EVOLの壊す明日 (野猫先輩)
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Phase 0.独白

こちら、本日最初の作品となっております(赤城武雄)

処女作だから色々アレなのはお兄さんお姉さんゆるして(懇願)


 宇宙ってのは矢鱈と広い。その上、何処迄行っても無機質な惑星しか無いと来た。生命が居たとしても、居るのはチャチな下等生物が関の山。

 そんなつまらない星を、ブラックホールで飲み込み、次の惑星へ向かう。そしてまたブラックホールで……。そんな事を何十回、何百回、何千何万何億と繰り返した事やら。

「星を喰らう」……それが俺達の種族に課せられた使命とは言えど、ここまで退屈だと辟易して来るってモンさ。

 

「……なんて、ぶつくさ文句垂れてた頃が懐かしいねェ」

 

 俺は数百年前、ふと立ち寄った「火星」でしくじった挙句にハコの中へ封じ込められちまった。その時は自分の不幸を呪ったね。それこそ「最悪だ……」ってな。それが結果として最悪どころか、僥倖も僥倖になっちまった。何が有ったのか、だって? 

 

 俺の遺伝子の一部を回収する為に出向いた地球で、人間っていう生き物に出逢えたのさ。……実の所、初めて人間と接触した時は「何だ? この弱っちい生き物は」程度にしか考えちゃいなかった。

 考えても見ろよ、彼奴等の体には身を守る為の鉤爪も牙も有りゃしない。体を覆う皮膚だって脆弱だ。肝心の科学力も、俺達ブラッド族には遠く及ばなかった。その時の俺は「またつまらない生命体が出て来やがったなァ」って事以外、人間に対して考えている事は無かった。

 

 ところがどっこい。「石動惣一」って人間の体を乗っ取って、力を取り戻す為に彼奴等の母星「地球」に潜伏して活動を続けたら……俺は人間の虜になっていた。何千万年と宇宙をぶらぶらとしていたが、こんなに面白い生命体に出逢った事は終ぞ無かったねェ。

 何が面白いって、彼奴等は俺達に無かった「生きた感情」をこれでもかと発現させていた。ちょっとした事で怒り、悲しみ、笑い、悔しがる……此処には書き切れねェな。

 

 それに彼奴等は少し唆すだけで直ぐに同族で潰し合い、殺し合う。原因なんて掃いて捨てる程有ったさ。それを喚き散らしていれば良い。憎悪ってのは伝染するもんさ、ウイルスみたいにな。憎悪が一気に広まったら、さあ戦争の始まりだ。発端は人種の違いだの国の利益だの肌の色だの思想の違いだの……おっと、コレも書き切れねェや。悪い悪い。

 

 まぁ、そんな人間を俺は好きになっていた。誇張でも皮肉でもなく、単純に好きになったのさ。新しい俺の「玩具」としてなァ。

 だが、俺はまたここでやらかしたのさ。何をしでかしたって? 答えは単純、人間を侮り過ぎたってだけさ。

 俺は下等生物だと人間を侮った結果完膚無きまでに叩きのめされた挙句、一時は消滅しちまった。ま、バックアップが有ったからどうにかこうにか蘇ってこうして話してる訳だが。

 しかし、下等生物だと人間を舐めるのは俺の同族の悪い癖らしい。俺の兄貴も、俺の知り合いも人間に倒されちまった。いや……人間を舐めてなくても俺達は負けていただろうな。

 

 人間如きに倒された、じゃねェ。

 人間だからこそ俺達を倒せた、って訳さ。

 

 嗚呼、因みに兄貴を倒すのには俺もガッツリ加担させて貰ったよ。ちょいと身内同士の諍いも兼ねてたからねェ……。

 

 前置きが長過ぎたか? ごちゃごちゃしちまって悪いねェ。それじゃ、さっさと話そうか。

 

 

 

 

 

 これは、俺が兄貴を倒して地球を離れてからの話だ。

 

 

 

 

 

 




第0話はエボルトの独白として始めさせて頂きます。

次からは三人称視点にする予定です。


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Phase 1.到着

Q.三人称視点オンリーで描けましたか…?(自問)

A.描けませんでした…(自答)

エボルト視点と三人称視点の混同になりそうです()
エボル兎はヨルハと雰囲気似てるし、から後々で活躍させたいんや(個人的見解)


「暫く、この星を離れる。また力を蓄えたら帰って来る」

 

 何て万丈に言わなきゃ良かったと後悔したが、結局は後の祭りだ。何故俺がこんなに後悔してるかって? 

 

 端的に言おう。退屈で退屈で仕方が無い。

 

 地球に来る前よりも圧倒的に凄まじい退屈という感覚。大方、俺の仇敵である桐生戦兎の作り出した力「ジーニアスフォーム」の力で、それまで感じる事の無かった生の感情を獲得したが故だろう。

 

 だが、これはハッキリ言ってパンドラボックスに閉じ込められていた方がマシなレベルの苦痛だ。こんな事になるなら、キルバスとの戦いを終えた後にさっさと何処かへトンズラして喫茶店ハシゴでもしてれば良かったと思う位さ。

 

「あー……暇だねェ」

 

 思わず零れた愚痴を聞く奴は当然誰も居ない。そもそもガッツリ宇宙空間なので音は伝わらない。仕方無いだろォ? オゾンより下どころか、太陽系を思いっきりブチ抜いてるんだから。

 辺りを見回しても有るのはギラギラと光る恒星と、無機質でチンケな惑星のみ。それから、グルグルと渦巻く銀河程度だ。ギンギンギラギラギャラクシーって奴だよ、畜生め。俺の嫌いなモノの中にプラネタリウムが加わりそうだ。

 

「仕方無い。偶には辺鄙な場所にワープするか……このまま彷徨っていても、退屈が加速するだけだからなァ」

 

 

 空気も存在しない宇宙で、溜息を吐きながら星間ワープを始める。次こそ退屈な場所に行かないでくれよ、と頭の片隅で居もしない神に祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ?」

 

 体感時間にして凡そ10分そこら、どうやら到着したらしい。目を2、3回瞬かせて眼前に広がる星を見ると……。

 

「……オイオイオイ、嘘だろ?」

 

 何とそれは愛しの地球だった。

 

 俺が一度は滅ぼそうとした、愚かで愛しい人間共が住まう星。どうやら戻って来ちまったらしい。もうこれは腐れ縁なんていうレベルじゃなく、運命って奴じゃないかと考えざるを得ない程だった。これだけ驚いたのは、俺の遺伝子を失った万丈が自分で遺伝子を作り出して「グレートクローズ」に覚醒した時位かねェ。

 

「そうと決まれば、早速帰るとするかァ……!」

 

 俺はワープする事も忘れて、大気圏へ突っ込んで行った。それ程、退屈で満ち満ちていた俺の心は弾んでいた訳さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ︙森林地帯

 

「そーらよっ、と!」

 

 ある程度勢いを殺して木々の生い茂る地に降り立つ。多少地面が揺らぐだろうが、精々ちょっとした隕石レベルの衝撃でしか無いだろう。

 

「漸く帰って来れたかァ……」

 

 歓喜で叫びたくなる衝動ではなく、何処と無くしみじみとした感情が心に広がっていく。この感情を人間は何と表現したのやら。

 

「しかし、こんな辺鄙な森に落ちるとはねェ……。俺とした事が冷静さを欠いたか、情けないモンだ」

 

 怪人態のまま、辺りをゆっくりと散策する。土と草の匂い。一歩踏み出す度に足元から奏でられる落ち葉と枝の音、木々の間から差し込む陽射し。

 嗚呼、何もかもが懐かしくて堪らない。まだ地球を離れて1ヶ月経つかどうかすら怪しいと言うのに、だ。

 

「……おっと、こんな所で油を売るのはやめにしよう。さっさと戦兎と万丈の所へ行くとするかァ……」

 

 退屈から解き放たれた反動で、何時間もその場所に居座っちまった。

 

 しかし、どうにも引っ掛かる所がある。

 

 

「……余りにも静か過ぎるな、嵐の前の静けさって奴じゃなけりゃ良いんだがねェ……。おっと、俺は嵐を起こす側だったか」

 

 

 此処が白神山地か富士の樹海ならまだしも、俺が降り立ったのは旧世界地図上における東都のエリアUとエリアQの境界辺り。確か、新世界では「新宿」と呼ばれている所だった。スカイウォールの惨劇が起こっていない新世界では、開発とそれに伴う発展が相当進んでいる地域の筈だ。

 

「……その割には、車の走行音も飛行機の音も聞こえねェ。何より、何時間も歩き回ったのに日が落ちてないのはどういう事だ……?」

 

 星を間違えたんじゃなかろうか。今更ながらそんな事を考え、大気組成を調べたが結局地球のそれと何ら変わらなかった。どうやら、地球って事は確定らしい。

 それから俺は、何か手掛かりは無いかと俺は歩き回った。ブラックホールでのワープも忘れて、だ。

 そんな折に、『アレ』は現れた。

 

 

「……何だ、あのブツは……?」

 

 ガチャン、ガチャンと音を立てながら我が物顔で闊歩する2頭身の金属質の寸胴みたいな太い体。そして真ん丸の頭に2つの赤く光る眼。子供の思い浮かべる典型的な「ロボット」と言わざるを得ないだろう。このデザインをした奴よりも、ガキの頃の美空の方が上手く描くだろうな。俺がそう思ってしまう程滑稽で間の抜けた見た目をした『何か』が数体歩いていた。

 

 いや、数体なんて話じゃない。少し遠くを見れば今度はちょっとしたトラック並に大きい奴も歩いている。まさにロボットの天国だ。

 

 

「……俺が此処を離れている間、地球に何が有ったんだ?」

 

 

 戦兎の奴はこんな時に何をやっているんだという考えが脳裏を過るが、直ぐに掻き消される。彼奴はこんな事を見過ごすタマじゃない。それは、アイツを俺が「創り出した」から痛い程に知っている。いや、実際に痛い目に逢っていたか。

 

 

「……まさかくたばっちまった、なんて事は無いよなァ……?」

 

 

 俺が一番考えたくない最悪の展開だ。

 彼奴は俺の事を楽しませてくれる者の1人。そいつが、こんな間抜けた見た目の奴等に「俺の楽しみ」を奪われたのかもしれない、と考えると腸が煮えくり返りそうになる。お気に入りの玩具を隠されたガキの気待ちは、多分こんな感じなんだろうなァ。

 

 無闇にあのずんぐりむっくり共をぶっ壊したくなる衝動を、頭の中でキルバスを数回殺す光景を思い浮かべる事で抑え込んでいると、妙な声が聞こえて来た。

 

『異常ハ無いカ』

 

『異常ハ無いベ。うろうろしテルのハ獣しかいネェ』

 

『ソウか、なら良かったダ。ワシらの王様に何かあっタら、一大事だカラな』

 

『ンだンだ』

 

『しカし、さッきの揺レは随分大きかッたべ……』

 

『木か何かガ倒れたンじゃないカ?』

 

『……ンだな、どうせ木が倒れたんダロウ』

 

 ノイズの様なエコーを伴いながら、警備隊か何かの役割を果たしているらしいずんぐりむっくり共の会話が聞こえて来た。やたらと訛ってたが。

 

 そして、「王様」というワードから察するに、この辺り一帯を支配している奴が居るんだろう。

 

「……言葉が話せるのは有難いねェ。まずは、その森の王とやらに取り入らせて貰おうか」

 

 権力者に取り入るのは俺にとっちゃ簡単なモノだ。難波や御堂に擦り寄った時みたいにな。権力者に媚び諂って傘下に入り、その庇護の元で情報と資源、そして武力を密かに蓄える。使い切って邪魔になったら消してしまえば良い。カマキリの体を食い荒らしてから這い出てくるハリガネムシみたいになァ。

 

 んでもって、俺は怪人態の変身を解いて人間態になろうとしたんだが……

 

 

「……何時までも石動の姿を借りるのもアレだねェ」

 

 

 ちょいとばかし石動の姿を借りるのがマンネリになって来ちまった。

 旧世界では戦兎達への精神攻撃として石動に擬態していたが……流石に何時までもシングルファーザーの姿を真似るのってのは気が引けて来る。此処は、彼奴の姿を借りるとしようかァ。忠誠を誓った『部下』の姿をなァ……。

 

 

「……よーし、完璧完璧っと」

 

 

 借りたのは内海の姿だ。取り敢えず、当分の間はコレで良いだろう。

 

 

 さて、さっさと『森の王』って奴に会うとするか。

 

 

 




文才の無さを嘆きますねぇ!(自分への怒り)

感想とか指摘とかお待ちしてナス!


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Phase 2.邂逅

タイトルが決まったので初投稿です。今回こそ三人称視点を入れました()
ちなみにエボルトがコッチの地球に来た時期はAルート開始、つまり第243次降下作戦の3日位前のつもりです。

※ちょっとだけ今回機械生命体サイドのオリキャラがチョイ役で出て来ます


 風に吹かれ音を立てる木々、小鳥達の鳴き声、その中で生命を育む土の上を地虫が這い、それを鼠や土竜が喰い、その小動物等をイタチやキツネが捕まえ……。

 この部分だけを見ると、ちょっとした田舎に行けば容易く見つけられる自然豊かな森と思う事だろう。

 

 その森に珍妙な格好をした者達が居座っている事を知らなければ、の話だが。

 

 子供の遊びに使うボールを彷彿とさせる丸い頭に、2つの目。

 寸胴鍋をそのまま取り付けたとしか見えない胴体。

 太い胴体に対して少し貧相に見える、細い手足。

 墨汁を数滴垂らした牛乳の様な灰色の体色。

 

 何よりその者達の体は、「金属」で出来ている。

 

 その名は「機械生命体」。遥か太古の昔、地球を手中に収めんと襲来したエイリアンによって生み出された兵器。

 ……否、兵器と呼ぶには余りにも「ヒトに近付き過ぎた」者達と呼ぶべきかもしれない。

 

 この森に現れる個体は、放置された古城を拠点として暮らしている。

 彼等は「森の王国」の住民。200年以上昔、仁徳に溢れた大型機械生命体「国王」によって設立された国の民。

 

 128年前に国王が崩御して以来、その王の形見とも言うべきメモリーチップを基にして作られた2代目国王が統治をしており、その王を「王国騎士団」と呼ばれる者達が護っている。

 そんな小国中の小国に、1人の異邦人が現れた。

 

 

 MACHINE SIDE︙森林地帯

 

 得物を構えて用心深く、何度も辺りを見回す。そして異常が無い事を確認し、再び歩き出す。

 

 何日も、何年も、何十年も繰り返した事だ。1日8時間、自分の住む国を守る為、警備に務める毎日。

 飽きや怠惰等は全く無い。寧ろ、国王を守るという名誉な役割を果たしている事に対して喜びを覚えていた。そしてそれは、2代目国王が誕生してより強固になったと言えるだろう。

 

 そんな「彼」は今日も、いつも通りに王城の周辺警護に務めていた。

 今日も頗る平和だった。平時と変わらない穏やかな時間が流れて行く。

 

『今日も、異常無シ』

 

 そう呟いた「彼」はふと気付く。もうそろそろ交代の時間だ。

 

 ガチャン、ガチャンと駆動音を鳴らしながら門へ向かう。

 その時、1つ首元から1つ部品が転げ落ちてしまった。

 

 

『おッと、こりゃイカん……何処に落ちたンだ……』

 

 

 ノイズにも似たエコーを伴った声が、『彼』の発声スピーカーから漏れる。

 先程落とした部品は、先代国王の体の一部だった。

 王はエネルギーもパーツも、何ら躊躇する事無く国民に与えた。それが彼自身の命を削るとしても、彼は分け与え続けた。その命の炎が消える時まで。

 

 先程の部品は、その国王から賜った名誉あるモノなのだ。失くしたとあらば、一生後悔する事は間違いないだろう。

 

 その場にしゃがみ、オロオロとしながら部品を探し始める。何処だ、何処に行ったんだ。ブツブツと呟きながら、『彼』は探し続けた。

 目の前から近寄る気配と足音に気付く事も無く。

 

 

 

「アンタの落とした物って、これかい?」

 

 

 

 

 機械生命体特有のエコーを伴わない、低い声がすぐ目の前から響いた。

『彼』は慌てて後ろへ飛び退り、得物である槍を構えて眼前の何かに向かって構える。

 

『誰だッ!! さてハ、アンドロイドの仲間だナッ!!』

 

 その「何か」は何ら臆する事なく、手を広げてホールドアップのポーズを取った。

 余裕すらも感じさせる笑みを浮かべながら降伏を表す光景は、何処か相手をおちょくっている様にも見える。

 

 

「そうカリカリすんなよォ……ほら、アンタが探してたブツってこれじゃないのかい?」

 

 

 上げた右手の掌をひらひらと動かすと、その中に陽光を反射して光るモノが有った。

 

『あっ!? そレは王より賜ったパーツ! 返せ!!』

 

「おっと、ただで渡す訳にはいかないんでねェ……一つ条件を飲んで貰おうかァ」

 

 憤慨しながら部品を返すように命令するが、応じるどころか条件を提示して来た。

 

『……何ダ、その条件っテ……』

 

 本来の彼であれば力づくで取り返しに掛かるだろう。しかし、今回は懸かっている物が余りにも大き過ぎた。

『彼』の家宝とも言うべき物を戦いの最中に誤って破壊してしまったらどうしよう。断った瞬間、そのパーツが粉々に砕かれてしまったらどうしよう。そんな状態に陥った彼の思考回路に、「応戦」の2文字が浮かぶ事は無かった。

 

 数秒後、手の中に握られたパーツを見せつけながら、「何か」は『彼』に向かって1つの条件を告げた。

 

 

「アンタの所の王様に、お客が来たと取り次いで貰いたい。ちょっとばかしビジネスのお話が有るんでねェ……」

 

 

 

 

 YoRHa SIDE︙バンカー

 

 

 

 遡ること6933年前。

 

 西暦5012年、この星に地球外生命体……所謂エイリアンと呼ばれるモノが襲来した。

 彼等の目的は、所謂テラフォーミング地球を自分達の新たな植民地に作り変えるべく襲来したのだ。

 

 彼等は地球に存在しないオーバーテクノロジーによって作られた飛行物体と、彼等の分身とも言うべき絡繰の兵士「機械生命体」を用いて人類を攻撃し始めた。

 

 しかし、人類もただ黙っている訳で終わらない。多大な被害を被って月に居住域を移しながらも、人類はエイリアンに対して反撃を開始した。

 その手段とは、「アンドロイド兵士」を用いたモノ。

 5013年頃から機械生命体を主な戦力とし始めたエイリアンには、此方も機械を主戦力にして対抗すれば良い。それに単なる機械ならば、人道的に何の問題も無い……そう考えたのだろう。

 

 そして、アンドロイド兵士達によって結成された機械生命体の根絶及び人類の居住域回復を目的とした「人類軍司令部」は、地球の衛星軌道上に基地群兼司令部である施設「バンカー」を設置。

 

 

 "For the Glory of Mankind"

「人類に栄光あれ」

 

 このスローガンを掲げた人類軍司令部は、月に設置された「月面人類会議」の指令の下でアンドロイドを大量投入して機械生命体に反抗を開始した。

 だが、何十回何百回と降下作戦を繰り返しても充分な成果を挙げる事は出来ず終いであり、人間とエイリアンの代理戦争は膠着状態を迎えていた。

 ちなみに西暦11945年現在の最新の降下作戦は「第242次降下作戦」である。もっとも、近々更新されるという情報が入っているが。

 

 

 そんな中、従来のアンドロイドよりも高性能な新型機体「ヨルハ」によって構成された「ヨルハ部隊」が設立された。

 

 

 彼等は戦闘部隊とそれを補佐するオペレーター部隊に分かれて活動している。

 戦闘員は黒服と目元を覆う戦闘用のゴーグルが特徴であり、オペレーターも黒い服を纏っている。しかしオペレーターが覆っている場所は、目元ではなく口元だ。

 

「ヨルハ」に所属するアンドロイド兵士は規則で感情を持つことを禁じられている。

 だが実際の所それ程強制力は無く、彼等には感情の起伏どころか確立した個性すら見出す事が出来る。

 この感情禁止は、所謂「暗黙の了解」にも似た様なモノと言えば良いだろうか。

 ヨルハ機体の各個体データは定期的にバンカーへとバックアップを取るように義務付けられている。

 これを行うことで任務中に敵性機械生命体の攻撃等で死亡したとしても、そのデータを新しい義体へ入れることで、同一個体として復活することが可能である。

 

 また、隊員は最高司令官である「ホワイト」を除き固有の名前を持っていない。

 故に、型名の略称が通称名として用いられている。

 例えば、ヨルハ114号D型という機体が居るとしたら114D。ヨルハ514号S型という機体ならば514S……といった感じである。

 

 ヨルハ機体の型を示すアルファベットはそれぞれの役割を表しており、簡単に説明すると以下の通りである。

 

 

 ・B型

 Battler(バトラー)の頭文字を取ってB型。

 ヨルハ機体の中では最も生産数が多い。

 機械生命体との戦闘を想定した機体で、とりわけ近距離戦闘を得意とする。

 大剣や刀、槍、拳などの多彩な武器を容易く使いこなす事が可能である。

 

 

 ・S型

 Scanner(スキャナー)の頭文字を取ってS型。

 情報分析、ハッキングなどを用いたサポートに特化している。

 女性の機体が大半を占めるヨルハにおいて唯一の男性型モデルである。

 

 

 ・O型

 Operator(オペレーター)の頭文字を取ってO型。

 常時バンカーに滞在しており、任務中のヨルハ部隊に指示を伝達する事に特化している。

 その為に、ヨルハ機体の中でO型のみ地上への降下を禁止されている。

 地上に居る機体への定期連絡も行っており、一部の機体では定期連絡のつもりが無駄話や世間話になってしまう事も有る模様。

 

 

 ・D型

 Defenser(ディフェンサー)の頭文字を取ってD型。

 他の機体を防御する事に特化しているタイプで、生産数が少なく貴重な存在とされている。

 

 ・H型

 Healer(ヒーラー)の頭文字を取ってH型。

 味方の回復に特化しているだけでなく、日々進化する論理ウイルスのワクチン開発を担当している。

 

 

 ・E型

 Executioner(エクスキューショナー)の頭文字を取ってE型。

「処刑人」の名の通り、離反や脱走を行ったヨルハを処分する為の機体。

 同じヨルハを相手取る事を想定されている為、戦闘性能はB型を遥かに上回る。

 一応他の機体にもE型の存在は知られているが、同じヨルハを倒さなければいけないという性質上快く思われてはいない。

 

 

 以上が、11945年の時点で主に運用されているヨルハ機体の種類である。

 以前はA型やG型等が存在していたが、現在のバンカーでは生産されていない。

 

 そんな高性能なヨルハ機体だが、彼女達をもってしても機械生命体の制圧は困難を極めた。

 依然として膠着状態が無くなる事はなく、時は無情に過ぎ行く。

 

 そんな状態が続いた西暦11945年、バンカーに1つ奇妙な報告が届いた。

 

 

「司令官、少し宜しいですか……?」

 

 

 恐る恐るといった感じで上司に告げたのは、ヨルハ6号O型。

 6Oと呼ばれる彼女は、ヨルハ機体の中でも非常に感情豊かな部類であり、いつも笑顔を絶やさないムードメーカーである。

 欠点と言えば感情豊かなあまり世間話や無駄話に夢中になって、司令官や同僚のヨルハ21号O型にお叱りを受けるという点だろうか。

 

 そんな笑顔の化身たる彼女が、顔を青くしながら上司に報告をしに来た。

 顔が青い理由は、自分が苦手とする司令官だからという事だけでは無いだろう。

 

 

「お前から話し掛けて来るとは珍しいな、6O。顔色が悪いが……どうした?」

 

 

 平時であれば後にしろ、と伝えていたかもしれない。

 しかし、彼女の血の気が引いた顔色と固くなった表情が事の深刻さを物語っていた。

 

 

 

「14時間25分前、大気圏に突入した物体が有ったんです。200cm程度の大きさだったから、単なるデブリだろうと思ったんですけど……」

 

 

「……そんなデブリがどうした? 大気圏に突入した時点でその程度の大きさなら、すぐに燃え尽きて……「違うんです!」」

 

 

 6Oがホワイトの話を遮る。

 そんな事は、普段の彼女を知る者からすると考えられない行為だ。

 

 

「……何が、どう違うんだ……?」

 

 

「実はそのデブリ、大気圏を超えても全く燃え尽きなかったんです。けど、地面に着弾しても殆ど衝撃波が出ませんでした……。2mの隕石が落下していたら、1908年のツングースカ大爆発の様に半径30km以内の地域が蒸発している筈です! それに、これを見て下さい! 大気圏に突入していく例の物体を捉えた画像です!」

 

 

 最後の方は半ば興奮気味に話した6Oは、画像のホログラムを出現させてホワイトに向けて見せた。

 

 

「……これは……!?」

 

「司令官、確認出来ましたか……?」

 

 ホワイトは6Oの様に声を震わせ、画像を凝視した。

 

 

 

 

 その画像に映っていたのは

 

 

 

 

 

 

 真紅に染まったコブラの様な、人型の『何か』であった。




(文才が無くて)もう気が狂う!(糞土方)
機械生命体君の口調が少し迷子になってるのはおにいさんゆるして
最後の異形の正体、勿論あの人の究極態です。

それから読んで頂いた人はもしかしたら気づいたかもしれませんが、今回から以下の表現を導入してみます。

ヨルハ側からの視点で描く際、直前に
「YoRha SIDE」

機械生命体からの視点で描く際、前述の通り直前に「MACHINE SIDE」

エボルトからの視点で描く際には
「EVOL SIDE」

という感じの表現を使ってみました。説明が下手クソで申し訳ございません。
マッスルギャラクシーボトルの音声からインスピレーションを受けてこの表現を使ってみました。感想欄で指摘などを頂けると有難いです。


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Phase 3.毒蛇の柔媚

サブタイトルの法則がクウガの2文字縛りからアギト風に変わったので初投稿です。
今回エボルトさんの出番は前話までに比べると少なめかもしれない。
アンドロイド側が、新手の地球外生命体であるエボルトに対してどう動くかを描けてたら良いなって…(届かぬ願い)(文才皆無)(瞬足)(ハザードフォームで差をつけろ)


この小説のエボルトさんは「つくってあそぼ」じゃなくて「つくってこわそ」って感じ(語彙力が来い)


YoRHa SIDE︙バンカー

 

ホワイトは自室で悩んでいた。

悩みの種は無論、あの『何か』の事である。

 

 

確かに、西暦1100頃からエイリアンの目撃情報が少なくなったとは言えども警戒はしていた。

アーカイブに残された資料や映像を基に、来る日も来る日も目撃情報が無いか血眼になって探していた。

ホワイト本人としては、いつエイリアンが現れても臆する事無く迎え撃つつもりでいたのだ。

 

 

だが、だがしかし。

 

 

「……『アレ』は何なんだ…!?」

 

動脈から流れ出た血の色を思わせる真紅の体色に、怒り狂ったコブラの胴を思わせる造形。

何より、カメラ越しだというのにひしひしと伝わる圧倒的な威圧感。

幸か不幸か、画像に映っている『アレ』は、大気圏突入の際に発生した高熱によって発生した陽炎で歪んで見える。

もしも直接見てしまったら、正気を失うのでは無いだろうかと真面目に考えてしまう程であった。

 

「…恐れてばかりいられない。私は、《ヨルハ》の司令官なんだ。トップの私が敵に恐れ慄いてどうする」

 

まるで過呼吸を治すかの様に、深呼吸を繰り返す。

恐れるな、これは仇敵を根絶やしにするチャンスかもしれない。声にこそ出さないが、自分にそう言い聞かせる。

 

そして、ホログラムの画像に映った『アレ』をよく観察し始めた。

 

「腰の部分だけ機械の様に見えるが…何らかの身体構造か?それとも、外部から装着したデバイスか…?」

 

分析に一度没頭すれば、恐怖は直ぐに薄らいでいった。「S型(スキャナー)」にこそ及ばないが、巨大な軍事組織の司令塔足る彼女の分析能力は他の機体よりも頭一つ抜きん出ている。

そして、過去のエイリアンに関する映像アーカイブ等を引っ張り出して来た彼女はふと気付いた。

 

 

「……今まで出現したエイリアンのどの形にも当て嵌らない…」

 

 

最初にエイリアンが目撃された5013年から現在の11945年に至るまでの画像と参照したが、同個体どころか似通った姿をした個体すら見つからなかった。

 

地球で突然変異したエイリアンか?それとも機械生命体か?まさか人類会議?いや、それは()()()()()()()()

 

 

「……それとも…第3勢力……?」

 

エイリアンでも人類でもない、新たな勢力の存在かもしれない。

たった一枚の画像だけだ、そんな事は無いだろう。そう自分に言い聞かせても、この画像に映った『アレ』は主張し続ける。

否定出来る材料なんて幾らでも有る、そんな事は彼女自身よく分かっているつもりだ。

だが、『アレ』は主張を続ける。

白と黒で作られた世界に、真っ赤な血のシミを作り続ける。99の否定を、赤く染まった「1」が破壊しようとする。

 

 

「俺は違う!!」と。

 

 

 

…まるで、論理ウイルスだ。

 

ホワイトは独りごちた。そうだ、とても似ている。論理ウイルスに。たった1つでも入り込んでしまえば、放っておくだけで体の隅々まで浸透してしまう。

 

『アレ』に対して抱いている今の感情も同じだ。

 

必死に否定し、恐れるなと言い聞かせなければ忽ち呑まれてしまうだろう。

ブラックホールの様に深く、鮮血の様に赤い何かに。

 

「…次の降下作戦で、功績を挙げた者に依頼しよう」

 

ホワイトは決心した様に、閲覧していたホログラム画像とアーカイブを閉じた。

1人で調べるにはあまりにもハードルが高い事案だ。だが優秀な機体が数人居れば、もしかしたら。

 

「…ふぅ……」

 

溜息を吐き、廊下に出て窓の外を見る。

 

眼下に広がる母なる星、地球。

 

その地球の何処かに『アレ』が潜んでいるのだ。

 

 

「…何処に、居るんだ」

 

 

普段の凛とした彼女からは考えられない、か細く弱い声でホワイトは呟いた。

 

 

 

 

 

EVOL SIDE︙森の国の城

 

 

「そーんな物騒なモン突きつけるのやめてくれねェか?ま、無理な話だろうがなァ」

 

森の国の王との対談を狙った男───エボルトは、後ろから小型機械生命体に槍を突き付けられながら国王の居る場所へと連れられて行く真っ只中の状態である。

 

(…しかし、蒸し暑いねェ。機械の奴等にとっちゃ過酷だろうな。あまりと言えば、あまりな境遇ってモンだなァ…)

 

辺りをチラチラと見回しながら歩き続ける。時には道を間違え、背後で槍を突き付けている機械生命体に『そッちの道じゃない』等と言われながらも、どうにかして「王様」が居ると思しき広場に辿り着いた。

 

 

「…此処かァ?この国の国王が居る場所は」

 

『そうダべ、この広場の真ん中にいらっしゃる。跪いて、謁見ノ挨拶をするべ』

 

 

「はいはい、分かった分ったァ…」

 

 

言われるが儘に広場中央へ向かい、跪く。

しかし、妙な事に気が付いた。機械生命体はどれもこれも同じ顔をしているが故に、エボルトには誰が王だか見分けがつかないのだ。

 

 

「…どれが国王様だ……?」

 

 

少し顔を上げ、機械生命体の面々の顔を見回す。

するとその内の一体が、広場中央のすぐ側に安置してある揺籃の中から何かを抱き抱えて戻って来た。

 

 

(…まさか…赤ン坊が国王です、なんて事は言わねェよな?)

 

 

『このお方ガ、2代目の国王様ダ!』

 

 

(当たっちまったよチクショウ)

 

 

心の中で何処かコント染みた事を愚痴りながら、取り敢えず跪いて御辞儀をする。

 

 

『面を上げい』

 

 

面を上げろ、と言われても「一度目では」上げない。これは、エボルトが以前地球に滞在していた際に放送されていたTVドラマで得た知識である。

 

 

『面を上げい』

 

 

「2度目」で漸く顔を上げる。そしてエボルトは、恐る恐るといった様子で尋ねた。

 

 

「…国王の次に偉い御方は何方?」

 

エボルトの問いに、国王を抱き抱えた機械生命体が答える。

 

『ワシだ。ワシの名前はパラケルスス1493。国王の仕事ヲ補佐していル。お前ハ、この国に何の用が有ッて訪れたンだ?』

 

「…ビジネスのお話って奴をしに来たのさ。俺はアンタらに利益を与えるから、アンタらも俺に利益をくれれば良い」

 

 

「平時に比べれば」謙った態度を取りながら、交渉に入る。

この「利益」の内容に食い付いて来るかどうか、そこが勝負だ。

 

 

『…お前の齎す利益とハ?』

 

 

「端的に言っちまえば、《平和》だよォ…俺はアンタ達の用心棒として、この国を外敵から守る。国王様はまだ幼いからなァ、ちゃんとした環境で育てなきゃならない。そうだろ?俺も一時は子持ちだったからな。その気持ちは、よーく分かる…」

 

「…成程、悪くは無いなァ」

 

 

撒いた餌に食い付いた。そう確信したエボルトは心の中でほくそ笑みながら、彼自身が求める「利益」を提示する。

 

 

「俺が欲しい利益…この国に滞在する権利と、後は世界の情報…取り敢えずはそんなモノで良い。どうだい?ほぼ絶対的な安全の対価にしては、安いモンだとは思わないかァ?」

 

 

『…他の者ト話し合う。そこら辺で休んでロ』

 

 

そう言って、パラケルスス1493は他の機械生命体が居る広場の隅へ向かった。

 

 

「あー、どっこいしょ…」

 

 

跪いた姿勢で痺れた足を動かしながら、エボルトはこれからの事を考えていた。

 

 

(あの反応を見る限り、傘下に入るって事に関しては上手くいった様だなァ。さて、この後取り敢えず都市部へ向かってこの世界の情報を集めるかァ。嗚呼、彼奴等の言ってた『アンドロイド』ってモンが気になるねェ。名前を聞く限りだと人間に近い見た目でもしてるんだろうが…おっと、美味い珈琲を出す店のリサーチもしておかなくちゃなァ)

 

『アンドロイドの仲間かもしれナいベ!入れるのは反対ダ!』

 

『あんな青い服を着たアンドロイドなんてイタか?』

 

ああでもないこうでもないと騒ぎ立てる機械生命体を横目に、パズルのピースを埋めるかの如くスケジュールを組み始める。

すると、その矢先にパラケルスス1493が此方に向かって来た。どうやら、エボルトを受け入れるか否か決まったらしい。

 

 

『…先ず、お前とノ取引を受け入レる事に決まったべ』

 

 

「おっ、ソイツは有難いねェ…交渉成立って奴だ。これから宜しく頼むぜ、大将」

 

 

軽く笑みを浮かべてパラケルスス1493に握手を求めた…が、その手は握り返されない。 「握手を知らないのか?」と一瞬考えたエボルトだが、そんな様子のエボルトを気にせずパラケルスス1493は続ける。

 

 

『だが、オ前には《テスト》を受けテ貰わなけレばなラナい』

 

 

「は...?テストだァ!?…ったく、内容は何だよ」

 

 

予想外の発言にエボルトは数秒間呆気に取られながらも、テストの内容を尋ねた。

ある程度の事ならば易々と解決出来る。不利になるどころか、自分の力の一端を見せて実力を証明するデモンストレーションとして使えるかもしれないと考えた。

 

さぁ、何でも言え。この真ん丸頭のずんぐり体型野郎め。

そんな事を心の中で呟きながら、エボルトはテスト内容を一言一句聞き漏らすまいと構えた。

 

 

 

『テストの内容ハ……アンドロイドを一体殺シ、その首を持ち帰ッテ来るというものダ』




この辺にィ、ヨルハ機体が一体来てるらしいっすよ(機械生命体)
ちなみにサブタイの「柔媚」とは、相手に媚び諂う事を表す言葉です。やっぱりビジネスで相手に擦り寄るのって大切だと思うの(小並感)


さぁ、出ましたオリキャラ
「パラケルスス1493」

彼は森の国王国騎士団の団員であり、摂政の様な役割をしています。見た目は普通の小型機械生命体と何ら変わりません。
幼い国王の代わりに色んな仕事をこなすデキる子です。


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A Side
Phase 4.コブラの顕現


やっとAルート開始したので初投稿です。
さぁ、アンドロイド解体ショーの始まりや(関西クレーマー)
今回も新しいオリキャラが出ますが、重要な役割ではないチョイ役です。

※2019年12月5日改訂。
地球に来た際擬態した姿を当初は白髪戦兎にしていました。しかしそうなると後々の話の展開に矛盾が生じてしまう事に気が付いた為、エボル万丈の姿に擬態したと変更させて頂きました。読者の皆様、あいすみません。
ちゃんとエボル兎は後で出しますよ!!!!

また、サブタイが少々おかしな事になっていたので改訂しました。


 EVOL SIDE︙森の国の城

 

 さくり、さくり。

 ガシャン、ガシャン。

 落ち葉混じりの土を踏む軽やかな音と、機械の駆動音が響く。

 足音は1つではなく、2つ。それらは森の国の外、廃墟都市へと向かっていた。

 

 軽い足取りで歩いているのは、エボルト。歩く度にガチャガチャと音を立てているのは、「ライプニッツ1716」という名前の機械生命体だ。

 

 彼等はパラケルスス1493からエボルトに出された、「アンドロイドを一体殺した上で、その首を持ち帰る」という課題を達成する為に《街》へ向かっている。

 ライプニッツ1716は、その課題達成を見届ける立会人としてパラケルスス1493の命を受け、エボルトに付き添った。

 

 パラケルスス1493が立会人を用意したという事には、1つ大きな理由が有る。

 この辺り一体には壊れたアンドロイドの義体がゴロゴロしており、其れ等の首を適当に捥ぎ取って「殺してきました」と偽る可能性が有るからだ。

 

 

「アンドロイドの首ねェ……。そもそものアンドロイドを知らないンだが、どんな奴なんだ?」

 

『お前とソックリな見た目をしてイる。最近は、白い頭に目隠シと黒い服を着ている奴もチラホラ見掛ける様になっタ。この先の《街》や工場にも居る筈ダベ』

 

 

 エボルトにとっては、滅びた母星よりも愛しい地球だ。とはいえ、現時点では情報が絶対的に不足している。

 そういった側面からも、都市部に潜入する事が出来るのは彼にとって僥倖であった。

 

『見エテ来たベ、《街》だ』

 

 街が見えたというライプニッツ1716の言葉に、エボルトは心を躍らせる。

 

(さてさて、俺の居ない間にこんなのと宜しくやってた人間共とやっと会えるねェ……。そうだ、新世界のnascitaには未だ行ってなかったなァ。石動の奴、ちゃんと真っ黒い珈琲淹れる事が出来てるか不安だよォ)

 

 遠くをよく見ると、懐かしい鉄筋コンクリートの建物群が視界に入った。

 まるで誕生日プレゼントを開ける前の子供の様にワクワクとした気持ちで、2人は街に向かう。

 

 それから数分歩くと、森の木々が開けて《街》の全貌が露になった。

 

 

「よーし、やっとこさ街に着い……た……ぞ……?」

 

 しかし、その《街》を間近に見てエボルトは愕然とした。

 

 

 

 そこには、確かに人間達が住んでいたのだろう。

 確かに、人の営みというモノは連綿と紡がれていたのだろう。

 

 だが、今やその建物群は。

 

 

「緑」に侵食されていた。

 

 

「……おい、何だよこりゃァ……俺の居ない数ヶ月間で何があったんだ……!!?」

 

 

 思わず、エボルトは朽ちて植物に侵食された建物に向かって走り出す。背後からライプニッツ1716が制止する声が聞こえたが、それすらも振り切った。

 

 

(何なんだ……俺の居ない間に、こんな壊滅的な状態になっちまって……!)

 

 

 建物の中へ入り、手当り次第に探し回る。何か、何か手掛かりは無いか。そうだ、nascitaはどうした。戦兎は、万丈は……美空は……? 

 

 半ば錯乱しながらも探し続けた結果、ボロボロになった事務デスクの中から新聞を一部見つけた。

 記事の大半は腐食して読めなかった。しかし1面だけは運良く腐食が殆ど無く、読み取る事が出来た。

 

 その内容は……

 

 

「2018年……国立兵器研究所建設……? 魔法及び魔素の研究と兵器転用……?」

 

 

 明らかに自分達の知っている世界と違うモノであった。2018年といえば、桐生戦兎が自分を打ち倒して新世界を作り出した年だ。

 それに、首相や外務大臣が自分の知る新世界と異なっている。新世界では、首相に氷室泰山が。外務大臣は御堂正邦が就いていた筈だ。

 

 明らかな齟齬。これでは、まるで別の世界に来てしまった様では無いか。

 

 

 

 

「……別の世界……?」

 

 

 

 

 

 自嘲した自分の中でふと浮かんだワードを、エボルトは噛み砕くように呟く。

 

 そして鮮明に思い出した。エボルドライバーを奪還する前の出来事を。

 平行世界への扉を開こうとした科学者と、その科学者が生み出した産物を。

 

 

「……エニグマ……」

 

 エニグマ。最上魁星という科学者が生み出した、平行世界に干渉する機械。

 最上魁星は、かつて東都先端物質学研究所の科学者でありながら、葛城巧───後に桐生戦兎となる男の上司だった。

 エボルトを含む「ブラッド族」が生成する強大なエネルギーを秘めたオブジェクト「パンドラボックス」から生み出された物質「ネビュラガス」を研究する中で、ガスに含まれていた異世界のウイルスを発見した最上魁星は、平行世界の存在を知った。

 

 その後は平行世界の研究に没頭し、ついには先述のウイルスを元として作り出した新型ウイルスを動力源とする平行世界移動装置「エニグマ」を開発しようとしていた。

 

 しかし東都政府がエニグマの開発資金提供を出し渋った為、最上を招聘した「難波重工」と呼ばれる巨大企業に籍を移し、そこで葛城巧を助手として「エニグマ」を開発に取り掛かった。

 その中でネビュラガスと異世界のウイルスによる生体兵器「カイザーシステム」を考案している。このカイザーシステムは、後に西都の戦闘兵士「ブロス」へと引き継がれた。

 

 しかし、最上魁星の真の目的は別にあった。

 

 彼の真なる目的は「エニグマ」を平行世界合体装置として完成させ、2つの平行世界を衝突・消滅させる一方で、平行世界のもう一人の自分と融合して不老不死の力を得ることであった。

 

 だが、その目的を知った葛城と衝突。 取っ組み合いの喧嘩になる内に図らずも「エニグマ」に接触してしまった最上は、左半身を失うという重症を負ったため、葛城に強い憎しみを抱いていた。

 

 彼の野望は奇しくもエボルトの計画をとことん邪魔しており、当時まだ本来の力「エボルドライバー」を取り戻していなかったエボルトにとっては、正に目の上のタンコブであった。

 流石に不味いと危機感を抱いたエボルトは、異世界から飛ばされてきたとある人物に接触したり、仇敵である戦兎にもこの事件におけるヒントを仄めかしたりなど、あちらこちらへ奔走して最上魁星の計画を阻止しようとした。

 結果としては異世界の「仮面ライダー」の力を借りて、どうにか阻止出来たが。

 

 

「……成程なァ。此処は平行世界か……」

 

 平行世界だと考えると、今まで引っ掛かっていた事にも辻褄が合う。

 

 何故、戦兎達仮面ライダーが動かなかったのか? そもそもこの世界にライダーが居ないから。

 何故、首相や外務大臣の名前が違うのか? 氷室泰山も御堂も存在していないから。

 

 

「つまり……俺はブラックホールで適当にワープしたら、別の世界へ突入しちまったって訳かァ……」

 

 

 手に持った新聞を懐へ仕舞い込む。

 その顔に、先程狼狽していたとは思えない程に凶悪な笑みを浮かべながら。

 

 

 

 ────玩具が、増えた。

 

 

 

 ライプニッツ1716の声が聞こえ、エボルトは其方へ戻った。

 

(先ずは、俺の拠点確保が先だァ……。この世界にも人間は要るだろう、精々楽しませてくれよォ……)

 

 

 

 EVOL Side︙工場廃墟

 

 工場。

 機械を用いて様々な製品の生産を主としている施設だが、既成製品の機械関係の点検・整備・保守等のメンテナンスも行う役割を兼ねている。

 そんな人類の遺産たる工場も、今や機械生命体に占領されている有様だ。

 機械が機械を占領する、という光景を横目にエボルトとライプニッツ1716は工場廃墟に設立されている巨大な建物の上から辺りを見回していた。

 

 

 結局あの後廃墟都市を見て回ったものの、ターゲットとなるアンドロイドは影すら見つからなかった。

 その為別のエリアを探そうという事になったが、ライプニッツ1716が工場に行こうと提案したのだ。ここには廃墟都市よりも高い建物も多い。上から見回せば見つけられるだろう、というモノである。

 これから拠点とする場所の住人と波風立てるのは得策ではない、と考えたエボルトは素直にその提案を飲んだ。

 その結果、今に至る。

 

 

 しかし、居ない。何故かアンドロイドは居ない。

 

 

「……居ねェな」

 

『……そうだなァ』

 

 ふあぁ、とエボルトは思わず欠伸が出てしまった。宇宙を彷徨っていた時に比べるとマシだが、退屈なのだ。

 人間もアンドロイドも見当たらない。さっさとこの星をブラックホール送りにしてしまおうか。

 頭の片隅でそんな物騒な事を考えていた、その時。

 

 

「……ん?」

 

 

 妙な感覚がエボルトを襲う。五感で感じる感覚とは全く異なる何かだ。人間で言う所の「第六感」、というモノだろうか。

 

 

「この姿じゃ、補足にも戦闘にも限界があるなァ……。仕方が無い。少し早めのデモンストレーションと行こうかァ」

 

 

 そう言って、懐から少し大きめの『何か』を取り出す。

 その『何か』は血の様な赤色をベースとして、金や瑠璃紺の装飾が散りばめられた派手なカラーリングをしていた。

 

 それを腰部分に宛がうと、『何か』の左右からEVバインドという帯状のパーツが出現し、腰に自動で巻き付く。

 

 

【エボルドライバー!!】

 

 

 その名は、エボルドライバー。パンドラボックスのポテンシャルを、最大限に引き出す事が出来る唯一無二のデバイス。

 

 

『オ前、何をする気ダ……?』

 

「ちょっとしたショーだよ。黙って観てろォ……その為に着いてきたんだろ?」

 

 

 戸惑うライプニッツ1716を横目に、エボルトは更に2つの掌に収まる程度の小さな絡繰「エボルボトル」を取り出す。

 一方はエボルドライバーの基本色のように赤く染まっており、もう一方は無機質な黒に染まっている。

 

 エボルトはそれをドライバーに空いたEVボトルスロットと呼ばれる部位に差し込む。赤を右側に。黒を左側に。

 

 

【 コブラ! ライダーシステム! エボリューション!!】

 

 

 ベルトの留め具にも見えるパーツ「EVクオリファイザー」が、装着者をエボルト本人であると認証。

 そして、エボルトがドライバー右側のパーツ「EVレバー」を回転させた。

 

 

 ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの交響曲第9番のサビ部分にも似た音を鳴らしながら回し続ける。

 すると、ドライバーに内蔵された「EVモジュール」と呼ばれる高速ファクトリー生成装置から、「EVライドビルダー」という装備生成ファクトリーが装甲を形成。

 

 

『Are You Ready?』

 

 

 そして「ドライバー」は問い掛ける。

 

 その問いは、変身する者に問うたのではない。

 

 その問いを投げ掛けられたのは、変身する者以外の全てだ。

 

 

 そう、それ即ち生きとし生けるもの全て。

 

 

 

『 俺 の 餌 と な る 覚 悟 は 出 来 た か ? 』

 

 

 

 

 

 

 

「───変身」

 

 

 その宣言と同時に、交差させていた手を前にゆっくりと広げる。

 

 まるで「この宇宙は全て俺の餌だ」と主張するかの様に。

 

 

 

 

 その右手は、全てを壊す為。

 

 その左手は、全てを殺す為。

 

 

 

 

【 コブラ! コブラ! エボルコブラァ!! フッハッハッハッハッハッハッハァ…… 】

 

 

 EVライドビルダーによって生成された装甲が、エボルトを挟み込む様に合体。機械から発せられる音声にしてはあまりにも禍々しく悍ましい笑い声を響かせ、「変身」を完了させる。

 

 

『な、何ダベさ……お前……』

 

 

 基本的に無機質な機械生命体特有の声が、恐怖で震える。彼が初めてアンドロイドを目にした時ですら、ここ迄の恐怖を覚えた事は無かった。

 自分にとっての恐怖は、王様に不幸が訪れる事。それしかないと半ば自負すらしていたというのに、今自分は情けなく震えている。王にではなく、自分の身に危機が迫っているのに。この機械のカラダは王に捧げた筈なのに。

 

 ……怖くて、怖くて堪らない……!! 

 

 

 声だけでなく体すらガタガタと震わせるライプニッツ1716に、その「異形の鎧」は語る。

 

 

 

 

「俺の名前かい? そうだねェ、俺の驚異になりそうな奴等はそこまで居ないからな……教えても良いかァ……。 俺の名は、エボルト。この星の……いや、この世界の『外側』から来た地球外生命体だァ……」

 

 

 

 

 蛇が、嗤う。

 




ああああああああああ!!!!!(文才の無さに対する嘆き)
それはさておき、いきなり最終兵器エボルさんの登場です。スタークさんは後々重要な役割として確り出すつもりなので、暫しお待ちを…!

感想お待ちしております。


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Phase 5.毒牙の行先

お気に入り100件ありがとうございます。
ランキング30位台に載って狂喜乱舞した結果膝に矢を受けたので初投稿です。

それから、これはさっき第4話の前書きにも載せた事ですが、色々と大幅に改訂を行ったので第1話から再読を推奨します。読者の皆様、あいすみません…()


 EVOL SIDE

 

 

 エボルト。 金と赤の装甲を纏い、そう名乗った『ソレ』は横で怯えているライプニッツ1716を放置し向き直る。

 

 その方向に有るのは紺青色の大海。

 もしも人間達が見れば「絶景」とでも表現するかのようなモノ。

 これでは単に景色を楽しんでいる様にしか見えないが、エボルトが()()()()所は別にあった。

 

 海上を高速で飛行し、此方へ向かってくる物体が6つ。

 エボルトは、常人では確認出来ない遥か遠くのものを頭部に備えられた特殊視覚センサー「EVOツインアイコブラ」で視認、補足していた。

 

 EVOツインアイコブラで補足した物体を、今度は別のスキャンセンサー「EVOコブラフェイスモジュール」で細かく分析する。

 

 

「ふーむ……ミサイル、ガトリング……変形すると近接戦闘用ブレードでの戦闘が可能になるのかァ。戦闘機と言うよりは、漫画に出てくるロボット兵器だねェ……」

 

 

 滝の様に流れ来る分析結果のデータから、今現在必要であると判断したモノを拾って確認。

 この程度のスペックならば、すぐに始末出来そうだ。そう結論付けると、エボルトは赤色の「コブラエボルボトル」をドライバーから取り外した。

 

 そして懐から赤いクリアパーツで構成された「フェニックスフルボトル」を取り出し、空いたドライバーのスロットに装填、変身を遂げた時の様に再びEVレバーを回す。

 

 

【不死鳥! ライダーシステム! クリエーション!! Ready Go!! 不死鳥・フィニッシュ!! Ciao(チャオ)!!】

 

 

 すると、背中の装甲から炎で形成された不定形の翼が一対現れた。

 

「さて……行くかァ。お前はココで大人しく待ってろよォ?」

 

 横で呆然としているライプニッツ1716にそう伝えると、エボルトは翼をはためかせながら空へと飛び立った。

 アンドロイドという「獲物」を捕らえる為に。

 

 

 

 

 YoRHa SIDE︙上空

 

 

 雲の中。 それを言葉で表すならば、灰色の絵の具を掌に付けてぺたぺたと紙に塗りたくり、それを水でふやかしたモノを辺り一面にぶちまけた様な不透明な場所。

 

 雲は人類の遺した「御伽噺」と呼ばれているカテゴリーの中で、如何にも綿の様に柔らかいモノとして描かれる事が多い。

 だが実際の所は、水滴が雨の様に身を打つ過酷な場所だ。こんな所に、遥か古代に生きた私達の創造主は何を夢見たのか。

 

 いや、そんな事を悠長に考えるのはやめよう。これは重要な任務だ。

 頭の片隅で考えていた雑念を体から排出する様に深く息を吐き、ボブカットにしたシルバーブロンドの髪を揺らしながら「彼女」は自動航行システムを作動させた飛行ユニットで飛び続ける。

 

 

 彼女の名は「2B(トゥービー)」。

 正式名称は、ヨルハ2号B型。

 

 

 彼女は西暦11942年1月30日午前4時25分に生を受けた。

 機械生命体を打ち倒し、月面に避難した人類を再び母なる星に帰すという宿命を背負って。来る日も来る日も、その使命を果たす為に戦うのだ。

 

 

 そして、西暦11945年3月10日の本日。2Bはヨルハ部隊の一員として、工場廃墟に出現した超大型機械生命体の討伐を目的とする「第243次降下作戦」に参加していた。

 

 

 ❮こちら司令部。ヨルハ部隊、応答して下さい❯

 

 

「こちら2B。全機無事に成層圏を突破。自動航行システムに異常無し」

 

 

 成層圏を突破し対流圏に入り、高度を下げて海面より30〜40m程の高度を維持しながら目的地である廃工場を目指す。

 

 2Bの専属オペレーターであるヨルハ6号O型──通称6O(シックスオー)からの通信に応答しながら、自分を含むヨルハ部隊は空中で陣形を組む。

 形としては、「鶴翼の陣」が一番近いと言えるだろう。

 

 2Bを中心に据え、右備外側に4B(フォービー)、右備内側に11B(イレブンビー)

 左備外側に7E、左備内側に12H(トゥエルヴエイチ)

 そして後備に1D(ワンディー)を配置した陣形だ。

 

 ❮こちらオペレーター6O、全機反応確認しました! ❯

 

「現在、対目標50km地点を通過」

 

 ❮敵防空圏内に突入後マニュアル攻撃形態に移行し、目標の大型兵器の破壊と情報収集にあたってください❯

 

「了解……」

 

 6Oを介して伝達される指令に対して淡々と了解の意を伝え、通信を切断。

 いつ機械生命体が襲来してもおかしくはない、と考えた2Bは神経を尖らせる。

 

 しかし、そのコンマ数秒後。

 

 2B達ヨルハ部隊の周囲を、()()竜巻が取り囲んだ。

 

 

「な……これは……ッ!?」

 

 

 自分達を360°ぐるりと取り囲む炎。その炎に炙られた海水が一気に蒸発を始めて、つい数分前通り過ぎた雲の中を彷彿とさせる様な濃い霧を作り出す。

 あまりにも突然の出来事に、ヨルハ部隊は数秒足止めを喰らってしまった。

 

 その数秒間の隙。もしも数えていたら片手の指の数よりも少ないであろう、たった数秒の隙。

 

 それが、惨劇を招く。

 

 

 

 

 

【スチームブレイク!】

 

 

 

 

 

 

「い"や"ぁぁァあァッ!!!」

 

「うあぁあ"ぁ"ッッ!!」

 

「あぁああ"ァァッ!!!」

 

「がぁァあぁぁッ!!!」

 

「やぁあ"ぁ"ぁァあッ!!!」

 

 

 2Bの周囲から、破砕音と爆発音に混じって苦痛に満ちた叫び声が何度も響く。

 後に残ったモノは不気味な程の沈黙だけ。

 

 

 そして、この沈黙が表す事は一つ。

 

 僅かで、5()()()()()()ヨルハの精鋭達が2Bを残して全員ロストしたという事だ。

 

 

 

「……ッ!!」

 

 

 バンカーへの状況報告も目の前を塞ぐ炎の壁も忘れ、2Bは一気に飛行ユニットのブースターの出力を上げて無理矢理に炎の壁を突破した。

 

 

「ぐぅ、ッ……」

 

 

 人工皮膚と毛髪が焼ける嫌な音がしたが、構わず突っ切る。大丈夫だ、ほんの少し焼けただけ。

 そう言い聞かせながら、脱兎の如き速さでその場から離れた2Bはすぐにバンカーへ連絡を入れる。

 

 

「2Bよりオペレーター6O。当機以外の機体は全てロストした。作戦の遂行に支障が予想される。指示を請う」

 

 

 僅かな焦りと先程の惨劇の影響からか、気持ち早目の口調で現状報告と新しい指令の伝達要請を行う。

 

 ……だが、その要請にオペレーター6Oは中々答えない。

 

 

「……6O? オペレーター6O? 応答して、6O!」

 

 

 状況が状況とはいえ、普段冷静な2Bにしては珍しく6Oに声を荒らげる。

 

 ❮はッ……はい、オペレーターより2B。現地合流の9Sと合流し、地形情報を入手して下さいっ! ❯

 

「了解」

 

 2Bは指示を聞き、フルスピードで目的地の廃工場へ向かった。

 まるで、背後から這い寄る何かを振り切ろうとするかの様に。

 

 

 

 YoRha SIDE︙バンカー

 

 

「はぁ……はぁ……ッ……はぁッ……」

 

 

 2Bとの通信を一旦終えた6Oは、先程目にした『モノ』の恐ろしさのあまりに過呼吸気味になっていた。

 

(……そんな……もしかして今のって、あの大気圏に突入していた『アレ』……!?)

 

 

 ぶるぶると小刻みに震える手で、コンソールを操作する。

 そして眼前のモニターに映し出されたのは、7Eに随行していたヨルハ随行支援システム「ポッド364」のカメラから送信されていた映像。

 

 

 

 

 その映像には、あの大気圏に突入していた『アレ』と同じモノを巻いていた異形の姿が映し出されていた。

 

 

「やっぱり……地球に来てたんだ……!!」

 

 

 慌てながら司令官に報告をしに行く際、6Oは密かに考えていた。

 

 

 もしも『アレ』と戦う事になったら、私達には万に一つでも勝ち目は有るのかと。

 

 

 

 EVOL SIDE︙海上

 

「……1匹逃したか……まあ良い。目的のブツは手に入ったからなァ」

 

 炎の翼を羽ばたかせながら、エボルトは独りごちる。

 その両手には、首を掻き切られたアンドロイド達の義体が抱えられていた。




やっとほんへに入れました…
このフェニックスボトルはエボルトさんが密かに複製したブツだと考えて下さい()


バッドエンド心配兄貴でも見れるように、バッドエンドとハッピーエンドとか色々なエンドを書くつもりです(NieR特有のマルチエンディングリスペクト)
ちなみにサブクエストとか日常パートとか健全じゃない奴はもう少し話を進めたら別で書きます。

2019年12月21日,エボルト変身シーンで居合わせたのがライプニッツではなくパラケルススとなっていたので訂正させて頂きました。
指摘して頂きありがとうございました。


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Phase 6.権・謀・術・数

稽古の続きだ!(迫真相撲部)
今回はエボルトが色々と謀略を張り巡らせたりするので戦闘シーンはないかも。
ギャグ回とか日常回とかサブクエストとか不健全な奴は別で投稿する予定なので、皆さんネビュラガスをキメてお待ち下さい(末期)


※今回百合表現が少し有りますので注意!




 EVOL SIDE⋮森の国の城

 

 

「ほらよ.コイツがお望みの品だァ。採れたて新鮮、ついさっき締めたばかりのホヤホヤだよ。初回限定サービスって事で4つ追加しておいた。煮るなり焼くなり、三条河原よろしく一列に並べて飾るなり好きにするといい」

 

 ボトボト、とエボルトが床に落としたモノ。それは、つい先程海上で屠ったアンドロイドの首.つまり、パラケルスス1493から出された「課題」をクリアしたという証だった。

 その首は、まるで死の瞬間をそのまま切り取ったかの様な悍ましい表情を浮かべたまま固まっていた。ブツを差し出されたパラケルスス1493は、一応首の状態と立会人を務めたライプニッツ1716の証言を確認する。

 

 

『……よし、これで合格だ。お前も晴れてワシらの仲間入りダべ』

 

「そいつは嬉しいねェ……これから宜しく頼むよ、先輩方」

 

 

 警戒心を抱かせぬ様にさも嬉しそうな笑顔を浮かべて挨拶をする。笑顔がこのロボット達に理解出来るかという点は怪しい……が、油断は出来ないと考えたエボルトは上っ面だけの笑顔を浮かべ続ける。

 

 

「嗚呼…一番後輩の俺が言うのも少し図々しいが、城の部屋を1つだけ借りていいかァ? ちょいとやらなきゃならない事が有ってねェ」

 

『ええゾ、ワシらは部屋など使わンからナ。…しかし……』

 

 

 部屋の使用を快諾したパラケルスス1493。だが、エボルトが背負っているモノを見てボールの様な頭を少し傾かせた。

 

 

『首無しのアンドロイドなんテ集めて、何をするんダベさ』

 

 

 そう、エボルトは背中に()()()()()()()()アンドロイドの義体を背負っているのだ。まるで旧時代の「学校」と呼ばれる、生まれて6~12年程の幼い人間を教育する施設に設置された偉人の像の様に。

 首から上の行方は言わずもがな、たった今パラケルスス1493に納められた所である。切断面からの液体流出は止まっている事が、辛うじて幸いと言えるだろう。

 

 

 

「ちょっと実験に使うのさ。敵と戦うには、まず弱点を知らなくちゃいけないからねェ。コイツをバラして、隅々まで調べ上げるって訳だ」

 

『……よく分かランけど、ワシらにとって悪イ事じャ無いなら好きニしてくンろ』

 

Grazie! (グラッツェ)それなら早速使わせて貰うよォ……」

 

 

 部屋の使用許可を得たエボルトは嬉々として城の中へ入っていった。

 その背中に、首の無いアンドロイドの骸を4つ背負いながら。

 

 

『……変わった奴だナァ』

 

 

 ︙森の城内部

 

「よいしょっ、と……コイツら一体一体が中々重いねェ……」

 

 

 背中に背負っていたアンドロイドの骸を床に下ろし、ふぅ……と息を吐いて新居となった部屋を見渡す。

 エボルトが居を構えたのは古びた図書室。広さは申し分なく、「事」に及ぶには丁度良いと考えた故にこの部屋を選んだ。

 

 

「よし…じゃあ、始めるかァ」

 

 

 右の掌からゲルともスライムともつかない赤黒い不定形の物質を出現させた。

 これはエボルトの遺伝子だ。彼には自分の遺伝子の一部を分離させ自在に操ったり、別の有機生命体に憑依させて思うがままに操る能力を持っている。この能力を使い、嘗て元の世界の地球に居た際には宇宙飛行士である『石動惣一』の肉体を10年間に渡って操り、謀略を張り巡らせた。

 

 

「……純粋な機械を操れはしないだろうが、情報さえ読み取る事が出来れば御の字ってモンさ」

 

 

 先程エボルトがパラケルスス1493に言った「アンドロイドの弱点を知る為に、この骸を解剖して調べる」という旨。

 これは半分がウソで、半分が本当だ。

 エボルトが知りたい事は、彼等の弱点等では無い。まずはこの世界の情報だ。今は西暦何年何月何日なのか、人間達は何処へ消えたのか、あのボール頭達は何者なのか。

その次に知りたい事。それは、彼等の家……つまり本拠地の場所だ。

 自分の計画を遂行する為には、いずれアンドロイド側のトップとも接触を行う必要があるだろう。そう考えているエボルトは、早くアンドロイド側の本拠地を見つけて潜入しようと画策していた。

 

 

「……行け」

 

 

 合図と共に、掌から解き放たれた遺伝子は首を切り落とした断面から骸の中へと入り、血流の如き速さで内部を探索し始めた。人間の肉体とは勝手が違う為に手こずり、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと迷い続けた。

 

 

「こっちか…? いや、違うなァ。確かシグナルブレードで調べた時にはここら辺だった筈なんだがなァ…。あ、これだこれだァ……」

 

 

 想像はしていたが、ヒトの体と同じく…否、ヒト以上に複雑怪奇な構造をしている。どうにかこうにか目当ての『モノ』に辿り着いたが、あまりにも複雑な構造にエボルトは少し疲労していた。

 その目当ての『モノ』とは、胸部に収納された黒い立方体。先程彼女達ヨルハ部隊を屠る前、エボルトは頭部の特殊センサーで分析を行っていた。その際、彼女等の胸部に高エネルギーを感知したのだ。

 そしてその胸部に存在したその『箱』は、メモリーカードと植物細胞を合わせた様な構造をしていると分かったのだ。

 

 

「少しばかり非効率的なやり方だが、仕方ないねェ。スプラッター映画みたいにグチャグチャにして壊したら元も子もない…。さて、やるかァ」

 

 

 そしてエボルトは遺伝子を『箱』の中へと侵入させ、情報を読み取り始めた。

 

 

「……今は西暦11945年3月10日……その次は…人間共はエイリアンの攻撃で月に追いやられただァ? 情けないねェ……。機械生命体……これはあのボール頭共の事かァ……中々安直なネーミングだねェ。エイリアンによって造られた兵器……案の定地球外の技術だったか。先客が居たとはねェ...。衛星軌道上の基地、バンカー……? さっき来た時そんなモン……いや、俺が気が付かなかっただけかァ」

 

 

 セキュリティをぶち破ってブラックボックス内の情報を読み取りながら、エボルトは次の目標を定める。

 まずはバンカーに行こう。ブラックホールを用いた空間転移を行えばすぐにでも行ける……が、1つ大きな問題が有る。

 

 

「多分見られちまったよなァ……アレ」

 

 

 新たな拠点を手に入れる為とはいえ、既に4人のアンドロイドを叩きのめすという事をやらかした後である。その上、1人逃すというしくじりまでやらかした。

 

 

「……悪い癖だねェ、下等生物だからって舐めると痛い目に遭うのは経験済みなんだが……」

 

 

 そういえば、自分の兄も同胞も下等生物だと侮っていた人間に負けた。

 下等生物を侮るってのは、最早ブラッド族の性じゃないか? そんな事を頭の片隅で考えながら自嘲気味に嗤い、再び情報を読み取り始める。

 すると、ブラックボックスの片隅に妙な映像データが有った。

 

 

 

「……このままだと再生出来ないなァ……仕方ない、使うかァ……」

 

 

 軽く開かれた右掌。その掌の中に先程の遺伝子と同色の赤黒い煙にも似たモノが集まり、銃の様な形に姿を変える。

 

 

【ネビュラスチームガン!】

 

 

 その名はネビュラスチームガン。駆鱗煙銃の異名を持つ銃型デバイスだ。以前記した狂気の科学者、最上魁星が作り上げた人体強化システム「カイザー」を基としている。

 大元は異世界の病原体であるバグスターウイルスと、スカイウォールより発生したネビュラガス。そして開発者の最上魁星亡き後、ハザードやスパークリング、更に「ムテキ」のデータなどを取り込み反映させた強化版「ブロス」が完成した。もっとも、「ムテキ」に関しては戦闘時間が短かった為採取出来たデータは微々たるものではあったが。

 次に、そのネビュラスチームガンに乳白色をしたボトル……『テレビフルボトル』を装填。

 

 

【フルボトル! ファンキーアタック!】

 

 

 そして壁に向かって引き金を引く。すると、壁にブラックボックス内の映像データが投影された。

 これはテレビじゃなくてプロジェクターだな……と呟きながら映像を再生する。

 

 

 その映像とは……

 

 

 〘痛い"!! 先輩、痛い"です"ッ! も"う"や"だぁあッ!!〙

 

〘甘ったれるな!! お前はそれでもヨルハの一員か16Dッ!! もう一度やるぞ!!〙

 

〘やだッやだぁッ!! 痛いィあァァァァッ!!!〙

 

 

 そこに映っていたのは戦闘訓練と思しき風景……ではあるが、あまりにも一方的且つ凄惨なモノだった。一方的に攻めている方が、このブラックボックスの持ち主……つまり「11B(せんぱい)」である。

 嗚呼、人間にもよくある単なるイジメか。エボルトは1人で納得して映像を見続けた。しかし……

 

 

〘……これ終わったら可愛がってあげるから、ね…?〙

 

 

「……あ?」

 

 

 先程まで厳しく叱責していた11B(せんぱい)の声が、猫撫で声にも似た声音に変わる。その豹変ぶりに、エボルトらしからぬ間の抜けた声が思わず出てしまっていた。

 

 そして、その11B(せんぱい)に痛めつけられていた相手も…

 

 

 〘…はい……♡〙

 

 

 同じく何処か惚けた様な声音に……いや、表情までもが真夏の日差しに放置されたチョコレートの様に蕩けていた。

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

 ぷちっ。

 

 

 

 

 エボルトは無言でテレビフルボトルをネビュラスチームガンから引っこ抜いた。旧時代の言葉で例えるならば「そっ閉じ」である。

人間のする事の大半を面白いと思っているエボルトといえど、いきなりキャットファイトからのイチャイチャを見せられてはたまったものではないのだろう。

 

 

 

「……妙なモン見ちまったなァ。嗚呼、しかし『ネビュラ』は慣れないねェ…重さは同じハズなんだがなァ…」

 

 

 少し疲れたのか、解す様に手を動かす。エボルトはネビュラスチームではなく本来は別の変身デバイスを使っていた……が、まだアレは使わないと彼は決めている。

()()()は取っておかなければいけない。

 

 

「さて……」

 

 

 ふーっ……と息を吐いて部屋の隅を見やると、其処には、アンドロイドの骸が4体放置してある。

 

 

「……ま、気長にやるかァ」

 

 

 折角降り立った「別の地球」だ。楽しまなくちゃ勿体無い。そう考えながら、エボルトは残り4体の情報分析に取り掛かるのだった。

 




16D「やだ、やだ、やぁ^~!ねーホントムリムリムリ! あ゙あ゙あ゙も゙お゙お゙や゙だあ゙あ゙あ゙!!」

11B「痛いのは分かってんだよオイ!オラァァ!!YO!!死ね私の後輩!生きろ私の愛人♡ 」

EVLT「ヴォエ!」

エボルトさんがブラックボックスをもう滅茶苦茶にやり始めたんや(糞土方)

ちなみに今回少しだけオリジナル要素として、ブロスにはハイパームテキゲーマーのデータがほんのちょびっとだけ入ってるというモノを描いてみました。

まぁ25mプールにスポイトで一雫垂らした程度のデータ量ですが()


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Phase 7.Bの蹂躙/ 蝙蝠の奸計

少し落ち着いて来たので初投稿です

今回は戦闘描写入れました。
エボルトをメアリースーにはしたくないなぁ、と思ってるけど元々のほんへでもメアリースー的なアレでしたね…()
それから今回、モブハとオリジナルボトルが少し出ます。
オリジナルボトルだったり形態はこれからもちょくちょく出るかもしれませんが、間違いなく出すのは没音声系統だけです。

ちなみにもしかしたら別作品のライダーを出すかも知れません。誰か知りたい人はメッセージボックスで言って頂ければ教えます。


 YoRHa SIDE︙バンカー

 

 宇宙。

 凡そ140億年前に誕生して以来凡百(あらゆる)時間と空間、そして物質を内包したもの。

 宇宙には様々な物質が満ち満ちている。鉄、リン、ヘリウム、そしてコズミックエナジー……挙げればキリがない。そして現在進行形で新たな物質は生まれ続けている。宇宙は全ての母であり、父であり、兄弟でもあると言えよう。

 

 そして神秘の権化たる宇宙に浮かぶ、水を湛えた青い生命の星……地球。8000年程前には『宇宙船地球号』なんて言葉も存在していたとか。

 

 その生命に溢れた星の衛星軌道上。

 円盤にも似た形状をした基地群『バンカー』。地上に蔓延る機械生命体を滅ぼすべく、日夜を問わず戦う彼女達の本部だ。

 その内部の廊下に設置された窓。

 其所のすぐ隣で、ヨルハ部隊標準の黒いゴシックドレスとサイハイブーツ、それにこれまた黒のカチューシャ、最後に布の目隠しの様にも見えるゴーグルを身に着けた彼女───2Bは何処か憂いに満ちた表情で窓の外を眺めていた。

 

 

「……」

 

 

 ……だが、少し俯いて溜息を吐くや否や廊下を歩き出した。

 

 彼女は先日の第243次降下作戦において、アンドロイド『ヨルハ9号S型』と協力して超大型兵器『エンゲルス』を、ブラックボックス同士を接触させることで発生する膨大なエネルギー『ブラックボックス反応』を用いた自爆で撃破するという戦績を挙げていた。

 そんな彼女の『憂い』とは……

 

 

「……あ……」

 

 

 歩く事数分、前方から歩いて来た影が有る。

 そのアンドロイドは2Bと同じ様に黒尽くめの服を纏い、ゴーグルを纏った姿という所では共通している。しかし女性型ではなく男性型モデルという所、ゴーグルの形、そしてスカートではなく膝小僧まで露出した半ズボンにブーツという点で2Bとは異なっている。

 彼こそが、先述の2作戦を成功させたもう一体のアンドロイド『ヨルハ9号S型』。

 またの名を9S(ナインエス)と言う。

 

 彼こそが2Bの憂いの種なのか? その答えは『Yes』であり『No』だ。

 詳しくは、いつの日か分かる事だろう。

 

 

「作戦は成功でしたね……敵大型兵器は破壊され、敵支配地域への侵入経路が確保されました。今後の作「9S」」

 

 9Sが続けて話そうとした所を、剃刀で物を断ち切る様に2Bが遮る。

 私の足を引っ張るな、と叱責を受けるのではないか? と疑心暗鬼になりながらも9Sは少し萎縮した様に「……はい」と返事をする事しか出来なかった。

 数秒の沈黙の後、2Bが口を開く。

 

 

「……有難う。最後に、私達のデータを基地にアップロードしてくれて」

 

 

 2Bの感謝の言葉に、9Sは何処か困惑した様な表情を浮かべた。

 そして先程の2Bの様に、数秒間の間を置いて口を開く。

 

 

「……ごめんなさい。その記憶を僕は持っていません。あの地域は通信帯域が細かったですから……多分、貴女のデータをバックアップする時間しか確保出来なかったんでしょう。僕の記憶は、貴女と合流する直前までしか残っていません」

 

「……そう」

 

 

 9Sは記憶を失っていた。

 以前説明した通り、ヨルハ機体はバンカーに内部データを定期的にバックアップする事で万が一死亡しても殆ど同一の個体として復活を遂げる事が可能となっている。

 例えるならばTVゲームのセーブ機能、もしくは携帯電話におけるクラウドバックアップが該当するだろう。

 

 しかし、もしもそのバックアップが出来ていなかったらどうなるか? 

 当然、死亡するまでの記憶やデータは失われる。その場合、復活した時の記憶はそれ以前のバックアップから引き継ぎが行われる。

 旧時代における「おきのどくですが ぼうけんのしょ は きえてしまいました」等が当て嵌るかもしれない。

 

 

「人類に栄光あれ」

 

 

「……人類に、栄光あれ」

 

 

 一通り話し終えた9Sは左手を胸に置いて「人類に栄光あれ」の言葉と共に敬礼を行う。それに倣い、2Bも同じ様に敬礼を返した。

 

 

「……では、これで」

 

 

 そう言うなり9Sは、2Bの横を通り過ぎて何処かへ行ってしまった。

 

 

「……ッ」

 

 2Bは手に力を込め、まるで林檎でも握り潰すかの様に握り拳を作る。

 9Sへの怒りか? 否、決してそうではない。

 その理由が分かるのは、もう少し先の出来事だ。

 

 

 EVOL SIDE⋮森の城

 

 

「情報を整理するとこんな感じかァ。この時代の西暦は11945年。人類は俺とは別のエイリアンに侵略された挙句、月に逃げちまった。

 今地上に居るのは、人類の作ったアンドロイドとエイリアンの作った機械生命体。アンドロイドの中には『ヨルハ』と呼称される高性能な奴等の集まりが居て、この4体もソレに所属していた。

 コイツらの本拠地は衛星軌道上にあって、それは『バンカー』って名付けられている。コイツらは義体さえあればゾンビみたいに何度でも復活出来て、『ポッド』と呼ばれるお助けメカと共に行動している……」

 

 

 ここ迄言い終えると、懐から翼を広げた蝙蝠をあしらった紫色のボトルと、車のエンジンを象った様な赤いボトルを取り出した。

 

「まずはバンカーと接触しなくちゃなァ。その為には……ポッドを見つけねェと」

 

 そして手慣れた様に変身を行う。

 但し、今回使用するのは毒蛇(コブラ)ではない。蝙蝠だ。

 

 

【コウモリ! 発動機! エボルマッチ!】

 

 

「……変身」

 

 

【バットエンジン! ヌゥハハハハハハ……】

 

 

 紫根染で彩られた様な紫色の複眼。

 白い煙突の様なパイプが何本も突き出している装甲。

 そのボトルを用いて変身した姿は、以前変身した「コブラフォーム」とは全く異なるモノであった。

 

 仮面ライダーマッドローグ。

 人類を守る為、そして真の主である難波重三郎への恩義を果たす為、エボルトの軍門に下った様に見せ掛けて道化を演じていた男が変身していた仮面ライダー。

 

 皮肉にも再び道化として扱われる事となる。

 もっとも、今回はエボルトの野望を遂げる為のファクターとなってしまったが。

 

 

「ポッドはヨルハと一緒に行動しているらしいからな……取り敢えず、コイツらの親戚を探せば良いかァ」

 

 

 そう言いながら、エボルトは『ポッド狩り』を行うべく蝙蝠の翼を広げて城を後にした。

 目指す先は、工場廃墟だ。

 

 

 YoRHa SIDE⋮廃墟都市

 

 

「何で私雑用なんかさせられてるんだろ……。バトラーモデルなのに……」

 

 [警告:作戦行動に対する不満は、人類への反逆と……]

 

「分かってるよ、ほんとにポッドはお堅いよなぁ……」

 

 

 サイドダウンにした銀髪を揺らしてぶっきらぼうに文句を言いながら、相棒のポッド893を連れて廃墟と化した街を歩く一体のアンドロイド。

 彼女の名は35B。地上にてヨルハよりも以前に活動している、レジスタンスと呼ばれるアンドロイド部隊とヨルハ部隊との連絡役という役割を与えられている機体だ。

 

 初めの頃は、ヨルハとレジスタンスの架け橋という重要な任務だと意気込んでいた。しかし悲しいかな、架け橋とは名ばかりで、めぼしい情報が無い時は専らレジスタンスの雑用を行うばかりであった。

 また、最近は機械生命体との戦いも膠着状態が続いている影響で、やっと入って来た情報も「小型の機械生命体が魚を取って遊んでいました」という程度の事だけ。

 どうにか使えそうな情報と言ったら、先日の正午に空を巨大な火の玉が横切っていったという事程度だろうか。

 

 その上彼女のフラストレーションに拍車を掛けているモノ、それは「B型」の本能とも言っていいプログラムであった。

 ヨルハ機体には人類への敬愛を抱く様に感情を仕向けるプログラムと、各々の役割を成し遂げたいという欲求や使命感が発生するプログラムがインストールされている。

 

 B型ならば「戦いたい」という欲求。

 D型には「守りたい」という欲求。

 S型には「分析したい」という欲求。

 H型には「治したい」という欲求。

 E型ならば「殺したい」という欲求。

 O型ならば「伝えたい」という欲求。

 

 

 これらのプログラムの影響が強いか弱いかは千差万別だ。

 その為、人類の為に尽くすと使命感に燃える者もいれば、任務が面倒だと考える機体もいる。

 そのプログラムの強弱による影響もパーソナルデータに反映され、結果としてアンドロイドには人間にも勝るとも劣らない多様な個性が生まれていた。

 

 彼女……35Bにも、そのプログラムは少なからず影響を及ぼしている。結果、満たされない戦闘欲と膠着状態によって齎された平々凡々とした日々とが相俟って35Bはこの様に愚痴を零す事が多くなっていた。

 

 

「この間の降下作戦、成功したらしいけど……私みたいな雑用には関係無いからなぁ。あーあ、私だって参加したかったよ……」

 

 

 はぁ、と溜息と愚痴を零しながら歩き続ける。

 彼女は知らなかった。

 獲物を狙う狡猾な蝙蝠の射程範囲に、のこのこと入り込んでいるという事に。

 

 

 

 

「そんなに退屈かァ?」

 

 

「……!?」

 

 

 35Bの前方10mに、人型の『何か』が現れた。

 紫色のと思しきパーツに、白で彩られたパイプが何本も突き出している装甲。

 そしてスキャナーモデルの何処かあどけなさの残った声とも、ポッドの声とも全く違う低い声音。

 それ等は、夜の無い世界に現れたドス黒い闇の様であった。

 

 

「丁度ポッドも連れてるなァ。まさに飛んで火に入る夏の虫……いや、この場合俺からやって来た訳だから違うかァ……?」

 

 

 うーん、と腕を組んで考え込む様な素振りを見せる『何か』。

 それに対して35Bは背中に背負った『四〇式拳鍔』を装備し、その相手を殲滅すべく走り出した。

 普段であれば、様子を見る、対話を試みる等の手段を選んだであろう。

 しかし「此奴は危険だ」という本能の叫びに従った獣のように行動をしてしまった……否、この異形がそうさせたと言った方が正しいかもしれない。

 

 

「ポッド!! この交戦映像記録を録画して、戦闘が終了次第そのデータを司令部に転送!!」

 

 [了解。最高画質にて録画を開始]

 

 

 35Bは両腕の出力を限界まで引き上げ、拳を『何か』に向かって振り下ろす。

 そんな乾坤一擲の斬撃を嘲笑うかの様に、『何か』は守る素振りさえ見せず棒立ちをした儘であった。

 愚か者、と35Bは心の中で僅かに嘲る。

 この上無く強靭な拳が、その愚か者の装甲を豆腐を崩す様に破壊する……筈だった。

 

 

 グシャ、という破砕音。

 

 

 その音源は、装備した四〇式拳鍔。

 砕かれたのは相手の鎧ではなく、自分の拳だった。

 

 

「なんっ……!!?」

 

 

 ノーガードの敵に攻撃を仕掛けて逆に武器を壊されるというロールアウト日以来出会したことの無い光景に、今度は35Bが無防備な姿を晒してしまった。

 

 

「自分から攻撃しておいて、このザマとはねェ……とんだお笑い種だなァ!!」

 

 

 拳鍔が破壊されて剥き出しになった腕を、異形の掌が確りと掴んだ。

 人工皮膚を突き破り、腕の肉がブチブチと破断していく音がし始めた。

 

 

「あ……がッ……!!」

 

 

 このままでは、間違いなく腕を捻じ切られるだろう。膂力で振り解こうとしても、逆に腕への負担が増して余計に破損が進んでしまう。

 だが、黙って自分の腕が体からおさらばしていく所を大人しく見ている程35Bは愚鈍ではなかった。

 

 

「ポッド! R010ッ!」

 

 [了解。R010起動]

 

 

 ポッドの一部が展開して照準を定める。狙う先は、異形の複眼。

 そして直線的な太いレーザー砲が放たれ、35Bの頬を掠めなから吸い込まれる様に寸分違う事無く直撃した。

 

 そう、()()()したのだ。

 

 

「……成程、戦闘補佐もこなせるッて訳か。まさにお助けメカだねェ」

 

 

 破壊はおろか僅かな傷すら作る事無く、異形は35Bの腕を掴んだまま確りと立っていた。

 

 

「……ッ?!」

 

 

 驚愕のあまり、35Bは言葉が出なかった。

 口をぱくぱくと動かすと、辛うじて喉から漏れた空気が声になるのがやっとである。まるでインストールされている言語知識のアーカイブが破損したかの様に。

 

 

「……さて、チャチなお遊戯はオシマイにして本題に入ろうかァ……少しばかり、お前達の本部に通信を繋いで貰う。おっと……拒否権なんてモノは無いと思ってくれよ?」

 

「……何を……するつもり……?」

 

「お前に教える必要は無いねェ……と言いたい所だが、()()()として教えてやるよ。お前達の上司に話が有るのさ。楽しい楽しいお話がねェ……」

 

「……もしも拒否する、と言ったら?」

 

「俺が直々に本部へ乗り込む。場所も大方割れてるからなァ……」

 

 

 そう言うと、異形は空を見上げた。

 その行動が暗喩している事はただ一つ、バンカーの存在を知っているという事。

 

 

「……分かった。ポッド、通信回路開いて」

 

 [警告:敵性反応を確認している相手を、司令部と接触させる行為はリスクが大きいと推測]

 

「それでもやるしか無い……このまま放置すると、司令部に攻め込まれるかもしれないんだ。……早くしてくれ、ポッド」

 

 [……了解]

 

 

 司令部が陥落する、という事は人類の敗北とニアリーイコールである。

 自分達の創造主の生殺与奪を握られたと言っても過言ではない状況である以上、35Bは一先ず相手の要求を呑むしかなかった。

 

 

「フハハハハハッ……『良い子』だねェ、お前はッ!!」

 

 

 司令部に通信を繋ぎ始めた様子を確認して、異形は仮面の下でほくそ笑みながら懐から何かを取り出し、ベルトに装填した。

 

 

【リモートコントローラー! ライダーシステム! クリエーション!】

 

 

 明らかに司令部との通信を行うこの時を狙っていた様な行動。

 彼女は確かに無防備に通信を行っていたが、責めるべくは彼女ではなく衛星軌道上の同胞と創造主を人質に取った狡猾なる異形だろう。

 

 

「まずい……!! ポッド、通信を切断してッ!!」

 

「今更遅いッ!!」

 

 

【Ready Go! リモートコントローラー・フィニッシュ!! Ciao(チャオ)!!】

 

 

 異形の手から飛び出した緑色をしたポリゴン状のエネルギー体が、35Bの相棒であるポッド893に接触。

 エネルギーに触れたポッド893はガクガクと不自然な挙動を行い、譫言の様に意味を成さない言葉を発しながら地面に落下した。

 

 

 [ケケ……警……告クク刳ク、ニ、ニニ、ニン拇ムに、対すスすすス、ス壽……]

 

「ポッド……!! アンタ、ポッドに何をしたッ!!」

 

「ちょっとしたヘッドハンティングって奴だ……此奴はもうお前の相棒じゃない」

 

 

 散々に暴れ回ったポッド893は、一瞬フリーズをした後にふわりと宙に浮かぶ。

 

 そして、35Bにとって絶望にも等しい言葉を淡々と述べた。

 

 

 〖所有者登録の上書き完了。おはようございます。エボルト〗

 

「そんな……嘘だ。嘘だよな? なぁ、嘘だろ? ポッド!! なぁ、何の冗談だよッ!! ついさっきまで一緒に戦ってただろッ!!」

 

「残念だったねェ。お前はそのついさっきまで一緒に共闘してた奴に磨り潰される訳だ……」

 

 

 数分前の自分を呪っても、後の祭り。

 さも愉快そうに笑いながら、その異形───エボルトは右手でサムズダウンを行う。「殺れ」と伝える様に。

 

 

 〖敵性反応の排除を実行。R040 起動〗

 

「嘘だ……嘘だって言ってくれ……」

 

 

 気が触れた様に同じ事を呟く35Bを、無慈悲にポッド・プログラム『ハンマー』が叩き潰す。

 肉が潰れる鈍い音と金属が破砕される音、そして血を模したオイルを辺りが辺りに飛び散った。

 

 

「さて……ポッド、改めて司令部に通信を繋げェ」

 

 〖了解。司令部に通信を開始〗

 

 

 仮面の下で笑いを浮かべながら、エボルトは何処か浮いた気持ちになっていた。

 早くこの姿を彼奴等にしっかり見せ付けておく必要が有る。

 コブラでもラビットでもなく、()()()()()()の姿で無ければいけない。

 そう、脳裏に焼き付いて離れない様に深く深く刻み付けておく必要が有るのだ。

 

 

「漸く、アンドロイドの親玉と御対面出来るねェ……」




(文才があまりにも無くて)狂いそう…!

因みに此処でマッドローグを出したのには深い理由が有ります。
細かい事はネタバレになるので此処では言えません。
(聞きたい人はメッセージボックスにその旨を伝えて頂ければ)策略について…お話します(糞土方)

オリジナルのフルボトル「リモコン」。
これは没音声「クロコダイコン」を元ネタにしています。
この能力を端的に説明すると、劣化版フューチャーリングキカイという感じ。
ベルトの成分が尽きるまで付近の機械を操る事が可能です。
しかし操る機械が多ければ多い程ボトルの成分はすぐに空っぽになる上に成分の再充填にはある程度の時間を要する…って感じです。 ポッド一体なら3日間位は操れますが、小型機械生命体5体とかになってくると10分そこらが限界です。

次に今回グシャられたモブハ「35B」少し口調をA2姉貴に似せてみました。
(ヘイトしてるつもりは欠片も)ないです

感想やアドバイスお待ちしてナス!


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Phase 8.開戦のベルが鳴る

ぬわああああんやっと投稿だもおおおおん(TDKR)

今日は明日が休みなんで、再販されたエボルドライバー買って来ましたわ。

今回はAIのべりすとを導入してみました。もし不自然なところがあったら感想でお知らせください。


YoRHa SIDE ⋮ バンカー

 

⦅西暦5012年…人類の華やかな歴史に、突如終わりが訪れた。外宇宙から飛来したエイリアンによる侵略。異星人の繰り出す『機械生命体』によって人類文明は壊滅。生き延びた人類は、月に逃げ延びる事となった…⦆

 

 

ホールの様に広い司令室に響き渡る、抑揚の欠片も無い野太い男の声。

その正面に据えられた巨大なモニターには、ヨルハ部隊が設立される以前の出来事が淡々と簡略図として映されていた。

そのモニターを見つめる大勢のヨルハ部隊員。司令官であるホワイトも、同じ様にモニターを見つめている。

 

これは、月面人類会議からの定期連絡の様なモノ。ヨルハ部隊の使命感を鼓舞させ、最終決戦兵器としての役割を改めて自覚させる創造主からの言葉。

 

 

⦅…この膠着状態に陥った状況を打破する為に、君達ヨルハ部隊は存在するのだ。最終決戦兵器としての役割を果たして欲しい⦆

 

「はっ、承知しております」

 

⦅健闘を祈る⦆

 

 

人類会議の言葉にホワイトは凛とした態度で応え、左手を右胸に当て、よく通る声でヨルハ部隊のスローガンを唱える。

 

 

「人類に 栄光あれ!」

 

 

ホワイトに続き、他のヨルハ部隊員も一糸乱れぬ動きと声で唱える。

 

 

〔人類に 栄光あれ!〕

 

 

“ For the Glory of Mankind ”

 

この理念の下にヨルハは造られ、今日に至るまで機械生命体と刃を交えて来た。

その理念を改めて心に…否、ブラックボックスに刻み込む為に

 

 

⦅人類に、栄光あ────

 

 

と、その時。

 

まるで旧時代の視聴デバイス「テレビジョン」の様に、画面が砂嵐の状態に陥った。

 

 

「え…?」

 

「なに…?画面がおかしい…」

 

 

突然の事態に(どよめ)くアンドロイド達。それを諌めるように、ホワイトはよく通る声で指示を出す。

 

「狼狽えるな。大方モニターの故障だろう。直ちにバンカー内のS型を司令室に集め、原因の究明と復旧に当たらせろ。此の儘では、月面との通信も儘ならんからな…」

 

 

静かさと力強さ、相反する2つを持ち合わせた声。彼女の喉に備え付けられた発生パーツから放たれた言葉は、すぐさまヨルハ部隊の者達を任務の遂行へと駆り立てた。

 

 

「司令官、1つ宜しいでしょうか」

 

「発言を許可する、21O。要件は何だ」

 

「現在、S型は大半が地上での任務を継続しています。バンカー内で待機している者は801Sしか居りませんが…」

 

「問題は無い。時間はそれなりに掛かるだろうが…S型が1人居れば、O型だけで修復を行うよりは良いからな。地上での任務も重要なモノ、態々モニター修理の為に呼び戻す訳にも行かないだろう」

 

「了解致しました。801Sを大至急司令室に招集します」

 

「90秒以内に此処へ呼び出せ。早急に修復させろ」

 

 

 

 

「はい!」

 

ホワイトの指示を受け、敬礼を行った後、21Oと呼ばれた女性は即座に端末を操作し、当該機体を呼び出し始めた。

それを確認すると、ホワイトは再び正面のモニターを見据え、再び鋭い口調で命令を下す。

 

黒く染まったモニターと、うんともすんとも音を発さないスピーカー。司令室の中は静寂に包まれる。

 

─────しかし、その静寂も束の間だった。

 

真っ黒のモニターに、「ザザ、ザ…」という耳障りな音と共に白黒のノイズが走り始めた。

 

嘗て繁栄した人間の言葉を借りるならば、『砂嵐』であろう。

 

 

「…想定していたよりも、破損が激しいのかもしれんな」

 

 

単なる故障だとでも思ったのだろう。ホワイトは溜息を僅かに吐きながら呟いた。

 

その考えは、数秘後に打ち砕かれることとなる。

 

 

《…あー、あー。オーイ、映ってるかァ?》

 

 

黙りを決め込んでいたスピーカーから、突如男と思しき者の発せられた。

それはスキャナータイプの様な、一抹の幼さを残した声でもない。月面からの通信に近い男性の声であったが、それとは全く違う点があった。

無機質な声ではなく、何処か享楽を孕んだ様な声音であるという点だ。だが、そんな事はどうでも良い。

問題は、今聞こえてきた音声の方である。

 

この声によって、司令室は先程以上の喧騒、そして動揺に包まれた。

 

ホワイトも一瞬驚愕して目を見開くが、直ぐ様落ち着きを取り戻してモニターへ向き直った。

 

 

「…貴様は誰だ。どうやってこの回線に割り込んだ」

 

《…おッ、声は通じたみたいだなァ。だけど…その声を聞く限り、まだモニターは見えていないのか…?》

 

 

ホワイトに一瞬だけ反応するも、声の主は怯えも警戒もせずにモニターの調子を気にし始める。

何とも異様な光景であった。

 

 

《……おーい、俺の姿は見えてるかァ?》

 

 

目の前で繰り広げられる異様な光景に、司令室内のアンドロイドは戸惑いの色を浮かべる他無かった。

だが、ホワイトだけは違っていた。彼女は表情一つ変えず、ただ淡々と言葉を返す。

 

「私の問いに答えろ。どうやってここの通信に入り込んで…」

 

冷静を保ち、言葉を続ける。しかし───

 

バン!バンバン!バァン!!!!

 

──と、ホワイトの言葉を遮る様に大きな音が響いた。それは、まるで掌で何かを叩くような音であった。

 

集音パーツを破壊せんとばかりに、いきなり響いた轟音。アンドロイド達だけてわなく、ホワイトも僅かに顔を歪ませて耳を塞いだ。

 

その数秒後、砂嵐状態だったモニターに映像が映り始める。

 

 

《…おお、映った映った。やっぱりTVが壊れた時はコレが一番だねェ…っと、そうだな。先に名乗るべきだったな》

 

 

モニターに、声の主が映る。

 

その者は、黒縁の眼鏡を付け、ビジネススーツに身を包んだ成人男性の様に見える。

しかしその顔には、アンドロイド達の反応を楽しむ様な意地の悪い笑みが浮かんでいた。

 

 

《俺は……そうだな。お前らが言うところの宇宙人ってヤツだよ。俺の名はエボルト…凡百惑星を食らって生きる、地球外生命体ッて奴だ》

 

 

モニターの向こう側から、不敵な笑い声が木霊した。その瞬間、司令室の空気は凍てついた。

 

 

《……あれ、聞こえてるよな?まさかとは思うけど、電波障害とかじゃないだろうな……》

 

司令室の中に、沈黙が訪れる。

 

 

そんな中、最初に口を開いたのはホワイトだった。彼女はモニター越しに、エボルトと名乗った男へ向けて質問を投げかける。

 

機械生命体を解き放ったのは貴様なのか。

もしそうだとしたら、何故今になってコンタクトを取ってきたのか…と。

 

 

《嗚呼、確かにアレを仕掛けたのは俺だ。……ん、何で今になってコンタクトを取ったか…だって?実はなァ、いい加減退屈になってたんだよ。機械共は何時まで経っても成長しねェし、ボロくなってる。…それに、手下を動かして遊ぶのはそこまで好きじゃなくてねェ…俺も参加したくなっちまった訳さ。お前らも、服の裾引っ張り合うようなチンタラした戦いをダラダラ続けるのは嫌だろ?》

 

 

ペラペラと饒舌に質問への回答を行うエボルト。内心ふつふつと怒りを湧き上がらせるホワイトの後ろから、震えた声が響いた。

 

 

「司令官ッ!この通信…35Bに随行していたポッド893から行われています!」

 

 

振り向くと、そこには青ざめた表情をした6Oの姿があった。彼女は他のアンドロイドよりも明るく楽観的な性格であり、ムードメーカーの様な役割の一端も担っていた。

そんな彼女がこんなにも取り乱す姿を見るのは珍しい事であり、ホワイトは小さく眉を上げた。

 

 

《お、ようやく気付いたみたいだなァ。……ま、そういうことだよ。俺の所在地位は分かるだろうし…もし終わらせたいなら、さっさと来る事だな。然し、このハコは本当に便利だねェ。通信は出来る、武器は使える、オマケに釣りも出来るとはなァ》

 

 

饒舌に話しながら、エボルトは再びニヤリと笑う。

その顔を見たホワイトは額に青筋を浮かべつつ、先程よりも強い調子で問い質した。

 

 

「待て!貴様…35Bはどうしたッ!」

 

《35Bィ…?ああ、あの「ゴミ」の事か…ハコ、そこのゴミ映してやれ》

 

 

顎で明後日の方向をクイと指すエボルト。ポッドのカメラが、其方を向いた。

 

────そこには、最早ヒトの形を認知できるかどうかも怪しい程に変わり果てた35Bの姿があった。

 

血に塗れたヨルハの隊服が、生前の所属を辛うじて主張している。尤も、彼女等はバンカーが在る限り何度でも蘇るが。

 

然し、蘇ると分かっていても凄惨極まりない光景。司令室は悲鳴で包まれる。

 

 

《人間に比べたら随分と呆気なかったよ…所詮は傀儡、劣化版って事なのかねェ。…ま、お前らは直ぐに復活するんだから安いモンだろ。な?》

 

一抹の落胆と、それ以上の愉悦が「エボルト」と名乗る男の言葉には滲んでいた。彼は、まるで娯楽映画を見ているかのように悠々とした態度を見せている。

 

 

《……おっと、もうそろそろ時間切れだ。じゃあな、また近い内に会おう》

 

 

そう言い残し、エボルトとの通信は途切れてしまった。

 

静寂に包まれる司令室の中、ホワイトは暫し考え込む様に腕を組む。

 

 

「…司令官、ポッドの座標探知に成功しました。座標 -48.65.111…森林地帯です」

 

 

後ろから、6Oの怯えが未だに滲む声が届く。そして数秒後、ホワイトは顔を上げた。

 

実質的な宣戦布告を受けた。

 

自分たちの敵は、エイリアン。人類の仇。

 

敵の居場所も突き止めた。

 

ならば、取るべき道は一つ。

 

 

「……バンカー内、及び地上での活動中の全ヨルハ部隊へ告ぐ。現時刻より、第244次地球奪還作戦を決行。地上に残るB型・E型・D型は直ちにバンカーへ帰還。決戦用装備に換装の後、森林地帯へ降下せよ。S型は型式番号1~200迄の機体のみ作戦に参加。200号以降の機体はバンカーにおいてハッキングに備えよ。…これは最優先命令だ」

 

 

────人類は、再び立ち上がる。

人類に残された最後の希望、ヨルハ部隊が遂に動き出した。

 

EVOL SIDE

 

一方その頃、エボルトは地上で退屈そうに切株へ腰掛けていた。

 

 

「…さァて、あの安い挑発に彼奴等が乗ってくるかどうか…」

 

 

そんな独り言を呟きながら、エボルトは眼前に投影されたホログラムディスプレイを操作する。

画面には、無数のウィンドウが表示されており、その内の一つ、地球上の衛星軌道図を開いた。

其処には、ヨルハ部隊を表す青い点が無数に浮かんでいる。

エボルトは暫くの間それを眺めていたが、不意にある一つの点へと指を動かした。……それは、今まさにバンカーから出撃しようとしているヨルハ部隊のマーカーだった。

 

 

「…おっと、あんな駄菓子並みに安い挑発に乗ってくるとは…随分と余裕が無いみたいだなァ」

 

 

嘲笑うように、エボルトは口元を歪める。

 

──────先程、エボルトがヨルハに向かって行った宣戦布告。あの会話の中には1つだけ「ハッタリ」が含まれている。

 

まず、エボルトは機械生命体を嗾けたエイリアンの事を知らない。それにも関わらず、さも自分が今までアンドロイドと闘ってきたかのように振舞った。

 

何故か?

 

答えは1つ。エボルトはエサを撒いたのだ。

 

相手の誇りや尊厳。其れを貶し、貶め、挑発する。それだけで、大抵の人間は面白いようにエボルトへ怒りを露わにし、引き金を引いて来た。

 

エボルトは、その餌に相手が食いつくという確信があった。

 

────何故なら、彼等は人類に尽くすために「作られた」存在だからだ。

 

 

:YoRha SIDE

 

バンカーでは、ヨルハ部隊の出撃準備が着々と進んでいた。……尤も、ヨルハ部隊は既に機械生命体との戦闘を経験している。故に、彼等の出撃準備と言っても然程時間は掛からないのだが。

出撃の準備が整い次第、ヨルハ部隊はバンカーを飛び立ち、地上へと向かう手筈となっている。

そんな中、神妙な顔で出撃の準備をするアンドロイドが1人いる。

ヨルハ9号S型、通称「9S」だ。彼の表情からは、焦燥や緊張といった感情が見て取れる。

 

「…第243次降下作戦が終わって、地上での任務に就いたと思ったら…すぐバンカーに呼び戻された上に、エイリアンと戦う事になるなんて…」

 

「…エイリアンを倒せば、機械生命体との戦いも有利になる」

 

「それは分かってますけど…何と言うか、余りにも最近起こった事が多過ぎて…疲れちゃいますね」

 

「…文句言わない」

 

ぶつぶつと愚痴を零す9S。その隣には、愚痴を嗜める1人のアンドロイド────2Bが居た。2Bは、常時着用が義務付けられているゴーグルを下げ直す。

 

(…確かに、ここ数日は普段と比べ物にならない位の変動があった)

 

降下作戦における大型機械生命体との大立ち回り。9Sと「初めての」出会い。

 

─────そして、 第243次降下作戦の折に見掛けた。あの悍ましい「何か」。…エボルトと名乗る地球外生命体。

エボルトの事は、まだはっきりと分からない。だが、彼が自分達の敵である事は間違いないだろう。

 

わざわざ人類の姿を模して、ミンチにされたアンドロイドを映した挙句に宣戦布告をして来るのだ。これで敵でないとどうして言えようか。

 

それに、あのエボルトという男。月面人類会議との通信に割り込み、ヨルハ部隊のB型を粉微塵に粉砕した。明らかに只者ではない。恐らく、戦闘になれば相当の苦戦を強いられるだろう。

 

しかし、そんな相手と戦わねばならない時が刻一刻と迫っている。

 

 

随行支援ユニット「ポッド」は、既に通達された森林地帯の座標をマップにマークしている。

どうやら、地上のマップデータはしっかりと届いているようだ。

 

バンカーから地上までの経路は、事前に飛行ルートが算出されている。後は、それに従って進むだけ。

 

ふと、9Sの方を見る。彼は未だに愚痴を零しながら準備をしていた。

 

そんな彼に、2Bは伝える。

 

────もう、時間がない。

 

そう言って、2Bは9Sを置いて歩き出す。……このバンカーから地上までの僅かな時間を無駄にする事は出来ない。だから、急ぐ必要があった。

 

2Bはバンカーの入り口に向かって足を進める。その先に有るは、飛行ユニット『Ho229 type-B』

 

……と、その時。2Bの腕が何者かに掴まれた。

 

腕を掴んだ人物は、9Sだ。

どうしたのかと振り返った2Bに、9Sは慌てて駆け寄って言う。

 

「…1分間だけ、待ってください」

 

深呼吸をしながら、9Sは話す。

その様子を見ながら、2Bは疑問を口にする。

一体何をしているのか。

 

すると、9Sは神妙な顔で言った。

「…2B。実は僕、物凄く嫌な予感がするんです」

 

飛行ユニット格納庫の出入り口が閉じる。

扉が閉まる直前だった為、バンカー内部の照明が薄暗く灯り、暗闇の中に光が生まれる。

そんな光が生み出す仄暗い空間の中、9Sは2Bの顔をバイザー越しに見詰めていた。物言いたげな瞳で。

 

しかし、2Bは何も答えなかった。ただ黙って、9Sの言葉を待っている。

そんな彼女に、9Sは続けて口を開いた。

 

「…僕達ヨルハ機体は、エイリアンの反応を検知し次第『ALIEN ALERT』の通知を受け取ります。でも、今回の襲撃…そんな通知、来てませんよね…?  司令官には提言したんですけど、エイリアンの技術で隠されていたんだろうって聞き入れられなかったんです」

 

震えた声で9Sは続ける。まるで、暗闇で居るはずもない幽霊に怯える子供の様に。

 

「司令官の言う事も、ある程度納得は出来るんです。だって…数百年以上も見つからなかったエイリアンが、向こう側から来たんですから。でも、だからこそ…僕達が『誘い込まれてる』んじゃないかって思うんです」

 

確かに、9Sの懸念は最もだと2Bも思った。しかも、御丁寧に憎しみを煽るように挑発するのならば尚更。

 

エイリアンは自分達をおびき寄せて、何かを企んでいるのかもしれない。例えば…罠を仕掛けているとか。

 

だが、今は一刻を争う状況だ。悠長に構える暇などない。そんな事を考えていると、9Sは意を決した様に息を吸う。そして、言った。

それは、とても単純な言葉だった。

 

「…機械生命体を仕掛けた親玉のエイリアンが、そんなに甘いわけが無い」

 

数秒の沈黙。無言のまま立ち尽くす2Bに、9Sは慌てた様子で取り繕う。

 

 

「あッ…すみません! 出撃前だっていうのに、こんな非論理的な事を伝えて……今のことは、忘れてください」

 

そんな風に謝る9Sに、2Bは静かに首を横に振る。

 

「…謝らなくていい。9Sがそこまで言うなら、用心する。……もう時間。行こう、9S」

 

 

飛行ユニットへ乗り込む2B。その背中に9Sも続く。

 

「……はい、行きましょう」

 

 

飛行ユニットが起動し、ゆっくりと浮き上がる。

9Sは浮遊していく飛行ユニットを見ながら呟いた。

 

「大丈夫です。2Bが居れば、怖いもの無しですよ。…きっと」

 

9Sの言葉を聞いた2Bは、僅か操縦桿を握る手を一瞬震わせた。

 

 

:EVOL SIDE

 

森の中。

巨大な樹々が連なるその場所は、鬱蒼とした木々の葉が日の光を遮り昼間だというのに薄暗かった。

 その中に有る、1つの切り株。その上に、1人の男が座っている。

 

エボルトだ。彼は不敵な笑みを浮かべながら、自分の「遊び相手」を待っていた。

 

数分後、上空から轟音が響き渡る。葉の隙間から、黒い戦闘機の様なモノが垣間見えた。

 

ヨルハ部隊の飛行ユニットだ。エボルトはその姿を見てほくそ笑み、呟く。

 

───遊ぼうぜ。

 

その瞬間、上空で鉄塊が爆ぜた。

 



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Phase 9.天才と天災とプロテイン

今回はとある主要人物が出てきます。

その人物に対して抱いた「違和感」を覚えていて貰えると幸いです。


上空で鉄塊が爆ぜる鉄塊。

 

あまりにも暴力的な「花火」が打ち上げられた。

 

爆発の衝撃によって巻き上げられた土煙の中から、翼を捥がれたアンドロイドが姿を現し、地上へ向けて落下してくる。

 

エボルトはそれを満足げに見つめる。その右手には、白と黒に彩られたデバイスが握られていた。

 

その名は「エボルトリガー」

 

星狩り族足るエボルトが、ブラックホールを操る本来の姿へ至る為の拡張デバイスである。尤も、エボルトも全力で相手をする訳では無い。先程の爆発は、ブラックホールを用いて部品を損傷させて爆発を招いただけ。

 

言うなれば、ただの「お遊び」である。

 

 

「……さぁ、来いよ」

 

 

その言葉に応えるように、落ちてきたヨルハ機体が四方八方から襲いかかって来た。

 

爆発のダメージに、高度からの落下。

それを経てもなお、深い損傷を負っている機体は極僅かであった。

 

 

「おッと…成程、生身の人間とは比べ物にならない位タフだなァ」

 

 

呑気に呟くエボルトへ、ポッドによる実弾やビームの雨霰が降り注ぐ。

木々は燃え、大地は抉られて行った。

 

大型の機械生命体ですら粉微塵になるであろう量の弾幕。

 

だがしかし、目標物…エボルトは傷1つ付いていなかった。

 

 

「…さて、ドンパチはもう気が済んだかァ?なら…次は白兵戦と行こうかァ!」

 

 

【バットエンジン!】

 

エボルトの身体が血管のようなモノに包まれ、マッドローグへと変貌する。次の瞬間、彼の目の前にいたヨルハ機体の群れが吹き飛んだ。…蹴り飛ばされたのだ。それも、尋常ではない力で。

1体や2体の話ではなかった。何体にも及ぶヨルハ機体が、一瞬にしてスクラップと化す。

 

 

「次はお前だァ!」

 

 

一瞬にして屍の山を作り出したエボルトは、次なる目標へと狙いを定める。

 

目標となった相手は、2Bだ。彼女の持つ刀「白の契約」による斬撃を回避しながら、エボルトは僅かに驚く。

 

 

「へェ、随分とお前は良い動きをしてるなァ…」

 

 

「B型にしては」異様に動きが速く、鋭い。

恐らく、それは彼女が今まで培ってきた戦闘経験故だろう。

だが、それだけでは説明出来ない事がある。

何故、この個体はここまで強く在れるのか。

まるで、2Bだけ()()()()であるかのように。

エボルトがスチームブレードを突き出す。然し、2Bに其れが当たる事は無かった。

 

 

「何ッ!?」

 

 

一瞬だけエボルトの視界から2Bが消える。コンマ数秒後、エボルトの首元へ刃が迫っていた。

 

 

(貰った…!)

 

 

2Bの持つ刃は、吸い込まれる様にエボルトへと迫っていく。

 

誰が見ても勝負は決した。そう思われた。

 

 

「…なーんてなァ!」

 

 

刹那、2Bの背後からポッドが現れた。

それは2Bに随行していたポッドではない。

 

エボルトによって鹵獲され、データを書き換えられた「ポッド893」だ。

 

 

〖R010 起動〗

 

 

無機質な音声と共に、ポッドから直線的なレーザーが放たれる。

 

其れは勝利を半ば確信していた2Bの背中へと直撃した。

 

 

「が、ッ…ぁ……!?」

 

 

思いもしない方向からの一撃。ヨルハ部隊の服と人工皮膚が焼かれ、背中から煙が上がる。

 

 

「残念だったねェ」

 

 

エボルトは、地面に落ちた白の契約を拾い上げた。

そして、元の持ち主である2Bへと向き直る。

 

 

「コイツで…終わりだァ!」

 

 

無慈悲に振り下ろされる剣。

 

 

 

 

 

しかしその攻撃は、2Bに届くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

何処からか伸びてきたバラの蔦。其れがムチの様に撓り、刀を弾き飛ばした。

 

エボルトの手から離れた刀は宙を舞い、音を立てて地面へ転がった。

 

 

「チィッ…横槍とは酔狂な真似をするじゃァないか………ッ!?」

 

 

戦いへ横槍を入れた無礼者へとエボルトは向き直る。

 

だが、その視線の先にいた者の姿を見たエボルトは、仮面の下で驚きと焦りの表情を浮かべた。

 

 

「その姿…お前は……ッ!?」

 

 

その者は、赤と緑のツートンカラーの装甲に身を包んでいた。複眼は薔薇の花とヘリコプターを模しており、背面にはプロペラ状のブレードが装備されている。

 

 

『情熱の扇風機!ローズコプター!イェーイ!』

 

─────仮面ライダービルド・ローズコプターフォーム

 

忘れもしない。エボルトが元の地球に潜んでいた頃、東都と北都の代表戦前に、桐生戦兎へ特訓を付けていた時に発動させたベストマッチ形態だ。突如として現れた新たな乱入者に、エボルトのみならず、その場にいる全てのヨルハ部隊が驚愕の声を上げた。

そんな中、1機のポッドが淡々と告げる。

 

 

「報告:上空から物体が急速接近中」

 

 

ポッドの報告を受け、その場にいた全員が上を見る。

 

…その先に 比喩ではなく、物理的に「燃えている」何かがあった。

 

距離が近くになるにつれ、モノの詳細が見え始める─────否、それは「モノ」ではない。「ヒト」の形をしている。 

 

 

『Ready Go!  グレートドラゴニック・フィニィィィィッシュ!!!!』

 

 

場違いとも思われる程にけたたましい音を響かせ、その輩はエボルトへ向かって「必殺技」を放つ。

 

 

「ぐ、ぬぅッ……!!」

 

 

避ける暇もなく、エボルトは両腕をクロスして其れを防ぐ。

 

然し完全に勢いを殺し切る事は出来ず、エボルトは堪らず2m程吹っ飛ばされた。

 

十数秒間に行われた攻撃によって巻き上がる土煙。

其れが晴れると、そこにはビルドの隣に2人目の 仮面ライダー(ヒーロー) が居た。

 

仮面ライダーグレートクローズ。

エボルトが血を分け合った相手──万丈龍我が変身した姿である。

 

 

「…全く、随分と派手にやっちゃって。少しは慎みって物を持ちなさいよ、ドラゴンバカ」

 

「派手に出た方が見栄えが良いじゃねぇか…って、バカ呼ばわりすんじゃねぇ!せめて『筋肉』を付けろってンだよ!筋肉をッ!ていうかドラゴンバカって何だよ!」

 

「あーあーうるッさい!後でバナナあげるからさ、今は大人しくしてなさいよ」

 

「ウッキー!バナナだぁ…じゃねぇんだよ!この馬鹿ッ!」

 

「馬鹿ぁ!?この 天才(てぇんっさい) 物理学者を馬鹿だってぇ!?」

 

 

飄々とした様子で話すビルドに対し、身振り手振りも混じえて怒りを表すクローズ。

半ばコントの様な光景と突然起こった出来事の数々に、エボルトも含めてその場にいた面々は呆気に取られていた。

 

 

「…ま、後で色々話すとして。取り敢えず、この『エイリアン』ぶっ倒すぞ!万丈!」

 

「言われなくてもやってやらァ!」

 

 

戦闘が再開された。然し、それは先程までのエボルトによるワンサイドゲームではない。

 

クローズが殴り掛かる傍らで、死角からビルドが斬り掛かる。

 

ビルドがピンチになった時は、クローズが横から割って入る。

 

2人の連携攻撃によりエボルトは防戦一方だった。

然し、このまま一方的に攻撃を受け続ける訳にもいかない。エボルトは一旦後ろへ大きく飛び退くと、ネビュラスチームガンを取り出す。

 

 

「まさか乱入者が来るとはねェ…仕方ない。今日の所はイーブンって事にしておいてやるよォ…Ciao(チャオ)!」

 

 

そして銃弾を地面に放ち土煙を巻き起こす。視界が遮られた隙を突き、エボルラビットへと姿を変えて逃げ出した。

残されたのは立ち尽くす仮面ライダー2人と、地面に倒れ伏した2B。そして数人のアンドロイドのみ。

 

 

「…最ッッッ悪だ。コールドスリープから目覚めた矢先にコレかぁ…」

 

 

ビルドは溜息を吐きながら頭を抱えた。

 

そのすぐ後ろから、ぬっと姿を現したモノが有る。ポッド042だ。

 

 

「報告:正体不明の生命体が2体。ヨルハ部隊のブラックボックス信号、旧型アンドロイドの信号、何れも確認出来ず。要求:型式番号、及び所属の開示」

 

 

一切の温度の無い声で言う。既に隠し武装を展開し、攻撃可能な体勢を取っていた。

後ろに居るのが分かるものならば誰でも反射的に構えてしまう様な威圧感を放っている。事実何人かの兵士は腰を落としたりしている有様だ。

 

 

「…なぁ、コレ第一印象最悪じゃね?」

 

「……見りゃ分かるでしょうが。最ッッッッ悪だよ」

 

「……ていうか、変身解いてないから警戒されてるんだろ」

 

「…あ、それもそうか……」

 

ビルドとクローズはフルボトルをベルトから抜き取り、変身を解く。

 

装甲が()()() モヤとなって霧散すると、中からはアンドロイドに限りなく近い姿をした生き物が出て来た。

 

ビルドの中からは、ベージュのコートを羽織り、一部分だけがハネた黒髪の男が。

クローズの中からは、青いスカジャンに身を包んだ茶髪の男が出てきた。

 

 

「…さて、取り敢えずパパッと伝えるか。俺は桐生戦兎。こっちは 万丈龍我(バカ) 。『人間』だから、型式番号も何も無いよ」

 

 

戦兎が言うと、兵士全員の顔に驚愕の色が浮かぶ。

無理もない反応だ。つい数刻前まで、機械生命体と互角に渡り合っていた未知の生命体の正体が、まさか自分達の創造主と同族だとは思いもしないだろう。

 

しかもそれが2人も居れば尚更だ。

 

だがそんな驚きも束の間、2人は拘束される事になった。

 

当然と言えば当然の話。

いきなり現れた謎の生命体を易々と信用できるほど、ヨルハ部隊は甘くはないのだ。

特に、先程の戦闘を見れば余計に。

 

「えぇーッ!?俺達何もしてねえじゃん!ていうか、俺達はお前らの味方だって!!」

 

「検査!検査すれば分かるだろッ!ていうか力強過ぎだろ…ッ!肩!肩外れるって!」

 

万丈と戦兎が叫ぶ。

 

「…一先ず、レジスタンスの所へ運ぶぞ。彼処ならば、此奴らが本当に人間かどうか確かめる機材も有るだろう」

 

 

部隊長と思しきアンドロイドが指示を出す。2人は成す術も取り付く島もなく、首根っこを掴まれたままレジスタンスキャンプへと連行されて行った。

 

 

 

 

 

︙レジスタンスキャンプ

 

 

 

「…で、なんでこうなるんだよ?」

 

 

現在、戦兎と万丈は手錠を掛けられ、椅子に座らされていた。目の前には険しい表情をした女性型アンドロイドと、数人の兵士が立っている。

 

 

「…手荒な真似をして済まない。私の名はアネモネ。此処、レジスタンスキャンプの長を務めている」

 

 

アネモネと名乗ったアンドロイドは、少しだけ頭を下げる。その頭を上げると、再び話し始めた。

 

 

「君達が只者ではない事は、先程の戦いのデータを見ただけでも明らかだ。だからこそ、君達は何者なのか。何故ここに居るのかを知りたい。本来なら直ぐにでも詳しく調査したいところだが、残念ながら今は機材を作る為の材料が無い。そこで、まずは君達の事を教えて欲しい。…君達が、本当に私達の味方かどうかを確かめたいんだ」

 

「つっても、今の状況じゃどうしようも無くないか? 俺らはエイリアンと戦ってると思ったら、ヘンなコスプレしてる奴等が戦ってるし。んでエイリアンと戦ったら今度は敵扱いだし……」

 

「…要求:質問に対する速やかな回答」

 

 

2人は未だに混乱しているのか、会話が遅々として進まない。しびれを切らした様に、2Bの修復を待っていたハズのポッド042が催促をし始めた。

 

 

「…あー。それじゃ、まず俺から話す」

 

「お願いする。出来る限り簡潔に頼むよ」

 

「…了解。俺の名前は桐生戦兎。歳は28歳で趣味は……色々あるけどまぁ大体なんでもイケる口だな。好きなものはコーヒーと…まぁ、後は科学かな。物理学者だし。嫌いなものは…タコ、かな」

 

「……」

 

「おい黙んな」

 

「……続けてくれ」

 

 

戦兎が口をつぐむと、全員がじっとりとした視線を向ける。

この男は一体何を言っているのだろうか、という視線だった。

 

 

「……いやだから、俺は物理学者なんだって。ほら、これ。このボトルとか見たことは…そりゃないよな」

 

 

戦兎は手錠で拘束された手をどうにかこうにか使い、ポケットから金と黒に彩られたフルボトルを取り出してアネモネに見せた。

 

 

「……確かに、初めて見る形状だ。何かの武器……なのか……?それに、そのボトルの中に入っているのは…液体なのか?それは一体、どういう成分で出来ているんだ…?」

 

「あー…それは後々説明するよ。……さて、と。次は、俺が何でここにいるかって話だよな」

 

 

そう呟くと、戦兎は一息吐いて話し始めた。

 

 

「…アレは地球が火の海になる前。俺は、エイリアンの襲来を兼ねてから警告していたんだ」

 

 

ぽつり、ぽつりと戦兎は話し出す。

 

 

「…でも、当時は全く俺の話は聞き入れられなかった。当然の話だけどな…宇宙人が襲って来るなんて、イマドキ出来の悪いオカルト雑誌やB級映画でも取り扱わない様な題材だし」

 

 

だけど、と続ける。その時の光景を思い出したのか、僅かに顔をしかめていた。

 

 

「…あの時はまだ、人類も余裕があったんだ。宇宙からの侵略者に対抗できる程の力は無くとも、何とか撃退する事ができていたという自信が世界にはあった。けど、ある時を境に状況は一転したんだ。それが……」

──エイリアンによる、機械生命体の実戦投入。戦兎の一言で空気が変わった…気がした。

 

全員が息を呑み、次の言葉を待っているようだった。万丈だけは何故か首を傾げていたが。

しかしそれも束の間、すぐに話は再開された。

 

「インチキ地味た物量と性能。当時のテクノロジーじゃマトモに対処なんか出来なかった。自分達で科学力を発展させようにも、1人の単独研究で『アレ』に追いつくには数千年あっても足りなかった」

 

 

そして、と付け加える。

 

 

「…俺は機械生命体のネットワークへハッキングを仕掛けた。そして、奴等のテクノロジーを盗んだんだ。その結果が…『ビルド』を初めとする仮面ライダーの力だ」

 

そこまで言うと、戦兎は再び深くため息をついた。

思い出したくもない記憶だったらしい。

そんな戦兎の様子を見て、ポッド042が問いかける。

 

 

「質問:貴方の先ほどまでの発言は真実か否か」

 

「…信じるか信じないかはソッチ次第。それに、この話にはまだ続きがある」

 

 

そういうと、戦兎は自嘲気味に続けた。

 

 

「…とは言っても、奴等の目を完全に欺けた訳じゃない。ハッキングしてデータを盗んだはいいけど、ログがバッチリ残ってたからな。だから一時的な避難として…地下の核シェルターで、助手だった万丈と一緒にコールドスリープに入ったんだ。いつか、反撃する為に。…まさか、こんなに長い時間眠るとは思わなかったけど」

 

 

「…報告:貴方の言葉の真偽を判断することは我々には出来ない」

 

 

戦兎はその言葉を聞いて軽く笑った。

当たり前といえば当たり前だろう。何しろ証拠がないのだ。

 

 

「……なぁ、俺も話そうか?」

 

 

そんな中、それまで黙っていた万丈が手を挙げる。

 

今度はアネモネが口を開いた。

 

 

「…ありがとう。話してくれて。……そうだな、次は君が話してくれ」

 

流れる重い空気に耐えられなくなったのか、アネモネは万丈へ話を振った。

それを聞いた万丈は嬉しそうな表情を浮かべると、勢いよく話し始める。

どうやら話す気満々のようだ。

 

 

「俺の名前は万丈龍我!出身は神奈川県!俺が生まれたのは横浜の産婦人科だった。3203グラムの元気な赤ん坊で…」

 

誰が生い立ちから話せって言ったよ!

 

流石に話が長くなりすぎると思ったのか、戦兎がツッコミを入れた。

 

そんな様子を見て、その場にいた万丈以外の全員が思わず苦笑いをした。然し、重苦しい空気も幾許か和らいだ。

 

 

「…ポッドも言った様に、今の段階で君達の話を完全に信用することは出来ない」

 

 

先程よりも穏やかな声音だが、アネモネは告げる。まあ、当然の反応ではある。それでも、戦兎にとっては充分だった。自分の話がどこまで伝わっているかを知ることができただけでも収穫だ。

 

とはいえ、このまま帰るわけにもいかない。

帰る場所もない。

 

ふと、アネモネがポッドの方へ視線を向ける。

 

 

「…だけど、君達の話を聞いた私個人の感情としては……君達を信用したい」

 

 

意外な反応に、全員が目を丸くした。

アンドロイド側からすれば、自分達の存在は異質だ。人類に仇なす存在かもしれないし、実際使っているテクノロジーは機械生命体由来のモノでもある。

 

 

「…君達が本当に人間であると証明出来たなら、話の信憑性も跳ね上がるだろう」

 

 

そう付け加えると、アネモネは戦兎と万丈へ向き直る。

 

 

「だから、その手伝いをして貰いたい」

 

「…手伝いって言ったって、何すんだよ?」

 

「さっきも伝えた通り、君達の体を検査する設備を作らなければならない。バンカーへ直接送るというのも考えたが…生憎のところ、暫く物資を輸送するロケットも打ち上がる予定は無い」

 

 

そこまで話し終えると、戦兎は何かを察した様にアネモネを見上げる。

 

 

「…もしかして……」

 

「…そのもしかして、だ。君達には、設備の材料集めがてらに物資の確保を手伝って貰いたい」

 

 

コールドスリープから目覚めて、最初の労働。

 

肉体労働に慣れている万丈に対して、戦兎は

 

「最ッ悪だ」

 

と小さく呟くのだった。




「地獄への道は善意で舗装されている」とはよく言ったものです。

さて、このヒーロー達は


「本物」なのでしょうか?


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Phase 10.天才とバカをジャッジしろ!

今回は日常回とも何ともつかない曖昧な回です。
太い文才が欲しい…!(絶望)

お気に入り400件突破しててブルっちゃうよ…(感謝)


︙廃墟都市

 

 

 

「…それで、何を集めるんだったっけ」

 

「忘れるの速ぇぞ万丈。ドラゴン頭から鳥頭に退化して…いや、爬虫類から鳥に移行した場合は進化って言った方が良いのか…?」

 

 

 

あれから1時間後、二人は瓦礫の山と化した街を訪れていた。

 

アネモネから課された資材調達の任務を全うすべく、辺りを捜索していたのだ。

 

現在足りない物資は、鉄。

 

アネモネ曰く、先の降下作戦実行の際に、兵器を製造する為にレジスタンスキャンプの鉄が殆ど接収されて行ったとの事だった。

そこで、機械生命体の残骸などが多く落ちているであろう廃墟都市や遊園地廃墟で、鉄を集めて欲しいとの事だった。

 

自然に在る鉄鉱を集めるもよし、機械生命体の残骸を集めるもよし。手段は問わない、とは伝えられている。また、何故か幾許かの路銀を握らされた。

 

 

「…なぁ、任務って言えば聞こえはいいけどよ。これって結局『おつかい』じゃねぇのか?」

 

「…皆まで言うな、万丈。虚しくなってくる」

 

 

道すがら、万丈がそんなことを言い出した。戦兎は呆れた様子で返答する。

実際、戦兎もその点に関しては同意せざるを得なかった。

 

然し、これは自分達の潔白を示す為のモノでもある。やらざるを得ないのだ。

 

 

「…ま、取り敢えず目先の目標を達成するしかないな」

 

 

ふぅ、と戦兎は溜息をつきながら歩き出す。 まずはこの近くにある廃ビルへ行ってみることにしよう。

 

数十分後。

 

 

「……」

 

「……」

 

項垂れた様子の2人が、廃墟都市に在った。結論から言ってしまえば、2人は目的の物を手に入れることが出来なかった。

そもそも機械生命体の残骸すら見当たらずに彷徨っていたのだが、漸くそれらしいものを発見した矢先に、それは起こった。

何処からともなく現れた機械生命体達に周囲を囲まれてしまい、戦闘に入ってしまったのだ。

その後も、機械生命体の集団と何度か遭遇してしまい、休む間もなく連戦に明け暮れる事となった。その上、倒した機械生命体の骸は不純物が多く、とても資材には使えそうになかった。

 

流石に疲れ果ててしまい、適当な瓦礫の上に腰掛け、休むことにした。

 

ぐったりとする戦兎。

ふと、ポケットの中に違和感を感じた。

 

ゴソゴソと中を弄ると、中からは先程渡された路銀の入った布袋。

そして、黒く大きめのスマートフォンの様なモノが入っていた。

 

其れの名は、ビルドフォン。戦兎が作り上げたデバイス兼「バイク」だ。

 

 

「……あッ!?」

 

 

疲労でぐったりとしていた戦兎が、突然大声を上げた。

隣に座っていた万丈は思わず飛び上がる。

何事かと思って振り向くと、その視線の先には何かを見つけた様子の戦兎の姿があった。

一体どうしたのか。万丈が尋ねるより早く、戦兎は万丈へ興奮した様に話し掛ける。

 

 

「そうだよ…見つからないなら、買えば良いんだ!」

 

 

そう言うと、早速戦兎はビルドフォンを起動し、画面を弄り始めた。

その様子を見て、万丈は嫌な予感がした。

こういう時の桐生戦兎という男は、大抵とんでもない事をしでかす。

過去に何度も経験してきたからこそ分かる。新しく作った武器の試し斬りをされそうになったり、スパークリングボトルを作る時に感電したりダイヤモンドを顔面に浴びたりしたのだから。そんな万丈の様子を知ってか知らずか、戦兎はニヤリとした笑みを浮かべた。そして戦兎は立ち上がり、瓦礫の山を登り始めた。

何をしようとしているのか想像もつかないが、万丈もとりあえず後に続いた。

ある程度登ると、今度は瓦礫の上を走り出した。

そして、瓦礫の頂上に辿り着くと、下に見える街並みを見下ろしつつビルドフォンを掲げた。

 

すると、ビルドフォンの画面右上。電波を示すマークが点灯し始めた。

 

 

「おっ!この世界でも一応電波は拾えるのか!流石は俺の 発・明・品!」

 

 

戦兎は嬉しそうな顔をしながらガッツポーズをする。

一方の万丈は、また始まったぞと言わんばかりにげんなりとしている。

 

戦兎はビルドフォンを素早く操作すると、どこかへ電話を掛け始めた。暫くして、通話が開始される。

 

 

「もしもし?アネモネさん?」

 

『…此方2B』

 

 

ぶちっ。相手がアネモネでないと分かった瞬間に、戦兎は電話を切った。そしてまた電話を掛け始める。

 

 

「もしもし?アネモネ?」

 

『えっ…?あの、僕9Sですけど…。というか貴方誰ですか?何処から回線に割り込んで…』

 

 

ぶちっ。再び電話を切る。また違う番号に掛けてしまったようだ。戦兎は何度目かも分からぬ同じ行動を繰り返す。

 

 

「もしもし?アネモネさん?」

 

『…誰だ、お前は。……そもそも、何で私に通信が出来るんだ?まさかお前、ヨルハの所属か?どの面下げて私にコンタクトなんて…ていうか、何でお前がアネモネの名前を』

 

 

ぶつっ。また電話を切り、再度電話をかけ始めた。

 

万丈は漸く戦兎の意図を察したのか、ジト目で戦兎を見つめる。

 

 

「…お前、まさか……」

 

「そ。近くにある電波の発信源に片っ端から通信掛けて、アネモネを探す」

 

 

戦兎は得意気に笑い、再び通信を掛け始める。

 

通信を片っ端から掛けて特定をすると言えば未だ聞こえは良い。然し、結局やってる事は────

 

 

「ただのイタ電総当りじゃねーか!!!!!!」

 

 

遂に耐え切れなくなった万丈の怒鳴り声が、辺りに木霊した。

その頃森林地帯では旧型のヨルハが謎の通信を受けて首を捻っていた事等、戦兎と万丈は知る由もなかった。

 

 

 

EVOL SIDE

 

 

『…随分と、派手にやッたなァ』

 

 

パラケルスス1493は、部屋に寝転がるマッドローグ────エボルトに対して呆れた様子で呟いた。

 

 

「だが…あのドンパチのお陰で、暫くはアンドロイド共も近付かないだろう。用心棒としては、万々歳の出来だと思うがねェ」

 

 

エボルトはパラケルスス1493の言葉に対し、余裕の表情でそう返す。尤も、その顔は仮面に覆われている故に伺う事は出来ないが。

 

 

「…ま、俺もちと表で働き過ぎたな。暫くは大人しくするかァ」

 

『大人しくテ用心棒が務まるノカ?』

 

「安心してくれ…何も木偶の坊みたいにダラけるって訳じゃない。色々と考える事があるのさ」

 

 

そういうと、エボルトは起き上がり窓の外へと視線を移す。その先に映る景色には、月明かりに照らされた木々が広がっていた。

 

 

『一体何を考エルツモりダ』

 

「とっても面白い事…とだけ言って置こうか。…俺の本分はゲームメイカーだ。あらゆる状況を鑑みて、最上の戦術を作り上げるのが得意でねェ」

 

 

ケラケラと笑うエボルトを、パラケルスス1493は「やれやれ」といった風に肩を竦めた。尤も、小型機械生命体は肩に相当するパーツが小さいので妙なポーズになったが。

 

 

『ソレデ?オ前ガ考えル"面白イ事"とヤラハ、ドコカラ始めルンダイ?』

 

 

「……そうだな。まずは、味方を増やす事を考えようかァ。…おい、この手紙を近くの村へ持って行ってくれ」

 

『村…?アア、あの村カ。あンな村ノ奴ラ、戦力になルのカ?』

 

「いいや…戦力云々じゃァない。まずはこの王国の心象を良くしてやらねェと…あ、名義はウチの大将にしておいたからな。俺の名前は絶対に出すんじゃねェぞ?」

 

 

エボルトはニヤリと笑いながら、小型の機械生命体へ手渡された数通の手紙を渡す。受け取った小型の機械生命体は、そのまま部屋から出て行った。

残されたエボルトは、パラケルスス1493に向き直る。

 

 

「さて…後はあっちがどう返して来るかが問題だが…ま、大丈夫だろ」

 

『…本当に大丈夫なノカ?』

 

「少なくとも、小野妹子の二の舞にならないって事だけは保証しといてやるさ…」

 

 

エボルトは、部屋の片隅を一瞥する。

そこには、複数枚のパネルで構成された「箱」が在った。

 

 

「折角見つけた箱庭だ…ワンサイドゲームで終わらせるのは名残惜しい」

 

『……??何の話ヲシテいるンダ?お前』

 

「ん?……ああ、お前は気にしなくて良い。それより、王様の世話でもしてやンな…あの時期のガキは、ちゃんと親が付いてやってねェと後々不味いからねェ」

 

『…随分と子供の世話に詳しいんダナぁ……オイ、何処ニ行ク気ダ?』

 

 

パラケルスス1493は、立ち上がって扉に向かうエボルトを呼び止める。するとエボルトは クルリと振り返り、戯けた様なジェスチャーを見せつつ答えた。仮面の奥の瞳が怪しく光っているのを見て、パラケルスス1493は小さく溜息を吐いた。

まるで、面倒事の予感しかしないと言わんばかりに。

そんな彼に対して、エボルトは一言こう返した。

 

 

「企業秘密って奴だ」

 

 

 

YoRha SIDE

 

 

 

「…何だったんでしょうか、さっきの通信って」

 

 

9Sと2Bは、先程受けた通信に対して首を捻っていた。

 

彼らは、アネモネから砂漠で起こっている異変の原因追求を依頼されている真っ最中だった。その異変とは、凶悪な機械生命体の多数出現。砂塵が吹き荒れ、元から決して安全とは言い難い地域であった砂漠。だが、ここ最近は敵の出現によって危険度は増し、調査も物資捜索もままならないという。

 

そんな時に司令官からの命を受けて地上へ来ていた9Sと2Bが、問題解決を依頼されたのだ。

 

 

「…何処かのオペレーターが、間違って通信したんじゃない?」

 

「男性型のオペレーターなんて居ない筈ですけど…あ、そういえば。アネモネさんの名前を出してました。アネモネさんに聞けば、分かるかも…」

 

 

アネモネ、というのはこのレジスタンスキャンプの責任者である女性型アンドロイドの事だろう。

2Bと9Sは一度顔を見合わせると、彼女の元へ足を向けた。

その最中、2Bがポツリと言う。

そういえば、と。

彼女は以前、こんな事を言っていなかっただろうか。

 

 

「…CTスキャン検査装置や生化学自動分析装置を作るって、アネモネが言ってた」

 

「えっ…それって、人間専用の医療機器ですよね?人類会議は月面だし、地上で使う相手なんて居ない筈…」

 

 

9Sは、砂漠の上で うーんと唸りながら思案した。

然し、決定的に情報が不足している中で結論など出せる筈も無い。

 

 

「…とりあえず、アネモネさんに通信してみましょうか…」

 

 

早る好奇心を抑えられず、9Sは通信を開始した。

 

 

「もしもーし、聞こえてますかー?9Sです」

 

『ああ、9Sか。どうかしたのか?』

 

「実は、1つ聞きたい事があって…。さっきアネモネさん、レジスタンスキャンプで人間用の医療機器を使う、みたいな事を話してましたよね?何でそんな物を使うのか気になって…」

 

 

9Sから発せられた質問。それを聞くと、アネモネの顔面が さーっと青くなった。

 

 

『あっ…あー……それは、だね…その……』

 

 

そんな時、アネモネに2つ目の通信回線が開いた。

 

 

『ち、ちょっと待ってくれ…。所属不明のUNKNOWN……誰からの通信だ?此方アネモネ、其方は?』

 

『あっ、繋がった!このIDだったのか…! アネモネさん、ちょっと聞きたい事が有るんだけどさ。この近くで何かモノを買える場所ってないかな?』

 

『えッ!? よりにもよってこの状況で君達からか…すまない9S、後で掛け直すよ 』

 

 

何処か慌てた様子のアネモネ。9Sとの通信を、一方的に切ってしまった。

 

 

「……切られちゃったんですけど」

 

「……どうするの?」

 

「……さっき割り込み通信して来た声、僕が受けた通信と同じ声をしてました。…取り敢えず……行ってみるしか無さそうですね。砂漠の調査の方も行き詰まりましたから…戻りましょう」

 

 

通信が途切れた後、暫しの間二人は黙っていたが、やがて9Sの方からキャンプへの一時帰還を提案した。

 

 

 

BUILD SIDE

 

 

『さて…色々立て込んで悪かったね。物資を買える場所を知りたいんだったかな?』

 

 

場所は変わって廃墟都市。

戦兎はアネモネと連絡を取り合い、彼女の持つ端末を介して会話をしていた。

 

 

『その様子だと、鉄鉱集めは上手くいっていないみたいだね…』

 

「機械生命体の残骸は少ししか落ちてなかったからなぁ…ボウズほど悪くはないけど、収穫は貧相だよ」

 

『ふむ…ショップとなると、パスカルの村が適所かな…後で座標を送るから、そこへ行ってみてくれ』

 

「りょーかいっ。んじゃ、戦利品の方は期待しておいてくれ」

 

 

戦兎は通信を切ろうとするが、アネモネが引き止める。

 

 

『ああ、ちょっと待ってくれ。一言伝え忘れていたよ…その村は平和主義者の機械生命体が集って、1つのコミュニティを形成してるんだ。だから…』

 

 

「穏便に事を進めて欲しい、って所かな…?大丈夫だって、安心しなよ。俺達、ラブ&ピースの為に戦ってる訳だし。それじゃ、また後で」

 

 

戦兎はアネモネとの通信を切ると、ビルドフォンにフルボトルを差し込んだ。

すると、ビルドフォンはその大きさを増しながら、バイクへと形を変えて行く。

 

戦兎の愛車「マシンビルダー」の完成だ。

 

久々に日の目を見た愛車に跨り、戦兎はヘルメットを被る。

 

 

「さて、と…行くぞ万丈!」

 

「わーったよ…」

 

 

はぁ…と溜息を吐きながらも、万丈も戦兎に続いてバイクに跨った。

 

 

 

︙パスカルの村

 

 

 

森林地帯にある小集落。

そこには、争いではなく平和の道を選んだ機械生命体達が群れを成して暮らしていた。

 

村の面々は多様であり、子供や大人、はぐれ者、引きこもり。様々な機械生命体が集まっている。

 

その村を治める長の名は、パスカル。

 

他の機械生命体とは異なる風貌をしており、より人型に近い形となっている。

 

そのパスカルは、自宅で哲学書を読んでいた。

 

 

「ふーむ…『人間の美徳はすべてその実践と経験によっておのずと増え、強まるのである。』か……このソクラテスという人物の言葉は中々面白いですね。人間の美徳が実践と経験ならば、私達の美徳は何でしょうか…うーん……」

 

 

その時、自宅の戸をノックする音と、子供達が自分を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

「ネェネェ、パスカルおじチャン!」

 

「はいはい、どうかしましたか?」

 

 

ドアを開けると、其処には小型の機械生命体が数体立っていた。

彼等は村の子供であり、パスカルが勉強を教えたり、遊び相手になっているのだ。

 

 

「あのネ、村にお客サンが来テるヨ!」

 

「お客さんですか…?はて、アネモネさんやジャッカスさんが訪れる予定は無かった筈ですが…」

 

 

パスカルは自宅から出て、その「客」の姿を確認しに向かった。

子供に「ハヤク、ハヤク」と急かされながら向かうと、村の広場に「客」は居た。

 

彼等はアンドロイドによく似た姿をしていた。風貌は人間の雄に酷似しているが、最新型の幼い風貌ではなく、レジスタンスキャンプに居る様な成熟した男性の姿であった。

 

1人は、黒髪にベージュのコートを。もう1人は、エビフライのように結った茶髪に青いスカジャンを纏っていた。

 

 

「ようこそいらっしゃいました。私はパスカル。この村の長を務めています」

 

「あぁ、君がパスカルか…初めまして。アネモネさんから、話は聞いてるよ」

 

 

黒い方が握手を求めてきたので、パスカルはそれを握り返した。

 

 

「俺は桐生戦兎。物理学者だ。そしてこいつが万丈龍我。ま、こっちの方はバカとかエビフライとか何とでも呼んでやってよ」

 

「誰がバカだ!せめて筋肉付けろって言ってんだろ!あとエビフライって言うんじゃねぇ!」

 

「ふふ、お2人は元気ですねぇ。では立ち話もなんですし……さ、そこの椅子へどうぞ」

 

「ああ、邪魔させて貰うよ」

 

 

パスカルの後に続き、戦兎達は村の広場に設置されている椅子へ腰掛けた。

遠くからは、興味津々といった様子で機械生命体の子供等がこちらを伺っていた。

 

 

「しかし、私を初めて見たのに驚かないのですか…?アンドロイドの皆様方は、私や村の様子を見ると大変驚いた顔をなさいますが…」

 

「アネモネから多少話は聞きかじってるし…それに、色々俺達も修羅場を潜り抜けて来たからね。慣れたよ」

 

 

飄々とした様子で話す戦兎に、パスカルはカメラアイを細めて微笑む。尤も、微笑んでも顔のパーツに変化は現れないが。

 

 

「成程、強い御方なのですねぇ。…ところで、本日はどういった要件で?」

 

 

パスカルが、戦兎に本題を尋ねた。それを受けると、戦兎はゲンナリとした様子で返答する。

 

 

「…実は今、キャンプで鉄が不足しててさ。ここでなら鉄鉱が買えるって聞いたから、取引に来たんだ」

 

「成程、そういう事でしたか…それでしたら、村で商いをしてる方が居ますから。その人にお尋ね下さい。…ほら、あそこで浮いてる方です」

 

 

パスカルは村の一角にてフワフワと浮遊している、玉のような機械生命体を指して言った。

 

 

「分かった…何から何まで助かるよ、有難う」

 

「いえいえ。折角の客人ですし、ゆったりと過ごして頂けると幸いです。子供達も喜びますから」

 

そうして、パスカルは子供達の下へ向かった。その後姿を見届けると、戦兎と万丈は道具屋ロボの下へ向かう。

 

 

「おーい、今って営業中?」

 

 

丸い玉に腕が一対付いている機械生命体に尋ねると、くるりと一回転してから返答が来た。

 

 

「イラッシャイ。パスカルさんとの話は聞こエてたよ。鉄が欲しいんだネ?」

 

「話が早くて助かるよ。それじゃ、この金で買えるだけの鉄を、ありったけ買わせて貰おうかな」

 

 

アネモネから渡された銭を、袋ごと道具屋ロボに渡した。すると、機械生命体は器用に両腕を使ってそれを受け取り、中身を確認する。

暫く確認したのち、道具屋ロボは戦兎に伝えた。

 

「実は今日、閉店セールなんだヨネ。明日から完全な道具屋になルから、鉱石の取扱いは今日限りなんだヨネ」

 

そう言うと、道具屋ロボは大きな箱を3つ持ってきた。

それを地面に置くと、蓋を開ける。

中には、大量の鉄鉱石が詰められていた。

 

あまりの量に、万丈は思わず目を見開いた。

戦兎に至っては、「ヒャッホホホヒャッホイ!」と奇声を挙げながら狂喜している。それからしばらく、彼等は夢中で鉄をバイクへ積み込んでいた。

 

やがて鉄の在庫が無くなると、戦兎と万丈は礼を言い、店を後にしようとする。

 

すると、後ろから子供達の声が響いて来た。

 

 

「また来てネー、戦兎オジチャン!」

 

「おじ…ッ……」

 

 

戦兎は子供等に対し振り返り笑顔で手を振ったが、内心では傷ついていた。

一方万丈は得意げに手を振る。

 

 

「バカおじチャンも、また来てネー!」

 

「ばッ………」

 

 

万丈もまた、同様に傷ついた。

だが、二人は一応手を振り返す。

その様を見て、機械生命体の子供等はキャッキャとはしゃぎ出した。

こうして、彼等は村を後にした。

 

 

⋮レジスタンスキャンプ

 

 

「…パスカルの村へ行かせたが、大丈夫だろうか」

 

アネモネは独りごちた。

憂鬱の種は、戦兎と万丈である。

 

彼らを信用したいと言い出したのはアネモネだ。しかし、どうやらパスカルの村へ行かせて問題がなかったかどうかを憂いていた。

 

もし、彼等が敵だったら?

パスカル達へ危害を加えていたら?

 

そんなことが脳裏に過ぎる。

その矢先、何処かからかエンジンの音が聞こえ始めた。何事だとテントを飛び出してみると、そこにはオフロードタイプの大型二輪マシンがあった。

戦兎と万丈が乗る、マシンビルダーである。

更に、バイクには大きな箱が3つ括り付けられている。

 

 

「鉄、調達出来たぞーッ!」

 

 

手を振りながら、万丈がアネモネへ叫んだ。

マシンビルダーはレジスタンスキャンプ前で停車し、戦兎と万丈は箱を持ってアネモネへと歩み寄った。

 

 

「はい、約束のモノ。これで、俺達の潔白は証明出来るかい?」

 

 

箱の中を見たアネモネは、驚愕で目を丸くした。

そこにあったのは、紛れもない鉄であった。

疑っていた訳ではなかったが、実際に目にすると驚きを禁じ得なかった。

この二人ならば、パスカルに何かしらの被害を与えることなど不可能だろう。そう確信できるほどの量と質であった。

 

 

数時間後。

 

 

レジスタンスキャンプの一角には、ちょっとした病院の様な設備が造られていた。

 

戦兎の万丈の2人で集めて来た鉄を用いて作られた、装置の数々である。

 

戦兎と万丈は、その近くで採血を受けたり、体をスキャンされたりと、正に俎板の上の鯉と呼ぶに相応しい状態にあった。

 

30分後。

 

アネモネは、検査結果を目の当たりにして目を見開いた。

 

構成物質

炭素 50%

酸素 20%

水素 10%

窒素 8.5%

カルシウム 4%

リン 2.5%

カリウム 1%

 

体組成

水分 62.6%

タンパク質 16.4%

脂質 15.3%

ミネラル 5.7%

糖質 0.6%

 

 

「間違い、ない…」

 

 

アネモネは検査結果から、戦兎へと視線を移す。

 

 

「彼等は、紛れも無く『人間』だ…!」

 

「うおおぉぉ!よっしゃあああぁッ!!」

 

「あー…やっと…終わった……」

 

 

アネモネの言葉を聞き、万丈は歓喜に沸き、戦兎は安堵した。

 

しかし、アネモネは歓喜だけでなく焦りも滲ませた。

 

まさか創造主たる人類を、この目で見るだけでなく言葉を交わしてしまうとは。何と畏れ多い事か。

 

 

「こうしちゃ居られない…!」

 

 

アネモネは通信を掛け始める。通信先は────バンカー。

 

 

『此方6O…って、その服装ってレジスタンスの…』

 

「オペレーター!早急に司令官へ通信を繋いでくれ!早く!」

 

『えッ、いきなりなんですか!?』

 

「良いから!」

 

『は、はい…ッ!』

 

 

数秒の間があって、モニターの向こう側に女性が映し出された。ホワイト司令官だ。

 

 

『此方司令部。…レジスタンスキャンプか。どうした?』

 

「緊急事態だ…。地上に、まだ人類が生きてたんだ…!」

 

『……なに?』

 

「それも1人じゃない、2人もいるんだよッ!こっちで検査したら、紛れも無く人間だった…!」

 

『何だとッ!!』

 

 

司令官の顔色が一変する。

それはそうだ。月面に移住したはずの人類が、地球で2人も生きているというのだから。

 

 

「しかも、彼等はエイリアンに対抗する為の力を持ってるんだッ!」

 

『……本当、なのか…!?』

 

 

訝しむ様子の司令官。その様子を見た戦兎が、アネモネとの通信に割り込んだ。

 

 

「はい、ちょいと失礼しますよー…ッと。一旦退いてくれ、アネモネさん」

 

『あ、おいッ…!?』

 

 

アネモネを押し退けると、戦兎が前に出て話し始めた。

 

 

「どーも初めまして。俺は桐生戦兎。物理学者だ。そして、コイツが格闘家の万丈龍我。ま、見ての通り、俺達は何処にでも居る普通の人間だよ」

 

『…………』

 

 

司令官は、戦兎の姿を見ると 口をポカンと開けたまま放心していた。普段の凛々しい姿からは想像も出来ない様な間の抜けた姿だったが、事が事なので仕方あるまい。

 

 

「さて、と。挨拶も済んだし…住処探すか、万丈」

 

「は!? アレで終わらせて良いのかよ!…って、また俺の事をバカって言ってんじゃねぇか!しかも初対面の相手に!」

 

「いや、だって実際バカだろ?」

 

 

自己紹介をするや否や、戦兎と万丈はどこかへ去ろうとする。呆気に取られていた司令官は、慌てて引き留めようとした。

 

 

『ちょ、ちょっと待ってくれ…いや、待って下さい!』

 

「ん?何か?」

 

 

司令官は数回深呼吸して、髪を掻き上げると 戦兎と万丈へ伝えた。

 

 

『…貴方達には、一度私達の拠点…バンカーへ来て頂きたい』

 

「……そりゃどういう意味だ?」

 

『…私達は、衛星軌道上の基地「バンカー」を活動拠点としています。そこで、貴方達の力について詳しくお聞かせ願いたいのです』

 

「……なるほどね。分かった、行こう」

 

 

二つ返事で承諾した戦兎を、万丈はジト目で見つめながら小突いた。

 

 

「お前、安請け合いしてるけど…衛星なんたらって、宇宙にあんだろ?どうやって行くんだよ…」

 

「そりゃあ、飛んで行くに決まってるじゃん。ロケットで」

 

 

しれっと返事をした戦兎に、万丈はしかめっ面で更に返す。

 

 

「ロケットなんて何処にあんだよ?」

 

 

万丈の疑問も尤もだ。鉄が不足している以上、ロケットなど易々と打ち上げられるはずがない。

 

よしんば物資補給用のロケットを打ち上げるにしても、ある程度の期間が必要だろう。

 

しかし、戦兎はニヤリと笑って懐からフルボトルを取り出した。

 

 

「ロケットならここにある。ロケットパンダでひとっ飛びだ」

 

 

戦兎はそのままビルドドライバーを装着し、ツインフルボトルスロットへボトルを装填する。

 

 

『パンダ!ロケット!ベストマッチ!』

 

 

最良の組み合わせ「ベストマッチ」である事を報告する音声が鳴った後、戦兎はボルテックレバーを回転させ始める。

 

すると、ビルドドライバーから「ファクトリアパイプライン」というプラモデルのランナーにも似た装置が展開された。

そこへフルボトルの成分から2つの装甲が生成される。

 

 

『Are you Ready?』

 

「変身ッ!」

 

 

形成されたアーマーパーツは戦兎の前後に移動・合体し、彼の全身を覆う強化外装を形成した。

 

 

『ぶっ飛びモノトーン!ロケットパンダ!イェーイ!』

 

「……これが、データにも有った『変身』か…」

 

 

おお、と軽く驚くアネモネに対して 司令官は状況が理解出来ないのか放心状態になっていた。

 

 

『私は…一体、何を見ているんだ…!?』

 

 

戦兎は「まぁ落ち着けって」と画面の向こうへ声を掛ける。そのまま左腕を掲げると、肩の「BLDロケットショルダー」を作動させた。

 

 

「よッし…万丈、飛ぶぞ!」

 

 

「えッ!?おい、ちょっと待てよ!俺まだ変身してねぇから!」

 

 

慌てて万丈もクローズへ変身。戦兎の背中へしがみつく。

 

 

「おい、マジかこれ……1人なら兎も角、2人で本当に飛べんのかよ……ッ!!」

 

「大丈夫だって。天才の発明品を信じろッ!」

 

 

戦兎はそう言うと、一気にロケットを噴射させて天高く舞い上がった。

2人の体はみるみると空へと昇り、雲を突き抜ける。

 

 

「ははッ…何だこれ?」

 

 

アネモネは乾いた笑いを漏らしながら上空を見上げ。

 

 

『……』

 

 

司令官は画面からフェードアウトした。画面の向こうから喧騒が聞こえる。どうやら、彼女は倒れてしまったようだ。

 

その間間にも、ロケットはグングン上昇。遂に成層圏を突破して宇宙空間へ到達した。

 

 

「えーっと、多分バンカーってのは…アレの事だよな。うん」

 

 

明らかに他のデブリとは違う存在感を放つ建造物。それを見た戦兎は、ロケットボトルの能力で姿勢制御を行う。

 

 

「よし、見つけた!行くぞ万丈!」

 

「お、おうッ!」

 

 

目標を定めた再び戦兎はロケットを噴射させ、高速で飛行を開始。あっという間にバンカーの側まで到着した。

 

さながら土星の環の様にソーラーパネルを展開しながら、衛星軌道上に浮かぶバンカー。その近くまで接近した戦兎は、再び司令官へと通信を行った。

 

 

「もしもし?聞こえてる?」

 

『……あ、嗚呼…一先ずは…。飛行ユニットを格納している倉庫が有ります。そのハッチを開けるので、そこからお入り下さい』

 

 

若干意識を取り戻した司令官は、咳払いをして居住まいを正す。

 

10秒程経った後、バンカーの一部が開放された。格納庫のハッチだろうと確信した戦兎は、姿勢制御のノズルを吹かしながらハッチへと辿り着き、中へ入る。

 

 

⋮バンカー

 

 

 

「うわッ……なんだこりゃ……」

 

「すげぇ……!」

 

万丈と戦兎は感嘆の声を漏らしつつ、内部を観察する。

 

そこには、アニメに出てくる様な風体をした大型ロボット─────飛行ユニットが存在していた。

戦兎は思わず「最っ高だ!」と呟きながら、ビルドフォンで数枚の写真を撮るに至っている。

 

その後、格納庫のドアを開けてバンカーの中へ入り、しがみついていた万丈を床へ降ろして変身を解いた。

 

 

「…それで、次は何処へ向かえばいい?」

 

『あッ…少々お持ち下さい。只今、案内役を向かわせておりますので……』

 

 

普段は凛々しい司令官も、緊張が隠せないのか何処か辿々しい口調で戦兎へ言葉を返す。

 

 

「りょーかい。それじゃ、案内役を待つよ」

 

 

ふぅ、と溜息を吐きながら 戦兎は壁へ凭れ掛かった。

 

 

「それにしても、此処…なんかめっちゃ白くね?」

 

「確かにそうだな。真っ白だし」

 

 

万丈の言葉に同意しつつも、戦兎は落ち着かない様子で辺りを見回した。

ふと万丈が見れば、戦兎の頭に有る「アホ毛」がピョコンと跳ねている。物理学者としての性が暴走しかかっている証拠だ。

 

 

暫く待っていると、二人の前に黒い扉が現れた。

 

 

「……やっと来たみたいだ」

 

「……だな」

 

 

パタパタ、と此方へ駆けて来る足音の方へ向き直る。そこに現れた「案内役」は、6Oだった。

 

 

「ご、ごめんなさいッ…!大変遅くなりました…!」

 

 

普段の明るさは鳴を潜め、焦燥と緊張に満ちた面持ちの6Oは、ぺこぺこと何度も頭を下げる。

 

 

「あー…大丈夫だから、な?気にしてないから」

 

 

戦兎にそう言われても尚、6Oは申し訳無さそうな表情を浮かべていた。そんな彼女を見て、戦兎は僅かに憂う。

 

 

(…本当に、人間と会ったことが無いんだな)

 

 

センチメンタルな気分に沈みかけた戦兎の隣で、万丈が何か言い始める。

 

 

「良い事教えてやるよ。緊張した時にはな、掌に『米』って書いて…」

 

「それを書くなら『人』だぞ」

 

 

間髪入れずツッコんだ戦兎は、改めて6Oへ視線を向けた。すると彼女は、少しだけ緊張がほぐれた様に戦兎達へ告げた。

 

 

「それでは、お2人を司令官の下へご案内しますね」

 

「ああ、頼むよ」

 

 

6Oの先導に従って、戦兎と万丈は歩き始めた。

 

 

 

数分後。

 

 

 

「ここが、私達ヨルハの中枢…司令部です」

 

 

6Oの案内によって連れて来られた場所。そこには、大きなスクリーンと ホログラムの様なモニターがいくつも並んでいた。

 

流石に戦兎達も場違い感を感じたのか、何処か後ろめたそうに司令室の中へと入っていく。そんな二人を出迎えたのは、先程まで通信越しで話していた女性型アンドロイド─────ヨルハ部隊総司令官・ホワイトであった。

 

ホワイトは、戦兎達の方を向くと丁寧に一礼する。

 

 

「…お待ちしておりました」

 

「嗚呼…アンタが、司令官って奴?」

 

 

やや困惑気味に訊ねる戦兎へ、ホワイトはこくりと首肯した。

 

そして、戦兎達が案内されたのは司令官専用の個室。どうやら、6O以外のオペレーター達は同席しないらしい。

 

椅子に座っているのは、司令官であるホワイトと戦兎、そして万丈のみ。

戦兎と万丈は促されるまま席に着くと、早速この世界について質問を投げかけた。

 

しかし、返ってきた答えは決して芳しいものではなかった。

 

曰く、人類は現在ごく少数が月へ移住したという事。

 

エイリアンとの戦いはどっち着かずの儘であること。

 

その他にも細々とした事を伝えられたが、大きく分けると上記の2つであった。

 

 

「……前途多難、だな」

 

 

戦兎は渋面を浮かべながら呟いた。

万丈は黙りこくったまま、差し出されたコーヒーを飲んでいる。

 

 

…薄くね、コレ

 

 

聞こえるか聞こえないかの声で呟いた万丈を横目に、ホワイトは戦兎へ視線を向けた。

 

 

「…お2人は、私達アンドロイドが守るべき存在。バンカーの中で保護を…」

 

「生憎、それは出来ない相談だ」

 

 

ホワイトの言葉を遮る様に、戦兎がキッパリと告げた。予想していなかった返答に、ホワイトだけでなく6Oまでもが目を丸くしている。

 

 

「何故ですか…!? 貴方達は、月面で戦場から離れて安全に過ごすことが出来るのに…」

 

「俺達には、エイリアンと戦う事の出来る力が有る。それを安穏として過ごす事なんて…到底出来やしない」

 

 

予想だにしない返答。暫くの沈黙の後、ホワイトは口を開いた。

 

 

「…何故、そこまで自らを犠牲にするのですか?」

 

 

心底不思議そうな表情で、彼女は戦兎へ問う。

戦兎はその問いに対し、一瞬考え込む様な素振りを見せた後、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「犠牲にしているってつもりは無いんだけど……誰かの力になりたいから、かな」

 

 

はっきりと、真っ直ぐとした目線で、戦兎はホワイトを見つめ 答えた。

 

 

「誰かの力になれたら、心の底から嬉しくなって…くしゃっとなるんだよ。俺の顔。…ま、その時はマスクの下で見えないけどさ」

 

 

戦兎は軽く頭を掻いて、そう付け足す。その様子を見て、6Oは何とも言えない表情になった。

 

 

一方、ホワイトはと言うと。

暫しの間戦兎の瞳の奥を探る様に見据えた後、小さく息をつく。そして、徐に立ち上がった。

戦兎と万丈が首を傾げていると、ホワイトは静かに話し始めた。

 

 

「…分かりました。それでは、私達と共に戦って頂きます。人類と共に戦っているという実感が有れば、隊の士気も上がるでしょうし……尤も、私達は感情を禁止していますが」

 

「…はァ!? 感情禁止!?」

 

 

彼女の言葉を聞いて、今度は逆に戦兎の方が立ち上がる番だった。

 

 

「うぉッ!?いきなり立ち上がンなよ!」

 

 

「いや…だって、アンタ達はそれでいいのかよ? 自分の意思とは関係なく、そんな風に扱われるのは嫌じゃないのか……?」

 

 

戦兎は真剣そのものといった様子で、ホワイトに訴えかける。

 

 

「それに、感情ってのは知的生命体の中でも特権みたいなモンなんだぞ!? 感情があれば強くなる事だって出来るのに、勿体無い…」

 

「……ですが、これは規則なので…」

 

 

半ば早口になった戦兎に、ホワイトは少し狼狽しながらも答えた。

 

 

「…あ、そうだ」

 

 

その時、2杯目のコーヒーへ手を付けようとしていた万丈が口を開いた。

 

 

「人間はアンドロイドよりも偉いって事になってるんだろ?それなら…俺達が『感情禁止を禁止』すれば良いんじゃね?」

 

「……はぁ?」

 

戦兎は呆気に取られたような顔で、万丈の方を見る。

 

 

「つまり、お前はこう言いたいワケか。『人間様の命令は絶対!』と」

 

「おう! その通りだ!」

 

 

万丈は胸を張って答える。

 

 

「……どう思うよ、戦兎」

 

「……」

 

 

戦兎は腕組みしながら、万丈とホワイトを交互に見る。

そして、ふっと笑みを浮かべると。

 

「お前にしては良いアイデアじゃないか。じゃ、決まりだ!」

 

と、言放った。

 

 

「……え?」

 

「は、はいっ?」

 

 

ホワイトは困惑した表情を、6Oはどこか期待するような眼差しを、それぞれ向けてくる。しかし、2人の反応などお構いなしと言った感じで、戦兎は続けた。

 

 

「今ここで、『人間』の俺からの通達をする。感情禁止を、禁止ッ!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい…!人類会議の判断を仰がないと…!」

 

 

ホワイトは思わず戦兎を制止する。

 

 

「人類会議?そんな()()()()()()も分からない様な物じゃなくて、ここに『実物』がいるんだけど?」

 

 

戦兎の言葉を聞くと、何故か一瞬だけホワイトの顔面から血の気が引く。

 

十数秒程の逡巡を経た後、ホワイトは戦兎へ尋ねた。

 

 

「……本気、なのですね」

 

「ああ」

 

「……分かりました」

 

 

そして、大きく溜息をついた。

 

 

「……6O。至急、地上での活動を行っているヨルハ機体を全機帰還させる様に通達しろ」

 

「わ、分かりましたっ!!」

 

 

6Oが慌てて部屋を出て行く。

 

 

「…一先ず、貴方達の存在を皆へ知らせなければなりません。それと…隊員達が集結し終わるまで、この部屋に残って頂けますでしょうか。敵襲などと思われて、あらぬ誤解を生みかねませんので」

 

「うーん…悪い。俺、ちょっとだけやる事があるんだ。お前は残れよ万丈」

 

「はァ!?お前、どこ行くんだよ!? 敵に思われるとか言われたばかりじゃねぇか!もし襲われたらどうすんだよ!」

 

「俺は色々とタスクがあるの。それに、()()()()()()()()()()が居る訳無いでしょうが」

 

 

しれっと答える戦兎に、万丈は溜息を吐いて後頭部を掻き毟った。

 

 

「自信過剰過ぎるだろ……ったく、しゃあねぇ。えーっと…何て呼べばいいんだ?司令官?」

 

「……一先ず、呼び名は其れで。隊の風紀にも関わりますので」

 

 

慌ただしく動き始めたバンカー内。一先ず段取りを決めた戦兎は、部屋から出ようとする。

 

 

「…あ、そうだ。一つ伝え忘れてたよ」

 

 

出口の直前でピタリと止まった戦兎は、身体を35°程反らし 司令官へと言葉を伝えた。

 

 

「俺達に『慣れない敬語』で接するの、ナシで!」

 

 

そう言って、戦兎は扉の向こうへと消えた。

 

 

(……見抜かれていたのか)

 

 

ホワイトは小さく自嘲気味に笑った。残された万丈はポカンとした顔のまま立ち尽くしていたが、ホワイトへと向き直った。

 

 

「…それで、俺はどうすりゃ良いんだ?」

 

「……人類会議へ、規約変更を申し出る。暫く、寛いでいてくれ」

 

 

それから数分後。

ホワイトは電子書類の文面を入力し終え、送信した。

 

 

「これでよし、と……どう返答が来るか…」

 

 

ホワイトは神妙な面持ちで、椅子へ座り込む。ふと見れば、万丈は3杯目のコーヒーを飲み始めていた。

 

そういえば、6Oが自分にも淹れてくれたコーヒーが机の上で置き去りにされていた。

 

 

 

冷めてはいるが、折角の一杯。さっさと飲み干してしまおう。……と、カップに手をかけたその時だった。

 

 

プルル、プルル、という音と共に机上の端末が点灯する。画面に映し出されたのは、月面人類会議からの返答。

 

 

その内容は、「規約変更を承認する」という旨のモノだった。その文章を見た瞬間、ホワイトの顔には思わず笑みが浮かぶ。

 

だがそれも束の間、彼女は再び表情を引き締めた。

人類会議への規約変更申請が受け入れられたのは初めてだ。尤も、今まで変更の提案すらした事はなかったが。

 

 

何はともあれ、これで少しは隊員達に好影響が有るだろう。ホワイトは安堵のため息を漏らしながら、新たな仕事に取り掛かるべく、席に着いたまま背筋を伸ばす。

 

まだ、戦兎達の存在を部隊員達へ認知させるという大仕事が残っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。バンカーの片隅。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『桐生戦兎』の瞳が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────血の様に赤く光を帯びていた。




『友と敵とが無ければならぬ。友は忠言を、敵は警告を与う』

─ソクラテス─


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