「宇宙世紀……じゃない? スパロボだ、コレ!?」 (永島ひろあき)
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第一話 「宇宙世紀……じゃない? ガンダムの世界じゃないのか!」

ある日突然、スパロボ時空にいる事に気付いてしまった不幸な主人公のお話です。ロボットには乗りません。スポンサー的ポジションの裏方主人公くんになります。

追記
指摘があったので主人公の独り言の大部分を心の中でのものに変えました。


「宇宙世紀……じゃない? ガンダムの世界じゃないのか!」

 

 プルート財閥の若き総帥ヘイデス・プルートが社長室でそう叫んだのは、浅く広くところどころ深くゲーム好きだった前世の記憶を思い出した時だった。

 癖のあるこげ茶色の髪と同じ色の垂れ目を持った容姿のヘイデスは、デスクの上に置かれた電子カレンダーの日付を見て、わなわなと体を震わせている。

 時に新代歴(しんだいれき)179年2月11日――地球連邦政府から独立を宣言したジオン公国軍が、住人を毒ガスで虐殺したスペースコロニーを地球に落とすという、ブリティッシュ作戦を実行してからおおよそ一カ月ほど経過している。

 ただし、これが機動戦士ガンダムの世界であったなら、暦は“宇宙世紀”でなければならないし、179年ではなく79年でないとおかしい。

 

「どう、どうなっているんだよ、これ!?」

 

 思わず腰を浮かせたヘイデスだったが、すぐにへなへなと脱力して最高級品の椅子にどかっと音を立てて腰を落とし、頭を抱え込む。

 今、ヘイデスには二十三年生きてきたヘイデスとしての人格に、二十一世紀を生きた日本人男性の記憶と知識が混入している。ただ前世の人格に戻ったというわけではなく、ヘイデスが7、前世が3の割合で融合したという実感がある。

 そしてヘイデスが自分の居る世界が宇宙世紀でないのもそうだが、なによりもコロニーが落ちなかった事実が、ここがガンダムの正史世界ではないと実感させた。

 

 ありとあらゆる分野で世界経済の重役を担う大財閥の総帥として、ヘイデスには数多くの情報が迅速に届けられる。

 その情報の中に、スペースコロニーが地球へと向けて落下する最中、地球連邦軍でもジオン軍でもない何者かによって破壊され、微小な破片が地球に降り注ぐに留まったという一報があったのである。

 

「まさか……メテオ3? セプタギンか!? いや、マクロスの可能性も、でもあれはαの世界だとソロモン攻略の時にワープしてきた筈。後は何が考えられる? ひょっとしてパズダー、ゾンダーだったりするのか? もしそうならスパロボ世界か!?」

 

 思いつく限りの可能性を口にしてゆくが、たとえどれであっても地球存亡、人類絶滅の危機に繋がるとんでもない事態だ。

 

「そりゃスパロボは楽しんだよ、生涯の趣味だったよ。でもさあ、画面の向こうで遊ぶのと画面の向こうに来ちゃうのは別だろう!? スパロボとか修羅の世界じゃねえか。

 いや、初期のスパロボなら負けても地球が征服されるだけで済むかもしれんけど! 場合によったら銀河滅亡とか宇宙消滅とか、そこまでいくじゃん! ダメじゃん!」

 

 いいやああああ、と思わず叫んで頭を掻きむしるヘイデスだったが、一代で世界的財閥を築き上げた才覚を持つヘイデスとしての人格は騒いでも仕方がないと落ち着き始める。

 前世の人格がメインになっていたら、更に床の上で転がり回っていただろう。これまで随分とべらべら喋ってしまったが、幸いにしてこの部屋にはヘイデス一人だし、もともと彼の社会的立場を考慮して防諜を徹底している。盗聴の心配はあるまい。

 とはいえ、口に出せばどこから漏れるか分からないから、考えは頭の中でこねくり回すに留めるのが最善だ。

 

(いや、いや、考えても仕方がない。仕方がない。そうだ、まずは参戦作品を把握しよう! ファーストはまず確実だ。スパロボ御三家の内、ガンダムは確実。

 アムロは頼りになるけど、シャアはなあ。アクシズ落としをやる前のクワトロ時代の参戦で済めば助かるのに)

 

 味方の時はトップエースの一人だけど、敵に回ると勢力を一つ作るからなあ、とぼやきながら、ヘイデスはPCを操作してマジンガーZの光子力研究所、ゲッターロボの早乙女研究所、コンバトラーVの南原博士、ボルテスVの剛博士などなど、思いつく限りのスーパーロボットの開発者や研究施設を検索し始める。

 

(マジンガーとゲッターロボも作品次第でとんでもないことになるからな。できれば初代の第三次とか第四次とかのテレビ版の流竜馬とかが居て欲しい……)

 

 そうして作業を続けて一人、また一人とスパロボでおなじみの博士や単語がヒットして行き、その度にヘイデスは、ひい! いやああ、と成人男性としては情けない限りの声を上げながら自分の置かれた状況を把握していった。

 なにしろ参戦作品の数が多ければ多い程、敵対勢力は増えて行き、ヘイデスの命の危機も加速度的に増してゆくのだ。

 ヘイデスにとって、ここはプレイヤーがクリア可能な前提で用意されたゲームの中ではなく、本当に死んでしまう現実の世界となってしまったのだ。

 

(あひい、いや、前向きに考えよう。うん。とりあえずトップを狙え!とイデオンは参戦していないと考えてよさそうだな。億単位の宇宙怪獣と戦わないで済んだのと、イデにリセットされるのは免れるか。

 あ、やだ、確かFの完結編でイデオン勢が二百年か三百年後くらいからタイムスリップしてきたんだっけ? ある日突然、ソロシップとバッフ・クランがこんにちはとか、勘弁してくださいよぉ)

 

 次から次へと思いつく厄介ごとに、ついつい死んだ魚の目になったヘイデスだったが、それでも自らに【気合】をかけてなけなしの気力を振り絞る。

 

(これからファーストガンダム通りの歴史が進むとして、今からV作戦に参加するのは難しいか。RX計画もとっくに進んでいるし。

 幸いウチは軍需産業にも手を出している。取り越し苦労ならいいんだが、モビルスーツ(MS)以外の脅威にも対抗できる機動兵器の開発を進めないと……ひょっとして俺は主人公のスポンサー枠だったりするのか?)

 

 大きな、それは大きな溜息を零して、ヘイデスはそれでもこの世界の住人としてこれから来る激動の時代を生き抜いて、平穏を手にするべく最善を尽くそうと行動を開始した。

 

 

 ヘイデスが前世のスパロボ知識を思い出して数日後のことである。

 プルート財閥傘下の軍事技術の研究と軍事兵器開発の一翼を担うヘパイストスラボに、ヘイデスの姿はあった。地球圏の経済に強い影響力を持つ財閥トップの訪問に、ラボの誰もが緊張に身を浸したのは言うまでもない。

 ヘイデスはラボの応接室で、自身より五歳ほど年上の北欧系美女を前にしていた。天才と呼んで差し障りのない才覚を持ちながら、エキセントリックな性格からどこの企業からも放逐されたこの女性が、ラボの所長だった。

 

 出されたコーヒーならぬ正体不明の紫色の栄養ドリンクを、クスハドリンクかよ、とヘイデスは正直な感想を零しながら口をつけなかった。

 所長はヘイデスがわざわざ紙媒体で印刷した資料を食い入るように見つめている。アイスブルーの瞳は、瞬きを忘れて随分と経っていた。

 

「……総帥は我がラボにMSをお望みなのかしら?」

 

 とびきり優雅なロシアンブルーの猫を思わせる美女の眼差しを受けて、ヘイデスはそのとおりと言わんばかりの笑みを浮かべる。プラチナブロンドを長い三つ編みにして垂らしている所長には、ヘイデスの笑みが以前よりも子供っぽく見えていた。

 

「そう! その通りさ。もともとウチは宇宙での作業用や月面の低重力下での作業用重機の開発と販売を行っているだろう?

 これからの時代、主要な軍事兵器は戦闘機や戦車からMSに移り変わるのは間違いない。ジオンのザクだって元を辿れば作業機器だろう? それなら我が財閥の誇るこのラボだって、負けないものが作れるさ」

 

「評価してくださるのは嬉しいですが、今から開発しても地球連邦の開発計画に参入するのは難しいのでは? あちらはアナハイムをはじめハービック社などが既に関わっておりましてよ」

 

「もちろん分かっているよ。だからその資料を持ってきたんじゃないか。君も意地が悪いな。僕が“この戦争中に連邦軍にMSを売り込むつもりがない”のは、その資料を読めばわかるだろうに」

 

 所長は悪戯っぽくにこりと笑むと、自分の分の紫色の粘っこいドリンクを一息に飲み干した。気力が下がる代わりに精神ポイントが回復しそうなドリンクだ。

 

「ええ、それにしても素人の思い付きといっては失礼かもしれませんが、この人体の骨格に見立てたフレーム構造……ムーバブル・フレームですか。非常に画期的ですわ。

 ジオンのザクはモノコック構造、つまりは昆虫などのように装甲が骨格も兼ねておりますが、それゆえの欠陥もあります。装甲の損失が多大な機能低下につながるなどのね。しかし、このフレームならば文字通り新世代のMSを開発できるでしょう。

 それにこのサブフライトシステムも興味深いですわね。宇宙と地球上とでMSを迅速に輸送し、展開する為には有用なんじゃありません?」

 

「まあね。ムーバブル・フレームはともかくサブフライトシステムはジオンあたりが実用化していてもおかしくはないけれど、研究しておいて損はないでしょう。上手くすればMS単体での飛行能力獲得につなげられるし」

 

「それに、総帥はこれからの時代は装甲よりも運動性重視とお考えでいらっしゃるようで」

 

「うん。MSがビーム兵器を携行し出したら、装甲はあまり頼りにならないでしょう。対ビームコーティングを施したシールドか、ビームを弾くバリヤーでも実用化しない限りは、防御より回避を重視した方がいいよ。はは、とはいっても僕も君も兵器のスペシャリストではないけれどね」

 

「でも先見の明はあるように思えますわ。この無限軌道を搭載した四つ足の機動兵器も面白そうですわね。曰く人間は銃器で武装してようやく猛獣と対等と言いますけれど、その理屈で言えば火器を搭載した鋼の獣は、MSに勝ることになりますかしら」

 

 ヘイデスは量産できる動物型の機動兵器として最初はゾイドを考えたが、ゾイドコアないからとガンダムSEEDのバクゥのアイディアを持ち込んでいたのだ。

 

「扱いは難しそうだけれど、複数人で運用すればいけるんじゃないかな?」

 

「総帥はアイディアの宝箱ですわ。ちなみに総帥はどれくらいでこの戦争が終わるとお考えですか?」

 

「ん~、そうだねえ。一年」

 

「一年? 流石にそれは早すぎるのでは? ジオンのザクが連邦の宇宙艦隊をさんざんに蹴散らしたんでしょう? 規模を考えても十年かかってもおかしくないのでは?」

 

「宇宙ではね。地球の環境をジオンは知らなさすぎると個人的には思うよ。それに地球はスペースノイドが思うよりも広く、環境が多彩だ。それにジオンはMSでなにもかもをやらせようとし過ぎる。

 連邦がMSの量産を本格的に進めたら、あっという間に逆転さ。僕の考えの通りなら、この戦争は後に“一年戦争”と言われるだろう」

 

 フフン、と自慢げに笑う年下の青年に、所長は半分呆れ、半分もしかしたらと思いながら困ったように笑う。ここまで面白い人物だったろうか。

 

「分かりました。では出来得る限りのものを開発して総帥のご期待に答えましょう。総帥としては具体的にいつごろをめどにと考えておいでですの?」

 

「そうだねえ、八年後くらいかなあ」

 

 ファーストガンダムと照らし合わせれば、Zガンダムの時代、グリプス戦役の年代をヘイデスは意識していた。

 

(αもリアル系はグリプス戦役からだったし、Zもそうだったからな)

 

 

 

 

 

 

・サブフライトシステム

・バクゥ(もどき)

・ムーバブル・フレーム採用MS

 

 三つのフラグが立ちました。

 




主人公の会社が作るロボットですがバンプレストオリジナルからなるべく拾ってゆくか、版権ロボの改造機で進めてゆこうかなと思っています。
バクゥが出てきましたが、この世界はSEEDシリーズが含まれていません。
設定の誤りや誤字脱字がありましたら、こっそりとお教えください。なおわざと捏造したり都合よく変えている部分もあります。


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第二話 スパロボだけどやっていることはむしろギレンの野望

深く考えずにおおらかな気持ちで読めば楽しめると思います。

追記
独り言を心の中でのものに変更しました。


(ゲシュペンストとヒュッケバインのマオ・インダストリー、リオンシリーズのイスルギ重工、それにダニエル・インストゥルメンツ社、アシュアリー・クロイツェル社、モガミ重工……。

 ふーむ、参戦作品に宇宙世紀が含まれていないオリジナル企業は、こちらには存在しない確率が高い、か。今のところEOTI機関もないし、ショット・ウェポンも居なかったから、ダンバインシリーズの関わりもないと)

 

 スーパーロボット大戦がタイトルを重ねるごとに出てきたオリジナルロボットの開発元が、この世界にも存在するのかどうか、一カ月以上の調査で判明した限りの結果を、ヘイデスは自分に言い聞かせるように口にしていた。

 場所は財団の本社ビルの彼のオフィスだ。就業中は傍らに置いている秘書も遠ざけて、オフィスには彼一人だけが居る。

 防諜は考えられる限りのものを施してあり、あえて紙媒体にした調査資料を机の上に置いて、一つ深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 流石に全てのオリジナル企業を記憶しているわけではなかったが、どうやら地球連邦軍の主力兵器は、一年戦争が終わった後もMSになりそうな調査結果だった。

 

 前世のスパロボ知識を思い出したヘイデスだったが、彼の知識には問題があった。スパロボ参戦作品の内、リアルタイムやレンタル、再放送を含めて未視聴の作品が多く、事細かな設定や時系列をいまいち理解していないのである。

 要するに、多くの参戦作品に対してスパロボで語られる範疇の知識しかもっていない場合が多いのだ。

 例えばサイド7がシャアの率いる部隊に襲われてアムロがガンダムに乗り込むことになるとは知っているが、ではそれが具体的に何月何日に発生したか、というとさっぱり分からない。

 

 今後、地球圏を襲うだろう大戦乱を思えばアムロには是が非でもガンダムに乗ってもらいたいが、それはそれとして民間人の被害を減らしたいくらいのことは人情として思う。

 サイド7でガンダムの開発が行われているのは把握していた為、建設途中のサイド7に建設労働者や住民向けの娯楽・飲食・医療そのほか諸々を含む巨大商業施設を建設し、ついでに住民の大部分を収容できるシェルターの建造も合わせて行う計画を、サイド7の行政機関に打診中だ。

 

(サイド7のフォローにできるのはこれくらいか)

 

 本社ビルの社長室で、ヘイデスは椅子の背もたれに体重を預けながら、天井を仰ぎ見る。天井のさらにその先に広がる宇宙へ思いを馳せているようだ。

 その向こうから嫌になるくらいの敵勢力が、地球を狙ってやってくるかと思うと、ついつい視線に怨みが籠ってしまう。

 

(ホント、スパロボの世界は修羅道も真っ青の地獄だぜ)

 

 愚痴を零しつつも、ヘイデスは記憶を取り戻して以来、戦後を見据えて医療、食糧生産、軍事の各産業に力を入れ、同時にスーパーロボットを開発する日本の研究所や博士達への積極的な資金援助も行っている。

 ヘイデスの唐突な行動に役員からは疑念の声も出たが、父の代までは甘めに評価しても中堅の重機メーカーだった会社を、世界的大財閥に成長させたヘイデスが熱弁と誠意を振るえば、強く反対する者はいなかった。

 

 ほかに力を入れている産業には、ジャンク屋稼業がある。これには一年戦争で大量に発生する宇宙艦艇やMSの残骸を回収し、自社の戦力・技術転用を目論んでのことだが、ほかにも八つ当たりめいた理由もあった。

 ブッホ・コンツェルンと聞いて、ピンと来るスパロボプレイヤーはどれほどいるだろうか。

 あのガンダムF91さらにはクロスボーンガンダムシリーズで鍵を握るクロスボーン・バンガードを組織し、コスモバビロニア主義を掲げたロナ家の母体となった会社だ。

 もともとはジャンク屋だったことに端を発するこの組織に対し、ヘイデスは手遅れとは理解しつつも自社の行動で少しでも邪魔が出来ればと、ジャンク屋業界に進出したのである。

 

 だが手遅れだった。ヘイデスが行動した時には既にブッホ・コンツェルンは一大企業となり、その勢力は目を見張るものとなっていた。

 こうなれば裏でクロスボーン・バンガードの結成ないしは、その基盤となった組織の下準備が進められていると考えた方がいい、とヘイデスは判断している。

 

(だってここスパロボ時空だもんなあ。下手をしたらZガンダムからV2ガンダムまでが一年以内にロールアウトする世界だ。

 そうなると精々Zガンダムの時代にティターンズのマラサイやバーザムどころか、デナン・ゾンやゾンド・ゲーが出てくるのか。つくづく技術の発展速度がデタラメだな)

 

 まあ、だからこそのお祭りゲーであるし、味方もその分は強化されると考えれば、少しは救いもあるというものだ。

 

(地球連邦軍が味方勢力で居続けるとして、主力はジムⅢかジェガン、ひょっとしたらヘビーガンやGキャノンか。量産型のF91だったら万々歳だ。量産型のνガンダムもいい。個人的にはゼク・アインとかゼク・ツヴァイも使いたいなあ。

 あるいはザンスカール帝国も参戦するかどうかだな。αシリーズなら出てきたが、イエロージャケットとかギロチンとか、ザンネックとかエンジェル・ハイロゥとかは覚えているけど……

 マリア主義とガチ党とかを警戒すればいいのか? それにリガ・ミリティアとの協力関係の構築もどうにかしないと。

 MSを単独で飛ばすミノフスキークラフトの技術やビームシールドはぜひとも欲しいし、なんならウチでV2ガンダムを百機生産して、一斉に光の翼で突っ込ませてやる。V2一機でジェガンやジャベリン十機分のコストだとしても、V2の方がいいだろう。

 それに、地球クリーン作戦だったか、あれはない。バイク戦艦で街も人も引き潰すとか、人間のやることじゃないよ)

 

 それはそれとして自社製のロボットにも活躍して欲しいものだ。正直なところ、自分の考えたロボットがスパロボ時空で活躍する、というのは胸がドキドキとして興奮するし、楽しんでいる自分もいる。

 所長を相手に自分の考えた新型MSの概要やアイディア――他作品の流用だが――を語った時は、非常に楽しかった。自分の考えたロボットが現実に形になるかもしれないとなれば、そりゃあ興奮するというものだ。

 ただ、それもふと落ち着くとこれから嵐となって襲い来る版権の敵勢力やこれまでのスパロボオリジナルの敵勢力達の姿とその戦力が脳裏をよぎり、果てしなく憂鬱になるので楽しい気持ちは長続きしてくれない。

 

(ちくしょう、いったいどれだけ敵が来るんだよ。今は分かってないだけで後から後から追加されるかもしれないし、この世界が単発で終わる世界観ならいいけど三部作とかのシリーズものだったら、まだまだ悩みは尽きないってことになる。

 いや、それもそうだが問題はこの時空のラスボスは版権か? それともスパロボオリジナルか? とんでも設定のオリジナルは嫌だな。せめてバラン=シュナイルとかディカステスレベルで落ち着いてくれないかな)

 

 スーパーロボット大戦シリーズの中には、ラスボスが参戦作品のキャラクターだった例もいくつか存在している。

その場合には、どうしたって対応する作品の主人公の力が必要になるが、それさえあれば勝利の見込みは高い。なにしろ原作で勝利しているのだから。

 スーパーロボット大戦オリジナルのラスボスとなるとヴァルシオンやバラン=シュナイル、ヴォルクルスやらツヴァイザーゲインなどなど随分と数があるが、これらの中にも対応した作品の主人公なくしては勝てない例もあるが、戦力さえ整えればゴリ押しで勝てそうな例も多い。

 

(ペルフェクティオは嫌だ、ペルフェクティオは嫌だ。トレーズを犠牲にしても結局倒せていないし、破滅そのものなんてどうすりゃいいって話だよ。

 ネオ・グランゾンもきっついな。レヱゼンカヰムに負けてちょっと格落ちした印象はあるけど、それでもそれ以上にパイロットを敵に回すのがヤバイ。

 今はいなくても何かの弾みで世界を移動してきそうなスペックだもん。ブラックホールの暴走とかなんとか言ってさ。

 ケイサル・エフェスだって、イングラムの乗ったアストラナガンを返り討ちにしているみたいだから、ヤバイ。……いや、たしかシンデレラガールズとのコラボイベントで、ゆるふわ無限力で浄化された筈。むしろ味方になってくれるかも?)

 

 版権だとアンチスパイラルなんかも本当勘弁してください案件だよ、とヘイデスはブツブツと呟き続ける。もし彼の傍らに秘書が居たら、神経と胃を心から心配されただろう。

 味方側としてもマジンガーZEROやゲッターエンペラーに繋がりかねないゲッターロボ作品も、ヘイデスにとっては頭痛の種だ。敵ばかりか味方にも地雷が埋まっているのだから、困ったものである。この世界はヘイデスの胃に優しくない。

 

(それと覇道財閥やアーカムシティが存在しないのは、ほんっとうによかった! 誰が嬉しくてクトルゥフ神話の邪神連中と関わりになりたいんだっつうの! デモンベインは好きよ、でもね、現実になるのと娯楽として楽しむのは違うでしょ!)

 

 デモンベインが存在しないという事は、かの邪神の構築した無限ループの世界に陥っていない証明になる。

 そうなれば無限ループの負の副産物として出現する、宇宙のリセット機構とでも呼ぶべきカリ・ユガと戦わずに済む。

 αシリーズのアポカリュプシスも真っ平ごめんだが、宇宙を構築するシステムの化身なんてもうお腹いっぱいだ。つくづくスパロボ時空は恐ろしい。

 

(はあ、出来れば並行世界だの異次元だの関わらない、この宇宙か出来れば地球圏の内輪で済む規模であって欲しいよ、切実に。なんならスパロボのプレイヤー部隊史上最弱でいいから、本当に)

 

 チクチクと胃の辺りが傷んでいるような気がして、ヘイデスは俺、まだ若いのに、と前世の知識を思い出した不幸の味を噛み締めるのだった。

 

 

 ついにヘイデスの待ち望んでいた情報が届いた。ブリティッシュ作戦において、地球に落下中のコロニーと激突し、木っ端みじんに粉砕したナニカの正体が分かったのである。

 南アタリア島に落下しながらも周囲へわずかなさざ波しか起こさなかったソレの名は、サンドスター。

 虹色にキラキラと輝く巨大な隕石であり、なんと動物に干渉する事で元となった動物の生物的特徴を有したアニマルガール、通称“フレンズ”へと変貌させる異常な力を持つ。

 サンドスタ―はスペースコロニーの中に放置されていた、毒ガスで虐殺された住人達を、老若男女を問わず強制的に女性化プラス人間のフレンズとして蘇生させ、彼女らは南アタリア島を闊歩しているという。

 条件付きではあるが、死者蘇生とでも言うべき現象は、人類社会に大きな影響を……

 

「ようこそジャパリぱ! ……夢か」

 

 思わず叫びながら、ヘイデスは横たわっていたリクライニングシートから上半身を起こした。彼は今、ヘパイストスラボへと向かう飛行機の中に居た。

 量を増した業務を連日こなす中、移動中のわずかな時間とはいえ睡眠はヘイデスにとって欠かせないものだったのだが……

 

「ふふ、本当に落ちてきたのがサンドスターだったらよかったのに」

 

 どんよりとした雰囲気を纏いながらそう呟くヘイデスは、肉体はともかく精神はだいぶ疲れているらしかった。

 

 

 新代歴179年7月某日、ヘイデスは再びヘパイストスラボを訪れていた。前回、ムーバブル・フレームやサブフライトシステム、バクゥを始めとした各種のアイディアを伝えてから、おおよそ五カ月が経過している。

 ヘイデスの迎えと案内は、再び所長が買って出た。

 所長は百八十センチオーバーの長身に真っ赤な縦セーターに白のホットパンツ、それに薄手のストッキング、黒のオーバーニーブーツの上から白衣を重ね着て、頭のてっぺんから手足の指先まで自身の手入れを怠っているところはない。

 

 ヘイデスは、とびきり美人の天才科学者とはまた我ながらよくスカウトできたものだと自分を褒めたくなる。

 いかにもロボットアニメっぽい経歴だし、スパロボのオリキャラに照らし合わせるなら、所長はOGシリーズのマリオン博士やZシリーズのトライア博士のポジションだろうか?

 

(そう考えると、俺はZシリーズのアクシオン財団と破嵐財閥を足して二で割った財力と兵力を持ちつつ、戦場に出ない万丈あるいは徹頭徹尾味方ポジションのカルロス・アクシオン・Jrってところか。

 そういやメカギルギルガンとか破嵐財閥がスパロボオリジナルの設定だって、しばらく知らなかったな)

 

 そう内心でこの世界における自分の役割めいたものを考えながら、ヘイデスは前を歩く自分よりもちょっぴり背の高い才女に声をかけた。

 目の前で揺れる彼女のプラチナブロンドの三つ編みを握ってみたい欲求は、努力して胸の奥にしまい込んだ。

 

「それにしても所長はいつ見ても身だしなみがしっかりしているねえ。このラボの所員は皆、身綺麗だけれど、所長は格別だ。職場と職員の衛生観念と美意識がしっかりしているのは、経営者として嬉しい限りだよ」

 

「誉め言葉として受け取っておきます。私の持論ですけれど、何かに熱中して成果を上げるのに、食事、睡眠、趣味嗜好、人間関係などの諸々を犠牲にする人間は、ソレに向いていないのですわ」

 

「向き不向きの問題なのかい? 天才かどうかではなくて?」

 

「ええ。“向いている人間”というのは、自分の楽しみを犠牲にしなくても結果を出せる人間を言うのです。

 あれもこれも犠牲にしてようやく成果を上げるようなのは、それがどんなに素晴らしい成果であったとしても、“向いていない人間”です。向いていないから犠牲なしには成果を上げられない、と私は考えておりましてよ」

 

「ふむ、一理ある。成果の大小ではなく犠牲の大小で適性を見るというわけね。それじゃあ、所長やこのラボの所員達が社会人として最低限以上に身だしなみを使っているのも、普段からそう心掛けているからかい?」

 

「ええ。普段から他人の目を気にする余裕を失う程、切羽詰まらなければならない不向きな人間には、このラボの敷居を跨ぐ資格はありません。

 絶対にその期限までに成果を上げなければ自分や家族の生命の危機だとか、大げさに言えば人類の危機だとかそういう切羽詰まった状況なら、ま、考慮しなくもありませんけど」

 

「はははは」 

 

 きっとこれから切羽詰まった状況になるんだよ、とヘイデスは口でも心でも乾いた笑いを零した。そんなヘイデスを、所長は不思議そうに見ていたが気には留めず、ラボの地下にある機動兵器の製造場に案内した。

 広大な格納庫にはヘイデスが確保したザクⅠやC型のザクⅡ、さらにその大元となった人型の作業機械らが直立している。左右にサンプルのMSが並ぶ中、最奥にこの五カ月の成果となる新型の鉄の巨人が三機、直立してヘイデスの視線を受け止めている。

 

「いやぁ、早いね! 所長の能力には全幅の信頼を寄せていたけれども、半年かからずに成果を出すとは!」

 

 ヘパイストスラボ謹製の新型機の頭上に渡されたキャットウォークから見下ろして、ヘイデスは所長への称賛の言葉を惜しまない。所長はと言えばなんでもない澄ました顔をしているが、ほんのちょっぴり自慢げだ。

 

「とはいっても見本がありましたからね。この子達はムーバブル・フレーム採用のMSというわけでもありません。

 まずはザクに使われた技術をベースにした、既存のMSの延長線上の機体になります。ビーム兵器を携行させたかったのですが、現状では武装もザクとそう変わりもないのです。口惜しいものですわ」

 

 所長の言葉には、謙遜というよりもまだその程度の機体しか作れない自分への不満が滲み出ている。

 地球連邦のRX計画で培われた新素材や核融合炉のデータも、表には出せない取引で入手しているが、それを現実のものに反映させるにはもう少し時間が要るようだ。

 

「夏が終わるまでには更に研究を進めて、より優れた機体に仕上げてみせますわ。まずはビーム兵器の実用からです。これには関しては悠長にはして居られません。

 今頃、連邦も設計くらいは終えているでしょうし、現物の試作を進めているかもしれませんから」

 

「うんうん、向上心があるのは良い事だ。もちろん、今回の成果に対するボーナスは弾むから、所員の皆共々これからもよろしく頼むよ」

 

 しかしまあ、とヘイデスは眼下の新型機を見て、既視感と共に心の中でだけ素直な感想を漏らした。

 

(これってZシリーズのアクシオだよなあ)

 

 ブロック状の大きな肩に、ザクと比べれば直線の多い機体デザイン、オレンジ色のバイザー状のカメラアイ、機体色は灰色でそれぞれの左肩に1、2、3とナンバリングがされている。

 Zシリーズでは、ガンダム00シリーズに登場する国家AEUのコンペでMSイナクトに敗れた機体である。

 アクシオが陸戦主体であるのに対して、イナクトは単独で空が飛べるうえに軌道エレベーターからのマイクロウェーブを受信して、AEU管轄内では理論上無制限に活動できる機体だ。

 ヘイデスがコンペの主催者だったとしても、やはりイナクトを選ぶ。

 

 ただコンペに用いられたアクシオはVer.7とされるものだったのに対し、今、ヘイデスの見ている機体はVer.1になる。

 用いられている技術もZシリーズがおそらくガンダム00由来なのに対し、ラボ産のアクシオは宇宙世紀の技術だ。見た目は似通っても、中身は違いが出ていると考えるべきだろう。

 

「ちなみに動力は?」

 

「もちろん核融合炉です。装甲はチタン・セラミック複合材、武装はアサルトライフル、ロケットランチャー、リニアライフル、グレネードランチャー、それに格闘戦用にロングスピアとハルバード、ダガー、片手持ちのシールドとなります。

 武装のチョイスはパイロットの好みと状況次第になりますかしら。総帥のアイディアにあったディフェンスロッドはまだ研究中です」

 

 このアクシオもどきはつまるところ、動力は宇宙世紀MS、装甲と盾はジム、射撃兵装はザク、近接兵装は独自といったところか。

 

(確か原作というかZシリーズのアクシオの動力はプラズマバッテリーだったはず。バッテリーと核融合炉なら、核融合炉の方が出力は上だよな、たぶん。まあ、明確な数値が設定されていない以上、断言するのは難しいか)

 

 Zシリーズの主人公の一人だったクロウの乗っていたスペシャル機や、敵のファイヤバグのカスタム機の領域に達すれば、相当な高性能機になるポテンシャルがある、と前向きに考えておこう。

 

「格闘用武器はダガーを除くと長物なんだね。ザクは斧だったっけ?」

 

「間合いは長い方が有利でございますでしょ? 過去の人間同士の戦争でも、戦場で活躍したのは刀剣よりも槍ですもの。

 それにMSは極めて複雑な工業製品です。繊細なんですのよ。装甲を破壊できなくても中の電装を壊せれば、今のモノコック構造のMS相手なら十分です。ビーム仕様の格闘専用装備が出来れば、また話は変わりますけど」

 

 所長の言う通りこれからの時代、ビームが主役だ。ビームシールドの登場で通常のビーム兵器では出力不足に陥ることもあるが、それでもビームが戦場の主役を担う時期は長い。

 アクシオで人型機動兵器の技術を培い、それを用いてムーバブル・フレーム型のMSをガンダムMk-Ⅱよりも先んじて開発し、激動のクロスオーバー戦線を戦い抜く強力な兵器を作り上げなければならない。目の前のアクシオはまさにその第一歩だった。

 

「うん、所長の言う通りだ。ところで、この子たちに名前はあるのかな?」

 

「いえ、まだ正式な名前はありません。プルート財閥のMSという事でPMS一号機、二号機といった具合で仮称しています。もうお決まりで?」

 

「うん。この子達の名前は【アクシオ】だ。ヘパイストスラボで産声を上げた、プルート財団の誇る鋼鉄の巨人達さ!」

 

「ギリシャ語からの造語ですか? 異存はありませんわ。では正式に彼らをアクシオとして命名し、更なる改良と改善を目指してまいります」

 

「ああ、お願いするよ。予算、人材、資材は最優先で回す。アクシオから続く機動兵器の系譜が、この先の地球圏では重要になるから」

 

 あとは俺の平穏な生活と痛み始めた胃にとっても、とヘイデスは期待を込めて、異世界に誕生したアクシオ達を縋る思いで見下ろすのだった。

 

 

 そして約二カ月後の新代歴179年9月――宇宙世紀79年9月相当のある日、ついにヘイデスはその連絡を受けた。ジオン公国軍のサイド7襲撃と極秘裏に開発されていた地球連邦軍の新型MSがジオンのザクと交戦し、史上初の公式なMS同士の戦闘が確認されたのである。

 その日、バクゥもどきの四足MSの試作機の視察の為、ヘパイストスラボを訪れていたヘイデスは、ラボ内の所長室で直通の秘匿回線でその知らせを受け取った。傍らには所長の姿もある。

 ただし彼の想像を良くも悪くも外れる形となっていた。

 

「赤い彗星のシャアと連邦の白いMSの戦闘に、ウチのアクシオが加わったって!?」

 

「あら」

 

 と所長は素っ気ないが、自身の手掛けた作品が高名なジオンのエースと戦ったと聞いて、気にならない筈もない。ヘイデスが自分の携帯端末の向こうと続けているやり取りを興味深そうに、ヘイデスの対面に座したソファの上から眺めている。

 それから長い事、携帯端末で情報のやり取りを続けていたヘイデスがようやく回線を閉じ、ソファに深々と背を預けるのを待ってから、所長は例の紫色の栄養ドリンクの入った白磁のカップを勧めながら訪ねた。

 

「ふふふ、それで我がヘパイストスラボの申し子達は活躍出来まして? それともあの赤い彗星のシャアを相手に、痛めつけられてしまったのかしら?」

 

「うん、うん。そうだね。サイド7に大型モールを建設するのを口実に、ウチの輸送船をジャンジャン送り付けて、その影でこっそり宇宙仕様のアクシオのテストを行っていたけれど、それが功を奏して戦闘に介入したみたいだ」

 

「ザクのマシンガンくらいではそうそう撃墜されないよう装甲は厚めにしておきましたけれど、撃墜された機体はありまして? それになによりも戦死者が出てしまいましたか?」

 

「いや、戦闘に参加したのは、コロンブス級に武装を追加して改造したMS母艦サンタ・マリアと、それに搭載していた二機のアクシオだね。幸い、連邦のホワイトベースという戦艦と新型MSガンダムと協力して、無事にシャアを退けたようだ」

 

 ヘイデスは、あれ、ホワイトベースって戦艦でいいんだっけ? と首を傾げたが、今はそんな場合ではないと疑問を頭の片隅に追いやった。

 

「ふふふ、赤い彗星を退けたとなればアクシオも捨てたものではありませんわね。サイド7近宙でテストしていた機体となると、ビームランチャーを持たせていた筈」

 

「ああ、それでね、ガンダムだけれどマシンガンの直撃を受けてもびくともしない装甲と、ビームライフルで武装していたそうだ。ウチのランチャーよりも小型で、威力はほぼ同じくらい」

 

「へえ? 流石は地球連邦軍、そしてテム・レイ博士。やりますわね。私も負けてはいられません」

 

「はは、やる気になってくれたのなら幸いだ。サンタ・マリアだけど戦闘に巻き込まれた避難民を乗せて、ホワイトベースと一緒にルナツーへ向かうみたいだね。

 サンタ・マリア以外にもウチの輸送船があったから、物資は足りるだろうけれどこちらから連邦軍に根回ししておこう」

 

「人命第一は語るまでもないにせよ、貴重なMS同士の戦闘データが得られますし、間近で連邦軍のMSの威力を確かめられる機会ですものね。こちらもアクシオのデータを提供しなければならないでしょうが、アレはウチの本命ではありませんし」

 

「うん。それに今のルナツーに余分な戦力はない。ホワイトベースはジャブローへ向かうだろうから、地上に降りた場合に備えてウチも動けるようにしておくよ」

 

「あのシャアがそう易々とジャブローに降ろしてくれますかしら」

 

「鋭いね。大気圏に突入するタイミングで仕掛けて来てもおかしくないよ」

 

 思った以上に原作に関わってしまったが、おそらくホワイトベースは北米に降下するだろう。

 コロニー落としこそならなかったものの、地球の大半はジオン軍に制圧されており、北米にはジオン公国を支配するザビ家の末弟ガルマ・ザビが司令官として赴任している。

 地球の地軸を傾け異常気象を引き起こすはずのコロニー落としが失敗した分、地球市民のジオンに対する感情は原作よりも穏当だ。ガルマの占領政策も良家のお坊ちゃんとしての面が良い方向に働き、うまくいっている。

 

(ホワイトベースが北米に降下したら、テスラ・ライヒ研究所の代わりに立ち上げたバベッジ・エジソン研究所から物資か部隊を回せないか、打診しておくか)

 

 今回のサイド7での戦いが、この宇宙世紀を主軸とした世界でヘイデスという存在の影響が徐々に増してゆくその片鱗であったと気付いた者は、まだいない。

 

 

 ヘイデスが宇宙でのアクシオの介入の連絡を聞き届けるよりも前、襲撃を受けたサイド7を脱出したホワイトベースは、専用のザクⅡS型を駆る地球人類最高峰のパイロット、シャア・アズナブルの襲撃を受けていた。

 おそらく現時点の地球では最強のMSであるガンダムを操るアムロは、今はまだ偶然ガンダムに乗り込んでしまった民間人に過ぎず、通常の三倍のスピードで動くと評されるシャアのザクにいいように翻弄されている。

 恐怖のままにビームライフルを乱射するも、シャアのザクはあらかじめ射線が見えていたように回避し続け、ザクマシンガンを浴びせるだけに留まらず、懐に飛び込んで蹴りまで浴びせる圧倒的なテクニックをアムロに見せつけた。

 

「これでもまだ動くか。連邦のMS、何という性能だ」

 

 宇宙での戦闘にもかかわらず、軍服のままでザクを操るシャアは、ガンダムの堅牢さと運動性、そして圧倒的な火力を前に心底から驚嘆していた。

 パイロットこそ拙い腕前だが、仮に自分があの機体に乗っていたら、どれだけのザクを葬れるだろうか。

 

 サイド7の偵察に向かわせた部下の一人が暴走し、民間人にも被害が出てしまったのには、一個人として心が痛むが、やはりV作戦を追跡したのは間違いではなかったと、シャアは確信した。

 後からやってきた、通常のザクⅡに乗った部下のスレンダーに、ガンダムを挟み撃ちにするよう指示を出そうとした時、シャアの人並み外れた直感――ニュータイプの勘が危機を訴えた。咄嗟に機体の軌道を変化させた直後、そこを彼方から放たれた一条のビームが貫く。

 

「なんだと、他にもMSが居たのか。だがこの方向は例の戦艦とは別方向からだが」

 

 困惑したのはシャアだけではない。ガンダムを必死に操るアムロもまた、自分の知らない存在に戸惑い、メインモニターにビームの発射元を映す。

 

「な、なんだ。新しいMS? あれは、親父の部屋で見たぞ。たしかプルート財閥のアクシオだ!」

 

 プルート財閥はサイド7の住人であるアムロにはなじみのあるものだ。最近建設された大型モールは家に引きこもりがちなアムロでも興味があったし、彼好みの電化製品を安価かつ大量に扱う店舗もあって、幼馴染のフラウ・ボウと一緒に出掛けたものだ。

 ビームを発射したのは、右肩に大型のビームランチャーを担いだアクシオだ。もう一機のアクシオも同じくビームランチャーを装備している。

 

 さらに二機とも魚のエイを思わせる藍色の物体に、寝そべる形で乗っていた。アクシオと合わせてテストしていた、宇宙用のサブフライトシステム“ゾーリ”だ。

 MSの推進剤を節約し、行動範囲を広げて、移動速度を速めるだけでなく、これ自体にも単装メガ粒子砲一門とミサイルポッド二基が搭載されている。

 

「あらあ~外れちゃいました~。赤い彗星さんに避けられちゃいましたねえ」

 

 左肩にピンク色のウサギがペイントされたアクシオのパイロット――グレース・ウリジンは間延びした口調で、僚機を操るアーウィン・ドースティンに話しかけた。二人ともまだ十九歳の少年少女だが、アクシオのテストパイロットに選ばれた才ある若者達だ。

 オレンジ色の鷹がペイントされたアクシオを駆るアーウィンは、戦闘中にもかかわらず間延びした調子を崩さないグレースにペースを乱されながらも、自身もビームランチャーの照準を赤いようなピンクのようなザクへと定める。

 

「もう一機のザクは放っておけ。動きからして新兵だ」

 

「あたし達も新兵ですよ~」

 

「あっちは動きに動揺が見られる。だが、俺達はそうではない。その分だけ、こちらが上だ。それよりも連邦の戦艦とMSに連絡を入れておけ。助けに来て後ろから撃たれてはかなわん」

 

「ああ~、それなら艦長がやってくれてますう~」

 

「そうか」

 

 アーウィンは、どうして付き合っているのか自分でもよく分からない恋人へ短く言葉を返して、彗星の如き動きを見せるシャアのザクへとビームランチャーとゾーリのメガ粒子砲、ミサイルポッドを一斉に発射した。

 MSからこれだけの大火力を叩きつけられるのは、シャアをして初めての経験だ。いかに手練れのパイロットとはいえ、初めての経験となれば戸惑いが生まれる。それをどれだけ短時間で鎮められるかは、才覚と何より経験による。

 

「ちい、この機体もビームを扱うのか。スレンダー、退くぞ!」

 

 一発は当たると踏んだアーウィンの予想を凌駕して、シャアは全てのビームとミサイルを回避し、想定外の乱入に部下へ退避を命じる。だが、シャアの言葉に返事はなく、ガンダムの放ったビームライフルの直撃を受けたスレンダーの断末魔だけが、シャアへと届いた。

 

「だあー!?」

 

「ス、スレンダー。い、一撃で、一撃で撃破か。なんということだ、あのモビルスーツは戦艦並のビーム砲を持っているのか。それにあの機体、どうやら連邦とは旗色が違うようだが、あの機体までビームを使うとは。ええい、火力が違い過ぎる!」

 

 シャアは若く、自信に満ち溢れ、それに見合う以上の実力を持った傑物だが、同時に退き時を誤らない聡明さも兼ね備えていた。

 スレンダーのザクが撃墜された事で、アーウィンとグレースのアクシオも、シャアへ火力を集中させる動きを見るや、シャアは素早く母艦であるムサイ級ファルメルへと帰投するべく転身する。

 

「ついに連邦がMSを開発したか。この戦争、更に長引くか。それとも……」

 

 自ら体感したガンダムの戦闘力とまた別の所属であろうMSの存在は、シャアにこれからジオンの迎える苦境を容易に想像させた。

 これが、ヘイデスが受け取ったサイド7におけるシャアとの戦闘の顛末である。プルート財閥の開発したアクシオの初の交戦記録であり、アーウィンとグレース、そしてアムロとの初めての出会いでもあった。

 

 

・アクシオ(もどき)が開発されました。

・アクシオ(もどき)宇宙仕様が開発されました。

・ビームランチャー(大型だがガンダムのビームライフルと同程度の威力)が開発されました。

・宇宙用サブフライトシステム・ゾーリが開発されました。

・アーウィン・ドースティン(リアル系主人公・ニュータイプ)が入社しました。

・グレース・ウリジン(リアル系主人公・ニュータイプ)が入社しました。

・バベッジ・エジソン(チャールズ・バベッジとトーマス・アルバ・エジソンより命名)研究所が設立されました。

・パオロ・カシアス他、サイド7の民間人の多くが助かりました。

 




一年戦争はさくっと終わらせて、本番はグリプス戦役ごろ、αシリーズやZシリーズ第一作くらいの時系列をめどにしています。
見切り発車なので、次回がいつになるか分かりませんが、いつか投稿したら読んでくださるとうれしいです。
なお、本作の参戦作品は難易度としてはイージーを想定しています。決めていない設定も多いですが、皆さんもいろいろと想像してみてください。では、ありがとうございました。


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第三話 主人公は泣きたいが難易度がイージーだと知らない

主人公の独り言について、心の中で口にしているように一話、二話で修正しておきました。
感想、誤字脱字の御報告ありがとうございます。
矛盾とご都合と捏造のごった煮ですが、笑って楽しんでもらえれば幸いです。


 地球連邦軍の新型宇宙戦艦もとい強襲揚陸艦ホワイトベースは、宇宙要塞ルナツーにてパオロ・カシアス他、サイド7襲撃時に負傷したクルーを預け、一路、南米にある地球連邦軍総本部ジャブローを目指していた。

 その実態はブライト・ノア中尉を艦長とし、更には少なくない数の民間人をクルーとして運用するという驚くべき状況に置かれている。

 幸いなのは彼らホワイトベース一行に、プルート財閥の所有する人型機動兵器アクシオ二機とその母艦である武装コロンブス級サンタ・マリアが、大気圏突入までは同行したことだったろう。

 

 彼らを追撃するシャア率いるジオンの部隊は、派遣された補給が中途半端に終わってしまった為、アクシオの援護を受けながら大気圏へ突入するホワイトベースを攻撃しきれずに、地球への降下を許す事態となってしまう。

 この大気圏ギリギリでの攻防により、シャアは部下のザクを失い、彼自身もまた負傷して療養を余儀なくされる結果となる。

 

 かくしてホワイトベースは、アーウィンやグレースに見送られながら地球へと降下したのである。ただし、ヘイデスがスパロボ知識というか原作知識に基づいて予測したように、ジャブローではなく北米へと。

 現在、北米大陸はそのほとんどをジオンに制圧されており、その拠点は太平洋に面したキャリフォルニアベースとニューヤークシティに置かれている。

 ジオン公国を支配・指導するザビ家の末弟ガルマ・ザビは、友人たるシャアを退けたホワイトベースに対して、功を焦っている事もあり果敢に攻撃を仕掛けていた。

 

 砂塵の舞う乾いた大地にホワイトベース、ガンダム、ガンキャノン、ガンタンクが出撃し、頭上からはジオンの戦闘機ドップ、地上からは主力戦車のマゼラアタックと地上仕様のJ型のザクⅡが攻め立てている。

 宇宙で療養中のシャアと彼のザクの姿がこの場にないのは、ホワイトベースにとっては幸いであったが、その分、ガルマの戦意は高く、その戦意は部下にも伝わっていて、初めて地球での戦闘を経験するホワイトベース側を焦燥させるには十分だ。

 

「このお!」

 

 アムロはガンダムを大きく跳躍させて、ホワイトベースに仕掛けようとしていたドップを一機、ビームサーベルで袈裟切りにして撃墜する。現在、実用されている他のMSで果たして同じ芸当が出来たかどうか。

 ガンダムの性能とアムロの技量が合わさっての非常識な一撃だ。マゼラアタックの175mm砲とドップのミサイル、更にはザクのマシンガンとバズーカが次々と降り注ぐ中、ホワイトベース側は懸命に反撃を行っている。

 

「くそう、アーウィンとグレースが居ればなあ!」

 

 必死にガンキャノンを操って、ビームライフルを撃ち続けるカイ・シデンは、ヘルメットの中で冷や汗を流しながらいなくなった二人を思い出し、ついつい愚痴を零す。

 

「居なくなった人達をあてにしても、なんにもなりゃしませんよぉ」

 

 カイの耳に通信機越しに、怒鳴っているのと泣き言が半分ずつ混じった声を届けたのはガンタンクを操縦しているハヤト・コバヤシだ。アムロを含めて、カイもハヤトもついこの間まで民間人だった三人だ。

 慣れない環境下で味方から孤立したまま戦闘に突入すれば、泣き言の一つだって言いたくもなる。

 

 ハヤトと一緒にガンタンクを操縦している正規軍人のリュウ・ホセイも、ホワイトベースで拙いなりに必死に指揮を執っているブライトも、表に出さないだけで内心は似たようなものだろう。

 それでも強力なビーム兵器とホワイトベースの火砲は、周囲のジオンの部隊を着実に減らしている。流石に友人のリベンジと功を求めるガルマも、退くべきかと思案し始めた頃に、趨勢を決定付けるイレギュラーは侵入してきた。

 

 一機の高速シャトルが両軍の戦闘区域に突入してきたのである。三連装ビーム砲一門、二連装レーザー砲二門で武装したシャトルは、戦闘区域の頭上に差し掛かるとハッチを開いて、そこから二機の人型機動兵器を投下する。

 シャトルにはプルート財閥傘下のバベッジ・エジソン研究所のロゴが記されており、当然、投下されたのは地上仕様のアクシオ二機だった。

 サンドカラーの塗装が施されたアクシオの一機には、黒に近い紫色の髪と赤い瞳を持った青年レナンジェス・スターロード――通称ジェスが搭乗している。

 

「おおおお! これが、俺の必殺技! 究極、アクシオキック!!」

 

 空中で機体各所のバーニアを噴いて体勢を整えたアクシオは、あろうことかザクの一機へとめがけて右の飛び蹴りを敢行してのけた。

 シャアの情報にあった民間企業の開発した新型MSの登場に、ザクのパイロットは反応が遅れる。ザクにヒートホークが装備されている事から、ジオンでも対MS戦闘が想定されていないわけではない。

 しかし、空中から降下中のMSがこちらに飛び蹴りを仕掛けてくるなど、想定外に過ぎる!

 

「う、うぉおおお!?」

 

 ザクのパイロットは驚きの叫びをあげなら、モニターを埋め尽くすアクシオの足を避けようと愛機を動かしたが、回避は間に合わずに首の付け根にアクシオの足が深々と突き刺さり、そのまま大きく仰向けに吹き飛ばす。

 反動でアクシオの関節に重大な負荷が襲い掛かるが、格闘戦を想定して特別頑丈に作られた仕様の機体は、戦闘続行に支障はない。

 

「まずは一機撃墜!」

 

 仰向けに大の字に倒れたザクからパイロットが這う這うの体で脱出するのを見届けて、ジェスは残るザクやマゼラアタックに機体を向けなおす。

 右手にマシンガン、左手にシールド、背中のウェポンラックにはロケットランチャーとロングスピア、そして左右の腰部にはダガーという取り合わせだ。

 

 ガンダムに続く新型MSの出現にガルマ配下の部隊は混乱に陥り、そこにもう一機のアクシオが踊り込む。

 パイロットはジェスの恋人であるミーナ・ライクリング。緑色の髪を左右で細く編み込み纏めた少女は、愛機の両手に持たせたショットガンを空中で連射し、射程に入ったドップを一機、また一機と撃ち落とす。

 

「私の推理によれば、これは親の七光りと呼ばれるのを嫌うガルマ・ザビが、士官学校時代に次席だったシャア・アズナブルの敵討ちと、地球連邦の新型MS撃墜という戦果を求めた威力偵察ね!」

 

 空中で散弾の雨を降らし終えたミーナはショットガンを腰の左右に懸架して、背中のバックパック兼ウェポンラックから、グレネードランチャーとハルバードを引き抜く。

 

「この人達、アーウィンさんとグレースさんの同僚!?」

 

 思わぬ増援にアムロが安堵とわずかな警戒心を抱く中、ジェスがガンダムへと通信を繋げる。

 

「君がアムロ君か。アーウィンとグレースから聞いているよ。アーウィンも、あいつなりに心配していたよ。俺はレナンジェス・スターロードだ。これから俺達が北米大陸を抜けるまで、ホワイトベースを援護する」

 

 ジェスはそう告げて、いかにも熱血漢らしい笑みをアムロへと向けるのだった。

 

 

 ホワイトベースに地上仕様のアクシオ二機とその輸送機、更に食料と医薬品、弾薬といった援助物資が無事に届いた報告と既に数度に渡って行われたガルマ・ザビとの戦闘の詳報を確認し、ヘイデスは深々と執務室の椅子に背を預けた。

 ホワイトベースが大気圏に突入するタイミングでシャアが一時的にとはいえ戦線を離脱、というのは彼にとっても予想外であった。

 

 その結果として既にホワイトベースは、ジャブローからの補給を受け、ガルマ自らが戦闘空母ガウに乗って行った攻撃を潜り抜けている。

 ただプルート財閥の介入によって、パオロがルナツー到着後も生存して一命を取り留めたように、ホワイトベースに退けられたガルマもまた生存している。

 ホワイトベースを取り逃した失態と損失した戦力の多さに意気消沈しているのは間違いないが、機動戦士ガンダムの原作から外れた結果になったのもまた疑いようのない事実。

 

(ギレンの野望シリーズなら、ガルマが生き残る展開もある。そういうifが売りの一つである作品だからな。スパロボにだってそういう一面はあるが、ガルマが生き残る? うーむ、彼の生存が今後どう関わってくるのか。

 デギン公王がレビル将軍に和平を申し出なくなるか、それともガルマが新生ジオンを立ち上げるのか。ガルマが生存したとはいえ、ドズルならランバ・ラルを差し向けるだろう。ジェスとミーナにはこのまま北米大陸を抜けるまで同道させるとして、うーん)

 

 ヘイデスとしては第四次スーパーロボット大戦とスーパーロボット大戦Fとその完結編の八人の中から選ぶ主人公だった、ジェス、ミーナ、アーウィン、グレースの四名が存在していたのも、運よく入社してくれたのも嬉しい誤算だった。

 だが、彼らが四人も居るという事は同時に彼らがこのスパロボ時空の主人公ではない証明かもしれない、とヘイデスは考えている。

 少なくとも謎のエネルギーか新しいエネルギーを動力源としたロボットに乗った誰か、がこのスパロボ時空の主人公であるはずだ。

 あとは謎の組織が作った人造人間だとか、母星を失った異星人だとか、並行世界から転移してきた地球人だとか……あれ、パターン多くない? とヘイデスは途中で考えるのをやめた。タイトルを重ねてきた弊害であった。

 

 ともかくとして、機動兵器に乗る予定のない自分がそのポジションでないのを、ヘイデスは日夜、某プロデューサーと某企業に祈っている。

 生憎と彼は組織の長でありながら機動兵器に乗って、のこのこと前線に出てゆくようなタイプではないのだから。

 

(あるいはこれからも俺の行動次第で、ファーストガンダムの重要キャラの生死が変わるかも……なんて、調子に乗り過ぎか)

 

 ふう、と最近数の増してきた溜息を吐いて、ヘイデスは立ち上がって外出の準備を進める。彼が手の届く範囲で最も警戒している、コロニー落としを阻止したナニカについて、今度こそ夢ではなく現実で手掛かりを掴んだのだ。

 マクロス、セプタギン、あるいはパズダー、ひょっとしたらフューラーザタリオンかジェネラルガンダムかも、と日に日に彼は思いつく可能性の数々に悩まされていた。

 

(コロニー自体は木っ端みじんになって、大気圏での断熱圧縮でほぼ消失して地球への落下物はなかった。ではコロニーを破壊したナニカは? 地球に落下して眠っているのならそれでいい。モノによっては全然よくないが、それでも動かずにいる分まだマシだ。

 問題はどこにも落ちていない場合だ。コロニーを破壊し、大気圏を突入してなお即座に行動が可能な頑健さ、そして移動可能な存在となる。

 地球の誰にも気付かれないところに潜伏されて、こちらが気付いた時にはもう手遅れって状況に持ち込まれていたら最悪だ)

 

 一つの例として、スーパーロボット大戦オリジネルジェネレーション(OG)シリーズのメテオ3ことセプタギンを挙げよう。

 あれがもし地球人類の軍事技術向上と収穫を目的とした種子としてではなく、最初から人類抹殺を目的としていたなら、パーソナルトルーパーもアーマードモジュールもない上に、ガンエデンや超機人も冬眠状態であったはずだから呆気なく全滅していただろう。

 

 あるいはデビルガンダムやELSのように、浸食・同化するタイプの存在であったら、ある日、気付いたら地球丸ごと取り込まれていた、なんてことにもなりかねない。

 なぜならここは画面の向こうの娯楽の世界ではなく、お腹もすくし、眠りたくもなるし、胃も確かに痛む現実の世界なのだ。

 プレイヤー部隊が活躍する余地もなく滅びる可能性が、十分にあり得るのだと、不幸にもヘイデスは自覚していた。

 

「前向きになれる要素が欲しい……」

 

 マジンガーZの大敵であるDr.ヘルは既に行方を晦ませており、バードス島の捜索を方々の人脈も含めて行っているが成果はまだ出ていない。

 光子力研究所や早乙女研究所、南原コネクションを始めとしたスーパーロボット関係の施設は、不審がられるくらい熱烈に支援をしている。

 光子力、ゲッター線といった未知の新エネルギーを広く知ってもらうために、という名目でパリンと割れる光子力せんべいやゲッター線饅頭、超電磁キャンディーといったコラボ商品を販売するくらいの関係は築けている。

 

(博士やその子供達の年齢からして、やはり本格的に地下勢力や宇宙からの侵略者と戦うのは、七、八年後、Zガンダムの時代になってからか。こうなるとこの世界はαシリーズを下敷きにした世界なのかもしれない。

 Fだったら、Fシリーズだったらガンバスターが作れる可能性だって、一憶分の一くらいはあったかもしれないのに! なによりあの世界は【トップを狙え!】が参戦するのに、宇宙怪獣は出てこない! なんて素晴らしい!!)

 

 ヘイデスの知る限り、地球の科学力で建造されたロボットとしては最強の一角であるガンバスターが、その敵である宇宙怪獣と戦う必要なく暴れられるのである。

 ゲームとしての制約がない状況で運用出来たら、たとえアクシズが落とされようが、『アクシズ? ガンバスターなら簡単に粉砕できますが?』と余裕綽々の態度で居られる。

 ただし……

 

(あ、Fシリーズだとイデオンが参戦するのか。宇宙のリセットと天秤にかけたら流石にガンバスターとはいえ……ぬあ~~。頼む、コロニーを壊しながら落ちてきた誰かさんかナニカ! 君は俺の味方でいてくれ!!)

 

 そして例によってヘイデスは、ナニカを回収したヘパイストスラボを訪れるのだった。

 プルート財閥の機動兵器開発の要であるこのラボを訪れる以上、回収されたナニカもまた機動兵器に類する存在であるのは明白。

 正直、ラボの中を進むヘイデスの心臓は今にも破裂してしまいそうだった。スパロボプレイヤーだった部分は今にもこの場で吐き出してしまいそうだが、若き才人としてのヘイデスはいつもの温和で社交的な態度を崩さない。

 

「地球連邦の海軍もまだまだ健在なのに、よく見つけられたねえ。頭の下がる思いだ」

 

 今日の所長はメリハリの利いた肢体をベトナムの民族衣装アオザイ風の衣装で隠し、その上に白衣を重ね、プラチナブロンドをストレートに流している。ヘイデスは思わず拍手したくなるほど美しいと感激した。所長は、ヘイデスの傍らを歩きながら会話に応じる。

 

「もしコロニーが落ちていたら沿岸沿いの海軍の艦艇は軒並み全滅していたでしょうけれど、それを免れましたからね。

 ジオン軍はやけに水中用のMSを投入して、シーレーンの確保に躍起になっておりますから、海軍はそちらの相手に忙しくて民間のサルベージ会社になど関わっていられないのでしょう」

 

「コロニーを壊した何かを探しているのは連邦もだと思うけれど、コロニーと一緒に壊れていた可能性もあるし、今はジオンの脅威をどうにかするのが優先だからね。上手く隙を突けたのかな。彼らにも臨時ボーナスを弾まなきゃ」

 

「最近、あちこちの部署にボーナスを弾んでおいでで。功あれば褒賞あるべしとは思いますけれど、財閥の財政は大丈夫なのですか?」

 

「はははは、いざとなれば僕の資産を切り崩してでもボーナスは確保するとも」

 

「ふうん? 破産しない程度になさってくださいな。私には貴方が必要なのですから」

 

「うん。分かっているとも」

 

「……本当に分かっておいでかしら。それにしても以前に総帥がおっしゃった通り、ジオンはなんでもかんでもMSにやらせようとしますわね。わざわざ水中用のMSをあんな何種類も作る必要があるのかしら?」

 

 一年戦争期の主要なジオンの水中MSとなるとマリンザク(ザク・マリンタイプ?)アッガイ、ゴッグ、ズゴック、終盤にハイゴッグとズゴックEといったところか。現在投入されているのは、前者の四機種だ。ヘイデスとしてはハイゴッグが一推しである。

 

「地球の七割は海だし、過去の戦争もシーレーンの確保が重要だったから、注力するのは分からないでもないけれど。所長の見解は違うのかな?」

 

「素人の考えを聞いてもつまらないと思いますけれど、地球連邦の大きな軍事拠点はジャブローにベルファスト、ペキン。北米は地続きですしユーラシア大陸は、ベルファストとペキンから反攻を開始すればいいでしょう。

 アフリカ大陸だって、無理に海路を使わなくても、欧州と中東方面をどうにかしてから攻めればいいでしょう。無理に太平洋を横断する必要、あります?」

 

「う~ん、返答に困るなあ」

 

「確かにシーレーンの確保は重要ですけれど、地球連邦としてはジオンが思う程に力を入れていないように思うのです。“海”という地球の青を代表する存在を前にして、ジオンは迷走しているというか持て余している、という印象が拭えません」

 

 一年戦争後の宇宙世紀シリーズを見ても、確かに各タイトルの敵対勢力が水中用のMSやMAを投入はしても、地球連邦や視聴者側の勢力で水中用の機動兵器の投入例はヘイデスの記憶にはほとんどない。

 ヘイデスの知識が浅い可能性はもちろんあるが、それでも思いつくのは∀ガンダムのカプルくらいだ。ベアッガイやモモカプルはプラモデルだし。アクアジムと水中型ガンダムくらいのものか。

 後は漫画作品でアトラスガンダムなどもあるが、ヘイデスはガンダムの漫画における派生作品のあまりの多さに、白旗を挙げた口である。

 

「地球連邦がMSの勝手が分からなくて、緒戦で大敗を重ねたのと同じようなものか」

 

「膨大な国力とリソースのある地球連邦なら挽回も出来ますけれど、地球連邦の三十分の一の国力しかないとされるジオンで、リソースの割り振りを間違えるのは銃殺刑ものでは?」

 

(ジオンの水中用MSを推進したのは【特定の誰か】って設定されていたか? ギレンの野望のどのタイトルか忘れたけど、シーレーンの重要性を訴えてハワイの制圧を提案してくるのはキシリアだったような……。

 マッドアングラー隊の設立も提案してくるしな。しかし、所長の言う通りなら銃殺刑に処されるのはキシリアになるのかね。Fの完結編でギレンを暗殺するイベントを起こすと、ガトーがノイエ・ジールと一緒に仲間になる隠しイベントがあったっけ。あったよな?)

 

 ヘイデス自身の記憶もだいぶ薄れていて、曖昧になっているところが多い。ノイエ・ジールのデザインは大変好みだったので、自軍ユニットになったのが嬉しかったのは覚えているのだが、確か限界反応が低くて運用に四苦八苦したものだ。

 

(なんか、ノイエ・ジールにミノフスキークラフトをつけて、アムロを乗せていたような覚えがあるな)

 

 あくまで画面の向こうの世界の話として楽しめていた頃を思い出して、ヘイデスはしみじみと懐かしむ。そうしている間に所長に案内されたのは、ラボの中でも新型MSの開発区画と並ぶ最重要セキュリティの施された地下格納庫だ。

 今はアクシオのバージョンアップとサブフライトシステム、四足MSの開発も行われているが、その忙しい合間を縫って所長に回収したものの分析を依頼している。所長が必要になるという事は、つまり回収物は機動兵器に類する何かなのだ。

 

「これは随分とボロボロで……」

 

 格納庫に案内されたヘイデスは、トレーラーの上で仰向けに拘束されている機動兵器を見上げた。四肢が付け根近くから失われ、所々に金色の部分のある白い装甲は漏れなく罅が走っている。

 頭部には赤い一本角が生え、光を失ったツインアイとフェイスマスクはガンダムタイプに見えなくもない。リアル路線のロボットならそう珍しくはないか、とヘイデスは心の中で零す。

 

「コロニー粉砕時に地球への落下が確認できた落下物の中で、回収できたものの中で、もっとも目ぼしいものがこれだったそうです。回収の報告は私よりも先に総帥のところへ来ているでしょうから、ご存知でしたでしょ?」

 

「実際に目にするとまた違う感想が出てくるものだよ」

 

(うーむ、鬼械神のアイオーンやデモンベインではない。手足が揃っていたら三十メートル前後か?

 ひょっとしたらひょっとしてチェインバーか、原作の方のYF-21かSEEDDESTINYの外伝からストライクノワールか、スターゲイザーもあり得るとも思ったが、明らかに違う。でもなんだろう、見覚えがあるようなないような……)

 

 うんうん、とヘイデスが唸りながらソレの周囲を歩き回る。ヘイデスからすれば今後のこの世界の命運を占いかねない代物だ。いくらみても見飽きるという事はない。

 そんなヘイデスの様子に所長は何を持っているのか、ヘイデスの少し後ろをついて回りながら分析した範囲で分かったことを口にし始める。

 

「装甲の材質、動力、用いられている技術、はっきり申し上げてなにもかもが未知です」

 

「未知」

 

「未知です。オーバーテクノロジー、いえ、エクストラテクノロジー、アウターテクノロジーと呼ぶべき産物です。今の地球圏では逆立ちしたって作れるものではありません。信じがたい事ですが、これは宇宙からやってきた漂流者ですわ」

 

「……うん? 漂流“者” 漂流物じゃなくて?」

 

 思わず足を止めて所長を振り返るヘイデスに、所長は自分の常識を打ち壊した存在へ目を向けながらこう言った。

 

「スキャンしたところ、内部に生命反応が出来上がりつつあります」

 

「うん? なんだか言い回しがおかしくはないかな。それではまるでコレの中で生命が作り出されている最中みたいだよ」

 

「その通りとしか言いようのない反応なのです。この機体そのものが人間を培養する道具として機能しているようですわ。人間かどうかは分かりませんけれど」

 

「人間を培養……」

 

 あれか、劇場版のガンダム00冒頭でティエリアが、ポッドの中で培養されていたようなイメージだろうかとヘイデスが考えたところで、彼の脳裏に閃くものがあった。【機体がパイロットを作り出しているのではないか】、と。

 

(機体がパイロットを作り出すって……シュロウガ? シュロウガ!? じゃあ、アサキムか、あのアサキム・ドーウィン?

 いやいやいやいや、これはどうみてもシュロウガじゃない…………んん? なんかヘリオースに、アドヴェントの乗っていたヘリオースに、似ていなくもない?)

 

 ヘイデスは全身にどっと冷たい汗を噴きだした。Zシリーズのラスボスを務めたアドヴェントも機動兵器シュロウガを駆ったアサキムも、どちらともトンデモ系に類される厄介なキャラクターだ。

 当然その機体もまた単純に極めて高性能かつ厄介な特性を持つ。目の前のズタボロのこれがシュロウガであれ、ヘリオースであれ、もし完全復活すれば良くも悪くも面倒なことになるに決まっている。

 

(アドヴェントは因果地平の彼方に自ら去ったはず。アサキムだってシュロウガと共に新たな地平へ去った。

 ならこれは両者ではないはずだ。まさか、その新たな地平でアドヴェントとアサキムが争った結果として、これが落ちてきたとかそういう設定? 設定なの、どうなの!?)

 

 ヘイデスは脳裏にZシリーズの敵を思い浮かべていた。ゲッター線に寄生するインベーダー、原作以上に強力かつ数を増した宇宙怪獣に加えて地球よりも巨大なエグゼリオ変動重力源、そして宇宙そのものとも称されたアンチスパイラル……

 

(…………………………うん、来るなよ、絶対に来るなよ!! 絶対にだぞ!?)

 

 

●レナンジェス・スターロード(スーパー系主人公)が入社しました。

●ミーナ・ライクリング(スーパー系主人公)が入社しました。

●?????を入手しました。

●?????が復活中です。

 

□光子力せんべい

 使用するとSPが10回復。

 

□ゲッター線饅頭

 使用すると一ターンの間、パイロットの地形適応が空・海・陸の内一つがランダムで『S』になる。

 

□超電磁キャンディー

 使用すると使用者を含む上下左右五マスのパイロットの気力を+5。




日刊ランキングを見た時、34位で、おお、すごいと思ったのです。それで今見たら2位、2位! 一話の時点だとそうでもなかったのに二話を投稿したら急に変わっていて、感想の多さも相まって怖いくらいです。でもありがとうございます。やる気がもりもり湧いてきました。

なお一年戦争編は次辺りでさくっと終わらせて、グリプス戦役までをちょろちょろっと済ませます。本番はZガンダム時代、グリプス戦役の頃を想定しています。
主人公は色々と危惧していますが、まだ難易度イージーなのでそこまでひどいことにはなりません。

最後に出てきた謎の機体と再生中の謎の人物は、某シリーズのキャラクターをベースにしてたキャラクターであり、ヘイデスとは違って完全な本作オリジナルというわけではありません。捏造ではあります。そしてZシリーズと関係のある機体と人物です。

追記
×南原コンツェルン → 〇南原コネクション


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第四話 一年戦争はチュートリアル

今更ですが参戦作品並びにスーパーロボット大戦のネタバレが山盛りです。ご注意ください。
また今回にて駆け足ではありますが一年戦争編はおしまいです。さらに下準備を挟んでから、本編プロローグとなります。


 南米ジャブロー。一年戦争序盤にてジオン公国がコロニー落としの標的と定めた、地球連邦軍総司令部がそこに存在する。

 ジオンが血眼になってその所在を探るジャブローのとあるオフィスで、でっぷりと太った高級将校の一人が、つい先日、通信で対応した青年を思い返していた。

 

 将校の名前はゴップ。地球連邦軍においてレビル将軍の推進するV作戦を後押しし、前線の兵士達が飢えないよう物資の手配の要を握る人物だ。

 たるんだ顎や丸いお腹を見ると、そこまでの重要な役割を任される人物なのかと疑う者も多いが、少なくとも彼の権勢は紛れもなく本物である。

 地球連邦軍の制服組のトップと呼んでも差し支えのないこの老人に、戦時下であることを考えれば通信越しとはいえ連絡を取れるのは、それだけで力の証明となる。

 

「さて、あの若者は毒となるか薬となるか……」

 

 ゴップは白髪を後ろに撫でつけた頭を左手で軽くたたきながら、カエルめいた顔に思案の色を浮かべる。

 爛熟を越えて腐敗した民主主義と官僚主義と揶揄される地球連邦政府、ならびに連邦軍の中にあって現在の地位を堅持する彼の手腕は紛れもなく本物だ。

 

 そのゴップの思考を多少なりとも占有するというのは、ただ事ではない。そしてその対象とは、プルート財閥総帥ヘイデス・プルートであった。

 もとより世界的財閥を立ち上げた経済界の風雲児、規格外の麒麟児と称された青年だが、今回は彼からコンタクトを取ってきたのである。もともとプルート財閥とは多少なり縁があったが、総帥自らというのは珍しい。

 

「提案それ自体はさほど奇抜ではなかったが……」

 

 ヘイデスはこれまでの研究成果であるサブフライトシステム(SFS)とアクシオを売り込んできたのだが、既に地球連邦軍にもコルベット・ブースターというMSの上半身に装着する形のSFS相当の装備があるし、正式な量産型MSであるジムも生産が始まっている。

 これが一年戦争勃発当初に売り込まれていたら、ゴップも一考の余地があったが生産ラインがフル稼働している今とあっては、手遅れという他ない。ビジネスチャンスを逃した、と言うべきなのだろう。

 

 だがその程度のことならば、わざわざゴップはヘイデスに思考を割いたりはしない。

 北米に降下後、太平洋に進む直前までホワイトベースに同行したアクシオの戦闘データには、ゴップも目を通している。

 ゴップはMSに特別詳しいわけではないが、それでもアクシオがジムに匹敵する性能であるという報告は重要視している。

 世界的財閥とはいえ民間企業が、地球連邦軍が総力を挙げて開発したMSと同等に近い性能と量産性を備えたものを作り上げたのだ。どうしてこれを軽視できようか。

 

「それにコルベットがあるとはいえ……」

 

 プルート財閥ヘパイストスラボの開発した地上用SFSシューズは、地球連邦軍のコルベットやジオンのドダイYSと遜色のない代物だったが、それに加えて宇宙用のSFSゾーリを実用化して、運用にまで至っている。

 決して目新しいものを提示してきたわけではない。だが、地球連邦とジオンという国家が総力を挙げて開発したものと同等のものを示してくるとは……。

 

 ゴップの灰色の脳細胞がフル回転をはじめ、彼は左手に持っていたタブレット端末を起動して、内容に目を通す。

 一年戦争以降のプルート財閥の動きを調べさせたものだ。

 ゴップがプルート財閥を改めて意識したのは、ホワイトベースへの支援を行い始めたのがきっかけだ。

 そして近日では、プルート財閥傘下のサルベージ会社が南アタリア島近海で怪しい動きを見せている、という報告を受けて、それとなく調査させている。ゴップが目にしているのはそれらを含めた調査の結果だ。

 

(日本の光子力研究所、早乙女研究所、南原コネクション、ビッグファルコン、それに日本人に限らず世界中の科学者に利益を顧みない異様な支援を行っているな。

 経営者としては失格だろうが、経営者としてではなく“何者”としてなら、このような選択を選ぶ?)

 

 よもや数年後に訪れるだろう地下世界並びに宇宙からの侵略者に備える為、とはさしものゴップとて想像は着かない。着かないが、拭えぬ違和感を覚える事は出来た。

 終始、画面の向こうで虫も殺せないような笑みを浮かべ続け、あくまでこちらを敬う態度を崩さず、自社の製品を売り込む若きカリスマ経営者の仮面。その下に蠢く――実際は心の中で汚い悲鳴をあげながら七転八倒している――見通せぬ本性。

 

(戦時中にMSを売り込むつもりはあるまい。既に間に合わんタイミングだ。なによりジオンが倒れれば、MSとて今ほどの需要はなくなる。

 軍需などより民需の方が余程金になる。軍事兵器はあくまで政府と軍と交渉する為の札にすぎんのだ。

 それを分かっているうえで、自社製のMSを見せて開発能力がある事を示してきた。軍がおおっぴらに開発できぬものなら任せろと?

 戦後のジオンの残党狩り程度では、新型MSを開発したところで儲けは出まい。儲けを度外視して連邦の軍事技術を欲している? ジオン残党以外に戦う相手がいると考えているのか?)

 

 ゴップはこれまでの経験と彼なりの今後の地球情勢の展望を踏まえて、ヘイデスの狙いを探りながらタブレット端末を操作してゆく。

 プルート財閥が新規にジャンク屋家業に力を注いでいるのは、戦場跡から両軍の兵器と技術を出来るだけ回収し、自社のものとする為に違いない。

 プルート財閥に限らず、合法非合法の手段で様々な企業が行っている事だ。V作戦に大きく貢献したアナハイム・エレクトロニクスも同じ穴の狢であろう。

 

(太陽光発電用のソーラーパネルの大量生産? ……まさかとは思うが)

 

 宇宙仕様のソーラーパネルの尋常ならざる大量生産とその配備を、プルート財閥は戦時下のエネルギー不足といった緊急事態に備えたものとしているが、ゴップにはどうしてもそれが気にかかった。

 現在、来る宇宙での決戦に向けてソロモンやア・バオア・クーといったジオンの要塞攻略の為の秘密兵器を準備しているのだが、ソレと重複する部分がある。

 考え過ぎだと一笑に付すべきその閃きを、ゴップは一笑に付さなかった。だから、彼はこの地位に就き、維持できている。

 

(分からんな。危険であるとも、そうではないとも感じられる)

 

 単に企業の利益に腐心する金の亡者と断ずるには意図の読めない行動が多く、さりとてゴップだから感じ取れた微細な焦りや不安を抱いている姿は、経歴と実績とはかけ離れた平凡さを感じる。

 危険を感じるにしても、ゴップにとってなのか、連邦軍にとってなのか、連邦政府にとってなのか、それともさらに大きなスケール? その逆に小さなスケールでの危険性なのかと判別がつかない。

 

 ヘイデス・プルートとは、こちらの思考を惑わすどうにもチグハグな青年であった。それも当然と言えば当然だ。

 世界的財閥を数年で築き上げた傑物と、平凡なスパロボプレイヤーの二つの人格が融け合って生まれたバグのような青年なのだから。

 

(今見えている範囲では連邦軍との濃密な関係を持ちたいと考えて、外れではあるまい。サイド7では、宇宙に放り出されたテム・レイ博士を含め、多くの人間を救出している。その借りもある。

 それにこれまでの実績もある。ジムがまだ具体的な戦果をあげていない中で、彼らは自社製のMSである程度の戦果をあげて見せたのだ。実働データが欲しいのはあちらもこちらも同じこと……)

 

 ゴップはある程度、連邦軍にとってもプルート財閥にとっても益が出る考えをまとめ、一つの決断を下した。

 

「売り込まれてきた商品の評価はしなければなるまい?」

 

 まもなく行われる地球連邦軍の一大反攻作戦“オデッサ作戦”に、小アジア方面から進出して参加する予定のホワイトベース隊に、プルート財閥の立ち上げた民間軍事会社“アレスコーポレーション”から四機のアクシオの派遣が決定した瞬間だった。

 テム・レイ博士の生存による原作を上回る速度でのMS開発の進捗と、原作にない戦力の追加を受けたホワイトベース隊の活躍は、想像するに難くない。

 そうとは知らぬまま端末の操作を進めるゴップは、とあるページで眉を交互に動かして困ったように笑った。

 

「これは、ますます何を考えているのか分からなくなったな」

 

 端末の画面には、プルート財閥傘下のアイドルの育成を手掛けるアポロン事務所から世界デビューを果たした【AEU48】、【人類革新連盟46】、【ユニオン娘】という地球・宇宙を問わず大人気のアイドルグループについてのページが開かれている。

 こちらのアイドル事業も急に力を入れ出した新規事業だが、ヘイデスにその真意を問えば怖い程の真顔で、万が一、ゼントラーディやプロトデビルンが出現した時の為に自前で歌姫を用意しようと必死なだけですが、なにか? と答えただろう。

 

 ちなみにマクロスフロンティアに出演したバジュラに対しては、感応するのにはフォールド細菌に感染していなければならず、どうしようもないのでは? とヘイデスに声にならない悲鳴をあげさせている。

 アニマスピリチアならなんとかなるかもしれないが、こればかりは熱気バサラ相当の人物を見つけるか、何かの拍子で彼がこちらの謎のスパロボ時空世界に来てくれるのを祈るしかないのが現状だった。

 まあ、来たら来たで、マクロスシリーズの数も技術も能力もおかしい各作品の敵勢力も大挙してやってきそうで、恐ろしい限りである。

 

 

(過剰戦力、いや、オーバーキル?)

 

 それが、ヘイデスがオデッサ作戦終了後にその内容を知った時の感想だった。

 場所は例によってギリシャにあるヘパイストスラボである。本社も同じくギリシャにある為、行き来にはそれほど時間が掛からない。

 今後の繋ぎを求めて連邦軍に連絡を入れたところ、よもやよもやでゴップと通信越しでの会談を執り行う運びとなり、それとなく自社製品の売り込みと戦後の復興事業の際にはぜひお声がけを、とヘイデスとしては当たり障りのない会話をしてから一カ月以上が経過している。

 

 その後、オリュンポスの神々になぞらえた民間軍事会社経由でアクシオやSFSシューズの評価試験を打診された時は、へあ!? と変な声を喉の奥で押し殺したものである。

 所長室のソファに腰かけたヘイデスの手には数枚の紙資料と添付された写真があり、所長はヘイデスの右隣りに腰かけて彼に寄りかかるようにして一緒にその内容を確かめている。

 

 本日の所長は古代ギリシャの衣服であるペプロスを着用している。体のラインをうっすらと浮き上がらせるサフラン色に染めた生地に緑の線条があり、その上からいつも通りの白衣に袖を通している。

 白衣は防弾・防刃性能に加えて着衣型コンピューターの機能も併せ持っているから、ファッションによらず着用は必須だからだ。

 

 プラチナブロンドは編み込んでから後頭部で巻いて、金銀を使った粒金細工の巻ききり簪で纏めている。垂らした毛先の先端は解けていて、それがヘイデスの肩に乗っていた。

 本日は古代ギリシャ風コーデでまとめたようだ。

 ヘイデスは会う度に所長が違う服装で、白衣を除けば同じ服に袖を通しているのを一度も見たことがなかった。そして会う度にこの上ない目の保養をさせてもらっていると、拝みたいくらいに感謝しているのだった。

 

「もうオデッサ作戦が終わったからとはいえ、正式なルートでこの情報を貰えるなんて、どんな手品を使われたのですか?」

 

 所長は、ヘイデスが右肩に感じる人肌のぬくもりと香りに、この地獄の底のようなスパロボ世界の癒しだぜ、ひゃっほい! と内心で裸踊りをしているとは知らず、いつも通りの落ち着き払った声で問いかけてくる。

 

「前からの縁もあってゴップ閣下とつなぎが持てたから、そのお陰かな。現在の連邦軍の装備や物資の手配だと、もっと手前の担当者に繋がってもおかしくはなかったけれど、予想をずっと上回る大物に話がつながったのさ」

 

「ゴップ閣下ですか。あの方は連邦議会への進出も狙っている政財界の大物です。よく連絡が着きましたね。

 それでその結果が、ホワイトベースへのアレスコーポレーションからの戦力派遣ですか。名目上は弊社の技術評価試験と。無理があるのでは?」

 

「今回は激戦区への突入が確実だから、現場の社員には拒否権を認めたよ。それでも行ってくれたのには感謝しかない。幸い、ホワイトベースと共闘経験のある社員が今回の件を受託してくれたし……」

 

「ふうん? ゴップ閣下に借りを作ってしまいましたね」

 

「なに、あの方は最後まで生き残るタイプだよ。清濁併せ呑むといっても、濁の割合の多い方だがやる時はやる御仁だ」

 

 『ギレンの野望』シリーズだと能力が低すぎて、“ジャブローのモグラ”の一人である無能と、ヘイデスもかつては思っていたが、漫画作品での扱いなどもあり描写の問題であり、あれだけ巨大な組織であの地位に就く者が、そもそも無能なわけがないと考えを改めている。

 そして前世の記憶を取り戻すまでのヘイデスが知るゴップの人脈や能力、権威、そして通信越しに交渉して感じた印象から、それは間違いではないと確信している。

 実際、ジャミトフやブレックス、コーウェンやコリニーが去った後も残り、地球連邦議会の議長に就任した人物なのだから。

 

「総帥の評価は分かりました。それにしてもウチの社員はホワイトベースと縁がありますこと。この前は“青い巨星”のランバ・ラル隊と戦って、今度はあの“黒い三連星”を相手にドンパチですか。

 赤い彗星のシャアから始まって、ジオンの名だたるエースと戦っておりますのね。やはりガルマ・ザビを負傷させたのがきっかけでしたかしら」

 

「加えてガンダムの性能と戦果もあって、ますますジオンが躍起になっている印象はあるね。それにオデッサでも大活躍だったようだ」

 

 オデッサ作戦への参加を命じられたホワイトベースの戦力は、以下のとおりである。

 

・ホワイトベース

・ガンダム(アムロ・レイ)

・ガンキャノン(カイ・シデン)

・ガンタンク(リュウ・ホセイ)

・ガンタンク(ハヤト・コバヤシ)

 

 リュウとハヤトのガンタンクは単座式に改造済みだ。これに加えてプルート財閥傘下の民間軍事会社アレスコーポレーションより

 

・ストーク級空中戦闘母艦“ポダルゲー”

・アクシオ(レナンジェス・スターロード)

・アクシオ(ミーナ・ライクリング)

・アクシオ(アーウィン・ドースティン)

・アクシオ(グレース・ウリジン)

 

 が加わった陣容となる。リュウが生存しガンタンクに乗っているのもそうだが、概ねジム相当の性能を誇るアクシオが四機と、スーパーロボット大戦OGに登場するストーク級一隻の追加は劇的な戦力向上と言える。

 ストーク級は、本戦争が勃発後、記憶を取り戻したヘイデスが自社のヘパイストスラボと航空機メーカーや造船メーカーに声をかけ、大急ぎで建造させた母艦群の一隻である。

 てっきりこの世界独自の艦艇が出来上がると思っていたら、どういうわけでかスーパーロボット大戦OGシリーズの艦艇が出来上がったのには、ヘイデスも首を捻ったものだ。

 

 とはいえ動力や装甲素材はこの世界に由来している為、ストーク級にバリアの一種であるEフィールドは搭載されていないし、ビーム兵器はメガ粒子砲に置き換えられている。

 今のところはペガサス級を除けば、他のこの世界の空中母艦となるとガウやミデア、ザンジバルであるから、十分に戦える性能がある。

 

 また艦名である“ポダルゲー”とは“足の速い者”を意味する、ギリシャ神話に登場する怪物の名前だ。

 ハルピュイアという人間と鳥の混ざった怪物であり、西風の神ゼピュロスとの間に二頭の不死の馬を産んだとされている。

 この二頭の馬はアキレス腱の由来となった英雄アキレウスに贈られて、もう一頭の名馬と共に彼の愛馬として神話にその名を刻んでいる。

 

「オデッサ作戦の間だけとはいえ、一度は関わった相手の顔を見られて、レナンジェス君達が安心してくれるといいのだけれどね」

 

「幸い戦死者はでなかったようですし、働きに十二分に報いれば総帥が恨まれることもありませんでしょう。オデッサの大敗でジオンの目ぼしい拠点は、精々アフリカのキリマンジャロの他はトリントンくらいのもの。

 ここから地上でジオンが逆転しようとするなら、ジャブローをどうにかして制圧するくらいしか道はありませんね」

 

「それか宇宙での決戦を想定して、ジャブローの宇宙船用ドックと打ち上げ施設の破壊を目論む可能性があるくらいだろう」

 

 とはいえヘイデスに懸念がないわけではなかった。ホワイトベースと交戦したランバ・ラル隊も黒い三連星も、ホワイトベース隊の戦力が増強されたからこそ無理な戦闘は行わずに撤退しており、いずれも存命なのだ。

 厄介なことに宇宙では生き残った彼らと戦わざるを得ない。

 これはあれか、黒い三連星はドライセンに、ランバ・ラルはドーベンウルフに乗ったりするパターンか? とヘイデスは数年後までも彼らと戦い続ける展開を危惧している。味方になってくれると心強いのだが……。

 

「それにしてもこの勢いだと本当に総帥が言った通り、年内に決着が着きそうですわね」

 

「言ったとおりになるのを祈っているよ。連邦軍が宇宙でジオンに攻め込むなら、まずはソロモンとア・バオア・クーと来てから、サイド3だろう。ジャンクの拾い甲斐があるよ」

 

「ジャンクと言えば中央アジアでなにか面白いジャンクが出たとか。随分とお金を積まれているそうですね」

 

「ジオンの作った天女が地上に落ちてきたんだよ。連邦軍に任せると乱暴な扱いをされてしまいそうだから、どうにかウチで引き取れないかと思ってね」

 

 ヘイデスの言い方のなにかが気に入らなかったようで、所長は少しばかりムッとした顔になる。ヘイデスは察しきれなかったが、“天女”という言い回しが所長はお気に召さなかったのだ。まるで他の女に現を抜かしているようで……

 

「総帥がそこまで熱心だなんて、随分と魅力的な天女様なようですわね?」

 

 にこりと笑む所長に、ヘイデスは知り合ってから初めて背筋に冷たいものを覚えた。

 

「え、うん。ええとね、大気圏外から一気にジャブローに突入して火の海に変えられるくらいの性能を持ったモビルアーマー(MA)な天女様さ」

 

「……それが本当ならデタラメな性能ですわね。それほどのモノならば、連邦軍はそう簡単に手放そうとはしないでしょう。ずいぶんと吹っ掛けられるのではありませんか?」

 

 ここでヘイデスの言う天女とは、ガンダムの外伝作品のひとつ、第08MS小隊に出てくるMAアプサラスⅢだ。

 ヘイデスとしては、後々、戦うことになる戦闘獣やメカザウルス、マグマ獣といったスーパーロボット系の敵と戦う為に、アプサラスの火力が欲しいわけだ。

 スーパーロボット大戦脳で考えると、スーパーロボット系の敵は装甲が厚く、耐久力に富み、MSが一撃で沈む攻撃を四度か五度は当てないと落とせないと睨んでいる。

 その為、ヘイデスはアプサラスのような大火力MAの大量配備や、欲を言えばMSの平均的な火力がZZ級になってもらいたい、と痛切に願っていた。

 

「連邦軍にああいうMAは不要だけれど、対策は必要だから資料的な価値はあるだろうし、ま、なんとか交渉を重ねてみるよ」

 

「総帥が必要とお考えなら反対は致しません。そんな権利と資格はありませんので。とはいえ、一つお伺いしてもよろしいですか?」

 

「なんだい?」

 

「戦後を見越したスペースコロニーの建造ですとか、ソーラーパネルの大量生産にマイクロウェーブ変電施設と送信施設の建設はともかくとして、火星にまで手を伸ばされるのですか。

 というかここ数世紀で苔とゴキブリをセットにして送り込んだ履歴がないかなんて、どうして調べているのか理解に苦しみますね」

 

 ヘイデスとしてもいくらなんでもないだろ、とは思っていたのだが、念のために火星に人型に進化したゴキブリ――テラフォーマーが居ないか心配になったのだ。

 スパロボと関係のない漫画作品だが、スパロボに油断するわけには行かない。それに火星は火星で、ガンダム作品のみならずスパロボ参戦作品でもなにかと舞台になる惑星だ。

 

 調査の手を伸ばすのは当然だったが、いかんせん距離がある為、詳細な現状を把握するのはヘイデスをしても難しい。

 とりあえず、過去にどんな開拓計画が実行されたのかを調査した。所長の苔とゴキブリ云々も、その調査の一環である。

 

「なにかの映画か漫画でそういう計画を見た覚えがあってね。つい調べてもらっただけだよ。結果が空振りに終わってよかったよ」

 

 現在、火星は新たな居住地としての価値が低く見積もられており、衛星フォボスに宇宙港が置かれ、地表にはラッピング構造体と呼ばれる構造の都市もあるが居住者は少ない。

 ヘイデスは、詳細までは記憶していなかったが、確かF90の時代にはオールズモビルというジオン系の武装勢力が潜伏していたはずだし、それ以前にも一年戦争で敗れた親キシリア派のジオン残党が占拠して、力を蓄えていた筈。

 そこにティターンズ残党やらなんやらが加わって、だいぶごちゃごちゃとした関係が出来上がっていたような、そうでないような……

 

(ただスパロボだと、月と並ぶ異星人に侵略されて拠点を置かれる場所筆頭だ。最終話や終盤のステージになる事も少なくない。

 今の開拓具合からいってガンダムAGEや鉄血のオルフェンズはないし、ナデシコの参戦もない。あの世界ほどテラフォーミングが進んでないようではな。

 今から出資して開拓を進めても、それを異星人にいいように利用されてこっちの首を絞める結果になるだけか。……今、火星で暮らしている人達に向けて、軍事物資の生産プラントに転用できないものなら、出資する事に決めたけどさ)

 

 おそらくこのスパロボ世界のラスボスを倒したころには、ミノフスキードライブの実用化もあり得る。それを搭載した高速船を開発すれば、地球・火星間の移動にかかる時間も短くなり、開拓事業活発化の芽も開くだろう。

 ひょっとしたら、なにかしらのワープ技術も実用化されるかもしれない。それを独占し、ジオン残党を始めとした諸勢力の支配を跳ねのけられれば、火星をプルート財閥の事実上の支配下に収める事だって出来るだろう。

 

(いや、それは…………面倒くさ! 第一、今の俺は財閥の社員の生活を守るだけでも責任の重圧に押し潰されそうなのに、この上、火星の住民の面倒まで見ていられるか!

 第一、そんなのはプレイヤー部隊にボコボコにされる敵役の典型的な思考だろうが。経済的に支配する分には、プレイヤー部隊にはどうしようもないかもしれんけど! ていうか誰がするか! あほか!)

 

 スーパーロボット軍団が敵に回る映像を思い描いて、恐怖のあまりブルブルと体を震わせるヘイデスを、所長は不思議そうに見ていたがよりかかるのは止めなかった。

 

「まあ、総帥の奇抜な行動は今に始まった話ではありませんわね。それと例のギフトについてですが」

 

 ギフト……あの南アタリア島近海でサルベージされたヘリオースもどきのコードネームだ。ヘイデスとしては、あれがこの世界における主人公ないしはラスボスではないか、と予想している。

 

「ギフトの解析は進めていますが、どうにも未知の技術の塊で難航しています。まあ、遅々とはいえ進んでおりますので、その内、応用くらいはしてみせます。とりあえず、四肢の代わりの設計と修理部品の調達と併せて進めていますわ」

 

「所長が頼みの綱だよ。本当の本当に。それでギフトの中の方はどうだい? ある意味、そっちが本命なわけなのだけれども」

 

「生命反応が順調に育っています。出産と形容すればよいのか怪しいですが、遠からず中の誰かが外に出てくると思いますわよ。出てきたらどうされます?」

 

「人間、まずは話をするのが大切さ。とびっきりのVIP待遇で迎えてあげよう。破損していたとはいえ、コロニーを吹き飛ばしながら落下してくるような機動兵器のパイロットかもしれないんだ。ある意味、地球圏で一番重要な人物といっても過言ではないよ」

 

「産まれてくるのが人間だと良いのですけれど」

 

「コワイコトイワナイデ」

 

 ヘイデスは心の底からそう告げた。

 

 

 この後、オデッサ作戦の終了と共にポダルゲー隊はホワイトベース隊と別行動を取り、ホワイトベース隊はベルファスト、ジャブローへと進路を取る。

 療養が終わり、ドズルに左遷されたところをキシリアに拾われたシャア率いるマッドアングラー隊により、ジャブローの位置が把握され、ヘイデスが指摘した通りにジオンは残る地上戦力をかき集めて、ジャブローの宇宙船ドックの破壊を狙って攻撃を仕掛ける。

 テム・レイ博士が健常な状態で保護されていたこともあり、ジャブローには原作以上のジムが配備され、元より堅固な防衛力とホワイトベース隊の奮闘もあり、侵攻したジオン軍の撃退に大成功している。

 

 そうして舞台は当然ながら宇宙へと移り、今度はレビル将軍からの要請により、アレスコーポレーションは第13独立部隊に任命されたホワイトベース隊に戦力を派遣する事となる。

 これから後に起きた一年戦争の戦いにおいて、ヘイデスの果たした役割はそう多くはない。

 ソロモン攻略戦に於いて大破したRX-79EX-1ゼファーガンダムとMS-19N カタールを、そしてア・バオア・クー攻略戦に於いて、アムロが乗り捨てたコアファイターと搭載されていた教育型コンピューターを回収したのが、特筆すべき成果であったろう。

 そして彼は後に知る。一年戦争はチュートリアルだった、と。

 

〇チュートリアルクリア!

 

・ゴップと深いつながりを得ました。

・ストーク級空中母艦が開発されました。

・ライノセラス級陸上戦艦が開発されました。

・キラーホエール級攻撃潜水艦が開発されました。

・ゼファーガンダム並びにゼファーファントムシステムを手に入れました。

・カタールを手に入れました。

・アプサラスⅢが手に入るかも?

・大量のソーラーパネルを生産しました。

・マイクロウェーブ送信施設を建設しました。

 

☆現在の参戦確定作品!

・ガンダム(宇宙世紀シリーズ)

・マジンガーZ

・ゲッターロボ

・コンバトラーV

・ボルテスV

・闘将ダイモス

・勇者ライディーン

・バンプレストオリジナル

・?????

 




ガンダムばっかりのチュートリアルですが、本編が始まればようやくクロスオーバーらしくできそうです。もうちょっとお付き合い下さい。
また戦う方の主人公もそろそろ出番が回ってきます。あくまでヘイデスが本作品の主人公ですので、あまり出番はありませんがキーパーソンなのは確かです。
では、また次回にて。


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第五話 予約特典についてくる前日譚のお話

もう少しだけ本編開始前の外伝的なお話を挟みます。
本編開始前に主人公の行った仕込みについて、ダイジェスト風味でつらつらと。


 新代歴179年12月31日、ジオン公国の宇宙要塞ア・バオア・クーが陥落し、ア・バオア・クーにて指揮を執っていたジオン公国総帥ギレン・ザビ、さらにその妹キシリア・ザビの死亡が確認される。

 これに伴いガルマ・ザビを首相とするジオン共和国臨時政府が、地球連邦政府に終戦条約の締結を申し入れ、地球連邦政府がこれを認め、新代歴180年1月1日、グラナダにて終戦条約が締結される。

 後の世に言うこのグラナダ条約によって、一年戦争は終結を迎えたのである。

 

 ジオン共和国の存在を認められないギレン派、キシリア派、またあるいは敗戦を認められない者達は、火星と木星の間のアステロイドベルトに存在する小惑星基地アクシズへ向かい、あるいは宇宙の闇や地上のいずこかへと潜み、地球連邦への反攻の火を燃やし続けた。

 それでも表立っては地球圏全土に及んだ大戦は終わり、多くの人々はようやく訪れる平穏な日々に胸を撫で下ろしたものだ。

 

 しかし悲しいかな、ヘイデス・プルートばかりは考えれば考える程危険しかないこの世界の未来に思いを馳せて、何時まで経っても心安らかにとはいかないのであった。

 どうにか平穏な晩年を過ごして天寿を全うする為に、彼は頑張るしかなかった。

 たとえこの世界が純粋な宇宙世紀のみの世界であったとしても、これからコロニーが落ちるわ、コロニーレーザーで地球が撃たれそうになるわ、核ミサイルの雨が降りそうになるわ、アクシズが落とされそうになるわと物騒極まりないのである。

 更に地下勢力・異星人・並行世界・未来ないしは過去勢力・異次元勢力からの侵攻や、宇宙のルールによる試練があるかもしれないのだから。なんともはやとんでもない世界に生まれ変わってしまったものである。

 

■新代歴180年2月某日

 

 一年戦争の終結からおおよそ一か月半後、ヘイデスはヘパイストスラボからの緊急連絡を受けて、それまでサインしていた書類を放り出して一目散に向かった。ギフトに関する緊急事態を告げる連絡であった為だ。

 ヘパイストスラボも常の余裕を半分ほど忘れた慌ただしさに包まれており、ヘイデスを迎えた所長の顔も険しさの割合が多い。

 

「ようこそ、総帥。ゆっくりとお話をしたいところですが、今はそれどころではございません。急ぎ、地下格納庫までおいでくださいな」

 

「ああ、分かっている。案内を頼むよ」

 

 開口一番、行動を要求する所長に対して、ヘイデスは一もなく二もなく頷き返す。いよいよこの世界の主人公との対面かと浮足立つ気持ちと、いよいよ地獄の蓋が開くのかという恐怖が彼の心の中にあった。

 ドイツはバイエルン州からオーストリアのチロル地方にかけての民族衣装であるディアンドルの上に白衣を着た所長は、プラチナブロンドを後頭部で大きな団子状に纏めたスタイルでヘイデスを先導して行く。

 

「それでどういう事態になりそうなのか、推測は着くのかい? それとも推測も出来ないような緊急事態かな?」

 

 ヘイデスとしては後者の方が厄介だ。思わぬ良い方向に転がる可能性もあるが、それ以上に悪い可能性に転がった場合のバリエーションが豊富過ぎる世界に生きているから、どうにか予測の着く範疇に収まってほしい。

 

「ギフト内部の生命反応が活発化しています。加えてギフト自体も緩やかにエネルギー反応を高めています。次に起こる事態の想像は着いておりますので、お呼びしました。まあ、危険なことにはならないかと」

 

「所長の事は信じているからね。君が危険はないというのなら、それを信じるだけさ」

 

「あら、プルート財閥の総帥ともあろう方が、そんなに簡単に信じると口にしてよいので?」

 

「ああ、所長ならいいのさ。僕の名前はギリシャ神話の冥府の神ハデスから取られたけれど、その僕にとって君はペルセポネだ。なにをしてでも自分の傍に置きたいと願った女神のようなもの。その君を信じない理由はない」

 

 迷いなく、恥じらいもなく断言するヘイデスに対して、所長が返事をするまでには随分と間があった。

 

「…………そうですか」

 

 通りすがりに二人のやり取りを耳にした独身所員の何人かは、けっ、と吐き捨てるか羨ましそうに二人を見ていた。

 なにはともあれ所長に先導されてギフトことヘリオースもどきを保管している格納庫に着けば、地鳴りを思わせる小さな音が機体から漏れ聞こえ、機体の装甲の隙間からも太陽を思わせる黄金の光の粒子が漏れ出ている。

 事前にパワードスーツとしての機能を組み込んだ気密服に着替え、二人は格納庫へと足を踏み入れた。鎧を纏ったノーマルスーツめいた気密服だったが、パワーアシスト機構が着いている為、重量はほとんど感じられない。

 同じ気密服を着こんだ所員達が解析装置やプチモビを持ち込み、ギフトの異変を調査中だった。

 

「この金ぴかの粒子って、触っても大丈夫?」

 

 ヘルメットの中にある通信機で所長に尋ねれば、せっかくのディアンドル衣装が隠れてしまった所長は、肩をすくめて答える。

 

「解析できませんでしたので、なるべく触れないようお気を付けください。何かしらのエネルギーの放出であるのは確かですが、なにかの物体に触れると自動で消えるのです」

 

(ゲッター線は緑色の光だったよな? ガンダム00のアルヴァアロンのGN粒子が金色だったけれど、あれは色がそうなるように調整したって設定だったっけ。まさかそのGN粒子ってわけもないだろうし……)

 

 大丈夫かなあ、でも所長を信じるって言ったしなあ、と心の中でおっかなびっくりしながら、ヘイデスと所長はブーム式リフト車のバスケットに乗り込み、ヘリオースの上へと回る。

 装甲の隙間から漏れる金色の粒子は心なしか量が増しており、二人がちょうど腹部の真上に来たところで、待ち構えていたように装甲の一部が開き始めたではないか。

 

「所長、あれはコックピットハッチだったりするのかな?」

 

 いよいよ主人公の登場か、と久しぶりに純粋な興奮に襲われたヘイデスが指さす先を、所長もバスケットから身を乗り出すようにしてのぞき込んでいる。

 そうして向こうからの行動がなにかあるかと待ってみたが、五分経っても十分経ってもなにも起きず、ヘイデスがどうしたものかと首を捻っていると、痺れを切らしたのか所長が大胆な行動に出た。

 

「ふむ、ならこちらから動くとしましょう。行きますわよ、総帥」

 

「へ」

 

 ヘイデスは一言漏らす暇こそあれ、所長に首根っこを掴まれた次の瞬間には宙を飛んでいた。所長がヘイデスを捕まえたままバスケットからジャンプして、ヘリオースもどきのコックピットハッチのすぐ傍に着地したのである。

 

「!?!?!?!?!?」

 

 いくら気密服にパワードスーツとしての機能があるとはいえ、ちょっと人間離れした所長の身体能力と行動力に、ヘイデスが目を白黒とさせている間に所長はコックピットハッチの中へと潜り込んでいる。

 

(やだ、頼りになる)

 

 頼もしい事この上ない所長の行動力に、改めてヘイデスがトゥンクと音を立てて胸をときめかせていると、コックピットに潜り込んだ所長がなにかを抱えてすぐに戻ってきた。

 所長は両手になにかを抱えたまま、ヘルメットの通信機を操作する。

 

「至急、医療班をこちらへ回して。ええ、すぐに、大至急。超特急で。一分一秒を惜しむ気概でおやりなさい。総帥、こちらを」

 

 ヘイデスが口を挟めずにいると、所長は両手に抱えていたモノの片方を押し付けてきた。

反射的に受け止めると気密服越しに、軽減された重みが伝わり、ヘイデスは自分が何を抱えたのかを知ると目を丸く見開いた。

 だって、こんな、あまりにも予想外過ぎる!

 

「あ、赤ちゃん? 双子の!?」

 

「男の子と女の子ですわね。ひょっとしてこの機体はこの二人の揺り籠だったのかしら?」

 

「え、いや、ええ~~~」

 

 ヘイデスと所長の腕の中で、生後一年程と見える金髪の赤ん坊はすやすやと穏やかな寝息を立てていた。

 

(なになになに! どういうこと!? 俺と所長でこの子達を育てろってことなのか? ん、まて、待てよ、揺り籠、赤ん坊の揺り籠?

 ソーディアンか? スクランブルコマンダーに出てきた、あの二人の嬰児を抱え込んでいたソーディアンを連想させるが、でもこれロボットだよな。ソーディアン関連ならどうしてヘリオースに似ている? 単なる偶然か。

 そういえばファフナーのマークニヒトと皆城総士も、エグゾダスで似たようなことになっていたっけ。ふーむ、そうなるとこの赤ちゃん達も既存のスパロボオリキャラの生まれ変わりか、あるいはまったく新規のキャラになるのか)

 

 ヘイデスの内心の混乱や推測を他所に、彼の腕の中の赤ん坊は世界の悪意や暴力をまるで知らぬ無垢な顔で、穏やかな寝息を立てていた。

 そんな顔を見ていると、ああ、どうしてこんな戦乱塗れのクロスオーバーワールドに生まれてきてしまったのだと、憐れみが勝った。ましてや主人公であったとしたなら、なおさら苦難の道が待ち受けているに違いないのだから。

 

(でもこの子達が主人公だとしたら……え、六、七歳で戦う羽目になるのか? そりゃ見た目は成人か十代後半でも、実質一桁年齢のキャラクターはいたけど、この子達を戦わせなければならない展開が、この先に待ち構えているのか?)

 

 ああ、とヘイデスは心の中で嘆息した。自分は良い。知らない方が良かったと後悔する事も多いが、それでも世界に大きな影響を与えられるだけの地位と財力と能力を与えられて、どうにか足掻きもがけているのだから。

 でも、だからといってこんな赤ん坊に世界の命運を委ねなければならなくなるのか? そうしたら、この子達はどれだけ傷ついて苦しみ、悲しむだろうかと、そう思わずにはいられなかった。

 

 ただしヘイデスの悲嘆は、全てが当たったわけではなかった。遺伝子的には地球人類と変わらないにもかかわらず、双子の赤ん坊は数倍の速度で成長していったのである。

 これにはヘイデスも所長も目を見張ったが、だからといって放り出す事は出来ず、非人道的な実験に供するわけもなく、二人はヘイデスの養子として育てられる事となる。

 

■新代歴182年

 

 地球のとある平原にて二機のMSが入れ代わり立ち代わり、それこそ目が追いつかない程の速さで動き回り、互いに銃口を向け合っていた。

 晴れ渡った空に君臨する太陽は、せっかく自分が照らしてやっているというのに無粋な奴らめ、と腹を立てていたかもしれない。あるいは尋常ならざる動きを見せる二機の戦いぶりに、声援のひとつも送っていたものか。

 

 戦っているのは同タイプのMSであった。黄色いV字型のブレードアンテナに人間の目を思わせるツインアイ、機体は白を基調としながら胴体は青く、四肢の各所にも同色の装甲が散らされている。

 RX-78NT-1あるいはガンダムNT-1、この試験場に居る関係者達からはもっぱらコードネームのアレックスの愛称で呼ばれる機体である。

 

 本来は一年戦争期にアムロ・レイの反応速度にガンダムが追従できなくなったのをきっかけに開発された、地球連邦軍初のニュータイプ対応機だ。

 一年戦争終盤にサイド6リボーコロニーの極秘工場で組み上げられるも、ジオンの特殊部隊の奮闘により大破し、軍事要塞ルナツーへと移送されアムロの手に渡る前に終戦を迎えている。

 

 この機動兵器運用試験用の平原で戦っている内の一号機は、正真正銘、ルナツーに保管されそのまま放置されていたものをプルート財閥があの手この手で引き取ってから修理し、現在のパイロット用に再調整を施したものだ。

 実機を用いた模擬戦の相手を務めている二号機も、一号機のデータをそのままにとある部分の改修を除けば、同等の性能を誇る。

 

 いわゆる第一世代MSであるアレックスだが、ニュータイプクラスの反応速度とG耐性を持つパイロットが操縦すれば、第三世代MS――可変型MS並みの性能を発揮する怪物マシーンだ。

 もしア・バオア・クー攻略戦でアムロがこの機体に乗っていたなら、更にニュータイプ伝説を助長させる戦果を挙げたのは想像に難くない。

 

 そしてこの試験場で行われている模擬戦は、アレックスの性能を完全に引き出したものであった。

 それほどのパイロットは、現状では地球連邦とジオン双方を合わせても、果たして十指に届くかどうかだろう。

 アレックス一号機の左肩には一本角を持つ馬――ユニコーンと「A」を組み合わせた赤いエンブレムが施され、二号機には鮮やかな緑の風を思わせるエンブレムが陽光に照らし出されている。

 

 模擬戦である以上、両者の右手に構えられたビームライフルからは、本物のメガ粒子砲ではなく当たり判定の為のレーザーが照射されている。頭部のバルカンや腕部のガトリング砲、バックパックのビームサーベルにしても同じことだ。

 とはいえ模擬戦仕様なのは武装だけで、二機のアレックス達は一年戦争を戦い抜いたベテランMSパイロット達でも度肝を抜かれる反応速度と、神がかった機体制御により、網膜に残像を残すかの如きハイレベルな戦いを演じ続けている。

 

 そんじょそこらのMSとパイロットでは、一個大隊でも鉄板にバターを押し付けるようにまたたくまに蹴散らされるに違いない。

 一号機のパイロットは自分の反応速度に追いついてくるアレックスに、そして思う存分動かせる状況を楽しんでいた。

 

 命のやり取りではなく実働データを取る為の模擬戦であることと、思う存分好きなだけ遊んでいい壊れない玩具を与えられたような気になっていたのが、彼の心を軽く、踊るように弾ませていた。

 彼にとって敵の攻撃は、センサーやメインカメラの捉えた映像よりも先に敵から放たれた殺気を感知し、避けるものだ。ロックオンされてから、相手の指がトリガーを引く前に避けているという常識外れの回避動作を行っている。

 

 しかし二号機から殺気の類は一度も放たれていない。一号機にロックオンされても怯えや焦りはなく、あらゆる感情の排された無機質な感触だけがある。

 逆説的に常よりも不利な状況にもかかわらず、一号機のパイロットは生まれ持った反応速度と多くの戦場で培った経験により、人体では耐えられない動きを平然と行う二号機と互角以上に渡り合っている事を意味する。

 

 フルポテンシャルを発揮したアレックス同士の模擬戦が行われる一方、別の区画では四対四の模擬戦が行われている。

 機体を黒に染め、一部に赤い線を引いたアクシオの最上位機アクシオ・バーグラー四機で構成される組と、アクシオ・バーグラー二機と四つ足の狼めいたシルエットの新型MS二機で構成される組だ。

 

 アクシオ・バーグラーはヘパイストスラボが拡張性の限界に挑み、仕上げたピーキー極まりない仕様の機体であり、現行の技術でアクシオをこれ以上強化するのは不可能と断言する性能を誇る。

 夜盗や強盗を意味する“バーグラー”とは、正規軍に卸すMSとして不適当だが、それは原作への敬意だからとヘイデスが譲らなかった名残だ。

 

 獣めいたMSは、実機の開発に至ったガンダムSEED世界のMSバクゥもどき――アルゴスである。

 古代ギリシャを舞台とするトロイア戦争の英雄オデュッセウスの愛犬からその名を取ったのは、主人の帰りを二十年以上に渡り待ち続けた犬の愛情と忍耐にあやかったからだ。

 

 アクシオ・バーグラー四機で構成される組は、レナンジェス、ミーナ、アーウィン、グレースらプルート財閥の誇るエース四人。

 一方、アクシオ・バーグラーとアルゴスで構成される組は、とあるプロジェクトの為に地球連邦軍から出向しているユウ・カジマ、ヤザン・ゲーブル、ライラ・ミラ・ライラ、ブラン・ブルダークら四人が搭乗している。

 

 無限軌道を活かして地上を疾走するアルゴスは、バクゥそのもののシルエットであったが、頭部はツインアイが採用されてより生物的な印象を強めている。腰の上には連装ビーム砲が装備され、メインウェポンとなる。

 模擬戦である以上、実際にビームが放たれることはないが、それぞれのパイロットのコックピットにはコンピューターが合成したビームの画像が映し出されており、自分が撃たれている事、自分が撃った事の双方が視覚的にわかりやすくなるよう設定されている。

 

「こいつはずいぶんとご機嫌なマシーンじゃないか、ええ!」

 

 アルゴスのコックピットの中で、ヤザンは獣性を剥き出しにした笑みを浮かべて、ロックオンした黒いアクシオへ連装ビーム砲を発射した。左右の砲身から交互にビームを放って、連射性を優先した撃ち方だ。

 それを標的のバーグラーは、ロックオンアラートが鳴り響くよりも早く回避行動を取り、仮想射線上から軽やかに退避する。

 

「きゅぴ~んと来ましたぁ」

 

 機体は素早く、しかし言葉はのんびりと、グレースはヘルメットのバイザーに映し出されるビームを一瞥し、お返しとばかりに乗機の右手にある新型のビームライフルを連射する。

 土煙をあげて疾走するアルゴスの影ばかりを貫くビームに、グレースはあらぁ、と呟いた。残念そうな呟きもぽやんとしている。

 

「ドムとはまた違った速さですねえ」

 

「いい狙いだが、それ以上に回避が上手い。これがニュータイプという奴か」

 

 無限軌道ばかりでなく四足形態での移動も交え、縦横無尽に動くヤザンのアルゴスを追従するグレースのバーグラーだったが、アルゴスが跳び越えた岩の影から飛び出してきたユウのバーグラーの放ったビームを咄嗟に左の盾で受け止めたものの、バランスを崩してしまう。

 脚部のスラスターを吹かしてバランスを保ち転倒こそ防ぐが、その為に使用した一秒にも満たない時間で、ユウはEMダガーを抜き放っていた。

 

「……!」

 

 言葉ではないユウの殺気を感じ、グレースが少しでも損傷を抑えようと思考を巡らせた瞬間に、横合いから飛び込んできたミーナのバーグラーが振り上げたビームハルバードがユウのバーグラーに叩きつけられる。

 ユウのEMダガーは受け止めたビームハルバードの刃を滑らせ、無理に受け切ることなくそのまま機体ごと後退する。ついでに左手で抜き放ったビームマシンガンの掃射を浴びせるのも忘れない。

 

「おりょりょ、今のを避けられるとは、ううん、私の推理ではユウさんはニュータイプじゃないんだけど、流石地球連邦のエースね!」

 

 軽口を叩きながらもきっちりとビームの銃弾を避けている辺りは、ミーナもまた一年戦争を戦い抜いたプルート財閥のエースに相応しい実力者であった。

 

「アーウィンやジェス君達もライラさんとブランさん相手に、いい感じに戦っていますねえ~」

 

 あちらはライラがバーグラー、ブランがアルゴスという組み合わせだ。

 なぜプルート財閥傘下の民間軍事会社アレスコーポレーションの四人と一機、それと地球連邦軍の正規軍人達がヘパイストスラボ印の機動兵器を駆っているかというと、ヘイデスが地球連邦軍に持ち掛けたあるプロジェクトの為である。

 新時代機動兵器技術研究計画――プロメテウスプロジェクト。

 ヘイデスが来る多作品勢力との戦いを想定し、地球連邦軍の技術とエース達の戦闘データを収集し、またこちらのデータも提供する事で地球の軍事力増強を図ったプロジェクトである。

 

 もちろんこの真意を知るのはヘイデスのみで、この計画を持ち掛けられた地球連邦の軍人達は、戦後、ジオニック社などの債権をろくに買い上げられず、アナハイムに大きく溝を開けられたプルート財閥が焦っているのだ、と嘲笑したものだ。

 地球連邦軍の十年先を行っていると言われるジオンの技術を得られなかったのは、確かに今後のMS開発に於いて大きな痛手だが、ヘイデス個人はそこまで頓着していなかった。

 所長をはじめヘパイストスラボの技術を信頼していたし、ジオンとは別のところでMSに関する技術を手に入れる目途を立てていたからである。

 

 そうとは知らぬ地球連邦の人々は、プロジェクトに掛かる費用のほぼすべてをプルート財閥が負担する事もあって、憐れみと打算を持ってこのプロジェクトに協力を決め、アレックスを始めとした一部のMSや資材、パイロットの提供を行って今日に至る。

 もっともヘイデスに警戒と興味を半々ずつ抱いているゴップや、新組織の設立を虎視眈々と狙っているジャミトフ・ハイマンなど一部の将校や政治家達は、このプロジェクトを立ち上げる隠れ蓑の為に、わざと債権を買わなかったのではないかと疑っているが。

 

『各機、模擬戦を終了してください。繰り返します、各機、模擬戦を終了してください。機体は各ハンガーへ、パイロットはメディカルルームへ』

 

 模擬戦の様子を逐一チェックしていた管制室から連絡が入り、それまでの激しい戦闘が嘘だったように、合計十機のMSが戦闘を止めて、途中でパージした武装や放り投げた盾を回収しつつ、試験基地へ戻り始める。

 そんな中、アレックス一号機のパイロットは引き抜いていたビームサーベルをバックパックに戻しながら、対戦相手だった二号機を労う。

 

「今日はここまでか。君もご苦労、ゼファー」

 

 ヘイデスがもっとも苦心して監禁生活を送る寸前に本プロジェクト参加が決定した、一年戦争の英雄アムロ・レイは、二号機のコックピットブロックに収められている、無人機の完全自立制御を可能とするシステム“ゼファー”へまるで同僚の如く声をかけるのだった。

 音声や文章による応答機能を持たないゼファーから、アムロへの返事は当然なかったが、それでもこうして模擬戦の度になにかしら声掛けをするのは、アムロに限らずプロメテウスプロジェクトに参加している人員にとっては、当たり前の習慣となっていた。

 

 模擬戦を終了した機体とパイロット達が続々と帰還してくる中で、管制室に詰めていた所長は、アレックス運用に関するアドバイザーとして出向してきた女性に声をかけた。

 元々はアレックスのシューフィッターを務め、リボーコロニーではアレックス破壊を試みるジオンの特殊部隊サイクロプス隊のMSと激闘を繰り広げた女性だ。柔和な印象を受ける美貌からは、それだけの修羅場をくぐった軍人だとは想像もつかない。

 ちなみに本日の所長は、紫のロングスカートに白のタートルネックのセーターという出で立ちだ。

 

「いかがでした、クリスチーナ。アムロさんの一号機とゼファーの二号機の稼働データは、よいものがとれまして?」

 

 地球連邦軍の軍服に身を包んだクリスチーナは、本来搭乗を予定していたパイロットの操るアレックスの戦う様を何度も目にしているが、目にする度に驚きに襲われている。

 

「はい。アムロ中尉もそうですがゼファーも模擬戦を重ねる度に、機体性能の限界に挑んでいるようなものですから、このプロジェクトが発足しなかったら到底得られなかったデータが取れています。

 ただ、分かってはいましたけれど、やはりアムロ中尉は凄いパイロットです。ニュータイプというものについて、私は理解が及んでいませんが、私ではアレックスの数分の一程度しか性能を発揮できませんでしたから」

 

 クリスチーナはパイロットとして優秀な人材だ。だからこそニュータイプ専用機として開発されたアレックスのシューフィッターを務めたのだが、その彼女をしてあの過敏すぎる反応速度のアレックスに、満足している様子のアムロを見れば上には上がいる事を痛感させられる。

 トップエースとはかくも人間離れした存在なのか、と。

 

「技術畑の私の眼から見ても、アムロ中尉とその相手を務めるゼファーはずば抜けておりますわね。ま、プロジェクトに参加してくれたメンバーは全員、地球圏でも上から数えた方が早いエース揃いですけどね。

 ところでバーナード君、あのアレックスを大破に追い込んだザクのパイロットとしては、アムロ中尉とゼファーのアレックスを相手にどうすれば勝ち目があるとお考えかしら?」

 

 所長から意地の悪いロシアンブルーの猫みたいな眼差しを向けられたのは、クリスチーナの横で模擬戦のデータ収集に務めていた金髪の青年だ。ようやく青年と呼べる年になった若者で、バーナード・ワイズマンという。

 所長が口にした通り、元はジオン所属の軍人で、リボーコロニーにて多くのトラップを用いて瀕死になりながらアレックスを大破にまで追い込んだ当人である。

 

 その後、新型ガンダム破壊の為に、ジオンがコロニーに核ミサイルを撃ち込む予定であり、それを阻止する為にバーナード――バーニィが自身と部隊の仲間達の意地も含めてアレックス破壊に奔走したことが知れ渡り、リボーコロニーの英雄などと一部では持て囃されている。

 瀕死の重傷から目を覚ました頃には終戦を迎えていたバーニィがなぜここにいるのか、と言えばプロメテウスプロジェクトに、ジオン共和国も一枚噛んでいるからの一言に尽きる。

 

 敗戦国である以上、おおっぴらには新しいMSの開発が許されないジオン共和国にとって、次世代の機動兵器の開発と研究を表向きの目的とする本プロジェクトは渡りに船であった。

 当然、地球連邦側は良い顔をしないがジオニック社の技術を得られなかったプルート財閥の悪足掻きという油断と、ヘイデスが総動員した人脈と資金、地球連邦にもプロジェクトの成果が反映されるといった諸々の事情により、ジオン共和国もプロジェクトの出資者の一つに名前を連ねている。

 

 今はアレックスの関係者としてバーニィがこの場に居るに留まるが、しばらくすればジオン本国に残った技術者やエースパイロット達も加わり、かつての敵と味方の入り乱れる愉快な職場となるに違いない。

 強敵に悩むくらいならそもそも敵にしなければいいじゃない、とヘイデスが発想を転換させた結果ともいえる。

 さてそんなわけで地球におりて、クリスチーナとお互いにアレックスとザクのパイロットだった事実に驚き合ったバーニィは、所長の意地の悪い質問に顔を引きつらせた。勝てるわけない、がバーニィの率直な感想である。

 

「い、いやあ、そうだな、準備に時間を貰えればなんとか……」

 

 それでも素直に勝てないと口にしなかったのは、気になる女性が目の前にいるからか、軍の一部からあのガンダムを破壊したザクのパイロットと持て囃されているからか。

 

「おほほほほ、我ながら意地悪な質問でしたわね。トラップを仕掛けようが仕掛けまいが、アムロ中尉とアレックスの組み合わせをどうにか出来るパイロットなんて、この地球にどれだけいるのかって話ですわ。九割九分九厘のパイロットは傷も付けられませんわよ」

 

 ふふっと笑いながら告げる所長に、バーニィはほっと安堵の息を零した。それから結構な確率でこの試験基地を訪れるヘイデスが今日はいない事に気付き、その所在を所長に尋ねた。本人としては軽い気持ちの質問である。

 

「そういえば今日はヘイデスさんはどうしているんですか? あの人、やたらアムロ中尉に肩入れしているというか、英雄視ってんじゃないですけど、気に入っているからよく模擬戦とか訓練を見学に来ますけど」

 

「ああ、それでしたら今日はコルシカ基地に行く予定でしたわね。そろそろアクシオも限界ですから、新型MSの開発を行っていますけれどその役に立つ代物が眠っているのだとか」

 

 所長の言う通り、ヘイデスは地中海を臨むコルシカ基地を訪れ、その倉庫の中に未完成の状態で保存されていた、とあるMSを前に内心で踊り出したいくらいに喜んでいた。

 この世界にロームフェラ財団が存在した事から、あるはずだと予想して探し回り、見つけた後はどうにかして引き取る為に四方八方に手を尽くした機体が、目の前に佇んでいる。

 

「ついに見つけたぞ、トールギス!」

 

 

<続>

 

 

・一年戦争が終結しました。

・ジオン共和国(ガルマ・ザビ)が建国されました。

・■■■■■が双子の赤ん坊に生まれ変わりました。

・アクシオ・バーグラーが開発されました。

・アルゴス(バクゥもどき)が開発されました。

・ガンダムNT-1アレックスを入手しました。

・トールギス(未完成品・潮風で経年劣化)を入手しました。

・アムロ・レイが出向してきました。

・ヤザン・ゲーブルが出向してきました。

・ユウ・カジマが出向してきました。

・ライラ・ミラ・ライラが出向してきました。

・ブラン・ブルダークが出向してきました。

・クリスチーナ・マッケンジーが出向してきました。

・バーナード・ワイズマンが出向してきました。

・アムロ専用トールギスの開発フラグが立ちました。

・ゼファートールギスの開発フラグが立ちました。

 

☆新機動世紀ガンダムWが参戦確定しました!




アムロをはじめ地球連邦やジオンのエース・ベテランとの戦闘データを積み重ねたゼファーが搭載された、パイロットを気にせず20Gで動き回る無人機のトールギスとか、素敵だとは思いませんか?
アムロには監視兼護衛はついていますが、プルート財閥の懐の内ということもあり、アムロは原作よりも緩やかな状況に置かれています。趣味の機械いじりもラボの所員達と談義しながら行っています。また父親のテム・レイも健在ですので、V作戦の開発と戦闘双方の立役者という事もあり、軍内の立場もちょっぴりマシ。
次回、U.C.83~86までをざっくりと。
ついにムーバブル・フレーム型のMSが搭乗予定です。


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第六話 アムロとシャアはズッ友だよ!

サブタイトルでネタバレの回です。
スパロボが始まらない……


・人体の限界を超えた動きをする無人機と遭遇した、一般的なエースorニュータイプの反応

 

「殺気がない!? この動き、まさか無人機か!」 → 仲間との連携かトリッキーな戦法を用いて損傷を受けながらもどうにか撃墜。

 

・本作のアムロの反応。 

 

「ン、なんだ、無人機か。遅い!」 → ゼファーがアムロやユウ、ヤザン達を相手に成長しているのに合わせてアムロも成長しているので、会敵から五秒で撃墜。もちろん無傷。

 

■新代歴182年

 

 プロメテウスプロジェクト試験基地内部の格納庫の一つに、ゼファーアレックスの姿があった。

 直立した状態で固定されている機体の足元にはいくつもの機材が置かれ、そこには一年戦争中にゼファーの自我形成(プログラミング)を担っていた、若き女性オペレーターエリシア=ストックウェルとゼファーの開発者であるワルハマー・T・カインズ工学博士の姿があった。

 

 エリシアとカインズは一年戦争時に地球連邦軍第七艦隊旗艦ペガサス級トリビューンに乗り込み、ゼファーの運用と成長に携わってきた重要人物だ。

 ソロモン攻略戦に際してトリビューンの被弾の影響で、カインズ博士は重傷を負ったものの、近隣の宙域に潜んでいたプルート財閥の病院船で治療を受けた為、一命を取り留めてゼファー共々プルート財閥預かりの身となっている。

 

 今日、彼らはバーニィに遅れて派遣されたジオン共和国の技術者を迎える予定だった。ゼファーの足元なのは、それが先方の指定だったからである。

 そのジオン共和国の技術者――テレンス・リッツマン工学博士は、格納庫に入るや否や久方ぶりに顔を合わせるかつての仲間に、笑みを浮かべた。

 

「カインズ、久しぶりだな」

 

「ああ、お互いしぶとく生き残ったものだな」

 

 かつてはMSが登場する以前、新代歴160年~170年代に60フィート級ロボットシステムの開発に血道をあげた二人は、一度は分かれた陣営に身を置きながら再びこうして手を握り合う事が出来た。

 

「失礼、そちらのお嬢さんは?」

 

「初めまして、リッツマン博士。ゼファーのプログラミングとオペレートを担当している、エリシア=ストックウェルです」

 

 差し出されたエリシアの手をテレンスは握り返した。美女と呼んで差支えのないエリシアだが、その手はがっしりとして力強い。

 代々軍人の家系に生まれたエリシアの肉体はきっちりと鍛え込まれ、特に右手に関しては見事な銃捌きと引き換えに太く、本人が水着になるのを嫌がるほどだ。

 

「そうか、ミス・エリシアがテレンスの無人機(ファントム)の……。それでこいつが俺のカタールを()った無人機か」

 

 テレンスは、ソロモンでゼファーガンダムが最後に戦ったMSカタールの開発者だった人物だ。カインズのゼファーとテレンスのカタールが戦ったのは、数奇な運命としか言いようがない。

 

「ああ、名前はゼファーだ。もっともゼファーを搭載している機体は当時と違うぞ。一年戦争の時はいわゆるファーストガンダムだったが、今は連邦がアムロ・レイ専用に開発したガンダムタイプに搭載している。当のアムロ・レイもこのプロジェクトに参加しているがね」

 

 ちなみにテレンスはガンダムがまだガンダーと呼ばれていた頃からV作戦に関与しており、テム・レイとの面識もある。

 テレンスのチームが築き上げたロボットシステムの基礎データがあればこそ、ガンダムは半年という短期間で形になったとテム・レイも認めるところだ。

 

「ニュータイプか。俺のカタールもニュータイプが搭乗したが、こいつの乗ったガンダムには及ばなかった。ゼファーファントムシステム、よくも作り上げたものだ。ところでカインズ」

 

「なんだ?」

 

「カタールを含めソロモンでの戦闘について、ジオンからもプルート財閥からも戦闘のデータを見させてもらったが、このゼファーが“敵機のコックピットを撃たなかった”のは、お前達のオペレートに従ったからか?」

 

 そればかりか、ゼファーはムサイの甲板に着陸するほど肉薄し、ブリッジにビームピストルの銃口を向けながらも、決して撃たなかった。

 カインズは我が子の失態が見つかったような、あるいはそれを誇っているような小さな笑みを口元に浮かべて首を横に振るう。

 

「直接指示をしたわけじゃない。全システムが正常に作動した上で、ゼファーがそう判断した。これ以上、人を死なせるなとそう願ってはいたがな」

 

「付け加えて言えば、倫理プロテクトも外してはいませんでした」

 

 エリシアもカインズと同じ心境なのか、笑顔を浮かべてそう口にした。倫理プロテクトは原則として人命を守る為の攻撃中止コマンドを指す。

 人の命を奪う戦争では矛盾するものである為、自力で解除も出来たが、当時のゼファーはこれを外してはいなかった。

 

「そうか。お前はのほほんと夢ばかり見ていると思っていたが、夢を形にしたか」

 

「まだ形になったばかりだ。ゼファーも私の夢も」

 

「こいつ、嬉しそうな顔しやがって。まあいい、また昔みたいにロボットシステムの未来について研究するとするか。幸いここのお偉いさんは話が分かるようだしな」

 

「その点は保証するぞ。手広くやっている上に成果を上げているから色々と言われてはいるが、少なくとも予算を出し渋るようなことはないし、現場へ視察に来ても口出しはしない」

 

「そいつはいい! 今のジオンじゃ戦後の復興に追われて色々とカツカツなんだ」

 

「まあ、ヘイデス総帥は何を見ているのか分からないところもあるが、どんな理由であれ戦争を望むタイプでもない。それとこれから例の機体について、パイロット達を含めて説明をする。お前も来るだろう?」

 

「ああ、例の機体か。あの博士達が関わっていたとはいえ、あんなモノが一年戦争以前に完成していたとはな。技術開発の歴史に波紋を呼び起こす代物だぞ」

 

 まったくだ、とカインズはテレンスの呆れ顔に全力で同意した。

 カインズとテレンス、エリシアは連れ立って隣の格納庫へと向かい、歩き出した。予定ではもう十分もすれば、とある報告がなされる。

 そしてその報告とは、このようなものであった。

 

「長期間、劣悪な保管状況に置かれていたようですわね。部品のことごとくが潮風の影響で著しく経年劣化しています。使い物になりません」

 

 怒りを孕んだ声でヘイデスにそう告げたのは、誰あろうヘパイストスラボの誇る才媛、所長その人である。

 体のラインも露なオーダーメイドの紫のスーツと白いドレスシャツ姿は、有能なキャリアウーマンのイメージそのものだ。白衣を纏っていなかったら、やり手の女社長かなにかと間違えられるだろう。

 首の後ろで二つに纏めて分けたプラチナブロンドも真っ赤に染まりそうな怒り具合は、ヘイデスがコルシカ基地から持ち帰ってきたトールギスのチェック内容の結果が原因だ。

 カインズの言っていた例の機体とは、トールギスのことであった。

 

 プロメテウスプロジェクトの基地内部にある格納庫には、トレーラーの上にトールギスが寝かせられ、近くには無数の整備員と技術者達、それにトールギスの話を聞きつけたアムロやユウ、アーウィン達パイロット連中も集っている。

 丸一日をかけたチェック結果は、ヘイデスをはじめとした各員に配られた専用端末内部に送信されており、その内容にパイロット達は顔を顰めている。

 自分達が戦場で命を預ける相棒とも言えるMSがここまで杜撰な保管されていたらと考えれば、穏やかではいられない。

 

「これは、一から部品を新調する必要があるんじゃないか? 所長」

 

 これは父親譲りなのか、MSの開発や設計にも才能を見せているアムロの発言だ。仮に今あるパーツでトールギスを組み立てたとしても、本来の性能を発揮できる状態ではない。

 

「ええ。アムロ中尉の言われる通り。一度、徹底的に分解して全てのパーツをチェックし、新しい機体を生産する方がいっそ手っ取り早いですわ。

 それにしてもジオンがMSに目をつけるよりもずっと早くに、こんな機体が作られていたとは。開発者達の才能と発想の奇天烈さには脱帽します。人体をもう少し省みてはと思いますけれどね」

 

 所長は怒りを一時期押し込めて、トールギスの性能とそれを作り上げた技術者達への称賛を吐露する。一年戦争以前に作られた人型機動兵器としては、信じがたい程の性能がトールギスにはある。

 この場に居るカインズとテレンスばかりでなく、他のジオン系の技術者や連邦系の技術者もそろってオーバーテクノロジーに近い産物に、目を丸くするなり顔を険しくしている。

 アムロに続いてライラも何度か目をぱちくりとさせて端末から顔を上げて、冗談だろうと言わんばかりに肩をすくめる。

 

「最大加速20G以上だって? パイロットの保護機構も装備もろくにない状態でそんな負荷がかかるようじゃあ、到底使い物にならないだろう」

 

 ちなみにガンダム00でグラハム・エーカーが阿修羅をも凌駕する存在になりながら、スローネアインの腕を斬り落とした際の超絶技巧による戦闘時には、連続12Gという負荷がかかり吐血している。

 

「ライラ中尉の言う通りでそこが問題になったのに加えて、開発チームが別の機体の開発に進んだことと行方を晦ましたのもあって、トールギスは放置され、それを目聡くウチの総帥が見つけて引き取ってきたというわけです」

 

 所長から視線を向けられたヘイデスは、他の皆からの視線の矢に刺されながら軽い調子で答える。

 

「アクシオの次のMSを開発したいウチとしては、ありがたい拾いものが出来たと思っているよ。

 けれど、トールギスを放置しないで生産性と安全性を優先した機体を開発出来ていたなら、ジオンもMSを頼みに戦争は起こさなかったかもしれないね。そういう意味ではこれを放置した人々の見る目の無さを恨みたいよ」

 

 この時、ヘイデスの頭の中に浮かんでいたのは、ガンダムWの作中で最初から最後まで登場していたMSリーオーだ。確かあれがトールギスを元にしていたんだよなあ、とぼんやり覚えている。

 リーオーは原作に於いて数十年に渡り、戦場で活躍し続けた寿命の長い機体であるが、この宇宙世紀をベースにしたらしいスパロボ時空においては、いまだに開発もされていない機体だ。

 一方でOZの存在は確認できているから、数年内に最新鋭MSとしてロールアウトするのではないか、とヘイデスは睨んでいる。まあ、最新鋭相応の性能にはなるだろう。

 

「それはそうですけれど。はあ、いずれにせよこのトールギスですが、近い内に何機か再生産してパイロットの皆さんにも試していただきますので、覚悟しておいてくださいな」

 

「え~、こんな機体に乗ったら体がぺっちゃんこになっちゃいますぅ」

 

「いや、【根性】と【不屈】の精神があれば耐えられなくもないかもしれない」

 

 グレースが至極まっとうに抗議するのに対し、レナンジェスはなにやら精神コマンドを思わせる単語を呟いて、トールギスの加速に耐えられる可能性を真面目に考えている様子だ。

 そんなレナンジェスにアーウィンは呆れ顔を隠さず、つい皮肉の一つも口にしてしまう。

 

「馬鹿かお前は。精神論に頼った国や軍の末路は、決まって悲惨なものだと古今、決まり切っている。トールギスに乗るパイロット全員にそれを押し付けるつもりか?」

 

「そこまでの事は言わない。ただ、アムロやブランさん、それに俺達ならそれで行けそうだとは思わないか?」

 

 至極真面目な顔でレナンジェスがこういうものだから、名指しされたブランも太い眉毛を八の字に寄せた。

 レナンジェスという若者は正義感のある熱血漢で好もしい人物なのだが、ブラン自身は自分をあくまで常識の範疇に収まる一軍人であると律している。

 

「レナンジェス、俺を巻き込まないでくれ。これでも真っ当な軍人なんだ。オカルトや精神論には縁がない」

 

「ジェス君の言うことですから~。それに軍なら代わりの利く誰でも使える兵器じゃないと~、意味がありません~。私達でも乗れそうにない機体では~無理ですよぅ」

 

 と常識的な抗議をするグレースに、所長は何を言うやらと呆れた様子。

 

「グレース、貴女はアムロ中尉とヤザン中尉とユウ少佐に次いでG耐性の高い元気印でしょう。きちんと専用の耐G装置やスーツも作りますから、グレースやジェス、それにブラン大尉なら四、五回も乗れば慣れます、たぶん。

 それからカインズ博士、ミス・エリシア、ゼファーにもトールギスを試してもらおうと考えているのですが、いかがかしら?」

 

「確かにゼファーなら加速の負荷を気にしないで済むが、ガンダム、アレックスと来て次はトールギスか。ゼファーは色々な機体を渡り歩くな」

 

 我が子の流転にしみじみとするカインズに対して、エリシアは至極真面目に意見を口にした。

 

「加速性能にどうしても目が行きがちですが、これだけの速度となるとゼファーにしても初体験になります。

 突撃艇に乗せてジオンの小衛星基地に突撃させたことがありますが、その時よりも速い。この速度を維持しながらの戦闘行動となると、情報処理にも相当の負荷がかかりますね」

 

「ゼファーに関しては兵器としてより、無人機としての運用データが欲しいのが理由ですし、戦闘行動は満足に取れなくても構いませんでしょ。ね、総帥?」

 

「うん。別にいいんじゃないかな。ゼファーの場合はトールギスの最大加速に長時間耐えられることが分かれば、そっちの方がプルート財閥としては収穫になるよ」

 

 最大加速での戦闘データをそう重要視していないと取れるヘイデスの発言には、カインズばかりか他の技術者やパイロット達も不思議に思いながら続く言葉に耳を傾ける。

 

「例えば海難事故や宇宙での事故の際に、トールギスばりの速度で現場に駆けつけられたら、これまでは助けられなかった命を助けられるようになる。

 人型を模したMSなら通常の作業ポッドよりも細かい作業が出来るし、ゼファーの判断能力ならオペレーターの指示なしでも臨機応変に事故現場の状況に対応できるように成長する見込みが高い。

 一刻一秒を争う事故現場において、トールギスの速度とそれが苦にならないゼファーのような存在はとても有用だと思うよ。

 それにこれからはまた開拓の時代だ。一週間戦争で壊滅したサイド1、2、4、それにサイド7の復興、これまで軽視されていた火星や木星の開発がある。

 残念だけれどそういう現場では事故がどうしてもつきものだ。その時に、救命を目的としたトールギスの速度持ちの無人機はあるに越したことはない。そうだなあ、ゼファーレスキュー、あるいはレスキューファントムシステムってところかな?」

 

 兵器として運用されてきたからといって、これからもそのように使い続けなければならない道理はないと、そう断言するヘイデスに、カインズは眼鏡の奥の目を丸く見開いた。

 それはカインズの、いずれ人類が太陽系の外にまで進出した時、あらゆる環境下で人の思いつくすべての作業が出来る人型のロボットシステムが必要だという考えに共通するものを含んでいたからだ。

 

 人間の発想を受け入れられるロボット、それがカインズの理想であり、ゼファーはその可能性だ。そしてヘイデスはゼファーを兵器としてだけではなく、人を救う可能性としても考えている。

 例えこの場を取り繕うためのお為ごかしであったとしても、カインズが思わず喜びの感情を覚えるのには十分だった。ただ、少しだけヘイデスの発言には不足があった。

 

(これからはとは言ったけど、バーム星人にキャンベル星人にと宇宙からの侵略者問題を片付けてからだけどね!

 特にスパロボだと大抵バーム星人とは、火星を共同開拓するパターンが多かったと思うから、これまた利権やら何やらで揉めるよなあ。とほほほ。それに木星も……はああああああ~。もうやる事と調べる事が多すぎて、体が足りないよ! 物騒過ぎるわ、この世界!)

 

■新代歴183年

 

『それでアムロ、そっちの調子はどうだ?』

 

 アムロは通信機のモニター越しに見る父テム・レイに、苦笑しながら答えた。たまに連絡を取り合うと、必ずこう聞いてくるのがおかしく感じられたからだ。

 アムロとてもう十九歳だ。まだ十代とは言え、こうも健康を心配される年齢ではないと自分では思う。もっとも子供の心と親心とは別物なのだが、それをまだ実感できるアムロではなかった。

 

「大丈夫さ。MSの実機訓練をした後には必ずメディカルチェックとメンタルチェックをしているんだ。プルート財閥のアスクレピオスグループのドクターが、入念に診てくれている」

 

 これは前例のないプロジェクトに参加しているパイロット達の訓練後のデータが、今後の機動兵器パイロット達への心身のケアに役立つから、と入念に行われている。

 またアムロに関しては多感な時期に一年戦争を経験し、ララァ・スンを殺めた事へのケア効果もあればいいなあ、とヘイデスが考えた為でもある。

 気の置けない同僚達と趣味と実益を兼ねた仕事内容、充実した福利厚生と、原作の同時期に比べればアムロの置かれた環境はマシな筈だとヘイデスは自己評価している。

 

「父さんこそまた仕事に夢中になって、食事や睡眠を疎かにしたりしていないか? V作戦の時みたいに戦時中ってわけじゃないんだ。自分の体には気を遣ってくれよ」

 

『ああ、分かっているよ。まあ、確かに今の連邦軍は緊急性のある事態に置かれてはいないが、技術は常に進み続けなければいけないんだ。そうした積み重ねがいつの日か、役に立って誰かの命を救ったり、未来への扉を開く鍵になる』

 

「ふふ、今の父さんのようなセリフをヘイデス総帥やカインズ博士も口にしていたよ」

 

『カインズ博士か。V作戦では随分と世話になったものだ。博士が積み上げてきた基礎がなかったら、ガンダムもジムもあそこまで短期間で開発は出来なかった。カインズ博士の積み上げてきたものが、あの戦争を一年で終わらせた一助になったのは間違いない。

 もちろんお前の活躍もな。

 ただ、あの頃も、いや今でもそうだが、お前のような年の兵士が前線に立たずに済むようにと願ってガンダムを作ったのに、そのお前がガンダムに乗って戦い続けたのは、ひどくショックだったのを今も覚えているよ。

 息子を乗せる為にガンダムを作ったんじゃないと、何度も後悔した』

 

「そう言ってくれるなら、僕も救われる。それにあの時はガンダムが無かったら、あのままザクの襲撃でフラウ・ボウと一緒に死んでいたかもしれない。

 ガンダムに乗ったからこそ戦争に関わったけれど、ガンダムに乗ったからこそこうして生きていられると、今になってようやくそう思える。だから、父さんもそう気に病まないでくれ」

 

『そうか、お前がそう言ってくれると私も救われるよ』

 

 そう言うと、テムは眼鏡を外して浮かんだ涙を指で掬い取った。

 この通信も連邦軍が傍受しているだろうが、それはアムロもテムも理解した上だ。良くも悪くも一年戦争の鍵を握ったレイ親子に、一連邦市民としての自由は許されていない。

 それを分かった上でも、テムにとってアムロの言葉は目頭を熱くさせるのに十分だったし、アムロもまた父親のそんな姿を見て盗聴や盗撮のことなど些末だと頭の片隅に追いやった。

 

『恥ずかしいところを見せたな。そうそう、アレックスとネティクスだが凄まじいデータが届いたと評判だったぞ』

 

 “良いデータ”ではなく“凄まじいデータ”という表現が使われるあたり、連邦軍の技術者達の受けた衝撃が如何ほどのものであったか、暗に分かろうというもの。

 ネティクスとは、アレックスをベースに地球連邦軍が開発したニュータイプ用の試作機だ。ジオンのサイコミュ技術の検証と実験の為に、まずはオーガスタ研究所、次いでムラサメ研究所に引き渡されて完成した。

 

 背中に小型化が出来なかった為に、止むを得ず大型化した有線ビットを搭載しており、これのテストパイロットとして、アムロに白羽の矢が立ったのである。

 これにはアレックスのパイロットを務めていたのと、テレンス博士がカタールにおいてオールレンジ攻撃が可能な攻撃システムを実装していたこともあり、プロメテウスプロジェクトにネティクスが持ち込まれ、テストされたのだ。

 もちろん、プルート財閥はネティクスに使われた有線ビットの技術を、美味しくいただいている。

 

「役に立ったならいいが、ネティクスのビットは一般のパイロットでは扱えないだろう。誰でも使えるようでなければ、MSに持たせるには不適当だよ。ましてや連邦軍ではなおさらだ」

 

『ふふ、なまじお前が使いこなしたものだから、ムラサメ研究所の所員達も渋面を拵えていたぞ。あまりいい噂を聞かないところだが、妙な事をしなければいいのだがな。……そうだ、一つ、お前に聞きたいことがあったんだ』

 

「なんだい?」

 

『あのトールギスなんだが、本当にあの重量で間違っていないのか? 桁が一つ間違っていないか? いや、私も何度も調べたが、にわかには信じ難くてな』

 

 トールギスの重量は8.8トン、アムロの乗ったガンダムは本体重量43.4トン、ザクⅡF型は本体重量56.2トン。ガンダムのおおよそ四分の一の重量、ザクに至ってはおおよそ六分の一となる。いかにトールギスが軽いか、お分かりいただけるだろう。

 

「間違っていないよ。トールギスは本当にそれだけの重量しかない」

 

『そうか。そうか……うーむ、それにしても軽い。軽いなあ』

 

 アムロに事実だと告げられてもまだ納得できない様子のテムに、アムロはプロジェクトの皆もそうだったな、と苦笑した。

 

『とはいえ私がいくら納得しなくても事実は変わらないか。それにしてもアムロ、プロメテウスプロジェクトに出向してから、顔色が良くなったんじゃないか。声も表情も前よりも柔らかい』

 

「そうかい? そうなのかもしれないな。ここにいるとテストパイロットか、技術者としてメカと付き合って生きてゆくのが楽しく感じられるよ」

 

 そういえば、もうずいぶんとララァの夢を見ていないと、アムロはふと気付いた。

 

 

 テムと親子の会話をしていたアムロだが、彼は新代歴183年のある時期、宇宙に上がっていた。先程の通信も宇宙から地球の父親と交わしていたものである。

 プルート財閥の保有する工業コロニーを拠点として、ついに陽の目を見たムーバブル・フレーム型MSの宇宙でのテストを行うのが目的だ。

 プルート財閥の調達したコロンブスとジャンクからリペアしたサラミスとムサイ、更には戦艦のマゼランまでもが護衛についている。

 

 宇宙にはヘイデスや所長、テレンスらも上がっており、今はコロンブスに搭乗してテストの様子をブリッジで確かめているのだが、この時、可愛らしい珍客が二人、ブリッジに居た。

 太陽の光を思わせる煌びやかな金髪に、夕陽を思わせる鮮やかな瞳を持った天使のように愛らしい七、八歳の双子の子供達だ。

 

 男の子がシュメシ、女の子がヘマーという名をヘイデスと所長から付けられている。ヘブライ語でシュメシとは太陽の光、ヘマーとは太陽の熱を意味する。

 ギリシャ神話になぞらえた名前にしようとしたヘイデスだったが、双子の英雄などが居ないではなかったのだが、どうにもその逸話から養子とはいえ我が子につけるのは如何なものかと考え、こちらの名前に落ち着いている。

 

 子供用サイズのノーマルスーツを着た二人は、同じくノーマルスーツを着用したヘイデスを左右から挟んでいる。あのギフトことヘリオースもどきから出産された二人は、今年で三歳、しかし外見はその倍以上に成長していた。

 ヘイデスと共に暮らしているが、ヘリオースもどきの傍に居たがる為、多くの時間をヘリオースもどきを移送したプロメテウスプロジェクト試験基地で過ごしている。

 公式の基地祭などならばともかく、試験段階の軍事兵器が動く場に子供を連れてくるのはモラルを疑われるが、二人のたっての頼みをヘイデスは断れず、シュメシとヘマー兄妹はよくテストの光景を目にしている。

 

「二人とも、初めての宇宙だが怖かったりはしないかい?」

 

 二人を引き取ってから三年、多忙なヘイデスはそう構ってあげられる時間もなく、いい父親ではないと自嘲している。

 三割ほど混じっている前世の一般人の部分は、主人公疑惑のある二人にもすっかりと情が移っており、ちょっとした親バカになっていた。

 まだ二人が赤ん坊のころには、この世界におけるウルトラマン相当の人形を見せて、ユの字かどうか、そしてスーパーヒーロー作戦やαシリーズの参戦を確かめようともしたが、今となっては笑い話だ。

 

 コロンブスのブリッジでふわふわと浮いているシュメシとヘマーは、感情表現の乏しい子達ではあったが、まるっきり無感情というわけでもなくプロジェクトのマスコットのように可愛がられている。

 シュメシとヘマーはぎこちない感じの微笑みを浮かべて、義理の父を振り返った。

 

「うん、大丈夫、だよ、お父さん。僕達は怖くない、よ」

 

 シュメシが父を安心させるようにそう告げれば、ヘマーは

 

「ふわふわしていて、おもしろい、ね。雲の上で泳いだら、こう、なのかな?」

 

 ぱた、ぱた、とゆっくりとした動作で手を羽搏かせて、宇宙の無重力を楽しんでいる。その様子にヘイデスは大仰なくらいに安堵し、その様子を見ていた所長もまたにっこりと笑みを浮かべる。

 邪魔にならないようプラチナブロンドをまとめた所長は、柔らかな笑みを浮かべたまま双子に話しかけた。

 

「シュメシ、ヘマー、そろそろテストが始まりますから、席に着きなさいな。二人の好きなゼファーも動き出しますわよ」

 

 ゼファーの名前が出ると、二人はにかっと誰の目にも明らかな笑顔になる。この二人を見て天使の笑顔と称し、父性と母性を刺激されたプロジェクトスタッフはこれまで数知れない。

 

「うん、ゼファーの、動くところ、みたいな。ね、僕?」

 

「うん。見たい、ね。ゼファーも久しぶりの宇宙で、きっと楽しいと思ってるよ。ね、私」

 

 ね、とお互いの顔を見つめて笑いあう二人を見て、ゼファー専属のオペレーターであるエリシアはつられて笑顔になりながら二人に話しかけた。

 

「二人は本当にゼファーが好きなのね」

 

「うん。あのね、ゼファーは僕達と似ているから……」

 

「うん。違うところもあるけど、でも、とっても似ているの」

 

 エリシアは彼らが特殊な体質の出自だと聞かされていたから、万が一、シュメシらを傷つけないようにと深くは追及しなかった。

 二人が成長の早い特殊な体質であるというのは周知されているが、ヘリオース擬きから取り上げられたという点については、プロジェクトスタッフにも内密にされている。

 

「あ、お父さん、お母さん、動いた、よ。亡霊さんに乗って、黒いお星様がピカピカ」

 

「うん、動いた、ね。お星様達が亀さん達と遊び始めたよ。狼さんに雷さんも、ね。白いのと赤いのは、どっちが勝つかな、私」

 

「分かんないなあ。でもどっちもすごいね、僕」

 

 

 テスト宙域に黒をベースに紫の塗装が胴体や関節の一部に施されたMSが三機、衝突を心配しそうになる近距離で縦一列のフォーメーションを組み、高速で飛翔している。

 後方へと伸びたウサギの耳めいた部位とツインアイをバイザーで覆った頭部、大きく広がるスカートアーマーに太い足を持ったソレはヘパイストスラボ謹製、ムーバブル・フレーム型MS――ゲシュペンスト。

 

 ヘイデスが、エイクロスが出来上がるのなら分かるけど、なんでゲシュペンスト? と大いに首を捻ったのは、彼しか知らない。

 これまでギリシャ関連の命名だったのに、この機体に関してはドイツ語から採用されたのには、所長を始めとした多くの人間に訝しまれたが、バーグラーの時同様、原作への敬意としてヘイデスは譲らなかった。

 

「マッシュ、オルテガ、ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!」

 

 “黒い三連星”の異名で知られるジオンのエース、ガイア、オルテガ、マッシュらの必殺の連携攻撃を前に、胸部に亀のペイントがされたノーマルカラーのゲシュペンストと二機の僚機が同じようなフォーメーションで迎え撃つ。

 

「そっちがそうなら、こっちはトリプラーってなあ! ジェス、ミーナ、対応して見せろよ!」

 

 気炎を吐くのはヤザンだ。お互いのゲシュペンストには、模擬戦仕様ではあるが、ニュートロンビームライフルと、原作には無かったシールドが持たされている。

 

「了解! この人達とやり合うのはオデッサの時以来か!」

 

「あっちは三機、こっちも三機! 連携でも負けないんだから」

 

 一方でジェスとミーナの搭乗するゲシュペンストはライフルもシールドもなく、徒手空拳。

 これにはヤザン達のゲシュペンストが言ってしまえばリアル系仕様であるのに、ジェスとミーナは【MAを素手で解体できる】をコンセプトに開発されたスーパー系仕様であるからだ。

 当然、MAを相手に懐まで接近する為に、馬鹿げた推力と冗談じみた馬力が持たされ、メガ粒子砲の直撃に耐えられるシールド要らずの重装甲化が施されている。

 その代わり、これは大量生産するのはちょっと無理だな、とヘイデスと所長も認める高コスト化している。人間が重機を解体するようなものだから、ま、仕方ない。

 

「小僧に小娘め、腕を上げたか!」

 

 ガイアはこちらのフォーメーションに同じくフォーメーションで対抗してくるミーナ達に、驚きと奇妙な喜びを覚えていた。後者の感情についてはここが戦場ではなく、今や同じプロジェクトの同僚というのも大きいだろう。

 

「俺達が連邦の戦術教本に載っているってのも大きいだろうぜ」

 

 これは右目に傷が走り、隻眼というハンディキャップを持ちながら、エースとして君臨し続けるマッシュの発言だ。少し照れ臭そうでもあり、誇らしげでもある。

 

「はははは、今じゃジオンだけじゃなく連邦の教本にも俺達が載るとはな! ジェットストリームアタックもバリエーションを増やさんといかんな、ガイア、マッシュよ」

 

 黒い三連星最後の一人オルテガも自分達の名が知れている事に喜んで大笑いだ。ただそれを甘んじて見逃すジェスとミーナではない。二人のゲシュペンストが肩を並べて、胸部の装甲がスライドする。

 スーパー系仕様――通称ゲシュペンストS型固有の武器、ブラスターキャノンの砲口が露となる。

 

「二人合わせて!」

 

「ダブルブラスターキャノン!」

 

 それこそかのビグザムを思わせる強大なビームの奔流が、黒い三連星へと放たれた。ただし、例によってコックピット内に映し出されるCG合成だが。

 これを三方向へと散って避けるガイア達に、ヤザンがスプリットミサイルとニュートロンビームを乱射しながら襲い掛かる。

 

「フォーメーションを組み直す隙は与えん!」

 

「連邦のパイロットもやるな! だがな、真に宇宙の戦士たるはジオンのパイロットだと知れえ!」

 

 野獣の如く迫るヤザンを、ガイアが戦士の咆哮と共に迎え撃つ!

 

 

 黒い三連星対ヤザン・ジェス・ミーナの六名がテストを行っているのとは反対側の宙域では、こちらもまたバーニィ、テレンスに続き合流したジオン共和国の名だたるエース達と連邦のエース達とが、観客の少なさが勿体なく感じられる人類トップクラスのMS戦を実演中だ。

 胴を蒼く塗ったゲシュペンストにはユウ・カジマ、ガルバルディβと同じ塗装のゲシュペンストにはライラ・ミラ・ライラ、アッシマーと同じ塗装のゲシュペンストにはブラン・ブルダーク。

 

 対するは青一色に塗装されたゲシュペンストを駆る“青い巨星”ランバ・ラル、白いゲシュペンストには“白狼”シン・マツナガ、そして真紅に塗られたゲシュペンストには“真紅の稲妻”ジョニー・ライデン。

 アクシズや潜伏を選んだジオンパイロットも少なくない中、黒い三連星と上記の三人はジオン共和国に籍を置いていた。

 

「ちい、流石に異名持ちのパイロットは動きがダンチだね」

 

 ライラはヘルメットのバイザーに浮かび上がる各種情報を一瞬で把握しながら、目まぐるしく位置を変える敵機の捕捉に神経を尖らせる。

 全天周囲モニターとリニアシート、更にヘルメットのバイザーへの情報投影と新しい技術が山盛りのゲシュペンストへの不慣れがあるが、それは相手も同じこと。文句は言えない。

 

「軍人なら宇宙だからといって、スペースノイドに後れを取るのが許されるわけではない!」

 

 ブランは奮起していた。

 彼はスペースノイドへの偏見を持っていたが、それもプロメテウスプロジェクトで数年を過ごせば、アースノイド、スペースノイド、ジオン、非ジオン、オールドタイプにニュータイプ、転生者がごちゃ混ぜの職場であったから、自然と偏見も吹き飛ぶ。

 それでもこのような発言が出たのは、やはり相手がジオンのパイロットであるからだろう。地球連邦の仮想敵の最たるものがジオンなのは事実だ。

 

「……!」

 

 一人、ユウは無言のまま蒼いゲシュペンストで宇宙を駆ける。彼の目に宇宙が蒼く見えていたのか、そうではないのか。

 相手の技量に闘志を燃やしていたのはライラ達ばかりではない。

 ガルマのジオン共和国に籍を置いてから、こうまで手強い相手と戦い、最新鋭のMSを駆る機会に恵まれたラルやマツナガ、ライデンは年甲斐もなく浮足立っていた。

 

「いい加減、ガルバルディαやゲルググも旧式だからな。こいつを輸出してもらえるんなら、ジオンもしばらくは安泰だ」

 

 上機嫌な様子を隠さないのはライデンだ。地球連邦がジム・カスタムやジムキャノンⅡ、ジム改と新型機を順調に配備して行っているのに対し、ジオンは戦争中に計画された機体や開発された機体を騙し騙し使っているのが実情だ。

 そこにこのゲシュペンストが回ってくれば、大いなる戦力増強となる。ただ、亡霊を意味するゲシュペンストという名前は、縁起が悪いけれども。

 

「ライデン少佐の言うことは分かるが、今はテスト中だ。私語は慎まれた方がよいのではないかな」

 

「はは! 相変わらず真面目だな、白狼は。だが動きで分かるぜ。あんたもウキウキとしてんだろ?」

 

「ふ、操縦に感情が出るとは、私もまだ青いな」

 

 他愛のない会話の間にも、エース達はこちらに向かって迫るスプリットミサイルの弾幕を回避し、反撃として正確な狙いでニュートロンビームライフルを連射する。

 エースがゲシュペンストの性能を引き出し、宝石よりも貴重なデータが洪水のような勢いで蓄積されてゆく。

 射撃戦が繰り広げられる中、一機が飛び出した。空の青、海の青を思わせるゲシュペンスト――ラルだ。左腕に三本ストックされているプラズマカッターの一本を抜き、プラズマの刃を形成する。

 

「そろそろ格闘戦のデータもとっておかねばな! 私の相手はお前か、カジマ少佐!」

 

「……ッ!」

 

 まるで予め打ち合わせていたかのように、ユウのゲシュペンストも飛び出して、青と蒼のゲシュペンストがプラズマカッターで斬り結ぶ。

 MSとは――ゲシュペンストはパーソナルトルーパーと呼ぶべきだが――おおよそ人体を模した動きをどこまで再現できるかが、性能の指標の一つに挙げられる。

 

 人体の骨格に相当するムーバブル・フレームによって、ゲシュペンストの動きの細やかさはより人体に近くなった。だが、同時にMSだからこそ人間には出来ない動きをしてこそ、でもある。

 とてつもない速さで敵味方の入り乱れる宇宙で、一瞬でさえ長く感じられる刹那にミスを許さぬ操縦を行う難易度は、筆舌に尽くしがたい。

 しかし、それが出来るからこそ彼らはエースなのだ。

 

「機体の性能に頼っているのではない。引き出して戦っている。恐ろしいのはあの坊やばかりではないな、カジマ少佐!」

 

「ッ!!」

 

 反発しあうプラズマを火花の如く散らしながら、異なるブルーを持つゲシュペンストが時代錯誤な剣戟を重ねていった。

 

 

 そして第三の宙域では、ゼファーが搭載されたトールギスが、アーウィンとグレースのリアル系仕様のゲシュペンストR型を伴い、プロメテウスプロジェクトのトップ達のテストの様子を監督していた。

 これはトールギスを解析し、新造したパーツから組み上げた新造機であり、本来の一号機はいずれ相応しいパイロットの手に渡る日を待って、地上で眠りに就いている。

 

 ゼファートールギスは、ゼファーガンダム、ゼファーアレックスのデータから、腰の両サイドにビームガンを二つ追加し、前面スカートアーマーの増設、また頭部を稼働できるように付け根から挿げ替えている。

 元々のトールギスは、あのガンダムに似たフェイスガードを外すと、四角いカメラアイを備えた頭部が露となるデザインで、首の可動域のないリーオー顔なのだ。

 赤い鶏冠めいたパーツは外されて、代わりにガンダムと同じ頭頂部のパーツがあり、カメラを内蔵したV字型アンテナが額に設置され、よりガンダムに近い顔となっている。

 頭部の挿げ替えと前面スカートアーマーの追加は、アムロ専用トールギス、更にもう一機の現在テスト中のトールギスとも共通する。

 

 ゼファーとグレース達が監督を行っているのは、合流したジオンパイロットの一人とアムロが模擬戦を行うとかなりの頻度でヒートアップして、止める者がいないと本人か機体に限界が来るまで無茶をしてしまう為だ。

 その分、有用なデータは取れるのだが、最近は二人の関係が幾分か丸くなった影響もあり、模擬戦中のやり取りがどんどん聞くに堪えない大人げないものになってきている。

 その為、二人の動きに追従できるゼファーと同じく高レベルのニュータイプであるアーウィンとグレースが駆り出されているのだ。

 

「今日でえっとぉ、通算百回目ですねえ~。戦績はどうでしたっけ~?」

 

「五十勝四十九敗でアムロ中尉が一つ、勝ち星をリードしている。あちらは合流してからまだ数カ月だが、アムロ中尉を超えるべく鬼気迫る勢いで腕を磨いている」

 

「それじゃあ、なおさら今日はヒートアップしそうですね~。ゼファー君、ゼファー君はあんな大人になっては駄目ですよ~。あれ、ゼファー君でよかったんでしたっけ? それともゼファーちゃん~?」

 

「……どちらでも間違いではあるまい。それにあの二人がパイロットとして尊敬に値するのは間違いないが、人間的には長所も短所もあるのも確かだ。ゼファーは、短所は反面教師にして、長所は素直に見習えばいい」

 

 恋人同士の気の抜けるやり取りの中も、ゼファーは機体のセンサーをフル稼働して、隕石やMS、戦艦の残骸といったデブリの中を飛翔する白と赤の輝きを映していた。

 まるで氷上のスケーターのように滑らかな曲線と機動兵器が行っているとは信じがたい鋭角の入り混じる動きは、それを行っている者達が“トップクラス”のパイロットなのではなく、“トップ”パイロットである証明だった。

 

 徹頭徹尾アムロ専用に調整が施された専用のトールギスは、大部分はゼファー機と共通ながらも額からはユニコーンを思わせる黄色い一本角が伸び、左胸には赤いユニコーンと「A」を組み合わせたエンブレム、腰にはサブウェポンとしてビームライフルと特殊な格闘武器がマウントされている。

 アムロ専用トールギス――トールギス・シューティングスター。

 両肩のスーパーバーニアと、脚部やリアアーマーに増設されたスラスターから噴射炎を噴きながら、一瞬の停滞もない機動で宇宙の漆黒に光の軌跡を描く。

 

「そこ!」

 

 シューティングスターのドーバーガンが盛大にビームを放ち、正面にロックオンしていた赤いトールギスに迫る。

 赤いトールギスはひらりと軽やかにその一撃を回避し、更にはデブリを避けながら同じく右肩に接続されたドーバーガンをユニコーンへと撃ち返す。

 

「ちぃ、流石に反応が速い。また腕を上げたか、シャア!」

 

 ジオン共和国から派遣されてきたパイロット最後の一人、“赤い彗星”シャア・アズナブルは、専用に開発されたトールギス・メテオのコックピットに、専用パイロットスーツを着込み、座していた。

 シャアは、数カ月前に直に再会して以来の付き合いとなったライバルへ更に反撃を叩き込む。

 

「宇宙に出て鋭さを増したのがお前だけだと思うな、アムロ!」

 

 シャアのメテオに装備されたドーバーガンには二つの銃身があり、それぞれビームと実体弾を撃ち分けられる仕様となっており、名称はドーバーランチャーとされている。

 まずはシューティングスターの軌道を読み切った上で実弾が射出され、それをシャアがトリガーを引く前に察知したアムロが機体を急旋回して回避する。

 だがそれもシャアは織り込み済みだ。アムロの回避した先へと、今度はビームが放たれる。

 

「二段構えか、小賢しい」

 

 咄嗟に構えたシールドが胴体への直撃コースにあったビームを受け止めて、シールドの曲線に沿ってビームが分散し、後方へと流れてゆく。

 機体に走る振動に揺れながらも、アムロは【直感】に従ってドーバーガンを手放して、右手で右腰にマウントしている特殊武器を取る。

 

「違うな、アムロ、三段構えだ!」

 

 ビームを受け止め切ったシューティングスターへ、シールド裏のビームサーベルを抜き放ったメテオが迫る。実弾を避ければビームが、ビームを避ければビームサーベルが襲い掛かる三段攻撃!

 どの攻撃でも敵機を撃墜できるシャアの技量は凄まじいが、それをすべて引き出すアムロもまたニュータイプどうこう以前に隔絶した技量であった。

 

「ふ、それならこれは避けられるか!」

 

「なに!?」

 

 赤い彗星が白い流星を斬り捨てるまでの刹那に、流星から棘の生えた鉄球という原始的極まりない武器が投げつけられた。ブースター搭載の鎖付き棘鉄球――ハイパーハンマーである。

 ビームも弾く新素材で作られたハイパーハンマーは、その存在を知っていたシャアでさえ実物を前に度肝を抜かれたが、ビームサーベルが弾かれるのを理解して咄嗟に回避行動へ切り替えたのは流石の判断と反応の速さだ。

 そこへシューティングスターの頭部にだけ装備された、外付けのビームバルカンポッドが発射され、小さなビームの弾丸がメテオに着弾するも、すぐさま左腕のシールドがそれを遮る。

 

「牽制とはいえこの程度で、私は止められん」

 

「分かっているさ、だから次で仕留める!」

 

 奇しくもこの時、両方の機体の背中にマウントされていた特殊武装が同時に起動する。

 

「行け、リッパービット!」

 

 それは無線操作による回転する刃だった。シューティングスターから四基の回転刃が放たれれば、メテオもまた同じ武装を同じ数だけ撃ち返す。

 

「サイコミュの扱いならば、私に一日の長があるぞ!」

 

 ネティクス、そしてジオン系技術者から得られたノウハウで形となった、回転する刃状のビットだ。T-LINKリッパーあるいはスラッシュ・リッパーのビット版と言えるだろう。

 ビットの操作ばかりでなく機体の操縦も同様に行う二人の動きは、時間を経るごとに鈍くなるどころかますます鋭さを増して行き、かつてZシリーズの重要キャラクターガイオウが、アムロを銀河有数の戦士と評したのが間違いではなく、そのライバルたるシャアもまた同等の強者である事を証明するものだった。

 

 二人の戦いは、テスト終了が告げられてコロンブスに帰還した後も続き、コックピットから下りた二人がやいのやいのと周囲の目も憚らず口論した挙句、所長に怒鳴りつけられるまで続くのだった。それでも収まらない時には所長の鉄拳が火を噴く。

 このシャア、一度はアクシズへ赴いた後に調査目的の名目で一部の艦隊と人員と共にジオン共和国へ帰還し、ガルマと旧交を温めた上でこのプロジェクトに参加しているのだが、何があってどう過ごしたものか。今のシャアは良くも悪くも素をさらけ出していた。

 

 

 宇宙に上がったプロメテウスプロジェクトの愉快な皆の拠点となったコロニー“ヒッポクレーネー”内部には、当然ながらプルート財閥のオフィスがある。というか、内部の建物や人員全てが財閥の関係者だ。ほとんど財閥の私物と化したコロニーなのである。

 テストを終えたパイロットやメカニック、クルー達がコロニー内部の観光施設で休息を満喫している中、ヘイデスは港湾部に隣接するヘパイストスラボ、ヒッポクレーネー支所で、今後の予定について所長と話していた。

 

「今度は月に行かれるのですか?」

 

「うん。大規模なスカウトをしに行くんだ。一応、護衛として何人かは連れて行くけれど、残りのメンバーでテストは続けていてくれるかい? 所長も今は大事な時期なんだから、ここで待っていてね」

 

「あら、もう宇宙に上がっておりますのよ? 大事な時期というには遅いのでは?」

 

 所長は藍色のマタニティドレスを押し上げるふっくらとしたお腹を撫でながら、からかうように夫へ告げた。新代歴180年、終戦直後に所長からヘイデスへプロポーズをして早三年。所長は実子としては二人目となる新たな命を宿していた。

 

「だからせめてここで待っていておくれよ。シュメシとヘマーの傍には、僕か君がいないと不安だしね」

 

「ふうん? 私とシュメシ達を置いて行くとなると、それなりに危険なスカウト相手なので?」

 

「軍人の中でもかなり荒っぽいことを生業にしている人達だね。フォン・ブラウンの良いレストランを予約しておいたから、そうそう乱暴は出来ないさ」

 

「まったく、あまり危険な真似はしないでくださいな。貴方が倒れたら財閥はもちろん、私と子供たちの将来も真っ暗闇に落ちてしまうのですから」

 

「うん、十分に気を付けるよ。マハルを追われた軍人さん達を、なんとかスカウトして見せるとも」

 

 この時期、ヘイデスはデラーズ・フリートによる星の屑作戦が発動しないと判断している。というのも連邦軍のジョン・コーウェン中将によるガンダム開発計画がまだ始動していないのだ。

 こうなると星の屑の要であるガンダム試作二号機がそもそも存在していないのだから、星の屑が起きようはずもない。それに伴い、ティターンズの発足も遅れるかもしれないが……

 

(これはあれかな。グリプス戦役中に星の屑が起きるパターンか? もしそうならαシリーズの流れを汲んでいるな。このスパロボ時空で観艦式の戦力と人員が失われるのは、あまりに惜しい。この世界で実戦を知っている軍人は、宝石よりも貴重だ。

 星の屑を防ぐ為にもシーマ艦隊を引き入れておくに越したことはない。俺がやらなくてもグリーン・ワイアットが取引を済ませるだろうが、アルビオン隊が大ポカをやらかしてシーマとの取引をオジャンにする流れは阻止しなければ!

 これからどんだけ宇宙から厄介な敵が来ると思ってんだ、コンチクショウ!)

 

<続>

 

〇新代歴180年 所長、ヘイデスへプロポーズ。ヘイデス、これを快諾して両者は結婚。

〇新代歴180年 ヘイデス、シュメシとヘマーを養子として引き取る。ウルトラマン擬き

の人形を見せるも、これといってとくに反応なし。ユーゼスではない?

〇新代歴181年 ヘイデス・所長夫妻に第一子誕生

〇新代歴183年 ヘイデス・所長夫妻に第二子誕生(予定)

 

■ムーバブル・フレーム型MSゲシュペンストR型・S型が開発されました。

■アムロ専用トールギス・シューティングスターが開発されました。

■シャア専用トールギス・メテオが開発されました。

■ゼファートールギスが開発されました。

■ワルハマー・T・カインズが入社しました。

■エリシア=ストックウェルが入社しました。

■テレンス・リッツマンが出向してきました。

■ガイアが出向してきました。

■オルテガが出向してきました。

■マッシュが出向してきました。

■ランバ・ラルが出向してきました。

■ジョニー・ライデンが出向してきました。

■シン・マツナガが出向してきました。

■シャア・アズナブルが出向してきました。

 

☆頑張ってシーマ艦隊をスカウトしよう!

 




すみません、本編開始直前まで行きませんでした。何とか次回で終わらせます。
所長とヘイデスですが、最初は最終回まで内緒にしておくつもりだったのですが、まあいいや! と考え直して今回の暴露となりました。なお所長の名前は未公開です。最後まで所長で通す予定です。
次回はトレーズ閣下との遭遇、スパロボ系科学者達との懇親会、30バンチへの毒ガス事件などを取りそろえております。

追記
ジェスのアムロへのさん付けを修正


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第七話 アンソロジーは勘弁してほしい

いつもご感想と誤字報告ありがとうございます。
一話ごとにここまで感想を頂戴するのは本作が初めてで、大変嬉しく同時に緊張してもいます。
返信こそしておりませんが、一つ一つ、喜びをかみしめながら読ませていただいております。これからもよろしくお願いします。

そして肝心の内容ですが、トレーズとの邂逅までしか進みませんでした。ごめんなさい。
キャラクター像や言葉遣いを掴みかねている人物も少なくないので、違和感ありましたらどしどしご意見ください。



■新代歴183年

 

 プルート財閥の保有するコロニー“ヒッポクレーネー”内部にて、今ではすっかり旧式化したアクシオ数機が、見慣れない三段のコンテナを背負って様々な地形を闊歩している。

 なんと贅沢なことにアクシオのパイロット達は、地球連邦とジオン共和国の誇る地球人類トップクラスのエース達だ。

 戦歴も知名度も実力も何もかもを兼ね備えた彼らが、今になってなぜアクシオに搭乗しているかと言えば、背中の新装備のテストの為である。

 

 コロニー内部の試験場を監督しているのは、瀟洒なレースが裾にあしらわれた赤いマタニティドレスに白衣姿の所長と、ゼファーのオペレーターであるエリシアとカインズ博士他、プロメテウスプロジェクトのスタッフ達だ。

 所長やエリシア達が情報収集用の専用トレーラー内部でチェックしているのに対し、パイロット組は日除けのテントの下で、思い思いに用意された椅子に腰かけるなり、モニターを眺めるなりしている。

 

 アクシオの搭乗待ちをしているパイロットの中にはアムロやシャア、ラルなどの姿がある。シャアは一年戦争時代のマスクを外し、額の傷が露となる大きめのサングラス姿だ。

 全員、プロメテウスプロジェクト関係者であることを示すグレーのジャケットを、出向元の軍服の上に重ねている。

 

「あれが例のホスピタルパックか。ザク以前の機体に乗っていた頃を思い出しますな、シャア大佐」

 

 日除けのテントの下でラルが傍らにクラウレ・ハモンを伴い、口ひげを弄りながら戦闘以外の行動を取っているアクシオを見て感慨深げに呟けば、コーヒーを堪能していたシャアが同じように懐かし気に答える。

 

「ああ。まだまだ洗練されていない、重機だと言い張れば押し通せるような代物だった。それを思えば、現在のMSの進歩には驚かされるばかりだ、ラル中佐」

 

「モビルワーカーを乗り回していた頃の話ですが、もうずいぶんと昔のようだ」

 

「人型ロボットの進歩というのは早いものだ。ところでラル中佐、コーヒーはどうかな? プルート財閥傘下のデメテルフード直送のスペースマンダリンだが、なかなか味わい深い」

 

 交代待ちのパイロット達が口にしているのは、デメテルフードで開発された軍用の非常食の一種だ。

 基本的に狭いMSのコックピットに入れられるようコンパクトにまとめられた一式には、一本で一万カロリーが摂取できるシリアルバーや本格的な味わいを楽しめるコーヒーや紅茶といった嗜好品飲料入りのチューブ、精神安定剤や睡眠導入剤入りのキャンディーやらと豊富な品が取りそろえられている。

 それらをターゲット層の一角であるパイロット達に試供品として、こうして提供しているわけだ。

 

「それならギャラクシーマウンテンを頂いておりますよ。非常食でこの味わいとは、食料生産用の農業コロニーを複数所有しているプルート財閥ならではの贅沢です。酒も軍のアルコールが入っているだけの合成品とは、根本的に別物ときている」

 

「ははは、衣食住に加えて嗜好品も随分と厚遇してくれているからな。アナハイムやロームフェラと並ぶ地球圏三大企業というのも、あながち間違いではない」

 

 組み立て椅子に腰かけたアムロは、ジオン二人組の昔話に耳を傾けながら、そういう時代もあったのかと、レモネードに口を着けながら聞き耳を立てていた。

 彼が最初に搭乗したのが予算度外視の超高性能MSガンダムだったのを考えれば、重機とそう変わらないMSというのはちょっと想像がつかない。いつだったか、戦後に見る機会のあったザニーという機体がアムロの脳裏に浮かんでいた。

 

「それにしても被災地への救援手段としてMSを使い、しかもそれ専用の装備をあそこまで本格的に開発するとは、民間企業ならではの目の付け所というべきかな、所長」

 

 アムロがトレーラーの開きっぱなしの側面のドアの向こうへ声をかければ、所長はモニターから目を離さぬまま声を大きくして答える。

 現在身重の体だが、この女傑はとにかくパワフルだ。お腹の子供に生命力を分け与えているだとか、そういう印象はない。新たな命を宿して、それをさらに倍増化させて自分と子供の間で循環しているようなエネルギーの塊である。

 

「例によってウチの総帥の発案ですわよ。今、ガイア少佐達にテストしてもらっているホスピタルパックは、MSの走破力と機動性を活かして迅速に現地へ到着し、到着後はMSを動力として三棟の病院を即興で用意する医療支援用ですわね。

 向こうでライラ中尉やユウ少佐に試して貰っているのは、被災地への食糧支援を目的として、厨房と食糧備蓄施設をセットにしたフードパック。

 それにジェスとミーナがテストしているのが、被災した方々の衛生状態を良好に保つ為の浴場設備を搭載したバスルームパックと洗浄設備のランドリーパック」

 

 これは元を辿れば『ガンダムSEED DESTINY ASTRAY』などに出演するザクウォーリアの換装システムウィザードのうちの一つ、ホスピタルウィザードがアイディアの大元となっている。

 ヘイデスは宇宙世紀シリーズのMSVはそう詳しくはないが、こういった被災地や戦地の環境改善や支援を目的としたMSを見た覚えがなかったので、作れば需要があるのではないかという安易な発想と、誰かの役に立つだろうという期待を込めて開発を決定した。

 

 一年戦争中に発表したアクシオは性能がジムと大差がない事もあり、予想通り連邦軍に少数が研究目的などで購入されたきりで、それ以降の大口注文はない。

 現在の主な購入先は、連邦政府に加盟してはいるが、駐留軍に最新のMSの配備が見送られている弱小国や自治を認められている地域で、小口の注文がちらほらといった具合だ。

 いずれにせよ戦力としては心もとないアクシオの新たなる活躍の場として、戦場以外に目を向けた『パックシステム』が導入され、テスト中というわけだ。

 

「それでヤザン中尉が試しているのが、アルゴスの後継機というわけか」

 

 アムロが視線を転じれば、起伏の激しい荒れ地の試験場を走り、飛び回り、そしてターゲットに模擬弾を撃ちこんでいる四足のMSを見ながら告げた。

 現在、アルゴスはその走破性能と速度から東アジア、中東やアフリカなどで需要があり、なかなかの売り上げを記録している。

 アナハイムやロームフェラは新型MSの開発に力を入れているが、この四足MSに関しては勝手が分からないのか開発に二の足を踏んでいる。

 

「ええ、今のところ、ウチの独壇場です。正直、MSというには抵抗のある外見ですし、かといってMAというのもどうかという事で、分かりやすくモビルビースト(MB)とカテゴライズしています。モビルアニマルですといささか可愛らしすぎますから」

 

「MBか。アルゴスに比べると随分とボリュームが増した印象だな。それに造作も本物の動物に似てきている。ライオンがモチーフかな?」

 

 なお、実物を見たヘイデスはゾイドコアのないゾイドだな、と感想を抱いている。

 

「関節への負荷を考えると無限軌道ありきなのですが、そうすると近接戦での戦闘能力が今一つ伸びないのが課題ですわ。無限軌道なしで速度を維持しつつ、格闘戦に耐えられる関節の開発が出来れば、一段か二段、性能を上げられるのですけれどねえ」

 

「ゲシュペンスト、パックシステム、それにMBと子育てか。所長は本当にエネルギッシュな女性だが、無理はしないでくれよ。所長が倒れでもしたら、ヘイデス総帥はこの世の終わりだと言わんばかりに狼狽して、仕事が手につかないだろう」

 

「ほほほ、この程度、ハードワークの『ハ』の字にもなりはしませんわ。この私に疲れたと言わせたいのなら、この三倍は仕事を持ってきていただかないと」

 

「はは、そうか、頼もしい限りだな。僕もこの職場はとても働き甲斐のある場所だから、所長にはいつまでも健やかに働いていて欲しいよ。ヘイデス総帥もまだまだ精力的に働くようだし、プルート財閥の行く末はいっそ恐ろしくさえあるな」

 

 そうしてアムロはヘイデスが向かっている月のある方角へと、最後のレモネードの一口を飲みながら瞳を向けるのだった。

 

 

 その頃、ヘイデスはヒッポクレーネーからテストに不参加の面子に護衛を依頼し、月のフォン・ブラウン市にあるレストランの個室へと足を運んでいた。

 個室の外に漏らしてはならない情報をやり取りする際に、様々な業界の人間が利用する事で有名な創作料理のレストランである。

 個室の中にはオーダーメイドのスーツに身を固めたヘイデスと、アポイントメントを取った女性とその腹心である男性の三名がいる。

 

 女性は元ジオン突撃機動軍所属のシーマ・ガラハウ中佐。今は黒みがかった緑の髪をひっつめにし、スーツに身を包んでいる。きつい印象を受ける目元が目を引く美女だが、その経歴からか危険な雰囲気を漂わせている。

 大柄な男はシーマの副官を務めるデトローフ・コッセル。いかにも荒くれ者然とした外見で、無理に体を押し込めたスーツが悲鳴を挙げていそうだ。

 

 一年戦争序盤における毒ガスを用いたコロニー住人の殺害――コロニー潰しを現場で行った者の一部が、このシーマ達だった。それだけでなく一年戦争中の破壊工作や虐殺等の汚れ仕事を担っていた為、捕まえられればB級戦犯として処断される立場にある。

 本来の艦隊司令であるアサクラ大佐にそれらの所業の全責任を押し付けられたシーマらは、今日に至るまでアクシズへの逃亡も許されず、連邦軍へ投降しても戦犯として処される為、宇宙海賊に身をやつして生きてきたという事情持ちだ。

 

 ヘイデスもアレックスのデータ取りが終わった後もプロメテウスプロジェクトに参加しているクリスチーナやバーニィ、アーウィンやグレースを護衛に連れてきているが、彼らは隣接している別室で待機している。

 海兵隊として一年戦争を戦い抜いたシーマとコッセルなら、隣室から助けが来るよりも早くヘイデスを始末できるが、そこはヘイデスなりの害意の無さの証明として一人で対峙する事を選んだ。もちろん、内心は震える子犬よろしくビビりまくっている。

 

「今や地球圏で知らない者は居ない大財閥の総帥が、あたしらのような荒くれ者になんの御用で?」

 

 デザートまできっちりと平らげ、食後のコーヒーを口にしながら、シーマは険の強い瞳に警戒と値踏みする色を浮かべて対面のヘイデスを見やる。まだ睨むという程眼光が強くないのは、ヘイデスにとって幸いだった。

 

「そこまで評価してもらえるとは嬉しいね。それに僕なんかの名前も知っていてくれるとは」

 

「あまり冗談はお上手でないようだ。一年戦争以前から多分野で業績を上げ、一年戦争中から戦後にかけては、アナハイムと並んで進出していない分野はないと言っても過言ではない上に、その全てで成果を上げている経済界の風雲児の名前は、あたしらのような日陰で生きている者だからこそ知っておかなきゃねえ?」

 

「うん、恥ずかしながら欲張って色々と手を広げているけれど、幸いどれも上手く行っている。戦争によって荒廃したサイドや地球各地の復興事業も、地球環境改善の為の環境プラントの増設も、ついでにアイドル事業も。

 けれど今日、貴女達とアポイントメントを取ったのは、もちろん僕の自慢をする為じゃない。元ジオン突撃機動軍所属の海兵隊、通称シーマ艦隊をスカウトしたいと思っている。その点については、既にお伝えしてあるはずだ。ガラハウ中佐」

 

「あたしらの航路を割り出して、食料、衣類、医薬品、推進剤を満載した無人の輸送船を放置して、専用の連絡端末と通信コードだけ艦橋に残しておくなんて真似をされたら、多少は興味を惹かれるってもんさ。本物の金持ちはやることが違うね」

 

「それ位、インパクトのある真似をしなければガラハウ中佐とはコンタクトが取れないと判断したまでさ。ガラハウ中佐、僕は貴女達を非常に高く評価している。ジオン共和国に帰順していない旧公国の勢力の中で、シーマ艦隊は宇宙の勢力の中では五指に入る大勢力だ。

 一年戦争を戦い抜いた生え抜きの海兵隊であるし、数十を数えるMSを保持し、ザンジバルを含む艦艇もまた複数在籍している。

 それにガラハウ中佐は真っ当な補給の期待できない環境で今日に至るまで艦隊を維持し、隊員をまとめる人望と指揮能力を持ち、更には極めて優秀なMSパイロットだ。

 軍事産業に手を出している僕が、是が非でもとスカウトするのは当然の話だよ」

 

 シーマ艦隊の陣容はザンジバル改級一隻、後期型のムサイ級七隻、パプア級輸送艦一隻、ゲルググM(マリーネ)三十機以上の他、ザクⅠなどのMSも含むという大所帯である。

 そしてパイロットはもちろん、艦隊の船乗り達も全員が実戦経験豊富なベテランぞろいと来ている。本来ならジオン残党やジオン共和国も、喉から手が出る程欲しい人材の集団だ。

 だが現在、ジオン残党の最大勢力であるアクシズにさえ、シーマ艦隊が合流していない――出来ない理由を、シーマ達自身が他の誰よりも理解している。

 

「コロニーに毒ガスを流したB級戦犯を相手にかい? スカウトしたっていう事実だけでも、それなりに痛いスキャンダルだろう」

 

「うん、そうかもしれないね。その時にはアナハイムのオサリバン常務も道連れにして、アナハイムの株価が暴落するように仕向けよう。ロームフェラの一人勝ちになったら悔しいから、抱えているスキャンダルをばらまくだけばらまこうかな。はははは」

 

 ヘイデスがかなりの対価を支払ってまでシーマとアポイントメントを取ったのは、シーマが既に原作通りオサリバンとも独自のパイプを築いているのを察知したのも、理由の一つである。

 グリーン・ワイアットとのコンタクトに関しては、出来ればヘイデスが一枚噛んでゴップを始めとしたヘイデスのつながりのあるジャブローの将校経由で取りたい。そうすれば、星の屑成功阻止に向けるアクションが起こしやすくなる。

 そういった思惑を知らぬシーマだが、内密にしているオサリバンとの繋がりを平然と口にするヘイデスに、警戒心を一段、そして敵に回した場合の厄介さを二段ほど上げた。

 

「ふん、大抵、評判ってのは話半分で考えるべきだが、あんたはそうではないらしいね。腹も膨れた、ジャブの打ち合いもした。ならそろそろビジネスの話をしようじゃないか。

 あんたも知っている通り、あたしらには他にもスカウトの目はあるんでね。いい条件の方に付かせてもらうよ」

 

「うん、もちろん。プルート財閥で用意できる限りの条件を整えてきたとも。基本的な労働条件はこちらの書面に纏めてあるから、戻って艦隊の皆さんで確認してもらいたい。

 それ以外の条件については、こちらの人脈と財力の全てを用いて艦隊全員分、一人残らず新しい戸籍を用意しよう。一年戦争の混乱で特に軍関係のデーターベースが失われているから、確認の取れていない軍人に成り代わるケースが多くなるね」

 

 元々シーマ艦隊の面々は、サイド3の30バンチにあるマハルコロニーの出身者で、ジオン公国時代に戸籍登録さえ出来ていなかった者達がほとんどを占めている。

 一年戦争中の汚れ仕事によって被った汚名により、ジオン残党への合流は拒否され、ジオン共和国には帰順できず、故郷のマハルはコロニーサイズの巨大レーザー兵器“ソーラ・レイ”に改造されて帰る事も出来ず、宇宙海賊として生きる以外に道を選べなかったのがシーマ達だ。

 

 時には同じジオン残党を襲って糊口を凌ぐ生活から脱却するには、シーマ達が別人に生まれ変わるのが最も手っ取り早く確実だ。ヘイデスの口にした内容は、まさにシーマ達の急所を突くものである。

 これがそこらの金持ちや将校程度が口にしたならシーマも鼻で笑い飛ばしたろうが、相手がプルート財閥総帥ヘイデス・プルートとなれば話は別だ。

 

 地球圏の富の四分の一、あるいは三分の一を支配する怪物だ。その名の如く、富を統べる王と称する者さえいる。オサリバンよりもよほど大物だ。

 動かせる財力も権力も、こちらの方がはるかに上だし、噂ではゴップを始めとしたジャブローの上級将校達との繋がりも深いという。

 

(目の前にぶら下げられたエサは、さて毒入りかねえ?)

 

 問題は毒入りか、罠かもしれないという点だ。ある程度使い潰したところで後腐れなく始末しようと動いてもおかしくはない。シーマ達はそういう稼業に身をやつし、生きてきている。

 後ろのコッセルは戸籍の話が出てから、しきりにシーマに視線を送っているが、副官の分かりやすい変化にシーマは内心で呆れていた。これであえて演技で浮かれているふりをしているのなら感心するのだが、この場合は本気で浮かれてしまっている。

 いや、正直に言えばシーマもかなり浮かれてしまっている。目の前に提示されたエサに飛びつきたいのを、艦隊を預かる責任感と理性が抑えている。

 

「それから僕の方から約束できるのは、これだな。決して、貴女達に民間人を殺せとは言いません」

 

 その言葉は驚く程シーマの心の奥へと入り込んできた。汚れ仕事に慣れ切った自分達になんとまあ、甘っちょろい事を言うやら。

 口だけだと吐き捨てるのは簡単だが、シーマはもう少しこの甘ちゃんの皮を被った奇人の正体を見てみたい衝動に駆られた。

 

「どうせあたしらにやらせるのは汚れ仕事だろうに、守れない約束を口にするものじゃないよ」

 

「そうだね、少し話は変わるけれど、僕は最初正義の味方をやろうと思っていたんだよ」

 

「はあ?」

 

「まあ、最後まで聞いて。でも僕はロボットに乗って前線で戦うのには向いていなくってね。だから戦うのは別の人達に任せて、僕は正義の味方を助ける側に回ろうとしているわけです。

 僕は正義の味方をスポンサー的な立場から助け、シーマ艦隊の皆さんには正義の味方を影から助ける役割をお願いしたいのさ」

 

「はん、金持ちの酔狂もここまでくりゃ大したもんだが、それに付き合わされるとあっちゃ堪ったもんじゃないよ。第一、このご時世でどこのどいつが正義の味方を名乗れるっていうんだい。名乗るような間抜けもいやしないさね!」

 

 付き合いきれない妄想だとシーマが声を荒げ、眼光鋭く睨んでくるものだから、ヘイデスの一般人部分は震えて縮こまったが、経済界の怪物であるヘイデスはこれを柔和な笑みのままに迎え撃つ。彼の人格の融合は奇跡的な配分と言ってよかった。

 

「はは、まあ、私設のカウンターテロ部隊と思ってください。ガラハウ中佐のような事情が無く、今もジオン共和国に帰順しないジオン公国の方の残党は筋金入りだ。

 ザビ家への忠誠から、あるいは武力によるスペースノイドの自治権獲得を本気で目指している連中ばかり。一年戦争後から今もなお活動しているくらいだもの」

 

「ジオンの残党はジオンの残党に潰させるって? 合理的なやり口だねえ」

 

 気に食わない、と表情に思い切り書いているシーマと、ハラハラとした様子のコッセルを見て、ヘイデスは表面上だけは動揺しないまま答える。

 

「そうとも言えるけれど、問題はこれからだよ。筋金入りのジオン残党を相手に、その鎮圧をお題目に掲げた武闘派組織を設立する動きが、連邦内で活発化している。一年か二年、早ければ今年の内にも本格的に創設されるだろう」

 

 これはティターンズの事だ。

 デラーズフリートの星の屑作戦により、地球にコロニーが落下して、大きな被害を齎したのをきっかけに強権を得て設立されるティターンズだが、星の屑作戦が発生しなくても設立する流れが出来ているのを、ヘイデスは確認して頭を抱えたものだ。

 星の屑が発生していない以上、賛同者を得にくい土壌の筈だが、これまでジオン残党による連邦軍基地への攻撃やテロ活動は地上・宇宙を問わず発生しており、第二のジオンをスペースノイドが生む、というジャミトフ・ハイマンの訴えに全く信憑性がないわけではない。

 

「残党狩りかい」

 

「ええ。連邦のエリートパイロットを集め、潤沢な予算と最新鋭の機体と設備を贅沢に投じて、大々的に立ち上げるようだ。地球至上主義を標榜し、ジオン狩りを題目にして、すぐにスペースノイドの弾圧を始めるよ」

 

「ふん、あたしらも今の家業のままじゃやっていられないって言いたいわけだ」

 

「半分くらいは。ただ、もし僕の提案を受け入れてくださるのなら、取りあえず錨を降ろせる港を用意する。ただ、高い確率でその新組織の行きすぎた行動を止める為に動いてもらう事になるのを、頭に入れておいて欲しい」

 

「正規軍の行動を邪魔するのが正義の味方のやる事かねえ」

 

「強権を笠に着て暴走した時には、それを止める力が必要だと考えているのさ。大義名分があれば、この宇宙に進出した時代であっても人類がどれだけ他者の命を軽視して、残虐な行いを出来るのか。ガラハウ中佐の方が詳しいだろう」

 

「……コロニーを落とすか、毒ガスを使うってか。そんな真似、いくらなんでも」

 

「やらないと言い切れないのが、今の時代だ。中佐達にはいざという時、それを止める側にいてもらいたい」

 

「かもしれないって予測ばかりで、よくもぺらぺらと喋られる」

 

「僕は臆病なものでアレやコレやと色んな可能性を考えては、それに備えているだけだよ。癖というか、そういう生き方をせざるを得ない感じかな。人に聞かれたら笑われるようなことまで、本気で心配して備えているものだから」

 

 そりゃあ古代ミケーネ帝国の遺産を流用した巨大ロボット軍団だとか、そのミケーネの生き残りの軍団や地下に避難していた恐竜が進化し、人類に生存競争を挑んで来るだとか、宇宙の彼方から地球を征服する為に角の生えた異星人や、移民先を求めて翼の生えた異星人がやってくると言えば一笑に付されるのが当たり前だ。

 

「僕の妄想に付き合うだけで別人としての戸籍が得られて、追われる暮らしをしないで済むと思えば安いものでは? 我ながらお得なスカウト案件だと思いますので。どうかな?」

 

「ふん。……艦隊の連中に今の話をしてからさ。断るにしろ受け入れるにしろ、一度は連絡するから、すぐに出られる用意をしておくこった」

 

「ええ。吉報をお待ちしていますよ」

 

 そう言って仮面ではない笑みを浮かべるヘイデスに背を向けて、シーマとコッセルはレストランを後にした。コッセルは会談中、一言も発しなかったが、レストランを出てしばらくしてから敬愛する上官にただこう告げた。

 

「シーマ様の御意志が俺達海兵隊の意志でさあ。やりたいようにやってください」

 

「ふん」

 

 コッセルの言葉にシーマは言葉にもならない返事をしたが、そう満更ではなさそうだった。この会談の後、シーマはヘイデスのスカウトを受け入れ、そして世界ではジャミトフ・ハイマンの提唱した新組織“ティターンズ”が設立される。

 奇しくもそれらは同じく新代歴183年12月のことであった。

 

■新代歴184年

 

 地球・プロメテウスプロジェクト試験基地のメイン格納庫にて、プロジェクトの主要なメンバーが集い、ハンガーに固定されたゲシュペンストを見上げていた。

 薄い桃色の生地に朝顔を散らした浴衣の上に白衣を着て、長いプラチナブロンドは鼈甲の簪で纏めた所長が、自ら設計・開発を担ったゲシュペンストを背に、パイロットやメカニック達、それとヘイデスを前に口を開く。

 

「まずこの正式モデルのゲシュペンストが完成したのは、皆さんの多大なる尽力があればこそ。その点についてはいくら感謝しても足りませんわ。

 皆さんのお陰で有用なデータが集まり、私一人では生まれなかった発想が次々と生まれて、ゲシュペンストをより優れた機体へと押し上げる一助となったのです」

 

 これまでに集めたゲシュペンストR型、S型のデータとパイロット達、メカニック達の意見を踏まえて再設計された、量産を前提とした正式モデルのゲシュペンストのお披露目が、今日の集合の理由だった。

 

「このゲシュペンストP(Product)型ですが、基本的にR型を踏襲した機体となっております。S型のコンセプトを考えれば当然ですわね。

 テストした皆さんが揃って口にした左腕のプラズマカッターは三本もいらない、という意見を反映して、左腕の突起はそのままに接触した敵機にプラズマを叩き込んでダメージを与える、プラズマステークへ変更してあります。

 プラズマカッターは手首の内側にビームガン兼用で内蔵してあります。装備個所の候補は背中や腰のサイドアーマーや太ももの装甲内部と色々ありましたが、試したところ手首の内側が一番早く抜けますから」

 

 プラズマカッターの位置に関しては、パイロット達が口を揃えて、三本も要るのか、左腕に持たせるときに使いにくい等々意見を出してきたので、真っ先に変更が加えられた個所である。

 

「シールドに関しては肘付近に接続用のハードポイントを設けましたので、基本はそこに接続しての運用になりますわ。

 それにシャア大佐やアムロ中尉、アーウィンとグレースのテストしたリッパービットのデータをベースにしたスラッシュ・リッパーをリアアーマーに六基。バックパックにスプリットミサイルを二基、加えてニュートロンビームライフルが基本装備になります。

 我がラボの開発した武装も諸々ありますが、そこはアクシオ同様パイロットの好みに合わせてチョイスしてもらう仕様です。

 核融合炉以外にも機体各所にプラズマバッテリーを内蔵していますし、ムーバブル・フレーム構造と相まって、これまでのMSとは一線を画す出力と運動性を併せ持った新世代機であると自信を持って断言します」

 

 それは所長ばかりでなくプロジェクトメンバー全員が同意するところだ。実際、これまでのMSを第一世代と呼ぶならば、このゲシュペンストはR・S・P型全て第二世代に相当する。

 このゲシュペンストの完成をもって、プロメテウスプロジェクトは一つの節目を迎え、大きな成果を上げたと声を大にして言えるだろう。

 事実、満を持して発表されたゲシュペンストP型は、地球連邦軍やティターンズをはじめ、地球圏内の各勢力に激震を走らせる高性能ぶりを発揮し、各陣営の機動兵器開発競争が激化の一途を辿る一因となるほどだった。

 

 

 ゲシュペンストが発表され、プルート財閥の保有する技術力と軍事力に世界から警戒と関心の目が向けられる中、ヘイデスはまた一歩近づいてくる本格的スパロボ時空の洗礼を前にして、次世代エネルギー並びに特殊技術開発者の交流を題目にした懇親会を開催していた。

 この催しは、世界中というかほとんど日本に集中しているスーパーロボットの博士達を、『本編』が始まる前に顔合わせをさせて、予め交流を持たせておこうというアイディアに端を発する。

 ヘパイストスラボの日本支所を開催場所に、あらゆる費用を財閥が負担する形で博士達を呼び寄せて、各々の研究成果やプルート財閥で進められている地球環境改善の為の技術や、宇宙・地球開発のロボット技術の発表と議論を行うという内容だ。

 

 所長も認める各分野における第一人者にして紛れもない天才達の集いに、所長やカインズ、テレンス達もこぞって参加した発表会は、一応出席したヘイデスには半分も理解できない新機軸の理論や研究成果が発表されて、実に白熱としたものだ。

 学会や普通の科学者達とは折り合いの悪い癖のある人物も少なくないが、今回集められた人々は誰もが良識を持ち、自分達の技術による人類の発展と世界平和への貢献に対する熱意も本物で、お互いにとって実に素晴らしい友人と巡り合う機会にもなっていた。

 

「いやあ、皆さん、止めなかったらいつまでも喋っていそうだねえ……」

 

 発表会が終わり、懇親会が開かれている会場の片隅で、ヘイデスははっきりと疲れた様子で、オレンジジュースを片手にあちこちで繰り広げられているディスカッションに、誰もがいい年なのに元気だな、と呆れ半分感心半分だ。

 その傍らで所長は何を言うやら、という表情を浮かべている。出産を終えて元に戻った驚く程起伏に富んだ肢体にうっすらと青みがかったカクテルドレスを纏い、髪は本物のプラチナ製のバレッタで纏めている。

 僕のお嫁さんは宇宙一の美人、とヘイデスは心の中でにこにこ笑顔だ。

 

「科学者という人種のエネルギーを甘く見過ぎましたね。私という例が近くにあったでしょうに」

 

「いや、君だけが特別エネルギッシュだと思っていてね。まさか僕らの親でもおかしくない年齢の方達でも、あそこまでパワフルだとは思わなかったよ」

 

「まあ、皆さんも懇親会の後でホテルの個室に戻ったら、すぐに電池が切れたみたいにベッドに倒れ込むでしょうけれどね」

 

「はは、疲れが後からどっと押し寄せてくるってわけね。それじゃあ、本命の方達が都合よく集まってくださっているし、挨拶してこようか」

 

 持っていたオレンジジュースを飲み干し、空いたグラスをウェイターの青年へと預けて、ヘイデスは所長と共にとある一角でにこやかに意見を交わしている科学者の一団へと向かう。

 

「お邪魔します。今日は皆さん、実に活き活きと意見を交わしていらっしゃる。今回の発表会を企画して成功でした」

 

 そこに居たのはマジンガーZの弓教授、ゲッターロボの早乙女博士、コンバトラーVの南原博士に四谷博士、ボルテスVの剛夫妻に浜口博士、左近寺博士、闘将ダイモスの竜崎博士に和泉博士といった錚々たる面子が揃っている。

 ある意味ではプレイヤー部隊の最大の味方と言える面々だ。

 何人かはスパロボでさえ亡くなる者も含まれており、生前の彼らが一堂に介する場面は極めて貴重だろう。

 

「おお、ヘイデス総帥。いや、恥ずかしながら年甲斐もなくつい熱中してしまいました」

 

 最初にヘイデスに気付き、恥じ入るように答えた弓教授のみならず、他の博士達もこれだけ実になる時間を過ごしたのはいつ以来かと充実した様子だ。

 

「いえいえ、謙遜される必要はありません。僕は皆さんの研究は必ず人類の未来に役立つと確信していますから、こうして皆さんが交友を深められる様子を見られるのは喜びに他なりません」

 

 そこでヘイデスはちらっと早乙女博士を見た。でっぷりとした体形はどの作品も共通だろうが、黒々とした髪や穏やかな目つきから察するに、少なくとも今は初期のスパロボに参戦していたTVアニメ版ゲッターロボの早乙女博士であろう。

 漫画版や数々のOVA作品でゲッター線に取りつかれた狂気と知性が入り混じった、あの恐ろしい風貌ではない。まあ、この先どうなるか分からない怖さが、ゲッター線にはあるわけだが。

 

(ラ=グースとか時天空が関わってきませんように。アンソロジーコミックのネタも関わってきませんように。

 銀河サイズに進化したゲッターエンペラーと、同サイズの成人女性の姿に成長したラ=グースの戦いとか、関わっていられるか!

 なんだ、『四百万光年』先からのゲッタービームって! ビックバンが時間稼ぎにしかならない時天空含め、いちいちスケールがでかすぎるんじゃい!)

 

「どうかされましたか、ヘイデス総帥?」

 

 ヘイデスからの視線に気付いた早乙女博士が訝しそうにするのを見て、ヘイデスはあくまでゆったりと首を振る。

 

「いえ、また皆さんとこうして顔を合わせられて安心していたところです。僕自身仕事が忙しいのもありますが、皆さんも実に多忙ですから。こうした機会を設けても、何人がおいでくださるかと気を揉んでいた次第です」

 

 さて、光子力やゲッター線は次世代のエネルギーとしての期待が寄せられ、またゲッターロボ自体も元をただせば宇宙開発用のロボットだ。ダイモスも惑星開発用のトレーラーを改造したものである。

 そこでヘイデスがよく分かっていないのが、超電磁ロボ・コンバトラーVと超電磁マシーン・ボルテスVの事だ。

 

 放映を生で視聴しておらず、スパロボ上でしかほぼ知らないのが理由なのだが、この二機に関しては完全に侵略者撃退用に作られたのか? ならば超電磁エネルギーを地球防衛以外に役立てる目的が作中で語られていたのか? というのが分からないのである。

 キャンベル星人とボアザン星人を撃退した後、超電磁テクノロジーはなにか人類に寄与したのだろうか? 教えて詳しい人! というのがヘイデスの本音だ。

 

「交流と言えば南原博士に剛ご夫妻の皆さんは、同じ超電磁エネルギー研究の第一人者でいらっしゃる。このような場を設けなくても、お会いになる機会はあったでしょうか?」

 

「お互いの論文を目に通し、議論を重ねたことはあります。ですがこうして他のテクノロジーを研究されている方と言葉を交わすと、思わぬ発見や着想が得られて実に有意義ですよ」

 

 とは南原博士の言だ。四谷博士は会場に用意された多種多様な酒を飲みながら、それでもしっかりと意識を保ち、理性を宿した瞳でヘイデスをじろじろと見ている。

 世界中の有望だが陽の目を浴びていない科学者や、まだまだ研究の進んでいない技術に携わる科学者に多大な額の出資を行い、見返りを無理に求めないヘイデスをあまりに都合が良すぎると警戒しているのかもしれない。

 これにはヘイデスも異論は唱えにくい。

 スパロボのオリジナルキャラのルド・グロリアやダイマ・ゴードウィンのような、徐々にうさん臭くなり、最終的にラスボスかその一歩手前辺りのボスキャラムーヴをこれでもかとキメていると自覚はしている。

 

(まあ今の俺の手札でやれることと言ったら、ゼファーのシステムをコピーして搭載した無人機部隊の大量導入とか、疑似サテライトシステムをその無人機に搭載させて、あらゆる戦場でサテライトキャノンをぶっ放すとか、それくらいかね。

 ラスボスとしてはちょっとインパクトが弱いよな。スパロボ基準で考えたら、ショボい方だろう。気軽に星が壊れるとか、宇宙が滅びるとか言うし。

 それにしても剛博士か。俺は今、ボアザン星の重要人物と対面しているわけで、何気に異星人との初対面なんだな)

 

 四谷博士の警戒を当然と受け止めながら、ヘイデスはしみじみと内心ではそんな事を考えていた。

 

「僕としても皆さんが新しい技術を開発してくだされば、なによりですよ。壊滅したサイドの復興と地球環境の改善が進めば、次は火星や木星といった惑星開発を本格的に進めなければなりません。

 宇宙開発用のゲッターロボはもちろん、竜崎博士と和泉博士の開発されている惑星開発用巨大トレーラーにも、僕は大きな期待を寄せているのです。

 特に火星はせっかく都市が築かれたにもかかわらず、いまだに大気の浄化装置にも不備が多く、移住した方々も苦労されているという話ですからね。

 いまも地球圏は決して安全というわけではありませんが、僕も子を持ち人の親となりました。子供達の為に明るく、そして楽しい未来を託せるように尽力します。そしてその未来には、皆さんの知恵と技術と良心が必要なのです。

 僕に出来るのは経済的なバックアップくらいのものですが、どうか、これからも自らの良心に恥じることなく、研究を進めていってください。僕はただそれを望みます」

 

 あと、侵略者に負けない強くて格好いい正義のスーパーロボットも作って! とヘイデスは心の中で叫んだ。

 神様、仏様、ご先祖様、アムロ大明神様とアムロとの初対面において心の中で拝んだように、ヘイデスは目の前の科学者達に向けて心の中で土下座せんばかりに祈っていたりする。

 

■新代歴185年

 

 昨年のゲシュペンストの発表とその衝撃の影に埋もれたハイザックの正式採用に続き、この年にもロームフェラ財団が開発を主導したMSリーオー、トラゴス、エアリーズ、パイシーズといった新型が次々と発表され、OZをはじめ欧州方面軍を中心に配備すると大々的に宣伝したのである。

 この発表のパーティーに、ロームフェラ財団からすればアナハイムに並ぶ商売敵であるヘイデスが招かれていた。

 

 プルート財閥は、ほぼヘイデス一代でなされた新興勢力であり、欧州貴族ら歴史ある特権階級で構成されるロームフェラ財団からすれば侮蔑と軽視が真っ先に来る相手だ。

 ゲシュペンストという他勢力を突き放す傑作機を世に出したプルート財閥に向けて、多種多様な新型MSを見せつけて、優越感を満たそうとしたものか。

 

(こっちを甘く見てくれる分には、油断につけ込めるから歓迎だけれどね)

 

 周囲の豪奢に着飾った貴族然とした衣装の人々から向けられる軽侮の視線に、ヘイデスは愛妻を連れて来なくて良かったと安堵する。彼女の心が傷つくというよりは、挑発に応じて舌戦を展開して相手を打ちのめしてしまいそうだったからだ。

 

(それにしても招いておいて放置とは、ホストとしての役割を放棄するのはどうかと思うが。まあ、リーオーをはじめ良い機体が見られたのは収穫だ。

 単独で空を飛べるエアリーズも、新しい水中用MSであるパイシーズも、今の連邦軍に足りていない部分を補ってくれる)

 

 それだってトーラスやビルゴが出来上がれば取って代わられるだろうし、短い春なのは間違いない。主催者であるデルマイユ公への挨拶は済ませ……汚物を見る目で見られたが、用事はほぼ済んだと言っていい。もう退出しようかとヘイデスは本気で考えていた。

 それを阻んだのは、この会場の中でひときわ輝く存在感と高貴さを醸す青年将校だった。佇むその姿だけも絵画の如く映えるその青年は、OZ総帥にして地球連邦軍トレーズ・クシュリナーダ准将その人に他ならない。

 ヘイデスが個人的にシャアや東方不敗マスターアジアと並び、今後のガンダムシリーズで二度と出てこない不世出の人物と考えている相手だ。

 

「パーティーは楽しんでおられるかな、ヘイデス・プルート総帥」

 

「これは、トレーズ・クシュリナーダ閣下。私などにお声をかけていただけるとは、光栄です」

 

「ふ、私の名前を存じておいでか。それと、どうぞそのように畏まらないでいただきたい。軍人とはその階級を問わず民間人を尊ばねばなりません。故に私の方こそ貴殿に率先して敬意を示さねばならない立場です」

 

 なるほど、原作であれだけ信奉する者が現れるわけだと、現実の存在となったトレーズを前に、ヘイデスは内心で唸る。こうして顔を合わせ、わずかに言葉を交わしただけでもこちらの精神を揺さぶる圧倒的な輝きと気品が醸し出されている。

 スパロボユーザー成分を除けば、このヘイデスとて希代の人物だが、目の前の青年は地球の命運を左右できる能力とカリスマ性を兼ね備えた傑物なのだ。

 

「遺憾ながらこの場に居る者達でノブリス・オブリージュの精神を弁えている方は少ない。先程からの貴殿に対する不躾な態度を、皆に代わり私が謝罪いたします」

 

「それこそますます委縮するばかりです、閣下。貴方のような方の謝罪を受けては、私はどれだけの恨みを買う事やら。貴方を信奉する方は軍、民を問わず大変に多い。その理由をこうしてお会いした事で、よく理解いたしました」

 

「身に余る評価です。私こそ、冥府の神の名に相応しき英断と活躍をされる貴殿には、かねてよりお会いしたいと考えておりました」

 

(うっへ、トレーズに目を付けられていたとかおっかないわあ。でも分からなくはない。なにしろ無人機であるゼファーを抱え込んでいるものな、俺。モビルドールを忌むこの人なら、悪い方の意味で俺を捉えてもおかしくはない)

 

「かの一年戦争に於いては軍人、民間人を問わず多くの生命が失われ、更には国家の持つ工業力はもちろん、都市、文化、精神もまた多くが失われました。

 前線の兵士や指揮官の混乱や暴走により、失われるはずのなかった生命もまた多くが失われた事でしょう」

 

「閣下の言われる通り、感情を持つがゆえに人間は時に合理性に欠き、倫理を忘れた行動に走るものです。しかし、閣下は失われたものへの悲哀だけを説いておられるのではないのでしょう?」

 

 ヘイデスの指摘に、トレーズはうっすらと微笑した。あるかなきかの笑みは、我が意を得たり、と喜んでいるようにも、これからしなければならない問いを悲観しているようにも見えた。

 

「失われる生命を惜しみ、悲しむならば必然的に人は失う生命のない兵器を求める。これは旧世紀から続いてきたことです。失われる生命がないのは、確かに喜ばしい。それは一面に於いて事実です。

 しかし失われる何かがあるからこそ人類は戦いを恐れ、平和を維持しようと努力するのもまた事実。失われる命のない戦争は、同時に命の価値を貶め、戦争を軽々と引き起こしかねない。意志も気高さも生命もない鉄の人形達が、ただただ争うだけの虚しい戦争遊戯を」

 

 トレーズはニュータイプならずとも人の心の奥底まで見通すような視線で、じっとヘイデスの瞳を見つめる。

 

「貴殿の持つ“風”が、その遊戯の如き戦争の火を煽りはしないかと私は憂いているのです。ヘイデス総帥」

 

 ゼファーとは西から吹く強い風、またあるいは西風の神ゼピュロスを示す。トレーズの言う風が何であるかは、語るまでもあるまい。

 

「……お話は分かりました、閣下。閣下の言われることは私にも理解できます。私がゼファーを回収させなければ、無人機の研究は地球連邦に於いて大きく遅れたか、あるいは停止されていたかもしれません」

 

 もっともロームフェラ財団がモビルドールを開発させるだろうが。

 

「しかしながら、カインズ博士が提唱し、作り上げたゼファーは決して人形同士の戦争を促進させるものでも、生命の価値を貶めるものでもありません。

 あれは、人類が宇宙という新たなステージに向けて張った帆を進める風です。そして人類と寄り添い、共に在ってより良き未来を作り出す為の存在です。

 一年戦争に導入され、成果を上げた事実は否定しません。また戦争に於いて有用な存在となるのも否定しません。ですがこれだけは断言します。ゼファーは人を救う為の存在です。

 戦争の狂気の中で人間の憎悪が際限なく増大し、過ちを犯そうとした時、歪まなかった人間と共にその過ちを止める人ならざる者。

 それがゼファーであり、そうあってくれると私は信じ、期待しています。それがどんなに滑稽な夢想であろうとも」

 

 トレーズは、自分の視線に怖じることなく、ゼファーとそれに関わる人々を信じると断言するヘイデスを見つめ、小さく満足したように一度瞳を閉じてから笑みを深めた。

 

「貴殿の言葉に偽りは感じられない。ならば私もまた見定めるとしよう。風がどこへ人類の未来を運ぼうとしているのかを。貴殿との語らいは実に有意義なものでした。次の機会があれば、同じような時間を過ごしたいものです」

 

「私も閣下と言葉を交わしたこの時間を生涯忘れないでしょう」

 

 ヘイデスの言葉を最後に、トレーズは背を向けてパーティー会場のどこかへと消えていった。

 

(猶予期間をもらった、というところか。しかし、社交辞令とは言えトレーズに敬語を使われるとか、改めて俺ってすごい立場にいるんだな。まあ民間人だしね。

 それにしてもエレガント、か。そうして律さねば人は容易く堕落する。モビルドールもまたそれを助長する存在なのかもしれん。俺も気を付けないとな)

 

 それは同時にヘイデスの心に打ちこまれた楔であった。彼がそれを忘れない限り、地球人類の未来に対する脅威とならずに済むのかもしれない。

 

<続>

 

■シーマ艦隊が入社しました。

■ゲシュペンストP型が開発されました。

■パックオプション(≒ストライカーシステム・ウィザードシステム)が開発されました。

■アルゴスの後継機(ゾイドもどき)が開発中です。

■光子力テクノロジー(初級)を入手しました。

■ゲッター線テクノロジー(初級)を入手しました。

■超電磁テクノロジー(初級)を入手しました。

■ダイモライトテクノロジー(初級)を入手しました。

■トレーズ・クシュリナーダに注目されました。

 

●強化パーツ

・デメテルフードパック

 使用するとSP+20、気力+5。使い捨て。

 




地の文が多いのと書きたい場面が多くて話が進まず、すみません。
地の文を削って会話文で回していった方が良い感じですかねえ。
流石にそろそろ本編のプロローグに辿り着きたい……

追記
ゲシュペンストをM型からP型へ変更しました。
ミケーネの遺産云々を修正しました。
ゲシュペンストP(mass-Product) → Product へ変更しました。


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第八話 プロメテウスの火は消えて

ゲシュペンストP型について

●ゲシュペンストM(Mass-product)



●ゲシュペンストP(mass-Product)



●ゲシュペンストP(Product) ←イマココ!

 というわけでゲシュペンストの正式な量産型はP型です。



■新代歴185年

 

 工業コロニー“ヒッポクレーネー”に近い宙域にて、プロメテウスプロジェクトのメンバーが乗るゲシュペンストP型三機が倍の敵機に囲まれていた。

 と言っても実戦ではなく、これは模擬戦である。

 三名ずつランダムに即席のチームを組んで、ヘイデスの用意したプロジェクト外のメンバーと数的不利を抱えた状態というシチュエーションでデータを取っている。

 現在はヤザンのゲシュペンスト、ラルの青いゲシュペンスト、バーニィのザクカラーのゲシュペンストが、六機の敵を相手に奮闘中だ。

 

 プロジェクトメンバーと模擬戦の相手とは今回が初顔合わせで、模擬戦相手が一方的にプロジェクトメンバーの力量を知っている状態だ。

 対アムロ、対シャア、対ジョニーなど個々のエース達の機動パターンを徹底的に研究し、対策を練ってきた模擬戦相手達は、地球最高クラスのエース二人と水準以上の力量に成長したバーニィを相手に善戦している。

 

 今回の模擬戦相手が搭乗しているのもまたゲシュペンストであった。

 カラフルな三機のゲシュペンストを囲い込む六機の特別仕様のゲシュペンストと、それを操るパイロット達の練達の技量を見て、昨年、新しくプロジェクトに招聘された連邦士官が、傍らのオブザーバー席に座すヘイデスに問いかけた。場所は艦橋だ。

 プルート財閥の保有するペガサス級ベイヤードの艦長として招かれた、元ホワイトベース艦長ブライト・ノア中佐である。

 

「総帥は、あれ程の手練れの集団をどこで見つけて来られたのですか?」

 

 今の地球連邦軍でもあれ程の手練れはティターンズか、あるいは教導団を探さなければ見つけられないだろう。

 加えて年季の入ったコンビネーションまで見せているとあっては、各地からバラバラに集めたというわけでもないのは明らかだ。

 

「存在自体は一年戦争中には把握していた有能な人材でしてね。場合によってはスカウトする間もなかったのだけれど、どうにか間に合ったのですよ。

 あちらとこちらと、お互いにとって最良の条件で、アレスコーポレーションに入社してくれました。腕利き揃いでしょう?」

 

「私見になりますが、ベテラン揃いです。時と場合によっては宝石よりも貴重な人材ですよ」

 

 ブライトにはそれほどの腕利きを集めてどうするのか、という疑問はあるが、閑職に回されていたところをこうして懐かしさを感じる艦を任され、久方ぶりに旧知の仲間と同じ職場で働く機会を与えてくれたのには感謝している。

 それに一年と少ししかまだ働いていないが、随分と厚遇を受けているのが分かるし、実際、職場の雰囲気も心地よい。一年戦争中に、殺すか殺されるかの戦いを繰り広げた相手と肩を並べて働くのにも、いい加減慣れてきたことであるし。

 

「あの動き……ジオンのパイロットだな」

 

 と呟いたのは、専用の黒いパイロットスーツに身を包んだマッシュである。他にも艦橋には紅色のパイロットスーツ姿のジョニーと連邦のパイロットスーツ姿のライラ、ゼファーのオペレートをするエリシアとカインズ博士らの姿がある。

 マッシュやジョニー達は既に担当分の模擬戦を行い終えて、ガンルームを出てブリッジから模擬戦を見学中だ。マッシュの呟きに、チューブに入ったエナジードリンクを飲んでいたジョニーが同意する。

 

「ああ、腕っこきだ。それに操縦に荒っぽさがちょいちょい顔を出している。前線で相当荒っぽく戦ってきた連中だ」

 

 ジオン組の二人からすれば腕っこきの同胞という事になるので感心するだけだが、地球連邦所属のライラからすると、その荒っぽさを向けられる側になるので、素直に感心も出来ない。

 

「相手があたしらじゃなかったら、可哀そうになる相手だね。ヤザンの奴は笑いながら戦っていたけど、さ」

 

 いずれにせよ、ライラもまた模擬戦相手の実力を認めているのは確かだ。彼らがエースでなかったら誰がエースなのか、というくらいのエース達が太鼓判を押すものだから、ブライトとしてはその相手を用意したヘイデスの手腕に興味が引かれる。

 それに十九歳という若さでホワイトベースを指揮して、ジオンの精鋭と戦ったブライトは、模擬戦相手のゲシュペンストが正式モデルのP型とは異なる仕様であるのを、早々に看破していた。

 

「ところで総帥、あちらのゲシュペンストですが、装甲以外にもなにかカスタム化した仕様では?」

 

「流石の慧眼です、ブライト中佐。マッシュ大尉の言う通り荒っぽい戦い方に沿った仕様でして、関節回りの強化とバイタルエリアの装甲材を特殊なのにしています。それに電子戦用の装備もかなり良いのを積んでいますよ。

 長期戦を想定した仕様ではないので、その分、推進剤の消費量を増す形で機動性を上げていましてね。P型よりちょっと高いんです。名前はゲシュペンストM(マリーネ)

 

 模擬戦相手――シーマ艦隊用にカスタムした海兵隊仕様のゲシュペンストが、ゲシュペンストMである。

 シーマ艦隊の結束を考慮して極力パイロットの死亡を避けられるように最高性能の脱出装置の搭載と、バイタルエリアにはガンダニュウム合金が用いられている。武装自体はP型と共通だ。

 

「プロジェクト側のP型よりも撃墜判定がされにくくなっているのは、そういう理由です。性能面ではいくらか上ですが、それでも倍の数でも善戦止まりになる辺りは、流石は我がプロジェクトメンバーの皆さんです。相手もかなり驚いていると思いますよ?」

 

 ヘイデスは面白そうに言ったが、シーマ本人達からすれば“かなり”で済む話ではなかった。

 いい加減、旧式化も甚だしいゲルググMから自分達の為に誂えられたゲシュペンストMを受領した時には、夢にまで見たおもちゃを買い与えられた子供のように喜んだものだが、今戦っている連中の腕前と来たら!

 相手の多くが名の知れたトップエースとはいえ、数で勝るシチュエーションと、終戦後も過酷な環境で三年以上に渡り戦い抜いた自負が海兵隊の荒くれ共にはあったが、いやはや、それを砕くのに十分な強敵達ばかりである。

 

「まったくだらしがないねえ。いいかい、あんた達、次でこの模擬戦も最後だ。気張っていきな! もし情けない姿をみせようもんなら容赦しないからね!」

 

 そう声を張り上げて通信機越しに発破をかけるのは、別人の戸籍を得たアレスコーポレーション所属のシーマ・ガラハウその人である。

 専用のゲシュペンストMカスタムのコックピットから発破をかけるその顔は、ヘイデスのスカウトを受ける以前よりも随分と活き活きしており声にも張りがある。

 

 スカウトを受けてからおおよそ一年と数カ月が経過しているが、今のところヘイデスは極めて誠実な雇用主であり、雇用条件もきっちりと守り、シーマ艦隊は入社以降民間人に手を出したことはなく、海賊行為も行わずに今日まで来ている。

 行き届いた補給に堂々と帰ってこられる港、またサイド3に残してきた海兵隊員達の家族に対してもヘイデスは手を尽くし、戦犯の家族として迫害され生活に困窮していた人々を助けている。

 

 スカウト前に海兵隊の家族の救済を条件に付け加える事も出来たが、それではまるで人質だとヘイデスは口にしなかった。

 結果としてヘイデスの誠意の表れとして功を奏し、シーマのみならず海兵隊各隊員が、ヘイデスには一方ならぬ恩義を感じる結果となっている。

 

 憂いがことごとく除かれて、ヘイデスから紹介されたメンタルカウンセラーとのカウンセリングや、安心して羽を伸ばせる環境を得られたこともあり、シーマは心身共々、一年戦争以降初めてといって良いレベルで充実していた。

 今もヘイデス直々の指名を受けた模擬戦に向けて、シーマの気力は漲っていた。さしずめ【気合】、【不屈】、【集中】が毎ターン発動中といったところか。

 

「はん、それにしても“白い流星”と“赤い彗星”、それに無人機とやらを相手に三十対三とは、舐めてくれた……と言いたいが、あの総帥が提案してきたってことは、本当にそれでまともな勝負になるってわけだ。くわばらくわばら」

 

 シーマは現在、愛機に搭乗して、リリーマルレーンから出撃の時をいまかいまかと待っていた。周囲には近代改修を加えられた後期型ムサイ級やコロンブス級輸送艦の艦影もある。

 シーマが口にした通り、模擬戦の締めはアムロのトールギス・シューティングスター、シャアのトールギス・メテオ、そしてゼファートールギスの三機を相手に、シーマ艦隊のゲシュペンストM三十機の戦いだ。

 

 おそらく現在の地球圏で最高峰の性能を誇るMSと最高の技量を誇るパイロット達と、部隊単位の平均技量では上位中の上位に位置するシーマ艦隊の激突である。

 ブライトやヘイデスの乗るペガサス級ベイヤードの前方に突き出たカタパルトデッキが開き、模擬戦の締めとして登場を待たされていたプルート財閥最高のMSと最高のパイロット達の登場の幕が開く。

 艦橋に詰めるオペレーターのウェーブ(女性士官)が、ゼファーを除く二人へのオペレートを開始した。凛とした気品を感じさせる黒髪の美女だ。

 

「トールギス・シューティングスター、発進どうぞ!」

 

『アムロ・レイ、トールギス・シューティングスター、出るぞ』

 

「トールギス・メテオ、続けて発進どうぞ!」

 

『ふ、シャア・アズナブル、トールギス・メテオ、出る!』

 

 まるで馬の脚のようなカタパルトデッキから白と赤の星が飛び出し、見る間に人体の限界に挑むような加速で遠ざかってゆく。そうして最後にエリシアのオペレートに従って、ゼファーの操るゼファートールギスがベイヤードを飛び立つ。

 

「ゼファー、アムロ中尉とシャア大佐の援護を。敵の数は十倍だけれど、貴方なら出来るわ。行って!」

 

 アムロの発進したカタパルトから飛び出したゼファートールギスは、先行する二機を上回る速度を叩きだし、こちらは人体の限界点――マンポイントを超えた速度と機動だ。

 プルート財閥に回収され、エリシアとカインズ博士と再会してからのゼファーは連邦・ジオンのエース達の動きを学習し続け、更に無人機運用のシステムとしても経験を積み、徐々に誰にも予想できない未知の領域へと達しつつある。

 自分達に見る間に追いつくゼファーを確認し、アムロは交戦エリア到達までの短い時間をシャアとの会話に費やした。

 

「シン少佐やラル中佐の言う通り、相手は元ジオンのパイロットだと思うか?」

 

「まず間違いあるまい。それにジオンのパイロットとの戦闘経験は、アムロ、お前の方が多いだろう?」

 

「それもそうか。ここからでもこちらに伝わってくる気迫だ。今回の模擬戦への入れ込みようは普通じゃないな」

 

「ふむ。アレスコーポレーションの所属だったか。我々とは別にヘイデス総帥がスカウトしたそうだが、おそらく裏仕事を任されている部隊だろう。気迫の違いは、ボーナスでも出るのかもしれんぞ?」

 

 冗談めかしていうシャアに、アムロは小さく笑った。実戦ではないのもあるが、ここまで緊張していないのも、それなりに問題かもしれない。

 人間が乗っているとは信じがたい速度で迫る三つの反応に、シーマは好戦的な笑みを浮かべて、いっそう声を張り上げた。

 

「野郎共、獲物が網に掛かりに来たよ! 一年戦争からこっち宇宙で鳴らした腕を見せつけてやんな!!」

 

 へい、シーマ様! と海賊そのものの返事を耳にしながら、シーマは愛機を加速させて、心地よいGを感じながら、通常機よりも大きく強化されたセンサー類と光学装置の捉えた三機のトールギスを見て舌なめずり。

 

「バッタみたいに動くMSだねえ。だったらその足と羽をもいで、飛び跳ねられなくしてあげようじゃないさ!」

 

 愛機に握らせたメガニュートロンビームライフルから、戦艦の主砲並みに太いビームをぶっ放し、シーマと部下達は獰猛な肉食獣の群れの如くアムロ達へと襲い掛かるのだった。

 なお、シーマはこの模擬戦の後でヘイデスに対して「どんな機体とパイロットが相手でも怖くなくなったが、あいつらとだけはもうこりごりだ」と愚痴を零している。

 身長百九十五センチのシーマが小さく見えるようだった、とヘイデスは最愛の妻にこっそりとその時の素直な感想を漏らした。

 

 

 ヘイデスは新代歴185年――宇宙世紀85年に相当するこの年に、どこで何が起きるのかを覚えていた。

 サイド7が襲撃されて、アムロがガンダムに乗るのを覚えていた時のように、具体的に何月何日とまで覚えていなかったが、それでも彼なりにその“事件”に対して出来るだけのことをしていた。

 ティターンズによってサイド1の30バンチへ毒ガス散布され、住人千五百万人が虐殺されるという事件だ。

 

 シーマ艦隊のスカウトは純粋な戦力増加と、対星の屑作戦以外にもこの毒ガス散布阻止も大きな目的の一つだった。

 コロニー落としもそうだったが、ヘイデスは融合したスパロボプレイヤー成分が、現実となったこの世界で行われる虐殺行為に対して、極めて強い拒否反応と嫌悪感を抱く傾向にあった。

 

 コロニー落としは手を出すまでもなく、シュメシとヘマーを内包していたヘリオースもどきが木端微塵にしたことで図らずも防げたが、これから起きる非人道的行為を防ごうとするならば、自分の力でどうにかしなければならない。

 30バンチ事件もまたそのうちの一つであった。

 さて、なぜティターンズが毒ガス散布という凶行に走ったかと言えば、当時、30バンチでは反地球連邦政府のデモが行われており、この鎮圧を地球連邦軍がティターンズへと要請し、バスク・オム大佐が毒ガスの散布を決定したのだ。

 ただ今回の件を含め、後にZガンダム本編で行われるティターンズの非人道的行為の多くは、現場のバスクやジャマイカンらの判断で行われており、ジャミトフにしても意に沿わない行いであった点は留意するべきだろう。

 

 30バンチへの毒ガス散布はその非人道性から、作戦に参加しているティターンズ将兵でも実態を知っている者はごくわずかだ。輸送中の護衛を担った者でさえ自分達が何を護衛し、何を運搬しているのか知らない者がほとんど。

 しかしヘイデスはそれを知っていた、というよりは憶えていたというのが正解だろう。

 そうして彼は復興に関わったコロニー全てに、緊急時の避難シェルターの大量設置とジオン公国のコロニー潰しを引き合いに出し、有害物質をすぐさま検知して徹底的に排除する改良型循環システムの設置を病的なまでの執念で実行に移した。

 

 コロニーそのものへの毒ガスに対する対応力の向上に加え、毒ガスの散布それ自体の阻止にもまた力を入れたのは、語るまでもないだろう。

 なによりもかつて自分達の犯した罪を目の当たりにして、平静ではいられない人材をスカウトしている事からも、それは明白であった。

 例えばそう、関与を疑われない為に用意された宇宙用のリーオーを駆るシーマ・ガラハウのような人材だ。

 

「このあたしの目の届くところで、コロニーにそいつを撒こうってかい」

 

 外見こそリーオーだが、中身はカリッカリにチューンした特別仕様機のコックピットの中で、シーマの形相はまさに悪鬼のそれと化していた。

 なまじプルート財閥にスカウトされ、多くの重圧から解放された後であった分、目の前で再現されようとしているかつての悪夢には、ことさら怒りと悔恨の念を掻き立てられる。

 

「上等だよ! ここまであたしを怒らせて、タダで済むと思うんじゃないよ!!」

 

 30バンチのコロニー近域に接近中のアレキサンドリア級重巡洋艦数隻と、発艦したハイザックやジムⅡ部隊へと、シーマのリーオーを筆頭に同じくリーオーやハイザック、ジムⅡで偽装したシーマ艦隊がSFSを駆り、憤怒の悪鬼と化して襲い掛かった。

 この時、シーマ艦隊の母艦群は戦闘宙域から遠く離れた場所で戦闘の状況をモニタリングしていた。万が一にも発見されない為と、SFSによって推進剤の節約が叶った為、通常よりも遠い位置にてMS部隊の帰還を待つ事が可能だった為だ。

 そして、今回の毒ガス散布阻止の作戦の助っ人達が、特別にリリーマルレーンのブリッジに専用機材と共にいた。

 

「ゼファー、12時の方向からコロニーに接近する艦影を探知したわ。別動隊よ。貴方はそちらの部隊を何としても阻止して」

 

 ゼファーのオペレーター・エリシアと生みの親であるカインズ博士だ。

 地球連邦とジオン共和国から出向してきている面々を今回の作戦には参加させられない為、プルート財閥所属の二人とゼファーに極秘の指令としてヘイデスが頭を下げて、作戦への参加を嘆願したのである。

 いくら地球至上主義を標榜するティターンズとはいえ、コロニーの住人に毒ガス攻撃など、と話を聞かされた当初は信じられない様子だった二人も、ヘイデスがかき集めてきた情報の詳細と現実にコロニーに迫るティターンズ艦隊を見れば、人の悪意の悍ましさをまざまざと見せつけられて、顔色を青くしている。

 周囲の海兵隊員達が、憤怒の赤色に顔を染めているのとは対照的だ。カインズは今まさに目の前で行われようとしている蛮行に、苦痛を堪えているかのような表情を浮かべていた。

 

「戦争が終わっても育まれた憎しみと偏見、恐怖が容易く人間の箍を外す。際限なく膨れ上がる狂気を止めてくれ。そして、人を救え、ゼファー!」

 

 既にゼファーは別動隊を止めるべく出撃し、無人機ならではの超加速をもって急速に接近しつつあった。

 ゼファーのモニターにはティターンズの別動隊の画像のみならず、30バンチ内部で行われている大規模なデモや、デモには参加せずに日常生活を営んでいる人々の姿も映し出されている。

 

 エレカを運転してデートに出かけている若い男女。公園で談笑している老人達。サッカーボールを追いかけている子供達。

 ダイナーで旦那の稼ぎに愚痴を零している主婦達、メインストリートの屋台でホットドッグを購入している若者、壇上で熱弁を振るうデモ主催者に熱狂する人々……

 

 デモに関わった者もいる。そうでない者もいる。男がいる。女がいる。老人がいる。子供がいる。その全ての人々を一切の区別なく、平等に毒ガスは殺す。

 ヘイデスの入手した情報が確かなら、ひとたび毒ガスが撒かれれば住人達は気付く事も逃げる事も叶わずに死んでゆくだろう。

 

 ゼファーは言葉を発しない。文字を起こさない。しかし、今回の作戦の為に用意された機体に増設されたブースターに許される速度の限りを尽くしていた。

 別動隊はアレキサンドリア級一隻、サラミス級二隻に加え、ハイザック十数機からなる部隊である。MS並みに大きな毒ガス散布用のポッドを、二機一組のハイザックが運んでいる。

 ポッドは全部で三基あり、それを残る十機以上のハイザックが護衛している形だ。

 

 別動隊の指揮を担うアレキサンドリア級の艦長は、オペレーターの発した報告に少なからず驚きを見せた。

 輸送中もどこで嗅ぎつけてきたのか、ジオン残党に襲撃を受けてきたから、今更、新たな襲撃を受けたところで驚きはしないが……

 

「せ、接近する大型熱源を確認。MAと思われます! そ、速度は……秒速三十九キロメートル!」

 

 これはガンダム00セカンドシーズンに於いて、MSガラッゾがブースターを用いて主人公達へ奇襲を仕掛けてきた際の速度の半分ほどだ。

 

「MS部隊に対応させろ。対MS近接防御陣形を取る。敵のMAはなんだ? ザクレロか、それともビグロか。まさかビグ・ザムではあるまい!」

 

 なおビグ・ザムの最高速度はマッハ七とされているが、いくらでも後付けで変わる可能性もあるので信憑性は今一つだ。

 

「ライブラリに照合あり、敵機は……ヴァル・ヴァロです」

 

「随伴機もなしにMA一機で奇襲などと、自殺行為だと教えてやれ!」

 

 一年戦争前から連邦宇宙軍に所属していた歴戦の艦長は、多くの戦友を一年戦争で失ったが為に、ジオンへの憎悪をスペースノイドへの憎悪へと拡大させていた。

 皺の目立ち始めた顔には、毒ガスをコロニーへ注入する事への罪悪感よりもそれを邪魔された不快感の方が色濃く浮かび上がっている。

 

 ゼファーヴァル・ヴァロは機体後部に増設した使い捨ての改造ブースターを切り離し、こちらへ銃火を向けるハイザック部隊へと突撃を敢行する。

 欲を言えばトールギスを用いればより確実であったが、このヴァル・ヴァロも今回のような奇襲戦においてはいまだ有用だ。

 

 ビームあるいはマシンガンの銃弾が雨となって降り注いでくる中、ゼファーヴァル・ヴァロは甲殻類を思わせる赤い巨体からは想像もつかない軽やかな機動を見せ、一発の被弾もなく見る間に距離を詰める。

 ゼファーはヴァル・ヴァロに内蔵されている二門のビームガンと四門の110mmバルカン砲を同時に起動し、その全てで別々のハイザックをロックオン。次の瞬間には六機のハイザックの頭部や手足が吹き飛び、コントロールを失った機体が彼方へと吹き飛んでゆく。

 

 一瞬で六機の味方が戦闘能力を失った事実を、残るティターンズのパイロット達が認識した瞬間には、ゼファーヴァル・ヴァロの展開した二本の蟹の鋏めいたクローが新たな獲物を挟み込み、見る間にハイザックの下半身が握り潰される。

 流線形の外見は変わらずとも内部のパーツやエンジンが最新のものへと変えられたゼファーヴァル・ヴァロは、ティターンズの主力MS相手でも簡単に挟み潰すパワーがあった。

 

「コックピットへの攻撃は避けている? な、我々を馬鹿にしているのかあ!」

 

 MS部隊の隊長は舐められた、と激高しながらゼファーヴァル・ヴァロへとビームを乱射する。生き残りの他の機体や艦隊からも火砲が集中するが、有人機のMAでは到底出来ないような鋭角の回避機動と急加速・急減速を実行して見せる赤いMAの残像を貫くばかり。

 ゼファーヴァル・ヴァロが、次の狙いを護衛のハイザック部隊から毒ガスの輸送部隊へと移して機首を巡らせるのを見て、輸送部隊の内、二機のハイザックがポッドを手放して時間稼ぎをするべく向かってくる。

 毒ガスの散布はこのヴァル・ヴァロを撃退してからでも間に合うと判断したか、残りの二基の毒ガスでコロニー住人を皆殺しにするには十分だと判断したのか。

 

「こいつ、赤いカブトガニが、ああ゛あ゛あ゛!?」

 

 毒ガスを運んでいた残る四機のハイザックのパイロットの一人が、堪らず悪罵を吐き捨てた時、ゼファーがブースターを切り離した際に軌道をプログラミングして発射していたミサイルが彼らに襲い掛かり、ハイザックを小破から中破へと追い込む。

 当然、MSよりも脆弱なポッドとなれば、ミサイルの爆発に耐えられずに爆散して、宇宙空間へと毒ガスを無駄にばらまく。

 その状況にティターンズ将兵が一瞬意識を奪われる中で、ゼファーだけが行動を止めていなかった。機体のカバーが開いてメインウェポンであるメガ粒子砲の砲口が覗き、放たれた光の奔流が残る毒ガスのポッドを飲み込んだ。

 

「くそ、ポッドが!」

 

 たまらずアレキサンドリア級の艦長がアームレストに握り拳を叩きつけ、怒りの視線をゼファーヴァル・ヴァロへ向けるが、目的は果たしたと言わんばかりに宙域から離脱を始めており、改造されたMAの速度に追いつける機体は別動隊には存在していなかった。

 憤るシーマ艦隊もまたティターンズ艦隊の毒ガスポッドの全破壊を成し遂げ、またMSと艦隊にも大打撃を与える戦果を挙げており、30バンチへ毒ガス散布を行うべく派遣されたティターンズ艦隊の目論見は潰えたのだった。

 

 30バンチへの毒ガス散布に合わせて、ヘイデスもまた情報戦によるティターンズへの妨害行動を大々的に行っており、作戦中に回収した毒ガスのポッドや戦闘中に記録された画像を地球、コロニーの報道機関へ提供してティターンズの非道を訴えようとした。

 しかし、ジャミトフ・ハイマンもさるもの。

 これらの情報戦は地球連邦の情報統制によって厳しく取り締まられて、ティターンズは反地球連邦デモ鎮圧の為に催涙ガスを用いようとし、直前で命令が撤回された為にコロニーから引いて行った、というのが世間一般での通説となった。

 

 ティターンズの権限の凄まじさを裏付ける結果ではあったが、その為にジャミトフが各方面へと作った借りと失った手札の多さもまた想像するにあまりある。

 幸い30バンチ以外への毒ガス攻撃も行われなかったことで、死者を防げたことからヘイデスはこれ以上の成果を求めるのもよくない、とティターンズへの情報戦を止めて、シーマ艦隊とゼファー達への労いに意識を切り替えるのだった。

 

 

 30バンチ事件から数日後、ヨーロッパのとある地域の湖畔を望む古城の一室に、トレーズ・クシュリナーダの姿があった。

 数百年の歴史を感じさせる重厚な趣のデスクの上には、室内の調度品との融和を意識して作られた特別優美なデスクトップPCがあり、トレーズはそこに映し出されるゼファーヴァル・ヴァロの戦闘記録を見ている。

 彼の手腕によって一年戦争中から先日の30バンチ事件に至るまで、ゼファーの関わった事件の叶う限りの映像記録や資料がトレーズの下へと届けられ、彼は自らが口にした“見定める”という言葉を遵守していた。

 

「そうか、忌むべき蛮行を防いだか。人の尊厳を踏みにじる悪意を風が払った。その事実を私もまた認めよう、ヘイデス総帥。ゼファーファントムシステム……単なる無人機を生み出す機構で終わるのか、あるいはそれ以上の新たな可能性の扉を開く存在となるのか。

 ふ、私も世界に対してまだまだ学ぶべきものが多い。自らの至らなさを恥じ入るばかりだ。ゼファー、老人達の妄執する心無き人形との違いを君は自らの行動で証明し続けなければならない。ただオペレーターの指示に従っているだけではないと、そう確信させるなにかを」

 

 画面の向こうのゼファーへとそう語り掛けて、トレーズは椅子に背を預けて目を閉じ、自らの思考の深奥へ潜った。

 

 

 ゲシュペンストの完成を持ってひとまずの節目を迎えたプロメテウスプロジェクトも、そろそろ潮時かとヘイデスは考えていた。

 地球連邦とジオン共和国のトップエース達を数年に渡って集結させ続け、膨大なデータを生み出して両陣営と自社へ提供し続けたプロジェクトだが、いかに有用とはいえこれ以上の長時間の拘束は難しい。

 もちろん、彼らとて四六時中プロジェクトに詰めていたわけではなく、特にジオンのエース達は必要に応じて本国へ戻り、数カ月席を空けていたこともある。

 

 それにティターンズの暴挙を知った地球連邦軍人やコロニー住人達の間で反地球連邦運動が活性化し、エゥーゴが設立されたという情報を得たのもあり、そろそろ本格的な対異種、対異星人用の兵器開発に力を入れるべきだとも考えていた。

 プロメテウスプロジェクトではどうしても手に入るのはMSとそれに関する技術であるから、おおっぴらにMSとは明らかに別コンセプトのスーパーロボットやMSを相手にするには過剰な大火力兵器の開発は口実に苦しむ。

 事件が起きたのは、そのようにヘイデスが悩んでいた頃であった。

 

 その日、地球連邦からの出向者達は元々の所属からの呼び出しを受けて試験基地を離れ、ジオンからの出向者達はゲシュペンストに続く新型機の実地検証の為に、試験基地を離れて中東やアフリカを数カ月に渡って旅する途上にあった。

 プロジェクトの試験基地には所長を始めとしたスタッフの他は居ても、プロジェクトのパイロットはほぼ不在の状態であった。

 

残されたスタッフ達はヨーロッパの冬の訪れを空調の行き届いた基地の中からモニター越しに眺め、ヘリオースもどきの解析とゲシュペンストの後継機、そしてMBの新たな可能性について論議していた。

 地下に設置された大会議室の一つで顔を突き合わせ、各分野の優れた頭脳達が予算とアイディアと実用性の戦いを繰り広げていた時に、試験基地内部に危急の事態を告げる警報が鳴り響いたのである。

 

 ヘイデスが不在の為、事実上のトップは所長が務めるが、彼女は自身が戦闘や戦争に関してはズブの素人であるという自負がある為、基地防衛部隊の司令に指揮を預けて機動兵器のエキスパート兼スペシャリストとして助言をするに留めた。

 やはり地下に設けられた基地司令部にて、退役した地球連邦軍人だった防衛部隊の司令は顎の輪郭を覆う豊かな顎鬚を撫でながら、階段状になっている司令部最上段の席から正面の立体モニターの映像を眺めていた。

 その傍らに黒い軍服ワンピースと白衣姿の所長が居る。

 

「ヨハン司令、敵はどちら様かお分かりになりまして?」

 

 自分の娘でもおかしくない年齢差のある所長の問いに、ヨハン司令は氷の如く落ち着き払った態度のまま情報を共有する。

 

「三方向からMSの部隊がこちらへ向けて接近中だ。ドム、ドダイに乗ったグフといったジオン系に、ジムⅡにトラゴス、リーオー、ゲシュペンストの姿もある。

 全て合わせて二十四機。旧式が多いが、おおよそ一個大隊相当の戦力だよ。MSの混成具合は出所を絞らせない為だろうな」

 

「オデッサやア・バオア・クーで戦い抜かれた貴方が言われるのなら、そうなのでしょう。では敵の狙いは? この基地の資料や開発中の機体でしょうか。それとも基地の壊滅?」

 

 もし敵が所長の考えている通りの勢力であるのなら、ゲシュペンストを使ったのは30バンチ事件の際にハイザックを使った意趣返しか、あるいはゲシュペンストの開発元であるプロメテウスプロジェクトへの嫌がらせのどちらかだろう。

 

「あるいは、ニュータイプであるアムロ中尉の抹殺が目的かもしれん」

 

 一年戦争の英雄など、邪魔なだけの過去の遺物ということか。所長はヨハン司令の意見を耳にして、右の眉をピクリと動かした。

 

「なるほど? そう言えば地球連邦からの出向組の皆さんは、“偶然にも同じタイミング”でそれぞれ所属元に一時戻られておりましたわね。

 もしそうなら、大元締めの方がするにしては直接的すぎますわ。そこまで浅はかではないと思いますが、ヨハン司令はどのように思われますか?」

 

「私も所長と同意見だ。現場の暴走か独断だろう。彼のやり方には沿わない。さて、迎撃システムは予定通り稼働中だ。光子力バリヤーとIフィールドもいつでも発生させられる。

 仮に鹵獲しても全機自爆するだろう。遠慮せず全機撃破してしまって構わんかね?」

 

「技術の宝庫であるこの基地の襲撃を想定して備えてきましたが、実際に使う事態になるとは、何が功を奏すか分からないものですわね。遠慮なく……あら?」

 

 所長が言葉を止めたのはオペレーターの一人が、格納庫からの連絡を伝えてきたからだ。この基地にはプロジェクト参加メンバー以外にも、アレスコーポレーション所属のパイロット達が控えており、十二機のゲシュペンストP型が控えている。

 しかし通信を繋げてきたのは、防衛部隊ではなくトールギス・シューティングスターに搭乗したアムロからであった。

 

「司令、一番格納庫のアムロ中尉から通信です」

 

「繋げてくれたまえ」

 

 はい、とオペレーターが返事をした直後に正面の立体モニターに、パイロットスーツを着込んで機体に搭乗したアムロの映像が映し出される。オレンジがかったバイザーの向こうから、アムロはヨハン司令の瞳をまっすぐに見た。

 最高のニュータイプの一人と目されるアムロと、検査でニュータイプの素養があると判断されたヨハン司令は視線の交錯だけで、どれだけの情報をやり取りしたのか、所長は幾ばくかの興味があった。

 

『司令、こちらはいつでも出撃の準備は整っています』

 

 ヨハン司令は退役軍人である為、今は一般人だが、アムロの口調は上官に対する敬意の滲むものだった。

 ヨハン司令はさして悩む素振りも見せず、同じ格納庫で待機しているゼファーの状態をモニターで確認した後、即座に命令を発する。

 

「分かった。トールギス・シューティングスターとゼファートールギスは速やかに出撃し、迎撃行動に入りたまえ。中尉は二時方向の部隊を、ゼファーは九時方向の部隊を迎撃せよ。迎撃後、残る六時方向の部隊の迎撃に当たれ。

 迎撃システムは六時方向の敵部隊に対してのみ起動。防衛部隊は発進準備を進め、基地内部で待機」

 

『了解。ただちに迎撃行動に移ります』

 

 

 試験基地に対して六時方向から接近する部隊の隊長は、最後のデザートに指定されたとは知らぬまま、ゲシュペンストのコックピットの中で、今回の任務の為に用意された機体の高性能ぶりに感心し同時に嘆いてもいた。

 

(まったくこれだけの機体だというのに、ジオン共和国が開発に携わっていると宣伝されてしまっては、堂々と採用も出来ないか。ハイザックも悪い機体ではないが、ゲシュペンストが優秀過ぎる)

 

 彼の本来の所属であるティターンズの主力MSは、新代歴185年時点でハイザックだ。採用から一年が経過してもまだ数の少ない機体だが、エリート部隊であるティターンズには優先して配備されている。

 一方で通常の連邦軍はというと欧州方面はリーオーを主力MSとし、極東方面や中東、アフリカといった地域ではゲシュペンストが主力MSとなっている。

 こうして考えるとエリート部隊であるはずのティターンズが、性能の劣るMSを主力にしているという逆転現象が起きている。

 

 それもこれもプルート財閥がゲシュペンストの開発に関して、地球連邦のみならずジオン共和国の多大なる協力があったと堂々と宣言して、開発の手柄を一人占めしなかったのが原因だ。

 地球連邦政府並びに連邦軍では、ティターンズに代表される地球至上主義の声が大きくなってきているが、同時に民・官共にスペースノイドとの戦後の新たな融和を主張する声も小さくない。

 そういった風潮もあり、ゲシュペンストは新世代の性能と相まって一般の部隊に積極的に導入されている。

 

 どうせ青筋を浮かべて反対しているのは、バスク大佐だろう、と隊長は内心で愚痴を零した。

 隊長はジオン公国に対してはいくらでも罵倒の言葉をひねり出せるが、命を預けるMSに関しては出自を問わず性能の良いものを配備して欲しいと願う程度には、思想よりも現実を優先している。

 

 民間企業であるプルート財閥が予算のほとんどを捻出し、場所も資材も負担して開発されたゲシュペンストに対して、ティターンズは危機感と対抗意識をこれでもかと燃やして、ムーバブル・フレーム搭載のMSをあくまで地球連邦主導――ひいてはティターンズの下で開発するべく躍起になっている。

 そして次代のフラグシップとすべく、一年戦争で奇跡的な戦果を挙げた『ガンダム』の後継機として開発されているという噂を隊長は耳にしている。

 ニュータイプとして名の知れたアムロではなく、ティターンズのパイロットが乗るガンダムを次の時代の地球のシンボルとすべく、鼻息を荒くして技術者達に発破をかけているらしい。

 

(だからアムロ・レイを殺せって? ガンダムのパイロットのイメージを払拭しようってか。せこせこと小狡い真似をするぜ、ティターンズって名前が泣いてらあ)

 

「隊長、試験基地から熱源体が……は、速い!」

 

 同伴した部下から通信が届いた直後、ドダイに乗っていたグフ三機の反応が消失する。

 

「な、秒殺か!?」

 

 基地の地下に仕込んでいたカタパルトから直上へ向けて出撃した二機のトールギスは、ヨハン司令の指示通りに二手に分かれ、アムロが捉えたグフへと向けてビームライフルを三射し、たったそれだけで三機のグフはドダイごと撃墜されたのである。

 グフが戦闘不能になったのを見届けるまでもなく、アムロは慣れ親しんだ機体を、眼下で疾走するドムとトラゴスの編成部隊へと急降下させる。

 

「遅いな。反撃位、想定できていただろうに!」

 

 ドーバーガンと比べて取り回しの良さから、アムロはサブウェポンのビームライフルを機体の右手に握らせ、彼からすればあまりに遅い動作でバズーカとキャノンを向けてくる敵機へ、更に二発放ったビームがドムの胸部とトラゴスの頭部を撃ち抜く。

 地面に激突する寸前でスーパーバーニアの推進方向を切り替え、舞い上がる粉塵が機体の姿を包み込んだ。

 残るジムⅡ二機は手にしたビームライフルを遮二無二、砂塵の中へと撃ち込んだが、砂塵を割ってきたハイパーハンマーの一撃でシールドごと纏めて左半身を叩き潰され、もう一機は両手両足を一秒以内の四連射という早業で撃ち抜かれて、その場に倒れ込んだ。

 

 ゼファートールギスと対峙した三機のリーオーとゲルググ二機、グフ、陸戦型ジム二機もまた、抵抗らしい抵抗を行えずにいた。

 ゼファートールギスが上空を高速で移動しながら、両手に握られたビームガンが火を噴き、正確無比な狙いによって手に持った武器が撃ち抜かれ、次いで四肢を撃たれて仰向けうつぶせになって無様に大地の上で横になる。

 

「は、速過ぎる。一発も当てられなかっただと!?」

 

 機体こそ旧式が多いが、今回の襲撃に選抜されたパイロット達は確かな腕を持つ精鋭揃いだった。今回は彼らの狙った相手とその機体のどちらとも、隔絶した組み合わせであったのが彼らのどうしようもない不運だ。

 十六機のMSが戦闘不能に陥ったのを理解し、隊長は自分がひいては今回の襲撃を企画した一部の上層部が、あまりに敵を見縊っていた事、そしてあまりに知らなさ過ぎた事を理解した。

 

「全機、ロックオンしていなくても構わん。足を止めるな、ひたすら撃ち続けろ!」

 

 気付けばそう叫んでいた。少なくとも撃っている間はまだ生きているという事なのだから。

 同行する四機のジムⅡと三機のゲシュペンスト達は、隊長の叫びにほとんど反射的に従って、レーダーに捉えている二機のトールギスへとビームを連射するが、MSが出し得るとは信じがたい速度と変態的機動で飛び回る二機の影すら捉える事さえ出来ない。

 

「ろ、ロックオンも出来ないのか!?」

 

 隊長が信じがたい事実に驚愕の叫びをあげた時、ゲシュペンスト三機の胴体がビームに撃ち抜かれ、ジムⅡ四機が四肢を撃ち抜かれていた。

 

「馬鹿な、こっちは動いているんだぞ、止まったままの的じゃないんだ!?」

 

 隊長の叫びは虚しくコックピットの中で響くだけだった。

 驚愕と恐怖と後悔に支配される隊長の耳は、急速接近する熱源に対する警報を聞き、直後、直上から舞い降りる白い流星の如きトールギス・シューティングスターと、その機体が振り下ろす鎖付き棘鉄球を目にする。

 

(二十四機のMSが一分と持たずに!?)

 

 試験基地を襲った二十四機のMSが、アムロとゼファーによって壊滅した直後、残っていた機体が手動かあるいは自動で自爆した映像をモニター越しに見て、所長は深々と溜息を吐いた。

 無為に失われた生命への憐れみ、憤り、悲しみ、嘆き、そういった感情全てを凝縮した溜息だった。一見冷徹に見える容姿と雰囲気の女性だが、その実、情の深さや他者への共感性に関しては人一倍だ。

 

「今回の襲撃は上手く退けられましたけれど、これで終わると思われますか、ヨハン司令」

 

「今の情勢では、襲撃自体はこれで終わるだろう。だが力で攻めて駄目ならば、別の手を打てばいい。ジャミトフ・ハイマンは本来そちらの方の人間だよ、所長」

 

「はあ、そうなりますとウチの総帥の得意分野になりますわね。さて、どんな無理難題が吹っ掛けられるやら」

 

「なあに、そう無体なことは要求してこないさ。プルート財閥の影響力はロームフェラやアナハイムに匹敵する。たとえティターンズでも、早々無茶を通せる相手ではない。それにどういう結果になるとしても、ヘイデス総帥ならば悪い事にはならないよ」

 

 ようやく肩の荷が下りた、と隠居を決め込んだ自分をこうして引っ張り上げた若者の顔を思い、ヨハン司令は愉快気に笑うのだった。

 

■新代歴186年

 

 この年、プロメテウスプロジェクトの愉快な仲間達は一カ月をかけて世界一周旅行を楽しんでいた。“プロジェクトの解散”に伴って、これまで多大な貢献を成してくれたメンバーへのヘイデスなりの感謝であった。

 本社のあるギリシャからヨーロッパ、中東、アジアと回り、今は日本を訪れて各地の研究所に挨拶がてら観光を楽しんでいる。この旅行にはシュメシとヘマー、そして所長との間に設けた二人の子供達も同行している。

 

 今は宇宙科学研究所と隣接するシラカバ牧場というところを訪れており、ランバ・ラルはクラウレ・ハモンと共に馬に乗ってさっそうと駆け、黒い三連星は牧場産のチーズやミルクの試食をさせて貰っている光景が見られる。

 スペースコロニーでは早々体験できない経験に年齢を忘れて楽しむ者が多くを占め、プロメテウスプロジェクトという最高の遊び場を取り上げられることに不平不満を漏らしていたヤザンも、不満顔こそ浮かべているが大人しいものだ。

 

 ヘイデスは牧場主の牧場団兵衛氏に挨拶と今回の訪問に応じてくれたお礼を重ねて告げてから、愛する妻と子供達の下へと向かった。なお、牧場氏には困った時にはいつでもご連絡ください、と名刺を渡している。

 シュメシとヘマーは相変わらず通常の数倍の成長速度を見せて、今では十三、四歳ほどの絵に描いたような美少年と美少女へと成長している。

 

 ヘイデスの実子である次男クリュメノス(“気高き者”の意)と次女コレー(“娘・少女”の意)は、年相応の外見である為、実年齢以上に歳の離れた兄弟であるように見える。

 シュメシとヘマーはこの血のつながらぬ弟と妹を、殊の外、可愛がっていた。

 ゼファーだけ仲間外れにしては可哀そうだ、と双子が主張した事で、ゼファーの外部端末として作られたゼファーハロを抱えたヘマーがクリュメノスと手を繋ぎ、シュメシがコレーと固く手を繋いでいる。

 

 所長やカインズ博士、テレンス博士達は昨日、宇宙科学研究所の宇門博士の下を訪れて、実に有意義な話が出来たとホクホク笑顔だ。

 牧場を訪れるとあってブルーのスラックスに白いブラウス、それにルーズVネックベスト姿の所長の下へ、ジーンズにセーター姿というごくありふれた姿のヘイデスが近寄る。

 

「やあやあ、お待たせ」

 

「いえ、待ってはおりませんわ。それにしても土地が変われば馬も牛も変わるものですわねえ。観察しがいがありましてよ。

 それにこの牧場の子達はきちんと優しい気質ですから、こちらが節度を守れば危なくありませんもの」

 

「そうかい、それは良かった。博士達はちょっと眠たそうにしているけれど、宇門博士との話し合いの成果かな?」

 

「ええ、流石は宇宙研究の大権威。身になる話ばかりでした。これも宇宙科学研究所に出資してくれていたお陰です」

 

「君の役に立ったならなによりさ。シュメシ、ヘマー、クリュメノス、コレー、お馬さんや牛さんはどうだい。近くで見るととっても大きいだろう? それに優しい目をしているねえ。このご時世にこれだけ大きな牧場を経営しているのだから、牧場氏は大したものだ」

 

 ヘイデスは普段、ビジネス関係の人間ばかりを相手にしているものだから、こうして腹の探り合いをする必要のない動物達を前にして、少し気の抜けた様子である。

 柵に手をついてのびのびと草を食む牛や馬達の姿を、穏やかな眼差しで見ている。お父さん、お父さん、とじゃれついてくる子供達の相手をしていると、自分が居るのが地獄の如きスパロボ時空だというのを忘れそうになる。

 まあ、ちょくちょく視界の中にシャアやらアムロやらユウやら、ソフトクリームを食べさせ合っているクリスチーナとバーニィやらが入ってくるので、完全に忘れるのは無理だったが。

 

「ねえ、お父さん、星の王子様が来たよ。独りぼっちになってしまった、可哀そうな王子様」

 

 と言葉が流暢になったシュメシが牧場の入り口の方を指さすので、ヘイデスは素直にそちらを振り返った。

 するとヘマーもまたゼファーハロを抱えたまま、人形のように整い過ぎた程に美しい顔に悲しみの色を浮かべる。

 

「故郷を追われて、大好きな人達を失って、辛くて苦しくて悲しんでいる人」

 

「姉さん?」

 

「どうしたの、お姉ちゃん」

 

 今にも泣きだしそうな表情になっているヘマーを見て、クリュメノスとコレーもつられて悲し気になるのを見て、ヘマーは微笑して首を横に振る。

 

「大丈夫、私が悲しいわけじゃないから。ね?」

 

 そうして子供達が語り合う中、ヘイデスは振り返った視線の先に見えた人影に、ひぐ、と喉の奥で変な音を出しかけ、慌てて飲み込んでいた。

 宇門博士を訪れた際に見かけたので分かってはいたのだ。宇宙科学研究所だけでは思い出せなかったが、彼を見た事でようやく“アレ”もかとヘイデスは認識したものだ。

 黄色いシャツに革のベストを着込んだ青年、宇門大介がヘイデスの瞳に映っていた。宇門博士の息子であり、このシラカバ牧場には頻繁に手伝いに来ている。

 だがヘイデスは彼の本当の名前を知っていた。デューク・フリード、『UFOロボ グレンダイザー』の主人公を務めるフリード星の王子であるが……

 

(まだマジンガーZの原作が始まっていない時系列だけど、彼ってもう地球に来ていたんだっけ? スパロボでしか知らないからあんまりよく分かんないんだよなあ。しかし、まあ、あれだ。宇宙征服を狙える規模の敵勢力の追加か……ああああああああああああ)

 

 プロジェクトメンバーと家族の為の旅行で、胃を痛める更なる要因と遭遇した彼の心痛は並みならぬものであった。子供達を心配させない為に笑顔こそ維持していたが、心の中では血涙と鼻血と吐血のコンボを決めて、のたうち回っていたのだから。

 

 

 さて、その夜、貸切ったホテルのバーカウンターでプロメテウスプロジェクトの主要パイロットが集まり、思う存分、お酒の味を楽しんでいた。

 

「なあ、総帥よお、どうしてこんなにあっさりとプロジェクトの解散を決めちまったんだあ? 俺にとっちゃ最高の職場だったんだぞ? それを取り上げる権利があんたにあるのか」

 

 と随分と酒臭いヤザンが、カウンターのスツールに腰かけていたヘイデスに溜め込んでいた不満を思い切りぶちまけた。

 山梨の甲州ワインの入ったグラスを手にしていたヘイデスは、ここで不満が爆発したかあ、と苦笑いを浮かべる。

 

 昨年の冬に発生した試験基地の襲撃を切り抜けた後、プロジェクトに出向している地球連邦のメンバーに異動の辞令が発せられて、プロジェクトからの離脱が強制的に決まっていた。

 また連邦からの資材や技術提供の収縮と打ち切りも決まった為に、ヘイデスはプロジェクトはもはや役目を果たしたとして、プロジェクトそのものの解散を決めたのだった。

 

「ふふ、ヤザン中尉にそこまで気に入っていてもらえたのなら、プロジェクトを立ち上げた甲斐がありましたよ。

 ジオニック社の債権を買えなかった焦りだ、とか色々と言ってきた連中の鼻は明かしてやりましたし、成果も十分上がりましたからね。これからはそれぞれの陣営で技術を発展させてゆく段階だってことです」

 

「ちっ、連邦とティターンズにまともな機体が作れりゃいいが、この面子程の腕っこきが集まるかよ」

 

 子供っぽく下唇を尖らせるヤザンは、ヘイデスの摘まんでいたシラカバ牧場産のチーズを鷲掴みにすると、乱暴に口の中に放り込んで味わいも何もない豪快な食べ方をする。

 流石に見逃せる範囲を超えていると、ブランとライラがヤザンの両腕を抱えて無理やり立たせる。二人もそれなりにお酒を口にしているが、酔う程ではなかった。

 

「ヤザン、そこまでにしておけ。お前の不満は分からないではないが、軍からの命令では俺達も逆らえん」

 

「ブラン大尉の言う通りさ。あんたがヘイデス総帥に愚痴を言ったって、プロジェクトの解散は取り止めになりゃしないんだ。すみませんね、総帥。ただあたしらもヤザンと同じ気持ちが多少はありますよ。ここは随分刺激的で退屈しない場所でしたから」

 

「うん、そう言って貰える事が僕にとっては、何よりの報酬です。貴方達と知り合えたのも、このプロジェクトで得られた財産です。また別の機会でお会いする事もありますよ」

 

「ええ、出来れば穏やかな場でお会いしたいものです。そら、ヤザン、行くぞ」

 

 そうしてブランとライラは、まだ言い足りなさそうなヤザンを引っ立ててゆく。そうすると別のソファでウイスキーやブランデーを飲んでいたジョニーとシン、黒い三連星達がヘイデスを振り返った。

 

「なあ、総帥、ゲシュペンストの次が出来たらこっちにも卸してくれよ。それまではゲシュペンストをジオンらしく改造して、やりくりしていくからよ」

 

「ライデン中佐の言うようにティターンズやOZが新しい機体を開発している以上、我々も同じところで足踏みはしていられん。そういう意味ではこのプロジェクトへの参加は、大変、意義のあるものでしたぞ、総帥」

 

 お酒が入っても真面目なシンに、ヘイデスはもちろんと頷き返す。既にゲシュペンストMk-ⅡやゲシュペンストS型をベースとしたスーパーロボット系列機などの新型機の開発はスタートし、少しでも戦力の向上を目指している。

 ヘイデスの睨むこのスパロボ時空の本編が始まる来年までに、どこまでの事が出来るか、ヘイデスは毎日を必死に働いて過ごしていた。

 

(まあ、ガルマのジオンならアクシズに協力するようなことにはならんだろう。ミネバに関してはユニコーンか、ムーンクライシスか、それとも逆襲のギガンティスか、どの末路になる? ギガンティスルートだけは止めてよね、ホント。ホントのホントにさあ……)

 

 結局、ミネバ・ラオ・ザビは後から出てくる作品によって行く末が変わるし、公式非公式色々とあるのだろうけれど、全部影武者で実は本物はどの作品にも出ていなかったって事でいいんじゃないの、とヘイデスの思考はあらぬ方へと移ろっていた。

 そこへ、ヘイデスを挟んでシャアとアムロがスツールに腰を落とす。シャアはウイスキーの入ったグラスを、アムロは地元産のビールを片手に持っている。プロジェクト発足当時は未成年だったアムロも、今ではすっかりお酒を飲める歳になっていた。

 

「おや、今度はお二人ですか。今日の僕は人気者ですね」

 

「これから話す機会も減るようだから、この際に総帥とこれまでしてこなかった話をしようと思ってね」

 

 そう告げると、アムロはリラックスした表情でビールに口をつけた。

 

「ヤザン中尉が言っていたように、僕にとってもこのプロジェクトはやり甲斐のある仕事だったよ。改めてこれからの自分の将来に向けて、向き合う機会にもなったと思う。それとシャアに対して過剰な期待を抱いていたのも、痛感できた」

 

「まるで幻滅したような言い方だな。だが、それは私も同じだ。どうも私達はお互いに対してもっと出来る筈だと、押しつけがましい考えを抱いていたようだったからな」

 

「ああ、例えば連邦を内部から改革するだとか、ジオンかあるいはスペースノイドの旗頭になって、新しい時代を切り開く革命者になれるはずだとか?」

 

 ピンと来たヘイデスがそう口にすれば、アムロとシャアはそろって苦笑いを浮かべてお酒を飲む。

 ヘイデスの見たところ、二人とも現場の指揮官あたりが性に合っているだろう。一つの勢力を率いる立場に立つのは、本人達からすれば望ましくはなさそうだ。

 まあ、したくないからといって、しないで済ませられる立場であるのを、なかなか許してもらえない二人ではあるが。

 

「お互いの事が分かる機会を提供できたならよかったですよ。それに、そういう意味ではお二人ともまだまだこれまでの人間と変わらないってことです」

 

「ほう、そういえば総帥の考えるニュータイプについて、これまで伺ったことがなかったが、良ければ聞かせてもらえないか?」

 

 シャアの瞳はサングラスの奥に隠されていて、今、本気なのか酒の席の話で済ませるつもりなのか、ヘイデスには読み取れなかった。

 まあいいさ、とヘイデスは誤魔化す選択肢を放り捨てて、正直に胸の内を語った。スパロボプレイヤーとしての客観的な意見と、そしてこの世界に生を受けた人間としての主観を交えた感想である。

 

「ニュータイプですか、そうですねえ、人類が宇宙環境に適応して進化するってのはあり得る話です。だって、アースノイドはいわば地球環境に適応した人類なんですからね。だったら宇宙にだって適応するでしょうよ。

 その適応の仕方が宇宙という広大な空間で、認識力が拡大化するという説も納得できますよ。だからといって慈愛に満ちた精神を得られるだとか、スムーズに相互理解が出来るようになるか、というとかなり難しそうです。

 言語という意思表示の為のツールを得た今の人類が、どれだけの歴史を重ねてきてもなお誤解と相互不理解を繰り返してきたかを考えれば、宇宙という新たな要素を加味しても早々上手くはいかんでしょう。

 誤解しないでいただきたいのは、僕は故ジオン・ズム・ダイクン氏のニュータイプの定義を否定しているのではなく、そこに至るまでにいくつかのステージを経るのが自然ではないかと考えているという事です」

 

「ほう?」

 

「アムロ中尉やシャア大佐、それに一年戦争中にニュータイプとされた人々は、その第一世代、はしり、変わり始めの方達だと僕は思っています。ニュータイプという蝶になる為の蛹、といったところでしょうか。

 僕はオールドタイプという言い方が嫌いなのでアースノイドと言いますが、アースノイドからニュータイプへと進化する過程の人々じゃないんですかね。

 お二人には、通信機器や言葉を介さずに相手の精神と共感し、意思を伝えあった経験があるそうですが、では分かり合えましたか? “分かる”のと“分かり合える”のはまったくの別物ですよ」

 

 アルコールが回り始めたのか、いつになく饒舌なヘイデスの言葉を、アムロとシャアは黙って聞き続ける。

 

「一方的にただ相手を分かるのは、ノックもせずに土足で相手の家に上がるようなものですよ。相手を傷つけず、分かり合える慈愛と相互理解の精神を備えるのがニュータイプだとして、お二人は自分をそうだと胸を張って言えますか?」

 

 ヘイデスの問いにアムロとシャアは苦笑いを浮かべるか、首を横に振るって小さく否定した。

 

「いや、とてもではないが胸は張れないな。伝えるだけと伝わるだけでは、確かに相互理解からは程遠いだろうな」

 

 過去の苦い思い出を想起し、アムロは悲し気に視線を伏せる。

 

「そう急がなくてもこのまま人類が衰退せずに、生活圏を宇宙へと広げていけばニュータイプに近い人々が放っておいても増えて、世代を重ねるごとにジオン氏の定義する真のニュータイプかそれに近い何かへ変わっていきますよ。

 ひょっとしたら、もっと良い生き物になる可能性だってあるんですから。自分の生きている内に人類の革新を目の当たりにしたいとなると、これはまた面倒ですが」

 

「いっそコールドスリープでもして、百年後くらいに解凍してもらえばいいのかもしれないな」

 

 冗談交じりに告げるアムロに、ヘイデスは大きく笑った。

 

「あははは、それは良いかもしれませんね! 寝て、起きて、上手い事、人類が革新を迎えた時代だったら、楽して儲けたってもんですよ。

 進化なんてもんは長い時間をかけて行うものなのですから、急ぎ過ぎない、後の世代に託す、ここら辺が待つコツですよ」

 

 ゲッター線あたりの進化は急すぎるし、物騒だし、虚無りかねないしね! とヘイデスは心の中で付け加えた。

 自分の言葉などで二人にどこまで影響を与えられるか分かったものではないが、少しは前向きになれると良い、とヘイデスは切に願いながら甲州ワインの最後の一口を飲み干した。

 

 

 地球連邦軍極東支部。日本を中心とした地域を管轄する連邦軍の拠点であり、数多くのスーパーロボット研究所が存在する事から、紛れもなく激戦区となるのが約束された支部である。

 その支部に支部長であり、ボルテスVのパイロットの一人、岡めぐみの父・岡長官、プルート財閥総帥ヘイデス、ヘパイストスラボの所長、弓教授、早乙女博士、剛博士夫妻、竜崎博士、南原博士、四谷博士、宇門博士、ムトロポリスの東山所長、そして連邦軍所属の葉月孝太郎博士といった超頭脳の持ち主達の姿がある。

 

 各員の手元にはそれぞれの博士達が抱え込んでいたとある資料が纏められ、配布されている。その資料に記載されている驚愕すべき内容に、博士達の表情は揃って苦々しく、渋いものとなっている。

 あらかじめそうなると知っていたヘイデスはともかく、他の博士達にとって、世界はこれほどまでに絶望に満ちていたのかと突き付けられたようなものなのだから。

 

「古代ミケーネの遺産を悪用するDr.ヘル、ゲッター線から逃れるために地下へと逃げた恐竜達の文明、古代の文献に記された眠れる異星人、そして宇宙の彼方で侵略行為を行っている異星人達……。

 一つ一つでも頭の痛い事態ですが、皆さんがそれぞれ連邦政府と協力して対抗策を練っていたものをすべてまとめると、これだけの量になるわけです。連邦政府が軍備を増強するのも納得でしょう?」

 

 ヘイデスは不謹慎ながらも自分の胃痛とストレスを多少共有できる状況に、ちょっと嬉しそうであった。

 異種や異星からの脅威が一つきりではなかったと思い知らされた博士達は、揃って重々しい雰囲気だが、それも無理はない。

 下手をしたら資料に記載された脅威がまとめて地球と人類に襲い掛かってくるかもしれないと考えれば、ヘイデスのようにたとえハッタリでも笑顔を浮かべられるわけもない。

 

「今回、皆さんにお集まりいただいたのは、この資料にある通り近い将来、これらの内のいくつか、あるいは全て、またあるいは更なる未知の存在を含めた“悪意ある敵”の襲来に備える為です。

 既に皆さんの中には独自に地球連邦政府と協力し、対抗手段の開発や建造に着手されている方もいらっしゃいますが、プルート財閥と地球連邦軍極東支部の全面的バックアップの下、より大々的かつ強力な計画を推し進めるべく、協力を仰ぎたいのです」

 

 ここで正面の大型モニターの画像が切り替わり、地球を背景にとある文字が表示される。

 

「地球の頭脳達の相互協力による、地球人類を守る鋼の守護神を作り出す為の計画、それが“SRG(Super Robot Guardians)”計画です。

 アースノイド、ルナリアン、スペースノイド、マーシャン、ジュピトリアンの区別なく、全地球人類を守護する剣にして盾を作り出す為に、そして平和な未来を得る為に、どうか皆さんの知性をお貸しください。残念ながら、人類に逃げ場はないのですから」

 

 

「……あ~」

 

 SRG計画発足の為のお膳立てと根回しを済ませ、顔色を青くした博士達と別れ、ギリシャにある本社へと戻ったヘイデスは、これで自分に出来る大体のことはし尽くしたな、と気を緩めていた。

 彼の机の上には、所長から提出されたさる兵器の資料が並べられていた。MBとして確立したバクゥもどきだが、早乙女博士との協力関係の構築から進化した恐竜との戦いが想定され、開発の方向性に恐竜型が追加されたのだ。

 これまではライオン、虎、狼などの動物型だけだったのに対し、恐竜型と昆虫型も所長の部下に当たるトミイ・タカラダ氏から提案されている。

 

(ゾイドというとシールドライガー、セイバータイガー、ブレードライガー、ジェノザウラー、デスザウラー、デススティンガー、ゴジュラス、レッドホーン、アイアンコング、ヘルキャット、コマンドウルフ……あんまり覚えてないもんだな。

 というかゾイドって滅茶滅茶多くなかった? ええっと、スパロボにも数作が参戦していた筈。

 確か、俺はアニメの三作品くらいは見ていたっけ? デスザウラーとデススティンガーがとにかくでかくて強かったのは覚えているけど、ヤザンあたりが乗ったら似合いそう)

 

 ヘイデスはアニメのデスザウラーとデススティンガーが特別なのであって、量産されたノーマル仕様とは全くの別物だということを知らない。加えてバトルストーリーという架空戦記の内容をほぼ知らず、アニメとスパロボでの知識しかなかった。

 

(恐竜帝国のメカザウルスを相手にするなら、少なくとも同じサイズにはしておきたいし、ゴジュラスやデスザウラーは全高五十メートル級にしてもらおう。

 ゾイドコアはないけれど、ゼファーファントムシステムを流用して、実際の動物のモーションを学習させた補助AIを開発して搭載か。恐竜に関してはシミュレーションになるわな)

 

 そうして達成感で動きの鈍くなった脳を動かして、改めて提出された開発計画の資料を見る。

 

「そうだな。モビルビーストではなくモビルゾイド(MZ)とカテゴリーを改めよう、うん」

 

 ヘイデスは、モビルはともかくなぜゾイドなのかと聞かれたら答えに困るが、たとえ形だけでもゾイドを真似る事への敬意と謝意を含めて、モビルゾイドの呼称を改める気はなかった。

 30バンチ事件の阻止、プロメテウスプロジェクトの解散、SRG計画の発足、MZの開発開始とヘイデスはおよそ彼の記憶と財力の及ぶ限りにおいて、手を打ったと言っていい。

 そう、だから、後は迎えるだけだ。新代歴187年、地獄の蓋が開くその時を。

 

<続>

 

■ゲシュペンストMが開発されました。

■ゼファーヴァル・ヴァロが開発されました。

■プロメテウスプロジェクトが解散しました。

■出向していた人々が元の所属へ戻りました。

■ゼファーハロが開発されました。

■SRG計画が発足しました。

■モビルビーストがモビルゾイドへ名称変更されました。

■モビルゾイドの開発が決定されました。

■ゲシュペンストMk-IIの開発が始まりました。

■ゲシュペンストS型の後継機開発が始まりました。

 

☆UFOロボ グレンダイザー が参戦しました!

☆超獣機神ダンクーガ が参戦しました!




本編に突入せずにここで終わらせてもよいのでは?


たぶん、居るだけ参戦もいくらか出るんじゃないかなあと思います。
とりあえずデスザウラーとデススティンガーとゴジュラスを並べて、メカザウルスと取っ組み合いさせたら絵になりそうだなと思います。
ちなみに好きなゾイドはレッドホーンです。


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第九話 本編に進むのが怖い主人公と作者

サブタイトルの通り本編に入る前の開発状況などを少々(´・ω・`)
本編を始めたいような始めたくないような……


「あれだけの成果を上げたプロジェクトを解散とは、随分と潔い判断だったな、ヘイデス総帥」

 

 ヘイデスの対面のソファに座し、そう告げたのは地球連邦軍統合参謀本部議長であるゴップだ。数年に渡る付き合いとなった老練なるゴップと、ヘイデスはジャブローにて会談中であった。

 

「落としどころとしては双方にとって妥協できるところでした。ただ、ジャミトフ閣下は配下の手綱を握りきれておりません。その点において、今後、ご自身の首を絞める結果に繋がるのではないかと案じております」

 

 ヘイデスの脳裏にはバスクとジャマイカンの顔が浮かんでいた。スパロボではおおむねジャミトフに忠誠を誓っている二人だが、原作を見るにジャミトフの意向に沿わない過激な独断行動に走っている。

 正直、この二人をさっさと更迭してもっとマシな人材を確保した方がよかったのではと思わないでもない。

 

 ただ、バスクほどの過激さであればスペースノイドの弾圧には適任であろうし、苛烈な作戦にも躊躇がないのは使い勝手の良さでもある、とはヘイデスも認める。

 ジャミトフの真意が、地球経済を破綻させて大混乱を引き起こし、地球に住む人々の大規模な粛清と地球環境の再生を果たす、というものであるのをバスクが知らぬのは、ほぼすべての作品で共通するところだ。

 

「ふっふ、君の助言を聞き入れる度量が彼にあればよいが、そのような機会はあるまいよ」

 

「ジャミトフ閣下はともかく、バスク大佐からは嫌われておりましょうから。ジャミトフ閣下の耳に届く前に潰されてしまうでしょうね」

 

 ヘイデスとしては、バスクに関してジオンに拷問を受けた過去は同情に値するが、その後の憎悪と怒りの発露の仕方が度を越している。

 地球人類規模で危急の事態に陥ったとしても、彼は己の感情を優先した行為に走りかねない。

 それこそスパロボMXで状況を省みず、ギルガザムネで戦場に乗り込んできたダイモスの三輪長官のように。三輪長官もたまに少しはマシなところを見せる事もあるのだが……。

 

「それに君もなんの報復もしなかったわけではないだろう。ティターンズの運営していたパイロット養成機関“スクール”を解散に追い込んだのは、君の差し金かね?」

 

「はは、どうでしょう。しかし、外科手術や投薬、暗示による記憶操作に肉体改造など外道の所業でしょう。

 歴史を振り返ってみればそういった行為の前例が枚挙に暇がないのは人類の悪性の証明ではありますが、だからといってこの時代になってまで率先してやる必要はありますまい。

 優秀なパイロットを得る為、あるいは人工ニュータイプを作り出す為という名分は、免罪符足り得ないと考えます」

 

「ふふ、オーガスタやニュータイプ研究所の連中は、次は自分達の番かと焦ったかもしれん。だがスクールをトカゲの尻尾代わりにしたことで、警戒の度合いは増した。次は同じようには行かんぞ」

 

「もしスクールを世間にリークした実行犯と会う機会があったなら、そうアドバイスいたします」

 

 澄ました顔で答えるヘイデスだが、目の前の御仁にはスクールに対して行った情報戦について、根拠の有無は別として読み切っているな、と手に汗を握りながら判断した。そう考えて言葉を選ばねば足を掬われるだろう。

 正直、この世界にもスクールが存在したのには驚いたが、スクールがティターンズ傘下の組織であったから、ここではOGシリーズの設定ではなく第二スーパーロボット大戦αの方の設定が現実に組み込まれているのだろうと判断している。

 第二次αではスクールの生き残りであるアラド・バランガとゼオラ・シュバイツァーが、ティターンズ残党となったヤザンの下に配属されていたのを、ヘイデスは憶えていた。

 

 それはそれとして強化人間の研究をしている連中を一網打尽に出来なかったのは悔しくもあり、同時にフォウ・ムラサメやロザミア・バダムといった人々の運命を変える恐怖もあった。

 まあ、この世界ではコロニーが落ちていないから、コロニー落としの恐怖を利用した暗示を受けている人々は、原作とは異なる人生を歩んでいる確率が高いわけだけれど。

 

「スクールに関わっていた研究者や軍人は拘束されたが、スクールの生徒達、この場合は被害者と言うべきか、彼らは君のところで引き取ったそうだな、ヘイデス総帥」

 

「ええ。元々、難民や戦災孤児向けの支援事業を手広く行っておりましたし、スクールのような特別な事情を持った子供達となれば、一般の孤児院や養護施設では手に余ります」

 

「ティターンズの為に命の全てを捧げるよう教育していたようだからな。存在自体が機密の塊だ。真っ当な場所では養えんし、また世に出す事も憚られる。その点、君の懐の内ならば地球連邦としても一定の信用は置ける。

 これは皮肉として受け取ってほしくはないのだが、引き取られた子供達も君ならばそう不幸な目には遭わせまい。違うかね? 例え機動兵器のパイロットとしてしか、生きる術を知らなくてもだ」

 

 ゴップの言葉はヘイデスの胸の内をグサリと刺した。プルート財閥で引き取ったスクールの子供達は、オウカ・ナギサ、ラトゥーニ・スゥボータ、アラド・バランガ、ゼオラ・シュバイツァーを筆頭に数十名。

 スクールが摘発された際に保護された子供達は、全てプルート財閥が引き取っている。

 ラトゥーニに関して言えば、失敗作としてスクールから放棄されたのを善良な連邦軍人の男女に助けられたという経緯があり、他の三名とはその点で異なる。

 

「確かに今の彼女達はそれしか知りませんが、一年後、五年後、あるいは十年後であっても彼女らが望む夢や目標を叶えられるように、あの子達の可能性の芽を育てる手伝いをするつもりです。

 話が逸れましたが、閣下、SRG計画へのご支援、改めて感謝申し上げます。閣下の鶴の一声が無ければ、岡長官の協力があるとはいえ、極東支部で大々的に計画を推し進める事は出来なかったでしょう」

 

「必要だからしただけの話だよ。わしも初めて地球内外の敵性知性体を纏めた資料に目を通した時には、我が目と正気を疑ったよ。その次にはこの世界の正気を」

 

「心から同意します。あの資料こそが間違いであったなら、全地球人類にとってなによりでした」

 

「ティターンズもいざ人類以外の脅威が現れれば正規軍らしく戦って欲しいものだが、いずれにせよわしが退役する前にこのような事態を迎えるとは、人生は何があるか分からん。だからこそ、対抗策として目下最有力のSRG計画への全面的支援を行うのだ。

 一年戦争では地球連邦とジオンのどちらかが倒れるまで争ったが、今回は地球人類が一人残らず全滅しかねん事態だ。一人でも多くの地球人類が、少しでも長く繁栄できるよう、わしなりに力を尽くそう。今日まで随分と甘い汁を吸わせてもらってきた礼代わりにな」

 

「随分と……正直な話をしていただいて恐縮です」

 

 他人の目と耳のないゴップのオフィスとはいえ、ヘイデスとしては予想を超えて胸襟を開かれた気分であった。そんな若者の驚いた顔にゴップは楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「なに、柄になく奮起しているのかもしれん。まさか自分がアニメーションの向こう側の世界の住人のように、地球圏の未来を担う戦いに関与することになるなどと夢にも思わなかったよ。

 ジオンとは地球人類同士の争いで、あれも十分、SFの部類だったが、これから起こる戦いはファンタジーのようでさえある。しかし、紛れもない現実なのだ。そうだろう?」

 

「残念ながら」

 

「ふふ、一年戦争を経てスペースノイドとの新たな融和を謳いながら、ティターンズによるスペースノイドへの弾圧を黙認した地球連邦が、どこまで異なる種族と異なる星の侵略者に抗えるか。地球人類の底力の見せどころといったところだな、ヘイデス総帥」

 

「プルート財閥の全てを持って、悪意ある侵略者を撃退する助けになってみせましょう。孫の顔を見ない内に死にたくはありませんから」

 

 これまでは穏やかな晩年を過ごしたい、と考えていたヘイデスの最近増えた新しい欲望が、それであった。可愛い我が子らの可愛い可愛い孫の顔が見たい、これである。

 本気でそう告げるヘイデスに、ゴップは目の前の不気味なほどの先見性の持ち主が、途端に人間味を帯びた若者に変わった事実がおかしくて堪らなかった。人間、様々な面があるものだと、改めて痛感させられた瞬間である。

 

「アナハイムやロームフェラなどよりよほど信頼できると、今の言葉で確信したよ、ヘイデス総帥。確かにそれでは死ねんだろうさ」

 

 

 ゴップとの会談は、トレーズとはまた異なる意味でヘイデスにとって重圧を感じるものであったが、それでも彼が地球連邦軍内の最大の支援者兼理解者であるのは、間違いなく大きな力となる。

 ヘイデスはゴップから今後もSRG計画への協力の確約を取り付けられた結果に安堵し、我が家と同じくらい馴染みのあるヘパイストスラボの格納庫で、地球圏の超頭脳達から得た協力の成果物を眺めていた。

 格納庫の高い位置に渡された可動式のキャットウォークの上から、ヘイデスは所長と肩を並べている。所長はタイのヤオ族の民族衣装と白衣の組み合わせだ。

 見事な藍染めの生地に鶏頭(けいとう)の花を思わせる、もこもことした赤い襟巻き状の袖が特徴的な衣装である。

 

「二十メートル級のロボットに大火力を持たせて敵軍を正面突破、というコンセプトを与えた結果ですが、これでは量産には向きませんわねえ。元から量産前提ではないとはいえ、ゲシュペンストMk-Ⅲの名称は別の機体のものにすべきでしょう」

 

 所長とヘイデスが視線を向けているのは、赤い装甲に箱状の肩、右腕には回転弾倉と杭を組み合わせた武装、そして頭部には赤い角を持った機体だ。サイズ的にはMSの部類だが……。

 

「それじゃあ、テスト時のコードネーム通りにアルトアイゼンでいいかい?」

 

「うーん、時代に逆行した質量兵器を主武装にした機体ですし、ドイツ語にあやかるならテスト時のコードネーム“アルトアイゼン”をそのまま付けるのが、適当というのは分かりますが、少々蔑称めいています。本当によろしいので?」

 

「ゲシュペンストベースの機体だし、ドイツ語を使いたいところさ、それにアルトアイゼン、つまりは“古い鉄”でも僕達はこれだけの機体が作れるっていう意味でどうかな?」

 

「それでいいのなら、私もこれ以上は言いません。では、私達得意のMSをベースにSRG計画で得た技術とノウハウを投じた最初の機体の名前はアルトアイゼンで登録いたしますわ」

 

 アルトアイゼン――スーパーロボット大戦COMPACT2第1部で初登場した、同作品の主人公機だ。その後はOGシリーズに常連として出演し、スパロボプレイヤーに知られた機体だ。

 癖のありすぎる機体特性から正式量産機には採用されなかった機体だが、SRG計画においても量産を前提とした機体ではなく、作り慣れたMSにスーパーロボットの技術を応用するのを目的とした試験機といった位置づけだ。

 そのような経緯を経て開発された機体であるから、外見は本家アルトアイゼンに酷似していても、中身や武装は天地程にもかけ離れている。

 

「それじゃあ、解説をお願いしてもいいかな?」

 

「では始めさせていただきます。敵部隊に正面突破を仕掛けるコンセプト上、機体を頑健にすべく、装甲には実弾・ビームを問わず高い耐性を有するガンダニュウム合金を採用しています。

 また関節を主に柔軟性を要する部位にはゲッター合金を使っています。動力には光子力エンジンを搭載。

 推進器にはトールギスで培ったスーパーバーニアを発展させたバーニアとスラスターを搭載し、直線の加速性能ならばトールギスにも勝ります。トールギスを研究し、改造してきた成果ですわね。もちろんミノフスキークラフトも搭載しました。

 武装は右腕のリボルビング・ステークZ。超合金Z製の杭をビームカートリッジの爆発力で敵機体に打ち込み、ゲシュペンストのプラズマステーク同様、内部から高温高出力のプラズマで焼き尽くします。相手が無機物だろうと有機物だろうと効果は絶大ですわ」

 

「あの右腰に付いている箱型の物体は?」

 

「ステークのスピードローダーを装填する為のサブアームです。ビームカートリッジが六発までの装填となりますから、撃ち尽くしたら再装填の必要がありますの。

 ただ、ビームライフルのEパックより装填に手間のかかる代物ですから、いっそ再装填用の装備を用意しました。せっかく空いている左手を再装填に費やして塞いでしまっては、それこそ無駄ですもの」

 

「合理的だね。それじゃあ両肩の箱状の装甲は? いかにもパカッと開きそうだよ」

 

「あれも正面突破用の武装を詰め込んであります。特注のタングステン製ベアリング弾をみっしり詰め込んでありまして、それをシャワー状に発射して点ではなく面での破壊を行います。名称はスクエア・クレイモア」

 

 チタンじゃないんだ、と心の中でヘイデスは漏らした。まあ、チタンは軽量金属だから、重量金属のタングステンの方が破壊力はありそうだ。

 

「左腕の武器は普通のマシンキャノンかビームキャノンかな?」

 

「普通のというのも変ですが、まあ、アルトアイゼンの武装の中では平凡な部類でしょうね。三連装のマシンキャノンです。手首内側に仕込んだビームサーベル兼用のビームガンと並び、この子のメインとなる射撃武装ですわね」

 

「ビームガンとビームサーベルの兼用は、すっかりウチの十八番になったね」

 

「あら、パイロットの皆さんには好評ですからいいんじゃありません? あとは光子力エンジンを採用した恩恵で、メインカメラアイから光子力ビームが撃てます。流石は光子力、威力はそこらのメガ粒子砲の比ではありません。

 頭部の赤い角も高熱化して敵機を溶断するヒートホーンとして使えますし、またそれ自体が放熱板として機能して、ホーンファイヤーという摂氏二万四千度の熱線が放てます」

 

 ちなみに本家マジンガーZのブレストファイヤーは、摂氏三万度である。本家の八割ほどの威力のようだ。

 

「これまで聞いた限りだとステークとクレイモアで正面を突破する感じかな。そうなるとガンダニュウム合金の装甲でも少し怖いね」

 

「ええ。なので気休めですが光子力バリヤーを装備させておきました。MSクラスのマシンガンや並みのビームなら、光子力バリヤーで防げます。

 その間にトールギス譲りの加速で一気に距離を詰めて、クレイモア、ステーク、光子力ビーム、ホーンファイヤーを一斉に叩き込む戦法になりますわね」

 

 ヘイデスは、うわあ、と心の中で漏らした。原作以上の重装甲と高火力である。ひょっとしたら加速性も上回るかもしれない。ワンオフの特注機とはいえ、いきなりどえらい代物が出来たものだ。

 

「でもそうなると加速する為の距離が必要になりそうだね。火器を叩き込んだ後に距離を詰められると、相当厳しいんじゃないかい?」

 

「そこは竜崎博士の御協力で解決しています。竜崎博士と和泉博士の開発されているロボットの技術を応用して、アルトアイゼンは限りなく人体に近い動きが可能になっています。

パイロットに心得さえあれば、空手、柔道、ジークンドー、システマ、なんなら新体操や社交ダンスだってやってのけますわよ。

 接近戦では邪魔になるクレイモアの弾倉はパージできますし、お腹の辺りにオレンジのパーツがありますでしょ?

 そこにドムの拡散ビーム砲をヒントに、光子力ビームシャワーを仕込んであります。短距離用の火器ですが、MSなら穴だらけになる出力は確保してありますわよ。

 仮にステークの弾倉を掴まれるか不具合で撃てなくなったとしても、そうなったら手首のビームガンを撃つかサーベルを起動すれば、あら不思議、即席のビームステークの出来上がりです。

 右手のステークを掴み止められたなら、空いている左手で敵機を掴み返し、ビームステークを打ち込めば一発逆転です」

 

 ふむふむ、とヘイデスは相槌を打ちつつ、アルトアイゼンがソウルゲインに距離を詰められて大破された時のシーンを思い浮かべていた。

 それを目の前の魔改造アルトアイゼンに置き換えると、近づいてきたソウルゲインに弾倉を掴み止められたら、“かかったな、あほが!”と光子力ビームシャワーを浴びせ、装甲を焼きつつ目潰しをし、そこで相手の行動が遅れたなら一気に光子力ビームとホーンファイヤーを叩き込み、トドメに左手のビームステークをお見舞い、といったところか。

 

(これは……リーゼにはならないかも? 最初から成果を出し過ぎでは?)

 

「とはいえ近距離戦に特化していますし、運用するのなら正面から突っ込むこの機体を援護する中~長距離戦に優れ、機動力に長けた機体とペア運用するのが有用でしょう」

 

「で、そのパートナーがこっちの翼付きの白い機体というわけだ。こっちは……うん、ヴァイスリッターかな」

 

 白を主体としたカラーリングに優美な曲線を描くフォルムの機体が、アルトアイゼンの左隣に立っている。背にはいかにも飛行用といった翼があり、優れた機動性を有しているだろうと期待できる外見だ。

 

「白騎士ですか。アルトアイゼンに比べると随分とまともなネーミングですわね。ご明察の通り、こちらがパートナー機です。

 アルトアイゼン同様ミノフスキークラフトを搭載し、ガンダニュウム合金製の軽量かつ堅牢な機体で自由自在に空を飛ぶ機体です。まあ、トールギスよりは重いですが、ガンダムよりは余程軽い機体ですわよ。

 武装は左腕の固定式ビームサーベル兼用の三連ビームキャノンに、実弾とビーム弾を撃ち分けるオクスタンランチャー。トールギス・メテオのドーバーランチャーのデータが活きました。

 こっちも光子力エンジンを積んでいますから、ビームは全て光子力です。Iフィールドは意味を成しませんね。

 光子力バリヤーは、機体の防御以外にも空中での空気抵抗を軽減する為にも積んでいます。マグネットコーティングに超電磁テクノロジーを融合した超電磁コーティングを施してありますから、機体の運動性、反応速度はゲシュペンストMk-Ⅱを上回ります」

 

「空戦性能はトールギス以上に仕上がったと期待していいのかな?」

 

「はい。トールギス以外にも、連邦空軍のGT-FOURとジオンのザクスピードやエアリーズのデータが役に立ちました。

 一年戦争時に可変MSを実用していた事実には、地球連邦とジオン公国侮りがたしと技術陣一同驚愕したものです」

 

「この間ロールアウトしたゲシュペンストMk-Ⅱは現場では好評だけれど、アナハイムと連邦のサナリィも負けじといい機体を出してきたものね」

 

「ジムⅢにジェガン、ヘビーガン、Gキャノンですか。確かにあれらは良い機体です。当たり前と言えば当たり前なのですが、アナハイムと連邦にも優秀なスタッフが揃っていますね。

 まあ、ウチのゲシュペンストMk-Ⅱは基本武装こそ据え置きですが、ミノフスキークラフトで飛べますし、ビームシールドも両腕に搭載しましたから? そうそう負けはしませんわ!」

 

「うん。僕もあれはゲシュペンストに次ぐ傑作機だと思う。それで話を戻すけれど、アルトアイゼンとヴァイスリッターの性能はSRG計画の名に恥じない代物だと思うよ。後はパイロットかな?」

 

「そこです、問題は。スペックをフルに発揮したなら、セット運用で数個大隊とだって渡り合えるMSの皮を被ったスーパーロボットですが、パイロットを激しく選ぶという兵器としての欠点を抱えこんでいます。ジェスやミーナ、アーウィンとグレースなら扱えるでしょうけど……」

 

「ジェスとミーナはゲシュペンスト・リーゼのテスト中だったよね?」

 

「ええ」

 

 ゲシュペンスト・リーゼとはリーゼ=巨人の名前の通り、対機械獣、対メカザウルス、対化石獣etcを目的とした巨大スーパーロボットを開発する為のテスト機として、五十メートル級にサイズアップしたゲシュペンストS型だ。

 装甲、エンジン諸々SRG計画で得られた新装備をてんこ盛りにしてあり、こちらもまたスペックをフルに発揮すれば、局地的な戦況を単機でひっくり返せる怪物マシーンだ。

 

「アーウィンはビルトシュバイン、グレースはスペースゴジュラスのテスト中ですから、この子達を任せるのは酷です」

 

(スペースゴジュラス、あのスペースゴジラというかスペースメカゴジラみたいなのか……)

 

 ビルトシュバインはゲシュペンストから随分とガンダムに近い外見になった機体で、ヘイデスはその後に開発される機体について、おおよそ察しがついていた。

 ヒュッケバインである。ただ、今のところブラックホールを制御する技術はないから、動力が何になるのか分からない。ヘリオースもどきから面白いデータが取れた、とは耳にしているが……。

 

「そういえばゾイド……MZの進捗はどう?」

 

「ええ、まあ、動物型と昆虫型のモーション取りは順調です。トミイさんの設計したシールドライガー、セイバータイガー、コマンドウルフ、ゴジュラスをはじめ既に完成した機体は多いです。ただ基本的に格闘戦ありきの機体なのですが、コックピットの位置が……」

 

「そこまで言い淀むとなるとよほどまずいの?」

 

「シールドライガーを例に挙げますと、頭部にコックピットがあるのです。仮に爪か牙で敵機に飛びかかったとして、攻撃が外れてカウンターの一撃を貰うとします。その時に、頭部にコックピットがあったら?」

 

「格好の的だね……。こう、グシャっと」

 

「そうなりますでしょ? せめて胴体内部か背部に回せないかと設計を見直しているのですが、そうなると全体のバランスが崩れてしまって、せっかくの持ち味が活かせません。

 最悪、コックピットの位置はそのままにキャノピーの素材を強化するか、コックピット限定でバリヤーを備えるかしないといけません。グレースに任せているスペースゴジュラスは、コックピットブロックを特別頑強にしておきましたけど……。

 移動や格闘戦時の衝撃はリニアシートである程度緩和できるのですけれど、悩みどころですわ。まあ、トミイ氏のセンスに任せるのが一番だとは思います」

 

「いい解決案が出ると良いね」

 

「実際に乗って戦う方の事を考えると、名案が出るようにと切に願っています。連邦の葉月博士のアイディアに大いに助けられているところもありますし。ただあちらの獣戦機? という兵器ほど複雑怪奇にはならないでしょう」

 

 所長には珍しく獣戦機の話になった途端、頭が痛いとばかりに額に左手を当てて溜息を零す。

 

「流石に一つの機体に戦闘機や車両形態、獣形態、人型形態の変形機構と更には合体機構まで盛り込むのは、君でもびっくりか」

 

「びっくりというか、それを実現して見せる葉月博士の才能と努力には称賛しかありませんが、盛れば盛るほど実用からは遠のきますから。最初から合体した状態の機体を作ればいいのでは? とか三つも形態を持たせる必要がある? とかついつい考えてしまいます」

 

「ゲッターロボや超電磁マシーンもそうだけれど、スーパーロボットはどれも個性の爆発だからね」

 

「話を聞けば、確かに必要があるからそうしていると分かるのですけれど、カインズ博士も私共々随分と首を捻りましたのよ?」

 

「心から同意するよ。でも、誰も彼もあっと驚くような才人だったでしょう? もちろん君自身もね」

 

「ふふ、確かに世界の広さを思い知るくらいには素晴らしい方達ばかりでした。才能だけの技術者なら多くを目にしてきましたが、才能と人格を両立した稀有も稀有な方達ばかりでしたしね。

 それはそれとして、SRG計画はアルトアイゼンとヴァイスリッターに続く新しい機体の開発を進めていますし、ゲシュペンストMk-Ⅱの次の機体の設計もほぼほぼ済んでいますわ。後は侵略者との戦いに間に合うかどうかです」 

 

「そう、それが一番の問題かもしれないね。間に合うのかどうか」

 

 機械獣やメカザウルス、マグマ獣、化石獣、円盤獣そのほか諸々の敵勢力が、現在地球連邦の主力兵器であるゲシュペンストやジェガン、ハイザック、リーオーでも十分に戦える性能である事を祈るばかりだ。

 原作でそれらに勝利したスーパーロボットがあるとはいえ、スパロボ時空では一機だけだった敵機が量産されてくるわけで、原作と同じシチュエーションでも物量には格段の差が出てくる。

 スーパーロボット達の必勝を期するには、彼らを助ける味方もまたそれ相応の力が必要なのだ。

 ヘイデスは、正義の味方を助けるスポンサーを自負する自分には、それを用意する責任があると固く決意していた。

 

<続>

 

■アルトアイゼン(殺意マシマシ)が開発されました。

■ヴァイスリッター(殺意チョイマシ)が開発されました。

■ゲシュペンストMk-Ⅱが開発されました。

■ゲシュペンスト・リーゼが開発されました。

■ビルトシュバインが開発されました。

■スペースゴジュラスが開発されました。

■セイバータイガーが開発されました。

■シールドライガーが開発されました。

■コマンドウルフが開発されました。

■ゴジュラスが開発されました。

 

■オウカ・ナギサが保護されました。

■ラトゥーニ・スゥボータが保護されました。

■アラド・バランガが保護されました。

■ゼオラ・シュバイツァーが保護されました。

 




アルトアイゼンとヴァイスリッターの中身はまったくの別物となりました。パイロットどうしよう。

私、正直に申し上げるとゾイドのバトストに詳しくないのですが作中に出た機体以外で比較的初期の技術で量産できそうなゾイドってなんになりますでしょうか。作中の状況を考えるとあまり種類は出せないし、他にもうこういう機体があるから開発する必要性が薄い、となると出しにくいですし。
とりあえず開発済みの機体に加えてデスザウラーとデススティンガーやジェノザウラー、ブレードライガー、ウルトラザウルス辺りは出したいところ。
デスシリーズとウルトラザウルスはアニメ版準拠の百メートル単位の大きさにする予定です。

後、開発の時系列は気にしない方向で。その内、ジェムズガンやジャベリンも実装されますしね。でもティターンズの主力はまだハイザック。後々マラサイやバーザムですね。ガンバ!


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第十話 タイトル画面でスタートボタンが押されたらしい

ゾイドの御意見ありがとうございました。
ゾイド好きの皆さんが想像をはるかに超えて多くいらっしゃって、半ばアンケートめいてしまったとはいえ感想が百件を超えるとか、ちょっと怖いくらいでした。
本家のゾイドからはかけ離れた設定になってしまいますが、ちょこちょこと出番を用意できればと思います。


プロローグ「燃える日本」

 

 新代歴187年。

 ジオン公国残党の最大勢力アクシズがジオン共和国の要請を一切無視し、地球圏へ急速に接近。

 またスペースノイド弾圧を繰り返すティターンズやOZに対する反発から、反地球連邦組織エゥーゴやカラバ、またコロニー活動家らによる独自の抵抗運動が活発化した年。

 

 しかし地球連邦政府ならびに連邦軍、そしてSRG計画の関係者達にとっては地球人類の内輪揉めより、よほど気を割かなければならない非常にして緊急の事態が発生した年である。

 地球人類の歴史上、初めて公的に地球外生命体、そして地球内異種生命体による侵略行為を受けた年となったからだ。

 

 人類有数の頭脳を持つDr.ヘル率いる機械獣軍団は、世界征服の為に富士山麓に眠るジャパニウム鉱石を求めて重要目標とした日本へ侵略を開始。

 かつて古代の地球で栄えながらも降り注ぐゲッター線に耐えきれず地下に逃げ、独自に進化したハチュウ人類の恐竜帝国は、天敵たるゲッターロボを有する日本を侵略対象の第一歩とした。

 一万二千年以上の昔、栄華を誇ったムー帝国と争い、共に海の底へと沈んだ大妖魔帝バラオ率いる妖魔帝国が長き眠りより目覚め、悪魔世紀を実現する為に地球人類へ暴虐の牙を剥き、同じく眠りから目覚めたムー帝国の守護神ライディーンの撃破を第一の目標に掲げた。

 

 永い眠りから醒め、地球征服活動を始めたキャンベル星人は世界中に侵略の魔手を伸ばしながらも、南原コネクション擁する超電磁ロボ・コンバトラーVに尖兵を撃退されたことをきっかけに、コンバトラーVを大きく敵視。

 角無き生物は労奴以下の生物であるから、角あるボアザンに支配されるべきと宇宙に植民地を広げるボアザン星人もまた角持つ髑髏という特異な旗艦に乗り、地球への侵攻を開始。

 

 地球連邦はコロニー落としが避けられた事で人口と工業施設、連邦海軍その他諸々が無事であった為、原作に比べればはるかに恵まれた状態だったが、複数の侵略を相手にするにはありったけの国力と戦力を投入する必要に迫られた。

 ヘイデスからすればまだこれで全てではないから、堪ったものではなかったが、それでも世界中の人々と心を一つにしたのは間違いない。

 すなわち――いっぺんに来るんじゃねえよ! だ。いかんせん、地球人類への宣戦布告の時期と内容も若干被り気味だったので。

 

「お互いに潰し合えばいいのに、あいつら。そうなると実際、どの勢力が一番強いんだろう? 星間国家のキャンベルかボアザンが妥当か?」

 

 とヘイデスは思わず執務室で零したものだ。下手にスーパーロボット軍団で返り討ちにし続けていると、これは手強いと見た勢力同士で手を組んだりするから厄介だ。

 ボアザン星人は角の有無が階級制度のアイデンティティになっているから、同じ異星人勢力とはいえ、いや、だからこそキャンベルとは手を組みにくいのではあるまいか。地球の次は貴様らだ、とお互いに考えてもおかしくない。

 星間国家という規模を考えればDr.ヘルや恐竜帝国、妖魔帝国といった地球勢力は征服先の武装勢力であるわけだから、相当に追い詰められるまでは手は結びにくいに違いない。

 

 ヘイデスの私見に過ぎないが、あり得るとしたら地球側のDr.ヘル・恐竜帝国・妖魔帝国の三者連合か。

 ボアザンとキャンベルがバーム、ムゲ・ゾルバドス、暗黒ホラー軍団と星間連合を組んだ例もあるが、お互いにピンピンとしている内は手を組むまい。

 バーム、ベガ、ムゲ・ゾルバドスはまだ確認されていない。どれも来ないで主役ロボだけが居るだけ参戦ならいいのに、とヘイデスは日々祈り、その祈りが無駄になった場合に備え続けるだけだった。

 

 

 侵略者達はそれぞれの戦略に則って世界各地に攻撃を仕掛けていたが、先に述べた通り最も重点的な攻撃を受けたのは、地球連邦軍極東支部のお膝元にしてスーパーロボット達の存在する日本だった。

 スーパーロボットの名前に相応しく、MSが可愛く思える超性能を誇るそのロボット達のパイロットは今のところ全員が民間人だというのだから、政府や軍関係者はすわアムロ・レイの再来かと驚き、また良識ある者は民間人に重圧を担わせる現実を嘆いた。

 そして今日も日本は侵略者達に蹂躙されんとしていた。

 

 山々の合間をエレカ用の高速道路が蛇行して渡された山間部に、おおよそ二十メートル前後の異形の兵器――機械獣達が数十体もの数で展開している。

 ジオン水泳部にも勝る奇怪なシルエットは、昨今のMSを見慣れた者からすれば冗談としか思えないが、秘めたる戦闘能力はDr.ヘルが世界征服の野望に燃えるのに相応しいものだ。

 機械獣の頭上にはどう形容したらよいのか、銀色の鯨めいた胴体から武骨な翼を開き、赤い目と鶏冠を備えた飛行要塞グールの姿がある。

 グール内部では紫のフード付きマントをすっぽりと被った、男女の半身が結合したこれまた奇妙な姿のあしゅら男爵が機械獣達の指揮を執っていた。

 

「行けえ! 機械獣軍団よ、今日こそマジンガーZと兜甲児の首を偉大なるDr.ヘルに捧げるのだ!」

 

 頭部の左右から鎌を生やした骸骨の巨人ガラダK7、爬虫類めいた二つの首を生やしたダブラスM2、キングダンX10、アブドラU6などが複数生産されて軍勢を成し、眼前で進軍を阻む鉄の城マジンガーZへと一斉に駆け出す。

 特徴的な胸部の赤い放熱板、MSとは全く異なる人面に近い顔、超合金Zで作られた無敵の体を持つスーパーロボットは、弓教授の娘・弓さやかのアフロダイAと親友ボスの乗るボスボロットと共に敢然と立ち向かう。

 

「やいやい、あしゅら男爵、また性懲りもなくやってきたな。このマジンガーZが相手になってやる。今日も負けたら、今度こそDr.ヘルに愛想を尽かされるんじゃないのか!」

 

「ほざけ小僧! 邪魔な地球連邦や異星人共を片付ける為に、今日こそ貴様らを倒してジャパニウムをDr.ヘルのものとするのだ! 者共、かかれ!!」

 

「来い、おじいちゃんのマジンガーZはお前達なんかに負けやしないぞ! 行くぞ、さやかさん、ボス!」

 

 大地を揺らしながら、正義と悪のロボット軍団が戦意を滾らせて走る! しかし、もしこの場にヘイデスのようにスーパーロボット大戦のプレイヤーが居たならば、あるいは原作のマジンガーZを知る者が居たならば、我が目を疑ったに違いない。

 マジンガーZの背中から伸びる二門の巨大なキャノン! 足には巨大なミサイルポッドが括りつけられているではないか!

 

 マジンガーZばかりではない。さやかの乗る女性的なデザインのアフロダイAもまた両腕にマシンガンを持ち、腰にはガンベルトを巻いてホルスターには武骨なリボルバーが収まっている。

 ボスのボスボロットに至っては武蔵坊弁慶よろしく背負った籠から無数の刀やら槍やら、ロケットランチャ―、ビームライフル、ミサイルランチャーが覗いている。

 MSの増加装甲の要領で開発された外付け武装が、マジンガーZらの装備した武器の正体だ。機体本体には一切手を加えず、任意にパージできるように工夫された火器群はSRG計画のオプションであった。

 

「くらえ、光子力ビームキャノン! 光子力ミサイルもだ!」

 

 甲児の操縦により、マジンガーZの肩に背負われた大口径の光子力ビームキャノン二門が光子力の奔流をぶっ放し、足のミサイルポッドから二基で合計十八発の光子力ミサイルが噴射煙を空中に描きながら機械獣軍団へと群がる。

 

「まだ終わらないぜ、光子力ビーム! 冷凍ビーム! ドリルミサイル!」

 

 これに加えて元々マジンガーZが内蔵している火器も発射される。瞳からは光子力ビームが、耳にあたる突起物からは冷凍ビームが、機械獣へと向けて突き出された腕が肘から折れてそこからはドリルミサイルが!

 ヘパイストスラボの所長をはじめMS開発者を驚愕させた、マジンガーZ単独でMS一個中隊にも匹敵しよう膨大かつ高火力の武装の数々よ!

 

「マジンガーZだけじゃないわよ!」

 

 さやかがマジンガーZに続けとアフロダイAの両手に持たせた光子力ビームマシンガンを撃てば当たるとばかりにトリガーを引きっぱなしにし、さらにブルンと金属であるはずのアフロダイAの乳房めいた部位が震えると、それは光子力ロケットを内蔵したミサイルの正体を露にして発射される。

 元々はジャパニウム採掘用のロボットだったアフロダイAは、戦闘用に転用されてなおパワー不足を指摘された為、マジンガーZ以上に武装オプションが整えられていた。ボスボロットの竹で編んだような背負い籠の武器のいくつかはアフロダイA用のものだ。

 さやかは光子力をチャージしたマガジンが空になると、すぐにマシンガンごと手放して、アフロダイAの腰に巻かれたホルスターから光子力ビームマグナム二丁を抜き、一丁に付き六発ずつの圧縮した光子力のマグナム弾を連射する。

 

「ええい!」

 

 本当に元は採掘用だったのか怪しくなる火力を発揮するアフロダイAの隣で、ボスはというとスクラップから作られた(!)ボスボロットを器用に動かし、さやかが放り捨てたマシンガンを回収し、新たなマガジンを装填し直す。

 ボスはこうしてさやかや甲児が撃ち終えた武器の弾薬の補充と、手が足りなくなった場合には自らも火器を取り、火線に加わる役割分担をしていた。

 

「よおし、ヌケ、ムチャ、ボスボロットも続くだわさ!」

 

「はい、ボス!」

 

 ボスは一緒に乗っている子分のヌケとムチャに景気よく声をかけ、ヌケとムチャも揃って元気よく返事をする。

 背負い籠に収容していた大口径バズーカを二つ取り出して、ボスボロットの両肩に担がせる。すぐにボスの景気の良い声がスピーカーを通じて外部に響き渡る。

 

「くらえ~~ボスボロットウルトラデラックスデンジャラスバズーーーーカ!!」

 

 実際には、MS用のバズーカを転用した光子力ロケット砲弾を発射する光子力バズーカである。最大装填十発のこのバズーカは、ジオンのMSドムのジャイアント・バズのマジンガーZ版と言えば分かりやすいか。

 ろくな照準補正装置のないボスボロットだが、バズーカそれ自体にそれなりの照準用センサーが装備されている為、ボス達が目視と勘で撃つよりはマシな命中精度になる。

 

 陸上戦艦の二隻や三隻なら跡形もなく吹き飛ぶような光子力の嵐に襲われて、それでも生き残った機械獣達が爆炎の中から飛び出してくる。

 ガラダK7が頭の鎌を手に取り、マジンガーZの頭部に居る甲児を目掛けて一気に振り下ろしてくる。

 

「させるか!」

 

 既にガラダK7とは何度も交戦した経験から、甲児からすればその動きは知っているものだ。鎌を真剣白刃取りでもって挟み止め、動きの止まったガラダK7の胸から上を光子力ビームキャノンが容赦なく吹き飛ばす。

 その一発で光子力ビームキャノンのバッテリーが空になり、甲児はキャノンと撃ち尽くした脚部のポッドをパージして、マジンガーZを素の状態へと戻す。

 身軽になったマジンガーZは、まるで人間のようにぐるりと肩を回す。ウォーミングアップはおしまいだと告げるようなその動きに、グールで指揮を執るあしゅら男爵は歯噛みした。

 

「ええい、数を揃えてもあの火力は厄介か。だが、機械獣はまだまだ……」

 

 あるいはあのような火力の使用できない市街地や工業地帯に誘き出して、とあしゅら男爵の頭脳が次の戦略を瞬時に練り出したその瞬間、グールの巨体が大きく揺れて、あしゅら男爵は直ちに状況の把握に努めた。

 

「ぬうう!? 何事か! ちい、連邦政府の犬共め! マジンガーZ共々ことあるごとに邪魔をしおって」

 

 グールの光学観測機器は、遠方からメガ粒子砲を連射する極東支部所属のストーク級空中母艦二隻を捕捉していた。そしてストーク級が姿を見せたのなら、当然、艦載機も出撃しているわけだ。

 

「マジンガーZばかりに任せるな! 彼らは民間人だと忘れるなよ、軍人の本懐を果たせ!」

 

 ストーク級空中母艦“しょうほう”、“ずいほう”から出撃したゲシュペンストMk-Ⅱのパイロット達は、緑色のパーソナルカラーに塗装された隊長機の檄に応じて遅滞のない動きを見せる。

 

「ゴースト小隊は俺とマジンガーZに続け。スペクター小隊はアフロダイA、ボスボロットと共に火線を形成、撃ち漏らしを叩け!」

 

「了解!」

 

 地球連邦極東支部はスーパーロボットの研究所が複数存在する重要性から装備に恵まれ、支部単位の平均的技量においてはティターンズやOZのような精鋭部隊と肩を並べる。

 ましてや異種・異星勢力の齎す被害が集中しているのが極東、特に日本である為、侵略者に対する敵対心と闘争心もまた極めて高い。

 そしてSRG計画の恩恵を最も強く受ける支部でもあり、支部単位でのゲシュペンストMk-Ⅱ配備率に至っては地球・宇宙を含めてトップだ。

 

「甲児、遅れてすまん!」

 

 隊長は既に下の名前で呼ぶくらいには共闘した年下の少年に詫びを入れながら、飛びかかってきたアブドラU6の首と右手を取って足を払い、背負い投げの要領で投げ飛ばすや、仰向けに倒れ込んだ敵機に左手のプラズマステークを叩き込む!

 

「ジェットマグナム!」

 

 アブドラU6の頭部を叩き潰した緑のゲシュペンストMk-Ⅱに向けて、ダブラスM2をロケットパンチで仕留めた甲児は笑みを浮かべる。

 

「キタムラさん! 助かります! こいつら、今日は数を揃えてきているから」

 

 甲児が明るい声を出したところで、ダブラスM2の爆炎の向こうから、四つ足の生えた台座に角と顔のある機械獣トロスD7が凄まじい勢いで突撃を仕掛けてくる。

 恐るべきことにトロスD7の角を用いた突撃は、超合金Zの装甲すら貫通する威力を誇る。マジンガーZの一瞬の隙を突いたトロスD7を止めたのは、速度の関係上、ゲシュペンストMk-Ⅱ隊に先行して出撃していたMZレッドホーン三機だ。

 

 スティラコサウルスをモチーフに開発されたこの機体は、対メカザウルス用として全高十五メートルと原作の倍近い巨体かつ単座式でロールアウトしている。

 レッドホーン達は頭部に装備するホーンクラッシャーで、トロスD7を三方向から串刺しにして受け止めたのだ。

 左右からトロスD7を貫いたレッドホーンが後退し、正面のレッドホーンは痙攣するトロスD7へと向けて、背中の大口径三連“ゲッター”ビームキャノンを発射し、頭から尻までを容赦なく吹き飛ばした。

 

「MZも一緒なんですね」

 

 そう言う甲児のマジンガーZの隣に、隊長――キタムラの指示に従ったノーマルカラーである青いゲシュペンストMk-Ⅱが控え、レッドホーンの他にも出撃していたコマンドウルフ三機が戦線に加わる。

 MSより重装甲、高耐久、大質量を有するのが想定される侵略者達との戦いに備え、コマンドウルフやゲシュペンストMk-Ⅱの装備している火器は、いずれもMS相手には過剰なまでの大口径、高火力のものばかりだ。

 

「狙ってではないだろうが、機械獣やメカザウルスが同じ戦場に出る事もあるからな。メカザウルスにはゲッターロボとMZが一番効果的だ。対メカザウルスを抜きにしても、MZのパワーは頼りになる」

 

 マジンガーZ、アフロダイA、ボスボロット、そしてゲシュペンストMk-Ⅱ八機、レッドホーン三機、コマンドウルフ三機らロボットが合計十七機、ストーク級二隻と残る飛行要塞グール、機械獣数十体が改めて対峙する。

 

「フン、忌々しいマジンガーZと兜甲児と小うるさい地球連邦の犬を、このあしゅら男爵と機械獣軍団が叩き潰してくれる!」

 

 ストーク級と激しく撃ち合っているグールから、あしゅら男爵が自信に満ちた声で宣言してくるのに対して、甲児は欠片も臆さずに答えた。

 

「へん、お前がそういうのはこれで何度目だ。これまでみたいにほえ面をかくのはお前の方だぜ、あしゅら男爵!」

 

 マジンガーZは頭上のグールを指さし、そしてパイロットである甲児は凛冽と叫ぶ。それは幼い頃に誰もが思い描く正義の味方の姿、そのものだった。

 

 

 同刻、日本海から出現して糸魚川近隣へ上陸しようとするメカザウルスの軍団を、早乙女研究所のゲッターロボを筆頭とするMZとMSの混成部隊が迎撃していた。

 OZのパイシーズやキャンサー、ジオンから鹵獲したズゴックなどを除けば新型ないしは強力な水中用MSに欠ける地球連邦は、水中戦に向けたMZを開発し投入している。

 

 投入されたMZはレッドホーンと同じく原作に比べて倍近い大きさになっているが、魚型のウオディック、イトマキエイ型のシンカーの二機種だ。

 共に海中で六十ノット超の速度を誇る二機種は、海中で蠢くメカザウルス達にホーミング魚雷やソニックブラスターを発射し、これ以上の進撃を阻まんと必死の態勢だ。

 

 水中のメカザウルスは生身の恐竜とメカの首の二つ持ったズーをはじめ、首長竜などかつて地球の海で暮らしていた恐竜を改造したタイプが多くを占めている。

 水中型に限らずメカザウルスは全高四十~五十メートル級の巨体に加えて、機械獣に負けず劣らずのインパクト満載のビジュアルとこちらを食い殺さんばかりの勢いを見せる巨大恐竜の殺意は、MSや機械獣とは異なる恐怖感を戦う者に与えてくる。

 

 MZ乗り達がそれでも奮起している中でひときわメカザウルスを相手に奮闘しているのは、下半身がキャタピラとなっているゲッター3だ。

 三機のゲットマシンの合体パターンによって三種の変形機構を持つ画期的なロボは、メカザウルスの天敵であるゲッター線を主動力としている事もあり、メカザウルスから集中的な攻撃を受けている。

 そんな中でもゲッター3のメインパイロットを務める巴武蔵は、同乗している流竜馬、神隼人と同様、小指の先も臆さずに民間人だったとは信じられない勇猛さで戦っている。

 

「おらおら、かかってこい、蜥蜴共!」

 

 武蔵は、名前の分からないワニめいたメカザウルスが開いた大顎に、ゲッター3の両腕を突っ込み、そのままゲッターロボ三形態最大のパワーを引き出して、メカザウルスを上下に引き裂いた。

 血液とオイルが海中に広がり、すぐさま爆発する中、海底をキャタピラで疾走するゲッター3は攻撃の手を止めずに頭部両脇のゲッターミサイルをろくに狙いを定めずに発射。

 それに続いてウオディックとシンカー隊の放った魚雷とゲッターミサイル、ソニックブラスターが獲物に群がる肉食魚の如く水中メカザウルス部隊に襲い掛かる!

 

「よっしゃ、次は空だ! オープンゲット!」

 

 水中で生じた大爆発によって水面が吹き飛び、その中にメカザウルスの生身とメカの部分が混じる中、分離した三機のゲットマシンが飛び出す!

 続いてオープンチャンネルで発せられたのは、新たな形態への変形合体を示す竜馬の叫びだ。

 

「チェェェンジ、ゲッター1! スイッチオン!」

 

 竜馬のイーグル号、隼人のジャガー号、武蔵のベアー号の順で激突するように合体し、どこがどうなったらそうなるのか分からない変形過程を経て、空中戦用に特化したゲッター1が姿を現す。

 頭頂部から左右に伸びる赤い角と真っ赤なマントを翻すゲッター1へ、空を飛んでいた黒紫色の翼竜型メカザウルス・バドの群れが殺到する。

 

 ゲッター1へと殺到するマグマ弾やミサイルの雨の中を、ゲッター1は中のパイロットがミンチになるような変則機動で回避してみせる。

 MSの技術者が目を疑うような機動を見せるゲッター1に注意を引かれるバドへ、その隙を突いて極東支部の機動兵器部隊が苛烈な攻勢を仕掛けた。

 ミノフスキークラフトで空を飛ぶゲシュペンストMk-Ⅱがスプリットミサイルやニュートロンビームライフルを叩き込み、MZプテラスも空対空ミサイルやゲッタービーム機銃を発射して次々に命中させてゆく。

 

「よし、俺達もやるぞ、ゲッタートマホーク!」

 

 竜馬の叫びと共に胴体肩部に収納されている小ぶりな斧が飛び出し、ゲッター1の右手に握られる。連邦軍が放つビームやミサイルから逃れるバドへ斬りかかり、ゲッター1のパワーで振るわれた斧が次々とバドの頭を叩き割り、翼を斬り落としてゆく。

 

「リョウ、細かいのが来るぞ」

 

 竜馬に警告を飛ばしたのはジャガー号の隼人だ。戦線後方の空母型メカザウルス・グダから発艦した恐竜ジェット戦闘機の大群が、見る間に距離を詰めてきているのに、いち早く気付いたのだ。

 

「それなら敷島博士のとっておきだ、ミサイルマシンガン!」

 

 どこに収納されていたのかゲッター1は背中から取り出した巨大な銃器を取り出して、銃弾代わりに小型ミサイルが猛烈な勢いで発射されてゆく。

 ゲッター1に続いてゲシュペンストMk-Ⅱ、アッシマー、プテラスといった極東支部所属の機動兵器部隊が恐竜ジェット戦闘機の編隊を叩き潰すべく動く。

 

 空中ではストーク級が、また地上ではライノセラス級陸上戦艦が指揮管制ならびに砲撃支援を担い、メカザウルスの本土上陸を全力で阻止する構えだ。

 更には波打ち際を蹴散らして駆け上がろうとする、サイやスティラコサウルスにも似た外見のメカザウルス・ザイとメカザウルス・サキに、ヘパイストスラボ謹製の巨大ロボットが真っ先に襲い掛かった!

 

「究極! メガ・ゲシュペンストオオオオ、キイイックウ!」

 

 一度上空へと飛び上がり、五十メートル超の巨体の大質量を、ブースターによる加速も加えた飛び蹴りでザイへと叩き込むのは、レナンジェスの駆るゲシュペンスト・リーゼ。

 

「必っ殺! メガ・ゲシュペンスト・パァアンンチィ!!」

 

 ほとんど同時のタイミングでサキの顔面へ必殺の拳を叩き込んだゲシュペンスト・リーゼは、ミーナの操縦する機体だ。

 ゲシュペンスト・リーゼ――亡霊の巨人はヘパイストスラボがいずれスーパーロボットを開発する際の試験用として、五十メートル超の巨躯へサイズアップされたゲシュペンストS型の発展機である。

 

 超合金Z製のムーバブル・フレームにガンダニュウム合金の装甲、更に搭載した巨大核融合炉はコンバトラーV同様に超電磁エネルギーを生産し、プラズマステークから超電磁ステークへと強化された三本の突起物は両腕に装備されている。

 胸部のブラスターキャノンはより大口径大火力化した事でメガブラスターキャノンに改められ、ゲシュペンストMk-Ⅱ同様ミノフスキークラフトを搭載し、両肘にはより高出力広範囲のビームシールドを内蔵している。

 元はMSだったがSRG計画による技術交流の産物である為、MSではなくスーパーロボットに分類された初のゲシュペンストだ。

 

「ゲッターチーム、陸はこっちに任せてくれ!」

 

「その代わり、あの空母を頼むよ。ズバリ、あれが沈めばメカザウルスは退くでしょう!」

 

「了解です。こちらは頼みます。行くぞ、ハヤト、ムサシ!」

 

「ふ、熱くなりすぎるなよ、リョウ」

 

「同士討ちするんじゃないぞ!」

 

 頼もしいレナンジェスとフフン! と推理を披露する探偵の如く告げるミーナのアドバイスに従い、ゲッター1がゲシュペンストMk-Ⅱやプテラスと共にグダを目指して空を飛ぶ。

 

「よし、後は俺達がこいつらを片付けるだけだ、行くぞ、ミーナ」

 

「うんうん、メカザウルスからしたら“毛の無い猿”が天敵である“ゲッター炉心を搭載している”上に“自分達を模したロボット”に乗っているんだから、作戦も何も忘れて遮二無二になって攻撃してくるのも当然よね」

 

「MZに乗っている人達のカバーには気を付けなくっちゃな!」

 

「後、味方の弾に当たらないようにしないとね。ライノセラスにカノントータスばかりじゃなくって、ガンタンクタイプも引っ張り出してきているし!」

 

 後方のライノセラス級陸上戦艦と昆虫型MZモルガとカメ型MZカノントータス、更にはガンタンクⅡまでも引っ張り出して形成された火線は、水中から顔を覗かせたメカザウルス達へ平等に熱烈な歓迎を加える。

 それでもなお進軍してきたメカザウルスへは、極東支部に雇用されたジェスとミーナのゲシュペンスト・リーゼが圧倒的な攻撃力で機先を制する。

 そこにゲシュペンストMk-Ⅱ部隊と、ゴジュラス一機に付きその小型版ともいえるMZゴドス二機で組んだ複数の小隊が飛び込んで、メカザウルス達の怒りと断末魔の叫び、爆発の音が響き渡る。

 何度目かになる恐竜帝国の侵攻による、糸魚川防衛線はさらに夕日の沈む時刻まで戦闘が続くも、幸いにしてゲッターチームと地球連邦極東支部の勝利に終わるのだった。

 

 

 このようにマジンガーZやゲッターロボをはじめ、極東支部はスーパーロボットと連携しながら襲い来る侵略者達を相手に日夜激闘を繰り広げていた。

 まさに、極東は燃えていたと言うべきであろう。

 そして侵略者との闘争の火は極東ばかりではなく、プルート財閥の本拠地ギリシャへも伸びていた。

 プロメテウスプロジェクトの解散により連邦とジオンのエースが去り、自社のエース達もまた地球と宇宙の各地へと散り、守りの薄くなったヘパイストスラボが謎の勢力による襲撃を受ける数日前のことであった。

 

<続>

 

■アクシズが地球圏に接近中です。

 

■Dr.ヘルが宣戦布告しました。

■恐竜帝国が宣戦布告しました。

■キャンベル星人が宣戦布告しました。

■ボアザン星人が宣戦布告しました。

■妖魔帝国が宣戦布告しました。

 

■マジンガーZが参戦しました。

■アフロダイAが参戦しました。

■ボスボロットが参戦しました。

■ゲッターロボが参戦しました。

 

■レッドホーンが開発されました。

■ウオディックが開発されました。

■シンカーが開発されました。

■プテラスが開発されました。

■モルガが開発されました。

■カノントータスが開発されました。

■ゴジュラスが開発されました。

■ゴドスが開発されました。

 

〇強化パーツ

・光子力バリヤー

 1,500以下のダメージを軽減、発動ごとにENを5消費。マジンガーシリーズが装備するか、超合金Zシリーズの強化パーツを装備していると更に1,000ダメージを軽減。

 

・超電磁コーティング

 運動性+15、照準値+10

 

・超合金Zムーバブル・フレーム

 HP+1,000、装甲+150、EN+50

 

〇換装武器

・光子力ビームキャノン

・光子力ミサイルポッド

・光子力ビームマグナム

・光子力バズーカ

・Zカタナ

・Zナギナタ

・Zオオタチ

・Zスピア




モビルビーストまではモビルスーツ系列の機動兵器でしたが、モビルゾイドに改められてからは対メカザウルスの性質が強まったので、ゲッター炉心を積んでいます。
スパロボにおいて、クロスアンジュのアウラの民がゲッター線を上手く抑制したというか付き合っているように、モビルゾイドもほどほどにゲッター線と付き合ってゆけると良いのですね。
なおゲッターはTVアニメ版ですので、竜馬は優等生風の性格になっています。

侵略者の皆さん
「なんか地球人強くない? 強くない?」

追記
コールサインを修正しました。
×超電磁マシーン・コンバトラーV → ○超電磁ロボ・コンバトラーV


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第十一話 地獄に落ちること間違いなし

書きたいことを詰め込んだらえらく長くなりました。
五千字くらいでコンパクトにまとめて早めに更新したいとも思うのですが、一話で纏めるとなると長くなってしまいますね。
なお、今回、”ぼくのかんがえたさいきょうのろぼっと”とパイロットに近いものが登場します。


第一話 堕ちた太陽

 

 時は遡って新代歴186年末、地球に五つの流星が降り注ぐよりも前のこと。

 宇宙に浮かぶとあるコロニーのとある一室にて、明かりを落とされた暗い部屋の中で煌々と光るいくつものモニターを前に、目元を覆うゴーグルと義手が目を引く老人が届いたばかりのメッセージに目を通していた。

 何重にもセキュリティを施した暗号だ。暗号解読のスペシャリストでも、そう易々とは解読できない厳重さはそれを受け取る老人の立場と内容の重要性に依る。

 

「ハワードの奴め、サルベージ業にだけかまけておれば良いものを。ピースミリオンの建造ばかりでは飽き足りんか。業突くじじいめ」

 

 ハワードとは老人と縁の深いとあるサルベージ屋兼技術者だ。推進器や姿勢制御関係のスペシャリストで、この分野においては地球圏屈指の人物である。

 今は地球上を主な拠点として活動している筈なのだが、稀にこうしてかつての伝手を辿って連絡を寄越してくる。

 暗号化されたメッセージには、ハワードが参加している地球連邦主導の計画についての情報が記載されていた。極秘性の高さからその概要と名前程度しか記載されていないが、それでもハワードが送るだけの意味のあるものだった。

 

「SRG計画か。例のプルート財閥がスポンサー、参加しているのは、ほ、これは豪華な面子じゃな。こいつらが協力して機動兵器を開発すれば、とんでもない代物が出来上がるじゃろう。コロニーにとって、とてつもない脅威にもなりえるが……」

 

 老人は、かつてジオン・ズム・ダイクンやヒイロ・ユイと共にコロニー独立運動に参加し、今もある程度手段を選ばずにコロニーの独立を願い、行動している人物だ。

 その証拠に、老人は一部のコロニーひいてはスペースノイドの独立を謳うとある組織の力を利用して、独自に強力なMSを開発している。

 

「しかし、ハワードの奴め、“面白いことになっているからなるべく手を出すな”とは……光子力、ゲッター線、超電磁エネルギー、ダイモライト、どれも戦争に利用するよりも人類の発展と宇宙開拓を前提としたものじゃ。

 それをロボットに応用するとは、まるで戦うべき相手が宇宙からやってくると言わんばかりか。どうせわし以外にもあの爺共にも同じメッセージを送っておるだろうが……ふむ、一当てする必要はあるじゃろうな」

 

 老人は金属製の左手で顎鬚をしごき、一年戦争以後のプルート財閥の行動を思い起こす。

 地球連邦政府・軍双方に積極的に近づき、機動兵器開発や壊滅したサイドの復興事業、スペースノイドの地位向上、火星や木星の開発支援と手広く始め、不気味なほどにその全てで成功を収めている。

 

「正当な対価を求めるばかりでそれ以上を暗にも望まぬとは気味の悪い聖人ぶりだが、ヘイデス・プルート、その皮を剥けば何がある? 獣の本性か? 真っ黒い欲望か?

 トールギスを完成させた挙句に改良し、少数とはいえ生産。おまけにゼファーファントムシステムまで実用しおった以上、楽観視は出来ん。ハワードが何を見たのかは分からんが、見定める必要はあるだろうな」

 

 そして自分以外にもハワードからのメッセージを受け取った四人の科学者達も、似たような結論に至るだろう。老人――ドクターJは別のモニターに映っている、自身の作品であるガンダムタイプのMSを眺め、コロニーの未来に思いを馳せるのだった。

 

 

 新代歴187年、人類史上例を見ない大戦乱の巻き起こっている地上であるが、極東ことに日本がその最激戦区であるのは誰もが否定しえない事実だ。

 だが戦場となっているのは日本ばかりではなく、アフリカ、北米、南米をはじめ、ロームフェラ財団の影響力の強いヨーロッパにおいても少ないものの機械獣、メカザウルス、どれい獣、化石獣、獣士らが都市や軍事基地を襲って被害を齎している。

 

 その例の一つとして、地中海を臨む沿岸沿に建設された小さな軍事基地が、キャンベル星人のどれい獣ガルムス五体と妖魔帝国の戦闘用生物ドローメ十数体の襲撃を受けていた。

 ガルムスは目の上に口のある四角い頭に茶色い体表、背中には二つに割れた棘付きの鉄球を背負っており、元はケント星の生物を改造したどれい獣だ。

 すでにコンバトラーVと戦って一敗地に塗れているが、クローン技術かなにかで量産したものだろう。現在、キャンベル星人の兵器として最も数多く地球圏で目撃されている。

 

 一方のドローメは薄紫色の空飛ぶクラゲか蛸といった姿をしており、妖魔帝国が都市破壊や前衛戦力として頻繁に用いている。妖魔帝国の主戦力は化石獣であるから、あくまで補助的な立場にある。地球連邦で言えばボールあたりか。

 ガルムスとドローメであるが、キャンベル星人と妖魔帝国が手を結んだわけではなく、たまたま同じ基地に襲撃を掛けたという偶然だ。その証拠に基地から出撃してきたリーオーやトラゴスを相手にしながら、お互いに攻撃を加えている。

 

「くそくそ、くそ!」

 

 緑色のリーオーを駆るパイロットは、105mmライフルを上空のガルムスへと向けて発砲し続けていた。ガルムスは五十メートル超の巨躯を誇り、それ相応の分厚い装甲はライフルの弾丸がいくら命中しても然したる効果はないように見える。

 ガルムスは編隊を組むドローメが吐き出す火炎弾とリーオーの弾丸を浴びながら、巨大な腕を振り回してドローメを叩き落とし、胴体の皮に隠れていたミサイル発射口を開いて、地上のリーオーやトラゴスへと向けて棘のようなミサイルを発射する。

 一発一発がMSからすれば冗談のような大きさのミサイルが降り注いでくるのを、基地側は必死に撃ち落としてゆく。

 

「ライフルじゃ話にならん。バズーカかトラゴスのキャノン砲で相手をするんだ! くそう、こっちはOZなんだぞ!」

 

 襲撃を受けていたのは地球連邦軍欧州方面で幅を利かせるOZの基地で、迎撃しているMS部隊もまたOZに所属する者達だ。

 ロームフェラ財団主導によって開発されたリーオーは、生産性、整備性、汎用性とどれも高い水準を持つ傑作機といって良かったが、仮想敵はあくまでもMSだ。

 異星の技術によって作り出されたMSに倍する巨体や重装甲、パワーを有する兵器との戦闘など想定外である。

 

 奇しくも通常の連邦軍がゲシュペンストシリーズやMZ、またオプションとして開発された大口径・高火力武装により対抗出来ている現状とは真逆の光景が広がっている。

 それでも基地の守備隊とドローメからの集中砲火を浴びたガルムスの一体が爆散し、ようやく脅威が減ったとリーオーのパイロットが安堵したのも束の間、残りのガルムスの内の一体が、体を丸めて棘付きの殻を被り、激しく回転しながら落下してきたのだ!

 進路上にあるものすべてを粉砕する回転鉄球に基地の建物や逃げ遅れたトラゴスが粉砕される悪夢の光景に、パイロットは恐怖の叫びをあげる。

 

「うわああああ!?」

 

 今年に入ってから頻発していた謎のガンダム五機によるOZの軍事基地襲撃も、侵略者達の襲来でぐっと減り、少しだけ安堵していたというのに、ここに来てのその侵略者達に襲われた挙句に機体ごと轢き殺されるなんて!

 

「こんな死に方あるかよぉ!!」

 

 リーオーのパイロットである彼女は、まだキスだってしたことがないのに!

 コックピットに響き渡るばかりで誰にも届かない筈の彼女の叫びは、しかし、超音速で飛来した一機のMSに確かに届き救いを齎す事に成功する。

 回転しながら迫りくるガルムスの横っ腹に、疾風の如く襲い掛かったMSの構えていた回転する槍が深々突き刺さり、そのままガルムスを空中高くへと持ち上げて見せたではないか!

 

「へ?」

 

 咄嗟に両腕を目の前で交差して自分を庇っていたパイロットは、自分がまだ生きている事に驚き、続いてモニターに映る頭上の光景に声を失った。

 殻ごと串刺しにされたガルムスが空中に放り出され、地上に落ちる前に爆散し、その炎の照り返しを浴びて、巨大な槍を携えたMSが空に佇んでいる。

 プルート財閥ヘパイストスラボ所属――ゼファートールギス。プロトタイプリーオーとも呼ばれるトールギスを操る西風(ゼファー)が、系譜たるリーオーとそのパイロットの女性の救い主であった。

 

 右手に携えるはSRG計画の産物たる超電磁ドリルランス。見た目は中世の騎士が馬上で用いた円錐形の槍だ。ヘイデスはFG〇のオルタの方のロンゴミニアドじゃん、と初めて目にした時、内心でそう感想を零している。

 コンバトラーVの必殺技超電磁スピンを携行兵装で可能な限り再現した代物で、超電磁エネルギーを生み出す原子力エンジンを内蔵したドリルランスは、二十メートル近いサイズながらガルムスを一撃で葬った事でその威力の程が窺い知れる。

 新たな乱入者にガルムスや生き残りのドローメが戦況の変化を敏感に察する中、ゼファートールギスはその名に相応しい速度で動いていた。

 

 超電磁ドリルランスの穂先をガルムスへと向けると、勢いよく回転し出した穂先から赤い超電磁エネルギーの嵐が吹き荒れて、残りのガルムスの内一体を飲み込んでたちまちの内にその動きを拘束する。

 本家コンバトラーVの超電磁タツマキならぬ超電磁トルネードだ。小型化した原子力エンジンを使っている為、拘束力と持続時間は超電磁タツマキに劣るが、ゼファーの無人機ならではのマンポイントを超えた機動とゼファートールギスの加速性能がそれを補う。

 ソニックブームを発しながら両肩のスーパーバーニアを噴かしたゼファートールギスが空中を駆け、超電磁トルネードに拘束されたガルムスのどてっぱらに大穴をぶち開けてゆく!

 

 これで三機のガルムスが撃墜され、残りの二体がゼファートールギスの残像を追うようにミサイルを発射するも、ゼファーは鋭角と曲線の入り混じる軌道で避け、左肩のシールドにマウントしていた巨大なチェーンソーを機体の左手に持たせる。

 超電磁ドリルランスと同じく原子力エンジン内蔵の超電磁チェーンソーである。ガルムスの左首筋に超電磁チェーンソーが叩きつけられ、耳障りな音を立てながらガルムスの装甲が削り取られてゆく。

 苦悶の叫びをあげるガルムスの顔面に、アタッチメントに接続されたドーバーガンの銃口が突きつけられて、高圧縮状態のビーム砲弾がガルムスを口の中から吹き飛ばす!

 

「はえ、あ? すごい……。あ、危ない!」

 

 戦闘中でありながら呆然とゼファートールギスの戦いを見上げていたパイロットだが、最後のガルムスとわずかなドローメが、ゼファートールギスを最強の敵と認識して、期せずして集中砲火を浴びせようとしていたのだ。

 パイロットは咄嗟に愛機を動かしてライフルを撃とうとしたが、遠方から放たれた高出力のビームとミサイルの嵐が先んじてガルムスらを撃破する。

 

「あれは……噂のゲシュペンストMk-Ⅱ! 本当に空を飛んでいる。いいなぁ……」

 

 リーオーのメインカメラは、遠方の海上を飛行するゲシュペンストMk-Ⅱ六機とストーク級空中母艦一隻を映し出していた。

 欧州方面の連邦軍やOZの手が回らない襲撃に対し、プルート財閥傘下のアレスコーポレーションは官民問わず要請に応じて防衛活動に出撃しており、今回は別の都市への襲撃を防いだ帰りにたまたま救援に駆け付けたのである。

 ストーク級ポダルゲーのブリッジでは、カインズとエリシアがゼファーのオペレートを行っていたが、敵機の全滅を確認して帰還命令を出したにもかかわらず、ゼファーが基地上空から動こうとせずに海中にセンサーを走らせるアクシデントが生じていた。

 

「ゼファー?」

 

 オペレート用の特設席に座したエリシアに、カインズがシート越しにモニターを覗き込む。

 

「どうした? ゼファーがなにか?」

 

「それが海中をセンサーでチェックしているようです。どれい獣と化石獣(※ドローメの事)の反応は全て消失しているのですが」

 

「ふむ……古い話だが、ソロモンの時もゼファーはなにかを感じたような反応を見せたな」

 

 一年戦争の頃だから、もう八年も昔の話である。そうしてエリシアとカインズに独自行動を許されたゼファーは、テレンスの開発したカタールと交戦し、カタールに搭乗していたニュータイプのパイロットを生かしつつこれを撃破したのだ。

 

「あ、ゼファー、帰還コースに入ります。海中に敵機が潜んでいた、というわけではないようですね」

 

「やれやれ、世界中どこを見ても侵略戦争ばかりか。宇宙はまだ静からしいが、アクシズが接近しているというし、いずれは宇宙も騒がしくなる。ゼファー、お前はいつまで戦えばいいのだろうな」

 

 ゼファートールギスとゲシュペンストMk-Ⅱ部隊がポダルゲーに帰還し、ヘパイストスラボへと帰投し、襲撃を退けた基地は大急ぎで負傷者の救助と瓦礫の撤去、OZ本部への連絡に慌ただしくなる。

 そして基地近海の海中には、ゼファーが怪しみながらも捕捉しきれなかった存在――黒いガンダムがまだ潜んでいて、そのパイロットがコックピットの中で先程の戦闘を反芻しているところだった。

 コロニーから送り込まれた五機のガンダムの内の一機、ガンダムデスサイズのパイロット、デュオ・マックスウェルは、やれやれと息を吐いてシートに背を預ける。

 

「や~れやれ、まさかこれから襲おうって基地にキャンベルと妖魔の連中が姿を見せるってのは、どんな星の巡り合わせだ?

 そいつはまだいいが、あれが例のゼファーファントムシステムとSRG計画のオプションか。MSって呼んでいい代物じゃないが、いざとなりゃあれもどうにかしないといけねえんだよな。さて、あっちの基地は、まあ、死神の気まぐれに感謝しなよ」

 

 無事なのはリーオー一機くらいのもので、今も懸命に救助作業が行われている基地を再襲撃する気にはなれず、デュオはヘパイストスラボの戦力確認の任務へと意識を切り替え、相棒を動かした。

 

 

 現在、ヘパイストスラボは世界で注目されている兵器開発研究施設の一つである。

 一年戦争以降、次々と強力な機動兵器を開発し、今では極東支部主導のSRG計画のスポンサーとなり、“民間の善意の協力者”であるスーパーロボット達と世界平和の為に侵略者達と戦う正義の味方としてのイメージさえ抱かれつつある。

 これにはプルート財閥と地球連邦政府が手を組んで、スーパーロボット達が侵略者を退ける勇姿を積極的に地球・宇宙を問わず配信してイメージアップに努めている効果もある。

 お陰で各地のスーパーロボットの研究所には、世界中から寄付が絶えず送られてくるようになっている。

 

 さてそんなヘパイストスラボであるが、今日も今日とてラボ内では所長やMZの生みの親であるトミイ・タカラダ氏を筆頭として新たな地球を守る剣達の開発が進められている。

 世界中の科学要塞研究所やビッグファルコンといった防衛機能を備えた研究施設を参考にして、更なる資金と資材が投入されて要塞化が進められた結果、ラボの規模は一回りも二回りも増して巨大化している。

 

 地下に設けられていた機動兵器格納庫の数も増え、サイズや動力源別の括りで分けられている。

 人類防衛の要の一つとなったゲシュペンストMk-Ⅱに続くゲシュペンストMk-Ⅲ、あるいはまったく別の新型機の開発の他、SRG計画の機体や装備の研究も進められるプルート財閥の超重要施設となった。

 

 そのラボの格納庫の一角に、所長の姿があった。今年で三十五歳になる女傑だが、活力に満ちた類まれなる美貌は年齢による衰えを微塵も感じさせず、優雅なロシアンブルーを思わせる雰囲気も変わらずで、一年戦争の頃からまるで年をとっていないように見える。

 本日はネパールやインドなどで着用されているサリーを着用している。ピンクに近い赤色の生地に金糸の刺繍や色とりどりのビーズが散りばめられ、その上にいつもの白衣、プラチナブロンドは首筋の後ろで纏めて大きなお団子状に纏めていた。

 

 今、所長が格納庫に居るのは、最終テストを終えた次期主力量産機候補の機体が帰投し、そのテストパイロット達を自ら出迎える為だった。

 所長が待つ格納庫に隣接するブリーフィングルームに、帰投後の着替えを終えてヘパイストスラボの所属を示す黒を主にとした制服姿の四人が姿を見せる。

 

 毛先を切りそろえた緑がった黒髪が目を引くオウカ・ナギサ、銀髪のショートカットを持つゼオラ・シュバイツァー、癖のある紫色の髪とひと際小柄なラトゥーニ・スゥボータ、四人中唯一の男性である紫色の髪を持つ快活そうなアラド・バランガ。

 昨年、解散したティターンズのパイロット養成機関“スクール”から保護された四人だ。

 ヘイデスらの下に引き取られてから一年弱が経過した現在、四人は社会常識や一般教養を学びつつ、スクールで培った操縦技術を活かす為にテストパイロットの職を得ていた。

 

「所長、グランド・スター、帰還いたしました」

 

 スクールでもラボでも最年長、最高の技量の持ち主としてリーダー格であるオウカが、息を呑む美貌に親愛の笑みを浮かべて所長に帰還の挨拶を告げる。

 グランド・スターとは、オウカら四名のテストパイロットに与えられたチーム名だ。スパロボZシリーズの主人公の一人、セツコ・オハラの所属していたグローリー・スターにあやかったものである。

 

「ええ、オウカ、ゼオラ、ラトゥーニ、アラド、四人ともお疲れさま。今回も事故が無くて何よりでした。貴方達のお陰で必要なデータは集まりましたし、今すぐにでも実戦に投入できるレベルまで仕上がりました。本当にありがとう」

 

 心から称賛の言葉を告げる所長に、オウカをはじめ四人全員が照れくさそうな表情を浮かべる。スクールではこのように素直な称賛の言葉を受ける機会は少なかったのだろう。

 

「へへ、それなら臨時ボーナスとか出たりして」

 

 とお調子者というか迂闊なところのあるアラドが口にすれば、公私ともにパートナーを務めるゼオラがすぐに顔を赤くして叱りつけた。

 

「馬鹿! 何言っているのよ。私達はお仕事をこなしただけでしょう」

 

「いや、でも、俺なりに頑張ったし……」

 

 技量に劣るアラドを優秀なゼオラが様々な場面でフォローする光景は、スクールでもラボでも変わらないものの一つだった。オウカもラトゥーニもアラドの発言に呆れた顔を隠さないが、所長は気分を害した様子はなく柔らかな笑みを浮かべる。

 

「ふふ、構いませんわよ。貴方達の意見は出来る限り尊重するつもりですし、貴方達の働きはとてもありがたいものです。ボーナスを進呈するのには十分な成果ですから、私から総帥の方に進言しておきます」

 

「やった! ほら、言ってみるもんだろう?」

 

 得意げな顔になるアラドだったが、オウカは眉を潜めて気遣わし気に所長に尋ねた。

 

「しかし、本当によろしいのですか? アラドもああして喜んではいますが、本心では驚いていると思いますが……」

 

「子供が遠慮をするものではありません。たとえテストパイロットとはいえ、貴方達を機動兵器に乗せるのさえ躊躇われるところを、無理をさせているのです。報いる機会があれば報いたいのはこちらの方ですよ」

 

「報いるなどと……。他に生きる術を知らない私達に、所長や総帥は過分な待遇を施してくださっています。感謝の言葉こそあれ、他に言うべき言葉などありません。私達だけでなくスクールの仲間達にも、心を砕いてくださっているではありませんか」

 

「オウカ、貴女はもっと我儘に、もっと欲深くなるべきですわねえ。その点、素直に欲求を告げるアラドはまだ見どころがありますわね」

 

 嘆息する所長にラトゥーニがおずおずと意見を口にした。スクールから廃棄処分されてしばらくはひどい人間不信に陥った少女も、彼女を救った連邦軍人の夫妻とスクールの家族らとの再会のお陰で随分と人間性を取り戻している。

 

「所長、そういう事を言うとアラドが調子に乗るから……」

 

「ははは、ラトゥーニに褒められたぜ」

 

「アラド、褒めてない」

 

「ふふ、いいんですのよ。それでアラド、臨時ボーナスが出たとして、貴方は使い道を決めておりますの? 将来の為に貯金でもいいですけれど」

 

 これで明確な目的の一つでもアラドが口にすれば、所長としては僥倖だ。

 アラドは、スクールに拾われる以前の記憶がない事や自分達が機動兵器のパイロットとしてしか生きる術がないのを悲観せず前向きに受け止めているが、所長やヘイデスはそうしなければ生きていけないという諦観から来ているのではないかと危惧している。

 特にヘイデスは画面の向こうで見ていた時には、アラドの楽観的な性格を好意的に捉えていたが、実際に面と向かい合いスクールでの境遇などを合わせてみると、アラドはアラドで人格の根底に闇なり傷なりがあると思わずにはいられなかったのである。

 

「そうだなあ、とりあえず食堂のメニュー全制覇っすね。後は街のレストランを片っ端から食べて回るのも良いな!」

 

「あんたねえ、目先の食欲にとらわれてばかりで、もっとまともな使い方は思いつかないの!?」

 

 大食漢のアラドらしい答えが返ってきたことに所長が安堵する一方で、ゼオラはアラドの欲望に正直すぎる回答にガミガミと雷を落としたが、次のアラドの言葉で窮する事になろうとは夢にも思わなかっただろう。

 

「それじゃあ、お前の考えるまともな使い方ってなんだよ? そこまで言うからには何か立派な考えがあるんだろうな?」

 

「それは、えっと、し、所長が言ったみたいに貯金とか、後は……」

 

 ゼオラはなにも思いつかないと傍目にも分かる様子でしどろもどろになる。その様子に軽い気持ちで言い返したアラドも所長も、自分の欲求すら分からない状態であるのを察して表情を曇らせた。

 アラドがすぐさま話題を切り替えたのは、スクールからの自立と確固たる自我の形成という二点においては、ゼオラよりも彼の方が健全な形で進んでいるからだろう。

 

「わははは、ならボーナスが入ったら俺が奢ってやるから、感謝しろよ。その時までに何が食べたいか、考えておくんだな。まあ、食べ過ぎてまたその胸が大きくなって、服のサイズが合わなくなっても知らないけどな!」

 

「な、なんですってぇ! あんたはいつもいつも、どうしてそう私の胸のことばかり~!」

 

 漫画かアニメだったら頭から湯気を噴くような怒り方をするゼオラを見て、アラドがほっとしたのを、所長もオウカもラトゥーニも見逃さなかった。

 そして所長はオウカへと目をやり、彼女が首を横に振るのを見て痛まし気に目を細める。オウカもまたゼオラ同様に、お金を得たとしてもそれの使い道が分からないのだ。

 その点、彼女らよりも早くスクールの外の世界と人の善意に触れたラトゥーニの方が、健全な成長をしている。

 

(人並みの欲求を抱くのですらまだまだ前途多難ですわね。ティターンズもよくもまあ、こんな真似を。人間の罪深さは、なんと底知れないことか……)

 

 こればかりは長い目で見るか、価値観をガラリと変えるような出来事がないと好転はしないか、と所長は意識を切り替えて話の話題を彼らの将来設計へと変える。

 

「アラドは食べるのが好きですけれど、それならいっそ作る側に回ってみるのも良いかもしれませんわよ?

 少なくない美食家が自分で料理を作るようになりますし、アラドも食べるばかりではなく、自分で最も美味しいと感じる料理を作ってみるのもいいかもしれません」

 

「レストランのコックかあ。でも俺じゃあ、我慢できずに摘まみ食いしちまいそうだな」

 

「お客さんに出す為の食材を全部食べちゃいそうだものね」

 

 簡単に思い浮かべられる光景にゼオラが呆れた顔で釘を刺すのを、所長はニマニマと見ていた。

 

「それならゼオラがアラドの手綱を握ればいいでしょう。貴女の場合、当然のようにアラドの傍にいるでしょう?」

 

「え、わ、私は別にアラドのことなんて……その……」

 

「ほほほほ、いいじゃありませんの。私や総帥をはじめラボの誰の目から見ても、貴方達はお似合いのペアです。お金を貯めて、二人でレストランでもカフェでも好きなようにすればよろしい。

 オウカとラトゥーニはウチの財閥の専属モデルか、それとも女優業に興味はありませんか。二人とも大変に愛らしいですからね。少しメイクやファッションを勉強すれば、あっという間にあちこちから引っ張りだこになりますわ」

 

 所長は本気で告げたのだが、オウカとラトゥーニはと言えば自分達がテレビや雑誌の表紙を飾るかも、という未来を想像できず困った顔でお互いを見ている。

 

「ま、可能性の一つとして頭の隅っこに留めておいてくださいな。貴方達の未来はまだまだ続くのです。なりたい自分、したい事、叶えたい夢、欲しいもの、それらがこれからいくらでも出てくるでしょう。

 オウカやラトゥーニなら世界で二番目に良い男とだって巡り合えます。ゼオラはまた別ですけれど」

 

 ゼオラの場合、良くも悪くもアラド一筋であるし、この話からは除外していいだろう。ここでラトゥーニが所長の『世界で二番目』という言葉を不思議に思って尋ねる。

 

「所長、では世界で一番とは誰の事なのですか?」

 

「もちろん、私の旦那です。そこそこ欠点のある方ではありますが、贔屓目がメガ盛りギガ盛りテラ盛りの私からすれば、ヘイデス・プルートが世界一良い男ってわけですわね!」

 

 おほほほ、とゼオラよりも大きな胸を揺らして笑う所長に、ラトゥーニは目をパチクリとさせてキョトンとしている。

 

「ああ~、ほら、ラトゥーニ、所長やヘイデスさんは隙があれば惚気てくるから、言葉には気を付けないとだぜ」

 

 アラドが困った人だと言わんばかりに苦笑いを零すと、ブリーフィングルームの扉が開いて、ちょうど話題になった人物が顔を見せた。

 

「やあやあ、オウカ、ゼオラ、アラド、ラトゥーニ、お疲れ様。ちょっと顔を見に来たよ」

 

 そういうヘイデスの両手には、お土産としてギリシャ伝統のお菓子バクラヴァ(バクラバ?)の紙袋がどっさりと持たれている。

 バクラヴァは胡桃やピスタチオなどのナッツ類を蜂蜜に絡め、パイ生地で挟んで焼き上げたものだ。強烈な甘みをもったお菓子で、食後のデザートとして定番である。

 

「あ、世界で一番良い男」

 

 と思わずアラドが呟くと、ヘイデスは少し不思議そうな顔をしたがにんまりと笑みを浮かべる。脈絡もなにもないが、とりあえず褒められたと受け取ったらしい。

 

「ははは、急にどうしたんだい? 何かのおねだりかな。お給料は相場よりも高めに設定しているけれど、ボーナスでも欲しくなったのかい?」

 

「いやそういうわけじゃないんすけど。あのつかぬ事を聞きますけど、総帥にとって所長はどういう存在で?」

 

「んん? 唐突だね。そりゃあ、世界で一番良い女である僕の奥さんさ! コレーやヘマー、オウカにゼオラ、ラトゥーニは同率の二位かな! あ、これはお土産のバクラヴァ。後で、四人で食べてね」

 

 にこにこと人好きのする笑顔で入室するヘイデスに続き、十五、六歳の年齢にまで成長したシュメシとヘマーも入室する。

 シュメシは艶やかなシルクの白シャツに黒のベストとスラックスとシンプルな服装だが、中性的な容姿と浮世離れした雰囲気が相まって、性別を問わずドキリとさせる不思議な色気を醸し出している。

 ヘマーはフリル付きの赤いブラウスにブラウンのビスチェ、黒い膝丈スカートに白いオーバーニーソックスという取り合わせだ。自分で決めたかあるいは所長に見繕ってもらったのか。

 

 この双子もまたスクールの四人と同じく輝くような美少年と美少女であった。もっとも、シュメシとヘマーの実年齢はまだ六歳程度だけれど。

 この双子の成長速度が何時まで常人の数倍のままであるかは、ヘイデスと所長が不安に感じている点でもあった。ともすれば親の自分達よりも先にこの双子が天寿を迎える可能性があるのだから。

 

「こんにちは、お邪魔するね」

 

 とシュメシが自分も持っていたお土産の袋を近くの机に置く。四人に対して随分な量だが、アラドの食欲を考慮すれば妥当な量だった。ヘマーは赤いエナメル靴で床を踏みながら、愛する母のすぐ傍へと歩み寄った。

 

「お母さんもお疲れ様。お土産、たくさん買ってきたよ?」

 

 双子の見た目の年齢はゼオラやアラドと変わらないが、中身はまだまだ母親に甘えたがりの甘えんぼうだ。

 

「ええ、ありがとう。後でお茶を淹れてでいただきましょう。総帥、お忙しい中、ご足労頂きありがとうございます」

 

 身内しかいないとはいえ場所が職場であることもあり、所長はあくまで社員としての立場で言葉を選んだ。瞳に宿る愛情ばかりは隠せないが、それを指摘する者はこの場に居ない。

 全員が席に着き、改めてヘイデスと所長は雇用主と従業員として仕事の成果について話し始める。

 

「所長に任せているのは、自分で足を運んで確かめないといけない案件さ。ゲシュペンストMk-Ⅲの方は、Mk-Ⅱのバージョンアップにするか、アルトアイゼンとヴァイスリッターの良い所取りにするかで保留中だっけ?」

 

「北米のバベジン研(※バベッジ・エジソン研究所の略称)に預けた二機が活きの良いパイロットに恵まれた事で、有用なデータが湯水のように送られてきておりますから、近日中に方針を決定いたします。

 あの二機の性能を引き出せるパイロットがプロメテウスのメンバー以外にも居たとは、連邦軍の人材も捨てたものではありませんわね」

 

 北米と言えばアムロは原作通りシャイアン基地に配属となり、退役間近の老軍人達に囲まれているらしい。ただし、基地の中で“色々としている事”は原作通りというわけではない。いまやシャイアン基地はアムロ派、あるいはレイ親子の庭となりつつある。

 

「うん、それなら安心だ。適性でいえばアラドにアルトアイゼン、ゼオラとラトゥーニにヴァイスリッター、オウカなら両方使いこなせるけれど、負担の大きな機体だ。君達に余計な負担を掛けられないよね」

 

 SRG計画によって開発されたアルトアイゼンとヴァイスリッターはマジンガーZやダンクーガ同様、MSサイズながら、機体の出力や戦闘能力はスーパーロボットの領域にある。

 それだけに、MSの操縦技術をスクールで叩き込まれてきたオウカ達には馴染みのないもので負担が大きく、二機がロールアウトした頃には療養中だった四人を乗せるわけにはいかないと見送られていた。

 

「それで先程までオウカ達に預けていたもう一方の新型ですが、テスト項目は全て終えました。四人の尽力のお陰で実用レベルに至っています。後はパイロットを選んで、実戦でのデータを得れば、ゲシュペンストMk-Ⅲより先に完成となりますわ」

 

「あの、所長、総帥」

 

 どこか遠慮がちに、けれどしっかりと意思の光を宿したオウカの瞳に、ヘイデスも所長も嫌な予感が心の中で鎌首をもたげる。

 

「出来れば実戦でのテストにも、協力させてください。まだお役に立ちたいのです」

 

「オウカ姉様がそう言うなら私も」

 

「私も、まだ役に立てます」

 

「オウカ姉さん、それにゼオラとラトまで。まあ、俺だって総帥達に恩返ししたい気持ちは分かるけど」

 

 オウカがそう言えばゼオラ達もそれに続くのは自明の理だ。アラドだけはヘイデス達がそれを望んでいない事を尊重し、多少言葉を濁すが、家族の安全と未来を約束してくれるヘイデスに感謝している気持ちは同じだ。三人の意志を強く否定する事は出来ない。

 

「ああ~、う~ん、気持ちだけ受け取っておくよ。アムロ・レイみたいな前例はあるけれど、僕には君達を率先して実戦に向かわせようという気持ちが微塵もないのは分かっているでしょ?

 少なくとも今はそういうきれいごとを口にするだけの余裕があるし、だから、今は気持ちだけ、ね?」

 

「……はい。勝手を申し上げました」

 

「そんなに申し訳なさそうにしないでおくれ。君達が僕らに恩返しがしたいっていう気持ちは、思わず涙ぐんでしまいそうになるくらいに嬉しく思っているよ。ね?」

 

 とヘイデスの視線を受けた所長は同意だと首を縦に振り、慈愛に満ちた瞳で四人の傷ついた子供達を見る。あるいは自分達が傷ついている事にも気付けない子供達を。

 

「そうですね、人類の人口が一割を切るだとか、いっそ高性能の機体に乗って戦場に出る方がまだ生存の芽があるとか、そういう状況にならない限り私達が貴方達を実戦に投入するのは渋りに渋ると覚えておいてくださいな」

 

 ヘイデスと所長から続けてこう言われてはオウカ達もそれ以上は意見を口にしなかったが、ヘイデスは内心では実は年齢を理由に戦場に出るのを拒否するのは、あまり説得力がない事を理解していた。

 一つの例を挙げるならば、コンバトラーVのパイロットの一人である北小介は小学生であるし、ボルテスVの剛日吉は八歳。他にも日本で大活躍しているスーパーロボットのパイロット達の多くは、高校生程の年齢である。

 グランド・スターの四名中最年長のオウカで十七歳、ゼオラとアラドが十五、六歳前後、ラトゥーニが十四歳であるから、スーパーロボットのパイロット達を許容するのならば、彼女らの年齢は戦場に出るのを拒否する理由にはならないのだ。

 ヘイデス達とオウカ達の間に流れる悲痛な雰囲気を感じて、ヘマーが泣きそうな顔になりながら拙い言葉を口にし、シュメシも同じように続いた。

 

「あのね、お父さんもお母さんもオウカお姉ちゃん達が嫌いだから駄目って言っているんじゃないよ。大好きだから、傷ついて欲しくないから駄目って言っているんだよ」

 

「うん、ヘマーの言う通り、皆のことが大好きだから言ったの。だから、お父さんとお母さんを嫌いにならないで」

 

 外見はそう変わらないのに、精神はスクールの弟妹達を思い起こさせる幼い双子の言葉に、オウカ達はそろって目元を柔らかくし、オウカはヘマーの頭を優しく撫でる。

 

「ええ。それは分かっています。ごめんなさいね。シュメシとヘマーには喧嘩をしているように見えてしまったのね。大丈夫よ、私も総帥達もお互いを嫌いになったりはしていないわ。ただ、お互いに望んでいる事が少しずれてしまっただけ」

 

「本当? 喧嘩していない?」

 

「ええ。仲直りする必要なんてないくらい、私達は総帥と所長のことが好きなままよ。シュメシも、不安な思いをさせてしまってごめんなさい」

 

「ううん! 皆が喧嘩をしていないなら僕はそれでいいよ。仲が良いならそれが一番だから。ね、ヘマー」

 

「うん、そうね、シュメシ」

 

 そう言ってお互いの顔を見合わせてにっこりと笑う双子を見て、所長はやれやれと息を吐く。

 

「私達もオウカ達も泣く子には敵いませんね。さて、それではお土産を頂戴して空気を変えるとしましょうか」

 

「へへ、それじゃあ早く準備しなきゃ」

 

 とアラドが舌なめずりせんばかりの勢いで机の上の紙袋を手に取り、大量のバクラヴァを取り出す。頭を殴られるような甘みが特徴のバクラヴァだが、大らかな味覚を持っているアラドにとっては、口いっぱいに頬張っても全く問題のないお菓子だ。

 いつもと変わらない様子のアラドに場の空気が和らいだ時、その空気をぶち壊しにする緊急事態を伝える警報が鳴り響いた。

 

「これは嫌なアラートだね!」

 

 いよいよか、とこれまで何度も思った事を考え、ヘイデスはせめてもの見栄として笑みを浮かべるが、頬を伝う冷や汗を隠せずにいた。

 

「シュメシ、ヘマー、オウカ、ラトゥーニ、ゼオラ、アラド、貴方達は一番近くのシェルターに避難なさい。六人なら立て籠もっても半年は持つ備蓄がありますし、安全です。反論は許しません、いいですね! 総帥」

 

「うん、分かっている。いいかい、所長の言うことをよく聞くんだよ。大丈夫、怖いものはすぐにいなくなる」 

 

「お父さん、お母さん!」

 

 ヘマーの呼ぶ声を背中に受けて、けれども振り返らずにヘイデスと所長は駆け出した。ヘイデスが恐れ続け、胃と神経を痛め続けてきた、来るべき時の襲来だ。

 物語はもう止まる事を知らない。流れ続ける中で、果たして生き残れるのかどうか、それはヘイデスが死力を尽くしてなお確証を得られぬ難題である。

 

 

 ラボの防衛を担う司令部に辿り着いた二人は、プロメテウスの試験基地からラボへと異動になっていたヨハン司令に状況の確認を求めた。

 階段状になっている巨大な司令部には、ラボの第一防衛線に侵入し配置された防衛兵器と交戦中の敵機の映像が数々のモニターに映し出されている。

 

「やあ、ヨハン司令。無粋な敵は機械獣かい? それともメカザウルス?」

 

 挨拶もそこそこに詳細を訪ねる雇用主に、青みがかった髭で顔の下半分を覆おうヨハン司令は、アレスコーポレーションの社章が飾られた軍帽を被り直し、険しい眼差しで答えた。

 

「未確認の機体ですな。おおよそMSと同等のサイズですが、デザインラインがまったく別のものだ。キャンベルやボアザンに続く異星人の勢力かもしれん。メインモニターを」

 

 ヨハン司令の言葉に従い、メインモニターを見たヘイデスの瞳に、下半身は蜂、上半身は天使を模した異形の機械が映る。数十を超えるそれらが両手からエネルギー弾を連射して、各所に配置されたビーム砲台やトーチカを次々と破壊している。

 

(あれは確か……デイモーン!? それじゃあサイデリアル、最悪、御使いの残党か? Zシリーズの後の時間軸なら、サイデリアルの残党は副隊長達が取りまとめているはずだし、御使いの残党なんているのか? 明らかに別な宇宙であるこちら側に転移してこられるのか?

 最悪、何かしらZシリーズとは設定の異なるサイデリアルと御使いが健在の場合もあるが、スフィアだってない筈だろうに!)

 

 シュメシとヘマーを内包していたヘリオースもどきを回収した時に抱いた疑念を再び燃やし、ヘイデスは目を細めてモニターの向こうに映る人体と蜂を合体させたような異形を睨む。

 ラボ周辺に配置された防衛システムと出撃したゲシュペンストMk-Ⅱ十二機が、二十、三十と数を増やすデイモーンを次々と撃墜している。幸い、手も足も出ないような強敵ではないようだった。

 

「あの様子を見るに性能はそれほど脅威ではありませんね。それにあの動き……」

 

 所長が冷静に分析をするのを横目に、ヨハン司令が尋ねた。

 

「無人機かね?」

 

「ええ。有人機特有の動きの癖がなく画一的に統一されていますし、ダメージを受けても怯む様子がありません。パイロットの感情の揺らぎがまるで見られない」

 

「私も同じ意見だよ。電子戦用意。無人機のセンサーを撹乱してやれ。敵の目的は不明だが、慌てることはない。アレスコーポレーションへ救援要請を。増援と我々で連中を挟み撃ちにするぞ」

 

 ラボに配備された防衛部隊はその重要性に応じてかなりの規模と質を誇る。デイモーンの物量はすさまじいが、アレスコーポレーションや連邦軍の応援が来るまで守り抜くのには十分なものだ。

 だが、その前提を覆す報告が、黒人女性のオペレーターから齎された。

 

「司令、七時の方向から新たな高熱源体反応、数二十八、十五体はアンノウン1、十三体は未確認の機体です。大きい、MA!?」

 

 新しくモニターに映し出されたのはデイモーンと、艦艇のような下半身の上に両腕が穂先のような砲身になっている人型が乗っているアンノウン2――ティアマートだ。

 ティアマートはデイモーンと同じくサイデリアルで運用されていた量産型の人型兵器で、デイモーンよりも巨大で火力と耐久力に優れる。デイモーンが量ならば、ティアマートは質を担う無人機である。

 

「二十八機か、多いな。モンスターキング中隊に四番ゲートから出撃命令を。スカイブルー小隊、クラウドホワイト小隊に空中支援を徹底させろ!」

 

 ゴジュラス四機、ゴドス八機からなるモンスターキング中隊が素早く四番ゲートから出撃し、飛行能力を持たない彼らを援護する為に、プテラス四機からなるスカイブルー小隊とゲシュペンストMk-Ⅱ四機からなるクラウドホワイト小隊が、地下に格納されていたカタパルトから緊急発進する。

 数の上では二十対二十八、地の利はこちらにあるとはいえティアマートまで投入された以上、質の面でも不利に立たされたと言えるだろう。

 

「攻勢に出る必要はない。防衛システムと連携して時間稼ぎに徹するのだ。第一防衛線を破棄し、第二防衛線まで後退。総帥、所長、地下のゲートを通じて退避の用意を。このラボで最も価値があるのはどの兵器や人員よりもお二人だ」

 

 これ以上の敵の増援の可能性を考慮すれば、最悪の事態を想定するべき段階に達しつつある。ヨハンは冷静に状況を判断し、軍人の常として最悪の事態を想定した行動に移ることにした。

 ヘイデスは子供達やラボのスタッフらを置いて行く事に強い抵抗を示し、所長は唇を噛み締めて屈辱に耐えている。

 指揮官らしき機体や母艦の姿をいまだ確認できない状況では、ヨハンの危惧する通り更なる増援の可能性も考慮しなければならない。ヘイデスがヨハンに答えようとした時――

 

「! 五番ゲートが開いています。これは……グランド・スターから出撃要請が」

 

 思わずこちらを振り返るオペレーターには応えず、ヘイデスと所長は怒りと悔しさの入り混じる表情でメインモニターに重ねてポップアップされた四つのモニターを食い入るように見つめる。

 

『司令部、こちらスター1、オウカ・ナギサ、グランド・スターに出撃許可を』

 

「オウカ!」

 

 ヨハンの返事を待たずに怒声を発したのは所長だ。専用のパイロットスーツに身を包んだオウカ達が、モニターの向こうから少しだけ申し訳なさそうにヘイデスと所長を見ている。

 

「シェルターに避難しなさいと、そう言ったでしょう!」

 

『指示を守らず申し訳ありません。ですがこの状況で戦力を遊ばせている余裕はない筈です』

 

『オウカ姉様の言う通りです。総帥、所長、私達が戦場に立つことをどうか許してください』

 

 ゼオラもまた悲痛な声で懇願する中で、アラドもまた自分達の意志をはっきりとヘイデスと所長に伝える。彼らの我儘をこんな形で聞きたくはなかったと、二人は心の底から後悔していると、オウカ達が察せられたかどうか。

 

『すみません、一応、俺も止めてはみたんですけど、やっぱり俺も総帥達を守りたいし、スクールの落ちこぼれでもMSの操縦は出来ますから!』

 

 にっかりと白い歯を見せて笑うアラドもまたこれが自らの選択であると、誇りを抱いて口にするのに、ヘイデス達は言葉もない。

 スパロボプレイヤーだった記憶のあるヘイデスからすれば、有用なパイロット達が自ら戦うことを宣言する都合の良いイベントであり、また感動を誘うイベントだとも分かるが、ゲームではなく現実としてこの場に立つ者として、高揚も喝采も感動も微塵もない。

 こうなるかもしれないと分かっていて、それを防ぎえなかった自分への苛立ちばかりがあった。なんという茶番を演じているのだ、俺は!自らへの怒りと苛立ち、そして罪悪感が募る。

 

『後でたくさん謝ります。だから、今は戦わせてください。そうでないと、私はジャーダとガーネットに胸を張って会えなくなってしまいます』

 

「ラトゥーニまで……」

 

 グランド・スターを構成する四人が揃って出撃を要請する現実に、ヘイデスは力なく首を横に振った。感情を抜きにすれば四人の技量と搭乗している機体ならば、現状を打破する一手として十分だ。

 “肉親の情”ゆえに言葉を紡げない二人を後押しするように、あくまでラボ防衛の観点からといった口ぶりで、ヨハン司令が事態を動かそうと口を開く。一年戦争以前から連邦軍で戦い抜いた歴戦の老将は、この一分一秒が宝石よりも希少であると理解している。

 

「総帥、所長、戦力という観点から見てグランド・スターは有用です。今は私の権限と責任によって彼女らの出撃を……」

 

「いや、それには及ばないよ、ヨハン司令」

 

「総帥!」

 

 苦汁を飲んでいる最中と言わんばかりの表情を浮かべるヘイデスに所長は詰め寄らんばかりだが、彼の眼差しに伸ばしかけた手を止める。彼も自分も望んでいない言葉を、ヘイデスが自らの責任として口にしようとしているのを理解したから。

 

「ヘイデス・プルートの権限においてグランド・スターに出撃を命じる。接近するアンノウン部隊を撃退し、必ず全員無事に帰還する事。いいね?」

 

『はい。必ずやご命令通りに』

 

 一瞬、オウカが悲しそうに顔を歪めてから、凛とした表情に改めて頷き返す。オウカ達の顔を映していたモニターが消え、オウカ達の発進シークエンスが進められる。ヘイデスは大きく息を吐いた。体の中の全てを絞り出すような息だった。

 

「殴っていいよ」

 

 とヘイデスは傍らの所長に告げた。

 

「いいえ。私も貴方も同罪ですから。結局、私は止められなかったし、止めなかったのですから」

 

「そう。結局、ティターンズと変わらない、か」

 

 

 接近するデイモーンとティアマートの混成部隊に対し、出撃したプテラスとゲシュペンストMk-Ⅱ部隊が空対空ミサイルやメガ粒子砲を撹乱目的で放ち、続いて地上に布陣したゴジュラスとゴドスが優秀なFCSに支えられた豊富なビーム砲や対空レーザー、速射砲で対空砲火の網を形成する。

 対メカザウルスを想定し開発されたMZであるゴジュラスは、原作で全高二十一メートルのところを倍の四十二メートルとゲッターロボ並みの巨躯を誇り、ゴドスもまた原作で全高八・二メートルから十六・四メートルと倍加している。

 

 巨大化した機体には相応に大口径化した火器が搭載され、また無限に降り注ぐゲッター線に支えられたゲッター炉心は特に侵略者を相手にする時には、すこぶる調子がいい。

 良くも悪くも不安定なゲッター線利用の兵器以外にも、安定性を求めて装備されたレーザー兵器やメガ粒子砲から成る色とりどりの光の雨は、デイモーンらの群れの勢いを大きく減ずることに成功する。

 トミイ氏の努力に次ぐ努力に次ぎ、強化されたオレンジのキャノピー越しに、ゴジュラスを操る中隊長は空の戦況に歯噛みする。

 

「やはりプテラスでは火力が足りないか。新しい空戦用のMZが開発中だとは聞くが、してもな、ないものねだりを!」

 

 上空のデイモーン数機からエネルギー弾が雨あられと降り注がれて、中隊長と随伴していたゴドス二機に次々と命中して行くが、直撃を受けても共に装甲に傷はない。

 鹵獲したメカザウルスを参考にしたモーションの改修や、キャノピーの改修に合わせた装甲や内部部品のアップデートを済ませたゴジュラスとゴドスは、この程度の攻撃では動じない!

 

「どこのどいつか知らないが、ゴジュラスを舐めるなよ!」

 

 中隊からの火砲が一層激しさを増し、撃墜されるデイモーンが散見される中、中隊長は司令部から入った通信に目を通して苛立たし気に吐き捨てた。

 

「あの子らを出撃させるのか! アムロ・レイじゃあるまいに!」

 

 中隊長の三人いる子供らはちょうどオウカやアラドらと同年代であった。ヘイデスや所長と同じように悔恨の念を抱く中隊長の視線の先で、五番ゲートから緊急発進した四機のMSが戦場に加わる。

 背中にミノフスキークラフトを内蔵したVの字型のウイングユニット――VWFS(V Wing Flight System)を搭載し、右手には機体に匹敵する巨大な長方形の武装を携えている。

 機体は深い青色に染まっており、ライン状のカメラアイを備えた頭部や全体的なデザインは既存のMSと比べれば随分と異質だ。

 

 極めて堅牢なフレームとどんなエースパイロットの操縦にも反応する高い追従性、そして全領域に対応する汎用武装システム「ガナリー・カーバー」を持つ新型機、その名をバルゴラという。

 スーパーロボット大戦Zのリアル系主人公セツコ・オハラの搭乗する機体で、その後のZシリーズでも重要な位置を占めた機体だ。

 Zシリーズにおいて詳細こそ不明なれども宇宙世紀ベースの地球連邦軍が開発した機体であるから、一応はMSに分類されてもそれほどおかしくはないだろう。

 

 ゲシュペンストMk-Ⅲと並ぶ次期主力量産機候補がこのバルゴラであり、オウカ達がテストパイロットを務めていた機体でもあった。

 リーダーであるオウカの機体だけは両肩の一部のパーツが金色で、他の三機は銀色のパーツが使われている。

 

「アラドは私と先行して敵機に突撃します。敵部隊は既に陣形が乱れています。統制から離れた機体から叩き潰します。ゼオラはアラドのフォローを。ラトは狙撃支援を。ただし敵機の接近には細心の注意を払いなさい」

 

 オウカは、これまで何度も養子にならないかと誘ってくれたヘイデスと所長との会話による感傷を振り切って、素早く弟妹達に指示を飛ばす。

 全領域に対応する複数の兵装を内蔵するガナリー・カーバーだが、アラドは接近戦に特化した才能の持ち主であるから、パートナーであるゼオラのフォローが欠かせない。加えてオウカも共に前に出れば、アラドが撃墜される可能性は減らせる。

 

「おっしゃあ! 当たって砕けろだ!」

 

「ばか、砕けてどうするのよ!? そんなことになったら総帥と所長に怒られるわよ!」

 

 さっそくVWFSのバーニアを全開にして加速し、ガナリー・カーバーに内蔵されている実体刃ジャック・カーバーを展開するアラドに、慌ててゼオラが追従して実弾射撃兵装ストレイターレットと腰部にマウントしていたビームガンの一種レイ・ピストルで弾幕を張ってフォローする。

 

「オウカ姉様、どうかお気をつけて」

 

 ラトゥーニもまたオウカの指示に従って、ビーム兵装であるレイ・ストレイターレットを低出力・連射モードで起動し、隙を見せる敵機の撃墜と牽制を行い始める。

 

「ええ、私は大丈夫よ。ラトこそ気を付けなさい」

 

「あの、さっき、ゼオラは総帥達が怒ると言ったけれど、私はそれよりも悲しむと思う。あの二人が怒るよりも、悲しむ方が私はずっと嫌です」

 

「そうね、本当にそう。私達の誰も欠ける事無く戻らなければ、お二人を悲しませてしまうわね。なら、なおさらこんなところで負けられないわ!」

 

 機体を加速させたオウカは、ロックオンしたデイモーンの放つエネルギー弾を舞うように回避し、すれ違いざまにビームで刃を形成するバーレイ・サイズで胴を一閃。

 天使の上半身と蜂の下半身を両断し、腰部のレイ・ピストルを抜くや、そのデイモーンの背後で下半身のキャノンをこちらへ向けていた別のデイモーンを蜂の巣にする。

 穴だらけにされたデイモーンが爆発する中、他のデイモーンがオウカのバルゴラへ下半身のビームキャノンを向ける。

 正式にはスタウロス・キャノンと呼ばれる武器を撃とうとした直前、ラトゥーニのバルゴラの撃ったレイ・ストレイターレットがデイモーンの胸部を撃ち抜き、オウカは的確なタイミングで援護してくれる妹の働きに微笑する。

 

「流石ね、ラト。アラドは……相変わらず危なっかしいけれど、ゼオラが十分にフォローしてくれている。それに」

 

 先に出撃していた防衛部隊やMZのパイロット達が、積極的にバルゴラの支援に当たってくれている。司令部からの指示もあるだろうが、年少者に対する大人達の気遣いと意地だとオウカは納得し、感謝した。

 戦況はバルゴラ四機の参入とソレに奮起する防衛部隊により、優勢に変わりつつあった。

 

 デイモーンの撃墜は容易だが、MAと誤認されかけたティアマートがそれを補うように高い耐久性と火力を持つ分手こずっている。しかし急ぎこちらに向かっているゼファートールギスや他の部隊の合流が間に合えば、どうとでも処理できる。

 少なくともオウカやヨハン司令はそう判断していたし、それは間違いではない。その前提が崩れるまでは。

 

「どわ!? は、速い!」

 

「アラド!?」

 

 通信越しに聞こえた弟と妹の悲鳴と、浅いとはいえ機体のそこかしこを斬り裂かれたアラドのバルゴラの姿に、オウカは怒りを理性で抑え込みながら下手人の姿を求めた。

 

「オウカ姉様、上です!」

 

「これは!?」

 

 ラトゥーニの声に体が反応し、咄嗟に頭上へ振り上げたバーレイ・サイズが倍以上ある大きさの鎌を受け止める。

 コックピットのメインモニターいっぱいに目が真っ黒に塗り潰された男の顔が映し出され、オウカは不気味な迫力に息を呑んだ。

 なによりバルゴラを押し込んでくるそのパワー! オウカは真っ向から組み合う選択肢を捨てて、機体前面のスラスターを噴射し、敵が鎌を押し込む力を利用して大きく後方へと下がる。

 

 そうして男の全身像を見てみれば、なんと奇怪な姿だろう。全身が鎧めいた装甲に覆われて、頭部から首筋にかけてはそのまま巨大な蛇のように後ろへと伸びている。

 大鎌を携えた半人半蛇の異形。バルゴラに倍する巨体は生物の生々しさを備え、機械獣やどれい獣、化石獣などと言ったこれまでの異形兵器とは一線を画す雰囲気があった。

 

「パワー、スピード、それにこのプレッシャー。これまでの敵とは格が違う!」

 

 戦慄するオウカには、モニターに映し出された光景を見て、ミケーネ神! というヘイデスの心の中の叫びは届いていなかった。

 光子力研究所との交流やDr.ヘルの機械獣軍団の様子から、初代テレビアニメ版と判断していたヘイデスを襲う混乱の凄まじさたるや。ましてや天敵であるはずのサイデリアルの兵器とミケーネ神が共闘している理由とは!?

 

 戦場で対峙するオウカや驚愕するヘイデスを他所に、新たに姿を見せたミケーネ神は地上へと降り立つと、とある一点に視線を寄せて鎌の先をその地点へと向ける。

 すると残存していたデイモーンとティアマートの全てが動きを止めて、一斉に鎌の示す地点へと向けて全ての武器を撃ち始めるではないか。あまりに隙だらけであるから、攻撃を受けて次々に損傷して行くのにも構わず、攻撃だけを繰り返す。

 

「なんなのこいつら? ラボを壊す事を優先しているの?」

 

 一見、非合理に見えるデイモーンらの行動に混乱しながらも、ストレイターレットを連射してティアマートやデイモーンを撃墜するゼオラだったが、集中砲火を浴びているのが第七ゲートであることに気付き、その奥から突如として巨大なエネルギー反応が発生したことに新たな驚きをあどけない顔に浮かべる。

 ビームの嵐の只中からソレが勢いよく飛び出して、ゆるゆると地上へ降り立つ。

 

 全高三十メートル超の巨体は所々に緑を交えた白い装甲で覆われ、ツインアイと端正なマスクを備えた頭部には赤い一本角が伸びている。

 右肩には一回り巨大なガナリー・カーバー、左肩には巨大なモンキーレンチのようなライアット・ジャレンチがマウントされ、背中には四つの輪が重なり、日輪の如く背負われている。

 今度こそ堪えきれずに司令部のヘイデスはモニターへと向けて叫んでいた。

 

「あれは、フェブルウス! なら乗っているのはシュメシとヘマーか!?」

 

 この世界ではギフトのコードネームで呼ばれていたヘリオースもどきに与えられた名前、それがフェブルウスだ。古代ローマで執り行われていた慰霊祭の主神たる月の神、また死者の霊と関係が深い事からプルート神と同一視された神でもある。

 オウカ達ばかりかシュメシ達までとヘイデスが悲嘆に暮れる中、フェブルウスの直立式コックピットの中ではシュメシとヘマーが横並びに立ち、静かに語り合っていた。

 

「きっとお父さんとお母さんは悲しむね」

 

 私服のまま右側のコックピットに乗り込んだシュメシは、すぐ傍らに立つヘマーとフェブルウスへ語り掛ける。

 

「うん。でも私達は戦わなきゃ。お父さんたちは私達に名前をくれたね。たくさん遊んでくれた。たくさん美味しいものを食べさせてくれた。子守唄を聞かせてくれた。絵本を読んでくれた」

 

「うん。たくさんの事を教えてくれたね。僕達の家族になってくれた。僕達を家族にしてくれた。なら、戦わなきゃ。それにアレは僕達を狙っていると分かるのだから」

 

「うん。私達には戦える力があるから、だから戦わないと。知らないのに知っているよ。アレはオリュンポスの神々じゃない。彼らの姿を真似た偽りのもの。負の力に飲まれた彼らの皮を被ったまがい物」

 

 そして二人はその名を同時に口にした。

 

「お前の真の名はイドム!」

 

 シュメシとヘマーの声が聞こえていた筈はないが、それでも狙ったようなタイミングでイドムと呼ばれたミケーネ神は大鎌を手にフェブルウスへと斬りかかった。

 機械神と称されるオリュンポスの神のイミテーションとはいえ、その動きは既存のロボットのどれよりも俊敏で苛烈であった。大地をも斬り裂く絶命の一撃を、フェブルウスは左肩のライアット・ジャレンチでもって受け止める。

 冗談のようにフェブルウスの立つ場所を中心にして大地が陥没し、大きく地盤が砕ける。

 刃と巨大レンチごしに視線を交錯させるミケーネ神が、悪意を込めた思念をフェブルウスへと叩きつける。一種のテレパシーであり、感受性の強い者が悪意ばかりのそれを受けたら、下手をすれば精神を砕かれるだろう。

 

「我は無限の一部、我は混沌にして秩序。暗黒へと世界を進める為、再びあるべき場所へと戻るべし。至高神ソル(・・・・・)!」

 

「ソル……知らない名前だ。けれど、うん、どこか懐かしいね」

 

 ミケーネ神の姿を模したイドムの告げるその名前に、シュメシは聞き覚えがあるのを確かに認めるが、その顔には不快な色が浮かんでいた。それはヘマーも同じだった。

 

「うん、懐かしいけれど、でも嫌な感じのする名前。私達はソルじゃない。私達はヘマー、シュメシ、そしてフェブルウス!」

 

 フェブルウスの左腕が一閃するのと同時にミケーネ神は大きく弾き飛ばされ、空中で回転しながら着地すると再び神速の動きでフェブルウスへと斬りかかる。それを今度は右肩のガナリー・カーバーを手に取り、連射したブイ・ストレイターレットで牽制する。

 バルゴラのストレイターレットよりも単純に巨大である事、そしてより強化された武装である為に、その威力たるや一回りも二回りも増している。

 その弾丸をミケーネ神は大鎌を振り回して弾いて行く。弾かれた流れ弾がデイモーンやティアマートに命中し、一撃で撃破する光景でその威力が推しはかれる。

 

「肉を捨てよ。再び至高神としての姿と役目に回帰するべし」

 

「嫌よ。私もシュメシもフェブリウスも今の私達が好き。私達を育ててくれた全てが好き」

 

「だからお前達の言う通りにはならない。知らない貴女、貴女の力を借ります。ハマリエル・ザ・スター!」

 

 シュメシがその洗礼名を口にした途端、フェブルウスの右手に握られていたガナリー・カーバーの内包するエネルギーが跳ね上がり、地面すれすれを這うように近づいていたミケーネ神へと砲口を向ける。

 

「えい!」

 

 とそこへ割り込むようにヘマーの可愛らしい声がして、ミケーネ神の顎をライアット・ジャレンチがかちあげてその巨体を天高く吹き飛ばす。

 

「シュメシ!」

 

「うん、フェブルウス、行くよ!」

 

 ラボへ影響のない空中に飛ばされたミケーネ神へ、フェブルウスのガナリー・カーバーからレイ・ストレイターレットとは比較にならない出力の光の奔流が放たれて、ミケーネ神を飲み込むばかりかそのまま彼方に浮かぶ雲までをも貫く。

 スーパーロボットと共闘し慣れていない者からすれば信じがたい破壊力に、戦場の誰もが唖然とする中、ミケーネ神の皮を被ったイドムの消滅を皮切りに残存していたデイモーン、ティアマートが急速に離脱し始めていった。

 

 これを追う余力のないラボ側は負傷者の救出と収容、デイモーンとティアマートの残骸回収に勤しむ事となる。

 そしてなによりも戦場に出たオウカとシュメシ達と、彼らを戦わせてしまったと悔やむヘイデスらの話し合いが彼らを待っていた。

 

<続>

■バルゴラが開発されました。

■フェブルウスが修復されました。

 

■サイデリアル残党?が参戦しました。

 

■換装武器

・超電磁ドリルランスが開発されました。

・超電磁チェーンソーが開発されました。

・ガナリー・カーバーが開発されました。

・ライアット・ジャレンチが開発されました。

 

☆本作の戦う方の主人公、シュメシ&ヘマー&フェブルウスの設定について

・スパロボZシリーズが終了する→結末を見届けたソルの意志は安堵。

・人間の可能性と輝きを見せたZ-BLUEと地球の人々に感動、憧憬、羨望の念を抱いたソルは自身もまた人間へと生まれ変わることを望む。

・よっしゃ人間になったろ! と思ったらそこで本作の黒幕の襲撃を受ける。ここで戦闘用のボディとしてかつてのコア・ヘリオースを模したロボット形態へ。これがフェブルウス。

・なんとか戦闘に勝利するもボロボロになったソルが転移したのが、コロニーが落下中の本世界。人々を救う為、ソルは残された力を振り絞ってコロニーを破壊し、南アタリア島近海へ落下。この際、津波や地震などが発生しないように尽力する。

・機体を再生しつつ内部で人間としての自分を生成。これが太極を形成する陽たる男性、陰たる女性へと分かれた。後のシュメシとヘマー。

・つまり元々はフェブルウスこそが本体であり、フェブルウス=ヘマー=シュメシという関係だったが、各々に名前を与えられ、性差などによる感覚の違いから、三者三様の自我が形成される。現在はフェブルウス≒ヘマー≒シュメシといったところ。

・至高神ソルとしての記憶はほとんど喪失しているが、創造主を止めてくれたZ-BLUEへの感謝は根強く、特にスフィアリアクター四名の印象は根強い。フェブルウスのメモリーに残っていたコレを所長が発見し、ガナリー・カーバーやライアット・ジャレンチの作成に繋がった。

なお武装として

・ハマリエル・ザ・スター(バルゴラ系)

・ウェルキエル・ザ・ヒート(ガンレオン系)

・ズリエル・ジ・アンブレイカブル(ブラスタ系)

・アムブリエル・ジ・オーバーライザー(ジェニオン系)

以上、四名のスフィアリアクターとその機体を参考にしたものを備える。現在は精々、スフィア一つ分の出力が限界。

 

 

☆メインパイロット(第3次スーパーロボット大戦天獄編基準)

〇シュメシ&ヘマー

 

☆精神コマンド

〇シュメシ・プルート

集中 直感 直撃 魂 愛

〇ヘマー・プルート

必中 ひらめき 熱血 覚醒 勇気

 

☆特殊スキル

超能力L9、極、三回行動、アタッカー、SP回復、プレッシャーL4、底力L9、気力限界突破

 

☆フェブルウス

〇特殊能力

オールキャンセラー、HP回復(中)、EN回復(大)

〇移動タイプ

空・陸

〇サイズ

L




というわけでシュメシとヘマー、ヘリオースもどきの正体はZシリーズ終了後の至高神ソルでした。
第五話の感想でクルージングさんに見事当てられちゃいましたね。

次期主力量産機候補の一つはバルゴラでした。
こちらはムロンさんに言い当てられちゃいましたね。

お二人ともお見事!

アルトアイゼンとヴァイスリッターは北米で活躍中です。パイロットはキョウスケ・エクレセレンもよし、いっそアクセル・レモンのペアでもよし、と考え中の作者でした。

追記
何度か誤字脱字の報告をちょうだいしていますが、ゴジュラス中隊長の
「~~してもな、ないものねだりを!」
の台詞は仕様ですので、そのまま訂正せずお読みください。そういう口調というわけです。


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第十二話 今日から本気を出す×2

ゼファーが沈黙を貫いているのは、カインズ博士の死亡時に咆哮を上げた以外に言葉を発さなかったゼファーを喋らせていいものか、ゼファーは沈黙のままでよいのではと私が悩んでいるからです。
REONやALICEならまあ喋ってもいいよねと思うのですが。
ゼファーとREONに性別を設定するのはありかなしかとも悩みますし、ゼファーとREONとALICEで人工知能三姉妹とかありか? とかも考えています。


 敵勢力が撤退し、出撃した部隊が続々と帰投する中、所長は黙って司令部を退出した。そうして廊下に出るや否や全力で走り出す。それを止める者は誰も居なかった。ただ、ヘイデスだけがヨハン司令にこう懇願するのだった。

 

「今だけは彼女が母親であることを優先するのを、どうか許してくれないかな?」

 

「私は貴方も父親であることを優先して構わないと思うがね。自分の子供が戦場に立つのを見ていたのだ。本当に親であるのなら平静ではいられまい。そして貴方達は本当の親だ」

 

 ヨハン司令は雇用主と従業員としてではなく、年長者としてヘイデスへ率直な意見を返した。それがどれだけヘイデスにとってはありがたく、背中を押してくれるものであったことか!

 

「感謝します」

 

 足早に司令部を去るヘイデスの足音が聞こえなくなってから、ヨハン司令は制帽を深くかぶり直した。

 

「かつてはホワイトベースに乗り込んだ民間人をそのまま戦わせ続けた私が、今更になって何を言うのか。まったく、ままならんな」

 

 かつて一年戦争に於いてV作戦の発動に身命を賭し、戦後、退役した元地球連邦軍大将ヨハン・イブラヒム・レビルは己をあざ笑う。

 侵略戦争の勃発した昨今でせめてもの救いは、孫のチャアミン・ブラウンが一年戦争に従軍しながらも無事に生き残り、部隊の同僚だった疑似NTの女性と結婚し、レビルの曾孫にあたる子供を設けて辺境の地で静かに暮らしている事だろうか。

 辺境であるがゆえに昨今の侵略者達の魔の手から逃れているが、それもいつまでも安全が保障されているわけでもない。孫と曾孫の安全を守る為にも、ヨハン司令ことレビルは退役後も戦う術と立場を用意してくれたヘイデスに感謝しているのだった。

 

 

 サイデリアル残党かその関係者と思しき侵略者を撃退したオウカらグランド・スターとシュメシ、ヘマーは十番ゲートへの帰投を命じられていた。

 スーパーロボット用のゲートとハンガーがあり、三十メートル級のフェブルウスと四機のバルゴラを収容しても余裕があるからだ。

 予定になかった実戦を経験したバルゴラと、それ以上に予定外であったフェブルウスの実戦投入に際し、専属のメカニックと医療班が先んじてゲート内の格納庫に集っており、壁際に設けられたハンガーに固定された機体に群がっている。

 

 司令部を出た途端に全力疾走をしたヘイデスが辿り着いた時、彼の目に映ったのはフェブルウスの足元に集まっていた子供達を抱きしめる愛妻の姿だった。

 周囲にはメカニックや医療班の姿もあるが、彼らの目をはばかる事無く所長は目いっぱい子供達を抱きしめ、その無事を喜んでいる。

 

 周りの者達も大なり小なり心境は所長やヘイデスと似ている。彼らもまたスクールの子供らや双子との付き合いは長いのだから。

 所長がシュメシ、ヘマー、オウカ、アラド、ゼオラ、ラトゥーニを潰さないように手加減しながら抱きしめた後に、ヘイデスもまた呼吸を整えてから同じように子供達を抱きしめてゆく。

 双子だけではない。スクールの子らもヘイデス達にとっては、実の子も同然だった。

 

「貴方達は本当に! 本当に、本当に、親の気持ちも知らないで……。でも、無事でよかった。本当に、よかった……」

 

 所長は最後に抱擁したアラドを解放してから、かろうじて涙こそ零さなかったが震える声でそれだけを口にする。ヘイデスは言いたいことを先に言われてしまって、何も言えないまま声だけでなく肩も震わせる最愛の人を抱き寄せた。

 オウカ達は戦闘前も戦闘中も所長やヘイデスの怒りを想像し、心構えを備えていたつもりだったが、こうしてこれまで見たことのない悲しみに打ちひしがれた“母”の姿を見れば、想像もできなかった罪悪感が胸の中に積もり始める。

 

「申し訳、ありません。私達がお役に立てると思い、先走ってしまいました」

 

 子供達を代表して顔を伏せながら謝罪の言葉を口にするオウカに、所長はそれ以上この場では何も言えなかった。だからヘイデスが精一杯平静を装って子供達に言葉を掛ける。

 

「言いたいことは山ほどあるけれど、今は君達が無事に帰ってきてくれた事がなによりも嬉しい。戦闘中、命令するまでもなく君達の支援を買って出てくれた部隊の方々にも、後でお礼を言わなければならないよ」

 

「はい。必ず」

 

「うん。よし、まずはメディカルチェックを受けるんだ。話をするのはそれからだ。その頃にはお互いに頭も冷えているだろう。彼女達を頼むよ」

 

 周りで状況を見定めていた医療スタッフに声をかけ、ヘイデスは所長の肩を抱き寄せたままその場を後にした。

 このスーパーロボット大戦めいた世界に転生あるいは憑依をしたと気付いた時には、この世界の未来の危険性ばかりを不幸だと嘆いたが、我が子が命を賭けて戦場に出るのがここまで辛く苦しい事だったとは!

 この苦しみに比べれば自分の未来だけを考えていればよかった一年戦争の頃は、なんと気楽だったのだろう!

 

 それでもヘイデスは所長と結婚しなければよかったとも、シュメシやオウカ達を引き取らなければよかったとも決して思わない。

 何故なら、彼女達と出会ったことで得られた幸福の方がずっとずっと大きいのだ。

 そして戦いを終わらせた暁には、家族らと今度こそ未来の侵略に怯えずに幸福な日々を積み重ねられるだろうから。だから、ヘイデスはこの瞬間にも胸が張り裂けそうな悲しみや苦しみに襲われていても、出会いを不幸だとは決して思わない。

 

 そうしてヘイデスと所長が落ち着いたのは、戦闘前にゼオラ達と話していたブリーフィングルームだ。あの時、お土産に持ってきたバクラヴァはない。シェルターか更衣室に置きっぱなしになっているのだろう。

 ヘイデスが椅子に座らせて暫くすると、所長も落ち着きを取り戻し、一度深呼吸をすると傍らに立つ夫へ向けて謝罪の言葉を口にする。

 

「申し訳ありません。取り乱してしまいました」

 

 夫婦二人だけで、他に誰も居ないというのに所長の口ぶりは仕事中と変わりがない。ヘイデスは羞恥と自らの怒りを滲ませる所長に、にへらと笑う。ヘイデスのこの笑みが、所長は好きだった。

 一年戦争以前にスカウトされた時には、上っ面だけの人を馬鹿にした笑みだと毛嫌いしていたものだ。

 ところがMSを作って欲しいと頼みに来たあの日以来、すっかり人間らしさが宿るようになって一年と経たずに心を奪われてしまったのだから、人間、何が起こるか分からない。

 

「謝る必要なんてないよ。僕だって心穏やかではいられなかったし、今も冷静だなんて口が裂けても言えない。必死に冷静になれと自分に言い聞かせて、どうにかそれらしく振舞っているだけだ」

 

「それが出来るだけで私よりも上等です。それにしても、機動兵器の中から生まれてきた子供達、そして機動兵器に乗るべく教育された子供達。

 万が一の事態が訪れないようにと力を尽くしてきたつもりですが、思えばオウカ達にテストパイロットを許してしまった時点で、私達は万全を尽くしたと胸を張っては言えませんね」

 

「うん。あの子達を戦争から完全には遠ざけなかった。シュメシとヘマーはフェブルウスと特別な繋がりがあると感じ、オウカやラトゥーニ達はまだスクールで施された教育や思想から脱し切れていなかった。

 だからいきなり機動兵器や軍の事から切り離しては、かえって傷を深くしかねないと医療スタッフとも協議してそうしたけれど、実際にあの子達が戦う姿を目の当たりにすると何を悠長なことを言っていたのかと後悔ばかり募るよ」

 

「……すみません。愚痴に付き合わせてしまいました」

 

「いいさ。君の愚痴が聞けるなんて他の男には許せない特権だからね」

 

「貴方には敵いませんね」

 

「ふふ、ソレが僕の数少ない自慢だよ」

 

 他にも自慢できることはそれこそ山ほどあるだろうに誇らしげに笑う夫を見て、所長はようやく本当に落ち着く事が出来た。それから数分の後に、グランド・スターの黒を主体とした制服姿に着替えたオウカ達と私服姿のままの双子達が部屋を訪れてきた。

 一様にその表情は、親に叱られるのに怯える子供の要素が半分、残りの半分は自分達に出来る事を見つけた安堵が半分を占めている。彼らに出来る事が、戦場で戦う事であるのはヘイデスと所長にとってはこの上ない皮肉だったろう。

 

「所長、皆を止められなかったのは俺だ! だから」

 

 壁を背にヘイデス達の前に並んだ六人の中で、真っ先に皆を庇う発言をしたのはアラドだった。しかし、所長が悲しげな眼差しを向けるとそれ以上口にするのを制止する。

 アラドを止めようとしていたオウカやゼオラも、所長の視線を受けて伸ばしかけていた手や開きかけていた口を閉ざす。

 

「貴方達が私達を守る為に戦ってくれた事は分かっています。それについては、私達のために戦ってくれてありがとうと、お礼を言う他ありません。

 けれど、それでも私と総帥だけでなく、貴方達を引き取ってから関わってきた財閥の全ての人間が、戦わせたくはなかったと思っていたのをどうか理解してください」

 

「はい」

 

 アラドがそれだけを口にしてしゅんと落ち込む。出来れば二度と彼らを戦わせたくない、と誰の目にも分かるくらいはっきりと表情に浮かべる所長へ、オウカがその思いを裏切らなければならないのを苦痛に感じながら口を開いた。

 

「所長、総帥、お二人が私達を実の子供の如く想ってくださっているのを、今日までどれだけ感謝してきたことか。そして私達に関わってくださった方々も、どれだけ心を砕いていただいてきたことか。

 スクール以前の記憶の無い私達にとって戸惑いも多く、そしてそれ以上に幸福な日々でした。だからこそ私達は戦うのです。

 戦う術しか知らないからではなく、私達を慈しんでくれた世界を守る為に戦います。所長、総帥、貴方達と共に戦いが終わった先にある世界で生きる為に、私達は戦うのです」

 

「貴女はどこでそんな物言いを覚えて……」

 

 くしゃりと顔を歪ませる所長に、オウカもラトゥーニもゼオラも泣き笑いの表情を浮かべていた。愛妻の肩に手を置いて、ヘイデスは困った微笑を浮かべながら愛しい子供達に語りかける。

 

「君達がただ僕達を守る為だけに戦うと言ったなら止めようと思っていたけれど、戦いが終わった後の世界で共に生きる為と言われると、これは困ったな。君達が未来を考えてくれた事は嬉しいのにね」

 

 親の見ていないところで子供は育つ、という事か。ただこの育ち方は親の心と神経に大変悪い育ち方だ。結局、スクールの子供達が戦場に出るのを止められないのか――いや、止めないのか、とヘイデスは心の軋む音が聞こえた気がした。

 互いを想い合っているのにけれどもすれ違い、噛み合わないのは侵略者達の悪意にさいなまれる世界の残酷さ、過酷さゆえか。

 

 悲壮な決意と諦め混じりの覚悟に満たされる室内で、シュメシが今度は自分達の番だと意を決した顔になる。

 フェブルウスと共に戦場に出て、至高神ソルの名を聞いた影響なのか、帰還したシュメシとヘマーはこれまでとはぐっと雰囲気が変わっていた。

 これまで外見は十五、六歳でも中身は六歳程度と釣り合いの取れない幼さが雰囲気となっていたのに、今は見た目相応の雰囲気を感じさせる。肉体の成長に精神が追いついたのかもしれない。

 だが、ヘイデスは戦闘中にミケーネ神の皮を被ったイドムとシュメシらの間で交わされた会話の内容を知らない。もし二人が至高神ソルの生まれ変わりであるとこの時点で知っていたなら、さて、彼はいったいどうしただろう。

 

「お父さん、お母さん、僕とヘマーからも話があります」

 

(ん? なんだか二人の雰囲気が大人びたかな?)

 

「ラボを襲ってきた敵は僕達を狙ってやってきたものです」

 

 ミケーネ神の行動からそうではないか、と察していた所長は表情を一層険しく変えて愛息子と愛娘を見る。シュメシに続いてヘマーもまた先程の戦闘で思い出したことを告げる。

 

「うん、あのね、全部を思い出したわけではないけれど、私とシュメシとフェブルウスを求めて、あいつらはまたやってくるよ。だから私達はどうしても戦わないといけないの。知らないけど、あいつらを知っている。あいつらは私達が戦わないといけない敵なの」

 

 双子がフェブルウスの中から赤子の状態で取り出され、そして常人の数倍の速度で成長する特異体質である事は、アラドやラトゥーニ達にも知らされている。

 その上であのアンノウンが双子達を狙ったと聞かされれば、誰でも驚くだろう。

 唯一、ヘイデスばかりは双子がこのスパロボ時空の主人公ではと睨んでいた為、そう驚きはしなかった。ただ、狙ってきた相手がサイデリアル残党(?)であったのには、心底驚いたけれど。

 

「貴方達を狙って……否定するよりも肯定する要素の方が多いなんて、まったく」

 

 プルート財閥の情報網をもってしても、アンノウンの情報は今日まで所長の耳には届いていなかった。

 そのアンノウンが最初に狙ったのがヘパイストスラボで、明らかにフェブルウスに反応していた。所長が口にした通り、ヘマーの言葉を肯定する要素ばかりが揃いやがる(・・・)

 

「それでもあなた達はまだ六歳なのですよ?」

 

 シュメシは笑って答えた。

 

「僕達は普通の六歳じゃないよ」

 

 ああ、こんな時に笑いながらそんなことを言わないで欲しい! ヘイデスと所長は溢れる痛ましさに心臓が止まってしまいそうだった。

 ヘイデスは年単位で傷み続けている胃や神経が更なる悲鳴を上げ、所長もまたいよいよ夫の二の舞になりかねない心的苦痛に苛まれ始めている。

 ヘマーはシュメシと互いの手を握り合いながら答える。かつてはフェブルウスと合わせて一つだった子供達は、いまや三つの意志を持つ別人に分かれていたが、それでもこの一点においては意志を一つにしていた。

 

「大丈夫だよ、お父さん、お母さん。戦いは怖いけれど戦わないで大切な人達を守れないことの方が、ずっと怖いの。だから、どんなに止められても私達は戦うから」

 

 所長は普段の快刀乱麻を断つかのような口ぶりは鳴りを潜め、口にするべき言葉を探している。

 その横でヘイデスは、これまでこの世界を地獄だと思って来たが、そんなものは子供達が戦場に出なければならない今に比べれば、何ということもなかったのだと痛感していた。

 本当の意味で理解と実感が足りていなかったのだ。そしてそれを悟った時にはもう遅かった。

 

「決意は固いか。自分の身を守る為に戦うことまでは否定はできない。けれど、どうか僕達大人が君達を守ろうとするのを許してほしい。いや、許されなくても勝手にするんだけれどね」

 

「総帥?」

 

 夫の声音に響く硬質なものに、所長が訝しげに横顔を見上げる。

 

「だから僕も、うん、金持ちの本気を侵略者共に教えてやる」

 

 そして所長は理解した。これまで夫の中にどこか残っていた遠慮がなくなったのを。つまりキレたのだ。

 これまでスパロボプレイヤーあるいはユーザーとして心の中にあったこの世界への憧憬や恐怖、不安の全てをかなぐり捨てて、参戦作品の各イベントがどうなろうがもはや知った事ではない。

 

 誰が死のうが、誰が助かろうが、それは子供らの未来の幸福の前ではささやかなもの。

 地球圏の富をアナハイム、ロームフェラと三分するプルート財閥の総帥が、本気で持てる資金と資源と権限の全てを使い尽くしてでも悪意ある侵略者共を倒す、と決めたのだ。

 例えメンタルは平凡な一般人でも、一度振り切れれば何をしでかすか分からないもの。まあ、だからといって今すぐ何が出来るわけもないのが玉に瑕ではあるけれど。

 

 極力オウカやシュメシ達に有人機との戦闘を行わせず、侵略者との戦いで自衛する場合においては戦いを認めるという妥協がなされ、彼女らが退出した後、ブリーフィングルームにはヘイデスと所長だけが残った。

 所長が肺の空気をすべて絞り出すように溜息を零してから立ち上がると、ヘイデスとお互いに向き合う。

 

「とりあえずけじめはつけておこうか」

 

 とヘイデスが切り出す。

 

「気持ちの切り替えと言えば聞こえはいいですけれど、お互い、気持ちを楽にする為かと思うとつくづく救われませんね」

 

「仕方ないよ。僕らも心が鉄で出来ているわけではないんだ。そういう風に振舞っているだけだよ」

 

「それもそうですか。では、そろそろ。三……二……一……」

 

 二人はお互いの右腕を振り上げ

 

「ゼロ!」

 

 所長がゼロと口にした瞬間、所長の右拳がヘイデスの左頬に深々と突き刺さり、ヘイデスの右拳は所長の左頬にちょこんと触れた。

 所長がヘイデスの首から上が吹き飛ばないように手加減したとはいえ、愛妻の鉄拳を受けたヘイデスはその場でたたらを踏み、壁に手をついて崩れ落ちそうになるのを防ぐ。

 “けじめ”の一発を叩き込み合った夫婦だが、所長は呆れた顔で夫を見た。夫の膝は、生まれたての小鹿のように震えている。

 

「呆れた。ひょっとしたらとは思っていましたが、本当に手加減なさるとは」

 

「ハハ、いやあ、そこはほら、男の意地というか見栄? 夫の面子かも。妻に手をあげる気にはなれなくてね」

 

「ふう、それでは不公平の極みです。私は断腸の思いであなたを殴りましたのに。ですので、こう致します」

 

「あ!?」

 

 ヘイデスが止める間もなく、所長は各関節の捻りを利かせた自分の右拳を自分の右頬に叩き込んだ。鉄のハンマーで思いきり鉄の塊を殴ったような音がし、ヘイデスはひえ、と我ながら情けない声を出していた。

 プロメテウスプロジェクト時代、ヒートアップしたアムロとシャアの頭に数々のたんこぶを作り上げた鉄拳を引き、所長は赤くなった右頬をそのままに淡々と口にする。

 

「総帥がお金持ちの本気を出されるのなら、私も技術者としてこれまで以上に本気になりましょう。もちろん以前から本気でしたが、そこは見栄というものです」

 

「大人は見栄を張らないとね。特に子供の前だと、さ」

 

「まったくで」

 

 そうしてこの後、シュメシとヘマーの言葉が事実だと保証するように、ヘパイストスラボにはサイデリアル残党疑惑のあるアンノウン――後にUI(Unknown Invader)と呼称される新たな敵が度々襲撃を仕掛けてくる事となる。

 

第二話 宇宙から来る災い

 

 新代歴187年3月某日・宇宙。

 地球近海の宇宙で反地球連邦組織エゥーゴにより、コロニー・グリーン・ノア1からティターンズの開発していた新型MSが奪取されるという事件が発生していた。

 ティターンズひいては地球連邦軍の次の旗頭となるべく開発したMSガンダムMk-Ⅱを取り戻すべく、ティターンズはエゥーゴの強襲用宇宙巡洋艦アーガマに追手を放つ。

 

 アーガマはガンダムMk-Ⅱ奪取の際、行き掛かり上エゥーゴに同行する事になった少年カミーユ・ビダンや、人質としてティターンズに利用されたカミーユの母ヒルダ・ビダン技術中尉や、グリーン・ノア襲撃によって発生した難民の一部を加えていた。

 一時期、カミーユの父親でありガンダムMk-Ⅱの開発に携わったフランクリン・ビダン技術大尉もアーガマに居たが、彼は自らの保身の為に再びティターンズに帰還しており、カミーユや妻と決定的な決別を迎えていた。

 そうしてアーガマは月面都市アンマンへ寄港、その後、ティターンズの軍事拠点と化したジャブローを攻略すべく、地球降下作戦を行うべく行動していた。

 そして――

 

「どうした、腕が落ちたんじゃないのか! ええ、大佐殿!」

 

「今の私は大佐ではない、ヤザン・ゲーブル!」

 

 地球の青と見えない重力を感じる距離にまで迫った宇宙で、アーガマのMS隊を指揮するクワトロ・バジーナ大尉のMS百式とティターンズのヤザンが駆る四機目のガンダムMk-Ⅱが互いに向けてビームを撃ち合っていた。

 ヤザンの属するティターンズはジャマイカン・ダニンガン少佐の乗るアレキサンドリア級を筆頭にサラミス二隻とMS部隊が展開し、エゥーゴはアーガマとカミーユの乗るガンダムMk-Ⅱ、クワトロの部下であるアポリー、ロベルト、それにティターンズからの離反者であるエマ・シーンが乗るリック・ディアス三機が出撃している。

 

「ラムサス、ダンケル、お前達は手を出すな。片手間に落とされかねん。それだけの相手だからな、この金ピカのパイロット殿は!」

 

 ヤザンは胴体を深い青、その他は薄い青で塗装されたガンダムMk-Ⅱを操り、直属の部下に指示を飛ばしながらクワトロの百式を相手取る。

 ヤザンの部下はラムサスとダンケルだけで、他のパイロット達はジャイマカンの指示に従ってアーガマへと攻撃を仕掛けている。この時、ティターンズ部隊に配備されたMSはジオン製かと疑う外見のマラサイというオレンジのMSだ。

 ミノフスキークラフトやビームシールドこそ搭載されていないが、信頼性の高い枯れた技術をメインに、ジムⅢやジェガンを経て培われたノウハウが投入されており、対MS用のMSとしては素晴らしい性能を誇る。

 

「ヤザンめ、更に腕を上げたか。カミーユ、エマ中尉、アーガマの防衛を頼む。青いMk-Ⅱは私がなんとしても抑え込む」

 

「頼みます、クワトロ大尉!」

 

 ついこの間まではグリーン・ノア1に住む民間人だったカミーユは、戦場の緊張感に神経をひりつかせながら、倍する数で攻めてくるマラサイにビームライフルを撃っていた。

 敵部隊の中には、名前をからかわれたのをきっかけに何度も交戦したティターンズの若きパイロット、ジェリド・メサの姿もある。同僚であるカクリコン・カクーラーと共に、新鋭機マラサイで奪われたガンダムMk-Ⅱへと襲い掛かった。

 

「ガンダムMk-Ⅱ、そいつを奪われてから俺のツキは離れっぱなしだ。今日こそ終わらせてやる!」

 

「熱くなるなよ、ジェリド。あっちには裏切ったエマ・シーンも居るんだ」

 

 熱くなっているジェリドをいさめるカクリコンも、エリート部隊としてのプライドをズタズタに引き裂いてくれたエゥーゴとカミーユへの闘志は高い。

 地球が侵略者達によって戦いの炎に包まれている中、目を向けられていない宇宙では人類同士が争い合う余裕があるのだった。

 ビームライフルの連射から一転、ビームサーベルを抜き放ち斬りかかるヤザンに、クワトロもまた百式の左手にビームサーベルを握らせてこれを受けた。

 

「む?」

 

 プロメテウス時代に使っていた暗号コードでの通信が入っている事に気付き、クワトロはこれを受信した。

 

「久しぶりだな、大尉殿。お互い新しい職場が見つかったようで何よりだ」

 

「ふ、貴様は昇進したようだな。ティターンズは一階級上の扱いと聞く。ならば貴様は少佐として遇さねばならんかな?」

 

「ふん、下らんローカルルールにエゥーゴが従う必要はあるまい。それに俺とアンタがやり合わなきゃ、お互いの部下が全滅しかねん。もう少し付き合ってもらおう。そうそう、あのモノアイもどきの機体とその金ピカ、まあ悪くない機体なんじゃないか!」

 

 鍔迫り合いから距離を置いた二機が再び、全身のスラスターと重心移動を巧みに織り交ぜた機動でビームサーベルの剣戟を重ねてゆく。一撃一撃がそこらのパイロットなら避ける間もなく斬り捨てられる精度と鋭さだ。

 

「ただのMSとしては、な。大尉こそ新しいガンダムパイロットとは随分と名誉な役回りではないかな?」

 

「加速性は悪くない。パワーもそちらのジオンの面影のある機体よりは上だろう。ムーバブル・フレーム搭載のMSとしては手堅かろうよ。尖ったところのない退屈な機体だが」

 

「開発者も同じ意見だったぞ。フランクリン・ビダンもそう零して、こちらの機体を奪おうとした」

 

 ヤザンはクワトロの言葉に奪ったリック・ディアスからノーマルスーツで放り出され、這う這うの体で回収され、そのままティターンズに戻った男の顔を思い出し、気に入らんとばかりに吐き捨てた。

 

「そちらの坊ちゃんの父親か。俺の知った事ではない」

 

「ヒルダ・ビダンの入れられたカプセルを回収し、こちらに流したのは大尉だろうに。こちら側に付く気はないか? ティターンズは大尉にとって居心地の良い組織ではないと見たが?」

 

「思想の無い男が思想集団につくものではないと思い知ったがな! そう易々と誘いには乗れん。今は貴様との戦いを……ぬっ!?」

 

 戦場に居る誰よりも圧倒的な技量で格闘戦を繰り広げる二人に見惚れていた者達も、そしてヤザンもクワトロも戦闘宙域に急接近してくる巨大物体に気付いた。

 特にニュータイプとして知覚領域の広いクワトロとカミーユはドロドロと蠢く悪意の塊に、神経を弄り回されるような不快感に顔を顰める。

 

「なんだ、この不快感は。他者への悪意しかない」

 

 歴戦の勇士として強靭な精神を持つクワトロはそれでも行動を鈍らせなかったが、クワトロ以上に鋭敏な感性と繊細さを併せ持つカミーユは、思わずヘルメットのバイザーを上げたくなるほどの息苦しさを憶えていた。

 

「ぐう、これはなんだ、人間がこんな純粋な悪意を放てるものなのか?」

 

 ライブラリに存在するデータと照合しない物体に戦闘が停止する中、ついにその正体を自ら露とした。それは、ケンタウロスめいた胴体の上に遮光器土偶を思わせる巨大な頭部が乗っていた。

 実に全長六百メートル以上。一年戦争時最大の宇宙空母ドロスの全長四百九十五メートルを大きく上回る巨大艦だ。なによりその異様なシルエット、さらにその周囲に展開するMSとは似ても似つかない生物めいた異形の巨大兵器群。

 

「こいつら、新しい宇宙人か!」

 

 ヤザンとクワトロが同時にもっともありがたくない可能性に気付いた時、その巨大艦あるいは要塞の内部では指揮官である薄緑色の肌の巨漢が、争い合っていた地球人の様子を見て喝采を上げる。

 

「ホ~ホホホ、なんじゃなんじゃ、下等種族の同士討ちはもうおしまいか? それならワシが盛り上げてやろう。おお、ワシはなんと親切なのじゃ。寂しくないよう全員殺してやるからのう。ホホホホ」

 

 巨大戦闘要塞バンドックの指揮官キラー・ザ・ブッチャーは、バンドックの周囲に展開していた自軍の兵器メカ・ブースト達を戦場へと突入させた。

 鳥の頭に胴体の左右から斧上の刃の付いた触手を生やすメカ・ブースト・ドミラ、胴体に人面のある鳥人型メカ・ブースト・ガビタンが、一斉に電撃やレーザーを放ちながら、おおよそ全高六十メートル以上というMSの三倍以上という巨体で襲い掛かってくる。

 地球の連邦軍とは違い、侵略者の異形兵器との戦いに慣れていないティターンズ・エゥーゴ双方のパイロット達は、想像もしなかった事態に混乱に陥るがこの中で即座に対応したのはクワトロ、ヤザン、それにアーガマ艦長のブライト・ノアだった。

 

「艦長、MS隊と連携してアーガマの主砲であの怪物の相手を。我々の装備ではあれだけの巨体の兵器にどこまで通用するか、分かったものではない」

 

「了解した。MS隊各機はアーガマの砲撃前の警告に気を付けろ。MAが可愛く見えるサイズの敵だ。アーガマのメガ粒子砲で叩くぞ!」

 

「ラムサス、ダンケル、お前達は艦の護衛に回れ。ジェリド中尉、カクリコン中尉、貴様らもだ。母艦を沈められては話にならん!」

 

「しかしゲーブル大尉、エゥーゴの連中が」

 

「ジェリド中尉ィ、地球人類と地球人類かどうかすら定かではない相手と、どちらと戦うべきかの判断も着かんのか! ジャマイカン少佐が文句をつけてきたら、母艦を守る為と言っておけ。それでも足りなければ俺に命じられたと言え!!」

 

 ヤザンはドミラの放ってくるレーザーを見るまでもなく避け、ジェリドを怒鳴りつける合間にビームライフルを叩き込み、割と効いている様子に意外そうな顔をした。

 

「サイズの割に装甲の強度は高くないのか? 偵察用か?」

 

 先程までの激しい剣戟はどこへやら。ヤザンのガンダムMk-Ⅱとクワトロの百式は肩を並べて、お互いに息の合った様子で距離を詰めてくるメカ・ブーストの頭部や口内といった脆弱と思える部位を狙ってビームを命中させ続けている。

 地球人類トップエースクラスの二人こそ簡単にあしらっているように見えるが、まだ戦闘経験の浅いカミーユを含めて、ティターンズ・エゥーゴ両陣営のMSパイロット達は、アニメやモンスター映画から飛び出してきたようなデザインと迫力のメカ・ブーストを相手に及び腰になっている。

 クワトロとヤザンにとっては、ないものねだりをしたくなる状況であった。

 

「ち、ゲシュペンストかラボ製の武器があればな!」

 

 ビームライフルを三発、四発と直撃させてようやく撃破できるドミラの耐久性に、ヤザンはEパックを交換しながら不満を口にした。これにはクワトロも同意するところであった。

 シャアの名前で参加していたプロメテウスで、何から何まで彼の為に調整されたトールギス・メテオに乗っていたら、メカ・ブーストの群れを突破して敵母艦に奇襲の一つもかけられるものを。

 

「気持ちは分かるが言っても仕方がないぞ、ヤザン」

 

「ふ、俺も焼きが回ったかあ?」

 

 巨体を活かし、両腕の鎌を振るって襲い掛かるガビタンの攻撃を避け、その鳥頭を左からピンポイントで撃ち抜きながら、ヤザンは周囲を取り巻くメカ・ブーストとバンドックから発射された巨大なミサイル群を認める。

 バンドックからのミサイルは、先端の誘導装置が目玉の形状をした気色の悪いものだ。

 

「母艦なのか拠点なのかは知らんが、あの訳の分からんデカブツはここで叩いておきたいが」

 

「仮に我々が戦力を結集させたとしても難しいだろう。“彼ら”の手を借りても撃退が関の山だ」

 

「彼ら? ニュータイプの勘はメカよりも正確か」

 

 不敵に笑うヤザンは、クワトロの発言から遅れて機体のレーダーが捉えた反応を認めた。

 バンドックに続いて戦闘宙域に到達したのは、ペガサス級とアレスコーポレーション所属のスペースノア級壱番艦シロガネであった。

 ペガサス級からは蒼いゲシュペンストMk-Ⅱを隊長機とし、マゼンタカラー機を副隊長機とするゲシュペンストMk-Ⅱ全六機とシロガネからはビルトシュバイン、そして両肩に水晶状のパーツを取りつけたスペースゴジュラスが出撃済みだ。

 

「こちら地球連邦軍第十独立遊撃部隊ライラ・ミラ・ライラ大尉。本隊は地球圏に接近中のアンノウン撃退の任を追っている。展開中の部隊に対し、速やかに戦闘を停止し、協力を要請する」

 

 通信越しに聞こえてきた懐かしい声と馴染みのある感覚に、クワトロは知らず口元に微笑を浮かべる。

 

「ライラ大尉、それに蒼い機体はユウ中佐か」

 

 ヤザンとクワトロが切望した機体と装備を兼ね備えた援軍の到来に、ティターンズとエゥーゴ双方の部隊が大いに安堵した事だろう。

 そうしているとアーウィンの乗ったビルトシュバインと共に、グレースの乗ったスペースゴジュラスが二人に距離を寄せてきて、二十代半ばとは思えない若々しい顔立ちのグレースが二人に通信を繋ぐ。

 

「ぎゃおーんと参上ですよ~。ヤザンさんと……」

 

 ニュータイプの直感か、あるいはシャア・アズナブルが公的にはどうなっているのかを知っている為、グレースはクワトロをなんと呼ぶべきか決めかねたようだ。

 

「今の私はクワトロ・バジーナ大尉だ。協力、感謝する」

 

「ああ、クワトロ大尉ですねえ。連邦軍の皆さんと協力して悪い人達をやっつけるのがお仕事ですからあ」

 

 気にしない、気にしない、とスペースゴジュラスの手を振るグレースの無駄に高い技量に、クワトロはプロジェクトに参加していた頃を思い出し、懐かしさを心の中で広げてゆく。

 のほほんとしたグレースの雰囲気に飲まれそうになるが、それをゲシュペンストからはるかにガンダムに近いデザインになったビルトシュバインを駆るアーウィンが引き締める。

 

「クワトロ大尉、ヤザン大尉、再会を懐かしむ余裕はなさそうだ。こちらの増援にあちらがやる気を“無くした”。宙域を離脱して地球へ向かい始めている」

 

 アーウィンの声音が険しくなるのも当然だった。メカ・ブーストで下等種族を皆殺しにして楽しもうとしていたブッチャーだったが、思いの外、腕の立つ者が混じっていたのと新たな増援が姿を見せた事で遊びが陳腐になったと感じ、さっさと地球に向かい出している。

 ペガサス級とシロガネはバンドックの地球降下を阻むべく進路を取り、メガ粒子砲と連装衝撃砲、ミサイルを次々と発射しながら追いかけている。

 虚仮にしてくれるとヤザンがこめかみに青筋を浮かべた時、ユウの乗るゲシュペンストMk-Ⅱから元プロメテウスメンバーの機体に暗号文が届けられる。

 

「これは、ふふ、いいだろう。戦場の同窓会か、俺達らしい」

 

 愉快気に笑うヤザンが機体を翻してユウの機体に追従し、クワトロも百式を同じ方向へと向かわせる。

 

「ふ、機体の性能差は技量で補って見せよう」

 

 アーウィンとグレースも殿を務める形でクワトロ達に続き、対侵略者用のメガ・ニュートロンビームライフルと、スペースゴジュラスのゲッタービームキャノンに大口径のメガ粒子砲が立ちふさがるメカ・ブーストに直撃して行く。

 自然とユウ、ライラを先頭にヤザン、クワトロが続き、アーウィンとグレースが殿を務めるフォーメーションが組みあがり、十重二十重と立ちはだかるメカ・ブーストの防衛線を食い破ってゆく。

 

「ユウ中佐の粋な計らいですねえ、ウィン~」

 

「粋か? これでヤザン大尉とクワトロ大尉の機体がもっとマシだったら形になったのだがな」

 

 一年近い期間が空いたとはいえ、かつては当時最高峰のMSに乗って鎬を削ったトップエース達は、初見の強敵が相手であるにもかかわらず冗談のようにメカ・ブーストを食い散らかしてゆく。

 斬り込み役を担うユウは、愛機の全長にも等しい超電磁バッテリー内蔵のVキャノンを肩に担ぎ、メカ・ブーストの巨体にも有効な大火力を豪勢にバラまいている。

 

 今はユウの副官を務めるライラはこちらもMSには巨大なメガ・ニュートロンビームライフルの残弾を考えない勢いで連射し、メカ・ブーストの列を次々と乱してゆく。

 その乱れた列に火力では数段劣るヤザンとクワトロがビームライフルを正確無比な狙いで撃ち込んで、メカ・ブーストが陣形を立て直す隙を与えない。

 

 そうして列を乱され、損傷を負ったメカ・ブーストを、アーウィンのビルトシュバインとグレースのスペースゴジュラスが完膚なきまでに叩き潰している。

 ガビタンが胴体を破棄して頭部と背部を構成していた鳥の本体に分離するのも、さして驚きもせずにきっちりとゲッター線やメガ粒子の塊を叩き込み、雑草を引っこ抜くような手軽さで片付けている。

 ライラは自分の部下達も厳しく鍛え上げてはいるが、やはりあのプロジェクトのメンバーには及ばないな、とヘルメットの奥で愉快そうに笑う。

 

「二人とも鈍らに落ちぶれちゃいないね。ティターンズとエゥーゴになんか所属しちまって。退役して総帥のところにでも駆け込めばよかったものをさ!」

 

 ドミラの伸ばしてきた触手をスラッシュリッパーで斬り払い、そのふざけた鳥頭をニュートロンビームで吹き飛ばし、ライラは徐々に近づいてくるバンドックに照準を定めた。

 

「地球に降りようって魂胆だろうけれど、そいつはさせられないんだよ!」

 

 ライラのメガ・ニュートロンビームライフルだけでなく、ユウ機のVキャノン、シロガネの連装衝撃砲、更にペガサス級やアーガマの主砲も火を噴いて、そのうちのいくつかはバンドックに命中した。

 だが、メカ・ブースト数体を巻き込みながら放たれた攻撃は、バンドックの装甲に命中する直前に展開されたバリアによって阻まれて、バンドックの巨体こそ揺らしたものの大きな損傷を与えられずに終わる。

 

「ほ、ホホホホ! 小癪な地球人共め。思わず焦ってしまったわい。だが貴様らの手は間に合わなかったな! ホホホ、ワシにはガイゾックの神がついておる。神の意志に従って貴様らは一人残らず皆殺しよ! その時を震えて待っておるがいい!」

 

 残ったメカ・ブーストを足止めに残し、加速するバンドックにシロガネもユウらも追いつけず、バンドックに地球降下を許してしまうのだった。

 

<続>

 

■無敵超人ザンボット3が参戦しました!

 

■ガイゾックが地球に降下しました。

 

■スペースノア級が建造されました。

 

■ヨハン・イブラヒム・レビルが入社していました。

 

■換装武器

・Vキャノンが開発されました。

 

■ヘイデスがキレました。

■所長がキレました。

 

〇所長の正体について

 以下から好きな設定を選んでね! アンケートや設定決めというわけではありませんのでお気軽に選んでください。

 単なるお遊びですので、皆さん好きな設定を選んで、脳内補完しながら読んでもらえればちょっとしたスパイスになるかなと思いました。この設定を無視して読み進めてもオッケーです。

 

1 天才+フィジカルお化け

2 天才+天然のパーフェクトソルジャー

3 天才+自分で自分を手術したセルフ強化人間

4 天才+自分で自分を手術した生体強化戦士(バイオニックソルジャー)

※菊地秀行著、魔界行シリーズ参照。銃弾が直撃してもちょっと痛い、とか千分の一秒単位の早撃ちが出来るくらい。

5 自覚無きジ・エーデル・ベルナルの一人

6 自覚無きナ■■ル■トホ■ップの化身

7 自覚無きシ■ブ=ニグラ■の化身

※■イア■ラ■■テ■■に対しては自分の縄張りであるとこの世界への干渉を弾いている。

 

なおすべてに於いてヘイデスとは相思相愛とする。

4と7はスパロボとは関係のない私の趣味です。

 




ダイモス関係の技術をどうにか利用しようと考えたのですが、動力であるダイモライトは宇宙探索で見つけたものだから、補充するには再び宇宙探索に出る必要があり、量産向きではないと私が考え、作中で活用できずにいます。今のところ操縦系統くらいですね。
私が知らないだけでダイモライトは補充を考慮する必要がない程、ダイモビックに大量に存在するのでしょうか?
ジャパニウムは鉱脈が一つしかないとはいえ、枯渇の話題はとんと耳にしたことがありませんし、ゲッター線はそれこそ宇宙からじゃんじゃか降り注いでいますし、超電磁エネルギーは原子力エンジンで生み出せるし……。
ライディーン系統も解析応用は難しいですね……。うーん。


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