎に無償で、手を差し伸べた事に伊黒小芭内は憤怒する。そして、彼の握る刀が心の色を表すかのように赤く染まっていった。




 爆血刀の煉獄さん……ワンチャンあるか!!

 怒りで力に目覚めるのは、ジャンプ世界ではよくある。鬼特攻の赫刀へと進化……一人が条件に気がつけば、続々と増えていく。



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63:家族計画

何時もありがとうございます。
感想も本当にありがとうございます^-


 伊黒小芭内は、憎しみと恨みから赫刀を発動させた。

 

 その様子を確認して裏金銀治郎は、再び頭を抱える事になる。鬼特攻の兵器が、鬼絶対殺すマンの手にあるのだ。そして、その刃の向く先に自らも含められていると思うと誰だって頭を抱えたくなる。

 

 通常の日輪刀なら、問題にすらならないが…… 赫刀は、裏金銀治郎にも十分なダメージを通せる数少ない武器だ。その特性は、流星刀と近い。

 

「銀治郎さん、伊黒さんの刀の色が赤く染まっていますよ。何かやりましたか?」

 

「おかしいな。いつから、怒りでパワーアップするドラゴン○ール世界にログインしたのだろうか。私も自信がありませんが、赫刀ですね。嘗て、最初の呼吸の使い手である継国縁壱も赫刀の使い手でした。その刀をもって、鬼舞辻無惨の再生能力すら超越して討伐あと一歩にまで追い込んだ経緯があります。簡単に言うと、流星刀と近い特性を得たと思って頂ければ構いません」

 

 裏金銀治郎の発言に、胡蝶しのぶはあの時に殺しておくべきだったと少し後悔した。

 

 鬼特攻の兵器というのは、裏金銀治郎が所有している流星刀だけだと思っていたからだ。太陽を克服した彼を殺すのは、この場においては不可能に近い。だが、それを覆せる可能性がある武器が鬼滅隊の手の中に無数に存在する事を知る。

 

「その赫刀で銀治郎さんを殺す事は可能なのでしょうか?」

 

「正直分からないですが、可能だと思います。太陽を克服していないとはいえ鬼舞辻無惨に致命の一撃を与える事ができる刀です。同じ始祖として、無傷で済むと考えるのは甘いかと」

 

 胡蝶しのぶは、珍しいと思っていた。

 

 何事も先手を打って、相手が選べる手段を限定させるゲスいやり方を得意とする男が、率先して邪魔しない。鬼舞辻無惨という敵を前にしている状況で赫刀を封じる必要はないが、倒し終えた後は別だ。

 

「銀治郎さん、貴方らしくありません。だったら、発動させなければ良いんですよ。今のタイミングで、伊黒さんが赫刀に目覚めた。つまり、発現する条件を今満たしたという事です。私達は、頭で闘うタイプの人間ですよ」

 

「その通りですね。では、仮説を立てて一つずつ検証しておきましょう」

 

 こうして、理論派の大人による検証が行われる。

 

 伊黒小芭内が発動でき、胡蝶しのぶが発動できない理由を突き詰める。全ての事象は科学的に証明できる。身体能力で言えば、胡蝶しのぶが勝っているのに赫刀に目覚めない点、刀の色が根元から変わった点などを理論詰めする。

 

 しばらくして、胡蝶しのぶが気がついてしまった。"熱"が関係しているのではないかと。そして、刀の柄部分をシコシコと摩擦熱を加える事で赫刀へと変化した。その際、彼女が放った一言が「なんだ、毎晩ヤっている事でいいなんて簡単ですね」であった。

 

 

◇◇◇

 

 水柱として役目を全うする冨岡義勇。

 

 様々な問題を抱えてる個性豊かな柱の一人である彼は、特にコミュニケーション能力が低い。そのお陰で、あらぬ誤解を生む事が多かった。だが、誤解が功を成す事もあった。

 

「冨岡、コレを使っておけ。それと、熱と腕力が鍵だ。やれるな」

 

「わかった」

 

 伊黒小芭内が緊急活性薬と毒の中和剤を冨岡義勇に渡す。

 

 素直に受け取る彼。だが、時透無一郎に薬が提供されないのが理解できなかった。鬼の首魁であり、産屋敷耀哉の仇でもある鬼舞辻無惨を倒すという共通の目的を前に、柱という戦力は幾らあっても不足では無い。

 

 なぜ、自分と同じ中立派の者に薬が提供されないのか、不思議であった。

 

 冨岡義勇は、【人を食う()なら殺す。だが、冷静になって考えて欲しい。竈門禰豆子という前例もあるので、鬼だからといって全てが悪だという捉え方は古い。それに、分かっているはずだ。胡蝶しのぶが洗脳されるタマではない事を。柱である我々は常に冷静に物事を判断しなければならない。一度、話し合いの場を設けて、真偽を確認してからでも遅くはない。その為にも、まずは、(・・)目の前の敵である鬼舞辻無惨を殺す(・・)。】と、本気で言ったつもりでいた。

 

「冨岡、俺はお前を誤解していた。倒したら、一杯やろう」

 

「あぁ、勿論だ」

 

 冨岡義勇は、初めて飲みに誘われる。

 

 ポジティブ思考の彼は、伊黒小芭内が"誤解していた"といった事を【人を食う()……(以下、略)】の中の言葉が全て理解して貰えたと考えた。そして、だからこそ、薬が分けられたと。

 

………

……

 

 鬼舞辻無惨は、度々ピンチから蘇り強くなる柱達に我慢の限界が来ていた。

 

 特に、赫刀には良い思い出が無い。その為、過去に致命傷を負わせてきた継国縁壱の影がちらつく。赫刀の威力は、日輪刀を遙かに凌ぐ。切られた箇所の再生力を激減させ、当たり所によっては、肉体を崩壊させる。

 

 それを回復させる為には、周辺の肉体をごっそり捨てて再生するという手間が掛かる作業を行う必要があった。この時、柱の全員が赫刀に目覚めていれば、鬼舞辻無惨を滅ぼせていた。鬼舞辻無惨が未だに健在なのは、柱が仲間割れしている事と悲鳴嶼行冥が赫刀発現に苦戦しているからだ。

 

 悲鳴嶼行冥の日輪刀は、もはや刀ではない。斧と鎖とガンダムハン○ーである。斧御部分ならまだしもガンダムハン○ーに熱を与えるにはどうすれば良いのか考え物であった。ボールは友達的な感じでなで回すにしても棘が邪魔になってしまう。最強の柱が赫刀を使いこなせるかは、別問題だ。

 

「異常者共め。なぜ、貴様等は理解しない。無限城のコントロールを奪われていると言う事は、私が死ねば貴様等も生き埋めになるんだぞ」

 

「その程度の覚悟はとうに出来ている。貴様が倒せるなら本望だ、無惨!!」

 

 悲鳴嶼行冥が斧を振るう。

 

 柱として立派な考えを伝える。だが、"痣"覚醒により命が今日までの男である事は忘れてはいけない。未来を考えている柱も居る。"痣"覚醒条件を知っていても、覚醒させずに鬼退治に勤しむ宇髄天元……妻帯者は、後の事もちゃんと考えている。

 

 

◇◇◇

 

 人類史に残せないほど悲惨な赫刀覚醒をさせられた胡蝶しのぶの日輪刀。刀の声が聞こえる事があれば、泣いているだろう。そんな事を考えつつ、裏金銀治郎は、鬼舞辻無惨と柱の戦いを観察していた。

 

「柱の人達が全滅する可能性の方が高かったですが、これは鬼舞辻無惨を倒せるかも知れません」

 

「そうなると嬉しいですね。……で、カナヲはさっきから私の服を掴んでいますが、どうしたんですか?」

 

「師範、炭治郎さんの態度が先ほど変でした。裏金さんも眼で何かを伝えていましたよね」

 

 栗花落カナヲが笑顔で胡蝶しのぶに迫る。

 

 女の勘が何かを捉えたのだ。勿論、彼女とて具体的に何があったかは分かっていない。だが、竈門炭治郎が関連している事だけは察していた。そして、裏金銀治郎と胡蝶しのぶが、それを知っているという事も分かっていた。

 

 柱同士が仲間割れをする最中、何故このタイミングでというレベルで栗花落カナヲが問いただしてきた。彼女としては、竈門炭治郎が不在の今がその機会だと思っている。彼が止めに入れば、聞くことを止めてしまうからだ。愛しているが故に、その男性に止められたらそれ以上の追求は出来なくなる。

 

 大人である裏金銀治郎は、模範解答を用意していた。

 

「あぁ、炭治郎君の家族構成は覚えていますよね? 実は、幸いな事に彼の血縁者が見つかりました。鬼舞辻無惨は、炭治郎君に追っ手を差し向けていた事もありましたので、血縁者の安全を確保するため、私が匿っています。人質にされたら、困りますからね」

 

「えっ!! でも、炭治郎さんは親兄弟を無惨に……」

 

 胡蝶しのぶは、実にうまい言い訳だと思った。

 

 これが人生経験の差である。真実を告げているのに、巧みに核心部分を誤魔化す悪い大人の例である。

 

「えぇ、炭治郎君は親戚の存在を知らないのでしょう。私も戸籍を調べて分かった事です。役所が管理していた古い戸籍標本に彼の叔父さんの存在が……。まぁ、このご時世子沢山ですから一つ遡れば、親戚が居ても不思議じゃありません」

 

 誰も一言も親戚を匿っているとは言っていない。親戚が実在したとも言っていない。裏金銀治郎は、血縁者を匿っていると言ったのだ。そして、血縁者には、当然子供も含まれるが、そこまでの発想は彼女にはできない。親戚と血縁者という微妙に近い言葉に翻弄される。

 

「良かったですね、カナヲ。家族が増えますよ」

 

「はい!! 師範」

 

 胡蝶しのぶが、ぎりぎりのラインをせめる。だが、彼女にはいけるという自信があった。家族愛に飢えている栗花落カナヲの思いを理解している。当面は、コレで凌ぎきる。

 

 そして、落ち着いたら神崎アオイの子供を竈門炭治郎の親戚の子供として紹介する。神崎アオイの架空の旦那を作り上げて、国外で仕事をしている事にする。それが出来るだけの財力も権力もアンブレラ・コーポレーションは有していた。

 

 これぞ、裏金銀治郎と胡蝶しのぶが考えた幸せ家族計画である。中身は、親戚の子だと思ったら実は、旦那の子供だった計画だ。

 

………

……

 

 竈門炭治郎と我妻善逸が鬼の頸を討ち取り帰還する。

 

 鬼討伐の報告をする最中、竈門炭治郎は栗花落カナヲから疑惑の匂いが取れた事に気がついた。

 

「よくやりました、二人とも。君達二人なら不可能はないと信じていました。それと、炭治郎君が居ない時に申し訳なかったが、私の家で預かっている竈門家の血縁者について、栗花落カナヲさんに伝えておきました」

 

 全集中の呼吸を使い、脳をフル回転させて裏金銀治郎の意図を読み取る努力をする竈門炭治郎。あの衝撃の事実を伝えて、一体どのような回避をしたのか。本当に神だと思ってしまう男がココに生まれる。

 

(裏金さん)、ありがとうございます」

 

「君にも褒美を与えましょう。流星刀と特製の隊服です。今の隊服より強度は遙かに高いから、着替えておきなさい。これから、激戦になるかもしれません」

 

 裏金銀治郎は、口裏合わせ用の原稿と一緒に竈門炭治郎を別室に転送する。そして、信徒が狂信者へと変わる切っ掛けとなる。もはや、竈門炭治郎は嘘を突き通して真実にするしかない。




以降、オリジナル展開になりますが、ご容赦をください。

無惨様……追い詰められる。肉片をバラバラにして逃げるにしてもこの閉鎖空間では逃げ場所がないぞ。


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64:最恐の血鬼術

いつもありがとうございます。
感想も本当にありがとうございます^-^




 柱達が鬼特攻の赫刀に目覚める事で、状況が一転した。

 

 鬼舞辻無惨の再生を著しく阻害する事が可能となり、手数が多い柱達が優勢になってきた。再生が追い付かなくなり、次第に鬼舞辻無惨の顔にも焦りが生じる。

 

「忌々しい!! 忌々しい!!」

 

「見えた!! 無惨は、心臓と脳が複数存在している!! 恐らく、それらを同時に潰せば、殺せるはずだ」

 

 悲鳴嶼行冥は、この戦いに全てを賭ける覚悟をした。緊急活性薬と中和剤で一時的に体力を取り戻した。だが、上弦の壱に続き、鬼舞辻無惨との戦いで命を消耗しすぎた。余命いくばくもない事を彼は感じている。

 

 事実、その通りであった。短時間で"透き通る世界"にまで昇華された力は、寿命の前借に過ぎない。鬼舞辻無惨を討伐した後に、裏金銀治郎の下にまで辿り着くのは不可能だと察している。仮に辿り着いたとしても、鬼となり未知の戦闘力を持つ者を短時間で討伐する事は出来ない。

 

「おっしゃーー!! ぶっ殺してやる。心臓と脳の位置は?」

 

「脳が頭と腹部と……。心臓が胸部の左右と腕と……」

 

 柱達に伝達される急所の位置。

 

 悲鳴嶼行冥は、これを聞いているであろう裏金銀治郎にも内心で期待していた。ここで柱達が全員命を落としたとしても、裏金銀治郎と胡蝶しのぶという柱が残っている。彼らならば、必ず鬼舞辻無惨の時代を終わらせると確信していた。

 

 裏金銀治郎が鬼舞辻無惨を手助けをしないという事は、鬼舞辻無惨が死んでも裏金銀治郎には、何ら問題がないという事の裏付けであった。鬼を殺す毒を開発し、鬼の生態を一番理解している胡蝶しのぶがあちら側にいるのだから、疑いようがなかった。

 

 一人の鬼の時代が終焉を迎えて、新しい鬼の時代が幕を開けたとしても二人の性格を知る故、さして問題にはならないだろうと理解していた。

 

 だが、悲鳴嶼行冥は現役最強の柱であり、纏め役でもあった。だからこそ、彼は鬼を放置するとは言えない立場。条件付きで、裏金銀治郎を討伐するといったのもそういう理由だ。

 

「岩の呼吸 肆ノ型 流紋岩・速征」

 

 悲鳴嶼行冥は、身を削る方法で赫刀を使っていた。篝火を使って炙る事で日輪刀に熱を与えた。そして、加熱された鉄球に腕力で圧力を加えた。手を火傷するが、緊急活性薬で治癒するという力技だ。

 

 だが、その威力は最強の柱に恥じない物である。

 

 鬼舞辻無惨の触手を吹き飛ばし、一撃一撃で確実に脳か心臓を粉砕していった。寿命という掛け替えのないものを対価として。

 

「何度やっても同じ事だ!! 私は死なん!!」

 

 肉体をごっそり削り落として再生する鬼舞辻無惨。鬼舞辻無惨も必死であった。複数の柱と対峙する事は、彼の中でも想定範囲であった。だが、その柱達が赫刀に目覚めている事は想定していなかった。

 

 なにより厄介なのは、後方支援で軽機関銃を遠慮なく撃ってくる二人である。赫刀と違い再生こそ容易だが、手数が違いすぎる。

 

 虚勢を張って、不利を悟られないようにしているが……“透き通る世界”が見える悲鳴嶼行冥は、心臓や脳の再生が遅くなっている事に気が付いた。

 

「確実に効いている!! このまま押し切るぞ」

 

 悲鳴嶼行冥の声に呼応して、柱達が命を振り絞る。

 

 冷静な男である宇髄天元は、鬼舞辻無惨を倒し切った時か、裏金討伐派が全員倒れた時こそが、撤退するタイミングだと理解する。

 

 

◇◇◇

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、ウォーミングアップを開始していた。

 

 柱達が鬼舞辻無惨を討伐してくれる事が理想だと考えている。だが、彼の私見では、一時的に持ち直しているに過ぎないので、時間の経過と共に鬼舞辻無惨が有利になると確信していた。勿論、鬼舞辻無惨を倒し切るという事もあり得るが、厳しいと考えている。

 

「銀治郎さん、見た感じ鬼滅隊の方が有利に見えますよ。このままだったら、出番がないと思うんですが……」

 

「そうですね。私の目から見ても現状だとそう見えます。ですが、同じ鬼の始祖としての見解を言うと、血鬼術を全く使っていないのは疑問です。私が同じ立場なら、今まで集めた血鬼術で切り抜けます」

 

 1000年も生きて鬼滅隊と戦い、鬼を生産し続けた始祖が背中から触手をブンブン振り回すだけしか能がないとは考えられない。元貴族の身分である鬼舞辻無惨に戦いの才能が乏しかったとしても、この状況で血鬼術を使うという発想ができないとも思えなかった。

 

「え、無惨の血鬼術って"おめこ券"じゃなかったんですか? 今だって女性姿ですから、これで心と体が一致した能力だと思っていました。血鬼術って、生まれ、環境、思いなどが関連して開花するじゃありませんか」

 

「うーーーん、うーーーん。あ、ありえなくもないのかな~?」

 

 裏金銀治郎も完全に否定する事はできなかった。

 

 今現在、鬼舞辻無惨が柱達と戦いの最中に披露している能力は、ほぼ全てが鬼の始祖ならば必ず持つ基本能力ばかりだ。裏金銀治郎の目から見て、血鬼術だと判断できるのが、触手と毒のみである。心臓や脳が複数あるのは、再生能力の延長線に過ぎない。

 

「ほら、あの券……私や銀治郎さんが全力でも破れないんですよ。日輪刀でも切れませんでした。つまり、無惨が初―」

 

「ストップ!! しのぶさん、言わんとしている事はわかります。想像したくないので、それ以上は言わない」

 

 裏金銀治郎は、胡蝶しのぶが膜が破れない限り破壊不能と言おうとしたのを止めた。人差し指を彼女の唇に押し当てた。

 

(裏金銀治郎)、赫刀も使えるようになりました。いつでも、お供できます」

 

「相変わらず善逸君は、有能です。戦いが終わったら、延命措置をしますので、"痣"の力を存分に解放なさい。君の聴力と剣術ならば、無惨の急所を探し処理する事も簡単でしょう」

 

 我妻善逸は、歴代最高の柱に肩を並べる程の成長を見せた。だが、成長期である彼はこれから更に伸びる。それこそ、岩柱を超える逸材である。

 

「裏金さん、私も頑張りますので、炭治郎さんの延命もお願いします」

 

「別にカナヲは残ってもいいんですよ。銀治郎さんと私、かまぼこ隊の皆さんがいるんですから戦力としては問題ありません」

 

「その通りですよ、栗花落カナヲさん。炭治郎君が君の分まで働いてくれます。私は、妊婦さんを戦場に送り込む程、外道じゃありません。遅くなりましたが、ご懐妊おめでとうございます」

 

 裏金銀治郎は、鬼の始祖となり生命感知能力がずば抜けて高くなっていた。

 

 そして、似たような感じをここ最近感じ取る機会が多く、栗花落カナヲが妊娠している事にいち早く気が付いていた。竈門炭治郎は、長男としてヤる事はヤっていた。最終決戦を前に実に喜ばしい情報だ。

 

「えっ!? 私に子供が……。あ、ありがとうございます!! 炭治郎さん、やりました!! 私、炭治郎さんの子供を妊娠しているって」

 

「カナヲ!! 俺も嬉しいよ。今日は、最高の記念日じゃないか」

 

 だが、その情報は、竈門炭治郎の胃に今までに経験した事がないダメージを与える。これから向かう場所も修羅場、終わってからも修羅場……彼の人生には修羅場が付きまとう。だが、男としてヤった事に責任を負うのは当たり前だ。

 

 まるで、第一子が誕生したかの如く喜びを表現し、カナヲを抱きしめる竈門炭治郎。我妻善逸同様に彼も裏金銀治郎の想像を上を行く成長を見せる。嘘をつくと変顔になっていた頃の彼は既に死んだ。

 

「おめでとう、炭治郎。神がいるからいいけど、最終決戦前なんだし、コンドー〇は使おう。計画的にしないとダメだぞ」

 

「おめでとう、カナヲ。これで私は、戸籍上ではおばーちゃんですか……まだ、10代なんですけど。カナヲ、分かっていると思いますが、しのぶおねーさんと教えるんですよ」

 

 柱達が壮絶な死闘を繰り広げる中、裏金一派は仲間の妊娠を祝っていた。

 

 

◇◇◇

 

 煉獄槇寿郎は、苛立っていた。

 

 愈史郎が討伐された事で彼の血鬼術による伝達機能が完全に消失した。その為、内部の状況が何も伝わってこない。鬼舞辻無惨や裏金銀治郎の動向が分からない。

 

 彼としては、共倒れしてくれる事が理想形であった。だが、どちらかが生き残った場合でも切り札は手中に収めておく必要があると考えた。その切り札の一つが、竈門禰豆子である。

 

 人間に戻ったとはいえ、太陽を克服した鬼であった。つまり、再び鬼にすれば太陽を克服する可能性が一番高い鬼ともいえる。裏金銀治郎が既に太陽を克服しているとは知らないので、交渉の駒にも使えると考えたのだ。

 

「どういう事だ、鱗滝!! 竈門禰豆子が消えるなんて事があるか。隠し立てはやめろ!! 鬼滅隊の存亡がかかっているんだぞ」

 

「分からぬ!! 寝ていた布団と一緒に消えた。だが、一瞬だが炭治郎の匂いがした。何ら心配はないだろう。それより、何をそんなに焦っている。おぬしからは、よからぬ匂いがする」

 

 煉獄槇寿郎は、危険な男だと思った。五感の何れかの優れた隊士は、厄介だと知っていた。彼は、過去に同様の特異な能力を持つ者と共に戦った事があるのだ。故に、味方であるならば心強いが、今の状況では邪魔にしかならないと判断した。

 

「何も問題はない。お館様の守りは頼んだ。私は、民間人がいる蝶屋敷に向かう」

 

「鬼滅隊の拠点に一般人などいるのか」

 

「あぁ。隊士達の治療を手伝ってくれている、隊士の妻が三人程な」

 

 淫魔三人衆の噂は、隠居している煉獄槇寿郎の耳にも届いていた。

 

 都合がよい事に、我妻善逸が裏金銀治郎の信奉者である事も“柱稽古”で知った。我妻善逸という才能ある駒に対する人質に使える都合の良い存在であった。そして、女日照りが続いた彼としては、この機に溜めた物を解放する気でいた。

 

 恨むなら裏金銀治郎を恨めと酷い文句を使う気満々であった。

 

 しかし、我妻善逸の妻達は既に無限城に避難済みである事を彼は知らない。蝶屋敷には怪我を負った隊士達と蝶屋敷で働く少女達しか残っていない。   




投稿間隔があいて申し訳ありません。

引っ越しで執筆環境が変わりいろいろ準備に手間取りました。

無惨戦に飛び込むかは、迷いましたが……裏金一派も参加予定!!
無限城のコントロールを奪っている時点で負けなしという事もありますが
それだとちょっと寂しいなと^-^

風柱にも挨拶しないといけないからね!!


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65:貴方は、鬼ですか?

いつもありがとうございます。

リアルがいろいろと忙しくて投稿期間が
不定期で申し訳ありません><

感想も本当にありがとうございます!!


 柱達は、よく頑張った。緊急活性薬を過剰摂取してまで戦う事で、人間という域を超えた戦いを披露した。だが、正義が常に勝利するとは限らない。優位に立っていた柱達だが、僅かなミス一つでそのバランスが一変する。

 

 珠世が残した中和剤の効力が切れ、急に動きが悪くなった柱は、徐々に弱っていく。裏金銀治郎の“爆血”により解毒された柱に負担が掛かる。裏金銀治郎容認派としては、緊急活性薬や中和剤を分けてくれなかった討伐派の尻拭いをしている。

 

「後、少し!! 宇髄も前に出て刀を振るえ!! 」

 

「馬鹿いうな!! 俺は、剣士の腕前じゃ、柱の中でも下から数えた方がはぇーーんだよ。銃で派手に支援してやっているだろう。伊黒こそ、いい加減に目を覚ませ。裏金さんなら、鬼になっても胡蝶とニャンニャンするだけだ。無惨のような鬼には絶対にならねぇ」

 

 心臓と脳を何個も潰しているが、決め手になっていない。持ち直した瞬間に倒しきれなかった時点で、持久戦に持ちこまれるのは分かりきっていた事だ。鬼舞辻無惨としても、中和剤が切れるまで何としても守り切る構えでいた。

 

「信じられるものか!! あいつは、煉獄槇寿郎を気絶させ、泥酔する胡蝶カナエに暴行を働くような男だぞ。そんな奴が鬼になったら、おしまいだ」

 

 伊黒小芭内の言い分は、柱なら誰もが知っている事であった。

 

 本来なら鬼滅隊から除隊させられて、警察沙汰である。お館様の意向と胡蝶カナエの意向を最大限にくみ取って、裏金銀治郎は裏方へ異動する事になった。と、表向きにはされている。

 

 伊黒小芭内の言葉に反応して、血反吐を吐く柱……煉獄杏寿郎。だが、彼も男であった。恩人の名をこれ以上汚さぬ為、覚悟を決めた。

 

「それは、違うぞ!! この際だからハッキリ言っておく!! 裏金殿が胡蝶カナエを暴行したという事実は存在しない。あれは、俺の親父……煉獄槇寿郎が胡蝶カナエを泥酔させてホテルに連れ込もうとした所を裏金銀治郎が助けたというのが真実だ」

 

「貴様等は、鬼退治より先に退治するモノがあるのではないか。日本男子として、女性を蔑ろにするのは、どうかと思うぞ。恥を知れ!! この異常者共が」

 

 鬼舞辻無惨の正論が鬼滅隊の柱達に響く。

 

 口論になれば、時間稼ぎをしたい鬼舞辻無惨としてはありがたい事であった。だが、それと同時にやるせない気持ちになっていた。無限城を取り戻すという課題があるのに、こんな連中と本気で戦わないといけないのかと。

 

 当然の事だが、蔑ろにしてはいけない女性に鬼舞辻無惨も含まれている。

 

「煉獄、そんな事は今どうでもいい!! この野郎をブッ殺してから幾らでも聞いてやる」

 

「あぁ、賛成だね。世迷言より鬼退治を優先する」

 

 刻一刻と毒によるタイムリミットが迫る。

 

 特に小柄な伊黒小芭内は、既に限界であった。視界はぼやけており、勘で攻撃を回避している。裏金銀治郎の所までは確実にたどり着けないと本人も理解していた。命を使い切り、余力があるであろう悲鳴嶼行冥と不死川実弥に後を託す気でいた。

 

 一人が命を捨てたとしても、難しい状況だ。柱が全員命を捨てる気で挑めば、チャンスはある。だが、裏金討伐派以外は、命をここで捨てる気はなかった。皆、生き残ってやる事がある。つまり、柱達の思いがバラバラだ。これでは、倒せるものも倒せない。

 

「いいや、大事な事だろう!! 裏金殿は、無罪なんだぞ」

 

「事の真相など、後で本人に聞けばいい。皆の者!! 今は、無惨に集中しろ」

 

 悲鳴嶼行冥の鶴の一声で柱達が再び一つに纏まる。

 

 彼がいなければ、最終局面で何度空中分解した事だろうか。

 

………

……

 

 伊黒小芭内が限界を迎えた。度重なる奥義の使用、中和剤の効果切れ、体力の限界、おおよそ考えられる全てのマイナス要因が一気にのしかかった。崩れ落ちる最中、致命的な隙を鬼舞辻無惨は見逃さない。

 

 触手が伊黒小芭内の胸部を貫いた。

 

「伊黒さんーーー!! このぉぉぉ」

 

 甘露寺蜜璃の日輪刀で触手が破壊される。駆け寄った彼には、胸に10cm程の大穴が空いていた。どう考えても致命傷。唯一、この場から回復させる事ができる緊急活性薬は彼女の手には残っていない。

 

「甘露寺か……無事でよかった」

 

「早く薬を!! あれなら、まだ治せる」

 

 伊黒小芭内の首が左右に振られる。彼の手元にも薬は一本も残っていない。つまり、もう傷を癒す事は不可能になった。

 

「やっと、一人潰れたか。これで、手数は減った。私の再生能力を超える事は、もうできない。ほかの柱達も順に後を追わせてやる」

 

 鬼舞辻無惨の心臓と脳を、合わせて3個にまで減らす快挙を成し遂げていた。だが、押し切る事は叶わない。

 

 死期を悟る伊黒小芭内。最後に、思い人に愛を伝える。甘露寺蜜璃からの言葉を聞き静かに死ぬ予定であった。

 

「甘露寺、最後に……俺はお前が好きだ」

 

 だが、そうは問屋がおろさない。ここにきて、ツケを清算しないで死ぬなど許されない。

 

「死に際にそのセリフは汚いですよ、伊黒小芭内さん。嫌いであっても、状況的に死に際に花を持たせるしかなくなります。甘露寺蜜璃さん、善逸君や炭治郎君なんて未来有望な若者なんてどうですか? 私おすすめの物件です」

 

 急な第三者の登場に誰しもが注目した。

 

 

◇◇◇

 

 伊黒小芭内の問いかけの答えを遮るかのように登場した裏金銀治郎。その狙ったかのようなタイミングは……当然、わざとだ。今まで、散々好き勝手な事を言っておいて、最後に思い残す事無く死なすわけにはいかない。

 

「う、裏金さん、しのぶ様!! お願いです、伊黒さんをたっ」

 

 甘露寺蜜璃が伊黒小芭内の助命を懇願しようとしたが、彼が止めた。助かる可能性がわずかにあっても、それが裏金銀治郎の手による物であるため拒絶した。

 

「あらあら、伊黒さん。せっかく、甘露寺さんが懇願するところでしたのに、止めてよろしいんですか? 銀治郎さんは、優しいですから甘露寺さんからのお願いなら聞き届けてくれるかもしれませんよ」

 

「私は、恩を仇で返すような人間を助ける気はありません。あの世では、君が蛇鬼から逃亡したせいで死んだ一族の者達が首を長くして待っていると思います。早く、挨拶に行かれたほうがよろしいかと。それに、先ほど仰っていましたよね『世迷言より鬼退治を優先する』と。女々しい遺言を言う余力があるなら、鬼退治で華々しく散ってください」

 

 怒りで血と毒の巡りが早くなる。

 

 伊黒小芭内には、立つ体力も残されていなかった。本来ならば、この場で知られたくない過去を暴露されたので、殺したい程であった。

 

「殺してやる、殺してや…る、ころ……」

 

 自らの手を汚さず自滅させた裏金銀治郎。その様子を戦いの最中見ていた、柱達は哀れな最期に同情した。

 

「い、伊黒さん、嘘でしょ!! そんな……私、まだ何も返事をしていないのに」

 

「甘露寺さん、彼はもう死んでいます。さすがに、死者を蘇らせる事は不可能です。伊黒さんは、ネチネチしていて性格がねじ曲がっていた人でしたが……無惨相手に頑張ったことだけは認めます」

 

 胡蝶しのぶも裏金銀治郎同様に、伊黒小芭内の死を何とも思っていない。

 

「ちなみに、甘露寺蜜璃さんは、なんて答えるつもりだったんですか?」

 

「ごめんなさい、伊黒さんの事は恋愛対象と見れなくて」

 

 裏金銀治郎は伊黒小芭内をトドメを刺すつもりでいたが、まさか助ける結果になっていたとは思いもよらなかった。真実を知る前に天国に行けた男は、幸せであった。

 

 そして、裏金銀治郎は、甘露寺蜜璃への認識を改めた。間違いなく異常者であると。

 

「あの~銀治郎さんが言う分には問題ないと思うんですよ、鬼ですから。でも、そのセリフを死に際に言うつもりだったなんて……貴方は、鬼ですか?」

 

 甘露寺蜜璃は、人の感情に対して敏感なほうではなかった。

 

 柱の一人が死んだ。だが、裏金容認派と中立派の雰囲気は明るい物であった。静観を貫いていた者達が一斉に表舞台に出てきた。つまり、確定した勝利を掴みにきた。

 

「よっしゃーーー!! これで派手に勝利が確定した。安心しろ!! 俺の譜面が正しければ、不死川と冨岡と甘露寺は後2分。悲鳴嶼さんでも3分持てばいいって所だ。煉獄と時透も死なない程度に流してけ!! 後は、裏金さんの指示で戦えば勝利は確実だ」

 

「さすが忍者、味方をこうも簡単に切るとは実に汚い。ですが、そういうところ嫌いじゃありませんよ、宇髄天元さん」

 

 仕えるべき主君であった産屋敷耀哉は、死んだ。次代の当主では、先行きが不安な忍者。恩義なき今、自分をいかに高く買ってくれるところに売り込むかが大事である。妻三人を路頭に迷わせる訳にはいかない。

 

 鬼舞辻無惨が穴が開くほど、裏金達を見つめてきた。彼は、記憶を漁った。そして、辿り着く。

 

「……貴様が裏金銀治郎?嘘をつけ!! いや、貴様達には見覚えがある。裏金金太郎と官能作家の胡蝶しのぶ先生!! 何故、ここにいる」

 

 怨敵からの官能作家と呼ばれる胡蝶しのぶ。おかげで、今日も青筋が胡蝶しのぶを美しくする。だが、この一言が現場を混沌に陥れる。

 

 裏金銀治郎が鬼舞辻無惨と面識があるなら、誰しもがやっぱりと納得であった。だが、胡蝶しのぶまで面識があったとなれば、柱達は驚いた。

 

「え、官能作家? しのぶ先生? どういう事だぁぁぁ、胡蝶!! 裏金だけじゃなく、お前まで鬼側に通じていたのか」

 

「いいえ、まったく知らない人です」

 

「そんなはずはない!! この間、神保町でサイン会であったではないか。握手だって!! 」

 

「別人だって言っているでしょ!! 世の中、似ている人間が三人はいるといいます」

 

 必死に否定する胡蝶しのぶ。

 

 絶対に知られたくないもう一つの顔……。だからこそ、肯定するわけにはいかなかった。

 

「そこまで否定されると、こちらも強情にならざるをえない。そうだ、新刊の一部を朗読してやろう」

 

「イヤーーーー!! 銀治郎さん、アレを殺しますよ。死にぞこないの柱は邪魔です。どけておいてください」

 

「怖い怖い。私を討伐したい派の皆様、これでお別れです。地上に送りますので、あとは好きに死んでください。最後に、言い残す事は?」

 

「無惨ごと、死ねぇぇぇぇぇ!! 壱ノ型 塵旋風・削ぎ」

 

 不死川実弥の攻撃は実に理にかなっていた。二人纏めて粉砕する。全身全霊の一撃にふさわしい。だが、直線上に彼の弟である不死川玄弥がいる事に彼は気が付かなかった。

 

 パチンと裏金銀治郎が指を鳴らす。無限城内部であれば、どこへでも転移できる。神速の攻撃でもない限り回避する事は難しくない。鬼舞辻無惨を切り刻んだ攻撃は勢いを落とす事無く、一人の隊士を巻き込んだ。

 

「兄貴ーーーー!!」

 

 不死川玄弥は、走馬灯を見た。そこには、優しかった兄の姿が確かに映っている。

 

 人間なのに鬼化できる稀有な才能を持った隊士がこの世を去る。彼の肉体は、鬼と同様に崩壊してこの世から去っていく。

 

「不死川玄弥君は、限りなく鬼に近い人間でした。鬼化できる人間なんて彼以外知りませんでした。鬼退治は、貴方の本分……たとえ、弟であっても容赦しないその姿勢は、評価しています。あぁ、後で退治した鬼にカウントして給金は支払います」

 

 煽りの呼吸を極めている裏金銀治郎。ここぞとばかりに、不死川実弥をせめたおす。実弟を何よりも大事に思う彼の心をへし折るには十分であった。

 

  




柱達の役目は終わった!!
すこし柱を間引かないとね。


〇可能性のある未来
天然ジゴロの妹『胡蝶先生、最近眠れなくて睡眠薬を処方してもらえませんか。強力なヤツ』

察した大人『鬼の時の後遺症ですかね、朝まで絶対に起きない物を処方しておきます。無色無臭なので、安心してください。カナヲは、お腹の子の定期健診で明日は泊りがけです』

完結+アフタストリーまでは絶対やるのでよろしくお願いいたします。


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66:恥を知れ

いつもありがとうございます。
感想も本当に執筆意欲が沸き嬉しい限りです。




 裏金銀治郎は、この上なく機嫌が良かった。彼の鬼滅隊時代に、色々と頭を悩ませてくれた筆頭の風柱・不死川実弥。戦闘力という面では、歴代最高の柱の名に恥じない。だが、鬼滅隊の中でも物損額が一桁違う男であった。

 

「不死川実弥さん、母親の次は弟ですか。あなたは、罪な男だ。おや、いつもの憎まれ口が聞こえないとは……さすがに、心がへし折れましたか。貴方は、稀血ですから無惨に食われる前に外で死んでください。ここで死なれたら迷惑です」

 

「俺が弟を……俺が弟を」

 

 最後の肉親に手をかけてしまい不死川実弥の心は、へし折れてしまった。

 

 肉体を再生した鬼舞辻無惨が稀血と聞いて、栄養補給を試みる。ラスボス戦で敵側がパワーアップなんて展開を許してはならない。鬼舞辻無惨は、異常者である鬼滅隊の柱を可能なら食べたくなかった。元仲間を纏めて殺そうとするわ、無関係な仲間を巻き込む攻撃をするわで、食ったら腹を壊すんじゃないかと思うほどであった。

 

 だが、栄養価の高い稀血は消耗を回復させる最高の食事である事は変わりない。

 

「最期は自宅に送って差し上げます。毒で死ぬか、自害するかお好きにどうぞ」

 

 裏金銀治郎が指をパチンと鳴らし、地上に不死川実弥を送った。

 

 蛇柱と風柱が無惨戦から抜けた。その負担は、岩柱と水柱にのしかかる。中立派の柱は、後方に退避を始め、裏金銀治郎と一緒に戦う為、準備を始めていた。緊急活性薬や新しい隊服、水分補給なども完璧である。戦う前より万全な状態へとなりつつあった。

 

「ちっ!! 貴様がぁぁぁ!! 貴様が無限城を奪ったのか。それは、私の物だ。死ねぇぇぇぇぇ」

 

「この能力は、鬼舞辻無惨には勿体ない。私の方が有効活用できます。それに、貴方の呪いが、私に効くはずないでしょう」

 

 鬼舞辻無惨は、裏金銀治郎に対して呪いを発動させた。だが、その効力は発動しない。新しい鬼の始祖であるとは、想像する事ができない。

 

「貴様も呪いを外したのか……いいや、そもそも貴様を鬼にした覚えはない!!」

 

「まさか、無惨以外にも人を鬼にする事ができる者がいるのか!! 裏金殿、あなたは、誰に鬼にされた」

 

 悲鳴嶼行冥が鬼舞辻無惨の言葉に反応した。悲鳴嶼行冥は、裏金銀治郎の後輩にあたる。その為、先人の柱である男に対して敬意を忘れない……それは、鬼であってもだ。

 

 残りの命がほとんど残っていない悲鳴嶼行冥としては、人間を鬼にできる存在こそ危険だと理解していた。裏金銀治郎がただの鬼であるなら、鬼は増えない……ならば、本当に倒すべきは裏金銀治郎を鬼にした存在である。

 

「え、しのぶさんだけど。身動き取れないように拘束されて、地下室に何日も監禁されました。検査と称して、色々搾り取られ死にかけました」

 

「どうして、そんな誤解されるような言い方をするんですか!? 悲鳴嶼さん、確かに私が銀治郎さんを鬼にしましたが、それは事情があったんです。鬼がいないと鬼滅隊の人達が路頭に迷ってしまいます。だから、銀治郎さんが必要悪になる必要がありました。ちなみに、銀治郎さんからの提案だったんですよ」

 

 胡蝶しのぶにとって、悲鳴嶼行冥は命の恩人であった。彼がいなければ、胡蝶カナエと胡蝶しのぶは鬼に食われて人生を終えていただろう。だからこそ、彼女は、真実を教えた。だが、人を鬼にできる技術を持つと認識され、胡蝶しのぶの危険度は一気に跳ね上がる。

 

 もちろん、それは冨岡義勇や鬼舞辻無惨も同じく危険度の認識を改めた。

 

「胡蝶しのぶ先生が人を鬼に!? 本来、殺すつもりだったが気が変わった。貴方がいれば、竈門禰豆子に頼らずとも太陽を克服できる可能性がある。私と一緒に来い!! そうすれば、鬼滅隊の者達を全員助けても構わない」

 

 胡蝶しのぶは、鬼滅隊でも替えが利かない。鬼の生態に一番詳しい彼女がいれば、時間をかけて研究する事で太陽を克服する方法も発見できるだろう。それを本能的に理解して、鬼に誘う鬼舞辻無惨は、女になってから無駄に冴えていた。

 

「そんな誘いに乗るはずないでしょう。私は、銀治郎さんにどこまでも着いて行くって決めています」

 

「蟲柱、人を鬼にできる技術……それは、秘匿可能なのか」

 

「安心してください。私と銀治郎さんで隠匿します。露見するようなら手段は選びません」

 

 その言葉に、悲鳴嶼行冥は安堵した。技術は日進月歩。永遠の存在となった二人が、その技術を守ると宣言した。だが、裏金銀治郎は鬼の始祖として鬼を増やす事ができるとまでは、伝えない。

 

「安心した。裏金殿、鬼は討たねばならない……だが、私の命もここまでのようだ。柱としてではなく、あなたの後輩として最後のお願いをしてもよろしいですか、裏金先輩(・・)

 

「全く、都合の良い時だけ先輩と言う男だとは知りませんでした。ですが、最後くらい先輩らしい事をするのも悪くありません。いいですよ、どんな願いでも一つだけ叶えてあげましょう」

 

 裏金銀治郎と悲鳴嶼行冥は、先輩と後輩の間柄である。スタートが早かった裏金銀治郎は、悲鳴嶼行冥より先に柱になった。それは鬼討伐にも恵まれ、下弦と運よく巡りあったことも起因している。

 

「小夜という女性がいる。彼女に私の資産を譲り渡してほしい」

 

「確か、生き残りの少女でしたね。彼女の証言で、無実の罪で捕まったのに人が良いですね。探し出して譲り渡しましょう。てっきり、無惨を殺してくれというかと思っておりましたが、違うんですね」

 

「それは、頼まなくてもやってくれるのでしょう。お館様の仇が死ぬところを見れないのは残念です。後は、頼みます」

 

 岩柱・悲鳴嶼行冥、彼こそ継国縁壱を除けば最強であった。だが、人間の枠を出ない限り毒に侵されて死ぬ。その命を使って鬼舞辻無惨の急所を潰す覚悟は、素晴らしい。途中で心が折れた風柱も見習うべきである。

 

………

……

 

 胡蝶しのぶは、冨岡義勇の最後の言葉を確認していた。文字通り最後の命を燃やして頑張る岩柱。その陰で、見逃しやすいが冨岡義勇も奮戦している。

 

「冨岡さん、貴方はどこで死にたいですか? 悲鳴嶼さんは、ここで無惨と刺し違えるつもりです。それなりに長い付き合いなので最後くらい言葉を聞いてあげますよ。でも、愛の告白とかはやめてくださいね。私は、銀次郎さん一筋なので」

 

 自意識過剰ではないかと思われる発言をする胡蝶しのぶ。だが、鬼滅隊の柱で女性は二人だけ……口下手である事を理解してくれている女性である胡蝶しのぶは、冨岡義勇にとって最も身近な女性であったのは間違いない。

 

「手伝え」

 

 鬼舞辻無惨は、裏金一派にはまだ攻撃の手を伸ばしていない。手を出せば、それをきっかけに新たな勢力との開戦の幕が開く可能性があるからだ。その為、鬼舞辻無惨としてもまずは、岩柱と水柱を潰す事に専念している。

 

「そういう言葉足らずのところが嫌われるんですよ。どうせ、『鬼は、殺す』といった言葉も、真意は他にあるんでしょう。そういうの止めた方がいいです」  

 

「俺は、嫌われてない」

 

「冨岡さーーーん!! それじゃダメです!! (裏金さん)は、その真意がわかっていても正しく口にしないと絶対に助けてくれません。特に、しのぶさんに近い男性ならなおのことです。俺は、冨岡さんに死んでほしくありません。どうか、正しく伝えてください」

 

 見るに堪えなくなり竈門炭治郎が声を荒立てた。竈門炭治郎は、冨岡義勇に返せないほどの恩がある。鬼であった竈門禰豆子を守る為に命をかけてくれた事、鬼滅隊に入隊を勧めてくれた事、那谷蜘蛛山で命を助けてくれた事など沢山の事がある。

 

 だが、今の竈門炭治郎には守るべき者が増えすぎた。生まれてくる子供の為にも、最大限の助力はするが、身を守ることを最優先にする大人だ。

 

「いつまで茶番を続ける気でいる!! 貴様等は、命をかけてこの私を倒しに来たのではないのか。それなのに、途中乱入してきた者達ばかりに目を向けおって!! 戦いにおける最低限の礼儀も知らぬのか」

 

「本当にその通りだと思いますよ。戦うと決めたからには最後まで付き合うべきですよね。あぁ、私達は今戦っている柱が死んだら挑みますので。その位がちょうどよい時間(・・)ですから」

 

 鬼舞辻無惨の言葉に賛同する裏金銀治郎。

 

 後ろに退避した柱達も思わず鬼舞辻無惨の意見に賛同しかけた。こんなグダグダな最終決戦になるなど誰も予想できない。しかも、半分は女になって現れた鬼舞辻無惨のせいだが、残り半分は仲間割れをしている鬼滅隊が原因だ。

 

「俺は、討伐派ではない。裏金銀治郎と対話をした後に討伐すべき鬼であるかを判断すべきだと言った。理解していたはずの不死川が、なぜあのような蛮行に及んだのかはいまだに理解できない。だから、裏金銀治郎……貴様に問いたい。貴様は、人を食う鬼か?」

 

「違いますよ。鬼を食い物にした人間ではありましたけどね。別に人間を食わなくても生きていくすべはあります。この平和の世に鬼という存在は必要ないとすら思っているほどです。だから、私としのぶさんが最後の鬼となり世間の陰でひっそりと暮らす予定です」

 

 裏金銀治郎の計画では、胡蝶しのぶも鬼の始祖として生まれ変わる予定である。あの地下室で行われた淫靡な日々を胡蝶しのぶに行う事だけが今から楽しみで仕方がないとすら思っていた。胡蝶しのぶも存外楽しみにしている。

 

 そして、裏金銀治郎が収集した血鬼術の中に、戦闘では全く役に立たない見た映像を鮮明に残しておく事ができる絶対記憶能力的な物がある事を胡蝶しのぶは、まだ知らなかった。

 

「ならば、鬼を討伐!!」

 

「つまり、この期に及んでも敵対すると」

 

 理解してもらえたと思っていた裏金銀治郎。だが、冨岡義勇からいまだに鬼を討伐するという返答が返ってきた。現状の戦力でも裏金銀治郎は、鬼舞辻無惨を滅ぼせる。だが、柱という戦力は多いに越した事はない。

 

「人の話をよく聞け!! 何度も同じ事を言わすな!! 鬼であっても人を食わない鬼ならば、討伐する必要はない。鬼になったのもそれなりの理由があるのも理解した。確かに、鬼滅隊という特殊な環境にいる我々だ。鬼がいなくなった世では生きにくいだろう。それを考慮して、鬼にまでなった自己犠牲の精神は感服する。貴様のせいではないかもしれないが、一部隊士を手にかけた事実も存在する。その者達に家族がいる場合は、必ずそれ相応の償いをするならば、俺から手を出す事はない。そして万が一、裏金銀治郎が人を食う鬼となる可能性も否定できない。ならば(・・・)こそ()俺は生き残る必要がある。だから、俺もお前達と一緒に()舞辻無惨を討伐(・・・)する」

 

「分かるわけないだろう!! 貴様等、鬼滅隊の柱は、みんなこうなのか。戦闘力だけで柱に抜擢されるからこうなるんだぞ。恥ずかしくないのか、お前等の同僚がこんなので!? なぜ、敵側の私がこんなツッコミや指摘を入れてやらねばならん。恥を知れ」

 

 キレッキレの鬼舞辻無惨。

 

 だが、それに反論できる鬼滅隊の者は誰もいなかった。冨岡義勇は、裏金銀治郎の味方である事を宣言し、命が助かる事になる。だが、同時に、柱としての尊厳は落ちる結果となった。

 




冨岡義勇が生存した。だが、これだと岩柱が一人死ぬ……かわいそうだけど、これも運命だ。
一緒に死ぬはずだった風と蛇があんな死に方になったからね。




PS:
メイドインアビスの劇場版を見てきた作者、そして簡単に感化されたしまう。裏金銀治郎とボンドルドって仲良くなれそうな気がする。同じくらい、胡散臭さから!! 同族嫌悪で仲たがいもあり得るけどね。
裏金卿……ふむ、次回作の候補にしておこう。


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67:感謝

いつもありがとうございます!!
感想も本当にありがとうございます。

更新が遅くなってしまい申し訳ありません。



 岩柱・悲鳴嶼行冥……彼の死に様は、鬼滅隊の柱として恥じない物であった。

 

 相打ち覚悟の特攻で無惨の脳と心臓を同時に潰す。だが、既に臓器が回復している為、倒すには至らない。それで十分だ。

 

 鬼舞辻無惨の体力は、確実に低下している。再生速度が目に見て落ちてきていた。

 

「悲鳴嶼と言ったな。貴様は、誇ってよい。この私をここまで手負いにさせたのは、二人目だ」

 

「無念」

 

 崩れ落ちる悲鳴嶼行冥。

 

 裏金銀治郎は、悲鳴嶼行冥でなければ液体窒素や爆弾を抱えて死ねと平然と言っただろう。そして、敵に接近したところでリモート爆破。それを機に徹底的に攻め倒す。その程度はやってのける男である。鬼を殺す為に死ぬなら本望だろうと、言える男だ。

 

「悲鳴嶼行冥さん、あとは我々に任せてください。お疲れ様」

 

 裏金銀治郎の言葉を聞き、安心した顔で息を引き取った。

 

 悲鳴嶼行冥が稼いだ時間は決して無駄ではない。その間に、戦闘で傷ついた柱は全快し、装備も充実。裏金銀治郎の血液から作った特製の緊急活性薬のおかげで身体能力まで向上した。

 

 流星刀、赫刀、爆血刀――鬼相手のメタ装備を前に鬼舞辻無惨も血の気が引き始めた。特に、流星刀は彼女としても嫌な予感がヒシヒシするほどだ。鬼としての本能が、アレはまずいと感じ取っている。事実、裏金銀治郎も殺せる数少ない兵器である。

 

「ようやく真打の登場といったところか。貴様等は、血も涙もない異常者の集団だな。仲間を助けもしないとは、あきれて言葉が出ない」

 

「私はその異常者から追放された身なので、仲間とは言えないでしょう。ですが、元同僚であったことは事実ですので、先ほどの戦いで色々と無様な所を見せてしまった事はお詫びします」

 

 頭を下げて謝罪する裏金銀治郎。

 

 鬼を前にしても礼儀を忘れない。先ほどまでの、鬼なら絶対殺すと粋がる柱と違い理性的な相手だと思った鬼舞辻無惨。だからこそ、対話の余地があると考えた。

 

「貴様達に提案だ。私は、貴様が鬼であっても殺す事ができる。貴様も、私を殺す手段を持っている。お互いが全力で戦えば、どちらかが死ぬまで戦う事になる。ここは、痛み分けで終わらせようじゃないか」

 

「実に、素晴らしい提案です。ですが、一つ勘違いをされています。戦いとは同じレベルの者同士でしか起こらないという事です。本来ならば、私はこの場に来なくても貴方を処理する事は造作もありませんでした。朝日が昇ると同時に外に投げ出せばいい。それなのに、なぜここに来たかわかりますか?」

 

 生殺与奪の権を裏金銀治郎が握っている状態。無限城を押さえている限りこれは不変。それは、この場にいる全員が疑問に思っている事であった。裏金銀治郎の性格からして、最後まで正体を明かさず相手を殺す事の方が性に合っている。

 

「私に会いに来たのだろう」

 

 髪をかき上げて乳房を強調する仕草にイラっとする裏金銀次郎。女体化した鬼舞辻無惨は、世間一般的に見ても美人だ。だが、声が男という恐ろしい存在。

 

 だが、その答えは正解であった。

 

「その通り。私は、感謝を伝えに来たんです。貴方が作った鬼は、本当に役に立った。食らえば、不老長寿と身体能力強化。すり潰せば、薬になる。鬼滅隊の隊士の食事なり様々なことに役になった。鬼滅隊は、産屋敷耀哉の認可の下で鬼を材料にした薬を売りさばいて運営費に充てていた」

 

「き、貴様は何を言っている」

 

 鬼舞辻無惨も馬鹿ではなかった。そこまで言われれば、柱達が使っていた謎の薬の正体に気が付く。そして、人間の醜悪さを改めて認識した。ただ食うより遥かに業が深い。鬼を家畜か何かと勘違いしているとすら感じる狂気である。

 

「鬼を倒すべき鬼滅隊は、実は鬼によって財政を支えられていた。資金源となる鬼を大量に作ってくれた貴方に心からの感謝を。色々と不幸な事もあったが、結果的に、私は胡蝶しのぶという最愛の女性と結ばれたのも鬼のおかげであろう」

 

「昨日の敵は、今日の友という諺がある。ここは、過去の事は水に流して、目の前の鬼を倒すべきではないだろうか。ハッキリいって、裏金金太郎(・・・)の異常性は、群を抜いている。それが分からない者達ではあるまい」

 

 冴えわたる鬼舞辻無惨は、裏金銀治郎の異常性をネタに柱達を勧誘する。

 

 その程度で動じる隊士はここにいない。そんな事を鬼舞辻無惨に言われなくても今更である。だが、その気持ちは重々わかると誰しもが言いたくなった。

 

「おぃおぃ、なんか無惨のいう事に派手に同意したくなってきたぞ。確かに、裏金さんがやってきた事は……緊急活性薬、ローション開発や新しい隊服、鬼を酩酊させる薬とかか。なんで、これだけの事をやっているのに評価されてねーんだ」

 

「鬼滅隊では、鬼を殺す能力が問われますからね。鬼滅隊では、評価されない項目ですからね。それに成果のほとんどは、しのぶさんにツケていました。目立つと、色々と目を付けられますので」

 

 鬼の討伐数で給料と昇格が決まる組織だ。つまり、その手助けをする道具を開発したところで評価対象にはならない。

 

「まて!! 貴様等の隊服素材は、鬼を使っているな」

 

「はい、下弦の肆を生きたまま捕獲しましたので薬の材料だけでなく、皮を剥いで隊服の裏地にさせてもらいました。鬼の皮膚組織は、硬い上に何度も取れる極上の素材です。上弦級の攻撃でなければ、この服を貫通させる事はできませんよ」

 

「流石、(裏金銀治郎)!! 俺達には、思いつかないような事を普通にやってのけるなんてすばらしい」

 

 人の皮を被った鬼と言った方が適正な存在である裏金銀治郎。

 

 だが、その程度は表に出せる序の口の実験であった。鬼の不死性解明実験、鬼の交配実験、分裂実験などなど様々だ。当然その研究の責任者は、鬼の生態と薬学に詳しい胡蝶しのぶである。裏金銀治郎は、アイディアと資金準備をするという分担作業をしていた。

 

 泣いて許しを請う鬼を切り刻む女医姿の胡蝶しのぶに、裏金銀治郎もタマヒュンであった。

 

「そろそろ、脳と心臓の再生も終わったでしょう。言い残す事があるなら、聞き届けます。貴方達、鬼という存在のおかげで人は進化した。その恩は、感謝しきれません」

 

 呼吸法がそのよい例である。人間の限界を超えた力を引き出す事が可能となった。後世にまで残れば、更に改良が進められる。そして、誰もが呼吸法を極める世界が間もなく訪れる。通勤時間往復2時間超え、勤務時間12時間超えという一日の大半を仕事で拘束されても、呼吸法のおかげで死ねない世界ができる。

 

 そう、21世紀の人間は、みな誰しも呼吸法を極めている。そうでなければ、過酷な労働でみな死ぬ。つまり、鬼舞辻無惨という鬼が生まれなければ、日本人……ひいては、全人類の大半が過労死している。彼は、殺した人間以上の人を救った英雄なのだ。

 

「私を倒せるチャンスをふいにした事を後悔させてやる。先ほどまでのようには、いが……なっゴッホゴホ」

 

「おやおや、ようやく効いてきましたか。やはり、鬼の始祖ともなれば、効力を発揮するまでに時間がかかりましたね。あらあら、目玉が取れていますよ。早く治さないと」

 

 鬼舞辻無惨の目玉が溶け落ちた。それをきっかけに、髪の毛が抜け落ち、歯もボロボロと崩れ落ち始める。すぐに再生を始めるが、崩壊は止まらない。

 

 その様子を確認して、煽る胡蝶しのぶ。彼女が開発した"藤の毒"が鬼の始祖でも十分効果がある事が証明される。その様子に開発者としても気分がいいものであった。例え、その毒を摂取させる方法が非人道的であったとしても、尊い犠牲で終わる。

 

「あれは、どうなっているんだ!! 一体、無惨に何が起こっている、胡蝶」

 

「簡単ですよ、煉獄さん。隊士達には、"柱稽古"の際に錠剤にした"藤の毒"を食事後に服用させていました。つまり、隊士の肉体は鬼にとっては猛毒です。並みの鬼なら即死。上弦であっても、数人分も食べれば殺せるでしょう。無惨は、いったい何人の隊士を食べたんでしょうね」

 

 煉獄杏寿郎も聞いたのはいいが、ドン引きであった。

 

 最初から食われる前提で隊士の肉体を毒にしておくなど、悪魔の所業。その話を聞いて、柱達も不安に駆られた。自分達が食べていた食事も"藤の毒"が混ぜられており、知らない間にホウ酸団子にされていたのではないかと。

 

「貴様等は、味方を餌にそんな事までしていたのか!! だが、この程度の毒、すぐに解毒してやる」

 

「できるものならどうぞ。ですが、再生と解毒を同時にやるのは貴方でも厳しいですよ。さぁ、出番ですよ!!」

 

 体力を回復した柱達が、この機会を逃さないと刀を強く握る。

 

 その柱達を迎え撃つ為、鬼舞辻無惨も触手を伸ばす。近づけるわけにはいかない。解毒に体力を持っていかれている時に、赫刀で肉体を削られると再生にごっそりと力を持っていかれる。

 

 ガチャン

 

 銃に弾が込められる音が無数に響く。聞き覚えのない音に、事情を知らない柱達が首を傾げた。誰もいない場所から確かに音が聞こえた。裏金銀治郎が転移してきたと同時に、目くらましの術が使われた俗物有能隊士達が軽機関銃を携えて時を待っていた。

 

 二丁だけでも、かなりのダメージを与えた軽機関銃が、20台近くが配備されたこの状況。鬼一匹をひき肉にするには十分な物量であった。

 

「あ、これ派手にやべーやつじゃねーか!! 」

 

「あぁ、皆さん。アレを倒せばボーナスをさしあげましょう。鬼滅隊の維持は不要ですから、期待してよいです。そうそう、今回の弾は日輪刀を溶かして作りました。数が少ないので最終決戦でしか試し撃ちもできませんでした。ここで、問題です――熱と圧力で変化する特性が分かった今、この弾を食らえばどうなるでしょう」

 

 暫定的に命名するならば赫弾と呼ぶにふさわしい。やはり、銃は刀より強い。何の手も加えずに赫刀と同じ属性が付与できる。

 

 裏金銀治郎が腕を振り上げる。そして、『放て』という一言で一斉に銃口が火を噴いた。狭い空間で耳を覆いたくなるような銃声。鬼特攻の凶弾が無惨に放たれた。

  




21世紀では、呼吸法は一般的になっています。
だから、長時間働いても滅多に働いても死なないんですよ。



無惨を討伐した後、鬼滅隊へのお礼参りが始まる。
当然、産屋敷ひなき 改め 胡蝶ひなきを迎えに行く。

裏金「パパですよ、ひなき」

よし、これでいこう!!



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68:鬼舞辻無惨

いつもありがございます。

感想嬉しい限りです!!

今週の投稿回数が少ない分を補わなければ!!




 火薬と硝煙の匂いが充満する。

 

 鬼特攻の弾丸は、その威力を発揮し鬼舞辻無惨の再生力を著しく落とす。鬼滅隊1000年の怨敵がボロぞうきんだ。鬼舞辻無惨は、防御に専念する。しかし、所詮は血鬼術―赫弾の前には意味をなさなかった。

 

 "おめこ券"こそが最強の防御術だと気がつけば未来は変わっていただろう。

 

(裏金銀治郎)、俺達は何をすればいいんでしょうか」

 

「無惨は、肉片からその身を再生した過去があります。飛び散った肉片を流星刀や赫刀で完全に抹消してください。後は、銃を持った隊士を守るのが我々のお仕事です」

 

 鬼舞辻無惨は、想定外の攻撃に死の恐怖を感じていた。

 

 彼女は、鬼として生きた長い時間で銃という存在を脅威と感じた事はない。その理由が、日輪刀の様な鬼を殺す道具ではない事、連続使用が出来ない事、銃口から当たる箇所が予測できる事などだ。

 

 しかし、文明は発達した。威力も連射性能も日進月歩だ。唯の人間が銃を使うだけで、上弦の硬い外皮すら破壊出来る。それだけなら良かった。そこに、貴重な日輪刀を溶かして弾丸とする男がいるとは、鬼舞辻無惨も想像できない。

 

「ねぇ、金柱……お館様の仇をこの手で殺したいんだけど」

 

「先ほどまで、命がけで闘っていたじゃありませんか。一応、お気持ちは理解できます。弾幕をかいくぐって無惨までたどり着ける自信があるなら構いません。攻撃の手は止めませんから、自己責任でお願いします」

 

 時透無一郎が赫刀を片手に苦情を伝える。

 

 他の柱達も同様な思いを抱いていた。男として、柱として、自らの刀で鬼舞辻無惨の頸を落としたいという気持ちでいた。しかし、彼等だけではそれが叶わない事も事実。先ほどまで、鬼滅隊最強の岩柱、蛇柱と風柱まで居ても倒せなかった。

 

 裏金銀治郎の勢力が居なければ、お館様の仇を殺せずに終わっていた可能性が高い。

 

「そこを何とか頼む、裏金殿!! なんでもやるぞ!!」

 

「うん!? 何でもやるっていったよね!? 本当なら頼むのは心苦しかったんですが、煉獄杏寿郎さんはコレを投げ込んでください。肉片となっている無惨には効果的です。更に逃亡妨害の効果も見込めます」

 

 裏金銀治郎がパチンと指を鳴らすと、業務用ローション2Lのボトルが大量に現れた。"藤の毒"が配合されており、普通の鬼ならば即死レベル。本来の鬼舞辻無惨ならば、この程度をものともしないが飛び散った肉片には効果的だ。

 

 更に、細かい肉片が集合し大きくなる事も阻害できるという実に有能な道具だ。

 

「わかった、任された!!」

 

 何かとローションに縁がある煉獄杏寿郎は、快く引き受けた。ローションに命を救われ、ローションで鬼舞辻無惨を殺す。

 

 炎柱がせっせとローションを投げ込む様子をみて、いたたまれなくなった他の柱も手伝いを申し出た。鬼舞辻無惨の触手攻撃は、時間が経つにつれてドンドン手数が減り、かまぼこ隊だけでも十分対応できるレベルになっていた。

 

………

……

 

 カチャカチャと軽機関銃が弾切れを告げる。

 

 鬼舞辻無惨の姿は、本当に肉塊であった。散り散りになった肉片が脳に向かって集まるあたり、生命力の凄まじさが窺える。だが、それだけだ。集まった肉は、結合しようと努力するがローションによってそれが拒まれる。

 

「金柱様、任務完了です」

 

「ご苦労。君達は、とても優秀。では、地上に送り届けます。仕事の報酬は、私の屋敷で渡すので、訪ねてきてください。希望者は、今後の職斡旋もして差し上げます。少なくとも生活に困らない程度の給料は期待して良いです。それでは、また後で」

 

 俗物有能隊士達は、勝ち馬に乗った事を喜んでいた。

 

 彼等は、分かっていた。鬼が居なくなった世の中で、一体どうやって金を稼いで暮らしていけば良いのか。今まで助けた人達の伝手で再就職すら考えていた。学歴的にも再就職に不安があったが、その不安まで一気に解決した。

 

 俗物有能隊士達は、感謝の言葉を述べ地上へと送られる。

 

「鬼を殺すぞ」

 

 冨岡義勇が、やっと出番かと思い肉片となった鬼舞辻無惨を相手に意気込む。他の柱達も、やるせない気持ちでいた。こんな肉片を相手にする為、今まで死ぬほど訓練し何度も死線をくぐり抜けてきたのかと。

 

 だが、それが現実だ。

 

「意気込んでいるところ悪いですが、隊士達がいないので肉片の掃除はもう結構です。小さい肉片は、彼等にとって危険な物でしたからね~。集まった塊には、近付かずにこの液体を掛けて凍らせてください」

 

「ほら、冨岡さん。水柱なんですから、液体を掛ける仕事もお似合いですよ。その液体窒素……間違っても人に掛けたらだめですからね。壊死します」

 

 胡蝶しのぶから液体窒素を受け取り、変顔をしながら液体窒素を肉片に掛けていく冨岡義勇。彼が望んだ鬼退治への協力はこんな形ではなかった。もっと、熱く激しい戦いであった。

 

「なぁ、裏金さんよ。凍らせてどうするんだ? まさか、喰ったりしないよな?」

 

「宇髄天元さん、いくら私が鬼喰いをした事があるからって怒ります。あんなの食べたら食あたりするでしょう。凍らせたら太陽の下で灰にします。赫刀でも殺せると思います。ですが、耀哉君が太陽でしか殺せないと勘で言っていたので念の為ね。天国に居る耀哉君もその方法で鬼舞辻無惨を殺したのなら安心でしょう」

 

 先代お館様を耀哉君と呼ぶ裏金銀治郎。

 

 その事に首を傾げる者もいた。だが、自分達と同じかそれ以上に仲が良かったのだろうと察する。

 

◇◇◇

 

 胡蝶しのぶは、甘露寺蜜璃の容態を確認した。

 

 鬼舞辻無惨の毒で死ぬ寸前だった彼女を胡蝶しのぶは、助けた。中立であったが、裏金銀治郎を害する気持ちが全くない彼女であったから救われたのだ。勿論、完全な慈善活動では無い。

 

 甘露寺蜜璃の特異体質である筋肉数倍という特性は、失うには惜しい。神に愛された肉体だ。その神秘は解明されるべきである。勿論、知り合いである為、人道的に研究が行われる。研究される彼女としても、美味しいご飯を食べて胡蝶しのぶの診察を受けるだけで食うに困らない給料が貰えるのだ。お互い幸せになれる。

 

 ペチペチと胡蝶しのぶが彼女の頬を叩く。

 

「う~ん、もう食べられません」

 

「……なんてベタな寝言を言うんでしょうね。彼女らしいと言えば、彼女らしいけど」

 

 胡蝶しのぶは、凍結された鬼舞辻無惨の成れの果てを確認した。

 

 その無様な姿は、ハッキリ言って惨いの一言だ。だが、一切の同情はわかない。この程度の報いは当たり前だ。

 

「産屋敷一族の方は、もっと早く銀治郎さんみたいな人を採用すべきだったと思うんですよ。そうすれば、1000年も鬼舞辻無惨と闘うなんて事は無かったでしょうに」

 

「えっ、イヤだよ!! あんなのが、他にも居たらそれこそヤベェーーーだろ!! しのぶが居なかったら、制御不能だぞアレ」

 

 嘴平伊之助は、産屋敷一族同様に勘が非常に優れている。その勘は、正しい。胡蝶しのぶや産屋敷耀哉が居なければ、裏金銀治郎は今以上に制御不能であった。誰しもが危惧した通り、第二の鬼舞辻無惨となっていた可能性は大きい。

 

 しかも、鬼舞辻無惨より遙かに倒しにくい存在になっていたのは明白だ。

 

「伊之助君、私の旦那をアレ呼ばわりしていると……潰しますよ」

 

「ア、ハイ。ごめんなさい」

 

 蛇に睨まれたカエルの如く萎縮する嘴平伊之助。

 

 口は災いの元である。素直な彼は、言って良い事と駄目な事の区別が付いていない。怒られる事で彼は学び同じ失敗は繰り返さない。

 

 我妻善逸が刀から手を離した。信仰する神に対する侮辱は、例え同期であっても許されない行為である。嘴平伊之助は、確かに強い。独自の呼吸法を編み出し、勘も優れている。だが、勘で攻撃されると察知しても肉体の反応速度がそれに追いつかなければ意味をなさない。

 

 

◇◇◇

 

 無限城の外で夜が明ける。

 

 液体窒素で名前の通り無残な姿に変えられた鬼舞辻無惨。人の姿で死ぬ事も出来ない。上弦や下弦の誰かが生き残っていれば、助けてくれたかも知れない。だが、そんな仲間は何処にもいない。

 

 氷漬けにされ一箇所に集められた残骸に近付く、裏金銀治郎。

 

『ア゛アァ』

 

 氷漬けにされた内部から必死に声を上げる鬼舞辻無惨。だが、声帯の復元が完全で無い為、醜い鳴き声にしか聞こえない。

 

「おやおや、まだ意識が保てるなんて素晴らしい生命力です。ですが、そんな状態で意識があるのは、さぞ辛いでしょう。しかし、もう大丈夫です」

 

「銀治郎さん!!」

 

 突然、胡蝶しのぶが声をあげた。

 

 彼女の血鬼術が未来をフィードバックさせた。その未来には、裏金銀治郎の全身に半ば復活した鬼舞辻無惨が取り付いている姿が見えた。

 

「分かっていますよ、しのぶさん。無限城の内部は、既に私のテリトリーです」

 

 床板を突き破り、再生途中の鬼舞辻無惨が飛び出てきた。そして、裏金銀治郎に抱きつく。目的はただ一つ、このまま裏金銀治郎を取り込み無限城ごと手に入れる算段だ。

 

 彼女は、軽機関銃で攻撃される中、不利を悟り肉体の一部を床下に避難させていた。そして、少しずつ再生を繰り返し時を待っていた。

 

「油断したな!! これで、私を排除する事は出来なくなったぞ!!」

 

 太陽を浴びれば鬼は死ぬ。

 

 鬼舞辻無惨の発想は正しかった。密着してしまえば、外に転移させられる事は防げる。転移すれば、裏金銀治郎ごと灰になる――太陽を克服していなければ。

 

 太陽を克服している事実を知らない者達は焦った。裏金銀治郎が取り込まれてしまえば、今度こそ勝機が失われる。裏金銀治郎を救うには、赫刀で鬼舞辻無惨だけを綺麗に切り離す必要がある。だが、少しでも手元が狂えば、鬼の始祖である裏金銀治郎を傷つける。

 

「分かりました。では、共に夜明けを見ましょう」

 

 裏金銀治郎は、鬼舞辻無惨と一緒に太陽をみるイベントを実行する事を決意。

 

 裸のラスボスと朝日を見るなど……濡れ場だ。ただし、血液でヌルヌルというのが難点であった。

 

「ダメだ、裏金殿!! 幾ら強くても太陽の前じゃ!! 絶対に俺が助ける。まだ、恩を返せていない」

 

「そうだぜ、裏金さん。あんたが死んだら、再就職先を探すのが大変なんだから困るぜ。直ぐに、無惨を切り落としてやる」

 

「全く、詰めが甘いよ金柱。いいよ、動かないでね」

 

 炎柱、音柱、霞柱が今度こそ!! と、思い刀を握りなおす。

 

 その様子に、胡蝶しのぶは同僚の柱達が盛大に思い違いして、恥ずかしい台詞を言っている事に申し訳ないと心苦しかった。裏金銀治郎が指を弾こうとする様子をみて、柱達が『早まるな!! 絶対に助ける』と叫ぶのを聞くと耳を塞ぎたくなる彼女であった。

 

 パチン

 

………

……

 

 美しい太陽の光が周囲を照らす。見渡す限り何もない平野。逃げも隠れも出来ない場所に、裏金銀治郎と鬼舞辻無惨と肉片、柱達の全員がこの場に転移した。

 

「ギャーーーーー」

 

「綺麗な朝日ですね。折角、私がこうして付き合ってあげたんです。喜んでください」

 

 鬼舞辻無惨が太陽に焼かれて崩れ落ちていく。

 

 激しい痛みと苦痛が鬼舞辻無惨を襲う。だが、彼女は疑問だった。同じ鬼であるなら、裏金銀治郎も太陽のもとで焼かれるはずだと。なのに、一切の変化がない。何故なのか……有能となった彼女は気がついてしまった。

 

「貴様貴様貴様ぁぁぁぁーーー!! 太陽を克服しているな!!」

 

「弱点を克服しておくのは種として当然の行いです。貴方の夢も力も私が引き継ぎます。どうぞ、安心して死んでください」

 

 鬼舞辻無惨は、生まれて初めて悔し涙を流した。

 

 最初から最後まで完全に弄ばれていたのだ。それに気がついた今、彼女の心は悔しさで一杯であった。だが、手も足も出ない……死ぬまで時間も残されていない。

 

「くそぉぉ!! くそぉぉーー………」

 

 1000年の時を生きた鬼舞辻無惨。鬼の始祖にして、日本に多大な迷惑と貢献をした鬼がこの時滅びを迎えた。そして、連鎖的に無惨産の鬼が滅びる。

 

「耀哉君、約束は果たしましたよ。では、引き続き、()退治をしにいきましょう」

 

 裏金銀治郎達は、産屋敷の別宅に移動した。

 

 

 




今、パパが迎えに行きますからね~。


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69:パパですよ、ひなき

いつもありがとうございます。
感想も本当に嬉しい限りです。




 鬼滅隊の当主産屋敷輝利哉は、無限城に潜った隊士達が誰一人帰ってこない事に焦りを覚える。愈史郎が死んだせいで、内部の状況が不透明であり鬼滅隊側が有利なのか、鬼側が有利なのか読めないでいた。

 

 だが、彼としては鬼滅隊側が有利と信じていた。歴代最高の柱達と鍛えられた隊士達をほぼ全投入した殲滅戦。これで負ければ、後が無い。

 

 産屋敷一族は、有能な血筋である。それぞれ得意分野がある。産屋敷耀哉は、人心掌握が神がかっていた。勿論、産屋敷輝利哉も優れている。10歳に満たない子供が仕事効率はどうあれ、裏金銀治郎が行っていた事務作業が出来ていたのだ。彼の能力は、裏方特化であった。後数年も彼の下で学べば、十分通用しただろう。

 

「お兄様、朝日が昇りました」

 

「分かっている。このままでは、埒があかない。裏金さんが、入り口を開放したままにしていたので、そこから残った隊士を投入する。ひなきお姉様には……いない」

 

「お姉様でしたら、だいぶ前に部屋を退出しました」

 

 産屋敷ひなきは、胡蝶しのぶの下に養子に出された彼の(胡蝶ひなき)だ。数居る子供の中で、彼女が選ばれた。その理由は、実に単純明快だ。彼女が一番理性的で有能であったからだ。

 

 そして、その事を今、産屋敷輝利哉も察した。

 

◇◇◇

 

 朝日が照らす産屋敷の別宅前に、裏金一派が勢揃いしていた。

 

 鬼滅隊の悲願を達成した英雄達の帰還だが、その迎えは警備をしている隊士だけ。当然、その隊士は目を疑いたくなる。煉獄槇寿郎によって、殺害命令が出された裏金銀治郎と柱達が一緒に帰ってくる。しかも、太陽が照らす場所を平気で歩いているのだ。

 

 騒がれる前に宇髄天元が警備の意識を刈る。

 

「随分と派手な別宅じゃねーか。よく、こんな金があったな。鬼滅隊って金欠じゃなかったのか、裏金さん」

 

「耀哉君が自爆特攻するからというので、別宅を建設しておりました。ですが、これは些か贅沢し過ぎです。一般家庭並にすると言う事で認可したのですが――いつから、一般家庭は日本庭園や錦鯉がいるまで生活水準があがったんでしょうね」

 

 産屋敷輝利哉の中での一般家庭は、自分にとっての一般家庭という意味であった。つまり、今まで暮らしていた家や神職である母方の実家が基準となっている。世間の学校に行っていないため、常識が備わっていなかった。

 

 裏金銀治郎達は、新築された別宅に足を踏み入れる。広い屋敷内を彼が先頭に進む。

 

「銀治郎さん、ひなき様に手荒な事はしないであげてください。恐らく、何も知らなかったんでしょう。ですから、慈悲の心を持ってくださいね」

 

「しのぶさん、私は家族を大事にする男です。義理とは言え、しのぶさんの娘。つまり、私の娘でもあります。見ていてください、私の溢れんばかりの父性をもって娘を許し、迎え入れる姿を」

 

 殆どの者が思った……不安しかないと!!

 

 今までやってきた事を鑑みて、裏金銀治郎の口から出た父性だとかが信じられる筈も無い。寧ろ、率先して折檻する姿が映る。だが、嗅覚や聴覚が優れた者にはその言葉が真実だと分かる。だからこそ、素晴らしい大人だと認識した。

 

(裏金さん)は、立派な人です。でも、家族とはいえ、血のつながりはありませんでしたよね」

 

「炭治郎君、家族とは血の繋がりのみを言うのでしょうか?私はそうは考えていません。慈しみ合う心がヒトを家族たらしめるのです」

 

 まるで聖人君子の様な言葉を平然と言う男……裏金銀治郎。

 

 だが、その言葉はあまりにも素晴らしくその場に居る誰もが感動した。疑ってしまった汚い大人であったと自己嫌悪し始める。

 

「銀治郎さん。ひなき様の事を任せても良いのですね?」

 

「勿論です」

 

 絶対的な自信を見せる裏金銀治郎。

 

………

……

 

 胡蝶ひなきは、産屋敷の家に残った金品を一箇所に集めていた。母親の着物や宝石類、土地や建物の利権証など彼女が知る限りの物全てだ。だが、これだけ集めても所詮は二束三文にしかならない。勝手に使い込んだ裏金銀治郎の私費分にも満たない。

 

 足りない分は、どうするか……幼い彼女に残された手は、身売りしか無かった。幸い、両親が美形のお陰で、容姿は約束されている。吉原に売った場合でも、良い値段がつくのは間違いない。

 

 両親より託された産屋敷一族の存命。今回の出来事で、弟妹の生存を当てに出来ない以上、頑張れるのは胡蝶ひなきを除いて誰もいなかった。

 

 屋敷の中に複数の足跡が響く。一直線に部屋に向かってくる足音とリズム……彼女の中で恐怖が募る。

 

 彼女は、胡蝶しのぶが崩壊した倫理観を持ち、裏金銀治郎の為ならば、鬼にも悪魔にもなれる女だと知っている。

 

 彼女は、裏金銀治郎が敵対者には容赦しない崩壊した倫理観を持ち、胡蝶しのぶの為ならば鬼にも悪魔にもなれる男だと知っている。

 

 本来であれば、もっと良い面にも眼を向けるべきだが難しかった。彼女の置かれた状況は、それほどまでに窮地である。今の彼女の心境は、死刑台を上る受刑者に等しい。

 

 カタと音を立てて襖が開かれた。そこには、何事も無かったかのような顔をする裏金銀治郎とその仲間達がいた。裏金銀治郎が胡蝶ひなきにゆっくりと近付き両手を広げる。

 

「パパですよ、ひなき」

 

 人の皮を被った鬼とも揶揄される裏金銀治郎の口から、『パパ』という想像の斜め上をいく言葉を耳にした胡蝶ひなき。裏金銀治郎と胡蝶ひなきの接点は、限りなく薄い。戸籍上の娘とはなったが、会話した事すら殆ど無い。

 

 そんな男性から、いきなり『パパ』と言われ混乱した胡蝶ひなきは、心を開くどころか。SAN値を振り切り、食べた物が逆流した。

 

「う゛ぉぉぉえぇぇぇ」

 

 まるで、腹を思いっきり殴られて嘔吐したかの如く胃液を撒き散らす彼女。集められた衣服に掛かり酷い惨状だ。

 

「裏金殿!! いくら何でもその仕打ちはあんまりだ!!」

 

「金柱、やっぱり鬼だね」

 

「裏金さん、もうちょっと自分の立場を分かって発言しようぜ。忍者の俺だって恐怖したくらいだ、子供には……」

 

「やはり、鬼か」

 

 炎柱、霞柱、音柱、水柱が言いたい放題だ。

 

 裏金銀治郎としては、くそ真面目だった。慈愛の心をもって、義理の娘を優しく抱擁するつもりでいた。

 

「おかしいですね。しのぶ、パパですよ~」

 

「パパ!! ……って、なにやらすんですか!?」

 

 裏金銀治郎の胸に飛び込みそうになったが、ココが何処なのかを思い出し我に返る。胡蝶しのぶは、父性に飢えていた。幼い頃に両親を亡くし、母親代わりの姉はいたが父親代わりは居ない。

 

 だからこそ、そういうプレイにド嵌まりしたのは仕方が無い事だ。その頻度は週に2、3回ほどだ。おかげで、色々と捗っていた。

 

「私の想定では、ひなきもこうなる筈だったんですがね。やはり、一人で心細かったんでしょう。もう大丈夫ですよ、これからは私がついていますから」

 

 裏金銀治郎が吐瀉物で汚れたひなきを抱きしめた。

 

 胡蝶ひなきが、裏金銀治郎に得体の知れない恐怖を感じる瞬間だ。

 

 

◇◇◇

 

 胡蝶ひなきと金品を無事に回収した裏金銀治郎。

 

 最後の最後で裏切りを見せてくれた、産屋敷の当主に会うべく裏金銀治郎は足を進めた。だが、その道中を拒む者が一人。

 

「止まれぇぇぇ!! この先の部屋には、お館様がおられる。一体、何用だ」

 

「これは、元・水柱鱗滝左近次さん。私は、元・金柱の裏金銀治郎です。お見知りおきを。てっきり、煉獄槇寿郎さんも居ると思っていましたが、いずこに?」

 

 別宅には、元・柱が二人居ると裏金銀治郎は思っていた。

 

 だが、気配を探っても近くに居るのは彼一人。既に逃亡したと考えるのが妥当である。

 

「お主が……鬼だな。だが、煉獄なら、蝶屋敷へ向かった。あそこには、戦えない隊士が多く居る。守れる者が必要だ。安心しろ、元柱がいれば並の鬼など相手にならぬ。それよりもなぜ、冨岡と炭治郎がそちら側にいる。無惨は、どうした?」

 

「鱗滝さん!! 今は、それどころじゃありません。蝶屋敷には、きよちゃん、すみちゃん、なほちゃんがいる!! (裏金さん)

 

 焦る竈門炭治郎。

 

 今までの煉獄槇寿郎の行動から、碌でもない事になる可能性は否定できない。寧ろ、碌でもない事が起こっている可能性の方が高かった。大変お世話になった女性を守るべく立ち上がる男達がいる。竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助だ!!

 

 そして、もう一人名乗りを上げる者がいる。炎柱の煉獄杏寿郎。

 

「分かっています、転移させますので頼みましたよ。それと、煉獄さん、貴方にアレが討てますか? 少しでも躊躇するようなら邪魔になります」

 

「見損なうな、裏金殿!! 俺の血縁者は弟だけだ!! 鬼は、狩る。それだけだ」

 

 良い眼をする煉獄杏寿郎。

 

 蝶屋敷がどのような惨状なのか定かでないが、事態に関係なく鬼を討つことを心に決める。これ以上、罪を重ねる前に討つ事が彼にできる最後の親孝行であった。

 

「万が一に備えて、保険(・・)は配置しておりましたが……頼みましたよ、みなさん」

 

 彼等を送り出す裏金銀治郎。

 

 それを見た鱗滝左近次は、最大限の警戒をする。指を弾くだけで何処へでも人を飛ばせるならば、今この瞬間に頸を落とさなければお館様を守れないからだ。だが、勝ち目がある戦いでないのは明白だ。

 

 歴代最高の柱が何人も裏金銀治郎側にいる。自らの刃が届く前に殺されるのが関の山である事も彼は承知している。

 

「鱗滝さん、そこに裏金さんが来ているんですね!! 通してください」

 

「分かりました」

 

 産屋敷輝利哉が裏金銀治郎との対話を望む。

 

………

……

 

 堂々とした態度で裏金銀治郎と対面する産屋敷輝利哉と彼の妹達。お高い座布団は、ずいぶんと座り心地が良さそうであった。

 

「無惨は、どうなりました?」

 

「私が、それを君に教える必要も義理も無い。もしかして、私がまだ鬼滅隊の一員で元・金柱とでも思っているなら、一度死んだ方が良い。もはや、君と私は何ら関係ない他人だ」

 

 産屋敷輝利哉が助け船を求めて、裏金銀治郎側にいる柱達に眼をやる。

 

 だが、それに呼応する者は誰も居なかった。あの水柱でさえ沈黙を守っていた。

 

「では、裏金さんは、私に何を望みますか? 可能な限り、お応えします」

 

「てっきり、謝罪の一つでも頂けると思ったのですが……まぁ、良いでしょう。私は、鬼滅隊を首になった身です。正直、最終決戦で切り捨てられるだけではなく、味方であった隊士に斬りかかられる気持ち、貴方達には理解できないでしょう。それに、人様が居ない時に勝手に私費を使い込むとか、軽く犯罪です。寧ろ、どう責任を取るつもりか聞かせて頂きたいですね」

 

 鬼滅隊の状況は、控えめに言っても最悪である。

 

 明日食う飯にも困る惨状だ。しかも、これから生き残った隊士が続々戻ってきて、怪我の治療や給料を求める。現状の鬼滅隊に、その対応は不可能だ。無い袖は振れない。

 

「産屋敷が保有している土地や家の権利を売って……足りるでしょうか」

 

「足りませんね。それに、土地や家の権利は既にひなきから貰いました。恐らく、君が探しても、金になりそうな資産は残っていないでしょう。で、足りない分の補填は?」

 

 どう考えてもお金の捻出は不可能。

 

 そもそも、鬼滅隊は、誰かの依頼でお金と引き替えに鬼を殺していたわけでは無い。完全な慈善事業で鬼退治をしていた。

 

 今のスポンサーは、アンブレラ・コーポレーション一社のみ。そのトップ二人を勝手に切り捨てて、命まで狙ったのだ。どう考えても、スポンサーを続けてくれるわけがない。

 

「ぶ、分割で返済する方向でお願い致します」

 

「分割? 面白い冗談を言いますね。一体、どこから分割支払いするお金を調達するんですか? まさか、返済すべき相手に借金の申し込みでもするんですかね? あまり、大人を舐めない方が良い」

 

 人生経験の足りない彼には、それ以上のアイディアは出てこなかった。

 

「……助けてもらえませんか」

 

「イヤですよ。貰う物を回収したら、私は引き上げます。この手で貴方へ引導を渡す事は容易い。ですが、それだと楽すぎて欠伸が出る。刀鍛冶の支援金、育手の支援金、隊士や『隠』への給料、政府への賄賂、我々への退職金……どう考えても首が回らない。そして、間もなく各方面からの突き上げが始まります」

 

 金の切れ目が縁の切れ目。強靱な肉体を持つ隊士を前に子供など、赤子の手を捻るより簡単にねじ伏せられる。

 

「ですが、私も鬼ではありません。君達が唯一生存できるルートを教えてあげましょう。ご両親が美形だったことに感謝するんですね。吉原にその身を堕としなさい。そうすれば、すぐには死なない。君達をお館様と敬愛してくれる隊士がいるならば、必ず身請けを申し出てくれるでしょう」

 

「貴方に、人の心はあるんですか!! 」

 

「鬼ですから、人の心は持っていませんね。それに、先ほどから鱗滝左近次さんも見て見ぬふりをしているじゃありませんか。彼も今の鬼滅隊を支えられないから雲隠れする気ですよ」

 

 仮面がなければ、図星を突かれた顔が露見していた。

 

「そうだ!! 鱗滝左近次さんの催()術があれば、お金なんて」

 

「催()術です、お館様。残念ですが、あの技術を悪用する気はございません。それだけは、やってはいけない事なのです」

 

「人望がありませんね。人との信頼関係は、積み重ねが大事です。ただ、座って命令するだけでは人は付いてきません。最後に、煉獄家は当てになりませんよ。古い名家ですが、煉獄杏寿郎さんは私側の人間です」

 

 裏金銀治郎は、用事を終えた。本来であれば、この手で八つ裂きにしてやりたい気持ちもあったが、生きて絶望を味わって貰う方がより苦痛が長引くと判断した。大の大人達が毎日子供相手に金の催促と罵声を繰り返す日々がこれから始まる。

 

「1000年の歴史を誇る産屋敷も遂に終わりか……名家とはいつ落ちるか分からねーな。これからは、派手に稼がせて貰うからな!! 嫁が三人も居て、子供だって作るから金がいるんだ」

 

「よかった、金柱が殺そうとするなら流石に止めた」

 

「鬼」

 

「そう言って、誰もお館様の元に残ろうとしていませんよね。では、蝶屋敷に寄ってから、撤収しましょう。銀治郎さんの話だと、警察のガサ入れがあるみたいです」

 

 来た道を引き返していく裏金銀治郎達。

 

 その後ろで、待ってくださいと止める声がするが誰も足を止めなかった。あちら側は沈む船だ。

 

「そうじゃの、蝶屋敷にいる隊士達が心配だ。儂も煉獄を送った責任としてこの目で安全を確かめなければならない」

 

 そして、沈まない方の船に乗客が一人増えていた。

 




生きて苦痛を味わって貰う方向にしました。
女子供を殺さない紳士なのでね!!

代わりに、生き地獄を味わって貰いましょう



本編完結までもうすぐだ!!
正直、見切り発進でよくここまで辿り着いたと思う作者がいる。


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70:鬼退治

いつもありがとうございます!!
感想も本当にありがとうございます。


 蝶屋敷は、最終決戦に参加できなかった隊士が入院している。"柱稽古"で思わぬ重傷を負わされた者達が殆どだ。人によって、剣士としての腕前はマチマチなのに、一部隊士が柱級や準柱級の実力者であり、それを基準に厳しい訓練をした結果であった。

 

 特に、風柱と蛇柱の訓練での負傷者が多い。

 

「なんじゃ、若いもんが痛い痛いと喚きおって!! こんなの唾でも付けていれば治るわい」

 

「やめろーー!! 唾なら、鹿島さんの唾とかにしてくれよ。というか、誰だよ!! このじいさん」

 

 一人の老人が蝶屋敷をウロウロと徘徊している。

 

 その老人も何故、ここに居るかは理解できていない。気がつけば、居たというのが正しい表現であった。どうしてここに居るかは分からないが、誰のせいでここにいるかは察していた。

 

「儂か、元・鳴柱の桑島慈悟郎じゃよ」

 

「……だれ?」

 

 若い世代では、流石に知らない柱であった。何十年も前の柱の名前なんて普通知らない。だから、知らない隊士に罪は無い。

 

「しらんのか!! ほら、えーーーと裏金銀治郎や我妻善逸の師匠じゃよ。どちらかなら、知っているじゃろう? ほら、一人は何かと胡散臭い男で、もう一人は泣き虫のヤツじゃ」

 

「――!! それは、失礼致しました。まさか、そのようなお方だとは知らず、私、臼井仙道といいます。元・柱の貴方が何故このような場所に?」

 

 手のひら返しをする隊士。

 

 彼の中では、実に美味しい巡り会いだと感じていた。どのような場面でも構わないが、裏金銀治郎に名前を覚えられる可能性がある機会に恵まれたのだ。勝ち組への仲間に入れるチャンスが転がってきたのだから、誰だって見逃さない。

 

「なんじゃ、気持ち悪い位下手にでおって。まぁ、いいか。それがの~、気がついたらここにおったんじゃ。狸に化かされた気分じゃよ……で、ココは何処じゃ?」

 

「ここは、蟲柱様が保有されております蝶屋敷になります。主に怪我をした隊士達の治療を行う場所です。知らずにココに来られたのですか?」

 

「つまり!! ここは、善逸の嫁が居る場所か!! なるほどな、裏金も気が利くの~。……で、どのくらい美人なんじゃ、その嫁達は?」

 

「控えめに言って、絶世の美少女、美女です。お二人のお師匠様相手に言いたくはありませんが……呪いで人が殺せるなら我妻善逸は、毎日100回は死んでいます」

 

 隊士から漏れる憎しみの殺意に桑島慈悟郎は、本気で心配をしてしまった。

 

 それほどまでに恨まれるのかと。一体、どれほどまでの女性を手込めにしたのかと恐ろしくすら感じていた。だが、同時に楽しみでもあった。『おじいちゃん』と呼ばれるのも悪くないと。

 

「イヤァーーー!! だれかぁぁぁぁ」

 

 蝶屋敷に幼い女性のが響く。

 

 怪我人ばかり居る蝶屋敷が襲われるなど、考えられるのは鬼の襲撃だ。鬼滅隊の拠点は藤の花で守られており、並の鬼では近付く事が困難である。つまり、それ相応の鬼である事を示していた。

 

「小僧!! 刀をよこせぇ!!」

 

「コレを使ってくれ」

 

 日輪刀を受け取り、現場へ足を運ぶ。

 

 義足である彼の実力は、全盛期の三分の一程度だ。だが、その肉体には活力が満ちあふれている。切腹後に緊急活性薬を使用した事で肉体が活性化していた。

 

………

……

 

 叫び声がする場所に辿り着いた桑島慈悟郎は目を疑った。

 

 隊士達が、血を流しうめき声を上げて倒れている。幸い、致命傷でないが放置すれば危険な状態であるのは間違いなかった。彼等は、目の前の惨状を止めようと身を挺したのだ。

 

「お願い、きよちゃんを離して!! 本当に知らないんです」

 

「俺は子供のお使いで来ているわけじゃないんだ。先刻まで、我妻善逸の嫁達がここに居たのは他の隊士に確認がとれている。隠し立てするとは、良い度胸だな」

 

 煉獄槇寿郎は、血塗られた日輪刀を片手に幼い子供の胸ぐらを掴み持ち上げていた。寺内きよは、打たれた頬が真っ赤に腫れ上がっている。そして、涙を流しながら知らないと言う。

 

 彼の元には、幼女が泣いてすがりついている。当然、他の幼女達も少なからず酷い有様であった。衣服が乱れており、怪我を負った隊士達が命がけで止めに入らなければ、彼女達は、嫌な経験で大人になっていただろう。

 

 怒りが頂点に達した桑島慈悟郎の毛細血管がブチブチと切れる。

 

「き、きさまぁぁぁぁ!! こんな事をして恥ずかしくないのかぁぁぁぁ、煉獄槇寿郎!!」

 

「さっきから、次から次へと邪魔ばかり入る。……誰かと思えば、鳴柱か。悪いが、取り込み中だ後にしろ。あぁ、そうだ。我妻善逸の嫁達を知っているなら、居場所を教えて貰おう。そうすれば、これ以上はしない」

 

 煉獄槇寿郎の眼にとっては、刀をもった老人が一人増えたに過ぎなかった。緊急活性薬のおかげで全盛期に近い能力を取り戻した彼は、全能感に浸っている。実力だけでいえば、平時の柱に通用するレベルだ。

 

「おじいさん、逃げてください!! この人、何をいっても分かって貰えないんです」

 

「きよちゃんと言ったかい。少し、待ってなさい。直ぐに、おじいちゃんが助けてあげるからね」

 

 桑島慈悟郎は、裏金銀治郎に感謝した。

 

 切腹して死んでいたら、この場に駆けつける事は出来なかった。今この時の為に、自分は生き残ったのだと。全身にみなぎる力を感じる桑島慈悟郎。今こそ、己の全てを燃やし尽くす時だと。

 

 刀を構えて臨戦態勢を取る。

 

「老いぼれ、死ぬぞ」

 

「ここで立ち向かわねば、死んだも同然。()退治こそ、鬼滅隊の本分じゃよ。――雷の呼吸 弐ノ型 稲魂!!」

 

 全盛期には程遠い攻撃。

 

 だが、命を捨てても構わないという心構えが技の切れを何倍にもする。その攻撃は、煉獄槇寿郎であっても片手で対処する事は難しい。

 

 

◇◇◇

 

 蝶屋敷に転移した煉獄一行は、蝶屋敷の異様な雰囲気に直ぐに気がついた。

 

「血の臭いがする。道場の方からです!!」

 

「この音は――!!」

 

 真っ先に反応したのは、竈門炭治郎と我妻善逸であった。

 

 それからの行動は全員早かった。勝手を知る蝶屋敷の中を最速で駆け抜ける彼等。道中に倒れる隊士達から、『頼んだ』と声が掛けられる。

 

 道場に辿り着いた彼等は、息をのんだ。泣き叫ぶ幼女達。片手を失いながらも幼女の前に立ち一歩も引かない老人に無慈悲な刃が迫る。

 

「流石は、元・柱だった。義足で無ければ、良い勝負ができただろう」

 

「もう止めて!! 鹿島さん達は、本当に居ないんです。早く、おじいちゃんを治療しないと死んじゃう」

 

「いい子達じゃの~。あぁ、善逸の幻が見え始めたわい」

 

 怒りの限界点を突破した煉獄杏寿郎とかまぼこ隊。"痣"覚醒の力で、刀の柄を握りつぶす。今の彼等ならば、腕力だけで鬼をねじり殺す事もできるだろう。

 

「煉獄さん、俺……ここに来るまでは、()退治は譲ろうと思っていました。ですが、殺す」

 

「きよちゃん、すみちゃん、なほちゃん。もう大丈夫だよ。絶対に、俺が助けるから。煉獄槇寿郎、お前は存在しちゃいけない生き物だ」

 

「噛み殺してやる塵が」

 

 露骨にフラグを建築する。彼は知らなかった。女性は男より遙かに精神的な成長が早い。そして、初恋は実らないという格言がある。だが、初恋とは、薬を使ってでも実らせる物だ。その先駆者がいるのだから、続く者が出ても不思議では無い。

 

「はっはっは、鬼滅隊の基本ルールは知っているか? 鬼退治は早い者勝ちという事を!! 俺は俺の責務を全うする」

 

 ここに、絶対鬼殺すマンが誕生した。

 

「杏寿郎と我妻善逸、それと……その耳飾り!! 日の呼吸の使い手か!! お前等、そこから一歩も」

 

「雷の呼吸 漆ノ型 火雷神」

 

 不利を悟った煉獄槇寿郎。手頃な人質を使おうとしたが、日輪刀を持つ腕が手首から先が綺麗に消えていた。それどころか、人質となる予定の幼女達と桑島慈悟郎までもが突如消える事態に陥る。

 

「おせーんだよクズ」

 

「見えなかった。っ!! こんなガキに、俺が!?」

 

 切り落とされた腕からの流血を抑える煉獄槇寿郎。

 

 実力差を考えれば当たり前の結果。胡蝶しのぶを除けば、我妻善逸の神速に付いていける者は居ない。元・炎柱が全盛期の実力を取り戻した所で、今の時代では井戸の中の蛙だ。

 

「あれだけでかい口で、腕の一本か!! 俺は、二本落としてやるぜ!! 獣の呼吸 参ノ牙 喰い裂き」

 

「ぐああああぁぁぁ」

 

 すんでの所で倒れて回避行動をとる煉獄槇寿郎。それが功を成し、左足一本の犠牲で彼の攻撃を凌いだ。実に見苦しいが、その咄嗟の判断は理にかなっている。

 

「無惨を殺したのに、鬼がココにもいるなんて。鬼は殺さないと―ヒノカミ神楽 円舞」

 

 竈門炭治郎の攻撃が、煉獄槇寿郎から光を奪う。眼球を綺麗に横薙ぎに切り裂く。現代医学では、もはや治療不可能な致命の一撃。手足をもぐより、えげつない攻撃だ。

 

「眼がぁぁぁぁ!! 眼が!? なぜだぁ。なぜ、お前達は分からない。裏金銀治郎こそ、最悪の鬼だと。アイツは、疫病神だ。杏寿郎、お前なら裏金を殺せる。今からでも遅くは無い」

 

 煉獄槇寿郎にしてみれば、その通りであった。

 

「言い残したい事はそれだけか。今この時、煉獄の姓を捨てた。俺は、人として恥じない生き方をする!! せめてもの手向け 炎の呼吸 奥義 玖ノ型・煉獄」

 

 見苦しい実の父親をその手で処断する煉獄杏寿郎。

 

 『立派になりましたね』

 

 彼の耳には、確かに母親の声が聞こえていた。

 

………

……

 

 その後、裏金銀治郎達が到着し、桑島慈悟郎は一命を取り留めた。

 

 裏金銀治郎の血液から作り上げた特別製の緊急活性薬。それのおかげで、腕どころか足まで生えてしまう。師匠の無事を祝う善逸をみて、『鬼は滅んだ』と裏金銀治郎という新しい鬼の存在を桑島慈悟郎は黙認した。

 

 裏金銀治郎の師匠であり、我妻善逸の師匠という事で淫魔三人衆が是非ご挨拶したいと顔合わせする事になった。評判通りの美少女、美女が並び桑島慈悟郎も眼を疑った。

 

「えーーと、シルヴィちゃん、月村すずかちゃん、鹿島ちゃん。全員が善逸の嫁?」

 

「その通りですよ。私が、紹介しました。それと、来月にはもう一人増えます。万世極楽教という悪い宗教に嵌まってしまった殺生院キアラという女性です。少し年齢が高いですが、十分美しい」

 

 これ以上増えるのかと、温厚な桑島慈悟郎も眉間がピクピクしていた。おじいちゃんと呼ばれるのは嬉しいが、嫉妬しか湧かなくなってきたのだ。

 

「あ、あの~裏金様。もしかして、元尼だったりしますか?」

 

「おや?鹿島さんのお知り合いですか?前情報では、その通りですね」

 

「……たぶん、母です」

 

 裏金銀治郎は、納得してしまった。

 

(裏金銀治郎)、親子丼は罪でしょうか」

 

「善逸君、神は君の全てを許します。君が頑張った成果です。それを誰が妨げるというのです」

 

 だが、それを妨げる者が存在していた。通称、我妻善逸ブッコロし隊。可愛さ余って憎さ100倍という言葉があるように、愛弟子が新しい嫁を娶る事に嫉妬してしまう師匠がいた。

 

 だが、彼の反応は正常である。翌日には、我妻善逸ブッコロし隊に元・柱が入隊する事になった。師匠とはいえ、男である。そして、独身だ。なるべくしてなったとしか言えない。

 




ふぅ、これでほぼ本編が完結した^-^
いやーー、ここ数ヶ月、作者的には頑張ったと思っております。


竈門炭治郎、我妻善逸のエピローグ的な事を入れてる
そして、裏金銀治郎と胡蝶しのぶのエピローグを入れて良い感じに終わらす!!
最後に、NHK特番という流れかしらね^-^

風柱の行方や、恋柱も触れていく予定です。


PS:
本作品を書ききる事だけを考えているので、今後の予定は全くありません。
語呂が良かったので、こんなのもありかと思ってしまった。

ダンジョンに出会い(カードリッジ)を求めるのは間違っているだろうか
→紐神様と仲よくなれそうな博愛主義者^-^


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71:エピローグ~竈門炭治郎~

いつもありがとうございます。

感想も本当に嬉しい限りです。

ようやく、書き上がりました竈門炭治郎版のエピローグ!!



 日本全国を影で脅かしていた鬼舞辻無惨が滅んで一年が経過した。

 

 竈門炭治郎にとっては、まさに激動の一年。鬼舞辻無惨と闘っていた方が楽だと感じる程の修羅場を乗り越えて、多重生活を送っている。彼曰く、呼吸法が無ければ死んでいたと言わせるほどだ。

 

 彼の女性関係は、本妻である栗花落カナヲ改め竈門カナヲ。愛人の神崎アオイ。竈門炭治郎は、本妻と愛人の子供が同じ職場の託児施設に居る事に胃痛を感じていた。大正のご時世でそこまで配慮された設備があるのは、アンブレラ・コーポレーションだけだからである。

 

「きよちゃん、帰りまで面倒をお願いします」

 

「わかりました!! 炭治郎さんもお仕事頑張ってください」

 

 託児施設で働く元蝶屋敷の勤め人、寺内きよ、中原すみ、高田なほ。彼女達が思い人の子供の面倒をしっかりと見る。そして、彼のもう一人の子供もこの施設で預かっていた。

 

………

……

 

 アンブレラ・コーポレーションの営業の仕事をしている竈門炭治郎。同期入社の神崎アオイがお茶を配る。そして、そっと彼の手に触れ、絡める。これが、合図であった。淫柱仕込みの誘い受けを習得している彼女……そんな女性に誘われたら、断れないのが男の性であった。

 

「アオイ、会社じゃマズイって!?」

 

「じゃあ、今晩は、私の家で晩ご飯を食べてくれるんですか? ()は、炭治郎さんが来てくれなくて寂しそうです。いっそ、お隣に引っ越してもいいんですが……」

 

 竈門炭治郎は、人目を避けて早朝の社内を移動していった。辿り着く先は、資料室……通称逢い引き部屋であった。口では、否定的な事をいうが、彼も大人になった。本音と建前を使い分ける。

 

「あれ?アオイ、香水を変えたんだね。桜の香りがする。春を感じる良い匂いだよ」

 

 女性の体臭を嗅いで褒める竈門炭治郎。そして、優しく頬を撫でて雰囲気を盛り上げる。盛り上がるのは、彼のムスコも同じであった。

 

「炭治郎さん、今日はナニをして欲しいですか。炭治郎さんが望む事なら何だってしてあげます。カナヲに出来ない事だって私は受け入れてあげます。今日は、責めたいですか? それとも責められたいですか?」

 

 子供を産んだにも関わらず体型を維持し、男を誘う神崎アオイ。胡蝶しのぶの本を愛読し、小道具セットまで揃えた女性の魅力は凄まじい。彼女は、女の武器の使い方をよく理解していた。刀では、竈門カナヲに勝てないが、体なら対等以上であった……NGプレイなしはそれほどまでに強い。

 

「でも、今日は……」

 

「安全(に着床できる)日ですよ。だ・か・ら」

 

 大事な事だが、この世に安全日など存在しない。仮に存在したとしても、睡眠薬を使って逆レした女性がいう事を真に受けるのは宜しくない。

 

 だが、竈門炭治郎は嗅覚に頼りすぎた事が敗因となった。

 

………

……

 

 朝のお勤め(意味深)を終え、社会人として仕事に従事する竈門炭治郎。新規顧客取得の営業成績で社内でも上位にいる彼。だが、彼に休まる時は存在しない。

 

 アンブレラ・コーポレーションは、社員の福利厚生に力を入れている。時代を100年先取りしていると言っても過言で無い程、社員を大切にしている珍しい企業。社食という物が存在しており、社員ならば無料で食事をする事ができる。

 

「冨岡さん、精のつくものを」

 

 アンブレラ・コーポレーションの社食で料理人として雇用されている冨岡義勇。外食で店員と言葉を交わせない彼は、必然的に自炊能力が高かった。前職が柱だけあって、見事な包丁捌きである。魚の活け作りなどをやらせれば、右に出る者はいない。

 

「ヤればデきる」

 

『竈門炭治郎、お前は俺と違い企業戦士の一員だ。色々と慣れない仕事も多いだろう。だが、やればできる(・・・・・・)男だ。鬼滅隊での苦労を思い出せ、あのときの苦労を思えば、できない事はないはずだ』

 

 ウナギ、スッポン、まむしの生き血、謎肉ステーキが提供される。そして、みんな大好き胡蝶印のバイアグラ。

 

「――!! と、冨岡さんの耳にまで届いてます!?」

 

「あぁ」

 

 竈門炭治郎は、神崎アオイとの関係が露見してしまったと思い違いする。毎日のように社内でヤっていれば、いつかはバレる。だが、それは遠い未来だと考えていたのだ。その間に、嫁と愛人の関係を取り持つナイスアイディアを考えるつもりでいた。

 

 そんな彼が、年貢の納め時だと思ったのも無理は無い。対人コミュニケーション能力が壊滅的な冨岡義勇の耳にまで届く程であるならば、社内で知らない者は居ないに等しい。

 

 目の前が真っ暗になる竈門炭治郎。芋づる式に、第一子の存在も露見する事は疑いようがなかった。困った時の神頼みを使おうと考える。全てを丸く収められるこの世で数少ない存在。

 

 だが、その様子にため息をつく者がいた。

 

「お兄ちゃん、冨岡さんの言葉は9割以上は言葉足らずなんだから、裏を確認しないと駄目だよ」

 

「禰豆子!? 久しぶりじゃないか、いつ日本に帰ってきた――んっ!?」

 

 竈門禰豆子は、母親似の美人に成長した。彼女は将来の幹部候補として語学留学という名目で無限城の中で快適に暮らしていた。勿論、唯で無駄飯を食わせるほど裏金銀治郎も優しくないので、ミッチリと英語を叩き込んでいた。

 

 一年近く会わなかった妹との再会は、感動的である。それも、妹に家族が増えていたとなれば本来であれば喜びは倍増する。鬼舞辻無惨や煉獄槇寿郎という巨悪を前にしても呼吸が乱れなかった竈門炭治郎だが、この時ばかりは乱れまくっていた。俗に言う過呼吸だ。

 

「どうしたの? お兄ちゃん? そんなこの世の終わりみたいな顔をして。ほーら、伯父さんですよ~善治郎」

 

「禰豆子ぉぉぉぉ!! お兄ちゃん、お前が子供を産んだなんて知らなかったぞ!! 一体何処の誰との子供なんだ!?」

 

 自ら地雷原に飛び込む竈門炭治郎。勇気と無謀は違うのだ。

 

 だが、名前から考えて欲しい。『善治郎』というネーミングは、実に微妙だ。裏金銀治郎(・・)、我妻()逸……そして、竈門炭治郎(・・)。勿論、それ以外の第三者という線も十分に推察できる。

 

「ごめんね。それは、お兄ちゃんにも言えないんだ。相手の人に迷惑がかかるから。この子は、私だけで育てるから大丈夫!! この会社、福利厚生が信じられないくらいに充実しているから、女性でも働きやすいんだよ」

 

「そ、そうか……だが、困った事があったら、いつでも頼ってくれ」

 

「ありがとう、お兄ちゃん。そうそう、今度私が広告塔をやる化粧品があるんだけど、使った感想を教えて貰ってイイかな? 黒子が綺麗に取れて美肌になるってヤツ。お兄ちゃん、足の付け根に黒子があるでしょ」

 

「あぁ、よく知っているな」

 

「……まぁ、兄妹だからね」

 

 何処の世の中に、兄の股間付近にある黒子を知る妹がいるのだろうか。実に不思議である。そして、子供の年齢から妊娠時期を逆算すると不思議と竈門炭治郎が語学留学の荷造りを手伝っていた時期と一致する。

 

 世の中、偶然とは恐ろしいものだ。その事に気がつくのは、もう少し子供が大きくなったときである。どこかの誰かさんと、特徴が似ており、誰の遺伝子かハッキリ分かってしまう時がくる。

 

◇◇◇

 

 家族が待つ家へと帰還する竈門炭治郎。彼は、帰宅時に肉体を鍛えるという名目で走っている。真実は、汗で女性の匂いを消している。家では、愛する妻――竈門カナヲと息子が待っていた。

 

 まるで何事もない平和な家庭を築けているのも、アンブレラ・コーポレーションのお陰であった。竈門カナヲも同じ会社に務めているが、小さい子供がいるので時短勤務の制度を活用している。

 

 その為、行きは竈門炭治郎が息子を連れて行く。帰りは、竈門カナヲが息子を連れて帰るシステムができあがっている。更に、竈門カナヲの職場は、胡蝶しのぶの秘書である為、嫁と愛人のエンカウント率は極めて低い。

 

 神が住む家に足を向けて寝られないレベルの感謝をしていた。

 

 エプロン姿で出迎えてくれる嫁に、竈門炭治郎は結婚して良かった。家庭を持つって幸せだと痛感する。脳裏に神崎アオイの姿や竈門禰豆子の姿が浮かぶが、まだ死ぬ覚悟が出来ていない彼は、その思いを封印する。今は現状維持だと。

 

「おかえりなさい、炭治郎さん。ご飯にします? お風呂にします? それとも、ワ・タ・シ?」

 

「カナヲが食べたい」

 

 ストレートに言葉を伝える竈門炭治郎。

 

 彼の親友であり、女性関係の師匠の我妻善逸からの教えを率先して行っていた。『嫁からの誘いは断るな!!』 『常にご機嫌を取れ』『炭治郎は、爆弾を抱えているんだから爆発した時、被害を抑えるには今までの積み重ねが物を言う』と、有り難い言葉を貰っている。

 

「炭治郎さん、食べられる前に伝えておきたい事が」

 

「なんだい、カナヲ」

 

 もじもじとする、竈門カナヲ。

 

 演技なのか素なのか、彼には分からないがそそられる状況であった。淫柱の娘に恥じない男受けする行動である。

 

「アレが来ないんです」

 

「あ、あれ~? コ○ドームしてた気がするんだけど」

 

「穴でも開いてたんじゃないですか。ほら、アンブレラ・コーポレーションって、コ○ドームも作っていますが、ベビー用品も作っているじゃありませんか」

 

 世間一般では『子作りから墓場まで』なんでも作っているアンブレラ・コーポレーションと名高い。避妊する為の道具に穴を開けて出荷するなど、杜撰な品質管理をする会社ではないので風評被害である。

 

 穴を開けた張本人が上手に真実だけを告げる。彼女は、親友のアオイが第二子を妊娠したと聞き、次は女の子が欲しいなと思い行動した。つまり、彼女にとっては第二子かも知れないが……竈門炭治郎にとっては、第二子どころか、第()子にあたる。

 

「俺、もっと仕事頑張るよ!! 子供のためにも、頑張るから!! 愛しているよカナヲ」

 

「私もです、炭治郎さん」

 

 竈門炭治郎は、彼女を抱きしめて押し倒す。そして、寝技で全てを解決するため、あらゆる手を用いる男になる。

 

 頑張れ、炭治郎、頑張れ!!

 

 君は今までよくヤってきた!!

 

 ヤればデキる奴だ!!

 

 そして今日も!!

 

 これからも!!

 

 (ムスコが)折れていても!!

 

 君が挫ける事は絶対に無い!!

 

 




次は、我妻善逸版だ!!
正直、炭治郎より難しい…。

それが終われば、裏金銀治郎版のエピローグをやって外伝かな~。
エピローグと外伝が意味合い的に一緒な気もするので纏めちゃう可能性もあります。



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72:エピローグ~我妻善逸~

いつもありがとうございます。

感想も本当にありがとうございます!!


 真の長男が露見し、第一次(・・・)竈門炭治郎の乱が終わった一年後。

 

 アンブレラ・コーポレーションで公的な嫁が一番多い我妻善逸は、今日も元気に仕事に励んでいた。淫魔四人衆に夜戦で勝利をおさめ、朝のお勤めまで完ぺきにこなす彼は、社内でもヤベー級の存在になっていた。

 

 そんな彼の部署は、資材調達部。

 

 良い職場は、挨拶から始まる。それを忠実に実行する模範的な社員である我妻善逸。今日も職場の上司に挨拶をする。

 

「おはようございます、天元さん。ゲッソリしていますけど、やつれました?」

 

「誰のせいだと思っているんだ!! 誰の!?」 

 

 時代を先どった栄養ドリンクを片手に、やつれた宇髄天元が出社してきた。ホワイト企業であるアンブレラ・コーポレーションの仕事が原因ではない。

 

「あぁ~、先日はママ友会でしたからね。俺は、乗り切りましたよ」

 

「嘘だろ!? お前……まだ、人間だよな?」

 

 我妻善逸の精力は、人間の枠を超えている。それは、自他ともに認めるレベルであった。仮に、裏金銀治郎でも淫魔四人を相手にしろと言われたら、四人目(殺生院キアラ)は外してくださいと頭を下げるレベル。それを交えて勝利を収める彼は、同じ人類なのか疑問であった。

 

 ママ友会は、子持ちの奥様達で構成されている。子供を通じて、交流の輪を広げようという真っ当な会であった、表向きは!! その真の目的は、旦那とイチャコラする為、下ネタを共有する会だ。勿論、旦那達もうれしいのだが……何事にも限度がある。

 

「そのセリフ、(裏金銀治郎)にも言われました。でも、俺分からないんだよね……勃たなくなるって感覚が」

 

「派手に理解した。お前とは、この手の話で理解は得られないと。やっぱり、裏金さんに相談するわ」

 

「二人とも、あんまり遊んでないで仕事だよ。手当がある方の調達」

 

 和気あいあいと話す二人の下に、同じ資材調達部の時透無一郎が帯刀して現れた。資材調達部の戦闘力は、アンブレラ・コーポレーションの中でもぶち抜けている。他にも、準柱級の俗物隊士達も何名か所属していた。

 

「あぁ~、またかよ。この間、間引いたばかりだってのに」

 

「いつも、うじゃうじゃ湧いてきて!! あいつら一体なんなの!? 馬鹿なの!?」

 

 我妻善逸の考えに、部の全員が賛同した。

 

 だが、そんな奴らを部の連中は愛してやまなかった。金になると。

 

………

……

 

 港に集まるガラの悪い連中。銃や刀で武装し、今から戦争でも始めるかのような雰囲気だ。中には、アジア系の外国語を話す者もいる。そんな連中を纏め上げているのが、北九州で急成長を遂げた不死川(・・・)組である。

 

「野郎ども!! 今日こそ、組長の悲願を達成するぞ!!」

 

「「「「「おおぉぉぉぉーーー!!」」」」」

 

 不死川組……不死川実弥が率いる指定暴力団であった。彼は、鬼舞辻無惨の毒で侵されながらも、生き抜いた。稀血という特別な存在であった為、生命力が他より高かった事と裏金銀治郎が鬼舞辻無惨をスムーズに倒した事が主な要因だ。そして、意地汚く生き延びて、裏金銀治郎を殺す為、遠い地で力をつけていた。

 

 歴代最高の柱という事で、武力をもってあっという間にのし上がったのだ。反抗勢力を血祭りにあげて、服従か死かという恐怖で縛り上げていた。

 

 

◇◇◇

 

 アンブレラ・コーポレーションの資材調達部。その本当の目的は、胡蝶印のバイアグラの原材料確保である。生け捕りにする事で、ボーナスがもらえる。安定した生活を乱そうとする不届き者達を処理して、ボーナスまで貰える。柱級の者達にしてみれば、笑いが止まらない。

 

 我妻善逸は、柄を握る手に力を籠める。

 

 包囲網が完成したところで各出入口から一斉に資材調達部が突入した。危険度が高い場所を担当する我妻善逸は、目の前で重火器を構える男たちに問いただした。

 

(裏金銀治郎)と敵対した者は、雇われることがない。いつまでも、そんな武力に頼ってないで、日銭を稼いで静かに暮らせば良いだろう。殆どの元・鬼滅隊の者達はそうしている。なぜ、お前たちはそうしない?」

 

「ふざけるな!! この裏切り者が!!」

 

「しつこい。お前たちは本当にしつこい飽き飽きする。口を開けば、裏切り者、鬼滅隊の志をなど口にする。そもそも、(裏金銀治郎)を恨んでどうする。本当に恨むべきは、組織の長である産屋敷だろう。だが、子供を相手に怒鳴りつけても解決しないと涙を呑んで殆どの者達が我慢した。なぜ、お前たちはそうしない?理由は一つ……不死川組に加担した連中は異常者の集まりだからだ」

 

「それがどうしたぁぁぁぁ!! 俺達だって、勝ち組になりたかったんだよ!! だから、殺して奪うしかないだろう!!」

 

 不死川組の者達は、人間一人を木っ端みじんにして余るほどの弾丸をばらまいた。だが、引き金をひくより先に、彼は目の前から消えていた。そして、重火器を撃つ男の肩を後ろからポンと叩く。

 

「俺さぁ~、手加減するのが苦手でね。ボーナスをもらえない事が多かったんだよ。だから、(裏金銀治郎)に教えてもらった技の実験台になってよ。大丈夫だよ……成功率は4割もあるから」

 

「か、風の呼吸――」

 

 アンブレラ・コーポレーションとの戦力差を埋める為、不死川組では組員に呼吸法を教えていた。元・鬼滅隊の隊士ならまだしも、普通の暴力団員にもその技術を教え込んでいる。門外不出というわけではないが、暴力組織が使ってよい技ではない。

 

「金の呼吸 壱の型 珠砕き」

 

 刀の側面部で男性の睾丸を叩く。その絶妙な力加減のおかげで左右の睾丸が衝突しあう。そして、片方が破裂するまで効果が継続する。男性ならば、わかるだろう。下手に斬られるより地獄の苦痛が続く。

 

「あ゛あぁぁぁぁーーー!! いでぇぇぇぇぇ!!」

 

「へぇ~、よかったじゃん。痛いなら、死んでないって事だよ」

 

 我妻善逸は、殺さずの呼吸を裏金銀治郎から学んでいた。雷の呼吸が使えるならば、金の呼吸が使えない道理はないという理論で覚えてしまったのだ。

 

 多少呼吸を嗜んだ程度では到達できない頂の一人。そんな者を前に有象無象の暴力団など、かかし同然。苦痛にもがく仲間をみて、完全に戦意を喪失する組員達。正面から勝てるような相手でない事は明白であった。

 

「た、助けてくれ。なぁ、もとは同じ鬼滅隊だろう」

 

「それは、ちょっと都合がよすぎじゃない。大丈夫だよ、(裏金銀治郎)は優しいから、新鮮な材料が入れば破棄してくれるよ。金の呼吸 弐の型 金縛り」

 

 本来であれば、鬼を生きたまま捕獲する技。それを平然と人間相手に使う男。まさに、鬼より恐ろしい存在だ。

 

………

……

 

 生け捕りにした資材を一か所に集めると、パチンと音が響く。裏金銀治郎による無限城への転移だ。そして、白装束を着た研究員達が次々と材料を奥へと運んでいった。社会不適合者達が、社会貢献する存在に生まれ変わる。

 

 ゴミから金を生み出す……まさに、神の御業である。

 

 裏金銀治郎が皆に慰労の言葉を掛ける。

 

「実に!! 実に、素晴らしい手際です。貴方達のおかげで、社員達が路頭に迷わなくてすみました。感謝いたします」

 

「勿体ないお言葉です、(裏金銀治郎)。よろしければ、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

 我妻善逸は、かねてより疑問に思っていた事があった。

 

 裏金銀治郎の力をもってすれば、敵対勢力を潰すなど片手間で終わる。そこに、胡蝶しのぶまで加われば、鬼に金棒である。だが、それを行わないのが疑問であった。敵対者には容赦しない性格である事は周知の事実だ。

 

「なぜ、不死川組を処理しないのでしょうか。許可さえいただければ、この足で壊滅させてまいります」

 

「簡単ですよ。全国に散らばった我々を恨む元・鬼滅隊、育手、刀鍛冶の里などの不良債権は一か所に纏まっていたほうがいい。今は、不死川組が全国各地を回り、そんな不良債権を一か所にまとめる動きをしております。集まったところを、一気に包囲殲滅します」

 

 ちなみに、その不死川組を陰から支援しているのはアンブレラ・コーポレーションだ。いくつものダミー会社を経由しているので、その正体はばれていない。多少金を渡す事で、不穏分子を集めてくれる。そして、その資材を金に換えるという関係図が裏で出来上がっていた。

 

「流石、(裏金銀治郎)!! その時は、炭治郎も誘っていいでしょうか。最近、色々とストレスも溜まっていそうで……あと、金が必要みたいです」

 

 家庭でのストレス発散の為、人斬りを進める親友。だが、アンブレラ・コーポレーションを守る事は、家族を守るに等しい。しかも、臨時ボーナスまで入るのだ、一石二鳥どころではなかった。

 

………

……

 

 無限城から地上への帰り道、我妻善逸はあるところへと寄った。

 

 それは、鬼を材料にした新薬開発や鬼を利用した血清を開発する部署。アンブレラ・コーポレーションの根幹を担う部署と言ってもよい。ここで作られた薬などが、莫大な利益を生んでいる。

 

 そして、彼の目的は、そこで働く親友の妹……竈門禰豆子であった。

 

「禰豆子ちゃーーーん。今日もきれいだね~、これ銀座で買ってきた洋菓子だけど、みんなで食べてね」

 

「ありがとうございます、善逸さん」

 

「いいって事よ。俺は、何があっても禰豆子ちゃんの味方だからね。炭治郎は、目の前の事が手いっぱいで、善治郎の事は見なかった事にしているけど……子供には、父親が必要だと思うよ。どうしてもって時は、俺が父親になるから」

 

 かつて愛した女性が不幸になるのは見たくない。幸せになってほしいと切に考えるいい男、我妻善逸。幼い子供にとって、母親も必要だが、父親だって必要だ。それを理解している。家で立派なパパをやっている男の言葉は重みが違った。

 

 仮に、今から我妻善逸が善治郎の父親だと名乗り出たら、親友が助走をつけて殴りに来るだろう。『今まで、なんで妹を一人にしたぁぁぁぁ』と、理不尽な暴力にも耐え忍ぶ覚悟もできている。

 

「善逸さん、そんなの女性の心を鷲掴みにするような事を言っていると、お兄ちゃんみたいに、めった刺しにされちゃいますよ」

 

「それで、禰豆子ちゃんが幸せになれるなら構わないさ」

 

 泣き虫だった頃の我妻善逸は、影も形もなかった。成長した彼は、女性に対して紳士な態度で接するイケメンへと生まれ変わっていた。しかし、竈門禰豆子は首を縦に振る事はない。

 

 彼女の矜持を守るため、それ以上は何も言わずに笑顔で立ち去る。

 

 『善逸さんに奥様達がいなくて、もう少し積極的にアプローチしてくれていたら、善逸さんの横にいたでしょう。ありがとう』と、彼の耳にしか聞こえない囁きが届いた。

 




扱いに差があるといわれる事もありますが……当然、あります!!
いいんですよ、作者のえり好みがでても!!

我妻善逸なら、こんな感じで綺麗にまとめて終わるはず。

次回は、裏金銀治郎の版。
外伝:NHK特番はそのあとになります。

残すところ@2話!! よく頑張った自分とほめてみる。
完結したら、おいしいもの食べて行ってきます。



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73:エピローグ~裏金銀治郎~

ついに!! ついに!!
ここまで辿り着けました^-^

読者の皆様、ありがとうございます!!
ここまでお付き合いただからこそ完結までこぎつけられました。
※外伝は残っているので、本編的意味でね!!

今更になってしまいますが!!
毎回、誤字脱字の修正報告していただけた皆さま本当にありがとうございます。
これがなければ、作者は死んでおりました。
本当にありがとうございます。

では、
裏金銀治郎のエピローグになります。


 アンブレラ・コーポレーションでは、空前のベビーブームが到来していた。子供が親の職場を見学する参観日などを設けており、それに感化された者達が夜の性活を頑張った結果である。

 

 微笑ましいのだが、裏金銀治郎は大変であった。日本全国探しても他にはないと言えるホワイト企業であり、社員やその嫁、子供までもが頭を下げてお礼を言ってくる。その対応は、激務であった。

 

 もちろん、悪い気分ではない。皆が新しい人生を歩んでいる証拠だ。それを祝うのが裏金銀治郎の仕事である。寿命がない存在になっても、今この時の縁は大事であった。

 

「裏金殿!! 今年で二歳になる息子の光秀だ!! ほら、光秀挨拶するんだぞ。パパが大変お世話になっている人だからな」

 

「おしぇわになってます」

 

 たどたどしい言葉で挨拶をする煉獄杏寿郎の息子。

 

「よくできました。これは、ご褒美です。お父さんとお母さんと分けて食べるんだよ」

 

 裏金銀治郎は、この日に備えて用意した飴を子供に渡す。出来た経営者は、いつも準備を欠かさない。そして、子供の母親……煉獄杏寿郎の嫁は、なるべくしてなったというポジションの人であった。

 

「裏金さん、しのぶ様は? せっかくだから、ご挨拶しようと思ったんだけど」

 

煉獄(・・)蜜璃さんや他の人達が子連れでくるから、無限城に籠っていじけています。『お姉ちゃんは、結婚しているのに何で子供がいないの?』という、無垢な一言が相当堪えたんでしょう。炭治郎君の顔から血の気が引いていましたよ」

 

 甘露寺蜜璃は、煉獄杏寿郎の継子であった。彼は、彼女より強い数少ない存在。周りから見てもお似合いのカップルである。落ち込んだ元・師匠を慰めるつもりが、あれよあれよと押し倒して既成事実を作ったという馴れ初めだ。

 

 鬼滅隊の女性は、肉食系ばかりだと言われても否定する要素はない。

 

「それは、フォローできんな!! 実は、裏金殿に一つお願いがあってな!! 時短勤務でいいので、蜜璃を復帰させてもいいだろうか。主に、ここの社員食堂を当てにしている」

 

「そ、それだけじゃないわよ!! 託児施設だってあるし~、これからも家族が増える予定もあるからね。いっぱい稼いでおかないと!!」

 

「好都合です。託児施設で産休予定の三人もいるので、要員補充を考えていました。後、臨時ボーナスが必要でしたら、北九州に出張に行きますか? 調達部を筆頭に準柱級以上の社員達が遠征に行きます。仕事が終われば、経費で現地のおいしい物を好きなだけ食べてきて構いませんよ」

 

 血塗られた手で子供を抱けるかと思うかもしれないが、そもそもアンブレラ・コーポレーションの裏側を知る者達だ。

 

 自らの家庭を守るため、戦うべき時が来たと決意する二人であった。

 

 

◇◇◇

 

 裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、裏金書房の居間で裏金両親と対面していた。

 

「銀治郎さん、結婚して5年になりますよね。夫婦の事だからと思い、口出しはしていませんでしたが……いつになったら、孫が抱けるんでしょうか」

 

 テーブルの上に広げられているベビー用品の広告。その半分が、アンブレラ・コーポレーションの製品だ。

 

 裏金母である裏金小夜子は、心配していた。このご時世、結婚すれば数年もしないで子供を産む。それなのに、何年経っても妊娠の報告すらない。世の中には、子供が産めない体というものもあり、実にデリケートな話題であったので今の今まで切り出さないでいた。

 

「お母さん……カナヲは、戸籍上だと孫にあたるかと。その孫にも子供がいるので玄孫までいるじゃありませんか。もしくは、ひなきではダメですか? 今は、学校ですが帰ってきたら連れてきますんで」

 

 血の繋がっていない子供で話を終わらせたい裏金銀治郎。さすがの彼も、人間辞めて鬼になっています、胡蝶しのぶも鬼なので、子供の予定は全くの未定ですとは知らせていない。

 

「あの~、小夜子お義母様。これには深い理由がありまして――」

 

「それは、銀治郎がここ10年ほど老いていない事やしのぶちゃんも妙に若々しい事かしらね?」

 

 裏金銀治郎の容姿は、鬼となった頃から変わっていない。周囲と比較すれば老化が遅い程度では済まなかった。そもそも、10歳程年下の胡蝶しのぶと並んでも見劣りししない若さがある。月日が経つに連れて異常性は、露見していく。

 

 胡蝶しのぶが裏金銀治郎に目線を送る。

 

 当然、この場をどう切り抜けるかというアイディアを求めての事だ。だが、裏金銀治郎としては、別に困る問題でもなかった。両親の性格を知るが故に、話せば理解してもらえるとも思っている。

 

「実は、前職の都合で人間を辞めました。具体的には、今は鬼をやっています。そのおかげで、中々子供ができない体になってしまいました。ですが、しのぶさんが不妊治療の研究をしております。時間は掛かるでしょうが、死ぬまでには必ず子供を抱かせます」

 

「唐突すぎますよ、銀治郎さん。ちゃんと経緯を話してからじゃないと」

 

 その発言を聞いて、考える裏金両親。

 

 まさか、子供の口から人間やめて鬼になりましたと言われて、すぐに理解できる大人はいない。だが、実の息子やその嫁を信じていないわけでもなかった。少なくとも、人間を辞めているという点に関して言えば、老化していない点などで思い当たる節があったからだ。

 

「冗談だと切り捨てたい気持ちはありますが……嘘ではないようですね。詳しくお話を聞かせてもらいます。私達が納得するまで帰しませんから、そのつもりでいてください」

 

 それから、ほぼ三日三晩、裏金銀治郎と胡蝶しのぶは、両親に今までの事を説明していった。前職が警察関係という就職先から嘘であった事を暴露、命を懸けたボランティア事業で雀の涙みたいな報酬で馬車馬のごとく働いていた事を暴露、職場仲間に貶められた事を暴露、他にも列車事故の隠ぺい工作をした事や政財界の者達に非合法の薬物を売りさばいている事などもすべて暴露した。

 

………

……

 

「銀治郎、色々と言いたい事はあります。ですが、胡蝶カナエさんの件は、よくやりました。誇っていい事です。ですが、何がどうなったら二人がアンブレラ・コーポレーションのトップをしているのか、まったく理解できません。あの企業って、『子作りから墓場まで』というキャッチフレーズで有名なコレよね?」

 

「えぇ、その企業です。元々は、鬼滅隊の活動資金を稼ぐ為にしのぶさんと立ち上げたフロント企業なんですけどね~。壊滅した鬼滅隊から独立して、一部隊士を社員として再雇用しています。あぁ、社割で買えるので欲しい商品があったら、直接連絡してくださいね」

 

 裏金銀治郎の母は、改めて息子の事を理解した。

 

 頭のいい馬鹿というのは、自分の息子みたいなことを言うのだと。だが、たった一人の息子を大事に思う母の気持ちは変わらなかった。何より、その息子が今は幸せだというのだから、それで満足していた。

 

 

◇◇◇

 

 裏金銀治郎は鬼である。その為、睡眠を取らなくても体調を崩す事がない最高の企業戦士であった。だからこそ、アンブレラ・コーポレーションを完璧に回す事が出来ている。

 

 だが、人であったころの名残もあり何日かに一度は睡眠をとっている。もちろん、胡蝶しのぶも同じベッドで疲れて寝ていた。夜の運動を終えた二人は、淫匂が漂い部屋で快眠する。

 

 そんな快眠を妨げる者が存在した。

 

『やぁ~銀治郎。そちらでは、冬だったかな? そろそろ、例の艶本の新刊が出ているから、お焚き上げをしてね』

 

『耀哉君~、新刊発売時期になったら人の夢の中に現れるとは人間辞めているね。というか、なんで平然と私と話せるの? 艶本の心配するより、子供たちの心配しろよ』

 

 夢で語りかけてくる産屋敷耀哉。

 

 本来ならあり得ない事態だが、裏金銀治郎は原作を知っているので、このような事態が存在することを理解していた。死者が生者に話しかけてくる。確かに、そういうシーンは数々あった。

 

 感動的シーンでなく、エロ本を送ってくれとお願いしてくる元・上司。だが、その馬鹿さ加減は嫌いではなかった。

 

『そんな事ないさ。私以外(・・・)だって、君の夢に来ているじゃないか。それはそれとして、子供達は、どうなったかい?』

 

『はぁ~。ひなきは、先天性の遺伝子障害を治療したよ。鬼にした後に人間に戻した。これで、男を生んでも真っ当な人生を送れるだろう。産屋敷輝利哉は、不死川組の神輿になっている。姉妹達同様に()()()()()()()()()()()()()()()()に売れたんだけどね。襲撃されて、彼だけが強奪されたよ。来月には彼だけがそちら側にいくだろう。悪く思わないでくれ』

 

『運命だったと思うことにするさ。それで、遊郭の出資はどこなんだい?』

 

『勘がいいね。アンブレラ・コーポレーションだよ。ひなきには、定期的に会わせているから心配不要だ。多少の不自由は強いているが、殺さないだけ慈悲があると思ってほしい。それと……彼女達に子供を産ませる気はない。遺伝子障害を抱えているんだ。生まれてくる子供も不幸になる』

 

『ありがとう、銀治郎。そうだそうだ、今日は新しい人を紹介するよ。どうしても、君にお礼が言いたいと』

 

 裏金銀治郎は、夢の中だというのに早く眠りにつきたいと思ってしまった。どうして人様の夢に土足で踏み入れてくる連中が多いのだと。

 

 元・上司の横に一人の女性がいた。もちろん、会った事すらないが見覚えがあった。

 

『いつも、炭治郎と禰豆子がお世話になっています。もう、本当に……本当に』

 

『竈門母!? なんで、こっちの夢に出てきているんですか!! 炭治郎君や竈門禰豆子さんのところとか行くべきところがあるでしょ』

 

 涙を流して深くお辞儀をする女性。

 

 紳士である裏金銀治郎には、それ以上言えなかった。死んだ母親にここまで心労をかける兄妹は罪な連中だ。本当に、罪深い事をやっているのだから、擁護できない。

 

『禰豆子は、鬼であった頃なら多少干渉できたのですが、今はできません。禰豆子を人間に戻していただきありがとうございます。二人は、元気でやっているでしょうか?』

 

『あっ……。二人は、元気でヤってますよ。今では、子供もいて竈門家は安泰です』

 

 裏金銀治郎は、察した。竈門母の情報は、禰豆子が人間になった時点から更新されていないと。つまり、禰豆子が第二子を懐妊した事すら知らない。だからこそ、裏金銀治郎は、心配をかけないように真実だけを教えた。

 

 これが紳士の仕事だ。

 

『そうですか。二人に【母はいつも二人の幸せを祈っています】と、お伝えください』

 

『わかりました、【母はいつも二人(・・)の幸せを祈っています】と必ず伝えます。そして、盛大な結婚式もさせましょう』

 

 たとえ、それが第三次竈門炭治郎の乱になったとしても!!

 

 子を思う母親の気持ちを台無しにするような二人ではない。そんなことは、裏金銀治郎がさせない。結婚式の資金くらいポケットマネーでいくらでも出す所存でいた。それをネタに食べる料理は実においしいだろうと考えていた。

 

………

……

 

 夢の中だというのに、目の前に裸の女性がいる。

 

 その女性は、胡蝶しのぶではなかった。だが、同じ胡蝶の姓を持つ女性である。夢とはいえ、完全にアウトだ。

 

『今更、拒絶したって駄目ですよ。大丈夫ですよ、夢の中ならばれません。現実では、しのぶが、夢では私が……姉妹が協力しての夢のコラボですよ』

 

『それがまずいんですって、カナエさん。貴方も、夢に出るならしのぶさんの方に出るべきでしょ!!』

 

『関係ありません勃てなさい 金柱 裏金銀治郎』

 

『関係あるでしょ!! 胡蝶カナエさんの妹さんの事ですよ』

 

 これが本当に夢のコラボであった。

 

 現実では、胡蝶しのぶが裏金銀治郎のムスコをお世話している。そして、夢では胡蝶カナエがそれをリスペクトする。一粒で二度おいしいとはこの事である。背徳感も混ざり最高に興奮するシチュエーションであった。

 

『あら、じゃあ、しのぶの夢に出てもいいのね。もちろん、ここでの事を全て話しちゃうかもしれませんが~』

 

『許してクレメンス。カナエさん、なんでも言ってください』

 

『じゃあ、女の子が産まれたら、カナエって名付けてくださいね』

 

 裏金銀治郎は、理解した。

 

 人間は、鬼を食い物にする存在なのだと。

 




最後の最後まで、お付き合いただきありがとうございます。

こんなノリの作品でしたが、長い時間お付き合いいただき
本当にありがとうございました。

特に感想をくださった皆様。
本当にありがとうございます。
鬼滅の刃SSで当面は抜かれない感想数を記録できたのは、皆様のおかげです!!


外伝のNHK特番は、頑張って執筆いたしますので、しばしお待ちください。
外伝が終わったら、完結にチェックいれる^-^



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外伝:その時歴史が動いた胡蝶しのぶの偉業 ~東洋のジャンヌダルク~

いつもありがとうございます。

これで本当に最後の最後!!

アンケートの外伝になります^-^


 平成最後の年。

 

 裏金銀治郎は、裏金しのぶが帰宅するタイミングに合わせて昼食を作っていた。彼女は、ミッション系の女子高に通っている。学力向上といった目的ではない。長い人生の為、新しい人間関係を構築している。寿命という概念がない鬼なので、過去の人間関係とは死別している。

 

 だからこそ、学校に通っている。学力を満たしている以上、多少経歴が怪しくても札束で経営者の頬を叩けば、入学に困る事はない。これが、資本主義の裏口入学手段だ。

 

「カナエ、そろそろママが帰ってくるからテーブルにお皿を並べて」

 

「はーい、パパ

 

 裏金カナエ……裏金銀治郎と裏金しのぶの間に生まれた一人娘だ。今は亡き、裏金両親からも多大な愛情が注がれ、スクスク育ったかわいい子である。年齢は50歳を超えているが、成長が遅いのか容姿は5歳程だ。

 

 現在は、近所の幼稚園に通う園児である。その可愛らしさの為、幼稚園でもモテモテであった。だが、彼女は「将来、パパと結婚するの」という可愛らしい謳い文句で全ての男を振っている。

 

 裏金銀治郎としても、可愛い一人娘がそんな事を言ってくれるので嬉しさが極まっていた。実に、親馬鹿である。時々、獰猛な肉食獣のような視線を感じていたが、気のせいと思っている。

 

 ガチャリと扉が開く音がする。

 

 そして、制服に身を包んだ女性……裏金しのぶが帰ってきた。子持ち人妻女子高生を素でやっている彼女。学校でもその事は周知の事実であり、奇異な目で見られる事もしばしばあった。

 

 だが、良好な人間関係を築き上げていた。

 

「銀治郎さん!! うちのプールについて、絶対に知っていましたよね!! 友達から画像を見せてもらったら、完全一致したんですから」

 

「もしかして、例のプールですか? 違いますよ、しのぶさん。このデザインは、うちが最初です。そのデザインを基にHOTELのプールを作ったのは事実ですけど」

 

 裏金一家が住む家は、一般住宅とは異なる。高級マンションの複数階をぶち抜いて作られている。そこには、プールだけでなく、ジム、簡易映画館などがある。

 

「ママ~、パパをいじめちゃダメ!!」

 

「いい子だね、カナエ。ほら、抱っこしてあげよう」

 

「うぅ~、銀治郎さんもカナエを甘やかしすぎです。それで、友達とのカラオケ大会を辞退してまで夜の予定を開けたんですが、今日はイベントごとありましたっけ? 会社の幹部会議も明後日ですし、お偉いさんとの会合もまだ先でしたよね?」

 

「それは申し訳ありませんでした。知らない方が楽しめるでしょうから、内緒です」

 

 裏金しのぶは、不安であった。

 

 往々にして、裏金銀治郎がこういうセリフをいう時は、実害こそないが碌な事が起こらないと分かっているからだ。

 

 夜まで家族で水入らずの時間を過ごし、運命の時が来た。

 

 

◇◇◇

 

 居間の大きなテレビに映し出されるNHK番組。

 

 裏金しのぶは、血鬼術を発動させて未来のフィードバックを図ろうとするが、発動しないで終わる。つまり、裏金銀治郎の手で既に対策はうたれていた。

 

『その時歴史が動いた胡蝶しのぶの偉業 ~東洋のジャンヌダルク~ 』

 

「アイエーー!! ナンデ!? ドウシテーーー」

 

 嫌な予感が的中した裏金しのぶは、思わずアンブレラ・コーポレーション諜報部のニンジャみたいな口調になっていた。

 

 だが、ここで幾ら叫ぼうとも無慈悲に番組は進行する。

 

「あれ?これ、ママの番組?」

 

「そうだよ、カナエ。これは、ママの特別番組だよ。ママの偉業をよく覚えるんだぞ」

 

 膝の上に娘を抱いて、NHK特番を家族と眺める幸せを享受する裏金銀治郎。横で、『嘘でしょ!?』と言って、頭を抱える美しい嫁もおり、理想的な家族であった。

 

『大正XX年〇月◇日、胡蝶しのぶがアンブレラ・コーポレーションを設立。同年、ローションとコンドームを発売。今までにない画期的な商品であり、性産業に多大な貢献をすると同時に感染症防止にも貢献した。それにより、命が助かったものは数万人に及んだと言われております。これを第一次胡蝶しのぶの変と言います』

 

「へぇ~、今ではそう言われているんですね。懐かしいですね、しのぶさん」

 

「こんなの絶対おかしいよ。なんで、NHKが人目がある時間に放送禁止ぎりぎりの用語を連発して大丈夫なのよ。それに、胡蝶しのぶの変って!? 第一次ってどういう事よぉぉぉ」

 

 夫と娘の前だというのに、子供みたいにバタバタと暴れる可愛い女性がそこにはいた。だが、彼女はまだ気が付いていなかった。アンブレラ・コーポレーションの名前が出てきているのに裏金銀治郎の存在が影も形も出ていないことを。

 

 裏金銀治郎は、裏金しのぶの頭を撫でて落ち着かせる。その手は、そのまま彼女に絡めとられた。

 

『その後に、バイアグラを開発し特許を取得しております。現代においても、このバイアグラを上回る薬が開発されていない事から、奇跡の薬とも言われております。これ以上ないと言われるほどの完璧な配合だと各製薬会社も太鼓判を押すほどであり、現在世界に出回っているバイアグラは、これの後発医薬品です』

 

 テレビに映し出される、当時発売していた胡蝶印バイアグラの現物。もちろん、政府高官達に販売していた鬼由来の物ではなく普通の方だ。大正時代の現物がよく残っていたと誰しもが思うが、その提供元はアンブレラ・コーポレーションであった。

 

 そのテロップが出た瞬間、握られている手に万力の如き力が加わった。

 

『それで一財産を築いた胡蝶しのぶは、今日に至るまで様々な薬を開発し特許を取得していきました。そして、『子作りから墓場まで』というキャッチフレーズの世界を()にかける大企業へと成長したのです』

 

「ははは、見ましたか、しのぶさん。股にかけるとは、NHKもうまい事を言いますね」

 

「馬鹿じゃないの!? 馬鹿じゃないの!! 絶対、制作陣営に馬鹿しかいませんよ。ほら~、カナエも別の番組みたいわよね」

 

「えぇーー、ママの番組を見てみたい~。ダメ~?ママァ」

 

 母親の膝の上に移動し、甘ったるく甘える娘を前に母親は折れるしかなかった。どのみち、学校に通い出したら嫌でも知ってしまう。いいや、ネット社会なのだから、スマホでポチポチ母親の名前を検索するだけでいろいろな情報が手に入ってしまう。

 

 主に、エロ画像が。最近では、スマホゲームのおかげで、そちらの方が多く検索にかかるが、エロ画像には変わりなかった。三次元から二次元に変化したに過ぎない。

 

『他にも数々の素晴らしい偉業があります。実は、胡蝶しのぶは多彩な才能を持つ女性としても有名なんです。その一つが、彼女の文才です。大正の世に世界的なベビーブームの火付けとなった『正しい華の呼吸全集』。当時の編集者がこの本を読み大変感銘を受けて、翻訳版を作成し、海外で販売した所、出生率を大きく向上させました。胡蝶しのぶがサイン会で直にサインした物が先日ニューヨークのオークション会場に出品されましたが、全シリーズセットで250万ドルの値段が付きました。その内容は、大正時代とは思えない程の内容で、当時の最先端……現代でも十分通用する実用性の高い資料です。今の日本が出生率2.0を保っているのは、これのおかげというお声も強くあります』

 

「ごふっ。う、嘘でしょ。あれから100年も経っているのに何で新品同様な本が残っているのよ」

 

「本当に懐かしいですね。覚えていますか? 無惨が女装して買いに来た時を……あれは、気持ち悪かったわ」

 

「あれ~?あの本ってパパの書斎にあったのと同じだね。この間みたら、何冊かなくなっていたけど、あの本じゃない?パパ」

 

 裏金銀治郎は、冷汗をかいてしまった。当然、手を握っている裏金しのぶもそれを理解した。ここに犯人がいたと。だが、彼がオークションに出したのは、鬼舞辻無惨から回収した物である。だから、彼女が裏金銀治郎の為にサインした物ではないので、セーフである。

 

「カナエは、物覚えがよくていい子ですね。銀次郎さん、後で詳しい話を寝室で聞かせてもらいますからね」

 

 裏金銀治郎は、なぜ体力は無尽蔵なのに精力は無尽蔵でないのかと不完全な鬼を呪いたくなった。

 

 それからも番組は、胡蝶しのぶ特集として噂から事実まで様々なことを紹介していった。なかでも、大正に刀を持って暴れていたなど鬼滅隊の存在に掠りそうな話もあった。

 

『それでは、来月公開予定の胡蝶しのぶ記念館をご紹介したいと思います。ここには、アンブレラ・コーポレーションに残されていた、胡蝶しのぶが実際に使っていた資料や机、書籍などが収められております。中でも目玉なのが、胡蝶しのぶ写真集です。実は、歴史の教科書にも載っている近代偉人なのに、写真が一枚も残っていない事で有名だったんです』

 

 番組のカメラが胡蝶しのぶ記念館を公開していく。この建造費は、オークションで売られた本の代金と裏金銀治郎のポケットマネーで賄われている。その目的は、ただ一つ……横で青筋を立てた美しい嫁の顔を見たいという、欲望を満たすためだった。

 

 当時の戸籍標本復元版も用意されており、30歳で二人の子持ち。夫不明という怪しさ抜群の情報まで公開された。裏金銀治郎と結婚する前の情報としては正しいのだから間違ってはいない。

 

 裏金しのぶがついに我慢できなくなり、ソファーに座る彼に馬乗りになった。そして、首根っこを掴み、待ちに待ったセリフを、青筋を立てながら言い放つ。

 

「この男はぁぁぁぁ!! 何ですか、アレ!! 私に対する嫌がらせですか!? そりゃ、銀治郎さんの初めて(アッーー)を強引に奪ったのは悪かったと思っていますよ。だけど、その仕返しのつもりですか!!」

 

「その件は、恨んでないといえばウソになりますが、これはしのぶさんの偉業を称えているんです。決して悪意なんてありません。私の嫁は、これだけすごいんだぞって自慢したいじゃありませんか」

 

しのぶ(・・・)に先を越されたなんて」

 

 二人の愛娘も聞きたくもない夫婦の営みを聞かされて唖然としていた。

 

………

……

 

『見てください!! これは、『正しい華の呼吸全集』が展示されております。しかも、サイン番号にNo.001と書かれております。彼女が初めてサインした本と紹介文が残されております。歴史的価値が非常に高いのは疑いようがありません』

 

『あ、これは皇居にお住いの方から直々に頂いた感謝状です。そう!! 第二次世界大戦で敗戦した当初、アンブレラ・コーポレーションは私財を投げ売って国民を支援し、地域復興に尽力しました。その栄誉を称えて送られた物です。これは、歴史の教科書に載っておりました。性産業で人を救い、戦争被害者を助けた事から聖(性)女と呼ばれ、東洋のジャンヌダルクの異名で呼ばれるようになったのです』

 

 そのおかげで支援した何倍も稼いでいた。土地の買収が実にスムーズに進み再開発されるタイミングで高額で売りさばいた。土地転がしは実に儲かった。

 

『では、そろそろ次へ向かいましょう。近代偉人胡蝶しのぶのご尊顔を大公開します。本来、持ち物検査が行われます。写真や撮影は禁止されておりますので、来られる方はご承知おきください。今回に限り特別に許可を頂きました。ただし、この写真集が置かれているブースは、18歳以上しか入れません。その為、我々撮影スタッフが選び抜いた写真を撮影してまいりました』

 

「なんですか、人様の顔をまるで18禁みたいに!? ちょっと、テレビ局に電話してクレームを言ってやります。失礼だと思いませんか、銀治郎さん」

 

「しのぶさん。未使用のゴムを口に咥えた写真やメイド服を着て嫌な顔をしてパンツを見せている写真とか色々とキワドイ物ばかりだから仕方ないでしょう。ですが、安心してください。ガラスの上から目線を入れるなどして、顔ばれはしない様に加工しております」

 

「えっ……そうだったぁぁぁ!!イヤァーーーーー!! なんて物を公開するんですか!! この男はぁぁぁぁーーー」

 

「だって!! 聖杯をめぐる人気の携帯ゲームじゃ、しのぶさんの魅力を完全に表現できていないんですよ。他のゲームもそうです!! だからこそ、ここはしのぶさんの魅力を皆に理解してもらう必要があります」

 

 もちろん、そんなのは建前である。

 

 美しい青筋。その顔を優しくなでる裏金銀治郎。首元を掴まれて、ガンガン前後に振られているが気にも止めない男であった。

 

『それでは、全世界の皆様!! この方が近代日本が誇る偉人……胡蝶しのぶその人です!!』

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 」

 

 その日、メイド服を着た美少女が嫌な顔をしながらパンツを見せる画像が全世界に流れる事になった。誰しもが思った……こいつ、絶対に未来人であると。そして、変態大国日本と褒めたたえる声が止まらなかった。

 

 その月のNHKの集金率は、過去最高を誇った。こんな番組を作ってくれるなら喜んで金を払うとNHKもホクホクである。そして、大河ドラマの作成が決定した。

 

………

……

 

 エンドロールのテロップが流れる。燃え尽きたかのようにソファーでぐったりと倒れこんでいる裏金しのぶ。先ほどから、彼女のスマホが鳴りっぱなしであった。彼女の友達から、しのぶさんって胡蝶しのぶと激似じゃない!? 的なメッセージが大量に送られていた。

 

 激似どころか本人である。

 

「大丈夫、ママ?」

 

「大丈夫じゃなーーい。お水を頂戴、カナエ」

 

 裏金しのぶは、馬鹿ではなかった。

 

「あぁ、そうそう姉さん(・・・)、氷もいれてね」

 

「はいは……あっ」

 

 見つめ合う母親と娘。いいや、姉と妹。

 

 裏金しのぶも確信があったわけではなかった。だが、自分の事をしのぶと呼ぶ存在は数えるほどしかいない。よって、一番高い可能性に賭けた。

 

「パパ~~、ママがいじめるの。怖いから今日は一緒に寝て~。いいでしょう?」

 

 裏金銀治郎も混乱していた。まさか、輪廻転生という事が本当に起こるとは思わなかった。最近夢に出てこないと思ったら、まさか自分の娘に!? とは誰が想像できるだろうか。

 

 だが、裏金銀治郎はパパである事実は変わらない。娘に愛情を注ぐ事こそ父親の務めである。

 

「いいですよ~、ただしママも一緒ですからね」

 

 娘を抱き上げ、追いかけてきた裏金しのぶを抱きしめる裏金銀治郎。その姿には、愛があふれていた。

 

 その深い愛を受けた娘は、より父親を求めるようになるとは思わなかったのが、彼の誤算であった。彼が罪深い男へクラスチェンジする日は遠くないだろう。

 

 頑張れ銀治郎、天国にいる両親を泣かすような行為をするんじゃないぞ!!

 

 




最後までありがとうございました!!

それでは、またお会いする日までお元気で!!


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外伝:裏金カナエ~afterstory~ 1

もう、ネタ投稿もしないと思っていましたが…劇場版をみて書きたくなった。

煉獄さーーん。
生きてくれと思い……ネタ投稿。

PS:
作者、死に体で執筆が全く出来ていません。
ごめんなさい。


 裏金カナエ……唯一無二の存在である。彼女こそ、この世界における生粋の鬼。裏金銀治郎や裏金しのぶの様な後天的な鬼ではない。産まれながらにして鬼である。その潜在能力は、二人を凌駕する。

 

 だが、そんな力を持ちつつも歪まず真っ直ぐに育ったのは、両親の存在が大きい。生まれを祝福され、周囲からも愛情も受け、真っ当に育っていた。だが、そんな彼女にも一つだけ不満があった。それは、愛した男性が母親と同じであった事だ。もっとも、前世で現母親とは姉妹である為、言い換えれば、男の趣味が同じであったとも言える。

 

 業が深い。

 

「カナエの物は、カナエの物。ママの物もカナエの物……つまり、パパも。ようするに、パパをカナエが貰っても問題ないし、道徳に反しないと思います」

 

「まって、カナエ。そのどこが道徳に反しないのか、ママは理解できません。それに、パパは過去も未来も私の物です。ママは絶対に許しません」

 

「減る物じゃないし、いいじゃない!! ママのケチ。天井の染みを数えている間に終わらすから」

 

 母親の膝の上でとんでもない議論をする親子。その様子を微笑ましいと眺める裏金銀治郎であった。裏金銀治郎にとって、娘の戯言と片付けていた。よくある、『将来はパパのお嫁さんになるの』という定型文の今年度版みたいな物だと解釈している。

 

「ママを困らせてはいけません、カナエ。それに、しのぶさんも子供の言う事に本気で反応しては駄目ですよ」

 

「銀治郎さんは、分かっていないんです!! 娘であっても女です。それに、私の娘であり、姉でもあったんですよ。私には分かります、ここで軽口を言うと碌でもない事になるって」

 

 胡蝶の性をもった女性……それに加えて、娘は胡蝶しのぶの姉でもあった。つまり、性に関して迂闊な発言は死を招く可能性もあった。

 

「じゃあ、しのぶ(・・・)の許可があればいいんだよね?」

 

「えぇ、そんな許可だしませんけど」

 

 これが全ての失敗だったと、後で誰かが後悔する。

 

………

……

 

 その翌日、裏金カナエは、行方をくらませた。GPSは勿論、裏金銀治郎の血鬼術を以てしても探索不能であった。

 

□□□

 

 裏金カナエには、計画があった。その一段階が、母親である裏金しのぶとの約束の取り付けである。これで、約束を反故する事が不可能となった。例え、裏金銀治郎の血界を以てしても解除できない。

 

 裏金カナエが持つ第一の血鬼術――"ギアス"。言霊に力を持たせて、相手にそれを履行させる。勿論、裏金しのぶ程の力を持つ存在への強制力は低い。だが、それが気を許している実の娘で、約束という事ならば反故不能な強制力を持たせる事ができる。

 

「大正時代だと、洋服は目立つかしら。刀は、パパのコレクションのこれでいいかな。最悪、売ればお金には困らないわね」

 

 裏金カナエが裏金銀治郎が長年掛けて集めた名刀(平野藤四郎)を黙って拝借していた。子供が故に刀身の長さを考えれば、妥当な選択だ。数少ない趣味の刀剣コレクションから、希少な一本が失われれば、裏金銀治郎も怒るだろう。罰として尻叩き100回はかたい……それを知った、裏金しのぶが何故か刀剣を紛失する事故を起こす未来があるとかないとか。

 

 血鬼術は、その者の人生経験によって左右される。輪廻転生を経験し、大正時代と現代を生きた彼女に目覚めた血鬼術は、まさに生き様に相応しい物だ。現代の影響を過敏に受けて、彼女の第二の血鬼術――"シュタインズ・ゲート"。

 

「悪いわね、しのぶ。今の貴方から許可が貰えなくても、別に些細な問題なのよ。みんな、元気かしらね。今からでも楽しみだわ。――"シュタインズ・ゲート"発動!!」

 

 その瞬間、裏金カナエの姿が透けるように消えていった。

 

………

……

 

 同時に、大正時代の鬼()隊の本拠地である産屋敷邸に一人の幼女が突然出現する大惨事が発生した。素晴らしい事に、柱合会議の真っ最中に幼女出現という謎事象。だが、仕方が無い事でもあった。

 

 世界線を移動するに際、マーカーとなるのは母親である裏金しのぶ改め胡蝶しのぶ。彼女の近くに必然的に転移される。移動先の時代は大まかに選べるが、詳細までは彼女の力では、まだ選択できない。

 

「あら、ここは。どうやら、しっかり移動出来たみたいね」

 

 当然、柱が集まるこの場所。鬼の気配を感知する事にかけては、随一の連中。歴代最高の柱達は、突然現れた子供の存在に気がつき注目する。

 

「なんだぁ?ガキ…てめーも、鬼か?」

 

「だが、派手に太陽が照らしている。鬼にしちゃ……少し変だぜ」

 

 風柱と音柱が裏金カナエを警戒する。当然、他の柱も臨戦態勢だ。だが、そんな様子を気にもとめない裏金カナエ。そして、裏金銀治郎同様に愉悦大好きな彼女は、この場で更なる爆弾発言をする。

 

「……ママ!! 」

 

 一切の悪意や害意を出さすに、純粋な親を慕う感情を前面に出して母親である胡蝶しのぶに駆け寄る。そして抱きつくという偉業を達成する。

 

「え!? ちょっと、理解が追いつかないんですけど、何ですかママって!? なんで、皆さん私から距離を取るんですか!!」

 

「えぇ~、だって、しのぶちゃん。鬼と人も仲よくすればいいのにとか、言っていますから…。あり得るかなと。それに、どことなく、しのぶちゃんに似てません?」

 

 幼女の鬼に、ママと呼ばれ抱きつかれる胡蝶しのぶ。その突拍子もない事に意表を突かれたが、柱が集うこの場所で誰に止められること無く、胡蝶しのぶに抱きつくまで接近を許した。

 

 それだけで、好戦的な柱からは脅威と見るに十分であった。

 

「はぁ!? 似ているわけな……うーーーん、鬼のお嬢ちゃん名前は?というか、本当に鬼ですか、貴方は?」

 

 一瞬、姉の面影を見てしまった為、胡蝶しのぶは鬼に対しての警戒心が一段階下がっていた。だが、彼女も目の前の幼女が鬼であると本能で理解していた為、いろんな感情が入り交じっている。

 

 そんな混乱を極める場を納められる数少ない人物…… 産屋敷耀哉が動いた。

 

「皆の者、落ち着きなさい。どうやら、禰豆子以上に特異な存在なのだろう。すまないが、名前を教えて貰えないかな、幼き子鬼よ」

 

「裏金カナエだよ」

 

 カナエ……その名前を聞いた者達は、ある種の嫌な予感が走った。故人となった花柱・胡蝶カナエ。鬼側が何かしらの手段で彼女を蘇生させて尖兵にしたのではないかという事だ。

 

 決して不可能だとは言えなかった。血鬼術という超常現象がある為、可能性の一つではあった。

 

「嘘ではないようだね。では、どうやってここに来たんだい。ここは、鬼殺隊の拠点だ。簡単に鬼が入って来られる場所では無いはずだが……」

 

「ママが居る場所じゃないと、転移できないから必然的にここになっただけかな」

 

「なるほど。では、ママというのは誰のことかな?」

 

  産屋敷耀哉と裏金カナエのやり取りを誰もが見守った。鬼に関する情報が手に入るチャンスであった。幸いな事にこの場には全ての柱が揃っており、鬼を討伐するのは情報を手に入れてからでも遅くは無いと誰もが思っていた。

 

「ママはね、鬼()隊の蟲柱をしている胡蝶しのぶ。その人だよ!!」

 

「鬼滅隊? 鬼殺隊の間違いじゃ無くて?」

 

 似て非なる組織名に裏金カナエは考えを巡らせた。そして、現代知識がある彼女は、状況を整理するために質問をする事にした。

 

「なるほど~、私からも質問していいかしら? 鬼の首魁は、鬼舞辻無惨で合っている?」

 

「その通りだよ」

 

「次に、花柱・胡蝶カナエって居ました?後、裏金銀治郎という名に聞き覚えは?」

 

「前者は、数年前に鬼の手によって亡くなった柱だね。後者は、聞いたことがない」

 

 現状を正しく把握できた裏金カナエ。それに引き替え、鬼殺隊の者達は子鬼が更に謎の存在へとなった。鬼は、鬼舞辻無惨の名前を口にしただけで死ぬ呪いを掛けられているのは周知の事実。それなのに、平然とその名を口にしていたのだ。

 

「裏金カナエと言ったかい。君は何者で、何が目的なんだい?」

 

 その回答に裏金カナエは、迷った。嘘を言っても見通せるだろう第六感を持つ産屋敷耀哉。それに彼は、胡蝶姉妹の恩人でもある。例え、世界線が異なっていても恩人に対して、不義理は宜しくない。

 

「えーーと、信じられないかもしれませんが、聞いてくれますか?」

 

「あの~、その前に離して貰えませんか?なんで、私に抱きついたままなんですか?」

 

 鬼に対する嫌悪感はあるが、なぜか姉の面影がある幼女に対して拒絶できない胡蝶しのぶ。無邪気を通り越して天邪鬼である裏金カナエを無碍に扱う事ができなかった。

 

「細かい事は気にしないでママ。父親は裏金銀治郎、母親は胡蝶しのぶ。私は、その二人の間に産まれた子供よ。産まれたのは、今から数十年以上先だけどね。それと、胡蝶カナエの生まれ変わりでもあったりします。懐かしい面々に会えて嬉しい限りだわ」

 

 真実しか口にしていないが、爆弾発言どころではなかった。

 

 未来人発言をしたと思ったら、胡蝶しのぶの娘で、胡蝶カナエの生まれ変わりなどと言うのだ。そんなの誰が信じられるだろうか。正直、不可能であった。万が一、この世界線にも裏金銀治郎がいたならば、有効活用しただろう。

 

 この世界線では到底無理な話だ。

 

「ふ、巫山戯ないで!! そんな話、信じられるはずないでしょ。ぶち殺しますよ」

 

 胡蝶しのぶが日輪刀に手を掛けた。

 

「待ちなさい、しのぶ。彼女は、嘘は一つも言っていないよ。これは、チャンスだ。この子供が本当に未来から来た存在だというなら、鬼舞辻無惨をどうにか出来るかもしれない。未来の世界では、鬼舞辻無惨はどうなっているんだい」

 

「パパとママが殺したわよ、そんな鬼。ついでに、私の仇であった上弦の弐もね。未来の世界は、鬼はパパとママ。そして、私しか居ないから安心して」

 

 無惨を殺した鬼が普通に居るという時点で、なにが安心なのだと柱達は思った。

 

「わかった、この件は私の方で預かろう。裏金カナエは……いったん、しのぶ預かりとする。子供を母親から引き離す程、私は外道じゃないからね」

 

「さっすが、お館様!! 話が分かる方だわ。あぁ、それと、私の目的を伝えていませんでしたね。実は、パパと<<放送禁止用語>>したいんだけど、ママが許可してくれなくて。しのぶの許可を取りにここまで来たのよ。もし許可をくれるなら、鬼舞辻無惨の退治を手伝ってもいいわ」

 

 その爆弾発言に、裏金カナエの怪しさが爆増した。その傍らで、胡蝶しのぶが顔に青筋を沢山立てている。真実はあれど、子供にどんな教育をしたらこんな風に育つのかと。親の顔を見てみたいとすら思った。

 

 きっと、この場に裏金銀治郎が居たのならば、言っただろう……今日も綺麗ですよと。




次回、蝶屋敷でママと過ごす娘をお送りしたい。

投稿予定は未定です!!



JKを謳歌している しのぶさんが文化祭で胡蝶しのぶのコスプレをする事になり、それを見に行く話も考えていました。コスプレになっていないじゃんと、娘と一緒に愉悦しに行くとかね。


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外伝:裏金カナエ~afterstory~ 2

平和な蝶屋敷。

誰も不幸にならない、幸せ一杯をお届けしたい。

短めで申し訳ない。


 蝶屋敷に裏金カナエが居座るようになり、胡蝶しのぶの評価が激変する。母性があり、鬼殺隊の母的存在であったが、マジモンの母親であったと。そりゃ、母性も感じるわと殆どの隊士が納得していた。

 

 だが、その反面。未来を先取った現場ネコならぬ、現場柱が半泣きで頭を抱えている。

 

「どうして!! ねぇ、どうしてーー!! 鬼殺隊には、馬鹿しかいないんですか」

 

「ママ、馬鹿じゃなきゃ鬼殺隊には居ないと思うよ」

 

 残酷な事だが、裏金カナエの言葉は真理であった。

 

 誰もが、裏金カナエが胡蝶しのぶの子供と疑わない。立ち振る舞いや雰囲気が似ている。事実、世界線は違えど血が繋がっている。実の親子に思われても無理もない。

 

 信じがたい事ではあるが、お館様の一声もあり、彼女が本物の胡蝶カナエの生まれ変わりで、未来人だという事も確定されている。

 

 理解不能な目的の為、未来から来たという点を除けば可愛らしい子供であった。

 

 ちなみに、裏金カナエの存在について、一般隊士達には真実は伏せられている。その為、胡蝶しのぶの子供という事だけが、伝達される。多少の真実を混ぜ込んだ方が信憑性があるとの事で全会一致の意見であった。

 

 寧ろ、真実しかない。

 

「まぁ、この件で悩んでも仕方が無い事は分かりました。で……折角だから、未来の話を聞きたいわ。未来の私って、どうなっているの?」

 

「――世の中、知らない方が良いこともあるわ」

 

 母親である胡蝶しのぶの顔をこの時ばかりは直視出来なかった裏金カナエ。

 

 母親が現代日本において一番知名度が高い女性。教科書にも載っており、記念館まで出来る程の偉人である。どの携帯ゲームにおいても最高レアリティで実装されている。他にもコンドーム、ローション、バイアグラという単語を調べれば、Google先生が勝手に画像まで付けてくれるほどだ。メイド服を着て嫌な顔をしてパンツを見せる画像が……。

 

「もしかして、死んでしまいましたか」

 

「社会的には死んだも同然かもしれないけど、ママは元気だよ。最近だと、年齢偽って学生生活を楽しんでるよ。この間なんて、パパと一緒に学園祭にお邪魔して楽しかったな。ママがメイド服を着て、胡蝶しのぶのコスプレをしていたんだよ。本人が自分のコスプレするとか楽しかったな~」

 

 胡蝶しのぶは、理解に苦しんだ。一体、未来の自分に何があったらそんな事態になるのか。彼女は、考えた……自分の性格から考えて、そんなバカな事はしない。きっと、子供がいう嘘だと。

 

「知らない言葉もありますが、何となく文脈でわかります。ですが、嘘は駄目ですよ。私が、そんな馬鹿な事するはずありません」

 

「えぇ~、じゃあ見る? 文化祭の動画なら撮っているよ」

 

 裏金カナエは、未来から持ち込んできた私用のタブレットを取り出した。完全にオーパーツである。だが、母親から嘘つき呼ばわりされるのは、納得がいかなかった。それに、なにより、どういう反応をするか楽しみで仕方が無い彼女である。

 

 大正時代を生きる胡蝶しのぶは、タブレットなる存在など知るはずも無い。明かりが付いて、映る画像に心底感動していた。未来はどんな世界なのだろうと興味が沸く。

 

 そして、裏金カナエが文化祭とタイトルが付けられた動画を再生する。

 

『しのぶさん、自己紹介からお願いします』

 

『本当にやるんですか? 絶対に、流出させないでくださいね。昨今、そんな事件をよく聞くんですからね』

 

『大丈夫です、このタブレットはオフライン専用です。wifiもありませんし、セキュリティ対策も万全ですよ』

 

 なにやら、寝室だと思われる場所でベッドに、メイド服を着た自分が座っている映像が始まった。世界を切り取ったような映像に感動する胡蝶しのぶとは、裏腹に裏金カナエは小声で呟いた。「あ、これパパのタブレットだ。ふーーん、私を友達に預けたと思ったら、裏でこんな事をしていたんだ」と。

 

『コホン、裏金しのぶ一八歳。キメ●学園に通うJK三年生をやってまーす。今は、学園祭真っ最中ですが、これから保健室で――』

 

 その台詞を最後に、動画が閉じられた。当然、その操作を行ったのは裏金カナエだ。どう考えても、大惨事にしかならない。よって、この行動は、彼女なりの母親への配慮である。

 

「なんで、消すんですか!! 未来の私だけでなく、裏金さんでしたっけ? どんな人か、折角見られると思ったんですが」

 

「だって、あのまま見ていたら後悔するよ。ママの為を思って、言っているんだからね。こればかりは、本当だから!!」

 

 駄目だと言われれば、見たくなるのが心情だ。

 

 それに加えて、胡蝶しのぶにとって謎の存在だった裏金銀治郎の姿が映る可能性がある動画だ。未来の旦那とか、興味がある。頭脳明晰な胡蝶しのぶは、ある種の可能性を見いだした。

 

「見て後悔する程、裏金さんというのは不細工だったりするんですか?」

 

「はぁ?ママと言えども、それを言ったら戦争だよ。ハッキリ言っておくけど、パパはママが想像している人物像を遙か上をいく人だよ。パパはね~、世界とママを天秤に掛けてもママを平然と選ぶ人だよ。悔しいけど、私じゃママの代わりにはなれないわ」

 

 実にその通りであった。全人類の命と裏金しのぶのどちらかしか救えないなら迷わず、裏金しのぶを選ぶ男が裏金銀治郎だ。娘である裏金カナエも理解している。

 

「なるほど。では、さっきの続きを見て判断しても構いませんよね。私は、人を見る目は確かですよ。まさか、人様に見せられないような男性じゃないなら、恥ずかしがる事なんてないじゃない」

 

「そこまで言うなら構わないわ!! じっくりと見て、パパの素晴らしさをその目に、脳裏に焼き付けると良いわ」

 

 胡蝶しのぶは、完全に裏金カナエを手の内で踊らせていると思っていた。所詮は子供……例え、姉の生まれ代わりであったとしても、自分の方が上だと。

 

 胡蝶しのぶは、もっと裏金カナエの言う事を信じるべきだったと後悔する事になる。

 

 裏金カナエは、動画再生を始めて部屋を出た。

 

 鬼殺隊の未来を支えるであろう、アレ(竈門炭治郎)とか、あの(我妻善逸)問題児(胡蝶カナヲ)を鍛えてあげようと思っていた。

 

 

□□□

 

 胡蝶しのぶが、声にならない悲鳴を上げている最中――裏金カナエは、かまぼこ隊が入院している部屋を訪れていた。

 

 そして、彼女は驚愕する。見ただけで分かるほど竈門炭治郎が澄んでいた事だ。彼女が知る竈門炭治郎といえば、事あるごとに裏金一家に死に体で駆け込んできて、人間→鬼→人間と何度も繰り返した存在であった。

 

 その度に増える家系図と彼の生傷。親族の多さでは日本記録を保持しており、一夫一婦制の日本なのに、なぜそんな記録が存在しているのか謎の男だ。現代日本において、竈門という名字を持つ者は、数代遡れば竈門炭治郎に行き着く。

 

「嘘でしょ!! だれよ、このピュア治郎!? 」

 

「えーーと、誰かな? もしかして、みんなが噂している胡蝶さんの娘……裏金カナエちゃんかな?」

 

 未来の竈門炭治郎しか知らない裏金カナエにとって、何がどうなれば、あんな男に育つのだと思っていた。

 

「嘘だろろぉぉぉぉぉ!! あの顔だけで食っていけそうな、柱の娘!? えっ、でもこの子の年齢的に考えて、子供を仕込んだとなれば……控えめに言って、この子の父親犯罪者じゃね?」

 

「こっちも嘘でしょ!! あの男気溢れる紳士な善逸さんが、こんな糞ガキだなんて……本当にどうなっているのよ。しかも、パパの悪口って――あの善逸さんが聞いたら、世界線が違うと言っても自決してお詫びしそうだわ」

 

 これも全て、裏金銀治郎という存在があれこれ暗躍した事が原因だ。本来の彼等は、こんな感じである。

 

 嗅覚と聴覚で真実を見分けられる特技は健在であり、裏金カナエが本気で言っている事が二人には分かった。そして、当然彼女が鬼である事も理解した。

 




伊之助の霊圧がないのは、気にしたらだめです。

次話当たりで、鬼側の内情暴露か無限列車あたりかな^-^

裏金カナエの実力は、正史において鬼舞辻無惨より若干劣る程度の予定。


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外伝:裏金カナエ~afterstory~ 3

 身内の恥という言葉がある。それは、果たして別世界の自分がやらかした事にも適用されるのだろうか。そんな経験をした事がある人など、どの次元世界においても彼女――胡蝶しのぶ以外にありえないだろう。

 

 本当に、人生ナニ(・・)があるか分からないとは、よく出来た言葉だ。

 

 目を覆いたくなるような知らない自分が、知らない男性と肌を重ねてエンジョイする画像を見せ付けられて、胡蝶しのぶがタブレットを破壊せずに耐えきったのは奇跡に等しい。タブレットなる未来道具の仕様が分からない為、これ以上の大惨事になる可能性も考えて、ぐっと堪えたのだ。

 

 そして、本日、柱全員が集められ、鬼に関する情報が裏金カナエより伝えられる事になっていた。胡蝶しのぶが、裏金カナエは一定以上の信用が置ける存在だと認識したからだ。

 

「ママの席はこっち。ママの膝の上じゃないと、みんなに教えてあげないよ~」

 

「はいはい」

 

 諦めの境地に達した胡蝶しのぶは、座席を移動した。産屋敷耀哉と柱達の中間……俗に言う誕生日席的な位置に座る。胡蝶しのぶと裏金カナエ――、やはり並ぶと親子だなと柱の全員が思った。

 

「これで全員が揃ったね。今日、集まって貰ったのは他でもない。裏金カナエ……未来から来た彼女がもたらす情報は万金にも匹敵する。お願いできるかな」

 

 今日を迎えるに当たり、事前準備は万全であった。

 

 産屋敷耀哉がカリスマ性を最大限に利用し、普段コミュニケーションも困難な柱達に懇切丁寧に説明を行っていた。産屋敷耀哉からの重大な話となれば耳を傾けて、柱達も必死に理解に務める。

 

 そのお陰もあり、別世界線の未来から来たという所まで全員が理解していた。

 

「えぇ、元よりそのつもりだから問題無いわ。誤解が無いように、先に伝えておくけど……私も輪廻転生するまでの間の情報は断片的だから、分からない事は分からないと応えるわ」

 

「わかった、だが、話を始める前に君が未来から来たと証明できる物はあるかい。私から説明して納得はしてくれたが、前例が無い事でね。それが、あればこれからの話し合いも円滑に進むだろう」

 

 確かにその通りであった。未来人など、産屋敷耀哉の言葉が絶対な柱といえども、騙されているのではないかと言いたくなる。だからこそ、この場で未来人である事を証明させる必要がった。

 

 そして、嬉しそうにタブレットを取り出そうとする裏金カナエ。だが、その行動は彼女の母親である胡蝶しのぶによって止められる。ひ弱で鬼の頸が落とせないと言う事が信じられない程のパワーで裏金カナエの腕を押さえ込んでいる。

 

 その凄まじい力に裏金カナエもビックリだ。誰だよ、鬼の頸が落とせないとか自慢げにいっていた人はと心底思っていた。

 

「ママ、手を離してくれないとみんなに証拠を見せられないよ」

 

「いいえ、大丈夫です。この子……裏金カナエは間違いなく未来人です。私が保証します。命を賭けても良いわ」

 

 子供が、何かを荷物から取り出そうとするのを必死に止める母親。微笑ましい様にも思えるが、母親の方は本気で必死だ。

 

 鬼を―姉の仇を殺す為ならば、恥も外聞もないと意気込んでいた胡蝶しのぶであったが……恥はかきたくなかった。だが、それを責めてはいけない。それが正常な反応だ。例えば、誰々のためだったら死んでも良いとプロポーズするとしよう。だが、本気で死ぬ気がある奴なんて、いない。

 

「しのぶちゃん、何もそんなに必死にならないでも……私も未来の道具を見てみたいわ」

 

「私の保証だけでは駄目なんですか!? 道具なんてなくても、この子がその証拠ですよ。よく見てください、私の子供だけあって面影があるでしょ!! それで十分ですよね、はい終了!!」

 

 必死!! 圧倒的必死!!

 

 今、胡蝶しのぶの腕に掛けられている力は、煉獄杏寿郎が猗窩座を死にものぐるいで押さえ込んだ時に匹敵するレベル。あまりの必死さに、怪しさが増していく。もしかして、血鬼術で何かしらの操作をされているのではないかと。

 

「おちつけ、蟲柱。派手に焦る様子をみると、怪しさが増すぞ。いいじゃねーか、別にへるもじゃねーだろう?」

 

「その通りだよ、ママ。いや~忍者の割にイイ事をいいます。パパが音柱は、できる男だと絶賛していましたからね。今度のは、本当に大丈夫。日本中、いいえ世界中に配信されたママの偉人伝だから。未来の倫理機構が承認した由緒正しい映像だよ~」

 

 嘘などは言っていない。

 

 その言葉に誰もが耳を傾ける。仲間が偉人として未来で称えられた。その傍らに、自分達もいるのではないかと思ってしまう。

 

「――本当に、個人的な映像じゃなくて世界中で見られた映像なんでしょうね?」

 

「ママは、疑い深いな~。もし、嘘だったら、無惨以外の鬼を全部私が処理してあげるわ。それじゃあ、皆さんこれにご注目!!」

 

 そして流れ出す『その時歴史が動いた胡蝶しのぶの偉業 ~東洋のジャンヌダルク~ 』。未来の道具と言うだけでも興味津々であり、集まった者達はこの日の事を生涯忘れないだろう。

 

□□□

 

 胡蝶しのぶが、裏金カナエを抱きしめたまま嘆いていた。そんな母親の頭をなでる娘――微笑ましいが、コイツが元凶である。

 

「あ゛ぁぁぁぁぁ。どうじでーーー、どうじてそうなるのよ!! 未来の私の馬鹿~、アホ~、変態!! いっそ、殺して~」

 

「よしよし、ママは何も悪くないわ。いい子いい子」

 

「未来は随分と楽しそうだね。それじゃあ、彼女が未来人である事はこれで証明された。では、そろそろ教えて貰えるかな。十二鬼月の情報を」

 

 産屋敷耀哉のスルー力は、半端なかった。胡蝶しのぶに絡むと時間を浪費すると理解し、放置する事にした、どうせ、裏金カナエが勝手にフォローするだろうと察している。その神がかった判断は正しい。

 

「えぇ、この時期だと……鬼舞辻無惨が女装して、下弦の壱を残し下弦を全員殺しているはずね。後、上弦の鬼達は、吉原の遊郭で働いていたり~、芸術家だったり~、格闘家だったり~、教祖だったり~、元鬼殺隊の隊士だったり…そんな感じだったはずよ」

 

 鬼の情報を教えただけだというのに白い目で見られて心外だと思う裏金カナエ。そりゃ、信じられないかも知れないけど本当の事だ。父親である裏金銀治郎もかつては通った道だ。そう考えれば、親子揃って実に仲が良いことだ。

 

「な、なるほど衝撃的な事実のようだね。だが、嘘は言っていない……信じたくは無いがね。では、他にも知っている情報を教えてくれないかな。代わりになるか分からないが、君の安全は私が保障しよう。他の者達も知りたい情報があるならば、聞くといい」

 

 真っ先に質問をしたのは煉獄杏寿郎だ。

 

「うむ!! では、俺から質問しよう!! 鬼舞辻無惨の血鬼術は何だ!?」

 

「あ~、うん。えっとね、"おめこ券"だったかな。パパとママが本気を出しても破れない絶対防御を誇っていたらしいよ。未来の世界じゃ、頭退魔忍と並んで頭無惨様というのが双璧をなす、パワーワードになっている程よ」

 

「じ、事実だよ、皆の者」

 

 場の空気が重くなる。

 

「はいはい!! 私から質問!! ……私って、将来結婚できてた!? 子供とか居たりしたかな?」

 

「いるいる。二人の子孫が、パパの会社で働いているよ。血筋もかもしれないけど、なかなかの好青年だよ」

 

「おめでとう、蜜璃。どうやら、良縁に巡り会えたみたいだね、心から祝福するよ」

 

 甘露寺蜜璃は、婚活が見事成功したと知り喜んだ。その傍らにいる蛇っぽい人が何かソワソワしている。だが、相手が誰だったかは教えてあげる気がない裏金カナエだ。

 

 そんな質問に苛立ちを隠せなかった不死川実弥が質問をだす。

 

「関係ねー質問してるんじゃねーぞ。今の隊士の質から考えて、無惨を簡単に倒せたとは思えねーな。どんな訓練をやってた?何か特別な事があるんだろう?」

 

「この世界じゃ、パパが居ないからあの方法は難しいかな。そうね~、日輪刀って第二形態があるのよ。赫刀って呼ばれてね、上弦の鬼であっても再生困難な致命傷を与える事が出来るわ。熱と圧力を加えると刀身が赤くなるから試してみたら? 他にも寿命を対価に驚異的な身体能力を手に入れる痣覚醒ってのもあるわ」

 

 鬼を材料にした食事や緊急活性薬などの情報は伝えられる事は無い。

 

 だが、心優しい裏金カナエは万が一に備えて母親である胡蝶しのぶにだけは後ほどその事を伝授する。そして、心労が溜まる彼女は数年ぶりに熱を出し寝込む事になる。 




うーーん、次話あたりで劇場版あたりでいくね。



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外伝:裏金カナエ~afterstory~ 4

 裏金カナエからもたらされた情報を即座に鬼殺隊は取り込んだ。取り急ぎ、お手軽に日輪刀を第二形態にする事から始められた。

 

 脳筋揃いの柱達は、実演した裏金カナエを真似て己の腕力でそれの実現を試みる。鬼のスペックである彼女の身体能力は、見た目から乖離している。よって、見るに見かねた裏金カナエが、万力を使った方法を提示した。

 

 たった、それだけの事で天才扱いされるのは侮辱にも等しい。

 

 熱に関しても同じだ。蝋燭の火を使ったりと様々な方法を頑張った柱達。だが、考えて欲しい。鬼との戦いの最中、蝋燭の火を用意して刀身が暖まるのを待ってくれる様な鬼は居ない。

 

 そこで、またまた裏金カナエが知恵をもたらす。カイロの原理だ。化学反応を使って、刀身を必要温度まで暖める方法である。そのお陰で、一般隊士でもお手軽に赫刀を手に入れた。

 

「あの~、裏金カナエ様。こちらの決裁書にサインをお願いします。先日、融資した企業ですが……」

 

「ねぇ、馬鹿なの? ママの看病で忙しいんだから、いちいち私に聞きに来ないでよ」

 

 現在、裏金カナエは赫刀をお手軽に手に入れる方法を伝授したという事で、鬼殺隊の相談役ポジションに昇格していた。本人も何が何だか、理解できない。トントン拍子で昇進していった。

 

………

……

 

 裏金カナエが、なぜか鬼殺隊の運営支援をしている最中。

 

 胡蝶しのぶは、布団にはいりタブレットを手に暇つぶしをしている。頭脳派の彼女は、タブレットの使い方を大まかに理解していた。大事な事だが、別にプレイ動画を見る目的では無い。

 

 普通の写真や動画……タブレットに納められている日記や書物を読みあさっていた。中には、旅行先の写真や裏金カナエの誕生日を祝う動画など微笑ましい物も多い。

 

「はぁ~、悪い人じゃないんでしょうね。私が好きになるくらいですから――。胡散臭そうですが」

 

 そして、彼女はそのままタブレットの情報を閲覧し、裏金銀治郎の日記を見つけた。そこには、無限列車で炎柱・煉獄杏寿郎がローションが無ければ死んでいたという台詞について、草も生えないと記述があった。

 

 ローション……その存在は、柱達の前で見せられた偉人伝でも聞いた言葉だ。

 

 つまりは、そのローションが無ければ炎柱・煉獄杏寿郎が死ぬ可能性が濃厚であるという事実だ。これには、彼女も焦りが生じる。こんな所で寝ている場合では無い。直ぐにでもローションなる物を開発して、煉獄杏寿郎に装備させる必要があると。

 

 彼女の中では、ローションが武器か防具の類いという位置づけだ。事実は、夜のお供に使われる潤滑油である事など想像すらできていない。寧ろ、そんな道具でなぜ、命が助かるのか場面すら想像できないだろう。

 

 ローションとは何であるかを知り、その開発者として未来永劫語り継がれている事を知る。結果、彼女は心労で再び寝込む事になる。

 

 そんな不甲斐ない母親に代わり、娘が現場に駆り出される。

 

□□□

 

 無限列車。何人もの隊士が行方不明になったこの場所……鬼の滑稽な術中に見事に嵌まる。それは、鬼退治のプロであり脳筋の柱も同じであった。だが、一人だけ、意図的に術中に嵌まる者もいた。

 

 その名は、裏金カナエ。

 

 夜景が見えるホテルのスイートルーム。常に監視の目を光らせている母親……裏金しのぶは、修学旅行で今頃はベネチアだ。つまり、この場には健全な親と娘の二人だけ。いいですね、健全ですよ。

 

『カナエ、今日は貴方の為にこの部屋を用意しました。気に入って頂けましたか?』

 

『うん!! でも、パパも悪いパパですよね。ママが居ない時にこんなホテルに……これから、ご無体されちゃうの?』

 

『さぁ、どうでしょう。ですが、カナエが望むのでしたら――おいで』

 

『パパ~』

 

 これから、楽しい時間が始まると思った矢先に夢が終わりを迎えた。列車を揺るがすほどの衝撃が生じた。それが原因で、夢から覚醒する。思わず舌打ちする裏金カナエ。

 

「ちっ、折角良いところだったのに目覚めが悪いわ。それにビジュアルも最悪です。しかし、この鬼って馬鹿なんでしょうかね。無機物……列車と融合とか夜が明けたら、どうするつもりなんでしょう」

 

 裏金カナエは、襲いかかってくる触手をあしらった。

 

 下弦の壱は、自らの体内に異変を感じる。後部車両にいる謎の存在(裏金カナエ)。体内の触手が触れるだけで崩壊を始めてしまう。柱以上に脅威であると察し、後部車両の切り離しが即座に行われる。

 

 実に的確な判断だ。柱と言えども、列車の速度に追いつく事は不可能。だが、人間を遙かに超越した存在は、切り離された列車から別の車両に乗り移るなど造作もない。

 

 そして、先頭車両に近付くと良い具合に竈門炭治郎とかち合う。

 

「げぇ、カナエさん!?」

 

「あらあら、なんで人の顔をみて げぇ って言うんですか。ピュア治郎君、今の私は機嫌が悪いんです、邪魔にならない程度に下がっていてくださいね」

 

「でも、日輪刀がないと鬼は!!」

 

「この強紫外線LEDライトがあれば、鬼なんてイチコロです。日本の科学力は世界一!!」

 

 鬼なんて、身体能力と再生能力とちょっとした特殊能力があるだけの人間だ。それらを得るために致命的な弱点を背負っているため、総合的にみれば人間の方が圧倒的に優れているとも言える。

 

 ライトからの光線を浴びると鬼が崩壊していく。その様子を脇目に、竈門炭治郎は手に持っている日輪刀の必要性を考える事になった。第二形態となった日輪刀ではあるが、鬼に近接戦闘を挑む事には変わりが無い。

 

 あの蝶屋敷での地獄のような訓練を乗り越えて今があるというのに、それをあざ笑うかのようにお手軽に鬼を討伐する裏金カナエ。少しは、竈門炭治郎達の苦労を分かってあげるべきだ。

 

 それから、数分とせず下弦の壱は、未来の道具によって跡形も無く消されてしまった。これが科学の力だ。脳筋の柱達による力業では無い。人間、頭を使ってなんぼである。

 

………

……

 

 全てが円満解決し、列車の乗客が近くの駅まで徒歩移動を開始した。その護衛に、鬼殺隊達も同行する。何事も無く平和に物事が進んでおり、日が昇るまであと少しの所で第二の刺客が登場した。

 

「ぜぇぜぇ、やっと追いついたぞ」

 

 鬼だというのに、息を切らせている。余程、大急ぎで走ってきたのが窺える。もはや、強者としての風格はない。まるで、通勤列車にギリギリのタイミングで乗り込んできたサラリーマンみたいな感じしかしなかった。

 

 それもそのはず、彼……猗窩座は、鬼舞辻無惨より特命を受けている。無限列車に乗っている柱を殺してこいと。だが、無限列車がいつまでも来なかったので、彼は線路を走ってきた。

 

 鬼側には、朝日が昇るまでという、タイムリミットがある。本来であれば、時間を考慮して日が当たらぬ場所に隠れるのだが、何もしないで帰れば癇癪で殺されかねない。だから、死にものぐるいで追いかけてきたのだ。

 

「上弦の参か……先ほどは、物足りないと思っていたところだ。俺が相手になろう」

 

 猗窩座が息を整える。

 

 そして、雰囲気が一変し、煉獄杏寿郎と猗窩座の戦闘が始まった。戦闘狂の猗窩座は、戦いの邪魔となる者の排除を優先する。それから、じっくりと戦いを楽しむ。その為ならば、多少の手傷を負っても構わないという姿勢が致命的であった。

 

 煉獄杏寿郎が持っている刀が普通の日輪刀なら問題ない。だが、今は違っている。全ての隊士が既に赫刀持ちだ。つまり、それで切られれば治癒不能となる。治すためには肉体の大部分をそぎ落として、そこから再生させる必要があった。

 

 それに気がついた猗窩座は、戦略的撤退も視野にいれる。

 

「カナエさん!! あいつ逃げる気です!! 俺には匂いで分かります。煉獄さんの手伝いを」

 

「面倒だけど、仕方ないわね~。ママ直伝の呼吸法を見せてあげるわ、あの手の輩には効果的だから」

 

 煉獄杏寿郎が死ななければ、どうでもよい裏金カナエではあった。

 

 しかし、この場で上弦の参を始末すれば、裏金カナエの株があがり、未来から来た目的である父親と<<放送禁止用語>>する許可が貰えるとも考え手伝う事にする。

 

「ざぁ~こ、ざこ鬼、甲斐性無し、そんなのだから鬼になっても上弦の弐にも負けて降格するのよ。恥ずかしくないの? ねぇねぇ、それにさ自分より若い子にズタボロにされて逃げ帰るってさ~」

 

 煽りの呼吸……女版。その名もメス●キの呼吸。

 

 実に、活用の幅が広い呼吸だ。近代日本において急速に勢力を拡大しつつある呼吸法で、どれだけの人間の性癖を曲げただろうか。その開発者たる裏金しのぶは、どれだけの人生を狂わせただろうか。

 

「もう一度言ってみろ、ガキ。その首へし折ってやるぞ」

 

「何度でも言ってあげるわ、ざぁこ。あっれ~、もしかして本当の事を言われて怒っちゃった? そんな、ざぁこに付き合わされる煉獄さんが可哀相だわ。それに、その顔の入れ墨かっこいいとでも思っているの?ねぇ、ねぇ、私が 縦線だけじゃなくて横線も入れてあげましょうか。きっと、方眼紙みたいになって使い道が増えるわよ」

 

 ブチブチ

 

 武人として女子供には手を掛けない事を基本とする猗窩座。だが、それも今日までであった。血鬼術を発動させて、最初から全力で裏金カナエを殺しにかかった。

 

「破壊殺・滅式」

 

「単純よね~。ピュア治郎君、日輪刀借りるわよ。はぁ~、この姿になるのは好きじゃないんだけどね。――伍ノ型・徒の芍薬」

 

 裏金カナエが幼女から大人に変貌していく。日輪刀を扱うのに最適な肉体へと成長を遂げた。その姿は、生前の胡蝶カナエそのものである。

 

 彼女が、大人の姿にならないのは単純に裏金銀治郎に甘えるプレイをいつまでも楽しみたいからという業が深いものだ。その気になれば、止めていた成長を再開出来るし、元に戻る事も出来る。だが、一度この姿を親に見られれば、甘やかして貰えないと考えていた。

 

 武人としてのプライドをケチョンケチョンにされた猗窩座。肉体の再生が完璧で無いにも関わらず、自らより遙かに格上の存在に挑む姿勢は素晴らしい。最も、その事に気がついたのは、裏金カナエに首を飛ばされる瞬間であった。

 

「っ!! なぜ、それほどまでの力を持ちながら隠す」

 

「私、この姿嫌いなのよ。パパに甘えにくいからね。それと貴方は、まぁまぁ強かったわよ。うちの警備隊にいる自称、地上最強の生物 竈門勇次郎君 並みにはね」

 

 幼女姿に戻り、猗窩座が滅びる様をしっかりと確認する。

 

 鬼殺隊の者達は、普段馬鹿げた発言する幼女だがその実力は折り紙付きだとハッキリと認識した。そして、怒らせるのは止めようと同時に思った。

 




ヨシ!!

煉獄さんの無事を確認。
そろそろ、外伝の終了が近付いてきました^-^



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外伝:裏金カナエ~afterstory~ 5

少し駆け足になるけどご容赦を><




 上弦の参を撃破という報告は、鬼殺隊にとって衝撃的な出来事であった。だが、胡蝶しのぶにしてみれば、上弦程度では姉……裏金カナエの敵にはなり得ないと直感で理解している。

 

 恐らく、他の柱達も裏金カナエの秘める実力に薄々感づいている。だが、触れない。藪をつついて蛇を出す結果になったら困るからだ。

 

『見てください、銀治郎さん!! 本当に鏡面みたいです。世の中は、不思議がいっぱいです』

 

『しのぶさんが、喜んでくれて何よりです。にしても……今日は、白ですか』

 

『って、誰がスカートの中を見てって言いましたか!! 何で、人が感動しているのに、どうして水を差しますか』

 

 鏡面を利用して、妻のスカートの中を覗く変態という名の紳士。下半身的事情で思春期の世界で一番男性がお世話になった淑女。微笑ましい日常がそこには映っていた。

 

「へぇ~、これがウユニ塩湖。いいな~、世界は広いわね」

 

 裏金銀治郎と裏金しのぶのプライベート写真や映像を閲覧中の彼女。行く先々で現地の民族衣装で逢瀬を楽しむ写真や動画が無ければ、どれほど心が楽になっただろう。そんな夫婦の情緒が挟まれるにせよ、幸せそうな自分がそこに映っている。

 

 胡蝶しのぶは、そんな女の幸せを少なからず羨ましいとすら思い始めた。

 

 そんな思いにふけっていると、廊下を走る足音が聞こえる。そして、胡蝶しのぶの私室の扉がノック無しで開かれた。当然、開けたのは裏金カナエである。

 

「ママ~、とりあえず上弦の参を処理してきたからパパと<<放送禁止用語>>する許可を頂戴。ねぇ~ママ。カナエ頑張ったんだからイイでしょ。ママの代わりに、重労働も引き受けているし、そろそろご褒美が欲しいな~」

 

 布団にうつぶせになって、足をパタパタとさせる胡蝶しのぶ。

 

 どこからどう見ても、健康そのものだ。寧ろ、タブレットを見ながら布団から出ないその姿は、未来のJKにありがちだ。その様子に、裏金カナエは胡蝶しのぶが未来人という世間一般説を支持したくなってきた。

 

 当然のことだが、裏金カナエが元いた世界では、胡蝶しのぶが未来人ではないかと説がある。未来を先取りしたかのような、エロさは大正時代ではあり得ないとされている。

 

「ママは、心労でまだ布団からでれな~い。そうですね~、吉原に上弦が潜んでいるって日記にはありましたので、それを討伐してきたら考えて(・・・)あげます。片手間で上弦の参を倒せるカナエにとって、他の上弦だって大した苦労でもないんでしょう」

 

 事実その通りだ。無駄にハイスペックな両親から産まれてきた存在ではない。

 

 裏金カナエは、胡蝶しのぶの思惑を察した。全ての上弦を殺して、無惨まで殺さなければ、許可を出す気が無いと。

 

 だが、従う以外の選択肢は裏金カナエにはなかった。

 

 別次元とは言え、胡蝶しのぶは妹であって母親でもある。よって、たった一言、許可を貰うため、裏金カナエは胡蝶しのぶの従順な犬となり、鬼討伐を履行する。

 

「――ねぇ、ママ。もしかして、パパの事を気になっていたりする? その映像に映っているのは、ママであってママじゃないんだから、忘れちゃ駄目だよ」

 

「分かっています。私は、既に女である事を捨てています。確かに、銀治郎さん(・・・・・)は、まぁまぁ良い線いっているでしょう。ですが、私に対して敬意が全くありません。男女の関係とは、お互いが尊重して支え合える関係でないとね~」

 

「うん? 今、パパの事を銀治郎さんって言った?」

 

「あぁ~、間違えました。裏金さんでしたね」

 

 なにやら、腑に落ちない感じだが、裏金カナエはとりあえず他の上弦を潰す算段を立てる事にした。場所が割れている上弦なんて、まな板の上の鯉と同じである。裏金カナエという強靱な刀が振り下ろされれば、一瞬でケリが付く。その程度の存在でしかない。

 

………

……

 

 太陽が照らす時間。鬼が隠れ潜み、日が沈むのをじっと待つ時だ。そんな時間を有効活用しないなど愚の骨頂だ。

 

 吉原の花魁という所まで、鬼の詳細が割れていれば探せないはずが無い。日頃の行動パターンからの理論詰め、産屋敷耀哉の第六感、竈門炭治郎の嗅覚、我妻善逸の聴覚、柱達の勘――これらが協力し合う。

 

 そして、真っ昼間に吉原で鬼退治が行われる。

 

 本作戦には、柱全員と裏金カナエも参加しており、過剰戦力どころではなかった。初手から全力で殺しにかかり、太陽に照らして焼き殺すという作戦だ。

 

「みなさん、初手から奥義で殺してください。出し惜しみなんて時間の無駄です。今日だけで、本日のスケジュールは夕方にも上弦が控えています。いいですか、タイムアタックです」

 

「早く、始めさせろ。俺は鬼を殺したくてウズウズしてんだ」

 

「俺には、関係ない」

 

「ほらほら、カナエちゃん。美味しいって評判の金平糖だよ。あーーん」

 

 風柱、水柱、恋柱……どいつもこいつも協調性の欠片もなかった。だが、そんな事など些細な問題だ。ラストダンジョンでしか手に入る事がなかった装備(赫刀)を中ボス前で手に入れたのだ。それで負ける方が可笑しいというレベル。

 

 この時、鬼殺隊からの総攻撃が始まろうとしている最中、竈門炭治郎だけがソワソワしていた。それは、どのタイミングで上弦の血液を取得するかだ。妹を人間に戻す為のキーアイテム。だが、柱達の総攻撃で尻の毛一本残さず殺される可能性の方が高かった。

 

 ぼりぼりと金平糖を食べつつ、裏金カナエは竈門炭治郎の不安を解消させてあげようと行動に出た。鬼の血液を手に入れるため、邪魔される可能性は排除したかったのだ。

 

「ピュア治郎君、上弦の血を集めている事もその目的も知っていますよ~。私が居た世界じゃ、鬼と人間を何度も行き来した竈門炭治郎という人が実在します。それを行ったパパとママがいつまでも私を野放しにしていると思えないので、近い将来にコチラに来るでしょうね。その時に、頼めば人間にしてくれますよ。禰豆子さんとも知らない仲じゃありません。ですが~、その時、私の口添えがあれば事がスムーズに運ぶと思いません?」

 

 この言葉で竈門炭治郎の心の風景が一変した。つまり、上弦の血液を無理に集めなくても妹を人間に戻せる。不確実な珠世案より、確実で近い将来現実になる案がそこにある。どちらが有益かは言うまでもない。

 

「犬とお呼びください。カナエ様」

 

「そこまで卑下にならなくても良いんだけどね。でも、鬼は全滅させておかないといけないのよ。確か、この世界にも無惨の呪いから解放されている鬼が居ます。後は、言わなくても分かっていますよね、ピュア治郎君改め、炭治郎君」

 

 炭色に染まった心を持つ男には、それが何を意味するか直ぐに分かった。人は、こうして大人になる。

 

 その日、遊郭の傍らで日が沈むのを待つ、鬼の元に赫刀を持った一撃必殺を心に誓った歴代最強の柱達が強襲をかけた。当然、逃げる事も反撃する事も出来ず、秒殺される上弦。これが、数百年倒される事が無かったと言われる鬼の末路だ。なぜ、ここまでお手軽で倒せる鬼に今まで鬼殺隊が苦戦していたのだろうかと悩まされる事になる。

 

………

……

 

 鬼殺隊の活躍は、歴代最高の輝きを見せる。

 

 上弦の参、上弦の陸が倒された。しかも、上弦の陸に至っては、裏金カナエの力を借りずに柱達だけで倒したのだ。そして、次なる上弦が日を置かずに狙われる。

 

 芸術家気取りの鬼…上弦の伍だ。

 

 産屋敷耀哉の直感の超能力紛いの第六感があれば、正体不明の壺を売る芸術家を探すことなど造作も無い。それに、この世界ではビルゲイツ並みに金をもつ産屋敷家だ。直感、人脈、金が合わさりあい、該当者は直ぐに浮かび上がる。

 

 そして、商談を称して呼び出したのだ。壺を褒め称えたら、チョロ過ぎる位に一人で現れる上弦。今まで、数々の柱を返り討ちにした事、夜ならば何があっても負ける事がないと考えた慢心からくる行動だ。

 

「貴様等ぁーーー。こんな罠を用意するなんて!!」

 

「ばぁーか、いいからさっさと死になさい。私は、ママから許可を貰うため、鬼を全滅させないといけないのよ。弱点を持っているくせに、人間を舐めすぎ。さぁ、後は任せたわ、私は自分の仇を討ちにいきます」

 

 裏金銀治郎ですら、人間に対しての警戒を決して忘れていない。寧ろ、鬼である世界最強の一家を殺す事ができるジョーカーだと思っている。人の進歩は早い。だからこそ、それをコントロールし、情報を手に入れられる立場にいる。

 

「任された」

 

 上弦の伍は、既に手足をもがれて床を這いつくばっていた。更には、背中に何本も赫刀が刺さっており、じわじわと崩壊が進む。そこにトドメで鬼殺隊最強の男―悲鳴嶼行冥が得物をブンブン振り回す。

 

 上弦の参が討伐されてから、数日も経たず、2匹の鬼が後を追う。

 

 




目標は残り数話。
既に終わりは考えました^-^


PS:
パズドラでコラボやっていたので、
しのぶさんを召喚できて大満足だわ。
来てくれたから、しのぶさんをムチャクチャ(幸せ)にしてあげる。

折角なので、裏金一派に乗り換えた人達の子孫一覧を作ってみた。
完全にネタです^-^
さぁ、幾つ元ネタがわかるかしら。

●アンブレラコーポレーションが誇る武力解決部隊
 ※困ったら、殴って黙らす。主にワールドワイドで活動中。
  竈門 勇次郎…背中に鬼がw
  我妻 拳志郎…雷の呼吸 終の型 無想転生 とか使えます。
  セガール・冨岡…食堂コックとして、テロリストすら制圧できます。 
  宇髄 ケンジ…「ドウモ ウラガネ=サン」が口癖のニンジャ。
  デューク・時透…俺の後ろに立つな とかいつも言っています。
  煉獄 皐月…どこぞの生徒会長をしています。神衣なんちゃらとかw


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外伝:裏金カナエ~afterstory~ 6

誤字脱字報告本当に有り難うございます。

やはり、あの名言は言わせたいよね~と思って^-^


 

 上弦の弐…最強の血鬼術の一つを持つ鬼だと裏金銀治郎が賞賛する程だ。その能力を十全に操る事で、血戦で順調に序列を挙げてきた存在。正面切って殺し合えば、裏金カナエともそれなりに戦えるだろう。だからこそ、馬鹿正直に戦うなどしない。

 

 よって、計画された作戦が毒により弱体化させて一気に殺す方法だ。

 

 それを聞いて、胡蝶しのぶは出番かと心を躍らせていた。姉の仇を遂に討つ時が来たと……だが、目の前に居る裏金カナエの存在が原因で、微妙な感情が彼女の中を巡っていた。姉の仇を討つのに、目の前にいるのは姉の生まれ代わりだ。

 

 何より問題なのは、裏金カナエ自身が上弦の弐に殺されたのを恨んでいない事だ。寧ろ、そのおかげで、思い人の娘として転生できたと感謝すらしている。生前よりイキイキしている。

 

「はぁ~、気にしたら駄目ね。じゃあ、姉さん……毒の準備も出来ましたのでいきましょうか」

 

「藤の毒じゃ~、効果は薄いと思うわ。既に、信者を使って食事に毒を仕込んだから、安心して良いわ。ママは、その赫刀で乱れ突きでもする準備をしておいてね」

 

 悲しい事に藤の毒の出番はなかった。

 

 胡蝶しのぶがこの日のために、高濃度の毒を用意したというのに残念な事だ。だが、そうなると、鬼に効く毒とは何なのか胡蝶しのぶは疑問に思った。長い歴史の中で、鬼に有効な毒の開発に成功したのは自分だけだったはずと。未来では、そうではないのかと。

 

「そうなのね……で、一体どんな毒かしら? 毒を使う私としても気になるわ」

 

「強力だよ~。あのパパですら、30分もお手洗いで苦しんだからね。上弦だったら、丸一日は出てこれないかしら」

 

 鬼の始祖である裏金銀治郎を30分も苦しめた毒。毒に精通する胡蝶しのぶだからこそ、恐ろしいと感じた。未来で開発された未知の毒による未曾有の大被害がでるのではないかと。

 

「一体、どんな毒なの?」

 

「貝毒よ。以前にパパが生牡蠣を食べて当たってね~。信じられる?鬼の始祖でもあり、核や水爆が直撃しないと死なないようなパパがお手洗いで苦痛の悲鳴をあげていたのよ」

 

 その話を聞いた胡蝶しのぶは、悲しい気持ちになった。不死身(笑)の鬼が貝毒でもがき苦しんでいる。鬼の始祖が苦しむ毒ともなれば、並みの鬼などそれだけで死ぬ。十二鬼月だって無事では済まないのは明白だ。

 

 せめて、藤の毒関連で苦しんだなら、まだ納得が出来た。貝毒が鬼にとって致命傷になる毒だなんて、悲しすぎる。今までの苦労を返せと胡蝶しのぶは言いたくなった。

 

「つまり、今頃、上弦の弐は厠に篭もって苦しんでいると」

 

「お館様のカリスマと金で信者を買収したのよ。夕食の痛んだ生牡蠣を食べたと情報がきているわ。そして、いまは厠に篭もっているという情報もね。ママ、人間も鬼も出している時が一番隙があるのよ」

 

 これから行われるのは、 上弦の弐である童磨が教祖を務める拠点に忍び込む。そして、厠で苦痛の悲鳴をあげて糞をしいている最中にズバッと殺すと言う事だ。つまりは、見たくも無い、文字通り糞みたいなシーンを目撃する事になる。

 

 下手したら、糞が身に降りかかるかも知れない。

 

「確か、上弦の弐は胡蝶カナエの仇だったな。派手に譲ってやるぜ蟲柱」

 

「そうだね、僕もちょっと…」

 

「俺には関係ない」

 

 気が回る柱達は、一番槍を胡蝶しのぶに譲る。そもそも、怨敵を殺す絶好の機会だ。柱達からしたら譲って当然、胡蝶しのぶからしても譲られて当然である。こんな時だけ団結力がある柱達であった。

 

「がんばれ、がんばれ。ママ、早く私の仇を討って欲しいわ」

 

………

……

 

 万世極楽教にある教祖部屋近くで、うなり声が響く。

 

「腹がぁぁぁぁ……あああああ」

 

 そして、汚い音が響く。それだけでセクハラ案件だ。更には、微妙に漂うウンコ臭。

 

 その発信源に近付く胡蝶しのぶ――この日をどれだけ待ったことか。と、先日までなら思っただろう。今の彼女は、今すぐにでもこの場を離れて帰りたいとすら思っていた。

 

 ぶりぶりぶり

 

「あぁ、そこにいる信者の人。紙をもってきてくれない」

 

 苦しそうな声で紙を求める童磨。厠の扉を僅かに開けて手だけを差し出している。紙を求める手だ。

 

 胡蝶しのぶは、意を決した。狙うは頸!! 力が無い胡蝶しのぶでも、赫刀で頸を突けば十分殺せる。扉を開けた瞬間、彼女は名言を口にする。

 

「え、変態かな?そう言う人はちょ…」

 

「とっととくたばれ糞野郎」

 

 その瞬間、怒りのボルテージが天元突破した胡蝶しのぶは、九頭龍閃を発動する。全身九箇所をほぼ同時に突いた。そして、崩れ落ちる上弦の頭部を粉々に踏み砕く。

 

 

□□□

 

 裏金カナエがいない事を良いことに、娘の部屋で夫婦の営みを楽しむ親が居るとは誰も思わないだろう。だが、そんな背徳的なプレイも終わりを迎える。

 

 幼女の姿の裏金しのぶが、娘の服を脱ぎ捨てる。そして、大人の姿へと変貌を遂げる。着替える姿を楽しそうに見つめる裏金銀治郎。

 

 長期家出をしている娘を探す為、娘の部屋から痕跡を辿っていた。そうしたら、どこぞの淫柱が娘の服を着てパパと迫ってくるのだ。誰が悪いかは言うまでもないだろう。

 

「そうそう、しのぶさん。カナエを見つけました」

 

「無事なんですよね? 銀治郎さんが、焦ってないところをみるに……どうせ、面白おかしな事をやっているんでしょう」

 

 裏金しのぶも母親である。実の娘が生粋の鬼で、世界最強のポテンシャルを秘めている存在であっても心配だ。だが、それと同時に裏金銀治郎と同様に愉悦属性をもっている事も理解している。

 

 その為、どこで何をしているか不安でいっぱいであった。

 

「しのぶさんの所ですよ」

 

「うん? 私の所? もしかして、この家の中にいるとかですか?」

 

 裏金しのぶの知覚能力からも隠匿できるとは、彼女も信じがたい事であった。

 

「いいえ、そうじゃありません。正確に言えば、胡蝶しのぶさんのところです……別世界のね。カナエの血鬼術は、どうやら世界線を越えられるようです。いや~、探すのに苦労しました」

 

「べ、別世界ですか~。先日、夢でカナエに会った気がしましたが、関係しているのかしらね」

 

「その可能性は、あります。別次元であっても、しのぶさんはしのぶさんです。カナエが側に居ればその影響が及んだ可能性を考えています。だから、一時的に別世界のしのぶさんとチャンネルが繋がった。しかし、不思議なのは、何故カナエがそんなところに居るのかです……なにか、心当たりはありませんか?」

 

「うーーん、そう言われましても――っ!! そう言うことですか!!」

 

 裏金しのぶは、理解した。なぜ、娘が世界を越えてまで遠くに行ったのか。あのパパ大好きの娘が、自ら父親と離れるなど余程の事だと思っていた。その理由が、ようやく繋がった。

 

 別世界の私から、裏金銀治郎と<<放送禁止用語>>する許可を取りにいったと。別世界の私が許可を出しただけでも、自らに約束を履行させる事が可能である事を察した。

 

「銀治郎さん!! 今すぐに、カナエを連れ戻しにいきます。どうせ、私に報告をしたと言うことは、世界を渡る算段もついているんでしょ? 出来ないとは言わせませんよ」

 

「もちろんです。娘に出来て、父親に出来ないなんて事はありませんよ。こう見えて、私は中々できる男なんです」

 

 転生者である裏金銀治郎。平行世界というより上位世界の出身者だ。そんな存在の娘なのだから平行世界を行き来できる血鬼術が発現したとしても可笑しくない。

 

 




さて、家で娘を心配した両親が動き始めました。


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外伝:裏金カナエ~afterstory~ 7

※しのぶさんが、二人いて混乱するので、一応以下の形で区別をお願い致します。


『』:裏金しのぶ

「」:胡蝶しのぶ


 裏金カナエが現れて僅かな期間で100年以上も討伐されていなかった上弦が四体も倒された。残りの上弦は、黒死牟と半天狗。そして、首魁である鬼舞辻無惨だけとなった。無論、有象無象の雑魚鬼達はいるが、赫刀を持つ隊士達で十分に対処可能。

 

 だが、急激な変化は、リスクがつきまとう。それが、敵側の行動方針の転換だ。

 

 鬼の被害報告がほぼ無くなり、足取りが全くつかめなくなった。これには、裏金カナエも困ってしまう。半天狗などは場所が割れていない。更には、無限城という異次元に引き籠もられては、彼女が持つ血鬼術では手の出しようがない。

 

 鬼舞辻無惨が、完璧な鬼である裏金カナエの存在を知っていれば無理にでも動いただろう。だが、気づけていない。

 

 そして、本日、これからの活動方針を決めるため緊急の柱合会議が開催される事となった。裏金カナエも胡蝶しのぶの膝の上から参加する。産屋敷耀哉が鬼事情に一番詳しい、裏金カナエに質問をした。

 

「全国の鬼が一斉に隠れてしまった。これは、歴史的に見ても今までに無いことだ。何か情報は持っていないかい、裏金カナエ」

 

「血鬼術で作られた異次元――無限城に隠れたとみて間違いないわ。私の血鬼術に同種の能力があれば、無理矢理でもこじ開けるんだけどね。無限城は、パパのお気に入りの能力の一つよ。元々の持ち主は無惨配下の鬼で、パパが最高で最低の鬼だと褒めていた事があるわ」

 

 鬼をあと一歩まで追い詰めているこの状況。打開策を求めて、裏金カナエから情報を手に入れた鬼殺隊。だが、その彼女ですら、どうしようもないという。ここまで、追い詰めて時間切れまで鬼が隠れるなど許せないと憤怒する柱達。

 

「ここまできたんだから、何とかしろ!! お前も鬼だろう」

 

「あれ? でも、カナエちゃんのお父さんなら、干渉できるって事じゃ無いかしら」

 

「流石、甘露寺だ。今すぐ、裏金の父親とやらを呼べ」

 

 風柱、恋柱、蛇柱が何も考えずに発言する。

 

 そもそも、彼等は忘れているのでは無いか。裏金カナエは、この世界を無償で救いに来た訳ではない。次元を渡って来たのには、浅い理由がある。この場に両親が到着したら、裏金カナエの企みが終わる。

 

 と、思うのが普通だ。

 

 だが、有能な裏金カナエはピンチをチャンスに変える。

 

「えぇ~、じゃあ、ママがお預けにしているご褒美を先にくれるなら、パパに頼んでもいいわ。今度は、考えてあげるとかじゃなくて、確実に、今この場で明言してねママ」

 

 胡蝶しのぶは、上弦を倒したご褒美として裏金銀治郎と<<放送禁止用語>>する許可を結局あげなかった。考えたけど、やっぱり駄目と言い切った。一応、他にも上弦が残っている事や無惨が残っている事など当たり障りのない理由をあげた。それが、本当の理由かは、胡蝶しのぶ本人にしかわからない。

 

 胡蝶しのぶの膝の上にいる裏金カナエ。満面の笑みでご褒美プリーズと両手を広げる。この場で胡蝶しのぶが、許可を出せば確実に裏金銀治郎が処理をする。

 

「早く許可出しちゃってよ、僕忙しいんだから」

 

「いいじゃねーか、蟲柱の一言で鬼が滅びるんだぞ。派手に許可してやれ」

 

「いいではないか!! カナエ殿は、上弦の鬼を討伐など様々な事で貢献した!! 少しくらい目を瞑ろうではないか」

 

 霞柱、音柱、炎柱が無責任にも許可を出せと賛同する。

 

 だが、蟲柱は一言も喋らない。空気を察して、産屋敷輝哉が対話を試みる。

 

「どうしたんだい、しのぶ。何か困っている事があるなら、口に出すといい。何か思うところがあるのだろう」

 

「―ぃゃです」

 

 小さな声ではあったが、確かに皆に聞こえた。胡蝶しのぶが明確な拒絶を示した言葉を。誰しもが何故?と疑問に思った。話の流れや胡蝶しのぶの性格からして、『仕方ありませんね、今回だけですよ』と軽く許可が出るだろうと予想していたが、完全に覆った。

 

「あ゛ぁぁぁ~、やっぱりこうなるのね。だから、早く許可が欲しかったのよ。どうせ、映像や写真を見て、感情移入したんでしょ!! 考えても見なさいよ、別次元の自分が惚れた男なのよ、この世界のしのぶが惚れない道理がないじゃない。こんな事なら、タブレットを無理矢理にでも回収すべきだったわ」

 

「ち、違います!! 私は、ただ別世界の私に迷惑を掛けたくないだけです。別に、私の一言で、銀治郎さん(・・・・・)に迷惑が掛かると申し訳ないなんて思っていませんよ。本当ですからね」

 

 真の敵は身内にいた。しかも、強力無比だ。実力行使になどでれない、穏便に解決する為に思考を巡らす。男との出会いがないから、こんなに拗らせる結果になったのだ。つまり解決策は、男を紹介する事だ。

 

 裏金カナエは、周囲に居る男達を確認する。

 

 表世界にも裏世界にも顔が通じて、世界的な大富豪だったり、世界への影響力を持つ男になれる人がいるだろうか……そんな都合の良い人間が、実は一人だけいる。産屋敷耀哉、その人だ。彼ならば、裏金銀治郎も納得して胡蝶しのぶを託せると太鼓判を押す。

 

 しかし、この世界において、産屋敷耀哉と胡蝶しのぶのカップリングが成功する可能性は、0%だ。

 

「ないわ~。誰よ、こんな脳筋ばかり集めた人は――仕方ないわね。パパを共同管理する方向で手を打ちましょう。大丈夫よ、パパはママを愛しているから、例え増えたとしても問題無いわ」

 

 ごくりと、胡蝶しのぶの喉が鳴る。

 

 一人の男性を共同管理するなど倫理的にどうなのかと思うところは、胡蝶しのぶの心にもあった。それでも構わないと思う心もどこかにあった。

 

 だが、その時、柱合会議の部屋に乱入者出現。

 

 部屋の襖を開けて現れる男女二人。柱達は瞬時に臨戦態勢に移行する。二人の存在感が、出会った上弦など比較にならないほど大きかった。話題の人物達と柱達の初会合。

 

 裏金カナエが移動先に母親を選んだように、移動先のマーカーに裏金カナエを利用していた。

 

『カナエ、とーーーっても楽しそうな話をしているのね。ママも混ぜて欲しいわ』

 

「そんな、後一歩まできたのに、こんな所で。――血鬼術"ザ・ワー……」

 

 裏金カナエが血鬼術を発動し、逃亡を謀ろうとした。だが、裏金しのぶの方が一枚上手であった。瞬時に未来を経験し、行動を止めた。血鬼術とて、発動前に止めてしまえば障害にならない。勿論、それが出来る者の方が希有だが。

 

 母親に羽交い締めにされた裏金カナエは、敗北を認めた。

 

「おやおや、私にとっては懐かしい顔ぶれですね。この度は、娘が大変ご迷惑をおかけ致しました。娘には私からキツく言っておきます。もし、私に出来る事がありましたら何なりと言ってください。この度の謝罪も兼ねて、誠意を持って対応させていただきます」

 

「パパ、カナエは悪くないわ。ママがパパを独り占めするから~。ねぇ、何でパパとカナエが結婚しちゃいけないの?」

 

「難しい質問です。カナエは私の娘はイヤですか? 私は、カナエが娘として産まれてきてくれて毎日が幸せです。貴方と会えた事があの世界で私が生きた証明でもあります。ですから、カナエが私の娘である事を否定したいという事がとても悲しい。――カナエ、いつまでも私の娘でいてくれませんか。いつまでも、娘である貴方を愛させて貰えませんか」

 

 ちなみに、大事な事だが……凄く良い事を言っている雰囲気だが、父親と娘で<<放送禁止用語>>したらいけませんとか、一言も言っていない。何となく、良い事を言って綺麗に終わらそうとしているだけだ。

 

 別に、愛があったら育んでもいい。

 

 そんな言葉の綺麗さに誤魔化された柱達は、裏金銀治郎が鬼でありながら良い父親であるというポジションを得た。裏金銀治郎への先入観などが、無ければ脳筋柱達なぞこんなものよ。

 

「うぅ~うぅ~、わかったわパパ。今回(・・)は、諦めるわ。これ以上、ママの仲間だった人達に迷惑も掛けられないしね。じゃあ、少し無惨を殺すのだけ手伝って~。無限城に逃げ込まれちゃってね」

 

 まるで、部屋の掃除のお手伝いを依頼するかの如く、鬼の首魁退治がお願いされる。そして、それを快諾する裏金銀治郎であった。

 

 だが、親子のやり取りをにらみ付ける一人の女性がいる。胡蝶しのぶであった。

 

『ねぇ、銀治郎さん。なんか、こっちの私が凄く睨んできているんですけど~。一体、私に何をやったんですか? 早めに謝ってくださいね』

 

「スケベ、変態、淫乱」

 

『ねぇねぇ。銀治郎さん、一体、コッチの私にナニをしたんですか? 私があんな反応をするって事は、手を出しちゃったんですか。ここに来たのは、今日が初めてだと言いましたよね?』

 

 完全に無実である裏金銀治郎。だが、裏金しのぶはその言葉が裏金銀治郎へ向けられた物であると信じて疑わなかった。

 

「違います!! 銀治郎さん(・・・・・)じゃなく、貴方に言っているんです。裏金しのぶ、同じ存在として恥ずかしいですよ。何ですか、あんな形で歴史に名前を残して恥ずかしいとは思わないんですか?」

 

『はぁ? 一体、私の何処がスケベで変態で淫乱だって言うんですか? 言っておきますが、世界は違えど鏡に悪口を言っているようなものですよ』

 

 同じ顔、同じ見た目の二人が争う様子は、楽しいものだ。他の者達も静観している。こんな場面が見られるなど、そうそうにない。

 

「へぇ~、じゃあ文化祭の真っ最中に保健室でメイドの躾プレイをするのはなんて説明するんですか?」

 

『……ぎ、銀治郎さん。あのタブレットって厳重保管してセキュリティも完璧って話じゃありませんでしたっけ?』

 

「えぇ、私としのぶさんとカナエの指紋でしか解除できませんよ。充電中にカナエが間違って持ってきたんでしょう。流石の私も、別次元のしのぶさんが解除するなど想定外です」

 

 己の長年の痴態が知られていた。

 

 これで言い訳できない変態のレッテル。流石の裏金しのぶも否定できなかった。世間一般的には変態行為と言える事も色々やっていたからだ。

 

「まぁ、色々と積もる話もあるだろう。今日は、ゆっくりと休んでくれ。しのぶは、裏金夫妻と裏金カナエのおもてなしを頼んだよ」

 

 裏金銀治郎は、何故こんな展開になったのか理解出来ていなかった。

 

 家出娘を探しにきたら、胡蝶しのぶと裏金しのぶが険悪なムードなのだ。しかも、その中心にいるのが自分であるとは……人生にはモテ期が何度かあるというが、同じ女性に対してのモテ期も回数にカウントしてよいか悩んでいた。




次回、純情な胡蝶しのぶが迫る。

「ねぇ、銀治郎さん。すこし、寒いので暖めて貰えませんか。大丈夫です、私も胡蝶しのぶですよ。浮気にはなりません」

と、布団に誘う一人の女性がいるとかいないとか。





嘘ですけどね。


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外伝:裏金カナエ~afterstory~ 8


短めですが、『おもてなし(意味深)』のお話です。



※しのぶさんが、二人いて混乱するので、一応以下の形で区別をお願い致します。


『』:裏金しのぶ

「」:胡蝶しのぶ


 蝶屋敷で夕餉の準備を始める裏金銀治郎。接待を受ける側だというのに、自ら調理する。だが、流石に申し訳ないと思い胡蝶しのぶがお手伝いを申し出た。

 

 大正時代において、台所に立つ男性など皆無だ。まさに古い時代の考え方で、何で妻である裏金しのぶが一切手伝わず、継子である栗花落カナヲと戯れているか、理解出来ない胡蝶しのぶであった。

 

『きゃーー、カナヲってば若いわ。それに、可愛いわね~』

 

「でしょでしょ!! あっちのカナヲも可愛かったけど、炭治郎君のせいでお目々がハイライトオフになる事が多かったからね。やっぱり、物静かな女の子は、可愛げがあるわ」

 

 酔っ払い上司に絡まれた部下のような立場の栗花落カナヲ。だが、逆らう事が出来ずオモチャにされてしまう。明るい食卓と言えば、聞こえは良いが……敬愛すべき師範である胡蝶しのぶと同じ顔を持つ裏金しのぶに絡まれては、コミュ障の彼女では対応が困難であった。

 

 師範である胡蝶しのぶに助けを求めるが、彼女は夕餉の準備で忙しかった。

 

「すみません、お客様なのにお手伝いをさせてしまって」

 

「いいえ、気にしないでください。向こうの世界……というか、未来の世界では男性が厨房に立つ事も珍しくありません。家事分担という考えが浸透しています。それに、料理は私の趣味でもありますし、愛する妻と子供に振る舞ってあげたいという気持ちが大きいです。まぁ、私の方が料理上手ってのが一番の理由ですけどね」

 

「あ、あの~良ければ、私に料理を教えて貰えませんか」

 

「えぇ、私で良ければ喜んで」

 

 可愛らしく料理を教えてくれとせがんでくる胡蝶しのぶ。

 

 エプロン姿、上目遣い、照れながらの三コンボを無自覚に決めてくる――卑しい女であった。料理中、試食と称して「あ~ん」と言いながら差し出された者を食べ合う二人。当然、そんな様子が妻と子に見えないはずも無く、食卓に並べられた箸がへし折られる結果になった。

 

………

……

 

 慌ただしい夕餉を終えて、客間で雑魚寝をする裏金一家。世界線を越える為、相応の力を消費した事もあり、裏金しのぶも熟睡している。裏金カナエも母親に抱きかかえられて、夢の世界だ。

 

 そんな微笑ましい光景を確認し、裏金銀治郎は勝手を知る蝶屋敷を歩いていた。そして、夜空がよく見える縁の下で一休みをしている。月見酒を一人楽しんでいると、この家の家主である胡蝶しのぶがやってきた。

 

 そして、さり気なく裏金銀治郎の横に座る。だが、妙に距離が近い。それこそ、服という布切れ一枚挟んで豊満な肉体が真横にある状況だ。何より、良い香りがする。

 

「一人でお酒は寂しいでしょう。お注ぎ致します」

 

「ありがとう、えーーと胡蝶しのぶさん」

 

 お返しにと裏金銀治郎も胡蝶しのぶにお酒を勧める。

 

 お互い殆ど会話する事無く、ただお酒が無くなる度に継ぎ足していく。次第に、胡蝶しのぶは酔いが回り、裏金銀治郎の肩に頭を預ける。そして、裏金銀治郎は優しく頭をなでであやす。

 

「よく頑張りました、胡蝶しのぶさん。私の助けなどなくても、柱として何人もの人を助けてきました。もう力を抜いてもいいんです。だから、もっと大人を頼ってください、貴方はまだ子供なんですから」

 

「や、止めてください。そんな事言われたら、私…わだじ、泣いちゃうじゃないですか」

 

 胡蝶しのぶは、この世界でひたむきに頑張ってきた。それを認めてくれる男性が今目の前にいるのだ。年頃の女性なのだから、弱った時にこれを言われると効く。

 

「辛いときに、側にいられないで申し訳ありません。ですから、今日の事は誰にも言いませんから存分に泣いてください。貴方が満足するまで私が頭を撫でてあげます」

 

「なんで、そんなに優しくするんですか。お酒がしょっぱくなっちゃうじゃないですか」

 

「愛、愛ですよ」

 

 裏金銀治郎の寝間着が涙や鼻水で色々グシャグシャになる頃には、胡蝶しのぶが疲れて寝息を立てていた。そんな彼女を抱きかかえて寝室まで運ぶ裏金銀治郎。

 

………

……

 

 胡蝶しのぶの寝室に到着し、彼女をゆっくりと降ろす。そして、押し入れから掛け布団を出そうとしたところ、後ろから誰かに抱きつかれた。言うまでも無く、抱きついたのは胡蝶しのぶだ。

 

「いかないでください。いっちゃ、嫌です」

 

 暗い寝室でお酒の影響で、若干汗ばんだ美人が背中から抱きついてくる。そして、行かないでと殺しに掛かってくる。どうして、ここまで男性の心を抉るような事を無自覚にできるのだろうか。

 

「私には、妻も子供もいます」

 

「知っています。でも、その妻って私ですよね」

 

「え、あ、うん? そうですね」

 

 裏金銀治郎も混乱していた。

 

 今日初めて会ったこの世界の胡蝶しのぶからここまで思いを寄せられる理由が全く思いつかなかったからだ。元居た世界の胡蝶しのぶを落とすために、大変苦労したというのに何故この世界だと会って数時間で合体できる展開まで進んでいるのか謎であった。

 

 寧ろ、それが分かるなら誰も苦労しない。

 

「今日は、少し寒いです。暖めて貰えませんか、銀治郎さん」

 

 シュリシュルシュルと衣服が脱げる音がする。

 

「落ち着いてください、胡蝶しのぶさん」

 

「あっちのしのぶ程、エッチの経験はありませんけど……一生懸命頑張りますから。や、優しくしてくださいね。――声……出さないように頑張ります」

 

 恥じらいながら、初々しい態度でお願いされる。そんな事されて、耐えられるはずがないだろうと裏金銀治郎が心の中で叫んだ。

 

 裏金銀治郎――またしても人間に食い物にされる。

 

 この日、親子丼、姉妹丼に並ぶ、妻倍盛丼という斬新なジャンルが開拓された。流石、HENTAI大国日本。

 




後、一話か二話でお終い予定^-^

いや~、劇場版のおかげで、執筆を始めて外伝なのに長くなってしまった。



読者の皆さん、エッチなしのぶさんは好きですか?
作者は大好きですよ^-^
本SSは全年齢の健全なSSなので、これが限界です。


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外伝:裏金カナエ~afterstory~ 9

 裏金銀治郎は、九死に一生を得た。

 

 胡蝶しのぶと盛大に盛り上がり一段落付いた時、背後から『お楽しみのようですね』と裏金しのぶからお声が掛かったのだ。この時ばかりは、死を覚悟した裏金銀治郎。どんな言い訳をしようか必死で考えていた。

 

 だが、次の瞬間、「ごめんなさい、銀治郎さん。事前に話は通しています。だって、隠し通せるはずないじゃないですか」と胡蝶しのぶが恥ずかしそうに言う。それもそのはず。同じ家の中で他の女性と事に及んでバレない筈が無い。鬼の始祖である知覚能力から考えれば当然の結果だ。

 

 裏金しのぶは、悩んだ結果、この件について受け入れていた。『どうせ、銀治郎さんの事だからこっちの私も救っちゃうんでしょう。いいですよ、そういう銀治郎さんを好きになったんです。だったら、最初からこっち側に引き込む事にします。いいですか、私が正妻。こっちのしのぶが愛人です。今まで以上に愛してくれないとお仕置きしちゃいますからね』と、妻倍盛丼プレイが始まった。

 

 裏金カナエは、裏金しのぶに一服盛られており、乱入出来ない状態になっていた。まさか、父親と<<放送禁止用語>>する許可を取りに来たら、寝ている間に先を越されているなど思わないだろう。

 

………

……

 

 翌朝、朝食の良い匂いに誘われて起床した裏金カナエ。朝食の席で妙に父親と胡蝶しのぶの距離が近い事に気がつく。プライベートスペースと呼ばれる空間にまで入り込んでおり、その顔から女になった事を知る。

 

「どうじて~、どうしてぇぇーー!! こんなの絶対おかしいわ。だって、こっちのママ(胡蝶しのぶ)とパパって、昨日が初対面でしょ!! なんで、そんなに下半身事情がユルユルなのよ」

 

「えーっと、ごめんね、カナエ。銀治郎さん、とっても優しかったわ」

 

 生粋の鬼である裏金カナエに致命的な精神ダメージを与える胡蝶しのぶ。その一言のダメージが大きく、裏金カナエが倒れ込んだ。だが、彼女は腑に落ちない事が一点だけあった。それは、裏金しのぶがそれを認めていると言う事だ。

 

ママ(裏金しのぶ)、これってパパの明確な浮気案件じゃないの?」

 

『カナエ、ママは気がついたのよ。どの次元世界でもママが好きになるのは銀治郎さんだけだと。無惨を滅ぼした後、拗らせて一生独身です。そんなの私が可哀相じゃない。女の幸せをもっと味わって欲しい。それに、私を見捨てるような銀治郎さんなら、好きにはなっていません』

 

「で、本音は?」

 

『カナエへの牽制です。あの堅物の銀治郎さんでも、身内には甘々です。いつか、カナエにも手を出してしまうでしょう。ですが、私がもう一人いたら、話が違います。だって、コッチの私……純情で可愛いんですよ』

 

 全くもって、酷い理由で関係を持つことが許容された。

 

 話題の裏金銀治郎は、我関せずと食事を黙々と食べている。というか、当の本人がいる場で浮気がどうのとか、会話に混ざれるはずも無い。

 

 

□□□

 

 思惑が失敗するどころか、自らの頸を締めてしまう結果になった裏金カナエ。彼女としても胡蝶しのぶが嫌いではない。コチラの世界にきて何かとお世話になったし、一緒にいて楽しくもあった。

 

 だからこそ、裏金銀治郎の愛人的なポジションになったのも納得している。

 

 だが、鬱憤が溜まらないと言えば嘘だ。そのストレス解消に、鬼退治が行われる。無限城に隠れている鬼達はメインディッシュであるので、前菜である珠世一派の掃除だ。

 

 日本中どこにかくれても、お館様の第六感と人脈。裏金銀治郎の無限城があれば、一瞬で鬼がいる場所まで移動できる。柱達が今、珠世一派が隠れている建屋を囲んでいた。

 

 一体どういう事かと戸惑う珠世一派。逃げ場が無い彼女達は、一縷の望みである竈門炭治郎に賭ける。弁明の場があれば、生きる道が開けるかも知れないと。この場には、我らが主人公もいる。

 

「炭治郎さん、これは一体どういう事ですか? 禰豆子さんを人間に戻すには――」

 

「禰豆子は、もう人間に戻して貰いました。今では、元気に暮らしています。今まで、お世話になりました」

 

 笑顔で辛辣な事をいう竈門炭治郎。

 

 よって、妹が平和に暮らせる世界に鬼は不要。人間を鬼に出来る存在など危険きわまりない。もはや、彼にとって珠世は第二の鬼舞辻無惨で他ならない。

 

「そんな筈ありません!! 鬼を人間に戻す研究には、長い月日が必要です。一体、誰がそれを実現したんですか」

 

「おぃおぃ、まだ殺しちゃいけねーのか。鬼だろう、こいつら。しかも、鬼を増やせるとなりゃ即刻殺すべきだ」

 

 風柱の言う事は正論だ。

 

 血鬼術を開花させた鬼は希少な資源。それを無駄にはしてはいけないと裏金一家が前に出る。誰が鬼を人間に戻す研究を成功させたのか、知ってから死んでも良いでしょうと。

 

 太陽の日差しが照らす元、最強の鬼の一家が自己紹介を始める。

 

「初めまして。私は、裏金銀治郎。鬼殺隊と共に鬼退治をしています。鬼の始祖も兼任しており、ワールドワイドな企業でCEOも務めております」

 

「えぇ~、これ私もやるんですか~。裏金しのぶです。娘がお世話になった鬼殺隊の手伝いをしています。同じく鬼の始祖もやってますよ~。一応、今は学生をやっていますかね」

 

「パパとママの娘の裏金カナエです。今日は、パパの愛人が増えた事で憂さ晴らしに来ました。悪いけど、鬼は邪魔だから死んでくださいね」

 

 全くもって、酷い自己紹介だ。

 

 鬼殺隊と鬼の始祖達が手を組んでいるなど、悪夢だと感じる珠世達。なにより、鬼舞辻無惨以外に鬼の始祖が潜んでいたなど信じられない事であった。

 

「では、不死川実弥さん、伊黒小芭内さん。カナエとどっちが先に頸を落とせるか、勝負ですね。もし、勝てたのなら弟さんの治療や包帯の下も綺麗に治療いたします」

 

 この世界において、風柱と蛇柱との関係は良好であった。

 

 お互いに先入観がなく、双方が利用してやろうという関係である。裏金一家は、お館様が認めた存在であり、事が終われば元いた場所に帰ると明言している。よって、利害関係が築けていた。

 

「ねぇ、パパ!! 私へのご褒美は~?」

 

「そうですね~。カナエが欲しがっていた、洋服を買ってあげましょう。貴方は、可愛いから何でも似合いますからね。では、炭治郎君がお別れの言葉を言ったら開始の合図です」

 

「珠世さん、鬼は殺さないと。また、妹が鬼にされたら大変ですからね」

 

 その言葉を聞いた珠世は、一体、あのピュアな男であった炭治郎に何があったのだと思った。だが、これが人間の本質なのだ。大人になるという事なのだ。

 

 一つの鬼の一派が全滅した。その血鬼術は、裏金銀治郎の手中に収まり、無惨に悪用されることは無いだろう。

 

 

□□□

 

 裏金銀治郎は、産屋敷一家と対話の場を設けた。

 

 産屋敷側としては、鬼退治に際し様々な面で支援してくれた事からある程度の報酬を考えていた。よって、報酬面で交渉だと考えていた。

 

 この時ばかりは、寝たきりの産屋敷耀哉が妻のあまねに支えられて無理に起き上がっていた。

 

「一応、未来の世界でも価値があると思われる品々を用意させてもらった。他に希望などがある場合、可能な限り融通させてもらおう」

 

「気にしないで良い。家出娘が世話になったお礼をしているだけだ。世界は違えど、親友から金など取る気は無いし、私なりの謝罪の意味もある」

 

 優れた第六感を持つ産屋敷耀哉は、裏金銀治郎が自らに誰かを重ねている事を理解する。そして、向こうの世界ではきっと想像も出来ない事が起こっていたのだろうと。

 

「それは、どういう意味かな?良ければ教えてくれないか」

 

「構わない。だが、その前に手を出せ産屋敷耀哉」

 

 病に犯されて、枯れ木のような手を裏金銀治郎はしっかりと握った。未来においても、治療法が確立していない病気は、多々存在している。勿論、産屋敷耀哉の遺伝子障害もそれに該当する。

 

 だが、鬼ならではの治療法が幾つか確立出来ていた。

 

「一体、何をするつもりですか裏金銀治郎殿。夫は……」

 

「知っている。私の世界でも、無理矢理治療する事は出来たが本人が拒んだのでやらなかった。だから、別アプローチで治させて貰う。安心しろ、鬼と人間をループさせるやり方じゃ無い。病気というのはな、誰かに移せば治るんだよ」

 

 治癒系の血鬼術は希少だ。それこそ、空間に作用する血鬼術並みである。裏金銀治郎とて、この手の能力は数個しか所持していない。

 

 産屋敷耀哉が徐々に正常な肉体を取り戻していく。病床が正しく移されている証拠であった。そして、病気の移し先は裏金銀治郎だ。鬼の始祖である彼の回復力を持ってすればどんな遺伝子障害であっても、一瞬で治療される。

 

「なぜ、ここまでしてくれるんだ。裏金銀治郎」

 

「あちらの世界じゃ、産屋敷輝利哉を助けられなかった。悪いな。それと、コッチの世界じゃ鬼を全滅させた後、後処理があるだろう。それを誰がやるんだ。そんな事が出来るのは、産屋敷耀哉しかいないだろう。子供達も優秀だろうが、まだ早い。しっかりと教育を施して後継者を育てろ。私のお勧めは、産屋敷ひなきだ」

 

「なぜ、ひなきなんだい?」

 

「彼女は、家の再興を成し遂げた。特に、彼女のお孫さんが、頭おかしい。どのレベルかで言うと、しのぶさん以上だぞ。産屋敷ノヴァ。通称ノヴァ教授と呼ばれて、世界に名前が知られているほどだ。余りに危険すぎて、野放しに出来ないからウチの企業で好きな研究を好きなだけさせている」

 

 体調が戻った産屋敷耀哉。

 

 自分を旧友の如く扱う心地よさを感じつつ、裏金銀治郎と未来の話題や別世界の鬼滅隊の話題で大盛り上がりをした。そして、酒を浴びるように飲み、馬鹿騒ぎする二人をハラハラと見守る産屋敷あまねであった。

 

 ちなみに、エロ本の話題を出した時……実は、この世界でもエロ本を集めているんだと希少なコレクションを見せてくれた。歴史的遺産もあり、本当に表に出せない物が多数あった。

 

 裏金銀治郎は、それに対抗してお炊き上げでエロ本を天国に送っていた馬鹿話をしたりと、実に楽しい時間を送った。そして、産屋敷耀哉より金塊と宝石を握らせられて、未来からの輸入品待っているからねとこっそり言われてしまう。

 

 エロを通じて、親友同士はまた出会う。

 




さぁ、残るは無限城だけ^-^

上弦のみんな、無惨様、待っていてね。




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外伝:裏金カナエ~afterstory~ 10(完)

誤字脱字報告、本当に助かっております。

外伝を10話も投稿することになるとは作者も想定できなかったよ^-^
RTA風にサクッとなってしましたが、外伝ということでお許しください。



※しのぶさんが、二人いて混乱するので、一応以下の形で区別をお願い致します。


『』:裏金しのぶ

「」:胡蝶しのぶ





 無惨討伐に向けて、柱とかまぼこ隊の者達だけが集められた。裏金カナエという存在を容認し、鬼の始祖を問題視しない人選だ。だが、それで十分であった、戦力的に言えば過剰戦力。鬼殺隊と鬼側の戦力比は、アメリカ合衆国+中国+ロシア VS 日本 と言った具合だ。勿論、鬼殺隊が多国籍軍側である。

 

 奇跡すら起こりえない戦力差であった。

 

 一堂に会するこの場所、裏金しのぶと胡蝶しのぶといった同一存在がおり若干の困惑が場に生じた。だが、身に纏う気配が違う。どう違うかは、言うまでも無いだろう。

 

 そんな、顔だけで飯が食っていける存在を二人も侍らせている男――裏金銀治郎。モテたい、モテたいと明言する我妻善逸にとって、美少女を何人も侍らせる男など許しがたい存在であった。

 

「炭治郎!! ありえないだろう!! あの柱が惚れているだけでなく、既に食われているんだぜ。しかも、同じ顔をした裏金しのぶさん?だっけ。同じ顔の本妻もいるんだぞ。俺は、絶対認めないぞーーー!! アンタみたいな男がいるから、俺のようなモテない男に女が回ってこないんだ。一夫多妻とか、男の敵だぁぁぁぁーーー」

 

「おちつけ、善逸。あのカナエさんのお父さんだぞ。まぁ、確かに……複数の女性と関係を持つのは倫理的にどうかと疑問に思う。俺には理解出来ないが、きっと未来ではそれが普通なんだろう」

 

 裏金銀治郎は、もの申したかった。

 

 複数の女性関係を持つ事を責めれる立場に存在しない男達が、別次元とはいえ同じ女性と関係を持ったことを責めてくるんだ。勿論、これについては裏金しのぶも裏金カナエも同意見であった。

 

 よって、裏金銀治郎は、血鬼術を使い過去の映像を投射する事を決意する。選ばれたのは、大惨事 改め 第三次竈門炭治郎の乱の引き金となった、竈門禰豆子の結婚式。そこには参加者として裏金一家と我妻一家も参列している。

 

 つまり、この映像には淫魔四人を抱えた我妻善逸が映っている。

 

「あれ? ここに映っているのって、禰豆子ちゃん~!! すっげーー美人になってる!! ……うん?あの客席にいるのって俺じゃない?」

 

「いや~、違うんじゃ無いかな? 紳士的で鍛えられた感じがあるし、あんな美人達に囲まれているとか別人だろう。善逸はモテないし。それより!! 一体、誰との結婚式なんですか。お兄ちゃんは、絶対にゆるさないぞぉぉ」

 

 他の柱達も空中に投射される映像に釘付けだ。

 

 そして、式典が進行するにつれて、徐々にやべぇーー雰囲気である事に柱達も気がつく。恋柱ですら、最初はきゃーきゃー騒いでいたのに、額から冷や汗を垂らしている。

 

 どす黒い殺気を放つ栗花落カナヲと神崎アオイ。

 第一婦人とか第二婦人とか記載されているプレート。

 ガラスコップに反射して映る竈門炭治郎と竈門禰豆子結婚式という単語。

仲間からの一言で冨岡義勇が『いつか、ヤると思っていた』と言う発言。

 

 いつもの事だが、冨岡義勇が言いたかった事はこれだ。

 

******************

 これで、通算三回目になる。まさか、炭治郎から三回も結婚式に呼ばれ、祝()の言葉を述べる事になるとは思ってもみなかった。だから、何度でもこの言葉を贈ろう。()らい時、()なしい時()お互いが支え合う事で苦難を乗り越えられる。人生、()まあり、谷あり。炭治郎、お前はこの状況をく()しく感じているかもしれない。仮にそうだとしたならば、お前は大馬鹿者だ。お前と生涯を過ごしたいと思ってい(・・・・・)る妻達の事を考えてみろ。そして、この会場に集まり、お前()ちを祝ってくれている者達をみろ。これだけの仲間がお前達の門出を祝っている。勿論、俺も二人の幸せを祈っている。おめでとう、炭治郎、禰豆子。

******************

 

 最初は、竈門禰豆子の夫、憎しと騒いでいた我妻善逸すら沈黙した。そして、向こうの世界の自分が一夫多妻な上に、絶世の美少女、美女達に囲まれて幸せそうな光景を目にし、血の涙を流していた。

 

 皆に祝福される中、誓いのキスをするシーンで夫の素顔が……という場面で映像を止めた裏金銀治郎。状況証拠から考えれば、誰が夫だったのか明白だ。だが、未来の世界ではプライバシーが五月蠅いので、素顔は公開されない。

 

「――で、炭治郎君、善逸君。先ほど、複数の女性と関係を持つ事がどうとか言っていませんでしたか?」

 

「えっ!? 俺、何か言っていましたっけ? 記憶に無いな~、聞き間違えじゃありませんか裏金さん――いいえ、裏金様」

 

「おれ、聴力には絶対の自信があるから間違いないと思うよ~。裏金さんの様な男性なら、一夫多妻も当然ですよね。――あちらの世界で彼女達が居たって事は、コッチでも彼女達(俺の嫁)居ますよね。後で、色々と教えてください裏金様」

 

 華麗な手のひら返し。

 

 どの世界でも、やはりこう言う力関係になるのだと。そして、今の映像を見て、「なるほど、銀治郎。こちらの事は任せておくと良い」と、お館様が地位と権力を使い同じ事を実現する気でいる。そのお姿は、過去に見たことが無い程、イキイキしていた。

 

 

□□□

 

 無限城――そこは異次元に存在する。本来であれば、管理者である鳴女か同種の能力を持つ者しか入る事が出来ない場所だ。そこでは、全国の鬼達を集結し、激しい生存競争が行われていた

 

 蠱毒というのが相応しい言葉だ。

 

 上弦に多数の空席が出来た事と鬼殺隊が異様に強化された事により、鬼舞辻無惨は焦っていた。原因究明より、戦略的撤退を選んでいた。人間と鬼の寿命を考えれば、その作戦は実に有効的だ。

 

 歴代最高の柱や歴代最強の鬼殺隊、そんな連中と馬鹿正直に闘う必要などない。

 

 見込みがありそうな鬼達に血液を与えて強化を図る鬼舞辻無惨。その傍らで、無限城の管理を行う鳴女。有能な鳴女は、一瞬だけ管理している無限城に異物を感知した。

 

「無惨様……失礼しました。どうやら、勘違いのようです」

 

「――いいや、お前の勘違いではなさそうだな。招いてない客が来た。そこに居るのだろう。誰の許可を得て、無限城に入ってきた。殺す前に目的くらい聞いてやろう」

 

 裏金銀治郎からの接続を感知した鳴女、目くらましの術を使って接近してきた裏金銀治郎に感づく鬼舞辻無惨。こちらの次元の鬼達は、あちらの次元より優秀であった。

 

 裏金銀治郎の予定では、暗殺であった。無限城にいる鬼達は、既に柱によって掃討作戦が開始された。その中で血鬼術を持つ鬼については、可能であれば血液か肉体の一部を手に入れてくるようにお館様から厳命が下されている。これは、裏金銀治郎へのお礼も兼ねた報酬であった。

 

 目くらましの術をといて、裏金一家が姿を現す。一家の大黒柱として裏金銀治郎が前に出た。

 

「あなたには、沢山のお礼が言いたい」

 

 鬼舞辻無惨もこの言葉に困惑する。彼の人生、今まで人から感謝の言葉を掛けられた事は無い。更に言えば、いきなり現れた男からお礼が言いたいとガチで言われている状況だ。

 

 初対面の人間から心の底からお礼が言いたいなどと言われれば、鬼であっても対応にこまる。しかも、その存在が圧倒的な上位存在であるならば尚更だ。

 

 当然、鬼舞辻無惨は目の前の存在達が同じ鬼の始祖である事を見抜いていた。状況的に鬼殺隊とも手を組んでいる事も明白。よって、排除のため時間を稼ぐ。

 

「ほほぅ、では私の為に働く栄誉をくれてやろう。感謝しているのだろう。私が貴様にくれてやった恩恵は、貴様自身が働いて返すべきではないか。同じ鬼の始祖として、待遇は善処してやるぞ」

 

 この間、鬼舞辻無惨は鳴女に太陽の下に落とせと必死に念を送っていた。鬼ならば太陽は劇薬だ。確実にやれると踏んでいる。

 

「しのぶさん、二人分の対価。そこにカナエの分も加えると――何年ただ働きしないといけないか想像できません」

 

『はいはい、馬鹿正直に考えないの銀治郎さん。さっさと、終わらせて帰りますよ。銀治郎さんと私が不在だと、会社の決裁とかが色々と滞るんですからね』

 

「パパ~、鳴女はどうする?」

 

 裏金銀治郎は、一考する。鳴女から奪った血鬼術は、長年の研究と改良により究極といえるに相応しいに進化を遂げていた。過去に、無惨産の"おめこ券"を渡してきたというマイナスを加味してもお礼をするに十分であった。

 

「芸者になりたいと夢を聞いた事があります。無限城を貰った対価として、人間に戻してから芸者の人生を歩ませます。後の事は、耀哉君にでも任せれば問題ありません」

 

『無惨は、どうします?』

 

「感謝を込めて殺します。この世界に、鬼は不要です。産まれてきてくれてありがとう、鬼舞辻無惨。私は、あなたの事は嫌いではありません。しのぶさんに会えたのも、愛し合い結婚できたのも、子供を持てたのも全てあなたのおかげです。だから、今回は苦しまずに殺してあげます」

 

 初手から全力で殺す。とどのつまり、これが一番安全で効率が良い方法だ。

 

 裏金銀治郎――剣士としては並みの柱程度しか才能がない。だが、鬼を殺す事にかけては歴代最高である。そんな男が、選んだ血鬼術――。

 

「強制昏倒催眠の囁き――夢を見たまま死ぬといい」

 

 本来、格上には効果が薄い強制昏倒催眠の囁き。だが、格下の相手ならばエグイ効果がある血鬼術だ。自分の都合の良い夢を見る。そして、起きる為には自決が必要になる。だが、自決するのが鬼の場合……これが実質不可能だ。

 

 昏睡する鬼舞辻無惨と困惑する鳴女。両名に裏金銀治郎が、人間に戻す薬を投与する。親玉である鬼舞辻無惨が人間に戻ると連鎖的に鬼が死に絶える。何百年も鬼殺隊を苦しめた鬼、彼等のあっけない最後であった。

 

 そして、人間に戻った鬼舞辻無惨。このまま鬼殺隊に引き渡せば、無事では済まない。苦しんだ上に死ぬ。裏金銀治郎が手刀で首を刎ね飛ばす……これが彼にできる最大限の感謝の気持ちであった。

 

………

……

 

 無限城、攻略が始まって10分も経過せずにすべての事が終わってしまう事態。あまりの早さに、お館様ですら忘れ物を取りに戻ってきたと勘違いする程だ。当然、柱達は戦い足りない。上弦の壱との戦闘中に相手が崩壊して終わった。

 

 つまり、これをもって裏金一家が元の場所へ帰る時が来た。それに焦った、お館様が大急ぎである物を持ってくる。そして、笑顔で言い放つ。

 

「しのぶ、すまないが頼まれごとをしてくれないか。――あぁ、すまない裏金しのぶ先生の方だ。この書物に、産屋敷耀哉君へとサインを貰えないだろうか。銀治郎から、再販版だが君の書籍を貰ってね。ファンになってしまったよ」

 

 裏金しのぶは、どこぞの誰かがサイン会に来た場面を思い出してしまった、そして、やはり血筋かと嘆き崩れ落ちる。だが、恩人であった産屋敷耀哉のお願いを断る事もできず、手慣れた感じでサインをする裏金しのぶ。

 

 

□□□

 

 原作時空を平和にして、元の世界に帰ってきた裏金一家。そこには、新しい家族が一人加わる。胡蝶しのぶ……元いた次元で、継子のカナヲなどの面倒もみる必要があることから身辺整理もある為、当面は次元を行き来しての生活をする事になっている。

 

 その際に、産屋敷耀哉から依頼のあったエロ本の密輸人も引き受けている。人類史上、次元を超えてまでエロ本を密輸するアホは、産屋敷耀哉しかいないだろう。

 

………

……

 

 裏金しのぶは、上機嫌であった。当初、自分と同一存在が増える事に対して若干の懸念があったが、よい具合に方向性(SとM)が違う事で夜の生活が一層充実していた。おまけで、新薬の研究開発など猫の手も借りたい場面などで、自分がもう一人いたらと思う事も多く、助かっている面が大きい。

 

 そろそろ、学校生活にも加わってもらって交互に通学するのもありではないかと思い始めていた。だが、そんな夢はかなわない。

 

 朝のHRで転校生が来る事が周知される。

 

 そして、現れる転校生……だが、生徒達は首をかしげる。転校生が黒板に名前を書き自己紹介を始めた。

 

「みなさん、初めまして。今日から、皆さんと一緒に学ばせていただきます。裏金カエデ(・・・)といいます。えーーと、(年齢的に)しのぶの双子の妹になります。仲良くしてくださいね」

 

 資本主義社会において、金と権力があれば戸籍など簡単に用意できる。札束を使えば裏口入学など簡単なものであった。

 

 当然、注目を集める裏金しのぶ。クラスメイト達は、二人を見比べるが双子ならそっくりだと納得する。

 

 だが、クラスメイト達は大事なネタに気が付けていない。双子の片割れも裏金の姓を名乗っているのだ。それが何を意味しているかを知る日は近い。

 

『あの男はぁぁぁぁぁぁ!!きいてないわよぉぉぉぉ 』

 

 今日も平和な世界で青筋を立てる美しきヒロインが叫びをあげた。 




完結後、映画を見て突発的に投稿したアフターストリーでしたが最後までお付き合いありがとうございました!!

これにて、多分本当に完結です^-^

映画やアニメをみて、そういえばこんなSSもあったな~的なことを思い出せてもらえれば作者はうれしい限りです。

では、また次の作品でお会いいたしましょう!!


〇〇〇余談〇〇〇
カナエ「パパ、これって私のアフターストリーだよね? 最終的に、娘とパパの禁断の愛を育むエンドじゃないの」

銀治郎「全年齢向けの健全な作品ですよ。健全を絵にかいた私のような主人公が娘に手を出すことはありません」
〇〇〇〇〇〇〇〇



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外伝:NHK大河ドラマ~胡蝶しのぶは認めない~(1)

生存報告!!
第二期放送決まった記念でネタ投稿。

完結作品に対して、ぽこぽこ投稿して申し訳ない。



以前に、しのぶさんと銀治郎が結ばれた一夜について略されすぎだと指摘されたので、
こんなことがあったんですと!!




※しのぶさんが、二人いて混乱するので、一応以下の形で区別をお願い致します。

「」:裏金しのぶ

『』:裏金カエデ ※外伝:裏金カナエ~afterstory~ でお持ち帰りされた、胡蝶忍の同一存在。


 未来に生きる国――日本。

 

 他の追随を許さない()進国として世界に知れ渡る国。観光大国としても名が売れており、訪れる男達は大金を片手に吉原に行くことが当たり前となっていた。そして、心の洗濯を終えた後、帰りに胡蝶しのぶ記念館を訪れて一日を締める……そんな大人の観光が行われている。

 

 名付けられたのが、性地巡礼。

 

 一人の女性によって、現代の日本は大きく変わってしまった。本来、死ぬはずの人間がいきて、後生においてコレほど影響を与える事になるとは誰も想像ができなかった。胡蝶しのぶこそ、性のシンギュラリティであるとwikiでも言っている。

 

 そして、今日本日!!

 

 胡蝶しのぶのNHK大河ドラマの先行試写会であった。本来、地上波で行われる大河ドラマだが、内容が過激すぎたため地上波で流せないという過去に類を見ないNHKの取り組み。

 

 映画倫理機構が定める鑑賞区分が【R15+】の作品だ。

 

 鑑賞区分もさる事ながら、受信料を払っているのに、何故劇場にまで足を運んでお金を支払うと物議がなされた。それに対して、NHK側の回答は『利益分は、全て胡蝶しのぶ記念館に寄付する』と明言した事により、騒ぎが沈静化する。

 

「で、銀治郎さん。なぜ、私が自分の大河ドラマを視聴しないといけないんですか」

 

「私としては、しのぶさんが主役の作品に嘘偽りがあってはならないと考えております。その為、制作スタッフに私から『大河ドラマに嘘偽りがあると頂けないので、是非視聴させて欲しい』とお願いをしたら、快く承諾してくれました」

 

 以前のNHKが地上波で流した「その時歴史が動いた胡蝶しのぶの偉業 ~東洋のジャンヌダルク~」のお陰で、胡蝶しのぶが現在も生存している事が判明した。アンブレラ・コーポレーションに未だに在籍している事を明記しており、納税もしっかりしているため少し調べれば分かることだ。

 

 更には、その旦那の存在…日本経済を支える大企業で世界の著名人などに伝手のある男から、妻が出る作品なので是非視聴したいと言われて断れるはずもない。対応を間違えば、路頭に迷うことになる。

 

 そして、裏金一家が勢揃いで試写会が始まる。

 

*****

 

【胡蝶しのぶは、認めない!!第一章 ~ 童貞は、悪ですよ ~ 】

 

 幼少期に不幸な事故により両親を失った胡蝶しのぶは、姉と共に二人で大正の時代を生きていくしか無かった。頼る親戚もいない彼女達。そんな彼女達は、身寄りの無い子供達を集めている「とある名家」の男から助け船を出された。

 

「そうそう、こんな感じだったわね。悲鳴嶼さんポジションがなぜか女性役なのは気になるけど」

 

 父親の膝の上に座っている裏金カナエが昔を思い出したかのように、しみじみと口を開いた。流石に、鬼は登場せず…強盗目的の殺害事件で両親を失ったというストーリーとなっている。

 

「完全に裏家業に身売りしている様な作品になってますよ。大丈夫なんですか、銀治郎さん」

 

「しのぶさん、安心してください。脚本の添削には、私も力を貸しましたから。事実を忠実に再現しております。多少、観衆向けにオリジナルティも混ぜておりますが」

 

 自信満々の口調で、大丈夫だと言い切る裏金銀治郎。

 

 拾われた彼女達は、衣食住の面倒を見て貰う代わりに様々な事を学び教わる。そこで、類い希なる才能を見せた姉妹は、人を食い物にしている悪を闇討ちする必殺仕事人的な仕事をする。

 

 殺人剣を学ばされ、驚異的な身体能力を手に入れる。そして、こう呼ばれる…『くノ一』!!

 

「いきなり違うじゃないですか!!どうして、そこで『くノ一』なんですか?」

 

『うわぁ~。この世界の私の事だけど、どうしてそうなったか全く理解できません』

 

「房中術を実際、教わっていたので事実には違いありません。本物の『くノ一』から直接指導を受けたのですから、しのぶさんは『くノ一』である事に違いないのでは?カエデさんも興味があるなら……いいえ、カエデさんにはカエデさんの道があります。無理に覚えないでくださいね」

 

 裏金銀治郎は、別世界から連れてきた胡蝶しのぶの同一存在である裏金カエデにも房中術を…と思った。だが、精根尽き果ててしまう可能性も考えて遠回しに止めてくれとお願いした。

 

………

……

 

 裏家業を続ける内に、悪人からの襲撃で姉を失う。そんな心身共に不安定な所に「とある名家」の元で金勘定をしている男――裏金銀治郎が胡蝶しのぶに急接近をする。悪人への復讐心を抱く胡蝶しのぶに対して、上手に立ち回る。

 

 外堀をじわじわと埋めていき、周囲の人間達からは二人は付き合っているという風潮まで作り上げる手腕を男は見せ付けた。

 

「パパって、完全に未来を知っているかの様な動き方してたよね」

 

『やっぱり、そう思うわよね。私もずっと気になっていたんですが…銀治郎さんって、実は未来人じゃないかな~って』

 

「またまた、そんな馬鹿な事あるはずないじゃないですか。私は、小夜子お義母様から子供の頃の銀治郎さんの話だって聞いたことあるんですから」

 

 世間一般では、胡蝶しのぶが未来人であるのが定説だ。

 

 だが、事実は違う。未来を知っていたのはその夫である裏金銀治郎の方だ。だが、彼自身も、何故胡蝶しのぶが未来を先取ったエロさを身につけたかは理解出来ていない。持ち前の才能にしても、限度があるだろうと常々思っていた。

 

「その通りですよ。まぁ、今となっては些細な事です。ほら、もうすぐ終わるので静かにみましょうね」

 

 冗談気分で口にした事を完全に肯定された事で、裏金しのぶ、裏金カエデ、裏金カナエの三名は、各々考えた。だが、考えてみればみるほど、しっくりきた。流行の異世界転生的な事が裏金銀治郎に起こっていたのだとしたら、全て辻褄が合うと。

 

 帰ってから、色々と聞かないといけないことが増えた裏金一家の女性陣営。

 

 そんな裏金一家の事情とは別軸に、試写会の映像はラストを迎えようとしていた。

 

【銀治郎さん、どういう事なんですか!?一体、いつ(カナヲ)を手込めにしていたんですか】

 

【落ち着いてください。何を仰りたいか、理解できません。それに、夜更けに男性の家を訪れるのは世間体が悪いです】

 

 刀をもった胡蝶しのぶ役が、夫である裏金銀治郎役に襲いかかろうとする。その襲う理由が、実は娘に言い寄っていたという誤解からなるものだ。

 

【やっぱり、男性は若い女性が好きなんですよね。分かっていますよ。でも、あの子にいいよる悪は私が排除します】

 

【何度も言いますが、私はしのぶさんしか見ていません。信じて貰えませんか】

 

【だったら、証拠を見せてください。銀治郎さん……童貞は、悪ですよ。貴方は、悪い人ですか】

 

【その分類なら悪い人になりますね】

 

【もう一度だけいいます。童貞は、悪です。……だから、悪い人を卒業しませんか。私が手伝ってあげます。そうしたら、私の良い人になってくれますか】

 

 裏金銀治郎役がベットに胡蝶しのぶ役を押し倒す。そして、R15ギリギリの表現が映像に流れ始めた。

 

 そんなシーンをみて女性陣営からは…。

 

「ママってさ、流石にヤりすぎでしょう。あんなの普通の男性が耐えられるはず無いじゃん。前に聞いた話じゃ、押し倒されたっていったけどさ~」

 

『完全な誘い受けじゃない。よくやるわね……後で、教えてくださいね』

 

「お、押し倒されたし!!嘘ついてないわよ」

 

「実によく出来た映画でしたね。昔の思い出が映像化されるのは何とも言えない気持ちですが、悪くはありませんでした」

 

 裏金一家が席を立つ。そして、映画館を後にした。劇場公開版では、NHKの粋な計らいで胡蝶しのぶの肉声…先行試写会での裏金一家の肉声の一部が流される事になる。

 

 当然、その反響も大きい。どう聞いても、若い女性の声であった。年齢的に考えれば、あり得ない。だが、アンブレラ・コーポレーションからの正式表明で肉声である事が名言されている。

 

 つまり、胡蝶しのぶは、過去と現在を行き来した存在の可能性もあると新たな情報が追加された。

 




完結した作品なのに、最後まで読んで頂きありがとうございます!

まだ、未完結の作品を完結させる前にリハビリで投稿しました。

やはり、しのぶさんネタは楽しいです。


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外伝:NHK大河ドラマ~胡蝶しのぶは認めない~(2)

完結作品をこっそり投稿する。
お休みの暇つぶしになれば幸いです。

※しのぶさんが、二人いて混乱するので、一応以下の形で区別をお願い致します。

「」:裏金しのぶ

『』:裏金カエデ ※外伝:裏金カナエ~afterstory~ でお持ち帰りされた、胡蝶忍の同一存在。


 日本流行語大賞に選ばれた『童貞は、悪ですよ』。

 

 【胡蝶しのぶは、認めない!!第一章 ~ 童貞は、悪ですよ ~】が、世間に与えた影響は大きかった。興行収入もうなぎ登りで、NHK大河ドラマが海外の劇場で初めて公開されるという快挙を成し遂げた。

 

 『童貞は、悪ですよ』という所だけは、日本語版が使われるという徹底ぶり。おかげで、「こんにちは」の次に有名な言葉が「童貞は、悪ですよ」となってしまう。

 

 胡蝶しのぶのwikiに新たな伝説が刻まれた瞬間であった。

 

 そして、この大河ドラマで胡蝶しのぶ役を演じた竈門(・・)シノアは、時の人となる。ボチボチしか売れていなかったアイドルが今では世界に名が売れていた。そんな彼女は、未だに平凡な高校生を自称している。

 

「シノアさん、流行語大賞受賞おめでとうございます。将来は、ハリウッド女優ですか?」

 

「雰囲気未亡人のしのぶさんですか。今の私の気持ちなんて誰にも分からないですよ。どいつも、こいつも……馬鹿じゃないの」

 

 アイドルとして成功したと言っても過言でない状況なのに、竈門シノアは憂鬱であった。女として、こんなことで大成はしたくなかったのだ。それに、胡蝶しのぶ役なら、目の前にいる同級生…裏金しのぶの方が100倍似合うとすら思っていた。

 

「未亡人って、酷い。次回作も楽しみにしています。カナエも次回作を楽しみに待っていますと伝言を頼まれました」

 

「……あれ?年齢指定ありませんでしたっけ」

 

 竈門シノアは、常識的に考えて下手なAVよりエロイあの作品を一家で見に行く裏金家を信じられないとおもった。そもそも、五歳児の娘を連れて見に行くような作品ではなかった。

 

 人妻子持ち女子高生とその双子の妹を愛人にしている家庭は、一味違うなと考えるのを竈門シノアは止めた。

 

「(実年齢的に)大丈夫ですよ」

 

「深くは追求しません。しかし、しのぶさんの旦那さんって裏金銀治郎さんでしたよね? 大河ドラマを演じて知りましたが、胡蝶しのぶの夫も裏金銀治郎さんなんですよね~。もしかして、同一人物だったりして」

 

 竈門シノアは、冗談を口にした。

 

 だが、その冗談が考えれば考えるほど、真実であると心が訴える。

 

 裏金しのぶのメイド服姿なんて、NHK特番で公開された写真の人物とソックリ。更には、大河ドラマの最後に胡蝶しのぶの肉声が公開されたが、裏金しのぶとソックリ。名前的にもビンゴであった。

 

「良く言われます。シノアさん、アイドル活動を応援していますね」

 

 

*****

 

 鉄は熱いうちに打てとあるように、NHKの快進撃は止まらなかった。すぐさま、劇場版のNHK大河ドラマ第二章が公開される。

 

【胡蝶しのぶは認めない 第二章~くっ殺せ!鬼になんて屈しない~】

 

 当然、第二章の試写会にも参加する裏金一家。コーラとポップコーンを片手に、映画を楽しむ姿は、休日の親子の絵面だ。

 

 だが、第二章のタイトルを見ただけで、コーラを吹き出す裏金しのぶ。十二鬼月ですら、与えられなかったダメージをコーラが成し遂げた。これだけで、ギネス登録が叶うだろう。

 

「おやおやおやおや、ダメですよ。大丈夫ですか、慌てなくても取ったりしませんよ」

 

「ごっほごほ、なんで勇治郎君が出演しているんですか!!」

 

 いきなり、背中の背筋を見せ付ける大男が登場すれば吹き出したくもなる。だが、鬼に彼以上に相応しい人物もいない。実際、裏の界隈では(オーガ)で名が通っている。更には、竈門シノアの叔父さんでもある。本当に適任者であった。

 

「ちょっと、ママ静かにして」

 

『きっと、十二鬼月役なんでしょうけど……これって、私の製薬に関する逸話がメインじゃなかったのかしら。なぜか、前評判通り必殺仕事人になっているんですが』

 

「そのご心配は尤もです。ですが、しのぶさんの才能は、製薬に留まるほど小さくはありません。製薬については、知られすぎていてつまらない。だから、武の側面に重きを置いています」

 

 胡蝶しのぶは、新しい呼吸を開発した天才だ。その派生の呼吸を日本に…いいや、世界に浸透させた程だ。

 

「蟲の呼吸の事ですか……結局、私以外使い手は居ないままで終わりましたが」

 

 世界に浸透したのは、誘い受けの呼吸やメスガキの呼吸の方だ。その事を、未だに認めない彼女である。

 

「消力の方ですよ。中国に旅行した際には、武術家の人に大変好評を受けていたじゃありませんか」

 

 裏金しのぶ、那谷蜘蛛山では重力を無視したかのような軽やかな動きを見せていた。あれは、蟲の呼吸なんて甘い物ではなかった。無意識に、中国武術の奥義である消力を使いこなしていた。

 

 そのお陰で、地下闘技場では高齢の海皇が疑死した際、代打で出場をした事もある。

 

………

……

 

 胡蝶しのぶは、『くの一』として身につけた知識を用いて、一般でも利用可能なバイアグラとコンドームを作成し、一財産を築き上げる。それを、吉原に浸透させる事で当時の性産業に革命を起こした。

 

 また、同年にローションという潤滑油まで発明し、男達に夢を与える。近藤さんを加えて誘うポーズやローションの正しい使い方などを吉原に広めたお陰で、今の日本がある。本当に尊敬に値する女性である。日本の男性は、胡蝶しのぶが住む方向に足を向けて寝るのは失礼にあたる。

 

『鬼を討伐しなさいよ!!夜の道具なんて、作っている暇があるなら他にやる事なかったの?』

 

「こっちの世界じゃ、お館様が極貧で破産の危険があったのよ。私だって、ちゃんと闘ってましたよ。実際、十二鬼月の殆どを倒したのって私と銀治郎さんです」

 

 世界が違えば、それに至るまでの過程も違う。だが、そんなやり取りの最中でも大河ドラマは進んでいく。

 

【銀治郎さんを返して貰います】

 

 胡蝶しのぶ役(竈門シノア)が、囚われた夫を助けに行く。表では、アンブレラ・コーポレーションで稼ぎ、裏では必殺仕事人家業を行う事で恨みを多方面にかっていた。そして、遂に(オーガ)と呼ばれる凄腕の殺し屋が胡蝶しのぶに差し向けられた。

 

「……うーーん、銀治郎さん。こんな事件ありましたっけ?」

 

「これは、童磨の時のアレですよ。それを少しアレンジした形です」

 

 史実では、胡蝶しのぶが裏金銀治郎を囮に童磨が呼び出されていた。だが、大河ドラマでは逆だ。童磨ポジションの(オーガ)が裏金銀治郎を利用して、胡蝶しのぶを呼び出している。

 

【おっと、それ以上近付くとコイツの命はねーぞ】

 

【酷い怪我、銀治郎さんに拷問をするなんて。恨みがあるのは私でしょ】

 

 裏金銀治郎は、当時のプレイを思い出した。大正時代の人間に出来るプレイではなかったよなと……。ちなみに、そんな事情を知らない裏金カエデは本気で心配をしてくれていた。後ほど、真実を知った際に自分に呆れる事になる。

 

【武器を捨てな。いいね~、その親の敵を見るような目。そそられるぜ。後で、たっぷり可愛がってやる】

 

【くっ殺せ!鬼になんて屈しない】

 

 武術家ポジションの(オーガ)の心情は、死闘をタップリ楽しもうと言っている。だが、脳内ピンクの胡蝶しのぶには、別の意味で伝わるとナレーションがはいる。

 

「言ってない!!言ってない!!こんな台詞言ってないでしょ!!」

 

「えぇ~、本当?パパ、実際のところは?」

 

「その直前の拷問プレイでは、確かに言ってましたよ」

 

 姉の仇を討つ前になんて事をしていると、白い目で見つめられる。だが、許してあげて欲しい。それも彼女の持ち味なのだから。

 

 そして、勘違いしていたことを理解し、顔を真っ赤にした胡蝶しのぶ役により、(オーガ)が倒されて第二章が終わった。

 

  裏金一家が席を立つ。そして、映画館を後にした。劇場公開版では、NHKの粋な計らいで、実際の地下闘技場での胡蝶しのぶとオーガの戦いが一部上映された。胡蝶しのぶは、仮面を被っていたが、その若々しい雰囲気が伝わってくる。

 

 つまり、胡蝶しのぶは、中国拳法を極めた仙人で老化を抑制する術を身につけていると新たな情報が追加される。

 




リハビリでしのぶさんを弄る。

竈門炭治郎の乱も頑張ってみようかと思うこの頃。
アニメ第二期で長男ががんばるから、コッチでも頑張って貰おうかなと。


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外伝:NHK大河ドラマ~胡蝶しのぶは認めない~(3)(完)

完結後にも関わらず、最後までお付き合い頂き有り難うございます!


NHK大河ドラマがこれで完結!!


※しのぶさんが、二人いて混乱するので、一応以下の形で区別をお願い致します。

「」:裏金しのぶ

『』:裏金カエデ ※外伝:裏金カナエ~afterstory~ でお持ち帰りされた、胡蝶忍の同一存在。


 数多くの男達を悩ませ、性癖を歪ませたギネスを持つ女性。そんな彼女が世に送り出した鬼殺しの神器……コ○ドーム、ローション、(童貞)を殺す服。

 

 万能の天才――胡蝶しのぶが世に知らしめる正しい悪の裁き方。

 

 と、言う次回NHK大河ドラマ【胡蝶しのぶは認めない 最終章~(童貞)を殺す服~】 のTVCMがお茶の間を流れた。しかも夕食時の時間帯にNHKが一般放送局を使っての行為だ。破壊力抜群過ぎて、モデルとなった当の本人がむせかえっている。

 

「しのぶさん、鬼滅隊の制服がダサかったのは認めます。ですが、何もそこまで歴史改変をしないでもいいんじゃありませんか。天国にいる耀哉君が泣いてしまいますよ。……主に笑い死にするレベルで」

 

『間違ってはないと思いますよ。確かに、この世界限定で言えば鬼を効率よく殺していた道具ですからね。どんな思考回路していたら、あんなドスケベな服が編めるか同じ存在として理解出来ません』

 

「同意するわ。ママって、童貞に恨みでもあるの?親を殺され……あぁ、そういえば、あの鬼も童貞だったわね。無惨も確か、童貞。私を殺した童磨は、よく分からないけど童の字があるから童貞でしょうね」

 

「なるほど!確かに、私の童貞もしのぶさんに殺されましたからね。安心してください、しのぶさん。私がテレビ局としっかりと打ち合わせをして、しのぶさんの事を伝えてきます」

 

 裏金銀治郎は、懐かしむように過去を思い出していた。

 

 とあるクリスマスの夜、裏金銀治郎は裏金しのぶにマフラーを手編みしてプレゼントした。当然、クリスマスに向けて裏金しのぶがこっそりとセーターを編んでいたのを知っていたので楽しみにしていた。

 

 そして、夜のプロレス会場で時代を先取り過ぎたセーターを着た女性が迫ってきた。当の本人曰く、編みかけと口にしていたが、無理があった。「その完成度で編みかけは無理があるでしょう」と裏金銀治郎は苦笑しながら、美味しい思いをした。

 

 

◇◇◇

 

 とある高校では、三国志レベルで女子の人気が分かれる。

 

 人妻子持ち女子高生――裏金しのぶ!!

 

 姉の旦那の愛人をしている――裏金カエデ!!

 

 童貞を殺すアイドル――竈門シノア!!

 

 存在自体がドスケベに加え、声までよく似ている。そんな三人が同じクラスにいるとは、過剰戦力だ。人妻、愛人、アイドルとは、ラインナップが豊富過ぎて、どこのAVかと言いたくなるレベル。

 

 そして、希代のアイドルが裏金家に遊びに来ていた。

 

「シノアお姉ちゃん!!見て見て、カナエがこれを編んだの」

 

「……無駄に上手ですね。ですが、私も負けませんよ」

 

 なぜか、裏金カナエは無駄に竈門シノアに懐いていた。

 

 文化祭の時に、預けられた事をきっかけにLINE友達にもなっている。実年齢的には、竈門シノアが年下だ。それに、中の人的に考えれば、裏金カナエにとって妹みたいな存在なのだから、懐くのも当然。

 

「本当に、カナエちゃんは可愛いですね。ねぇ、しのぶさん。カナエちゃん下さい!!大切にしますから」

 

「あげません!それより、早く手を動かしてください。全く、最近の女子高生は編み物の一つもできないとは嘆かわしいですね」

 

『出来る方が珍しいでしょう。私だって、その手の事は覚えていません。年の功ですよ、それ』

 

 裏金しのぶは、同級生である竈門シノアの頼みで、(童貞)を殺す服の編みもの講座を行っていた。次のNHK大河ドラマでのメイン衣装となるものだ。リアリティを出すために、自作する事が強要されている。

 

 当然、不正をさせないために、作成様子はYouTubeにて動画配信される。その配信に協力したのが、裏金カナエだ。自称胡蝶しのぶの娘という売り文句でYouTuberとしてかなり稼いでいる。昨今では、お金の稼ぎ方も多様化されてきたため、出来る事だ。

 

 いつまでも父親に甘えるプレイを続ける女の稼ぎは、毎月のお小遣いだけだ。よって、欲しい物を買うために、このような労働スタイルをしている。

 

「しかし、カナエちゃんがYouTuberだったとは知りませんでした。きっと、私のおかげで大ブレイク間違い無しですよ。この私の可愛さに感謝してください」

 

 竈門シノアが裏金カエデの両頬を突いて遊ぶ。それだけで、尊いと感じてしまう人は多いだろう。微笑ましい限りだ。

 

 そんな女性だけが集まる場所に男は不要だ。だが、ここは裏金家である。つまり、その大黒柱がこの場に居ないなどあり得ない。こんな面白いイベントの為ならば、会社の大事な会議を休んででも家に居る。

 

 そんな男が裏金銀治郎だ。

 

「そろそろ休憩にしましょう。お気に召すか分かりませんが、ケーキと紅茶を用意しました」

 

 妻達と子供、そして妻の友達であり竈門一族……太陽克服、爆血の血鬼術をくれた故人の子孫を無碍にはしない。その為、最高のおもてなしをすると決めていた。

 

「パパのケーキ大好き!! シノアお姉ちゃん、残すならカナエが食べてあげますから」

 

「これは美味しそうです。ありがとうございます、銀治郎さん?」

 

 若干恥ずかしそうに、友達の旦那の名前を呼ぶ竈門シノア。

 

 自身が演じる大河ドラマを思い出していた。だが、そんな様子は、今現在リアルタイムでYoutubeに配信されている。

 

 その夜、裏金銀治郎は妻達に搾り取られる事になる。

 

 

◇◇◇

 

【胡蝶しのぶは認めない 最終章~(童貞)を殺す服~】

 

 流石に三度目にもなれば、どのような事にも突っ込まないと自信がある裏金しのぶ。

 

【この服、一人じゃ脱げないんです。手伝ってくれませんか】

 

 (童貞)という名の悪を裁く為、巨悪が住むアジトに潜入した胡蝶しのぶ。いかに、超人的な身体能力を持つ胡蝶しのぶでも多勢に無勢。そこで、(童貞)を殺す服で男を誘い、一人一人殺していく。

 

「面白いように、悪役達が倒されていきます。無限城では、鬼滅隊の者達が殺していましたから、間違いではありません。一応、隊服が(童貞)を殺す服に変わった程度の誤差ですね」

 

「ちがーーーう!!あんな服を着て無惨を倒しに行っていないでしょ」

 

「ママ、五月蠅いよ。でも、どうせ、下着はエッグイの履いてたんでしょ。あの穴が空いているヤツとか」

 

「……誰かさんに汚されて、換えがなかったんです。だから、私は悪くありません」

 

『ナニを討伐しに行っていたんですか。あのさ~、私の事ながら恥ずかしいですよ。後でメーカーを教えてくださいね』

 

 そんな微笑ましい会話の中、大河ドラマは進んでいく。

 

【しのぶさん、一人で無茶しないでください。私も居るのですから頼ってもいいんですよ】

 

 裏金銀治郎役が胡蝶しのぶ役(竈門シノア)の働き方を心配する。

 

【じゃあ、アレやってください。そうしたら頼ってあげます】

 

【パパですよ、しのぶ】

 

 幼い頃に両親を失った胡蝶しのぶは、父性に飢えていた。というナレーションがフォローする。そして、パパの力を借りて巨悪を根絶して大河ドラマは完結した。

 

 大筋は、間違っていなかった。

 

 横で裏金カエデと裏金カナエから白い目で見られている裏金しのぶ。だが、事実過ぎて言い訳がなかった。よって開き直る。

 

「パパ♡みんなが虐めるの~」

 

「大丈夫です、パパはいつでもしのぶの味方です」

 

 当然、制作者の粋な計らいにより、胡蝶しのぶのリアルパパ活音声が大公開される事になる。wikiにパパ活の起源として名を刻む事になる。

 

………

……

 

 大反響があったNHK大河ドラマが完結して暫く時間がたった。

 

 結婚したい女性の国籍は?と聞かれて日本と回答される事が年々増えてきた。理由は簡単であった。スクール水着やブルマ、(童貞)を殺す服を頼めば着てくれるからだと。酷い誤解が世界に広まった。

 

 国は違えど、人はわかり合える…エロを通じて。

 

 ノーベル平和賞の受賞が決まり表舞台にでる事になる裏金しのぶ。更には、オリンピックの開会式への参戦も決まってしまった。ワールドワイドの企業に勤めているからといって、ここまで世界を股に掛けないでも良いと思う彼女の夫は思っていた。

 

 




しのぶさんのおかげで、
リハビリも順調に進みました。

次は、鬼滅の第二期が放送された時を予定。
充電して、竈門炭治郎の乱を・・・。

良いお盆休みを。


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外伝:第一次竈門炭治郎の乱(1)~俺は悪くねぇ~

第二期が始まりましたね。
これから視聴する予定ですが、当初の予定通り少しずつ外伝をやろうかなと^-^

今更、テコ入れ回といわれる過去編です。
完結後にだらだらと投稿で申し訳ありません。


 大正時代…世間では、まだクリスマスという風習が浸透していなかった。だが、()薬会社として一躍有名になったアンブレラ・コーポレーションのお陰で爆発的に、異国文化のクリスマスが広がる。

 

 著者胡蝶しのぶの『正しい華の呼吸全集書』でもクリスマスの夜を"性の4時間"などと表現しており、他国の風習を誤認識させ聖人を性人へと貶めた逸話を残した。更には、改変された文化を、『正しい華の呼吸全集書』翻訳版に載せて各国に出荷しているあたりタチが悪い。

 

 そんなクリスマスの日。雪が舞うホワイトクリスマスを真っ赤に染め上げる男がいた。雪が積もる中、真っ赤に染まりつつある服。腹部を押さえているが漏れ出す血液は止まらない。止血の呼吸を使っていても損傷が大きく、気休め程度にしかなっていなかった。

 

 彼は、繁華街を苦しい顔をして進み続けた。立ち止まるわけにはいかない。彼は、一人の女性を背負った状態でこの雪の中を血を流し歩き続ける。周りの者達からは、何かのイベントかと思われたが、とてもそんな様子ではなかった。

 

 背負われている女性は、服装の乱れこそないが倒れたようなかすり傷が顔に残っていた。

 

「もう、大丈夫だ。この先から神の匂いが…あぁ、神様。私達を救ってください」

 

 気絶した女性を背負い、血まみれで繁華街を歩く男性。しかも、道中では、神がどうとか口走る。クリスマスという時期と相まって、敬虔なクリスチャンに見えなくもない。背負っている者と血まみれの風貌を除けば。

 

 だが、神に救いを求める敬虔なクリスチャンに誰も声は掛けない。正確に言えば、かけられなかったと言うべきだ。彼の周りに居る者達は何故か震えが止まらなかった。寒いわけでは無いが、何故か震える。何が原因かは分からないが、一つだけ周りの一般人にも分かっている事がある。

 

 あの男女に関われば、碌な事にならないと。

 

 その震えを引き起こした元凶が、彼等男女に迫る。クリスマス用にあつらえたと思われるブランド物の真っ白なコートは血塗られており、片手には凶器と思われる日本刀。その日本刀からは血がしたたり落ちており、人を刺してきましたと言わんばかりだ。

 

「何処に行くんですか。答えて下さい炭治郎さん。そんなにアオイがいいんですか?私と子供を愛しているって言ってましたよね。あの言葉は嘘だったんですか。ねぇ。教えて下さい」

 

 どこぞのジゴロが感情に素直になれとコイントスをしたせいで、本当に素直になった淫柱の継子にして戸籍上の娘……竈門カナヲ。彼女が、この血塗られたクリスマスを引き起こした張本人だ。

 

「ち、違うんだカナヲ。話せば分かる。なぁ、俺達夫婦だろう」

 

「えぇ。でも、なんでクリスマスの夜に妻である私とダブルデートなんてしているんですか?」

 

 痴情のもつれ。繁華街で起きた血なまぐさい事件の原因であった。痴情のもつれの結果重傷を負わされた旦那の竈門炭治郎。そして、気絶しているシーフこと神崎アオイ。実際、この状況で本当に気絶しているかすら怪しい卑しい女だ。

 

 控えめに言っても美人の妻。控えめに言っても美人の浮気相手。クリスマスだというのに、恋人すらおらず恋人達の"性の4時間"を支える役目しかないような者達から、こんな状況であっても同情すらされなかった。

 

 むしろ、ざまぁ見ろと思われる。

 

 だが、周囲に見捨てられた彼にも友はいた。クリスマスの夜を夫婦揃って過ごすため、繁華街でプレゼント選びや食事を楽しみ、これから夜戦に向かう神の信徒――我妻善逸。

 

 同じ神の信徒が苦しむ声が聞こえたので足を運んでみれば、予定調和が目の前に広がっていた。我妻善逸にしてみれば、来るときが来たんだなという程度の出来事。

 

「あれ?炭治郎じゃん。なぁ、俺の言ったアドバイスが役に立ったでしょう」

 

「この状況を見て、何処が役に立ったんだよ。善逸!! お願いだ、少しの間でいい、カナヲを止めておいてくれ」

 

 我妻善逸は、迫り来る竈門カナヲを確認した。

 

「えぇ~、役に立ってるって。だって、炭治郎が今死んでないじゃん。今のカナヲは、上弦の壱と一人でやり合っていい勝負出来るくらいの気迫があるよ。それなのに、生きてるって事は積み重ねたご機嫌取りが効いたんでしょ」

 

「じゃ、神をここに呼んできてくれ」

 

 竈門炭治郎は、同胞の言う事を理解した。相手に殺す気があったのならば、既に死んでいた。ならば、まだ活路はあると。

 

「炭治郎は、俺に神のプライベートの時間を邪魔してこいと。それで、俺が神の不興を買ったらどうするの?死ぬの?馬鹿なの?炭治郎……自分で蒔いた種だ、自分で刈り取れ」

 

「だって、仕方ないだろう。気がついたら、子供が居たんだ。俺にどうしろって言うんだよ。お、俺が悪いってのか…?俺は…悪くねえぞ。こんなことになるなんて知らなかった!誰も教えてくんなかっただろっ!俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇっ!!」

 

 竈門炭治郎の言う事も一理あった。既に、出産するしか無い時期に差し迫ってから、事実を知った彼にしてみれば、今までよく頑張ってきた方だ。二重生活を何年もやり遂げたその胆力は素晴らしい。

 

「炭治郎さん、言いたいことは本当にそれだけですか。それだけなんですか。私や子供に対して何か言う事はないんですか? あぁ、我妻さん達はもう帰って下さい。これは夫婦間の問題です」

 

 離れていく我妻一家。

 

 僅かな希望の光が遠のいていく。竈門炭治郎は、こんなことなら、ダブルデートなど出来ないと断るべきだったと後悔した。

 

………

……

 

 クリスマス数日前。

 

 日本人の財布の紐が緩むクリスマス商戦。当然、アンブレラ・コーポレーションも忙しい時期だ。だが、賞与もあり社員達のやる気は十分。クリスマスとお正月と年末年始のイベント尽くしで今からウキウキしている者達も多い。

 

 ウキウキどころか、文字通りイキイキしている女性もいた。

 

 何処で知ったのか、ミニスカサンタコスを自前で用意してきた淫柱胡蝶しのぶ。一体、今を何時代だと思っているのだと裏金銀治郎は思った。産まれて間もない子供…裏金カナエが寝ている側で事を始めるのは宜しくないと我慢をみせた。

 

「いつも、貰ってばかりですので……少し早いですが、わ・た・しがプレゼントです」

 

 と、耳元で淫靡な声で囁かれたらどうなるだろうか。

 

 未来では、ホワイトデーの三倍返しという恐ろしい風習がある。この場合、クリスマス前にプレゼントを貰ったからには、当日には三倍返しをする必要がでてくる。一体、彼女は、"性の4時間"を何時間にするつもりなのだろうか。

 

「あの~ですね。どうして、そんなに私を刺しに来るんですか。いつもいつも……別に止めて欲しいわけじゃありません。寧ろ、大変喜ばしいと思っております。ちなみに、平成とか令和とか聞き覚えがある言葉だったりしますか」

 

「平成?令和? 知らない言葉です。どっかの企業名ですか?」

 

 嘘だーーーと叫びたくなる衝動を我慢し、裏金銀治郎は胡蝶しのぶという花に美味しくいただかれる。

 

………

……

 

 12時間後。ポリネシアン○ックスを極めてなければ負けていた裏金銀治郎。久しぶりに夜戦で勝利を収める事に成功した。そして、お互い暖まった熱を冷ましていく。

 

「ねぇ、銀治郎さん。カナヲに炭治郎君とクリスマスデートするから服や良いお店を聞かれたんですよ。服なら分かるんですが、いいお店ってご存じですか?」

 

「そういう事でしたら、お勧めがあります。繁華街にあるお店ですがクリスマスデートに最適な場所が。ちょうど、他の方(・・・)にも頼まれて予約をするつもりでしたので、一緒にしておきますよ。一組も二組も大差ありませんからね」

 

 そんなお勧めのお店でのクリスマスデートをしたいと思う女性は多い。卑しか女杯があれば優勝出来そうな女性は、この場にもいる。

 

「小夜子お義母様と秋月お父義様が、カナエに会いたがっていましたよね。たまには、私も一人の女の子として見て欲しいな~」

 

 文字通り永遠の18歳…いいや、戸籍上で言えば永遠の30歳が一つのベッドの中で迫ってくる。胸を当てて、上目遣い。更には、人差し指で男性の胸板をゆっくりなで下ろしつつだ。

 

「……また、母さんと父さんに言われるな~。分かりました、期待していてください。ですが、泊まりはなしですよ。カナエを一晩親に預けっぱなしは良くありませんから」

 

「分かってますよ」

 

 裏金銀治郎は、神崎アオイと竈門カナヲからの依頼で繁華街にあるレストラン"Nice boat"を予約した。その事がこの悲劇の発端になるとは彼も知らない。仮に、知っていたとしても実行した。それが裏金銀治郎という男だ。

 




次回は、『外伝:第一次竈門炭治郎の乱(2)~Nice boat~』

久しぶりの執筆で感覚がまだ戻ってこない…許してクレメンス。
ナルト側をサボってコッチに投稿したのは内緒ですよ。


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外伝:第一次竈門炭治郎の乱(2)~Nice boat~

 繁華街の中にあるレストラン"Nice boat"。極めて珍しい異国の料理が楽しめるレストランとして、知名度を上げていた。その為、日頃混雑しているレストランだが、クリスマスというイベント時期においては、予約を取る事などコネでもないと不可能。

 

 そんな大人気のレストランには恩人が居た。異国の香辛料の入手ルートを教えてくれたり、異国の料理を教えてくれるだけでなく、経営に関するアドバイスまでしてくれた人。更には、開店資金をポンと無期限無利息で貸してくれた男――その名は、裏金銀治郎。

 

 恩人から、クリスマスに二組分の席を用意してくれと言われれば、断る事など出来ない。最高のおもてなしをするつもりで、その日を待った。恩人からは、見知った顔が行くからよろしく頼んだと言われる。

 

 レストラン"Nice boat"のオーナーシェフを務める村田。嘗ては、鬼滅隊の一隊士として、各地で鬼退治をしていた。柱稽古でもそれなりに上位に食い込む隠れた猛者。鬼舞辻無惨との戦いにおいて、沈まない船にさくっと乗り換えた判断力は、あの鱗滝左近次にも匹敵する。

 

「オーナーシェフ!予約のお客様です」

 

「わかった!今行く」

 

 勝ち組村田。来年には、結婚も控えており…幸せの絶頂と言えた。その結婚相手も金柱プロデュースであり、この幸せを誰かに分けてあげたいとすら思っていた。

 

 

◇◇◇

 

 不可能を可能にする男となるか、ギリギリのチャレンジに挑む男がいる。

 

 その男の名前は、竈門炭治郎。

 

 そもそも、クリスマスの日にどうやったら、ダブルデートをバレずに乗り切れるのか。そんな方法があるならば、金が取れる。普通ならどちらかを断る。常識的に考えて、本命をクリスマスにして、予備をクリスマスイブや別日にするのが常套手段。

 

 だが、許されない状況であった。

 

 毎年毎年、愛人相手にそんな常套手段を使い続けており、昨年のクリスマスに『来年は、私とクリスマスを過ごしてくださいね。約束ですよ』と言われて、承諾してしまっていた。ムスコを握られており、断れる状況ではなかったとはいえ失策だったと言える。

 

 そうなれば、本妻との日程を変更できるかと言えば難しい。そもそも、二重生活をしているのだから、常に危険な橋を日々渡っていた。どんなに頑張っても年単位でそんな生活をしていれば少なからず怪しまれる。それを払拭するためにもクリスマスというイベントは逃げられない。

 

 竈門炭治郎は、今年こそ死んだと思った。しかし、本妻と愛人から同じ店での食事と言われて、閃く。これは、ひょっとするといつも通りヤり過ごせるかもしれないと。いいや、破滅を回避する為に、成し遂げると意気込んだ。

 

 そして、当日。本妻である竈門カナヲには、デートの雰囲気を出すために、お店で待ち合わせしようと言って家を先に出る。そして、現地で愛人である神崎アオイと合流して、レストラン"Nice boat"に来店を果たした。

 

 竈門炭治郎の考えは、先にお店の店員を買収して、色々と取りはからって貰おうと決めていた。アンブレラ・コーポレーションで営業成績がずば抜けており、ボーナスで財布も分厚い。お金の使い方も炭色へと染まり始めた。

 

 そこへ、お店のオーナーシェフが現れる。

 

「む、村田さん?」

 

「もしかして、炭治郎!?いやーー、久しぶりだな。なんだよ、金柱様の紹介だと聞いていたから誰だと思ったら、炭治郎じゃん。元気にしてたか」

 

 勝った!! 少なくとも竈門炭治郎は、心の中でガッツポーズをしていた。裏金銀治郎の紹介という言葉も相まって、事前に事を察知して頑張り次第でどうにか出来るように取り計らってくれたと勘違いする。

 

 彼もまた、世界は(裏金銀治郎)が七日で作ったと言っても信じるレベルへと昇華しつつあった。

 

「あぁ、村田さんこそ元気そうでなによりだよ。こんな大きなレストランのオーナーシェフなんて大出世じゃないか」

 

「そんなこと無いよ。これも、全部金柱様のお陰だよ。それと、そっちは……蝶屋敷にいた神崎さんだっけ?………言っておくが、この店で問題を起こすなよ!絶対だからな、俺は何も見てないからな

 

 既婚者である竈門炭治郎が妻である竈門カナヲ以外とクリスマスデートをしているなど、見なかったことにしたいと思うのが正常な反応だ。だが、その村田の願いは叶わない。神崎アオイに見えないように、竈門炭治郎は現金が入った分厚い封筒を村田に渡した。その中には、料理を出すタイミングや従業員への取り計らいの依頼があった。

 

 村田は、追い出したい…正直そう思った。だが、裏金銀治郎からの客で有り、簡単には追い出せない。どうせ受け入れるしか無いなら、金を貰って受け入れるほか無かった。

 

「俺、そういう諦めが早い村田さんの事好きですよ」

 

 清々しい顔をして、従業員に案内され奥の部屋にいく竈門炭治郎を涙目で見送る村田。神崎アオイと腕を組む竈門炭治郎……戦友の店で不倫デートをするような男にまで成長を果たしている。

 

 読めなかった村田の目をもってしても。

 

 疲れて調理場に戻ると、クリスマスに助っ人に来てくれた……圧縮言語使い冨岡義勇。アンブレラ・コーポレーションの社員食堂に勤務する最中、料理研究にも手を抜かない。その為、休みの時にレストランの手伝いを兼ねて色々と学んでいた。

 

「どうした村田」

 

「あぁ、冨岡さん。実は、炭治郎が来てて……ちょっと、込み入った事情があるみたいでさ。申し訳ないけど炭治郎のところを冨岡さんにお願いできませんか。給仕とかが余計な事言うと困るから冨岡さんなら最適かなと」

 

「任せておけ」

 

 元柱の任せておけなどという頼もしいお言葉に村田は感激した。そして、村田は竈門炭治郎から渡された指示書と金を全て渡す。

 

………

……

 

 全てが順調に進みつつあった。

 

 神崎アオイと個室に移動してから、直ぐにお店の入り口に戻り竈門カナヲを待って別個室に入っていく。その様子は、従業員達から不思議に思われる。なぜ、別々の女性と同じ店にくるのだろうかと。

 

 だが、オーナーシェフより助っ人の冨岡義勇以外関わらないように注意をされていたため、素直に従う。実に教育が行き届いたスタッフ達だ。

 

 神崎アオイ及び竈門カナヲの両名は、ご機嫌であった。雰囲気の良いレストランでのクリスマスデート。個室には、国外からの観光客に受けが良いオーナーシェフの私物であった日本刀が飾ってある。

 

 しかし、そんなご機嫌も長くは続かない。度々離席する竈門炭治郎。何でここに居るのか謎の元水柱の冨岡義勇……アンブレラ・コーポレーションの食堂勤務をしており、お互い知らない者同士じゃないのに何を聞いても無言を貫く。元から無口だが、ここまで無口なのも気味悪がられる。

 

「いや~、ごめんごめんカナヲ。なんか、トイレが混んでて」

 

「さっきからトイレだの何だのって席を外してばっかり。そんなに私と一緒に居るのがつまらないんですか。最近は、帰りも遅いし。あんなに働いているのにボーナスだって……やっぱり、私から裏金さんや師範に言いますか」

 

 竈門炭治郎は、年収はそこら辺のサラリーマンより遙かに高い。中堅企業の本部長クラスは貰っており、確実に年収が労働者全体からみて上位5%に入っている。だというのに、お金が無いのは、二重生活で神崎アオイの所にもお金を入れているからだ。

 

 その為、毎月自作の給与明細も作っている。それに伴う各書類の偽造も怠らない徹底ぶりだ。

 

「ダメだよカナヲ。給料が少ないのは、俺の力が足りてないからだ。だから、俺を信じて待っていてくれ」

 

「わかりました」

 

 竈門カナヲは、胡蝶しのぶの秘書的なポジションだ。下手に給料の事を聞かれては大変よろしくない事態になる。それだけは、避けなければならなかった。実際は、十分以上な金を貰っている。だが、その使い道が問題だ。

 

 妻の手を握り、信じ込ませる。そして、頃合いを見計らい竈門炭治郎は、また隣の部屋へ移動する。

 

 そんなやり取りを見た冨岡義勇は、懐にある札束を見た。そんなに生活が苦しいのに、これだけの金を受け取っていいのだろうか。いいはずがあるまいと、冨岡義勇の良心が痛み始めた。そして、やらかしてしまう…要らぬ気遣いを!!

 

 俺は嫌われていない…そう、俺は気遣いができる奴なんだと。

 

「これを」

 

「なんですか、冨岡さん…お金?こんなの受け取れません」

 

 いくら知り合いだからと言って、これだけ纏まった金額を受け取るわけにはいかない。それに、賞与と書かれている給与袋だ。だが、その給与袋に夫の名前が書いている事に気がつく。

 

 不思議な事だ。既にボーナスの給与袋は、受け取っている。だというのに、アンブレラ・コーポレーションの給与袋。

 

「これ、炭治郎さんの名前が書いてあります。なんで、冨岡さんが持っているんですか?」

 

()(る途中で拾った。)

()(ょうどいいので、後で渡してくれ。)

()(うか、炭治郎を責めないでやって欲しい。)

()(でたいこの日に、根掘り葉掘り聞くのは野暮だからやめておけ。)

()(んしつにいた神崎アオイに頼んでも良かったが、君が適任だ。)

()(ろしく頼む。)

()(わさで聞いたが、第二子をご懐妊したそうだな。おめでとう)

 

「なるほどなるほど。いま、炭治郎さんは何処で何をしているんですか?冨岡さん、正直に教えてください」

 

()(わてなくても直ぐに戻ってくる。)

()(つだって、あいつはそうだっただろう。)

()(かんが長く思えるのは、炭治郎を愛しているからそう思えるだけだ。)

()(ジャナバーの炒め物でも食べて待っていてくれ。)

()(ても苦いので、飲み物があるといいだろう。)

()(ければ、詫びとして俺の奢りで酒を用意する。)

()(っ甲山)

()(ば田)

()(ろ霧島)

()(はり、女性は日本酒より洋酒の方が好みか。)

()(いているな、金柱がキープしていた30年物のロマネ・コンティが倉にあった。)

()(んかのアンブレラ・コーポレーションのトップだ。金柱の義娘ならば、出しても問題あるまい)

()(す中に飲みきると金柱に悪いから、飲みきらないようにしてくれ)

 

「へぇ、そうなんですか。はははは」

 

 壁に掛かっている日本刀を手にする竈門カナヲ。

 

 その様子をみて、一体なにごとかと思う冨岡義勇。だが、このお店…海外のお客様も来ることが多く、日本刀を手に取る人も多い。危険だから、制止するのだが元鬼滅隊の隊士で継子でもあった彼女なら何も問題が無いと思い見送る無能店員がそこにはいた。

 

「冨岡さん、一応聞いておきますが貴方もグルですか?」

 

「俺には関係ない」

 

 大事な所だけは、はっきりと正確に自分の言葉で伝える。

 

 その結果、日本刀を持った怒り心頭の女性を生み出した。隣の部屋から悲鳴が聞こえて冨岡義勇は駆け込んだが全ては遅かった。そこには、竈門カナヲの刀が、竈門炭治郎の脇腹に突き刺さっていた。

 

 その横に、神崎アオイが倒れており、彼女を庇って刺されたのが窺える。

 

「冨岡さん!! たすけ」

 

「生殺与奪の権を身内(・・)に握られるな!!」

 

 数年前は、他人にと言って、今は身内という冨岡義勇。じゃあ一体、誰になら握られていいんだよと竈門炭治郎は思った。その怒鳴り声で、竈門カナヲがぽかんとしている隙をついて、竈門炭治郎は神崎アオイを背負い窓から脱出した。

 

 だが、血痕が残っており、ホワイトクリスマスのこの時期…追うのは簡単であった。

 

「そうですか、炭治郎さん。逃げるんですね。なんで、なんでアオイが」

 

 竈門カナヲの深淵の瞳から涙が流れていた。愛する男がクリスマスに実は愛人と裏でこっそり会っていましたでは誰だってそうなる。

 

 だが、竈門炭治郎――その先は地獄だぞ。

  




やっぱり、竈門炭治郎には、冨岡さんが絡まないとね!!

次話…外伝:第一次竈門炭治郎の乱(3)~悲しみの向こうへ~

クリスマスまでに第一次すら終わらなくて済まぬ。


皆様、メリークリスマス。


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外伝:第一次竈門炭治郎の乱(3)~悲しみの向こうへ~(完)

 裏金銀治郎は、両親の元に娘――裏金カナエを預けてから妻とデートに向かう。裏金両親は、可愛い孫娘を歓迎しており、裏金実家におけるヒエラルキーが変わる。最下位に位置するのは、裏金銀治郎。身内最弱の男になってしまった。

 

 裏金銀治郎と裏金しのぶは、血なまぐさい事件が起きそうなレストランではなく一見様お断りの料亭でお祝いをした。その帰りには、腕を組んで繁華街でウインドウショッピングをして回る。

 

 可愛い服やアクセサリーなどを見て嬉しそうにしている裏金しのぶを見て、裏金銀治郎も満足する。愛する女性が幸せならば自分も幸せという男だ。

 

 そんな男でも、女性の下着売り場に連れて行かれるのだけは、嬉しさより止めて欲しいと思う気持ちが上回る。周りからのヒソヒソと言われる小声が心に突き刺さる。しまいには、店員から他のお客様のご迷惑になるので男性の方は…などと注意される。試着室からは『銀治郎さんは、いけない子ですね。こんな場所まで付いてきて。後で見せてあげますからね』なんて、連れてきた張本人が煽ってくる始末……店員にも聞こえてドン引きされている事を彼女は知らなかった。

 

「楽しかったですね。それに、こんなに一杯買って貰っちゃって~」

 

「構いませんよ、私はしのぶさんが買い物をしているのを見ていることも好きですからね。そろそろ、カナエを迎えに行きましょう。このお土産も渡さないといけませんから」

 

 手を繋いで繁華街を歩く男女。

 

 そんな幸せの時間を邪魔する騒動が近くでは起こっていた。ホワイトクリスマスの日が騒がしいのは当然だが、別ベクトルの騒がしさだ。鬼である二人が血の臭いに気がつく。

 

「事故でもあったんでしょうか」

 

「路面も凍結しているでしょうからね。案外、痴情のもつれで刃傷沙汰かもしれませんよ。クリスマスの日にご愁傷様です」

 

 事故や事件など毎日どこかで起きている。そんな事にいちいち首を突っ込んでいては身体がもたない。近場で起きた事件に興味を持つ輩は、他人の不幸をみて自分の幸せを噛みしめたいといった連中が大半だ。

 

「すげーー美人が日本刀を持って浮気男を追い詰めてたぞ。その女の服なんて、もう男の返り血で真っ赤だったな」

 

「あんな美人がいるのに、愛人らしき女性を背負って逃げていたな。どっちも、美人でけしからんかったわ。それに、俺は悪くないとか叫んでいるとかね、浮気しておいて悪く無いはず無いだろうに」

 

「本当かよ!俺も見に行きたかったわ」

 

 と、通行人達が裏金夫妻の横を歩きながら話していた。

 

 この時、裏金しのぶの脳に電流走る。日本刀、痴情のもつれ、クリスマス……それに加えて、負傷しても大人の女性を担いで逃げれるような根性のある男。

 

「ねぇ、銀治郎さん。確か、カナヲのお願いでレストランを予約していましたよね?店名って、何でしたっけ?」

 

「Nice boat」

 

「じゃあ、銀治郎さんにそのお店の予約をお願いしたもう一人って誰ですか?」

 

「Nice boat…じゃなかった、神崎アオイです」

 

 その言葉を聞いた裏金しのぶは、頭を抱えた。なんで、その二人を同じ店に集めたのかと。だが、裏金銀治郎としては頼まれたからやっただけだ。まさか、両方が竈門炭治郎を誘うなど想定外だ。仮にそうだったとしても、竈門炭治郎が常識的に考えて妻の方を優先すると思っていた。それが夫という者だからだ。

 

 裏金しのぶは、夫の手を取り、騒ぎの方向へと進んだ。どうか、早まったことはしないで欲しいと。

 

 

◇◇◇

 

 逃げられない竈門炭治郎。

 

 出血量もさることながら、寒さで手足がマトモに動かない。だが、竈門カナヲは何も問題無く動ける。一歩一歩距離を縮めている。そして、ずぶりと竈門炭治郎の足に日本刀を突き刺した

 

「あ゛あああぁぁぁぁぁ」

 

「大丈夫です、炭治郎さん。この程度では死にません。入院したら、ずーーと付き添って看病してあげます。それにこの足じゃあ、もうアオイには会いに行けませんよね。でも、アオイが会いに来るかも知れません。だったら、この手も動かないようにしておかないと」

 

 足に刺した日本刀を無造作に引き抜き、今度は竈門炭治郎の手を貫く。男―竈門炭治郎は、今度は悲鳴すら上げずに耐えた。だが、背負っていた神崎アオイが地面に倒れた。その衝撃で目が覚める。

 

 実に最悪な状況だ。

 

「痛った!? ここは、外?カナヲに炭治郎さん!?なんで、カナヲが炭治郎さんを刺しているんですか!炭治郎さん、今手当を」

 

 全ての元凶でもあるシーフこと神崎アオイ。状況を理解した上で、竈門炭治郎の手当てを始めた。私は、貴方の事をいつも大事にしています的な雰囲気が、竈門カナヲの逆鱗に触れる。

 

「アオイのそういう所が汚くて嫌い。私の方が先に好きになったのに横から奪っていく。泥棒猫……死んじゃえ」

 

 竈門カナヲの本気…花の呼吸 終ノ型 彼岸朱眼。常人には目視できない程の斬撃が、神崎アオイの頸動脈を切った。切られた本人にも認識させない程の神業。

 

 だが、常人で無い者達からは、それがはっきりと見えていた。

 

「おやおやおやおやおや、何の騒ぎかと思ったら君達でしたか。腕は衰えてないようですね、竈門カナヲさん」

 

「銀治郎さん!! ここでは、人目があります」

 

 次の瞬間、神崎アオイの首筋から血が噴き出した。

 

 パチン

 

 同時に裏金銀治郎が、無限城へと関係者達を飛ばす。天下のアンブレラ・コーポレーショントップの義理の娘が殺傷事件を起こしては困る。会社には支えるべき社員が大勢いるのだから、やるなら見えないところでして欲しいと裏金銀治郎は思っていた。

 

「しのぶさんは、竈門カナヲさんを落ち着かせてください。私は、こっちの面倒を見ておきます。まったく、人前で血鬼術を使わせないでください。この時代くらいまでですよ誤魔化せるのは」

 

「カナヲ、お話があります。こっちにきなさい」

 

「師範。………わかりました」

 

 別室に連れて行かれる竈門カナヲ。女性の事は女性に任せるのが一番だ。それも母親的な存在ならば尚更だ。

 

「あぁ、神よ」

 

「世話が焼けます。義理の息子に死なれては、竈門カナヲさんが悲しむでしょう。口をあけなさい。私の血を飲んで鬼となり傷を癒やしておくといい」

 

 裏金銀治郎が拳を強く握り、血を竈門炭治郎に飲ませた。

 

 鬼の始祖の血は、直ぐに竈門炭治郎の肉体を鬼へと変化させた。そして、重傷であった傷が回復する。更には失った血液まで戻っていた。怪我する前以上に元気を取り戻す事に成功する。

 

 死にかけている神崎アオイの首筋を必死に押さえ続ける竈門炭治郎は、これで助かったと思った。竈門カナヲは、裏金しのぶが取りなしてくれる。残っていた問題がみるみる解決へと向かっていたのだ。誰だってそう思う。

 

「神!!アオイにも血をお分けください」

 

「私にとって、神崎アオイさんは他人だ。しのぶさんの戸籍上の娘である竈門カナヲさんの夫だからこそ、竈門炭治郎君は助ける。私としても、義理の娘が悲しむのは心苦しいのでね。だから、その悲しむ要素である彼女を私が何故救わねばならない」

 

「それは……」

 

 裏金銀治郎としては、神崎アオイを救う理由が全く無い。それどころか、義理の娘が悲しむ要素を取り払う方向に動く男だ。

 

「このような事態を避ける為、私としても竈門炭治郎君には色々と配慮したはずだ。それに、一時は両親の頼みで彼女を匿ったことすらあった。だというのに、私はいつまで君達夫婦の面倒を見なければいけない。自分のケツは自分で拭けないのかね。君の下半身が緩いから誘われても断れずズルズルと肉体関係をもって今に至っているのではないのかね」

 

「……」

 

「無惨との戦いの最中に発覚した君達の関係が、今まで精算できずに続いていた事に驚く。一体何年の時間があったと思っている。その間に精算が出来なかったのは完全に竈門炭治郎君の不手際。君の同僚である我妻善逸君の様になれとはいわないが、複数の女性と関係を持つなら隠すな」

 

 困った事があれば大人が助けてくれる…そんな生ぬるい思考が許されるのは子供までだ。社会人にもなり、会社で働く立派な成人にもなった男が、いつまでも下事情を他人任せにするなど言語道断。

 

「何か言いたいことはあるかね?」

 

「俺は、まだお役に立てます。アオイにもご慈悲を頂けるのならば必ずお役に」

 

 首の頸動脈が切断され、今にも死にそうな神崎アオイは長くは持たない。神崎アオイは隊士として挫折し後方支援に回った者だ。呼吸法を極めた炭治郎とは事なり、止血の呼吸など使えない。

 

「具体的にどれほどの慈悲を?竈門炭治郎君はどのように役に立てる?今の竈門炭治郎君の能力・財力などでどれ程の事ができる?」

 

「血を…!!神の血を分けて頂ければ、私は必ず"神が望む血鬼術"に目覚めて見せます。そして、神をより高みへと導く礎となってみせます」

 

 正しい回答であった。だが、聞き覚えのあるフレーズでの回答は、無惨配下にいた下弦の弐を彷彿とさせる。

 

 裏金銀治郎が持っておらず、竈門炭治郎が提供できるものは多くない。竈門炭治郎には、確信があった。彼の妹である竈門禰豆子は、血鬼術に目覚めるだけで無く太陽を克服した。ならば、同じ血縁である自分も最低限血鬼術に目覚めることは可能だと。生まれや育ちで目覚める能力は異なると言われているが、そんな些細な事は彼には関係ない。

 

 なぜなら、目覚めなければならない。

 

「なかなか、良い回答です竈門炭治郎君。ですが、彼女は血を飲む力も無い。だから、君が今すぐ目覚めるんです。彼女の"怪我や病すら引き受ける治癒の血鬼術"に。その為に更に血をあげましょう。あいにく、私はその手の血鬼術は所有していません。彼女の生死は君次第ですよ。自分で言ったのですから、やり遂げてください。それが大人の責任です」

 

「頑張れ炭治郎頑張れ!!俺は今までよくやってきた!!俺はできる奴だ!!そして今日も!!これからも!!鬼になっても!!俺が血鬼術に目覚めない事は絶対にない!!」

 

「そうだ、目覚めなければ神崎アオイが死ぬぞ。私の観察眼だと、持って1分程度だ。血を流しすぎた」

 

 裏金銀治郎には、確信があった。

 

 主人公というのは、往々にして都合良く出来ている。欲しいと思ったときに欲しいモノが手に入る。だからこそ、裏金銀治郎は、彼に治癒系の血鬼術を要求した。

 

 怪我の治療に鬼にして戻すという方法は確かに有効だ。だが、鬼になった瞬間何かの間違いで超越者みたいな者が産まれても困る。今後に備える意味も含めて、治癒系の血鬼術は必要だと考えている裏金銀治郎。

 

 仮に、神崎アオイが死んだとしても裏金銀治郎は何ら困らない。裏金銀治郎の守るべき者に彼女は入っていない。

 

「うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつれ、うつってよ!今うつってくれなきゃ、今うつらなきゃ、アオイが死んじゃうんだ。もうそんなのやなんだよ!だから、うつってよ!」

 

 竈門炭治郎の必死の願い。彼女を救いたいと思う心からの願いが、必然の奇跡を生む。この世で彼以外不可能な行為。この土壇場で彼は引き当てた…いいや生み出したといって過言でない。

 

 神崎アオイの怪我が塞がっていく。傷は治り、元通りになった。

 

 パチパチパチと、拍手して新たな血鬼術の誕生を祝う裏金銀治郎。奇跡を目の当たりにした彼としては、竈門炭治郎の価値を一段階上げた。

 

「素晴らしい。まさか、本当に望んだ血鬼術に目覚めるとは。竈門炭治郎君、神崎アオイさんは、貧血状態だ。安静にしていれば回復する」

 

「よかったーー。これで全部……」

 

 解決などしていない。

 

 生きている事を知れば、また竈門カナヲに殺されるかもしれない。竈門炭治郎は、この後に妻である竈門カナヲを死に物狂いで説得して、愛人関係を納得させなければならない使命が残っている。

 

 身体を張って説得以外道はない。

 

「では、約束通りその血鬼術は回収させてもらいます。肉体も人間に戻します。鬼なんて生命体は、私達だけで十分だ」

 

 竈門炭治郎から回収した血鬼術が遠い未来で、親友であるエロイ男を救う事になる。

 

 そして、裏金しのぶが竈門カナヲを連れて戻ってきた。目は真っ赤に腫れており、余程泣いた事が窺える。刀で切られるより、よっぽど心に来る攻撃だ。事実、竈門炭治郎は鬼であるにもかかわらず、心の痛みで倒れそうになる。

 

「なんで、炭治郎君が鬼になっているんですか。まぁいいですけど。とりあえず、カナヲを分からせて(・・・・・)あげてくださいね。できなければ、諦めて死んでください」

 

「……え!? 待ってください!!せめて、カナヲを説得してくれたんじゃないんですか」

 

 浮気を容認させる説得を竈門炭治郎は、義理の母にあたる裏金しのぶにやらそうとしていた。それは、期待する方が間違っている。何処の世の中に、浮気を容認させる説得を義理の母にやらす男がいる。

 

「馬鹿ですか。炭治郎君……私、怒っているんですよ。カナヲを悲しませている事、私達のデートを邪魔した事。いい加減大人になりなさい」

 

「そう言うことなら、我々は帰るとしよう。子供のことならば心配するな。コチラで、人を回しておく。炭治郎君、勝てばいいんだよ。全てを丸く収める為に、妻に認めさせればいい、一人で受けきれないと。まさか、できないんですか?」

 

 夫の性欲を二人で受けなければならない体勢を作れば自ずと活路は見えてくる。流石は淫柱様だ。下事情を下で解決させるなど、常人の考えではない。

 

「出来らぁ!!」

 

 幸せ家族計画を実現するためにも、竈門炭治郎は一肌脱ぐ。

 

………

……

 

 年明けの始業日。

 

 げっそりと痩せこけた竈門炭治郎が出社する。まるで、末期の竈門炭治郎の父親と瓜二つだ。

 

 その様子に彼の同士である我妻善逸が声を掛ける。

 

「生きてたんだな炭治郎。良かったじゃん、これで子供とも一緒に暮らせるな」

 

「俺は、ヤればできる男だからな。善逸、下世話な事で悪いんだが嫁を満足させるテクニックを教えてくれないか。このままじゃ、俺本当に死ぬ」

 

「俺達親友だろう。その位お安いご用だ…だって、次も控えているんだしな

 

「え?今なんて言った?最後の方が聞き取れなかったんだけど」

 

 クリスマスの夜から年末年始を無限城で過ごし、嫁を分からす事に成功した竈門炭治郎。透き通る世界まで習得し、生き残った。これが彼の才能だ。

 

 だが、彼の苦難はまだ続く。

 

 頑張れ炭治郎、負けるな炭治郎、モゲロ炭治郎。

 




エロは、世界だけで無く家庭も救う。
ふぅ、第一次が終わった。

ここでいったん休憩です!
年末年始のお休みタイム~。

読者の皆様良いお年を!!
本作品が年末の良い時間つぶしになっていたのでしたら幸いです。


PS:
だ、第二次炭治郎の話はそろそろ飽きちゃいますよね?_?
第二次は、ねずことの関係が表沙汰に。
妹「お兄ちゃん、一緒に死んでくれる」

全部の乱の外伝やると本作品の主人公より外伝多くなるからな…
第二次以降はちょっと検討中。
※実は、第二次以降の原稿が脳内に浮かんでないってのもありますが。



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外伝:第二次竈門炭治郎の乱(1)~責任取って認知してください~

これから遊郭編を纏めて視聴予定ですが、第二次を投稿してみました。

またまた、完結後の外伝投稿ですが…許してクレメンス。


 大正の世、シングルマザーという文化は浸透していない。女性は結婚して専業主婦になり、子育てに専念するという古き文化だ。そのような文化に反逆するかのように、アンブレラ・コーポレーションでは、女性の活躍の場が目覚ましい。

 

 その中でも、幹部候補である竈門禰豆子。最高経営責任者である裏金銀治郎に特別に眼を掛けられた女性であり、語学堪能で主に海外案件を担当する程のキャリアウーマンだ。若く、仕事が出来て、美しい女性という全てが揃った存在である為、例え子持ちであったとしても社内の人気は極めて高かった。

 

 だが、彼女の子供の父親が誰なのか、殆ど知られていない。竈門禰豆子の第一子にして長男である竈門善治郎。察しの良い男ならば、この名前だけで理解出来る。そして、彼女の口から決して父親の名前が出ない事も相まって様々な憶測が飛び交った。

 

 当然、その事は竈門炭治郎の耳にも届く。日本屈指の大企業であるアンブレラ・コーポレーションに務める女性であってもシングルマザーへの風当たりは強い。世間体が悪いのは、神崎アヲイと愛人関係を構築していた彼にはよく分かっていた。

 

 そんな妹の状況を嘆く兄――竈門炭治郎は、遂に決心する。そして、事が事だけに同じ神の信徒であり、大親友であり、大先輩でもある我妻善逸に協力を仰ぐ。その会議場所は、アンブレラ・コーポレーションの食堂。

 

「善逸、神は言った。"複数の女性と関係を持つなら隠すな"と……だから、俺は決めた」

 

「そっか。ようやく決心したんだな。……ちなみに、どの件?」

 

 我妻善逸が知る限り、竈門炭治郎の女性関係はアンブレラ・コーポレーションでトップだ。第一婦人の竈門カナヲ、第二婦人の神崎アオイ。そして、竈門禰豆子。他にも、事実関係は把握できていないが、アンブレラ・コーポレーションの託児所で働く寺内きよ、中原すみ、高田なほの体内で胎児の鼓動を確認していた。逆算すると、繁忙期で竈門炭治郎が会社に泊まった時期と一致する。その際、なぜか、託児所を仮眠室代わりにしていた。

 

 そんな叩けば埃が出るような女性関係は、末恐ろしいとすら我妻善逸は感じていた。早く精算しないと死ぬぞと本気で心配している。

 

「えっ!? どの件って、禰豆子の事に決まっているだろう。(神の女性関係について、俺が知らない事を我妻善逸は知っているのか。だが、神の家庭環境を見る限り女性に対して紳士的なのは分かっている。だから、禰豆子の事もしっかりして欲しいんだ。俺達は神の信徒だろう。だから、神が過ちを犯そうとしたら正しい方向に向かって貰うように進言するのも勤めだと思うんだよ。だが、俺一人の言葉だと神に通じるか不安がある。)だから、協力してくれ」

 

「炭治郎!良く言った!俺は、お前を信じていたぞ。禰豆子ちゃんの幸せの為ならば、俺は何でも協力するぞ」

 

 どこぞの水柱に習ったかのような圧縮言語。冨岡義勇の指導は、しっかりと受け継がれていた。

 

「うん?今、何でもって言った?」

 

「言った。男に二言はない」

 

 竈門炭治郎の言葉に、我妻善逸は感銘を受けた。だからこそ、協力は惜しまない考えだ。竈門炭治郎と竈門禰豆子は、血の繋がった実の兄妹である。それ故に、竈門善治郎の父親の事が露見すれば、お世辞にも世間体は宜しくない。両者とも後ろ指を差される可能性が高い。それでも、第一婦人や第二婦人とも折り合いをつけつつ、妹とその子供の幸せすら守ろうとする。

 

 これに協力しないなどあり得ない。

 

 そして、善は急げと言うように竈門炭治郎と我妻善逸は行動を開始した。

 

 我妻善逸は、周りを固めるため宇髄天元や時透無一郎、煉獄夫妻(杏寿郎及び蜜璃)、鱗滝左近次にも話をつけに行った。同じ釜の飯を食べて鬼と闘った戦友であるが故、竈門炭治郎と竈門禰豆子の関係が表沙汰になったとしても変わらず接してくれる。だが、それでも通すべき筋はある。親友のため、かつての思い人の幸せの為、無償で働くいい男だった。

 

 竈門炭治郎は、竈門禰豆子の元へ走った。今まで、気が付いてやれなくてごめん。そして、これからは俺が何とかすると。それを伝えに向かった。

 

………

……

 

 裏金銀治郎は、社長室で裏金しのぶと裏金カナエと一緒に過ごしていた。勿論、遊んでいるわけでは無い。仕事をしている。広い社長室だからこそ、子供を一人くらい連れてきても問題にはならない。

 

 それに、裏金カナエのご機嫌取りでもあった。両親に預けたり、託児所に預けると露骨に機嫌が悪くなる。母親より父親に抱かれる事が好きなのだろうか、裏金銀治郎が背負ったり抱っこしていると非常に機嫌が良くなる。それこそ、裏金しのぶが焼き餅を焼くほどに。

 

「ねぇ、銀治郎さん。そろそろ、代わってください。私もカナエを抱っこしたいんですけど」

 

「カナエ、ママの方が遊んでくれますよ」

 

 なぜか、悲しそうな顔をする裏金カナエ。そして、まだまだ、この姿で甘え続けてやるぞという凄まじい気迫がなぜかソコにはあった。だが、その様子には気がつく事はない。裏金銀治郎も裏金しのぶも身内には激甘であり、基本的に全てを許容してしまうほど寛容であった。

 

 そんな家族の時間に割り込んでくる集団がある。

 

「お邪魔するぜ、裏金社長…CEOだっけな?まぁ、どうでもいいか」

 

「おや、宇髄天元さんに皆様まで。もしかして、トラブルでも発生しましたか。止めてくださいよ。この間みたいに無限城内で材料()達が暴れるなんて困ります。管理基準の見直しなど大変だったんですから」

 

 嘗ての戦友にして、現社員達の元柱達。竈門炭治郎、竈門禰豆子。そして、我妻善逸。ここまで揃えば、問題が発生したと勘違いしても無理はない。彼等の力だけでは、情報封鎖が出来ないから手伝ってくれと言われた方がまだ安心できるという物だ。

 

 そして、特記戦力の集まりみたいな集団から神の第一信徒と自称する我妻善逸が説明を始める。

 

「神!実は、炭治郎が遂に決心をしたんです。そして、その宣言をする為、この場をお借りさせてください。神の家族の時間に誠に申し訳ありません。ですが、これも神の言葉を受けた友の行動なのです。その結果、一人の女性と子供が幸せになれるのならばと断腸の思いでここに参りました」

 

「そうでしたか。これで、ようやくお二人のご母堂様も安心出来るでしょう」

 

 裏金銀治郎の夢には、まだ親友である産屋敷耀哉が遊びに来る。新刊のお焚き上げ依頼や子供の様子を確認しに来ている。そして、その序でに毎度毎度お世話になっていますとご迷惑をおかけして申し訳ありませんと涙の土下座をしてくる竈門母。

 

 二人の行く末を見届けなければ、死んでも死にきれないとの事で成仏できずにいるとか。その一番の原因が、竈門炭治郎にある。第一次竈門炭治郎の乱で血のクリスマス事件で怪我の治療で鬼になった際に、竈門母が鬼となった息子を通じてその場を覗いていた。

 

 母の思いを知らず、竈門炭治郎が竈門禰豆子の手を引いて一歩前に出た。竈門禰豆子の背中には、竈門善治郎がいる。

 

「神。俺は、神に本当にお世話になっております。神の言葉は全てに優先します。ですが、神が誤った道に進みそうな場合には、進言するのも勤めだと思っております」

 

「うん?まぁ、そうですね。Yesマンばかりでは、仕事も社会も回らない事もあります。私一人では固定された視点を崩せない場合も多くあるでしょう。だから、君達のような若い者が必要だと思っております」

 

 何やら、不穏な空気を感じるこの場に集まった者達。

 

 だが、竈門炭治郎だけは大真面目だ。彼が持つ、嗅覚は真実すら見分ける。その超人的な嗅覚が、竈門禰豆子や竈門善治郎から裏金銀治郎の残り香があるのを嗅ぎ取っていた。だが、それもそのはずだ。元々、竈門善治郎出産に際し、表沙汰に出来ないため年単位で無限城で暮らしており、生活道具まで全て揃えて与えたのが裏金銀治郎だ。

 

 CEOとして、託児所などにも顔を出して子供の面倒がみられているかなどもしっかりと確認している。その結果、預けられた子供達にお菓子を配っており、匂いが残るのも当然だ。

 

 常識的に考えれば、竈門炭治郎が何故、自分の匂いに気が付かないと思うかも知れないが、これは仕方が無い。自分自身の匂いは、誰であっても感じる事は難しい。口臭などが良い例と言える。

 

「神。竈門禰豆子の子は、善治郎といいます。社内の風の噂で聞きました。善治郎の父親について。だから、俺、決心したんです!」

 

「待って、お兄ちゃん。それ以上は」

 

 今までは、遂に認知してくれるんだと思い嬉しそうな顔をしていた竈門禰豆子。だが、今の彼女の顔は真っ青になっている。他の参列者も同様に、驚きを隠せない顔になっていた。

 

「責任取って認知してください。神は以前におっしゃいました。"複数の女性と関係を持つなら隠すな"と。調べましたが、竈門禰豆子に渡航記録はありませんでした。出産の前後の時期は、日本に居たはずです。居た場所って、無限城ですよね。冨岡さんが、食事を運んでいたと証言しました。子供の父親については、言葉を濁してお前自身がよく知っている人物だと」

 

「なるほど、状況証拠から考えれば可能性はありますね。そうですか……非常に残念ですよ。我妻善逸君、君が付いていながらこのような事態になるとはね。失望しましたよ」

 

「なかなか、面白い事になっていますね、銀治郎さん。つまり、ここに集まった皆さんは、銀治郎さんが浮気して、子供をこしらえたから認知しろと言いたいんですね。言っておきますが、私は銀治郎さんの事を信じていますから、絶対に認めませんからね」

 

 周囲の反応がイマイチなのが理解出来ない竈門炭治郎。これが第二次竈門炭治郎の乱の始まりであった。

 




ゆっくりとですが、第二次竈門炭治郎の乱を始めたいと思います。

次回:「お兄ちゃん、一緒に死んでくれる」

当然、メッタ刺しになる予定です。



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外伝:第二次竈門炭治郎の乱(2)~お兄ちゃん、一緒に死んでくれる~

なかなか、執筆が進まず…一週間以上経ってしまい申し訳ありません。


 裏金銀治郎の『失望した』という言葉は、本気の言葉だった。

 

 竈門善治郎の父親については、実の父親を除きこの場の全員が誰の子か理解している。それなのに、この状況になってしまっている。身内に甘い裏金銀治郎の大事な時間に割り込んできて、スタイリッシュな托卵を決められるとは想像の斜め上だった。

 

 ここまでの過程で誰一人、竈門炭治郎の勘違いに気がつく事ができなかった事に大きな問題があるとすら考えていた。それに加え、今まで様々な面で世話をしていた部下に、「女性関係で不貞を働いている男」だと思われていたのは心外としか言い様がない。

 

 裏金しのぶは内心面白がっており、今後の展開をワクワクして見ていた。これで夜のプレイの幅が広がり、今まで以上に搾り取られる未来が裏金銀治郎に待っている。

 

 そんな周囲の異変に匂いで気が付く竈門炭治郎。

 

「え、どうしたんですか? 子供には父親が必要だって、みんな納得して応援してくれましたよね。そうだろう、善逸。一緒に、神に進言する手伝いをしてくれただろう。……善逸?顔が真っ青だぞ、今にも自殺しそうな程だ」

 

「炭治郎。あの世で待ってるからな」

 

 我妻善逸の怒りの矛先は、竈門炭治郎ではなかった。竈門炭治郎の事を理解していたつもりだった自分自身だ。育ての親が助かったのも神のおかげ、妻達と出会えたのも神のおかげ、今の生活があるのも神のおかげ……人生で生きる上で必要な大半を得る機会を与えてくれた恩人に対して、最低の裏切りに荷担してしまった。

 

 雷の呼吸を使った、神速の切腹術。集まった柱達の反応速度を上回る。その刃が、我妻善逸の腹を割く寸前で裏金しのぶによって止められる。刀身を指で掴む神業。日本刀をポッキーのように折ることが出来る彼女の握力で掴まれてしまったら、どうにかできる人類は存在しない。

 

「こんな事で未来のフィードバックを受けたくないんですけどね。善逸君、父親が簡単に死んではダメですよ。子供の花嫁姿を観て、順風満帆の人生を送った末に老衰してください。私から銀治郎さんに言っておきますから」

 

 裏金しのぶ……この件では若干の引け目を感じている。竈門禰豆子が睡眠不足と言う事で無色無臭の効果抜群睡眠薬を処方したのが彼女である。鬼滅隊では、『恋は薬をキメてでも成就させる』というパワーワードを生み出した責任が裏金しのぶにはあった。

 

 裏金しのぶとて悪気があった訳ではない。まさか、睡眠○プレイを思いつく同士が居たとしても夫婦間以外で使われるとは想定外だった。その為、裏金しのぶ印の睡眠薬は、滋養強壮が抜群である事は当たり前だ。

 

 そのような彼女の心境を何となく察する裏金銀治郎。

 

「しのぶさんが、そう言うならば名誉挽回の機会をあげますよ、我妻善逸君。君には、竈門禰豆子さんの結婚式を計画してもらいます。費用は私が全額持ちますので、期待(・・)しています。それと式には、私が力を使ってご母堂様もご招待します。当日までは竈門カナヲさんや神崎アオイさん達には内密ですよ。みなさんもそれでいいですよね?」

 

「(言っておくが、俺は炭治郎に善治郎の父親について教えていない。だから、契約を破ったわけではないからな。俺も、金柱には世話になっているから裏切るような事はしない。いすず嬢を紹介してもらった恩もある。俺のような無口な男であっても受け入れてくれる女性との縁を結んでくれた恩は決して忘れない。当然のことだが、俺は炭治郎が勘違いしていた事については、今初めて知った。勘違いしないで欲しい……つまり、俺が言いたいことは、)俺には関係無い」

 

「はぁ、金柱さぁ~。ちゃんと、社員の手綱を握ってよね」

 

「全くだぜ、裏金さん。俺等は解散するぜ、後は本人達だけいればいいだろう。解散解散。昼飯時間にばからしいわ」

 

 水柱、霞柱、音柱からの今回の一件に対する回答だった。集まった全員が、呆れて社長室を退室していき残ったのが、竈門炭治郎と竈門禰豆子。当然の事だが、仲間を使って竈門禰豆子の件を認知させようと動いていた竈門炭治郎にとっては誤算だった。

 

 竈門禰豆子に至っては、涙を流して呼吸すら乱れている程に気が動転している。だが、誰も助けはしない。

 

「冨岡義勇さんは、相変わらず行間がありますよね。まぁ、それが個性でしょうから仕方がありません。で、本題に戻る前に幾つか質問をさせてください、鬼舞辻無惨に殺されてしまった竈門一家のお墓を建てて供養したのは、誰でしたっけ?」

 

「神です」

 

 胡蝶家と同じく、竈門家の墓代から供養まで全て、私費で賄っていた裏金銀治郎。全ては、恩を売るため、打算的な行動だ。だが、相手からの心象は計り知れない。

 

「竈門炭治郎君。鬼滅隊時代、鬼である竈門禰豆子の立場を守る為、尽力したのは誰でしたっけ?」

 

「神です」

 

 鬼を殺すという組織で、竈門禰豆子という鬼を匿うのは組織崩壊の切っ掛けにすらなる。だが、元・柱であり金庫番であった裏金銀治郎が守る立場を表明すれば、柱未満の連中は大体大人しくなる。

 

「鬼を人間に戻す薬を作ったの誰でしたっけ?」

 

「神の奥方、裏金しのぶ様です」

 

「鬼舞辻無惨討伐後、行き場を失わないように生活基盤を提供したのは誰でしたっけ?」

 

「神です」

 

「神崎アオイさんが妊娠中、身の安全を確保してあげたのは誰でしたっけ?」

 

「神です」

 

「あのクリスマスの夜、竈門炭治郎君と神崎アオイさんの両名の命を救ったのは誰でしたっけ?」

 

「か、神です。その節はお世話になりました」

 

 挙げれば切りがないほど、竈門炭治郎は裏金銀治郎から恩を売られていた。だが、鬼滅隊時代の恩は、全て取引で有る。言うならば、win-winの関係であり対等な関係だ。だが、裏金銀治郎を神と崇めている竈門炭治郎にとっては、その当時は対等な関係でしたよね?など口が裂けてもいえなかった。

 

「つまりですね、私が言いたい事は。私は、君達兄妹の身の安全を守る為、将来を守る為、それなりに尽力したと自負しています。それに、私はしのぶさん一筋ですよ。過去も未来も、そうで有り続けたい 。いいえ、そうでいる自信があります。竈門炭治郎君は、私が本当に善治郎君の父親だと思っているのですか?」

 

「う、嘘を言っていない。そんな、じゃあ、善逸なのか!?」

 

 大事な時に役に立たない竈門炭治郎の嗅覚。裏金銀治郎の言葉が真実だとかぎ分けて、次なるターゲットが我妻善逸へと向かった。だが、愛妻家で妻達を不公平感無く愛する男である事は周知の事実である我妻善逸。

 

 だが、流石にここに来て竈門禰豆子に限界が来た。

 

 恩人である裏金銀治郎、善治郎の事を知っていても父親になってもいいと言ってくれた我妻善逸。両名に多大な迷惑を掛けてしまい、責任を取るしか無かった。

 

「お兄ちゃん、もういいの……」

 

「いい訳ないだろう!禰豆子や善治郎の事なんだぞ。俺はお前が辛い顔をするのを見ていられないんだ」

 

面白くなってきたわ

 

 裏金しのぶ。彼女も女性であるため、自分と関係が無い他人の痴情のもつれというのは大好物であった。だが、彼女も大事な事を忘れている。竈門炭治郎は、義理の息子のポジションであり、竈門カナヲはその気になれば誰にも感知されずに人間一人を殺して埋めるくらい簡単にできる柱級の力があることを。

 

 そんな、ワクワク感満載で竈門兄妹の行く末を見守る裏金しのぶと裏金カナエ。この母にして娘あり。

 

 そして、竈門禰豆子が意を決して、竈門炭治郎との距離を詰める。

 

「ねぇ、お兄ちゃんは何も分かってない。私達が今ここに何不自由なく暮らしていられるのは裏金さん達のおかげなの。それに、お兄ちゃんなら分かるでしょう。万が一、善治郎が裏金さんの子供なら、見て見ない振りなんてするはず無いでしょう。善逸さんだって、そうだよ」

 

「なら他に誰が………いやいやいやいやいやいや、無いって無い。絶対にないって、身に覚えない。ないないない、絶対にない。………念のための確認だが、禰豆子。善治郎って父親から名前を貰っている認識であっているよな?」

 

 今まで見て見ぬ振りを続けてきた男―竈門炭治郎。今にしてようやく気が付いてしまう。善治郎の『治郎』の部分を持つもう一人の男の影を。その男の影は、ありえないという事から無意識で排除していた。

 

 だが、現実は非常であった。

 

 更には、神に認知しろだとか、親友を無自覚に貶めた罪まで今になって理解する。竈門炭治郎の目の前は真っ暗になった。どのような許しを請えば良いのかすら分からない。

 

「おやおや、お顔が真っ青ですよ。竈門炭治郎君、君が私をどういった眼で見ていたか分かりました。大変残念に思っております」

 

「か、神……こ、これはですね」

 

 右往左往する竈門炭治郎。昔有った、澄んだ心を持ち誠実だった男が今ではこれだ。昔から言われている事がある。十で神童十五で才子二十過ぎればただの人……つまり、彼もただの人へと成り代わったと言う事だ。

 

「お兄ちゃん!!もう手遅れだよ。このままじゃ、私きっとカナヲさんに殺されちゃう。それに、裏金さんにも見捨てられたら、もう生きていけないよ。だから……お兄ちゃん、一緒に死んでくれる?」

 

 竈門禰豆子も当然、第一次竈門炭治郎の乱については知っている。この大正の世であっても、恋愛は戦争(ガチ)を決め込む戦乙女の竈門カナヲ。戸籍上の母親である裏金しのぶの教育方針がダメであった証拠でもある。

 

 実の妹が意を決して「一緒に死んでくれる?」と宣言する最中、竈門炭治郎はチラチラと裏金銀治郎に視線を送る。だが、都合の良いときだけ神を崇めても救う神はいない。一度失った信頼を取り戻すに彼はまだ至っていないからだ。

 

 一向に返事を返さない竈門炭治郎に対して痺れを切らした竈門禰豆子が隠し持っていた小刀で無理心中を図る。小刀が竈門炭治郎の腹部に刺さり、腎臓を破損させた。

 

「ね…ずこ。ごめんな、駄目なお兄ちゃんで。そこまで禰豆子を追い詰めていたなんて、ごめんよ。一緒に死のう」

 

「ありがとう、お兄ちゃん。後で、私も追いかけるから」

 

 アンブレラ・コーポレーションの社長室での無理心中。裏金銀治郎だけでなく、裏金しのぶや裏金カナエが見守る最中での血なまぐさい事件が今起こっている。

 

 この時、裏金銀治郎は、無理心中するのは構わないが他でやってくれと本気で思っている。竈門炭治郎の腹部に三つ、四つと刺し傷が出来た頃にやっと彼は倒れた。無駄に鍛えられた肉体は伊達ではない。

 

 そして、竈門禰豆子が自らの首に小刀を当てたタイミングで裏金銀治郎が凶器を没収する。無論、善意からの行動ではない。

 

「世話が焼けますね君達も。我妻善逸君の名誉挽回の機会を失わせるわけにもいきません。それに、お二方のご母堂様からもよろしくと頼まれた事もありますからね……いい加減、成仏してくれないと安眠できません。それに、今回の一件はしのぶさんが処方した薬が原因でもあるみたいですからね。ですから、助け船を出してあげます」

 

 裏金銀治郎は、社長室に備え付けられたコップを二つ用意した。そして、そこに自らの血を注ぐ。この血を飲めば、竈門炭治郎は完全回復する。竈門禰豆子も竈門カナヲに簡単に殺されることは無くなるだろう。

 

「かぁ、神……次は何の血鬼術に目覚めれば?」

 

 今にも出血多量で死にそうな竈門炭治郎。彼は、二度目であるからよく分かっていた。新たな鬼の兄妹が誕生し、数日後に控えた両名の結婚式という名の死地へと向かう事になる。

 




次話、涙の結婚式。
結婚式って娘から親への言葉で泣くとかあるあるよね。

何も知らずに二人の結婚式に参加する事になる、竈門第一婦人と第二婦人。炭治郎君の末路は如何に!?


大惨事改め第三次竈門炭治郎の乱の切っ掛けの結婚式です!


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外伝:第二次竈門炭治郎の乱(3)~恐怖はまさしく過去からやってくる~(完)

いつもいつもありがとうございます。
誤字脱字指摘や感想……本当に嬉しい限りです。

そして、長い時間お付き合い頂きありがとうございます。


 大正時代の結婚式と言えば、和式が殆どだ。洋式の結婚式などは華族などの上流階級でもなければ手が出せない。その為、竈門一門で初めての洋式結婚式が今開かれようとしていた。

 

 開催に際し、我妻善逸は奔走した。裏金銀治郎と裏金しのぶの洋式結婚式が、女性陣営に大変好評であった為だ。そして、神からの信頼を取り戻すため、大親友である竈門炭治郎に一矢報いるため、コネをフル活用している。

 

 式場確保から、招待客の選別、料理の手配まで全てを日常業務を滞りなく行った上で、僅か一週間で実現までこぎ着けたのは素晴らしいと言うほかない。当然、職場同僚も色々と業務調整には協力してくれており、風通しの良い職場として十分機能している。

 

 そして、式当日。

 

 新婦の控え室では、ウエディングドレスに身を包んだ美しい女性――竈門禰豆子。新郎である竈門炭治郎は、隣室で覚悟を決めている。そして、男としての心構えを大先輩の宇髄天元から懇切丁寧に説明を受けている。万が一ここで逃げるようなら、両足の骨をへし折ってでも止めるためにも、柱級は必須であった。

 

 そんな、隣室とは異なり新婦の控え室は裏金夫妻と我妻善逸も居る。

 

「本当にこのウエディングドレスを返さないで宜しいのでしょうか?裏金しのぶ様」

 

「構いませんよ、善逸君。それは、私が結婚式で使用した物じゃなくプレイ…じゃなかった。予備の物なので汚しても問題ありませんので差し上げます。大丈夫です、何時もクリーニングしていますから綺麗なはずです」

 

 そろそろ、新しいプレイ用衣装を買うにしてもお古が残っていては、勿体なくて買えない庶民派を自称する裏金しのぶ。プレイ用のウエディングドレスなんて、持っている女性なんて日本で両手で足りるだろう。その少ない数に、我妻善逸も含まれる。稼ぎの良い旦那を持つ者の特権だ。

 

「そう言う事でしたら、今度新しいウエディングドレスでも見に行きましょう。しかし……お店の人にどんな顔をされるかな~。あの店、鬼滅隊の元隊士がやっているんですよ」

 

 裏金銀治郎は、信じて付いて来てくれた者達にしっかりとお金を落とす男であった。裏金銀治郎は、我妻善逸に後の段取りを任せた。そして、裏金しのぶを連れて控え室を後にする。

 

 これから来場する客を抑えるには、裏金夫妻が出る必要がある。何も知らずに来て、会場を見た瞬間に大暴れでもしたら折角の式が台無しだ。式は、準備するのは大変だが、壊すのは簡単である。

 

………

……

 

 竈門カナヲと神崎アオイが披露宴の席に案内される。ネームプレートに第一婦人、第二婦人と書かれており、座る席は確定済み。そして、着席を確認すると裏金銀治郎が、両名を血鬼術で大人しくさせた。

 

 ここに来て勘の良い竈門カナヲが気が付くが、既に遅い。もはや、彼女の力では席を立つことすら出来ない。大人しく出される料理を食べるだけしか、行動は許可されていない。

 

「申し訳ありませんね、竈門カナヲさん、神崎アオイさん。今日は、大人しく(・・・・)してくださいね。騒がれては、面倒ですので」

 

「私は、裏金さんの義理の娘です。なんで、こんなことをするんですか? タダでは動きませんよね?それに、竈門禰豆子さんの気配が鬼になっています」

 

 実に勘の良い女性に成長した竈門カナヲ。いち早く動きを止めなければ、大暴れは必須だっただろう。だからこそ、初手で裏金夫妻が両脇を固めている。

 

「便利な血鬼術を幾つか頂いた程度ですよ。安心してください、事が終われば竈門炭治郎君を煮るなり焼くなり好きにして構いません。後、これが最後では無いとだけお伝えしておきます」

 

「最後じゃない?……私達から一番席が遠いあの子達ですか?全員、微妙にお腹が大きい気がします。師範もその事を知っていたんですか?」

 

「そんな目で見ないでカナヲ。私だって知ったのは、最近だったのよ。あ、でも子供に罪は無いから、腹パンはダメよ。貴方が本気で殴ったら、あの子達が死んじゃうからね。フリじゃ無いわよ」

 

 納得いかない竈門カナヲ。だが、当然の事だ。招待状の場所に来てみれば、誰かの結婚式場であり、見知った顔が幾人も居る。案内されれば、席にネームプレートもあり、雰囲気に流されて座ってしまったのが彼女の現状だ。

 

「とりあえず一安心みたいですので、私は炭治郎君から頂いた血鬼術のテストをしてきます。ここは、しのぶさんにお任せしますよ」

 

 裏金銀治郎は、席を立ちピアノの前に座る。結婚式でBGMが無いのは悲しいと思い、彼が自ら演奏をする事になっていた。裏金銀治郎は、音楽の才能など持っていない。だが、無いなら持っている人から買えば良いだけのことだ。それを可能にしたのが、竈門炭治郎が新たに生み出した等価交換の血鬼術。知識、才能などあらゆる物を両者合意の元、金で取引出来るという素晴らしい血鬼術であった。

 

 両名に相応しい披露宴に相応のBGM……炭治郎のテーマソングが流れる。テーマソングどころか処刑ソングといえる今現在。

 

 披露宴……で一体ナニが披露されるのだろうか。そんな、ドキドキワクワクの時間が始まった。ウエディングドレスに身を包んでヴァージンロードを歩む竈門禰豆子。本来なら、父親が付き添うのだが、代役として立候補をして来たのが……裏金銀治郎の大親友にして、悪友。

 

『きちゃった、皆元気そうで何よりだね』

 

「「「「おやかたさまぁぁぁぁぁぁぁーーー」」」」

 

 想定外の人物の登場に、会場がざわめく。特に、柱達が開いた口が塞がらないといった感じで驚愕していた。鬼滅隊のまとめ役にしてトップであった産屋敷耀哉。ホログラムのように透けて見えており、幽霊と言うに相応しい。

 

 元部下達の前だから、くそ真面目な面構えの産屋敷耀哉に違和感しか覚えない裏金銀治郎。だが、親友の顔を立てるのも友の役目だ。

 

 このサプライズは、裏金しのぶですら知らない。本当なら、この機会に胡蝶カナエとも会わせてあげたかったのだが、叶わなかった。最近は夢にも出なくなったので、成仏して輪廻転生の輪に乗ったのだと裏金銀治郎は思っている。

 

 だが、それならそれで安心もしていた。夢の中とは言え、関係を持っていた事がばれないのは良い事だ。つい最近、偉そうに竈門炭治郎に女性関係について色々と言ったばかりでもあり事が露見するのは体裁が悪い。

 

「皆様には常日頃色々とお世話になっていますからね。こう言う特別な日くらいは、血鬼術を使って社員を慰労するのも雇い主の務めという物です。ですが、今日は特別にもう一人来ております」

 

 逃げることも出来ない閉鎖空間。竈門炭治郎は、全てを悟った。

 

 これから誰と再会する事になるのか。美しいウエディングドレスに身を包んだ娘の姿を見られるのは親として嬉しい事だろう。更には、子供までいるのだから親としてこれ以上の喜びは無いはずだ。

 

 子供が立派に育って、結婚し、所帯を持つ。

 

 子供が親を泣かしても許される数少ない場面……それが、涙の結婚式だ。

 

 

◇◇◇

 

 竈門炭治郎。妹に刺されて以来、妻達のご機嫌取りに奔走した。下半身で女を泣かせ、鳴かせる。竈門禰豆子の結婚式で暴露される事態の被害を僅かでも低減するため、努力をした。

 

 だが、今回ばかりは努力する方向が間違っているといえる。事前に自首して、煮るなり焼くなりされていれば、当日の被害は少なかっただろう。だが、当日まで自らの口で、竈門禰豆子の問題を一切伝えなかった。

 

 言えなかったというのが正しい。正直に言えば、命の保証はない。ならば、問題を先延ばしにして延命をしたいと思うのが人間の性だ。竈門炭治郎は、竈門禰豆子と違い人間に戻っている。刺し傷ですら致命傷になる為、裏金銀治郎という回復剤が居ない場面で素直になるのは命取りだと理解している。

 

 そして、迎えた結婚式当日。

 

 ウエディングドレスに身を包んだ竈門禰豆子が現れてから、刺すような視線が竈門炭治郎に突き刺さる。その視線を送っているのが、彼の第一婦人と第二婦人。事が終わってから本気で生き残れるだろうか、どうすれば助かるか高速で思考を巡らせる。

 

 だが、問題はそれだけではなかった。裏金銀治郎が死人を呼び寄せ、更に一人を呼び寄せると言っている。それが誰なのか……ご母堂という言葉を今になって思い出す。

 

 そして、産屋敷耀哉同様に新郎新婦の母親が浄土から呼び戻される。

 

『炭治郎。禰豆子。どうして、どうして……あああぁぁぁぁぁぁ』

 

 泣き崩れる母親。竈門母は、泣きながら竈門炭治郎の頬を叩く。だが、所詮は実態の無い虚像であり、その手はすり抜けてしまう。その様子に、会場に集まった者達も竈門母の心の内を察して涙を流してしまう。

 

 この時、竈門炭治郎は物理的に刺されるより痛い精神ダメージを負ったのは言うまでも無い。

 

「お母さん……」

 

 竈門禰豆子としても、母親という立場を考えれば当然の状況だと分かっていた。だが、娘の結婚式だけでなく、孫にも会えたのも事実。裏金銀治郎は、別に他人の不幸は蜜の味だと思うために、この場に竈門母を呼んだわけでは無い。

 

 安眠を守る為でもあるが、子を持つ父親として娘の結婚式や孫に会えないのが可愛そうだという心があった。だから、演奏を止めて、裏金銀治郎は竈門母にだけ聞こえるように小声である事を言う。

 

血は争えない(・・・・・・)という事です。この事は、私が墓まで持っていきます。どうぞ、お二人を祝福してあげてください。お二人が歩む道は困難です、ですが、寄り添い助け合うのが夫婦というもの。どうか、二人の門出を祝福して送り出してください」

 

 裏金銀治郎の一言を聞き、驚いた顔をする竈門母。裏金銀治郎は、竈門炭治郎に恩を売る為、竈門父や竈門母の親戚情報もしっかりと調査している。つまり、そう言うことだ。

 

『炭治郎。禰豆子の事を幸せにしてあげるんだよ』

 

「ぇ!? さっきまでと180°意見が変わってる!?一体、神はどんな手品を使ったんですか」

 

「裏金さんって、やっぱり神だったんですね。ありがとう、お母さん。私、幸せになります」

 

 大荒れ予感の結婚式。竈門母がどう考えても、猛反対すると思われたが予想外の応援に会場の皆も内心驚いていた。血鬼術を使った催眠術を疑いたくなるこの状況を、裏金銀治郎が何かを伝えただけで全てを丸く収めたのだ。

 

 これにより、竈門禰豆子も狂信者の仲間入りとなる。

 

 それ以降は、式はつつがなく進行していく。両名をよく知る者達からの有り難い言葉では、冨岡義勇が

 

「いつか、ヤると思っていた」

 

 と、とんでもない言葉を贈り、会場が騒然とした。この時、竈門炭治郎は冨岡義勇との関係を本気で見直そうと思った。

 

 そして、なぜか、産屋敷耀哉が神父を始めて、新郎新婦に誓いのキスをさせた。

 

………

……

 

 豪華絢爛、参列者には死者までいる前代未聞、新郎新婦も他とは色々な意味で違うとんでもない結婚式が終わり、竈門炭治郎の死期が迫ってきた。

 

 裏金銀治郎が守るのは結婚式の時だけ。事が終われば、後は大人が責任を取る時間だ。だが、天才竈門炭治郎はこの時名案を思いついていた。裏金銀治郎に売り渡した等価交換の血鬼術。

 

 両者の合意があれば何でも金で解決出来る。つまり、竈門カナヲや神崎アオイに対して、全てを許し承知させる事すら可能。だからこそ、竈門炭治郎は裏金銀治郎に土下座外交をして、この場に留まって貰っていた。

 

「炭治郎さん、何か言いたい事はありますか?」

 

「酷いですよね、炭治郎さん。私達という者が有りながらね」

 

「カナヲ、アオイ。二人とも落ち着いて聞いてくれ。禰豆子の事を認めてくれ!代わりに、俺は……」

 

 竈門炭治郎、問題を先延ばしにしてとりあえずの解決を図るためある物を売り渡した。その結果、取引が成立し、等価交換の血鬼術が無事に発動する。

 

 そんな竈門炭治郎に裏金銀治郎はある言葉を贈る。

 

「炭治郎。恐怖はまさしく過去からやってくる……それを将来実感する事になりますよ」

 

 

◇◇◇

 

 令和の世では、竈門一門の一人である竈門炭彦。彼には()には言えない秘密があった。その秘密は親にも相談できない。出来るはずが無かった。肉体関係が荒んでいる。万が一表沙汰になれば、新聞の一面を飾ること間違い無しだった。

 

 竈門炭彦は、『その時歴史が動いた胡蝶しのぶの偉業 ~東洋のジャンヌダルク~ 』や『NHK大河ドラマ~胡蝶しのぶは認めない~』を視聴して、とてつもない既視感に襲われた。

 

 そして、覚醒する。

 

「神は、健在だった」

 

 周囲に身内が要るにもかかわらず、いきなり「神は、健在だった」とか言い出せば心配をさせてしまう。だが、それからの行動は早かった。親戚の竈門シノアを通じて彼は神へと辿り着く。

 

………

……

 

 裏金銀治郎と対面した竈門炭彦。一介の学生が、世界的大企業のCEOと直接面会を果たす。竈門一門でなければ、実現する事は難しかっただろう。

 

「お久しぶりとでも言いましょうか。どうですか、後先考えずに未来を売った竈門炭治郎君」

 

「神!……助けてクレメンス」

 

 芸術的な土下座を決めて、裏金銀治郎に助けを請う。竈門炭治郎は、女性関係を認めさせるために自らの未来を切り売りした。そして、今そのツケを精算している。

 

 過去も未来も鬼に人生を左右され続ける。

 

 頑張れ、炭治郎、頑張れ!!

 

 君は今までよくヤってきた!!

 

 ヤればデキる奴だ!!

 

 そして今日も!!

 

 これからも!!

 

 (ムスコが)折れていても!!

 

 君が挫ける事は絶対に無い!! 




第二次竈門炭治郎の乱…完結!!

一旦は、これで一段落かなと思っております^-^
また、鬼滅の第三期があるみたいですので充電期間をとって、気が向いたらまた投稿予定です。


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外伝:男の人ってこういうのが好きなんでしょ~しのぶ編~

活動報告に書いたとおり、現実逃避を兼ねた外伝投稿!



 夫婦間、男女間での幸せな生活及び性活において、大事な事がある。それは、相手を尊重し労る気持ちである。年齢と共に培われるその経験とは実に偉大であり、年長者にアドバイスを求める事もある。

 

 だからこそ、裏金しのぶ自称永遠の18歳にして、人妻子持ちJK3年生の彼女の元には同級生から日々相談が持ちかけられる。当然、相談内容とは性に関する事だ。普通ならば、同級生にこのような悩みを相談する事など、常識を疑われる。だが、常識を凌駕するような同級生ならば許されるだろうというのが相談者の見解だ。

 

 そのような同級生からの相談にも、青筋を立てながら誠意をもって対応する裏金しのぶはいい人である。彼女からすれば、女性の保険医(独身)にでも相談して欲しい所だが、その保険医からすら彼氏の相談を受ける始末。

 

 そのお陰もあって、裏金しのぶが書記を務める性奴会改め、生徒会のバナナの消費量は尋常でない。女性達がバナナを持参して相談にくる様子は、男子生徒からすれば前屈みになる事も多い。

 

 裏金しのぶは、自社製品(アンブレラ・コーポレーション)の"近藤さん"を開封し出っ張りを口にする。そして、剥かれたバナナに上手に……。その洗練された技術に同性ですら惚れ惚れする。控えめに言っても、JK3年生が出して良い色気でも技術でもない。

 

 パチン

 

 と根元まで伸ばした"近藤さん"をバナナにハめた。軽く手を添えてバナナを頬に当てる。そして、トドメの一撃を刺す。

 

「男の人ってこういうのが好きなんでしょ? こんな事をしてあげるのは貴方だけなんですからね。あっ、今ビクンってしましたよ。返事はちゃんと口でしてください。でも、今日は許してあげます。だから……ね。―――と、まぁ、こんな感じで付けてあげれば男性の人はまず拒否しません。避妊は大事です」

 

 と、ここ最近の裏金しのぶのトレンドを同級生の女性達の前で披露する。相談に来た女生徒達も息を飲む。顔を赤らめている女生徒もおり、あの顔だけで飯が食えるような裏金しのぶが毎晩そんな風に男性のナニをくわえ込んでいるんだとその場にいた誰もが想像した。

 

 本当に色々とツッコミどころしかない女子力向上講座である。避妊が大事という本人が、子持ちである。そのどうしようもない裏金しのぶの講義内容に、彼女の友達である竈門シノアが口を挟む。

 

「エロすぎでしょ!! 流石、人妻子持ちJKは格が違います。いつも、毎日そんな事をしてるんですか?」

 

「シノアさん、一体どんな眼で私の事を見ているんですか?その程度の事、毎日ヤっている訳ないでしょう。常識的に考えてください」

 

「えっ!? その程度?」

 

「ごめんなさい。噛みました。そんな事の間違いです」

 

 だが、その言葉を信じる同級生は誰も居ない。

 

 事実、その程度の事は、飽きるほどヤっている。ブームは繰り返すと言う言葉があるように、数ヶ月周期でそのようなプレイをする時もある。企画物のAV見たいなプレイを実際ヤっている性女は伊達じゃない。

 

「あっ、ふーーん。じゃあ、昨日はどんな事をやったんですか?他にも、どんな避妊方法があるか教えて欲しいな~」

 

 女性という生命体は、マウントを取るのが大好きだ。勿論、男性にも言える事だが、彼氏自慢は女性の話題のネタになりやすい。それこそ、人に自慢できるレベルの男性ならば当然の事。

 

 だが、裏金銀治郎の事は学園祭でも話題となっており、あの裏金しのぶを孕ませて子供を産ませた男として女生徒の記憶には覚えが良い。そのお陰で、あの強面の男がJK3年生の体にご執心なんだと、事実無根……とはいえない、風評被害を被っていた。

 

「……まぁ、同級生が避妊に失敗して悲惨な人生送る事になる可能性を減らせるなら。そうですね~、男性って女性の胸が異常に好きなんですよ。勿論、大小なんて関係ありません。つまり、それを使って男性を満足させてしまえばいいんです」

 

「な~んだ、そんな事でいいんですか」

 

 昨今インターネットが普及したこの時代。ネットを検索すればエロ動画やエロ画像なんて拾うのは容易い。だからこそ、女子高生とて胸を使った行為など知っている。だが、そんな安い想像は、裏金しのぶがヤっている行為の前座にしかならない。

 

「そりゃ、男性なんて出してしまえば女性と違って満足するから、この手は楽で良いでしょ。個人的に男性受けもいいのでお勧めです」

 

「へぇ~、じゃあ具体的にはどんな感じですか?やっぱり、胸で挟んであげるとか?……なんですか?私の胸のサイズになにか言いたい事でもあるんですか!?」

 

 裏金しのぶは、竈門シノアの胸を見た。控えめなサイズである為、とても挟むなんて行為は難しい。世の中には、それがいいという男性もいるだろうが世間一般的な男性は一定以上のサイズを好む傾向にある。

 

「大丈夫ですよ、シノアさんの魅力は胸だけじゃありません。誤解が無いように先に言っておきますけど、私の趣味じゃなくて、銀治郎さんの趣味ですからね」

 

「大丈夫ですって、分かっていますから」

 

 裏金しのぶ、自分がエッチになったのは旦那の責任。性技を覚えさせたのは旦那であり、嫌々だったと釘を刺す。だが、到底無理な話だ。彼女の逸話は既に世界に広まっている。多少は、裏金銀治郎にも責任はあるだろうが、彼女がスキルを成長させ発展させた。

 

 そして、裏金銀治郎の株が最安値になるとんでもない夜の事情を説明し始めた。

 

「男性に胸を吸わせながら、手でしてあげるんです。そして、こう言うんですよ。『甘えん坊ですね。良いんですよ、今日くらい私に甘えください。ふふ、自分より幼い子にこんな事をさせちゃう、悪い大人はいい子いい子してあげますね。あら、おかしいですね~。大事な所が大変な事になっていますよ。ほら、いい子いい子』と」

 

 だれもそこまで生々しい事情は知りたく無かった。だが、裏金しのぶは続けてしまった。

 

「そして、最後の方になったら、トドメを刺しにいきます。『カウントダウンしてあげますから、0になったら分かってますね。5~、4~、3~、2~、1~。さぁ、思いっきり構いませんよ。いきますよ、ゼーーーーロ』みたいな感じでやってあげれば、その日は大体大人しくさせられます」

 

 裏金しのぶ……自らの夜の事情が特殊である事を理解すべきである。

 

 裏金銀治郎は、この事がきっかけで裏金しのぶの同級生から、あの人があの!?って眼で見られてしまう。雰囲気から、何かを察した裏金銀治郎が彼女を問い詰めて、事の事実が発覚した。

 

 そして、その結果、夜にお仕置きという名の激しいプレイが行われる。その際に、どうしてそんなことをしたのかと裏金銀治郎が尋ねると、裏金しのぶはこう応えた。

 

「でも、何時もより興奮したでしょう。だから、男の人ってこういうのが好きなんでしょ?」

 

 

 




避妊に関する話だから健全だよね。
JK達が色々と失敗しないように、優しく指導する。

性の乱れは風紀の乱れです。


さて、次もド健全な

外伝:男の人ってこういうのが好きなんでしょ~カエデ編~

をお送りする予定(投稿日未定)です。


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外伝:男の人ってこういうのが好きなんでしょ~カエデ編~

『』は、カエデの台詞です。
しのぶさんがいるので混在しそうだったのでね!

短いですが、許してクレメンス。


大事な事ですが、作者の独断と偏見で 男の人が好きなことを 書いております。
何の統計も取っておりません。
少なくとも、作者は好きなのでね。
異論は認めます。


 人間の三大欲求である食欲、性欲、睡眠欲。鬼である為、睡眠欲に限っては無くても問題無い裏金一家。そんな一家の中では、裏金カエデの存在はある意味異質であった。別次元の胡蝶しのぶで本人である、この次元で性女と呼ばれる胡蝶しのぶの同一存在。

 

 だが、同じであっても同じではない。人格形成は、環境に大きく左右される。裏金カエデは、どう足掻いても性欲という面において、裏金しのぶに勝てない。部分的に勝てる要素こそあるが、メス○キの呼吸や誘い受けの呼吸の開発者(裏金しのぶ)は次元が違う。

 

 よって、彼女が選択したのが食欲……と純情。

 

 栄養バランスが完璧で質も量も整った料理は確かに美味しい。だが、ジャンクフードなどは栄養バランスは悪いが、食べたくなるときも多い。彼女はソコに目を付けた。

 

 食事の準備は、裏金銀治郎の趣味であるが裏金カエデは、交代する事もある。その際に出てくるメニューは、完全に彼一人をターゲットにしたメニュー。勿論、誰も文句は言わない。

 

 用意された朝食が……。

 

「おはようございます、カエデさん。おや? これは、昨晩の金曜ロードショーの」

 

『えぇ。男の人ってこういうのが好きなんでしょ?』

 

 裏金家の朝食で用意されたのは、ジブ○飯。金曜ロードショーでラピュ○の主人公が食べていたロマン溢れる朝食だ。裏金カエデは、前の週からしっかりと計画し備えていた。そして、熱が冷めないうちに、このような粋な計らいをする。

 

 分厚いベーコンと卵焼き。焼いた食パンにそれらを乗せた料理。それと、冷えた牛乳。ただ、それだけ……だが、実に男心を擽るメニュー。

 

 裏金銀治郎にとっても、実に喜ばしい事だ。いつも、妻達と子供の為、健康的な食事を準備していたが、こういうのがいいんだよと思う。健康を度外視した暴力的な食事も悪くない。

 

 裏金カエデは、夫である裏金銀治郎に近付く。そして、期待する眼を向ける。その様子に求める事を理解し、彼は妻の頭を撫でた。

 

「ありがとうございます」

 

『えへへ』

 

 しばらく、頭を撫でられつつ抱きしめられる事を満喫する裏金カエデ。

 

 当然、朝食の席である為、他の家族もいる。裏金しのぶと裏金カナエがジトーーとした眼で見つめている。これを卑しいと言わずして何というか。本当に、可能性の塊である胡蝶しのぶという存在。

 

「覚えておきなさい、カナエ。あれが、卑しいっていう行為よ」

 

「いや~、しのぶママも別ベクトルで同じような事やってるよね?最近じゃ、あぁいう事をひとぴょいって言うみたいよ」

 

 裏金カエデの満足げな顔を見て、卑しいと指摘する同一存在。決して、人の事はいえない。そんな裏金しのぶとは、別ベクトルに進化している裏金カエデは、家を出る際にもヒッソリと一番最後に出るようにしている。そして、行ってきますのキスと裏金銀治郎のネクタイを結ぶ事を日課にしている卑しい女性。

 

 何故こんな事までしてくれるのかと、裏金銀治郎が尋ねる。

 

「男の人ってこういうのが好きなんでしょ」

 

 と、恥じらいながら答えた裏金カエデ。

 

………

……

 

 ある日の夜。今宵のひとぴょい当番の裏金カエデ。裏金しのぶの寝間着であるスケスケのドスケベネグリジェではなく、可愛らしいパジャマを着込んでいる。だが、その寝間着というのが……。

 

「カエデさん。私の記憶が正しければ、そのパジャマは」

 

『はい。カナエのです。下着も……小さい』

 

 裏金銀治郎は、一体なにを見せられているのだろうかと思ってしまった。何を着ても似合う妻である。だからといって、娘の寝間着と下着は無いだろうと言いたかった。極めつけは、何を考えたのか枕元に万札をばらまく。

 

「いやいやいや、まって。ねぇ、お願いだから待って」

 

『ただ、一緒に寝るだけです。今日は、私の番ですからね。私からは手は出しません。ですけど、パパがどうしてもって言うなら私が寝ている時に……ね』

 

 裏金カエデが耳元で恥じらいながら囁く。

 

 彼女は、裏金しのぶから聞いていた。過去に、裏金カナエが家出した際に娘の部屋で色々と致した過去を。その際に大変捗ったという事も。そして、パパ活の呼吸を習得して、堕としにかかってきたのだ。

 

「どうして、どうしてそんな事をするんですか」

 

 どこぞの現場猫風になってしまう裏金銀治郎。

 

 だが、その答えは簡単だ。

 

『だって、男の人ってこういうのが好きなんでしょ?』

 




幸せな家族を描いてみました。

だから、健全・・・ですよね?


次回は、カナエ編です。




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外伝:男の人ってこういうのが好きなんでしょ~カナエ編~

【】:電話
『』:裏金カエデ、一部海外リポーター 

となっております。


 鬼の居ぬ間に洗濯とは、実によく出来た言葉だと裏金カナエは常々思っていた。彼女は、この時を待ちわびていた。母親達は、JK3年生。つまり、卒業前に修学旅行という一大イベントが明日から始まる。

 

 修学旅行の行き先は、イタリアとなっており一週間不在になる。そうなると、家に残るのは、裏金銀治郎と裏金カナエの二人。父親と娘という極々普通の組み合わせでこそある。

 

 よく出来た娘とよく出来た父親という、不安要素こそ無いように見えるが裏金しのぶは、不安しかなかった。リアルに良くデキた関係になってしまうのではないかと一抹の不安。そして、結局、対策が思い浮かばないまま修学旅行当日になってしまった。

 

「しのぶさん、カエデさん。現地で、変な人に絡まれても付いていかないでくださいね。海外の男性は、日本人女性……特に、女子高生に対して凄まじい偏見を持っています。例のNHK大河ドラマの影響もあり現地メディアで竈門シノアさんが修学旅行で来る事が報道されておりました」

 

「心配性なんですから~。大丈夫ですよ、集団行動も意識しますし、変な輩は他の生徒達に迷惑を掛ける前に眠って貰います」

 

『安心してください。場合によっては、私の血鬼術で位相をズラして認識出来ないようにしますから』

 

「そうですか。気をつけて行ってきてください。国外では、国内ほど強権は使えないので問題が生じたら、力業で解決して戻ってきてくださいね」

 

 裏金しのぶと裏金カエデを同時にどうにか出来る人類が、地球上に存在するのか疑問ではあったが心配してしまう裏金銀治郎。だから、妻達を送り出してあるところに電話を掛けた。

 

 アンブレラ・コーポレーションの潤沢な資金を使い世界最大宗教で枢機卿に出世した裏金銀治郎の部下にして狂信者。スマートフォンのディスプレイに刻まれた名前は、モズクズ・アガツマ。裏金銀治郎の行動の結果、枢機卿自らが日本から来た女子高生達を案内するという話題が世界で放送される事になる。

 

◇◇◇

 

 裏金カナエは、母親達を見送る。いつもどおり振る舞いつつも、彼女は彼女でしっかりと計画に基づいて動いていた。電話をして、母親達が確実に飛行機に乗り込んだか確認を始める。

 

【もしもし、紅莉栖お姉ちゃん~。ママ達は、飛行機に乗り込んだ?】

 

【確実にね。しかし、なんで私がこんな事をしないといけないのよ。そりゃ~、命を助けて貰った恩はあるけど、私だって暇じゃないんだけど】

 

 産屋敷紅莉栖。産屋敷ひなきの子孫であり、産屋敷ノヴァの孫にあたる。まさに、天才の血筋であり、彼女も第三国の研究機関に高待遇でスカウトされるレベルだ。中には過激派もおり、引き抜けないなら殺してしまえという危ない連中もいる。

 

 ある事件を切っ掛けに、裏金カナエの血で鬼になり血鬼術に目覚めた。今では人間に戻り普通に生活をしているが、裏金一家の裏事情を知る数少ない人間。裏金カナエの血鬼術の一つである"シュタインズ・ゲート"の元持ち主でもある。

 

【またまた、嘘言っちゃって。どうせ、オカベさんとイチャラブする時間が減っただけでしょ。良いわよね、男がいる女って……ぺっ。そんな態度だったら、欲しがっていた遠心分離機買ってあげないわよ】

 

【犬と呼んでくださいカナエ様。いいえ、えーーっと……お館様?でいいんだっけ】

 

 父親のブラックカードを使って、個人的な部下に必要な物を買い与える悪い幼女がここにいた。

 

【えぇ、それでいいわ。その方が、秘密結社っぽくて雰囲気がでるでしょ?】

 

【まったく、面倒くさいわね。押し倒しちゃえばいいのに、なんでこんな面倒な事しているのよ】

 

【最終的には、パパをトップにすげ替える予定。それに、男の人ってこういうのが好きなんでしょ】

 

 裏金カナエの言葉を否定したかった産屋敷紅莉栖。だが、彼女の恋人もいい年こいて、こういうのが大好きだった。男は、いつまで経っても童心を忘れる事はない。

 

………

……

 

 渋谷のハチ公前、そこはデートの待ち合わせスポットである。その中に、周りの女性と比較しても頭一つ二つ抜けた美少女が、佇んでいる。素人目にも見るからに高そうなブランド物を身につけており、おいそれと話しかける者は誰も居ないように見えた。

 

 その女性こそ、裏金カナエである。今日は、裏金銀治郎と買い物の約束をしており現地集合にしていた。だが、彼女の姿は普段の幼女ではなく、母親達と同じくJK3年生くらいにまで肉体を成長させている。詰まるところ、前世で裏金銀治郎と知り合った時代の頃の肉体年齢だ。

 

 そんな周りから浮いている美少女の所に、タイミングよくイタリアメディアが日本文化の紹介という事で彼女に目を付けた。日本の開放的な性の問題が国外でも有名となっており、事実調査も今回の取材の一環であった。

 

 大事な事だが、全て裏金カナエの仕込みである。伊達に長い年月、幼女のフリをしてノウノウと人生を謳歌していた訳ではない。

 

 メディアのリポーターが、裏金カナエに話しかけた。リポーターは何も知らないが、取材の場所で目に付く女性……中でも、視聴率が取れる女性を選ぶとなれば裏金カナエが選ばれる確率は跳ね上がる。

 

『すみません、イタリアメディアですが少しお時間宜しいですか? 実は、今日本の文化について紹介をしておりまして、是非貴方に色々とお伺いさせてください。勿論、謝礼の方もさせて頂きます』

 

「えぇ、構いませんよ。ですけど、今日はパパとデート(買い物)なのでパパも一緒でいいですか?」

 

 パパというパワーワードに、リポーターは固まる。まさか、一発目で引き当てるとは考えていなかった。だが、伊達に海外派遣される優秀なリポーターではない。本当に父親が来る可能性もあり、ドキドキであった。

 

 しかし、リポーターが裏金カナエのことを観察すれば身につけている品のレベルがとても見た目通りの年齢で購入できる品々ではない事に気が付く。時計は、パテックフィリップ。バックは、ルイヴィトン。服は、オーダーメイド。

 

 リポーターは、ひょっとしてマズイ人に声を掛けたのではないかと電話で上司に指示を扇ごうとした時に……カメラに裏金カナエのパパが映り込む。

 

「パパ~

 

 実の娘の姿を確認して、裏金銀治郎は理解した。父親と母親と同じく肉体年齢を操作可能であると。今までは意図的に抑えていたのだという事も察する。

 

「これは、驚きました。昔より、少し幼く見えますがとても綺麗です。確かに、色々と買い物が必要になります……で、先ほどからコチラをカメラで収めて固まっている人達は?」

 

 海外メディアの人達だけでなく、ハチ公前にいる人達も注目した。美少女がパパと呼ぶ人物の年齢が、どう見積もっても20代前半だ。これでは、パパ活というなの援助交○と勘違いされてしまう。

 

 その為、誰も裏金銀治郎が裏金カナエの血の繋がった父親だと認識していない。

 

 しかし、視聴率が取れる事は間違いない状況だ。

 

『どうして、彼の事をパパと呼ぶのでしょうか?』

 

 裏金カナエは、裏金銀治郎の方をみてハッキリと伝える。

 

「だって、男の人ってこういうのが好きなんでしょ」

 

 男の人は、実の娘にパパと呼ばれるのが好きなのは当然だ。何処も間違っていない。これを否定するならば、世の中の方が異常であった。

 

 この日、『男の人ってこういうのが好きなんでしょ』という名言が世界に配信された。当然、このニュース映像はイタリア本国でも放送されており、修学旅行先でリアルタイムで様子を見せられた母達。真実を知らない彼女達の同級生や引率の先生には、不倫インタビューに見えて、周囲から慰められる始末であった。

 

 そして、裏金カナエの勝負の結果は……

  




勝負結果は、読者様の心の中にあります。

いや~、健全な話になったわ。

最後の最後まで外伝にお付き合いいただきありがとうございます!



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外伝:男の人ってこういうのが好きなんでしょ~カナエ編~ after

脳内に急に沸いて出たアイディアを書き下ろしてみました。
あの後の話を少し見たいと仰ってくれた読者様もいましたので^-^




 日本には、特別な日が多く存在する。その中でも、世を騒がせた日……それが父の日だ。

 

 またの名をパパ活の日

 

 そんな歴史に名を残す偉業を成し遂げたのが、あの胡蝶しのぶの姉であり、娘でもあるという経歴が謎過ぎる女性であった。事は、イタリアメディアが日本に取材した日に遡る。

 

 開放的すぎる日本の性事情は、世界に影響をもたらしている。その実態把握の為に始まったインタビューが全ての元凶であった。

 

『あなた!大人として、恥ずかしくないんですか!?』

 

 裏金銀治郎は、アナウンサーが何のことを言っているか理解出来なかった。

 

 整えられた身だしなみ、娘との待ち合わせ時間より一時間も早く来ている。更には、娘が楽しめるように各種プランも練り上げていた。それなのに、何をもって恥ずかしいというのかと。

 

 そこで裏金銀治郎が気が付いた。

 

「あぁ、そう言うことでしたか。確かにハチ公前は喫煙者も多く待ち合わせ場所への配慮が足りていませんでした。おいで、カナエ」

 

「はーーい、パパ。ねぇねぇ、パパ。今日はね、パパの日だからカナエがパパの好きな物を買ってあげるね。お金なら心配しないで、これを使うから」

 

 完全にメスの顔をして、父親の腕に抱きつく。

 

 そして、裏金しのぶの上限無しの無制限利用が可能なブラックカード。その様子にイタリアメディアも目が点になる。存在こそ知っているが、一般人が見ることが叶わないと言えるクレジットカード。

 

 つまり、この美少女は本当にとんでもない存在が縁者にいると言う事が示されている。

 

「おやおやおや、それは嬉しいですね。ですが、そのカードは……」

 

「大丈夫だよ、ママが何かあった時に持たせてくれているカードだからね。ちょっとくらい使ってもママは明細見ないから大丈夫よ」

 

 大事な事だが、この様子は世界で放送される。当然、何の事情も知らない人が見たらどう思うだろうか。一般人にはこう見えるだろう。

 

 パパ活している美少女。

 援助交際をしている青年。

 

 母親のカードを勝手に使い込んで、父の日にパパ(意味深)にプレゼントを買おうとする親不孝。

 それを良しとするパパ的存在。

 

 良心がある一般人からしたら、親が必死で稼いだ金を勝手に男に貢ぎ、相手も貢ぎ貢がれの関係であると思ってしまう。羨ましすぎて、殺意が沸いてしまう程だ。

 

 よって、イタリアメディアの人達は、善意という名の悪意を持って悪い大人から幼気な美少女を守る事に無駄な正義感を出していた。あわよくば、何か謝礼が貰えるんじゃ無いかと思っている。

 

 それから、日本の性事情……「パパの日」の過ごし方が特集される。

 

 軽食に始まり、ウインドウショッピング。そして、下着売り場に連れ込まれる裏金銀治郎。そして、裏金カナエから「パパ、見たいの~?」とか言葉を聞いて、昔を思い出していた。やはり、血は争えないなと。

 

『あの~こう言っては、失礼かも知れませんが人として恥ずかしくないんですか?』

 

「(確かに、娘の下着を買うのに付き合わされるというのは些か気恥ずかしい所はあります。ですが、男親ならば誰もが通る道かと思っております。それに、)この程度で(気後れしていては、女の子の父親など勤まりません。小さい時には脱がせてお風呂に入れなど私の仕事でしたからね。だから、)恥ずかしいという感情などありません」 

 

『いや、恥じろよ。年端もいかない子とどんな事をやらかしているんですか。私の国なら……いいえ、何処の国でも即刻捕まりますよ』

 

「国外の事情には疎いのですが、厳しいのですね。(娘と一緒に、食事をしたり、買い物をしたり、デートをしたり、)お風呂に入ったり、一緒に寝たりとごく当たり前の事くらいしかしていませんよ。国外ではわかりませんが、日本ではこの程度当たり前の事です。子持既婚者なら誰でも通る道ではありませんか」

 

 何故か認識齟齬が発生している気がしてならない裏金銀治郎。だが、誠心誠意話せば人間理解しあえるという心情が彼にはあった。

 

 アナウンサーが裏金銀治郎の左の薬指に付けられた指輪に眼を向けた。なぜか、二つも付いている。だが女性だからこそ分かってしまう。これは結婚指輪だと。

 

『今、結婚されていてお子様もいらっしゃると聞こえたのですが本当ですか?』

 

「えぇ」

 

『今この状況、奥様や娘さんに申し訳無いとかいう感情はないのですか? デートの相手も貴方が既婚者で子供がいると知っているのですか?今奥様は、どちらに?』

 

「妻()は、一週間ほど海外ですね。後、私に妻や娘がいることは当然、カナエも知っています。それが何か?」

 

 何か言いたそうなアナウンサー。だが、裏金カナエが下着選びを終えて戻ってくる。そのまま腕を組んでデートを続行した。当然、後を付ける海外メディア達。その間も日本とはどんな恐ろしい国なんだとネット情報を読みあさっていた。

 

………

……

 

 そして、夕方になり海外メディアと裏金銀治郎、裏金カナエが分かれる時がきた。そう、高級HOTELの前で。これには、流石のメディアも取材続行を諦めざるを得ない。

 

『さ、最後に一つだけ確認させてください。別部屋ですよね?』

 

「当然、同室です。(未成年の娘を一人で泊めるわけにはできません。親である私が付き添うのは当たり前です)」

 

『そ、そうですか。最後に女性の方に質問です。今日は日本で父の日と言うらしいですが……お父様宛に何か一言お願いできないでしょうか』

 

「パパ、何時もお仕事ありがとう。ママのカードを勝手に使っちゃったけど、カナエのパパのためだから許してね。ねぇ、パパ~。後で、今日も髪の毛を洗ってね」

 

 高級ホテルに腕を組んで入っている男女二人を見送るイタリアメディアであった。

 

 そして、裏金カナエの血鬼術"TOMIOKA(俺は嫌われていない)"が解除された瞬間であった。圧縮言語による言動操作を可能とした能力。現代社会において、裏金カナエがその気になれば、どんなスキャンダルでも製造する事が可能である。

 

 対象に全く気付かれること無く、発動する事ができる恐ろしい能力であった。

 

 過去にこの能力を使いこなせず苦労した水柱もいた。実は、彼も鬼を喰っており、知らずに常時発動の血鬼術を身につけていた。

 




父の日ネタと言う事で!
胡蝶姉妹によって、日本がドンドン誤解されていく。

冨岡さんの圧縮言語は血鬼術という噂が…。


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外伝:A社とB社

なんか、急に思いついたので!


 令和のとある日の出来事……日経平均を大きく下げる大事件が発生した。GAFAの一角であるアンブレラ・コーポレーションの株価が10%も下落した。

 

 それもそのはず、あの傘のマークで有名な某企業の不正発覚。更には、調査を進めれば出てくる不正の嵐。保険会社へも波及し、その波は津波へと変化をして各業界に影響を及ぼした。

 

 民意による結果、アンブレラ・コーポレーションのCEOが国会に参考人招致される。そのヒアリング内容がコレである。

 

『アンブレラ・コーポレーションCEO裏金銀治郎……失礼ですが、ご本人で間違いありませんか?資料では、今年で【ピーー】歳だとあります』

 

「間違いありません。我が社のアンチエイジング技術は、世界一です」

 

 有象無象の国会議員達に囲まれた場で裏金銀治郎は平然と応対する。何もやましい事はない。こう言う場合、影武者などを用意した方が後から困るのは明白だ。だから、素直にご本人が国会に来ていた。

 

 その中継は、全国生放送。

 

 一部の国会議員達は、特権階級……上級市民と呼ばれても差し支えない者達が大嫌いだ。なぜなら、その恩恵を受けていないため、ここぞとばかりに自身のフィールドに出てきた、アンブレラ・コーポレーションのCEOをフルボッコにしてやろうと思っている。

 

『○ックモーター(以後、B社)とアンブレラ・コーポレーション(以後、A社)の関係について、いくつか質問があります。まず、B社のロゴマークがA社のログマークと大変酷似しております。ある筋からは、A社から許可を貰っており、A社と親密な仲であるとも情報もありました』

 

「全く関係ありません。弊社は、子作りから墓場までをモットーにあらゆる業界に進出しているのは認めます。その中で、少なからずB社とも何かしらの取引はあったでしょう。寧ろ、弊社の製品を全く利用していない業界を探す方が大変なレベルです」

 

 ここまでは、予定調和である。裏金銀治郎としても、こんな茶番を終わらせて早く家族の為に、夕食の準備をしたいと思っている。そもそも、このような事態にならないように、何人もの子飼いの議員が要る。

 

 裏金銀治郎が、議席に座っている議員に目を向けると、脂汗をかいて頭を下げる議員達が何人も居た。

 

『それはおかしいですね。B社の経営陣からは、「商品に穴を開けて、修理費を稼ぐアイディアは、A社から得た」と言っておりました。数年前にA社の製品(食べられるコンドーム)に穴を開ける仕事をしている者がいると内部告発があったのは記憶に新しいです。人の生死に直結する大問題であったのに、何故か厳重注意で終わった案件です。その際に、A社からの告知は覚えていますか?』

 

「無論です。弊社では、ベビー用品も作っております。ですが、件の厳重注意を真摯に受け止めて、穴が開いているけど食べられるコンドームを製品化した記憶があります。コレで満足ですか?」

 

 この頭のおかしい製品開発者は彼の妻だ。オブラートからヒントを得て作ったとかで、実は結構売れている商品だ。他にも、尿をリンゴジュースの味にする薬など、採算を度外視しているアホみたいな製品が沢山ある。

 

 ちなみに、それらの商品を購入している中には、この場にいる汚い大人達も含まれている。

 

『……製品名は別として、貴方の言うとおりです。つまり、B社は、A社に習って製品に穴を開けたのだから、我が社も厳重注意で終わらすべきだ。だというのに、B社だけ国交省を交えた検査や第三者機関の調査を受けるのはおかしいと疑義がありました』

 

「聞いていて思うのですが、正直、我が社は全く関係ない案件ですね。ただ、ロゴが似ていることを良い事に既に解決した問題を蒸し返して、注目を逸らそうとしているのは明白です」

 

 聞いている誰もが思った。どう考えても言いがかりである。この程度の事でA社のCEOを国会に呼び出したとなれば、許されない。しかし、世論を味方に付ければ、A社に第三者機関による査察を実行できる。コレこそが、無理矢理今回の事を行った議員達の目的だ。

 

 彼等は、国外の有力者達から支援を受けている。どうしても、A社の企業秘密や謎多い人物である裏金一家の情報を欲していた。だからこそ、今回のような事が起こってしまった。

 

『我々としては、A社も査察を受け入れて無実を証明して欲しいと思っています。A社に何ら問題がないというならば、大した事では無いと思いますが、いかがですか?』

 

「面白い冗談を言いますね。議員、今からメールを一通送りますので、それを確認した上で今の発言を撤回するか、ご判断下さい」

 

 トカゲの尻尾切り。A社の息の掛かった議員達は、今回の発端となった議員のスキャンダルを提供した。議員仲間であっても、A社に喧嘩を売るなら癌でしかない。日本においてA社と敵対すると、最低限の人間らしい生活を送れるかすら怪しい。それほどまでの金と権力を持っている。

 

 裏金銀治郎を問い詰めている議員の携帯に、数々の汚職、未成年との援助交際、浮気、議員特権を使った様々な犯罪行為の証拠が届けられた。これが世に出れば、本人だけで無く家族もお終いのレベルだ。

 

 顔面蒼白になる議員。

 

 その様子が全国生放送だ。自称一般人が、議員を脅しているようにも思われるシーンだが、何も問題はなかった。TV局も既に手中に収められており印象操作はお手の物である。

 

「おやおやおや、顔色が優れませんよ議員。ちょうど、近くにA社が運営をしております病院があります、検査入院なさいますか?今なら、VIP待遇でご案内致しますよ」

 

『―――す、全てを取り下げします。この度は、ご足労ありがとうございました』

 

「それはよかった。私としても誤解が解けて何よりです。後、B社への対応は期待してもよろしいでしょうか?今後このような事がありましたら大変困りますので」

 

………

……

 

 こうして、裏金銀治郎の華々しいTVデビューが終わった。当然、彼の顔を知る妻の同級生達からは、様々な質問が寄せられる。総資産額が兆という大台の資産家妻であるのだ。そりゃ、友達も増える。だが、そんな夫より、裏金しのぶの方が総資産が多かった。未来を知る血鬼術がある彼女に勝てるトレーダーなどこの世に存在しない。

 



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外伝:パパ活CEO

メディア露出したので、ついでにこのネタも消化しちゃう!


 情報化社会において、メディア露出の恐ろしさを体験している裏金銀治郎。先日のゴム製品の穴開け問題に続いて、別件で国会の参考人招致を受けている。

 

 今回は、呼び出された内容を全く知らされていない。日本経済を支える大企業CEOは暇ではない。気軽に呼び出せば、議員の首が何人か変わる。事実、先日の一件以降、一部議員が謎の辞職を遂げた。そして、今では電波の届かぬ異空間にいる。

 

 経済的影響を考えれば、お互いにwin-winの関係が望ましいのだが……アンブレラ・コーポレーションが揺らぐような事態があれば喜ぶ企業も多いのが事実。シェア拡大を狙う企業も多く、そんな連中から息の掛かった議員達が今回頑張っている。

 

『昨今の風紀の乱れは酷い。そうは思いませんか、アンブレラ・コーポレーションのCEO裏金銀治郎殿。子は親の背を見て育つ――実に、良い言葉です。私もそう思っております。つまり、今の風紀の乱れは言い換えれば大人である我々が原因とも言えましょう』

 

「話が見えませんね、議員。世界の性産業を支える我が社が、風紀の乱れの原因だとでも言いたいのですか?オリンピックでは、国の要請で何十万個の近藤さんを無償提供しました。その費用は、どこから出たかご存じですか?私のポケットマネーですよ」

 

 企業として宣伝のために、そういった品物を無償提供する事はある。だが、タダで作れる商品などない。人件費、材料費など様々な経費が掛かる。裏金銀治郎は、お国のため自費でそれに答えた程の愛国心がある男だ。

 

『その節は大変お世話になりました。ですが、今回お呼びだてした件はそれではありません。心当たりがあるんじゃありませんか?』

 

「風紀の乱れに関する事ですか……そうですね~。もしかして、第二婦人が居る事ですか?その件については、両者合意の上です。それとも、第二婦人を娶った事を記念して、社員全員に10万円の特別お祝い金を配ったことですかね?アレは、弊社の税理士や法務部としっかりと相談をした上でやったことなので何も問題は無いはずですが」

 

 この男……裏金銀治郎は、平行世界から連れてきた胡蝶しのぶ(原作)を第二婦人に据えた際、誰かに自慢したくて社員全員に金をばらまいた男だ。嫉妬もされたが、ばらまいた金が高級風俗一回分程度の金額でもあり、社員からは好評であった。こんなに金を配るなら、毎年一人娶ってくれみたいな話題も出たほどだ。

 

『違います。いい年した大人が何をやっているんですか。まぁ、今はその件ではありません。本当に分かりませんか?貴方は、父の日にイタリアメディアのインタビューを受けていたと思います』

 

 ざわざわ

 

 イタリアメディア、父の日というキラーワード。ここから連想される事は、簡単であった。日本が更に誤解されてしまった大事件。裏金銀治郎がメディアにアンブレラ・コーポレーションCEOとして顔が露出してから、数分足らずでネットには彼が何者か調べる記事が沢山投稿された。

 

 その中に、【パパ活していた男性にソックリじゃない?】というスレッドが一番伸びていた。暇人達は、顔認識ソフトを駆使し、様々なネット情報を集めて、パパ活していた男が裏金銀治郎だと特定に至る。

 

「あぁ、そういえば、そのような事がありましたね。で、それが何か問題でしたか?」

 

 裏金銀治郎の淡泊な反応に、質問している議員も困る。

 

 何が問題かって、全てが問題であると言いたい。だが、ここまで自信をもって認められると、返って自信がなくなってしまうのは仕方が無い。

 

 大事な事は、裏金銀治郎が父の日にイタリアメディアのインタビューを受けたことを認めた事実だ。これにより、ソックリさんという線は無くなった。この瞬間、一気に伸びる【パパ活CEO】というスレッド。

 

『貴方は、父の日にイタリアメディアにインタビューを受けたことを認めるのですね。そして、この写真の女性と食事して、買い物をして、ホテルに泊まった事実を』

 

「えぇ、認めます。それが何か問題でも?」

 

 実は、何も問題は無い。女性から訴えがあったわけでもない。ただ、男性が女性と食事をして、買い物をして、ホテルに泊まっただけだ。それの何が悪いかと言われれば、罪に問われるような事は何もない。

 

『問題ですよ。未成年らしき女性と援助交際――パパ活など、言語道断です。人間として恥ずかしくないのですか?』

 

 周囲から、そうだそうだと議員を援護する声がある。その反面、裏金銀治郎の息の掛かった議員達は、議員を援護した連中をメモして、彼等のスキャンダルを率先して提供を始める。

 

「幾つか疑問なのですが……その未成年【らしき】女性から、何か訴えでもありましたか?それに、らしきってどういうことでしょうか。まさか、そんな情報で参考人招致で呼び出したのですか?」

 

『今のところそういった情報はありません。しかし、この中継を視聴したならば彼女が名乗り出て必ず、貴方を訴えるでしょう』

 

 アンブレラ・コーポレーションCEOを相手にパパ活で訴えれば、示談金が凄まじい事になるのは明白だ。一生掛かっても使い切れない莫大な金が転がり込む。これに乗らない女性はいないと議員は思っていた。

 

 だが、それは不可能だ。

 

「無理だとは思いますが、頑張って下さい。後、こんな下らない事で参考人招致は止めて頂きたい。名誉毀損で弊社の株価が下がった分だけ請求させて貰います。それと……議員、貴方は議員になる前は大層遊んで居たようですね。議員、今からメールを一通送りますので、それを確認した上で今の発言を撤回するか、ご判断下さい」

 

 一通のメールが議員に届く。

 

 そこには、彼のDNAと一致した彼が認知していない子供の情報があった。それらの母親は、過去に肉体関係があった女性達……当時未成年であった。

 

 顔面蒼白になる議員。

 

 コレが世に出れば、パパ活議員として一躍有名人間違い無しだった。アンブレラ・コーポレーションの後ろ盾があれば、過去に関係のあった女性達が一斉に訴えに出る事は容易い。メディア操作もされて、議員辞職に追い込まれるまで一週間と掛からないのは明白であった。

 

『―――す、全てを取り下げします。この度は、ご足労ありがとうございました』

 

「それはよかった。私としても誤解が解けて何よりです。私も実の娘と買い物や食事、ホテルに泊まって訴えられるのは納得がいかなかったので助かりました。後、名誉毀損で弊社株価が下がった補塡は請求させて貰いますから」

 

………

 

……

 

 

 翌日、東京湾で身元不明の遺体が発見された。そのお陰で、名誉毀損の訴えが出来なくなる。その結果をみて、判断が早い(・・・・・)日本政府の評価があがる。

 




久しぶりに執筆して、ストレスが少し甲斐性された。

また、気が向いたら外伝投稿します。



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外伝:裏金問題

食事をしていて、ふと思いついたので!
こっそりと投稿。


 暗黙の了解という言葉がある。

 

 賄賂を受け取っていない政治家など存在しない。誰もが分かっていても追求しない事だ。他にも、警察がパチンコの換金事実を知らない事やソープでは自由恋愛が行われており売春ではないという周知の事実がある。

 

 そのような不可侵領域に切り込む無謀者が出てきた事が時代の移り変わりの象徴だ。SNSといった情報拡散ツール、人権に五月蠅い昨今のお陰で一部の正義マンが勘違いしている。同じ事を民度が低い国で行ったならば、翌朝には家畜の餌だ。

 

 日本において、大きな話題になってしまっている政治家の裏金問題。平成や昭和の時代なら秘書がやりましたと言って、なぜか政治家秘書が責任(意味深)で解決していたが令和の世の中ではこの方法は難しい。

 

 その結果、度々国会に呼ばれることになった裏金銀治郎。ゴムの穴開け問題、パパ活問題に引き続き酷いTVデビューを飾っている。しかも、『裏金問題』という議題がよろしくなかった。本人の名前も合わさって色々な意味で誤解が広まっている。

 

 今回に限って言えば、裏金銀治郎も心当たりがある。家族が住みやすい日本にする為、子飼いの議員や政治団体、宗教団体まで抱えている。与党も野党も叩けば埃が出る身であり、アンブレラ・コーポレーション相手に裏金問題を言うつもりはない。

 

 しかし、何処の世にもバカはいた。正義感が強い若い議員というのは、存在している。より正確に言えば、国外勢力の後ろ盾を得た勘違いマンだ。経済大国日本にいる元外国人も多く、日本国籍を取得して選挙権さえ得てしまえばこう言う現象も起こる。

 

 勘違い正義マンは、操られている事に気が付いていない。自分の正義に賛同した善意の出資者がいると勘違いしている。その出資も賄賂に当たるのだが、他人には厳しく自分には甘いのがそういう愚か者の特徴だ。

 

 そして、三度目のTVデビューを『裏金問題』というテーマで飾ることになった。三回の顔出しが全て国会招致である事でギネス記録にも申請される。

 

 一路一体の大規模な国家プロジェクトを行っている国家の政治家がバックに居る日本の若手議員。その思想は、どっぷりとお隣に感化されており、どの国の政治家だと言いたく成るレベルだ。

 

「度々感じるのですが、政治家という職業は暇なのでしょうか。私は、コレでも忙しい身なんですよ。貴方達の要望で万博へも参加し、建設に必要な人員や資財を色々と融通している記憶があります」

 

 大阪万博において、政府はアンブレラ・コーポレーションに協力を仰いでいた。その資金力と最先端な技術で成功に導いて欲しいと。他にも日本が世界に誇るHENTAI技術の大企業と日本政府がズブズブの関係でネット界隈ではアンブレラ・コーポレーションが絡むと神聖なオリンピックが真性なオチンピックになったと言われた程だ。

 

『日本政府がアンブレラ・コーポレーションに格別な配慮をしているのは、周知の事実です。ですが、それとコレは別問題。私は、アンブレラ・コーポレーションと政治家の裏金問題について確固たる証拠を持っております。何か言い分はありますか?あぁ、そういえば、貴方の名前も裏金でしたね……名は体を表すという事でしょうかね』

 

「……もしかして、私の名字を貶しておりますか?」

 

 目上の人への配慮、教育水準の低下、SNSと言った情報による保身など様々な要因でモンスターが産まれている。

 

 この状況は流石に国会に集まっている議員全員がマズイと感じていた。

 

『それは、貴方の捉え方次第です。では、ここからは紛らわしいので献金と言い換えましょう。アンブレラ・コーポレーションは、与党の政治団体に多額の献金をされている事が確認されています。しかも、これに対して帳簿に一切載っていない。どういうことですか?』

 

「アンブレラ・コーポレーションというより、私個人の資産で政治家達に献金しているのは事実です。日本という国で大企業を運営している身です。国家の意向に経営が左右される事は当然あります。まぁ、俗に言う子飼いの政治家というのですかね。……おや?私が、認めたのがおかしいと思っているのですか?」

 

 裏金銀治郎は平然としていた。

 

 隠しきれるはずが無い。子飼いの政治家や宗教団体にどれだけ金をつぎ込んでいるかなど、ちょっと調べれば分かる。他の企業だって同じような事をやっている。だから、だれも文句など言わない。

 

 こういう、世間を知らない絶対正義マンが出てこない限り、何も問題はなかった。

 

『認めるのですね!! 聞きましたか、皆さん。大企業と政治家の不正がこの場で立証されたんですよ』

 

 静まりかえる議場。テレビ視聴者もそんな事は知っているといった感じで感心はなかった。それより、アンブレラ・コーポレーションから受けている恩恵の方が多いからだ。

 

「それは、良かったですね。では、正義感溢れる議員。今からメールを一通送りますので、それを確認した上で今の発言を撤回するか、ご判断下さい」

 

 そこには、議員が無国籍である為、警察から逮捕状がでたという通知だ。更には、彼の後援者が軒並み他国の諜報員であり、海の藻屑にされたとの情報も載っている。

 

 大企業、政治家、警察、自治体が連携すれば人間一人の国籍を消滅させるなど朝飯前だ。そして、日本国籍でもない彼が議員など可笑しいという事実が出来上がる。よって、今の議員に迫られている事は、一人で責任を取るか、一族で責任を取るかの選択。

 

『―――す、全てを取り下げします。この度は、ご足労ありがとうございました。裏金銀治郎さんは、私に花を持たせようとして話を合わせてくれただけです。私のような若造にお付き合い頂きありがとうございました。全ては、私一人の責任です』

 

「それはよかった。私としても誤解が解けて何よりです。世の中、公然の秘密という物があります。藪を突くにしても実力が伴わないと危険ですよ……あまり、自身の力を過信しないことです」

 

………

……

 

 翌日、国籍不詳の議員が逮捕され謎の変死を遂げたことがニュースで小さく取り上げられた。それから、議員になるための資格が厳格化され日本の政治がより強固な物へと変わっていく。

 

 判断が速い鱗滝総理は、アンブレラ・コーポレーションを活用し強い日本を作っていく。また、アンブレラ・コーポレーションも減った議員枠に手駒を送り込む。




仕事が忙しいと現実逃避したくなり、執筆をしちゃいました。
新しいSSを執筆するより既存のSSの閑話を書く方が執筆しやすい!


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