男女混合超野球連盟ぱわふるプロ野球RTA (飴玉鉛)
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キャラクリ&リセマラソンによる絶対運命

何もかもに無気力になったのでリハビリの初投稿です。


 

 

 皆の弾道を上げていくパワフルな野球ゲーム、はっじまっるよぉー!

 

 今回は大人気タイトル『実況パワフルプロ野球』シリーズの集大成と名高いあの大作、『男女混合超野球連盟ぱわふるプロ野球』をプレイしていきます。

 一部ファン層から『タイトルに「実況」がついてない』『パワフルじゃなくて「ぱわふる」とかふざけてんの?』『――やり直し(無慈悲)』と揶揄される事もある本作ですが、何よりの魅力はずばり本作がV()R()()()()である事ですね。

 

 えーと知らない方のためにご説明致しましょう。なんと本作、全年齢対象のゲームではありません。十八歳未満の方はプレイできませんので、店頭でお求めになられてもご購入できない事を予めご了承ください。

 ここでは十八禁に該当する箇所は丸々カットしていくので、十八歳未満の視聴者の方も安心して見られます。本作はVRゲームという事もあり、非常にリアルかつ膨大なシナリオを編まれております。その膨大さとルート分岐の多彩さは、数百人の人生を物語として書き落としたと言われても納得の出来。しかもリアルでの時間経過を気にしている方もご安心、現実での体感時間とゲーム内時間は切り離されていて、ゲーム内でどれだけ過ごしても現実時間は然程経過しません。

 はぇー^すっごい(感嘆) 思えば人類は遠くに来てしまったものですね……とはいえその時間差の乖離具合は相当にひどく、専門の機関から身体検査及び諸々のテストをクリアして、プレイ許可証を発行してもらわねばなりません。でなければ現実と空想の区別がつかなくなりますからね、定期的にお医者様に診察してもらいましょう。

 

 で、煩わしいリアルの話はともかく、本題に入っていきます。

 

 本作と本動画の簡単な流れをご説明しますと、プレイヤーキャラである主人公は野球選手を夢見る小学生です。もう一度言います、小学生です。中高大生からもプレイできますが。

 わたしは小学一年生からスタートし、大人になってプロ野球選手になり引退するまでゲームは続きます。なのでプレイ時間はかなり長期に亘り、小学生スタートプレイヤーが現実との乖離に耐えられず、廃人(ガチ)が生まれる事が多々ある事で知られていますね。まあ病院に行けばすぐ治るんですけど。

 ゲーム内でも痛みやら味覚やらシモの何やらも感じられますが、度を越した感覚は遮断されますので安心安全ですよ。

 なおゲームクリアの条件として、【プロ野球選手になる→引退する】というプロセスを踏まねばなりません。なのでプロになりもせずに一定期間が過ぎると強制的にゲームオーバー、【はじめから】を強制されますのでご注意を。野球に関わらず結婚し、一男一女をもうけて幸せな家庭を築いていたら、突然心臓麻痺で死ぬとかありますあります(一敗) 時にはなんの予兆もなく地球が爆発することも(二敗)

 

 心壊れちゃ^ーう↑ まあ一度壊れたんですけどね(白目)

 

 ――逆に、【プロ野球選手になる→引退する】プロセスを踏めたなら、それまでの過程で何をしていても構いません。普通に会社員してたりバイトしてたりニートしてたり、科学者・政治家・軍人・闇の組織の幹部……極論、大悪党になっていたりしてもオールオッケー。それこそがこのパワフルプロ野球クオリティー(白目)

 主人公くんとその関係者に幸せになってもらうには、なんとしてもプロ野球選手にならねばならない(使命感) なーのーで! 今回はかなりガチでやります。些細なミスやガバで選手能力を落としてしまったり、後遺症の残る怪我を負ってしまうと高卒、大卒時のプロ選考、ドラフトに響いてきますからね。それらを踏まえて緻密なチャートをちゃーんと組んでますよ(激ウマギャグ)

 

 今回わたしが目指すのは、高卒ドラ一位で本作のとあるオリジナル球団に入団し、絶対エースとして君臨するルート――通称『マウンドの王者』を経て獲得できるトロフィー『投手の王冠』です。なので主人公のポジションは投手で決定となります。目指すは最強投手以外にありえません、コントロール・スタミナ99で球速は170の化け物を作ってやりますよ(震え声) ちなみにこのトロフィー取得条件的に、絶対エースとして最低五年は君臨しなければならず、絶対エースになると電撃引退が難しくなるので、クリアするまでどう足掻いてもプロになって最低十年は掛かります。

 で。本作のタイトルにある通り、ぱわぷろ(平仮名)世界では女性選手も男性選手の中に混じってバリバリに活躍します。試されるのはセンスと努力量で、わざわざ男女別に分けていない事になってます。

 

 (鍛えた)筋肉は裏切らない――至言ですね。女性にはキツイかもですが。

 

 ともあれ本作には、基本的に一部例外を除いてパワプロシリーズの全キャラが登場するんですが、流石に全員と面識を持ったりする事はまずありません。出会う面子がかなり偏る事がありますので、推しのキャラに巡り会えなかったからって折れちゃダメだぞ(はーと) まあわたしは一番の推しと幼馴染になれるまでリセを繰り返すんですがね。

 後は実際にプレイしながら、随所随所で解説しましょう。あんまり長々と語り過ぎて時間を浪費するのも馬鹿らしいですし、さっさとキャラクリを始めましょうか。

 

 とは言うものの、野球はほぼほぼ才能の世界です。プロの世界は一握りの天才ばかりで、更にその天才達が不断の努力を積み重ねて漸く至れます。努力だけでプロになれるのは、体が頑丈で野球が大好きで野球以外の何もかもを捨て努力を重ねられるような精神的超人ぐらいでしょうね。あ、例の博士に改造された人は別ですので、そこは混同しないでください。

 ですので、ランダムで決まるステータスの初期値――小学生からのスタートなので大差はないのでそこはどうでもいいとして。最低限『センス◎』がなければ即座にリセ安定ですよ。あ、ちなみに本作にはこれまでにない特殊能力とかがあります、そんなんワイは知らへん! とか思われるかもしれない能力もあるでしょう。ですがこまめに解説するので流してください。

 で、早速ですが『センス◎』とは、センス○の上位互換です。これが付いてるとなんと、全ての必要経験点が20%OFFになるんですよ。凄くないです? これが付いてるのと付いてないのとでは大違い、付いてたら育成が捗りまくります。怪我や事故、事件に巻き込まれない限りは高卒でプロになるのも比較的簡単ですよ。――ですがまあ、本番はプロになってからなので、それぐらいでイキってたら二軍落ちもすぐなんですけどね。

 

 という感じで喋りつつ簡単なキャラクリをします。はい、よーいスタート(棒読み)

 

 一応RTAなのですが、キャラクリで手を抜くなんて怠惰は赦されません。時間掛かってもいいんで丁寧に仕上げていきましょう。

 なぜかというと、全員が全員そうでないといけないわけではないのですが、やっぱり人間って顔ですからね……。イケメンにすると『人気者』になりやすく、『ムード○』も付きやすくなるという優遇っぷりです。ランダムで作成した平均的な顔でプレイするより、育成の面を鑑みてイケメンの方が都合がいいのですよ。彼女も作りやすいですしね(血涙)

 

 ――というわけで主人公(大人バージョン)を一時間掛けて作りました。ここまでは詰まらない動画でしたが切り替えていきましょう。念の為、作った顔は保存しておきます。

 ち、な、み、にぃー? 作った顔と体が不釣り合いになる、なんて事はありませんので安心してください。身長と体重、健康状態に合わせて補正が掛かって、微妙に顔も変化しますので。じゃないと子供の頃からキモいぐらい大人のイケメン顔になり、更に歳を食ってもイケメンなままという放送事故が起こりますからね。

 

 わたしが作ったのは、日本人なので黒髪黒目。かなりのイケメンです!(アバウト) 身長とかは色々頑張って伸ばしましょう。ランダムで割り振られる親の遺伝子と家庭環境のパワーに期待するしかないですから。

 名前は打ち易さを考慮して力場専一(チカラバ・センイチ)、苗字の力場の力でパワー、名前の専一の専から取ってプロ(こじつけ)で、あだ名は『パワプロ』です。本当は先人に倣ってホモと名付けたかったのですが、彼女作れたら経験点が美味しいのでノンケにならざるを得ませんでした……。

 

 悔しいですがここは切り替えて、早速本編を始めます。

 どっかの小学生として入学式が始まったところからゲームスタート。入学式は見ているだけの側にとってはダルいので、全スキップ余裕です。

 そして早速自分のステータス欄を開きましょう。ここで『センス◎』が付いてないとやり直しなんですが――はい、付いてませんね。リセです。

 ここでワンポイントレクチャー。普通にゲーム終了すると某アニマルの森の如く無駄に長い茶番が挟まれて、分単位でタイムロスしてしまいます。一度や二度のリセなら気にしなくてもいいのですが、恐らく何百と繰り返すであろうリセの前に、この分単位のロスを積み重ねるわけにはいきません。このロスは短縮したいので、茶番の挿入されないBADENDに突入しましょう。

 

 速攻で校舎の3階まで走り、教室に飛び込んで即座に窓に突撃。身投げして飛び降り自殺をします。

 フルダイブ型VRなのでメチャクチャ怖くて勇気が要るのですが、わたしは慣れてるので問題ありません。良い子は真似しちゃダメだぞ(はーと)

 

 ――はい、ちょっと頭と首と体の節々が痛かったですが最初からです。

 保存していた顔データを読み込んで、名前を打ち込んで、はい再スタート。

 ……ダメみたいですね。リセです。

 ………ダメみたいです。リセ。

 リセ。

 

 リセリセリセリセリセリセリセ。

 

 はい今回もリセ――っとぉ! 『センス◎』付いてる! よっしまずは第一段階クリアですよ! 後は目当てのキャラが同じ学校にいれば幼馴染に……。

 

 ……。

 

 ………。

 

 いませんね。リセです。

 

 えー、リセを繰り返してるわけですが、飽きてしまわれないように説明しておきましょう。

 わたしの目当てはズバリ、霧崎礼里です。レイリーです。2018年実況パワフルプロ野球、パワプロアプリで初登場した、個人的に最高に可愛い女性選手ですよ。銀髪銀目のクールな娘で、ポジションは遊撃手だったりします。

 もちろんカワイイからと幼馴染ポジを狙ってるわけではありません。彼女、女性選手の中でトップクラスに優秀な野手なんですよね。遊撃手なんですがサブポジで二塁も守れます。能力値もオールB以上で野手特殊能力で盗塁A、アベレージヒッター、調子安定、選球眼、読心術持ちなんですよ。あくまで高校・大学レベルでのステ表記ですが、最強かよ(感嘆)

 彼女が後ろを守ってくれている時の安心感たるや、並大抵ではありません。打撃の巧さ的にも素晴らしいものがありますね。それに何より素晴らしいのは彼女を口説き落とせれば(意味深)……なんと、レイリーはプロの世界にも付いてきてくれます。違う球団に入る事になってもFA権を獲得するなり来てくれるんです!(歓喜)

 

 まあ彼女のこの異常な強さは、ゲノム大付属でナニカサレタヨウダという過程を経てのものなんですが、ゲノム大付属に入る前からも性格的な変化は然程ではなく……才能も充分で、大体オールC以上で落ち着いてくれます。守備の硬さと打撃の巧さも練習の結果最終的にはゲノム大付属の時と同値に至る天才ですね。

 読心術も効果は落ちますが、素養はあるようでナニカサレタヨウダされなくても空気を読めて(※敢えて無視する)、察しもよく、相手の考えを読むのが得意な娘として成長します。

 

 お前が欲しい(火の玉ストレート)

 

 普通投手でやるなら相方となる捕手が欲しくなるものなんですが、それは中学か高校で巡り会えればそれでよく、なんなら自力で探せばオーケーです。

 レイリーが最優先なのは、彼女との付き合いの難しさ故です。クールな娘なので幼馴染にでもならない限り、親密になるまでに非常に難儀します。しかも後回しにするとゲノム大付属に入ってしまい、そこで住田という男を弟分にして、割り込む余地がほぼ皆無になってしまうからですね。

 幼馴染になり親しくなれば、レイリーはとても尽くしてくれるうま味のお助けキャラになるのです。逃す手はありません。

 

 ……リセ。

 

 これで何人目のパワプロくんになるんでしょうねぇ……。まあええわ、切り替えていきましょう。

 りーせりせりせりーせりせ♪ りーせりせりせりーりせー♪ いい加減飛び降り自殺も飽きちゃったー♪ ――っと。

 何度目かの『センス◎』がついて……お? おぉっ!? おっとキター!

 0.1%の壁を超えて来ましたよわたしの運命が! 出るまで引いたけど出たら運命ですよ!

 

 いました。同じ小学校、同じクラスにレイリーが! ほわぁ……ロリ礼里タンきゃわいい……。

 

 等身はパワプロの頭体手足だけのものではなく、完全にリアルのそれですが一目で分かりました。だって名札を付けてますから。

 

『霧崎礼里』

 

 間違いないですよ。とりあえず声を掛けましょう。じゃなきゃ始まりませんしね。

 彼女はクールな気質ですが、そなたなどまだまだ子犬よ(お蝶殿並感) グイグイいけば勢いで押していけます。いくわよーイクイク。

 

 

 

「お前カワイイな! 俺の嫁にしてやる! だから一緒に野球しようぜ!」

「……は?」

 

 

 

 は? と聞き返して目を丸くする霧崎礼里ちゃん(七歳)。気持ちはスゲェよく分かりますよ。自分で言っててアレなんですがぶっちゃけイミフですからね。

 

 お前カワイイな――これはまあ分からなくもないはずです。褒められて悪い気はしないでしょう。

 俺の嫁にしてやる――踏み台転生者かな?

 だから一緒に野球しようぜ――ちょっと何言ってるかよく分かんないです。

 

 ですが小学生男子の発言に、脈絡やら整合性やらを求めてはいけません。勢いこそパワー、初対面時はとにかく強引に踏み込みましょう。

 礼里ちゃんの手を取って、グイグイと外に連れ出しグローブを渡します。この時のためにグローブを二個とボールを用意してたんですよ。そしてグローブを嵌めさせてキャッチボールをします。

 まずこっちからボールを投げて、突然のことに捕球し損ねた礼里ちゃんに、

 

「ヘタクソだなぁ。ボールの取り方教えてやるから投げてこいよ!」

 

 と、煽りながら投げてくるのを要求しましょう。

 もっと大きくなった礼里ちゃんなら、この時点でグローブを捨てて付き合ってられるかと立ち去るでしょうが、小学校入学したての今なら攻め切れます。

 何がなんだか分からないといった顔のまま、えいやと女の子投げで投げ返してくれるのでそれを見事に捕球しました。そうして捕り方をレクチャーしながらボールを投げます。すると、今度はなんとか捕球した礼里ちゃんに、笑顔を忘れず全力で楽しんでるアピールをしながら褒め言葉を贈りましょう。

 

「やるじゃん。俺の見込んだ通り運動神経良さそうだな!」

「そ、そうか……?」

「そうだって。俺は嘘なんか吐かないぞ、お前は絶対に上手くなる! プロにだってなれるよ! 俺の嫁にしてやるから一緒に野球しようぜ!」

 

 困惑を隠せてないロリ礼里ちゃんも、褒められると嬉しいみたいで段々乗り気になってきました。よぉうし、いい感じです。謎の攻勢でウザいぐらい攻めまくりましょう。

 とはいえこんなテンションは初対面時だけに留めておきましょうね。彼女が冷静になると普通にドン引きされてしまうので。後日この日のことを追求されたら、礼理ちゃんが可愛かったから仲良くなりたかった、とでも言って誤魔化しましょう。嘘は言ってないから(迫真)

 

 で、ある程度キャッチボールしたら、まだちっちゃい女の子という事もありすぐに息切れします。そのタイミングで止めて、思い出したように切り出しましょう。

 

「あ、そういえばお前の名前知んないや。俺は力場専一! パワプロって呼んでくれ! お前は、えー……っと……キリ……?」

「……霧崎礼里だ」

「じゃあ礼里ちゃんだな! よろしくな礼里ちゃん! またキャッチボールしようぜ! じゃあな、また明日!」

「あ、ああ……あっ、待て! このグローブ――」

 

 パワプロくんの超ハイテンションに押されて礼里ちゃんは頷いてしまいましたね。

 やってしまいましたなぁ(ゲス顔) 安易な約束はしちゃいけないんだゾ、お兄さんとの約束だ!

 

 そんな感じで一旦別れます。グローブは返してもらいません。押し付けたまま逃げるのです。

 これで惰性で付き合いを保ち、かつ親しくなって自発的に野球を好きになってもらいましょう。肝なのはパワプロくんが全力で野球を楽しみ、本心から野球が大好きだと見せつけ続ける事です。わたしも野球狂、本心を悟られても問題はありません。

 

 なおこの世界では、野球に対する男女の意識差はありません。なので女の子がグローブを持っていたり、野球をやりたいと思うようになっても不自然ではないのです。

 

 いやぁ、苦節何十人目かのセンス◎持ちイケメンのパワプロくんで、幼馴染フラグを立てられた礼里ちゃんと出会えました。

 実はさっきも一度、同じ条件で礼里ちゃんと会えたんですが……ファーストコンタクトで袖にされたのでリセしたんですよね。もう初対面時の礼里ちゃん(ロリ)には勢いしか通じないと思い知らされました。泣く泣くリセする羽目になった時は流石に心が折れ掛けましたね……。

 

 さあマップに表示されてる家に帰りましょう。本作は野球ゲーなので、親もパワプロくんが野球狂でも気にしません。劣悪な家庭環境でない限り、野球をするための環境も自動的に整えてくれます。

 で、家庭環境や親はランダムで決まるのですが、どうやら今回のパワプロくんは極普通の一般家庭、中流層ぐらいの生まれみたいです。これなら変なハンデが付きません。やったぜ。

 

 とはいえ山の麓に家があるとか、結構いい立地ですね。何せ近くの神社がいい感じに縦に長い階段があるので、そこでスタミナ作りのダッシュができるので。練習の環境もよさげですよ。

 クラブに入って練習をバンバンこなし、リトルリーグで活躍して中学でシニアを制覇、鳴り物入りで高校野球に攻め込むビジョンがもう見えてますよ。とりあえず今後は礼里ちゃんを如何に同じクラブに引っ張っていくかが問題になりますね。簡単にクリアできる問題ですけど。

 

「あら、専一。お友達が遊びに来たわよ。いつもみたいにキャッチボールでもしてきたら?」

 

 と、いう感じで今回はここまで――っと、うん? どしたのママン?

 あー……そっか。今回はどうやら、低確率でつく初期友人枠が埋まってるようですね。原作で言う矢部くんポジです。

 このポジのキャラは今後、矢部くんばりの腐れ縁で一緒に野球に打ち込んでいくのが確定してます。なので非常に重要なイベントなのですが、別になくてもいいというか……下手なヤツがこのポジにつくと厄介というか……メリットとデメリット、どちらに転ぶかが心配の種です。

 まあいいや、変な奴なら適当に距離を置けばいいだけです。今回は最後に、そのお友達の顔を拝んで終了しましょう。

 

 さぁて鬼が出るか蛇が出るか――

 

「や  っ  た  ぜ!! ウルトラスーパーレアだぁ!!」

 

「なー!? い、いきなり何をするパワプロ!」

 

 思わず抱きついてしまった(大嘘)

 特徴的な声で驚き、玄関前に立っていたのはカワイイ女の子――名捕手と名高い六道聖ちゃんでした。

 もう一度言います、やったぜ。女房役確保です! これでパワプロくんがとんでも化け物ピッチャーになっても捕手の心配は要らなくなったどー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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キンクリ実況、のち、小説パート

一日経ったので初投稿です。


 

 

 

 大人が子供のフリするロールがイタすぎる野球人生、はーじまーるよー!

 

 中身が大人なのに無邪気な子供のフリするのは、いやーキツイっす。この手のVRゲームの醍醐味が、かなり大昔に流行った神様転生を疑似体験できるところにあるとはいえ、何度経験しても子供の演技は疲れてしまいますね。

 自分で実際に体験してみたらよく分かると思いますが、周りの子供たちのテンションの高さはマジでイミフ過ぎて付いていけません。じゃけん周りにわたしへ付いて来させましょう。

 西暦1994年頃から連載が始まり、現在も地味に続いてる某名探偵アニメの主人公は凄すぎですね、もはや百年規模のベテラン子役ですよ。――ところであのアニメの犠牲者数、既に日本の人口を超えているとの噂はマジなんですかね……?

 

 さておき、子供の時期は非常に大事です。特に五歳から十二歳までのプレ・ゴールデンエイジとゴールデンエイジを活用しない手はありません。

 なぜならこの時期は基礎の運動能力が著しく発達し、体が成長してからの根幹を支える重要な期間だからです。五歳から六歳で人の運動神経は大人の八十%まで発達し、十二歳で百%になるからです。十二歳以上の視聴者の皆様が持つ運動神経は、ここでカンストしてしまってるわけですね。

 パワプロくんは七歳スタートなので、すでに八十%は運動神経が発達しています。とはいえ『センス◎』が付いていれば、初期から野球小僧をやってる前提なので、現時点でかなり発達している事になります。へこたれずに残りの成長リソースを野球能力に全振りしましょう。

 野球に最適な動作パターンを何度も行ない、脳を刺激して覚え込ませます。するとえぐいほど経験点が入ってくるので、うん、おいしい!

 なお子供スペックな体なので酷使は禁物。簡単にぶっ壊れますし、簡単に爆弾がつきます。肘、肩、膝、腰、足の爆弾はいつ起爆するか分からないので出来る限り付かないように気をつけましょうね! 爆弾が爆発すると付いていた箇所に依存するステータスが、半分以下になる上に永続デバフが掛かる鬼畜仕様なのでリセ不可避ですからね(三敗)

 

 子供同士のお遊戯でエンジョイするのは当然ですが、とにかく動き回りハイテンションで走り抜けましょう。学生は勉強が本分? 中身が大人で高水準の学力を脳にインプットしてる(物理)わたしですよ、この時代設定の学力水準なんかへっちゃらなので気にしなくてもいいです。

 そんで長い付き合いになること不可避(にするつもり)の二人。霧崎礼里と六道聖の二人は常に引っ張っていきます。パワプロくんに引き摺る形で成長してもらいましょう。常に一緒にいれば親密度も爆上がり間違いなしです。幼馴染の二人とは、いずれアイコンタクトだけで意思疎通ができるようになりますよ。

 

 わたしが投手で聖ちゃんが捕手、礼里ちゃんがバッター。この三人で勝負しまくります。当然ながらクラブには入ってるので、練習が終わった後の夕暮れにです。この時期の思い出はとても綺麗なグラで表示されるんでしょうね。なんという青春、羨ましい(血涙)

 

 なお既に小学六年生の時点で、パワプロくんのステは以下の通りになりました。

 

 

 

【投球フォーム:オーバースロー17 投打:右打ち左投げ

 球速:120 コントロール:70 スタミナ:50

 チェンジアップ:5  スライダー:5  カーブ:5

 ミート:70 パワー:30 走力:50 肩力:70

 守備:65 エラー回避:60

 ・センス◎  ・選球眼  ・積極走塁 ・積極盗塁

 ・ミート多用 ・走塁2  ・盗塁2  ・ケガしにくさ5

 ・低め1 ・ノビ4 ・重い球 ・キレ3 ・リリース ・球持ち】

 

 

 

 軟式の小学生基準です。硬式に移った中学生、高校生、大学生、プロ時とステータス表記はどんどん変化します。有り体に言うとステータス表記上は、ステージが上がるごとに弱体化しますね。

 なのでどんなに強く見えても上の世代からするとまだまだです。しかし小学生として見るなら……なんだコイツ(白目)となること請け合いな、天才野球少年に見えることでしょう。

 なお球速、スタミナ、パワーなどの身体能力に直結するステはほぼ初期ステから弄っていません。経験点を消費して成長させたのは、あくまでも必要分だけとなります。というのも体に不釣り合いな能力は、体の成長を阻害し爆弾を生み出す下地になってしまうからです。なので運動神経とセンスで野球をするしかありません。

 また爆弾が怖いしケガしたくもありませんので、『ケガしにくさ』は小中高プロを通してずっと最高レベルを維持し続けます。そんで小学生の内は変化球は多投しません。体の成長は阻害したくありませんので。よく食べてよく遊びよく眠りましょう。

 

 ちなみにぱわぷろ(平仮名)世界では、全軟連盟の学童部やリトルリーグで変化球は禁止されてません。投球数制限や休養日の規定も特に設けられておらず……なんだか闇が仄かに見えてきてる気がしなくもないですね。なので変化球は自発的に自重する必要があります。練習で軽く投げる程度にしましょう。

 あ、禁止されていないからって、子供選手が頑丈ということはなく、普通にケガします。全国の野球小僧達の中には定期的にケガで投手を断念させられる事例も多発している模様。だから自重する必要があったんですね。

 

 さーて、小学六年間はこれにて終了。リトルリーグでも大暴れしましたし、シニアの強豪からのスカウトもゲットしました。次は中学を舞台に名前と顔を売り、強豪高校からのスカウトもゲットしてみせましょう。

 ここまでは順調、順調です。中学生になったら彼女を作り、特殊能力コツと経験点を全部吐き出させたら別れて別のキャラに乗り換えましょう。ゲスいですがプロになるためです、恨むなら彼女とのデートで経験点が入る仕様の本作を恨むべし。総ては効率が優先されるのだー!

 

 ――あ、円満に彼女と別れるコツがあるんで、楽しみにしてもらっても構いませんよ? 後に遺恨を残さない綺麗な別れ様を魅せてやりますとも。

 

 今回はここまで。ちなみに動画は随所随所でupしてますが、タイム計測は二十四時間常に続けているので安心してください。

 次回からは進行中のタイムを画面端に載っけておきます、不正をしていない証として皆さんがわたしを見張ってくれても構いません。

 

 次回もまた見てくださいね、しーゆーあげいん!(誤用)

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 私がアイツ――力場専一にはじめて出会ったのは、小学校の入学式当日だ。

 アイツはまだ互いに名前を知らない頃から強引で、自分のペースに私を巻き込んできた。よく分からない奴によく分からないまま引き摺られ、よく分からないまま野球……キャッチボールに付き合わされたのだ。

 

 言葉にしてみても、やはりよく分からない展開だった。

 

『お前カワイイな! 俺の嫁にしてやる! だから一緒に野球しようぜ!』

 

 第一声がそれだ。意味不明だろう。いや、意味は分かったから意図不明というべきかも……違うか。意図も分かったから前途不明と言うべきだ。

 

 可愛い? 私が? 嫁にしてやる……? だから一緒に野球をしよう……?

 支離滅裂だ。付き合うのも馬鹿らしい――しかし当時の私はアイツ、パワプロの勢いに押されるばかりで、まともに物も考えられないまま引っ張られた。

 あまりにあんまりな展開に呆れられたのは、その日のキャッチボールで疲れてしまい、家に帰るとすぐに寝入って――翌日になってからだった。

 付き合ってられない、グローブを突き返してそれで終わりにしよう。それにいきなり嫁にしてやるとか言うような奴に関わっていたくなかった。

 しかし私はパワプロとのキャッチボールに付き合ってしまっていた。アイツが笑顔で誘ってくるのに、何故か嫌だと言えなかったのだ。それに、前日のような気色悪い言葉も投げつけて来ず、あくまで私のペースのギリギリに合わせてボールを投げ合っただけだったから――嫌だと言うタイミングを逃してしまい、以後はすっかりパワプロとのキャッチボールがルーチンワークに組み込まれてしまった。

 

 学校での勉強が始まると、アイツは意外な事に全科目のテストで百点満点を取っていた。頭も良かったのだ。体育では一番脚が速くて、クラスでは常に中心にいてゲームやテレビの話題で喋っていた。

 いつも笑顔でいる。いつも無駄にエネルギッシュで、明るい。そのくせ押し付けがましくなく、男子と女子に分け隔てなく接するアイツは人気者だ。そんなパワプロが明らかに私を特別扱いしていて、そのことに女子達は羨望の眼差しを向けてくるのだ。私は心の何処かでそれに優越感を覚えてしまって、パワプロとの付き合いを断ち切れなくなっていた。

 パワプロは一度も嘘を言わなかった。なんとなく感じられる心の機微と、言葉と、表情が完全に一致していて心地良かった。大人も子供も、大なり小なり心身の不一致があるのに、アイツにはそれがないように感じる。だからいつしか私も、アイツを特別な存在だと思うようになってしまったのだ。

 

 後から思い返してみると、パワプロは計算づくで私に声を掛けたのかもしれない。嫁にしてやるだとか、初対面の時以降は一度も言わないで、勢いも強すぎず私に事情があると察したら素直に引いてくれたのだ。

 私はどうやら野球の才能があるようで、明らかに他とは一線を画しているアイツは多分、直感か何かでそれを感じ取り私を選んだのかもしれない。そうでなければ説明がつかない。いつしか私の隣にはいつもパワプロがいるようになり、それが当たり前のように感じられ――そして自然な流れで、アイツは私の家まで遊びに来るようになっていった。

 キャッチボールからバッティング練習に移り、いつの間にか私の親を説得して私をリトルリーグの少年野球チームに入れてしまった。蚊帳の外で決まった事に不思議と不快感は感じず、『これで一緒にいる時間が増えてしまうな』と苦笑いしてしまっている自分がいた。

 守備練習、打撃練習、走塁練習。それらを経て私はメキメキと野球が上手くなっていって、その度に笑顔で褒めてくるパワプロに私は――表面上は上手くポーカーフェイスを保てたはずだから、嬉しく感じていても構わないだろう。

 

 そうした日々の中で、ある時パワプロが一人の女子をチームに連れてきた。

 

 六道聖。地元の神社の長女だという奴だ。

 

 パワプロは六道とバッテリーを組みたいらしい。六道はキャッチャー志望だというからだろう。

 これまでパワプロは手を抜いて投球していたらしく、六道の構えたミットにスパッと決まったボールのキレは、今まで見たことのないレベルだった。

 耳に心地良い音を立ててキャッチングした六道に、パワプロが満面の笑顔を向ける。それは――その笑顔は、今まで私にだけ向けていたはずのもので。私は――そのことに、無性に苛立ちを覚えてしまう。そんな自分に、自分で驚いた。このよく分からない感情はなんなのだろう……?

 パワプロに関わると、本当によく分からない感情が湧く。いつもは不快な感じはしないのに、六道がいるといつも不愉快だった。必然、私は六道を避け、六道はそんな私に困惑しているようだったが、構う気はなかった。

 

 しかしやはりというべきか、パワプロはそんな私と六道の関係を見過ごしてはくれず。クラブの練習が終わると、アイツは私と六道を近場の河川敷に引っ張って行くと、そこで三人だけの野球練習を始めさせられた。

 渋々付き合う。どうにも、アイツのする事に否を叩きつけられない。何年も同じペースで付き合わされ続けたせいだろう。パワプロのする事なら仕方がないと受け入れてしまうのだ。

 

 河川敷では私がバッターで、バッテリーはあの二人。私がアイツのボールを打つ練習だった。六道がキャッチャーをしている時は、パワプロは全力投球をしてきて初めは掠らせる事が精一杯だった。ヒット性の当たりは一つもなく、ガラにもなく熱くなってしまう事も多々あった。

 いつも私かパワプロが疲れ切るまで続いて。アイツのボールを打てたのは、練習をはじめて一ヶ月が過ぎてからだった。そんなにも時間が掛かったのは、パワプロは日に日に目に見えるほど巧くなって、コントロールが精確になり、ボールのキレとノビがよくなるからだ。時に変化球を織り交ぜて緩急で幻惑もしてくる。六道とパワプロのバッテリーには、チームで一番打撃の巧い私でも手も足も出なかったのだ。

 だから、はじめてヒットを打てた時は、つい小さくガッツポーズを取ってしまい。それをパワプロと六道に見られて、顔が熱くなってしまうのを感じてしまった。

 

 ――いつの間にか私は普通に六道と話せていて。馬が合ったのだろう、同性ではじめて友人と呼べる存在ができた。

 

 異性ではパワプロ、同性では六道。友人はこの二人だけで、これ以上を望む気も湧かない。

 こういうのを光陰矢の如しと言うのだろう。それからの日々は閃光のように過ぎ去った。過ぎ去った日々の事は明瞭に覚えている、きっと色褪せずに思い出に残り続ける。

 リトルリーグで躍動するパワプロ・六道のバッテリーと、守備と打撃で貢献する私。大会で活躍するにつれ、シニアからのスカウトマンにも声を掛けられるようになっていった。そうして進学する中学も私達は同じで、所属するシニアのチームも同じだった。私がパワプロの入るチームを希望したから――パワプロのいないところで野球をする意義が見つからなかったからだ。

 

 六道も、同じ気持ちなのが分かる。聞かなくても分かった。何故なら六道が野球をしている理由が――多分、私と同じだから。

 時折六道と二人きりになると、特に話もしないのに目が合う事が多々ある。会話はないのに空気は悪くない。むしろ良い雰囲気だったが、私と六道は同じ気持ちを共有した仲間で、同時に誰よりも超えがたい強敵だった。

 

(お前に負けてやる気はない)

 

 同じ事を思っている。同じ男を想っている。排除するべき敵なはずなのに、負けるとしたら目の前の相手しかいないと納得し合って、コイツに負けたなら仕方がないと認め合う気持ちがあった。

 パワプロ。野球しか見ていないお前の目を、いつか絶対に私へ釘付けにしてやる。覚悟しろ、私は執念深いぞ――

 

 

 

 

 

 

 

(――あー、聖たんも礼里たんも可愛いなー。彼女にできたらいいのになー。でも残念! この二人は非攻略対象なのだ! じゃけん切り替えて他に当たりましょうねー。さぁて中学で『モテモテ』を取得して、何人の彼女を作り別れ作り別れのルーチンを熟せるか、チャレンジしていきましょうか!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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オリ変と超特講座しつつ彼女を作ろう!

今日は初投稿です。



 

 

 六道聖にとって力場専一ことパワプロは、隣にいるのが当たり前の存在だった。

 

 何せ親同士が親しく、誕生した日付からして同じで、母親が生んだ病院まで一緒だったのである。

 生まれた時からの付き合いと言っても過言ではなく、事実として物心ついた時から私とパワプロは一緒にいた。

 一番古い記憶は、パワプロの横でテレビを見ている所。野球観戦をしていて目を輝かせていたパワプロの横顔を、私は今も覚えている。

 

『俺、将来は絶対プロ野球選手になるんだっ!』

 

 パワプロはそう宣言して野球にのめり込んだ。

 兄妹のようにいつも一緒にいた私も野球に興味を持ったのは必然だったのだろう、パワプロとのキャッチボールを始めるのに時間は掛からなかった。

 あの思い込んだら一直線なパワプロに、付いていくのはとても大変だった。投手をやりたいと言うパワプロに合わせて、じゃあ私は捕手になると宣言したはいいものの――野球センスに優れていたパワプロの球を零さないようにするだけで精一杯だったのだ。

 あちらこちらを走り回り、遊んで、勉強して、いつもパワプロに付いて回る私は、いつしかパワプロから妹扱いされている事に気づいた。しかしそれに不満を覚える事はなく、むしろ当然のように感じて……そうだ。私は最初、パワプロを兄のように慕っていたんだ。

 

 パワプロは凄い奴だ。贔屓目が入っているかもしれないが、本物の天才だと胸を張って断言できる。

 ろくに勉強もしていないくせに、テストで百点を取り続ける兄貴分に置いていかれたくなくて、私は野球も勉強も必死になって熟したもので――何年か前のクラスメイトの男子に、まるで親鳥の後を付いて回る雛鳥みたいだと揶揄されても、その通りだろうなと受け入れてしまった。

 付いていくのがやっとだ。少しでも気を抜いて、少しでもよそ見をしたら、あっと言う間にパワプロは私の隣からいなくなる。どこか遠くへと行ってしまう。溢れる才能を伸ばし続けて、私の手が届かない世界へと飛び込んでいくだろう。幼心にそのことを察していたから、私は誰よりも必死だったんだ。

 

 練習は辛かったし、痛かった。苦しかったし、泣きたかった。けど――それ以上に楽しかった。

 

 パワプロは不思議な奴だった。パワプロと一緒に野球をするのが楽しくて楽しくて仕方がないのである。

 それは多分、パワプロがいるから楽しいのだろう。パワプロがもしいなかったら私は野球を続けられない。しかし野球を止めたくもない。

 『パワプロと野球をする』喜びは、何にも変えがたい楽しみだった。それがなくなれば、私の全てが色褪せる。怖かったのは、きっとそれだけだ。

 

 だから――心が折れそうな苦痛も、泣きたくなる過酷さも、何かに打ち込む楽しさも、喜びも。激しい感情の起伏の何もかもはパワプロと共にある。

 親に、パワプロへ依存しているんじゃないかと心配された事もある。だがそれの何が悪い? 依存しているつもりはない、ただ共に生きていくことが私の喜びなだけだ。パワプロがサッカーをしていたら、私もサッカーをしていただろう。パワプロが普通の学生として過ごしていても、私はそこにいるだろう。共にいるのが当たり前なだけなのだ。

 

『聖ちゃんは最高だな! 俺が本気で投げても捕ってくれるのは聖ちゃんだけだし、俺の女房役は聖ちゃんしか出来ないよ。こんなに気持ちよく投げられる相手は聖ちゃんだけだ!』

 

 ――私の誇りは、この言葉にある。

 

 そうだ。パワプロは絶対に、世界で一番凄いピッチャーになる。なら私は世界で一番のキャッチャーになる。

 未来のナンバーワン・ピッチャーとキャッチャーだ。二人で組んだら最強なのは明らかで、私のその想いは今のところ現実のものになっている。

 

【江戸川ジーニアス、優勝ぉぉぉ――!!】

 

 ――少なくともリトルリーグの世界に、私とパワプロのバッテリーを打ち崩せる奴なんていなかった。本塁打はおろかまともにヒットを打った事のある奴もほとんどいない。パワプロと対等に渡り合えるような打者は、私達の仲間である霧崎礼里ぐらいなものだった。

 世界は広い、天才はたくさんいる。一度大会で優勝した程度で慢心すると、必ず痛い目を見るぞとチームの監督に言われた事がある。そうかもしれない、だがそれがなんだ。もし壁にぶち当たっても、パワプロと一緒ならどんな壁も打ち砕けると確信している。その自信だけで充分だった。

 

 

 

 小学校を卒業した後も私達は当たり前のように同じ中学、同じシニアのチームに所属した。

 ここでも私達は頂点に立つ。先輩だとか、後輩だとか、そんなものは関係ない。野球は年功序列じゃなく、純然たる実力主義であるべきだからだ。そしてその実力でも絶対に負けない。

 新入生の実力を見るための紅白戦でも、手を抜くつもりはなかった。常に全力だ。もしミスの一つでもしてしまえば、恥ずかしくてパワプロの女房役を名乗れないだろう。

 

 ――そして()()に立った瞬間、少年(パワプロ)の持つ愛想の良さ、人の善さの滲む笑顔は鳴りを潜めた。

 

 代わりに立ち昇るのは激しい気炎だ。幼さ故に中性的にも見える整った容貌へ、燃え上がる闘志で化粧をしたかの如き威圧感が現出する。

 傲慢なまでに自信に満ち溢れたマウンドの王、場を支配する絶対者として君臨するのがエースだと、パワプロは負けん気の強すぎる持論を展開していた。

 相手が誰であろうと捻じ伏せに掛かる威圧感は、とてもリトルからシニアへ舞台を変えたばかりとは思えない圧力を秘めている。

 

 鋭く光るのは猛禽の如き眼光。その鋭角的な貌に魅入られた。

 

 真摯に、真面目に、ひたむきに野球を楽しむ兄貴分の少年。生まれた時から定められていたように、頂点を見据えて翔ぶ鷹の王。その目はまっすぐ私の構えたミットを――私の目を捉えている。

 投球のサインなんて、私達の間には必要なかった。私と彼の直線上には、誰にも阻めない二人の世界があって。さあ、行くぞと。見せつけてやろう、と。パワプロが何を投げたいのかが手に取るように分かる。どこに投げさせれば最高の威力を発揮するのかを感じられる。

 

(――なんだ、この一年坊)

 

 マウンドの土を踏みつける投手(パワプロ)に、風格めいたものを感じたのだろう。打席に立つレギュラーの先輩が、微かにたじろいだのが分かった。

 微かな所作、表情、打席の立ち位置、バットの握り、手足と背筋の力み具合から打者の状態を推察する。その心情を分析する。

 この一年上の先輩は今、パワプロの威圧感に気圧された。なら――何を投げたらいい? 答えは決まっている。私の目を見て、パワプロが頷いた。アイコンタクトだけで意志の疎通は完璧に行われる。

 

「内角高め、ギリギリの所にストレートですよ、先輩」

「――!」

 

 小声で密かにささやき掛けると、先輩はギクリとして私を横目に見てきた。

 何を、と。そんなまさか、と。投げるコースと球種をバカ正直に教える奴がいるのかと、先輩は疑った。

 これは紅白戦だ。だがこの先輩はチームの二軍、実力をアピールして一軍に上がりたがっている。この紅白戦にやる気を見せているのが見え見えで、だから些細な揺さぶりでこんなにも動揺している。――容易い相手だ。

 

 パワプロが始動する。

 

 右足を上げて、体重移動を滑らかに行なうために体軸を傾け左腕が撓る。腰から背中へ、背中から肩へ、肩から肘へ、肘から指先へ。連動して撓る様は、まるで肉の鞭が唸りを上げているかのようだ。

 そして躍動する。投げ放たれた渾身の速球(ファストボール)は、私の構えたミットに寸分の狂いなく吸い込まれた。ジャイロ回転していた速球を、乾いた快音を立てて捕球する。先輩は反応も出来ず呆然としていた。

 

 無理もないと思う。パワプロの投球フォームは左のオーバースローだが、独特な形に改良されていて、腕の出処が見づらく球持ちがいい。リリースの瞬間の安定度も抜群で、速球はホップしているかのように手元でノビるのだ。

 投球フォームの完成度は、既にプロ級だと評価されている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは、リトルでの監督の言葉だ。

 えげつない速球である。私にはとても打てない――そしてこの先輩にも。反射的に仰け反っただけで、バットを振れていないのを淡々と見据える。パワプロへ返球して、更にささやく。

 

「次、行きますよ」

 

 何を、どこになんて事は言わない。迷えば迷うだけ、パワプロの球に反応できなくなる。続く第二球もまったく同じコースに突き刺さり、打者は悔しげに唸った。球速も速いが反応できないほどではないはず、とでも言いたげだ。

 口角を釣り上げパワプロが嗤った、その表情で投げたい球を察し苦笑する。ここへ、と。投げるのは一度だけだぞとミットを構える。真ん中低めギリギリだ。

 パワプロが頷く。そして大きく振りかぶり、右足を上げた。腰の回転を連動させ、胸を張り背筋を収縮させて力を溜める。そうして溜めた力の爆発が伝わり、速球と全く同じフォームのまま()()がリリースされた。

 

 また高め。捕手の構えたミットとは逆球に見えるだろう。だがここからだ。

 ストライクゾーンぎりぎりの真ん中のライン。今度は見逃さないと言わんばかりに打者がバットを振り――ギュル、ギュルルッ――と、そんな擬音が聞こえてきそうなほど鋭角にボールが落ちた。

 ストライクゾーン高めから、低めギリギリまで転落したのだ。打者の胸元から、膝の上の位置まで。

 私も最初の数カ月は捕球もままならなかったパワプロの魔球。切り札とも言える変化球。速球とほぼ球速が変わらない上に、凄まじいキレと変化量を持つそのボールの名は『ジャイロフォーク』といった。

 実戦で投げられる投手は、世界を見渡しても十人もいないのではないか。そう言われる魔球をパワプロは小学生の頃に開発していた。そのあまりの変化量に、打者の視界からボールが消えたように感じられただろう。

 

 唖然として振り返ってくる先輩。それを無視して立ち上がり、ボールを投げ返して私は宣伝するように言った。

 

「まず一つ、この調子だぞパワプロ」

「おう」

 

 返球されたボールを、横から掻っ攫う形で捕ったパワプロが淡白に返事をしてくる。

 だが、その貌には自信が漲っている。薄い笑みがある。

 天才が、嗤っていた。

 

 ――なんて、似合うんだろうな。

 

 私は定位置に戻り、次の打者を迎えながらマウンドを見る。

 佇む相棒の姿の肩越しに、ショートを守る霧崎と目が合った。霧崎は肩を竦め、私は苦笑した。

 ああ、分かってる。ジャイロフォークは一度しか投げさせない。あれはまだ今のパワプロには負担が掛かりすぎるからな。

 とはいえその一回で充分だ。先輩方のベンチはざわつき、監督は目を見開いている。今のジャイロフォークは強く頭の中に残り続けるだろう。

 

 さあ、まだ初回だ。紅白戦ゆえに三回でパワプロの出番は終わるが、最後まで締まっていこう。

 

 一回表の守備が終わり、攻撃の手番が回ってくる。一番打者は霧崎で、二番が私だ。そしてパワプロが三番だった。

 リトルの頃からの鉄板の打順、これで最低でも一点は取る。

 

「礼里ちゃんがんばえー」

「……ふん」

 

 マウンドの上に立っていた時と打って変わり、いつものパワプロに戻った。

 気の抜けた声援を受けた霧崎が打席に向かう。悠然とした足取りは、後続の私達と同じ考えを持っているからだろう。

 霧崎はシングルヒットを打って、私の打順で盗塁し悠々と二塁に進む。私はそれをバントで三塁に送り、パワプロがシングルヒットを打って先制点を上げた。いつものパターンだった。

 

「初見の投手からモーションを盗むとは、やるな」

「今更だ。()()を相手にするのは初めてじゃない。お前こそ、相変わらず絶妙のバントだった」

 

 ホームに帰ってきた霧崎に感心して声を掛けると、一見冷たい声音で返される。これも()()()()調子だ。

 それでも親しみを覚える。小さく笑みを浮かべながら、軽く手を合わせた。パシ、と音が鳴り――よく見ないと分からないぐらい薄く霧崎も微笑む。

 しかし続く四番の打順で、投手のくせに盗塁を試み相手捕手に刺されたパワプロを見て、私と霧崎は呆れてしまった。

 

「六道」

「分かっている。ハァ……あの野球馬鹿。全力なのはいいが監督も呆れているぞ」

 

 溜息を吐いてしまったが、これもまた()()()()事だ。

 最近わざと怒られたくてやってるんじゃないかと疑わしくなる時もあるが、そんな事は関係ない。投手は繊細なんだ、もう少し自重しろ。

 野球に対しては常に全力全開なのが、パワプロの魅力の一つなのが悩ましいところではあるのだが――私も、そして霧崎も、随分と難儀な奴に入れ込んでるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリジナル変化球と超特殊能力講座をしながら弾道を上げるやきう、はーじまーるよー!

 はい、というわけでいきなりですが小学六年生時点のステを、参考のためもう一度お見せしましょう。

 

 

【投球フォーム:オーバースロー17(改良済) 投打:左投げ右打ち

 球速:120 コントロール:70 スタミナ:50

 チェンジアップ:5  スライダー:5  カーブ:5

 ミート:70 パワー:30 走力:50 肩力:70

 守備:65 エラー回避:60】

 

 

 特殊能力は敢えて省いてますよ。

 で、以下のものが硬式に移ってからの、弄っていない中学一年時点の初期ステです。

 

 

【投球フォーム:オーバースロー17 投打:右打ち左投げ

 球速:125 コントロール:60 スタミナ:30

 チェンジアップ:3  スライダー:3  カーブ:3

 ミート:50 パワー:20 走力:40 肩力:60

 守備:45 エラー回避:50】

 

 

 唯一球速が上がってますが、それは空気抵抗の強い軟式から、弱い硬式に変化した事で差が出ただけなので気にしないでください。

 球速以外は弱体化しているのがよく分かるはずです。これは酷いグロ画像ですね……。まあ中学生と小学生の差は大きく、高校生と中学生の差はもっと大きいのですけど。特に野手能力はそれが顕著です。

 が、まあそこはすぐに埋められる程度の差ですよ。普通の人にとっては簡単でなくても、パワプロくんはステを弄れますからね。こんなんチートや、チーターや!(今更)

 

 本作ぱわぷろ(平仮名)の仕様では、試合をしたからと一気に経験点が入ってくる事はありません。経験点を手に入れたければ地道な練習や運動、特殊なイベントを熟さなければならず、そのためコツコツとコツを集めなければならないです(激ウマギャグ)

 なもんで、常にステを弄るのはナンセンスです。体が追いつくまで無茶な能力にしてはいけません。ケガの原因になるので。で、中学生になったのでステを上げましょうね。小学生の頃から溜め込んでいた経験点を消費し、掴んでいたコツも含めて特殊能力も取得します。

 

 するとこんな感じになりました。

 

 

【投球フォーム:オーバースロー17(改良済) 投打:右打ち左投げ

 球速:135 コントロール:80 スタミナ:72

 チェンジアップ:5  スライダー:3  カーブ:3

 ミート:60 パワー:40 走力:50 肩力:70

 守備:60 エラー回避:60

 ・センス◎  ・選球眼  ・積極走塁 ・積極盗塁

 ・ミート多用 ・走塁2  ・盗塁2  ・ケガしにくさ5

 ・低め1   ・ノビ4  ・重い球  ・キレ3

 ・リリース  ・球持ち】

 

 

 中1でこれとか化け物やな(感嘆)

 体の成長に合わせた云々と解説してましたが、説明が不足してました。すみません。より詳しく言うと小中高とそれぞれ能力上限があり、小から中に上がると能力キャップが解放されるんですよ。それを体の成長云々と言い換えていたんです。分かりづらくてごめんなさい。

 で、参考までに言うと中学時代の球速上限は140です(突破できないとは言ってない)。高校時代で163ですね。ご存知でしょうがこれ、現在に至るまでの中高生の最高球速記録でしてね、世の中にはとんだ化け物がいたものです。これを超えるには莫大な経験点を消費しなければならないので、今はこの上限を超えようとは思いません。

 

 そして本題。まずオリジナル変化球についてです。

 

 本作は仕様上、プレイヤースキルが非常に重要な要素として絡んでまして、システムの補助がほとんど無いので素で野球が上手くないといけません。

 投球フォームだとか、バッティングのフォームだとか、フィールディングなどの立ち回り方が例えとしては分かりやすいでしょうか? これはプレイヤースキルに依存するので、能力をどんなに高くしてもパワプロくんの中の人がヘタクソなら真価を発揮できません。

 なのでわたしは何度も本作をプレイし、原作キャラやコラボ先のキャラに何度も何度も指導してもらって、うーん……ゲーム内時間をリアル時間に換算すると、何十年間ぐらい練習してましたかね……? そこまでして、かつ主人公特権の能力弄りを駆使し、やっと凡人のわたしでも活躍できるようになりました。多分わたしのプレイヤースキルは全プレイヤーの中で中堅、あるいは平均よりちょい上ぐらいだと思います。ですので野球愛とパワプロ愛と根気と根性があれば、誰でもわたしがやれることはやれるはずです。

 

 なお原作キャラはそんな何十年間の努力に追い縋って来れるという(白目) これが才能の格差社会ですよ(震え声)

 

 で。変化球もまた、コツとかは掴めるのですけどシステムの補助は弱く、何度も何度も研究して実践して理論を作って反復し、自力で覚えなければなりません。そうですここでもプレイヤースキル依存です、もう頭に来ますよー。

 そんなクソ仕様なので、マジの天才プレイヤー様か、ガチの廃人じゃないと本作のエンジョイプレイは難しいですね。一般的なプレイヤーの方にとっては原作キャラとの絡みが醍醐味でしょう。

 

 というわけでパワプロシリーズ特有のオリジナル変化球を投げたければ、原作キャラに教えてもらって覚える! なぁーんて真似はできませんので、自力で覚えないといけないわけです。そうして一度覚えたら、強くてニューゲームするとステ表記に載っていない変化球を投げれたりします。いわゆるセルフ隠しステという奴でしょうか。

 私の場合現実では絶対に投げられないであろう、パワプロ世界で覚えているオリジナル変化球が二つあります。一つが別作品のコラボ先の主人公、茂野吾郎氏が投げる『ジャイロフォーク』と――もう一つはまだ秘密という事で。

 このジャイロフォークの完成度は、伝授してくれた本人からも太鼓判を押された代物で、切り札の一つに数えられます。あ、この吾郎氏はコラボ期間を終了しているので本作にはもう出てきません。(パワプロ時空の事件に巻き込む事は)ないです。やったぜ。

 

 なーのーで。わたしの努力の集大成と言える投球技術を駆使すれば、パワプロくんは小中学生時代を無双して終われます。リトル時代の蹂躙劇をほぼお見せしなかったのはそのせいです。才能の化け物()なパワプロくんに蹂躙されて、絶望し心が折れた子供たちの様子はお見せできないので……。

 なお高校時代からは原作キャラがスゲェ勢いで追いついてくるから油断してはいけませんよ(怯え)

 

 そういえばジャイロフォークをはじめて投げた時は、あの聖ちゃんですらまともに捕球できず、泣きそうになってる顔を拝めたものです。泣いてる聖ちゃんはか"わ"い"い"な"ぁ"!

 というか、そんなガチで泣くほどの事だったんですかね? 寧ろ今は(手を抜いてるとはいえ)捕れるようになってる事に驚きを禁じ得ないのですが。流石は抜群の集中力を持つ聖ちゃん、みずカs――ゲフンゲフン、橘みずきのクレッセントムーンを捕れるだけの事はありますよ。正直な話、わたしのジャイロフォークは初見だとプロの捕手すら後ろに逸らすはずなんですけどね。子供の時から何度も捕球練習してるとはいえ、捕れるだけ凄いですよ。

 

 

 ――対して超特殊能力。ノビ5の上位能力『怪童』などは、なんとシステムの補助が息を吹き返しバッチリ補正してくれます。

 

 

 ですが悲しい事に、高校に上がるまでに取得できる超特殊能力は数に制限がありまして、たったの二つしかゲットできません。超特殊能力を取り過ぎたらヌルゲーになるという開発陣のバランス調整でしょうか……? ともあれ仕様に文句を言っても仕方ないので、大人しく納得しておくしかないでしょう。

 なのでわたしが取得する超特殊能力は決まりきっています。『ケガしにくさ5』の上位版『鉄人』と『ジャイロボール』の上位版『ハイスピンジャイロ』です。前者は言うまでもなく故障防止策として。後者は『ジャイロフォーク』の威力とキレを高めるためです。『ノビ4』との組み合わせで体感球速が実際よりかなぁーり速くなるでしょう。

 

 そして以下のものがわたしのプレイヤースキルを反映し、超特を持った真のパワプロくんの能力です。中学時代はずっとこれで通します。仮に上げたとしても、最大で球速を147にするぐらいですね。

 

 

【投球フォーム:オーバースロー17(改良済) 投打:右打ち左投げ

 球速:135 コントロール:80 スタミナ:72

 ・ジャイロボール    ・ストレート   (・ジャイロフォーク:5)

 ・チェンジアップ:5  ・スライダー:3  ・カーブ:3

 ミート:60 パワー:40 走力:50 肩力:70

 守備:60 エラー回避:60

 ・センス◎  ・選球眼  ・積極走塁 ・積極盗塁

 ・ミート多用 ・走塁2  ・盗塁2  ・鉄人

 ・低め1   ・ノビ4  ・重い球  ・キレ3

 ・リリース  ・球持ち  ・ハイスピンジャイロ

 

 

 うーん……まあ普通ですよね。あ、ぱわぷろ(平仮名)のガチ勢プレイヤー基準だと、です。もっとエグい人は探せばいますよ。

 ですが、本作中だと文句なしにトップクラスです。――もう一度言いましょうか? トップクラスなんです。つまりこのパワプロくんレベルの原作キャラが、実は何人かいるんですよ。

 代表的なのがパワプロシリーズの永遠のライバルキャラの一人、猪狩守ですね。変化球とコン・スタでは勝ってるんですが、今の球速では負ける上に、猪狩守の隠しステのせいで特殊能力では並ばれてるんですよ、これ……。他にもチラホラと化け物はいますが言及は避けておきましょう。

 

 そしてそしてぇ〜?

 

 皆様お待ちかね、彼女を作る所をお見せしましょう。

 パワプロくんの入ったシニアチームは『八王子パワフルズ』です。わたしがここを選んだのは、同じ地区の中学に通っている娘がここでマネージャーをしているからなんですよ。

 目当ての娘はずばり、氷上聡里ちゃんで――ん? 聖ちゃん、礼里ちゃん、どちらも最後に『り』が付きますね。礼里ちゃんの字とも被ってます。……どうでもいいですけど。

 

 さて。氷上聡里ちゃんとは、SPを目指しているクールビューティーです。正直な話、SP目指してて合気道も倣ってるのになんで野球のマネージャーやってんの……? と思われるかもしれませんが、パワプロシリーズの彼女系列にそんなこと気にする意味はありません。キャラごとの個性の差別化のためでしょうからね。

 とはいえわたしがこの娘を目当てに来たのは、もちろん訳があります。パワプロくんを育成する過程で、中々バイオレンスで闇の深い事件に遭遇するのはほぼ必然でして、身近なバッドイベントを挙げるとパワプロの能力に嫉妬したチームメイトに肩を壊される(物理)事があるんですよ。

 そういうのを防ぐには、こちらも物理で対処するしかありません。オカルトに物理は無力ですが、物理にはより強い物理で対処できるので。

 なので氷上聡里ちゃんは非常に助かる存在です。まず女の子なのにクッソ強い上に、そういう不穏な気配を敏感に察知して、彼女になっているとパワプロくんを守ってくれます。ついでに超特『変幻自在』のコツまで掴ませてくれる有用な彼女キャラなんですよ。

 

 ぱわぷろ(平仮名)世界でケガをしないようにし、身の安全を確保するのは当たり前のことです。とはいえ虎穴に入らずんば虎子を得ずというように、多少の危険は承知の上で挑まなければならないイベントはあります。

 そういう意味で、氷上聡里ちゃんとは是非ともお近づきになりたい。この想いに嘘なんてないんだから……!

 

 が、氷上聡里ちゃんはチョロインではありません。パワプロくんと同い年ですが、身持ちが固いです。なので氷上聡里ちゃんはじっくり落としましょう。

 なので他の娘で――この際モブ娘でもいいので彼女にします。原作キャラでなくても彼女にできるのが本作の強みでして、モブ娘を彼女にすると経験点をランダムでくれて、超特のコツはくれませんがランダムでコツを少しくれたりするんですよ。

 

 試合とかだと大量経験点は入らないのに、野球に関係ない男女交際では経験点が入るこの仕様はどうなってるんでしょうね……? やはり弾道が上がるからでしょうか?(意味浅)

 

 とりあえず紅白戦が終わりーの、監督からお言葉をいただきーの、素直に褒めちぎってくれる同期と先輩とお近づきになりーの。負の感情を滲ませる面々は放置し、聖ちゃんと礼里ちゃんを労ってテキトーに先に帰って貰います。んでマネージャーの仕事をしてる氷上聡里ちゃんを手伝いましょう。

 

 赤みを帯びた髪をアップにしてる、綺麗系の可愛い女の子です。マネージャーとして入ってきたばかりで不慣れな彼女に声を掛けました。

 

「――や。見た感じ、野球チームのマネージャーやるの初めてっぽいね。まだ分かんない事あるなら手伝うよ」

「あなたは……確か、力場(チカラバ)くん?」

 

 お、流石に一番目立つと名前を覚えてくれてますか。これは幸先がいいですよ。とは言ってもがっついてはいけません。あくまで自然と仲良くなります。

 なので特別な事は何もしません。普通に不慣れ感のある彼女によくしてあげて(意味深) 親切にしてあげるだけでいいですよ。わたしはロリコンではないので、その手の欲を持つ事もありませんし。やはり大人の女性こそが最の高でしょう。

 

 なので純粋な(経験点とコツ目当ての)善意で接するだけです。

 

「――ありがとう、手伝ってくれて」

「いいって。困った時はお互い様だ。それに出来ない事は互いにフォローし合う方がいいだろ」

「……!」

 

 この娘が望む関係は、守り守られではなく、互いを尊重し合うものです。一度は彼女にして長く付き合ったので、聡里ちゃんのウィークポイントは知り尽くしてますよ。普通の会話に織り交ぜてこまめに()()を押していきましょうね。

 

 ――なおこの娘も彼女にして経験点とコツを吸い尽くしたら関係を清算します。無駄な彼女持ちとかメリットないですから。

 とはいえそれでお別れとはいきません。彼氏彼女ではなくなる予定ですが、SPとしての彼女には傍にいてもらいましょう。

 そんな事が可能なのか、ですって? 可能なんですよねこれが。『前の』パワプロくんで聡里ちゃん相手にも試したんですが、なんとか成功に漕ぎ着けられました。円満に別れて円満な関係を継続する方法は、確かにあるんです。わたしの腕の見せ所さんは、この彼女枠相手の立ち回りになるでしょうね。

 

 とはいえすぐに彼氏彼女にはなれないので時間を掛けましょう。で、その空いた時間が勿体無いので別枠で彼女を作ります。

 

 お忘れかもしれませんが、パワプロくんはイケメンです。彼個人の学力ステは目を覆うほど酷いものですが、中身のわたしが自力で学力面を補うので無問題。更にスポーツ万能で野球のエース(予定)ですよ。人当たりもよく笑顔満点です。これでモテないわけがないよなぁ? 普通に学校生活を送ってるだけで、経験点を貢いでくれる娘が沢山来てくれますよ。自発的にね。

 その際に彼女なんか作ってんじゃねえよとやっかまれる事もありますが、言い訳はこんな感じでしましょう。『俺なんかに告白してくれた娘を無下には出来なかったんだ。でも俺野球に集中してるから、付き合ってる内に向こうが飽きて来ると思う。そのうち別れる事になると思うぞ』とね。

 

 嘘は言ってない。

 

 で、そんなこんなで早速一人目が釣れました。

 

「力場くん、好きですっ。わたしと付き合ってくれませんか!」

 

 体育館裏に呼び出されてのこのこ出向くと、こんな感じで告白されます。

 コイツ誰だっけ?(素) モブ娘の名前とか初見で分かるわけないよなぁ?

 あ、わたしは悪くないですよ。だってマジで初対面ですもん。とはいえわたしは来る者拒まず去る者追わずなスタンスです。オーケーと答えましょう。

 

「うそ!? ほんとに!? や、やったー!(自慢できる!)」

 

 心の声、聞こえてますよ? いや聞こえないけど分かりはします。でもこういうミーハーな娘は簡単に別れられるんで問題ありません。逆にバッチコイですよ。

 さぁてメアド交換してラインIDも交換して、名前を教えてもらいルンルン気分で一緒に下校します。今日は八王子パワフルズでの練習がお休みの日ですからね。キャピキャピしてる女の子を連れて楽しく会話をしましょう。面倒臭いですが、これも経験点のため……悪く思うな(葦名並感)

 

 ん? ちょっと遠くに礼里ちゃんと聖ちゃんペアが居る――って怖っ!? なんか凄い目でこっち見てるぅー!?

 

 な、なんですか、あれ。非攻略キャラの二人なんですけど……? なんで彼女との交際を陰口し、監督の評価を下げさせてくるチームメイトみたいな目をしてるんですか? うっわ、本気で怖い……。

 えぇ……(困惑) どうなってるんでしょう。ちょっとわたしのチャートにはない反応なんですが。……あ、そうか。いつもはやってる練習をサボってるように見えたんですかね。ならしゃあない、少し彼女たちからの評価が下がってしまってる可能性があるので気をつけておきましょう。

 用意してる言い訳もバリエーションを増やして、高度な柔軟性を持って臨機応変に対応します。

 

 ――という所で今日はここまで。

 

 色々ありましたが家で就寝します。次回は明日です。また見てくださいね、ばいばーい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




面白い、続きが気になると想って頂けたなら評価等よろしくお願いします(乞食)


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糞イベ発生につき一時中断です(憤怒)

今日の分の初投稿です。




 

 

 

 

 

 非攻略対象キャラの幼馴染ーズが恐い実況パワフルRTA再開しますゾー。

 

 突然ですがまずご説明しましょう。これまでのシリーズで六道聖、霧崎礼里の両名が彼女枠になった事はありません。同じ境遇のキャラに橘みずき、早川あおいなどがいますね。

 彼女たちはパワプロシリーズの最初期頃――2018年初出の礼里ちゃんを最初期メンバーに含めるかは物議を醸しますが、21☓☓年現在からすると最初期と言ってもいいでしょう――さておき、聖ちゃんを初め、彼女たちの人気はシリーズを通して非常に高く、ファン達からヒロイン化が熱望されてきましたが、それが実現した事はありませんでした。

 恐らく彼女達はパワプロシリーズの聖域だからでしょう。敢えてファンの要望に応えず、触れられない存在にする事で偶像化しているのだと思います。その流れは本作に於いても同様のものでした。

 とはいえ本作は、長寿作の一つであるパワプロシリーズの最終作。今後はパワプロシリーズが開発・発売される事はないそうです。ならば彼女達の牙城も崩れ、ヒロイン化がされているのではないかと囁かれていたのですが、今のところ聖ちゃん達を彼女にできた例は報告されていないんですよね。

 

 攻略サイトに情報は載っておらず、必然、彼女達は最後の最後まで偶像で在り続けたのだと、未練九割と称賛一割で納得されたのです。

 

 なので彼女キャラ周りのイベントに聖ちゃんたちはノータッチでいてくれる……はず、だったんですが。何がいけなかったんでしょうね?(すっとぼけ)

 

 モブ娘から告白されたのでオッケーし、彼女にしてあげた当日にいきなり聖ちゃん達に見つかり、凄い目で睨まれてですね。翌日の朝練に出ようと玄関の扉を開けると、すぐ外に聖ちゃんと礼里ちゃんがいました。

 ファッ!? ウーン……(失神)

 と、気絶してる場合ではありません。ビビリながらも応対しましょう。へいへいへいどうしたよお二人さん。聖域ヒロイン様のしていい顔じゃありませんぜ。へへ……肩でもお揉みしましょうか?(媚)

 

「ん」

 

 おはよう、と挨拶しましょう。二人と朝から合流するのなんて日常茶飯事なので、特に驚く事でもないですが。挨拶したのに応えてくれず、聖ちゃんがスマホを出してきました。

 いやぁ……スマホとかいう携帯機器、リアルだともう骨董品レベルなのでお目にかかれないです。レアですよレア。

 さておき「ん」と言われてスマホを突きつけてくる聖ちゃん可愛い……可愛くない? 神社の娘さんな聖ちゃんがなんでミスマッチなスマホを持ってるかと言うと、舞台背景的に現代っ娘が持ってない方が不自然だからでしょう。

 とはいえパワプロくんは首を傾げ、それから「あ」と単音で応じます。忘れてました。昨日は帰ったらパワプロくんをすぐ寝させたのでチェックしてないんですよ。いつもは聖ちゃんと礼里ちゃん、パワプロくんの三人のグループでチャットをしているんですが、疎かにしてしまいましたね。無視する形になったことを怒っているのでしょう。

 

「ごめん、昨日帰ったらすぐ寝てたんだ。気疲れしてて」

「気疲れ?」

「気疲れか」

 

 聖ちゃん、礼里ちゃんが意味深に反駁してきます。

 これはいけません! 数多くの修羅場を乗り越えてきたわたしの直感が危険シグナルを検知しました。

 ってお前ら非攻略対象やろがい! 最終作なんだからもしかしたら、と淡い希望を持って友好度をカンストし、何度も告白したのに悉くバッサリ一刀両断してきた事わたし忘れてないですよ! なのでこの危機感は外れでしょう。

 

「昨日の女は誰だ」

 

 礼里ちゃんが唐突にぶっ込んできます。中学生になったからか、この頃一気に原作キャラとしての容姿に近づいてますね。等身こそリアル基準ですけど、あと少しで完全にわたしの知る礼里・聖ちゃんになるでしょう。

 とはいえまだまだ中学生、少女らしい蕾の愛らしさが残っています。可愛い(確信) あぁ^〜ロリコンになるんじゃぁ^〜

 

「あ、見てたんだ? あの娘は俺の彼女だよ」

「は?」

「………」

「な、なんだよ……いいだろ別に。それよりさっさと行こうぜ」

 

 は?(威圧) ってしてくる聖ちゃん。無言で睨んでくる礼里ちゃん。なんだお前(素) おいおいどうしたの落ち着けよ。

 それより家の前で喋ってたら遅刻するでしょ、早く行きましょう。というわけでさっさと二人の真ん中を通り抜けて歩き出します。すると二人共が左右を固めて付いてきてくれました。

 何度もやってますが、やはり両手に華だと気分がいいです。

 

「あの女が、パワプロの彼女か……」

「一応そういう事になるな」

「一応?」

「顔を知らなかったのに、昨日いきなり告白されてさ。俺なんかに告白してくれたんだ、無下にできなかった。でも俺野球に集中してるから、付き合ってる内に向こうが飽きて来ると思う。そのうち別れる事になると思うぞ」

 

 あらかじめ考えていた言い訳、こんなに早く使うことになるとは……読めなかった、この海のリハクの目を以ってしても!

 と、こう言うと若干目つきの険が取れましたね。ですが面白くなさそうですねぇ。やっぱり……野球かなにか? 三人での練習サボった事をこんなに怒ってるなんて、やっぱ好きなんすねぇ(野球) 幼少期から野球漬けにしたせいですっかり野球狂になっちゃって……。

 

「そういうのは感心しないな」

 

 ですよねー。

 真面目な聖ちゃんからするとこういうスタンスは軽薄に見えてしまう――

 

「別れる事が前提とはいえ、気軽に応じるな。私達との練習時間が削られてしまうだろう」

「アイツはお前の表面的なものしか見ていない。付き合うだけ時間の無駄だ」

 

 ――事もなかったようです。あるぇー?

 

 君達ね、そんなにパワプロくんを野球に縛り付けたいんですか。いいじゃないですか恋愛しても! 彼女は(経験点を貢いでくれる)いい子なんですよ!

 礼里ちゃんもお冠ですね。表情の起伏は乏しいのに、今はハッキリ怒ってるのが伝わってきます。うーん……どうしましょう。あっ、そうだ(唐突) パワプロくんも(都合が)いい子ちゃんぶればいいんですよ!

 

「でも振るのは可哀想だろ。なるべく傷つけたくないんだ、練習を疎かにするのは二人に悪いけどさ、ちょっと様子見してくれないか?」

「駄目だ。パワプロの彼女になっても、あの手の女はお前の事をトロフィーのように自慢するだけだぞ。私達が様子見すれば傷つくのはお前の方になる、あんな女より幼馴染を心配するのが道理だろう」

「六道の言う通りだ」

「えぇ……」

 

 わたしは傷つきませんが、確かにあの娘はパワプロくんの彼女になった事を自慢するでしょう。とはいえ女の子同士の横の繋がりが薄いはずの二人が、なんでそんな的確に見抜いてるんですかね?

 やっぱ女の子なんすねぇ。その手の機微を読み取るのはお手の物なんでしょう。すごいなー、憧れちゃうなー。

 

 ふざけんな(声だけ迫真)

 

 これだから彼女枠の重要性が分からん小娘は。遊んでるだけで普通に練習するより経験点を稼げるんですよ、ヤらないわけにはいかんでしょ。それとも二人のどっちかが彼女になってくれるんですか?

 なれないですよね知ってます。彼女になろうともしない、身持ちの硬さダイヤモンドな二人に構ってる暇ないの。わたしはパワプロくんを最強の選手にするの!

 わたしが不服そうな声で唸ると、礼里ちゃんが嘆息した。溜息吐きたいのはこっちなんですけど?(逆ギレ)

 

「――パワプロ。お前は覚えているか?」

「ん、何を?」

「お前がはじめて私に声を掛けてきた時のことだ」

 

 はい? そんなの覚えてるわけねぇダルォ? 何年前の話ですかそれは。

 こっちが覚えてない事を察したのか、肘で脇腹を小突かれました。カスが効かねえんだよ(無敵)

 嘘です。

 痛いですね……これは痛い。いきなり何すんだ怒るぞ(豹変) 当然だよなぁ? 10代半ば未満の小娘に大人げなく全ギレかますぞコラ。

 

 思わず礼里ちゃんを睨む。すると、礼里ちゃんは若干頬を赤くしてます。

 あら可愛い。これは無罪ですわ(手の平クルー)

 

「お、お前が……私を嫁にしてやると……言っただろう? あれはまだ時効になっていない」

「なー!?」

「なー!?」

「ま、真似をするなパワプロ!」

 

 いや素で驚いたんですが……。久し振りに聖ちゃんの「なー!?」を聞けて良かったです(現実逃避) なんだか『前の』聖ちゃんよりずっと冷静沈着なせいで全然聞けてなかったんですよ。

 で……なんだっけ? 思わず礼里ちゃんをガン見してしまいます。するとプイっと顔を逸らされ……か"わ"い"い"な"ぁ"!! かーっ、これで非攻略対象じゃなかったら――って、ん? 今……もしかして……脈があるみたいな言い方してませんでしたか!?

 もしそうなら、これって勲章ですよ? わたしが初の、礼里ちゃんを彼女にした男になれますよ!? 礼里ちゃんの初めての相手になれる!(意味深)

 

「――いきなり何を言い出すんだ霧崎!」

「お、怒るな。パワプロは……ほら、顔はいいだろう。表面しか見れない女が寄ってくるのはパワプロがフリーだからだ。なら私が、パワプロの……彼女のフリをすればいい。そうすれば女が寄ってこないはずだ」

 

 知 っ て た。

 

 お前……お前……! わたしの心のときめきを返せ! そうまでしてわたしから恋愛イベを取り上げたいのか! 仮面夫婦ならぬ仮面恋人とか誰得だよ!

 ってかこんな仮面恋人になるっぽいイベント初耳なんですけど? どうなってるんですか!?

 

「な、ならそれは霧崎ではなく私でもいいだろう!? 私がこっ、ここここ、恋人のふりをしてやる!」

「言い争っても不毛だな……いっそ二人とも恋人のふりをすれば、二股を公然としている男としてパワプロは見向きされなくなるんじゃないか?」

「それだ! 名案だぞ霧崎!」

 

 やめろぉ!(建前) やめろぉ!(本音) パワプロくん(の世間体)が死ぬぅ!

 

「お、おい、流石に冗談……だよな……?」

「冗談に聞こえたのか?」

「パワプロに変な虫が付かないようにするためだ。やむを得ないだろう」

 

 やむを得るに決まってるでしょ!? 非攻略対象に恋愛イベ全般にバッドステータス付けられてたまるもんですか!

 

「やめてくれ。俺、二人とそんなふうになるのは嫌だ」

「っ……なんでだ」

「そんなのっ! ……言えるわけないだろっ」

「あっ……ま、待てパワプロ!」

 

 思わせぶりな事を言いながらダッシュ!

 

 ここは逃げるが吉。今の流れはマズイ、一度仕切り直して主導権を握らないと駄目です。確信を持って言えますよ、これはBADイベントの流れだと。

 だって冷静に考えてみたら礼里ちゃんも聖ちゃんも超可愛いですからね。この二人にフリとはいえ恋人っぽいことされたら誰も寄っちゃ来ませんよ。しかも今後を考えるとこの二人はパージするわけにはいきません。聖ちゃんに至っては矢部くんポジなので腐れ縁不可避、パージしようとしても無理……!

 はじめて見ましたが、これは彼女枠を半永久的に埋めに来るBADイベント間違いなしです。そのくせ礼里ちゃん達は彼女でもなんでもないから経験点ももらえない……! 旨味、ゼロ……! 時間をしゃぶり尽くされる……! そうなったらわたしのチャートがグチャグチャです、オリチャー発動してもリカバリー不能……! 非攻略対象によるイベ潰しとかふざけんな……!

 

 鈍足な聖ちゃんは簡単に巻けます、しかし問題は俊足の礼里ちゃん。今のパワプロくんのステだとミート・パワー・走力の身体能力全てで負けてます。逃げ切れるか怪しい、となると今すぐに経験点を振って走力に極振りして逃げるしか……下手すると脚に爆弾が付きますが、その程度のリスクは許容しなければならないほど彼女枠潰しはヤバすぎるんです。

 っと、あら? 礼里ちゃんが追ってきませんね。走りながら後ろを伺うと、なんとレアい表情でパワプロくんの背中を見ています。熱視線です。怒りとかそういう負の感情は無い……気がします。訳が分からないよ(QB並感)

 

 まあいいや、逃げ切ればこちらのものです。四半世紀も生きていない小娘がわたしの戦略(チャート)を乱そうなど片腹痛いわ。

 と、そんなこんなで登校完了です。ここまでくれば何も出来まい(慢心)

 いくら仲のいい幼馴染とはいえ、男女の性差の壁は大きいですからね。中学時代のチームメイトである男子達と仲良くしていると、女子は基本的に寄ってきません。聖ちゃん達も例外じゃないです。その逆も然りで女子同士の輪の中にわたしも行けませんが、ひとまず安全地帯を確保したのでよしとします。

 

 さて、なんだか前途に暗雲が立ち込めてる気がするので、サクッと今の彼女とデートしたりしてランダムイベを消化し、経験点を吸い付くしましょう。何かが起こりそうならその何かが起こる前に行動するべきです。

 まだ放課後には時間がありますが、スマホで早速彼女に連絡を取り――ってあれ? なんか今、ちょうど彼女からメッセが来ました。なんでしょう?

 

 

 

『ごめんなさい。昨日の事は忘れてください。あたしなんかが力場くんの彼女になるのは烏滸がましいと気づきました。連絡してこないでください。メアドとかの登録も全部消します、あたしからも連絡はしません。ごめんなさい』

 

 

 

「――は?」

 

 なにこれ。

 いやホントなにこれ?!

 なんでまだ何もしてないのに、カップル成立から一日で破局したんですか?

 

 ちょ、ちょっと待ってください。今回は一旦ここまで!

 動画を中断させてください。考えを纏めますんで、それが終わったらまたすぐ再開します。

 それではまた次回でお会いしましょう! ばいばい!

 

 ――訳分からん、原因調べんと先の展開に支障が出るぞコレ。

 

 あ。

 

 wiki調べたらキャラ違うけど類似イベあった……これ、モブ娘を彼女にできなくなる糞イベやんけ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




基本的に高校編までサクサクいきたいですね(願望)

続きが気になる、面白いと思って頂けたら評価等よろしくお願いします


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非攻略対象なら問題ないやろ(慢心)

筆が乗ったならいつだって初投稿です。


 

 

 

 

「――力場ッ、居眠りとは余裕だな! そんなに余裕があるという事はこの問題も分かるってことだろう。答えてみろ!」

「○○です」

「むっ……、……正解だ。座って良し」

 

 おぉ、と教室がざわつく。

 

 ――さあ糞に塗れた実況RTA再開しますよ(迫真)

 

 わたしが離席したのでパワプロくんは一時的にスリープモードに入り、授業中に居眠りかましてましたが問題ありません。

 厭味ったらしさに定評のある、プレイヤーの進学した先々に何故かいる数学教師からの出題にさらっと答えておきましょう。

 この時代の学生にとっては難しい問題だったらしく、間髪空けずに答えたのでクラスメイト達からの評価が少し上がりましたね。

 そう……(無関心)

 興味無いね(クラウド並感)

 いやマジでどうでもいいですよ。わたしの往く(野球)道に掠りもしない面子からの評価なんて最低限でいいんで。

 

 中断前の話題に移ります。さっきのモブ娘――本名は聞き出しているのですが、今後出す事のない名前なので、通りの良さからモブ娘で通しますが……そのモブ娘からのメールで今後の予定が完全にパァになりました。

 完全に予想外だったんで、大慌てで一時中断してまで原因を調べて来たんですが……はい、ちゃんと解明できましたよ。

 

 類似のイベントとして似たような事があるんですよ。該当キャラは我々の業界ではある意味名高い、あの『片桐恋』です。

 

 根はメチャクチャいい子なんですが、この娘は激重なヤンデレ気質でして。詳細は省きますがプレイヤーに好意を懐くと、放っておいても好感度が上がっていきます。そして依存してきます。

 本作内で明らかになる、彼女の境遇は洒落で済まないほど闇が深く、ちょっとジャンルが変わってきちゃうレベルなんですよ。具体的に言うと『パワプロがパワポケになる』レベルです。

 で、この娘は本作だと行動力がグレードアップしてまして。彼女は別に何もしていないんですが、恋ちゃんの激重プレイヤーLOVEっぷりに気づいたモブ娘は『この娘の想い人に関わったらヤバイ気がする』とビビリ、モブ娘がプレイヤーに関わるのを止めるイベがあるんです。

 いや恋ちゃんヤンデレ気質だけど人に危害加えたりしませんからね……? 人に暴力をチラつかせる三流ヤンデレと一緒にしてはいけませんよ? ただしプレイヤー次第で七変化するので取扱注意ですが。恋ちゃんはプレイヤー色に染めやすいけど、染まり易すぎるのが難点なピーキーな娘です。

 

 とまあそんな訳です。え、よく分からない? ヒントは聖ちゃんと礼里ちゃんですよ。

 

 容疑者はあの二人しか思い当たりません。や、彼女たちが何かをしたとは思いません。伝説のパワポケシリーズ含め、パワプロシリーズのヒロインに畜生みたいなのはいませんからね。それっぽく見える娘がいたとしても実際はぐう聖ですよ。間違いない。そこは信じていいです。

 

 よくよく考えてみたら、わたし、あの二人と仲が良すぎるんですよね……。礼里ちゃんとは小1からのセカンド幼馴染で、聖ちゃんはなんと、調べてみると生まれた日からの付き合いというファースト幼馴染でして。ずぅっと一緒にいて一緒に野球をしてリトルリーグで優勝したりもしてました。そしてシニアでも一緒です。そりゃあ……ねえ? 新参の彼女枠も聖ちゃん達の存在を知れば気後れするのに不思議はありません。

 ほんでパワプロくんは超絶完璧超人です。顔よし頭よし性格よしの上、運動神経まで超絶抜群の天才ですよ。『人気者』『モテモテ』を獲得しているパワプロくんが、女子にとって競争率が高いのは自明でしょう。女子からの注目度は非常に高く、今まで知らなかった娘もパワプロくんの身の周りの人間関係は簡単に把握できるはず。となると聖ちゃん達の事もすぐに知れ渡ります。

 

 天才パワプロくんにベッタリな二人の幼馴染美少女。野球してるから距離感もメッチャ近く、こりゃ勝てねえわと判断するのに時間は掛からないはず。この時点で関わるだけ時間の無駄と、ガチ恋してるわけでもないモブ娘勢力は自然と駆逐されるわけですね。『片桐恋』の時と似たような流れです。

 なのでそういう先入観に負けない、強いメンタルを持つ原作キャラ勢としか親密になれないんですよ。仲の良い奴が他に居る? 知るか私もパワプロの事が好きなんだよ負けてたまるか! みたいになれないといけないわけです。

 

 いや……これ、別に聖ちゃん達に非はありませんわ。一瞬でも疑ったのが申し訳ないです。

 ただ愕然とさせられるのは、聖ちゃん達が非攻略対象である事ですよ。非攻略対象なのに、恋愛感情なんて皆無なのに、なーんでこんな糞イベが発生するんですかね……? おかしくない……? おかしいでしょ! 誤解から敬遠されるようになるとかそこまでリアルである必要なくないですか!?

 

 チャート組み直さなきゃ(嗚咽)

 

 修正が必要です。『センス◎』と『幼馴染・霧崎礼里』の組み合わせを求めて再走するのはもう嫌だ……今回はここまでメチャクチャ順調だったんです。矢部くん枠に聖ちゃんがつくミラクルラッキーも重なってるんですよ、ここで諦めるには惜し過ぎるでしょう?

 下手に欲張るなよわたし……頭を冷やすんです。トータルで考えると、パワプロくん専用捕手たる聖ちゃんがいるお蔭で、ここまでの育成はマジで大成功中。クレバーな判断を下すなら想定より一回りは強くなれてるんですよ。

 

 ……。

 

 ………。

 

 …………よし、決断しました。

 

 本当はここから先のチームメイトは乱数に任せておこうと思っていました。何せ強豪校に進学すれば、ほぼ安定して高い能力を持つモブとネームドが揃うので、特にこっちからアプローチを掛ける必要はなかったんです。

 ですがモブ娘勢力で彼女枠を埋められず、その分の経験点をゲットできなくなってしまった今、座して待つのは効率の面から見て非合理的です。こちらから働き掛けてやりましょう。

 

 現時刻を以ってチャート変更を視野に入れる事を宣言します。

 

 リトル時代から引き続き、シニアでも無双し強豪校からのスカウトをゲットする。この流れは据え置きですが――わたしは敢えて強豪校に進学するという甘えた考えは捨てます。スカウトを受けていながらそれを蹴る、そして野球部のない高校に進学し自分で野球部を作り甲子園優勝を目指します。いわゆる王道サクセスストーリーに舵を切りましょう。

 こうするとスカウトを蹴って弱小校に行った馬鹿として注目度が集まり、無名校ゆえの経験点ボーナスが見込めるんですよ。まあ練習設備がクソザコナメクジなのが難点ですが、名門校レベルに引き上げる手段があるのでそちらに賭けます。それでモブ娘を彼女枠に据えての経験点ゲットができなくなった穴を埋められるはず。

 

 そのための面子を集めるのが急務ですね。聖ちゃんは確定で同じ高校に来てくれるんで、まずは礼里ちゃんも誘っておきましょう。礼里ちゃんもほぼ確実に来てくれる……はず。友好度はとうの昔にカンストしてるはずなので。

 で、そこから先はまだ不確定ですが、マネージャー枠に氷上聡里ちゃんを引き連れていきたいですね。遊撃手と捕手を除いた内野陣、外野、わたし以外の先発陣と中継ぎと抑えの投手を最低でも三人は確保したい。足りなければモブで我慢しましょう。モブだからと侮れないのが『ぱわぷろ(平仮名)』世界でして、一線級の戦力になる場合も多々あります。そういうモブとは是非お近づきになりたいものです。

 

 今の所は絵に描いた餅でしかありません。しかしこちとら『ぱわぷろ(平仮名)』ガチ勢の一人。在野武将、もとい現時点でフリーのネームドの所在をわたしは知り尽くしています。

 そうと決まれば早速行動に移りましょう。もしやってみて、王道サクセス・ストーリーの開幕が無理そうなら……素直に諦め名門校へのスカウトに応じます。時には日和る事も大事なんですよね。安定性のために。

 で。日和らざるを得なくなった時の事を考えると恥ずかしいので、今はまだ礼里ちゃんや聖ちゃんにわたしの案を話すのは控えておきましょう。あ、それから二人にメールしておきましょうか。『なんか彼女からフラレた。元々こうなるとは思ってたけど早すぎて頭が追いつかない。気持ちを整理するために少し一人にしてくれ』……っと。こんな感じですかね。

 

『分かった』

『余り悩むな』

 

 二人共クール系なので、対応が少し似てるのが笑いを誘います。

 さて……これで二人から離れて行動する名目を作れました。いきなりですがシニアチームに入っていない、かつ野球経験者で野球大好きネームドと面識を作りに行くとしましょうか!

 

 放課後になると街に繰り出します。監督やチームメイトには事情を話してませんが、風邪を引いたとでも言っておけば信じてくれますよ。

 なんせパワプロくんとしてのわたしは野球狂です。練習をサボるとは思われていません。こういう時のために評価を上げておく必要があったんですね。

 

 街で回るのはバッティングセンターや、シニアの練習を見物できるスポットです。この時期はこの辺を回ってると、結構高めの確率で見つけられるネームドキャラがいるんですよ。

 他のシリーズではフリーじゃないんですが、この『ぱわぷろ(平仮名)』世界ではフリーなんです。そのネームドキャラは、わたしの元々のチャートだと見向きもしないのですが――二塁も守れる礼里ちゃんと組める優秀な内野手なので、チャート変更を視野に入れた今拾っておかない手はありません。そのネームドにはちょっとした問題がありますが、本人はとてもいい子です。その問題も解決する手立てがあります。他力本願ですがね。

 

 そんなわけでジョギングがてら怪しいポイントを走って回りましょう。

 

 しかし流石に一日目から見つけられると思っては――お? おお! いました! どうやら天はわたしに味方しているようですよ!

 では早速声を掛けましょうか! わたしの勧誘テク、見てろよ見てろよ〜?

 

 って、あれ? ……なんだこのオッサン!?(驚愕)

 

 な、何をするだぁー!

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は野球が好きだった。

『何が』と言われれば『全部』と答える。全てのポジション、全てのプレー、とにかく全部が好きなんだ。

 

 小さな頃からテレビで野球の試合を観戦するのが楽しみだった。

 けど、見ているだけでは終われない……いつしかそう思うようになって、実際にリトルで野球をした。

 自画自賛になるから口には出さないけど、そこそこ活躍できたと思う。

 だから僕はこのままシニアでも活躍して、高校では甲子園を目指して、プロには行けないかもしれないけど……大学でも、そして社会人野球にも関わっていけると思っていたんだ。

 

 けど、そんな僕の幻想は、すぐに砕け散ってしまった。

 

 単純な話。僕の家は母子家庭で、金食い虫の野球を続けさせてくれるほど裕福じゃなくて。お金が足りないから野球を続けられなくなったんだ。

 ごめんね、ごめんね――申し訳無さそうに何度も謝ってくるお母さんに、僕は何も言えなかった。薄々無理をさせてしまってる気はしていて、どんどん窶れていっていたお母さんに……文句なんて言えるはず、ない。

 気にしないでいいよ、と笑顔で言えたと思う。けどその日の夜は悔しくて悲しくて、一晩中泣いた。僕の野球人生は、小学校で終わってしまったんだ。

 

 ――けれど。

 

 野球が、好きなんだ。本音を言えば諦めたくなんてなかった。

 だから僕は、なけなしのお小遣いを貯めて、バッティングセンターに月一で通ってる。僕が入りたかったシニアチームの練習風景を、未練がましく遠くから眺めている。

 

(いいなぁ……)

 

 羨む気持ちは強い。

 一生懸命に野球に打ち込む同年代の男の子達が、とても――とっても、羨ましかった。

 今日もバッティングセンターに行った。カキンとボールを打つ。シニアの練習風景を眺めて、自分ならこうバットを振る! なんて事を思いながら。

 分かってる。いい加減、諦めるべきなんだって事ぐらい。一度バットを振る度に、泣きたくなる気持ちを切り離して――勉強を頑張って奨学金制度を掴み取り、大きな企業に就職できるように努力するべきなんだ。

 

 だけど――そう簡単に諦められるものじゃなかった。

 

「はぁ……こういうの、女々しいって言うんだっけ」

 

 ポツリと呟き、バッティングセンターから出る。

 虚しかった。こんな機械を相手にしても意味がない。僕は、野球がしたいんだ。バッティングセンターでバットを振ってるだけだと満足できない。

 最近知ったけど、人の夢と書いて儚いというらしい。――ほんとうに、儚い夢だったんだなと虚しく笑った。

 

 けれど――人の夢と書いて、儚いと言うのと同じ様に。『(つら)』くても、『(ひと)』つを足せば『(しあわ)』せになる。

 

 ――もし運命ってものがあるなら、きっとこの出会いの事を言うんだろう。僕はこの日、僕の運命に出会ったんだ。

 

 

 

「――――!」

「――――」

「――! ――!」

 

 

 

「……? なんだろ」

 

 トボトボと帰路につくと、街角で一人の少年がスーツ姿の男性に捕まっているのを見つけた。いや、捕まっているんじゃなくて……勧誘されてる……? それもかなり熱心に。

 なんだろうと様子を見てみる。すると少年の方はテレビでしか見られないぐらいカッコいい男の子だった。

 その男の子は名刺を押しつけようとする大人の人を相手に、とっても困っているように見える。

 

(ど、どうしよう? これって警察に通報した方がいいのかな?)

 

 そんなふうに悩んでしまう光景だ。オロオロとしてしまい左右を見渡すも、道行く人達は我関せずと通り過ぎていくばかり。なんて冷たい人達なんだと憤る前に、僕がなんとかしなくちゃと思い立った。

 その瞬間だった。男の子はバッと僕の方を見たかと思うと、笑顔を作って駆け寄ってきたじゃないか。

 

「よ、よぉ! やっと来たか! あっすみません、ツレが来たんで行かせてもらいます! それじゃあ!」

「あ、きみ! 待ってくれ、せめて名刺だけでも受け取って――」

「え? え? えぇぇぇ!?」

 

 後ろから大声で制止されても知らんぷりして、男の子は僕の手を掴んで走って行く。

 どんどん僕の帰り道から離れていく事よりも、その力強さと強引さに僕は目を回してしまった。

 漸く男の子が脚を止めた頃には、僕は少し息を切らせてしまっていて。対して男の子は汗一つ掻いていないまま、申し訳無さそうに謝ってくる。

 

「ゴメン、無理に付き合わせちまったな。けど助かったよ。あのオッサン滅茶苦茶しつこくてさ……俺にアイドルにならないかとか、もう少し人を見ろっての。話してみたら脈無しだってすぐ分かるだろ? 普通はさ」

「そ、そう……なんだ……」

「……悪い。関係ないのにお前に迷惑掛けちまった。なんか埋め合わせさせてくれ」

「い、いいよ別に。気にしてないから」

 

 本当に気にしていなかった。結局何もしていないけど、僕の存在を口実に逃げ出せたんなら嬉しい。それにこんなにカッコいい男の子に手を引かれて走るなんて――まるで少女漫画の出来事みたいだった。

 このままサヨナラしてもよかったんだけど、どうも男の子の方はそうしたくないみたいだ。迷惑を掛けたんだから何かしたいと思っているのかも。

 ほんとに気にしてないよ? そう伝えようとすると、その前に男の子が脈絡なく唐突に言ってくる。

 

「……お前、野球やってるだろ」

「えっ? な、なんで……?」

「手の感触が日常的にバットを振ってる奴のものだからな。俺も野球してるんだ、それぐらい分かる」

「そ、そうなんだ」

 

 ――普通はわからないと思う。

 

 けれどなんでか、僕は居た堪れない気持ちになった。確かにバットを振らない日はないけど、言われるほど熱心じゃない。本気でやれていない。

 だって僕は、もう野球に関われたりしないから……。

 僕の表情に陰が差したのに気づいたのか、男の子は眉を落とした。そして聞いてくる。――もしかしたら僕の表情から、何かを感じ取ってくれたのかもしれない。それは密かに僕が、誰かから掛けて欲しかった言葉で――

 

「――お前、今ヒマか?」

「え、ぁ、うん……」

 

「じゃ、一緒に野球しようぜ! 俺ピッチャーでお前バッターな!」

 

「へっ?」

「この近場に空き地があるだろ。そこの壁をキャッチャーに見立ててボール投げてやるよ。お前に俺の球が打てるか?」

「わ、分かんないよ。それより待って! 僕、今道具持ってない!」

「俺ん家が近くだから俺のを貸してやるって。ほら行こうぜ! それとも今は野球する気分じゃないのか?」

 

 そんな事はない。いつも、いつも僕は野球がしたかったんだから。

 たとえそれが、一対一の勝負でも良い。生身の人と、一緒にやりたかった。

 その想いを口に出せず、口ごもってしまうと――男の子はにかりと笑って僕の手を再び取ってくれた。

 強引に――止まっていた僕の時間の針を、力強く動かしてくれたんだ。

 

「答えは決まったな。そんじゃ俺ん家まで案内してやるから付いてこいよ」

「――き、君ってかなり強引だね」

「相手を見てやってるから気にすんな」

 

 それは気にする。けど不思議と悪い気はしなくて、胸が高鳴った。

 素直に嬉しくて、ワクワクしてきたんだ。

 

「あ。そういやお前、名前なんて言うんだ?」

「……え」

「俺は力場専一、仲の良い奴らにはパワプロって呼ばれてる。お前もパワプロって呼んで良いぞ」

「ぼ、僕は……僕は――」

 

 突然名前を聞かれ、言われ、どもってしまう。それに赤面してしまいながら僕はなんとか自分の名前を口にした。

 

「僕は――小山雅! よろしくね、パワプロくんっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




(非攻略対象なら問題ないやろ)


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旧チャートも使える所は活用していけ

昨日の投稿を忘れてたので初投稿です。


 

 

 

 

パワプロ:復活! パワプロ復活! パワプロ復活! パワプロ復活!

 

 寺っ娘:どう反応したらいいんだ。

 

レイリー:また変なテンションだな。

 

パワプロ:淡白なリアクションありがとう! 一日で彼女にフラレて何がなんだか分かんなかったけど、とりあえず気にしない事にしたぜ!

 

パワプロ:どう考えても俺、なんにも悪くないしな。……悪くないよな?

 

レイリー:悪くない。

 

パワプロ:即答してくれたレイリーちゃんprpr

 

 寺っ娘:(気持ち悪いぞ)

 

レイリー:prprとはどういう意味だ???

 

パワプロ:prprって言い続けたら分かる。チャット止めて電話掛けるから声に出して言ってくれ。

 

レイリー:理解した。パワプロがそう言うならいかがわしい意味なんだろう。

 

パワプロ:(・д・)チッ あたしゃ勘の良い子は嫌いだよ。

 

レイリー:……prpr?

 

パワプロ:んほぉぉぉ! レイリーちゃん可愛いのぉ! prprprprpr

 

レイリー:(。ŏ﹏ŏ)ジト〜〜〜

 

 寺っ娘:prpr

 

パワプロ:寺っ娘ちゃんも乗ってきた!? 可愛いよprpr

 

レイリー:( ´Д`)=3

 

 寺っ娘:気持ち悪いな。他所でこんなコトはするんじゃないぞ。

 

パワプロ:分かってるって。無理にテンション上げて頭おかしくしてないと落ち込みそうだからやってるんだ。

 

パワプロ:それはそれとして、二人に重大なお報せがあります。

 

 寺っ娘:( ・ิω・ิ)?

 

レイリー:どうしたそんな改まって。

 

パワプロ:本当はまだ言うつもり無かったんだけどさ、気が変わったからやっぱり言うことにした。

 

パワプロ:俺、高校は野球部のないとこ行く。

 

レイリー:!?

 

 寺っ娘:どうした突然! 訳を家!

 

パワプロ:誤字ってる誤字ってる。

 

パワプロ:誤解しないでほしいんだけど、野球やめる訳じゃないからな。プロを目指す気持ちに変わりはないぞ。

 

 寺っ娘:ならなんでだ。

 

パワプロ:いや、やっぱりゼロから野球部作って甲子園優勝を目指した方が燃えるじゃん?

 

レイリー:イキるな。

 

パワプロ:イキってないって。どうせなら強い奴らと対戦したいんだよ。

 

 寺っ娘:そんな事言って負けたら情けないぞ。

 

パワプロ:負けなきゃいい。それに無名の高校で甲子園優勝してみろよ、プロからの注目を俺たちで独占できるじゃん。

 

レイリー:負けたら世話ないがな。

 

パワプロ:誰が負ける事考えて野球すんだよ? 俺は勝つぞ。勝つから問題ない、はい論破。

 

レイリー:議論する気のない奴に論破されてもな……。

 

 寺っ娘:レイリー、言うだけ無駄だぞ。腹の内を決めてるみたいだ。

 

レイリー:勝手にするといい。何を言ってもどうせ聞く耳持たないだろう。

 

パワプロ:おう、勝手にする。勝手ついでに頼むんだけどさ、レイリーちゃん同じ高校来てくれない? 我が野球部の先頭打者は君しかいない!

 

レイリー:いいぞ。

 

 寺っ娘:( ・ิω・ิ)……。

 

パワプロ:ん? どした寺っ娘ちゃん。

 

 寺っ娘:私は誘わないのだな。

 

パワプロ:えっ、来てくれないのか? ごめん来てくれると思ってたわ。

 

 寺っ娘:(๑•̀ㅂ•́)و✧

 

パワプロ:お、やっぱ来てくれるみたいだな。という訳でこれで三人か。

 

パワプロ:俺たちは同志だ。桃園の誓いだ。誓いを立てようぜ。

 

レイリー:生まれた時は違えども――

 

 寺っ娘:私は同じ日に生まれたがな。

 

レイリー:(・ัω・ั)キッ……流れを切るなマウントメスゴリラめ。

 

 寺っ娘:誰がゴリラだ!?

 

パワプロ:(スルー)死する時は同じ時、同じ日、同じ以下略。

 

 寺っ娘:誰が劉備で、関羽と張飛なのか。そこが問題だな。

 

レイリー:劉備兼関羽兼張飛がパワプロだ。

 

パワプロ:まさかのワンマンアーミー!? じゃあ二人は誰なんだよ!

 

レイリー:私は……趙雲か?

 

 寺っ娘:私は諸葛孔明だな。捕手的に考えると。

 

レイリー:貧弱な肩と力、鈍足……頭でっかち……確かに孔明だ。

 

 寺っ娘:(# ゚Д゚)……。

 

パワプロ:喧嘩はメーよ。そんでさ、蜀軍結成のために二人に頼みがあるんだけど。面子集めのためにこれはと思った奴がいたら誘ってほしいんだ。

 

レイリー:分かった。やるだけやってみよう。必要なのは兵隊だな、蜀軍になる前の劉備軍は数が少なすぎる。

 

 寺っ娘:武将なら陳到がいる。徐庶と簡雍も外せない。周倉と廖化、魏延と黄忠……。

 

レイリー:馬超は要らないな。特に何もしないまま死ぬから馬岱でいい。

 

パワプロ:馬超……。

 

 寺っ娘:今思ったが蜀軍は駄目だな。奴らは負ける。

 

パワプロ:おまっ、言うてはならんことを……!

 

レイリー:なら魏軍か。

 

 寺っ娘:それも駄目だ。後ろから刺されそうだからな。

 

パワプロ:じゃあ呉?

 

 寺っ娘:いや、むしろ三国志が駄目だ。

 

パワプロ:お前今、全国の三国志ファンを敵に回したぞ……。

 

 寺っ娘:目指すのは楚漢戦争時代のオールスターだ。パワプロ、お前は項羽になれ。私は韓信でいい。

 

レイリー:韓信(貧弱)

 

 寺っ娘:なんだレイリー、もとい呂后。

 

レイリー:誰が中華三大悪女の一人だ。

 

パワプロ:俺は項羽兼劉邦がいいな。そしたら韓信に去られる事がないし、英レイリー布ちゃんも俺の側のままだ。

 

レイリー:誰が黥布だ。

 

パワプロ:で、俺は早速一人目に目星をつけてる。

 

レイリー:!?

 

 寺っ娘:!?

 

パワプロ:三国志で言う陳到、楚漢戦争時代で言う夏侯嬰だ。リトルでのメインは遊撃手だったらしいけど二塁も守れるらしい。

 

パワプロ:お前らに比べたら今のところ一枚格が落ちるけど、練習したら追いついてくるかもな。近い内に紹介するぞ。

 

パワプロ:後、高校は同じとこに行ってくれるように説得しようと思ってる。

 

 寺っ娘:相変わらずの行動力だな……分かった、私もリトル時代からいい投手だと思ってた奴とコンタクトを取ろう。

 

レイリー:(¯―¯٥)……。

 

パワプロ:レイリーちゃんは宛てがないか。まあしゃあない、(本命を)切り替えていこう。頼むぞ寺っ娘ちゃん!

 

 寺っ娘:任せろ。だが少し時間が掛かるぞ、なんせ顔見知り程度だからな。

 

レイリー:('・ω・') ……。

 

パワプロ:君は今の君のままでもいいんだよ(その目は優しかった)

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 投球練習のキャッチボールの最中、流れるように投じられた硬球が音を立てて捕球される。

 すると返球を受けた力場専一が、ピッ、と人差し指を立てた。それに頷いたレギュラーの先輩がミットを叩き中腰で構える。

 普段は滅多に見せないワインドアップだ。弓の弦に矢を番えたように全身が躍動し、力場専一が投じたのはフォーシームである。それはまさしく矢のように飛翔し、先輩のグラブに収まる――事はなかった。

 

 うわっ! 悲鳴のような声と共にボールを零す。先輩は反射的に後ろに逃れて、尻餅をついてしまっていた。

 その先輩は目を見開き、驚愕したように固まっている。信じられないとでも言いたげだ。

 私は野球に関して素人だから、彼がどうしてしまったのかを察してやれず、事の成り行きを見守るしかない。

 

「どうした」

 

 投手陣の投球練習を見ていた監督とコーチが駆け寄って来る。

 すると先輩は我に返り、慌てて立ち上がりながら零したボールを拾った。

 

「監督、力場のヤツの直球、ヤバイっすよ」

「ジャイロ回転の事だな」

「ウッス。力場の奴のボール受けたの初めてっすけど、正直嫉妬も湧かないっすね。もう脱帽するしかないっすわ」

 

 先輩がそう言うと、監督は他の面々が聞き耳を立てているのを察して待ったを掛け、力場専一も含めて走り込みに向かわせた。

 ――チラ、と。人望の篤い二年の『蛇島桐人』先輩が、力場君に目を向けていたのが気にかかった。

 得体が知れない、背筋が冷たくなるような感覚。私がそれに気を取られていると、列を組んでグラウンドの周りを走り始めたのを見届けたコーチが、監督に変わって先輩に話を訊いた。

 

「お前は力場の球をどう見る」

「あー……ストレートって『真っ直ぐ』とか直球とかって言うっすけど、ホントに一直線に飛んでなくてシュート回転してるもんっすよね。大なり小なり。力場のはソイツがないせいで、文字通りまっすぐ(ストレート)がまっすぐ飛んで来るんすよ。他の奴らが投げる普通のフォーシームに慣れてたら、普通に目測間違って空振るっすね。力場は普通のフォーシームと文字通りの真っ直ぐを投げ分けられるんで、ぶっちゃけ速球だけで三振奪えるっす」

「……そうか」

「半端なくノビて、キレもある。制球力も文句なしでスタミナもあるっしょ。持ち球の変化球はカーブとスライダー、チェンジアップでしたっけ? どれもエグいってのにジャイロフォークとかいうキワモノまで投げれるし、変化球と二種類のストレートを同じフォームのまま投げられるみたいっすね。――今すぐ高校に行ってもレギュラー確定レベル、超高校級ならぬ超中学級で、ウチのエースは間違いなく一年の力場っすわ」

 

 ――そう言ったその先輩が、このチームのエース・ピッチャーだった。

 だというのに先輩の声に衒いはない。コーチが気遣うように先輩の顔を見ていると、先輩は笑った。

 

「あー……気にしてないっすよ? 別に。リトルの頃も似たような奴見たことあるんで。ソイツは猪狩守って奴なんすけど……ソイツも天才っちゅう奴でしてね。年下の奴に負けるのには慣れっこっすわ。力場ってその猪狩より強ぇらしいですし、こういう奴がプロに行くんだなって感心してるぐらいっすね」

「……そうか。だがエースはお前だ、監督は一年の力場にエースナンバーは渡さんだろう」

「そりゃそうでしょ。幾ら実力が上でもチームメイトからの信頼はまだオレの方が上ですし。ま――それも短い間でしょうが、アイツが認められる頃にはオレはもう高校行ってるし関係ありませんね」

 

 飄々と言い切ると、先輩は軽い足取りで走り込みに加わって行った。

 コーチはその背中を見送り、嘆息する。私はそんなコーチの顔を伺った。するとそれに気づかず、コーチがボヤくように呟くのが聞こえてくる。

 

「才能、天才か……力場のそれはもう天才の一言で片付くものじゃない。身体能力以外は指導する所のない()()()()だぞ」

「………」

 

 私はソッとその場を離れた。

 妙な胸騒ぎがする。なんなのだろう、気を配らないといけない気がした。

 

 ――今日の練習が終わる。日が暮れはじめて、皆が帰宅していく。

 そんな中、覚えたてのマネージャーの仕事を片付けていると、やっぱりいつも通り、力場くんは面倒臭い雑用も手伝ってくれた。

 普段は六道さんや霧崎さんも手伝ってくれるけど、今日はいないようだ。私と力場くんは特に声も掛け合わずに、淡々と雑用を処理して――

 

「よし、これで終わりだな。お疲れ氷上、また明日もよろしく頼むよ」

「――待って」

 

 帰ろうとする力場くんの袖を掴む。

 おっ? と戸惑って足を止めた力場くんに私は訊ねた。

 

「六道さんと霧崎さんは?」

「あの二人? 用があるから先に帰ったよ。それがどうかしたのか?」

「……今日は一人で帰ったら駄目、誰かと一緒に帰った方がいい気がする」

「んんん? ……そんな事言われてもさ、もう俺達以外は誰もいないぜ?」

「じゃあ、私と帰ろう。嫌ならいいけど」

「んー……別に嫌じゃないし、一緒に帰ろっか」

 

 力場くんは特に危機感もなく応じてくれる。その事にホッとした。ただ、一緒に帰っているのを誰かに見られたら誤解されそうなのは憂鬱だけど、文句を言ってる場合でもない――気がする。

 私は意識的に力場くんの前を歩いた。横に並ぼうとして来たりすると制止して、話し掛けてこようとする度に静かにしてと制した。

 

「あのさ、氷上はなんだって一緒に帰ろうだなんて――」

「声、大きいわ。ボリューム下げて」

「お……応」

「……ごめんなさい。でも、今は大きな声で話さない方が良い気がするの」

「フーン……? ま、氷上は意味もなくそういうこと言わないか。訳分かんないけど黙っとくよ」

「本当にごめんなさい」

「いいって。氷上と一緒に帰れるだけ役得とでも思っとくさ」

「……? それってどういう……止まってッ」

 

 力場くんの帰り道は人気が少ない。陽がある内はそうでもないけど、暗くなると光源が街灯ぐらいしかなかった。

 私の家とは正反対の道だ。けどそんな事はどうでもいい。小声で話しながら歩いていると、曲がり角の手前で力場君を制止する。

 ソっと曲がり角から顔を半分覗かせて様子を伺う。すると私達より同じか少し上程度の年代の少年達が群れていた。数はパッと見ただけで六人いる。全員がニット帽を被り、マスクとサングラスをして金属バットを持っていた。

 私は息を呑んだ。――脳裏に、何故か『蛇島桐人』先輩の顔が浮かぶ。良い人のはずなんだけど、力場君を見る目は妙に殺気が宿っていたように見えていたのだ。

 

 訝しげに私の頭の上から顔を覗かせた力場くんが、背中にピッタリ体を当ててくる。それに対してもギクリと緊張してしまう。

 

「あーあー……どうもバイオレンスな臭いがすると思ったら……」

「……力場君? 待ち伏せされる覚えがあるの?」

「あると言えばあるな。けど俺は何もしてないぞ。身に覚えがあるとしたら、リトルにいた頃も一回あったんだよ。こういう待ち伏せが。その時は俺を妬んだ奴らが俺を潰そうとしてたみたいだけど、今回はどうなんだろうな」

「………」

 

 あっけらかんと言いながら顔を引っ込め、力場君は私の背中から密着していたのに離れていく。

 悪気はないんだろうけど、力場君は距離感が近い。そんな場合でもないのに顔が上気してしまった。

 幸い辺りは暗かったから力場君は気づいてなくて、私達の存在に待ち伏せている連中も気づいてなかった。

 

「ったく、パワポケかよ……これだから油断できないんだよなぁ。――氷上、遠回りするぞ。なんなら先に帰ってもいい。巻き込みたくないしな」

 

 パワポケ……? 力場君のよく分からないボヤキは流すとして、私は力場君を睨みつけた。

 

「シニアで一番良くしてくれてる力場君を見捨てて逃げろって言うの? そんなのSPを目指してる人間のする事じゃないわ」

「そいつは頼もしいな。で、それじゃどうするんだ? 二人で無双する?」

「武力で片付けるばかりがSPじゃないわよ。それに力場君、喧嘩強いの?」

「応、自分で言うのもなんだけどメッチャ強いぞ。小浪一刀流の免許皆伝を受けてるんだぜ」

「馬鹿言わないで。力場君に小浪一刀流を修めてられる時間はないでしょ。それにどれだけ強くても避けられる危険は避けるべきよ。打開策はまた後で練りましょう」

「おう、分かった。頼りにしてるぞ樊噲」

 

 樊噲……?

 いきなり知らない名前で呼ばれて眉を顰めてしまう。

 けど意外と喧嘩っ早いらしい力場君を一人にしては駄目な事は分かった。

 私は力場君を家まで送り届ける。予期せず力場君の家を知ってしまったけど吹聴する気はない。とりあえず今日はここまででいいはずだ。

 また明日、今度は六道さん達を交えて話をしようと思う。

 

「ほら、これ。俺のメアドとラインのID」

「えっ?」

「打開策練るんだろ? 氷上が家に帰った後、落ち着いたら連絡してくれ。ここまで一緒に来てくれてサンキューな、心強かったよ」

 

 ――そう思っていたら、多くの女子が欲しがってる力場君の連絡先を押し付けられてしまった。

 家の中に入っていく力場君を、呆然と見送ってしまう。

 心強かった……そう言われて、嬉しく感じている自分がいるのに、私は頬が緩んでしまうのを自覚した。

 

 感謝され、頼られるのは悪くない――

 

 

 

 

 

 

 

(八王子パワフルズには聡里ちゃんがいる。その理由は蛇野郎がいるからこその救済措置だったというお話です。

 聡里ちゃんは能力が高いと、ほぼ潰しに掛かってくる蛇野郎の手を全部防いでくれます。とはいえ好感度が低いと助けに来るのが遅れてしまうんで、だから面倒な雑用を手伝ったりしておく必要があったんですね。

 ま、アイツは有能な内野手ではあるし、極善の監督がいたら更生するんでそこまで嫌いでもないですが。さておきこれで聡里ちゃんの連絡先もゲットできるでしょう。最悪このBADイベントは独力で切り抜けるつもりでしたが、好感度稼ぎがギリ間に合って良かったです。

 ちなみにわたしは現時点の聡里ちゃんより強いフィジカルエリートなので、ぶっちゃけ聡里ちゃんの護衛は要りません。ですがあくまで『現時点』での話ですし、将来を見据えるとそうでもなくなりますね。しかも聡里ちゃんは未熟な状態でもBADイベントの気配を検知する能力が高いので、警報機としては今でも優秀ですよ。野球しないで不良になり、喧嘩に明け暮れ高校野球から真面目な球児に更生するサクセスストーリーを展開中の皆! そんなプレイヤーの方は聡里ちゃんを不要扱いしますがそんな事はありませんからね?!

 聡里ちゃんは頼られるのが好きです、女の子に守られるのは好かぬぅ! とかいう犬の糞ほどにも役に立たないプライドは捨てましょう。――で、高校編のマネ候補は三人までなんですが、その一人が聡里ちゃん。残りの二人とも直に出会うイベントがありますので、その機会を逃さずものにしましょう。その三人で彼女枠を使い回し、経験点の大量ゲットを目指します。

 

 という所で今日はここまで。ご視聴ありがとうございました。また次回も観てくださいね、ばいばーい!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アンケートをしたいです(唐突)
そんな訳でアンケートします。


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白・紫・金・赤・緑・青……髪の色カラフルすぎぃ!

最初から決まってた初期メンバーが揃うので初投稿です。


 

 

 

 

 二刀流選手の育成講座をしつつ進めるぱわぷろRTA再開しますぞぃ。

 

 前回はパワプロ界屈指の外道キャラ、蛇島桐人に目をつけられていた事が判明しましたね。え? 蛇島がいる事なんか知らされてなかった? 画面に映ってなかった奴の名前を急に出されても困る? 道理なんだよなぁ。

 では解説しましょう。なぜわたしがこれまで蛇島とかいう外道を野放しにしていたのか。なぜ気にも留めていなかったのか。その理由は二つあります。その内の一つがしょうもないのですが、単にわたしが蛇島の事を嫌いじゃないからですね。名将甲子園で極善監督に毒気を抜かれ、更生した蛇島のギャップにやられたんです。

 で、もう一つの理由がですね。ぶっちゃけコイツ、わたしにとって無害なんですよ。確かに彼が取れるありとあらゆる手段で、気に食わない奴を潰そうとします。物理に拘らず風評操作などもして排除しようとまでしますよ? けどそれはわたしからするとヌルいというか……この『ぱわぷろ(平仮名)』世界でプロ野球選手を目指すなら、荒事で弱いと生き残れないといいますか。

 野球……? となること請け合いな事情ですが、わたしのようなガチ勢ほど如何に自分がケガをせず相手を叩きのめすか、如何に自分の評判に傷をつけないで標的を闇討ちし抹殺するかの手管に長けてます。――野球ってなんだっけ?

 

 なんだかゲームが変わってきてるぞと思われるかもしれないので、もう一度言いましょう。本作は【プロ野球選手になる→引退する】というプロセスを踏まえられるなら、何をしてもいいんです。年齢的に三十路までにはプロになってないとキツイですが、自由度の高さは高すぎるほど高いですね。

 また本作は限りなくリアルに近いですが、根本はあくまで『パワプロシリーズ』なので、とんでも理論やとんでもな現象がありますし、とんでもな組織や神様が実在してます。なのでそんなのありえへん! と頭ごなしに否定するのはナンセンスです。これはパワポケの話でもありますが、一度死んだと思ったらサイボーグになって復活した! 吸血鬼になってた! などという現象も本作で確認されてますね。

 

 こんな世界観で護身術の一つも覚えずしてどうするというのか。

 

 なのでわたしは『柳生鞘花』ちゃんの実家で、小浪一刀流を免許皆伝されるほどの腕前を身に着けました。これは実戦古流武術でして、まずリアルだと再現できない代物です。なのでわたしが師範代になった事があるからと言ってもリアルの武術技能習得者には勝てません。が、小浪一刀流は『ぱわぷろ(平仮名)』世界の法則に最適化されてるので、この世界でなら中々の実力者だと自負しております。

 というわけで、物理で攻めかかられても、相手が一般人なら相手にもならず蹴散らせてしまえるんですよ。なので物理系の手段はチャカや数の暴力でないとわたしには効きません。蛇島がこちらを社会的に殺しに来ても対処法は心得てます。なんならそれを利用して彼女候補と親密になれちゃいますね。蛇島は外道ですが毒物に手を出すほどでもありませんし、なのでわたし基準だとヌルいと言ったわけですよ。むしろ本作の中学時代だと、彼を利用して聡里ちゃんと仲良くなれますので、聡里ちゃんの好感度を稼ぐ有能なお助けキャラだとも言えます。

 

 長くなりましたが、以上の点でわたしは蛇島に隔意を持っていないのです。

 

 ――え? なら今度は聡里ちゃんの存在意義が危ぶまれる? 自分が強いなら護衛なんか要らへんやろ、ですか?

 

 いやメッチャ欲しいですよ聡里ちゃん。経験点と超特コツの二つが美味しいのもありますが、本作のBADイベントはランダムで発生するんです。大戦犯になりがちな乱数先輩なんですよ。

 聡里ちゃんはそれを察知する能力に長けていまして、BADイベントの不意打ちによる事故死を避けさせてくれます。それと純粋に強い原作キャラというのもあって、ふざけた糞イベで大人数に襲われても、聡里ちゃんといれば高確率で切り抜けられるんです。流石に超常現象まではカバーできませんが、完走を目指す上で安定性を求めるなら絶対に外せませんよこの娘は。

 

 今は聖ちゃんと礼里ちゃんの二人を加え、わたしと聡里ちゃんの四人で待ち伏せされていた事を話してます。前回のラストの後、聡里ちゃんが連絡してきてくれたので無事に彼女の連絡先もゲットしました。やったぜ。

 で、チャットで今後の事を話し合ってるとこですね。聖ちゃんは警察を呼ぼうと、礼里ちゃんはやられる前にやるぞとか言ってます。礼里ちゃん怖っ!? 聡里ちゃんは犯人のこと何も言ってないのに、礼里ちゃんってば一瞬で蛇島の名前出してきましたよ!?

 あ、そっか。そういやこの娘、本作から実装されてる『読心術』の下位特、『洞察術』持ってましたわ。わたしの幼馴染になった影響で礼里ちゃんはゲノム大付属に入ってません。体を改造されておらず身体能力はⅠランク落ちてる上に、超特『読心術』を持っていませんが……超能力である『読心術』の素養はあるんでした。

 

 どうやら礼里ちゃんは前々から蛇島の事を警戒していたようですね。それで今回の話を聞いてピンと来たようです。犯人はお前だ! と。証拠も何もなしに真犯人を当てるとかコナンくん泣きますよ名探偵レイリーちゃん!

 ぶっちゃけ蛇島がどうなろうと構わないんですが、下手に手を出してそれが明るみになったら今後に差し障ります。なので適当に宥めておきましょう。へいへいへい落ち着けよ礼里ちゃん、どうか物騒な考えは持たないで。暴力反対です、暴力はいけませんよ! これは野球! 野球ゲームなんですから!()

 

 ――という感じで宥めて穏便に、かつ専守防衛的に対処する流れにしましょう。

 

 あとお忘れかもしれませんが、本作は十八歳未満の方はプレイできません。つまり……後は分かりますね?

 下手な事してしくじり、捕まってしまうとエロゲ展開になる事も有り得なくはないんですよ。相手がよっぽどのDQNだったら。

 聖域ヒロインの聖ちゃん達がその毒牙に掛かったら、わたしは一ファンとして、今回は捨てて再走前提で落とし前つけさせますよ(過激派) そんな事にならないようにする為に、できる限り事を荒立てたくありません。やはり平和が一番です(一敗)

 

 ……時々「これ野球ゲームだよな?」と思うことがありますが、まあパワポケ要素もある本作です。パワプロ要素だけでも割と野球を超えてたりしますので気にしないようにしましょう。

 

 そんなこんなで美少女三人は落ち着いてくれて、様子見する事に。しかし何かがありそうならすぐ警察に通報する云々と決まりました。

 が、本作世界観の警察は無能です。とにかく初動が遅い。実際に事件にならないと動かないでしょう。なので蛇島パイセンには頑張っていただきましょうね。行き過ぎたことをしない限り、聡里ちゃんの好感度を上げるのに利用させてもらいます。事態がエスカレートしていった場合に備えて、彼の悪事に関する証拠も集めていきましょう。

 

 で、今のところはオリチャー発動せず、チャート通りに進んでます。わたしの思惑通り、翌日から聡里ちゃんはわたしに注意を傾け、常に気にかけてくれるようになりました。なんと中学が違うのに登下校を一緒にしてくれるようになり、更にはシニアでの練習でも何かにつけてはわたしを見ています。

 SPになるという夢を持つ彼女は、わたしを要警護対象として認定してるわけですね。そんで礼里ちゃんと聖ちゃんも聡里ちゃんがいるのを受け入れてくれてて、いっつも行動を共にする面子に加わりました。

 こうなると聡里ちゃんの好感度はウナギノボリです。なんせ夢のSPっぽい事を実現できてるので、無意識に気分が高揚しているので好感度が上がりやすい状態になってるんですよ。で、そうしてる間に聖ちゃん達と雅ちゃんの邂逅イベを済ませてしまいましょう。今なら新顔の聡里ちゃんがいるので、幼馴染面子で固まっている場合に陥りがちな、他人に対して排他的な雰囲気を簡単にスルーできるのです。

 

「僕、小山雅っていいます! よろしくお願いします!」

 

 あらあらうふふ。雅ちゃんったらちょっとした野球ごっこで満足するつもりだったのに、威圧感ばりばりな礼里ちゃんと聖ちゃん、近寄り難い聡里ちゃんが来たんで緊張してますね。可愛い。

 なお男装してないんで、雅ちゃんは最初から女の子と認知されてます、本作は女性も普通にプロ野球選手になれるんで、そもそも男装する理由がないという事情もありますね。

 で、思い出の河川敷――リアルの地球上にある八王子にはない川、八王子川――の河原で野球の練習をしましょう。此処は聖ちゃん達にとって、パワプロくんと幼少期から一緒に野球の特訓をしていた思い出の場所。他人がいるのは内心面白くないでしょうが、わたしのチャートのために我慢してもらいましょう。

 

 聖ちゃんには後で好物のきんつばを奢り、口に突っ込んでやれば機嫌を直してくれるはず。礼里ちゃんにはパフェですね。ストレスケアも忘れないわたしはフェミニストの鑑ではないでしょうか?(自画自賛)

 

 ここまでは思惑通り。試合での大量経験点が望めない仕様なので、コツコツ地道な練習をして、イベントを熟すことで経験点をゲットしていけてますよ。

 

 

 

 ――で、本題です。

 

 

 

 本作では前にも言った通り、高度なプレイヤースキル――PSが必須とされます。これがないとフィジカルに優れてるだけのヘナチョコ扱いされるんです。なので殆どのプレイヤーは打者か投手のどちらかに絞って育成していき、PSもどちらかに特化して磨いていくでしょう。

 なので投打で活躍する二刀流プレイヤーはガチ勢、廃人だらけですね。投打どちらでもPSを磨くなんて普通の神経してたら無理ですから。

 が、ご存知の通りわたしはガチ勢です。本作のRTAをするために、もう体感時間数十年もやり込んできました。他のプレイヤーの方とも情報交換をしてかなり研究してきた自負もあります。

 そんなわけでわたしは打者としてのPSも持ってるんですよね。現時点で礼里ちゃんを先頭打者にして、二番の聖ちゃんの後に、鉄板の三番打者で固定されてるのは伊達ではありません。むしろ打者の方が得意まであります。

 

 で。現実問題として、どんだけ上手く育成しても二刀流キャラは実現が困難です。単純な話、ステを伸ばすのに経験点が足りないんですよ。どう足掻いても投手特化か打者特化にしないと中途半端なゴミが生まれてしまう。――だから天才キャラの証である『センス◎』が必要だったんですね。

 これを付けた事で投手能力をカンストしても、能力キャップのある高校時代まで経験点を余らせる事が出来るようになりました。その余った経験点で打者のステを上げられるんですよ。

 

 そして本作は試合による取得経験点の量がゴミですが、唯一のメリットとして活躍の内容に応じた特能を自動ゲットできます。例えば打席で初球ヒットを連発してたら『初球○』になったり、強振でバットを振り回して長打を量産すれば『パワーヒッター』や『広角打法』をゲットできたり。投手の場合でも同じ事が言えちゃいます。経験点の節約ができて大変お得なので、試合は常に勝ち続ける気概を持ちましょうね。

 

 ――練習、コミュ、練習、コミュ。この繰り返しを行ないます。

 その合間で聡里ちゃんに頼りましょう。が、頼りすぎずに、普段は聡里ちゃんに頼らせてあげましょう。

 対等な関係を望む一方で、女の子らしく甘味が好きで可愛いもの好きな聡里ちゃん。サポートし合って居心地の良さを教え込んでやるのです。

 こうして聡里ちゃんの気分がよくなる関係を築いていくと、聡里ちゃんの男性との付き合い方の理想像がパワプロくんで固定されるからですね。他の男を見ても、知っても、パワプロくんの事をずっと忘れられなくする。――わたし色に染め上げてやるのだぁ!

 

 わたしの経験上、これで聡里ちゃんの好感度は告白イベを起こしてもいい段階になりました。パワプロくんの初彼女は聡里ちゃんだぜ。……モブ娘? 一日で別れ話切り出す自分勝手な小娘なんざ知らんなぁ。あんなのカウントしませんよ。

 ですが告白する前にフラグを立てときます。万が一にもフラレた時も、聡里ちゃんとの関係を切らないようにするためです。なぁに簡単ですよ、単に言葉を掛けとくだけですから。

 

「聡里ちゃんはSPになるのが夢なんだよな。だったら将来、俺の専属SPとして雇いたいよ。え? なんでってそりゃあ……聡里ちゃんがいてくれると安心感が凄いんだよ。まだ中学生なのにこんなに優秀なんだ、将来はとんでもなく有能なSPになるって分かりきってるし、なら誰だって雇えるなら雇いたいって思うだろ」

 

 聡里ちゃんのウィークポイントに火の玉ストレートが突き刺さった様が幻視できました。

 密かに自分のしてることが鬱陶しくて、迷惑なんじゃないかと悩んでた聡里ちゃんにとってこの言葉は効きます。嬉しくて堪らないってクールな表情に滲んでますよ。

 伊達に『前の』パワプロくんと深い関係だったわけじゃないんで聡里ちゃんのツボは知り尽くしてます。わたしのチャート上、絡む事になるであろうキャラ全員のデータも頭に叩き込んでますし死角はありません。

 

 やはりその言葉が効いたようで、聡里ちゃんの密かな警護に更なる熱が入ってますね。うんうん、パワプロくんだけを見てると良いんだよ聡里ちゃん。これはもう告白したらオーケーしか選択肢がないのでは? 地味にシニア内の空気が悪くなっていって、なんだか居心地が悪くなってますが計算通りです。

 そりゃあね、可愛いマネージャーがパワプロくんに熱を上げてるのが傍目にも分かるんですよ。しかも超かわいい幼馴染が二人もいる。バケモノじみた天才ステ持ちで可愛い女の子を三人も侍らせてるように見えるイケメンとか、わたしだってそんな奴には嫉妬しますよ。

 

 で、蛇島を放置してた甲斐が出てきてます。蛇島はそんな空気を密かに助長してくれるわけで、蛇島……お前最高過ぎですよ。最高のアシストをしてくれてホントにサンキューですわ。急遽組まざるを得なかったオリチャー上、最も望ましい環境が仕上がってきましたよ、君のお蔭でね。

 望んでいたのはチームメイトに白眼視されて、干されていく空気です。これで野球部のない高校に行っても文句は出ませんよ。潰されそうになったから強豪のチームに苦手意識ができて、自分で野球部を作ったんだと言い張れるんですよね。尤もリアルだと通じない論法ですが、『ぱわぷろ(平仮名)』世界だと割と通じます。

 

 そんなこんなで聖ちゃんが高校に備えて目ぼしい奴を誘えたと報告してくれました。あの河原に連れてきてくれるそうです。

 果たしてそれは誰なんでしょうね(すっとぼけ)

 

 

 

「ふーん? 聖が秘密にしたがるわけね。力場専一って、サプライズにしてはとんでもない大物じゃない」

「わぁ……女の子ばかり集まってる。これってわざとなの?」

 

 

 

 来た! 先発も出来るメイン中継ぎと抑え来た! これで勝つる!

 

 聖ちゃんが内助の功を発動して連れてきてくれたのは元祖三人娘の残りの二人! 同い年バージョンの『橘みずき』ちゃんと、一つ年上バージョンの『早川あおい』ちゃんです!

 ぱわぷろ(平仮名)世界だと、この二人のどちらかとランダムで同年代になるのですが、聖ちゃんと同い年な時点であおいちゃんが歳上なのは明白。聖ちゃんは確定でこの娘達と縁ができるので、誘う面子の宛てがあると言ったらこの娘達が来ると思ってました。聖ちゃんナイスぅ↑(本音)

 

 という所で今回はここまで。次回で中2になるまで進めて、高校受験に備えるあたりまで進め――

 

 

 

「――なるほどー? 迷惑な先輩に目を付けられてるとか最悪じゃない。ね、アンタらウチの中学に転校して来ない? シニアも私のとこに入りなさいよ。私の目の届くとこでなら、そんなふざけた真似させないわよ?」

 

 

 

 ――ファッ!? クゥーン(失神)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




面白い、続きが気になると思って頂けたなら評価等よろしくお願いします。


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爆破師みずき

リトルリーグ時代を省いたのは、ぶっちゃけパワプロくんの無双で終わるのが明らかだったからです。
何十年も野球人生を送った、プロの技術持ちがチート能力(自己ステ弄り)を持って乗り込んだら蹂躙にしかならないので、省略しました。

今回はその点にスポットを当て、(現実のとある怪物選手の記録を元にした)パワプロくんの成績にも言及してます。パワプロくんの無双は高校まで続き、そこら辺から原作キャラが追いついてくるのでシニアもほぼ舞台を整える前段階です。

というわけで高校まで本番とは言えないので、中学時代の今回も実質初投稿です(暴論)




 

 

 

 

 

「オレが野手にコンバートした理由?

 そうだな……教えてやってもいいが、その前に答えてくれ。橘は見た事があるか? 力場専一の直球を」

 

 力場? まあ、ユーチュープーでなら見たことあるわよ。

 

「……運がよかったな、生で見る機会がなくて」

 

 はぁ? なにそれ、どういう意味?

 

「打席に立ったら分かる。なんというか……()()なんだよ力場のストレートは。まるで何年も磨き上げ、丁寧に削り出された彫刻みたいだった。

 オレはあの芸術的なボールを打ちたくて堪らなくなったんだ。あの真っ直ぐを打つには、投球にリソースを割いていられない。だから打撃練習を重点的にやる事にして、半端は出来ないから投手の道を諦めたんだよ」

 

 ……投手としての自分に未練はないの?

 

「舐めるな、そんなものはない。アイツに三打席連続三振を奪われた瞬間に、そんな余分は切り捨てられた。自分の目で直接見たら、もしかしたら橘もオレの気持ちが分かるようになるかもな。

 あの化け物を、あの天才を打ち砕く。

 今のオレが一番の目標にしているのがそれだ。だからオレは絶対にアイツと同じチームには入らない。オレは敵チームとして力場と相対し、そして倒す。

 オレがプロになるには、アイツという壁を乗り越えないといけない気がするんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 一塁手の武秀英、滝本太郎。

 二塁手の蛇島桐人、四条賢二。

 遊撃手の霧崎礼里、友沢亮。

 三塁手の才賀侑人、東條小次郎。

 捕手の六道聖、神成尊。

 投手の猪狩守、木場嵐士、虹谷誠、阿麻央真。

 

 ――個人で最も名声を得られるものは何か。個人で最も富を得られるものは何か。そして個人で最も称賛を浴び、栄光を掴めるものは何か。

 

 それは野球だ。

 

 スポーツと言えば真っ先に思い浮かぶのは野球であり、最もメジャーな競技として認知されている。

 他の競技がマイナーの域を出ないのは、スポーツ業界を牛耳らんとするとある組織(プロペラ団)の暗躍があるためだ。とはいえそれは都市伝説や陰謀論の域を出ない、一般には重要視されていない事柄のため割愛する。

 

 ともあれ競技=野球の公式は定まっている。故に主要各国の球界は発言力が強く、野球選手の育成に力を入れているのだ。

 

 今や前身が野球選手だった政治家、軍人、科学者は珍しくない。中には零細企業を大財閥にまで成長させた総帥もいる。

 スポーツとしての球技が業界を独占している以上、多くの有能な人材が野球に携わっていた事が多いのは必然だろう。極論ではあるが結果として野球とは軍事であり、政治であり、金を生む利権が絡む業界なのである。国力を他国に誇示する、国同士の代理戦争に近い側面もまた有していた。

 

 そして野球を重視しているのは日本政府も同様だ。辣腕で知られる現首相も元は著名な野球選手だった事もあり、日本の球界は幼い球児達にも熱い視線を送っている。そこに如何なる才能が眠っているか定かではないからだ。

 そして今、近代に入って以降最も豊作と謳われる黄金世代が出現した。その中で最も注目を集めているのが冒頭の彼らであり、その少年達の世代を纏めて球界は【パワプロ世代】と呼んでいる。

 

 パワプロとは豊作とされる才能の持ち主達の中で、最も飛び抜けて優秀な野球力を持つ怪物の愛称だ。

 親しい者がパワプロと呼ぶというその少年こそが、力場専一。投打両面に於いて世代No.1と目される存在である。

 

 ――パワプロという少年が一躍知名度を高めたのは、十二歳の時リトルリーグ全国大会にて驚異的な記録を残した事に端を発する。

 

 江戸川リトルのキャプテンを務め、エースで三番打者を務めていたパワプロは、全国大会の決勝にて強豪・猪狩リトルと激突し――規定6イニングの全十八個のアウトの内、初回から打者一巡の九者連続を含む、十七個の三振を奪ったのだ。そして同じ左投手の猪狩守から、決勝ソロホームランを打ち勝利を収めている。

 

 その類稀な実力を称した球界の重鎮に曰く。

 

 

『今年のリトルリーグ大会は、力場くんの横綱相撲で終わった。まさに独壇場だったと言えるだろう』

 

『力場くんは直球の質もそうだが、変化球の多彩さと制球力に長け、スタミナも充分にある。そして()()フォークのキレと変化量は目を瞠るしかない。はじめて見た時は声が出なかったほどだ』

 

『ただ凄まじいのはそこじゃないんだ。真に注目すべきなのは球速や制球力、打撃結果ではなく、それを支えているフォームの完成度だよ。その点に関して本当に非の打ち所がない』

 

『あれでまだ十二歳なんだって? 来年から中学生か……投打に於いてあそこまで完成されているのを見ると、末恐ろしいとしか言えないな。彼を前にしたら、才能とはなんなのかと考えさせられる』

 

『指導者は特に何も教えていないそうだ。一人で勝手に練習して、自分で自分を管理し、自力で育ったらしい。言葉は悪いがね――力場くんはもはや怪物としか言えない。まさに、野球の申し子だ』

 

 

 ――絶賛だった。

 

 だが一人の有識者が褒めると、粗を探したくなるのが人間というもの。その称賛が全国に発信されるや、多くの野球関係者達は力場専一の試合データを繰り返し閲覧し、研究し、重箱の隅をつつくように粘着して――そして粗がない事に脱帽させられた。

 粗があったとしてもそれは、個人の性質によるもの。あるいは年齢的な肉体の未熟さからくるものと受け取れるものばかりだった。

 貶せるとしたら力場本人の性格だけだろう。時折り力場少年は走塁で暴走して、一塁と二塁の前後を挟まれてタッチアウトを取られる事があったからだ。だがその性格的欠点を除き、欠点らしきものは無い。パワプロ世代で力場を超える選手はいない。少なくとも、今のところは。

 

 それを、その事を、橘みずきは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――私は、問答無用で理解させられた。

 

「ストライク、バッターアウト。――見逃し三振だよ、みずきちゃん」

 

 主審の役を買って出てくれたあおい先輩のコールを受けても、私はすぐには反応を返せなかった。呆然と前に立つ力場専一を見詰めてしまう。

 瞼の裏側に焼きつく流星の軌跡。世代No.1のど真ん中ストレート。

 焼きついたのは、直球の軌跡だけじゃない。大きく振りかぶった、貫禄溢れるワインドアップ。持ち上げられる翼のような右脚。流水のように流れる力の動きとそれを完璧に伝導する投球の型。数え切れないほどの無数の関節が、全身に増設されているのではないかと疑いたくなるぐらい流麗だった。

 見るも美麗なオーバースローは、投じた硬球を十全に制御してる。ボールの縫い目に掛かった指の、しなやかで細やかな切り方とリリースの巧みさは、変化球のキレを抜群にするだろう。直球の軌跡を見ただけで、直感的にその事を理解させられる。

 

 プロだ。リトルやシニアの球児とはレベルが違い過ぎる。隔絶した力の差をたったの一打席で分からされた。

 

 ……酷すぎる。

 何がって、こんなヤツが一年前までリトルにいた事が。

 そりゃ全国大会で完全試合の一つや二つやるでしょうよ。私達の世代をコイツの愛称で纏められもするわ。

 確かにコイツが一番凄い。コイツの前だと誰もが霞む。パワプロ世代……裏を返せば私達の世代には、パワプロしかいないと言われてるようなもの。

 豊作だとか、黄金世代だとか世間じゃ言われてるけど。コイツ一人で豊作、大漁、ボロ儲け。コイツ一人いたらキンキラキンの金銀財宝でしょ。

 文字通り格が違う。

 きっとコイツのボールを前に、同世代の何人もの投手が心を折られてきただろう。あるいは魅了されてきただろう。今ならアイツ――いけ好かない友沢の言っていた事が分かる。コイツは、理想像だ。プロを目指すなら誰もが憧れるエースピッチャーだ。こんなふうになりたい、こんな球を打ちたい……ベクトルこそ違っても、魅せられている事に違いはなかった。

 

「………」

 

 構えていたバットを下ろす。

 バットが出なかった。反応できなかったんじゃなくて、反応する事を忘れさせられていた。

 全球ストレート、三球三振。挨拶代わりに一打席勝負と洒落込んで、世代の顔がどれほどのものかと見物させてもらったら――ええ、そりゃもう見事に魅せられたわよ。

 

「ハァ。聖……アンタ、こんなのと組んでて嫌になんない?」

 

 同じ投手として嫌になる。悔しさすら湧かない。後ろを振り返って訊くと、ボールを捕球していた名捕手は肩を竦めた。

 

「私は野球を初めた時から、ずっとパワプロの球を受けてきたからな。特に嫌になった事なんてないぞ。それよりみずき、()()()のか?」

「ええ、そりゃあもうポッキリ()()()わ」

 

 聖は心が折れたのかと訊いてきた。私はそれに、鼻を摩りながら答える。

 確かに折れた。心じゃなくて、天狗の鼻が。

 ずっと胸に抱いてきた自負、自信。あおい先輩は尊敬してるけど、負けてるとは思ってない。猪狩守だろうと、誰だろうと、今は負けてても絶対にいつかは勝つ。――そんな根拠のない強気が、打ち砕かれた。

 今のままじゃ、絶対にコイツに勝てない。

 多分、それを今知れたのはとても幸運な事だと思う。今より後だったら伸びた鼻は折れないで、変に意地を張っていたはずだから。

 

「あーあ……男の子だからとか、女の子だからとか、そんなもの超えたところで負けてるね、ボク達」

 

 あおい先輩も、聖の後ろで見てたから分かったみたい。私と同じ気持ちなんだろう。けどやっぱり()()()()()()()()()()()。清々しい気持ちにさせてくれる真っ直ぐ(ストレート)だった。

 私はバットを放り捨てて力場に歩み寄る。近くで見ると、憎たらしいほどイケメンだ。私はニヤリと意識して笑って、肩を軽く叩いて称賛する。

 

「やるじゃん。特別にアンタのこと認めてあげるわ、()()()()()

「キャプテン? って……ああ、聖ちゃんから俺の事を聞いてるのか」

「とーぜん。話も聞かないでこんな所に来るわけないでしょ? 作るのよね、野球部。高校で」

「おう。そっちの方が燃えるからな」

 

 ニカって笑う力場は、私みたいな美少女にスキンシップ取られても動じてないわね。って、そりゃそうか。

 聖もそうだけど……離れて見てた霧崎って奴も、この私に負けないぐらい可愛いし。小山に氷上だっけ? コイツらも可愛い。力場ったら顔面偏差値が高い面子に慣れてんのね。

 

「あおいセンパーイ。あおい先輩はどうするんですかー!」

 

 答えは分かってる。分かってて訊いた。すると立ち上がった聖ちゃんの横で早川あおい先輩は苦笑した。

 

「ボクもその話、乗った。というか乗らなきゃ駄目な気がする。あ、こっち来てみずきちゃん」

「? なんです、あおい先輩?」

「いいから。――コホン。ボクは早川あおい。君達より一個上の、☓☓中学の二年生だよ。シニアは武蔵府中。こっちが――」

「えー、堅苦しいなーあおい先輩は。自己紹介とかそんな改まってするもんでもないでしょ」

「いいからやるの。ボクらはこれから仲間になるんだから、新顔はきちんと筋を通さなきゃだよ」

「しょうがないなぁ……私は橘みずき。よろしくしてやるから感謝しなさいよね」

 

 わざわざ並んで自己紹介とか、なんだかなぁ。あおい先輩ってホント律儀。

 私達が名乗ると、力場は人好きのする笑顔で応じてきた。

 こういうのを見るとホント、イケメンって得ね。嫌味な感じが全然しない。

 

「おう。よろしくなあおいちゃん、みずきちゃん」

「……ボク、君より年上なんだけど? 初対面の先輩を名前で、しかもちゃん付けで呼ぶってどうなの、それ」

「いくらなんでも気安過ぎるでしょ……聖、コイツって誰に対してもいつも()()()なの?」

「そうだぞ。パワプロは天上天下唯我独尊の俺様野郎なのだ」

「聖ちゃん……? そういう誤解を招きそうな事言うのやめようぜ?」

「『俺様』なのは事実だろう」

「礼里ちゃん!?」

 

 近づいてきた霧崎・聖とイチャつき始める力場。――これで恋愛感情皆無とか、ある意味大物よね。

 あおい先輩はそんな力場にどう接したらいいのか悩んでるみたい。後輩のナメた態度を咎めて改めさせよう、って感じじゃないし、そういう事に拘る人でもない。霧崎と聖がキャプテンをどう想っているのかを察しちゃったから、力場との距離感をどうするか決めかねてると見た。

 あおい先輩って意外と人見知りするからねー。ここは私が一肌脱いで、コイツらの中に割り込みやすくしてやるとしますか。変に遠慮しちゃうようじゃこの先が思いやられちゃうし。

 

「ね、キャップ」

「キャップ?」

「アンタ、帽子似合いそうじゃん? キャプテンと帽子を掛けてキャップって呼ぶことにしたから。名前で呼んできたのはアンタなんだし、あだ名で呼ぶぐらいは許しなさいよ」

「別にいいぞ。パワプロって呼ばれ慣れてたけど、違うあだ名も新鮮でいいしな。それはそれとしてどうしたんだみずきちゃん」

「うん。アンタの仲間になって上げる代わりに条件つけたいんだけど、聞いてくれるわよね?」

「おう、なんでも言ってくれ。俺に出来る範囲ならなんでもする」

「流石に初対面の奴にいきなり無茶は言えないわよ……たださ、私達は聖以外のこと知らないのよね。あ、選手としてはアンタと霧崎の事は知ってるわよ? 個人としての事を知らないって言ってんの。だからなんでアンタが三年先の高校を見据えて、仲間集めを始めたのかを教えなさい。強豪の高校に行った方がいいでしょ、普通?」

「あ、それボクも気になる。悔しいけど、力場くんほど巧い投手はボクらの世代にいないもん。スカウトは絶対に力場くんを誘うし、力場くんもプロを目指してるならだけど、強豪校の練習環境の良さはとても大事だよ?」

「……その事ね。まあ話しとくのが筋だな。でもなぁ……うーん……なんて言えばいいんだか……」

「私が説明するぞ。みずきとあおい先輩を誘ったのは私だからな」

 

 言い淀んだキャップの様子に、これは何か面倒な事情がありそうだと察してしまえる。唸るばかりで中々切り出せないキャップを見かねたらしく、聖が尤もらしい言い分で説明役を買って出た。

 ――それで聞かされたのは、中々に陰湿で酷い今の環境だ。キャップを取り巻くシニアでの状況は芳しくない。チームメイト達は狡猾な事に、大人の目があるところだと到って普通にしてるらしいし。

 

 事情は分かった。もしかしたら出会い方が違うと、私もキャップの事を気に食わない奴って妬んでたかもしれないし、状況を改善するのに労力を割くのも馬鹿らしい気持ちは分かる。

 あおい先輩は素直に憤ってるけど、誰もがあおい先輩みたいに真っ直ぐな人なわけじゃない。どうしたって解決できない問題だし、解決したように見えても()()()は残るだろう。高校でもそんな環境に身を置くかもしれないと思ったら、一から始めたくなるのも分かる。理解できる普通の感性だった。

 

 ぶっとんだセンス持ってんのに、そこらへんは普通なのね。なんだか逆に安心したわ。完全に俺様で唯我独尊な理由だと思ってたし。

 

「――なるほどー? 迷惑な先輩に目を付けられてるとか最悪じゃない」

 

 でも事情が分かると親近感が湧いた。

 認めざるを得ないほどの天才も、そういう所は普通で人間らしい所があるみたいで。

 そうなると一気に惜しくもなった。ガラじゃないのは自覚してるけど、これだけの天才が下らない妬み嫉みで脚を引っ張られてるなんて勿体無い。

 なんの問題もない環境で、伸び伸びと成長したらどうなるのかを、見てみたい気がした。だってその方が燃えるじゃない? ()()()()()()ってのは大きい方がいいもんね。

 

「ね、アンタらウチの中学に転校して来ない? シニアも私のとこに入りなさいよ。私の目の届くとこでなら、そんなふざけた真似させないわよ?」

 

 そう言うと、キャップは驚いたのか目を丸くした。

 自分で言い出しててなんだけど、結構名案な気がしてくる。うん、そうした方が絶対にいい。寧ろしない理由がないんじゃないの?

 高校では一から始める。その事に文句はないわ。私もあおい先輩も、自分の実力がダイレクトで出る勝負は嫌いじゃない。何より最高の教材が目の前にあるのは得難いと思う。投手としてのタイプは全然違うけど、モチベーションを高く保てるという意味でも最高。

 でも中学時代のシニアで不遇な環境に身を置き続ける理由はないわよね。

 

「――いいな、それ。でも親にも話さなきゃだし、今すぐオーケー出せるもんじゃないから、一度持ち帰らせてくれよ」

「ん、もちろんいいわよ」

「決まりだな。今日は顔見せだけって事で解散しようぜ。早速父さん達に話しときたいし。あ、あと連絡先交換しよう」

「おっけー」

「うん、分かった。ボクのも教えるよ」

 

 にしても流石私、冴えてるぅー。

 最初は聖目当てで、キャップにゾッコンな聖をどう引き抜くか見に来るだけのつもりだったんだけど、来てよかったわ。

 これで本当に甲子園優勝しちゃったら、私のプロへの道も明るいし? ホント得しかないわよ。

 

 

 

 ――この時。私はとんでもない爆弾の導火線に火を付けてしまった事を、まだ知らずにいた。

 でも私は悪くない。キャップを取り巻く人間関係が、私の誘いで加速しちゃうとか……分かるわけないでしょ普通!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(矢部ぇ! じゃなくてヤベェェェ!? 何がヤバイって断る理由がないのがヤベェ! アカン……このままだとワイのチャートが死ぬぅ! このままじゃ特に付いてくる理由のない聡里ちゃんとの関係が崩れるぅ! どうする、どうするわたし!? どげんかせんといかん、どうにかして聡里ちゃんも付いて来れる理由作らんと連絡取り辛くなるやんけ!

 

 ……!

 

 ………!!

 

 ………せや! 名案思いついたで!

 

 こうなったらもう告白するっきゃねぇですよ! 彼氏彼女になったら付いて来る理由になる! わたしの組んだチャート上、聡里ちゃんは絶対不可欠なんですよ。こんなとこで躓けるもんですか! 幸い聡里ちゃんの好感度は必要分稼げてるはず……賭けるしかない、聡里ちゃんが頷いてくれる事を祈るしか……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




沢山の評価等ありがとうございます!
次回も小説パートです。最後らへんに実況風にできる、かも…?

なおアンケートは終了です。ハーレムタグが仕事する事になるかも。
皆さんのご協力に感謝します。ただ、女だけというのもアレなんで、男も何人か入れたいです。友沢は無理っすけどね…。
男キャラはほぼ他校のライバルとして出演予定ですが、やはり身内でのライバル関係も尊いと思います(持論)

また次回も見てください。宜しくお願いします。


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告白イベント:氷上聡里

初彼女を作ったら初投稿です。



 

 

 

 親が警視庁警備部警護課の私服警官で、親の影響を受けると共に強い憧れを懐いたのが始まりだった。

 私もいつか、SPになりたい。

 その想いに曇りはない。これからも曇らないと思う。夢に真摯に向き合い、そのための努力と研鑽を怠った事もなかった。

 合気道を学んだ。才能はあったのだろう、師となった人はもうすぐ教える事がなくなると言っていた。合気道を実戦で使えるのは真の達人だけだという、その真の達人になるだけの器が私にはあるらしい。

 喜ばしい事だ。親も褒めてくれた。けれど間違えてはならず、傲ってもならない。武力の行使は最後の手段であるべきで、積極的に武力を振るえば暴力に転じ、やがては無用な諍いを生むだろう。警護対象を護る立場の職を目指す私がそんな様だと滑稽だし、本末転倒としか言いようがない。

 積極的に戦うのがSPではないのだ。専守防衛に徹し、警護対象を危険から遠ざけ、予防策を立てるのが仕事である。危険から警護対象を護るためなら体を盾にもする、逃げもする必要があった。体面より『守った』という結果だけが重要なのだから。

 

 私が野球のシニアに入り、マネージャーを始めたのも夢のためだ。

 

 このご時世、プロ野球選手や球団がSPを雇う事は多く、私もいつかはその一員になる事は充分考えられる。だからシニアとはいえ、野球選手の行動パターンを見ておきたかったし、学べる事はあると踏んだのだ。

 それにプロを目指す選手の競争は熾烈だ。人同士が競争し限られたプロの席を手に入れようとすれば、時には陰湿な潰し合いも発生し得る。そうした心の機微を学べれば私の夢の大きな財産になるだろう。

 結果は大当たり。案の定とは言いたくないけど、一人のスター選手を中心に人の汚い心が渦を巻いた。

 その選手は私と同い年ながら、投手としても打者としても極めて高い評価をされていて、監督やコーチも次のエースは彼で当確だと見做している。打線でも四番を任せられるほどになるかもしれないと期待しているのが分かった。そして私にそれを感じられた以上、他の人も感じられるのは自明だろう。

 激しい嫉妬があった。才能への妬みがあった。

 それだけならまだ抑えられたのかもしれないが、その選手は――私には然程重要ではないけど、顔がよく。頭もよくて。おまけに同性の私から見ても可愛い幼馴染が二人もいた。人間としての何もかもで劣っていると感じて劣等感に苛まれた人達が、暴走してしまうだけの土壌は充分にあったのだ。

 その火種に着火した人がいる。巧妙に、狡猾に、自分は直接関与せずに周囲を焚きつけた人が。私がそれに気づけたのは、ひとえにそうした機微に神経を割いていたからだろう。そうでなければ事前に危機意識を持てずにいたに違いない。

 

 だから私は彼――力場専一くんに接近した。

 

 元々好ましいと感じていた人だったから声を掛けやすかった。

 面倒なマネージャーの雑用をいつも手伝ってくれて、恩に着せるような所もなく。かといって下心があるようでもない。マネージャーの私を軽んじる事なく尊重して、私自身と対等に向き合おうとしてくれていた。

 多分、そうした精神面への好意がなかったら、自分から異性に近づくのに躊躇って間に合わなかったかもしれない。私が声を掛けた当日に、なんとなく覚えていた嫌な予感は現実のものとなったのだ。

 一人でいた彼を家まで送り届ける途中、明らかに力場くんを狙って待ち伏せている人達がいた。彼らの体格や何気ない仕草の癖が、同じシニアの人達と一致した時は戦慄したものだ。頭ではありえると想定していても、実際にこんな汚い心を見せつけられると鳥肌を立ててしまう。

 

 ――比較してしまうのは仕方がないだろう。

 

 そんな汚い部分を、力場くんは持っていなくて。一心に野球に打ち込む姿はとても綺麗で、尊かった。

 私は彼を守らないといけない。そうした使命感を懐くのに時間は要らなかった。私がSPを志したのは、きっとこうした綺麗なものを護るためだから。

 

 ――いつしか私は、いつも彼を見ていた。

 

 自分が未熟なのは知っている。けれど私だってSPの卵だ。警護が必要な人から目を離すわけにはいかず、私が気をつけていれば最悪の事態だけは防げる自信もあった。

 中学は違っても登下校を一緒にして、シニアの練習でも彼が一人にならないように目を光らせて。密かに警戒心を持って周囲の人の動向にも気を配って。

 ちらり、と。私のしてることは独善で、力場くんは私を鬱陶しいと感じているかもしれないと不安を覚えもしたけれど。彼は、快活に笑ってその不安を打ち消してくれた。

 

『いつもありがとうな。聡里ちゃんがいてくれると心強いよ』

 

 ――嬉しかった。私のしている事が正しいのだと、迷惑なんかじゃないと伝えてくれた事が。

 

 嬉しかったから、更に力が入ってしまって。いつしか彼に相当入れ込んでいる自分がいるのに気づいた。

 けれど止められない。止まる必要がない。

 事実として彼は警護する必要がある人物だ。だから止まる理由がない。

 

『あんまり気を張り過ぎてると疲れるだろ。これは俺がやっとくから休んでてくれ』

 

 頼り切るだけでなく、気を遣ってくれたのが心地良い。

 SPと警護対象が互いに尊重し合う、私の思い描いていた理想的な関係になれていたから。

 

『聡里ちゃん』

 

『聡里ちゃん?』

 

『聡里ちゃん!』

 

『聡里ちゃんっ』

 

 私を呼ぶ、親しみやすい声。

 笑顔。

 距離感。

 全てが心地良い。

 

 

 

「ね、アンタらウチの中学に転校して来ない? シニアも私のとこに入りなさいよ。私の目の届くとこでなら、そんなふざけた真似させないわよ?」

 

 

 

 ――曖昧模糊として、核の見つからない焦り。それを感じるようになったのは、まさにそんな時だ。

 早川あおいさんと、橘みずきさん。二人が新たに加わったその日、力場くんを取り巻く状況を知った橘さんがそう誘いを掛けて。

 あ、終わった。

 そう思った。

 彼の問題が解決されて、私は要らなくなる。それは本来、一番いい解決方法だ。私にとっても素直に祝福するべき事だ。だというのに私の胸に去来した想いは、終わってほしくないという、SPを志す身として恥ずべき想いだ。

 私は必死に自分を抑えた。自分の()()に蓋をした。

 彼の新しい道への出発を、素直に祝福してあげるべきだろう。そうするのが正解だ。そうするべきだった。

 

 けれど。

 

 私はその場を解散した後も、暫く何も考えられずに呆然と佇んでしまっていた。

 完全に日が暮れて、ようやく我に返った私は帰路につく。

 終わる。終わってしまう。――いや、もう終わったようなものだ。

 これで良かったのだ。これが正解なんだ。そう言い聞かせて、自分の中にある想いを塞き止める。

 忘れはしない、これまで体験できた事は私にとって財産になる。貴重な体験をさせてくれた力場くんに感謝して、気持ちよく別れよう。

 そう、思っていて。思おうとしていた。

 すると――そんな時にスマホへメッセージが届いたのだ。

 

【登録名:力場くん】

 

「――!」

 

 力場くんからだ。私は思わず緊張し、訳も分からないまま急いでメールを見た。

 

『話したい事がある。今から○○公園に来てくれ』

 

 力場くんの顔が脳裏を過ぎった。私を見詰める視線を思い出した。

 まさか、と。ありえない予想を懐きかけたのを否定する。そして自分の行動を正当化するために理論武装した。

 私からも話がある。もうSPの真似事はやめる、と。今まで勝手にやっていたのだ、せめて直接会って伝えるのが筋というものだから、と。

 無意識に私は走っていた。自分が走り出しているのに気づいたのは、その公園に着いてからだ。必死に息を整え、ハンカチで汗を拭い、乱れていた髪を綺麗にした。だらしない女だと思われたくなかった。この関係を終わらせる最後の時は、せめていつも通りでいたかった。

 

 陽は沈み、辺りは真っ暗だ。

 街灯の灯りだけが地上を照らしている。

 

 公園に入ると、彼がいた。すらりとした手足の、均整の取れた体つきの男の子が。

 足音を立てると彼は私に気づいて振り返ってくる。解散してから一度も帰っていないのだろう、その服装はシニアの野球ユニフォームのままで、まだ汚れていた。

 汚れているのに、綺麗だと思う。私は掛ける言葉を見失い、とにかく何かを言わないといけない気がして、なんとか捻り出した。

 

「話って――なに?」

「いきなりだな聡里ちゃん」

 

 唐突に過ぎたのか、苦笑いされる。耳が熱くなるのを自覚した。確かに、気が急き過ぎている。

 落ち着こう。落ち着いて、向き合おう。もしかしてと期待する心を否定して落ち着くべきだ。深呼吸をする。一度、二度。そして、落ち着いた、と口の中で呟いた。自己暗示のように。

 それを見計らっての事だろう。力場くんは私の方に歩み寄ってきて、私の目を真剣な眼差しで見詰めてくる。

 

「俺さ、みずきちゃんの誘い、乗ろうと思ってる」

「――そう」

 

 単刀直入に本題に入った彼に、私はそう返すしかない。

 

「父さん達は俺の言うことを尊重してくれるってさ。ふざけた連中に構う事はないって」

「道理ね」

「ああ。だからさ、分かるだろ? もう聡里ちゃんに心配して貰う必要はなくなったんだ」

「……うん」

 

 やっぱりそうだ。

 寂しさを堪え、私は意識して表情を緩める。

 

「よかった。力場くんが無事なままで」

「無事でいられたのは聡里ちゃんのお蔭だ」

「そうだと嬉しい、かな。力場くん自身がきちんと気をつけてくれたのも大きいから、そうまで言われるほどでもないと思うけど」

「いいや、聡里ちゃんのお蔭だ」

 

 謙遜でもなんでもなく、本当に力場くん自身が安全に気をつけた所は大きいと思う。なのに力場くんはそれを力強く否定した。

 私のお蔭だと、強調して。――ああ、本当に終わるんだなと、受け入れた。

 やりやすい人だった。警護のし易い人だった。理解があって、尊重してくれて――それらをひっくるめても、度外視しても、人としてとても素敵な人だった。

 

「けどこれで終わりだ」

 

 そう、終わりだ。

 

「俺はもうあのシニアには行かない」

 

 これで終わりだ。

 

「……」

「けど。けどさ。こうなって初めて気づいた。自覚した。俺、俺は――」

 

 目の前に、力場くんがいる。

 彼の顔を見詰めて、私は固まってしまった。

 余りに真っ直ぐで、真剣で、本気な目。どこか必死な色のある、強い気持ちがある。ああ、卑怯だ。ズルい。そんな目をされると、逃げられない。

 終わりにするべきなのに。

 終わるはずなのに。

 ――まだ、終わらないんじゃないかって、期待してしまう。

 

「俺は、聡里ちゃんが好きだ」

 

「――ぇ」

「聡里ちゃんと離れたくない。ずっと一緒にいたい。聡里ちゃんに守ってもらいたいし、守ってあげたい。一人の人間として対等に付き合える聡里ちゃんが好きで好きで堪らないんだ」

「――――」

「俺の彼女に、恋人になってくれ。ずっと――俺といてくれ」

 

 後ずさった。

 嫌だったからじゃない。ただ、衝撃的だったから。

 まさか。

 まさか、彼も。

 力場くんも、私と同じ気持ちを――

 

 後ずさる。

 

 逃げないといけない。答えてはいけない。

 脳裏を過ぎった顔は仲のいい友達になれた二人。六道さんと霧崎さん。

 この二人の気持ちを知っている。私が割り込んではいけない二人だ。

 逃げるために、後ずさる。その度に、彼が詰めてくる。

 

「か、考え、させて……」

「駄目だ。時間は掛けてもいい。けど此処で、答えてくれ。でないと聡里ちゃん、逃げちゃうだろ」

「に、逃げないから。ちゃんと答える」

「駄目だ。此処で、聡里ちゃんの口から答えを聞かせてくれ」

「力場くんは、強引過ぎ……」

「嫌なら嫌って言えばいいだろ。俺が嫌いなら嫌いだって言えばいい」

 

 壁際に追い詰められる。両手で左右を塞がれる。

 顔が近い。自分の顔が上気してしまう。

 沈黙する。答えが見つからない。見つけるわけにはいかない。

 強い衝動が口を突こうとする度に必死に堪えた。

 力場くんはずっと待ってる。

 付き合わない、恋人にならない、そうはっきりと言おうとするのに口が動かない。

 

「聡里ちゃん。嫌なら突き飛ばしてくれ」

 

 やがて力場くんは、力場くんらしい強引さで話を進めた。

 誰かが答えに詰まった時、なんでもないように引っ張っていく彼なら、こうすると分かっていて待っていた自分がいたのに、その時気づいて。

 

「ぁ――」

 

 近づいてくる顔に。

 きゅ、と胸元で自分の両手を握り締め、目を瞑ってしまう。

 

 か細い声を漏らして、唇が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 聡里ちゃんと、恋人に、なった!

 

 賭けに勝ちましたよ。いやぁ聡里ちゃんは強敵でしたね……。

 ぶっちゃけ恋人になれるかどうかはマジで半々だったんで良かったです。

 今回の勝因は地道に好感度を稼いでいた事だけ。特にイベントとか挟んでなかったんで、少し強引に押しました。

 聡里ちゃんは嫌な事ははっきり嫌だと言ってくるので、その場合は素直に引き下がりましょう。嫌だと言われても迫ったら、最悪ぶん殴られますからね。

 しかし嫌だと言わない場合と、いいとも言わない場合。これはぶっちゃけ強引に来てくれっていうサインなんで、押せ押せゴーゴーです。そうなるのは他に彼女候補がいて好感度がそちらも高いと、聡里ちゃんが遠慮しちゃってる場合ですからね。本命は君なんだ!(迫真) と迫れば折れてくれます。

 

 ……今回、彼女候補は聡里ちゃんだけだったのになんで?

 

 ま、まあ無事彼女に出来たんだし別に問題ないでしょ。これで聡里ちゃんを連れていけます。高校も同じとこに行ってくれますね。

 本作の仕様だと彼女枠から吸える経験点は、デートした回数や好感度にも関係しますが、主に付き合った時間分で計上されます。チマチマと経験点をくれるのではなく、一定期間が過ぎる毎にドカンと纏めて寄越してくれる感じですね。

 

 あと本作はR18指定のゲームなんで、普通に本番行為にも及べます。やろうと思えば(王者の風格)

 

 鉄は熱い内に打てとも言いますし、彼女にした勢いに乗ってペロリと食べてしまうプレイヤーもいるようです。が、わたしはそんな真似はしません。わたしはロリコンですが紳士ですので、イエスロリータノータッチを基本姿勢としております。

 少女期を経て大人になるまでを見守っていたいんですよ。幼い頃からの思い出を育み、そうした思い出をオカズげふんげふん、シチュエーションで本番に臨みたいんです。シチュで燃え上がるタイプなので、わたし。

 ですがまあ効率的な面を鑑みると、本番を致したいというプレイヤーの気持ちも分かります。本作だと行為に及ぶと何故か一定確率で超特コツが手に入りますからね。

 

 なんで?(素朴な疑問)

 

 まあ仕様なんでしゃあなしです。わたしもその点を鑑みてイキたいのですが紳士の矜持は実際大事。手を出すとしたらお子様ではなく、大人の女性にしましょうね。わたしのポリシー的にセーフなのは女子高生からなので、少し年上の彼女候補を探すのも手です。ぶっちゃけ性欲を持て余すので我慢の限界がそこらへんという事情もありますね……。

 え? 女子高生もロリコンに入る? 大人と言い張るのは無理筋? 戦国時代で言うと女子高生はオバハンなんでセーフでしょ(強弁)

 というわけで初彼女は聡里ちゃん! 経験点が一気に入る期間は一年周期、くれるのは三回です。じゃけん高校一年生になってちょっとの間まで彼女にしましょうねー。三年過ぎたらリリースしますよ。RTAのため大量の経験点がいるからね、仕方ないね――というのはウソです。

 

 前のチャートは死にましたので高校からはオリチャーです。そのオリチャーでいくためには、聡里ちゃんと別れるわけにはいかないのですよ。フラレて泣いちゃう聡里ちゃんを見たかったオニチクさんは残念でしたー。

 なのでわたしは二股します。むしろ三股までしちゃうかも(ゲス) なーにバレなきゃ犯罪じゃないんですよ。ゲシュタポの如き密告者に見つからない立ち回り方があるので問題ありません。スケジュール管理もこういう時のために覚えたと言っても過言ではなかったりします。……過言かな?

 過去の『パワプロくん』は最高で五股して包丁でめった刺しENDを迎えた事もありますが……いやぁアレは激アツでしたね(恐怖) ですが万が一浮気がバレても、聡里ちゃんがいたらセーフなんですよ。浮気に怒りながらも使命感的に守ってくれるので。あなたが神か? まあそうなったら浮気できないように四六時中監視されるようになるんですが……そのシチュは大好物です。是非管理してもらいましょうねー(無敵)

 

 というわけで翌日。恥ずかしがって赤面する可愛い聡里ちゃんの肩に腕を回しながら皆に報告しましょう。

 

 ぼくたち、わたしたち、付き合う事になりましたー!

 

「――――」

「――っ」

 

 って、あら? なんだこの空気(困惑)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




効率と経験点のためなら外道にもなる男パワプロ。地獄(修羅場)の釜を開けた。

また次回も見てください。宜しくお願いします。


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聞こえの悪い神頼み、でも神様が実在するなら?

流石にパワプロくんが刺されるような段階ではないんで安心してくれていいんですよ()

今回は繋ぎ回なので実質投稿せずのお休みです。

祈祷力が試される…。


 

 

 困った時は神頼みなパワプロRTA再開しますぞぃ。

 

 ――その前に、まずは長ったらしい前置きをば。

 

 本作『男女混合超野球連盟ぱわふるプロ野球』は、現行のゲームだと最大・最長・最重のボリュームを有する傑作だと言われております。

 賛否両論はありますが、わたしも傑作という評価には同意見ですね。

 吸血鬼の『神良美沙』や魔女の『御厨真歩』√に入ると展開される、(野球関係ない)感動巨編は涙なしには見れませんし、ハリウッドのアクション映画顔負けなイベントの数々は冒険心を擽ってくれます。野球関係ないですが。

 またその他にも、原作キャラとの王道な野球対決は胸を熱くさせてくれますし、更にはヒロインとばかり絡みギャルゲーとしても楽しめて、(野球関係ない)人生ドラマを描き(強制ゲームオーバーで)夭逝し惜しまれる、才人ロールプレイを楽しめたりもします。

 

 楽しみ方は人によって千差万別。野球っぽいゲームなのに野球に拘らなくてもいい自由度の高さ。野球関係ないとこにも配置されてる原作キャラとの多様なドラマと、この世界観の魅力は計り知れません。

 実を言うと本作を始めたばかりの頃は、パワプロ以外だと野球のやの字も知らず、野球技術に関しては素人もいい所だったわたしがハマったのですから、主観的な見方で恐縮ではありますが傑作と言っても過言ではないでしょう。

 

 とはいえ悩ましい点が、本作の傑作たる由縁にあるのは皮肉という他ありません。なんせゲームとしてのコンセプトが、『パワプロ式の疑似野球人生』なのです。これがとにかく長い、エンディングまでの道のりが半端なく長い。

 そのせいで発売からリアルタイム二年が経った今でもろくに√研究が進んでおらず、有志からの情報提供もまるで足りていないのが実情です。wikiに書き込まれた情報量は、並のゲームなら既に充分なものになっているのに、人の数だけ(ルート)があると言わんばかりな本作だと不十分なのですよ。

 

 そんな中で明らかに時期尚早な、本作のRTAに挑戦したわたしは早漏……もとい先走った愚か者だと言えます。

 

 ですがわたしがRTAに踏み切ったのは、わたしなりに勝算があったからでした。わたしが研究したキャラだけに絡み、狙ったイベントだけを踏む事で、現状考えられる限り最速のタイムを叩き出せると判断したんです。

 

 え? 小学生スタート縛りで体感時間二十年以上掛かるRTAとは笑わせる? 馬鹿野郎お前俺はやるぞお前!(天下無双) 矢鱈と長いプレイ時間故に、小学生スタートのRTAを誰もやってないんですよ? 走者がわたしだけなんだから世界最速記録を持てるんですよ! ならやるしかないでしょ(鉄の意志)

 

 真面目な話、高卒ドラ1でプロに入るまでは育成パートです。選考漏れしない限りは、ここまでのタイムは誰がやっても変わりません。

 どれだけ強いマイキャラを作れるかだけに注力しましょう。RTAはそこから先が本番になります。絶対エースに君臨→引退のプロセスを完遂するにはありとあらゆる無駄を排除せねばならないからです。

 

 結論:最強選手の育成こそが王道。

 

 そんなわけで念のため、星の数ほどのプレイヤーが突貫し、あえなく撃沈されてきた人気キャラの六道聖、早川あおい、橘みずきの三人娘。霧崎礼里や小山雅をはじめとする女性キャラ。他にも今はまだ出会ってないキャラ達。歴代シリーズに引き続き、非攻略対象として聖域を守っていると判断された彼女達に、わたしも実際にアプローチして事実を確かめました。

 小学生スタートはもとより、中学生、高校生、大学生スタートでも試してみましたよ。結果は既にお分かりのはず。ええ、フラレました。全敗です。

 聖域は守られている――その判断に誤りはなかった。というか多くのプレイヤーがありとあらゆる手を尽くしてアプローチしたのに全滅してるんです、聖域が不可侵の領域にあると見做すのは当然でしょう。

 聖んprprしたかったお……と、残念な気持ちはとても強かったですが、ともあれ非攻略対象であるというのも一種の強み足り得ます。わたしはそんな彼女達を中心に絡みつつ、最強の自キャラを育成し最速でトロフィーをゲットするためのチャートを組んだわけで。何度チャートを見直しても穴がなく、惚れ惚れするほど隙がありませんでした。

 

 うん、隙はなかったはずです。……はず、だったんですけどね……(諦観) 先入観って怖い。開発の悪意を舐めてましたよ。

 

 ――わたしはTPOを弁えてる紳士なので、聡里ちゃんを恋人にした事実を吹聴したりはしません。ですが流石に一番長い付き合いの聖ちゃん、礼里ちゃんに何も言わないでいるなんて不義理はしませんでした。

 幼馴染である異性の友達が、同性の友達と付き合っていたと後から知った場合、なんで言わなかったんだよと逆ギレするパターンがあるからですね。礼里ちゃんや聖ちゃんは良い娘なのでそんな事は言わないでしょうが、いい気はしないはず。変にヘソを曲げられると今後に差し障るかもしれない、そう思ったのが報告に至った主な理由です。ぶっちゃけ隠す理由もありませんしね。

 なので例の河原に集まった時、まだ雅ちゃんやみずきちゃん達が来ていないのを見計らって報告したのですよ。ぼくたち、わたしたち、付き合うことになりました! と。

 

 するとどうなったと思います?

 

 

 

「な……ウソ、だ……」

「す、すまない。今日は……帰る。暫く一人にしてくれ……」

 

 

 

 ――聖ちゃんと礼里ちゃんが戦線離脱しちゃったんですよぉ!

 

 その日はなんだお前根性なしだな(棒読み)と見送ったんです。言葉にしたら感じ悪いんで口にはしませんでしたけど。メッチャ顔色も悪かったですし。さては女の子の日だなオメー(失礼)

 なーんか聡里ちゃんが申し訳無さそうにしつつも黙ってましたけど、その時は気にしてなかったです。雅ちゃんの守備・送球・打撃練習を見てあげて、みずきちゃんとあおいちゃんの投球練習も見てあげて。手取り足取り(直喩)教えて上げること三日間。迅速に行動してシニアを辞め、学校も転校し、みずきちゃん達のとこに皆移りました。もちろん聡里ちゃんも来てくれました。

 

 やったぜ。

 

 が。喜んでいられたのはそこらへんまででした。

 登下校を聡里ちゃんとしーの、休み時間もほぼ一緒にいーの、シニアの練習がない休みの日が間にあったので聡里ちゃんとデートをしーの、と順風満帆に過ごしていたら流石に気づきましたよ。

 

 あれ? なんか……聖ちゃん達の霊圧消えてね……?

 

 聖ちゃん達は確かに転校してきてるんです。シニアも同じなんです。なのに一度もエンカウントしないってどういう事なの……?

 それに気づいた瞬間、ドッと冷や汗が出ましたね。だってこの現象には覚えがあったんです。

 

 思い当たるのは、ぱわぷろ(平仮名)版サクセス、北雪高校のシナリオで発動するクソイベです。

 プレイヤーキャラが男だった場合、北雪高校だと男はプレイヤーだけのハーレム空間になるのですが、そこで出会う原作キャラ達の一人と付き合うと他のキャラの『恋愛爆弾』が爆発してしまうんですよ。……ときメモかな?

 コイツが爆発すると該当キャラの評価が爆下がりし、やる気も爆下がりし、最悪そのままフェードアウトする事もあるんです。この恋愛爆弾というのが曲者でして、パワプロくんが五体に懐く爆弾(比喩)の男女関係版と言われております。北雪高校シナリオ以外でも発生し得る爆弾で、彼女候補複数人と知己を得ていたら発生しチャートを粉砕してくれるものなんです。

 先に断っておきますと、この恋愛爆弾の回避方法をわたしは熟知しております。なんなら解除もお手の物ですよ。しかしですね……現在わたしの彼女と、その候補だった女の子は聡里ちゃんしかいないんですよね……恋愛爆弾なんてものが発生するはずがないんですよ。

 

 ――が、先入観。

 

 わたしはこれに囚われてました。そうです、思い返してください。聖ちゃん達は非攻略対象ではあるものの、立派な女の子なんですよ? で、パワプロくんは幼馴染にしてイケメンでスポーツ万能で人当たりも良い優等生とかいう藤崎詩織ばりの完璧超人です。そりゃ……好かれもしますわ……(盲点)

 勘違いしてはなりません。非攻略対象は非攻略対象です。ですが、非攻略対象も物語に華を添えるために、主人公に想いを寄せるゲームはたくさんあります。聖ちゃん達もその流れに沿ってる可能性があるのを失念していました!

 希望的観測で実は聖ちゃん達も攻略可能キャラで、ガチで恋愛爆弾が爆発したとしましょう。ですがそうだとすると、どうしてこれまで誰も礼里ちゃん達を攻略できなかったの? となりますよね。わたしが揃えている条件、幼馴染枠に二人のどちらかを迎えるのは今回が初めてというわけでもありません。なのに悉く玉砕した以上、彼女達が攻略対象である可能性はゼロです。なので変に期待するのはやめましょうね。

 

 ともあれ面倒なイベントです。彼女達が攻略対象なら、恋愛爆弾の処理をする傍らで好感度を爆上げし、恋人になる事ができるのですが……(浮気) 何度も言ってるように非攻略対象である二人と恋人になるのは不可能、恋愛爆弾として対応・処理するのが正解か分かりません。そのつもりで対処した結果、逆に取り返しのつかない事態になる事も充分に考えられます。

 

「いやホント、どうしたらいいと思うよ、ちーちゃん」

「ちーちゃんと呼ぶなっ! 私には美籐千尋という立派な名前があるんだ!」

「でもさ、ちーちゃん。こんな事はじめてでどうしたらいいか分かんないんだ……俺、ホントにどうしたらいい?」

「うっ……そんな泣きそうな顔をするな……うぅ……そ、そうだな、ご利益があると噂の神社を教えてやる。祈れ!」

「神頼みかよ……まあ確かに祈るしか無いのかもな……」

 

 新たにクラスメイトとなった、隣の席のちーちゃんに相談したらまさかの祈れ発言。流石ちーちゃんだぜ……。

 

 とはいえ実を言うと、私も神頼みをしようと思ってたんですけどね。

 説明すると本作のみならず、過去作のパワプロでも神様は普通に実在するんですよね。彼女が正月の段階でいて、好感度が一定以上だと一緒に行ってくれるイベントがあるじゃないですか。そこでお賽銭を投じてお祈りすれば、大量の経験点をくれたり体力を回復させてくれたりケガをしにくくしてくれたり、彼女候補の好感度を上げてくれたり『モテモテ』にしてくれたりするのです。

 で、本作だと正月以外でも神社でお賽銭を投じてお祈りしたら、プレイヤーの願いを叶えてくれたり悩みを解決する糸口を提示してくれる仕様があるんですよ。ただし長いサクセス・マイライフの中、お祈りを聞いてくれる回数は三回限りと決まっているのですが……。

 

 わたしはこの三回のお祈りをどう使うか決めてました。しかし聖ちゃん達の離脱は緊急事態です。万が一にもこのままフェードアウトされては困ります。幸い元々決めていたお祈りの内一回分の奴は、割と努力だけでなんとかなるので構わないでしょう。なのでお祈り、しましょうか……。

 

 善は急げとばかりに早速神社へGO! 今回は聡里ちゃんに付いて来られてもアレなんで一人で来ました。

 や、流石に他の女の子の事でお伺いするのに恋人も一緒だと申し訳なさすぎるでしょう? 紳士で真摯な態度と心構えで臨むのが筋というもの……どの口が言うかとか言われても知りませーん。

 そうして放課後にやって来たるは近場の廃れた神社です。いかにも貧乏な感じですね……だがそれがいい。パワプロ世界の神様は割と現金なので、マネーパワーは躊躇なく投入しましょう。

 願いの大きさに比例して金額も大きくします。わたし(とチャート)にとって聖ちゃん達は欠かせない相棒です。いやマジで。わたしのボールを受けられるのが聖ちゃんぐらいなんですよマジで! いなくなられたら困るぅ! 礼里ちゃんも打線と守備の要なので困るぅ! 貯めに貯めてきたお小遣い全財産を擲っても惜しくありません、十万円だオラァ! お賽銭だオラァ! 神様わたしの願い聞いて!

 

 

" ――――ッッッ!?!? "

 

 

 おっ。

 なんだかプレイヤーだけが感じられるあやふやで神聖な空気感ですね。

 なんとなくメッチャ驚いてるようです。ふふふ……現金パワーに恐れ慄いているのが目に浮かびます。

 

 お祈りの作法で手を合わせて祈りましょう。――どうか聖ちゃん達が戻ってきてくれますように。礼里ちゃん達がなんで離脱したのか分からないので分かるようにしてください。マジでお願いします。原因が分かったら後は自力でなんとかします――と。

 お祈りが終わったら寂れてる神社をお掃除します。媚びるぜぇー、どんどん媚びるぜぇー。ゴミ集めて雑巾がけして狛犬さん達も懇切丁寧に磨きます。これだけやれば流石に無視はされまい……。

 

 よし、後は果報は寝て待てです。マジで手に負えない問題の可能性もありますんで、神さまになんとかしてもらうのが最善でしょう。

 

 頼むぜ、神様!

 

" ――そ、そなたの願い、聞き入れたぞっ! そなたを想う娘達にもお告げを与えよう―― "

 

(ん……? あれっ? なんでパワプロくん(わたし)に『モテモテ』が付いてんですかっ!? ちょ、神様までバグってんじゃねぇですかこれ――!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は小説パート、ひじりんとレイリーがメインです。また次回も読んでくださいね! よろしくお願いします!


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女の子も女という名の野獣なのだ

ギリ今日の終わりまでに間に合いましたぞい。

というわけで初投稿です(なにが?)


 

 

 好きな人がいた。

 

 快活で、屈託のない、笑顔が素敵な人だ。

 

 こちらが迷いそうになったり、道を踏み外しそうになると、手を取って引っ張っていってくれる強引さが好きだった。

 顔が良いとか。頭が良いとか。運動神経が良いとか。そんな上っ面のステータスよりも、一つの事に打ち込む姿と心が好きだった。

 

 一緒にいるだけで満たされる。

 同じ夢を視るだけで心地良い。

 

 はじめは、兄のように慕った / はじめは、嵐のような奴だと思った

 共に居るのが当たり前だった / 共に居るのが当たり前にされた

 霧崎がいたから自覚できた  / 六道のせいで気付かされた

 私は、パワプロが――    / 私は、アイツが――

 

 / 好きだった /

 

 だから取り乱した。

 力場専一の外見だけを見て、同世代で有名だからと近づいてきた女。そんな軽薄な女と最初、彼が付き合い始めた時はそれほど動揺しなかった。『告白を断るのが申し訳ない』なんて後ろ向きな姿勢で付き合って。一日としない内に別れてしまったから気にしていない。

 衝撃的だったのは、氷上聡里と付き合い始めたこと。それも、彼の方から告白したと言うのだ。となると、ああ――ひたむきで誠実な彼の事だ。軽薄な理由で別れたりはしないだろう。ともすると、生涯を共にするかもしれない。

 

 なら、私に割り込める余地はない / 直視できるほど私は強くない

 仲睦まじくする2人を見たくない / 汚い心を懐かないとは思えない

 表面上の気持ちを取り繕って会う / そんな軽薄な真似は御免だ

 

 氷上聡里が嫌な女だったら、どうにかして彼を説得し別れさせようとしただろう。

 

 だが私は知っている / 私も知っている

 

 氷上は良い奴だ。前のシニアでパワプロを潰そうとしていた連中から、直接護るように立ち回ったのだ。

 それは誰にでもできる事じゃない。力が要る、勇気が要る。片方だけでは意味がなく、両方あって初めて実行でき、実現できる。

 パワプロは氷上と生涯を共にしかねない。まるで炎と氷のような相反している性質なのに、あの二人は並んでみるとよく似合っていたから。

 

 その未来予想図に絶望した。

 

 素直に祝福するのが正しいのだろう、だがそんなに潔く振る舞えるほど大人ではない。

 嫉妬するだろう、怒り、憎むだろう。ポッと出の女なんかを見て、どうして自分達を見ないのかと、パワプロにさえ八つ当たりしてしまうかもしれない。

 

 そんな自分は嫌だ。

 

 彼の中の自分は、綺麗なままでいたい。真っ直ぐな自分達を覚えていて欲しいのだ。だから――失恋した事実を認めよう。

 だけど、だけど、せめて彼と同じ夢だけは見ていたい。厚かましい、恥知らずと罵られようと、彼と一緒にいたいのだ。一緒に――野球を、したいのだ。

 だけど。ああ、だけど――簡単に割り切るには、想いの丈が深すぎて。

 暫くは離れて、時間を置いて、落ち着けるまで――この想いを振り切るまで――放っておいて欲しかった。

 

 夜。枕を濡らして、眠る。時間が失恋の傷を癒やしてくれる事を願った。

 

 ――けれど、夢を視た。

 

 

 

 私が目の前に立つ、夢を見た  /  私の前に、本音(わたし)を見た

 

 

 

『諦めるのか?』

 

 私に投げかけられる自問  /  焚きつける火種

 

『なんとも見苦しいな。割り切ったふりをして、【いつも通り】を取り繕った自分を見てほしいなどと』

 

 鏡像が語る本音  /  五月蠅い、黙れ

 

『嫉妬する自分を見られたくない? 汚い感情を発露して失望されたくない? 誠実に向き合ってくれるパワプロに、上っ面の自分で向き合おうなどと恥知らずにも程がある』

 

 突き刺さる本心に歯を食い縛る / この想いは耳を塞ぐには大きすぎる

 

『大体だ、私は一度だってこの想いを伝えていないだろう。伝えてもいなかった想いに蓋をして、それで終わらせて良いのか? 好きだと伝えて困らせたくないなどと、いい子ちゃんぶっているからポッと出の氷上に()られたのではないか。困らせてやれ、パワプロはそんな程度で私を見放したり、突き放したりする男じゃないだろう。そんなこと、私が一番よく知っているはずだ』

 

 その通りだった  /  その通りだった

 

『気づいたな。一度も伝えず、パワプロから告白してほしいなんて乙女ぶって――こちらから踏み込む勇気がなかったからこうなった。パワプロにはその勇気があった、氷上には応じる勇気があった、それだけの話だろう。パワプロの隣にいたいなら、最低限それぐらいの勇気は持っていないと駄目だ。フラレるのが怖い……そんな恐怖に怯えているようだと話にならない。パワプロに相応しい女は、この程度の恐怖に怯んだりはしない。そうだろう?』

 

 その通りだ  /  その通りだ

 

『フラレてもいい。むしろ、フッて貰っても構わない。その上で諦められないのなら、待て。鳴かぬなら、鳴くまで待つのがいい女というものだ。鳴くまで待てないなら奪いに掛かるのが強かな女というものだ。野球は九回裏のスリーアウトまで終わらない、まだ勝負は終わっていない、そのはずだ』

 

 

 

 ――なんだ。その程度の事に気づくのに、四日も掛かってしまったぞ。

 ――バカバカしい。傷心を装って慰めてもらおうとでも思っていたのか、私は。

 

 私は、スマホを取った / 私は、アイツに電話する

 

「――む」

「六道。今からお前の家に行く」

「……奇遇だな。後一秒遅ければ、私が同じ事を言っていたぞ」

「………」

「パワプロも、呼ぶのだろう」

「……ああ。アレは、台風だからな。その目の中にいなければ、騒がしくて落ち着けない」

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンなRTA再開しますぞい。

 

 本日は快晴なり! 土曜日なり! 前日は神様頼みの祈祷を済ませ、果報を寝て待ちましたよ。というわけで朗報を寄越すんだよ、おうあくしろよ。

 10万注ぎ込んでの剛毅な神頼みですからね、何もなかったら訴訟ものですし、流石に無駄になるわけがない(確信) ならないよね?(怯え)

 ともあれなんらかのイベントが起こるのは確定的に明らかなので、それを待ち構えていましょう。とはいっても、効率を常に追い求めるわたしには、一秒たりとも無駄に過ごせる時間などありません。

 なので空いてる時間は聡里ちゃんとデートでもしましょうか。聖ちゃん達が離脱したのは聡里ちゃんとの絆を深めて障害を乗り越えるイベントなんでしょ知ってるお願いそうだと言って(早口)

 

 と、そんなふうに祈りながらスマホを手に取ります。再走は嫌だ再走は嫌だ再走は嫌だ――とにかく祈りましょう。この段階であの二人とお別れとかしてしまうと、お前のチャート、ガバガバかよって失笑されちゃいます。ええ、予定している育成すら完遂できないとか論外ですからね。ですがわたしは知ってますよ、未知のイベにも必ず突破口はあるって!

 

 ポチポチして聡里ちゃんにメールを打ち込みます。今日ヒマならどっか遊び行こうぜ――と、おや? 送信しようとしたタイミングで電話が掛かってきましたね。相手は……きんつば、と表示されてます。

 

 ……。

 

 ………えっ。

 

 今まで電話してもメールしてもガン無視してきた聖ちゃん!? と、ということは……やってくれましたよ神様! 流石は金に忠実な御方、サンキュードラゴンボール!(元気玉)

 とりあえずこの電話には出んわ(激寒ギャグ) なんて事はしません。普通に出ます。やあジェニファー、元気ぃ?

 

『パワプロ。すまない、要件は言えないんだが……私の家に来てくれないか? 会って話をしたい。霧崎もいる』

「分かった。すぐ行く」

『……即答か。今までなんで無視していたのかと、訊かないのだな』

「なんか理由があったんだろ。とにかく待ってろよ、家も近いし多分三十分もしたらそっちに着く」

『分かった。……待ってるぞ』

「おう」

 

 ピッと切ってビュンっと動き出すぜヤッフゥー↑!

 急げ急げ、速攻パジャマから外行きの服に着替えて寝癖を整えて歯磨きして顔洗ってママンにお小遣いせびってGO!

 ビュンっと走って近所のパワ堂に寄ってママンから貰ったお小遣いできんつばと今川焼きを買います。きんつばは聖ちゃん、今川焼きはここの礼里ちゃんが好物なんです。これでご機嫌を取る! 媚びるぜぇどんどん媚びるぜぇ。

 こっから走って行ったら丁度、電話で言ってた時間にギリ間に合います。時間にルーズとか許されざるですからね。聖ちゃん家に行くのに礼里ちゃんがいるという事は、なんらかのイベントが起きるのは確定的に明らか。何があっても最適解を掴み取り、切り抜けていけるように覚悟を決めておきますよ。

 

 聖ちゃん家はお寺です。親が住職さんです。聖ちゃんのお家であるお寺って無駄に長い階段登って行かなきゃなんないですが、別にその程度はもはや慣れたものです。このぐらいで疲れはしませんよ。

 今まで何回通ったと思ってんの? もはや顔パス状態なのでお邪魔しますとか言う必要もないです。言いますけどね(紳士) お邪魔しま――っと、おやおやぁ? なぁーんでか聖ちゃんと礼里ちゃんが出迎えてくれましたね。これはとても珍しいですよ。

 

 聖ちゃんの私服姿は和服です。いつ見ても、何度見ても可愛い(可愛い) とはいえ普段は野球のユニフォーム姿でいる事が多いので、何気に和服姿でいるところを見る機会は少ないのでレアだったりします。

 で、もっとレアなのは礼里ちゃんの私服姿ですね。本作ではじめて実装されたという私服姿は必見の価値ありですよ。

 濃紺のデニムスカートと、白いブラウスに紫のリボン。白い肌と銀糸のような長髪とも相俟って、非常に清楚な印象を受けます。綺麗寄りの可愛さとでも言えば、初見時のわたしの感動が少しは伝わるでしょうか? 聖ちゃんが大和撫子的な可愛さだとすると、礼里ちゃんは西洋の妖精みたいに可愛いんです。……聖域ヒロインは並んで立ってるだけで尊い、はっきり分かんだね。

 

「きっかり三十分。流石だな」

「その手に持っているのは……フン。貸せ」

「ありゃ、目敏いな礼里ちゃん」

 

 お礼も言わずに手に提げてた袋を引っ手繰られました。これはいけません、礼里ちゃんに礼儀と「親しき中にも礼儀あり」という言葉を教え込んでやらねば……。

 

「パワプロ」

「……ん?」

「すまない。それから……()()も、ありがとう」

「………ん。気にすんな」

 

 礼里ちゃん、順調に素直クール路線に進んでますね。ヨキカナ。

 目を逸らしながら言うと、赤くなった耳が丸見えになりますよと教えてあげるべきか否か、悩みますねぇ。

 ともあれ苦笑して礼里ちゃんが聖ちゃん家に入っていくのを見送ってると、おずおずと聖ちゃんが声を掛けてきました。

 

「……とりあえず、上がっていくといいぞ」

「おう。ところでオジサン達は? 挨拶ぐらいさせてほしいんだけど」

「……ちょっと離れに行ってもらってるぞ。大事な話があるからな」

「……そか。分かった」

 

 聖ちゃんの案内を受けて、家に上がります。何年来の付き合いだと思ってんですかね……いまさら案内とか必要ないんですけど。

 まあいいでしょう。礼里ちゃんは台所でわたしの買ってきたきんつばと今川焼きを皿に盛って、お茶とかを淹れて持ってきてくれるようですし。VIPのように丁重にもてなされてやりますかね(謎の上から目線)

 通されたのは聖ちゃんの部屋です。年頃の女の子が男を部屋に通しちゃいけませんが、ぶっちゃけわたしとそのファミリーは家族みたいなもんなんで、気にする事でもありません。今まで何回も来てますし、バッテリーを組む上で一緒に色々と研究してきたから今更ですし。時にはわたし、礼里ちゃんの家でもヤッてましたね。野球研究という名のコミュ。

 

「で、話ってなんだ?」

「きり……礼里が来るまで待て」

「ん? おーおー……俺が見てない間に名前で呼ぶようになったのか?」

「う、うむ……今朝方な。特に理由はないが、私と礼里も幼馴染同士だ。なら名前で呼び合うのが自然ではないかと話し合ったのだ」

「ふーん……」

 

 聖ちゃんの部屋は当然和室です。整理整頓が行き届いてて、女の子の匂いがしますね。くんかくんか。

 座卓の上には沢山のデータが記されたメモ帳や、ノートパソコンがありますね。時代の変遷が進み、アナログさとは決別した聖ちゃんです。

 掛け軸には「一球入魂」と。部屋の隅には衣類チェストがありますね。あそこに聖ちゃんの下着も入って――おっと邪念退散、邪な視線で見てはなりませんよ。わたしは紳士なので。

 

 二人が急に名前で呼び合うようになった理由……多分イベントなんやろなぁとか思いつつ、低反発のクッション座椅子の真ん中に座ります。聖ちゃん家に来た時の、わたしの定位置ですね。その対面に聖ちゃん、わたしから見て座卓の右側が礼里ちゃんの定位置です。

 聖ちゃんは定位置に着き――ません。なんでかわたしの右隣に座りましたよこの娘……。

 えぇ……?(困惑) 肩が触れ合うぐらい近くに座るってお前、勘違いしますよ他の男なら。良い匂いするんで許しますが()

 

「聖ちゃん……?」

「な、なんだ?」

「フー」

「なー!? いきなり何をするっ!?」

 

 耳元に息を吹き掛けてやると、聖ちゃんは飛び上がって驚きましたね。「なー!?」頂きました。可愛い。

 無防備に野郎の隣に座ったらどうなるか、これで分かってくれたでしょう。定位置に戻るんだよ、おうあくしろよ。

 

「全く! 私でなければ許さなかったところだぞ!」

「って離れないのかよ」

「むっ……今のは、私が邪魔だったから追い払おうとしたのか……?」

「そんなわけないやろなにいってだ」

「……呂律、回ってないぞ」

 

 右下から不安そうに見上げられてそうだよとは言えぬぇー!

 ま、まあいいや……とにかく礼里ちゃんが来るのを待ちますよ。

 

 ――ぴと。

 

 ねえ。

 ねえ聖ちゃん。聖ちゃん様? なんで肩、触れ合わせて座るんです? 耳に息吹き掛けられたんですよ?

 ま、まあこんな日もあるやろ。落ち着け、落ち着くんだ。聖ちゃんの距離感が近いのは今日に始まった事じゃないし、今日はたまたまそういう気分ってだけなんでしょう。

 なんでか聖ちゃん喋らないし、待ちに徹します。ミス・レイリー! 早く来てくれー! 間に合わなくなっても知らんぞー!

 

 と、悶々とした居心地の悪さに浸ること数分。襖を開けて礼里ちゃんが登場しました。来た! メイン礼里ちゃん来た! これで勝つる!

 礼里ちゃんはお盆を手にしてますね。台所できんつばを切り分けて、今川焼きと一緒に皿へ盛り付けたものを持ってきてくれました。熱々のお茶もありますね。それを座卓に並べて――って、あれ?

 

 なんで礼里ちゃん、左隣に座るんです?

 

 ――ぴと。

 

 しかもなんで密着するんです?

 左右を挟まれてますねクォレハ……。

 

「……礼里ちゃん? 聖ちゃん?」

「大事な話がある。このまま聞け」

「うむ。いい加減、受動的だと駄目だと気づいたのでな」

「お、おう……?」

 

 ちょっと待ってくださいよ……今、明鏡止水になりますんで。

 スゥ――(深呼吸)――ハァ――(吐息)

 スゥ――ハァ――よし落ち着きました。今のところBADイベントの気配はしませんが、何やらオカシナ流れです。

 カメラ撮れてます? 撮れてますね……よし!(現場猫)

 検証は後です。何がどうなってこうなったのかを考えるのは後! とりあえず今は、二人の言う大事な話とやらを聞きましょう。

 

 さあどこからでも掛かってらっしゃい! わたしは逃げも隠れもしません!

 矢でも鉄砲でも持ってこんかい、そうでもなけりゃわたしをどうこうできるわけないんですからね!

 

「パワプロ。実は、だ。私は――初めてお前に声を掛けられた時に言われた、嫁にしてやる、というのを……かなり本気で期待していた」

 

 ん?

 

「私も、幼稚園の頃だが……『お兄ちゃんのお嫁さんになる』と言ったな。あれを、今も……その、本気で想ってるぞ」

 

 ……ん?

 

「好きだ。パワプロ。いや――専一。私はお前が好きだ。女として、男としてのお前が」

「専一、私もだぞ。礼里よりもずっと、私の方がお前の事を好きだ」

「……張り合うところではないはずだが?」

 

 え、なんだって?(難聴)

 

 えー、と……すみません。わたしの耳、イカレてます。多分あんまりにも長くぱわぷろ(平仮名)をやり過ぎてたからです。ちょっと中断して病院行って来ますね(錯乱) いやマジで耳がおかしくなってる可能性があるんで、ちょいと病院にガチでいきますよ。

 

「氷上と付き合い始めたと聞いて、ショックだった。だが、それはもういい。今の関係に満足して、踏み出せなかった私が悪いからな。だが――もう同じ間違いは犯さない。私も、聖もだ」

「氷上と別れろとは言わない。私と付き合えとも言わない。だが、『待っている』とは言わせてほしいぞ。もしパワプロの今の恋が終わったら――私に、声を掛けてくれ。その時を待っている。今の恋がずっと終わらないでも、ずっと待つ」

「……私は待たないが。氷上からお前を奪い返す、覚悟しろ」

「なー!? さっきと言っている事が違うぞ!?」

「気が変わっただけだ。やはり待つのは性に合わない。ともあれ――」

「う、うむ……ともあれ、だ。誓いの証は必要だな。決意表明だ」

 

 左右の頬に、二人の顔が近づいてきて……?

 

 チュ。

 

 ……ん? えっ。今……もしかして……?

 

 

 

「――今のを忘れるな、パワプロ。力場専一。私の、本気の意志だ」

「は、はははは、破廉恥だがっ! ()()は、伝わったはずだぞ! って、パワプロ……? なー!? パワプロ、どうしたのだパワプローっ!」

 

 

 

 うーん(失神)(ログアウト)

 

 ちょっと病院行ってきますね。すまんがパワプロくん、戻ってくるまで寝ててくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※神様は本人の本音を引き出しただけです。
※プレイヤーが不正な手段でログアウトすると、キャラはそのまま原因不明の失神をします。

※想い人が目の前で失神した場合、二人の取る行動とは……? なおリアルでのタイムとゲーム内時間はズレてるので、復帰までそんなに間は空かないですけれども。

面白い、続きが気になると思って頂けた方はポチ〜とお願いします。次回もまた見てくださいねー!


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『モテモテ』とは即ちフェロモンである

コメ欄のスケベ率の高さに驚愕したので初投稿です。


 

 

 

 病院、行ってまいりました。

 検査、受けました。

 健康そのものだそうです。

 

 耳がイカレてるとか、精神に異常をきたし妄想と願望がゴッチャになり、現実を正しく認識できなくなっているとか、そういう事は特になかったです。つまり先程の二人の告白はわたしの願望の発露とかではなく、まさに現実のものだったわけですね。

 途中離席してタイムロスしてしまいましたが、走者の精神状態が不確かなまま走るよりは良かったと割り切りましょう。

 さて、そうなるとですね。わたしとしましても色々込み上げるものがあります。歓喜と興奮の余り叫び散らしましたよ。非攻略対象だからと諦めていた事が叶うと判明したわけですからね。誰だよ非攻略対象だの聖域だのとかほざいてた奴ら。

 で、落ち着いたのでwikiにも情報と証拠動画を挙げて来ました。今頃全国のパワプロファンは混乱の坩堝に叩き落とされている事でしょう(ゲス顔) 聖域解除されてたとか衝撃的ですしおすし。どうやったらこのルートに入れるかの検証は彼らに任せましょうね。まあ彼女達のはじめての男(意味浅)はわたしなんですがね!(マウントゴリラ)

 

 とはいえ色々と言いたい事はあります。どんなフラグを踏んで条件を揃えたらこうなるのかまるで見当が付かない、とか。やはり超低確率のランダムイベなのか、とか。まあ色々です。しかし一番言いたいのは――よりにもよって今でなくてもいいでしょ!? という一言に尽きますね。

 

 なんで今!? 今まで何回も試走でアタックして玉砕したのはなんで!? 完全に諦めて彼女枠固定したチャート組んでるのになんで今来るの!?

 

 あーもう(チャートが)メチャクチャだよ。彼女枠を使っての経験点稼ぎ、最初から考え直さなきゃですよ。ですがここまで来たら思い切って、全部組み直すとかできませんし。今回の件を除けば上手く行ってたんで、今更この流れを変えるのは無理筋なんですよね。

 プロへの下積み時代とはいえ、これはないです。プロまで一緒に来てくれる娘を厳選して絡む予定なので、下手にチャートを変更してしまえば破綻する可能性がありますよ。

 

 どうすっかな〜俺もな〜。

 

 嬉しいは嬉しいです。非攻略対象だと割り切っていたとはいえ、彼女達と恋人になってチュッチュしたいお! とかキモオタ全開な事も思ってましたし。

 個人的には大歓迎ですよ。ですが、ねえ? 完全に彼女枠を使っての取得経験点とコツを計算し、どんなマイキャラを育てるか計画組んでる中、経験点をどれだけくれてどんなコツをくれるのか不明な女の子が現れるとか……しかもそれがパージできない重要人物とか……やめてくれよ(懇願)

 前代未聞ですよ? 彼女いるのに女の子からアタックしてくるとか。しかもしかも、今の恋が終わるまで待ってます。ただ次は私を選んでね(予約)とか据え膳ですわこれ。おう、考えてやるよ(考えてやるとは言ってない) いやマジで考えますわ。

 

 ――で。

 

 病院行って健康状態を確かめて戻ってきたわけですが。

 なんとパワプロくん、敷かれた布団で寝かされてました。

 隣には……聖ちゃんと、礼里ちゃん。添い寝されてます(白目)

 

 えぇ……(困惑)

 なんだお前ら(素)

 多分変態だと思うんですけど(名推理)

 

 語録三段活用余裕です。ヌッ!

 一応、左右密着して寝られてるんで身動きせず、首だけ動かして服を見てみます。

 ……着てますね。礼里ちゃんも。ボッチャマ……聖ちゃんも着てますね服。

 ホラ、見ろよ見ろよ。どうやら今生のパワプロくんの童貞は無事みたいですよ。ですがこれ、マジで据え膳じゃありゃしませんか?

 やべぇよ……やべぇよ……わたしの自制心が。やっちゃうよ? やっちゃうよ!? よし、じゃあブチ込んでやるぜ。でもやっぱり僕(の性癖)は……王道を往く、イチャラブ系ですかね。なのでやっぱやーめた。

 日和ったわけじゃありません。本気出せばこのまま突撃できますよ。本気、出そうと思えば(王者の風格) しかしわたしはロリコンですが紳士です。流石に青い蕾に手を出す、鬼畜にも劣る外道になる気はありません。

 据え膳だからとペロリと食べるとかありえませんね。相手がjkなら話は別なんですけど、パワプロくんをそこらの中坊と同じ性欲魔人と一緒にしないでいただきたい。

 

 節度、守ろうやぁ(ネッチョリ)

 

 とはいえ紳士なわたしは少女二人を起こしてまで抜け出ようとは思いませんよ。このまま狸寝入りしておきます。良い匂いとやらかい感触堪能します。超美少女二人にサンドイッチされて寝るとか最高かよ。

 

 フゥゥゥゥ〜。

 

 わたしは……子供の頃、○○サイトの『エロ同人』ってありますよね……。あの絵……非エロ同人誌で見た時ですね。あの『少女』が見せていたあどけない『顔』……。あれ……初めて見た時…… なんていうか……その……下品なんですが……フフ……勃起……しちゃいましてね……。

 

 寝てるだけなのに、弾道、上がってしまいました(小声)

 

 おれは悪くぬぇ! 

 

「………」

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかしあおいちゃん、いいケツしてるよな」

 

 武蔵府中シニアの一員になったばかりの、力場くんのセクハラ発言だ。唐突にブチ込まれた暴言にボクは顔を引き攣らせた。

 ここのシニアは女の子ばかり、なんて事もない。普通に男の子の方が多い。けど力場くんは、()()【パワプロ世代】の顔だ。その知名度もあって注目されていて、所属シニアを変えて移籍してきたばかりという事もあり、どんな奴なのかと観察されている段階でもある。

 だから力場くんの声はよく響いた。何事だと視線を集めてしまう。ボクは顔が赤くなるのを感じながらも、投球練習を止めてこっちを見ていた力場くんに歩み寄った。

 

「力場くん? 今なんて言ったの……?」

「ん? いや、あおいちゃんいいケツしてるなって」

 

 笑顔で威圧しながら訊ねると、力場くんは衒いなく返してきた。

 ビキィ、と空気に亀裂が走る。近くにいたみずきちゃんがそれとなく避難していくのを尻目に、ボクはコンプレックスを刺激された事で頭に血を上らせてしまった。

 けど、力場くんの様子は別に、セクハラや揶揄を目的にしているわけでもなさそうで。ボクは深呼吸をして発言の真意を確かめる。 

 

「それって、どういう意味なの?」

「字面通り、そのままだけど。ほら腰回りが強いと安定感が出るだろ? でもさ……あおいちゃん勿体無いぜ。もうちょい体格に合った強味出せば、球速も2キロか3キロ速くなるんじゃないか?」

 

「――え、なにそれ。あたしにも詳しく聞かせてほしいなっ」

 

 セクハラじゃない。どころか、力場くんは野球的な意味で言ってきたんだと分かると一気に冷静になれた。先輩に対するタメ口、甚だ無礼! とかなんとか言えるほどボクは偉くないし、そんな事よりも遥かに聞き流せない事を言われたんだ。冷静にもなる。

 ボクの球速が上がるの? ウソ……。ボクとキャッチボールしてた太刀川広巳ちゃんも、興味を持ったみたいで近づいてきた。広巳ちゃんはボクより一個年下なのに、近い内に身長が170を超えそうなほどの恵体で、今のところは力場くんより身長が高い。

 

「体格に合った強味を出せば球速が上がる……それって早川先輩だけじゃなくて、あたしにも同じ事が言えるのかな?」

「おう、広巳ちゃんか。あおいちゃんや広巳ちゃんだけじゃないぜ。他の誰にも当て嵌まる。ちょい見てろよ、あおいちゃんの投球フォームが()()だろ?」

 

 ボクは右投げで、広巳ちゃんと力場くんは左投げだ。なのに、力場くんはボクと同じ右のアンダースロー――ボクと同じフォームをなぞった。

 完璧に投影されてる。まるで、ボクがボールを投げる時みたいだ。凄い選手だとは知ってたけど……こんなに早くフォームを完コピされると流石にショックだった。

 

 なぜか聖ちゃんが捕手のマスクを被って近づいてくるのを横に、ふむふむと広巳ちゃんが頷いた。確かにこんな感じだよね、と。

 

「当たり前だけどさ、投球フォームは下半身と上半身、どちらの回転も不可欠だろ? で、その間にある骨盤の捻りは球速とコントロールに直結する。ここを改善するだけで効果が分かるはずだ」*1

「へぇー……ね、ね、あたしは?」

「ちょい待ってくれ。先にあおいちゃんの方な。聖ちゃん、ちょいあおいちゃんの球受けてくれ」

「うむ、承知したぞ」

「うわっ!? 六道さん、いつの間に来てたの? びっくりしたなぁ……」

 

 聖ちゃんに気づいてなかった広巳ちゃんが飛び上がるほど驚いたのに、力場くんは肩を竦めて聖ちゃんにお願いする。

 離れて座った聖ちゃんがミットを構えた。それを見て力場くんがボクに言ってくる。

 

「とりあえず一回、普通に投げてみてくれ」

「う、うん……」

 

 言われるがまま、普段通りに投げてみた。もちろん渾身のストレートを。

 するとスピードガンも持たずに、聖ちゃんが捕球したボールを力場くんが評してくる。

 

「135キロってとこか」

 

 それは、今のボクの最高球速。聖ちゃんが返球してくるのを受け止めたボクの背後に、力場くんが回ってきて腰を両手で掴んできた。

 わひゃっ!? と悲鳴を上げて飛び跳ねるも、力場くんから下心は感じない……どころか、かなり真剣な表情だ。逆にこっちが失礼な態度を取ってしまった気になってしまう。

 

「コンマ1秒、コンマ1ミリのズレがクオリティーに繋がるからな。あおいちゃん、もう一回今度はゆっくり投げるフリしてくれ」

「うっ、うん……っ!」

 

 言われるがまま、赤面しつつもボールを振りかぶる。そしてアンダースローで投げようとするのに、力場くんはボクの腰を掴んだまま動かしてきた。

 

「腰の回転はこうして、はいストップ。腕の振りの角度はこう、肩の位置はもうちょいこっちに引いて、足の幅を半々ぐらい開く。んで、腕を振りながら、リリースのタイミングは――ここ。分かった? あおいちゃん」

「う、うん……」

「うっし。じゃ、今の感じを忘れないで投げてみてくれ」

「わ、分かったよ……こんな……感じかなっ?」

 

 手取り足取り、とはこういう事を言うのかな。まるで恥ずかしげもない教導に、ボクはどもりながらも従っていた。

 年下の男の子なのに。特に不満とか、ナマイキだとか、そういうの負の感情を懐きもしない。――元々カッコイイなとは思ってたけど、最近急にフェロモンが出てきた感じがして……正視するのが難しくなってきてた。

 そのおかげかは知らないけど、力場くんの声は耳によく残り、触られた箇所に熱が残ってる気がして、忠実に動きを再現できる。案外、力場くんはコーチの才能まで持ってるのかもしれない。

 

 ビュ、と風を切り腕を振り切る。一直線に駆けたボクの直球は、聖ちゃんの構えたミットに綺麗に収まって――って、今……!? 制球力が、上がってたよね!? 球速も――!

 

「今のが137ってとこか」

「すっ……凄い! 凄いよ力場くん! あたし! 次あたしにも教えて!」

 

 はしゃぐ広巳ちゃんをよそにボクは唖然として自分の手を見詰めてしまう。

 たった一度、だけど確実に効果が出た。これは……投球のコツを教えて貰ったんだ。確かな成長、技術の進歩を体感して興奮が沸き起こる。

 高揚した。ホントに、すごい。ボクは力場くんへの感謝と、ほんの少しの尊敬の念が芽生えてくるのを改めて感じる。年齢なんか関係ない、みずきちゃんが力場くんを引き抜いたのは正解だった。

 

「聖ちゃんっ! ごめん、ちょっと今の感覚忘れたくないの! ボクの球、受けて!」

「うむ、承知したぞ――と、二度目だなこれは」

 

 さっきと全く同じ返事をした聖ちゃんが、自分で自分に苦笑している。そんなことはどうでもよくて、ボクは大急ぎでさっきの感覚を反芻しながら投げ込みを再開した。

 力場くんが、広巳ちゃんの腰を掴んで回転の度合いを教えて、フォームの改善を進めてる。体に触られても広巳ちゃんは照れもしないで、真剣に楽しみながら投げ込みを再開していた。広巳ちゃんも、力場くんと同じで野球の事ばかり考えてるから、とても馬が合うみたいでもう打ち解けている。高校での四人目の投手は、広巳ちゃんになりそうだなと思いながらも、ボクは直球のクオリティーを上げるのに勤しんだ。

 

 そうだ。直球の威力を上げられたら、ボクが開発しようとしてるオリジナル変化球――マリンボールの威力もグンと跳ね上がる! 手は抜けない!

 

「――ちょっとキャップ! 次は私! 私にも教えなさいよ!」

「いいぜ、みずきちゃん。ただしジュース奢れよ」

「なんで私には()()()のよ!?」

 

 ボクと同じく、オリジナル変化球の開発を目指してるっていうみずきちゃんも同じ事に気づいたみたい。慌てて引き返してきて力場くんに絡んでる。

 それを皮切りに、シニアの皆も寄ってきた。投手陣は同じ様に、打者は打撃フォームの指南を強請ってた。その様子に年配のコーチが苦笑いしてる。

 

 ――いつの間にか、力場くんは皆の中心にいた。

 

 男も女も関係なく、屈託のない笑顔で接して。自分の持ってる技術を、惜しむ気配もなく伝授していた。

 能力もそうだけど、その心の在り方も凄いと思う。とても魅力的な男の子で――なんだか力場くんが来てから、皆の空気がかなり良くなった気がした。

 

「はい、水分補給もちゃんとして。専一くん」

「サンキュー、聡里ちゃん」

 

 紙カップに水を注いで、新しいマネージャーの氷上聡里ちゃんが力場くんに水を渡す。それを受け取り、一気に呷った力場くんの――喉。喉仏がうっすらと浮き上がりはじめてる喉が、水を嚥下するのを、ボクは無意識に目で追ってしまっていた。

 

 汗で貼り付いた黒髪。張り付くシャツ。他の女の子も――広巳ちゃんですら――我知らず、力場くんを目で追ってる時がある。

 

 男子連中はそういうのに無頓着だけど、女子陣は敏感だ。なんとなく聡里ちゃんが警戒心を持ってる気がするけど、それはいいとして。

 

 

 

(なんか最近の力場くん(キャップ)、フェロモンむんむんになってない?)

 

 

 

 ――奇しくも、ボクとみずきちゃんは同じ事を思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
パワプロ式・謎理論




モテモテ・フェロモン散布中……。
『人気者』になった! 『ムード○』になった! あおいちゃんの好感度が8上がった! みずきちゃんの好感度が8上がった! 広巳ちゃんの好感度が8上がった!

次回は小説パートによる、一回の視点変更を含みます。
クラスでの日常生活→シニアでの出来事(予定)

次もまた見てください。よろしくお願いします。


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ガチ勢の真髄は投打にあり

大事な事を説明し忘れてたので初投稿です。


 

 

 

 Q.美藤さんってよく力場くんと話してるけど、どうやってそんなに仲良くなったの? おしえて!

 

 A.『いっけなーい! 遅刻遅刻! 私、美藤千尋! どこにでもいるごく普通の十三歳! でもある日、曲がり角でイケメンにぶつかっちゃってもう大変! しかもそのイケメンが私のクラスに転校してきちゃって!? 私これからどうなっちゃうの〜!?』

 

 

 

「――ってのが美藤さんと力場くんの馴れ初めなんだよね!」

「そんなわけあるかぁっ!!」

 

 クラスメイトで、ソフトボール部の元チームメイトである太刀川広巳の解説に、同じ級友の女子達が黄色い歓声を上げる。

 それを掻き消すように叫んで、私は全力で否定した。

 何が馴れ初めだ。私とアイツはそんなのじゃない。今時そんな使い古された少女漫画的な展開があってたまるか!

 

「でも力場くんが転校してきた初日の朝、登校中にぶつかったのは本当なんだよね?」

「うっ……」

 

 混ぜっ返されて言葉に詰まる。た、確かにそうだが……! あれはちゃんと前を見て歩いてなかったアイツが悪い!

 それにその時はアイツの隣には隣のクラスの氷上もいたんだぞっ。ぶつかりはしたが転んでもないし、氷上にはなんとなく睨まれた気がするし……こ、怖かったんだからな!

 というか太刀川の奴、普段は全然こういう話題は出さないし、野球に関係ある事しか興味がないくせして、なんだって食いついてくるんだ。

 

 言葉に詰まってしまったからなのか、目をキラキラさせてクラスメイト達が私を見てる。ま、マズイ……私は賢いから分かるぞ、これはなんだかマズイ空気だ。何か、別の何かに話を逸らさなければオモチャにされる……!

 

 ――私は別の話題を探すために視線を泳がせた。

 するとつい、女子間で話題になってる奴が目に入ってしまう。

 

 アイツは今、野球部の男子と駄弁っていた。

 ソフトボールこそ至高と信じる私にとっては嘆かわしい事に、野球人口の多い昨今、クラスの男子の半分は野球部に関係した事のある奴ばかりで、違うのはその本気度ぐらいなものだろう。

 どれぐらい本気で野球に向き合ってるかで、アイツに絡むかどうかの頻度が変わってる気がする。

 比較的本気度の高い男子ほど、アイツに色々と聞いている。今もアイツを囲んでる男子の一人が、バットを振るモーションを取っていて、アイツはその男子の腕や肩、腰の高さ、膝の曲げ具合や足の幅などを正し、仮想のバットの位置を口頭で直させていた。

 アイツは聞かれたら自分の技術を惜しみなく、誰にでも教えていた。それがどれだけ凄い技術でもだ。正直傍から聞いていて、私にとっても勉強になる。なんだって自分の技術をああも惜しまず教えられるのか、不思議だ。

 

『う、うぉぉぉ……!? こ、これスゲェ! スゲェいい感じがする!』

「だろ? お前の体格だとこんな感じで、ミートが巧くなってけばその内ホームランも狙えるようになると思うぞ。ま、これから体が大きくなってくだろうし、感性的に合わねえって感じるとこも出てくるかもな。それに合わせて自分で改良してってくれよ」

『おう!』

『……なあパワプロ、教えてくれるのは有り難いんだけど……いいのかよ?』

「何が?」

『何がって……同じチームにいたとしてもレギュラー奪い合うライバルだろ。オレなんか別のシニアチームだぜ。敵に塩を送ってるようなもんじゃん』

 

 と、丁度、私が気になっていた所を一人の男子が訊いていた。

 それにアイツはあっけらかんと答える。爽やかなのとは違う、かなりの自信を内包した強気な笑みだ。

 

「俺がお前らにコツを教えてんのはさ、別に打算がないってワケじゃないんだぜ? どんどん俺から色んなもん吸収して巧くなってくれよ。俺は俺の技術を吸収して、お前らが自己流に改良したもんを見てそれを吸収する。で、お前らを三振に切って取ってやれば、俺が成長してるって実感できるんだよ」

『……はは、なんだそれ! 要するにオレらがどんだけ巧くなっても勝つ自信があるってことじゃん!』

「当たり前だろ? チームを勝たせるエースが、自分に自信も持てないようでどうすんだよ。お前らだって自分のチームのエースは頼れるヤツの方がいいに決まってるよな?」

『それは言えてるな。ウチのチームのエース様ったら自信があるのかないのか……なあパワプロ、お前オレのとこに来ねぇ? ウチのエース様と交換したいんだけど』

「アホ。仮にもチームメイトだろ、悪く言ってやんな。それに俺は今のシニアに移って来たばっかなんだよ。またすぐ移ったら優等生な俺に問題があるみたいに思われちまうじゃねえか」

『優等生って自分で言うのかよ! アハハハ!』

 

 なるほどな。転校してきたばっかりだから、上手く馴染めているか心配してやっていたが、特に問題はなさそうだ。

 普通に軽口も叩いてるし、受け入れられてる。人の輪の中に入っていくのが上手いのではなく、アイツが自然と人の輪の中心になっていってるようだ。

 隣の席のよしみで気を配ってやっていたが、もう心配してやる必要は……んん? なんだ、視線を感じるぞ?

 

 嫌な予感がして視線を前に戻すと、太刀川を含む女子達が薄ら笑いを浮かべながら私を見ていた。

 

「美藤さん今、絶対力場くんのこと見てたでしょ」

「みみみ見てない! 見てないぞっ! その生暖かい目をやめろぉ!」

『力場くーん! 美藤さんが呼んでるよー!』

「呼んでないだろバカぁっ!」

 

 ――元気印の王子様がやって来た。

 女子の間でそう噂され、密かにファンクラブが作られている奴が、クラスメイトの呼び掛けに気づいて近づいてくる。逆に太刀川は口をつぐんだ。んん?

 

「なんだ? またちーちゃんがバカ言ってるのかよ?」

 

 雑誌で読んだがこの年頃になると、男子と女子の間には簡単に踏み越えられない空気の壁ってヤツが出てくるらしい。男子が女子に話しかけづらくなるとかなんとか……なんでだろうな。

 でもコイツにはそれらしき所はない。普通に男も女も関係なく平然と絡んでくるし、男女両方の下の名前で呼んで気安く接してくる。

 そういうとこイイ! とはクラスメイトの言だ。ただし※に限るとも……。

 

「って誰がバカだこのバカっ! そ・れ・と! 何度も言ってるだろ! 私をちーちゃんと呼ぶな! 私には美藤千尋って立派な名前があるんだっ!」

「えぇ? じゃあさ、俺は千尋ちゃんの事ちーちゃんって呼ぶから、ちーちゃんも俺のことパワプロって呼んでいいぜ。それなら対等(フェア)だろ?」

「フェア? ……むむ、フェアなら仕方ない……のか?」

「仕方ないだろ。な、ヒロピー」

「ひ、ヒロピーってあたしのこと?」

「そだぞ。太刀川広巳、広巳ちゃんだからヒロピー。同じ野球部のよしみで、フレンドリーにいこうぜ」

「そ、そうだね! あ、あはは……」

「そうなのか……フェアなら仕方ないな……」

 

 太刀川の奴が同意したって事は……これがフツーという事なのか……?

 周囲の反応を伺うと、微笑ましげな顔をされてる。な、なんなんだ。なんで力場……パワプロと顔を見合わせて笑ってるんだ?

 

「そういやそろそろ冬だなー。冬休みだなー」

「藪から棒になんだ」

「いや、冬休みが近いって事は……あるだろ? テスト」

「っ――?!」

「ちーちゃんは大丈夫か――って聞くまでもなさそうだな、その反応」

 

 わ、忘れてた……だが聞くまでもないとは分かってるなパワプロ。ふ、確かに大丈夫だ。ちょっと不安だがなんとかなる、そう……私ならな!

 

「勉強見てやろうか? なんなら勉強会開いてやるから、ちーちゃんも参加してもいいぜ」

「フンっ、余計なお世話だ。この私が赤点なんか取るわけないだろっ!」

「そっか。じゃ、ヒロピーはどうする? それと、清香ちゃん達は」

「え、あたし? あたしは……うん、参加しよっかな」

『するするー! 力場くん教えるの上手いしこれで平均点簡単にクリアできるかもだし! あ、他の娘にも声かけていい?』

「おう、どんどん呼んでいいぞ。俺も参加したいって野郎集めるから。んじゃそういうことで、ちーちゃんは一人で頑張ってくれ」

「無論だ! 私に構う必要なんかないんだからなっ!」

 

 ――私がパワプロに()()()()()()()、一ヶ月前の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

『せーのっ!』

 

 力場くーん! というグラウンドの柵の向こうで、女子達の声援が飛ぶ。

 前のシニアでもそうだったけれど、容姿の優れたスター選手の宿命なのか、()()()()はとても女の子達に人気があった。

 私はセンくんの邪魔をしたくない。この場合の邪魔とは、女の子達からの顰蹙を買って面倒を生む事も含まれる。痴情の縺れとは違うけど、変に思い込んだ女の子が危険な行動に出るケースは想定できるものだからだ。だから私はセンくんに、私という『彼女』がいる事を周知しようと思わなかった。

 けれどモヤモヤするものはある。周りに可愛い女の子達が多いのも、原因の一つではあるけれど。彼にそんな気はないと知ってても、平気で女の子と触れ合ってしまうのが主な原因だ。

 

 だけど私は恋人であっても、同時に彼の身を守るSPでもある。――俺がプロになったら聡里ちゃんを専属で雇うよ――と、彼は言ってくれた。なら今の内からSPとしての心構えは持っておくべきだと思う。

 そしてSPだからこそ、より直接的で分かりやすい脅威である、男子達に目を光らせるのは当然だ。前のシニアでセンくんを闇討ちし、潰そうとしていた人達がいたという前例を知っているから余計に力が入る。

 野球選手を志していたって、全員が全員、野球しか興味がないなんて事はない。人間なのだから異性への関心はあるだろうし、分かりやすく女子に人気のあるセンくんに嫉妬して、その嫉妬がセンくんの能力の高さ全てに向けられるようになり、やがては前シニアと同じ轍を踏む事にならない保障はなかった。

 

 今の所は、私とセンくんで話し合った対策も活きてるみたいで、男子達はセンくんに仄暗い感情を懐いてないように見える。

 橘みずきさん、早川あおい先輩、太刀川広巳さん――野球部ではないからここにはいないけど、美藤千尋さん――そして六道さんと霧崎さん。彼女達と特に親密に接しているのを見ても、男子達は『モテモテだなパワプロの奴』と心に余裕を持って振る舞えていた。

 それは、やはり対策のおかげだと思う。センくんと私が話し合って決めたのは、男子陣が負の感情を募らせる原因が、センくんに他者からの関心が集まり過ぎて承認欲求が満たされない所にあり、そして能力格差から生じる劣等心にあると見たのは間違いじゃなかった。

 

 センくんにはこれまで以上に、チームメイトの指導に力を割いてもらった。練習の邪魔になるのは心苦しかったけど、身の安全には替えられない。そして男性陣の大部分を巻き込んで、女性陣と触れ合う機会を掴ませるための場、コンパを開いてもらう事で男性陣に『自分にもチャンスがある』と感じさせて、センくんに負の感情が向かないように仕向けた。

 結果は今のところ上々だと思う。とはいえ、そのせいでますますセンくんに女子達の関心が集まってしまったのは誤算だった。しかも私から言い出した事だから、センくんに文句を言える筋合いなんかないのが辛い。

 

 ――けど、センくんの夢のためなら。センくんのためになるなら。私は、我慢する。尽くす女だな聡里ちゃんは、なんて囃し立てられて嬉しかったわけでは断じて無い。

 

「うっし、そろそろ木製(コイツ)に変えっかな」

 

 野次馬の女子達――見れば学校の違う女子もかなりいた――へ適当に手を振り返して、練習に入って行ったセンくんは木製のバットを取り出していた。

 にわかに場がザワつく。金属バットと木製バットの違いがよく分からないけど、違いが分かるらしい橘さんが真っ先に噛み付いた。

 

「ちょっとキャップ! なんでそんなの持ち出してんのよ?」

「ん? みずきちゃん知らねえの? 近い将来プロの球界でDH制が撤廃されるらしいから、投手だから打撃はヘボくていいなんて理由はなくなったんだ。俺は本気の本気でプロ目指してるし、今の内から木製バットに慣れてた方がいいだろ」

「それはそうだろうけど……学生の内は金属バットで率残してた方が絶対いいでしょ?」

「俺は投手だぞ。打撃の率よりピッチングのクオリティーが良ければいい。最悪打撃の率が落ちてもピッチングを見てもらえたら文句はねえよ。ってなわけでみずきちゃん、バッティングピッチャー頼む」

「はあ!? なんで私がそんなのやんなくちゃ――」

「高速シンカーの投げ方、後で教えてやっからさ」

「うぐっ……し、しょうがないわねっ!」

 

 ――うわぁ。みずきちゃんの操縦の仕方、完璧に心得てるね力場くん……。

 早川先輩の呟きは、多分みんなの心の声でもあったと思う。渋々バッティングピッチャーをする事になった橘さんを中心に、グラウンドへ皆が守備位置についた。皆の守備練習もついでにやるという事なんだろう。

 みずきちゃんが、左利きなのに右打ちとして打席に立つセンくんに向けて構え、そしてボールを投げる。すると、かこーん……と、気の抜けた快音が鳴り響いた。

 

「あ」

「あ」

『あ』

 

 全員が空を見上げる。

 センくんは低めに来た球を、綺麗な所作で掬い上げる様に打ち抜いたのだ。

 そのままボールは柵を超えて、辺りに沈黙が流れる。

 

「……すまん。あんまりにもヘボい、もとい気の抜けた、もとい打ち頃の球が来たもんだから……つい、やっちまったぜ」

「やっちまったぜ、じゃなぁーいっ! 何よそれ!? 木製使い始めたばっかでしょ!? 気を遣って打ちやすくしてやったってのに、なぁーにさらっと柵超えしてんのよこのバカーっ!!」

「いや驚くのそこじゃないよね、みずきちゃん。力場くん……普通にホームラン打ったんだけど……」

 

 ――俺、実は外野手……打撃の方が得意なんだ。これ、聡里ちゃんしか知らないぜ。二人だけの秘密だな――

 呆れるほどの天才っぷりと、衝撃的な事実。それに私は密かな優越感を感じていた。私しか知らない、センくんの秘密。良い響きだった。

 とはいえ打撃の方が得意なら、なんで投手をしているのかと訊いてはみた。するとセンくんは、これまた呆れるほど爽やかに言ってのけていた。

 ――だってピッチャーの方が目立ててカッコイイし。や、個人的にそう感じるってだけだからな? それに二刀流の最強選手って響き、いいだろ?――

 子供っぽいくせ、出鱈目な才能と努力、実力で実現するセンくんに、私はほとほと参ってしまっている。幾ら呆れても呆れ足りない、自己顕示欲というか承認欲求の塊というか……でも、そんな所も、私は好きになっていた。

 

「聡里ちゃん。来月、クリスマスだな。俺、聡里ちゃんのサンタ姿見たいな」

「……もう。今は練習中でしょ、集中して。ケガしたらどうするのよ」

 

 それから一段落して、ベンチに来たセンくんに紙コップに注いだ水を渡すと、彼は誰にも聞こえない声量でそれとなく声を掛けてきた。

 私はそんなセンくんに冷たく注意して――サンタさんの服、どうやって手に入れよう――なんて事を考えはじめてしまっていた。

 

 

 

 

(――予定より早く良い環境になったのはヨシだけどフラグ管理キツすぎぃ! ま、まあいいや。それよりそろそろ彼女候補増やしてマネージャーに加えないと、動画の中だと空気になりつつある雅ちゃんが可哀想な事になります。早急に雅ちゃんの問題を解決する為に――ついに待ってた時期が来た事もあってイベ起こしますよ! 次に仲間にする彼女候補は――すばり『木村美香』ちゃんですっ! 見とけよ見とけよ〜?)

 

(あっ、そうだ〈唐突〉 わたしが彼女枠頼りのヒモ野郎と思われるのもアレなんで、そろそろやりますよ……友情タッグトレーニングと、女の子選手ばっかり集めてた理由である、本作で採用されてるシステムを利用した――『女の子パラダイス』――打者能力自動up、あーんど、特能を低確率で取得できる夢のシステムです! ……弾道も上がります〈小声〉)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




大事(主観)な説明は次回にやります。


感想評価など、ありがとうございます!
次回もまた見てください。よろしくお願いします。


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パワプロくんのオリ変

日付が変わるギリギリなので初投稿です。


 

 

 

 

 世の中を動かしてきたのは常に一握りの天才なRTA再開します。

 

「専一様、ですか。うふふ、対等なお付き合いができる、良い友人になれそうですわね」

 

 落ちろ蚊トンボっ!(唐突) 落ちたな……(早漏)

 

 ――わたしは今、目当ての彼女候補とファースト・コンタクトを取ったところです。そろそろ来るかなーと思い網を張ってたんですが、見事に張ってた網へ掛かってくれましたよ。やったぜ。

 

 さて。どういう事? と首を傾げる視聴者の方々にご説明しましょう。

 プレイヤーキャラ……パワプロくんは中学生になると、一定周期毎にメインキャラクターと出会う機会に恵まれます。

 この法則に当て嵌まらないキャラも勿論いるのですが、そうした人には用がないので気にしてはいけません。むしろこの法則外にいる人は裏社会に関連する、パワポケ的な人ばかりなので縁がない方がいいのです。

 ゲーム的なメタ視線で見ると、中だるみを避けるための、シナリオ上の都合なのでしょうが……パワプロくんは表社会のキャラとは必ず一回は出会えるようになっている――ここを憶えておくだけでいいですね。

 

 とはいえ、あくまで【機会に恵まれる】だけです。同じマップ……同市町村内にキャラがポップするだけなので、こちらから会おうとするか、偶然の出会いに期待するしかありません。

 なので必ずしも縁を結べるわけではない事も留意していてください。

 そして中高大の学生スタートで、出会いイベントはほぼ同一のものになります。中学生から出会いイベントが始まる理由は……性の目覚めを迎えてるかどうかなんでしょう(適当)

 

 で、ですね。目当てのキャラがポップする場所は、概ねそのキャラの背景に即したものになるので、この世界観の闇に触れたいなら街に繰り出し、人通りの少ない場所を歩き回るといいでしょう。……ジャジメントや九頭龍、アジムやオオガミなど、闇に関わるキャラとかなりの高確率で出会えますよ。

 

 ですが今回、わたしは闇に関わる気はないので、そこらに近寄るつもりは欠片もありません。闇w 闇とか厨二かよw それパワプロじゃないじゃんw などと草を生やしながら軽く見て、安易に関わると死ぬよりツラい目に遭ってから死にます(二敗) 死んだ方が救いになるぐらい闇はガチなんで、いい子の皆さんは気をつけましょう。

 で、絶対関わりたくないと、わたしと同じ事を思ったなら。幾人かのメインキャラの庇護を受けられる立場を確保して、遭遇事故をカットしてくれるSP聡里ちゃんと仲良くなっておきましょう。聡里ちゃんは闇に関わりたくない人のセーフティとしてかなり有能です。世間的な立場とかそういうのではなく、個人としての聡里ちゃんが、危険を避けるための嗅覚を備えていますので。

 

 そんで、話を戻します。わたしがたった今コンタクトを取ったのは、目当てのマネ兼彼女候補三人の内の一人、木村美香ちゃんです。過去作までは両親が大きな会社を経営する大金持ちの令嬢だったんですが――本作だと橘財閥に匹敵する木村財閥の令嬢にランクアップしてます。本人は容姿端麗・スポーツ万能・学業優秀と三拍子揃った完璧美少女なのに変わりはありません。

 本作の規模で同ランクにあるのは、木村財閥・猪狩コンツェルン・橘財閥などが挙げられます。他にもありますが、今回のパワプロくんが深く関わる事になる面子に限って紹介させていただきました。んで、木村美香ちゃんはここら一帯の有名人で、とっても小僧共から憧れられてる高嶺の花。下心満載な男ばかりに絡まれるので、そのことを鬱陶しがってるのが初期段階。下心しかない男にうんざりしているその時に、パワプロくんと出会うわけですね。

 

 このタイミングで練習中、「わー手がすべったー(棒読み)」と失投し、わざとチームメイトに特大ホームランを打たれる事で、イベント補正に引っ張られたホームランボールがコロコロと場外に飛び出してしまいます。

 それを追うとボールが美香ちゃんの足元に転がるので、「おーいそのボール取ってくれー(棒)」と呼び掛けましょう。すると美香ちゃんはガン無視してくるので、気にしないでボールを拾いに行き素通りすると、『ワタシに話し掛けようとしていたんじゃないの(驚愕)』となり、自身の自意識過剰っぷりと失礼な態度を恥じ、謝罪して名前を訊いてきます。それに答えると好意的な第一印象を持ってくれるわけです。

 

 メッチャ良い娘なんですが……ちょっとチョロ過ぎて将来悪い男に捕まりそうで心配になりますね……なのでわたしが守護らねば……!(使命感)

 

 で、打算を打ち明けておきましょう。何度も申し上げてるように、わたしは本作世界観の闇の部分に関わるつもりは毛頭ありません。普通に野球させてください(切実) 今はまだ中学生なのでマークは甘いのですが、有名になればなるほど、能力が高まれば高まるほど、比例してパワプロくんの運命力が唸りを上げるのか闇の手が伸びてくるんですよね(恐怖)

 なのでその闇の手をシャットアウトする為に、メインキャラと親密になっておく必要があるのです。女など我が道に不要! という方や、王道の野球道を邁進したいなら、重度のツンデレである猪狩守くんと仲良くなりましょう。彼はかなり本作で優遇されてるんで、彼と親密になるだけで割となんとかなるんです。

 

 わたしの場合、猪狩くんと個人として親しくなるつもりはないので、他の選択肢を取っています。

 

 その選択肢が木村美香ちゃんと橘みずきちゃんです。みずきちゃんやあおいちゃんとは高校で邂逅する予定だったんですが……聖ちゃんと幼馴染になった恩恵で中学時代で出会えたのは僥倖でした。

 聖ちゃんの内助の功は五臓六腑に染み渡るでぇ……。

 彼女達の実家パワーの庇護を受けられたら、闇の手をカットしてくれます。なんせ本作の大財閥は私兵集団を抱えてましてね……武力面と経済面でガードできるんですよ。そんでミクロな視点だと聡里ちゃんが事故を防いでくれるという。なおこれ全部を猪狩守くんは単体でやってくれます(白目) 猪狩くんは特に何もしてなくても、仲が良いだけで世界の意志が守ってくれてる感じがするのです(困惑)

 

 ともかく。彼女達の実家パワーの庇護を受けるには、みずきちゃんに関しては親密度をマックスにしておくだけでいいです。

 プロ野球選手を引退後、みずきちゃんは財閥の後継者になるんで、その後継者枠のみずきちゃんの親しい人は、みずきちゃんのパパンが自動的にガードしてくれるんですよね。娘のメンタルを護る橘パパンはパパの鑑ですよ。

 で、彼女候補の美香ちゃんの場合は、彼女の好感度をマックスにし、かつイベントを完走する必要があります。二つの大財閥の庇護を得て、やっと身の安全を確保できるわけですね。……パワポケ要素混ぜるとか、開発の悪意が透けて見えますよ。

 

 ――それからもう一つ、ずっと解説しなきゃと思いながらも忘れていた事があります。話は逸れてしまいますが、また忘れてしまわない内に済ませておきましょう。

 

 本作のパワプロくんとメインキャラクターの年齢は同世代で固定されてるんですが、その基準は元祖三人娘とされる緑・青・紫の娘達になってます。

 あおいちゃんと同い年になれば、パワプロくんと同い年固定の猪狩守くんもそうなるんです。で、今回は聖ちゃんと同い年なんで、自動的にあおいちゃんだけ殆どのメインキャラより一個上の学年になっちゃうんですよね。

 一人だけ一年早く卒業しちゃうあおいちゃん可哀想……なのであおいちゃんと甲子園優勝を果たしたいなら、高校二年生までに成し遂げておく必要があるんですね。まあこれはこれでメリットはありますよ? あおいちゃんの勧誘が成功してるんで、一年先に高校に入ったあおいちゃんが、野球部を先に作って面倒な諸々を片付けておいてくれるんです。おまけにキャプテンもやってくれるんで、パワプロくんの負担を減らしてくれます。やったぜ。

 

 よし、忘れてた解説を挟めました。あーさっぱりした(棒読み)

 

 なので今回はここまで……と言うにはまだ早いですか。前回予告していた、本作で実装されたシステムの一つの使用ターンをご覧に入れましょう。

 概要は前回お話したので省きますが、『女の子パラダイス』の時間です。

 良い響きですよね、女の子パラダイス。ノンケには堪らないでしょう。

 このシステムを発動する条件に、最低五人の女の子と同じチームに所属し、友好度を一定以上にしておく必要があるんですが、これはもうクリアしています。クリアしてるのは礼里ちゃん、聖ちゃん、聡里ちゃん、みずきちゃん、あおいちゃん、そんでヒロピーと雅ちゃんですね。

 

 え? なんで選手じゃない聡里ちゃんが入ってるのか、ですか?

 

 彼女は優れた運動能力持ってるんで、誘えば普通に練習を手伝ってくれるからです。『彼女』なんでLOVEパワーを付与してくれるオマケつきともなれば誘わない手はありません。

 なんせLOVEパワーが発動するとですね、取得経験点が増して体力の減りが少なくなり、更にケガ率もダウンするんですよ。――わたしは超特の『鉄人』を保有してるんで、残り体力が安全圏にあるならケガ率ゼロなんですけど。

 

 んで、シニアの練習が終わった後、ヒロピーも誘っていつもの河原で練習をします。雅ちゃんがシニアに入ってないからですね。

 折角の『女の子パラダイス』でハブったら可哀想ですし(建前) シニアの野郎連中が邪魔でしょ(本音) せっかく華やかな空間になるのに、画面に野郎が映ったら視聴者さんも嫌でしょう?(責任転嫁)

 ってなわけで、早速やりますか!

 

「センくんは分かってるだろうけど、ストレッチは入念にやること。ケガしたら元も子もない」

 

 むに、むに、と体を押し付けながら柔軟運動を手伝ってくれる聡里ちゃん。ンホー!(汚い声)(LOVEパワーON)

 

「パワプロくん、シンカー系の握りなんだけど……ここ、こうしたらどうなると思う?」

「キャップ! シンカーの変化量増やすのってこんな感じでどうよ?」

 

 いつの間にか苗字呼びからあだ名で呼んでくれるようになったあおいちゃんと、お前ハッチかよと言いたくなるあだ名で呼んでくるみずきちゃん。

 二人が我先にと詰め寄ってきて、左右から引っ張りながら訊いてきます。日頃の指導の賜物でしょう、触っても触られても特に抵抗がなくナチュラルにボディタッチしてくれますね(ゲス顔)

 シンカー系の変化球は苦手なんですが、理論は知ってるので助言できます。知識を惜しまず知ってることはなんでも、全部、根こそぎ吐きます。ここの助言次第で彼女達の代名詞、マリンボールやクレッセントムーンの完成度とクオリティーが変わってきて、クリティカル判定を出したらこの二種の球がエグい魔球に進化します。進化させ、真価を引き出しましょう(激ウマギャグ)

 わたしも前までの試走で教えてもらってるんで、一応マリンボール・クレッセントムーン両方投げられるんですが、どうもわたしとは相性が良くない変化球なんで使うことも、持ち球として表記されることもなかったりします。とりあえず完成形を知ってるんで、それとなく誘導するのが無難でしょう。

 それと、パワプロ世界だと明らかに物理法則無視した変化球があります。みずきちゃんのクレッセントムーンとかが良い例ですね。なので常識的な指導とかはなんの意味もない、とは言い過ぎですが最善でないのは確かです。完成形を早期に習得したら、彼女達は更におかしな進化を果たしてもおかしくないですね。

 

「ね、パワプロくんっ。こう言うとなんか恥ずかしいんだけどさ……パワプロくんにはジャイロフォークがあって、早川先輩と橘さんは自分だけの変化球作ろうとしてるよね。それ見てたらさ……あたしもオリジナルの変化球、作ってみたいなって思ったりするんだよね。何かアドバイスあったら嬉しいかな!」

 

 ヒロピーが冗談めかして言ってくるので頷きます。おう、考えてやるよ(教えてやるとは言ってない) 君にジャイロフォーク見せたこと無いけどな。

 まあでも教えるとしたら、ヒロピーは持ち球に高速シュートがあるんで『ブレッドシュート』辺りが良さげですかね。これは覆水武明という、孤高の天才キャラのオリ変なんですが、これまた覚えてます。投げ方だけは。

 わたしはシュート系を投げたら、どうもフォーク系とスライダー系の感覚が悪くなるんで使う気はないんですよ。死蔵させるぐらいなら教えてもいいと思います。本家本元の覆水くんには悪いですが、敵チームになるのが確定の人の事より、自チームになる見込みのあるヒロピーの方が大事ですからね。申し訳ないですがヒロピーを贔屓しましょう。

 

「ばっちこーい!」

「下手な打球は打ってくるな。難しくないと練習にならない」

 

 今はまだ、高校でも野球ができるとは思ってないエンジョイ勢の雅ちゃんは二塁手に。()()()から矢鱈とスキンシップの増えた礼里ちゃんは遊撃手固定。この二遊間の守備を鉄壁にする為の処理をします。この二人のターンに移るとファーストにはヒロピーが付いてくれますんで、ドシドシ鋭い打球を打ち込んでやりましょう。

 

「こ、こう? あっ、こうか! ふふふ、やっぱり楽しいなぁ、野球……」

 

 他の皆と比べたら圧倒的に練習量が少ない雅ちゃんには、特に力を入れて指導しましょうね。守備はもちろん打撃技術を徹底的に仕込みます。

 異性に触られるのに慣れてないはずが、特に抵抗を感じてる素振りのない雅ちゃんは無防備過ぎますが……役得云々の邪念は無用。純粋にわたし直伝の技術を仕込みまくり、我が軍の二番打者に据えたい人材なのでバント技術、アベレージヒッターのコツなどを覚え込ませましょう。

 まだわたしの草案に過ぎませんが、一番打者のリードオフマンは礼里ちゃんで、二番に雅ちゃん、三番は今のとこ聖ちゃん、四番にわたしが着くのが理想だと思ってます。守備でもチームプレイが巧みな雅ちゃんなら期待に応えてくれるはず。今後は雅ちゃんに守備職人、アベレージヒッターなどの打撃技術と走塁技術に長けた選手になってもらいましょう。適性もそっちですし。

 

 礼里ちゃん? ステ表記上だとわたしより全ステが上で、技術も申し分ないので特に言うことがないという……。天才ですよ、この娘も。なので礼里ちゃんには、下位互換である雅ちゃんとの連携力の向上に努めてもらいます。

 

「パワプロ。そろそろ()()()()()()()()()()。私も『超集中モード』に自由に入れるようになったからな」

 

 ほんでわたし自身の練習をする、とはなりません。トリを飾るのは聖ちゃんです。オリ変に名前付けたり、厨二に理解のある世界観なので、『超集中モード』と聖ちゃんが言っても違和感はないですね。

 この超集中モードは、言ってみれば走馬灯のアレです。スポーツだと『ゾーンに入る』といいます。体感時間が引き伸ばされ、全てがスローモーションに見えるようになる感じ。聖ちゃんは元々優れた集中力を持っていて、その恩恵でステは低くとも技術面でとても優れています。いわゆる打てる捕手なわけですね。

 ほんとうは『超集中モード』を会得するのはもっと後になるはずが、わたしとほぼ毎日練習してたお蔭で成長が早まり、中1の段階で会得したようです。

 

「フフン。私を誰だと思っているのだ。パワプロの球を一番見てきたのは私だぞ。そしてパワプロを一番見てるのも私なのだ。()()()()()()()()()気がしていたからな、それを止めさせて本気を引き出すのが女房たる私の務めだ」

「………」

「氷上、お前には負けないぞ」

 

 さらっと女房役ではなく女房と言って聡里ちゃんを牽制する聖ちゃん。『牽制』は投手のわたしの仕事なんですが……。

 バチバチと視線で火花を散らす二人。素知らぬ顔をしてる礼里ちゃん。捕手だからって、走者(わたし)走者(カノジョ)を『刺殺』するのだけはやめてくださいよホント(蘇るトラウマ)

 や、聖ちゃんはそんな事しないぐう聖だって知ってるんですけどね。モブ娘でやられたリアル黒ひげ危機一発が想起されると……ふふ……下品なんですが……失禁、しちゃいそうです……。

 

 それはそれとして本気出して良いと言うので出してみました。今まで変化量を抑えてたジャイロフォーク、受け止められるかな?

 

「……っ! もう一球だ! 次は止めてみせるぞっ!」

 

 グラブで弾いてしまいましたね。後逸しちゃってます。かなり珍しい光景に礼里ちゃんが目を丸くしてます。可愛い。多分聖ちゃんのミスを初めて見た勢も驚いてますね。

 ですが流石は聖ちゃん。既に球筋には慣れてるようで、二度目は見事にキャッチしてくれました。そのドヤ顔、可愛い。天使か。……聡里ちゃんが睨んで来るのが怖いので隠し球を見せときましょう。本気のジャイロフォークを捕ってくれるようになった聖ちゃんなら、そのうち捕れるようになるでしょうからね。

 

「な、何? 密かに開発した魔球を捕ってくれ? う、うむ……任せるのだ! パワプロの総ては私が受け止めてみせるぞ!」

 

 矢鱈と意味深の言い回しはやめろ(迫真)

 で、わたしの切り札その二をお披露目です。

 

「き、球種はなんだ? なに……? ()()()()()()()だと!?」

 

 現実世界だと絶対投げられん(確信) むしろ投げれる投手いるならわたしはその人を神だと崇め奉りますよ。

 そう、わたしの真の切り札は超高速ナックル……速球と同じ球速のままナックルの軌道を描く大魔球です。これは忘れもしない、10周前のパワプロくんが『オクタヴィア』という娘から伝授され、その後の9周前のパワプロくんが阿畑パイセンの補助を経て独自に改良し、変化量とキレを増したもの。パワプロ時空にしか存在できない、世界でたった一人わたしだけが投げられるトッテオキです。……ガチ勢プレイヤーの中には、これより酷い球投げる人もいるという恐ろしさよ。

 

 えげつない変化球なんで、世界トップランクの捕手も捕球をミスりまくること請け合い。なので泣く泣く封印してるんですけどね……。

 安定して捕ってくれるのは、ガチ勢プレイヤーの捕手の人ぐらいでしょう。わたしはオフラインでやってるんですけど、オンラインでやれば協力プレイもできるんで、そういうのに醍醐味を求める人もいます。アイツらマジでバケモンなので勝てる気がしない。

 ですが聖ちゃんなら、いつかはこれも捕れる日が来ると信じてます。プロになって何年もしたら、ですけど。それまでは捕れないでしょう。少なくとも今は絶対捕れないと思います。

 

「!? なっ……くぅッ……! こっ、こんなの……現実に有り得る球なのか!?」

 

 有り得ないんだよなぁ(事実) 案の定捕れてませんね。泣きそうな聖ちゃん可愛いよprpr

 大丈夫だって安心しろよ〜。捕れるとは最初から思ってないんで。

 

「っ……! 舐めるな、いつか……いつか必ず! このボールも捕ってみせるぞっ!」

 

 その意気や! ……最終的にわたし、170キロの直球投げれるようになる予定なんで、170キロのジャイフォと超高速ナックルに進化するんですけどね。それ捕れるようになってたら、間違いなく聖ちゃんが世界最強の捕手だと賞賛されるでしょう(遠い目)

 とはいえ強力な切り札ですが、その分スタミナの消費量がエグい。肩と肘の負担も大きい上に、握力もかなり使います。多投はできないんで、今はまだ封印必至です。日の目を見る時は来るんでしょうか……(不安)

 

「ちょっと何よ今の!?」

「えっぐ……うわ、凄すぎてなんか逆に引くよ……」

「ナックルかぁ……あたしには無理な奴だね……」

「うわぁ……」

「私も打てるぐらいにならないと、対等な選手とは言えなくなるのか……?」

 

 驚きながら皆が近寄ってきます。天狗になりそう……なるわけないんですけどね。誰も捕れない魔球とか無価値ですよ。

 

 ってな感じで今回はここまで。……え? 普通に練習してただけじゃないか――ですか?

 そりゃそうですけど。でも絵面としては常に女の子に囲まれ、触り触られを公然とできるという……ホモもノンケ&ロリコンに堕ちること必至な環境でしたよ。システムもばっちし機能してて、うん、おいしい!

 教えてばっかなんで、皆もコツとか掴んで成長する上に経験点も激増するとかうま味が強すぎて病みつきになりますよ……。

 

 転校してシニアも変わったばっかなんで、来年の秋大会まで出られないのがネックですが、それを補って余りある環境は最高です。

 女の子パラダイスを何度も繰り返していけば、中学生の経験点のカンストも容易いでしょう。野手能力をカンストしてもお釣りが来ますね。

 

 次回は二年生になるまでのダイジェスト実況と、幾つかの解説をしたいと思います。動画編集が大変なんで、ちょっと遅くなるかも?

 また見てくださいねー! ばいばーい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




面白い、続きが気になると思って頂けたら評価等よろしくお願いします。

アンケート第二弾です。


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運命の出会いでやんす!(男)

出したい欲望に負けたので初投稿です。


 

 

 

 

 メリークリスましておめでとうバレンタイン! 前ふりが思いつかなかったので普通に再開します。

 

 元気があればなんでもできる! 努力だけが成功に続く道! 思い込んだら最強なのだ! ――精神論です。現実だと害悪扱いされがちですが、実際精神論的な根性は備えておくに越した事はありません。もちろん無理は禁物ですし他人に押し付けるのは言語道断ですけどね。

 で、パワプロ世界だとこの根性論、精神論の類いは馬鹿に出来ないです。よく分からない理屈で特能(特殊能力)のコツなり超特(超特殊能力)のコツなりをゲット出来たりするので。おまけに明らかにオカルトチックな作用を齎す超特・特能もあります。具体的な例を挙げると話が逸れるので省きますが、超常存在や超常現象が実在する世界観なので、その世界の住人にオカルトの力が宿るのも不思議ではないのかもしれません。子供はみんなニュータイプ!

 

 ――おっ、どうしたどうした?(心配)

 

 いきなり精神論を語り始めたせいで、視聴者の皆さんを困惑させてしまったかもなので本題に入りましょう。

 パワプロ世界だと、当人の【やる気】はあらゆるものへ作用します。練習効率だったり試合で発揮できるパフォーマンスであったりが主なものですね。

 なのでこの【やる気】を如何にして最大にして、そのまま維持し続けるかが肝要です。特に本作だと自分だけでなく、周囲の人の【やる気】を高く維持する必要があるので気は抜けません。【やる気】が低下してそうな人がいたら要注意です。なんせ絶不調の更に下、スランプ状態に陥ったまま放置すると、最悪の場合該当人物は野球をやめてしまうのですよ。メインキャラでも、です。なので【やる気】の管理は必須だと断じましょう。

 

 で、パワプロくんの【やる気】を維持するのは楽勝ですね。

 

 ぶっちゃけわたしが操作してないと、パワプロくんは学力最低値の野球小僧でしかありません。異性との接触などで弾道が上がる案件があると【やる気】が上がるんですよ。なので女の子選手ばかりな環境だとモチベーションの維持に気を配る必要はありませんね。気をつけるのは周りの人だけでいいです。

 

 こうした精神面の状態が如実に現れるのは現実も同じですが、ぱわぷろ世界だと更に顕著に現れる――この事も覚えておきましょう。わたしの目が黒い内は誰もスランプにはさせませんし、モチベーションは常に高く維持してご覧に入れます。見とけよ見とけよ〜?

 

 なお、本作ではパワプロくんを含め、【やる気】はマスクデータに分類されステ欄で確かめる事はできません。他の人達もです。厄介ですよこれが。

 ともあれそこは自分の勘やら、身の周りの人達の表情や言動に気を配るしかないのは辛いです。

 

 で、話は変わりますが、選手能力にもマスクデータがあります。そう、PSです。プレイヤースキルそのものが人力マスクデータとして存在しています。

 ですがそんなのをデータとして記載するのもあれなんで、もう一度パワプロくんのステータスを明記しておきましょう。なお一部強化済みです。

 

 

【投球フォーム:オーバースロー17(改良済) 投打:右打ち左投げ

 球速:140 コントロール:80 スタミナ:80

 ・ジャイロボール    ・ストレート   (・ジャイロフォーク:5)

 ・チェンジアップ:5  ・スライダー:3  ・カーブ:3

(・オクトスモーク:7)

 

 ・センス◎  ・選球眼  ・積極走塁 ・積極盗塁

 ・低め5   ・ノビ5  ・重い球  ・キレ5

 ・リリース  ・ハイスピンジャイロ】

 

 

 当初予定していた通り、中学時代の球速上限まで上げました。MAXです。ホントはまだ上げられるんですが、これ以上は体のバランスが悪くなる上に、何もなくてもケガのリスクが出てくるので打ち止めです。ケガしなくてもガラスの肩になる事も考えられますからね、安全マージンですよ。スタミナも80にしてますが、これは別に……。

 で、野手能力も分けて表記します。こっちはパワーと走力以外は、どれだけ上げてもなんの問題もない上に、ミート能力はぶっちゃけPSで補えるんで低くても構いません。ミート能力が高いとその分補正がつくぐらいなんで、今はまだG(ゴミ)でも支障は出ませんね。まあ、上げてるんですけど。

 

 

【打撃フォーム:神主打法(パワプロ式・祈祷打法) 弾道:3

 ミート:60 パワー:60 走力:60 肩力:75

 守備:80 エラー回避:80

 サブポジション:外野(センター)

 ・チャンス5 ・アベレージヒッター ・走塁5 ・盗塁5 ・送球5

 ・広角打法  ・粘り打ち ・満塁男 ・鉄人

 ・対エース  ・ムード○ ・威圧感 ・レーザービーム

 ・連打   ・打球ノビ◎ ・インコース ・ラッキーボーイ

 ・高速チャージ ・四番  ・アウトフィルダー】

 

 

 ぶっちゃけ能力キャップの強い中学時代に、ムキになってステをMAXにする必要はなかったりします。それより重視すべきなのは特能ですね。

 超特は以前も言ったように、中学時代だと二つまでしか取れないので今は我慢の時です。コツ自体はゲットできるのでヨシとしましょう。既に習得していた特能に関してはカンストしてますしこれもヨシです。

 欲を言えばパワーヒッターの特能もほしいですが……なくても最低限、こんだけのステならなんとかなります。本塁打も狙えますよ。

 

 あと、勘違いしてはならないのは、身体能力には男女の性差があります。それと身長と体重、腕の長さやらなんやらですね。なので数値上は同じ能力値でも、男女で互角の筋力とはなりません。男の筋力がAランクなら、女の筋力はCの半ばに換算されると思っていてください。

 なのでここまで筋力を上げると、数値上はパワプロくんより上の礼里ちゃんと並びます。それといわゆる【パワプロ体】といわれる等身ではなく、リアルな等身に変化してはいますが、女の子のビジュアルが筋肉過多なマッチョとして表現される事はないです。個人の嗜好で女性を筋肉ウーマンにしたいなら、オプションを開いて【筋肉表現ON】にしましょうね。OFFにしてたら筋肉が欲しい勢が、筋肉が付きにくいと嘆くイベントがあるんでうま味ですよ?

 

 で、ですね。経験点は全部使ってます。必要な能力値はクリアしてるんで、後は貯め込むだけですね。なんのためにってそりゃあ……高校に進学した瞬間に一気に能力上げるためですよ。センス◎とこれまでの地道な野球漬け生活のお蔭で、中1の段階でカンストできるとか大変よろしいです。が、高校生になると一気に能力キャップが緩くなり、更に消費経験点も増えるんで、中学卒業まで経験点を貯め込んでいてもカンストには足りないです。辛い。

 ともあれ育成はかなーり順調ですよ。この調子で行きましょう。

 

「ど、どう……? 似合ってると嬉しい、かも……」 

 

 聖夜です。聡里ちゃん家でサンタコス姿の聡里ちゃんを拝んでます。破壊的な可愛さだ(迫真)

 あぁ^~ロリコンになるぅ^~! あ、もうなってたわ(再確認)

 クリスマスイベは体力回復と微量の経験点ゲットになります(なんで?) ほんで恋人枠によってはコツもちょっとくれます(なんで?) 高校生以降のイベだと弾道が上がった! となる事もあります。なんで?(純粋) まあ今でも好感度的に手を出しても受け入れられるでしょうが……そういうのは高校生からだつってんだろ(豹変)

 

 喜びのクリスマスプレゼント交換を済ませましょう。わたしからは可愛い可愛いニャンコ人形を。聡里ちゃんからはコツをランダムで付与してくれるアイテム・プロのススメを貰えます。本を読んだだけでコツが手に入るとかどういうことなの……? 毎度毎度不思議でなりませんね……ホントに。

 

「お御籤はどうだった?」

「私は大吉だぞ(ドヤァ)」

「並吉……だがパワプロとお揃いだな」

「……なんで貴女達が付いてきてるの?」

「私達は毎年、新年のお参りは一緒なのだ。気にするな氷上」

 

 うふふ……青い和装の聡里ちゃん可愛い(現実逃避)

 白い和装の礼里ちゃんとか最高かよ(賞賛)

 聖ちゃんはいつも和装だろ真新しさとかないわ(素)

 

 お賽銭を入れてお御籤を引くと経験点が貰えます。願い事は"モ"テ"た"い"! これ一択ですね。既に『モテモテ』な上に恋人もいるんで、これで女性陣からの好感度が自動でupします。あと経験点も貰えます(なんで?)

 聡里ちゃんは凶、聖ちゃんが大吉、わたしと礼里ちゃんが並吉です。並吉でも礼里ちゃんとお揃いなら大吉同然だってハッキリ分かんだね。

 

 ん? どこかおかしいですか? おかしくないですよね(白目)

 

 お正月デートに『今までずっと一緒だった』という大義名分を引っ提げて、幼馴染二人が割り込んできましたが……なんか取得経験点が微増してるんでヨシとします。気にしないでください、気にしたら負けです。

 

 ――あ、後ですね。体がやっと成長期に入りました。成長痛が辛いですが、両親を見るに元々高身長になりそうな上、栄養バランスや日常生活的に高身長になるのは約束されてるようなもんですね。声変わり? とっくに終わっていますよ。イッケメーンに相応しいイケボですよクォレハ……。チッ!(唐突な舌打ち)

 

 合間に『女の子パラダイス』を多用します。く、悔しい……! でも経験点がおいしすぎる……! んで、バレンタインなんですが……知り合いの女の子全員から貰いました。義理チョコとか言いながらも明らかに本命なチョコが何個もあります。やったぜ(血涙) これがイケメンの恩恵ですね(血反吐)

 

 そんなこんなで二年生に進級です。今度もまたちーちゃんと同じクラスに生りました。あ、あとみずきちゃんもいますね。他の娘は全員違うクラスです。

 今年度の秋大会から参加可能なので、存分に猛威を奮ってやりましょう。わたしはやりますよ〜。リトル時代ばりの無双モードを味わえる最後の時です。高校からは天才達が覚醒して追いついてくるんで。才能マン共はこれだから困るんですよね……。もうちょっと長く無双モードやりたいんですけど。

 

 っと、おや? クラスの端っこに……なんだか見覚えのある顔が……。

 

「あ、あれはパワプロくんでやんす! いつもモテモテで可愛い女の子を侍らせてるにっくきあんちくしょうでやんすよ! 目を合わせたら駄目でやんす! オイラ達みたいな陰キャの敵でやんす!」

 

 ――矢部くん!? 矢部くんじゃないか! おいおい矢部くん久し振りだな矢部くん! 君が陰キャとか色々無理があるぞ矢部くん!

 

 というところで今回はここまで。矢部くん枠が聖ちゃんで埋まってたんで、出会うことはないだろうと密かに寂しく思ってただけあって嬉しい再会です。この運命(乱数)に感謝しながら、また次回も宜しくお願いします!

 

 ばいばーい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想ありがとうございます。執筆に専念してるので返信が疎かになってますが許してください! 許して……許してクレメンス。


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ブチ転がすぞオオガミぃ!

 

 

 運命の相棒と再会してしまったので再開します(激ウマギャグ)

 

 ――話をしよう。あれは今から100……いや、40年前だったか。まあいい、わたしにとってはつい昨日の出来事だが……視聴者達にとっては多分、明日の出来事だ。

 彼には11通りの派生キャラがいるから、なんて呼べば良いのか……確か最初に会った時は……矢部明雄! そう。アイツは最初から言う事を聞かなかった。わたしの言う通りにしていればな。まあ……良い奴だったよ。

 

 パワポケ時空に巻き込んだ時はホントすまんかった(小声)

 

 本作の矢部くんは、パワプロくんと同じで常に野球ユニフォームしか着ていない、なんて事もなく。普通に制服姿なので帽子を被っていません。

 なので長年謎だった髪型も見る事が出来るんですが、パワサカの『矢部坂秀人』と同じ髪型です。茶髪の普通の髪型で、アホ毛があるアレですよ。そしてお馴染の眼鏡を掛けています。

 で、その矢部くん。分かりやすい嫉妬ビームを飛ばしてきて、名前も知らないクラスメイト君とこっちを睨んでますね。

 しかしそんなのは気にしません。矢部くんとは迷惑を掛けて掛けられての間柄、文字通りの戦友だった事もあります。この程度で嫌な印象を覚えたりはしませんよ。初対面だとこんなもんだよなー、ぐらいにしか思いませんね。

 

 過去シリーズでの矢部くんは、性能面で言うとぶっちゃけ二線級のキャラです。選手能力は微妙な上にくれるコツもヘボく、イベントもイマイチなんで同じデッキに組む意味とかないでしょう。

 が、本作では矢部くんも優遇措置が取られています。というのもパワプロくんの相棒ポジが矢部くんで固定されておらず、ランダムで相棒枠が決まるようになっているので(※わたしの今生だと聖ちゃんが該当します)、必ずしも矢部くんと遭遇できるわけじゃなくなっているのです。初期パーティメンバーにありがちな、弱い性能で据え置きにする意味がなくなったんですよ。

 なので矢部くん自体の性能も、鍛えたら『男・矢部明雄』のステになり一流選手として活躍してくれるようになります。そして更にそれとは別に、とあるメリットが生じるんですよ。

 友情タッグが組めるほどの友好度を稼いでいた場合、親友と認めてくれて、ビビリながらも危ない時は助けに来てくれる熱い男になってます。万が一パワポケの闇に呑まれたら付いてきて、味方としてサポートしてくれるのです!

 ……まあ現状、その万が一も起こらないように立ち回ってるんで、矢部くんの役割はほぼ無いんですけどね……。

 

「な、なんでやんすか……?」

 

 はじめ、パワプロくんへの嫉妬か何かで、目も合わせてくれないでいた矢部くん。ジッと見られると流石に困惑してきたみたいです。眉を落としながらもこっちを見てきました。

 ですがわたしからは何も言えませんね……落ち着いて考えを纏めましょう。

 わたし個人としては矢部くんに友情を感じてますし、色々と受けた恩に感じ入るものもあるんですが……RTAに情は邪魔です。残念ですが、矢部くんを仲間にする必要はありません。鍛えたら一流選手になるんですけど、こっちはもう高校→プロ路線で考え、高校時代の面子は粗方固まってるので矢部くんを入れる必要がないのですよ。わたしのチャートが完璧過ぎる弊害ですね。

 

 なので、情を抜きにして結論を出すと……邂逅できたこの偶然は嬉しいのですが、矢部くんはスカウトしません。

 すまんな矢部くん……。君と野球するのは、また次回……RTAじゃなくて普通にプレイしてる時にします。次回こそ一緒にプロになろうな……。

 ……。

 ………。

 …………よし。割り切りました。そういえば矢部くんと一緒にプロになった事ねぇなって思い出してモヤっと来ましたが、それを晴らすのも次回です。

 かなり、いや、ちょっとですね。ちょっとですよ?(強弁) ちょっと寂しいですが、矢部くんとはただのクラスメイトで終わりましょう。計算してなかった要素を加えたらチャートが乱れる元になりかねないんで。

 

「……いや、なんでもない。折角クラスメイトになったんだし、普通に仲良くしたかっただけなんだが……悪かった、迷惑そうだし諦めるよ」

 

 こう言って距離を置きましょう。矢部くんは確か中学から野球を始めたとか言ってましたよね? んで、万年補欠だったから高校では漫画研究部だかなんだかに入るはずだったみたいで、わたしが無理に誘わない限り野球部に入る事がないはずなんですよ。となると必然的に世界観の闇に確定で関わらないんでわたしが沼に落ちても彼は無事です。平和に暮らすんだよ、矢部くん……。

 

「ちょ、ちょっと待つでやんす!」

 

 ん?

 

「なんだかオイラ達が悪者で終わりそうな流れはやめるでやんすよ! これだとまるでオイラが嫌な奴みたいでやんす!」

 

 んん? んー……言われてみればその通りですね。フォローしとかないと、矢部くんと名前も知らない彼がクラスで浮くかもしれません。

 なんせパワプロくんは『人気者』で『モテモテ』です。クラスカーストは自然と上位に位置してきます。それを邪険にしたんじゃあ、周りの見る目が険しくなるのも必然。

 友達としては普通に良い奴な矢部くんが、嫌な目に遭いそうになるとこっちも嫌な気分になります。フォローぐらいしておくべきでしょう。

 

「気にすんなよ。ほら、俺って野球しか知らないしさ、つまんない奴なんだよな。だからまあ……その、あれだ。普通に友達になっとこうぜ。俺の知らない事とか、これから色々教えてくれよ」

「うぎぎ……そんなふうに言われると断れないでやんす……パワプロくんに言われると集団圧力が掛かるでやんすよ? でも……なんでか、嫌な感じはしないでやんす。……ごめんでやんすよ、初対面のパワプロくんに、嫌な態度取っちゃってたでやんす」

「いいって」

 

 苦笑いして手をヒラヒラ振って、適当にお茶を濁す感じにします。で、これで矢部くんとその隣の奴がクラスで浮いてたり、変なイジメとか受けないように目を光らせておきますか。

 彼らがどんな目に遭ってもわたしには関係ないんですが……ほら、アレですアレ。BADイベントがどこで起こるか分からないんで、そういう芽が出そうなら摘んでおくのが最善ですから。他意はないです。

 

「……そういや、俺お前のこと知らないんだけどさ、なんでお前は俺をパワプロって呼んでるんだ?」

 

 ふと気になったんで訊いときましょう。

 パワプロくんは確かにパワプロくんですが、本名はそれじゃありません。愛称ですよ、パワプロ。パワプロくん呼ばわりされるほど、今回の矢部くんとは親密じゃないんですけど。

 訊いてみると、矢部くんはなぜかハッとしたようです。

 

「そ、それは……なんででやんすかね……?」

 

 俺に訊くな(素)

 

「うーん……あ、そうでやんす! パワプロくんって呼び方が流行ってるからでやんすよ! ほら、【パワプロ世代】って言われるぐらい有名な上に、パワプロくん自身が有名人でやんすからね! つい呼んでしまってたでやんす。不快ならやめるでやんすが……」

「いや、不快じゃねえから気にすんなよ。お前、名前は?」

「オイラは矢部でやんす! 矢部明雄! で、こっちが……」

『――だよ力場くん』

「ふーん。矢部くんと――くんね。よし、覚えた。一年間よろしくな」

 

 よろしくでやんす、と普通に返事してくる矢部くん。

 矢鱈と遠慮のない矢部くんに違和感がありますね。今のパワプロくんはイケメンで上位カーストの有名人……メンタルが弱い矢部くんなら普通、ビビって面と向かって話すのに勇気がいる対象になるはずなんですが。

 まあフレンドリーに接せられる雰囲気がパワプロくんにあるんでしょう。パワプロくんの人徳ですよこれが。

 ともあれ矢部くんの事はもういいです。今年もちーちゃんとの仲をクラスメイトの枠の中で深めていきます。で、何気にわたしの行く高校を進学先にするように誘導して、高校だと野球部の助っ人として確保すれば、外野か一塁三塁を任せられるようになります。早速ちーちゃんに絡みに――

 

「パワプロくん! ちょっと待つでやんすよ!」

 

 えぇ?(困惑)

 なんでまた呼び止めるの?

 

 戸惑ってしまいますが、矢部くんは空気が読めないとこがあるんで、気にしないようにしましょう。

 なんでか矢部くん、必死そうな雰囲気ですし。いや、なんででしょうね。

 

「じ、実はオイラも野球部でやんす……」

「おっ、そうなのか?」

「そう、そうなんでやんすよ。ただ……オイラ、補欠なんでやんす。才能がないでやんす。だから……一度ぐらいレギュラーになりたいでやんすし、パワプロくんに教えて貰えたらラッキーかなー……って思わなくもないというか、でやんす……」

 

 語尾にやんすを付けたら誤魔化されると思うな(迫真)

 まあ……それぐらいやったらええやろ。学校にいる間だけだぞ。

 

「! ありがとうでやんす!」

「……おう」

 

 他人に教えるという行為を継続的に続けるのはわたしにとっても旨味がありますしね。超特『精神的支柱』やら『不動の四番』やら、本作から実装された『オーダーメイド』とかのコツが掴みやすくなるんで。

 この『オーダーメイド』の下位能力、特殊能力は『選定眼』でして、これがあると見ようと思った人のステータスが覗けるようになるんですよ。他ゲームで定番の『鑑定スキル』のぱわぷろ(平仮名)版ですね。超特『オーダーメイド』を掴むと他人のステを丸裸にできるんで、かなり有用です。その分取得条件がかなり厳しいので、他人を鍛えまくる必要があるんです。

 なので矢部くんの申し出は渡りに船。やらない理由はありません。ただ、矢部くんが覚醒したら面白そうですし、ちょっとだけ贔屓しても……いい、ですよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近、パワプロの事を気安く『パワプロ』呼ばわりする奴が増えてきたな」

 

 なんだお前(素)

 練習中に、急に礼里ちゃんがそんな事を言ってきました。だからなんだよとしか思わないんですが……。

 

「たしかにな。そのあだ名は最初、私達しかしていなかったというのに。これではなんの特別性もないぞ」

 

 聖ちゃん? 聖ちゃんまでどうしたんですか急に。

 

「専一。これからはそう、名前で呼ぶ。仲の良くない奴には勝手に名前で呼ばせるな」

「うむ、私もこれから名前で呼ぶぞ。専一、礼里の言うように名前呼びを勝手に許すな。プレミア感が薄れるではないか」

「お、おう……」

 

 なんなの? ホントなんなの? いやまあ分かります、ホントは分かってます。この二人が実は非攻略対象ではなかった、攻略可能な娘達なのは分かってます。なのでこれは彼女達からのアプローチなんだって、本当は分かってるんですよ。マジで。

 しかしですね……それが分かったところで、この二人を攻略する予定なんかなかったわけで……チャートに組んでない行動はどうも躊躇われます。なので今はどうしたもんかと考え中なんですが……。最初は強くあたって後な流れでいくしかないんですかね(投げ槍)

 

「霧崎さん、六道さん。センくんは今日、私と帰る予定だから」

「む……」

「………」

「邪魔、しないでね」

 

 ここで聡里ちゃんのインターセプト! 二人を牽制して威圧してます。

 特に怯んではいない二人ですが、パワプロくんの恋人である聡里ちゃんを尊重してはいるようでして。無理に割って入ったり邪魔しようとはしません。

 ほんまええ娘やな……。

 クッ……せめて、せめて聖ちゃん達から貰えるコツと、どんなイベントがあるのか事前情報さえあれば、オリチャー発動する勇気も持てるんですが……!

 流石のわたしもいきあたりばったりで踏み込む勇気はありません。礼里ちゃん達とは今の関係のままの方がベストですし。安定性的な意味で。

 

「――センくん、行こ」

 

 練習が終わると、聡里ちゃんに急かされて帰路に就きます。

 ウソです。デートの時間ですね。今日は釣り堀にでも行って、餌の虫を触るのが苦手な可愛い聡里ちゃんを拝むとしますか。

 そろそろ超特『変幻自在』のコツもくれるでしょうし、その後は経験点をくれる期間を過ごせば、晴れて聡里ちゃんの彼女任期が満了しますんで。

 まあ、その前に彼女のイベから関連して、一人の有望株な選手を引っ張って来れるんで、その前段階のイベとして聡里ちゃん家の実家に行く必要があります。聡里ちゃんの実家にある道場で合気道を教わるイベがあるんです。それのイベを踏めば……条件が満たされてイベが発生するんですよ。

 

 二人で談笑しながら歩きます。最初は不機嫌そうだった聡里ちゃんも、段々機嫌を直して自然な笑顔を浮かべるようになってくれました。可愛い。

 可愛くて強くて献身的とか最高ですよ。円満に別れる予定なんですが、やはり継続して関係を保ち続けたいです。もし目標のトロフィーをゲットできたら後日談でパワプロくんのお嫁さんになっててほしいですね……後日談だとわたし達プレイヤーには手出し不能ですし、気兼ねなく結婚しててくれたら後味もよろしいんですけど。

 あ、そろそろ聡里ちゃんと円満に彼氏彼女じゃなくなる方法も、今の内から説明しておきましょうか。簡単ですよ? まず聡里ちゃんとのデートの頻度を増やしまくって――

 

 

 

「――センくんッッッ!!」

 

 

 

「はっ?」

 

 突然、聡里ちゃんから突き飛ばされました。

 イッテェ! いきなり何するんですか聡――

 

 

 

 

 ――窓ガラスにスモークの貼られている大型車が近くに急停止している。

 ――黒スーツの大柄な男たち四人が、こちらを見ている。

 ――突き飛ばしてきた聡里ちゃんの腕を掴み、捻り上げて――ボキ、と折った――

 

「っ……逃げて!」

 

 ――逃げて? 逃げろだと? こっちが目当てなのか――逃げろ逃げるべきだ――逃げたら捕まってる聡里ちゃんは?――どうなる――

 

 ――は。考える必要なんかねぇわ。とりあえず――

 

 

【俺の女に何してやがんだテメェらァッ!】

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

「――聡里ちゃん、病院に行くぞ」

「う、うん……アレは、いったい……」

「今気にする事じゃねえよ。そんな事より早く病院だ。クソッ……アイツら聡里ちゃんの腕、折りやがって……次見掛けたらぶっ殺して――」

「やめて。そういうの、いいから」

 

 四人の男達は、明らかに戦闘訓練を積んでいるプロだった。

 それを、激怒したセンくんは、触れられもしないで一方的に叩きのめしている。けど私を取り戻すのに専念していたセンくんの隙を見て、さっきの集団は逃げていってしまった。

 センくんは私の心配ばかりしてる。嬉しいけど、悔しくもある。センくんは明らかに、私より強かった。護るべき人より弱いなんて認められない、もっと私も強くならないと……。

 

 怒りが収まらないのか、センくんは物騒な殺気を隠そうともしない。もしかしたら、次会ったら本気で殺しに掛かるんじゃないか、というぐらい迫力がある。けど、そんなセンくんは嫌だった。

 センくんは野球選手になる。世界一の選手になる人。道を誤ってほしくはなかった。

 

「聡里ちゃん、でもさ……」

「センくんは、自分の事を大事にして。……気づけてよかった。反応がもう少し遅かったら、私は……」

「………」

 

 救急車が近づいてくる。センくんは私の腕の応急処置をした後、すぐに救急車を呼んでくれていた。

 私は想像する。もしもを。もし、あの時……接近してくる車の気配に、嫌な予感を覚えずにいたら。反応が一秒でも遅れていたら。ドアを開くなり、同時に腕を伸ばしてきた白人の大男に、センくんは捕まっていただろう。

 幾らセンくんが強くても、掴まれてしまったら腕力の差で車の中に引き摺り込まれていたに違いない。そうなるとどうにもならず、攫われていた。

 

「センくんは……あの人達に心当たりはある?」

「ねえよ。あってたまるか」

 

 吐き捨てるようにセンくんは否定する。

 救急車に乗せられて、病院に急ぐ中―― 一緒に来てくれていたセンくんはずっと、無事な方の手を握ってくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




速報。聡里ちゃん、一時戦線離脱。

面白い、続きが気になると思って頂けたなら評価等よろしくお願いします。

そろそろ第二次アンケート結果に沿った遭遇が始まる、かも……?


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善人ダイジョーブ博士と最悪の。

 

【ぱわぷろ(平仮名)について語る野郎どものためのスレ66】

※紳士の社交場です、淑女の方は別スレへどうぞ

 

 

 

555:あれから聖ちゃん攻略できた奴おりゅ?

 

556:(ひじりんとレイリー攻略の)なんの成果も、得られませんでしたぁ!

 

557:不朽の名作から語り継がれる伝説の無能コメ乙。

 

558:あの古典のハゲは意外と有能だって何度言えば(ry

 

559:どうなってんの? あの娘らマジで難攻不落なんですけど。

 

560:非攻略対象なんだろ。攻略できねえって結論出たじゃん。今更なに無駄なことしてんだよ。

 

561:(情弱な)間抜けは見つかったようだな。

 

562:今話題沸騰中のRTA走者で、小学生スタートしてる猛者いるからソイツの動画見てみ。ひじりん達、攻略されてるぞ。

 

563:マジで!? やべぇちょっと見てくるわ。

 

564:いってらー。

 

565:ところでソイツってひじりん達どう攻略したの?

 

566:分からん。

 

567:は?

 

568:ひじりんを矢部くん枠にランダムで据えられて、レイリーを幼馴染にして、普通に育成してたらいつの間にか攻略してたみたい。

 

569:ん? いや、じゃあ簡単じゃん。

 

570:それが何回も同じ感じでプレイしても攻略できんのよ。マジで、なんであのRTA走者がひじりん達を攻略できたのか分からん。

 

571:この再現性の無さ……乱数次第とかいう糞仕様ですねクォレハ……。

 

572:あの走者は乱数に愛された男。

 

573:ひじりん達は乱数でしかイケない女だった……?

 

574:だから乱数頼りの糞仕様はやめろとあれほど(ry

 

575:ところでその走者って何者?

 

576:ぱわぷろ(平仮名)界のヒロイン攻略動画纏めてて、ぱわぷろ恋愛講座で先生と呼ばれてる智将だぞ。

 

577:智将?www

 

578:智将(笑)

 

579:草生やしてるけどマジで勉強になるから見てみ。次から次へとヒロインを落として彼女にして、円満に別れて次のヒロインに乗り換える達人だぞ。リアルでやったら確実に刺されるけど。ってかぱわぷろでも一回ミスってハリネズミみたいになってたな。

 

580:wwwwww

 

581:なんかワロタ。

 

582:おまけに野球センスねぇらしいけど、ガチ勢らしく普通におれらが足元にも及ばないPS持ちだしな。

 

583:ガチ勢の中だと中の上ぐらいって評価だゾ。

 

584:PSクソザコなワイ低見の見物。ところでマジでひじりん攻略できないのなんで?(マジギレ)

 

585:センセーに訊いてきたら?

 

586:報告。ちょっと前センセーにコンタクト取ってみたら回答あったぞ。

 

587:kwsk

 

588:原文コピペ『わたしも初め、乱数次第でしか落とせないのかなー? と首を傾げてたんですが、どうもそんな感じじゃなさそうです』

 

589:続き! 続きはまだ!? はよ!!

 

590:あせんな童貞。

 

591:おっ、自己紹介かな?

 

592:煽るな。平和に行こうぜ。おれらは情報共有する、ぱわぷろ(平仮名)世界を満喫する同志だろ。

 

593:ごめん。

 

594:許す。

 

595:意外と民度の高いおれらになんか草。

 

596:野球好きパワプロ好きに悪いやつなんかいないんだよ!!(迫真)

 

597:おっ、そうだな(極悪人プレイでゲス笑いしてる動画主を見ながら)

 

598:続き……いい?

 

599:オナシャス。

 

600:小刻みにレスするのもあれだから、纏めて載せるゾ。以下長文の原文コピペだ。

 

601:『本作で採用されてるシステムの一つに、プレイヤーの脳波をキャッチし、プレイヤーキャラの感情表現として処理するものがあります。多分、特に洞察力に優れている六道聖、霧崎礼里などはプレイヤーの下心を感じ取って敬遠するのかもしれませんね。聖域ヒロインと目されてきたヒロイン陣も、恐らく下心に対しては敏感に感じ取り、拒否感を懐いてしまうのかも。なのでこちらは完全に彼女達への関心を持たず、普通に接していきながら、彼女達の方から好かれるようにしなければならない……かも。結果ありきで検証はしてませんので、わたし個人の主観的な分析です。間違っている可能性も高いので、あんまりあてにしないでくださいね』

 

602:……は?

 

603:ちなみにこの手の分析でセンセーが間違ってた事はない模様。

 

604:は?(威圧)

 

605:いや……これ無理だろ(素)

 

606:だな。おれら下心満載で声掛けしまくってるし……。下心抜きで接するとか無理だわ……。

 

607:だが待って欲しい。それだと聖域以外は尻軽扱いされるのでは……?

 

608:まあ……チョロい娘ばっかだし……いやでもよく分からんな……。

 

609:仕様の関係上尻軽扱いされるとか許されざるよ(木場静火LOVE勢)

 

610:そこ、おれも気になってセンセーに訊いたぜ。

 

611:ほーん。で?

 

612:男も女も普通は下心ありきなんで、多少の下心ぐらい許容できる娘ばかりなんだと。聖域ヒロインは過剰反応するぐらいで。

 

613:あー……なんか納得したわ。

 

614:伊達にセンセーとは言われてねぇな。

 

615:野球に本気であればあるほど、恋愛にうつつを抜かしてらんねえってなるんか。

 

616:分からんでもない。オリンピック出るようなアスリートはそんな感じって聞いたことある。

 

617:おいwww なんかセンセーの動画オモロイことなってるぞwww

 

618:まぁたガバですか……(チャート)壊れるなぁ。

 

619:乱数(呪い)に愛された男(ガチ)

 

620:なんだこの展開www ふざけんな(声だけ迫真)

 

621:さとりん可哀想……。

 

622:おれちょっとオオガミ・ジャジメント両方ぶっ潰すわ(氷上聡里LOVEガチ勢)

 

623:おい、その先は地獄(パワポケ時空)だぞ。

 

624:これからの展開に期待。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 生の感情丸出しで戦うなどこれでは人に品性を求めるなど絶望的なRTA再開します(早口)

 

 えー……前回はちょっと予想外の事態が発生したせいで、危うく野球ゲームが武侠バトル物にシフトするところでした。

 原因を調査すると、わたしの行動やそれに関連する人達との関係等々、特に問題は見られません。

 わたしのチャートは経験則、つまりはこれまでの試走で安全だと確定したものだけで組まれています。なので前回、聡里の腕を折りやがった糞――失礼、裏社会の人はわたしの失敗により襲来した訳ではない事が確定しています。

 前回のBADイベントは、恒例のクソ乱数大戦犯パイセンが引き起こしたランダムイベである事が明らか。いわば天災の類いですね。諦めて泣き寝入りするしかありません。深入りすれば逆に沼にハマってしまいますので。

 

 にしても、流石聡里ちゃんでした。何故かこの手のBADイベントは、プレイヤーがどれほどの超人ステを持っていても、事前に察知できない謎仕様なんですよ……。或いは仕様ではなくオーバーテクノロジーか超能力による、対象に気配を気取られなくするオカルトでも働いてるのかもしれません。なのでそういうのを丸ごと無視して、ほぼ確実に気付いてくれる聡里ちゃんの存在は助かります。

 ですがまあ、まだまだ弱弱な聡里ちゃん。高校時代に入るとわたしより強くなる天才少女ですが、今はまだ危険探知機的な役割しか果たせません。全盛期の聡里ちゃんなら奇襲にも問題なく対応し、鎧袖一触に蹴散らせる程度の相手にも負傷してしまいます。んで、聡里ちゃんが負傷してしまったせいで、前回はガラにもなくマジギレして荒ぶってしまい、お見苦しいところをみせてしまいました。

 

 申し訳ありませんが、バトルシーンの部分はカットしております。本動画はバトル物ではないので、そこのところはあしからず。

 

 聡里ちゃんの事は暴漢に襲われ腕が折られたと皆に説明しています。包帯でグルグル巻きにして痛々しいです――闇討ちする? しちゃう? と物騒な報復が脳裏を過りますが自重しましょう。個人でどうこうなる相手じゃない。

 前回のアレの正体は大まかに察しが付いています。というのもこの時期、プロペラ団を吸収して巨大化した『オオガミ』と、日本支部の『ジャジメント』の抗争が激化しておりましてね。優秀な兵隊が一人でも多く必要になってきているようなんですよ。本作では本来、猪狩守くんあたりを狙うんですが、その猪狩守くんには鉄壁のガードがあるんでその弟、猪狩進くんが捕獲されるようになっていたりするんです。

 

 で、わたしはリトルで無双してましてね。猪狩守くん以上の注目を集めてるんで、こっちを狙ってもおかしくはないんですが……それを防ぐためにみずきちゃんや木村美香ちゃんと親しくなろうとしていました。みずきちゃんとは高校で邂逅する予定で、中学時代の今は美香ちゃんが本命だったんですが出会う順番が逆転しているのが現在。しかし別段支障が出るようなものでもなく、やはりみずきちゃんのジッジやパッパのガードがわたしにはついてるんで、狙うなら猪狩進くんになるのが順当です。

 

 なのにわたしの所に来たのは……いや、マジでなんでなのでしょう。

 繰り返し言いましょう。パワプロくんは一般人ですが、既にみずきちゃんのパッパとジッジが手を回し、密かなガードを置いてるんでリスクを犯さず襲ってこないはず。ちゃんとそのガードがいる事も確認しています。

 こちとらまだ中坊、知名度はありますがまだガキです。将来性はあるにしろ橘財閥を敵に回してでも手出しする価値は、客観的に見るとまだありません。オオガミとジャジメントの抗争の中で、敵を増やすとか馬鹿のする事でしょうからね。……それともわたしのガードが少なかったから、かなり狙い目だと思われたんでしょうか? ……これは一刻も早く木村美香ちゃんを攻略して、さらなるガードの増員を狙うしか対処法は思いつかないです。

 

 とはいえ急いては事を仕損じるとも言います。こういう時、焦ってはいけません。慌てず騒がず、落ち着いて行動しましょう。

 

 聡里ちゃんはケガしてるんで、今は一緒に行動しません。嫌な流れが来てるんで、これを断ち切る必要があるんですが、怪我人を巻き込んだらケガが深刻化して再起不能になることも普通にあるからですね。なので聡里ちゃんは親御さんの送迎で登下校してもらってます。

 そういう意味もあり、迂闊な単独行動も避けないといけません。二人とか三人だとまだ怖いんで、最低四人で纏まって行動しましょう。みずきちゃんとあおいちゃん、聖ちゃんと礼里ちゃんの四人を連れ、わたしを含めた五人で動けば当座の危機は凌げるはず。状況が落ち着くのを待ちましょう。裏社会の抗争もそんなに長くは続かないはずなんで。

 

「美少女()()も侍らせて帰るとか、キャップ、男子から妬まれちゃうんじゃないのー?」

 

 ニシシ、と擬音が聞こえてきそうな小悪魔な笑顔で、みずきちゃんが言って来ます。んなわけねぇだろ、とは言えません。けど周りの評価より今は身の安全の確保が大事です。優先順位を間違えたらいけませんよ。

 ですが何か返答しなけりゃならんのですが、打算は言えないんですよね。みずきちゃんがいれば、橘財閥のガード要員も本気にならざるをえないんで、かなり安全になるんですが……うっかりその事を口に出すと、みずきちゃんからの評価がガタ落ちします。

 

「ちょっと、みずきちゃん。パワプロくんはボクらのこと心配して家まで送ってくれるって言うんだから、そういう事言わないの。パワプロくん、目の前で氷上さんがケガしたの見てるんだから……」

「うっ……ご、ごめんキャップ。流石に不謹慎だったわ」

「別にいいって。安心しろよ、俺がいる限りあおいちゃん達に手出しはさせねえから」

 

 なんて返そうかと一瞬悩むと、あおいちゃんが擁護してくれました。

 女神か……女神でしたわ(再確認)

 

 って、ん? ……三人?

 あるぇ? 帰る前に校門に集合を掛けてて、さっきまでいた娘がいなくなってる……?

 聡里ちゃんがケガした経緯を改めて聞きたいとか言われて呼び出されてた間に……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……なあ、礼里ちゃんは?」

 

 恐る恐る訊くと、聖ちゃんが無表情で答えてくれました。

 

「礼里は……先に帰ったぞ。止めても聞かなかったのだ」

「……はぁ? なんでだ」

 

 いやマジでなんで? 意味が分からん……。危機意識ウス過ぎか?

 

「理由を訊いても要領を得なかったな。なんでも……」

「嫌な予感がする、って。ボクも止めたんだよ? でも先に行かないと、パワプロくんが危ない気がするって言うんだ」

「あ、私も止めた。ホントよ? けど幾ら言っても無視されちゃった」

「………」

 

 えぇ……?(困惑) 待ってくださいよ。

 礼里ちゃんは、はっきり言うと超能力者の素養を持つ娘です。パワプロ時空のみならそこまででもないんですが、パワポケ要素も融合してる本作だと、そういう素養は礼里ちゃんに限らず強調される傾向にあるんですよね。

 なので、その手の嫌な予感とかいうのでも、割と正鵠を射てるケースは多いんですよ。超特『読心術』こそゲノム大付属中学に入ってないんで持ってませんが、その下位特を礼里ちゃんは持ってるとは以前も言いましたやね? 要するに生まれた時から、天然素材のままオカルトの領域に片足を突っ込んでるのが本作の礼里ちゃんなんです。その礼里ちゃんが()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()と言った? で、先にどっか行った?

 

 ……。

 ………。

 …………やばくね?(素)

 

「聖。礼里の奴はどっちに行った?」

「せ、専一……?」

「教えろ。早く追わねえとマズイ気がする」

 

 おっと、ちゃん付け忘れてた。

 ちゃん付けで通してきたんで聖ちゃんを戸惑わせてしまいましたが……些事です。

 あっち、と礼里ちゃんの家がある方角を指差す聖ちゃんに頷き、急いで走りましょう。単独行動許すとかどうなってんの?(憤怒)

 裏社会の事なんか知らないんで、聖ちゃん達の危機意識が薄いのは仕方ないですが……わたしの本気が伝わってなかったのはショッキングです。わたしが走り出すと慌てて追い掛けて来る三人娘達にも意識を向けつつ、礼里ちゃんの通学路を辿っていきましょう。

 

 礼里ちゃんの思考回路、性格などは把握しています。何年一緒にいたと思ってるんですか。完全に理解してますよ……礼里ちゃんは意外と尽くす女です。献身的です。ぶっちゃけ自分の身も顧みないで戦いに挑む事もあります。

 本来の礼里ちゃんは、パワプロくんと幼馴染にならないと、ゲノム大付属の中学に入学しそこで怪しい実験をされてしまいます。そこで身体能力を強化されて超能力が覚醒、超特『読心術』に開眼するわけですが、住田とかいうフランケンシュタインっぽい大男を弟分にしてるわけです。彼と常に行動を共にして、感情が無くなってるか薄くなってる住田くんを元に戻そうと模索し続けてる感じなんですよ。

 で、闇野とかいう奴のとこで色々あって、パワプロくんがラスボス化し、住田くんの魂をアイテム化してゲットすると――礼里ちゃんは危険も顧みずに、戦いを挑もうとしているラストを迎えます。本来のこのルートからも分かるはずです、礼里ちゃんが如何に勇敢で献身的なのかが。

 

 多分礼里ちゃんは、虫の知らせか何かでパワプロくんに危険が迫っているのを感じ取ったんでしょう。どういう理屈かとかそんなのは説明できません。超能力とかいうオカルトに科学的な説明とか無意味ですよ。

 強いて言えば直感が働いた、という一言で通ってしまいます。そういうものなんです。礼里ちゃんは恐らく、誰か一人有望な人員を確保したら、オオガミだかジャジメントだかが一先ずは離れていく事をオカルトパワーで感じてるのだと思います。正解だよ畜生!

 ――あっ、それをわたしから感じ取ったのかも? ってことはわたしのせいなのこれ!? 礼里ちゃん、パワプロくんの代わりになろうとしてやがんな。人身御供になろうとしてやがるな!? だぁれがそんな真似許したんじゃ勝手な事してるんじゃねぇぞ!?

 

「礼里ぃ! どこだ、いたら返事をしろ!」

 

 話に聞く限り、礼里ちゃんが勝手にいなくなった時間と照らし合わせると、そろそろ追いついてないとおかしい。なのに見つからない、追いつかない。

 ヤバイ。今更ながら焦ってきました。

 わたしの様子がおかしいと気づいたらしい三人娘も、戸惑いながらもわたしに倣い大声で礼里ちゃんへ呼び掛け始めてくれました。橘財閥のガード要員はどうしてるんですかね、仕事しろよ頼むから。無能とか勘弁してください。

 いません。

 探しても見つからない。

 礼里ちゃんの家に着きました。インターホンを押して親御さんが出てくると礼里ちゃんが帰ってきてるか訊きましょう。……帰ってない?

 親御さん、なんだか様子が変ですね……いや、今は構ってる暇はない。後回しです。とにかく行動は迅速に、です。

 

「ね、ねえ……もしかして、これって……ヤバイ感じ?」

「ヤバイな。みずきちゃん、これ洒落じゃ済まねえぞ」

「………」

 

 空気を肌で感じて、嫌な予感が身近に迫り青い顔してるみずきちゃん達に言いながら電話します。

 ……。

 ………。

『現在お掛けになった電話番号は――』………。

 礼里ちゃん、電話に出ねえ。警察に速攻電話します。

 事情を説明して捜索依頼しますが、親でもねえわたしからやったんじゃ意味ないんで、わたしが電話した後に親御さんたちにも電話をするように頼みましょう。

 

「悪い、あおい達は帰ってくれ。俺と聖だけで探す」

「え……で、でも……」

「ボ、ボクも手伝うよ……? なんだか、危ないんだよね……?」

「危ないから帰れって言ってるんだ。はっきり言って二人を守りながら探して回る余裕はねえ。聖にも帰って欲しいんだけどさ……あおいはみずきの家にでも泊まってくれ。今日だけでいい。聖は俺といた方が安全だ」

「き、キャップ……? どういうこと? 私達にもできる事は――」

「ねぇよ。頼むから余計な心配させてくれんな」

 

 行くぞ、と聖――ちゃんの手を引っ張って走り出します。わたし一人だと奇襲に謎パワーで気づけないかもですが、聖ちゃんがいたら謎パワーが分散して気付けるようになるかもしれません。危険に巻き込むのは不本意ですが、みずきちゃんとは違い、お寺という家の防御力皆無なとこに置いとくわけにもいかないでしょう。

 聖ちゃんは顔面蒼白ですが、気丈です。気力を振り絞って付いてきてくれてます。聖ちゃんもみずきちゃんとこに泊まって貰うのも手ではありますが、聖ちゃんが大人しく言うことを聞くわけない。わたしが一人で走り回ってたらそれを追って来る。そういう娘です、なので最初から一緒にいた方が良い。

 

 聡里ちゃんに続いて礼里ちゃんとか……ふざけんなよ……?

 もし礼里ちゃんになんかあったらお前……再走覚悟で色々覚悟完了しちゃいますからね?

 

 ――結局、深夜0時まで探しても、礼里ちゃんはどこにもいませんでした。

 もちろん、家にも。

 

 すみません、ちょっともうこれ以上は無駄なんで――

 一旦帰って落ち着き考えを纏めましょう。

 礼里ちゃんは確定で捕まってます。もうわたしや聖ちゃんが狙われる事はありません。これはそういうイベです。

 ……しゃあない、かな? 聖ちゃんを帰らせて……親御さんに聖ちゃんを連れ回した事を誠心誠意謝り、わたしも帰ります。んで、パッパとママンに謝り……覚悟、決めますかね。

 ホントはやりたくなかったんですが……オオガミとかジャジメントの拠点は分かるんで虱潰しに襲撃して、礼里ちゃんを救出します。

 今日は体力使ってるんでそれを回復させて、作戦実行は明日です。というわけで今回はここまで、一度ログアウトしてリアルの方でじっくり作戦を練り、起きたら作戦を開始します。

 情報集めなきゃ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――告白すると。私は、甘く見ていた。

 危険。専一が危ないという、予感。()()()()()()()()()()()そんな気がして、いてもたってもいられなくなった。

 専一の心を感じたから、というのもある。私が――いや、専一以外の誰かが()()()、危険は去るという確信を言語化できない領域で得ていた。

 理論的ではない、あやふやな感覚だったが私はそれに従っていて――これも確信だったが、専一が必ずなんとかしてくれるという予感もしていたんだ。

 だが、甘かった。

 私の感じた『危険』のレベルが、私の想像を遥かに超えたものだったのだ。

 

 

 

「科学ノ発展ニ犠牲ハ付キ物デース」

 

 

 

 何者かに連れ去られ、私は意識を取り戻すと、白衣を纏った丸眼鏡の老人に見下されていた。

 手術台に寝かされている。手足を台に固定されている。

 私を見下ろす――無数の視線。これは、駄目だ。何もかもが終わる。不思議とこの白衣の老人から悪意は感じなかったが、ここにはいない誰かの目線を感じる。悪意と愉悦に塗れたものを。

 

 ――デスガ、コレハアンマリデス。

 

 辿々しい日本語で、老人が呟く。――肉声じゃない。直接、頭の中に声がする……? 思念が、嘗てなく鮮明に感じられた。

 老人は、それを理解しているようだ。まるで私に語り掛けているような思念がある。

 

 ――科学ノ発展ニ犠牲ハ付キ物……ソレハ間違イアリマセン。デスガ本人ノ同意モナク無理矢理実験スルナド……。

 ――オ嬢サン。貴女ノ脳波ヲ強化シテイマス。一時的ニデスガ貴女ノ異能ノ才能ガ覚醒シテイルデショウ。ヨク聞キナサイ。

 ――コレカラ実験シマスガ、安全マージンヲ取ッタ物デス。ホボ確実ニ成功スルハズデス。今ハ見ラレテイルノデヤルシカアリマセン。

 ――デスガ隙ヲ見テ手術ヲ終ワラセ、貴女ヲ逃ガス用意ガアリマース。

 ――次、意識ガ戻ッタラスグニ逃ゲナサイ。デナイト貴女ハ人格ヲ破壊サレ兵隊ニサレテシマイマスヨ。分カリマシタネ?

 

 メスが、私の額に迫る。ちくりと痛みが走り、私は意識を失って――ふと気がつくと、私は走っていた。

 いつの間にか見覚えのある、元の街を走っていた。

 夜、家に帰る。だが家に帰ると、両親は私を見るなり妙な――

 

 

 

 ――私を売った?

 

 

 

 心が克明に感じられ、意識が暗転する。

 気がつくと、誰かの手を引いたまま走っていた。

 最初から誰かを引っ張っていたようだ。息が乱れていて、私が連れている人は死にそうな息遣いだったが構う余裕はない。

 私は、気がつくと――もう、心の拠り所になる奴の家に、忍びこんでいた。

 心細い。怖い。嫌だ。なんなんだ、何があったんだ。怖い、寒い。私は汗を掻いてる自分を忘れ、眠ってるソイツに縋りついた。

 

 売った? 一生遊んで暮らせる金? なんだそれは、そんなもので私は。偽善だった、こんな事があっていいはずがない。

 ああ――助けて。専一……。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、作戦練ってきました。再開しますよ――ぉぉおおお!?

 

 なんで礼里ちゃんがわたしのベッドの横で手を握り締めて寝てるの!?

 って床で死んだように気絶してるの、明らかに体力がなくて無理に走り回らされた感じの――ダイジョーブ博士じゃないですかヤダー!?

 

 な に が あ っ た し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第二次アンケートがパワプロくん対象とは一言も言ってなかったですよね……結果次第で礼里ちゃん離脱し、高校時代に敵チームで登場する事になってました。

ダイジョーブ博士は無理矢理協力させられてた人。外道ですが邪悪ではない人が引っ張ってこられました。礼里ちゃんは全ステが原作仕様にランクアップし、男女の性差を超えてしまいました。それと、超特も…。

面白い、続きが気になると思って頂けたなら評価等よろしくお願いします。


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トロフィーとエフェクト現象について

お待たせしました。諸事情で筆を取る暇もなかったので何日も日を跨いでしまってました。申し訳ありません。それと、前話の題を少し変えました。
そろそろ皆さんも本作を忘れてる頃合いなので初投稿です。


 

 

 

 

「――話は分かった」

 

 専一が起きたのを感じると、私は背筋が凍りつくような恐怖を覚えた。

 半ば以上錯乱していたとはいえ、私のした事は違法行為の住居侵入だ。しかも素性の定かでない老人まで連れて来てしまっている。

 親しき仲にも礼儀あり。怪しい老人を連れて来てしまった時点で、どれだけ親しくても拒否感を懐かれるのが自然だろう。

 それが、怖い。このまま眠っていて欲しいとすら微かに思った。

 人の心が今まで以上にハッキリと感じ取れてしまっている。だからもし専一から少しでも拒まれてしまったら、私はもう耐えられない。

 専一は売られてしまった私を支える、かけがえのない精神的な支柱で――その柱が折れてしまったら、私はきっと壊れてしまうだろう。

 

 だが、その恐怖は杞憂だった。起きるなり私を見た専一は、驚きこそしていたが負の感情をまるで懐いていなかったのだ。

 それどころか私を心の底から心配してくれていて、暖かい慈しみを感じる。心底から私を大事に想ってくれているのが伝わってくる。――そうだ。専一はこういう奴だって分かっていたはずだ。だからというわけではないが、私はコイツを……好きになった。心の底から信頼できていたんだ。

 私の身に何があったのかなど、冷静に考えると話すべきじゃない。だが私は堪えられなかった。理解や想像を超えて襲い掛かってきた全てを、私一人で抱えてなどいられなかった。

 だから私は専一に昨日何があったのか、包み隠さず話してしまう。

 荒唐無稽だろう、到底信じられないはず。しかし専一は否定する素振りも、その感情もなく信じてくれた。()()()()()()()()()()()()()()()()、と無条件に信じてくれた。

 それが、どれだけ嬉しかったか……どれほど救われたのか、専一には分からないだろう。昔からとても強引で、『俺様』で、私達を引っ張って行く力強さを持っていたコイツは、どれだけ濃い闇も祓う光のような男なのだから。

 

「あの親御さんがね……訳の分からん連中に礼里ちゃんを売った、か……」

 

 悩ましげに呟く専一は、懐疑的というよりも半ば確信しているようだ。私もその心を感じて、冷静さを取り戻す。

 専一は言葉にはしなかったが、私の父と母の姿を思い浮かべていた。のほほんとしていて、優しく微笑む両親の姿を。

 ――ああ。そうだった。あの人達は――私を、大事にしてくれていた。

 どうして信じられなかったのだろう。私を売ったから? ……売るような人達じゃないと、私が一番知っているはずなのに。

 思えば、私は動揺し過ぎていた。だが今になって思い返してみると、様子がおかしいと気づける。両親はどこか心ここに在らずといった様子だったのだ。

 

「俺には信じられねえな。その……超能力だっけか。礼里ちゃんは人の心を読めるようになったんだって?」

「……ああ。正確に、ではないが……大まかに何を考えているのかが、言語としてではなく感覚として分かる。博士に手術された直後はもっと鮮明だったが今はそこまででもない」

「オカルトじゃねえか。なら俺としちゃ、あの二人もおかしくされてるんじゃねえのって説を推すね。礼里ちゃん、なんか心当たりあるか?」

「心当たり……? そう、だな。なんとなく……カメラと、宝石のようなヴィジョンが視えた気が……」

「……宝石?」

 

 ――ソウルジェイル……闇野か? 闇野がジャジメントにいるのかよ?

 

 専一の思念が流れ込んでくる。私は顔を顰めた。例え専一が相手でも、好ましい感覚ではない。このままの状態だと、人の多い所に行けば頭が割れてしまいそうだ。

 私は強くこめかみを揉み、なんとか得体の知れない力を抑制する。理論だなんだと細かいことは分からずとも、感覚的に力のON-OFFが可能な気がした。

 強く抑え込む。すると思念は本当に微弱に感じられる程度にまで収まった。

 これでいい。例え相手が誰であっても、無思慮に人の心に踏み込むのは駄目だ。人としての領分を逸脱してしまう。だが、こうして抑え込む前に聞こえてしまった声ならぬ声が、どうにも私には気に掛かって仕方なかった。

 

「専一……ソウルジェイルとはなんだ? 闇野というのは……」

「あ? あー……声に出しちゃいなかったんだが……聞こえてたんだな。気にするな、って言っても無理があるか……でも悪い、言えねえ」

「そう、か……」

「……あのさ、礼里ちゃん。暫く親御さん達はあのままだ。心を失くしたまま今までのルーチンで過ごしてく。だけど心配しなくていい、死にゃあしねえ。五年もすりゃ俺がなんとかしてやれっから」

 

 何を根拠に、そう言えるのか。問い掛けようとして、やめる。

 五年。その長過ぎる時間の隔たりに、気力が萎えてしまったのだ。

 冷静な部分の自分が、専一が何かを。――まるで都市伝説のようにあやふやな――何かを知っている事を確信する。

 なぜ、という疑問が頭の片隅で鎮座するのを気に掛ける余裕はない。私は乾いてしまいそうな心でポツリと呟いた。

 

「五年……五年も、父さん達はあのままなのか……」

「……礼里ちゃんには悪いけどな」

「……私は……あんな事になってる二人と、過ごせる気がしない。なんとか、できるんだな?」

「信じろ。俺はウソが大っ嫌いだからな。五年だ、五年以内に絶対、必ずなんとかする」

「……分かった。信じよう。……それまで、私はこの家にいる」

「ん?」

「正確にはお前の所にいる。……怖いんだ。私を、一人にするな。……ダメ、か?」

 

 本当は今すぐにでも両親をなんとかしたい。だがそれは無理なのだろう。どれだけ抑え込んでも微弱な思念は感じる、専一はウソを言っていない。それにこんな力が無くても、専一がウソを吐かない事ぐらい知っていた。

 不安だった。この力もそうだが、何より……専一がいないと、()()だった。説明できない孤独感と、心細さで……軋んでしまう。

 

 専一は戸惑っていたが、やがて頷いてくれる。受け入れて、くれた。

 

「ダメじゃねえよ。幾らでも頼れ、幼馴染だろ?」

「ああ……ああっ」

「俺だけならともかく、聖ちゃんもいるしな」

「そうだな……だが……私は欲張りで、諦めが悪い。だから……()()()()()()は、もう嫌だ」

「ん?」

 

 私はベッドに腰掛けている専一の隣にいる。距離を詰めて男の顔を両手で固定した。

 そしてそのまま、接吻する。口に感じる感触に、専一が目を見開いて。私は真っ直ぐに専一を見た。

 

「氷上がいても、関係ない。私はお前についていく。どこまでも……だから、専一。私の全部を、受け止めてくれ」

「あっ、ああ……」

 

 自分でも、自分の身体能力が上がっているのが分かる。

 今なら押し倒せる。その確信が体を昂ぶらせた。何もかもを与えたい、捧げたい、そんな衝動。私は専一の体に抱きつき、そして――

 

 

 

「ウ、ウゥン……ハッ、ココハ? ココハイッタイ何処ナノデショウ? オヤ、コレハオ嬢サン……オゥ、しょっきんぐがーる……! オ邪魔虫ハ馬ニ蹴ラレテ死ンデシマイマース……マダ寝テオキマショウ」

 

 

 

「――ぅぅううおおぉぉぉ!? 離れろ礼里ちゃん、こういうのは勢いでやっちゃダメだッ! 後悔しないでもズルズル行っちまうだろ!」

「チッ……」

 

 第三者の声で我に返った専一が私を無理矢理――しかしやんわりと押しのけてくる。私はそれに逆らわなかった。

 流石に、見られながらは無理だ。

 私はじろりと寝たふりをする老人を見た。老人は冷や汗を浮かべている。

 冷ややかな目で老人を見ていると、やがて観念したように床で転がされていた老人が体を起こした。固い床で寝ていたのは老体には堪えたようで、腰を摩りながら視線を向けてくる。

 

「――で。アンタ、誰だ」

 

 気を取り直して、私から少し距離を離す事もせず、専一は寧ろ私の肩へ腕を回して密着してきた。

 切り替えが早い。下心だのなんだのは皆無だった。純粋に老人――博士を警戒して、私を不安にさせないようにするために触れてきたのだと分かる。

 腰は微妙に浮いていて、臨戦態勢だ。専一が物騒な目を向けるのに、博士は気不味げに頬を掻いた。

 

「……言イニクイノデスガ、マズココハ何処ナノデショウカ? 無理ナ運動ヲシテイタセイカ、此処ニ来ルマデノ記憶ガ不確カナノデース……」

「ここは俺ん家だ。で……礼里ちゃん。コイツ……っていうのは失礼だな。この爺さんは誰で、なんで俺の家に連れてきた?」

「私も詳しく覚えていない。捕まって、何かをされて……気がつけば夜の街を走っていたからな。ただ博士が私を逃してくれたのは覚えている。恩人……なのだろう。連れてきたのは無意識だった、私にも理由が説明できない」

「恩人? ……微妙だな。礼里ちゃんを攫ったクソ共の組織にいた爺さんを、信用していいのか怪しむ俺がいるし、礼里ちゃんを逃してくれたって事に恩を感じてる俺もいる。……どっちの俺で行くべきだと思う?」

「信じていい。私が保障する。博士は確かに怪しいが……最後の一線を越えてはいない、気がする」

「分かった。じゃ、信じる」

 

 専一は頷き、それから時計を見た。朝練にはもう間に合わねえな、と他人事のように呟いて、そして私に視線を定めた。

 

「礼里ちゃん、下の階に行って父さんと母さんに挨拶して来いよ」

「……今からか?」

「おう。いきなり俺ん家に来て泊まってましたとか、割と洒落になんねえしな……適切な説明、頼むぞ」

「分かった」

「変な事は言うなよ? 絶対だからな? フリじゃねえからな!」

「分かっている。そんな不義理な真似はしない」

 

 専一は露骨に私を遠ざけようとしている。この博士と二人で話したいからだろう。

 私もここに留まりたかったが、専一が私のために言っているのだから無理に我を通す気にはなれない。大人しく言う通りにする事にした。

 部屋から出ていく。何を話したかについては、後で訊けばいいだろう。

 廊下に出ると、唇を撫でる。若干名残惜しい気がしたが……。

 

「――押せば意外となんとかなりそうだな」

 

 こんな時なのに、場違いにもそんな事を思ってしまう自分は薄情なのだろうか。

 依存してしまいそうになるほど頼りになる男へ、女の本能が疼いているのだろう。その庇護下に置かれたいと、情けない事に私は渇望してしまっている。

 弱いな、嫌になるほど。だが……専一に寄り掛かる自分を想像すると、それがとても甘美な理想に視えてきてしまって――私は頭を左右に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――恩人? ……微妙だな。礼里ちゃんを攫ったクソ共の組織にいた爺さんを、信用していいのか怪しむ俺がいるし、礼里ちゃんを逃してくれたって事に恩を感じてる俺もいる。……どっちの俺で行くべきだと思う?(キリッ)――

 

 だっておwww こんなん草に草生やしてまうわwww

 組織って。組織って! 幾らパワプロくんが中2とはいえ、厨二なムーブは背中が痒くなるやろがい!

 ぱわぷろ世界にパワポケ要素があって、厨二的なムーブを大真面目に行なえるとはいえですよ、真顔で言うのはちょっと無理っす!

 

 ――だなんてふざけた事は思いません。

 

 少し現実逃避したかっただけです。

 危うく礼里ちゃんに逆○されるとこでしたが、満更でもなかった自分に喝を入れましょう。紳士たるものjkになるまで手出しはしませんよ。

 え? jkもダメだろ、ですか? パワプロくんも同世代だから問題ありませんよ(強弁) 大体お忘れかもしれませんが本作は18禁です。ぶっちゃけ個人の信条に反しないなら何をシても問題ないのですよ。

 とはいえ礼里ちゃんをそういう目で見るのはちょっと戸惑うんですがね。ってか聡里ちゃんいるのにそんな不誠実な真似はいかんでしょ(真面目) 付き合ってる娘がいる内はその娘の事しか目に入れないのがポリシーです。

 

 閑話休題といきます。本題に入りますよ。

 

 わたしの前には今、悪名高き彼のダイジョーブ博士がいます。

 ダイジョーブ博士に関して、今更説明の必要はないはず。ですが一応は簡単に説明しておきましょうか。

 一言で言えば、彼はマッドサイエンティストです。自称、スポーツ医学の権威だとかなんとか。過去作でのダイジョーブ博士に遭遇すると、病気治療、やる気向上、疲労回復、能力強化などの選択肢から、好きなものを選んで実行できます。しかしそれは確定で成功するものではありません。能力強化に成功する確率は僅か30%と低く、失敗する事の方が遥かに多い。結果、手術に失敗すると各能力が大幅にダウンします。成功したら線対称的に能力が上がるのですが、賭けの要素が強いため堅実な育成を望むなら関わらないのが大吉です――が、今回はそうも言っていられません。既にガッツリ関わってしまってますので。

 

 本作のダイジョーブ博士は、プレイヤーが高校時代に入るとフリーになっているのですが、プレイヤーの中学時代ではパワポケ要素であるジャジメントに捕まっており、無理矢理協力させられている被害者枠の立場にいるのです。

 プレイヤーの中学時代では、その地元に半々の確率でジャジメントの日本支部があって、日本の掌握に勤しむオオガミと抗争に突入してしまいます。プレイヤーが関与しない限り確定でオオガミが抗争に勝利するので、敗北したジャジメントという組織のゴタゴタに紛れて雲隠れし、離脱するのに成功するわけですね。――ちなみにパワポケ世界に入りたいプレイヤーの大多数は中学時代からスタートするようです。ジャジメントとオオガミの抗争にわざと巻き込まれ、超能力者なりサイボーグなりに自分から転じて、能力を一気に引き上げる事でプロへの道を邁進するムーブをやるのだとか。

 

 わたしはやりませんが、効率的ではあるのでしょう。パワポケ界から抜け出すのが難儀で、リスキー過ぎる点が多々ある事に目を瞑れば。

 

 で、ダイジョーブ博士は誤解されがちですが、外道ではあっても邪悪ではありません。奇をてらった手段でプレイヤーを誘拐したりなんだりをすることはあっても、手術自体は任意で行なってくれます。余計なお世話だ! とでも言えば記憶を消して帰らせてくれるんですよね。

 科学の発展のためには犠牲を厭いませんが、あくまで同意を得られなければ素直に解放してくれますし、手術する事に同意すると言っても念入りにリスクを説明し、何度も確認を取ってくれる親切っぷりです。脅迫などをして無理に同意させる事もない。なので最後の一線を越えていない、という礼里ちゃんの評は間違っていない事になるのですよ。おおらかな心で見れば。

 

 ……前々回ぐらいの動画を、ブチ転がすぞオオガミぃ! という題でやってましたが、犯人はジャジメントでした。

 題的にジャジメントぉ! よりオオガミぃ! の方が語呂が良かったので、ついオオガミに冤罪を擦り付けてしまい申し訳ありませんでした(棒読み)

 

 というわけで、ダイジョーブ博士から話を聞きましょう。

 どうやら彼はこれを機にジャジメントから逃げ出すつもりのようです。礼里ちゃんという、同意もない少女を無理矢理オペらされた事でほとほと愛想が尽きて、良心の呵責もあって雲隠れするつもりのようですね。

 一応、彼からジャジメントやオオガミなどの概要を聞いておきましょう。今のパワプロくんが知ってるのは不自然なんで、ダイジョーブ博士から聞いたというプロセスを挟む必要があります。礼里ちゃん相手にはボロを出してしまいましたが、どのみち『読心術』を持ってる礼里ちゃん相手にはボロを出さなくても不可抗力的に、ある程度は露見してしまう事になるんで気にしない方向でいましょう。良い娘なんで訊かないでと言えば引き下がってくれるはず。

 

 ――ふむふむふーむふむ。なるほど、把握。

 

 礼里ちゃんに施したオペは単純な身体強化と、秘めていたESP能力の才能を開花させた程度のものですか。オペ終了直後からの記憶が曖昧なのは、強すぎる超能力が脳を圧迫していたから、と。

 簡単に逃げられたのは、追っ手の思念を一年戦争末期のアムロばりに感じ取り、追跡を躱すのが容易だったから。少し時間を置いた今は、超能力に脳が追いつき処理が可能となって、ON-OFFが簡単になってるはず――ですか。

 なるほどなるほど……。

 

 これ、担当がダイジョーブ博士じゃなかったらヤバかったんじゃ?(素)

 

 ジャジメントは超能力を開発してます。古典ラノベとある魔術の禁書目録の学園都市ばりに真っ黒な研究もしてますね。成果はさておき。例えが分かり辛い? ネットで検索したら出てきます。面白いので一読の価値ありです(ステマ) んで、超能力開発の科学者はそれに伴って相応数が存在してるんで、下手な科学者が担当にならなかったのは不幸中の幸いとしか言えませんね。

 ガチでダイジョーブ博士、礼里ちゃんの恩人説がわたしの中で急浮上してきてます。確定で成功する強化手術できるなら、歴代のパワプロくんにもやってやれよとか思いますが……礼里ちゃんの場合、同意がなかったから科学の発展のための冒険をする気がなかったのだと思います。確立されてる既存の技術だけを使えば、そら(失敗する事は)そう(滅多にないでしょう)よ。

 ダイジョーブ博士がこれから一人で逃げられるのか疑問ですが、なんとかするための考えはあるようです。ならここでお別れしてもいいでしょう。パワプロくんが成人して独り暮らししてたら匿ってあげられたんですが、あいにくとまだガキなので無理です。さっさと窓から出ていってもらいましょう。

 

「迷惑ヲオ掛ケシテ申シ訳アリマセン……モシモマタオ会イスル事ガアレバ、ソノ時ハ借リヲ返サセテクダサーイ。恩知ラズニナル気ハ毛頭なっしんぐデース」

 

 別れ際にそう言って、博士がアイテムを置いていってくれました。

 『ダイジョーブの成功手形』ですね、これ……マジか(素)

 いや、これかなり有用なアイテム貰えましたよ。何が凄いってこれ持ってると、ダイジョーブ博士はオペを確定で成功してくれるんです。

 しかし残念ながら使う予定はありません。わたしとしては是非ともオペってもらって、能力を大幅に強化してもらうのが効率的だと思うんですが、わたしの目指してるトロフィーの取得条件に引っ掛かる恐れがあるんですよ。

 

 そうですね……これを機にトロフィーの取得条件を解説しておきましょう。

 

 最初に申し上げました通り、わたしは高卒ドラ一位で本作のオリジナル球団『津々家バルカンズ』に入団して、絶対エースとして君臨する事で獲得できるトロフィー『投手の王冠』を目指しています。

 球団はどこでもいいんですが、バルカンズは万年最下位脱却のため、大型補強を狙ってる球団なんで、早い段階でエースになりやすいんですよ。

 聖ちゃんもここに入団しますから、幼馴染でなかった場合も都合が良い。優秀な捕手は不可欠ですんでね。

 トロフィー取得条件で『絶対エース』として球団の顔になり、最低五年は君臨しなければなりません。必然、絶対エースになると電撃引退が難しくなるので、クリアするまでどう足掻いてもプロになって最低十年は掛かります。

 で、ここからが重要なんですが……どんな形であれ手術を受けると、『絶対エース』の要素に『復活したエース』か『改造エース』という要素が混ざる恐れがありまして、取得するトロフィーが『投手の王冠』ではなく、類似の『球団の星』や『ドラゴンボール』にすり替わってしまう可能性が出てきます。

 

 本作はトロフィーが豊富過ぎる弊害ですね……未だに未発見のトロフィーまであるんですから、ややこしいったらないですよ。

 まとめると『投手の王冠』を得るために辿らねばならない√が『マウンドの王者』というのですが、その√を辿って獲得できるトロフィーが先述の王冠・星・ボールなんですね。本命に絞るためには、なるべくオペを受けるわけにはいきません。どうしてもオペを受けなければならない事態になるまでは、可能な限りオペは実行しないでおきましょう。或いはパワプロくん以外の面子で、深刻なケガを負ってしまった人を治すのに使うべきだと判断します。

 

 保険があるって素晴らしいと思いません?

 

 

 

「――超能力ぅ? 霧崎ってそんな冗談言えたんだ」

 

 

 

 朝練に出なかった事を詫びつつ、学校の屋上に集まった面子に事情を説明しました。下手に隠すのは愚策、情報は共有するのがベストです。

 集めたのは開幕から懐疑的なみずきちゃんと、曖昧な顔をしてるあおいちゃん、ポーカーフェイスの聖ちゃんと、負傷中のSP聡里ちゃんですね。ここに当事者の礼里ちゃんとパワプロくんを含めた六人でお話中です。

 包み隠さず話しましょう。巻き込みたくないんだ! 俺達だけでなんとかするんだ! なんて間抜けな事をシていいのは、物事を全て都合よく運べる主人公補正持ちだけです。パワプロくんはそんなものは持って――なくもないですが、メインキャラとの遭遇率が高いだけなんで、繰り言になりますが情報共有は緊密に行ないますよ。ガンガン巻き込みましょう、そんで危機意識を共有します。

 

 で、ただでさえ半信半疑なみずきちゃんは、超能力の事を聞くと冗談だと受け取りました。

 彼女らしくもなく、面白みのない普通の反応ですが、無理もありません。

 昨日礼里ちゃんを探して回った事は記憶に新しく、いつもの小悪魔チックなノリでいくのが難しいのでしょう。

 みずきちゃんは割と空気が読める、案外普通の根っこを持つ女の子なんで、デリケートなところは避けてくれるんですよね。ファン含めて彼女をみずカス呼ばわりする人も、ふっつーに良い女になる素養がある事は認めてくれ……くれ……くれなくも、ない、かも?(曖昧)

 

「証拠を出すのは簡単だな。礼里ちゃんに心を読んでもらえばいい。そしたら信じざるを得ないだろ」

「はあ? キャップ、それマジで言ってるの?」

「おうよ。みずきちゃんだけじゃなくて、ここにいる全員の考えてる事を礼里ちゃんが当てたら本物だって分かるはずだ」

「それは……うーん……そうかもしれないけど。でもキャップと聖は霧崎と幼馴染だし、私とあおい先輩だけでいいんじゃない? あんまり疑いたくないけど、口裏合わせる事が絶対に無いとは言えない――あ、もちろんそんな事はしないって分かってるから。ただの客観論ね、これ。だから本気で信じさせたいなら、その客観的な判断基準は置いとくべきでしょ?」

「だな。そんなわけだ、頼むぞ礼里ちゃん」

「……構わないが、余り好ましい感覚じゃない。余り多用させるなよ」

 

 もちろんだ、と答えておきます。礼里ちゃんは一瞬瞑目し、本作オリジナルのエフェクトを出します。銀の粒子が『読心術』発動時に舞い散るんですよ。

 これが綺麗でしてね。プレイヤー以外にもこのエフェクトが視えたりするんで、皆もギョッとしたりしてます。

 

「『霧崎の奴、やっぱり昨日なにかあったみたいね……それでヘンテコな妄想で、自分を守ってるのかも。だとしたら悪いことしたわ……話を合わせてあげた方が良かったかもなぁ。後でキャップと話を擦り合わせとこっと』」

「うぇっ!?」

「分かってはいたがまるで信じてないな。だが、その気遣いには感謝する」

「……みずきちゃん?」

「あ、あおい先輩……一言一句ってわけじゃないけど、霧崎の言ってる事、私の思ってたことです……」

「……でも、それじゃまだ弱いよね。話の流れ的に当てずっぽうでも言い当てられそうだし。次はボクの考えてること当ててみて」

 

 驚愕した様子のみずきちゃんとは異なり、最初から幾分真面目だったあおいちゃんが流れを継ぎました。すると礼里ちゃんは頷き、あおいちゃんの目を見詰めて……お! これ絵面だけなら美少女が見詰め合う百合の園なのでは?

 となると野郎のパワプロくんが邪魔ですね。退散した方がよかったり……するわけないか。手持ち無沙汰なんで聖ちゃんのアホ毛を掴んでみましょう。最近スキンシップ取ってなかったんで。「なー!?」頂きました。可愛い。

 

「何をするのだ! 真面目な話の最中なのだろう!?」

 

 う、羽毛……(イミフ)

 ハッハッハと笑って誤魔化して。とりあえず無駄にシリアスな空気を蹴散らしてると、礼里ちゃんがジト目でこっちを一瞥して嘆息しました。みずきちゃんとあおいちゃんもジト目でこっちを見てます。可愛い。

 何しても可愛いは最強ですね。人類不変の真理でしょう。咳払いをして礼里ちゃんが話し始めます。あおいちゃんがテキトーに考えた、今の話の流れに関係のない思念を読み取ったようですね。

 

「『ボクの魔球は、名前をマリンボールにしようと思ってるんだけど……なんでマリンボール投げたら水が出てくるんだろう? もしかして、これも超能力だったり? あ、でも手汗ボールとか言われたらどうしよう!?』……水が出るのか?」

「う……確かに読まれてるみたいだね。うん、まず先に言っておくと、ボクはあまり霧崎さんの事疑ってなかったんだ。その理由が霧崎さんが今言ったように、なんでかマリンボールを投げたら水が出てくるからだね。普通に考えてありえないよね、これ?」

 

 え? と目を丸くして驚くみずきちゃんをよそに、わたしや聖ちゃん、礼里ちゃんは別に驚いてません。

 というのも本作だと、オリジナル変化球を投げると出てくるエフェクトが、肉眼で視えてしまうんですよ。なぜか機械には映らないんですけどね。

 この現象は珍しいものではありません。オリジナル変化球、オリ変に分類される魔球にエフェクトがつくのは本作の野球界だと常識だったりします。古典ラノベをさっき例に出したんで、その頃の時代で例を挙げると……ヤーグルドの岩川雅規投手の持ち球、カツオカーブが分かりやすいかもしれません。

 現実で変化球にエフェクトなんか付きませんが、本作だとメインキャラ以外の投手もオリ変を投げると、なんらかのエフェクトが掛かるようになってるんですよね。……エフェクトが掛かると逆に打ちやすくなるんじゃ? と思われるかもしれませんが……普通に打ち辛いですねぇ……。その理由はまあ、また追々説明しますが、わたしの投じるオリ変は敢えてエフェクトが出ないようにしてあるだけで、その気になれば出せます。出そうと思えば(王者の風格)

 

 なので寧ろ、そのエフェクトが出る変化球を投げれるのは、超一級品の変化球を投げられる証拠だとして評価が上がるんですよね。

 わたしはとっくに知ってますし、プロを視野に入れてる聖ちゃん達も既知のことです。逆になんであおいちゃん達は知らねえの? ってなります。多分テレビ中継とかだとそのエフェクトが見えないんで、単純にその手の事に言及してる雑誌やらインタビュー映像やらに触れてこなかっただけなのでしょうね。にしても不自然ですが……世間知らずの部類に入ると言えば大体片付きます。

 

 というような事を説明すると、あおいちゃんは露骨にホッとしました。

 

「そ、そっか……ならいいんだけど……」

「えぇ……? 納得しちゃうの? って、もしかして私もクレッセントムーン開発したらエフェクトとかいうの出てくるんだ……?」

「出るだろうな。俺もジャイフォとかナックルで、出そうと思えば出せるし。エフェクトに興味あるなら偉い学者先生の書いた『プロ野球界に見るエフェクト現象』って論文読んでみろよ」

「そんなのあるんだ……?」

「こじつけでしかないけどな、あれ。そんな事よりあおいちゃん。オリ変完成したみたいだし、試しに後で投げて見せてくれよ。興味ある」

「あ、うん。いいよ。どのみち近い内にお披露目したかったしね」

「名前は……手汗ボールだっけ? なんかスゲェ臭そうだな」

「は、はぁぁぁ!? くっ、臭くないし! ボクの手がえげつない事になってるみたいな言い方やめてくれない!? それに投げてる時だけしかエフェクト出ないからね!?」

「冗談だって。あおいちゃんの手なら寧ろ良い匂いしそうだし、逆に嗅いでみたいよ」

「ちょっ、ちょっと急に何言い出すかなこの後輩くん!? 変態なの!?」

 

 顔を真っ赤にして怒るあおいちゃんprpr 可愛すぎかよ。

 なんでか睨んでくる聡里ちゃん。ダイジョーブだって安心しろよー。パワプロくんが下心持つのは君だけなんですから。わたし? わたしはホラあれですよあれ。

 

 という感じで今回はここまでです。いやぁ……礼里ちゃん救出作戦のために考えてた作戦、実行する事にならなくてホントよかったよかった。

 代わりに高校時代が終わるまでに闇野という外道をブチ転がす必要が出てきてしまいましたが――問題ありません。元々そのつもりなので。

 闇野はぶっちゃけ厄介極まるヴィランですが、わたしのチャート上、おいしい餌にする予定だったんですよね。そこに個人的な私怨を乗せるだけなので、別に無駄な労力になる事はないんですよ。闇野の攻略法は割と初期の段階で丸裸にされてるんで、別に脅威になる事はなかったりします。

 

 次回は……うーん。あくまで予定なんで、はっきりした事は言えませんが、夏が終わる所ぐらいまで行きましょうかね。

 行けるかな……行けたらいいな……水着回ですし、終わる気がしないんですよねぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そろそろアンケートをしようと思います。次回辺り。
次回のに罠はありません。強いて挙げるとするなら、誰と仲を深める(意味深)かを選ぶ感じですね。

次回もまたよろしくお願いします。


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照りつける日差し、海、可愛い女の子! (そのいち)

誰がなんと言おうと初投稿です。


 

 

 

 背にした電光掲示板(スコアボード)に、ゼロが並んでいる。

 茹だるような熱気は、全身から。額に滲んだ汗が目に入らないように、乱暴にユニフォームの袖で拭った。

 睨みつけるのは、14.02m先で捕手の掲げる茶色い的。射落とさんとするのは、打席に立つ最大の好敵手。

 場面は六回裏、得点は0対0のまま最終回にもつれ込んでいる。白熱した試合展開に、明治神宮球場は溢れんばかりの声援で揺れていた。

 だがその全ての声援も、状況も、意識にはない。あるのは燃え立つような対抗意識、ライバルを打ち取ってやるという闘志のみ。

 

 この日、僕――猪狩守は六回を投げて被安打数5の無四球無失点と快投し、絶好調と言える内容を続けていた。一時は一塁と三塁に走者を進められたが、それでもほぼ完璧な投球だと言えるだろう。

 しかしそんなものなど誇れはしない。相手チームのエースはここまで、パーフェクト・ピッチングをしているのだ。四回表で一番打者がショートゴロを打つまで、誰もバットにボールを当てる事すら出来ず、それ以降はファールを打ちはしても結局三振に切って取られてしまっている。

 アウトカウント全18の内、17個を奪い取ってきた世代最強左腕。完全試合達成まで、あともう一息。それを前に、五本も安打を浴びている僕が誇れるほど、僕の自尊心は安くなかった。

 

 勝つ。投球内容で負けていようが、試合には勝つ。野球はチームでするものだ、チームで勝てばそれでいい。そのためにはこの回を抑え、延長戦に持ち込まねばならない。延長まで行けば、アイツは確実に降板する。既に疲れが見え始めているのだ、アイツさえ降板させられれば――こちらのチームの打線ならきっと相手の二番手を打ち崩すことができるはずだ。

 故にだ。打席に立つ好敵手を抑えるために、自慢の速球を叩きつけてやる。

 フッ、と矢のように鋭い呼気を吐いた。相手チームの中核、三番打者の力場専一を打ち取るため、投じる球種とコースを捕手と擦り合わせ、リードに頷きこの打席の第一球目を投じるべく始動する。

 

 ――思えばこの時に、僕の運命が。僕の野球人生が本当の意味で始まった。

 

 キンッ、と耳を劈く快音が球場に響いたのだ。

 振り抜いた金属バットを、悠然と放り捨てる強打者の風格。

 愕然として背後を振り向き、センターの外野手が打球を追い掛ける様を祈るように見詰めた。

 だが悟っていた。ゆっくりと塁を回っているライバルの姿で。打球の強さ、弾道、共に申し分がなく――ここに試合は決した。

 

 六回裏、2アウト。世代最強の男は、この僕から本塁打を打ち放って、自らの最強を証明したのである。

 

 

 

「――パワプロ。君をいつか、必ず……!」

 

 

 

 膝は、折らなかった。意地を張って立ち続け、心を強く持った。

 この時、僕は予感していたのだ。いや、これは確信だろう。

 これから先の野球人生で、最大最強のライバルとして、あの男は僕の前に立ち塞がり続ける。あらゆる栄光、栄冠。手に入るはずの全てを、あの男が総取りにして独占する未来が垣間見えた。

 それを奪い取れるのは僕しかいない。宿敵(ウンメイ)よ、そこを退け。僕が通る道だ。その栄誉は僕の物だ。野球人生で手に入る全てを手に入れるためには、この最高の敵を倒さねばならない。だから、必ず倒す。倒してみせる。

 この僕が唯一無二のライバルだと認めた男を倒して、初めて僕は己を天才だと認められる。常軌を逸したあのバケモノと――天才を超えた怪物である男と――同じ地平に必ず昇るのだ。

 

 敗北の涙は苦く、この魂に焼け付いた。

 しかしこのまま終わるつもりはない。同じサウスポーとして、盗める技は全て盗み、自己流に昇華して――そして勝ってやる。

 そのためには、強いチームを作らねばならない。野球は一人ではできないからだ。この大会でアイツは一人で野球をしていたと言われているが、そんなことはない。捕手の六道がいなければ真価を発揮できていないだろうし、霧崎のいるバックの堅牢な守備陣がなければ安心して球を投げられないだろう。

 僕も信頼できる仲間を集める必要があった。

 捕手は、この僕の弟が非凡な才を見せている。霧崎と同じポジションには、去年投手からコンバートした友沢亮がいる。他にも磨けば光る天才達は多くいた。その天才達を集めるのが、僕の役目だ。実力で勝ち、チームでも勝つ。それが僕が目指す完全勝利の形だった。

 

 ありったけの敵意、対抗心。そしてあらん限りの敬意を持って戦おう。打倒パワプロを掲げて、頂点を目指して。

 

 ――そんな因縁の好敵手と、()()()()で再会する事になるとは、流石に予想だにしていなかったが。

 

 或いはこれも、運命という奴なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただのエンジョイ勢に興味ありません。ガチ勢、廃人、野球狂がいたらわたしの所に来なさい。以上!

 

 はい、というわけで再開します。今回はこれまで、動画内だとほぼほぼ空気だった小山雅ちゃんにスポットを当てていきます。

 というのもですね、彼女関連のイベを今の内に進めてかないと、雅ちゃんは高校だと『マネージャー枠』になるんですよ。そっからイベを進めてくと選手に出来るんですが、まどろっこしい事情は早期に解決しておくに限ります。

 今のところ雅ちゃんは高校でも野球ができるとは思ってないので、パワプロくん達との自主練の集まりには、ただ厚意で参加させてもらってるんだと思ってます。まあ、()()()()()()()の状態ですね。

 それが悪い事とは言いませんし、本気でヤッてないとは言いませんが、それでも本気度の純度は周りに比べると一段落ちてるんですよ。

 このままだと意識の差、音楽性の違いから皆の輪の中から浮いていき、次第にフェードアウトしていく羽目になる。そんなのはダメです。わたしのため、何より雅ちゃんのためになりません。

 

 なので早くガチ勢になって貰いましょう。

 

 とはいえ、雅ちゃんの抱えてる問題はありふれたものですが、同時に解決の難しいデリケートなもの。なんせ家庭環境が裕福じゃないから、シニアのチームに入れてもらえず、満足に野球道具を買い揃える事もできないんです。

 そのせいで雅ちゃんはリトルだけで野球を終わらせ、高校には奨学金制度を利用した特待生として入学するのが本作本来の√になります。マネージャーを始めるのは雅ちゃんの野球への未練、らしいですね……。

 そうなると座学にばかり比重が傾き、リトル以降は野球をしてなかったせいでブランクが空いて、イベントを進めて無事に選手化できても二線級の実力しか発揮できません。野球にうつつを抜かして座学の成績を落とすわけにはいかないから、野球の練習をする時間も短めになるからです。

 で、実を言うと今までその問題を解決しておらず、雅ちゃんは野球の実力を高めていますが、中学の思い出作り気分でいるままなんですよ。――だから美香ちゃんを攻略する必要があったんですね。

 

「――家庭環境が理由で、夢を絶たれるのは悲しいことです。ワタシからお父様に話しておきましょう」

「え? え?」

 

 美香ちゃんと雅ちゃん、金髪ガールコンビ結成秘話が目の前で展開されてます。わたしは何がなんだか分からないといった顔をしておきましょう。

 

 ――木村美香ちゃんは最初に紹介した時に言ったように、パワプロくんの彼女枠兼闇ガードの役割を担ってます。が、それとは別件で利用できますよ。

 木村財閥の麾下にある企業の一つに、雅ちゃんのママンがパートとして勤めてるのです。これを実家パワーで正社員にしてあげる事で、ある程度の負担が軽減し、野球を再び出来るようにする事が出来るんですよ。

 ……縁故を利用した不正じゃないか、ですか? 現実でもありがちでありふれたパワーじゃないですか言わせんな恥ずかしい(憤怒) そのパワーで雅ちゃんが助かるならなんの問題もない、いいね?

 

 流れとしてはこうです。美香ちゃんは別校ですが、対等に付き合える友人を欲して、運命的な出会い(笑)をしたパワプロくん目当てに向こうから接触してくるのですよ。それと普通の態度で受け答えしてる内に、美香ちゃんはグングン好感度を高めていってくれます。自分から攻略されに来るとこは木場静火ちゃんと同じですが、チョロさもまた同レベルですね。……いや本気で悪い男に捕まりそうでやばくね?(素)

 このチョロ可愛い美香ちゃんは、くどいようですがとにかく普通に話せる相手に飢えてます。何せ本人のスペックが高く、実家も大金持ちですからね。異性は当たり前として、同性の娘すらまともに話してくれない孤独な日々を送ってるんですよ。有り体に言って、美香ちゃんはボッチなんですね……。だから普通に接してるだけで好感度が上がりまくるという……。

 んなもんで、彼女は今まで誰にも悩みを打ち明けられてません。なので世間話の中で悩み的なのを聞いてあげましょう。すると美香ちゃんは野球をしてみたいと言ってユニフォームを着るのですが、ちょっと練習に付き合ってあげるだけで満足してしまいます。この接待――げふんげふん。練習に付き合うと、美香ちゃんはこれを借りと認識し、借りを返そうとしてくれるんです。

 この練習してる時に雅ちゃんを巻き込んでおくと、あら不思議。金持ちのお嬢様の感覚は色々とアレなんで、雅ちゃんの代わりに彼女の家庭環境を知ってるパワプロくんが、冗談混じりに雅ちゃんがまた野球を本気でやれるようになれば嬉しいなと言います。パートから正社員にしてくれとか、金を払ってくれとか言ってはいけませんよ。あくまで美香ちゃんが自分から言い出すように誘導するのです。するとあら不思議、雅ちゃんの問題が解決してしまいます。

 

 これを機に雅ちゃんは美香ちゃんに恩義を感じ、頭が上がらないとばかりに接していくのですが、それを嫌った美香ちゃんに絆され、美香ちゃんと雅ちゃんは親友同士になるわけです。美香ちゃんはあおいちゃんにとっての遥ちゃん枠になるわけですね。

 ガードを増やせて闇を防げて、彼女にして経験点とコツを貰えて、更には雅ちゃんの問題も解決できる。美香ちゃんはわたしにとって一石二鳥……一石三鳥な、便利なお助けキャラなわけです。ちなみにこのイベントを発見したのはわたしではなく、wikiに載ってた情報を利用してます。情報提供者さん、この場を借りて感謝します。ありがとう、貴方のおかげで雅ちゃんはプロになれますよ……わたしがしてみせます。

 

 で、これだけだと美香ちゃんは、わたしに利用されるだけの可哀想な娘になりそうなんで、今度からはこっちからも積極的に会いに行きましょう。感謝の気持ちを持って、彼女の望む友人関係を築き上げるのです。

 美香ちゃんへのアフターフォローをするため、というのもわたしが『女の子パラダイス』のシステムを利用してる理由の一つです。やっぱ女の子同士の友人関係もほしいでしょうからね、パワプロくんの身の回りにいる女の子達は美香ちゃんにも普通に接してくれるんで、普通に友達になれるんですよ。ほんといい娘達ばっかで、な、涙が出ますよ……尊みで前が見えません。

 

 この一連の流れでわたしのチャートの仕上り具合が伝わるといいですね。わたしはガバなんか起こしたりしない(キリッ)

 

 そんなこんなで、雅ちゃんはエンジョイ勢からガチ勢に転身します。今更シニアに入ろうとは思わないようですが、高校もわたしと同じとこに来て、置いていかれないように本気で野球に打ち込むようになりました。

 そのタイミングを見計らって提案します。河原に集まるいつもの面子に。そろそろ夏だし、ここにいる皆で自主合宿みたいなのやらない? みたいに。この街は今危ないんで、夏休みの間は離れて安全なとこに行きたいという思いもあります。すると皆は賛成してくれました。やったぜ。

 面子はパワプロくん、聡里ちゃん、礼里ちゃん、聖ちゃん、雅ちゃん、あおいちゃん、みずきちゃん、ヒロピーこと太刀川広巳ちゃんの八人で――――す?

 

「――話は聞かせていただきました! ワタシが皆さんをリゾート地へご案内しましょう!」

 

 おや、どうやら美香ちゃんも参加したいみたいですね。

 オッケーオッケーオールオッケー。ほんとはみずきちゃんが合宿地を提供してくれるはずなんですが、美香ちゃんでも構いません。

 誰アンタ? みたいな顔をしてる娘はいませんね。わたしは橋渡し役みたいなもんで、女子陣には既に紹介してましたから。わたしの見てない所で勝手に親睦を深めてくれていたのでしょう(テキトー)

 

 そんなこんなで美香ちゃん主導の下、夏の強化合宿を行ないます。

 

 

 

「――君は」

 

 

 

 さあやって参りました夏の海! 燦々と降り注ぐ日光がクソウザいですが慣れたもんです。

 っと、おや? どうやら先客がいるようですね。ホテルに着くと、先にチェックインをしていた団体様がいましたよ。

 

「………」

 

 無言でパワプロくんを睨みつける顔。

 うーん……まあ、こんな事もあるのでしょう。今まで出会った事なかったのにどんな乱数出たらこんな事になるんですかね……。

 まあいいや。

 オッスオッス、久し振りやね――いのかりくん!

 

「誰がいのかりだ! 僕は猪狩、猪狩守だっ」

「……久し振りだな。元気だったか?」

 

 ほんで金髪の君は友沢くんやないですか。で、ちっちゃい男の子が守くんの弟、猪狩進くんなんですかね。

 

 何はともあれ――女の子パラダイスの邪魔だけはすんじゃねえぞテメェら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




案の定水着回とはいきませんでした…(掠れ声)

アンケートです。読み込めなかったら時間を置いてリロードしてくださいお願いします。

今回のアンケートに罠はありません。次回もまたよろしくです!


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照りつける日差し、海、可愛い女の子! (そのに)

感想が少なくなってく現象……教授! これはいったい?
早く高校時代にいけという事さ……。


 

 

 

 そうであってほしい、と思っていたわけではない。だがそれでも無意識に、この男と再会する場面は劇的なものになると思っていたのだろう。

 ホテルでチェックインを済ませた所で、唐突に見知った顔を見つけてしまった時、猪狩守が感じたのは拍子抜けしたような感覚だった。

 

「お前らこんな所――って言うとホテルの人に失礼だな。とにかく、ここで何してんの?」

 

 出会い頭に人を『いのかり君』などと呼ばわってきた男とは思えないほど、その口調は穏やかで親しげなものだ。あたかも旧知の友人に巡り合ったかのように、ごくごく普通に接して来られて戸惑ってしまう。

 違うだろう、という思いはあった。自分達が再会するのに相応しいのは、試合前の球場だろう。もっと闘志をぶつけ合い、お前を倒すのだと気迫を見せつける口上を交わし合う。それこそがライバルというものであるはずだ。

 だが、それはちょっと夢見がちだな、と自身が抱えていた空想を自覚して冷静になる。

 野球選手も人間だ、生きてる限り何時何処で出会っても不思議じゃない。道端でたまたま遭遇する事だってあるだろう。その偶然が今日という日にやって来ただけの事だ。守は小さく溜息を吐いて、改めて目の前の男を見据える。

 

 男――パワプロの体は、守の知るものよりも一回り大きくなっていた。

 リトル時代の寸胴が、大人のそれへ近づいている。守にも言える事だが、成長期に入っているのだと察せられた。

 身長は170を超えたばかり。守とほぼ同程度。夏だからか半袖のシャツにジーパンという、ラフな格好をしている。剥き出しの腕には程よく筋肉の筋が浮き、肩幅は広く、指や腕は太く長い。足もスラリと伸びていて、まるでバレエダンサーのようにしなやかな印象があった。

 丁寧に整髪された黒髪から覗く、鷹の眼光には黒曜石のような瞳が収まっていて、幼さの残る容貌にも関わらず鋭角的な容姿をしている。ワイルドな男、といった姿へ成長しそうだ。

 

 流石は僕の認めたライバルだ、と守は思う。

 守は天才だ。その自負と、自信がある。そして同時に自分が容姿端麗である事の自覚もあった。

 故にその実力のみならず、容姿のレベルでも自分に匹敵しているこの男は、やはりこの僕のライバルに相応しいと内心頷いていた。

 とはいえ、見た目で勝負するのは一発屋のアイドルだけでいい。守は少しばかり不安になった。

 

 何せこの男ときたら、一応は野球道具を持参しているものの――頭にサングラスを乗せ、浮き輪を担ぎ、海パンやらパラソルやらビーチボールやらを用意しているのだ。あからさまに海へ遊びに来ている。いや、リゾート地なのだから気分転換に遊ぶのはいい。いいが――連れている面子が問題だった。

 

 女だ。

 

 それも一人や二人ではない。全員で九人いるが、パワプロ以外の八人が女である。

 

 これは、無い。ストイックであるべきアスリートのあるべき姿ではない。女遊びでも覚えて溺れているのか、この僕のライバルともあろう男が? もしそうなら喝を入れてやらねばなるまい。そう思って口を開きかけると、後ろから進に小声で制止された。

 

「兄さん。六道さんと、霧崎さんもいますよ。彼女達がいるという事は、他の方もシニアの選手だと思います」

「んっ――」

 

 言われてみれば、確かに酷く厄介な巧打者の霧崎礼里がいた。進が目標にしているという、世代を代表する捕手の六道聖も。

 となると、他六人も野球の関係者なのだろう。昔がどうだったかなど興味はないが、女もプロの世界で戦えるようになっている。女だからと侮るのは旧時代の古い価値観でしかない。

 そうだ、この僕のライバルが女遊びなんかに溺れる手合いなわけがない、と守は思い込むことにする。

 

 さておき、守はパワプロからの問い掛けに答えるべく口を開いて――先を越された。同じ高校で共に甲子園を目指そう、と。甲子園でパワプロを倒そうと誘い、仲間にしていた天才打者、友沢亮に。

 

「オレ達も多分、お前と同じ目的で此処にいる。オレは猪狩に自主合宿に誘われて来た。日頃の疲れを癒やしながら、砂浜で走り込んで足腰の強化をしようと思ってな」

「――へえ? 宗旨替えでもしたらしいな、友沢」

 

 出鼻をくじかれ思わず黙り込んでしまった守の前で、友沢とパワプロが相対する。ジロジロと遠慮のない目で友沢を見渡し、パワプロは揶揄するような笑みを浮かべた。

 それはある程度の親密さがなければ、どう足掻いても失礼でしかない態度である。だがそれを、友沢は微かに苦笑いを浮かべ、肩を竦めるだけで受け流していた。聞いていないぞ友沢、パワプロとプライベートでも話した事があるのか――と守は僅かに疎外感を感じて不機嫌になる。

 

「何年か前は金持ちは敵だ、みたいなツラしてたのにな。俺がジュース奢ってやるって言ったら、施しは受けないとも言ってたっけ?」

「その気持ちが今は無いと言えば嘘になるが――そんな小さな拘りはとっくに捨てている。前にも言ったが、オレはお前を打ち砕く為に野手にコンバートしたんだ。その目標を果たすには最大限の努力をするだけじゃ足りない。猪狩は優れた練習環境を用意してくれる、それを棒に振るようじゃ何時まで経ってもお前に届かないと判断した」

「……いいね。お前のそういうとこ大好きだ。何度だってお前に三振させてやりたくなる。これからも俺の背中を追っかけてこいよ? 永遠に超えられない壁って奴に、心が折れない限りな」

「相変わらずの自信家っぷりだな。オレもお前のそういうところが気に入ってる。打ち砕き甲斐があるってものだ」

 

 涼しげに言う友沢も、平然と宣うパワプロも、激しい競争意識をぶつけ合っていた。まさにライバル同士、といった絵面だが――守は甚だ不快であった。

 それは僕とやる所だろうっ! 内心の声を押し込めて、引き下がる。今からしゃしゃり出たのでは三下感が出てしまうだろう。そんなのは御免だ。

 

「フンッ! 行くぞ友沢。女連れで良い気になってるパワプロに、僕達は構ってやる暇はない」

 

 兄の心情をほぼ正確に掴んでいる進は、密かに思った。

 ――その台詞もなんか三下っぽいですよ、兄さん……。

 賢明なる弟くんは、その心の声を表に出すことはしなかった。

 

「なんか二番手くんがイキってるけど、私達にはカンケーないしさっさとチェックイン済ませよ?」

 

 と。

 守の捨て台詞が癇に障ったのか、苛ついた様子で水色の髪の少女が吐き捨てた。まるで自分達をパワプロの取り巻き扱いしているかのような守に、不快感を覚えてしまったようである。

 だが流石のみずきも、初対面相手に喧嘩を売るつもりはないらしく、あくまで小声に抑えての悪態に留めていた。しかし守の鋭い聴覚はそれを聞き拾ってしまった。守は地獄耳なのだ。

 

 二番手。それは守に対する禁句だ。

 何をするにしても、個人として見れば守はパワプロに対して劣っている。

 同じ左投手で、実力が劣り、打撃の成績でも劣っているのだ。

 心ない者に永遠の二番手キャラ呼ばわりされた時、守は人生初の激怒を体験していた。

 が、流石にこんな所で激発するほど分別が無いわけではない。自分を『二番手』呼ばわりした橘みずきをジロリと睨みつけ、嫌味を溢すだけで怒りを収めてやろうと思った。

 

「うん? 箸にも棒にも掛からない凡人が何か言ったような……ああ、気のせいだろうな。自分の実力を度外視しての発言をするとは思いたくないし、気のせいじゃないとしたら野球関係者じゃないんだろう。名前も知られていないようなド・マイナーな奴からしたら、一番も二番も雲の上の事だろうからね」

 

 ふんだんに毒の籠もった言葉を、鼻で笑いながら言い放つ。友沢と進はやれやれとばかりに頭を振った。守は良い奴だが、挑発や悪口への耐性が低いのが欠点だった。そのくせ無自覚に相手を挑発するのだから大した奴である。

 そしてパワプロ達もまた、友沢らと同じ気持ちだった。少女達と視線を合わせて、カチンと来たらしいみずきをどう鎮めようかと頭を抱える。気の強さや荒さに関しては、みずきも守とどっこいというレベルなのだ。

 

「……あっれぇ? もしかしたらみずき、耳がおかしくなっちゃったかもしれないです〜。ね、あおい先輩。みずき、何かおかしな事言いましたぁ〜?」

「ボクに水を向けないでよ……」

「つれないですね。私キャップの事は認めてるけど……別にキャップの取り巻きに成り下がったつもりはないんですけど。それを『女を連れていい気になってる』って……バカにするにも限度ってものがあるでしょ。目にもの見せてやりたくなりません?」

「暴力沙汰は鎮圧するから」

「うげっ。……わかってるわよ。わかってるから睨まないで、氷上。暴力とか無しで、思い知らせてやろうって話」

「――フン。君ごとき凡人が、僕に思い知らせるとは大きく出たものだ。身の丈に合った物言いに留めないと恥を掻くことになると、リーダーは教えてくれなかったみたいだね」

「あぁんッ!? だぁかぁら、人を勝手に取り巻きA扱いすんなっ!」

 

 徐々にヒートアップしていくみずきと守に、手が付けられんと諦めムードを漂わせる友沢と進。

 そしてそれは女子陣も同じだ。守の物言いが癪に障り、心情的にみずきに味方したい気分になっている。

 

 故に、パンパンと手を叩いて注意を集めたパワプロが、仲裁するために宣言するしかなかった。

 

「そこまでにしとけよバカ二人。場所考えろっての」

「バカ? 今、僕の事をバカだと? そう言ったのかな、パワプロ」

「キャップぅ? アンタどっちの味方なのよ」

「みずきちゃんに決まってんだろ、言わせんな恥ずかしい」

「ぅ……」

「それからいのかり……お前ホント変わんねえな。逆に安心したぞ」

「誰がいのかりだッ!」

()()()()()()()()ドシっと構えてくれよ。でないと俺まで恥ずかしくなるだろ」

「む……」

 

 二人を鎮めたパワプロは、腰に手を当てて嘆息する。

 カウンターのホステスに黙礼し、謝意を示しておいた。

 

 ――騒がしくしてすみません。

 ――いいのよ。青春しててメッチャ眼福だから。

 

 ホステスは鼻血を垂らして恍惚としていた。その目がなんか怖かったのでパワプロは見なかった事にしつつ、一同を見渡して提案する。

 

「こんなツマンねえ事で禍根残すのもアホらしいし、ここはいっちょ勝負すっか。――ビーチバレーで」

 

 おっ、野球の一打席勝負か? とやる気を示す守とみずきに、パワプロは萎んでいるビーチボールを取り出してヒラヒラさせて見せた。

 なんでビーチボール? と呆気に取られる面々に、パワプロは強引に話を纏めに掛かり、そして決定する。

 

「12人いるから、二人一組にしたらピッタシだな。くじ引きで組み合わせを決めて、手が空いてる奴を審判にする感じでやろう。お前らもどうせ二泊三日かそれ以上は此処にいるんだろ? なら今日ペア決めて、明日を練習期間にする。んで明後日に総当り戦をして誰が優勝するかを決めるぞ。異論は認めん」

「ちょっ、勝手に――」

「異論は! 認めませーん! 特にみずきちゃんと猪狩の異議は聞く気はないからそのつもりで。別にいいだろ、レクリエーションの一環だよ」

 

 なんやかんやと言いつつも、パワプロの話の持って行き方に強い反発は出てこなかった。

 パワプロにカリスマめいたものを感じている面々だから、というのもある。あるが、確かにこんな事で禍根を残すのは馬鹿らしいとも思うのだ。

 いっそレクリエーションでもして、話を終わらせた方がよっぽど建設的で、健康的だ。みずきは渋々といった様子で納得し、なんだかんだと付き合いのいい守は鼻を鳴らして踵を返した。後で組み合わせを教えるんだぞと言い残して立ち去っていく。

 

 進が代わりに名乗り出た。

 

「クジは僕と、そちらから誰か一人で作りましょう」

 

 兄に似ず常識人で、人の善さが伝わる申し出に聖が応じた。

 

「では私がやろう。お前たちは先に部屋に行っていればいいぞ」

 

 この時。能力をOFFにしていた礼里だが、聖が何かを企んでいるのを感じ取るも――流石に赤の他人である進がいるのだから、何も出来ないだろうと高を括ってしまった。

 この楽観に、礼里は少し後悔する事になるが……それはまた後の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




面白い、続きが気になると思ってくださったら評価等よろしくお願いします。

アンケート結果は「聖ちゃん」で決定しました。
ご協力感謝します。
キャッチャーは腹黒くなければ務まりませぬ……。


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照りつける日差し、海、可愛い女の子! (そのさん)

前話で、全員で11人と書いてましたが、読み直すと12人やんと気づき修正しました。数え間違えてゴメンよ……。
ただ存在を忘れてたわけじゃないんです信じてくださいなんでもしますから!許して!お兄さん許して!

数え間違いは素でショックなので初投稿です。


 

 

 

 ビーチバレーしようぜ、お前ボールな! な、RTA再開します。

 

 いや野球しろよ(素)

 折角男のライバルと遭遇という、美味しいイベが起こったのにビーチバレーに走るとか……おつむゆるゆるなんですかぁ? と、我が事ながら思ってしまいそうですが、まずは言い訳を聞いてください。聞け(豹変)

 

 最初に状況を整理してお伝えします。パワプロくんに割り振られた部屋は一人部屋。流石にね、面子の中で唯一の男だからね、隔離されるのも仕方ないです。それに折角の一人部屋、落ち着いて色々できるんで悪くないですよ。

 で、美香ちゃん主導の下やって参りましたのは沖縄でございます。とは言っても21世紀の現実沖縄とは、多分景観やらなんやらは違っていると思われますね。『多分こんな感じなんじゃないかな?(曖昧)』という、開発陣の想像上にしかない沖縄がここなんですよ。

 なのでめちゃんこ海が綺麗で常夏!って感じです(テキトー)

 

 21世紀の日本に関しては、そこそこ詳しい自信があるわたしから言わせてもらうと、かなーり美化してるなってイメージがあります。

 沖縄はとってもいいところなんですが……流石にここまで快適に整備されるのはもっと後の時代になるはず。たしか22世紀頃には世界でも指折りのリゾート地として開拓されてましたか? そこらへんの詳細は自分で調べて、どうぞ。

 で、この沖縄は猪狩グループと木村財閥が提携してリゾート開発したという触れ込みのある、ぱわぷろ世界観。南国のリッチなホテルなどをモチーフに宿泊施設があって、色々と至れり尽くせりな環境に仕上がっております。そしてなぜか東京ドームに匹敵する野球場があるというイミフ具合ですよ。

 リアルではどうか知りませんが、お金持ちさんの常識は我々の常識からするとぶっ飛んでいます。夏+海×お金持ち同伴=沖縄という、庶民派なわたしの安直な連想・想像に沿った形で、美香ちゃんは我々ガチ野球勢を連れて来てくれたのが前回までの流れでしたね。

 

 こうして関東の地元から離れて、遠く沖縄へと来れたのは僥倖という他ありません。二つの闇の組織の抗争に、ここなら巻き込まれる心配がありませんからね。後はこの夏休み期間中に、水面下での暗闘が決着し平和になってくれてたら最高です。そうなったら後はもう、闇勢力から故意に狙われても安定して干渉をカットできるようになりますから。

 中学生時代のこの時期が、最もパワポケ世界に引き摺り込まれる危険性がある。ここ、テストに出るので覚えていてください。

 

 ――状況説明はここまででいいでしょう。

 

 言い訳を、しましょうかぁ(ねっとり)

 ここのリゾート開拓には、木村財閥の他に猪狩グループも関わっているとは先に申し上げた通り。なので普通にいのかり君、もとい猪狩守くんとエンカウントする可能性がないとは言えません。なくもない、といった程度ですが。

 とはいえ友沢くんが守くんといたのは誤算でしたが……それはさておくとして。友沢くんがいたお蔭で守くんの方針が見えたのは収穫と言える感じです。あれは多分、わたしと同じで最強のチームを作ろうとしているのでしょう。

 同世代最強の天才を自負している守くんは、パワプロくんに負けてるせいで打倒パワプロくんを掲げているのは想像に容易いので、同じ目標を掲げている友沢くんを勧誘する事で仲間にしているのでしょう。

 プロになると友沢くんは最優秀選手に選ばれるのもザラな天才くんです。本人は天才呼ばわりされるのを嫌いますが、センス☓なわたしからすると大抵のメインキャラは天才なので甘んじて受け入れろ(嫉妬) 今はそんな友沢くんや守くん達にマウンティングできる貴重な時期なので、彼らと勝負して経験点を稼ぐのは有りだと言えます。

 

 ですが一打席勝負で得られる経験点はしょっぱいんですよね。ぶっちゃけやる意味ある? ってなもんですし、無駄にライバルを成長させかねないんで、後の事を考えると非常にまず味なんですよ。

 おまけにあの流れだとわたしは関われず、みずきちゃんと守くんの勝負で完結します。天才である守くんだけに成長ブーストが掛かりかねないという、みずきちゃんグヌヌ案件でした。だから阻止するのがベストなんですね。 

 なので経験点を同じぐらい稼げて、かつ友好度も高められるイベに切り替えた方がうま味です。一打席勝負をせず、かつ全員を巻き込めるビーチバレーに勝負をすげ替えたのは、我ながらナイスな判断だったと思います(自賛)

 

 結論を申し上げると、皆で遊んだ方が楽しいやん? ってわけですね。

 

 しかし錚々たる顔ぶれですよ。

 イッケメーンなパワプロくん、猪狩守くん、友沢亮くん、猪狩進くん。美少女な氷上聡里ちゃん、霧崎礼里ちゃん、六道聖ちゃん、早川あおいちゃん、橘みずきちゃん、小山雅ちゃん、太刀川広巳ちゃん、木村美香ちゃん――

 ――顔面偏差値高すぎか? 顔面偏差値の平均点がエグいですよ。下手なアイドルグループなんか裸足で逃げ出しちゃいそうですね。かなりの美少年&美少女の集いにノンケなお兄さんお姉さん大歓喜です。

 なんかの撮影か? とか新しいアイドルグループか? なんて勘違いされて声を掛けられてしまいそうですよ。ですがわたしは知ってますよ、アイドルは枕営業させられるんでしょ?(偏見) そんな業界にパワプロくんは入りませんからね! 他の娘達も絶対に入らせませんからね! 薄い本が厚くなるような展開は、健全なイチャラブ大好き侍の拙者が切り捨て御免ですよ!?

 

「パワプロくん、いる?」

「――専一様、ちょっとお時間を頂いてもよろしいですか?」

 

 コンコン、とノックされた瞬間に木製バットを装備しました(マッハ)

 (自衛のためとかでは)ないです。単に部屋でボーッとしてたとか思われたくないんですよね。女の子の前だとええかっこしぃをしたいという、見栄ですよ見栄。今から練習に出ようとしてたんだぜってアピールしたい男心です。

 

 この声は雅ちゃんと美香ちゃんでしょう。開いてるぜ、と自然体で応じるとガチャリと扉を開けて入って来ました。

 

 おまたせ! アイスティーしかなかったんだけど、いいかな? なんて事は言っても伝わらない、色んな意味でピュアな二人が眩しいです。

 

 短パンを穿いておみ足を露出してる、グラブのロゴが入った半袖の白いシャツを着てる雅ちゃん。アップにした金髪から覗くうなじがとてもキュート。胸もふっくらと膨らんでて、スポブラが透けて見えそうです。

 これが男のフリして高校野球に殴り込んでたとかいう過去作、うそやろ? こんなに可愛くて男とか絶対無理ゾ。男の娘とか好きじゃないんで、ワイ。

 21世紀当時、一世を風靡したという男の娘ジャンル。わたしは別に好きくないんですよねぇ。やっぱ男なら男らしく筋肉がないと(隙自語)

 

 対して美香ちゃんは白いワンピース姿で清純さをアッピルしてます。白い肌とブロンドのショートボブと相乗効果を生み出し、これは最早可愛さの暴力ですな。天は可愛い娘の味方だってはっきり分かんだね。贔屓しスギぃ!

 本人は普通にオシャレにも気を遣ってるだけなんですが、名前呼びに様付けですよ。おまけに男の部屋に無防備に入ってくるとか、誘ってるのかな? わたしが紳士であることに感謝してほしいですね。

 

 二人はバットを持ってるパワプロくんを見て、目をぱちくりさせました。

 

「あ、素振りでもしに行くの? それなら僕も付いてっていい?」

「専一様の邪魔をする気はなかったのですが……」

「いや、いいよ。それよりなんの用だ?」

 

 二人は友情を結んだ後なので、すっかり親友同士です。こうしたグループの中で行動する時に別れると、大概二人が揃ってます。ナチュラルに男心を擽る最高――もといある意味最悪のコンビなので、性欲を発散してないと理性がヤバイです。そこはマジで気をつけましょう。雅ちゃんは強引に迫ると普通に流され恋人になれて、えっちぃ事も普通に受け入れてしまいそうな雰囲気がありますが、美香ちゃんはえっちぃのはNGなんです。段階を踏んでいきましょうね。

 わたしとしては、これから聡里ちゃんを誘って、二人きりで過ごしておきたかったのですが……まあそれは後でいいでしょう。聡里ちゃんとのデートは結構やってますし、好感度は既に天井に届いてますので。

 ちなみに合気道の訓練に付き合って聡里ちゃんを強化していけば、夏休み終盤に美味しいイベを起こして、新キャラとエンカウントできるようになりますよ。そこもやってくつもりなんで、お楽しみに!

 

「別に用ってわけじゃないんだけど、ちょっと……ね」

「?」

「うふふ。ワタシは気にしてないのですけど、雅はどうしても専一様に言っておきたい事があるみたいで。聞いてあげてください」

「なんだなんだ? 別にそんな改まって、何か言われるような事した覚えはないんだけどな、俺」

「ううん、そんな事ないよ。えっとね……」

「ほら。あんまり専一様を困らせないで。対等なお友達なのでしょう? 気兼ねなく、スパッと言ってみなさい。答えは見えてるんですから」

「そ、そうだね……」

 

 仲良しムーブてぇてぇ……。とか口に出したらどんな顔するのやら。

 興味は有りますが、パワプロくんのキャラ崩壊になるんで黙って待つイイ男ムーブをしておきましょう。

 すると美香ちゃんの後押しで決心が固まったのか、決然とした様子でパワプロくんの目を見詰めてきました。

 

「……僕さ、実はそろそろ、皆から距離を置いて勉強に専念しようと思ってたんだ」

「……おう」

「奨学金制度を利用して、特待生として高校と大学を出て、お母さんに楽をさせてあげたかったから。だから僕を誘ってくれて、野球をさせてくれてた皆にずっと感謝してたんだけど、おんなじぐらい自分の都合を優先しようとしてた事が申し訳なかった。だけど……美香がね、色々してくれたお蔭で、家の家計が楽になって……普通に高校に入れるようになったんだよ」

「ああ」

「お母さんは野球も続けて、いいって……! だから。だからさ。パワプロくん、僕はとっても、凄く感謝してるんだ。美香にもだけど、その美香に僕の事を話してくれたパワプロくんにも」

「あー……それか。それに関しちゃ俺は謝らなきゃって思ってたんだけどな。勝手に美香ちゃんに雅ちゃんの家のこと話したし、それは失礼だろ? 軽い悩み相談って気分だったんだが、美香ちゃんは厚意でやってくれた。結果として雅ちゃんの問題は解決されたけど、俺は出過ぎた真似をしていた事になる」

「うん。それはそうだね。その事についてはちょっと怒ってるかな。あんまり知られたい事じゃないし、同情して欲しかったわけでもないからね」

 

 ですよねー。

 

「すまん」

「いいよ、別に。怒ってたけど、助けられたんだから。だからありがとうって伝えたかったんだけど……なんか恥ずかしくって。美香に付いてきて貰って、やっと言えたよ」

「なら俺からも感謝だな。ありがとう、雅ちゃん」

「え? な、何が?」

「感謝してくれて、だ。勝手に人の事情を話すなボケッ! って怒られても仕方ない事したのに、感謝してくれてスッゲエ嬉しい。それに高校でも野球部に入るんだろ? ならまだ一緒に野球できるって事じゃん。仲間が減らなくてマジで感謝だよ。美香ちゃんも、ありがとな。俺の仲間を助けてくれて」

「っ……」

「いえ。ワタシは専一様から受けた借りを返すためにしただけ。感謝される謂れはありません。ですが……一途に野球に打ち込む専一様は、尊敬に値する素晴らしい友人です。その専一様に感謝される事は、ワタシにとっても誇らしいですわ。ですので、ワタシもありがとうと言わせてください」

「なんだそりゃ。皆してありがとうって言ってばっかだな」

「ええ。ですが互いに感謝し合い、尊重し合える関係はとてもいいものだと思います」

 

 にっこりと清楚に微笑む美香ちゃん。可愛い。そしてなぜか赤面して顔を俯けてる雅ちゃんも可愛い。

 あとさりげなく雅ちゃんがパワプロくんと同じ高校に行く前提で話してみたら否定されませんでしたし、これはもう確定でええやろ。雅ちゃんも同じチームに入るって事でファイナルアンサーです。やったぜ。

 

「ぼ、僕もう行くね! こっ、こここ」

「こここ? 鶏の真似かな?」

「――違うよっ!? 高校でもよろしくねって! そう言いたかったの! それじゃ!」

「あ、雅? ちょっと待って――ああ、せっかちさんなんだから。それでは失礼しますね」

「おう。今更だけど美香ちゃんもありがとな。ここに連れてきてくれて」

「いえ、お気になさらず」

 

 はんなりと微笑んで、美香ちゃんは部屋から飛び出していった雅ちゃんを追い退室して行きました。

 うっ……ふぅ(賢者タイム) となる事はありません。なんというか、そういう邪念が祓われる素晴らしいイベでした。何度見ても素晴らしい。

 しかし中学生ボディのせいで邪念はどうしたって湧いてしまいます。二人のいい匂いが残り香として残ってるせいでしょう。素振りに行く気はなかったのですが、もうホントに行かないと逝ってしまいそうです。

 バット、握ろうやぁ(意味深) と、なる前に外出しましょう。

 

「あ」

「お?」

 

 すると廊下に出てすぐエンカウントしたのは太刀川広巳ことヒロピーです。

 一人ですね……。なんだか気弱なムードを漂わせてますが、これがマウンドではない所にいるスタンダードなヒロピーです。

 野球にしか興味のないヒロピー。タッパはそろそろパワプロくんも並んできてますが、女の子としてはかなりの長身と恵体を誇るヒロピー。並んで立っても違和感はありません。

 

「パワプロくん……バット、持ってるって事は……素振りに行くの?」

「おう。ヒロピーも、みたいだな。一緒に行こうぜ」

「う、うんっ……!」

 

 ヒロピーもバットを持ってます。ヒロピーの部屋は割と離れてるんですが、道に迷ったんですかね? 連れ立って階段に向かいます。

 横に並んで歩いてても、ヒロピーは無言。こっちからも特に話はないんで、別に何も言う事はありませんね。

 

 このヒロピー。マウンドに立つと気合充分、打たれ強くピンチに強く辛抱強いという、あおいちゃんとみずきちゃんに爪の垢を煎じて呑ませたいメンタルの持ち主です。

 今はまだ全盛期の域に達してませんが、最高球速は女の子なのに141キロを記録し、コントロールやスタミナも悪くなく、変化球も三種類投げられて、ストレートはノビがよくおまけに重いという……かなり優れた投手ですよ。

 体のケアはわたしが専属でついて続けてるので、肩に爆弾がついてもいません。まさしく完全体ヒロピーですね。

 とはいえマウンドを降りたヒロピーは、マウンドでの姿が信じられないぐらいに控え目で、大人しく気弱な娘に様変わりするのですが、その二面性が可愛いのなんの。リードしてあげたくなるんですねぇ〜。

 

 無言でホテルを出て、浜辺で素振りを開始します。

 陽は落ちかけてて、綺麗な夕焼けですよ。心なし、ヒロピーはわたしを追っかけて来る傾向があるんで、大型犬を飼ってる気分にさせてくれます。

 可愛いなぁ、もう。

 

「ぱ、パワプロくんっ」

「ん?」

 

 と、二人して素振りをしていると、珍しくヒロピーから声を掛けてきましたね。なんでしょう?

 

「あ、あのさ……あたしは、あの……」

「なんだよ? そう焦んなくたって逃げたりしねえから、落ち着いて言ってくれ」

「うん……っ。えっと、ね……や、やっぱりなんでもないっ!」

「は? お、おーい……」

 

 あるぇ? ヒロピーが唐突にどっか走って行きました。

 なんだこれ。なんか、重大な事を口にしようとして、決意が足りなくて逃げてった感が……。イベのかおり、しません?

 気持ち、顔が赤くなってた気がしますが……気のせいですかね? 夕焼けで照らされててそう見えただけなんでしょうか。追っ掛けて話を聞いてみましょう。なんだか楽しい事になりそうですしね。

 

「――専一。ここにいたのだな」

 

 と、後ろから声を掛けられて脚を止めます。なんだよもう、今いいとこだったんですよー? と、愚痴りたい気分でしたがやめときます。

 この声はひじりんですね。聖ちゃんです。

 振り返ると、珍しく洋服を着てる聖ちゃんがいました。私服は和服ばかりな聖ちゃんですが、旅行……もとい合宿に和服で来たりはしないのです。普通に動きやすさ重視の夏服ですね。可愛い。

 なんでか聖ちゃんはフンスッと鼻息荒くして得意満面です。といってもポーカーフェイスなんですが、流石に長い付き合いなので表情を読み取るのは容易いですよ。ドヤ顔可愛い……ですがなぜにドヤ顔……?

 

「クジが出来たぞ。籤引きをするから来るのだ」

「お、おう……」

 

 ピンと来ました。さてはコヤツ……クジに細工してやがりますね……?

 はははコヤツめパワプロくんとペアになりたいんやな。しゃあない、その細工に気づいても気づいてないフリしてあげますか。

 

 わたし優しい。優しくない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございます。
ちなみに冴木創ちゃんに関しましては、アンケート結果で出演確定してますのでご安心を。
面白い、続きが気になると思って頂けたら、評価感想等よろしくお願いします。


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照りつける日差し、海、可愛い女の子! (そのよん)

pixivの聖ちゃんが出てくる漫画が可愛過ぎたので初投稿です。


 

 

【ぱわぷろ(平仮名)について語る野郎どものためのスレ70】

 ※紳士の社交場です。淑女の方は別スレへどうぞ

 

 

 

 

152:偽男の娘「あ、あはは……○○くん、目が怖いよ……? あっ、僕用事あるんだった! じゃ!」スタコラサッサー

 

153:ミズカス「はあ? 婚約者って……先輩、それただの設定なんだけど。ホントの婚約者になりたいとかやめてよね。幾ら私が可愛いって言ってもさぁ、私、先輩の事そういうふうに見るのは本気で無理だから。じゃあね〜」ヒラヒラ

 

154:手汗「ぼ、ボクの事が好き? …ごめん。ボク、そういうのはちょっと。ボクはプロ野球選手になるって夢のために、他のことに目を向ける余裕なんてないんだ」トンズラ

 

155:親方「それ以上近づかないでほしいぞ。先輩の目、気色が悪いのだ」ドンビキ

 

156:聖域ヒロインの下心センサー、感度抜群でワロタ。

 

157:これなら乱数の方が楽だったよぉ(涙)

 

158:鴨川しぐれLOVE勢のワイ、高みの見物。実際好みが分かれるとこなんやろけど、聖域勢に固執してる俺らはなんで攻略したいんや?

 

159:馬鹿野郎! おまっ……お前! お前馬鹿野郎!(語彙死)

 

160:語彙貧弱スギィ!

 

161:ぶっちゃけ好きやねん。それ以外に理由、必要か?

 

162:分かる。めっちゃ分かる。

 

163:理由はそれだけでええよな。しぐれLOVEの俺ら、これじゃ不服?

 

164:いや全く。変な理由をつけるより全然納得した。

 

165:ゲームヒロインガチ恋勢キモ過ぎワロタ。

 

166:は?

 

167:は?

 

168:は?

 

169:お前これ、ホントにただのゲームだと思ってんのかよ。

 

170:はぁ?www ゲームじゃん。普通に楽しめよwww 行き過ぎてるとキモいだけだぞwww これ善意の忠告な。

 

171:余計なお世話だ。

 

172:あとこれ、ゲームじゃねえから。ダイブ装置使ってホントにある世界に行ってるんだぞ。

 

173:えっ!?

 

174:は、ちょ、なにそれ初耳。

 

175:という脳内設定。

 

176:wwwwwww

 

177:脳内設定かよwwww

 

178:要はそれぐらい本気でやってんの。楽しみ方は人それぞれだろ? それをバカにする言い方は失礼だ。謝れ。

 

179:ごめん。や、本気で善意のつもりだったんだけど、押しつけがましかったか。

 

180:相変わらず糞野郎に見えても民度の高い俺らである……。

 

181:ぱわさか(平仮名)世界の俺らを反面教師にしてるゾ。

 

182:あそこ、なんでか殺伐としてて苦手なんよな……。

 

183:センセーの動向を追ってる俺氏、歯軋りするの巻。

 

184:センセー?

 

185:知らん奴の為にリンク先貼っとく。「 」これな。とりあえずセンセー呼ばわりの由来は見たら分かる。

 

186:ふーん。じゃ、見てくるわ。

 

187:イッテラー

 

188:それより歯軋りとかしてどうした。

 

189:センセー、普通に聖域勢含むヒロイン多数、ほぼ同時進行で好感度稼ぎながら攻略しつつ、なんか独自√開拓して逝ってる。

 

190:え?

 

191:それマ?

 

192:マ。

 

193:説明しろし。

 

194:言葉で説明すんのムズい。自分で見ろ。ただこれだけは言わせて欲しい……一向に攻略できてない聖域達に、特にそういうつもりはないのに好かれて相手の方から攻略しに掛かってきてる構図……それなんてギャルゲ? 普通に妬ましくって、センセーがオンラインでやってたら殴り込みに行ってたわ。

 

195:エロゲやないんか。

 

196:エロゲなら話は簡単やぞ。でもぶっちゃけ、体目当てならレ○プすりゃええんやけど、ほしいのは心の方やしな……。洗脳とか薬物とか調教とか抜きの純愛で逝きたい。生臭いエロゲじゃなくあおはる臭いギャルゲがしたい。

 

197:その通りだけどいきなり欲望吐き出すな。紳士らしく逝け。

 

198:すまぬ。

 

199:ってかセンセー、マジでどうやっとるんや……チャートもう粉々やろ。

 

200:それがチャートはまだ壊れてないみたいだぞ。

 

201:マ?

 

202:マ。

 

203:けど聖域が攻勢かけて来てるんやろ。それが強まったら……?

 

204:チャート壊れますね。間違いない。

 

205:まぁたオリチャー発動する走者増えるんか……ええ加減チャート通り完璧に走り抜けられる走者は出てこんのかな。まあ見てる側はガバッてる走者の方が面白いからええけどなw(※個人的な見解だからな!)

 

206:ところでセンセーのあのキャラなんなの?

 

207:キャラって? パワプロくんの事?

 

208:んにゃ。性格(ロール)の方。普段とキャラ違い過ぎて誰だお前ってならね? ドン引き不可避な俺様やんけ。あのキャラ真似してロールしても聖域から普通にドン引きされたぞ。

 

209:だからセンセーに訊かずに真似するのはやめろとあれほど……。

 

210:そんなこと言ってなかったやろがい!!

 

211:言ってるぞ。動画内だと言ってないけど()

 

212:は? それマ?

 

213:マ。ソースは俺。というのも実際訊いた事あるし。その俺様キャラって素なの? それとも計算なの? って。

 

214:答えは?

 

215:CMの後!

 

216:wwwwwwwww

 

217:CMってなんやwww そんなのここには無いやろwww ええからはよ教えろ。いや教えてくださいお願いしますから!

 

218:答えは両方だってさ。

 

219:両方。両方……?

 

220:そ。素のセンセーはあんなバカ丁寧なキャラじゃないんだと。割と強引で自分本位なのが素なんだとか。

 

221:幻滅しました。那珂ちゃんのファンやめます。

 

222:誰だ那珂ちゃんwwww

 

223:続き話してイィ?

 

224:いいよ。

 

225:ただ場の空気とか流れとか、そういうのに合わせて、強引さを出すのは話が進まなくなってるか荒れそうな時だけにしてるとかなんとか。要するにいつも俺様でいたんじゃ顰蹙買うから、時と場合を考えろってこったな。

 

226:ですよねー。おうセンセーのロール真似してた奴聞いてるー?

 

227:聞いてます(小声)

 

228:センセー曰く「そういうの(俺様)を嫌う人は絶対いるから、出しどころと出した時の押しの強さとかは考えるべき。計算ってのはあくまで自分の素の出しどころ、どの程度の強さでどの方向に行くかを制御するだけ」

 

229:ふむふむ……。

 

230:ん?

 

231:「なので自分を参考にしてヒロイン攻略はやめといた方がいい。相談には乗るから自分のスタイルで行くべし。変にキャラ作ると違和感が出る元になるから、ありのままの自分で行くのがベスト。動画内の丁寧口調は、視聴者とか顔も知らん連中に気安く接するのは失礼だから」とかなんとか。

 

232:現に何度かコンタクト取って話してたら、段々フレンドリーになって俺様っぽい片鱗が見え隠れし始めてるな。俺そういうの嫌いなはずなんだけど、センセーのは不思議と不愉快になんないし逆に親近感湧く。兄貴肌ってか、頼れるリーダーって感じがする。心の間合いを見極めるコミュ力が凄いよ。

 

233:なるへそ。

 

234:ちょい待て。それつまり……センセー、素で聖域とかに好かれてるって事やないか!?

 

235:そうなるな。つっても本人的に目当てにしてないから眼中になくて、意識して入れようともしなくて、結果的に下心がないからってのもあるだろうけど。

 

236:カーッ! なんやそれ! コミュオバケじゃないと攻略できへんってことやないか!

 

237:諦めるのか?(熱血ボイス)

 

238:バカヤロー! 誰が諦めっかよ!(便乗熱血ボイス)

 

239:コミュ力、鍛えよう!

 

240:くっそぉ! 目にもの見せてやっからな! コミュ力鍛えまくって恋愛マスターに俺はなる!

 

241:……なんか話がズレてきてる感を感じてるの、俺だけ……?

 

242:奇遇だな。俺もだ。

 

243:おま俺。

 

244:あれ、俺いつレスしたっけな。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビーチバレーの面子が決まったゾ。

 

 1,猪狩守&早川あおい。

 2,橘みずき&氷上聡里。

 3,友沢亮&木村美香。

 4,霧崎礼里&小山雅

 5,猪狩進&太刀川広巳

 6,力場専一&六道聖

 

 このクジの組分けを見てくれ。コイツをどう思う? 凄く……ミスマッチです。

 

 真面目に言うと優勝候補はパワプロくんペアと礼里ちゃんペアですね。

 なんせわたしと聖ちゃんは阿吽の呼吸ですし、礼里ちゃんと雅ちゃんは鉄壁の二遊間です。連携はお手の物なんですよ。

 対して他の面子は……うん、お察し。みずきちゃんと聡里ちゃんの仲は悪くないんですが、別に良くもなく。寧ろ好き嫌いの激しいみずきちゃんと普通の距離感にいる聡里ちゃんは凄いですが、連携力は低いでしょう。

 次に猪狩守くんとあおいちゃん。我の強い守くんと、なんやかんや負けん気の強いあおいちゃんコンビは、性格面はともかくチームプレーの大事さをよく知ってるはずなので厄介です。が、初対面という事もあってやはり連携は拙く礼里&雅、パワプロ&聖コンビの敵ではありません。

 友沢くんは苦手意識のある金持ちとのコンビ。美香ちゃんは友沢くんの苦手オーラに戸惑うでしょう。警戒すべきなのは何気に美香ちゃんのフィジカルも高い事ですね。猪狩進くんとヒロピーのコンビは論ずるに値しません。普通に連携しようと頑張って普通に勝とうとするでしょうが、普通に付け焼き刃の連携力で優勝候補達には及ばないでしょう。

 

「……聖、仕組んだな?」

「何を言っているのだ。厳正なる籤引きの下、公正なる結果が出ただけだぞ。私の運が良かっただけなのだ。やはり私と専一は絶対運命でバッテリーを組む定めなのだろう」

 

 絶対運命? 絶対運命(不正)ですねクォレハ。それ聞くと紫髪繋がりで某古典の髪型がヘンテコな御剣さんを思い出すからやめてほしいです(一息)

 冥夜めちゃんこ好きやったなぁ……わたしの青春はあの作品と共にあったと言っても過言じゃないですね。けどあの娘は、プラチナ君という不動の彼氏がいますし、てぇてぇので普通に応援してましたっけ。

 

 おっとぉ? 関係ない話に意識が逸れてる間に礼里ちゃんや聡里ちゃんがスゴイ目で聖ちゃんを見てるぅー↑ なんでか女性陣全員の目が酷いことになってますね……なんで?(現実逃避)

 ジト目ばかりなのですが、これを全く意にも介さない聖ちゃんの心臓ちゅよい。ははーん、さては超特『強心臓』持ちだなオメーって言いたくなります。

 ですが勝負事には常に勝ちたいわたしとしては、聖ちゃんが相方なのに文句ありません。欲を言うなら聡里ちゃんが良かったんですが、やはり言葉にはしませんよ。したら聖ちゃんがヘソを曲げかねませんから。

 

 聖ちゃんもやるからには勝ちたいんでしょう。だから一番息を合わせやすいパワプロくんと組めるように仕組んだようです。

 絶対そうだ。

 そうだと言え。

 

「行くぞ。明日が特訓の日で勝負は明後日だが、まだ寝るには早い。今から特訓するのだ」

「おいおい……いや、いいけどな」

 

 ポーカーフェイスでのドヤ顔という、なんとも形容し難い表情でパワプロくんの手を引っ張って行く聖ちゃん。

 そういう強引なとこ、誰に似たんですかねぇ……。

 そんなこんなでホールに集まってた面子から離脱しました。他の面子も切り替えたのか、早速ミーティングを始めてるみたいです。

 負けず嫌い多い……多くない? 楽しけりゃいい、エンジョイしようぜって姿勢はパッと見では見られません。こりゃ優勝候補はあくまで候補でしかないと思っとくべきですね。やはり勝った方が経験点おいしいので、ガチガチのガチで勝ちに行きましょう。

 

「この格好だと特訓し辛い。用意して行くから先に行っていてほしいぞ」

「おう。ボールは俺が用意しとく」

「うむ」

 

 どこに行って待ってりゃいいのとかは言わない辺り、ツーカーなんすねぇ。……ツーカーって何百年前の古代語なんでしたっけ?

 まあいいや。

 野郎の支度はマッハで済みます。パワプロくんがパワプロちゃんなら滅茶苦茶時間を掛けますが、ネカマプレイはなんか無理なのでやりません。

 汚れてもすぐに着替えられる&洗える服装に切り替えて――海パンでええよな。うん、これで。んで野球ボールっぽい型のビーチボールを持って、トコトコと歩いて海辺に行きます。その途中にちょっと解説挟んどきましょうか。

 

 や、本動画には関係ないんですがね。女の子プレイした場合の話です。

 

 女の子のパワプロちゃんでプレイしてる人、これからしようとしてる人がいたら覚えていてほしいのは、身体能力系のステが上げにくい反面、特能や超特に必要とされる経験点が少なく、変化球の取得・強化が低コストで済むという事です。まあこれは周知の事でしょう。で、せっかくやるなら超美少女でやりたいと思うのが、男女を問わずの人情であるはず。

 

 パワプロちゃんが超美少女であった場合、様々なBADイベントがあります。アイドル(表)やアイドル(裏)へしつこく勧誘してくるスカウトマンが現れたり、盛りのついたモブ男子に纏わりつかれたり、変質者が現れて襲われそうになったり、変質者が現れて襲われそうになったり、変質者が現れて襲われそうになったりですね。大事なことなので三回言いました。

 メインキャラにはそういうの無いのになんでパワプロちゃんにだけ!? と理不尽に嘆きたくなること請け合い。なので女の子プレイは男の子プレイに比べてガバが生まれやすいので、RTAをするのには向いてませんね。それでも敢えて女の子で走りたい、RTA関係なくエンジョイしたいなら、やはりオススメするのは猪狩守くんのハートを射止める√です。

 彼はツンデレで優しい好青年ですよ。何より金持ちです(ここ重要) 様々な恩恵があり効率とエンジョイを両立できるようになります。とはいえ守くんはライバル的な意味だとチョロいですが、恋愛関連だとチョロくないのが難点と言えば難点です。が……恋愛抜きで楽しみたいなら仲良くなる、選手として認められるだけでも充分なので、仲良くなっといて損はありません。

 世の中には守くんをキープしつつ、友沢くんを攻略し、矢部くんの矢部くん(メガネ)を外させイケメン化させ攻略し、東條くんを弄びつつ虹谷と遊び木場嵐士を引っ掛ける豪の者もいますが……乙女ゲーの逆ハー物でありがちなザマァ要員にされかねないので気をつけてくださいね(一敗の目撃者)

 

 あの人の動画は中々勉強になりますので、女の子プレイに興味がなくても見てみる価値はあると思います(ステマ)

 

「――ま、待たせたな」

 

 おっ、BIGBOSSかな? とか思いながら振り返ります。

 陽は沈み、遠くの街灯やホテルの灯りだけが砂浜を照らす中、星空を映す事もない黒い海を眺めるわたし……素敵っ。と佇んでたところでした。

 危ない危ない、後少しでナルシーの暗黒面に堕ちる所でしたよ。ナイスなタイミングです。

 

「――――」

 

 振り返った先にいたのは、青い線模様の入った白ビキニを身に着けている、美尻ちゃん。もとい聖ちゃんでした。

 お椀型の乳房の谷間、安産型の腰のくびれ、肩から脚にかけての蠱惑的なライン。少女らしい未成熟な肢体は、危険な魅力に溢れています。

 思わずねっとり観察してしまいましたが――既にロリコンなわたしには効きませんね(鼻血) 辺りが明るかったら即死でした(瀕死) 暗い時間帯で助かりました、わたしのわたしが起立して礼するのを阻止できたので(下品)

 

「――聖ちゃん? それ……水着、だよな」

「それ以外の何に見えるというのだっ」

 

 そりゃそうだ。バカ丸出しな質問をしてしまいましたよ。

 目を逸らす、なんて事はしません。当たり前だよなぁ? 肌の露出は滅多にしない聖ちゃんの、レアな水着姿ですよ。ガッツリ見とかないなんてありえないでしょ。幼少期から見守ってきた紳士として、脳内に永久保存します。

 可愛過ぎ、理性保つの、辛過ぎる(5・7・5)

 とはいえわたしは冷静ですよ(ハァハァ) こういう時、女の子は褒めてもらいたいものなんです。褒めないわけにはいかないし、褒め言葉は幾らでも出てきますね。なんせ思ったことを言うだけでいいので。

 

「うん。スゲェ似合ってる。可愛いな。そんでエロい」

「なー!? えっ、エロっ……何を言うのだ!?」

「特に首から鎖骨のラインがヤベェ。聖ちゃんって瞳が赤いし、正面から見ると現実離れした可憐さが出てる。幼馴染の贔屓目抜きに超可愛い。思わずガン見しちゃうね」

「や、やめるのだ! そういうのは、困るぞ!」

「なんでだよ。じゃあさ、なんで水着を着てきたんだ?」

「そっ、それは……専一に、最初に見てほしかったのだ……」

 

 ふーん、エッチじゃん(吐血) モジモジしながら言っちゃって。そうやって男心を素で殺しに掛かるのやめてくれます?

 このままでは理性が溶けてしまいそうなので比較しておきましょう。腰とお尻はあおいちゃんの勝ち。おっぱいは礼里ちゃんと聡里ちゃんの勝ち。褒めた首から鎖骨のラインはみずきちゃんの勝ち。ふふん、まだまだだね。……彼女達の中間ラインにいるとか何気に理想像なのでは? とか言って現実を見てはいけません。死んでしまいます理性が。

 

「……俺、聡里ちゃんっていう彼女いるんだけど」

 

 必殺ガードを出す禁じ手。多少の好感度の低下はやむをえません。この空気のままだとマズイ気がするので言わざるを得ませんでした。

 そう言うと聖ちゃんの空気が変わりましたね。狙い通りだ、やったぜ――ってあれ? なんでそんな、余裕のある笑顔を……?

 

「そうだな。氷上がいる。だがそれは、今は、だ」

「………」

「言っただろう。私は、待つ。徳川家康のように、鳴くまで待つのだ。この際だからもう一度言っておくぞ。私は専一が、す、好き……だ」

「………」

「何も言わないでくれて感謝するぞ。これは横恋慕だからな、褒められた事ではない。だがそれでも私は……ずっと専一の傍にいる。専一は昔私を良い娘だと言ってくれたが、キャッチャーは意地が悪くなければ務まらないのだ。お前に振り向いてもらうためなら、私は悪い娘にもなる。うむ……そういうわけでだな、うむ……うむ」

「うむって何回言うんだよ」

「いきなり混ぜっ返すな! そういうとこだぞ! とにかく、私はいつでも来いと待ち構えているのだ。出しているサインは常にど真ん中直球! いいな、待っているぞ!?」

 

 いいよ! 来いよ! 胸にかけて胸に! って事ですね分かります。

 ……落ち着けわたし。聖ちゃんの言ってることを理解しちゃいけません。聡里ちゃんを思い出して落ち着くのだ。聡里ちゃんが一人。聡里ちゃんが二人。聡里ちゃんが三人。パラダイスやで!

 よっし落ち着いた。とりあえずビーチボールを聖ちゃんに投げつけます。

 

「っと。いきなり投げる奴があるか」

「捕れてるんだからいいだろ。――ま、そんな時が来れば、待ってる球を投げる時が来るのかもしれんし、来ないのかもしれん。期待すんなよ」

「っ……うむ」

「何言ってんだろうな、俺。クソッ……えぇいモヤモヤする! 責任取って激しく特訓するから覚悟しろ!」

「幾らでも付き合うぞ。それが私だ。――ずっと、待つ。専一が投げて私が受けるのだ、私達はバッテリーだからな」

「最高に最悪の、な!」

「そして最強の、だ!」

 

 ビーチバレーしろよ、ってツッコまれかねないぐらい思いっきしボールを投げ合ってしまいますねこれは。ドッチボールかな?

 まあええわ。頭空にして汗流しとけばいつものペースになるでしょう。

 ……マジでどうすんべ。一回こっぴどくフっとくべきなんでしょうが、それしても意味なさげですし。意味あったらあったで、万が一仲間から離脱されたら困りますよ。

 

 ……保留が、ベターですかねぇ。聡里ちゃんとこれまで以上に絡む必要がありそうですよ。待つと言ってくれてる聖ちゃんでこれなら、礼里ちゃんはかなりヤバげです。あの娘は待つのは性に合わないアグレッシブな娘ですから。

 とにかく今から頭が空っぽになるまで動くんで、今回はここまでです。次回は明日の特訓からビーチバレーの試合を終わらせて、そんで遊んで特訓して聡里ちゃんとデートして合宿終わり! ってやりたいです(願望)

 

 それじゃまた見てくださいね。ばいばーい!(ヤケクソ)

 

 

 

 

 

 

 

 




面白い、聖ちゃん可愛いと思って頂けたなら評価感想など宜しくお願いします。


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照りつける日差し、海、可愛い女の子! (そのご)

そろそろ話を進めたいので海編は次がラストの予定なので初投稿です。


 

 

 

 水着の女の子と、海辺の砂浜で特訓。

 

 こう言うとポロリとしちゃうエッチなハプニングを連想したり。泳いでるとなぜか溺れて人工呼吸したり、されたり。二人でどこかに漂流して救助を待つイベが起こったり。とにかくそういうのを想像するかもしれません。

 ですがそういう事は全くありませんでした。

 我々は仮にもアスリートの卵ですよ。泳ぐ前のストレッチは欠かさないので脚が攣って溺れる事はありませんし、潮に攫われ沖に流されていくような不用意さもありません。また泳いでたり激しく運動したからって水着が外れ、おっぱいがポロリしちゃった! なんてラッキースケベは起こらないですね。

 残念と言えば残念ですが、当たり前の事を当たり前にヤッてたら、そうしたハプニングは未然に防げるものなんですよ。で、その当たり前を疎かにするような娘は我々の中にはいません。いたとしてもみずきちゃんぐらいなもんですが、聡里ちゃんがペアなのでそうした万が一も未然に阻止してくれるはず。

 

 なのでビーチバレーのルールブックを読みながら、フムフムと頷きつつルールの把握に努めてる聖ちゃんとも、嬉し恥ずかしなイベントはありません。

 前夜に水着姿を見てたので、ある程度耐性が出来てます。日焼け止めをキチンと塗って登場した聖ちゃんの頭には、パワプロくんに日焼け止め塗って、とお願いする発想はなかったようです。水着でアタックしてきた娘とも思えませんが、根本的に色仕掛けに向いてないんでしょう。

 

 うっ、ふぅ……。まあわたしに色仕掛けは効かないんですけどね。

 

 なので普通に飛んだり跳ねたりして、巨乳ではありませんが美乳タイプな聖ちゃんのおっぱいプルンプルンを眺めるしかやる事はありませんでした。

 普通にビーチバレーの特訓していただけで、見所さんは水着の聖ちゃんしかないという、動画としては動きのない単調な流れですね。一応その一日の特訓動画は別動画としてうpしておきました。本当はカットしてしまいたかったですが、それってRTA的にどうなの? と思わなくもなかったので。

 なので、今後はカットした動画は別枠でうpしときます。証拠として必要ですしね。本題をこちらで流していく感じでやりましょう。あ、ちなみに以前にカットした、聡里ちゃん腕ポキ事件でわたしがブチ切れてしまった際の動画も別枠に上げてますよ。わたしとしては恥ずかしいので、わたしのいるところでそこに触れるのはやめてくださいね! お兄さんとの約束だ!

 

 ――あと、わたしの理性が死にかねないんで、他の女の子達の水着はあんまり見ないようにしときました。

 とはいっても完全に見ないのは無理ですし、見ようともしないのは逆に失礼なんで、意識しない方に比重を置きます。どうやってかと言うと、一度体験した事のある超特『明鏡止水』の要領で心を平らにすればいいんですよ。

 え? 実際には超特『明鏡止水』なんか持ってないのに、そんなのできるわけないだろ? それもPSとか言い張るつもりなのか? ですか。

 んなわけないですよ。これはPSではなく気合です。全霊の紳士力をフル動員してるだけなんで、要するに痩せ我慢の類いでしかありません。

 いやね、中学生ボディはね、性欲でね、頭がね、おかしくなりそうでね、もう意地と気合でなんとかしないとお猿さんみたいに暴走してチャート粉々にしてしまいそうなんですよ。ついでに人間関係や信頼関係も粉々のグチャグチャになること請け合い。なので全身全霊で耐えましょうね!

 

 で、勝負の時。

 

 燦々と降り注ぐ日光で、何もせずとも汗が浮き出てきます。

 皆は矢鱈と勝つ気満々なので、負けないように頑張りましょう。クジの抽選でトーナメント形式、どのペアが優勝するかを決めます。

 なお優勝商品は――あ、そういや決めてませんでしたね。どうしましょう。

 

「優勝商品? そんなものは要らないな。君に勝った、この事実で充分さ」

 

 と、ボクサータイプの海パンにアロハシャツ姿の守くんが言ってますが、それでええのん? ……いいみたいですね。皆は無欲だなぁ。まあわたしも経験点欲しいだけなんで、物品は無用なんですがね。

 

「でも折角勝ったのに何も無いんじゃ寂しいよ? うーん……あ、そうだ! 優勝したペアにはボクがケーキ作って上げ――」

 

 あおいちゃんが何か言い出す前にホイッスル! 試合開始じゃあ!(必死)

 今の今まであおいちゃんのメシマズは表沙汰になってません。その流れになる前に断ち切ってきたからです。

 なのでわたししかあおいちゃんのメシマズを知る者はいない――最も付き合いの長いであろうみずきちゃんすら知りませんからね。

 あおいちゃんのメシマズっぷりはヤバイですよ。何がヤバイってあおいちゃん自身が味覚音痴の気があるんで、味見しっかりしてるのにマズイんです。ネタ時空だと殺人クッキングになるんですがそうでないなら殺人的にマズイだけで命に別状はないものの普通に腹下して体調が悪くなるんです(早口)

 

 えーと。第一試合はいきなり礼里ちゃん&雅ちゃんペアと、友沢くん&美香ちゃんペアですね。友沢くんはいつものサングラスに海パン、安物のシャツを羽織った姿。まだ中坊ですが、中々引き締まった体してて、いいゾ〜これ。

 美香ちゃんは白ビキニ……紐パン……? これはいけません! 本日初公開なのか、友沢くんの気が散りまくってます! お顔が赤くなって注意力散漫、こういうとこはやっぱ普通の青少年なんすねぇ〜。普通に微笑ましいです。

 礼里ちゃんは競泳水着を着用してますね……しかし体のラインがくっきりと浮かび上がって、飛んだり跳ねたりするためか今はポニテにしてます。太腿から足先、肩から指先までの白い肌のせいで逆に健全エロスが……! 雅ちゃんは水着じゃなくて、ホットパンツとTシャツ姿、しかし雅ちゃん含めて皆の尻肉がはみ出てて少年にはキツイ! 友沢くん以外、進くんも守くんも赤面してて目のやり場に困ってるぅー↑

 確信しましたよ。これは男子と組んでるペアには負けようがありませんね。なぜって? 微妙に前屈みになってる少年の気持ちを十文字以内で簡潔に述べたら分かります。

 

 迸る父性と紳士力で全員を観察しましょう。その蠱惑的な肢体ではなくて、その動きと連携です。特に礼里ちゃん雅ちゃんペアは強敵ですからね。

 

 はい、終わり。普通に礼里ちゃん達の勝ちでした。スペック的には友沢くん達も負けてませんでしたが、覚醒礼里ちゃんともタメ張れる肝心要の友沢くんがまともに動けてなかったせいですね。

 美香ちゃんも不甲斐ないとプリプリと怒ってますが……許したげてつかぁさい。ほんまキツイねん。気持ちはよぉわかるよ友沢くん……。友沢くんはピーチパラソルの陰に、体育座りをして待機。負けたのに全然悔しそうじゃない辺り……うん、分かりますよ。分かる分かる。お兄さん君の気持ち分かる。

 

「……何を見てるんだ」

「いや。友沢はムッツリなんだと分かって、微笑ましくなっただけだ」

「ッ……!? そ、そそそ、そんなんじゃない……ッ!!」

「ははは。分かりやすいぐらい動揺してるな」

「そういうお前はどうなんだ!? その、これは……無理だろ!?」

「俺? 俺は慣れたよ」

 

 慣れたよ(大嘘)

 すると嘗てなく戦慄した様子の友沢くん。……なんか勘違いしてない?

 

「こっちの水はうまいぞー。友沢も仲間になるか(こっち来るか)?」

「ならない! 誰がなるか!」

 

 葛藤してるぅ! けどそれを押し殺して必死に抵抗する友沢くんは、多分女の人にとってはマジ可愛いんでしょうね。わたしからすると微笑ましいだけなんですけど。

 

 次はみずきちゃん聡里ちゃんペアVS猪狩進くんヒロピーペアですね。

 みずきちゃんはフリルの付いた水色のビキニ、聡里ちゃんは礼里ちゃんと同じく競泳水着と、その上にカッターシャツを羽織ってます。コンビ的には見事なミスマッチですが、その実力や如何に。

 対して浅黒く日焼けしてるヒロピーは、黒いビキニという意外と大胆な姿です。女子達の中だとブッチギリで恵体で、筋肉量も多いので、身体能力は地味に高く体重を乗せたチャージ力なら現状トップでしょう。とはいえマッチョといったふうでもなく、ほんのり筋肉がついてるかなって具合に見えます。触っても普通に柔らかいですよ。

 それはそれとしてビキニ率高い……高くない? 眼福だからいいですがね! 進くん、可愛いぐらい――もとい可哀想なぐらい赤面しててお目々がグルグルしてますよ。案の定、あっさりストレート負けを喫してます。みずきちゃんが好き勝手動いて、聡里ちゃんがばっちり隙を潰してフォローに徹してます。これは……意外と言ったら怒られるかもですが、普通に強いですね……。

 

 ヒロピーは微妙そうな顔で半笑いしつつ、ドンマイ、って進くんの肩を叩きましたがそれがトドメになったようです。女の子に触られた進くんは、友沢くんの隣に行くと体育座りに移行しました。

 わたしも負けたらそうするべきなのかな……?

 

「い、いきなり、君と雌雄を決する事になるとはね」

「猪狩よ。声、震えてるぞ……」

「お手柔らかにね、パワプロくん。なんでか猪狩くん、さっきからこんな調子だからろくに連携できそうにないし……」

「あおい先輩の臀部が巨大だからだろう」

「聖ちゃん!? それ関係ないしボクのお尻はそんな大きくないからね!?」

 

 ちょっと煽っ(ささやい)たら簡単に激怒してくれるあおいちゃんマジぷりてぃ。これで連携しようという意識は砕け散った事でしょう。

 というか聖ちゃん、さらっと言いましたね……。その手のネタは苦手なはずなんですが、勝つためなら手段を選ばないとは恐ろしい娘……。狙ってはいなかったんでしょうが、あおいちゃんがお尻ってはっきり言っちゃったせいでいのかり君がチラチラあおいちゃんのケツ見てますねぇ。斯く言うわたしも見てしまいますが……うん。

 

「デカーイ! 説明不要!」

「パ〜ワ〜プ〜ロ〜く〜ん〜?」

「許して! お姉さん許して!」

「なんかキャラ変わってない!? あと許さないから後で覚悟しといてよね!」

 

 後でナニされるんですか?(期待の眼差し) って痛ぇ! 脇腹抓らないで聖ちゃん! というか、マジで痛いですねこれは痛い……。

 さておき試合自体はあっさり勝ちました。ドンマイだよ、守くん……(その目は優しかった) 眼の前でデカケツが飛んだり跳ねたりしたらそりゃあね。あと聖ちゃんの尻も可愛い。

 

 煩悩退散!

 

 残りの三組は総当たりです。全員が試合して、戦績の高いチームが優勝という事になります。んで、もう戦績まで言っちゃいますけど。

 みずきちゃん達には勝ちました。けど礼里ちゃん達には負けました……。んで礼里ちゃん達は全勝。みずきちゃん達は全敗。礼里ちゃん達との勝負で明暗を分けたのは、ぶっちゃけわたし、ですかねぇ……。そろそろ限界だったんですわ。もうマヂ無理、リスカしよ……。

 準優勝だったんで経験点はちょっとしょっぱくなってしまいましたが、不思議と悔しさとかはありませんね。逆に謎の達成感があります。この気持ちは果たしてなんなのでしょう。わたし、分かりません。

 

 と、おや? 聡里ちゃんがみずきちゃんと来ましたね。ジト目です。

 

「センくんの目、いやらしかった……」

「俺は悪くねぇ! 俺は無罪だ!」

「有罪」

「有罪ね」

「有罪だな」

 

 なんやて工藤!? せやかて工藤、これは不可抗力やろ!?

 聡里ちゃんみずきちゃん聖ちゃんの怒涛の有罪判決に異議あり! 当方に男の子の尊厳あり! 助けて守くん!

 

「………」

 

 男子三人並んで体育座りしてんじゃぬぇ!(巻き舌)

 と、とりあえず正午になる前に試合終わって万々歳ですよ。

 ん? おやおやぁ? 礼里ちゃんがなんでか近づいてきて、耳元でボソリ。

 

「――優勝商品はお前だ、専一。後で貰いに行く」

 

 ……。

 ………。

 …………助けて聡里ちゃん!

 

「センくん、こっち。ご飯用意してるから」

 

 パワプロくんの手を引いて、野獣の眼光の礼里ちゃんを警戒しながら、聡里ちゃんが走り出してくれました。

 場は一旦解散。お昼タイムです。いやぁ持つべきものは良妻賢母になりそうで頼りになる強い女性ですよ。聡里ちゃん、ありがとナス!

 

「……もう、待たない方がいいのかも……」

 

 ん? 今なんか言わなかった?(震え声)

 

「別に何も言ってない。気にしなくていい」

「お、おう……」

「これから合宿が終わるまで、目を離さないから安心して」

 

 勝ったな風呂入って田んぼの様子見てくる。

 聡里ちゃんがいてくれるならなんの心配も要らねぇぜ。午後からは普通に体作りとか頑張るよ。

 千里の道も一歩から。その千里の道を何度も走り直してるわけですが、そんなの気になんないぐらい青春特訓は堪んねぇんですよね。

 

 ヨッシャ頑張るぞぉ!

 

 

 

「センくん。私も、もう覚悟決めたから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




多くは語るまい……。
ただ感想評価ありがとうございます。これだけは伝えておきたかった。


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覚醒・眠た子を起こすが如き所業

賛否両論な話なので初投稿です。


 

 海! 遊ばずにはいられない!

 

 眩しい太陽、弾ける笑顔、可愛い女の子! やっぱ海は最高だぜ――とは、残念ながらなりません。今回の趣旨はあくまで合宿、合宿です。遊びに来たのではありません。息抜きに泳いだりはしますが、そんなのは後です。

 なーのーで。地獄のビーチマラソン、はーじまーるよー。

「えー!? ホントにやるの?」とブーイングしてるみずきちゃんですが、野手に限らず捕手や投手も下半身は実際大事。鍛え込みましょう。あおいちゃんのような天性の下半身持ちの安定感を得るには、後天的な努力値をどれだけ貯めるかに掛かっていますから。

 

「パワプロくん?」

 

 あおいちゃんには要りませんが、みずきちゃんには重りを付けて走って貰います。ほらそこ、嫌そうな顔しない。大丈夫だって安心しろよ〜。みずきちゃんの筋力と体力は完璧に把握してます。限度は弁えてますよ。日頃から足腰を鍛えまくってたら、あおいちゃんの恵まれた下半身が生み出す安定感も手に入ります。これはもうやるっきゃないでしょ投手的に考えて。

 

「パワプロくん?」

 

 それに今のスタミナだと、中継ぎか抑えしかできませんよ? 先発完投は投手の浪漫です。分業やらなんやらと叫ばれ負担軽減が進む球界ですが、その手の精神論的な浪漫はなくなりません。みずきちゃんだって先発完投してみたいと思った事はあるでしょう? ならば! やはりスタミナ強化に伴う足腰の強化は不可欠です! 効率的な投球、力配分を誤らない観察力、これらを心がけても限界はあります。全ての力の源は下半身にありです。ん……? そう考えると、恵まれた腰回りを持つあおいちゃんはチートだった……?

 

「パワプロくん? ねえ? もしかしてボクのお尻がデカイって言いたいだけだったりしない?」

「はあ? んなわけねえだろ。それとさ……こういうのはあんまり言いたくないんだけど、あおいちゃんも女の子なんだから尻って連呼すんな。下半身の強さはピッチャーとして優れた才能なんだからな? 俺だってもう少し腰回りがガッチリしてたらなって思うんだから」

「そ、そうなの……?」

 

 なんだかプルプル震えながら、赤い顔で威圧してくるあおいちゃんに真顔で答えます。

 最近おかしいっすねぇ、あおいパイセン。ちょっと尻ネタに過敏になってる感が……何でですかね?(棒読み)

 

 はい――えーっと。この際だからハッキリさせときましょうか。

 

 わたしはもう、非攻略対象というものが存在しない事は認知してます。聖域何それおいしいの状態ですね。なので多分、ぶっちゃけあおいちゃんやみずきちゃんも攻略可能なのでしょう。聖ちゃんが攻略できて、他二人の元祖三人娘が攻略できない道理はありませんしね。

 良かったなプレイヤーの皆! 攻略頑張ってくださいね! わたしも次かその次あたりのパワプロくんでやる時、RTAなんかやらないで普通のエンジョイプレイするつもりなんで、その時に攻略頑張ります!

 

 ――ですが、今回のパワプロくんでは攻略しません。

 

 なぜって?

 そりゃ決まりきってますよ。聖ちゃんや礼里ちゃんとかは未知数な所があって怖く、手出しするのが躊躇われるという事情がありますが、あおいちゃんやみずきちゃんはその逆で得られるコツが分かりきってるからです。

 みずきちゃんは超特『変幻自在』か『ミスターゼロ』――あるいは『クロスキャノン』や『明鏡止水』あたりで確定。これらは全て他の娘や特殊イベなどでゲットするチャートを組んでます。前にも言いましたが、みずきちゃんのクレッセントムーンは教えてもらうまでもなく普通に投げれますよ。

 あおいちゃんは『鉄腕』『ド根性』か『重戦車』『走力バースト』とかですが、これも全て不要。マリンボールはわたしも投げれます。なのでコツ的な意味で旨味は少なく、経験点は友情タッグトレーニングで稼げばよろしい。イベで得られるものはショッパイです。

 

 

 

 ――ここで補足ついでの豆知識。本作ではメインキャラ全員が超特をくれるとは限りません。くれない人もいます。割合で言うと四割がくれませんね。逆にサブキャラがくれる事もあります。

 で、礼里ちゃんや聖ちゃんは超特くれない勢なんですね。パワプロくんが捕手なら、聖ちゃんは『ささやき戦術』や『球界の頭脳』をくれたりしますが、捕手以外だとくれないです。礼里ちゃんの『読心術』は超能力に分類されてますから、過去作でならともかく本作だとコツを掴みようがない。

 だから攻略可能となると、途端に未知数になるんですよ。もしかしたら何か超特コツをくれるかもしれませんが、超特コツをくれるということになれば未知のイベがあるということに。それがわたしのチャートで組んでる人間関係に及ぼす影響は計り知れません。ただ最強選手を作ればいい、育成に専念しとけばいいとはならないのが本作なので……人間関係はかなり大事。疎かにすればタイムロス・効率低下を食らう可能性は充分考えられます。想定できない要素はできる限り排除しないとRTAはやってられませんよね?

 

 

 

 話を戻します。譲れない一線はあるにしても、情けを切り捨てるべきRTAだと、あおいちゃん達から得られるコツと経験点はおいしくないです。

 なのにわたしがあおいちゃん、みずきちゃんをRTAチャートデッキに組み込んだ理由は、『女の子パラダイス』要員にしたかったというのが一つ。そして純粋に彼女達の実力を見込んで、戦力として魅力的だから仲間にしたかったからです。お前の(チカラ)が目当てだったんだよ!(最低)

 

 本作に限らず、様々なゲームで言えることですが、スペックというのはとても大事でそこに注目してしまいがちです。ですが本作だと、表面的なステータスが高いだけだと雑魚なんですよ。PSが高くないとオール100ステのバケモノ打者も扇風機にしかならないのと同じで、どんだけ能力が高くてもそれを活かせる頭脳やセンス、経験がなければならないんですね。PSとは実質、それらを磨き上げる事を言うと思ってもらって構いません。

 なので、単純なスペックだけなら、あおいちゃん達は微妙な二線級なんですがね……忘れてはならないのは、数多のメインキャラがプロになれずにいる中で、どんな理由があるにしろ曲がりなりにも彼女達はプロになって活躍してるんですよ。つまり野球脳のレベルが高いんです。本作だとそこがクローズアップされてまして、彼女達は試合運びと投球センスが非常に高くなってます。

 

 だから彼女達は戦力として魅力的なんですね。

 

 コツとか経験点は抜きにして、安定して甲子園優勝を目指すなら欠かせない人材です。ドラ一位指名は逃したらいけないので、甲子園で必ず一度は優勝しておきたい。タイムロスと効率悪化を避けたいなら、彼女達を仲間にしておくのはかなりオススメですよ。念のためもう一度、ハッキリ言っておきますが、プロ行きが確定してる娘達です。本人達の意志でプロに行かない限りは。

 なので彼女達とは仲良くなりたいですが、例え可能だとしても攻略はしたくありません。未知のイベで人間関係グチャグチャになったら目も当てられませんからね。そりゃあ結果として全てが上手く行くなら迷わず攻略しますが、前情報のない新規√開拓はRTAでやるものじゃないでしょう。そういうのは他の兄貴姉貴にお任せします。

 

 だから好感度を調整しとく必要があるんですね。

 

 本作だと『友好度』と『好感度』と『愛情値』は別枠です。好感度がカンストすると、自動的に『友好度』もMAXになります。そうなると異性キャラは告白されたら確実にオーケーしてくれて、愛情値が開放される仕様です。んで愛情値が一定数に貯まると友情タッグトレーニングの上位互換、愛情タッグトレーニングが開放されます。ですがカンストしてないなら、友好度が上がったからと好感度が上がる事はなく、友好度がカンストしても好感度はMAXにならないんです。

 

 ややこしい? では簡単に言うと、友情と愛情は別で、恋と愛と親愛も別ですと言えば分かりやすいでしょうか。愛情を下げて友情だけを高めていけば、攻略事故が起こる事はないんですよ。

 

 あおいちゃんはケツのデカさがコンプレックス。そこを弄れば好感度が低下します。が、やりすぎない範囲なら友好度は下がらないです。この懐の深さ、女神かな……? という感嘆は脇に退けて、このポイントを抑えとけば下手に攻略してしまう事はないでしょう。

 で、みずきちゃん。彼女の人間性的に、甘やかされたりするのが大好きなんで、厳しく指導していくと好感度は下がる一方なんですが、逆に信頼してくれて友好度は上がっていきます。だからみずきちゃんに関してはガッツリ、真摯かつ本気で指導していけば攻略事故は起こらないはず。好感度調整は今後の効率を考えるとマジで死活問題なので手は抜きませんよ。

 

「一番スタミナのあるセンくんも、重りをつけたらいいと思う」

「ん? あー……そうだな。じゃ、付けるか」

 

 聡里ちゃんが提案してくれて、重石入りのリストバンドを用意してくれました。両手と両足に一つずつ、大きめの重石を一つ背負う、と。ちょっとキツイですが、みずきちゃんに重石を付けた手前、断ると波風立ちそうなんで甘んじて受け入れておきます。

 他の皆は任意で重石の有無を決めてもらってマラソンスタート。砂浜で走り始めましょう。砂浜は足を取ってくるので普通に歩いてるだけで体力を使うので、今日は走り込みだけで時間を潰すつもりなのでかなりバテるはず。聡里ちゃんと美香ちゃんが見てくれてるので、脱水症状とかになる事もないでしょうが、水分補給には気を配っておきましょうね。

 

 聡里ちゃんと美香ちゃんが、ペットボトルにサーッ(迫真)と粉末を入れてますね。ポカリを作ってくれてます。気が利きますね、助かりますよ。

 

 なお守くん達は別の場所で秘密の特訓(意味深)をしてるようです。男の子三人でいったいナニをしてるんですかね……。気になりますが、それより自分たちの事をやっときます。

 

 聖ちゃん達も思い思いの重石を付けてますね。熱心でよろしい。水着姿なのはなぜだと訊きたいですがスルーしといて……おや? 礼里ちゃんは重石ゼロですか……ビーチバレーで本気出しすぎて疲れてる? ははっ、コヤツめ。

 お茶目な礼里ちゃんに微笑ましくなりながらも走り込み開始。皆の水着は目に毒ですが、その毒が下半身のムスコにいかない内に煩悩発散しますよ。

 

「――ポカリ飲んで」

「おう、サンキュー」

 

 で、列を組んで走るマラソン。先頭はわたしです。常に一定のペースを保って走り続けて、三十分走る毎に水分補給。聡里ちゃんが手渡してくれます。彼女してくれてて可愛い。

 それを何度も繰り返してヘトヘトになるとトイレ休憩。んで、また走る。みずきちゃんあおいちゃん雅ちゃんヒロピーの順で脱落していきます。音を上げた程度だと離脱は許さなかったので、ガチで声を発する元気もなくなるぐらいになってやっと解放です。明日も明後日もやるからね?(ニッコリ) と言って軽く絶望させてあげましょう。その顔が見たかった(ゲス)

 次に脱落したのは聖ちゃんですね。流石の体力……わたしもそろそろ限界ですが、重石ゼロの礼里ちゃんはまだ余力があるようです。さては礼里ちゃん、わたしに勝ってマウント取りたいのでは……? そうはさせませんよ、二人で延々と砂浜を走りスタミナ勝負では勝ちます。ビーチバレーに続いてスタミナ勝負でも負けるとか嫌だぁ……!(負けず嫌い)

 

 ただ走ってるだけだと動画映えしないので、カメラさんは隣に来て走ってる礼里ちゃんの姿を堪能してね? 銀髪をポニテの形にアップにして、汗を流しながら、顔を上気させて息を乱す礼里ちゃん……競泳水着姿というのもまた素晴らしい……。聖ちゃんより一サイズおっきいおっぱいもベネ!

 と、これでもまだ動画としては面白みが……礼里ちゃんマラソン動画とか言われそうですし、うーん……そうですね、暇つぶしにまたオリ変の解説でもしましょうか?

 

 オリ変のエフェクトについてです。オリ変にエフェクトついてたら、逆に打ちやすいんじゃねえのって疑問がありますよね? それについてわたしは以前普通に打ちづらいと言ってたと思います。

 例えばマリンボール。あおいちゃんのオリ変で、高速シンカーの一種のこれを例にしときましょう。これはボールに特殊な摩擦を発生させる事で、空気中の酸素と水素を結合させ水を発生させる。そしてボールを水切り石の原理で跳ね返らせて鋭い変化を生み出す、というのが公式での原理説明になってます。うん、イミフですね。なんじゃそりゃ、ってなりますよ。

 なのでマリンボールはエフェクトとして水を出してるんですが、実際に水を纏った魔球です。なぜか捕手が捕球したり、打者が打つと水気は消えるんですが……それが逆にイミフさに拍車をかける事になってます。

 で、このマリンボール。高速シンカーに超特『驚異の切れ味』を上乗せしたよりもキレがありまして、更にそれが水を纏っててバットの芯で捉え辛いんですよ。なので当てる事自体はできるんですが、凡打になる率が高いんです。

 他のオリ変にも言えますが、エフェクトが邪魔でハッキリとバットの芯で捉えるのが難しいのなんの……中には視覚を幻惑してくる奴もあるんで空振りも普通にします。投げた瞬間エフェクトが出るんで狙い打ちやすいんですが、厄介なのはオリ変を覚えたからとその素になったボールを投げられなくなってるわけじゃないことですね。

 

 猪狩守くんなどは『ライジングキャノン』というストレート系のオリ変を投げれますが、普通のストレートも投げれるんで、上方向にホップするものと思って待ち構えてたら普通の直球でタイミングずらされたりして凡打に打ち取られる事も多々ありますよ。あおいちゃんも普通の高速シンカーは投げれるままですし、みずきちゃんや大部分の他の人達も同様です。

 

 オリ変が打ち辛いと以前に言ってた理由、伝わったでしょうか? こればかりは実際に打席に立たないと分からない感覚ですかね……?

 

「ハァ、ハァ……ぎ、ギブアップ……」

「……フッ。長距離走も私の勝ちだな」

「その……分かりづらい、ドヤ顔、やめろ……お前、重石つけてねぇ、だろ」

「それでも勝ちは勝ちだ」

 

 とか言ってる間にもうスタミナがなくなりました。またしても……またしても礼里ちゃんに負けた……! いや重石が無いなら普通に勝てるんですが、重石ありのハンデ付きだと勝てないって最初から分かってましたけどね。

 薄い表情のドヤ顔が可愛いので許せますが、それでも悔しいもんは悔しい。ですがまあ、しゃあない。切り替えていこう。

 皆も疲労困憊なので、後は自由時間です。とは言っても普通に休んで、普通に風呂入って、飯食って、後はナニもできずに寝入るでしょうけどね。ですが後一週間はこれの繰り返しです、最後らへんには慣れて余裕も出てくるでしょう。海を楽しむのはその後でもいいはずです。

 

 ホテルに帰り、自分の部屋にある風呂に入ります。疲れが癒やされる気がして、あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~(錯覚) そう簡単に疲れは取れないんだよなぁ。

 後は飯頼んで食って寝ておわり! ってなもんですよ。一応この一週間の模様も収録しとくんですが、ずっと同じ事の繰り返しで見てる側はツマンナイでしょう。RTA的には効率重視ですが、一応視聴者の楽しみにも気を配ってさしあげる(謎の上から目線) なので残り一週間分の動画は別枠にうpして、次は夏休み終了し大会へ参加可能な秋シーズンまで行きたいですね。

 

 というわけで今回はここまで――ん?

 

 ちょっと延長です。夜も更けてさあ寝るぞって時に来客ですよ。コンコンってノックされました。メッチャ眠いんで無視決め込みたいんですが、それは来客に失礼なので無視はしません。わたし、紳士なので(自称)

 

「誰――って、聡里ちゃんか。どうした?」

「ん……入れて」

「お、おう……」

 

 ズズイっと部屋に入ってくる聡里ちゃん。強引ですね……どうしたんでしょう。なんか目が怖い……。

 ベッドに座りました。隣に座れと手振りで要求されます。ポスポスとベッドを叩いて可愛らしい仕草です。うん? なになに?

 隣に座っても何も喋りません。ジッとこちらを観察してますね。

 

「……疲れてる?」

「そうだな……正直もう寝ようと思ってたし、かなり眠いぞ」

「よかった」

「は?」

 

 何が? って――あれ?

 手、掴まれたと思ったら、ころりと寝転がらされてしまいました。

 

「やっぱり、ここまで疲れてたらセンくんも弱い」

「……そりゃあな」

「私より強い人を、簡単に押し倒すには疲れ切ってるところを狙うしかなかった。卑怯だけど、それぐらい実力差がある」

「………」

 

 そりゃあね。今はまだわたしの方が武力は高いですけど。

 あの。

 だからってなんで馬乗りに……? 今、猛烈に最高――もとい嫌な予感に胸が高鳴ってるんですが……?

 

「さ、聡里ちゃん……?」

「私は、彼女。センくんの彼女」

「そうだな。それがどうしたんだよ?」

「けどライバルが多すぎる。私は……弱いから。いつまでもセンくんの中で、一番で居続ける自信がないの。だから……リードしておきたい」

 

 弱くぬぇだるるぉ? 普通に強いやん! 今の時点で暴力のプロよりちょっと強いとかいうチート枠やんけ! え、武力の話じゃない?

 それはそれとして……これ、もしかして……?

 ……ヤバイ。遅きに失してる感半端ないですが、本気で抵抗を……!

 

「無駄。今の状態だと流石のセンくんも、ベストコンディションの私には敵わない」

「な、何をする気だ……?」

 

 抑え込まれる。あ、これ無理な奴や……。

 

「ごめんなさい。本当は、こんな事はしたくないけど。それよりも、私はセンくんの一番じゃなくなるのが怖いの……だから――私と、シテ」

「――いやいやちょっと待てよ待ったそれ早いだろ流石にそういうのはせめて高校生になってからっていう俺の信条が――」

「大丈夫。センくんからじゃなくて、私からだから。だからセンくんは何も悪くない。悪いのは全部私。だけど、虫の良い話だけど……嫌いにならないで」

「嫌いになんかなるわけねぇだろ!?」

「――うん。知ってる」

 

 あっ、ちょ、やめっ――服脱がさないでぇ!(野太い声)

 ハッ!? 今ドアが開いた! 誰か来た! これで助かる――!

 

「何をしてる」

「――霧崎、さん」

 

 礼里ちゃんだぁ!

 そうか、礼里ちゃんが重石つけてなかったのは、聡里ちゃんの思惑を看破してたからなんですね!? さっすが礼里ちゃん頼りになるぅー!

 

「抜け駆け――ではないな。お前は正式な恋人だ」

「そう。だから邪魔しないで」

「いいだろう。だが邪魔してほしくなければ――私にも一枚噛ませろ」

 

 え?

 

「今を逃せばもう専一は隙を見せない。機会を逃すか、私を許容するか。二つに一つだ」

「っ……! そんなの……!」

「私も疲れている。流石に氷上に勝てるとは思っていない。だが――私は大声を出せばいいだけだ。聖あたりはすぐに駆けつけてきて、騒ぎになるだろう」

 

 言いながら礼里ちゃんが隣に来た!?

 肉食獣は二人いたぁ! や、やめっ、何をするだァー! 聡里ちゃん諦めムード漂わせて妥協するんじゃなーい!

 

 簡単な話でしょ!? 今回は諦めて次回に回せばいい! そしたら聡里ちゃんだけしかいない! なのになんで礼里ちゃんを追い出さないの! 騒ぎになってもいいじゃん! それとも何? そんな事も思いつかないぐらい追い詰められてんの? なんで!? なんで――って、あ。なるほど謎は全て解けましたよ。って事はこれを伝えたら聡里ちゃんは冷静に――

 

「聡里ちゃ――」

「黙れ」

「んぐっ」

 

 レイリー! 手で口を押さえるなぁ!

 暴れても二人に勝てるわけないだろ? 馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!(天下無双)

 

「軽蔑するか?」

 

 するわけぬぇ!

 

「知ってる。そんなお前だから――」

「霧崎さんっ、私が一番なんだから……!」

「分かっている。ここは譲る、だが……私も退かないぞ」

「っ……! センくん、私だけを見て……!」

 

 わ、わたしは絶対、二人に負けたりなんかしない! 大声出してやればそれで終わりだぁ! あっ。口塞がれてら……。

 やめやめろ! 本動画は表向き健全な青春と夢を叶える工程を主題としたものでもあるんだからそういうのは画面の外でしかやってはならないという暗黙の了解があるんですよだからやめてとめてやめてとめてやめ――あっ。

 

 

 弾道が 上がった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はぶっちゃけ、投稿するかメッチャ悩みましたが……どうせ遅かれ早かれこうなるのは確定だったんで、えいやっ、と逝く事にしました。どうか嫌いにならないで……!(懇願)

本作は健全な作品です。この後は普通に切り抜けた走者が見られます。

なおホントにヤバイ奴なのはパワプロくんの模様。受け身なのは中学生時代までだった予定なのに(棒読み)
若さ故の暴走をした二人は、寝た子を起こしてしまいました。


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覚醒・逆襲のひじりん

今回は本作オリジナル要素ふんだんとあります(今更)

昨日四度寝してたら一日が終わってて愕然としたので初投稿です。


 

 

 

 屋上へ行こうぜ……久し振りに……キレちまったRTA再開します。

 

 シャワー浴びました。あーさっぱりした(皮肉)

 いやね。元々そういうシーンが入るのは既定路線だったんですがね、それがこんなに早くクるとは思いませんでしたね。

 あーもう滅茶苦茶だよ。こっちの事情も考えてよ、こんなんじゃ動画になんないよ〜(棒読み) 

 

 ――え。()()()()()()()ってどこの事か、ですか?

 

 言わせんな恥ずかしい。

 いやホントお恥ずかしい限りですよ。このわたしともあろう者が、睡眠薬もなくコロリと逝かされるなんて……しかも相手はロリ。

 不可抗力だったとか言い訳にもなりませんよ? 紳士として言うなら、ロリと合体してしまった時点で、末代までの恥と言っても過言ではありません。

 ハジメテですよ……ここまでわたしをコケにしたロリータさん達は……絶対に赦さんぞロリータ共! じわじわと嬲り尽くしてくれる!(憤怒)

 ですがわたしがシてヤられても、ただでは起きないのがパワプロくんです。些細な事でもコツを掴むパワプロくんは、今回の件で弾道が上がりました(意味深) いやまあ選手能力的な弾道は上がりませんでしたが、コツを掴んでくれたようなんですよ。それも二つも。

 

 一つはお馴染の超特『変幻自在』です。特能『緩急』の上位互換の、過去シリーズだと金特とも言われるアレですね。

 わたしは超特という呼び方の方を気に入ってるのでそちらで通しますが、その超特『変幻自在』のコツをレベル5で手に入れましたよ。

 

 ……うん? と首を捻るかもしれませんが、聞き間違えではありませんのでご安心を。レベル5で、つまり最大効率のコツをゲットしたんです。

 言うまでもなくこれは聡里ちゃんがくれたコツですね。恐らく昼間の水分補給などの練習補佐、夜間の夜襲による流れが緩急ついてたので、それがコツ取得の流れになったのでしょう(意味不明) 言うほど緩急付いてなかったと思うとか言っちゃいけません。コツゲットのメカニズムは少し謎な部分がある、開発陣の一存になるので分析は横に置きましょう。

 そんな事よりなんで超特を最大効率でくれたんです? こんな情報わたし知らない! wikiにも載ってない! どういう事なの? 教えてエロい人!

 

 で、もう一つ手に入った超特が、わたしをますます困惑させてくれました。

 

 それは『同心術』という未知の超特です。下位特は無し。

 

 えー……恐らく。多分。これを齎してくれたのは礼里ちゃん、かな?

 仮にそうだったとしても、流れ的に手に入るとしたら『追い打ち』の上位超特『ハゲタカ』か、『連打』の上位超特『つるべ打ち』とかの方が適切だと思うんですが。ここにきて本作初出の超特ですかそうですか……。

 これは推察するに、聡里ちゃんに自分の意見へ同意させ、事に及んだ経緯を見てたパワプロくんがコツを掴んだのでしょうが……えぇ?(困惑) 効果は相手打者、相手投手の双方に、決め球や狙い球を絞らせる……? つまりこうですか。こっちがフォーク投げる! と念じたら相手も投手がフォーク投げてくると感じ、裏掻いてストレート投げれる、みたいな? ストレート待ってますと打席で待ち構えてると、相手はそれを感じて遅い球でタイミングをズラそうとして、それを狙い打てる……みたいな感じに使えるんでしょうか?

 

 えっ。強くね……? 『読心術』のように心を読むのではなく、偽の狙いや決め球を相手に悟らせるとか……しかも野手と投手の両方で発動する超特とか強すぎない……?

 しかもいつぞやの神社でゲットした『モテモテ』が変化してますよ。モテモテが『LOVEPOWER(ラブ・パワー)』になってます。効果は、閲覧不能?

 

 なんだこれ(素)

 

 ……ちょっと待ってくださいね。情報過多なんで考えを纏めます。

 

 ……。

 ………。

 …………。

 

 ……………恐らくですが、聖域として看做されている少数の女子勢、または女の子プレイで攻略できない男子勢は、本作だと攻略できるようになってはいるものの、その攻略難易度は桁外れに高い。その代わり、攻略できたら恩恵が凄まじく大きいとか、そういうバランス調整がなされているのでしょう。

 そうでないと説明がつきません。そしてそれぞれに本作初出の超特が設定されている、と見るべきですね。まだ一例しかないのではっきりしてませんが、そんな気がします。逆にそうでないと『同心術』ゲットが理解不能です。

 『LOVEPOWER』に関しては名前から察するに『モテモテ』の上位互換かな、って感じですかね(曖昧) ――ちょっと開発? これ何よ。説明して。しろ(豹変)

 

 ――分からないもんはしゃあないんで、後で問い合わせます。

 

 これ。

 多少のリスクは負っても、聖域攻略に舵を切ってもいい感じですね。

 

 この『同心術』からも分かるように、恩恵が半端ない。上手くやればわたしの想定してたものよりも、パワプロくんが一回りは強くなりますよ。

 懸念すべきなのはやはり人間関係になりますが、そこはわたしの腕の見せ所さんですね。リスキーですが、こんな強力な超特が他にも手に入るのだとしたら実行に移る価値はあるはず。中坊時代だと超特取得は二つまでという縛りがあるんで、『鉄人』と『ハイスピンジャイロ』を既に取得している今は、『変幻自在』も『同心術』も取得はできませんが……コツ自体は高校時代にも持ち越せるので気にする必要は無いです。

 聖域勢の男女を問わず、下心センサーの感度は抜群ですが――既に知り合ってそれなりに仲良くなってる聖域勢なら、なんとかそのセンサーを潜り抜ける事も可能だと思います。何せ人の感情とは『認識』に依存してますから、今まで一度も下心を懐いてなかったパワプロくんに、そうしたものがあるとは彼女達も認識しないでしょう。しても気のせい、パワプロくんに限ってそんな事はない、と築き上げてきた信頼関係がセンサーの下心検知を誤魔化すはず。

 

 言ってて自分のゲスな考えにヘドが出そうですが、RTAに情けは無用。効率的にやれるなら、多少の冒険は――えっと。なんと言えば良いのか。

 

 ……。

 ………。

 …………。

 

 ああもうオリチャー発動ですよそう言えば良いんでしょ?(逆ギレ) ってかロリ二人に逆○された時点でもうグチャグチャになるの確定なんですよ! 再走するには今のとこ全部がいい感じですし、最悪今回のRTAは参考記録にすげ替える覚悟で行きますよ! ダメだったら再走する、それでいいじゃないですか(全ギレ) 結果としてタイム短縮に繋がればヨシ!

 掌クルーして攻略に前向きになったのはですね、そういう事情があります。聡里ちゃんはともかく礼里ちゃんまでとか……人間関係崩壊不可避です。隠せばいい? もうね、そんな発想が出てくるようだと甘ちゃんだと言わせていただく。聡里ちゃんがパワプロくんの彼女というのは、一応隠していてもほぼ暗黙の了解的に気づかれてますし、女の子はそうした気配に敏感です。隠し通そうだなんて虫の良い真似は、最初は上手くいってても必ずどこかで気取られます。そうなるとあれ? ってなりまして……某井戸端会議好きなモブ女子が話題にして『教えてあげなきゃ(使命感)』と噂を流し始め評判が死にます。評判が悪いとプロのスカウトからの評価が落ち、最高評価まで持って行ってもドラ指名に掛からない――プロに入れない、なんてオチになる可能性があるんですよ。プロ野球選手の不祥事は好ましくないとかなんとか言ってね。

 

 野郎ゼッテェ赦さねぇ!(二敗)

 

 なので、隠し通すのは不可能と思っとくのが前提。女遊びしまくりのヤ○チ○扱いは今後に差し障ります。ならどうすんの? と言われたら、やはり隠し通すしかないワケなんですが。どうやって? と言われますとね。これが笑えるほど酷いことに、選択肢は実質一つしかないんですよ。

 すなわち仲間内全員を共犯者にする、です。

 全員が知ってて『まあしゃあないわ』となり、全員がプロ目指してるんなら不祥事は御免だという事で自発的に口を噤んでもらう。これがベストな状態です。聡里ちゃんと礼里ちゃんだけに関係を留めて、他の皆が黙ってくれてても噂好きモブ女子が広めてくれやがるリスクはあるので、やはり大人数が共犯となり和の力で情報を秘匿したい。二股とかは異様に悪く見られる向きがありますからね。

 

 もっと簡単な方法は、実はあります。わたしがこのグループを抜け聡里ちゃんや礼里ちゃんの前から姿を消す事です。そうすればこんな頭を悩ませたりする必要はないんですが……ここまで来て有力な仲間候補達を捨てるとかありえません。それに聡里ちゃん達が泣いてしまうので更にありえません。合理性と感情面双方からこの選択肢は無し寄りの無しです。感情が嫌だと言っても合理的ならやりますが、流石に無意味というか……ハイリスクでもハイリターンが望めるなら今の環境に残り続けますよ。そのためには――ええ。腹ぁ括ってパワプロくんと聡里ちゃん、礼里ちゃんの関係を前向きに捉えてもらい、皆が自発的に黙っててくれるように仕向けるしかありません。

 

 調子に乗ってはなりませんし、ヤケになってもならないんですが、聖域勢を全員攻略してハーレムにしたら鉄壁やん! とは思っちゃいけませんよ。そんな不誠実な姿勢は紳士として言語道断ですし、それ以前にハーレム形成を安易に受け入れる娘達ではありません。超特をくれたので、育成面で言えば用済みではあるものの、聡里ちゃんや礼里ちゃんとこの状態で別れるのは無理筋。以前から考えていた円満に別れる方法は使えません。

 やはり二股を維持するしかないのが辛い。純愛は持て囃される一方、二股やそれ以上は蛇蝎の如く忌み嫌う世間様。リアルでもその傾向はあるんですが、ぱわぷろ(平仮名)世界観だとそれはより顕著です。個々人は善良でも社会という集団はそうでもないんで、やはり隠し通すしかない(再確認) 一夫多妻制やら多夫一妻制、多夫多妻制は本作の日本だと成立しないです。

 

 以上の観点から結論を纏めますと。

 

 1,聡里・礼里と別れるのは状況・心情的に無理な上に非合理的。

 2,二人との関係は外野には秘密に。

 3,身内の皆が気づいても黙っててくれる関係作り。

 

 この三つですね。なんだこれはたまげたなぁ。難易度高杉君。

 で、方針も纏めましょう。

 

 1,聖域ヒロインは未知の強力な超特をくれるっぽいので、攻略できそうなら迷わずやる。寧ろ巻き込んだ方が情報秘匿に持ち込みやすい。

 2,最速記録樹立を目指すのは当然ながら、今回は参考記録に留めるという割り切りを念頭に置く。

 

 この二つがわたしの方針です。ミスったら終わりとか草も生えませんね。

 RTA的に妥協はしません。当たり前です。ですがわたしにもプライドがあります。某所だと畏れ多いことにわたしをセンセー呼びしてくれる人もいる、その人達の敬意を勇気に変えて挑みますよ。ダイジョーブですって安心してください。勝算はありますから。なかったら流石にこんな真似はしません。

 

「ぅ……」

「っ……」

 

 ベッドに裸で寝転がってる娘二人。こりゃこの二人は今日は動けませんね。そりゃそうだ、互いに対抗意識バリバリでハッスルしてましたから。

 パワプロくんは全然なんともありませんよ。寧ろやる気が『LOVEパワー』モードで、しかも体力全快。気力が溢れまくってます。房中術の使い手か何かかってぐらい超絶好調になってますね。

 流石だぁ……。

 

 とりあえず目は覚めてるみたいなんで、何か声掛けて出掛けましょう。

 

「二人で寝てろ。皆には今日は休むって言っといてやるから」

 

 服を着て嘆息混じりに言っておきました。というかこれ以外に掛ける言葉が見つからない……。

 

「二人掛かりだったのに……!」

「か、勝てる気がしない……」

 

 おう、聞こえてっからな?

 流石にロリ二人にその勝負で負けるほど耄碌してません。

 反省を促すべく本気出した甲斐があるというもの。今後を考えるならマウントは取っとかなきゃマズイですからね。ベッドヤクザなパワプロくんです。

 にしても……ホント厄介な事になりました。……え? 二人との合体の経緯について詳しく?

 

 別枠に該当シーンを上げてはいませんよ。カットもしてません。見れてない方がいるなら、それは視聴者側が18歳未満だったからでしょう。動画を上げてるサイトは18禁の該当シーンに検閲を掛けてくれますからね、見たかったら18歳以上になるまで待ち、この動画をもう一度見直したら見れると思います。18歳以上なのに見れなかった場合は、お使いの端末になんらかの問題があるんだと思います。わたしには関知できない問題なので諦めてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 女の勘というものは、女に生まれた者になら大なり小なり備わっている。

 それは原始時代から連綿と受け継がれ、培われてきた本能から発される信号(シグナル)だ。いや、感知器(センサー)と言うべきかもしれない。

 より強い男に惹かれるのは勿論として、自分を護ってくれる、自分と相性が良い――そうしたものをより鋭敏を感じ取る本能――女同士の縄張りを察知する嗅覚――そうしたものを総称して女の勘というのだ。

 男には理解不能で、女しか持ちえず、持っていたとしてもセンサーの鋭さは個人差がある。だがどんなに鈍くても、気に掛かっている男に対しては、ほぼ例外などなく鋭敏な女の勘を発揮するのが女の性だ。

 

「――どうした?」

 

 ビーチマラソン。炎天下で実行される地獄の特訓。その開始前、ストレッチを入念にしている少年を見た瞬間に、()()()()の勘が働いていた。彼の身に何かがあったのだ、と。

 ()()()()()()()()()()。元々目を引いて、存在感のある少年だったが、こうまで引き寄せられる引力めいたものはなかった。

 振り向いて問い掛けてくる際に見せる、何気ない仕草と薄い笑み。それを見た瞬間に、身体の芯が火照っていくような感覚がする。フェロモンとでも言うべき何かが、むんむんと匂い立って少女たちの胸を撃ち抜いた。誰も答えられずに赤面し、目を背けてしまうのに、少年は首を傾げて変な奴らと笑った。

 

「ぁ、あー……なんか私、体調良くないみたい。ちょっと今日のマラソンはパスさせて」

「なんだなんだ? みずきちゃん、サボりか?」

「べっ、別にサボろうってんじゃないわよ!」

 

 顔を真っ赤にして怒鳴るみずきは、そんな自分の状態に強く戸惑っていた。みずきだけではない、あおいや雅、広巳、美香もまた未知の感覚に挙動不審になっている。少年を見ていると猛烈に気が散るのだ、戸惑いもするだろう。

 ただひとり六道聖だけは、聡里と礼里が体調不良で休むと聞いた瞬間から険しい顔をしていた。だがそれに気づく者は現段階ではどこにもおらず、少年はみずきに歩み寄ってしげしげとその顔色を伺った。

 不用意に触ったりせず、赤い顔を見て、少年は「風邪か?」と気遣わしげに問いかける。「そんなんじゃないからっ!」とみずきが強く返すと、「声は枯れてねえし元気はあるみたいだな。けど念のためマラソンは不参加でいい」と判断を下す。しかしそれで終わらせないのが野球狂たる少年の由縁だ。

 

「適当な石、海で投げてろよ。膝まで海に浸かって、普段のサイドスローでこう……水切りする要領でな」

「な、なんでよ……?」

「体調が悪いってんならすぐやめていいけど、そんなんじゃないんだろ? なら不安定な足場でもフォームが崩れないように練習してたら、スタミナが切れてもコントロールが乱れたりはしにくくなる」

「へ、へぇ〜。みずきのこと、そんなに考えてくれてるんだ〜。さてはキャップ、私の魅力にやっと気づいたんだ?」

「はあ? んなもん()()()()()()()()()()()っての」

「へぅっ?」

「バカ言ってないで、無理のない範囲でやってろよ。こっちは足腰の強化に忙しいんだ」

 

 何気なく返されたセリフ。昨日までなら意地悪く笑って流し、混ぜっ返していたところだ。だがみずきは何も言い返せず、赤面したまま固まってしまう。

 少年はそのまま走り去り、集団の輪に加わってマラソンを始めた。みずきが再起動したのは、それから暫くしてからだった。頭を振って()()()()()()()、素直に海での投球練習をするみずきは――はっきり言ってらしくないと言える。

 

 聖はずっと一番後ろにいる。この面子の中では一番脚が遅いというのもあるが、何よりどんどん膨れ上がる不安や焦燥の正体を、冷静に見極めようとしているから、敢えて最後尾に陣取っているのだ。

 そしてそのためにそれとなく雅の後ろにつき、彼女を追い立てる形で徐々に距離を詰めていくと、雅は無意識に走る脚を早めて先頭の少年の傍まで移動していった。それを狙っていた聖は再び最後尾につき、ジッと観察を続ける。

 するとややあって、明らかに調子が狂っていた雅は「あっ」と声を上げて転倒しかけた。それを、素早く察した少年が振り向き、腕を差し伸べて雅が転び掛けたのを支える。

 

「あっ、ご、ごめん!」

「いいって。雅ちゃんでも転びそうになることがあるんだな」

「ぁ、あはは……うぅ、胸触られちゃったよぉ……

「昨日の疲れが取れてないみたいだな。また転んだら助けられるとも限らねえし休んでるか?」

「う、ん……そうするよ……あはは……」

 

 真っ赤になった顔を隠しながら、雅が離れる。

 聖はそれをジッと見ていた。

 

 マラソンは暫く続く。だが今度はあおいが音を上げた。単に昨日の疲れが抜け切っていないだけの様子だったが、少年は腰に手を当てて嘆息する。

 

「ハァ……ハァ……ご、ごめん……ボク、もう限界、かな……」

「……今日のマラソンはここまでにしとくか。疲れてるのに無理して走っても爆弾が付くだけだしな」

「爆弾って……大袈裟だなぁ」

「大袈裟じゃねえぞヒロピー。身体を限界まで苛め抜くのと、無理をするのは全然意味が違う。鍛え上げるのは当然だがな、それ以上に身体を大事にするのは当たり前のことだ。残ってるのは聖ちゃん以外は投手陣だし、後はフォーム研究と改善に時間使おうぜ」

 

 疲れてる時こそ普段出てこない無駄な型が浮き彫りになるもんだしな、と少年が苦笑する。

 

 そうして、投球フォームの改善に残りの時間は費やされた。

 その際に少年があおいに近づく。水着姿のあおいは戸惑いながら動きを止めた。恒例の矯正が来たと悟ったのだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってパワプロくん! さ、触ってるからそれ!」

「? いや、いつもやってるじゃん」

「そうだけど! そ、そうなんだけどぉ!」

「んなことよりあおいちゃんさ、アンダースローってのは他のフォームと違って、より効率と連動性を大事にしなきゃだろ。身長がちょっと伸びたからか、はたまた筋肉量が増えたからか知らんが、ちょいズレてんぞ。骨盤の回転はこうした方が良いと思う」

「ぁっ、ぉ、……触ってる、からぁ……!」

「は? 触ってないんだけど……」

 

 完全に気のせいである。だが腰を直に触られ、実際に回転させて捻られるとあおいはあられもない声を上げてしまっていた。直接肌が触れているが、それ以外は普段からやってる事だというのに、あおいの反応は過敏だった。

 戸惑いながら少年は離れる。あおいは気恥ずかしさを誤魔化すためか、大袈裟に気合の声を上げてフォーム改善に取り組み始めたが、心が乱れているため中々要領を掴めない。嘆息した少年が再度あおいの肩に腕を回し、身体を密着させるとそのまま手取り足取り、といった表現そのままに投球フォームを仕込み始めた。そうなるとあおいは操り人形のようにされるがままで、ガチガチに固まってしまった。

 

「……ダメだこりゃ」

 

 少年は諦め、どうなってんだと頭を掻く。

 普段の調子と全く変わっていない少年だ。練習には本気で打ち込んでいる。むかし――自分は才能ないから練習の時にはその事しか考えていない、と少年は聖に語ったことがある。才能がないとは嫌味かと思ったが、少なくとも聖が見る限り、少年が練習時間内で雑念を懐いた所は見たことがない。

 現に今も、微塵も雑念はなかった。いつもより更に深く、注視しているのだから、聖の目が節穴でない限りは見間違う事はないだろう。

 あおいは頭を振って、なんとか練習に復帰する。海辺に走って、みずきの隣に退避して、だ。それを見送った少年は困惑すること頻りだったが、今度は広巳に近づいた。

 

「ヒロピー」

「あ、パワプロくん。なに?」

 

 広巳が普段通りの表情で応対した事に、少年は露骨にホッとしたようだ。聖が見るに、俺なんかしたっけな? と不安を感じていたように見えていた。

 

「……いや、さ。ヒロピーはこう、投げるだろ?」

「うん? うん」

「ヒロピーの持ち味は球威の強さだが、その投げ方だと肩への負担が強いのが難点だ。だから――」

「あ、だから普段からあたしの肩のケアに気を遣ってくれてたんだ」

「おう。爆弾が付くと辛いからな。で、球威を維持したまま、肩の負担も今より軽くなる投げ方開発したから、そっち試してみねえ?」

「そんなのあるんだ!? やるやる!」

「そか。サイドアームを、肘鉄を後ろに食らわせる感じでやれば――」

「――でもそれだとクイックモーションが下手にならない?」

「――そこは、こうして――」

 

 投手同士の会話は、聖にとっても聞き逃せない。そちらにも意識を割くが、それよりも太刀川広巳を密かに観察する。

 顔色、表情の変化、手振り、身振り、視線の動き。それらから聖の眼力は違和感を捉えた。広巳は分かり辛いが、明らかに動揺している。いや動揺というよりも、照れている。嬉しがっている。現に、その証拠として――

 

「うっし。雅ちゃんは――美香ちゃんが付いてくれてるな。聖ちゃん、普段は俺に付き合ってもらってるし、今日は聖ちゃんの打撃フォーム改善に付き合うぞ」

「ぁ……」

「うむ」

 

 ――その証拠として。

 広巳は少年の意識が自分から逸れると、明白に落胆していたのだ。

 聖は少年の言葉に頷き、持ってきていたバットを握る。自身の主観と客観性を切り離し、何気なく手が触れ合った際に鈍る主観の意識をよそに冷たい理性が観察を続けた。

 

 少年は、昨日とはまるで別人だ。元々スタミナお化けではあったが、疲労が全く感じられないのは不自然でもある。

 やはり、昨日何かがあったと見るべきだろう。そして昨日と今日の違いは、()()()()()()()()()()()だ。

 

「………」

 

 まだ、結論を出すのは早い。逸りそうな自分を抑え、観察し続ける。

 

 ――日が沈むまで、この中だと二番目に体力のある聖は少年を付き合わせ続けて。ようやく練習が終わると、ホテルに帰る。

 自室に帰る。シャワーを浴びる。そしてすぐに礼里の部屋へ向かった。

 

「礼里、いるか?」

『……いる。今行くから少し待て』

 

 ドアを礼里が開けて応対してくれた。その際に何を話したかは、主観を切り離した自分の客観視点は認知しない。ただ礼里を観察する。礼里は、仄かに笑っていた。勝ち誇っている。そして聖がそれに気づくと、気づいている。

 答えを訊けば分かるだろう。だが敢えて何も訊かなかった。そして話が終わって扉を閉める際に、礼里の挙動が普段と違い、下半身を庇うような動きだったのを見抜いた。

 

 次に、聡里の部屋に行く。表向き体調はどうだ、と心配する演技をしていたが。やはり聡里も下半身を庇っている。

 

 ――確信して。唇を、強く噛み締めた。

 

「考え過ぎ、か?」

 

 呟いて、聖はもう少し間を置く事にした。

 

 

 

 ――翌日も礼里達は休んだ。少年は疲れ知らずと言わんばかりに躍動している。

 その翌日は礼里達も復帰してきたが。

 どこか、肌の艶がいい。別人のような艶があった。

 幸いと言うか、少年ばかりに気を取られていた他の面々は気づいていないようだったが。

 

 聖は、合宿の最終日に、夜――少年の部屋の前に行って耳を澄ませた。

 

 

 

『――――』

『――――』

『――――』

 

 

 

「………」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 聖は、強く拳を握り締めた。

 

 頭の中が真っ白になる。

 

 翌日、地元に帰る途中も。帰った後も。聖は心ここにあらずといった様子で呆然としていた。

 そして、聖は悟る。

 

「ああ――」

 

 そうか、と。

 

()()、というのは……こんなに、辛いのだな……」

 

 なら。

 ならば。

 ならば、どうする。

 聖は吹っ切れたように、笑った。

 

 覚悟は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 




面白い、続きが気になると思って頂けたなら感想評価等よろしくお願いします。

そろそろアンケートタイムが迫ってます。
(罠は)ないです。


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覚醒ひじりんの逆襲

本日二話目。昨日できなかった分ハッスルしました。聖ちゃん視点の小説パートです。

お気に入り登録した作品ほど更新停止してるのが辛すぎるので初投稿です(隙自語)


 

 

 濃密で、濃厚な一週間だった。

 

 皆が疲れている。だが誰もが一皮剥けていた。夢を叶えるために大きな前進を果たした実感が、彼女達の気分を晴れやかなものにさせていたのだ。

 しかし疲労は蓄積している。悩みもできた。過酷な特訓の後は、医学的な超回復のために休養を余儀なくされる。これから二日間は野球から離れ、英気を養うことに時を費やすことになるだろう。同時に発生した悩みの解消法や、それとの向き合い方に、この二日間が消費されるのは想像に難くない。

 

 木村美香の手配したバスは、各々の家の近くまで行き、それぞれを降ろして進んでいく。

 自然と解散していった面々を尻目に、私は意を決して呼び掛けた。

 

「専一」

 

 呼び掛けた相手は、家が近所ということもあって、同じ所でバスから降りた幼馴染の少年だった。荷物の詰まったカバンを両手に提げ、肩や背中にも荷物を負ったその少年は、私からの呼び掛けに振り向いた。

 ()()()()変わらない、匂い立つ色気――色気としか表現できない、異性としての魅力。目眩がしそうで、くらくらしそうなフェロモン。()()()()()()()()()()()()()()。そんなもので、私が惑ったりはしない。

 

「後で訪ねる。だから()()()()()時間を空けておいてほしいのだ」

「ん、そりゃ別に構わんけど……なんか気になる事でもあるのか?」

「大いにあるぞ。私達バッテリーの今後に関わる、極めて重要な事だ」

「……真面目な話みたいだな。分かった、予定は空けとく。一応訊いとくけどLINEじゃダメなのか?」

「だめだ。直接会って話したい」

「……了解。後で俺ん家に来るって事ね。親父とお袋には話通しとくから」

「うむ、よろしく頼むぞ」

 

 言うだけ言って、帰路につく。

 寺まで続く階段は、疲れている身体には酷だったが――これからの事に頭がいっぱいで気にならない。

 家に着くと、両親に帰宅を告げ、風呂に入る。ご飯を食べる。それからお気に入りの服――白百合の刺繍が入った紫の和服に袖を通した。

 姿見の前で身嗜みを整え、髪を赤いリボンで結い、二年前の誕生日プレゼントで貰った玉簪を差した。これをくれたのは、専一だ。決戦の衣装に相応しいだろう。

 

 下駄を履いて家を出る。その際に母に出くわした。

 

「――頑張れ、女の子」

「う……うむ」

 

 察せられてしまったと気付き赤面する。私が何処まで行くつもりなのかは分からないはずだ、分かっていたらまだ早いと窘められるだろう。だがそれでも気恥ずかしい。誤魔化すように早足で敷地から離れて、急ぎ足で階段から降りていった。

 夜が訪れている。月は、出ていない。それでも迷いなく歩けた。何度も、何度も歩いた道――専一に会いに歩いた道だから。思えばこんな気持ちでこの道を歩むとは、想像したこともなかった。専一は私になんと言うだろう? 私にとっては以心伝心、一心同体、最高で最良の人だと思う。だが今回ばかりは流石に未知数だ。想像がつかない領域に進もうとしていると、仄かに感じられている。

 拒まれるかもしれない。ふと生じた不安は、半紙に広がる一滴の墨汁の性質を持っていた。

 専一は誠実な男だ。兄のように慕った幼少期――異性として密かに慕った小学生時代――想いを伝えた現在。生まれた時からずっと続いた関係だから、本当のことを言うと答えは見え過ぎるほどに見えている。

 結果は最初から分かっているのだ。私はきっとフラレるだろう、と。だが、それでもいい。ずっと傍にいたいのだ。置いて行かれたくないのだ。このままの関係でいると、手が届かなくなるような強迫観念がある。

 

 ただ。

 

 この踏み出した一歩が、専一との間に埋め難い亀裂を生むものだとしたら。その想像だけが、歩みを鈍くする。

 怖い。だが止まる気もない。そうなれば、そうなった時に考えよう。

 専一の家が見えてくる。家族ぐるみの付き合いがあるから、もう一つの自分の家だと言える所。そこに後少しで辿り着く。

 

「―――」

 

 ピロリン、とメールを着信した。相手は『礼里』だった。メッセージ欄に文字は打ち込まれていない。『………』とだけ書かれている。

 それはライバルの一人からの、牽制とも激励とも取れる意志の伝達だ。読心術とやらで、私の内心の覚悟を感じ取っていたのだろう。或いはそんなものを使わずとも、私の抱えていた覚悟を感じていたのかもしれない。

 長い付き合いだ。そうであっても不思議ではないが……私はスマホを懐に仕舞う。そういえばスマホを父に強請って買って貰った後も、暫くは操作に慣れないで礼里に揶揄された事があったなと思い出す。どうでもいい思い出だ。

 これは牽制で、激励ではない。私はそう思うことにした。激励して、されるような間柄ではない。専一を中心に、最良のポジションを奪い合ってきたライバルである。邪魔はしない、しかし応援もしない。そういう関係だった。

 礼里にあって私にないのは、事に及ぶまでの迅速さだ。私は脚が遅い、礼里は脚が早い。何事に於いてもそうだ。いつぞやの礼里が、専一の危機を予感して行動し、捕まって超能力に覚醒させられた時も。あの時も私は危険を感じていたのに、行動に出るのが遅かったから礼里が捕まった。

 もし、礼里より先に私が動いていたら。今この道を歩いていたのは、礼里の方だったのかもしれない。――そんな益体もない想像に失笑する。なんてことはない、この程度のリードで勝ち誇るなんて底が知れるというものだろう。

 

「――」

 

 専一の家につき、インターホンを押す。彼の両親に出迎えられ、なんとなく曖昧な表情をされた。私はなるべく二人の顔を見なかった。

 応対を受けて家に上がり、二階にある部屋に上がっていく。すると胸は緊張で張り裂けそうになるばかりなのに、頭はどんどん冷たく冴えていった。不思議な感覚だ。まるで見えている奈落に落ちていこうとしているようだ。

 

「専一。来たぞ」

「――おう。空いてっから入っていいぞ」

 

 ノックをして、返事を待ってから扉を開く。

 きちんと整理整頓されて、そのくせ野球の雑誌やら用具が、棚やタンスの上に安置されている部屋。

 専一は机に向かっていて、パソコンにデータを打ち込んでいた。

 

 振り向いては来ない。画面を見ると、同じシニアの面々のデータが記されている。太刀川広巳、橘みずき、小山雅、早川あおい。他にも合宿には一緒に行かなかった男子陣や女子陣。その能力を事細かに記して、良かった所と悪い所を打ち込み、改善点とその方法を迷う素振り無くタイピングしていく。

 そして、私のデータを開いた。脚が遅い。目にやる気がない。非力。肩力は平凡。エトセトラエトセトラ……。私の悪いところばかりを打ち込んでるのを見て、私はこめかみが引き攣るのを自覚した。文句でも言おうかと口を開きかけるも、そのタイミングで丁度タイピングされた文字を見て口を噤む。

 

『最強の投手の女房役に、六道聖ほど相応しい捕手はいない』

 

「――で。その最強の投手になる予定の俺になんの用だ?」

 

 振り向いてきた専一は、悪戯好きな少年のような笑顔を浮かべていた。

 肩の力が抜けて微笑む。

 私の格好を見た専一は目を瞬いたが、すぐ平素の表情に戻って褒めてきた。

 相変わらず、欲しい言葉を欲しい時にくれる男だった。

 

「似合ってるな。普段の凛々しさが際立ってる」

「――ん」

 

 ぽすん、と専一のベッドに腰掛けた。実を言うと私も疲れが抜けていない。本当は今すぐにでも休みたいところだった。

 このまま寝てしまって、専一を困らせてやろうかとも思ったが、今夜はそれを目的に来たのでもない。椅子に座ったままこちらを見る専一に視線を返す。静かな目は、何かを察してるようで。私は無言で見詰めるだけだ。

 

「……なんか話があるんだろ? こっちからは何もないんだから、聖ちゃんから切り出すべきじゃないか?」

「うむ……もちろんそのつもりだぞ」

 

 相槌を打つも、もう少し時間が欲しい。

 切り出すにはやはり、勇気が必要だった。

 

 どれほど見詰め合っただろう。ふと時計を見ると、10分経っていた。目を逸らさないでくれた専一に感謝しつつも、決意を再び固め直す。

 ゆっくりと口を開いた。だが内心とは裏腹に、声が震える。

 

「専一……嘘は言わないで欲しい、正直に答えてくれ」

「ああ」

「合宿の時……礼里と、氷上……二人と、えっち、したな」

「ん……? もう一回言ってくれ」

 

 よく聞こえなかったのか聞き返され、私は思わず吃りそうになり、顔が熱くなるのを自覚しながら繰り返した。

 

「だ、だからっ。礼里と氷上の二人と……えっち、しただろう」

「えっ……なんだって?」

「えっち! えっちしただろう!?」

「えっち……って。言い方可愛すぎかよ」

「なー!?」

 

 私としては深刻な問題の告発をしたつもりだったのに、専一が突発性難聴に罹ったような反応をしてきたことに腹を立て、言い難い事を連呼しただけだ。

 だが実際は、私の「えっち」という言い方を何度も聞きたがっていただけのようで、混ぜっ返された私は思わず素っ頓狂な反応をしてしまっていた。

 

 ま、まただ……! こんな時なのに、またからかわれた……!

 

「専一っ! 怒るぞ!」

「すまん。いやさ、なんとなく聖ちゃんがそれ聞きに来たって気はしててさ。あんまり深刻な空気になりたくなかったっていうか……」

「時と場合を考えろ、ばかものっ!」

「……うん。ごめんなさい」

「ふん。謝るぐらいなら最初から真面目に答えろ。……で、したのだろう」

「おう、ヤッたぞ」

 

 なんだか神妙な空気になるのも馬鹿らしくなって問いかけると、すんなりと肯定された。私は嘆息する。ショックなはずなのに、直前のやりとりのせいで深刻になりきれない。また――手玉に取られてる気がして面白くなかった。

 昔からそうだ。私はずっと専一にしてやられている。それが嫌いじゃないし振り回されるのは楽しいが、今回ばかりは専一のペースに乗りたくなかった。

 

「弁解させてくれ。先に断っておくが、俺からヤろうとしたんじゃない。疲れてた所で襲われて抵抗できなかったんだ」

「そんな事は言わなくても分かっているぞ。専一が、二人と同時に、え、えっち、する……とは最初から思っていない」

「その後はまあ流されて流されて……つい、な。俺も男だし、逆らう気になれなかった」

「……なんという体たらくだ。らしくないにも程がある。あの二人を手玉に取れない専一ではないはずだぞ。……私の想いを知っていて、快楽に流されたのだな」

「……あー。まあ……うん。そうだな」

「私が暴力系ヒロインとやらだったら殴っていたぞ」

 

 暴力系ヒロインって……どこで覚えてきたんだよ。そうボヤく専一に私は本棚を見る。専一の持っている数少ない少年漫画だ。

 これか、と専一は呟いた。それだ、と私はうなずく。

 

「……私には、手を出さないのか」

「……それ、本気で言ってる?」

「うむ」

 

 ムードも何もあったものではない。

 だが掛け値なしに、飾りのない想いはそこにあった。

 氷上だけなら……まあ納得はしていた。しかしそこに礼里がいたとあっては大人しくしていられない。なぜなら、と理由を並べるのは簡単だが、一言で全てを纏めてしまうと『礼里はよくて私はだめなのか』という嫉妬だ。

 氷上は羨ましいことに、正式な恋人だった。だからいつかはこういう事もあるのだろうと、内心覚悟はしていた。妬ましくて羨ましくて悔しくて、多分その時が来たら泣いてしまうかもしれないと思っていたが、礼里は違う。

 礼里は、私と同じだ。私と同じで、横恋慕をしている立場だ。だというのにその領分をあっさりと超えていった礼里が妬ましい。そしてそれを受け入れている専一に、形容し難い怒りのようなものを感じてもいた。

 

 だから、問い掛ける。専一は頭を掻いた。困った時に見せる癖だ。

 

「……今の俺が言えた口じゃねえんだろうけど、手を出す気はねえよ」

「……それは、私に魅力がないからか?」

「んなわけあるか。聖ちゃんは可愛い。魅力的だ――ってオイッ! 何やってんだ!?」

 

 可愛いと言われ、思わず更に赤面してしまうが、それを堪えながら服を肌蹴て胸元を晒す。すると慌てて声を裏返させた専一に私は言った。

 専一の目が私の胸を見ている。いつもは感じない、いやらしい目で。他の男なら不快でしかないが、専一にそんな目をされるのは嬉しかった。

 

「なら……私にも、してくれていいだろう……?」

「おいおいおい! 聖ちゃん落ち着け、冷静になれ、俺はだなぁ……単に聖ちゃんには誠実に――」

「二人同時に相手にした専一に誠実も何もあったものではないと思うぞ」

「グガッ……そりゃ、そうだろうけどさぁ……!」

「据え膳食わぬは男の恥だが、据え膳なのに手を出されなかった女の恥はそれ以上だ。……専一。お願いだ。正直……怖いのだ」

「……は?」

「これから先、どうなるか私には分かる。私がここでこうしていなかったら、専一はあの二人との関係をずっと続け……次第に『あの二人とそれ以外』という形になってしまう。私は……『それ以外』の枠に、入りたくないっ」

 

 視界が滲む、押し殺していた不安を吐露する。それは私にとって、確定した未来の話だ。専一は合理性を尊ぶ反面、情に脆いところがある。だから二人との倒錯した関係に頭を悩ませていただろう。どうしたらと考えていたはず。

 やがてそれは心理的な壁になり、区別をつけるようになるかもしれない。すなわちそれは、氷上と礼里の二人を特別にして、それ以外を特別じゃない枠にすることだ。私はその想定に恐怖してしまっていたのだ。

 有り得もしない妄想、焦りと不安が生み出した間違いかもしれない。だが私にとっては現実味のある未来予想図で。そうなったらもう――私は専一の隣から弾き出されるしかなくなってしまう。専一の『特別』になれなくなってしまう。その恐怖が私を突き動かしたのだ。

 

「……」

「私を……私も、入れてほしいのだ。その、枠の中に。だめ……か?」

「……」

「……うむ。そうだな、やはり、だめなのだな。すまなかった……今夜のことは忘れてほしい。明日からは……いつも通りに振る舞う。だから――」

「聖」

「っ……?」

 

 俯いて、涙を流す。顔を見られたくなかった。

 帰ろうと思い、顔を背けると、いつの間にか傍に来ていた専一に押し倒されていた。

 

「せ、せんいち?」

「……あぁ、もう。なんだこれ。意味が分かんねえ。俺まだ何もしてねえのになんで次から次へと……」

「……?」

「あのな。そんな顔されて、させて、聖を帰らせたってなったらさ……俺がとんでもねえクソ野郎にしかなれねえじゃねえかよ。あの二人に手ぇ出してる時点でクソだが、それでも聖を泣かせたクソ野郎よりはマシだ」

「……ぁ、あの、だな。やっぱり……この話はなかった事に……」

「なるわけねえだろ。自分から言い出しといて芋引くとかふざけんなよ? 俺をその気にさせたのはお前なんだからな。それとも……俺をその気にさせるために、わざと引いて誘ってんのかよ?」

「うっ……そ、そんなつもりではないぞ。ほんとだ。でもだな、なんだか少し怖くなってきた……」

「そりゃあ良かった。据え膳食わぬは、なんだろ。ちったぁ懲りたってんなら押し倒した甲斐があるってなもんだが……じゃあ、やめるか?」

「そ、れは……」

「なんだよ」

「……やめるなっ。こう言えば良いのだろうっ。このっ……意地悪男っ」

「おう、意地悪上等だ。今更やめねえよ。ハジメテは痛いらしいからな、覚悟しろよ」

 

 ハジメテは痛い。そんな事は知らない。保健体育で習ったこと以上のことなんて。だけど、なんだろうか。

 痛くないとおかしいのだろうか。だとすると私はおかしいのだろう。

 痛くない。それどころか、き、気持ちよくて、暖かい気持ちになっている。

 貪られる感覚が――こんなにも愛おしくて――天にも昇りそうだった。

 

 ――勢いに任せて行動してみたが。これからどうなるのだろう?

 

 ふと浮かんだ疑問は、押し寄せる快感の波に押し流されて消えていった。

 どうにでもなる。どうとでもなれ。そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




弾道が上がった!

上がってしまったなら感想評価等よろしくお願いします。


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ミス・レイリーは共犯者の座を望む

次回から話が進みます。やっと…。
今回は進まないので実質初投稿(の延長)です。


 

 

 

 

 我が心と行動に一点の曇りなし……! 全てが『正義』なRTA再開します。

 

 ここで意味深に笑い、計画通りとでも言えれば、視聴者の皆さんにわたしの智将ぶりをアピールできたのかもしれません。

 ですがくだらない見栄を張るのも馬鹿らしいです。なので潔く白状しましょう。――読めなかった、このリハクの目を以てしても……! というかこの一連の流れを読める人がいたらそれは智将じゃなく予言者ですよ(マジレス)

 とはいえ辛うじて面目を保てた点があるとするなら、わたしの考えた『人間関係崩壊阻止論・それでも僕は悪くない』を形にできたところですかね。

 この卒論(意味深)はわたしの知識と経験則を結集させた、謂わばわたしの努力の結晶です。格好良く言うなら『凡俗であれば数をこなし、才能がないなら自信をつけよ』という座右の銘の下、流した血と汗と血と涙と血と血で出来上がった代物でしょうか? リアルでも使えると思ったら大間違いなんで誤用には注意ですよ! これが使えるのは、相手の事を別視点(※メタ目線)から完全に分析・理解できる仮想世界(※ゲーム)に限ります。リアルだと相手を完全に理解するのは、肉親相手でも難しいので実証は無理です。自分の事すら俯瞰して理解するのは難しいのだから残当ですね。

 

 しかし仮想世界でなら、今のとこ性格に難のある人を組み込まない限り、わたしの卒論(意味深)を適用して外れた事はありません。

 この卒論に関して詳しく知りたいたら、別動画で解説してるのでそっちも見てくださいね!(ステマ) なかなかの支持をいただけてるので、たぶん参考程度にはなってるんじゃないかなと密かに自信があったりします。

 

 で。今回は無関係ではないので、その卒論の概要を述べておきましょう。

 まず自分を中心とした人間関係の構築が前提となります。主人公ポジでプレイするならこの前提は最初から達成してるも同然なので、初心者の方にも実践は不可能ではないと思わなくもない(曖昧)

 兎も角。人間関係の相関図の中心に立ちます。そしてそのコミュニティが崩壊or破綻する要因は様々なケースが想定できますが、今回は所属するコミュニティ内での関係性の変動を取り沙汰し解説していきましょう。

 この関係性の変動とは殆どの場合がカップル成立などが該当しますね。もちろん戦争物のゲーム等は除外しています。そして本作でわたしが中の人をしているパワプロくんも、このケースによって関係崩壊の危機に立ってますね。

 この危機を乗り越えるには、早急に関係性の刷新を行わねばなりません。即ち能動的に関係を動かし、それでいながら変化が起こった責任を負わない立場になる必要があります。勘違いしてはならないのが、責任を負わない事と責任を果たさない事は等号で結ばれない事ですね。どういうことなの? と疑問を懐かれるかもしれませんので一例を挙げましょうか。

 

 例えばA子の認知していない所で子供がデキたとします。当然ながらA子は子供が出来るような事をした覚えはありません。そんな時にBさんが現れて、A子と性交をしたと自白します。というのも二人が酒に酔った日、一夜の過ちで肉体関係を持ってしまったんですね。責任を取りたいと申し出たBさんですが、A子さんは元々Bさんに好意を持ってたのでOKを出し結婚しました。

 この場合、悪いのは果たしてBさんなのかというと、個人的には悪くないのではないかという意見もあると思いますが、世間的にはBさんに責任があると看做されます。しかしA子は実質損をしておらず、意中の相手であるBさんと結ばれたのですから一方的に得をしたことになりますね。ですがA子が実際は計算尽くでヤッたにしろ、そうでないにしろ、罪悪感を抱えているであろうBさんに対して真摯に向き合わねばなりません。今後の関係性は従来のものから崩れて新しくなるから、望ましい関係になるためにA子も努力しないといけないわけです。もちろんA子がBさんを嫌ってた場合、訴訟なりなんなりをしてBさんを徹底的に破滅させてもいいのですが。

 

 ツッコミどころのある拙い例ですが、大事なのはフィーリングなので細かいとこは気にしないでください。要するにわたしはこのA子の立場に立ち、他の皆をBさんの立場にすればいいのです。わたしからは普通にしてたのに無理なアタックを受けて陥落してしまったんだよ! という受動的な立場を装う事で円満な関係を構築していこうというわけですね。こうすればパワプロくんは悪者にならず、また他の娘達の中心に立つわけですからいがみ合いやらなんやらを仲裁もでき、この関係を構築できたら幻の理論とされてきた『複数人による愛情タッグトレーニング』が実現できるかもしれません。

 基本、愛情タッグトレーニングは特定の異性選手か彼女枠の一人としかできないものでした。というのも二股とかすると愛情タッグが組めなくなるんですよね……ですがわたしの卒論が機能すれば、複数人による愛情タッグトレーニングが実現できてしまうのです。実際にヤッたこともあります。その周回だと刺されてENDを迎えましたが……あれはほぼ事故みたいなものなんで気にしない方向で行きましょう。

 

 で。

 

 怪我の功名と言いますか、絶対に巻き込まざるを得なかった娘が自分から来てくれましたよ。それは聖ちゃんです。これで相関図で言えば、

 

    聖

    ↓

聡里→パワプロ←礼里

 

 ――と、こんな感じに持っていけました。

 うん。色々と言いたいことはありますが、エロスなことに消極的なはずの、可愛いと褒めるだけで「やめるのだー!」と顔を真っ赤にする聖ちゃんが、自分から来てくれたことに驚愕しております。

 隣でくぅ、くぅ、と寝息を立ててる聖ちゃんがエロ可愛い天使だった。これだけは真実を伝えておきたかったです。

 で、ですね。なんと以前に立てていた仮説が正しいと実証されましたよ。聖域の人達はどうやら、本当に強力な超特を齎してくれるようなんです。聖ちゃんとの一夜を明けた時、超特のコツをゲットしたんですよ。

 

 その名も『超集中』です。下位特はありません。

 

 ええ、ご存知でしょうがこれ、聖ちゃんの『超集中モード』ですね。いわゆる『ゾーンに入る』というやつです。それを任意で行えるようになりました。

 一度発動すると全てがスローモーションになります。打撃時に猛威を振るう事でしょうね……相応の技術があればどんな変化球も直球も、これがあれば安打にするのは容易いでしょう。非力な聖ちゃんには難しくとも、ホームランもバンバン狙えます。ただし一度発動すると再度使用可能になるまでインターバルがありまして、一度の試合中に最高で二回も使えればいい方でしょう。

 とはいえ破格の能力です。打撃時はもちろん守備時でも、難しい打球を処理するのが容易になります。もちろん野球が関係ないところでも使えます。デメリットとしてスタミナ消費が激しいのが難点ですが、そんなものは補って余りあるメリットの前に霞んで消えますよ。まったく、聖ちゃんは最高だぜ! 選手としても個人としても最高とか誇らしくないの?

 

 RTAの合理的な観点から見ても、個人的な好みから見ても、隙のない完璧ぶりですよ……しかも投手プレイするなら最高の捕手でもあります。

 ガチ勢からすると捕手に求めるのは肩の強さとかリードの上手さとかそういうのは二の次で、とにもかくにもキャッチングの上手さが求められるわけですからね。練習さえ積めば、ガチ勢の上位陣の投げるハチャメチャなオリ変以外はバッチリ捕球してくれる聖ちゃんはまさに命綱。リードも上手く打撃でも成績を残せるとか心底最の高としか言えません。おまけにこんな超特まで齎してくれるなんて――もうね、聖ちゃんの株はストップ高ですよ。

 

「む、むぅ……ゃ、ゃめるのだぁ……」

「………」

「………」

 

 で。

 寝てる聖ちゃんの頬を、人差し指で突いてムニムニしてる礼里ちゃん。

 全裸です……エロいです……ホントにロリかってぐらい色気づいてます。

 ええ。全裸なんですよこの娘。聖ちゃんもですが。

 

 礼里ちゃんは例のあの日からパワプロくんの家のパワプロくんの部屋で寝泊まりするようになってたんですけど。合宿が終わって帰ってきた当日、彼女は何を思ったのか、シャワーを浴びた後に外出して行ったんです。それと入れ違いで聖ちゃんが来たんですよね。そんで、まあ、はい。比喩的な意味で弾道が上がってハッスルしてる最中に帰ってきてですね、泡を食って動揺している聖ちゃんに構わず、無言で全裸になって参戦してきやがりました。

 はい。

 またです。

 また三人戦争が勃発しました。

 三つ巴戦ですが、一つ弱小国があったので、弱小国ひじりんは蹂躙されて植民地化してしまいましてね。その後、戦勝国同士で潰し合ってわたしが勝ち残りました。とはいえ搾取構造が出来上がってたんで、礼里ちゃんはいくつかの実戦経験で余裕が生まれていた事もあり、聖ちゃんよりも先に意識を取り戻したようなんですよね。羨ましい? なんでそうなった? いやそれはわたしも知りたいんですけどね……あと羨ましいなら攻略頑張れとしか言えません。

 もうなるようにしかならないんじゃないですか?(諦観)

 

「専一。お前の悩みは全て分かる。私も協力しよう」

「お、おう……」

 

 礼里ちゃんはわたし――というよりパワプロくんの悩みを読み取っているようです。仕様なのかなんなのか、メタ的な視線を持つわたしの思考は読み取れないらしいのは救いです。それ読まれたらパワポケ時空の皇帝くんみたいなメタ発言を連発する礼里ちゃんになっちゃうので、個人的には良かったと安心することができました。

 しなやかな肢体をベッドの上に投げ出し、薄く妖しい笑みを浮かべてる礼里ちゃんはメチャクチャ頼もしいです。ザ・共犯者といった感じなんですが、一つ疑問が。

 

「なぜ私が、お前にとって都合のいい女になっているのか、か?」

「おい。そんなふうには思ってねえぞ」

「……冗談だ。私は単に自分から専一の為になる事をして、私の有用性を証明し――専一が私なしでは生きていけなくなるようにしたいんだ。お前の周りに他の連中がどれだけ増えても、私の優位性が崩れる事がないように、な」

「………」

「氷上や聖には真似できない――私にしかできない、私だけのポジション。聖はお前にとって欠かせないが、専一にとって選手としての私はそうでもなかったからな。探せば代わりはいる程度の存在だと、自分ではそう思っていた」

「――言っとくが礼里ちゃんの代わりなんかいねえからな?」

「分かっている。お前ならそう言ってくれる、そう思ってくれている。だが私が欲しいのは……専一の好きな漫画風に言うなら、『安心が欲しい』んだ。心の平穏を保つには――私が私にしかできない方法で専一に尽くすしかない。とことんまで都合の良い女になるんだ。今は私が一方的に依存しているが、いずれは専一を私に依存させ、共依存の関係に持っていこうと思っている」

 

 えぇ……(困惑)

 恐いよこの娘(大嘘)

 でも可愛いから、ヨシ!(現場猫)

 

 ぶっちゃけヤバいレベルのヤンデレ知ってるんでこれぐらいはどうってことありませんね(震え声)

 

 というか自己分析で自分がパワプロくんに依存してると思ってるんですか。

 多分そうなんじゃないかなとはわたしも思ってましたが、自分でそう客観視してるとか驚きですよ。普通自分じゃなかなか気づけないもんなんですがね。

 それよりですね、礼里ちゃんの行動がマジで都合が良くて困ります。聖ちゃんの突撃を読んで一時我が家から離れ、頃合いを見計らって戻ってきて、流れに乗って三人でイタした事で聖ちゃんの無意識に他の娘の存在を刷り込んでしまいましたから。わたしとしては礼里ちゃんを便利な女扱いしたくないんですが……RTAで重んじるべき合理的な観点で見ると、礼里ちゃんの補佐は利用しない手がない事が更に困ります。頭痛すら覚えますよ……。

 

 ウゴゴゴ……RTAとは修羅の道ですが、流石にこれはキツイ。

 

「心配するな。私は病んでいない」

「……ホントか?」

「本当だ。専一は仲間達と疎遠になる事、距離が離れる事を恐れている。仲間とは言っても男と女だからな……肉体関係が間にあれば、どうしても人の関係とは拗れるものだ。そしてその恐怖が生まれた切っ掛けが、私にもある。なら私には、その不安と恐怖を解消する義務があるだろう」

「んなもん()えよ」

「ある。私が勝手にそう思っているだけだが。ここで聖を巻き込んだのは私の判断で、必要だと思えば私はなんでもしよう。――私を頼れ。私がいなければダメになるぐらいに頼ってくれ。私を安心させてくれるのだろう?」

「なんて返せば良いのかぜんっぜん分からん。だけど……とりあえず、だ」

「? とりあえず――なんだ?」

「服を着ろ」

 

 嘆息して、ベッドから出ます。パパンとママンは気配察して気まずい顔してそうですね……そりゃ、家族ぐるみの付き合いのある、娘みたいなもんである聖ちゃんと、同じぐらい可愛がってる礼里ちゃんの二人が、自分の息子とイタしてるんなら頭を抱えたくもなるでしょう。こりゃゲンコツ付きの説教不可避ですわ……しゃあないんで、甘んじて受け入れますが。

 とりあえず礼里ちゃんの補助はありがたく受けときます。実際、とても助かりますからね。心も読める冷静沈着で頭脳明晰、運動神経抜群な礼里ちゃんがこっちの思惑を助けてくれるとかありがたい限りですし。ただ……やっぱり幼少期からの付き合いですから。礼里ちゃんがわたしのゲスな行為に加担する、ヤバイ精神状態になる切っ掛けになった闇野だけは……礼里ちゃんの親御さん達を心神喪失状態にした闇野だけは――マジで許さんですよ。八つ当たりかもですがね、バッティングピッチャー兼サンドバッグにしてやる……。

 

 服を着て一階に降りると、案の定親父殿からグーパン食らって、お袋殿からネチネチと説教食らいました。すみません……反省したいんですが、これから更に数、増えるかもなんですよ……増えないに越した事はないんですが。

 

 下半身のだらしない息子で本当にすみませんでしたぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想評価等ありがとうございます。
ネタにマジレスするみたいで恐縮ですが、カンストした弾道は4から上になることはありません。なぜなら弾道って上がるものですが時が経てば下がるものですからね(下品)

で、アンケートです。といっても登場する順番を決めるだけですので、さほど気負わずに気軽にどうぞ。


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野球してぇなぁ俺もなぁ

一日空いたので初投稿です。


 

 

 

 

 

 

 転校生は、一年間は公式の大会に出られない。

 

 その縛りは実に有効だったと言えるだろう、怪物を封じ込めるという意味合いに於いては。日本のリトルシニア中学公式野球大会の、夏季の大会から彼らを締め出せたのは、結果として多くの才能が磨かれる植え付け期となった。

 中学一年生の頃、最初に所属したシニアチームの監督は、彼らがまだ硬式に慣れていないと見て夏の大会でレギュラーの座を渡さなかった。

 自らの進退に関わり得る、重大で大切な人材だったのである。安全面を鑑みて、大事に育てようとした判断は間違いではない。

 だが結果としてチームから孤立した彼らは河岸を変え、一年間の空白期間を置くことを余儀なくされた。故にその一年間は、球界は彼らの存在を忘れていられた。シニアの選手たちも、彼らという悪夢を忘れていられたのだ。

 

 後に世界各国の少年野球チームは回顧する事になる。WBSC U-15ワールドカップに、彼らが二度も現れなかった事は幸運だった、と。8月の半ば頃に開催されるその大会にも、天才の三人組は出場できなかったのだから。

 力場専一。六道聖。霧崎礼里。その三人が再び表舞台に上がるのは、秋季大会からである。そしてWBSC U-15ワールドカップには、中学三年生になった時の一度しか姿を見せない事が決まっていた。

 

 一年は、長い。特に青春時代を駆け抜ける少年少女達にとっては。そして加速度的に成長していく原石達の煌めきに目を奪われ、球界も次第にリトル時代に猛威を振るった怪物の存在を忘却し始めている。

 確かにリトルには怪物がいた。だがそれは一年の空白期間で、他の才能に差を埋められてしまい、以前ほどの輝きを示す事はないのではないか。そう思うのが普通である。常識的ですらあった。嘗ては心折られた少年少女達も、昔のようにやられたりはしないと、怪物の再来に恐れを懐かなくなりつつある。

 

 しかし、彼らは知るだろう。

 一年の空白、中学での試合経験の希薄さ――そんなもので足踏みし、差を埋められるような者を怪物と称する事はなかったのだと。心折られて屈服する事などなかった、打席で項垂れる事もなかったのだ、と。

 

 そして今、彼らは思い出す。世代の名前を。自分達の世代で、トップ・プレイヤーとして名を馳せた怪物の名前を。

 

 

 

 そのボールの回転軸は進行方向に向いている。

 

 

 

 左腕から投じられ、左回転しているそのボールは、縫い目が風を受け流し空気抵抗を減じると、初速と終速にほぼ差を生じさせず、マグヌス効果による揚力も受けずに直進し、フォークボールのような軌道を辿って落ちていく。

 破壊的に速く、破滅的に重く、抜群の制球力に操られてミットに収まった。ズドンッ、と。――それは内角低めギリギリに突き刺さる4シームジャイロ。浮き上がるようなノビを持つ直球とは異なる速球。

 

「これでツーストライク。どうしたのだ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()と宣言しているぞ」

 

 ささやかれる声が思考にノイズを走らせた。煩いっ! そう怒鳴ってしまいそうになるのを懸命に堪え、マウンドに立つ投手を睨みつける。

 おぞけを誘うほどに、圧倒的な存在感がある。170cmの半ばといった体躯が2mに迫ろうかというほど巨大に見えた。

 気圧されている――その事実に歯噛みして、強くバットを握り締めた。内角には投げさせない、そのためにストライクゾーンに身体を覆い被せるようにして構える。少しでも投げづらくさせ、外角に来たボールを狙って流し打つ。それ以外は全て意地でもカットしてやると意気込んだ。

 だが、その勇気と知恵、意地を嘲笑うように。針の穴に通すような精密な制球力が、打者の懐を抉るかの如く直球を導いた。

 今度はジャイロ回転していない。マグヌス効果を最大限に従えた、浮き上がるような直球だ。ぶつかる! その確信に、思わず仰け反って。内角高めギリギリいっぱいに、剣が鞘に収められるようにしてボールが捕られる。

 

 ――ストライクッ! バッターアウト!

 

 主審のコールを受けた瞬間、ピシッ、と心に亀裂が入った気がした。

 捕手・六道聖からの返球を、グラブで横から掻っ攫うように受ける投手。少年は、こちらを見てもいない気がした。相手にならないと言われている気がした。見下されている、気がした。

 鋭角的な容姿は傲慢な印象を持たせる。悠然と構える姿には慢心が透けて見える。強者、天才の増長。皹の入った心から目を逸らし、負けてたまるかと、なんとか奮い立つ。見せつけられた圧倒的な差から目を逸らしたのだ。

 

 ――まだ一打席目だ、次がある。それに今度は僕の番だ。今度は僕が、君を打ち取ってみせる。

 

 その、思いは。その気迫は。

 

 コォ……ーン……と静寂の中に奔る、透明な音に砕かれた。

 

『これは外野フライでしょうか? ……い、いや! 伸びている! 伸びて、伸びて――は、入った入ったァ! グランドスラムゥ! 四番・力場専一、内角低めに放り込まれたストレートを狙い打ち! 怪物は衰えていません、いやむしろ進化しているッ! 今、三人の少女を生還させた男がホームに帰ってきて祝福されています!』

 

「――ぁ」

 

 先頭打者・霧崎礼里が初球からヒットを打ち一塁へ。二番打者・小山雅が四球を選び。三番打者・六道聖が二塁の頭を越え、前進していたセンター前に打球を運んで。三人の少女たちによって作られた復活劇、満塁の打席に、その男は木製バットを担いで悠々と、散歩でもしているかのような足取りで現れた。

 芯の部分(スイートスポット)に明確な差がある金属と木製のバット。木製バットは高校生の中にも殆ど用いる者はいない。なのにそれを用いる傲慢を、ピンチの局面を苦手としていながらも圧し折ってやると気負った。

 自分がやられた事をやり返してやると言わんばかりに、内角低めに投げ込んだ直球は、しかし。腕を畳むように、腰と膝を曲げて回転させながら、ゴルフのように掬い上げるスイングへ捉えられたのだ。

 

「ぁぁぁ……」

 

 見るも鮮やかな、芸術的な打撃だった。まるでお手本のような、理想的なスイングだった。

 己が不在だったシニア野球界へ、見せつけるかの如き洗礼の一撃。レフトスタンドに吸い込まれていった打球を見た瞬間――金子カイトは膝を折る。

 かつてリトルで味わい、乗り越えたと思っていた壁が、依然として高く聳え立っていた事を思い知って。心底痛感させられたのだ、乗り越えられない絶対的な力の差を。才能の差を。こんなバケモノに、敵うワケがないのだ、と。

 それでもとなんとか奮起して、立ち上がっても。第二打席でセンターのフェンス直撃弾を浴び、第三打席でライト方向へ綺麗に流し打たれた。その時、カイトは己の矮小さを知った。思い知らされた。

 

「――野球、辞めよう……」

 

 上位打線に徹底的に打ち込まれ、抑えられたのは下位打線だけ。その暗澹たる成績に、カイトは乾き切った笑顔で、夢を諦めた――

 

 

 

 

 ――的な感じで中学デビューしたいんだけど、どうよ?

 

 

 

 

「前置きが長いっ! しかもサラッと金子とかいうヤツの野球人生終わらせてんじゃないわよ!?」

「ドラマCD聞かされてる気分だったでやんす……」

 

 ダンッ! と机を叩いてがなり立てたのはみずきだ。矢部が冷や汗を浮かべながら呟いているのが印象的だった。

 教室がくすくすと笑い声で満ちる。クラスの中でも少年の存在感は大きく、彼が長々と語り始めるとどうしても注意を集めてしまうのだ。

 しかしパワプロはそんな事には頓着せずマイペースに噺を続け、無駄に良い声で噺を結ぶと笑いが起こった。周囲からの笑い声にパワプロは肩を竦めて、そんな彼に美藤千尋が呆れたふうに嘆息する。

 

「公衆の()()で妄想を垂れ流すとは……恥ずかしくないのか?」

「公衆の()()な。ちーちゃんよ、こういうのは恥ずかしがった方が負けなんだよ。普通にナルシシズムってたら赤っ恥不可避でも、堂々としてりゃ逆に『よくわからんがなんか凄そう』って感じられるもんなんだ」

「確かに自信満々過ぎて、パワプロくんなら現実でも同じ事やりそうな気がしてくるでやんす……」

「だろ? 全打席長打連発なんて無双ゲー、中々できるもんじゃないけどな。というわけでみずきちゃん、秋の大会では俺を四番にしてくれ」

「なにが『というわけで』なのかみずき分かんなーい。キャップは打撃も上手いのは認めるけど、打順を組むのは私じゃなくて監督なんだからね? できる事できない事、やって良い事悪い事の区別はつけるべきだと思うな〜」

「お。みずきちゃんが常識的なこと言ってる……明日は雨だな。皆! 明日は傘を忘れんなよ! 天気予報でも雨っぽいとか言ってるしな!」

「あ、あんたねぇ……」

 

 ドッと笑いが巻き起こるのに、みずきはこめかみを引き攣らせた。

 

 夏休みが明けて二学期に入った前日、席替えがあったため席順は大きく変動していた。今は窓際の席にパワプロが、その後ろに千尋、千尋の隣に矢部、パワプロの隣にみずきがいる。

 籤引きの結果なはずが、作為を感じなくもない席の配置だ。

 クラス内のカーストでは、男子の中ではパワプロが。女子の中ではみずきが一番上に位置している。本人が望んでそうなったのではない、特に意識もしていない。だが優れた容姿と運動神経、陽キャと揶揄される性格が自然と中心的な立ち位置に立たせていた。そしてそんな二人が近くにいれば、必然的に級友達も男女の別なく集まってくる。

 

 そんな中、教室の隅にいたとある男子はふと思った。この面子が異世界召喚されたらどうなるんだろう、と。

 俺様イケメンのパワプロに、意地悪っぽいけど可愛い橘みずき、金魚のフンのメガネキャラ矢部、バカだけど可愛い美藤千尋、その他にも割とキャラ立ちしそうなクラスメイトもチラホラと見られ、割と美味しい面子ではないだろうかと思う。パワプロなら踏み台勇者になるような事はなくて、案外普通に王道物語にしてくれそうな気がした。

 昨今の勇者を蔑ろにする風潮に一石を投じたい男子は厨二脳の赴くまま、世間に王道異世界物の良さを思い出してもらうべく筆を取った。――後日、無料小説投稿サイトに処女作の異世界物を投稿し出したその男子は、辛辣なコメントを多数書き込まれて心が折れ、そして筆も折ったという。黒歴史だった。

 

「――そういえばさっきの噺なんだけど、金子ってヤツは実在してるの?」

 

 休み時間の合間で提供された笑い話。パワプロのナルシシズム・ネタで盛り上がっていた午前中。

 ネタはあくまでネタでしかなく、本気ではないと理解している。それでも昼休み中、不意に午前の噺を思い出したみずきが蒸し返してパワプロに訊ねた。

 パワプロはペットボトルのオレンジジュースをみずきに投げ渡しながら振り返る。

 

「ん、アレか? もちろん架空のキャラだぞ。モデルにしたヤツもいねえよ。現実にいるヤツを引き合いに出してさ、ネタって言っても踏み台扱いにしたら流石に酷いからな」

 

 まだ身長は伸び続けている。いずれは190cmに届くのではないかというほどに急成長している少年は、みずきの唐突な問いにあっけらかんと答えた。

 パワプロの身長は、今は180の手前といったところだ。仲間内で一番身長が高かった太刀川広巳を既に追い抜いている。デカくなる奴は成長速度がエグいと聞いた事があるが、モデルのような高身長を筋肉で鎧えるパワプロが、内心羨ましくはあった。もちろん同じ投手として、だ。

 まるで少女漫画の俺様王子キャラかってぐらいにイケメンで、身長が高く、体格は均整が取れていて、話上手で頭と性格も良くおまけにアスリートとしてのスター性を所構わず発散している。しかも夏休みの途中――合宿の最中から明らかに様子が変わって、二学期に入りパワプロを見た女子の顔は明らかに雌の顔になっていた。

 

 ファンクラブ、また増えるのかもねぇ……みずきは頭の片隅でそう思う。

 

 匂い立つフェロモンに、近くにいるだけで頭がクラクラしてきそうだ。みずきは日頃パワプロの近くにいたから慣れているが、耐性がなかった女子達が明らかに普通じゃなくなっているのを横目に見て、『もしかして私もこんな顔してたりしないわよね……?』と少し不安になってきていたりする。

 パワプロはみずきが自分の顔を触っているのを気にせず、重箱の包を開く。晴れ渡る青空の下、屋上で昼飯を摂ろうとしているのだ。下手に食堂や教室で食べようとしようものなら、女子が群がってきて落ち着いて飯も食えないとボヤくのである。そのボヤきに矢部が血涙を流していたのは割とどうでもいい。

 

 パワプロだけでなく、礼里や聖、あおいや聡里なども、同様の理由で昼休みは屋上に避難してくる。パワプロとみずきは同じクラスという事と、少し早く授業が終わったから屋上へ一番乗りを果たしていた。

 二人きりである。だからなんだというわけではないが、パワプロがふと悩ましげに零したのにみずきは自然体で応じた。

 

「そういやさ……」

「んー? あっ、卵焼きもーらいっと! ……んぅ〜! 美味しい! キャップのお母さんの卵焼き、相変わらず絶品ね!」

「おう、人の飯勝手に獲ってんじゃねえぞ? 卵焼き代として相談に乗れ」

「なーに? 完璧超人のキャップにも悩みなんかあるんだ?」

「誰が完璧超人だ。運動神経と一般学力を俺から取り上げたら、後はイケメンしか残らねえだろ」

「あーあーあー! 自分で自分をイケメンとか言い出しやがりましたよこの男は。ナルシストのネタ引っ張ってもやり過ぎたらイタいわよ」

「みずきちゃんも自分を可愛いって言うじゃねえか。ブーメラン発言はイタさを累積させるぞ。それよりさ、聞いてくれよみずきちゃん」

「あによ」

「ここだけの話なんだが、あおいちゃんの事なんだけどさ」

「あー……あおい先輩の事ね」

 

 緑の髪を結わえおさげにしている、みずきが最も尊敬している先輩。いや、先輩陣の中で唯一尊敬できる人、と言った方が正確か。

 実姉に瓜二つという事もあり親近感を持ちやすく、みずきはあおいを姉のように見て慕っている部分がある。もちろん自覚があるかは定かではない。

 ともあれみずきはあおいの名前を出された時点で察した。

 

「最近俺、あおいちゃんに避けられてる気がするんだが……俺、知らん間にあおいちゃん怒らせるような事したっけか? そこんとこどうよ。悪い事してたら謝りたいんだが、心当たりがなくってさ……」

「あー、うん。キャップは悪くないわよ。多分。たださ、あおい先輩って三年だし? 秋の大会が中学最後だし? キャップに構って気を散らしたくないんじゃないかなーって思わなくもない事もないわ」

「なんで俺に構ったら気が散るんだよ」

 

 ホントは分かってるくせに、とみずきは呆れる。だが分からないフリをしているパワプロを責める気は、みずきにはなかった。パワプロがフリーの身ならコイツ最悪と思うところだが――生憎とパワプロはフリーではないのだ。

 ()()()()()()()()()()。余計な波風を立てないという意味では、分からないフリをしているパワプロが正しい。

 とはいえ、あおいの心情を慮るなら放っておいてあげたいみずきではあるものの。パワプロの「仲間内で変な遠慮があるのはどーなんだ」というスタンスも分からなくもない。なんで私がこんな板挟みになってんのよ! と怒鳴りたくなるみずきではあるが、生憎とあおいの事は他人事ではなかった。

 

「さーねー。そんな細かいこと、みずき分かんなーい」

「おいおい……なんとかなんねぇのかよ」

「時間が解決するでしょ。あおい先輩だってアンタを避けたくないだろうし? だって下手なコーチより遥かにキャップの方が教え上手なんだもん。プロに行きたいっていうあおい先輩が、いつまでも同じとこで足踏みしてるとは思えないかなーって」

「時間が解決する、ね……なら良いんだ。じゃ、俺からは何もしない方がいいと思っといていいんだな?」

「むしろ何もすんなって思わなくもない感じかな。や、なんの事かみずきちゃんにはよく分かんないけどぉー?」

「りょーかい」

 

 ひとまず納得したらしいパワプロに、みずきは内心ホッとする。朴念仁の大馬鹿ならこうも簡単に収まらなかっただろう。パワプロがバカな男子じゃなくて良かったと胸を撫で下ろしたい気持ちである。

 みずきとしても、敬愛する先輩の気持ちの整理が終わるまでに、余計ないざこざを起こしたくないのだ。特に仲間内での色恋沙汰でゴタゴタが起きると思うと、面倒くさくて敵わない。

 

(――キャップ、いい奴なのよね……嫌な奴だったらよかったのに)

 

 みずきはそう思いながら、そろそろ他の面子も屋上に来る頃合いかなと思いフェンスの方に向かう。風を浴びながら下を見ると、あおいが木の陰で弁当を開いているのを見つけてしまった。どうやらあおいは、パワプロのいる屋上に来る事もやめてしまったらしい。心ここにあらずといった様子で、物憂げな表情をしているあおいを見ると、みずきも複雑な気分になる。

 と、その時ひときわ強い風が吹いた。

 

「お。縞パンか……」

「っっっ!? 見たっ!? 今見たでしょ!?」

「おう。バッチシ見た。縞パンとプリッとしたケツ可愛かったぞ」

「感想聞いてんじゃないわよこのヘンターイっ!! って躱すなっ!」

「俺、悪くない。風、悪い。あとそんなとこにスカートで立つみずきちゃんが悪い。反省しろ」

「なんで私が怒られてんのよ!? もう信じらんないっ!」

 

 思わず靴を脱いで投げつけたものの、ひょいっと座ったまま躱したパワプロをみずきは真っ赤になった顔で睨みつける。

 ドタドタと足音を立てて屋上から出ていこうとするも、タイミング悪く他の面々がやってきた。みずきの様子に「どうしたのだ、みずき」と聖がきょとんとした目を向けてくるのに、みずきは言葉に詰まって元いた位置に戻った。

 もちろんスカートを抑えながらだ。平然としてるパワプロが気に食わない、なんで慌てたり赤くなったりしてないのよと内心文句を垂れる。

 

(これじゃまるで、こっちが一方的に意識してるみたいじゃないっ!)

 

 ふとあおいが屋上を見上げているのに気づいて、目と目が合う。こっちに来る? とでも言いたげに苦笑されたみずきは、なんとも言えない気分で顔を背けた。ひとり寂しく食べてたらいーじゃないですか、と手振りで返して。

 

(――そんなだと後で絶対後悔するんですからね、あおい先輩)

 

 みずきは自分の事は完全に棚上げして、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 




高校編まで、あと十話以内にいく予定です。
感想評価等ありがとうございます。とても心の潤いとなっております。


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早川あおい「ダイジョーブの成功手形?」

唐突な展開に入るので初投稿です。


 

 

 

 自主合宿の時以来、まともに顔を見る事もできなくなって。

 まともに声を掛けられなくなって、掛けられても応えられなくて。

 なんて情けない一人相撲――いつまでも避け続けるわけにはいかない。そんなことは分かってる。

 だから、割り切らなくちゃならない。密かに蓋をして、押し殺し続けたものを振り切って、切り捨てて前に進まなくちゃならなかった。

 

 けど脳裏に満ちるものがある。それは――

 

『あおいちゃん』

 

 ――ボクを呼ぶ、声。

 

『あおいちゃん』

 

 ボクを見る、目。

 

『あおいちゃん』

 

 ボクを引っ張っていく、力。

 

『あおいちゃん』

 

 ボクを惑わせる、心。

 

 次第に頭の中を占めていく。気がつけばその姿を思い描いている。ボク以外の女の子と話してる姿を見ると胸が苦しくて、なんでもないように接されると切なくて、こんな衝動なんて忘れてしまおうと思っても忘れられない。

 ボクはおかしくなってしまった。周りの話に合わせるために、少女漫画を何度か読んだ事はあるけれど、まさか自分が普通の女の子みたいな気持ちに囚われるだなんて思いもしなかった。

 夢があるんだ。サブマリン投法で鳴らした、球界きっての軟投派投手みたいに、ボクもプロ野球選手として活躍したいっていう、夢が。

 けど簡単に叶えられる夢じゃない。それこそ野球以外の全てを切り捨てて、毎日の時間を切り詰められるだけ切り詰めて、人生を野球に捧げてはじめて到れる領域なんだ。だから――普通の女の子みたいに、恋なんかにうつつを抜かしてる暇なんか、ない。ましてやとっくに恋人がいる相手を想うだなんて、間違っている。

 

 なのに。

 そんな事は分かっているのに。

 こびり付いてしまっているんだ。拭い切れなくて叫び出したくなる。

 

 この、抗い難い心の熱。熱い呼気に全部を乗せて、吐き出したくて走った、走り込んだ。不純なままじゃいられない。不純だと何もかもが半端になる。そんなのは嫌だ。後輩の彼氏に横恋慕だなんてみっともないにも程がある。

 なんでと思う。熱を吐き出す度、なかなか吐き出しきれない熱を自覚していく度、思ってしまう。なんで、と。なんでなんでなんで――よりにもよって、ボクは恋人(あいて)のいる男の子なんかを好きになってしまったんだ――

 

 

 

 ――最初にあったのは、世代の顔と言われる男の子への興味。それと対抗心だった。

 

 

 

 ボクだって負けない。女の子だからって、男の子のトップ・プレイヤーに敵わないなんて道理はない。現役のプロの中には第一線で活躍してる女の人もいるんだ。性差から生じる身体能力の差は覆せるって、現実で証明されてる。

 ならボクだって――そんな意識から一方的に、彼をライバル視していた。

 だから先輩のボクを名前で、それもちゃん付けで呼んできた時は、生意気な後輩くんだと思ったけど。どうしてだろう……不思議と不快じゃなかった。

 理由を探してみると答えは簡単に見つかった。その男の子はボクを女の子だからって見下さず、差別も区別もせず対等の目線で見てくれて、負の感情は少しも懐かずに正の感情だけを向けてくれていたからだ。同年代の男子達の女の子を見る目が、ゾッとするほど気持ち悪いものだったから、それが全く感じられなかった事も好印象だった。

 たぶん、その男の子は野球バカだったからだろう。野球以外に興味がなかったから、ああも純粋だったんだと思う。そういうところで広巳ちゃんとも意気投合していて――可笑しくなるぐらい、ボクの周りにいる女の子達は、みんなその男の子に好意を抱いていった。

 真摯だった。

 野球の練習をしている時も、皆に惜しみなく自分の技術を伝える時も。その男の子は下心なく、本心から皆に上手くなってもらいたいと思っていた。

 自分の技術(ブキ)を惜しみなく教えるなんて、普通に考えたらバカとしか言い様がない。それは自分の唯一性を失わせる行為でしかないから。けどその男の子は笑うんだ、傲慢と言いたきゃ言えって。皆に教えても自分の優位は崩れないって。そう言えるだけの努力はしている、って。追いついてやりたい、追い抜いてやりたいと、本心から思ったからボクも積極的に技術を盗ませてもらった。そして臆面なく、遠慮なく指導を受けた。

 

 日々上達していくのが分かる。それが楽しくて楽しくて――ボクはいつしか次は何を教わろう? 次は何を教えてくれるんだろう? 次はボクの変化球を進化させる方法を聞いてみようと思うようになって。気づけばいつも彼との練習のことを考えるようになって。そして、そこからおかしくなった。

 今あの男の子は何をしてるのかな? ボクのことを考えてくれてたら嬉しいな。えっ……ボクの『マリンボール』の理論を考えてくれてたんだ! 凄いよこれなら『マリンボール』がもっと進化する! 完成したら勝負しようよ、ボクのマリンボールが君に打てるかな? あーっ!? なんで打てるの!?

 あ、どんなふうに曲がるか分かってるんだから狙い打てばいいだけ? これを活かすにはマリンボールのキレを持ったサークルチェンジを覚えたら更に威力が増す? ふ、ふーん……え? サークルチェンジの握りはこうだ、ってそれも教えてくれるんだ……。もう、まるで君がボクの先生みたいだね。

 カーブはこう、かな。それよりスロースライダーとスローカーブ? む、難しいね……多彩な変化球を操れば、サブマリンの浮き上がるストレートがもっとえげつなくなる……なるほど、流石ボクのセンセーだ。あ、あはは――

 

 あはは。

 

 ――なんだ。

 

「とっくの昔に、ボクの真ん中にいたんだね……パワプロくんは……」

 

 走りながら、涙を流してしまう。心の軋みを呟いてしまう。

 思い返す思い出の全てに、パワプロくんがいた。上達する喜び、勝負しての一喜一憂、無自覚なセクハラに対する怒り、勘違いしていた自分への羞恥。

 全てにパワプロくんが絡んでる。そして、パワプロくんのいなかった思い出が、比較して全部が色褪せて見えてしまっていた。

 一個違いでしかないけど、年下の男の子を心の底から尊敬した。対抗心はもう欠片もないのに、勝ちたいという思いはさらに純粋になった。それなのに、好きになってしまったんだ。

 傲慢にも見える自信家っぷりが好ましく、純粋に夢を追い掛ける才能の輝きが眩しく、真摯に対してくれる姿勢が嬉しかった。こんなに素敵な男の子は他にはいない、もっとボクを見て欲しい、もっとボクの事だけを考えて欲しいしボクと同じ道を歩んで欲しい。ずっと――ずっと一緒にいて欲しい。そう思うようになってしまった。

 だからそんなボクの願望を叶えている、叶え続けられる事が約束されている聖ちゃんと、霧崎さんに嫉妬した。公言はされていないけど、明らかに恋人同士になった氷上さんを激しく妬んだ。そしてそんな自分が嫌で蓋をした。

 

 芽生えていた恋から、目を逸らし続けて。そして、もう無視できないほど、想いが膨れ上がり続けてしまったんだ。

 

 全部、パワプロくんが悪い。

 気づかないままで、目を逸らしたままでいたかったのに。

 やれ下半身の安定感が凄いだの、お尻がデカイのが羨ましいだの――そんなセクハラ紛いな事を、よくも下心もなしに吐き出せたもので。しかもベタベタ触ってくるし、こんなの意識するなっていう方が無理だ。

 ボクは悪くない。意識させるパワプロくんが悪い。

 

「なんで……っ、なんで……氷上さんなんだよぉ……!」

 

 日々募るもどかしさ、切なさ、悔しさ。聖ちゃんや霧崎さんだったらまだ分かる。幼馴染だし、いつも一緒にいるし、とても仲良しだったから。

 なのにそんな二人じゃなく、パワプロくんは氷上さんと付き合うようになってしまった。何があったのかなんて知らないけど、それでも思ってしまうじゃないか。

 

「氷上さんならチャンスがまだあるかもって、思っちゃうじゃないか……!」

 

 そんなふうに思ってしまった自分が醜くて嫌いだ。

 割り込む隙間のない幼馴染の二人じゃない、氷上さんになら勝ち目があるかもなんて思ってしまう自分に吐き気がする。

 こんなのは、違う。こんなのはボクじゃない。切り捨ててしまおう、押し殺してしまおう、忘れてしまおう。そう思って、とにかく一人の時間だと走って走って走り続けた。

 だって、一人でいると――思い出してしまう。腰に触れてくるパワプロくんの手の感触を。触れられた時の熱を。もどかしくって、自分を慰めてしまおうとする無意識の働きにハッとさせられてしまう。

 ストイックになる。邪念、雑念、懊悩、煩悩、その全てを潰し、夢だけを見て邁進する。ボクが目指すのはプロのマウンドなんだ、って言い聞かせる。

 

 ――そのマウンドに、パワプロくんと二人で立ってる幻を見た。

 

 可笑しな幻だった。マウンドに立つのは一人のピッチャーだけなのに、なんで二人で立ってるのかまるで見当もつかない。バカみたいだった。

 

「痛っ……」

「あ、悪い……ってあおいちゃん?」

「え……パワプロくん……?」

 

 脇目も振らずに走っていたせいで、人にぶつかってしまう。

 それはパワプロくんだった。彼がシニアの練習がない平日、いつも走ってると言ってたコースに入ってしまってたらしい。――いや、無意識にそこを目指してしまっていたのかもしれない。

 ともかく、無意識に。無意識に顔を輝かせてしまいそうになって――氷上さんが隣にいるのに気づいて、ボクはぎくりと身体を強張らせた。

 

「ご、ごめんっ! ボクちょっと急いでるから――!」

「お、おう……ん?」

 

 走り去る。微かに過ぎった昏い怒りが、後ろから手を伸ばしてくるのを感じて、それから逃れるために駆けていく。

 戸惑ったようなパワプロくんの返事も、耳に入らない。

 全部――忘れてしまいたい。そう思って走り、走って、走り続けて――

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「あ」

 

 漏れたのは単音。

 歩道と車道を繋げる横断歩道の信号は、赤。

 走馬灯が流れそうなぐらい、ゆっくりとしたスローモーションだ。

 運転席のおじさんが、目を限界まで見開いているのが見える。驚き過ぎて固まって、ハンドルを切ろうともしていない。ブレーキを踏んでもいない。それが不思議なほど遅い視界の中で視認できた。

 

 死。死ぬ。これは死んだ。よしんば助かったとしても、ボクの身体はグチャグチャになるだろう。そうなったら、夢は潰える。

 それは、死んだも同然だ。

 終わった、何もかも。こんな不意打ちみたいに終わるぐらいだったら、当たって砕けてもいいから――伝えたかったかも。

 何を、とは思わない。思う暇はない。唐突な展開に、心がまるで追いつかない。

 

 けど身体は。身体は、追いついた――叩きつけられてきた声に、弾かれて。

 

「何してるッ――! 跳べェ――!」

 

 カチン、とスイッチが入った感覚がした。

 現実の時間が加速する。いや、通常の速度に回帰した。それと同時に空っぽの頭を置き去りに、身体が脊髄反射のように動いた。

 体勢は、トラックを視認した瞬間に竦み、走っていた勢いが止まって、たじろいでいる。前に跳ぶより後ろに跳んだ方が早い。身体が勝手に判断して後ろに跳んだ。いつもより遥かに機敏に、力強く。

 跳んだ瞬間、鼻先をトラックが走り抜けた。遅れて急ブレーキの音。それから、ボクは受け身も取れないまま転んだ。ごろごろとアスファルトの上を転んで、騒然とする周囲の喧騒も耳に入らないまま呻く。

 

 い、今のは――?

 

「あおいちゃん、無事かッ!?」

「ぁ……パワプロ、くん……?」

 

 倒れていた身体が抱き起こされる。それはパワプロくんだった。鬼気迫る形相でボクを見ていた。

 

「何やってんだこのバカ……! どこか痛まないか? どうもしてないな?」

「う、うん……ツゥ。ぁ、ごめん……肘、痛いや……」

「肘ッ? 肘か……!」

 

 パワプロの分厚い手が、痛みの走ったボクの右腕を掴む。更に走った痛みに顔をしかめていると、パワプロが顔面を蒼白にさせる。

 その表情で悟った。受け身を取る余裕もなかったから、思いっきり肘を打ってしまっていて、そのせいでボクの右腕は折れてしまっていた。

 普通、転んだだけでこんなふうになったりはしないはず。だけど現実に折れている。それはあの瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()かのような力を発揮したせいかもしれない。普通よりも遥かに勢いをつけて転んでしまったからダメージも大きかったんだ。

 それにぶつけていないはずの身体の節々も痛む。

 

「これは……いや、病院だ。すぐ救急車を呼ぶッ。それからトラックは――って、クソッ、野郎そのまま行きやがった!」

「パワプロくん……ボクの、腕は……?」

「大丈夫だ、心配すんな、俺がついてんだなら何もかも上手くいくに決まってんだろうが!」

 

 まるで自分に言い聞かせているような声に、ボクは薄く微笑んだ。

 あ、ダメな奴だ、これ。

 そう思う。

 果たして駆けつけてくれた救急車に乗せられて、病院に運ばれたボクは――

 

 

 

「――早川さん。落ち着いて聞いてください。貴方の右腕は、もう以前のようには――」

 

 

 

 ボクはそれを、不思議なほど凪いだ気持ちで聞き届けた。そっか――と、呟いた声は乾ききっていたけれど。命があるだけ儲けたね、と強がった。

 それに、付き添ってくれていたパワプロくんと、ボクのお父さんとお母さんは沈痛な顔をしていた。

 

 それから――それから? それから、何をしたんだっけ。

 処置してもらって腕に包帯をして、グルグルに固いものを巻かれて、車で家に連れて帰ってもらって、お父さん達が何か言ってたけど聞こえなくて。

 自分の部屋に閉じこもっていた。

 なんだろう。

 これ、なんだろう。

 いきなり過ぎて、誰だってついてこれてない。ボク自身、何がなんだかよく分かってなかった。

 

 そういえば、パワプロくんの方がよっぽど思い詰めた顔をしてた。それが可笑しくて、くすりと微笑む。えーっと、そういえば、俺がなんとかしてやるってパワプロくんは言ってたっけ。

 けど、お医者様でもないパワプロくんにできる事なんてない。もう終わったんだよ。終わったんだ、何もかも。

 

「――え?」

 

 冷たい何かが頬を伝う。

 視界が滲んでいて、ボクは慌ててそれを拭った。

 何も感じない。何も感じてなんかいない。

 そうだ、まだ左腕が残ってるじゃないか。終わってなんか、いない。

 

 けど――元の力を取り戻すのに、どれだけ時間がかかるだろう。そんなハンデを抱えて、皆に追いつけるのか不安しかない。

 心が虚無になっていく。パワプロくんに教わったこと、全部台無しにしちゃったな、なんて不意に思った。

 

「俺がなんとかしてやる。そう言っただろ」

 

 パワプロくんの、声。幻聴だ。

 縋りたくなってる。なんとかなんてできる訳ないのに。

 

「あおいちゃん。窓、開けてくれ」

「……? え……」

 

 だけど、幻聴じゃなかった。

 家の二階にあるボクの部屋の外。窓の外から声がして、慌てて開けて下を見た。

 するとそこにはパワプロくんがいた。手に、木の板のようなものを持って。

 

「メールしても電話しても反応ないし、直接来た。出てきてくれ、今すぐ」

「な、なんで……?」

「何度も言わせんなよ。なんとかしてやりに来たんだ」

「なんとか……って。そんなの――」

「信じろよ。絶対になんとかする」

 

 言われるがまま、ボクは部屋を出ていた。

 何をしてるんだろう、ボクは。そう自分を笑って、父さん達の声も耳に入らないまま外に出た。すると、玄関前まで移動してきていたパワプロくんが、手を伸ばしてきてボクの腕を掴んだ。

 

「行くぞ」

「行くって……どこに……?」

「決まってんだろ? 俺が知る限り世界最高に最悪で、やっぱり最高の名医のいるとこだよ」

 

 意味が分からなかった。

 

 分からなかったけど、パワプロくんは全身汗まみれで、服が汗で濡れている。かなり臭ったけど不快じゃない。だってそれは――ボクのために、あちこちを走り回った証拠だったから。

 スタミナお化けのパワプロくんが、息を乱して、疲労の滲んだ顔でいる。ボクのために必死になってくれていたんだ。それが、場違いに嬉しい。

 

 そうして連れて行かれたのは、町外れの廃ビルだった。そして、そこにいたのは一人の老人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

「――コノ怪我ヲ治セバイイノデスネ。コノグライナラオ安イ御用デース。チナミニ改造ハ――」

「すんな」

「オウ……恩知ラズニナル気ハ毛頭なっしんぐデスノデ仕方アリマセン。借リヲ返ス絶好ノ機会デスノデ、ぱーふぇくとニ治シテアゲマース」

 

「え?」

 

 誰、この人。

 これ麻酔の注射?

 パワプロくん! この人ほんとに誰なの!? 説明! 説明してー!

 あっ、目が重く……ね、む……い……。

 

「――フゥ。手術ハ完璧ニ成功シマシタ。タダ身体ノりみったーガ外レ易クナッテルヨウデスガ、コレハ別ニワタシガ何カシタワケデハナイノデ気ニシナイデクダサーイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそ……」

 

 目を覚ました時、ボクは自分の家の、自分の部屋にいた。

 ともすると悪い夢でも見ていたかのようだったけど、夢じゃなかった証拠にベッドの前にパワプロくんが胡座を掻いて座ってて。

 驚くボクに構わず、右腕動かしてみろと言われ、つい普段通りに動かしてしまった。あ、折れてるんだから、そんなふうにしたら痛い――そう思う。思ったのに――痛くなかった。

 

 包帯も何もない。ただ――なんともない、今まで通りの右腕がそこにある。

 

「だから言ったじゃねえか」

 

 パワプロくんは、ドヤ顔で言った。

 

「俺が、なんとかしてやるって」

「パワプロ、くん……」

「でもどうやったかとかは聞くなよ? それから無茶も厳禁だ。また治してやれるとは限らねえんだからな? ったく、世話の焼ける――」

「パワプロくん――!」

「どわっ! いきなり飛びついてくんなァ! 危ねえだろうが!」

 

 ボクはワケが分からないまま、けどパワプロくんのお蔭で腕が治った事だけは悟って。

 衝動的に沸き起こった歓喜に突き動かされるまま、ベッドの上からパワプロくんに抱きついてしまっていた。

 涙が溢れる。こわかった、こわかったんだ。

 体が今更のように震えてくる。その震えを感じ取ったのかパワプロくんは嘆息しながら背中を叩いてくれた。ちっちゃい子供をあやすみたいに、優しく。

 ボクは恥も外聞もなく泣いた。泣いて、泣いて――そして心底から噴出する想いに、やっと向き合うことができた。

 

 ――ボク、やっぱり……パワプロくんのこと、好きなんだ……!

 

 たとえ誰が恋人としていても、諦められそうに、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

(……ん? 超特ゲット……? なんで……って『超短気(リミッター・リリース)』とか無茶なルビ打ってんじゃねえぞ開発ゥ!?)

 

 




※礼里ちゃんの1件でダイジョーブの成功手形は入手してました。過去話参照。連絡先は手形に記されていた模様。
次回はパワプロくん視点です。細かいことはそこで。

面白い、続きが気になると思って頂けたなら感想評価よろしくお願いします。


ひじりん→「超集中」
レイリー→「同心術」
緑の悪魔→「超短気」


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緻密なチャートがちゃーんと機能する話

死ぬほど書くの手間取ったので初投稿です。


 

 

 

 

 ええい! 聖域勢の超特は化け物なRTA再開します。

 

 冗談ではない!(挨拶)

 

 今のとこは取得できないとはいえ、既に『変幻自在』『同心術』『超集中』『超短気』の超特をゲットしてしまいました。前三つは分かる、けど待って。待って(懇願) 最後のはなんなんですかクォレハ……(巻き舌)

 もしかして、もしかしなくても、パワプロシリーズの原点に近いナンバリングタイトルで実装されていたという謎仕様……赤特『短気』を発動したら球速とパワーが跳ね上がるアレが、本作の超特として実装されていた……?

 あおいちゃんはオリ変『マリンボール』か、『ド根性』『鉄腕』という微妙な超特しかくれない、『しょっぱい水(笑)』『手汗コツ(笑)』と揶揄されていた育成面での不遇枠です。だがそれがいいと一部コアなファンから言われてきた娘ですよ。そんな娘が実はこんな超特を隠し持っていたとは、これって……勲章ですよ? こいつはかなり有能なコツですね間違いない。

 

 あっ、おい待てぃ(江戸っ子) だからといって考えなしに取得するのは考えものです。『超短気』と書いてリミッター・リリースと読むコツですよ? 下手に使用したらヤバイ気配がプンプンします。ぷんぷん(迫真)

 

 これは多分、体のリミッターを解除する能力なんでしょう。人の体は普段、三十%の力しか使っていないというのは有名な話です。百%を使っちまうと三倍以上の力を発揮してしまい、体がガタガタになってしまうのが目に見えているんですね。これを使いこなすには、普通に身体能力を上げまくり、かつ超特『鉄人』を持っていないといけないかもしれません。しかも忘れちゃならんのは『短気』からの超特化ですからね、漏れなくブチギレ☆モードに入ってしまいかねないんで、冷静さを保つために精神系超特『明鏡止水』やらを取得しておかないと安心できません。安定して運用するには前提条件がキツそうですが……それさえなんとかしたら、凄まじい力を発揮できるかもしれません。

 

 130半ばのストレートを投げるあおいちゃんが、150の半ばかそれ以上の球速を叩き出し、パワーランクがAに跳ね上がる超特ですからね。パワプロくんがこれを発揮したらパワー上限楽々突破、球速上限も大幅に突破できます。

 はっきり言って『超集中』同様に多用はできずとも、要所で使いこなせば最強間違いなし。ガチ勢上位陣からも空振り三振取れますねクォレハ(慢心) もちろんこのパワプロくんが全盛期仕様の能力になってたらですが。

 

 いやぁ……聖域勢はどれだけわたしに齎してくれるのか。まったく、(多感なお年頃の)中学生は最高だぜ。

 

 けど、けれどですね。流石に今回のあおいちゃんには背筋が凍らされましたよ。かなーり久しぶりに骨の髄までゾッとしました。

 交通事故で選手生命絶たれるとかやめてくれよ(懇願) 交通事故に遭うのは進くんの役目だろそれは(鬼畜) 以前貰ったアイテム『ダイジョーブの成功手形』に、博士の連絡先が書かれてなかったら詰んでましたからねこれ。

 ――この時代では信じられないことに、スマホやケータイ電話を持っていない博士です。その手の端末を所持してると追跡されるとかなんとか……。なので手形に記されているのは所在地だけでした。

 走って向かい辿り着いたのは町外れにある廃ビルで、秘密基地といった有様に改造された拠点でした。監視カメラでも仕掛けてあったのか、わたしが姿を見せると廃ビルの地下に続く階段が目の前に開いた時は仰天しましたよ。やっぱ世界観違うわこの人、と呆れてしまいます。ともあれ会うことの出来たダイジョーブ博士に事情を説明しました。んで、どうもあおいちゃんの様子がおかしかったんで全力疾走であおいちゃんの家に走って行きましたよ。

 だって利き腕が以前のようには動かせないと宣告されてたのに、あおいちゃん終始無表情で虚無ってましたからね……。これはヤバイと確信するには充分でした。その後もメールしても電話しても無反応ですし? 思い詰めたあおいちゃんが暴走する前になんとかしなけりゃならず、ダイジョーブの成功手形の使用も躊躇うわけにはいきませんでした。

 

 で、そのダイジョーブ博士の成功手形なんですがね……没収されました。

 

 なんで? ねえなんで?(憤怒) 訳を訊ねると、どうも博士は一度接触した人とは二度と関わりたくないそうですね。

 というのもジャジメントの追跡があるんで、痕跡はできる限り無くしたいらしく、本当はわたしに会うのも避けたかったそうです。ですが礼里ちゃんとの一件で借りがあるから、一度だけリスクを犯して会ってくれたわけで。

 んで、博士とコンタクトを取った証拠である手形は持ってない方が良いそうなんです。博士はこれから本当にドロンし、この街からも離れてどこかに雲隠れすると言ってました。

 そう……(無関心) 仕方ないね。

 博士にそんな人情があったとは驚きですが、どっかでまたエンカウントする可能性はあるんでその時はオナシャス! とお願いしておくのは忘れません。「アノオ嬢サンニ直接借リヲ返セタワケデハナイノデ……仕方ナイデスネ」と言ってくれた博士、実は良い人? と勘違いしそうになりました。

 

 そんなこんなであおいちゃんは復活しました。あおいちゃんが『超短気』でリミッターが外れやすくなってるらしいので、これからはあおいちゃんの頑丈な体作りに協力しましょう。超特くれたんでもうコツ関連は期待しておりませんが、戦力としてのあおいちゃんは必須です。壊れられたら堪りませんので、最低でも『ケガしにくさ○』を完全取得してもらいたいです。あわよくば『鉄人』もゲットしてほしいですね。

 本作ではパワプロくんからも他のメイン・サブキャラにコツを配れます。過去シリーズのようにコツを貰ってばかりというワケじゃないのは、今回のあおいちゃんの件もあってホント助かりますよ。

 『ケガしにくさ』に関しては、既にヒロピーこと太刀川広巳ちゃんに与えてるので、そのルーチンをあおいちゃんにも当て嵌めれば盤石です。練習の前後でストレッチを丹念にさせて、練習後は特に念入りにケアしてあげればいいです。あと練習の際はインナーマッスルが付くように重点的に鍛え、『超短気』にも耐えられるように肉体改造できれば、あおいちゃんは駆け引き抜きのゴリ押しでも戦える一線級の戦力に化けます。

 

 ともあれ、なんやかんやとあおいちゃんはパワプロくんを避けなくなりましたし、普通に練習のコーチをやれるようになりました。他の皆も順調に育っていますし、後は……なんかあったっけ……?

 ああ、そうでした。秋の大会からはわたしや聖ちゃん達も出場できるようになるので、あおいちゃんに全国制覇の経験をさせてあげましょう。

 中学時代はまだ無双できるので、打席に立てばホームランバッター、マウンドに立てば無敵のエースとしてブイブイ(古代語)言わせます。んで、他の娘やサブキャラが投手を張る試合では、監督は多分わたしを外野手として起用すると思うので、長打がくればギリ柵超えしそうなボールもキャッチしてアピールしましょう。

 

 前にも言ってましたが、わたし、実は打撃と守備の方が得意なんですよ(暗黒微笑) 投手の中のガチ勢としては中堅程度ですが、投手以外なら上位の末席にギリ食い込めるかな? ってぐらいはPSがあると自負しております。

 

 ――で、いよいよ中学時代は大詰めです。

 

 え? 三年生時はどうするつもりか、ですか? 普通に流してやっても全国制覇と世界制覇できるんで、そちらは別枠に上げますよ。見どころ無いですからね、早く高校生編を見たい方も多いようなんでこっちには上げません。

 話を戻します。そろそろ仲間の皆の育成マニュアルも完成してますし、安定して中学時代をクリアできる流れに乗りました。なので皆の育成は自力でも大丈夫なんで、リソースを別のとこに割きますよ。

 そろそろね、聡里ちゃんを鍛えなきゃなりません。武力面ではわたしより強くなってもらうために、あとついでに『冷静』の上位超特『明鏡止水』獲得のために、彼女と武道の訓練を積みます。そしたら連鎖してとある女の子とも面識を持てるので、やらないわけにはいきません。その娘は滅茶苦茶チョロいので会うのは一度だけでいいというお手軽さですしおすし。

 

 というわけでやって参りましたのは聡里ちゃんのお家。

 彼女のお家には道場がありましてね、というのも本作で明らかになった聡里ちゃんのお父さんは、警視庁警備部警護課に所属するお偉いさんです。SPのプロですよ。んで聡里ちゃんの合気道の師匠でもありまして普通に強いです。

 数多の周回を経ているわたし程ではありませんがね。まだ右も左も分からない手探り状態だった頃、自衛する武力が必要だと思って小浪一刀流を十五年ぐらい修めて免許皆伝受けてるんです。その腕前は伊達ではありません。

 

 で、そのわたしを短期間で追い抜くのが天才・聡里ちゃんですよ。

 

 悲しいほどの才能格差ですが……わたしの経験が聡里ちゃんの養分になるなら本望です。それじゃ早速……ヤりますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 合気道は実戦向けの武術ではない。

 本物の達人を除いてまともに使いこなせないのだから、その認識は間違いではないと思う。

 

 剣道や空手などは、一握りの達人でなくてもある程度は実戦に使えるのだ。無駄に敷居が高く、有効とは言い難い合気道を修めるのは理に適わないと言っていい。そもそも合気道は護身術であり、自分から仕掛ける手段に乏しいという事もあって、警護対象を危険から遠ざけるべきSPが身に着けるにはいささか不適切な武道だと言えた。

 なのに私が合気道を修めたのは、父が合気道を私に習わせたからだ。本当は空手なり躰道なり、柔道なりを修めた方が実戦的だと思うけど――父が言うには私には才能があるらしい。本物の達人になれるだけの才能が。現に実戦形式の鍛錬だと、合気道の技を使って大人を倒す事ができた。掴まれても問題なく力の流れを支配できた。けど――私は自分の才能というものへ自信がなくなってしまっていた。

 

 その原因は、皮肉な事に私の彼氏にある。

 

 彼氏。この言葉に気恥ずかしさや、かなりの複雑な想いがある。最近肉体関係を持つに到ったのはいい、いつかそういう関係になるとは思っていたから。けど問題は、私以外にも彼氏と肉体関係を持つ女の人が出てきたことだ。

 はじめは、霧崎礼里さん。その次に六道聖さん。彼氏の幼馴染の二人だ。事の経緯が経緯なだけに、私から強く言う事ができなかった。彼氏であるセンくんは被害者だし、強引に事へ運んだ私は性犯罪者なのかもしれない。

 いや()()()()()()ではなく、そうなんだ。あの時は血迷っていたとはいえ、そんなことはなんの言い訳にもなりはしない。とても、酷い事をしてしまった……どう償えばいいのか、思いつきもしない。

 

 明白な罪悪感だけが残り続け、ずるずると爛れた関係を続けてしまっている。

 

 センくんはなんでもないように私との関係を続けてくれた。傷ついているはずなのに、私なんかとの関係は清算して遠ざけるのが普通なのに。私はセンくんの、その優しさに甘えてしまっている……。

 最低だった。なんとかしなくてはならないと思うのに、どうする事も出来ずに流されてしまっている。こんな私がセンくんの隣にいる資格はあるのか、悩み続けてしまっていた。そしてその悩みは、センくんに武道の鍛錬に付き合ってもらうにつれ深まっていった。

 

 強いのだ。

 

 センくんは、私よりも。

 六道さんに聞いた、センくんは武道の経験は皆無なはずだと。ずっと一緒にいたから断言できる、と。なのにセンくんは、才能があると太鼓判を押され、SPになるために訓練を続けてきた私よりも武力が高い。

 現に私は彼に一度も勝てた試しがなかった。フィジカルエリートである彼の身体能力が高いのは理解できるけど、武道の素人であるはずのセンくんが洗練された技を繰り出してくるのは甚だ不可解だった。

 

 ――女は謎で着飾るって言うしな、いい男にも謎の一つや二つは付きものだろ? ミステリアス・パワプロと呼んでくれてもいいぜ。

 

 どうしてそんなに強いのかと訊いても、センくんは冗談めかして言って誤魔化してくる。

 センくんは強い。霧崎さんの件がある前に、私が腕を折られて突発的な実戦が起こると、センくんは実際に暴力のプロである大人の男複数人を一方的に蹴散らしていたのだ。その事からも間違いなく強いと断言できた。

 ――それこそ私の存在意義が揺らぐほどに。

 私が最初に習わされた武道が合気道というだけの事で、特に深い思い入れがあった訳じゃない。けど微かな自負はあった。少しは腕が立つという自負が。けど今はまるで自信がなくて、センくんにしてしまった最低の行為からくる罪悪感も含め、私に彼の傍にいる資格がないという想いは強くなっている。

 

「っ……」

「――おいおい、どうしたんだ聡里ちゃん。いつものクールさがないぜ?」

 

 そして今も、センくんに投げ飛ばされた。合気道とは違う武術の技で。

 受け身はきっちり取れたけど、私は畳の上から立ち上がる気力が湧かなかった。着衣の乱れた柔道着を整える気力もなく、乱れた呼吸をそのままに天井を見上げる。全身から吹き出た汗で、髪が顔に張り付き道着も気持ち悪い。

 

「センくん……」

「ん?」

「私達……別れない?」

「はあ? やだよ」

 

 不意に口を衝いた言葉は意図しないもので、しかし紛れもない本心だった。

 彼に私は必要のない、価値のない存在だ。私は彼より弱いし、彼を傷つけてしまっている。女だからって男の人への性行為の強要は赦されるものじゃないだろう。犯罪だ。それに私のした事が原因で、誠実な人であるセンくんに、複数の女の人と関係を持たせてしまった。苦しんでいるだろう、悩んでいるだろう。なら私と別れた方が、霧崎さん達といられて都合がいいはずだ。

 そう思っていたのに、センくんは悩む素振りもなく即答してきた。それに私は何も言えない。内心嫌だと即答してもらえてホッとしてしまっている自分を見つけて、激しい自己嫌悪に襲われてしまったから。

 

 センくんは溜息を吐いて、畳の上に横たわったままの私の隣に胡座を掻いて座った。

 

「なんでそんな事言うんだよ。俺のこと嫌いになったってんなら……イヤだけど、別れるのに同意するしかねえけどさ」

「嫌いになんて――なるわけない」

「じゃあなんでだよ? ……って、訊くまでもねえか」

 

 センくんは私の溢した言葉で、すぐに私の内心を察してしまったらしい。深く息を吸って、ゆっくりと吐き出すと口火を切った。

 

「聡里ちゃんが俺より弱いから、ってのが()()で」

「っ……」

「んで、本音は合宿の時の()()だろ」

「………」

 

 図星だった。

 

「沈黙は肯定って受け取るぞ? なんだかなぁ……寧ろ()()()()とまで関係持っちまってる俺が謝らなきゃって思うんだが」

「それは……私のせい。センくんが謝るのは、筋が通らない」

「そうか? そうでもねえと思うけどな。だって俺、可愛い女の子とそういう事できるってだけで喜んでるんだぞ」

「……え?」

「中坊の性欲舐めんなよ。猿だぜ、俺。もう誰でもいいから発散させてくれって思ってる。……真面目な話、聡里ちゃんにそう思い詰めさせたのは俺みたいなもんだし。聡里ちゃんがいるのに他の娘達に良い面し過ぎだし。おまけにこんなに妙な関係になってるのも、聖ちゃん達を切り捨てられない俺のせいだしな。役満だろこんなの。常識的に考えて彼女の聡里ちゃんを最優先にして、恋人でもない二人は遠ざけるのが、彼氏である俺が示すべき筋だ。それが出来てないし、なんだかんだ都合の良い方に流されてる俺は最低だろ? ほら、俺に非があるのは明らかだな……聡里ちゃん、幻滅したか?」

 

 多分、本音だ。流石にそれぐらいは分かる。

 けど愛想が尽きたり、幻滅したりとかは、ない。逆に可笑しくなってしまって、「なにそれ」と噴き出してしまう。

 確かにそう言われるとセンくんが悪いように聞こえる。けどそれは全部が全部、センくん視線の考えでしか無くて、私にある非を全部無視していた。どう言い繕っても私のしたことに変わりはないのだ。

 だから、言った。

 

「私が悪い」

「――けど俺も悪い。二人とも悪いし礼里ちゃんも悪い。聖ちゃんもな。いやその二人に関しては俺が悪いな。つまり三人分の悪さが俺にあるから、一人分の悪さしかない聡里ちゃんより責められるべきなのは俺だ」

「霧崎さんの事は、私が悪いわ。私が流されたから……」

「なら俺は聖ちゃんと合わせて二人分だ。二対二の同点だよ」

「やめて。そんなふうに言われると……センくんを責めたくなってしまうわ」

「おう、責めていいんだぜ。むしろ責めるべきだろ」

「じゃあ……あの二人と()()の、やめてくれる?」

「分かった。や、最初から分かっちゃいたんだけどさ」

「………」

 

 すっぱりと、センくんは私の訴えに頷いてくれた。私はそれが嬉しくて、けど溜め息を吐く。

 

「……無理な約束はしないで。どうせセンくんは、迫られたら断れない」

「信頼ねえのな、俺。……当たり前か」

「信頼はしてる。けど断ったら断ったで、霧崎さん達は無理にでも迫ってくるのが目に見えてる。そういうの強引だから。誰かさんに似て、ね」

「うん。否定できない……」

「分かってるくせに。センくんは、そんな霧崎さん達を嫌いにならない。なれない。……私達全員の性別が逆だったら、センくんは本当に都合の良い女扱いされるわ」

 

 私の出した例えに、センくんはきょとんとして、目をぱちくりさせた。

 そして噴き出す。自分の顎を撫でながら悪びれもしないで。

 

「確かに、それは言えてるかもなぁ」

「……その都合の良さはズルい。なんで責められるべき私が怒ってるの? なんで怒るべきなのに、センくんは笑ってるの?」

「さあな。分っかんねえよ。こちとら幼馴染との関係がブッ壊れて、おまけに初めての彼女と3P強要されてんだから。もう訳分かんなくって流されちまってるし、もうなるようになれって思ってるのが正直なとこかな」

 

 センくんが、寝そべる。私の隣で大の字になって、私と同じように天井を見上げた。

 

「……『なるようになれ』? 私の言えた口じゃないけど、無責任よ」

「かもな。けどなるようにしかならねえだろ、実際。世間一般的に見て、俺らの関係ってどう考えてもオカシイしな。もう常識とかそういう外野の見方は捨ててさ、俺らで考えて答えを出すしかねえんじゃねえの?」

「答え?」

「そ。俺は聡里ちゃん好きだし別れたくねえ。聖ちゃん達も大事な幼馴染で、仲間で、好き……なんだよなぁ。ぶっちゃけあの二人の事が好きだって気づいてたら、聡里ちゃんに告らなかったかも」

「なにそれ……怒るわ、そんな事言われたら」

「いいよ。聖ちゃん達の方を最初に好きになっててさ、距離感近すぎて気づかないままでいて、そんな状態で聡里ちゃんの事を好きになったんだ。やっぱり元凶は俺にある。だからいくらでも怒っていい」

「……やっぱり、怒らない」

 

 正確には、()()()()だ。

 だって私は知っている。センくんにとってあの二人は特別な存在だ。何をするにも一緒で、いつも一緒にいた。だからそんな二人に対して、私は劣等感を持っていて――私はセンくんと恋人になれても、心のどこかであの二人に気を取られ続けて、あの時霧崎さんに割り込まれても「霧崎さんがいたらセンくんは私を拒まない」と打算を働かせてしまった。

 その臆病さと卑劣さの代償が、今の状況だ。私に怒る資格はないし、その二人と同列に扱われている事を――本人にそうした意図はなさそうだけど――伝えられたのが嬉しかった。喜んでしまった。そう……()()()()()()()のだ。そんなところで喜んでしまった時点で、致命的に私は敗けていた。

 

「私、弱いもの」

「ん……?」

「私もセンくんと別れたくない。けど霧崎さん達は、私と違ってセンくんの夢に必要な存在だから……関係を清算してとも言えない。だって――きっとセンくんは、私とあの二人のどちらを取るのかって時になると、あの二人を選ぶでしょ?」

「それは――」

「何も言わないで。肯定も否定も、聞きたくないわ」

「………」

「どっちであっても私は信じられない。だから……今のままでいいわ」

「それだと、聡里ちゃんが辛いだろ」

「うん。とても。けど……今の関係なら、私が一番だって言えるから。だから良いの。今のままで……」

「………」

「私がセンくんの一番だって、思ってていい?」

「……おう」

「なら、いい。私を一番大事にして」

「分かった」

 

 言って、センくんは立ち上がった。そして私の腕を取って無理矢理立たせてくる。

 引き起こされるまま立ち上がると、センくんは私なんかの顔をまっすぐに見詰めた。そこには罪悪感も同情も、安堵も何もない。能面のような表情だ。けどその目には紛れもなく私だけが映っていて、私の心は吸い寄せられる。

 

「最低だな、俺」

「それは私よ」

「どっちでもいいけど、俺が弱いのは確かだ。だって人間関係が変わっちまって、それでもそれが壊れるのを怖がっちまってる。だからさ、強くなろうぜ」

「……強く」

「身体的にも精神的にもだ。そうしたらさ、いつか今の関係をブッ壊して新しい形に変われるかもしれねえし、逆に今のままでいてもなんとも思わねえようになれるかもしれねぇだろ。悩んだりすんのは、今の俺らが半端だからだ」

「そう……ね。強くなるわ、私。センくんよりずっと」

「すぐなれるよ。聡里ちゃんってば俺より才能あるんだし」

「どの口が言うの? 素人のセンくんに勝てた試しなんかないのに」

「俺はアレだよ。ズルしてるからな。そのイカサマを超えられる本物の才能が聡里ちゃんにはある。あと何年もしねえ内に、今の戦績は逆転するだろうぜ」

「……じゃあ、頑張るわ」

 

 ズルというのがなんのことか、皆目見当が付かないけれど。卑怯で臆病な私は、同じぐらい卑怯で臆病なセンくんの言うことを信じてみようと思った。

 ふと思う。

 もし私が自分にもっと自信を持てていて、心が強かったら。あの夏の日の気の迷い。センくんの特別な人に便乗したら拒まれないだろう、なんて卑劣な打算を働かせずにいたら――センくんの隣には私しかいなかったのだろうか?

 センくんは格好いい男の人だ。魅力的で、離れ難い。だから沢山の女の人に好意を持たれているし、それは親しい人ほど顕著になっている。

 同じ野球チームの女の人達は、みんなセンくんの事が好きだ。自覚してるかしてないかは別として、もしかすると私と六道さん、霧崎さんの輪に入ってくるかもしれない。

 

 そうなってもいい――とは言えないけど。今はただ、センくんの一番でいられ続けるように、自分を磨こうと思った。それこそ私のことしか目に入らないぐらい、ぞっこんに惚れ込ませてしまえるぐらいに。

 きっとそれが一番後腐れがない。自信を持って胸を張れる。そうすれば勝ち誇ってやろう、霧崎さん達に言ってやろう。センくんは私のものだって。

 

「――来たな」

「みたいね」

 

 気配を感じ取ったセンくんが不意に呟き、私も頷く。

 先に特訓をしていたけど、今日は父が他の道場から人を招いていた。他流派の技術を取り入れてみたらどうだと提案されたのだ。

 もちろん相手も、こちらの技術を盗む気満々でいる。とりあえず、今はそちらに集中しよう。父の顔に泥を塗らないように、堂々とした態度で臨もうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある動画主について語るスレ2】

※このスレはぱわぷろ(平仮名)のRTA動画の動画主、センセーについて語るスレだ! 関係ない話題は出すんじゃないぞ! 管理人との約束だ!

※ある程度の雑談は可。

※センセー(俗称)について詳しい事を知りたければ纏めサイトへどうぞ。

※あくまでセンセーの開拓してる(不本意)、新規√の考察目的です。

※本スレではセンセーの撮ってる動画をリアルタイムで見れます。ただしその代わり、センセーの解説はないので、パワプロくんの内心とかは分かりません(注・センセーの許可は取ってます)

 

 

 

83:なんだこれはたまげたなぁ……。

 

84:なんだこの立ち回りの強者感。

 

85:はぇ〜すっごい……。

 

86:やってること言ってること最低なのに、なんで三股を彼女に受け入れられてんの?

 

87:俺ちょっと『人間関係崩壊阻止論・それでも僕は悪くない』見てくる。

 

88:俺も。

 

89:俺も。

 

90:実際なんで三股受け入れさせられたの? 普通に考えて無理でしょ。そこんとこどーなのよ? おせーて、エロい人!

 

91:私はエロくないけど女だからなんとなく分かる、かも。

 

92:俺はエロいけど男だからなんとなく分からん、かも。

 

93:俺はエロくないけど心理学に詳しいから分かる、かも。

 

94:なんだお前らw

 

95:分からん奴はどうでもいい! おせーてエロくない人!

 

非エロ女:面倒だからコテハンつけるね。まず前提として、このセンセーのアバターが凄く美形なこと。

 

97:やはり※なのか……(血涙)

 

非エロ女:そりゃもう男も女も最初は顔よ。第一印象が活きてる間は。後この『LOVEPOWER』とかいう『モテモテ』の上位系? みたいなのもちょっとは関係してるかも。まあセンセーならそんなのなくても普通に乗り切ってそうだけど……今回はフル活用してるっぽい、かな?

 

非エロ女:ともかく氷上さんはセンセーinパワプロくんにぞっこんなの。ベタ惚れ状態。その状態になってるなら『LOVEPOWER』もあんまり関係ないんじゃないかな、かな?

 

100:申し訳ないが古典ヒロインの真似は伝わりにくいからNG

 

非エロ男:横から失礼。非エロ女氏に倣いコテハンつける。あくまでこの場でだけね。

 

非エロ男:非エロ女氏も分かってるっぽいけど、俺から言わせてもらうとまずセンセー側が完璧に聡里氏の心理を理解し、その上でその心理の変動を完全に把握してないとこの立ち回りはできない。

 

非エロ男:聡里氏の望んでる言動を心がけて、かつ嘘偽りは述べないで(言ってない事がないとは言ってない)、そんで自分からは状況を動かさないで現状維持に努めつつ(維持するとは言ってない)、自分以外が動いて状況と関係が変化するのに任せてる(任せてるとは言ってない)

 

非エロ女:センセー、えげつないよね。リアルだと絶対友達以上になりたくないもん。こっちのこと完全に理解されたら掌の上でコロコロ転がされるわ。

 

非エロ女:コントロールされてるよ、センセーの周りの娘。一部素っ頓狂な発想と行動で想定を超えられてるくさいけど、そこは問題じゃないね。

 

106:どゆこと? ガバってるやんこれ。

 

非エロ男:センセーのはガバッても即座に修正が利く範囲に留めてるんだよ。非エロ女氏の言ってるコントロールしてるっていうのは、うーん……例えるならセンセーは◎を作ってて、その○の中で関係性を制御してるんだな。

 

非エロ女:そうそう。男さんも分かってる!

 

非エロ男:(女さんも)やりますねぇ!

 

110:なるほど、続けて?

 

111:早く続きを聞かせるんだよおうあくしろよ。

 

非エロ男:しょうがないなぁ、の○太くんは(だみ声)

 

非エロ男:円の中で関係性を制御してて、想定を超えられてもその外側の円の範囲に留めることでコントロール権をずっと維持してるんだな、これは。

 

非エロ女:状況に流されてるように見えて実はずっと主導権をセンセーが握ったままなのよね。センセーのなんちゃって理論だと、確か関係の相関図の中心に居続ける、だっけ? 参考になるわぁ。

 

115:非エロ女お前、実は逆ハーやってた奴だろ。猪狩兄をキープしながら友沢と眼鏡ない矢部とその他諸々を囲ってた。

 

非エロ女:ななななななななんの事かなわたし分かんなーい!

 

非エロ男:おまえ敗北者だったのか……。

 

敗北女:ハァ……ハァ……敗北者? 取り消せよ、今の言葉……!

 

非エロ男:古典的ネタにノッてやりたいが本題じゃないんでスルーします。

 

敗北女:そんなー……。

 

121:敗北女ってなんで死んだんだっけ……気になるから見てくるわ。

 

122:その先は修羅場だぞ……。

 

123:興味あるけど今はそんなことよりセンセーの方が気になる

 

非エロ男:なんかグダってきたから纏めに入ろう。要するにセンセーは高度な柔軟性を持って臨機応変に対処できる智将()なのだ。

 

125:雑www

 

126:一気に雑になったなwww

 

127:おいなんか新しい娘来たぞ。

 

128:あっ(察し)

 

129:聡里ちゃんの特訓イベ重ねてたら来る娘だな……。

 

130:「柳生鞘花だ。よろしく頼む!」シーフこと鞘花ちゃんキター!

 

131:なんでそこでセンセーと立ち会うんだよ(白目)

 

132:あっ(察し)

 

133:あっ(察し)

 

134:センセーのリアルファイトぢからヤベーぞおい。ガチ勢共通の武力水準の持ち主だかんな……。

 

135:実際ガチ勢ってどんぐらいツエーの?

 

136:銃火器ない連中なら軍の一個小隊までなら制圧できるぐらい。

 

137:つっよwww

 

138:強すぎワロタ。

 

139:※なお聡里ちゃん(全盛期)はガチ勢の上位中堅に食い込む模様。センセーは他のガチ勢上位のトップ陣評だと中位中堅よりちょっと弱いらしいな。

 

140:なんでそんなに強いんだよこれパワプロだぞwww

 

141:おっ、初心者かな? ぱわぷろ(平仮名)で長くやってたら自衛武力の確保のため、最低一周はずっと修行に費やすぞ。

 

142:ぱわぷろ(平仮名)の身体能力ととんでも武術はリアル基準には当て嵌まらないから注意な。

 

143:まあセンスある人ならリアルでも再現してプロの武道家が白目剥くけどな。

 

144:ぱわぷろ(平仮名)だとアバターの肉体作れるし、才能も作れる()からなぁ。これはズルいですよ。

 

145:とか言ってたら鞘花ちゃん敗けてるwww

 

146:そら(ガチ勢と立ち会ったら)そう(なる)よ。

 

147:鞘花ちゃんも才能あるけどな……流石に中坊時代でガチ勢(修行歴最低十年半ば以上)には勝てんよ。しかもパワプロくんは大抵が恵体だし……。

 

148:おいwww なんかこの娘とこの娘のパパン、センセーを婿に取りたいとか言い出したぞwww

 

149:柳生家の家訓に自分を負かした相手がいたら婿(嫁)に取れ、ってのがあるからなw しかもパワプロくんイケメンだし鞘花ちゃんホの字って顔w 強くてイケメンとか鞘花ちゃん的にド・ストライクなんよなwww

 

150:さとりんの顔www

 

151:ヒェッ……。

 

152:まーたセンセーの餌食になる娘が出るのか。(人間関係)壊れるなぁ。

 

153:ここでセンセー「よく知りもしない奴にそんな事言われても。というかそっちの家訓に巻き込むな」と正論ブッパwww

 

154:なら高校からは同じとこ行かせる。それまで花嫁修業させて三年間理解し合えばよろしいと。このクソジジイ!(笑)

 

155:さとりん激おこプンプン丸。センくんは私の彼氏だと怒りのマジレス。ぽっと出の女は流石に許容できない模様。

 

156:残当。

 

157:「? 側室でもよいぞ」って何時の時代の人間だこのジジイw

 

158:三つ指ついて頭下げる鞘花ちゃんwww

 

159:あっ、そっかぁ……センセーこれも狙ってたんか(驚愕)

 

160:??? どゆこと???

 

161:鞘花ちゃんとかいう時代錯誤娘加えて、ハーレム形成を加速させるんだよぉ!(迫真)

 

162:これは智将(ガチ)

 

163:あくまで自分は何もしてないってかwww 理論通りっすねwww

 

164:センセー屑いしゲスい(笑) だがそれがいい。

 

165:幻滅しました。センセーのファンやめます。今までは純愛派で性格イケメンだと信じてたのに。

 

166:RTAに情けは無用。効率のためならなんでも利用するから仕方ないね。

 

167:流石に動画の趣旨からして責めるのは酷だろ。

 

168:ぶっちゃけヒロイン勢が幸せならなんでもいい。

 

169:それ。

 

170:みんな纏めて幸せにできる甲斐性があるなら無問題だろ。

 

171:ただセンセーよ。これだけは言わせてくれ。もげろ。

 

172:もげろ。

 

173:一人でも泣かしたら粘着すっからな(脅迫) 二度とオンラインでプレイできないように心折るからな(ガチトーン)

 

174:キモす。だが禿同。

 

175:ハーレムとかマジでやったら死ぬほど面倒臭いんだけど、これからどうなるんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




鞘花ちゃんの親御さんマジでこのノリだから困る……。
聡里ちゃんとのとこはいつかはちゃんとやらねばならないと思ってましたが、ちゃんと書こうとするとメッチャ難しかったです(小学生並みの感想)

※鞘花ちゃんファーストコンタクト端折りましたが、後々きちんと描写します。

面白い、続きが気になると思って頂けたなら感想評価等よろしくお願いします。


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智将ムーブは止まらねえからよ…!

止まるんじゃねえぞされたので初投稿です。


 

 

 

 野球したい禁断症状と戦うRTA再開します(飢餓)

 

 突然ですが顧みましょう。思えば随分遠くに来たものですよ(遠い目)

 緻密なチャートを組んでこれで完璧! Vやねん! と自賛して走り出した此度のRTAは波乱に満ちておりました。

 中学生時代に入ってからの怒涛のイベントは記憶に新しく、一生に一度でもあればお腹いっぱいになること請け合いなイベ盛り沢山でしたね。

 聡里ちゃん腕ポキ事件を皮切りに。礼里ちゃん超能力覚醒。夏のサン・ぴぃ事件。逆襲の覚醒ひじりん事件。あおいちゃんリミッター解除事件等、目立ったイベントだけで首を傾げること頻りですよホントに。

 

 どうしてこうなったの?(素朴な疑問)

 開発が悪いよ開発がー(結論)

 

 で。

 

 秋季大会が間近です。一度会ったきりで高校までフェードアウト気味な不憫ちゃんこと鞘花ちゃんとの邂逅の後、ちょっと遅めの修学旅行が合間にあった気がしましたが特にそんな事はなかったぜ!

 

 というのは冗談です。いやね、ネタとして盛り上がる所が特になかったんですよ。我がクラスにはみずきちゃん、矢部くん、ちーちゃんがいたんですが、見事に全員バラけた班員になっちまったんです。

 『モテモテ』の上位能力であると確定した『LOVEPOWER』をパワプロくんが持っているせいで、女性人気がエグくなってるのが原因ですね。もう街を一人で歩いてたら逆ナン率100%ですよ。

 メインキャラ以外とも恋人になれる本作だと、まさに入れ食い状態なんですが――残念ながらそんな真似は出来かねます。実行しようものなら刺される、と古傷が疼いて直感してますし。や、傷は無いんですけど幻肢痛みたいに痛む気がするんですよ。お腹とか胸とか首とか背中とか。ふふ怖。

 

 話が逸れたので修正しますと、パワプロくんにはファンクラブがありましてね。ええ、過去シリーズのイケメンキャラにありがちだったアレです。

 パワプロくんも彼らに負けないイケメンなので、女子人気がえらい事になってまして。パワプロくんの身の回りには彼女達を凌駕するほど可愛い娘がいるのに、お構いなしでキャアキャアと黄色い歓声を上げて追っ掛けてきます。

 視聴者の皆様は羨ましいとか思うかもですが、普通にウザいですからね? これを受け入れられ、かつ全員に愛想を振りまける度量のある『虹谷誠』くんはマジで尊敬に値すると思います。軽薄で軟派で男に対してはほぼ塩対応な虹谷くんですが、その一点だけは素直に凄いと称賛しましょう。

 

 わたし自身、傍目に見ても明らかなほど嫌な顔はしてるんです。流石に大っぴらに邪険にすると火種になるんで、ある程度は付き合ってやらにゃならんのが辛いところなんですが……プロになった後のファンサービスの練習とか、不祥事探しに躍起になるであろうマスゴミども対策の立ち居振る舞いの練習と割り切りましょう。

 

 ※豆知識。マスゴミとは偏向報道上等なマスコミの事だゾ。中にはまともなマスコミの人もいるから全員がマスゴミと思っちゃダメなんだからネ。え? マスコミってなんだよ、ですか? ググれ。

 

 ――んで、クラスの女子達は普段のクラスカーストとか全無視してまで、修学旅行ではパワプロくんと同じ班になりたがりましてね。それを見て辟易したみずきちゃんは離れていき、矢部くんはパワプロくんに嫉妬して離れ、ちーちゃんは特に気にせずにいたものの数の暴力で班決めから弾き出されてしまいました。

 

 ウザいですね、これはウザい。こっちの迷惑とかまるで考えないファンとかノーサンキューですよ。パワプロくんだって仲の良い面子で固まりたかったでしょうに……というか普段は内心パワプロくんに嫉妬してた男子陣も普通に同情してくれてましたね。平常運転だったのは矢部くんだけで、その矢部くんも妬みつつも女子の肉食獣っぷりに若干引いていたほどです。

 お前ら矢部くんが引くとか相当だかんな? と、教えてやりたくなりましたが、ここはグッと我慢して修学旅行を無為に潰した感じですね。お前らわたしは許しますがパワプロくんが許すと思ったら大間違いだからな(憤怒)

 

 とまあそんなわけで、聡里ちゃん達のイベでのインパクトを前にすれば、遅めの修学旅行なんか霞んで消えてしまいます。というかほぼ覚えてませんし。記憶する価値もないっていうか脳のリソースを割きたくないというか。なーんかミーハーな娘に囲まれ観光名所を回ったような気がするなって感じですよ。

 あ、例の如く別枠として纏めて該当シーンの動画も上げてるんで。わたしは見直す気力は湧きませんがね……。

 確かなのは、拍子抜けするほど何もなかった事でしょう。てっきり逆夜這いやらなんやらもあるかもと警戒してたんですが、実に平坦で平凡でこんなに平和だと逆に不安になるというか嵐の前の静けさ的なアトモスフィアを感じなくもないかなって警戒心を抱いたりと落ち着けない日々でした(一息)

 なんやかんやと聡里ちゃんイベ進行させて、無事に柳生鞘花ちゃんとも接点を結べましたし。これで鞘花ちゃんはこちらから何もせずとも同じ高校に来てくれる上に、中学時代はあんまり接触して来ません。向こうの脳内では既に許嫁ムーブをキメて、遠距離恋愛中な気分でいる微笑ましい娘なんで、高校生になったら生暖かい眼差しで迎え入れてあげましょう。

 というか鞘花ちゃんは素で強キャラムーブがデキる娘で、煩わしいファン娘達を蹴散らして沈静化させられるので今すぐ来て欲しいのが本音です(切実)

 

 で。

 

 秋季大会を目前に控えた今、我らが武蔵府中『宮本シニア』はスタメンを発表し始めてます。監督は若干厳ついですが、普通の人ですよ。

 ちなみにこの宮本シニアというのは、この監督が剣道経験者かつ宮本という苗字で、『武蔵』府中と掛け宮本武蔵と呼ばれてる事に由来してます。

 このシニアの子達が勝手に呼んでるだけですが……中2が多いからね、仕方ないね。グラウンドにシニアの面々が整列し、今から宮本監督が決めたレギュラーに背番号を渡す場面になっています。

 

「一番ショート、背番号6、霧崎礼里」

 

 真っ先に名前が上がったのは礼里ちゃんです。

 妥当ですね。守備力の高さは別に考えるとしても、ミートの巧さ、足の速さや選球眼の精度など、切り込み隊長として起用するに相応しい信頼を勝ち取ってますから。

 初回から相手の球筋を見極め、嫌な球はカットして球数を稼ぐ技術にも長けてますし、おまけにホームランも狙えるつよつよ先頭打者ですよ。礼里ちゃんに粘られまくった末にホームラン打たれた投手さん、可哀想(未来視)

 

「二番キャッチャー、背番号2、六道聖」

 

 筋力や走力はともかく、打撃の巧さでは聖ちゃんも敗けてません。ついでにバント職人です。塁に出たら高確率で盗塁をキメる礼里ちゃんを、二塁から三塁にまで安定して進めてくれます。練習試合でもそれを何度も実践してましたからね、聖ちゃんの二番起用は安牌です。わたしも高校だと一番と二番はこの二人で据え置き確定だと思ってます。

 

「三番セカンド、背番号4、和乃泡瀬」

 

 礼里ちゃんと聖ちゃんがピクリとします。チームメイトですがまあ、平均的な能力値の先輩ですね。カズノ・アワセ――数合わせとかヒデェ名前ですが、わたしの言う平均というのはシニアトップクラスのチームでの平均なので、普通に優秀な人ですよ。欲を言えばセカンドは小山雅ちゃんがいいんですが、生憎とあの娘はシニアに入ってないんで試合に出られません。仕方ないね。

 

 ちなみに和乃泡瀬は男の子です。

 ――アワセが男の名前だとおかしいのかよ!(カ○ーユ並感)

 

 二人が反応したのは、今までレギュラーで試合に出る時、三番はパワプロくんで固定されていたからでしょう。所属してたリトルは三番打者最強説を推してましたし……それに一・二・三の打順はレイリーとひじりんからすると聖域だったのでしょうね。お可愛いこと……。

 

「四番レフト、背番号7――力場専一」

 

 ざわ、と微かに空気が揺れました。そりゃそうだ、だってパワプロくんは投手ですもん。それを外野手として起用するとかどうなってんのと普通は思いますよね。まあチームメイト達はパワプロくんの超絶守備力を知ってるんで、驚きはしても受け入れてますが。打力的にも四番はパワプロだと認めてくれてます。やっぱ……日頃の積み重ねを……最高やな!

 

 それに我がチームは投手陣が分厚いですから、まあしゃあない。と、そんなふうに思ってたら監督が言いました。

 

「力場はピッチャーだが四番を張れる実力がある。だが幸いにもこのチームは投手に恵まれているからな。四人でルーチンを組み、力場を投手として使う時は、レフトには別の奴を……今は太刀川を回そうと考えている」

 

 淡々とした物言いのオッサン。厳つい外見ですがカタギなので安心してネ!

 ちなみに太刀川というのはヒロピーの事です。同姓の別人とかではなく。いやね、彼女はサブポジでサードを守れるようになるのが仕様なんですが……左利きでサードはちょっと無いでしょ(マジレス)

 肩強いし守備力も悪くないんで、サブポジは外野手をやれるようにマンツーマン特訓を施しました。ヤッたぜ、成し遂げたぜ。

 

「次。五番センター、背番号8、鬼島騎兵。六番ライト、背番号9、田嶋亮。七番サード、背番号5、君島悟。八番ファースト、背番号3、石島高貴。九番ピッチャー、背番号1――早川あおい」

 

 誰だお前ら(素) と思われるかもですが、能力値的に五番から八番の皆さんはちょっと弱いなって感じですね。わたしの求めてる水準が高いだけな気もしなくもない感じがするかもなって思いますが。

 しかしわたしのコーチング能力に掛かれば、そんな彼らも名門選手並みに鍛え上げれてます。ぶっちゃけシニアでのチーム総合力で言えば有数のものなんじゃないかって思いますよ。熱い自画自賛キモチィ……。

 で、エースはあおいちゃん。打力は普通。ただしリミッター解除したら一発がある恐い娘です。キリッと眉尻を上げて、気合充分といった様子で背番号1を受け取りました。

 

 で、控えの投手にヒロピー、みずきちゃんです。パワプロくんは投手陣が炎上し掛けることがあったら救援で緊急登板、そんで3回戦あたりで先発として起用してくれるみたいですね。

 

 監督が立ち去ると思い思いにやいのやいのとざわつき出します。すると女性陣が集まってきました。いや、全員がパワプロくんの周りに集まりましたね。どうかしたんでしょうかね?(すっとぼけ)

 真面目に言うと、このシニアの面子は全員がプロの技術持ちであるわたしの薫陶を受けた教え子です。だからなのかチームの精神的支柱はわたしでして、パワプロくんがチームの中心なんですよね。この一年は無駄じゃなかった。

 んなもんで集まる時は決まってパワプロくんが真ん中にいます。先輩後輩同輩関係なしに。これが積み上げた人徳(『人気者』)というやつですよ……。

 

「――ボクが、エースだよ」

「そうだな」

 

 あおいちゃんが突然そう言ってきますが、別にマウンティングしようとしてるワケじゃないのは分かってます。

 自信がないのではなく、むしろ自信はある感じですが、申し訳なく思ってる時の顔してますもん。

 

「パワプロくんはボクでいいの? その――悔しいけど、実力はパワプロくんの方がかなり上だし、エースはパワプロくんの方がいいんじゃないかって思うんだ。もちろんエースとして投げるのが恐いわけじゃないからね? そこは勘違いしないでほしいかな」

「分かってる分かってる」

「……もしかしてボクじゃ不安なのかな。いや、そうだよね。ボクが三年生だから、監督も気を遣ってボクにエースナンバーくれたんだ……」

 

 返事が投げ遣り過ぎたみたいで、あおいちゃんが心細そうに眉根を寄せました。すまんな。ホントは激励して上げたいんですが、どうもそんな気分じゃない。気分じゃない、ってだけでやらないとかふざけてんの? と思われそうですがお愛想は要らんのですよ。本心から言えない言葉には重みなんかないんですから。そういうの感じ取られたら後々に積み重なるんですよね。

 なのであくまで素で応対します。今までもこれからも。そうした自然体から繰り出す言葉で、時にはマイナスの印象を付与していけばいいのです。なぜって? 野球の投球と同じですよ。速い球ばっか投げてたら慣れられてしまうので、遅い球も投げたりするでしょう? 要するに緩急が必要なんです。正のものばかりでなく負のものも用いる、一時の負の心象で莫大な正の心象というリターンを得られるなら怖がってはなりません。

 

「あー……あおい先輩、誤解しないであげてほしいんだけど、キャップってば疲れてるのよ」

「え、どういうこと?」

 

 おっと、珍しくみずきちゃんが助け舟を出してくれました。サンキューみずカス。

 でも俺はお前俺を見捨てたお前を忘れてねえからなお前(逆恨み)

 じとりとした目で見てるとみずきちゃんが冷や汗を浮かべて弁解しました。と言ってもあおいちゃんや周りの人に事情を説明してくれてるだけなんですけどね。

 おう、それはいいからこっち見ろやみずき(呼び捨て)

 

「ほら、アレですよアレ」

「アレ? ……あ、なんか察しちゃったかも」

 

 みずきちゃんは暗喩的に言い、ちらっとグラウンドの柵の向こうを見ます。

 そこには女子の群れ、群れ、群れ。スマホ片手にパシャッと写真撮りやがる娘も。おう肖像権の侵害で訴えるぞこの女郎。

 あー……と呻いてるところを見るに男子陣も察したみたいですね。嫉妬しない辺りに理解が感じられて涙がちょちょ切れそうです。

 

「最近凄いんですよねー。アレ。どこに行ってもついて回るっていうか、学校でもアレですし? 修学旅行なんか日中はほぼ周り固められて、なんというか公認ストーカー、みたいな感じになってて……キャップ、グロッキーになってるみたいなんですよ」

「ヒド……」

 

『うっげぇ、公認ストーカーって……誰が許したよ、それ』

『内輪で勝手に決めたんだろ』

『オレ、最初はパワプロがメチャクチャ羨ましかったし妬んでたけどさ……流石にアレ見たら同情したわ』

『オレも』

『流石にねぇよな、アレ』

『女恐い。アレに耐えれてるパワプロ先輩マジパねえっす』

『イケメン爆発しろとか思ってて正直すまんかった。パワプロ大丈夫か? 警察に相談した方がいいんじゃね?』

 

 野郎どもの優しさに泣きそう。やっぱ癒やしは皆と野郎どもです。

 

「ちょっとー!? 女ってだけで一括りにしないでくれる!? みずきちゃんまであんなのと一緒にされるのは心外なんですけどー!?」

 

 みずきちゃんがぷりぷり怒ってます。それに男子陣は笑いながらゴメンゴメンと謝りました。なんだこの癒やし空間……。

 

「けどみずきちゃん、俺のこと見捨てたろ」

「うっ……」

「? どういうこと、みずきちゃん」

「どういう事だ橘」

「みずき……」

「………」

「うぇぇぇ……ちょ、ちょっとアンタら顔恐いからやめて!? それにキャップにあの事はもう謝ったじゃん!」

 

 わたしがボソリと呟くと、あおいちゃん、礼里ちゃん、聖ちゃんが凄い目でみずきちゃんを見詰めます。それに狼狽えるみずきちゃんですが許さん。

 あ、わたしは許してますが、パワプロくんがね……(責任転嫁)

 無言ですが聡里ちゃんもピリピリしてます。鞘花ちゃんの一件で気が立ったままなんですよ。今の聡里ちゃんに触れたら火傷するぜ……。

 

「具体的には何があったの?」

 

 不思議そうにヒロピーが訊ねてきました。ナイスアシストですよヒロピー。

 

「修学旅行の時、班決めでさ。俺、みずきちゃんにSOS出したんだ。クラスの女子のドンだし。けどみずきちゃん、面倒臭がって逃げたんだよ」

「し、仕方ないでしょアレは! ていうか、あそこで助けてたら私まで他の連中と同じって目で見られちゃうじゃない!」

「ふーん……世間体で仲間を見捨てたんだな。そかそか、分かったよ」

「っ……だーかーらー! ごめんって! なんでも奢るからそれで許して!」

「その言葉が聞きたかった」

「……へ?」

 

 好意の欠片もない相手に囲まれて過ごすとね、周りが女の子でもストレス溜まるんです。わたしがモブ娘を彼女枠に据えて経験点吸い上げる路線を続けてたなら我慢できますがね、その路線はもう捨ててるんで煩わしいだけです。

 とはいえあんまりみずきちゃんを虐めるのはよろしくありません。適度な圧力を掛ける程度に留め、相手が音を上げたらすぐ許してあげましょう。さもなければ負のゲージが正のゲージに反転しにくくなるので。

 ここまでで散々ねちっこく責めていたのに(意味深)あっさり許されたみずきちゃんは目をぱちくりさせました。可愛いぜチクショウ……遠巻きに見てくるだけの娘はまだ可愛げがありますが、直接絡んでくるのはウザい。囲んでくるのはやはり、みずきちゃん達メイン勢にして欲しいものですね。――だが手加減はしない。飴は女の子にだけ配るものじゃない、男の子だって飴が欲しいんだ! なのでみずきちゃんには後腐れのないものを奢ってもらいます。

 

「みんな聞いたな。みずきちゃんがなんでも奢ってくれるらしいぞ」

 

『お、おぉ……?』

 

「き、キャップ?」

「この大会で優勝したらみずきちゃんには俺に、ここの面子の人数分肉を奢ってもらおう。喜べお前ら、俺からお前らに焼き肉のお裾分けしてやるぞ!」

 

『おおおおお!?』

『マジか!』

『おお神様仏様パワプロ様!』

『うっひょう! こりゃ優勝するしかねぇ!』

 

「ちょっ!? ちょっとぉ!? 死ぬ! それみずきちゃんの財布が死ぬ奴だからぁ!」

「なに。前言撤回すんの? ふーん……」

 

『おいおい女らしくねえぞ橘』

『女に二言はないんじゃないっすかね』

『橘先輩のちょっといいとこ見てみた〜い!』

 

「アンタらねぇ……! あーもー分かったわよ奢れば良いんでしょ奢れば! それで修学旅行の時の事は水に流してくれるのよね?!」

「おう、忘れる。蒸し返したりもしない」

「くぅぅ……なんで私がこんな目に……ぅぅ……」

 

 涙目のみずきちゃんprpr

 しかし適度な負の心象に留められました。パワプロくん一人だけならともかく、皆に焼き肉を奢るという体裁を整える事で、蓄積される負の心象ゲージを分散させる事にも成功です。おまけで皆の士気も上がったし良い事尽くし。

 こっから先のアフターケアで正のゲージに反転させるので、みんな見とけよ見とけよ〜?

 

「フゥ――ってなわけだ、あおいちゃんは気兼ねなくエース張ってくれよ」

「え? う、うん……」

「なんだよ。胸張れって。曲がりなりにもこの俺を押しのけてのエースなんだぜ? 心配しなくたってあおいちゃんを打ち崩せる打線はそうはねえよ。リードすんのも聖ちゃんだしな。レフトにボール跳んできたら、ホームランボールもアウトにしてやっから安心しなって」

 

『で、出たぁ! パワプロのナチュラル俺様発言だぁ!』

『自信満々過ぎる。だがそれがいい、それでこそオレらのコーチ様だぜ』

『おいやめろ。泣いてる佐土コーチもいるんですよ!』

『コーチを窓際族にするパワプロ先輩はパワハラ先輩だった……?』

『パワハラの定義が乱れる……』

 

「うっせぇぞお前ら! ――んなわけで、肩から力抜いて投げてりゃ良いよ。なぁにあおいちゃんが崩れても、後ろにはみずきちゃんとヒロピーがいるし、何よりこの俺がいる。俺がいるとこであおいちゃんがエースナンバー背負えんのは、後にも先にも今回だけなんだし? 精々頑張ってくれ」

「ムッ! なぁーんかムカつくね! いいよ、なんならボクが完投し続けて、パワプロくんの出番全部食べちゃうんだからね! それにいつか実力で黙らせてあげるから覚悟しておくように!」

 

 え、パワプロくんを食べる?(難聴) いやらしい娘ですね(風評被害)

 えーよえーよ。頑張りんしゃい。

 パワプロくんの視力は化け物だからね、立ち前屈でロジンバッグを拾ってるとこ後ろからガン見すっから、パワプロくんの熱視線をケツに感じてモジモジしてください(ネットリ)

 と、あおいちゃんのファンなら誰もが一度は抱く壮大な野望の実現に燃えつつ、ひとまず今回はここまでとさせていただきましょう。

 

 次回から秋季大会ですよ。一回戦から始めるのでよろしくお願いします。

 

 最後に当初の予定を超えて強化した、パワプロくんのステを載せておこうと思います。経験点がね、最初に考えてたものよりかなり多く貰えたから強化してしまいました……。それでは、また次回も観てくださいね!

 

 

 

 

 

 

 

【投球フォーム:オーバースロー17(改良済) 投打:右打ち左投げ

 球速:147 コントロール:S(90) スタミナ:S(90)

 ・ジャイロボール    ・ストレート   (・ジャイロフォーク:5)

 ・チェンジアップ:7  ・スライダー:5  ・カーブ:5

(・オクトスモーク:7)

 

 ・センス◎  ・選球眼  ・積極走塁 ・積極盗塁

 ・低め5   ・ノビ5  ・重い球  ・キレ5

 ・リリース  ・ハイスピンジャイロ】

 

【打撃フォーム:神主打法(パワプロ式・祈祷打法) 弾道:4

 ミート:B(70) パワー:B(70) 走力:B(70)

  肩力:S(90)  守備:A(80) エラー回避:A(80)

 サブポジション:外野(センター・レフト・ライト)

 ・チャンス5 ・アベレージヒッター ・パワーヒッター

 ・走塁5   ・盗塁5 ・送球5 ・広角打法

 ・粘り打ち  ・満塁男 ・鉄人  ・対エース

 ・ムード○  ・威圧感 ・連打  ・レーザービーム

 ・打球ノビ◎ ・インコース

 ・守備職人  ・高速チャージ   ・ラッキーボーイ

 ・四番    ・アウトフィルダー】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんだこの化け物…。超中学生級の面々筆頭能力値がこれです。追随してくるのは果たして…?

面白い、続きが気になると思って頂けたなら感想評価等よろしくお願いします。


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秋季大会第一回戦(そのいち)

初投稿ったら初投稿です。


 

 

 

 

 これが野球ゲームだって事を思い出してしまうRTA再開します。

 

 はい、長ったらしい入場行進&開会式でしたね。いやぁ関東は魔境だって言われるぐらいレベルが高いそうですが、他のチームの面子を見たらそうでもなさそうで落胆を禁じ得ませんよ――と、開幕からイキっていきます。

 強敵と言えるのは、一回戦で当たる木場嵐士と滝本太郎を擁する横浜中央シニアと、準決勝で当たる猪狩兄弟&友沢を擁する横浜北シニアぐらいですね。……ん? なんで木場くんと滝本くんが同じシニアに……? まあいいか。

 ちなみにですが、その二つのシニアの名前は本作だと、誤って名前を拾われた感じです。江戸川と横浜のシニアチームが混同されたんでしょう。開発陣の情報収集能力に疑問符がつきますねクォレハ。

 

 わたしの先発登板は、順当に勝ち進んだ場合3回戦と準決勝だそうなので、猪狩くん達との対戦を楽しみにしておきます。今回は関東勢だけの大会で、その後に全国選抜大会があるんで長丁場になりそうですねぇ。

 あんまり長ったらしくやるのもアレなんでコールドゲームでサクッと締めていきたいものです。コールドゲームほど蹂躙してる感が出る試合はないんで、強豪チーム以外では遠慮なく蹂躙劇を演じてやりましょう。

 だってそうした方が経験点的にうま味なので。中学球児の諸君には悪いですが、パワプロくんの養分になっていただきます。

 という感じで横浜中央シニアとの試合です。両チームが並んで対面します。すると相手チームの先発投手、木場嵐士くんが真っ赤な瞳でこっちを睨みつけてきました。おいおい試合開始前に私語交わしてええんか……? と思われるでしょうが、本作だと別にええんやで。ある意味キャラゲーでもあるんで、そのキャラの持ち味や魅力を活かすための要素でしょう。多分。

 それはそれとして、まるでプロレスのマイクパフォーマンスみたいで、最初はちょっと笑っちゃいます。慣れるまで大変だった……。

 

「お前が力場専一だな」

「ん? そういうお前は……キハ・ランジだな」

「キバ・アラシだ! 初っ端から人の名前間違えやがって……いや、それよりどういう事だ!? なんだってテメェがエースじゃねえんだよ!」

 

 うっはぁ……なんでこんなに怒ってるんですかね。あおいちゃんがムッとしてますよ。けど木場くんはお構いなしです。マネージャーとしてベンチにいる君の妹さん、凄くハラハラした感じで君のこと見てますよ。

 というかこの物言い、もしかしてリトル時代にパワプロくんと対戦した事があるんでしょうか? そんな覚えはないんですが……対戦したことはなくてもパワプロくんの無双を見たことぐらいはありそうですね。

 

 にしてもこの周回では初めて見た木場くんの妹さんの静火ちゃん。すんごくメンコイですねぇ。我々プレイヤーの中には静火ちゃんLOVEガチ勢がいて、下手にオンライン上で彼女を悪く言うと、どこからともなく現れたガチ勢に袋叩きにされるんで気をつけてくださいね(小声)

 にしても……いーなーかわいーなーわたしもあんな妹がほしかった。が、残念ながら静火ちゃんと絡む予定はありませんし、絡むわけにもいきません。あの娘はギャルっぽいですが、見た目に反して一途で純粋で性格まで最高と非の打ち所のない女の子なのです、が、その分純愛√以外は受け付けないんです。兄貴の木場くんも妹LOVEなので、静火ちゃんをハーレムの一員とか殺すぞと殺意の波動に目覚めますよ。純愛なら渋々認めてくれるんですがね。

 

 無視するのもアレなんで、その木場くんに答えておきましょう。

 

「なんでって言われてもなぁ……ぶっちゃけ打者としての俺が強すぎるから、かな。ウチは投手層も厚いし、打つのに集中してほしいんじゃねえの?」

「ハッ。なんだ、要するに投手として頭打ちになっちまったって事かよ。世代No.1とかいう看板も地に落ちたみてぇだな。そんな細っこい女にエースの座を奪われちまうとは()()()()()()()()()()だぜ」

 

 カッチーン、という擬音が聞こえますね。錯覚ですが。

 擬音の発生源は煽り耐性ZEROな『超短気』のあおいちゃんです。いきなりブチ切れてしまいそうになってます。ちょっとあおいちゃん、女の子がしちゃいけない顔してるゾ。

 気分は三国志演義の劉備が猪突猛進な張飛を宥める感じ。あおいちゃんは我が軍の魏延なのに、プッツンしたら張飛なので気をつけましょう。

 というわけであおいちゃんが動く、口を開く前にそれとなく鼻を鳴らして牽制します。ついでに木場くんを煽っときましょう。冷静さを奪ってスタミナ管理をミスってくれたらラッキーですからね。――煽り合いでこのわたしに勝てると思うなよ若造……わたしとのレスバで勝てるのはレスバの達人共だけと知れ……! アイツらの煽り力は53万です。

 

「――フン」

「……なんだよ?」

「あまり強い言葉を使うなよ――弱く見えるぞ」

「ッッッ!?」

「それとお前ら、あおいちゃんをナメてるみたいだがな……そんな様だとヒットの一本も打てるか怪しいぞ。頼むから俺に言わせるなよ? ()()()()()()()()()()()()()、ってな」

「面白ぇこと言ってくれるじゃねえか……!」

 

 もういいかな? と微笑ましそうな主審に曖昧に笑顔を返す。

 それでは一礼します。お願いしまーす。副音声でぶっ潰すと言ってそうな木場くん。こちらこそオナシャス(暗黒微笑)

 まずはそちらからの攻撃ターンですぜ。一回表の投球、見せつけてやれよあおいちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――フェンスの向こうには、選手達の保護者はおろか高校の強豪、そのスカウト達までも陣取っている。一回戦であろうと人材の発掘機会を逃すのはバカのすることだからだ。

 

 三球の投球練習。今日の調子を確かめる場。

 

 緑髪の髪を結わえ直してマウンドに上がった少女の背中には、一番の背番号が背負われている。

 武蔵府中シニアの三年生エース、早川あおい。対する正捕手はチームの頭脳にして守備の司令塔、六道聖。女性選手がプロとして活躍するようになった今でも珍しい女子バッテリーだ。

 聖の捕手としての能力は特筆に値する。キャッチング能力は言うまでもなく早川あおい、橘みずき、太刀川広巳、力場専一というタイプの異なる投手の力を、十全以上に引き出せる名手なのだ。彼女も是非ウチのチームに欲しい、と目を光らせるスカウト達。脈無しな事はまだ知らない。

 早川あおいは、夏の大会でも躍動したサブマリンのピッチャーで、固有魔球マリンボールを操る者として注目を集めている。コントロールも悪くなく、足腰の発達具合を見るにスタミナも大幅に増強できていそうだ。

 

 そして――レフトスタンドからの声援。

 

「専一殿ー! 微力ながら力になりたく応援に参った! 頑張れー!」

 

 黒髪のポニーテールを赤い紐で結んだ、サムライガールのような印象を受ける凛々しい少女。その少女の声援にギョッとしたように振り返った少年が、曖昧に笑って手を振り返した。

 そんな仕草にすら華があり、女性陣は見惚れたが――しかし声援を飛ばした黒髪の少女に対して、他の女性陣は敵意を向けていた。何勝手なことしてんのよ、と。示し合わせたタイミングで一斉に声援を送りたかったらしい。

 だがその少女はまるで意にも介していないようだ。

 

 集客率は現時点でも抜群のものがありそうだ、とスカウト達は心の中でメモをする。

 

 力場専一。通称『パワプロ』と呼ばれる、この世代最強選手の呼び声()()()()少年。

 この年頃で一年の差は大きい。一年生時に転校しシニアチームも変わった彼は、この一年の間でどれだけの変化と進化をしたのか。過去の栄光が現在でも輝くのか。注目度はやはり大きく、彼が目当てでこの試合を観戦に来たスカウトは数多い。そして観客席には別のシニアチームの偵察班の姿もあった。

 そんな彼らは拍子抜けしていた。てっきり、エースはパワプロだと思っていたからだ。この一年の間にどこかを故障してしまったのか? それともリトル時代は早熟が過ぎただけで、周りに追いつかれてしまったのか?

 その疑念。その失笑。落胆。注目度が高いという事は、すなわち落ち目になれば餌にされるという事だ。少年の背中に突き刺さるものの中には、嘲笑の類いも僅かながら混じっていた。

 

(………)

 

 そんな中、一人の髭面の男は周囲の反応に呆れていた。

 男は影山という。とあるプロ球団のスカウトだ。プロが中学のシニアチームを見に来ているとは暇なのかと思われそうだが、そんなことはない。

 将来プロになるような逸材は、中学時代からも光るものを感じさせる。そうした才能の原石を早い段階から見つけ出し、個人として親しくなっておけばスカウトするのに有利に働くのだ。

 それに、影山スカウトは高齢である。後任のスカウトマンをスカウトする、という後継者探しも兼ねて至る所に足を運ぶ事は多かった。故に影山スカウトが見ているのは選手だけではなく、スカウト陣もまた観察されているのだ。

 影山スカウトは内心呟く。

 

(彼らは駄目だな。冷静に俯瞰したら明白な事実が見えていない。武蔵府中の少年達は宮本シニアを自称していたが――その実力は精々が並だった。なのに夏の大会では三位に輝き、全国選抜大会でも今までにない成績を残した。急激にチームの総合力が増したのは、あの少年がチームに入ってから……早川あおいをはじめとする少女達は元々光るものがあったが、その爆発的な成長はあの少年と関わってからの時期に符合する。監督やコーチ陣に変化がない以上、見るべき所は明らかだ)

 

 ス、と目を眇めた影山はメモ帳を開く。パラパラとデータを流し見て、自身の所感が的外れではないかを確かめる。

 そして己の分析に間違いはないと、長年の経験則からくる確信を抱いた。

 

(パワプロくん、だったかな。彼は恐らくリトル時代から更に進化し、なおかつ周囲の実力を引き上げる指導力があるのだろう。人望も厚そうだな……もし選手としてはイマイチだったとしても、コーチとしての才能は確かにありそうだ。となると指名する価値は充分だろうな)

 

 影山の感想をよそに、パワプロを侮るような視線や雑談は交わされている。

 だがそうした目が向けられるのは織り込み済みだった。投球練習を終えると捕手の聖が立ち上がる。あおいに返球しながら、よく通る声で言った。

 

「まずは先頭から三人、レフトフライで締める。他は適度に寛いでくれ」

 

 横浜中央シニアの面々――そして聖の声が聞こえたスタンドの者達も俄かにざわめいた。そして最初に打席に入った打者が憎たらしげに聖を見る。

 涼し気な顔でそれを無視し、打者が構えるのを待った。ジ、とあおいが待っているのを見た一番打者が鼻を鳴らす。

 

 ――レフトフライを打たせる? やれるもんならやってみやがれ――

 

 奮起して打者はオープンスタンスに構えた。するとあおいが足元のプレートに足を乗せ、聖の出すサインを視認し不服なく頷く。

 そしてあおいがモーションに入った。グ、グ、グ、と力を溜めるように両腕を振りかぶる。ワインドアップ――それは夏の大会では、走者が塁にいなくてもしていなかったもの。事前情報にない動作に打者は虚を突かれた。

 力を臨界まで溜めたのだろう。流れるように片足を踏み出し、体重を移動させながら上体を大きく傾けさせた。ボールを握る手が地面スレスレを通り、低空より飛翔する燕のような軌道を描いて外角高めに決まる。

 

 打者はそれを見送った。サブマリンの投手と対戦した経験がほぼないからだろう、動揺が透けて見える。重そうなストレートはノビもよく、聖は無言で返球し、あおいがボールを受け取るなりすぐに投球モーションに入った。

 テンポが早い、打者は咄嗟にバットを振った。しかし投じられた直球の下をバットが通り抜ける。乾いた音を立てて捕球した聖はわざとらしく嘆息した。こんなものか、とでも言いたげに。そして急に立ち上がったかと思うとあおいに返球しながら言った。

 

「すまない、あおい先輩。三振に切って取れるかもしれないぞ」

「ッ――」

「あ、そう? ボクは別にそれでもいいけど」

 

 ナメやがって。打者は苛立ち、集中を増す。再び放たれたのは、前二球よりも更に球速の増した全力投球。横浜中央シニアの先頭打者の少年は、投げ込まれたコースが先程と同じ外角高めだった事もあり、なんとか反応を間に合わせてボールを捉えた。金属のバットが鳴り、ボールが真後ろの主審の頭の上に流れフェンスに直撃する。ファールチップだ。

 簡単に三振に倒れると思うな、と気負う打者。それを静かな眼差しで一瞥した聖が立ち位置とバットの握り、集中力の程度を見極める。そしてあおいが返球を受け、聖のサインを見て頷いた。

 

 要求されたコースは再び外角高め。全く同じモーションから投じられたのは同じボール。すなわち、ストレート。打者はふざけているのかと、甘い球が来たと狙い打とうとする。だが――そのボールはストレートと同じ軌道を描きながらも、遅かった。通常のチェンジアップよりは速いが、使いどころを間違うと棒球にしかならない高速チェンジアップだ。

 バットには当てられた。だが打者の狙ったタイミングからはズレ、当てるのが早すぎた。体勢はズレて、振ったバットに体が流され――ボールが飛ぶ。キンッ、と気の抜けた音を残して、球場の面々はその行方を追った。だがバットの鳴らした音を聞いた瞬間に動き出していた外野手が、そのボールを身体の正面に迎え捕球する。

 

 果たして外野フライとなったボールをキャッチしたのは、レフトのパワプロだった。瞠目する横浜中央のベンチと、聖の予告が聞こえていたフェンスの外の者達。そんな彼らを尻目にパワプロが中継を挟もうとせず、ピッチャーに直接ボールを投げ返そうとする。するとあおいはグラブを顔の位置に構え、笑顔で口を動かした。ここきて、と。パワプロは笑い、軽い助走を挟んで投げる。

 レフトから投げ返されたボールは、まるでレーザービームのように真っ直ぐに、一直線にあおいのグラブを目指した。その軌道の鋭さと速さ、そして桁外れの制球力を見せつけるようなアピール。あおいは顔の横に置いたグラブを動かしもせず、収まったボールに笑顔を深める。

 

 場が騒然とする。聖の宣言通りのレフトフライ。パワプロの未来予知じみた守備移動の速さ。返球した際の球速と、針の穴を通すようなコントロールに。

 影山は薄っすらと微笑んだ。やはり――と。やはり衰えてなどいない、と。怪物は怪物のままだ。いや、さらなる領域に進んでいる。

 このアピールはかなり有効だ。レフトにボールが行けば、走者は進塁を試みるのを自重してしまうようになるだろう。現にパワプロの守備の巧さ、肩の強さが披露され横浜中央シニアのベンチに動きがあったのだ。

 

「わんあうとー!」

 

 呑気な、それでいてのんびりとした声。あおいが守備陣に檄を飛ばした。すると「イエー!」と場違いな返事がされる。宮本シニア全員が笑っていた。

 続く二番打者は深呼吸をする。レフトフライに倒れた先頭打者は、打席に向かう少年とすれ違う際に呟いた。捕手がウゼェ、無視しろと。

 六道聖のささやき戦術は有名だ。一年間の空白期間があっても、体験したことのある選手は口を揃えてボロクソに言う。曰く、最悪の詐欺師だ、と。その風評は横浜中央シニアにまで届いていた。というのも、横浜中央の四番・滝本太郎は、リトル時代に聖のささやきを聞いてスランプに陥った事があるのだ。その事を聞かされている二番の少年は頷く。

 

 そんな彼が打席に入る直前に、聖はあおいに向けてミットを横に薙ぐ仕草でサインを送る。それにあおいは首を傾げながら、一旦肩を回してセンター方向を向くと二回、三回と軽くジャンプした。

 手をプラプラと振って、肘を伸ばした。これは聖から事前に言い含められていた、打席に背中を向けてストレッチをしろというサインに従った行動だ。特に意味は分からないあおいだが、間を外すのに使えるのかなと思う。初回から間を外すのはどうなんだろうとも思うのだけれども。

 

 ――ユニフォームでピッチリと浮かび上がった大きな臀部。張りのある丸くまろいモノ。それが少年の心を奪った。

 

 そうして少年が打席に入るタイミングで正面に向き直ったあおいは、げ、と内心顔を顰める。聖の出したサインの意味が分かったからだ。二番打者の少年は赤面し、あおいの腰の位置をチラチラと見ているのである。

 思春期の少年を殺しに掛かっている――聖のキャラに合わない、少女の武器を用いた盤外戦術だ。あおいは微かに頬を紅潮させて、もう二度とやらないと心に決めた。後で聖に対して怒ると決意し睨みつけると、素知らぬ顔で捕手はミットを構えた。出されたサインは内角低めの速い球。変に力みそうだったあおいは深呼吸をして落ち着き、要求通りのコースへストレートを投じる。

 集中力を乱されていた少年はこれにあっさりと空振りし、続く二球目で外角高めに投げた高速チェンジアップ――棒球を打たされた。これもまた、スイングスピードと角度を見切った聖による操作だ。結果はレフトフライ。

 

 電光掲示板に二つ目の赤いランプが点灯する。ツーアウト。再び予告通りの結果であり、球場は沈黙した。そして三番打者は初球にストレートが来るとヤマを張り、聖はそれを察していながら敢えてストレートを要求した。内角高めへと迫った直球を詰まらされ、これもレフトフライに倒れる。

 三つ目のアウトカウントが奪われると、今度こそ球場は騒然とした。聖の意のままに初回の攻撃が終わったのである。三回ともフライをキャッチしたパワプロは、落下してくるボールを全て危なげなく処理してベンチに戻っていきながら、顔を微かに赤らめているあおいに追いつくと半笑いで声を掛ける。

 

「ナイスピッチング」

「……ありがと。けど聖ちゃんのせいで全然嬉しくないよ」

「ん? んー……とりあえず見ててくれ。俺まで回ったらイイもん見せてやっから」

「うん……援護期待してるからね、パワプロくん」

 

 宮本シニアの面々がベンチに戻り、あおいが笑顔で聖の頭の両サイドを拳骨で挟み、グリグリと抉っている間に横浜中央シニアは守備位置についた。

 聖の悲鳴がベンチに響くのを尻目に、先頭打者の霧崎礼里はジッと相手投手――木場嵐士の投球練習を観察する。

 

 球は走っている。だがキャッチャーは捕球する際にその球威に押され、ミットの位置を微かに動かしてしまっていた。コントロールもそこまで良くない。球速と球威が厄介そうだが、ストライクゾーンのギリギリの辺りなら、打者の見逃し方一つで主審のストライクカウントをボールカウントに変えれそうだ。

 そのためにはこちらの選球眼の良さをアピールしなければならない。初回からは余り効果は出ないが、二打席目、三打席目で活きてくるだろう。礼里はそう見て打席に入った。

 

「へっ……」

「………」

 

 木場が笑う。女の礼里を侮ってのもの、というわけではなさそうだ。どうやら木場は礼里のリトル時代の評判を知っているようで、その上で打ち取れると踏んでいるらしい。

 次の打者が打順を待つネクストバッターズサークルに聖が来るのを見て、礼里は構えた。三振を奪いに来ると感じる。初回の攻撃であおいと聖に翻弄された空気を払拭するために。そして初球と三振を奪う決め球はストレートだ。

 読心するまでもなくそこまで予見し、球筋と球威を見ようと集中する。木場が構え、片足を上げた。その豪腕から繰り出される第一球は、読み通りの速球だ。礼里は敢えてバットをストライクゾーンに置くようなイメージでスイングし速球をカットする。

 

「ファールボール!」

 

 ヒットを打つ気はなかった。最初からファールゾーンにボールを落とすつもりだった。だが礼里はそのストレートの重さ、ノビのある球質に少し驚く。

 微かにホップした気がしたのだ。いや、錯覚ではない。実際に浮き上がっている。それに球の重さはパワプロに匹敵していた。

 礼里は手をプラプラと振る。それを見ていた聖は痛むコメカミを無視して目を細めた。

 

(重いのだな)

(重い)

 

 バットを構え直す間際に礼里と聖がアイコンタクトを交わす。だが――

 

「フッ――!」

 

 二球目を見逃し、三球目で投じられた緩いカーブを無視する。ツーストライク・ワンボールのカウントで、手が痺れそうだから粘るのは得策ではないと判断した礼里は、鋭い呼気を吐き出しながらバットを一閃した。

 三振を奪いに来た、自信のあるストレート。それを強振(フルスイング)で狙い打ち、礼里は木場の驚く顔を見る事なく一塁へと疾走する。銀髪を翻しながら一塁へ到着した礼里は、ホームランを打つつもりでバットを振ったのに、レフト前にぽとりと落ちたボールに目を細める。手がジンジンと響いていた。粘り過ぎると握力が弱くなると判断したのだが、その判断は正しかった。

 チッ、と舌打ちした木場は一塁上の礼里を睨む。

 

(……アイツ、女のくせに中々のスイングだな。詰まった当たりだったってのにレフト前まで運びやがるとは……リトル時代の優秀選手賞は伊達じゃねえってわけか……)

 

 元々出塁率が高く、走塁と盗塁の巧さもビデオで見た。自分の牽制の技や、捕手の肩の強さを鑑みるに、盗塁を阻止するのは難しいだろう。二塁まで進まれるのは面白くないが、あまり気にしすぎないようにしようと腹を決める。

 木場は打席に来た聖に意識を向ける。

 

(六道、つったか。チッ……オレの相方もコイツぐらい捕球が巧かったらいいのによ――いや、情けねえ言い訳は無しだ。コイツは霧崎とは違ってパワーはヘナチョコで脚はナメクジだ。確実にアウトカウントは一つ取れる)

 

 守備はゲッツーシフトに移行している。木場は自分のコントロールがあまり優れていないと自覚しているだけに、それを棚上げして平凡な捕手である今の相方への不満を抱くのは情けないと思う。

 木場は常に全力投球だ。完全に一塁の礼里から意識を外す。二塁盗みたきゃ好きにしな、と割り切っていた。ただし三塁にまでは行かせるつもりはない。

 案の定、初球から礼里は走った。捕手が刺そうとするも、二塁手が捕球するより一秒も早く二塁に到達していた礼里は余裕そうに構える。聖はど真ん中に来たボールを見逃したが、礼里が二塁へいくとバントの構えを見せて木場を揺さぶりに掛かった。

 

(その手は食わねぇよ……ッ!)

 

 内角高め目掛けて全力のストレート。ビビって仰け反れと念じながら放った直球は、しかし聖を怯ませるには及ばない。

 バントの構えを直前で止めて、打席の内側ギリギリまで離れた聖はツーストライク目を木場に譲ったのだ。バントの構えから木場のストレートを観察しただけである。

 

(――ホップして本当に浮かび上がる直球、重い球。だが……専一のストレートを受けている私からすると驚くほどでもない。あおい先輩のような変則的な直球でもない。威力はあるが、捕手の単調なリードから木場の力に頼っているのが透けて見えるな……恐らく次は変化球、だがカーブは来ないだろう――となるとスライダーを外して来る)

 

 聖は自身の読みが嵌まるか試すために、四球目も敢えて見逃した。すると読み通り、スライダーが聖の懐を抉った。ストライクゾーンを外して。大袈裟に身を躱すと、相手キャッチャーは聖の反応に手応えを感じた。

 やはり女だ、ボールに当たるのは恐いのだろう、と。なら今度は内角のギリギリにカーブを投げ込めば見逃しか空振りで三振を取れる。木場のストレートの威力が目に焼きついているはずだから――そう思い、サインを出すも木場は首を左右に振った。

 

 おや、と聖は眉を動かす。このキャッチャーのデータは頭に入れてある。次はカーブが来るだろうから、それを狙い打てば長打にできると思っていた。

 木場が首を振った事で計算が狂うも、次に来る球を察して嘆息する。やるなこの男も、と聖は感心して自身のヒットを諦めた。

 

(ストレートか)

(コイツ相手に駆け引きは要らねえだろ。地力じゃ勝ってんだ、下手に読み負けて打たれるよりは、力押しで行った方がいいってもんだろ)

 

 聖の眼差しに答えるような闘志。青い気炎が木場の背中から吹き出ているかのようだ。分かりやすい奴、と聖は思う。

 果たして投じられたのは低めへのストレートである。ストライクゾーンの下からホップし、ゾーンに侵入してくる軌道に、聖はバットを極端に持って応じた。上から下に叩きつける、バスター打法に近い『当てるだけ』のものだ。

 マウンド上を緩く転がったボールを木場が拾い、一応三塁を見るが礼里は悠々と三塁に到着するところだった。木場は舌打ちして一塁にボールを投げ、聖からワンアウト目を奪い取る。

 

「……まあ、仕方ねえか」

 

 続く三番打者・和乃泡瀬が左打席に入るのを見て、木場は足元を軽く踏みつける。初回の流れとしてはこうなるかもしれない、とは思っていたのだ。

 和乃泡瀬はとにかく当てに来るだろう。礼里の脚だと内野ゴロでも充分生還することができるのだから。とはいえその思惑を悟れない木場ではない。捕手のリードを見て、一塁を見る。一塁手の滝本太郎はエースの視線を受けて頷いた。木場はリードに従い、全力のストレートより力を抜いた、遅めの直球を投じた。和乃は初球を見逃すつもりでいたようだが、外側に決まったストレートに意外そうな顔をする。

ホップしない普通のストレート。球も遅い。……手を抜いた? ナメられてる? 和乃はカッと頭に血が上りかけるのを堪えた。安い挑発だ。続く二球目はカーブで内角へ――微妙に打ちづらいコースに来て和乃は舌打ちする。これでツーストライク。そして三球目は棒球に近いストレートを高めに外した。ヒットエンドランを警戒してのものだろうか?

 

 次、ヌルい球が来たら打つ。和乃の気合は充分だった。そして四球目。真ん中低めにきたのは、またホップしない遅い球だ。

 和乃は一瞬の思考の間で思う。ナメるな、と。

 だがボールはストライクゾーンの下へ落ちた。縦の変化をするフォークだ。和乃は三振に倒れ歯噛みする。木場が滅多に投げないキレないフォークに三振したのが悔しかったのだ。

 

 これでツーアウト。和乃は次の打者が打席に向かっているのとすれ違い様に言う。

 

『イケるか、パワプロ』

「おう、任せとけよシュワちゃん。木場の底は知れた」

 

 和乃泡瀬。泡瀬。泡。泡はシュワーという……だからシュワちゃんなのだとパワプロは以前言っていた。そんなパワプロからシュワちゃん呼びされている泡瀬は、どこのアーノルドだよと笑いながらベンチに戻る。守備に備えるためだ。その足取りは、三振を悔しがってはいても、後のことへの心配はない。

 なぜなら四番は、パワプロなのだから。

 

 パワプロが打席に入った瞬間――木場は得体の知れない圧力、威圧感を感じる。だが木場はそれを、燃え上がる闘志で打ち消した。

 ぶるりと身体が震える。武者震いに近い。木場はパワプロが打席に立つ姿を見ると、野球脳に宿る本能で察知したのだ。コイツは強打者だ、と。仲間の滝本太郎に似通った雰囲気がある。

 

「ヘッ……」

 

 木場は笑う。

 自分達の世代で最強と呼ばれた男、パワプロ。それは投手としてだけではなく、打者としても最強と呼ばれているが故の存在感。

 コイツに勝つ。木場はその事に集中した。

 木場は関東でも特に注目される投手の一人だ。その注目に見合うだけの実力がある。そしてそうであるからこそ、この対戦カードは話題となっていた。そして故にこそ――ライトスタンドには、三人の少年がいる。

 打席に立った少年、パワプロはそのライトスタンドを一瞥し、バットの先端を向けた。それは――ホームラン宣言。外野どものざわめきを無視し、木場は犬歯を剥き出しにして猛る。やれるもんならやってみやがれ、と。

 そしてライトスタンドの少年達は、知らず笑みを浮かべた。

 

 

 

(ここでワンポイント解説のお時間です。打席でものを言うのはPSなのはご存知の通りですが、ではどうやったらホームランを打ちやすいのかの技術を紹介したいと思います。相手は木場くんです、多くのプレイヤーが嫌な思い出を抱いているであろう、めちゃんこ重い球を投げてくる人ですね)

 

 

 

「だっ、りゃぁ――ッ!」

 

 木場がワインドアップのモーションに移る。全力投球で真っ向勝負、気合を込めて魂を込める。ホームラン宣言などと大逸れた真似をした奴を、真正面から叩き潰さずにいるのは、木場のプライドが赦さない。

 何が何でも打ち取る。木場は全霊で、渾身のストレートを投げ込んだ。それは外角低めに決まる最高の球だった。打てるもんなら打ってみやがれと、気迫と共に吠えた。

 

 ――それに。それを。初球から打ちに掛かったパワプロの踏み込みが、捉える。

 

 

 

(まず『アベレージヒッター』でミートし、ボールを捉える直前で『パワーヒッター』に切り替えます。そしてインパクトの瞬間にバットを半捻りして『打球ノビ』を発動しましょう。後は振り抜くだけです。簡単でしょう?)

 

 

 

 木製バットの一撃。そんなのもの圧し折ってやると息巻いていた木場は、鮮やかなフォームで流し打たれたボールに顔色を変える。

 咄嗟に体ごと振り返ってライト方向を向く。すると打球は放物線を描いてノビていき、木場は愕然とその軌跡を見送るしかなかった。

 バットを振り抜くや、手応えで当たりの強さを確信したパワプロは三塁線側にバットを投げる。打球を見ながらゆっくりと歩き出し、宮本シニアのベンチにいる仲間達に握り拳を向けて、その後にゆったりと走り出した。

 

 初球からウイニングショットを2ランホームランにされ、呆然とする木場を尻目に一塁、二塁、三塁を回り帰還したパワプロを、礼里が迎える。軽く拳を合わせて通り過ぎ、パワプロはベンチの前でチームメイトに祝福を受けた。

 そのパワプロの姿を見て、ライトスタンドから見ていた少年が笑う。自分達の頭の上を駆け抜けた打球に、身体の芯から痺れてしまったのだ。

 

「――それでこそ、この僕のライバルだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




面白い、続きが気になると思って頂けたなら感想評価等よろしくお願いします。

叩けば叩くほど木場くんは伸びるって信じてる…!


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秋季大会第一回戦(そのに)

一万字をまた超えてしまったので初投稿です(血反吐)


 

 

 

 

「公式試合初打席で初球ホームランとか……この間の妄想実現するだなんて、さすがって言ってあげるわよ、キャップ」

「今の流し打ち凄かったよ! 初球から完璧に捉えるなんて!」

 

 ベンチに戻ると、男子組から尻や頭を叩かれたりして揉みくちゃに歓迎された。やめやめろ! と謎のラップ口調でパワプロが怒鳴ると笑いが弾ける。

 そんなパワプロが半笑いでグラブを手に取ると、みずきと広巳が興奮覚めやまぬ様子で背中を叩いて称賛した。

 口元を緩め「崇め奉っていいぞ」と親指を立てて二人に応えたパワプロは、グラブを嵌めたまま待っていたあおいに声を掛けた。

 

「どうよ、エース様。援護してやったぜ」

「うん。見てて惚れ惚れするスイングだったよ、スラッガーくん」

「『スラッガー』か、悪くない響きだな。ま、守備も任せろよ。次の回からは変に俺に気を遣う必要はねえけど、投げる所に困ったらとりあえず俺の所に打たせたんでいいぜ。礼里ちゃんの頭を越えたらすぐ処理してやっからさ」

「あはは、じゃあその時は甘えさせてもらおっかな? もちろん皆も頼りにしてるよ」

 

 空いてる方の手で拳を合わせ、あおいもまた笑顔を浮かべる。

 今までの打線も貧弱という訳ではなかったが、どこか爆発力に欠けていたのだ。それがパワプロ達が打線の中軸に加わる事で、一気に厚みが増したのである。高確率の援護が期待でき、投手からすると精神的な安心感が段違いだ。

 聖の悪辣なリード、礼里の軽快な守備――その二人の打力も合わさって、飛躍的にチーム全体のレベルが引き上げられている。中軸とはこういうものだと言わんばかりに、相対的に全員の実力を割増させていた。

 去年の今頃の自分達なら、多分この試合の対戦相手のエース、木場嵐士を前に得点する事はかなり難しかった。ともすると負けていただろう。そもそも夏の大会で三位にもなれなかっただろうし、全国選抜大会にも参加できなかったに違いない。――でも今は、その木場が小さく見える。パワプロという図抜けた怪物を、この一年間ずっと見てきたせいだろう。

 

 マウンドの方へ視線を戻すと、我に返った木場が鬼気迫る形相で捕手のミットを睨みつけていた。

 

 ――掛け値なしに本気だった。油断があっても、慢心があっても、マウンドに立った木場は手を抜くという事をしない。相手に合わせた力配分なんてまどろっこしい真似は性に合わないからだ。

 木場は己の直球に絶対の自信を持っている。球速も関東屈指だし、球威は一番だと自負していた。だというのに、そのストレートを生で見るのははじめてのはずの打者から、初球でライトスタンドまで運ばれてしまった。

 その事実は木場の自尊心、プライドをいたく傷つける。心の弱いピッチャーなら失意に呑まれ、弱気になるところだが、木場は逆に憤怒に呑まれ闘志を燃やす燃料へと転化した。

 

(ふざけやがって……なに腑抜けた球投げてんだ、オレは……!)

 

 木場の怒りはパワプロには向かない。むしろパワプロに打たれた己の不甲斐なさにこそ激怒している。そうした克己心の強さと清さが木場の武器だった。

 己の球に絶対の自信があるからこそ、完璧に見切られているとは思わない。それはそうだ、初対戦の初打席、初球から木場の速球を見切るなどプロでも難しい。最低でも一打席は球筋を見るだろう。ホームランではなくヒットを狙うのが手堅い。率を残そうとするならむしろそうするのが自然だ。

 故に木場は思うのだ。いきなり打たれたのは、全て己のせいだと。

 

「もう一本も打たせねえ……!」

『グッ……』

 

 木場の怒りが乗り移ったかのように、五番打者・鬼島騎兵を球威で圧す。

 鬼島はアベレージヒッターだ。出塁率の高さはパワプロ達に譲るものの、打線の中でも四番目に位置する好打者である。そのミート力の高さから木場の球にも対応できているが、ボールを前に飛ばせない。

 破裂ストレートと呼ばれるポップする直球になんとかバットに当てる度、鬼島は自身の手に痺れが蓄積していくのを感じていた。こんなものをいとも容易くライトスタンドへ運んだパワプロに、どうやってやったんだと畏怖の念を新たにしつつ、鬼島はなんとか打とうと粘る。

 四球目も三塁側に大きく逸れるファールチップ。カウントはツーストライクノーボールだ。全球ストライクゾーンでの勝負だ。鬼島は木場の圧力に堪りかねて一度打席を外す。その間も木場は気を抜かずに打席を睨んでいる。

 

 鬼島がベンチを見ると、宮本監督とパワプロが何かを話していた。そして監督がサインを出してくる。単打ではなく、長打を狙え、と。それはつまり、強振しろという事だ。

 

(おいおい……マジかよ。要するに三振してもいいって事か)

 

 監督に入れ知恵したのはパワプロだろう。あの監督は厳つい外見に反して、子供相手でも話を聞き、意見を取り入れられる聖人だ。密かに聖人呼ばわりされている事は知らない監督だが、正しいと感じた考えを柔軟に採択するのは簡単な事ではない。間違っていると思えば疎まれるのも厭わず意見を退けるが、その反対ならすんなりと取り入れる。監督の正否を見極める判断力は高い。

 それを知っている鬼島は苦笑した。尊敬する監督が、怪物の意見を正しいと判断したなら、鬼島としても否はない。三振しにいくかとあっさりと割り切って打席に戻る。下手に粘ろうとはしない、どういうわけか木場の集中力が跳ね上がっているようだし、フォアボールでの出塁は望めそうにないのだから。

 三振してもいいという覚悟で、思いっきりバットを振り抜く。果たして、鬼島のバットは空を切った。

 

「ストライクッ! バッターアウト、チェンジ!」

『チッ……』

「………」

 

 主審のコールを聞くまでもなく鬼島はベンチに戻っていく。木場もマウンドから離れ、無言でベンチに戻っていった。

 鬼島のグラブを持って、それを手渡した監督が詫びてきた。

 

「すまんな、鬼島」

『べっつにいいっスよ。バカみてぇにボール重かったですし、前に飛ばせそうもなかったんで、フルスイングしろって指示は納得できてますもん』

 

 それより、と鬼島は後続の打者に向けて言った。

 

『それより見たかよ、お前ら。最後の一球……なーんか地面の砂利巻き上げてなかったか?』

『巻き上げてたな。なんだありゃ……』

『鬼パイセン、思っきしボールの下振ってましたね。ポップする量……上方向の変化量増えてましたよ』

『アイツも鬼の類いかよ』

『鬼パイセンの鬼退治見たかったな』

『オレが退治される側になるからその名前ネタやめろや』

 

「――ありゃ爆速ストレートだな」

 

 あ? と三年の鬼島はパワプロの唐突な呟きに反応した。

 

『爆速ストレート?』

「騎兵パイセンが三振した奴。木場のストレートは『破裂ストレート』って言われてんだけど、今のは木場が稀に投げられていたっていう『爆速』の方だ。そのうちあおいちゃんのマリンボールみたくエフェクトでも出そうだな」

『げぇ……ホームラン打たれて覚醒とかどこの主人公だよ……』

「木場のキャラ的に勇者か何かっぽいか?」

『ならテメェは魔王だろうよ、パワプロ』

 

 鬼島の台詞に、確かにと全員が笑う。パワプロも微妙な顔で笑った。どこで知ったんだよそんなこと、とツッコミを入れてほしかったのだ。

 だがそんなツッコミ、今更入れる者はいない。パワプロの事だ、どうせ情報は武器なんだよと言うに決まっている。

 正解だった。

 

「なに話し込んでるの! 早く守備につこうよ!」

 

 あおいが急かしてくるのに、へーい、と男子陣は気の抜けた返事を返して駆け足で守備についていく。

 ショートについた礼里の肩を、すれ違い様にパワプロが軽く叩いて何事かを耳打ちした。それに礼里はフッと相好を崩す。

 よーし、とあおいが肩を回した。皆の頑張りに応えて、この回も無失点で抑えてやろう、と。聖が定位置について屈み、横浜中央シニアの四番打者が打席に入るのを待つ。

 

 四番は、滝本太郎だ。リトル時代は強打者の武秀英と並び称され、シニアでも長打力を伸ばしたスラッガーである。

 滝本は目つきの悪い三白眼でジロリと聖を一瞥する。リトル時代、聖のささやきのせいでスランプに陥った記憶は未だに苦く、聖の存在に苦手意識を持ってしまっているのだ。

 聖は直近までの滝本のデータを思い返しながら、さてどう揺さぶりをかけようかと思案する。と、聖は滝本の耳に、耳栓があるのを見つけて苦笑した。どうやら本格的に聖への対策をしているらしい。

 

 安直なものだが、それなりに有効だ。ならそれに対する対策を講じよう。

 

 聖はあおいに向けてサインを送った。それは聖のささやきに対する対策の対策として伝えられていたサインだ。『無駄な動きを多々入れるが、通常通りのサイン以外は首を横に振ってほしい』という。

 あおいは首を左右に振る。このサインにも首を横に振るのが了解の合図だ。聖は肩を回す。首を振る。反対の方を回す。首を振る。ミットを叩く。首を振る。そうして聖がミットを構える。さりげなく指を一本立てていたのには反応せず、しかし了解の意図を視線に乗せていた。

 投球モーションに入る。グラブの中に隠したボールの握りは、(フォー)シーム。やや背中を反らすワインドアップで力を溜め、腰を回転させながら球をリリースする。リリースポイントは地面スレスレの低位置だ。

 

 コースは、ど真ん中。

 

 その絶好球に滝本はピクリとも反応しなかった。

 滝本は無反応だったが聖は確信する。半ば博打だったが、読み通りだと。

 耳栓は確かに聖の囁きを聞こえなくしているだろう、しかしそれは聖に対して、聖を意識していると教えているようなものだ。なら無駄な動作やわざとらしいサイン、あおいの否定の仕草に惑わされやすくなっている。

 現に滝本は、まだ見せていないボールを――変化球を投げてくるのではないかと思わされていた。故に速球をど真ん中に刺されたのに虚を突かれた。

 

 グ、と唇を噛んで滝本はあおいを見る。下手な先入観に支配されている己を超えるべく、バットを構えて意識から聖を外そうとした。だが聖が滝本の視界にチラつくように、わざと立ち上がってあおいに返球する。

 

「………」

「………」

 

 ささやくだけが、ささやき戦術ではない。

 ささやき破りは、耳栓では成せない。

 滝本はそう悟るも、既に遅かった。滝本は聖の術中に嵌っている。

 

「滝本! 無様なバッティング見せんじゃねえぞ!」

 

 だが――五番打者としてネクストバッターズサークルに控えていた木場が怒号を発すると、滝本はハッとする。その様子に木場は荒く鼻息を噴き出した。

 木場は怒りっぽい性格だ。そのせいでよく誤解されるが、木場は他人へ八つ当たりをする人間ではない。今の怒声は滝本が耳栓をしているから大きな声で発破をかけただけだ。

 滝本がそれで、少し調子を戻す。聖は密かに嘆息した。打撃でも守備でも、あの男との相性は悪そうだと。

 

 しかしそれがなんだ。聖はあおいにサインを送る。もう一度同じ球を、今度は内角へ、と。構えられたミットにあおいは頷き、素直に投じる。それを、滝本は真芯で捉えた。

 快音。強烈な打球が三遊間の三塁寄りに飛翔する。これに三塁手の君島悟が迅速に反応した。聖のサインは内野にも送られていたのだ。打たれたらそちらに飛ぶから気を引き締めろ、と。だがその打球の強さにグラブが弾かれた。宙に浮いたボールを視認するや、ヒット判定を確信した滝本が走るも、カバーに入っていた礼里が飛びつき宙に浮いたボールをキャッチする。

 スタンドのスカウト陣も、横浜中央シニアのベンチも、そして次の打者の木場も瞠目してしまうファインプレーである。グラブをしていない手で接地し、猫のような軽やかさで受け身を取った礼里が素早く立ち上がると、そのまま流れるようにあおいへ返球する。電光掲示板に赤いランプが一つ点灯した。

 

『ナイスカバー、霧崎さん』

「……フン。お前もいい反応だった」

『へへ……』

 

 君島が言うと、礼里は素っ気なく返す。だが礼里は基本的にこの調子だ。気にせずに定位置に戻る。

 

「……あれを捕るのか」

 

 滝本は目を見開きながらも、素直に相手を称賛するしかないと割り切った。

 駆け足でベンチに戻る。その際に打席に向かう木場と目が合った。

 ――気合入るいいバッティングだったぜ、滝本。

 ――活を入れられた。助かったぞ、木場。次は打つ。

 木場は打席に入る。聖は眼中にも入れられていない。駆け引きする気はないし、惑わされないと一直線にあおいを睨んでいた。

 一本気な性格は人間的には好印象だが、選手としてはやはり相性が悪い。聖は何を囁いても無駄だと感じて純粋な実力勝負に切り替える。

 不安はない。実力でも上回るだけの事だ。

 横浜中央シニアは、木場と滝本が中軸だ。それ以外は高く見積もっても並程度だと見做している。その分析は聖とパワプロの共通の見解だった。

 

 木場は豪腕だが、腕力自体は特筆するほどでもない。狙いは性格的に見て、直球を狙っていそうだ。木場の筋力とミート力、立ち位置とバットの握り、腕の長さを勘案して配球を決める。

 

「ストライーク!」

 

 審判のコール。外角低めに投じたそれ。タイミングが早ければサードゴロ、流せばセカンドゴロになるだろうと思っていた。だが木場はそれに手を出さないで見逃した。――嫌な見逃し方だが、聖はもう一度同じコースに同じ球を要求した。あおいにも否はなく頷く。あおいの観察眼から見ても、外角は狙い目だと感じていたのだ。

 

「ツーストライク!」

「………」

「……フゥ」

 

 沈黙を守る聖を見もせず、木場が熱い呼気を吐く。

 ボール一つ分外へとはずして、また外角低めの直球を要求。パワプロのコントロールならボール一つ分の出し入れは容易いが、あおいもまたその要求に応えられるだけのコントロールの良さがある。

 

「ボール!」

 

 コールは外れ。だが、木場は見向きもしない。今のを引っ掛ければアウトカウントを奪えていたが、意外と選球眼がいい。

 それとも狙い球を絞っているのか?

 聖の知能が警鐘を鳴らす。あおいは聖の出したサインに驚く。いいの? と様子をうかがった。それは一巡目で見せるには早い変化球だ。構わない、木場の反応が見たいと聖は頷いた。

 

 四球目も外角低め。今度はストライクゾーンだ。木場がピクリと反応し、カットするためかバットを振る。

 だがそれは高速チェンジアップよりも格段にブレーキが掛かり、斜め方向に変化した。それは早川あおいが有する、シンカー方向に曲がる三種類の変化球の一つ『サークルチェンジ』だ。

 

 あおいはパワプロの指導を受ける事で持ち球を五つも増やしている。

 

 シンカー方向に『シンカー』と『サークルチェンジ』、そして決め球の『マリンボール』

 カーブ方向に『カーブ』と『スローカーブ』

 真っ直ぐの遅い球『高速チェンジアップ』

 スライダー方向への『カットボール』

 これにサブマリン独特のストレートを軸にした、この大会屈指の投手の一人に数えられている。

 

 緩急を活かしたそれに、木場の体勢が崩れた。上体が泳いで、なんとかバットに当てるも三塁線上から大きく逸れたファールチップとなる。

 

(当てた……だが当てられたのは単なる勘だな。木場の狙いは内角の――低めだ)

 

 聖は木場の狙いを見抜く。ボールを引っ張って打ちたいのだろう。

 付き合ってやる義理はない。あおいは外角高めに全力のストレートを投じ、木場はタイミングを乱され、狙いも外された事で空振り三振に倒れた。

 

「チィ……!」

 

 あおいの今の球速はMAXの137キロ。速い――木場のそれが142キロである事を考えれば、球速差は5キロだ。女の身でここまでの球速を出せるとは。しかもアンダースローでともなれば、まさしく驚異的としか言えない。

 これではもはや裏を掻かれたというよりも、完全に手玉に取られたといった方が適切だった。木場はヘルメットを外してベンチで投げそうになるも、グッと堪えてグラブと持ち替える。どうせ後の六番打者の打撃はすぐ終わる。

 木場のその予感は的中した。初球から投じられた真ん中低めのサークルチェンジに手を出して、六番打者はファーストゴロに倒れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕はもう帰る。友沢、進、君たちはどうする?」

 

 ライトスタンドから観戦していた猪狩守は席を立った。どこに行くのかと弟の進が訊ねると、守はあっさりとした語調で帰宅する旨を告げる。

 何故と問う進に、同じく立ち上がった友沢が答えた。

 

「オレも帰る。――格付けは済んだ」

「格付け?」

 

 首を捻る進。それに対して守は今思い出したと言わんばかりに言った。

 

「そういえば、進はパワプロをデータでしか知らないんだったな。仕方ない、説明しておこう」

 

 守は嘆息してマウンドに視線を戻し、弟に解説する。

 一見、一進一退に見える互角の攻防だ。だがその実態は違う。

 木場は一イニングにつき十五球以上を費やしているのに対し、あおいは打たせて捕る投球術で球数を節約し一イニングで最高八球しか投げていない。

 守備のチーム力は敢えて度外視するにしても、痛いのはその点差――などではなかった。何より危険視するべきなのは、初打席の初球からパワプロにホームランを打たれてしまった事である。

 

「……それの何がマズイんですか、兄さん」

「この僕がリトル時代最後の大会で、パワプロと対戦した時の事だ。僕はパワプロに最後の打席までホームランを打たれなかった。打たれてもシングルヒット程度だったんだ。ペース配分も何も考えず、とにかく死に物狂いで抑えに掛かってそれだよ。何故そこまで本気だったか? フン……それは、それまでの記録で明白な事実が浮かび上がっていたからだ」

「記録?」

「ああ。パワプロは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。少なくともその試合中はね。見切られたらそれで終わりというわけだよ」

 

 進は思わず耳を疑ったが、兄がこんな冗談を言うわけがないと思い出す。

 守はどこまでも挑戦的に、武者震いしながら笑う。

 

「ここから点差は広がる一方だ。素直に負けを認めて、パワプロの全打席を敬遠するなら話は別だけどね……」

 

 それはしない。木場はそんな腑抜けではないし、冷徹に勝利だけを求められる性質でもなかった。

 だから、惜しいと言えば惜しい。

 

「木場はいいピッチャーだったけど、ストレートしか武器になる球がないのが残念だよ。もし木場がもっと早くパワプロと出会っていたら――あんな直球だけの力押しはしていなかっただろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は投手戦の様相を呈する――そう思われた。

 ツーランホームランを打たれ調子を乱すかと思われた木場は、六番から八番を三者連続三振に切って取り、あおいもまた三者凡退に抑えて二回表裏の攻防を締めたのだ。

 そして三回表でもあおいは三者凡退に抑え、一巡目の敵打線を制圧。木場も負けじと九番をセカンドゴロで倒すと、一番打者の礼里をセンターフライに抑え、二番の聖にセカンドの頭を越えたポテンヒットを打たれるも三番・和乃をサードライナーに抑えた。

 四回表の攻撃で、あおいはツーアウトを取った後に三番へ一二塁間を抜けるシングルヒットを打たれ。四番の滝本にライトフェンス直撃のツーベースを被弾。二、三塁に走者を背負うも五番の木場を抑えてピンチを切り抜けた。

 

 木場は完全に持ち直している。そう簡単に打たれはしない。あおいもあわやという場面はあったが、それでも早々に崩れたりはしないだろう。もし横浜中央シニアの打線が仕事をしたら、二番手の投手が登板しての延長線も有り得るかもしれない――試合の部外者にはそう思う者が相応数存在した。

 

 だがその予想は余りに安直だ。四回裏の先頭バッターは、パワプロである。

 

 

 

(まあ、木場くんが猛って覚醒した場合もそうでない場合も、初球は大体八割の確率でストレートなんでそれ打てばいいです。空振ったらごめんなさいしましょう)

 

 

 

 コォー……ン……。

 と、静謐な音色が一つ鳴る。木製バットが鳴らした音なき音だ。

 唖然としてセンター方向を振り返った木場の目には、打球がスタンドに吸い込まれていく様が映っていた。

 二打席連続本塁打。木場の心を折るかの如く、颯爽と前にバット投げをし、パワプロは悠然と走る。

 

 

 

(ここまでご覧になれば、視聴者の方もわたしが「中学時代までは無双モードだ」と言った意味が伝わるでしょう。難易度で言えば21世紀のスマホアプリ版パワプロの打者操作の如く、全打席ホームラン余裕です。たまにミスりますが九割九分は(ホーム)ランになりますし、ミスるとしたら木場くんや猪狩くんのような速くて重い球投げてくる相手だけですよ)

 

 

 

 ――ここに。

 ここに居合わせた全ての人間に。

 力場専一という少年の名は刻まれた。

 

 

 

(本作の木場くんは中坊時に『破裂ストレート』を投げてきます。これはただのポップする直球です。覚醒が早まると赤いエフェクト付きの『爆速ストレート』を投げてもきますね。ですが『爆速』なんかどうとでもなるので、その上の『爆裂ストレート』を投げれるようにならなければ、変化球はショッパイんでいいカモですよ)

 

 

 

 人生初。そして恐らく生涯最後。木場はポッキリと心が折れる音を聞いた。

 がっくりと両膝に手をついて項垂れる。

 二打席連続の、本塁打。そのどちらも木場が絶対的な自信を持っていたストレートを、初球で打ってのもの。

 まだ人格的成熟を迎えていない、未熟な木場には厳しすぎる結果だった。

 

 木場はその後、四回を二本のヒットを打たれながらもなんとか抑えたが、五回からは降板し二番手にマウンドを譲った。本人はまだいけると主張したが、監督がそれを許さなかったのだ。なぜなら傍目に見ても、木場は一気に疲弊していたのである。

 

「に、兄ちゃん……」

「………」

「兄ちゃんっ!」

 

 木場の妹であり、チームのマネージャーをしていた少女、静火は自分が慕っている兄が呆然とベンチで佇む様を見兼ねて声を掛けた。

 だが木場は、自身が溺愛している妹の声にも反応しない。無視したのではなく、単に聞こえていないだけだ。木場は完全に折れていた。

 静火はそんな兄の姿をはじめて見た。いつも鬱陶しいほど熱血で、テンションの高い木場は、一生懸命誰よりも練習に打ち込んでいたのだ。そしてそんな兄が静火は大好きだったから、心の折れている兄の様子に衝撃を覚える。

 

「……こっち向いてよ、このバカ兄貴!」

「……あ?」

 

 静火の声に涙が交じると、漸く木場は反応した。如何に心が折れていようとも、溺愛している妹が泣いているとなれば反応する。我に返って顔を上げた木場は、静火の目に涙が溜まっているのを見つけて驚いた。

 

「ねえ……試合、終わったよ」

「は? まだそんなに時間経って――って、マジみてぇだな。結果は……」

 

 グラウンドに選手達が集まっていっている。それを見て試合が終了したのを知った木場がスコアボードに目を向けた。

 

 0対6

 

 横浜中央シニアは初回に二失点。四回に一失点。七回に三失点。木場の後に登板した二番手は、ヒットを随所で打たれつつも好投した。だが――全打席でパワプロはホームランを打ったのだ。

 化け物。怪物。天才。

 この三つの単語が木場の脳裏を過ぎる。

 対して武蔵府中シニアは、三本の被安打しか浴びていない。滝本がツーベースとシングルヒットを一本ずつと、三番打者がまぐれ当たりのシングルヒットを一本打っただけだ。好守に助けられてはいたが、球数も7イニングで50球と少なく先発完投完封されている。

 

「……悪ぃ。兄ちゃん、ちょっと行ってくるわ」

「う、うん」

 

 整列して、試合終了の挨拶をする。

 そのために木場は一番最後にベンチを出て、自チーム側の列に並んだ。

 ありがとうございました、と。帽子を脱いで頭を下げ合う。

 木場は視線をずっと下に向けていた。誰の顔も見たくなかったのだ。

 

 悄然としたまま踵を返し、力のない足取りで立ち去っていく。そんな木場の姿など誰も見たことがない、故にどう接すればいいのかチームメイト達が戸惑う中――歩き出して数歩の木場の背中に、相手チームの少年が声を掛けた。

 

「おい、木場」

「……?」

 

 声を掛けたのは、パワプロだった。

 ちらりと肩越しに一瞥した木場は、素っ気なく応じる。

 

「なんだよ」

「お前に足りてねえもんがあるの分かったか?」

「……はぁ? オレに……足りてねえもんだと?」

「お前の事な、今日までに結構調べたんだよ。んで、お前馬鹿だなって気づいた」

「あ?」

 

 喧嘩を売られているのかと、頭の片隅で思う。

 根が短気な木場である。煽られているとなれば、折れて萎えていた心に響くものがあった。

 

「足りてねえのは『休養』だ。全然休んでねえじゃねえか」

「――なんだ、そりゃ」

 

 微かな怒気を懐き振り返った木場に、パワプロは不敵な笑みを向けながらも呆れたように言う。

 声に詰まった。いきなり何を言うんだ、と。まるで予想もしていなかったその台詞は、なんで休んでいない事を知っているという疑問を吹き飛ばす。

 

「根性論で詰め込みすぎなんだよ、アホ。あんな昭和のノリの練習量なんざ、体の方がついていかねえに決まってんだろ。長く野球やりたいんなら体を労る事を覚えろよ。いいか木場、今の三倍休め。んで今の二倍の密度で練習しろ。力み過ぎんな。そうしてれば、今よりずっと強くなるぜ、お前」

「………」

「組み合わせ次第だし、来年もまたやれる保障はねえけど、高校なら一度や二度ぐらい確実にぶつかんだろ。地区さえ同じならな。その時にまた対戦()ろうぜ」

 

 そう言ってパワプロは手を差し出してきた。木場はそれに目を見開く。

 握手を求められたのだ。

 勝者が敗者に求めるものではなく、対等の相手に求めるような。

 木場は差し出された手と、パワプロの顔を見比べる。パワプロは木場の目を真っ直ぐに見つめていた。――その目には、一握りの衒いもない。そして嘗てなく萎えていた木場の心を叩き起こす、不思議な熱量を宿していた。

 

「ぁ……」

 

 無意識にパワプロの手を取った木場は、間抜けな声を漏らす。ガッシリと交わした握手で、パワプロの凄まじい握力を感じた木場は、溢れ出るパワプロの気力が乗り移ってくるような錯覚を覚える。

 それはパワプロの、木場との再戦を心から楽しみにしているような、純粋な競争意識に似た闘志の炎。消えかけていた木場の気炎を激しく燃え立たせる苛烈な意志。木場は知らず、相好を崩した。

 

「は――ハハハ、なんだテメェ。負かした敵に、試合直後にアドバイスするとか馬鹿じゃねえの?」

「いいだろ別に。ベンチにいんの、お前の妹だろ? 兄貴が情けねえ面してたら心配させちまうだろうが。妹を泣かせるとか兄貴失格だぞお前」

「うっ……そ、そうだな。ってかテメェも妹がいるとは意外だな」

「ん? 俺に妹なんかいねえよ。何勘違いしてんだ馬鹿」

「いねえのかよ!? なのに兄貴失格とかどの面下げて説教かましやがったんだこの野郎!」

 

 思わず怒鳴ると、パワプロは声を上げて笑い手を離した。

 

「ちったぁ見れる面になったじゃねえか。じゃあな、木場。滝本の奴にもよろしく」

 

 予想外の台詞だった。それはまるで、木場を元気づけようとしていたかのような。

 自分のチームメイト達の元へ戻っていくパワプロの背中を、木場は呆然とした表情で見送る。――していたかのような、ではない。実際に励まされてしまったのだ。現に木場は一分前の自分より、格段に立ち直れている。

 ――負けた。

 今度は別のところで、野球以外の何かで負けた気がした。

 だが清々しい気分だ。同時に心底から悔しくなる。このまま負けたままでいられるか、と完全に鎮火していた闘志に新たな火を灯した。

 

 木場は、去っていくパワプロの背を見詰める。あれは、越えなければならない壁だった。これまで明確な壁にぶつかった事がなかった木場が、はじめて出会った目標となる背中だった。

 

「――え。なに。カッコ良すぎない?」

 

 その木場の後ろで、兄を心配して駆け寄ってきていた静火は、二人の遣り取りを聞いてそんな事を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 敵に塩を送るとかガバの元かな? と、思われるかもしれません。

 だが待って欲しい。

 これはガバではないのです。わたしは無双はあんまり好きくないので敵は強い方がいいと思うクチなのですが、それはさておくとしても強い敵を倒した方が経験点的にうま味なんです。

 中坊時代の試合経験点がショッパイ理由、その原因はほぼ敵の弱さに比例してるからなんですよね。もちろん高校も大学も社会人も試合経験点は過去作よりかなーり渋くなってるんですが、ある程度でもマシになるなら強くなってほしいんです。

 それにやり過ぎると心折れちゃう子が沢山出てしまいますからね、目ぼしい人にはきちんとアフターケアをしておきましょう。無双ばっかりしてたらいつか飽きちゃいますし、わたしのせいで野球辞める人が続出し過ぎたら流石に良心の呵責が……。

 

 まあそんなわけで、木場くんの勇気が世界を救うと信じて! ご視聴ありがとうございました!

 

 




智将、渾身のガバムーブ。
実を結ぶとは限らないので安心してくれていいんだゾ。

それはそれとして真面目に野球描写やろうとしたら文字数食われすぎてビビりました。

面白いと思って頂けたなら、感想評価等よろしくお願いします。


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【現時点でのステータス】

要望があったので即日投稿。前話もお見逃しなく!


 

 

 

※メインキャラはパワフルな指導で軒並み大幅にパワーアップしています。

※中学生時点でのステです。高校などでも据え置きなのは「捕球」と「肩力」と「守備」ぐらいなもの。

※女性選手のパワーステは男性選手の実表記よりワンランク(10)落ちるものとする。初期設定では男女同等としてたけどそれだと原作女の子キャラとかがクソザコナメクジ化不可避だと気づき無かった事になりました。

※サブキャラ達もパワフル指導受講済み。

 

※走者(パワプロ)からはステが見れないので、本編中の認識と食い違っている場合もあります。

 

 

 

 

味方野手能力編

【武蔵府中宮本シニア】

 

一番(霧崎礼里)遊撃手・二塁手 二年生(女)

弾道3

ミート:B(74) パワー:B(75) 走力:B(75)

 肩力:C(68)  守備:A(81) 捕球:B(70)

特殊能力

・アベレージヒッター ・盗塁5 ・走塁5 ・ケガしにくさ5

・送球3 ・広角打法 ・流し打ち ・内野安打

・粘り打ち ・チャンスメーカー ・守備職人 ・冷静

・守備移動 ・ショート○ ・セカンド○

超特殊能力

・読心術 ・同心術(本作オリ) ・アイコンタクト

 

 

 

二番(六道聖)捕手 二年生(女)

弾道2

ミート:A(80) パワー:E(41) 走力:F(37)

 肩力:D(56) 守備:S1(106) 捕球:S(95)

特殊能力

・アベレージヒッター ・ケガしにくさ5 ・流し打ち

・バント職人 ・高速チャージ ・冷静

超特殊能力

・球界の頭脳 ・司令塔 ・アイコンタクト ・ストライク送球

・ささやき戦術 ・ミラクルボイス ・超集中(本作オリ)

 

 

 

三番(和乃泡瀬)二塁手 二年生(男)

弾道3

ミート:C(62) パワー:C(67) 走力:C(69)

 肩力:C(61)  守備:B(71) 捕球:C(60)

特殊能力

・チャンス3 ・対左投手 ・ケガしにくさ3 ・プルヒッター

・逆境○ ・守備職人 ・接戦○ ・セカンド○

 

 

 

四番(パワプロ)レフト・センター・ライト・ピッチャー 二年生(男)

弾道4

 ミート:B(70) パワー:B(70) 走力:B(70)

  肩力:S(90)  守備:A(80) 捕球:A(80)

特殊能力

・チャンス5 ・アベレージヒッター ・パワーヒッター

・走塁5 ・盗塁5 ・送球5 ・広角打法 ・粘り打ち

・満塁男 ・対エース ・ムード○ ・威圧感 ・連打

・レーザービーム ・打球ノビ◎ ・インコース ・守備職人

・高速チャージ ・ラッキーボーイ ・四番 ・アウトフィルダー

 

超特殊能力(システム的二つ縛り中)

・鉄人 ・ハイスピンジャイロ

(・超集中 ・同心術 ・超短気 ・変幻自在)※コツ所持未取得

 

 

 

五番(鬼島騎兵)センター 三年生(男)

弾道3

ミート:C(66) パワー:B(77) 走力:D(55)

 肩力:C(69)  守備:C(61) 捕球:D(50)

特殊能力

・チャンス4 ・ケガしにくさ4 ・アベレージヒッター

・プルヒッター ・粘り打ち ・逆境 ・ムード○

・接戦○ ・窮地○ ・アウトフィルダー

 

 

 

六番(田嶋亮)ライト 三年生(男)

弾道2

ミート:B(70) パワー:C(60) 走力:C(64)

 肩力:C(67)  守備:B(72) 捕球:C(60)

特殊能力

・ケガしにくさ3 ・送球4 ・流し打ち ・守備職人 ・接戦○

・ローボールヒッター ・アウトコース ・体当たり

・アウトフィルダー

 

 

 

七番(君島悟)三塁手 二年生(男)

弾道3

ミート:D(54) パワー:D(52) 走力:D(55)

 肩力:B(71)  守備:B(74) 捕球:D(50)

特殊能力

・ケガしにくさ5 ・送球5 ・固め打ち ・粘り打ち ・意外性

・守備職人 ・高速チャージ ・守備移動 ・サード○

 

 

 

八番(石島高貴)一塁手 三年生(男)

弾道2

ミート:E(46) パワー:B(78) 走力:B(75)

 肩力:D(51)  守備:C(65) 捕球:B(72)

特殊能力

・ケガしにくさ3 ・パワーヒッター ・プルヒッター

・悪球打ち ・高速チャージ ・意外性 ・ファースト○

 

 

 

九番(早川あおい)ピッチャー 三年生(女)

弾道2

ミート:F(34) パワー:D(50) 走力:E(40)

 肩力:C(61)  守備:D(53) 捕球:E(49)

特殊能力

・ケガしにくさ5 ・併殺 ・三振 

超特殊能力(野手)

・超短気(本作オリ)

 

 

 

 

 

 

味方投手編 ※パワプロ除外

【武蔵府中宮本シニア】

 

早川あおい(先・中・抑)

 右投げ右打ち アンダースロー

球速:137 スタミナ:C(62) コントロール:B(71)

変化球

・カーブ3 ・スローカーブ3

・高速シンカー4 ・サークルチェンジ4 ・マリンボール6

・高速チェンジアップ2

・カットボール5

特殊能力

・ノビ3 ・キレ4 ・変化球中心 ・クイック4 ・牽制2

・低め○ ・重い球 ・リリース ・尻上がり ・緩急

・制圧

超特殊能力

・ド根性 ・鉄腕 ・超短気

 

 

 

 

ネタバレ注意。橘みずき、太刀川広巳、小山雅のデータです。

 

 

 

 

橘みずき(先・中・抑)

 左投げ左打ち サイドスロー

球速:135 スタミナ:D(50) コントロール:B(76)

変化球

・スライダー4

・スクリュー4 クレッセントムーン6

・ドロップカーブ3

・シュート3

特殊能力

・力配分 ・調子極端 ・変化球中心

・テンポ○ ・キレ5 ・球持ち ・逃げ球 ・安全圏○

・変化球対抗心 ・全開

超特殊能力

・ミスターゼロ ・クロスキャノン ・変幻自在

 

 

 

太刀川広巳(先・中・抑) サブポジション:(矯正されて)レフト

 左投げ右打ち オーバースロー

球速:141 スタミナ:B(71) コントロール:B(70)

変化球

・カーブ3

・スクリュー4

・スライダー4

・ブレッドシュート5

・ツーシーム

特殊能力

・打たれ強さ4 ・対ピンチ◎ ・ケガしにくさ4

・ノビ5 ・尻上がり ・対強打者

超特殊能力

・怪物球威 ・ディレイドアーム ・鉄腕 ・意気揚々

・アームブレイカー

 

 

 

小山雅(二塁手・遊撃手) (未覚醒)

弾道2

ミート:D(54) パワー:E(40) 走力:B(70)

 肩力:D(58)  守備:A(80) 捕球:A(82)

特殊能力

・アベレージヒッター ・走塁3 ・ケガしにくさ5

・セカンド○ ・ショート○

超特殊能力

・アイコンタクト ・走力バースト ・情熱エール ・魔術師

 

 

 

 

 

 




守備の硬さが大会屈指のチームだったりする(震え声)


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そして智将ムーブは全盛期へ

メインキャラがパワプロくんしか出ないので初投稿です。
まーた一万字か壊れるなぁ…。


 

 

 強すぎて申し訳ないとイキり倒すRTA再開します。

 

 前途ある若者たちを蹂躙する喜び!(老害)

 こんなヤツは粛清された方が世のため人のためですが、憎まれっ子世に憚るという世知辛い真理に震えますよ……とはいえその憎まれっ子になるつもりはないです。

 が、世に憚る事はやめたくありません(爆)

 なーのーで、若人を導く賢人ムーブ&誠実なる紳士ムーブ&悪は絶対許さない善人ムーブをしましょうね。本作では合理性を重んじるばかりが最善ではなく、時には回り道に見えるルートが逆に最短の道となる事も多々あります。

 この賢人誠実善人ムーブこそが実は一番安定してるという、人の心を持つ合理主義者もニッコリな素敵仕様ですねぇ。

 とかく渡世は厭世なりし。旅は道連れ世は情け、意外と善人が得をする優しい世界。けど無知・無謀・無能な善人は食い物にされるのはリアルと同じですので、成り上がって成功者になりたければ知恵をつけ、情報強者となり、勇気と蛮勇を履き違えない謙虚さを持たねばなりませんよ(吐血)

 

 いきなり何言ってんだコイツと白眼視されるのは不本意なので、いい加減なんでこんな事を言い出したか説明しましょう。

 

 

 

「――君は我々の娘のなんだね?」

 

 

 

 わたしは今、地元を離れてとある高層ビルにいます。時刻は20時ちょっと過ぎ頃かな? とても夜景が綺麗でうっとりしてしまいそうですよ。まるで地上に散りばめられた星々のちりめんじゃこのようだぁ(表現力ZERO)

 なおこの夜景は工場やビルなどで夜勤or残業に勤しむ、勤勉なる社会人の皆様の汗と涙の結晶らしいですね。その観点から見るとロマンもクソもなく、非常に心にクるものがあります。

 で。オフィスビルの最上階にある総帥室に、現在わたしはいます。ちなみにわたし以外には四人の男性がいますよ。わたしを含めると男五人ですね。男が密室に五人……何も起こないはずもなく。わたしは何故か査問会的なサムシングの詰問を受けてます。

 

 事の起こりは秋季大会一回戦終了後。パワプロくんの活躍ぶりに興奮してる皆に揉みくちゃにされ、次の試合に備えて解散! となった後でした。

 さあ帰るべ、と礼里ちゃんと聖ちゃんといういつもの面子で帰路につき、家について汗を流し寛いでいると来客があったんです。おやおやぁ? こんな時間に誰かなと首を傾げていると、パパンとママンが顔を青くしながら呼んできたんで出向こうとしました。すると唐突に礼里ちゃんは読心術エフェクトを発動して言ってきたんですよね。私は顔を出さない方が良さそうだ、と。私がこの家で寝泊まりしている事は隠しておけ、と。

 なんでとは思いません。さもありなんと頷きましたよ。礼里ちゃんがパワプロくんの家にいるのは聖ちゃんしか知りませんし。というか礼里ちゃんとパワプロくんの年齢的に同じ家で寝泊まりとかありえへんやろ普通、と思いますしね。パパンとママンは礼里ちゃんの事情と精神状態を知ってるんで仕方なく、とお人好し全開で受け入れてくれてますが、世間一般的に見ると非常識ですから仕方ない。

 なおパパンとママンに受け入れてもらうために全力で説得しましたよ。懐が深すぎる……聖人かな? 聖人だったわ。礼里ちゃんは意識してわたしの心を読まないようですし、清らかなる人たちの優しい世界ですね。

 

 で、一人で部屋から出て客人に会うとですね、それはなんと警察でした。

 

 は? わたし犯罪犯してないアルヨ。なのになんで? なんでケーサツ? 意味分かんなーい! ――とはなりません。

 

 逆に計画通り、ニヤリ(新世界の神)となりましたよ。むしろやっと来たのかと内心高笑いが止まりませんでした。

 その警察の人はスーツ姿の聡里ちゃんのパパです。「すまないが専一くん、私と来てくれ。私も本意ではないが上からの要請でね、断れなかった。……君なら悪い事にはならないと信じているぞ、専一くん」と言われたのでは仕方ありません。家から出て家の前に停めていたお義父さんの車に乗り、何処かへと連れて行かれる運びとなってしまいました。

 ホントは分かってるんですが、今のパワプロくんが訳知り顔で落ち着いてたら逆に不自然なので、車の中で事情を訊くとですね。お義父さんはこう言ってきましたよ。

 

 いつぞやの道場で、聡里ちゃんと稽古してた時。柳生鞘花ちゃんとその祖父が来て、わたしと鞘花ちゃんが立ち合いましたよね。で、わたしが鞘花ちゃんを完璧に抑え込んで勝利した事がキッカケで、柳生翁が孫娘の婿にほしいとパワプロくんに言ってきた事が発端となったようです。

 どういう事かと言いますと、まず聡里ちゃん。この娘のパパンはSPのプロでその部署のお偉いさんです。んで鞘花ちゃんの祖父は警察やらなんやらにも顔が通ってる謎の爺です。というのも鞘花ちゃんとこの流派は『小浪一刀流』でして……ここが肝です。小浪一刀流……コナミ一刀流……KONAMI……本作をプレイしてるなら、後は分かりますね? 小浪一刀流はその名前繋がりで優遇されており、開発陣は謎の人脈ギミックを仕込んでるんですよ。単純すぎて逆に知らない人の方が多いはずです。ちなみにwikiにも載ってません。わたしはこれを独力で発見しましてね、今回のチャートを組むキッカケとなったのはこの発見があったからと言っても過言ではありませんよ。

 

 ――長かった……ここまでホントに長かった……試走を重ねること幾星霜、東京湾で素潜りする事一回(意味深) 攻略法確立するまでにどれだけのパワプロくんが屍を積み重ねた事か(一人) 野郎ぜってぇ許さねえ!(憤怒)

 

 鞘花ちゃんをパワプロくんに宛てがいたい翁ですが、あの時聡里ちゃんは怒りセンくんは私の彼氏だと言いました。それを聞いた翁は『ウチの孫娘は別に側室でもええんやで』と時代錯誤丸出しで言い出したのですが、聡里ちゃんは無視できてもそのパパンは流石に無視できませんでして。突破口を見つけるために翁は人脈を駆使してパワプロくんの人間関係を調査し、浮かび上がってきた面々に頭を抱える事になりました。

 翁とその一門は男女関係に関しては一夫多妻脳でしてね。翁からするとわたしの周りにいる親密なおにゃの娘は『そういう関係(意味深)』に見えたようです。一部は正解だよ(震え声) そういう観察眼に長けてる翁は聡里ちゃんと聖ちゃんと礼里ちゃんが『距離感近くね? これはアウトですよ……』と悟り、連鎖して他の娘の事もパワプロくんの側室認定を(勝手に)しました。

 あの翁の思考回路は完全に把握してるんで、この流れで間違いありません。で、翁は謎人脈を駆使して次々と親御さんと会いましてね。一言断りを入れておこうと思いました。何で断りを入れる必要があるんですか(声だけ迫真)

 それはずばり、おたくの婿さんにウチの孫娘を宛てがって、側室にするけど問題ないよね? というものです。――頭湧いてんのかこの爺(辛辣)

 

 寝耳に水なのは親御さん達ですよ。え、ウチの娘に婿っていたっけ? いやいやいねえよ何言ってんだよコラ誰だよそれ連れて来いとなるわけです。そうして聡里ちゃんの彼氏の事だと翁の口から判明して、両財閥の総帥から圧力掛けられたんじゃNOとは言えない、金と権力に弱き本作の日本警察はYESマンと化しました。斯くして聡里ちゃんのパパは頭越しに決まった事に逆らえず、心底嫌々といった様子で我が家を訪れ、そして現在に至ります。

 

 はい。四人の男性とはズバリ、聡里ちゃんのパパン、鞘花ちゃんのジッジ、そして――美香ちゃんとみずきちゃんのパパンです。

 

 右からゴツくて大柄な、けれど氷の知性を感じさせるスーツのオッサンが聡里ちゃんのパパン。白髪頭のシワクチャ顔、和装の爺さんが鞘花ちゃんのジッジ。ソファーに腰掛けている、水色髪をナチュラルカットにしているスーツのオッサンがみずきちゃんのパパン。その隣に座っている、アイスブルーの目の持ち主でブロンド&白スーツのオッサンが美香ちゃんのパパンです。

 

 で、わたしは立ってる聡里ちゃんパパンと、柳生ジッジを両サイドに固めてる大財閥の総帥二人、その対面のソファーに座らされました。

 (一中学生が対峙する面子じゃ)ないです。さあ賭け狂いましょう?(震え声) 掛け金はパワプロくんの命ですよ(白目)

 大袈裟に聞こえるかもですが、大袈裟ではありません。けど誤解しないでほしいですが、この人達がわたしに何かをする事はありませんよ。ですがここで下手こくと美香ちゃんとみずきちゃんがフェードアウトし、必然的にガードが消えてぱわぷろ(平仮名)世界の闇から護られなくなります。そうなるとパワプロくんは遠からず闇に呑まれ、闇の世界で戦う羽目になります(十四歳病)

 その過程で大幅な時間ロスは避けられませんし、割とえげつない確率で死ねます。わたしは一度東京湾で、パワプロくんに永遠の水泳権を与える羽目になりました。なのでしくじるわけにはいきません。ええ、決して。

 とは言っても、もう完璧に攻略法を確立してますし、この難局を突破するのはハッキリ言って簡単なんですがね。まあ見ていてください。破滅への輪舞曲を奏でて俺様の美技に酔いな(意味深)される事はないと断言しましょう。

 

 

 

「は? 我々の娘って……あー、聡里ちゃんのお義父さんからある程度聞いてますけど、美香ちゃんとみずきちゃんの事ですよね」

 

 

 

 ――タメ口は利きません。友達でもなんでもないのでね、流石にね。というか大人の方々には常に敬語ですよパワプロくん。

 わたしが確認すると、デキる男といった様子の木村さんが頷きます。というかライバル財閥の橘さんと矢鱈仲良さそうっすね……わたしの存在が架け橋になったのかな? だとしたら良かったです。

 

「そうだよ。ああ、挨拶がまだだったね。私は橘御門、こちらが――」

「――木村アンダーソンだ。夜分遅くに招く事となって申し訳ないが、できれば宜しくして穏やかに話を終わらせよう」

「……そうですね」

 

 そうですね(真顔)

 うん、ホント穏やかにいきましょう。

 わたしが神妙に頷くと、橘御門さんが補足してきました。

 

「本当は小山さんと霧崎さん、六道さん、太刀川さんや早川さんのご両親にも来てもらおうと思ったのだけどね。流石にそこまで大事にしたい訳でもない。これは君と我々の問題で、よその家を巻き込むのはナンセンスだろう?」

 

 サラッとお前の身辺の調査は終わってるんだよ宣言が暗になされましたね。

 知ってた。鞘花ちゃんとの一件から今日までの日程で、一般ピーポーを調べ上げるなんてお茶の子さいさいだったでしょうよ。

 しかしわたしもパワプロです。パワプロたる者この程度で動揺したりはしませんよ。この世界観では中坊も秘めたる才能がエグいですからね。なので割と冷静にレスポンスを返しても不思議には思われません。逆に感心されます。

 なので平常心そのまま、かつ真意を探るような面持ちで応答しましょう。そうすれば評価が微増します。

 

「その心は」

「ははは、物怖じしないな、力場くん。つまりだね、我々は我々の娘のことをこの場では第一として、よそ様の家には関与しないと言っているわけだ。問題があったとしても我々には関係ないからね」

「………」

 

 橘さんの言葉に木村さんが頷いてます。

 しっかし大財閥の総帥ともあろう御方とは思えないフレンドリーさ、話しやすい雰囲気ですよ。お二人共まだまだ若いですし、これはいい人だ(確信)

 ですが普通に冷酷な面もあるのは確かです。でなけりゃ財閥総帥なんかやってられませんからね。

 

「なんとなく話は読めてきました。察するに、娘さんに汚い虫が付いているのではないかと心配しているわけですね」

「うん、有り体に言えばそうだ。これまで娘の人間関係に口出しするのは控えてきたけど、この柳生さんからとある話を聞かされてね。流石に黙ってはいられなくなったんだよ」

「虫は駆除するに限る。だが君は人間だ、虫を駆除するように片付けられる問題ではない。だからこうして少ない時間をやりくりして君と直接顔を合わせる事にした。しかし私や橘さんは暇ではないからな、手前勝手な事情ですまないが単刀直入に本題に入り、速やかに話を終わらせよう」

 

 どこかのんびりした印象の橘さんとは違い、木村さんはテキパキと話してきます。ってどんだけ話終わらせたいんですか。二回も言いましたよ、話を終わらせようって。

 うーん……性格の印象が正反対な二人は、だからこそ個人的に話す機会ができた事で親近感を覚えた的な感じなのでしょうね。

 ちなみにこの二人は今後親密になり、橘と木村の両財閥は同盟する事になってたりします。そうした未来は前周回までのパワプロくんの軌跡で把握してますんで、ガチでわたしのお蔭で仲良くなっちゃってるんですよねぇ。

 しかし無駄に時間を使いたくないというのは同意見です。とりあえず困惑してるフリをしながら聡里パパと柳生翁をチラ見して、と。それから嘆息して腹を決めた素振りをしてから切り出しましょう。

 

「柳生さんから話を聞いた……それに本題ですか。それがさっきの質問の事なら、俺から言えるのは一つしかないですね」

「聞かせてもらおう」

 

 ポイント解説。前々回のパワプロくんは長々と言い訳がましく言ったせいで不信感を買ってしまいました。なので前回では切り口を変え男らしく短く纏めて断言してみると成功したんですよね。今回もその切り口で攻めましょう。

 

「あの二人は――美香ちゃんは友達です。みずきちゃんも友達で、そして仲間です。それ以上でも以下でもありませんし、俺はお二人の懸念なさってるような目で二人を見ていません。不純な関係になっていないと断言します」

「……橘さん」

「……ええ。直接顔を合わせてみましたが、嘘を言ってるようには見えませんね」

「だから言ったではありませんか。専一くんはそんな少年ではないと」

 

 やったぜ。木村さん、橘さんが安心したように溜め息を溢すと、氷上さんがそれ見たことかと呆れてます。やったぜ(二連続) 橘さん達の目を見ながら自信を持って断言した甲斐があります。

 すると橘さんが懐から書類の束を出して前のテーブルに置きましたね。これはアレです、パワプロくんの素性や素行を入念に調査したデータです。だから動画冒頭で言ってたようなムーブをしてる必要があったんですね。

 

「すまないが、こうして会う前から君の事を調べさせてもらっていた」

「……そうですか」

「本当は自分の娘に個別に会って確認すればいいんだろうけどね、その話はデリケートな所に突っ込んでしまう。多感な年頃の女の子だ、それがキッカケで君に対する態度が変わるのも悪い。だからといって力場くんをこうして呼び出し迷惑を掛けてしまった事も申し訳なく思う。謝罪させてほしい」

「構いません。俺は気にしてませんので」

「……ありがとう。それから、すまない事をした」

 

 膝に手を置いて頭を下げる橘さん。立場を嵩に着て偉そうにするだけの人ではないですね。普通、財閥総帥の大の男が、たかが一般人の中坊に頭を下げられるもんじゃないと思うんですがね。

 

 ――と、柳生翁がソワソワしてますね。どうしたんでしょう?(棒読み)

 

「オカシイのぉ。儂は君や身の回りのおなご達はしけこんでおると睨んでおったんじゃが……」

「……! 柳生さん、だからそれは無いと何度も言ったではないですか!」

 

 柳生翁がポロリと失言。これに氷上さん、パワプロくんの肩を持ってくれて怒ってくれますね。橘さん達は困ったように顔を見合わせてます。

 今回はこの翁の早とちりで起こった出来事ですからね。怒りたくなるのも分かります。わたしは怒ってませんが。むしろ感謝してますが。

 

「のぉ、専一くん。氷上さんとこのおなごはともかく、六道や霧崎というおなごともお主はしけこんでいると儂は見たんじゃが、どうなんじゃ? どうもお主の周りにおるおなごはお主を好いとるようじゃし、抱くあたりまではとっくに逝っておると思うたんじゃが……」

「柳生さんッ!!」

「そうがなるな氷上さん。中坊の性欲を舐めるでない、あんだけ綺麗どころが揃っといて何もないわけがなかろうよ。で、どうなんじゃ?」

 

 この柳生翁。氷上さんの怒声も意に介してません。ちゅよい。まあわたしの方が強いんですがね(マウントゴリラ) だからこそ柳生翁はわたしの武力を見抜いて、是非婿に! と鼻息を荒くしてるわけですが。

 しかし侮れません。嘘が通じない人ですし。なのでそれっぽく膝の上で握り拳を作り肩を震えさせ、目を伏せて真意を隠しつつ明言を避けましょう。対人の心理的駆け引きでもわたしに分がありますよ。

 

「……俺は、聡里ちゃんと、付き合ってます。俺にできる、誠実な付き合いだと思ってます。他の皆とは、確かに仲良くさせてもらってますが……」

 

 ここでギュ、と唇を噛んで言葉を切ります。肝心のとこは言及しません。嘘を言わず、周りに勝手に後へ続く言葉を想像させましょう。わたしの卒論【人間関係崩壊阻止論・それでも僕は悪くない】の応用編です。

 この言い方と態度だと、わたしは普通に常識的な否定をすると見られます。彼らはパワプロくんを調べてるので、その人となりを知っていると思い込んでいますし、誘導するのは容易いです。偉い人達や諜報員にありがちな、自分で調べて掴んだ情報は疑いにくいという性質のお蔭ですね。これが企業の機密やらが関わってるならもっと慎重になるでしょうが、パワプロくんは一般人の中坊なので警戒意識が薄いのも助けてくれますよ。

 

 彼ら視点からすると、パワプロくんは何も悪い事をせず、誠実に生きて来た好青年です。後ろめたい事は何もない。なのにこうして連れて来られ、大の大人四人で詰問ですよ。愛娘が関わってると思い、勇み足になってしまったあたりに人の好さが権力で暴走したのが伺い知れます。

 で、その好青年は落ち着いて応対してくれたので印象upしてて、わたしの作り上げてきた好青年パワプロは、客観的に見て柳生翁の物言いにひどく傷ついたように見えるはずですよ。彼らの人間性を鑑みるに間違いない。

 するとやはり、わたしを信頼してくれてる氷上さんが真っ先に反応します。

 

「ッ……柳生さん、もういいでしょう。専一くんはそんな不誠実な真似はしない。貴方の思い込みで専一くんを侮辱するのはやめていただこう」

「ふぅむ……相分かった。儂の勘違いだったようじゃな……すまなかった」

 

 頭を深々と下げる翁。(勘違いじゃないから気にして)ないです。むしろありがとうと言いたいですよ、なんせ貴方のお蔭で木村・橘パパン連合に会えたのでね。普通に過ごしてたんじゃ雲上人な二人に会えませんから。

 で。わたしは気にしてないです、頭を上げてくださいと淡白に言います。この淡白な口調がミソです。ホントはめっちゃ気にしてます的な言い方ですが、それを隠してるみたいな感じですよ。中坊ですからね、腹芸できないと思われたいんで演技してます。これは餌です、リターンを得るための! 釣れろ、釣れろ釣れろ釣れろ――

 

「橘さんに任せていたが、君の素行を調べるように提案したのは私だ。柳生さんの勘違いが発端だが、それを鵜呑みにして暴走してしまった私にも落ち度がある。怨むなら私にして欲しい」

 

 ――釣れましたね、はい(冷静)

 木村さんがクールな面持ちのまま言うのに耳を傾けましょう。

 

「調べた結果、君の事はかなり詳細に知る事が出来た。生年月日、血液型、これまでの来歴、周囲の人間関係。またその人となりや将来性。およそ力場専一という個人に関して、調べ上げられなかった事はないと言える」

 

 ほんとぉ?(懐疑)

 なら礼里ちゃんや聡里ちゃんが片足突っ込んだジャジメントやら関連の事も調べが付いてるんですかね……。

 付いてるんでしょうね。それを口にはしないでしょうが。調べが付いてるから以前よりガード要員が増員され、以前のようなへなちょこガードではなく、優秀な人員を回してくれてるみたいですし。

 とはいえ礼里ちゃんは表向き、実家暮らし中です。ついでに礼里ちゃんは橘と木村の両財閥のガード要員にも気づいてましてね。その素性や目的まで読心しちゃってるんで、わたしの家に入る時は彼らの目を掻い潜ってたりするので我が家での寝泊まりは気づかれてません。

 流石はミス・レイリー。遠方からでも自分をターゲットにした心の声まで聞こえるとか読心術チート過ぎます……というか成長してる……?

 

「君は周囲から信頼され、慕われているな。非常に優れた精神性の持ち主だと評価している。とはいえ――これは立派なプライバシーの侵害だ。今回の件は完全にこちらに非がある。だが厚かましいようだが、今回の事で気を悪くしないで、娘達と仲良くしてやってほしい。これまで通りに」

「……そりゃそのつもりですけどね」

 

 普通に考えて、普通の中坊はこんなお願いされても頷けませんよ。表面では頷けても圧迫感は感じますし、みずきちゃんや美香ちゃんへ壁を作ってしまうのが当たり前の反応です。

 それが分かってるのか、木村さんは口ごもります。で、この木村さん。過去シリーズには登場してない人ですし、それは他三人にも言えてますよ。なので過去作はやってても本作はやってないという方のために説明しておきます。

 木村さんは有り体に言えば、自分の愛情が独りよがりなものだと自覚しながらも押し付けずにはいられない、甚だ面倒で迷惑な性格です。それを除けば人格的にも能力的にも極めて秀でた傑物なんですがね……娘さんの美香ちゃんに許嫁を作る時も、それが美香ちゃんのためになると決めつけて、美香ちゃんの意志や意見を無視してしまう所があったりするんです。ちなみに橘さんもね。類友かな?

 

「……今回の件でのお詫びと言ってはなんだが、私から何かできる事があれば言ってほしい」

「私も木村さんと同じ気持ちだね。今日は確か、野球の試合があったばかりなんだろう……? 疲れているだろうし、ね」

 

 来たわね、ぬるりと。

 おいおい物で釣ろうとはナメた真似してくれるじゃねえですか。金持ち様は考えることも現金なんですね――とかなんとか煽るなら言うとこですが、もちろん言いません。

 あからさまに気を遣ってくれてるお二人。ふっふっふ、掌の上に乗せてやりましたよ。一度出来た関係というのは中々変えられないって事を教えてやりますよ。非のある立場から作った関係は、常に互いの関係に遠慮と配慮を挟まないとならなくなるものなんですからね。そうして配慮してくれた時点で勝ち確ですよ。今後この二人はパワプロくんに対して、一定の気遣いをするようになります。

 本音を言えば、ここで要求したい事があるんですが……それはまだ時期尚早でしょう。油断慢心は排除して臨み、今回はベターな対価の獲得に留めます。それが本命の要求をするための布石になりますので。

 

 が、ここですんなり釣られたフリをするんじゃ、そなたなどまだまだ子犬よとお蝶殿に馬鹿にされてしまいます。なのでワンクッション置き、今思いついたとでも言いたげな顔をしましょうね。

 

「別に欲しいものなんかありませんよ、ほっといて――ぁ、いや……」

「ん、何かあるのか。遠慮はいらない、言ってみなさい」

「……美香ちゃんの事、なんですがね」

「美香の?」

 

 木村さんがピクリと反応します。それにわたしは頭を掻く仕草で、言いづらそうに伝えましょう。別枠としてアップロードしてますが、えー……と、確か一ヶ月前ぐらいの美香ちゃんとの会話シーンだったと思います。そこでポロリと美香ちゃんが愚痴ってたんで、それを拾っておくのもフラグです。

 え、本動画しか観てないからなんの事か分からん? 仕方ないね(棒読み)

 

「ええ。この間、美香ちゃんが言ってたんですが……えーと、木村さん?」

「呼び方はなんでもいい」

「じゃあ木村さんで。美香ちゃんは木村さんが許嫁を勝手に決めようとしてると母親から聞いてるみたいでして、それが嫌みたいなんですよ。なので、それヤメてください。娘さんの自由意志で、自由恋愛させてやってくださいよ」

「それは――……いや――ああ。その件については了承しよう。だが君はそれでいいのか? 君にはなんの利益にもなっていない」

 

 虚を突かれたんでしょうね。美香ちゃんからこの話聞いてなかったら切り出せなかったんで、ありがたい事ですよ。

 とはいえ意外だったようです。木村さんは娘さんの幸福を願いながら許嫁探しをしてたんですが、それが嫁さんから娘に伝わってたのは把握してなかったのでしょう。わたしからのお願いに、木村さんは驚きながらも渋々頷いてくれましたが、このお願いがパワプロくんにとってなんの利になってないと感じたらしく、かなり驚いてくれてるみたいです。

 わたしにも利があるんだなぁこれがなぁ(ゲス顔) 美香ちゃんとパパンを絶対の味方に引き込む心象upに繋がりますし……他にも、ね。ともあれ、わたしはぶっきらぼうに言います。このシチュではこの言い方が正解です。

 

「友達が悩んでる事に、利益云々とか一々考えませんって。木村さんって損得で友達作ってるんですか。俺ならそんなの御免ですけど」

「――そうか」

「俺からはそれだけですね。帰っていいですか?」

「待ってくれないか。木村さんはそれでよくても、私はまだ何もして――」

 

 橘さんね。正直、橘さんにはみずきちゃんに、木村さんと同じく勝手に許嫁を作るなと言えばいいんですが。隣の木村さんに既に言ってあるのを聞いてあるんで、勝手に自重してくれるようになるので言う意味ないんですよね。

 なので無欲さをアピールします。

 

「別にして欲しい事とか特にないです。氷上さん、すみませんけど連れて帰ってもらえます?」

「もちろんだとも」

「それから……あー、橘さん? で、いいですか」

「あ、ああ……」

「ほんと気にしてないんで、そっちも気にしないでくださいよ。どうしても気にしてしまうっていうなら、借りができたとでも思っといてください。正直、その借りを返してもらう機会とか要りませんけどね」

「――そう、か。これは、デカイ借りが出来てしまったね」

 

 アフターケアっぽく見せ掛けたお願い権利のキープ……! あんまり強い効力は望めませんが、ないよりゃマシでしょ。

 有意義な出会いの場でした。ではそろそろ今回はここまでとしましょう。次回は秋季大会二回戦目。先発はみずきちゃんですよ。ちなみにその後がわたしで、その後がヒロピーで、その後にまたわたし、決勝があおいちゃんです。

 それではまた見てくださいね。――オチはこの方に任せましょうか。

 

「――素晴らしいっ! なんたる快男児かっ! ますます我が一門に加えたくなったぞ! 鞘花をなんとしても力場くんの側室に捩じ込まねば……!」

 

 語尾に「(使命感)」とでも付きそうな語調、素晴らしい。更新したわたしのチャート上、最大の味方は貴方だ翁! 頑張れ頑張れマジ頑張れ!

 

 冷静に考えたらアレな爺さんですが気にしないでいきましょう。当人の鞘花ちゃんがまるで気にしてないので。

 そんなわけで、次回もよろしくお願いします。ばいばーい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どれだけの傑物も…ぱわぷろ経験歴〇〇(ピー)年超えてる走者を前にすればまだまだ子犬よ…。野球よりこっちが向いてるまである。

いつも沢山の感想評価ありがとうございます。一日一万字も書けてるのは皆さんのお蔭です。


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秋季大会第二回戦

ギリ一日が終わる間際なので初投稿です。短いです。


 

 

 

 なんで『友情破壊爆弾(圧迫面接)』を友人同士の間に落とす!? これでは友情が寒くなって友達ではいられなくなる! 核の冬が来るぞ!(裏声)

 

 親馬鹿は子供同士の事が分からない! だから破壊すると宣言した!

 

 友達が友達に距離を置くなどと!(裏声)

 

 わたし、パワプロ・ベースボール三十五世が粛清しようというのだ、美香!

 

 エゴだよそれは!(裏声)

 

 友情が保たん時が来ているのだ!

 

 

 

 ――敵前逃亡は士道不覚悟で切腹なRTA再開しますゾイ。

 

 

 

 開幕の小芝居に関してはスルーしてください。して(懇願)

 友達の親御さんに圧迫面接されたらその友達との付き合い方を考え直し、距離を置くようになるのは自明の理。それが普通です。逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だと思考をループさせても逃げたくなるものですよ。

 だがそんなの関係ねぇ! わたしが狙って起こしたイベなのに、それを理由に距離を置くとか流石にイミフですよ。というかですね、両財閥の総帥達と直接の知己を結び、好印象と借りをゲットできるこのイベは、経験点的にも今後の布石的にもうま味なので、踏まない理由がありませんよね。……よね?

 

 なお今回の件を利用してマッチポンプし、みずきちゃんとかと一気に仲を深める事も可能ですが、それは些かリスクが高いので実行しません。なにがどうリスクが高いのか? 美香ちゃんはともかく、みずきちゃんが、ね……前者はもともと彼女枠なので、今回の件を利用すれば攻略する事ができるんですが、みずきちゃんは攻略可能だということを全く想定していなかった娘です。聖域だったからね、仕方ないね。今までも攻略できた試しがないですし、恐い。

 みずきちゃんの思考パターンは完璧に把握してる自信があるんですが、こと恋愛関連の事になると突飛な発想で予想を超えられる事は儘あります。攻略情報のない娘を相手にそれは致命的です。前情報は実際大事ですよ。

 美香ちゃんにだけマッチポンプしてみずきちゃんには隠しておく、という手も使えません。なにせ彼女達のパッパ同士が親密になってますからね、彼女らのガードが付いてる今、迂闊な真似をして尻尾を掴まれ、化けの皮を剥がされたら今までの苦労が水の泡になってしまいかねないんですよ。リスクの犯し時は少なくとも今ではありませんし、ぶっちゃけ下手な事する必要がないという事情もあるんで自重しましょう。

 

 無駄に豊富な人脈と古代の価値観と謎のフットワークを駆使する、時代錯誤爺こと柳生翁が後の事は全部なんとかしてくれるからです。

 

 側室なんてものはこの時代には存在しないのですが、似たようなものである内縁の妻に鞘花ちゃんを捩じ込もうとしてくれるんですよ。

 実際にそれを受けるかは別として、その働きかけ自体が非常にオイシイんですよね。一部女の子はその発想はなかったと目から鱗を落としますし、パワプロくん相手に恋愛する敷居がガクッと低くなり積極性を増します。

 その筆頭格は聖ちゃんと礼里ちゃんですね。聡里ちゃんはほぼほぼ認めてくれてますし、柳生翁のような無駄に洗練された無駄のない無駄な観察眼がなければ、秘匿してるこの関係が洞察される事はないです。外野からはね。流石に親密な相手からは気づかれる危険性もありますが、そこはそれ……誤魔化しようは幾らでもありますよ。ここに鞘花ちゃんが加われば――いや加えようとしなくてもなんですが、鞘花ちゃんはメイン勢以外は弾き出せる豪傑なので、某井戸端会議好きなモブ娘どものゲシュタポ活動の被害もなくなります。

 

 モブ娘を彼女枠に据えての経験点稼ぎはできなくなりますが、そのチャートはもう捨てているので未練はありません。まだ未知数ですが、旧チャートより新チャートの方が現時点では経験点を稼げてるので。未発見だった強力な超得までついてる嬉しいオマケ付きでしたし。

 

 そんなこんなで、秋季大会第二回戦の前日です。

 

「……あの、専一さ――力場様は何をなさっておいでなのですか……?」

 

 武蔵府中・宮本シニアが練習で使用しているグラウンドで、わたしは現在打撃練習に励んでおります。目の前で白球を延々とトスしてくれてるのはジャージ姿の聡里ちゃんです。付き合わせてゴメンね。

 チームメイトの面々は真面目に投球練習やら打撃練習やら、真面目にまともな練習を積み重ねている中、わたしは普段使わない技術の復習をしてるんですよね。それは木製バットでの小浪一刀流の技による斬り上げです。

 自分の手元から身体の正面を斬り上げる一閃は、打撃の技としては非常にナンセンスです。剣術を野球に転用とかネタ野球漫画ぐらいでしかありえないでしょう……パワプロシリーズならアリエール? 否定できない(小並)

 ともあれ普通の野球の構えから、瞬きの間に体軸を維持しつつ姿勢を捻転、足の位置を素早く差し替えながらバットを手元に引き寄せつつ、バットの先端を下に倒し捻転の力を乗せ、斬。逆袈裟よりも更に角度をつけて、股間から脳天を斬り裂くようにバットを振る。これを様々な角度で触れるように微調整を繰り返し、球を打ち上げてヒットが打てるようになりましょう。

 さながら立ったままの居合い斬りですね。サムライジャパンはガチな侍になるのだ。敬遠とか許されざるですよ、士道不覚悟ですよ、切腹ですよ。敬遠していいのはされる覚悟のある奴だけだって婆っちゃが言ってた。

 

 知ってる方も多いでしょう。これはわたしだけでなく、PSが一定の領域に達していたら、ガチ勢でなくても使えるポピュラーな技です。が、流石に使う機会なんて中々ないので、一度身につけた後は死蔵し錆びつかせてしまう事も珍しくありません。いわゆるネタ技ですね。なんかカッコイイ感じの。

 一回戦で勝ったからでしょうね、フェンスの外側には高校のスカウトとかよそのシニアの偵察とかが来てますが、ガン無視します。何やってんだアイツと困惑させてやりましょう。で、そんな感じでずっと斬り上げの練習をしていたら、美香ちゃんがカメラマンを複数連れて来ました。

 

 なんでシニアに関係ない美香ちゃんが? と思われるかもですが、彼女は本作だと『中学生読者モデル』として売り出されてるモデルさんでもありましてね。世界最大規模のスポーツであるマネーげふんげふん、関心を集める野球のコスプレは常に一定の需要がありまして。ご多分に漏れず美香ちゃんも野球ユニフォームのコスプレをしてグラビア撮影をする事があるんですよ。で、プレイヤーであるパワプロくんが仲良くなってると、撮影現場としてパワプロくんのいる所を希望してくれるわけでしてね。話の分かる宮本監督は、練習の邪魔をしなければ許可してやると言ってくれるんですよ。

 で。

 ホットパンツを履いて太腿(とちょっとの尻肉)を晒し、バットとグラブを持ってカメラ撮影をパシャパシャやってました。美香ちゃんはめちゃんこ可愛い上にホットパンツで野球コスプレとか媚び過ぎな格好なので、チームメイトの野郎どもは大変士気を上げてハッスルしてますね。美香ちゃんはパワプロと仲が良いとチームメイトの野郎どもは知らないんで、かなーりハッスルしておりますよ。

 

 その美香ちゃんが、パワプロくんに話し掛けてきました。名前で呼び掛けて苗字に言い直したのは、周囲の目を気にしての事でしょう。彼女は自分の立ち位置やらをきちんと理解してる賢い娘なので、下手にパワプロくんと仲が良い事を知られると、パワプロがチームから浮きかねないと察してくれます。

 や、このチームの野郎どもは良い奴らなんで、露骨に妬んでやっかまれはするでしょうが、悪い事にはならないと思うんですがね。美香ちゃんもわたしが前のシニアからここに移った経緯を知ってるんで気を遣ってくれてます。

 

 とりあえず聡里ちゃんに待ったを掛け、一旦手を止めて答えておきましょうか。

 

「何って、打撃練習だけど?」

「えぇっと……素人ながら、バットはそんなふうに振るものではないと思うのですが」

 

 あんまりにも自信満々に答えたもんだから、美香ちゃんが困惑してますね。んでキョロキョロと視線を動かし、カメラマンの男の人にも目を向けました。彼らも戸惑っているようで、美香ちゃんがシニアの皆を見ると苦笑いで流されてます。うーん……この浮いてる感よ。流石はボッチ気質の美香ちゃんだ。異性の友達はパワプロくんだけ、他の面子はパワプロくんが間にいないと仲良く話せない、親友の雅ちゃんしか純粋な意味での友達がいないだけの事はありますよ。

 

 一人とはいえ親友がいる奴にボッチを名乗る資格はねぇぞコラッ!(唐突)

 

「雅がいてくれたら教えてくれたでしょうか……」

 

 顔見知りが割といるシニアで、だーれも答えてくれないんで美香ちゃん寂しそう。その心の隙間にするりと入り込むパワプロくんである。

 

「ははは。気にすんなって、皆も俺が何してるのか分かってねえし。説明してもいねえしさ。あ、カメラマンさん?」

『え、な……何かな?』

「ちょっと俺の今の練習、テキトーに写真撮ってくれます? ほら」

 

 あ、ああ……と戸惑いながらもシャッターを切ってくれるカメラマンさん。わたしの斬り上げの動作をパシャパシャしてくれてサンキュー。

 

「秋の大会の三回戦目は、俺が先発なんですよ。その時にこの練習の意味が分かると思います。で、その写真に俺の台詞を添えて、スポーツ雑誌の記者さんに渡したらいい感じにパイプが作れると思いますよ。俺の台詞は『この練習が必要になると分かっていた』だけでいいです」

 

 さらっと明日の二回戦目を勝ち確と決めつけてます。なんだコイツ自信満々じゃねえかと戦慄しますね……言ったのわたしですけど。

 ついでに人脈作りの餌をくれたパワプロくんに、カメラマンさんは戸惑いを隠せてませんね。スポ誌の記者さんから報酬代わりのチップを弾んで貰えますよと、中坊らしからぬ台詞も添えたんですからしゃあない。

 美香ちゃんは可愛らしく小首を傾げます。中学時代は、彼女との友人関係を堅実に続けますので、なんの進展もない予定です。なので視聴者の皆さん、美香ちゃんと早く仲良くなれよ! と、焦らないでくださいね。

 

 そんじゃ――明日まで特になんの山も谷もない練習風景が続くので、続きは別枠にアップロードしておきますね。本筋は明日の試合から上げます。

 今日はここまでですが、一応今回の分の動画は今日のここまでと、明日の試合の分を編集してくっつけてお送りしようと思いますんで、そこんとこよろしくお願いしますねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボール、フォア!」

 

 そのコールを受けてパワプロがバットを放り投げ、一塁へと歩いていく。その目は、微かな悔しさを滲ませる投手を映してもいない。

 ――秋季大会二回戦目。武蔵府中・宮本シニアが当たったのは、青葉浦安というシニアチームだ。投打と走守のバランスが取れている堅実な相手だ。

 だがあらゆる全てで青葉浦安を上回る、宮本シニアの相手にはなりえない。先発として登板した橘みずきから安打を一つも打てないまま回を重ねるどころか、初回先頭打者である霧崎礼里にツーベースヒットを打たれ、二番の六道聖にも左中間を斬り裂くタイムリーを浴びて、三番の和乃によって追加点を取られるや、四番のパワプロに初球からツーランホームランを被弾したのである。

 初回から爆発した宮本シニアの打線に、いきなり炎上させられた青葉浦安のエースは降板。打者一巡した後、聖の当たりが良すぎたセンターライナーでスリーアウトを数えてやっと初回の攻撃が終わった。

 その後は、特に見せ場もなく。

 パワプロは以後の打席を全て敬遠で歩かされ、みずきは力をセーブしたまま相手打線を沈黙させた。それはみずきと聖の力というのもあるが、余りに開き過ぎた点差にチーム全体の心が折れてしまっているが故の完封である。四回終了時にコールドゲームとなるのは、2イニングまでで誰もが察していた。

 

 33対0

 

 四回表の攻撃が終わった後、強すぎて申し訳ないわねー……とベンチでみずきが言うのに。全員が苦笑して目を見合わせるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




これはひどい(白目)


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秋季大会第三回戦(そのいち)

ちょっと唐突かなと思わなくもないですが、三回戦に突入します。
体感時間で一週間ぶりの投稿なので初投稿です。



 

66:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 お、始まったぞ。

 

67:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 八王子かー。おれあそこいたことあるし応援してるんだ(隙自語)

 

68:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 中坊の野球は低レベルなの多いし、保護者目線でしか楽しめねえよ。

 

69:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »68

 時々バケモノ混じってるから一概にそうとは言えねえけどな。

 

70:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 今回の大会にその化け物はいるんですかね……。

 

71:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 夏の大会も見てたけど、八王子には蛇島くんってのがいるな。

 化け物かって言われるとちょい物足りないけど、才能はあるっぽい。

 一応天才の部類かな?

 

72:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 武蔵府中にはいねぇの?

 

73:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 早川あおいちゃんが可愛い。

 

74:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »73

 分かる。あの歳であの尻は凶器ですよ……。

 

75:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 尻www ロリコンかお前www 選手能力はどうなんだよ?w

 

76:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 エース張るだけの能力はあるんじゃね。

 エフェクト付き魔球も投げれるらしいし、こっちも天才かな。

 ちなみに早川ちゃんはアンダーで130後半投げるゾ。

 嘘じゃありません、現実……これが現実……!

 

77:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »76

 うっそやろお前www

 そんなんただの化け物やんけ!!

 

78:名無し20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »76

 ゴリラかな?

 

79:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 恵まれた下半身から繰り出されるゴリラの如き直球()

 エフェ魔が霞むインパクトである。

 

80:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 制球厨のワイ、ゴリラに苦言。

 受ける手が痛くなるから、球速だけのゴリラは動物園に出荷よ〜。

 

81:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »80

 動物園のことパワフルズって言うのやめろよ!

 

82:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ってか今回エース早川登板しねえから。

 

83:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 先発は控えかな?

 

84:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »83

 うんにゃ。この試合で登板すんのはこの世代の化け物筆頭だゾ。

 

85:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »84

 誰それ。

 

86:名無し名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 通なワイが答える。ソイツは力場専一ってイケメソ。

 あだ名はパワプロで、この世代は『パワプロ世代』とか言われてるゾ。

 転校&シニア移籍コンボで一年間封印されてて、この大会が初出場。

 ちなみに一回戦で、初打席初球本塁打。以後の打席全部本塁打。

 二回戦目の試合だと初打席本塁打、以降全部敬遠されてる。

 

87:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »86

 控え目に言ってただの天才では?

 

88:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 十w割w打w者w 全w部w本w塁w打w うぇっwww

 

89:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 野球ゲーかな?

 それはそれとしてググったらなんか出た【パワプロ本塁打映像集】

 

90:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ほへぇ……綺麗なスウィングんごねぇ……。

 え、これリトル?

 

91:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »90

 リトル。大会記録コイツが何個も塗り替えてる。

 

92:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 嘘つけリトルのレベルじゃねえぞこれ。

 中坊の時点でかなりのイケメンなんやが……イケメン子役霞んで見える。

 神は幾つギフト上げたのかな? 贔屓とか許されざるよ。

 

93:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 その成績でピッチャーが本業? なんじゃそりゃwww

 

94:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 いまテレビ写ったキャッチャー可愛くね?

 

95:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ひじりたん(;´Д`)ハァハァ

 

96:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 れいりたん(;´Д`)ハァハァ

 

97:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あおいちゃん(;´Д`)ハァハァ

 みずきちゃん(;´Д`)ハァハァ

 ひろみちゃん(;´Д`)ハァハァ

 (;´Д`)ハァハァ

 (;´Д`)ハァハァ

 (;´Д`)ハァハァ

 うっ……ふぅ。

 なんやこのチームおにゃのこばっかやんけ。

 顔面偏差値高い娘しかいねえし、男も平均以上ばっか。

 野球はアイドルグループじゃねえぞ。まったく、けしからんな。

 

98:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »97

キモすぎワロスwww

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「先輩、機嫌悪そうだな……」

 

 試合開始五分前。ベンチに入ったシニアの面々は、長身痩躯の二塁手である主将の様子に声を潜めた。

 見る者を絡め取る粘着質な視線は、伏せられた顔からは伺い知れない。人の良い笑顔も鳴りを潜めて、何事かに思いを馳せているかのようだ。

 

「仕方ねぇよ。今日の試合にはあの()()()()どもがいるんだからさ」

「ああ。ムカつく奴だったってのに、先輩は庇ってやってたよな。なのにアイツ一言も入れずに消えやがった。幾ら先輩が温厚でも気ぃ悪くすんだろ」

「あの野郎、向こうでも女侍らせて良い気になってるっていうぜ。ウチからも氷上さん引き抜いて行きやがったし、ちょっと顔が良いからって調子こき過ぎだっての。マネ抜けた後おれらで雑用やらなけりゃならなくなったし……」

「その氷上さん狙ってた田井中センパイ、あん時ゃマジギレしてたよな。クワバラ、クワバラ」

 

 程度の低い恨み言。それに口の中で舌打ちを漏らす。

 折角集中しようとしているのに、低能な遣り取りが耳に入って苛立ちが過ったのだ。

 

「――皆さん。そろそろ試合に意識を切り替えていきましょう。過去の蟠りを捨てろとは言いませんが、気を引き締めずに当たって勝てる相手ではありませんよ」

「う……ウッス!」

「サーセンっした()()先輩っ」

 

 蛇島は再度口の中で舌打ちする。チームの面々の実力は、高校のスカウトから目をつけられるほどではない。唯一注目を集めているのは高い守備力とミート力で知られる蛇島だけだ。

 その蛇島は既に強豪校への内定を取っている、故に蛇島はこの試合で勝とうが負けようがどうだっていいと思っていた。自分が無様を晒さければいいだけの事で、敗戦の責任を蛇島が負う事はないのである。

 何せ野球は一人でやるものではないのだ、負けた理由を一人に押し付ける輩などいるはずがない。

 蛇島はこの試合、普通にやったのでは勝てる要素がないと冷静に判断していた。対戦相手の前試合での点差は聞いている。試合内容もビデオで見た。故に負けるなら負けてもいいと割り切っている。

 ただ……この試合に向けてやれる事はやっていた。――普通にやったのでは勝てないのなら、普通にやらなければいいだけの事だろう。

 チラリと視線を向けるのは、この試合で登板するエースピッチャーだ。そこそこの球速とそこそこの制球力、そこそこのスタミナと変化球の持ち主だ。蛇島からすると弱くはないが、特筆するほど強くもない。去年抜けたエースの先輩ほどではないだろうと評価していたが――扱いやすい輩ではあった。

 

『お待たせしました。20☓☓年ミズチ旗杯関東連盟秋季大会()()()()――八王子シニア、対、武蔵付中シニアの試合を間もなく開始いたします』

 

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。それを聞いた蛇島は立ち上がり全員に声を掛けた。

 

「行きますよ、皆さん。くれぐれも()()()()()()()()()を忘れないように。()()()()とやりましょう」

 

 ウーッス、と気のない返事が返されるのを顧みず、蛇島は嘲笑を滲ませた。

 嫌っている相手を低く見積もりたいのが人というものだが、さすがにここまでくると滑稽というものである。

 ホームベースを間に挟んで、両チームの面々が整列する。両チームの面々は相手の顔を見ず、言葉も交わさず、形式上の礼を示すだけだった。

 そんな中、蛇島はちらりと相手チームの少年を一瞥する。「ッ……」その少年も蛇島を横目に見ていた。目が合って、知らず生唾を呑み込む。蛇島はその目に吸い込まれそうな何かを感じ、咄嗟に視線を逸らした。

 同じチームにいた頃よりも一回り大きくなっていたその少年は、蛇島の様子に微笑んだような気がして――冷や汗が浮かぶ。なぜ自分を見る? その見透かしたような目はなんだ? 腹立たしい、その『全部分かっている』とでも言っているかのような目が。蛇島の神経を逆撫でして止まない。

 

(――相変わらず目障りですねぇ? 力場くん……ですがもう、私には関係のない事。普通に野球をしましょう。普通に、ね……)

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 先攻は八王子シニア。故にウグイス嬢が先に読み上げるのはそちらのスターティングメンバーである。

 後攻の武蔵付中・宮本シニアは円陣を組み、気合を込めて吼える。そうしてゆったりとした所作で守備位置についていった。

 

『武蔵府中シニアのスターティングメンバーは一番ショート、霧崎礼里さん。二番キャッチャー、六道聖さん――』

 

 銀髪を翻し、冷気を纏っているように冷たい空気を湛える少女。紫髪を赤い紐で結わえた平静な少女。共に男女を問わずにファンが付き始めている。

 何せ容姿端麗だ。傑出した打撃成績と抜群の守備能力とも合わさり、脚光を浴び始めている。何よりその二人は()()()()と縁深い存在という事もあって、そこになんらかのドラマ性を見出している者達は一定数存在した。

 駆け足で遊撃に付く少女のすぐ後ろを歩いていた少年。その少年がマウンドに立つと、フェンスの外のスカウト陣が目を光らせる。

 ようやくか、と。三回戦目にして初の登板か、と。ホームベースの手前で肩を回し、内野手の面々に守備位置の微調整を指示しているのは六道聖だ。そしてその正面に立つのは、

 

『――四番。ピッチャー、力場専一くん』

 

 背負う背番号は10番。1番こそ早川あおいに譲っているが、その実力は世代ナンバーワンの呼び声高い。少なくともその打撃能力に関しては疑う余地は既になく、守備能力に関しても極めて高いと評価されていた。

 では、投手としての実力はどうか。遂に日の目を見る事になるその力に、強豪校のスカウト陣は静かにしながらも色めき立ちつつある。そしてその中にはプロのスカウトである影山もいた。この試合の内容次第で、影山は力場に対してコンタクトを取るか否かを決めるつもりでいる。

 

(打撃と守備はリトルよりも明確に進化していた。ピッチングだけはその限りではない、と見做すのは過小評価が過ぎるというものだが、しかし――)

 

 打撃に特化したが故のあの成績であり、投手としてはさほど成長していない可能性もある。事前に練習を見ていればよかったのだろうが、生憎と影山も暇ではない。中学生よりも高校生の目ぼしい選手に時間を割くのは当然だ。

 だがその当然の時間割を変更してでも、接触する価値があるというのなら。影山は如何なる努力も惜しまず力場専一を優先するだろう。何せこの試合内容次第では、よそのスカウトもまた本腰を入れると予想されるからだ。

 だが影山はそんな当たり前の行動に関する試算より、久し振りに一野球ファンとして胸が踊るのを感じていた。まるで少年だった頃、プロ野球のマウンドに立つエースピッチャーを観客席から見ていた時のような――

 

(――なんとマウンドの似合う少年だろうか……)

 

 ホームベース側に座る六道聖(キャッチャー)を正面にし、ロジンバッグを握って滑り止めをしながら試合開始の瞬間を待つ。

 影山はその姿に、かつて憧れた往年の大エースの姿を見た。

 心の片隅に湧き上がる、熾り火のような期待。少年の心を思い出させる、ワクワク感。一握りの存在が有する存在感に影山は目を吸い寄せられる。

 

(魅せてくれ、力場くん。君の実力を……)

 

 ――世界的最大のスポーツである野球。故にその注目度は極めて高い。

 だからこそシニアの野球大会にも関心は集まり、三回戦からはテレビ中継もされるほどだ。

 テレビのカメラマンもいる。実況と解説もそれなりに名の知られた面子であり、そしてそれだけ集まれば2ちゃんねるの『なんでも実況ジュピター』こと『なんJ』も賑わいを見せるようになってきていた。

 

 だが真剣勝負の場に、外野の意志や見解などなんの価値もない。――三球のみの投球練習。以前は七球を割けていたが、近年規定は様々な面で変更されていた。投球練習の球数もその一つだ。

 規定の変更にはきな臭いものを感じなくもない影山だが、そうした諸々に苦言を呈するのは影山の仕事ではない。力場はその三球を明らかに手を抜いたスローボールで消費する。そうして打席に八王子シニアの先頭打者が入ると、キャッチャーの後ろに立つ審判が宣言した。プレイボール! と。

 

 

 

 空気が張り詰める。

 

 

 

 普段は明るく闊達な少年だという風評を聞くが、マウンドに立つとそんな印象は霧散してしまっている。

 見下してはいない。だが見下ろしていた。お前は俺より下だ、と。お前に俺の球が打てるかよ、と。傲慢なる強者の佇まいで、キングのようにマウンドへ君臨している。

 

 そんな投手を、先頭打者は澱んだ目で睨んでいた。

 投手――パワプロは薄い笑みを口元に佩く。その目は明瞭な意志を宿す双眸で打者を見下ろしていて、打者は投手の視線に侮りを感じて口元を歪める。

 過去、同じチームにいた時。対戦結果は全打席三振。薙ぎ倒されて終わった苦い記憶があった。むしろパワプロからヒットを打てた者など、今は敵チームにいる霧崎だけだ。

 

 捕手のサインを見もせずに、ゆったりとした所作で投球フォームに移る。

 三回戦、一回表。先頭打者に対する第一球。両腕を掲げるワインドアップの後、身体を畳むように右脚を上げ、踏み込むのと同時に体重移動が滑らかに行われる。腰の回転、背筋の緊張、肩で力を溜め肘で軌道を操り指先で切る。

 それは空の王者であるイヌワシが、地上に降りて片翼を広げるような大きなフォーム。プロの世界でも滅多に見られない完成された型だ。

 野球を深く知る者ほど魅せられる。瞠目させられる。繊細にして精緻な指先の支配力が生み出す回転力は、フォークボールと同じ軌道を辿る四シームジャイロを生み出して、捕手の構えたミットに寸分の狂いなく突き刺さった。

 

「―――」

「……審判?」

「す、ストライク、ワン!」

 

 球審すらも目と心を奪われる芸術のような型と、綺麗な球筋。この試合でのパワプロの調子と球筋を見るため、わざと見逃した打者も目を細めた。

 乾いた音を立てて捕球した聖に水を向けられ、球審は思い出したようにコールする。聖は肩を竦めて返球し、パワプロは自然体のまま構え直す。

 やはり、聖はサインを出さない。ただ目を合わせているだけだ。

 以心伝心。投げたいボール、投げたいコース、それらを伝え合うのにサインを挟む必要がない。聖の野球人生はパワプロと共に在り続けたのだ、完璧に受け止めるのに意思表示など無用である。

 

 125km/h

 

 第一球目の球速がそれだ。だが弾丸のように奔った球は、それよりもずっと速く見えた。ボールが多段式に加速し、手元でグンと伸びたような錯覚――ありえないと打者はその錯覚を忘れた。

 バッティングセンターのピッチングマシンで、140km/hの直球を打ち込んで来た。これぐらいならどうとでもなると思い、リベンジする好機にほくそ笑んで――その笑みが凍りつく。

 

 135km/h

 

 続く二球目は、ど真ん中に突き刺さった。だがその球速は一気に10km/hも速くなっている。反応できずに見送ってしまって、打者は思わずパワプロを睨みつけた。なに見てんだよ――薄ら笑いは消えていない。

 (おれを、見下してんじゃねぇぞ……!)打者は今度は見逃してたまるかと全神経を尖らせた。パワプロと聖のバッテリーは知っている、どんな組み立て方をするのかも。故に次に来る球も予想が付いていた。

 (どうせまたストレートだろ? ど真ん中に来る! ゼッテェ打つ!)そうだ、分かりきっている。どこまでも人を舐め腐っているこの男は、一巡目なら特にその傲慢さを見せつけて見下ろすのだ。

 

 パワプロが三球目を投じる。だが――消えた。ボールが、リリースされた瞬間に打者の視界から消えたのだ。

 乾いた音が鳴る。思わず振り返ると、聖が捕球し終えているではないか。なにを投げた――いつの間に――? 愕然として電光掲示板を見ると、そこに表示されていた球速に目を剥いた。

 

 145km/h

 

『――見逃し三(シィン)! 三球三振です! 八王子シニアの先頭打者、滓田くん手も足も出ません!』

『は、速いですね……彼の最高球速は140だと聞いていたのですが、かなり上回ってます。これ以上ないストレートでした』

 

「……は?」

「投球練習への協力、感謝するぞ。お帰りはあちらだ」

「ッ……!」

 

 呆気に取られる打者に、捕手の聖が温度を感じさせない声音で打席を離れるように促す。それに打者は唇を噛み締め、屈辱に肩を震えさせながら離れた。

 クソッ。毒吐く声は汚い。最高球速は140じゃねぇのかよ――

 知ってたら打てた。負け惜しみのようにそう思う。事実負け惜しみだ、彼の正直な印象では、打てる気がしなかった。少なくとも一打席目は。

 続く二番打者も、一番打者と同じパターンで見逃し三振に倒れた。125kmから10kmずつ球速を上げての三球三振である。ならばと三番打者が初球から打ちに行くと、まるでストライクゾーンに入る手前でパラシュートを開いたかのようにブレーキの掛かった、凶悪なチェンジアップに空振りし、残りの二球は143kmと145kmの直球で捻じ伏せられた。

 

「季節外れの扇風機だったな。肌寒くなる時期だ、あまり振らないでくれると助かるぞ」

 

 聖が淡々と煽る。棒読みだ。だが、だからこそ神経を逆撫でにされて三番打者は歯噛みする。

 

『一回表の攻撃は終わり、一回裏、武蔵府中シニアの攻撃に移ります。……にしても解説の松井さん、力場くんのピッチングは凄まじかったですね』

『そうですねぇ。リトル時代から頭一つ分は抜けていた印象がありましたが、シニアでもその印象が変わっていません。球速もそうですが、特に凶悪だったのは三番に初球から投げたチェンジアップですよ。非常にブレーキが掛かっていて、一番と二番を仕留めたストレートが頭にあった事もあり当てるのは困難だったでしょう。コントロールもキャッチャーの構えた所にピタリと決まってますし……ん?』

『……どうしました?』

『いやね……ふと思ったんですが、彼、既にプロ級なのでは……?』

『ははは! まさか! 松井さん今日はジョークが冴えてますねぇ!』

『は、はは……そうでしょう。って()()()ってなんですか。ワタシはいつも冴えてますよ。しかし……冴えてるのは力場くんもですね。三者三振、きっかり三球ずつで仕留めてます。これは期待できますよ』

 

 実況の鈴木と解説の松井の遣り取りをBGMに、攻守が入れ替わっていく。

 マウンドに上がるのは、市山田。投球練習を終えて、薄暗い眼差しで捕手を見る。二塁を見る。二塁には蛇島がいた。

 蛇島は、やめておけとでも言いたげに、真剣な顔つきで見詰め返してくる。だか市山田は鼻で笑った。善人な先輩様には分からねえだろうな、と。――自分が己の妬心を煽られ、蛇島の掌の上で踊っている自覚もなく。

 打席に入ったのは、銀髪銀瞳の少女、霧崎礼里。宮本シニアの切込み隊長にして、水先案内人。ネクストバッターズサークルには六道聖だ。その二人に対して粘着質な視線を向けた市山田は、クッ、と笑う。

 

 彼は自分の能力を把握していた。この二人は抑え込めれば僥倖といったレベルで、才能と努力量の次元が違う。故に――

 

『打ったァ! 初球から霧崎、振ってきました! 打った打球はセンター方向へ伸びて、伸びて……入ったァ! 先頭打者ホームランだぁ!』

『まるで狙い澄ましたかのような一打でしたね……強振したとはいえ、あそこまで運ぶとは男子顔負けです』

 

 初球から霧崎が、心を読んだように狙い打った一撃にも。

 

『打った打った! 武蔵府中シニア、初回から全開で攻めます! 二番・六道左中間へのツーベースヒットォ!』

 

 ツーストライク、ツーボールから放たれた六道の二塁打にも、市山田はこれといって動揺しなかった。

 平静、平常。市山田は気遣わしげな捕手に心配すんなと手振りで示して、三番の和乃に対して初球からスプリットフィンガー・ファストボール――SFFを投じる。和乃はそれを打った。絶好球に見えたからだろう。

 ストレートを打つつもりが打たされ、しかし三遊間を抜けてシングルヒットになる。おいおいあれを初見でヒットにすんのかよ、と市山田は苦笑した。

 ランナーは一塁と三塁。六道は三塁で止まっている。脚が遅ぇのは変わってなくて安心した、と市山田は安堵し――そして、打席に入るのは。

 四番。力場専一。

 

「―――」

 

 スッ、と心が冷え込む。あの男が右打席に入ったのだ。

 ピッチングの時に腕を伸ばした瞬間が、まるで翼を広げたようだと言われている。そして打席に立つと、反対の翼を広げているように、ホームベース上にバットを寝かせて構えるフォームには華があった。

 神主打法。弛緩しているかのような上半身。反面、どっしりと根を張った下半身。肩幅程度に開いた脚と、悠然と構えるその打撃フォーム。四番としてのその貫禄は、こうして対面しただけで格の違いを思い知らせるかのようだ。

 パワプロ。パワプロは市山田を見ていない。まるで、マシンを見ているかのような、温度のない目。捕手が立とうとする。敬遠しよう、と。捕手の弱木田もパワプロの実力は知っているのだ。その判断は間違いではない。

 それを手振りで座らせた。この男から逃げるなど、有り得てはならない。

 だって、だってコイツは――

 

 力場くん、氷上さんと付き合っているようですねぇ。

 でなければ説明が付きませんよ。なんで氷上さんは力場くんについて回っているのかなんて。

 ――おやおや。氷上さんもチームから抜けましたね。どうやら付き合っていたという予想はアタリだったみたいです。祝福しましょうよ。ねえ?

 あーあー……氷上さんも可哀想に。力場くんはプレイボーイだったみたいですよ。六道さんと霧崎さんともそういう関係だったようで……

 

 ――いや、関係ない。ただただムカつくんだ。野球一本で、一筋でやってきたならともかく。女と遊び歩いてるようなクソ野郎が、さも天才でございとばかりに調子に乗ってるのが。

 思い知らせてやる。ぶっ潰してやる。この時をどれだけ待ち望んだか。

 なぁに、その実力だけは認めてやってるんだ。お前が投げてる限り、点は取れっこない。ウチの一番から三番に見せた投球内容だけで察してる。打てるとしたら四番の蛇島先輩ぐらいなものだ。それだって単打に収まるだろう。

 だからこれは、チームが勝つためだ。チームのためなんだ。それに……不幸な事故ってのは、いつだってあるもんだろ……?

 

 まずは、外角高めにすっぽ抜けたようなSFFを投じ、ボールカウントを一つ取る。わりぃわりぃと半笑いで返球を受けた。

 武蔵府中シニアのベンチから、ガタリと霧崎が立ち上がる。凄まじい形相で睨みつけられるのに、乾いた笑いを浮かべる。二球目は外角低め。ストライクゾーンからボール二つ分外した。今日は調子が良い、狙った所にボールがいってくれる。いいぞ、と思いながらも市山田は必死に表情を殺した。

 布石は打った。外角に逃げるボールばかりを投げた事で、パワプロはやや立ち位置を内側に移している。バットも長く持って、外角の球も打てるようにしていた。だが市山田は知っている。この男は、この立ち位置とバットの握りでも、内角のボールをフェンスの外まで運ぶのだ、と。だから仕方ない、内角を攻めるならかなり際どくなければ。

 

(左投げのピッチャーが右打ちするって危なくね?)

 

 市山田はさも気遣っているように装いながら、内心せせら笑う。

 肩から先は投手の命だろうに。それを投手の側に向けて立つのは、ちょっとばかし不用心だと思う。これはかつてのチームメイトとしての、ささやかな心配だ。そんなんじゃいつか、ケガしちまうぞ、と。

 

 市山田は、三球目のボールを投じる。MAX136km/hの速球だ。捕手は外角に構えている。そして球は、その真逆に向かった。逆球――それは市山田の狙い。好いていた少女を盗られたと逆恨みした小者の悪意。

 市山田の冴え渡る制球力が操る速球がパワプロの左肘に直撃し故障させた。デッドボール。痛みの余り打席に蹲る男。いきなり降板し控えにいた女投手が登板。それを打ち崩して勝利する。市山田は批難を浴びたが、不幸な事故として片付けられた。そうして市山田のチームは関東大会決勝まで駒を進め、対戦相手と正々堂々と戦い激戦を繰り広げて市山田は熱投し強豪校のスカウトからも注目を集め――

 

「――へっ?」

 

 ――駆け抜けた妄想を、斬って捨てる踏み込み。

 市山田が第三球目を投じた瞬間だった。打席に立つ打者は(バット)を畳み、半身に構えていた身体を捻り、下からゴルフボールを打つように掬い上げたのだ。鮮やかさ極まるフォームに翳りなく、流れるような斬撃である。

 その斬撃は、市山田を真下から真上に斬り裂く。

 快音が鳴った。木製バットの真芯で、危険球を完璧に捉えたのだ。翼持つ最強打者の一閃は、市山田のストレートを打ち砕いて――空を魅了するように、センターのスタンドに白球を叩き込んだ。

 

 出鱈目で、非常識な打撃。悪意すらも踏み台にする天才の一撃だった。

 

『――うっ、打ったぁぁぁ! アレを打ったッ! あわやデッドボールかと、冷や汗が浮かびかけた瞬間でしたッ! 代わりに浮かんだのは鳥肌ッ! まるで時間が止まったかのような一瞬の間、次の瞬間に歓声が爆発するゥッ! 四番・力場専一、堂々のスリーランホームランだァッ!!』

 

 呆然とする市山田など眼中にも入れず。蛇島に一瞥を向け、バットを投げ。塁をゆっくりと走り、パワプロはホームベースでチームメイトから祝福を受けた。

 

 その目は、やはり、古巣の存在を見てもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




俺は止まんねえからよ、みんなが感想評価をくれる限り、その先に俺はいるぞ! だからよ、止まるんじゃねえぞ……。


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秋季大会第三回戦(そのに) ※掲示板回

掲示板ネタで試合を巻いてくスタイル。
虐殺不可避だからね、仕方ないね。
なので初投稿です(取ってつけたように)


 

 

 

 

133:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 はっ?

 

134:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 は???

 

135:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ん、見間違いかな?(白目)

 

136:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 おれ疲れてんのかな。

 デッドボールになりそうだったのホームランにしたように見えたぞコイツ。

 

137:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 リプレイが来ましたね。

 

138:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 デッドボールコースだ!

 

139:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 キャッチャーの構えたミットと逆方向、逆球ですね。

 

140:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 うんうん、身を躱すように半歩引いて……?

 

141:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 バット引き寄せーの……?

 

142:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 身体縦回転……?

 

143:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 掬い上げてミートするンゴwww

 

144:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 おかしいだろ! なんでそれがホームランになる!?

 

145:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 野球というより剣術、打撃というより斬撃って感じ……。

 

146:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 解説の松井ぃ! 『片手で持っていきましたね……』じゃねえよ解説しろ!

 

147:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あんなの解説するとか無理ポ。

 

148:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 やべぇ、今マジ鳥肌立った。

 

149:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 これは敬遠されても納得だわ。打ち取れるイメージが湧かん。

 

150:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 打ち取った相手投手には『敵将、打ち取ったり!』と叫ぶ権利をあげよう。

 

151:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 八王子シニアの市山田くん呆然www

 

152:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 そりゃあね、初回で本塁打二本被弾して、

 4対0なのに未だにノーアウトだからね。仕方ないね。

 

153:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 これは虐殺試合不可避。

 

154:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ちょっと待てw 自然すぎて気づくの遅れたがコイツ木製バットやんw

 

155:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ファッ!?

 

156:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ファーwww

 

157:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 木製使ってるのに違和感ない中坊とはいったい……。

 

158:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 五番ツーベース、六番タイムリー、一点追加! 虐殺タイムクルー?

 

159:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 七番痛烈な当たり、けどセカンドライナー。蛇島くんナイスキャッチ!

 

160:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 八番二遊間への――おぉっと! セカンド蛇島のファインプレー!

 

161:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 蛇島www

 

162:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 コイツも上手いw

 

163:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 魅せるねぇ。

 

164:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 九番はレフトの広巳ちゃんか。

 ライト前のポテンヒット……次は先頭打者……。

 あっ(察し) 市山田くんドンマイ(先行入力)

 

165:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ツーランホームランwww なんやのこの娘www

 来る球見透かしてるwww

 

166:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 なんか怒ってるっぽい? ポーカーフェイスだけど。

 

167:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ひじりちゃんまたツーベースヒット(笑)

 いや、打撃上手いやんけ……。

 

168:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 三番も一二塁間を――ぉぉお!? 蛇島ぁ! 

 

169:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 アウト三つ全部蛇島www

 

170:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 うめぇ。

 

171:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 けど初回で7対0……しかも次はパワプロ? だっけかあだ名。

 

172:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 流石に敬遠だろこんなのwww

 

173:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 初見だけどレベルがコイツだけ図抜けてるの分かるもんなwww

 

174:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 二回表先頭打者は四番の蛇島。ストレート三個の三球三振……。

 

175:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 しゃあない。

 

176:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 スゲぇノビてるしキレてるし。

 

177:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ……これ、ジャイロ回転してね?

 

178:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 は?

 

179:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 マジやんけ。どうなってんのこれ。

 

180:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロ世代か……確かに世代筆頭のバケモンやわ。

 

181:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 コントロール厨のワイ、

 捕手の構えてるとこドンピシャでキメるパワプロに歓喜不可避。

 

182:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 四角に綺麗にキメてる……なんやこの制球力(白目)

 

183:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 元捕手のワイ、微妙にボールくさいのをズラして捕球してストライクにしてるひじりちゃんに戦慄。

 なんやこの娘。やばい(絶句)

 

184:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 凄さが分からん。

 

185:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 よく見ろ。テンポめちゃんこ速いやろ? 捕手サイン出してねぇぞ。

 

186:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 え?

 

187:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 え?

 

188:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 マジで?

 

189:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 マジだどうやって配球決めてんの?

 

190:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロの好きに投げさせてるとか?

 

191:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 それであんだけドンピシャで捕球できるかい!

 

192:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 以心伝心(ガチ)

 

193:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 とか言ってたら四番から六番三球三振全部ストレートwww

 

194:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 蹂躙www

 

195:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 コイツ大上段に構えて横綱相撲状態w

 

196:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 はい、キャッチャー立ちました。

 

197:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 そらそうよ。

 

198:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あんなのと勝負とか中坊には無理ゲーだろうしな。

 

199:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あっ

 

200:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あああ

 

201:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ぎゃああ

 

202:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ってホームランwww 8対0www

 

203:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 危険球二回目を今度はレフト()

 

204:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 いや待てよ。二回連続同じ奴に同じ危険球ってなんやねん。

 

205:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 すげぇwww もうそうとしか言えねえwww

 なんだコイツ意味が分からんwww

 

206:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »204

 あっ。

 

207:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あ……。

 

208:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 えぇ(困惑)

 

209:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 もしかして:わざと

 

210:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 いやいやいや流石にそれはない。……ないよね?

 

211:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 マジか……。

 

212:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ……いや、これ、二回連続ともなるとわざとの可能性高いぞ。

 

213:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »212

 なんでや。若者に濡れ衣着せたら黙っとらんぞお前。

 

214:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 おれスポ誌の記者。ちなみに証拠がこれ【名刺】とこれな【社員証】

 

215:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 おっ。〇〇誌の葉山さん! いつも楽しみにして読ませてもらっとるで!

 ここにカキコすんの久し振りやな!

 

216:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »215

 ありがとう。社員証出してるから名前出していいけど……まあいいか。

 ともかくこれ、わざと臭い。

 

217:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 葉山さんが根拠もなく言う事はないが……にわかには信じられん。

 

218:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 この間おれの友人がさ、とある中学生読者モデルのグラビア撮影やったんだよな。そこが武蔵府中シニアの練習してるグラウンドだったんだけど、そこでパワプロ君がヘンテコな練習してるの見掛けて写真撮らせて貰ったんだと。

 

219:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ヘンテコな練習?

 

220:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 うん。バットで斬り上げの練習。もう一回言おう。

 斬り上げの練習だ。

 

221:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ……?

 

222:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ちょうど、今の一打席目と二打席目のバッティングでみせた奴。

 証拠写真はこれ【パワプロくんの斬り上げ練習】

 

223:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ………。

 

224:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 えぇ……?(困惑)

 

225:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 (言葉が出ない)

 

226:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 で、その時友人が聞いたみたいなんだけど、パワプロくんはさ「この練習が必要だと思ってます」って言ってたんだと。

 

227:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 はぁぁぁ!?

 

228:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 なるほどねそんな練習してたから打てたのねあれを(現実逃避)

 

229:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 続きと詳細知りたければおれの記事載ってる雑誌買え。この試合の後おれがパワプロくんにインタビューすっから、その遣り取りも載せるぞ。

 

230:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 はっ!? そこで引くの!?

 

231:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ぐぁあああ!! こんなん購読不可避やんけぇ!!

 

232:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 さすが葉山さん商売上手ぅ↑(血涙)

 

233:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 にしてもわざとか。

 

234:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 なんでそんな事したの。

 

235:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 妬みか。分かるわ。イケメンで天才とか誰だって妬むおれだって妬む。

 けど故意死球は無い(断言)

 

236:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 そこらへんの真相も明らかになるんかね。

 

237:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 まあ故意死球をホームランするような奴やしwww

 

238:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 球速MAXが145か……19歳で169キロ出した奴がおるし、ソイツが確かパワプロぐらいの時は同じぐらいの球速……パワプロも将来169投げたりしてw

 

239:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 流石にそれはないやろwww

 なおコントロール()

 

240:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 立ち上がりからの安定感……コントロール○……DH制撤廃……。

 

241:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 全打席本塁打……死球本塁打……。

 

242:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロくん! 中学出たら半神に来よう!

 

243:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 まぁーた虎専か……そんなとこよりパワプロくん浜に来よう!

 

244:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 半神タイガーズと縦浜ベイズターズに行くわけないんだよなぁ。

 行くなら大正義の小人に決まっとるやろ!

 

245:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 いーや! パワプロくんは鷲のとこに来る!

 

246:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロくんならカツファイターズの球場で寝てるよ。

 

247:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »246

 パワプロはテレビ映っとるやんけwww

 

248:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ひじりちゃんは貰っていきますね……嫁に。

 

249:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 じゃあおれはれいりちゃんを……。

 

250:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あおいちゃんとみずきちゃんの欲張りセットを貰っていきますね。

 

251:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ひろみちゃん! パワフルズは君の入団を歓迎する!!

 

252:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »251

 万年最下位のパワフルズになんか行くわけあるかwww

 

253:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 この時点でパワフルズでならエース不可避www

 

254:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 むしろ才能潰しに遭うんじゃ……。

 

255:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 はい、静かになるまで30分も掛かりました。先生失望しましたよ。

 

256:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あれなんか三回裏の攻撃まで終わってる……?

 

257:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 打者一巡三球三振www 九者連続www 28対0www

 

258:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 虐殺ぅw これ野球辞める奴たくさん出る奴や!

 

259:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 コールドにしてやれよwww

 二番手……いや三番手グロッキーやんけwww

 

260:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 コールドは四回終了時……あっ(察し)

 トラウマぁ!

 

261:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 四回表……はい(知ってた)

 

262:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 三球三振。これ何個目?

 

263:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »262

 10個目だよ数えるまでもなく分かるだろwww

 

264:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 完w全w試w合w中w

 

265:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 これは怪物(確信)

 

266:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 間違いないな。

 

267:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 はい11個目。まーた三球三振ですよ。

 

268:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 待って。待って。何今の変化球?

 

269:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 キレッキレのスライダーで奪三振www

 キレもそうやけど変化量も半端ねぇwww

 

270:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あと一人でコールドです、はい。

 

271:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 サクッと締めてく。

 

272:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 初球147km/hってなんじゃそりゃwww

 

273:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 まだ上があったんかいwww

 

274:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 二球目はー?

 

275:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 カーブwwwww

 

276:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 えっぐいwww

 

277:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 おい今左打者の肩の辺りからストライクゾーン入ったぞwww

 

278:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 躱した打者くん唖然w

 

279:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ここまでのペースだと次で終わりだが……最後は……?

 

280:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あっと一球! あっと一球!

 

281:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あっと一球!

 

282:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あっと一球! ってカメラ市山田チラ見すんなwww

 

283:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 wwwwwww

 

284:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 そんな奴どうでもええ! マウンド映せマウンド!

 

285:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あれ? ひじりちゃんが初めてサインを……?

 

286:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ミットは……真ん中低めギリ。

 

287:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロくん笑っとる。はじめて表情動かしたな……。

 

288:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 イッケメーンやな……。

 

289:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 今まで投げてねえ球投げる臭いンゴねぇ……。

 

290:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 もしかして:ウィニングショット

 

291:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 徹底的に心を折りにいくスタイルwww

 

292:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ちょっと待てw こいつレベルのウイニングショットとかどんなのだw

 スライダーチェンジアップカーブもヤバかったぞwww

 

293:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロ、振りかぶって……。

 

294:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 はへぇー……すっごいかっこいいフォーム……。

 

295:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 真似する子続出不可避……。

 

296:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 って構えとるところと逆www

 

297:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 逆球――って落ちたァ!?

 

298:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 落ちた!?

 

299:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ミットにドンピシャ……今の、フォーク……?

 

300:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あんなフォークがあってたまるか!!

 

301:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 球速は!? ……146km/h!?!?

 

302:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ファーwwww

 

303:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 工エエェェ(´д`)ェェエエ工

 

304:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 (;´Д`)幻術……これも幻術……?

 

305:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 (; ・`д・´)現実、これが現実……!

 

306:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 (  Д ) ⊙ ⊙

 

307:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 このキレと球速と変化量wwww 構えたミット動かさせないwww

 化け物やんけ。

 

308:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ( ゚д゚)

 (゚Д゚)

 

309:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 球場騒然としてるwww そりゃそうだwww

 

310:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

松井「やはりこの球で締めましたか……」

鈴木「知ってるんですか松井さん!?」

松井「リトル時代の力場くんの代名詞、ジャイロフォークです」

鈴木「ジャイロ……フォーク……?」

松井「いつ投げるのかと思っていたら、締めに持ってきましたね。何度この目で見ても惚れ惚れしますよ……」

 

 ジャイロフォーク投げる中坊とは……?

 

311:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 納得の化け物。

 

312:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 確かプロの万賀のお化けフォークが、実はジャイフォとかって言われてたっけ(現実逃避)

 

313:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 肩から膝の位置まで落ちたんですがそれは。

 

314:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 なんでひじりちゃんはジャストキャッチできたんですかね……。

 

315:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 地味にひじりちゃんの凄さが光る。

 

316:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 後逸ZEROで打撃上手いキャッチャーか。……推しの球団にほしい(迫真)

 

317:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 他の投手の時のリードも凄かったよな。

 持ち味引き出してるしピッチャー躍動させられてた。

 

318:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 おいw 参考記録扱いになるんだろうけど一応完全試合だぞw

 パワプロにも触れてやれw

 

319:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »318

 プロがシニアで暴れて恥ずかしくないの?

 

320:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »318

 はよプロ行け。

 

321:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »318

 むしろメジャーいけ。

 

322:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »318

 コイツを一年間封印してた規定有能。

 

323:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 試合終了ー! 八王子シニアはトラウマですねクォレハ……。

 

324:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ラストバッターの顔魂抜けとる……w

 

325:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 やっぱ……若者の挫折は……最高やな!(老害)

 

326:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 老害はしまっちゃいましょうねー。

 

327:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 そして人知れず鷲専が落ちるのであった……。

 

328:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 なんで鷲専が落ちるんですかねぇ……。

 

329:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 誰かパワフルズのスレが落ちてるのにも触れてやってください。

 

330:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 インタビュー、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

331:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あれは○○誌の葉山さん!

 

332:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 有言実行インタビューwww

 

333:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

葉山「――の葉山です。この日に向けてこのような練習をしていた真意はなんでしょうか?」

 

334:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 33−4

 

335:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »334

 お約束やるなよwww

 

336:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »334

 wwww

 

337:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

パワプロ「答えたくありません」

六道「専一が黙っていても、調べられたら分かるぞ」

パワプロ「あー……じゃあ、下手に騒ぎになる前に俺から言った方がいいのかな……。えっと、俺は元八王子シニアだったんですが、人間関係が複雑骨折して手に負えなくなったので移籍を決意しました。その時の蟠りがあの危険球に繋がっていたんだと思います。とはいえあんな事になったのには、俺にも責任があると思うので、彼らを責めるのは止めてやってほしいですね」

 

338:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ひじりちゃんがパワプロを名前で呼び捨て……?

 

339:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »338

 食いつくのそこ?w

 

340:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロの聖人ムーブ……。

 

341:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 顔良し性格よし野球天才……?

 

342:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 野郎ぜってぇ赦さねぇ!!(市山田)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




掲示板ネタ楽ちん過ぎてアカン…。
やはり多用は避けるべきそうすべき。
感想評価ありがとうございます。
両方のノビがえぐくて歓喜しました(小学生並みの感想)


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走者は皆ニュータイプ!

古巣の選手の名前由来
田井中(劇中名前だけ)たいなか→田と井の中の(かわず)
市山田(ピッチャー)しやまだ→じゃまだ→邪魔だ
弱木田(キャッチャー)よわきだ→弱気だ


アニメじゃない♪ので初投稿です。
ちなみに本日二度目の初投稿です(矛盾)


 

 

 

 うるせぇアニメだろうがとツッコんでいくRTA再開します。

 

 ――またしても対戦相手を蹂躙してしまいました……。

 

 28対0ですよ。2回戦目より点差はマシですが、完全試合ペースで叩き潰す大人げない試合展開でした。

 古巣の皆、正直すまんかった。これからの逆風にも挫けず野球辞めないでこれからも頑張れよ!(無責任な激励)

 ぶっちゃけ無双モードは最初は楽しいんですが、やり続けたらマンネリ化を避けられないので、あんまりやりたくないんですよね。なのでやはり、中坊時代の動画はこの大会限りとして、残りは別枠に上げます(掌クルー)

 大過なくイケばですが、流石にここまできたらもう大丈夫でしょう(慢心)

 

 で。今回骨の髄までしゃぶり尽くし、ボロ雑巾になるまで利用し切るつもりでいる、三回戦で撃破した対戦相手、古巣の皆さんの事なんですが。わたしとしてはですね、古巣の皆さんにこれといって怨みは無いんですよね。

 負の感情は皆無と言ってもいいです。恨み辛みは毛筋の先ほどもありませんよ。だってわたしがその気になって立ち回っていたら、彼らに恨まれずこの宮本シニアと同じような関係性を作れていた自信がありますから。

 その場合蛇島くんだけは弾いちゃう事になりますが、それはそれ、これはこれです。――なのに彼らが悪者になってしまったのはですね、ぶっちゃけあそこには聡里ちゃん目当てで入っただけで、彼女を攻略する以外はどうでも良いと思っていたからでして。襲い来る諸々のイベを踏み台に、聡里ちゃんと親密になるための場所としか思ってなかったからなんですよ。その旧チャートは死んだので火葬し、地下深くに埋葬したので今更未練など持ち得ませんが。

 で、おまけに他人の潰し方の狡猾っぷりが、本作ではパワーアップしてる蛇島くんがいるので、わたしがテコ入れしないと古巣の皆さんのモラルがダダ下がりしてしまいます。とにかく直接的な暴力や間接的な嫌がらせまで、あの手この手で潰しに来るんです。全部返り討ちにして聡里ちゃんの好感度の養分にできるから可愛いものですが、これは酷いという他ない堕落っぷりですよ。

 

 というわけで、わたしからのヘイトはゼロ。試合で蹂躙した分、そこそこの養分になってくれて良かったな程度の認識ですよ(邪悪)

 しかしこのままなぁなぁで済ませたら、かえってこちらに災禍が降りかかります。ので、心苦しいですが彼らには徹底的に破滅していただく。わたしだけならともかく、周りの皆に迷惑掛かったら嫌ですからね。

 

 わたしがこれからやる事を簡単に言いますと、叩いて潰して切り分けて塵の分別をきちんとして処理する、という感じですかね。

 

 パワプロくんはこれから大々的に表舞台に立ちます。その現れ方はセンセーショナルで、話題性に富み、パワプロくんの人柄を大々的に喧伝して、かつドラマ性がこれでもかって詰まってないといけません。

 プロになるにあたり、最初から注目を集めているのと集められていないのとでは、最終的なタイムに大きく響いてくるからです。なので如何にしてスター性を獲得するかに心血を注ぎましょう。

 そのためなら心を鬼にする事を嫌ってはなりませんし、ましてや自らの手を汚す事を厭うてはならないのです(マブラヴ並感)

 

 まず試合終了直後のインタビューで布石は打ちました。インタビューに来た葉山とかいう人に『()()を責めるのは止めてやってほしいですね』と複数形で言ってやり、故意死球は投手一人による独断ではない事を示唆しました。――ちなみにわたしが左投げ右打ちという、一見ナンセンスなスタイルでいるのは、こうした場面での故意死球を誘発し狙いを絞り易くするためです。もちろん野球的な意味もありますが。

 左投げの投手の肩や肘に当てれるなら美味しいからね、狙いたくなる心理を逆手に取るのですよ。で、誘発できたら故意死球は絶好球になりますので、来たらこれ幸いと狙い打ちます(暗黒微笑)

 

 なお本作では申告敬遠は出来ません。

 

 あれれ〜? なんでかな〜?(死神) 目障りな選手を潰すための手立てを残しておきたいのかな〜? そこんとこどう思います? オオガミとジャジメントの皆さん? おう、こっち見ろよ。

 

 ――話が逸れました。

 布石を打ち、マスコミの皆さんの関心と邪推を買い、インタビューを受けたら包み隠さず話しつつ、パワプロくんにも非があるんだよ〜(嘘) 彼らを責めないでやってね〜(善人) というムーブを行ないます。

 するとマスコミの皆さんは悪の発掘と断罪という大義名分を掲げ、わたしが何かをするまでもなく勝手に古巣の皆を調べ出します。テレビ中継もされてる大会での暴挙ですからね、連日連夜の報道とインタビューで古巣の皆は精神的にフルボッコされていきますよ。んで、マスコミの皆さんの根掘り葉掘り調べまくるスタイルは、悪として古巣の皆を叩きたいが故のものなので、万が一パワプロくんに都合の悪い事が分かっても目を瞑ってくれる素敵仕様です。

 で、ですね。

 これだけでは足りません。わたしはパワプロくんの追っ掛けの女の子たちを利用します。普段めちゃんこウザったいんだからこういう時ぐらい利用させてもらいますよ。付き纏ってくる娘達との話に付き合ってやると、やはりというか故意死球の話題を出してきて話を聞いてきたがるんですよね。今ホットな話題だからでしょう、無神経な事だ……(すっとぼけ)

 

 わたしはそこで、仕方な〜く話しますよ。敢えて部分部分は暈して。するとどうなると思います? ……彼女達はファンクラブ()としての使命感を燃やして、自分達のネットワークに聞いた話を大きくして拡散してくれます。

 パワプロくんにそんな酷い事するなんて許せない() わたし達がパワプロくんを助けなきゃ() そしてあわよくばお近づきにグヘへ……。げに恐ろしきは集団となった女の子達である。自分達の行為を正当化デキたらどこまでも突っ走れる性質とか、狂気以外の何物でもないんだよなぁ……。

 そして今は、このホットな話題で視聴率やらなんやらを稼ぎたいマスコミの皆さんにインタビューを受ける率が高いんで、古巣の彼らと同じ学校に通っていたり、パワプロくんが転校前に通っていた学校にいた娘達はあることないこと騒ぎ立ててテレビの電波に乗るんですよ。ボヤ騒ぎ程度で済むはずの話題すら大火事になります。気分はサイコミュを積んだMSのパイロット、決め台詞はやはりこれ。イケっ、ファンネル達!(ファンの皆&マスコミ)

 

 特にファンネルで集中砲火され、叩かれているのは市山田くんですねぇ。故意死球二回連続は流石にマズイです。実行犯としてやり玉にあげられ、今や彼らの野球人生は終わったも同然ですよ。

 酷いなぁ。けど挫けたら駄目だゾ。まだ這い上がれるから(実体験) まあ普通は無理なんですがね……特にわたしの邪魔をしたり周りの人を巻き込まれたら堪らんので、骨すら残しませんよ(比喩)

 ここまでは順調です、後は自立式ファンネル達が勝手に対話()してくれて灰燼に帰してくれます。叩いて潰した段階ですね。次は切り分けて塵の分別をして処理する最終段階ですよ。

 

 ――試合から数日。次の試合が翌日に迫った夜。パワプロくんは一人で夜のジョギングをします。礼里ちゃんが付いて来そうだったので、ノックダウンさせてヤりました(意味深) 一人じゃないと駄目だからね、仕方ないね。

 

 すると、やはり来ましたよ。街道の曲がり角から金属バットの不意打ち。ひらりと躱します。

 

 古巣にいた頃にも襲撃してきた面子です、あんな目に遭ったら確実に来るのは確定的に明らか。一人になった所を狙いたがるのが見え見えなんだよなぁ。

 市山田を筆頭に――蛇島くんはやはりいません――あのシニアの中核たちが攻め込んできました。が、こっちは素手でも関係ありません。フルボッコしてやります。

 ペッ、雑魚が……わたしとて仮にも走者の端くれです、素人の群れなど相手にもなりません。途中で何か言ってた気がしますがどうでもいい。この展開も読み通りで笑いが止まりませんよ。この人たちなら絶対来るってわたし、信じてた! 後は仕上げに取り掛かって、はい終わり! です。

 

 呻いて地面に倒れてる人たちは、全員無傷。痛い思いしただけです。無傷での制圧とか楽勝でした。

 彼らは今、ある意味で一枚岩です。パワプロくんへの逆恨みという感情を共有していますからね。こういう手合いの粘着っぷりは、本人に来るならまだしも他の連中にも飛び火しかねません。わたしならともかく? ガードの付いてないチームメイトが狙われたら激おこ不可避ですし? わたしが彼らのケアをしてなかったせいでもあるんで、手心を加えて上げたいんですが、下手に手を抜くとマズイことになりかねないので容赦しません。

 

 ボイスレコーダーのスイッチオン。

 わたしは倒れてる彼らに向けて言います。一枚岩になってるなら、分断すればいいじゃない(アントワネット並感) コイツらの絆はボロボロなので簡単なんだよなぁ……。

 

「……お前ら、なんでこんな事するんだよ。俺は……! お前らの事、許したいって思ってたのに……!」

 

 白々しいな、おい(素)

 自分で自分の台詞にツッコミを入れたくなりますが、まあいいや。

 彼らの反応とか文句とか恨み言とかは耳に入れません。

 どうでもいいからね、仕方ないね。

 そんな事より早く()()を言うんだよ、おうあくしろよ。そのために市山田に集中して声かけてんだから。

 

「謝れよ。そうしたら、許してやる。今回のことも、黙っといてやるよ。なあ……俺にお前らを、許させてくれよ……」

「………」

「黙ってたんじゃどうにもならねえぞッ。お前らがどれだけ束になっても俺には勝てねえよ。いい加減、自分のした事と向き合って、謝れ。そうしたら世間も許してくれる。俺も今まで通りに許してやってくれって頼んでやるッ」

 

 上から〜目線で〜神経〜を〜逆なでる〜(音痴)

 お前らが下で俺が上だスタイル。おう、わたしの事許さなくていいからあくしろよ。

 ナチュラル煽りで市山田の苛立ち指数を刺激し続けておきます。そろそろかな? そろそろだろ。そろそろ……来たわね。

 

「うる、せぇ……! なんで、なんでだ……」

「あ?」

 

 市山田が屈辱と怒りでフラフラと立ち上がりましたね。ですが適度にボロボロなので思考が纏まってません。

 遂にあの疑問が、出て、出て……早く出せよもぉぉぉ!!(逆ギレ) こっちだって暇じゃないんだから。この後の予定も詰まってるんだから!

 

「なんで、二回も……避けれたッ!?」

「……あの死球の事か?」

「そう、だっ!」

 

 やったぜ。成し遂げたぜ。まあ市山田からすると当然の疑問ではあるでしょうね。普通基準だと打てるわけないし、打つ練習するわけもないですし。

 ニュース見る度に市山田は疑問だったでしょうね。なんでピンポイントで対策してるんだ、と。お前らが分かり易すぎるだけだよ(マジレス)

 その本音を隠し、わたしは沈痛な顔をして、市山田から目を逸らします。ここで繰り出すのは必殺の一撃。

 

「……連絡取ってたからだよ」

「は……? 連絡……?」

()()()()と。ほら……あの人、()()()だからな。もしかしたらお前が俺になんか仕掛けてくるかもしれねえからって、注意してくれてたんだ。でなけりゃ幾ら俺でもあんな完璧に打てたりしねえっての」

「蛇島……先輩が……?」

 

 分断。仲間の絆を分けて、断つのじゃ。今です!(孔明)

 ついでに煽っときましょう。

 

「蛇島先輩も、俺に愚痴ってた。お前、聡里ちゃんに惚れてたんだろ? その事で煽るような言い方をしてしまってたって。お前の事でも相談に乗ってやってた。……今更だけど、言っとくけどさ。俺と聡里ちゃんはお前らの思ってるような仲じゃねえからな?」

「……は?」

 

 市山田の根幹。ずばり横恋慕拗らせたイタい奴。市山田はパワプロくんと聡里ちゃんが付き合ってるとか思ってたんでしょう。それでどんどん拗らせて闇落ちした感じでしょう。他にもあるでしょうが根幹はそこですよ。

 なのでそこを叩き折っときます。なーに嘘は言ってません。市山田の思い到れる程度の仲じゃありませんから()

 

「聡里ちゃんはお前らの陰険なやり口に気づいて、嫌気が差してチームから離れたんだよ」

 

 プラス、パワプロくんに誘われたから移籍するのに付いてきてくれたんですがね。そっちが本命ですが嘘ではない。

 

「身から出た錆だ、馬鹿が。いいか市山田、俺と聡里ちゃん、()()()()はお前らの事が頭痛の種だった。()()()()()()()()()()()()()から良いようなものを、それがなかったらもっと大事になってたぞ」

「……あの、野郎……」

 

 別におかしな事は言ってない、はず。ですが市山田達にとっては違います。

 なんせ蛇島くんは外面だけはいいですからね。蛇島くんはチームの中で一番被害を受けてません。流石に強豪校への内定は取り消されるでしょうがね。

 とはいえ受けた被害はその程度です。いい先輩だからって我慢してて、なんであの先輩だけっていう思いを燻らせてたはず。市山田ならね。いや他の面子もか。蛇島くんによってモラルがズンドコに落ちてる面々は、恩義()があるから蛇島くんを逆恨みしませんでした。が、恨める要素が出たら話は別。

 

 蛇島くんのしてた事(してない)は彼らからすると密告です。裏切りです。コイツはめちゃ許せんよなぁ?

 (ちなみに蛇島くんとは連絡とか取って)ないです。嘘は嫌いなんですが、これから本当にしていくのでまあええやろ(外道)

 

「もうこんな事はするんじゃねぇぞ。マスコミとかが来たら、俺はとにかくお前らを擁護する。実際気にしてないし。いいな、もうこれ以上は変な考え起こすんじゃねえぞ」

 

 捨て台詞のように言って、市山田たちを放置して帰りまーす!

 おっとその前に寄る所があるんでした(すっとぼけ)

 確かこっちだったはず。んー……走って走って走ってー……着きました。表札には『蛇島』とあります。メインの人達の家の位置情報はインプットしてるわたしに抜かりはありません。

 インターホンを押しーの。郵便受けにボイスレコーダーと予め用意してたメモ用紙をドンッ!(投函)

 

 人が出る前にすたこらさっさと退散です。後は歩いて帰りましょう。

 

 蛇島くん、わたしのメッセージ、聞いてくれるかな?(乙女)

 ドキドキしちゃう……。

 

 てくてくと歩きながらこの行為の解説でもしときますかね。

 

 あのボイスレコーダーにはわたしと市山田くんの遣り取りが入ってます。あれを聞いたら保身に長けてる蛇島くんの事、メモ用紙に書いてあるパワプロくんのスマホの番号に速攻で掛けてくるでしょう。

 なぜって? 市山田くん達のヘイトが自分に向くからです。

 市山田達の心理として、強い奴は避けたい負け犬根性の持ち主。そんで精神的にズタボロで、パワプロくんからは肉体的にズタボロにされました。これは勝てないと確信した市山田達は、かといって逃げるのはカッコ悪いと思う。なので勝てないパワプロに挑むより、名分のある弱い方へ流れていきます。

 その弱い方が蛇島くんなんですよねぇ。なんせ蛇島くんはパワプロくんに内通してた裏切り者(嘘)です。叩くには充分なターゲットにされますよ。善人ムーブしてたのが仇となったな……。

 しかもパワプロくんは本人達に直接『弁護してやる』的な事を言って、逃げ道を用意してくれるという印象も煽りながら刷り込んでます。落ちるとこまで落ちたら振り切れるのが人の情――しかし、蜘蛛の糸。落ちた先に垂らされたそれを見つけたら、助かれるなら助かりたいと願うのも人の情です。

 

 纏めると、

 

 1,パワプロには勝てねぇよぉ!!

 2,けど芋引くのはヤダよぉ!!

 3,パワプロはおれらを助けてくれる……?

 4,じゃあやめよう(チキン)

 5,でもこのままじゃ虫の居所が悪いから蛇島(パワプロの仲間)締めてやろうぜ。裏切り者だしメチャ許せんよなぁ?

 

 ――というわけです。

 

 とかなんとか解説してたら着信音。相手は非通知。蛇島くん、おひさー!

 

『……力場くんですか』

「おう、久し振りに声が聞けて嬉しいよ、先輩」

 

 口調だけ素で応対します。口調だけですからね? 心にもない台詞ですから。なので汚い言葉が出ても聞き流してくださいお願いしますなんでも島村!

 にしても、かなーり苦々しそうな声ですねクォレハ……。気持ちは分かりますよ、幾ら善人ムーブをしてたおかげで被害を最小限に抑えられても、評判の悪くなったチームの所属というのはかなり痛い。

 そのせいでせっかく内定が決まってた強豪校への推薦取り消しされたでしょうしね。強豪校ほどそういう風評被害は恐れる傾向が強いですし、蛇島くんは有り体に言って切られたわけですよ。そりゃ機嫌も最悪になるでしょ。

 更に最悪を更新したのが、このパワプロくんのやり口です。わたし? わたしはわるくないよ。わるいのはパワプロくんだよ……(責任転嫁)

 

「俺のプレゼントは気に入ってくれたか? いつぞやの借り、十倍にして返させてもらった」

『いきなりご挨拶ですね……それはいったいなんの話ですか? あのボイスレコーダーも……話がまるで見えてきません』

「ボンクラの真似なんかしなくたっていいぜ。俺は全部分かってる。アンタが自分より目立つ才能を目障りに思う質で、周りの奴らの妬み嫉みを助長して俺を潰そうとしていた事。あの試合で市山田の単細胞を使って俺の肩を壊そうとした事。全部な。すっとぼけたって意味はねえって……もう分かってるよな」

『…………』

「アンタ、詰んだぜ。俺が詰ませた。高校の内定消されたろ? それだけで済ませたんじゃ、俺の腹の虫が収まらねえんでな。ついでに目障りな雑魚どもをけしかけてよ、アンタを物理的に潰すようにしてやった。潰されるのは肩か膝か……それとも腰かな? いやいや全部っつう欲張りセットもあるかもな。頭殴られんのだけはガードしろよ? 死にたくなけりゃな」

『な……にが……。……何が、目的です』

 

 流石に声が震えてますね。蛇島くん、かなり悪知恵が回るんですが、まだ中3ですし仕方ない。あのボイスレコーダーを聞いて、パワプロくんの言ってる事が現実になると悟ったんでしょう。かなり恐怖を覚えてますよ。

 更に恐いのは、良い子ちゃんだと思って舐めてたパワプロくんが、自分よりも遥かに狡猾で悪辣だったことでしょう。パワプロくんがやったのは蛇島くんのやってた事――ちっちゃなチームのスケールから社会のスケールにグレードアップしてからの仕返しですからね。そりゃ怖くもなるというものです。分かりづらいなら少年野球やってたらメジャークラスが叩き潰しに来たというニュアンスで理解してください。

 ですがまあ、わたしも鬼ではありません。蛇島くんは利用できるので、とことんまで追い詰めた今、わたしの手駒に飼い慣らしてあげましょう。飼い犬ならぬ飼い蛇になるなら助けて差し上げる(イキリ)

 

 ……いや子供相手にこんなイキり方するとかクソダサいんで二度としたくないなこれ(素)

 

 イカン、素になったら駄目です。酔え、酔うのだ……! 自分に……! そしてイキれ、中二病の如く……! それがこの世界のジャスティス……!

 

「自分がこれからどうなるか、理解しただろ? 助かりたけりゃ俺の言う事を聞け。アンタは性根は糞だが、才能だけはあるからな」

『……?』

「俺からアンタに提示するメリットは二つだ。一つは市山田達に狙われねえ、狙われても撃退できるガードが付く事。今一番気に掛かってるのがそこだろ」

『……ええ』

「二つ目。プロへの道をまた開いてやる事。――野球、好きなんだろ?」

『………!』

 

 蛇島桐人。ぶっちゃけ内野手としては、メイン勢の中でもトップクラスに優秀です。過去作では勧善懲悪的なノリのパワプロシリーズですが、パワポケ要素の混じった本作だとそのハンディキャップが外れてるんで、蛇島くんはかなり極悪な立ち回りを可能にしています。なので――例えば……うーん、かなりの古典での例えで恐縮ですが、2018年版のパワフェスとかで絡みのあった冴木創さん。彼女を嵌めて故障させるのに過去作では失敗しますが、本作だと九分九厘成功させるんですよね。しかも嵌めてきたのが蛇島くんだと悟らせない、間接的な手口で。例えに出した冴木さんゴメンナサイ……。

 打撃能力も長ずれば非常に高くなり、能力だけならマジでチームの中核足り得るようになるんですよ。その嫉妬深さと執念深さが全力で足を引っ張ってるのがネックなんですが、それさえなければマジで味方として欲しい。

 

 が、改心してない蛇島くんを同じチームに置くのはナンセンス。中坊時代はこうして手玉に取れますが、様々な経験を経て成長されると割と手古摺らされる事が多々あるんですよね。しかも本作のパワプロくんポジからだと改心させるのはかなり厳しい。RTAだと時間をかなり食うのがまず味でしかない。

 なので徹底的に叩き潰して関わらないようにするのがベストなんですが。もう一つ別の形のベストな選択肢があるんです。

 それが今、わたしのしてること。すなわち未熟な内に叩いて首根っこを抑えつけ、苦手意識を植え付けて上下関係を作り上げる事です。そしたら改心してなくても蛇島くんを味方に引き込めます。しかも改心してないので、もしどこかで後ろ暗い事に手を染めなきゃならなくなった時は利用できる頼もしい暗黒星人と化すのです。

 

 蛇島くんは頭が良いですからね。ですが頭が良すぎるのも考えもので、自分に付いたガードの存在が、そのまま自分の首輪になると勝手に思い込んでくれます。何せ蛇島くん視点だとパワプロくんは自分より上の『悪』ですから。

 

 ――で。そんな蛇島くんも、野球への情熱は本物だったり。プロになりたいしプロの世界で活躍したいという思いは強い。そのために対抗馬を潰そうとしてたりするわけですよ。

 今の蛇島くんは、強豪校への推薦が取り消され、途方に暮れてます。今更よその強豪校が自分を取ってくれるわけがないとも理解してますね。なのでプロへの道はかなり狭まったと悲観的になっていて、高校、大学、社会人リーグと舞台を移してもプロへの道は絶望的に遠のいたと考えている、と。

 そんな中でのパワプロくんの台詞。これは彼にとって殺し文句です。

 

「どうする? 俺の出す条件を呑むか?」

『……まだデメリットと、条件を聞いてませんが?』

「呑むのか呑まねえのかハッキリしろよ。デメリットは自分で考えろ。条件は呑むなら教えてやる。――まさか先輩、アンタは俺と対等な立場でお約束ができるとでも思ってんのか?」

『……呑みましょう。どのみち私は詰んでるんですからね。市山田たちが私を襲うのを、防ぐ手立てが思い浮かばない。警察? 学校? 親? そんな薄い守りで安心などできない』

 

 嫉妬深さと用心深さが等号で結ばれる蛇島くんの思考形態だとそうなりますよね。うんうん、分かる分かる。

 

「んじゃ、条件を言う。簡単だ、まず進学先は聖タチバナ学園高校にしろ」

『聖タチバナ……? 今から受験をしても……いや、ギリギリなんとかなる、か……』

「なるさ。そこにはあおいちゃん――俺のいるチームのエース様が入学する。もちろん、その次の年には俺も。これだけで分かる事があるだろ?」

『ッ……! 今回の件の被害者である貴方と親密さをアピールすれば、私への世間の見方が変わる……!』

「そうだ。アンタはあのシニアで唯一俺の味方だった、ってふうに見られる。そしたら風評被害はゼロになるし、プロへの門戸も再び開かれるだろうよ。それがメリットの一つだ。もちろん下手な真似は何もせずに、良い子ちゃんにしてなけりゃなんねえけどな」

『……ええ、分かってます』

「守備位置はファーストにコンバートしといてくれ。他はほとんど埋まる予定だ。俺の力は分かってるだろ? 今の聖タチバナに野球部はねえけど、俺や俺の仲間が入ったら甲子園も狙える。そこにアンタが加わるとなれば尚更だ。無名の高校が甲子園出場、そんで優勝……プロになりたいアンタからすると、まさしく逆転サヨナラホームランだろ」

『……他の条件は』

「先輩後輩なんざ関係ねえ。俺が上で、アンタが下だ。言いたいこと……分かるよな」

『フ……フフ……ええ、ええ。分かりましたよ、ボス。貴方が私の飼い主になるというわけだ。そして私に付けるというガード……それがそのまま私を見張る首輪になる、と』

「分かってるじゃないか。言っとくが、ガード要員の身の上を詮索すんなよ? そんな真似をしたら反抗してきたと見做すぞ。ケガ……してもいいってんなら、お好きにどうぞって言ってやるがな」

『冗談キツイですよ……私は自殺志願者ではない。やれやれ……とんだ怪物に手を出してしまったようで……』

 

 諦めたように笑う蛇島くん。

 うん、そのガード要員ね、実は橘さんとこのガードなんだ。だから詮索されたらそのままただのガードだって露呈するだけなんですよね。間違ってもわたしの言いなりになる駒じゃないんです。

 とはいえそんな事は蛇島くんには分かりません。今の蛇島くんには、パワプロくんが謎の人員をガードに付けられる怪人物に見えてることでしょう。そのパワプロくんの不興を買えば身の安全の保障がなくなり、ガード要員がそのまま処刑人に早変わりすると思ってるので、詮索は『絶対に』しない。蛇島くんは慎重派で、見えてる地雷を踏むような馬鹿じゃありませんからね。賢いって事がそのまま罠を突破する武器になるとは限らないという例です。

 

「アンタのガードになる奴は、一度だけアンタに顔を見せに行く。不審者と間違われたら堪らねえからな。その道のプロだから雰囲気の違いで分かるだろうぜ」

『……それは、今夜には訪ねてくるのですか?』

「ああ。んじゃ……良い子にしてろよ、先輩? 今度は来年……チームメイトとして会おうぜ」

『ハ、ハハ……そう、ですねぇ……』

「心配しなくても、俺は優しい。従順なやつには、な……」

 

 言って、電話を切る。んで、ガッツポーズ。

 

 ッシャオラァ! 闇野フルボッコに使える人材確保ォ! 手を汚せる暗黒星人が誰か欲しいなと思ってたんでこれは嬉しい収穫ですよ。

 とはいえこのままだと片手落ちです。すぐに電話を掛けます。今度は橘さんのいるオフィスビルに。

 受付さんが電話に出ると、力場専一から話があると橘さんに伝えてくださいと丁寧にお願いします。すると暫く待たされて、はい、橘さんが直接電話に出てくれました。

 

『こんばんは、力場くん。どうやら大変な事になってるみたいだね』

「こんばんはです、橘さん。ニュースの件でしたら大丈夫ですよ。周りが勝手に騒ぎ立てるせいで迷惑はしてますが」

 

 挨拶は大事。古事記にもそう書いてある。

 テキトーに雑談して場を温めて、それから話を切り出していきます。

 

『それで……突然連絡をくれたのはどうしてかな?』

「一つ困った事がありまして。最近のニュースでも流れてるアレで、俺の先輩が困った事になってるみたいなんですよ。なのでその事で助けて欲しくて電話しました。虫の良い話で恐縮なんですが……お願いします、助けて下さい」

『構わないよ。君には借りがある。それを返せるならお安い御用だ。流石に無理な事は無理だけどね?』

「無理な相談だったら諦めて、他の手を考えますよ。……お願いを聞いてくれますか?』

『聞かせてほしい。他ならぬ君のお願いだ、出来る限り善処するよ』

「……実はさっき、古巣の元チームメイトから闇討ちされたんです」

『……なんだって?』

「一人でジョギングしてたんですが……ああ、一人になりたかったから橘さんや木村さんの付けてくれていたガードさんは撒きました。俺が勝手にやった事なんで責めないで上げてください」

『……一応、彼らもプロのはずなんだけど。それを簡単に撒いてしまえる君に私はどう反応したものやら……』

「柳生さんが俺に執心してる理由ですよ、それが」

『なるほど……納得した』

 

 サンキュー柳生ジッジ。名前出すだけで話が進む進む……。

 

「で。闇討ちされたのを返り討ちにしたんですが、ソイツらが先輩に逆恨みしてるって事が分かりましてね」

『把握した。つまりその襲撃犯達を逮捕して少年院に叩き込みたいと――』

「違います。そこまで大事にしたくありませんので」

 

 むっ、と口ごもる橘さん。ぽややーんとしてそうな雰囲気なのに過激だなこの人も……。分かってましたけどね。

 とりあえず要点を纏めてお伝えしましょう。

 パワプロくんは、元チームメイトにも正道に立ち帰れるチャンスを上げたいので、下手に刺激せず蛇島という先輩にガードを付けるだけに留めて欲しいとお願いします。で、蛇島くんは今、とってもピリピリしてるので、こっちも刺激しないようにパワプロくんの名前を出して、ガードに付くから安心してねと伝えて欲しいとお願いしました。

 橘さんは笑ってOKを出してくれます。これで貸し借りはなしだねと。もちろんですよ。ぶっちゃけ貸し借りとか使う宛はないんで。必要だったのは面識と、ファーストコンタクトで得られた印象のアドバンテージだけでしたし。

 

 後は……今回の件で関わってる人の相関図を頭の中で並べ……思考パターンを想定して……うん。クリアですね。蛇島くんの封じ込め&対闇野部隊員&普通に野球仲間の補強もデキました。この手の計算をしくじった事はないので安心してくれていいですよ。綱渡りでしたが、ミスる要素はないです。

 

 あー……疲れた。なんで野球ゲーでこんなに暗躍ムーブしてんですかわたしは。野球させろ(憤怒) させて(懇願) それもこれも全部パワプロって奴の仕業なんだ!(集中線)

 

 というわけで本日はここまで。また次回も見てくださいね! ばいばーい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか忘れてる……あっ、解説……(間抜け)
ま、まあええやろ……()

感想評価本当にありがとうございます。
まさか日に二万字イケるとは……前話は掲示板ネタなんで実質五千字ぐらい? なら一万五千ぐらいでしょうか……。
流石に疲れましたので寝ます。お休みなさいませ……。


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秋季大会準々決勝・好敵手の猛追

登場人物多すぎて個別に脚光浴びせられないンゴ……。
せや! 一話で全員を均等に出そうとするから駄目なんや、
一話区切りにメインを張る娘を替えてイケば……もっと絡める!
個別間の関係性を描いたりとか……!
そういうのを高校編からやりたいと思いました、まる

個々のキャラが影と個性が薄味な風味だと気づいたので初投稿です。


 

 

 

 

パワプロ:というわけで、蛇パイセン勧誘しといた。

 

 寺っ子:待つのだ。何が『というわけで』なのだ。

 

合気の気:センくん? 蛇パイセンというのは、もしかして蛇島先輩の事?

 

パワプロ:そうだぞ。

 

合気の気:遂に狂ったのね……私が付いていたら正気に戻せたのに。

 

パワプロ:ナチュラルに狂った扱いされる俺氏、遺憾の意を表明。

 

彼岸島雅:ガァァァ! ガァァァ!

 

パワプロ:雅様どうした(笑)

 

彼岸島雅:マイブーム彼岸島ムーブイマ見てる。

 

合気の気:ラップ調?

 

パワプロ:それに手を出してしまったのか……。

     雅様の事だからネタアニメ版だろうけど。

 

マリーン:( •̀ㅁ•́;)誰の影響なんだろうね……。

 

彼岸島雅:話が分からないで僕困惑。知らない人にも分かる説明求む!

 

パワプロ:蛇パイセンは古巣の善良な人。ナカーマ。

 

三日月娘:今北産業よろしくぅー!

 

パワプロ:(・д・)チッ 空気嫁。

 

三日月娘:露骨な舌打ち!?

 

レイリー:レイリーは俺の嫁? 唐突な告白に戸惑いを禁じ得ないな。

 

 寺っ子:そんな事言っていないぞ( ・ิϖ・ิ)?

 

パワプロ:嫁の字しか合ってねえぞ。

 

合気の気:蛇パイセンとは、センくんや私の古巣にいた先輩。黒幕。以上。

 

三日月娘:把握。合気の教えてくれる優しさに、

     2ちゃんねるのレスバで荒れた心が癒やされたわ……。

 

マリーン:三日月娘なにしてるの……。

 

三日月娘:ウチのチームで誰がNo.1ピッチャーか議論があったんです……。

 

三日月娘:もちろん私は可愛いサイドスロー娘を推しました!

     最強はあの最可愛ピッチャーで間違いなし!

 

パワプロ:おっ、そうだな(対面上位者面)

 

マリーン:うんうん、そうだね。エースは別の人だけどね。

 

ヒロピー:じゃ、あたしは二番で良いよ(ニッコリ)

 

パワプロ:!?

 

マリーン:?!

 

三日月娘:!?

 

 寺っ子:強かに育ったなヒロピー(後方正捕手面)

 

レイリー:話は脱線事故を起こしてるが。

 

合気の気:話戻す?

 

ヒロピー:蛇さんは黒幕。その認識でOK?

 

マリーン:OKだよ。というかパワプロくん? それだとさ、

     蛇がボク達と同じ高校に来る事しか解んないよ。

     ちゃんと説明して。ボクだけ先に蛇と過ごしちゃうんだよ?

 

パワプロ:説明か。実はさっきの事なんだけど、

     ジョギングしてたら襲撃受けたんだった。市山田とかに。

 

 寺っ子:!?

 

レイリー:!?

 

合気の気:?!?!?

 

彼岸島雅:??????

 

三日月娘:はいぃぃぃ???

 

マリーン:待って。ねえ待って。

 

ヒロピー:大丈夫なの!? それ!! ケガとか!

 

パワプロ:八人いたので平均半秒ずつでノシたからへーき。無傷だぞ。

     相手も俺も。

 

合気の気:肝が冷えたわ……。

 

三日月娘:ですよねー。たった八人でキャップ襲うとか自殺志願者なの?

 

彼岸島雅:ガァァァ! ガァァァ!

 

マリーン:また雅様が発狂してる(笑)

 

彼岸島雅:待って! なんで襲撃されたのに平然としてるの!?

     八人も来たのに!? これ僕がおかしいの!? ねえ!!

 

 寺っ子:何もおかしくない。おかしいのはパワプロだ。

 

マリーン:うん、おかしいよね……色々……。

 

合気の気:センくんはバグキャラ。

 

三日月娘:バグと言えば、この間キレッキレなダンス踊ってたわね。

     動画撮ってツイッ○ーに上げたらバズったわ……。

     ダンスも上手いとかどうなってるのキャップ……。

 

ヒロピー:あのダンスって文化祭の時、クラスの人とやったんだよね。

     眼鏡の男の子も動きキレてた。あと賢そうな()青髪さんも。

 

パワプロ:え、なに? あの動画勝手にupしてやがったのかお前。

 

三日月娘:あっ。

 

マリーン:やっちゃったね……。

 

パワプロ:今度、踊ろうか……ソロで。禊は必要だよな?

 

三日月娘:カタカタカタ(((;゚;Д;゚;)))カタカタカタ

 

パワプロ:むしろシニアの皆で踊るか? カメラマンは監督で。

 

ヒロピー:いいね!

 

彼岸島雅:ガァァァ! ガァァァ!

 

 寺っ子:雅様それやmてほsいぃぞ(笑) 笑って手が震える。

 

彼岸島雅:僕だけ仲間外れヤダァ! 仲間に入れてよー!

 

ミカぁ!:仲間外れはワタシもです……あ、今来ました。

 

パワプロ:何やってんだミカぁ!(挨拶)

 

ミカぁ!:止まるんじゃねぇですわよ……!(挨拶)

 

マリーン:キボウノハナー(挨拶)

 

 寺っ子:ミカはすげぇよ……(挨拶)

 

三日月娘:あ、チョコレートの人だ(挨拶)

 

レイリー:ウザいな(挨拶)

 

ヒロピー:パンパンパン(挨拶)

 

彼岸島雅:可愛いと思ったから(挨拶)

 

合気の気:次は何をすればいい?(挨拶)

 

ミカぁ!:ダンスの件、ワタシにお任せを。

     ホットでポップでキレッキレなのを撮りましょう!

     ここのワタシ達、パワプロ様のシニアの皆さん、

     女性陣、男性陣、全員の分で五つですわ!

 

パワプロ:任せた(腕組)

 

彼岸島雅:際限なく脱線していってるけどなんの話だっけ。

 

パワプロ:明日の試合の事じゃね。

 

ヒロピー:あたしが先発だよ! けどその話じゃないよね(´-﹏-`;)

 

合気の気:誤魔化されないから。

 

 寺っ子:それで、何がどうなったら蛇を誘う流れになるのだ。

 

パワプロ:色々あったんだよ色々。

 

パワプロ:俺のイケメンな顔に免じて許してくれ。

 

パワプロ:許せ。

 

マリーン:え、偉そう……。

 

三日月娘:O○E P○E○Eの海○女帝並みに背筋反り返ってそう。

 

パワプロ:市山田とかに逆恨みされてる蛇を庇った。蛇改心した。以上!

     明日に備えて寝る! 皆も寝ろ!

 

ミカぁ!:露骨に端折ってる部分が多いですわ……!

 

彼岸島雅:そういえば明日も試合なんだっけ。

     いいなー。僕も試合出たい……。

 

パワプロ:雅様は高校まで封印される運命。

 

彼岸島雅:やーだー! 僕だけ仲間外れなんてやーだー!

     彼岸島に封印なんてひどいよー!

 

パワプロ:しょうがねぇなぁ。

 

パワプロ:どう足掻いても雅ちゃんに出番ねえし、今度デートすっか。

 

彼岸島雅:えっ。うん。うん? デート!? わかたたねしむにしねる

 

パワプロ:誤字(笑) わかった楽しみにしてる、かな?

 

合気の気:(〈●〉〈●〉)ジー

 

ミカぁ!:恐い! 恐いですわ合気さん!

 

パワプロ:綾。言葉の綾だから。

 

マリーン:………。

 

三日月娘:デートって言葉簡単に使うからこの男は……。

     みずきちゃんとかいう最可愛美少女とは何回デートしたっけー?

 

 寺っ子:( ・ิϖ・ิ)フーン?

 

パワプロ:遊ぼうって誘っただけだろ? なんでこんな空気になるんだ?

 

合気の気:鈍感系主人公のフリしても無駄。

     覚悟完了。当方に殲滅の用意あり。

 

 寺っ子:明日はカカシの刑だぞ。

 

レイリー:パワプロ、後で話がある。

 

パワプロ:カタカタカタ(((;゚;Д;゚;)))カタカタカタ

 

パワプロ:そういえば明日の試合の後、猪狩のとこが試合やるな。

     楽しみ。

 

合気の気:話題逸らし露骨過ぎ。この事は明日追求するからそのつもりで。

 

パワプロ:蛇パイセンの事だろ? 分かってるってちゃんと説明するよ。

 

彼岸島雅:デート楽しみだねパワプロくん!✧(๑•̀ㅁ•́๑)✧

 

パワプロ:言葉の綾だって言ってんだろうがコラ!

     ここぞとばかりに煽ってんじゃねぇぞコラ!

 

 寺っ子:普段他人にマウンティングしてるから、

     流れが来るとやり返されるのだぞ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


秋季大会準々決勝・好敵手の猛追

 

 

 

 

 ――アスリートの中には自らの経験則に則り、自分だけの儀式的所作を持つ層が一定数存在している。

 

 儀式的所作とは、場に即したメンタルモデルを起動するスイッチである。

 所謂ルーティンワークと言われるものだ。それはここぞという局面で集中力を研ぎ澄まし、最高の力を発揮できる精神状態を作り出す、自己暗示の一種と言えるものである。

 たかが自己暗示、思い込みに過ぎないものだろう、などと軽んじられるものではない。身体を鍛え、技を磨いた人間ほど、心の強さという漠然としたものの大事さを痛感する事だろう。

 極度の緊張状態に陥ると実感する。緊張した人間は、最高のパフォーマンスを発揮する事は至難である、と。心技体を高次元で揃えなければ届かない領域があると、自ずと悟ってしまう瞬間が必ず訪れる。故にこそ、心を強く持つ事の大切さ、如何にして心を強くするかの術を、著名なアスリートほど揃って説くのだ。それを単なる精神論と片付けるのはナンセンスだと言える。

 だが現実問題として、心を鍛えるのは至難を極める。何せ肉体とは違って、目に見えて成果が出るわけではないからだ。故に自分の動作に暗示を込め、自らの動作に紐づけてメンタルを整えるのである。

 

 猪狩守の求める最高の性能は、マウンドの上でこそ発揮されねばならない。故に守もまた、意図的に自身のスイッチを作り出した。

 

 守のルーティンは帽子の鍔の位置を調整し、ロジンバッグを触る事。

 簡単で誰もがやっているような動作で、最善の精神状態を呼び覚ませるようになっている。力と力、技と技、そして駆け引きの世界だ、自身が集中している事を悟られるのは得策ではない。

 相手の集中を乱す手段はそれなりに存在しているからだ。そのような合理的な判断から、守のそれは才覚に反比例して平凡なものに落ち着いている。

 

『お待たせしました。20☓☓年ミズチ旗杯関東連盟秋季大会準々決勝、横浜北シニア、対、佐倉シニアの試合を間もなく開始いたします。横浜北シニアのスターティングメンバーは、

 一番セカンド、冴木創さん。

 二番サード、項関羽(コウ・セキウ)くん。

 三番ピッチャー、猪狩守くん。

 四番ショート、友沢亮くん。

 五番ファースト、武秀英くん。

 六番レフト、呂布鳳仙(ロシク・ホウセン)くん。

 七番センター、鏡空也くん。

 八番キャッチャー、猪狩進くん。

 九番ライト、新島早紀さん。

 ――以上九名が守備位置に付きます』

 

 背後を守る三年生は、たったの二人。残りは全員二年生で、捕手の進に至っては一年生だ。

 横浜北シニアは完全なる実力主義である。年功序列などという古臭い、カビの生えたような旧時代の遺物は存在しない。

 故にこの世代でもトップクラスの選手達で固められたこのチームは優勝候補として目され、事実としてチームの総合力は一、二を争うものだろう。

 

 猛禽が、悠々と空を舞っている。

 

 猪狩守はマウンドの上からそれを見上げた。頭の中は次の試合で当たる相手の事で一杯だったが、頭を振ってその事を忘れる。今は、目の前の相手を叩き潰す事に集中しよう。

 投球練習を簡単に終わらせ、後ろを振り返る。そして全員の顔を見渡して、守は気負うでもなしに言い放った。

 

「打たせて取る。いつも通りミスなく完璧に処理してくれ。この試合も四回で締めて、次の相手のために体力を温存しておきたいからね」

 

 コールドで終わらせる。その宣言に横浜北のナインは薄く笑った。当然だとでも言うように、あるいは単純に守の強気な発言に。

 正面に向き直ると、左打席に入った相手打者が、苛立った様子で守を睨みつけていた。それに失笑する。相手はここまで勝ち抜いてきたチームだが、油断さえしなければどうという事もない相手だと見做している。

 それは天才の驕り。上を見るばかりで、下を見ようともしない傲慢さ。だが天高く飛翔する鷹を、地を這う蟻が捕まえられる道理などありはしない。

 

(一回戦の木場を打ち砕き、二回戦では33点差で完封。三回戦は28点差でパーフェクトゲーム――ライバルであるこの僕のチームに、同じ事ができないはずはない。できる、僕たちなら)

 

 元々高校では、自身の集めた最強の選手を集めようと思っていた。

 だが幸運な事に、この横浜北シニアの面々は才能豊かな人材の宝庫で、ほぼ全員が守と同じ高校――暁大付属高校に来てくれると約束してくれた。

 中学の三年間と、高校の三年間を共にするチームメイトだ。既に信頼関係は十全のものとなっている。

 唯一約束を取り付けられなかったのは、一番セカンドの冴木創だけだ。彼女はストイックに自分を鍛える一流選手だったが、心に期しているものがあるようで、高校は別のところに進学するつもりでいるようだ。

 創は守も認める二塁手。脚は速く、守備も上手い。ヒットの延長で本塁打も打てる巧打者だ。彼女が抜けるのは痛いが、別に遺恨はない。

 

 プレイボール! と球審が告げる。守は帽子の鍔に手を触れ、視界の広さを調整し、ロジンバッグを拾って軽く握った。

 

 雑念が散る。守の意識と思考の全てが目の前に向く。

 精神力、集中力も消耗品だ。初回から消費するのは馬鹿げている。だがその馬鹿げている事を、試合中は常にやり通せるぐらいでなければ、守は己の目標に届かない事を知っていた。

 守は天才だ。自認するだけでなく、他者からも認められている。だがそんな自分でも未だに影すら踏めない怪物が存在した。その怪物を打ち取り、超えるには一球ごとに進化して、自分の100%を更新し続ける必要がある。

 力を配分する余裕などない。針の穴を通す制球、どれだけ延長しても投げ切るだけの体力、打者を惑わせる変化球と豪速球。これらを常に磨き上げる精神が、守に不屈の魂と極限の闘魂を齎していた。

 

 ――兄さん。相手の先頭打者は来た球に逆らわず、流して打つタイプです。カット技術も高く、速球に強いので気をつけてください。

 

(関係ない。流し打てるというなら、是非実演してもらおうじゃないか)

 

 偵察班、分析班から受け取ったデータを咀嚼し、余さず記憶している進は、守がマウンドに向かう前にそう言っていた。

 だがそれがなんだというのだ。守は不敵に口元を緩め、ゆっくりと両腕を掲げる。――ワインドアップ。一般に球威を上げる効果があると言われるが、実際はそんなに関係ない。しかし守は好んでワインドアップをしていた。

 見栄のためだ。しかし単なる見栄ではない。それは相手に猪狩守を印象づける手段でしかなく、大袈裟で大仰で印象的であるほどに、打ち取られたら守の力を思い知らせる事が出来るのだ。要するに――相手の心を折りたいのだ。折れた相手ほど、食いやすい獲物はいない。

 

 初球。オーバースローで投じられる守のそれは、ストライクゾーンのど真ん中に向かった。打者は一瞬困惑する。だがここまでの試合で守のデータも把握されている。もしやと思い、絶好球に見えるそれを見逃すと、チェックゾーンでそのボールは小さく落ちた。ストライクカウントが一つ増える。

 スプリットフィンガー・ファストボール――SFFだ。球速は129km/hで、打者のバットの芯をズラし、ゴロに打ち取るのが主目的の変化球である。それを見逃して、打者は鼻を鳴らした。

 簡単に振ってやるかよ、と。後続の為に球筋を見るのが先頭打者だ、守の球種は既に割れているが、今日の調子を見極める為にも粘り、そして打つ。体力の温存などという甘い考えを打ち砕いてやると打者は思った。

 進からの返球を受け、守は進のサインを見る。そして頷いた、配球の意図が読めたのだ。

 

(僕の球数を多く食いたいようだが。できるかな、君に? 下手に打てば胃もたれするよ)

 

 今度もど真ん中に、球速を上げたボールを投じる。それは直球と同じ回転、SFFよりも球速は5km/hは速くなっている。体感的にそれを感じ取った打者はスプリットではないと判断し、それをカットするべくバットを振った。

 ヒットを打ちにいったのではない。今日この日の、自身の『当て勘』がどれほどのものか確かめる一振りだ。カットしてファールにする技術に自信がある故に、打撃のタイミングを図る試金石にしようとしているのである。

 だが――その球は、打者のチェックゾーンに入った瞬間に、落ちた。

 

「……!?」

 

 当たりは平凡なセカンドゴロ。創は難なく捌いてファーストの秀英に送球。アウトカウントがこれで一つだ。

 二球目もスプリットだった。一球目が単なる釣り餌、二球目が初球の餌に掛からなかった魚を釣る餌である。眼鏡を掛けた巨漢の秀英からボールを投げ渡されながら、守は人差し指を立てて全員に示す。この調子だ、と。

 打者は唇を噛みながらベンチに戻り、二番打者と擦れ違い様に囁く。SFFがキレてる、ホップしないストレートはSFFだと見做した方がいい、と。

 頷いた二番打者が右打席に入る。相手の打線は左と右を交互に据えたもの。投手に慣れさせない打順が組まれていた。

 

 スタンダードなバットの構え。守はそれを見て、再び失笑する。こうした笑いは相手に不快感を与え、挑発として機能する。露骨過ぎたら流石に品が悪いが、守のそれは強気な心の発露だと解釈される程度だ。

 とはいえ打者からすると面白くはない。気に食わない奴だと睨まれる。それに涼し気な目を向けて、眼中にもないと大上段に構えると――少しムキになってくれる。未熟な相手なら簡単に処理できる程度に。

 

 初球は、またしてもSFFだ。先頭打者に投じた二球目と同じ球速とキレ。内角に落ちたこれを打者は見逃した。ワンストライクだ。

 

(進、どうだい?)

(ツーカウントまで見送ると思います。次はカーブを。その後は――)

(OKだ。打者二人を五球以内に抑えられたらまずまずとしよう)

 

 守は要求通りに緩い変化球を投じた。ストライクゾーンの外から外角に入るカーブ。変化量はトップギアのものより一段落ちるが、キレがよく打者はそれも見送る。慎重派な姿勢だ。

 それに守は薄く笑い、テンポ良く三球目を投じる。今度は139km/hの球速である。今度こそストレートだと見切って打者はバットを振り――また落ちる。引っ掛けた当たりはサードの目の前に転がり、三年の項が猛チャージを掛けて素早く処理した。ツーアウト目は、またしてもスプリットである。

 

 返球を受けながら、守は何気なくスタンドを見渡した。高校のスカウト、テレビのカメラマン、チームの応援団や一般観客。その他、よそのチームからの偵察やら何やら。賑わうそれらと、解説と実況のいる席。

 スプリットを習得したのは、変化球が三種類だけでは駄目だと思ったから。スライダー、カーブ、フォーク。それ以外でも勝負できるボールを増やし、かつ全ての球種のレベルを上げ続けた。そして――この大会からお披露目した新球種のスプリットの他に、もう一つ会得した変化球とも合わさり、守はさらなる進化を遂げたと見せつけねばならない。

 

「―――」

 

 ふと、守はレフトスタンドに、見知った少年を見つけて目を見開いた。

 それは、守の永遠のライバル。観客席で寛いで観戦しているその目は、守を見ていて。目が合ったと気づいたのか、ニヤリと悪戯っぽく笑った。

 それに自然と笑みが浮かぶ。これは、無様な内容は見せられないな、と。

 本当は隠しておくべきなのだろう。だが、関係ない。守は常に進化しているのだ。次の試合で当たるまでに、守は秒刻みで成長している。――好きなだけ見ていくといい、そのデータが次の試合までには使い物にならなくなっている事を教えてあげよう――守は会心の気迫を宿した。

 

 三番打者。名前はなんだったか――どうでもいい。相手が誰であってもやることは同じだ。守は進のサインに、首を横に振る。それを何度か繰り返して、進は兄の考えを察して仕方なさそうにサインを出した。

 それに頷く。ギアをトップに入れ守は振りかぶった。投じるのは145km/hの速いボール――コースはど真ん中。打者はその初球から手を出した。速い球に釣られてつい、といった様子。それでもジャストミートする軌道をバットは辿り、しかしそれはファースト正面に転がった。

 

 スプリット。

 

 アウトカウントが三つになり、攻守が入れ替わる。目を見開いて守を凝視する打者に肩を竦めて見せた。

 守の最高球速は、今のところ1()4()9()km/hだ。150の大台に、来年には乗れている自信がある。そしてその速球とほぼ球速差のないスプリットを、守は手に入れていた。

 手本としたのは――最高にして最強の敵、パワプロのジャイロフォークである。パワプロのそれを完全に真似する事はできなかったが、研究する過程でこの速い変化球を生み出せたのである。

 守は、天才だった。それも才能に胡座を掻かない、努力する天才で、際限なく進化する天才であった。

 

 ナイピー、と褒めてくるチームメイトに不敵に応じながらベンチに戻る。相手チームの投球練習を見ながら、ベンチにいる全員に――特に、自分が知る限り最強の同志である少年に向けて言った。

 

「――レフトスタンドに、アイツがいたよ」

 

 名前は出さなくてもほぼ全員が察した。察せられなかった者も、レフトの方を見て瞠目する。よくよく探そうとしなくても――オーラとでも言うべきものがある。それが自然と目を引き、その人物は遠目でもすぐに見つけられた。

 友沢亮が、震える。常の冷静さが崩れかけるほどの闘志に。創が打席に向かい、笑いながら言った。

 

「無様は見せられないな」

「どういう意味だい?」

 

 守の問いに、創は苦笑する。

 

「言ってなかったか。自分の先生だよ、あの人は」

「――へえ」

「リトルの時にね。ホームランの打ち方というものを教わった。――それを今から見せてこよう」

 

 初耳だ。まさか自分のチームにライバルから薫陶を受けた選手がいたとは。

 だが守は納得する。創のバッティングスタイルは、教科書通りのような基本的なスタイルだが、どこか――あの少年に似ている気がしていたから。

 果たして創は先頭打者でありながら、初球からバットを振っていく。強振で振り切られた金属バットは快音を鳴らし、ライトスタンドに叩き込まれた。

 おいおい、と二番打者の項が笑う。独特な苗字だが、純粋な日本人だ。長身痩躯に見えて、筋肉質な身体を持つ赤髪の三年生は、創とハイタッチしながら守に言った。

 

「――後輩に魅せられたんじゃ、オレも続かないわけにはいかんな。ホームラン競争だ――守、オレに続けよ」

「項羽先輩、そんな事言いながら扇風機になるのは勘弁ですよ」

「ほざけ。ホームラン以外は三振と同じだ。メジャーだと二番は強打者の打順だからな――世界クラスの一撃を魅せてやるよ」

 

 果たして項関羽――項羽とあだ名される、赤壁高校の監督の息子である先輩は、宣言通りにセンターへの本塁打を放って帰還した。

 それを打席の前で出迎えた守は、呆然とする相手投手を見て思う。

 

 次の試合が待ち遠しい、と。そしてその反面思うのだ。まだ早い、と。まだこの手はあの高みに届いていない。超えたと思えない。故に――燃える。

 

(パワプロ。僕の――僕達の敵になれるのは、この大会だとやはり君だけだ。負けるかもしれない、だけど――いつまでもこの僕の前を走れるとは思わない事だ)

 

 守は渾身の一打を放つ。友沢が続く。秀英が追い打つ。呂布鳳仙が強打し、鏡空也が適打を打った。

 進が守備の穴を突き、女子外野手の新島早紀が走者一掃のツーベースを放った――驚異の九打者連続ヒット。打者一巡して、なおノーアウト。

 準々決勝にして、なおも見せつける圧倒的な力の差。相手チームは既に愕然としていた。

 

 デモンストレーションはこれぐらいでいいだろう。守は――いや、友沢や創がレフトスタンドに目をやる。げんなりした風な顔は、確認した古馴染み達の成長速度に脅威を覚えてのものだろうか。

 

 だとしたら、久し振りに嬉しく感じられる。見ていろ、怪物。お前を玉座から打ち落とす日まで、僕達は決して止まらない――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ワンパターン蹂躙劇を避ける為に守くんサイドを描写したら蹂躙していた。何を言ってるか分からないと思うが作者にもよく分からない――

一度パワプロくんサイドの蹂躙劇を書いたのですが、あー……とげんなりしたので消してこの話を書きました。そのせいで遅れてしまい申し訳なく思います。ゴメンナサイ。

次の試合は勇者猪狩くん対魔王パワプロくんです。事実上の決勝戦。
その前に誰かさんとのお話を描いてワンクッション置きます。

たくさんの感想評価ありがとうございます。今後も楽しんでいただけるように頑張ります。


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生きろ、そなたは美しい

なんやかんや初投稿です(雑)


 

 

 

 

 ええい、公式の天才共は化け物なRTA再開します。

 

 たった今、横浜北シニアによる蹂躙試合が終了しました。点差は、おぉ、もう……と欧米チックに天を仰ぎたくなるので言葉にはしません。カメラを通じて自分の目で確かめて、どうぞ。

 あまりにあんまりな試合展開に、相手チームは真っ白に燃え尽きてます。コイツぁヒデぇや……! まあパワプロくんに言えた口じゃないんですがね。コイツも散々蹂躙して来た側の圧制者なので。

 

 さて、この試合を観戦していたら、一つの事に気づくと思います。いや二つでした。二つの事に気づくと思います(言い直し)

 一つは面子ですよ。サードとレフト以外全員ネームドってどうなってるの? それわたしが高校でやりたかった事なんですが……? サードとレフトはなんか凄く項羽と劉邦と三国志してる名前なんですが……赤壁高校の人?

 しかし赤壁高校に呂布とか項羽とかの名前をもじった人はいないはず。となると乱数で生まれる可能性の獣枠なのでしょう。

 

 ※説明しよう! 可能性の獣とは、どんだけ球速を上げカンストしてもジャストミートしてくる怪物モブ枠の事です。守くんの思考回路的に、打倒パワプロくんのために精鋭を募って「僕の考えた最強のチーム」を結成するはずなんで、多分高校でもあの面子固定でしょうね……。

 

 で、二つ目。なんと猪狩くん、好守に頼ってましたが、この試合で完全試合してます。四回でコールドしてるので参考記録扱いでしょうが――まあそれはどうでもいいです。わたしが指摘したいのはですね、この試合で彼、ストレートを投げてないんですよ。

 ライジングショット、ライジングキャノン。この二つのオリストを投げていない。普通のストレートもです。

 全部変化球ですよ。速い球の軸にスプリットを置いて、後はフォークとカーブとスライダーで打たせて取り、球数をかなーり節約して締めました。

 取り上げたいのはそのスプリットです。なんか球質がわたしのジャイフォに似てなくもないかな、かなりの劣化版やなって具合でして、これは勘ですがあの感じだと多分、最高球速とそんなに落差はない感じでしょう。そのスプリットが145km/hだったんで……今の守くんの最速は149ぐらいでしょうか。

 

 馬鹿かな? (野球)馬鹿だったわ……。いや球速上限を上げるのは別にいいんですがね(よくない) ライバルであるパワプロくん次第で、守くん高校だと155km/h超えてきますし。まあ想定の範囲内ですわ。

 しかし試合全体を見渡しての球数は少なくても、変化球十割ってお前……しかも相当無茶苦茶な練習を積み重ねてるんでしょうね、中2の時点で149ぐらい投げれるようになってるという事は、通常猪狩くんより三割増で練習量増やしてそうで……もうね、アホとしか言えない。投げれるのと投げられないのとでは大きな差がありますが、投げれるとしても絶対に超えてはならないラインはあります。投げてはいけないものがあるんです。

 

 現実はどうかは知りませんが、本作の比率としては変化球三割程度、直球七割程度が一番安全です。ケガ率的に。この配分をできる限り崩さないのが本作でケガしないコツなんです。あの調子で変化球ぶん回してたら肘ぶっ壊れますよ……? しかも149前後の最高球速とか、身体的に多投して良いものじゃありません。投げすぎると肩が壊れます。

 鏡を見ろ? パワプロくんはどうなんだ?

 そう思われるかもしれません。

 ですがパワプロくんは良いんですよ。超得『鉄人』持ってますし、変三・速七の比率を可能な範囲で守ってますし、ついでに140超えの球速は、一試合の中で直球を十割とした場合、一割から二割ほどしか投げてませんから。

 これでもですね、能力キャップ(超えられないとは言ってない)的に程々にリスキーですよ? どれぐらいリスキーかと言うと、過去シリーズのパワプロサクセス、練習コマンドで表示されるケガ率6%ぐらいリスキーです。パワプロの6%は実質20%から30%だってそれ一番言われてるから……。

 

 猪狩くんは下は見ず上を見る努力の天才です。が、あんまりにも上を見過ぎるもんだから、足元がお留守なのが玉に瑕……。このパターンはあれですね、猪狩くんはこのままだとぶっ壊れ、野手転向パターンに入ってますわ……。

 わたしのチャートの都合上、守くんに潰れられたら困るんですよねぇ。個人的に好ましく思ってるというのもありますが、彼の存在は様々な面で非常に有用なんですよ。で、野手になられるとうま味の一部が削れるというか。個人的にも合理的にも不都合なんですよね。なので……しゃあないなぁ。世話の焼ける男の子ですよ。忠告に行くとします。

 

 試合終了と共に席を立つと、聡里ちゃんがピタリと近くをガードしてくれますね。ちなみに礼里ちゃんと聖ちゃんもいますよ。傍から見たら美少女三人侍らせてるヤベー奴ですが、ここ周辺だと聖ちゃん達も女子選手として知られてるんで、普通にチームメイトだから一緒にいてもおかしくないと思われます。なのでそんなに目立たない……わけがない。美少女三人と今ホットな話題に包まれてるイッケメーンなパワプロくんですからね。メッチャ見られますよ。

 しかし野次馬根性丸出しの面々なんか眼中にないんで無視です無視。球場から出て横浜北シニアの面子が出てくるのを待ち構えます。その間に聡里ちゃんや聖ちゃん達に目的を伝えておきましょう。猪狩に用があると。するとパワプロくんが病的にケガ率に気を遣ってる事を知ってる面々は察してくれました。やっぱ……理解のある女の子は……最高やな!

 

 と、横浜北ナインが出てきましたね。まだこっちに気づいてません。猪狩守くんは……いました。よっしゃパワプロくんからの忠告を聞いて屈辱に打ち震えさせてやりますよ……!

 って、んんんぅー? なんか見覚えのある男の子……失礼、女の子が偶然こちらに気づきましたね。顔を明るくして駆け寄って来ましたが――

 

「先生! お久し振りですっ」

 

 ――誰だお前(素)

 

 いえ、誰かは分かってます。オールラウンダーな女子選手で、女性の中だと最優秀の一角との呼び声高き冴木創くんですね。ちゃん付けよりくん付けで呼んでしまう人ですよ。

 しかし初対面でしょ。なんで親しげなの……? なんで先生呼びなの……? 某所の人からセンセー呼びされてますが、ぱわぷろ時空で先生呼ばわりされる覚えはないんですが……?

 誰だコイツという目で聖ちゃん達に見られます。知らぬ。わたしの困惑が伝わりはしたようですが、彼女達はこちらに丸投げしてますね……一見少年に見えますし、ガードゆるゆるですよ……。

 確かに創くんは高校生になっても男の子と間違われますが、この娘も立派な女の子ですからね? 本人も別に隠してるつもりないですからね?

 

 創くんがワンコの尻尾を振りながらこっちに来たせいで(幻視)、守くん達もパワプロくん達に気づきましたね。驚いたように顔を見合わせてますが、すまんな。なんか創くんに対処しなくちゃならんので後回しにさせて下さい。

 

「あー……悪い。お前誰だよ?」

「えっ……」

 

 率直に初対面だろお前と告げると、かなりショック受けたように固まってしまいました。なんだコイツ(素) わたしの良心を殺す気か?カスが効かねえんだよ(無敵) 嘘です。すいません許して下さい!なんでもしますから!

 しかし流石は創くん。ホモをノンケに立ち返らせる罪深き女の子は察しの良さに定評があります。健全なるホモをノンケにするとか罪深すぎますよこの娘は……†悔い改めて†

 

 創くんはユニフォームの胸元から御守を出しました。首に提げてたようですが――君今どこから出した(食い気味) おっぱおから? おっぱおから出したの? それください(迫真)(ファ○チキください)

 

「自分が小3の時――リトルの時です。その時に会った事があります。その時は髪をポニーテールにしてましたから、今の自分を見ても分からないのは無理もないかもしれません。ですがこれを見たら思い出して頂けると思います」

「なんで敬語なんだよ……」

「先生は先生ですので。自分の中で最も尊敬する選手に、丁寧に接するのは当然の礼儀だと思います」

 

 なんだお前(困惑)

 言いながら創くんが御守の袋から紙を出しましたね。A4サイズの紙で、ヨレてますが丁寧に畳まれてます。それを広げてこちらに見せてきました。

 ……なるほど謎は全て解けた。この娘アレですわ。アレですアレ。ほらわたしってこれまでに、周りにいる子達を分け隔てなく指導してきてましたよね? リトルの時からも。どうやら創くんは小学生の頃はポニテで、自己申告ですが女の子っぽい髪型だったようですし、わたしが冴木創だと気づかないまま野球教室にいたらしいです。いや一応全員名前聞いてるんですがその中に冴木創と名乗った娘いなかったぞおい。苗字変わってるの? 複雑な家庭環境なんですかこの娘も。遭遇率低いはずだからどうせエンカウントしねぇと思って攻略wiki見てなかったツケですかこれが。後で確認しなきゃ(使命感)

 

 紙には……うん、確かにわたしの字で練習メニューが記述されています。

 女の子でもホームランが打ちたい! と野望に燃えてたリトル創くんに、こういう練習しなよ、毎日。これができるようになったら次はこれね、その次はこれね、といった具合に教えてたようです。

 まるでわたしのチャートの如く緻密なスケジュールです。

 これを守ってたとか、はえ^~すっごい律儀……。お前覚えとけよとツッコまれたら耳が痛いですが、流石にね、指導歴軽く十年行ってるし今回の周回以前からも何人も何百人も教えてきてるんで覚えてられるわけねぇですよ。

 

 で。

 

 創くん、どうやらパワプロくんを先生って呼ぶぐらい尊敬してくれてるようで。同い年なのに腰が低い低い……。嬉しくなる前に困惑不可避っすわ。しかも御守代わりにその紙を持っているとは……どう反応したら正解なの?

 紙見せられても「あー確かにそんな事もしたな」とはぼんやり思いますが、創くんの事は全く思い出せませんし。かと言って「思い出せない、ごめんね」と言えば、知らん間に立ってたっぽいフラグが折れそうな気もします。

 しゃあない、話を合わせましょう。創くんの事は知ってるんで、なんとかイケるやろ(震え声)

 

「完璧に思い出した。創か、お前」

 

 完璧に思い出した(大嘘)

 

「! 思い出してくれたんですね! これに書かれているメニューは全て熟せるようになりました。シニアに入ってからは通常の練習の他に我流で練習してましたが、高校からはまたご指導願いたいと思っていたんです。近くお会いしに行こうと決めていましたが、こうしてお会いできたのは僥倖、これを機会に連絡先を教えて貰えませんか?」

「お、おう……」

 

 グイグイ押してきますね。わたしとした事がつい頷いてしまいました。良いんですけど。むしろバッチコイですけど。なにこの……なに? 予定になかったエンカウントに戸惑いを隠せないオレガイル。

 スマホを出して連絡先を交換……凄くホクホク顔でスマホを仕舞う創くん。君そんな性格(キャラ)だっけ? ストイック・ザ・ストイックな創くんしか知らないわたしからすると、新たな一面を見せられトキメキを禁じ得ません。

 というか覚えてますよアピールのために、適当に名前で呼び捨てにしましたけど、どうやら普通に受け入れてもらえたようです。よかった……これで戸惑われたら恥ずか死ぬとこでした。

 

「悪ぃけど、今日はお前に会いに来たわけじゃねえんだ。話はまた今度にしてくれ」

「そ、そうでしたか……すみません。では、自分はこれで。今度は自分から連絡入れますので、その時はよろしくお願いします」

「お、おう……」

 

 その丁寧語と低姿勢やめてくれる……?(震え声) 背中が痒いです。

 しっかしあの創くんがね……こうも敬われるキャラじゃないんですけどね、わたし。ですが昔教えてあげてた子が成長して、こうして感謝してくれると胸に込み上げるものが……いやいや今はしんみりしてる場合じゃない。

 切り替えていきます。とりあえず片手を上げて守くんに声を掛けましょう。

 

「よう、猪狩」

「――なんだ。冴木じゃなくて僕に用があったのか」

 

 なーんでそこで嬉しそうにするんですかね……お前ホモかよぉ! まあいいや。彼らも帰る頃合いですし、あんまし長く引き止めるのも悪いです。ので、チャチャッと本題を話して終わりましょう。

 進くんに荷物を預けてこっちに歩み寄ってくる守くん。チラ、と聖ちゃん達を見ますが、守くんこれを華麗にスルー。パワプロくんに視線を固定……(視線が)アツゥイ! 熱視線でやけどしちゃう!(裏声)

 

「次の試合は、僕と君のチームの試合だ。負けるつもりはない――勝ちに行かせてもらう」

「そりゃ誰だって負けるつもりで勝負はしねぇだろ」

「むっ……それは、そうだが……パワプロ、もしかして怒ってるのか」

「おう、よく分かったな」

 

 正統派なライバルムーブで宣言されますが、そのテンションに付き合う気はありません。いつもなら青春してるなぁ! という感じでノッてるんですが、生憎そのテンションが適用される用件じゃないんで。

 眉を落としてこちらを見る守くんきゃわいい。流石天才ですよ、頭の回転が早い早い……パワプロくんの声のトーンで何か怒らせるような事したかなと自分を顧みてますね。

 

「……すまないが、君を怒らせるような真似をした覚えはないね。どうしてそんなに怒ってるのか教えてくれないか?」

「ああ? マジか。自覚なしかよコイツ……あのな、投手の中で一番俺に近い力を持ってんのは猪狩、お前だ。猪狩は俺のライバルなんだろ。そのライバルが潰れるかもしれねえってのに、怒らないわけがねえだろうが」

 

 ……あのね? なんで嬉しそうなの? パワプロくんにライバル認定されたのがそんなに嬉しいの? そういえば守くんからはライバルと何度も言ってたけど、パワプロくんからはそんなに言った事はないからかな?

 それよりパワプロくんの発言に耳を傾けてくださいよ。怒ってますアピールで怒気纏ってるんですけど?

 しゃあないんで、露骨に溜め息を吐いて見せます。すると守くんは気を取り直してくれました。

 

「僕が潰れる? 肩と肘のケアにはかなり気を遣ってる。そうそう故障するような事はないさ。心配し過ぎじゃないか」

「ばっかお前、ほんとお前……ばっかじゃねえの?」

「むっ……」

「どんだけ気をつけていても、ケガする時はするんだよ。ケアだって万能じゃねえ。まだ身体も出来上がってねえってのに、背負う必要のないリスクを背負うのはナンセンスだ。いいか猪狩、俺にとってもお前にとっても、シニアは通過点だ。俺はプロになる、それまでに潰れちまうのは勿体なさ過ぎるぞ。全力なのは結構だけどよ、体壊さない立ち回りぐらい覚えろよ。それぐらい熟した上で天辺(テッペン)獲れる力がなけりゃ、お前が俺に追いつくのなんざ永遠に無理だ」

 

 よし、これぐらい焚き付けたら充分ですね。返答を聞く必要はありません。さっさと退散しましょう。

 聡里ちゃん達を促して帰宅します。こちとら試合の後ですしね。

 や……パワプロくん、準々決勝ではただのカカシだったんですけど。全打席敬遠&レフトに球来ないで立ちっぱなしENDだったんですけど。まるで疲れてないんで、休んでほしいのは聖ちゃん達なんですよね。

 パワプロくんに付き合わないで先に帰ってても良かったんですが、どうも市山田の一件を報告したせいか心配されてるくさいです。大人しく付き添われておきましょう。

 

 ちらりと後ろを伺うと、守くんはこっちをジッと見てました。進くんがそんな兄貴に駆け寄って、真剣な顔で何事かの遣り取りをしてますね。

 変化球中心の配球だったのを話し合ってるのかな? 守くんは素直じゃない人ですが、本気で言えば聞く耳は持ってくれますし……ケガだけはしないでほしいですね。走者的にも、一ファンとしても。

 

 というかふと思ったんですけどわたし、原作の守くんムーブしてない……? ライバル面してツン発言し、その実、内容は相手を気遣ってるデレ発言だったりするの……?

 いやいやそんなはずは……よそう、これ以上はドツボに嵌まる気がします。だから聡里ちゃん達、その生暖かい目はやめるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




クッション薄いのでまだ挟みます。準決勝は少し待って下さい…!


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有名税は犯罪行為を正当化しないんだからね!

三人称視点なので初投稿です。


 

 

 

「――ウゼェ」

 

 放課後間近。案の定と言うべきか、それとも飽きもせずによくやると呆れるべきなのか。校門の外には既に、他校の女子やマスコミの群れが待ち構えている。教室の外の廊下では、自然を装って何度も行き来する女子もいた。

 堪らず漏れた悪態には、鬱になる寸前のような深刻さが窺える。精神的タフネスも相当なものであるはずの彼も、流石に連日連夜ストレスに晒され我慢の限界を迎えそうになっているようだ。

 報じられた私生活の素顔。丁寧で知性を感じさせるメディアや自称ファンへの応対。窺える周囲からの人望の厚さ。学業に於いても学年トップである眉目秀麗な少年と、縁深い見目麗しき少女たちや、それを取り巻くチームメイト達との関係。自称クラスメイトの仲が良いという嘘証言からのデマ情報の発信。ありもしないデマの拡散、デマを否定する代わりに暴かれる真の情報。将来のスターと目され注目を集めた代わりに、早くも芸能界や球界、果ては政界の重鎮が人気取りのために握手してそれをカメラに撮らせる客寄せパンダ扱い。好きな球団はどこで将来入るとしたらどこが良いのか、好きな食べ物は、血液型は、誕生日は。親への直撃インタビューや幼少期どのように育ったか、リトルではどう過ごしたのか。――数え出したらキリがないほど、次々と有名税を取り立てられていた。

 

 古巣のシニアとの確執を取り沙汰するマスコミのインタビュー。マスメディアに露出した事で認知度が増し、急増した女性ファンの追っ掛け行為。家にまで付いてくるストーカー化したファン。道を歩いているだけでスマホで写真を撮られる上に、身の回りの少女たちとの関係を邪推する声がインターネット上で拡散し、なぜか彼女を自称するメンヘラ女が襲撃してきて、聡里に取り押さえられ警察沙汰になったり――そうした事が日常茶飯事となっているのだ。

 

 どれもに大人びた姿勢と態度で応じ、柔和に答え、古巣の面々を一貫して庇い続けたお蔭か、今やその少年の人柄は丸裸にされるに至っていた。

 


 

 ――真面目にウザいですね、これはウザい。ところでこの時代のジャパンはいつからストーカー行為が合法化されたんでしょうね? ストーカー共は犯罪行為に手を染めてる自覚をしろ。ストーカーも真っ青な、個人情報を暴き立てて飯の種にしてるマスゴミは死ね。氏ねじゃなくて死ね。あと会った事もない女の子からいきなり彼女面されたのは初めてで流石に怖かったです(小並) 知名度上がった代償は覚悟してましたが、時間が経って落ち着くのを待つしか無いとかクソですわ。わたしは平気ですが周りの子は大丈夫? 変に関係拗れたりしない? まさかここまでの大事になるとは、読めなかった……このわたしの目を以てしても! って読めるかァァァ! 前の周回だとこんな事にならなかったですよね!? なんでこうなったんですか誰か教えろ下さい!

 


 

 パワプロは荒れていた。ジリジリと心の余裕を削られるほどに。

 

 言うまでもないが、パワプロは恵体である。肉体の成長はまだ終わらず、身長は180cmの間近に迫っていた。このまま順調に身長が伸び続けたなら、最終的には190cmを超えるだろう。

 そして現時点でも筋肉量は最適な量を備え、無駄な肉は削ぎ落としているにも関わらず70kgを超えている。これほどの恵体である事に加え、荒事のプロからすると一目瞭然なほど『危険』な武力を内包しているのだ。そうした気配は抑えようと思って抑えられるものではなく、本人の存在感とも相俟って、さながら抜き身の刃物のような雰囲気を醸し出していた。

 ――人間もまた動物だ。どれだけ野生を忘れても、生物としての本能は僅かながら残っている。故にパワプロに対して大多数の人間は友好的になるのだ。

 親しくしておけば護ってくれる、敵対したら手に負えないと悟るから。そしてそうであるからこそ、大多数の女性は熱を上げるのである。パワプロはいわば人を安心させる大樹のような存在であり、その庇護下にいるべきだと動物的本能が疼くのだろう。そして――その鋭角的な容姿とも合わさって醸し出される危険な雰囲気が、一層女性というものを狂奔させ易くなっていた。

 普通の人間とは違う存在感。それを人は、スター性と呼ぶ。それを嗅ぎ取ったからこそマスメディアは彼の言動の一々に注目し、持て囃している。同時に下手な発言があれば揚げ足を取り、まだ中学生ですから(笑) と笑いの種にしようとするだろう。

 

 確かにパワプロは素の言動は『俺様』だが、細やかな気遣いを欠かさない中心人物だ。だが、だからこそと言うべきかもしれない。

 

 鈍感で、普段は身近にいない人間は気づかないだろう。パワプロは他人に対しては体裁を整えるから。

 だが身近な存在ほど、パワプロが荒れていると畏怖の念を抱いてしまう。鍵の掛かっていない檻の中にいる獅子が、いつ出てくるか解らないような恐怖感に駆られるのだ。なまじ内包する桁外れの武力が強すぎる弊害だろう。

 無論パワプロが人に八つ当たりするような男ではないと信頼されてはいた。しかし恐いものは恐いのだ。その感情は理屈ではない。必然的に、普段通りに接してくれるチームメイトやクラスメイト達も、パワプロに気を遣って距離を置くようになっている。パワプロの機嫌が早く直るように願いながら。

 

 ――しかし、それはあくまで身近にいるだけの人の対応だ。肉親や聖のような深い付き合いのある者、パワプロに近い領域に踏み込みつつある合気の達人の聡里などは、物怖じせずに話し掛けて『いつも通り』を過ごせている。

 そして一部例外は、そんなパワプロに対しても、極めて普通に接することができていた。

 

「グギギ……一躍時の人になったパワプロくんが妬ましいでやんす……! オイラも可愛い女の子達に追っ掛けられたいでやんす……! テレビに映ってチヤホヤされたいでやんすー!」

 

 その一部例外というのが、矢部明雄である。

 

 元の顔立ちはかなり良い部類なのに、そのお調子者な性格と言動、常に掛けている瓶底眼鏡で三枚目キャラになっている少年。その物言いが下手にパワプロを刺激しないか、クラスメイト達は傍から見ていて戦々恐々としていた。

 だが明らかに不機嫌そうで、荒々しい空気を発していたパワプロは、予想に反して矢部の台詞に笑みを溢した。荒れていた雰囲気が、微かに緩和されたのだ。

 

「……矢部くんよぉ。俺と同じ立場に立ったら同じ事言えねえと思うぞ」

「そんなの持ってる人間の戯言でやんす! 持たざる者の気持ちがパワプロくんに分かるわけないでやんすよ!」

「逆説的に、持たざる者は持ってる者の気持ちも分かるわけがないって事にならないか?」

「詭弁でやんす、同じ人間なら人の気持ちぐらい察してあげられるはずでやんすよ!」

「速攻で直前の台詞と矛盾していくスタイル、嫌いじゃないぞ。なら矢部くんも()()側に来いよ。そして俺と同じ気持ちになれ。なんなら俺が矢部くんをプロデュースしてやろうか? 矢部くんを一流選手に磨き上げる、最高に過密な練習スケジュールを組んでやる。分単位で管理して一年でシニアトップクラスに食い込めるようになりたいならな。そしたら矢部くんも注目の的になれるぜ」

「け、結構でやんす……そんな事されたら死んでしまうでやんす……オイラ、まだガンダーロボのプラモまだ作ってない……積んでるプラモを組み終えるまで死ぬわけにはいかないでやんすよ……」

 

 冷や汗を満面に浮かべ、ブンブンと首と手を振る矢部にパワプロは声を上げて笑った。矢部は人気者になりたくないのではなく、あくまで自分のペースを大事にしているようだからだ。

 人によっては矢部のようなタイプは鬱陶しく感じるだろう。しかしパワプロに限って言えば、むしろ矢部は好ましい人物だった。何せ良くも悪くも裏がない。そして自分に素直なせいで無自覚に友情を裏切る事はあっても、致命的なところでは決して裏切らず――友達のためなら労を惜しまない所がある。

 平凡な人生を送るとしても、矢部のような友人に恵まれたら、退屈はしない。一緒に馬鹿をしながらも、楽しい日常を送れる。頼りないから女子人気は低いが、男同士の友人としては最高の存在だろう。

 

 パワプロは薄く笑いながら矢部に言った。

 

「そういえばさ、矢部くんって高校どこに行く気なんだ?」

「ぅ……それを聞くでやんすか。まだ二年生でやんすよ?」

「もう二年生の間違いだろ。三年になってから考えてもいいけど、志望校を決めて今の内から備えていた方が後で楽になる。受験シーズンに入る前にあたふたする連中にマウント取りたいなら早く決めてた方が良い」

「出たでやんす! とことん人にマウント取りたがる、マウントゴリラ・パワプロくんでやんす!」

「うっせ。矢部くんが良かったらさ、俺と同じとこに来ないか?」

「へ? パワプロくんは野球の強い強豪校に行くでやんすよね? そういうとこの入試は難しいって相場で決まってるでやんすよ? 誘ってくれるのは嬉しいでやんすが……オイラには無理でやんす」

「大きな声じゃ言わねえけど――俺は聖タチバナ学園高校に行く。矢部くんが入試対策きっちりやってたら、入るのに手古摺らないと思うけどな。後なんで俺がそこに行くかって言ったら――」

「――待つでやんす! その理由当ててみせるでやんす。頭の切れるオイラには分かったでやんすよ。どうせマウント取りたいでやんすよね。その高校は野球だと無名でやんすし、そこで勝ち残って甲子園に行ってよそにマウント取ろうとしてるに決まってるでやんす!」

「正解だけど言い方がムカつく。俺と来い。来なけりゃその眼鏡を割る」

 

 理不尽でやんす!? 眼鏡はやめるでやんすー!

 そう騒ぐ矢部に、パワプロは機嫌を直しつつあった。

 矢部はふと、不思議そうに首を傾げる。

 

「……それより、なんでオイラなんかを誘うでやんすか? 野球ならオイラより上手い人はかなりいるでやんすよ……?」

「あ? あー……まあ、そうだなぁ。矢部くんも磨けば光るタイプってのもあるし、そういうのを抜きにしても友達とは仲良くしたいじゃん」

「と、友達……オイラが、パワプロくんの……?」

「え……もしかして違った? 俺が勝手にそう思ってただけ?」

「……ムフフ。そうでもないでやんす。オイラもパワプロくんの事は親友だと思ってたでやんす」

 

 パワプロから自然な口ぶりで言われ、矢部は密かに目頭を熱くさせる。

 勝手に友情を感じて、勝手に友達とは思っていた。だが――パワプロと自分とでは、生きている世界が違い過ぎると思ってもいたのだ。

 野球の天才で、学業でもトップで、外見も良くて、自分のようなオープンオタクとも仲良くしてくれる。パワプロと対等の友達だとは思えてなかった矢部は、だからこそパワプロの言葉に感銘を受けていた。

 友情の火は、矢部に欠けている向上心を与える。パワプロと対等の目線に立ちたいと、無意識に思うようになる。矢部は調子に乗って親友にランクアップさせた直後、内心「しまった」と思うが――パワプロは否定しなかった。それがまた、矢部に嬉しいやら気恥ずかしいやら、複雑でありながら純粋な喜びを与えていた。

 

 パワプロは不意に真剣な眼差しで矢部を見て、そして声をひそめる。自然と顔を寄せて耳を澄ませた矢部にパワプロは言った。

 

「――あと大っぴらには言えねえけど、ウチに来る予定の面子には女の子選手が多すぎるからな。試合の前の日とかに『女の子の日』が来てダウンされたら堪らん。俺の打算としては野郎も欲しい。聖タチバナで野郎を集めるのもいいが、そんなことするより野球経験のある面子がある程度いた方がいいだろ?」

「な、なるほどでやんす。女の子の日……盲点だったでやんすよ……ん? 女の子選手が多い……?」

「おう。ヒロピーだろ? 聖ちゃん、みずきちゃん、礼里ちゃん、あおいちゃんに雅ちゃん、鞘花ちゃん……他にも何人か」

「知らない名前まで……! ――行くでやんす! 男矢部、親友の頼みとあっては駆けつけないわけにはいかないでやんすよ! うぉぉぉ! でやんす。メチャクチャ勉強頑張って聖タ――むぐっ!?」

「声デケぇぞ! 志望校は関係者以外秘密にしてんだから抑えろ!」

「ご、ごめんでやんす……」

 

 大声で気合を発する矢部が口を滑らせ掛けた瞬間、パワプロがその口を手で塞いだ。矢部は気まずげに謝り、苦笑したパワプロが椅子の背もたれに身体を預けた。 

 

 パワプロは密かにほくそ笑む。本当に調子の良い奴だと。扱いやすいったらない。高校に行ったら嫌だと泣き言を言えなくなるまで鍛えて、レギュラーにも見劣りしない、よその中心選手とも遜色のないレベルまで引き上げよう。

 それは皮算用ではあるが、矢部の潜在能力を知っていて、同時にそんなものなど関係なく信じられる何かを感じている。勘違いだったとしても、見込み違いだったとしても、それはそれで構わないとパワプロは思っていた。

 

 ――このほんの少しの間だけ、パワプロの顔から険が取れていた。諸々の面倒な手合の事を忘れられたのだ。

 

 とはいえすぐに思い出して対策を考えさせられる事になるのだが、パワプロは辛抱強く嵐が過ぎるのを待つつもりでいる。ま、なんとかなるだろ、と楽観ではなく確かな根拠を持って構えられる精神的余裕を取り戻せた。

 だが――パワプロが堪えられても、パワプロに親しい者も耐えられるかと言えば、答えは否だ。耐えられたとしても、外的要因で躓く者がいないと言えるかというと、それも否である。

 

 


 

(準決勝を前に、一際強い凶風が吹いた)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヒロインの話を書こうとしていたら矢部くんの話を書いていた。何を言ってるか分からないと思うが作者にも(ry

面白い、続きが気になると思って頂けたなら感想評価等よろしくお願いします。


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聞こえの悪い神頼み、そのに

休日ぐっすりゴロゴロしてたらデータが消えていた。何を言ってるか分からないと思うが作者にも何を起こったのか分からなかった。頭がおかしくなりそうだったので初投稿です。
前話ラストを微妙に修正しました(小声)


 

 

(準決勝を前に、一際強い凶風が吹いた)

 

 ――吹くわけねえだろと叫ぶRTA再開!(咆哮)

 

 実は本動画を元ネタに小説書いてみたとかいう人がいてですね、大変光栄な事なんですが、前回動画ラストの結びにこの一文が使われていたんで、否定しておかねばならないと思ったのです。

 というのもですね、それだとわたしのリスクヘッジがガバガバのガバだと、一部界隈を中心にあらぬ誤解が広まりかねないじゃないですか。わたしがガバをしたってどこに証拠だよ!(錯乱)

 

 それはそれとして矢部くんは癒し枠、はっきり分かんだね(ねっとり) 彼と話していたら肩から力抜けますしわたしにとっては程良い精神安定剤じみた役割を果たしてくれます(早口)

 仕様上倍速とかデキない辛さよ……矢鱈と長いプレイ時間の関係上、プレイヤーは如何にしてモチベーションを保つかについても考慮しなければなりません。野球の試合しかプレイしない勢には関係ない事ですが、サクセスを含めた野球人生を歩むならやはり不可欠な心構えでしょう。よって精神安定剤的な交流も地味に大事な要素になるのは、一度でも本作の野球人生を歩んだ方にはご理解頂けると思います。実際やる気は大事よ?(指摘)

 

 で、現在パワプロくんは放課後の教室にいます。同じ学校の娘達と固まって帰るためですね。矢部くんとかちーちゃんとか、その他のクラスメイトには先に帰ってもらいました。迷惑掛けちゃいますから。

 みずきちゃん? 彼女はお花を摘みに行ってますよ(微笑)

 今は一人の時間がデキてるんで、ちょいとした考察をしとこうかなって思います。今更何を考察する必要があるのかというと、前周回――つまり試走している時と本番の違いを羅列して、なぜここまで世間様がパワプロくんに熱を上げてるのかを解明する必要があると思ったからです。

 

 試走の時のパワプロくんは、当然ながら本名は力場専一ではなくもっとありふれた名前でした。どうでもいい? ですよねー。

 で、試走パワプロの能力値は、同時期だとこの周回のパワプロくんより一回りか二回り弱かったです。聖ちゃんも礼里ちゃんもいなかったからですね。顔はランダムで作ったらデキたカワイイ系で、顔面偏差値はこの俺様パワプロに匹敵してなくもなかったと思います。筋肉で例えるなら、アウターマッスルとインナーマッスルぐらい違いました。

 『いいヤツ』かつ『人気者』『モテモテ』で、『センス◎』と基本的なとこも押さえて。聡里ちゃんを攻略しーの、聡里ちゃんから超得と経験点吸い上げーの、円満に別れて美香ちゃんに乗り換えーの、雅ちゃんヒロピーあおいちゃんみずきちゃんひじりんの順番で出会いましたね。礼里ちゃんにもアタックしましたが前の周回では玉砕してます。幼馴染になったのは前々回ぐらいです。

 

 纏めると、

 

 ・試走パワプロは俺様パワプロより一回り弱かった(ステ的には)

 ・試走パワプロに初期の相棒枠はいなかった。

 ・『いいヤツ』『人気者』『モテモテ』『センス◎』は標準装備。

 ・試走パワプロも俺様パワプロとほぼ同じ√を走ってる。

 ・むしろ『女の子パラダイス』『モブ女子彼女枠利用』デキてた分、試走パワプロの方が旧チャート通りに動けていた。

 ・俺様パワプロで旧チャートが死に、オリチャー発動した原因は聖域勢を攻略してしまった事。聖と礼里がいたから? それは関係ないと思います。あの二人がいなかったとしても、条件的に他の娘が攻略済みになるだけかと。

 

 で。

 試走パワプロも、マスメディアを利用して知名度を上げるという事はしていたんですよね。ですが試走パワプロは俺様パワプロほど、世間様に熱狂される事はありませんでした。そりゃファンとか一気に増えたりテレビ放送局のインタビューを受けたりはしましたけど、明らかに今回ほどの関心は持たれていなかったんですよね。なんで?(棒読み)

 考えられる要因は、冷静に纏めるとあんまりありません。

 ずばり古巣と俺様パワプロを巡る因縁。俺様パワプロと共に野球をやってきた礼里ちゃん達という、カメラ映えもする美少女達の存在。現在のチームメイト達との関係や、秋季大会での故意死球二連続事件勃発に至る流れ。

 これらに試走パワプロ時を上回るドラマ性を見たが故に、マスゴミ達は餌としての魅力を強く嗅ぎ取ってしまったのでしょう。――が、これだけだとまだ説明がつかないと思います。

 

 色々ありますが、やはり一番大きなイレギュラー要素は、わたしが発見してwikiに載った――そう、わたしが発見してwikiに載った! 『モテモテ』の上位能力『LOVEPOWER』でしょうね。間違いない。

 

 『モテモテ』は女の子からの好感度が稼ぎやすくなる能力です。顔面偏差値と評判が良ければ、初期から好感度は高い状態になり易いですね。

 しかし実際にモテるためにはそこそこ努力しなくてはなりません。気に入らない事したら好感度も普通に落ちるので。ですんで減点不可避な行動や雑な対応をしてたら距離を置かれるのは必定です。

 興味や関わりの薄い相手には、ぶっちゃけあんまり効果ありません。ですが『LOVEPOWER』――わたしはこれに関しては、単に『モテモテ』の効果が強化されてるだけと思ってたんですが、どうもそうでもないようなんです。

 だってですよ、見た事も会った事もない娘から彼女面されて、パワプロくんの周りの娘をお邪魔虫認定し、物理的に排除しようとするメンヘラ女になるとかおかし過ぎます。つい先日までは極普通に暮らしてきた普通の女の人が、ラリったみたいに襲いかかってくるとか異常でしょ? で、様々な角度からこれを検証した結果、驚くべき効果が浮き彫りになってきました。

 

 出現したメンヘラ娘。基本的に雑な応対しかしてないのに、一向に減る気配のない校内外のファンクラブ。脈なしである事を告げても離れていかないで、ファンでいられるだけでいいとか言う、気合の入ったファンクラブ会員二桁番内の娘達――恐らくこの『LOVEPOWER』は、特に何もしてなくても好感度が微増していき、些細な事でもアップしていくのだと思われます。例えばテレビとかに映ったパワプロくんの言動が、見てる側にとって好印象だっただけで効果が及ぶのではないでしょうか。

 

 ……呪いかな? 呪いだわ(確信)

 

 周知の事ですが本作には神様が実在しています。特に本作の世界観の成り立ち――と言うと大袈裟ですが、野球が他のスポーツを淘汰し産業やらなんやらに深く食い込んでいるのは、その神様の影響という事になってるんですよ。

 『野球神』とかいう神様なんですが、これは過去シリーズのパワプロで、正月にお参りするとプレイヤーに加護という名の経験点を与えてくれたり、攻略対象の好感度を上げてくれたり(!?) 秘めた才能を開花させてくれたりする大変有り難い存在です。プレイヤーが経験点を任意で振り、ステを弄れるのはこの神様がパワプロくんを贔屓してるからという裏設定があるようですね。少なくとも本作では。

 で、この『LOVEPOWER』をくれた経緯から分かるように、守銭奴でもあるんで、贔屓してるパワプロくんからお金を貰えると、二回だけ加護を奮発してくれる感じです。誰も彼もがPS高いわけじゃないんで、ステと特能である程度のゴリ押しができようにするための、育成時における救済措置でしょう。今回はそれによる恩恵が強すぎて裏返ったのかもしれません。

 

 加護が……裏返ったァ! 神様、パワプロくんは死ぬぞッ!(烈○王並感)

 

 この呪いを克服する方法は、現時点だと二つ考えられますが、『モテモテ』は浮気がバレたら無くなるので、それと似たようなことをやらかしたら『LOVEPOWER』も無くなるはず……と思いました。が、考えてみたらそれ無理じゃね? と思いましたです、はい。

 

 まず現時点で聡里ちゃん、聖ちゃん、礼里ちゃんの三人でハーレム状態ですし、このトライアングルを白日に晒すわけにはいきません。かといってあおいちゃん達を筆頭に、身近な娘をこんな事で利用するのも、今後を考えると有り得ませんね。で、モブ娘達。そちらも下手に手を出せば、ボヤが大火事になって消火不能になりかねません。仮に『LOVEPOWER』を剥がせても、その代償が消えない風評被害『最低なヤ○チン』とか笑えませんよ……最悪プロへの道が閉ざされるか、被害を抑えられてプロになれたとしても、球団の看板選手になる事は至難を極め大幅なタイムロスをしてしまう事態が予想されます。

 そんなん再走案件ですからね?(ガチトーン) というかプロ化までの育成ターンで躓くとか有り得ませんから。本番はプロになった後、風評被害やケガの類いは断じて見過ごせません。よってこの案はボツですボツ。

 

 ですのでこの呪いを打ち消すには、パワプロくんによる不貞行為で女の子を幻滅させるという手法は執らず、別の手段に訴えなくてはならないですね。

 

 すぐに思いついたもう一つの手は、神様にお祈りして剥いでもらう、という手。でもなあ、お祈り権利は後一回しか使えませんし……そのお祈りでわたしは別の事を祈ろうと考えてたんですよねぇ。ぶっちゃけ悩んでます……とても悩ましい。ですが背に腹は替えられないというか、敢えて採用可の策として数えていない方策で、みずきちゃんや美香ちゃんに魔の手を意図的に迫らせ、彼女達のパパン達に事態の収拾を付けさせるというのがあるんですが……わたしのエゴで彼女達に害を及ぼさせるのはちょっと嫌です(建前)

 紳士らしく本音で言うと、合理的に考えるならそれが良いように見えるかもしれません。ですがこれ、確実な手段とは言えないんですよね。何せ相手はマスゴミ……仮にも正規の企業の人達です。もし彼らに圧力を掛けて報道を止めさせたりしても、相手にはマスゴミ以外の一般層もいます。女性の皆さんが簡単に沈静化するなら苦労しません。その手を執ったがために余計にややこしくなる事も考えられますよ。何がどうややこしくなるかというと――おっとぉ?

 

「お待たせー」

 

 ガラリと戸を開けてみずきちゃん登場です。打たれ弱さMAXなみずきちゃんですが、今のとこヘッチャラでメンタルにダメージを負ってません。とにかく構い倒したり、パワプロくんが弱ってるふうに見せ掛けてたからですね。

 人間自分より弱ってる人見たら、心的負荷が多少はマシになるんですよ。そんな弱々しくなってるパワプロくんにこまめにケアされたら、そりゃメンタル強度も上がっちゃいますわ。一番辛いはずの当人が気丈に振る舞ってるってのに、こっちが先に音を上げるとか情けない! てな具合に。

 思い込みや妄想で実際に強くなれちゃうパワプロ時空で、メンタルの及ぼす影響について知悉しないで走るとか有り得ません。中坊メンタルを如何にして守るかちゃんと考えてますし、今の所は大過なく守護れてますね。

 

 どうやって守護(まも)ってるかというと、身近な人はみずきちゃんにしたように、普段の俺様ムーブの鳴りを潜めさせ、かつ微妙にイライラしてるふうに見せ掛け弱々のザコメンタルムーブをして庇護欲を煽り、「私が守護らないと!(使命感)」と思わせるメンタル強化策を実行してます。他にもチームメイトがインタビューで絡まれるのは、主に普段のパワプロくんに関して訊かれたり、そうでない場合はパワプロくんがいる時にわざと絡んで素を出させようとする感じです。前者はどうにもなりませんが、後者はパワプロくんが前に出てチームメイトに水が向けられないように立ち回れば被害は抑えられます。

 当座を凌ぐだけの解決策にはなってない対応ですが、ひとまずそれで被害は抑えられているようです。代わりにこっちの負荷が半端ないんですがね。友達の皆と放課後や休日に遊びに出たりもしてません。周りの目がえぐいんで。

 

 みずきちゃんが教室に入ってきました。既にパワプロくん以外はいません。チラリと視線を向けると、お馴染みの面子が揃い踏みしてますね。

 聖ちゃんと礼里ちゃん、ヒロピーとあおいちゃんと聡里ちゃんです。

 

「別に待ってねえけどさ……お前ら先に帰ってても良かったんだぞ」

 

 嘘だゾ。(言動が繋がって)ないです。

 待ってないと言うならパワプロくんが先に帰ればいいだけです。そしたらマスゴミと女子ファン達は砂糖に群がる蟻の如く付いてきますので、必然的にみずきちゃん達はフリーで帰れるんで。それしないで言われるがまま律儀に教室で待ってた時点で、実は一人で帰りたくないと思ってるのバレバレです。

 パワプロくんの覇気のない声に、みずきちゃん達は顔を見合わせて苦笑してます。ヒロピーがパワプロくんの肩を叩いて言ってきました。あおいちゃんとみずきちゃんも苦笑い気味に言ってくれます。

 

「あたし達がパワプロくんと帰りたいんだ。だってさ……ほら、困ってる友達をほっぽって行くような、薄情な人間にはなりたくないしね」

「下世話な話とか振ってくる人いっぱい居て困るけど、ボクも広巳ちゃんと同じ気持ちかな」

「右に同じ。ホントは先に帰っても良かったんだけど、修学旅行の時みたいに後からねちっこく言われたくないし? しょーがないから一緒に帰るかはさておき、こうして皆を集めてきてあげたの。感謝してくれてもいいわよ、キャップ」

 

 な、なんて優しいんだ。女神か? 女神だったわ……。

 

 実を言うと、精神的に参ってるのを隠そうと思えば隠せるんですよね。受け流してダメージ受けない立ち回りもできます。やろうと思えば(王者の風格)

 この程度どうってことない、平気のへいでへっちゃらさ、と。ですが敢えて外野の攻撃(直喩)を受けて弱ってるとこを見せてるのは、パワプロくんを完璧超人に見せないために、一度ぐらい弱い部分を見せておく必要があったからです。この局面も利用する……そう、合理的にね。

 

 考えても見てください。このパワプロくんは客観的に見ると、顔・センス・性格・勉学の四拍子が揃ってる完璧超人です。リアルにこんな奴がいてたまるか! とか。「俺の考えた最高にカッコイイ俺(笑)」と揶揄されること請け合いなキャラクター性ですよ。仮にこんな奴が実在したとして、欠点や弱点が欠片も存在しなかったら、例えどんなに好意的な心象を持ってる相手からも劣等感を抱かれて、次第にそれを膨らませ拗らせてしまうのは必然です。

 コイツはなんでも出来る、コイツは超人だ、コイツに負けるのは仕方ない、コイツはなんでも一人で出来るんだから自分は必要がない存在だ――と、思われてしまうのです。そして些細な失敗で失望してしまう人も出てくるかもしれませんし、仮に失敗とかしなくても劣等感を拗らせた結果、人間関係に爆弾を背負ってしまう事も有り得ます。よってそれを未然に防ぐために、本当に精神的に参ってる姿を見せておく必要があるんです。

 

 コイツでも弱る時があるんだ――同じ人間なんだ――と、感じさせる事で、一気に親近感が湧き、弱ってるパワプロくんに頼られる事で、自分は必要な存在なのだと密かな承認欲求を満たせてあげられるのですよ。

 パワプロくんのような超絶スペック野郎に頼られる。これ、例えどんだけ聖人でも優越感を覚えられるポイントです。

 肝なのは、ガチで弱ってないといけない事ですね。礼里ちゃんがいるから嘘が通じないとか、そんな超能力関連の話ではなく。誰をも完璧に騙せる演技力なんかは流石に持ってないので、真実を確実に半分以上――理想を言えば真実の割合は七割以上――混ぜておかねば、演技してると見抜かれてしまうリスクがあるんですよね。礼里ちゃんは目的がない限り人を読心しないという、人の良識があるんで下手に警戒する必要がないという事情もあります。

 

 女神な娘達と反比例しての屑っぷりよ……。失望したぞパワプロくん(熱い責任転嫁)

 

「こういうとこでパパに頼るのはホントは嫌なんだけど、流石に事情が事情だし、ここはこのみずきちゃんに任せなさい」

「……それ、いいのか?」

「自分の好みに拘って、キャップのこと見過ごすほど腐ってないわよ。ヘリで帰る? 影武者用意してダミーにする? それとも車で送迎してもらう?」

 

 選択肢にさらっと影武者とかヘリコプターが入るみずきちゃんマジお嬢様。

 みずきちゃんは過去作でもそうですが、お家がお金持ちなのにそうした家の金を使うのを嫌がって、お小遣いも一般的な家庭の子供が貰うぐらいの額に留めてます。だからお金をあんまり持ってなくて、パワプロくんとかにジュースを集ったりするわけです。

 過去作ではどうだか知りませんが、本作は細かいとこもかなり新解釈が入って掘り下げられています。本作のみずきちゃんは過去にお嬢様ぶってたせいで友達を失くしたのと、橘さんの溺愛&過保護っぷりにウンザリして、普通の女の子という奴に憧れてる面があります。まあ高校だと理事長勤めてる爺さんの孫の立場を利用しまくるので、割と緩い拘りといった程度なんですがね。根っこはお嬢様のままなのだ。

 

 みずきちゃんの好感度が足りてると、こうして手を差し伸べてくれます。遠慮せずその手を取りましょう。

 

「じゃあ、車で帰らせてくれ。……悪いな、みずきちゃん」

「気にしない気にしない。騒ぎが落ち着いたらパフェでも奢ってくれたらそれでいいわ。それじゃ人数分の車呼ぶわね」

「ごめんね、みずきちゃん」

「困った時はお互い様ですよ。あおい先輩達もウザったい連中に絡まれて嫌な思いしてるし、ああいうのは相手しないようにするに限りますよ」

 

 あおいちゃんにテキトーに返しつつ、スマホでパパンに電話するみずきちゃん。聡里ちゃん達もパワプロくんに配慮してるのか、あまり話し掛けてきません。近くに寄り添って立ってるだけ……この良い女ムーブ、JCとは思えん。

 さておき冷静に考えてみましょう。

 このまま放置してたら大事に発展しそうな気配がプンプンします。みずきちゃん達は一人の例外もなく、いつかは事態に収拾が付くと楽観してるようですが、時間が解決してくれる問題とは思えません。

 騒ぎの元凶がパワプロくんの『LOVEPOWER』にあるという予測が正解なら、ぱわぷろ(平仮名)時空にありがちなBADなイベを引き寄せたりする事は充分に考えられます。

 

 ……ちなみに神様(運営)へのお願い権の最後の一つは、『比良女木美々』という彼女候補との縁を結ぶのに使おうと思ってました。

 美々ちゃんは開発チートです。よく分からんものを開発して、練習効率を上げたりしてくれる有用なマネージャーなんですよね。その開発力は彼女単独でアンドロメダ高校に匹敵する設備を用意できるほどです。

 非常に可愛いという点は無視するとして、彼女枠として迎えなくても同じ高校にいるだけでとっても助かります。なので美々ちゃんと確実に出会うために縁結びをするのが狙いでした。

 

 が……『LOVEPOWER』を剥ぐ方法が神頼みしか思いつかず、他の手を考えていられるだけの猶予もなさそうなのが悩ましい所でして。下手に時間を掛けて更に事態がややこしくなるのが好ましくない。みずきちゃんを初めとする皆に迷惑を掛け続けるのも――メリットがあるなら無視できますが、メリット自体が存在しないため――気が引けます。

 やはりここは、RTA走者らしく安定性を重視していきましょう。美々ちゃんと出会える事を祈りつつ、今は当座の問題を解決するのを優先するという方向で考えていきます。

 

「みずきちゃん」

「んー?」

「ありがとよ」

「さっきも言ったけど、ホント気にしないでよ? こういう時ぐらい力になっときたいんだから」

「気にするに決まってんだろ。ダチに迷惑掛けてるんだ――いい加減、俺も収拾が付くように動く決心が付いた。この借りは返す、したい事があったらなんでも言ってくれ。なんでもするから」

 

 みずきちゃんの反応を待たずして、橘財閥の人が人払いをした裏口に来た車に乗り込みながら言い、ドアを閉めて運転手さんに目的地を告げます。

 なんでも言ってくれ(迫真) なんでもするから(誘い受け)

 みずきちゃんはこのパワプロくんにお願いする権利を手に入れました。その権利を何に使うか今から楽しみですねぇ。

 

 運転手さんはなんでそんな所に行くの? と疑問を感じてるようですが、ちょっとした願掛けだとでも言って誤魔化しておきましょう。

 

 そんなこんなでやって参りましたのはいつぞやの神社です。パワプロくんに『LOVEPOWER』とかいう呪いをくれやがった憎きあん畜生の根城ですよ。

 お賽銭は五円だよ。いつぞやのように大金投入する気はありません。

 知らない人に困らされてるんです。助けて(迫真)

 こっちの事情も考えてよ(棒読み) こんなんじゃ野球になんないよ〜(棒読み) やめたくなりますよ〜野球〜。

 

 " ――――ッッッ!?!? "

 

 ぬわあああああん疲れたもおおおおおん! ふざけんじゃねえよお前これどうしてくれんだよ!

 と、弱音やら文句やらなんやらかんやら。とにかく念じて捲し立てます。アフターフォローぐらいなんとかして。しろ(脅迫) 野球神のくせに前途ある若者の野球人生にピリオド打っていいと思ってんのかコラ。

 よし、帰ります。事はパワプロくんだけに留まりません。パワプロくんの周囲の人にも迷惑掛かり過ぎです。なので野球神様は恙無くパワプロくんの願いを汲んで、珍騒ぎが落ち着くように働きかけてくれるでしょう。

 それとは別に、パワプロくんにも動いてもらいましょう。テレビ局のカメラマンを通じて、これ以上は私生活が破綻するから勘弁してくれという趣旨のお願いをしようと思います。頼むよ〜?

 

 とりあえずステータス画面を開きます。他の人のステータスとかは見れず、好感度やら評価やらは閲覧できませんが、自分の状態だけは把握できますからね。

 

 LOVEPOWERは……よし、剥がれてます。野球神様も仕事してますねぇ。LOVEPOWERが『モテモテ』にランクダウンしてますよ。やったぜ。

 って、んんんぅ? あれ? 『人気者』の欄にある表記が変わってる……なんで? 別のが表示されてますよ。

 えー……と、なになに。『カリスマ』? 知らぬ間に本作のシステムがアップデートでもされていたのか、解説が付いてますね。『カリスマ』とは『人気者』の上位版……? 発言力が大きく上がる……?

 

 ……違う、そうじゃない(白目)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読者の皆、オラに元気を分けてくれぇー!


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『カリスマ』は要検証

寝落ち寸前なので初投稿です。


 

 

 

 青み掛かった髪をワックスで固め、後方に撫で上げている少年が嘆息する。

 

(どうしてこうなった……なんて嘆く余地はありませんか)

 

 一切の表情を排した、素のままの顔つきからは冷たい性根が透けて見えて、名前の通り蛇のようだと異姓の父から揶揄された事がある。

 母親似である為か、父は息子に対して含む物があるらしい。しかし少年の感性からすると、蛇は嫌いではなかった。生き物としての性質はともかく、自らより大きな獲物を丸呑みにする様は気に入っていたのだ。そうした蛇への好悪が、自らが蛇に喩えられる事への忌避感を薄くさせているのかもしれない。

 

 少年の名は蛇島桐人。とある事を『因』として、自らを上回る狡猾さを持つ少年にしてやられた『果』の下、彼は自らの()()()に呼び出されていた。それを拒む拒否権など自分には無い。

 弱みを握られているというのもある、命綱として身を守る存在になっているというのもある、だが何よりも自らの願望を叶えられる唯一の頼りなのだ。飼い主からの命令を拒否するわけにはいかなかった。

 

 飼い主は悪辣だった。長く付き合えば付き合うほど、その庇護下から離れられなくなるのだから。今後、蛇島が飼い主の下で名を上げていけばいくほど、市山田達の嫉妬と逆恨みは濃度を増して、軽率な衝動の赴くままに襲撃される危険性は付き纏うのである。そして蛇島がそれをどうにかしたいと思っても、()()()()()()()()()()ため行動が出来ない。夢と身の安全の両方を握られた負け犬が今の蛇島なのである。大人しく飼われ、服従するしかなかった。

 

 とはいえ()()()()()だろうと思った。

 

 呼び出された場所は飼い主の通う中学。その体育館。そして時計の針は8時を指していた。外はとっくに暗くなり、防寒をきっちりしていなければ夜の冷たさに震えてしまうだろう。

 そこで会ったのは、本音を言うと顔も見たくない飼い主。飼い主は制服姿で蛇島を迎え、雑な労いの言葉を掛けて来るなり台本を渡してきたのだ。

 

「よ、ヘビ先輩。次は高校で会おうって言ったのに、それを撤回する事になっちまって悪いな」

「別に構いませんよ」

 

 心にもない事をと内心毒づきつつ、渡された台本に胡乱な目を向けた蛇島に飼い主は言った。

 

「で、早速だけど概要だけ見て覚えてくれ。今すぐ。後は流れに任せてくれたらいい。場の空気に乗るのは得意だろ? アンタはさ」

「――冗談ですか、これは。だとしたら笑えませんね……」

「ははは、冗談じゃないんだな、これが。任せたぜ、ヘビ先輩」

 

 親しげに肩を叩かれ、台本に目を通した蛇島は顔を引き攣らせる。

 何をさせられるのかと思ったら、まさかこんな茶番に付き合わされるとは夢にも思わなかった。しかも蛇島の役回りはメインキャストである。途中降板は半永久的に不可能な役回りでもあった。

 

 この悪魔はとことんまで自分をこき使う気なのだと改めて悟り、悪魔め、と罵りたい気持ちが噴出しかける。それをグッと堪えるのに少なくない気力を要した。元はと言えば自分がこの悪魔の本性に気づかなかったのが悪いのだ。色々な風評はあるが、一言で纏めてしまうと好青年と評価されているこの少年は、蛇島を優に上回る悪人だったのである。

 現に――蛇島はこの少年に対して、言い様のない引力を感じていた。まるで従うのが当然であるといった気分にさせられる――無理矢理言葉にするなら、カリスマめいたものを感じていたのだ。……蛇島はこれを、自分という手駒にまで隠す必要がないからと、本性を現して接しているのだと解釈した。

 

 明確な言語化がなされない、深層の意識下で思う。これは怪物であると。選手としても、そして人間としてもだ。勝ち負けなど競うだけ無駄だ。そもそも争ってはならない、手を出してはならない禁忌の存在だった。不運にもこの怪物に関わってしまったのが運の尽きという奴だろう。

 

 蛇島は飼い主に連れられて、体育館の中に入っていく。

 

「……いいんですか? こんな夜中に体育館を使って」

「問題ねえよ。先生方から許可は取ってある。()()()()()()()()()()()()()()()よ」

「そう……ですか……」

 

 飼い主――パワプロは、言葉通りの意味で言った。普通に事情を説明して許可を求め、特例として夜間の体育館の使用を許してもらったのだ。

 だが蛇島の解釈は異なる。そんな事情を知らないというのもあるが、蛇島の主観ではパワプロは悪人……それも得体の知れない暴力のプロを複数人、蛇島の護衛と監視に割ける謎の人物でもあった。

 パワプロの台詞を意味深なものとして受け取って、蛇島は頬へ冷たい汗を浮かばせる。さらりと言ったが、そんな許可は普通は降りない。ということは、普通ではない『話をした』という事だ。やはり、恐ろしい人だ……。

 

 体育館に入った蛇島は、パワプロの後を付いて行き壇上に上がる。そして睥睨するのは、体育館内に集まった100人近い少女たち――パワプロと同じ制服の者から、他校の者、蛇島と同じ中学の制服を纏っている者もいる。

 その視線がパワプロに注ぎ込まれ、その傍らに立つ蛇島に対しても視線が集まった。それにたじろぎそうになるのを堪え、パワプロが口火を切るのを待っていると、彼女達は蛇島の存在に気づき微かにざわめく。「アイツってパワプロくんが前いたシニアの……」「うちの先輩じゃん」「なんでアイツがパワプロくんの隣にいるの?」「パワプロくんに酷いことしたクズじゃん。潰す?」などと物騒な声が聞こえてきた。蛇島は乾いた笑みを浮かべるしかない。

 

 それに、パワプロが声を張り上げる。 

 

「皆、聞いてくれ」

 

 発散されているオーラのような何か。目に見えているわけではない。だが確かにパワプロから無視できない――強制力のある不可視の力を感じた。

 オカルトではない。これは先程も蛇島が感じた、ある種のカリスマ性だ。

 一瞬にして少女達が、水を打ったように静まり返った様に蛇島は戦慄する。誰一人として、不自然さを感じていないようなのだ。いや元々そんなものはない。自然だ。だが、かといってこうも整然とパワプロを見れるものなのか。

 

「まずこんな夜間に集まってくれた事に感謝したい。ありがとう」

 

 彼女達は、パワプロのファンクラブ二桁番号の所有者達だった。パワプロは膨張する事著しく、秩序だった行動が取れずに迷惑を振りまく少女たちを統率するために、以前から狙って特定の少女たちを特別扱いしていた。

 といっても名前を覚えたり、不要な連絡をしないという約束の下、連絡先を交換した程度である。その程度でもかなりの特別扱いだと言えるだろう。

 数は100人近い。正確な人数は99人だ。彼女達はパワプロからの連絡を前日に個別に受けて、こうして集まってきた。パワプロが言うには凄く気合の入ってるファン達との事だが――単にミーハーなだけとも言える。

 ファン。いずれはこの中からも欠員が出ると簡単に予想できる、無責任で気紛れな集団の呼び名。今はパワプロに熱を上げているが、いずれ去っていく者は多いだろう。こうしてここに集まってきたのは、何か楽しそうな事があると思っただけで、何かしらのイベントでも期待しているのが大半だった。

 しかし、()()パワプロを直に目にした瞬間、元々高い関心を抱いていた事もあってか――()()()()()()。一時の熱狂に過ぎなかったはずの熱が、()()のものへと転じたのである。

 

 

 

(ヤバイですね、『カリスマ』……どんだけの効果があるか試す意味も兼ねてましたが、明らかに目の色が変わってますよ……?)

 

 

 

 パワプロはパワプロで、密かに戦慄している事は誰も知らない。

 頭を下げながらも上目遣いに少女たちの様子を伺っていたが、こうまで即効性があると慄然とする。流石に誰も彼もをこんなふうにはしないはずだが、こうして一定水準を超えている感情を持つファンの層には効果覿面なようだ。

 

「今日は皆に、俺の隣にいる蛇島先輩から話があるみたいだから、こうして呼び出させてもらった」

「……どうも、皆さん」

 

 蛇島が軽く会釈をする。薄っぺらいが故に恐ろしい、敵意にも似た視線を宿していた少女達の目は、やがて困惑のそれへと色を変えていった。

 話が読めないのだろう。てっきりパワプロ本人から何か言われるものと思っていたのかもしれない。

 

「先輩が話をする前に、皆の誤解を解いておきたい。この人は俺の古巣で、唯一俺の味方でいてくれた人だ。()()試合での故意死球を打ち返せたのは、蛇島先輩があらかじめ注意してくれていたからなんだ」

 

 再び微かなざわめきが起こる。しかしパワプロが口を閉ざして見詰めると、自然と静寂が戻ってきた。――異様な光景だと、俯瞰する立場にいる蛇島とパワプロは思った。まるで専制君主の演説に耳を傾けている臣民のようだ。

 

「なのに最近の騒動のせいで、蛇島先輩は高校の推薦を取り消された。風評被害が深刻だと思う。俺としてはここにいる皆にまで蛇島先輩の事を誤解されていたくない。だから話させてもらった。そして俺のせいでもあるのに、蛇島先輩は今の俺が()()()()()()騒ぎに立ち上がって、なんとか助けになりたいと申し出てくれた。勝手だけど頼む、皆も先輩の話を聞いてくれ」

 

 そう言ってパワプロが頭を下げると、少女たちは慌てて「頭を上げて」と声を上げた。

 そして、少女たちの蛇島を見る目が、『仲間』を見るそれに変わっていく。

 なんだと思った。

 なんなのだこの怪物は。蛇島は畏怖の念を心に焼き付かせた。パワプロのカリスマ性が、恐ろしい魔力の類いにしか見えない。逆らわず徹底して味方にならねばマズイ。その確信が更に深まった瞬間だ。

 

 蛇島は促されるまま、パワプロに代わり前に出る。

 

「っ……」

 

 喉が引き攣り、声が上手く出ない。らしくなく、極めて緊張してしまっていたからだ。蛇島はすぐに己の異変を悟り、咳払いをして誤魔化すと、なんとかいつも通り善人のフリをして話し出す。

 流し読んだ台本にあった通りに動く。細かい指示はなくどんな流れに持っていきたいかだけが書かれていた。これは蛇島に対するテストなのだろう。この程度も上手くやれなければ、手駒として置いておく価値すらなかったと判断されるかもしれなかった。それだけは避けねばならないと蛇島は思う。飼い主に自分は使える駒なのだと証明しなければならない。

 

「フゥ……。

 皆さんはじめまして。たった今、力場くんから紹介に与った蛇島桐人です。今回こうして力場くんに話を通し、貴女方にお集まり頂いたのは、私に協力して頂きたい事があったからです」

 

 一拍の間。少なくとも少女達が想像しているのとは、全く種の異なる緊張に力が入る。乾いた唇を舐めて、全員の目が自分に向いているのを見渡しながら蛇島は言った。

 

「彼とは短い間でしたがチームメイトでした。先輩として後輩の安否を気に掛けるのは当然の事……私はあらぬ疑いを掛けられ、志望していた高校の内定を取り消されてしまいましたが、それは些末な事でしょう。そんな事よりも、力場くんが今回の件で心身を疲弊させている方が問題です。力場くんを取り巻く今の状況は良いものとは言えない……なのに力場くんは、そんな辛い状況に身を置きながらも、進路を見失った私を気にかけ、同じ高校に進学し一緒に野球をしようと誘ってくれました。彼は私を友人だと言って、困った時はお互い様だと笑い掛けてくれたのです」

 

 ――未だ嘗て、ここまで緊張したことはない。

 話しながら飼い主を持ち上げる。少女達に共通しているのはパワプロの味方だという事。彼女達の心象を良くするには、そのパワプロを美化して伝えるのがベストだ。何せパワプロのファンは彼に対する醜聞は聞きたくなく、耳心地の良い言葉を求めているのだから。そう分析しながらちらりと飼い主を見ると微かに笑みを浮かべている。この論法がお気に召したらしい。どうやら正解を引いたようだと少しだけ安堵する。

 

「ほとんど何もできず、彼を護ってやれなかった私ですが、こんな友情を示されて応えないようでは、私は恥ずかしくて力場くんの前に顔を出せなくなってしまう。だから私も、力場くんを助けたいと思いました。その思いはきっと皆さんにも伝わると信じています。何故なら此処にいる皆さんは、彼が信頼できると判断した――()()()()()()()()()()だからです」

 

 肯定する。とにかく、彼女達を肯定する。

 否定しない。刺激しない。するにしても悪い意味に取られてはならない。

 これまでの生涯で、最も思考回路が回る。白熱する。今、知恵を絞らずしていつ絞る。

 

「今、世間には皆さんのような方が少なすぎる。多くの人が彼のプライベートな面に切り込み、プライバシーを侵害しています。言うまでもなくこれは犯罪です。断じて肯定されるべき行為ではありません。そしてそれだけに留まらずに、彼の身の回りにいる人達にも好奇の視線は集中して、時には刃傷沙汰にまで及んだ人が出ているようです。これは――いけない。人として越えてはならない一線を越えているのは明らかでしょう。そこで皆さんに、私と共に力場くんを守る活動をしてもらいたいのです」

 

 斜め後ろから視線を感じる。飼い主からの目線だ。それとは別に、少女達の目も自分に向いていて、蛇島は緊張の余りに頭が真っ白になりそうだった。

 だが思考停止に陥るわけにはいかない。頭を働かせ、舌を動かす。

 

「具体的にはSNSなどで、マスメディアによる力場くんへの行き過ぎた干渉を批判して頂き、モラルのない『自称ファン』に自制を呼び掛けて頂きたい。もちろん私も実行しますが、これはある程度の数がなければ人の目に触れるのに時間が掛かってしまうでしょう。なので私達は一致団結し、批判と自制を求める声を拡散して、身近な人のモラルハザードを正していくべきだと考えます。お願いします、私の友人の為、皆さんの応援しているパワプロくんの為、力を貸して下さい」

 

 早口になってしまわないように気をつけながら言い切り深々と頭を下げる。

 それから無言の時間が数秒流れ――パワプロがふと、腕を組んだ。その所作を目にした訳ではないが、次の瞬間に上がった声に蛇島は悟る。

 

「――そんな簡単な事でいいのか」

「私はやる。『パワプロくん』に迷惑掛けてばっかりの連中に、ファンを名乗る資格なんかない」

「私達は頼られてるのだ。なら、力になろう」

 

 ――桜を仕込んでいたのか。

 蛇島はその声を判別して、用意周到な飼い主の手回しに苦笑いを浮かべる。

 その声は、蛇島も知っているものだったのだ。

 霧崎礼里、氷上聡里、六道聖。この三人の声だろう。

 真っ先に上がった声に、場の空気は一気にそれへ同調する流れに変わった。少女たちは口々に肯定の台詞を口走り、使命感に駆られたように興奮し出したのだ。自分達がパワプロを守る、自分達が本当の、一番のファンなのだと。

 優越感と、周囲に同調した事での連帯感の発露。そして――最も大きいのはパワプロの存在感――

 

 後ろから肩を叩かれ、蛇島は振り返る。するとパワプロが小声で言った。

 

「助かったよ、ヘビ先輩。後は俺に任せてくれ、コイツらが帰ったらヘビ先輩も帰っていいぞ」

「――そう、ですか……」

 

 ドッと疲れた。

 蛇島はこうして事ある毎に便利に使い倒される未来を幻視して、内心げんなりしていたが。とりあえず今回は無事に乗り切れたと判断しても良さそうだと思い、固く重い息を吐き出したのだった。

 

「――安心してくれよ。ヘビ先輩の身の安全は保障されてる。()()()()()()()()?」

「ハ、ハハ……ハ……ええ、そうですねぇ……この友情が有り難くって、涙が出そうですよ……」

 

 パワプロはこの面々を親衛隊のように使うつもりなのだ。恐るべき人心掌握術を駆使して。そして蛇島を親衛隊のトップのような立ち位置につけ、パワプロへの窓口にするつもりなのだと察せられる。

 パワプロの公認ファン第一号。その肩書は今後ずっと蛇島について回る事だろう。プロになれたとしても、なれなかったとしても。少女達は蛇島とパワプロの偽の関係を本物と思って、SNSで情報を拡散するのが目に見えていた。

 

 悪魔め……蛇島は今度こそ、小声で毒吐いた。

 

 

 

 

 

 ――当日の夜から、一斉にマスメディアへの批判が飛び交い出す。

 100人近い少女たちの声は無視され難い。それぞれがそれぞれの身近な人へ自制を求め、更に知人の知人へとネズミ算式に自重を呼び掛ける様子が広まっていく。

 パワプロもまた依然変わりなくマスメディアや有害な『自称ファン』に接するも、次第にパワプロが憔悴する様を見せ、一度カメラの前でパワプロはわざと倒れて気を失ったフリをした。心的負担が限界を迎えた演技だ。

 そこまでして、漸くパワプロの周囲は落ち着き出す。やがて、平和な日々が戻ってくる事だろう。その影で、一匹の蛇が泣いてる事も知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※なお『カリスマ』の効果の検証中での事であります。

面白い、続きが気になると思って頂けたなら感想評価などよろしくお願いします。

次回でクッション回は終わり、かなと思いますです、はい。


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パワプロくんの恋愛講座

試合展開に頭を悩ませてるので初投稿です。


 

 

 

 検証に検証を重ねるRTAはーじまーるよー!

 

 前回で蛇島くんには酷い事したよね? ごめんなさいしないといけないね。

 じゃけんもっと酷使しましょうね〜(外道) 酷使無双こそパワプロ式ダイナミック謝罪だってそれ一番言われてるから(大嘘) 

 

 彼にはメールで指示を出して、親衛隊(笑)の皆さんの司令塔として活躍して頂きます。やっぱ……自由かつ気軽に動かせる駒は……最高だな! しかも罪悪感がほぼ湧いてこない相手ですんで、遠慮する必要がない点がグッド!

 そして仮にもRTA走者の末端であるこのわたしは、飴も鞭も使いません。だって面倒くさ……面倒臭くない? 計算し易さを考慮した、ビジネスライクな関係こそがRTAでは至高でしょう。騙して悪いがとかする奴は○ね。

 こちらから仕事を与えるだけで済むならガンガン仕事を発注します。そして仕事である以上は対価が発生しますよ。蛇島くんは頭がキレて社交力も高いので、仕事の部下として使い倒すには最適な存在です――こちらが一方的にイニシアチブを握っていたらの話ですが。ともあれ、彼の仕事のクオリティーにはパワプロくんもニッコリすることでしょう。

 

 彼の仕事はパワプロくんの周辺を落ち着かせる事。対価は蛇島くんの地に落ちてる名声が回復していくことです。彼は頭が良いので、この仕事をこなしていけば自ずと名誉が復活していく事を悟ると思います。

 なのでこちらが特に脅しつけたりせずとも、自発的に仕事をこなしてくれると見て間違いない。仕事熱心な舎弟を持てて、パワプロくんは三千世界一の果報者だと言えます。

 

 で、今パワプロくんはジョギングの最中です。雅ちゃんと二人で、横一列になって走ってます。

 

 先日喪失した『LOVE POWER』の代わりに、なんでか『カリスマ』を寄越されたわけですが、野球神はパワプロくんを取り巻く状況を解決するのにこれが必要だと判断したらしく実際効果は抜群でした。はぇ〜^すっごい慧眼。

 というか今更なんですがね、わたし、新発見し過ぎじゃないです? 数えてみたら『聖域ヒロイン攻略実証』『新・超得コツ取得』『LOVE POWERやカリスマの発見』と、短期間に幾つも開拓しちゃってますよ。他の人もちゃんと調査してどうぞ。はやくしてやくめでしょ(ふんたー並感)

 

「ね、ねぇ……パワプロくん」

「ん……?」

「なんだか凄く居た堪れないんだけど……」

 

 いつもだと道行く人が囲んできてジョギングなんて出来なくなってたんですが、親衛隊の隊長()蛇島くんの働きと、パワプロくんがカメラの前で演技をし吐血して倒れた事で、一気に自粛ムードに持っていく事が出来ました。

 それでも馬鹿はいるもので、お構いなしに取材やら追っ掛けやらをしてくる戯けが出現するのですが、パワプロくんが睨みつけると蛇にラブコールされた未亡人の蛙さん(28歳)の如く固まり止まってくれます。『カリスマ』の副産物か、眼力が凄いことにでもなってるんですかね? 物は試しで街中を走っても、邪魔されるどころかモーセの海裂き爺さんの如く人だかりが割れて、真ん中を何事もなく走れましたよ。なぁにこれぇ(恍惚)

 

 その様子はわたしからしてみると結構な快感だったりしますが、控えめで謙虚な性格の雅ちゃんは気まずそうです。

 ちなみに雅ちゃんと二人きりなのは以前約束したデートをしてるから。デートと言ってもマンツーマン特訓してるだけなんですがね。一応幼馴染ーズ二人と聡里ちゃんも誘ったんですが、珍しく固辞されました。礼里ちゃんがパワプロくんの家で寝泊まりしてる事が聡里ちゃんにバレたらしく、何故かパワプロくんをハブって『話し合い』が行われてるみたいですね。なんでか嫌な予感がしない事もないですが、悪いようにはならないでしょ(冷静)

 

「気にすんなって。俺は気にしてない」

「パワプロくんが気にしてなくても僕が気にしちゃうよ……それになんだか、パワプロくんも雰囲気変わってるし……」

「あ……? あー、うん。相手が自分のファンだからとか、テレビ局とか記者の人だからって、変に気ぃ遣うのが馬鹿らしくなってな。なんか心の何処かで吹っ切れた感はある。でもそんなに変わったか、俺?」

「うん。前までのパワプロくんより、ずっと()()()()()()感じというか……上手く言えないけど、銛で突かれた魚みたいな気分になるかな。これからまな板に乗せられて料理されちゃいそうな気分だよ」

 

 隣を走りながらの会話。汗こそ流してますが、息はあまり乱れていません。

 雅ちゃんの例えはなんというか、うん、抽象的? ですね。よく分からんというか、こんな例えする娘でしたっけ? まるで不思議ちゃんみたいです。

 

「はっ、なんだそれ? 俺に食われるって感じてるのか?」

「ううん、そうじゃなくて……なんだろ。僕もよく分かんないや」

 

 食べちゃうぞ(意味深) と言っても擦れてない娘な雅ちゃんには伝わりませんね……。少女漫画読み耽ってて、最近は少年漫画やらにも手を出してる雅ちゃんなので、てっきり赤面した顔を見せてくれると思ったんですが。

 それから暫く走るのに専念し、緑地公園近くに来るとクールダウンのために歩き出します。すると雅ちゃんはポツリと呟きました。

 

「……僕は、前までのパワプロくんの方が良かったかな」

 

 地獄耳なパワプロくんに聞こえないと思わないで頂きたい。

 どうやら雅ちゃんからの好感度が落ちてるようですね……なんで? ねえなんで?(困惑) とりあえず聞こえてないフリして流しますが、流石に看過するのも憚られます。秋季大会準決勝を明日に控えた身ですし、軽く肩の調整をしつつ雅ちゃんの感情を推し量っておきましょう。

 本作では友好度や好感度、評価をパラメータで確認する事は出来ません。

 なので勘と経験で推測するしかないのに神経を使いますが……伊達にぱわぷろ時空のヒロイン勢コンプリートして刺されてません(トラウマ) 人から懐かれてる印象を把握するのは得意中の得意ですよ。

 

 隣を歩いてる雅ちゃんは、火照った顔や首周りをタオルで拭いてます。服装はピンクのジャージですね。そんな彼女に軽く探りを入れましょう。

 まずはジャブです。ジャブでケーオーしてやります。

 

「喉乾いたな……」

 

 ジョギングしてある程度汗流しましたので水分補給です。自販機でジュースでも買おうと視線をキョロキョロさせます。

 お、あった。ペットボトルのミネラルウォーターを買いましょう。で、ここで舌打ち一発。

 

「チッ……」

「どうしたの?」

「いや、買うもん間違えた」

 

 んもー! パワプロくんったらおっちょこちょい♡ ミネラルウォーターの隣のボタンを押そうとしたのに間違えちゃうなんて。

 

「あはは、せっかちさんだもんねパワプロくん。って……これなに?」

 

 と苦笑してる雅ちゃんを無視。苛立たしげに財布から小銭を出して投入、ポカリを買いそれを雅ちゃんに差し出しました。

 

「奢ってやるよ。俺だけ水分補給してるのも悪いしな」

「い、いいよ別に、変に気を遣わなくても……」

「俺が気にしてんだから奢られろ。それにもう買ってるし、捨てるのも勿体無いだろ」

「う、うん……なんかごめんね。あ、そうじゃなくて、ありがとう」

 

 きちんとお礼を言えて偉いね、可愛いね。

 汗で垂れた髪を耳に掛けながら、ボトルのキャップを回して開封し、ぐいっと一口飲む仕草。飲み物を嚥下する喉の動き。微かに上気してる頬。それ見せられると……あ〜^ノンケになるぅ〜^

 あっ、そうだ(唐突) わたしもぉ? ミネラルウォーターじゃちょっと物足りないというかぁ? ……それ、頂戴? 頂戴よぁ! 先っちょだけ! 先っちょだけだから!

 

「あっ!」

「俺にもくれよ」

 

 ナチュラルに雅ちゃんの手からポカリを抜き取り、自然に一口。

 うーん、ウマい!

 

「ちょっ、ちょっと何するの!?」

「いいだろ一口ぐらい。ケチケチすんなって。俺も汗流してんだからさ、スポドリ飲んでおきたかったんだよ」

 

 おやおやぁ? 顔真っ赤にしてどうしたのかなぁ? あっ、そうか。これって間接キスですもんねぇ。やっぱそういうの気になるお年頃なんすねぇ!

 さりげにポカリを返します。それを両手で持って視線を彷徨わせ、あわあわと慌ててる雅ちゃんで目の保養をします。癒やされるますね、もしや雅ちゃんはマイナスイオンを出しているのでは?(紳士特有の早口)

 

 切り替えて冷静になりましょう。

 この反応……一定以上の好感度は保ててるようですね。心の距離感はそんなに変化がないと見て間違いないでしょう。むしろ無自覚の間接キスを装った事で近づいたまでありそうです。

 では先程小声で呟いたあれはいったい――身の回りの人達の態度の変化や、『カリスマ』による印象の変化を踏まえるに、単に『LOVE POWER』の有無でパワプロくんのフェロモンが減ったように感じつつ、一方で『カリスマ』によってパワプロくんの雰囲気が大っきくなっちゃったから、距離感が分かり辛くなっちゃったのでしょう。たぶん。

 例えるならクラスで仲の良かった友達が、アイドルグループに入って芸能界の一員になり、今までと同じように接していいか迷ってる、という感じでしょうか。――ざっくりとした分析ですが、あながち的外れではないはずです。

 

「よし。身体もいい感じになってきたし、バッティングセンターに行こうぜ」

「ぅ、ぅん……」

 

 頬を染めて俯きつつ、小さく返事をしてくる雅ちゃん。

 なおスポドリは両手で持ってるままです。……か"わ"い"い"な"ぁ"!

 

 ともあれこれで雅ちゃんの中のモヤモヤは消え、別のモヤモヤが生じた事でしょう。ケアはこれぐらいでいいかな? その別種のモヤモヤはバッティングセンターでパコパコ(意味深)して晴らしてしまえばよろしい(暗黒微笑)

 歩き出して積極的に話し掛けましょう。最近どうだ、なんて無難な切り出しでも構いません。女の子と話した事がない方は勘違いしがちですが、別に面白い話をしようとする必要はないですよ。

 

 あー……ついでに思い出してしまったので講義してみましょうか。そんな事デキるぐらい経験豊富なのかよ(笑) とか言われたくはないんですが、なんだかわたし宛に結構な頻度で『恋愛講座してくださいオナシャス!』とお願いが来てるんですよね。えっと、わたしなんかでいいんですかね? とりあえず私見を述べるぐらいはしてもいいですが……歩いてるだけなのもアレなんで、箇条書き口調で大事な点をピックアップしてみましょうか。

 

 題して、意中の相手攻略作戦(二人きりバージョン)

 

 ・まず『言葉を噛まない』『どもらない』『早口にならない』事。自然体で話しましょう。無理? 無理でもやるんだよぉ! 全てのコミュニケーションは会話能力で成り立ちます、兎に角トークぢからを溜めるのです。

 ・無理に面白い話題を提供する必要はありません。くだらない話でもなんでもいいので、兎に角話し掛けましょう。大事なのは気まずい沈黙の空気だけは作らない事です。またその際に他人の悪口を言ってもなりません。明るい話題に焦点を絞れればベストですが、それが無理ならせめて長く話しましょうね。ポイントなのは『アイツと話した』と覚えてもらう事だけです。人の悪口だけは言ってはならないのは、それを言ってしまうと『アイツは人の悪口を影でコソコソ言うやつだ』と見られ、好感度が上がりにくくなるからです。

 ・二人きりの状況が崩れ、相手の知人なり友人が来たら即離脱です。無駄に疎外感を味わう事になりますし、相手は貴方より友人を優先するので、印象も薄くなってしまうからですね。

 ・どんだけ時間が掛かろうと、二人きりになったら兎に角話し掛け、『コイツとは普通に話す仲だ』と刷り込んでいきます。そして相手から、周りに人がいる状況でも話し掛けてくれるようになれば、この段階はクリアです。

 

 で、次の段階では相手のコミュニティーに片足を突っ込む程度に留めます。出しゃばっても良い事は何もありません。この段階で守るべき点は、

 

 ・相手の人間関係に割り込まない。

 ・あくまで今までの『ちょっと話す』『普通に話す』距離感をキープ。

 ・忍耐強くチャンスを待ち、仮に相手に恋人が出来ても焦らない。

 ・悩んでたりすると相談に乗りましょう。冷静に寄り添う姿勢をほんの少しだけ出せると、相手は無意識に貴方を信頼してくれるようになってきます。

 ・相手から仲良くなったと思わせ、距離感を詰めさせてくる。

 

 で、次が最後の段階です。

 

 ・恋人との仲を応援しましょう。相手がフリーなら『俺(私)付き合ってみない?(意訳)』と伝えたら、まずOKしてくれます。友達みたいなものだから無理とか言われても、じゃあ友達感覚でいこうぜ、とストロングスタイルで押せば『それなら、まあ……』と受け入れてくれる人もいますね。そのへんの匙加減は自分で見極めて、どうぞ。

 ・相手に恋人がいる場合。さらっと自分が相手に好意を持ってる事を伝えましょう。さりとて押し付けてはなりません。笑いながらの冗談で『〈昔は〉好きだったんだよー』とか言えばいいぐらいです。程度としては。相手が笑いながらも流せるぐらいで話せたらベスト・オブ・ベストです。

 ・そして一度成立した恋人関係が永続するのは稀です。結婚した後も普通に離婚とかする人は沢山いますので。なので破局するまで待ち、破局したら落ち込んでるか怒ってるか悲しんでるかしてる相手を慰めつつ、俺じゃ駄目かなと立候補しましょう。そうしたら、相手が貴方を憎からず想ってたら悲願達成。

 

 と、ざっくりとした流れですがこんな感じに持っていけます。もちろんトーク内容や立ち回り次第で断られる事も充分ありえますがね。

 あと時間がメチャクチャ掛かる手段ですが、気長に、慎重に、鳴かぬなら鳴くまで待つ家康くんスタイルでいきましょう。あと破局しないんだったら普通に祝福しましょうね。狙ってた相手が幸せなら、間接的に自分も幸せなのだという心構えでいるのが『待ちの姿勢』では肝になってきます。

 ついでに皆さんに重要な、それでいて真理をお伝えしましょう。このスタイルはいわゆる純潔至上主義者には執れない策です。それでもこのスタイルでいきたいなら、自分は相手の純潔ではなく相手そのものが好きなのだという初心を思い出して自らに言い聞かせるしかありません。わたし? わたしはロリコンという名の紳士ですから。ロリが成長する過程を愛で、成長してからも『あの娘がこんなにも立派になって……(ホロリ)』と愛でるタイプです。なので別に相手がロリじゃないと駄目とかはないんですよね……。

 

 とか言ってたらバッティングセンターにつきました。

 ここに来るまでにしょうもない話を振ってましたが、雅ちゃんは「うん」とか「そうだよね」とか心ここにあらずな相槌しか打ってません。が、気にする事はないです。雅ちゃんはペットボトルとのにらめっこが忙しいので。

 

「む」

「っ……」

「あ?」

 

 と、バッティングセンターでエンカウントしましたね……。

 猪狩守くんと友沢亮くんです。ジャージの上下というラフな服装ですよ。

 なんでこんな所に彼らが現れるんですかねぇ。こ↑こ↓は彼らの行動範囲に入ってないはずなんですが……ああ、なるほど。パワプロくんが気になってるからもしかしたら会えるかもしれない範囲に来るようになってたんですね。

 そんなにパワプロくんの事が気になるとか……お前らホモかよぉ!(歓喜)

 

「こんなところで会うなんて奇遇だな」

「……それはこっちの台詞だ」

「邪魔はすんなよ。こちとら調整中なんだからな」

「そっちこそ」

 

 話し掛けると、なんとも悩ましげな反応が返ってきますね。

 これはあれかな? 最近の騒ぎを見て、パワプロくんが心配になってこんなとこまで来たはいいけど、ホントに会えるとは思ってなくてどんな態度でいるべきか迷ってる感じかな?

 まあいいや。こっちから話す事は何もありませんし、スルーしてやります。雅ちゃんが彼らをチラ見してましたが、パワプロくんが気にしてないのでそれに合わせる事にしたらしく、バットを持って打席に入りました。わたしはそんな雅ちゃんのバッティングを見てあげてます。

 

「パワプロ……少しいいか」

「良くねえ。あっち行ってろ」

「む……」

 

 友沢くんが話し掛けてきますが邪険にします。これだけだと感じ悪いんで、少し付け足しますが。

 

「明日、俺達とお前らで試合だ。油売ってねえで練習してろよ。じゃねえと、俺の相手なんか務まらねえぞ」

「――明日はパワプロが投げるのか?」

「そう言ったつもりだ」

「そうか。……分かった。だがこれだけは言っておく――調子が悪かったなんて言い訳はしてくれるなよ?」

友沢(おまえ)こそ、無様に三振しても言い訳するんじゃねえぞ」

「フン……」

 

 友沢くんは素直に引き下がりましたね。良い子だ……(ねっとりボイス)

 少し安心したふうなのは、パワプロくんが一見普段通りだからでしょう。あと明日の試合でパワプロくんが登板すると知って楽しみになったのもある。間違いない。

 それはそれとして、守くんは何か言いたげですが、聞く耳持ちません。折角の雅ちゃんとの野球デート……デート? いやデートですわこれ。――ともかく雅ちゃんとのデートの時間に野郎と話す事なんざぬぇ!(巻き舌)

 

「パワプロくん、猪狩くん達って明日の……」

「おう。アイツらには夏に会ったろ? あの時はバレーしかしてなかったし……改めて言うなら、雅ちゃんが高校で三振させられる猪狩と、今の雅ちゃんだと比べるのも烏滸がましい友沢だな」

「むっ!」

「――で、明日俺に負ける奴らでもある」

 

 可愛く眉を吊り上げる雅ちゃんに、笑いながら言ってやりマウントを取ります。この煽りを受けて、数個打席を離してる二人が面白いぐらいテンション上げてますね。負けてたまるか! という対抗心を燃やし出してます。

 パワプロくんの煽りはいつもの事。その『いつもの』で、パワプロくんの調子が悪くないと感じたのも一因かもしれません。明日は君らが完全試合されるんやで? 無双モードで驕り高ぶるパワプロくんに一矢報いるには、まだまだ彼らも経験が足りていませんよ。あ〜^天才にマウント取るの病みつきになるんじゃ〜^ じゃけんこれからもマウント取らせてくれよな〜頼むよ〜。鬼の追い上げとかしなくていいから(怯え)

 

 にしても……長い一週間でした。なんで準々決勝から一週間も間を空けてるんですかね? おかげで大分長く感じましたよ……一週間濃密過ぎィ!

 明日は遂に、前途ある天才くん達を蹂躙する日です。打席から離れた雅ちゃんにチケットを渡しましょう。

 

「明日の試合、観に来てくれよ。試合はやっぱり生に限るからな」

「いいの? ありがとう、一回シニアの試合の空気に触れてみたかったんだ。明日は特等席でパワプロくんの投球観てるね!」

「お、おう……」

 

 その台詞で家庭の窮状が察せられて返事に困りますよ……。

 高校からはバイト解禁してもらって、バイトしながら部活する感じになりそうですねクォレハ……。

 こっちでも割の良いバイトを探しといて上げますかね。備えあれば嬉しいなって言いますし(言いません)。

 

 今回はここまでにしときましょうか。特に何もなかったですが『カリスマ』の力の範囲とそれが及ぼす影響も粗方予測が立ちましたし。

 次回は遂に秋季大会準決勝、横浜北シニア対、我ら宮本シニアの対決。首を長くしてお待ちくださると幸いに存じます。相手は九割方ネームド軍団ですし、中坊だからと舐めて掛かったりはしません。そんで、そろそろ試合後ボーナスで超得コツが手に入るかもなんで――久し振りに少し気合を入れて投球します。楽しみにしといてくださいね!

 

 それでは、また次回もよろしくお願いします。ばいばーい!

 

 

 

 

 

 

 

 




【悲報】パワプロ氏、今まで手を抜いてた模様【知ってた】

沢山の感想評価ありがとうございます。そろそろ…ね。アンケートの、時間……ですよ……? いやもうそろそろとか言わずやります。
ヒャア! アンケートだぁ! 選択肢は三つ、是非ご参加下さい。


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秋季大会準決勝(そのいち)

試合が始まったので初投稿です。


 

 

 

『お待たせしました。20☓☓年ミズチ旗杯関東連盟秋季大会準決勝――武蔵府中シニア、対、横浜北シニアの試合を間もなく開始いたします』

 

 ウグイス嬢の音声が喧騒を掻き分ける。近年稀に見る賑わいで満たされていた球場は、しかしその音声によって益々喧騒を大きなものとした。

 場に満ちているのは興奮、期待、不安、祈願。それは多種多様な絵の具をぶち撒けられたキャンバスのようであり、混沌としていながらも確かな指向性を持った関心である。この場の全員が、試合の趨勢に思いを馳せているのだ。

 

 球場には覇堂、あかつき、円卓、天空中央を始め。大阪桜蔭、暗徳義塾、智辯若山などの甲子園常連の強豪のスカウト陣。テレビ中継の為のカメラマン。人材の発掘に余念のない、勤労意欲溢れるプロのスカウト。それ以外にも試合に出場する選手の保護者達や、シニアの試合にも目を向ける野球好きな一般の観客など。観客席は満員で、中には立ったまま試合を観戦しようとする者の姿もあった。――それもそうだろう。何せこの試合は【パワプロ世代】の中核とも言える面々が集った、最精鋭のチーム同士の対決なのだ。この試合内容を押さえるだけで、今季筆頭の有望株はほぼ網羅したと言っても過言ではない。この試合をみすみす見過ごすようでは、生き馬の目を抜く事を至上とする球界では生き抜けない。球場が満員になるのは必定だと言えた。

 

 三塁側のベンチにカメラが向く。テレビには一息に水を飲み干し、紙カップを握り潰す少年と――先攻ゆえに試合の先頭打者となる銀髪の少女、二番手として打席に立つ、紫髪の少女が髪を結わえ直している姿が映し出される。

 シニアの野球マニア達には、それが誰であるか一目で識別が付く。圧倒的な打撃力と投球内容で目の肥えた野球ファンをも虜にした力場専一だ。そして現時点で超高校級の捕手に並ぶ捕球技術と、確かな打撃技術とリードを見せた六道聖。卓越した守備とミート技術を有し、本塁打も放てる霧崎礼里である。

 

 次にテレビの画面に映ったのは一塁側のベンチにいる、あらゆる次元で高レベルに纏まり、今すぐ名門高校のエースの座も狙える天才・猪狩守。彼は落ち着いた様子でスパイクの靴紐を結び直し、帽子を目深に被り直していた。その間、視線は三塁側に一度も向けられる事がない。

 その傍らには一年生ながらレギュラーに就いた、一年生捕手の猪狩進。防具で身を固め、勤勉にノートに記されたデータを洗い直している。そして進が相談している相手は、捕手としても高い能力を有する小太りな武秀英だ。

 霧崎礼里に並ぶ評価を持ち、打撃面に関して言えば超えるとされる友沢亮も静かに精神を集中させている。冴木創、新島早紀、鏡空也などの二年生の面々や、項関羽(コウ・セキウ)呂布鳳仙(ロシク・ホウセン)の三年生達も気力を充実させている。

 

 パワプロ世代の中核の数は武蔵府中の面々が上回るが、チームの総合力で言えば横浜北に軍配が上がるだろう。そのレベルの高さは、全国選抜の大会でもお目にかかれるものではない。事実上のシニアの頂上決戦の場と言えた。

 

 両チームの面々がグラウンドに集まる。球審とホームベースを間に挟み、整列した選手達が帽子を取って一礼する。打席の真後ろの観客席に陣取れたテレビ局の人間が集音マイクを向けるも、選手達による言葉の遣り取りは無い。

 誰も無駄口を叩かなかった。むしろ、相手の顔を見ないまま、互いにベンチ前へと引き返していく。そして両チームが円陣を組んだ。カメラマンが迷った末に高性能な集音マイクを向けたのは、世代の顔であるパワプロだった。

 

 円陣の中から、パワプロの台詞が拾われる。

 

『皆。俺達が何をしに来たのか、忘れてなんかいねえだろうな? 忘れたってんなら今ここでもう一度思い出せ。――俺達は当たり前に戦い、当たり前に勝ちに来たんだ。練習通りに、俺達の()()()()で奴らを潰す。高校でも野球をするなら、奴らとはまた対戦する時が来るかもしれない。その時に思い出させてやろうぜ――()()()()()()()()()()()って事を。行くぞお前ら、気合入れて行こうぜェッ!』

 

 (オォ)ッ! 武蔵府中ナインが雄叫びを上げ、円陣が解かれる。

 その面構えには、無駄な緊張や気合で身体を固くしている様子はない。パワプロの発破で、チームメイト達の士気と調子が一気に最高潮に達したのだ。

 集音マイクを向けていた者、テレビを見ていた者、現場でその発破を聞いた者は体が震え、腹の底から熱が生まれて戸惑う。――凄まじいカリスマ性を、彼らは感じたのだ。そしてそれを直接浴びた面々の気力は、空にも届く。

 

『横浜北のスターティングメンバーは、一番セカンド、冴木創さん――』

 

 後攻ゆえに、守備位置に着いていく面々の名前が読み上げられていく。

 そして、

 

『――三番ピッチャー、猪狩守くん』

 

 マウンドに上がるのは、天才、猪狩守。投球練習を手早く終わらせ、いつものルーチン通りに帽子の鍔の角度を調整する。そしてロジンバッグを手に取って、軽く握り締めて滑り止めをした。

 睨みつけるでもなしに目を向けたのは、打席に向かってくる先頭打者。

 打席に入った霧崎礼里がバットを軽く上げると、球審が開戦の合図として宣言する。

 

「プレイボール!」

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 油断も、慢心も、過信もない。

 あるのは敵を如何にして打ち砕くか、打ち取るかという思いのみ。

 マウンドに立った投手は孤高であり、打席に立った打者は軍団である。打たせないと気負う投手、繋ぐぞと思う打者。この試合の中での初対決、二打席目や三打席目を意識する必要はない、制する事に違いはないのだ。

 マスクを被った捕手、猪狩進は打席に立つ霧崎礼里の横顔を見上げた。思い出すのはリトル時代の対戦結果。霧崎の打撃成績と、選手としての性質。狙い球を打つのが異常に上手く、守備も打撃も友沢に匹敵しており、走塁と盗塁の巧みさは上回っていた。外部の人間の評価は誤りだ、霧崎はともすると、友沢を超える選手かもしれないと進は警戒していた。

 だが――霧崎には弱点がある。並の選手、並の天才が相手なら弱点とはならず、むしろ強みになるだろうが、マウンドに立つのは一握りの天才達の中でも珠玉の天才、猪狩守だ。霧崎の弱点を突ける、数少ない存在である。

 

(――兄さん)

(分かっている。この相手にサインは出さなくていい、僕はただ進の構えたところに投げる)

 

 兄との意志の疎通は、予め決めていた事もあり澱みない。

 ふと、霧崎の髪が、光った気がした。霧崎が眉を顰め、見落とさなかった進は警戒心を更に引き上げる。

 

(――僕達の狙いがバレてる? まさか……)

 

 霧崎の洞察力もまた異常だ。そしてその顔色はよく、気力は充実し、期待に応えたいという想いが可視化しているかのように凛と構えている。

 だが、関係ない。進は頭を振って雑念を散らすと、キャッチャーミットを外角低めに構えた。すると守がワインドアップをする。大きく振り被り、第一球を投じる。守とミットの間にある空気を貫き、白球が進のミットに収まる。

 

「ストライク、ワン!」

 

 球審のコール。進は座ったまま兄へと返球した。ナイスボール、なんて言うまでもない。音を立てて捕球したのだ、その重さと威力は伝わっただろう。

 前の試合では一度も投げなかった直球。綺麗な真っ直ぐだ。猪狩守の代名詞である、ホップする魔球ライジングキャノンではない。ノビはライジングキャノンほどではないが、その代わりに重さは抜群である。

 霧崎は球筋を見た。次で、当ててくるだろう。霧崎はそういう打者だ。球筋を見切れば即座に打ちに来る速射砲――相手の出鼻を挫く一番槍。進の要求する二球目も外角低めだ、同じコースに投じられた直球に霧崎は手を出した。

 

「――ファールボール!」

 

 打球は大きく逸れて、一塁より右に落ちた。

 やはり当ててきた。しかし霧崎の顔色は晴れない。バットを握る手を離し、握り直す。予想以上の重さだったのだろう。

 霧崎の弱点――それは女性選手の宿命である。技術で補えない力には、押されてしまうのだ。だが霧崎を力だけで屈服させるのは至難を極める。巧みな技で打球を流せるのだ。そしてカット技術にも長けており、粘って甘い球が来るのを待てる冷静さ、辛抱強さも兼ね備えている。故に――霧崎の弱点を、弱点として機能させるには――

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 ――“力”の種類を複数持つ事。

 単純な力押しで倒せないなら、巧みな力で押し潰す。

 

 三球目。猪狩守は、惜しまずに本気を出した。

 ライジングキャノン。いや、それをより進化させた、謂わば才能と努力の収斂した魔球。蒼い稲妻の如き『カイザーライジング』である。

 それを内角高めに投じた。手元で急激にノビ、ホップした白球を迎え撃たんとした霧崎のバットが直球の下を素通りし、空振らせたのだ。

 読めていても、当てられなければ意味がない。蒼い稲妻は霧崎の目を幻惑して、ボールを見失わせたのである。仮にまぐれで当てれたとしても、芯で捉えられない限り内野フライで終わったであろうコースだった。

 

『三球三振です! 武蔵府中シニア先頭打者、霧崎礼里さんが三振に倒れました!』

『素晴らしいストレート……いや、カイザーライジングでしたか。エフェ魔はこれが厄介なんですよねぇ。ボールが見え辛くなる。にしても、霧崎さんはこの大会で初の三振ですか……』

 

 スマホでこの試合を見て、その音声を最大音量で流しているのだろう。解説と実況の声が、三塁側のベンチから聞こえてきている。

 ベンチに解説・実況の音声を流しているのは和乃泡瀬あたりだろうか。打席から去っていく霧崎は、ネクストバッターズサークルから打席に向かう六道聖に囁いた。

 

「――重いぞ。それと、手元で異様にノビる。最後の球の上への変化は、ボール一つ分といった所だろう」

「うむ」

「それと。猪狩は私とお前には、直球しか投げないつもりのようだ」

 

 霧崎は『読心術』を使っていた。故に守と進の狙いを把握できている。

 あのバッテリーは徹底的に、霧崎と六道には力で押し勝つと決めていた。

 この打席では三振した。だが、次は打つ。安易な力押しで抑え込まれるほど大人しくしているつもりはない。霧崎はベンチに戻ってグラブを手に取る。守備に回るのはいつもより早くなりそうだったからだ。

 するとそんな霧崎にパワプロが声を掛けてくる。

 

「どうだった、猪狩は」

「……ふん。お前よりは下だ、専一」

「なら次は打てるな。期待してるぜ、礼里ちゃん」

 

 素直な所感を伝える。するとその答えが分かっていたように、パワプロは傲慢にも見える不敵な表情で言った。それに霧崎は薄く微笑む。

 言われるまでもない。お前の期待には、必ず応えてみせる。

 

 ――打席に入ると、球審と捕手に会釈をする。

 六道聖はクレバーな打者だ。礼儀は重んじるが、そこにも意味がある。

 選球眼の良さをアピールし、ストライクゾーンのギリギリに極まった球を、仮にストライクだったとしてもボール判定にできる。そうしてストライクゾーンを狭くして、投手に甘いボールを投げさせる嫌らしい技術もあった。

 礼儀正しくするのは、球審からの心象を良くして、そうした狡賢い駆け引きをしない選手だと印象付けられるから。必要なら傍若無人に振る舞う事だって躊躇わない。六道は打席に立ってバットを構え、マウンドの猪狩を見た。

 

(――聖さん。捕手としての僕は、この人を超えるのが今の目標だけど。打者としての聖さんは、投手としての兄さんには及ばない。兄さんの実力を活かしきれたら打ち取れる)

 

 初球は、いきなりカイザーライジング。蒼い稲妻がマウンドから放たれる。それを見送った六道は、軌跡を目で追っていた。

 進のミットの捕球位置、そこから当て勘で振るべきバットの軌道を割り出して、六道は冷静に二球目を待つ。今度は、通常の直球だ。それも見送ると、内角に極まる。カウントはツーストライク。

 

(蒼いストレート……球速は――)

 

 電光掲示板に表示された球速を確かめたが、それは142km/hだった。

 そして通常のストレートは141km/hで、球速差は無いと見ていい。最大球速は149km/hあたりだろうと、パワプロが言っていたのを思い出す。が、それをいきなり投げてくる事はないだろうとも判断していた。

 

(一球目は内角低め、二球目は内角。遊び球は使いそうにないな。進の配球に分かりやすい癖は無いが……この舞台、初打席では猪狩の力を見せつけ印象づけようとしてくるはずだ。狙いはやはり三振だろう。普通は変化球を投げる場面だが――礼里は直球しか投げて来ないと言った……なら私を打ち取るのに、進が要求するコースは――()()だ)

 

 狙いを絞る。六道は霧崎の洞察力を信頼していた。何せ、霧崎のオカルト的な力を知っているのだ。疑いはしない。

 カイザーライジングの軌道は見た。通常のストレートも見た。だがそれより速く、ノビて、重い速球を何度も受けてきたのが六道である。真新しさこそあれど脅威は覚えない。長打は無理でも、内野の頭を超える打球は放てる。

 六道の気が鋭利に尖る。敏感にそれを感じ取った進だが、既に守は投球モーションに入っていた。マズイ? と進は不安を懐きかけるも、すぐに落ち着いた。大丈夫だ、六道は打ち取れる。何故なら――

 

 投じられた白球。一流の打者は、投手がボールをリリースした直後に、その回転軸を視認して思考を挟まず反応する。故に六道は戸惑った。エフェクトは出ていない、しかし速い。ストレートだが、この回転は?

 構えた六道はスウィングモーションに入っている。片足を上げ、タイミングを合わせ、ミートする。一連の動作はほとんど完成した型。当てれさえすればヒット判定の結果を出せる。しかし、六道は目を剥いた。微かに手元で沈んだ速球の切れは、六道の想定を超えたのだ。

 

『内角低めのボールを打ちました! ――が、これは平凡な当たりでセカンドゴロ。セカンドの冴木、軽快に捌いてファーストへ送球しました。これでツーアウトですが……松井さん、今のボールは……』

()()()()()ですね。手元で鋭く、小さく変化する直球です。猪狩くんがこれを投げてる所は初めて見ましたが……この試合のために隠していた秘密兵器でしょう。キレも良いですが注目すべきは変化量ですね。ボール半個分の変化はえげつない……完全に詰まらされてます』

 

 六道は打席を去る。それを進は見送る。

 両者の意識はつかの間、思考で埋まった。――当然だがリトル時代に対戦した時より遥かに強くなっていた。しかし、

 

(ツーシームが持ち球に加わっていたのには面食らったぞ……しかし進の配球コースを読み違えたわけではない。次は、打てる)

(当ててきた……やっぱり僕じゃ聖さんの裏は掻けないのかも……でも僕は、僕だって聖さんに対策してきた。秀英先輩とも研究した! 次も抑える!)

 

 六道は打席に向かう和乃泡瀬に囁きかける。進の配球を読んでの事だ。

 

「和乃。初球はストレートが来るぞ。それを空振れ。二球目の変化球――多分だが、速い変化球だな。それを狙うのがいいと思うぞ」

「分かった」

 

 六道のリード力は、打者としても機能する。超中学生級を超え、超高校級の名捕手である六道の眼力を、和乃は信じていた。

 一番槍の霧崎、測定器の六道。三番は、繋ぎの和乃。数合わせだのなんだのと、名前をもじって揶揄された事もあるが、この『繋ぎ』というのは数合わせを意味しない。六道の測定結果を活かして出塁し、四番に『繋げる』からこその評価が、和乃の打順を三番で固定させているのである。

 打席に立つ、中肉中背の平凡な少年。やや女顔に見えなくもないが、そのセンスと能力は平凡な域に留まっている。故に、その才能上限を見切ったパワプロが和乃に刷り込んだのは――狙い球を内野の頭を越えさせる技術。

 

(『狙いが外れたらゴメンナサイでいいぜ』だっけ? まあ六道さんの測定結果を、完全に活かしきれるかはおれ次第だし。でも四割打てたら上等だね)

 

 以前パワプロに掛けられた言葉を思い出し苦笑する。

 和乃が右打席に立ち、構える。進は和乃をちらりと一瞥した。

 

(和乃さん……打率は四割。この人も目立たないけど、油断ならない人だ。兄さん――)

 

 サインを出す。サインを出さない相手は六道と霧崎の二人だけだ。なんせ直球しか投げないと予め決めている相手なのだから。

 進のサインを見て、守が頷く、モーションに入った。

 投じられた直球が外角高めに極まる。コースとしては甘い、しかしこれを和乃は紙一重で空振った。豪快なスウィングは、当たれば長打を期待させるほどのもの。進はそれを見て、手堅く変化球を要求する。ボール半個分、ストライクゾーン下へ落ちるスプリットだ。やや内角寄りで。

 守が頷く。それで打ち取れると判断したのだろう。

 だが白球が守の手から離れ、和乃が踏み込んだ瞬間に進は目を剥いた。この踏み込みは確信を持った人のそれだと、肌感覚で察知したのだ。

 

(来た! これを――引っ張る!)

 

 和乃には悪球打ちの技能は無い。しかし来るボールがわかっていれば、バットの届く範囲なら当てられる技術は持っていた。そして強打できたら、守備陣の穴に持っていけさえするとヒットになる事も知っている。――自分がそれを可能にしている事を知っている。

 

『強烈な当たりィ――!』

 

 実況の声。金属バットの鳴らす快音。ライナー性の当たりは三塁ベースへ、その軌道はファールゾーンに落ちず、フェアゾーンに落ちるもの。マスクを外して立ち上がった進の視線の先で――三塁手の項関羽が跳躍していた。

 レーザーのように飛翔した打球を、項のグラブが捕球する。肩から接地して地面を転がり、すばやく立ち上がった項がグラブを掲げてボールを誇示する。それを見た球審がアウトのコールをした。

 

『おっとォ! 三塁の項のファインプレーだァ!』

『いやぁ素晴らしい反応でしたね。抜けてたら長打コースだったんですが、項くんの好守に助けられました。ともあれこれでスリーアウト、一回表の攻撃は終わり、横浜北の攻撃に回りますよ』

 

 和乃は舌打ちする。それとは正反対の表情で、駆け足でベンチに戻っていく横浜北ナイン。項が褒め称えられながら守にグラブを付けた手を向け、守は苦笑しながら自らのグラブを合わせた。

 武蔵府中――宮本シニアの面々が、相手チームが捌けていなくなったマウンドへ、グラブを手にそれぞれの守備位置に向かっていく。そして、スターティングメンバーがウグイス嬢に読み上げられていった。

 

『この大会で武蔵府中の攻撃が三人で終わったのは初めてですね』

『武蔵府中も強力な打線ですが、猪狩くんも負けてないですから。流石にこの試合は一方的なものにはならないでしょう。投手戦が予想されます。……まあ次の回の攻撃が、力場くんからなんで……そこは、はい』

『えぇ……猪狩くんにとっての正念場は次の攻撃でしょう。この試合の趨勢を占う勝負になるのは――っと、武蔵府中が守備位置につきますが、これは!』

 

 ――四番。()()()()()、力場専一くん。

 そのウグイス嬢の声に、スタンドは一瞬静まり返り、そして次の瞬間には歓声を爆発させた。

 

『――どうやらマウンドに上がるのは()のようですね。いやはや、前日の騒ぎがあって、今回の登板は見送られるのではないかという懸念があったのですが……』

『杞憂でしたね。やはり猪狩守くん率いる横浜北シニアの強力打線には、力場くんの力が必要とされますし、この対戦カードは非常に面白くなってきます』

 

 パワプロがマウンドに立つ。それだけで、場の空気が変わった。

 張り詰める。触れたら切れそうなほど。そして、重い。固い。だが同時に心が高揚するような、人の心を興奮させるような佇まいがある。

 エースの風格だ。尋常ではなく――シニアのレベルに収まらない、圧倒的な存在感である。強く、怖く、固いのに、誰よりも何よりも“華”があった。見る者を魅了し、熱狂させる力の波動があった。

 

「――皆さん。それでは、声援をお願いします」

 

 内心げんなりしているのを隠しながら。レフトスタンドで応援団の指揮を取る蛇島桐人。パワプロくーん! と黄色い声、野太い声が爆発するのに、そちらを一瞥したパワプロが片手を上げて応えた。

 登板の演出は充分。ホームベースの後ろの観客席に目を向けると、そこには小山雅が頬を紅潮させて座っていた。それに微かな笑みを浮かべ、次いでパワプロは笑顔を苦笑いの色に変える。雅より少し離れた位置に、黒髪の少女が興奮しながら手を振ってきているのに気づいたのだ。

 鞘花ちゃんか、とパワプロが口の中で呟く。しかし、それだけではない。パワプロは気づかなかったが、レフトスタンドには矢部明雄と美藤千尋もいた。クラスメイトの全員が、応援に駆けつけてくれていた。

 

 投球練習を流して終えると、打席に向かってくるのは――中性的な少女、冴木創である。

 

「先生、負けませんよ」

 

 創の台詞にも、パワプロは笑い――そして雰囲気が変貌する。

 気さくで、朗らか。親しみやすさを前面に押し出していたパワプロの纏う空気が、マウンドにて王冠を戴く王者のそれへと塗り替わった。

 放射される威圧感。対峙しただけで体にのしかかる重圧。それに冴木は震えた。それは、武者震いだ。嘗ては教わる立場で、そして対戦しても薙ぎ倒されて終わった。だが今は――対戦相手とは、見られている。

 

 冴木がバットを構え、集中する。

 パワプロが、傲慢に口角を吊り上げた。

 

 今後の趨勢を占う打席、その第一球目を、パワプロがゆったりと投じようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここでキリ。長くなるからね、仕方ないね。

感想評価お待ちしてます(ニッコリ)
アンケートであおいちゃんが独走してるのに戦慄を隠せない作者ガイル。


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秋季大会準決勝(そのに)

短いので初投稿です(様式美)


 

 

 

 大衆は容姿に秀でた若き選手を()()と呼んで持て囃す。

 傑出した力を有する選手には、天才というラベルを貼り特別視する。

 ストレートの威力が飛び抜けていたら――スライダーやフォークに長けていたら――プロ選手に(なぞら)え二代目某などと称する。偉大な先人を引き合いに出す事で、その能力の優秀さを分かりやすく記号化するのだ。

 

 だがその少年は、既存のどの記号にも当て嵌められなかった。

 

 彼は容姿端麗である。

 しかし、彼は王子などと呼ばれない。何故なら彼は王子と称するには強烈に過ぎ、もはや若くして登極した王のようであったから。

 彼は傑出した力を有している。

 だが、彼は天才とは呼ばれない。何故ならその少年は、天才のように学ぶまでもなく最初から完成していたから。故に彼は天才ではなく鬼才。或いはもっとシンプルに怪物と称された。

 彼は二代目某などと言われない。ナンバーワンにしてオンリーワンなのだ。誰かに擬えて呼び習わすには、余りに異次元じみた存在だった。直球も、変化球も、駆け引きも、マウンドでの振る舞いも。喩えられる者がいない。

 

 彼が初代なのである。既存の記号は相応しくない。むしろ彼のためだけに、『パワプロ』という記号を新たに作るのが適切だった。

 

 注意深くスタンドを観察したら気づけるだろう。人種の異なるスカウトマンの姿が散見される事に。

 彼らはメジャーリーグのプロ球団のスカウトマンである。

 球界とは、魔界だ。数多の権益が絡み、財界や政界にも深い繋がりがある。故に若き人材の発掘に力を入れるのは当然であり、メジャーのスカウトが現れるという事は一つの事実を証明する事になる。すなわち彼こそが、前人未到の境地に邁進する、発展途上の世界的偉才(ワールド・クラス)なのだと。

 

 畢竟。パワプロは日本のシニアに留まらず、世界を見渡しても並ぶ者のないNo.1であると目されているかもしれない、という事だ。

 

 ――すらりと伸びた脚がマウンドの土を踏みつけた。

 

 14歳にして181cmの身長。無駄なく筋肉の網で覆われた70kgの体躯。肩を巡らし、指先でユニフォームの肩の部分を摘んで、感覚を神経質に調整。右手に嵌めたグラブを開閉し、ロジンバッグを握った手に感覚の神経を通す。

 白球をグラブから抜き、握る。打席に立つ冴木創をマウンドから見下ろす。肩を聳やかし、胸を張り、傲慢な性根を隠そうともせずに。

 それに冴木は笑った。全身がひりつく威圧感、エースの風格。嘗ても、今も憧れて、追いかけて、こうして対峙している。パワプロは頂点だ、だからこそ自身の成長を図る物差しとしてこれ以上は望めない。

 自分の力が、今どれほどのものになっているのか、客観的に掴める。勝負が成り立てば、近い領域に迫れている証になる。そして今日この日の為、三回戦目で登板したパワプロのデータも全て頭に叩き込み、目に焼き付けてきた。食い下がってみせる、そして証明する。自分もまた一流の選手なのだと。

 

『――改めて、マウンドに上がったのは力場くんです。世間に倣ってパワプロくんと呼ぶべきでしょうか?』

『どちらでも構わないでしょう。それよりもう間もなく始まりますよ。一挙手一投足、見逃せない少年です。注目しましょう。でないと解説できず、試合を観戦してるだけの給料泥棒になってしまいますからね』

 

 実況と解説の雑談を間に挟み、

 

『パーワープーローくーん!』

『パワプロォ!』

 

 スタンドの観客達の熱気を柵に、

 

『専一殿っ! ビシッといってガッと討ち取る姿、この柳生鞘花、刮目して見届ける所存です――!』

『パワプロくーん! 頑張れー!』

 

 スタンドからの、少女達の声援を燃料に、

 

(専一。そのマウンドには猪狩の空気が残っている。――塗り替えてやるぞ)

 

 本塁の奥で不敵に構える捕手の視線を受け、パワプロが傲岸不遜に笑う。

 

『おっ……なんですか?』

 

 実況が、パワプロの取ったポーズに疑問符を浮かべる。ボールを持った手を前に突き出して、ボールの握りを冴木に見せているのだ。

 それをふざけていると思わせないのが、パワプロだ。確固たる自信は幻ではない。触れたら消える霞ではない。故にあるのは、痺れるような期待。実況の声が、笑っているような響きで震えていた。

 

『これは……真っ直ぐだというアピールでしょうかね? 握りが良く見えませんでしたが――ああっと、やはり真っ直ぐだ! 冴木に対して真っ直ぐで行くぞとアピールしています! オールストレート勝負、力場専一……さあ、冴木対パワプロ――三塁コーチャーが前のめりで見詰めています!』

 

 冴木がバットを構えた。バットのヘッドをゆらゆらと揺らし、肩幅に開いた脚もタイミングを図る為に微かに折り曲げられた。

 構えは充分。それを見て取り、パワプロがワインドアップポジションの投球姿勢を取る。軸となる左足で投手板を踏み、両腕を振りかぶった。

 瞬間的に流れる力、駆動する全関節。滑らかに踏み込み、指先がボールの縫い目から離れる直前にスピンを生む。グラブを嵌めた右腕が、背後に肘鉄を食らわせるように突き出され、全身が捻出した力を過不足なく乗せられた白球が唸りを上げた。――瞬刻、ボールの縫い目が消えたようにも見える高速回転。ジャイロ回転ではない、()()()直球が捕手のミットを目指した。

 

「ッ――!」

 

 冴木は目を凝らした。バットは振らずとも、タイミングは図っている。

 オーバースローで放たれた白球は、さながら燕の如し。地面すれすれを滑空し、天高く飛翔するかのようなノビに冴木は瞠目した。

 乾いた音。ライフル弾が目標に着弾したかのような音だ。重いのに、鋭い。当たれば全身の骨が砕けてしまいそうな気がする。人の持つ生存本能を刺激する威力に冴木は戦慄して、そして浮かべていた笑みを掻き消された。

 ――笑ってんじゃねえよ。ここで笑っていいのは、俺だけだ。

 ど真ん中に突き刺さった弾丸を放って、まるでそう言っているかのような敵エースの顔。薄く浮かぶ笑み。返球を受けたパワプロは冴木に背を向け、再び定位置に戻る。周囲を見渡すパワプロをよそに、実況が興奮気味に言い、解説が感嘆の溜め息を吐いた。

 

『初球は140km/hストレート! ど真ん中に入ってきたストレートに冴木、反応できません!』

『彼の最高球速は記録上だと147km/hでしたね……捕球した音が此処にまで聞こえてきそうなほど重い球ですよ。それにあのノビ……そしてキレ、あれをシニアの選手に打てというのは酷でしょう……』

『それでも打たねば始まりません! 横浜北シニア、先頭打者の冴木が構えます。彼女もまた好打者です、このまま成す術なく終わるわけにはいかない!』

 

(――流石は、先生。初球は見るだけのつもりでしたが……打つつもりでいても当てられなかったでしょう)

 

 しかし、と冴木は思う。

 簡単には終わらない。今回は駄目でも二打席目、三打席目があるなんて事は考えない。打席に立てば常に全力なのだ。

 冷静さを保つ。冴木のメンタルはクレバーだ。緊張も、重圧も、威圧も、自らを惑わす雑念で揺らぎはしない。冴木はネクストバッターズサークルを一瞥する。二番打者の三年生、項関羽が視線を受けて頷いた。見てるぞ、と。

 打者には役割がある。個人の記録が幾ら凄くても勝てなければ意味がない。勝つためには役割を果たし、打線を繋げていく必要がある。そして打席の外から投手の球筋を見る事は有為だ。例え打ち取られても次には繋がっていく。

 

 冴木は自身の成績に拘泥しない。独りよがりな野球をしない。この怪物を打ち崩すには、全員の力を結集する必要があった。

 

 バットを構える。パワプロが六道のサインを見て頷いた。両腕を掲げつつも肘の位置が普通よりやや開いている、独特なワインドアップ。まるで木の枝に停まっていたイヌワシが、大きく翼を広げる前兆のようだ。

 パワプロが踏み込む。そして投射される弾丸の如き白球。高速回転する球が風を掴み、マグヌス効果を発生させて浮き上がった。冴木が迎え撃つ、今度は見送らずに当てに掛かった。だが――

 

『空振りッ! 二球目もど真ん中だァ! これでツーストライク!』

『球速が130km/h――信じられませんッ。フォームに変化はなかったですよ、それにノビとキレにもです、こんな現象が有り得るのでしょうか……!?』

 

 球速差10km/hだ。その遅さにタイミングがズラされ、冴木は空振ってしまう。もはや変化球のような落差だが、今のは紛れもなく直球だった。

 冴木は慄然とする。六道の返球したボールを受け取りながら背を向けるパワプロを呆然と見る。今のは、なんだ? 軌道、回転、フォーム、どれも初球と同じであったにも関わらず、どうしてこうまで球速差が生じる?

 思わずベンチを見るも、険しい顔、驚いた顔が並んでいるばかり。誰もそのからくりを見抜けていない。冴木は唇を噛んだ。タイミングが取れない、直球勝負をしているはずなのに、変化球を織り交ぜられているかのようだ。

 なら……本当に変化球を、配球に混ぜられだしたらどうなる? パワプロは通常の直球とジャイロボールを投げられる。それで10km/hの速度差を操り、慣性と重力を巧みに乗せたカーブ、ストレートと同じ回転と軌道で落ちるパラシュートチェンジアップとフォーク、データにあるだけで三通りの変化量の調節がされているスライダー、そしてパワプロの代名詞――ジャイロフォークがあるのだ。もしそのどれもの球速を自在に操れるのだとしたら……。

 

(変幻自在……千変万化)

 

 その四字熟語が、冴木の意識に浮上する。

 そして頭を振った。一部誤りがあった。球速差は10km/hではない。パワプロは130km/hのストレートを投げたが、最高球速は147km/hだ。17km/hもの速度差があるのである。

 

 エースの双眸が、炯々と光っている。どうした、もう折れちまったのか? その目がそう言っている気がして、冴木は気力を燃やしてバットを構える。

 まだだ、と冴木は思った。まだたったの二球しか見ていない。粘ればなんとか打つための糸口が見えてくるはずだ。バットを短く持ち、とにかく三球三振は逃れる事を意識する。とにかく、パワプロ攻略の端緒を見極めねば――

 

「三振するぞ、冴木」

「―――ッ」

 

 パワプロが球を投じる寸前、ポツリと溢れた呟きが冴木の耳に飛び込んだ。集中した意識の間隙に入り込む囁きに、しかし冴木は惑わずバットを振った。ファールでもいい、とにかくゴロを打ちに、当てに掛かったのだ。

 だが、積極性を失った時点で、六道の予言は的中する。130km/hの直球が頭に残ってしまっていた。投じられた140km/hのストレートに振り遅れて、冴木が空振り三振に倒れる。

 

『三球三振ゥ――! 最後もど真ん中ッ! パワプロ、余裕があります。悠然とマウンドから打者を見下ろしているぅ!』

『見下ろしてはいますが、見下してはいませんね。遊びがありません。見事な配球でした。ストレートの緩急というちょっと意味が分からない球に、一巡目の打者が対応するのは難しいでしょう』

 

「クッ……!」

 

 冴木は歯噛みして打席を去る。その背中に六道が言った。

 

「次からは変化球も織り交ぜるぞ」

「………!」

 

 努めて無視して、冴木はベンチに戻った。入れ替わりに打席に入る項関羽に言うべき言葉は見当たらない。

 冴木がヘルメットを外してベンチに座り、グラブを取っていると金髪の少年が肩に手を乗せてきた。

 

「パワプロの球は走っていたか?」

「ああ。今まで見てきた中で、比較対象が思いつかない。あらゆる角度から見ても猪狩以上だろう」

「そうか。()()()()()()()

 

 クールな表情に、確かな闘志を燃やして友沢が呟く。そしてそのまま離れていく少年をよそに、ネクストバッターズサークルに向かっていく守が露骨に鼻を鳴らした。パワプロが猪狩以上だと称したセリフが聞こえたのだろう。

 しかし異論は無さそうである。彼はまだ、パワプロが自分より上の投手だと認めていた。だが関係ない、この世に無敵の存在などいない。負けるつもりで臨む試合などあってはならないのだ。

 

 猪狩は煮え滾る闘志の炎を、必死に制御していた。闘魂を胸に秘め、気力として燃焼させるために、心の炉に闘志を押し込んで。項を相手にストレート三球勝負を仕掛けるパワプロの姿を目に焼き付けている。

 こんなに近くで、パワプロの投球を見るのは久し振りだ。

 同じ左投手、同じオーバースロー。ナンバーワンとナンバーツー。遺憾ながら、癪ではあるが、屈辱でもあるが――守にとって、パワプロの投球は何者にも勝る最高峰の教材だった。見て盗む、盗んで磨き、自己流に落とし込む。

 今この瞬間にも天才は学習していた。鬼才の技を吸収しようと躍起になっていた。パワプロのジャイロフォークから、我流のスプリットを掴み。ツーシームをその投球術から見出してきた。パワプロだけではなく、今まで対戦してきた全ての投手を糧に、猪狩守は頂点を目指して進化していく。

 

「ストライーク! バッターアウト!」

『三球三振ゥ! 二番、項、まぁったくタイミングが合いません!』

 

 クソッ! 悪態を吐いて、地面を蹴りながら項がベンチに戻っていく。それとすれ違っても、項は守に何も言わない。言うことがない。実際、速いだの遅いだの、ノビてるだの重いだの、そんな事は言われるまでもなかった。

 

 打席に立つ。睨みつける守の目に、パワプロはやはり笑っている。その笑みを消してやるよ、と守は気負った。打撃でも君を超えると。

 しかし、実力差は歴然だ。守とてそれは分かっていた。パワプロの笑みを消せるのは、今ではない。打撃技術で超えるのも、今ではない。ただ守は、打席に突っ立っているだけで、一度もバットを振らなかった。

 食い入るように、パワプロのフォームを、球筋を、音を、気配を感じる事だけに集中して、体力を温存する。次の回は、パワプロの打順から。仮に抑えられても、一点を争う試合になるのは必然。体力を打撃で使う気はない。

 

(――いや。()()、じゃない。絶対に抑えてみせる)

 

 守は球審のコールを背に、打席を去る。パワプロが、その気炎を纏った背中に向けて言った。

 

「勉強させてやる。一打席目のホームランは勘弁してやるよ」

 

 その台詞の裏にある真意、それは――守が自分に追いつくのを願う、孤高の最強者の渇望。対等な好敵手の到達を待つ、怪物の誘い。

 ナメるな! パワプロの声に、守はそう呟いた。――待っているといい、すぐに追いつく。孤独な王者のままで、いさせてたまるか――僕は、君の、ライバルなんだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 




?「魔王ムーブ楽しぃぃぃ!!」
という裏の声はない、ないったらない。いいね?


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秋季大会準決勝(そのさん)

パワプロ対いのかりしかないので初投稿です(吐血)


 

 ――大技ばかり魅せてきたからな。小技も使えるんだって事、アピールするには絶好の舞台だと思うね。

 

 

 


 

 

 

 打席を去った守がマウンドへ。マウンドを降りたパワプロが打席へ。攻守が入れ替わり、イニングは二回表に差し掛かった。

 

『――二回表は武蔵府中シニア、四番、力場専一くんからの攻撃となります』

 

 ウグイス嬢の声を皮切りに声援と関心が打席へ集中する。だがそんなものに気を取られる事はない。いつも通り帽子の鍔の位置を調整して、ロジンバッグで指先の滑り止めをした。マウンドでの集中力を研ぎ澄ますルーティンだ。

 木製バットを携え、打席に入る少年。その姿を認めた瞬間に、部外者(がいや)の存在が守の意識(せかい)から消えていく。これだけの大歓声に包まれている球場が物音一つしない静寂に満ち、全ての人間が姿を消した。

 今の守に見えるのは、ミットを構える進と球審。そしてバットを構える打者のみ。聞こえるのは打者の息遣いと己の心音。真っ黒な世界の中で、それらだけが色彩を有している。猪狩守は今、最高のコンディションに至った。

 

「………」

「………」

 

 視線が交錯する。公式試合での対戦は、リトル時代以来。今の今までその背中を追ってきた。今も追っている。のしかかる重圧は、打者としても最強である少年の醸し出す雰囲気によるもの。多くの投手がこの少年を前に膝を屈して心を折られ、再起する事もできないまま野球を辞めてきた事だろう。だが守はパワプロに対して怯む事はなかった。何度も挑み、何度も返り討ちにされ、歯牙にも掛けられず薙ぎ倒されても、その度に立ち上がってきた。

 守は天才だ。その才能は紛れもなく超一級のものである。しかし、守の真に特筆すべき点は、目に見える才能にはない。決して折れない不屈の魂、挑み続けられる精神力こそが猪狩守最大の武器であると言える。

 

 守にとってパワプロは超えなければならない宿命のライバルだ。だがそれは守が一方的に決めつけているだけで、客観的に見ればまだ対等なライバルとは言えない。

 大きすぎる力の差があった。

 パワプロは、守をライバルだと口にした事がある。しかしそれは今の守ではなく、心も体も成熟した未来の守を見透かしてのものであろう。いつかは追いついて来てくれると、面白い勝負をしてくれると期待しての評価だ。

 

 思えば、パワプロは孤独だった。

 

 パワプロは惜しみなく、関わった人間を指導している。本来ならそんな無駄な事などせず、自身の力を研ぎ澄まし続けた方がいい。にも関わらず、パワプロはいつだって誰かを教え導き、自身の練習時間を割いていた。

 結果として多くの人間が才能を開花させてきた。六道聖しかり、霧崎礼里しかり、彼の今のチームメイトしかり。守のチームメイトである冴木創や、猪狩守や友沢亮も例外ではないだろう。――何故そこまでするのか、疑問を感じるのが自然だ。そしてその疑問に至ったなら、守と同じ答えを見出す。

 パワプロは退()()()()()。周りを見渡しても、自身の全力を尽くして戦える敵がいない。味方に頼るまでもなく、ひとりで敵を打ち砕ける。そして思っていたはずだ、こんな弱者ばかりの中で野球をするのは苦痛だと。

 だからこそパワプロは、自身の能力を高める練習を怠った。これ以上自分が強くなったら、それこそ誰も手が付けられない。身の回りの連中の面倒を見てやる事で自分を成長させず、周りを強化して、野球()()()をして自分を納得させている。そして期待するのだ、追いついてきてくれ、と。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 本気を、全力を、出せていない。

 恐らく猪狩守とこの思いを共有しているのは、友沢亮だけだろう。六道や霧崎、それ以外の全員はパワプロに近すぎて気づいていない。思い至っていない。強すぎる光で目が灼かれているに違いない。

 守は思っている。ふざけるな、と。守は怒っている。舐めるな、と。守は危惧している。――パワプロはいつか、誰かに期待する事をやめるかもしれない。誰よりも高みにいる故に、頂に立ち続けて、誰もその頂に近づいてこない事を見下して、やがては失望する時が来るかもしれない。

 そうなれば、パワプロは野球をやめるだろう。

 誰も相手にならない、一人きりの最強。それを人は無敵という。

 敵が、無いのだ。それは――それは……なんて辛さ。無敵と言えば聞こえは良い。だがこと野球というスポーツの中で敵が無いというのは――果たして良い事なのか? 野球はチームでするものなのに、極論してしまえば一人で試合に勝てるという事実は誇れるのか? 八人の仲間は不要の存在ではないか。

 

 無敵。その別名は、孤高。

 

 野球をしている人間が孤高であってはならない。にも関わらずパワプロは一人だ。友情、親愛、それらを持つ相手はいても、パワプロと本当の意味で対等に戦える敵も味方もいない。このままでは、パワプロはいつかは腐る。

 こんなものかと失望した時が最後だ。そして、だから守は思う。そうはさせない、と。孤高の最強者のままでいさせてたまるかと。何故なら守にとってパワプロとは――どこか己の才能に驕っていた守を、歪ませず真っ直ぐに挑ませてくれ続けた、野球を楽しいと思わせてくれた恩人なのだ。

 努力を積み重ね、技術を磨き上げ、身体を作ってきた。その何もかもで守は常に楽しさを感じてこれた。その恩は、友情を超えた共感と絶望、そして焦りを守に与えてくれた。守は渇望する、この恩を返す事を。パワプロに教えてやりたい。最強の座を脅かし、玉座を簒奪せんと迫る者がいる事を。パワプロの敵足り得る者がここにいるのだと。孤高などではないのだと。

 

「……勝負だ、パワプロッ!」

 

 守が燃え滾る闘志を背負い、パワプロに向けて吼える。

 もしこの男が自分のためだけに努力を始めたら、どれほどの存在になるのか守は見たかった。そしてその努力をしたパワプロを超えるのが、守の目標である。断じて今の、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 通過点なのだ。このパワプロに勝つのは。

 その思いを受け、打席に立つパワプロがニヤリと笑う――その笑みが守への期待を現している。だからこそ誓う。その笑みを消してやる、と。最強の存在へ、努力する事の楽しさを思い知らせてやると。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――そう伝えてやりたいから。

 

 部外者(がいや)が喚く。期待している。興奮している。打てば全て本塁打を放ち、それ以外は全て敬遠されてきたパワプロに、真っ向勝負を挑む者が出てくる事を。守という天才と、パワプロという鬼才が対決する事を。

 だがそんなものなど守には届かなかった。守の目と耳は、この勝負に集中しきっている。余分な情報は全てカットされていた。

 パワプロが応じる。楽しませてくれと言った。そしてバットを構える。弛緩しているようにも見える神主打法。それは――まるで神に祈っているかのようだ。パワプロは自らの打法を神主打法とは言わず、リトル時代に守へ諧謔したように溢していた。これは祈祷打法だよと。神主打法ではない、と。

 当時の守は、パワプロが自らの唯一性を保ちたいからそう言っているのだと思っていた。だが今はもう違う。パワプロは、祈祷している。何を祈り、なぜ(いの)るのか。その理由は、敢えて考えないようにしていた。祈る必要がなくしてやればいいと、思うだけだ。

 

 進の出すサインに頷く。

 

 初球はやはり、決まっている。パワプロさえいなければ、この世代は間違いなく【猪狩世代】と呼ばれたであろう麒麟児の全力投球。力配分はしよう、体力も温存しよう。だが相手がパワプロであるなら、後先考える必要はない。

 全力投球だ。本気の本気で、最初から底を見せる。打たせない、半端な球を投げようものなら一撃で粉砕される。

 ワインドアップ。全身の動きを、鮮明に守は把握する。全身の筋肉のバネと関節の回転、捻出する最大出力。守だけの最強の直球カイザーライジングだ。エフェクト現象の出現と共に、白球が蒼い稲妻に覆い隠される。マグヌス現象を理論上、最大無比に引き出してホップする上方向の変化直球だった。

 

 ――それを。

 

 パワプロは、ピクリとも動かずに見逃した。それにどよめく観客達。パワプロが築いた初球本塁打の山が記憶にこびり付いているのだろう。初球から振っていくイメージがあったのかもしれない。

 だがパワプロは本来、狙い球を待つタイプだ。来た球を打つ、変化球も直球も同じ感覚で打つような、感覚派の人間ではない。むしろその逆でがちがちの理論派であり、そうであるからこそ感覚のズレに惑わされない。

 パワプロの気質は天才のそれではなかった。故にその異常性が分かる。凡人のような気質であるのに、実力は反比例して桁外れなのだから。まるで膨大な年月の研鑽に裏付けされた、確固たる努力の超人のようなのである。

 

 ――初球の球速は149km/hである。猪狩守が発揮できる最大球速だ。外角低めにピシャリと決まった、最高の球。進の顔色がつぶさに見て取れる。緊張の余り唇が乾いていた。守は返球を受けてボールをグラブに収める。

 

 嫌な見逃し方だ。反応できなかったのではなく、しなかったように見えた。シニアの中にも、世界を見渡せば150km/hを超える球を放る天才もいる。だがそれは世界的に見たらの話であり、単純な球速だけなら守も世界トップクラスであるのに疑いはない。並のチームが相手なら、このボールだけで完封できるだろう。しかし――パワプロは、それをも打てる。打っている所を見たことがあるのではなく、そう確信させる雰囲気があった。

 パワプロに苦手なコースは無い。だが得意なコースならある。内角と低めが大の得意で、それ以外のコースでも平然とスタンドに運べる技術があった。あの身長と、腕の長さで、内角低めを引っ張ってスタンドに運ぶ光景は芸術的であり。外角のボールは全て流してスタンドに運ぶ様は悪夢だった。

 

(――兄さん――)

(――分かった)

 

 守は配球を考えない。それに関しては、全て進に任せている。進はただ、守の力を出し切らせる事だけに徹していた。

 第二球は、再び外角低め。ただしパワプロが右打席に立っているため、外にボール半個分外へ逃げる変化をするツーシームだ。鋭く、小さく、しかしながらツーシームとしては大きな変化でストライクゾーンを外す。

 精密な制球力だ。進の構えたミットは動かない。進は今の所、打撃も守備もお粗末な部分が目立つが、その分、捕球技術だけを徹底的かつ集中的に磨いている。そのお蔭で守の放つボールを零さない。

 目立たないが、進もまた天才だ。でなければとてもではないが守の捕手は務まらないだろう。そしてそんな進よりも、パワプロの女房役の六道聖はあらゆる面で遥かに優れている。雲の上のような捕手だった。

 

 進は、六道聖を目標にしている。六道に及ばない事を認めている。故に研究も対策も、人に頼る事に抵抗がない。捕手としても一流である一塁手、武秀英と何度も打ち合わせ、分析して配球を決める強かさがあった。

 だがそれでも、進はパワプロの狙いが読めない。パワプロの姿勢、反応から狙い球が絞れない。何を狙っているのだろう? 醸し出されるスラッガーの気配に気を呑まれそうになりながらも、進は五里霧中の中で最善を模索する。

 

 第三球は、内角から落ちるSFF――守が白球をリリースする。パワプロが浅く踏み込んだ。このボールは、打っても詰まるはず。しかし、

 

『強烈な打球――!!』

 

 ジャストミートしたボールが三塁線上に飛翔する。ライナー性の打球は疾風であり、三塁手の項は反応できなかった。

 余りにも速すぎる打球が項の顔面の横を掠め、フェンスにダイレクトで突き刺さる。だが、パワプロも守も動かない。ファール、と球審がコールした。項が恐る恐る振り返り、ボールが転がっているのを見て冷や汗を垂らした。

 

 ――な、なんだ今のは……。

 

 肌を粟立たせ、レフトの呂布がボールを拾い中継を挟んで守へ返す。

 パワプロが打席を外し、木製バットで肩を叩きながら進へ言った。

 

「配球が安直だな、進。次あんな甘いのが来たら遠慮なく食っちまうぞ」

「っ……!」

 

 甘い? 今のが? 余裕綽々といったパワプロの台詞に、進の脳は理解を拒みそうになる。

 意味が分からなかった。配球は決して甘くはなかったし、守のスプリットのキレは驚異的だ。変化量だって下手なフォーク並にはある。それをあろうことか、打席では初見のはずなのにジャストミートして、あんなにも強く引っ張られた。

 

 怪物。投打における最強。その呼び名に恥じないどころか、怪物の名ですら小さく見せてしまう。

 

(進。怯むな)

(……はい!)

 

 守は冷静だった。微塵も揺らがない守の姿に、進は勇気づけられる。

 第四球は、ボール一つ分外れる、外角高めの直球。カイザーライジングではない、普通のストレート。

 叩き出された148km/hのそれに、パワプロは反応しない。配球を見透かされている予感をヒシヒシと感じた。カウントはツーストライク・ツーボール、差し込んでいるはずなのに負けている気がする。

 

 ――進、打たせても良いぞ。

 

 一塁手の秀英がグラブを叩き、声なき檄を飛ばしてきた。それに進は素直に頷いて、少し浮いていた腰を沈ませる。

 フゥ……と細く息を吐き出してサインを出した。次で決める。その覚悟と決断に、守は頷いた。

 投げ込むコースは、パワプロが最も得意とする内角低め。そこへ――兄が得意とする変化球、スライダーが投げ込まれる。

 横回転する白球が、切れ味鋭く横へ滑った。打者のチェックゾーンに侵入した直後に急激に変化するボール。打て、と進は念じた。打つな、と祈った。

 

 パワプロの軸足が土を抉りながら斜め後ろに半歩下がる。上げた左足で体重移動を淀みなく行ない、木製バットが軽く振られた。カコッ、と鈍い当たり。それによって放たれた打球は三塁と本塁の間、ファールゾーンへ落ちる。

 ファールボール。進は嫌な感覚を覚えた。

 今の、は……? 打ち損じたのだろうか。いや――パワプロに焦りがない。安堵したようでもない。カット、されたのだ。

 

「ッ……」

 

 第五球は、外角低めへのツーシーム。今度はストライクゾーンに入れたそれが、一塁と本塁の間のファールゾーンへ落ちる。三球目とは綺麗に反対方向へ打たれているのである。

 第六球は、内角高めへのカーブ。甘い球だが、ストライクゾーンギリギリに投げ込まれたそれを打っても外野フライが精々だろう。それが――三球目と同じ本塁と三塁の間のファールゾーンへ落ちる。

 確信した。観客の多くももしかして、と思ったことだろう。

 確実にカットされている。しかも、ご丁寧に同じ位置に打球を放って。あの猪狩守を相手に。進は漸く悟った。パワプロの狙いは――カイザーライジングなのだと。それ以外は全てカットするつもりでいる、と。

 ホームベース上で静止した木製バット。神主打法。パワプロは悠然と構えている。カウント上は追い込まれているのに、凪いだ湖面のように落ち着いていた。

 

(受けて立とうじゃないか)

(――兄さん。でもそれは……)

(逃げる事だけは赦さない。僕は強くなるために戦っている。逃げる技を身に着けるために、パワプロと戦っているわけじゃないんだ。勝負しに行って打たれたんなら仕方ないと割り切ればいい。そうだろう?)

(……はい!)

 

 守は不敵だった。打たれるつもりはない、しかし打たれたからと、狙われているからと、怯懦に塗れるような少年ではなかった。

 ここまで、守は全力だった。だが――()()()()()()()()

 全力ではあっても、本気ではない。この打席で試合が終わるわけではないのだ、パワプロを相手に後先考えてはいなくても、意識している事はある。それは、勝ち続ける意志力。一巡目も、二巡目も、抑えて勝つ事だけは念頭に置かれていた。故に、守は忘れない。全力を出しはするが、本気になるのは二巡目からでなければならないと。

 だがその考えを捨てる。お望みとあらば本気を見せてやろうじゃないかと。リスクばかりを目に入れていたのでは、アウトカウントというリターンは奪えない。守の決断に、進もまた腹を括った。

 

 守が、全霊を振り絞り、全力を捻出する。ワインドアップをしながら込める気迫は掛け値なしの本気。収束する気迫に、誰もがこの打席での勝負の決着が訪れる事を確信した。

 投じられるのは、猪狩守のウィニングショットであるカイザーライジング。蒼い稲妻がマウンドより発生し、進のミットを避雷針に見立てて落雷する。

 コースは外角低め。ストライクゾーンの下。ボールカウントになるであろうそれが、ホップして上に飛翔する。

 理外の魔球は稲妻の残光に紛れ、姿を隠している。ノビは異様極まり一流の選手にも打てるはずがない。149km/hの直球は怪物的な球威を内包していた。

 

 紛れもなく、シニア最高の直球。こと真っ直ぐのみで言えば、猪狩守のそれはパワプロに比肩しているかもしれない。

 パワプロが、守がボールをリリースする寸前に始動する。内に踏み込んでいく様は、完全に来る球種とコースを見抜いてのもの。腰の回転、全身の捻り、全てが連動して一部の狂いなく木製バットをコントロールした。

 振り抜くバットのキレは、さながら古刀の如し。

 果たして古刀は、雷切を成すが如く守のカイザーライジングをジャストミートしてのけた。

 真芯での強い当たり。それに、守の集中が打ち破られる。スタンドからの歓声と悲鳴が耳に届き、振り返った先は一塁側。綺麗に流し打った打球が一塁線上へ落ちて、球審が全員に聞こえるように叫んだ。

 

「フェア!」

 

 判定はヒット。ファーストの秀英の頭を越えたヒットだ。

 惚れ惚れするほどの打撃芸術。武蔵府中シニアの面々が持つ全ての技能は、パワプロから伝授されたもの。彼らに出来ることはパワプロにも出来る。

 パワプロはゆっくり走って、一塁で止まった。ライトの野球少女、新島早紀は浅く守っていたのだ。素早く守備移動を終えて捕球し、二塁へ送球した故にシングルヒットで勝負は決着したのである。

 

 歓声が上がる。それは守を称賛していた。よくやったと。パワプロに本塁打を打たれなかったのは、この大会だと守が初めてだからだ。だがそれが、守をパワプロ以下だと見做していると伝えていると、自覚しているだろうか。

 守は無視する、気にもしない。まあ、こんなものだろうと思う程度だ。打たれはしたが、点に繋がっていないならそれでいいと割り切る。そして守は思った。果たして今のパワプロの打撃の意図を、把握できた人間がこの球場に何人いるだろうな、と、パワプロがその気なら長打にされていたかもしれない。そんな予感がしていた。パワプロは――()()()()()()()()()()()()()()のではないかと守は天才的な勘で感じ取っていたのだ。

 パワプロが一塁上で守を見ている。彼は笑っていた。勉強になったろ? と。何が勉強になったのか。それはきっと――いや、今はいい。それより次の打者の相手をしなければならない。

 

 守は解けた集中力を作り直す。

 打席には五番打者の鬼島騎兵。彼はチャンスに強く、アベレージに打てる打者だ。得点圏打率は七割と、驚異的成績を誇っている。

 油断はしない。全力ではないが、本気で掛かる必要がある。守がそう思い、進のサインに頷いて投球姿勢に入った瞬間――パワプロが走った。守のモーションを完璧に盗んでの盗塁。進が目を見開いて、ストレートを捕球し様に立ち上がり二塁へ送球する。だがパワプロは滑り込むまでもなく二塁に到着していた。

 

「俺は脚も速いんだよ。忘れてたのか、アイツ」

 

 パワプロが飄々と嘯き、冴木は苦笑する。友沢が嘆息して肩を竦めた。

 

「オレは来ると思っていた。進の奴には後でキツく言ってやらないといけないが――」

「あんまり怒ってやんなよ? どうせ俺を刺せる奴なんか、今のシニアにはいねえんだしよ。なんならその証拠を見せてやろうか」

 

 傲慢に宣うパワプロに、友沢と冴木はまさか、と思う。

 そのまさかだった。

 一度の牽制を受けても悠々と二塁を踏んだパワプロが、短くリードしている状態で――突如、その体が()()()()()のである。

 予備動作、皆無。守の投球開始と同時に、無拍子で始動したパワプロが、頭の位置を動かさずに走り出していた。その気配の薄さ、疾さは通常の野球技術ではない。気を割いていた友沢達ですら反応できなかった。

 スタンドから見ていた柳生鞘花が瞠目する。あれは――()()だ。古武術を野球に転用した人間など、パワプロが史上初だろう。果たして進は三塁へ送球する事も出来なかった。

 

 これで、ノーアウト、ツーストライク、ランナーは三塁。さしもの守も動揺して瞳を揺らした。なんだそれは、と。

 そしてやっと観客達も理解する。

 

 パワプロは、投手としてはおろか――打者としても最強なのだと。ホームラン以外を打っても、塁に出さえすれば三塁まで進める走塁と盗塁技術を有した本物の怪物なのだ、と。やっと理解できた。

 怪物が三塁から守に笑い掛ける。どうする? 下手に打たせたら、本塁に帰っちまうぜ――その目はそう言っていた。

 

 そして棒立ちしていた鬼島騎兵が開眼する。

 

「へッ……ツーストライクになるまで黙って立ってろって、そういうことかよパワプロの奴。全く、可愛げのねえ後輩だこって――!」

 

 パワプロが打席に立つ前に、鬼島に掛けた台詞は。

 つまり、最初からシングルヒットからの二盗を狙っていた証明だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本作が野球物な気がしてきてましたが気のせいでした。これはやきうです(今更)

面白い、続きが気になると思っていただけたなら、感想評価などよろしくお願いします。


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秋季大会準決勝(そのよん)

この試合のターニングポイントに差し掛かるので初投稿です。


 

 

 

 

 鬼島騎兵は厳つい名前の印象を裏切らない人種だった。

 

 生まれつき力が強く、体格に恵まれ、目つきが悪い。髪型はイケてるリーゼントで、染料でまっ金々の金髪に染め上げている。外見はまさにステレオタイプのヤンキーだろう。

 

 その格好をするに至るのに、深いドラマがあったわけではない。両親は常識的な人で、息子の格好を咎めていた。鬼島本人の素行は悪いわけではないのにそんな格好をしているのは、単に鬼島がこの格好を()()()()と感じていたからである。親の言うことを聞かない事に悪いと思わないわけではなかったが、これが格好いいんだから口出しするなという思いの方が強かった。

 しかし、そんなツッパった格好をしていたせいで鬼島は同年代の中で浮き、何を勘違いしたのか、それとも単なる気紛れなのか、鬼島は地元の不良から絡まれるようになっていった。そして鬼島はやられたらやり返す気性の荒さを持ち合わせていた故に――やがて鬼島は本当に不良となってしまう。睨まれたから睨み返し、因縁をつけられたら言い返し、殴られたら殴り返して。一帯のチンピラと喧嘩に明け暮れる日々を送る様になってしまったのだ。

 

 鬼島は荒れた。自業自得な面はあるが、そんな事など知ったことではない。個人の趣味でしている格好でとやかく言われる筋合いはないと思うし、それを理由にして因縁をつけてくる身の回りの全員が気に食わなかった。

 喧嘩に明け暮れるようになった鬼島は、基本的にタイマンでは滅多に負ける事が無かったのも鬼島を折れさせない原因だった。なんだって群れなきゃ何もできない、弱いくせに粋がってるザコに気を遣って格好を改めなければいけないんだと思っていたのだ。

 

 些細な事ではあるし、馬鹿らしい事ではあるが、鬼島にとって身の回りの連中は全てが敵だった。もはや自分に視線を向ける人間は因縁をつけてきているようにしか見えず、だから――今にして思うと、なかなかイカレた理由で、目に付いた男に喧嘩を売った。

 

 それはまだ成長期に入る前の、力場専一だった。

 

 物珍しそうに見てきて、『ツッパった頭してんなぁ』と笑われたのが気に食わなかったのだ。文句あんのかとガンを飛ばし、ムシャクシャして軽く小突いてやろうとして。そして、次の瞬間に空を見上げさせられていた。

 地面に優しく倒されていたのだ。未だ嘗てない経験に呆気に取られ、慌てて立ち上がった鬼島にソイツは言った。

 

『ツッパった頭してんなって言っただけだろ。何そんな血走った目ぇしてんだか』

 

 思えば。

 

『つまんねえ事に有り余ってる力割くぐらいなら、俺と野球しようぜ』

 

 投げ飛ばされて、毒気を抜かれ。そんな含むもののない目を向けられたのが久し振りだったから……つい、頷いてしまったのだろう。そして無視するのはなんだか負けた気がするから、なんだかんだとソイツが最近移籍したというシニアで練習に参加させられて――

 

『センスあるじゃん。一年もしたらレギュラー狙えるぜ。本格的に野球やってみねえ?』

 

 思いの外楽しかったから、鬼島は流されて野球を始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼島はベンチに目を向けた。すると、宮本監督がサインを出している。

 思えば変わった監督だった。ガキの意見にも耳を傾けられる大人は滅多にいない。しかも鬼島のリーゼントや金髪にも文句はつけず、実力があるからとレギュラーにまでしてくれた。

 こんな大人が他にいたか? いなかった。いなかったからグレていた。

 監督は凄く懐が深く、鬼島にこんな大人になりたいと思わせるような男だ。そんな監督の出したサインは、鬼島の打撃スタイルや適性を度外視した物だったが、鬼島は構わない。監督が言うならやってやるよと思い三塁を見る。そこには大きくリードして敵バッテリーの気を奪う、生意気な後輩がいた。

 騎兵パイセンとナメた呼び方をし、タメ口を叩く――最高にイケてる後輩。転機は間違いなくコイツと出会った事だ。野球をして、それなりに上手くなっていくと、次第に周りの鬼島を見る目が変わってきたのである。

 野球は――世界的な球技だ。それで、怪物のいるシニアでレギュラーの座を掴んだ鬼島を、周りはただのヤンキーだと見做さなかった。意外と凄いヤツなんだと一目を置くようになったのだ。

 

 思うことは色々ある。だが一々言語化しない。こっ恥ずかしい。だが、

 

(でっけぇ借りがあんだよ、アイツには……)

 

 だから、負けない。鬼島は二年生から野球を始めたのに、より早く、長く野球をしていた連中を押しのけてレギュラーになったから、無様は晒せない。

 頻りに三塁を気にして、二度の牽制をする猪狩守。あの霧崎が三振し、六道がゴロに打ち取られた相手だ。一巡目から打てるとはハナから思っていない。視線を再びベンチに向け、チームの頭脳である六道を見る。

 鬼島から見てもかなりの美少女だが、あれは明らかにアイツにホの字だ。脈のない女に気を遣う鬼島ではないが、意見は聞きたい。六道は鬼島にサインを出していた。それに頷く。アイツの面を拝んで、やはり頷く。

 

 やりたい事がわかった。

 

 相手の守備陣が動いていた。外野は前進し、内野は三塁以外前に出ている。長打は無いと判断されているらしい。正解だよ馬鹿野郎と鬼島は笑う。

 

 猪狩守は三塁を気にしながらも、投球する気になったようだ。正面を向き、捕手のサインに頷いていた。

 その目は、鬼島を見ていない。天才サマは鬼島を侮っていた。ナメていた。――いや、違う。三塁ランナーの気配がデカ過ぎて集中できていないのだ。

 そしてそんな状態でも鬼島を打ち取れると確信していて、それは決して驕りではなく純然たる事実だろう。

 カウントはツーストライク、ノーボール。三球三振に切って取ろうという意図が透けて見えて、投じられたボールに鬼島は応じた。放たれたのは、大きく下に落ちるフォーク。――六道の読み通りの配球だ。恐らく六道のサインがなければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『――スクイズだぁ!』

 

 鬼島はバントが下手だ。故に三塁側へボールを転がすのが精一杯で、思っていたより強く転がしてしまった事に焦りながらも一塁へ走り出す。

 これでは三塁ランナーは帰れず、鬼島はファーストへの送球で一死を取られるだろう。だが――不意打ちにも素早く反応した守が、三塁手を制して自ら捕球した。そして一塁にボールを送ろうとして、三塁ランナーがホームへ向かう気配に動揺して振り返る。だがアイツは強く踏み込んだだけで動いていない。猪狩守が振り返るや三塁に戻って、その間に鬼島は一塁に到達していた。

 

『ああっとぉ!? 猪狩守くん、パワプロくんのフェイントに引っ掛かってしまったぁ! 一塁へ投げられず、これでノーアウト一塁と三塁! ピンチが広がってしまいました!』

『やられましたね。彼、嫌らしいフェイントをしますよ……先の二盗を見せられた直後だと、無視できなかったのも無理はありません。むしろ投げなくて正解だったかもしれませんよ。もし一塁に投げていたら、彼は本塁に走っていたかもしれませんし』

 

 へッ、と鬼島は一塁上で鼻を鳴らした。監督の指示通りのバント、六道の読み通りの球、パワプロの作った隙。全てが噛み合って無死でチャンスを拡大してやった。天才サマの足元を掬ってやった爽快感に会心の笑みを浮かべる。

 これだ。この、長打を放った時よりも齎される快感。チームで動いているという連帯感の下、巧く行った時の感覚は病みつきになりそうだ。

 

 ――やられたッ!

 

 守は舌打ちする。マウンドに内野の野手達が集まってきていた。捕手の進もまたやってきて、守を中心に円を描く。

 グラブで口を隠し、予想外の状況に話し合う。

 

「塁に出たら出たで、目障りだなアイツ……」

 

 口火を切ったのは三塁手の項。それに武が応じるでもなしに守へ言った。

 

「なぜ一塁にすぐさま送らなかった?」

「……君はパワプロの盗塁を見ていなかったのか。下手に送球していたら、その前動作を見た瞬間に走られていたよ」

「そうなったらオレが本塁に送って刺していた。パワプロを過大評価し過ぎて判断を誤ったんじゃないか?」

「――いや。猪狩の判断は間違いじゃない」

 

 武の糾弾に、友沢が言う。それに冴木も同調した。

 

「友沢くんの言う通りだと思う。二塁から三塁に走った時の先生の初動を、間近にいた自分や友沢くんも読めなかった。それにあの走り……本塁で進くんのミットを躱していたかもしれない。あそこでは投げず、一塁を譲っていて正解だと思う」

「……先生?」

「個人的に尊敬しているから、先生だ。そんな事よりどうする、一点は覚悟していくのか?」

 

 冴木がそう言うと、視線が守に集中する。

 一拍の間を空けて守は口を開いた。

 

「……武の言う通り、僕は確かに迷った。この迷いは、邪魔だ。プレーが雑になる。だから最悪一点は覚悟して行くべきだろう。だが、取り返せるのか?」

「無論だ――そう言えない奴を、お前は仲間に誘ったのか、猪狩」

 

 静かに燃える友沢の闘志と宣言。それを受けて、守は腹を括った。

 パワプロから一点を奪い返す。そこから更に勝ち越す。それは至難を極めるだろう。いや寧ろ不可能ではないかと守は思った。

 だが、だからこそ、信じた。

 仲間を信じられずして何がチームだ。不可能だとは思う、しかし不可能を可能にしなければ、そもあの怪物に勝つ事など夢のまた夢だろう。

 

 内野陣が守備位置に戻っていく。

 守は進の構えるミットと、打席に来た相手打者を見据えた。

 打席には六番ライト、田嶋亮。守からしてみれば格下である。だがその格下が今、一塁にいるのだ。ナメるつもりはない。

 理想は三振を奪う事。しかし三振を奪いたがっているのは相手も承知しているだろう。守は相手ベンチを見る。優れた洞察力で配球を読んでくる、厄介な選手――シニア野球界の頭脳と言える名捕手がいた。

 今も赤い瞳が守と進を観察している。守備陣形を見ている。そして、向こうの監督に囁き、監督が田嶋にサインを送っていた。

 

「………」

 

 読まれていてなお、三振を奪えるとは思っている。だが――またスクイズをされたら? バントを掻い潜れるのか? やれる、と自信を持てる。守のカイザーライジングを見て、バントできる勇と技が田嶋にあるとは思えない。

 しかし、そこで守は考える事をやめた。思考を放棄したのではない。色々と考え込み、投球のクオリティーを下げる事こそ愚の骨頂。配球で頭を悩ませるのは進の仕事だった。弟の成長のためにも、出しゃばるつもりはない。

 進もまた覚悟を決めたようだ。サインを見て、その意図を察する。一か八かの賭博――悪くない。やはり進にも才能がある。心を強く持てる才能が。

 伸るか反るか、賭けてみよう。駄目で元々、駄目でも仲間が助けてくれる。守は投球モーションに移って、投じたのはツーシーム。内角に投げ込んだボールに、田嶋が空振りする。そしてベンチを見て頷いていた。

 関係ない。仕事に徹する。

 続く二球目はSFFだ。コースは再び内角。これにも、田嶋は空振りした。三球目――内角ギリギリに、140km/hのカイザーライジング。田嶋はこれを見送り、堂々と構える。しかし今のは入っていた。これでワンアウト――

 

「……ボール!」

 

 進が球審を振り返る。そんな馬鹿なと抗議する顔だった。

 だが本当に抗議の声を上げる前に、守の叱声が飛ぶ。

 

「進ッ!」

「に、兄さん……でも!」

「黙れ! いいから、座るんだ」

 

 進は渋々座った。そういうところは、まだまだ未熟だった。球審に抗議して無駄に心象を悪くするのは悪手でしかないというのに。

 今日の球審だと、今の所はボールになる。それが分かっただけ収穫だと思うしかない。それに――今のは打者が巧かった。思い出してみれば、この田嶋亮とかいう奴は四球で出塁するという事を何度もしている。

 選球眼の良さのアピールが上手く、今日のこの試合に至るまでに積み上げてきた四球の山が、くさい所に投げられた球をボールカウントにする事に繋がったのである。伊達にパワプロのいるチームでレギュラーになっていない。

 

 童顔の少年、田嶋亮は悠々とバットを構え直している。あわや見逃し三振するところだったとは思えない、肝っ玉の太さが伝わる姿勢。進は悔しげにしている……切り替えろと、守は目に力を込めて見詰めた。

 田嶋が、密かにバットを短く持つ。三振を取ったはずなのにと、悔しがる進はそれを見落としたが――守は見逃さなかった。進の出したサインに、首を横に振る。滅多にしない反応に進は目を見開き、どうしてと目を合わせると、守が田嶋に目を向けた。それに釣られて進が田嶋を見て、バットの持ち手に気づきハッとする。進が改めてサインを出した。それに今度は頷く。

 四球目は――外角低めへのストレート。変化しない、ホップししない普通の直球。ただしそれは異様な重さを宿した141km/hの速球だ。今度は間違いなくストライクゾーンに入る。それを田嶋は打ちに掛かった。兎に角ミートする事だけに専心してのヒッティングである、長打も単打も頭にない当てる事だけを意識していた。故に――守もまぐれ当たりを許してしまう。重い音が鳴り、投手の横を抜けて鈍いゴロがショートとセカンドの間を転がっていった。

 

「――冴木さんッ!」

 

 一塁の鬼島が田嶋のバッティングと同時に走り出していた。

 スタートが速い――捕球、手で掴む、トスする、この三つの動作をしていたのでは間に合わない。友沢は瞬間的にそれを悟って冴木に呼び掛け、冴木もまた同じ答えに辿り着き二塁ベースを踏む。同時、友沢は転がってきたボールにグラブを当て()()()。弾かれたボールが二塁に達していた冴木のグラブに収まり、跳躍して鬼島のスライディングを躱した冴木がファーストへ送球し、ゲッツーが完成する。友沢は打球をグラブで弾くだけというシングルアクションで行動を終えたのだ。これで二死三塁――と、思った。

 だが、

 

『三塁ランナーホームイィィン――ッ! パワプロくんが本塁に帰還し、これで1対0! 二回表、武蔵府中シニア先制!』

 

「!?」

 

 友沢と冴木が驚愕して本塁を見た。すると、確かにパワプロが本塁に帰っている。いつの間に――愕然として佇む彼らに、武秀英が言った。

 

「やられたな。奴は友沢の視線が逸れた瞬間にスタートしていた。この失点は痛いぞ」

 

 淡々と言う武だが、苦み走った表情は隠せていない。

 パワプロを相手に重い失点だ。パワプロはスタミナが無くなる限界まで投げたりはしない。シニアは通過点に過ぎないと豪語する怪物は、ケガのリスクを負ってまでマウンドに居座らない。故にパワプロが降板するまでゼロ点に抑えたいところだったが、その目論見は脆くも崩れ去ってしまった。

 武が守を見る。もし動揺していたら発破を掛けるつもりだったが――どうやら心配は要らないようだ。動揺するどころか逆に気炎を纏い、燃えている。それでこそだと笑っていた。ざわつく内野に守が声を掛ける。

 

「――ツーアウト! しまっていこう。次の攻撃は友沢からだ、取り戻してくれると期待してるよ」

「……ああ、期待しろ。どんどん打たせてこい。完璧に阻んでやる」

「こっちにも打たせろォ――! 暇だァ――!」

「ライトもだぞっ!」

「センターも忘れないでくれ!」

 

 友沢が力強く応じると、レフトの呂布が。ライトの新島が。センターの鏡が呼応して大声を出した。パワプロを相手に失点してしまった事で、横浜北シニアを応援する者で固まっている観客席が静まり返っていたが、その姿を見てまだ試合は二回表なのだと思い出して声援を送る。

 守が打席を睨んだ。失点したところで衰えない、天才の闘気。それを叩きつけられても、七番サードの君島悟は怯まなかった。日常的にその天才を超える怪物を見てきているのだ。怯むわけがない。

 だが怯まなかったからと、打撃結果が奮うわけではなかった。二球続けてSFFを投じ、三球目のツーシームで空振り三振を奪った守は堂々とマウンドを去る。二回表は終わり、裏の攻撃だ。観客達も湧く。武蔵府中シニアが二回までに一点しか取れなかった試合は、これが初めてだったから。そして二階裏の攻撃は――大会屈指の強打者、四番ショートの友沢亮からである。そしてその後には武秀英と、呂布鳳仙が控えていた。

 この強力打線を相手にパワプロがどう出るのか、打たれるのか、打たれないのか、期待する。興奮する。守が去ったマウンドに登ったパワプロが、観客席に手を振ってファンサービスに勤しむ中、金髪碧眼の少年が打席に向かう。

 

「――久し振りの対戦だな。無様に三振する準備はオーケー?」

「準備万端だ、パワプロ。ただし、オレがしてきた準備はお前を打ち砕くものだがな」

 

 挑発的に、しかし親しげに呼び掛ける傲慢なる怪物。

 それに友沢もまた楽しげに応え、バットを軽く振るう。

 

 一点を追いかける中での対戦――投手を諦めてまで、この怪物を打ち砕く事を夢見てきた。これで燃えるなという方が無理である。

 

 ――この時、誰もが確信していた。

 

 この試合は、ここがターニングポイントだと。

 友沢が打てなければ、試合の流れは完全に宮本シニアに傾く。友沢以外の誰がパワプロからヒットを打てるというのかと、球場の誰もが注視した。

 猪狩守の見守る中、友沢亮がバットを構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




パワプロ は 力を 溜めている

誤字修正兄貴姉貴達感謝感激。
感想評価ノ雨ニ感涙。感謝感激雨霰。


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秋季大会準決勝(そのご)

二回裏にして流れが決まるので初投稿です。


 

 

 

「びっくり芸がしたい。ってなわけでやろうぜ、聖ちゃん」

「びっくり芸? こんな時にまたぞろ妙な事を言い出すのだな……」

「サインはこれとこれな。これの時はコイツを投げる、ってな感じでどうよ」

「……後で怒られても知らないぞ」

「ハハハ、真似られる方が悪いんだよ。んじゃ――久し振りの対戦を祝して、いっちょ友沢を()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 パワプロに関しては言うまでもなく。

 

 対する友沢亮の今大会の成績は、()()9()()。内訳は25打数23安打の20打点10本塁打――初戦から準々決勝までの四試合で、相手チームに圧倒的大差を付けて圧勝してきた、横浜北シニアの四番の座に恥じない内容だ。

 パフォーマンスの巧みさやスター性、巨大な知名度を誇る投打最強の巨星パワプロがいるため、比較すると些か注目度は低い。とは言っても驚嘆すべき成績を見せつけているのだが、猪狩守と同じくあかつき大付属高校に進学する事でも知られているので、スカウトの関心が高くないという事情がある。しかし打席に立てばほぼ確実に安打を放ち、四試合で10本もの本塁打を放っている友沢は、紛れもなく大会二位の強打者として脚光を浴びていた。

 故に友沢に注目するのはプロ球界の人間だ。パワプロや猪狩守などと同じ最高ランクの逸材としてチェックされていた。

 友沢の本塁打は全球ストレートから放っている。直球に強すぎるほど強く、だが変化球に弱いかというとそうでもない。内角と外角、高めと低め、苦手なコースなどなく広角に打ち分けられる技術があり、どの方向にも本塁打を放てるのは証明済み。パワプロから打てるのは、友沢しかいない。その評価と期待を持てる最大の存在がその少年だ。

 

 彼はスイッチヒッターだ、左と右どちらの打席でも打てる。その友沢は左投手のパワプロを相手に左打席に入った。

 

 多くの左打者は左投手を苦手にしている。その逆もまた然り。だがそれは、ほとんど感覚的なものである――と、友沢は思っている。何せ左利きの選手は珍しい部類だ。互いに左の相手と対戦した経験は薄く、不慣れな相手との対戦に気持ち悪さを感じるのだろう。鈴森一郎という偉大なメジャーリーガーの出現によって、左打者は一気に増えてきたが、それでも左は左を苦手にする構図に大きな変化は見られない。世間一般に右利きの方が圧倒的に多い為だ。

 では友沢はどうかというと、そうでもない。まず友沢は右と左では、日常的に左打席に立つ事が多く、左投手との対戦経験が豊富であるからだ。何せ友沢の仲間である猪狩守が左投手だ、対戦経験は群を抜いていた。

 左に立てば、右に立つより左投手の腕を見やすい。パワプロが左打者を苦手にしているなんて話は聞いたことがないから、友沢は完全に自身のやり易さを重視して左打席に入っている。

 

 構えは、スタンダード。基本に忠実で、だからこそ安定している打法。纏う強打者の風格は、冷静沈着な六道聖をして警戒させるほどのもの。本当にやるのかとエースの顔を窺うも、パワプロの顔から笑みが消えることはない。

 手玉に取ってやる、とパワプロは言った。

 そう、手玉に取るのだ。勝負ではない。極論パワプロは自身の球さえ落とさないなら、捕手は誰でもいいのである。駆け引きも何もなく、圧倒的な力だけで敵を捻じ伏せ、試合に勝てる投手なのだから。

 六道としては、悔しい。当たり前だ、六道が必死に考え抜いたリードも配球も、パワプロにとっては不要なものだったのだ。捕球技術が充分な、投手の球を後ろに逸らさない壁に徹するだけでいいなんて、捕手の存在意義がない。

 故に強敵の出現は六道にとっても望むところ。友沢はこの世代で間違いなくトップに立つバッターだ。無論、パワプロを除けばだが。だからこそパワプロの言う『遊び』に付き合ってもいいと六道は思う。遊んでいるパワプロすら打てないようでは、到底六道の真価は発揮できない。

 

 それはそれとして、仕事はするのだけども。

 

「友沢」

「………」

「専一を本気にさせてやってくれ。あんなに野球が好きなのに――専一は、野球が出来ていないのだ」

「………」

 

 ささやき、囁く。本音か駆け引きかは不明。

 それに友沢は目を見開いた。まさか敵の捕手にそんな事を言われるとは欠片も思っていなかったのだ。

 

「これから専一は遊ぶぞ」

「……遊ぶ?」

「不満なら、ふざけて勝てる相手だと思われない事だ」

 

 そして掛けられた言葉に、友沢は一瞬目の前が真っ白になった。

 遊ぶ? 遊ぶだと? 無意識にマウンドを見ると、史上最大の怪物は悪戯っぽく笑っていた。いつもの傲慢な笑みではなく、期待を孕んだ――まるで目の前の玩具が、じゃれついただけで壊れないか試そうとしているかのような。

 そんな、目。

 

「………」

 

 いいだろう、と友沢は思った。遊んでやる、と。

 今までパワプロはあんな目をした事はないはずだ。なのに友沢に対してあんな目をしているのは、裏を返せば今までの誰よりも期待してくれているという事でもある。だがそれはそれとして、気に食わない。

 噴出していた闘志が掻き消える。萎えたのではない、凝縮されたのだ。遊んで打ち取れる相手ではないと思い知らせてやるために、集中力がかつてなく研ぎ澄まされていく。オレは遊びで相手になる男じゃないと思い知らせよう。

 

 友沢の想いを受けて、パワプロは大きく振りかぶる。

 そして次の瞬間に友沢は瞠目した。

 いつものオーバースローではない――これは、

 

『――()()()()()()()だァ!』

 

 実況の叫びを肯定するかの如く、少年の体が傾いていた。

 手が地面スレスレを掠める。一分の狂いなく投影されるのは、サブマリン投法の女エース。投じられるのは、その代名詞。

 リリースする際に特殊な摩擦が発生させられる。空気中の酸素と水素を結合させると共に、空気中に水を発生させて――ボールを水切り石の原理で跳ね返らせる事で鋭角の変化を生み出す驚異の魔球。

 

 マリンボール。

 

 迸る水飛沫によって、何が来ているのかは分かる。しかし想定外の魔球で虚を突かれ、水飛沫でボールそのものが見え辛いのだ。

 友沢は驚愕し――()()()()体が勝手に反応した。反射的に動作する五体、繰り出されるなり十全に制御されているバット。無意識にまで刷り込まれたバッティング本能は、実物では初見の魔球を捉えた。

 超中学生級の域を超えた超高校級の天才、友沢亮。安打製造機たる少年は、初見かつ裏を掻かれても反応する。驚嘆すべきミート力はマリンボールを捉えるなり、最初から条件付けられていたかのように手首を返して、長打コースにまで運んでいく――はずだった。

 

 バットに捉えられたマリンボールは、貞淑な乙女の如く身を捻る。意地の悪い悪女の如く、バットのアプローチを袖にする。

 以前マリンボールを開発する時、早川あおいはパワプロに知恵を借りた。理論を作るために相談し、完成したのがこの魔球である。だが、ただ切れ味が増してるだけではツマラナイ、もっとえげつなくしようと少年は提案した。

 そうして改良され、生み出されたのが【マリンボール改】だ。

 元々早川あおいも友沢の仮想敵だ。研究も対策もしている。どれほど凄まじい変化球でも、来ると分かればバットに当てる事自体は難しくない。猪狩守のカイザーライジングも、木場嵐士の爆速ストレートも、他も同様だ。あれらは詰まらせる事、球威で圧すことに重点が置かれている。空振りも取れるがレベルの高い選手は振り遅れない限り早々空振りしない。

 同じく早川のマリンボールのキレは良いが、見たら球種が分かるのだから当てる事に難儀しないのだ。むしろエフェクト現象の発生しない通常の高速シンカーの方が厄介だと感じる者もいるだろう。故に名実ともに魔球と化すためには、()()()()()()()()()()()()を持つ必要がある。

 

 ()()()()()()()()()。当てられるまでは通常のマリンボールだが、マリンボール改はバットにインパクトされた瞬間に、水面で跳ねる水切り石のように跳ねるのだ。故に詰まる。思ったように打球を飛ばせない。

 マリンボール改を打つには完璧に芯で捉えるしかなかった。そうすればボールが跳ねる性質を利し、軽い手応えで長打にできるだろう。

 重くするのではなく、キレるようにするのでもなく、逆だ。逆にボールを軽くする事でマリンボールの凶悪さは進化した。如何にして打球を詰まらせるかを追い求めた、早川あおいがまだ投げていない改良型の魔球である。

 


 

(――演出に入ります。あ、もう入ってますけど。さておきわたしがこんな事をしてる理由を解説しましょうか。そろそろ充分な布石も打てていますし、試合後ボーナスでコツが貰える頃合いなんですよね。これは試合の勝敗次第で貰えるか否かが決まり、どういったコツが貰えるのかは試合内容で選択肢が狭まって、ランダムで決まります。敢えてピンチを作ってそれを切り抜ける事を繰り返してたら『対ピンチ』で、それを既に持ってたら超特『強心臓』が貰いやすくなるといった具合ですね。四球を出し過ぎたら赤特……デメリットスキルが無理矢理付与されます。赤特『四球』がそれです。

 んで、わたしが狙ってるのは当たり前ですが超特コツです。その名も『マインドブレイカー』……三振に切って取った相手の調子を悪くする、要するに心折設計な超得ですね。コイツは『最強エース』ムーブするには欠かせないんで絶対に欲しいですよ。一応手に入れる算段は立ててますが、試合ボーナスで貰えるなら経験点的にも労力的にも節約できてとてもおいしいです。狙わないわけにはいかないですよ)

 


 

 ――結果として、友沢は詰まらされた。

 だが球速が137km/hと本家より速く、振り遅れた事が幸いし、打球は六道の手が届かないギリギリの位置に落ちた。

 

「……!」

「………」

 

 顔を歪ませる友沢と、笑みを浮かべたままのパワプロ。余裕綽々といった貌のパワプロに、『遊び』の意図を悟る。なるほど――確かに遊んでいる。要するに自分のものではないボールを、パワプロのレベルで放つという事だ。

 借り物の投球術で遊ぶパワプロを打てたら本腰を入れてやると言いたいのだろう。そしてそれに対して友沢は思う。そういうつもりなら話は簡単だ、と。まさかの球に面食らった故に打ち損じたが、()()()()()()()()()()。早々にお遊びを終わらせてやる。如何にレベルが高くとも、友沢の最大の仮想敵は本気のパワプロなのだ。遊んでいるパワプロなんて打ち砕くのに苦労しない。

 

「―――」

 

 続く第二球目をパワプロが振りかぶる。

 友沢はエゴイストではない。これが試合ではないなら、わざとカットして見せ相手にならないと誇示し、パワプロの本気を引き出そうとするだろう。だがこれは仲間達と闘う試合なのである。

 今欲しいのは一点だ。打てるボールをむざむざ見逃すつもりはなく、まずは同点に戻し、思い知らせてやればいい。自分を相手に遊んだ愚かさを、傲慢な怪物に肉薄していく自分という存在を。

 スラッガーの気迫が収斂する。何が来ようと打ち砕くために。

 極限まで集中した友沢の目が、だれよりも速くパワプロのフォームを視認した。今度はアンダースローではない。オーバースローだが、しかし――パワプロのフォームとは違う。これは、仮想敵の一人、太刀川広巳のもの。

 

 投じられたのは、真ん中へ向かうボール。ピクリと反応した。甘い、こんなものはスタンドに叩き込んでやる、と思った瞬間だった。不意にボールが薄いエフェクトを纏い――手元で大きく、急激に、()()()滑った。

 通常横の変化をすると思われるスライダー等は、重力に引かれて少し下に落ちながら変化するものだ。だがそれは重力など知らないとばかりに真横に変化したのである。投手の利き手の反対側に曲がるスライダーではない、これはパワプロから太刀川に伝授されたという魔球ブレッドシュート。剃刀の如きキレの魔球は投手の利き手側に曲がる。友沢の懐を抉る、シュートとは思えないほどの変化量を以て、ど真ん中からストライクゾーンの内側一杯に決まった。

 

「……ボール!」

 

 球審は迷いに迷って、ボール判定を下す。

 これでワンボール、ワンストライク。捕手からの返球を受ける投手を尻目にチラリと友沢は思った。六道聖、よくもまあこれだけメチャクチャな男の捕手が勤まるものだと。一度ぐらい捕球ミスをしそうなものだが。

 六道が無言で相方を睨むと、パワプロはスマンと片手を上げた。ストライクゾーンに入れるつもりだったのだろうが、普段は投げないボールを投げたせいで精密機械にも狂いが出たのだろう。だが止めない。パワプロは懲りる事なく第三球目を投じた。

 

 今度は、サイドスローだ。それを見た瞬時に友沢は狙い球を絞る。あれが来る、と。実物を打席では見たことがないが、どんな変化をするものなのかは研究し尽くしていた。それは仮想敵、橘みずきの決め球だ。

 案の定、投じられたのは眩い光を無数に散らす魔球クレッセントムーン。不自然な変化をする、非常に厄介なものだが――パワプロの指感覚には合わないのだろう。球速こそ本家のものより上だが、若干キレが劣っている。バックドアだ、外角に外れている位置からストライクゾーンに入ってくるそれを、友沢はジャストミートした。

 

「――ファールボール!」

 

 判定は、ファール。流し打たれたボールが、三塁線上からやや左に逸れた。入っていたら二塁打になっていただろう。トップクラスの遊撃手、霧崎礼里の守備範囲に打ちたくないと考えて、少し流し過ぎた手応えだ。

 舌打ちして打席に戻る。中々の手応えだったため、一塁に向かって走り出してしまっていた。バットを拾い直して、改めて打席に入る。そして構えた友沢は何気なくパワプロの顔を見た。

 

 ()()()()()

 

 一度でアンダースローを止めたのは。

 一度で物真似を止めたのは。

 二度目は無いと、感じ取ったからだ。そして今またサイドスローでの魔球をあわやという所まで飛ばされて、やっとその気になったようである。

 

(もっと遊んでいてもいいぞ。遊んでやった報酬に、点は貰うがな)

 

 そう思っているのが伝わったのか、パワプロの口が微かに動いた。読唇術の心得などないが、それでも何を呟いたのかが不思議と分かる。馬鹿言うなよ、とパワプロは呟いたのだ。そして、お前がどの程度なのかが分かった、と。

 オレの底を見切ったつもりなのか? ナメるなよ、と友沢は思う。

 だが――友沢は勘違いをしていた。いや、六道のささやきに嵌っていた。六道のささやきは、掛け値なしの本音が混ざっているからこそ真に迫る響きがあったが、他ならぬ六道聖は知っている。

 パワプロには傲慢で俺様で唯我独尊な一面がある、しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()なにより相手に失礼だから。早川あおい、太刀川広巳、橘みずきの魔球を順に投げたのは、友沢を相手に遊ぶためなどではなかった。友沢がどれほどのレベルか、正確に図っておきたかったというのが一つ。そして何より――決め球の一発で、倒すためだ。

 

 パワプロがワインドアップする。大きく、大きく、振りかぶり。踏み込むなり胸を大きく逸らして、渾身の気合を込めて勝負球(ウィニングショット)を投げ放った。

 

 ――それはいつも。試合の最後、閉めの一球のように投げていたもの。

 

 友沢亮の意識になかった、最凶の魔球。

 再び虚を突かれ、友沢はそれでも咄嗟に反応してバットを振った。しまったと思う暇も、余地もないままに。

 肩から膝の位置まで落ちた魔球の名はジャイロフォーク。それは友沢という天才を嘲笑うかのように、そのバットの下を掻い潜った。

 

『空振り三振(サンシィィン)ッッッ――! 最後は1()4()7()k()m()/()h()の、ジャイロフォークだァァァ!!』

 

 マウンドに君臨する最強者は傲岸に肩を聳やかし。

 挑戦者の力は、未だ頂に及ばない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からやっと進みます()


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秋季大会準決勝(そのろく) 終幕

リアルが忙しく何を書いてたのか忘れてしまったので初投稿です。



 

 

 早川あおい先輩は激怒した。

 必ず、あの邪知暴虐の俺様野郎を(しば)かねばならぬと決意した。

 早川先輩には俺様が分からぬ。先輩は、投手である。投球を磨き、今はベンチで試合を見守っていた。

 だからこそマウンドの様子には、人一倍神経を割いて注目していた。

 

 まだ自分が試合で投げていない新型魔球マリンボール改が投じられたのだ、これで怒らないピッチャーではない、という事なのかもしれない。ピッチャーではない自分には分からない心境だが。

 

「アイツ殴る。グーで殴る」

 

 荒ぶる女傑にベンチは慄いた。キレ散らかした鬼女の怪力は周知だった。しかし勇者がいる、勇者みずきパイセンは必死に狂戦士を宥めすかす。

 

「あおい先輩、試合中! 試合中ですから! 殿中ですよ殿中! 殴るのは試合が終わった後にしてください! ね、それまで辛抱してくださいってば!」

 

 先輩は割とキレる。キレる相手は主にパワプロ先輩だ。まるで早川先輩のストレス発散のために、適度に怒らせてる気がするのは気のせいだろうか?

 早川先輩がパワプロ先輩に殴りかかっても、軽くいなされてからかわれて終わる事が分かりきってるので、特に心配なんてしてる人はいない。

 続いてスライダーの如き変化量を持つ魔球ブレッドシュートが投じられる。ギョッとしてベンチの人達が、自身の決め球を投げられた太刀川広巳センパイを見るも、彼女はさして気にしていないようだった。

 

「ん? あー……うん、あたしは気にしてないからさ、そんな目で見ないでもいいよ? だってアレ、パワプロくんから教えてもらったんだし。師匠のパワプロくんなら普通に投げれるって知ってるもんね」

 

 流石に太刀川センパイはおおらかだった。器が大きい。胸も尻も身長(タッパ)も大きい。早川先輩の如き三角フラスコとは格が違うのだ。

 

「……なに、鈴本くん。ボクに言いたい事でもあるの」

 

 「滅相もありませんっ!」と鈴本誠一郎は背筋を正す。女傑の勘の良さを侮っていた。一年生の自分にとって、三年の女傑は女帝である。逆らうわけにはいかず、よからぬ事を考えていたと悟られては命がない。

 この女傑を怒らせても飄々としていられるパワプロ先輩は男の中の男なのではあるまいか、誠一郎はそのように思わなくもない。そもそも怒らせるなよと言えないのは、誠一郎からするとパワプロ先輩が怖い人だからだ。

 とか思っていたらパワプロ先輩がクレッセントムーンを投げた。しかもあわや長打されかけるという、かなり珍しい光景が展開されている。ちらりとベンチの皆は傍若無人な橘みずきパイセンの顔色を窺った。

 

「あらら、打たれちゃったわねー……まあ仕方ないか。流石のキャップもみずきちゃんのクレッセントムーンを完璧に再現できないみたいだしぃ?」

「みずきちゃん? それ、マリンボールを完璧に真似られてるボクへのあてつけ?」

「まっさかー! そんなわけないですよあおい先輩!」

 

 ニッコニコだった。笑顔だった。予想に反してみずきパイセンは怒っていない。むしろ早川先輩や太刀川センパイの魔球を完全再現するパワプロ先輩が、自分の魔球は再現し切れていないのに、優越感を覚えたのかもしれない。

 女の人がしてはいけない顔で青筋を浮かべ、早川先輩がみずきパイセンににじり寄るも、みずきパイセンは余裕の表情を崩さないでササッと氷上聡里先輩の後ろに回った。

 

「きゃー! あおい先輩こわーい! 助けてさとりん!」

「ん……先輩、暴力はいけないと思う」

「ず、ズルいよみずきちゃん、氷上さんの後ろに隠れるなんて! 正々堂々アイアンクローされてよ!」

「理不尽な要求!? あおい先輩余裕でリンゴ潰せるじゃないですか! 普通に嫌ですー! それに悪いのは私じゃなくてキャップだと思いますー!」

 

 人を小馬鹿にしているようにも聞こえる物言いにも慣れたもの。性格から性質、何から何まで正反対なみずきパイセンと、氷上先輩は意外と仲が良い。それこそ気の置けない友人同士という奴かもしれなかった。

 

 ――見てる分には見目麗しい、少女達のじゃれ合い。その空気に水を差さない少年達。注意の一つも飛ばさない監督。流石に騒ぎ過ぎたら監督も叱ると思う。しかし、ベンチの緊張感の欠落は、彼らに確信を持たせているからこそのものだろう。今、打席にいる天才打者は、驚異の奪三振率を誇る怪物を前に追い込まれたのだ。故に()()()()()()

 友沢亮が三振に倒れる。そこに驚きはない。一巡目からあの魔球が開帳されたのには驚かされたけども、それだけだった。そして相手の五番と六番の打者は、理解不能な直球による緩急で三球三振に切って取られていた。

 

「……やっぱおかしいよな、パワプロ先輩(あのひと)

 

 鈴本はもはや呆れるしか無い。色々とおかしすぎる。主にレベルが。

 まるでシニアという国の中に、プロの選手がやって来てシニア国の国民面をしているかのようだ。他の面々と比べて次元が違う。

 パワプロ先輩が霧崎先輩とグラブを合わせて、朗らかに笑いながらベンチに戻って来ると、鈴本は水を注いだ紙コップを渡した。とりあえず媚びとこう。

 

「ナイピーです先輩」

「お、気が利くなセーイチ」

 

 多少目端が利く人なら気づくと思うけど、パワプロ先輩は優しいようで意外とシビアだ。見込みがあると思った人には安直でもあだ名を付けて呼んでくれるし、見込みがないと思われたら苗字で呼び捨てにされる。

 表面上接する態度は変わらない。けど明確に一線が引かれてて、そこに気づけば緊張してしまう。鈴本は名前の誠一郎をもじってセーイチと呼ばれてるから、目を掛けられていると自覚しているが――もしこの人に見放されたら、リトル上がりの一年坊垂涎の指導が手抜きになるのだ。

 もちろん、見ていてわかるほど露骨ではない。だが、一度期待されて指導を受けた後だと、期待されていない面子とは密度が違う事を薄っすらと悟れる。だからセーイチはパワプロ先輩が怖い。この人に失望されたくないのだ。プロを本気で目指していたら、この人の指導力が半端じゃないって分かるから。

 

「早川先輩怒ってますよ、気ぃつけといてください」

「あ? あー……はいはい、マリンボールの事ね。別にいいじゃねぇかよ、なあ? あおいちゃんの物は俺の物、俺の物も俺の物。怒られる筋合いなんかないってお前も思うよな?」

「同意求めないでほしいんすけど」

「――パーワープーローくーんー?」

 

 とんでもないジャイアニズムを真顔で発するパワプロ先輩に、般若の形相で早川先輩が近づいてきた。

 セーイチは速攻で退避する。巻き込まれたら堪らない。

 

「さっきのアレはなんなのかな? ねえ? ボクの見間違いじゃなかったら、マリンボール改投げてたよねさっき?」

「がなるなよ。あおいちゃんのマボーの実戦証明してきてやったんだろ。感謝してくれてもいいんだぜ? 友沢相手にも通じるって分かったんだから」

「はぁぁぁ!? 面の皮厚すぎるよ! 少しは悪びれたらどうなの!? それと勝手に人の決め球の名前を略さないで! マボーってなに!?」

「手汗ボールの方が良かったか?」

「もっと悪くなってるよこのバカー!」

 

 手をブンブン振り回して突撃した早川先輩。……この人、他の人に対しては簡単には怒らないのに、パワプロ先輩にだけは沸点低いんだよな……パワプロ先輩に言わせてみたら「アレは甘えてきてるんだよ」となるけど、猛獣にじゃれ付かれても笑って流せるのは普通に凄い。

 ひらりと躱して早川先輩の帽子を掠め取って、代わりに自分の帽子を被せ、自分の頭に早川先輩の帽子を被せるパワプロ先輩。すげぇ早業……違う意味合いで顔が赤くなる早川先輩に、痴話喧嘩見せられてるみたいでなんだかなぁと微妙な気持ちになる。

 

「悪かったって。なんかで埋め合わせするから許してくれよ」

「む、むぅー……じゃあ、ボクのマリンボールの理論、もっと煮詰めたいから一緒に考えて。そうしたら許してあげる。……あ、今度はボクより先に投げないでよ!?」

「わかったわかった。ブシューはともかく、クーンの方はじゃじゃ馬過ぎて扱い辛いしな。俺としてもマボーの方が投げやすいんだよ。指感覚がズレっからあんまり投げねえけどさ」

 

 ブシュー……ブレッドシュート。

 クーン……クレッセントムーン。

 マボー……マリンボール。

 

 相変わらず独特なネーミングだ……。

 

 にしても二人の遣り取りを見てると思うけど、どっちが年上か誤解しそうになる。パワプロ先輩の方が年長に見えるのだ。

 中2時点で180超えのタッパという恵体のせいでもあるけど、パワプロ先輩は大人っぽくて、その先輩と話してると早川先輩が子供っぽく見えてしまうのである。

 そのパワプロ先輩がレギュラーの人達を見渡して言った。余りに自然に、自信満々で、絶対的な安心感を与えてくれるムードを作り出しながら。

 

「よう、お前ら。こっから先もゼロ点で抑えていく。肩から力抜いて思いっきり振って来ていいぜ。追加点がなくても順当に潰していくからな」

 

 ベンチに戻っても、俺様なパワプロ節は平常運転だ。

 元々全員、失点の心配はしていない。パワプロ先輩が打たれる、失点するところは、誰にも想像もつかないから。だから全員はリラックスしたまま、自然体のままで打席に向かえる。

 セーイチは思った。

 パワプロ先輩が高校に行った後、負けが込むようだと「やっぱりパワプロのワンマンチームだったか」とか言われそうだと。その事に微かなプレッシャーを感じつつ、とりあえず、今はもっと実力を付けられるように特訓しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆。俺達が何をしに来たのか、忘れてなんかいねえだろうな?

 忘れたってんなら今ここでもう一度思い出せ。

 俺達は当たり前に戦い、当たり前に勝ちに来たんだ。

 練習通りに、俺達の当たり前で奴らを潰す。

 高校でも野球をするなら、奴らとはまた対戦する時が来るかもしれない。

 その時に思い出させてやろうぜ――

 俺達に、ここで、負けたんだって事を。

 行くぞお前ら、気合入れて行こうぜェッ!』

 

 

615:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 え、なんやこれ。

 

616:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 やべぇ。よく分かんねえけどやべぇ。

 

617:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 鳥肌。

 

618:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 うわ、おれ画面の前で今、うぉぉ! とか言っちまったw

 くっそ恥ずいw

 

619:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 おまおれ

 

620:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 親父と見てたんだけど二人して叫んで、

 ハッとして顔を赤くしながら誤魔化して笑うおれら親子。

 この気まずさどうしてくれんの?(憤怒)

 

621:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 すっげぇカリスマ……。

 

622:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 これで中2とか嘘やろ……?

 

623:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 俺氏、現役高校球児。

 おれが三年の時にコイツ一年なんやけど、今から戦慄を禁じ得ない。

 

624:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 先攻は武蔵府中か……パワプロのワンマンチームに見えがちだけど、

 かなりの強力打線だな。下手な高校チームより強いぞコイツら。

 

625:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 後攻の横浜北も強いな。

 先発のいのかりって奴もパワプロと同じぐらいヤバイ。

 

626:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »625

 パワプロと同じぐらいとかねぇわwww

 ……ないよね?

 

627:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロ世代のナンバー2だしな、ヤバイっちゃヤバイだろ。

 成績も投手としてはパワプロと同じぐらいで、今大会でノーヒッターだし。

 

628:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 友沢くんを忘れないであげて……。

 

629:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 打率九割とかいう天才くんな。横浜北の四番だ。

 

630:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 嘘やろ……? 怪物ばっかやんこの大会!

 

631:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 おかしいのは武蔵府中と横浜北だけだからな?

 事実上の日本シニアナンバーワン決定戦だからこれ。

 

632:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 それマ?

 

633:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 冗談抜きでマジ。

 

634:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 スタンド見てみ。すげぇ数のスカウトマンがおるやろ?

 で、レフトスタンドにメジャーのスカウトマンがおるって現場の兄貴が言って来たで(白目)

 

635:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ファーwww

 

636:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 先頭打者はれいりちゃん。いつ見ても可愛い。

 

637:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 アイドルが裸足で逃げ出すレベル。

 

638:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 可愛いけど将来は綺麗系だな。

 でもこの娘も打力やべぇからな。友沢レベルの打率やぞ。

 

639:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 れいりちゃんやろ? ひじりちゃんやろ? さきちゃんやろ?

 あおいちゃん、みずきちゃん、ひろみちゃん、はじめくんちゃん。

 可愛い娘大杉ィ!

 

640:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 イッケメーンはパワプロ、いのかり、ともざわ、かがみ、いのかり弟。

 他も軒並み平均以上……。

 顔面偏差値と野球の才能は比例しとんのか?(嫉妬)

 

641:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 アイドル業界が熱い眼差しで見詰めてるで。

 

642:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロ騒動事件でアイドルのスカウトも紛れとったみたいやね。

 

643:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 悪辣なスカウトするって噂のやつな。

 

644:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あれ結局どうなったんだっけ。

 

645:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »644

 なんか上から圧力掛かって潰されたらしい。

 

646:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »644

 路頭に迷ってる。アイドルは他グループに移籍されてるから安心汁。

 

647:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 とか言ってたられいりちゃん三振したぁ!?

 

648:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 珍しいな……ってかいのかりのストレートえぐくね?

 

649:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ホップしてたな。

 

650:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 現場兄貴曰くあれエフェ魔らしい。カイザーライジングとかいうの。

 

651:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 カwイwザーwラwイwジwンwグw うぇっwww

 

652:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

  中2かな?

 

653:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 いのかりはリアル中2だゾ。

 

654:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 黒歴史不可避。

 と思ったけどエフェ魔は全般的にネーミングがアレやったわ(素)

 

655:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 二番の娘も可愛い。

 

656:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 テレビで知ったけどこの娘、パワプロの幼馴染らしいな。

 誕生日まで同じで、親同士がかなり仲良し。生まれた病院も同じ。

 野球始めたのも同じ日で今までずっとバッテリー組んでたとか。

 

657:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 は?

 

658:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »656

 は?

 

659:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 イケメンな上に世代最強の怪物でカリスマ性あって可愛い幼馴染がいる?

 神はどんだけコイツ贔屓してんの? ふざけんな(声だけ迫真)

 

660:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 はー……(怒り) おるとこにはおるんやな、こんな奴。

 いのかり、パワプロいてもぉたれや。

 

661:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 いのかりはパワプロのライバルらしいし、良い勝負見れるはず。

 

662:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 いのかりは主人公のライバルポジに相応しいスペックしてるな。

 猪狩コンツェルンの御曹司、天才、イケメン。

 

663:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロが主人公……? アイツどう見てもラスボスやんけ。

 

664:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 一般家庭のイケメンだがリトル時代からナンバーワンで怪物のアイツのどこが主人公なのかと。ふざけんな。

 

665:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 言うて漫画の主人公も結局は血筋と才能と前世と運命に愛されてるパターン多いからな。こんぐらい普通よ普通。

 

666:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »665

 普通とは。

 

667:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 普通の定義が乱れる。

 

668:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 速報。ひじりちゃん凡退。

 

669:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 今のはツーシームかな? 

 

670:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 高速シンカーじゃね?

 

671:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 球速から言ってツーシームだろ。……変化量はまあ、うん……。

 

672:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 れいりちゃんひじりちゃんが続けて三振&凡退とかはじめて見たわ。

 

673:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 やるやんけいのかり。

 

674:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 三番は和乃ね。ふーん、いいスウィングしとるやん。

 

675:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 一回表終了。野郎になった途端露骨にレスが減ったなw

 

676:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »675

 しゃあない。和乃は華がないからな……。

 

677:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »676

 せやろか? ワイは和乃くんイケるけどな。

 

678:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »677

 ショタコンネキ他にもイケメンはおるやろ。

 

679:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »678

 ワイは男やぞ。

 

680:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »679

 ヒェ……。

 

681:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »679

 お前ホモかよぉ!

 

682:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »681

 そうだよ()

 イケメン過ぎる子より普通よりちょい上ぐらいのショタが好きなんや。

 

683:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »682

 性癖のカミングアウトとか要らねぇから!

 

684:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 マウンドに上がったパワプロ。

 コイツを見てくれ……どう思う?

 

685:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 凄く……強そうです……。

 

686:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 雰囲気ありすぎぃ!

 

687:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 プロ球団のエースが如き佇まいwww

 

688:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 はよプロ行け(先行入力)

 

689:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 スタンドのスカウト達が身を乗り出してるw

 

690:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 一番のはじめくんちゃん空振り三振……。

 

691:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 速い直球(ノビ◎・コントロール抜群・重そうな捕球音)

 遅い直球(同上)

 ※なお球速差は10km/h近くとする。

 

692:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »691

 こんなん打てるかぁ!!!!

 

693:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 真面目な話、どうやって投げてんのこれ。こんなんプロも打てへんぞ。

 

694:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 振って空振ったらゴメンナサイ戦法での一か八かならイケる(イケない)

 

695:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »693

 それが誰にも分からんのや。チェンジオブベースかな?

 と思ったがそれならノビとか重さとかの説明がつかん。

 

696:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »694

 聞いた話によると、あれもエフェ魔の一種という結論が出たらしいゾ。

 

697:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »696

 現場兄貴はエフェクト出てない言うてたぞ。

 

698:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »697

 透明なエフェ出とるんやろ(テキトー

 

699:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 三番まで全員直球で締められたな。

 

700:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 コイツだけやっぱレベルが違う感……。

 

701:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 はよプロいけ。

 

702:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 まだ中2なんだよなぁ。

 

703:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 コイツだけ高校野球出禁にしようぜ。無双ゲーになるぞ。

 

704:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 誰だよいのかりがライバルとか言ってたやつ。

 こんなのにライバルなんかおるわけないやんけ。

 

705:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 二回表はライバル()対決だな。

 

706:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 エースで四番とかwww

 層の薄いチームならともかく大会屈指の打線でとかふざけてんの?()

 

707:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 いのかり君、投げた!

 

708:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 はいホームラン。

 

709:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 じゃない……だと……?

 

710:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 見逃した……?

 

711:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 初球ホームラン以外してこなかったパワプロが……?

 

712:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 嫌な見逃し方……怖E

 

713:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 そして痛烈なライナー!!

 

714:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 知ってた。ってホームランじゃない……だと……!?

 

715:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 殺人ファールwww

 

716:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 サードの顔w

 

717:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 項「!?!?」

 

718:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 そして流して打って単打。

 

719:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 やるやんけいのかり! いや猪狩!!

 

720:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ワイは信じてたで!(掌クルー

 

721:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 流石はパワプロのライバルや!(掌ドリル

 

722:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロがホームラン以外を打つなんて……ナンバー2は伊達じゃないな!

 

723:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 抑えたわけじゃないのにこの騒ぎであるw

 

724:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 (無失点で被害を)抑えた。

 

725:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロはお散歩クラブじゃなかったのか(驚愕)

 

726:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »725

 敬遠されるだけの簡単なお仕事だったはずなのになwww

 

727:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 つーかパワプロのフォーム完璧だな……。

 

728:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 芸術的流し打ち……こいつホームランバッターじゃないんか……。

 

729:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 しかも一塁線上ギリでフェアにしとる。

 

730:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 改めてレベルが違う。コイツほんまなんなの? これで中2とか……。

 

731:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 プロ野球選手の霊が取り憑いてるって言われても信じれるぞ。

 

732:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 走った!?

 

733:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 盗塁!?

 

734:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 脚速!?

 

735:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 完璧に猪狩のモーション盗んでたな。

 

736:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 お前今まで走った事ないやろ!?

 そんな上手いならなんで今まで走らんかったんや!?

 

737:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »736

 そら今までの蹂躙試合で走る意味なかったからやろ。

 猪狩相手に手ぇ抜かんって事でもある(震え声)

 

738:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »736

 そらもうアレよアレ。今までの試合は手加減しとったんやろ。

 

739:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »738

 全打席ホームラン&敬遠されて手加減とは?

 

740:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 今まで手加減されてたと知った対戦相手の心壊れるぅ↑ー!

 勝負したらホームランorヒット。

 敬遠したら盗塁とか。

 

741:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 スポーツマンシップって言葉知らんのか!!

 全力出さんとか相手に失礼だろ!? パワプロ糞やんけ!

 ちったぁ手加減しろぉ!(矛盾)

 

742:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »741

 パワプロ「手加減ってなんだぁ?」

 

743:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »742

 お前が今までやってた事だよ!!

 

744:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 お散歩クラブは散歩してて、どうぞ。

 

745:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 また走った!?

 

746:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 投手なのになんや今の盗塁……(白目)

 

747:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 捕手が投げれもせんかったのはさておき、

 走り出すモーションが分からんかったぞ今(震え

 

748:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 スッ……(横に滑り出す)

 スッ……(いつの間にか三塁にいた)

 

749:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 項「なんだお前!?(驚愕)」

 

750:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 えぇ……(困惑)

 

751:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あんな盗塁プロでも見た事ねぇぞ……。

 

752:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 気配がなかったな。

 

753:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 盗塁も怪物級とかコイツ弱点ないの……?

 

754:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 スクイズね、はい。

 

755:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 バント下手だな。走者帰れんでワンアウトだろこれ。

 

756:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 猪狩「!?」

 

757:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 えっ!? なに!?

 

758:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ふざけんな今本塁に走ってただろなんで三塁に戻ってんだ!?

 

759:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロ「フェイントだ」

 

760:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロ「残像だ」

 

761:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロ「いったいいつから本塁に走ったと錯覚していた?」

 

762:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 猪狩「なん……だと……!?」

 

763:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 雑魚バントで一塁に到達とか鬼島お前……。

 

764:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 えぇ……(困惑)

 

765:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 しかし猪狩落ち着いてんな。普通こんなん見たら動揺するで。

 

766:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 でも次はゴロ打たされた。これでゲッツー。

 

767:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 なんだ今のファインプレー(驚愕)

 

768:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 友沢すげぇな今の。グラブで捕球すらせず弾いてセカンドアウトにした。

 守備職人だわ(確信)

 

769:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 !?!?!?

 

770:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 え!? なんで一点入った!

 

771:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロ「私だ」

 

772:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 だからなんなんだよお前!? カメラ向いてない時に走るな!!

 

773:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 えぇ……(困惑)

 

774:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 えぇ? いつの間に走ってんだよ……?

 

775:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ゲッツーの合間にホームインとか今の走れる隙なかっただろ!?

 

776:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 もともと走るつもりでおったんやろ。

 でもこれはない。

 カメラ見てなかったからどのタイミングで走ったか現場兄貴しか分からん。

 

777:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 コイツ一人で点取ったようなもんやぞこれ。

 

778:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 もう全部コイツ一人でええんとちゃう?

 

779:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 終わったな……パワプロから点取るのはシニアじゃ無理だぞ。

 

780:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 二回表終了。メッチャ濃いな。

 

781:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 二回表終了&試合終了。撤収!

 

 

 

 

 

 

 

980:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 はい終了。

 

981:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 3対0でフィニッシュ。

 

982:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロ無四球無失点完全試合(いつもの)

 パワプロ三安打二打点(いつもの)

 

983:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 二打席目三打席目連続ソロホームランね、はい。

 

984:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 猪狩、パワプロ以外完全に沈黙させてもこれである。

 

985:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 だからパワプロは敬遠しろとあれほど(ry

 

986:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 でも真っ向勝負して勝負になってたの猪狩だけだしな。

 

987:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 猪狩が言ってるな。「次は勝つ」

 鋼メンタル(驚愕)

 

988:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 心折れてないwww

 

989:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 テレビ見てたウチのシニアの子はバッキバキに折れてるが……。

 

990:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 友沢も折れてないな……コイツの時だけパワプロ、ギア一つ上げてるし。

 コイツも有望やで。

 

991:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 横浜北、強かったな。

 なんか数人ぐらい心折れてそうに見えるが。

 

992:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロへのインタビューいったのアレ葉山氏じゃね?

 

993:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 葉山「この試合はどうでしたか?(曖昧)」

 パワ「猪狩と友沢は凄かったですね。対戦して楽しかったです」

 

 他は気にもしてねぇ……。

 嫌味臭ぇのに一周回ってなんかもう許せるぞおいっ!

 

994:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 葉山「他に気になることは?」

 パワ「仲間ですね。ほとんどまともにヒット打ててなかったんで、

 指導のレベル一つ上げようと思います」

 

995:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ?????

 

996:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 お前がコーチなのかよ(驚愕)

 

997:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 葉山「ぱ、パワプロくんがチームの指導をしてるのですか?」

 パワ「? ……ああ、はい。そうですよ。

 俺はほぼ仲間に教えてばっかですが、

 教えてるとこっちも勉強になるんで助かってます」

 

998:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ……ワイの息子来年シニアに入るんやが、

 武蔵府中シニアに入れるわ。

 

999:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ほーん……よし、ワイも来年は武蔵府中に入るで!(年齢詐称)

 

1000:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 指導力も怪物級とかコイツ弱点ないの……?(二度目)

 それはそれとして年齢詐称ニキは捕まって、どうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何を書こうとしてたのかマジで覚えておらず、筆が止まってしまってたのでやむをえず巻きました。すみません。
このまま時間空け過ぎたら熱が冷めてエタるかもと思って…つい…。
すみません許して下さいなんでもしますから!(なんでもするとは言ってない)

ねっとりがっつり試合描写するのは高校編決戦まで我慢。


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早川あおいの秘め事 1/2

辛抱ならんので初投稿です!


 

 

 

 勝ち続ける意志力が大事なRTA再開します。

 

 いやぁ決勝戦の相手は強敵でしたね……まさか満塁なのに敬遠してくるとはこの海のリハク以下略。

 

 例によって例の如く、決勝動画は別枠に上げてます。守くん達相手にした準決勝とは違い、盛り上がるところも、遊び心を入れる余地もない蹂躙試合でしたので。特に見所さんがなかったのでやむを得ない措置です。

 別枠に興味は無ぇ! 本枠しか見ねぇぜ! といった方の為に説明しておきますと、決勝で締めたのはエースあおいちゃんです。あおいちゃんはこれが中学最後の試合でした。が、余韻もクソもない圧倒的強さを見せつけての優勝なので、テンションMAXで喜べず……優勝決定時のあおいちゃんの表情を言葉にすると「あ、勝った。終わった。うーん……」みたいな感じです(雑)

 あおいちゃん的には不完全燃焼だったようですが、一応優勝への嬉しさはあるみたいでした。「ボク達が日本一なんだよ!」と笑顔でピースサインを見せてくれたあおいちゃんは必見の価値あり。別枠で見る事が出来ますので、興味のある方はそちらもどうぞ。

 

 で、真面目な話をするとですね、個人的には準決勝での猪狩守くんの仕上がりっぷりが意外でした。わたしのこれまでの経験から言って、このままのペースで成長していけば、多分高2までにアフロ守を通り越しそうです。

 しかしその爆発的な成長も、意外ではありましたが想定の範囲内。現時点でライジングシリーズ最終形態のカイザーライジングを投げれるようになってるのも、変化球の持ち球が増えてるのも、まあ猪狩くんならこんぐらいやるだろうなと思ってました。流石にパワプロくんと同じチームで切磋琢磨していた時よりは一枚格が落ちるな、といった具合です。そして友沢くんも仕上がって来てますね。投手を断念する事になる怪我を負ってないので、本来の友沢くんよりも強くなってます。この調子だと技術力がプロレベルになるのに……あと三年ぐらいでしょうか?

 

 本作の超高校級=プロ級だってそれ一番言われてるから。超大学級も即戦力という意味では大差ありません。

 

 で。わたしが彼らを刺激し、鍛えているのには勿論理由があります。わたしは最強投手を作り、最速最短でプロ野球人生を駆け抜けようとしているのですが、そこに強力なスター選手がいないと盛り上がらないんですよね。

 早い話、あんなにすげぇ奴らがパワプロには全く歯が立たないなんて……! という感じで盛り上げ役にしたいんです。そんで本RTAの締めの試合は、完全究極体の彼らに勝って終わろうとしてるんですよね。

 

 謂わばパワプロくんの『絶対エース』を象徴する無敵エピソードのために、彼らを利用し尽くそうとしているわけです。そうしてパワプロくんが引退する理由として、彼らの名を挙げて『あの二人との勝負が俺の野球人生の集大成でした』とか言って、コネ作りまくってる橘か木村財閥のどちらかにコネ入社してEND……というのがわたしの組んでる青写真(チャート)になってます。

 ただ、一応ガチ勢ではない方のために解説しておきますと、彼らのレベルは一定までは確定で成長するのですが、ライバルポジションにいるパワプロくんが良い成績を残さない限り能力キャップが設けられてます。なのでこんな奴に勝てるわけないだろ、と本動画で絶望する必要はありません。各プレイヤーの技量に合わせた強さ設定がなされておりますので。

 で、そんな彼らにも限界はあります。カンストした守くん達の能力は、ガチ勢の中堅に届くか届かないか、といった感じですね。ガチ勢の上位陣からすると同じ上位陣しか相手にならないようで、サクセスなども専らオンラインでやり如何にして相手プレイヤーを潰すかに心血を注ぎ込んでるようです。試合はおろか普段から闇討ち狙ったり、社会的に殺そうとしたりと、お前ら野球するより生き生きしてるな……と絶句すること必至です。いい子の皆は真似しちゃ駄目だぞ(はーと) 野球ゲームですからね本作。

 

 あ、そういえば、準決勝で勝ったので、試合後ボーナスを貰えました。いつものしょっぱい経験点の他に――超特『マインドブレイカー』をゲットできました。やったぜ。一体誰の心を折ってしまったのか心配ですね(棒読み)

 この超特コツをゲットできたのに、あまり喜びは感じられません。入手条件ガバガバのガバである事に定評のあるコツですし。いたいけな野球小僧どもの心を何度も折り続けてきたので、これが手に入るのは至って順当ですから。

 天才どもは高校で追いついてきますが、パワプロくんも負けてはいません。能力キャップが事実上開放されるので、貯めに貯めた経験点を全ブッパし、手に入れてた超特コツ特能コツを全て手に入れ、更に能力も上げれるとこまで上げていこうと思います。本作だとパワプロくんの体の成長期は高2までに終わるのが確定してますし、恵体なパワプロくんは最終的には190cm辺りで身長はカンストするでしょう。

 

 今の所、溜めてるコツとかを全取得し、能力値を上げると、高校では一年生の段階で以下の通りになるのが確定しています。これより弱くなることはないので、気が早いですが明記しておきましょう。

 ちなみに下記のステにはまだ未取得の超特も加えてますが、中学時代中ではわたしが手を抜いてただけなので、わたしのPSを足した場合、擬似的に超特クラスになるので改変してるだけです。その点は括弧で囲っておきます。

 『』で囲われてるものに関しては、本来は超特相当ではない事を留意しつつ見てください。

 


 

【投球フォーム:オーバースロー17(改良済) 投打:右打ち左投げ

 球速:S(162km/h)

 コントロール:S1(101) スタミナ:S1(101)

 ・ジャイロボール    ・ストレート   (・ジャイロフォーク:7)

 ・チェンジアップ:7  ・スライダー:7  ・カーブ:7

(・オクトスモーク:7)

 

 ・センス◎ ・カリスマ ・モテモテ

 

『・精密機械』  『・怪童』 『・怪物球威』

『・驚異の切れ味』 ・リリース ・変幻自在

 ・超短気 ・超集中 『・ドクターK』 ・同心術

 ・マインドブレイカー ・ハイスピンジャイロ

『・エースの風格』】

 

【打撃フォーム:神主打法(パワプロ式・祈祷打法) 弾道:4

 ミート:B(70) パワー:S(90) 走力:A(80)

  肩力:S(100) 守備:B(70) エラー回避:B(70)

 

 サブポジション:外野(センター・レフト・ライト)

 

 ・積極盗塁 ・積極走塁

 ・チャンス5 『・安打製造機』 『・アーチスト』

『・高速ベースラン』『・電光石火』『・ストライク送球』

『・広角砲』 ・粘り打ち  『・恐怖の満塁男』

 ・鉄人 『・エースキラー』『・精神的支柱』

 ・連打  ・レーザービーム『・ローリング打法』

『・内角必打』 『低球必打』『・魔術師』

 ・ラッキーボーイ『・不動の四番』『・至高の外野手』】

 


 

 なんやこれ(白目) 盛りスギィ! と、思われるかもしれません。

 しかし本作の超特や特能は、あくまでPSの補助や補正として機能してます。なので自前のPSが元々ある人が特能なりの補正を受けたら、大体の特能が超特に進化する事はザラなんですよね。

 ので、むしろガチ勢からしたらこれが普通なんですよ。

 中には見覚えのないコツとかがあって何それと首を傾げられるかもしれませんが、古典の一つであるパワプロスマホアプリのせいで超特が乱造され始め、更には虹特なるものまで出てくる始末。なので知らない能力があったら……各自ググって下さい(丸投げ)

 なお打者能力のほうが充実してるのは、前から何度か言ってますがわたしが得意なのは打者の方だからです。投手PSの技能は可もなく不可もなくといった感じですね。

 

 中学まではキャラスペックによる力押しばかりだったんですが、高校からは本気でやるため、パワプロくんの力も借りていきます。パワプロくんとわたしが悪魔合体すれば、幾ら原作の天才共が相手でも遅れは取りません(震え)

 高校からは更に追い込みを掛け、超特より上の虹特やらなんやらを獲得したりして、なんとか無双モードでプロまで逃げ切りたいなって思います(希望) どこかでミスったら洒落にならんので、更に気をつけていきましょう。

 

「――それで、本題に入るわけだが、力場くんはどこの球団に興味があるのかな?」

 

 現在わたしは、ご覧の通りヒゲのオッサンとカフェにいます。

 このオッサンはプロスカウトの影山さんですね。中坊に唾付けに来るとかお前暇なのか(辛辣) と、なるかもですが、野球一強世界である本作だと、将来有望な野球小僧にはプロからも声が掛かる場合が儘あります。

 過去シリーズだと節穴やら無能やらと揶揄される影山さん。しゃあないねんなぁ、高3とか大3まで無能ステがデフォなパワプロくんが、急にトップクラスに成長するとか現実的に考えて見抜くの無理ですやん。それに影山さんはパワプロくんの希望する球団に入れるよう、完璧な調整をしてくれる超絶有能マンなのを忘れないでやってください……。

 本作でも彼はパワプロくんの希望を聞いて、無事に希望球団に入れるように調整してくれます。そこらへんどうなってんのと探ってみたら、優秀な人材はメジャーなどからヘッドハンティングされないように、出来る限り希望を聞く事になってるようですね。

 

 影山さんと自己紹介を兼ねた雑談をした後、彼はズバッと切り込んできました。彼はパワプロ事件と呼ばれる例の騒動――ファン達のモラルハザードをはじめとした諸々の時期には接触してきてません。パワプロくんからアイツらと同じ扱いをされかねないと思って、慎重に時期を待ってたのでしょう。

 影山スカウト、有能。

 

「『頑張パワフルズ』ですね」

 

 変に駆け引きする必要はありません。素直に希望球団を伝えます。

 すると影山さんは意外そうに表情を動かし、驚きを表現しました。

 彼からすると予想外もいいとこでしょう。今のパワフルズは球界一の雑魚扱いですからね。そんなとこにゴールデンボーイが入りたがってるとか予想できるわけがない。

 

「……本気かな? 君がこれから順当に、さらなる実力を付けていったら、かなりの好条件で良い球団に入れると思うが」

「本気です。俺が野球を始めたキッカケが、テレビでパワフルズの試合を見たからですし。それに今は弱小でも、俺が入ったら簡単に立て直せますよ。なんせ俺がいるところに聖ちゃんと礼里ちゃんは来るって言ってくれてますし、そうなったら打線にも厚みが出ますしね」

 

 影山さんは個性豊かな面々を知ってるので、これぐらいのビッグマウスは逆に好印象になります。もちろん彼から見て釣り合いの取れてる物言いなら、ですが。この周回のパワプロくんならもっと大きな事言ってもいいですね。

 ほう……六道さん達も一緒の球団を希望してるのか、と呟く影山さん。心の中のメモ帳にカキカキされてることでしょう。よいぞよいぞ。

 

「強気だな、力場くんは」

「そうですかね? 俺達が金満球団に入って一強時代になったら、野球も詰まんなくなると思いません? 俺達は弱い球団に入った方が、野球も盛り上がると思うんですが」

 

 ビッグマウスビッグマウスビッグビッグマーウス♪(ハハッ)

 

 俺が入ったとこが一番強いとイキるパワプロくん。

 この言葉を事実にしてみせます。見苦しいのは実力が伴わないイキリ、伴うならイキリは格好良くなるんです。俺様キャラなパワプロくんらしく、これからも強い言葉を連発していきましょう。

 弱く見えるぞと言われようが、パワプロくんはともかくわたしが謙虚なのでセーフ。

 

「……不思議だな。君が言うと井の中の蛙が粋がっているように聞こえない。……時に力場くん、君はチームメイトの指導もしているようだが、君から見てこれはと思う選手はいるかな?」

「全員センス良いですよ。その中でも抜きん出てるのは――」

 

 と、ここでヒロインズの名前を全部出し、ついでに矢部くんの名前も出しておきます。矢部って誰だよ(素) と反応されるので、今はヘボいですが磨けば光りそうと宣伝しておきます。

 わたしは友情に厚いので、矢部くんの名前を影山さんに覚えて貰う。

 今はまだプロになりたいという思いは薄いですが、本気で野球やってる内に自分も行けたらいいなと思い始める事は承知しています。これで彼もプロに連れていければ御の字ですよ。ふふ……パワプロくんと遭遇してしまったのが運の尽き、逃さないよ矢部くん(ニッコリ)

 

 影山さんはデキた人なので、このカフェのお代は持ってくれます。じゃけん遠慮せずゴチになっときましょうねー。

 と、こんな感じで今回はここまで。次回もまた見てくださいねー! ばいばい!

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、パワプロくん……」

 

 偶然――と言うのはわざとらしい。けど本当に偶然だった。

 年下の男の子ではあるけれど、接していたらずっと年上の人に甘やかされてるかのような照れ臭さ、不可思議な安心感を齎してくれる少年が、見知らぬ男の人とカフェから出てきて、談笑しながら別れる場面に出くわしたのだ。

 ニット帽を被った髭面の人は、駐車場に向かって車に乗り込むと、そのまま走り去っていく。パワプロくんはそれを見送って、ボクが来た道の反対を向き歩き出してしまう。ボクは一瞬躊躇うも、変に遠慮する仲でもない。駆け足でパワプロくんを追い掛けて、その背中に声を掛けた。

 

「ねぇ、パワプロくんっ」

「ん……おう、あおいちゃんか。こんなとこで会うなんて奇遇だな」

 

 振り返ったパワプロくんが、ボクの目を見る。その目線はややボクを見下ろす形だ。

 初めて出会った時はまだボクの方が身長は高かったのに、その差は10cm以上もできている。ボクが167cmだから……目測だけど180cmはあるだろう。

 つい最近の大きな騒動で、パワプロくんの素性は世間にも知れ渡っている。今でこそ沈静化してるけど、道行く人達はパワプロくんを見掛けると気になってしまうようだ。特に女の人達はミーハーな声を上げてて、なんだか遠い人になってしまったんだなぁ、と思わなくもない。身近な人が人気アイドルになってしまったかのような、距離感に迷ってしまう感覚だ。その感覚を助長するのは、ボクがパワプロくんに話し掛けると集まる女の人達の好奇と嫉妬の目だ。

 パワプロくんは自他共に認めるイケメンである。女の子として、はしゃぎたくなる気持ちは分かる。けどパワプロくんの魅力は顔なんかじゃない。野球に真摯なこと、男女を区別はしても差別はせず、分け隔てなく誠実に向き合うところ――他にもたくさんある。そうした内面を見ないで、知ろうともしないで騒ぐ人達は……ハッキリ言って気持ち悪かった。

 

「うん。そろそろクリスマスだしね、皆へのプレゼント買ったりしないと」

「あ? あー……そっか。そういや来月クリスマスか……」

「パワプロくん? もしかして忘れてたの?」

「忘れてた。どうすっかなぁ……なんにも考えてなかったぞ。えー……っと、聡里ちゃんには猫のぬいぐるみ、聖ちゃんには髪紐、礼里ちゃんにはマフラーでいいとして……あおいちゃんは何が良い?」

「それ本人に聞く? ちゃんと自分で考えないと意味ないよ」

 

 気になってるのはさっきの人のこと。けど中々それに触れられない。直球で聞いてしまってもいいのかもしれないけど、個人的なことに首を突っ込んでるみたいで気が引けてしまう。そんなボクの気のない反応に、パワプロくんは不意に意地悪く笑い掛けてきた。

 不覚にも、一瞬見惚れてしまう。

 

「んじゃ、あおいちゃんと今日デートしたって事で。一ヶ月早いクリスマスプレゼントの先払いだな」

「っ……? な、なにそれ、そんなので誤魔化されないんだから! ボクにも氷上さん達みたいにちゃんとしたプレゼント考えてよっ」

「冗談だって。じゃ、今日の予定は空いてるし、あおいちゃんさえ良かったらデートしようぜ」

「――ぇ?」

「安心しろって。プレゼント云々は別にちゃんと考えるさ。とりあえずそこらへん回って、あおいちゃんの好きな物の傾向をリサーチしたいんだよ」

 

 デート。

 その単語に、ボクは頭が真っ白になる。

 パワプロくんは簡単にその言葉を使う。広巳ちゃんやみずきちゃんにも、その言葉を使って二人で出掛ける事は結構あった。ボクも言われた事はある。

 けど今回は、いつも通りに流す事はできなかった。

 秋の大会が終わって、不意に思ったからだ。これで一年間は、パワプロくんと野球が出来ないんだって。会えなくなるわけじゃないけど、一緒にいられる時間は他の皆よりもずっと少なくなる。だから――心の何処かで、パワプロくんとの時間を独占したいという思いがあった。

 パワプロくんと街を歩く。それだけの事で何も考えられなくなって、あたふたと慌ててしまいそうだ。

 駄目だ。酷い男の子だ、パワプロくんは。だってパワプロくんには、彼女が……氷上さんがいるのに。なんで他の女の子にまで優しくするんだろう。

 

 ――氷上さんとパワプロくんは、付き合ってる。けどそれを公言してるわけじゃない。なら……ボクが知らないフリして付き合っても――

 

 不意に頭の片隅で閃いた、最低な発想。

 それに強烈な自己嫌悪を懐く。けど、同時に途方もなく巨大な誘惑に駆られてしまった。

 だから――うん、これはきっと、パワプロくんが悪いんだ。

 ボクが()()()から必死に抑えてきた想いに気づきもしないで、ずっと優しくしてくるパワプロくんが。

 

 そして、

 

「――また明日、あおいちゃんの家にお邪魔していいか?」

「……なんで?」

「マリンボールの理論、もっと煮詰めたいんだろ。どうせ考えるなら早い方がいいと思わねぇ?」

「……思う、かな?」

 

 夕方まで一緒にいて、すぐに離したけど冗談めかして手を繋いだりしちゃったりして。別れ際にそんな事を言われてしまったボクは、断るべきなのに断れなかった。そんな言い方は卑怯だ――だから、ボクもちょっとだけ、ほんとうにちょっとだけ、卑怯になってもいいはずだ。

 ――ごめんね、氷上さん。

 何に対する謝罪なのか、判然としないまま。させないまま。ボクは心の中でそっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アンケート結果が全てだから(言い訳)


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早川あおいの秘め事 2/2

リアルが多忙なのと、なろうの方の自作を書いてたのと、このパートの走者がゲスの極みで書き悩んでたので時間が空きました。
すみません許してくださいなんでもしますから!(なんでもするとは言ってない)


 

 

 

 

 戦後の地球を支配するのは女だと思っているRTAもう始まってる!

 

 本作の育成要素の肝、核心とも言える経験点。これが無いとプレイヤーキャラのパワプロくんは能力値を一つも上げられず、どんだけコツを持ってても取得できません。なので如何にしてこの経験点を大量に稼ぐかが、育成パートが4分の3を占めてる本作の要訣となっております。

 しかし本作のコンセプトは『野球人生の疑似体験』なので、普段から地道に練習をしなければならず、その地道な練習で得られるのは自前のPSと微々たる経験点のみ。野球の試合をした後などはボーナスで経験点がもらえますが、これも雀の涙程度しかなく、如何に効率的に練習をするかが大事になってます。

 練習で経験点を大量に稼ぐ手段を紹介しましょう。本作には過去シリーズからお馴染みの『友情タッグトレーニング』という練習ボーナスがありまして、これは親友と呼べる絆を育んだキャラとならメインサブ問わず行なえます。

 それとは別にわたしが行なっている、異性との愛情タッグトレーニングや女の子パラダイスなど、育成効率を跳ね上げてくれるシステムが無数にありますね。で、他にもアイテムや不思議パワーによるギミックを利用したシステムがあるので、どれが自分に合うか検証し自身に最適化してくださいね。

 

 ――しかし、ここでちゃぶ台返し。

 

 本作は、ガチの野球ゲーではありません。等身とかがリアル基準になってますが、本作はパワプロシリーズの系譜。物理法則にも平然と逆らってる事象が多々あり、普通に練習していただけでは最強選手は作れません。

 実はですね、この『男女混合超野球連盟ぱわふるプロ野球』は、過去シリーズでは類を見ない……野球するより女の子と遊んでた方が経験点が多く貰える仕様なのです。

 え、割と過去シリーズもそんな傾向はあった?

 ともかく。本作はボリュームが膨大な割に倍速機能とか付いてませんので、如何にしてモチベを保つかも大事になってきます。わたしや他の人のように長くプレイするには、なんらかのやり甲斐や飽きない&好みな生き方をする必要があり、わたしは俗物なので可愛い女の子にチヤホヤされてないとモチベが保てないんですよね。ぶっちゃけヒロイン達やメインキャラ達が好きじゃないと何十周回も出来ませんよ(震え声)

 で、わたしはそんな性根で、かつ効率的な育成を終えるために、愛情タッグトレーニングや女の子パラダイスを多用しており、女の子と遊んでばかりいます。もちろん練習でも手は抜かず、男性陣も疎かにしないどころか女の子といる時よりテンション上げてますが。

 

 で。

 

 話は変わりますが、いや変わんないのかな……? まあいいや、ともかく本作の醍醐味の一つに『もう一人の自分』と会える事があります。

 それってなんじゃらほいと思われた方に分かりやすく、一言で正解を述べると『継承選手システム』です。継承選手とは前周回のサクセスで作成した、自分のキャラクターの事でして。コイツをテキトーに配置したりすると前の自分と戦ったり仲間にしたりできます。『もう一人の僕(あいぼうォ!)』なので思考・行動パターンや趣味嗜好も一致し、異性キャラでも同性でも意気投合して結婚まで漕ぎ着ける人までいるとかいないとか。(でもそれって前世の自分を使った壮大なオナn……いやなんでもないです)

 逆に同族嫌悪を引き起こし、まじでブチ転がしたくなる人もいるようなので利用するかは各自好きにするべきですね。大丈夫なようなら、ナイン全員を前世の自分で固めて無双するのも楽しみ方の一つでしょう。

 

 わたしはこの継承選手システムを利用した事は何度もあります。同族嫌悪は割と感じませんでしたし、前世の自分を使って情報収集に利用し、チャートを組むためにイロイロしたものですよ。

 いわゆるNARUTOという古典作品の『影分身の術』による、物量作戦(人力)がわたしの使用方法でしたね。

 しかし今回は継承選手は一人もいません。動画の趣旨云々的に、原作キャラでもモブでもないキャラ使うってどうなのって思わなくもないですし、出来る限りフラットな条件でなければ、記録として残すのに賛否を問う声が上がりかねないですしね。んで、そういう事情を度外視しても、継承選手は限りなく自分と同じ存在ですが、継承選手はゲーム内キャラになるのでメタ的な視点を持てないという事情もあります。つまりこっちの事情を汲んでくれません。

 そして趣味嗜好や言動が被るという事は、わたしが組んでるチャート上で最大最強の敵になりかねないので、非常に邪魔なんですよね。敵は自分というのがマジで現実になるとか悪夢ですわ……。

 

 ほんで、諸々のシステムについてお話している流れで言いますと、本作ではアバタさんイベでしか出来なかった、オリジナル変化球を自分で開発も出来たりするんですよね。なのでこの周回ではわたしがパワプロくんを通して、あおいちゃんのマリンボール、みずきちゃんのクレッセントムーンの開発を手伝い完成させたりしてます。みずきちゃんのスライダーもパワプロ直伝です。

 

 なので、彼女達がオリ変を強化したいと思ったら、頼るのはパワプロくんになるのが必然。あおいちゃんがマリンボールの事でパワプロくんに相談するのは自然で、現在わたしは誘われるままあおいちゃんの家に来ています。

 あおいちゃんの部屋は、女の子らしい部屋ではありません。野球道具や研究ノート、プロ野球のサブマリン投手のビデオ、参考資料などなど、野球ガチ勢らしい実に機能的なものです。……本棚に料理に関する本があるのには目を瞑りましょう。わたしは何も見なかった、そういう事にしておきます。

 パワプロくんはディスプレイに映ってるあおいちゃんの投球を見ながら、イロイロな意見を出したり、感想を言ったりしてます。んで、あおいちゃんはパワプロくんの膝の上に座ってますね。

 

 ……。

 

 あおいちゃん何やってんの??? と、思った方。わたしも何やってんのと思ってるので流してください。とりあえずムチムチしたお尻の感触を膝に感じながらも、パワプロくんはあおいちゃんの後頭部に話し掛けます。

 

「――んで、マリンボールの改造案なんだけどな」

「……うん」

「普通の奴と、敢えて球威を軽くした改と、他にもパターンを増やしてさ、バリエーションに富んだ感じにするのも一つの手だとは思う。けどピッチャーの指ってのは精密機械と同じだ。多くのパターンの変化球を投げると感覚がズレたりする事が儘ある。同じ球種の球を幾つも投げるぐらいなら、他の変化をする変化球を投げた方が良い。だから俺としては、マリンボールは多くて二つのバリエーションに留めるべきだと思う。あおいちゃんはどう思う?」

「………うん」

「………」

「………」

「………俺が思うにマリンボール改は捨てるべきだな。試行錯誤の過程でたまたま出来ただけの、進化途中の変化球だって割り切った方が良い。あおいちゃんが目指すべきなのは、初期型のマリンボールの強化と、全く別のマリンボールだ。あおいちゃんの指感覚で言えば……そうだな、ツーシーム――プロの崎山晃康投手の変化が大きいアレだ」

「………うん」

「………」

 

 心ぉー、ここにぃー、あらずぅー!

 パワプロくんの言ってる事が全然頭に入ってませんねクォレハ……。

 というかあおいちゃん、ナニがしたいのか丸分かり過ぎて辛い。鈍感系主人公なんかじゃないパワプロくんは、実は悟ってますよ。あおいちゃんは、パワプロくんを精一杯誘惑してきてます。

 自分からできるアプローチの限界が、この、膝の上に座ってくるというあざとさ全開の奴なんでしょうね。思春期女の子って感じで可愛い――じゃなくてですね。これどうしたらいいんでしょ?

 

 聖域勢が実は攻略可能なのは聖ちゃん礼里ちゃんの件で判明してます。なので宮本シニアの女の子達全員がパワプロくんに好き好きビーム出してるのは理解できてました。けどわたしは敢えて聡里ちゃんと付き合ってるんだぜオーラを出すことで、彼女達を抑制してたんです。付き合ってる娘がいるなら大人しくしててくれると思ってたからで、現にヒロピーやみずきちゃんは一定の距離を保とうとして逆に壁が感じられるぐらいですよ。

 なのにあおいちゃんはそんなの知らんとばかりにアプローチしてきました。今まではヒロピー達と同じスタンスでいてくれたのにどうして……? わたしとしては微笑ましくて、普通に受け流すこともできるんですが、そうするのが正解とは限りません。そしてあおいちゃんが痺れを切らして動き出すのを待つのも、経験上得策とは思えないんですよね……うーん、ここはわたしから打って出るべきなんですかねぇ。仕方ないので真面目モード・ムードのまま、あおいちゃんの真意を問いましょう。答えは分かってますが。

 

「……あおいちゃん」

「………」

「俺もさ、男だしな。こんなふうに密着されるとさ、イケない気分になっちまうんだよ。だから悪いんだけど離れてくれねえかな」

「……嫌だ」

 

 ふるふると首を左右に振るあおいちゃん。緑のおさげもふるふる震えます。

 

「……ボク、こんな事してるの、パワプロくんが初めてなんだ」

「だろうな」

「……なのに、パワプロくんは、何もしてくれないんだね。ボク、そんなに魅力ない?」

「あるに決まってんだろ」

「……じゃあ、続き、ボクに言わせないでよ……」

「……言わなくていいぜ。けどさ、俺、彼女いるんだよ」

「………」

「聡里ちゃんだ。聡里ちゃんに顔向けできねえ事はしたくない。んで、彼女がいるのに、あおいちゃんに手ぇ出したくもねぇ。大事な仲間だからだよ。軽率に手ぇ出してさ、聡里ちゃんやあおいちゃんに不義理な関係になりたくないんだ。分かってくれ」

「……やだ」

「あおいちゃん」

「やだ。ボクも……ホントは分かってるんだ。けど、自分でも止められないんだよ……! パワプロくん、氷上さんじゃなくてボクを見てよ。ここにはボクしかいないんだ。彼女がいるのに、ボクに優しくした責任取ってよ!」

 

 あー……支離滅裂ですね。お話になりません。

 宥めて落ち着かせ、距離を置くのが誠実な対応ですし、常識的な判断なんですが、ちょっと悩みますね。わたしとしてもそうしたいのは山々なんですが、わたしのチャートとしてはこの状況、悪くないんですよね。

 というのも高校から柳生鞘花ちゃんが加入し、彼女を中心に新たな人間関係を構築する予定なんですが、その関係性は攻略可能の娘は次々と攻略しヒロイン化させ、愛情タッグトレーニングに組み込むつもりなんです。

 なのであおいちゃんのこれは、ちょっと予定より早いかなってぐらいでしかないんで、早いか遅いか程度の問題しかなく……しかるべき時まで隠匿していたら良いので、あおいちゃんを拒む理由がありません。むしろここで拒んだら後々問題になりそうというか、『あの時ボクを拒んだのになし崩しにハーレム作るとかふざけないでよ!(憤怒)』となるかもしれません。

 拗れかねない問題の火種を放置するのは愚か。とはいえ、わたしのロールやパワプロくんの性格的に、据え膳食わぬは――と、簡単に手を出すのも不可。ちょいと面倒ですが弱腰で流れを望む方に引きましょう。

 

「優しくした責任って……別に普通だろ? 俺は仲間に態度変えたことなんかないし……」

「そんなこと分かってるよっ。だけどボクは、そんなパワプロくんだから好きになっちゃったんだ! ……ぁ」

「あおいちゃん……」

「……ぅぅ」

「………」

「………」

 

 言っちゃった、的な反応。言う気はなかったのかな? パワプロくんから手を出してもらってイイコトしてほしかったのでしょう。エッチな娘だ……しかしホントどう調理したらこの局面を美味しく乗り切れるのでしょう。

 うーん……あ、そうだ(唐突)

 恋愛講座というわけではないんですが、重苦しい沈黙を演出してる間に解説しとくとですね。大人同士の恋愛ならともかく、未成年者同士の恋愛だと雰囲気や流れに呑まれて肉体関係を持ってしまう事例はかなりあります。

 計画性やら世間体やらを考慮できたとしても、性欲に勝てないからですね。そうなるとまずどうなるかというと、普通にセ○レになるか彼女にバレて喧嘩別れする事になります。中には恋人公認にする事も出来る猛者もいますが、それは中々にリスキーなのでオススメしません。わたしとしては高校まで待って欲しいんですが……うーん、ここは相手があおいちゃんで良かったと思っときましょうかね? あおいちゃんは中学卒業し、他の面子とは一時的に疎遠になりますし、関係を隠しとけば露見する危険性は低いです。

 

 ちなみに二股、三股、四股と、ゲスの極みな事をしても、わたしは特に罪悪感とか抱かないですね。だって何十周回もしてますし……その中で関係を持った娘が一人しかいないとか有り得ませんしね。

 お天道様に顔向けできない関係を持ったとしても、全員を纏めて幸せに出来るなら大丈夫だというのがわたしの考え方でして。このパワプロくんにはそれが実現できる甲斐性があります。

 

 うん、問題ないですね。それじゃあ……イクゾー!

 

「あおいちゃん」

「っ!?」

 

 後ろから腕を回して、あおいちゃんを抱き締めます。ビクッとして可愛い。抵抗しないとかもう誘い受けですねクォレハ……。

 

「責任って言うからには……男にこんな事した責任、あおいちゃんも取れるって考えて良いんだよな」

「ぇ、え?」

「ぶっちゃけあおいちゃん可愛いし、ケツがヤバイし、俺の股間がヤベェ。ハッキリ言って我慢の限界だ。だからあおいちゃんが悪いんだからな……ああ、責任は取るよ。けどあおいちゃんも責任取れよ……!」

「ぁ、う……ぅ、ん……」

 

 耳まで真っ赤にしちゃって、小さく頷くあおいちゃん。

 そんじゃ、ちょっと早いですがあおいちゃんの卒業式(意味深)……ヤッちゃいますか!

 

 ……あ、未成年の方は続きはご覧になれません。わたしも自分の情事を何度も見せる趣味はないので、後は若い者同士という感じでパワプロくんをオートにしときましょう。

 オートモードあんの!? と言われたらありまーす!(絶叫)

 しかしパワプロくんの頭のデキは一言で言って雑魚なので、わたしがinしてないとイロイロとバカやらかすので常に操作してただけなんですよね。なのでこの周回だと、何気に初のオートモードです。暫く見守っておきましょう。

 オートにした途端、パワプロくんが野獣と化しましたね……そら(わたしという外付け理性回路が外れたら)そう(思春期性欲おばけになる)よ。

 

 というわけで、今回はあおいちゃんの卒業式(意味深)をバックにここまでとします。また次回も見てくださいねー! ばいばーい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




チッ……(舌打ち)
ペッ……(反吐)


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パワプロくんを育てよう!

言い訳を。言い訳をさせてください。
リアルが忙しかったんです。間が空いたらスランプになってたんです。
書き方忘れたんです。全部リアルって奴の仕業なんだ!
おれは悪くぬぇ!

なので初投稿です(強弁)


 

 

 

 多くのパワプロくんが無駄死にで無かった事の証のために……!

 再び走者の理想を掲げるために……!

 トロフィーゲット、成就のために……!

 視聴者よ! わたしが帰ってきたRTA再開してます(クソ長挨拶)

 

 既に周知の事と思われますが、皆様にご報告いたします。

 なんと本作、『男女混合超野球連盟ぱわふるプロ野球』に大型アップデートが入りました。そのアプデ内容について言及し熱く語りたいところですが、大筋には関係ないので気になるなら各自でチェックしてください(雑)

 このRTAは、件のアップデートが入る前に始めたもの。おいしいイベが大量追加されたからと、利用するのはどうかなと思わなくもない。思うよね? 思うって言え(豹変) なので一応、わたしは新イベントやらを起こすつもりはなく、また事故で新イベを起こされないように、本筋が変化しない機能しか読み込みませんでした。アプデするかしないか、するにしてもオフラインに限り読み込むものを選べる自由があります。素晴らしいですねぇ(恍惚)

 

 公平を期すため、本動画でも利用していくシステムに関しては触れておきましょう。

 

 わたしが使用しても問題ないと判断したのは、今回実装された【倍速機能】です。長期に亘るプレイ時間の都合上、リアルとの時間の乖離と意識の齟齬で心を病むプレイヤーが多すぎた為、開発は意に沿わぬ機能の実装を迫られたようですね。本作のコンセプトが『疑似野球()()』なので、人生に倍速機能とか邪道だと開発陣は憤っておりました。

 こだわりのある開発陣すこすこのすこ。

 わたしはこの倍速機能しか使う気はありません。またわたしの緻密なチャートの関係上、倍速中にパワプロくんに下手なことをされては困るので、多用したりするのは可能な限り控えようと考えています。

 

 で、件のアプデが『大型』と銘打たれているのは、数々の新イベや機能、新シナリオの追加などがあるからなのですが、最大の要因は他にあります。

 ずばり、タたない方ではなくエンディングの方のEDです。本作はプロ野球選手を引退するとゲーム終了するのですが、パワプロくんのその後に関してどうしても気になるという声が多数上がっていた事から、パワプロくんとその周りの人達がどう生きて死んだのかを見ることができる【アフタームービー】の閲覧が可能になったようなんですよ。

 そりゃあね、リアルより長く本作で過ごしたプレイヤーは相当数存在するので、ヒロインとかライバルとか友達とかがどう生きたのか気になって当然なんだよなぁ……。斯く言うわたしもその一人だったりします。なので完走した暁には、当代のパワプロくんとゆかいな仲間たちの今後を見てみましょう。

 

 となると、心配になってくるのがパワプロくんの頭のデキです。わたしが操作してるから今があるわけですが、パワプロくんは野球に全振りしてるのでそこだけはわたしと同じ事ができるものの、それ以外――ぶっちゃけ勉学、つまり知力に関するステータスがクソザコナメクジなんですよね。ゲームクリア後はわたしのロールを頭が残念なパワプロくんがする事になり、どう足掻いても他人に失望されたり失笑されるムーブになりそうなんですよ。

 RTAにも育成にも関係ない? ほっときゃいいだろ? ところがぎっちょんそうでもありません。どっぷりねっとりぐっちょり関係ありまくります。

 というのも、あまり知られていないのですが、本作は野球能力の他にギャルゲーよろしく『文系、理系、芸術、雑学、流行、寛容、忍耐』などのパラメータがあります。これらは隠し要素というわけではありません。が、ほとんどのプレイヤーさんは野球に関係のないこれらを軽視しがちですが、プレイヤーの阿畑さん、もといアバターであるパワプロくんにとっては非常に重要なステータスです。

 

 これはですね、野球の特能、または超得コツの取得確率に関係してます。頭のデキが悪かったりしたらコツの取得率が落ちちゃう……要するに体の感覚だけでは掴みにくいコツを、知力が残念な子が簡単に掴めるわけないということなんですよね……。そんなとこまでリアルに寄せなくていいからァ! という悲鳴が聞こえてきそうですよクォレハ……。

 で、わたしはパワプロくんのギャルゲー的なパラメータを、寛容と忍耐と流行以外は全く上げていませんでした。上げてるものだって、野球の練習をしてたりキャラクターと交流してたら自動で上がるものばかりです。

 パワプロくんは現在、学業でもトップという化け物ぶりを発揮してますが、それは操作してるわたしが答えを埋めてるだけで、パワプロくんの知力が実際に高いわけではありません。おかげで特定のコツの取得率が低いのなんの。んで、これらのパラメータが【アフタームービー】のパワプロくんのキャラを決定づけるようでして、プレイ中のパワプロくんが幾ら知力も化け物ロールしててもパラメータが低ければバカになっちゃうんです。すると今までのパワプロくんとの齟齬が生じ、化け物が馬鹿者になった! と言われちゃいます。

 それは別に良いんですが、やっぱコツの取得難度が低いままってのはいただけませんよね? 今までは自分と周りのキャラの育成を同時進行してたから気にする必要はありませんでしたが、これからはようやくパワプロくんの育成に本腰を入れていきますからね。これらのステも上げていこうと思います。走者的にも目的に沿い、一パワプロファン的にもアフターでのロールを崩さないで済むと、うん、おいしい! ってなもんですよ。

 

 育成効率を上げつつパワプロくんの人生もカバーするわたしは走者の鑑にして人間の鑑(自画自賛)

 

 というわけで早速倍速で流していきましょう。実装されたばかりの機能でも当たり前のように使っていくわたしはユーザーの鑑(熱い自賛)

 パワプロくんは現在、図書館にいます。わたしは頭のデキも完璧な超人ロールしてたので、必死こいて勉強してるパワプロくんの姿を知人に見られるわけにはいきません。合言葉はさせます、させます、させません。パワプロくんに勉強させ、野球の練習もさせ、しかし重要なシーンは任せません、という意味ですね。倍速機能は平坦で退屈な光景をまたたく間に流せるのでとっっっても有り難いですねぇ……!

 あおいちゃんの卒業式(意味深)後、クリスマスや初詣、バレンタインデーなど次々とイベを消化していきます。ゲーム中のパワプロくんは基本的にプレイヤーが蓄積したデータ通り、忠実にロールを熟してくれるので違和感を持たれることもありません。が、しかし、やっぱり今はバカなんで、目を離したりはできませんよ。何かやらかしそうなら即座に倍速を解除して操作しなくてはなりません。まるで子供が危ない事しないか目を光らせて、ハラハラしてる母親みたいな気分ですよ……! これらの重要イベは、高校時代で改めて等速でヤッていくので、今回ここを流した事は大目に見てクレメンス……。

 

 ん。

 

 どうやら大過なく時は進み、あおいちゃんが無事に卒業したようですね。一足先に野球部がない聖タチバナ学園高校に進学し、野球部を立ち上げほどほどに頑張っててもらいましょう。がんばれ♡ がんばれ♡

 しっかし倍速機能、使ってみたはいいんですが、便利過ぎるのも考えものですね……。昨今のAIはもはや人間並の感情、人間以上の知能を持っているもので、人間を再現する事などお茶の子さいさい。作中のキャラクター達はリアルな人間の感性を持っているので、プレイヤーの立ち居振る舞いの変化やら空気やらを敏感に感じ取る者、感じられない鈍感な者など普通にいます。

 簡単に言うと、倍速機能を多用するとわたしの入れ込み具合が軽くなり、それがわたしのロールの質を落として、終いには真剣味を欠いてしまう事にも繋がりかねません。他のゲーム作品ではそうした例が既にあり、作中のキャラクターに胡散臭がられたり嫌われたりするプレイヤーがいるそうです。軽薄だおまえ! という感じに。それを考えるとやはり、倍速機能は本作だと多用しない方が良いですかね……? してもいいのはパワプロくんが単独で勉強してる時ぐらいでしょうか。それ以外は普通に操作してた方が安定する――って言ってる間にパワプロくんの中学卒業が間近に迫ってますねぇ……サラマンダーよりずっと早ぁい!

 

 見守ってた感じ、パワプロくんは終始無双してました。モテモテのツヨツヨの無敵超人ですよ。座学テストとかはパワプロくんがやって成績落として赤点ギリギリ、周りの人達にやたら心配されてましたが……まあええやろ()

 中学生編はそろそろ畳みたいとは思ってましたし、そういう意味だと倍速の実装は有難かったですね。前から言ってるように、わたし蹂躙はあんま好きくないですし、パパっとヤッて終わり! と出来るのは嬉しい……おや?

 

 な ん で 等 速 に 戻 す 必 要 が あ る ん で す か?

 

 ……やはり倍速機能は邪道、はっきりわかんだね(憤怒)

 試運転的な使用でなんで問題が起こるかなぁ……? 開発スタッフは倍速機能に親をコロされでもしたんですかね? もう許せるぞおい!

 まあええわ。リカバリー余裕な範囲でしか試運転はしない、これ走者の鉄則ですからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 早川あおいが卒業して以後、最初の大会を迎える前から兆候はあった。

 

 練習試合、春の大会、WBSC U-15野球ワールドカップ、秋の大会。そのどれもに出場し、圧倒的な力で優勝した。しかし彼――パワプロは、終始虚しげな面持ちをしていたように思う。

 やる気がない。明らかに、何事に対しても手を抜き始めたのだ。分かりやすい例は学校の中間と期末の考査だろう。パワプロは常に100点しか取らないような超優等生だったのに、一気に点数を落として赤点ギリギリの成績に落ち込み、教師陣を困惑させた。いったいどうしたんだと心配した教師にパワプロは、

 

「さあ……? よく分かんないですけど、マジでやってこれですよ」

 

 と、心此処にあらずといった様子で答えた。

 だがそんなはずはない。いくらなんでもここまで成績が落ちるわけがない。全国模試でも一位という、人間離れして怪物めいていたパワプロが、こうも成績を落としたなら、その原因は本人以外に考えられないのだ。

 パワプロは野球の試合でも手を抜いていた。練習でもそうだ。本人はそんな事はないと否定していたが、誰がどう見てもパワプロはやる気を欠いている。手を抜いてヒットを打たれる事もあり、仲間に練習のアドバイスもしなくなった。どうしたのかと心配する人達に、パワプロは一貫して言うのだ。

 

()()()()()()()()()()()()し、お前ら俺が教えなくても充分上手いじゃん? それより俺、やることあるから先に帰るぜ」

 

 力をセーブしてても勝てる? 確かに、そうかもしれない。パワプロは怪物だ。現に勝ててしまっている。日本でも、世界でもだ。

 教えなくても上手い? そうだろう、仲間が上手くなれたのはパワプロのお蔭である。ここからは自分で方向性を定めるべき所まで進んでいる。何もかもパワプロに頼り切りでは、いつかは頭打ちになり成長を見込めない。

 

 だが、らしくない。()()()()()()()? ()()()()? パワプロは、野球を優先してきた。それよりもなお、仲間や友人を優先していた。

 それよりも優先してやる事とはなんだ、何よりも優先していた者達を放置して先に帰るとは何事だ? 全く以て、らしくない。

 パワプロに何があったのだろう。聡里が、聖が、礼里が。みずきが、雅が、広巳が。美香が千尋が矢部が――身の回りの誰もがパワプロに訊ね、はぐらかされた。答えが返ってこず、それとなく後を尾けようとしても撒かれる。そんな事が一年近く続き、遂に痺れを切らして強引に迫ろうにも、頭にチラつくのは親しき仲にも礼儀ありという言葉。パワプロがこれだけ頑なに隠すのだ、何か事情があるのは想像に難くない。頼ってもらえないのが不満ではあっても、不満であるからこそ自分達へ怒りが湧く。

 

 パワプロに何かがあった。しかしパワプロからすると、自分達は頼りにならないと思われている。だから何も相談してもらえない。その事実が堪らなく悔しく、歯痒かった。

 だが誰よりも悔しかったのは、パワプロと最も親しいと言っても過言ではない聡里たちだ。恋人である聡里、幼馴染である聖と礼里。聡里は何も言ってくれないパワプロに密かに衝撃を受け、聖は生まれた時から一緒だったのにパワプロのしている事を知れない事に不安を覚えた。そして同棲している礼里は、自身への禁――読心術を解禁こそしなかったが、家の中にいてもパワプロの意図が掴めない事にひたすら動揺した。

 

 一年間、パワプロはずっと勉強していた。礼里は傍でそれを見続けていたのだ。()()()()()()()()()()()()()()()パワプロを。

 

 繰り返すが、パワプロは座学の成績も全国一位である。その学力は大学レベルのものも問題にしないほどであり、今更小学生レベルの問題などお話にもならないはずだ。

 礼里を介してパワプロのしている事を知っている者達は、パワプロが周囲の目を誤魔化すためにそんな事をしていると考えた。……それ以外に何がある? パワプロの学力で小学生の勉強をするなど、常識的に考えて有り得ない。

 やがてパワプロは小学生レベルを卒業し、中学生、高校生レベルの問題も解くようになっていった。さも一年間の何もかもを犠牲にした努力の成果であるかのように。……パワプロは何がしたいのだろう。何をしているのだろう。

 

 もしかして――野球に、飽きてしまったのか?

 

 有り得ない、と断言できなくなっていた。

 何故ならパワプロは強すぎた。手を抜いていても勝てるぐらい周りが弱すぎた。本気になれなくて当然だろう、打ち込む気力が萎えていくのも当然だ。怪物は周りの人間の弱さに絶望してしまったのかもしれない。

 自分が努力したら誰も勝てない。だから、努力しない。怠けていても勝ててしまうのなら、腐ってしまうのも無理はない。本気になれない競技に情熱を失うのはあり得る話だ。

 だが、まさかだ。まさかあのパワプロが、こんなふうに腐ってしまうとは。そう勝手に失望して。それよりもなお、パワプロを絶望させてしまった自分を誰もが責めた。パワプロの本気を引き出せない自分達の不甲斐なさを、なんとかして乗り越えなくてはならない。そのためには兎にも角にも実力を付けねばならなかった。パワプロに追いつこう、と。勝負の楽しさを思い出してもらおう、と。意識の高い仲間たちは発奮した。

 

 そんな時だ。

 

 彼らに激震が奔る凶報が届いた。

 

「え……?」

 

 その報せを聞いた聡里は絶句した。

 パワプロが――倒れていたというのだ。

 

 病院に運ばれ、今も意識が戻っていないという。

 

 何があった? 不吉な予感に、心が凍りつきそうだった。

 

 

 

 

 

 

(いや()()()で倒れるとかどんだけやねん)

 

(カッコ悪いから闇野に襲われた事にしよう。おのれ闇野!これも全部闇野って奴の仕業なんだ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




(そろそろ中学生編は畳みたい……)
(せや! 倍速機能が実装された事にしよう!)
(巻くのにこれほど便利なものはない。先人は偉大なり)
(多用はし)ないです。


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全部闇野って奴の仕業なんだ!(迫真)

ぬわぁァァん疲れたもぉぉぉん!!!
リアル大変過ぎてやめたくなりますよぉこの仕事(憤怒)

という事で初投稿です(喘息)


 

 

 

 

 頑張るな、夢中になれよ、男道(575) RTAさいかぁーい!

 

 前回のあらすじ。パワプロくん皆を邪険にするなんて酷い事したね……じゃけん闇野くんに全責任を引っ被ってもらいましょうねぇ〜(外道)

 

 前回は試験的に倍速オートしてみたら、色々と目を覆いたくなる結果になりました。が、想定と許容の範囲だったんで、ヨシ!(現場猫) デキる走者たる者、リカバリー技術も必修項目。この程度問題ないです(震え声)

 わたしは記憶喪失(のフリをする)要素をチャートに組んでおりまして、前回の件は普通に利用できます(大本営発表) では魔法のコトバを唱えましょう……オリチャー発動(どげんかせんといかん)

 

 記憶喪失のフリとか――なんでそんな事するんですか?(先生並感)

 

 それはね、一度人間関係を刷新できるからですよ。個々の繋がりにおける関係性のマンネリ化の防止、および多感なお年頃の少年少女たちへドラマチックな展開を経験させて絆を深めるためです。

 そのために闇野くんを利用するのは必須なのだ。

 ところで闇野って誰だよと唸る初見さん。フルネームは『闇野栄剛』で、簡単に言いますと、人の魂とかを奪って自分を強化する外道でシナリオ上だと強キャラで黒幕でヤバイ奴なのに試合だと『寸前☓』やら『負け運』やらなんやらのバッドステータスで試合をブチ壊し逆転負けしやがるクソ戦犯という別の意味でヤバイ奴です(早口)

 

 容姿端麗スポーツ万能、人当たりもいい完璧超人な外面の良さは凄まじく。……ん? それってウチのパワプロくんの事じゃ……? いや気のせいやな。ともかく本作プレイ前に彼の事を知らずにエンカウントすると、普通に騙され利用されバッドエンドになり人間不信に陥るプレイヤーが続出するほどです。

 そんな闇野くんなのでプレイヤーからのヘイトも凄まじく高く、本作で最も早く攻略法を確立されたキャラクターとなりました。多くのプレイヤーが束になって分析した結果、闇野くんは丸裸にされちゃった訳ですね。寄って集って一人の男を裸にひん剥くなんて、たまげたなぁ……(棒)

 で、なんで記憶喪失のフリをシなくてはならないかと言うとですね。わたしは今まで後輩同輩先輩メインサブキャラ関係なしに指導しまくっていたんですが、それはあくまでパワプロくんのためだったわけで。わたしの目指す高校育成パートに不確定要素は不要なので、メインキャラ以外を弾く必要があるからです。あんまりサブからの評価が高すぎたり距離が近すぎると、サブキャラまで同じ高校に来てしまい予定が狂う可能性が出てきます。メインキャラは能力や性格、イベントが確定してるので計算しやすいんですよ。なのでサブキャラという不確定要素の塊を排除するためにはサブキャラの好感度を落とすか、距離を置く必要がありまして、そのために記憶喪失ムーブをかましておく必要があるんです。だから、闇野くんを利用する必要があったんですね(構文)

 

 んで、利用するとは言っても、ホントは闇野くんにエンカウントするために行動するとこだったんですが、闇野くんに実際に会う必要はなくなってたりします。というのも既に礼里ちゃんのパパン達の件でフラグが立ち、パワプロくんが記憶喪失のフリをして、闇野くんにヤラれたとでも言えば、その存在を礼里ちゃんが証言してくれる下地が出来上がっているからです。礼里ちゃんには悪いですが、コイツぁ怪我の功名ですよ……。

 なので実際には会った事もない彼に罪を被せるのは余裕です。この約一年のパワプロくんは明らかにおかしいですからね。サブの皆の評価を落としつつ、闇野くんという共通の敵を作る事でメインの皆の団結力を上げ、その上でパワプロくんの知能を強化する。まさに一石三鳥。冴えてますねぇ(自賛) ってなわけで早速取り掛かりましょう。イクゾー! デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!

 

 「……? すまん、お前誰だっけ。俺と知り合いだっけか……?」

「えっ!? な、なに急に……あ、ジョーク? あ、あはは……わ、笑えないからやめてよぉ、もぉー」

 「お、おう……」

 

 という感じであんまり話さないけど仲は悪くない、接点の少ないクラスメイトとのやりとりをしておきます。普通に話しかけてこようとしてきた所でぶっこみましょう。これをクラスメイト他、メインの子達にも目撃させます。

 こうするとちょろっと影薄い子くんちゃんさんからの評価が落ちてしまいますが、野球に関わってない奴なんで痛くも痒くもありません。大事なのは、ところどころで忘れるはずのないものを忘れてるアピールを、どうでもいいとこでチラ見せさせる事です。(わたしが操作してた)パワプロくんらしからぬ言動を一年通した結果、パワプロくんの台詞に敏感になってるだろうと予測されるので、他の娘達の反応が透けて見えるようですねぇ。

 案の定、放課後に聡里ちゃんが接近を試みてきました。

 3年になって同じクラスになってたようです。聡里ちゃんにはちょっと可哀想な事をします、先に謝っておきましょう。すまんな。後でフォローするから許してクレメンス……。

 

「センくん……? あの……さっきの事なんだけど……」

 「あ? あー……別になんでもねえって」

「っ……! 待って!」

 

 そそくさと退散する素振りを見せると、聡里ちゃんは手を掴んできました。逃さん、お前だけは……! という鉄の意志を感じます。眉尻を落として心底不安そうで、とてもカワイそカワイイです。

 

「センくん、どうして私のこと避けるの……? ううん、私だけじゃない。他の皆も……野球にも真剣に打ち込んでるように見えない。どうしたの? 悩みがあるなら、どうして相談してくれないの……?」

 「………」

「いつかは打ち明けてくれる、相談してくれるって信じてたから、ずっと待ってた。けど……もう待てない。お願いだから、なんとか言って」

 「……おう。話すのはいいけど、一人ずつ話すのもメンドクセェし、皆を集めといてくれよ。つっても、話しても信じてくれるか分かんねぇけどさ」

「信じる。私が、センくんの言うことを疑うわけない」

 「……後で俺ん家に来い。家の場所知ってるか?」

「え? う、うん……」

 「じゃ、そういう事で。先に帰っとくから手ぇ離せ」

 

 ちょい乱暴に聡里ちゃんの手を振り払います。何気に酷い態度に聡里ちゃんは衝撃を……受けてはいても、ダメージは低い感じですね。一年近くも放置されて、避けられてたせいで、これぐらいだとショックも薄いのでしょう。

 というかよく別れてねえな(素) リアルでこれやると自然消滅的に恋人関係は解消されるものなんですが……やはり聡里ちゃんは天使、はっきり分かんだね。RTA的には別れててくれた方がうま味があるのですが、そうなってたら辛いんで不幸中の幸いという事にしておきましょう。

 パパっと帰って、終わり! とはなりません。特にやる事があるでもなし、聡里ちゃん達が来るまでボーッとしときます。倍速開始!(無反省)

 まーだ掛かりそうですかね? ちょっと来るの遅いよ〜どうなってんの? この空いた時間がもったいないんで、状況を整理しておきましょうか。

 

 今日調査したところ、パワプロくんの人間関係は割りかし死んでます。しかし怪我の功名というべきでしょうか? それとも日頃の行ないが良かったから被害は最小に抑えられたと見るべきでしょうかね。後者ですね間違いない。ともかく、一部を除いてサブキャラの殆どはパワプロくんと疎遠になってます。これは嫌われたというよりパワプロくんの変化……倍速中の行動の変化によってどう接したら良いのか分からなくなった、というとこでしょう。しかしメインの人達は戸惑いながらも距離を置いていません。多分パワプロくんの事が好きだからじゃないっすかね(テキトー)

 人の好意に胡座を掻くのは最低で最悪ですが、フェードアウトしてなかっただけヨシとしましょう。とはいえ記憶喪失ムーブをするので、これからどうなるかは分かりません。彼女達との関係がどうなるかはわたしの言動に掛かっていますので、細心の注意を払って最低でも現状維持、最高は好感度の低下をさせず共通の敵(笑)である闇野へのヘイトを高め、仲間意識と目的意識を高める事です。わたしの腕の見せ所さんですよ(震え声)

 

 ピンポーン(迫真)

 

 インターホンが鳴らされました。玄関前でスタンバってたパワプロくんが、大儀そうにドアを開けてお客様を迎え入れます。

 

「ん」

「お、お邪魔しますでやんす……」

 

 矢部くぅん!! と、ちーちゃん!?

 クールビューティーでインテリっぽい、しかしその実お馬鹿さんな美藤千尋ちゃん。難しそうな顔でこちらを睨んでますが、これはパワプロくんを心配してくれてる表情です。睨んでるように見えるのは目つきが悪いからです。

 で、矢部くん。今更なんですが矢部くんって声がスゲェ可愛くてロリロリしてるんですよね……! 眼鏡を外した素顔も女の子っぽく、彼の姉にクリソツですよ。矢部くんは男の娘だった……!?

 どうぞどうぞとふたりを中に招き入れます。ちなみにパワプロくんの両親は二人共が単身赴任中でして、まさしくギャルゲー主人公めいた環境になってます。なので気兼ねなく我が家を箱にできますねぇ(暗黒微笑)

 

 居間に通してテーブルの椅子に座ってもらいます。んで、わたしは台所へ。サーッ!(迫真) お待たせ! アイスティーしかなかったんだけど、いいかな?

 

「ありがとでやんす……」

「………」

 

 お行儀の良い矢部くんと、無言でアイスティーを睨むちーちゃん。ちょっとお礼も言えないのかよこれだから女は(クソデカため息) †悔い改めて†

 特に話すこともないんで、無言を貫きましょう。雰囲気作りって大事ね。居た堪れなさそうに矢部くんが身じろぎしてますが無視です。ちーちゃんはちーちゃんで、ずっと黙り込んでますが……らしくなさも無視。

 暫くそうしてると空気が淀み、重苦しくなってきます。そんな中で口を開く勇気は矢部くんにはないです。聡里ちゃんは矢部くん達にも声を掛けたようですが、肝心の聡里ちゃんたちはいつ来るんですかね……?

 

 手持ち無沙汰なんで矢部くんでも弄ってようかな……ちーちゃんをイジるのもアリですね。寧ろ普段の絡みが他の人達より少ないちーちゃんとコミュった方が良いでしょうか。騒がしい娘のちーちゃんが静か過ぎるのも心配なんで感触を確かめるためにも構ってみましょう。

 

「そういや、二人はどこの高校に行くんだっけ」

「へっ? パワプロくんと同じでやんすけど……いきなりどうしたんでやんすか……?」

「お前が『ソフトとの兼部でも良いから一緒に野球しようぜ』って誘ってきたんだろ! せっかく私がオーケーしたのに最近ずっと無視してきて……お前は何がしたいんだっ」

「……悪ぃ」

 

 おっとぉ? ちーちゃんが激おこプンプン丸な理由がわかってしまいましたね……なるほど、そういやわたしが倍速使う前に、ちーちゃんを口説き落としてましたわ……。ちーちゃんは分かりやすい娘で、本作では攻略可能な娘だと大分前から判明してましたし、パワプロくんに好意を持ってるのは知っていました。で、そんなパワプロくんからの誘いにちーちゃんは内心小躍りしたいぐらい喜んで、なのにそのパワプロくんは『釣った魚に餌はやらん』とばかりに放置されていた、と。コイツはめちゃ許せんよなぁ?

 イジって遊んでられる空気じゃないっすね……ここは濡れた子犬のような目で媚びときましょう。クゥーン。

 

「ソイツも含めて後で話す。そろそろ他の奴らも来るはず――」

 

 ピンポーン(迫真)

 

「――噂をすれば、だ」

 

 来たわね。

 

 やって来たるは氷上聡里ちゃん。霧崎礼里ちゃん。六道聖ちゃん。橘みずきちゃん、太刀川広巳ちゃん、小山雅ちゃん、木村美香ちゃん、早川あおいちゃん(!?) 以上八名参陣! 矢部くん達を含めると十名でちょうどいい。

 にしてもさらっとあおいちゃんも混じってますね……暇人かな?(失礼) というか人口密度ヤベェですねぇ。ついでに見事なまでにハーレムですよ。矢部くん? 矢部くんはパワプロくんの真ヒロインですわよ(迫真)

 

「……よし、全員知ってる顔だな……」

 

 意味深に呟きつつ、安堵の色を滲ませましょう。んで、彼女達に向けて説明する時が来ました。闇野とかいう奴の恐ろしい陰謀()について……!

 今の内に謝っとくぜ、闇野。わたしのガバの穴埋め修正のため、全てのヘイトを貴様に向けてくれるわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

「……殺して、やる……」

 

 んにゃぴ……やっぱり、闇野……の(存在にヘイトを集めた)方が一番いいですよね。だってほら、殺意の波動に目覚めた礼里ちゃんが物騒に、ど真ん中ストレートな殺意を、凄く凄い怨嗟を込めて呟きましたもん。

 効果は抜群だ!

 なんせ礼里ちゃんは両親の魂を闇野に奪われてる事を知ってます(真実) そんな礼里ちゃんは現状世界で一番パワプロくんを大事に想ってて、そんなパワプロくんがまたしても闇野に襲われたのです(大嘘) そりゃキレる。

 ちなみに本作の世界観だと、オカルトチックな話でも割と簡単に信じてもらえます。だって、ねえ……? 元々そういう事例(エフェクト現象・礼里ちゃんの超能力)に慣れてるのもありますし。

 

 で。

 

 パワプロくんがこの一年皆を放置してたのは、第一に(闇野のせいで!)皆に関する記憶が薄れていたのと、第二に(闇野のせいで!)座学に関する知識とかが消えちゃったから勉強に必死になってて、第三に(闇野のせいで!)何もかもに無気力になりかけていたから、という事にしました。無気力なままではいられないから勉強を頑張ってた云々と言ったら、礼里ちゃんがブチ切れてしまったわけです。どうしてそんな事になったんです?()

 礼里ちゃんはさておき、他の面々もまだ見ぬ悪党()への敵意を持ってくれたようで、矢部くんなんかは号泣してます。

 

「ウゥゥゥゥ……酷い、酷いでやんす……こんなのあんまりでやんすぅ……」

 

 矢部くぅん……曇り顔も最高でやんす……!(外道) なんやかんや皆も辛そうですし、わたしのガバのせいとはいえ悪いことしてしまいました。うーんどうやってフォローしようかしら(遠い目)

 というか闇野は生きて帰れるのでしょうかね。美香ちゃんやみずきちゃんに敵視されたようですし、ふたりのパパン達に話が行ったら普通に全殺されそうですね。オカルトの研究等は大財閥ほどやってるもんですし、最悪死んだ方がマシな状態で生かされ、モルモットにされそうですよ……。

 

 まあいいや。闇野は外道だからね、仕方ないね。寧ろ被害がない内に存在を周知し、ヘイトを向けられたんだからヨシとするべきでしょう。普通に考えて他人の魂を奪って自分を強化するとか害悪野郎以外の何者でもないですし。

 

 パワプロくんも皆と改めて仲良くしていきたいと意志表明をして、もう皆を避けたりはしないと約束もしました。前回のガバに関してはこれでリカバリー完了でしょう。パワプロくんの状態の説明をして、結果礼里ちゃんは元々同居してましたが、聡里ちゃんと聖ちゃんまで同居する事になりまして(!?)、パワプロくん含め全員が常に単独行動は避け、素性も知らない同年代の他人からのカメラ撮影を断固拒否する事になりました。

 

 今回はここまで。次回は卒業式あたりかな? 高校入学までヤッてイキたいと思います。また見てくださいねー! ばいばーい!

 

 

 

 

 

 



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閑話 憎悪と秘密

短いので実質ノー投稿。残像だ……。


 

 

 

 打席に立って対峙した瞬間、友沢亮は()()に気づいた。

 

 覇気のない貌だった。関心のない義務を淡々と熟しているかのような、常の強烈な意志が失せた伽藍の瞳。有象無象の一人を視界に入れているだけかのような、丸っきり気迫に欠けた姿勢。

 黙々と、機械的に投げ込まれる白球を見逃して。友沢は背筋が凍りつくような悍けを覚えた。なんだ、と。なんだこれは、と。

 思わず振り返った先に、暗い顔を強張らせて佇む女捕手がいる。淡々と、捕手の要求している球種だけを放つ機械には、情熱や気力とでも言うべきものが決定的に欠けていた。

 カッ、と頭に血が上った。

 舐められていると感じたのだ。自分が他の打者と同じような、一流とも呼べない有象無象と同じ扱いをされていると。故に友沢は一切の遠慮なく、一年前の雪辱を果たすべく積み上げた特訓の成果を振り絞り、怪物の直球に狙いを定めてコンパクトに振り抜いた。ヒット性の当たりは左中間を切り裂く。友沢がツーベースヒットを放ったのだ。それは記録上――怪物がシニアのマウンドに登板して以来、初となる被安打である。球場は湧いた、はじめて怪物が登板した試合で完全試合が消えたからだ。単なるヒット一本を打っただけなのに、大衆は快挙を成し遂げたヒーローの如く友沢を讃えた。

 

『――――』

 

 しかし、とうの怪物は少し驚いた顔こそしたものの、悔しがりもせず、友沢の事など眼中にもないまま、淡々と後続を三振に切って取りマウンドを去っていく。

 腑抜けた貌。周囲の反応、自身の投球内容、相手の打撃。それら全てを顧みもせず、次の打席でジャイロフォークを投じ友沢から三振を奪っても、なんら感じるもののない佇まいだった。

 

 ――結局試合はこちらの負け。怪物は安打こそ浴びても、無失点のままこちらを完全制圧してのけた。

 

 黒い火花が散る。ヘドロを煮詰めたような、溶岩のように激しくも苛烈な怒りが体の芯を焼いた。友沢は激怒している、だがそれは己に対してであり、友沢自身が感情を内に秘める性質だったからこそこの場では発散しなかった。

 しかし友沢よりも直情な性質の仲間、猪狩守は違った。試合が終了した途端に、猪狩は周囲の制止を振り払ってライバルへと食って掛かったのだ。

 

「パワプロ――! 君は――!」

 

 怪物は、胡乱な貌で猪狩を見遣る。それに、猪狩は堪え切れない激情を叩きつけ――

 

「何を()()()()()()()()()んだ……ッ!」

 

 息を呑むほどの怒声に、白い目を向けた怪物に冷却される。

 

「はあ? ……いや、白けるだろこんなの。()()()()()()()()()()んだ、なら空いたリソースを他に回して何が悪い」

「ッ……!? はっ……!?」

「こちとら()()()()()()()()()で忙しいんだ。さっさと並べよ、俺に無駄な時間使わせんな」

「――君は……、クッ……!」

 

 冷徹に、ではない。

 どこまでも無関心ゆえの、冷たく聞こえる呆れ模様。

 猪狩はそれに愕然とし、しかし溢れ出そうな憤怒を必死に噛み殺した。

 今の自分には、その驕り高ぶった怪物の慢心を糺す資格など無いのだと気づいたからだ。以前は親しげに()()()()と、期待するように声を掛けてもらえていたというのに……一年だ。一年も掛けて、彼我の実力の差がまるで埋まっていないように感じる。そんなザマで何を囀っても、この凍えた怪物の心には届くまい。事実として、手を抜かれてさえ負けたのだから――

 

 怪物は言った。やらなくてはならない事がある、と。それがなんなのか、猪狩や友沢には分からない。だが、少年たちは気づいていた。

 彼は野球の練習を全くしていない。彼が自主的に行なっている、仲間内の練習は彼抜きで行われ。走り込みもせず、バッティングセンターにも姿を現していない。彼は完全に努力を止めていた。進化せず、成長せずにいる。

 頂きに立ち、歩みを止めたまま下を見て、呆れ返っているのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()――と。

 友沢は、未だ嘗てない屈辱に打ち震えた。猪狩は、不甲斐ない自分に悔し涙すら浮かべた。しかし、それよりも。今に見ていろ、と負けん気を燃やす以前に、荒れ狂う激情をも凍てつかせる悪寒に襲われていた。

 

 パワプロに、野球に対する真剣さが無い。失われていた。それはつまり、彼が――野球を止めてしまうのではないか、という恐怖があった。

 

 友沢にとって、そして猪狩にとってもパワプロは目標であり、乗り越えるべき壁であり――何よりも強敵(とも)だったのだ。そんな怪物が、自分達の不甲斐なさのせいで野球の楽しさを見失い、情熱を冷ましてしまったのかもしれないと思い至ると、足場が崩れ去るかのような恐怖を覚えてしまった。

 このままでは終われない。終わって堪るか。その試合が終わった当日から、これまでよりも更に、鬼気迫る覚悟を持って少年たちは特訓を重ねた。頼む、待ってくれ、辞めないでくれ……! 必ず追いつく、必ず、届かせる。だからせめて、せめてもう少しだけ時間をくれ――!

 

 努力する天才達は、才能という天稟をも超えた領域に立つ鬼才の少年を追いかける。歩みを止めた怪物が、孤独なまま去ってしまう事を何よりも恐れて。

 だが――だが。猪狩と友沢は、鬼才の魔物が虚無に堕ちた原因が、パワプロはおろか自分達にも無い事を知った。

 橘みずき、木村美香が父親に伝え、それを経由して猪狩コンツェルンの会長を経由して、()()()()()の存在を猪狩守は伝え聞いたのだ。

 

「闇、野……」

 

 その名前を、猪狩は呟いた。

 

「闇野ォォ……!」

 

 永遠のライバルを襲った、有り得てはならないオカルトの存在。

 猪狩守は、自身がこれほどまでに他人を憎めるのだという事を、生まれて初めて知った。

 ――赦さない。決して。完膚なきまでに叩き潰さねば気が済まない。

 もはや、野球というスポーツの枠組みに収まらない悪党だ。猪狩守はその日オカルトの実在を知り、そして――闇野栄剛という不倶戴天の敵を憎んだ。

 思い知るがいい、人の魂を簒奪せし悪党。貴様は今、三つの大財閥を敵に回したのだ。その破滅は約束された。断じて、野放しにはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――たしかに、怒りはあった。

 戸惑い、疑い、しかし信じた末に視界が真っ赤になるほどの怒りを覚えた。

 これほどまでに怒れる人間だったのかと、自分で自分に驚いたほどだ。

 しかし同時に気づいた。気づいてしまった。

 パワプロくんは多くの知識を失ったという。だからそれを取り戻すために、必要だと判断したからこの一年間を学習に宛てたと言っていた。そして自分達に対する記憶や情も稀薄になってしまっていて、だから改めて親睦を深めていきたいと、どこか顔色をうかがうようにお願いされた。

 それは自信に満ち溢れ、傲慢ですらあった彼らしくない表情で。

 だからこそ思ってしまった。

 今まで、ずっと諦めていた。だってあたしは、野球のことしか知らなくて、女の子らしくないし、体だって大きい。他の皆みたいな愛嬌もないし、魅力なんて少しもないと思ってた。何より彼には恋人がいたし、あたしなんかより遥かに可愛くて、魅力的な女の子達が好意を寄せてるのが分かっていたから、この時までずっと諦めていたんだ。あたしなんかに割り込む隙間なんて無い、って。けど――六道さん達や、氷上さん達への記憶が薄れてるなら――あたしにも、チャンスが出てきたんじゃないか、って。

 

 吐き気がした。

 

 自分の最低な発想に、自己嫌悪を懐いてしまった。

 だけど一度気づいてしまって、思ってしまった事は忘れられない。自己嫌悪が深ければ深いほど、期待が高まる。

 はじめて彼と知り合った時は、純粋な尊敬があった。あたしも彼と同じぐらい野球が好きだったから、よく話したし、一緒に練習もした。そして誰よりも野球がうまかった彼に教わり、スキルを身に着けて、どんどん上達していく自分に喜んで、彼もまたあたしの成長を我が事のように喜んでくれたのが嬉しくて。次は何をしよう、彼と何を話そう、そう考えるようになっていくと、次第に野球のこと以外でも彼の事を想い始めてしまって。

 気がつけば、手遅れになるぐらい、彼のことが好きになっていて。そして、別の意味でも手遅れだと悟った。

 恋人、幼馴染。……そんなの、勝てっこない。そう思って諦めていたのに、チャンスが到来してしまった。皆が同じラインに並ばされた。彼の記憶が失われたことで。

 

 太刀川広巳は嫌悪する。

 

 薄汚く感じる自身の想いを。

 

 太刀川広巳は、涙する。

 

 ――パワプロくんのこと諦めたく、なくなっちゃったじゃんか。

 

 恥知らず、卑怯者、そう自分を罵って自制しようとしても止められない。

 期待はある、振り向いてくれるかもと思う気持ちを否定はしない。

 広巳は自分の『女』を刺激されてしまったのだ。

 止められるわけが、ない。

 

「あー……その、太刀川……で、いいんだっけ?」

「――うん」

「……太刀川。野球のスキルに関しては体で覚えてるんだけどさ、頭だとまだ分かってねえんだ。だから俺の調整に付き合ってくれ」

 

 ヒロピー、と。友達感覚で付けられたあだ名ではなく。

 太刀川、と。一人の女の子にするような、こちらを意識しているのが伝わってくる態度で呼んでもらえた。

 それが嬉しくて嬉しくて、とっても嬉しくて。止まれない。

 太刀川広巳は、諦め掛けていた恋が、一気に膨れ上がるのを止められない。

 勝ち目のない勝負が、一気に分からなくなったから。

 

 結果が分からないなら――挑んでみたくなるのが、女の子なのだ。

 

「……ごめん。氷上さん。六道さん。霧崎さん。――みんな」

 

 あたしも、人の弱り目に付け込む形で情けないけど。

 闇野って人の持つソウルジェイル、とかいうのを壊してしまえば、元通りになるらしいから。それまでに――出来る限り仲良くなりたい。

 友達としてじゃなくて、男と女として。

 

「あたし……最低だ」

 

 太刀川広巳は、自分が嫌いになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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無双モードしゅーりょー!

疲れ果ててるので初投稿です……!


 

 

 

 

 満開に咲き誇る桜が綺麗なRTA再開しよっとね!?(雑な方言)

 

 卒業式です。やっとチュートリアルである中学時代が終了しました。

 これにて無双モードはおしまい。格下相手に慢心しっぱなしの無双体験は終わりです。俺TUEEEが許されるのは中学生までだよねー(笑)と草を生やさぬお上品モードの開幕ですのことよ(迫真お嬢様部) ぱわぷろガチ勢のプレイヤースキルに猛追してくるライバル達を思い出すと草枯れますのよ(震え)

 それはそれとして、桜の木の下で佇むパワプロくんの無駄なイケメンムーブよ。卒業証書を脇に抱え、両手をズボンのポッケに突っ込んでイケメン立ちをしつつ、声を掛けてきそうな下級生や同級生を牽制します。

 これはノスタルジックな空気に浸ってるとかではなく、単なる好感度チェックというか……サブキャラとかがパワプロくんとどういう関係に落ち着いてるかを確認するためのムーブです。ここでサブキャラ達の好感度が高いままだと同じ高校に来て野球部に入って来ちゃうんですが、そうなると今後どうなるかの計算が難しくなるんで来てほしくないんですよね。話しかけて来るか来ないかで、好感度調整が上手くいっているかを判断できるんです。

 

 ちなみにご存知でない方も多いと思うので補足しておきますと、この時代の受験シーズンはたしか……卒業式が三月だから、だいたい半年前ぐらいだったはずです。なのでサブや進路情報未確定であるメインキャラ達の進学先が、中学卒業と共に確定するのはおかしいんですよね。ここもまた開発のガバガバっぷりを露呈させています。その割にパワプロくんや進路確定してるキャラに関しては、きっちり半年ほど前から受験を済ませてたりするんで、色々とツッコミどころがありますが……気にするほどでもないでしょう。

 

 それはそれとしてですね。なぁーんか、周囲の目の色が心配げな感じなのが気になりますが……誰も話し掛けてこないでくれよな〜頼むよ〜?

 ……話し掛けてこないですね、ヨシ!(現場猫)

 ちょっと寂しいですが、まあしゃあない。ここ一年の行ない的に、敬遠されるのは当然でしょう。パワプロくんの雰囲気が変わったせいで、どう接したら良いか分かんなくなってたでしょうし。こっちも今更どんな顔して話したら良いのか分かんないんで、遠巻きにチラチラ見てくる連中は無視安定ッス。

 

「あ、パワプロくんっ」

 

 で、メインの娘達が来たら、後はサブの子達は遠慮して話し掛けてこないんでイケメン立ちムーブはおしまい。

 一番槍はどうやらヒロピーのようです。満面の笑みで手をブンブン振って、無邪気な感じで駆け寄ってきます。あぁ^〜ヒロピーのヒロピー(意味深)がぴょんぴょんするんじゃぁ^〜

 恵体なヒロピーは女子選手の中だとトップクラスでボンッキュッボン!(小学生並みの表現)ですからね……ブレザーなのにお胸の部分がパツンパツンしてますのことよ(凝視) 礼里ちゃん聡里ちゃん聖ちゃん三人のB合計値に匹敵してますよクォレハ……(誇張)

 

 健康的に日焼けした肌。180後半に差し掛かったパワプロくんの隣に来ても見劣りしない長身。出る所は出て、締まる所は締まったチチシリフトモモ。健全な青少年を視覚で殺す魅惑ボディの持ち主にして、普通に普通以上の可愛さを誇る顔面偏差値……。野球以外の話題を受け付けないコミュ障であることを差っ引いても、この荒んだ疑似野球人生を彩る一輪の花たる魅力に溢れておりますのことよ!(説明口調)

 

 そんなヒロピーは大型犬じみた愛嬌があります。ヒロピーはパワプロくんの所に来ると、いたずらっぽく笑いながら謝ってきました。

 

「先に謝っとくね。ごめん……てりゃっ」

「………?」

 

 おや? ヒロピーが掛け声と共にパワプロくんの第二ボタンを剥ぎ取ってきましたね……これはどういうことぞ?(棒読み)

 

「ニシシ……パワプロくんの第二ボタンをゲットしたのは氷上さんではない、このあたしだー! な、なんちゃってー……」

「………」

 

 かわいい(かわいい) しかし妙ですね……どこからともなく、ごめヒカソングが聞こえてきましたよ……?(幻聴)

 ぶっちゃけ記憶なくなってないんですがなくなってるムーブ継続中なので、ここは困惑しながらのマジレスをしておくのが無難ですかね。

 

 なんだお前(素) あのさぁ……お前さっき俺が立ってるとこチラチラ見てただろ。

 

「えっ! そ、そんなことないって」

 

 嘘つけ絶対見てたゾ。お前もしかして、俺のことが好きなのか?(青春)

 

「っ!? ぁ……ぅう……」

「……太刀川お前……ジョークのつもりだったんだが……俺、そんなわけあるかーっ! ってツッコミ期待してたのに……マジで?」

「ぅ……」

 

 おいおい。おいおいおい。図星突いてしまったよ。黙っちゃったよ。

 いや知ってはいましたよ? わたしは別に鈍感系主人公ではないんで。でもヒロピーの性格的にパワプロくんへの恋心は隠して『そんな訳ないじゃん!』と誤魔化しにかかってくると踏んでたんですが。

 ところが、現実。ヒロピーは顔を真っ赤にしてもじもじして、チラチラとパワプロくんを見てきました。これはもう誤魔化せるタイミング逸しちゃいましたよ……どうすんだこれ……パワプロくん彼女いるんすよ?(棒読み)

 同棲してる聡里ちゃん聖ちゃん礼里ちゃん。三人も肉体関係持ってる時点で誠実のせの字もないですが、パワプロくんのキャラ的に安易に関係を作るのは許されざるです。うーん……どうすっべ? どうすっべ? ……閃いた!

 

 現在、パワプロくんはヒロピーを『太刀川』と苗字で呼んでます。これは彼の記憶喪失ムーブ、略してKSMを盤石のものにするためです。よって上記三人との肉体関係は停止中、同棲してるのもアレな感じで心の壁作ってますね。

 なのでパワプロくんの中では恋人なんかいなかったんや! となってます。自己申告で彼女や幼馴染の存在は認知させられてますが、実感が追いついてないムーブしてるんで実質ノーカン。それを利用しない手はない(迫真) 何かあっても全部闇野ってヤツの仕業なんや!(ド屑) 俺は悪くぬぇ!

 

「俺らって友達(ダチ)だったよな……?」

「ぅん……」

「闇野にやられる前も」

「………」

「あー……言いにくいんだけど、ダチのままでいようぜ。なんか俺、彼女いるらしいし。ぶっちゃけ彼女作った覚えなんかねぇんだけど、守るべき筋ってのはあると思うんだ。だからさ、その……頼むから泣きそうな顔すんなって」

「ぁ、はは……あはは! べ、別に泣きそうになんかなってないし! ごめんね、変に気遣わせちゃって」

「気ぃ遣ってなんかねぇよ。それにお前が好きなのは()()()()前の俺だろ? もうソイツはいねぇんだし、俺なんかよりもっといい男探した方がいいぜ。太刀川は可愛いんだし、その気になったら幾らでも――」

「やめてよ! あたし、パワプロくん以外を好きになったりなんか……あっ」

 

 やってしまいましたなぁ(ゲス顔) パワプロくんの事が好きなのゲロしちまいましたぜ。JCなんか誘導して本音引き出すなど朝飯前、そなたなどまだまだ子犬よ(お蝶殿感) ……いやなんで本音引き出してんだ俺(素)

 クセになってんだ人の本音引き出すの、とでも言えば良いのかな……? 人が人を好きになるのに、大層な理由なんかいらないからね、仕方ないね(意味不明) 本心をカミングアウトして真っ赤になり、口をパクパクさせてるヒロピー可愛すぎかよ(現実直視)

 

 武士の情けで、ここはイケメンムーブで有耶無耶にしてあげましょうか。

 

「――ウチの中学の桜の木って、シダレザクラって言うらしいぞ」

「え? なに? いきなり……」

 

 シュババババ(高速ジャブ)

 ひらひら舞ってた桜の花びらを、ボクシングのジャブの要領で手を伸ばしつつキャッチング。五枚ぐらいテキトーにキャッチした花びらをヒロピーの手に握らせてやりましょう。ヒロピー困惑してますが無視。

 

「この間、図書館に行った時さ。チラッと興味持って花言葉の図鑑を見てみたんだ」

「ふ、ふーん……? 意外だね、パワプロくんってそういうの興味無いと思ってた」

「ところがぎっちょん、『知らない事』には興味を持つお年頃なんだ。んで、太刀川はシダレザクラの花言葉って知ってるか?」

「知らない、かな……」

「『ごまかし』だよ」

「………? ………!」

「えっと、だな。せっかく満開なんだ。コイツの花言葉と掛けてやっから、テキトーに誤魔化してくれ。そしたら誤魔化されてやっから。……こんな事故みたいな感じで流されたくねぇだろ、太刀川も。断るにしろ受けるにしろ、もっとムードのある場面じゃなきゃな、告白(そういうの)はさ」

 

 我ながら何言ってんのかよく分からん上にクサイですが、ニュアンスをライブ感で理解してくださると幸いに存じ上げまする(顔真っ赤)

 ともあれ溺れる者は藁をも掴むとはよく言ったもので、ヒロピーはパワプロくんの助け舟に飛びついてきましたね。

 そりゃあね、大胆な告白は女の子の特権的なものですからね、それを別スレへの誤爆みたいな感じでカミングアウトした事にはしたくないでしょうし、リテイク出来るならしたいってのが人情ってもんでしょうよ。

 

「友達! あたしはパワプロくんのこと、友達として好きって言いたかっただけだから!」

「声大きいぞ」

「ゔっ……」

「しっかし、そっかー……LOVEじゃなくてLIKEな方の好きだったわけか。うわー恥ずかしいなー俺の勘違いかよー」

「……すっごい棒読みだよね、それ」

「はは、本番じゃねぇなら茶化して流した方が良いだろ?」

 

 ジト目ありがとうございます! ヒロピーのジト目はかなりレアなんで、なんだかゾクゾクしますね。それにこんなやり取りしてると、なんだか青春ラブコメものの主人公になった気がして悪くありません。

 んー……今までは俺様王様系の天才傲慢ムーブ(社交性MAX)で通してきましたが、こっからは洒落も通じる爽やかクール系で行くのも悪くないかもと思ってきましたよ。闇野事件を経てのパワプロくんのムーブは、かなーり冷めてる感じに仕上がってましたし。ここから人間味を取り戻していく感じでイケば、皆との絆レベルがえぐいほど上がっていくやもしれぬ。

 

 ――とか思ってたら、何やらヒロピーが嬉しそうな笑顔を浮かべ腕に抱きついて来ましたね……その胸部装甲グイグイ押し付けてくるスタイル、嫌いじゃないよ。

 

「た、太刀川……?」

「なに?」

「いきなりなんだよ……なんで抱き着いて来た?」

「リテイクさせてくれたんだし、友達らしくしようかなって。友達同士ならボディタッチぐらいするよね。パワプロくんがあたしの事忘れちゃう前は普通にしてたし」

 

 ダウトォ! そんな事してねぇだるォ!(巻き舌)

 

「してたよ! 野球の練習の時とか寧ろパワプロくんの方から体に触ってきてた!」

 

 あ、それはしてましたわ……(目から竜のウロコ)

 でもやましい気持ちはなくてですね、普通に指導してただけなんですがそれは……ってそんな事言えぬぇ! 記憶喪失モードなんやから!

 

「そ、そうだったのか……」

 

 こう言うしか無い……。

 

「そうだったんだよ」

「………」

「………」

「……いつまで抱き着いてんの?」

「仲良くなれるまでかな」

「……具体的には?」

「あたしのこと、苗字じゃなくて名前で呼んで。()()()()()()

 

 ぐいぐい来るないきなり……まあええわ。きゃわいいおにゃのこにチヤホヤされて生きたいだけの人生だからね、仕方ないね。

 

「……広巳ちゃん。これでいいか?」

「ニシシ……『ちゃん付け』で呼ぶんだ」

「あ? 悪いかよ。なら別の――」

「んーん。それでいいよ。だって……記憶失くしてから『ちゃん付け』で呼んでるの、今のとこあたしだけだよね」

「……言われてみればそうだな」

 

 桜の木の下で美男美女がイチャついてる絵面は凄く絵になるなぁとか思いつつ頭を空にしてテキトーに応対してたらマジでイチャつく五秒前みたいな空気になってきたでござるの巻。

 闇野をぶっ○すか、ソウルジェイルを壊せば記憶も何もかも回復する(という設定な)ので、皆は『パワプロはこのまま記憶を取り戻さないんじゃ』と不安に駆られてはいません。なんせ木村・橘・猪狩の三大財閥が闇野抹殺に全力を挙げ、闇野の捜索を開始してますからね。金こそパワー! マネー・イズ・パワー・システムこそ王者の風よ!

 

 とはいえ闇野はそう簡単には捕まりません。その訳は本作で設定された闇野の本体が人間ではなく、あの『一つ目ヘルメット』の方だからです。ヘルメットを付けた人間の体を乗っ取ったりする精神寄生型の妖怪なんですよ。

 なので闇野を見つけてもすぐに取り押さえないと別の人間に寄生して逃げられ潜伏されます。捕まえるには奇襲し問答無用で叩き伏せるしかなかったり。おまけに寄生獣な闇野はタイムリープかループをしてる節がありましてね、パワプロくんの周回前の姿を知ってたりする事があるとかないとか。それによって前世の因縁(笑)とかで中2ごっこで遊べる美味しいキャラです。

 

 ちなみにわたしは闇野と直に関わった事はないんで、前世の因縁(笑)は発動しません。残念ですが、注目はされます。だって力場専一とかいうバグキャラ、前周回にはいませんでしたからね。「奴は特異点か……?」と意味深に疑い接触を試みてくる可能性は割と高いです。今来たら死ぬから自重した方がいいぞ闇野ー!

 

 で、万が一闇野がわたしにヤられる前に大人達にヤられてしまった場合、わたしはそれを事前に知り得るわけじゃないんで、どうしても『元に戻るタイミング』を逃してしまうんですが、それに関しては言い訳一つで流せます。

『今までのこと全部思い出してたんだけど、忘れてた期間中のことも覚えてて戸惑ってたんだ』と言えば良いんです。言い訳大魔神と恐れられたこのわたしからすれば、この程度はガバにも入らないですよ(ドヤァ)

 ほんで、闇野が別の体に逃げた場合は、ほぼ確定でわたしが決着をつけるしかなくなります。ですがその場合は逆に確殺できますね。何故なら――

 

 

 

「何をしてるの?」

 

 

 

 ヒェ……。

 周りの目も無視してイチャついてたら聡里ちゃんが登場しました。しかもなんか、バッチェ冷たい空気醸してます……聡里ちゃん冷えてるか〜?

 聡里ちゃんおこなの? 怒ってますねクォレハ。そりゃそうだ、自分の彼氏が他の女とイチャついてて怒らないわけがない。冷たい目でヒロピーを一瞥して、そんでわたしを睨んできましたね。

 しかしJC……は、卒業したとはいえ、まだJKにもなってない小娘の威圧に怯むほど、このわたしは軟じゃありませんのことよ。わたしをビビらせたければ魔剣・光り物(ホーチョー)抜いて複数人で囲むんやな(虎馬)

 

「ん、聡里か。何してるって……これ何してるんだ?」

「さ、さあ……?」

 

 さも何も悪い事してませんよって顔でヒロピーに確認すると、ヒロピーは思いっきり聡里ちゃんにビビりながらパワプロくんの陰に隠れてきやがります。おーいヒロピー? 別に取って食われやしないんだから怯えないの。

 というかホントにこれ、何してるって説明したら良いんでしょうね。イチャついてるんだよ言わせんな恥ずかしい、なんてふうには言えませんし。

 そんなふうに悩んでると、近くまできた聡里ちゃんがジロリとパワプロくんの制服を見渡して、胸元を確認すると更に目つきを険しくさせました。おっ、どうしたどうした〜?

 

「第二ボタンが無いわ……太刀川さんが取ったの?」

「あ、あはは……さあ、どうなのかな……」

「渡して。それは私の」

「……氷上さんのじゃなくて、パワプロくんのだよね。仮にあたしが貰ってたとしても、氷上さんに渡す義理はないかな……」

「………」

「………」

 

 改めて見ると、聡里ちゃんの氷の美貌が完成形に近づいてますね。身長もわたしの知る大人さとりんと同じぐらいですし、ん〜美人!

 ……ん? なんか修羅場の空気――とも言えない温い空気。バチバチと視線で火花を散らしてる二人を見比べても、特に怖くもない。子猫同士がフシャーと威嚇して縄張り争いしてる感?

 なーんか巷だと女の子同士の険悪な空気にビビるのがお約束というか、男が介入する余地がなくて無力な感じになりがちらしいですが、そういうのは修羅場の抑え方や御し方を知らないだけなんですよね。

 相手との関係性、力関係次第ではありますが、パワプロくんを取り巻く程度の低い修羅場なんか簡単に潰せます。

 

「なんだお前ら。折角卒業したばっかで神妙な空気に浸ってたってのに……」

「ぁ、ご、ごめん……」

「……センくん」

「聡里、ボタンが欲しいなら幾らでもくれてやるから落ち着けって。ほら」

「別にボタンが欲しいってわけじゃ……あっ」

 

 制服のボタンを根こそぎ剥ぎ取って、聡里ちゃんのお手手に握らせます。パワプロくんの知識は穴だらけになってますからね、第二ボタンとかの意味が分かんなくなってんですよ(大嘘)

 んな訳で、こんな頓珍漢な手段に訴えても違和感を与えずに済むわけです。で、困惑させてしまったらこっちのもんで、場の主役、主導権を手繰り寄せたらさっさと歩き出しましょう。

 

「もう帰ろうぜ。ここは卒業しちまうけど、どーせ高校は同じなんだ。もう卒業の空気も満喫したし、長居する理由もないだろ」

「う、うん」

「……太刀川さんも来るの?」

「仲良くしろよ。無駄に険悪ムード出しても微笑ましいだけだ」

 

 まだまだ残ってる卒業生諸君や、それを取り巻く在校生諸君を突っ切って進みます。進むんですが、なんかモーセの海割りの奇跡の如く人がザッと左右に避けましたね。パワプロくんの『カリスマ』は健在なようです(当たり前)

 別に威圧してる訳じゃないんですが、人の印象ってのは主観によりますからね。今のパワプロくんへの見方がアレな感じなんで、化物じみた『カリスマ』は近寄りがたいだけのオーラになってるんでしょう。

 するとパワプロくんはめちゃんこ目立つわけで、これまで行方をくらましてたパワプロくんを探してた面子が合流してきました。

 

「専一っ」

 

 聖ちゃんと礼里ちゃんですね。二人と聡里ちゃんは常に一緒にいようとする過保護状態なので、単独行動してたパワプロくんにお冠みたいです。プリプリ怒ってて駆け寄ってくるなり軽く睨んできました。

 

「何処に行っていたのだ! 探したぞ!」

「一人になりたい時もあるのは分かる。だが心配しているこちらの身にもなってほしいな」

「はいはい。学校の敷地内でまで神経質になるなって。……ん? お、いいとこにいるな。おーい、みずき!」

 

 ぷりぷりしてる二人を雑に宥めつつ、パワプロくんから微妙な距離を置いて他の級友やら後輩やらと話してたみずきちゃんに呼び掛けます。

 するとみずきちゃんは複雑そうな顔で皆に断りを入れて――たぶんお別れを言ったのかな? 名残惜しそうにしながらもこっちに来ました。

 

「なによ騒がしくしちゃって。せっかく優しいみずき先輩が可愛い後輩たちと別れを惜しんであげてたのに」

「すまん、でも呼んだ途端に来てくれるなんて、みずきはホントに優しいな」

「んぐっ……ちょ、調子狂うわね。それでなんの用なのよ?」

「ああ、ちょっと待ってくれ。えーと……お、あそこか。おーい、矢部! と千尋! こっちだ!」

 

 オタク友達や女友達&賢そうな外面に騙されてる後輩女子に囲まれてるちーちゃんを呼びます。すると矢部くんとちーちゃんも来てくれました。

 付いてきてるのは親御さんかな? 矢部くんの一族は一部除いて全員同じタイプのメガネ掛けてるんで分かりやすいですね……。

 

「なんでやんすか?」

「……ちーちゃんでいいって言っただろ。特別に許してやったんだからあだ名で通せ」

「おう。いやさ、俺が()()()になっても仲良くしてくれてたお前らとさ、中学の最後に写真撮りてーなって。だめか?」

「ぱ、パワプロくん……駄目じゃないでやんす! 撮るでやんすよ!」

 

 矢部くぅん! 真っ先に賛成してくれるとは心の友よー!

 そんなこんなで集合写真です。あおいちゃん? 先に卒業しちゃってるからハブですハブ。悪いな。

 右隣に聡里ちゃんが陣取り、真ん中で屈んだパワプロくんの後ろに礼里ちゃん。斜め前に聖ちゃんとヒロピー。左隣に矢部くん。肩組もうぜ矢部くん! そんでみずきちゃんとちーちゃんが集団の両脇に固まって、矢部くんの親御さんがカメラで写真を撮ってくれました。これで――

 

トロフィー【色褪せない思い出】を入手しました

 

 ――はい、ついでに安いトロフィーゲットです。

 安いですが、まあ……簡単に手に入るとはいえ、なかなかに感慨深い写真ですね。感動した!

 

 ホントは高校までイきたかったですが、なんだかキリがいいんで今回はここまでにしとこうかと思います。それではまた次回も見てくださいねー! ばいばーい!

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――闇の中に一人の青年が潜んでいた。

 

「ハァ、ハァ……どうなってる? ()()こんな事はなかった……もしかして()()()()が知られているのか? いったい誰に……」

 

 多くの、特別な訓練を積んでいると思しき男達に追われていたのだ。

 傷こそ負っていないものの、青年は疲弊させられている。定命の人間の経験値では、到底この青年には届かないはずなのに。

 流石に多勢に無勢という奴なのだろう。厳しい訓練を積んだ武装した集団には敵わない証明と言える。

 なぜこんな事になっている? 追われた事がないわけではない、しかしこうも早く追われる身になる因果は起こっていないはずだ。何が原因だ?

 

「……()との差異は……」

 

 青年は思い耽る。そして、すぐに思い至った。

 

()()()()……」

 

 そうだ。その青年だ。前にはいなかった、しかし『パワプロ』という愛称の青年は前にもいた。名前や容姿こそ異なるが、前のパワプロと今回のパワプロには何かがある。青年はそう感じざるを得なかった。

 

「彼は……特異点なのかもしれないな……」

 

 何はともあれ、今は身を隠す必要がある。そして同時に、()()()()()()()のがベストだろう。

 

 闇野栄剛はそう判断し、その名と体を捨てる決断を下すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




闇野→???
犠牲者は誰になるのか、それが問題やねん……。
普通にネームドはアレなんでネームレスキャラかな……?


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中々本命に入れないそんな時、わたしは青春の味を感じるんですよね(隙自語)

お待たせ♡()
なんとなく初投稿です。


 

 

 

 

 高校編の開幕を祝するRTA再開だぁーっ!

 

 突然だがコイツを見てくれ。

 入学式はまだですが、本作のシステム上では進路が確定していると中学を卒業した時点で高校生として扱われるので、能力キャップが開放されました。ので、以前お話していた通り、全ての経験点を消費して能力値を上げたのだ。

 なお『』の中のはPS込みで超特に相当する技能という意味です。中学時代はキャラ能力だけのゴリ押しだったんですが、高校からはわたしも本気を出していくので表記を変えているわけですね。

 

 

 

【投球フォーム:オーバースロー17(改造済) 投打:右打ち左投げ

 球速:S(162km/h)

 コントロール:S1(101) スタミナ:S1(101)

 ・ジャイロボール    ・ストレート   (・ジャイロフォーク:7)

 ・チェンジアップ:7  ・スライダー:7  ・カーブ:7

(・オクトスモーク:7)

 

 ・センス◎ ・カリスマ ・モテモテ

 

『・精密機械』  『・怪童』 『・怪物球威』

『・驚異の切れ味』 ・リリース ・変幻自在

 ・超短気 ・超集中 『・ドクターK』 ・同心術

 ・マインドブレイカー ・ハイスピンジャイロ

『・エースの風格』】

 

【打撃フォーム:神主打法(パワプロ式・祈祷打法) 弾道:4

 ミート:B(70) パワー:S(90) 走力:A(80)

  肩力:S(100) 守備:B(70) エラー回避:B(70)

 

 サブポジション:外野(センター・レフト・ライト)

 

 ・積極盗塁 ・積極走塁

 ・チャンス5 『・安打製造機』 『・アーチスト』

『・高速ベースラン』『・電光石火』『・ストライク送球』

『・広角砲』 ・粘り打ち  『・恐怖の満塁男』

 ・鉄人 『・エースキラー』『・精神的支柱』

 ・連打  ・レーザービーム『・ローリング打法』

『・内角必打』 『低球必打』『・魔術師』

 ・ラッキーボーイ『・不動の四番』『・至高の外野手』】

 

 

 

 素晴らしい(恍惚)

 聖域勢の攻略により、現状わたししか取得できていない超特も含め、育成はここまで完璧と言っても過言ではありません。プロでも即戦力なのでは?(名推理) ドラ1指名不可避ですね間違いない。

 普通はここまでの能力値にすると故障し易くなるもんですが、超特『鉄人』に加え、パワプロくんの恵体っぷりから見てもケガの恐れはほぼありません。そこはかなーり気を遣って調整してますからね。

 

 本作ではアバターの体格はランダム両親遺伝、つまりランダムな訳ですが、成長過程などは遅かったり早かったりの個体差があるものの、成長限界に達すると共通して通知が来ます。

 そんで体の成長がカンストしましたよ、という旨の通知が来たんで測ってみたところ、パワプロくんの体格は身長191cmで、体重は92kgです。高1にしてプロ並みの恵体というフィジカルエリートの鑑ですねクォレハ……。

 

 高1までで成長期終わる、これはまあ個人差もあるんで不思議じゃありません。しかし幾ら何でもこの歳でこの完成度は無理があるんじゃ……? そう思われるかもしれません。しかも体型はパッと見では細マッチョですからね。

 ですがパワプロくんの筋肉の質は、わたしの丹念な特訓のおかげで最上級。見掛けによらず筋力はエグくなってます。ちょいと肉体的ファンタジー入ってね? と思うかもですがゲーム内ですし、ま、多少はね? ステータス上でもパワーはSランクですし、目標にしている最高球速170km/hもこの恵体からなら繰り出しても問題はないです。ぶっちゃけここまで来たら育成面ではしくじりようがない、ガハハこれはもう勝ったな風呂入って田んぼ見てくる。

 

 現在わたしは中学卒業後、聖タチバナ学園高校の入学式を控えた空白期間に入っております。ちょいとしたモラトリアムとはいえ、一分一秒も無駄にしたくないんで、今回からは重点的にメイン勢とのコミュをしていきましょう。

 

 まず何かと蔑ろにしてしまいがちな聡里ちゃんです。

 ごめんね聡里ちゃん、悪気はないねん。聡里ちゃんが辛抱強くて寛容だからついつい甘えてしまうんです。パワプロくんがどんなにダメ男でも、見捨てないどころか逆に喜んじゃうダメンズな聡里ちゃんはホンマ罪な女やでぇ。聡里ちゃんは我々の業界でダメ男製造機だってそれ一番言われてるから。

 クールな外見と言動に反して、意外と肉食系な聡里ちゃん。彼女と二人きりになれるのは専ら武道場です。畳の匂いが心地良い……なんだかここに来るのもずいぶん久しぶりな気がしますね(錯覚) まあ実際、パワプロくん的には一年以上来ていないのですが、わたしの認識上では倍速してたのでそんなに久し振りではなかったりします。

 

 さあ二人きりの鍛錬デートですよ!

 

 ……いやこれってデートなの?(自問) ま、まあええわ。聡里ちゃんが満足するなら実質ここも遊園地と同じっしょ(暴論) という事で白い胴着姿の聡里ちゃんと対峙、対戦です。手加減しねぇぞおい!

 ぐへへ、合法的にくんずほぐれず出来るとか最高かよ。薄っすら浮かぶ汗! 乱れる着衣! 予期せぬTo LOVEる! こんな美少女彼女と密室()で汗を流せるなんて、控えめに言ってご褒美です。

 そんじゃ、イクゾー! イヤーッ!

 

「………!」

 

 グワーッ!(瞬殺) 

 

 ……。

 ………。

 …………え?

 

 いつの間にか地面とキスしてた、だと……!? どうなってるの……一瞬で投げられましたよ……?

 ……い、今のは油断してただけだから(震え声) ちょっとした準備運動的な? 今から本気出すから見てろよ見てろよ〜?

 

 イヤーッ! グワーッ!

 

 チカレタ……(小声)

 ……どぼじで勝でな"い"の"ぉ"ぉ"ぉ"!? おかしいでしょ!? そろそろ聡里ちゃんの武力がわたしに迫ってくるとはいえ、まだまだわたしの方が強いはずなんですけどぉ!? クールになれ、考えるんだ、なんで勝てない?

 ……。

 ………。

 …………あっ、そっかー。パワプロくんの肉体がこの一年で一気に成長してたからや……。具体的に言うと手足が長くなって、わたしの感覚とのズレが出てるんですね。これはいけません! この手の感覚のズレはケガの元、可及的速やかに修正を成さねば……! だからわたしは負けてないし(震え声) 体感では、感覚の修正さえできればまだわたしの方が強いっぽいな、と思いました。これはマジで言い訳じゃないから(迫真)

 

「センくん……」

 

 おや、聡里ちゃんが悲しそうな顔してますね。どうしたのでしょう。

 

「センくん、弱くなってる……私より、強かったのに……やっぱり記憶がなくなったせい?」

 

 そうだよ(便乗)

 

「さあな。野球は体が覚えてたが、どうも武術(こっち)はそれほどでもないらしい……いや、すまん。見栄張った。ぶっちゃけ聡里が強くなっただけなんじゃねぇの? ここ一年はステゴロの技ぁ齧ってる暇もなかったし、聡里が俺を超えたってだけだと思うんだが」

「そんなことない。センくんはもっと強かった」

「……ワリぃ。じゃあ俺が元の腕前取り戻すの手伝ってくれよ」

「うん」

「終わったら、あー……その、デート……しようぜ? 釣り堀とか行ってみたいんだ」

「……うんっ」

 

 微かに相好を崩しながら頷く聡里ちゃんテラ可愛ゆす……。

 思えば聡里ちゃんは不憫な娘です。色々あって出来た彼氏には可愛すぎる二人の幼馴染がいて、あからさまに距離感近い上に二人は自分の彼氏を好いている。彼氏は彼氏で幼馴染達を憎からず思っているようで、もしかしたら彼氏は幼馴染のどちらかを好きなのかもしれないと不安に思っていた。それに自分で気づいてないだけで、気づいてしまったら自分は振られてしまうのではと恐れて、幼馴染の片割れと共謀して関係を持ってしまい、以後はなし崩しに関係が継続し広がっていく悪循環に陥った、と。

 彼氏は他にも多くの美少女に好意を寄せられ、自分は彼氏のスター性が原因で押し寄せる雑多な野次馬などをシャットアウトするのに忙殺されて。その隙に身近な少女たちはパワプロくんに擦り寄る……実はパワプロくんが幼馴染以外の女とも関係を持っていると薄々勘付いてても、強引に肉体関係を迫った過去の負い目で何も言えず半ば黙認。どうしたらいいのか分からないまま流されてると、今度は外敵による彼氏の記憶喪失()で関係が崩壊。彼氏との距離感が分からないで悲しんでると、ごめヒカソングをBGMに新たな恋敵が参戦してくる始末。控え目に言って可哀想。可哀想じゃない? 誰が悪いんだ?

 

 全部闇野のせいなんだ!!(集中線)

 

 まあここまで全部、客観的に見たら一部を除いてパワプロくんは悪くありませんからね。人間関係崩壊阻止論〜それでも僕は悪くない〜の面目躍如です。

 闇野が悪い(魔法のコトバ)を唱えてれば万事丸く収まります――今だけ。あんま多用すると効力が薄れますからね、自重しましょう。

 しかし見方を変えれば今は聡里ちゃんにとってチャンスです。パワプロくんは記憶喪失()なんで、これを機に過去の負い目を無かった事にしましょう。もちろん聡里ちゃんはこれ幸いと過去の過ちを無かった事にするなんて卑怯な真似はしないでしょうが、わたし、つまりパワプロくん側から別の形で関係を再構築していけばいいんです。記憶喪失()だからね、(パワプロくんが彼女という肩書の聡里ちゃんを贔屓するのは自然な形だから)仕方ないね。

 

 今後は聡里ちゃんを私生活行動ルーチンの中心に据えます。これにより密かに溜まってた聡里ちゃんのストレス値を軽減させ、不満を解消させましょう。そうしたら聡里ちゃんは心的負荷が無くなり覚醒します。

 聡里ちゃんのワガママはなんだって聞いてあげましょうね。露骨ですがリップサービスです、なんかお願いはないか訊いてみましょう、なんだって言うこと聞きますよ!

 

「なんでも……? いいの?」

 

 ――ん? 今何でもするって言ったよね?(意訳)

 おう、考えてやるよ(考えてやるとは言ってない) 日頃世話になってますからね……いいよ、来いよ! 自重なんか捨てて掛かってこい!(語録無視)

 

「なら……私も野球したい」

 

 ……why?

 

「プロになりたい訳じゃない。センくんとどうしたらずっと居られるのか、どうしたらセンくんと前みたいに仲良くなれるのか、考えてた。私も野球部で、選手をしたらいいんじゃないか……って思うようになったの」

 

 なるほど。確かに聡里ちゃんは選手としてやってく√もありますが、まさかここでこう来ますか。そうなっても別段影響はないですし――わたしは一向に構わん! ……不慮の事態も聡里ちゃんがいたらそのシックスセンスでガードしてくれるから安心だね(小声) 闇野闇野って連呼してますが、それよりヤバイ奴は幾らでもいるのでね、ガード要員は必須なのだ……。

 ってなわけで、いいよ! 来いよ! 胸に【自主規制(ピーー!)

 

「こんな志の低さで加わるのは気が引けるけど――え? いいの?」

「いいぞ。野球やってる奴の全員が全員プロ目指してるわけじゃねぇし、エンジョイ勢は何処に行ったっているもんだ。でもマンツーマンで教えるのはいいけどよ、スタメンになれるかどうかは別だぞ」

「うん、それでいい。……ありがとう、こんなワガママ聞いてくれて。足引っ張らないように気をつける」

「そこは気にすんな。野球一年生はどう足掻いても足引っ張るもんだ」

「ぁ、ご、ごめんなさい……」

「責めてねぇって。ワガママ言われてた方が気が楽だし、むしろどんどんそういうのは言ってくれていい。俺だって野球しかしねぇで生きてるわけじゃないんだ、甘えてくれよ。甘やかさせてくれ。その方が『らしい』だろ?」

「……うん。ありがとう」

 

 ()()()ってなんだよ(哲学)

 まあ高校生男女のらしさってのは勢いですからね、恋人らしさとかもそういうのに含まれるんでしょう(適当)

 こっからは積極的にらしさを出していけ(ライブ感)

 

 さぁて。こっから感覚のズレを修正していきます。頼むぜ〜聡里ちゃん。方針はガンガンいこうぜ! 修行がんばりゅ!

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、感覚のズレは直ったんで次行きましょう次!

 

 お次のコミュ相手は聖ちゃんです。

 彼女の身長は168cmと、女性としては結構高め。しかしパワプロくんの恵体と比べると、些かばかりミニマムな印象が付き纏います。そんなことは全然ないんですがね。偉丈夫と少女が並んだらそうもなります。

 聖ちゃんの体型は、バストは貧乳寄りの普乳で、腰つきはあおいちゃんに次いでデカ……安産型。鍛え方が良いんでしょう、全体的に無駄な肉がありません。パッと見は美人系ですが、よく見たらかわいい系という、一粒で二度美味しい可憐さです。性格も非常によくて、出演作品によっては人気最強のヒロインとなること疑いなし。下手なギャルゲーヒロインよりずっと可愛いと我々の業界でも評判ですよ。

 

 そんな彼女はパワプロくんの幼馴染で、生まれた日が同じかつ生まれた病院も同じ、さらに家まで近所同士というコテコテの黄金ヒロインです。幼馴染ヒロインのお約束『幼き日の結婚の約束』を未だに覚えてそうですね。

 え? そんな約束してない? そっかぁ……。

 ついでに野球歴もパワプロくん同様、同年代屈指のベテラン。足は遅いものの走塁技術は高く、打者としての技量もトップクラスです。捕手として? それはもちろん文句なしのナンバーワンですよ。

 

 ――と、ここまで前置き。

 

 パワプロくんの投じた一球を、聖ちゃんは後逸してしまいました。

 

「な――」

 

 ところは聖ちゃんの家である寺。その庭。捕手のマスクと防具を身に着け、キャッチャーミットを構えていた聖ちゃんが絶句してます。

 はい。わたしは今、正式な高校生活が始まる前の試運転をしてるんですね。そんでパワプロくんは大胆不敵なセリフを吐いたので、聖ちゃんは気合を入れてわたしの試運転に付き合ってくれました。

 

『――高校生になった記念に、そろそろ本気で投げてみたいんだが、受けてくれるか?』

 

 パワプロくんはそう言ったんです。今まで本気じゃなかったのかと聖ちゃんは驚きながらも、捕球して魅せると超集中モードを発動したんですが。呆気なく捕球ミスし、体で止める事も出来ずにボールを逃してしまいます。

 ぽと、ころころころ……とボールが聖ちゃんの後ろに転がりましたね。ふふふ……聖ちゃんほどの捕手にすら捕球をミスらせるとは、パワプロくんの力が末恐ろしくなりますよ。

 

「……チッ」

「っ……?!」

 

 ここで露骨な舌打ち。

 聖ちゃんのミスを責めてるのではなくて、自身の力が上手く制御できてない事への苛立ちを敢えて発露してみました。

 するとどうした事でしょう。聖ちゃんはあからさまに狼狽えてます。

 これはあれですよあれ。パワプロくんを失望させたと勘違いして勝手に慌ててるんですね。やはり倍速モードは悪い文明、彼女達に悪い印象を持たれてるようです。問題を浮き彫りにできたんで、苛立ってるフリはもうしません。

 

「狙ってるとこから三センチぐらいズレたな。やっぱ普段から全スト慣らしてねえからコントロールも狂うか」

「すまない、次は捕る! だから……」

()()()? だからってなんだよ」

「………」

「もしかしてさ、ミスったのを気にしてんのか。なら気にすんなよ。自分に苛ついてただけだ」

「そう……か」

 

 それでも不安げに瞳を揺らして、所在なさげに視線を彷徨わせる聖ちゃん。

 しかし意を決したように問いかけてきました。

 

「専一は……ピッチングはずっと手を抜いていたのか?」

「いや、別に手は抜いてなかったぞ」

 

 抜いてました(小声) ナニを抜いてたんですかねぇ?(自問) おっと下品に走るとこでした。自重しましょう。

 正直に申し上げまして、手を抜いてたかどうかと聞かれたら、答えはYESです。しかしここで抜いてた(意味深)と言うのは不正解でしょう。聖ちゃんの心理としては、相棒がずっと遊んでた事に気づきもしなかったとは思いたくないはずですからね。それに能力キャップがあったとか説明できるわけありませんし。

 

 なーのーで、

 

「体が仕上がってもねえのに今のレベルで投げるわけにはいかねえだろ。で、今の体格になったから、そろそろ手ぇ抜かなくてもいいかなって思ったんだ」

 

 という事にしておきましょう。

 

「限られた条件内では本気だったぞ。だから重く受け止めないでくれ。流石の聖でも、俺のMAXの球速が160km/h超えてるとか思わなかっただろ?」

「……うむ。専一……実は前々から思っていたのだが……」

「うん?」

「化け物だな、お前は」

「ひっでぇな。それで褒め言葉のつもりかよ」

「もちろん、そうだ。――私もお前に相応しい捕手でいられるように、更なる特訓を積まねばならないな」

「おう、気張れ。今更お前以外の女房なんざ考えたくもねぇ」

 

 本当は言うまでもないんですが、今の関係的に口に出さなきゃ伝わらないでしょうし、リップサービスとして本音を言ってみると聖ちゃんは少し照れたみたいですね。ほっぺた赤くして可愛い(粉蜜柑)

 ですが聖ちゃんの思考パターン的に、そろそろ訊いてきそうな気がしますんで、今の内に答えを練っておきましょう。うーん……『はあ? 何言ってんだか……なにがあっても俺の根っこは変わんねえよ』……こうですね。

 

「念の為に訊いておきたいのだが、専一、お前は……野球を辞めようと思ってないだろうな」

「はあ? 何言ってんだか……」

「だってそうだろう? 専一は天才だ、他が霞んで見えなくなるぐらいに。対等に競い合えるライバルがいない。退屈になって、弱い連中に嫌気がさしても無理はないだろう」

「なにがあっても俺の根っこは変わんねえよ」

「………本当だな?」

「昔の俺の事は知らねえけどよ。少なくとも今の俺は野球を辞めようなんて考えてねえな。だって考えてみろよ、野球は一人じゃできねえんだぜ? それを好んでやってんだから、俺は皆といるのが好きなんだ。周りが雑魚ばっかでも飽きるには早すぎんだろ」

「……雑魚、か」

「俺は化け物で、天才らしいからな。そんぐらい思い上がって――露骨に慢心フラグ立てときゃ、そのうち俺の足元掬ってくれるヤツの一人や二人は出てくるだろうぜ。そうでないなら、せいぜい遊ばせてもらうだけだ。聖は慢心して天狗になってる俺を使って、どこまで無双できるか試してりゃいい。そんで俺が打たれたら笑ってくれよ。天才が聞いて呆れるってな」

「……なんだそれは。慢心して、油断して、上から目線で見下して。そうまでして追いついてくる者が出てくるのを期待してるのか」

「そりゃそうだ。特に期待してんのは聖とか礼里だな。なんならいつでも挑んでこいよ、捻じ伏せてやっから」

「……残念だがその機会はないな。私は専一の女房役だぞ。お前が投げる時、私がいるのは常に()()だ」

 

 そいつは重畳、と言って笑っておきます。すると聖ちゃんは安心したように肩から力を抜きましたね。そんで小声でなんか囁いてます。

 読唇術!

 

「よかった……専一は、専一のままなのだな……」

 

 ふぅむ……これは……。聖ちゃんのストレス値は許容範囲に落ち着いたようですね。ヨシ!(確認猫)

 聖ちゃんは倍速中のパワプロくんの言動で、いつか野球を辞めちゃうんじゃないかって不安に思い続けてたんでしょう。そしたら後に残るのは野球しか取り柄のない自分だけ。そうなってしまったら、自分は何をしたらいいのかわからなくなってしまう、と。そう自分では思ってたんでしょうね。

 野球以外にも取り柄ありまくるからなオメェ。自己評価低すぎかな?

 いやぁ周りの娘のストレス値の管理は大変ですが、この調子でなんとか軌道修正していきましょう。

 

 とりまピッチングPSテク修正の時間だーっ! 今の能力値と感覚を擦り合わせて完璧に仕上げるぞー!

 

 

 

 チカレタ……(小声)

 

 

 

 つ、次は……礼里ちゃんですね。コイツは強敵の予感ですよ……!

 

 というところで今回はここまで。キリが良いんで次に回します。

 

 そういえば全然関係ないですけど礼里ちゃんって競泳水着似合いそうですよね(別れの挨拶)

 

 

 

 

 

 

 

 




面白い、続きが気になると思っていただけたら感想評価などよろしくお願いします。

そろそろアンケートタイムの予感。


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チョロインは正義、はっきり分かんだね

感想が一件も来ない(´;ω;`)ウッ…
とずっと思ってたらそもそも投稿してなかったでござる…
投稿忘れてたんで実質初投稿です(全キレ)




 

 

 

【悲報】ぱわぷろで悪役令嬢ロールしたら断罪されたw【ジャンル違い】

 

1:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 草生えた

 

2:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 立て乙

 と言おうとしたけど何をしたwww

 

3:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 乙

 

4:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 悪役www令嬢www

 

5:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 乙。

 悪役令嬢ってなんぞ?

 

6:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》5

 純粋な君のままでいて……

 

7:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》5

 説明しよう! 悪役令嬢とは、乙女ゲーと呼ばれるジャンルにて女主人公をイジメ倒し、逆ハーを築く乙女ゲー主人公の取り巻きに断罪されるために存在する女版踏み台転生者のような者のことだ!

 ちなみに悪役令嬢の方を主役に見立てた作品の数もたくさんあるぞ!

 

8:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》5

 》7詳細は任せぇ!

 説明しよう! 悪役令嬢ものとは、一昔前に流行った乙女ゲー主人公が実はビッチでバカでノータリンであるかのように劣化させ、実は悪役令嬢は常識的で良識的で良い女で、逆ハー要員の主人公の取り巻きはバカでグズで下半身で物を考える屑オブ屑だったんだよと作品の前提を崩す『ざまぁ』という分野の花形である! 男キャラの設定『賢い』『強い』『冷静』とか全無視してるし基本的に『ざまぁ』では主人公以外全員バカなので、何度か見てみたけど俺には何が面白いのかまるで分かんなかったぞ! 時には悪役令嬢(主人公)の方も設定は頭よくても客観的に見たらバカでしかないように見えるから争いは同レベルの者達でしか発生しないを地で行ってるんだ!

 

9:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》7

 有能

 》8

 私見入りすぎてるの草。(※個人の感想です)と付け足そうな!

 

10:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》8

 おまえ過去に何があったんだよwww

 

11:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 言うて断罪系とかざまぁ系とかワンパターンでつまらんのは同意する

 

12:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 昔は流行ってたらしいけどな

 

13:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》8

 長文に草しか生えない

 

14:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》12

 マジで?

 

15:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 VRゲーム戦国時代な昨今だと、色んなジャンルあるからざまぁ系も復刻されてるな。けどなんでぱわぷろで悪役令嬢ロールやったんだよイッチw

 

16:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 疑問なんやがぱわぷろに乙女ゲー主人公ロールする奴っておるん?

 おらんかったら悪役令嬢ロールも成立せんのとちゃうか?

 

17:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 乙女ゲー主人公と悪役令嬢は比翼連理だからね仕方ないね

 

18:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ぱわぷろで乙女ゲーヒロインとかいうあからさまな地雷はおらんやろ……

 

19:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》18

 おるで

 

20:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》19

 !!??

 

21:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 !?

 

22:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 !? 誰だ!?

 

23:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 私だ。

 正確には前周回の私のデータ、つまり継承選手。

 

24:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 wwwwww

 

25:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》23

 草

 

26:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》23

 笑かすなw

 

27:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 自分草いいっすか? すまんけどほんま草やでwww

 

28:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 草に草を生やすな

 

29:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 前周回で乙女ゲーヒロインロールして、数多の男の子を攻略しキープ

 そして逆ハー満喫し、

 平凡な女プロ選手として活躍後に猪狩君とゴールイン!

 世の中やっぱ金ですよ金

 

30:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》29

 クズぅwww

 

31:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》29

 ゲーム内でなんで金に執着してんだよw

 リアルは金って概念消えてるだろwww

 

32:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 純愛だぞ

 

33:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 純愛()

 

34:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 逆ハーで純愛と言い張る勇気に草

 

35:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 しかも前の自分に断罪される側になったイッチwww

 

36:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》35

 wwwwwwwww

 

37:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 何がいけなかったんですか(憤怒)

 

38:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》37

 何がいけなかったのか分析するために詳細を教えろおうあくしろよ

 

39:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》38

 食い気味w どんだけ気になってんだよw

 

40:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》38

 箇条書きするね

 ・素性『木村美香(金持ちなら誰でも良い)の姉』出るまでリセ

 ・全力でパッパマッマに媚び猫可愛がりされ甘やかされる幼少期

 ・身内に後ろから刺されたくないので妹にした美香も可愛がる

 ・継承選手は逆ハー作ろうとする行動ルーチン

 ・イッチはそれを知ってるからそれを利用して周りの好感度稼ぎ

 ・しかしイッチ、前イッチに策を見抜かれ逆に利用されるの巻

 ・断罪しようとしたら断罪されたでござる()

 

41:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》40

 申し訳ないが全力で草

 

42:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》40

 wwwwwwwww

 wwwwwwwwwwwwwwww

 すwまwんw 草が生い茂って大草原でござるwっうぇw

 

43:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》40

 自分との対決に負けてんじゃねえよwwwww

 

44:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 草

 

45:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 自分との戦いがろくなもんじゃないと証明してくれてて草

 

46:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》40

 そうだよなw 行動パターンと思考パターン同じだもんなw

 舐めて掛かったら気づかれてやられてもおかしくないよなwww

 

47:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 負けるなよwww

 

48:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 逆ハー作ろうとしてる同一人物(ガワは違う)が争ってる図を想像したら草

 

49:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》48

 絵面が酷すぎるw

 

50:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 なんかさ、真面目な話だけど、逆ハー作るのムズすぎない?

 難易度狂ってるって。どうやったら逆ハー作れるか誰か教えて

 

51:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》50

 そもそも女の人で逆ハー作ろうとする奴イッチしか知らんぞ

 

52:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 男がハーレム作ろうとするのは割とよくある例だがな

 

53:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ちょい待ってな。センセーに聞いてみる

 ぱわぷろ恋愛ではあの人だろ

 

54:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》53

 おいw マジか?w

 

55:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》53!!!

 まさかセンセーに繋がれる人がいたとは!!

 早く! 早く私にセンセーのお知恵をぉぉぉ!!

 

56:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 必死すぎて草

 

57:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 必死すぎてドン引き不可避

 

58:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 うるせぇ! 女が心のチ○ポおっ勃てて何がアカンのですか!?

 男だっておっ勃てたら冷静じゃいられねぇだるるぉぉん!?

 

59:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 草

 

60:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 おれイッチがどんだけ美人だったとしても惚れるのは絶対にねぇわ……。

 

61:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 聞いてきたぞイッチ。センセーったらノータイムで意見くれたぞ

 

62:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》61

 はやっ!?

 

63:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》61

 ところでセンセーって誰?

 

64:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》61

 有能。

 

65:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》61

 センセーの恋愛指南逆ハー版か……

 というか考えまとめるの早すぎて草

 

66:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ノータイムとか……流石はセンセーだ

 それで? 続きは?

 

67:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 誰も 》63 の疑問に答えてやらねぇのな(笑)

 

68:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 いやぱわぷろやってんなら知っとけって感じだからな。

 今一番熱い情報提供してくれた動画主だぞ。

 知らねぇなら『ぱわぷろ センセー』で検索しろ

 ちなみにセンセーってのは通称で、公式名じゃねえからな

 

69:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》63

 情弱坊やはシコって寝ろ

 

70:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 そんじゃ書き終わったからレスすんぞ。イッチ、いい?

 

71:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 スッ……(正座)

 お願いします(全裸待機)

 

72:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 女が全裸待機とか言うなよwww

 

73:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 地を曝け出し過ぎてんのに草しか生えないんだが?

 

74:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 電話したら出てくれた。座談会的な感じで載せるぞ。長いけど勘弁な!

 

(互いの挨拶省略)

 

俺『で、逆ハー作りたいって奴いるんすけど、どうしたら作れるっすかね。あ、センセー男だから逆ハーの作り方とか流石に知らねえっすよねw』

センセー『知ってるぞ』

俺『はははは、ですよねー……ぇぇええ!? 知ってんすか?!』

セ『いや簡単じゃん。寧ろなんで分かんねぇかな』

俺『マジで言ってんのこの人……?』

 

75:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》74

 座談会は痛いだけだからヤメロォ!

 

76:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》74

 お前のセリフ省いてセンセーのセリフだけ載せろ背中痒くなるだろ!

 

77:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 (・へ・)

 

78:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》77

 不貞腐れてるぅwww

 

79:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》77

 はぶてんな、ガキかよwww

 

80:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》77

 ちょっとなんでレス止まったの早く続き早く!

 こっち全裸なんだけど寒いじゃん風邪引くでしょ早く!!

 

81:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 落ち着けイッチw

 

82:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 っていうかホントにカキコやめやがったぞアイツw

 

83:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 イッチは服を着ろ

 

84:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ……?

 

85:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 待ってんのに来ない

 ……マジでレスやめやがったwww

 

86:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ふっざけんくぁwせdrftgyふじこ

 

87:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 イッチwww

 

88:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 イッチw

 そういやセンセーってのは結局何者なの?

 イッチがここまで意見聞きたがるの見ると興味湧いたわ

 

89:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 》88

 んー……一言で言えば新規ルート開拓した走者、かな

 

90:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 センセーは今ぱわぷろで高校生になったとこだな

 

91:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 なんというかこの走者ガバ少なすぎてつまらん

 阪神ほどには求めねぇけど、パワポケ要素にもっと

 関わってガバを引き起こしてほしい。そうじゃ

 無いと見所さんがない

 

92:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 センセーは徹底してパワポケ要素から離れてるんだよなぁ……

 

93:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 波乱がない。だが楽しむべきはガバではなく、紡がれる野球物語だ

 

94:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 パワプロシリーズは野球じゃねぇぞ何言ってだ

 

95:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 野球に似た何かだろ知ってる

 

96:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 まーたパワプロシリーズ否定ニキが来たか……

 

97:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 今まではそうだったかもしれない

 だがこのぱわぷろは限りなく野球だろ!

 

98:逆ハー希望 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 議論はよそでやれよぉもぉぉおお!!

 もういい、こうなったらセンセーの新動画見てシコって寝る!

 当方女だけど心のチ○ポギンギンだからな!?

 

99:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 イッチが女を捨てすぎてるのは流石に草

 こんなん逆ハー作る云々以前の問題なんじゃねえかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

「闇野が捕まったぞ」

 

 !?

 

「闇野を捕まえるのに協力するために、私の異能を連中へ伝えた事は覚えているか? その件で木村と橘、猪狩の親から呼ばれて()()()()が、闇野は()()()()()()()()()()()()()()ようだった。事実言動は幼く、高校生並の肉体に突然成長していた事に混乱していた」

 

 !?

 

「闇野は()()()()()()()のような物を、見も知らない大人に被らされて以後の記憶が無いという。そこから木村達の研究グループは推測を立てた。専一や私の両親、他の犠牲者の魂を奪いソウルジェイルに閉じ込めた存在は、その赤いヘルメットを媒介に他者へ乗り移る『()()()()()』ではないかとな」

 

 !?

 

「もしそれが正答だった場合、奴は別の人間に寄生している事になる。財閥はその精神寄生体を便宜上『管狐』と呼ぶようになったが、もしその『管狐』が素知らぬ顔で近づいてきたら事前に察知するのは困難だろう。私の身の回りにいる専一や他の連中に近づいてくる他人、カメラを持っている人間には読心を試みるが……それ以外にはどうしても後手に回ってしまう。専一も何かあればすぐに伝えろ。これは猪狩たちの親へ直通で繋がる連絡先だ」

 

 !?

 

 ――れ、礼里ちゃんが闇野捕殺RTAしてるRTA再開してます(震え声)

 

 えぇ……?(困惑) もうそこまで辿り着いてるの? それもう闇野(仮)抹殺√の中盤なんですがそれは……しかも『管狐』って名付け、精神寄生体と見抜いてるとか……どんだけ本気で調査研究したの? それはそれとして体は大人、頭脳は子供な逆コナンくん状態の闇野くん可哀想(粉蜜柑)

 ちなみに管狐ってのは日本の妖怪です。別名『飯綱』とか『外道』とも呼ばれ、人に取り憑き精気を貪って祟り殺す力を持ってますね。一時は富を齎す場合もありますが、最後には身の破滅を運んできます。

 このことからも、研究グループは件の精神寄生体の本質をほぼ正確に把握してるのが分かりますね。こわい(粉蜜柑)

 

 こうなると管狐くんちゃんはパワプロくんに近づくことも出来ません。接近を試みたが最後、礼里ちゃんの読心チェックで正体バレしますからね。

 で、管狐くんちゃんは割と雑な行動を取ります。人が無気力になったりするの、お前がなんかしたからだろと、傍から見ててモロバレな行動してますからね。そんな雑な事をしてるのは、管狐くんちゃんはタイムリープかループの力持ちなんで、いざとなったら過去に戻ればいいと高を括っているからでしょうね(説明口調)

 

 ぶっちゃけ礼里ちゃんがマジギレ確殺モードに入ってるんで、放置してたら勝手に管狐くんちゃんを抹殺してくれます。で、奴が時を巻き戻してもゲームは続くんで、次の周回から闇野くんに戻ってパワプロくんの周りや礼里ちゃんにかなーり警戒するようになるだけです。まあ次のパワプロくんもきっと上手くヤッてくれることでしょう(他人事) がんばれ♡ がんばれ♡

 しかし油断は禁物。なんかあったらわたしが自分で処理しましょう。やっぱりね……わたしの軽率な行動(倍速)が原因で、色んな娘達に要らぬ心的負担を掛けてしまったのでね、罪悪感が、ね……(後悔)

 パワプロくんの周辺で、管狐くんちゃんにキレてない人はいません。ですがその中でも群を抜いてキレてるのは礼里ちゃんです。どれぐらいキレているかというと、殺意の波動に目覚め場合によっては下手人に物理的制裁を下すのも辞さないぐらい。礼里ちゃんは両親をやられてますし、以後はほとんどパワプロくんに依存してましたから……そりゃ激おこ不可避っすわ……。

 

「礼里ちゃん。俺のためを思って行動してくれてんのは嬉しいけど、あんまり危ねえ橋渡んなよ? もし礼里ちゃんが下手こいてなんかあったら……なんでかな、俺……たぶん堪えられねえからさ」

 

 現在は我が家の自室。ベッドの上に座ってるパワプロくんの膝の上に、礼里ちゃんが座ってる形ですね。

 記憶喪失()になる前の関係に固執してる礼里ちゃんは、パワプロくんと今まで通りの距離感と接し方を求めてきました。他の娘はちゃん付けで呼んでないのに、礼里ちゃんだけは継続してちゃん付けで呼んでるのはその為です。

 わたしとしても以前の形に近い態度でいられるので楽ちんで、とても助かってはいるんですが、客観的に見たら礼里ちゃんは激重っぽく見えなくもない。ですが可愛いし害はないので、ヨシ!(現場猫)

 

 礼里ちゃんは背中を預けてきて密着してます。さらさらの銀髪に柔らかい感触……あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~ノンケになる^〜

 上目遣いにこっちを見てくる礼里ちゃん。ひたすらにふつくしく成長し、もうね、かわいい(語彙死)

 我が家に両親はいません。海外出張しました。ホントは短期で済むはずが、美香ちゃんやみずきちゃんのパッパに手を回してもらい長期出張にしてもらったからです。理由としては一度襲われたパワプロくんや礼里ちゃんがいて、再び襲われないとは言い難いので、両親が毒牙に掛かるのを防ぎたいから――と言ったからですね。なので我が家におにゃのこ達を泊めても相手方の両親の了解が得られれば問題はありません。礼里ちゃんは両親が抜け殻なので言うに及ばず、聡里ちゃんは強くパッパに訴え警護役として泊まり込み、聖ちゃんは最古の幼馴染で仲良しご近所さんなので泊まりに来ても両親は咎めないようですよ。普通は年頃の娘を男の家に泊めないもんでしょうが、パワプロくんの人柄は聖ちゃんのパッパ達はよく知ってるため許可してくれたようです。これが日頃の行ないだ(ドヤ顔) やっぱ……善人ロールを……最高だな!

 

 で、聖ちゃんと聡里ちゃんは買い出しに行ってます。六霧で買い出し、霧氷で買い出し、氷六で買い出しとルーチンを決め、家にパワプロくんと二人残る面子が決まってるんですね。で、パワプロくんが外出する時は常に誰かが傍にいて、パワプロくんが買い出し当番になると全員出動するという感じです。このルーチンの優れている所はなんと言っても、家に残った娘と安定してコミュれるとこです。特にこの三人のストレスがヤバイんで、ケアは必須ですよ。

 更にヤバイのがパワプロくんに依存していた礼里ちゃん。これを機にもっと依存してくれてもいいのよ?(鬼畜)

 

「危ない橋、か……だが誰かが管狐に警戒しなければならないだろう。そしてそれは誰かではなく、私にしか出来ない。違うか?」

「違わんかもな、けど心配なもんは心配だろ。あんま無茶はすんなよ?」

「……確約は出来ない。私は早く専一に、今までの事を思い出してもらいたいからな」

「………」

 

 なんやかんや、パワプロくんの『今』を受け止めてくれてる娘が多いのですが、礼里ちゃんはそうでもありません。『今まで通り』の触れ合いやらを求める傾向がある一方、頑なにパワプロくんの記憶を取り戻そうとしてますね。

 その理由はやはり、礼里ちゃんにとって、簡単に受け入れられる問題では無いからなんでしょう。すまんやで……礼里ちゃん、両親の魂奪われてるから、やっぱ簡単に前向きになれるわけないんや。……罪悪感がヤベェ(素) 皆さんも下手な嘘はやめような! 胃痛への道をマッハで駆け抜ける事になりかねへんからね!

 

「明日から、高校生か……」

「おう、入学式だな。礼里ちゃんとも同じクラスだし、三年間同じクラスだといいなぁ」

「……ああ」

 

 ちなみにパワプロくんは現在、非常に困った状態です。

 というのもパワプロくんの感覚は一般的でして、聡里ちゃんが恋人だと認知しているのに、聖ちゃんや礼里ちゃんと肉体関係を持っている事を伝えられてるんですよ。おまけにパワプロくんは本当は記憶喪失でも何でも無いんで、若さ故の元気さを持て余し、あおいちゃんとも関係を持ってしまってる。これはいけません(迫真) と、色々頭おかしくなりそうな人間関係になってるわけですね。しかも不特定多数の女の子からも好かれてる、と。どうだ、これがいわゆるハーレムって奴だ。羨ましかろう(震え声)

 もちろん今となっては礼里ちゃん含め、おにゃのこ達とにゃんにゃん(意味深)したりはしてません。なのでパワプロくんは肉体的に常に欲求不満……そんな状態なのに礼里ちゃんを膝に乗せてると、もうね、我慢が……!

 わたしは紳士なので礼里ちゃんの髪を指で梳いて上げて気を紛れさせられますが、万一オートモードを使おうものなら野獣化不可避。手綱を外すわけにはいきません。暴れんな……暴れんなよ……!

 

 と、こんなふうな時間を過ごします。

 

 礼里ちゃんは、聡里ちゃんや聖ちゃんとは異なり、特別なイベントを起こしたり約束をしたり、なんらかの行動によってストレス値を軽減させようとする必要はありません。単純に同じ空間にいて、手を繋いだり密着し、まったり時間が流れるのに身を任せるだけでいいです。時間を共有するだけでストレス値は軽減していくわけですね。なんやこの娘めっちゃチョロげふんげふん、滅茶苦茶ええ娘やんけ……! 一緒にいられるだけでいいとは最高かよ。

 なんせ無駄なリスクがないですからね。のーんびりして体力回復、やる気増大と良いこと尽くし。あと今気づきましたが経験点の精神ポイントが微増してますよ。なんだこのお手軽イベントは(驚愕)

 

 動きのない単調な動画になってしまいましたが、今回はここまで。誰だよ礼里ちゃんが強敵の予感とか言ってた奴は(棒) 鎧袖一触じゃないか。

 礼里ちゃんはどうやら、完堕ちするとパワプロくんの事を全肯定するダメンズ好きと化すようですねぇ。ヒモになっても養ってくれそう(偏見) そんで夜はデロデロに甘やかしてくれそう(願望)

 次回からは高校生活(真)の開幕ですね。蛇島先輩明日から楽しい高校生活を送ろうね(暗黒微笑) 蛇島先輩には記憶喪失なんかしてねえよって暴露して振り回してやるから覚悟しろよ(外道) 我々は包み隠さず遊べる最高のコンビだってことを見せつけてやろうぜ(強制)

 

 それじゃ次回もまた見てくださいねー! ばいばーい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんでか知りませんけどアンケートで警戒されてる…なんで?(つぶらな瞳)

安心してアンケートにお答えください!


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春の香りはガバの香り

ガバはガバを生み、対処しても次なるガバへ連鎖するさだめなのかもしれない


 

 

 

 

「久し振りだな、蛇センパイ」

 

 この日を迎えるにあたって、蛇島桐人は淡い期待を懐いていた。

 

 まさかと思ってはいた。聞いた瞬間に鼻で笑い、そんな事はありえないと決めつけてすらいた。仮に期待していた通りだったとして、不利益こそあってもその逆は無いと解っていたが、それでも一縷の望みを掛けていたのだ。

 しかし、やはりというべきだろう。部室にやって来るなり口火を切った青年に、蛇島は己の期待が裏切られた事を悟る。それでもあるかもしれない万が一に全てを掛け、蛇島はとぼけてみる事にした。

 

「おや? どちら様でしょう。生憎と貴方のような人は知らないんですが」

「あ? ああ……そりゃそうか。お互い背ぇ伸びたし、パッと見で気づけねえのも無理はねえよな。俺だよ、天下のパワプロ様だ」

「………」

 

 そんなもの、見ればわかる。確かに蛇島が知っている姿よりも身長は伸びているし、記憶にある幼い顔立ちよりも遥かに精悍になっているが、それでもこの怪物が持つ存在感を忘れられるはずがなかった。

 何よりこんな傲岸な物言いが、様になりすぎるほど様になる青年など、日本広しと言えどこの怪物しかいないだろう。この青年以外が今のセリフを口に出そうものなら、滑稽にしか見えず冷笑を禁じ得なかったに違いない。

 悪あがきだと理解している。だからすんなりと蛇島は諦め、さも顔見知りの成長に驚いたかのように目を見開いてみせた。事実目の前の鬼才は、以前とは比べ物にもならない恵体へ成長していたのである。

 

「ああ飼い主さんでしたか。見違えましたね、ようやく内面に外面が追いついたようで何よりです」

「は、とぼけなくてもいい。どうせアンタの事だ、俺が俺でなくなってると聞いて、そんなもん有り得ねえって切って捨てといて……実は期待してたんじゃねぇのか? 事実なら俺らの関係も破綻するからな」

「はて、なんの事を仰っておられるのでしょうねぇ」

 

 見透かされていても、蛇島は貼り付けた笑みを動かす事はない。

 

 ――パワプロが、記憶喪失になった。

 

 その報は年始に届いた。蛇島の本性を知らない、パワプロを共通の知人に持つ矢部明雄と独自に連絡を取り合い、パワプロの状態を聞き出したのだ。尤も蛇島はそれを聞いた瞬間に、パワプロの虚偽だと断定したが。

 だってそうだろう。身内――友人を含む――にだけ情報を共有する方針らしいでやんす! と矢部は言っていたが、オカルトによってパワプロが魂を奪われて、一時何もかもに無気力になっていただって? 蛇島はオカルトの存在自体に懐疑的だったが、あのパワプロが誰かに遅れを取るところなど想像もできなかった。むしろどうやったら陥れられるのか蛇島の方が知りたい。

 どういうわけかパワプロの身内はオカルトの存在を信じたようだが、蛇島からするとパワプロの存在そのものが脅威(オカルト)である。どうせ洗脳まがいの手法で周りを騙し、よからぬ計画でも企てているに違いない。

 なんせ蛇島とパワプロは、パワプロが記憶喪失になったという()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これで記憶喪失を信じろなどと、冗談にしては程度が低い。やもするとパワプロの背後にもっと危険な怪物がいて、パワプロを介して蛇島を操っていた可能性も無きにしも非ずと思っていたが、どうやらそんな存在はいないようで安心したぐらいだ。……若干、パワプロが健在な事が残念ではあったが。

 

「で……ちゃんと仕事はしてくれてたみたいだな」

 

 パワプロがそう言って部室を見渡す。時刻は早朝だ。日が昇ったばかりの時分。教職員は職員室にいるが、生徒は開校時間になっていないためまだ一人も登校して来ていない。――蛇島と、パワプロを除いて。

 蛇島がこんな時間に部室にいるのは、パワプロにメールで呼び出されたからだ。そうでなければ朝練もないこの日に、こんな場所に出向いてくるわけがなかった。そしてパワプロは単身で、同棲している少女たちに気づかれる事なく出てきている。それはひとえに、蛇島とこうして会うために、だ。

 部室は閑散としていた。聖タチバナ学園高校の野球部は無名とはいえ、余りに不自然なほど。それも当然――使用されているロッカーは二つだけなのだ。それに対しパワプロは満足げで、蛇島は苦笑したい衝動に駆られる。

 

「ええ。部員は早川さんを除いて全員()()()()()()()()()()。おっかないボスからの指示ですからね……仕方がなかったとはいえ心が痛みました」

「ハッ」

 

 蛇島の諧謔に、パワプロは露骨に鼻で笑った。

 

 ――そう。パワプロの指示だ。蛇島は無名の野球部員を退部に追い込み、意欲や能力の低い連中を一掃した。

 

 時にいがみ合わせ、時に弱みを握り他者にそれとなく報せ、素行の悪い他校の生徒を嗾けて怪我を負わせ、または相手に怪我をさせて転校・中退させた。なぜならこれから先、無能どもは邪魔になるからだ。

 パワプロや自分達が目指す甲子園優勝は、程度の低い連中を身内に抱えて成せるものではなく、そんな連中に合わせて質の低い練習をしたり、意識改革のために時間や労力を割くなど無駄でしかない。

 

「なに俺のせいにしてんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って言っただけだろ」

「ははは、そうでしたね。ええ、私が勝手にやった事ですよ。ボスは私に何も言っていない……勝手に深読みして、私が独断でやった事でした。まあ次々と部員がいなくなってしまい、私と二人きりになった早川さんは、苦虫を噛み潰したみたいな顔をしてましたがね?」

 

 そうだ。蛇島の独断なのだ。パワプロは一言たりとも部員の排除など指示していない。パワプロの知らない所で、蛇島が暴走しただけの事だ。彼には何も責任はなかった。尤も……パワプロは自身の言動一つで蛇島がどう動くか見透かしていただろう。それなのに止めなかったのだから、蛇島は自らの飼い主の意図を汲めたと判断している。

 

「そいつは大変だったな。ってかセンパイはまだあおいちゃんに嫌われてんのか」

「仕方ないでしょう? 彼女は私が貴方にした事を知っている。世間の評価が偽りと知られているのに仲良くしてくれる訳がありません。お陰様でこの一年は高校球児らしい活動ができてませんよ」

「ソイツは申し訳ありませんでしたねぇ。代わりに元プロ選手にコーチしてもらえるようにしてやったろ。下手な恨み節はやめてくれ。こっちも大変だったんだ、影山スカウトに頼んで、伝手でコーチを斡旋してもらうのはさ。おかげでデカい借りができちまったよ」

 

 無名の高校で志も能力も低い部員達の中で、一年を無為に過ごすのかと思い暗澹たる気分でいたが、パワプロの言うように元プロの指導を受けられたのは非常に助かった。蛇島も早川あおいも、大きく成長できたと言える。

 その点で言えば蛇島はパワプロへ感謝していた。彼は確かに契約を履行している。自分がパワプロに従う事の利があるのだと証明されたのだ。と言っても元プロの指導は、つい先日に約束の期間を過ぎたため終了していたが。

 

「ところで、貴方はどうして記憶喪失のフリなんかしたんですか?」

「あ? 気になるなら教えてやらんでも……いや、知っとくべきだな。いいかセンパイ、これから言うことに一切ウソは無い。本当の事だ。しっかり聞いて頭に留めとけよ」

「……嫌な予感がしますね。聞かないという選択肢はないんでしょうか」

「あるわけねぇだろ。いざとなったら()()すんのは俺とアンタなんだからな」

「………」

 

 藪を突いてしまった。蛇どころか鬼が飛び出してきた気分になり、蛇島は不用意に雑談でもする調子で訊ねるべきではなかったと後悔する。

 しかしパワプロがこう言うということは、聞いておかねばまずいことなのだろう。意識を切り替えて拝聴する構えを取った。

 

「まず俺は記憶喪失になんざなっちゃいねえ。そりゃ分かるよな?」

「ええ。いっそ本当だったら良かったんですがねぇ」

「ははは、面白い冗談だ」

 

 冗談ではない。

 

「記憶喪失になんざなってねえのに、なんでそんな事を身内に吹聴したかっていうとだな。どうもオカルト的な害獣がいるみてぇなんだわ」

「………」

「正気か? って顔してるな。俺は正気だぞ。しかもコイツはマジな話だ」

「……それは、またなんとも反応に困る……」

「別に無理して信じなくても良い。オカルトって言われて飲み込めねえなら、新手の病気か何かだとでも思ってくれ」

「病気ですか」

「おう。寄生虫が病原体だ。感染したら何もかもに無気力になるか、あるいは寄生虫に脳をヤられて体を乗っ取られるんだ」

「……おっかないですね。そんな病気が本当にこの世にあると?」

「無かったら俺が下手な芝居打つ理由がねえだろ? 感染条件はカメラで写真を撮られるのが一点、体を乗っ取られる感染経路は一つのでっけぇ眼球が付いてる、赤いヘルメットを被らされること。この二点に気をつけてくれ」

「………」

「俺が記憶喪失のフリをしたのは、周りの連中にこの病気への警戒を促すためだ。俺がやられたってんなら、周りの奴らは否が応にも信じるし警戒する。現に橘・木村・猪狩の財閥は精神寄生体の手掛かりを見つけ確保したらしい。コイツを撲滅しねえ限り安心できねえぞ」

「……どうやら、本当みたいですねぇ」

「同じことを何度も言わせんな。マジだって言ってんだろ。今回はセンパイの仕事ぶりの確認と、病気の事を直接伝えるために来たんだ。用は済んだし、今度は新入部員として来るからその時にまた会おうぜ。家の奴らに黙って出てきてるんでね、気づかれる前に帰っとかねえと怒られちまう」

 

 言うや否や、パワプロは蛇島に背を向けてさっさと行ってしまった。

 それをなんとも言えない顔で見送った蛇島は嘆息し、手近にあったベンチに腰掛けて、パワプロの気配が遠ざかっていくのを感じながら呟いた。

 

「やれやれ……久し振りに直接会ったと思ったらこれか……これからの二年、便利に使われそうだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――桜トンネルに花弁が舞う。

 

 うららかな朝日に照らされた通学路は、涼やかでありながら爽やかであり、新生活の幕開けに相応しい花道と化している。

 

 春の匂いがする風が吹く。六道聖は桜並木の景観を見上げながら歩き、我知らず感嘆の吐息を溢した。

 

 ライトブラウンのブレザーに、赤いリボン、膝小僧より僅かに上に来る丈のスカート。革の鞄を手に提げて、高校生になった自分を改めて自覚する。

 傍らには同様の制服を纏った霧崎礼里と氷上聡里、そして男子の制服を纏った長身の青年――力場専一(パワプロ)がいた。

 礼里と自分、そしてパワプロの三人は、もはや共にいるのが当たり前の間柄だったが、聡里もすっかりこの面子に馴染んでいる。だがしかし、聖から見てもなかなか例を見ないグループになっていた。

 礼里と自分は、昔からパワプロが好きで。聡里はパワプロから告白され、相思相愛の恋人になった。にも関わらず礼里と聖はその関係に割って入り、あろうことか肉体関係を結んだのだ。聖の感性からすると非常識極まりなく、なのに歪な関係から脱却せずにいる。このままでもいいんじゃないか、と思っている自分がいるのだ。――礼里と聡里は恋敵なのに。

 

 パワプロの唯一の女になりたいと願っていても、自分が選ばれる自信がないから今のままの関係を維持してしまう。きっと礼里も聡里も同じ心境だろう。ともすると、パワプロも同じ気持ちかもしれない。

 選べない。完全な膠着状態だ。

 だが他の二人はどうだか知らないが、少なくとも聖は既に割り切っていた。例え今の関係が終わっても、パワプロが野球を続ける限り、自分はパワプロの前に構え続ける。投手と捕手は切っても切れない間柄なのだから。

 いや……これは割り切ったというよりも、考える事をやめたというべきかもしれない。どれだけ悩んでも答えは出ないのだ。正確には、自分にとって都合の良い答え、という事になるのだろうが、思い悩む暇があったら捕手としての技能を磨いていた方がマシだろう。それに確信もある、パワプロは絶対に自分を切る事だけはないと。なぜなら幼馴染だから。パワプロにとって他に望めない捕手だから。そしてパワプロの性格上、身近な人間を粗略に扱うなんてありえないと知っている。

 

 生まれた時から共にいた記憶がない? いずれは戻る。仮に、万が一にも戻らなくても、聖はパワプロという青年を知り尽くしている。また新たに仲を深め合えると考えれば、深刻に受け止めこそすれ絶望するほどではない。

 男女の関係がなくなったとしても、共にいることはできる。それだけで満足だ。あれもこれもと欲しがるような、卑しい在り方でいる必要はないし、またその意味もない。

 

 しかし、予感があった。というより、これも確信している事だ。

 

 春は出会いの季節とはよく言ったもので――

 

「――専一殿っ」

 

 ともすると、自分達の関係性を崩し、全く別の形に変化させる存在が現れるだろう。

 

「久し振りだ、健勝だったか? 今日から学び舎を共にする。何かと世話になる事もあるだろうが、よろしく頼むぞ!」

 

 ――艶のある黒髪をポニーテールの形に結った、白皙の容貌に嬉色を乗せた少女。一目見た瞬間に彼女がパワプロにどのような感情を懐いているかを看破したが、その少女が何者か知らないため聖は困惑した。

 そしてそれはパワプロもだ。唯一、聡里だけが薄い表情の中に渋いものを滲ませたが、なんとなく胸騒ぎがする。

 永遠不変のものなどないように、この少女――直後にその名を知る事になる――柳生鞘花は、聖たちに回避不能の変化を齎す兆しそのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 来た! メイン鞘花ちゃん来た! これで勝つる!

 

「お前、闇野か?」

「闇野? 違う。人違いだ」

 

 って礼里ちゃん何ノータイムで鞘花ちゃんに読心チェック入れてんの!? ……管狐かどうか見極めるため? なんで見る必要なんかあるんですか(素)

 これから先、会う人間全てに読心チェックするつもりなの? ふーん、熱心じゃん。まあその方が安心できるなら構わ――ん!?

 

 ……これ、蛇島くんと礼里ちゃん会わせたらヤバイんじゃ……?

 

 ……。

 

 ………。

 

 …………。

 

 やめてくれよ……(絶望)

 誰彼構わず読心チェックするとか、こっちの事情も考えてよ、警戒心か強けりゃいいってもんでもないでしょ? プライバシーとか色々考えてくださいよ礼里ネキ! オナシャス! センセンシャル!

 そんな事してまで人の心が見たいってんならしゃあねぇなぁ、見たけりゃ見せてやるよ(震え声) ただし蛇パイセンの心理的プライバシーだけは死守しますがね。ええ、死守しますよ(使命感)

 読まれたらパワプロくんのキャラが崩れちゃうからね、それだけは絶対に許されない、こうなったら本気出すから見とけよ見とけよ〜? ……蛇センパイと礼里ちゃん遭遇までの猶予タイムは何秒っすかね?(計算) 最短半日?

 

 ……。

 

 ………。

 

 …………。

 

 タイムの延長、いいっすか?(震え声)

 

 半日じゃ手の打ちようがねぇだルルォ!? せめて一日、できるなら二日時間をくださいお願いしますなんでもしますから!

 こ、こうなったら……こうなったら? どうやったら読心なんか防げるんですか(絶望) 礼里ちゃんの超能力強すぎィ! あ、いや……そうだ、手はある! ここはぱわぷろ時空やぞ! 手はある、あるんだ!()

 

 恐らく金を積むかコネを使うかのどっちかで読心を防げるはず。

 

 う、wikiだ、wiki情報を思い出せ、有効なアイテムや攻略情報は全て記憶してあるんだ……!

 

 ……ヨシ!(確認猫)

 

 

 

 

 

 




あっ……あっ……あっ……(アンケート推移を見ながら)

全然関係ないんですけど、ヒロインが酷い目に合うのがパワポケ、ヒロインが幸せになる(不幸にはならない)のがパワプロだと思ってます。全然関係ないですけど。

感想評価などお願いしますなんでもしますから!


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走者の勇気が世界を救うと信じて……!

おれもなー! 早くなー! 野球書きてぇなー!
野球回までもうちょっと掛かるんじゃ。待っててください(震え声)


 

 

 

 

 時間との戦いを強いられるRTAさいかーい!

 

 ――突然ですが本作『男女混合超野球連盟ぱわふるプロ野球』の、まだ説明していなかった部分について触れていこうと思います。

 

 本作は過去シリーズ同様プレイヤー同士の対戦、NPC相手の練習、監督として高校球児を甲子園優勝まで導く栄冠ナインの他、ペナント、パワフェス、イベントなどを消化し報酬を得られるパワアリーナなど、たくさんのモードが揃えられております。あ、チャンピオンシップや過去のオリンピックを題材にしたモードもありますね。で、その中の目玉がマイライフと合体したサクセス。公式名、マイサクセスライフ。わたしが現在、本動画でやってる奴です。

 こいつは未だ広がりを魅せる無限大のシナリオ、本当に本作の住人の一人になったかのような臨場感が売りで、このモードにはほぼ制限がなく、『どんな形でもプロ野球選手にならなければならない』『マイキャラの年齢に合わせた能力キャップの有無』ぐらいしか制限はありません。AI様から成人未満と適性試験をクリアしない限りプレイが許可されないだけあって、文字通りなんでもありの自由度だと言えます。

 

 制作陣はこのサクセスに特に力を入れておりまして、本作がパワプロシリーズの最終作という事もあり、パワポケの要素もふんだんに盛り込んでいます。そのため登場キャラに未来人・宇宙人・サイボーグ・超能力者・クローン・精霊・悪魔・忍者・幽霊と、多種多様なキャラクターが存在していたりします。なんなら神様までいたりするという。――余談ですが特定のヒロインを攻略すると、未来からそのヒロインとの子供がやってくる特別イベントが発生したりして胸熱ですよ。……わたしの場合は過去周回で、なんでか五人の母親の異なる娘息子達が襲来してきて地獄を見ましたけどね。どんな乱数事故が起こったらあんな事になるんでしょうか……(遠い目)

 

 んで。

 

 過去動画の中でチラッと触れた記憶があるんですが、実はプレイヤーキャラであるパワプロくんもまた、初期値がどんだけクソザコナメクジでも常人ではありません。経験点・特殊能力のコツの取得による、現実離れした急成長の現象にも理由付けがなされています。ぶっちゃけ本作のメイン神格の一角である『野球神』の贔屓(ノロイ)が掛かってる、って事になってるんです。

 

 この野球神は初詣で経験点やら『モテモテ』やらをくれたり、知己のあるヒロイン候補の好感度を軒並み高めたりしてくれます。金運を上げてくれたりとかも、プレイヤー限定でやってくれるわけですね。本動画での場合、わたしのパワプロくんに『LOVEPOWER』や『カリスマ』を寄越してくれました。

 そんな設定があるせいで、プレイヤーの中には『野球神ってプレイヤーの味方だよな』と臍で茶を沸かせる勘違いをする人が出て来るのですが……一概に否定はできないにしろ、肯定するのも違うんじゃないかなって……。

 なんせプロ野球選手になって球界入りしないと、野球神が容赦なく呪ってくるのですよ。それを知らずにプレイしていた初心者が、プロにならず推しのヒロインと幸せな家庭を築いてゲーム期間を終え、EDで家庭が崩壊させられ無駄に壮絶な最期を遂げてしまう事例が多々報告されている――と言えばヤバさの一端ぐらいは伝わるでしょうか? その所業はまさに幸せの絶頂にいる人を破滅させる神様の鑑……初心者の約三割が精神崩壊し、病院のお世話になったと報告されています。BADENDにきちんとした理由付けをする制作陣はまさに人間の屑(辛辣) これは呪いですよ……リアルでガチ病みするとか紛う事なき呪いです……! まあ幸せ一杯な環境から地獄へ叩き落とされる事でのギャップが原因なだけで、心が強い人はなんとか堪えられるんですがね……良い子の皆は、野球以外に没頭するのは、やめようね!(一敗)

 

 ――話を戻しまして、パワプロくんの特異性はそうした背景に拠り、サクセス中は特定のアイテムを使用することで様々な恩恵に与ることが出来ます。

 

 そのアイテムというのは、ミートや球速を一試合中10上げてくれるガムだったり、スタミナを上げてくれるドリンクだったりですね。……おもっくそドーピングやんけ! ま、まあ、それらは入手が非常に困難なレアアイテムなんで、恐らくわたしが使う機会はないでしょう。あっても使いませんけど。スポーツマンシップに則るわたしは野球人の鑑(自画自賛)

 真面目な話をすると、それらのアイテムを使用してしまったら、プレイの感覚が狂って後々に響いてくるので、大会の最後とかでない限り使用を推奨できません。他には体力を回復してくれるパワドリンク、最大体力を上げてくれるビルドパワドリンク、フレーバーな幸運値を上げるまねき猫の置物、ケガ率を下げるサポーター、やる気を上げられるアロマグッズなどがあります。パワプロくん以外が使っても常識的な効果しかありませんが、パワプロくんが使った場合に限り即効で効果を発揮してくれます。どんだけ疲れ果てていてもパワドリンクを飲めば一瞬で元気一杯になるわけですね。わたしはそんなアイテムに頼るのは邪道と思ってるのでドリンクを飲んだ事はなく、また効率を重視して私情は無視すべきである本動画でも、敢えて体力を回復しない方がチャート的に都合が良かったのでアイテム類を使った事はありませんでした。

 

 で、本題です。

 

 如何にして礼里ちゃんのツヨツヨ超能力から、蛇島センパイのプライバシーを守り切るか――敵を知り己を知ればガバが起こっても危うい事はないという格言の通り、まずは礼里ちゃんの能力について解説しようと思います。

 

 ダイジョーブ博士のオペを受け、覚醒した礼里ちゃんの超能力は非常に強力です。どんぐらい強力かというと、仮に礼里ちゃんが読心術を発動中に『闇野を知ってる?』と質問した場合、相手が知っていると『闇野くんについて知っている』という回答と、闇野に関連する情報が()()()()読み取られてしまいます。

 

 は?(威圧) とキレ気味に疑問を覚える方に説明しますと、そもそも記憶というものは『符号化』『貯蔵』『検索』の三つ………入力された感覚刺激を意味に変換する『符号化』……符号化された結論を記憶する『貯蔵』……それらを思い出す『検索』の三段階に分けられてるんですよね。そんでそもそも、読心……『心を読む』の『心』の部分ってなんだよ? 読心ってどこまでが効果範囲なんだ? という疑問にお答えしますと、本作ではスタンダードに『思考を読む』という形に加え、その思考に関連付けられるものまで視覚化し読み取れるようになってるんです。早い話、質問されて反射的に『検索』した記憶の道筋を辿られ、『貯蔵』されている記憶が読まれるわけですね。礼里ちゃんが読心術を忌避し、普段は人を読心したがらない理由はここにあります。こんなん無作為に使用しちゃうと頭おかしなるで(謎方言) 人間不信に陥る云々以前に、大勢の人がいる所で使い過ぎると頭パーン!(破裂) となる可能性まであります。

 

 ちなみに本作ではリアリティーが重視されてるので、過去シリーズでは礼里ちゃんに教えてもらえていた超特『読心術』をパワプロくんは取得不能になっています。代わりに安打製造機の超特がゲットできていたんですが……わたしはなんでか『同心術』とかいう、超能力じみた超得をゲットしてたり。……リアリティーどこいった? あれですかね、礼里ちゃんと合体したりしてたからその影響を受けたんですかね?(すっとぼけ)

 で、なんでパイセンのプライバシーなんか守る必要があるんですかと思うであろう、このパートではじめてわたしの動画を覗いてくれた初見さんのために解説しますと、わたしが今までやってきた事がパイセンの心を読まれると露見する危険性があるからです。いや危険性どころか確実に丸裸になります。

 なのでパイセンへの読心だけは阻止しないといけないんです。ただでさえ攻略難易度の高い礼里ちゃん相手に、今更好感度調整するのとか普通に嫌ですからね?(震え声) というか一度下がった好感度を取り戻すのは通常の三倍は難しいって相場で決まってますから。

 

 ではどうやって読心術を防ぐのか。

 

 結論から申し上げます。礼里ちゃんの読心術が効かない相手は、それこそ人間とは頭の構造が根本的に異なる宇宙人やサイボーグ、精霊や悪魔ぐらいなもんです。つまり人外枠しか防げないんですね。

 よって礼里ちゃん相手に機能する対策は、如何にして防ぐかという対症療法ではなく、如何にして使()()()()()()という予防策しかありません。

 しかし礼里ちゃんは依存相手のパワプロくんの為にやる気満々なので、暫く顔を合わせてなかった相手に読心術を使わないという選択肢がなく、これに対して礼里ちゃんに『あの人には使わないでね』と釘を差すわけにもいかなかったりします。今の礼里ちゃんの精神状態的に、『なんで?』と疑問に思わせるような言動を見せるべきではないからです。彼女は基本的にパワプロくん相手に読心術を使って来ませんが――これは礼里ちゃんが、幼馴染であるパワプロくんの事を誰よりも理解しているという自信があるからで――その自信を揺らがす疑念を覚えさせてしまったら、自信を補強するためにパワプロくんへ読心を試みる可能性が出てきてしまうからですね。

 

 で、事態を解決するには、そもそも礼里ちゃんがなぜ誰彼構わず読心を試みるのか、という問題を解かねばなりませんね。これは簡単です、礼里ちゃんがぶっ殺したい相手、管狐くんちゃんの所在が知れないから、容疑者になり得る初見さん達を警戒しているからで――礼里ちゃんが読心術を使わずに済む状況にするために、管狐くんちゃんが今どこの誰に憑依してるかを知る必要があります。もしそれを知ることが出来たら礼里ちゃんは蛇センパイに読心する必要がなくなるわけです。

 

 結論。

 

 蛇センパイの心的プライバシーを守るには、礼里ちゃんに管狐くんちゃんがセンパイに憑依していないという確証を与えるしかない、と。

 ではどうやって管狐くんちゃんの所在地を詳らかにするのか。

 実はこれ、そんなに難しくありません。わたしが焦ったのは、その簡単な作戦が機能するのに、最低でも二日は掛かるからなんです。で、冷静になったらその二日間の時間を稼ぐのも容易いことでした。

 わたしはセンパイに連絡し、一週間学校休んで遠くに行って(はーと)と指示しました。なんでやねん! と理由を聞かれたら、これから病原菌を撲滅する作戦をするから、蛇センパイが巻き込まれないようにするためだよと言っておきました。そしたらセンパイは従順にドロンし一週間姿を消してくれます。その際にメールで『とある指示』も追加でしておきましょう。

 そうしたら早速アイテムを使います。とあるアイテムを使えば礼里ちゃんを落ち着かせられる――管狐くんちゃんを誘き寄せられるんですが、そのアイテムというのは本作で用意された特異なアイテムではありません。普通にお店で売られている、あなたチューブの配信機材一式です。アイテム(笑)

 

 このアイテムを使ってネット社会に配信します。お題目はパワプロくんによるパワプロくんのファンへのサービスという名の、高校生になってイケメン度が更に上がった彼への関心の高まりに指向性を与え、実際に会いに来るとかいう迷惑を掛けてこさせないため――というのが建前。

 管狐くんちゃんの思考パターン的に、大財閥陣営に追われたことで情報収集に躍起になってまして、間違いなくパワプロくんに注目しています。ので、こうした配信も話題になれば管狐くんちゃんの目にも留まるのは疑う余地がありません。なんならパワプロくんがネットで匿名掲示板にカキコしてもすぐ特定して来て粘着してくるまであります。なので多分、パワプロくんがネット配信でお喋りを開始したら、半日ぐらいで察知して二回目の配信時には配信動画を視聴するでしょう。しろ(威圧)

 

 で、その二回目の配信時に、蛇センパイへ指示している――『まんが日本昔話』の一つ、『八つ化け頭巾』の解説依頼をパワプロくんにしてもらいます。

 

 この『八つ化け頭巾』というのは、とある地方の和尚さんが、狐の所持している化け頭巾で悪戯する、という話です。

 

『悪戯好きのハゲが、狐が化け方の練習をしているのを偶然発見。ハゲは自分も狐で、化けるのにこの頭巾を使っていると大嘘を吐き、狐の化け道具の手拭いと、ただのハゲ隠しの頭巾を交換する事に成功します。ハゲが自分の寺に戻ると別のお坊様が弟子と一緒に訪問してきていた。そこでハゲはそのお坊様をからかってやろうと企む。ハゲはお坊様に二つの部屋の好きな方をお使いくださいと勧めた。一つの部屋には美しい女がいて、別の部屋には仏像が祀られていた。お坊様は弟子の手前もあるので仏像の間に入り、お経を唱えていたが、弟子が居眠りを始めると隣の部屋に行き、お酒をご馳走になった。しかしその女はハゲが狐の手拭いを使って化けていたもので、突然不動明王に変身して「坊主が酒を飲むとは何事だ!」と怒り出したので、お坊様は驚いて逃げていってしまった。その頃あの狐は騙されたとも知らず、クソハゲの頭巾で人間のおにゃのこに変身したつもりになって、そのままの姿で町を歩いていた。これは人が狐を化かすというお話』――というのが概要です。

 

 長い……長くない……?(概要)

 

 ま、まあいいや。

 ともかく管狐くんちゃんは賢い(笑)ので、この話を特異点疑惑のあるパワプロくんの口から聞くと、パワプロくんが自分の事を知っていると確信。もしかして自分の同類かな? と疑問に思ってのこのこ会いに来ます。

 いざとなったらタイムリープだかループだかをすりゃいいや、と油断しまくりの心理で会いに来るわけですね。で、そうなると礼里ちゃんの読心チェックに引っ掛かり、あえなく御用になる、と。……ええ、よその動画主さんの攻略法にインスパイアを受けた作戦です。パクリじゃありません!(強弁)

 こんな作戦(笑)に引っ掛かる管狐くんちゃん可愛い。

 バカ可愛い管狐くんちゃんが捕まったらちょっと今は困るので、逃走する際にはさりげなーく援護をして上げますがね。管狐くんちゃんは執念深いので、一度や二度の失敗程度でパワプロくんの事を諦めたりはしませんし。いつなりとも挑むが良い、経験点おいしいれふ(^q^)

 

 そういう展開に運べたら、礼里ちゃんは蛇センパイを疑わず、彼を相手に読心術を使う事はなくなります。なんたって読心術は負担がえぐいのでね、使わずに済むなら使わないですよ。

 そんじゃー早速はじめますかねー。身から出た錆とはいえ面倒な事になったもんですよ……。それにこの件をキッカケに管狐くんちゃんをヌッ頃すのも悪くないし、仮に援護の甲斐なくヌッ頃されても別にいいや。

 

 ――この時のわたしはまだ知らなかった。動画配信なんかをしたら余計に厄介な事が起こるという事を(フラグ)

 

 なんて事あるわけないですから。フラグ(笑)

 見とけよ見とけよー? パパっとやって、終わり! ってとこ見せてやりますよ(威風)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ホントは後4000字ぐらい続きがあったんですが間違って消してしまったので今回はここまで。

アンケート打ち切りました。結果の反映は割とすぐです。


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62話

だいぶ期間が空いたので実質初投稿です。


 

 

 

 

 恐らくは誰にとっても、家族というものは身近な存在だろう。特に兄弟姉妹に関しては、良くも悪くも密接な関係を築きがちだ。

 どれほど嫌い合っていても、好き合っていても――或いは疎遠であっても、なかなか無関心にはなれない。

 子供にとって親は盲信の対象になるものだが、血を分けた兄弟姉妹は互いの好悪に関係なく、幼少期の生活の中心に据えられるものだからだ。勿論例外はあるだろうけれど、幸い私はそれに含まれていない。

 

 私には弟がいる。

 

 父と母のことで知らないものはある。けれど弟のことはなんでも――は、言い過ぎかもだけど、ほとんどのことは知っているつもりだった。

 何せ弟はとても良い子で、とっても優しい子だったし、姉である私によく懐いてくれていた。そんな弟の事を私も大事に思っていて、弟の頑張っている野球に関しては積極的にサポートしてきたのだ。

 四六時中一緒にいるわけではなくても、多くの時間を共有してきた。

 だから弟が新しいことを始めても、すぐに目につくだろうと思っていて――だからこそ、予兆を感じさせなかった新たな発見に驚かされてしまったのである。

 

「姉さん、これを見てくれないかい?」

 

 意外な驚き。とても真面目で、野球にひたむきな子だったから、その勧めはとっても私をびっくりさせた。

 繰り言になるけれど、弟は真面目で、野球にひたむきな子だ。ちょっとやんちゃなところはあるけど、女の子に対しては容姿の美醜に関係なく優しくて、心から真摯に向き合える自慢の弟である。

 そんな弟が、私にとある動画を勧めてきた。

 『あなたチューブ』とかいう、否定はしないけどちょっと軽薄な印象のある動画サイトを、真面目な弟が見ているのは意外で――しかも動画主の青年を絶賛したことで興味を持った。

 

「『彼』は僕らの世代で最も鮮やかで美しい投手だよ。彼と投げ合って勝つ事ができれば、僕がナンバーワンになれたと確信できるほどのね。……挨拶代わりと言ってはなんだけど、明日にでも一打席勝負を申し込もうと思ってる。姉さんにはその勝負を見届けてほしい。勝つにしろ負けるにしろ、その勝負は僕にとって得難い財産になると思うからね」

 

 青年は動画の中で、視聴者からのリクエストに応えるという形で、八つ化け頭巾という噺を朗読し終えた後らしい。

 生放送だったのだろう、その後に視聴者からの声に応じる雑談に興じている姿は、私から見ても非凡なものに見える。容姿云々はさておくにしろ、見ていると惹きつけられる何かを感じるのだ。

 それに、弟が男性を褒める台詞を口にしているのは初めて聞いた。そのことも、私に彼への興味を持たせる。

 

「……あれ? ねえ誠、私この人のこと知ってるような気がする」

「そうなのかい? まあ、彼は有名だからね。テレビか何かで見た事があっても不思議じゃないかな」

「あ、そうそう! テレビで見たんだ! それから……雑誌でも特集組まれてるのも見たことあったわ」

 

 既知感を覚えて首をひねると、誠がさもありなんと頷く。そのおかげで一気に関連付けられて、動画の中の青年の事を思い出せた。

 パワプロくんだ。誠の世代で最も優れた打者であり、同時に最強の投手の呼び声も高く、【パワプロ世代】と称される天才たちの中でも比肩する者のいない天才――怪物だって言われていた。

 仲の良い私の友達も、彼の大がつくほどのファンで、パワプロくんのことを盛んに話題にしていたりもした。彼は非常に優れたカリスマ性の持ち主で、噂によると全国模試でも一位に君臨している完璧超人だ、と。

 

「……ふぅーん? 誠はこの人と対戦したいんだ」

 

 テレビや雑誌でインタビューを受けたパワプロくんの受け答えは、模範的なまでの好青年だったと思う。

 ここまで出来過ぎてる人物像の持ち主は、却って人の邪推を招くものだろうに、不思議なほどその手の評判は耳にしない。それに私から見ても、パワプロくんはとても良い人に感じられた。少なくとも悪い印象はない。

 きっと誠が突然押し掛けて勝負を挑んでも、快く受け入れてくれるだろう。仮に勝負を受けなくても、酷い態度は取らないだろうと思った。

 

「――いいんじゃないかな。誠が対戦したいって言うなら、彩理さんは応援してあげる!」

「ありがとう、姉さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい! はじめまして、私は虹谷彩理っていいます! よろしくね、えーと……パワプロくんって呼んでいい?」

 

 ダメです(無慈悲)

 

 皆様おはこんにちばんは。

 やきうがデキるならもうなんでもいいよと言いたいRTA再開しておりますのことよ?(迫真お嬢様部)

 

 突然ですが『あなたチューブ』で釣り針を垂らした前回から今回、いきなり獲物が掛かった事に困惑を隠せないわたしがいます。例えるなら相思相愛の男女の内、男の方が好きだと告白しようとして、『す――』と言った瞬間に女の方が『私も好き!』と食い気味に応じてきたような感じです。

 なんだおまえ堪え性無さ過ぎか?

 欲を言えば即日食いついて欲しかったんですが、流石にそれは都合が良すぎるかなと思っておりました。しかしまさかの動画生配信の翌日に来るなんて、運が良いってもんじゃありませんよ。

 これはきっとあれです。パワプロくんが動画配信をした瞬間に、その存在にたまたま気づいていたかのようなタイミングです。手間の短縮という観点で素晴らしい幸運ですね……? やはり走者は豪運の持ち主でないと務まらない。はっきり分かんだね。他の走者もわたしを見習って、どうぞ(煽り)

 

 にしても恐ろしく速いレスポンスの早さ、わたしでなきゃ見逃しちゃうね。サラマンダーより、ずっとはやい!

 

 そんな事より野球しようぜ!(中毒者並感)

 

 いきなりヒロイン候補が湧いてきたとか、なんか虹谷誠くんが勝負を挑んで来たとか、その誠くんが凄く怪しいとか、礼里ちゃんがいきなり「闇野を知っているか?」と読心チェックして誠くんにレッドカードを出したとか、そんなことは全部どうでもよろしい!

 野球を……やきうをさせてくれぇ……!

 説明しよう! 時々現れる野良の野球デュエルの申し込み、これはぱわぷろ時空だと珍しくもないイベントである! これによりまずまずの経験点を取得でき、勝利すれば低確率で特能を取得できる他、確定で特能のコツを一つ手に入れることが出来るのである! 効率厨の気があるわたしとしても、育成パートの本番である高校時代にいる走者的にも、見逃せない! このイベントは!

 礼里ちゃんの読心チェックを受けた途端、あからさまなまでに顔色を変えた誠くん(in管狐くんちゃん)の事情など知ったことか!

 

 ……はい。(はいじゃないが)

 

 どうやら二代目闇野くんを襲名したのは、虹谷誠くんのようですね。

 初代闇野くんによって襲名(物理)された虹谷くん可哀想……。

 

 ……。

 ………。

 …………え、なんで?(素)

 

 まあいいや(切嗣並感)

 

 数多くの対策を確立されている闇野くん。彼の行動パターンも当然のように把握されています。

 攻略wikiによると、闇野くんは自分の身に危険が迫った場合、幾つかの襲名先(意味浅)の候補に寄生して元の体を捨てることが明らかになっているというのは以前にも言いました(復習)

 無能無名は眼中にないので、モブキャラは襲名(物理)されません。ネームドしか闇野くんのターゲットにされず、その中でなぜか女性が襲名(物理)された事例は報告されてなかったりします。パワプロくん含めて男ばっかり狙うんですよね彼は。

 

 男ばかり襲う管狐くんちゃんはホモだった……?

 

 んで、メインとして投手がターゲットされる確率は極めて高く、今回はたまたま誠くんが餌食になってしまったのでしょう。ノンケの誠くんを狙うとは人間の屑がこの野郎……。

 まあいいです。飛んで火に入る夏の虫とはこの事ですよ。礼里ちゃんの殺意の波動を感じ取ったのか、逃げ出そうとする誠くんの初動を制し手をガシッと掴みます。彼は脚がめちゃくちゃ速いので、走り出されたら追いつくのに難儀しますからね。さも友好を示すように握手をしましょう。それでもなお手を振りほどこうとする彼を引き寄せ、耳元で囁いてあげます。

 

「――俺との勝負で勝ったら見逃してやる。負けても悪いことにはならねえから安心しろ」

 

 (パワプロくんにとって)悪い事にはならない。

 嘘は言ってないからセーフ理論的にこれは……うーん、アウト!(情緒不安定)

 

「君は……いったい何者なんだ?」

 

 誠くん(in管狐くんちゃん)が、未知の存在を見るような目をしてますね。なんでバレた、と頭の中は疑問でいっぱいのようです。そりゃあ彼は、設定上何度もタイムリープしてますからね……今までパワプロくんのような特異存在を知らなかったとなれば、今回急に正体が露見し複数の財閥に追われることになった原因を知りたくて堪らないはず。

 むしろ彼としては、霧崎礼里がこんな所にいた事自体が想定外のはずです。彼は礼里ちゃんの事を知ってます。そりゃあエビル(漢字忘れた)高校で同じチームだった事もあるぐらいですし、なんなら彼女の超能力についても知っていたでしょう。なのにパワプロくんに対してのこのこ接触してきたのは、この周回の礼里ちゃんについてもリサーチしてあるからと予測できます。

 

 彼女の超能力は、とある中学に入学した際に、学校側から非合法な実験を受けさせられて覚醒したもの。その中学に進学していない以上、礼里ちゃんが読心術を持っているはずがないとたかを括っていた。だから先制パンチを食らって動揺してしまった、と。そんなところでしょうか。

 ホントにね、可哀想な闇野くん。わたしにとっても想定外でしたよ。お蔭様でおれのチャートはぼとぼとだぁ! けどいいのそんなの気にしない。できれば逃してあげるから気にすんな管狐くんちゃん!

 

「誰だか知ってて勝負しに来たんだろ?」

「………」

「恐い顔するもんじゃないな。お前の姉ちゃんが見てる。話は後にして、まずお前から吹っ掛けてきた勝負を終わらせようぜ」

「……後で色々と話してもらうからね?」

 

 いいぜ、と答えておきます。君に後なんかないんだけどね?(暗黒微笑)

 少なくともまともに話してあげるつもりはありません。いやね、わたしは話に付き合っても良いんですけど、そんな暇は多分ないと思うんですよ。いやぁ残念だなぁ(棒) 彼は自分が今どんだけ危険な状況にいるのか気づいてないみたいで……かわいそかわいそ。可哀想は可愛い(邪悪)

 

 というわけで一打席勝負イベ発生だぁ!

 

 ひゃあ! 新鮮な野球だよぉ! 後ろ手にスマホを操作して橘・木村・猪狩の『管狐捕獲チーム』に連絡してる礼里ちゃんを尻目に、聖ちゃんに壁役を任せて距離を取ります。誠くん(偽)も思い切ったのか勝負に乗ってくれるようですね。いざとなったらタイムリープしてしまえばいいとでも思ってるのかもしれませんが……やりたきゃ勝手にやってて、どうぞ(建前) けどわたしのチャートにお前のイベ組んでるんだからここで乙るとか許されざるよ(本音)

 

 時は夕方。所は河川敷。金属バットを持って、打席に見立てた地点に立つ誠くん。グラブを嵌めて、投球のための位置に着くわたし。白球を左手に、ぐるんぐるんと肩を廻して、肘を伸ばして、屈伸運動を何回かし調子を整えます。誠くんもバットを何回か振ってますね。

 なかなか鋭いスウィングですよ。流石に闇野くんとしての経験値も積んでるだけあって、現状この周回で出会ってる誰よりも強そうです。遠巻きに立ってる礼里ちゃんと聡里ちゃんが目を見開いてます。聖ちゃんは……おや、完全に無表情ですね。

 

「サインは要らねえからな、聖。これはあくまで俺とコイツの野球ごっこだ。悪いけど今回は壁役に徹してくれ」

「うむ」

 

 うーん、良い光景だぁ。心が洗われるようです。

 マウンドのように整えられた足場ではありませんが、ま、わたしからすると誤差ですよ誤差。気にするほどではありません。そんな事より、こうして打者がいる状況でボールを投げれるのが楽しいです。

 それに、管狐くんちゃんの肉体のステータスはともかく、中身の技能はそこらの高校球児を問題にしないレベルですからね。具体的にぶっちゃけると160km/hの豪速球にもジャストミートしてスタンドに運べるかもしれないレベルです。リアルの高校レベルを超えてプロ級と言ってもいいかも。ぱわぷろ時空だと名門校に一人はいる程度のレベルですけど(白目)

 

 つまり、今後の高校編でのリハ、予行演習、仮想敵、肩慣らしとして最適の人選ということです。本気でやりましょう。なーに、管狐くんちゃんに限っては本気の全力で当たっても後には引きません。

 出し惜しむ必要はないんで、いっちょやってみっか!(悟空)

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――それは唐突な邂逅だった。

 

 聖タチバナ学園の入学式を終えた当日の内に、何を思ったのかいきなりネット配信なんてものを始めたパワプロ。いったい何がしたいのか、突拍子のない行動に疑問を覚える。

 何故そんな事をするのかと問いかけると、パワプロはなんでもないように宣った。

 なんでも以前所属していたシニアチームでの騒動を皮切りに、爆発的に自分のファンが激増して、周りに迷惑を掛けてしまっていた事を知ったらしい。雑談配信などをしてネット上でファンと触れ合い、ガス抜きでもした方が良いかもしれないと考えたようだ。

 パワプロが意外と気遣いの人であるのはよく知っている。だからそれは彼らしいと言えばらしい行動で、思い付きを即座に実行に移せる行動力に呆れはしたものの違和感はなかった。

 

 その翌日の事だ。パワプロは野球部に入部届を出すものと思っていたし、礼里や聖もそのつもりでいた。マネージャーではなく部員として野球部に入るつもりらしい氷上も。だがパワプロはそれより先にやる事があるという。頭の中の八割が野球で出来ているような男がそう言ったのだ。戸惑う礼里にパワプロは苦笑いして、内緒話でもするように小声で言う。

 

『ここの野球部にな、俺と仲の良い先輩がいるんだよ』

『……それがどうした?』

『まあ聞けって。で、ここだけの話なんだけど、その先輩の知り合いにそこそこ()()奴がいるらしいんだ。ソイツがな、どうも最近様子が変わったらしいんだよ』

『………』

『配信は雑談をメインにするつもりなんだけど、先輩がソイツの相談に乗ってくれって頼んできた。悩みがあるみたいでも、知り合いに相談するようなヤツじゃないらしい。縁もゆかりもないヤツの方が気楽に話せそうなんだと。んなもんで、早速今日から相談も受け付ける事にしてる。野球部に入部するのは明日以降だな』

 

 見も知らない赤の他人の為にそこまでする必要があるのか、礼里は甚だ疑問だった。

 だがパワプロが礼里の感性から外れた事をするのはいつもの事だったし、『雑談配信とやらのついでにやる』程度の態度だったから余り気にならなかった。礼里が元々他人に対し関心を持ちにくい性格な事もあり、その時の礼里は胡乱な気持ちを抑えて見守る事にした。

 だが、その次の日。下校後にいつもの河川敷に来ると、体が鈍らないように日課の自主練をしていると――同年代の青年と女が連れ立ってやって来た。警戒する礼里達を尻目に彼らはパワプロに話しかける。

 なんでも世代最強選手の呼び声高いパワプロと、一打席だけでも勝負がしたくてやって来たようだ。その手の輩はこれまでにも何人かいた覚えがある。顔も名前もすっかり記憶から抜け落ちているのは、礼里にとって至極どうでもいい手合いばかりだったからだ。

 

 今回もそうだろう、と内心決めつけている。仮に、なんて可能性の話をしても仕方がないが、もし仮にこの軟弱そうな金髪の男が、パワプロと勝負を成立させられるレベルでもどうでもいい。

 今の礼里が気にかけているのは、見ず知らずの赤の他人がパワプロに近づいてくる事だ。誰が取り憑かれているか分かったものではない。そう警戒して、礼里はいつも他人に対して読心を仕掛けている。

 その結果がこれだ。

 

 

 

 金髪の男、虹谷誠は管狐に取り憑かれている。

 

 

 

 ――見つけた。

 

 見つけた。見つけた見つけた見つけた――ッ!!

 

 瞬間、堪え切れない殺意が溢れた。

 まさかだ。まさかまさかの邂逅である。心が冷え込み、ほとんど無意識の内に掴みかかろうとしてしまった。だがそれに先んじてパワプロが管狐の手を取り握手を交わす。その際パワプロは礼里を視線で制した。

 礼里の反応を見た一瞬で――以心伝心、パワプロは虹谷誠の正体を察したらしい。迂闊に仕掛けるなとその目が言っていた。確かにそうだと冷静さを取り戻す。管狐がどうやって人の魂を奪うのか分からない現状、不用意に近づくのは危険だった。特に武道の心得のない礼里は。

 翻るに、化け物めいて腕っ節も立つパワプロなら、近くにいても不穏な行動を見逃さずに制圧できる。守ろうとしたのに逆に守られてしまった事に歯噛みしつつも、礼里は自分に出来る事を模索し行動する。

 

「誠ー! 頑張ってー!」

 

 呑気に弟を応援する金髪の女。敵かもしれないと警戒していたが、読心を試みたところ白である事……無関係の一般人である事が分かっていた。

 さりげなく打席に立つ男の逃走経路に成り得る位置に回りながら、礼里は極寒の瞳で管狐を見詰める。その一挙手一投足を見逃すまいと意識を集中した。

 本当は管狐の思考を常時読み続け、不意の行動にも備えておきたかったが、生憎とそれは出来ない。

 思考を読めはする。しかしあの管狐の思惟は酷く澱んでいて、僅かに読心を試みただけで強い頭痛を覚えたのだ。読心術はもともと許容し難い負荷を受ける力だが、アレに対しての行使は負荷の桁が違う。安易に使い続ければ、こちらの精神がひび割れそうなほどだ。

 

 管狐。

 

 猪狩コンツェルン、橘・木村財閥の対策チームが名付けたコードネーム。

 礼里の両親を廃人にして、最も大切な人である力場専一の記憶を奪った憎き仇敵。妖怪の類いとしか思えない、怨念の塊なんてものが実在していた事に驚きはしたが、そんな些末な事は捨て置いた。

 礼里にとって今、何より大事なのは、アレをどうにかすれば父母の魂が返ってくる事と、パワプロの記憶が回復する事だ。故に礼里は何がなんでも、アレをこの場で確保するつもりで居た。

 だが管狐は全てが未知の、妖怪変化の類い。どんな手段で魂を奪うのか不明な現状、考えなしに動いてはいけないと判断した。たった今連絡した対策チームが駆けつけるのを待つのが最善だろう。

 パワプロも同じように考えたから、ああして野球勝負なんてしている――いやアイツの場合野球がしたいだけかもしれない。野球馬鹿のパワプロだ、顔を見れば読心するまでもなく分かる。アイツは管狐を逃がすつもりはなくても、それはそれとして純粋に勝負を楽しもうとしているらしい。

 

「ばかめ」

 

 口の中で呟き、浮かびかけた苦笑を胸の内に押し込む。

 アイツはあれでいい。しかし自分はそんな能天気ではいられない。早く来いと念じた。対策チームさえ来たら、自分を取り巻く問題が前進するはずなのだから。

 

 礼里は退路を塞ぐ位置取りをし、金髪の女『虹谷彩理』と聖の中間位置に氷上聡里がいる。氷上は将来、SPになる事を志しているだけあって、腕っ節の強さには信頼が置ける。もし管狐が何かをしようとしても、その初動に先んじて聖を護りにいけるだろう。パワプロに関しては守る必要はない。単純な身体能力はもちろん、腕っ節の強さも氷上に引けをとらないのだ。

 聖は――完全に心が凪いでいる。氷上もだ。礼里同様、管狐の事は既に知っているし、実在すると認識している。礼里が投げ掛けた質問と、その後の反応から『虹谷誠』に管狐が憑いている事は察しているだろう。故に――凪いだ心の薄皮一枚を剥けば、裏に荒れ狂う激情が潜んでいた。

 

 礼里、氷上、聖の三人は、管狐を絶対に逃さない覚悟を決めている。張り詰めた緊張の糸、白刃の上に立っているような緊迫感の中、緊張している様子もない自然体でパワプロは言った。

 

「聖。今日は本気で投げっから、余所事考えてるとミスっちまうぞ」

「! 本気……全力でやるのか?」

「ああ。一期一会って奴だ。これから先、試合で投げ合う機会があるかないかも分からないしな。この勝負だけで力の差を分からせてやるよ」

「……ハハハ、力の差とは大きく出たものだね?」

 

 虹谷誠がそう言って爽やかに笑う。

 気持ち悪い。礼里は素直にそう思ったが、対策チームが来るまでは何もするつもりはない。パワプロの言う全力とやらを見せてもらう事にした。

 打席に立つ虹谷誠。当たり前だが金属バットを持っている。間近にいる聖がもしもの時には危険になる。氷上がさりげなく聖の側に歩を詰めた。そして、パワプロはズボンのポケットに白球を入れる。下手な動きを見せればもう一球のボールを投げつけるつもりらしい。

 

「挑戦者はお前なんだぜ、虹谷。なら挑戦を受ける側は上から見下ろしてなんぼだろ」

「鮮やかな挑発だ。では、是非分からせてほしい。できるものならね」

「できる。なんならピッチャーとしてのお前にも勝ってやるよ」

「……へえ、意外だよ。僕が投手だって知っていたなんてさ」

「そこそこ名前知られてるだろ、『虹谷誠』は。俺ほどじゃないけどな」

 

 ニヒルに笑っているが、やはりパワプロは強かだ。

 自然な形で会話することで時間を稼ぎ、投打の勝負を設けることで更に所要時間を増やした。自分の好きな勝負を長引かせているだけとも言えるが、自身の欲求と両立させる手管は流石と言える。

 恐らく虹谷誠――管狐はもはや、野球勝負に関してはほとんど考えていないだろう。礼里の殺意に気づいていたようで、さっきから礼里に意識を割いているのが分かる。迂闊だった。だが管狐は自分に対する制圧チームが組まれ、礼里からの連絡で駆けつけて来ている最中とは露ほども考えてはいないはずだ。

 時間はヤツの敵。礼里達の味方だ。

 

「投球練習はしないのかな?」

「必要ねえよ。お前が来るまで自主練してたからな、肩は温まってる」

「そうかい。なら早速始めようか」

「おう。けどその前に、変化球の有り無しを選んでもいいぜ」

「はは、親切じゃないか。けど答えは決まってる。断然、有りだよ。直球しか投げなかったから負けても仕方ない、なんて言い訳は聞きたくないからね」

 

 は、と鼻を鳴らしたパワプロは、心なしか楽しげだ。

 その直球だけで、並み居る天才達を手玉に取ってきたのはパワプロだ。礼里は管狐の台詞に笑ってしまいたくなった。パワプロの力は礼里や聖が一番よく知っている……あの友沢亮ですら薙ぎ倒された。打者としての体格すら完成していない『虹谷誠』が打てるはずもない。

 地面を何度か蹴って、河川敷の土の踏み心地を確かめたパワプロが、グラブでボールの握りを隠す。その体勢で管狐が構えるのを待った。それを見ながら管狐が打席に入る。聖の目がパワプロだけを映した。

 虹谷彩理が声援を弟()()()妖怪に送る。哀れだ。アレはお前の弟ではない、などと言っても分からないだろう。礼里は、思う。人の魂を奪うなんて超常現象を起こしているのだ、必ず何かをしてくると決めつけて警戒するべきだ。目に見える形で異変があるのか、それとも何か道具を使っているのか。いずれにしろ細心の注意を払う。

 

 管狐がバットを構えた。

 聖はサインを出しているが、要求ではなく球種と投げるコースをどこにするか確かめているだけだ。何度か首を左右に振っていたパワプロが頷く。聖が構えたミットの位置はド真ん中。

 何も変わらず、強気の姿勢。打てるものなら打ってみろと、大上段に構えて見下ろす傲慢な顔。力と実績に裏付けされた、自信溢れる怪物の心は暴力的なまでのカリスマを有していた。

 パワプロが始動する。ワインドアップだ。

 大きく背を逸らし、制服のシャツのボタンが弾けそうなほど胸を張り、片脚を上げる。靴の裏から砂利が落ちた。流れるように体勢は前傾へ――そして恵体が捻出した力は流動的に指先へ集中する。

 まるで一種の工芸品のように美しい投球フォーム――腰の回転、背筋の盛り上がり、肩の駆動、肘から手首への流線、神憑り的な指のキレ――いつ見ても何度見ても飽きが来ない躍動感だ。歯を食いしばった表情までもが、力強さと繊細さを宿している。

 

 特徴的なオーバースローで投じられた白球が超高速で回転した。

 

 最近までのパワプロの直球は、球筋の角度が30度、以前機器を使って計測した回転数は20回転にも及んだ。プロの投手でも平均で17回転しかしていないのだから、極めてハイレベルな直球だろう。

 だが――()()のデータなど宛てにはならない。

 信じられない球速でミットに着弾する。爆発したような音と共に捕球した聖は微かに顔を歪めていた。捕球ミス……手に痛みがきたらしい。信じられない程の豪速球だった。管狐でなくとも見逃していたに違いない。上方向にポップし手元で急激に伸びたそれに、管狐は一度打席から離れて苦笑する。

 

「……データよりだいぶ、球速が上がってるじゃないか。今まで手を抜いてたんだね」

「馬鹿言うな、手加減はしてたが手は抜いてねぇよ」

 

 管狐の台詞を即座に否定するパワプロだが、離れて見ていた礼里や氷上も驚愕していた。目算で160km/hは確実に超えている。本気、全力とパワプロは言ったが、まさかこれほどとは思わなかった。

 

「体が出来上がってもねえのに、こんな力入れて投げてたんじゃ肩がぶっ壊れるだろ? 俺はプロになる。それまでに故障を抱えるつもりは毛頭ねえよ」

「……なるほどね。今までも本気ではあった、と。けど、コースは甘かった。ド真ん中に投げられるなんて……舐められたものだ」

 

 管狐は驚きはしても、気圧されてはいない。圧倒されていない。

 寧ろ余裕を滲ませた笑みすら浮かべ、パワプロを挑発していた。

 

「これぐらいの球速で来ると分かったなら、そうと弁えた上で迎え撃つ。次はないから、真ん中はやめておいたほうが賢明だと忠告しておこう」

「気ぃ吐くのは良いけどよ、今ので1ストライク・ノーボールだ。俺が三球勝負を好んでるのは知ってるな? あと二球で俺のターンを終わらせてやるよ」

「君の鮮やかな代名詞、ジャイロフォークでも投げるのかい?」

「さあな。……いや、今回それは投げねえでおいてやるよ」

 

 管狐は再び打席に入る。どこか、面白そうな顔をしていた。

 返球した聖が再びコースと球種をサインで訊ねる。パワプロはまた首を左右に振り、三度目で頷いた。

 ワインドアップ。先程と全く同じフォームだ。だが、ほぼ誤差のない動作でパワプロは直球と変化球を投げ分けられる。パワプロを研究している人間なら誰でも知っている事だ、油断はないだろう。

 高校一年生――16歳の少年が投げたものとは思えない豪速球がミット目掛けて飛来する。それに、管狐が反応した。

 ジャリッ! と鋭く土を削る踏み込み。世代最強の座こそパワプロに譲っているが、打者としてなら№2の座を友沢亮と争っている礼里ですら瞠目した。バットヘッドの角度、振り始めのタイミング、スイング速度、いずれも申し分ない――いや、今の礼里を凌駕する質のバッティング技術が見て取れる。

 

 鈍い金属音が鳴った。

 

 白球がファーストの方向へ飛ぶ。それは明らかにファールゾーンに落ちていた。振り遅れたのだ。だが――当てた。バットに。聖が驚愕の余り捕手のマスクを外して立ち上がっていた。

 信じられない……虹谷誠の体は完全に投手のものだ。足腰こそ驚嘆に値するほど鍛えられているが、上半身は打者のそれではない。だというのに、何故これほどのバッティング技術を――

 そこまで考えて、ハッとする。肉体は確かに虹谷誠のそれでも、取り憑いている管狐の技術はそれに比例するとは限らない。そんな当たり前の事に今更気づいた。

 

「座れよ、聖」

「あ……ああ、すまない……」

()()()()()。集中を乱してたら止める事もできねえぞ」

 

 パワプロが、笑っている。

 いつも浮かべているものとは質の違う笑みだ。

 野球を楽しんでいる顔ではない、対戦を楽しんでいる――今まで誰にも見せたことのない、()()()()()()かのような――笑顔。犬歯を剥き出しにした、肉食獣の貌。

 束の間、礼里は全てを忘れて管狐に嫉妬した。

 パワプロは……無敵だった。敵が無かった。だが、こうしてはじめてまともに勝負できる存在を迎えられて……歓喜しているのだ。どうして私じゃない、と臍を噛む。力が、練習が足りない。

 

 聖は息を呑んで、頷いた。アレ、と言われて目の色を変えている。聖が超集中モードと言っている時の、深い目だ。管狐はそのやり取りを聞いて無言で構える。決め球(ウイニングショット)が来ると解ったのだろう。

 だがジャイロフォークは投げないとパワプロは言った。では何が来る? 余裕を消して集中する管狐は――この時、妖怪ではなく野球選手だった。邪な企みも何もなく、打者として立っている――

 

「コイツはとっておきだ。解ってても打てるもんじゃない。少なくとも、俺が打者でも打てねえだろうよ。だからもしコイツが打てたら――お前は打者としての俺より上だって認めてやる」

「……へぇ、それは楽しみだね」

 

 管狐も笑った。パワプロがポケットから予備のボールを取り出し、それを管狐に見せつける。なんの細工もされていない、まっさらなボールだと知らせているのだろう。

 ワインドアップ。

 フォームはいつもと同じ――いや、少し違った。

 上げた脚の位置が高い。いつもは腰の高さにまでしか上げない脚が、軽やかに、雄々しい鷹の翼のように――胸の高さまで上げられた。そしてゆったりと始動し、やはりいつもより大きく踏み込む。

 全身を打ち出すかの如き、中国拳法の震脚の様な一歩。踏み込んだ脚の足首が廻り、ジャッ、と地面を抉りながら、三日月のような軌道で左手を突き出す。そのボールの握りは――魔球ナックルのそれ。

 だが違う。世に知られる魔球ではない。

 

「――――!!」(エフェクト現象!!)

 

 管狐が刮目した。

 エフェクト現象……それは知る人ぞ知る野球神が認めた、驚異の質と独自性のある魔球に与えられる加護……と、言われているもの。パワプロほどの怪物なら使えるだろうとは思っていたが――パワプロの放つエフェクト現象は類を見ないほど兇悪だった。

 

(!! み、見えなッ――!?)

 

 黒。

 全き、黒。

 信じ難い。目を疑う。

 煙幕を張った様に黒く、白球がエフェクトに覆い隠され、ボールの回転どころかその姿すらもが視認できない。長年白球を追った経験から、辛うじてボールの行方が煙幕の中心部にあるとは察せたが。

 見えない。しかも速い。直球系の魔球か? 猪狩守のカイザーライジングのように、ボール二つ分もポップするかもしれない。コースはインハイ。内角高め。上に変化するならボールカウントが取れる。

 だがパワプロは三球勝負だと明言した。

 刹那の間、管狐の意識が打者としての物に塗り変わる。それは管狐の性質ではない、虹谷誠という女好きで軽薄な、しかし野球を愛する少年としてのもので。その性質が管狐の思考と能力をフル活用させた。

 

(あの男は自信の塊だ、つまらない嘘などで裏を掻こうとはしないだろう。なら――上方向への変化は無い。確実にストライクゾーンにボールを収める。インハイにきた……()()は今、左打席に入っている……オレから逃げるように、横に滑るのか? それとも下方向? 縦スラのように斜め下に行く? ――()()!)

 

 言語としての思考ではない。感覚、反射が大部分を占めた思惟だ。

 管狐は妖怪の如き【魔のもの】である。存在そのものが魔力を秘めていた。故にその勘は鋭く――そんな超常存在の勘を、パワプロは当たり前のように上回った。

 

(――――)

 

 黒い闇に覆われたボールが、球速を維持したまま――驚異の切れ味を魅せつけ鋭角に落下しながら――()()()()()()()()()。管狐はバットを振っていた。パワプロが三振を奪いに来ると確信していたが故に、見逃し三振だけは回避しようと。しかしバットを振りながら瞠目させられる。

 ナックルの描き出す軌跡は不規則に変化しながら落下するもの。それが黒煙に隠され、挙げ句の果てに管狐の想像を遥かに超える変化量を魅せつけた。肩の位置から――膝の上まで落下したのだ。

 パワプロの代名詞だったジャイロフォークより、ほんの少しだけ変化量は少ない。だがそんなものよりも格段に恐ろしい魔球だ。見えないのに速い、速いのに変化量も凄まじい。こんなもの、誰も打てない。

 

 バットが空回る。聖は、捕球どころかミットにボールを掠らせる事すらできなかった。まるで今のお前が触れていいものではないと、嘲笑うようにすり抜けて、聖の後ろに落球する。

 六道聖は高校野球界でも一、二を争う捕手だ。捕球技術だけならトップに君臨している。そんな聖が壁にもなれなかった事に礼里は驚くも、とうの聖自身が一番衝撃を受けているだろう。

 聖は、呆然とエフェクトの消えた白球を振り返っていた。

 

「はい、俺の勝ち。振り逃げは無しだぜ、虹谷。聖には最初に言った通り、壁役を任せただけだからな。今のは俺のとっておきが壁を貫通したってだけの話だ」

 

 パワプロが勝ち誇る。しばし呆然としていた管狐だったが、すぐに我に返ると苦笑いした。

 

「――とんでもない、まさに最強だ。ああ、僕も認めざるを得ない。君は確かに、今まで僕が見てきた中で最強のピッチャーだよ」

「だろ? けど強すぎるってのも考えもんでな、俺のとっておきの弱点は捕れる奴がいない事だ。誰も捕ってくれないなら投げられねえだろ?」

 

 その言葉に、聖は無言で項垂れた。

 パワプロに悪気はない。パワプロはきっと、これから先、聖なら捕れるようになると思っているのだろうが、聖にはなんの慰めにはならないだろう。

 礼里には分かる。聖は強いショックを覚えていた。パワプロと一緒に居たいが為に始めた野球であり、今まで十年以上も捕手一本でやって来ているのだ。野球のキャリアはパワプロや私と同等である。

 その分、積み上げてきた自負と自信があった。それが根底から崩されたような錯覚がある。

 後でフォローしてやろう、と礼里は思った。流石にアレは無い。アレは、打てない。プロでもだ。16歳の小娘如きが何を決めつけると嗤われるかもしれないが、礼里は確かに確信していた。

 捕れなくても無理はない……その言葉は確実に聖を発奮させる。慰めたつもりでも、聖からすると挑発されたようにしか聞こえないだろうから。

 

「ともあれ、良い勝負だった。またやろうぜ、虹谷」

「……ははは、そうだね。()()やろう。今回は僕の負けだけど、次は打ち崩してみせるさ」

「期待してる。――で、なんか空気的にお開き感があるけどよ、今度は俺が打席についていいか?」

「もちろん――……ッ!?」

 

 

 

 ――野球は終わった。

 

 

 

 故に、ここから先はR指定だ。

 管狐は首に何かが突き刺さったのを感じる。なんだ、と思う間もなく膝を折り、その場に倒れてしまった。

 麻酔銃を食らったのだ。虹谷彩理が驚愕の悲鳴を上げて駆け寄っていくのに先んじて、どこからともなく現れた三人の男達が管狐を確保し、担ぎ上げると走り出した。彩理が何を叫ぼうと止まらない。河川敷付近にある橋の蔭に停めていたワゴン車に乗り込むと、そのまま走り去ってしまった。

 

「まことぉ!」

「礼里、聡里、ケーサツに電話してくれ。虹谷の姉さん、落ち着け。いや落ち着かなくてもいいが話を聞け。ケーサツに連絡してる、きっとすぐに戻ってくるから慌てるな」

 

 錯乱する彩理をパワプロが宥める。礼里はケーサツに電話するフリだけをしていた。

 

 管狐は、対策チームに確保された。良い気味だと思うが、『虹谷誠』に罪はない。なんとかして管狐だけを祓えないものだろうか……。

 泣き崩れる彩理に、困り果てた様子のパワプロだが、どちらかと言えば罪悪感が強く出た表情である。腹芸はパワプロには無理だな、と礼里は思った。隠し事とは無縁の男だから仕方ない。

 それにしても――と、礼里は思った。

 

(光学迷彩……現実に存在する技術だったのか……)

 

 人の思念を感じ取れる礼里や、非常識に強い氷上やパワプロは気配を悟っていたが、実際に目にすると少しばかり感動してしまう。

 ともあれ目的は達成した。管狐に対する読心は効果がかなり薄いが、奴を尋問するのに礼里の力は有用である。尋問への協力を申し出る意思を、礼里は密かに固めていた。

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

(――ミッション・コンプリートぉ! どうですか皆さん、完璧じゃないですかこれ! 管狐くんちゃんは確保、囚われるも彼には協力者の魔女っ子がいるので脱走は容易でしょう! ぱわぷろ公式の設定でメタ情報は流出しないし、礼里ちゃんの読心術は管狐くんちゃんには効果薄! ソウルジェイルに囚われた魂はともかく、抜け殻側の本体が回復する手段も知ってるので任意のタイミングで記憶が戻ったフリもできる! 礼里ちゃんのパパママも回復可能! もしも管狐くんちゃんが暴走し始めても魔を祓う家系の阿麻くんを頼ればオールオッケー! ふはは、完璧なガバ処理だぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 




※なお彩理ちゃんに関しては考えないものとする。

皆様お待たせしてすみません。別作品に構ってるのでまた待たせる事になるでしょうが、私は久し振りに野球描写(パワプロ風味)ができて満足しました。失踪します。

あとお忘れかもですが、アンケート結果の金(あっかふわふわ)は彩理ちゃんでした。ヒロインとして参加するかは未定、だって登場するかしないかのアンケートに過ぎませんでしたからね…!(苦しい言い訳)

ほな、また…。


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