ぼくの名前はインなんとか (たけのこの里派)
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1巻 禁書目録
プロローグ 歩くような速さで


注意事項。
・「そこはちゃうんやで」という致命的な相違、無理な展開が発覚した場合は出来るだけ修正しますが、どうしようもないところは生暖かい目でスルーしてください。
・アニメ三期放送記念でテンション上がり急いで大幅修正したため、修正忘れがある可能性があります。
・駄文である。

以上の点が受け付けられない方はプラウザバックを推奨します。
また注意事項が増えたりするかもしれませんので、ご了承ください。


 

 

 

 ――――禁書目録。

 科学と相反する様に魔術が遍在し、ソレを扱う魔術師が存在するこの世界に於いて、その名は魔術師にとって極めて重要なモノである。

 

 魔導書と呼ばれる、著者や地脈の魔力を使い 本そのものが小型の魔法陣と化しているため、破壊や干渉を受け付けない魔術の使用方法が記された書物。

 魔術の知識という人間にとっては「毒」である技術に於いて、常人が読めば廃人確定の“汚染度”である『原典(オリジン)』を十万三千冊全てを完全記憶能力で“記憶”している、生きる『魔導書図書館』。

 ソレを得ることが出来れば、世界を狂わすことも、魔術師の頂点である魔神にすら至ることができると言われる、魔術師にとって喉から手が出るほど欲しいその知識の蔵書。

 

 イギリス清教の狂気が作り上げた、必要なだけの魔術の知識を必要なだけ引き出し、迎撃の場合十万三千冊を十全に使用した『魔神』の力を存分に振るう者。

 それが、Index-Librorum-Prohibitorum――――禁書目録である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロローグ 歩くような速さで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園都市二十一学区の物資輸入経路。そこに繋がる学園都市外部に、四人の男女が存在した。

 

「いやはや、漸く辿り着いたなぁ学園都市。本当に長かった」

「ハハハッ、随分感慨深そうだねインデックス」

 

 金髪碧眼の()()()()()()()()()に、インデックスと呼ばれた白金の装飾がある祭服(アルバ)を着た()()()()()が、当然だと言わんばかりに嘆息する。

 

「あッたり前でしょうが。こちとら時限爆弾付きで、天才と聖人の追っ手有りのオワタ式デスゲームやってる様なモンだよ? オッレルス達やブリュンヒルドに出会わなかったら終わってた事間違いないって」

「何、私も君が居なかったらどうなっていたか想像するだけでも薄ら寒い。ここで一時の別れが本当に寂しく思うぞ」

「お堅いねぇ。騎士派の騎士サマレベルだよ、アンタのは」

 

 金髪にエプロン姿の聖人に呆れられた、同じく金髪に羽根飾りの付いた帽子、膝上程度の丈のワンピースと男物のズボンという、服装全体に『現代にある素材を使って中世ヨーロッパの鎧のシルエットを再現した』ような、奇妙な統一感を身に纏った姿の聖人。

 魔神一歩手前(オッレルス)に聖人二人という並の魔術師が聞いたら即逃亡レベルの、最早戦力というより勢力と言った方が正しい化物達が学園都市外壁に集結していた。

 

「と言っても、自分だけ雑魚なんだけども」

 

 ズーンという効果音が、這いつくばった銀髪の少年から聴こえた気がした。

 

「どの口が言うかアンタ」

「君が雑魚なら並の魔術師は泣いちゃうよ?」

「うっさいリアルドチート共! 音速挙動が当たり前の連中に言われたかないわッ!」

 

 音速で動き、剣を振るえば風圧で対象がミンチになる女性陣。

 片や魔神の力の一端を振るい、時空が歪むほどの数億に及ぶ謎の連撃で相手を瞬殺する男という、魔術世界の理不尽である。

 “現在”魔術が使えない少年と比べてやるのが、そもそも間違っている領域だ。

 

「――――ま、そんな縛りプレイとはおさらばなんだよ」

「………本当に一人で行くのか? インデックス」

「優しいねェブリュンヒルドは。でもそれじゃあ駄目なんだ。ブリュンヒルドやオッレルス達をイギリス清教の敵にするわけにはいかないし、何よりあの()()()に目を付けられたらたまんないしね」

 

 魔術と科学の境界。ソレを侵した魔術師はイギリス清教が真っ先に処分しに来るだろう。

 科学と魔術、それぞれの世界が争わない為にも。

 戦争を起こさないためにも。

 

「私は構わない。君の味方になれるなら、敵がイギリス清教だろうとローマ聖教だろうと学園都市だろうと、神や悪魔であっても!」

 

 例え世界を敵に回そうが。

 

 ブリュンヒルドの銀髪の少年神父に対する想いは、ソレほどのモノだった。

 命の恩人。生きる希望。

 少年はブリュンヒルドにとってそういう存在なのだ。

 嘗てのパートナー達の様に。

 

「ストップ。アンタはこの子の事になると簡単に沸点越すね。アンタがこの子を心配な様に、この子もアンタが心配なのが判んないかなぁ?」

「……判っている、そんなこと。しかし私は……ッ」

「子供じゃないんだから。年下の少年に依存したら駄目だろ。それともアンタはこの子を信頼してないのかい?」

「………くッ」

「どうしようオッレルス、自分ってここまで重い愛を向けられることしたっけ?」

「おははは……」

 

 少年が連れの病み具合の現状を知りゲッソリした所で、一人ちゃっかり巻き込まれない様に一歩引いていたオッレルスが、何かに気が付いた様に振り向いた。

 

「そろそろ彼等も追い付いてきたみたいだよ」

「ほら仕事だよ。この子を信頼してるなら、その分自分の仕事をキチンとこなしなって」

「……そうだな。ならばこそ、奴等をここで滅殺してインデックスを追えない様にして――――」

「止めてネ!? あの二人一応自分の親友なんで! 全然覚えてないけど!!」

 

 それに少年の目的の為にも、その追手達は必要だったりするのだ。

 

「殺るなよ? 絶対ヤるなよ!? 振りじゃないからね? 絶対だかんな!」

「ハイハイ分かったよ。流石にイギリス清教の貴重な聖人を殺る訳無いでしょ?」

「お、おぅ……じ、じゃあまた! オッレルス! シルビア! ブリュンヒルド!! 本当に有り難う!!!」

 

 三人に別れを告げながら少年は貨物列車に跳び移り、そのまま学園都市内部へと運ばれていった。

 

「チッ」

「愛しの弟くんが居なくなった途端荒れるね、お姉ちゃん?」

「ソレ以上は止めといた方が良いよシルビアー……インデックスの居ない時にあの子のネタでおちょくると、すぐプッツンしちゃうんじゃ……」

「大丈夫」

 

 未処理の爆弾のスイッチが入らないように、ビクビクしながらオッレルスがシルビアに尋ねるが、シルビアはこう答えた。

 爆弾が爆発しそうで怖い? 

 

「捌け口のお出ましさ」

 

 ――――だったら誰かにブン投げればいいじゃない、と。

 全然解決してねぇー!! と、絶叫するオッレルスを尻目に、三人の前に二つの影が現れた。

 

 髪を赤く染め上げ眼元にバーコードの刺青を刻んだ、口にタバコを咥え破戒しまくっていると全身で表現している二メートル越えの不良神父。

 魔術師、ステイル=マグヌス。

 白いTシャツを、豊満な胸部を強調し腹部を露出するよう巻き、履いているジーンズは片足が根元から切り取られ綺麗な脚が見えている、左右非対称の奇抜な服装のポニーテイルの女性。

 聖人、神裂火織。

 

 勿論この姿には魔術的な『左右非対称のバランスが術式を組むのに有効』という理由があり、動きやすさも重視しているのだが、とある少年神父は「解ってる。解ってるけども、かおりんエロ過ぎると思う」と漏らしていたり。

 

「あの子は何処ですか?」

「聞くまでも無いと思うけど?」

「また面倒な場所に逃げ込んでくれたね。で? どうして君達が此処に居るんだい? あの子を一人にして構わないのかな?」

 

 神裂に続く様に、ステイルがタバコを吸いながら当然の疑問を口にする。

 確かに魔術師にとって学園都市は鬼門だ。

 しかし聖人二人に魔神一歩手前の魔術師に比べれば、明らかに難易度は落ちる。

 なのにオッレルス達はインデックスを一人で学園都市に送った。

 それが不可解でならないと。

 しかし――――――

 

「――――――黙れ」

 

 ダァンッ!!!! と、ブリュンヒルドがいつの間にか手にしていた大剣『クレイモア』を、地面に振り下ろしていた。

 そのあまりの威力と衝撃で、岩盤が捲り上げられながら縦に割れる。

 その音が、オッレルスには爆弾が起爆した音に聞こえた。

 

「何も知らない道化風情が。貴様等如きにあの子の考えを教えると思うか?」

「あァん?」

 

 ブリュンヒルドの言葉に、神裂の額に青筋が浮かび、代わりに丁寧語が一瞬で消し飛んだ。

 

「ヒィ――ッ! ブリュンヒルドさん!? 何イキナリ喧嘩吹っ掛けてんの!?」

「さっきから五月蝿いよバカ」

「冷静すぎる相棒が解らない!!!」

 

 オッレルスの絶叫と共に、神裂とブリュンヒルドが音速で激突した。

 よくも悪くも、一年以上付き合いのある、自身の最も大切なヒトの事を、半年や其処らの付き合いの人間に上から目線で語られ、更に側に居られない嫉妬からブチキレた神裂とは裏腹に、ステイルは冷静だった。

 

「……君達は何故あの子に協力しているんだ? シルビアがそちらに居る以上、あの子の記憶の事を知っているだろう」

 

 ステイルと神裂がインデックスを追う理由。

 元は同じイギリス清教の、しかも王族付き侍女であるシルビアが、それを知らない筈は無いと。

 

「10万3000冊を記憶したあの子は、完全記憶能力者であるが故に一年以上の記憶は脳が持たない……か」

「そこまで解ってるのに何故――――」

「視野狭窄、かな」

「――――何?」

 

 シルビアへの問いに、代わりに先程まで情けない顔で絶叫していたオッレルスが答えた。

 

「魔術師は優秀であればあるほど魔術で解決しようとする。そして魔術でどうにか出来ない場合、魔術師は容易に折れやすくなる。仮に折れなかったとしても、更なる魔術で解決しようとするだろう」

「何を言っている……!?」

「ヒントさ。後は直接あの子から話を聞きな」

「くッ!?」

 

 オッレルスがそこまで言って、シルビアはロープを展開させる。

 ステイルは、それに対応する為に炎剣を構えようとし、

 

「ぐァッ!!!?」

「なに、あの子を追えなくなる程痛め付けはしないよ」

 

 展開させたロープを囮にした、オッレルスの『北欧王座』による『説明不能の力』な攻撃に吹き飛ばされ、シルビアのロープに絡め取られた。

 

「ステイル!」

「余所見とは余裕だな」

「くッ!?」

 

 ブリュンヒルドと神裂火織。化物と化物の戦いを眺めながら、更なる化物であるオッレルスは腰を落とし、辛うじて意識を保っているステイルに語りかける。

 

「……何故、手加減をッ……?」

「約束だからね。あの子が絶対とまで言ったんだ。君達を潰すわけにはいかないさ」

「あの子が……ッ!?」

「安心しなよ、君達もすぐに知る」

 

 ブリュンヒルドは『振り』だと言い切るかもね、と苦笑いを浮かべながら、オッレルスは学園都市を見据える。

 

「あの子は自ら虎穴に入った。唯一の虎児(希望)を掴み取るために」

 

 魔神一歩手前まで高みに居るオッレルスでも、やはり魔神ではない為か、少年神父の“首輪”を解くには至らなかった。

 故に、その何もかもを一切合切一撃で粉砕する為の右手を、少年は目指した。

 

 

「――――祈ろう。科学と魔術が交差した、その果ての幸福を」

 

 

 




修正点:インデックスの口調を原作寄りに


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第一話 黒髪ツンツンじゃなくて白髪サラサラだった件について。

連続投稿。
主人公は基本軽い。


 ――――――学園都市。

 総人口230万人。「記憶術」や「暗記術」という名目で超能力研究、即ち「脳の開発」を行っている都市である。大勢の学生を集めて「授業の一環」として脳の開発を行っており、学生の数は総人口の8割に及び、その全員が何らかの超能力を持っている。

 学園都市には科学の街という一面もあり、学園都市の中と外では科学技術が30年以上の開きがあるとさえ言われるほどに進歩している。その科学力は超科学と言われ、その科学技術を初めて目の当たりにした者は『自然科学』と呼び、最早オカルトの域と称するほどだ。

 

 そして同時に、学園都市は超能力者の街である。

 超能力とは、学園都市の研究者が薬品や脳開発等を用いて学生達の自分だけの現実(パーソナルリアリティ)と呼ばれる「認識のズレ」によって、ミクロな世界を歪めることで、マクロな世界に超常現象を引き起こす異能力。

 前述した様に、学園都市の学生はただ一人の例外を除いて全員が能力に目覚めているのだ。

 

 そして学園都市では、能力の強さから以下の段階に分けられている。

 

 無能力者(レベル0)。学生の約六割方はこれに当てはまり、例外を除いて全く『無い』という訳ではないが能力的には所謂落ちこぼれである。

 能力を使用しても殆ど効果が無く、役に立たないのが現状だ。

 低能力者(レベル1)。 かなりの多くの生徒がコレに該当し、スプーンを曲げる程度の力を用いることが出来るが、日常生活に殆ど使えないレベルがコレである。

 異能力者(レベル2)。 低能力者(レベル1)と同じく日常ではあまり役には立たない。戦闘などにもまるで使えないが、しかしレベル1と比べると明らかに違いが分かる。

 強能力者(レベル3)

 日常では便利だと感じ、能力的にはエリート扱いされ始めるレベルだ。

 この辺りの人間は喧嘩等に能力を使用する者が出始め、レベル0に対して差別をし始める段階でもある。勿論全てのレベル3がそうである訳ではないが、そう言う人間が存在するのもまた事実である。

 大能力者(レベル4)

 軍隊において戦術的価値を得られるレベルだ。

 この辺りに行けば無能力者では殆ど勝てなくなる『強者』だ。

 

 そして最高位である超能力者(レベル5)

 学園都市でも七人しか存在せず、一人で軍隊と対等に戦える程の力を有する『化物』である。

 学園都市の頂点で、基本学生達にとって憧れと同時に畏怖の対象だ。そしてこの超能力者(レベル5)の大半が暗部、又は学園都市の闇に関わりを持っている。内二名は暗部に所属している程だ。

 超能力者(レベル5)はそれ以下の能力者とは隔絶した実力を持っており、その戦力は一人で軍隊と戦えると言われる程である。

 超能力者(レベル5)には順位が現在一から七まで存在し、上位二名以外は戦力ではなく『学園都市』――――正確には『学園統括理事長(アレイスター)』に対してどれだけ利益を挙げられるかで決められている。

 しかし、超能力者(レベル5)の上位二名はその中でも飛び抜けており、頂点である『学園都市最強』に至っては核の嵐でも傷一つ付かず、その気になれば世界を滅ぼせる位の力を持っているとさえ言われている――――――――。

 

 

 

 

 

 

第一話 黒髪ツンツンじゃなくて白髪サラサラだった件について。

 

 

 

 

 

 

 

 皆元気かな? 学園都市第一一学区、陸路物流基地前から御送りしている、インなんとかさんだよ―!

 とまぁ、自虐になってしまうネタをやってみたりしている、自分こと年齢不詳密入国パツギンイギリス人(仮)のインデックスだ。

 ん? インなんとかさんと全く別人? 当然だ、中の人が違う。

 まぁぶっちゃけ、よくある転生憑依ものと考えてくれればいい。

 

 しかしこれがよくある神様転生なら良かった。特典で無双出来るなら楽だった。

 しかし残念ながら不満の捌け口の神様は現れることは無く、この世の理不尽に耐えるしかなかった訳だが。

 それでも、一般家庭に生まれればずっと楽観的で居られたが、何の因果か目が覚めたらイギリスの街中で倒れており、頭の中には御丁寧に魔力が無ければほぼ使えねェ知識の山が。

 これだけあれば、自分がどんな状況にあるか流石に判る。

 

 禁書目録ェ……。

 

 長編人気シリーズである【とある物語の人物目録】のメインヒロインにして、常人が目を通しただけでSAN値チェックが発生する魔導書を十万三千冊記憶している魔導書図書館。

『日常』、『帰るべき場所』という立ち位置を主人公上条当麻に定められている事からメインヒロインにあるまじき出番の少なさから、ファンから付けられた渾名がインなんとかさん。

 物語のタイトルだというのに、巻を探せば数ページ処か数行なんて目も当てられない惨状もあったりする。

 そして原因不明でそんな人物になってしまったわけだが、ここで重要な事が一つ。

 

 TS転生ではない。

 ここが重要だ。

 

 TS転生とは、よくある二次創作で前世は男なのに今は女になってたり、又はその逆を指すであろう言葉。

 イヤ、自分もあんま分かんないんだけども。

 

 そしてインデックスは本来女性。幼児体型で色気無しと感じるだろうが、素っ裸を至近距離で見た我等がヒーロー上条サン曰く、ちょっと胸は膨らんでたらしい。

 そんなヒロインのインデックスさんに憑依? した自分の自意識は男性のソレ。当然上記のTS転生に当て嵌まる筈だ。

 

 しかし、今の自分は銀髪碧眼の中性的な容姿の美少年。

 原作ではアイアンメイデンと化していた『歩く教会』も、ご丁寧に白いシスター服から神父服に変わっている。

 

 何でや。

 勿論混乱したが、そんなことを考えている暇は無く。

 原作通り自分の追っ手として神裂とステイルが襲☆来してきたのだ。

 それを何とかとっさの機転と小細工で逃げ切り、この世の理不尽に嘆き苦しみながら、でもまぁ学園都市のモルモットの『置き去り(チャイルドエラー)』よりはマシだと開き直りつつ、色んな国を転々としながら途中考える限り最強の友達に出会ったり、聖人とワルキューレの二重属性の北欧魔術師ブリュンヒルド=エイクトベルと出会い、彼女が追われていた元凶である北欧五大魔術結社をイギリス清教が潰してくれる様に神裂ねーちんとステイルを誘導したりした。

 

 お蔭で北欧五大魔術結社はロンドン塔で殆ど処分。

 彼女を排除するために一般市民さえ手に掛けていたことから、その末路は完全に自業自得なので全く同情はしなかった。

 各上層部のクソ野郎はブリュンヒルドにミンチにされたし、それに乗じて自分が金を奪ったりしたが罪悪感など微塵も感じなかったのである。

 

 問題はブリュンヒルドが自分に少々依存しちゃった事なんだけど、無理もないと思う。

 本人に確認してはいないが、神裂ねーちんと同い年ぐらいの女の子が、理不尽極まるとしても自分が口実で仲間を皆殺しにされ、死体すら殺し尽くされて、自分と出会う四年間たった一人で逃げ続けていたのだ。

 当時たった十四歳の少女にとって、それは何れ程辛かった事だろうか。

 当時体感逃亡生活一年以内の自分には、想像も出来なかった。

 

 それに逃亡生活一年以内とは言え自分も当時独りだったことから辛く当たることなど出来ず、寧ろグイグイ優しくしてしまい依存度がヒャッハーしてしまった。

 

 其処から半年間と数ヶ月が過ぎ、そろそろ学園都市に向かわないといけないと考えながら八極拳の鍛錬の帰りに、片眼が前髪で隠れる程度の金髪の青年が倒れていた。

 見て見ぬ振りは出来まいと、その青年に蹴りをブチ込み強制的に目覚めさせ、青年が泊まっているらしい近くのホテルまで連れて行った。

 へー、相棒に食事抜きで放り出されたんだー。すごいねー。とか適当に会話しつつ、青年に凄まじい既視感を覚えながらホテルに付くと、エプロンを着たパツギンのねーちゃんが。

 

 英国王室直属近衛メイドの聖人、シルビアさんじゃないですかやだー。

 その相棒は、原作通りだと当然オッレルス。あ、やっぱり。

 

 聖人とは生まれた時から神の子に似た身体的特徴・魔術的記号を持つ人間であり、それ故に『神の力の一端』をその身に宿した世界に20人と居ない魔術世界における戦略兵器である。

 そんな聖人でさえ遠く及ばない、神格を有するほど魔術を極めた超越存在である魔神一歩手前の男がオッレルスなのだ。

 知識ばかりの魔術を使えない自分が相対できる相手ではない――――と、()()()()()()()()()()()()

 

 まぁその後自分が誘拐されたと勘違いして突貫してきたブリュンヒルドを宥めつつ、その後自分の『首輪』関係の事情を知っているシルビアから、その解決方法を提示した自分とかそういうやり取りの後、オッレルス達が自分を学園都市まで連れていってくれる事に。

 

 そして現在。

 自分は学園都市に侵入する事に成功した今に至る。

 勿論目的は『首輪』と『自動書記(ヨハネのペン)』の完全破壊の為の“幻想殺し”ただ一つ。

 原作でトールさんが侵入経路言っててくれて、ホント助かった。

 

 そして今、暗闇の中見かけた地図を頼りに上条さんの居る第七学区に向かって走っているのだが、しかしどうしよう。

 

 原作通りにするならば、明日の晩には上条さんの部屋のベランダに干されてなければならない。

 まぁ今までの逃亡生活を考えたら一晩野宿ぐらい何ら苦ではないし、ATMから金を出せる今ならばホテルに泊まればそれで済む話なのだが、問題は上条さんと会って――――――――それからどうするかだ。

 

 そもそも原作とは性別というあまりにもどうしようもない乖離要素があり、そして何より原作通りにすれば、上条当麻は戦いの余波で脳に障害を負い記憶を永久に喪う。

 それを解っていながら自分の首輪の破壊だけ行うのは、余りに虫の良い話だ。

 幾らなんでも外道過ぎるし、そこまで下種に成り下がった覚えはない。

 しかし破壊しないのは自分が困る。

 兎に角、原作の事を除いて全てを話し、尚且つ上条当麻が記憶を破壊されない様にするしかない。

 取り敢えず、そもそもかおりとステイルに説明して協力を仰がなければならない。

 

 しかしブリュンヒルド達が足止めしていると考えれば、明日までに自分に追い付くことは出来ないだろう。

 そんな事を考えながら思考の渦に囚われていた自分は、行き成り目の前に飛んできた物体を反射的に蹴り返してしまった。

 

「…………何コレ?」

 

 よく見れば、その飛んできた謎の物体Xは、学園都市の路地裏を漁れば何処にでも居そうな不良だった。

 その折れた右腕が持つ、ひしゃげたナイフを除いて。

 

「――――あン? 何だァオマエ」

 

 前を見れば、同じ様に体の何処かを不可解に歪めている不良が沢山。

 そして不良達が屍の様に倒れ伏す暗闇の中で、君臨するかのように存在している『白』。

 黒い半袖に白い長ズボンを履いた、色素が消え去った白髪から覗く血の様に真っ赤な瞳が、此方を直視していた。

 

「……あり?」

 

 よく解らん状況に陥った自分は、頭を傾げながら暫し状況の把握に努めた。

 自分が求めていた無能力者(最弱)の対極の超能力者の頂点(最強)

 

「随分愉快な格好してるみてェだが、オマエもコイツ等と同じか?」

「いや、コイツ等と何が一緒で何をせにゃならんのか激しく疑問なんだけど……」

 

 すなわち学園都市最高の頭脳の持ち主。230万人の頂点に君臨している学園都市最強の超能力者(レベル5)

 

「飯行こうぜ!」

「はァ?」

 

 ――――一方通行(アクセラレータ)とカチ合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方通行は珍しく困惑していた。

 何時も通りに()()()()()()()後、腹が減ったので近くのレストランで食事を取ろうとして足を進めていると、毎度の様に学園都市最強の地位が欲しい不良達に囲まれ、毎度の様に蹴散らしていたのだが、その内の一人を半殺しにしながら蹴り飛ばした先に、学園都市に余りにも場違いな白い祭服姿の銀髪の外国人少年が不良を叩き付けていた。

 反射的にやってしまった、と言わんばかりの綺麗な動きだったので、他の不良達と同じ様に問い掛けたのだが――――――――

 

「――――いやぁー、学園都市のレストランつっても、別段『外』と変わんないのなー。まぁ冷凍食品だろうがレトルトだろうが、美味いモンは美味いから全く以って構わないけど」

「つゥか、何でオマエはオレと一緒に飯喰ってンだよ」

 

 店員により次々と運ばれ、ブラックホールでも備わっているのではないかと思うように食事が少年の口に吸い込まれ、運ばれてきたソレを再び口に吸い込む様に食べていく白神父。

 

「だってさ、一人で飯食うよりも誰かと食べた方が楽しいじゃん? 折角の三大欲求、楽しもうよ」

「オマエのせいでオレは食指が萎えてンだけど」

「ごめんちゃい」

「叩き潰すぞ」

 

 思わず少年を殺してしまいそうになるが、死体を晒してこれ以上食欲が無くなるのは御免被るのでそのまま自分の食事を口に入れる。

 

「そンで、何なンだよオマエ」

「おっと、自己紹介がまだだった。自分の名前はインデックスっていうんだぜい」

「意味判ってンのかオマエ」

 

 明らかに偽名極まりない名前であることに、そもそも意味の理解を確認した一方通行だが、インデックスと名乗った少年は更に言葉を続けた。

 

「正式名称Index-Librorum-Prohibitorum――……まぁ、生まれた時からこの名前だったのか、それとも人間らしい名前があったのか、生憎一年以上前の記憶が無いんで解らんね。まぁ役職名みたいなもんだけど、それ以上に自分を示す名前が無いってだけなのさ」

「あァ?」

「記憶喪失ってヤツ? まぁ意図的に思い出だけを消されたのを記憶喪失って言って良いものか分かんないだけど」

 

 そこで一方通行に疑問が生じた。

 

 思い出だけを消されたと少年は言ったが、記憶とはそんな簡単に部分的に消せるものだろうか?

 それこそ、学園都市第五位の様に精神系能力者の頂点に存在する超能力者ならば可能だろうが、少年の口振りから『外』から来た事がわかる。

 それに外部で超能力開発が行われているとは思えない。

 

「『クロウリーの書』だっけ? あるいは『記憶消去』のルーンなのかな。推測でしか出来ないけども、イギリス清教の総本山ならそんな魔術使える魔術師なんてそれなりにいるだろうし」

「――――はァ?」

 

 そこから一気に話が飛躍した。

 

「ふざけてンのか?」

「オカルトが信じられない? 別の法則とはいえ、超能力(オカルト)の総本山に居るのに」

「……オカルトと能力開発は別だろォが」

「端から見たら変わらないさ。一定の法則に添って異能を現実にする(さま)に、一体何の違いがある? 超能力も魔術も使えず知らない人間からしてみれば、呪文を唱えて手から炎出すのと、頭ん中で演算して手から炎出す過程を気にする奴はいないよ。実際この街を『テレマ僧院』とすればある程度説明がつく」

 

 確かに、外の人間からすれば違いなど解りはしないだろう。

 明らかなオカルトを語りながら、しかし嘘には思えない程淀みなく自然な口調。

 それに超能力の事も理解出来ている風な少年に――――しかし科学の結晶たる一方通行は否定した。

 

 理由は簡単。

 見てもいない戯言を信じる理由なんて無いのだから。

 

「だったら証拠見せてみろよ。そのマジュツってのをよ」

「フム。まさかソレを君に言われるとは思わなんだなぁ。しかし自分は諸事情で魔術が使えんのだよ。要はMPゼロのキャラが魔法を使えないのと同じ道理だな」

 

 ソレ見ろ。やはり嘘っぱちではないか。

 態々付き合ってやる必要も無かった。時間を無駄にした。

 一方通行はそう口にして去ろうとするが、しかしそれより先に少年は、()()()()()()を口にした。

 

「だから、別の方法で証明することにしよう」

 

 

 ――――――『歩く教会』だ、と。

 

 

 

 




誤字脱字があれば修正します。
感想待ってまーす。


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第二話 そして物語は始まる

まだストックがあるので更新。
投稿から一日目で感想を頂けて嬉しいです。

しかし何故にホモを邪推する方がいらっしゃるのか(白目)



 学園都市第七学区のとある河辺。

 そこに一方通行(アクセラレータ)とインデックスは居た。

 

 理由は魔術の証明。

 方法は『歩く教会』を使っての霊装(オカルトグッズ)の性能証明。

 

「さっき見せた様に、この祭服がイカレ科学繊維とかじゃないのは判ったか?」

「あァ、それでどうやって証明すンだよ?」

「この服は『歩く教会』といって、法王級の要塞の強度を誇る―――――具体的には三千度の爆炎ブチ込まれても効かない魔術霊装。つまりは100%魔術(オカルト)の逸品だ。そこでユーは自分に“能力を行使した打撃による攻撃”を行い、ノーダメージなら信じる事が出来るでしょ?」

「――――ハッ」

 

 一方通行は思わず吹き出しそうになる。

 一体自分が誰か判らないのだろうか?

 

「オイオイマジかよ。まァ外部の人間のお前には俺が誰か分からねェンだろォが、俺は「学園都市最強の超能力者(レベル5)。ベクトル操作の一方通行」……オマエ……」

 

 学園都市最強の一撃を受ければ、人の形など残らない。

 しかしインデックスは名乗ってもいない一方通行の名前はおろか、能力まで口にした。

 

「知ってるだけだよ。別に大した意味は無い」

 

 原作知識――――なんて、一方通行に限らずこの世界の人間は想像すら出来ないだろう。

 インデックスは大した意味は無いと言ったが、理解出来ないという意味での意味の無さである。

 

「だったら尚更正気か?」

「一応『歩く教会(コレ)』とは一年近くの付き合いだけども、幾らベクトルを集束した拳でも、唯の打撃じゃあコレは破れないよ。流石に血流操作とかされたら死ねるけど」

「へェ」

 

 面白い。

 目の前に居るのが誰か理解し、更にその能力も把握しての提案ならば、()()()()()()()()()()承知の上だろう。

 そう判断した一方通行は、一切の手加減を止める。

 

「じゃァ、行くぜ?」

「カモン。ただし打撃だけな。自分の体内のベクトル操作はしないでネ。死ぬから」

 

 一方通行は言葉では応えず、行動で示した。

 地面を軽く踏み込み、そのベクトルを操作し爆発的な速度で、両手を広げているインデックスに突貫した。

 その速度を全く殺さず、思うがままに右腕を振るう。

 インデックスの、神父服に拳を捩じ込み、本来自分や周りに向かう衝撃と威力のベクトルを収束。

 全て攻撃に向ける事で素人極まりない一方通行のパンチを、城壁を粉砕する悪魔の一撃へと変貌させた。

 

「(………………あ?)」

 

 一方通行は一瞬違和感を覚えるも、物理法則に従いインデックスの身体は、轟音と共にゴムボールより容易く吹き飛び川へと突っ込んでいった。

 

「オイオイどォしたよ。あンだけ大口叩いといて、愉快に吹っ飛びやがって」

 

 無茶な言葉である。

 今の一撃を生身で喰らって、無事な訳がない。

 穴が空いていなければ上出来。中身がスクラップになっているのが当たり前のレベルである。

 インデックスは川から上がる事すら不可能だろう。

 

「――――フムフム。自分に対するダメージは一切合切吸収できても、普通に吹っ飛びはするんだな。慣性の法則パネェ。しかしまぁ、お蔭でびしょびしょになったじゃんか」

 

 ――――だと言うのに、何事もなかったように川から這い上がってくる水浸しの少年神父は一体誰だ?

 

「へぇ………!」

「まぁ、ここで喧嘩売るなら二、三の挑発ぐらいするけど、流石に本気の学園都市最強を相手にする程馬鹿じゃないので止める。だけど、判ってくれたかな?」

「……確かになァ。頭ごなしに否定するには材料が足ンねェみてェだ」

 

 先程の攻撃では、大して気にはしていなかったが、拳で叩き込んだベクトルが、あの神父服に触れた瞬間一部解析出来なくなるというあり得ない感覚を覚えた気がしたが、どうやら一方通行の気のせいでは無いらしい。

 思わず科学的検証をしようとするが、能力開発を受けなければ不可能と断じる。

 

 魔術。

 曰く超能力とは違う法則の異能。

 確かに興味は無いわけではない。

 

「そもそもこの街は魔術的要素を徹底的に排除しておきながら、要となる超能力は所々魔術と似通った点が有りすぎるんだよ。例えばAIM拡散力場とか、絶対能力者(レベル6)とか」

「……何だと?」

 

 興味はあるが――――それは流石に一方通行は聞き捨てならなかった。

 特に後者。一方通行は今まさにその為の実験を行っているのだから。

 

「魔神つってね、魔術を神レベルまで極めまくった魔術師を指す言葉なんだけど、出鱈目具合と成れなさ加減は絶対能力者(レベル6)とドッコイドッコイだと思うぞ? 魔神一歩手前の魔術師の友人としては」

 

 魔神一歩手前。

 それはまさに、絶対能力者(レベル6)一歩手前である一方通行と同じではないか。

 

「じゃァよォ、オマエはソイツと俺が殺し合ったらどっちが勝つと思う?」

「う~ん、色々条件や状況によるだろうけど――――――――お前さんが殺されて終わりだろうね。一方通行」

「……へぇ」

 

 興味本位で聞いた問いに、インデックスは一方通行の敗北を解とした。

 学園都市最強である一方通行が負けると断言したのだ。

 一方通行のプライドに対する侮辱とも取れる発言に、一方通行が思ったのは疑問だった。

 核すら無傷でいられる自分を『殺されて終わり』と断定した理由が気になったのだ。

 同時に、ここまで言われて何もしない自分に驚きながら。

 

「理由は?」

「一方通行。お前が学園都市最強たる由縁は、やはりその反射が大きい。だけどそのベクトル変換能力は、ベクトルの数値を必ず演算式に入力しなければ操作出来ない。だけどオッレルスの『北欧王座』は『説明不能』が売りなんだ。唯でさえ全く未知のベクトル。そのベクトルの数値を逆算しなければならないのに、その数値が理解不能じゃ話にならない」

「……随分物知りじゃねェか」

 

 そしてそれに対するアドバイスを、インデックスは言わなかった。

 一方通行は上条当麻に負けなければ、一万のクローンは救われない。

 故に上条当麻が負ける要素を一方通行に与えてはならないのだ。

 

 そして一度敗北を知らなければ、一方通行はこれからクソッタレな学園都市の闇で、生き残れはしないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二話 そして物語は始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――で、何でオマエは俺の部屋に居ンだよ」

「デジャブる発言だね。そりゃ誰かさんが俺を水浸しにしたからに決まってんでしょ。夏じゃなけりゃヤバかったぞこの野郎」

 

 一方通行の在宅している部屋――――と言って良いのか危うい、おそらく高級家具類が何者かに悉く荒らされた部屋で、今時の中高生の様なファッションに身を包んだインデックスが、ジト目で一方通行を睨んでいた。

 

「そンな服、いつの間に買ったンだよ」

「誰かさんがコンビニで缶コーヒー漁ってる間。……あぁクソッ、人の生命線をびしょびしょにしやがって。魔法は全種類覚えてるがMP0。精々百人程度のチンピラ圧倒できる程度のレベルの魔法使いの自分が、音速挙動の女剣士と摂氏3000℃の炎の巨人嗾けてくる魔法使いを相手に、どうしろっていうんだよ。どんなマゾゲーだ」

「随分ファンタジーなストーカーだなァオイ」

「喧しいわチート筆頭」

 

 学園都市の超能力者をチートとするなら、その第一位である一方通行は正しく筆頭と称すべきだろう。

 

「ったく……ヘイ学園都市最強の能力者。この水浸しを何とか出来ないの?」

「何で俺が……ベクトル操作で水分だけを飛ばす……出来なくもねェが、面倒臭ェからパス」

「ならネット上に学園都市最強の超能力者はロリコンで、本当の名前はアクセロリータって噂バラ撒くがよろしい?」

「この、野郎ッ……」

 

 青筋を浮かばせ、少年をミンチにする衝動を抑えながら、ギリギリと歯を喰いしばり少年の祭服を奪い水気を吹き飛ばした。

 

「あんがと。てか、何で学園都市の能力者の頂点がコミュ症なんだよ。『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』の影響かな? そんなんだから超能力者(レベル5)は他の学生から『隠しきれない人格破綻者』とか言われるんだよ。アレイスターの阿呆め、『計画』の中核者の情緒教育とか最重要だろう。環境が悪いよ環境が」

「喧嘩売ってるよなオマエ。居ねェよ。つかくだらねぇし、ンなモン興味もねェ」

「最強故に孤高? 一匹狼なんざどんなにカッコつけてもただのボッチでしょ。それに、他の超能力者にボッチとか指差されて爆笑されたら反論出来ないでしょ?」

「………………………………」

 

 一方通行は、そんな場面を一瞬想像し、思わず右手に持っていた缶コーヒーを握り潰した。

 

「じゃァどォしろっつゥンだよ……」

「フム。学園都市の悪意が作り出したボッチのコミュ症を、そんな一朝一夕では修正不可能だろうし……」

 

 学園都市の悪意は、そんなしょうもない物を態々作り出したりはしていない。

 

「――――よしっ、ならば自分が友達になろう! これで一方通行はボッチではなくなり、万事解決!!」

「お断りだ」

「おとこわりだと!?」

「何割ってンだよ」

 

 くだらない。そう思いながらも、一方通行はインデックスを排除しなかった。

 一方通行は考える。

 その気になればインデックスは何時でも排除されるか、また一方通行が音を反射して寝ればインデックスなど居ないも同じ。

 それでも何故そうしなかったのか。

 

「(何年ぶりだ? 邪気の無ェ声を掛けられたのは)」

 

 一方通行の周りは、負の感情で溢れていた。

 悪魔の様な白衣の研究者達。最強の座欲しさに蛮勇を振るってくる有象無象。

 一般人に至っては、その凶悪な眼光で話し掛けられることは無く、避けられる。

 

「つっても、ダチの条件ほぼクリアしてるぞー? 一緒に飯食って、河原で殴り合いして」

「河原じゃ俺がフッ飛ばして終わりだったと記憶してンだが?」

「じゃ今度自分がブッ飛ばせば全クリな」

「チッ……勝手にやってろ」

 

 一見クリーンな見た目を装った悪意に満ちたこの街で、一方通行にとってインデックスはとても珍しく見えた。

 

「好意を向けるのや向けられるのに慣れてないのは分かるけど、今の内に慣れてないと後でキツいよ?」

「あァン?」

 

 一方通行がそんなことを考えている内に、少年はいつの間にか乾いた神父服を纏って、部屋のベランダに足をかけていた。

 

「――――――じゃあ今度会った時は喧嘩って事で。そんでまた一緒に飯でも食おう」

 

 サラダバー!! と、おかしな叫び声を上げながらベランダから飛び降り、インデックスは去っていった。

 

「喧嘩だァ……?」

 

 そこでふと疑問に思った。

 インデックスは一方通行の力の強大さも、その能力の詳細も知っている筈だ。

 だと言うのに、反射に護られている一方通行に“喧嘩”を行えるとは思えなかった。

 しかし態々インデックスは喧嘩と言った。

 

「まァイイか、どォでも」

 

 彼は他者に敵意や悪意以外の感情など向けない。

 ソレが好意など以ての外である。

 故に、一方通行の思考からインデックスのことなどすぐに消えるだろう。

 ――――この約束は、彼が最も執心している実験の中で果たされることになるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 そして七月二十日。運命の日はやって来た。

 

 昨晩に御坂美琴との抗争により発生した落雷で、学園都市第七学区の一区画の電子機器が根刮ぎあの世に去ってしまい、上条当麻の部屋は茹だるような暑さに苛まれ、冷蔵庫の中身が全滅という惨状であった。

 

「さぁーって、布団でも干すかなぁ―」

 

 最早現実逃避のための行為。

 不幸な事があった、取り敢えず気分直そう。という既にサイクルと化している精神は、もういろんな意味で駄目な領域だろう。

 故に上条当麻は、ベランダの窓を開ける。

 

 本来布団を干すのに利用できる縦柵に――――――しかし其処には白い物体が干されていた。

 

 それはその少年が纏っている服が祭服であり、それらの知識がない上条にとって美少女と見間違う程の中性的な銀髪の美少年。

 屋上から落下したのか、柵が微妙に凹んでいるのを見る限り、下手したら死体だろう。

 

 呆然とした上条は手に抱えていた布団を落とし、その音に気が付いたのか、瞼に塞がれていた美しい碧眼が銀の前髪から上条を覗いた。

 そして、その口が開く。

 

「――――め、飯をくれぇぇえァァアアア………」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁッ!!!!?」

 

 こうして魔術と科学は交差し、物語は始まる。

 

 

 

 

 

 




美少女→運命の出会い
野郎→魔物と遭遇

取り敢えず本編中に回収する気の無い伏線をはってみた第二話目。

歩く教会って世界が違うと性能が分かれますよね。
型月だとAランク以上の宝具扱いは間違いないけど、ネギまだと大したこと無さそうで。でもハイスクールD×Dだと中途半端。リリカルなのはだとどんな扱いになるか解らないけど。

誤字脱字がある場合修正します。
感想待ってまーす。



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第三話 ヒーロー求めて三千里

朝に日刊ランキング(加点式)一位を見て目が点に成りました。
感想を頂いた方も含めてありがとうございます(*´ω`*)

それと、感想欄のgoodとbadの意味が不明です。間違えて押してしまった場合の消し方を知りたいのですが………。
間違えて押してしまった方に、何らかの被害が出てしまったのなら、本当に申し訳ありません。




「いやぁーっ、本当に助かった。有り難う。昨日の夕方頃に彼処に墜ちてな、夕飯を食べてなかったんだ」

「夕飯一食抜いただけで人体はゾンビ化はしないと、上条さんは記憶してますが……」

 

 上条当麻の全滅した冷蔵庫の中身。

 その全てを彼の目の前の銀髪少年神父は、とてもイイ笑顔で喰らい、貪り尽くした。

 

「んで、お前は何処の誰で、何であんなところに干されてたんだ?」

「ん? 自分の名前はインデックスだけど? あ、偽名でなく」

「明らかに偽名じゃねーか!!」

 

 偽名じゃねェッつってんだろがコラ、と笑っていない笑みでインデックスが上条に告げさせ、強制的に納得させた。

 怖かったらしい。

 上条は混乱していた。

 レッツ脳内絶賛メダパニ状態である。

 外国人銀髪碧眼美少年神父がベランダに干されて、現在ガラステーブルを挟んで向かい合っているのだ。無理もない。

 それに上条としては、学校に行き夏休みの補習を受けなければならない。

 もし遅刻なんてしてしまえば、あのチビッ子教師は間違いなく泣くだろう。

 上条は罪悪感で死ねる自信があるし、そもそもクラスの連中に殺される。

 

「でさー、何だってお前はベランダに干してあった訳?」

「だからさ、干されたんじゃないだって。墜ちたんだ――――カッコつけてな」

「カッコつける意味は!?」

 

 思わず突っ込んでしまったが、しかしそれはそれで別の疑問が浮上する。

 先ずは、『墜ちた』という言。

 墜ちれるとするなら、間違いなく屋上からだろう。

 俯きで干されていたことから、肋骨は間違いなく折れるか、内臓も痛めてしまうだろう。

 いや、そもそも死んでしまう。

 

「お前……インデックスだったか? 大丈夫なのか?」

「何が?」

 

 しかしまるで堪えていない。

 酸っぱいニオイの焼きそばパンを貪っただけの事はある。

 

「屋上を跳び移り続けてたんだけども、やっぱ無理だわ。かおりんスペックヤバすぎ。美人じゃなかったら追われるの絶対嫌だったね」

「追われる――――?」

 

「自分を刀で斬殺してくる、超人年上黒髪ポニーの巨乳美人を想像してみ」

「………」

 

 上条は頭を抱えた。想像の遥か斜め上だった。

 上条の好みの女性は年上のお姉さんではあるが、日本刀で斬殺してくるのならば話は別だ。嫌すぎる。

 つい昨晩にビリビリ中学生に電撃をブチ撒けられながら追われていた上条だが、異能の絡んでいない日本刀では恐怖度は跳ね上がる。

 下手を打てばどちらも致死であることに変わりは無いのだが。

 

「ついでに二メートル超えの14歳の喫煙破戒神父もかな」

「何でそんなんに追われてるんだ!?」

 

 どんな状況だソレは、と絶叫する。

 すると飄々としていたインデックスは、悲しそうに顔を伏せる。

 

「組織的な理由なんだけどなぁ……。色々な要因が絡み過ぎててワロタって感じなんだよ」

「な、なんか判んねぇけど、大変なんだな……」

「まぁ説明とかもっと詳しく言いたいんだけど、当麻はそろそろ補習もあるだろうからそこら辺はハショる」

「そうなんだよ。夏休みだってのに補習が…………へっ?」

 

 思考が停止する。

 

(俺、これから補習だって事は言ってないよな……?)

 

 戸惑う上条を見て、苦笑しながらインデックスは腰を上げて、姿勢を正し、一瞬、上条の右手を視界に入れた。

 

「自分が学園都市に来たのは、貴方に会いに来る為です。上条当麻」

「い、インデックス……?」

「断ってくれても構わない。貴方にはその権利がある。関わってしまえば、貴方はもう関わり続けてしまうだろうから。でも、もし、こんな自分をほんの少しでも哀れんでくれるのなら、貴方に頼みたい」

「…………ッ!?」

 

 インデックスは、その銀髪の頭を床に付けるように頭を下げ、土下座した。

 

 

「――――助けてくれ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話 ヒーロー求めて三千里

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい、それじゃあ先生プリント作ってきたので、まずは配るですー」

 

 そんな、最早学園都市の都市伝説の一つに数えられている、台を使わなければ教壇から顔が見えない、身長135センチの自身の担任教師 月詠小萌の声が、補習の開始を告げながら、上条はつい先程自宅であった出来事を考えていた。

 

『当麻は、魔術を信じるか?』

 

 上条は、頭ごなしにではなかったが、しかし否を唱えた。

 自身が超能力者の街に居ることから、そして自身の右手に宿っているからこそ、『異能の力』をよく知っているし、肯定している。

 

 幻想殺し。それが常識外の『異能』ならば、仮に神の奇跡だろうと問答無用で打ち消せる右手。

 そして超能力という異能で溢れている学園都市。

 だからこそ、本気で異能を模索しているからこそ、科学(リアル)とかけ離れている非現実(フィクション)が信じられないのだ。

 そんな上条を、インデックスは笑って答えた。

 

 一昨日会った学園都市最強の能力者を説得するよりは、遥かに信じさせやすい、と。

 

『……………マジで?』

『代わりに河へとブチ込まれたけど』

 

 なんでも上条と会う前に超能力者の頂点、つまりは上条が知るビリビリ中学生よりヤバイ能力者と会っているらしい。

 

『俺が魔術を使えたら手っ取り早かったんだけど、残念ながら俺には魔力が造れない』

 

 魔法しか殆ど能の無い、しかしほぼ最強の魔法使い常時MPゼロの状態。インデックスは自分の事をそう例えながら言っていた。

 故にインデックスは魔術ではなく、有り体に云うところの魔法の道具を使って証明したらしい。

『歩く教会』という、魔術霊装を使って。

 

『この祭服(カソック)そのものが、俺自身の魔力要らずの廃課金装備なんだぜ』

 

 インデックスが屋上からベランダに落下しても傷一つ無い理由が、ソレだと云う。

 伝説の竜の一撃でも無い限り破壊不能の『要塞』。

 しかしその魔術霊装も『異能』だと言うのなら、ならば上条の右手でも破壊出来るのではないか?

 それならば、魔術も証明が出来る。

 上条がそう提案すると、

 

『確かにそれなら魔術を証明出来るけど、弁償できるのか?』

 

 その一言で、上条は自分の案を全力で撤回した。

 そんな反応を予想通りと笑いながら、インデックスは一つの鎖を取り出した。

 

『捕縛用の霊装だ。これを使えば良い』

 

 大した霊装ではなく、壊れても構わないらしいソレを、上条は右手で触れるだけで破壊した。

 シンプルではあるが、綺麗なデザインの鎖はものの無惨にバラバラに砕け散ったのだ。

 

『魔術の証明はコレで完了。ンじゃ、本題を話そうか――――』

 

 

 

「―――――――上条ちゃん!? 聞いてるですか!」

「……今のは不幸じゃなくて、上条さんが悪いですねー」

 

 すいません、聞いてませんでした。と、無論当麻は月詠に怒られ、クラスメイトに茶化されたせいで彼女に泣かれかけたのは言うまでも無い。

 しかしそれでも、上条は小萌に聞かねばならなかった。

 

「小萌先生、一つ聞きたい事があるんですけど――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっじぃィ……」

 

 七月下旬の気候を舐めていたインデックスは、学園都市を幽鬼のように歩き進む。

 ちなみに『歩く教会』は目についたコインランドリーにブチ込んでいる。

 幾ら水分を弾き飛ばしたとは云え、一度河にブチ込まれたせいか一日経つと臭くなってきたのだ。

 現在はYシャツに薄着の長ズボンという、目立ち過ぎる銀髪の外国人で無ければ学園都市に完全に紛れ込むことができるだろう。

 

 インデックスが態々最高装備である『歩く教会』を脱いだ理由は、二つある。

 一つは、上条に右手で壊されない為である。

 あれだけ脅したので普段は絶対触れてこないだろうが、緊急時は話が別だ。

 神裂やステイルが襲来とかしてみろ。庇うために咄嗟に突き飛ばされでもしたら、戦闘中に丸裸にされる。

 

 もしインデックスの性別が原作通り女ならステイル辺りに絶大なダメージを与えられるだろうが(上条は燃え散るだろう)、良くも悪くも彼は男だ。

 女性なら事情を話す余地があるだろうが、男がそれをやれば問答の余地なく逮捕されるだろう、というのがインデックスの見解であった。

 それは幾らインデックスの容姿が優れ中性的だろうが何の意味もない。

 無論、女性であっても痴女の誹りは免れまいが。

 

 二つ目は『歩く教会』の魔力でインデックスの居場所を探知されない様にする為。

 そもそもステイルと神裂は、その魔力を頼りにインデックスを追っている。

 それを逆手に取るのだ。

 原作ではもうそろそろ神裂かステイルに捕捉される頃だろうが、それは幻想殺しで破壊されきれていなかった『歩く教会』が有ったからこそ。

 しかし今はその肝心の『歩く教会』はコインランドリーでグイグイ洗浄されている。

 この状態で自分を見付けるのは至難だろう、とそう判断したのだ。

 

「当麻に大体の事を話して、それから補習の帰りに決めてくれと言ったが……決められるかな?」

 

 我ながら無茶振りをしたモノである、と彼は自嘲混じりに呟いた。

『首輪』と『自動書記(ヨハネのペン)』の完全破壊に幻想殺しは不可欠だ。しかしリスクは凄まじい。

 意識のある間に幻想殺しで破壊出来るのは首輪まで。

 防衛機構である『自動書記』を破壊するには、原作通りに『首輪』による十万三千冊(知識)を総動員させた完全迎撃体勢の魔神(インデックス)の魔術を突破しなければならない。

 幸運にも予期せぬ()()ができたとは言え、それでも絶対大丈夫とは口が裂けても言えない。

 そろそろ上条が帰ってくる頃。

 アレがインデックスの知る上条当麻なら、是非問わず何らかの解答を携えてくるはずだ。

 インデックスは再び、上条宅の学生寮に向かって足を進め、

 

 ―――――――――――肩口から血が噴き出した。

 

 

「――――がぁッ……!!?」

「えっ……?」

 

 思わず声が出てしまったが、しかしインデックス以外の声も聴こえた。

 戸惑うような、酷く驚いたような声。

 インデックスが右手で傷口を押さえながら、声のした方向を見れば、令刀『七天七刀』を持ったポニーテールの女性が表情を激しい動揺に染めていた。

 

 (そないな表情しなさんなや……)

 

 思わず笑いが漏れるが、人払いのルーンが刻まれていることに気付き、盛大に舌打ちする。

 

「ブリュンヒルド達と一緒にいた弊害か……。随分衰えたモンだな」

 

 余裕ぶった口振りをするが、彼の内心は焦りまくりである。

 

 (何で見付かった!? アレか、散々フラグ建てたせいか? そうですかチクショウ!!)

 

「ッ……禁書目録、貴方を『保護』させてもらいます」

「その前にちょっと御茶しない?」

 

 しかしインデックスのその提案は無視され、何やら苦虫を千回潰した様に顔を歪めながら神裂火織は襲い掛かってくる。

 即座に彼は目のついた路地裏に飛び込んだ。

 勿論相手は音速挙動。

 素の速度では絶対に勝てない。

 

 ならどうするべきか。魔力が精製できないインデックスに出来る事とは、一体何だ?

 刀が納められた鞘を槍の如く振るうそれを、彼は体を捻るように絡ませ、聖人の膂力に逆らわず清流の如く受け流すように避けた。

 

「なッ!?」

 

 かおりんの動揺も束の間、自分はそそくさと姿を晦ます。

 魔術が使えない? ―――――だったら武術を使えば良いじゃない。

 

 (だはははははは!! スゲェ! やばい、やったぜアサシン先生!!)

 

 ブリュンヒルドに会う前に、世界を転々としている最中に()()()()()()()()()()()()()中国拳士の変態という名のアサシン先生。

 それから半年以上続けてきた武術が、漸く納得がいく実感を得たのだ。

 この時ほど完全記憶能力に感謝した事は無い。

 

 ――――降霊術というものをご存じだろうか?

 一般にネクロマンシーと呼ばれ、占いの目的のために亡者の霊を呼び寄せようとする魔術のことである。日本ではイタコなどが有名だろう。

 この世界における魔術は基本的に神話の再現という形を取る為、インデックスにとって極めて都合が良かった。

 

 インデックスが『この世界で初めて出来た味方』の手を借りてでも行った目的は、完全記憶能力による、瞬間降霊での武術のトレースである。

 

 降霊術は神話に於いて様々な神を降霊した英雄が描かれるが、人間が長時間やれば相当なリスクを負ってしまう。ソレが自分より優れた存在ならば猶更。魔神でもない限りそのリスクは大きくなるだろう。イタコの寿命が短いとされるのも、ソレが原因だ。

 そんな問題に対して、インデックスは完全記憶能力が存在する。一瞬降霊してから極めて短時間に覚えた武術を、ほぼ完璧に模倣することは可能だ。

 

 そして選ばれたのはニザームルムルクの逸話や世界征服者の「山の翁」ハサン・サッバーハ。

 そして魔拳士とも言われた伝説的な八極拳士、李書文である。

 結果インデックスは、一流の暗殺者の軽業と、英霊に成るほどの武道家の武術の一端を得るに至ったのだ――――――――――。

 

 とまぁ、理屈こねたらこんな感じである。

 

 なにせ一度覚えた事は忘れないのだ。

 本来中国拳法の発勁やら内勁などは十年単位の修行が必要だが、俺は歩法や回避や受け身などの『身のこなし』のみを重点的に鍛え上げ、数ヵ月で会得できた程だ。

 インデックスは気配遮断で身を隠しながら、入り組んだ路地道や物を利用して進んでいく。

 

「当麻なら、ちゃんと()()()()()()()()()。あーあ、結局道筋を辿る訳か。修正力とかあんじゃないだろうなこの世界」

 

 神裂だけだった事から、恐らくコインランドリーに向かったのはステイル。しかしインデックスを火織が発見した事から、此方に向かってくるだろう。

 ならば待ち構えているのは誰か、考えるまでもない。

 インデックスの状態や状況こそ違うが、見事に史実通りだ。

 

 神裂の魔力と、僅かに漏れる天使の力(テレズマ)を感知しながら、感じる方向とは別の道を進む。

 肩からの出血を練勁治療の応用で止めながら、この世界のヒーローを目印にして。

 

 

 




軽業と気配遮断に中国拳法(間借り)。

ということで第三話でした。
今回は降霊術について言及しましたが、要はエミヤの投影での憑依経験を追及した結果と考えて頂ければ宜しいかと。
間違ってる部分が有るかもですが、その場合は指摘していただけると有難いです。
修正できるかどうかは別として。

誤字脱字がある場合は修正します。
感想待ってまーす。


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第四話 葛藤

お気に入り数が昨日と今日で二倍になっていて驚きました。感謝感激です。
評価して頂いた方々に心から感謝を。

ちなみにミコっちゃん、何気に初登場回だったり。


「……不幸だ」

 

 夏休みの補習を称しておきながら、完全下校時間までガッチリ拘束された上条は、夕焼けの光を反射したギラギラ輝く風力発電の三枚プロペラを視界に入れながら呟いた。

 

「助けて、か……」

 

 朝、ベランダに干されていた少年を思い浮かべながら、上条は右手を一瞥する。

 

 幻想殺し(イマジンブレイカー)

 

 あらゆる異能による奇跡のみを殺し尽くす、生まれながらに身に付けていた正体不明の摩訶不思議な力。

 そしてインデックスが求めた唯一の希望。

 ちっぽけな自分の、異能の事象以外何の役にも立たない右手が、一人の人間の人生を救う手段と告げられて、上条は戸惑うしかなかった。

 何時もの不幸のように、イキナリ巻き込まれるよりかはインデックスは良心的であり、キチンと考えられる選択肢と時間をくれた。

 

 インデックス曰く、その右手は爆弾の解除(キー)だという。

 しかしその爆弾は自衛装置が付いていて、右手(解除鍵)だけでは上条自身が危険に晒される可能性が高いらしい。

 取り返しのつかない怪我を負ってしまうかもしれない。

 自宅の学生寮。そこにもうインデックスは、上条の助けを求めて居るのだろう。

 

「―――――――あっ、いたいた。ちょっと待ちなさ……ちょっ、アンタよアンタ! 止まりなさい……止まれこの野郎!!」

 

 魔術に詳しくない処か、数時間前まで存在自体知らなかった上条に、その自衛装置とやらを想像することは出来なかった。

 話によれば学園都市の超能力者すら単体で相手するのも難しいという話だ。

 それにしてもドラム缶式清掃ロボが多い。

 ウィンウインと音を立てながら清掃活動に勤しんでいるロボ偉い、と夏の熱気で茹だっている上条の頭は見事に現実からの逃避を行っていた。

 相手が暴力に訴えるまでは。

 

「ちょっ……無視すんなやコラァアアアアアアアアア!!!!」

 

 バチバチバチッ!! と、上条が最早慣れ親しんでしまった学園都市第三位の超能力者の電撃が飛んでくる音を耳にしながら、振り返り様に右手を振るう事で全て打ち消した。

 本来ならば10億ボルトの雷速の槍など、一般高校生の域をでない身体能力の上条が、右手を振るうだけで防ぐことなど出来ない筈なのだが。

 インデックスに言わせれば『前兆の予知』なんて物で音速の三倍の速度で発射される、この雷撃の槍をブッ放してきたビリビリ中学生の代名詞である超電磁砲(レールガン)を『怖かった』で済ませる奴の、一体何処が一般高校生だ、なのだが。

 

 そして漸く、先程からヤンヤヤンヤしていた御坂美琴を見て、

 

「……不幸だ」

「ちょっ、人の顔見て言うに事欠いてそれか!?」

「うるせぇよビリビリ中学生。お前が昨日落とした雷のせいで、俺の学生寮の電子機器は全滅だ。これ以上喧嘩吹っ掛けてくるなら、お前の学校に訴えるぞ」

「ッッ……!?!?!?」

 

 正史とは違う意味で、御坂美琴は呼吸が出来なくなりかけた。

 実は落雷の件はインデックスという部外者に客観的意見を聞き、やはり上条でもキレて良いのでは? と考えていたのだ。

 だからと言って女子中学生をボコボコにするのは上条さん的にはアウトであり、そこで解決法、というか対処法を某青狸ロボに頼む眼鏡少年の様にインデックスに相談したところ、

 

『普通にやっこさんの学校か風紀委員(ジャッジメント)にチクれば?』

 

 という極めて有り難いお言葉を頂戴したのだ。

 幾ら上条が不幸慣れしているとはいえ、喧嘩吹っ掛けてくる度に上条にとって高額な電子機器を全滅させられては堪ったものではない。

 

 そしてもしそんな事が美琴の通う常盤台中学に知られればどうなるか。

 幾ら能力を無効化する力を持っていようが、書庫(バンク)無能力者(レベル0)超能力者(レベル5)が一方的に攻撃をし続けていた等、非常に面倒な事態になるのは必至。

 何より、そんな深夜極まりない時間帯に寮外に居たなど、あの寮長にどんな罰を受けるか。

 想像しただけでも美琴は青褪める。

 

 そんな美琴の姿に満足しながら、何だか女子中学生を虐めているような罪悪感が襲い、同時に心の中でインデックスに多大な感謝をする上条だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第四話 葛藤

 

 

 

 

 

 

 

 

 御坂美琴は、この真夏の夕焼けの太陽光の熱に苛まれながら、しかし目の前のツンツン頭の高校生に苛立っていた。

 学園都市に7人しか居ない超能力者という自負。

 更にその第三位という地位による自信と誇り(プライド)

 その全てが悉く叩き潰されたのだ。しかもつい最近まで、無意識に見下してしまっていた無能力者(落ちこぼれ)の烙印を自称する者に。

 

 断じて認められる話ではない。

 しかし、その事実が『まぐれ』や『奇跡』などの領域を超えていた。

 

 雷撃の槍も、砂鉄による振動剣も、そして自身の代名詞と呼べる切り札である『超電磁砲(レールガン)』すら。

 まるで鬱陶しい蝿を振り払う様に、その右手で打ち消された。

 初めは戸惑い、次第に怒り、果ては恐怖すらした。

 能力者の街で、その能力を無効化する能力など理不尽のソレだ。

 だというのに、当の本人はまるで唯の無能力者の様に、涙目で美琴の攻撃を無効化し続けている。

 そして遂に昨晩、落雷などという自重の欠片もない全力をブチ込み、例外なく打ち消された。

 そのせいで、落雷した付近の電子機器の破壊という、あくまで美琴に攻撃をしなかった高校生が被害届を出すという脅しにより、美琴は手を出すことが出来なくなってしまった。

 やり場の無い鬱憤と、好ましくすら感じていた交戦の終りに、内心消沈していた。

 

「……なぁ、ビリビリ中学生」

「ビリビリ言うな!」

「なら自分の行動には責任を持ちなさいと、上条さんは言いたいのですよ。ていうかお前、ホントに俺以外にんなことヤってないだろうな」

「昨日も言ったでしょ。下手したら死んじゃうのに、アンタ以外にする訳ないじゃない」

「ねえ、俺は死んでもいいと言ってるの判ってる? 上条さんは死にたくないんですけども」

 

 不幸だ……と、最早達観に至ってしまっているソレを呟きながら、ふと頭に浮かんだIFを口にする。

 

「ってかそうじゃねぇ。……もしお前のその力を持ってなくて、だけど誰かを救うことができて、その誰かが助けを求めてきた。でも、それには死の危険がある……そんな時――――」

 

 上条は既にインデックスを助けるのを決めている。ただ、漠然とした不安があった。

 何故かインデックスは上条に絶大な信頼を寄せているが、果たして自分はインデックスを助けられるのだろうか、と。

 

「お前はどうする?」

 

 上条が学園都市に訪れる原因となった、そのどうしようもない不運。

 不運故に、他人から疫病神と侮蔑され、果てに包丁で刺されすらした心的外傷(トラウマ)

 科学で塗り固められた、超能力すら生み出す街ならば、そんな不運も科学的に解明出来るのではないか。

 上条の父、刀夜の切なる願いは、しかし学園都市の中ですら上条は『不幸』だった。

 だからこそ、そんな『不幸』がインデックスに影響を与えてしまうのではないか――――という、隠しきれない不安が。

 

 だから聴いてみたくなった。無能力者(落ちこぼれ)よりも遥かに優秀な超能力者(優等生)は、どうするのだろうかと。

 

 

「助けるに決まってるじゃない。で? その質問の意味は?」

 

 

 即答だった。

 考えるまでもないと。まるで勉強を教える様な雰囲気で、さも当たり前の様に美琴は答えた。

 そんな美琴に上条は頬が緩むのを感じ、堪えきれず小さく笑った。

 

「は……ハハハ、そうだよな。助けを求めてるんだ、助けないと嘘だな……有り難うなビリビリ」

「なっ、べ、別に礼を言われる様な……って、ビリビリ言うなって言ってんで――――って、何処行くのよ!?」

 

 上条は学生寮に向かって、高まる高揚を抑えきれず駆け出し。

 周りから見たら不幸? だったらそれらを帳消しに出来るような幸運を掴めば良い。

 

 人が土下座までして助けを求めている。

 インデックスから聴いた過去は壮絶な物だった。

 記憶を消されロンドンの街に倒れて、頭の中には気味の悪い知識。

 そしてその知識を狙って襲い掛かってくる連中。

 満足に寝ることすら出来なかった時も有ったそうだ。

 そんな生活を、インデックスはもう一年も続けている。

 そんな状況を――――しかし上条ならば、一撃で何もかも一切合切決着するという。

 

 もしそれが実現できたとなれば、どれほどの『幸運』だろうか。

 次第に学生寮が見えてくる。

 上条は迷わず階段を駆け上がり、そして自宅の階まで辿り着いて、そこに座っている銀髪の少年を呼ぼうとした。

 助けると、自分にも手を貸させてくれと。

 

「インデ――――」

 

 だが、インデックスは今朝と様子が違った。

 例の祭服を着ておらず、オシャレなファッションに身を包んでいる。

 ソレだけなら良い。この季節に祭服は暑いだろう。まだ解る。

 

 だが、インデックスはどうして肩で激しい息をしているのだろう。

 どうしてそんな顔を覆う様な量の汗を流しているのだろう。

 どうしてインデックスは右肩からあんなにも赤いのだろう。

 

「ッ! 当麻、か?」

「イン、デックス?」

 

 インデックスに名前を呼ばれ、上条は漸く彼の現状を把握した。

 

 上条の部屋の扉を背に座り込んでおり、肩で息をしている。

 そして何より、左肩から右手まで伝う赤い鮮血。

 まるで鋭い刃物で切り裂かれた様な傷が、彼の肩にはあった。

 

「お前――――どうしたんだよソレ!」

「ハハッ、当麻が帰ってくるまで見付からない為に、『歩く教会』を脱いだのは失敗だったよ。お蔭でこの様だ。つか、どうやって見付けたんだあの聖人サマ」

「そんな……一体誰にやられたんだ!?」

 

 

「――――うん? 僕達『魔術師』だけど?」

 

 

 こうして、日常の裏側が鎌首を擡げ始めた。

 

 

 




出る所出たら勝る(確信)

というわけで、今回は上条さんの視点回でした。
ちょっと蛇足気味に感じるかもですが、必要だと思い書きました。
ちなみにちょっと短め。

修正点は気付き次第修正します。
感想お待ちしてまーす。


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第五話 消化試合

お気に入りが先日の二倍に。
………先日の二倍!?(゜д゜)
ランキング効果を身をもって知った次第です。
お気に入りに入れてくれた方々に感謝です。

という訳で悪意の塊のようなサブタイですが、まぁそこら辺は「悲しいけどこれ原作沿いなのよね」ということで。


さて、ちょくちょく入れてる伏線に気付いてる方はおられるのでしょうか。


 ハロハロー。絶賛虫の息状態のインなんとかさんだよーッ!!

 

 いやね、幾らかおりんの七閃喰らったつっても、傷浅いし大丈夫かなぁーって高ァ括ってたらこのザマでゲス。

 某死神漫画の人達、結構斬られてるのにナチュラルに戦闘続けるその耐久力ください。

 やっぱり出血は侮れませんね。

 あン? 例の練勁を応用した止血法はどうした?

 

 自分功夫始めてまだ一年!! ある程度技に発勁込めるなら兎も角、応用なんぞ数時間も出来るかぁ!!

 完全記憶能力もそこまでチートじゃねぇよ!

 

 まぁそんな訳で学生寮まで辿り着き、カミやん合流したのも束の間、現れたのは赤髪の長身!

 頬にバーコードに過改造神父服(カソック)

 ピアスに指輪にくわえ煙草の身長2メートル越え体躯の天才中学生魔術師!

 

 捨て犬=マグヌス――――ッ!!

 

 御免なさい調子コキました。

 さて、我等がきーやんのエロボイスで登場したステイル君じゅうよんさいかわいいだが、これからどうすんべ。

 一応当麻にアドバイス入れるつもりだけど……術式特化のステイルじゃ相性抜群だからなァ幻想殺し(イマジンブレイカー)

 本来喰らったら即死or致命傷の炎剣はソレ単体だけなら完全に無力化出来るし、教皇クラスの魔術である魔女狩りの王(イノケンティウス)は俺か当麻がスプリンクラー作動させれば即終了する。

 

 つまり、

 火力特化の魔術師が魔術は魔女狩りの王(イノケンティウス)以外完全無効果。

 要の魔女狩りの王(イノケンティウス)も前兆の感知でほぼ逃げられ、スプリンクラー作動をさせれば封殺完了。

 即死攻撃に対する恐怖も、一度防いでしまえば完全に消え、しかも当麻は何度も御坂美琴という10億ボルト(即死攻撃)をする中学生のお蔭で慣れるのは早いだろう。

 ルーン魔術なら敵の魔術も即逆算し解析、攻撃に利用する程の努力をする天才。

 並の魔術師を圧倒する火力を有するステイルも、相性が最悪だった。

 

 言っちゃ悪いけど――――幻想殺し対策ゼロのステイルじゃ詰んでるわなこりゃ。

 魔術師の中ではかなり優秀な部類に入るのに、なんか最近化物レベルと当たりまくってるせいでステイルの勝率低くない?

 化物が誰だとは言わないけども。

 オッレルスとかシルビアとかブリュンヒルドとか『彼女』とか言わないけど。

 

 ――――さてッ!! 出来るだけ怪我しないでくれよ当麻。

 お前さんの傷は、自分にも治せないんだからな。

 

 

 

 

 

 

 

第五話 消化試合

 

 

 

 

 

 

 

 

 その白人の男は、『神父』と呼ぶにはあまりに破戒過ぎた。

 染め上げた長い赤髪を筆頭に刺青に指輪、煙草など、神父を無理矢理最近のヤンキーが好き勝手に改造した結果のような有り様に、しかし上条はそこに驚きはしなかった。

 

 驚きも何も、全てインデックスの言う通りなのだから。

 

 最初に話を聞いた時は、上条はとても信じられなかったなんちゃって不良神父だが、目の前に立たれてはどうしようもない。

 上条が真に驚いたモノは、その男が纏う独特な()()

 上条は髪がチリチリと圧迫する、本来学生が知るはずのないその感覚に気付いた。

 

 殺気だ。

 本来恐怖で怯み、動けなくなるソレに対し、上条は怒りで全て掻き消した。

 これが『魔術師』。

 超能力とはまた違う、魔術という名の異世界の法則を無理矢理現世界に適用し、様々な超常現象を引き起こす者。

 

「神裂が斬ったと聞いたけど、まさか『歩く教会』を自ら脱ぐとはね。僕達の魔力探知を逃れるためとは言え、少々リスクが高かったんじゃないかな? 魔力を追っている途中に神裂から連絡が来たのには驚いたよ」

「デメリット負ってまで獲たメリットを速攻で台無しにされるとは思わなかったけどね。なんなのあのエロ聖人、今度セクハラしてやるって伝えてくんない?」

「……そんな状態になっても変わらないな、君は」

 

 ステイルとインデックスの、まるで当たり前の様なやり取りに、一瞬置いてきぼりにされたかと上条は思ったが、インデックスは兎も角ステイルは()()

 上条はソレなりに喧嘩慣れしているが、ステイルには隙がまるで無かった。

 上条を警戒している。それこそ、格上の魔術師に対するソレと同じ様に。

 

「ッ……」

「……処で、そこにいるのは何だい? 見たところただの学生の様だが、君がただの学生に助けを求めるとは考えにくい」

「成る程。当麻に向けていた視線は脅威判定が出来ないが故の警戒か。確かに、今まで俺が助けを求めたのは聖人クラス以上だけだからね、警戒するのは当然か」

 

 そこで、ステイルが初めて上条を見る。

 男にジロジロ見られて不快極まるが、上条はその目に込められている敵意に、そんな事を気にする余裕は無かった。

 

「超能力者……そういうことかい?」

「ンにゃ、当麻は無能力者。()()()()()使()()()()

「何だ。じゃあ安心して君を回収できる」

 

 上条は、その言葉の意味が分からなかった。

 

「かい、しゅう……?」

「そう、回収だよ回収。正確にはソレじゃなくて、ソレが持ってる一〇万三〇〇〇冊の魔導書だけどね」

 

 魔導書。

 その名前に上条は怒りを持って拳を握り締める。

 

「ソレは説明したかな? Index-Librorum-Prohibitorum――この国では禁書目録といった所か。これは教会が『目を通しただけで魂まで汚れる』と指定した邪本悪書をズラリと並べたリストでね。言うなれば、毒書の坩堝と言ったところだよ。あぁ、注意したまえ。君だけじゃなく宗教観の薄いこの国の人間なら、一冊でも目を通せば廃人コースは免れない」

「――――そんなものを、教会ってのはインデックスの頭の中に詰め込んだのか……ッ!!?」

 

 それは人の脳に廃人にするほどの毒素を、直接注入するに等しい行為だ。

 

「へぇ、ちゃんと聞いてるのか。僕に言わないでくれ、やったのは教会だ」

 

 そんな行為をインデックスは、一〇万三〇〇〇回も繰り返しても耐え、平然としている。だからこそインデックスは禁書目録足り得るのだ。

 だからといって、耐えれるからといって、やっていい訳ではない。

 

「そんなに、そんなにコイツの知識が欲しいかよ!?」

「違うさ。ソレの知識は他の厄介な奴等に渡らない様に、保護しようとしてるだけだよ」

「保護、だと……?」

 

 こんな怪我まで負わせ、果ては一年間も追いつめ続け、果ては『保護』。

 その言葉で、

 

「そう、保護だよ。保護」

「ふッざけんな……ッ」

 

 上条は沸点を越えた。

 

「――――何様だ、テメェッ!!!」

 

 先ずは目の前のクソ野郎をブン殴る。

 話はそれからだと、上条は駆け出した。

 

「ステイル=マグヌス――――この場合は『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』と名乗っておこうか」

 

 上条が駆け出したにも関わらず、ステイルはまるで暴走した羊を狩る狼の様に平然とし、

 

「魔法名と言ってね。僕の様な魔術師にとっては――――」

 (これが……魔術の炎――!?)

「――――――()()()、かな?」

 

 (上条)に向かって手から生み出した、摂氏三〇〇〇度の炎剣が振るわれた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「やっぱり強いね」

 

 炎剣から生じた爆風が上条を呑み込み、更に学生寮の渡り廊下の一部を丸焦げにした光景を観たインデックスの言葉がソレだった。

 

「……」

 

 その黒煙のせいで、ステイルの位置からはインデックスの姿は見えない。

 しかしその声色からどんな表情を浮かべてるか、もう()()()()付き合いになるステイルは容易に読み取れた。

 ステイルには学生一人蒸発させた所で、目的の為の行為なら何の感慨も起きない。

 しかし、インデックスが怒りや哀しみを見せないのはどういうことだ?

 

「一つ聞きたい。君は何故学園都市に来たんだい? 魔神の成り損ないに聖人二人もの護衛と引き換えにしてでも、この街は君に利益を齎すのか?」

「勿論。当麻は自分にとって唯一の起死回生の一手。多分世界でたった一つの鬼札(ジョーカー)だよ」

「……何を言っている? 何を考えているかは知らないが、アレを指しているのなら君の目的は先程目の前で潰えただろう」

 

 もし先程の学生がインデックスの目的の要なら、ステイルが燃やし尽くした。

 その時点でインデックスの企みは破綻している。

 

 

「――――はッ、何だよ。何ビビってやがったんだ俺は」

 

 

 煙の中から声が聞こえない限り。

 

「……は?」

 

 思わずステイルは、生まれて初めて幻聴を聴いたと思った。

 そんなステイルが可笑しくて堪らないという声色でインデックスは愉しげに語る。

 

「呆けている所悪いが、さっさと身構えた方が良い。魔術師は常識に対して脅威に成り得るが、アレは非常識に対する死神だよ?」

 

 目の前の“ソレ”はお前達の天敵だ、と。

 もくもくと立ち込めていた黒い煙が、中で振るわれた腕で散らされ、先程炎剣をブチ込んだ筈の学生が無傷で現れる。

 

「インデックスも言ってたじゃねぇか。『歩く教会』を壊されるから触るなってよ」

「!?」

 

 魔術だろうが何だろうが、所詮は『異能の力』。

 相手が幻想ならば、上条の右手で殺せぬモノ等在りはしない――――!!

 

 (な、何が起きた? 摂氏三〇〇〇度の炎剣を喰らって、生きている人間など……!?)

 

 混乱。困惑。何より未知に対する恐怖。

 目の前で起こった事に理解が付いていかず、ステイルは呆然となるが、上条はそんなものを待つ理由は欠片も無い。

 

「ッ! チィ!!」

 

 再び炎剣を作り出し、向かってくる上条に叩き付けるが、

 

「そら、気を付けなよステイル=マグヌス。一時的になら、当麻は(セント)ジョージの竜の一撃も防ぐぞ」

 

 上条が右手でソレを掴んだ瞬間、薄氷の様に砕け散った。

 そして漸くステイルは理解する。

 確かに、インデックスは上条の事を無能力者と言ったが、何の力も無い学生。とは一言も言っていない。

 そしてステイルは推測した。その力は魔術に対して理不尽なモノだという事を。

 

 ぶわっ! と、ステイルは全身から嫌な汗が噴き出すのを自覚した。

 

 唯の学生? ステイルは十数秒前の自分を燃やし散らしたくなる。

 オッレルスの残した言葉も気になったが、ステイルは上条を斃す為に完全に油断と慢心を捨てた。

 

「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ」

「?」

 

 ステイルの詠唱と共に、その場に変化が現れる。

 唯でさえ蒸し暑い気温が、立ち上るソレが更に引き上げる。

 

その名は炎、その役は剣(IINFIIMS)顕現せよッ、我が身を喰らいて力と為せ(ICRMMBGP)ッッ!!!!」

 

 現れたのは炎で構成された巨人。先程の炎剣と同じく、摂氏三〇〇〇度の人にとっての『死』だ。

 名は『魔女狩りの王(イノケンティウス)』。

 

「殺せ」

 

 ゴウッ!! と、主によって命ぜられた殺戮指令に従い、巨人は上条に襲い掛かる。

 

「邪魔だ」

 

 その煉獄の巨人の胴を、上条はまるで蝿を払う様に右手を振るい引き千切った。

 どれだけ大きさを変えようが、巨人に形付けようが、先程の炎剣と何ら変わらないのだ。

 

 (……、何だ?)

 

 だが、それに対するステイルの浮かべた表情は驚愕でも絶望でもなく、笑みだった。

 

「後方注意ぃー」

「なッ!!?」

 

 ゆるっとしたインデックスの声の直後に、上条は何時も致死レベルの電撃をブチ込んでくる中学生の攻撃と同じ感覚に襲われ、弾かれるように振り返り右手を盾の様に掲げ、魔女狩りの王(イノケンティウス)と拮抗する。

 

「あッ、熱ちちち!! 何で! 右手で打ち消せない!?」

 

 否。上条の右手はキチンと機能している。

 それでも魔女狩りの王(イノケンティウス)が消えないのは、

 

 (この巨人……打ち消された端から再生してやがる!?)

 

「摂氏三〇〇〇度を熱い程度とは、パネェですカミやん」

「三〇〇〇ドォ!? ちょっと待て! もしコレ喰らったら……」

「蒸発しちゃうと骨も残らないから拾ってやれないね」

「助けてくださいインデックスサン!!」

 

 泣き付いた。

 恥とか見栄とか諸々放り投げて、火焔の十字架を押し付けてくる炎の巨人を右手で受けながら、上条はインデックスに泣き付いた。

 

「しょうがないな当太くんは。アレはルーン魔術つって、文字を刻む事で発動する。まぁ色々あるけど、言ってしまえばアレはライターの火で、ライターを潰さないと再生しまくるから」

「つまり攻略法は!?」

「火災報知器を使ってスプリンクラーを作動させよう。それでかつる」

「三〇〇〇度をスプリンクラーで!?」

「今度は前方注意ー」

「ちょッ!?」

 

 そんな茶番めいたやり取りを、ステイルが見逃す筈もなく。

 

「灰は灰に、塵は塵に。吸血殺しの紅十字――――!!」

 

 魔女狩りの王(イノケンティウス)の対処に手一杯の上条に、二本の炎剣を持ったステイルが炎の巨人ごと上条に斬り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「――――チッ」

 

 あ、ステイルが炎剣で魔女狩りの王(イノケンティウス)切り裂いた瞬間に当麻が逃げた。

 

 ステイルも舌打ちしてるけど、どないしたら一度も殺し合いしたことない高校生がそんなんできんねん。

 上条さんの脳内でTASさんが操作しとんのか。インテル入ってるんか。

 おそらく当麻は今、マンション中に貼り付けられたルーンをコピったコピー用紙によって生み出される魔女狩りの王(イノケンティウス)に四苦八苦してるか、それとも自分の計算式をブッ千切った解答に気付いているのか。

 ていうか、さっき滅茶苦茶キメ顔で登場したけど、アレ頑張ってコピー用紙はっつけた後と考えたら、ポルポル現象起こすのに頑張ったDioサマのと同じ心境になるんだが。

 

「フン、まぁいいさ。逃げたのなら追う必要は無いし、マンションに入れば魔女狩りの王(イノケンティウス)が狩るだろう。――――僕は僕の目的を優先すれば良い」

 

 ヤバイです。ステイルがロックオンして来やがった。野郎にロックオンされても嬉しくねぇ。

 かと言って当麻が戻ってくるにはもう少し時間がいる。

 しゃあなしだ。ちょっとネタバレして時間稼ぎしよう。

 

「なぁ、疑問に思った事は無いか?」

「……何がだい?」

「――――自分がどうして魔術を使えないのか、とかだよ」

 

 ピクッと、ステイルの眉が動く。

 釣れたクマー。

 

「……それは君が魔力を作れないからだろう?」

「なら逆に聞こうかな。完全記憶能力を持ち、しかも魔導書の原典を読み漁って汚染されないなんて稀少極まる能力に、()()()()()()()()()()()だなんて――――そんなイギリス清教にとって都合良い存在がいると思う?」

「――――――――――な」

 

 ステイルは聡明だ。故に容易くその真実に辿り着く。

 だがその前に、突然学生寮のスプリンクラーが作動した。

 

 (何……? 警備装置に魔女狩りの王(イノケンティウス)が触れない様に細工していた筈だが……?)

 

 とか思ってらっしゃるだろうが、自分は内心ガッツポーズ。コレで勝負はついたも同然だ。

 説明しようッ! 魔女狩りの王(イノケンティウス)はルーンを大量に刻む事でその力と姿を保っている!

 まぁ今回ステイルはコピー用紙をマンション中に大量にはっつけていたんだが、スプリンクラーでインクを滲ませれば十分。

 コピー用紙に印刷されたルーンは唯の落書きに成り下がり、ルーンが無ければ魔女狩りの王(イノケンティウス)は使えない。

 

 原作通りと言ってしまえばソレまでなんだけども。

 

「今度からルーンは防水加工にした方が良いよ?」

 

 あ、ステイルがエレベーターで来た当麻に殴られてら。

 

 

 

 




詰み(ステイルが)(´・ω・`)

という訳で、今回は対ステイル戦の解説回でした。
ここいらは原作との違いがあまり無い回になっちゃいましたけど、ステイルは本当は強いんです。ミコっちゃんと同い年なので、共通点もあるかもですね。
………あるか?


修正点は発覚しだい随時修正いたします。
感想待ってまーす。


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第六話 ヒーローとは

そろそろストックの底が見えてきた、そんな中での今回。
「もっと続けて」という声があることに感謝の極みです。

でも無責任なことが言えんのです。申し訳ない。


 最近の火災報知器というのは極めて便利だ。

 なんせ作動すれば消防隊を速攻で連れてくるのだから。

 消防隊、と称したが、学園都市に消防署が無い。しかし警備員(アンチスキル)がその役割を兼ねている。

 つまり何が言いたいかと言うと、魔女狩りの王(イノケンティウス)を封じる為に火災報知器鳴らしまくったので、警備員が飛んできたのだ。

 幸い学生寮には住民が居なかったので被害は無いし、警備員が来る前にインデックスは当麻の肩を借りて学生寮から離れた場所に居る。

 

「はッ……はッ……」

 

 ただ問題は、インデックスの肩の傷である。

 

 (ヤベェぞ……これ)

 

 上条は、思わず血の気が引く。

 幾ら致命傷ではない傷でも、切り裂かれた傷口は独りでに塞がりはしない。

 肩の傷は時間と共に確実にインデックスから血と熱を奪っていった。

 インデックスの中性的で整った顔は蒼白で汗ばみ、左半身は殆ど血で染め上げられている。

 

「傷自体は、そんなに深くない。問題は血を流しすぎた……事かな……。せめて、傷を塞げればどうとでも、なるんだけど……」

 

 学園都市の医療技術のレベルは、得たいが知れない領域に達している。

 インデックスが知る病院のとあるカエル顔の医者まで辿り着くことが出来れば、彼は政治問題すら度外視にインデックスを守ってくれるだろう。

 しかしそれは叶わない。

 インデックスには学園都市に居る人間全てが持つIDを持たない侵入者だ。

 救急車に担ぎ込まれた時点で終わる。彼へ辿り着くことが出来ない。

 インデックスを乗せた救急車は、病院とは違う場所に向かう可能性だってある。

 

「お前の持ってる一〇万三〇〇〇冊の中に、傷を治す魔術は無いのか?」

 

 科学で駄目なら魔術だ。

 確かに、インデックスの記憶している魔導書の中には腕だろうが半身だろうが、仮に()()()()()()()()()()完治させることが出来る程の魔術がある。

 

「……自分が手順を教えればそう難しくない。成功すれば脳味噌がミンチでも治せるよ」

「なら俺がやる!」

「無理だ」

 

 が、能力者に魔術は使えない。

 

「えっ?」

「学園都市の能力者は一人残らず魔術が使えない。二十年程前かな、ウチの教会と学園都市の合同で行われた実験で、魔術師に超能力開発をしたところ、被験者は魔術を使用した際拒絶反応が起きて血達磨になったそうだ。能力開発を受けた時点で、もうソイツは一般人とは違う」

 

 そして魔術とは、本来原石(才人)に対する強烈なコンプレックスから生まれた、才能の無い人間の為の技術。

 脳の機能を拡張し、言うなれば新しい回路を作った超能力者は魔術を使ったら、それだけで回路が焼き切れ重傷を負う。下手をすればそれで死んでしまう可能性すらある。

 

「というか当麻、特にお前さんは右手があるでしょうよ」

「あっ───」

 

 それ以前に、上条には幻想殺し(イマジンブレイカー)があるせいで、魔術が使える訳がない。

 

「でも、それじゃあ……学園都市の学生は全員ダメじゃねぇか! 学園都市の人口の80%は学生だぞ!? ――――80%……?」

「ハッ。残り、20%は?」

「あ」

 

 つまり、教師や研究者達。

 彼等は開発を受けるのではなく受けさせる側の人間。能力開発を受けることは無いし、本来出来ない。

 学園都市の闇と形容すべき部分を兼ねている、あの学園都市第一位の一方通行(アクセラレータ)が白衣の悪魔と称した研究者など、学生達能力者を実験動物(モルモット)と思っている者も居るが、そんな連中は選択の埒外だ。

 見繕うとなれば、学生の身近な教師だろう。

 ただし、そこら辺の教師を見繕うだけではいけない。

 教師達は、警察が存在しない学園都市に於ける警務組織『警備員(アンチスキル)』に所属している者もいるのだ。

 唯でさえ魔術という胡散臭いこと極まりないのに、IDを持たないインデックスは鬼門。

 つまり条件として、上条の知り合いでどれだけ胡散臭かろうと生徒の事を真摯に想っている教師が必要なのだ。

 

 そんな高難易度な条件に、しかし上条の頭の中に浮かんだ人物は、自身の知る中で心身共に子供みたいにお人好しで、最も優しい身長135センチの、ランドセルが似合う担任教師の顔だった。

 

「……インデックス、ここから少し掛かるけど歩けるか?」

「肩貸してくれるんなら、いけるさ」

「――――よし。この時間で、寝てるってことないよなあの教師……!」

 

 

 

 

 

 

 第六話 ヒーローとは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果として、インデックスの傷は完治した。

 

 途中コインランドリーに放り込んでいた『歩く教会』を回収しながら、第二次大戦の空襲を乗り切ったかのようなボロアパートの、山のように煙草が乗っている灰皿が複数存在しビールの空き缶で構成されている、まるで飲んだくれのオッサンの様な部屋に住んでいた学園都市の都市伝説の一つである子供先生、月詠小萌(自己申告年齢二十代半ば)の手を借りる事によって、インデックスの知識を用い傷の治癒に成功したのだ。

 その間上条は幻想殺しの存在のせいで小萌宅を離れる事になったのだが、折角なのでインデックスの寝間着を買いに行ってもらったり、意外と余裕あったりする。

 

 しかも原作と違い傷が浅かったという事もあり、『自動書記(ヨハネノペン)』を発動させることが無かった。

 勿論、浅かったと言っても傷は傷。致死レベル寸前の出血をしたのは変わり無く、傷口が塞がっても、体力を取り戻す為に原作同様風邪に似た症状がインデックスに出た。

 

 

 

「――――で、この子は一体上条ちゃんの何なのですか!?」

「弟です」

「嘘ですぜ先生」

「ちょっとぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! 俺の精一杯の嘘を何速攻でブチ壊しにしてくれるんでせうかインデックスさァん!!!?」

「その幻想をブチコロww」

「殴りたいその笑顔!!」

 

 布団で横になったインデックスは熱と頭痛に苛まれ、頭に冷たい濡れタオルを乗せながら、しかしそれでも精一杯人をおちょくる爽やかなキメ顔で、上条の嘘をブチ壊した。

 

「だって当麻。幾らお前の信頼してる小萌センセがお人好しの生徒想いのスバラシイ教師だっていっても、そんな一瞬でバレる嘘つかれたら苛つくモンだよ? 信用してるなら嘘はいかんよ嘘は」

「神父ちゃんの言う通りです! 上条ちゃんもう少し先生を信用してください!!」

「むぅ……」

 

 上条としては、これ以上小萌を巻き込みたくなかったというのが本音なのだが、インデックスの言い分も間違っていない。

 

「だからコツは嘘はつかずに、肝心なことを隠すのが肝要な訳でね」

「聖職者にあるまじき黒さ!」

 

 インデックスとしては、昔は聖職者らしい人格だったのかもしれない。が、一〇万三〇〇〇冊と一般常識以外の記憶を根刮ぎ消された上、■■■■■としての記憶が加わった状態で形成された今の人格は、聖職者などやる気が無いしやる義理も無いのだ。

 全責任は、こんなシステム作り上げたイギリス清教のトップ共に言えと言いたい。

 

「上条ちゃん」

 

 小萌が先生モードに移行し、上条も黙り込む。

 

 普通考えてみよう。

 自分が教師で、自分が担任の生徒(愛すべき馬鹿)が、見知らぬ銀髪碧眼外国人を連れてきたらどうする?

 しかもその外国人には鋭利な刃物で付けられた傷。しかもその外国人の指示で自分が行った魔術でその傷が治って、それを全部見逃せと言われ、ハイそうですかと言う訳がない。

 

 小萌は、必要とあらばインデックスの事を統括理事会に報告するつもりだ。

 そして上条に、必要とあらば生徒を売ると告げもした。

 

 叱るように、諭すように小萌は語る。

 小萌には上条がどんな問題に巻き込まれているか知らないし判らない。

 しかしソレを解決するのは本来大人である教師達の役目だと。

 

「子供の責任を取るのが、大人の仕事なのです」

 

 そんなものを自力で解決しようとしている上条が、小萌は心配なのだ。

 

 (耳が痛いな……)

 

 インデックスにはそう考えずにいられない。

 偶然が重なった原作と違い、インデックスは上条に自ら助けを求めた。

 小萌が心配する原因を作った元凶としては、今は顔を布団に埋める他無かった。

 

「インデックス」

「……ん、あぁ。どうした当麻?」

「執行猶予だってさ。小萌先生、買い物に出掛けたよ」

「そっか……、にしても当麻の口から統括理事会の名前がでるとは思わなかったな」

 

 学園統括理事会。

 実質的な学園都市の運営者達。

 

「俺だって学園都市の学生だぞ。それぐらい当たり前だ」

「名前だけ? 役員のやってる事とかは?」

「ぐぬぅ……」

 

 上条は見事に名前だけ知ってるだけであった。

 もし上条が統括理事会の内情を知ったらどうなるか、インデックスは戦々恐々だったりする。

 

 学園統括理事会。

 それはインデックスにとって最悪に等しい結末だ。

 インデックスは知っている。統括理事会は二種類の人間がいることを。

 

 真っ先に死ぬべき屑と、真っ当に働いているにも拘わらず、屑と同列視されている善人だ。

 後者なら兎も角、前者にインデックスの報告が行けば、死んだ方が救いと思える様な状況に陥る可能性がある。

 まぁ、その時はイギリス清教が介入するだろうが、もれなくロンドン行きは免れない。

 

「さて、どうする当麻?」

「あ、あぁ。これ以上小萌先生に迷惑は掛けられないしな」

「違うよ」

 

 へっ? と、上条の口から気の抜けた声が洩れるが、そんなことは些事だと言うように、インデックスは真剣な目を向ける。

 

 

「――――返答を聞こうかな、上条当麻。これでも尚、俺と関わるか否か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小萌宅のマンションから六〇〇〇メートル離れた雑貨ビルの屋上に、インデックスと上条を、双眼鏡で覗き観る者がいた。

 

禁書目録(かれ)は?」

「生きてるよ」

 

 ステイル=マグヌスと神裂火織。

 

 片や先日、インデックスの左肩を切り裂いた者と、学生寮の一部を蒸発させた者。

 共通点は、同じ組織に属し、同時に魔術師であることだ。

 

 ステイルは双眼鏡を使っているのと対照的に、肉眼で六〇〇〇メートルほど離れたインデックス達を視認出来る時点で、ステイルより実力が上なのが容易に感じられる。

 

「だが生きているとなると、向こうにも魔術の使い手がいるはずだ」

 

 もしかしたら能力者かもね、と付け足すステイルに、神裂は無言で返す。

 その無表情からは、しかし誰も死ななかった事に安堵すらしている様子だ。

 

「――――で、神裂。アレは一体何だ」

「あの少年の情報としては、少なくとも魔術師や異能者といった類いではない事になるのでしょうか」

「ハッ! オイオイ、まさかアレがただの高校生とでも言うつもりかい?」

 

 神裂の報告に、ステイルは鼻で笑う。先日受けた拳を思い出しながら顔を顰め、

 

「悪い冗談だ。裁きの炎(イノケンティウス)を退け、何より禁書目録(かれ)鬼札(ジョーカー)と呼んだ者が、何の力も無い素人な訳がない」

「……」

 

 インデックスは過去数人の例外を除き、本気で他人を頼った事は無い。それは同時に、神裂とステイルにとって脅威になり得る存在ならば迷わず頼っている事になる。

 

 最初の一人目は、ステイルや神裂にとって思い出したくもない程出鱈目な旅の中国人。

 ステイルは炎剣を生み出す前に、撃ち出された羅漢銭に意識を刈り取られ、音速挙動の神裂を軽くあしらう中国拳法の使い手。

 動きがあまりにも気持ち悪い程の変態挙動なのと、その容姿と言動がとある英霊と酷似していたため、ついたあだ名がアサシン師匠。

 しかも最悪な事に、インデックスがその変態に弟子入り。一ヶ月でインデックスを変態曰く『そこそこ』まで鍛え上げられてしまい、追跡の難易度が上がった。

 

 尤も、その変態が『彼女』とインデックスの降霊術と幻覚で偽られた姿なのは、言うまでもない。

 

 そして二人目は、ブリュンヒルド=エイクトベル。

 ワルキューレと聖人の二重属性という極めて稀少な特性を持ち、五年程前まで、20〜30人程度の『伝統的な暮らしを続ける事』を目的とする魔術結社を運営していた。

 しかし『北欧神話系の術式にも、聖人のフォーマットが無意識に混ざり合う』という彼女の性質が原因で北欧五大魔術結社に理不尽に蔑まれ、結果強襲を受けた魔術結社は彼女以外が壊滅。

 彼女だけがなんとか生き延び、しかしその後も五大結社の執拗な追撃から逃げ続けて、果てにインデックスと出会った。

 

 その後、話を聞いてプッツンしたインデックスの助力で『主神の槍(グングニル)』とか造っちゃってしまい、五大結社を壊滅、蹂躙する。

 これにはイギリス清教も出張り、一思いに殺してやった方が良い状態の五大結社下位メンバーをしょっぴき、実行犯と指示した上層部はとても愉快な肉片になった。

 しかもブリュンヒルドが蹂躙している隙にインデックスが五大結社の有り金を全て奪ってしまい、更にはその後ブリュンヒルドと共に行動する様になり、追跡の難易度が跳ね上がった。

 

 極めつけはシルビアとオッレルスだ。

 片や聖人に近衛侍女の二つの力を扱う、魔神になり損ねた男の恐るべき相方。

 片や一万年に一度あるかないかの魔神になれるチャンスを、子猫を救うために棒に振った、シルビア曰く大馬鹿野郎。

 しかしその実力は魔神に準じる程強大で、泣いている見知らぬ子供を助けるために100万の軍勢を皆殺しにする、と称されたほどだ。

 

 これには流石にステイル達も頭を抱えた。

 そんな、最低基準が基本聖人クラスの怪物の枠組みにただの少年が入れる訳がない。

 

 だが、学園都市の上層部と話をつけているステイル達に対し、意図的に少年の情報が伏せられているとも思えない。

 それに少年の戦いぶりと、その身に纏う雰囲気が裏の人間のソレと符合しないのだ。

 

「……楽しそうだね」

 

 不意に、ステイルが呟いた。

 その言葉に、神裂がボロアパートの方を見る。

 そこには、インデックスの腹黒発言に上条がツッコミを入れている姿だった。

 

「僕達は、一体何を知らない? 彼は、一体何を希望にこの街に来たんだ?」

「……それは」

 

 

 ―――――何も知らない道化風情が――――

 

 

 ブリュンヒルドに言われた言葉が、神裂の頭から離れない。

 インデックスは一体何を知っているのか? 自分達は何か重大な事を知らないのではないか?

 自分達は、何か取り返しのつかない事をしたのではないか?

 

 そんな不安がして堪らないのだ。

 

「あぁ、そうだ。彼から君に伝言があったんだった」

「私に、ですか……?」

 

 そんな不安を取り払う様に、ステイルはふと思い出した事を告げる。

 自分の肩を切り裂いた相手に伝言とはと、神裂は驚きながら、恐らく恨み辛みだというなら納得出来ると、無表情な顔を僅かに辛そうに俯けた。

 

「今度会ったらセクハラしてやる、だとさ」

「へっ?」

 

 直後、ポカンと惚け即座に顔を真っ赤にする同僚を見て、ニヤニヤするであろう銀髪の少年を想像し、本当に変わらない。と、悲しくも笑みを浮かべるステイルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「返答を聞こうかな、上条当麻。これでも尚、自分と関わるか否か」

 

 それはインデックスの、執拗なまでの確認だった。

 上条当麻は特別な右手を持っていようが、あくまで一般高校生。本来魔術サイドの事情や世界の『闇』など知る必要など在りはしない。

 そんな人間を、インデックスは『生きたい』という極めて原始的な利己心によって巻き込もうとしている。

 何も知らない人間を、口先で殺し合いの世界に引き摺り込むなど、どこぞの某孵卵器で十分。

 それなりの人でなしを自覚するインデックスでも、あそこまでクズには成りたくはない。

 

「昨日で身に染みて理解出来たでしょ。一歩間違えれば当麻、お前は死んでいたんだぜ?」

「……」

「しかも、次来るだろうもう一人は、更に難易度は跳ね上がる。ステイルは魔術師としては天才の類で、そうは居ない。だがな、次に来るのは当麻じゃ逆立ちしても絶対に勝てない」

「ッ」

 

 上条はインデックスの言葉に息を呑む。

 インデックスはこれまで上条を非常に、異常なまでに評価していた。少なくとも上条はそう思っている。

 そしてその評価は、ステイルと戦っている最中でも変わらなかった。

 

 先日のステイルとの戦いも、インデックスはイキナリ的確過ぎる、上条が勝てる『解答』を即答し、事実それをするだけで相手の切り札を封じることが出来た。

 しかしそんなインデックスが、絶対に勝てないとまで断言したのだ。

 

「……その次の相手ってのは、お前の肩を切り裂いた奴か?」

「神裂火織。世界で20人も居ない、神の子と同一の身体的特徴を生まれ持った『聖人』だ。コレがステイルみたく火力特化なら兎も角、彼女は魔術は補助程度にしか使わない」

「どういうことだよ? ソイツも魔術師なんだろ? だったら――――」

「じゃあ当麻は、音速でテメェの首を刀で刈り取ろうとする奴に、馬鹿正直に右手突き出すの?」

「はッ……!?」

 

 何だソレは、と上条は愕然とする。

 ステイルはまだ良い。

 上条の幻想殺しは、それが異能を武器にしていればいるほど効果を発揮する。

 だが聖人が相手となれば、そんな強みは無きに等しくなる。

 そもそも、あらゆる異能を打ち消す右手があっても、上条の運動能力は高校生の範疇に過ぎない。

 音速挙動、それも物理で襲い掛かってくる聖人は、基本攻撃が武器による近接戦闘になる。

 

『北欧の戦乙女』ブリュンヒルドなら大剣(クレイモア)

『暴虐の近衛侍女』シルビアはロープ。

『二重聖人』ウィリアム=オルウェルは五メートル超えのメイス、又は竜殺し(アスカロン)

 そして『元天草式十字凄教女教皇』神裂火織は七天七刀。

 

 もし聖人が上条を本気で殺すつもりで戦えば、文字通り瞬殺。五体満足五臓六腑が揃って墓に入れる事は無いだろう。

 それを投入するだけで大抵の戦場を『平ら』にする、魔術世界に於いての戦術核。

 それが聖人だ。

 

「かお──……神裂火織の性格上、当麻を殺す事は絶対に無い筈さ。だけどソレなりにボコられる事は間違いない。それに……」

「インデックス」

 

 神裂の危険性の話を、上条は断ち切る様にインデックスの名を呼んだ。

 

「俺はお前を助けるって決めた。だからそんな風に俺に気を遣わなくても良いんだぞ」

「当麻……」

「お前は、助けてくれって最初に言ったぞ。それに俺はもう関わってる。そして、お前と関わり続けるって決めた。人が誰かを助けるのに、それ以上の理由が必要か?」

 

 上条の、インデックスにとって救済に等しいその言葉に、インデックスは罪悪感で一杯になった

 上条の言葉を実行出来る人間が、一体この世界に何人いる?

 長年連れ添った友人でもない、会って一日や其処らの人間を命を懸けて助ける事が出来る人間。

 

 それは狂人とも呼べるし、聖人とも呼べる。

 

(自分は一体何がしたいのだろう)

 

 一般人で無関係な当麻は巻き込み、自分の都合だけで死ぬかもしれない戦いに投じさせた。

 当麻を案じて、本当に選択肢を与えるならそもそも学生寮に逃げなければ良かった。

 学生寮に逃げれば、当麻は戦うに決まってるのだから。

 

 いやそもそも、インデックスが助けを求めた時点で、もう取り返しは付かなかったのかも知れない。

 

 原作で知っている、からではない。この短時間でもインデックスは理解出来た。

 アレはそういう類いの人間だ。

 そんな人間にとって、インデックスは見過ごせる状態では無かったというのに。

 偽善どころじゃない。もしグレムリンの旧全能(トール)に言わせてみれば、インデックスは間違いなく悪党だろう。

 

(――――それがどうした。)

 

 悪党呼ばわりされるぐらいで命が助かるんなら安過ぎる買い物だ。インデックスだって命は惜しい。

 しかし、インデックスは悪党に成りきれない。

 上条を利己的な理由で利用しているのにも拘わらず、罪悪感で圧殺されそうになる。

 

「取り返しのつかない怪我をするかもしれないぞ」

「サンゼンドを乗り越えた上条さんを舐めるでない」

「死んじまうかもしれない」

「死ぬつもりなんか無いぞ。死んでやる理由も無いしな」

「自分が巨乳美少女だったら?」

「もっとテンション上がったかもです」

「最近常盤台中学の超能力者が、とある高校生に弄ばれたという噂流したら?」

「止めろよな!?」

 

 てか何でビリビリの事知ってんだ!? と面白い様に狼狽える上条に、それがインデックスには可笑しくて、堪らず笑みを浮かべる。

 

 本当に、此処に来て良かったと。

 

 偽物ではない本物の『ヒーロー』という存在を、決して消えないその記憶に刻みながら。

 

 

 




カミやんとインデックスが仲良くなる話(特に深い意味は無い)。


ここでインデックス側の戦力がステイル達側から解説されましたね。
神の右席抜きなら正面からローマ正教に勝てる図です()


修正点は発覚しだい随時修正いたします。
感想待ってまーす。







さーて後二話しかストック残ってねぇぞ。


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第七話 チェック

お気に入り2000突破! 自分の拙い文章に登録してくれた方々に感謝します(*´ω`*)




「あはハははハははアははははは!! 風呂だ風呂だァ!!!!」

 

 上条の隣で、片手に洗面器を抱えたインデックスが、笑顔というよりは嗤顔という造語を作った方が正しい気がする程の高笑いをしていた。

 そして今、我、復活ッ!!! と言わんばかりにパジャマ代わりの即席Tシャツを脱ぎ、法王級の防御霊装のカソックを着込んでいる。

 

「随分テンション高いですねインデックスサン。つか、そんなに風呂に入りたかったのか?」

「まぁね。ホントなら噂の第二二学区のレジャー風呂が最高らしいけど、距離的に足がないし。汗ベタベタの男とかマジ誰得って話だよ」

「淑女?」

「頭文字に変態が付くわ」

 

 あれから一日で、つまり原作から二日も早くに体力が回復したインデックスが最初に言い出した事。それは風呂だった。

 ちなみに小萌先生宅のアパートに『風呂』という概念は存在せず、結局最寄りの銭湯に行くことが決定した。

 上条も一旦寮に戻ることも出来たが、しかし二手に分かれればもれなく斬撃か爆炎がどちらかに飛んでくるだろう。

 

「――――で、何の話してたんだっけ?」

「ど忘れ激しいよこの子!! 教会の話してたんじゃねェのかよ!?」

 

 人は、テンションが上がると前後不覚に陥り、ぶっちゃけどうでもよくなるのである。

 勿論完全記憶能力を持つインデックスがど忘れなどあり得ないのだが。

 

「ハハッ。あぁ、そうだった。つまりローマ正教はローマ教皇のマタイ氏がガチ泣きする様な惨状な訳なんだよ」

「どういう状況!?」

 

 幾らなんでも掻い摘まみすぎだったが、現在インデックスが説明しているのは、イギリス清教を含む世界三大宗派だ。

 十字教という一つの枠組みに対し、インデックスが所属()()()()イギリス清教、ロシア成教、そしてインデックス曰くそれなりに終わってる世界最大宗派ローマ正教、旧教、新教、ネトリウス派、グノーシス派、アタナシウス派と複数に分かれてしまっている事実。

 それは何故か、理由は極めてシンプル。

 

「宗教なんて、政治に混ぜんのには最適だよね」

 

 とてつもなくゲッスイ顔でインデックスが述べたように、宗教は悉く政治に混ぜられるのだ。

 それにより発生する分裂、対立、抗争。

 神という存在は、そういう類いの人間にとって、極めて都合が良いのだ。

 やがて、海から地上に上がった生物と海に残った生物がそれぞれ別の進化を遂げたように、各十字教宗派は独自の発展を見せ、『個性』を手に入れた。

 国の風土や状況、それぞれの事情に対応し、変革したのだ。

 

「20億人の信者を擁するローマ正教は、『世界の管理と運営』。……教皇と最暗部の傭兵、そして極々少数……片手の指程の下っ端は、それなりにマトモで常識人だが、ソレ以外の大多数の人間は狂信者。確か今の枢機卿の一人は腐敗済みの屑だっけ? 修正の余地あるだろうけど」

「大丈夫なのか……ソレ?」

「大丈夫じゃない、問題さ」

 

 学園都市と戦争おっ始める最有力候補である。

 なんせ原作に於いて、幹部の数人が学園都市の人間を異教の猿呼ばわりしているほどの狂信だ。

 バチカンのカトリックはどいつもコイツも狂信者ばっかりなのかと、ローマ正教の最大戦力が銃剣(バヨネット)持ってなくて心底安心したりするインデックスだった。

 そして正史に於ける第三次世界大戦、その発端の大きな一つでもある。

 

「トップに男の娘を据えているロシア成教は、基本オカルト専門だね。『オカルトの検閲と削除』を特化させた『殲滅白書』。人間以外の、それこそ悪霊とか心霊現象の原因を撃滅するオシゴトで、最高戦力が部下の少女に拘束具を強制させる変態淑女」

「大丈夫なのかそれェ!!?」

 

 切実な意見だった。

 幻想をブチ殺された上条は、あらんかぎりに叫びを上げた。

 実はその最高戦力は不死一歩手前なんて怪物具合なのだが、インデックスはそこまで語る気は無いのか、ガン無視を決める。

 

「ローマ正教より遥かにマシだよ。なんせ組織に諸々が囚われない程奔放で、組織が腐敗し始めたら腐敗部分を即座に叩き潰せるって意味だから。ストッパーとしてはこれ以上のモノは無い。

 ………………変態だけども」

「別の意味でその人が一番腐ってるぞ!! 上条さん的に一般常識には囚われて欲しいですッ!」

 

 激しく不安な上条だが、インデックスにそんな上条の心境など、ぶっちゃけどうでもイイ。

 勿論ロシア成教の人間は変態の集まりでは決して無く、最高戦力のワシリーサのみがいろんな意味で手遅れなだけである。

 

「そしてイギリス清教。英国の命令系統三本柱の一角で、『悪い魔術師から市民を守る』という方針を極め過ぎた結果、魔女・異端狩りや宗教裁判といった対魔術師技術特化の宗派だ」

 

 英国は三つの派閥と四つの文化を併せ持つ『連合王国』。

 英国女王と議会の『王室派』、騎士団長以下の騎士団を含む『騎士派』、最大主教と信徒で成る『清教派』という三つ巴の命令系統に加え、それと重なってイングランド・スコットランド・ウェールズ・北部アイルランドという、四つの地方文化が存在するひどく複雑な国家だ。

 

 そしてその中の『清教派』こそ、インデックスが所属していた派閥。

 魔術師を殺す為に魔術を磨き、調べ、対抗策を練り上げる対魔術機関。

 

「そもそも魔術は穢れたモノと見なされている十字教に於いて、魔術を習得しているってのは異端なんだよ。故に『汚れを一手に引き受ける』って意味で、その機関が『必要悪の教会(ネセサリウス)』って呼ばれてる訳」

「汚れを一手に……ソレって」

「自分の魔法名、言ってたっけか。『献身的な子羊は強者の知識を守る(dedicatus545)』。魔術書って世界最大の“汚れ”を全て引き受ける……何とも面倒な魔法名と生き方を選んだものだよ。前の自分は」

 

 自分のことをまるで他人のように語るインデックスを見て、思わず拳を握り締める。

 真実他人なのだろう。過去の記憶が無いインデックスにとっては。

 

 (チクショウ……)

 

 上条はこの世の理不尽を呪った。

 ここ数日インデックスと過ごしたが、上条から見てインデックスは自分の友人と大差無い、少しばかり頭が良い少年だった。

 勿論インデックスがどんな修羅場を潜ってきたのか上条は知らないし、まだ上条に決して見せていない顔だってある。

 それでも、インデックスは上条にとって既に掛け替えの無い友人だった。

 

 そんなインデックスが、自分より年下の少年が、どうしてこんな目に遭わなくちゃいけないのだと、憤らずにはいられなかった。

 

「そんな顔しなさんなってば」

「インデックス……」

「自分は十分恵まれてるよ」

「あんな、人を物扱いするような奴らに追われてんのを見て、恵まれてるなんて思えるかよ!」

「事情があるのさ。それに、ステイル達の事あんま悪く言わないでやってくれないかなぁ」

「でもッ……」

「――――確かに、最初の一ヶ月は地獄だと思ったよ。だけど自分には生き残る術を教えてくれた人がいた。共に助け合う仲間が出来た。お人好し過ぎる友人も出来た。だから自分はずっとマシなんだよ。そして自分には――――救いがあった」

 

 インデックスは知っている。本当に地獄の奥底に居て、生命の神秘が見えなくなる程人体を毟り取られ、生身の体が脳の一部分しか残っていない――――なんて、どうしようもない成れの果てが『最後の救い』だなんて境遇を。

 なのに自分は五体満足五臓六腑が揃って、おまけに明確な救いすらある。

 この世界の『闇』とも呼べる、本当の地獄を知っているインデックスに言わせれば、自分の状況は既に地獄ではないのだ。

 何より―――――

 

「だってさ、ホラ――――金髪美人のお姉さんが激しすぎるスキンシップしてくれるんだよ? 最高だろ」

「チクショオォおおおおおおおぉぁああああああああああッ!!!!!!」

 

 金髪美女とは勿論ブリュンヒルドのことである。

 ちなみにインデックスの精神年齢は前世を合わせると二十歳前後である為、十八のブリュンヒルドはお姉さんとは言い難いのだが、美人なのは美人なのである。

 まぁぶっちゃけ、男とは結局そんな生き物なのだ。

 

「知っている当麻? ――――女の子の唇と舌って、仄かに甘いんだぜ?」

「がァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!!」

 

 如何にかの上条属性と言えど、所詮はラッキースケベ。精々胸に触ったり押し倒したり裸を覗いてしまう程度が限界。

 しかも、この分際でかなり純情少年やってる上条当麻。舌などはレベルが高すぎたのである。

 妬みと絶望とか諸々を絶叫に変え、一人走り出した。

 彼女無し歴イコール年齢の上条には走らずには居られなかったのだ。

 

「――――まぁ『前』の経験だけどね……って、聞こえてないか」

 

 上条には最早銭湯という目的地すら頭にはなかったりするのか、インデックスから見ても上条の姿は殆ど見えないほどまで爆走特急と化しており、インデックスの周囲はあっという間に静かになった。

 

 

「漸くセッティング出来たか。さっさと出てきたらどうだ?」

 

 

 まるで通りにインデックスしか居ないかのように。

 

「……」

 

 全て予想通りといった口振りのインデックスの背後には、魔術師ステイル=マグヌスが立っていた。

 一人で、ということはつまり、上条の方へもう一人――――神裂火織が向かったと言うことだ。

 瞬間、上条との道を塞ぐかのように炎の壁が出来上がる。

 

「宿題はやってきたかな?」

防水加工(ラミネート)したルーンで周囲2キロに渡って結界を刻んだ。君はもう逃げられない」

「だァから、お話しよォぜッつってんでしょ。是非お茶したい聖人サマといい、人間会話しないと。じゃないと知れる情報(モン)まで判らなくなるよ?」

 

 苦虫を噛み潰した様な顔で、ステイルはインデックスの言葉を受け止めるが、即座に意識を切り替える。

 感情の一切を排除し、右手に炎剣を携えながら目的を最優先に達成するために。

 そんなステイルにインデックスは困り顔を作る。

 炎剣は確かに喰らえば致命傷だが、しかしステイルの持つ魔術ではインデックスの『歩く教会』の装甲を抜くことは出来ない。

 対神格用術式を持つ聖人の神裂ならば解らないが、ならば神裂をインデックスに当てるべきだろう。それをしないのは――――

 

 (時間稼ぎかな? やっぱり当麻を“鎖”として利用する気満々じゃないですかやだー)

 

 元より学園都市から逃げるつもりが無いので、上条をインデックスを縛るための鎖に使われるのは構わない。が、その為に上条が半殺しにされるのは、感情的にも打算的にも気分が悪い。

 

 

 

 

「フム、だったら――――とうッ!!!」

 

 そして今度こそステイルが絶句する。

 インデックスはステイルをガン無視して、一目散に炎の壁に飛び込んだのだ。

 

 (成る程、『歩く教会』が健在なら確かに壁を突破出来るかもしれないが……相変わらず無茶をする!)

 

 出来る出来ないのではなく、やれるのかやれないのかの話なのだ。

 幾ら絶対防御手段があったとして、まともな人間ならば摂氏三〇〇〇度の炎の壁に突っ込む事など出来はしない。

 そしてインデックスの異常な速度の軽技にステイルは、インデックス本人を追うことを半ば諦めた。

 

「チッ、仕方無い……。神裂と合流してアレを人質にするか」

 

 仮にインデックスが上条に加勢しようが、神裂の絶対優位は揺らがない。

 インデックスが聞いたら、汚い! 流石魔術師汚い!! と絶叫すること間違いない台詞だが、しかしステイルは気付かない。

 

 インデックスは既にチェックを仕掛け始めている。

 そしてチェックメイトはすぐそこだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそッ!!!」

 

 その頃、上条は圧倒されていた。

 

 神裂火織。

 インデックスが絶対に戦うなとまで言わしめた、世界に二十人も居ない聖人。

 聖人の、その真価である音速超過。

 

 しかし神裂はソレを全く行わずに、上条は見えない斬撃に翻弄されていた。

 易々と鉄骨を切り裂き、地面に爪痕を刻む刃の全貌を上条は知る事が出来なかった。

 

 否、その斬撃の正体を、上条は戦う前から知っている。

 

「刀を抜く動作で、七本の鋼糸(ワイヤー)を操る手を隠して……」

「七閃を見抜きましたか。いえ、禁書目録(かれ)が貴方に教えたのですね」

 

 正体をインデックスから聞いていると言うことは、それが魔術ではなく魔術をフェイクとした完全物理攻撃だと知っている事になる。

 つまり七閃は魔術ではない。

 幻想殺し(イマジンブレイカー)は通用しない。

 

 (たしかインデックスは、あの刀こそを絶対に抜かせるなって言ってたっけ。それと、人格的に絶対に抜かないって言ってたけど……)

 

 唯閃。

 一度抜き放てば天使の翼すら切断する対神格用術式。

 そんなものを使われたら、上条は簡単に両断されてしまうだろう。

 

「クッソッ……!!」

 

 ステイルとはまるで別格だった。

 ステイル相手ならば対処出来た。炎剣も魔女狩りの王(イノケンティウス)も右手なら取り合えずは防げる。

 だが神裂は違う。

 異能が関わらない武器で、近付く事すら儘ならない。

 しかもインデックスの話が本当ならば、鋼糸(ワイヤー)を使っている間はまだマシとのこと。

 しかしこのままでは埒があかない。

 こうしている今も、上条には七閃による裂傷が増え続けている。

 避けきれなくなっている、のではない。神裂が徐々に追い込んでいるのだ。

 最初から一撃で仕止められるにも拘らず、恐怖を煽るように。

 そう、神裂は上条の心を折りに来ている。

 

「もう一度問います。魔法名を名乗る前に、彼を保護したいのですが」

 

 そう。しかも神裂は魔法名すら名乗っていない。

 

 (遊んでやがる……!!)

 

 これが聖人。

 幾ら特異な右手を持とうが、ただの高校生に過ぎない上条が本来相対出来る相手ではないのだ。

 しかもインデックスと分断された今、助言を仰ぐことも出来ない。

 そして何より、

 

「戦いの最中に考え事とは迂闊ですね」

 

 そして所詮、今の上条は戦いの素人だった。

 間合いを一瞬で縮め、咄嗟に上条が放った拳が神裂に届く前に、腹に膝をブチ込んだ。

 上条の腹が爆散しなかったのは、偏に目の前の聖人が神裂であったからだろう。

 

「ごぼッ……」

「――――七閃」

 

 そしてそのまま、七本の刃が上条に襲い掛かった。

 

「ごッ、がッぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァ!!!!!」

 

 ガガガッ!! と斬撃の音と上条の絶叫が木霊し、血を撒き散らしながら崩れ落ちた。

 

「もう良いでしょう。貴方がそこまでして禁書目録(かれ)を庇う理由は無い筈です」

「ぐ……あッ……」

 

 呻く上条に何度目かになる言葉。

 余りに無表情な美貌から告げられるソレは、まるで作業的なものさえ感じてしまう。

 

「……は、ははは……強ェ……つか、勝てる気しねぇな……」

「……」

「インデックスの、言った通りだ……。相性最悪だ、から……出会ったら迷わず逃げろって意味が、よくわかった」

「……なら何故、すぐに逃げなかったのですか」

「確かめたかったのかもな……。でもホント、インデックスの言う通りだったよ。あぁ言うの、曲者って言うんだっけか……?」

「確かめたかった事……何をですか」

 

 その言葉に、呻き声を漏らしていた唇の端が、僅かに吊り上がる。

 

「アンタ、本当につまらなそうだ」

「――――」

 

 ここで初めて、神裂の表情が驚愕に、苦痛に歪む。

 その姿に満足し、上条は起き上がった。

 

「本当にアンタは強いよ。でもソレだけだ」

「……それが何だというのですか」

「そんなやる気も無い、ただ『強いだけ』の奴に。そんだけ強いのに、俺より年下の奴を切り刻むことにしか出来ない奴に――――――――俺が諦めるとでも思ってんのか?」

 

 そしてゆっくりと、そしてしっかりと立ち上がる。

 ステイルを殴り飛ばした時以上に、強い光をその瞳に宿して。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 神裂火織は一つ、勘違いをしていた。

 

 上条当麻はその特異な右手故に、インデックスが何等かの目的を果たすためだけが理由で選ばれた人材だと考えていた。

 勿論その考えは間違ってはいない。

 ただ、致命的に情報が不足していたのが原因だろう。

 その勘違いを勘違いだと知る事が出来るのは、この世界で唯一、その本質が表に出てくる未来を知っているインデックスだけだろう

 

 上条当麻の脅威とは一体何か。

 幻想殺し? 今後習得するかもしれない経験則による受け流し? 前兆の感知?

 その右手の()()()()()()

 

 否。

 断じて否である。

 

 その程度で禁書目録というモノを取り巻く戦いに首を突っ込むものか。

 

 あり得るかもしれない未来で、一方通行(アクセラレータ)が心底恐怖して、その言葉によって悪という枠組みから脱出した様に。

 浜面仕上がその姿に憧れ、アレイスターのプランの最大のイレギュラーとなり、一つの勢力と化した様に。

 右方のフィアンマがその姿に感化され、新たな一歩を踏み出そうとするものか。

 科学も魔術も問わず、数多の時代文化に於けるリーダーやカリスマ達。一つ間違えれば異端や狂人として排除されたであろう人物を調べ、研究している組織の頂点たるレイヴィニア=バードウェイが、本気で『イカれている』などと断じる訳がない。

 

 上条当麻が上条当麻足り得る本当の理由。それは特別な右手や、絶体絶命を一手で覆す性質などでは決して無い。

 諦めないという、その異常なまでの不屈。

 幸福だろうと不幸だろうと、そういった曖昧なものを全て自力で乗り越え、踏破する力。

 

「『“諦め”が人を殺す。諦めを拒絶した時、人間は人道を踏破する権利人となるのだ』」

 

 迫り来る、明らかに戦意のみを焼き付くそうとしている爆炎を避けながら、軽業師さながらの動きでインデックスは遠目で立ち上がっている上条を見据えながら呟いた。

 

「本当に、恩返し難しそうだよ。とーま」

 

 そしてこれ以上傷を負わないためにも、インデックスはその場に急行する。

 

 

「――――さァ、チェックメイトと行こうかな」

 

 

 




※インデックスはローマ正教に偏見があります。
それでもマタイ氏は泣いて良いと思う。どっかのミニスカサンタやろうとした女狐に比べればマジイイ人。

誤字脱字は随時修正します。
感想待ってまーす!


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第八話 真実

前回のあとがきで致命的な誤字が発覚。
……ホント早めにわかって良かった。なんやねん「感謝まってます」って。
誤字報告して頂いた方々に感謝します。

というわけで、今回はかおりんいじめ。


 上条と神裂に向かったインデックスの一方、ステイルは完全にインデックスの姿を見失っていた。

 

「くそッ! 何もかもあの拳法家のせいだッ!!!」

 

 あの変態のせいで全ておかしくなったと、某有名忍者バトル漫画宛らの動きで跳んで行ったインデックスを見て、ステイルは思わず悪態をついた。

 そもそも、インデックスがあの有り様になったのも、アサシン先生マジアサシン先生と呼ぶ原因となった気配遮断も、全て一人の変態が原因である。

 しかもインデックスが圏境と呼んだ、瞑想の極意による透明化という、ふざけるのも大概にしてほしい技術を未熟ながらも変態から学んだせいか、気配遮断が原作と比べアホ程上達したインデックスを、魔力探知無しでステイルが見付ける事は出来ない。

 それ故に、『歩く教会』への魔力探知すら出来なかった数日前に、神裂がインデックスを捉えることが出来たのは、本当に聖人故の幸運だろう。

 それか、あの禁書目録の不運さ故か。

 神裂の位置を把握出来れば良かったが、上条が暴走列車と化していた為、場所は特定出来ない。そしてその場にいるであろう神裂は七閃のみで応戦――――つまり魔術を使用していない為に、魔力探知は不可能。

 僅かな斬撃と轟音が聴こえたが、インデックスがソレを聞き逃す訳は無いだろう。

 

 どちらにせよ、インデックスより速く上条の元に辿り着き、人質にする策は台無しになった。

 

 ステイルはインデックスが暗殺者ばりの運動能力を得る事になった元凶を思い出す。

 アレは余りに熾烈な存在だった。

 拳法家から別れた後のインデックスが溢していた、『どっかの魔術師が英霊を降霊でもしたんじゃね? 容姿とか能力とか激しくツッコミたいけども』という言葉も馬鹿には出来ないほどに。

 

『――――脆弱にも程がある。魔術師とはいえ、ここまで非力では木偶にも劣ろう。鵜をくびり殺すにも飽きたぞ小僧』

 

 ギリィッッ!!! と、自らを文字通り蹴散らした拳法家の言葉を思い出し、ステイルは歯を噛み締めながらインデックスの『歩く教会』の魔力探知を行う。

 尤も、降霊されている英霊に文句を言ってもしょうがなく。誰の所為か問うならば、真実を知る者はこう答えるだろう。

 大体インデックスのせいである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第八話 真実

 

 

 

 

 

 

 

 

「私もッ!! ……私も、好きでこんなことをしている訳ではありませんッ……!」

 

 神裂が、血を吐くような悲痛に表情を歪めながらその事実を述べる事は、人の心に訴えかける上条の人格上当然の帰結だった。

 そして上条に告げられる事実。

 神裂とステイルが、インデックスと同じイギリス清教の人間であること。

 ステイルがインデックスのかつての親友で、そして“神裂が”インデックスのパートナーであったこと。

 そして何より絶望的なのは、

 

「……なんだよ、……それ……」

 

 どうしようも無い、完全記憶能力を持つインデックスが抱える爆弾の事を。

 

「彼の脳は記憶領域の85%を占めている一〇万三〇〇〇冊に圧迫されています。そしてインデックスは完全記憶能力者。思い出を忘れられないインデックスに、残り15%の容量で耐えるには保って一年。その一年毎に彼の記憶を消さなければ、彼の脳は……ッ」

 

 容量を越えた空気を風船に入れればどうなるか。

 だから消したのだ。限界を迎え、狂死寸前の激痛に苛まれて苦しんでいたインデックスを救うために。

 自ら何よりも大切な思い出を自分達の手で。

 そしてまた、その悲劇は繰り返される。

 そんな絶望的な事実を知った上条は、確かに呆然としていた。

 

 ―――――目の前の女は一体何を言っている?

 

 85%? 15%? 何だそれは、と。

 それは、まるで見当違いの話を大真面目に、それこそどうしようもない悲劇や絶望であるかのように語る神裂。

 いや、上条がその思考に独力で辿り着けた訳ではない。

 

 数日前に神裂の理論が確実に間違っている事を、()()()()()()()()()()()()、都合の良い事に上条は数日前に知ったからだ。

 そして、インデックスの言葉を思い出す。

 

『――――ステイル達の事あんま悪く言わないでやってくれないかなぁ』

 

 繋がった、と。

 その時は意味が解らず憤慨していたが――――――。

 故に、上条は問いをした。

 

「アンタ……インデックスはその事を」

「知らない筈です。彼は私達の事は、記憶の無い彼には、彼に近付く者は総て『一〇万三〇〇〇冊を狙う天敵』にしか映らない」

 

 親友の記憶を、自分達との思い出を自分達の手で消し去る。

 それがどれ程辛い事か上条は想像出来ない。

 だが、

 

(―――――()()()じゃねぇよ……ッ!!)

 

 そんなのはただインデックスに甘えてるだけだ。

 第三者の、しかも『インデックスの真実』を知る上条からすれば、そんなのはインデックスのことを欠片も考えておらず、インデックス本人にしてみればそんなものは『お前たちの都合だ』と切り捨てられるもの。

 いや、魔術で全てを解決しようとする傾向にある魔術師に脳医学の知識を要求するほうが酷だろう。

 誰が悪いのかというと、やはりインデックスをそんな状況に追い込み、神裂達に甘言を弄んだ者が悪いのだ。

 そしてその『インデックスの真実』を上条に教えたのは誰だ?

 

 単純明快。そんな質問をさせたインデックス本人に他ならない。

 

 つまりは────そういうこと。

 知っていたのだ。

 インデックスは本当に、本当に何もかも。

 

 (そういうことか……そういうことかチクショウ!!!)

 

 インデックスは、上条に一番最初に式と解答を教えていた。だが、それだけでは何の問題に対しての解か判らない。

 そして今、漸く問題を知る事が出来た。

 全くもって回りくどい方法で。

 

「は、ハハハッ……何が恵まれてるだ。────────ふざけやがってッッッッ!!」

 

 見知らぬ土地で要らない知識ばかり詰め込まれ、そしてかつての親友達に追われる日々。

 しかも一年の時限爆弾付きの。

 一体ソレの何処が恵まれてるのか、上条には理解したくもなかった。

 

「分かって、いただけましたか?」

「……なぁ、一つだけいいか?」

「…なんでしょう」

 

 だからこそ、目の前の女の馬鹿さ加減に腹が立ってきた。

 上条のその怒りは、科学の総本山の人間というアドバンテージを有しているが故の、不当なモノかもしれない。

 初めから答えを知っていたが故の驕りかもしれない。

 だが他人に教えられるがままの神裂の視野の狭さと迂闊さに、上条は憤りを感じずには居られなかった。

 だからこそ、

 

「完全記憶能力者って、そこまで短命なのか?」

 

 上条当麻は、神裂の幻想を完膚なきまでに叩き潰す。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

『──────あのですね上条ちゃん。人の脳は140年分の記憶が可能と言われていますが、仮に本を何億冊読んだからといって、思い出を消さないといけない程人の脳は単純では無いのです』

 

 つい先日。ステイルと戦う数時間前、上条は補習の時に小萌へインデックスの言ったことについて質問していた。

 例え完全記憶能力者でも、記憶容量が限界になって死ぬことはない────という事の確認の為だ。

 

『そもそも思い出と本で得た知識は同一ではありません。言葉や知識は「意味記憶」、運動の慣れなどは「手続記憶」、そして思い出などは「エピソード記憶」なんて具合にですね、色々有るのですよ。ていうか、この程度の事も分からなければ、上条ちゃんは「開発」を先生ともう一度勉強し直ししなくちゃいけないのです』

 

 本来一般人なら、仮に知らなくても医者に診せれば直ぐ様知ることが出来る事実。

 上条はただそれをそのまま語っただけ。

 

『つまり、どれだけ「意味記憶」を増やした処で全く別の「エピソード記憶」を削らなきゃならないなんてことは、脳医学上絶対にあり得ません──────』

 

 神裂にとって、その身を侵す真実(猛毒)だとしても―――――――――

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「何で気付かねェんだよ」

「──────、」

 

 神裂は、インデックスの行動を思い出していた。

 疑問だったのだ。自分たちに、インデックスにとって『自身の知識を付け狙う魔術師』に対し、ただの一度も敵意をぶつけて来なかった事に。

 

「お前等インデックスと一年以上付き合いがあんだろうが……俺なんかよりずっとずっと長い間、アイツと一緒に居たんだろうが! だったら解る筈だろ!!」

「……何、を」

「あのインデックスが、自分の追っ手の事を調べない訳ないだろうがッ!!」

 

 今思い返せば、おかしな話である。

 インデックスは、何故冷徹無比な仮面に隠された魔術師の素顔を知っていたのか。

 ――――――――――つまり調べたのだ。何もかも。

 

「インデックスは一度でもお前等に敵意を向けた事があったのか?」

 

 否。

 刃を振るったことで怯えられたことは何度もあったが心から敵意を向けられたことなどなく、彼がパートナー達を得てからは常に対話を求めていたではないか。

 

「記憶を消さないと死んでしまう病気なんて、本当に医者の口から聞いたのか!」

 

 否。

 記憶云々はすべて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()最大主教(イギリス清教のトップ)から教えられた事。

 彼女の言葉を鵜呑みにし、医者に見せたことなど一度もない。

 

「何故インデックスに全てを話してあのお人よしが信じてくれる事を、テメェらは信じてやることが出来なかったッ!!?」

 

 出来るわけがない。

 仮に信じたとしてインデックスの記憶は再び失われる。

 喪われた後、アルバムなどを眺めながら、悲しそうに謝罪する彼の姿を何度も見るのが耐えられなくて。

 だが、それは果たしてインデックスのことを考えての選択だったろうか。

 ―――――否。

 

「ぁ……ッ」

「答えろ! 神裂ぃッ!!」

 

 神裂の脳裏に、学園都市にインデックスを追って入る前に戦ったワルキューレの言葉が響いた。

 

『─────────何も知らない道化風情が』

 

 己の目的のみを突き進む魔術師の中でも、彼女の目的は魔法名の通り。

 

救われぬ者に救いの手を(Salvere000)』。

 

 なんという皮肉だろうか。

 そんな彼女が愛し絶望した、まさに救われない者に救いがあり、そして彼女はその救いの邪魔をし続けてきたという。

 ステイルと神裂は、どんな関係を築こうとも最終的に記憶を消されたインデックスに裏切られる事を恐れて、敵を演じた。

 そして何より、自分達が傷付きたくないからインデックスから逃げたというのに。

 傷付け、追い込み、襲い掛かった神裂達に対してインデックスの答えは受容だった。

 彼女達に敵意を一切向けず、笑い掛け続けた。

 

 なんという道化、滑稽極まる。

 これならばいっそのこと恨まれた方が未だマシというもの。

 自分は一体、何をしてきた。

 

『―――――――かおり』

 

 自分は何れだけ、あの子の笑顔を裏切り続けた。

 

「ぁ……────ぁぁあぁああああ嗚呼ぁぁあぁあああああアああああああああああアあああああアアアアアアアッッ!!!!!?」

 

 神裂は、答えられない。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 傷だらけの体で、しかしその瞳は敵を捕らえて離さない上条と。

 全くの無傷で、しかしその膝は折れ、その表情は涙と苦痛で歪んでいた神裂。

 勝敗は決まった。

 上条はもう立つことが限界で、神裂はその心をへし折られた。

 ならば勝者は一体誰か。

 

「―――――流石だ。流石は『神浄の討魔(かみじょうとうま)』」

 

 二人の間に現れた、禁書目録の名を関する銀髪の少年だった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 ステイルを攪乱しつつ撒けたので当麻の元へ急いで行ったら、当麻がかおりんを泣かせてたでやんす。

 …………………あり? 当麻は兎も角、かおりんはおデコ殴られるくらいと思ってたんだけど……。

 

「おーよしよし怖かったですねー。もー大丈夫だよ怖くないよー」

「イン、デックス……?」

 

 撫でられ続けるかおりが、呆然と涙に濡れた綺麗なおめめを見開いて自分の名を呼ぶ。

 美人の泣き顔は綺麗だが、しかし見ていて気持ちの良いモノじゃあない。

 

「インデックス、ソイツは―――」

「おや? 案外大丈夫そうですね上条さん。こんな美人を泣かせるとはとんだスケコマシだ」

「ちょっ! インデックスサン何故に敬語!?」

「あーハイハイ、精神攻撃は基本ですよね。巨乳でクール系お姉さんの心はズタボロだ」

「上条さんは身も心もズタボロでせう!」

「だから分断された時点で病院に電話しておいたよ。救急車もすぐ来る。だがな当麻、体が傷だらけの野郎と心が傷だらけのボンキュッボンの年上御姉様。どっちを慰めたい?」

「御姉様一択デスハイ」

「判ればヨロシ」

 

 女人の悲鳴は全ての事に優先されるッ!!

 まぁ救い様の無いクソは、更生の余地無く消すが。

 

「インデックス……、私は、私達は……ッ!」

「大丈夫大丈夫。今は安心して自分の胸で泣くが善い」

「ッ……うゎぁあ……ぁあ」

 

 先程の絶叫とは違い、童の様に俺を掻き懐き泣く彼女を、一層強く抱き締める。

 ブリュンヒルドの時を思い出すなぁ。あン娘もキッツイ境遇やけど、この娘も大変だったろうに。

 自分は『彼女』が自分にしてくれた様に、静かに泣き続ける彼女の頭を撫で続けた。

 

「……ステイルか」

「これは……どういう状況かな」

 

 電柱の影から出てきた息の切れた赤毛で長身の神父は、自分と自分を抱き締める火織と当麻。そして当麻と神裂が戦った傷跡を順に見渡して疑問を口にする。

 

「取り敢えず詳しい話は、当麻が治療を受けてからしましょうかね」

 

 救急車のサイレンの音を耳にしながら、自分はこのくだらない首輪と鎖を断ち切る最後の一手に手を掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 




申し訳ありませんが、次回の投稿が遅れます。
一つはリアルが忙しい事。
二つ目はストックが尽きた事。

というわけで次回は完成次第更新します。


誤字脱字は随時修正します。
感想待ってまーす!



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第九話 決戦前夜

「随分派手にやったみたいだね?」

 

 第七学区のとある病院で、ガーゼと包帯だらけの上条はカエルに良く似た医者に呆れられた。

 診察室にはインデックスだけでなく、ステイルや神裂もいる。

 

「それでも骨や内臓には問題なし。見事に裂傷と出血だけなんて、君は鎌鼬でも出来る風力使いとでも喧嘩したのかい? まぁ鎌鼬云々は勿論冗談だけど」

「あ、あははは………」

 

 後ろでインデックスに付き添っているポニーテイルにボコられました。だなんて口が裂けても言えない上条は、カエル顔の医者の問いに乾いた笑いでしか答えられなかった。

 

「まぁ患者へ無闇に詮索するつもりは無いけど、何だか君とは長い付き合いになりそうな気がするね?」

「次は死にかけで担ぎ込まれそうな予感が」

「嫌なこと言わないでくれません!?」

 

 隣に座っているインデックスの不吉な予言に、上条は悲鳴を上げるがスルーされる。

 カエル顔の医者だけでなく、神裂やステイルにもそんな予感がしたからだ。

 何が原因かといえば、そのお人好し加減を何とかしなければ不可避の結末かもしれない。

 

「それで、神父くんの方だけど」

「……やはり」

「うん。確かに完全記憶能力者にそんな症例は無いね?」

「ッ…!!」

 

 神裂とステイルが盛大に顔を歪める。

 自分達が騙されていた事が確定したのだ。

 ステイルは己の迂闊さ故。

 そして既に直接インデックスに赦されている神裂は、騙した張本人であるイギリス清教のトップ。最大主教(アークビショップ)ローラ・スチュアートに対する、抑えようも無い憎悪と殺意故に。

 

「出来れば僕は僕なりの治療をするつもりだけど?」

「数日以内に何とかする予定なんで、出来ればそん時出る患者に対しての準備をしていただければ有難いです」

「全く……、怪我人を出すなんて宣言を医者の前でしないでくれないかい?」

「怪我を最小に留める為にそれなりに努力したつもりですよ」

「……患者が治療を受ける気がないと、僕にも治せないんだよ?」

「あははは。数日後に出直してきます」

 

 上条は知らない。

 彼が学園都市、すなわち世界でも最優の腕を有する、ある意味において学園都市が生み出される切っ掛けとなる程の立場にいる医師だということを

 そして『冥土返し(ヘヴンキャンセラー)』と呼ばれる医者との会話は、次の明後日の朝に再開される。

 

 

 

 

 

 

 

 

第九話 決戦前夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院から出たインデックス達を、金の長髪を靡かせる北欧系美女が待っていた。

 

 インデックスが学園都市に共に訪れ、既に別れた筈の女魔術師。

 北欧神話における特別な存在、『ワルキューレ』の力と、同時に十字教の『聖人』の特性も持つ極めて稀有な存在。

 ブリュンヒルド=エイクトベルである。

 

 コスプレと勘違いされる何時もの戦闘服ではなく、黒のTシャツとホットパンツというラフな姿だった。

 

「………アレ? ぶッ、ブリュンヒルド? なして学園都市に居はるん?」

「無論、君の首輪と自動書記の破壊を手伝う為だ。漸く自分達が何れだけ愚かか自覚した馬鹿共だけでは、些か以上に不安だからな」

「ッ…………!」

(アカン、喧嘩売りまくってる)

 

 そんな思考がインデックスの頭を過る。

 勿論病院の前で放っていい殺意ではなかった。

 そしてその言葉に反論出来る言葉が無いステイルは恥じ入るように目を閉じ、神裂は自分の不甲斐なさに握力で掌の皮を握り潰して出血している。

 

「おや、今度は馬鹿正直に突っ掛かって来ないんだな」

「それぐらいの分別は付くさ。争う暇なんて、今の僕らには無い」

「フン……まぁ良い。そして――――――君が今代の幻想殺しか」

「今、代?」

 

 その言葉の意味を理解出来ない上条を、ブリュンヒルドは説明する気も無いのか話を進める。

 そしてソレは、ステイル達にも理解出来ることだった。

 

「……やはり、どうしようもないと解っていても嫉妬するな」

 

 それは懺悔だったのかもしれない。

 かつて「北欧神話系の術式にも、聖人のフォーマットが無意識に混ざり合う」という彼女の性質を理由に、北欧神話系五大魔術結社に『混ぜ物(ヘル)』と蔑まれ仲間を殺し尽くされ、死体さえも辱められ身も目を覆いたくなるほどの非道を強いられ追われる日々。

 五大結社からの圧力で頼れる場所は無く、ほんの少しでもブリュンヒルドに味方をすれば一般人の子供でも容赦無く殺されてしまう地獄から救い出したインデックス。

 そんな彼も地獄の底に居ると知りながら救うことが出来ない自身の無力に嘆いた彼女は、そんなインデックスを救うことが出来る上条がどうしようもなく妬ましくも羨ましかった。

 

「どうしようもなく羨ましいのだ。(インデックス)を救う花形に私は成れない」

「……俺は」

「うん。それも自分の居るとこで言うことでは無いよね」

 

 気まずそうに頬を引き攣らせているインデックスとしては、ブリュンヒルドを助けたのは本当に偶然だった。

 北欧五大結社を潰して結果的に蹂躙したのも、自分に害を与えようと襲ってきたから、それに対応しただけ。

 勿論ブリュンヒルドを助けたいと思ったのも否定しないが、ソレだけでこんな結果になるとは思いもよらなかったのだから。

 強いて言うなら、インデックスは神裂SSをキチンと読んでいないのだ。

 

 そしてインデックスはもう1つ確認をする。

 現在学園都市から離れている筈の、インデックスの友人の中で『彼女』を除いた最高戦力のオッレルスとシルビアだ。

 

「ブリュンヒルド、オッレルス達も此処に?」

「いや、私だけだ。なんでも、この街の暗部部隊が妨害を掛けてくるから、蹴散らすのは容易いが学園都市に入りにくいらしい。まるで『戦力調整』された様に」

「なーるほどぉ………あんのド変態容器詰めヒッキーめ。当麻の成長に自分を利用する気満々じゃんか」

 

 滞空回線(アンダーライン)

 アレイスターや学園都市上層部の直通情報網である、学園都市中に5000万機ほど散布されている70ナノメートルのシリコン塊。

 学園都市で密会をしたかったら、監視衛星監視カメラ盗聴以前に、先ずコレを何とかしなければならない。

 尤も、滞空回線(アンダーライン)そのものは非常に脆く、ある程度の衝撃で容易く壊れるので防止策はそれなりにあるのだが。

 

(つまり『保険』のことも知ってる訳か。本気でこの街でプライバシーなんて言葉存在しないねぇ)

「取り敢えず、小萌先生の所へ戻ろう。あの人も心配してるだろうし」

 

 上条とインデックスの脳裏に、待ち惚けをくらって涙目になっている小さな教師を思い浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてお風呂屋さんに行っただけでそんな怪我してくるのですか!? それにその人たちは誰なのですかぁ!? って、そこのおっきな神父さんは未成年ですね!? お煙草吸っちゃいけないんですよ!」

「ステイルは14ですぜ先生」

 

 小萌宅のマンションに戻ってきた一同は、告げ口をしたせいで小萌教諭はブチギレモードでステイルを連れて説教に突入した彼女を見送り、本題に入る。

 即ち、インデックスに仕掛けられた悲劇の坩堝を生み出す邪悪の種を摘み取る方策である。

 

「さて、ここで『首輪』と『自動書記(ヨハネのペン)』についておさらいしておこうか」

ステイル(アイツ)いいのかよ。顔が諦観越えて懐かしい思い出思い浮かべた感じになってたぞ」

「中二で重度の喫煙者やってるステイルの自業自得だよね」

 

 インデックスは上条を無視して話を進めた。

 

「そもそも『自動書記』は自分の喉ティンコに刻まれている魔術で、自分の命の危険などの特定条件が揃った時に発動する様仕掛けられている。そして問題なのが、この『自動書記』が自分の魔力を搾り取って稼働し、同時にセキュリティでもあること。俺がグラトニーなのはそれが原因なんだよ」 

「セキュリティ……」

「自分の知識全てを使っての、ね」

 

 それがたった一冊で凡百の魔術師を蹴散らすことが出来る、紛う事なき『兵器』。

 その兵器が十万三千種類存在し、しかも組み合わせることで足し算ではなく掛け算で威力が増えていく。

 そして魔導書とはとある存在になるのに必要な物でもある。

 ―――――とどのつまり、魔神という名の神へ至るための(きざはし)

 

「一対万でもまだ足りない。それだけの圧倒的物量を容易く覆す、それが魔神だ」

「あ、ステイル帰ってきた。お疲れー」

「大丈夫かお前」

「ふっ、僕は彼の親友だった男だぞ。これしきの事は慣れている」

「言ってて悲しくないか?」

「当麻も人のこと言えないからね」

 

 酷く衰弱しているステイルの頭のおかしい発言にツッコむものの、上条本人も不幸が訪れたとき同じ顔をしていたのを、インデックスは知っている。

 

「あと自分が出来るのは、皆に魔神(ジブン)がこの面子にどういう防衛術式を組んで来るかを予想してアドバイスするしかない。その後は各々休んで英気を蓄えてくれ」

「判りました」

「了解だ」

 

 決戦は明日の夜。

 全てはその日に決着する。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の朝、インデックスは一人で学園都市を歩いていた。

 本来ならばブリュンヒルドか神裂が確実に付いて回った筈なのだが、元より聖人と天才魔術師から一年間逃げ続けた彼だ。

 気分転換に抜け出すのも簡単である。

 

 インデックスは当麻と出会う前日に仕込んだ『保険』の仕上がりを確認して、目についたカフェのテラスで珈琲を飲みながら自動書記が迎え撃つだろう術式の穴を探し続けていた。

 

「迂闊だな。護衛も付けずに散歩とは、悪魔に付け込まれるやもしれん迂闊。気を抜き過ぎだ」

 

 そんなインデックスが、何の言葉もなく向かいに座った者を見て絶句した。

 上条や、二年もの付き合いのある神裂達ですら見たことのない。肩を斬られながらも表面上は余裕を保っていたインデックスの絶句した顔である。

 

「…………何で居るねん」

「何だ? 私が()()()()()()()()()困るのか?」

「ちょっ! なーにを言ってるのかなこのお嬢ーさんはッ!?」

「安心しろ、この場に『目』は無い。そんな愚を犯す訳ないだろうが。それに、お嬢さんと呼ばれる歳でもない」

「ぬぅ……で、何でいんだよ? って……まさか、()()()()()()()!?」

 

 その、ブリュンヒルドのそれさえも遥かに目を集める魔術的衣装の少女に、しかし誰の目も向けられることはない。

 この場に既に人払いがされており、人ひとり存在しない。

 それこそ、少女の身の丈の倍の長さの黄金の槍を持っていても問題がないように。

 

「残念ながら()()()()()()()()言った所だ。まぁ間に合うさ。でなければ此処に居ない」

「…………は、ははは。この戦い、我々の勝利だー」

「何だその棒読みは。それにそれは『死亡フラグ』というのでは無いのか?」

「あんなうっかり一族と一緒にすんなや。ってオイ人の珈琲!」

「ん………フン、良いだろう別に。それに間接キスを気にする精神年齢でも無いだろう」

「野郎は何時まで経っても少年の心を忘れないんですー」

「……インデックス。お前が足掻いたこの物語、身を以て体験してみてどんなものだ?」

「ハナからネタバレしてるって時点で、役者をどう集めようが駄作に決まってんだろうが。どこぞのニートは負け惜しみでシナリオがクソでも『役者が良い』とかほざいてるが」

「悲劇を喜劇に変えるのがお前だろう?」

「そんな上等なモンでもないさ。ま、ダチ公からそう言われんのなら頑張るけどな」

 

 インデックスは燦々と輝く太陽を仰ぎながら、凄惨に笑みを歪ませる。

 ―――――――――さぁ、この下らない物語の幕を閉じよう。

 

 

 

 

 




というわけで出来上がったので更新しました。
前回修正点が多く、それを指摘して頂いた方々に感謝を。
さて次回はラスボス戦。魔術サイドで出来うる限りカオスにする予定です。

勘違いが無いように追記しますが、この作品にインデックス以外の転生者は存在しません。


修正点が発覚次第修正します。
感想待ってまーす。


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第十話 黄金

出来たので投稿しました。
自分の稚拙な文章に、3000を超えるお気に入り登録と数多くの感想を頂き、有難うございます。



 学園都市第二十三学区。

 学園都市の航空、宇宙開発分野の為に区画ごと占有している一般人立ち入り禁止の、スタンプのような丸い枠の中にいくつかの四角形を重ねた図形がエンブレムの学区に、バキンッ!! と、何かが砕ける音が木霊した。

 それまで倒れ伏していたソレは、ゆらりと立ち上がり、瞳に魔方陣を刻み全くの無表情で虚空を見上げた。

 感情を一切感じられない機械的な抑揚の言葉が口から洩れる。

 否、壊れかけの機械音が。

 

『防壁……全貫通、自動書ッ、防衛……首輪……全損……侵入者、排除、排除排除排、除排除排除排除排除排除排除ハイggggggggggggggggggg――――――』

「構えろ! 来るぞッ!!」

 

 長い金の髪の北欧系の『現代にある素材を使って中世ヨーロッパの鎧のシルエットを再現した』ような姿の女性――――ブリュンヒルドの声が、その戦いに挑む者達を現実に戻す。

 ナニカを破壊した張本人――――上条は拳を握り、そして魔神(インデックス)の眼前に瞳のソレと同じ二つの魔方陣が重なる様に展開され、理解不能な領域の音を漏らして、中心から縦に何も無い空間が割れる。

 

『――――敵性を確認』

 

 その亀裂の()から出た何かが放った、屋根を容易く吹き飛ばした竜の一撃が夜空を裂いて、この物語の最終決戦は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

第十話 黄金

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜空に一筋の光の柱が走り、偶然か故意か軌道上の学園都市製の衛星が一機、粉々に破壊された。

 

「いきなり竜王の殺息(ドラゴンブレス)か……中々にハードじゃないか」

「余波に気を付けて下さい!」

「頭部だけには気を付けろ上条当麻」

「アレがインデックスの言ってたヤツか、気を付けなくちゃな」

 

 上条は、光の柱を中心に空から天使の様な白い羽根が落ちるのを眺め、改めてインデックスを見据える。

 上を向いたままの魔神の視線は、ギョロリと瞳だけで上条達を射抜く。

 そして直後、上空に撃ち出されている竜王の殺息(ドラゴンブレス)を、そのまま首と共に剣の様に振り下ろした。

 

『ライザーソードッ!!』

 

 もしインデックスに意識があれば、こう口にしていただろう。

 

「なッ!?」

「上条当麻!!」

「判ってる!」

 

 上条が右手を頭上に上げ、すると吸い込まれる様に竜王の殺息は右手に防がれる。

 だが、

 

『敵性に北欧系と十字教の混合術式を確認。対抗術式―――豊穣神の剣を構築。発動まで後七秒』

 

 ブォンッ!! と、インデックスの周囲に光輝く白光が漂い、凄まじい勢いで飛来した。

 北欧神話においてその剣を所持していた神は決して負けることはなく。

 その剣を奪われる事で漸く死した、神話において敗北した逸話のない不敗の神剣、その三振り。

 それが敵性存在を確実に殺すために殺到する。

 

「――――救われぬ者に救いの手を(Salvere000)ッ!!」

 

 唯閃。

 神裂がその七天七刀から繰り出した一撃。

 それは独特の呼吸法で魔力を練り上げることにより、自身を人間の限界を超えた体の組織に組み変え、そこから繰り出される必殺の抜刀術。

 『特定の宗教に対し別の教義で用いられる術式を迂回して傷つける』という手法を取ることで対神格用術式としても機能し、一神教の天使を切断、人間の『内部(精神)』に宿った“大天使”ごと相手を切り裂くことすら可能な神裂火織の使用する奥義である。

 だが、

 

「駄目だ神裂!!」

 

 ステイルの叫びが響く。

 その光は直線的な軌道から、突如蛇の様なぬるりとした生物的な動きに切り替わり、唯閃の斬撃を潜り抜けた。

 北欧とその流れを汲むケルト神話に特有の、自動的に宙を舞い確実に敵の息の根を止めてくれる武具である。

 面攻撃ならともかく、線の攻撃を潜り抜けるのもたやすいのだ。

 そして彼女も敵と判断したのか、その光はそのまま神裂の喉元へと向かっていく。

 

「ぁぁああァあああああォおおおぉッ!!!」

 

 それを見た上条が、インデックスのアドバイスを脳裏に思い出しながら動いた。

 

『もし幻想殺しでも受けきれない莫大な力でブッ放されたら、無理に受けきる必要は無い。寧ろソレを利用するんだよ』

 

 受け止めきれておらず、右手が悲鳴を上げていた竜王の殺吹(ドラゴンブレス)を、手首を捻りながら神裂に迫る光に向かって受け流した。

 白い光は竜王の殺息に弾かれ飛んでいく。

 勿論竜王の殺息は受け流されたままではなく、再び上条を襲う。

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)!!」

 

 ステイルが配置した数百のルーンによって超速再生する炎の巨人が、盾の様に竜王の殺息を受け止める。

 しかしそれはジリ貧だ。

 この程度、再生を阻害する術式を組まれれば即座にお仕舞い。現に魔神は瞬く間に対応するだろう。

 

 そして直後、そのブリュンヒルドがドラゴンの一撃を切り裂いた。

 

 ブリュンヒルドの持つ大剣はただのクレイモアではない。

 柄は黄金に着色され青い宝玉が埋め込まれ、鞘は金色の打紐で巻き上げられていた。

 その霊装の持つ効果は伝承に準えて二つ。

 

 一つは、破損しても自動で修復するという特性。

 これは一度破壊され、その後もう一度造り上げられた事から適用されたもの。

 それ故にブリュンヒルドは本来強度で劣る神裂の七天七刀と打ち合い続ける事が出来たのだ。

 そして此処で最も重要なのは二つ目の能力。

 

 それは竜に関する一切を殺し尽くすという、竜殺しの伝説になぞらえた効果である。

 

「―――――『竜殺し(グラム)』ッ!」

 

 北欧神話において悪竜を滅ぼした戦士王の宝剣は、竜に関する魔術に対して絶対の効果を発揮する―――!

 しかしこれは何度も使える剣ではない。

 何故ならバルムンクのモデルになった魔剣グラムは、オーディンのグングニルよって破壊されているからだ。

 そんな明確な弱点を、魔神が見逃すはずはない。

 魔神の瞳がギョロリと動き、

 

「七閃!!」

 

 それを防ぐ為にインデックスの体勢を崩さんと、直ぐ様神裂の七本のワイヤーによる斬撃がコンクリートを切り裂いていくがインデックスはまるで翼が生えた様に飛翔した。

 否、比喩ではなかった。

 

「そんなんアリかよ……!?」

 

 インデックスの背後には、血のように赤い天使の巨大な翼が展開され、そのまま空に飛翔する。

 そして再び、インデックスの周囲に白い光が漂い始める。

 その数は三つ。先程弾いた光が何一つ衰えている様子も無く、ご丁寧に帰還していた。

 

「フレイの剣……北欧神話の不敗の武具の再現か……」

 

 神々が戦い、死んでいく北欧神話で唯一敗北する記述が無い、敵を自動操縦で拭滅する不敗の剣。

 しかし魔神の攻撃はそれだけに留まらなかった。

 

「『硫黄の雨は大地を焼く』完全発動まで後五秒」

 

 三つの光の剣の更に背後。

 火の矢の様な炎が、弾幕の様にビッシリ展開される。

 先程上手く竜王の殺息を受け流す事に上条は成功したが、しかしそれは極めて直線的で単一な線の攻撃だったからこそ。

 あれほどの数の火矢に襲い掛かられたらどうなるか。

 仮に上条が正史の10月30日の様に上手く受け流す事ができたとしても、音速で動ける神裂達は兎も角、ステイルは確実に死んでしまうだろう。

 しかも。

 

「嘘……だろ……!?」

「そんな……ッ」

 

 止めと言わんばかりに、罅割れの様にインデックスの眼前に赤い亀裂が発生する。

 亀裂からギチギチと軋みを上げ、幾つもの刃が絡み付いている一振りの槍が覗いた。 

 その絡み合った刃先に、雷、炎、氷、暴風。様々な属性の力が収束していく。

 あれが放たれれば、上条の知覚を超えた破壊をもたらすだろう。

 対処するには確実に幻想殺しがいる。しかも他の魔術を気にする余裕は無いのは間違いない。

 

 だがアレを上条が受け止めようとすれば他の魔術が確実に上条を殺す。

 それはこの戦いの敗北を意味していた。

 

「クッソ…………!!」

 

 一つ二つ攻撃を防いだ処で意味は無い。

 10万3000種類もの魔術の知識を用いて、ほぼ無尽蔵に魔術を振るう。

 一対万でもまだ足りない。

 一対四など笑い話にも為らない。

 

「アイツに辿り着く事も出来ないのか……!?」

 

 真の魔神の前に、高々異能を打ち消す右手や聖人など、届かなければ意味が無い。

 そして、死神の鎌は振り下ろされる。

 先ずは燃える硫黄の弾幕。豊穣神の三対の勝利の剣。そして『槍』の相転移砲。

 火矢の豪雨が降り注ぎ、上条達に絶望を齎す初撃は―――――――

 

 

「『吹き飛べ』」

 

 

 ――――しかし上条達に届くことはなかった。

 

『………?』

「な、何が……?」

 

 硫黄の雨は、まるで見えない巨大な拳で横合いから殴り付けられたように吹き飛ばされ、消滅した。 

 ――――その男に逸早く反応したのはステイルだった。

 

 現れたのは、白いスーツに緑の髪をオールバックに整えた長身の男。

 その男を、ステイルと神裂はよく知っている。

 何故ならその男は、自分たちより先に絶望した男だからだ。

 

「何故……、何故貴様が此処にいる!? ――――――――アウレオルス=イザードッ!!」

 

 その男は正史において、『吸血殺し(ディープブラッド)』の少女を巡る戦いで出会う筈の、先々代のインデックスのパートナーだった男。

 

「必然。この一夜が満願成就の夜であるのは、貴様達だけでは決してないという事だ」

 

 かつてたった一人の教え子を救うことが出来なかった『教師だった男』は、二年前にやり遂げる事の出来なかった壁に挑む。

 

「――――――警告、第六章第十三節。新たな敵兵を確認。戦闘思考の変更を行います」

「さぁ禁書目録よ。この二年間で磨きあげた我が錬金術の全て、その消えない記憶に刻み込め!」

 

 本来の歴史では決して報われることの無かった男が今、戦いの舞台に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――アウレオルス=イザードがインデックスと出会ったのは、上条と出会う前日。

 第一七学区に存在する三沢塾の宗教団体を乗っ取り、『黄金錬成』の為の2000人での『偽グレゴリオの聖歌隊』を実行する直前だった。

 

「………は?」

 

 三沢塾ビルの入り口で、二年前に見た姿から幾分成長していた白い少年神父が、何時の間にか立っていたのだ。

 

『えっと……へるぷみー!』

 

 かつて自身を救って自身が救えず、そして今度こそ救う筈の『生徒』の助けを求める声に、アウレオルスは警戒や防衛手段をかなぐり捨てて駆け出した。

 

 そこからは彼にとって驚天動地の連続だった。

 首輪や幻想殺し。先代のパートナーという、これまでの努力とか諸々を台無しにする情報をサラッと告げられ、しかしアウレオルスは愚直だった。

 

『自分は何も覚えていない。知ってるだけで前の自分とは別人だ。でも、それでも尚、自分は貴方を「先生」と呼んでも良いだろうか――――?』

 

 アウレオルスのやる気メーターがカンストした。

 ローマ正教を裏切り世界を敵に回した自分を、また『先生』と呼んでくれる。

 喪われたインデックスの記憶はもう戻らないが、それでも彼は嬉しかった。

 

 本来2000人の何度も死亡してしまう生徒達を使用せず、一日掛けて超能力者である生徒以外の、魔術を行使しても問題が無い者を集め、更に自爆予防の為の術式をインデックスの助言で追加した結果、思考したモノを現実にする『黄金錬成』を、言霊を現実にする『玉音錬成(ルアハ=マグナ)』に昇華させた。

 そして今―――――。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「『軌道変更、砲撃は歪曲する』」

 

 魔神(インデックス)の放った相転移砲撃は言葉通りに空間ごと歪曲し方向を変え、虚空を吹き飛ばし、

 

「『消滅指定、豊穣の剣は奪われ消える』」 

 

 豊穣神の不敗剣は、神話通りに使用者の元から消えてなくなった。

 

「俺の右手に集めてくれ!」

「敢然、気を付けろ!『攻撃収束、指定「幻想殺し」』!!」

 

 落下してくる硫黄の豪雨は全て上条の右手に集まり、打ち消していく。

 絶望的だと思っていた魔神の攻撃は悉く防ぐことに成功する。アウレオルスの参戦は、言葉にするだけで魔神の攻撃に対処できる玉音錬成はそれだけの規格外の価値がある。

 ローマ正教やイギリス清教の反応が怖いが、今はその存在は頼もしかった。

 

「征け今代の! 私の玉音錬成では今のインデックスにどの様な影響があるか解らぬ故破れん! 更に解析されればじき封じられる!! その前に片を付けろ!」

「了解!」

 

 希望が見えると同時に、上条は走り出した。

 しかし魔神は未だ遥か上空におり、上条が幾ら走った所で意味はない。

 

「警告、第二十二章第一節。敵兵の錬金術の術式の逆算に成功しまし――――」

 

 だが――――

 

「私達を忘れて貰っては困ります!!」

「ッ!」

「『墜ちろ!』」

 

 ステイルの炎が生み出した上昇気流で跳躍した神裂とブリュンヒルドが、羽ばたく血色の翼を竜殺しと対神格術式で斬り落とす。

 そして神裂達に気を取られた隙に、アウレオルスの言霊がすかさず魔神を叩き落とした。

 数十メートルの高さから叩き落とされるものの、インデックスの肉体は歩く教会によって護られるので遠慮は要らない。

 

「行けッ! 能力者!!」

 

 そして落下した魔神に、上条が右手を構えて駆ける。

 

「――――うおおおおおおおおおおォォォッ!!」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 ――――突然だが、インデックスの話をしよう。

 彼は転生者であり、原作というこの世界の一つの可能性を知っている唯一の存在だ。だからこそ彼は仲間を集め、上条という切り札とアウレオルスという隠し札を用意した。

 原作の『自働書記』の戦いを知っている彼は、それだけの戦力と予備知識が有れば十分に対処できると考えたからだ。

 しかし彼は致命的な事を計算に入れていなかった。

「彼がこの戦力ならば十分」と考えた計算に、()()()()()()()()()()を入れることを考えていなかった。

 

 当然だろう。

 何の異能や神秘が明確に存在していない世界での一介の一般人の記憶が自分の計画に対して何の障害にもならないという判断だ。

 別の世界の。創作上の魔術や魔法や神秘の存在を。

 禁書目録の魔導書図書館と云えど不可能だと。

 

 しかし、この場には黄金錬成が存在した。玉音錬成に昇華するまでに術式を見て理解してしまった。

 そして何より、先の未来である隻眼の魔神や『グレムリン』達の、魔神達の基本能力である位相操作。

 それをこのインデックスは知っていた。

 

 魔術とは、別位相の法則をこの世界に持ち込む技術であり、超能力は『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』という名の、個々人の認識から固有の位相ともいえる法則で世界を歪める技術。

 

「――――――新たな敵兵の魔術の解析が完了しました。敵の完全排除の為、戦闘領域を構築します」

 

 策士、策に溺れる。

 彼の失敗は、この一言に尽きた。

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――『修羅道黄金至高天(Du-sollst Dies irae)』から抽出。『至高天・(グラズヘイム・)黄金冠す(グランカムビ・)第五(フュンフト・)宇宙(ヴェルトール)』、即時実行」

 

 瞬間、世界が黄金の覇道に侵食された。

 

 

 




今までアウレオルスが首輪戦で参戦する作品があっただろうか……!
というわけで今回は首輪戦前編でした。

竜殺し(グラム)
 今回ブリュンヒルドの使用する霊装として登場。クレイモアの形状の詳しい描写をプロローグでしなかったのはこれが原因です。
 有する特性は龍関係の魔術の無効化と、一度砕かれた後に造り直された逸話から自動修復機能です。
 竜王の殺息を使うのが判っていたのと、ワルキューレと同じ北欧神話なんで出してみました。
 出典は『ヴォルスンガ・サガ』です。

玉音錬成(ルアハ=マグナ)
 アウレオルス参戦を決めたから『黄金錬成』は使用者がチキンだと自滅する可能性があるので、改良しました。
 概要は、頭で考えて放った言霊を現実にする魔術で、思考のみでは発動しないようにしただけの『黄金錬成』です。


 さて、次回は首輪戦決着ですが、魔神化イン何とかがその名にふさわしい理不尽を振るいます。
 獣殿? あんなん出したら世界崩壊するんで出ません。魔術だけ他作品要素満点です。

修正点が発覚次第修正します。
感想待ってまーす。


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第十一話 魔神

感想で圧倒的獣殿人気に驚愕。( ; ゜Д゜)
しかし皆さん流出と創造を間違えている方が非常に多かったですね。

ということでどう足掻いても絶望を表現出来ているか不安な、首輪戦後編です!


 上条達が黄金の光に呑み込まれた先には、先程の光と同じく黄金色に染まった世界があった。

 

 黄金の獅子も、世界を統べる槍も、戦死者の城も何もない。

 ただ只管の黄金の空と大地。

 

「なんだ……此処」

 

 完全に理解が追い付いていない上条は思わず言葉を漏らすが、中途半端に知識がある他の魔術師は絶句して立ち尽くしていた。

 

 そもそも魔神が何をしたのか?

 文字通り『場を整えた』だけである。

 もしかしたら、上条が首輪を破壊できるかもしれないという所でこんなことをされれば悔しがるかもしれないが、ハッキリ言ってソレは魔神が本気を何一つ出せなかったからこそ言える台詞なのである。

 

 あらゆる可能性を持つ魔神が、高々神話の武具や事象の再現程度の魔術で全力全開な筈がない。

 魔神とは魔術を極め、人の身でありながら神格へと至ることで、位相を操り世界改変を行える程の力を得た者のことである。

 魔神は『真なる科学の世界』と無数の位相から成る既存の世界の上に、新しい位相を差し込むことで「世界の見え方」を変え、世界を歪める存在だ。

 

 問題は、位相を操作できても細かいところまで完全に掌握しているわけではないらしく、一度改変した位相を完全に元通りにすることは魔神でも困難であるということである。

 それこそ幻想殺しという『基準点』なんてモノが必要になるほどに。

 

 そして自働書記によって制御された防衛手段は、あくまでも『知識に対する侵入者の排除』が目的。世界を歪めるなど以っての外である。

 ならばどうする。

 そこで自働書記が目を付けたのが、本来存在しないはずの記憶。憑依者としてのインデックスの記録である。

 

 勿論大半がブラックボックスになっており、特に原作知識などは遠隔制御霊装であってもその知識を引き出すことは無理だろう。その知識が高次元の物故に。

 だが、高次元の記憶である『彼』の思い出などは無理でも、低次元のソレ等は別だった。

 そう。二次元の、『彼』が記憶した数多の創作作品の知識である。

 その中に、まさに自働書記にとって極めて都合が良い物があった。

 

 とある神殺しの男が、「全力を出したい」と渇望し具現化した世界。

 一つの宇宙を短時間で創り上げるその事象は、まさに全力が出せない魔神にとって『都合が良い』代物だったのだ。

 10万3000冊によって補助、そして最後のピースである黄金錬成の知識も手に入れた。

 

 その結果が『至高天(グラズヘイム・)黄金冠す第五宇宙(グランカムビ・フュンフト・ヴェルトール)』。

 修羅道至高天、黄金の獣の世界の一端が生まれた。

 

 勿論あくまで魔術での再現。限界はある。

 黄金に従う修羅達や、軍も城も存在しない。

 世界を支える覇王や世界を統べる聖槍も存在しない。が、態々理まで再現する必要はない。

 位相をフィルターに言い換えるならば、この黄金の世界はシールの様なものなのだ。

 故に消そうと思えば基準点など必要無しに消せ、かつての世界は姿を現すだろう。

 尤も、殺害した魂は取り込むが。

 

「………いや、ちょっと待てよ……」

 

 そして、その牙は直ぐ様上条達に襲い掛かった。

 

 

「――――『計都・天墜』。完全発動まであと三秒」

 

 星が、墜ちてきた。

 

 

 

 

 

 

第十一話 魔神

 

 

 

 

 

 

「アレも魔術なのかよ! 何でもありかァ!?」

「占星術の極致か。流石はインデックスだ」

「ええ。星は魔術において非常に重要なもの。十万三千冊によって魔神の域となったあの子なら、星そのものを落とすことさえ可能なのでしょうね」

「必然。寧ろあの子にとってはこれが本来の力なのだろう」

「惚れ直すな、流石インデックス」

「お前らホントインデックスの事好きだよなァッ!!!?」

 

 上条が頭上の迫りくる巨大な隕石を見ながら叫ぶ。

 流石に上条でもあれだけの大質量を右手で受け止める程バカではなかった。

 

「アウレオルス、アレを何とか出来るか?」

「間然。どうやらインデックスが起こした魔術には『玉音錬成』が上手く作用しない。元々黄金錬成には世界のシミュレートが必要だ。この黄金の世界と元の世界の差異がソレを阻害しているのだろう」

「流石に私もあの大岩を両断しても、後の対処は出来かねます」

「万事休すかよ!」

「慌てるな今代の。確かにあちらには干渉できなくとも、此方には干渉可能だ――――『装飾出現、指定:ステイル=マグヌスのルーンのカードを1兆枚配置』!!」

 

 アウレオルスがそう叫ぶと同時に、ステイルの服からあり得ない量のルーンカードが吹き出した。

 

「成る程―――イノケンティウスッ!!」

 

 ステイルの声に呼応して、紅蓮の巨人が出現する。

 しかもその姿は以前上条が戦ったソレとは比べ物に成らないほど巨大になっている。

 イノケンティウスの力は刻んだルーンの数に比例する。1兆ものルーンに支えられた炎の巨人は普段の三メートルから数百メートルに大きさを増大させている。

 

「燃やし尽くせ!!」

 

 接触した瞬間に物体が蒸発する摂氏三千度の業火が、隕石を支えるように抱き締めた。

 

「うおっ!」

 

 莫大な量の蒸気に顔を顰めながら、隕石の蒸発を見届ける。

 炎の巨人はそのまま魔神を捕らえるために手を伸ばした。

 

「ってステイル!」

「喧しい素人! あの子の『歩く教会』はこの程度の炎ではビクともせん。しかし如何に魔神と云えど酸素が無ければどうにも出来ない筈だ!」

 

 酸欠による気絶。

 元より純粋な魔術戦では勝てないのだ。しかし戦いとはただの魔術の比べ合いではない。

 

「このまま一気に大気を焼くが、このまま上手くいくとも思えない。上条当麻、貴様はこれまで通り只管走れ! 神裂達はコイツのフォローを。アウレオルスと僕はあの子の魔術を抑え続け――――――ッ!?」

 

 そこまで言いかけたステイルが崩れ落ちる。ソレと同時に、イノケンティウスが掴まえた魔神の身体に一瞬で呑み込まれた。

 

「なッ……!? ステイル!」

「余所見をするな聖人!! 来るぞッ!」

 

 魔神は上条達を無機質な瞳で睥睨し、掌を合わせる。そしてゆっくりと開きながら現れた 碧炎の槍を、上条達の方に構えた。

 

「火山の女神の権能『大地を飲むもの』による熱無効で侵入者の魔術の対処完了。術式『雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)』に移行し実行します。発動まで後二秒」

 

 魔神から放たれたその衝撃に、聴覚が消え、視覚が消えてそのまま残りの五感全てが機能停止する。

 悲鳴を上げることすら叶わない絶対的な暴威。

 ギリシャ神話の天空神の雷霆に匹敵する一撃が、上条達を襲った。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「っ………かっ………」

「チィ…………!」

 

 人の焼ける臭いが充満する中で最初に意識を取り戻したのは、やはり肉体的強度が最も高い聖人である神裂とワルキューレであるブリュンヒルドだった。

 

「私は……、ッ! インデックスは!?」

「相変わらず……健在だ。それより」

 

 そう。それよりも、何故自分たちが生き残れたのか。

 黄金の世界だからこそ周囲の心配が無いが、もし本来の世界で今の一撃を放たれれば日本は藻屑と化すだろう。

 ならば何故神裂達は五体満足か。

 

「! 上条当麻!!」

「脱帽だな……これが幻想殺しか」

 

 上条が神裂達を庇うように前に出て、その右手で防いだのだ。

 勿論、その代償は大きかった。

 

「………ぐッ……あッ…」

 

 呻き声で、漸く二人は現状を把握した。

 上条の右手が酷く焼け爛れ、呻き声を漏らしているもののその激痛で意識が無い。

 しかしそれ以外の傷が無いのは――――

 

「ぐッ………必然。流石に右手には適用されぬか……!」

「アウレオルス……!」

 

 放たれる寸前、アウレオルスが玉音で本来の着弾点の遥か手前にて起爆。更に神裂達の肉体の治癒をダメージを受ける前にすることで、何とか五体満足で生き延びることが出来たのだ。

 でなければ幾ら幻想殺しと言えど、直撃を少しでも打ち消す事など出来はしなかった筈だ。

 だが、アウレオルスも限界である。

 確かに『黄金錬成』は万能である。下手をしなくとも全能に届きうる程に。

 しかしあくまで人の持ちうる錬金術、魔術である。

 魔神でもない限り力の総量は限られ、大規模に使えば使うほど魔力は削られ、特に先の一撃は本来後数十度使える程の魔力が根刮ぎ持っていかれるほどに消耗する。

 

「おそらく……後二度が限界だ」

「ッ……!」

「ボサッとするなッ! 来るぞ!!」

 

 トッ、と魔神が黄金の大地に降り立ち、同時に二人の超人が弾かれるように跳びだした。

 

「『千刃黒曜剣(ミッレ・グラディー・オブシディアーニー)』。即時実行」

 

 魔神の両脇から剥き出しの黒い短刀の様な刃が千本出現する。

 一つの山を一瞬で容易く解体する黒刃が、二人を迎撃した。

 

「なっ!?」

「くっ!」

 

 音速を容易く超えて対象の獲物を粉微塵にする千の刃が殺到し、それを超人二人はそれぞれ魔術、技術、そして膂力で、それなりの深手を負いながら対処する。

 

 音速超過が可能な二人だからこそ生き延びることが出来たが、対処に全力を使わなければならない。

 聖人とは聖痕を解放し一時的に人間を超える力を振るう者達を指す言葉。

 つまり長時間もその力を使えない事を意味している。

 唯でさえ全開で力を行使しているのに、指先一つ動かさずあしらわれ、しかもその度に決して浅くない傷を負わされていては話にならない。

 神裂達の勝利条件は、上条当麻の右手を届かせるだけ。

 だというのに、それだけが余りに遠い。

 

「『万象貫く(キルクルス)黒抗の円環(ピエロールム・ニグロールム)』。完全発動まで後七秒」

 

 そして間髪入れずに万もの黒い杭が、魔神を中心に何重もの円を描くように展開、掃射され―――――如何に聖人やワルキューレといえど、流石にコレは躱せきれなかった。

 

「ぐあッ!!」

「ぎッ……! コレは……!?」

 

 そしてその攻撃は、一本でも喰らってはいけないモノだった。

 

「石化の、杭ッ……!?」

 

 穿たれた箇所は腕や足。肩などで、致命傷は辛うじて避けられたものの、そこから侵食していくように石化が拡がる。

 待っているのは、怪物メドゥーサに挑んだ勇者や兵士達と同じ末路。

 つまりは、死。

 

「『自陣全対象、全快せよッ!!』」

 

 そんな結末を覆したのは、アウレオルスの『玉音錬成』。

 

「……助かる」

「感謝します!」

 

 拡がっていた石化は瘡蓋の様に剥がれ落ち、傷一つ無い綺麗な肌が覗いた。

 更に肉体に掛かっていた負担もなくなり、文字通り全快した状態に神裂達は戻る。

 

「ぬぉっ……」

「クソッ……まさかイノケンティウスごと魔力を持って行かれるとはね……!」

 

 勿論、各々気絶していたステイルと上条も。

 

「ぜえッ……! ハァッ……!」

 

 しかしアウレオルス自身に、玉音錬成は作用しない。

 否、やり方を整えればアウレオルス自身も回復する。

『玉音錬成』の構造は銃に例えられる。

 望む結果を銃弾とし、言霊という引き金を引く。本来コレは短い言霊でも望む現象を起こすための措置なのだが、満身創痍のアウレオルスには『皆を全快させる』という思考に自分が入って居なかった。

 一度振り出しに戻ったとはいえ、上条の右手の負傷は治癒していない。

 とはいえ、やはり心の支えとしてだけでも、『玉音錬成』は心強いモノとなっていた。

 

 しかし、魔神はその脅威を決して見逃さなかった。

 

「―――――『無間刹那大紅蓮地獄(アルゾ・シュプラーハ・ツァラトゥストラ)』から抽出、『 涅槃寂静・終曲(アイン・ファウスト・フィナーレ)』。完全発動まで後五秒」

 

 時が止まった。

 思わずそう錯覚した。

 

『――――――――ッ!!!?』

 

 回復したステイルも。

 歯を食いしばって起き上がろうとしているアウレオルスも。

 上条の道を必死に開こうとしている神裂とブリュンヒルドも。

 上条以外の全てが限りなく動きが遅延している。 

 神裂達の中で動いているのは、時間停止に等しい停滞を齎されたが故に加速した知覚のみ。

 

「……神裂、アウレオルス? ブリュンヒルド!? ステイル!!」

「『 涅槃寂静・終曲(アイン・ファウスト・フィナーレ)』も『上条当麻』に有効な効果が得られず。これまでの検証を鑑みて、『基準点』の宿主が耐えられない破壊を加えれば排除可能と推測。同時にこれ以上の『至高天・(グラズヘイム・)黄金冠す第五宇宙(グランカムビ・フュンフト・ヴェルトール)』の展開は限界と判断し、『青銅の鋸刄』による術式の構築。『太極』の破壊と侵入者の完全排除を実行します」

 

 時間停止に等しい時間の停滞に一人囚われず、しかしそれによって取り残された満身創痍の上条は困惑するしかない。

 しかし、迎撃装置でしかない魔神は、そんな上条に詰みの一手に手を掛ける。

 その言葉と同時に、魔神が右手を頭上に翳す。その瞬間、『世界』に溢れる黄金が魔神の掌に集まった。 

 

 

「―――――『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』。完全発動まであと二十秒」

 

 

 いつの間にか魔神が握っていた鋸の様な刃の青銅剣に、黄金が纏いながら形を成していく。

 現れたソレを、上条は『剣』だと思えなかった。

 出来上がったのは、剣というより円柱状の刀身を持つ突撃槍のような形状の何か。

 そしてそれら自体が巨大な力場である三つの円柱が回転し、空間変動を起こす程の時空流を生み出していく。

  

 ハッティの神話に於ける地の王、後に生命と泉の意味名を持つ深淵の主の宝剣。

 彼の者を神々の王座から引き摺り下ろし、嵐神の軍を滅ぼす為に産み出された天に聳え立つ、怪物ウルリクムミを天地ごと切り裂いたエアの鋸。

 数多の神話の武具の中で最も規模の大きな、まさに最強の名も無き『剣』。

 曰く、宇宙ごと斬った。

 曰く、神々でさえ斬った瞬間を知ることが出来なかった。

 世界創世の権能、天地開闢の理の具現。

 

 インデックスは、これを乖離剣と呼ぶだろう。

 

「あ………」

 

 上条は即座に理解した。

 アレは防げない。アレは振るわれた瞬間、斬られた認識すら出来ず上条達の命ごとこの黄金の世界を切り裂くだろう。

 可能性が有るとしたら、アウレオルスの『玉音錬成』で剣を振るわれる前に魔神の知覚領域から逃れる事のみ。

 しかし『玉音錬成』はあくまで言霊。

 言葉を紡ぐには、時間の流れが遅すぎる。

 神裂やブリュンヒルドも、圧倒的に引き延ばされた時間に抗うことが出来ない。

 

 万策尽きた。

 もう、勝てない――――――、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそも神と人の差とは、確固とした唯一つの事実によって隔たれている。

 成る程怪物ならば英雄が倒すだろう。

 成る程英雄ならば人が倒すだろう。

 しかし、古今東西あらゆる神話伝承において半神などの例外を除き、人や英雄は決して神に勝つ様子が描かれたことはない。

 天災や神権授受などを筆頭に、人間にとって神とは決して抗えず、賜り祭り鎮める存在である。

 寧ろ人間では絶対に勝てない『人の権威を打ち砕く』象徴だ。

 故に人に神は絶対に殺せないのである。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――横合いから突如『世界』を吹き飛ばしながら現れた『槍』が、魔神の『剣』を粉砕するまでは。

 

「…………!?」

 

 その驚愕の声は誰のものか。

 しかし周囲の理解を置いてきぼりにし、『槍』は『剣』と共に粉々になり、黄金の世界は時間の停滞と共に壊れ、学園都市の風景に戻っていた。

 

「新たな敵兵を確認。解析を――――」

「遅い」

「――――!!」

 

 高いソプラノの、成熟する前の美しい女性特有の声が響く。

 

 魔神は瞬時にその魔術を理解した。

 北欧神話に於ける女の髭、岩の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾液から作られ、それ故にこの世から存在しなくなったとされる魔法の紐。

 神喰らいの悪狼を縛ったとされる足枷だ。

 宝剣を破壊された魔神は地に縛り付けられ、身動きを封じられる。

 しかし、僅かな時間だけ。

 

「敵兵の魔術の解析が完了しました。対北欧系術式の構築を開始しま――――」

「やらせませんッ!!」

 

 そして超人達はその僅かな時間を決して見逃さなかった。

 拘束を引き千切る前に魔神に七本の鋼糸と、神裂本人が再び動きを封じる。

 

「乗れッ! 幻想殺しッ!!」

「アァッ!!」

 

 同時に上条が数十センチ程跳び上がり、ブリュンヒルドはその大剣を上条を乗せるように差し込んでサーフボードの様に上条を乗せ、

 ―――――ビルすら振り回せるワルキューレの全力を持って、振り回す軌道で大剣を薙いだ。

 

「―――――ッ!!」

 

 奇しくもそれは、正史に於けるある一幕と同じモノだった。

 砲弾の様に飛んだ上条は、ただ右手を伸ばす。ただソレだけで、全ての片は付いた。

 

 (神様。この世界がアンタの作ったシステムの通りに動いてるんだってんなら――――――――)

 

 友人とハイタッチするように優しく気軽に伸ばされ、骨が軋むほど握りしめられた右手は、

 

 (――――――まずは、その幻想をブチ殺す!!)

 

 バキンッ!!! と、インデックスの頭部に直撃し吹っ飛ばした。

 あれほどの理不尽を振るってきた出鱈目な存在相手に。

 本当に、一撃で何もかも一切合切決着した。

 

「――――警、告。……『 自動書gg、』致命的な、破壊……再生………不hdhgsghfddhh……――――」

 

 そして、ただ致命的な破壊程度で納得するほど、()()()()()()は甘くない。

 

「インデックスを『完全解放』せよッ!!!」

 

 追い討ちの如く、アウレオルスの最後の一言でインデックスに仕掛けられたあらゆる縛りは消滅した。

 世界は残酷である。まるで予定調和の如く、約束されていたかの様に、その運命はやって来た。

 

 

 ―――――一枚の羽根が上条の頭部に落ちてくる、という形で―――――――。

 

 

 

 

 

 




最後のは誰なんだー(棒読み)

という訳で首輪戦はこれにて終了、次回は本編エピローグです。

今回出した他作品の術の出展は『神座万象シリーズ』、『魔法先生ネギま!』、『型月作品』、『BLEACH』でした。
選考基準は、
余り動かない。
唯の魔術師なら即死級。
最後の以外惑星破壊級ではない。
その作品を自分をよく知っている。
でした。


修正点は随時修正します。
感想待ってまーす(*´ω`*)


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エピローグ 首輪付きから自由な“空”へ

本編エピローグ。
ここまでお付き合いして頂き、感謝。



 翌日、インデックスは首輪と自動書記が消滅したことによる影響を脳医学の面から検査するために、冥土返しの病院にいる。

 当麻は右手の治療で同行しているのだ。

 

「しっかし、良く生きてたな俺。マジで死ぬかと思った」

「はっはっは。何ヤったか覚えてないのでワカンネ」

 

 結果だけ述べると、当麻は原作通りに脳細胞が焼ききれて記憶を喪っていた。

 そこで対処したのが、万が一記憶を破壊されても復元でき『保険』の役割を持ったアウレオルスである。

 通常の治癒魔術では、どれだけ効果が有ろうと幻想殺しで打ち消されてしまう。

 端的に述べるとそれが当麻が魔術の恩恵を得られない理由である。

 しかし、原作で当麻は確かにアウレオルスの『黄金錬成』によって記憶を封じられていた。

 それだけでなく、窒息させることも出来た。

 

 つまりそれは局部的には『黄金錬成』で当麻に直接干渉可能であることを証明しているのだ。

 ならば脳の損傷を復元する事は可能な筈である――――というのが、インデックスの推測だった。

 

 幻想殺しは世界の歪みを修正する基準点であるが、異能である筈の人間には何の効果も無い。

 故に記憶の封印などの魔術効果そのものなら兎も角、傷が無くなった事実に対して幻想殺しは何の障害にもならない。

 既に魔術によって傷つけられたモノに触れても治らない様に、既に魔術によって治療された後の傷に触れても傷が戻らないのは、当たり前の道理であると。

 そしてそれは見事に的中。

 右手には処理不全を起こす程の力でもない限り干渉不可能だが、局部的に復元することによって上条当麻は記憶を取り戻したのだ。

 

「成功して良かったよ。まぁ最悪右手ブッた切って治すって手もあったんだけど」

「良かった! 本当に良かったッ!! じゃあ俺は呼ばれてるから行くなッ!」

 

 当麻は逃げ去った。

 首輪戦以降、当麻は不幸を察知し事前に回避する術を身に付けていた。

 まぁ実際に診察に呼ばれていたのだが、実にからかい甲斐のあるヒーローだ。

 インデックスは病院の屋上に足を運び、自由を象徴するかのような晴れ晴れとした大空を仰ぎ見る。

 

「本当に、有難う」

 

 当麻は勿論、ブリュンヒルドやシルビアにオッレルス。アウレオルス先生に火織にステイル。

 首輪と自動書記の破壊を手伝ってくれた皆に、本当に感謝していたのだ。 

 

 ブリュンヒルドはこのまま学園都市に腰を落ち着けるらしい。

 聖人とワルキューレの力があれば十分やっていけるし、最悪インデックスが養っていけば良い。

 幸い北欧五大魔術結社から奪った金は莫大である。

 豪遊しても何ら問題のない量だ。

 

 アウレオルスは学園都市を出て、エリザリーナ独立国に向かった。

 近年、ロシアのやり方に納得できず独立した小国の集まりで形成された、ロシア、『殲滅白書』本拠地のある場所から一番近くに存在する国家である。

『黄金錬成』に至ったアウレオルスである。

 その気になれば容姿さえ容易く変装可能だろう。

 どうやらローマ正教から身を隠しつつ、そこで魔導師として錬金術を教えるつもりのようである。

 別れ時に「漸く、卒業を言い渡せる」と言い残して。

 

 そしてイギリスに帰還した神裂とステイルは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 エピローグ 首輪付きから自由な“空”へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上条とインデックスが別れた時から、幾分か時間が巻き戻る。

 

『やぁインデックス、君とこうして再び会話できることを心から神に感謝しよう』

「それはあれかな、魔神になった俺と掛けてるのかね。それで、イギリス清教は?」

 

 お世辞にも明るいとは言えない場所で、インデックスは携帯端末でステイルと通話していた。

 即ち、『首輪』という十万三千冊の魔導書を抱える彼を取り巻く環境の、イギリス側の見解を知る為である。

 

『一応静観といったところだ。僕達を騙し君に行っていたこともそうだが、何より嘘の報告をしたんだからね。様子見といった処だ』

「報告内容にあらゆる異能を打ち消す右手があり、同時に『黄金錬成』に届いた先生を報告しなかったなら破損しても首輪が機能していると思い、遠隔制御術式が使えると考えるのは当たり前だよなァ」

 

 そして、幻想殺しの性能を今代の担い手本人以上に知る者は限られている。

 実際に『首輪』に作用させればどれほど損傷するのかなどが分かるのは、それこそ()()()()()()()使()()()()()()()()

 

最大主教(アークビショップ)にはのらりくらりとはぐらかされたよ。全く女狐めが』

「ステイル達はそのままイギリス清教所属として過ごしてくれて良いよ。荒立てず、必要以上に敵視する必要も無い。『敵』の人数結構居るから、事故死に見せ掛けた暗殺とかされたら本気で怖いから」

『……わかった。ではまた電話する、それまで息災で』

「ニコチン摂取し過ぎて倒れないでねー。最近喫煙者への風当たり強いんだから、年相応にココアシガレットに変えたら?」

『ニコチンの存在しない世界、それを地獄と呼ぶんだよ』

 

 そう言って、電話は切れた。

 果たして十四歳で重度のヘビースモーカーだと肺にどれだけ影響があるのか心配するも、小学生にしか見えない女教師(重度のヘビースモーカー及び大酒飲み)を思い出し苦笑する。

 全く以てこの世は不思議に満ちている。

 

『──────もう良いのか?』

「あぁ、電波ありがとう。悪いね態々」

 

 携帯を懐に入れたインデックスは、彼が今居る建物────窓の無いビル、学園都市の主を見上げる。

 大量の機械によって構成された巨大な試験管に満ちる培養液の中で漂う、男にも女にも若者にも老人にも聖人にも罪人にも見える、『人間』。

 学園都市の創設者にして最高権力者である統括理事長。

 

「『必要悪の教会』は魔術師狩りの魔術結社、当然魔術師を探知する方法にも長けている」

 

 その方法とは、魔術師が魔術を使用する際に使用する魔力。

 魔力とは生命力の変換物であり、それ故に決して変えようがない個々人特有の色を持つ。

 

「考えてるよな。イギリス清教からの探知を逃れるため、生命維持装置で生命活動そのものを代用してるんだから。それもあの先生の開発かい?『銀の星』アレイスター=クロウリー」

 

 世界最大の魔術結社「黄金夜明」に在籍し、ヘルメス学、薔薇十字団(ローゼンクロイツ)の遺伝子を下地に魔術の発展に大きく貢献し、近代西洋魔術の礎を作った20世紀最強の魔術師。

 科学の総本山における世界最高の科学者の、それが正体であった。

 

『……本題に入ろう』

 

 当の本人はそんな事は些事であると切って捨てる。

 そこにはほんの少し『苛立ち』が込められていた。

 それは、如何に生まれたてとは云え、魔神と会話する事さえ嫌悪を抱いているかのように。

 

 そう、魔神である。

 インデックスは『首輪』から解放された際、紛れもなく人から逸脱し魔神という存在へと変生したのだ。

 元々彼は世界中にある10万3001冊もの原典を記憶の中で完全に複製した生きる魔術大百科であり、彼の蔵書全てを手に入れることができれば、魔術師は『魔神』に至ることすらできるという。

 なら『首輪』の軛から解放された今、その蔵書すべてを所有しているインデックスが魔神になるのはある種必然であった。

 

「────手を組もう、一応はソレが本題だよ」

『何故』

 

 アレイスターがインデックスを自らの本拠と云える此処に招いたのには理由がある。

 一つは、魔神というこれ以上無い危険存在が敵対した場合、確実に倒す為のホームグランドを整える為。

 そしてもう一つ。

 

「何故って、利害は一致すると思って」

『君の言う利害の一致とは、一体何なのだね』

 

 魔神となった少年の口にする利害とは何なのか。

 それを確かめることにあった。

 

 魔術サイドの頂点と科学サイドの頂点。

 加えて後者は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 一応は組織的な繋がりを持つに至ったイギリス清教と統括理事長としての交渉なら兎も角、インデックスは個人としてソレを望んでいる。

 そもそも交渉自体が発生しない。

 

 アレイスターにとってくだらないことを言うのならそれが戦闘の合図であり、大義名分にすれば良い。

 だが、世界中の魔導書を記憶した禁書目録が、アレイスターの経歴を知りながら提示するメリットとやらに、少し興味があった。

 もしそれに価値があるのならば、『計画』に組み込めば良い。

 そう、思っていた。

 

 

便所の鼠の糞以下(大悪魔コロンゾン)と、スコットランドにある契約者のメイザースとかいうニートの死体。その防衛装置として用意した『黄金』連中の排除。あぁ、リリス嬢の蘇生はそちらで勝手にやってね」

『─────────は?』

 

 

 あらゆる可能性を有する『人間』の、あらゆる可能性が硬直する。

 インデックスの言葉を、本当に理解できていなかった。

 

「娘さん達は悲劇を誘発させるこの街を創った今のお前さんを見て、果たして胸を張って誇れる父親だと言ってくれるのかな?」

 

 挑発的な言葉に、かつて獣の数字を自称した男は動揺を隠せない。

 学園都市設立の根幹、その設立理念。

 アレイスターにとって最重要である筈の『計画』と『学園都市統括理事長』としての自分をかなぐり捨てる程の“理由”が出てくるなど、欠片も想像していなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、盛大に動揺したアレイスターにどさくさに紛れて学園都市内での権利などを引き出すことに成功したインデックスは、体調が酷い『案内人』である結標淡希をカエル顔の医者の病院に送り、そこで待ち合わせをしていた上条と再会して冒頭に至る。

 

「これでアレイスターには釘を打てた。いや、楔かな? まぁ何にせよ学園都市はこれから良い方向を向くだろう。でなければあの親バカは娘に顔向けなんて出来ないから、ね」

 

 そもそも学園都市とは、『異能を打ち消す右手』と『その拳を以って悲劇を打ち砕く』という上条当麻の性質を最大限活かせるのに適した場所として造られた箱庭だ。

 その為意図的に法や構造上悲劇が発生し易くなっている。

 だが、最愛の娘達の蘇生の可能性とその窮地を知ればどうなるか。

 復讐者としての性質が大いに揺らぐことになるだろう。

 例え、怨敵の復活の存在を知ったとしても。

 

「『黄金』連中は兎も角、問題はあのクソ袋(大悪魔)だけど……まぁ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だが、対応策は既にある。

 それは上条当麻や、もう一人の特別な右手を持つやもしれない自称普通の高校生への方策となる一石三鳥の策であった。

 本来の物語の時系列では次の事件の首謀者であるアウレオルスは、既に学園都市を離れている。 

 故に時間的な余裕があった。

 

「いや――――――『絶対能力進化計画(レベル6シフト)』を考えれば、結構忙しいかな。あれはすでに起こってるし。っても、野外実験時からじゃなきゃ介入も糞もないし、先ずはもう一度アレイスターの処にカチコミ入れる必要があるかな」

 

 そんな風に今後の展望を呟きながら、病院の屋上で蒼天を仰ぐ。

 彼の胸にあったのはかつて無いほどの解放感と充足感。そして感謝の念であった。

 

「当麻、ブリュンヒルド、オッレルス、シルビア、先生、ステイル、かおり―――――」

 

 すべてインデックスの都合に振り回してしまった助力者達。

 彼らには格別の恩返しが必要だ。

 アウレオルスがローマ正教―――彼にとっての世界そのものを敵に回してでもインデックスを救おうとしたように。

 ステイルがインデックスの為にその命を捧げると誓ったように。

 彼は同等の誓いを立てる義務があるのだから。

 

 

「―――――――私も一応手伝ったんたが、お前は感謝してくれないのか?」

 

 

 いつの間にかインデックス以外誰も居ない屋上に、一人の少女が立っていた。

 隻眼で鍔広の帽子を被っている、しかし先日とは違い夏服の学生服に身を包み右眼に眼帯を付けた、金髪碧眼の十四歳程の少女だった。

 

「勿論感謝してるさ。でも自分は自動書記が破壊される迄覚えてないんだって、()()()()()

 

 人の身から神格となった魔術の神――――魔神オティヌス。

 北欧神話のルーツの一つであるデンマーク人の事績にも載り、大神オーディンのモデルとなった存在。

 より正確にいれば、オーディンその人ともいえるのだが。

 

 そして、インデックスの初めて出来た味方だった。

 

 インデックスに降霊術で英霊を降ろしたり、ブリュンヒルドと共に作り処理に困った『主神の槍』を、北欧五大結社殲滅後に渡した相手が彼女であり。

 インデックスが先日『保険』であるアウレオルスに会った帰りに遭遇したのも彼女だ。

 

 何故、彼女がインデックスに味方しているかというと、彼女の過去に起因する。

 

 この世界は、一枚の絵で例えられる。

 まっさらな『科学の世界』に、宗教や伝説、神話や伝承という(位相)が重なりあって出来ている。

 魔術は、この様々な位相世界の物理法則をこの世界に適用させる技術。

 

 そしてオティヌスは、この位相を操作、又は創造することができる。

 そして現在の世界は、彼女が何度も位相を重ねて創った世界だ。

 

 ─────より正格に言えば、魔神達が各々のリソースを奪い合った結果なのだが。

 

 何故彼女が位相を重ねてこの世界を創ったかは、インデックスには分からない。

 もしかしたら彼女すら忘れてしまっているのかもしれない。

 そしてオティヌスは、彼女のいた『元の世界』を忘れてしまった。

 この世界は彼女が何度も試行錯誤を繰り返して漸く納得して創った世界なのだ。

 

 しかし不安になった。この世界が本当に『元の世界』と同じなのか。

 誰も嘗ての世界を知らず、彼女すら忘れてしまった世界を『元の世界』と評価してくれる人間はこの世界には存在しない。

 彼女にとってこの世界は、嘗ての故郷である『元の世界』と酷似した異世界であり、彼女はその不安に駈られ一度捨てた魔神の力すら取り戻し、もう一度世界を『修正』しようとする。

 その為の『グレムリン』だ。

 もう一度、今度こそ『元の世界』に戻るために。

 そこでインデックスが現れた。

 この世界とは別の世界の記憶を持った彼が。

 

 オティヌスにとってインデックスは、確かに「同じ傷を持った唯一の同類」だったのだ。

 片や元の世界に帰りたくとも帰れないインデックスと、片や元の世界に帰りたくも元の世界を思い出せない彼女。

 特にインデックスはステイルと神裂達に追われ、加えて自身の状況を欠片も受け入れられて居なかった、謂わば最も荒れていた時期。

 そんな精神的に極限な状況で、彼の知る『知識』にて散々猛威を振るった魔神と遭遇すればどうなるか。

 

 

『――――元の世界に戻る? 恐れられ貶められた孤独の世界に戻って何の意味があるんだ? 位相が複数存在しているのにも拘らず、何故魔神が自分だけだと思っている!? そもそも! 「基準点」を使おうが一度疑いを持った時点で採点者が自分だけな以上、納得のいく位相(世界)なんて出来る訳もなく破綻しているがな!! 少し考えればわかることだろうが! 一体お前は何をしているんだ、あァ!?』

 

 

 自棄になって何もかもぶちまけたのだ。

 その時点でインデックスは生存を諦めたのだが、そんな彼と彼の言葉に何か触れるものがあったのか。

 彼の知識によって無意味と知った『グレムリン』より、『理解者』に成りうる存在を重視したのだ。

 そして同じ傷を抱えている男女が出会えばどうなるか、想像に難くない。

 

「少しは感謝の態度という物をとってもらいたいものだ。此方は折角完成した『槍』を犠牲にしたんだぞ?」

「えっと……ナニをすればいいのかな?」

「―――――今夜は寝られると思うなよ? 久しぶりに貪り尽くしてやる」 

 

 凄惨に笑う彼女に、インデックスは自らの為に思わず十字を切って合掌する。

 彼の混乱具合が分かるだろうか。

 

「……で? これからお前はどうするつもりだ?」

「当面はレッツ悪魔退治&恩返しタイムだね。特にオッティとブリュンヒルド、そして当麻には本当に世話になった」

「私は、そんなものを欲してお前を助けたのではない」

「損得勘定抜きでオッティが自分を助けてくれた様に、自分がそうしたいんだよ」

「………フン、好きにすればいい。このたらしが」

 

 恥ずかしそうに顔を隠すようにオティヌスが顔を逸らし、インデックスは笑いながらもう一度空を見上げる。

 

「……そういえば、お前には新しい名前が必要だったな」

「唐突だなぁ。照れ隠し?」

「うるさい。お前はもう禁書目録ではない。ならば別の名前を名乗るべきだろう」

「…………成る程ね。ちなみに言い出しっぺの案は?」

「ミミル。フリッグ。バルドル」

「もちょっと別のヤツ無い!?」

 

 内二つは死んでるのと生首になるのじゃないですかヤダー。

 そう嘆く彼は、暫くして意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「いや、やっぱり『禁書目録(インデックス)』でいい」

「……それはお前にとって忌み名だろう」

「いいよ。随分気を使ってくれて嬉しいけど、やっぱり自分にはこれが一番なんだろう。それに、あの溝鼠以下への皮肉が利くと思わない?」

 

 その名と役割が、今の彼、彼女との繋がりを創ったのだから。

 ――――原作なんてこの時点であってないようなものだ。

 第三次世界大戦でフィアンマは遠隔制御霊装で俺から知識を引き出せず、その後のグレムリン編は首領のオティヌスが乗り気でない。

 もしかしたらトールがグレムリンの頂点に据えられるかもしれないが、その場合グレムリンの存在意義が全く別のモノになる。

 判明している脅威はロンドンに坐す数秘術で『三三三』の等価を持つ大悪魔、そしてそれが用意した『黄金』の魔術結社。

 

 インデックスが知る未来とは異なる道筋を辿りながら、物語はどんな姿を魅せてくれるのだろうか。

 どんな姿にしてやろうか。

 体の中から湧き上がる自由と希望に胸を押される感覚を感じながら、インデックスは今日もこの世界で生きていく。

 

 

 

 




次回のあとがきを書いたらその時点で完結とさせて頂きます。

「もっと続けて欲しい」「一巻分で終わるのは勿体ない」などの続きを希望してくれた方々、本当に有難うございます。
今後の予定は、あとがきで書く予定ではあります。


修正点は随時修正します。
感想待ってまーす(*´ω`*)



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あとがき

後で修正するかもです。


 『ぼくの名前はインなんとか』本編を読了していただき、ありがとございます。

 この様な稚拙な文章に数多くの評価、お気に入り登録をしていただいて、誠に感謝します。

 

 

 さて、この作品は自分のもう一つの作品のデータとプロットがパソコンと共に破損してしてエタりかけたのが切っ掛けで書き始めました。

 完全に現実逃避とモチベーションの消失が原因です。

 

 その後リアルも忙しいことから執筆から離れていたのですが、様々な作品に触発され、妄想した結果考えたのが

 

 「メインヒロインを男にして憑依させたら面白くね?」

 

 というものでした。

 そこで見付けたのが、男女を逆転させたことによりかなりの変化が出てくるのがインデックスだった、という話です。

 ただ原作をある程度遵守したのは、あくまで完結させることを一番としていたので、オリジナル展開を多量に入れることによってグダルのを避けるためでした。

 後は自分の力不足が理由です。

 

さて、ではキャラ設定等の補足を話していこうと思います。

 

 

 

インデックス(男)

 今作の主人公でありラスボスであるキャラクター。

 彼は原作のインデックスのように決して天才ではなく、全て他人の力を借りて事を成すという主人公にあるまじきキャラクターなのですが、あくまでも中の人は凡人であり元一般市民であるのが最大のテーマでした。

 

 彼が外道化したのは、異世界で孤独になった時に同様の孤独に苛まれていたオティヌスやブリュンヒルドに出会い救われたことによって『身内』が最優先になり、そして彼女達と共にいる事が最大の行動理念になったからであり、その目的以外が全て些事となったからです。

 それは感謝している上条でも同じです。尤も、彼もまた『身内』に

なったことで除外されましたが。

 

 要は寂しがり屋だったりします。

 

 そして彼の最大のチートである人脈。というか遭遇率ですが、これもある程度無理の無いキャラクターを起用させて頂きました。

 何故コレほど大量にチートキャラを投入したかというと、この作品は原作一巻に焦点を当てたものであり、一番やりたい放題出来るのが首輪戦。

 そして新訳九巻での魔神オティヌスのあまりのチートっぷりに、「だったら同じ魔神のインデックスもあんぐらいになるんちゃうの?」ということでアウレオルスとオティヌスを急遽参戦。あぁなったわけです。

 

 

オティヌス

 インデックスとは別の意味で世界の異物であり、尚且つ理解者を求めたキャラですね。

 今作の「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」で、先代ズを除いたインデックスが最初に出会ったキャラですね。

 降霊術を手伝ったのも、処分に困った「主神の槍」を改造して原作同様の機能の霊装にしたのも彼女ですね。

 

 そもそもインデックスと彼女が出会ったのは、「グレムリン」のメンバー『ミミル』として勧誘しようとしていたのが理由です。

 『元の世界』に理解者を求めていた彼女ですが、転生者でありこの禁書世界に絶望しかけていたインデックスだからこそ仲良くなれたのだ、という設定にしております。

 でも神様転生とかそういう類いのは、寧ろブッ殺されるのではないかと。

 

 彼女が原作のことを知っている理由ですが、インデックスが全部ぶっちゃけました。

 そもそもねーちんとステイル相手にも絶望してるのに、そこに魔神を投入されれば自棄にもなります。

 オティヌスも寂しがり屋な一面もあるも思いますし。二人で満足だけど一人は嫌みたいな。

 自分はオティヌスをネギま!のエヴァンジェリンみたいなキャラだと思って書いてました。

 尤も、死ぬ覚悟で突入しても死ぬかもしれませんが。

 

 チョロインとは言ってはいけないブリュンヒルド。

 彼女は暗部で土御門同様グループ入りの予定です。書くか分りませんが!!

 本編でも彼女のことは話しているので、ここまで。

 

 お人好し極まるオッレルスやシルビア。

 彼らは結果を知ってすぐに帰りました。

 登場シーンがプロローグのみだったのは、オティヌス同様戦力的にゲストとしてでしか登場させることが出来ず、またオティヌスの隠れ蓑としての意味合いもありました。

 ていうかシルビアは兎も角オッレルスは戦闘描写が無理ゲーなのでもう書きたくないですね。

 

 そして作中指折りのチートなのに、何故か数多の二次創作でハブられるアウレオルス。

 エリザリーナ独立国に向かったことで、フィアンマがサーシャを捕まえられる難易度が跳ね上がりました。

 この世界はフィアンマに厳しい仕様になっています。

 

 ちなみに序盤登場の一方通行。

 彼が出てきたのは、もっと長編にしようか迷っていた頃の名残だったりします。

 

 さて今後の予定ですが、一応後日談をやる予定です。

 ですが、執筆自体が自分のテンションとモチベーションに依存しているので、直ぐ様この作品を更新出来るとは思えません。

 原作の新刊が出たり、または禁書アニメ三期が新しく始まったら判りませんが、取り敢えず他の作品もやりたいので更新は遅れると思います。

 

 続きを、と望んで頂いた数多くの方々に申し訳ありませんがご容赦ください。

 一応執筆活動自体は思いっきり趣味なのでちょくちょく別作品もかいているので、もしよければそちらでも御会いしましょう。

 

 ちなみに投稿予定の作品が二つ程ありますので、地雷臭漂いますがそちらもよろしければ見てやってください。

 

 

 このあとがきを書いている時点でお気に入り登録3981件、UA156323、評価平均7.74 投票者数:214人もの評価。

 何度も日間ランキングで一位にランクインすることが出来、この作品を閲覧して頂いた方々に感謝を。

 本当に有難うございました。

 

 

 

 

 

 



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2巻 絶対能力への階
プロローグ 窮鼠が猫を噛み殺す


 ―――――そこは群雄割拠の世界だった。

 星をそれぞれの領主が領地(テリトリー)として治め他の領地を攻め奪い、逆に奪い返されるなど一進一退。一種の陣取りゲームを思わせる縮図だが、その実悍ましい程の戦いが繰り広げられていた。

 陣取り方法は単純明快。

 指定された範囲での殺し合いで勝った方がその範囲を制圧できるというもの。

 勿論それだけではそもそも勝負がつかないため、勝利条件や前準備やらでバフデバフが付き、あるいは特殊な条件を満たした第三者の乱入が勝敗を左右させる。

 そして最終的に一人の領主が天下統一すれば優勝。

 その後はリセットし、ランダムで再配置された領地で再度陣取り合戦。

 そんな、場合によっては飽きが来るソレを、『彼ら』は嬉々として無限に繰り返していた。

 

『彼ら』は本当に嬉しそうだった。

 本当に楽しそうだった。

 ある意味不毛な行いを延々と繰り返していながら、何よりこれを求めていたのだと全身を使って表現する。

 世界を壊し、切り裂き、燃やし尽くし、凍り付かせ、蝕み、侵食し、呑み込む。

 星ではなく宇宙という世界を易々と滅ぼせる力を持て余し、しかしそれを世界で振るってはならないと自戒し、存在するだけで世界が砕け散ってしまうが故に『隠世』などと呼ばれる隠された位相に身を置いていた『彼ら』。

 だがどうだろう。

 そんな力を何度振るっても、この盤上はいくら暴れても壊れず、一度『上がれば』元通り。

『彼ら』以外その世界には存在しないが故に、何かに配慮する必要もない。

 そんな都合のいい世界を何より渇望していた『彼ら』は、この盤上を与えられてからずっとそれを繰り返してきた。

 

「楽しそうで何より」

 

 そんな何物にも止められない『彼ら』が、一斉に動きを止めた。

『彼ら』しかいない世界に現れたのは、銀髪の少年。

 与えられた名を『禁書目録』という。

 そんな少年に、『彼ら』は己が叡智を総動員して感謝を伝える。

 

『―――――ありがとう』

『有難う』

『ありがとう』

『アリガトウ』

『ありがとう』

『ありがとう!』

『■■■■■■』

『ありがとう』

『ありがとうッ』

『ありがとう』

『ありがとう』

 

 ――――誰にも迷惑をかけずにのびのびと生きていたい。

 そんな悩みを解決する遊び場を与えてくれた少年に、僧正は、ネフテュスは、娘々は、ゾンビは、キメラは、ヌアダは、テスカトリポカは、プロセルピナは、忘れられた神は―――――

 その他大勢の『完全な魔神達』は、心の底から感謝を伝える。

 

「なに、構わないさ。もう暫くしたら此処に送り込む奴等がいるから、そいつ等を嬲り殺し絶対に逃がさないでくれるだけで、後は自由に好き勝手してくれればいい」

 

 あぁ、彼はなんて素敵なのだろう。

 こんな遊び場を用意し提供してくれただけでなく、追加で玩具もくれるらしい。

 楽しみだ、ああ楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 先に述べておこう、コレは唯の蛇足である。

 そしてコレは、井の中の蛙が大海を知るお話である。

 

「――――さってと、魔神連中はこれで一応は解決かな」

 

 暗い室内に、怪しく稼働するあからさまに高価な機械群を抜け、これまた怪しく光る人一人入る様なポットに辿り着く。 

 入る様な、ではなく本当に人一人入っているのだが。

 

「いやぁ、中々に冒涜的かつ人道ガン無視の光景だね。しかも、悪意という観点としてはかなりマシな部類というのがこれまた救えない」

 

 生体ポットの中には、まるで生まれてから一度も髪を切ったことのないような長い髪に、一度も紫外線を浴びたことの無いような艶やかな裸体を晒している少女が一人。

 当然である。彼女はまだ生まれていない。

 生体ポットという胎盤に浮かぶ胎児なのだから。

 

「ねぇ、生きたいか? それとも敷かれたレールに従ってこのまま死んでいくのがいいのかな? 生憎と、助けを求めない奴を助けるほどお人好しじゃないんだよ」

 

 問い掛けた少年に対して、彼女の返事は無い。

 彼女には意識がないし、そもそも返事を返す知識すら持ち得ていない。

 しかし、『彼女達』は確かにその言葉聞き、選択した。

 その返事を聞いた少年は、満足そうに笑みを浮かべ、

 

「一応は約束通り殴り倒しているから、時間稼ぎはいくらでもできる。だけど屋内で実験されて場所が分からない場合はちょっと関与は難しい。流石にそのまま自分が計画を破綻させるには少々道理に欠けるからね。だから主役は『君』だ」

 

 少年はリズムを取るようにタンッ、と足を叩き、その部屋は世界から切り離された。

 

「電気操作能力を利用して作られた脳波リンク、クローン人間特有の同一振幅脳波を利用した電磁的情報網。だがその正体は――――うん、強化案としては中々。器の調整は必須だろうが、ソレは幾らでもできる。ただ、計画に従うだけの雛ではだめだ」

 

 彼女の宿敵は、彼女達のことを人形と言った。

 事実、彼女達は科学者にとって玩具だろう。

 

「―――――布束砥信。彼女の頑張りも必要か」

 

 必要な機材と必要な材料を揃えれば、ボタン一つ押すだけでいくらでも造り出すことの出来る人形だ。

 壊れたのなら廃棄処分。必要無くなっても廃棄処分。

 彼女達の生みの親は、そもそも彼女達を人間として見ておらず、自分達の望む結果を出させるための実験動物(モルモット)でしかないのだから。

 

 ならばイイさ、人形で。

 ただし、『神の()()()()』ではあるが。

 少年は、彼女を――――――

 

 

『絶対能力進化計画』。

 それは学園都市の存在理由である、前人未到のlevel6。

 level5の一人を、『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着く者(SYSTEM)』に進化させる計画である。

 

 しかし本来、その者を進化させるには二百年の歳月が掛かる。それを無くそうと言うならば、それ相応の対価が必要だ。

 二万人のクローンを皆殺しにするという対価が。

 科学者には人道など度外視で、倫理など投げ棄てている。

 そして哀れな童はその狂気に呑まれ、二万人の少女を『人形』と思い込むことで心を守った。

 

 科学者研究者は、二万体のクローンが二万通りの殺され方をし、たった一人の童が二万通りの殺し方をする事で、童が大人になれるのだ思い込んでいる。

 ―――――コレは本来、最強が最弱に敗れる物語である。しかしあくまで本来。

 役者が代われば筋書きも変わり、終わり方も変わっていく。

 

 この物語には神がいる。神と呼べるほどの怪物がいる。

 しかし彼は倒す者ではない。彼自身それを望んでおらず、誰も望んでいないし不粋極まりない。

 子供の喧嘩に大人が銃火器持って皆殺しにするようなモノだ。そんな話を誰が望むものか。

 

 ならば誰が最強(井の中の蛙)を倒す?

 

 ヒーローか? 否。

 確かに相応しいかも知れないが、それでは面白味に欠ける。

 何より怪物は彼が傷つくことを嫌う。

 

 ならば雷撃の乙女か?

 論外だ。話しにならん。

 彼女が彼を倒せる道理は無く、怪物が手を貸す程の接点も無い。

 故に彼女が舞台に上がろうとも主演には決してなれず、無理矢理納めても敗北して退場してしまうだけだ。

 そしてそれはこのお話を悲劇で終える事になる。怪物はそれを望まない。

 では誰か、主演にたる縁を持つ役者は居るだろうか。

 

 居るではないか。

 本来の脚本では唯の敗者としてしか描かれなかった彼女らが。

 痛かった筈だ、悔しかった筈だ。苦しかった筈だ終わりたくない筈だ唯の敗者で終わりたくなどない筈だ!

 潰され引き千切られ、嬲られ貪られ蹂躙されそれで終わってなるものかとッ!

 

 ヒーロー? ヒロイン? そんなポッと出にくれてなるものか。 

 

 この戦いは本来我々のモノだ。

 我々のモノだと、この宿敵を打ち倒すのは我々だと。

 討ち倒して良いのは我々だけだと!

 誰にも渡さん! それを為さなければ、我々は一歩も前に進めない!!

 

 彼女達にはその権利が存在する。何故なら彼女達こそが、ヒロインやヒーローと違い、紛れもない当事者なのだから。

 少女は身も心も、その全てを怪物にささげるだろう。しかしそれでも尚、『死にたくないのだ』。

 賭けに勝っても、『彼女』は縛られる。しかしそれ以上の自由も得られるのだ。

 

 だからこそ、怪物は彼女達に興味を示し、力を貸す。

 だからこそ『彼女』は、やくざな怪物に賭け金を借り出した。

 ソレが法外な利息が生じる、悪魔との契約だとしても。それでも尚、一夜の勝負に全てを賭けた。

 

 ――――繰り返す。

 このお話は、窮鼠が猫を噛み殺すお話である。

 

 




最初に出てきた『新グレムリン』はもう出ません。だって情報碌に無いんだもの!
何やねんイキナリ魔神軍団とか!

修正結果↓

脳筋どもは隔離しましょねー


修正版はでき次第随時更新していきます。
修正点はおって修正します。
感想待ってます!(ノ´∀`*)


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第一話 実験を止める冴えた方法(脳筋)

 ―――――禁書目録と呼ばれる少年が救われた半年前から、学園都市では極秘で行われる実験が存在していた。

 

 学園都市の違法実験の一つ、今回の事件である『絶対能力進化(レベル6シフト)』。

 木原幻生が提唱し、学園都市が誇る世界最高のスーパーコンピュータ『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の算出したプランに従い、学園都市で七人いる超能力者(レベル5)の第一位、一方通行(アクセラレータ)絶対能力者(レベル6)へ進化させる実験。

 特定の戦場を用意しシナリオ通りに戦闘を進める事で成長の方向性を操作。「二万通りの戦場を用意し、二万体の『妹達』を殺害することで『絶対能力者(レベル6)』への進化(シフト)を達成する」という、国際法と人道と正気からかけ離れた悍ましい所業である。

 

 しかしこの実験は本来、あるいはあり得たかもしれない正史において第一〇〇三二次実験で無関係な一般人の妨害が入り、「最強の超能力者が最弱の無能力者に倒される」という完全なイレギュラーを切欠に、結果として計画は無期凍結された。

 これが最終的に10031人もの違法誕生したクローンの犠牲を払いながら終結した実験の末路である。

 

 しかし、これは()()()()()()()()()()可能性。

 

 学園都市における超能力開発の究極の目的。「人間では世界の真理は理解できないが、人間を超越した存在となれば神様の答えに到達することができる」という考えに基づく『絶対能力者(レベル6)』。

 そんな『絶対能力者(レベル6)』と酷似した、『魔術を極めすぎて、神様の領域にまで足を突っ込んでしまった』人間。

『人の身で在りながらその存在を、魔術の修得と儀式でもって神格へと昇華させた者』とも、 『魔術で世界の全てを操る者』とも表現される―――――『魔神』という、世界を容易く滅ぼし創る超越存在へと至った者の介入を以って変質する。

 

 それを阻む者は居ない。

 阻める可能性を持つ者は、場合によっては計画凍結を後押しするだろう。

 元より自由に動かせる大量の能力者としての価値が既にある妹達(シスターズ)だ。

計画(プラン)』としては、寧ろ喜ばしいことだろう。

 何より『計画(プラン)』の主は、既にこの街での悲劇を求めてはいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

第一話 実験を止める冴えた方法(脳筋)

 

 

 

 

 

 

 

 

 御坂美琴は困惑していた。

 噂から事実へと昇華した『自身のクローン』の存在。

 超能力者を生み出す遺伝子配列のパターンを解明し、偶発的に生まれる超能力者を確実に発生させることが目的の計画。

 交渉人を介して騙し、書庫に登録させた御坂美琴のDNAマップから彼女のクローンである量産軍用モデル『妹達』を誕生させ量産を目指した実験―――――『量産型能力者(レディオノイズ)計画』。

 

 しかし計画は未然に潰えた。

 理論を確立し、量産体制を構築しようとした計画最終段階で、樹形図の設計者の予測演算により、『妹達』の能力は超電磁砲のスペックの1%にも満たない欠陥電気であることが判明。

 遺伝子操作・後天的教育問わず、クローン体から超能力者を発生させることは不可能と判断され、すべての研究は即時停止、研究所は閉鎖し計画は凍結されたからだ。

 

 そんな実験凍結報告書を、使われなくなった研究所に忍び込み、残された資料の中から見つけ盗み見ることで、安堵する事が出来た最中に、

 造られる前に凍結されたはずの実験の産物と思しき、ミサカ9982号を名乗る『妹達』と遭遇してしまったからである。

 なのに―――――――――

 

「ミサカの素体は名門常盤台中学の中で尚、他の学生達の見本とされる令嬢と聞いていましたが───」

「……なによ」

「ま、世の中こんなもんですよね」

「何だコラ」

 

 能天気な無表情という奇妙な、自身と瓜二つの少女。

 御丁寧に髪型や制服まで同一である。

 頭部にある赤外線可視ゴーグルが無ければ、他人では本気で見分けが付かないだろう。

 当初は『自身の立場を乗っ取る』や『オリジナルの抹殺』など、クローンものの創作物でありがちな展開を危惧したが、当の本人は今は美琴(オリジナル)からミルクティーやショートケーキをせびって食していた。

 試しに万札崩してガチャして手に入れたゲコ太バッチを軽く着けてみれば、そのセンスの幼稚さを酷評された挙げ句バッチの所有権を主張し倒されたのだ。

 

(これが私のクローンかぁ……)

 

 だが、美琴の頭を占めているのは唯一つの疑問。

 何故、そんな存在が目の前に居るのか。

 

 彼女は『絶対能力進化』計画をまだ知らない。

 美琴が学園都市の闇を覗き込むのは、この後すぐである。

 そんな学園都市を二人で歩きながら、夕暮れに夜の帳が下りてきた頃。

 

「あっ。居た居た、探すのに苦労したよ全く。この街は自分を迷わせるにも程があるって」

 

 そんな彼女達に話し掛けてきた少年が居た。

 男性にしては長い銀髪を束ね、神聖な雰囲気をガテン臭いTシャツと紺色のオーバーオールで台無しにした、13~14程度の年の少年である。

 

「やぁ、自分の名前はインデックス。君達はミサカ9982号君と御坂美琴嬢であってるかな?」

『―――――』

 

 一瞬にして美琴の警戒度が跳ね上がる。

 今の自分たちを見ても精々瓜二つの姉妹が普通だろう。

 仮に美琴自身はそれなりに有名として、自分のクローン(9982号)のことを正確に言い当てられる奴が一般人な訳がない――――!

 

「実験の関係者でしたか? とミサカは実験で何かあったのかと首を傾げます」

「いやいや、自分は実験の―――――」

 

 美琴の行動は速かった。

 なにかを少年が口にする前に、彼の腕と襟首を掴み、脅すように静電気程度の電気を流す。

 

「動かないで」

「おや、まぁ」

 

 自身を御坂美琴だと知っているのなら、その脅威も理解している筈だろう。

 その動きに容赦も躊躇もなかった。

 実はこの行動は先程9982号に行っている。

 しかし彼女は眉一つ動かさずに、曰く『量産型能力者(レディオノイズ)計画』以外の『実験』のことを一切喋らなかった。

 そんな彼女に美琴は電撃での尋問は出来なかったが、こんなタイミングで第三者が現れてくれるとは好都合だった。

 

「アンタ、この子の何を知ってるの? その様子じゃあ、実験とやらにも詳しいみたいじゃない」

「うーん、別に話するのはいいけど……感慨深いなぁ」

「……は?」

 

 しみじみと頷く、インデックスと明らかな偽名を名乗った少年の態度を訝しむ。

 

「いやほら、普通超能力者(レベル5)にこう脅しかけられれば、数日前はどれだけ取り繕おうとも内心冷や汗ものだったのにさ」

「……」

「それがこんな余裕ぶっこけるんだよ? そりゃあ感慨深いと言いたくもなるよ」

「……私を舐めてるの?」

「ただ、他人にイニシアチブを持っていかれるのは腹の据わりが悪いかな?」

「!?」

 

 拘束し、加えて反射波(電磁波)を利用してレーダーのように周囲の物体を感知し視覚や聴覚が潰されても空間把握ができ、死角からの攻撃にも対応可能な美琴が、いつの間にか地面に投げ飛ばされていた。

 

「くッ……!?」

 

 自身が過ごしている女子寮の寮監を彷彿とさせる異常事態に、しかし痛みはない。

 すぐさま起き上がるも、少年と9982号とは十メートル以上も離れていた。

 

(空間移動(テレポート)!? でも投げ飛ばされた感覚はあったのに、それを私が認識できていない……! まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……一体、どんな能力!?)

 

 少年は彼女の服に付けられたゲコ太バッチを、文字を描くようになぞる。

 

「さてミサカ9982号ちゃん、君には……うん。取り敢えずこれをプレゼントだ」

「なにを――――?」

「おまじないだよ。知らない? 北欧のルーン」

 

 ほんの僅か発光したその文字は、染み込むように消えていく。

 

「さて、これで準備OK。さ、いってらっしゃい。御勤めがあるんだろう?頑張ってきなさい」

「……言われるまでもありません、とミサカは実験への意気込みを露にします」

 

 そういって美琴へ振り返り、別れの言葉を口にする。

 

「さようなら、お姉様」

「え?」

 

 きっとそれは機械によって与えられた当たり前の知識としての行動だろう。

 本来万感を込めるべき言葉に、感情の色はない。

 それを指摘することを、何も知らない美琴はできない。

 だが、

 

「いやいや、そこは『さようなら』ではないよ、妹ちゃん」

「?何故ですか────」

「そこは『またね』だ。大丈夫、自分が保証しよう」

「……しかし」

 

 戸惑う9982号に、インデックスは無理矢理「いいのいいの」と頬っぺたをぐにぐに弄くる。

 そんな彼に渋々従った。

 

「……では、また」

「ちょ───」

 

 そう頭を下げ、足早にその場を彼女は後にする。

 行先は二人の会話から彼女曰く実験とやらなのは明らかだ。

 当然ソレを追おうとする美琴の前に、しかしオーバーオールのポケットに両腕を突っ込んだインデックスが道を塞ぐように彼女の前に立つ。

 

「……ッ。そこ、退きなさい」

「それは出来ない。意味がないからね。まぁそんな怖い顔をしなくても、説明するさ」

「? どういう―――――」

「オッティ、『骨船』お願い」

 

 何を、と美琴が口にする前に、ぐるり、と世界が回る。

 自身ではなく世界が回るという異常事態の中、美琴の意識が薄れゆく。

 急激な眠気に抵抗しようと足搔くが、そんな美琴の意識を刈り取るようにインデックスの声が聞こえる。

 

『彼女たちは負の感情を感じにくいが、「彼女」の感性は人並みに成熟しているんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、『絶対能力進化(レベル6シフト)』実験の研究者たちは、監視カメラに目を剥き、信じられないように呆けたように口を大きく開ける。

 彼らは『妹達』を本気でラットやモルモットの様に考えている。

 故に既に9981回、彼女たちが惨殺されている様子を見ても、積み重ねられた死体を見ても、パソコン画面の数字を見る目と同じ色で見る事が出来る。

 しかし、そんな彼ら彼女達でも目に映る映像が信じられなかった。

 

 画面に映る映像には、学園都市最強の超能力者が一方的に嬲られている姿が映っていた。

 

 彼らは知っている。

 一方通行がどれだけ強いか。

 幾らクローンといえど様々な武装をした『妹達』を圧倒、惨殺したことを知っている。

 にも拘らず、画面に映る一方通行がケンカ慣れしていない虚弱な少年にしか見えなかった。

 

『魔力というエネルギーを生命力から生成、消費し、異世界の法則を無理矢理現実世界に適用して様々な超自然現象を引き起こす技術が魔術だ。文化や伝承によってその様式は千差万別であり、突き詰めれば何でもありの異能力だが、基本的には上記の定義を満たす行為全般を指すんだけど、要はつまり別世界の物理法則ということなんだ。これについては前に話したかな?』

 

 一方通行の能力で真っ先に挙げられるのが、『反射の壁』だろう。

 あらゆるベクトルを操る、学園都市の能力者最高の頭脳を持つ彼は、無意識に───それこそ睡眠中でさえ『向かってくるベクトルを反対にする』設定を保持している。

 故に例え核の爆炎でさえ、彼を殺すことは出来ない。

 そんな絶対とも錯覚する能力を、まるで存在しないように突破し、そのイレギュラーは拳を叩き込む。

 

『がああああああああぁぁぁぁッ!!!!』

『つまり自分に反射を適用させるには、自分のベクトルを解析するのが正解だ。だけどお前さんは如何せん……聞えてるかなコレ。取り敢えずいろいろ端折るけれど、お前さんの能力はベクトル変換だが、その真価はそんなものなんかじゃあない。学園都市第一位と認められたチカラは、ベクトル変換を支えるその解析能力……あぁ、悪い。話はまた今度にしよう』

 

 特別な能力を使用しているようには見えない。

 態々対策を用意する必要など無いと言うように、とても自然に一方通行を圧倒する。

 

 一方通行が地面を割り、大気を裂いて、自転すら手中に収めて拳を振るおうが、本来掠るだけで人体が染みに変わる一撃を、素人のテレフォンパンチというように捌いていく。

 込められた運動量から考えて、明らかに不可能だというのに。

 触れるだけで人体を粉砕する毒手を何の躊躇いもなく掴み、背負い投げる。

 

『ギっ!?』

 

 元より、一方通行に『喧嘩』の経験など無い。

 ここまで殴る蹴るの暴行を受ければ、立ち上がることさえ容易に困難になるだろう。

 投げられ地面に叩き付けられた一方通行は、反射によって地面との衝撃こそ無くすが、止めと言うようにイレギュラーは彼の首を流れるような動きで締め上げた。

 

『なに、実験は後1万回以上あるんだろう? 今回は打たれ弱さを鍛えるということで。ボコられ損かと思うかもしれないけど、現実に無意味な事なんて無いと――――何見てんだクソ共』

 

 瞬間、監視カメラがおぞましい轟音と共に消し飛ばされ、研究所の画面がノイズにまみれる。

 ─────ソレだけではない。

 

「かッ……!」

「かひゅ―――――――ッ!?」

「な、なんだ!?」

 

 画面を観ていた研究者全員が、首を押さえて倒れ込む。

 その喉元は、鋭利な刃物で切り裂かれた様に削ぎ落とされていた。

 まるで、画面越しに彼らを攻撃した様に。

 恐怖が、研究室を席巻した。

 

「が、画面を観る人間を害するだと……!? そんな能力聞いたことがないぞ!」

「救急車を呼べ!!」

「そんなことより、実験はどうなるんだ!?」

「今回実験予定のクローンは何処へ行った!」

「上へ連絡しろ!!」

「一方通行の確保を! 今動ける他のクローンを向かわせるんだッ!」

 

 斯くして第9982実験は行われなかった。

 その前に一方通行が実験不可能となり、そもそも今回の実験用に調整した9982号クローンが行方不明となった。

 

 一方通行は第七学区のとある病院に搬送され、傷も軽傷なため翌日直ぐ様退院したが、実験を再開しようとすればイレギュラーは再度現れた。

 その事は伝えてあったようで、一方通行もこれに全力戦闘を即時開始。

 しかし、これをイレギュラーは再び退ける。

『絶対能力進化』の研究者達の混乱と、一方通行の短くも濃い通院生活の始まりだった。

 

 

 




Question:
つまりどういうことだってばよ!?

Answer:
実験に向かう一方通行を襲撃。病院送りし続け実験を停滞させることで時間稼ぎし、布束ちゃんの感情プログラムのインストールイベント待ち。
同じく実験に向かった妹達も見送っておいて安全確保のため拉致。随時カエル顔の医者が調整中。


そして祝! アニメ三期放送開始!
祝! とある科学の一方通行アニメ化・放送決定!!
祝! とある科学の超電磁砲3期制作決定!!!
そして本日原作新約21巻発売!!!!

正直作画というかキャラデザに前期との比較でなんとなく「ん?」と感じ、スケジュール大丈夫かと心配に。
予算と人員あっても時間がなければ作画崩壊は免れないからね。
まぁ禁書は2クール目のOPの方が作画いいジンクスがあるけども。
アニメプロジェクトの走り始め故、アニメスタッフには是非とも頑張ってほしいです。
視聴者は大人しく座して、作中屈指の低APPのテッラさんの活躍に期待だァ!


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第二話 打倒☆絶対能力進化実験

 美琴が意識を取り戻したのは、明くる日の朝だった。

 

「……っ。ここは……ッて」

 

 ガバリ、と勢いよく起き上がった彼女は周囲を見渡す。

 そこは美琴の見慣れぬ、一般的な学生寮の一室に見えた。

 服装に乱れは無い。

 周囲に、これといった異常も無く。本当に学生寮の一室のようだった。

 

「アイツ、一体何を……」

 

 思い出すのは、文字通り手玉にされた記憶。

 美琴の悔しさと反骨精神が鎌首を擡げる。

 部屋に設置されているデジタル時計から見れば、丁度一晩過ぎた後なのだろう。

 あのまま気絶していたと見て良い。

 

「つーか何処なのよ此処は……」

「─────ミャー」

 

 と、頭を押さえて思考の坩堝に嵌まっていた美琴を、手元に響いた声が引っ張り上げる。

 

「……猫?」

「ミャー」

「にゃー」

 

 一匹ではなかった。

 三毛猫と、それよりも小柄な黒猫が美琴を仰ぎ見ていた。

 綺麗に並ぶ愛らしい仔猫の姿に、くらりと前後の思考が打ち切られるが、黒猫の姿にハッとする。

 

「アンタ、あの時の……」

 

 その黒猫は、先日自身のクローンと出会う切っ掛けとなった存在である。

 この黒猫が登った木から下りれなくならなければ、あの場に彼女が留まることはなく。故に美琴も、廃棄された自身のクローン計画に悩まされる事は無かっただろう。

 

「というか、アイツは何処に……」

「────起きたか」

 

 と、彼女が立ち上がろうとした時。

 背後から声を掛けられた。

 拉致されただろう事から、咄嗟に振り向きながら電撃を発しようとして───しかし、美琴の頭はベッドに捩じ込まれた。

 

「かッ……!?」

「む、すまない。此方も条件反射で応じてしまった」

 

 音速を超える速度に、感知は出来ても対応はできなかった。

 美琴は常にAIM拡散力場という名の電磁センサーを微弱に発生させている。

 それは本来()()()『彼女』ならば戦闘を行っても良い勝負が出来ただろう。

 だが今回は如何せん距離が近すぎた。

 美琴の能力者としての真価はその汎用性にあるものの、それを発揮するには状況が悪すぎた。

 

「この……ッ!」

 

 苦し紛れに電撃を放とうと自身を押さえ付けている相手を睨み付けるも、その前に側頭部を押さえ付けていた剛腕が離される。

 

「なん……?」

「ここで戦えばこの仔達も巻き添えだぞ」

「ぐむぅ……!」

 

 首を押さえながら、女が用意したのか美琴は愛らしくミルクを飲む二匹の仔猫を引き合いに出されぐうの音しか出せなかった。

 しかし、そうなれば落ち着きもする。

 美琴は当然の質問を女にした。

 

「アンタ、誰」

「ブリュンヒルド・エイクトベル。君を此処に曰く『お米様抱っこ』で連れてきたインデックスの連れだ」

「おのれ……」

 

 美琴にとってインデックスは好意もクソもない相手だが、それでもそのシチュエーションは腐っても女子中学生の美琴にとって快いものではないのは確かだ。

 

「私はお前が連れてこられた理由を知らない。それに、インデックスももうすぐ帰ってくるだろう。それまで朝食でも食べるか?」

「……食べる」

 

 途端、美琴の腹が空腹に喘ぐように鳴り出す。

 そういえば昨晩夕食を食べていない。

 顔を赤く染めながら、小さな声で肯定した。

 

 

 

 そして数十分後。

 

「帰ったぞーい」

 

 美琴がフォリコールという北欧料理を堪能し一息ついた処に、部屋の扉を開く音と同時に帰宅の声が響く。

 

「あ、アンタ!」

「やぁミコっちゃん、元気そうで何より。慣れないベッドで寝違えなかったかい?」

「馴れ馴れしいわクソボケ!」

 

 バチバチと電撃を纏いながら吠える美琴に、インデックスは持っている大きめの封筒を投げ付けた。

 

「な、何よこれ」

「今ミコっちゃんが知りたいであろう実験の資料」

「─────」

 

 受け取った美琴が、静かに固まる。

 封筒を持つ手を震わせながら、先日廃棄された研究所で調べた事を思い出す。

 既に凍結された自身のクローン計画の概要ファイルと、何故か存在する制服まで誂えられた瓜二つのクローン。

 あの子は一体何処に向かおうとしていた?

 

「……実験って事は、やっぱりあの子は何かの実験の為に造られたってこと?」

「あの子、ではない。あの子達2万1人だ」

「……………………は?」

 

 インデックスの言葉に、彼女は今度こそ本当に絶句する。

 理解不能、と顔に書かれていたが、インデックスは言葉を止めない。

 それはきっと、悩むのは後で幾らでも出来ると身をもって知っているからなのだろう。

 

「心しろよ御坂美琴。それは君が今まで幸運にも覗くことを避けられていたこの街の闇、その一端だ」

 

 そして彼女は知った。

 二万人のクローン、その殺戮実験の概要を。

 

 

 

 

 

 

 

第二話 打倒☆絶対能力進化実験

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふざけんじゃないわよ……」

 

 崩れ落ちながら、資料を有らん限りの力で握り潰しながら呟く。

 絶対能力者。

 それを生み出そうとする事は、学園都市の存在意義の一つだ。

 少なくとも美琴はそう思っている。

 だが、それを名分に何人もの『置き去り』を犠牲にする実験が裏で行われていた事を、『幻想御手』事件を切欠に知った。

 苦難は当然。学園都市に7人しかいない超能力者と言われても、その力を封じられることで敗北だってした。

 だけど最後は、皆を救い笑顔で終わらせる事ができた。

 皆と力を合わせれば、何だって。

 

 「ふざけんじゃないわよッ!!」

 

 だからと云って、コレはない。

 

 昨夜の、自身のクローンを名乗る少女の別れの言葉が脳裡に甦る。

 あれは、今生の別れのソレだったのではなかったか。

 

「ッ!」

「ブリュンヒルド」

 

 弾かれるように部屋を跳び出そうとする美琴を、インデックスの言葉に従い再びブリュンヒンドが押さえ込む。今度は条件反射等ではなく、極めて特殊な聖人としての全霊を以ての拘束である。

 

「このッ……!?」

 

 美琴の怒りに呼応するように放たれた電撃など、欠片も障害にならないと云うように。

 

「くッ……、離しなさいよ!」

「何処に行く?」

「決まってるでしょ!!こんなふざけた実験を止めるために─────」

「どうやって?」

「っ、それは……」

 

 空白が、美琴を占める。

 まだ彼女は、計画の概要を知ったばかり。

 だが、目の前で実験の有り様を見せ付けられるのに比べれば、彼女は幾分か冷静さを残していた。

 

「目的を確定しようか。目的を定義すればソレを達成する為の道筋と、それを為すための手段を選択する。そんな当たり前の確認をしようか」

 

 するとインデックスは自然な仕草で、ポケットからホワイトボードを取りだし、『絶対能力進化・対策』と大きく書き出した。

 

「……アンタら、そもそも何者なのよ」

 

 美琴が、思わずといった様に訝しげに半目を向ける。

 片や人間の規格を大きく超え自身の知覚限界に迫る音速挙動に剛腕、弱めとはいえ人が行動不能になる電撃を物ともしない北欧系美女。

 片や学園都市の闇とも言える実験の資料を簡単に用意し、挙げ句理解不能な能力を扱う銀髪の少年。

 加えて両方怪しいことこの上無い、日本に存在する学園都市には似合わない外国人である。

 

「説明するの面倒だし、多分信じてくれないからヤダ」

「オイコラ」

「話戻すぞー」

 

 と、美琴の問いを切り捨てるインデックスは、ボードに『打倒一方通行』と書き殴る。

 

「単純な方法は簡単。計画の核たる一方通行をお前さんが撃破すること」

 

 そも、この計画の前提となった演算結果が存在する。

 それは『一方通行が超電磁砲を128回殺害することで絶対能力者へと進化する』というモノだ。

 その前提を崩せば、その代替計画であるクローンの大量虐殺は破綻する。

 

「でも、それは現状不可能に()()

 

 一方通行は学園都市最強の超能力者である。

 確かに美琴も超能力者であるが、その序列は第三位。

 無論それは学園都市の利益基準によるモノだが、下位の超能力者が上位順位者を倒した例は、意外にも存在しない。

 

 そして能力の性質上、一方通行に美琴が勝利する事は─────

 

「一方通行の能力は『ベクトル変換』。本質は『粒子加速器(アクセラレイター)』だが、今回重要なのはコッチだからね」

 

 その能力に代表される『反射』が存在する。

 自身へのあらゆるベクトルを反転させる、という一方通行にとっては睡眠を行いながらでも維持できるベクトル変換における基礎の基礎であるが、しかし美琴にはそれを突破する方法が無かった。

 彼女は、自身よりも圧倒的強者に対する戦闘経験が皆無に近かった。

 インデックスは、ボードに『計画保証・樹形図の設計者』と書く。

 

「『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の演算は伊達ではないのさ。御坂美琴、君一人じゃどれだけ頑張っても、瞬殺を含めた128手目までで絶命する」

「……ッ」

「ではソレ以外の方法だ」

 

 王道が不可能ならば、策略奇策十艘で狙えば良い。

 脚本を崩せないというのなら、舞台裏を制して仕舞えば良い。

 インデックスが書いた方法は、『研究所』だった。

 

「実験を行っている研究者、及び研究所を実験不可能にする」

 

 国際法で禁じられている人のクローンを2万人も動員する実験だ。

 裏では相当な人員と施設が必要だろう。

 

「だが、これも難しい」

「な、何でよ!」

 

 スーパーコンピューターによって敗北が宣告された一方通行との真っ向勝負をするより、美琴にとっては余程可能性が高い選択肢である。

 だが、

 

「先ず、この実験は正式な手続きが必要な『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の演算で保証されたモノだ」

 

 学園都市最大の頭脳。

 地球上の空気の分子ひとつひとつの動きまで正確に予測できるため、学園都市では天気予報は「予報」ではなく「予言」が可能な超高度並列演算処理機。

 当然、演算申請の許諾は、学園都市の運営を司る統括理事会を通す必要がある。

 美琴はそれが何を意味しているのか、即座に理解してしまった。

 

「そもそも実験の提唱者は『SYSTEM』の権威、()()木原一族でも相当上位に位置するであろう、『能力者の暴走誘爆実験』や『体晶』の開発者である木原幻生だ」

「木原、幻生……!」

 

 木原幻生。

 その名を美琴は聞いたことがある。

 以前、彼女が関わり死者こそ居ないが一万人もの被害者を出した『幻想御手』事件。その延長であり数多くの被害を出した『乱雑開放』事件の元凶であった科学者である。

 彼女が知っている幻生の人となりは、正しく『狂科学者(マッドサイエンティスト)』だろう。

 

「加えて学園都市にとって虎の子である一方通行を被験者とした実験だ。なら、当然学園都市のテッペンが認知した実験という事になる」

「学園、統括理事長……? そんな、じゃあ───」

 

 即ち、実験の妨害は学園都市そのものへの敵対を意味していることを。

 

「幾ら研究所を物理的に破壊しようが、すぐに外部へ引き継がれるさ」

 

 ぐらり、と美琴の視界が揺らぐ。

 昨日まで笑っていた自分の立っていた光景が、全てペテンになった様な錯覚に陥る。

 この街の全てが、とてつもなくおぞましい何かに思えた。

 

 何より残酷な事は、美琴が学園都市第三位である最大の理由は統括理事長(アレイスター)の『計画』に必要不可欠な─────『電気操作系能力者による電子ネットワーク構築の為のクローン』の遺伝子素体であるからだ。

 故に、過去既に遺伝子情報を騙し取り、クローンの量産に入っている今。

 必要ならばアレイスターは、美琴本人の殺害による排除さえ辞さないだろう。

 

「そんな訳で、お前さんの後輩や花飾りのお嬢ちゃんに頼るのも悪手だろう。特に花飾りのお嬢ちゃんのハッキングの腕は()()()()。要らない情報を見て暗部から本気で狙われかねない」

「初春さん……」

 

 美琴が思い出すのは、自身の後輩(白井黒子)の相棒である年下の少女。

 成る程確かに、エレクトロマスターと呼ばれる電子系最強能力者である自身が驚くほどのハッカーであることは、彼女達と共に事件を解決した実績が物語っていた。

 だが、彼女本人に戦闘能力は一切無い。

 

 暗部の脅威が何れ程のものか理解出来ない以上、本質的に無関係な彼女達を巻き込む事など美琴に出来る訳がなかった。

 

「現状、お前さん個人がどんな手段を取ろうと、実験は継続されるだろうね」

「それじゃあ、どうすればいいのよッ……!」

 

 孤立無援。

 何か行動を起こす前に、美琴は万策尽きていた。

 其処に、学園都市第三位の超能力者としての姿は無かった。

 彼女は、握り締める資料を見る。

 計画通りなら、昨夜に9982実験が行われた筈だ。

 そう、9982実験。

 既に、最低9981人の妹達が虐殺されている事になる。

 後輩がいつも誇らしげに称える自身の称号さえうすら寒く思えるような、帰り道を見失った迷子のような小さな少女がそこにいた。

 

 

「で、インデックスはどうするつもりなんだ?」

「────え?」

 

 

 そんな絶望は、ブリュンヒルドの質問で覆る。

 俯いていた顔を上げ、淡々と絶望を口にする少年を見る。

 

「…………………………………………ク、クフフフ。くかかかかッ、げらげらげら──────フゥーハハハハハハハハハッ!!」

 

 突然、堰を切るように奇妙な演技がかった笑いを上げながら、これまた奇妙なポーズを取る。

 彼はソレを『ジョジョ立ちではなくおかりんのポーズ』と答えるだろう。

 

「間違っているぞジョセフィーぬッ! 『どうするつもり』ではなく、『何をしているのか』が正解だクリスティーぬッ!」

「私はブリュンヒルドだぞ?」

「こまけーこたァイイッ!」

 

 空気が、完全に変わっていた。

 

「既に! 実験は難航している!!」

 

 美琴に学園都市の闇と絶望、そして自身の無力を与え続ける世界は、何処にも無くなっていた。

 

「具体的には、実験の度に一方通行をこの拳と足とか膝とか肘とかでボコボコにして病院に叩き込んでいるからだッ!」

「……んん?????」

 

 と、いきなり本来不可能な事を宣った。

 学園都市最強の能力者を倒せないから話が難解になっているというのに、既に、敗北していたと言われればどうすればよいというのか。

 尤も、その映像をリアルタイムで見せ付けられた研究者達の心境は美琴の比ではないだろう。

 絶望は何処へいった。

 

「? 一方通行とやらが敗北すれば実験は破綻するのではなかったのか?」

「自分みたいな『突如現れた本人にも本名経歴不詳な不審人物』がイキナリ最強をボコした所で意味不明過ぎて実験が止まるかぁ!」

 

 本来の歴史に於いて、無能力者である上条当麻が一方通行を撃破したがこれも相当無理をしている。

 だがそれでも上条は学園都市の学生。

 それに対してインデックスは本来外部の人間であり、形式上は外部勢力に属した無能力者処か能力開発さえ受けていない。

 であれば、学園都市の頭脳へ再演算を求めるべきなのだが───

 

「連中に絶対の保証をしてくれる『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』は既に無く! 謎の闖入者の影響を再演算すること叶わず、以前の演算結果にすがるしか無いのだからなぁ!!」

 

 再演算出来なければ、話は変わる。

 その場合、研究者達は正体不明のインデックスを正体不明であるが故に無かったことにするだろう。

 だからこそ、無能力者と書庫(バンク)に載っている様な上条当麻が突破口になったのだ。

 だが、この魔神はかのヒーローを怪我をすると解って戦場に連れていくことを望まない。

 恩知らず等といった謗りだけは、御免被る故に。

 

「………? ……?? ………………………えっ?」

「ちなみに昨晩のミサカ9982号ちゃんは、既に拉致監禁(保護)済みだァ!」

 

 混乱の渦に後ろから蹴り飛ばされた美琴は、疑問符を浮かべる以外の手段を持たない。

 ツッコミ不在の恐怖。

 おぉ幻想殺し(ツッコミ役)よ、寝ているのですか!(補習中です)

 そして、〆るようにインデックスはホワイトボードに殴るようにペンを走らせる。

 

「そして、自分が提示する冴えた解決法は────『妹達によって一方通行が引き分けないし敗北すること』だッ!!」

 

 だからだろうか。

 そんな無理難題の世迷い言をほざいたのは。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「──────って、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が、無い?」

「……地上からの謎の『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』が偶々運悪く直撃したらしい。悲しい事件だった」

「あぁ、あの時の。成る程、お手柄だった訳だなインデックス」

「知らねーしボカァ!意識無かったし、ヤったのは便所の隅のタンカス野郎の仕込んだ術式だし!賠償請求は自分に給料一つ入れやがらねぇイギリス清教にどうぞッッ!!」

 

 どこか、第七学区の窓の無いビルを根城にする元魔術師が興味深く頷いた気がした。

 

 




新しい仕事を始めて、執筆どころか休日が睡眠以外の選択肢がない……!
とまぁそんな理由で遅れながらようやく出来上がったので投稿。

ミコっちゃん変人にフリ回されるの回。
実質何も進んでいないけど、つまりミコっちゃんはもう出番は殆ど無いよ、ということである。
次回も仕事に慣れるまで投稿は難しいかもしれんが、ゆっくり続けていく所存ですのでどうかよろしくお願いします。


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第三話 うちはと千手の力を併せ持てば最強に見える

 布束砥信は、世間一般に於ける『天才』であった。

 

 幼少の頃から生物学的精神医学の分野で頭角を現し、第七薬学研究センターでの研究期間を挟んだ後に、学園都市の中でも5本の指に入る名門校であり能力開発においてナンバーワンを誇る超エリート校である長点上機学園に復学した。

 

 加えて『絶対能力進化』の前計画とも言える『量産型能力者計画』に参加。

 その実験の『妹達』の人格形成の為の『学習装置(テスタメント)』は、彼女の監修によって行われたものである。

 天才であり、それ故に他人から隔意が存在し親しい友人もいない、何を考えているかわからない不気味な少女。

 それが彼女だった。

 

 だからこそ、ほかの研究者たちは想像もできないだろう。

 そんな彼女が、本当に些細なことで『妹達』を本気で救おうとしていた。

 

『絶対能力進化』の実験の為に呼び戻された彼女は、野外実験の『妹達』の一人と出会い、そしてそんな研究所以外の何も知らなかった彼女が初めて外に出た時の姿を見て─────その『人間性』を見せ付けられた。

 生まれたばかりのクローンが見せる、その「外の世界を全身で感じる姿」に、自身と実験に参加している研究者達のソレと比較し、自分たちのその醜悪さと───彼女達の美しさを。

 

 その時から、彼女は『妹達』を実験用のモルモットとして見る事が出来なくなった。

 自分たちより、余程人間らしいと思ったから。

 そうなれば、そんな彼女達が殺される前提の実験を見過ごすことなど出来なくなる。

 

 そして「死角を人の目で埋めれば実験を阻止出来るのでは無いか」と考え、普段人目につかない路地や裏通りなど、監視カメラの死角になっている場所にマネーカードを撒くという、ささやかな妨害活動を行っていた。

 無論そんなもので実験を凍結処か遅延さえも困難だろう。

 

 そう、思ってた。

 

「───surprised.こんな事になるなんて」

 

 布束は、突如『絶対能力進化』の研究所の一つに呼ばれていた。

 それは彼女の最後の手段を実行に移す絶好の機会だったのだが、卑屈な厭らしい笑みと低い腰の研究者に通された後に勝手に脱け出した彼女は、機械端末で現状の実験報告を閲覧していた。

 即ち、難航している実験の現状を。

 

「一方通行を昏倒させその実験用の妹達を拉致する。……前者も後者も、どちらも私には考えもしなかった方策ね」

 

 無論、それは不可能だからである。

 学園都市最強の能力者を実験困難に成る程痛め付けるのは勿論、監視用衛星は勿論様々な索敵網が存在するこの科学の街で保護した『妹達』を何処に匿えるというのか。

 

 実験側はこの襲撃者を排除するため既に統括理事会に暗部派遣を要請した様だが、果して学園都市最強の能力者をあしらう存在をどうにか出来るとも思えない。

 分かっているのが一方通行が実験に向かう最中に、まるで()()()()()()()()()()()()突然現れる姿からだけ。

 

 そして、一方通行を圧倒する謎の力を保有している事ぐらい。

 一方通行の反射を突破し、ベクトル操作によって縦横無尽に跳躍、加速、時に物理法則さえ覆した様な動きさえ見せる彼を子供と戯れるように蹂躙する。

 研究者の一部では、その銀髪の少年こそ絶対能力者だと錯乱する者も居たらしい。

 

 しかし、件の襲撃者には感謝しなければならないだろう。

 

「however.私にとって千載一遇の好機」

 

 布束が研究所に呼ばれた理由は、彼女自身理解している。

 この実験には莫大な資金が投入されており、故に失敗はそれに比例した借金が発生する。

 要は責任を被せるスケープゴートを一人でも多く用意したかっただけなのだろう。

 

 謎の襲撃者の事を秘匿し、妹達が行方不明になった事だけを残して彼女達が布束の監修した『学習装置』によって人格が構築されていることを理由に糾弾すれば良い。

 無論、そうなるつもりはないが。

 

「さて、と」

 

 そんな布束は、研究所地下の一部の研究者以外立ち入りが禁止されている───妹達の製造区域に忍び込んでいた。

 勿論裏口を使用してだが、この時間帯でこの区域に研究者が居ないことは事前の調べでわかっている。

 管制室の窓には、『学習装置』の中に横になっている妹達の一人が居た。

 

 それを確認した布束は、懐から専用のデータメモリを取り出す。

 

「……私が収集した、学生達の負の感情データ」

 

 今の彼女達が持ち得る事も、表現さえ出来ない人として当たり前のそれら。

 これを入力すれば、確実に更なる変化が得られるだろう。

 

 妹達には『ミサカネットワーク』と呼ばれる、一万を超える電気操作能力を利用して作られた脳波リンクが存在する。

 これは表向きは『絶対能力進化』の為の、度重なる一方通行戦によって得た戦闘経験をミサカネットワークにより蓄積させ、計画の進行をスムーズに行う為のものだが─────当然、現存するすべての妹達はこの電磁的情報網で繋がっている。

 では、そこに学習装置を開発した布束が用意した感情データなど入力されればどうなるか。

 

 一人は実験そのものを拒否するかもしれない。

 一人は己の境遇に苦しむかも知れない。

 そんな姿を見て、研究者達がその視点を変えるかも知れない。

 

 唯でさえ一方通行の負傷により実験の停滞に、妹達の消失。

 そこに他の妹達が実験拒否がだめ押しに加われば、本当に実験は頓挫するかも─────

 そんな淡い期待があった。

 だが、

 

「!?」

 

 警告音と、管制室のコンソール画面を埋め尽くす『error』の表示。

 続いて表示されたのは、『最終製造「打ち止め(ラストオーダー)」を介さない上位命令文は却下されました』という文。

 失敗という、明確な事実をまざまざと見せ付けていた。

 

「そんな……私の居ない間に、こんなセキュリティが!?」

 

 原因はわからない。

 だがわかるのは、もうすでに布束には成す術がないという事。

 

「くッ──────」

 

 警告音が鳴った以上、すぐさま警備と研究者がこの場に押し寄せるだろう。

 ただでさえイレギュラーで実験が難航しているのだ。余裕の無さから、容赦もないはずである。

 彼女は即座に白衣を翻し、しかし足はまだ駆けだされない。

 未練がましくガラスの向こうで学習装置に繋がれている妹達の一人に視線を奪われる。

 

「え?」

 

 だからこそガラスに反射する、本来自分以外誰も居ない筈の人影に気付けた。

 

 

「やぁ布束ちゃん。遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ」

「────」

 

 

 先程の記録映像で見た、銀髪碧眼。

 学園都市最強を容易くなぶる程の、謎のイレギュラー。

 しかし、耳元で囁かれたこと以上に、言葉の端々から吸い寄せられるような存在感が、彼女の行動を叩き潰した。

 

「あ、なたは」

「自分の名前は禁書目録(インデックス)。まぁ此処に長居は無用だから、一先ず場所を移そうか」

 

 名乗りながら布束から二歩下がり、右手を翳す。

 それは布束だけでなく、ガラス越しに横になっている19090号にも向けている様で。

 

()()()()()()()()()? ───なんちて」

 

 ぐるり、と。

 彼の言葉を皮切りに彼女の視線が意識と共に反転する。

 薄れ行く意識の中、彼女の疑問に答えるように声が響く。

 

『知ってるか? 人の意識の中で構築されたこの世界は100%の内の、ほんの20%~30%だけでしかない。なら話は簡単でね、残り七割以上存在する空き容量で彼女達「妹達(シスターズ)」を保護できる空間を構築すればいい。「理想送り(ワールドリジェクター)」の新天地の要領でさ』

 

 意識が消える。

 まるで存在そのものが世界から消失してしまったかのように思えた直後、意識が即座に回復する。

 ガラス越しに、人だった人知と叡知を超越してしまった脳筋集団が貪りあっているような轟音によって、布束は弾かれたように顔をあげる。

 彼女が眼を覚ました場所は、天上の遊戯盤であった。

 

 

 

 

 

 

 

 ───────同時刻。

 実験の為に、病院から出た一方通行は指定された場所に向かっていた。

 最早彼の思考には、一万以上繰り返しても退屈と意味の無さしか感じさせない実験(人形)の事は無かった。

 

 それよりも遥かに有意義な、自称友達のクソ野郎(インデックス)のみ。

 一方的に最強だった彼を圧倒するインデックスへ対抗せんと、しかし一方通行は明確に成長を感じていた。

 

 それがベクトルによる風力操作。

 それが演算効率の根本的向上。

 打たれ強くなっているのだけは腹立たしいが、それでも実験より遥かに有意義である。

 

 そんな中。

 一つの影が彼を阻む。

 

「誰だ、オマエ?」

 

 それは彼が望んだ、白い祭司服を纏った銀髪の怪物相手ではなく────。

 

「ブリュンヒルド=エイクトベル───インデックスは所用があって今日は代わりに私がお前の相手をしよう」

 

 偶像崇拝の理論としてのプロテクターや防弾ベストではない。

 全身を白金の如く輝き重厚さを見せ付ける鎧で覆い、羽の装飾が施された兜を被る戦乙女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 第三話 うちはと千手の力を併せ持てば最強に見える

 

 

 

 

 

 

 

 

 禁書目録。

 その名を聞いた瞬間、一方通行は暴風と共にブリュンヒルドへ突撃した。

 最早一方通行のインデックスへの感情は端的な表現は不可能だったが────

 

(実験に向かおうとする俺を、アイツの代わりに止めようってンだ。ならこうなるのは承知の上だろうなァ?)

 

 潰す。

 最強の矜持など最早無い。

 あるのは、生徒が目の前に出された答案用紙へペンを持って挑まんとする当然の行為。

 爆音と共に空気が弾ける音が響く。

 

「!」

 

 一方通行の目が驚きに見開かれた。

 ベクトル操作による、削岩機を思わせる破壊を秘めた暴風を纏った彼の突撃が弾かれる。

 特に驚いたのが、それが彼女の単純な膂力によって成された事。

 相手も鑪を踏んだようだが、その鎧には傷一つ付いてはいない。

 

「……は。そうだよなァ、アイツの代わりを務めるッてンだ。こンなモンで終わる訳ァねェか」

「お前が彼の啓蒙を授かっているのは聞いている。が、その特別性が自分だけのものと思わないことだ」

 

 ブリュンヒルドの言葉と共に、神々しく輝く魔剣が彼女の掌に出現する。

 

「……アイツはマトモに魔術ってのを使って来なかったから怪しいモンだったが。成る程ソイツが魔術か」

 

 脳裏に浮かぶのは、叫んだと思ったら、ただスタスタ歩きながら傍目には無造作にしか見えない打撃を繰り出すだけで、一切の反応も抵抗も許さないまま此方を一方的にボコボコにした銀髪のクソガキ。

 

『憑依合体ッ! プラトーンッ!!』

 

 まるで自身が無能力者になったような理不尽は、一方通行の心身を酷く痛め付けた。

 

「より正確には、魔術の補助としての霊装だがな、これは」

 

 一振り。

 近代処か未来的にさえ思える、淡く光る刀身が振るわれた瞬間を、一方通行は視認できなかった。

 が、何の問題も無い。

 振るわれる剣の軌道、速度、それらに加えて様々な要因を即座に演算、予測して能力をぶつける。

 魔術と、それを操る魔術師に一方通行のベクトル操作は満足に行えない事を彼は知っている。

 無論、それは彼の知っている魔術師が魔神だけなので正確には間違っているが、その認識はこの場に於いて間違っては居なかった。

 故に、直接ブリュンヒルド自身のベクトルを操作する反射など用いずに、暴風を筆頭としたベクトル操作で対応する。

 

 学園都市最強とは、学園都市最優でもある。

 未来予知に匹敵する演算能力は、聖人の音速挙動に何の問題もなく対応した。

 が、ブリュンヒルドの──より正確には、彼女の持つ魔剣はそれを凌駕する。

 

「───ッ!」

 

 一方通行の能力によって爪牙と化した暴風を、()()()()

 そのまま大気ごと、路地を形成していた廃ビルが切り落とされた。

 幸運だったのは、実験用として選ばれた場所故に人気が皆無だった事だろう。

 往来での衝突など、何れだけの被害が起こったか。

 無論、この一瞬を目撃しているであろう実験の研究者達の精神的被害は計り知れないだろうが。

 

「何だ、その剣」

「オーディン────魔神オティヌスとインデックスの合作たる太陽の魔剣『竜の死(グラム)』。最早魔術霊装の粋を越えた宝具と云うべきだろう。そして、この『白鳥霊装(スヴァンフヴィート)』も」

「───チッ」

 

 一方通行が形成する、人が容易く吹き飛ぶ暴風圏。

 それを力付くで突破するブリュンヒルドに、思わず舌打ちが出る。

 

(コイツ……反応速度も馬鹿力も人間レベルじゃねぇぞ)

 

 膂力を間接的に向上させる能力は、決して珍しいものではない。

 事実一方通行の演算パターンを他者に植え付け能力を向上させる人体実験の中には、窒素を操る事で擬似的に凄まじい膂力と耐久性を発揮する能力者も存在する。

 だが、ブリュンヒルドはその領域を遥かに越えていた。

 

 彼女が切り落とす廃ビルの瓦礫を、ベクトル操作で核シェルターを突き破る威力で投げ飛ばしても、即座に細切れ。或いは高熱で融かされる様に大穴を開けられ突破される。

 

「……魔術師ってのは、どいつもコイツもオマエレベルなンかよ」

「いいや。インデックス程ではないが、一応私も魔術世界ではかなり稀有な立ち位置ではあるな。だが彼とは比べ物にならん。───聖人という言葉は知っているか?」

「……」

 

 一方通行が思い浮かべるのは、十字教に於ける偉人である。

 だが、魔術世界では十字教に於いてただ一人。

 

「魔術世界の聖人とは、神の子と同一の身体的特徴を生まれ持った故に、神の子の力の一端を振るえる者だ」

「偶像崇拝の理論ってヤツか」

「無論扱える力の総量は神の子の数千分の一で、行使できる時間も短い。だがそれだけで十二分で、魔術世界に於いて戦略兵器扱いされている。君達超能力者に倣うなら、魔術世界のレベル5と云った処だ」

「成る程」

 

 一方通行の笑みが深まる。

 最強故の退屈の空虚に充ちていた数日前が嘘のようだ。

 世界はあまねく広く、乗り越えるべき壁が次々と現れる。

 遣り甲斐、という感情が一方通行の胸に溢れ、呼応するように暴風が猛る。

 

「だが私は、聖人の中でもやや特殊でな」

「ッ!」

 

 しかし、ブリュンヒルドを呑み込みかけていた暴風は、先程よりも強引に捩じ伏せられる様に掻き消された。

 

「私は十字教の神の子とは別に、北欧神話の戦乙女(ワルキューレ)の身体的特徴も兼ね備えていた」

 

『ワルキューレ』であると同時に、十字教の『聖人』の特性も持つ希有な存在。

 彼女の場合、聖人とはフォーマットが違うためそれぞれが混じり合うことが無く、ワルキューレの力が強まる時は聖人の力が弱り、聖人の力が強まる時はワルキューレの力が弱まってしまっていた。

 そして、三ヶ月の間の数日間、聖人とワルキューレの力が五分で拮抗してしまうタイミングでは、両方の力を完全に失ってしまう致命的な欠陥さえ抱えていたのだ。

 それ故に悲劇は起こったが、兎も角。

 

『相反する陰と陽、うちはと千手の力を併せ持てば最強に見えるじゃろ?』

 

 元よりワルキューレとは大神オーディンが造り出した存在。

 そして叡知の魔神たるインデックスの傍には、オーディンその人と言えるオティヌスが居た。

 そんな二人の魔神が、歪な聖人(ワルキューレ)を調整できない訳がない。

 

「ローマ正教には聖母と神の子双方の力を兼ね備える傭兵がいるらしい。その傭兵の『二重聖人』に倣えば、私は『複合聖人』と称するべきか。兎に角、私は並みの聖人を容易く屠れる力を手に入れた訳だ」

 

 意図的に落としていたが故か、ギアが跳ね上がる様にブリュンヒルドの挙動が様変わりした。

 そこには北欧の聖人はもう存在しない。

 即ち、二つの位相の力を併せ持つ聖人以上の存在。

 

「この────ッ」

「術式用意────太陽の魔剣よ、その身で破壊を巻き起こせ」

 

 魔剣が輝く。

 青白いプラチナが如き極光が、破壊と共に闇夜を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 表現するならば、海と見紛う程の大規模な湖だろうか。

 ソレ以外が全て暗闇に包まれ、しかし電光の様な輝きを放つ湖の水面に、銀髪の少年────インデックスが降り立つ。

 聖書の一ページのように、当たり前のように水面を歩く彼は、水面を覗き込みながら語りかけた。

 

「これで、満足な問い掛けが出来るかな?」

 

 すると水面に波紋が刻まれ、それが音を、そして彼女達──否。

()()が言葉を紡ぐ。

 

『────全く、此処まで来て一体何の用だい?/escape』

 

 それは妹達のミサカネットワークそのもの。

 ミサカネットワーク、その全体としてのシステム上ありえない大きな意思。

 

「質問に答えて欲しいんだ。と言っても、話の内容は分かっているだろう?」

『……上から目線なのが気に入らないな/return』

「……マジで? うっわ、オッティや他の魔神達の影響受けすぎ……!? いや、当麻辺りに元からとか言われそう。だが改めない!!」

 

 それは悪魔の囁きか、はたまた神の啓示か。

 それを決めるのはきっと未来の彼女なのだろう。

 

 

 

「──────生きるか死ぬか、選ばせてやる」

 

 




破滅の黎明(グラム)白鳥霊装(スヴァンフヴィート)
 名称は改造前から継続。
 グラムはFGOのシグルドのまんまで、白鳥霊装のデザインはかまちー作品の「ヴァルトラウテさんの婚活事情」のブリュンヒルデの装備をイメージしてください。

平成最後の投稿であり、執筆作業再開のお知らせ(のつもりだったけど実働勤務時間が9時間になって難しくなってきた)。
 
という訳でお久し振りです。
更新が遅れ申し訳ありません。

ぶっちゃけ仕事の疲れからか、或いは休日でやらなければならないことが山程あるせいで祿に執筆出来なかったでござる。
フルタイムで椅子なしデスクワークが辛すぎで本気で転職を考えてるの巻(現実逃避)
 
禁書三期は……もうちょいなかったかね。
取り敢えず良かったところもあったし、ただもう少し作品と無茶ぶり食らったスタッフを大事にして欲しかった。
次は公式黒歴史期間(一方通行的には)である一方通行アニメ、楽しみにしてます。


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第四話 The manifestation of Nuit.

 

 

 

 ────学園都市最強と、複合聖人の激突は苛烈を極めた。

 轟音と共に廃ビルが崩れ落ち、衝撃波が破片を更に砕き散らす。

 科学と魔術、例外こそあれど双方に於ける最高峰同士のぶつかり合いは、学園都市を蹂躙する。

 

 実験用に用意された無人区域でなければ、人的被害は計り知れないだろう。

 無論、実験停滞による費用は目も当てられないが。

 

 しかし、長期戦は一方通行に利するだろう。

 如何に彼の反射がブリュンヒルドに通用しないとはいえ、それは魔術という未知のベクトルを入力していないが故のモノ。

 度重なるインデックスとの接触に加えて、今回の戦いで、一方通行は確実に魔術のベクトルを掴みかけていた。

 故に、今回の戦いは著しい成長性を持つ一方通行が、どれだけ伸び代を見せられるかに懸かっている。

 確かにワルキューレと聖人という、相反する力を相乗させるという神造の複合聖人たるブリュンヒルドは、他の聖人を圧倒するだろう。

 だが力の総量こそ違えど、一方通行が操るのは力の向き。総量に意味はなく、学園都市のベクトルは全て彼の手の中にあるのだから。

 勝負は、ベクトル操作が及ばない魔術を掻い潜り、ブリュンヒルド自身のベクトルに手を伸ばせるかに懸かっていた。

 

 ─────ブリュンヒルドが、()()を持っていなければ。

 

「ぐ……っ、そがッ……!」

 

 しかして、最終的に倒れ伏していたのは一方通行だった。

 屈辱に顔が歪み、敗北という二文字と共に苦痛が彼を這いつくばらせる。

 だが、彼を起き上がらせる原動力の名は、疑問であった。

 

「何だ、その剣……ッ!?」

 

 廃ビルの残骸、其処に立つブリュンヒルドを怒りと共に見上げる。

 視線の先は、青白いプラチナの如く輝く魔剣。

 

『─────グラム、第二段階限定解除開始』

 

 その言葉と共に戦況は一変した。

 

「ほう、理解していたのか。流石は学園都市の虎の子。(インデックス)がその真価は解析にあると語るだけはある」

 

 納得した様に頷き、ブリュンヒルドは廃ビルから一方通行の前に降り立つ。

 彼女のベクトル、彼女の発生させた衝撃波などの副次的なベクトルを掌握しようとしても、解析そのものを阻害されるような感覚さえあった。

 単純に数値を入力していないから反射できないというのは、まだ理解できたというのに。

 それどころか次第に風力操作は勿論、ブリュンヒルドの周囲のベクトル操作さえ覚束なくなっていったのだ。

 まるで、演算そのものにジャミングを受けているかのように。

 明らかに、異常だった。

 

「知識の魔神であるインデックスと、戦の魔神オティヌスから与えられた魔剣が、ただ斬れるだけの剣な訳がないだろう」

 

 それはかつて、首輪に囚われていたインデックスとの戦いで使用された、竜の死を冠する魔術霊装だった。

 幻想殺しに対する禁書目録の最適解である『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』に対する対応策の一つとして用意した、北欧神話における竜殺しの魔剣。

 その剣は準えた伝承を遡るように、魔神二柱によって大いに改造された。

 それこそ、聖人とワルキューレの二重属性などという異なるフォーマットを兼ね備える、というデリケート極まりないブリュンヒルドに対する調整に比例するように、徹底的なまでに。

 

 即ち、大神オーディンが自身の加護の証として支配を与える木に刺し、人間の王シグムントに与えられた王権を示す神剣。

 ならばその名は砕かれた後に名付けられた竜殺しの魔剣ではなく、それ以前の北欧神話における選定の剣────

 

「───────『黎明の王剣(バルンストック)』。

 有する能力は、王権による支配。人間に対するあらゆる行動制限だ」

「な、に?」

 

 本来拮抗し、そして解析が進めば一方通行へ戦況は傾く筈。

 それが、理不尽に覆された。

 まるで、特権階級の圧政のように。

 まさしくそれは、王による支配だ。

 

「一兵卒でさえない民草が、大神に王権を授けられた王に何ができると思っていたのか?」

 

 聖人とは神の子に照応し、ワルキューレとは大神オーディンによって造られた半神。

 今や半神に匹敵するブリュンヒルドならば、かつてその剣を握ったシグムントを遥かに凌駕する。

 その剣を彼女が持っているだけで、周囲の人間は伏し、果てに呼吸さえ困難になるだろう。

 その効果範囲、精度は計り知れない。

 それをたった一人に向けたのだ。

 例え世界を操る最強の能力者といえど、抗えるものではない。

 

 そもそも、科学によって調整を受けたとはいえ真実身一つの一方通行と、魔神二柱に調整を受け王剣と白鳥の鎧を身に纏うブリュンヒルド。

 どちらが有利なのは言うまでもない。

 

 事態が進行すれば、一方通行は能力の為の演算さえ封じられるだろう。

 そうなれば彼は、翼をもがれた状態で空を飛ばされるのと同義を強要されるだろう。

 その果ての敗北は、必至だ。

 だが、しかし。

 

「─────ッ!」

「……ほう」

 

 まだ、勝ち目が無くなった訳ではない。

 

「そォだ、魔術だの能力だのの境はない。アイツもそう言ってただろうが」

 

 それが魔術だろうが超能力だろうが、無限のグラデーションで隔たっていようが、それは異能の力。

 あらゆるベクトルの解析と操作、それが一方通行の能力だ。

 であれば、王剣の力のベクトルを解析、反射を適応させれば王権の裁定を覆せる。

 それどころか、逆にその力さえ操ることが出来るだろう。

 

『───「ABA()の書」、序文百三十四頁より引用。

 自分が誰であり、何であり、なぜ存在しているのかを自分で見出し、確信しなければならない……そのように追い求めるべき進路を自覚したら、次はそれを遂行するための条件を理解することである。

 しかる後に、成功にとって異質もしくは邪魔なあらゆる要素を自分自身から取り除き、前述の条件を制するのに特に必要な自分の中の部分を発達させなければならない』

 

 万を超える魔導書を司る魔神は、法の書と呼ばれる『思春期の心性と薬物作用を網羅した超常誘発方式』の叡智の一文を語る。

 魔術とは原石と呼ばれる天然の能力者の、異能の技術体系化。

 その違いは、求める力の根源が己の内側か世界かだけであると。

 

『アレイスターに便乗してるみたいでアレだが、能力者視点で置き換えてみんしゃい。それが汝の法とならん、てね』

 

 ならばこそ、神の授けた王剣の力とて異能の力でしかない。

 振るう担い手が如何に半神に匹敵していようとも、魔神に至った訳ではないのだ。

 

(既存のルールは全て捨てろ。

 可能と不可能をもう一度再設定しろ。

 目の前にある条件をリスト化し、その壁を取り払え)

 

 即ち、新たな制御領域の拡大(クリアランス)の取得。

 自分だけの現実に数値を入力し、通信手段を確立することで己のAIM拡散力場を制御することに他ならず、その結実として一方通行の力は新たな位階へ歩を進め『翼』は顕れる筈だった。

 だが、その直前に横槍が入る。

 

「……む」

 

 瞬間、ブリュンヒルドへ幾重もの緑がかった閃光が走る。

 その全てを、物理的に電気系能力者以外では干渉できない閃光を斬り捨て、一方通行へ視線を投げた。

 

「時間切れの様だ」

「は──?」

「だが構うまい。私は元より時間稼ぎ、お前に相応しい舞台はこの先だ」

 

 言い終えると同時に轟音と共に地面が割れ、ブリュンヒルドの姿が消える。

 何の事は無い。実験の検体とも言える一方通行にこれ以上悪影響を与えまいとした研究者達が、イレギュラー排除の為に学園都市暗部の者を雇い、差し向けただけ。

 

 そしてその割り込んできた乱入者を排除するため、聖人に倍する脚力で移動したに過ぎない。

 暗部組織には超能力者(レベル5)も所属しているが、それでも第一位を跪かせたブリュンヒルドの敵ではない。

 

「……」

 

 放心した一方通行が辛うじて歩けるようになったのは、遠くで響く轟音が消えて暫く経ってからだった。

 あまりの結末に呆然とした彼の口元が笑みに歪む。

 それは、紛れもない成長への確信である。

 

「あと、一歩だ」

 

 何かが、掴めるのだ。

 赤い瞳が、餓えるように鈍く煌めく。

 ベクトルの操作を取り戻し、満身創痍でありながら学園都市の闇を駆ける。

 手に入れた新たな力を試さんと、無邪気ささえ見せながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第四話 The manifestation of Nuit.

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある学生寮の一室。

 即ち、幻想殺しの少年の隣に位置する、禁書目録の部屋。

 そこで妹達(シスターズ)の一人、銀髪の坊主に拉致監禁されていた9982号と御坂美琴が卓袱台に座っていた。

 

(────気まず過ぎるッ)

 

 卓袱台に肘掛けながら、全力で視線を漂わせている美琴は内心は大いに混乱していた。

 今生の別れと思っていたら、インデックスとブリュンヒルドと入れ替わりに部屋に入ってきて挨拶し、そのまま卓袱台の上に置かれた菓子を食べながらテレビを見だしたのだ。

 9982号、食いしん坊である。

 どう反応すれば分からず、かといって彼女の境遇から以前のように遠慮無く突っ込む事も出来ない。

 

「……無事だったのね」

 

 何とか絞り出したのは、安堵の言葉だった。

 なにせ実験の概要を知った際、真っ先に脳裏に浮かんだのが彼女との別れの言葉だったのだから。

 それを思い出し、どれだけ美琴が青ざめたことか。

 

「はい。とミサカは、何時まで経っても実験場に来ない一方通行に憤慨していた最中、禁書目録と自称するあの人にあれよあれよと病院に連れて行かれたと、経緯を説明します」

「病院?」

「はい。第七学区の、整っていた訳でもないのに言い知れない魅力でミサカを魅了した造形の医者の下で、調整を受けていたのだと、ミサカは報告します」

 

 妹達(シスターズ)が実験の為に無理な調整を受け、肉体に多大な悪影響があるので、それを治す必要があるのは、既に美琴もインデックスから説明を受けている。

 ゆえにこそ美琴は、全ての事情を承知で、加えて学園都市そのものとも言える統括理事会と敵対する様な医者が居るとは思えなかったのだが。

 

「あぁー」

 

 美琴の脳裏にとあるマスコットキャラに似た、カエルの様な顔の医者が浮かび上がる。

 幻想御手事件、そしてそれに続く乱雑解放事件にて大きく貢献したあの医者が、まさかクローンの調整さえやってのけるとは。

 そんな風に、実は学園都市の創設者の一人であり世界最高の医者に対して「やっぱりスゴかったんだなぁ」と、美琴は月並みな感心を抱いていた。

 

「それにしても……」

「?」

 

 実験を止める前段階として、一方通行をボコボコにすればエエやん、等とほざいて以来会っていない、インデックスとやら。

 一体彼は何者だろうか。

 

「アイツ、一体何者なのよ。私の意識を奪った能力といい……」

「別種の異能体系の頂点。彼はそう言っていたわ」

 

 そんな美琴の問いに答えたのは、部屋の入口が開く音と共に入ってきた白衣の少女だった。

 そして二人は、彼女を知っている。

 

「Surprise. また会ったわね」

「……アンタ」

「お久しぶりです、布束博士」

 

 驚愕に目を見開く美琴と対照的に、9982号は淡々と挨拶する。

 しかし、僅かながらの再会の喜びがあった。

 

 ──────美琴と布束の関係は『絶対能力進化』の実験場という学園都市の住民達の死角を潰すべく、マネーカードをバラまくことで何とか実験を滞らせようとしていた頃。

 カード目当てに絡んできた不良を、能力ではなく話術と演出で撃沈した時がきっかけであった。

 

 美琴が実験の事を本格的に調べだしたのは、彼女が原因とも言える。

 

「何でアンタが此処にいるのよ」

「それは、私を連れてきた少年に言って欲しいのだけど」

「アイツか……」

 

 こうなってくれば、いやそもそも初めから怪しいことこの上無い、明らかに日本人ではない容姿の銀髪の少年。

 いつの間にか同世代の友人のように話してしまう、人の心の隙間に入り込む雰囲気。

 友人を作りやすいというなら聞こえが良いが、悪く云えば詐欺師のソレだ。

 彼が実験を止めるのを手伝う、というより主導する理由が分からない。

 インデックスが妹達(シスターズ)をただ助けたいのだと思える美琴は、しかして平時には程遠い。

 それこそ、こんな実験に過去の己の善意を利用していた事実を目の当たりにしたばかりの彼女には。

 

「彼は布束博士の用意したプログラムが必要だった、とミサカは、困惑している貴女に説明をします」

「……プログラム?」

 

 そこに割り込んで補足したのは、おそらく事態を把握している妹達(シスターズ)の一人である9982号だった。

 恐らく、インデックスの目的も。

 

「Understood.行方不明だった妹達(シスターズ)は、彼が保護していたのね……」

「ちょっと、一人で納得しないで話しなさいゴフッ!?」

「敬語」

 

 状況が計れず、痺れを切らして立ち上がった美琴の鳩尾に布束の拳が叩き込まれる。

 かつて彼女達が会合した際の焼き回しだが、これは学習しない美琴が悪いだろう。

 

 閑話休題。

 

「私は実験を止める手段の一つとして、妹達(シスターズ)の人間性の成長を選択したわ」

「人間性の、成長?」

「具体的には、学園都市で抽出、データ化した生徒達の負の感情データよ。尤も、私の知らないセキュリティが出来ていて成功しなかったのだけど」

 

 布束は語る。

 妹達(シスターズ)の間には『ミサカネットワーク』という脳波ネットワークが存在し、これにより各『妹達(シスターズ)』の個体は情報や意識、記憶を共有していること。

 妹達(シスターズ)に真の感情を入力(インプット)することで研究者達や、万が一にも有り得ないことだが一方通行の心を動かせるのではないかと。

 そんな祈りを込めて入力を試みるが、謎のファイアーウォール(打ち止め)によってミサカネットワークに弾かれて失敗したこと。

 その直後、インデックスを名乗る少年に此処に招かれたこと。

 

「彼はソレを待っていました。と、ミサカは今までの実験を思い返し感慨に耽ります」

「……待っていた? でも、何で?」

「一石二鳥、と彼は言っていました。そして、彼が望む実験の結末の為に必要なのだと」

「アイツが望む、実験の結末……?」

 

 明らかに、手段を選んでいる言い方だった。

 無論、会って少ししか経っていない美琴にも、インデックスが善人でなくとも完全な悪党ではないことは何となく分かっていたが、些か不謹慎に映った。

 それこそ、一万人以上の命が今も懸かっているのだから。

 

 

「─────ヒーローは必要ない。

 と、ミサカは彼からの受け売りをドヤ顔で宣言します」

 

 

 だが、そんな美琴の憤りは9982号の言葉で打ち砕かれる。

 

「……え?」

「ミサカ達はミサカ達の手で、実験を終わらせる義務があります」

 

 それは、美琴がいつも誰かを助ける側の人間であるからだろうか。

 それを口にする9982号の言葉には、今までに無い力が込められている様だった。

 

「ミサカ達は、当事者なのだから」

 

 美琴は確かに実験の発端の一つだろう。

 幼い頃に騙された事が始まりで妹達(シスターズ)は生まれた。

 だが、実験の関係者であっても当事者とは程遠い。

 

 出来うる限り、妹達(シスターズ)の力で実験を止める。

 それが必要なのだと、インデックスが語ったのだと9982号は口にした。

 

『───────妹達(シスターズ)で一方通行を張り倒せばええねん』

 

 今すぐ実験を凍結させることは出来るけど、それで良いのかと。

 ヒーローやデウスエクスマキナなんぞがシャシャリ出てきて、悔しくないのかと。

 

「ミサカ達を人として扱ってくれるお姉様、そしてミサカ達に人の感情を学ばせてくれた布束博士。お二人のお蔭です。と、ミサカは頭を下げ深く感謝を述べます」

 

 実験動物として生まれた妹達(シスターズ)にはわからなかった。

 だけど、インデックスという掬い手(魔術的調整)と布束の後押し(プログラム)のお蔭で、少し理解できるかもしれないと思えたのだ。

 その人間らしい感謝に、布束が顔を歪める。

 それは、無力感だろうか。

 

「……でも、だけど─────私は失敗した。

 ネットワークへ感情データを拡散させることは出来なかった!」

「でも、ミサカ達の一人には入力されました」

 

 人間性の未熟なクローンに植え付けられた、小さな若芽。

 そしてソレを受け取ったのは、データを入力された19090号だけではない。

 

「拡散はしませんでしたが、ネットワークには確実に入力されました」

 

 ならば、そのデータを妹達(シスターズ)が望むならサルベージ出来るかもしれない。

 あり得るかもしれない未来で、とある歌のデータを打ち止め(ラストオーダー)の記憶からサルベージしたように。

 

 そして、妹達(シスターズ)を一つの大きな意思によって束ねる存在にとって、それはサルベージするまでもない。

 確実に、変化は起こる。

 

「そしてミサカ達の底力は、決して第一位に劣っていないと、ミサカはお二人に証明してみせます」

 

 未来に於いて、学園都市最強の能力を支える代理演算を本来の半数で担える底力(演算能力)

 そして、学園統括理事長の『計画(プラン)』に必要不可欠な要素は、決して伊達ではないのだから。

 彼女は立ち上がり、部屋のカーテンを暴き外の光景を見せる。

 

「─────は?」

 

 美琴は呆然とその光景を見て、布束は先程まで見ていたからこそ目を閉じる。

 そこで繰り返されていた、幾億もの破壊と再生を。

 そこは学園都市の景色が広がっていたが、しかし美琴の知るものではない。

 

「現在時刻閉鎖時系列にて第9982次───最終実験の開始まで、あと二分」

 

 彼女の目に広がっていたのは、馴染み深い街に酷似した、人の居ない灰色に冷め切った街だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

『───────そして世界は裏返る』

 

 世界から色彩が消えた。

 

「……?」

 

 予定された実験場。

 何気無い、人気の無い路地裏の一画に踏み込んでいた筈の一方通行は、大通りの交差点に居た。

 それどころか、一瞬にて昼夜さえも逆転していた。

 

「………………………………」

 

 空間転移、認識阻害、幻覚、視覚操作。

 様々な能力が脳裏に過るが────しかし最後に残ったのは、薬でもキメてるかのように舐め腐った顔でダブルピースする銀髪の魔神だった。

 少なくとも、一方通行の認識内で出鱈目な者と云えば彼になっていた。

 

 周囲を見渡す。

 それだけでなく、ベクトル操作の根本である解析能力を行使する。

 風を媒介に周囲のベクトルを確認した一方通行は、一つの事実を認識した。

 人気の無い、どころではなかった。

 学生と教員、研究者含め二百三十万人以上が存在する学園都市だが、しかしこの世界には人っこ一人居なかった。

 

(────ふざけてやがる)

 

 彼が認識したのは、魔神の埒外さ。

 おそらく自身の成長を促すための御膳立てなのだろう。

 インデックスを名乗る少年は、頻りに一方通行に魔術という別サイドの世界を教えていた。

 そして魔術と能力は、元来同一種の異能とも。

 

 そして今回現れたブリュンヒルドは、忙しいインデックスの代わりと言った。

 だがその忙しい、がこれを準備するのだとしたら期待に笑みも溢れるというもの。

 

 だが、待っていたのはインデックスではなかった。

 或いは、一万回近く繰り返してきた既視感。

 しかし、記憶にあるそれとは確実に何かが異なっていた。

 

「─────ようこそ一方通行(アクセラレータ)/return。お待たせしたね、()の宿敵/return」

 

 待っていたのは病衣姿の、腰まである長い茶髪の少女だった。

 その顔立ちは、一方通行が一万回近く見たことのある御坂美琴のクローンの物。

 決定的な違いは、クローン達にはない自然な表情だろうか。

 

「…………オマエ、クローン───いや。オリジナルか?」

「はっは/return。髪型が違うから、或いは制服を着ていないから分からないかな?/escape、この身体はミサカ19090号のモノさ。間違いなくね/return」

 

 痛みを与えなければ無表情の、人間性が欠けた人形。

 そんな一方通行の認識(思い込み)が、ブレる。

 頭の奥の何かが軋みを上げた気が───気のせいであると切って捨てる。

 

「この期に及ンで、今更人形が何の用だ」

「まだ実験は終わっていない/return。そして、終わらせるなら私と君が相応しいわよね?/escape」

 

 既に実験は、魔神の介入で研究者達の手から離れた。

 と云うよりも、インデックスは元より研究者達を眼中に入れていない。

 

「ケジメを付けるのよ/return。君が人形だと思い込んで殺させられ、そして殺し続けた私達との実験/return。学園都市の思惑在れど─────当事者は、始めたのは私と君なんだから/return」

「……………………」

「ソレが筋を通すことだと、あの化け物は言っていたわ/return」

 

 それが、妹達(シスターズ)を憐れな犠牲者に貶めない唯一の方法なのだと。

 これから先、未来に進むための必要なプロセス。

 そしてそれは、妹達(シスターズ)だけではない。

 

「──────何言ってンだ、オマエ」

 

 妹達(シスターズ)は、人形。

 ソレが、一方通行の認識である。

 人を殺している訳ではない。

 ゲームと同じだ。

 ゲームのモンスターや敵キャラを殺してレベルを上げるのと同じ。

 ────そう、言っていたではないか。

 

 その理論が崩れればどうなるか。

 

「ふざけンじゃねェよ」

 

 先程の高揚は消え失せていた。

 興奮冷めやらぬ時に、冷や水でもかけられた気分だった。

 何の茶番だ。ふざけるな、と根拠不明の憤りが一方通行の中に立ち上る。

 ────何故? 

 妹達(シスターズ)と一方通行が出会えば、実験が始まる。

 

「お前が俺の前に立つって意味、解ってンのか?」

 

 それは当たり前で、日常ですらあり、慣れきってしまった事でもあった。

 明らかにインデックスの仕業と言える街の惨状も、そんな中現れた妹達(シスターズ)が今までのクローンと明らかに違う事も、彼の頭には無かった。

 どうして、こんなに苛立ちを隠せないのかも、分からない。

 

「ケジメ? 筋? これからの未来?? クローンで人形のお前らに、そんなモンある訳ねェだろうがッッッ!!!!!」

 

 言葉では、彼は応じない。認められない。

 今まで殺してきた物が肉で出来た人形ではなく、人間などと認めることなど出来はしない。

 そうなれば、今まで何のために力を求めていたのか─────

 

 彼の心を現すように、一方通行を中心に亀裂が走る。

 今まで一万に迫るクローンを破壊し、蹂躙し、圧倒してきた学園都市の悪意でできた怪物は止まらない。

 人間らしくなった? 

 人形に思えなくなった? 

 ソレがどうした。そんなことでは最早、最強の能力者は止まらない。

 感情とストレスが極限まで膨れ上がり弾けた瞬間に、彼の背中の空間が渦を巻き。吹き飛んだ。

 

「────ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」

 

 噴射の如き黒い翼となって、灰色の世界を染め上げる。

 神にも等しい力の片鱗が具現化した殺意となって、少女唯一人に牙を剥く為に。

 

「自己紹介がまだだったわね/return」

 

 そんな一方通行を見て尚笑みを崩さず、妹達(シスターズ)の一体は手を空に掲げる。

 同時に、空に雷雲と共にプラチナ色の稲妻が走り────

 

「私は、君が殺した9981人を含めた二万人によって構成されるミサカネットワークを満たすもの/return」

 

 言葉と共に、まるで意思を持つ様にその身体へと入り込んだ。

 

 ミサカネットワーク、その全体としての大きな意思。

 司令塔である打ち止めをさらに凌駕する、システム上ありえない存在。

 学園都市上層部が『ドラゴン』と呼ぶ純粋科学世界の天使とも異なり、しかし学園都市が生み出した何か。

 そもそも人と呼ぶ事さえ悩んでしまうような、第三の存在とでも言うべきモノ。

 ミサカネットワークに接続された約2万人の妹達(シスターズ)の意識・自我を統括する意識体。

 即ち、総体。

 ソレが、魔神によってその力を最大限発揮、保持できる個体を器に現出した。

 瞬間、雷が轟き視界を潰し、その姿が露となる。

 

 

「──────”全ての男女は星である(Every man and every woman is a star)”」

 

 

 御坂美琴そっくりの少女の姿が、明らかに人とは違うソレに変貌していた。

 その長い髪と四肢は、星の様な光彩をちりばめる夜空に染まり。

 瞳は碧に。その背中にはそれぞれ蜷局を巻くような、一対のプラチナの翼と天使の如き光輪が頭上に現れる。

 

「”我が数は11(My number is 11, )これは我らが属である者達の数の全てと同じ(as all their numbers who are of us)”」

 

 汝ら今こそ識るべし。

 無限空間の選ばれし司祭にして使徒たるは、〈獣〉なる君主=司祭なり。

 しかして〈緋色の女〉と称さるるかの者の女に、諸々の力授けられたり。

 彼等は我が子どもたちを寄せ集めて一団とするだろう。

 彼等は人々の心に星々の栄光を齎すだろう。

 

 ソレは無限の星々を象徴し、同時に形而上学では連続する至福である。

 無限の空間、無限の星々を司る日没の娘が、新たな天地に現出した。

 

十字教単一支配下の法則(そんな所)でぐずぐずしてると、絶対能力(さき)に行っちゃうぜ?/escape」

 

 

 

 

 




とある科学の超電磁砲レールガンT.
絶賛放送中!!


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第五話 実験終了のお知らせ

注意:独自解釈多めです。


 対峙する、立ち上る黒とプラチナの翼。

 その感情を現すように、荒れ狂い、自身を喰い合う黒翼。

 ソレに対し、遺伝子配列を思わせながら機械的に廻り続ける、透き通るような青ざめたプラチナの翼。

 違いは、その頭上に天輪が紡がれているか否か。

 それを、インデックスと彼に侍るブリュンヒルドは『窓の無いビル』の屋上から見下ろしていた。

 

「法の書には、幾柱の神が描かれている」

 

 インデックスが語るのは、アレイスター・クロウリーが著した、セレマ神秘主義の根本聖典。

 十字教からの脱却と、その時代の終わりをもたらすとされたその魔導書だが、能力者にとって重要なのはそのタイトル。

 法の書のタイトルは────『エノク言語による()()()()使()()()()』。

 そしてそれが『思春期の心性と薬物作用を網羅した超常誘発方式』と云う形に言い換えられるのだとしたら。

 超能力者に翼と天輪が現れている様を魔術師と研究者達は、果たしてどう見るか。

 ……碌でもない研究者(木原)なら嗤いながらデータを収集するだろうと、インデックスは呆れ顔で切って捨てる。

 

「ホントは『真なる意思』やら『聖守護天使』やら、色々細かいモノがあるけど……今回参考にしたのはその幾柱の内の一つ」

 

 退魔師にして魔術師である、世界の中心点(基準点)───"火の蛇"ハディト。

 そしてその配偶者であり、無限の空間、無限の星々を司る北の女神─────ヌイト。

 

「”というのも、私は愛が為に分かたれているのだ。For I am divided for love's sake,一つになる機会を待ち受けて。for the chance of union.”」

 

 この学園都市が、アレイスターにとっての第二のセレマ僧院というのならば。

 それが意味することは何か。

 

「当麻にミコっちゃん、そして妹達────いやまぁ、寧ろ忠実とさえ言えるんだけども」

 

 そして、二柱の神には子が存在する。

 十字教からの解放を意味するホルスの名を冠し、二つの側面と名を与えられた神が。

 

「”汝自身に水を注げ。さすれば汝は『宇宙の源泉』とならん。汝あらゆる星に汝自身を見付けん。汝全ての可能性を収容せよ。”」

 

 ヌイトとハディートが結合して生まれる、飛翔する鳥、黄金の鷹、聖なる孔雀を象徴とする────戦争と復讐の神、ラー・ホール・クイト。

 過去へ進む神。顕現した宇宙。

 物質的宇宙の形をとった「ハディト」の反射。

 アレイスターの作り出したトート・タロットにおける『太陽(タロット)』。

 即ち、ホルス。

 

「そんなホルスは、双子だったという」

 

 二重者であるホルスの一側面にして双子の弟。

 名はホール・パアル・クラアト。

 かの神は()()()()()()()()()、子供達と母親達の守り神とされる()()()()使()だという。

 

「狙ってるよなぁ」

 

 未だあり得る未来を知るインデックスは、利用され、罪を犯し、それから必死に眼を反らしながらも目の前に突き付けられた罪そのものに、苦悩する白い少年を優しく見守る。

 それは奇しくも、彼が捨てた役割である聖職者(神父)のそれによく似ていた。

 

「さて、オマエさんはどう進む? 一方通行(アクセラレータ)。個人的には善方面をオススメするが」

 

 

 

 

 

 

 

第五話 実験終了のお知らせ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────phgfj殺kx」

 

 荒れ狂う黒翼が、極めて暴力的に薙ぎ払われる。

 学園都市を模した、或いは学園都市そのもののビル群を次々と切断し、轟音と共に吹き飛ばしていく。

 学園都市の景観さえ変えようとする破壊は、しかし。

 

「流石にそれじゃ駄目でしょ」

 

 インデックスはそれを眺めながら、穏やかに断じる。

 

出力端子(ヌイト)』と名付けられた個体は、微笑みながらその夜空に染まった四肢と天輪を戴く長髪を靡かせる。

 振るわれた黒翼を、優雅に回避して空を舞う。

 時にそのプラチナの翼で、時に物質化したAIM拡散力場で黒翼を弾いて流していく様は、達人が振りかぶられる鈍器を捌くソレに似ていた。

 

「しっかし質ではコッチが上なのに、聞いてたより強いじゃん/return。演算能力では負けてるのは事実だけど、ホルスやらオシリスやらの時代はどうしたのよ/return」

「──────ォオオオオオオオオオオオああああああッッ!!!」

 

 荒れ狂う黒翼は、しかしヌイトを捉えられない苛立ちからか変化する。

 二対の翼は枝分かれし、打ち出されるように弾幕として射出された。

 

「!」

 

 そんな漆黒の濁流に、プラチナの翼を突き付ける。

 すると黒翼の弾幕は、遮られる様に悉くその向きを逸らされた。

 その流れ弾で地形が更に変わるが、此処は新天地。

 普段暴れている魔神連中の方が余程壊しているし、現実時間には何の問題もないのだ。

 

「───お返し/return」

 

 そのまま、黒翼が突き破られた。

 そう一方通行が認識したと同時に、彼の顔面に夜空に染まった脚が叩き込まれる。

 黒い暴風とも表現できる黒翼を弾幕のように展開したのは悪手だった。

 

「いくら頭に血が上っているとは云え、自分で視界を塞ぐのは迂闊すぎでしょ」

 

 黒翼で崩れたビルに叩き込まれた一方通行を、しかし油断無くヌイトが見据える。

『反射』によって蹂躙しか知らない一方通行は、此処にはもう居ない。

 

 爆音と共に、瓦礫が不可視の力でヌイト目掛けて吹き飛んだ。

 莫大なベクトルが込められている瓦礫の弾幕は、かすっただけで人間を染みに変える死の暴威。

 だが、脅威としては先程の翼には格段に落ちる。

 なら、そこから考えられるのは、

 

「目眩ましか」

「素直かよ」

 

 ソレだけの速度とベクトルが込められているとはいえ、所詮瓦礫。

 それに対し、彼女は極大の雷で消し飛ばす。

 オリジナルの御坂美琴すら比較にならないそれは、瓦礫ごと飛来元である一方通行が居た場所を、先程の自分の言葉がブーメランになることを承知で呑み込む。

 もうすでに、ソコには一方通行が居ないことを理解したからだ。

 

「何処から来る?/escape」

 

 それと同時に、ヌイトが大きく飛翔し周囲を見渡す。

 現在美琴のソレを大きく上回る電磁レーダーを発する彼女に死角など無い。

 

 瞬間、黒い翼が雷柱を突き破りヌイトに迫る。

 まるで先程の焼き増しだ。

 それを、再び翼で受け止めた。

 出力精度共に、ヌイトの翼は一方通行のソレを上回る。

 単純な力押しでは勝負にならないことは、先程の衝突で分かっているだろうに。

 

「なら───/return」

 

 噴出する黒翼が、ヌイトのプラチナの翼に堪えられず渦を巻きつつ四散しようとする。

 そのまま翼が貫かれる、一瞬の時。

 すれ違う様に眼球を赤く充血させ、明らかに正気を失った顔付きで───一方通行が飛び込んできた。

 

「がアぁああああああああッッ!!!」

 

 そのまま、星の公転さえ利用したベクトルが、拳を伴い振るわれる。

 

 ─────スカッ、と。

 そんな拍子抜けするような音と共に、綺麗に拳が空を切る。

 衝撃波が空気を弾けさせるも、振り抜いた拳を掴まれる。

 

「一体、アンタに何回殺されたと思ってんの?/escape」

「ご──────ッッ!!!?」

「パラメータで上回ったんなら、アンタの拳なんて喰らう訳無いでしょ/return」

 

 幾分か、インデックスとの交流で打たれ強くなったといっても。

 触れるだけで死をもたらす最強を相手に、一万回近く戦い続けた経験を蓄積するヌイトにとって。

 そんな素人の域を脱していない拳が、当たる訳もなかった。

 そんな隙だらけになった一方通行を、プラチナの翼が星を割るかの如き勢いで叩き落とした。

 

「さて、そろそろ頭に上った血は引けたかな?」

 

 一方通行が落ちた場所は、クレーターとなり爆心地の様相を呈していた。

 そんな瓦礫の山と成り果てつつある新天地の学園都市は、しかし窓の無いビルだけは健在であった。

 その屋上で戦場を俯瞰するインデックスは、一方通行の命が健在であることを確認する。

 初めから彼を殺すつもりはないのだ。

 この実験に区切りを付け、死者を出さないよう取り計らうのがインデックスの役割でもある。

 

 だが最早、満身創痍だろう。

 

 とはいえ、相手は学園都市最強の超能力者。

 今の一撃で正気に戻れば、ベクトルの解析を試みる筈だ。

 無論、魔術知識が無い一方通行に、ヌイトのベクトルを解析することは不可能に近いだろう。

 別の位相由来のベクトルを相手にするのは、やはりまだ早い。

 

「……正気に戻れば、ね」

 

 それは、酷な話かもしれない。

 今更正気など、果たして一方通行に堪えられるのだろうか。

 インデックスは、今まで殺された万に迫る死者の数に苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 瓦礫の中に叩き込まれた一方通行は、揺れる視界を映す瞳を両手で塞ぎながら、鬱ぎ切っていた。

 

「がぁ………………ッッ!!」

 

 脳味噌がシェイクされた様な嘔吐感と激痛、辛苦は、先日散々インデックスに殴られた時のソレが比較にならないほどのダメージを彼に与えていた。

 先程まで激情のままに振るっていた莫大なベクトルが欠片も残さず霧散し、自身のベクトルさえ掌握することも儘ならない。

 

「ごォッ────」

 

 腹の中に有るもの全て吐き出しても、学園都市最高の能力者の頭脳は演算式一つさえ組み上げられずにいた。

 無理もない。

 今の彼は正気を、半年前のマトモな精神状態を取り戻していた。即ち、

 

 ────何の罪も無い()()を、一万人近くを殺した。

 

 そんな事実を、額面通りに叩き付けられた事を意味していた。

 如何に能力開発によって常人とは別の現実を持とうが、耐えられる訳がないのだから。

 罪悪感? 自責? 慚愧? 

 最初に妹達を殺した時の、クソッタレの研究者の言葉が脳に反響し続ける。

 同時に、9981回血溜まりに沈む妹達の死体を想起したのか。

 否、そんな回数五体満足で済ました事などない筈だ。

 最早逃避と云う名の暴走は出来ない。

 

 思考さえ侭らなぬ一方通行の声無き絶叫は、彼を埋める瓦礫を吹き飛ばしたプラチナの翼によって差し止められた。

 

「何してんの/return」

「……ッ!」

 

 最早電光さえ何処にもなく。

 変異した際に消し飛んだ服の代わりに、翼だったプラチナのソレを纏うヌイトは一方通行を見下ろしていた。

 

「お、マエ」

「実験はまだ終わっちゃいないぜ?/escape」

「─────────」

『まだ実験は終わっていない』

 

 研究者の声が、脳裏にへばり付いて離れない。

 

『速やかに其処のクローンを処分したまえ』

 

 ───何を被害者ぶってやがる。

 そんな、罵倒する自分が居る。

 クローンを人間ではなく人形だと、そんな逃避に身をやつし。

 研究者のクソッタレ共の口車に嵌められ、一万のクローンを虐殺した。

 何のために力を求めた? 

 何を得るために無敵を欲した? 

 

「笑えるよね、一方通行/return。結局は私もアンタも同じだ/return」

 

 それぞれ別の怪物に目を付けられ、好きなように弄くり回され、茶番劇を演じさせられている。

 

「この実験もそうさ/return。初めから失敗することが決まっている。いいや、実験の提唱者は本気だろうが、学園都市の王がこの実験に眼を付けた時点で、この実験は茶番へと落ちた/return」

 

 彼を成長させるために。

 あの少年の右手の、その更に奥の、神浄の討魔を。

 ()()()()()()()()、成長させるために。

 だが、─────()()()()()()

 

「ま、選択肢だけは委ねられただけ、最悪より幾分かマシかな/return」

 

 あの怪物は、()()インデックスは選択肢さえ与えられなかったのだから。

 

「立って戦え、一方通行(アクセラレータ)/return」

「……!」

「この馬鹿踊りも、今日で終いだよ/return」

 

 立ち上がる。

 殊勝ささえその表情に帯びながら、一方通行は瓦礫の山で立ち上がった。

 周囲を見渡す。

 五年か。十年は経っていないだろう。

 未だ本来の名前を名乗っていた頃に戦車の隊列すら持ち出された、幼き自分が立っていた風景に似ていた。

 違いは、相対する者が居るか否か。

 

 再び、目の前の相手を見上げる。

 そこには、夜空の煌めきに包まれた天使の如き様相は存在せず。

 

「─────ミサカたちは感情を学び、今までの在り方が、人として間違っていたことを理解しました。ですが、どれだけ道徳や倫理を語ろうとも、ミサカ達が実験動物として生まれてきたことは変えられません」

 

 総体でなく、ヌイトやらでもない。

 物質化したAIMのドレスを纏った、ただの19090号がそこにいた。

 

「ですので、一方通行。『貴方に殺され続ける事』を役割として生まれたミサカが、貴方を倒すことで『実験動物』を卒業し─────『人間』になります」

 

 決意と、否定されまいと必死に胸を張る人間が、そこにいた。

 

「……アイツに感謝しねェとな」

 

 背中が再び弾け飛ぶ。

 その翼は、どす黒い噴射だったモノは、ホンの少し変わっていた。

 

「半端だねぇ/return。まぁ、精一杯ってやつかな/return」

 

 灰色の翼。神にも等しい力の片鱗を振るう者。

 精神の、ホンの僅かな変革。

 

 果たして一方通行の胸に飛来した感情は、何だったのだろうか。

 

 護るべき者のために挑むソレには程遠く。

 しかし、闇の底から這い上がる為の一歩目。

 古い自分を裁き、新たな自己を取得する。 

 奇しくもそれは、魔術結社への参入に於ける目標に似通っていた。

 

 ソレに対し、19090号が夜空を纏う。

 ヌイトと化した彼女が右手を翳し、彼女の影を拡大するように円状の『扉』が開かれる。

 曰く無限の星々、ホルスの時代の申し子。

 高次の魂が低次の肉体に宿り、支配する。

 一万もの死の相念(AIM拡散力場)()として、その解を以て真なる意思(聖守護天使)に目覚めんとする者。

 

「”汝の欲する所を為せ、それが汝の法とならん。全ての男女は星である。愛は法だ、それが意思の力で支配される限り。”」

 

 曰く、セレマの全て。

 法の書におけるその序文をインデックスが口にしたと同時に、両者が動いた。

 一方通行はその翼をはためかせ、飛翔する。

 ヌイトは、開いた『門』から現れた黒いエネルギー球を掲げる。

 

 激突は即座に。

 決着は、意外なほどアッサリ着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────『絶対能力進化(レベル6シフト)計画』は、ここに終演を告げた。

 

 新たな天地で行われた戦いこそ研究者達に知られることは無かったが、アレは当事者達のケジメのようなモノ。

 実験の凍結、破棄は一方通行が実験を放棄することによって決定した。

 そもそもこの実験は、一方通行の協力が前提となるものだ。

 そんな彼が実験を拒否すれば、破綻するのも当然の物。

 

 理由はここ数日の実験への妨害工作だ。

 ただ妨害があるだけなら兎も角、一方通行が倒され、挙げ句本人が実験以上の成長と遣り甲斐を感じてしまったのだ。

 勿論、一方通行にとってそれは建前でしかないが、研究者達にとってそれが真実。

 以前から一方通行の実験への不信は存在したことも、それを後押しした。

 

 そうなれば自分達の実験の正統性を示すため、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』での演算を求める。

 学園都市最高のスーパーコンピュータの裏付けがあれば、一方通行でも納得するだろうと。

 実際、それが計画の要でもあった。

 

 だが、既にそんなものは存在しない。

 幾ら演算申請を出そうと、どっかの誰かさんのせいで『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』はブッ壊れた。

 実験頓挫に伴い、莫大な負債が生じるだろうが、世間にバレて逮捕されるのとどちらが幸せだろうか。

 少なくとも、二万人のクローンの殺害に心から同意した研究者の末路など、インデックスは考慮しない。

 どちらにせよ膨大な借金に血迷った挙句、学園都市外部の組織と破壊工作の取引をした科学者(天井亜雄)など、警備員(アンチスキル)に通報して終わりだった。

 

 ─────一方通行は第七学区の病院に入院している。

 非人道的な実験を行わされていた、という名目で心身ともに快復を求められたからだ。

 具体的にはインデックスに。

 

 少なくとも、二万人のクローンを殺してきた精神的負担は計り知れないのだから、そう間違いはない。

 そのひねくれを少しは治してこい、と缶珈琲を段ボール箱で持ってきたインデックスに、顔こそ向けなかったが手を振って返した一方通行。

 彼は既に、変わっているのかもしれない。

 

 兎にも角にも、幻想殺しの無能力者など存在せずとも、悲劇の幕は引かれたのだ。

 

「────で、結局アンタは何がしたかったのよ」

 

 御坂美琴は、超越者同士と形容すべき戦いを見た後に、インデックスの部屋を訪れていた。

 インデックスと美琴は、学生寮の一室で座布団を枕代わりに寝転びながら、コミック本を読み───つまりはダラダラしていた。

 

「そりゃ実験の終幕だよ。色々やったのはアフターケア」

「アフターケア?」

 

 あの戦いのどこら辺にアフターケア要素があったのだろうか。

 そんな美琴にインデックスは、杖を振るように指を動かす。

 途端にキッチンから2つのアイスコーヒーが入ったコップが浮かんできた。

 

「妹達って国際法ガン無視してるからしてヤバいけど、ソレ以上にヤバイのがミサカネットワーク。アレはアレイスター───統括理事長のお気に入りだから」

「……!」

 

 本来の『計画(プラン)』に於ける、上条当麻、一方通行に重要度で並び、そして聖守護天使エイワスを現出させる鍵。

 単純な演算能力だけでも、あり得るかも知れない未来で一方通行が計算能力を失った際に、その補助としての役目を果たせる程。

 その本質たる『虚数学区・五行機関(新たな位相)』の制御など、木原一族を筆頭に理解できる者からすればその価値は計り知れない。

 

「もし妹達が危機に陥れば、今の一方通行なら迷わず動いてくれる。それに、ヌイトという自衛手段も手に入れた」

 

 学園都市第一位と、それを上回る自衛手段。

 ヌイトという存在を成立させるには、ミサカネットワークの総体に『死の恐怖』を教える必要があった。

 その為の布束砥信の感情プログラムである。

 

 そうでなければ妹達は生への渇望を覚えることも無く、あの戦いが行われることも無かった。

 無論ネットワーク全体へ波及すればよかったのだが、妹達の上位個体たる最終信号『打ち止め(ラストオーダー)』がそれを防いでしまう。

 だが総体という全体を妹達の『高次の自己』であり一つの巨大な魂とするならば、末端たる妹達の一人にプログラムが入力されれば、それは『高次の自己』たる総体への十分な影響だ。

 後は彼女を降ろせる肉の器として、プログラムが入力された19090号を調整すれば、自身の生存が関わる今回の茶番にも、その後の自己防衛への意欲もでるだろう。

 

 そうして誕生したのが、(総体)天使化を始めた器(19090号)───『高次の自己』と『低次の自己』との統一であり。

 ヌイトという名の、絶対能力者(レベル6)である。  

 

 尤も、絶対能力者と称したがこれは正確ではない。

 寧ろ真逆と表現すべきだろう。

『低次の自己』が『高次の自己』を支配するのが『SYSTEM( 神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの)』だとするのであれば、本当に真逆である。

 それを目的とした第二のテレマ僧院たる学園都市。

 それが造り出した妹達が、それとは真逆のカバラの目標を成す(真なる自己の目覚め)というのは、只管皮肉でしかない。

 だが妹達を狙う存在への対抗策としては、中々だろう。

 肉の器を持つという意味ならば、エイワスへの対抗策にもなるやもしれない。

 

 閑話休題。

 

「それに……今回で分かったでしょ、この学園都市の闇のヘドロっぷり」

「……それは」

 

 ズズズ、と珈琲を啜るインデックスに、美琴は俯く。

 甘く見ていたのかも知れない。

 否、確実に甘く見ていた。

 

 幻想御手(レベルアッパー)事件から始まった、乱雑解放(ポルターガイスト)事件を解決し、苛まれていた人達を助け、悲劇を覆したのだという自負があったのだろう。

 そして、それは間違いであった。

 そう、美琴は自戒する。

 

 クローンとはいえ二万人の死体を築き、実験成功と称賛と拍手を行う様な、おぞましい輩が相当数存在するのだ。

 そして、これは決して学園都市の闇の底ではないのだと。

 

「一応自分も絶望を乗り越えて来たから、わかんだけども───いや、アレは自棄っぱちだったわ」

「ダメじゃない」

 

 かつて自棄になり、不完全とはいえ魔術世界最強存在(オティヌス)を相手に、ボロクソにぶちまけたのをインデックスは染々と思い出す。

 よくあの時、地面のシミにならなかったなぁ、と。

 

「まぁ兎も角、最近まで結構苦労した身としてはそんな目と鼻の先でクソ現場があったら、首を突っ込んじゃう訳よ」

「ま、まぁ分からなくも無いわね……」

 

 寧ろ、美琴は全力で首を突っ込むタイプである。

 そしてそれを相棒である白井黒子に風紀委員として注意されるのがいつものパターンである。

 インデックスの所感を、否定出来る訳がない。

 

「ミコっちゃんだって今結構余裕そうにしてるけど、目の前で妹達の誰かがミンチにされてるの目の辺りにしたら、全然スタンス違ってたと思うぜ?」

「……それは」

 

 確かに美琴は計画の全てを知ったが、所詮は資料越し。

 実際に妹達を殺される現場を目撃していれば、間違いなくもっと取り乱していただろう。

 少なくとも、学園都市上層部や研究者、一方通行への怒りは今の比ではないのは明らかだ。

 そして美琴は理解する。

 それはきっと、目の前の少年のお蔭なのだと。

 

(ホントに、配慮してくれてるんだ─────)

「取り敢えず、ミコっちゃんは一先ず自分の事をやりんしゃいて」

「何よ、自分の事って」

「学生やれよ」

 

 ヒーローやるより女子中学生やれ。

 インデックスの表情は、幾分か真剣だった。

 

 この少年について理解出来ないことは、まだまだある。

 当然だ。

 美琴はこの少年の事を、本当に何も知らないのだから。

 

「学園都市の闇とか、女子中学生やるのに比べれば些事だろ。親御さんに聞いてみろよ、『学生やるのと学園都市の闇を暴くの、どっちが大事?』ってよ」

「それは────」

 

 それを言うのは卑怯だろうと、そう思うこと自体に既に両親への後ろめたさが美琴にはあった。

 様々な事件に首を突っ込み、解決してきた。

 それは第三位としての力があったからだし、後悔もない。

 だがもし、一方通行と本気で戦った場合、美琴は五体満足で居られただろうか。

 もし、万が一。

 死んでしまう可能性だってあったのではないか。

 そんな可能性が脳裏に過り、思わず震えてしまうが────しかし。

 

「でも、それでも。───気に入らないのよ」

「ふむ」

「私だって、出来ることはある。学園都市第三位の超能力者(レベル5)って力なら、誰かを助ける事だって出来るんじゃないかって。それこそアンタと同じよ」

 

 それは、学園都市に於いて頂点に近い自身の力がまるで通用しないであろう戦いを見たからこその、焦燥だろうか。

 あるいは、悲劇を知らずに見過ごしていた事への、力を持つが故の責任感か。

 少なくとも、きっと美琴は今後も誰かを助ける為に力を振るうだろう。

 それこそ、インデックスと同じである。

 極論、困っている人を放っておけない───────そんな善性。

 

「男子高校生に照れ隠しで10億ボルトブチ撒ける奴に一緒にされてもなぁ」

「張り倒すわよコラァ!」

「ばりあー」

「ちょ、何よそれ!?」

 

 美琴が投げた座布団を、AとTめいたフィールドが防ぐ。

 弾かれた座布団が、しかし浮遊し定位置に戻る様は、超能力者の街でありながらファンタジーに満ちていた。

 

「……ただの学生ではいられない、と」

「というか、学園都市第三位の時点で、ただの学生な訳ないでしょ」

「言ったな」

「!」

 

 悪戯小僧のように嗤いながら、美琴に顔をインデックスは近付ける。

 同世代に見える異性に、下手をすれば唇が触れる程近付かれて頬を染めるが、しかし持ち前の負けん気で同じように笑い返す。

 

「くくく」

 

 それに満足したのか顔を離し、携帯を取り出す。

 表示されるのは、何かの同意画面。

 

 インデックスは今や、完全な魔神である。

 無論、次元違いの頂点であるが故に慢心すれば格下から打倒される可能性こそあれど、紛れもない魔術世界の最強存在である。

 が、その力を振るうには障害が強すぎる。

 

 例えば、そもそもこのインデックスは本体ではない。

 完成された魔神とは『無限』という概念そのものである。

 世界の許容量を軽く超越し、ただ存在するだけで世界が砕け散ってしまう。

 その為魔神達は隠世と呼ばれる神域────今ある世界に影響を及ぼさない特殊な位相に身を置き、世界の様子を窺っていたのだ。

 その結果、魔神全体の脳筋化が著しく進んでしまったのだが。

 なので今世界の表面に存在するインデックスは、所謂端末と表現される本体の『影』である。

 その為インデックスは真なる敵対者と戦う際に、敵を己の領域に誘き寄せる必要があるのだ。

 あるいは──────────()()()()()()()()()()()()()()()()()()へ、足を踏み入れるか。

 

 例えば、深淵に潜む大悪魔にして自然分解の天使コロンゾン。

 仮にインデックスが正面から戦いを挑み、魔神としての力を存分に振るっても尚敗色が存在する怪物である。

 勝つには、策を用意するのは必定である。

 故に、インデックスは己の力を隠さねばならない。自分を脅かす存在を認識させてはいけない。

 

 例えば、魔術の行使が真っ先にこの禁止事項に該当するだろう。

 

 イギリス清教『必要悪の協会(ネセサリウス)』を有するコロンゾンを油断の中で、確実に殺す為に。

 であれば、この学園都市外部に於いてインデックスは一切の魔術を使ってはいけないのだ。魔力で個人を特定することのできる『必要悪の協会(ネセサリウス)』に、インデックスが首輪を噛み千切っていることを悟らせてはならない。

 使えるのは、他人の魔力で構築された術式を間借りするのが限度だろう。

 とても魔神としての全力には程遠い。

 

 例えば、秘密結社薔薇十字(ローゼンクロイツ)

 アレイスターの『計画(プラン)』の要にして、純粋物理世界の聖守護天使エイワス。

 そんな高次存在を従える、薔薇十字(ローゼンクロイツ)の令嬢アンナ・シュプレンゲル。

 

 片や魔神を『セフィロトを登るしか脳がない猿』と評する、理論値であらゆる魔神に対抗できるとアレイスターに目された高次知性体。

 片や、そんなエイワスを従える薔薇十字(ローゼンクロイツ)の達人にして、魔神からも脱線した別格。

 

 いずれ敵対するであろうそんな怪物達に、一人で戦いを挑むのは無謀も良い所。

 ではどうすればいいか? 

 

「なぁミコっちゃん。そろそろ一般人以外のポストでも、手に入れてみない?」

「えっ?」

 

 悪戯小僧のような顔で、少年は少女を勧誘する。

 

 もし、学園都市全体がキチンと自浄作用を発揮し、その全ての力を外敵への備えに運用できれば? 

 インデックスは美琴に、サイバトロン軍総司令官が使用した言葉を選んだ。

 

「────────【私にいい考えがある】

 

 まずは足元から整えていこう、と承認された携帯を閉じる。

 幸い権力者(変態クソ野郎)の弱みを、インデックスは握っているのだから。

 

 




 勝った! 第三巻完ッ!! 
 という訳で、後の伏線を用意しつつ長かった妹達編の終了です。
 何でこんなに長くなったん? と言われればアニメ三期がゲフンゲフン、仕事が大変だったとしか言えません。申し訳ありませんでした。
 以前の物をリメイクした理由は、原作考察で妹達関連で面白いものに触発されたのと、単純に設定から逸脱しすぎたというのが理由です。原作はリスペクトしてこそ二次創作。それを思い出せたのが本当に良かったです。

 という訳で駆け足にも感じた絶対能力進化実験編、リメイク前では戦闘シーンばかり書いてましたが、今回は色んな人にフォーカスしてみました。

■インデックス
 今回の裏方。
 魔術が使えないというハンデが発覚。
 実は移動などはオティヌスの『骨の船』を多用し、後は探知されない異界である『新天地』以外では、魔神の端末のパラメータを使ったステゴロオンリーだったり(9982号へのルーンは、オティヌスが用意した原初のルーン)
 もし魔術行使描写あったら即時修正します。
 え? バリアはってる描写がある? なんでやろな(すっとぼけ)

■オティヌス
 今回は直接登場はせず、魔術を貸しただけ。
 実は集めていた『グレムリン』の後始末をしています。
 フレイヤ助けたり、悪党シバいたりと様々。
 一応トールやマリアン辺りは今後出番はあるかなぁ? といった具合です。

■ブリュンヒルド
 魔神二柱による超強化、魔改造が為されました。
 本編でも描写しましたが、複合聖人というオリジナル聖人に。
 本来相反する異なるフォーマットですが、魔神二人居ればイケるやろ、ということに。片方北欧の大神やし。
 自力ではアックアと同等で、加えてチート装備でがちがちに固めたので一方通行を圧倒出来た、という風に描写しました。
 彼女は今後も登場させるつもりです。

■御坂美琴
 実は彼女メインじゃねぇの? と言わんばかりの登場頻度でしたが、原作からしてヒロイン回なのでご了承ください。
 上条ヒロイン脱退、という禁忌を犯しましたが、友達以上恋人未満という悪友ポジに。
 実は「頼り甲斐のある(見た目)同世代の異性」という、上やんとは違う角度からのアプローチだったりします。
 彼女には原作では周回遅れだったのを、今作では上やんを追い抜いていければと考えています。

■一方通行
 あんまりリメイク前と変わりなかったり。
 上条ファンにならず、その分妹達への偶像化が加速した模様。

■ミサカネットワークの総体
 真なる意志やら聖守護天使やら専門用語を垂れ流す羽目になった元凶。
 一方通行への感情はかなり複雑。なので妹達も一方通行への好感度は様々。
 その中で一番彼への憐憫が大きいのが打ち止めだったり。
 インデックスには一応感謝はしてるけど何かムカつく、というオリジナルと似通った感情を抱いている。妹達は好感度高め。
 絶賛放送中の超電磁砲アニメ三期にひたすら影響を受けました。
 やっぱり、キチンとした尺と演出用意すればとあるは面白いんやなって。
 次に登場するのはいつになるのか、それぐらいぶっ飛んだ設定にしました。

 という訳で、次の更新は間をあける予定です。
 今作に一応区切りを着けられたのと、自分の投稿している別作品を同様に区切りが着くまで集中したい、というのが理由です。
 なのでその作品は兎も角、この作品で再会するのはもう暫く先となります。
 申し訳ありません。

 誤字脱字があれば随時修正します。
 感想、誤字指摘ありがとうございます。

*5/5追記




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