霊感少年の幽雅な生活 (完) (ケツアゴ)
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旧校舎のディアボロス
プロローグ


意見があったので独立しました


ねぇ、幽霊って信じる? 実はこの世界には悪魔や天使が実在していて、幽霊も本当に居るんだ。もちろん普通の人には見えないし声も聞こえないから居ないのと変わらないけど、もし貴方が幽霊に会ったらどうする?

 

怖いから逃げ出す? 話しかけて友達になってみる? うん、それも良いかもしれないね。でも、彼は違った。彼には幼い頃から幽霊が見えるだけじゃなくて、幽霊を従える力と赤い龍の魂がその身に宿っていたんだ。

 

これは本来のスケベで熱血漢の赤龍帝・兵藤一誠の話ではなく、少し残酷で冷めた性格の霊使い兼赤龍帝の兵藤一誠の物語……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい天気だね。君達もそう思うでしょ?」

 

人気のない雑木林の中、その少年はうす暗く曇った空を見上げながら虚空に話しかける。年の頃は小学校に入り前といった所だろうか? 彼の名前は兵藤一誠、一誠が向かっているのはすっかり寂れきって人が寄り付かなくなったお堂。お化けが出ると噂の其処には誰も近づかず、少年のお気に入りの場所であった。手に提げた袋にはお気に入りの漫画とお菓子と飲み物。お堂の前に座って本を読むのが彼の日課なのだ。少年は鼻歌を歌いながら一人で歩いて行く。

 

 

……もし、彼の通った道を他の人が見たら悲鳴を上げただろう。昨日降った雨のせいで少々ぬかるんだ道には、彼の後に続く無数の足跡が残されていたのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「追い詰めたぞ! はぐれ悪魔めっ!」

 

「……くっ」

 

一誠のお気に入りの場所では一人の女性が男達に追い詰められていた。女性は黒い着物を着崩しており豊満な体つきをしている。その体には所々に傷が有り彼女は見るからに疲弊していた。対する男達は手に武器を持っており、女性に向けて殺気と共に好色な視線を送っている。

 

「さぁて、殺す前に楽しませて貰うとするか」

 

「隊長、殺すのはちゃんと全員で楽しんでからですよ?」

 

「クズがっ!」

 

にじり寄ってくる男達を女性は睨むが男達は気にせずに寄ってくる。そして隊長と呼ばれた男が剣を振り下ろすと着物が切れ、白い肌があらわになった。

 

「(くそっ! 疲れてなきゃこんな奴らなんかに負けないのに……)」

 

女性は目をギュッと閉じて悔し涙を流す。そして男達の手が彼女に伸びていった時、急に猛烈な寒気が全員を襲った。しかし、それにも関わらず彼女達の体からは冷や汗が流れ落ちる。そして言い表しようの無い不安と恐怖が襲って来ると共に足音が聞こえてきた。

 

「な、なんだ!? ……人間の……餓鬼? なっ!」

 

「な、何だよ、あの悪霊の数は!?」

 

近づいて来た一誠の姿を見た男達は一誠の背後で蠢く者達に驚愕する。巨大な骸骨、人型の靄、巨大な鋏を持ち上半身だけで浮かんでいる幽霊。どれもこれも大勢の人を取り殺せる力を持つ……悪霊だ。普通なら彼らの放つ気に当てられて気が狂う所だが、一誠はその様な存在が大勢後ろにいるにも関わらず平然としてている。その姿はまるで百鬼夜行を従える王。一誠は男達と女性をチラリと見ると直ぐに視線を外して横を通り抜けようとする。すると、男達の内の一人がその背中に向けて斬りかかった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ば、馬鹿っ! よせぇぇぇぇぇっ!!」

 

その瞳は悪霊達から発せられる気によって錯乱しており、隊長が止めようとするにも関わらず男は止まらない。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャァァァァァァァ!!」

 

一誠の後ろに居た悪霊達が男に群がってその体を覆い尽くす。辺りに男の叫びとボリボリと硬いものを噛み砕く音が響き、悪霊達がその場から離れた時には男の姿は消え去っていた。一誠はそれを興味なさそうに見ると男達の方を向く。

 

「……オジさん達も僕を殺そうとするの?」

 

その瞳は黒く濁っていた。男達はその目に驚き、背後の悪霊達に目をやる。全ての目が彼らに向けられており今にも襲いかかろうとしていた。

 

「い、いや。……お前ら、ここは退くぞ」

 

「へ? た、隊長!? 黒歌を殺すチャンスなのですよ!?」

 

「……見て分からんのか。此処で退かねば全滅だぞ」

 

隊長はそう言うなり背を向けてその場を離れようとする。部下達も其の後について行き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一斉に襲いかかって来た悪霊に食い殺された。男達を食べ終えた悪霊は女性の方を向くが興味を失ったかのように顔を背け、そのまま溶けるように消えていった。一誠はそのまま女性の方に向き直り近づいていく。

 

 

「そこ退いて。僕のお気に入りの場所なんだ」

 

「……私を殺さないの?」

 

一誠に言われた通りにその場を離れながら女性は尋ねる。すると一誠はその場に座り込んで漫画を開きながら答えた。

 

「別に殺す理由無いし。あいつらの言うにはお姉さんは不味そうだから食べたくないって」

 

「ま、不味そうって……。まぁ、助かったのかしら? 私は黒歌。坊やの名前は?」

 

「一誠。兵藤一誠だよ。なんで襲われてたの?」

 

それは彼女に黒歌に興味を持ったからと言うよりも何となく聞いてみたといった感じの質問の仕方。黒歌は溜息をつくと口を開いた。

 

「実は……」

 

「あっ、長くなりそうだからやっぱり良いや」

 

「……うわ~。人の話はちゃんと聞きなさいって教わらなかった?」

 

「教わったよ? でも、お姉さんって人じゃないじゃん」

 

一誠がそう言って漫画に目を戻した時、黒歌の腹が鳴る。それを聞いた一誠はそっとお菓子を差し出した。

 

「……食べる?」

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふ~ん、大変だったんだね」

 

あの後、一誠は黒歌から話を聞かされ適当な相槌を打つ。どうやら他人事だと思って大して興味がわかなかったようだ。漫画も読み終わりお菓子も無くなった一誠はその場から歩き出した。

 

「お姉さん、ついて来て。いい隠れ場所を教えてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠が黒歌を連れてやって来たのは小学校……の今は使われなくなった旧校舎。人目を盗んで入り込んだ一誠と黒猫の姿になった黒歌はその裏手に来ている。黒歌はそこで自分達を見つめる見えない誰かの視線に気付く。だが、一誠は特に気にした様子もなく鍵の壊れた窓から中に入り、廊下を進んでいく。そして校長室に入った時、それらは現れた。赤いコートを身に纏いマスクをつけた女性。人の顔をした犬。そして宙に浮かぶ西洋人形。急に現れた化け物達は一斉に二人を見た。

 

 

「あら、また来たのね」

 

「こんにちわ、メリーさん」

 

感情の篭らない声で話しかけてきた西洋人形……メリーに向かって一誠は親しげに話しかける。するとメリーは無機質な瞳をギョロリと動かし黒歌を見た。

 

「また連れてきたのね。此処の事は説明した?」

 

「あっ、忘れてた」

 

一誠がウッカリしていたといった感じの顔をすると、マスクをした女性が近づいてきて黒歌の頭を撫でる。

 

「この坊やが此処に連れて来るって事は訳ありなんだろ? 安心しな。ここは外界とは遮断されているからさ。誰にも見つかりっこないよ。まぁ、少し埃っぽいけどね。……っと、名乗りが遅れたね。私の名は……口裂け女さ」

 

そう言ってマスクを外したその下には耳まで裂けた口があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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一話

「私メリーさん。今、貴女の後ろにいるの」

 

……ずっと友達だと思ってたのに、あんなに一緒に遊んだのに、あの子は私を捨てた。だから、復讐してあげたの。あの子の家の電話番号は知ってたから、毎日電話してゆっくり近づいて行って、そして……。

 

私の名前はメリー。可愛い可愛い西洋人形。人形には魂が宿るって言うでしょう? でもね、人形に宿るのはごくごく微小な魂。一体だけなら動くことすらできないわ。でもね、捨てられた事を恨んでいるお人形は私だけじゃないの。そんな人形達の想いと『メリーさん』の噂が交じり合って私に力を与えた。だから、私はもっと、もぉ~っと人間に復讐するの。そう思ってゴミ捨て場にいた私はあの子に出会った……。

 

 

「……ふ~ん」

 

ある日の事、あの子は私の前に現れた。私の事をジッと見て何やら考え事を始めたかと思うとそのまま私を拾い上げたの。最初は変な子かと思ったわ。どう見たって私は男の子が欲しがる人形じゃないもの。たぶんこの子は興味本位で私を拾い、また捨てるんだと思った。だから、その時はこの子を呪ってあげようと考えていたら急に話しかけてきたの。

 

「ねぇ、君って話せるよね? 名前は何っていうの? 僕は一誠」

 

「……メリー」

 

これが私と一誠の出会い……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~ん、あんたも苦労してんだね。妹の為に罪かぶるたぁ泣かせるねぇ」

 

「は、はぁ」

 

黒歌が旧校舎に着くなり歓迎の宴が行われた。どうやらここに住む者達なりの極秘ルートがあるらしくテーブルの上には酒や料理が並べられていた。黒歌は口裂け女やベートヴェンの肖像画に囲まれてチビチビと酒をあおり、一誠はメリーや二宮金次郎像と談笑している。視線で助けを求める黒歌だが一誠は気づかず話し続けた。

 

 

「……あっ、もうそろそろ帰らなきゃ」

 

窓から新校舎の時計を見た一誠は立ち上がると名残惜しそうな顔するおかっぱ頭の少女やメリー達に別れを告げ、そのまま窓から出て行った。残された黒歌は暫く久しぶりのまともな食事に夢中になっていたが、ふと思い出したかのように尋ねる。

 

「ねぇ、ここが安全って聞いたけど本当? と言うか、一誠はどうして平然とこの場に居られるの?」

 

「ああ、その事かい? ここは旧校舎の中であって旧校舎の中じゃないんだよ。学校の怪談は知ってるだろう? そこにいる花子や二宮達が出てくる昔からある話だよ。私達の殆どもこの場所も、怪談を怖がる人の恐怖から生まれた存在なのさ。だから普通は外とは繋がってない。でも、話の舞台はあくまで学校だから此所には全国の旧校舎から入れるし、全国の旧校舎に出れる。小学校に限らずね……。この料理もそうやって手に入れたのさ。……あの坊やはある日いきなり現れてね。いくら脅しても平然としているばかりか、次から次へと仲間を連れてくる。そこのメリーもその一人さね。本当は許可がない現世の者は入れないんだけどね」

 

口裂け女はそう言うとため息をつき、酒を一気に煽る。

 

「もしかしたらあの子は、この世の理から外れた存在なのかねぇ……。そうそう、外に出たい時は言いな。いつでも出してやるからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ところでなんで旧校舎限定?」

 

「そりゃまぁ、新しい校舎にお化けが出るなんてイメージが薄いからじゃないかい? その内新しい校舎での怪談が増えれば新校舎からもこの場所に来れるだろうさ」

 

 

 

 

そして一誠は通う学校の旧校舎からこの場所に通い、やがて高校生になった。彼が通うのは少し前まで女子高だった駒王学園。選んだ理由は近いという事と旧校舎があるという事。そして、とても禍々しい空気が漂っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、兵藤。お前は部活決めたか?」

 

「……別に」

 

入学してから少し立ってそろそろ部活に入る時期になった頃、中学が同じだった松田、元浜の二人が話しかけてきた。生きている人間には基本興味がない一誠は、二人が何時ものようにする猥談を無視しながら部活紹介のプリントに目をやる。すると、一つの部が目に付いた。

 

「(オカルト研究部……か。部室も旧校舎だし見学だけでも……)」

 

入学して直ぐに旧校舎に向かいたかった一誠だが旧校舎は離れた場所に有り、下手に近づいて怪しまれたら面倒だと判断して近づかないでいた。だが、部室があるなら近づいても誰も変に思わないと判断した一誠は見学に行こうかと思い席を立つ。その時、頭の中に声が響いてきた。

 

『辞めておけ、相棒。ここの旧校舎には悪魔が居る』

 

声の主の名はドライグ。かつて二天龍と呼ばれた龍の片割れで、今は人の身に宿る神器というものに封印されて一誠に宿っている。彼と一誠は既に十年近い関係で、一誠はドライグの事を5番目くらいに信用していた。

 

「(……ああ、この学園に入ろうとした時も言ってたな。じゃあ、皆に会う時は何時も通り夜に小学校か中学校にでも忍び込むか)」

 

そう判断して部活に入るのを断念した一誠はそのまま帰る準備をしだす。帰る途中、大勢の女子に囲まれた金髪の美少年に後ろの二人が嫉妬の念を送っていたが、気にする事もなく帰路に着く。家に帰ると誰もいなかった。どうやら母親は出かけているらしく父も仕事で夜まで帰ってこない。一誠は自分の部屋に入ると制服のままベットに寝転んだ。

 

「……読みかけの漫画と麦茶。あと、風呂を沸かしておいて」

 

一誠は寝転んだまま誰も居ない場所に向かってそう呟く。すると机の上に置かれた漫画が宙に浮き一誠の手に収まり、リビングの冷蔵庫の戸が勝手に開いて中に入っていた麦茶が勝手にコップに入ると二階にある一誠の部屋まで飛んでくる。そして風呂の水道が勝手に開いて水が浴槽に入りだした。

 

『……まさに能力の無駄使いだな』

 

「別に良いでしょ? 俺が自分の力を好きに使ってもさ……」

 

呆れた声で呟くドライグに対し一誠は気怠そうに返事するとそっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ行くか」

 

時刻は草木も眠る丑三つ時。こっそり家を抜け出した一誠は小学校の前までたどり着いた。一誠は小学校の塀を見つめると軽く口笛を吹く。すると彼の周りに現れた幽霊達が彼の体に纏わりついて其の姿を消した。やがて旧校舎の扉にかけられた鎖が解かれ、一瞬開くと再び扉に絡みついた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー♪」

 

一誠が旧校舎の中に入り込むなり飛びついてきた影があった。黒歌である。彼女の声に反応するように他のお化けも集まりだし、一誠は親が起きる少し前まで彼女達と楽しく過ごす。やがて時は流れ一誠が二年になった頃、帰宅中の彼に話しかける者がいた。

 

 

 

 

「兵藤一誠君ですよね? 付き合ってください!」

 

この時、一誠は少女の目的に気付いていた。それでなお気付かないふりをする。少女に気づかれない様に口角を釣り上げ、邪悪な笑みを浮かべながら……。

 



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二話

『……相棒。何のつもりだ?』

 

「何の事? あっ、フォーカード」

 

突如現れた少女からの告白を受け入れデートの約束までした一誠に対しドライグは問いかける。だが、一誠は何の事だかさっぱり分からないといった様子で黒歌との遊びに興じていた。

 

「むぅ、また私の負けにゃ。……え~と、罰ゲーム罰ゲーム」

 

ポーカーで負けた黒歌はティッシュの空き箱に入れられた罰ゲーム用のくじを引く。互いに相手にさせたい罰ゲームを書いて相手用の箱に入れているのだ。そして黒歌が引いた内容は……。

 

 

 

 

 

「……下半身だけ露出か全裸で靴下だけ着用。……うわぁ。相変わらず変態だにゃぁ」

 

「それがどうかした? ……ああ、ドライグが言ってるのはあの堕天使の事でしょ? 確かレイナーレとかいう奴」

 

堕天使。それは欲に負けた天使の成れの果て。純白の翼は黒く染まる。彼らはアザゼルという堕天使を筆頭にグリゴリという組織を作り悪魔や天使と敵対している。そして、彼らの行動の一つに神器所有者の抹殺があるのだ。強力な力を力の扱い方も知らない者が持っていても危険だし、もしかしたら敵対するかもしれない。そんな理由で彼らは人間を殺している。最も、一誠はその事を黒歌から聞いても興味なさそうにしていたが。

 

「ふ~ん。ついにイッセーにも刺客が放たれたんだ。……ちょい待て! なんで名前知ってるの!?」

 

「守護霊引っペがして従えて聞いた。後で他の霊にでも食べさせて強化しようと思う」

 

『……相棒は歴代最強にして歴代最悪の赤龍帝だな』

 

「……うん。今のは付き合い長い私でも引く。それで、ソイツはどうするの? 殺しちゃったら面倒じゃない?」

 

一誠が平然と言ってのけた発言に少々引きながらも黒歌は一誠を案じる。力を持っていると知られればさらに強い刺客か勧誘等が来かねないからだ。

 

「まぁ、其の辺は適当に考えるよ。……罰ゲームは? ハリーハリー!」

 

「うぅ、この格好は流石に恥ずかしい。……Bまでしてあげるから勘弁してくれない?」

 

「さっ、保健室行こうか! 深夜の保健室で秘密の課外授業っ!?」

 

一誠が黒歌の手を取って保健室まで連れて行こうとした時、頭に鈍痛が走る。見上げるとメリーが金槌を一誠の頭に振り下ろしていた。

 

「何すんだよ、メリー」

 

「……ふ~んだ」

 

一誠が頭を押さえながら睨むもメリーは不満そうな声を上げて闇に消えていく。すると部屋の隅にいた口裂け女がクスクス笑いだした。

 

「クックック、アンタも罪な男だねぇ。まぁ、此処には餓鬼もいるんだ。程々にしときな」

 

一誠が居る教室には花子さんなどの子供のお化けも居てお菓子を食べている。確かに子供の前でする話ではなかっただろう。だが、

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、皆俺より年上じゃん。あっ、これがリアルロリ婆……すいませんでした。そのラバーカップを向けないで下さい」

 

「……分かれば良い」

 

花子さんはトイレの詰まりを直す例のアレ(男子便所用)を一誠から遠ざけると再びお菓子を食べだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それで実際の所どうするんだ? 悪魔にお前の力がバレたら厄介だろうに』

 

「まぁ、一応作戦は考えてある。悪魔にバレたらその時はその時で対応するよ。……とりあえずあの堕天使には死んで貰うけどね」

 

一誠のその言葉に応えるかのように、ジャキンという金属音が鳴り響いた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで堕天使はウチの生徒を狙っているのね?」

 

「ええ、そうですわ、リアス。確か、兵藤一誠という方でしたわね」

 

駒王学園の旧校舎にあるオカルト研究部で二人の少女が話をしていた。二人の手元には一誠や彼に告白してきた少女の写真が貼られており、一誠に関する事が記載されている。そこには極々一般的な人生を送ってきたというような事が載っていた。

 

「……やっぱり強力な神器を宿しているのかしら?」

 

「おそらくそうでしょうね。この方もツイていらっしゃらないわ。狙われない方もいらっしゃるというのに」

 

二人は他人事のように話を続ける。二人の内、赤髪の少女の名はリアス・グレモリー。黒髪をポニーテールにした少女の方は姫島朱乃という名だ。何を隠そうこの二人の正体はこの地を縄張りにする悪魔。そして、この二人がこんな事を話しているのは一般人である一誠が狙われているからという事ではなく、敵対している堕天使が自分達の管轄地に入り込んだからという理由が大きかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー君。お願いがあるの」

 

「何?」

 

デート当日、一誠は待ち合わせの場所で渡されてチラシを直ぐに捨ててデートをした。表面上は楽しんでいるよなふりをしながら相手を観察する。そして夕暮れの公園で一誠は告げられた。

 

 

「死んでくれないかな?」

 

一誠に告白をしてきた少女は黒い翼を羽ばたかせ、手に光る槍を持って一誠を見下ろす。その瞳には侮蔑の念が込められており、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前が死ね」

 

「ぐふっ!?」

 

一誠がそう言った瞬間、その瞳が驚愕と苦痛に染まる。その胸から真紅の刃が突き出ており、明らかに心臓を貫いていた。振り返った彼女が見たのは身の丈ほどもある大バサミを持った上半身だけの悪霊。テケテケと呼ばれるそれが自分の体から引き抜いたハサミで首を切り落とそうとしている所だった。そして、一瞬感じた激痛とともに彼女の意識は完全に途切れた。

 

 

 

 

「はいはい、ごくろうさん。いや~、監視の目が無くて良かった良かった♪」

 

一誠はテケテケに労いの言葉をかけると胸に穴が空いた上に首を切り落とされている堕天使の死体に近づく。そして彼が手を翳すと死体から光る玉が飛び出し、やがて人の姿となった。

 

「お前の名前は?」

 

「レイ……ナーレ……」

 

一誠の問いにレイナーレは虚ろな目で答える。

 

「じゃあ、次の質問だ。お前は俺の何?」

 

「私は一誠様の……下僕です……」

 

「そう。お前は俺の下僕だ。じゃあ、最初の命令だ。俺の事は適当に誤魔化して、適当なタイミングで失踪して俺の所に来い」

 

「は……い……」

 

一誠は満足げに頷くとレイナーレの死体を指さす。すると一誠の背後に無数の霊魂が集まり死体に殺到したかと思うと其処には無傷の死体があった。

 

「とりあえず自分の死体にとり憑いておけ。戻ったら何時も通りに振舞うこと」

 

「了解しました、一誠様」

 

レイナーレは一誠に跪いて一礼すると、その場から飛び立っていった。

 

 

 

 

『……相棒。また玩具を増やすのか?』

 

「いいじゃん別に。結構美人だったし。それにまだ堕天使は持ってなかったしね。爺さんも堕天使や悪魔より人間を優先するようにって言ってたし。それに、堕天使はそっちの方面も仕事らしいから試してみたかったんだ」

 

『……玉藻に怒られても知らんぞ』

 

一誠はそう言うと家まで帰っていった。その晩、何時もの様に小学校の旧校舎に出かけようと一誠が家から出ようとすると玄関に立っている者がいた。ローブを着用し髑髏の仮面を被っており、手には大鎌を携えている。そして一誠の姿を見るなり口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兵藤一誠だな? 魂を受け取りに来た」



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三話

「……四天王。いや……四凶? う~ん、何か良いアイディア無いかな? ドライグ」

 

一誠は机に向かって何やらノートに書き綴っている。どうやら計四人の組み合わせ名を考えているようだが良い名が思いつかないようだ。

 

『……相棒、何を考えているんだ?』

 

「いや、俺の手駒の中で四人を選抜しようと思ってさ。シャドウとレイナーレと……。ドラゴンの魂とか欲しいなぁ」

 

『勝手にしろ。それで今月はいくら貰ったんだ?』

 

「え~と、ひ~ふ~み~よ~♪」

 

一誠は机の角に置かれていた分厚い封筒を手に取り、中に入っていたお札を数え出す。高校生には相応しくない大金だった。

 

「今月は結構浮遊霊を渡したからな~♪ 雑魚ばっかりだけど数は多かったから良い稼ぎになったよ。冥府の人材不足最高ー♪」

 

 

冥府。其処は死者の魂を管理する場所。其処に住む死神達は現世を彷徨う魂を回収するのが仕事の一つなのだが人口増加によって人手が足りず、一誠のような能力持ちに協力を要請しているのだ。回収しきれない魂を集める見返りとして好き勝手をある程度見逃し、回収数によって報酬を支払う。もっとも、一誠のような力の持ち主は減少してきており、そんな中で優秀な能力者である一誠を冥府の王であるハデス自らスカウトして来たのだ。

 

「じゃあ、死んだら就職先として考えとくよ。それかニートになりそうだったらヨロシク~」

 

一誠のその返事にハデスは満足こそしなかったが妥協し、魂を受け取りに行くのに幹部クラスの者を向かわすなどの破格の対応をとっていた。一誠が今回の報酬を秘密の隠し場所に入れた時、本棚の上に飾られた趣味の悪い骸骨の置物の目が光る。それを見た一誠は愉快そうに口角を釣り上げた。

 

「どうやらはぐれ悪魔が街に入り込んだらしいね。悪魔は良い栄養源になるから回収しに行こうか」

 

『今日はドレを使うんだ?』

 

「いや、たまには俺が戦うよ。たまには禁手を使っとかなきゃさ。ほら、たまに使わなきゃ壊れるって言うじゃん?」

 

『神器とクーラーを一緒にするな! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉん! 先代達は食われちゃったし、この悲しみを俺は誰と語り合えばいいんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、今日の仕事は大公からの依頼ではぐれ悪魔を退治しに行くわよ!」

 

ドライグの嘆きの声が一誠の頭に響き渡り『神器から魂を引きずり出せないかな?』と思われていた少し後、リアス達はとある廃屋に向かっていた。どうやら主を殺した下僕悪魔がこの街に逃げ込み人を食い殺しているという事なのだ。

 

 

 

 

 

 

「……血の匂い」

 

リアスの眷属の一人である塔城小猫は漂ってきた濃厚な血の匂いに眉をひそめる。また犠牲者が出たのかと一行が急いで匂いのしてきた場所に向かうと、其処にはバラバラにされた今回の討伐対象らしき悪魔の姿と一人の人物の姿があった。

 

「……貴方は誰? それは貴方がやったのかしら?」

 

リアスは警戒しながら目の前の人物に問いただす。目の前の人物は赤いローブで全身を覆い、いたる所に宝玉のついた骨のようなものが絡みついている。そしてフードの奥の相貌は龍の頭蓋骨を模した仮面で隠されていた。その人物はリアスの方を振り向くと声を発する。その声からは変声機などを使ったような声ではないにも関わらず、年齢も性別も伺うことができなかった。

 

「うん。そうだよ。それがどうかした?」

 

「……その服装からしてエクソシストではないようね。まぁ、良いわ。この街は私の縄張りなの。少し話を聞かせて貰うわよ」

 

リアスから告られた言葉にその人物は困ったように天を仰いで呟いた。

 

「……ブラックバス」

 

「?」

 

「ブラックバスってさ、ほかの魚の卵とかは好き勝手に食べるけど自分の卵に近づくと怒って襲い掛かるんだって。そうやって他の魚を虐げて自分たちの縄張りを広げて……勝手だよねぇ。ねぇ、君達はそんなブラックバスが駆除されるのをどう思う? やっぱり本来居ないはずの魚なんだから仕方ないよねぇ」

 

「……まぁ、そうでしょうね。さぁ、無駄話はここまでよ。とりあえずそのフードを脱いで顔を見せて頂戴」

 

「……だからさ、この世界に居ないはずの君達悪魔が縄張りだなんだと主張するなら、たとえ駆除されても仕方ないよね?」

 

「皆!」

 

謎の人物から発せられた気味の悪いオーラに対しリアスは警戒しながら下僕達に指示を飛ばす。朱乃が雷を放ち、金髪の少年の木場祐斗が剣で斬りかかり小猫が拳を振るう。だが雷が直撃する瞬間、その人物の姿は霞の様に消え去り、笑い声だけが響いた。

 

「あはははははは! 冗談だよ冗談。なんで僕がわざわざボランティアでそんな面倒な事しなきゃならないのさ。最近寒いから風邪引かないようにね、白音ちゃん♪」

 

「ッ!? なんでその名前を!?」

 

小猫は声の主に向かって叫ぶも返事は帰ってこず、一同が諦めて帰ろうとしたその時、リアスは床に落ちている駒王学園の生徒手帳に気付いた。

 

「コレはアイツが落とした物かしら。……ふぅん、彼がねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やばっ! 生徒手帳落としちゃったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次にの日の放課後、一誠がカバンを纏めていると急に女子生徒が騒ぎ始め、見てみると入り口に女子に人気の木場祐斗の姿があった。彼はイケメン王子と呼ばれ成績優秀スポーツ万能なので殆どの女子から人気が有り、モテない男子生徒から敵視されているのだ。当然、変態二人組と呼ばれる松田と元浜も彼を嫌っており、一誠の近くでしていたAV談義を止めて彼を睨んでいる。すると祐斗は一誠達の方を見て……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、君が松田君だね。リアス部長が呼んでいるよ。悪いけど僕についてきてくれるかい?」

 

「リ、リアス先輩がっ!?」

 

リアス・グレモリーは二大お姉様と呼ばれ男女問わず人気がある。当然彼も憧れており、その憧れの対象からの呼び出しにウキウキしながら着いていった。

 

 

「そんな! お姉様があんな変態に何の用!?」

 

「いやぁぁぁぁっ!! あんな変態のそばにいたら、お姉様が汚されちゃう!」

 

普段の行動が行動なだけに松田は女子生徒から蛇蝎のごとく嫌われており、そんな彼が憧れの対象から呼び出されたと聞いて次々と悲鳴を上げる。

 

 

「な、なんでアイツだけがぁぁぁぁっ!!」

 

「……帰ろ」

 

残された元浜が悔し涙を流す中、昨日拾った生徒手帳をたまたま何処かに落とした一誠はそそくさと帰っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「惚けないで! 貴方があの場所にいた事は分かっているのよ!」

 

「いや、だから俺は何も知らないですよ! だいたい、はぐれ悪魔って何っすか!?」

 

 

 

 

「……少し悪い事したかなぁ?」

 

従えた霊を使って部室の中を盗聴していた一誠は少しバツの悪そうな顔をする。オカルト研究部の中ではリアス達と松田の押し問答がされており、一向に話は前へと進まない。当然だろう。リアス達は昨日の人物が松田だと思い込んでおり、松田は身に覚えのないことを問い質されたばかりか悪魔や神器など、はっきり言って電波としか思えない事を話されているのだ。いくら美人でもオカルト研究部とか作ってるだけあって電波なのかな、と若干松田が引き出した時、リアスは溜息を吐くと一枚の書類を取り出した。

 

「……兎に角、貴方には監視の為に入部してもらうわ。さ、入部届けにサインして頂戴」

 

「は、はぁ……」

 

もしかしたら部活の勧誘の一貫だったのかな、と思いつつ、これ以上付き合いたくないけど拒否したらやばそうだな、と判断した松田は後日生徒会にでも相談しようと思いつつ入部届けにサインをした。すると先程まで離れていた小猫が彼の傍により問いただす。

 

「……先輩。なんで私の本当の名前を知っているんですか?」

 

「……本当の名前?」

 

この子、厨二病か。きっと無口なのも、あまり話さない私カッケェとか思っているんだろうなぁ、と戸惑いながら思った松田であった……。



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四話

「……そうですか。では、私の方から言っておきます」

 

松田からリアスが強引な勧誘を行っているという相談を受けた生徒会メンバーの話を聞いた生徒会長支取蒼那は頭痛を堪えながらそう言った。実は彼女も悪魔であり、生徒会メンバーも彼女の眷属なのだ。この学園はリアスの家が管轄しているが、昼間は生徒会として彼女が仕切っており基本的に相互不干渉となっている。だが、相談を受けた松田は強引な勧誘の事を他の生徒にも話しており、彼の普段の行動もあって信じる者は少ないが、相談を受けた事が知られている以上は放っては置けない。故に今回は動かざるを得なかった……。

 

 

 

 

 

「……それでリアス。彼の素性は洗ったのですか?」

 

「ええ、徹底的にね。でも何も出てこなかったわ。でも、はぐれ悪魔を倒した奴が落とした生徒手帳は確かに彼の物だったのよ」

 

「……そうですか。貴女の家の調査力を持ってもなお正体を掴ませないとは、かなりの術者の様ですね」

 

まさか偶々拾っていた生徒手帳を偶然落としただけとは思わない二人の中で、一般人である松田は凄腕の術者となっていった。

 

「……眷属に誘ってみようかしら。あれだけの術者だから兵士八個で足りれば良いけど」

 

 

 

 

 

 

その後、色々と証拠を見せられた松田は悪魔の存在を信じ、兵士の駒三つで眷属となった。実は彼にも光の矢を放つ『青光矢』という神器が宿っており、彼もソコソコのスペックを持っていた為に三個の消費となったのだ。その後リアスは彼の正体の事を改めて問いただすも、当然彼の答えは同じく、知らない、と言うもの。その答えに少々業を煮やしたリアスであったが、眷属になったのだからとグッと堪える。何時か正体を暴いてみせると心に誓いながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふ~ん。上級悪魔になってハーレムかぁ。アイツも相変わらずだなぁ。反逆とか考えてないのかな?」

 

流石に気になっているのか部室の盗聴を続けている一誠は、松田が悪魔になった経緯を聞いて苦笑する。

 

『まぁ、相棒には縁のない話だな。……所でなんで異形ばかり手駒にしているんだ?』

 

「なに? ドライグも女の子が好きなの? まぁ、分からなくもないけどさ」

 

『ドラゴンの雄はそういうものだ。俺を宿す相棒も戦いと女を呼び寄せる宿命にある。まぁ、今の所は黒歌と彼奴以外は人形やら便所の幼女にしかモテておらんがな。……だからな、もう少し下僕にまともな見た目の女を増やせ。できれば見ていて楽しめるような美人を頼むぞ』

 

一誠は無数の霊魂を従えては居るものの殆どが異形であり、マトモな見た目の女がいない事をドライグは常々不満に思っていた。別に一誠はそういう事に興味がない訳でなく、やや嗜好が偏りがちだが性欲は強い方である。にも関わらず彼を取り巻く女性にはマトモなのが少ないのだ。

 

「五月蝿いよ、むっつりドラゴン。エロ龍帝」

 

この時、本来の歴史とは違うドライグの不名誉な名前が作り出された。朱に交われば赤くなる。長い付き合いの中ですっかり染められてしまったようだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい。部下には計画を進める様に言っております。それと今日は部下の一人が悪魔との取引の常連を殺しに行くと言っていました」

 

「ご苦労様♪ 多分その内に悪魔と敵対する事になると思うから交戦してね。悪魔に死んだと思わせて回収するから。あっ! 滅びの魔力は魂ごと吹き飛ばさるんだっけ? まぁ、別の手段があるから安心して」

 

その日の晩、レイナーレから連絡を受けた一誠は今後の指示を告げる。普段なら戦争を避ける為に極力争わないようにしている悪魔と堕天使だが小競り合いは時偶起きている。そして今回の彼女達は上を騙してある計画の為に動いているのだ。もしリアス達と戦ってもそれは小競り合い扱いされ戦争は起きない。だからあえてその情報を流して彼女の死を偽装しようというのだった。

 

「ああっ! 流石です一誠様! それでこそ私の主だわ! ……それであの、この任務が終わったら……」

 

「ああ、分かってるよ。ちゃんと仕事を終えたらご褒美をあげる。それで君は生前なりたかった至高の堕天使にしてあげるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……部下の魂と君の元守護霊を食べる事でね」

 

邪悪な笑みでそう告げる一誠に対し、レイナーレは恍惚の表情を浮かべていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

……どうしてこんな事になったのだろう? 少女はそう思いながら溜息を吐く。彼女の名はアーシア・アルジェント。かつて聖女と崇められ、魔女として追放された悲劇の主人公だ。両親に捨てられたアーシアは教会の孤児院で育ち、傷を治す神器に目覚めた事で聖女と呼ばれるようになった。それからは周りの者達は彼女を聖女としてしか見なくなる。彼女のたった一つの望みである友人が欲しいという願いも叶いそうになく、それでも彼女は懸命に人の傷を癒してきた。そしてある日、その日々は崩壊する。

 

「魔女めが! 出て行け!」

 

ある日、傷ついた悪魔を癒したアーシアは悪魔を癒せる魔女として教会を追放され、やがて生きる為に堕天使の組織に入る事となった。神器とは神が人に与える物。彼女はその神器によって人生を狂わされながらも神への信仰を失っていなかったのだ。彼女は今日は悪魔に力を貸す者にお仕置きをすると聞かされ、邪魔が入らないように結界を張るように命じられていた。だが、何やら不審な物音が気になった彼女は言い付けに背き部屋を覗いてしまう。そこには磔にされた惨殺死体があった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……松田さんは上手くやっているかしら?」

 

「まぁ、あれだけの術者ですもの。上手くやっているでしょう」

 

悪魔は人間の願いを叶えて代価を得る契約によって力を蓄える。今は悪魔を呼び出せるだけの術者が居ないので魔方陣が書かれた使い捨てのチラシを使っている。そう、一誠がすぐに捨てた例のチラシである。新人はチラシ配りからだが、松田は本日より契約の仕事を任される事となった。まだ彼が凄腕の術者だと勘違いしている彼女達は特に心配もせずに彼の帰還を待っていた。その時である。彼は突如部室内に姿を現した。

 

 

「やぁ、久しぶりだね」

 

そこにいたのはリアス達が松田だと勘違いした一誠の姿だった。

 

「……松田君? いや、彼はまだ転移先に居る。……まさか! 彼は本当に別人だったのか!?」

 

「うん、そうだよ。いや~、たまたま拾った手帳を落としちゃってさ。君達の勘違いには笑わせてもらったよ。まぁ、無関係な一般人なのに問い詰められ、甘い話だけ聞かされて危険たっぷりの世界に彼が誘い込まれたのは俺にも責任があるし、今日は良い事を教えに来たよ。……堕天使の手先が彼の転移先にいる。早く行かないと殺されちゃうよ?」

 

その言葉を聞いたリアスは慌てて立ち上がり、一誠を睨みながらも今は急ぐべきと判断して転移して行く。一人残された一誠はボソッと呟いた。

 

 

「さ、予定調和の茶番劇の始まりだ。……アーシアとか言う子はどうでも良いか。死んだらレイナーレの餌にでもしよっと」

 

『相棒。やはりお前は最悪だな』

 

「……何を今更」

 

その日の夜、何時もの様に旧校舎から異界に入り込んで異界の住人と話をしていた。

 

「あ~、俺もバイク乗ってみたいんだよね。免許ってどの位かかるの?」

 

「!$%#&‘*」

 

「え!? 本当にバイク貸してくれるの? まぁ、確かに此処なら無免で乗っても咎められないからね」

 

一誠と話をしているのはバイクに乗り、特攻服に身を包んだ暴走族と思しき男。二人はバイク談義で盛り上がっており、随分と仲が良さそうだ。そう、一見すると暴走族と普通の生徒の会話にしか見えないだろう。暴走族の頭部が無い事を除けば……。

 

「ねぇ、ねぇ、黒歌ぁ~。なんでイッセーはアイツの言葉が分かるの~?」

 

「さぁ、私にも分からないにゃ、メリー」

 

 

首無しライダー。敵対する暴走族の用意したピアノ線の罠によって首を飛ばされた暴走族の霊……という都市伝説によって生まれた存在だ。なお、首が無いのに話す事ができる彼だが、その言葉を理解できるのは一誠と纏め役の口裂け女だけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は松田の悪魔としての初契約の日だった。身に覚えのない事で疑われ問い詰められてはいたが、やはり美少女揃いの為に彼は部に馴染み悪魔になる事も平気で受け入れる。自分にはそれなりに役に立つ神器もあり、彼はいい気になっていた。力がある事と力を扱える事は別だとは知らずに……。

 

 

 

 

 

「な、なんだよ!?これは……。うっ、おぇぇぇぇぇぇ」

 

彼が召喚されてまず見たものは部屋の主らしき人物の惨殺死体だった。逆さ十字に磔にされ、臓腑が丸見えという異常な光景に一般人の感性を持つ彼が耐えられるはずもなく、胃の内容物を床にぶちまける。口の中に広がる酸っぱい味と溢れ出す涙に耐えながら壁を見ると血文字で何か書いてあった。

 

「これは……」

 

「それは、悪い事する子にはおしおきよ~♪ って書いてあんだよ」

 

「だ、誰だ!?」

 

松田が振り返った先に居たのは白髪の少年神父。腰には銃を携え手には刀身のない剣を持っていた。

 

「これはこれは、悪魔君じゃあ~りませんか。んじゃ、早速で悪いけど……死んでくれや!」

 

少年神父は銃を抜き剣を構える。何時の間にか剣には光る刀身が現れていた。

 

「ま、待て! なんでいきなり襲ってきてんだよ!?」

 

「ん~? な~んか変だな~。あ~、なる程。お前、この世界の事よく知らないまま転生したって奴だな。んで、主から詳しい説明受けてねぇんだろ?」

 

リアス達は松田が術者だと勘違いしていた為、自分達の世界の事を詳しく説明していなかった。少年神父は彼の反応に不信感を覚えた後、すぐにその答えに行き着いたのかニヤニヤ笑いながら松田に視線を向ける。

 

「まぁ、冥土の土産に教えてやんよ。僕ちゃん出血大サービス! まぁ、出血すんのは君オンリーだけどよ。君達悪魔と敵対してる天使や堕天使は自分達に従う人間に力を与えて悪魔と戦わせてんのよ。んで、俺っちは堕天使の手先ってわけ。この部屋の奴は悪魔を呼び出す常連だったからちょっとキツめのお仕置きをしてやったのよ。……にしても君も不幸だね~」

 

「な、何がだよ!?」

 

「いやいや、何も知らない一般人を態々手駒にするって事は神器持ってんでしょ? 君も少しは鍛えてるようだけど所詮は一般人。……そんなもん持ってなきゃ殺されずに済んだのによ」

 

神父はそう言うと銃で松田の太股を撃ち抜く。その瞬間、強烈な痛みが彼の全身を駆け巡った。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「痛いっしょ? 君達悪魔にとって猛毒になる光力をたっぷり込めた祓魔弾はよ」

 

「く、くそっ! 俺だって……」

 

松田は痛みに耐えながら神器を発動させる。彼の神器は青い光の矢を放つ『青光矢』。だが、矢を神父に放とうとした松田の脳裏に浮かんだのは、全身を撃ち抜かれ血潮をまき散らしながら悶え苦しむ神父の姿。今まで喧嘩くらいしかして来なかった彼にとって、他人に殺傷しかねない攻撃を放つなど難しかった。それは当然だろう。ある日いきなり剣や銃を持たされ、目の前の動物を殺せ、と言われて実行できる人はそんなに居ない。ましてや相手は自分と同じ人間だ。それを感じ取ったのか神父の表情には多少の哀れみさえ込もっていた。

 

「……なぁ、どうせお前を悪魔に誘った奴から対して説明されてねぇんだろ? 上層部は転生悪魔を見下してるって事やレーティングゲームの事とかよ。レーティングゲームって知ってるか? 悪魔が異空間で行う模擬戦だよ。相手を斬ったり火で焼いたりするのを悪魔はスポーツみたいに思ってんだよ。ま、一応死なないようにはなってるらしいけどよ。……お前に出来んのか? 相手が戦闘不能になるまで殴ったりとかをさ」

 

「な、なんだよ、ソレ!? 俺は聞いてない! そんな話は聞いてないぞ!? ただ頑張れば上級悪魔になってハーレムができるって部長が……」

 

「……そりゃ騙されたんだよ。言っとくがよ、上級悪魔になろうと思ったらゲームで活躍しなきゃなんねぇぜ? ……ま、選んだのはお前自身だ。安心しな、せめて楽に殺してやんよ」

 

神父は松田の首筋めがけて剣を振り下ろそうとする。その時、部屋の戸が開き一人の少女が入ってきた。

 

 

「あの~、フリード神父? その人は……キャァァァァァァァっ!?」

 

「あ~あ、大人しく外に居ろって言ったじゃんアーシアちゃん。壁の奴は悪魔に力を貸してたから殺したの。此奴は悪魔。はい、説明完了!」

 

死体を見て腰を抜かして悲鳴を上げるアーシアに対し、神父……フリードは頭が痛そうに溜息を吐く。どうやら彼女が部屋の惨状を見たらこうなると予想していたのだろう。先程の松田と同じように吐きそうになっている彼女に近づくとハンカチを差し出し、彼女の背中をさすっていた。

 

「ダメだよ~? 言いつけ破っちゃ。大人しくしてろって言ったじゃん。さ、今からアイツの首をスパリンチョするから外に出てろよ」

 

「あ、あの人も殺すんですか?」

 

「そうだよ? だって、それが仕事だもん」

 

そう言ってフリードが立ち上がろうとした時、その裾をアーシアがガッシリと掴んだ。

 

「……止めてください。いくら悪魔に力を貸しても人を殺すなんて間違ってます! それにそこの人を殺すのも……」

 

「……はぁ? あのな~、君って学習能力ないの? そんな考えで悪魔を助けて追放されたんっしょ? それに君が教会にいた頃からエクソシストは悪魔を殺してきてたんだぜ。それを目の前で殺されそうなのだけ助けるなんて……偽善に過ぎねぇよ。なぁ、そんなこと言うなら聖女時代にも中世の魔女狩りを批判したんだよな? 悪魔を殺すなって訴えたんだよな? ……そうじゃねぇなら黙ってろよ」

 

フリードはそう言って手を離して黙り込むアーシアから視線を外し、再び松田に銃口を向ける。その時、部屋に魔法陣が出現しリアス達が転移してきた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一誠様。即急にお伝えしなくてはならない事が……」

 

「……何?」

 

その頃、異界に戻った一誠は保健室のベットで黒歌と絡み合っていた時にレイナーレから送られてきた念波に動きを止める。黒歌が不満そうに睨んでくるのを無視してベットの横に腰掛けるとレイナーレは要件を告げた。

 

「一誠様の神器が普通の神器だったと上には報告しましたので、後は殺られたフリをして合流する手はずでしたが……どうやらグレモリーとは別の悪魔に監視されています。このままでは計画に支障が出る恐れが……」

 

「……分かった。じゃあ、今日の所は交戦を避けておいて」

 

「御意!」

 

「……悪かったね。さぁ、続きをしようか」

 

レイナーレとの交信を終えた一誠が続きをしようと振り返ると其処には鬼の形相をした黒歌が居た。

 

「ねぇ、ヤってる最中に他の女と話するってどういう神経してるのかにゃ?」

 

「……御免なさい」



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五話

「……そうですか。謎の術師は彼ではなかったのですね。それで、松田君は?」

 

松田がフリードに殺されかけた翌日、リアスは生徒会室に赴き昨日の事を報告していた。

 

「何とか命は助かったわ。でも、足に光を喰らっちゃたから大事をとって休ませたの。……家に電話したら部屋に閉じ篭ってるそうよ」

 

フリードはリアス達の姿を見た途端、形勢不利と見てアーシアを担ぎ上げて逃走。堕天使の気配が近づいている事を察知したリアス達は直ぐに松田を連れて部室に戻り彼の手当をした。彼の事を信じなかった事やそのせいで説明が不十分だった事を詫びるリアスだったが、松田は恨み言を言うと部員達を振り払うように部室を飛び出していった。

 

「……彼は大丈夫でしょうか? 貴女の他の眷属は幼い頃から此方の世界に居ますが、彼は最近まで普通に暮らしてきました。価値観もあの年齢では固まっていますし、これからが大変でしょうね」

 

「……もっとあの子の事を信じてあげれば良かったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全然同情の余地なんてないわね。その子も話を詳しく聞こうとしなかったんでしょ? じゃあ、自業自得よ」

 

「うわ~、言い切るなぁ」

 

その日の放課後、異界で松田の事を聞いた黒歌はそう言い捨てる。彼女は松田が悪魔になった理由を聞いた時点で不快そうな顔になって居た。上級悪魔になれれば領地が貰え、眷属が持てる。自分の眷属ならエッチなことをしても構わないので正しくハーレムだろう。だが、一つ忘れている事がある。そんな事をするであろう人物の眷属になる事を了承する者が居るだろうか? もし居たのなら最初から上級悪魔になって眷属にしなくてもハーレムは形成できるはずだ。

 

「……ソイツ、覗きやセクハラ行為の常習犯なんでしょ? どうせ上級悪魔になったら好みの子を無理やり眷属にするんじゃないの? 今の冥界の政府は貴族至上主義。実際に何人も無理やり悪魔にされているのを知っていながら貴族なら誰でも駒を渡し、下僕が逆らったら大して調べないで罰する。……腐ってるわ」

 

黒歌は唇を噛み締め、拳を震わせながら呟く。それは松田に怒ってるというよりも、悪魔全体に怒っているという感じだった……。

 

「俺はどうなの? 霊を従えたり餌にしたりしてるけど?」

 

「貴方は自分が最悪で最低だと自覚しているでしょ? 腐ってるのに綺麗なふりをしたり綺麗だと思い込んでる奴らより遥かにマシよ」

 

「ふ~ん、そんなものか。まぁ、俺のミスが発端だしフォローは入れておくよ。明日の晩には教会に殴り込みに行って貰わなきゃいけないしね。黒歌の言うように俺は外道で最悪最低だね。でも、毒を食らわば皿まで。行き着く所まで行き着いてみせるよ」

 

「……そう。まぁ貴方とは付き合いが長いし私も付き合うわ。一緒に落ちる所まで落ちましょ」

 

二人は微笑みながら見つめ合い、そっと二人の唇が触れる。そしてそのまま一誠は黒歌を押し倒し、胸元を完全に露出させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、ごめんごめん、君達にも期待してるよ」

 

「どうしたの?」

 

一誠の手は黒歌の胸の先端に迫った所で止まり、目を閉じてその瞬間を待っていた黒歌は怪訝そうに目を開けて尋ねた。

 

「いや、ある程度知能がある霊達が、我等もお供しますって騒いでるんだ、エロ猫だけに良い格好はさせないってさ。……あと、玉藻がかなりご立腹」

 

「ふぅん、良かったじゃない。私や此処の住人以外にも慕っていてくれる相手が居て……て、今までの会話聞かれてたの!?」

 

「うん。基本的に僕の影の中か体内に飼ってるから筒抜けだよ? ふごっ!?」

 

「ばばばば、馬鹿ぁ~!! 見られてるなら見られてるって言いなさいよ! あ~、もう! 今日はお預け! そして次の時には今日の分もして貰うわよ!」

 

「……助けて」

 

一誠が黒歌のレバーブローで受けたダメージを回復させた頃には既に日が沈んでしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソクソクソ! 聞いてないぞ! 戦わなきゃいけないなんて聞いてない! 命の危険があるなんて聞いてないぞ!」

 

その夜、松田は頭から布団をかぶってガタガタ震えていた。今まで怖い思いといえば覗きがばれて追い掛け回されたり、不良に絡まれた事ぐらいだった彼には昨日の一件はショックが大きすぎた。惨殺死体を目の当たりにした上に初対面の相手に殺されそうになり、更にはこれから自分は嫌でも戦いをしなくてはならないというのだ。彼が安易に悪魔になった事を悔やんでいた時、突如誰かが部屋の中に出現した。現れたのはリアス達の前に現れた時と同じ格好の一誠だ。

 

「だ、誰だよ!? お前」

 

「う~ん、誰って言われてもどう答えれば良いのか。まぁ、君の生徒手帳を拾った後でうっかり落としちゃった人物って所かな?」

 

その言葉に松田はリアス達が言っていた事を思い出す。自分を疑ったのは生徒手帳が落ちていたからだ、と彼女達は言っていた。

 

「……あんたか! あんたのせいで俺は!」

 

「はぁ? あのさ、最終的に悪魔になったのは君の意思でしょ? 俺を責めて良いのは身に覚えのない事で問い詰められた事だけ。……大体さぁ、簡単に貴族になれるとでも思ったの? それとも契約だけで貴族に上り詰めれるほど自分が有能だとでも思ってた? 甘いよ」

 

「ッ!」

 

「ま、よく考えてみなよ。君はもう人間には戻れない。そして、もう人間じゃないんだから人間としての倫理なんか捨てちゃったら? きっと楽になるよ。……じゃあね」

 

そう言って一誠が消え去った後、松田が呆然と立ち尽くしていると部屋に魔方陣が現れ、そこからリアスが現れた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……結局、あの胸に抱き寄せられて慰められるだけで立ち直るって。時間の無駄だったね」

 

「……気にしない方が良いわ。ほら、そろそろ計画の時間でしょ? 行って来たら? 白音によろしくね」

 

あの後、リアスは松田に諸々を謝罪した後、彼を抱きしめ慰めた。どうやら一誠の容赦のない言葉の後にそんな事をされた為か彼は立ち直り、次の日には元気に登校していた。流石にまだ戦うだけの気持ちの切り替えは出来ていないが人間を辞めた事への後悔は吹っ切ったようだ。そしてその日の放課後、異界でむくれていた一誠は黒歌に慰められた後、契約を始動させにかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……しかし、堕天使の目的が分からないわね。兵藤くんを狙ったかと思いきや彼は生きてるし」

 

その頃、リアス達は部室で堕天使の動きの不審さについて話し合っていた。最初は一誠を殺しに街に潜入したかと思いきや彼は未だ生きている。それ所か彼に再接触さえしようとしないのだ。まだそれだけなら神器の一見が間違いだったなら説明がつくのだが、それでも堕天使達が未だ街に留まる理由が分からない。部屋の空気が重くなる中朱乃が立ち上がった。

 

「まぁ、今ある情報では考えようがありませんわ。紅茶のお代わりでも淹れましょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、俺にも頂戴。角砂糖は1個でいいよ」

 

「あらあら、ちょっとお待ちに……」

 

朱乃は紅茶をティ-カップに注いだ所で固まる。何時の間にか部屋の中に一誠の姿があった。

 

「な、なんで貴方が此処に居るのよ!? まぁ、良いわ。今日こそ詳しく話を聞かせて貰うわよ!」

 

「え~、面倒臭いから嫌だよ。……ねぇ、堕天使の目的知りたくない? 堕天使の所にアーシアっていうシスターが居るんだけど、その子の神器は悪魔さえ癒せるんだけど……それを抜き取る気なんだ。神器を抜き取られたら死ぬって知っていながらね」

 

「……そう。それで、そんな事を態々私達の所に言いに来る理由は?」

 

「うん。そこなんだけど、堕天使達は上を騙してやってるんだ。でも、そろそろ誤魔化しきれなくなったから儀式を今晩行う気だよ。ねぇ、任務外て事は殺しても小競り合い扱いになるけど……散々舐められた真似されて悔しくないの? ……これで松田君の件はチャラね。んじゃ!」

 

「ちょっ!? 待ちなさ……」

 

一誠は話を終えるなり立ち上がり、リアスが止めるのも聞かずに溶けるように消えていった……。

 

 

 

 

 

「……それでどうしますの?」

 

「……行くわ。グレモリー家を舐めた報いを受けさせてあげなきゃいけないもの。……貴方は留守番してなさい」

 

リアスに残るように言われた松田だったが、少しの間悩んだ後に決意を決めた顔で立ち上がった。

 

「……行きます。まだ戦う勇気はないけど、それでも此処で逃げ出したら、きっと何時までも逃げ続けるから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウフフイ…。此れで良いんだろ…? 簡単だったヨ…。クスクス……」

 

 其れは堕天使が根城にしている教会を監視していた使い魔達を気付かれる事なく皆殺しにした後、愉快そうな声で一誠に報告してきた。真っ白な肌と目にアリクイにような細長い口と舌。その存在の名はブイヨセン。一誠が従える悪霊に中でも知能や力が特に高い者達の中の一体である。今、正体が悪魔に露見するリスクを考えた一誠は、万が一にも見つからないようにリアス達と堕天使達を戦わせる直前を選び、更に奇襲向きの能力を持つブイヨセンに仕事を任せた。視認できない場所にも攻撃可能かつ強力な念動力。それが彼の能力だ。

 

「うん。引き続き監視を続けてくれる? 見つからないように気をつけてね」

 

ブイヨセンの視界を通して教会の様子を見ていた一誠はソファーに座って指示を出す。その後ろにはレイナーレの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……恐ろしいものですね。私も生きていたら、あの魔力で消し飛ばされていました」

 

レイナーレはテレビに映った教会での戦いの様子を眺めてそう漏らす。画面にはリアス達に追い詰めら荒れているレイナーレと部下達の姿が映っていた。

 

「あはははは! まさか既に堕天使達は死んでブイヨセンが死体を操ってるとは思わないだろうね。ねぇ、部下の魂は美味しかった?」

 

「ええ、一誠様から初めて頂いたものですもの。美味しく頂きましたわ。それに、私の守護霊をしていたのは仲の良かった先輩の上級堕天使。その魂を食べた事で……ほら♪」

 

レイナーレは笑みを浮かべながら翼を広げる。その背中には六枚の黒い翼が存在していた。レイナーレは翼を仕舞うと一誠の隣にそっと腰掛ける。

 

「ああ、昔はアザゼルの愛が欲しかったですが、今は一誠様にお喜びになっていただくのが私の望みですわ。何でしたらこの体を貴方のお好きなように……」

 

何時の間にかボンテージ姿になっていたレイナーレはそっと一誠にしな垂れかかる。一誠はそんな彼女から距離をとり、彼の後方で狐の尻尾が揺れていた

 

「……いや、惜しいけど止めとくよ。怖いのが居るからね」

 

一誠の視線の先には体の半分を吹き飛ばされながらもリアスに向かって光の槍を放とうとした堕天使の一人の腕を松田が光の矢で撃ち抜く姿が映っていた。その姿を見たブイヨセンは可笑しそうに笑う。

 

「クスクスクス……! ようこそ! 暴力と殺戮の渦巻く非日常の世界に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとレイナーレ! イッセーは女には不自由してないから、貴女はご奉仕しなくていいわっ!」

 

「あら? 私は一誠様の下僕です。私がお世話するのに何か問題でも? 貴女、余裕がないんじゃない? 自分の魅力に自信がないとか? アハハハハ!」

 

「キー! ……こうなったら! どっちがイッセーを満足させられるか勝負よ」

 

「あら、男を誘惑するのも堕天使の女の仕事なのよ。私が負けるはずがないわ」

 

黒歌とレイナーレが睨み合う中、一誠はこっそり逃げ出して倉庫に隠れていた。

 

「ねぇ、イッセー。何してるの?」

 

「あっ、メリー。悪いけど俺が此処に居るのを黒歌とレイナーレには黙っていてくれない? 二人に襲われそうなんだ」

 

「二人共ー! イッセーは此処に居るよー! ……ベーだ!」

 

メリーは不機嫌そうにそう言うと何処かに消えて行き、一誠は呆気なく二人に捕まってしまった……。

 

 

 

「「さぁ、イッセー(一誠様)! お相手して貰うわ(貰います)!!」」

 

「誰か! 誰か助けてください!」

 

だが、現実は非情である。結局、拗ねていた大本命の側近に助けて貰うまで一誠は逃げ続けた。



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戦闘校舎のフェニックス
六話


ぽてぽてと足音を立てながら一誠の後ろを見知らぬ少女がついて来ていた。その少女と出会ったのはつい先程の事。今月分の魂を収める際にハーデスから”何時もの礼にレストランを予約している”と言われ、意気揚々と向かっていた時、その少女と出会った。

 

「ドライグ、久しい」

 

「人違いだよ? じゃあ、急いでるから」

 

一目見ただけで少女に関わるのは不味いと察した一誠は、突然話しかけてきた少女の横を早歩きで通り過ぎる。だが、足の長さ等の差があるにも関わらず少女は一誠にぴったり付いて来た。

 

「今回の赤龍帝、何時もと違う。何故?」

 

「……変な子だなぁ。悪いけど俺急いでるから後にしてくれる?」

 

『……やはりオーフィスはお前の事を察したか。気を付けろ相棒。此奴はヤバイ』

 

「……うん。確かにヤバイよ。勘違いした人に通報されそうだ」

 

一誠は真剣な顔でドライグの忠告とは別の事を心配する。目の前の少女はまだ幼いうえに前面が大きく空いた黒のドレス。胸にはシールでバッテンがされているだけであり、こんな少女と一緒に居たら『お巡りさん、あの人です』等と通報されかねない。流石の一誠もそんな事で捕まるのだけは勘弁して欲しかった。彼は年上のお姉さん系が好きなのであってロリコンではない。

 

『いや、そうじゃなくてな!』

 

「ん? そう言えばドライグと知り合いなんだよね? ドラゴンは他の種族のメスも大好きだから……この変態ロリペド野郎! エロ龍帝じゃなくて、ロリ龍帝ペドドラゴンだったの!? うわっ! 神器が便利だから食べないでおこうと思ってたけど、食べなくて良かったぁ」

 

『うぉぉぉぉぉぉん!! 誰か此奴を止めてくれぇぇぇぇぇっ!! てか俺、命拾いしてた!?』

 

 

 

「……むぅ。今回の赤龍帝、変」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《貴方が一誠様でやんすね? 初めまして、あっしはベンニーアでやんす》

 

一誠がハーデスに指定された場所に向かうと、其処に居たのは金色の目をした少女だった。

 

「ふぅん。君、ハーフだね? 死神と人間の気配が同時にするや」

 

《ありゃりゃ、お見通しでやんすか。確かにあっしは最上級死神と人間のハーフでやんす。今日は将来の仕事の体験を兼ねてご接待させて頂きやす。それで、お連れの方はいらしゃるので?》

 

ハーデスが言うには一人までなら連れが居ても構わないそうなので、異界の住人を誘おうとした一誠であったが、口裂け女はマスクを外したらあの有様であり、黒歌は万が一悪魔に見つかったら拙いからと拒否、メリーや金次郎像やベートーベンの肖像画は問題外。大本命の側近は所用で居ない。唯一連れていけそうな花子さんは人見知りで連れて行ける者がいなかった。

 

「うん。この子を連れてきたよ」

 

だから余りにしつこく付いてくるオーフィスを連れて行くことにしたのだ。流石にあの服装の彼女を連れて歩けないので無数の霊を彼女に纏わせ前面を覆い隠す。そうする事で通報を避けた一誠はベンニーアに案内されてレストランへと向かった。

 

 

 

 

 

「ふ~ん。冥府も色々大変なんだね」

 

《そうなんでやんすよ。ハーデス様って結構根暗ざんしょ? まぁ、悪い方ではないんっすが……。あっ、影口を言ったの秘密にしておいて欲しいでやんすよ。ハーデス様や幹部の皆さん、一誠様の事を大分買っているようでやんすからね。マイナスの印象を与えたと知られたら怒られるでやんす》

 

「うん。言わないでおくよ」

 

《いや~、助かったでやんすよ。いえね、むさ苦しい親父よりもあっしのような女子が一緒の方が気楽だろうと気を回したんでしょうが、結構緊張してたんでやんすよ。機嫌損ねて冥府への就職を蹴られたらどうしようってね。……所で其処の子は一誠様の妹か何かで?》

 

「違う。我、オーフィス。無限の龍神」

 

ベンニーアの見つめる先では運ばれてくる料理を口元が汚れるのも気にせずに黙々と食べ続けるオーフィスがいた。話を振られた彼女は名乗るとすぐに食事に集中しだす。

 

「どうやらドライグの知り合いみたいでさ。確かハーデスの爺さんが名前を言ってたのを思い出したから連れて来たんだ」

 

《あ~、オーフィスといえば世界最強の存在っすよ。ハーデス様が執着してるって聞いた事があるでやんす。……そうそう、住んでる街を縄張りにしてる悪魔と出会ったそうっすね? ハーデス様達が心配して言ってたでやんすよ。『蝙蝠如きに迷惑かけられているようなら話し合いの場を作れ。誰か同席させてやる』って》

 

「うわ~、俺、かなり期待されてる? なんか外堀埋められそうで怖いけどお願いしようかな? なんか俺を探そうと調べまわってるみたいでさ、はぐれ悪魔が街に入ってきても狩れないんだ。じゃあ、向こうにその辺りを伝えた後で日にちを連絡するね?」

 

 

 

 

その後、何時の間にかオーフィスが居なくなっていたが、一誠はそれを気にする事もなく異界に顔を出した後に帰路に着いていた。そんな時、向こうから走ってくる知った顔を見つけた。どうやら悪魔になったらしいアーシアと一緒に契約用のチラシを配っているようだ。

 

「……アーシア先輩、もう学校には慣れましたか?」

 

「はい。お友達も何人か出来ましたし、今度お買いものに行く約束もしました」

 

小猫はアーシアを連れて機械に表示された家にチラシを入れていく。本当ならチラシ配りは新人の仕事なのだが、アーシアじゃ世間知らずでまだ街の様子を理解していない。なので同性の小猫がフォローに回っているのだ。そしてチラシもそろそろ配り終えるといった頃、龍の骸骨のお面とローブで正体を隠した一誠が姿を現した。

 

「やぁ、白音ちゃん。久しぶりだね」

 

「……何の用ですか? それに、何故その名前を……」

 

「ひ~み~つ~♪ ちょっとお願いがあって来たんだ。あっ、そっちの子は新人さん?」

 

「あっ、初めまして。アーシア・アルジェントと申します」

 

アーシアは目の前の不審人物にペコリと頭を下げる。その行為に少々面食らった一誠であったが、直ぐに挨拶を返した。

 

「うん、ヨロシクね。悪いけど俺の名前は言えないんだ」

 

「……早く本題に入ってください」

 

「あ~、はいはい。分かった分かった。そう睨まないでよ白音ちゃん。……君達の主に話があるんだ。僕のバイト先のお偉いさんも同席しての話し合いをしたいから、都合の良い日にちを教えてくれないかな? とりあえず明日電話するね」

 

一誠はそう言うなり闇夜に溶けていく。まるで初めから其処には居なかったかの様に一誠の姿は掻き消えた。

 

 

 

 

 

「……そう。アイツがね……。良いわ、話し合いに応じましょう」

 

小猫から連絡を受けたリアスはそう言って頷いた後で首を傾げる。

 

「あら? この部室には電話はないし、何処にかける気かしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、メリーさん。今、代わるわね」

 

 

「……あっ、ゴメンね。ちょっと代わりにかけて貰ったんだ。それで何時なら都合が良いの?」

 

「……なんで私の携帯番号を知っているのかしら?」

 

「まぁまぁ、細かい事気にしてたら小じわが増えるよ?」

 

「ッ~~~~~~っ!! ま、まぁ、良いわ。明後日よ! 明後日の放課後に来て頂戴!」

 

「うん、分かったよ。あっ、夜ふかしはお肌の天敵だから、あまり遅くまで起きてると小じわが……」

 

リアスは話の途中で携帯の電源を切るとソファーに叩きつける。其のあまりの迫力に部員一同が遠ざかる中、リアスは不安そうに呟いた。

 

「……あ~、もう。あの件で忙しいっていうのに面倒ね。……祐斗は紳士だし、あの子はまだ私に不信感を持ってるし、ギャスパーは……無理ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして約束の日、霊に擬態させた自分の偽物を帰宅させた一誠が部室へと向かうと、銀髪のメイドが居た。彼女は一誠の方を見ると警戒心を隠そうともせずに視線を向けてくる。

 

「……初めまして。グレモリー家のメイドのグレイフィアを申します」

 

「うん! 宜しくね。……グレイフィア? もしかしてグレイフィア・ルキフグス?」

 

グレイフィアの名前を聞いた一誠は嬉しそうな声を出して彼女に問う。自分の事を知っている事に眉を動かすグレイフィアであったが、調べれば分かる事かと軽く頷いた。

 

「はい。私の出身はルキフグス家ですがそれが何か?」

 

「やっぱり! いや~、一目見たかったんだ。現ルシファーの『女王』であり妻である貴女の顔を」

 

「……何故私の顔を見てみたかったのですか?」

 

一誠の言葉を不審に思った彼女はそう問いただす。すると一誠の口角が愉快そうに釣り上がった。

 

「いやだって、前ルシファーの側近の家の長女として沢山の敵を葬り、忠義を誓う将兵や無理やり戦争に参加させられた民を死地に追いやっておいて、自分は味方を沢山殺した敵の英雄と恋に落ちて子供まで産んで幸せでいるんだもん。どんな顔で暮らしてるか見てみたいじゃん? ねぇねぇ、旧魔王派が僻地に追いやられた時に彼らと共に僻地に送られた悪魔の中に、彼らが怖くて仕方なく従っていた悪魔は何人居るんだろうね? 今も苦しい思いしてるんだろうな~」

 

「ッ!」

 

一誠の言葉にグレイフィアが唇を噛みしめた時、リアス達が見慣れな魔法陣が部室に出現する。どうやらグレイフィアは見覚えがあるらしく驚いた顔をしていた。

 

「あっ、来た来た。……わ~お」

 

一誠も転移してきた人物を見て驚きの声を上げる。精々来たとしても最上級死神のプルートだと思っていたのだが、

 

《ファファファ……。久しぶりじゃな》

 

出てきたのは冥府の王であり、死を司る神であるハーデスだった。そのオーラにリアス達が気圧される中、一誠は平然と彼に話しかける。

 

「あれ? なんでハーデスの爺さんが来るの? もしかして暇なの?」

 

《……相変わらず口が悪いのう。久しぶりにお前の顔を見ようと思っての。して、貴様と話し合いをするコウモリは其処の紅髪のグレモリーで良いのか?》

 

「……なぜハーデス様が? まさか彼は貴方様の部下でしたか? しかし、此処は我々の縄張り。何も言わずに部下を侵入させられては困ります」

 

《ああ、コヤツはまだ部下ではない。ただ、部下にしたいとスカウトをしており、ちょっとしたバイトをして貰っておるだけ。それに、侵入というがコヤツは元よりこの街の住人。キサマらもこの街の住人全員に”自分達はこの街を縄張りにする”、と許可を取ったのか?》

 

「それは……」

 

《ファファファ……、取っておらぬのであろう? なら、コヤツの行動に口出しするでない。むっ、どうやら客人のようじゃな。やれやれ、話し合いがある日は来客がないようにしておくべきだと思うんじゃがな》

 

グレイフィアをやり込めたハーデスは嫌味ったらしく肩をすくめる。そんな事など知る由もなく、どこかの誰かは部室内に転移魔法陣を出現させ、そこから炎を吹き出しながら出現する。だが、その炎はハーデスが錫杖をひと振りするだけで消え去った。中から出てきたのは金髪のホスト風の男だ。

 

「ふぅ、人間界は久しぶりだ。……なぁ、俺の登場の邪魔してくれたの何処の誰よ? ……まぁ、良い。愛しのリアス、会いに来たぜ」

 

「ちょっと、ライザー!? 悪いけど今すぐ帰って頂戴!」

 

男……ライザーは一誠やハーデスに気付く様子もなくリアスに近寄っていく。どうやらライザーが嫌いなのとハーデスという大物との話し合いの途中だったのも相まって、リアスは歓迎するどころか慌てて追い返そうとする。だが、ライザーは気にした様子もなくリアスの手を掴んだ。

 

「恥ずかしがらなくたって良いじゃないか。さぁ、式場の下見に行こう。日取りも決まっているんだ」

 

「ライザー様。今は話し合いの途中です。今日はお帰りください」

 

だが、リアスを連れて行こうとするライザーの前にグレイフィアが立ち塞がり動きを止める。その時になってライザーは一誠とハーデスに気付いた。

 

 

 

 

 

「うん? 誰?」

 

《最近のコウモリは礼儀を知らぬと見える。常識も足らぬようじゃな。まさか私を知らんとは。……さて、私は忙しい身なので今日の所は帰らせてもらうぞ》

 

「……何か思い付いた?」

 

悪魔や堕天使が嫌いなハーデスが文句も言わずに帰って行く事を不審に思った一誠であったが、ハーデスは含み笑いだけ残し消えていった。

 

「あっ、俺は気にしないで続けて? 彼との話し合いが終わったら続きを話し合おうよ」

 

とりあえず面白そうな事になりそうだと感じた一誠は成り行きを見守る事にした……。

 



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七話

「ライザー! 私は貴方と結婚しないと前にも言ったはずよ!」

 

「ああ、それは聞いたよ。でも、そういう訳にもいかないだろ? 君の家のお家事情は相当切羽詰っているって聞いたぜ?」

 

「余計なお世話よ! 大体、婿くらい私が決めるわ! それに本当なら大学卒業まで自由にさせてくれるって話だったじゃない!」

 

ライザーとリアスの話し合いは一向に終わる様子もなく、松田達はそれを離れて見守るだけしかできない。話題は悪魔社会の重要な事に移り、純血悪魔の血を残すのは大切だというライザーの言葉にリアスは黙り込む。そんな中、一誠は……、

 

『だけど兄貴、俺分かんなくなっちゃたよ。抱かれてるのは確かに俺なんだが、抱いてる俺はいったい誰なんだ?』

 

「あははははははは!」

 

会話の内容に全く興味がない為、暇つぶしに落語を聞いて笑っていた。グレイフィアはそれを咎めるような視線を向けるも、先程の話し合いの際にライザーが彼に同席していた冥府の王であるハーデスに失礼な態度を取った為、これ以上面倒事を増やさない為にと口には出さなかった。

 

 

 

 

 

「俺は君の下僕すべてを焼き殺してでも君を冥界に連れて帰るぞ!」

 

そんな中、頑ななリアスの態度に業を煮やしたライザーは炎を纏う。室内全体に放たれた敵意と殺意にアーシアは震え、祐斗と朱乃は何時でも臨戦態勢に入れるようにする。そして一誠はコクリコクリとうたた寝を始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《おい、起きんか》

 

「ん~? あれ? またお客さんでも来たの?」

 

だが、一誠が少しの間眠った時、突如頭の中にハーデスの声が響く。どうやら遠くから部室内部の様子を観察し念話を送ってきたようだ。一誠が欠伸を噛み殺しながら目を開けると、先程までより人数が増えていた。計十五人もの女の子がライザーの後ろに控えていた。この時になってライザーは漸く一誠に視線を向ける。

 

「所でさっきから部屋に居る此奴誰だ? 人間……だよな?」

 

「この方はどうやら冥府の王であられるハーデス様が部下にしたがっていらっしゃる方でして、最近この街でお嬢様達と揉めましたので、今日は話し合いをする為に来られました」

 

グレイフィアの言葉にライザーは顔を青くする。先ほど自分がやった事を思い出し、ハーデスの機嫌を損ねたと思ったのだ。そんな中、一誠はハーデスに話の流れを聞き、更にはとある提案をされた。

 

「……やっぱり企んでたんじゃん。ねぇ、さっきの事でハーデスの爺さんより伝言があるんだけど。『先ほどのフェニックスの小僧の態度は非常に遺憾である。後日正式に政府に抗議したいと思うが、私の提案を飲むのなら内々に済ましても構わない』、だそうだよ」

 

「ほ、本当か!? それで、その条件というのはなんだ!? 金ならいくらでも出すぞ!」

 

ライザーは一誠の言葉に安心した様子を見せる。当然だろう。故意では無いとはいえ、ギリシア神話体系の主神の兄弟であり、冥府の王であるハーデスに喧嘩を売ったも同然なのだ。そんな醜聞が広まればリアスとの婚約が破談になるばかりか、婿入り先が無くなる危険すらありえる。それ所か勘当さえも考えられるだろう。それが避けられるのなら多少の無茶も辞さない覚悟のライザーであったが、一誠から伝えられた条件は意外なものだった。

 

「なんかね、即結婚か婚約破棄かをレーティングゲームで決めるんでしょ? それに俺と俺の手駒を第三チームとして参加させたいんだって。君が俺に勝ったら今回の件は無かった事にして、俺が勝ったら示談交渉に決定。ついでにグレモリーとも戦わせたいってさ。俺が負けたら顔を晒して名前を教える。どう? 悪い話じゃないでしょ? グレモリーと戦わせるのなら、話し合いの場に余計な客が入ってこれるようにしていた事は忘れてやるってさ」

 

「はははは! 何だ、そんな事でいいのか。なら、明日にでも早速やるか? 十日後のリアスとのゲームの良いウォーミングアップにはなるだろう」

 

「……良いわ。というかそんな事言われたら受けるしかないじゃない。でも、貴方には何も得が無いんじゃない?」

 

ライザーは所詮は人間と侮り、リアスは正体不明な相手に警戒しながらもライザーを闖入させた責任を突かれては受けるしかない。だが、そこで彼女は疑問を口にした。今回の件で彼が勝っても彼には得がないのだ。

 

「うん? ああ、その事ね。俺が全勝したら今度ギリシア神話体系の世界への旅行に連れて行ってくれるってさ。しかも交通費や宿泊費だけじゃなくて遊興費も向こう持ちだって。ああ、それと俺とのゲームの日取りなんだけど、爺さんは暫く忙しくなるから五日後に同時に行ってくれってさ。片方は俺の代役を派遣するって」

 

「そうですか。では、サーゼクス様達にお伝え致します。……所で貴方が身に纏っているのは神器でしょうか? ドラゴンの気配がいたしますが」

 

「う~ん、言っても良いのかなぁ。まぁ、良いや。そうだよ。俺の神器は神滅具の中で中間的な強さを持つ『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』。そしてこの鎧は禁手(バランスブレイカー)の亜種で名前は『死を纏いし赤龍帝の(デット・オブ・ブーステッド)龍骨鎧(・ギア・ボーンメイル)』だよ。んじゃ、そういう事で!」

 

最後の最後でとんでもない事を伝えた一誠はリアス達が止める前に姿を消す。グレイフィアさえも一誠の居場所を察知できずに帰してしまった。

 

「……へぇ、神滅具、しかも禁手の亜種か。少しは面白くなりそうだな。じゃあな、リアス。そこで震えていたハゲを少しは使えるようにしないと大恥をかく事になるぞ」

 

ライザーは一誠が思ったより強そうだという事に嬉しそうにし、自分の殺気に震えていた松田を馬鹿にしながら転移していく。後に残されたリアスは少々顔色を悪くしていた。

 

「……後五日で神滅具の相手をしなきゃならないなんて。負けてもペナルティはないけど、人間に負けた事を口実に冥界に送り返されるかもしれないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~い、そういう訳で五日後にレーティングゲームをする事になったから、出る奴を決めるよ。グレモリーの相手は俺と死霊四帝から三体。ライザーは爺さんが俺の代役出すそうだから……幽死霊手を出すよ」

 

一誠は帰宅後、ある程度の理性が有る霊達に今後の方針を告げる。ブイヨセンはその内容を可笑しそうに笑い、最近部下になったばかりのレイナーレは聞きなれない言葉に首を傾げる。

 

「ウフフイ……。クスクス…。容赦ないネ…」

 

「……あの~、一誠様。死霊四帝は私を含む側近と言うのは聞いていますが、幽死霊手とは?」

 

「簡単に言うと言う事は聞いてくれるけど我が強すぎて側近には向かない問題児達だよ。でも、その強さは俺の持ち駒の中でもトップクラスの強さを持つから。あっ、レイナーレは顔を知られてるから仮面付けて出てね」

 

一誠はそう言うと自分の霊気で顔の上半分を覆う仮面を作り出しレイナーレに渡す。それを受け取った彼女は恍惚の表情を浮かべていた。

 

「ああ……。一誠様からの贈り物……」

 

「うん。俺はある程度の強さになった奴には贈り物をしてるんだ。ゲームでは活躍を期待してるよ?」

 

「はっ! お任せ下さい!」

 

レイナーレは仮面を愛おしそうに付けると片膝を付き、右腕で左胸を叩いて忠義を誓う返礼を行う。その時に胸が揺れたのを一誠はジッと見ていた。

 

 

 

「……ご主人様?」

 

「はい! ごめんなさいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一誠の影の中に潜む者達は歓喜の声を上げる。どれも狂気に満ちた声だった。

 

「旅行だって! 頑張ろうね、わたし!」

 

「うん。そうだね、あたし!」

 

「うぉれは、うぉれは、がんばるぞぉ!」

 

「やれやれ、皆さん張り切ってますねぇ。此処は私も張り切って良妻ポジを確立しなくては! あの駄猫や新米鴉には負けられません。見ていて下さいね、ご主人様♪」

 

「ヒッヒッヒ。沢山吸っちまうよぉ」

 

 

 

 

 

 

 

「こんなもんかな? どう思う? ドライグ」

 

 

ゲーム当日、一誠は雨水がたっぷり溜まったプールに小瓶の中の液体をドバドバ入れながら尋ねる。彼の足元には同じ様な小瓶が幾つも転がっており、まだ中身が入っている小瓶も幾つも置かれていた。一誠の質問に対し、ドライグは疲れ果てた様に答える。

 

『ああ、なんで今回の相棒はこんなに外道なんだ。……一応残りも入れておけ』

 

「うん! ドライグが入れろって言ったから入れておくね。いや~、ただのロリペドドラゴンかと思いきや、外道ドラゴンでもあったんだね!」

 

『何時までそのネタを引きずる気だ!? というか俺のせいにされた!? うぉぉぉぉぉん!』

 

ドライグの精神がガリガリと削られていく中、ゲームの時間が近づいてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回のゲームは非公式とは言え、グレモリー家とフェニックス家の婚約を賭けた戦いであり、多くの家の利権が絡んでいる。そしてコレから行われるゲームは婚約自体には関係ないものの、ハーデスに目をかけられている上に赤龍帝を宿す者が出場するとあって多くの貴族が観覧席に集まっていた。

 

「いや~、たかが人間とはいえ、神滅具を持っていますから少しは楽しめそうですな」

 

「まぁ、せめて眷属の一人は倒して欲しいものですな。まぁ、ゲームには事故がつきものですし死んでも仕方ないでしょう」

 

「もしそうなったら息子の眷属に迎え入れたいものです。神滅具持ちを眷属にしたら箔がつきますからな」

 

貴族達の殆どは一誠が勝つなど思ってもおらず、どれだけ足掻けるかという事を話し合っている。というよりも、生意気な人間が甚振られるのを見て楽しもうという想いの者が大半だった。そんな中、ハーデスに付き従うかのように一誠は観覧席へと入ってくる。まずはハーデスが選んだ一誠の代役対ライザーのゲームが行われるので試合を見に来たのだ。

 

《久しぶりだな、サーゼクス》

 

「これはハーデス様。お久しぶりです」

 

ハーデスの席の隣にいたのはリアスと同じ赤い髪をした青年。彼こそが四大魔王の一人であるサーゼクス・ルシファーだ。彼はハーデスに挨拶したあと、一誠の方を向く。

 

「やぁ、君が今代の赤龍帝だね? グレイフィアから聞いてたけど、本当に今までとは違う禁手なんだね」

 

「へ~、貴方が現ルシファーなんだね。うわっ、爽やか~。とても王族に逆らって王座を奪い取った人には見えないや~。お嫁さんと同じで綺麗に取り繕うのが上手だね!」

 

「はっははは……。これはキツイ事を言うね」

 

一誠が楽しそうな声で言った言葉にサーゼクスは頬を引きつらせながらも笑顔を浮かべ続ける。後ろに控えるグレイフィアは明らかに敵意を発し、貴族達も一誠を睨んでいる。だが、一誠はそんな事など気にした様子もなくゲームフィールドを映す画面に目をやる。其処には異形に囲まれたベンニーアの姿が映っていた。

 

 

 

 

《見ているでやんすか? ハーデス様達~! 期待に添えるように頑張るでやんすよ~》

 

 

 

 

「期待してるの?」

 

《いや、適当に選んだだけだ》

 

 

『それでは今よりライザー・フェニックス様と赤龍帝代理ベンニーア様のゲームを開始いたします』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、あの人間の手駒ってどんなだと思う?」

 

「さぁ、どうせ大した事ないでしょ」

 

「お喋りは其処までよ。来たわ!」

 

ゲームの舞台は駒王学園を正確に模した空間。ベンニーアの拠点は新校舎の生徒会室でライザーの拠点は旧校舎のオカルト研究部の部室だ。そして中間地点にある体育館は重油拠点であり、ライザーも其処には四人もの眷属を送っていた。そこに居たのは中華風の衣装を纏った『戦車』の雪蘭。体操服にスパッツ姿の双子の『兵士』のイルとネル。そして棍使いで同じく『兵士』のミラ。彼女達が体育館に入ってくる気配に身構えるも、その姿を見て拍子抜けした表情を見せる。

 

「……子供?」

 

そう、入ってきたのは双子なのか瓜二つの幼い少女達。髪型も同じ三つ編みで違いと言ったら服の色くらいだろう。それぞれ白と黒の服を身に纏い、仲が良さそうに手を繋いでいる。

 

「わぁ! お姉ちゃん達が一杯だね、わたし(アリス)

 

「お姉ちゃん達が一杯だわ、あたし(ありす)。じゃあ、早速鬼ごっこでもしようか」

 

二人はそう言うと両手を繋ぎ、同時に言葉を発する。

 

 

 

 

「「此処では鳥はただの鳥。此処では人はただの人。名無しの森にご招待!」」

 

「ッ! させない!」

 

異変に気付いたミラは二人に飛びかかろうとするも時すでに遅し。二人の姿が掻き消えたかと思うと遥か遠くに移動しており、何時の間にかミラ達は見知らぬ森の中に居た。それは転移したというよりも空間其の物が上書きされたかの様であり、四人は何か違和感を感じながらも二人の後を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、観覧席ではフィールドに突如起きた異変に大してどよめきが走る。そんな中、ハーデスは静かに笑っていた。

 

《ファファファ……。あの女童共中々やりよるわい。まさか世界を塗りつぶすとはな。……どういう者達だ?》

 

他の者には聞こえないように防音の術を施したハーデスは一誠に訪ね、一誠は得意げに答える。

 

「ふふん。正確には者達じゃなくて者なんだよ。あっちの白い子の名前は『ありす』。ずっと病気がちで、病室の窓から見える景色があの子の知る外の世界の全てだったんだ。友達も居なかったあの子は空想の友達を作り出し『アリス』と名づけた。其れはやがてあの子のもう一つの人格となり、死してなお一緒に居るんだ。……純粋な想いほど強い力を持つ。穢れのないまま死んだあの子の力は凄いんだ。……そして、もう直ぐあの『名無しの森』の恐ろしさが分かるよ」

 

愉快そうに笑みを浮かべて一誠は再び画面に目をやる。其処には『ありす』と『アリス』を行き止まりまで追い詰めたにも関わらず立ち尽くす四人の姿が映っていた。

 

「ねぇ、私達の名前って……ナンダッケ?」

 

「さぁ? と言うよりナマエってナニ?」

 

「何でこんな所に居るンダッケ……?」

 

「……」

 

四人は次第に目が虚ろになり呂律も回らなくなる。やがてその姿が透け始め、

 

 

 

 

「ふふふ。勝ったね、わたし(アリス)

 

「ええ、勝ったわ、あたし(ありす)

 

二人が無邪気な笑みを浮かべて向ける視線の先で完全に消えて無くなった……。

 

 

 

 

 

 

 

『ライザー・フェニックス様の『戦車』一名 『兵士』三名  リタイア……なっ!? 帰還していない!?』

 

グレイフィアは機械に表示されたゲームフィールド上から四人が居なくなったという情報を元にアナウンスを行うも、彼女達の帰還を告げる表示は何時まで経ってもされず、流石の彼女も少々取り乱す。観覧席にもどよめきが走り、先程まで黙って見ていたサーゼクスは一誠に話しかけた。

 

「ライザー君の眷属が帰ってきていないそうだが、どういう事だい?」

 

「あれの事? 『名無しの森』に入ったら二人を捕まえるか自分の名前を叫ぶまで出られないんだけど、名無しの言葉通り彼処に入ると名前を忘れ、やがて存在そのものが消えて無くなるんだ。でも、仕方ないよね。さっき貴族のオジさんも言ってたじゃん。『ゲームには事故がつき物』ってさ」

 

一誠は口角を吊り上げながらそう告げる。その笑みはサーゼクスでさえ身の毛のよだつ不気味なものだった。

 

 

 

 

 

 

そしてゲームは中盤戦に移行する。旧校舎周辺の森には『兵士』三人が配置され、先ほどのアナウンスを受けて残りのメンバーは旧校舎に集められ入り口前に待機している。そして森の上空と旧校舎に怪しい影が近づいていた……。



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八話

開始早々に起きた四人もの脱落。予想だにしていなかった事態にライザーの眷属達は慌てふためいていた。本拠地近くの森の中に配置された三人の『兵士』も落ち着かない様子だ。

 

「ちょっと! 人間相手だから楽勝だって言ったの誰よ!? 今のアナウンス聞いたでしょ。強制転移すらされないなんて……」

 

「アンタだって『精々甚振って遊びましょ』て言ってたじゃない! ……ちょっと、どうしたのよ?」

 

見下していた相手の得体の知れない力に彼女達は怯え、不安を紛らわせるかのように口論が始まる。そんな中、口論に参加していなかった一人が森の一角をジッと見ていた。

 

「い、今あそこで何かが動いたの!」

 

「ッ! 迎え撃つわよ!」

 

「で、でも、四人は死亡阻止のシステムがあるのに死んだかも知れないんだよ!?」

 

「そんな事言ったって、やられる以外でリタイアは『王』であるライザー様の意思でしかできないし、ハーデス様と揉めた事が無かった事にならなかったら拙いから、ライザー様は絶対にリタイアなんかさせてくれないわよ!」

 

三人は音がした方向を集中して見張るも誰も出てくる様子はない。三人は風のせいだったのかと三人は思いホッと一息つく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっどぉぉぉぉぉぉん!! うぉれ参上だぁぁぁぁ!!」

 

だが、突如後ろから声が聞こえたかと思った時、一人の首筋に激痛が走る。死人のような土気色の肌に白い髪の男が鋭い牙を彼女の首に突き立て血を吸っていた。

 

「あ…、助け……」

 

彼女は首筋から血を流しながら助けを求めて手を伸ばすも、恐慌状態に陥った二人は動けない。やがて彼女はミイラのように干からび、リタイアの光に包まれて消えていった。

 

『ライザー・フェニックス様の『兵士』一名リタイア』

 

彼女の退場を告げるグレイフィアの声には少々安堵が含まれていた。彼女は先ほどの四人と違って生きてリタイアする事ができ、治療によって命は助かるだろう。そして口元を血で濡らしたソイツは貴族を思わせる服の袖で血を拭うと、自分を怯えたように見つめる二人をじっと見て……狂ったように叫ぶ。

 

「だ、だめだぁぁぁ。そんな目で見ても、だめだぁぁぁ。穴が……あくあくあくぅぅぅ~。うぉれ、うぉれの名前はクドラクだぁぁぁぁぁ!!」

 

いや、実際に狂っているのだろう。クドラクはその後も意味不明で支離滅裂な言葉を叫び、ケタケタ笑いながら手を振り回す。そしてその手がぶつかる度に辺りの木々は木っ端微塵になっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《奴は吸血鬼か? 随分と理性がぶっ飛んでおるな》

 

「うん。そうだよ。正確に言うと退治された吸血鬼の怨念にスラブ人に伝わる吸血鬼の姿を与えたんだ。ちょ~っと獰猛で馬鹿だけど強いよ。怨念が古すぎて知能に影響が出て馬鹿だけど」

 

《二度も言う程か……》

 

 

 

 

 

 

 

「アヒアヒ、ヒャッハッハァァァァ」

 

「マリオン!」

 

クドラクと対峙している『兵士』のシュリヤーは仲間の名を叫ぶもクドラクに近づこうとしない。彼女の目の前ではマリオンの足を掴んだクドラクがそのまま彼女を振り回し周囲の木々を薙ぎ払う。理性が吹き飛んでいる彼の辞書には手加減という文字などなく、マリオンは容赦なく木に体をぶつけられた事で手足の骨が折れリタイアの光に包まれ出す。シュリヤーは彼女が消え次第クドラクに接近しようと足場を確かめると足に力を込め、彼の居る方向に視線をやる。だが、目を離した一瞬の内にクドラクとマリオンの姿は消えていた。

 

「ど、何処!? ハッ!」

 

彼女が辺りを見渡すと地面に不審な影が現れており、彼女が上を見た瞬間、跳躍したクドラクが消えかけのマリオンを勢い良く振り下ろした。

 

「ずっどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!」

 

轟音と共に辺りを土煙が包み込み、それが晴れた時には頭から血を流してクレーターの中心に倒れ伏したシュリヤーは、既にリタイアしたマリオンと同じように光に包まれ消えていく。

 

『ライザー・フェニックス様の『兵士』一名リタイア』

 

「ライザー様……。申し訳……あぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

僅かに残る意識の中、彼女は主への謝罪の言葉を口にする。だが、既に彼女の退場が決まったにも関わらず無防備な彼女に追撃がかけられる。クドラクが彼女に頭に足を置きグッと力を込めると彼女の頭からメリメリという音が鳴った。

 

「ウシャシャシャシャ。ギャハハハハハハ。ゲラゲラゲラゲラ。ドシャシャシャシャ。オホホホホホホ!!!」

 

クドラクは狂った笑い声を周囲に響かせ、心の底から楽しそうに無抵抗なシュリアーを甚振る。そして彼女の姿が完全に消えかけ観客達が安堵の息を漏らしたその瞬間、彼女の体を残したまま頭部が消え去る。辺りに血と脳漿が飛び散り、目玉がコロコロと転がっていった。

 

「うぉれは、うぉれは、大活躍だァァァァ!!」

 

『……ライザー・フェニックス様の『兵士』一名リタイア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう我慢できん! これはゲームへの侮辱だ!」

 

「サーゼクス様! 其処の人間を処分する許可をくだされ!」

 

観覧席ではあまりの蛮行に我慢できなくなった悪魔達が一誠に詰め寄る。他にも詰め寄るまではしなくとも殺す事に賛同の声を上げる者も居て、室内は殺意で溢れかえった。気の弱い悪魔……次のゲームに備えて観覧していたアーシアは余りの光景に気を失い、松田は気絶まではしていないが胃の内容物を豪奢な絨緞にぶちまけていた。

 

 

 

 

 

「だってさ。ゲームのシステムの不備を棚に上げて俺を殺そうって言ってるけどどうするの? サーゼクスさん。別に俺は今から彼らと殺し合いを始めても良いんだよ? ていうか勝手だよね~。ゲームのシステムも完璧じゃないんだから死ぬ事だってありえるのに、其れを楽しんで観てながら、いざ死んだ時に文句言うなんてさ。それに、消えかけでも攻撃できるんだから、警戒して攻撃する事の何が悪いの?」

 

実際にゲームでは相手がリタイアの光に包まれた事によって油断した時にソイツによって倒されるという事がなくもない。だが、見下している人間に反論される事は驕りきった悪魔には耐えられなかった。

 

「ええい! もう我慢ならん!!」

 

一誠の言葉に我慢の限界を迎えた一人の悪魔は剣を抜いて一誠に飛びかかる。だが、何もない空間から突如現れた巨大な腕にその動きは遮られた。その腕は真っ黒でドロドロとした粘液のような物質で出来ており、常に下に滴り落ちてはズルズルと動いて腕に戻っていく。飛びかかった男はその腕の中に入り込むと藻掻き苦しみだし、徐々にその体が痩せだした。

 

「彼を離してくれないか? 賠償はきちんとするよ」

 

サーゼクスは驚く貴族達を手で制しながら一誠に頭を下げた。

 

「……まぁ良いか。シャドウ、出してあげて」

 

一誠は少しの間考えた後、腕に指示を飛ばし男を解放させる。だが、その時には男はやせ細り体は骨と皮のみ。もはや立ち上がる力さえ無くなっていた。

 

 

 

「あははは! じゃあ、賠償についてはハーデスの爺さんと話し合ってね♪」

 

悪魔や堕天使を毛嫌いして嫌がらせをするのを趣味としているハーデスに賠償請求権を譲渡した一誠は画面に集中する。其処には旧校舎周辺が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイヴェル様! こうなったら打って出ましょう!」

 

パンダナを頭に巻いた『騎士』カーラマインは金髪ロールの少女にそう提案する。実はこの金髪の少女はライザーの実妹であるレイヴェル・フェニックスなのだ。妹をハーレムに入れる事は意義があるという馬鹿な兄の意見で『僧侶』になった事を彼女は後悔していた。

 

「(全く! 今回の敵はどうなってますの!?)」

 

今まで彼女は形だけの眷属としてしかゲームに参加せず、戦いは全て他の者に任せていた。それでも数の利と一族の特性である『不死』を持つライザーの力によってゲームは連勝続き。だが、今回の相手は今までの相手とはまるで様子が違う。あっという間に七人もの眷属がリタイアし、相手がどのような者なのかも分からない。そんな中で無謀にも敵陣に切り込もうと進言するカーラマインに辟易した彼女が同じ『僧侶』の美南風に視線を向けようとした時、強い風が彼女の隣を通り過ぎる。舞い上がった土埃に閉じた目を開けた時、レイヴェルの隣に居たはずの美南風と猫の獣人の双子で『兵士』のミィとリィの姿が消え、目の前には不気味な男が立っていた。

 

「ヒッヒッヒ! うめぇぇぇ~。やっぱ、悪魔ってうんめぇなぁぁぁぁ!! でもよぉ、すぐに腹の中から消えちまったよぉ」

 

『ライザー・フェニックス様の『僧侶』一名『兵士』二名 リタイア』

 

「な、何ですの貴方は!?」

 

 

目の前に居るのは頭にパンダナを巻き、頭から肩にかけて紫色の刺青をした大男。それだけなら普通の男だっただろう。だが、その体には色の違う腕が余計に四本もついており、その手には巨大なストローが握られている。

 

「レイヴェル様は一旦お退きください! この男、得体がしれません!」

 

「二人は突如消えました! もし封印系の術の使い手ならば『不死』の特性も無意味です」

 

「今すぐライザー様とユーベルーナの所へ!」

 

『騎士』のカーラマインとシーリス、『戦車』のイザベラはレイヴェルを庇うように男の前に出る。レイヴェルはその言葉に従うように炎の翼を背中から出して三階にある本拠地を目指し、三人は一斉に男に飛びかかる。そしてレイヴェルがチラリと下を見た時、三人は男が咥えたストローの中に吸い込まれていった。

 

「うめぇ~!! あぁ、最高だぁ~。……お前はどんな味がするんだろうなぁ」

 

「ひっ!?」

 

男はレイヴェルの方を向いて舌舐りをする。レイヴェルは恐怖に顔を引きつらせ、三階を目指して必死に飛び続ける。だが、全力で飛んでいるにも関わらず一向に前に進めず、それどころか徐々に男の方に引き寄せられる。そして窓から外の異変に気付いたライザーに向かって手を伸ばした瞬間、レイヴェルは完全に吸い込まれた。

 

『ライザー・フェニックス様の『僧侶』一名リタイア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……奴は餓鬼の一種だったな? 名前はグリンパーチといったか? 確か腹の中に小部屋を持ち、吸い込んだ物を徐々に消化する力を持っていたが……何故直ぐにリタイアになる?》

 

「うん。本当ならある程度消化されてからリタイアするんだけど、ゲーム前にある物吸い込ませたんだ」

 

《ある物?》

 

「プール一杯の水に力を譲渡した聖水を入れて、更にそのプールにも力を譲渡したんだ。多分部屋一杯に聖水が入ってたんじゃないのかな?」

 

悪魔にとて聖水は触れるだけで火傷するような危険物。そのような物の中に全身が浸かってはいくら『不死』の特性を持つフェニックスでも耐え切れなかったようだ。流石にハーデスもドン引きといった様子で一誠を見ている。

 

《エゲツナイな……》

 

「俺はアソコまでする気はなかったんだよ? でも、ドライグが持ってきた聖水を全部使えって言ったんだ。ひっどいよね~。ロリペドなだけじゃなくって外道なんだからさ」

 

『責任押し付けられた! てか、そのネタまだ引きずる気か相棒!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こうなったら敵の本拠地に乗り込む。眷属を殆どやられ、ハーデスと揉めたとなれば俺は終わりだ。ユベルーナ、ついて来い!」

 

この時、ライザーは知らなかった。新校舎で待ち構える悪霊の存在を……。




意見 感想 誤字指摘お待ちしています 活動報告でアンケートも行ってます


クドラク 女神転生ソウルハッカーズ この話では吸血鬼の怨念をクドラクという伝説の吸血鬼として形作った存在
 
グリンパーチ トリコ この話では餓鬼の一種にしています


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九話

急いで投稿 誤字は明日見つけます


《いや~、皆さんお強いでやんすねぇ。ゲームが始まってまだ三十分も経ってませんぜ》

 

「そりゃあもう、ご主人様の選んだ者達ですからね。むしろ其のくらいして貰わないと困るってモンですよ」

 

新校舎の生徒会室。一誠の代理を務めるベンニーアは一人の女性と優雅にお茶の時間を楽しんでいた。女性はノースリープの和服に身を包み、頭からは狐の耳が生え、お尻からは太くて手触りの良さそうな狐の尻尾が生えている。女性は表面上は笑顔だが尻尾は毛が逆だっており目は笑っていない。何より先程から指で呪いの文字を書いていた。

 

《な、何かお気に障る事でもありやしたか!?》

 

「いえね~。最近ご主人様の周りに女が増えすぎだと思うんですよ。いくら英雄色を好むて言っても、あのバカ猫とイチャイチャしてますし。いくらなんでも節操がないと思いませんか? ちょっとね~、思い出したら呪いたくなってきたんですよ~」

 

《そ、そうでやんすか。と、所で玉藻さんはあの人とは何時頃からのお付き合いで?》

 

一誠の『言うことは聞いてくれるけど我が強すぎる』という言葉に納得したベンニーアは重苦しい空気を変えようと話題をそらす。すると彼女……玉藻は得意げにさらけ出した胸を張り答えた。

 

「良いでしょう。教えて差し上げますよ。実は、私こそがご主人様の手駒第一号なのです! あれはまだ私が霊ではなく生まれたての子狐だった時、飼いきれないからとご主人様の家に貰われて行ったのが私とあの方の出会いです。私とあの方は何時も一緒でした。寝る時もお風呂の時も……きゃっ! あの時からご主人様は魂がイケメンだったのを覚えています。……でも、とある日ご主人様の後を追って家から抜け出した私は車に跳ねられて死んでしまったんですよ」

 

そのことを語る時の彼女は物憂げな表情となり、キツネ耳も尻尾もシュンと垂れ下がる。だが、次の瞬間には耳は元気よく立ち上がり、尻尾は盛大に動いていた。

 

「私は死んだ後に庭の片隅に埋葬され、魂は現世に残りました。そうしたらアッサリとご主人様が見つけてくれたんですよ! いや~、もうなんかね、私とあの方は運命の赤い糸で結ばれているっ言うか。その後、伝説に残る九尾の狐の怨念を食べて今の姿になったという訳です。……だというのにポッとでの新人がご主人様とイチャイチャしやがって。死にたいのかなぁ~? あ、死んでるや」

 

《そ、そうなんでやんすか》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オバ様も大変なんだね、あたし」

 

「オバ様も大変なのよ、わたし」

 

何時の間にか『ありす』と『アリス』が部屋に戻って来ており、玉藻が持ち込んだお茶菓子を口にする。だが、彼女はオバ様呼ばわりされた事に怒るでもなく、得意げに鼻を鳴らしていた。

 

「はん! ご主人様が気まぐれで拾ってきたお子様には分かりませんよ。まわ、私も貴女達には同情しますよ? 永遠にツルペタなままなんですから」

 

「殺っちゃう? あたし」

 

「殺っちゃいましょう、わたし」

 

玉藻は自分の胸を強調した後で二人の平らな胸を見る。二人は膨れ面になり、一触即発の空気が流れた時、外から大声が響いてきた。

 

 

「出てきやがれ糞共が! どうした、ビビってやがのか!」

 

ライザーは口汚く罵りの言葉を発しながら『女王』のユーベルーナと共に魔力を放つも、張られた結界によって校舎はビクともしない。そんな二人を玉藻達は馬鹿にしたように見ていた。

 

 

「あの方、馬鹿なんじゃないですかねぇ。これだけ有利に進めてる側が態々敵の誘いに乗るわけないじゃないですか」

 

「疲れた所を袋叩きにしようかしら? あたし」

 

「疲れた所を袋叩きね、わたし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はん! 出てこねえ所を見ると臆病者なんだな! それとも人に顔を見せれないほど不細工なのかよ! だから顔を見た俺の眷属を殺したんだろ。テメェらの主も仮面の下はどんだけ不細工なんだろな!」

 

「どうしたのです! 出てこないという事は本当に主従揃って臆病で醜い面構えのようですね!」

 

 

 

 

 

 

「……ふ~ん。ご主人様に事まで馬鹿にされたとあっちゃ、良妻狐の名が廃ります。さっさと倒してご主人様から頭をナデナデして貰いましょう!」

 

「単純ね、あたし」

 

「単純よ、わたし」

 

 

 

 

「「でも、お兄ちゃんを馬鹿にした報いは受けさせましょ。お友達の出番ね」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、中々良い女じゃないか。なぁ、俺に乗りかえねぇ?」

 

ライザーは出てきた玉藻とありす達を見て色目を使う。その視線は主に玉藻の胸元に行っており、どうやら今回亡くした眷属の代わりのハーレム要員の代わりにしたいようだ。

 

 

 

 

「お生憎様。ブサイクモデルには用はないと申しますか」

 

「あのオジさん、キモいね。あたし」

 

「あのオジさん、キモいわ。わたし」

 

 

 

 

 

「……そうかよ。なら、テメェらを殺して死んだ奴らの仇を討たせてもらうぞぉぉぉぉぉ!」

 

三人の言葉に激高したライザーは炎を撒き散らしながら接近し、後ろに控えていたユーベルーナは爆炎の魔力を放つ。

 

 

 

 

 

「全く、先程は死んだ子の代わりをすぐに補充しようとしたくせに。ほんと、貴方の魂はブサイクですね。……死んでください!」

 

その瞬間、ライザーは纏った炎ごと凍りつき、ユーベルーナの放った魔力は突如現れた怪物によって防がれた。

 

 

「彫像の出来上がりです♪ って、うぇ~、しつこいですね」

 

「やっぱオバ様じゃその程度よ。ねぇ、アリス」

 

「年だから仕方ないわ、ありす」

 

凍りついてリタイアするかと思われたライザーではあったが、さすがフェニックスの才児と呼ばれるだけあって復活を果たす。だが、その再生スピードは明らかに遅く、受けたダメージの大きさを物語っていた。

 

「き~さ~ま~!!」

 

「……やれやれ、貴方は冥府が示談金を搾り取るまで生きていて貰わないといけないって言われたから手加減しましたが、どうやら手を抜きすぎましたか」

 

「はん! 負け惜しみ言ってじゃねぇ! ブサイクな主共々ぶっ殺してやる!!」

 

すっかり頭に血が上ったライザーは次々と一誠への暴言を吐き、それを聞いた玉藻はスっと目を細めた。

 

「……二人共。先ずは『女王』から殺っちゃってくだい。ご主人様を侮辱した罰はたっぷり受けて頂かなくては」

 

「「うん。分かっているわ。じゃあ、頼んだわよ、ジャバウォック!!」」

 

『gyaoooooooooooooooooooooooooo!!!』

 

ありす達の言葉に応えるかの様に怪物は雄叫びをあげる。そのあまりの音量に隙が出来ると分かっていてもライザー達は身を竦ませ耳を両手で塞ぐ。そして出来たその隙をついて怪物はユーベルーナ目掛けて跳躍し、彼女を掴むとそのまま地面へと落ちていく。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

怪物……ジャバウォックの怪力によって掴まれた為に彼女は逃れる事ができず地面に怪物の下敷きになる形で激突する。地面にはクレーターができ、まるで踏み潰された虫のように転がるユーベールーナに対しジャバウォックは拳を振り下ろす。地面から離されたその拳には血がべっとりと付着していた……。

 

『ライザー・フェニックス様の『女王』一名リタイア……』

 

グレイフィアの悲痛そうなアナウンスの声が彼女の生死を表す中、ライザーは怒るでもなく悲しむでもなく、ただ恐怖していた。

 

 

 

 

 

 

「うふふ、どうしたんですか? 私をぶっ殺すんですよねぇ?」

 

クスクス笑う玉藻には何時の間にか八本もの尻尾が追加され、纏うオーラは桁が先程までとは遥かに違っている。そしてその後ろには百万もの軍勢が武器を構えてライザーを狙っていた。

 

「ゆ、許して……」

 

「はぁ? ご主人様をあれだけ侮辱しといて許して貰えるとでも? ……安心してください。四肢が欠損していても生きてはいられますから♪」

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

もう恥も外聞もなくライザーは逃げ出す。恐怖に支配された頭ではリタイアの事など忘れてしまい、今はただ恐怖の対象から一歩でも遠くに逃げ出したかった。だが、その体を無数の毒矢が貫き彼は地面に墜落する。そして動けない彼目掛けて百万の軍勢が一気に押し寄せた。

 

 

 

「存分に恨んでくださいませ」

 

玉藻はそう言って前方へと視線を向ける。其処にはもはやボロ雑巾と化し、二度と再起が望めない程の重傷を負ったライザーがいた。

 

 

 

 

 

 

 

『ライザー・フェニックス様の投了を確認しました。よってこの試合はベンニーア様の勝利です!』

 

アナウンスは一誠の代理であるベンニーアの勝利を告げる。だが、観覧席では一誠とハーデス以外に拍手を送る者は誰も居なかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッヒッヒ。俺達は行かなくて良いのかよ?」

 

「うぉれは、うぉれは、行かないぃぃぃぃぃ! こわいぞぉぉぉぉおぉお! ずっどぉぉぉぉぉん!!」




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玉藻 フェイトエクストラ この話ではキャス狐と同じような存在の怨念を元ペットの狐の霊に食わせた存在 基本的に一誠love ただしたまに呪う


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十話

今回松田の名前が登場します 新刊、四件目の本屋でやっと見つけました


「急げ! 何としても一命を取り留めるんだ!」

 

「全身に聖水による火傷が…。これではフェニックスの涙を持ってしても……」

 

ライザー眷属の負傷は凄まじく、クドラクに振り回されたマリオンは全身骨折だらけの上に内臓破裂と脳内出血。ビュレントは大量に血を吸われて意識不明。そしてレイヴェル・フェニックス、カーラマイン、ニィ、リィ、イザベラ、シーリスは聖水に中に全身が浸かった為に大火傷を負い、ライザーも意識不明の重体だ。奇跡的な効能を持つフェニックスの涙も応急措置にしかならず、予断を許さない状況だった。

 

そして、その原因となった一誠達だが今は貴賓室に通されていた。

 

 

 

「お兄ちゃん! あたし頑張ったよ!」

 

「お兄ちゃん! わたし頑張ったわ!」

 

「うん! 全部見てたよ!」

 

ありすとアリスは褒めてくれと言わんばかりに一誠に近寄り、一誠は二人の頭を撫でる。グリンパーチとクドラクはもう仕事が終わったのだからとダラけた格好で用意された食事をかっ込んでいた。そんな中、玉藻も撫でて欲しそうに一誠に頭を近づけ尻尾を盛大に振るも無視されていた。

 

「用意された料理は何が仕込まれているか分かったもんじゃないからコレ食べようか」

 

「わぁ! 稲荷寿司だぁ!」

 

「グリンパーチの手作りね。あの人の美味しいけど、作っても自分で食べちゃうから中々食べられないのよね」

 

一誠が取り出したのはお重に詰め込まれた大量の稲荷寿司。餓鬼という食べ物に執着する性質からか料理が上手なグリンパーチが作った物で、油揚げが好物の玉藻からすれば垂涎物の一品だ。一誠は持ってきた小皿に稲荷寿司を取り分け、部屋に居る者達に配っていく。ただし、玉藻を除いてだが……。

 

「うぅ~、ご主人様ぁ。私何かお気に障る事でもしましたかぁ?」

 

先程からの一誠の態度に玉藻は涙ぐむ。すると一誠は彼女を手招きして近づいて来た彼女に対し、

 

「てい!」

 

「きゃう!?」

 

不意打ちでデコピンを喰らった玉藻は赤くなったデコを抑えてその場にしゃがみ込み、涙目で一誠を見上げる。すると一誠は溜息を吐いて稲荷寿司を乗せた小皿を彼女に差し出した。

 

「はい。これで身バレしかねない発言をしたの許してあげる。まったく、狐を飼ってたとか玉藻が死んだ時の事故の事とか迂闊に話しすぎだよ? ゲームフィールドは映像に残されるんだからさ。正体バレたら面倒臭いでしょ?」

 

「あっ……。ご、ごめんなさ~い!」

 

「反省しているのなら宜しい。さぁ、狐に戻って。久しぶりに撫でさせてよ」

 

「承知しました!」

 

死んだ当時の姿である子狐の姿になった玉藻は一誠の膝に飛び乗り、彼に撫でられながら気持ち良さそうに目を細める。玉藻はそのまま大きなアクビをするとスヤスヤと眠りだした。

 

「……全く、玉藻は生きてた時と全然変わらないね。甘えん坊で少し間抜けで……ハハッ、飲み水をひっくり返して全身ずぶ濡れになった時も有ったっけ? いつも俺に着いて来てベットに潜り込んだり、座ってたら今のように膝に飛び乗ったりしてさ。そしてあの日、初めてのお使いに行く俺の後を追おうと道路に飛び出して……」

 

 

 

 

 

「次のゲームで奴に制裁を与えるべきです!」

 

「しかし、リアス殿も同じような目にあっては……」

 

「ふんっ、どうせ使える手駒は全て使っているに決まっているわ! フェニックス家を圧倒すれば恐れをなして棄権するだろうと思っておるのだろうよ!」

 

一誠達が貴賓席で休んでいる頃、次のゲームに関して貴族達の間で大いに揉めていた。リアス達もライザーと同様な目にあってはいけないので中止すべきと言う者達と、人間の手駒ごときに誇り高い悪魔が負けっぱなしではいられない、と主張する者達。サーゼクスからすれば棄権させたいが、貴族の多くを次のゲームを行いリアスが一誠を殺す事を期待する者が占め、魔王という立場から彼らを黙らせる訳にもいけない。そんな中、ベンニーアを隣に控えさせたハーデスが話しかけてきた。

 

《大分揉めているようだな。なら、このようなのはどうだ?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~い、玉藻起きて」

 

「……ふみゅう?」

 

気持ちよく寝ていた玉藻は一誠の声に反応して寝ぼけ眼で辺りを見回す。一番先に目に入ってきたのは清潔なシーツが敷かれたベット。それを見て覚醒した玉藻は人間の姿になると一誠に飛びかかった。

 

「きゃぁぁぁん! ご主人様ったら相変わらずエッチなんだからぁ♪ でも、ご主人様がお求めとあらばこの良妻狐。誠心誠意ご奉仕させて……」

 

「ごめんね~。この子、馬鹿なんだ。ほら、玉藻。とりあえずこの子達治して」

 

一誠が玉藻を連れてきたのは医療室。其処には意識のないライザーとその眷属達がベットに寝かせられていた。

 

「おい! 本当にソイツに治せるのであろうな!? 出来なかった時にはその命で償ってもらうぞ!」

 

「うん。治せるよ。んじゃ、玉藻お願い。ちゃんと治したらご褒美あげるよ」

 

「はい! お任せを! ……後、そこのオヤジは呪ってやる」

 

玉藻は遅効性の呪いを食って掛かってきた貴族にかけた後、再び八本の尻尾を追加で出現させる。そして面倒臭そうに手を翳すとライザー達を光が包み傷があっという間に癒えていった。

 

「ご苦労様。ご褒美は何が良い? 狐饂飩? 稲荷寿司?」

 

「う~ん、それも魅力的ではございますが、できればご主人様とお風呂に入りたいな~って、きゃっ☆」

 

「別に良いけど? じゃあ、そろそろゲームだから俺行くね?」

 

「あぁん、そんな所まで……。ご主人様ぁ♥」

 

妄想に耽っている玉藻を無視して一誠達は指定された場所に行く。するとその途中でリアス達と遭遇した。

 

「やぁ、白音ちゃんとその他の皆さん」

 

「……失礼な奴ね。貴方が小猫の本名を知っているのかは後にして、毎回話しかけているけど小猫みたいな子が好みなのかしら?」

 

「ううん。俺は白音ちゃんみたいにツルペタストンなロリよりもセクシー系が好みなんだ。まぁ、ドライグはロリ龍帝だから好みみたいだけどね♪」

 

『相棒っ!?』

 

ドライグは冤罪を広められて泣きそうな声を上げ、小猫は体型の事を言われて今にも一誠に殴りかかりそうだ。

 

「ただ、可哀そうだなって思ってね。な~んにも知らないで、苦しんだ原因の一人が偶々助けてくれたからって感謝して、本当に感謝しなければならない存在を恨んでるんだからさ。現魔王さえしっかりしてれば君達姉妹にあんな悲劇は起きなかったのにね」

 

「……どういう事ですか?」

 

一誠の言葉に訝しそうな顔をする小猫だったが、一誠は含み笑いをすると横を通り過ぎていく。

 

「さぁね~♪ ゲームの時に力尽くで聞いてみたら? たっぷりハンデあげたんだからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでは只今よりリアス・グレモリーさまと赤龍帝様のゲームを開始いたします。なお、今回のゲームはスクランブル・フラッグとさせて頂きます』

 

スクランブル・フラッグ。レーティングゲームのルールの一つで制限時間内で旗を取り合うというルールである。そして今回のゲームでは一誠側に過大なハンデが付けられていた。

 

① 一名を除き赤龍帝及びその仲間からは攻撃できない。

 

② リタイアする相手に攻撃してはならない

 

➂ 旗はリアスの陣地側に多く配置する。

 

④ 赤龍帝側のリタイア判定は厳しくし、簡単には退場できない

 

このハンデの代わりに一誠が勝った場合は冥界への無条件の入国とはぐれ悪魔を一体所有しても良いっという約束を取り付けた。貴族達もはぐれ悪魔の一匹くらいどうでも良いと判断し、リアスが一誠を抹殺しやすいようにと最後のハンデを付ける事で合意した。ゲームの舞台は迷宮のように入り組んだ三つの十階建ての塔。三つ横並びになるように配置されており、塔の五階に隣の塔に行く為の通路がある。そして一誠の陣地である右の塔には一割の旗、リアスの陣地の左の塔には六割の旗が隠されており、残り三割の旗は中央の塔に配置されていた。

 

 

 

 

 

 

「んじゃあ、作戦開始と行こうか。レイナ…レイナ! シャドウ! ブイヨセン!」

 

「クスクス…頑張るヨ……」

 

「はっ!」

 

「アァ……、腹減ッタァ……」

 

レイナーレの偽名を適当に決めた一誠は後ろに控える三人に指示を出す。後ろにいるのは不気味に笑っているブイヨセン、仮面で顔を隠してスーツを着ているレイナーレ、そして黒い粘液のようなもので体を構成した巨人だった……。

 

 

 

 

 

「それじゃあ作戦開始よ! ハンデは腹立たしいけど仕方ないわ。向こうからは一人しか攻撃できないのならコッチは攻めるわよ! 私と祐斗とアーシアはこの塔の旗の回収と防衛。朱乃は単独、小猫は一郎と組んで中央の塔で旗を集めてちょうだい! そしてある程度回収したら陣地で旗の防衛よ!」

 

松田の名前は一郎である。なお、特に意味はない。ただ苗字で進めるのは大変だから名前が決定した。

 

 

 

 

この時、リアス達は勝機があると思っていた。いくら何でもあんな実力者が何人も今まで知られずに居られるはずがなく、ライザー戦に主戦力を投入しただろうから厄介なのは赤龍帝位だろうと。そう、思ってしまっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クスクス……。待ってたヨ」

 

「あらあら、変わった方ですわね」

 

朱乃が中央の塔を散策していると急に扉が閉まり見つけた旗が宙に浮く。旗はそのまま天井に浮かんでいたブイヨセンの手に収まった。

 

「あらあら、それ渡して頂けません? それとも貴方が攻撃可能な方なのかしら?」

 

「どうだろうネ……。ウフフイ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……堕天使? それにいきなり本命の登場ですか……」

 

「ち、ちくしょう! やれるだけやってやる!」

 

「あはははは! 足が震えてるよ、松田君」

 

「主よ。あの坊主は私にお任せを!」

 

小猫と松田の前には一誠とレイナーレが現れる。そして、リアスの自陣がある塔の内部では何かが這いずる様な音が聞こえていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、玉藻は、まだ妄想の世界にいた。

 

「あん! もうそんな事までされては我慢できません☆」

 

「馬鹿が居るね、あたし」

 

「伝染るから近寄っちゃダメよ、わたし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




意見 感想 活動報告でのアンケート 誤字指摘お願いします


あと、アンケート回答は嬉しいですが、規約で罰せられたら拙いので活動報告にお書き下さるようお願いします


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十一話

「雷よっ!」

 

朱乃の掌から電流が迸りブイヨセンに襲いかかる。だが、ブイヨセンが手を軽く動かすだけで雷は横に逸れていった。既に部屋の中は朱乃が放った雷撃によって穴だらけになっており、今にも天井が崩れ出しそうだ。

 

「クスクス…。全然当たらないネ…」

 

ブイヨセンは朱乃を小馬鹿にしたような態度で手に持った旗を弄る。一誠側から攻撃できるのは一人なので、そうでない彼は攻撃できないのか、それとも攻撃できないふりをしているだけなのか、朱乃は慎重にブイヨセンの様子を伺いながらも力を溜めていた。

 

「ウフフイ……。君の主は大丈夫かナ……?」

 

「……どういう事ですの?」

 

「教えてあげるよ…。今、君の本拠地には私と同じ『死霊四帝』の一体であるシャドウが向かっているんだ…。アイツの体は呪い其の物。触っただけで生命力を吸い取られるヨ…。しかも、此方から攻撃できないだけで、そっちから勝手に触って生命力を吸い取られてもルールには反しなイ……。あれ? シャドウが攻撃可能な奴だっケ…? クスクス…。ミイラになっていなけりゃいいネ……」

 

「……そうですか。なら、この一撃で貴方を沈めて救援に向かいますわ!」

 

「ウフ……」

 

その瞬間部屋全体を雷が包み込み、雷が晴れた時には放った朱乃以外の姿は消え去っていた。朱乃は少々無茶をしたせいで息を乱し、フラつきながらも部屋を出ようとする。

 

「旗も壊してしまいましたわね。……急がなくては」

 

先ほどの雷撃で天井は大きくひび割れ、今直ぐにでも崩落しそうだ。そして朱乃が入り口のドアに手をかけた時、廊下に充満していた霧が微かに揺らいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「行け! 青光矢!」

 

松田は一度に十本程の光の矢を放つ。レイナーレに命中するまで僅かに時間差を付けられたその矢だったがレイナーレは体を捻るだけで全て避ける。だが避けられた矢は軌道を変え再び彼女に襲い掛かり、それを避けても別の矢が再びレイナーレを襲う。計十本の矢は円を描くように彼女の周囲を飛んでいた。

 

「……なる程。機動を変えられるという特性を生かした訳ですね。常に何本かが私に向かってきています」

 

「そうだ! この短期間じゃ長距離狙撃なんて身につけられねえから無駄のない円運動でのコントロールと……ただ真っ直ぐに速く射つ事に絞ったんだよ!」

 

松田の叫びと共に五本の矢が高速で放たれ、それと同時にレイナーレを囲んでいた十本の矢も一斉に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

「ほらほら、ちゃんと狙わなきゃ。そんなんじゃ駄目だよ? 白音ちゃん」

 

「……はぁっ!」

 

小猫は一誠に向かって拳を振るうも全く当てられず、一誠は喜々として小猫を翻弄する。

 

「ほらほら……あれ?」

 

しかし、一誠が腕を突き出して手招きしながらステップを踏んで小猫を挑発していた時、足元に転がっていたガレキを踏んでバランスを崩してしまう。そして小猫はその隙に急接近して一誠の腕を掴んだ。

 

「……覚悟してください」

 

「えっ、ちょっと待って……」

 

小猫は小柄な体格からは想像できないような腕力で一誠を投げ飛ばし、そのまま空中に居る一誠に拳を叩きつける。

 

「がっ!?」

 

苦痛に喘ぐ声と共に鮮血が床に舞い散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、もうこの塔の旗は全部集まったわね」

 

「そうですね、部長」

 

塔内にある旗を全て集め終えたリアスと祐斗は本拠地に集めた旗を置きに戻っていた。本拠地にはアーシアが待機しており、何かあったら通信機で知らせる事になっている。そして本拠地まであと少しとなった時、通信機が入った。

 

『部長、襲撃です!』

 

それはアーシアからの救援要請。急いで戻ろうとした二人だったが、目の前に敵が立ち塞がっていた。二人の目の前に現れたのは大人一人分ほどの大きさのドロドロとした粘液のような物体。その一部が口に様に開くと唸り声を発する。

 

「アァ~。俺、シャドウ。旗ヲヨコセェ」

 

「祐斗!」

 

「はぁっ!」

 

リアスの声と共に祐斗は神器で魔剣を創り出しシャドウに切りかかる。だが、彼の剣がシャドウの体に触れると抵抗なく中に沈んでいき、祐斗の腕も一緒に飲み込まれた。その瞬間、祐斗は咄嗟に後ろへ飛び退くと苦痛に眉をしかめて腕を押さえる。彼の腕はまるで長年寝たっきりの病人の様にやせ衰えていた。

 

「……どうやら触れた相手の力を吸い取る能力のようです。しかも、攻撃扱いされない所を見ると、常時発動タイプみたいですね」

 

「祐斗、ごめんなさい。私の判断ミスだったわ。彼奴は観覧席であの悪魔を飲み込んだ腕ね。随分小さくなっているから気付かなかったわ」

 

リアスは旗を後ろに置くと祐斗を下がらせ両手をシャドウに向ける。

 

「さぁ、さっさと貴方を倒してアーシアの救援に向かわせてもらうわ!」

 

リアスの腕から滅びの魔力が放たれシャドウに命中する。シャドウはリアスの魔力の直撃を受け破片を飛び散らせながら消滅し、破片も床にできた影に沈むように消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりましたな! さすがはリアス殿!」

 

「ははは! やはりライザー殿に戦力を集中させていたらしい! もう二体も抹殺しましたぞ!」

 

貴族達はブイヨセンとシャドウが消滅したと判断して歓喜の声を上がる。後は生意気な人間とそれに付き従っている堕天使らしき女の死を望みながら観戦を続ける。だが、ハーデスはそんな貴族達を見下した様に見ていた。

 

《愚かな事だ。本当に死んだとでも思っておるのか?》

 

《いや~、あれはそう思っても仕方ないでやんすよ。あっしも予め力を教えてもらってなければ騙されてたでやんす。あれ、玉藻さんが今頃来たでやんすよ》

 

ベンニーアが騒がしくなった方向を見ると、先程まで観覧席に居なかった玉藻がありす達と共に入ってきていた。周りの貴族達は彼女達に忌々しげな視線や品定めするような視線を向け、何人かの貴族は話しかけるも相手にされず憤慨している。そしてハーデス達の所に来た彼女もウンザリした様子だった。

 

《遅かったではないか。それに、何やら話しかけられていたが、大方スカウトであろう?》

 

「そうなんですよ~。もう、私はご主人様の良妻で所有物だというのに、眷属にならないかとか行言ってくるんですよ。中には妾になれとか言って来るのもいやがりましたから不能の呪いをかけてやりました♪」

 

「オバ様、お兄ちゃんとお風呂に入る約束したからって、一人でブツブツ呟いて体をくねらせてたの」

 

「ありす。わたし達はあんな大人にはなりたくないわね」

 

《……そうか。ファファファ……。見てみろ、コウモリ共が騒めき出したぞ。どうやら動き出したようだな》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドアが開かない!?」

 

朱乃がドアを開こうとするも動かず、仕方なくドアを破壊すると通路は瓦礫で埋まっていた。そして瓦礫の向こうから朱乃を小馬鹿にしたような笑い声が響く。

 

「クスクス……。もう、出られないヨ……」

 

ブイヨセンは瓦礫の隙間から顔を覗かせ、細長い舌をチロチロと動かし更に挑発を続ける。それを見た朱乃は笑い顔のまま隙間を縫って電撃を放つも、ブイヨセンは体を霧化させたことで向こう側の壁を破壊するだけに終わった。

 

「……先程の雷もそうやって避けましたのね?」

 

「そうだよ…。まぁ、あの程度なら食らっても平気なんだけどね…。でも、それじゃあ面白くないだロ…。おっと、もう雷を放つのはよした方がいいヨ…。天井が崩れそうだからね…。クスクス…」

 

朱乃が天井を見上げるとパラパラと欠片が舞い落ちてきており今にも崩れそうだ。先程彼女が放った電撃がトドメとなったのか天井全体に亀裂が入り、瓦礫をどかそうと大きな音を立てれば一斉に崩れてくるだろう。ブイヨセンの策略によって朱乃は完全に閉じ込められてしまった。

 

「じゃあね……。時間も残り少ない…。せいぜい静かにしている事だネ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ。所詮は付け焼刃ね。この程度の威力しか出せないの?」

 

「なっ!?」

 

松田の矢の全てが直撃したにも関わらずレイナーレには傷一つない。背中の六枚の羽で全ての矢を防いだのだ。そのまま彼女は右手に光の槍を出現させ松田に向ける。

 

「ああ、いい事を教えてあげるわ。攻撃可能なのは私よ」

 

そしてレイナーレが槍を持ったまま腕を振りかぶると槍は無数の光の矢になって松田に向かっていき、服のみを貫いて壁に貼り付けにする。そしてレイナーレは身動きの取れない松田に近づくと嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

「ご主人様の提案でね、『さっきのゲームでは相手を全滅させたから、今度は一人も退場させずに勝とう』ですって。あははははは! 貴方達なんて相手として見られてないのよ!」

 

「く、くそぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くっ! な、なんで……」

 

小猫は拳を押さえながらしゃがみ込む。彼女の拳の骨にはヒビが入り血が吹き出ていた。一方、拳を受けた側の一誠は平気な顔で立っている。

 

「いや、この鎧頑丈なんだから殴ったらそうなるって。一応最上級悪魔クラスの仙術妖術魔力ミックスの一撃を受けても平気だったんだからさ」

 

「……やっぱり私の本名は姉様から」

 

一誠の言葉から姉の知り合いだと理解した小猫は震えだす。彼がこのゲームで勝った時に手配が解除されるのが誰か理解したのだ。

 

「な、なんで姉様を!? あの人は危険なんですよ!」

 

黒歌が手配された理由。それは仙術を暴走させ力に溺れて主を殺して逃げ出したという事になっている。残された小猫を上級悪魔達は殺すように主張したがサーゼクスが庇い、それが経緯で小猫はリアスの眷属になったのだ。そして今でも彼女は姉を恐れている。だが、一誠はそんな彼女の姿を見て溜息を吐いた。

 

「黒歌も報われないね。せっかく君を守る為に主を殺したってのにさ。そもそも、君に起きた不幸は現魔王がしっかりと貴族を管理できていれば起きなかったんだ。……これ以上は野暮だね。後は本人から聞いたら?」

 

「ど、どういう事ですか!?」

 

小猫が一誠の言葉に動揺した時、無数の影が部屋に入ってくる。どれも黒い粘液のような物体で体が構築されており、内部に旗を入れていた。

 

「全テ、集マッタ。残リ、敵ガ持ッテイルノダケ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、急ぐわよ!」

 

「はい!」

 

シャドウを倒したと判断した二人は旗を拾って本陣に戻ろうとする。だが、床に出来ていた影から伸びてきた粘液が旗を全て掴むとそのまま影に消えていった。最後に影の中から声が響く。

 

「馬鹿メ。勝ッタト思ッタ瞬間コソ気を引キ締メルモノダ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《うわ~、やっぱりエゲツナイ能力でやんすね。影に潜り込む能力と分裂。そして破片一つでも残っていれば直ぐに再生とか……》

 

《しかも触れただけで生命力を奪う力か……。しかも、彼奴は核に……そろそろ時間だな》

 

 

 

 

 

『制限時間が過ぎましたのでゲームを終了いたします。赤龍帝様が全百本中全てを獲得し勝利いたしました』

 

 

 

 

 

《では、サーゼクス。約束は守ってもらうぞ。詳細は後日知らせろ。私は此れからフェニックスとの示談の話し合いがあるからな》

 

「分かりました。……ハーデス様。彼らは何者なのですか? 幾らなんでも異質すぎる……」

 

《詮索不要だ。ただ一つ言えるのは、過去・現在・未来において最強の赤龍帝だという事だけだな》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~、それでは皆さん。ギリシア旅行決定を祝いまして……」

 

『かんぱ~い!!!!』

 

ゲーム後、面倒臭い全てをハーデスに押し付けた一誠達は異界へと来ていた。今は旅行決定を祝う宴が催されており、皆盛大に飲み食いしている。口裂け女とベートベンが飲み比べをし、カシマレイコとテケテケがゲームに興じている。ありすとアリスや花子さん等のお子様組はジュースを飲み、メリーや人体模型などの飲食ができない者達も歌ったり踊ったりして楽しんでいた。

 

 

 

《あの~、玉藻さん。あっしもお呼ばれして良かったんで?》

 

「ええ、ご主人様が決めた事ですから。……本当は二人っきりで祝いたかったなぁ」

 

「私もにゃ。ああ、一誠の腕に初めて抱かれた時の事を思い出すと濡れてわ。……はぐれ解除して貰ったお礼って口実で夜這いしようっかにゃあ?」

 

「ちょっと、待ったぁぁぁ! 本妻は私なのですから妾は黙っていてください! 言っておきますがご主人様の初めては私が美味しく頂いたんですよ!」

 

「はぁ? 誰が本妻って言ったのかにゃ? それに、押し倒してヤったって聞いたわよ?」

 

二人はそう言って睨み合い火花を散らす。一触即発の空気が流れる中、突如二人の後ろから一誠が抱きついてきた。

 

「何やってんの~? えへへへへ」

 

「ご、ご主人様? ああん、こんな所で♪ 皆が見ていますよ」

 

「……まぁ、駄狐と一緒というのは嫌だけど……。あれ? もしかしてお酒飲んだのかにゃ?」

 

黒歌が一誠の体臭を嗅ぐとわずかにアルコールの匂いが漂ってくる。酒宴の席では黒歌に視線を向けられた口裂け女と後頭部が出っ張った老人が目を逸らした。

 

「……ちょっと絞めてくからイッセーは頼んだにゃ」

 

「は~い♪」

 

黒歌に睨まれた二人の周囲からは一斉に人が引き二人は取り残される。

 

「ちょっと拳でお話しましょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん。玉藻の膝は気持ちいいね~♪」

 

「それは何よりでございます♪ この玉藻。あなた様がお望みとあらば何時だって膝枕をいたしますよ。それどころか夜伽や昼伽、朝伽も、キャッ♪」

 

一誠はあの後に膝枕をねだり、玉藻は至福の表情で頭を自分の膝の上に乗せた一誠の顔を見つめる。だが、玉藻は急に真面目な顔をした。

 

「……ご主人様。私に問題児達の監督役を任せたのは私を信頼しているからだけじゃないですよね? 私をできるだけ戦わせたくないから……違いますか?」

 

「……うん。玉藻がいくら強くても絶対はない。もう、嫌なんだ。玉藻を失うのがさ。あの時、俺が後ろから付いてくる玉藻に気付いていれば死なずに済んだのに……」

 

一誠はそう言うと腕で目を隠す、腕の隙間から水滴が溢れていた。

 

「……だからさ、玉藻。今度は俺の傍にずっと居てくれる? もう居なくなったりしない?」

 

「……それはもう当然です! この玉藻、この魂が磨り減って無くなるまで貴方のお側でお仕えいたします。ですから、これからも宜しくお願いしますね? ご主人様♪」

 

「……有難う」

 

「……あの~、所で今の発言は……プロポーズですね! きゃ~、どうしましょう! 玉藻は俺の嫁発言いただきましたぁ!!」

 

「……色々台無しだね。まぁ、其れで良いよ。ってか、好きだって何回も言ったでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!? 少し目を離した隙に美味しい所を持って行かれた気がするにゃ!」




意見 感想 誤字指摘 活動報告でのアンケートお願いします

明日は久々に赤髪の予定 それ書いたらこっちの執筆

どうやら狐時代の玉藻を失ったのは相当堪えてるようです ライザーvsリアス? 其の辺は次回の会話の中で


シャドウ 召喚戦記サモンナイトに出てきた影の巨人を改造 分裂 影に潜る 高速再生 触れた相手の生命力を吸い取る 龍殺し などの能力持ち


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月光校舎のエクスカリバー
十二話


まさかの週間5位 これからも頑張ります!


赤龍帝こと一誠とのゲームの結果はグレモリー・フェニックス両家に多大な影響を与えた。たかが人間に負けた。下等と見下している人間とその手駒が自分達より強いなど到底認める事ができない貴族達は”二人が人間に負けた”という部分のみを広め、一誠達に対しては示し合わせたかのように口を閉ざす。それによってリアスとライザーの評価は大きく下がる事となった。特にライザーは冥府と揉めた上に人間に負けて再起不能になってリアスとのゲームを棄権。更には多額の賠償金を月々払わなければいけなくなり、彼を婿に迎え入れるのはフェニックス家との繋がりを考えてもマイナスにしかならない、という噂が広まってしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一誠、起きなさい! ポチの散歩の時間よ!」

 

「……は~い」

 

母親に起こされた一誠は目をを擦りながらベットから起き上がる。彼がリードを持って庭に出ると誰に命令された訳でもないのに犬がお座りの姿勢のまま微動だにせずに待っていた。

 

「ポチ、おはよう」

 

「ワン!」

 

一誠は挨拶し返すかのように吠えた飼い犬にリードを付けて散歩に出かける。飼い犬のポチは一誠の隣りにピッタリと付いて歩いていた。まだ早朝とい事もあって人通りはなく霧が出ている中、一誠はポチに話しかける。

 

 

「……それで変な匂いは何か分かった?」

 

「いえ、それはまだで御座る。だが必ず拙者が突き止め、ご必要とあらば我が八房にて切り捨ててご覧に入れます」

 

ポチはまるで侍のような言葉使いで返事をすると急に黙り込む。目の前から走ってくる集団があった。リアス率いるオカルト研究部である。彼女達は先日の大敗を機に全員での早朝トレーニングを始めたのだ。松田も運動神経は高いという事もあって集団について行けており、運動神経が並以下のアーシアは少々遅れがちだ。

 

「やぁ、松田。球技大会の部ごとの対抗戦に向けてのトレーニング?」

 

「お、おう。そうなんだよ、イッセー」

 

とりあえず、オカルト研究部が朝のランニングを行っているという不可解な光景を誤魔化そうと術をかけられるのは不快なので適当な理由をあげる。松田も誤魔化す必要がなくなったので少しホッとした様子だ。

 

「あら、一郎の友達?」

 

「あ、はい。こいつは中学が同じだった兵藤です」

 

「初めまして、グレモリー先輩。松田の友人……いや、知人の兵藤一誠です」

 

「ええ、初めまして。リアス・グレモリーよ。へぇ、結構大きい犬ね。撫でても良いかしら?」

 

一誠は某古本屋と同じ方法で松田が友人であるという事を否定する。その間、ポチはジッと座って話が終わるのを待っていた。だが、リアスが手を近づけた途端に歯をむき出しにして唸り出す。

 

「駄目だよ、グレモリー先輩。ポチは誇り高い狼犬だから群れの仲間以外には厳しいんだ。んじゃ、もう俺は行くね」

 

一誠はポチと共にそのまま散歩の続きに戻っていった……。

 

 

 

 

 

 

「随分と厳しいね、ポチ」

 

「……拙者は侍ゆえ、主と大奥様や大旦那様以外に振りまく愛想は御座らん。それにあの女は気に入らんで御座る。それこそ機会が御座れば噛み殺したい程に……」

 

「駄目だよ? ポチの役目は敵を殺す事じゃなくて家を守る事。まぁ、敵対した時に家に乗り込んで来たら好きにしたら良いからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、ハーデスから受け取った今月分の金を数え終わった一誠は上機嫌でベットに横になっていた。

 

「う~ん、今月も良い稼ぎだったね。……まぁ、殆どが玉藻達への褒賞に消えちゃうんだけどね」

 

一誠がハーデスから受け取る金額は多いものの、その殆どを理性のある霊の為に使っているので一誠の手元に残るのは学生の一ヶ月のバイト代程度だ。なお、両親は玉藻の術で金を持っている事に不信を持たないようにしている。

 

『……しかし相棒も変わっているな。せっかく稼いだ金を部下の為に使うんだからな』

 

「ん~? それっておかしい? 別に俺はそんなに金使わないし、報酬の一部は爺さんが将来の為に貯金してくれているって言ってたし、別に良いんじゃない? ほら、戦闘でも頼ってるし」

 

『相棒、できれば白いのとの戦いは自分で戦ってくれないか? 流石にシャドウを使うのは……』

 

「え~! シャドウを作るのにどれだけ苦労したか知ってるでしょ? せっかくアルビオン対策で作ったのにさ。使わなきゃ勿体無いじゃん。いや、ドライグには感謝してるよ? ドラゴンの力のおかげで力に引き寄せられた奴らがやって来る。そうして俺の軍団は大きくなって来たからね」

 

『……今までの所有者は多くの者に憧れられ異性に囲まれてきたが、相棒のように人外ばかりを従えて人外ばかりにモテている宿主は初めてだよ。本当に変わった宿主だ』

 

 

 

 

 

 

 

次の日、松田達は昼休みに部室に集まっていた。部室内には生徒会長である支取蒼那と最近生徒会に入った匙元士郎の姿があった。実は生徒会長の本名はソーナ・シトリーといって上級悪魔である。今回は新人同士の顔合わせに集まったのだが、匙は松田が自分と同じ『兵士』だと聞いて露骨に嫌そうな顔をする。

 

「俺としては変態のお前と同じだってのは傷つくんだけどな……」

 

「な、なんだと!」

 

匙の物言いに松田が反応しソーナが止めようとしたその時、窓が開き一匹の黒猫が入り込んでくる。そして、黒猫は瞬く間に人間の姿の変化した。

 

「白音、久しぶりにゃ」

 

「ね、姉様……」

 

黒歌の姿を見た小猫は怯え出し、近くに居たリアスの影に隠れる。そしてリアス達が警戒心をむき出しにする中、匙と松田は黒歌に見とれていた。

 

「何!? 小猫ちゃんにあんな美人のお姉さんが!?」

 

「スゲェ美人。スタイルも良いし、服装がエロイ……」

 

二人の視線は黒歌の体に集中する。大きく突き出た胸に括れた腰。そして真白な肌が着物から惜しげもなく露出しており、あと少しズレれば大切な所が丸見えになりそうだ。そんな二人の姿を見てリアスとソーナは頭痛を覚えた。

 

「サジ。いい加減になさい!」

 

「一郎もよ! 彼奴はSS級のはぐれ悪魔の黒歌よ!」

 

二人は何時でも戦えるように魔力を漲らせる。だが、黒歌はそんな二人を見て首を傾げた。

 

「あれ? 私の手配が解除されたのって聞いてないの? 今の私は赤龍帝の下僕や所有物的な扱いになってるんだけど?」

 

黒歌はそう言うとハーデスから渡された契約書を胸元から取り出す。其処には黒歌の手配を解除するという事が書かれていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒歌は上手くやったかな?」

 

その日、黒歌がオカルト研究部の部室に向かう事を聞いていた一誠は風呂に入りながら呟く。その時、浴室の戸が開かれ玉藻が入ってきた。

 

「お約束のご褒美を頂きに参りました、ご主人様♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、ご主人様に体を洗って頂けるなんて……。玉藻は幸せ者です!」

 

「えぇ~、昔はお風呂のたびに逃げ回てったじゃない。シャワー嫌い克服したんだ」

 

まだ玉藻が生きていた頃、お風呂に入れようとする度に逃げ回り大変だった事を一誠は思い出す。何とか捕まえて体を洗ったら洗ったで暫く拗ね、また翌日になったら一誠にベッタリになっていた。

 

「あ、あれは小動物だったからでございます! あの時はお風呂が怖くて……。でも、今はこの時が何よりの至福で御座います!」

 

「あっ、尻尾はポチの犬用シャンプーで良い?」

 

「オッサンと乙女を同じシャンプーでお洗いになる気で!?」

 

文句を言いつつも結局洗って貰う事にした玉藻であったが、一誠が指を鳴らした途端に狐の姿に戻った。

 

「こっち方が洗い易いからね」

 

「うぅ、ご主人様のイケズ。此処は私が尻尾を洗われている最中に敏感に反応するのを見て衝動を抑えきれずに押し倒す所でしょうに。……って、この姿だとシャワー怖っ!? まるで滝みたいで……」

 

「はいはい、すぐ済むから大人しくしててね~」

 

「みぎゃぁぁぁっ!!」

 

その後、浴室には玉藻の悲鳴が響き渡った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あう~、散々な目に会いましたぁ」

 

「ごめんごめん」

 

「だからぁ、もう少し此の儘で居させて下さい♪」

 

入浴後、ヘロヘロになった玉藻はリビングてグッタリとしており、一誠に膝枕をされていた。一誠の膝に頬擦りするその顔は幸せ其のもので緩みきっている。そして玉藻は甘えるような声を出した。

 

「ご主人様ぁ。……大好きです♪」

 

一誠はそのままスヤスヤと寝息を立てだした玉藻の耳をそっと撫でる。子狐の時のようにそこを撫でられた彼女は気持ちよさそうな声を出していた。そして一誠が玉藻をソファーに寝かせた時、誰か訪ねてきたのかチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

「はいはい、どちら様~? 今日、父さん達は帰ってこないよ~?」

 

「……そう」

 

一誠の言葉を聞いた客人はそう呟くとドアを急に開ける。客人の正体は黒歌であり、後ろ手でドアの鍵を閉めるなり一誠目掛けて飛び掛って来た。

 

 

 

 

「イッセー♪ 白音と和解できたにゃ! 理由を話したら信じてくれて、とりあえず携帯の番号を教えてくれるって! 本当は一緒に住みたいけど……。ほら、私って一応貴方の所有物扱いにゃ? ボロ出して正体バラしてもいけないし、ちょくちょく会う事になったにゃ!」

 

「ふ~ん、良かったね。それで、なんで俺は押し倒されてるの?」

 

「も・ち・ろ・ん・お・れ・い♪ 今日はたぁ~っぷり楽しもっ!?」

 

一誠を押さえつけながら器用に着物の帯を解いていた黒歌であったが、後頭部に衝撃が走り気絶する。一誠が見上げると笑顔を浮かべてはいるものの目が笑っていない玉藻の姿があった。

 

 

 

「全く、油断も隙もあったものじゃありませんねぇ。狸寝入りを続け、ベットまで運んで貰った所で襲いかかる計画だったのですが……ご主人様も流されない! ふふふふふ、あまり度が過ぎると一夫多妻去勢拳ですからね?」

 

「は、はい!」

 

一夫多妻去勢拳。初めて聞く言葉だが身の毛もよだつ恐怖を感じた一誠は思わず敬礼をしてしまう。そんな時、一人の侍が家に入って来る。その侍にはイヌ科の尻尾が生えていた。

 

「街の見回りを終えて来たで御座るよ。途中、羽が八枚の堕天使が襲って来たで御座るが……ムカついたのでボコった後に尻を真っ赤になるまで叩き、犬クソ乗せた上で縛り付けて放置して来たが問題あったで御座るか?」

 

「ふ~ん、ご苦労様。かなり上級の堕天使かぁ。レイナーレの強化に使えそうだね」




意見 感想 誤字指摘 アンケート お待ちしています


しかし、グレンデル退場か…… つまりあいつをどうこうしてもストーリーの進め方には……

ユークリッドが余りにも…… モロかませじゃん! あんだけ仰々しく登場しといて主人公の新技に2回連続で負けるって……(笑)

赤髪のためにも八岐大蛇に早く出てきて欲しい


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十三話

今回短めですいません あんまり話が進みません 

玉藻のお仕置きのあたりを修正しました


天気は快晴、絶好の球技大会日和。二年生の学年別競技は野球だった。

 

「イッセー君、頑張ってぇ!」

 

バッターボックスに立つ一誠に向かって女子達の声援が飛び、松田を中心としたモテない男子から嫉妬の視線が注がれる。実は一誠はそこそこモテているのだ。成績も優秀で運動もでき、普段無表情で何を考えているか分からない所がミステリアスで素敵、らしい。最も、一誠はそんな事などどうでも良く、興味の対象外の相手から好意を寄せられても何とも思わなかった。

 

「えい」

 

普段通りのやる気のない声と共に振るわれたバットはボールを芯で捉え、白球は青空へと消えていく。全打席ともホームランを打った彼は対して嬉しそうな顔もせずホームベースへと帰還した。

 

「きゃ~! ステキー!」

 

「お疲れ! 相変わらずの大活躍だな。なぁ、野球部に入ってくれよ」

 

「……面倒臭い」

 

再び向けられた声援や部活への勧誘にも無表情で答えた一誠はベンチに座ると何気なく辺りを見回す。すると、

 

 

 

 

 

 

《次も頑張るでやんすよ~!》

 

「!?」

 

一年生に混じって応援をするベンニーアの姿があり、この時ばかりは一誠の鉄仮面が剥がれ落ちた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベンニーアちゃん!? なんで学園に居るのさ!?」

 

その日の夜、異界にベンニーアを連れてきた一誠は彼女を問いただす。すると、当の本人は首を傾げながら訊き返してきた。

 

《あれ? ハーデス様から聞いてなかったでやんすか? 一誠様のサポートの為にあっしを派遣するってことになったんですぜ。んで、この前の貸しを理由にあっしを入学させたって訳でやんす。貴方がこの街に居ることはバレてるでやんすからね》

 

「困るなぁ。そういう事はちゃんと言ってくれないとさ。……もう一つ訊いて良い?」

 

《なんでやんすか?》

 

「……前から訊きたかったんだけどさ……ベンニーアちゃんって穿いてるの?」

 

一誠がした質問はド直球のセクハラ。ベンニーアの服装は太股を大きく露出させ股の間と後ろにヒラヒラした布があるという大胆な物だが、どれだけ動いても下着がチラリとも見えないのだ。それが気になっていた一誠の質問に対しベンニーアは怒るでも恥ずかしがるでもなく怪しく笑いながら質問を返してきた。

 

《なら、確かめてみやすか? 一誠様なら構わねぇでやんすよ》

 

「マジ!? なら。早速!?」

 

そう言って彼女は布地を両手で持つとヒラヒラと揺らした。思わず太股を凝視した一誠であったが、悪寒を感じて後ろを振り向くと恐ろしい笑みを浮かべている玉藻の姿があった。

 

 

 

 

「何してるのかな~? ……ご安心下さいませ、ご主人様。使い物にならなくなったら私も困るので後で治しますから☆ 秘・奥・義! 一夫多妻去勢拳!!」

 

玉藻は右手にオーラを込めて金的の構えを取る。弱点を一撃で粉砕するその技に対し一誠は臆するでもなくただ立ち尽くし、

 

 

 

「おいで~」

 

「……。は~い♪」

 

両手を前に伸ばして玉藻を誘う。しばし迷っていた玉藻であったが、甘えた声を出して一誠の胸の中に飛び込んだ。一誠はそのまま片手で玉藻の肩を抱き寄せると空いた手で頭をそっと撫でる。

 

「ごめんね~。今度から控えるよ」

 

そしてトドメとばかりにデコにキスをすると玉藻の顔が完全に緩みきり、一誠の胸に顔を摺り寄せる。

 

「もう、ご主人様ったらスケベなんだから。……私の着物の裾を代わりに捲らせて差し上げます♪」

 

「……保健室行こうか?」

 

「キャッ♪ 何処までスる気ですか? ……今回は誤魔化されますが、今度見かけたら一六連撃バージョンですからね♪」

 

「……う、うん」

 

最後に告げられた死刑宣告に一誠だけでなく、男性陣全員が顔を青ざめた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~。くちゅん!」

 

球技大会を見物して後に小猫と話をしていた黒歌であったが帰る途中に土砂降りに会い、クシャミをしながら異界へと戻ってきた。着物からは水滴がポタポタと滴り、体はブルブルと震えている。心配した口裂け女がもってきた服に着替えて漸く落ち着く事ができた。

 

「大丈夫かい? ほら、生姜湯でも飲んで温まりな」

 

「うにゃ~……。風邪ひいたかも。イッセー、看病して~!」

 

看病されるのを口実に一誠に甘えようと思っていた黒歌であったが、確かに気配がするにも関わらず返事がない。代わりにメリーと花子さんが近寄ってきた。

 

「イッセーなら今は無理よ。さっき玉藻と保険室に行ったから。……あれ、そんなに怖いのかしら? 私、人形だから分からないわ」

 

「……ドスケベ男。潰されちゃえ」

 

「……どういう事? ねぇ、ベートーベン。何があったのにゃ?」

 

黒歌は状況が飲み込めずベートーベンに訊くも、彼は顔を青ざめさせ答えてくれなかった。あと、死霊霊手の男性陣の玉藻への服従度が大幅に上がったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風邪引いたから狐の襟巻きが欲しかったのよね。丁度良かったにゃ」

 

「あら、私だってご主人様に演奏を聴いて頂くために三味線を作っているのですが、ちょうど猫の皮が欲しかったんですよ」

 

それは球技大会から数日後の休日の昼間の事。玉藻と黒歌は互いに毒を吐きながら睨み合っていた。事の発端は夏休みに行くギリシア旅行の部屋割りについてだ。何を血迷ったのかハーデスは一誠の部屋も含めて二人一部屋だと伝えて来て、その相部屋の相手を争っているのだ。

 

「ご主人様と同じ部屋になるのは私です!」

 

「いや、私にゃ!」

 

「……誰か止めてよ」

 

後が怖いので一方の味方をする訳にも行かない一誠が他の霊に視線で助けを求めるも二人より弱い者達には目を逸らされ、尾が一本の玉藻となら渡り合える者達は余興代わりのつもりなのか静観していた。口論は最終的に取っ組み合いの喧嘩にまで発展し、ただでさえ際どい着物の裾がめくれ上がりだす。やがて二人の着物は肌を隠す働きを果たさないほど乱れ、その時になって漸く仲介役が帰ってきた。

 

 

 

 

「いい加減におし! 人がちょっと出かけてたら喧嘩ばっかして、餓鬼が見てんだろ!」

 

「「きゃん!」」

 

二人は口裂け女の拳で黙らされる。かつて全国の小学生を震え上がらせた都市伝説のお化けは異界でもまとめ役として恐怖の存在であった。その後、二人はジャンケンで争う事となり、術を駆使したイカサマの応酬の末に玉藻が勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~。……お客さん?」

 

一誠が異界より帰ると玄関には見慣れない靴が二足。そして家の中からは聖なるオーラが漂ってきた。一誠が気にせずに奥へと入ると母親が二人の少女とアルバムを広げて話をしている。

 

「ほら、玉藻はイッセーに懐いて離れなかったから大体の写真に写っているのよね」

 

「あ~、覚えてます。私は何故か嫌われてて唸られてばっかりでした。さっきも庭にいたワンちゃんにも唸られるし、何ででしょうね?」

 

「あらあら、ポチが唸ったの? 普段は大人しいのに変ねぇ」

 

小さい頃から写真を写すと心霊写真ばかりの一誠であったが、そのアルバムはいたって普通の写真ばかりが収められているものだ。一誠に気付いた母親は栗色の髪の少女を指し示す。

 

「イッセー、お帰りなさい。懐かしい子が来てるわよ」

 

「イッセー君、お久! 私が誰か分かる?」

 

「うん。何時か何処かで会った誰かさんだったよね。ちゃんと覚えてるよ。あの時は大変だったよね、何となく」

 

「絶対分かってない! てか、誤魔化す気もない!?」

 

「いや、イリナちゃんでしょ? ちゃんと分かるって」

 

「いや、分かってたならさっきのは何!?」

 

一誠の言葉に栗色の髪の少女……イリナは激しく反応する。どうやら一誠のペースについて行けないらしく、隣にいる青髪の少女も戸惑っている。すると一誠は肩を竦めて言った。

 

「あんまり叫ぶと血管切れるよ?」

 

「誰のせいで叫んでると思ってるのよ!」

 

「俺しか居ないでしょ。何言ってんの?」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 全ッ然性格変わってないわねぇぇぇぇ!!」

 

その日の事を青髪の彼女は語る。あれだけ叫んでいる人を見るのは初めてだったと……。

 

 




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十四話

前話で玉藻が一誠に対してお仕置きする所を修正しました isのノリになってたので……


紫藤イリナが兵藤一誠に抱いた初印象は、”変な子”、だった。浮かべている表情はどこか貼り付けているような印象を感じさせ、誰もいない方向をジッと見たり、まるで誰かと話をしているかの様に独り言を言っている時がある。ただ、ペットの狐と遊んでいる時だけは年相応のあどけない表情を見せていた。そんな彼にイリナは訊いた事がある。なんで人に対してそんな表情を向けるのか、と。それに対し、一誠は面倒臭そうに答えた。

 

「イリナちゃん達が彼らに見向きもしないのと同じだよ。僕にとっては彼らの方が興味深くて、生きてる人には興味が湧かないんだ」

 

「変なの。まるで幽霊が居るみたいじゃない」

 

「……そうだね。今のは忘れて」

 

その言葉を聞いた一誠はどこか寂しそうな顔をした。まるで其処に居ないはずの誰かを哀れんでいるように……。

 

当時のイリナには結構な数の友人が居たが、その誰もが一誠の事を不気味がり、彼自身も人を避けるように他人を誂うような態度をとっていた為に殆ど遊ぶ機会はなかった。だが、勝手に持ち出した祖母の形見の指輪を林で失くした時に見付けてくれた事を切っ掛けに一方的ながら友人と思うようになり、彼女が親の都合で海外に行くまでの間は一緒に遊んでいた。そんなある日、イリナは一誠に尋ねた事がある。なんで仲良くもなかった自分の為に指輪を探してくれたのか、と。

 

「簡単だよ。彼らの姿が見え、声が聞こえるんだから力に成りたいじゃない。あの時は君のお婆ちゃんに頼まれたんだ」

 

その時の一誠の顔が何処か誇らしげだったのをイリナは覚えていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イリナちゃん、何時日本に帰ってきてたの? ……あ、ごめんね。すっかり忘れてたよ。兵藤一誠です」

 

一誠は先程から話題にも上がらず所在なさげにしている青髪の少女に話しかける。ようやく話題を振られたことに青髪の少女は安堵のため息を吐いた。

 

「……ゼノヴィアだ。ああ、別にイリナは帰ってきた訳じゃない。ちょっと任務で近くに来たんだが、イリナがついでに寄りたいと言ってな」

 

「任務? へ~、その年で働いてるんだ。でも、変わった格好だね」

 

「そ、そうなのよ。ねぇ、ゼノヴィア」

 

「あ、ああ。何の任務でこんな格好をしているかは機密上言えないんだがな」

 

二人の格好は白いローブと日本では大いに目立つ格好をしており何の仕事か分からない。最も、一誠は二人がエクソシストであり、ポチがボッコボコにしたという堕天使関連だろう事は予想がついていたがあえて訊いてみた。二人は一誠の目論見通りにどう言っていいか困った顔をし、苦しい言い訳をして足早に去っていく。それを見送った母親は買い物に出かけ、一誠は自室のベットに寝転んだ。

 

 

 

 

 

 

「……玉藻、枕」

 

「はいは~い♪ どうぞお使いくださいませ!」

 

玉藻はそっと自慢の尻尾を差し出し、一誠はそれに頭を乗せる。そしてそのまま顔を埋めると手触りの良い毛を手で軽く掻きだした。

 

「あ~疲れた。あの子には色々喋っちゃてたから内心ヒヤヒヤだったよ。母さんが心配するから無関心な態度は取れないしさ。親不孝はしたくないんだ」

 

「ご主人様がお望みなら呪い殺しますが?」

 

「……別にいいよ。天界が介入してきたら面倒でしょ? どうせあの程度だったらバレないけどさ。玉藻がこうやって尻尾を貸してくれるだけで俺は十分だからさ」

 

一誠はそう言って玉藻の尻尾に頬擦りする。よく手入れされている尻尾は枕としては最高だった。枕にされている玉藻もどこか嬉しそうであり、部屋に和やかな空気が流れる中、一誠はポツリと呟く。

 

「……ねぇ、玉藻。俺は生きてる人が好きじゃないんだ。皆、同じようになろうとしていて気持ちが悪い。両親や一部の人を除いて興味が湧かないんだ」

 

「ええ、ご存じですとも。死人には社会のしがらみがございませんから本性を出す者が多く居ますし、生者の中にも他とは全く違う者が居ます。ご主人様はそんな彼らには興味が向くのでしょう?」

 

「わぁ♪ 俺の事を分かってるね。俺はそんな玉藻が大好き……」

 

一誠は気疲れからかそのまま寝息をたて出す。母親が買い物から帰って来るまで玉藻はその頭をそっと撫でていた。

 

 

「……貴方が何時の日か冥府へ行くという事は、ご両親とはお別れする事となります。貴方がそれを親不孝だと思っているのならその日まで親孝行を続けましょう。私も出来る限りのお力添えを致します。だから、ずっとお側に置いてくださいませ、ご主人様……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっ、できましたらバカ猫は無しの方向でお願いしたいな~♪ それと子供は最低でも三人程、キャッ☆」

 

とことん締まらない玉藻であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリナとゼノヴィアが来日した理由は聖剣エクスカリバー奪還任務の為だった。かつての大戦で砕けたエクスカリバーは七本に鍛え直され、行方不明の一本を除いて教会の三宗派がそれぞれ二本ずつ保管していた。だが、堕天使の幹部であるコカビエルが一本ずつ奪い去った。そしてこの街に潜伏しているので活動する許可が

欲しいのでリアス達の所に来たのだ。もっとも、悪魔と堕天使が手を組む事を危惧している彼女達は一切の手出し不要と言ってきたのだが。

 

「堕天使や悪魔にとって聖剣は脅威だろう? 上層部は貴方達の介入を望んでいないんだ。……予め言っておく。もし貴方がコカビエルと手を組むようなら魔王の妹でも容赦なく斬り捨てる」

 

ゼノヴィアは持参したエクスカリバーを軽く握って挑発的に言い放つ。その時、不気味な声と共に異形が天井をすり抜けて部室に入ってきた。

 

 

 

「ウフフイ……。中々面白そうな事になっているじゃないか…」

 

「リアス・グレモリー。コイツも貴様の眷属か?」

 

「……いえ、違うわ。此奴は今代の赤龍帝の部下よ。……何の用かしら? 今忙しいんだけど」

 

ゼノヴィアはいきなり現れた異形に警戒し、リアスは不快げにブイヨセンを睨む。貴族達が流した風評によってリアスの評価は下がり、グレモリー家にまで影響が出ているからだ。

 

『グレモリーの次期当主は自分の才能を扱いきれていない』

 

もちろん自分が情けなく負けたせいである事は理解しているが、それはあくまで理性での話。感情の面では単純にはいかない。故にリアスにとって原因となった一誠の部下の来訪は好ましくなかった。だが、当のブイヨセンは特に気にした様子もなく小猫へと近づいていく。

 

「黒歌の奴が風邪をひいたヨ…。悪いが居場所を知られる訳にはいかないから見舞いは断るが、一応知らせておけと言われてネ…。ま、軽い風邪だから心配はないヨ…」

 

「……そうですか。では、安静にする様に伝えてください」

 

ブイヨセンは軽く頷くと再び天井へと吸い込まれるように消えていく。しばらくその光景に呆然としていたゼノヴィア達であったが、すぐに我を取り戻しリアス達に向き直った。

 

「今代の赤龍帝は悪魔の手先なのか? それにしては少々様子が変だが……」

 

「違うわ。ただ、ちょっと揉めただけよ。正体も不明よ。分かっているのはペットの狐が事故死した事とこの街に住んでいるという事だけね。ああ、あと今はバイトだから正式な所属ではないけどハーデスの部下をやってるみたいよ」

 

「……そうか。なら、任務中に接触してきたのなら勧誘してみるか。正式な所属でないのなら問題あるまい」

 

「そうね! 正しい道に導いてあげなきゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……余計なお世話だよ。玉藻ぉ。下手したら正体バレるかも知れないじゃないかぁ」

 

「も、申し訳ございません、ご主人様!」

 

一誠は異界の保健室で寝ている黒歌の見舞いに訪れていた。膝の上には狐姿の玉藻が乗っており丁寧にブラッシングされている。だが、ブイヨセンからの報告を受けた一誠の手が止まってしまった。先日のポカの件は許したが、再び訪れた正体発覚の危機にブラッシングどころではなくなったようだ。

 

「……隙をみて記憶を消去しといて。なんなら俺に関する記憶全てを変換しても良いから。……とりあえず今回の件で使う部下を今から見繕っておいて」

 

「お任せ下さい、ご主人様!」

 

玉藻はそう叫ぶと一誠の影の中に消えていく。影の中には手駒にした霊のための異空間が存在しているのだ。

 

「……それにしてもコカビエルかぁ。ねぇ、イッセー。白音だけでも守ってくれないかにゃ? 私も風邪ひいてなかったら戦うんだけど……」

 

どうやら黒歌は小猫の身に何かあったらと心配なのか今にでも無理してベットから立ち上がりそうだ。

 

「別に良いけどさ。何ならポチにでも頼む? 群れの仲間の妹なら喜んで守ると思うよ。……玉藻に治してもらったら良いのに」

 

「あの駄狐を頼るのはごめんにゃ!」

 

黒歌が不快そうに言い放ったその時、お粥を持ったレイナーレがノックして入ってきた。

 

「お粥を持ってきたわよ、黒歌。……一誠様、折り入ってお願いが御座います。今の私は我が強くないというだけで玉藻様の配下の幽死霊手ではなく側近である死霊四帝の末席を汚しております。なので、どうかコカビエルの相手は私にさせて頂きたいのです。貴方の側近に恥じぬ力があるか確かめさせてください!」

 

「あ、良いよ。でも、危なくなったら交代させるからね。……最近良いのが手に入ったから力を試したいんだ」

 

一誠の背後には何時の間にか好戦的な笑みを浮かべた龍の姿があった。




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十五話

「え~と、牛乳買った、砂糖買った、粉唐辛子買ったっと……」

 

その日、一誠は近くのスーパーまで買い物に出かけていた。少し住宅街から離れた所のスーパーは良い商品が揃っており、袋の中には直ぐに完売する稲荷寿司やお菓子等が入っている。その帰り道、前を歩いていた少年の尻ポケットから財布が落ちたのを見つけた一誠は慌てて追いかける。

 

「お~い、そこの人。財布落としたよ~!」

 

「ん? あ、マジだ。いや~、悪いな」

 

少年……フリード・セルゼンが一誠から財布を受け取ろうとした時に二人の目が合い、一瞬の内に理解した。コイツは自分と同じ自覚ありの狂人だと……。

 

「……お前名前は?」

 

「ん~、こういう時は名乗らない方が後々面倒事にならなくて良いよ」

 

「そうか。なら、俺っちも名乗らないでおくわ!」

 

ふたりは最後に握手を交わすと互いに名乗らないまま別れる。珍しく自分の同類に会った事に機嫌を良くした一誠はそのまま街中まで足を運び、甘い物でも食べようと思って店を目指していた。

 

 

 

 

 

 

 

「赤龍帝、久しい」

 

「……また君か」

 

だが、途中でオーフィスと再会したことで折角の気分も台無しになる。相手にせずに横を通り過ぎてもオーフィスは着いて来て、一誠は仕方なく相手をする事にした。公園の屋台でクレープを買った一誠は片方をオーフィスに差し出す。オーフィスは首を傾げながらもクレープにかぶりついた。

 

「それで何の用?」

 

「我、次元の狭間帰りたい。力を貸して欲しい。赤龍帝、沢山仲間いるから戦力になる」

 

「う~ん、悪いけど面倒だから嫌。君が死んだら考えてあげても良いよ」

 

一誠は話を切り上げるとそそくさと立ち去り、オーフィスは後を追ってこなかった。そしてその帰り道、

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうなったらエクスカリバーで脅してでも金を……」

 

「そうね! 異教徒相手なら主もお許しになるはずよ!」

 

犯罪を行うと宣言している幼馴染とその相棒の姿を見つけた……。

 

「……うわ~」

 

見なかった事にしてその場を立ち去ろうとした一誠であったが、二人は極度の飢えの為か野生の勘を発揮し一誠を発見する。そして一誠が早歩きで立ち去る前に肩に二人の手がかかった。

 

「イッセー君! 丁度良かったわ!」

 

「人違いです人違いです人違いです人違いです人違いです」

 

「聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「いや、耳元で叫ばなくても聞こえてるから。年取ると短気になる人って結構いるよね」

 

「その言い方だと私が若くないみたいじゃない! 私は若いわよ!」

 

「同じ年なんだから当たり前でしょ? 誰も君が年寄りだなんて言ってないでしょ。何言ってるの?」

 

「殴って良い? これは殴って良いのかしら!? ゼノヴィア!」

 

「……落ち着け」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、とあるファミレスのテーブルに大量の料理が並べられ、イリナとゼノヴィアがそれを掻き込むという光景が繰り広げられていた。

 

「……ふ~ん、二人は役者でエクスカリバー云々は演技の練習中だったと。良かったぁ。昔の友……知人が中二病に罹ったり、犯罪に手を染めたと思ったよ。それで二人の役は何? 経費着服しちゃったから金を稼ぐ為に犯罪を犯しても許されるってセリフからして、アホで傲慢な狂信者?」

 

「ぐぬぬぬぬ!」

 

「落ち着くのよ、ゼノヴィア。此処で怒ったら駄目よ!」

 

とりあえず先程の発言の事を言及された二人は芝居の練習だったと一誠に嘘をつく。一誠は取敢えず騙されたフリをして好き勝手述べだした。二人は顔を引きつらせながらも後ろ冷たさと食事を奢って貰っているという負い目から何も言い返せない。なお、一誠はそれを計算ずくで言っていた。

 

「いや~迫真の演技で騙されたよ。でも、路上で舞台度胸をつける稽古も良いけど気をつけなよ? おまわりさんにご厄介になりたくなかったでしょ? それでどんな芝居? やっぱ行き過ぎた信仰で起こる悲劇でもテーマにしてるの?」

 

「わ、悪いけど内容は封切りまで秘密なの。……今となっては警察でカツ丼コースの方が良かったかもしれないわね。……あれ?」

 

一誠の相手をする事に疲れを感じたイリナは少し目眩を感じて頭を押さえる。幸いな事に目眩は一瞬で消えてくれ、一誠はイリナを心配そうな目で見つめた。

 

「大丈夫? そういえば年取ると食べた後に直ぐ眠くなるって言うよね」

 

「私はまだ若いわよ!」

 

「誰もイリナちゃんが年寄りだって言ってないでしょ? 全くこの短時間で二回も同じ事言わせるなんて……。 君って被害妄想気味で怒りっぽいよね。良くないと思うから直しなよ」

 

「ふふふふふ! これはもう神の名の下に断罪するしかないわね。……あれ? あの子は……」

 

「……お話があります」

 

イリナがついに狂った笑いを上げだした時、小猫が一誠達に近づいて来た……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は買ったものが痛むといけないから帰るね」

 

小猫から席を外して欲しいと言われた一誠は料金だけ置いてファミレスを出る。そして人目につかない所まで来た所で立ち止まり呟いた。

 

「……玉藻、メディアさん。二人の記憶は操作してくれた?」

 

その言葉と共に現れたのは玉藻と魔術師を思わせるどこか高貴な風貌の女性。女性の名はメディア。かつてオリンポス神々と夫の裏切りによって人生を狂わされた悲劇の女性である。なお、エルフ耳だ。

 

「は~い! ちゃんと後で違和感を感じない様に正体バレに繋がりそうな記憶を消すのではなく、どうでもいいと気にも止めなくなる暗示をしておきました。褒めてください♪」

 

「ちゃんとやったわよ、坊や。それで約束の報酬は何時貰えるのかしら? あと、そこの馬鹿狐が原因なんだから褒めなくても良いわ」

 

メディアは他の霊と違い居場所と報酬で協力するという関係である。彼女自体の魔術的能力が高いのと、オリンポスの神々への憎しみから完全には支配できず、中途半端に支配するよりは協力関係の方が性能をフルに発揮できると判断したというのが理由だ。

 

「ちゃんと報酬は払うよ。子供服の雑誌とお金で良いんだよね?」

 

「ええ、そうよ。あぁ、ありすや花子達にどんな服を着せようかしら……」

 

メディアは恍惚とした表情で妄想の世界に入る。それを玉藻は呆れたように見ながら肩をすくめた

 

「……これで神代の魔術師だってんだから驚きですよね~」

 

「いや、玉藻も人の事言えないからね?」

 

「……何か言いましたか? ご主人様☆」

 

その時一誠は思った。これ以上は何も言わないほうが良い、と……。

 

「稲荷寿司食べる?」

 

「はい!」

 

 

そして再び帰り道で一誠は不安そうに呟いた。

 

「……ねぇ、三人共。俺が家を出て行く時もお願いね。両親や周囲の人に俺に関する記憶を気にも止めなくなる暗示をさ。本当は出て行きたくないけど、ドラゴンは戦いを引き寄せる。霊使いの力も普通に暮らすには邪魔なだけ。いくら護衛を置いても俺が近くにいたら危険すぎて守りきれないかもしれないからね。……あ~あ、玉藻達と一緒にいられるのは嬉しいけど、なんで俺は神滅具やこんな力を持って生まれてきたんだろうね?」

 

「坊や……」

 

『……すまんな相棒』

 

「大丈夫ですよぉ、ご主人様ぁ! この玉藻がご両親の分までお側にいます。寂しい思いなど決してさせません!」

 

「……うん、玉藻の能天気っぷり見てたら楽になったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!? 白音が聖剣破壊に協力を申し出たぁ!? ゴホゴホッ!」

 

「うん。そうだよ。木場君は聖剣を扱うために集められて最後は殺された被験者達の生き残りらしくってさ。グレモリーとの交渉の後に戦いを挑んで負けてから様子がおかしいんだって。それを心配しての事らしいよ?」

 

黒歌は妹の行動に驚いて立ち上がろうとして咳き込む。どうやら風邪は結構悪化しているようだ。

 

「あ~もう、あの駄狐に頼るのは癪だし、ポチ達の方が私より強いから任せるけど心配にゃ~」

 

そして、その心配は的中する事となる。一誠とは違って素直な小猫に癒された二人は本部に黙っている事を条件に協力を承諾。二人から神父の服を借りた小猫と祐斗はエクスカリバーを所持しているフリードを探索していた。そして探索から数日後、襲ってきたフリードと戦っていた二人であったが祐斗の作り出した剣は尽く砕かれ、小猫も修行を始めた仙術でサポートするも苦戦する。そして、フリードは聖剣の力を扱いきっていた。

 

「ひゃっはぁ! 其処のオチビちゃんは妙な技を使ってるけどまだまだ練習不足ってとこか? ま、来世では頑張りな!」

 

そう言ってフリードがエクスカリバーを小猫目掛けて振り下ろしたその時、フリードの片手が宙を飛ぶ。フリードの横には一人の侍が立っていた。侍の瞳は黒く、犬歯を剥き出しにしているその風貌は狼を連想させる。そしてその手には妖しき力を発する刀が握られていた。

 

「拙者の名は犬飼ポチ。義によって助太刀致す!」

 

「ぐっ! な、なんだ!? 力が入んねぇ……」

 

フリードはエクスカリバーを杖がわりに立ち上がろうとするもガクッと膝から崩れ落ちる。その脱力は出血だけでは説明できず、フリードは直ぐに原因に行き着いた。

 

「その刀の仕業かよ……」

 

「然り。先ほど貴様を斬った時に傷口から魂の力である霊力を吸い取った。さぁ、小僧。復讐を果たすのなら今だ」

 

「……そうだね」

 

祐斗は急に現れたポチに戸惑いつつもフリードを睨み、エクスカリバーを砕こうと斬りかかる。だが、突如飛来した光の槍によって遮られてしまった。

 

 

 

 

 

 

「……やれやれ。今其奴を殺されては困るのだがな」

 

「コカビエルの旦那ぁ!」

 

何時の間にかフリードは十枚の羽を持った堕天使……コカビエルに抱えられていた。コカビエルは小猫達を一瞥しポチの所で表情が固まる。まるで思い出したくない記憶が蘇ろうとしているような顔だった。どうやら受けた仕打ちがかなり堪えたらしく、軽い記憶喪失に陥ったようだ。

 

「……ぐっ。あの男を見ていたら頭痛が。何だ? 絶対に思い出してはいけない気が……。糞っ! ここは引くぞ!」

 

 

 

「見つけたぞ、コカビエル! 怪我はないか、小猫!」

 

「小猫ちゃん、やっほ!」

 

コカビエルはフリードを連れて逃げて行き、騒ぎに気付いて駆けつけたイリナ達はその後を追う。その時、小猫の傍を通り過ぎる際に笑顔を見せた。直前まで一誠の相手をしていた反動から小猫の好感度がかなり高い事になっているようだ。

 

「僕もっ!」

 

「……行かせません」

 

祐斗は二人の後を追おうとするも小猫に羽交い締めにされて足止めされる。その間にコカビエルは遠くまで離れていき、ポチはその場を微動だにしなかった。

 

「……貴方は行かないんですか?」

 

「拙者の役目は仲間である黒歌の妹の貴様を守る事。奴の相手をするのは別の奴よ」

 

その時、近づいてくる気配を察知したポチが横を見ると困ったような顔のリアスが立っていた。

 

「二人共説明してくれるかしら? 其処の貴方にも付いてきて貰うわ」

 

「……良いだろう。言わなければいけない事も有るで御座るからな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それじゃあ貴方は赤龍帝の部下なのね?」

 

「然り。拙者は死霊四帝が長、犬飼ポチ。誇り高き人狼族の侍で御座る。此度は主君の命令により小猫を守る事になった」

 

オカルト研究部の部室にはお仕置きとして尻を叩かれた小猫と祐斗が蹲っており、リアスの質問に答えるポチの姿があった。

 

「……そう。仲間がコカビエルの相手をするんでしょ? どうせ私達がやるから介入するなと言っても聞かないだろうし協力しましょ?」

 

それはリアスに出来る最大限の譲歩だった。本来なら魔王に援軍を要請するべきなのだが、プライドの高い彼女は自分の縄張りの問題は自分達で解決するべきと考えそれを嫌がる。本当ならポチ達にも介入されて欲しくないのだが言っても聞かず、下手したら戦いに巻き込まれる可能性もあるので協力して戦おうと言ったのだ。だが、当のポチは困惑した顔をしていた。

 

「……すまぬ。今の話では貴様らも戦う気に聞こえるのだが、拙者の理解力不足か? あの程度の雑魚相手に勝ち目のない貴様らが拙者達に協力? 正直言って足手纏いで御座る。……まぁ、そこの小僧はエクスカリバーに因縁がある様だから同席を許すが、残りは冥界にでも避難するか街の住人の警護にでも回っておるがいい」

 

「……なんですって! 私にはこの土地を任された責任があるわ!」

 

「笑止! 堕天使に短期間で二回も好き勝手されておきながらよく言う。先日の件でも此度の件でも既に犠牲者が出ているというのに、それで管理できていると? 言っておくが貴様らが勝手に首を突っ込んでも、拙者は小猫以外は守る気はないで御座る。勝手に討ち死にして自己満足に浸るが良い」

 

ポチはそう言うと部室から出て行こうとし、最後に侮蔑の混じった声で告げる。

 

「先日の契約者が惨殺され、此度の一件でも神父達が殺されていると聞く。それに何程の民草が怯えていると思う? 彼らは不安なのだ。殺人鬼の牙が自分達に向けられるかもしれぬとな。……忘れるな。それらは貴様ら悪魔と堕天使の争いが引き起こした事だっ!」

 

ポチはそう叫ぶと乱暴に戸を閉めて出ていき、その言葉はリアス達の心に重く伸し掛った……。




松田君は原作イッセーと違って祐斗との友情イベントが少なく探索に協力してません。匙も一誠が引き込んだから協力してません。

意見 感想 誤字指摘 活動報告でのアンケート お待ちしています

犬飼ポチ GS美神麗子極楽大作戦 人狼の侍で仲間を殺し宝を持ち出し人を殺して狼王になろうとしていた

メディア フェイトステイナイト 可愛い物と寡黙で誠実な男性が好きな魔女


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十六話

ポチがリアス達に侮蔑を含んだ言葉を浴びせ、帰り道にある電柱にマーキングをした日の深夜、一誠が寝ずにベットの上で本を読んでいると部屋をノックする音がする。

 

「ご主人様、失礼致します」

 

入ってきたのは玉藻だった。お風呂に入ったのか体から湯気が上がり、白い肌にはほんのり赤みが差していた。普段は結っている髪も下ろしており、バスタオル以外は何も身に付けていない。そして玉藻はタオルに手をかけるとそっと脱ぎ去る。妖艶という言葉が相応しい肢体があらわになった。

 

「……玉藻、魅了の術でも俺に掛けた?」

 

「ふふふ、それって私に魅了されているって事ですよね?」

 

膨よかな胸に括れた腰、そして張りのある尻。一誠の視線が釘付けになる中、玉藻はゆっくりと近寄り一誠に覆い被さる。そして一誠が何かを言う前に軽くキスをした。

 

「……今夜はご主人様のお好きなようにしてくださいませ。どういう風に致します?」

 

本人は余裕ぶっているつもりなのだが体は正直らしく、今から散歩に行く犬のように尻尾が激しく振られている。彼女が生きていた頃、餌を前にしてクールぶっていても尻尾が激しく振られていた事を思い出した一誠はクスリと笑うと優しく玉藻を抱きしめ、そっとキスをした。

 

「何時ものご褒美に今日は玉藻の好きなようにしてあげる。どういう風にして欲しい?」

 

「はぅ~! ご主人様ったらイケメンなんだからぁ。玉藻、すっかり参ってしまいますぅ。え~と……日の出まで苛め抜いて下さいませご主人様♥」

 

「……そう。なら、今日は泣き叫んでも気にせずに……」

 

一誠の右手が玉藻の胸を強く掴むと指がズブズブと肉に沈んでいく。そして左手は張りのある臀部へと伸び、其の儘鷲掴みにした。そして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうやらコカビエルが動いたようだね。悪いけど今日は此処までだよ。ポチとレイナーレはもう向かったようだけど、俺もやらなきゃいけない事があるからね」

 

学園の方から強い力を感じ取った一誠はベットから起き上がると寝間着から着替える。玉藻も不貞腐がりながら妖術により一瞬で着物姿に戻った。

 

「あ~ん、ご主人様のイケズ~! ……おのれ堕天使め。私とご主人様の合体を邪魔し腐りやがって」

 

玉藻は毒付きながら指で呪いの文字を描く。この日から何故か堕天使の組織であるグリゴリに所属する男性陣の頭の後退スピードが大幅に上がった。

 

 

 

 

 

 

「家は任せなヨ…。私がちゃんと守るからさ……」

 

ブイヨセンに家の事を任せた二人はあらかじめ用意していた荷物を持つと家を飛び出し、途中のコンビニでオデンを購入してから禁手姿で学園へと到着する。学園の入り口には生徒会のメンバーと血塗れで気絶しているイリナが居た。

 

 

 

 

 

「やぁ、シトリーさん。コカビエルは学園の中だね?」

 

「……その鎧。貴方が赤龍帝ですね?」

 

「うん。そうだよ。それで魔王の援軍は何時頃来るの?」

 

「……先程コカビエルの襲撃があったばかりですので時間が掛かります。それと、貴方の部下の方から貴方を通すように言われていますのでお通りください」

 

ソーナは結界に一誠達が通れるだけの穴を開ける。どうやら彼女達の役目はコカビエルが逃げ出さないように結界を張る事のようだ。そんな姿を見ながら一誠は不機嫌に呟く。

 

 

「ねぇ、玉藻。はっきり言って彼女ってタチが悪い悪魔だよね。眷属は殆ど一般人なんだよ。彼女達の親は知っているのかな? 大切な我が子が人間を辞めているどころか、今にも戦争が起こりかねない世界に足を踏み入れているって事をさ……」

 

「さぁ、知らないんじゃないですか? 知ってたとしたら信じられませんよ。子供が一歩間違えれば死にかねない危険な世界に足を踏み入れてると知ってなお、その原因と同じ学校に通わせてるなんて。ま、ご主人様からすれば彼女達も腹立たしいでしょうね。なんせご主人様が欲しかった平凡な人生をドブに捨ててるんですから」

 

二人はそのまま校庭を目指して歩いていく。二人が校庭に着くとレイナーレとコカビエルの激戦が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し戻ってコカビエルの襲撃の直前の事。連絡役として旧校舎の一室に泊まった朱乃が寝る支度をしていると轟音と共に地響きが起こり、様子を見に外に出た彼女の目前にはコカビエルと片腕のフリード、そして司祭姿の男が立っていた。

 

「あらあら、夜分遅くに何用ですの?」

 

朱乃は内心焦りながらも平静を装い、リアス達に緊急信号を送る。そんな彼女の顔をコカビエルはジッと見つめていた。

 

「……バラキエルの娘か。貴様が幼い頃に一度会った事があるが、母親そっくりになったな」

 

「旦那。ここで殺しちまわねんですか?」

 

「……いや、此奴は出来れば生け捕りにしたい。俺の目的は戦争の再発。コイツを殺せば俺とバラキエルの間に亀裂が生まれかねんからな。それでは勝てる戦にも勝てん。……確か朱乃だったな? リアス・グレモリーの到着まで校庭で待つ。バルパー! 四本のエクスカリバーを融合させる儀式に取り掛かれ」

 

「了解した」

 

コカビエルはそう言うと二人を引き連れ校庭へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……貴様ら来たのか。全く、無謀な事だ」

 

リアス達が学園に着くと既にポチとレイナーレの姿があった。ポチは相変わらずの着物に袴姿。レイナーレは顔の上半分を隠す仮面に軽鎧を身に纏っている。ポチはリアス達を視線に移すと呆れたように呟いた。

 

「……ええ、無謀は百も承知よ。でも私は無謀だからって逃げてはいられないの。私が貴方の主に負けた事で領地にも影響が出ているわ。私には領民達の為にも武勲を上げる義務があるのよ」

 

「……勝手にしろ。貴様が何処で死んでも拙者には預かり知らぬ事で御座る」

 

ポチはそう言うとコカビエルに視線を移す。無意識の内に意識からポチを外したコカビエルは忌々しそうにリアスの赤髪を見つめた。

 

「初めましてかな、グレモリー家の娘よ。忌々しい兄君に似て美しい紅髪だ。見ていると反吐が出そうだよ」

 

「ごきげんよう、堕ちた天使の幹部―――コカビエル。それと私の名前はリアス・グレモリーよ。お見知りおきを。最後に付け加えさせてもらうなら、グレモリー家と我らが魔王は近いように見えて、遠い存在。この場で政治的なやり取りなど、するだけ時間の無駄よ」

 

「貴様の名など知っているさ。敵対する相手の事を調べるなど常識だろう? そうそう、校門の方に土産を送って置いた。俺の所にたった二人で乗り込んできたので少々手荒く歓迎してやったんだ」

 

その時校門の前魔法陣が出現し、傷だらけのイリナが現れる。それを見たソーナはまだ結界に慣れていない匙に彼女の手当を命じた。

 

「さて、要件を単刀直入に言おう。俺は戦争がしたい! 今の生ぬるい小競り合いではなく、種の存亡をかけて戦う血湧き肉躍る戦争がな! その為にエクスカリバーを盗んだが天界は動いてくれん。だから貴様を殺そうと思う」

 

「……戦争狂め」

 

「ふん! 貴様ら悪魔とてレーティングゲームという戦争紛いのゲームを楽しんでいるであろう、に!?」

 

コカビエルは言葉を途中で切ると光の槍を構え、飛んできた光の槍を弾き落とす。そしてそのまま槍が飛んできた方向を睨んだ。

 

「……貴様も堕天使のようだが、なぜ悪魔共と共に居る? それに俺が話している最中だろう?」

 

「あら、敵の前で話す方が馬鹿なのよ。口の中を刺し貫かれたいのかしら? それと今の私はご主人様の手駒。其処の悪魔達は手柄欲しさに後から来たモブ達よ」

 

レイナーレはそう言うと六枚の黒翼を広げコカビエルへと飛んでいく。彼女の手から炎が舞い起こった。

 

「喰らいなさい! コレがご主人様のおかげで目覚めた私の力。光を纏う炎の龍『光炎死龍』よ!」

 

「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

レイナーレの手から放たれた光を含む炎は骨だけの龍の姿となってコカビエルを飲み込んだ……。

 




意見 感想 アンケート 誤字報告待っています!!


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十七話

遅いので誤字は明日探します とりあえず投稿!!


「ご主人様ぁ。やっぱり結婚式ではウェディングドレスが着たいですぅ。あ、まずは何にしますか?」

 

「じゃあ、大根をお願い。ふ~ん、やっぱり玉藻もそういうのに憧れるんだ」

 

一誠と玉藻は校庭にピクニックシートを敷いてコンビニのオデンを食べながら談笑を続ける。玉藻は一誠の口に大根を運びながら冥府の結婚式場のパンフレットに目をやった。

 

「はい! 精神や記憶は玉藻の前のと混同していますが、基本的にはご主人様のペットの玉藻ですから。やっぱり現代日本で暮らしてたら、そういう事に興味が湧いてきたんですよぉ」

 

「ふ~ん。まぁ、俺が冥府に正式に所属して、落ち着いたら式を上げようね。あ、玉藻は厚揚げが好きなんだよね? はい、あ~ん」

 

「あ~ん♪」

 

 

 

 

 

「貴方達! イチャつくのは後にしなさい!」

 

「え~? だって俺には悪魔と違って人の戦いを見物する趣味ないし。このシート内は結界で安全だし」

 

「それにまぁ、彼女も強くはなってはいますが、まだコカビエルに勝てる程じゃございませんよ。態々味方の負け戦なんて見物してもねぇ。そんな事より良いんですか? どうやら不細工なワンちゃんがお出ましの様ですよ?」

 

リアスが振り向くと校庭に三匹の巨大な三頭犬、ケルベロスが現れ唸り声を上げている。

 

「――完成だ」

 

そして、フリードの傍らに立っていた男性の言葉と共に、校庭に描かれた魔方陣の中の四本のエクスカリバーが光りだし、其処には一本の神々しい聖剣が存在した。

 

「エクスカリバーが一本になった光で、下の術式も完成した。あと二十分もしない内にこの町は崩壊するだろう。解除するにはコカビエルを倒すしかない。フリード、私に完成したエクスカリバーの力を見せてくれ」

 

「へいへい、人使いの荒いこって。でもまぁ、この腕の恨みは晴らさないとなぁ!」

 

フリードはエクスカリバーを手に取るとポチへと向かっていく。その時、祐斗が間に割って入って魔剣で斬りかかった。

 

「悪いが君の相手は僕だ!」

 

「ちっ!」

 

だが、その一撃はフリードに防がれる。流石に片手で受け止めるのはキツいようだが、フリードは刃の一部の形を変えて地面に突き刺す事で祐斗の一撃を受け止めきり、そのまま腹部に蹴りを放つとエクスカリバーで斬りかかる。咄嗟に後ろに避けた祐斗だったが避けきれず傷口からは煙が上がりその場に蹲った。

 

「テメェの始末は後だ。今はアイツをぶっ殺す!!」

 

片腕を切り飛ばされた恨みからかフリードは祐斗に目もくれず真っ直ぐにポチへと向かっていく。

 

「死ねやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

フリードの持つエクスカリバーは無数に枝分かれし、刀身を透明にすると高速でポチへと襲いかかる。

 

 

 

 

 

「……温い!」

 

「あ……?」

 

そして、ポチが刀を一閃すると全ての刃が砕け散り、フリードの体もバラバラになって血と臓腑を校庭にぶちまけた。

 

「……所詮はこの程度で御座るか。……そして奴も徐々終わりで御座るな……」

 

エクスカリバーへの復讐の為に生きてきた祐斗は復讐の対象が目の前で簡単に打ち砕かれる光景に呆然とする。ポチはそんな彼など気にも止めずレイナーレとコカビエルとの戦いに目をやった。その時、ケルベロスが祐斗に襲いかかる。だが、ポチは動こうとせず、そのまま鋭い爪が祐斗へと迫り、横から飛び出した小猫によって殴り飛ばされた。

 

「……祐斗先輩、今は戦いに集中してください!」

 

ケルベロスは体内に気を送り込まれた事によって内蔵に深刻なダメージを受けて吐血。そのまま立ち上がろうとした所で、急に現れたゼノヴィアの一撃で頭を飛ばされ死に絶えた。

 

「……どうやら遅れたようだな。既にエクスカリバーが破壊されているとは。あの男は何者だい?」

 

「……今の赤龍帝の部下らしいです。詳しくは知りません」

 

「そうか。おい、良い事を教えてやる。あそこで打ちひしがれているのが聖剣計画の首謀者、皆殺しの大司教バルパー・ガリレイだ!」

 

「……そうか。アイツがっ!!」

 

ゼノヴィアは既に用が済んだとばかりに一誠の所に向かうポチを一瞥した後で校庭の隅にいるバルパーを指差す。彼は目の前でエクスカリバーが砕かれた事によって呆然としており、自分に近づいてくる祐斗に気がつかないまま首を切り飛ばされた。

 

「……皆、敵はとったよ」

 

長年の復讐に終止符を打った祐斗は死んでいった同士に祈りを捧げる。だが、彼に胸に去来するのは虚しさと喪失感。目標を失ってしまった彼の心は空っぽになっていた。

 

 

 

そして、松田が光の矢をケルベロスの顔面目掛けて連射し、本能的な恐怖から足が止まった所をリアスと朱乃がトドメを刺すことで全て倒しきった頃、コカビエルとレイナーレの決着がつこうとしていた。

 

「ぬんっ!!」

 

コカビエルは校舎ほどもある巨大な槍を振るいレイナーレに襲いかかる。その左半身は先程の攻撃で焼かれ、左目も見えていないが避けまわるレイナーレを正確に狙っていた。一方のレイナーレも時折光炎を飛ばし、両手に持った槍で立ち向かうも一蹴される。

 

「中々の力を持っているようだが……如何せん経験が足らんな」

 

レイナーレは確かに短期間で急激に力を付けた。だが、それでも歴戦のコカビエルには一歩及ばず、経験値では圧倒的な差がある。そしてコカビエルもレイナーレと同じように両手に身の丈ほどの槍を持ち、レイナーレと打ち合う。次第にレイナーレの体に裂傷が出来始め、レイナーレは後ろに大きく退避した。

 

「此れでも喰らいなさい!」

 

レイナーレは再び光を含む炎の龍をコカビエル目掛けて放つ。炎の龍は徐々に激しく燃え上がりコカビエルへ向かって行き、

 

 

 

 

 

「……焦りすぎだ。その距離では最大威力を発揮できん」

 

「なっ!?」

 

威力が最大まで上がる前に巨大な光の槍で貫かれ風穴を開けられる。そしてコカビエルはその穴が修復する前に穴を通り抜け、再び身の丈ほどの槍を創るとレイナーレ目掛けて投擲する。レイナーレは腹部を刺し貫かれ校庭に落下していった。

 

「申し訳…ございま…せん…」

 

まるで昆虫標本のように貼り付けにされた彼女の足がピクピクと動き、やがて力なく垂れ下がる。その光景を見ていたコカビエルの背後に無数の光の槍が出現し、レイナーレ目掛けて降り注いだ。しかし、槍が降り注いだ事で舞い上がった土煙が晴れた後にはレイナーレの姿はなく、何時の間にか一誠の腕の中に抱えられていた。

 

 

 

 

「……やれやれ、漸く重い腰を上げたか。さぁ、赤龍帝の力を見せてみろ」

 

「う~ん。悪いけど君の相手は俺じゃないんだ。君とコイツの戦いは本人が望んだ事だから恨み言を言う気もないし……。ま、細かい事は別に良いや。やっちゃえグレンデル!」

 

『グハハハハハハ! 漸く俺の出番かよ、旦那ぁ! こんな雑魚相手てのは興が乗らねぇが……、まぁ、雑魚を甚振るのもきらいじゃねぇ!』

 

何時の間にかコカビエルの背後には巨大なドラゴンが出現していた。浅黒い鱗に銀の双眸。そのフォームは人に近く、巨人型のドラゴンと言った方が良いだろう。ドラゴンの名はグレンデル。かつて暴虐の果てに初代ベオウルフに滅ぼされた『大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』と呼ばれる邪龍である。

 

「な、なんで貴様が……がっ!?」

 

完全に滅ぼされたはずのグレンデルの出現にコカビエルは固まり、そのままグレンデルの巨大な拳で地面に叩き落とされる。コカビエルが衝突した事によって校庭には巨大なクレーターができ、ポチによって結界まで運ばれた小猫と宙に浮かんだ一誠、そして結界内の玉藻以外の全員が衝撃で吹き飛ばされる中、グレンデルは楽しそうに笑い声を上げた。

 

『グハハハハハ! なんで滅ぼされた俺がいるかって? そこの旦那が俺の魂の破片と削り取ったドライグの魂の欠片を合成させて復活させてくれたのよ!』

 

『……相棒? あいつを復活させる為に俺の魂を削り取ったなんて初耳なんだが……』

 

「当たり前じゃん。言ってないんだから」

 

『相棒ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

悪びれる様子のない一誠に対しドライグは嘆きの声を上げ、グレンデルはそれを聞いて可笑しそうに笑う。そんな中、まだ息のあったコカビエルがクレーターから飛び上がってきた。その姿はもはや虫の息であり、右腕は力無く垂れ下がり無事だった右目も腫れ上がってマトモに開いていない。そして口からは止めど無く血が流れ落ちる。そんな中でも彼は笑っていた。

 

「ははははは! こうでなくてはな! 俺はこういうのを望んでいたのだ! 今のつまらん平和の中、老いていくのが耐えられなかった! やはり戦場こそが俺の死に場所よ! ここで貴様と戦って、あの世で死んだ神や魔王共と再び戦いたいものだ!!」

 

『……グハハハハハ! いい戦闘狂っぷりじゃねぇかっ! おい、旦那。アレをやろうぜ!』

 

グレンデルはそう言うと一誠の返事を待たずに鎧に付いた宝玉へと吸い込まれていく。

 

「……あ~、幽死霊手の構成員ってコレだから嫌」

 

「そんな! 私も嫌ですか!?」

 

「あ、玉藻は嫌じゃないよ? ただ他のが我が強すぎるだけで。……ねぇ、コカビエル。赤龍帝の鎧の能力は知ってる?」

 

「ああ。一気に最大まで倍加をするのだろう。あとは通常時でも出来る倍加した力の譲渡だったか?」

 

一誠に質問されたコカビエルは訝しがりながらも答える。すると一誠は口角が釣り上がらせ、不気味な笑みを浮かべた。

 

「うん。俺のこの亜種の禁手である『死を纏いし赤龍帝の(デット・オブ・ブーステッド)龍骨鎧(・ギア・ボーンメイル)』も基本能力は同じ。でも、追加能力があるんだ。ドライグの魂の欠片を埋め込んだ奴をこの宝玉に入れる事ができるんだ。そしてその事によって、例えば入れたのが天使や堕天使なら光力に耐性が付いたりするんだけど……八回で良いかな?」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost』

 

「俺の力と同時に宝玉内の奴の力も倍加するんだよ!」

 

『グハハハハハハハ! 力が漲ってくるぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

一誠が言葉を放った瞬間、宝玉内からグレンデルが飛び出しコカビエルに殴りかかる。彼は急激にパワーアップしたグレンデルの動きに反応できず拳の一撃を受けた。その威力は凄まじく、コカビエルは肉片すら残さず消え去り、衝撃で体育館と新校舎が完全に崩壊した。

 

『グハハハハハ! やりすぎちまったか? まぁ、どうでも良いこった。……なぁ、アルビオン。テメェはどう思うよ?』

 

校舎を破壊した事に対し、気にした様子もないグレンデルは空を見上げる。すると其処には白い鎧を身に纏った男が浮かんでいた。

 

「……やれやれ、コカビエルを捕縛しに来たら思わぬサプライズがあったな」

 

『止めておけ、ヴァーリ。流石に奴ら二人を同時に相手するのはキツイ。……他にも厄介そうなのがいるしな』

 

現れた男は一誠とグレンデルを見て嬉しそうな声を上げるも、鎧についた宝玉から発せられた声に窘められる。

 

『赤いの。そちらの今度の宿主は随分変わった奴のようだな』

 

『ああ、そうだぞ白いの。悪いが今回は俺の勝ちだ。此奴は過去・現在・未来において最強で……最凶の赤龍帝だ』

 

「ねぇ、ドライグ。アレが俺のライバル?」

 

ドライグと白い鎧の宝玉の声……アルビオンの会話に入った一誠は興味深そうに男……ヴァーリを見つめる。ヴァーリも興味深そうに一誠を見返したが、その身をクルリと反転させた。

 

「今日はコカビエルを捕らえに来たから、彼が死んだ以上は帰らせてもらう。……君と戦う日を楽しみにしてるよ。俺の名はヴァーリだ。覚えておけ!」

 

「うん。俺も君を殺す日を楽しみにしてるよ。悪いけど俺は名乗れないんだ。ごめんね」

 

ヴァーリは一誠の言葉に楽しそうに笑い声を上げるとそのまま消えていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、帰る前に用事を済ませとくね」

 

ヴァーリを見送った一誠はリアス達の前に降り立ち、バルパーの死体から光る球体を取り出した。

 

「ねぇ、其処のエクソシストさん。これが何か分かる? ……聖剣計画の被験者から取り出した因子の結晶さ」

 

「なっ!? では聖剣使いが儀式の際に入れられたのは……」

 

「そう。一人分の因子じゃ足りないから沢山の人から集めたんだ。笑っちゃうよね。エクスカリバーの適合者に選ばれた人達は大勢の人間の命を踏みにじって手に入れた力を神の名の元に使ってたんだ」

 

その言葉にゼノヴィアはショックを隠せない様子だ。そして祐斗は更なるショックで膝から崩れ落ちる。すると一誠は祐斗の目の前に因子の結晶を翳した。

 

「俺は生きた人間にはあまり興味がないんだ。でも、死んだ人の頼みはできるだけ聞くようにしてる。さ、彼らの最後の想いを聞こうよ」

 

その瞬間、因子が光り輝き歌が聞こえ、天から魂が舞い降りてきた。

『聖剣を受け入れるんだ――』

 

『怖くなんてない――』

 

『たとえ、神がいなくても――』

 

『神が見てなくても――』

 

『僕たちの心はいつだって――』

 

「――ひとつだ」

 

その光は祐斗を祝福しているように見え、祐斗は軽く頷くと再び天に登っていく魂を涙を流しながら見送る。

 

「……僕は剣になる。皆の、仲間たちを守る剣に……」

 

「……ふ~ん」

 

祐斗から興味を失った一誠はリアス達が止める間もなく家に帰っていった。

 

 

 




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四次ランサーならヘラクレスの十二の試練を無効化できるのだろうか? 治らない傷の槍と触れてる間は魔力無効の槍


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停止結界のヴァンパイア
一八話


前回の四次ランサーに関する疑問の答えがたくさん来ました 感謝です!


あと、今回最後にとあるキャラへの暴言的発言があります ご注意を

粘土細工のあたり少し変えました


昨日今日でモンハン三回討伐して三回ともオトモにトドメ奪われました(つд⊂)


「……ふ~ん。聖魔剣ねぇ。どうでも良いや」

 

「イッセーってそう言うとこ淡白よね。生きてる相手には興味が薄いっていうか。私も何時か興味が失せて捨てられちゃうのかにゃ?」

 

ベットの上で裸になった黒歌は一誠に甘えるように体を摺り寄せながら冗談交じりに囁く。その際に柔らかく重量感のある胸が半裸になっている一誠の胸板に当たり形を変えた。一誠はそれを少しの間眺めた後、黒歌の体をそっと抱き寄せて耳元で囁く。

 

「俺が黒歌を捨てる訳無いでしょ? 長い付き合いなんだからさ」

 

「にゃん♪ ……まぁ、あの時私の魂が美味そうだったら生きてない訳だけどね」

 

十年前に二人が会った時、霊達は黒歌の魂を不味そうだと判断して食べなかったのだ。もし美味そうだと思われていたら、彼女はこの世には居なかっただろう。ジト目で睨んでくる黒歌に対し、一誠は誤魔化すかのように話題を変えた。

 

「そ、そういえば白音ちゃんが俺と話したいんだって? 何か頼みがあるとか」

 

「あ、そうだったにゃ。……コカビエルの一件の顛末、聞いたかにゃ?」

 

エクスカリバーを強奪したコカビエルの襲撃。この一件によってリアスは次期当主としての資質を危ぶまれる事となった。短期間で堕天使に二度、はぐれ悪魔に一度の計三回も縄張りへの侵入を許し、あまつさえ好き勝手に行動されたのだ。元々彼女は甥が成人するまでの場繋ぎでしかないが、それでも次期当主には変わりない。次期当主が無能と言う話が広がれば冥界にあるグレモリー領への信用も下がり、商人の投資も減ってしまう。これに困ったサーゼクス派やグレモリー家に関連する貴族達は今回の件を次のように発表した。

 

『現地住民の協力もあってリアス達がコカビエルを撃退。眷属の木場祐斗は首謀者の一人を討ち取った』

 

確かにリアス達はコカビエルの手下のケルベロスを撃退した。しかし、この発表ではリアス達が活躍したように聞こえ、実際にそれを聞いた民衆はそう思い込んだ。なお、この一件でかなりの金額が冥府に渡り、その何割かが一誠の懐に入り込んでいた。

 

「あ、うん。爺さんが少し話してたよ。それで白音ちゃんは俺に何の用なのかな?」

 

「それについては後で電話番号教えるから詳しくは本人から聞いて。……ねぇ、そんな事よりも♪」

 

黒歌は右手を一誠の首に絡ませ空いた左手をズボンにかける。そして脱がそうとした瞬間に二人の頭に激痛が走った。

 

「痛っ!」

 

「……忘れたの? 玉藻が言ってたじゃん。『火遊びは見逃しますが本番は許しませんよ』って。浮気防止の呪いかけてたでしょ?」

 

「……あの駄狐が時々忘れるように呪ってるのよ。あと、『ま、私とご主人様の間に子が出来たら解いて差し上げますよ、二号さん』とか言ってたにゃ。……あ、これ電話」

 

「うん、有難う。……もしもし白音ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葛木メディア。ここ数年で一気に脚光を浴びた恋愛小説家である。主に悲恋物の得意とし、時たまに別の名で少女同士の百合小説を書いているのは秘密である。なお、苗字は偽造だが、何故その苗字にしたのかは自分でも分からないらしい。

 

「それで何の用かしら、坊や」

 

メディアは突然訪ねてきた一誠に対し、迷惑そうな顔で出迎える。

 

「実はお願いがあって……。あ、ありす達を連れてきたよ」

 

「「メディアさん、こんにちわ」」

 

「さぁ、入りなさい。今お茶入れるわね♪ あ、ちょうどケーキがあるから食べていきなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……三すくみの会談? 面倒な事になりそうね。絶対襲撃が有るわ。それに色々集まるだろうから気分転換の散歩もできないわね。締め切りも近いっていうのに……」

 

床の上には丸められた原稿用紙が幾つも転がっている。どうやら彼女はパソコンは全然使えな……パソコンではなく手書きこそが一番だという古風な考えの作家のようだ。テレビの前ではありす達が、何時来ても良いようにとメディアが用意したアニメのDVDを見ていた。一誠は留守電のチェックをさせられながら要件を告げた。

 

「いや、締め切り前なら執筆に集中しようよ。また担当の藤村さん泣くよ? 俺の事を甥っ子だと思ってるから愚痴が五月蝿くってさ」

 

「はっ! その程度がどうしたってのよ。締切直前は寝れないからお肌がピンチなのよ? それでお願いは……赤龍帝のオーラが感知されないようにしろってのね。……はい、終わったわよ」

 

赤龍帝のオーラを隠している一誠だが、流石に魔王や堕天使総督、ヴァーリは誤魔化しきれない。故に神代の魔女であるメディアに頼みに来たのだ。彼女なら完全に隠す事ができ、もし道端でバッタリ会っても気付かれる事がない。

 

「有難う、メディアさん。……所でどうしたら此処までFAXをイカレさせれるの?」

 

FAXからは止めど無く紙が溢れ出し、異音が鳴り響く。もう、直しようがなかった。

 

「うっさいわね! 魔術師は機械が嫌いなのよ!! あ~、もう! こうなったら憂さ晴らしに、ありす達で着せ替えゴッコをするわよ! ちゃんと家に転送するから坊やは出て行きなさい!!」

 

「……やれやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、一誠は神器の中に意識を潜らせドライグの魂の修復を行っていた。一誠が霊力を送ると欠けていた魂が徐々に戻っていく。

 

『全く、お前はとんでもない相棒だな。俺の魂を削るわ先代達の残留思念を全て喰らうわ……』

 

「いや、しょうがないでしょ? 俺の能力のせいで常に怨嗟の声が聞こえてたんだからさ。まぁ、食べたせいでドラゴンのオスに多い特徴である女好きが強まっちゃったけど、ドライグみたいにロリペドにならなかったし、新しい覇龍にも目覚めたしで良い事尽くめでしょ?」

 

『……これでマトモに戦ってくれればな。なんでお前はそんな外道なんだ……』

 

ドライグは嘆きのあまり忘れていた。ロリペド扱いを否定する事を失念していたのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前が兵藤一誠か?」

 

「違うよ? 俺の名前は名無野権兵衛だよ。じゃ!」

 

「お、おい!? 仕方ねぇな……」

 

次の日の放課後、浴衣を着た中年男性と銀髪の少年に呼び止められた一誠は明らかな偽名を名乗るとその場から立ち去っていく。慌てて男性が呼び止めようとするも一誠は遠ざかっていった。

 

「行き成り話しかけるから警戒されたんじゃないかい、アザゼル。……彼からは赤龍帝の気配はしなかったよ」

 

「あ~、そうか。なら、放って置いて大丈夫だな、ヴァーリ。ったく、調査に出た奴が勝手な事して死んじまうから余計な手間がかかったぜ。……にしても名無野権兵衛はねぇよな」

 

「ああ、アザゼルの厨二臭いネーミングセンスと同じレベルだな」

 

「……うるせぇよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いですか~。今から配る紙粘土で好きな物を作ってください。貴方達の脳内のイメージを表現するんです。そんな英語もある」

 

「(……ないよ)」

 

「(ありえませんねぇ)」

 

「(無いネ……)」

 

「(無いわね)」

 

「(ソンナ英語ガ有ルカァァァァ)」

 

駒王学園の授業参観。一誠は玉藻とポチを除く死霊四帝と共に英語担任の教師に言葉に脳内でツッコミを入れつつ紙粘土に手を伸ばした。一誠はやる気のなさそうな無表情ながら手をテキパキ動かして行き、終了時間間際に完成させた。

 

「……これは凄いな」

 

一誠の作品を見た教師は思わず感嘆の声を上げる。彼の目の前に置かれているのは地獄の亡者を思わせる粘土細工。苦悶と絶望の表情を受けべた亡者達は互いを押しのけ、倒れた者を踏みつけて天へと手を伸ばす。まるで仏に慈悲を縋っているように……。まるで今にも苦悶の声が聞こえてきそうな表情に誰もが飲まれそうになる中、チャイムの音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……魔法少女のコスプレ? また痛々しいのが居るんだね」

 

「いや、凄く似合ってんだって。お前も見に行けば?」

 

「まぁ、授業参観の日にコスプレで来るような変人なんて、そう見れるもんじゃないし……」

 

 

昼休み、クラスメイトからコスプレしている人がいると聞いた一誠は興味本位で見に行く。すると其処には松田や生徒会長達と何人かの保護者らしき者達が居て、先ほど聞いたコスプレ少女も居た。

 

「うわ~、本当に居るよ。ねぇ、松田。あの痛い人って誰? グレモリー先輩と話ししてるけど……」

 

「あ、ああ。支取会長のお姉さんだよ」

 

「私はソーナちゃんのお姉ちゃんのセラフォルーだよ。ヨロシクね☆ も~! 初対面の人に痛いなんて失礼だよ? プンプン!」

 

魔法少女の格好をした少女はその場でクルッと一回転してポーズを決め、蒼那……いや、ソーナは先程から羞恥心で赤くしていた顔をさらに赤らめる。そして一誠は腕を組み考え込んだ。

 

「あれ? 名前の事は置いとくとして、三年生の会長のお姉さんって事は仮に双子の姉としても18位だよね? それが校内でコスプレしてるんだ……。しかもあの話し方……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うわキッツ!!」

 

その瞬間、場の空気が凍りついた……。




意見 感想 誤字指摘 アンケート二種類 お願いします!!


このオチの為に少し短めでした



この巻のクライマックス予告 少々セリフは変更するかも

「あはははは! 戦いが楽しいと思ったのは初めてだよ! この戦いはどちらが善か悪か決める戦いではなく、どちらが綺麗か汚いか決める戦いでもない! どちらが先に倒れるかを決める戦いだ! さぁ、互いに覇龍で決着を決めようよ!」

「……やっとマトモに戦う気になったか。良いだろう! それでこそ俺のライバルだ!!」


さて、どうなる?


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十九話

今回は閑話的話です 


セラフォルー・レヴィアタン。彼女は最強の女性悪魔であり、魔王の一角である。外交担当としての仕事に励む一方で自らが主演する魔法少女物の番組制作も行っているのだ。なお、その格好は日本で人気のある魔法少女の格好そのまんまである。なお、彼女の同年代であるサーゼクスには既に子供が居る事からして、彼女が少女を名乗るのは少々無理があるだろう。もっとも、誰も後が怖くて指摘できないが……。

 

「いやさぁ、別にコスプレ自体をどうこう言う気はないよ? でも、此処は公共の場なんだし、相応しい服装があると思うんだ」

 

『キツい』。その誰も言えなかった一言を一誠は初対面で言い放ち、周りに居た知り合い達も内心で頷く。ソーナなどは心の中で一誠に声援を送っていた。もっと言ってくれ! と……。

 

「ぶ~! これが私の正装なの! この格好で魔法少女レヴィアたん、って番組だって作ってるんだから!」

 

溺愛する妹の心中など知る由もないセラフォルーは幼い少女のように頬を膨らませて抗議する。見た目が若いから似合っているが、彼女の実年齢を知る者、特に実妹のソーナなどは徐々胃がキリキリと痛み出しそうになっていた。普通ならドン引きして其の場を離れる所だが、生憎一誠は普通ではない。

 

「え? でもその服装ってCMで同じようなの観た事あるけど、確かミルキーだっけ? 著作権とか大丈夫? それと魔法少女物の服装って認めたって事は正装じゃないじゃん。あれはああいう子供向け番組の為の衣装なんだからさ。ねぇ、会長。お姉さん怒ってるけど、俺さっきから何か間違ったこと言ってる?」

 

「やめてあげて!? 会長のライフはもうゼロだ!」

 

一誠の容赦ない言葉に先にソーナの方が限界を迎え、慌てて匙が止めに入る。そしてセラフォルーも涙目になるまで追い詰められていた。

 

「ソーナちゃんなら分かってくれるよね? 私ってキツくないよね!?」

 

実の姉であり魔王でもあるセラフォルーの問いにどう答えて良いか困ったソーナは思わず目を逸らす。そしてそれが彼女が出した答えを表していた。見る見る内にセラフォルーは泣き出しそのまま走り去っていってしまった。

 

「うわ~ん!! ソーナちゃんがお姉ちゃんを虐めるぅぅぅぅ!!」

 

なお、未だに彼女の服装は魔法少女のコスプレのまま。そしてその服装でソーナの名を叫びながら学園の廊下を走っていく姉の姿に呆然としていたソーナはハッと我に帰った。

 

「学園内をその格好で私の名を叫びながら走らないでください、お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……呆れた。貴族の掌握もロクにできてないっていうのに自由気侭すぎるわね。セラフォルーって子供が居てもおかしくない年齢なんでしょ? それは痛々しいわね」

 

「だよね~。玉藻も時たま痛々しい時があるけど、あれ程ではないよ」

 

翌日、メディアに用があると呼び出された一誠はお茶を入れながら授業参観の時に出会ったセラフォルーのことを話していた。メディアは呆れ半分怒り半分といった様子だ。

 

「全く! ミルキーは少女の夢なのよ! それを自称少女が汚すなんて!」

 

「……あ、やっぱ好きなんだミルキー。あっ、何でもありません。だからその物騒魔法陣消してください」

 

「分かれば良いのよ。じゃあ、お願いなんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メディアさん、大砲大砲!」

 

「え、ええ! って、突撃してきたわよ!? え、え~と、こんな時は……」

 

「大銅鑼大銅鑼!」

 

メディアの頼みというのは大人気の怪物狩猟ゲームの手伝いをして欲しいというものだった。仕事に関係する機械はサッパリな彼女だが娯楽関係の機械は使いこなせているようだ。もっとも、ゲームの腕前は下の下ではあったが……。

 

 

「ま、まさか下位で五回連続失敗なんて……」

 

「え、ええ、悪かったわね、坊や。な、何とか撃破したわ」

 

どうやらメディアが足を引っ張りまわり、何度目かで漸く目的を果たしたらしく一誠は心身ともに疲れきっていた。だが、当の本人であるメディアはまだまだやる気の様だ。

 

「さぁ! 次はイベントクエストを手伝って貰うわよ!」

 

「……勘弁してください」

 

「はん! 坊やの意見は聞いてないわ。……そういえば馬鹿狐とは上手くやってるの? いい子なんだから大切にしてあげなきゃダメよ?」

 

「あ、うん。この前、冥府に行った時にデートしたんだけど、結婚式場とか見て回ったよ」

 

どうやら玉藻を普段から馬鹿呼ばわりしているメディアだが、それなりに長い付き合いからか気にかけているようだ。一誠と玉藻が上手くやっていると聞いた彼女は安心したような顔をする。

 

「そう、なら良かったわ。……私はオリンポスの神々に人生を狂わされたから貴方達の事が心配なのよ。坊やには感謝しているわ。幽霊として彷徨っていた私に実体化に必要な霊力を分けてくれて現在の常識を教えてくれたんだから」

 

「あ、気にしないで。俺もメディアさんにはお世話になってるし」

 

「そう。此れからも宜しく頼むわね、坊や。馬鹿狐との結婚式には呼びなさい。会いたくない奴らも居るけど出席してあげるわ。……所で其処にある禍々しいオーラを放っている包みは何なのかしら?」

 

メディアが訝しげに見つめる先には怨念に塗れた包みがある。一誠が包の中身を取り出すと人間の皮肉で作られた本だった

 

「あ、コレは爺さんから貰った呪いの本。確か『螺湮城教本(プレーラーティーズ・スペルブック)』だったかな?」

 

 

 

 

 

 

 

昔々ある所に三人の兄妹達がいました。一番上の兄が十歳の時に両親を亡くした三人は教会の孤児院に入り、やがて神父とシスターになりました。三人は常に神への感謝を忘れず、兄妹仲良く暮らしていたのです。ですが、ある日一番下の妹が居なくなり、数ヵ月後に悪魔になって帰ってきました。見え麗しく成長した彼女には強力な神器が宿って降り、それを狙った悪魔に連れ去られ無理やり悪魔にされて逃げてきたのです。当然兄と姉は妹を庇いますが教会が悪魔を見逃す筈も無く、妹を守る為に二人は教会から飛び出しました。旅の途中何度も辛い事がありましたが兄妹は力を合わせ、神への祈りも忘れませんでした。

 

「きっと神様が助けてくれる。それまでの辛抱だ。これは神がお与えになった試練なんだ」

 

そう思い、教会にいた誰よりも兄は神への信仰を抱き続けます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

堕天使のはぐれ悪魔狩りによって妹二人を失うまでは……。上の妹は悪魔になった妹を守ろうとして殺され、下の妹も殺されてしまい、残された兄は全てを呪いました。

 

なぜ神はこのような仕打ちをしたのか。なぜ悪魔は妹を悪魔にしたのか。なぜ堕天使は何もしていない妹達を殺したのか。なぜ自分は二人を守れなかったのか。やがて信仰心は憎しみに変わり、その憎しみは普通に暮らしている人々へも向けられます。なぜ、妹達は殺されたのに、この人達は普通に生きているのか。狂気に染まった兄はやがて多くの人を殺し、自分の命を代償にして一冊の魔道書を作り上げます。

 

込めたのは三大勢力への憎しみ。やがてその本はハーデスの手に渡りました。

 

 

 

 

 

 

 

「それがこの本? うわ~、すっごい怨念♪ 常人なら発狂してるね」

 

《ファファファ……。お前なら大丈夫だろう? くれてやるから好きに使うが良い》

 

一誠が本を手に取ると込められた怨念が彼の体に纏わり付き、直ぐに本へと戻っていく。どうやら彼を主と認め服従したようだ。ハーデスはそれが最初から分かっていたかのように驚いた様子を見せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それは本当か? 赤龍帝は邪龍の魂を蘇らせたり悪霊を操ったりしたのか……」

 

その頃、会議室で悪魔側に忍ばせたスパイからの報告を受けたアザゼルはしばらく思案した後に、とある結論に行き当たった。

 

「……間違いねぇ。赤龍帝は『幽世の聖杯(セフィロト・グロール)』を誰から奪って宿している。もしくは協力者に所有者が居るに違いねぇ。……その場合は報告にあった半死神の嬢ちゃんが怪しいな」

 

「なぁ、アザゼル。ハーデスがスカウト中というなら霊使いの可能性は無いのか? たしか数百年前には結構居ただろ?」

 

アザゼルの出した結論に対し、一人の幹部が鋭い事を言う。だが、アザゼルは否定するように首を横に振った。

 

「いや、いくら何でも強力すぎる。滅んだ魂を復活とか人間の領分を超えすぎだ。絶対に有り得ねぇよ。……会談に出席するらしいから聞いてみる必要があるな。禁手の亜種ってのに興味がある。くぅ~! 研究してぇ」

 

こうして盛大な勘違いをしたままアザゼルは会議室を後にした……。




意見 感想 アンケート(傲慢・幹部の両方) 誤字指摘お待ちしています


勘違いが進む(笑)

螺湮城教本 フェイトゼロ キャスターの宝具 ハイスクにはクトゥルフ系のは出ないらしいので少々変えました


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二十話

本当はもう少し書きたかったけど睡魔マックス 明日残り投稿します


「お礼の品を渡したいって呼び出してきたからどんな所かと思ったら、寂れた所ですねぇ。神気が全然しませんよ」

 

「仕方ありませんわ。神気があっては悪魔は住めませんもの」

 

小猫を通じて呼び出されたのは今は神に所有されていない神社。今は悪魔が所有しているこの神社には朱乃が住んでおり、入り口まで転移してきた一誠と玉藻を案内しながら石段を登る。その間、一誠は誰かの話を聞いているかのように頷き、最後に首を捻っていた。

 

「……うん。じゃあ、機会を見計らって、という事で」

 

「どうなされました?」

 

「あ、気にしないで。こっちの話だから」

 

三人が石段を登りきって奥に進むと一人の青年が立っていた。端正な顔立ちに純白のローブ。頭上には金色の輪っかが浮いている。青年は一誠達に気付くと笑みを浮かべながら近寄ってきた。

 

「初めまして、赤龍帝さんとその従者さん。私は天使の長のミカエルです。……見た目はだいぶ違っていますがこのオーラは確かにドライグですね」

 

メディアの術は神器を発動していない間だけ効果があるようになっているので禁手状態の一誠からはドライグのオーラが放たれている。ミカエルは背中から金色の十二枚の羽を出現させた。

 

「先日はコカビエルを止めて頂いたばかりか因子の魂を解放して頂いたと聞いています。本当に有難うございました」

 

「気にしないで。俺は彼らの声が聞こえたから助けただけだから。あのさ、一つ聞いて良い? なんであの二人だけを派遣したの?」

 

「生憎この街は悪魔の縄張りですので迂闊に人材を派遣しては要らぬ争いを生みかねません。ですが、今となってはそれを後悔しています。聞く所によると、あのままだと街が崩壊していたかもしれないとか。多少無理をするべきでした」

 

一誠の問いにミカエルは申し訳なさそうに答える。もし一誠やヴァーリが居なかったら大勢の死者が出ていたと聞いて気に病んでいたのだろう。一誠も極希に空気を読むのかそれ以上何も言わず、一行は本殿の方へ移動する。本殿の中央には一本の剣が浮いていた。

 

「こちらはゲオルギウスの持っていた龍殺しの聖剣『アスカロン』です。どうぞお受け取り下さい」

 

「俺あまり剣術は得意じゃないんだけどな~。生兵法は大怪我の元って諺知ってる? ま、お礼にくれるって言ってるんだし貰っておくよ」

 

一誠はあまり嬉しくなさそうな声で剣を受け取る。剣術を得意としない彼では、剣を貰っても無用の長物でしかない。すると玉藻が何か思いついたのか元気良く手を挙げた。

 

「あ、ご主人様。あの人に渡したらどうですか? 『私は貴方にお仕えできるだけで十分でございます』って言って普段は物を受け取りませんが、剣を下賜するって言えば喜んで受け取りますよ。……にしてももう少し相手に必要かどうか考えて欲しいですよね~」

 

「ははは、す、すいません。何分情報が少ないもので……」

 

一誠は玉藻の言葉を聞くなりアスカロンを影の中に沈める。ミカエルはそれを聞いて顔を引きつらせ謝罪した後に一誠に話しかけてきた。

 

「一つお聞きしたいのですが、なぜ正体をお隠しに? 貴方は冥府の所属だと聞いています。その身分が知れ渡った今では勧誘等の面倒事もないのでは?」

 

ミカエルのその問いに対し一誠は呆れたように溜息を吐いた。

 

「……俺は身を守れるけど両親は違う。一応守護は付けてるけど絶対はない。二人を守る為にも俺は正体を隠して置きたいんだ。俺が誰か分からななければ狙われないからね。……グレモリーやシトリーは一般人を眷属にしてるけど、俺が敵なら眷属の家族や友達を人質に取るな。それで情報を流させたり罠に嵌めたりするよ。侍とかの時代なら兎も角、現代人が親や友達を見捨ててまで貫くような忠義心を持ってるとも思えないしね」

 

「……なる程。納得しました」

 

「……んじゃ、俺はもう帰るね。あ、姫島さんに伝えといて。お父さんと仲違いしている事をお母さんが心配してる、ってさ」

 

 

その後、ミカエルからその言葉を伝えられた朱乃は動揺し、小猫を通じて一誠に連絡を取ろうとするも連絡が付かないまま会談の日がやってきた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、来たよ。悪いけど来て欲しがってたレイナは怪我で療養中だし、ポチには別の仕事があるから連れて来なかったよ」

 

勿論レイナーレが療養中だというのは堕天使を警戒しての嘘であり、ゲームの時に玉藻の癒しの力を見ている悪魔達は疑問に思うも何も言わなかった。

 

「ああ、別に構わないよ。こっちが無理にお願いして来て貰ったわけだからね。じゃあ、其処に座ってくれるかい?」

 

サーゼクスが指した方向には一誠と予め伝えてあった人数分の席があった。一誠は中央の席に座り、玉藻はすぐ隣の席に座る。ハーデスに一誠のお供として派遣されてるベンニーアも玉藻の隣に座った。そして黒い甲冑を身に纏った騎士らしき人物は二人の後ろに陣取った。

 

「君は座らないのかい?」

 

「いえ、私は主の護衛として来てますので此処で結構です」

 

サーゼクスの言葉に騎士は首を振って答え、部屋の中を警戒した眼差しで見回す。部屋は駒王学園の新校舎にある職員用会議室。中央には豪華なテーブルが有り、それを囲むように三勢力別に座っている。先日の一件の関係者でまだ来ていないのはリアス達のみだ。

 

「……何か主に御用ですか?」

 

騎士は先程から一誠の方を興味深そうに見ているアザゼルに問いかける。あまりに不躾な視線を主に向けられた事に少々苛立っているらしい声のトーンに対し、アザゼルは悪びれた様子もなく話しかけてきた。

 

「いや、神器の研究を趣味としてる俺としちゃ神滅具の禁手の亜種には大いに興味があるわけよ。んで、先日の一件の為に呼んだんだから会議中には言えねぇだろうし、今言うぜ。その禁手と幽世の聖杯を調べさせてくれよ」

 

「幽世の聖杯? ……さぁ、何の事?」

 

《あっしにもさっぱりでさ》

 

アザゼルが勘違いしている事を察した二人はとぼけたような態度を取る。なおも食い下がるアザゼルであったが、隣に座っていた幹部らしき男に止められ、リアス達が来た事もあって残念そうに黙り込む。しかし、まだ好奇心でいっぱいの目で一誠達を見つめていた。

 

 

 

会談は順調に進み、途中アザゼルの信用がないという話題になった時に、

 

 

「まぁ、堕天使自体が神から離反した裏切り者の集団だし仕方ないんじゃない?」

 

「それを言うなら魔王だって謀反起こした簒奪者ですよね」

 

と一誠と玉藻が発言し、後ろの騎士が胃の辺りを痛そうに押さえたり、それを聞いた悪魔や堕天使が殺気を飛ばしてくるも一誠達は平然としたりするなどがあっただけだった。そして最後に一誠に質問が投げかけられる。

 

 

「おい、赤龍帝。お前は世界をどうしたいんだ?」

 

同じ質問をされたヴァーリは強者との戦いを求めるという返答をし、今は一誠の発言に耳を傾けている。一誠は少し考えると答えを口にした。

 

「う~ん。世界をどうとか興味ないな。俺は面白おかしく生きれれば良いよ。あ、戦いとかは興味ないから」

 

「……おいおい、邪龍やら隣の狐の姉ちゃんとか強力な部下を集めていながらそれはねぇだろ。説得力ないぜ」

 

一誠の答えにアザゼルは納得いかない様子だ。無理もない。一誠の部下として把握されている者達だけでも十分過ぎるほどの戦闘力を持っている。そんな部下を沢山持っていながら戦いには興味ないと言われても納得できないだろう。だが、一誠は不満そうに返答した。

 

「仕方ないでしょ? 唯でさえドライグのせいで戦いに巻き込まれやすいんだから力や強い仲間が欲しいんだ。で、仲間が増えれば、それを守る為に更なる力や仲間が欲しくなるんだからジレンマだよね。まったく、ドライグてばロリペドなだけでなくて迷惑な相棒だよ」

 

一誠がドライグの評判をさり気無く貶めた時、会場の時間が停まった―――。




意見 感想 誤字指摘 アンケート 待ってます!!


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二十一話

二天龍、かつて三すくみの戦争に乱入して封印された最強のドラゴン達は他の勢力とも色々とも因縁がある。冥府の王であるハーデスも二匹の事を恨んでおり、一誠がドライグの就寝中に出した提案には直ぐに食いついた。

 

『赤龍帝ドライグはロリペドであり、白龍皇アルビオンは―――』

 

意外とノリの良い死神達の手によってネット内で広がったこの情報は二匹の預かり知らぬ間に広まって行く。幸か不幸かドライグはその事を知らないでいた……。

 

 

 

 

 

「ありゃりゃ、完全に停まってるよ」

 

 一誠は時を停められて動けない小猫の目の前で手を振りながら楽しそうに呟く。他にも警備の者達やシトリー眷属。アーシアや松田、朱乃も停まっているのを見た一誠は小猫達から視線を外す。その目は旧校舎のある方向に向けられていた。

 

「あそこに時を停める神器の持ち主が居るんだよね? 確か……マスターが裏で、だったけ?」

 

「あ~もう、違いますよぅ、ご主人様。カスタードの奈良漬け、ですよぉ」

 

二人は大して興味がないのかどうでも良さそうに言い、先程から黙って聞いていたリアスは我慢できずに叫んだ。

 

「ギャスパー・ウラディよ! って言うか間違いすぎでしょ!? マスターが裏でなにしたの!? って言うか、その不味そうな料理は何!?」

 

「え? 知る訳ないじゃん。前から思ってたんだけど、君ってすぐ叫ぶよね。更年期障害なんじゃない?」

 

「あ~、もう! ……それにしても何処で私の眷属の情報を得たのかしら。私の眷属を使って会談の邪魔をするなんて、これ以上の侮辱はないわ!」

 

今回の会談には神器のコントロールが未熟な彼を連れてこず旧校舎の部室で留守番させていたのだが、どうやらメディアの予想が的中して襲撃が有り、それにギャスパーが利用されたようだ。

 

「いや、木っ端貴族のなら兎も角、公爵家の次期当主の眷属の情報なら手に入れるルートなんて幾らでもあるでしょ。って言うか、いくら警備があるて言っても下手したら即開戦なのに護衛の一人も置いてなかったの? そもそも君の眷属を利用されたんだから、君の手落ちだよね?」

 

「ッ! 分かってるわ。お兄様、責任を取って私があの子の救出に行ってきます! 幸い未使用の『戦車』の駒が旧校舎にありますからキャスリングを使えば侵入できますわ!」

 

「分かった。グレイフィア、すぐに術式に改良を加えて他の者も飛ばせるようにしてくれ!」

 

「はっ! 一人くらいなら直ぐにでもできます」

 

グレイフィアが術式の準備をする中、校庭に魔方陣が現れローブを着た集団が現れた。どうやら魔術師のようで力は中級悪魔程度といったところだろうか? 魔術師達は次々と転移し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま不気味な怪物達と地面から伸びてきた黒い腕によって命を絶たれる。怪物はイソギンチャクやタコなどの海洋生物に似た姿をしており、先程から耳障りな叫び声を上げながら触手で魔術師達を刺し殺していく。

 

『ギィィィィィィィィッ!!』

 

「ひ、怯むな!」

 

急に現れた怪物達にパニックに陥りかけていた魔術師達であったが、一人の魔術師が魔法を放つと怪物は呆気なく死に絶え、血肉を校庭にブチまける。それを見て冷静さを取り戻した魔術師達は次々と怪物達を殲滅していった。

 

「はははは! 何だ大した事……」

 

先ほど最初に怪物を倒した魔術師は言葉の最中に自分の胸部を見つめる。彼の胸から不気味な色合いの触手が生えウネウネ動いていた。後ろを振り向くと先ほどブチまけられた怪物の血肉が蠢き新しい怪物が其処から出現して来る。そして彼の体を貫いた怪物の触手がズブリと引き抜かれると同時に彼の体は崩れ、そのまま押し寄せる怪物によって引き潰されてしまった。

 

 

 

 

 

 

「皆死んで行くのね……。全部、市のせい……」

 

別の場所では一人の美女が次々と魔術師達を薙刀で切り殺していく。その美女はどこか儚げな印象を感じさせる黒髪の女性で、自虐的な台詞を吐きながら薙刀を振るう。まるで舞うかのような動きで魔術師達の放った魔法を避け、防御結界後とその体を切り裂く。そして極め付きは彼女の影から伸びた黒い腕。まるで意志を持つかのように魔術師に襲いかかり、その体を貫き、握りつぶしていった。

 

 

 

 

 

 

 

「……さてと、最初の約定では襲撃者は俺の好きにして良いんだよね? 尋問用に何人か残そうか?」

 

一誠は外の様子を見ながらサーゼクス達に話し掛ける。この会談に出席する事の条件を幾らか出していたのだが、その内の一つが先程言った事だ。そんな中、アザゼルの目は彼の手の中の『螺湮城教本』に注がれていた。

 

「おい、その魔術書であの怪物を生み出してるんだよな!? そんなの何処で手に入れたんだ!?」

 

その言葉を聞いた時、玉藻の目が妖しく光り、実に愉快そうな笑みを浮かべる。まるで獲物を甚振るという狐の性を思い出したかの様な嗜虐的な笑みを浮かべた彼女は大げさな手振りをしながら口を開いた。

 

「この本ですか? もともとハーデスさんから貰った物ですが、貴方達のおかげで手に入れたような物なのですよ。いえね、信仰心の強い神父が居たのですが、下の妹が神器と器量目当てに無理やり悪魔にされ、逃げ出してきたものの教会には戻れない。だから上の妹と一緒に逃げた先で堕天使によって妹を二人共殺されたんですよ」

 

その言葉にサーゼクスとセラフォルー、そしてミカエルの顔が曇る。貴族の管理や自分の不手際によって起きた悲劇を聞かされた魔王達やミカエルが落ち込む中、一誠が続きを話しだした。

 

「そして神父は全てを呪ったんだ。妹達を死に追いやった君達、自分達と違って幸せに生きている他の人、そして妹達を守れなかった自分自身をね。俺には聞こえるよ。この本に込められた神父の叫びがさ……。あ、もう準備が出来たみたいだね」

 

「祐斗、着いて来て!」

 

「はい!」

 

リアスが転移しようとする中、一誠は彼女に話しかける。

 

「あ、どうせ無理だろうから俺の手駒を送っておいたよ。君が失敗したら助けに入るから」

 

「ッ!」

 

リアスは一誠に何か叫ぼうとするも転移するほうが早く、彼女達の体は光に包まれ消えていった。すると先程まで一誠の後ろで黙っていた騎士が剣の柄に手をかける。室内に見慣れない紋章が描かれた魔方陣が出現した。

 

「旧レヴィアタンの紋章……」

 

「首謀者のお出ましって訳か」

 

魔方陣が光り輝き、中から一人の女性が出現する。彼女は胸元を大きく開け、深いスリットを入れている服を着ていた。

 

「ごきげんよう、現魔王のサーゼ―――」

 

「えい」

 

そして、一誠が彼女が転移するに合わせて顔目掛けて投げた袋が彼女の顔に当たり、真っ赤な粉末が彼女の顔の周囲を覆う。一同が唖然として固まる中、女性は顔を押さえながら床を転がりのたうち回る。

 

「め、目がっ!? 鼻が、喉がぁぁぁぁっ!!」

 

仰々しく登場したのに叫びながら醜態を晒す彼女を見た騎士は戸惑った様子で玉藻に問うた。

 

「あ、あの~、玉藻殿。主はあの女人に何を投げつけたのでしょうか?」

 

「唐辛子粉ですよ。それも事前に何度も譲渡を繰り返し辛さを増した奴です。……何か言いたい事がありそうですねぇ」

 

「い、いえ、そのような事は……」

 

玉藻が目を細めて騎士を見ると騎士は言い淀む。どうやら彼の持つ騎士道からすれば不意打ちで目潰しを行うような事はとても見逃せないようだ。でも一誠は主であり苦言を呈するのも憚られる。そんな彼の心情を察したのか玉藻は次のように言った。

 

「貴方はご主人様にお仕えして日が浅いですからまだ慣れていないのでしょうが、あの程度で動揺していたら持ちませんよ? それに、あの方があのような卑劣な策をとるのも全て犠牲を最小限に抑える為。つまり、私達や周囲の者達の事を思っての事なのです」

 

「な、なんと! 主よ、申し訳ございません! その様な深いお考えが有ったなど考えもせず失礼な事を申し上げました!」

 

騎士は玉藻の言葉に感激し、一誠の前で膝をつくと胸を叩き忠義を誓うポーズをとる。その時、パシャンという水音と共に女性が起き上がる。どうやら水の魔力で唐辛子粉を洗い流したようで、真っ赤になった眼で一誠を睨んでいた。

 

「おのれ人間の分際で! 私を真なる魔王の血統であるカテレア・レヴィアタンと知っての所業か!」

 

「え~、たかが人間って言う事は基本的に悪魔より人間を見下してるんだよね。でもさ、その理論からしたら君達に勝った現魔王の方が君達より高尚って事になるんじゃない?」

 

「ッ! おのれぇぇぇ!!」

 

カテレアは一誠の言葉に激昂すると魔力を放つ。だが、その一撃は騎士が持ったアスカロンによって防がれた。

 

「……私が居る限り主に危害を加える事はまかり通らん。貴殿は既に名乗っていたな。ならば私も騎士の礼を持って名乗ろう。私は円卓の騎士が一人湖の騎士……いや、赤龍帝が配下『死従七士』が一人にして『憤怒』を背負いし将、サー・ランスロットなり!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほら、動いたら此奴を殺すわよ」

 

「くっ……」

 

ギャスパーを助けに旧校舎に侵入したリアスと祐斗であったが、それを読んでいたのか女魔術師達は縄で縛ったギャスパーを人質にし、動けないリアス達に一方的に攻撃を仕掛ける。彼女達に殴られたのか顔にアザができているギャスパーは涙目になって叫んだ。

 

「部長! も、もう僕の事は見捨てて下さい!」

 

「五月蝿いわよ!」

 

「きゃんっ!」

 

だが、その叫びがカンに触ったのか一人がギャスパーを殴りつける。彼はその一撃を受けて気絶したのかガクリと落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ったく、やっぱり無理だったじゃねぇか……よっ!!」

 

「がっ!?」

 

そして次の瞬間、口調が変貌したギャスパーは縄を力尽くで引きちぎると先程自分を殴った女魔術師の鳩尾に肘を打ち込む。不意打ちで喰らわされた一撃は彼女の肺の中の空気を全て追い出し、意識を一瞬途切れさせる。そしてそのままギャスパーによって蹴り飛ばされ、壁に飾ってあった鎧に激突して気を失った。

 

「ギャ、ギャスパー?」

 

「ん? ああ、コイツってギャスパーって名前だったか」

 

眷属の変貌に動揺したリアスの声が聞こえたのかギャスパーはリアスの方を振り向く。その両頬には丸い模様が現れていた。そしてギャスパーが手を時計に向けると針が動き、旧校舎の時計全てが四時四十四分を指し示す。その瞬間、部屋の風景が変貌した。

 

「さてさて、皆様お立会い。只今の時刻は四時四十四分。誰も知らない授業の始まりだっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠の行動を見ていたアルビオンは若干引いた様子でヴァーリに話しかける。

 

『……今回の赤龍帝はアレだな、ヴァーリ。赤いのが最凶と言った意味が良く分かった』

 

「……ああ、外道だな。あの性格の上に最強って言うんだから厄介そうだ。だが、それでこそ面白いじゃないか。どんな策も力も正面から打ち砕いてやるさ。……ところで君に関するあの噂って誰が流したんだろうな」

 

『……あの噂の事を言わないでくれ』

 

その時の彼の声は悲哀に満ちていた……。




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サー・ランスロット フェイト・ゼロ

市 戦国BASARA


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二十二話 キャラ紹介アリ

今回苦戦して遅くなったので予定していた一誠信頼度表とキャラ紹介は明日に延期します


「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ランスロットは掛け声と共にアスカロンを振るい、カテレアを障壁ごと切り裂く。なんとか障壁が破れるまでの僅かな時間に後ろに下がったカテレアであったが、躱しきれずにできた傷口からは煙が上がっていた。彼の持つアスカロンは悪魔の弱点の一つである聖剣であり、高い実力を持つカテレアでさえまともに喰らえば一撃で葬り去られるだろう。

 

「……まさか貴方の様な相手にコレを使う事になるとは思いませんでした」

 

カテレアは懐から小瓶を取り出すと中に入っていた蛇の様なものを飲み込む。その瞬間、カテレアの力が増大した。

 

 

 

 

 

「あらら~、みすみすドーピングを許しちゃいましたねぇ。あれは話している途中に斬りかかる所でしょうに」

 

「う~ん、やっぱ騎士道からすれば隙だらけの相手に攻撃するのは嫌なんじゃない? まぁ、相手が女性って事もあるんだろうね」

 

一誠と玉藻は先程までとは打って変わって防戦一方になったランスロットの戦いを見物しながらお茶を啜る。そして一誠は何気なく玉藻の尻尾に手を伸ばすも叩き落されてしまった。

 

「あぁん、駄目ですよぅ、ご主人様ぁ。尻尾は敏感だって言ってじゃないですかぁ。だ・か・ら♥ 帰ったら朝方までベットの上で絡み合いつつ触らせて差し上げます♪ きゃっ☆」

 

玉藻は両頬に手を添えて恥ずかしそうにと首を振る。その間にもランスロットはカテレアの放った魔力によって吹き飛ばされ、壁を破って校庭に放り出された。流石に見ていられなくなったのかセラフォルーが二人に近付いて言う。

 

「ねぇ、あの人は君達の仲間なんでしょ? ピンチなんだから助けなきゃダメでしょ!」

 

「……うっせぇな。私とご主人様のラブラブタイムを邪魔するんじゃねぇよコスプレババア」

 

「バ、ババア……?」

 

その言葉を聞いた瞬間、セラフォルーの表情が固まり辺りが凍りつき出す。だが、玉藻が尻尾をひと振りしただけで全ての氷が砕け散り、玉藻は唖然としたセラフォルーを嘲笑うかの様な笑みを浮かべた。

 

「あぁん? テメエ結構いい年だろうが。少女とかフカシこいてんじゃねぇよ。……おっと、つい地が出てしまいましたね。大丈夫ですよぉ。あれでもご主人様の手駒の中ではトップクラスの剣の使い手なんですから。ほら、アレを見てくださいな、オ・バ・さ・ま」

 

玉藻が指さした先ではカテレアが放った特大の魔力を易々と切り裂くランスロットの姿が有り、彼はそのままカテレアの左腕を切り飛ばした。

 

「ギャァァァァァァっ! わ、私の腕がぁぁぁぁっ!?」

 

「……苦戦したふりをしていれば調子に乗った仲間が現れると踏んでいましたが、どうやら読み間違えたようですね。私もまだまだの様です、全く、これでは『憤怒』より『傲慢』の席の方が私には相応しい」

 

ランスロットは自虐的な笑みを浮かべるとアスカロンを頭上に掲げる。

 

「集え、我が同胞よっ!」

 

その瞬間彼の背後が光り輝き、光が晴れた時には大勢の騎士が彼の後ろに立っていた。その一人一人がかつて円卓の騎士と呼ばれていた者達であり、王であるアーサーよりもランスロットに力を貸す事を選んだ彼の盟友だ。

 

「死霊四帝が主の側近で、幽死霊手が主の奥方になられる玉藻殿が率いる問題児集団。そして、私が一角を担う死従七士は己の軍団を与えられし将達。さぁ、そちらも多くの魔術師達を率いてやって来たのだから、まさか卑怯とは言いませんよね? ……蹂躙しろぉぉぉ!!」

 

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』

 

ランスロットの掛け声と共に彼らはカテレアへと突進していく。既にこの世のものではない彼らには現世の理など意味を成さず、そのまま空を駆けながら突き進んでいった。

 

「くっ!」

 

カテレアも魔力を散弾の様に放って牽制するも分厚い盾や鎧に弾かれ、魔力を放つ為に突き出した右手の平は放たれた矢によって貫かれる。飛んで距離を取ろうとするも鎖分銅を足に巻き付けられ引き寄せられる。そして体勢を崩した無防備な首筋めがけてランスロットの剣が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やれやれ、やはり貴方が裏切り者ですか」

 

「その口ぶりだと予想していたみたいだね」

 

ランスロットがカテレアの首を跳ねとばした瞬間、横合いから放たれた魔力によってランスロットの鎧から煙が上がる。騎士達が睨みつけた先には白い全身鎧を身に纏ったヴァーリの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

そして一誠はその背後から強襲をかけた。

 

「じゃあ、彼の相手は俺がするね」

 

「ちっ!」

 

振るわれた拳を咄嗟に避けたヴァーリは一誠の方を振り向き、その顔にカテレアに投げた唐辛子粉の残りが投げつけられる。

 

「ぶはっ!? 目、目がっ! か、辛ぁぁぁっ!!」

 

「……まさか同じ手が二度も通じるとは。バトルマニアって単純だから戦いやすいよね」

 

 

視界を確保する為の穴や息をする為の穴から侵入した唐辛子粉は兜の密封性が災いして中に充満する。ヴァーリは思わず兜だけを解除し必死で目をこすった。

 

「こ、この卑きょ……」

 

「この卑怯者! 裏切りの上に不意打ちとは外道の極みだね。許せないよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、此処どこぉ?」

 

先程までギャスパーを人質にとっていた魔術師達は何時の間にかバラバラになって別の場所に居た。窓の外は紫の靄が漂っており、建物内は歩く度にギシギシと音がする程古めかしい木造だ。しかし一旦外に出ようとしても一向に出口が見当たらず、窓も開かない。魔法で吹き飛ばそうとしてみたがヒビすら入らなかった。

 

『クスクス、アハハハ』

 

そして彼女の心を不安にさせているのは先程から聞こえる子供の笑い声。直ぐ傍を走る足音や気配は感じるのだが振り返っても誰も居ない。そして彼女が角を曲がった時、電話の鳴り響く音が聞こえてきた。普通なら取るはずもないその電話を彼女が人恋しさから取ると子供の声が聞こえてきた。

 

『もしもし?』

 

「も、もしもし?」

 

『私メリーさん。今、貴方の後ろに居るの』

 

彼女は恐る恐る後ろを振り返り……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ! 畜生がぁ。あのガキ絶対にぶっ殺してやる」

 

先程豹変したギャスパーに蹴り飛ばされた魔術師は痛みに耐えながら廊下を進む。先ほど蹴りを食らった場所は真っ青に晴れ上がり、足は何処かにぶつけたのか挫いてしまったようだ。そんな時、彼女の鼻に消毒液らしき匂いが漂い、保健室の扉が目に入った。

 

「まぁ、湿布くらいあるだろ」

 

彼女はそう呟きながら保健室へと足を踏み入れる。すると足元から水音がし、ふと下を見ると床一面に血が巻き散らかされ、仲間の死体が床中に転がっている。そして椅子には白衣を着てマスクを着けた女性が座っていた。

 

「ねぇ、お嬢ちゃん。ワタシ綺麗?」

 

その女性がマスクを取ると耳まで裂けた口が有り、魔術師が逃げようとした瞬間、血で汚れたハサミが彼女の口元まで迫った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何なんですか、此処はぁ!?」

 

この魔術師は先程からロッカーの中に隠れていた。彼女が気付いたら居たのは音楽室の前。中から聴こえてくる素晴らしい音に誘われて中を覗き込んだ彼女の目に映ったのは目がギョロギョロ動くベートーベンの肖像画とピアノに食われる仲間の姿。悲鳴を上げて逃げ出すと巨大な足に追われ、人体模型が併走しながら顔を覗き込んでくる。そして何とか逃げ込んだ先で息を殺しているとロッカーの扉をノックする者がいた。

 

「ねぇ、私の足は何処?」

 

「足は要らんかね?」

 

「赤マント着せましょうか?」

 

「あぎょうさん、さぎょうご、いかに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ちっ、もう終わりかよ」

 

豹変したギャスパーの目の前には血まみれで倒れる魔術師たちのリーダーの姿が有り、リアス達はそれを離れた所から見ていた。豹変したギャスパーは吸血鬼としての力と神器を完璧に扱い、魔術師を圧倒したのだ。

 

「……貴方、ギャスパーじゃないわね? その子に何をしたの?」

 

「ほ~、其のくらいは分かんだな。安心しな。この体の主は今もビビってるぜ。ただ俺に体を乗っ取られてるだけだ。でも此奴の潜在能力を引き出してやったんだから感謝して欲しいくらいだぜ? おっと、名乗るのが遅れたな。俺の名はエクボ。死従七士の一人で『嫉妬』を司る将だ」

 

そう言った瞬間、ギャスパーの体が崩れ落ち、中から間抜けな顔がある火の玉が出てくる。その両頬には丸い模様があった。




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キャラ紹介 名前 登場作品(ハイスクールddは無記) この作品での設定

死霊四帝 側近の四名

レイナーレ 実は適当に選ばれた人。火に光を混じらせる『光炎』を操る。堕天使の魂を食ってパワーアップ中

ブイヨセン ムヒョとロージーの魔法律相談所 体を霧にし念動力を操る悪霊

シャドウ 召喚戦記サモンナイト 封印から漏れたサマエルの呪いを核に作られている。触った相手の生命力吸収、分裂、高速再生、影に潜る、サマエルの毒の劣化版(痛みと脱力だけ) 色々芸達者

犬飼ポチ GS美神令子極楽大作戦 普段は犬の姿になってるリーダー。最近フェンリルになれるようになった



幽死霊手 玉藻が率いる問題児集団

玉藻 フェイト・エクストラ 一誠が飼っていた子狐の霊に玉藻の前の怨念を食わせた存在。やや子狐の方に精神が持って行かれている。一誠には将来結婚をする約束をしてもらっている

ありす 上記  ずっと病院暮らしだった少女

アリス 上記 ありすが自分を慰める為に作り出した想像の友達。やがてもう一つの人格となり、死後に分裂した

ありす達は二人で魔獣創造を共有

グリンパーチ トリコ 体内に部屋を持ち、吸い込んだものをじっくりと消化する餓鬼

クドラク 女神転生ソウルハッカーズ 吸血鬼の怨念を伝説の吸血鬼の形を与えて復活させた存在。強いけど馬鹿

お市 戦国バサラ 今は不明

涅 マユリ BLEACH


ネム     上記

グレンデル いろいろ趣味を見つけて充実している邪龍 裁縫の腕が達人レベル

死従七士 自分の軍団を持つ7人の将 それぞれ七つの大罪の一つを背負う

ランスロット フェイトゼロ 自分に味方してくれた円卓の騎士を従えている 武器は一誠から賜ったアスカロン  大罪は『憤怒』

        部下 元円卓の騎士達 死んでからハッチャてる

エクボ モブサイコ100 相手に取り憑き、潜在能力を引き出した状態で体を操る悪霊。大罪は『嫉妬』

アーロニーロ 大罪は『暴食』 曹操を食べて聖槍ゲット BLEACH

ハンコック 『色欲』 正体は初代ルシファーの妻であるリリス ワンピース

フリーザ 『傲慢』 マユリが薬で変身した姿 ドラゴンボール

バイパー 『強欲』 幻術使いの青年 家庭教師ヒットマンリボーン   

異界の住人 一誠の友人たち

基本的に此処の住人は人の恐怖が具現化した存在 異界も旧校舎にお化けが出るという恐怖が具現化した場所で招き入れられた存在しか出入り不可 全国の旧校舎につながっている

メディア フェイト・ステイナイト 異界には住んでいない。小説家をしている。娯楽関連以外の機械が苦手 彷徨っている所を保護された

黒歌 一誠に保護された ただ、もしかしたら霊に食われていたかもしれない 現在は赤龍帝の部下という立場 一誠と何度か寝てるが玉藻の呪いで最後まではいってない

口裂け女 異界のまとめ役 一応黒歌を一撃で沈めるほどの戦闘力を持つ

メリー 呪いの人形 一誠に好意を寄せるが伝えてない

花子さん 有名なトイレの化け 無口

ベートーベン 人食いピアノも兼任

動く人体模型

巨人

カシマレイコ

足売ババア

赤マント

あぎょうさん

その他

ガウェイン フェイトエクストラ 北欧所属  最近奥さんが妊娠した

ガウェインの嫁 is 某銀髪の軍人にそっくりなトールの娘 戦乙女 巨乳

ハーデス 嫁さんの尻に敷かれている冥府の王

ベルセポネー ハーデスの妻

松田 勘違いからリアスの眷属になった 名前は一郎 死亡




一誠の信頼度トップ15 1 玉藻 2(3) 両親 4(5)メディア・口裂け女 6ポチ 7(8)ドライグ・ハーデス 9 シャドウ 10 ランスロット 11 ブイヨセン 12 メリー 13 黒歌 14 エクボ  15 レイナーレ  


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二十三話

要望があったキャラ紹介は今から二十二話に付け足します


ヴァーリにとって戦いこそが全てであり、恋愛など二の次であった。だから同じ組織の女性から告白されても断ったし、アザゼルに誘われてもナンパにも出かけずに修行を続けていた。そんなある日、彼は嫌な噂を耳にする。それは自分と所有する神器に宿るアルビオンについての噂だった。

 

 

 

 

 

 

《ありゃりゃ、何があったんでやんすか?》

 

エクボがギャスパーの体を乗っ取り神器をコントロールした事でベンニーアは動き出した。彼女はボロボロになった室内と校庭の上空で行われている一誠とヴァーリの戦闘、そして一誠を応援するチアリーダー姿の玉藻と応援旗を振るランスロットを見て首を傾げた。

 

「こ・ろ・せ! こ・ろ・せ! りょ・う・て・を・血に染めろ♪」

 

「頑張れ頑張れ頑張れ主!」

 

とりあえず話の通じなさそうな二人を無視してベンニーアはアザゼルに状況を聞く事にした。

 

「起きたのか嬢ちゃん。……テロだよ。ハーフヴァンパイアが利用されてな。首謀者のカテレア・レヴィアタンは赤龍帝の部下が倒したが、ヴァーリが裏切りやがった」

 

《ありゃりゃ、それは悪魔と堕天使側の手落ちでやんすね。話を聞いたハーデス様の喜ぶ顔が目に浮かぶやんすよ》

 

ベンニーアは呆れた様な溜息を吐きながら一誠の戦いを見つめる。一誠の蹴りをマトモに喰らったヴァーリの鎧にはヒビが入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほら、どうしたの? やっぱり正々堂々とした戦いは苦手?」

 

「お前が言うな!」

 

一誠はヴァーリをおちょくりながら攻撃を避ける。そして時折、再び唐辛子粉を投げる動作をし、咄嗟に腕で顔を庇った為にガラ空きになったヴァーリの胴体に攻撃を加える。そしてヴァーリがフェイントだと思って無視したら本当に投げつけていた。

 

「はぁっ!」

 

ヴァーリは無数の魔力弾を放ち、一誠がそれを避けても軌道を変えて再び襲いかかる。そして出来た隙に攻撃を加えるが……、

 

 

 

 

 

「ハッズレ~♪」

 

「ちっ! また幻覚かっ!」

 

一誠の体は煙の様に霧散し、別方向から攻撃が加えられる。一誠はヴァーリの隙を見て霊を自分の姿の化けさせ入れ替わっていた。それにより遠距離攻撃がすり抜けず、感触は分からないから直接殴るまで偽物と分からない。そしてヴァーリはそれを高度な幻覚だと思い込んでいた。

 

「アルビオン! こうなったら辺り一面を半減させるぞ!」

 

『スマン。何故か先程から上手く力が使えんのだ。まるで俺の魂に誰かが干渉しているような気分だ』

 

ヴァーリの宿す『白龍皇の光翼』の力は十秒毎に触った相手の力を半減し、それを自分の力に変える事。禁手化する事で広範囲に半減の力を掛けられるのだが、何故か先程から上手く力が使えないでいた。そう、力の源は神器内のアルビオンの魂。一誠は流石に魂を奪えないまでも干渉して力の使用を妨害していた。焦るヴァーリに対し余裕綽々といった態度の一誠は呆れたような馬鹿にしたようなトーンで話しかける。

 

 

「ねぇ、その程度? そんなんだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショタ龍皇 ホモビオンとかネットで呼ばれるんだよ。まぁ、ドライグもロリ龍帝 ペドライグとか呼ばれてるらしいけどさ」

 

『『がはっ! い、言わないでくれ!』』

 

一誠の言葉に宿敵のはずの二匹が息ぴったりに悲哀の篭った声で叫ぶ。そう、ロリコンでペドフィリアのドライグに対し、アルビオンはショタコンのホモという噂が流れだしたのだ。しかもヴァーリは普段から女性を寄せ付けていなかった為、普段から玉藻を傍に置いている一誠と違い、アルビオンと同じ性癖だと最近になって噂され出している。なお、噂の出処は彼の普段の行動をよく知るグリゴリであり、それを知った事がヴァーリの裏切りの大きな要因であった。

 

 

 

 

 

なお、ヴァーリは一誠の言葉を聞いた途端にストレスから呼吸困難に陥り、声も出せないでいる。当然、一誠がそれを見逃すはずもなく、彼の口元に真っ黒の靄の様な物が渦を巻いて集まりだし、やがて野球ボールほどの大きさの球体となる。

 

「断末魔砲!!」

 

それは散っていった者達の残した怨念にドラゴンのオーラと一誠の霊力を混ぜた物だ。

 

『ギィィィィィィィヤァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!』

 

そして、その球体から凄まじいエネルギーが断末魔の叫びのような耳をつんざく声と共に放たれる。その音量に窓ガラスが割れ校舎にヒビが入った。そしてある程度離れた場所に居るアザゼル達にも声は届き、耳栓をしている玉藻とランスロットとベンニーアの三人以外は思わず両手で耳を塞いで身を竦ませる。そしてそれは断末魔砲に飲み込まれそうになっているヴァーリも同じであった。

 

「くっ! 何て叫びだ……」

 

今すぐ避けなかればならないと頭で分かっていても断末魔叫びは生物的な本能を刺激し、耳を手で塞がせ身を竦ませる。そしてそのままヴァーリはエネルギーの奔流に飲み込まれ、校庭に空いた大穴から出てきた彼は鎧は全て砕け全身から血を流しているという満身創痍の状態で……笑っていた。

 

 

「……ククク。ハーッハッハッハッハッハ!」

 

「え? 何? 君ってマゾだったの? ショタコンのホモの宿主はマゾか……」

 

一誠は近づきたくないという風にヴァーリから距離を開けた。

 

「違う! 俺はマゾじゃない! ……いやいや、運命とは面白いものだな。魔王の血統に伝説のドラゴンという最強の組み合わせだと思っていたが、まさか純粋な人間に此処まで追い詰められるとは思わなかったよ。君は英雄の血を引いているのかい?」

 

「いや、両親ともに由緒正しい一般人だよ。ハーデスの爺さんが言うには俺は人間の変異種だってさ。たまに居るらしいよ? 異常な力を持った一般人が。後はそうだな~。先代所有者の残留思念を食ったからかな? ほら、魂っていう中身が上等になったら入れ物も上等になるんだよ。副作用としてドラゴンのオス特有の女好きが際立つけどさ。あれ? 魔王の血統?」

 

「……やれやれ、俺のライバルは本当に規格外の様だな。おっと、名乗り忘れていたな。俺の本名はヴァーリ。ヴァーリ・ルシファーだ。俺の父は初代ルシファーの孫でね。人間との間に生まれた俺は神器を宿してたんだ」

 

ヴァーリが旧魔王の血を引いているという言葉に一同は騒然となる。だが、一誠と玉藻達だけはどうでもよさそうにしていた。二人にとってルシファーなど、ゲームとかによく出てくる強い悪魔、程度でしかないのだ。

 

「ふ~ん。つまり、『俺のひいお祖父ちゃんは凄いんだぞぉ』って事でしょ? それでさぁ、結局君って何がしたいの? 戦いが好きみたいだけどさ、戦って戦って戦い抜いた先に強いのが居なくなったらどうするのさ?」

 

「死ぬさ。そんなつまらない世界に興味はないからね」

 

一誠の問いにヴァーリは迷いなく答える。その瞬間、一誠と彼の周囲を誰にも見えないように漂っている霊達の空気が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ありゃりゃ、禁句を言っちまいやがりましたねぇ。『まだ死にたくなかった。もっと生きていたい』。そんな言葉を幼い頃から聞かされ続けたご主人様にとってあの言葉は禁句だってのに」

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり赤龍帝が聖杯も持ってやがんのか」

 

アザゼルが勘違いを増す中、一誠は呪文を紡ぎ出した。

 

『我、目覚めるは覇の理を求め、死を統べし赤龍帝なり』

 

『無限を望み、夢幻を喰らう』

 

『我、死を喰らいし赤き冥府の龍となりて』

 

『死霊と悪鬼と共に、汝を冥府へと誘わん!』

 

その瞬間、一誠の鎧が変化し出す。布の部分が消え去り、骨の様な部分が盛り上がって全身を覆う。そして背中にはドラゴンの羽と靄が集まって出来たような鋭い爪を持つ四本の腕。そして両肩には透明なタンクがついており、中にはボコボコと泡立つ黒い液体が入っていた。

 

「これが俺の覇龍。『魂を喰らいし(ヘル・ジャガーノート・ドライブ)冥覇龍(・ソウルイーター)』だ!」

 

「ははははは! 禁手が亜種なら覇龍も亜種なのか! 面白い! 面白いぞ!」

 

楽しそうに笑い出すヴァーリに対し、一誠も笑い声を上げた。

 

「あはははは! 戦いが楽しいと思ったのは初めてだよ! この戦いはどちらが善か悪か決める戦いではなく、どちらが綺麗か汚いか決める戦いでもない! どちらが先に倒れるかを決める戦いだ! さぁ、君も覇龍を使えるんだろう? 一体一で決着をつけようじゃないか!」

 

「……やっとマトモに戦う気になったか。良いだろう! それでこそ俺のライバルだ!!」

 

「おい、止めろ! 覇龍同士で戦ったら街が吹っ飛ぶ!!」

 

ヴァーリは更に楽しそうに笑みを浮かべ、アザゼルの制止を無視して呪文を唱え出す。

 

『我、目覚めるは―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、戦うのが俺とは一言も言ってないけどね」

 

「……は?」

 

一誠の言葉に思わず固まったヴァーリが急にできた影を不審に思い振り返ると巨大な黒い粘液の塊が覆い被さってきた。

 

「隙アリィィィィィ!!」

 

シャドウの体内に飲み込まれたヴァーリは抜け出そうとするも粘性が強いために上手く動けず、砕けた鎧を治す前に覇龍を使おうとしていた為に容赦なく全身から生命力を奪われる。そして、それだけでは考えられない程の激痛が彼を襲っていた。

 

「ぐっ!? だ、騙したなぁ。この、卑怯者……」

 

「俺が卑怯? 俺はちゃんと一対一だって言った通り手出ししてないじゃん! 俺は騙してないよ。君が勝手に勘違いしてんだ。俺と君のタイマンだってね。……そうか、分かったぞ! そうやって精神的動揺を誘っているんだな!? なんて卑怯なんだ! ニ天龍を宿す者としての誇りはないのか!?」

 

ヴァーリが息も絶え絶えになりながら辛うじて発した抗議の声も一誠には届かず逆に非難される。玉藻達以外がそろそろヴァーリに同情しだした頃、サーゼクスはヴァーリの様子が気になった。

 

「……少し聞きたいんだが、いくら何でも効き過ぎじゃないかい? ヴァーリ君の力なら生命力を吸い取られながらも抜け出せそうだが……」

 

「ご主人様ぁ! サーゼクスがシャドウの事を訊いてきましたが、話しても宜しいですかぁ?」

 

「うん! 別に良いよ」

 

「なら、特別にお話して差し上げましょう。ご主人様の広いお心に感謝するように。元々シャドウは呪いを固めて作った存在ですが、ハーデス様がコキュートスに連れて行って下さった時にサマエルの封印場所に行きましてね、其処から漏れ出てた龍殺しの呪いを核にしたんですよぉ」

 

ちなみにサマエルとは強力な龍殺しの力を持ち、その力を喰らったドラゴンは魂さえも汚されるほどなのだ。今は危険すぎるので冥府に預けられ、最下層のコキュートスに厳重に封印されている。それを聞いたサーゼクスは理解が追いつかないのか暫くの間固まっていた。

 

「……まぁ、封印を解いた訳じゃないから約定には反してない……のかな? それじゃあ、シャドウ君はサマエルの毒を持っているということかい?」

 

「それは残念ながら否と答えておきます。私がご主人様に影響がないように調整しましたので、他のドラゴンも脱力と激痛は本物と同様ながら精々効果は一ヶ月程度。魂にも肉体にも対して影響がないんでございますよ」

 

玉藻は残念そうにそう言うとシャドウの方に目をやる。すっかり動けなくなったヴァーリはシャドウによって上空に吐き出され,それを一誠が狙っていた。しかし、そこで邪魔者が入る。邪魔者は三国志の武将が来ているような鎧を身に纏っていた。

 

「ヴァーリ、迎えに来たぜぃ。……って、随分やられてるな」

 

「に、逃げろ、美猴。アレはヤバイ」」

 

突如現れた男は一誠から放たれるプレッシャーに固まる。しかし、一誠は何を思ったのか覇龍を解除すると二人に背を向けた。

 

「……眠い。やっぱ人間にはこの時間帯はつらいよ」

 

会談の開始時刻は深夜だったので一誠は眠くなったらしく、仮面の上から口元を押さえて大アクビをする。それを好機と見た二人は闇の中に去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《それじゃあ、あっしは今回の件をオリンポスの主神様方に報告しやすね。……言っておきやすが覚悟しておいてくだせぇ》

 

今回、悪魔側と堕天使側の手落ちは大きい。カテレアはかつて追放した王族であり、利用されたギャスパーはリアスの眷属だ。前者は王座を奪ったのだから復讐を防ぐために粛清しておくべきだったし、ギャスパーの神器の危険性を考えれば攫われる危険性や今回のように利用される危険性は考えておくべきだった。なのに何も用心していなかったのは大きな手落ちだ。堕天使は言わずもがなヴァーリの反乱。そしてその全てを解決したのは冥府に仮所属している一誠とその配下達。これからの対応に三すくみのトップは頭を悩ませながらも正式に和平を結び、その協定は『駒王協定』と名付けられた……。




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ふと思ったが、アニメのワンピースで黄猿にベックマンが銃を向けてたし、覇気って銃弾にも込めれるのかな?

あと、原作二巻でイッセーがリアスに手を出すのに成功してたら多分殺されてたかな? ドライグ自体いい印象を持たれてないし、強い神器を持ってるだけの転生悪魔が公爵家の令嬢に命令とはいえ手を出したんだからねぇ、 あとは内内に処理して秘匿。って所かな?


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冥界合宿のヘルキャット
二十四話


シャガルマガラ撃破しました 思ってたより楽だったけど下位なら仕方ないかな?

装備はゴア・マガラのガンランスにガード性能+2 砲術王


三すくみの会談から数日後の夏休みまであと少しの日の夜、異界では宴会が行われていた。何処から調達したのか様々な飲み物や食べ物があり、各々好きなものを食べている。ただ、何かの肉料理と赤黒くてドロドロとした液体だけは生者組と玉藻、元人間の霊達は決して口を付けなかった。

 

「うぉれは、うぉれは、くぅぞぉぉぉぉ!!」

 

「ひっひっひ! うんめぇなぁ」

 

クドラクとグリンパーチが何かの肉料理と赤黒い液体を美味そうに口にする中、ポチとランスロットは杯を交わしていた。

 

「どれ、ご一献」

 

「これは申し訳ありません。ポチ殿もどうぞ」

 

この二人は侍と騎士という似た者同士からか仲が良い。もっとも、群れを守る事を大切とする狼のポチは主を裏切ってしまい挙句の果てに国を滅ぼす要因となったランスロットの事を当初は嫌っており、その様子を面倒臭がった一誠の提案で剣を交える事で仲良くなったのだ。

 

「そう言えば夏休みにはギリシア神話体系ですね。ポチ殿は留守番で良かったのですか?」

 

今回の旅行はポチも招待の対象に入っていたのだが本人はそれを固辞した。

 

「拙者の役目は家を守る事。それが拙者の役目であり誇りで御座るよ。それに、異国の水は性に合わんのでな」

 

やはり酒も水も日の本の物が一番だ。ポチはそう言って盃を傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、この間は楽しかったよ。久しぶりに怪異として本来の仕事をこなしたからねぇ。昨日も小学校の旧校舎から此処に迷い込んできてね。ま、適当に脅して追い出したんだ。子供の怯える声は何度聞いても最高だよ」

 

「は、はぁ……」

 

この間の一件で大暴れした口裂け女は楽しそうに酒を煽りながら玉藻に絡む、薄ろには空になった酒瓶が何本も転がっていた。なお、小学生が迷い込んだのは偶々異界と繋がりやすくなっていた旧校舎の上に、繋がるのを防ぐために置かれていた埴輪が壊れてしまったからだった。玉藻が口裂け女に解放されたのは宴が終盤に差し掛かった頃であり、一誠はその間ずっとありす達とトランプをやっていた。

 

 

 

 

 

 

「良い? バレなきゃイカサマじゃないんだよ」

 

「わかった! お兄ちゃん凄いね!」

 

「流石ね、お兄ちゃん!」

 

ありすとアリスは無邪気な笑みを浮かべて一誠を褒め称える。

 

「あ、でも、カジノとかでインチキしたら不味いからメディアさんとお小遣いを賭けて遊ぶ時だけにしといた方が良いよ」

 

なお、このセリフは後日メディアにバレ、一誠はこっ酷くお説教を受けるハメになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……朝か。確か今日は母さんは町内会の温泉旅行で居ないし、夏休みだから学校はないし……」

 

「……うみゅう」

 

ハーデスが旅行に連れて行ってくれる日はまだ先であり、最初の数日で宿題を終えた一誠は惰眠を貪っていた。床には男物と女物の下着や服が散乱し、横では玉藻が一誠の腕に抱きついてスヤスヤと寝ている。起こさないように腕を外した一誠がパンツを取ろうとした時、普段玉藻が付けているリボンが目に付いた。作られてから長い年月が流れたのかすっかりボロボロになっており、幼い子供が書いたのか汚い字で玉藻の名が書かれていた。

 

「……もう十二年も前になるのかぁ。懐かしいなぁ」

 

そのリボンは一誠が初めて玉藻にあげた物。まだ生まれたばかりの玉藻を飼う事になった時、一誠が少ないお小遣いを工面して買ったのだ。それはたまもが交通事故で死んだ日も付けており、死後もずっと付け続けていた。リボン自体は十二年前に買った物なので何度も縫い直しているが既に寿命が尽きかけている。

 

「ギリシアで新しいのを買ってあげようかな? ……とりあえず朝飯作って貰おうっと」

 

一誠は取敢えずパンツとズボンを履いて玉藻の体を揺らす。だが中々起きず、顔を覗き込んだ瞬間、腕を掴まれベットに引きずり込まれた。玉藻は器用にズボンとパンツを素早く脱がすと一誠に抱きついて足を絡ませる。

 

「ねぇ、ご主人様ぁ♥ 朝餉を食べる前に玉藻を食べて下さいませ♪ 昨日の夜の高ぶりがまだ残っておりまして辛抱ができません。まさか譲渡を使ってあそこまで敏感にさせられるとは……」

 

玉藻はそこまで言うと夜中の事を思い出したのか顔を真っ赤にする。しかし、一誠は狸寝入りに騙されたことに不満そうな顔をしていた。

 

「……むぅ。まさか玉藻に騙されるなんて……」

 

「騙して喰らうは狐の領分でございます。でもぉ~、私は食べられる方が良いかなぁ~。 キャッ☆ って、居ねぇし!?」

 

玉藻のホールドから器用に抜け出した一誠は幻覚と入れ替わって既に部屋から出ており、玉藻も慌てて台所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、失態の責任を取って実家に所有する領地の一部を返還かぁ。魔王も減俸処分を受けたんだ」

 

「ご主人様。新聞は後にして食卓に着いてくださいよぉ」

 

朝食の準備をしていた玉藻はソファーで冥府発行の新聞を読んでいる一誠を叱る。どうやら先日の一件でリアスやギャスパーは個人所有の領地を大幅に削られたようだ。一誠が新聞を畳んで食卓に着くと朝食が運ばれてきた。

 

「今朝のメニューは焼き鮭にほうれん草のお浸し、ワカメと油揚げのお味噌汁です。熱い内にお召し上がり下さいませ。ア・ナ・タ♪」

 

「……分かったよ、ハニー。あ、ご飯大盛りね」

 

一誠は取敢えず玉藻がして欲しそうな返答をしながらお茶碗を差し出す。玉藻はウキウキしながらお茶碗を受け取ると並々と白米を盛って渡す。そして自分の分を用意しようとした時、横合いから小さな手がお茶碗を差し出してきた。

 

 

 

「我も大盛り」

 

「はいはい、ちょっと待ってくださいねぇ……って、えぇぇぇぇぇ!?」

 

「もぐもぐ。……ドライグ、一誠、久しい」

 

玉藻からお茶碗を受け取ったオーフィスはその場で米を口にし、口元に米を付けたまま口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方ぁ! お醤油を取って下さるかしら?」

 

《待っていろ。直ぐに持っていく》

 

その日珍しくハーデスは妻のペルセポネーと共に料理をしていた。彼女はハーデスに見初められ、攫う形で冥府に連れてこられたのだが、今では夫婦仲睦まじく暮らしている。なお、実は彼女はハーデスの弟であるゼウスの娘であり、つまりハーデスの姪なのだ。ハーデスが妻に頼まれて鍋に醤油を垂らそうとした時、一人の死神が現れる。道化の仮面をつけた彼の名はプルート。神話に名を連ねるほどの実力を持つハーデスの側近だ。

 

《何の用だ、プルート》

 

《実は一誠から連絡がありまして……オーフィスが訪ねてきたそうです》

 

《ぶふぁっ!?》

 

ハーデスは驚きの余り醤油差しを取り落とし、鍋の中に醤油がぶちまけられる。……かと思いきやペルセポネーが素早く鍋を外し、代わりにハーデスのローブの裾を使って受け止めた。防水加工がされているおかげで床に醤油が垂れる事はなく、ハーデスの服が醤油臭くなるだけですんだ。

 

「危なかったわぁ。お醤油が床に溢れたら大変ですもの」

 

《私のローブが醤油臭くなったのだが……》

 

「何か文句があるのかしら?」

 

《いえ、ありません。……プルート。とりあえず刺激しないように伝えておけ》

 

何処の家庭も妻が最強のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グハハハハハ! いっちょ死合うとするか、おぉい!?」

 

「落ち着けグレンデル。此処で戦ったら家が吹き飛ぶで御座るよ」

 

プルートからあまり刺激するなと連絡を受けた一誠はオーフィスから要求されて話し合いに応じる事にした。一応護衛として人間サイズになったグレンデルとポチ、そしてシャドウと玉藻を傍に置いている。玉藻も今回は警戒してか最初から尾を九本出しており、いつでも戦闘態勢が取れるようにしていた。しかし、当のオーフィスは特に気にした様子もなく出されたお茶菓子を口にしている。

 

「はむはむ、ごくん。……この前の戦いの事聞いた。今回の赤龍帝何時もと違う。それに強いのにまともに戦わないってヴァーリが言ってた。何故?」

 

「そりゃまぁ、人は全て千差万別。同じ人なんて居ないんだから他と大きく違うのが居てもおかしくないよ。それに俺がマトモに戦わない? ねぇ、マトモな戦いの定義って何? 目的の為に手段を選ばないのが悪い事なの?」

 

「良く分からない。……また来る」

 

オーフィスは首を傾げながら去っていく。とりあえず一誠が再び連絡した所、ゼウスには伝えておくから心配するな、とだけ返答があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてギリシア旅行当日、魔法陣で転移した一行はベンニーアの案内でハーデスの用意した屋敷にたどり着いた。屋敷の近くには綺麗な湖が有り、泳ぐのに適していそうだ。

 

 

《此処は客人用の屋敷でやんす。では、部屋割り表を渡すでやんすよ。旅行中は部屋のメンバーで班を作って行動する事になってるでやんす》

 

彼女から渡された部屋割り表によると一誠は玉藻と同室になっており、その他は五人一組になっている。そんな中、ランスロットの表情が固まっていた。

 

「あ、あの、私と同室の者なのですが……」

 

彼と同室になったのはグレンデルとクドラクとグリンパーチ、そして後頭部の大きい老人だった。見事に問題児中の問題児達である。ランスロットは一誠に何とかしてくれと必死で目で訴えたが、

 

「期待してるよ、ランスロット。君なら彼らを抑えれるってさ」

 

「お任せ下さい我が主!」

 

基本単純なランスロットはあっさりと承諾した。なお、騎士って扱いやすいなぁ、と一誠が思っていたのは秘密である。世の中言わない方が良い事が沢山有るのだ。

 

 

かくしてランスロットの胃痛を確実にしながら一行は旅行を楽しんだ。湖では水着姿の玉藻と黒歌が一誠を誘惑しながら争い、レイナーレが遠巻きにそれを見ていたり、口裂け女がありす達と花子とメリーに泳ぎを教えたり、ランスロットが胃痛を感じたりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、玉藻。そのリボンもボロボロになってきたし新しいのに変えない? 好きなの買ってあげるよ」

 

念の為に禁手状態で出歩いている一誠は玉藻と一緒に入った店で綺麗なリボンを手に取り玉藻に見せた

 

「で、ですが、このリボンは……」

 

玉藻は一誠からの提案に言い淀む。今付けているのは初めて貰った物であり、生前から大切にしている物だ。いくら新しいのを送って貰えるからといって簡単にそうですかと言えはしない。そんな彼女の心中を察したのか優しく微笑むと玉藻が付けているリボンを触る。

 

「コレは俺にとっても思い出の品だし、戦闘で破れたらいけないから宝箱にでも保管しておこうよ。それに玉藻に何か送りたい気分なんだ」

 

「ご主人様……。有難うございます♪」

 

二人は店内で甘い空気を醸し出す。そんな二人に対し、偶々見ていた婚活中の百円ショップマニア以外に睨む様な視線を送っている者がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ! 二人っきりでイチャつきやがって! しかも玉藻の奴、イッセーの子種を独占してるのにゃ!」

 

敵意を送っていたのは黒歌。彼女も一誠とは長い付き合いであり、何度か一緒に寝ているのだが玉藻の呪いによってBまでしか進んでいない。そんな彼女を呆れた様に見ているのはベンニーアとレイナーレだ。

 

《口調変わってるでやんすよ……》

 

「街中で子種とか言わない方が良いんじゃない? ……あれ?」

 

何時に間にか二人の姿は消えており、黒歌は慌てて気配を探すも見つからない。なお、残りの班員二人を放って行動したとして彼女達三人分の分の旅費は自腹となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《スマンな、此方が誘った旅行中なのに呼び出して》

 

「気にしなくて良いよ、爺さん。あっ、ペルセポネーさんお久しぶりです」

 

「お元気そうで何よりですわ、ペルセポネーさん。あ、ハーデス様もお久しぶり」

 

「あらあら、二人とも元気そうねぇ。お茶でも飲む?」

 

旅行の途中、急にハーデスから呼び出された二人は彼の館まで来ていた。二人はハーデスには適当に挨拶をするがペルセポネーにはキチンと挨拶をする。

 

《……私だけ扱い雑じゃね?》

 

「「「爺さん(ハーデス様)(貴方)だから仕方ない!!」」」

 

『その通り!!』

 

ハーデスが抗議した瞬間、三人と警備の死神達がピッタリの息でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ! まだ体中が痛む!」

 

ヴァーリはシャドウから受けたサマエルの毒による激痛が体から未だ抜けず、顔を顰めながらテロ集団の本部に通路を歩く。本部は広く道に迷った彼が誰かに案内して貰おうと辺りを見渡すと一人の少年が歩いてきた。

 

「ああ、其処の君! 済まないが資料庫は……痛っ!」

 

しかし、少年に道を聞こうとした瞬間、取り分け強い痛みが彼を襲い、ヴァーリは前のめりに倒れこむ。その時偶然少年を押し倒してしまい……、

 

 

 

 

 

 

「レオナルド、徐々次の作戦……へ、変態だぁぁぁぁ! くそっ! レオナルドから離れろ変態がっ! 来い! 『黄昏の聖槍』!!」

 

後からやって来た青年に誤解されてしまう。かくして、組織内にヴァーリとアルビオンのショタホモ説が瞬く間に広がる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルビオン、ショタ龍皇ホモビオンなる? 其れってどんなの? 我分からない。教えて」

 

「『グッハァァァァァァァァ!!!』」

 

ヴァーリの完治が一ヶ月遅れた……。




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二十五話

冥府の死神の間での一誠の評価はかなり高い。当初はたかが人間の子供と侮られていたが月日を重ね実績を上げる事で徐々に認められ、今では正式な所属ではないにも関わらず幹部クラスの扱いを受けている。先日一誠と初めて会った死神は彼の事をよく知らなかったので若干上から目線の話し方であったが、今では口調を改めている。

 

 

「あらぁ、やっぱり首都は賑やかでいいわねぇ」

 

「まぁ、貴族達も金を注ぎ込んでますからね」

 

だから今回のように要人の護衛という重要な任務も任されるのだ。ハーデスが一誠を呼び出したのは、妻であるペルセポネーが冥界観光に行きたいと言っているので護衛を頼みたいというものだった。国賓として向かったり、ゾロゾロ護衛を引き連れて行くのは息が詰まるという彼女の願いから幼い頃からの顔見知りで実力もある一誠が適任だろうという事になった。

 

《奥方様。飲み物を買ってきましたよ》

 

流石に冥府の者を付けないというのも問題なのでプルートも同行している。一誠はギリシア観光の合間に冥界観光をする位のつもりで引き受け、玉藻と共に冥界に来ていた。なお、その間の総責任者は口裂け女とランスロットが引き受け、他のマトモな連中も問題児組を見張るらしい。そして、ペルセポネーの願いもあり、他に二名の者が同行していた。

 

「お兄ちゃん、あたしアレが欲しい!」

 

「お兄ちゃん、アレ買って!」

 

一緒に冥界に来ているのは、ありすとアリス。どうやら 屋台のクレープが食べたいらしく一誠に強請っている。するとペルセポネーが財布からお金を出して二人に渡した。

 

「じゃあ、私の分も入れて三個買って来てくれるかしら?」

 

「うん! 有難うオバさん!」

 

「有難うね!」

 

柔和な笑みを浮かべる彼女からお金を受け取った二人はお礼を言うと嬉しそうに屋台へと駆けていく。ベルセポネーはその姿を慈しむように見ていた。

 

「……やっぱり子供は良いわねぇ。私とあの人の間には子供が居ないからあの二人を護衛につけて貰って良かったわ」

 

「すいません、ペルセポネーさん。お金は後で返します」

 

一誠はペルセポネーにそっと頭を下げる。普段は敬語を使わない一誠だが、彼女に対しては何故か敬語を使っていた。本人も理由は分からないが使わなければならない気がするらしい。

 

「別に良いわ。旅費の全てをあの人が持つ約束だったでしょ? ウチでは財布を握っているのは私なのよ。それに遠慮なんかしなくて良いのよ。一誠ちゃんも玉藻ちゃんも昔から知っているんですもの」

 

そう言って彼女は再び微笑む。ペルセポネーの見た目は三十路に差し掛かった位だが、ハーデスを魅了した美貌は全く色あせず近くを通りかかった者達の殆どが一度は振り返って彼女を見ている。そんな彼女だが持ち前の性格から冥府では母親的存在として慕われていた。

 

それは彼女が持ち合わせた性質なのか、それとも先程言っていたように子供が居ないのでその分の愛情を周りに振りまいているのか。それは夫であるハーデスにも分からない。ただ確かなのは彼女が優しい性格であると言うだけだ。

 

 

「ほらほら、口元にクリームが付いているわよ」

 

今もありすの口に付いたクリームをハンカチで拭っている所を見ると子供好きの様だ。

 

「……そういえば私やご主人様もお世話になりましたねぇ。私は生まれて直ぐにご主人様の家に貰われましたから、母親ってあの人みたいなのを言うんだなぁって思いましたよ」

 

「俺も母さんは居るけど、あの人の事も母親みたいに思ってるよ」

 

ありす達と戯れる彼女の姿を見た二人はシミジミと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、やっぱりこういうのは冥界まで出向かなきゃいけないわねぇ」

 

クレープを食べ終えた一行が次に向かったのは大型のショッピングモール。ペルセポネーがアクセサリーが見たいと言うので一誠と玉藻が同行し、ずっと病院暮らしだったせいかアクセサリーに興味がないありす達はプルートに連れられて玩具売り場に行っている。プルートもプルートで子供好きのようで、いつも付けている道化の仮面のせいで寄ってくる子供達の相手を嫌な顔一つせずにしていた。

 

「わ~、ピエロさんだぁ」

 

「ねぇねぇサーカスでもやるのぉ!?」

 

《はいはい、騒がない騒がない。……何ぃ! 迷子ぉ!? こ、この子のお母さんは何処ですかぁ!?》

 

「プルートさんって相変わらず人気ね、あたし」

 

「プルートさんって相変わらず人気よ、わたし」

 

二人は買って貰ったばかりのビックサイズのクマのヌイグルミを抱えながら慌てふためくプルートの姿を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はわぁ~! コレ、良いなぁ」

 

護衛の途中、玉藻の目にとある指輪が入ってきた。オリハルコン製の指輪であり、玉藻はソレを一誠から婚約指輪として渡される自分の姿を想像して顔を赤らめる。今まで何度も好きと言って貰ったり結婚の約束はして貰ったが肝心の指輪は貰っていないのだ。

 

「ま、まぁ、リボン買って頂きましたし、ご主人様も高校生ですから将来に期待という事で!」

 

「玉藻! そろそろ行くよ!」

 

「近くにある高級焼肉店に行きましょぉ!」

 

「焼肉!? 行きましょう♪」

 

玉藻は自分にそう言い聞かせると一誠達と共に店を出ていく。既に彼女の頭の中は焼肉で埋め尽くされ、指輪の事など何処かへ行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミノタウロスの上カルビ、ケンタウロスの馬刺し三人前お待たせ致したぁ!」

 

「あらあら、其処に置いてくれるかしら?」

 

網の上では炭火にあぶられた肉が食欲を誘う匂いを漂わせながらジュージューと音を立てる。時折滴り落ちた油のせいで火が立ち上るも一行はそれを気にせず肉に箸を伸ばしていた。

 

「ほら、二人共。ちゃんと野菜も食べないと駄目ですよ」

 

「……ピーマン嫌い」

 

「わたしは玉ねぎ……」

 

ありすとアリスは嫌そうにしながらも玉藻の言う通りに野菜を口に運ぶ。それを見た一誠は二人の皿に次々とお肉を入れていった。

 

「あらあら、こうして見ると貴方達って親子みたいね」

 

《そう言えば玉藻さんには子供は出来るのですか? 普段から子供は三人は欲しいと言っていますが霊体ですよね?》

 

「……」

 

プルートの質問に玉藻は急に黙り込む。拙い事を聞いたかとプルートがたじろいた時、急に笑い声が聞こえてきた。

 

「……ふふふ。あーっはっはっはっはっは! よくぞ訊いてくださいました! 本来なら霊体の私には子はできませんが、ご主人様から色々やって注いで頂いた霊力と精力によって肉体を作れるの御座いますよ!」

 

「わぁ! オバ様って凄いんだね。じゃあ、あたしもお兄ちゃんのお嫁さんになれるのかなぁ?」

 

「オバ様って意外に凄いのよ。じゃあ、わたしもお兄ちゃんのお嫁さんになれるわね」

 

「誰がアンタラの分まで肉体を作ってやるかぁ! ってかオバ様言うなっ! 言っとくけどアンタらの方が年上ですよっ!?」

 

子狐の玉藻が死んだのは十年前。ありす達が死んだのは二十年以上も前だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『魔法少女レヴィアたん☆』

 

「……何かしら、コレ」

 

食事を終えて街中を散策していた一行は電気屋のテレビで流れていた、玉藻曰く『コスプレババア一号』の主演する番組を見てペルセポネーは固まっている。悪魔や堕天使が嫌いなハーデスであるが冥界の情報は仕入れており、妻である彼女も情報としてセラフォルーの実年齢を知っている為に目の前の光景が信じられないのだ。

 

「あはははは! これ本人は本気らしいですよ?」

 

一誠が画面内のセラフォルーの姿を笑った時、路地裏から一人の少女が出てきた。年の頃は一誠と同じくらいで少し窶れており髪はボサボサで服は薄汚れている。

 

「た、助けて……。訳も分からない内にこんな所に連れてこられて、『お前はもう私の眷属なのだから言う事を聞け』って……」

 

「……まだこ~んな闇が巣食っているって言うのにね」

 

「あらあら、それは可哀想に……」

 

《奥方様。此処は冥界です。あまり勝手な事は……》

 

一誠が少女が無理やり悪魔にされたのだと理解した。もっとも一誠にとってはどうでも良く、ペルセポネーも少女に同情するが立場があるのでどうにも出来ない。少女は追いついてきた追っ手に捕まり、彼女を無理やり悪魔にした悪魔の所に連れて行かれた。

 

「悪魔って人間を拉致しても良いのね、アリス」

 

「魔王が黙認しているんだから合法なのよ、ありす」

 

実際に魔王達は無理やり悪魔にされた者や不利な契約をさせられている者が多く居るのを知っていながら大した対策を取っていない。駒を渡す前に素行調査をしたり、あまりに扱いが酷なものは眷属を取り上げたりなどしておらず、中学生に上がる頃に駒を貰った者も居る。そしてもし主を殺して逃げた場合、どんな理由でも親族にまで責が及ぶのだ。それを聞いたペルセポネーは悲しそうに顔を俯けた。

 

「……酷いものね。無理やり悪魔にされた子の為に元の種族に戻す研究もされていないのでしょ?」

 

「ええ、少なくてもそんな話は聞いた事がございません。どうせ悪魔の滅びを防ぐ為には貴族の協力が必要、とか思っているのでしょう。まぁ、私もご主人様も汚れるだけ汚れている身ですからこれ以上は言いませんが……」

 

玉藻はそう言うと一旦言葉を切り、目をスっと細める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呪殺は私の十八番なんですよ♪」

 

その日一人の貴族が死に絶え、彼が無理やり悪魔にした眷属達は消息を絶った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、すっかり気疲れで窶れたランスロットだったが一誠の労いの言葉一つで復活し残りの日程も頑張ろうと張り切る。ありす達は疲れたのかヌイグルミを抱き抱えて眠り、大人組もハーデスがペルセポネーに秘密で買って隠しておいた高級酒を飲み干して酔いつぶれていた。そして玉藻がそろそろ寝ようとしていた時、一誠から小箱を手渡された。

 

 

 

「ほら、言葉だけでちゃんとした物を渡していなかったからさ」

 

箱に入っていたのは昼間彼女が見とれていた指輪だった。

 

「ご、ご主人様ぁ……」

 

玉藻の目に涙が貯まり、玉藻はソレを思わず手で拭うとそっと手を差し出す。

 

「……嵌めて頂けますか?」

 

「……ああ」

 

一誠は玉藻の手をそっと取ると指輪を近づけ……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、ごめん。指どれだっけ?」

 

「ご主人様ぁ~!」

 

何とも言えない間抜けな空気が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、余談だが一夫多妻去勢拳はギリシア女神が全員習得しており、玉藻もペルセポネーから教わったのである。




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二十六話

今日は筆が走らないので短めです 感想が少ないとモチベーションが下がり、多いと上がる。今のところは絶好調です!!


僅かな光すらない闇の中、三ヶ所に分かれて建物が存在している。闇の中でもその建物だけは白日の下の様にハッキリ見えた。一箇所目は四つの塔。大きさや形は多少違うがどれも立派な造りだ。二箇所目は大きな屋敷。大勢の者が暮らしていると思われ、庭園まである。そして三ヶ所目は七つの屋敷。どれも様式がバラバラで、其々の屋敷には七種類の紋様がある。豚、ユニコーン、蛇、蠍、熊、ライオン、狐。それらは七つの大罪を表す動物達だった……。

 

「ねぇ、例の物は完成してる?」

 

一誠は二箇所目の屋敷の一角にある研究室を訪れていた。室内には様々な機械やホルマリン漬けが置かれてあり、研究者らしい男性と助手らしき女性が一誠と対面していた。

 

「……例の本だったかネ? 当然完成しているに決まっているじゃないか。私を誰だと思っているんだネ」

 

「う~ん。ノーベルと呼ぶべきかエジソンと呼ぶべきかアルキメデスと呼ぶべきかフランケンシュタイン博士と呼ぶべきか……どれが良い?」

 

「私を素材で呼ぶんじゃないよ、素材で! 私の名はマユリだと何度も言っただろう! あ~、もう! ネム!」

 

「了解しましたマユリ様。一誠様、お受け取り下さい」

 

傲岸不遜に答えたのは研究者風の男性……マユリ。顔面を黒く塗り奇抜な帽子を被っている。助手らしき女性……ネムから本を受け取った一誠はそのまま帰ろうとするが、入り口のシャッターが突如締まった。

 

「……何? 俺早く帰りたいんだけど」

 

「まぁ、そう慌てるもんじゃないよ。新しい発明品があるんだ。見て行きたまえ。おい、ネム! 早くあれを持って来い! 全くグズだね、お前は!」

 

マユリはネムを叱責しながら目的の物を持ってこさせる。それは風水師が使うような針だった。ただし、大きさは桁違いで大凡一メートル程はあるだろうか。そしてその針からは途轍もないエネルギーが放たれていた。

 

「これは私の新発明である元始風水盤の針だよ。これを使えばなんと地脈の流れを好き勝手に操って世界を滅ぼす事すら……って、おい!? それをどうする気だネ!?」

 

一誠はネムから針を受け取るとマユリの声を無視して空中に放り投げ、

 

 

 

 

「断末魔砲」

 

複数の機材諸共、針を吹き飛ばした。

 

「……全く。そう言うのは作っちゃダメって言ったでしょ? もし奪われて悪用されたら責任を取らされるのは俺なんだから……」

 

どうやら危険極まりないものを作ったこと自体は怒っていない一誠だが、それを奪われた時の面倒臭さを想像して破壊したようだ。マユリが立ち尽くす中、一誠はネムに一枚の書類を渡した。

 

「ちょっと勝手が過ぎるから玉藻からの伝言だよ。幽死霊手・研究班最高責任者涅マユリ及びその助手、涅ネムに告げる。暫くの間は研究費用3割減」

 

「了解しました、一誠様」

 

「ちっ! 仕方ないネ。……所で君を使いパシリにして、狐は何処に行っているのかネ?」

 

「玉藻なら爺さんのお供で悪魔の若手の集まりの見物だって。同盟を申し込んだ相手を招待しているらしいよ。……本当は俺がお供を頼まれたんだけど、面倒だったから玉藻に頼んだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥界の悪魔側の領地の旧首都、そこにある巨大な建物の一室にハーデス達は通された。貴賓室と思しき豪奢な部屋にはモニターがあり、其処から若手の集まりの様子を見えるようになっているらしい。

 

「これはこれはハーデス殿。まさか貴方が来るとは思いませんでしたな」

 

《なに、此れからのコウモリ共を引っ張っていく者の顔を拝みに来ただけの事。今の所は同盟など考えておらぬ。貴方はどうなのかな、オーディン殿》

 

ハーデスに話しかけて来たのは眼帯をつけた老人。彼こそ北欧神話の主神であるオーディンであり、後ろには戦乙女らしき銀髪の女性が控えていた。

 

「なぁに、暇つぶしじゃよ、暇つぶし。……所で其処の美女は誰かの?」

 

《ああ、赤龍帝の婚約者兼側近だ。今回は奴の代わりに護衛として来て貰った》

 

「初めまして。私は今代の赤龍帝の婚約者かつ腹心の部下である玉藻、と申します。以後お見知りおきを」

 

「カーッ! 赤龍帝は羨ましいのぅ。こんな美女を傍に置いとるとは。ほれ、お主も挨拶せんか!」

 

オーディンに急かされた女性は慌ててハーデス達に頭を下げる。

 

「ロ、ロスヴァイセと申します」

 

「まぁ、真面目なばかりで彼氏の一人もおらんが優秀な奴じゃ。……のぅ、赤龍帝には優秀な部下が多く居ると聞くがコヤツを嫁にもらってくれそうな奴はおるか?」

 

「う~ん、そうですねー。人型である程度顔が整っているのといえばポチさんかランスロットさん位ですかねぇ」

 

玉藻はそう言いながら携帯に保存しているランスロットとポチの顔を見せる。するとランスロットの顔を見たロスヴァイセが食いついた。

 

「ラ、ランスロットさんの収入は?」

 

「あ、ゼロです。旦那様……おっと、これはプライベートの時だけでしたね。ご主人様はちゃんと支払おうとしてるのですが本人が『お仕えできるだけで十分でございます』とか言ってやがるんですよ。あ、そろそろ始まりますね」

 

せっかく見つけた美形がまさかの収入ゼロという事実にロスヴァイセが固まる中、若手同士の顔合わせが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達は本気なんスよ!」

 

会場内に匙の声が響く。魔王や高い地位を持つ者達の前で各々の夢を語るという事になり、彼の主であるソーナは分け隔てなく学べるレーティングゲームの学校を作りたいと語った。だが、それを聞いた貴族達はそれを一笑する。明らかに彼女や自分達の夢を馬鹿にされた事に怒る匙だが、ソーナはそれを黙らせた。

 

 

 

 

 

 

《……青いな。何故夢を否定されたかも分かっておらぬ》

 

ハーデスは彼の姿を見てそう呟く。悪魔社会に根強く残る下級悪魔や転生悪魔に対する差別。位の低い悪魔は就業の幅も狭く、上級悪魔に見出されて出世する事で初めて夢に挑戦できる。故に彼らはソーナの夢を否定したのだ。そして理由はそれだけではない。

 

「まったく、今ので自分の首を締めた事に気付いてないんですかねぇ。上層部の機嫌を損ねれば昇級試験を受ける資格を与えられにくくなるというのに。それに、あの老害どもが否定するのは怖いからですよ。実力主義の悪魔社会で伝統と誇りを重んじる旧家の自分達が力を付けた下級悪魔によって立場を揺るがされるのがね。特に彼の様に自分達に食って掛かるような奴が作ろうとしてるんじゃねぇ」

 

今回匙が食ってかかった事で上層部はソーナ達を旧家を重要視していない者達と思っただろう。そして、そんな彼女らが下級悪魔をも育てる学校を作ろうとしているという。プライドの高い貴族達が自分達の地位が下級悪魔に脅かされるのを警戒し学校の設立を妨害するのは目に見えている。

 

「ふぉっふぉっふぉ、厳しいのぅ。ほれ、見てみろ。怖い姉が泣きながら怒っとるぞ」

 

オーディンが刺した画面ではソーナの夢を馬鹿にされた事に怒ったセラフォルーが泣きながら叫んでいる。その様子を三人は冷ややかな目で見ていた。

 

《……愚かな。王として来ているにも関わらず私情を挟むとは。やはり冥界との同盟には反対だな。あの様な力だけで選ばれた者が王。しかもあの小娘はあれで外交担当とはな……》

 

「ありえませんよねぇ」

 

貴賓室での会話など知らず若手同士のゲームをするのが決まり、ソーナとリアスの対決が決定した。だが、その様子をオーディンは詰まらなそうに見ている。

 

「……やれやれ、下僕に予め言い聞かせておかぬ小娘に噂の才能だけの無能姫の対決か。面白みがなさそうじゃのぅ。……ハーデス殿。冥界側は赤龍帝の戦力を探ろうとしていると聞く。ならばこういうのはどうじゃ? 同盟を渋る素振りを見せれば反対しそうな魔王も承諾せざるをえんじゃろう」

 

オーディンはハーデスにそっと耳打ちした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……という訳なのだ。了承してくれるか?》

 

「う~ん……。面白そうだけど嫌がりそうな奴も居るし。じゃあ、希望者だけを出すね。でも、オーディンって爺さんも面白い事考えるね。まさか当日になって助っ人としてクジで選んだ俺の手駒を一体ずつ貸し出すなんてさ」




死従七士のアンケート締め切りました! 有難うございます 第一弾のアンケートは随時受付中です

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涅マユリ BLEACH 色んな発明家の魂を合成したマッド 一応玉藻の部下 研究係

ネム    上記    マユリの助手


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二十七話

何故か凄く風化した双剣ばかり三個も しかも二個は同時 私は今回はガンランスかランスか弓なのに…… ってか双剣は一貫して使ったことすらねぇ


会談の後、アザゼルから仙術の修行を言い渡された小猫は黒歌をカフェに呼び出していた。

 

「ふ~ん、それで私に修行をつけて欲しいのかにゃ?」

 

「姉様、お願いします。私は部長の為にも強くなりたいんです」

 

貴族達からのリアス・グレモリーへの評価は落ちる所まで落ちていた。かつては優れた才能から最上級悪魔まで登る詰められるとまで評価され『紅髪の滅殺姫』とまで呼ばれていたのだが、短期間に堕天使に領地への侵入を二度も許し好き勝手される始末。会談では一人残してきた眷属の力を襲撃に利用される。そして、三回中二回は人間に始末をつけられたのだ。今では才能は持っているが才能を扱う才能と王としての資質は持ち合わせない『紅髪の無能姫』と影口を叩かれるまでになっていた。

 

「……ふ~ん。まぁ、妥当な所ね。プライド任せの行き当たりばったりの行動ばっかりだからにゃん」

 

小猫は真剣な眼差しで黒歌に頼み込むものの、当の本人はどうでも良さそうな態度を取っている。彼女からすればリアスは自分の元主の様な貴族の行動を黙認しているサーゼクスの妹。小猫を保護したのも彼だが、もともと彼らが貴族の行動を抑制できていれば問題なかったのだ。だから可愛い妹の頼みでもリアスの利益になるような事には協力したく無いと思っていた。

 

「……まぁ、可愛い妹の頼みだし、テロリストに殺されても困るから力はあったほうが良いのかにゃ?」

 

「教えてくださるんですね!?」

 

「お姉さんに任せときなさい♪」

 

自分の言葉に反応した小猫に対し、黒歌は思わず笑みを零す。リアスの利益になるのは嫌だが、これも妹との触れ合いだと思う事にしたのだ。だが黒歌は急に目をスっと細め、底冷えのするような声で言った。

 

「……ねぇ、白音。分かっているとは思うけど私は冥府の所属って事になってるにゃ。だから、姉として仙術の訓練位は付けてあげれるけど他は別。リアス・グレモリーに伝えておいて。会談に呼び出したの時のように私と貴方の関係を利用して彼に頼みを聞いて貰おうって事が続くようなら、私は貴方を掻っ攫うってね……。たかが下級悪魔の身柄と冥府とのトラブル回避。上層部がどっちを取るかなんて考えるまでも無いでしょ?」

 

「……はい」

 

黒歌から発せられるプレッシャーに小猫の身は竦み、ただ頷くしかできなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パーティ? まぁた襲撃でもありそうだね」

 

《そう言うな。コウモリ共でも少しは学習するであろうよ》

 

一誠はハーデスから渡されたパーティの招待状を見て面倒臭そうに言った。悪魔政府から送られてきた魔王主催のパーティの招待状は一誠の分まで有り、ハーデスは今日はペルセポネーが夕食を作るので行けないから一誠だけでも行って欲しいというのだ。

 

《一応行けば同盟の可能性が見えてきたと思わせ、色々引き出せそうだからな。ファファファ……》

 

「うわぁ、黒いなぁ。お腹の中真っ黒だね」

 

この時ハーデスは竹輪に『中身の無い奴は嫌いだ』と言われた気分になった。

 

《フッ、何を言う。私は白骨だぞ? 黒い訳がなかろう。……言っておくが食ったものは何処に行くとかは訊いてくれるな。神による不思議パワァとでも思っておけば良い。まぁ、パーティには馳走が出るであろうからそれを楽しむと良い》

 

「も~、旅行中だってのに人使いが荒いよ。それに俺は冥界のパーティに出るような料理より玉藻の作る和食の方が好きなんだけどなぁ。……それで例の件は進んでるの?」

 

《当然だ。議会でも部隊の設立が賛成大多数で決定した。頼むぞ、冥府軍特選部隊隊長殿?》

 

「……了解。マイ・ロード」

 

一誠は演技掛かった動作で恭しく頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主、本当に私がお供で良かったのですか? 玉藻殿の方が良かったのでは……」

 

「まぁ、シャドウやブイヨセンはパーティには似合わないし、君が一番だと思うよ。玉藻は女神様達のお茶会に誘われたんだって」

 

パーティ当日。一誠は護衛としてランスロットを引き連れて来ていた。彼はいつもの鎧姿からタキシードに蝶ネクタイという格好に着替え、元が美形だけに多くの女性の視線を集めている。そして一誠も禁手姿で来ており、会談の件で有名になった事もあって注目を集めていた。

 

「あれが噂の……」

 

「何とも……」

 

彼らは一誠を遠巻きにしながら様子を伺う。送られる視線に込められているのは興味や恐れ、そして侮蔑。それらを機敏に感じ取ったランスロットはその端正な顔の眉間に僅かに皺を寄せ、当の一誠は知らんぷりを決め込んでいる。

 

「……無礼な。主は正式に招待された客人だというのに」

 

「あははは! もっと肩の力を抜きなよ。影口を叩くしかできない臆病者は放っておけば良いし、なにか仕掛けてきたら過剰なくらいの仕返しをするくらいで丁度良いんだよ。……所でもう一人の護衛は?」

 

「……カジノです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん、やっぱり悪魔好みの味付けだよね。帰ったら玉藻に何か作って貰おうかな?」

 

「……確かにこれは悪魔の貴族向けの味付けですね。円卓の騎士時代を思い出します」

 

一誠は会場にテーブルに並べられた料理を口にするも直ぐに箸を止めてしまう。ランスロットも霊体故に食べる必要はないが、嗜好品として食事を楽しめるので普通に料理を食べワインを飲んでいた。彼は一誠と違い料理を普通に食べている。彼曰く、

 

「……故郷の料理よりはマシです。特に一度だけ食べた同僚の料理と言ったら……」

 

らしい。なお、その同僚とは浅からぬ因縁があるらしく、一誠もそれ以上は詳しく聞かなかった。ただ、借金の取立てに厳しい男だったとランスロットは語った。

 

 

 

 

 

「あ~、暇暇暇暇。こっそり帰ろうかなぁ。……あれ? 意外な組み合わせだね」

 

一誠が暇なので自分もカジノに行こうかと迷っていた時、視界に知り合いの姿が映った。松田と朱乃と小猫だ。一誠は三人に近付くと声をかけた。

 

「やぁ、白音ちゃんと姫島さんと松田君」

 

「貴方は……」

 

「……お久しぶりです」

 

「げっ!」

 

一誠の姿を見るなり松田は顔を引きつらせ小猫はそっと頭を下げる。朱乃は話しかけようとするも踏ん切りがつかない様子だ。そんな中ランスロットは松田に対し、『主に対して何だその態度は。舐めとんのか、いてまうぞアホボケカスゥ』とでも言いたげな視線を送る。殺気を感じた松田が身震いする中、小猫は一誠に話しかけてきた。

 

「あ、あの、姉様の事、有難うございました」

 

「あ、気にしなくて良いよ。黒歌とは長い付き合いだし。本人からは俺との関係は聞いてる?」

 

「……はい。自分は本妻から貴方を奪うつもりの愛人だとか、セフレだとか言っていました」

 

「ふ~ん、そうなんだ。まぁ、余計な事は言ってないみたいだね。……そろそろ帰るか」

 

一誠はもうパーティに居る気を失くしたのか三人に背を向けて歩き出す。するとその背中に声がかけられた。

 

「待って下さい! 貴方がこの間仰った事ですが、アザゼル先生から聞きました。貴方は聖杯の副作用で死者の霊が見えるはずだって。母が何か言ったのですか!?」

 

会談の少し前、神社に呼び出された一誠は朱乃に対し母親が心配しているから父親と仲直りするようにと言ったのだ。そして一誠が『幽世の聖杯』という神滅具をも持っていると勘違いしているアザゼルはその副作用で彼が霊魂と意思疎通していると思っており、朱乃にもその事を伝えたようだ。故に彼女は一誠を呼び止めたのだが……、

 

 

 

 

 

「お母さんには君とお父さんが一緒の時に会わせてあげるよ。それと聖杯って何の事?」

 

ただ、そう言い残して会場を後にした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、アーサー。さっさと帰りてぇなぁ」

 

「仕方ないでしょう? これも任務です」

 

ここは会場から少し離れた森の中。先日会談の会場に現れヴァーリを連れて行った美猴は一人の青年と一緒に会場の様子を伺っていた。青年はメガネを付けた冷静そうな顔をしており、腰には聖なるオーラを放つ剣が携えられている。どうやらパーティの様子を見張りに来たらしい二人だが、美猴の方は退屈し始めているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして美猴が何度目かのアクビを噛み殺したその時、二人の背後から声が掛けられた。

 

「やぁ! 久しぶりだね」

 

「「!」」

 

「……」

 

二人が後ろを振り向くと、何時の間にか一誠がランスロットと共に後ろに立っており、ランスロットは無言でアーサーと呼ばれた青年の顔と携えた剣をじっと見ていた。

 

「……少々尋ねたい。貴方はペンドラゴン家の者ですか? それに腰の剣はエクスカリバーかとお見受けいたしましたが」

 

「ええ、そうですよ。この剣は行方不明とされていたエクスカリバーの最後の一本『支配の聖剣』です。そして私の名はアーサー・ペンドラゴン。アーサー王の子孫です。……サー・ランスロット。貴方が子孫ではなく本人だという事は知っています。今一度私の先祖への忠義を貫く気はありませんか? 貴方なら歓迎いたしますよ」

 

「……私の今の主はこのお方です。ですが、王への忠義心はまだ私の中にあります……」

 

ランスロットの返事を聞いたアーサーはわずかに微笑むと,近づいて手を差し出す。だが、その首筋めがけアスカロンによる突きが放たれた。

 

 

 

 

「……何のつもりですか?」

 

「言ったはずです。王への忠義心はまだ私の中にあると。貴方はテロリストの仲間なのでしょう? 王の子孫であってもテロリストに成り下がったのなら、これ以上王の名を汚す前に斬り捨てる。それが私の出した答えです」

 

「……そうですか。なら、私も全力で抵抗させて頂きます」

 

紙一重で突きを避けたアーサーだったが、衝撃だけで彼の顔の皮が裂け血が流れ出している。それを拭ったアーサーは亜空間から途轍もないオーラを放つ聖剣を取り出した。

 

「……コールブラント」

 

「ええ、そうです。最強の聖剣と名高い聖王剣コールブランドですよ。……さて、円卓の騎士最強とまで讃えられた湖の騎士の力を見せて頂きますよ」

 

「……今の私は円卓の騎士ではなく、死従七士が一人、『憤怒』の将サー・ランスロットですよ」

 

二人は互いに剣を構えるとジリジリと近づいて行き、

 

「いざ」

 

「尋常に」

 

「「勝負!!」」

 

二人の剣がぶつかり合い火花を散らす。アーサーとランスロットが鍔迫り合いを続ける中、一誠は美猴と対峙していた。

 

「よう! 久しぶりだねぃ、赤龍帝。ヴァーリの仇を取らせてもらうぜぃ?」

 

「ふぅん。彼と仲が良いんだねぇ。あ、もしかして君って、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリのおホモダチ?」

 

「んなっ!?」

 

その言葉に美猴は脱力しずっこける。その瞬間、地面から無数の触手が彼に襲いかかり体中に絡みつく。一誠が鎧の下に着ている服の内ポケットに入った手帳サイズの魔術書が怪しく輝いていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、ちくしょう!」

 

パーティが開かれる中アザゼルはカジノに嵌っていた。だが、どうやら有り金をスってしまったらしく質屋に向かっている。そして一時間後、半裸の彼が金貸しの元に向かおうとした時、スロットコーナの方が騒がしいのに気付いた。見てみると一人の客がコインケースを大量に積み上げており、その客の周りには老若男女問わず多くの者が跪いてその客を褒め称えている。

 

「……なんだぁ? 随分景気の良いのが……」

 

そしてその瞬間、アザゼルの目はその客に奪われた。

 

 

 

「フフフフフ! 今日の妾はツイておるようじゃな。ほれ、誰か飲み物を持たぬか!」

 

その客は他人を見下す様に胸を反らしすぎて逆に見上げている……絶世の美女だった。ツヤのある黒い長髪に絶世の美女という言葉でさえ足りないほどの美貌。魅惑的なスタイル。そして深くスリットが入ったドレスの背中の部分にはサソリの紋様が刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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二十八話

心地よい日差しの中、数名の女性がお茶会を催していた。参加しているのはギリシア神話の女神達と玉藻。女神に相応しい美貌を兼ね揃えた彼女達は優雅に談笑を続け、話題は玉藻と一誠の事に移った。

 

「しっかし、まさかあのチビ助が婚約指輪を渡すまでになるとはねぇ。人間ってのは成長が早いよ。ま、アンタが正式にアイツと結婚した時には私に万事任せときな。ハッハッハッハッハ!」

 

玉藻が指に着けた指輪を見ながら豪快に笑うヘラ。ゼウスの正妻であり、かなりの力を持つ女神だ。その姿は若々しく、結婚や子供を守る女神でもある。一誠は小さい頃からハーデスと契約を結んでいた為、ヘラとも知り合いだったようだ。

 

「ええ。私も昨日の事のように思い出せますわ。ハーデス様に連れられた一誠が子狐の霊だった貴女を抱き抱えて不安そうに私達の顔を見ていたのを。良かったですね、玉藻」

 

気風の良いヘラと違い静かに優しげな声を出すのはアルテミス。狩猟や多産を司る女神でゼウスの娘でもある。二人の女神からお祝いの言葉を貰った玉藻は照れ臭いのか顔を赤らめながら微笑んだ。

 

「有難うございます、お二方」

 

玉藻は礼を言った後、指輪を嬉しそうに眺める。すると急に二人が顔を近づけ、周りを憚るかの様に小声で話しかけてきた。

 

「それで、夜の方はどうなんだい? アイツもドラゴンのせいで旺盛なんだろ?」

 

「確か先代所有者の思念を吸収したせいで女好きが増したと聞きましたわ。やっぱり凄いのでしょうか?」

 

「え、え~と、それ訊きます?」

 

二人の様子に動揺する玉藻だが、二人は早く話せとでも言いたげな顔で頷く。どうやら人の恋路に興味があるのは女神も同じようだ。

 

「と、時に優しく、時に激しく、交互に、又は同時にです。あとは~、コスチュームを着てシチュエーションに入り込みながら……かなぁ?」

 

「ほ~、あのチビ助が成長したもんだ。昔は水浴びに連れて行ってやっても何も反応しなかったてのにねぇ」

 

「あの当時は子供ですから当然ですわ。……所で、浮気とかはどうなってますの?」

 

先程まで静かに微笑んでいた二人であったが、浮気の話になった途端、表情が一変する。ギリシア神話の神は浮気性であり、ヘラもゼウスが浮気するたびに相手の女性や子供に呪いをかけてきたのだ。有名な話を上げるとしたらヘラクレスの十二の試練だろう。たとえ幼い頃から知っている相手であっても、いや、幼い頃か知っているからこそ二人は厳しいのだ。

 

「……黒歌とかいうのとも関係を持ってんだろ? 全く、これだから男ってのは」

 

「全く、不潔ですわ」

 

「ま、まぁ、私も浮気防止の呪いをかけてますしー、愛人くらいならギリギリ……嫌々見逃してあげてもいいかなーなんて? 今も私を特別扱いしてくださってるしぃ、ご主人様の性欲が増したの原因となった先代達の思念吸収も私を守る力が欲しいからだったしぃ、キャッ☆」

 

「……ま、うちの旦那も私との間以外に大勢餓鬼が居るし、アンタがそれで良いんってんならこれ以上は言わないよ。だけどね、一応お仕置き用の技を教えといてやるよ。一夫多妻去勢拳の進化技、ゴールデンボール・クラッシャー・ヘルスペシャルをね!」

 

「ぜひお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん、なんか嫌な予感がするなぁ。『どうせ治せるんだから手加減無しで行きますね☆』とか『孕むまで搾り取ってから潰しましょうか?』とか思われている気が……」

 

森の中、地中から飛び出した海魔によってズタボロにされた美猴を見下ろしながら一誠は第六感を働かせていた。

 

「それにしてもマユリンはやっぱり天才だね。『螺湮城教本』を此処まで小型化した上に強化してるんだから」

 

『ああ、これまでより量も質も大幅に上がっているな』

 

「あとは……」

 

本人が聞いたら怒り狂いそうな渾名でマユリを褒めながら一誠はランスロットの方を眺める。彼は今、アーサーと互角の戦いをしていた。

 

「流石湖の騎士、と言った所でしょうか? 剣の格が段違いだというのに……」

 

アーサーの言葉のとおり、コールブラントとアスカロンでは同じ聖剣でも雲泥の差がある。だが、武器にそれだけの差があるにも関わらず互角に戦っている時点で技量はランスロットの方が上という事が見て取れた。アーサーと剣を打ち合ったランスロットは彼と同時に後ろに飛ぶと彼を睨むと不機嫌そうな声を出す。

 

「……主より賜った剣を侮辱致しましたね?」

 

その瞬間、彼の体を黒い霧が覆い、目が赤く光り出す。

 

「……ヤバッ!」

 

一誠が慌てたような声を出したと同時にランスロットが獣の雄叫びをあげた。

 

『AaaaaaaaaaaaaaaaaaSaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』

 

「なっ!?」

 

彼の豹変ぶりにアーサーがたじろいだ瞬間、ランスロットが雄叫びをあげながらアーサーに突撃する。彼が駆けた大地は無残に爆ぜ、叫び声は木々を揺らす。先程よりも明らかに速い速度で剣が振り下ろされ、アーサーはそれを咄嗟に剣で防ぐ。だが、それは判断ミス。その一撃は防ぐのではなく避けるべきだった。

 

「かっ!?」

 

先程より遥かに速く重い一撃にアーサーの体は吹き飛ばされ、木を数本薙ぎ倒しながら漸く止まる。そして意識が御朧気な彼の視界に剣を振り上げて自分に飛びかかってくるランスロットの姿が映り、

 

 

 

「止めろ!」

 

一誠のその声が聞こえたと同時に彼の意識は閉ざされた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……主よ、申し訳ございません。許可も得ずに『狂化』を使ってしまいました」

 

「まぁ、気にしなくていいよ。俺が問題児の抑え役を任せたからストレスが溜まっていたんだろうし」

 

「! 主には何の問題もございません! 全てはこの私の不徳の致す所でございます!」

 

「じゃあ、間をとって二人共責任無しって事で。これ以上は言いっこなしだからね?」

 

先程の一撃をを放つ寸前、一誠の声で理性を取り戻したランスロットは剣の軌道をずらし、その一撃は大地を叩き切るに終わった。彼の一撃を受けた大地は見事に砕かれており、アーサーが受けていたら原型さえ残さなかっただろう。アーサーは美猴と一緒に海魔の触手で縛り上げられている。そろそろ騒ぎを嗅ぎつけた悪魔達が来る頃だと思っていると、変な声が近づいてきた。

 

『えっほ! えっほ!』

 

「ほら、もっと急がぬか」

 

「……なんじゃありゃ」

 

一誠の視界の先では見知った美女が寝転がった大きなソファーを持ち上げて運んでいるという異様な集団が居て、一誠達の方に近づいてきていた……。




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ゼノヴィアって影薄いですよね(笑) 原作でも色仕掛けキャラなのにそういう挿絵は……(笑)

ところでDBzの映画でトランクスが『パパに誕生日に買ってもらったんだ!』 ってシーンを思い出しましたが

ベジータに買ってもらった? お金……


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二十九話

なんか疲れてるので短めです 次こそ長めにしたいです


その美女がカジノに現れた時、先程までギャンブルに夢中になっていた客も、飲み物を運んでいたボーイも動きを止めて彼女に釘付けになった。男性達は声を掛けたくなるも互いに牽制しあって出来ず、彼女はチップ売り場へと歩いていく。

 

「チップを買えるだけ出すが良い」

 

「は、はい!」

 

チップ販売員は美女から差し出された料金より多めのチップを差し出す。その際、チップを渡すふりをして彼女の手を握ろうとするも鮮やかに躱され、そのまま彼女は上機嫌でスロットコーナーに向かっていった。それから一時間の間スロットがコインを吐き出す音が絶え間なく鳴り響き、美女のスロットの周りにはチップをギュウギュウに詰め込んだドル箱が山積みにされていた。

 

「……飽きたな。誰ぞ、運ぶが良い。妾は荷物を持って歩くのは嫌じゃ」

 

美女は傲岸不遜な物言いで周りの者に指図する。まるで自分は傅かれて当たり前という態度だが、その姿を見た誰もが腹を立てない。それは彼女が絶世の美女だったからだけでなく、彼女の持つ雰囲気がそうさせていた。まるで生まれながらの王と言うべき風格を持つ彼女はチップを運ぶアザゼル達を従者のように引き連れ、ルーレットに向かう。

 

「一番に全額」

 

「か、かしこまりました!」

 

少しの迷いもなく全額を賭けた彼女が見守る中、ルーレットに玉が入れられ彼女が賭けた一番に入る。賭け金が三六倍になり上機嫌の彼女は最後にポーカーのテーブルに向かう。すると先程まで居た若いディーラーではなく、年かさの男性が座っていた。

 

「……お客様、本日は当カジノへお越し下さいまして有難うございます。オーナーのグリンと申します。……お名前を伺っても?」

 

オーナーのグリンを名乗った男性は彼女が稼いだチップを見て顔を引きつらせながらも笑みを作って一礼する。オーナーが直々に相手をするという事は彼女の事を余程危惧しているのだろう。それを知ってか知らずか美女はふんぞり返る様に椅子に座ると妖艶な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「ああ、今日は稼がせてもろうたぞ。妾の名はボア・ハンコックじゃ。覚えておくが良い!」

 

彼女は相手を見下す為に大きく胸を反らし……すぎて逆に見上げている。彼女は顔を元に戻すと足を組みかえた。大きく覗いた太股にギャラリー達の目は釘付けになり、あと少しで下着が見えそうという所で足の動きは止まる。そして彼女は何か企んだような顔で再び口を開いた。

 

「……のぅ、提案があるのじゃが……妾が稼いだチップ全額とこのカジノを賭けて一本勝負にせぬか? 態々何度も勝負をしていては時間が勿体ないのでな」

 

「た、確かにお客様が稼いだ金額は大金ですがカジノを賭けるには……」

 

「なら、このドレスも賭けよう。……そうそう、妾は服の下は何も付けぬ派じゃ」

 

その言葉を聞いた瞬間、ギャラリーがざわめき出す。もしグリンが勝った場合、目の前の美女が全裸になるというのだ。老若男女問わず生唾を飲み込み、オーナーも彼女の体を舐め回すように見る。

 

「……良いでしょう」

 

その日、彼は仕事を失い妻子に逃げられた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それでカジノを手に入れて来たんだ。まぁ、職務放棄の件は見逃すけど……」

 

一誠は呆れながらハンコックを運んできた男達を見る。其処には堕天使総督のアザゼルの姿もあった。

 

「ふん! 貴様に見逃して貰う必要はない。妾は何をしても許される、なぜなら妾は美しいから!」

 

「あ、ランスロット。そろそろ悪魔が来そうだから二人を一箇所に固めといて」

 

「御意!」

 

「って、聞かぬかっ!」

 

ハンコックの言葉を無視した二人が美猴とアーサーを一箇所に集めた頃、ようやく騒ぎを嗅ぎつけた悪魔達がやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「失態じゃのぅ、若造ども」

 

オーディンは集まった三大勢力の代表者達に対し、ほくそ笑みながら苦言を呈す。特に会場のすぐ近くの森まで侵入を許した魔王達とカジノに行っていたアザゼルは決まりが悪そうだ。特にアザゼルは副総統のシェムハザから後でコッテリと搾り取られそうで戦々恐々としている。そんな時、二人に対して尋問を行っていたハンコックが部屋に戻ってきた。

 

「……終わったぞ。組織の名は『禍の団』。主な派閥は旧魔王とそれに付き従う者達の集まりの『旧魔王派』。二人が所属するショタ龍皇ヴァーリ率いる少数精鋭の『ヴァーリチーム』。そして、上位神滅具持ち三人が居り、神器所有者が多く所属する『英雄派』だそうじゃ。……剣士の方は口を割らなんだが猿は太股を少し見せてやっただけで喋りおったわ」

 

「……うわ~、最低だね」

 

《その通りだな》

 

一誠が呆れたような声を出した時、ハーデスが何時の間にか現れていた。

 

「おいおい、アンタは今日は来ないはずだったんじゃねぇのかよ」

 

《ファファファ……。コウモリとカラスに嫌味を言う良いチャンスとの知らせを受けてな。……しかし警備のザルさもさる事ながら、テロリスト共の殆どか貴様らが原因とはな……》

 

「旧魔王派は現魔王に恨みを持ってて、ヴァーリはグリゴリ所属だった。神器は聖書の神が創り出した物。あ、大変だ! 申し込まれた同盟を受け入れると巻き込まれるかも!?」

 

「なんと! なら、アース神族も同盟の件は熟慮しなくてはのぅ。今の旨みのままでは割に合わんからなぁ。ハーデス殿。対策を近くのバーで話し合いませんか? 他の神話体系の意見が聞きたい」

 

《よろしいな。では行きましょうか》

 

ハーデスの言葉に呼応するかのように一誠とオーディンは芝居がかった口調で話す。その場にいた誰もが予め申し合わせていたと理解したが何も言えず、その場は其処までとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲームまであと数日といった日の事、修行に励むソーナ達の所に一誠が訪れていた。ソーナは訝しりながらも、相手が相手なので応対する。

 

「……何の御用でしょうか?」

 

「いやね、黒歌が白音ちゃんに修行付けてるんだけど、アイツって一応俺の部下だし? 俺としては片方に肩入れしてるって思われたくないんだ。……だから、コレ持ってきたよ」

 

「これは……血ですか?」

 

一誠がソーナに渡したのは厳重に封印がされた小瓶。中には赤くてドロドロした液体が入っている。

 

「俺の血だよ。赤龍帝の血を吸わせると神器に良い影響を齎すらしくってさ。匙君の神器にでも吸わせなよ。……あ、封印はこの紙に書かれている事を大声で叫べば解けるから」

 

「……これは」

 

一誠から渡された紙に書いていたのは『コスプレ趣味の姉への罵詈雑言』、という物。ソーナは暫し迷った後、辺りに響くほどの大声で叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様、いい加減年を考えてください……この、コスプレババア!!! ……ふぅ」

 

よっぽど不満が溜まっていたのだろう。大声で叫んだ彼女はスッキリした顔で汗を拭う。握り締められた瓶の封印は……解けていなかった。

 

 

 

「あ、ごめん。説明が足りなかったね。コスプレ趣味の姉に対する罵詈雑言を叫ぶんじゃなくて、『コスプレ趣味の姉への罵詈雑言』って叫ぶんだよ。……あと、そのコスプレババアが泣きながら走って行ったよ?」

 

「なっ!?」

 

「ソーナちゃんのブワァァァァァカァァァァァァァッ!!」

 

たまたま様子を見に来ていたセラフォルーはソーナの叫びを聞いて泣きながら逃走。ソーナが何とか機嫌をとって泣き止ませるのに数時間かかった。

 

 

 

 

そして数日後、リアスとソーナのゲームの日がやって来る。二人は互いに分からないように控え室でクジを引く。リアスが引いたのは『5』と書かれた深緑のクジ。そしてソーナが引いたのは数字の8と×××が書かれたクジだった。

 




少なくても五巻の時点で匙は親に悪魔のことは言ってません 他のはどうなんだろう? 感想で知ってるはずといただきましたが未収録の短編ででしょうか?

意見 感想 誤字指摘  アンケート お待ちしています

ボア・ハンコック ONEPIECE


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三十話

ソーナとの決戦前夜、リアス達はアザゼルを交えてのミーティングを行っていた。一誠から貸し出される相手は当日クジを引くのでそれを考慮しての話し合いが進む。

 

「……取敢えずあの玉藻って奴は絶対にねぇ。アレは主人以外には興味を示さないタイプだ。貸し出しメンバーは本人が許可した奴だけだそうだからな。まぁ、タイプ別に作戦を考えておくとして……リアス、お前はあちらをどの程度把握している?」

 

「副会長の『女王』と数名の能力といった所ね」

 

「……そうか」

 

アザゼルはリアスの言葉を聞いて返事をすると一枚の写真を取り出す。其処にはフードで顔を隠した人物が写っていた。

 

「どうやらソーナは若手の顔合わせの後に眷属を一人増やしたらしい。駒が『騎士』という事しか分かっちゃいねぇから注意しておけ。パーティにも出席させない程だ。何かあるんだろうよ。……今回のゲーム、お前らの勝率は六十パーセント以上だと言われている。全員今回の修行で基礎能力が上がったし、小猫は仙術、一郎は神器の制御が成長した。……朱乃は難しい話だから今回は諦めるが次は頑張れよ? 問題はお前らのチームには戦闘に必要なテンションを上げる役目の奴がいねぇ事だな。ソーナの所の新顔と其れだけが気がかりなんだよな……」

 

アザゼルは心配を残したまま帰って行き、残ったメンバーは最後の打ち合わせを遅くまで進めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、遅くなって御免ね」

 

ゲーム当日、貴賓席に招待されていた一誠はランスロットを連れ少々遅れてやって来た。アクビを噛み殺している所を見ると寝不足らしい。一誠は護衛にプルートを連れてきたハーデスの隣に座る。反対側にはロスヴァイセを連れたオーディンが座っており、先日の明らかに打合せしていたと思われる掛け合いからサーゼクス達は油断なく彼らを見ていた。

 

「随分眠そうじゃのう。遅くまでゲームでもしとったか?」

 

「……いえ、主は昨日は部下同士の戦いがあるので早めに寝たのですが……」

 

オーディンの言葉に代わりに答えるランスロットだが少々言いにくいのか言葉を濁す。部下同士の戦いというあたり彼も今回のゲームには興味がないのだろう。騎士として何度も死線をくぐり抜けた彼曰く、

 

「レーティングゲームは奴隷を使った剣闘士興業の劣化版」

 

らしい。彼からすれば例外を除いて命の保証のされた戦いなど誇りを賭けるに値しないというのだろう。複雑そうな顔でゲームを映し出す画面を眺める彼の顔には憂いがあり、美丈夫ゆえに見麗しい物がある。ロスヴァイセは惚けた顔で彼の横顔を見つめていた。そんな中、ランスロットが気を使って言わなくて良いように誤魔化したにも関わらず一誠は質問に答えた。

 

「実は昨日、玉藻がハーデスの爺さんから借りた映画のDVDを見てたんだけど、濃厚なベットシーンがあったらしくて『体の高ぶりが抑えきれません!』って言って今朝まで……」

 

「は、破廉恥な!」

 

「相変わらずお主は硬いのぅ。そんなんだから彼氏ができないんじゃ。……そういえばセラフォルーは今日は普通の格好じゃのぅ。魔女っ子とやらはどうしたんじゃ?」

 

一誠の言葉に真面目なロスヴァイセは顔を真っ赤にして反応し、オーディンはその様子を呆れたように見た後、セラフォルーの格好に気付く。何時もの魔女っ子の姿ではなく、ビシッとしたスーツ姿だった。

 

「ちょ、ちょっとね……」

 

「妹にコスプレババアって言われたんだよ。ちなみに最初に言ったのは玉藻っていう俺の一番の手下兼恋人。その時はコスプレババア一号って言ったんだよ」

 

「うぐっ!」

 

その言葉を聞いた瞬間、セラフォルーは胸を押さえて蹲る。先日の一件を酒の席で聞かされたサーゼクス達は遠巻きにしながら痛ましそうな視線を彼女に送っていた。

 

《そういえば一号って言う事は二号もいるのですか?》

 

「うん、居るよ」

 

一誠はプルートの質問に対し、サーゼクスを指さしながら頷く。指差されたサーゼクスは何の事か分からず戸惑っていた。

 

「彼の奥さんがほぼ毎日メイドのコスプレをしてメイドゴッコをしてるんだ」

 

「……グレイフィアはちゃんとメイドとしてやっているよ。ゴッコ呼ばわりはさすがに失礼じゃないのかい?」

 

流石に今の言葉は聞き逃せなかったのかサーゼクスは口を挟む。少々怒気を孕んだ口調だが、一誠は特に気にした様子もなく逆にハーデスやランスロットと顔を見合わせ、何を言われたのかわからないといった反応をした。

 

「ねぇ、ランスロット。俺の調べじゃ彼がアホな事を言うたびに口を引っ張るなどのお仕置きをしてるそうだけど……君の生きてた時代はメイドが王にそんな事したら普通はどうなってた?」

 

「絶対に考えられません。遊びでメイドの真似事をしてるなら兎も角、ちゃんとしたメイドならそのような無礼は致しませんよ。そして王がその様な無礼を許したのなら、相手をメイドとして扱っていないか、王など敬うに値しないと言っている様なものですね」

 

《何ともまぁ、呆れた話じゃな。聞く所によると忠義を示す為に魔王の奥方の職務の代わりにメイドとして仕えていると聞いたが……ルキフグス家の命令で死んでいった者達はどう思うじゃろうな。息女が敵方に取り入って妻になったばかりか使用人の真似事をしているとは……》

 

ハーデスは大げさに溜息を吐き、オーディンはその演技かかった様子を見て必死に笑いを堪えている。そんな中、アザゼルが口を開いた。

 

「……なぁ、赤龍帝。前から思ってたんだけどお前って現魔王が嫌いなのか?」

 

「うん!」

 

一誠は即答すると室内の者達を見渡す。

 

「俺は人間だよ? 人間を拉致して奴隷にする事を黙認している魔王が好きなわけないじゃない。あと、聖書の神が神器なんかを勝手に人に宿したせいで人生を狂わされた人や、危険な神器を持ってた為に君達堕天使に殺された人を沢山知っているからね。……何か反論があるなら言ってみれば? ただし、彼らの前でね」

 

その瞬間、一誠の背後に無数の霊魂が現れた。どれも人としての輪郭も朧気で今にも消えてしまいそうになりながらも虚ろな瞳でサーゼクス達を睨んでいる。

 

『ヨクモ……』

 

『家族ニ会イタイ……』

 

『コロシテヤル……』

 

霊魂達は口々に呪詛を吐き、部屋内の空気がドッと下がる。そして一誠は先程までの巫山戯た様な口調から一転して怒気を孕んだ口調になった。

 

「俺は昔から彼らの言葉を聞いてきた。彼らの無念を、悲しみを、怒りを聞いてきたんだ。彼らは同じ事を言ってるよ。『ウラミハラサデオクベキカ』ってね」

 

一誠の言葉と共に霊魂達は激しく嘶き出し、サーゼクス達は氷水に肩まで浸かったような寒気を感じる。そして一誠が更なる言葉を発しようとした瞬間、ハーデスがその口を塞いだ。

 

《……やめておけ。此処で此奴らに裁きを与えるのは簡単だが後が面倒だ。今はこの程度で終わらせろ》

 

「……うん。皆ゴメンね」

 

一誠が落ち着きを取り戻すと霊魂達は消えていく。サーゼクス達を苦しめていた寒気も消え去った時、ゲーム開始のアナウンスが流れた。

 

 

『皆様、今回のゲームの審判を務めさせて頂きます、ルシファー眷属のグレイフィアでございます。今回のゲームはお二人が通う駒王学園の近くのデパートを模した空間で行わさせて頂きます。なお、特殊ルールとしましてフィールドを大規模に破壊する事は禁止となっていますのでお気を付けください』

 

観覧席の事など知らずグレイフィアは冷静な口調でアナウンスを続ける。他のルールとしてフェニックスの涙は各チーム一つずつ、ギャスパーの神器の使用禁止が告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部長、助っ人は何時来るんですか?」

 

「確か本陣の中心に魔法陣があって、そこで顔見せがあるそうよ。ゲーム中はクジを持った者が呼ぶ事で書かれた数字の分数だけ協力してくれるらしいわ」

 

リアスは本陣の中心に設置されていた魔方陣にクジを置く。すると魔方陣から煙が上がり、中から凶暴そうな声が聞こえてきた。

 

『グハハハハハ! 普段は禁止されてる仲間内での戦いができるからって参加してみりゃ、力を貸さなくちゃならねぇのはお前らかよ、ゴミ共!』

 

煙の中には好戦的な笑みを浮かべた浅黒い鱗の邪龍が居た……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ソーナの所でも助っ人を呼び出していた。彼女は助っ人から能力を聞き出すと直ぐにそれを取り入れた作戦を練り出す。

 

「……これならいけるでしょうか? いえ、更に策を重ねなくては……」

 

ソーナは作戦を立てると直ぐに眷属に指示を出し準備に取り掛かる。そしていよいよゲーム開始の時間がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアスの作戦で小猫は一人で店内を進んでいた。リアスは朱乃とアーシアと共に待機、祐斗と松田は立体駐車場から敵本陣を目指し、ギャスパーはコウモリに変化して店内の見回りをしている。小猫は普段は隠している猫耳を立て、仙術で気配を探りながら店内を歩いていたが、途中でピタリと立ち止まる。

 

「……其処に居るのは分かっています」

 

「ちっ、やっぱりか。会長の言ってた通りだな」

 

小猫が声をかけた場所から出てきたのは『兵士』の匙と仁村、日本刀を装備した『騎士』の巡だった。

 

「……三人相手。でも、私には姉様から教わった仙術があります。貴方達には負けません」

 

小猫は油断なく三人を見据えると気を練り出す。気を含んだ一撃は相手の体内の気を乱す事で魔力を練るのを阻害し内蔵にも深刻なダメージを与える。もしまともに喰らえば一撃でリタイアしかねないだろう。そして小猫が隙を伺っていた時、突然アナウンスが流れた。

 

『リアス・グレモリー様の『僧侶』一名リタイア』

 

「!」

 

そのアナウンスが流れた時、小猫の集中が一瞬だが乱れ、突如掛けられた液体を躱せず小猫は頭からびしょ濡れになる。その液体の匂いを嗅いだ瞬間、小猫は思わず両手で鼻を押さえた。

 

「こ、この匂いは……」

 

「やっぱり効いたか。猫の妖怪だもんなぁ。苦労して店中の柑橘類を絞ったかいがあったぜ」

 

猫は柑橘類の匂いを嫌う。なら、猫の妖怪である小猫にも有効なのではと判断したソーナは本陣近くの食料品売り場の柑橘類をかき集め果汁を絞った。そして、どうやら予想が当たったらしく小猫に大きな隙ができる。その隙を狙い、無数の蛇の刺青の様に変化した匙の神器から無数のラインが放たれ小猫に張り付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

立体駐車場を進む祐斗と松田を待ち受けていたのは『女王』の真羅、『戦車』の由良、そして謎の『騎士』だった。祐斗の相手は長刀を構える真羅が勤め、松田の相手は由良、謎の騎士は様子見をしていた。松田は必死に由良を狙うも車の影に隠れられ当たらない。

 

「……こうなったら」

 

だが、松田が集中すると光の矢が大きくなり、先程までは傷付けるに留まっていたボディに突き刺さる。そしてその突き刺さった矢めがけて正確に放たれた次の矢が命中すると、それに押し出されるかのように先ほどの矢が車体を貫通した。

 

「なっ!?」

 

由良が慌てて車の陰から出て行くと松田の背後に無数の光の矢が現れ、由良目掛けて放たれる。

 

「ま、負けるかぁぁぁ!!」

 

「なっ!?」

 

由良はバイクを持ち上げるとそれを盾にしながら松田に接近する。松田も一瞬たじろくも冷静さを取り戻し矢を放つ。バイクでは隠しきれない部分を光の矢が掠り、彼女の体を激痛が襲う。だが、由良の突進は止まらず、松田めがけてバイクを投げ飛ばしたかと思うとその毛げに隠れて急接近、松田の顎めがけて蹴りを放つ。

 

「かかった!」

 

「なっ!?」

 

だが、松田は自分の背後に一本だけ矢を隠しており、攻撃の動作に入って避けられない由良へと放つ、矢は真っ直ぐに由良の腹部へと向かい、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎の騎士の振るった聖剣によって叩き落とされた。

 

「やれやれ、大丈夫か? まずは自分のできる所までと言われたから見ていたが、そろそろ助太刀させて貰うよ?」

 

「……有難う、助かった」

 

「……さて、久しぶりといった所か?」

 

「あ、あんたは!?」

 

謎の騎士は松田の方を向くと顔を隠していたフードを外す。松田の目に見覚えのある青髪の少女の顔が飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアス達がゲームをする中、若手ナンバーワンと呼ばれるサイラオーグと凶児と呼ばれるゼファードル・グシャラボラスのゲームが始まろうとしていた。二人のゲームの舞台は三色に分けられた円形のフィールド。右から赤、青、黄色、の順番となっており、赤がサイラオーグ、黄色がゼファードルだ。

 

サイラオーグは魔力を持たず生まれ当主である父から蔑まれて生きてきたが、体を鍛え技を磨いて若手ナンバーワンと次期当主の座を手に入れたのだ。そんな彼の視界の先にはゼファードルの陣地があり、遠く離れた場所からでも分かるほどの巨体と触れた者の生命力を奪う能力を持ち、粘液で出来た体故に一切の物理攻撃を無効化するシャドウの姿が映っていた。

 

「……これは厄介だな」

 

サイラオーグは自分に貸し出された頼りなさそうな者達を振り返り溜息を吐く。そして、ゲーム開始のアナウンスがフィールドに鳴り響いた……。




あれ? サーゼクスはメイドゴッコは否定したけど? あと、サイラオーグの助っ人『達』は誤字にあらず

意見 感想  アンケート 誤字指摘お待ちしてます 躍起になって毎日投稿してたら質が下がって評価も下がった(つд⊂)


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三十一話

モンハンやってて遅れました

昨日感想の知らせがあったのに見たら追記すらなく、それが2度も 何故?


「追……放?」

 

「ああ、そうだ。君の追放が先程決まった。今すぐ荷物を纏めて出て行きたまえ」

 

エクスカリバーの奪還任務の後、ゼノヴィアは追放を宣告された理由を尋ねても教えて貰えず、長年暮らし慣れた教会を後にする。物心がついてから神への信仰を生きる理由にしていた彼女は心にポッカリ穴が空いてしまった様な空虚感を感じながら放浪の旅を続け、やがてとある荒野で力尽きようとしていた。

 

「……こんな所で死ぬのか。主は私を愛して下さっていなかったのだな……」

 

自分が斬捨てようとしたアーシアもこの様な気持ちだったのか、ゼノヴィアはそう感じ、その瞳から一筋の涙を溢す。そして彼女が意識を手放そうとした時、少女の声が聞こえてきた。

 

「あれ? こんな所で寝てたら風邪ひいちゃうよ?」

 

薄れゆく意識の中、ゼノヴィアが見詰める先には奇抜な格好をした少女の姿が映っていた。ゼノヴィアを見付けたのはセラフォルー。そのままゼノヴィアは彼女に助けられ、シトリー家で療養する事となった。本来信仰心の厚い彼女ならそんな事は受け入れなかっただろう。だが、神に見捨てられたと思い込んだゼノヴィアは受け入れ、空虚な心のまま無為な日々を過ごす。そんなある日、ソーナが彼女の部屋を訪ね、とある提案をしてきた。

 

「私の眷属になって、将来私が作る学校で教師になってくださいませんか?」

 

生きる目的を失ったゼノヴィアにとって夢を語るソーナの姿は眩しく見え、その提案は天啓の様に感じれた。そして彼女はその日より悪魔になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……あの時は気にも止めなかったが、コカビエルの言葉を聞いた事により神の死を知ったとシステムに判断されたらしい。まぁ、先日になって漸くコレを貰ったから良しとしよう」

 

ゼノヴィアは誇らしげにデュランダルを構える。その顔は悪魔になった事への後悔も追放された事への恨みも感じ取れない実に爽やかな顔だった。

 

「さぁ、行くぞ! 私達の夢の為にもこのゲームは勝たせて貰うぞ!!」

 

「ち、畜生! 負けてたまるかよ!!」

 

松田は今作り出せる限りの光の矢を作り出し、ゼノヴィアに放つ。その数およそ三十。コカビエルの時より遥かに威力も速さも増した光の矢は真っ直ぐに進み、

 

 

「ふんっ!」

 

ゼノヴィアがデュランダルをひと振りすると、刀身から放たれた破壊的なオーラによってその殆どが吹き飛ばされて消えていく。そして残った矢も軌道が外れ、大きく空いた道をゼノヴィアは突き進む。

 

「行くぞぉぉぉぉぉ!!」

 

「……掛かったっ!」

 

ゼノヴィアはデュランダルを大上段に構えると高く跳躍し松田に切りかかる。だが、松田はその姿を見てニヤリと笑った。先ほど大きく外れた光の矢が軌道を変え、空中に居るゼノヴィアの背中に迫る。

 

「しまっ……」

 

まだ悪魔になりたての彼女では上手く羽で飛べず避けれない。そしてその光の矢は、

 

 

 

 

「させない!」

 

由良が間に入る事でゼノヴィアには当たらず、代わりに彼女の体に突き刺さる。脇腹を光の矢で貫かれた由良は地面に背中から墜落するとリタイアの光に包まれて消えていった。そしてデュランダルは松田に吸い込まれるように迫りその体を切り裂く。彼も血を流しながらリタイアしていった。

 

『ソーナ・シトリー様の『戦車』一名リタイア。リアスグレモリー様の『兵士』一名リタイア』

 

「……お前の分まで頑張るから見ていてくれ、由良」

 

ゼノヴィアはデュランダルに付いた血を振り払うと祐斗の方を見る。其処では『女王』の椿姫が彼とほぼ互角の戦いをしていた。

 

「……やりづらい」

 

祐斗の方が武器の性能でも剣の腕でも勝っているにも関わらず勝負は硬直していた。椿姫は果敢に攻めず、リーチを活かして逃げながらチクチクと攻めてくる。先程松田がリタイアした事をアナウンスで聞いた祐斗はゼノヴィアを注意しなければならず、慎重に攻めるのを辞め、一気に勝負に出ることにした。両手に聖魔剣を構えた彼は椿目掛けて同時に振り下ろす。

 

 

「神器、『追憶の鏡(ミラー・アリス)』」

 

「なっ!?」

 

だが、突如現れた鏡によってその攻撃は椿姫には届かず、鏡だけを破壊する。その瞬間、途轍もない衝撃が祐斗を襲い、彼は吹き飛ばされて床を転がった。

 

「私の神器の能力は破壊された時に衝撃を倍にして返すという物。残念ながらオーラは跳ね返せませんし、貴方はパワータイプではないので即リタイアという訳には行きませんでしたが隙はできます」

 

「そしてその隙は私がトドメを刺すのに十分だ」

 

起き上がろうとした祐斗に向かってゼノヴィアはデュランダルを振り下ろした……。

 

『リアス・グレモリー様の『騎士』一名リタイア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぜぇ!!」

 

「っ!」

 

小猫は匙の攻撃を受け止め、反撃を仕掛けようとする。だが、横合いから放たれた仁村の拳がそれを阻止した。そして、それでできた隙を突き、巡の剣が襲いかかる。咄嗟に避けた小猫であったが、右足から僅かに血が滲む。先程から気を練ろうとするも匙に取り付けられたラインは小猫の体から気を奪い取り、切り離した片側から床に流れ落ちていた。

 

「……このままじゃ拙いですね。仕方ありません。ぶっつけ本番で成功させて見せます!」

 

その瞬間、小猫から途轍もない気が溢れ出し、匙が付けたラインを吹き飛ばす。そして尻尾が二股に分かれていた。

 

「……猫又モード」

 

小猫から放たれるオーラに匙達はたじろく。その瞬間小猫の姿がブレ、巡の腹に小猫の拳が突き刺さっていた。

 

「ぐっ!」

 

巡は腹を押さえて膝をつく。

 

「……この一撃でリタイアすると思ったのですが……!」

 

そう呟いた時、小猫は匙達の心臓からラインが伸びている事に気付く。

 

「まさかっ!? 自分の生命力を力に!?」

 

「ええ、そうです。私達はこのゲームに命を賭けて挑んでいます」

 

巡は口元から血を溢し、フラつきながらも立ち上がる。その瞬間、匙と仁村が小猫に飛びかかり抱き締める様にして体を拘束した。そして巡は意識が飛びそうになる中、生命力を魔力に変え続け手の平に集める。一メートルはありそうなフィールドをを破壊しつくしそうな魔力の塊は次第に凝縮されて行き、サッカーボール程の大きさになった。

 

「……放して下さい!」

 

「放す……もんかよっ!」

 

「絶対に放しませんっ!」

 

小猫は二人に拘束されたまま拳を振るい、蹴りを放って振り解こうとするも二人は放すどころか更に力を込める。小猫の攻撃で二人の骨にヒビが入り内蔵にまでダメージが届くも拘束は解けず、巡の放った魔力は匙と仁村ごと小猫を吹き飛ばす。そして巡も限界が来たのかその場に崩れ落ちた。

 

『ソーナ・シトリー様の『兵士』二名リタイア『騎士』二名リタイア。リアス・グレモリー様の『戦車』一名リタイア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼファードル・グラシャボラスにとってサイラオーグ程気に入らない相手は居なかった。魔力を持たずに生まれた出来損ないでありながら、若手の中で一番優れている自分(少なくても彼自身はそう思っている)を差し置いて若手ナンバーワンの称号を得ているのだ。そして先日の若手の顔合わせの際、大勢の前で彼をのして大恥をかかせた。

 

「殺す! 絶対にぶっ殺してやる!」

 

故に彼は殺意をみなぎらせながら敵陣へと向かう。眷属達も彼の後に続いて進軍していた。

 

 

彼とサイラオーグには共通点がある。本来ならば次期当主になれなかったのに次期当主になっているという事だ。だが、彼は本来の次期当主の不審死によって選ばれ、サイラオーグは実力で勝ち取った。それは彼にとって劣等感となり、心に突き刺さっていたのだ。だから彼はこのゲームで証明しようとしていた。彼自身が最も優れていると……。

 

「来やがれっ!!」

 

「……ヤットカ」

 

ゼファードルの叫びと共にシャドウは姿を現す。シャドウはサイラオーグ達を見据えるとその巨体を震わせ、大量の粘液を空へと放つ。

 

「……嘆キノ雨」

 

次の瞬間、サイラオーグ達目掛けて死の雨が降り注いだ。

 

「がぁぁぁぁぁっ!?」

 

『サイラオーグ・バアル様の『戦車』一名リタイア』

 

その雨を浴びた瞬間、眷属の一人が即退場する。彼の名はラードラ・ブネ。『ドラゴン』を司る一族の出身だ。故にシャドウの持つサマエルの毒によってやられてしまった。

 

「くっ! 全て吸い込む!」

 

『女王』のクイーシャ・アバドンは膝から崩れ落ちながらも一族の特性を使って空間い穴を開け降り注ぐ雨を吸い込もうとする。だが、粘液は急に半透明になったかと思うと穴を通り抜け、再び姿を現して降り注いだ。

 

「悪イナ。実体化ヲ解カセテ貰ッタ」

 

「クッソォォォォォ!!」

 

次に動いたのは『戦車』のガンドマ・バラム。彼はその三メートルはあろうかと思われる巨体でサイラオーグに覆いかぶさり彼を粘液から守る。しかし、地に落ちた粘液が集まると小さいシャドウとなり、再びサイラオーグ達に襲いかかる。

 

『サイラオーグ・バアル様の『僧侶』二名 『騎士』一名 『女王』一名 リタイア』

 

「……時間ダ」

 

シャドウはサイラオーグの眷属を計五名リタイアさせた所で時間切れとなり消えていく。だが、既にサイラオーグたちには反撃する力が残っていなかった。目の前ではセファードル達が魔力を練り、今にも放とうとしている。サイラオーグはクジを握り締め、

 

「こうなったら一か八かだっ! 来いっ!!」

 

そう叫んだ瞬間、彼の背後に二人の少女が現れた。

 

「あのおじさん負けそうだね、あたし」

 

「あのおじさん負けそうよ、わたし」

 

無邪気な声で話すのはどう見てもか弱い少女達。それを見たゼファードル達からは嘲笑が聞こえてきた。

 

「ハハハハハ! どうやら才能だけじゃなくて運もなかったみてぇだな!」

 

ゼファードルは二人を指さして馬鹿にし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんがりおいしくしてあげるね」

 

「がっ!?」

 

突如床から吹き出た炎に包まれた。

 

「追いかけたくなっちゃうよね、兎とか」

 

別の者は氷の中に閉じ込められ、

 

「豚になった方が幸せって子もいると思うの」

 

また別の者は風の刃で切り刻まれる。そして次の瞬間、二人のオーラが大きく膨れ上がった。

 

「「越えて越えて虹色草原、白黒マス目の王様ゲーム。走って走って鏡の迷宮、みじめなウサギはサヨナラね♪」」

 

空中に王冠の付いたハート型の輪っかが出現し光を放つ。次の瞬間、倒れ伏していたサイラオーグ達は完全に復活し、ゼファードル達は彼以外の者達がリタイアの光に包まれていった。

 

「な、何をしやがった!? それに助っ人は一人じゃなかったのかよ!?」

 

「怖~い。それに、今更何言ってるんだろうね、わたし」

 

「あたしはあたしともう一人のあたしとで一人なんだよ? そして今のはあたし達の切り札『永久機関・少女帝国』だよ。お兄ちゃんから『大将を倒したら詰まらないから倒したらダメ』って言われたからあなたは残したの」

 

「くっ! お、おい、落ちこぼれ! 俺と一騎打ちしやがれ!!」

 

ゼファードルはヤケになって一騎打ちを申し込む。そしてサイラオーグはソレを承諾。拳だけで彼を圧倒し、体と心を完全にへし折った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ、あのおじさん強いね、あたし」

 

「でも、お兄ちゃんよりは弱いわ、わたし」

 

「……俺はまだおじさんじゃない。お兄さんだ」

 

「「わかった! おじさんのお兄さん!!」」




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原作の使い魔の話見てたら一誠って相手が承諾するかどうかは考えてないんですよね(笑)


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三十二話

なんか今日は進みません もう遅いので短めでご勘弁を


生い茂る木々と立ち込める霧、ヌカるんだ地面という劣悪な環境の中、彼女は必死に走る。その背後からは五人の少女が追いかけて来ていた。

 

「待ちなさい!」

 

後ろから放たれる魔力は彼女のすぐ横を掠め木を吹き飛ばす。飛び散った破片や倒れてくる木が彼女の逃走を阻害し追跡者との距離を狭める。そしてついに彼女は行き止まりまで追い込まれてしまった。

 

「追い詰めたわよ! ッ!?」

 

五人はジリジリと少女に近寄り武器を構える。しかしその時、木の陰から無数の魔力が放たれ不意を打たれた五人は吹き飛ばされて地面を転がる。泥まみれになった彼女達は立ち上がろうとするも近くの岩陰から飛び掛って来た者達に切られ、光に包まれて消えていった。

 

『ディオドラ・アスタロト様の『兵士』五名リタイア』

 

「……兵士か。まぁ、良しとするわ。囮ご苦労様」

 

「はっ!」

 

先程まで逃げ回っていた少女は高貴そうな少女に労いの言葉をかけられ、感極まったという様子で頭を下げる。高貴そうな少女の名はシークヴァイラ・アガレス。アガレス大公家の次期当主であり、今はディオドラ・アスタロトとのゲームの真っ最中だ。策略を得意とする彼女にとって今回のゲームのフィールドは絶好の場所であり、先程から確実に相手の眷属を倒している。

 

「さて、そろそろ次の作戦を……来たわ!」

 

雨音に混じって近付いてくる気配を感じ取ったシークヴァイラは眷属に指示を飛ばし身構える。すると、顔に解読不能な文字が書かれた布を巻いた和服の少女が……背後から飛び出してきた。

 

「……」

 

「しまっ……」

 

彼女の体から黒い羽が舞い散りシークヴァイラ達に降りかかる。すると彼女たちの視界は闇に閉ざされた。悪魔は闇夜でも目が見えるにも関わらず彼女達の目の前は黒一色となり、戸惑う彼女達の耳にディオドラの笑い声が聞こえてきた。

 

「ははははは! どうだい、僕の助っ人の夜雀の力は。彼女の羽が目に入ったものの視界は闇に閉ざされるのさ! もう君達はロクに抵抗すらできないだろう? ……あ、すいません。貴方のおかげなのに調子こきました。あ痛たたたたたたたたたたっ! 脛蹴らないでください、お願いします!」

 

得意そうに笑っていたディオドラであったが、急に彼を蹴る音と共に悲鳴が聞こえ出す。どうやら助っ人は彼の笑い声がお気に召さなかったらしい。

 

「……貴方は助っ人を使わないのではなかったのかしら?」

 

ゲーム開始前、ディオドラは彼女にある提案をしていた。

 

「人間の手下に頼るのはシャクだし、助っ人は使わないでおかないかい?」

 

何を馬鹿な、使えるものは使ってこそ意味がある。初めて会う者を使いこなしてこそ高い評価が得られるのだ。そう感じたシークヴァイラであったが、なんだか自分だけ使うのもプライドが傷つくので使わないでおこうとしていた。だがディオドラは言いだしっぺにも関わらず自分が負けそうになった途端に助っ人を使ってきた。

 

「……そっちがその気なら」

 

シークヴァイラは懐からクジを取り出す。そして助っ人を呼ぼうとした瞬間、その手からクジが奪い取られた。

 

「君は馬鹿か? 見す見す助っ人なんか呼ばせると思ったのかい? それにしても、良くやったぞ、夜雀。……あ、ごめんなさい。夜雀様のおかげで助っ人を阻止できました」

 

「……」

 

再び聴こえてくる蹴りの音にシークヴァイラは呆れたような顔になりながら思う。こんなアホにしてやられたのか、と。すると何時の間にか視界が元に戻り、夜雀の姿は消えていた。どうやら時間切れのようで、これをチャンスと見た彼女達はディオドラを囲む。

 

「さぁ、覚悟しなさい」

 

だが、絶体絶命の状況にありながらディオドラは勝ち誇ったような顔を浮かべていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、賭けしない?」

 

リアスとソーナの戦いを観戦していた一誠はハーデスやオーディンに対して提案する。その手にはカジノの権利書が収められていた。

 

《賭け事ですか? 全く、君はまだ未成年でしょうに》

 

「他にも二組ゲームしてるし、各陣営の勝者を当てるのはどう? 組み合わせは八種類だから選択は早い者勝ちね。勝者にはカジノの権利書をプレゼント。あ、引き分けがあった時には俺の物のままって事で」

 

プルートの嗜めるかの様な言葉を無視して一誠は話をを進める。ロスヴァイセは賭け事と聞いて眉をひそめるも賞品のカジノの権利書を見て目の色を変える。オーナーとしての月々の収入だけで彼女の年収をはるかに超える内容だった。

 

「ふむ、面白そうじゃな。では、儂はシトリー・アガレス・バアルで頼むぞ」

 

「オ、オーディン様ずるいです! 私はシトリー・アスタロト・グラシャラボラスでお願いします!」

 

組み合わせは八種類なので早い者勝ちとばかりにオーディンは勝ちそうな者の名を口にする。ロスヴァイセも慌てて自分の予想を口にした。

 

「……やれやれ、戦いを賭け事の対象にするとは。私はシトリー・アスタロト・バアルでお願いします」

 

「いや、君も賭けてるじゃんランスロット。…俺はシトリー・アガレス・グラシャラボラスね。まぁ、バアルが勝つだろうけど」

 

《シトリーの小娘を先に散られたのは痛い。グレモリーの小娘もそこそこやるが……心が既に折れかけているからな》

 

ハーデスは空洞になっている瞳でゲームを映し出している画面を見る。今そこではリアスとソーナが対峙していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お待ちしていましたよ、リアス」

 

眷属達のリタイアを受け、リアス達はフィールドの中央にある吹き抜けのショッピングモールへと向かう。互いにリタイアした眷属の数は同じだが、元々の人数に差が有り、更にリアス達の所には前衛を務める者が残っていない。このまま守りに徹しても負けるだけと判断したリアスは朱乃とアーシアを引き連れて進むことにしたのだ。

 

「……王自ら中央にお出ましって訳? それに久しぶりね、ゼノヴィアさん。悪魔になるなんてどういう心境の変化かしら?」

 

リアスの視線の先にはソーナと『僧侶』の花戒と草下、そして椿姫とゼノヴィアと残った眷属が勢揃いしている。

 

「君だって王なのに進軍しているだろう? それと私の事だが色々あってね。……このゲームが終わったらアーシア・アルジェントには正式に謝罪させてもらう。だが、今は敵同士。問答無用でやらせてもらうよ!」

 

ゼノヴィアはデュランダルの切っ先をアーシアへと向け、攻撃的なオーラを迸らせる。リアスと朱乃はアーシアを守るように後ろへと下がらせ、滅びの魔力と雷を放つ。だが、デュランダルから放たれたオーラが膨れ上がると壁の様になって二人の魔力を防ぎきった。

 

「甘かったな。まだ私はデュランダルのオーラを完全にコントロールできないが、会長との特訓である程度の量を留まらせる位は出来る様になったんだ。……あの特訓は本当にに辛かった」

 

エクソシストとしての訓練を受けて来た彼女でもソーナの特訓はキツかったのか顔を青ざめ、ガタガタ震え出す。だが、背後に居たソーナは嘆息を吐くと追い打ちを掛けてきた。

 

「言っておきますが、これからはあれ以上の訓練を受けて頂きますよ。破壊的なオーラを制御できないなど危なっかしいですからね」

 

「!?」

 

その宣告にゼノヴィアは顔を真っ青にし、どこから髪でどこから顔なのかさえ分からなくなる。そして椿姫達が彼女に同情の視線を送る中。ソーナはクジを取り出し、リアスも慌ててクジを取り出す。

 

「来て下さい!」

 

「来なさい!」

 

二人同時に助っ人を召喚したその瞬間、召喚時の煙が立ち込めリアス達の後ろにグレンデルが出現する。フィールドを壊さないように三メートル程度の大きさになった彼はソーナ側の助っ人を見て嬉しそうに高笑いを上げた。

 

『グハハハハハ! まさか俺の相手がアンタとはな! なぁ、大将!』

 

 

「全く、貴方は相変わらずうるさいですねー。呪い殺されたいんですか? それにその下品な声。ご主人様とは大違いですよ」

 

グレンデルとは裏腹に玉藻は嫌そうな顔をしている。ソーナが引き当てたクジには数字の8と狐の絵が書かれていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや、俺達ってとっくに死んでるだろう』

 

「う、うるさぁい!」




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夜雀 ぬらりひょんの孫


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三十三話

ゲームの数日前、助っ人の参加を了承した者達は彼らの住処がある異空間内で一誠から紙とペンを渡されていた。

 

「勝った時の……これなんて読むの、あたし?」

 

「ご褒美って読むのよ、わたし。力を貸した相手が勝った側は好きなご褒美が貰えるんだって」

 

「ふ~ん。あ、あたしは新しいゲームが欲しい!」

 

他の者達も各々欲しいものを書いていく。グレンデルなどは、次に白龍皇と戦う時は自分に任せて欲しい、と要望してきた。そんな中、玉藻だけは白紙を提出する。

 

「あれ? 玉藻が出るだけで意外だったのにご褒美は良いの?」

 

「はい。私は既にリボンや指輪を頂いておりますし、今回の件はご主人様の所有する戦力を見せつける意味が御座います。……ハーデス様がそういう考えだったって事、分かっておられます……よね?」

 

「……うん」

 

一誠は目を泳がせながら頷く。本当は『あのコミュ症の爺さん、新しく友達が出来た事に舞い上がってアホな事考えたなぁ』と、しか思っていなかった。それを察したのか玉藻だけでなくアリスや夜雀も彼をジト目で見る。ああ、コイツ分かってなかったな、と思いながら。

 

「ま、まぁ、そういう訳で良妻狐からすれば旦那様の為に尽力するのは当然の事。私はお側にずっと置いて下されば満足でございます」

 

「じゃあさ、俺が勝手に決めるね。玉藻が力を貸した方が勝ったら冬休みには二人で温泉に行こうよ。鈍行でのんびり旅してさ、美味しいもの食べて、ゆっくり温泉に浸かって温泉街を散策するんだ。ほら、やっぱり玉藻だけご褒美がないのは気が咎めるからさ」

 

「ご主人様……」

 

玉藻は自分の右手にそっと添えられた一誠の手に左手を添え返す。二人がそっと見つめ合うと夜雀とグレンデルはアリス達の耳を防ぐ。そして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みこーん! ご主人様と温泉旅行!? あ~ん、部屋の露天風呂で背中を流し合い、そのまま……。そしてその後は温泉に浸かりながら、イヤン☆ そして浴衣姿の私を布団に押し倒したご主人様は欲望の滾るまま私を貪り、×××で×××になって、×××なんて事にっ!! よっしゃぁぁぁぁっ!!! では、ちょっと先取りして一~二発……いや、五~六発」

 

「ありす達には聞かせてないよね?」

 

『グハハハハ! 当然だぜ、旦那!』

 

「……」

 

夜雀とグレンデルは暴走する玉藻から悪影響を受けない様に二人の耳を防いだままその場を離れる。何時の間にか玉藻の尻尾は九本に増えており、ギラついた目で一誠に近づいて来た。

 

「ご主人様ぁ♥ ちょっと私の部屋まで来ませんかぁ? てか、無理矢理でもついて来て頂きます」

 

「……我目覚めるは」

 

その時、一誠は本気で身の危険を感じたという。なお、この戦いの余波で褒美に『金』と書いた者の城は半壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、あの時はビビったよ。去年、留守番した時に風呂入ってたら玉藻が突入してきて童貞奪われた時くらいだね」

 

「……主よ。あまりそういう事を人前で言うのは。それにしても見事な策ですね。グレモリーは見事に引っかかってます。……しかしグレンデルの動き、少し妙ですね。アレは武道の動き?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グハハハハハ! おい、逃げてばっかりかよ!』

 

グレンデルは洗練されたスムーズな動きで回し蹴りを放つ。それは素人の動きではなく、キチンとした鍛錬の末に身に着けた動きであった。玉藻はバク転で避けるも、掠ったのか服の裾に切れ目が入っている。

 

「あ~、もう! そんな動き、何処で身につけたんですか? 貴方って力任せに暴れまわるだけだったんじゃ……」

 

『ああ、俺がこの動きをどうやって身に付けたかって? ……通信教育だ!』

 

基本的に一誠の部下達は暇を持て余している。だから報酬の金と時間を趣味に費やしているのだ。ありす達は玩具やアニメDVD、お金を受け取っていないランスロットも剣の鍛錬などで時間を潰している。そしてグレンデルはブイヨセンから暇つぶしに借りた雑誌の広告ページに目を留めた。

 

『通信教育始めませんか?』

 

どうせ暇なのでと彼は色々やってみる事にした。テコンドー、空手、柔道、ボクシング、合気道。ムエタイ、パッチワークに太極拳。どれもこれも嵌りに嵌り、結構上達した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、グレンデル!? こっちにも被害が来てるわ! 少しは手加減……」

 

 

『あぁん!? その程度避けろ! 気合いだ気合い!』

 

先程からグレンデルが暴れたせいで観葉植物やベンチが砕かれ破片が辺りに飛んでいく。そして玉藻はそれがリアス達の方に飛んで行くようにグレンデルを誘導していた。

 

「彫像の出来上がりです♪」

 

『グッ!』

 

玉藻が腕をひと振りするとグレンデルの半身を氷が包む。グレンデルがそれを身震いで砕くと氷がリアス達に降り注いだ。

 

『……な~んか変なんだよな。なぁ、大将。さっきから戦い方がマトモ過ぎねぇか? チューブわさびを目に放ったり、カラシを鼻に突っ込んだりよ』

 

「……貴方の中で私の評価ってどうなってるんですかぁ?」

 

『外道! ……ちょ~っと試してみるか』

 

グレンデルは少し思案すると上空に飛び上がり空気を吸い込む。胸が膨張し、彼の口から炎が漏れ出した。

 

『テメェら全員焼き尽くしてやんぜ!!』

 

「ちぃ! 炎天よ、奔れ!」

 

玉藻はグレンデル目掛けて炎を放つ。それはグレンデルに直撃すると頑丈な彼のウロコに焦げを作り、グレンデルは大きな笑い声を上げた。

 

『グハハハハハハ! やっぱりテメェか……バイパー!!』

 

「……ちぇ、バレちゃったか」

 

残念そうに呟く玉藻の声は何時の間にか中性的な声へと変わり、その姿も次第に別人へと変わっていく。其処にはフードで顔を隠した赤ん坊が浮かんでいた。

 

「さて、グレモリー達に自己紹介をさせて貰うよ。僕の名はバイパー。死従七士の一人にして『強欲』の将。幻術使いのバイパーさ」

 

「幻術ですって!? でも、グレンデルには実際に傷が……」

 

「僕の幻術は君が知っているのとは桁が違う。それが本物の炎だと思い込めば実際に火傷を負うのさ。……ねぇ、グレンデル。どうして僕が偽物だと思ったの?」

 

自分の演技は完璧だったはずだ。そう思ったバイパーは首を傾げながら尋ねる。するとグレンデルは自分の頭を指さした。

 

『リボンだよ。大将は少し前に旦那から新しいリボンを買って貰ったんだよ』

 

「ふ~ん、そっか。僕もまだまだだね。……でも、目的は果たしたよ」

 

その瞬間、グレンデルとバイパーの体が消えていく。どうやら制限時間が過ぎたようだ。するとソーナの姿も消え、はるか後方で結界内に入っているソーナの姿が現れた。それを見たリアスは悔しそうに歯噛みしながらソーナを睨む。

 

「……最初から時間稼ぎが目的だったって訳ね。あの召喚の時点で既に幻覚だったの?」

 

「ええ、彼が幻術士と聞いてすぐに作戦に盛り込みました。貴女がこの場所に来た少し前には彼に幻術を使って頂いたのですよ。貴女の助っ人が玉藻さんなら負けていましたがね。……ゼノヴィア」

 

「了解した!」

 

「ッ! させません、雷よ!」

 

ゼノヴィアはデュランダルを構えると先程のやり取りで気が逸れていた朱乃に切りかかる。朱乃は慌てて雷撃を放つもゼノヴィアは正面からそれに突っ込み、怪我を負いながらも突き抜けてきた。

 

「はぁっ!! ……浅かったか。この一撃で仕留めるつもりだったんだがな」

 

流石に雷撃の中を突き抜けるのは堪えたのか剣が鈍り、朱乃には太股を深く切られたで終わる。そして膝をついたその時、リアスの魔力がゼノヴィアを吹き飛ばした。

 

『ソーナ・シトリー様の『騎士』一名リタイア』

 

「アーシア、朱乃の回復を!」

 

先ほどのグレンデルの戦闘の余波で二人と少し離れた場所に移動させられたリアスはアーシアに指示を飛ばし、アーシアの神器から淡い緑色の光が放たれる。だが、その場所に『僧侶』の草下と花戒が駆けていく。邪魔はさせないとリアスが魔力を放つも草下が花戒の盾になって防ぎ、花戒は光の中に入り込む。

 

「『反転』!」

 

その瞬間、緑の光は赤い光へと変わり三人はリタイアの光に包まれて消えていった。

 

『ソーナ・シトリー様の『僧侶』二名リタイア。リアス・グレモリー様の『僧侶』一名『女王』一名リタイア』

 

「二人共っ!? ソーナ、何をしたの!?」

 

「堕天使側から教わった技術で属性を反転させるというものですよ。まだ開発中なので不安定ですがね。さて、リアス。残るは貴女だけです」

 

「……会長。まずは私が」

 

椿姫は長刀を構えてリアスへと向かって行く。リアスも滅びの魔力で反撃するもセッキョク的に攻めてこない椿姫に苦戦し、何とか倒した頃には傷だらけで疲労が溜まっていた。

 

『ソーナ・シトリー様の『女王』一名リタイア』

 

「はぁはぁ、これで貴女と私の一騎打ちね」

 

リアスは傷を癒す為に一個だけ支給されたフェニックスの涙を飲み干す。しかし、傷は塞がったものの疲労は消えていなかった。

 

「……そんな姿で私に勝てると? 貴女、少し自分の才能を買い被り過ぎではありませんか?」

 

「買い被りかどうか試してみなさい!」

 

リアスはその一撃に全ての力を込め、結界ごとソーナを吹き飛ばすだけの威力を持つ一撃を放つ。その力の奔流はソーナを結界ごと飲み込み、後ろの風景を多少破壊した所で収まった。しかし、ソーナの姿は消えているもののリアスの勝利を告げるアナウンスが聞こえてこない。

 

「なっ!? どうして!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは先ほどの私も只の映像だからです。幻覚が晴れた姿を表せば、人はそれが本物だと思う。その心理を利用させて頂きました」

 

動揺するリアスの視線に屋上に続く階段から降りてくるソーナの姿が映る。その体には傷一つなく、心臓からはラインが伸びていた。

 

「……リアス。あなたは今回のゲームに何を賭けていましたか? 私達は命を賭けて望みました。私達の夢には敵が多すぎます。だから、私達は今回のゲームで力を示すっ! もう、ただの夢物語と馬鹿にさせませんっ!」

 

ソーナは自らの命を水の魔力に変換して操る。その水は先程までの戦いで散らばった瓦礫を飲み込み、土石流のようになってリアスを飲み込んだ。

 

 

 

『リアス・グレモリー様の投了を確認いたしました。よってこのゲーム、ソーナ・シトリー様の勝利です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱりね」

 

一誠は詰まらなそうな顔を画面に向けると部屋から立ち去ろうとする。すると他のゲームの結果が届き、一誠はカジノの権利書をランスロットに投げ渡した。

 

「はい、君の勝ち。鍛錬以外に楽しみ見つけなよ。お金はたっぷり入るんだからさ」

 

「……はっ!」

 

ランスロットが一誠からの気遣いに敬礼で返し、ロスヴァイセがこれでランスロットへの思いを募らせ、ハーデスとオーディンはまた一緒に飲みに行く。そんなこんなんで今回のゲームは終了し、一誠達の旅行も終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーシア、ずっと探してたんだ」

 

敗北の悔しさを残したまま、リアス達も日本へと帰還する。すると、ディオドラがホームで待ち構えており、アーシアに近づいてきた。彼が言うには自分がアーシアが追放された原因の悪魔であるというのだ。そして彼は真剣な顔で告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーシア、僕を蹴ってくれないかい? ……あ、違った。僕と結婚してくれないかい?」




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反転 なんで原作ではもう使わないんだろう?


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体育館裏のホーリー
三十四話


モンハンにドハマリで書くのがが遅れました あと魔法使い更新しました

重甲エキスが三連続で出ない(つд⊂)


「いやぁ~、先生。今回も素晴らしい出来ですね。では、この藤村大河。責任を持ってお預かりします!」

 

一誠の協力者であるメディアは小説家を生業としており、やや締め切り前の逃亡癖が有るものの、かなりの売れっ子作家だ。故に彼女の担当は逃げ出した彼女を探し出すだけの体力と勘を持つ者がなる事になっている。この藤村大河という女性もご多分に漏れず超人的な体力と野獣のような勘で逃げ出したメディアを見つけ出していた。

 

「あら、もう帰るの? お茶でも飲んで行きなさい。坊やー! 藤村にお茶入れて頂戴」

 

「え~! メディアさんがパソコンのデータの整理しろって言ったんじゃん。てか、どうしたらパソコンをここまで壊せるのさ? もう整理云々どころじゃないよ」

 

「あ、お構いなく。此れから遅杉先生とハヨダッセ・ゲンコー先生の所にも向かう予定ですので」

 

もっとも、その能力が災いして問題作家ばかり担当させられていたのだが。藤村が帰っていくとメディアは作家の顔から魔術師の顔となった。

 

「……それでアーシアちゃんに求婚したディオドラってのは怪しい奴なのね?」

 

「うん、彼女達には一応見張りをつけてるんだけど、アレは笑ったなぁ。行き成り、蹴ってくれ、だってさ。……レイナーレがあの子を殺そうとしてた時に見張っていた使い魔の魔力が彼の物なんだ」

 

それを聞いたメディアは不快そうに顔を顰める。

 

「……ストーカーかしら? それとも気に入った女を手に入れる為にピンチになるのを待ってた? そもそも貴族が聖女が居るような教会に近づくって所からして怪しいわね。坊や、多分また来るだろうから、その時に守護霊剥がして聞き出しなさい!」

 

「分かったよ。所でアルジェントさんの事をどうして親しげに呼んでるの?」

 

「私が契約のお得意様だからよ。小猫ちゃんと一緒にいろんな服を着せて撮影会をしてるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~、こんな時期ですが転校生です」

 

体育祭も間近という頃、一誠のクラスに又しても転校生がやって来た。

 

「(どうせ三大勢力関係者だろうね。木場君は仕方ないとしても、関係者は集めておきたいんだろうな)」

 

一誠が迷惑な事だと考えていると転校生が教室に入ってくる。それは彼が知っている少女だった。

 

「皆さん初めまして。紫藤イリナです!」

 

「……ふ~ん」

 

もはや不都合な記憶を操作した今、彼女には興味が無くなった一誠は手を振られても特に反応を示さないでいた。

 

 

 

 

 

 

「イッセー君、久しぶりね。元気してた?」

 

「君は相変わらず喧し……元気だね」

 

しかし、一誠の思いとは裏腹にイリナは一誠に話し掛けてくる。流石に知り合いにシカトを決め込むのは周りの目が邪魔だと思い、一誠は適当に相手をする事にした。

 

「今、喧しいって言おうとした!?」

 

「言ってないよ? 聞き間違えたんじゃない? ほら、年取ると耳が遠くなるって言うし」

 

「だから私は年取ってないって!」

 

「別に君が年寄りだなんて言ってないでしょ? 所でどうして日本に戻ってきたの? 前言ってたお仕事の都合?」

 

その質問をされたイリナは狼狽し出す。流石に一般人と思っている一誠に悪魔や天使の事を言っても、『はいはい、中二病乙』とでも言われるだけだからだ。

 

「そ、そうよ! 悪いけど仕事の事は聞かないでね」

 

「うん。全く興味無いから安心して」

 

一誠は曇り一つない瞳でそう言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは今から体育祭の参加種目を決めます。参加したい種目に立候補してください」

 

「……眠い」

 

体育祭に興味のない一誠は参加種目決めの時にウトウトしていた。去年も足が速いからと得点の高い種目に入れられたし、今回も其れで良いと判断したのだ。彼が寝ている時も種目決めは進み、途中で目を覚ました一誠は右腕を上げて背伸びをする。

 

「う~ん」

 

「はい、兵藤君は二人三脚ですね。ではもう一人は……」

 

「へ? ……拙っ」

 

一誠は事態を把握し冷や汗を流す。二人三脚は二人で参加する種目だ。そして一誠はモテる。自然と参加種目が決まっていない女子達が手を挙げ、男子達は威圧感を感じて手を上げない。この時点で一誠のペアは女子に決まってしまった。そう、女子と体をくっつけて走るのだ。

 

「(……玉藻に殺されるかも)」

 

先日のゲームで力を貸した方が勝ったら一緒に温泉旅行に行くと約束していたにも関わらず、玉藻はディオドラのせいで召喚すらされずに終わった。どうやら旅行の為に大分気合を入れていたようで、ゲーム後の彼女は落ち混んでいたのだ。それを何とか宥めすかして元気にさせたのはちょっと前の事。もし、この事がバレたら、そう不安になっている一誠の直ぐ傍で女子達が参加選手を決めるジャンケンをしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーシア・アルジェントの人生は波乱に満ちたものだ。親に捨てられ、育った教会で神器に目覚め聖女と崇められるようになった。しかし、怪我をした悪魔を助けた事で魔女として追放。そして堕天使に拾われ、今は悪魔になっている。そして先日、アーシアの助けた悪魔から求婚されたのだ。最も、余りにも変態的すぎる言い間違いをした為、

 

「あ、あの、私にはそんなご趣味は……」

 

と距離を空けながら断ったのだが。彼の名はディオドラ・アスタロト。現ベルゼブブを輩出した名門の出身だ。そして彼は一度断っただけでは諦めず、連日のように贈り物やデートの誘いをしてくる。流石に無視している訳にはいかないので食事の誘い等に何度か応じたが、その時の彼の目は松田や元浜が女子を見る目と同じで、アーシアは言い表せない嫌悪感を感じていた。そしてその日、次のゲームの相手がディオドラだと告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり裏があったよ。まぁ~た、アルジェントさんに会いに来た時にこっそり守護霊を剥ぎ取ったら興味深い話をしてくれたんだ。彼女が追放された一件なんだけど……」

 

「どうせ罠だったんでしょ?」

 

数日後、ディオドラを探っていた一誠は成果をメディアに報告するべく彼女の家を訪れた。しかし、一誠が言い切る前にメディアは答えを言い当てる。その顔には少々憂いの表情が滲んでいた。

 

「……いくら何でも怪しすぎるわ。どうせ聖女が欲しかったんでしょ。アーシアちゃんもアーシアちゃんよ。幼い頃から敵と教わり、エクソシスト達が命懸けで戦っている悪魔を助けたんですもの。それは彼らへの侮辱よ。教会としても放っておけないし、追放されない方がおかしいわ。……一時の感情に身を任せてもロクな事にならないって言うのにね……」

 

「メディアさん……」

 

メディアはまるで自分に言い聞かせるように呟く。植えつけられた偽の恋に身を任せた彼女は父を裏切って弟を殺し、夫に裏切られた時は自らの子を殺したのだ。その原因となったのはオリュンポスの神々。少し前、一誠は彼女に聞いてみた事がある。彼らを恨んでいるのか、と。

 

「……当然でしょ。でも、もう復讐する気はないわ。坊やのおかげで手に入れた今の平穏を大切にしたいから……」

 

悲しそうに答える彼女を見た一誠はその質問をした事を今でも悔やんでいた……。その事を思い出して表情を曇らせる一誠に対し、メディアは優しく微笑みかける。

 

「その顔は何? 貴方は気にしないで良いわ。……ねぇ、坊や。流石に私も女としてそのクズが許せないから殺す時は私を呼びなさい。絶望の中で殺してやるわ! フフフ、どんな手が良いかしら?」

 

「……同情するよ、ディオドラ君。君は怒らせてはいけない女性を怒らせた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……所で二人三脚に出るのがバレて玉藻が怒ったらしいけど仲直りはしたの?」

 

「……何とか。日曜日は両親とも居なかったんだけど、一日中執事のまね事させられたよ」




よく考えると三巻でのアーシアに対する二人の態度って当然なんですよね。悪魔や魔物退治に命をかけてきた二人にとって、聖女が悪魔を治すなんて自分達や仲間、戦いで死んでいった者の人生を否定するような物ですもんね

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三十五話

小猫って戦車なのに一撃でやられているイメージが ユーベルーナ コカビー サイラオーグの戦車に一撃でやられてましたよね?


一誠と玉藻は何時も一緒だった。生まれて間もなく兵藤家に貰われてきた玉藻は一誠に良く懐き、遊ぶのも一緒、ベットも一緒、……お風呂は玉藻が風呂嫌いだったので一緒では無かったが……。何時も一誠の後からチョコチョコと付いて歩き、一誠が座ればその膝の上で丸まる。そして、あの日も一誠の後から付いてきていた……。

 

「じゃあ、行ってきま~す」

 

「キュ~ン」

 

「付いてきちゃ、ダメ!」

 

その日、初めてのお使いに出かけた一誠は珍しく一人だった。その日は玉藻が風邪を引いていたからだ。自分を置いて行く一誠の背中に悲しげな声を掛けるも一誠は戻ってこず、玉藻は一誠を追いかけようとするも一誠の母親に見つかってしまう。だが、賢かった玉藻は母親がトイレに行っている間にこっそりと部屋から抜け出す。ベランダのドアが半開きになっていたのを見つけた玉藻はそこから脱走。そして外に出て直ぐに一誠を発見した。

 

「コ~ン♪」

 

「玉藻! 来ちゃダメ!」

 

玉藻は直様一誠目掛けて駆け出す。向かって来る車に気づかないまま……。車にはねられた子狐の体は宙を舞い一誠の目の前に叩きつけられる。慌てて抱き起こそうとした一誠の手にドロリとした感触が伝わる。そして血が止めど無く溢れ出す中、玉藻は震える体に力を入れ一誠の顔を舐めようとし、そのまま崩れ落ちて二度と動く事はなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……またあの夢」

 

ベットから飛び起きた一誠の顔は青褪め、パジャマは汗でびっしょりだ。一誠は不安そうな顔で隣りを向く。其処には玉藻の姿はなかった。

 

「玉藻? 玉藻何処?」

 

一誠はまるで打ち捨てられた子犬や母を探す迷子のような表情を浮かべながら玉藻の名を呼ぶ。そして一階のリビングまで向かうとキッチンに立つ玉藻の姿があった。

 

「あ、ようやく起きたんですね、ご主人様。も~、日曜の上にご両親がいないからってだらけ過ぎです。朝ごはん冷めちゃいますよ! ……ご主人様? キャッ!?」

 

少し寝坊した一誠を咎める玉藻だが、不安そうな一誠の顔にただならぬ物を感じ、急に抱きしめられて驚いた声を出すもそのまま大人しくしていた。

 

「ねぇ、玉藻。もう俺の前から居なくならないよね? もう、あの時のように……」

 

「また、あの時の夢を見たのですね? ……大丈夫です。玉藻はこの魂が尽き果てるまで貴方のお側に……」

 

「……うん」

 

玉藻も一誠の背中に手を回し二人は見つめ合う。そして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……朝っぱらから熱いやんすね。出難いでやんす》

 

ハーデスからの伝言を持ってきたベンニーアは二人が落ち着くまで気不味い思いをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「テレビ出演の要請?」」

 

《どうもこの前のゲームでありすちゃん達とグレンデルの旦那が注目を浴びたらしくって、冥界のテレビ局から出演要請があったんでやんすよ》

 

どうやら珍しい魔法らしき物を使う双子らしき美少女のありす達とドラゴンなのに格闘技を使っていたグレンデルが子供を中心に爆発的に人気が上昇。それに目をつけたテレビ局が冥府に交渉して来たというのだ。

 

「……面倒くさい」

 

「出演費は弾むらしいけど、私がちょ~っと術を使えばお金なんか簡単に儲かりますしねぇ」

 

っと、このように乗り気でない二人であったが、

 

 

「あたし、出たい! ねぇ、お願いお兄ちゃん!」

 

「私も興味あるわ、お兄ちゃん」

 

「……仕方ないなぁ」

 

当の本人達が出演したいと言い出し、一誠は仕方なく折れた。なお、残りのグレンデルだが……、

 

 

 

 

 

 

 

『あぁ? パッチワークが今良い所で、最高傑作ができそうなんだよ。今の俺には手芸の神が舞い降りているぜ!!』

 

と言って断った。

 

『相棒、もう奴には邪龍の威厳など欠片もないな……』

 

「そんな他人事みたいに言ってるけどロリ龍帝ペドライグも威厳の形もないよね」

 

『うぉぉぉぉぉん!! そのあだ名は辞めてくれぇぇぇ!! 誰だ、誰が広めたんだぁぁぁぁ!!』

 

その噂を広めたのは一誠と愉快な死神達である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりました! ささ、此処でお待ちください!」

 

テレビ局に着いた一誠達は歓迎ムードの中、控え室に通される。最初は乗り気でなかった一誠もテレビでしか見た事のない局内の様子に興味津々といった様子だ。今回の護衛は玉藻とランスロット。自由奔放な二人を制御できる数少ない人材である。四人が控え室で待っているとまだ収録前だというのに部屋を訪ねる者がいた。

 

「ふぉっふぉっふぉ、久しぶりじゃなぁ」

 

「お、お久しぶりです!」

 

訪ねてきたのはオーディンとロスヴァイセ。どうやら二人は番組収録の見学に来たらしい。

 

 

 

 

冥界から申し込まれた同盟。その話を北欧とギリシア勢は結局飲んだ。しかし、その条件としてテロリストの被害が出た場合、旧魔王派は悪魔、ヴァーリチームは堕天使、英雄派は天使が損害額を全負担する事になり、更に国債を幾らかと貴重鉱物の採掘権など、色々と巻き上げたが。しかも、ニ勢力にその条件を付けたのならウチの勢力も、と他の勢力も条件を提示。魔王達はかなり頭を痛めているとの事だ。そして北欧と冥府は友好条約を結び、互いの名産品や技術の交換などを始めていた。

 

「そろそろ時間で~す!」

 

「あ、もう時間だって。俺と玉藻は二人に付き添うからランスロットはオーディン様の相手をしてあげて」

 

「りょ、了解しました!」

 

そしてランスロットを置き去りにし、番組の撮影が始まった。

 

 

 

 

 

 

「え~、それでは今回のゲストをご紹介します。先日のレーティングゲームでご活躍なされた……え~と、お二人共アリスで良いんですよね?」

 

二人の名を改めて知らされた司会は二人の名が同じ事に戸惑いを見せる。無理もない話だろう。どう見ても双子にしか見えないのだから。

 

「うん! あたしとあたしは二人で一人のあたしなの! だからあたしとあたしは同じ名前なんだよ!」

 

「まぁ、ドッペルゲンガーみたいな物と思ってくれたら良いわ」

 

白い方のありすは幼さゆえか話が通じないが、黒い方のアリスは話が通じるのか無難な答えを出す。こうしてインタビューは続いていった。

 

 

「二人の好きな物と嫌いな物は?」

 

「あたしはお茶会とお兄ちゃんが好き! でも、苦いからピーマンは嫌いなの」

 

「わたしもお茶会とお兄ちゃんが好きよ。嫌いなのは玉ねぎね」

 

「お兄ちゃんというのは赤龍帝さんですよね? 彼とはどういう関係?」

 

「お兄ちゃんはあたし達を助けてくれたの。あのね、あたしはずっと病院に居たの。そこではずっと痛くて苦しくて……寂しかった。パパもママもあまり会いに来てくれなかったし、誰もあたしを人間扱いしてくれなかった。だからあたしはアリスを作り出して遊んで貰ったの。アリスは死んだ後もあたしの傍に居てくれたわ。でも……」

 

「わたし達は二人っきりだった。わたしはわたしさえいれば良かったけど、ありすは違った。でも、だれもわたし達には気付いてくれなかったわ。……お兄ちゃん以外は」

 

「お兄ちゃんはあたし達を見付けてくれて、友達の沢山居る所に連れていってくれた」

 

「「だからあたし(わたし)はお兄ちゃんが大好きなの!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ランスロットはオーディン達と共に局内の食堂に向かい、今はロスヴァイセと二人っきりにされていた……。

 

「(は、恥ずかしい! こうやって正面から見たら改めてイケメンだと思います!)」

 

ロスヴァイセはランスロットの顔を真正面から見ることができず、ランスロットはロスヴァイセの顔を見てとある人物の事を思い出していた。

 

「(……やはりこの方はグィネヴィア様によく似ている)」

 

それは彼が忠義を誓ったアーサー王の妻であり、ランスロットは自分が彼女と恋に落ちた事がアーサー王の死に繋がったと未だに悔やんでいた……。




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三十六話

h、評価が下がり気味です なので、感想がやる気の原動力になってます


ロスヴァイセは若くしてオーディンの護衛を勤めているだけあって優秀な戦乙女だ。ただ、オーディンから真面目すぎて恋人ができないと言われる程、男運がない。当の本人は彼氏が欲しいと思っているのだが、最近は英雄として迎え入れられる者も少なく、行き遅れないかと戦々恐々していた。

 

「……どうかされましたか? 先程からボゥっとしていますが」

 

「い、いえ! ちょっと考え事を……」

 

「そうですか。なら良かったです。でも、体調が悪くなったのなら直ぐに言って下さいね」

 

そんな彼女に最大のチャンスが訪れていた。今自分を気遣うように微笑みかけてくる美形の名はランスロット。アーサー王に仕えていた円卓の騎士の中でも最強といって言い程の実力を持った騎士であり、同盟相手である冥府に仮所属している者の部下だ。本当はオーディンもこの場に居たのだがトイレに行くと言って席を立った。

 

「オーディン様なら大丈夫ですよ。私の部下を付けて置きました。少々お疲れのようですし休憩にしたらどうですか?」

 

「は、はい! ではお言葉に甘えさせて頂きます!」

 

このように気遣いもでき、今も部下を指揮する役職にある。そしてネックだった収入ゼロも先日カジノオーナーになった事で無事解決。性格良し! 収入良し! 見た目良し! 三拍子揃ったまさに優良物件。これが最初で最後のチャンスだと腹を括ったロスヴァイセは攻めに出る。

 

「あ、あの、ランスロットさんて恋人はいらっしゃるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ! 訊きおったぞ!」

 

「ちょ、オーディン様。あまり大声出されると見つかりますって!」

 

そしてオーディンとランスロットの部下はその様子を出歯亀していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ! おじさんのお兄さんだ!」

 

「久しぶりね、おじさんのお兄さん!」

 

「……その呼び方は止めてくれ」

 

その頃、番組収録を終えた一誠達は別の番組に呼ばれていたソーナとサイラオーグに出会う。二人共自分の女王を連れてインタビューを受けるというのだ。

 

「お久しぶりですね、赤龍帝さん。先日はバイパーさんにお世話になりました。彼には改めてお礼をしたいと思います。何か彼の好きな物があったら教えてくださいませんか?」

 

「う~ん。あいつは金目の物が好きだけど、またアイツがクジで選ばれないとも限らないし、賄賂呼ばわりされたら困るから辞めておいたら?」

 

「そうですね。ご忠告有難う御座いました。……私はこの間の一件で自分の考えが甘かった事を感じました。理想ばかり追い求め、現実の問題を直視していないとオーディン様からお言葉を頂いたのです。匙もあの場で怒った事は大きなマイナスとなると言われて落ち込んでいました」

 

どうやらゲームの後、オーディンがソーナ達の所を訪れ声を掛けたらしい。最も、その殆どが苦言ではあったが。一誠はソーナから聞いたオーディンの言葉に賛同するように頷く。

 

「まぁ、色々甘いと思うよ。下級悪魔や中級悪魔は見下されてるから、力を手に入れる機会を作っても意味がないでしょ」

 

「ええ、ですから私は魔王を目指す事にしました。魔王に相応しい実力を手に入れ、お姉様の後を継いで見せます。私が掲げる無謀な理想を押し通すには力が必要ですからね。……その為に邪魔になりそうな婚約者をどうにかしなければなりましませんが。調べた所、かなりの差別主義者の様で……」

 

「俺の理想も力ある者が見合った居場所を与えられる世にする事だ。っと、そろそろ時間だな。悪いが俺達はここで失礼させて貰う」

 

「ばいばい、おじさん!」

 

「またね、おじさん!」

 

「だからおじさんは止めてくれ……」

 

まだ若いのにおじさん呼ばわりされたサイラオーグだが、無邪気な二人に強く言えず、その背中に哀愁を漂わせながら去っていく。二人の背中を見送った玉藻は疑問そうに首を捻った。

 

「なぁんでご主人様にあんな事語ったんでしょうねぇ?」

 

「まぁ、俺の部下のおかげでゲームに勝てたし、オーディン様が俺の言った事でも話したんじゃない? それで勝手に信頼してくれているなら放っておこうよ。……その方が付け込み易いしさ。さ、そろそろお昼だし何か食べに行こうか?」

 

「あぁん、流石はご主人様ですぅ。よっ! この外道! あ、私は狐饂飩が食べたいなぁ」

 

「あたしお子様ランチ!」

 

「わたしはカレーが食べたいわ」

 

「はいはい、行こう行こう。ほら、転んだらいけないから手を繋ごうね」

 

「「は~い!」」

 

一誠と玉藻は手を繋いで歩くありす達を挟むように立ち、空いた手を繋いで歩く。その姿はまるで子供連れの夫婦の様であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私には恋人はおりません。そして、これからも作る気はありません。私には女性を愛する権利など無いのです」

 

ロスヴァイセの問いに対し、ランスロットは淡々と答える。その顔には憂いが込められていた。

 

「ど、どうしてですか!? それになんで女性を愛する権利など無いなんて事を……」

 

「……私の過去を知っていますか? 主君の妻と不義密通をし、その末に友の弟を殺害。最後には王の危機にも駆けつけられぬ始末。王の妻であったグィネヴィア様も最後には私を拒絶なされました。こんな情けない私など、新しく恋をやり直す資格など御座いません」

 

自分の邪恋のせいで友と主を失った事は未だに彼の心に深い傷を残していた。それを聞いたロスヴァイセは黙り込み、ランスロットは詰まらぬ話で場に空気を悪くしたと思って彼女に謝ろうとする。だが、次の瞬間、思いがけない言葉が投げかけられた。

 

「……ランスロットさん。貴方は今、誰の部下なんですか? アーサー王ですか? 違うでしょう? 貴方の今の主は赤龍帝さんでしょう! ……それに、そんな事を言うのは悲しいと思います。折角、新しい生き方を与えて貰ったのに、昔の事を引きずって自分に枷を付けているんて」

 

そう言うロスヴァイセの瞳からは涙が溢れる。そして、ランスロットは一誠に自分の仲間にと誘われた時、自分には新しくやり直す権利はないと言ったら返って来た言葉を思い出した。

 

『やり直す権利がない? そんな事誰が決めたのさ? アーサー王が言ったの? 違うでしょ? たとえ明日世界が滅びるとしても、やり直してはいけないなんて事はないんだよ?』

 

その言葉を受けたランスロットは差し出された一誠の手を取り、今の生活を享受している。それを思い出したランスロットはハンカチをロスヴァイセに差し出した。

 

「……貴方のお蔭で忘れかけていた主の言葉を思い出しました。結局、私は自分にやり直す権利はないと言い聞かせる事で責任から逃げていただけの様です。感謝致します、ロスヴァイセ殿」

 

「い、いえ、私は貴方の気持ちなんて知りもせずに勝手な事を言っただけで……」

 

面と向かって礼を言われた事に赤面したロスヴァイセは気が動転し、立ち上がろうとしてバランスを崩す。

 

「きゃっ!?」

 

「……大丈夫ですか?」

 

可愛い悲鳴を上げたロスヴァイセはすぐさまランスロットに支えられて転ぶのを免れる。だが、すぐ近くにランスロットの顔がある事に気付いた彼女の顔は真っ赤になり鼓動は高まる。そしてそれはランスロットにも伝わってきた。

 

「ロスヴァイセ殿……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔が真っ赤ですし、心拍数が異常です! やはり何処か悪いのでは!? これはいけない、直ぐに病院に行かなくては……」

 

どうやら彼は肝心な所で天然だった様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……主。何故か途中からロスヴァイセ殿の機嫌がお悪くなられたのだがどうしてでしょうか? オーディン様に事情を話したら、お主が悪い! 、と言われまして……」

 

その後、戻ってきたオーディンと共にロスヴァイセは帰って行き、ランスロットは一誠達と合流して昼食を摂っていた。

 

「……さぁ? 俺にもさっぱりだよ。所で文通を申し込まれたんだって?」

 

「ええ、折角の申し出なのでお受け致しました。私も趣味を見つけなくてはなりませんでしたしね」

 

「うん、それが良いと思うよ。俺も全ての迷える魂を拾える訳じゃないし、拾えた君達には拾えなかった魂の分も第二の人生を謳歌して貰いたいからね」

 

一誠は微笑みながらそう言った。生者には興味のない一誠だが、死者と身内と認めた者、そしてその身内には親愛を注ぐ。まるでそれが自分の使命であるとでも言うように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『祝! 異界侵入十周年オメデトウ!』

 

「……有難う」

 

その日の夜、異界に入った一誠はクラッカーと垂れ幕で出迎えられる。その日は初めて一誠が異界に来て丁度十年になる日なのだ。既に料理の用意がされており、酒やジュースなどの飲み物も用意されている。この日は一誠も玉藻以外の従者は出さず、異界の住人だけと過ごしていた。

 

「……本当に懐かしい。迷い込んできたのを脅かそうとしたら私が驚かされた」

 

小学校一年になった一誠は偶々異界に迷い込み、そこで最初に花子と出会った。いきなり後ろから驚かせようとした花子だが、振り返った一誠の後ろに無数の霊群が居るのを見て逆に驚いてしまったのだ。その後、襲ってきた口裂け女は玉藻に撃退され、ベートーベンはしつこく話しかけてくる一誠に折れて話し相手になり、それから何度も通う内に他の霊とも仲良くなった。霊使いの能力は霊を従えるだけでなく、霊と仲良くなる力も含まれているのかもしれない。

 

「俺も人間の友達はいなかったから楽しかったなぁ。皆俺を不気味がって話しかけてくれなかったし、俺も直ぐ傍にいる霊達に気付かない彼らが嫌いだった。思えばアレが今の俺を作る事となったのかなぁ」

 

一誠は昔を思い出しながらシミジミと呟く。すると後ろからやって来た口裂け女が彼の髪をワシャワシャと掻き乱す。

 

「ったく、それで苛められたんだろうが、アンタは。その上、仕返しはバッチリやってるし。全く、怖い餓鬼だよ」

 

「えぇ~! 全国の小学生を恐怖に陥れた貴女に怖いって言われたくないよ」

 

「あぁ?」

 

「……御免なさい」

 

口裂け女の言葉に反論する一誠だが、凄まれて直ぐに謝る。それに満足した彼女は酒瓶を煽ると満足げに去っていった。

 

「……大変でしたねぇ、ご主人様」

 

「全く、あの人には頭が上がらないにゃ」

 

玉藻と黒歌は口裂け女が去るのを見計らって一誠の両隣に座る。どうやらこの二人も口裂け女が苦手のようだ。ただの敵としたらたわいも無い相手でも、味方にしたら怖くて逆らえない相手、それが彼女への評価らしい。

 

 

「ねぇ、何かゲームをやるみたいよ」

 

一誠の頭に乗ってきたメリーは少し離れた席を指差す。其処では口裂け女を中心とした大人組が何やら騒いでいた。

 

「アンタラも来な! 今から王様ゲームするよ!」

 

「……え~。身内でやっても虚しそうだし、古いなぁ。流石、昭和……何でもないです、御免なさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『王様だーれだ?』

 

「……あ、私だ。え~と、何を命令しようっかなぁ♪」

 

結局参加させられた一誠達だったが、初っ端から玉藻が王様を引き当てる。

 

「それじゃあ……ご主人様は五分間私とディープキス!」

 

「名指し!? ってか、いきなり飛ばしすぎ!」

 

「黒歌はケツの筋肉で割り箸五本割れぇ~!!」

 

「また名指し!? てか二度目の命令にゃ! ……もう王様ゲームの名を借りた恐怖政治ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、口裂けさん。止めなくって良いの?」

 

「良いんだよ。アイツ等はアレで楽しんでるんだからさ。さ、子供は見るもんじゃないよ。……ちと玉藻に飲ませすぎたか……」

 

気まずそうに後頭部を掻く口裂け女の視線の先にはゲーム開始前に玉藻に飲ませた酒の空き瓶が無数に転がっている。玉藻が一誠を押し倒した所で子供組は大人組に連れられて部屋から出ていき、後には一誠と玉藻と黒歌だけが残された。

 

 

 

 

 

 

「さぁ、ご主人様、王様の命令は絶対ですよぉ?」

 

「酒臭っ!? んんっ!」

 

押し倒されて口に無理やり舌を捩じ込まれた一誠だが、その実、抵抗らしい抵抗はしていない。むしろ無抵抗で受け入れていると言って良いだろう。

 

「……相変わらずラブラブだにゃ。ちっ、愛人から正妻になるのは難しそうね」

 

黒歌が呆れたように二人を見る中、夜は過ぎていく。そして、リアスとディオドラのゲームの日がやって来た……。




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三十七話

重甲エキス 五回目でやっと 毎回幸運を発動させても出なかった……

ガルルガの甲殻も剥ぎ取りと報酬あわせて一クエで一個ずつしか出なかったけど漸く……


ゲーム少し前、一誠はテロが起きる可能性について冥界側から示唆があった事を教えられた。

 

《どうやらアスタロトの小僧がアガレスの小娘を倒した時に急激なパワーアップを行ったのだが、それがオーフィスの力らしいのだ》

 

恐らく彼がその力を使ったのはテロリスト達からしても予想外だっただろうから、次のゲームの時に仕掛けてくるだろう、という事らしい。なので出席予定の同盟相手達には注意を促したのだが、彼らは自分達がテロを返り討ちにする、と言いだしたのだ。

 

「……まぁ、神様ってのは面子で飯食ってるみたいな所あるからね。自分達が出席する時を狙ってテロを起こすなんて聞かされたら黙ってられないでしょう。……本当はその辺分かって言って来たんだったりして」

 

一誠は冗談気に肩を竦める。それを聞いたハーデスも苦笑していた。

 

《まぁ、そう言うてやるな。ウチの主神殿も、他の神話の神が出てくるんだったら俺も出ないわけには行かない、等と言いよってな。同盟の対価に色々と貰っている身とすれば知らんぷりもできぬし、お前も護衛をいくらか出してくれぬか?》

 

「いいよ。その代わりお願いがあるんだけど、もしテロが起こった時はグレモリーの所には俺を向かわせて欲しいんだ。白音ちゃん以外は死んでも構わないんだけど……ディオドラに灸をすえたいって言ってる人がいてね」

 

《良かろう。サーゼクスには儂から言っておこう。どうせ奴の事だから、できれば殺さないで欲しい、等と言うに決まっておるが……生きてさえ居れば言いのだろう?》

 

ハーデスと一誠は悪役のような笑みを浮かべながら打ち合わせを続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁ、グレモリーさん。さぁ、クジを引いて。……それにしても大変だね。聞いたよ、此の儘だと高校卒業と同時に冥界に帰還になるんだって?」

 

「……随分と嬉しそうね」

 

失態の連続で冥界政府のリアスへの評価は深刻なレベルになっていた。短期間に堕天使の侵入を二度も許し、一件目で契約者を殺害され、二件目は危うく街が崩壊する所だった。その他にもライザーとの婚約を我が儘で破棄、これによって関わっていた多くの貴族が面子を潰され、婚約を計算に入れてていた商売なども頓挫した。そして極めつけは会談の際に残していた眷属を使って妨害をされた事だ。この時点で次期当主としての資格を疑われ、ソーナに負けた事を切っ掛けにし、今後十分な成果を上げられないのなら冥界で鍛え直される事となったのだ。

 

 

そして、その事を話す一誠の声は嬉しそうだった。

 

「いや、君達が居るとテロリストが街にやって来るかも知れないじゃん? コカビエルも戦争を起こす為に君達を狙って来たらしいし。俺は両親が巻き込まれないように正体を隠してるけど、君達に巻き込まれてしまうかも知れないじゃん。……悪いけど、契約者一人守れない君達の事なんか信用してないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、引いたクジを邪魔だとばかりにゴミ箱に捨てたディオドラは今回の計画が上手く行ってアーシアを手に入れた後の事を夢想し、ほくそ笑んでいる。

 

「ああ、もう少しでアーシアが手に入る。ふふ、僕が罠にかけて追放に追いやったって知ったらどんな泣き顔を見せてくれるだろう? 怒って僕を苛めてくれるかな? 調教するのも楽しみだけど、そっちも楽しみだなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あんな奴に計画の片棒を担がせるのか。それにあんなのの身内に俺達は……」

 

「……言うな。虚しくなる」

 

そして、彼を遠くから観察していた二人の高貴そうな悪魔は計画に不安を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おかしいわね」

 

リアス達が転移してきたのは幾つも連なった神殿の前。何時まで経っても開始の合図が聞こえて来ない事に対し、リアスは怪訝そうに呟き、他のメンバーも首を傾げた

 

 

その時、神殿とは逆方向に大量の魔法陣が出現した。間近での決戦かと思い、戦闘態勢を取ったメンバーだったが、どれもアスタロト家の魔法陣ではない。

 

「魔法陣全てに共通点はありませんわ。ただ……」

 

「ええ、全部悪魔。それも、記憶通りなら『禍の団』の旧魔王派閥に傾倒した者達よ!」

 

リアス達の周囲に現れたのは上級中級合わせて千を超える悪魔達。その数にリアス達が焦っていると、

 

「キャッ!」

 

突如アーシアの悲鳴が聞こえ、振り返るとアーシアを抱きかかえたディオドラの姿があった。

 

「やあ、リアス・グレモリー。アーシア・アルジェントはいただくよ。彼女さえ手に入れたらゲームなんてどうでも良い。さっさと『禍の団』に殺されてくれたまえ。そうそう、運良く神殿の奥まで来られたら面白い物を見せてあげるよ」

 

「この卑怯者! アーシアを返しなさい!」

 

リアスはディオドラを睨みながら叫ぶも彼は笑ったまま消えていく。そして彼女達を囲んだ悪魔達は一斉に手に魔力を作り出し放とうとしていた。

 

「偽りの魔王の血縁者よ。此処で消えるがいい」

 

集まった悪魔がリアスを睨みながらそう宣告し、それが合図であったのか一斉に魔力が放たれる。リアスと朱乃は結界を展開し、祐斗は聖魔剣でシェルターを作り出してその上から置い防ごうとするも、何時までたっても衝撃がやって来ない。

 

「ぎゃあっ!」

 

「な、なぜ貴様が……」

 

魔力が打ち込まれる音が消え、代わりに聞こえてきたのは悪魔達の悲鳴。そして、のんきそうな声だった。

 

 

 

 

「彼らってさ、要は本来の王に付き従ったって者達だね? へ~、結構居るなぁ。今の王ってどんだけ人望がないんだよって話だよね」

 

「な、なんで貴方が此処に!?」

 

リアス達の目の前では一誠が悪魔達を葬っていた。無数に打ち込まれる魔力も赤龍帝の力が込められた鎧には通じず、反対に一誠が操る黒い球体は次々と悪魔の体を打ち抜いていく。腹や胸に風穴を開けられた悪魔たちは血反吐を吐き、臓物をまき散らしながら倒れていく。殆どの者が即死し、運悪く生き残ってしまった者は地獄の苦しみの中、殺してくれと叫んでいた。

 

「いやさ、ディオドラがテロリストと繋がりがあるって分かってたから、今回のゲームの時に襲撃があるって連絡があったんだ。爺さん達はテロリストに怖気付いたと周りに思われたくないから外で撃退してるよ」

 

「それで貴方は私達の救援ってわけね?」

 

「違うよ? なんで俺が君達を守らなきゃいけないの? あ、白音ちゃんは死んだら黒歌が悲しむから危なくなったら助けてあげるね」

 

一誠はリアスの言葉に対し、心底可笑しそうに笑う。その間も黒球は意思を持つように悪魔達を殺し続けていた。

 

「俺の目的はディオドラが気に入らないって人を此処に連れてくる事と……燃料の調達」

 

「燃料? ……新手!」

 

既に先程現れた悪魔達は壊滅状態に陥っていたが、空中には先程の何倍もの魔法陣が現れ其処から無数の悪魔たちが転移して来る。

 

「ははははは! これだけの数が相手では敵うま……」

 

中の一人が勝ち誇ったように高笑いを上げ、火の玉に包まれた髑髏に頭部を噛み砕かれる。何時の間にか悪魔達を取り囲むように霊達が出現していた。悪魔達が撃退しようと魔力を放つも効果はなく、ただ不気味な声でケラケラ笑い、骨だけの者達はカタカタとその身を震わせる

 

「うん! たったこれだけの数で俺に敵うとでも思った? 甘いよ! ……でもま、今日は俺も目的があって来た訳だし、ソイツらは逃げ出さ無い為の壁役だね」

 

一誠は仮面の下でニコリと笑うと呪文を紡ぎ始めた

 

『我、目覚めるは覇の理を求め、死を統べし赤龍帝なり』

 

『無限を望み、夢幻を喰らう』

 

『我、死を喰らいし赤き冥府の龍となりて』

 

『死霊と悪鬼と共に、汝を冥府へと誘わん!』

 

一誠の鎧がメキメキと音を立てて変貌し、両肩に黒い液体の入ったタンクとドラゴンの羽。そして黒く鋭い爪の生えた四本の腕が出現する。その瞬間、悪魔達を取り囲んでいた霊達は歓喜したかの様に一斉に笑い出した。

 

『ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!』

 

「くっ! なんて声だ」

 

その声を聞いた者達は耳を押さえ顔を苦痛に歪める。その声を聞いているとまるで全身を羽虫が這い回っているかの様な不快感と、体の中から切り刻まれているかの様な鋭い痛みを感じる。しかし、何故かリアス達には見に纏わり付くような不快感以外は感じれなかった。

 

「……呪い。この声には強力な呪いが含まれています。多分ここで仙術を使ったら直ぐに悪の気に取り込まれる程の……」

 

仙術使いとして日々成長している小猫は感じる瘴気に身を震わせる。すると一誠は神殿の方を指差した。

 

「良く分かったね、白音ちゃん。あ、神殿内には呪いを届かせてないから仙術を使っても大丈夫だよ」

 

「皆、行くわよ!」

 

リアスは今がチャンスとばかりに眷属達に支持を飛ばし神殿へと向かっていく。それを見送った一誠は悪魔達に向き直った。

 

「さ、やろうか?」

 

「な、舐めるな人間ごときがぁ! 数で押せ! 覇龍は長時間は持たん!」

 

覇龍は封じられたドラゴンの力を引き出す代わりに生命力を著しく消耗し、更には自我すら失う事すらある。膨大な魔力を持つヴァーリは魔力を消費する事でコントロールしているがそれでも消耗が激しく長時間は持たない。ましてや人間である一誠ならば短時間しか持たないだろう。……それが只の覇龍だったならばの話だが。

 

 

 

 

「あがっ!?」

 

一誠の背中の黒腕は悪魔達を爪で引き裂き、または握りつぶし、または殴り殺している。例え掠っただけに留めた者達も糸の切れた人形にようにその場に倒れる。そして一誠が暴れる度に背中のタンクの液体が少しずつ減っていった。

 

「あははははは! 散々偉そうにしておいてこの程度?」

 

「に、逃げろ! 勝てるわけねぇ!」

 

もはや戦意の無くなった一部の者達は逃げ出す。向かった先には霊達がいるが一誠に比べれば楽な相手であり、実際に魔力の一撃で体の殆どを破損させている。しかし、例え頭部の半分を砕かれ、下半身を消滅させられようともその動きは止まらない。既に死んでいる彼らに死への恐怖などなく、消えかかった体で悪魔達に襲いかかる。そして新手の半分が死んだ頃、一誠は両手と背中の四本の腕の手の平を胸の前に翳す。すると其処には黒い球体が現れ、霊達が一斉に姿を消す。

 

「怨念収束・超断末魔砲っ!」

 

その瞬間、黒球から途轍もないエネルギーの波動が放たれ悪魔達を飲む込む。波動が消え去った後には悪魔達は影すらなく、ゲーム用に作られた空間は神殿を残し殆ど無に帰っていた。そしてタンク内の液体は見る見る内に減っていき、当初は半分程度だったのが殆ど無くなって鎧も少しづつ崩壊し出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははは! この時を待ってたわ!」

 

その背後から一人の少女が聖剣でできた龍に乗って襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達は予定通りリアス達を出迎えろ。僕はもう少しアーシアの絶望した顔を楽しむことにするよ」

 

『はっ!』

 

その頃、リアス達が神殿に入ったのを感知したディオドラは妙な装置に埋め込まれたアーシアを眺めながら眷属に指示を飛ばす。これから暇つぶしに中止になったゲームの代わりをしようとしているのだ。

 

「はははは! 結局僕を苛めてくれそうにないけど、代わりに僕がたっぷり苛めてあげるよ。あ、そうだ。最初はリアス達の死体の前で君を犯そうかな?」

 

「……部長」

 

泣き腫らした顔で呟くアーシアに対しディドドラが改めて下卑た笑みを向けた時、その後頭部に何かがぶつかり、頭から何かが垂れてくる。

 

「なんだ? ひっ!?」

 

後頭部にぶつかったのは苦悶の表情を浮かべた『女王』の頭部。頭から垂れてきたのは首の切断面から巻き散らかされた彼女の血液だった。

 

 

 

 

 

 

 

「でひゃひゃひゃひゃ! 容赦ねぇな、姐さん! でも、良かったのか? このビッチ共も犠牲者かもしれねぇじゃん?」

 

「煩いわよ、フリード。肋骨を引きずり出されたいのかしら? それにテロに加担したなら捕らえてもロクな目に遭わないわ。犠牲者なら、尚更殺してあげるのが情けよ」

 

 

後ろには浄化されて消えていく眷属の死体と魔術師風の女性。そして神々しいオーラを纏った聖剣を持つ白髪の少年が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの女。まさか……」

 

一方、テロリストの相手をしていたオーディンは女性戦士引き連れテロリストと戦っているハンコックをジッと見ていた。

 

「オーディン様! 今は美人に見とれている時ではありません! くっ!」

 

オーディンに注意したロスヴァイセは斬りかかって来た悪魔と鍔迫り合いになり徐々に押され出す。しかし彼女が膝を付いた時、その悪魔はランスロットによって切り裂かれた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「は、はい。有難う御座いました!」

 

ロスヴァイセは真っ赤になりながら差し出された手を取って起き上がる。その姿をオーディンは呆れたように見ていた。

 

「……やれやれ、そっちこそ時を考えんか。しかし、あの女。やはり見た目や身にまとう力の質は偽装しておるが間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、赤龍帝がリリスすら配下に加えておるとはな……」

 

リリス。それは前ルシファーの妻にして、全ての悪魔の母と聖書に記された存在である。

 

 




ハンコック=リリスは彼女の案が出た頃から考えていましたがようやく出せました

意見 感想 誤字指摘 活動報告へのアンケートお待ちしています

オリキャラ案は浮かぶが自分の作品では使いづらいのばっか(つд⊂) 

キャス狐メインっぽい番外編漫画が始まったと思ったらccc編に 廉価版出たし買おうかな でもエクストラまだクリアしてないし 毎回レベル6上げはきつい セイバーでそれやったら楽勝だったけどキャスターだからなぁ

しかしセイバーってほんと子犬っぽい(笑)


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三十八話

「クルゼレイ、矛を下げてはくれないだろうか? 今なら話し合いの道も用意できる」

 

「ふざけるなっ! 堕天使や天使と手を組む貴様ら偽物の魔王と話し合いをする必要などない! 悪魔以外の存在は全て滅ぼすべきと何故わからない!? 悪魔こそが! 否! 魔王こそが全世界の王となるべきなのだ! オーフィスの力を利用する事で俺は新たな悪魔の世界を創る!」

 

観覧席へのテロが行われている最中、首謀者であるクルゼレイ・アスモデウスはアザゼルに決闘を申込み、サーゼクスは彼を説得しようとするも跳ね除けられる。そしてサーゼクスも彼を殺す覚悟を決め一触即発の空気となった時、二人の脳天に衝撃が走った。

 

「止めぬか阿呆どもがっ!!!」

 

「「がっ!?」」

 

二人の脳天に拳骨を落としたのはハンコックだ。彼女は息を荒げ二人を睨む。そしてその様に怒った姿さえ美しく、アザゼルどころかサーゼクスやミカエル、クルゼレイでさえも彼女に見惚れ、髪の乱れを直している。

 

「……サーゼクス様?」

 

「な、何でもないよ、グレイフィア! 君も行き成り何をするんだい。確か赤龍帝くんの部下の……」

 

「ええい! 喧しいわっ! それに誰があの小僧の部下じゃ! 妾は気紛れで力を貸してやってるにすぎん! ……取敢えずサーゼクス、クルゼレイ、グレイフィア。貴様ら今すぐ正座せよ。せ・い・ざ! 早よせぬかっ!」

 

「「「は、はい!」」

 

一同はハンコックの言葉に何か逆らってはいけない物を感じ、その場に正座する。テロに参加した悪魔達も彼女の言葉は咎める気がしないどころか従いたくなる何かを感じていた。言いつけ通りに正座した三人を満足げに見回したハンコックは大きく胸を反らし見上げるまでになった見下し方をしながらクルゼレイを人差し指でビシツと指差す。

 

「まずは貴様じゃ、クルゼレイ。悪魔以外の種族を全て滅ぼす? 詰まらぬ! 詰まらぬぞ貴様!」

 

「な、何が詰まらぬと……」

 

「ええい、黙れ! 妾が話している最中であろうが! 貴様ら小童共は大人しく話を聞いておれっ! 良いか? 悪魔以外の種族を滅ぼせば世界は詰まらなくなる。違う考えの者がおるからこそ、美食が! 芸術が! 娯楽が様々に進歩してきた! そしてそれは強制では無く、自発的に進めるからこそ素晴らしい物が生まれるのじゃ! 悪魔とは欲望に生きるもの! それを支配欲だけで済まそうとは不届き千万じゃ!」

 

「は、はい!」

 

ハンコックの迫力にクルゼレイは圧倒され、他の者もその姿を唖然としてみている。そしてハンコックは次にサーゼクスに向き直った。

 

「お前もお前じゃ! これだけ他の神話体系を巻き込んでおって、話し合いで済ますじゃと? 無理に決まっておろうが! ここで許せばその事に不満を持つ神が敵に回るだけ、それに現れて直ぐに、今なら話し合いの道はある、じゃと? 大人しくしないならぶっ殺す、としか聞こえぬわ! 大体最終的に殺すのなら端から殺しておかぬか! そうしておけば旧魔王派などできなかったであろうに」

 

「も、申し訳ございません。……リリス様」

 

サーゼクスはそう言い切って首を傾げる。何故か自分は自然と目の前の女性をリリスと呼んでいたのだ。前ルシファーの妻であるリリスとは見た目も違うし纏う空気も違うのにである。だが、自然と彼女をリリスと呼ぶ事に何の不自然さも抵抗も感じない。周りの者を見ても首を傾げながらもサーゼクスと同じ心境のようだ。

 

「……ふむ。気付かれたのなら仕方がない。小僧は面倒だから隠していてくれと言っておったが……妾は知らぬ」

 

そこに居たのは黒髪の見え麗しい美女ではなく、金髪の妖艶な美女。見た目は大きく変わったが醸しだす色気と美しさは先程までと遜色ない。周りの者達はその姿を見て固まっている。そしてそれは彼女に見惚れているからではない。彼らがよく知った相手だったからである。

 

「リ、リリス様!?」

 

「うむ! 妾こそが前ルシファーの妻にして、全ての悪魔の母と聖書に記されたリリスである! 者共、図が高い! ひかえおろう~!!!」

 

『ははぁ~!!』

 

先程まで戦っていた悪魔達は魔王を含め全員見事に某時代劇のノリでその場にひれ伏した。なお、彼女がカジノの権利書に代わりに所望した対価は某時代劇のDVD全巻だった。先程から黙っていたアザゼルだが、ついに我慢できなくなったのかリリスに近づいていく。

 

「お、おい! なんでアンタが此処に居るんだよ!? まぁ聖杯の力で蘇ったんだろうけどよ。赤龍帝に協力しているって事はアンタはギリシア勢力ってことか!?」

 

「たわけ! 妾は暇つぶしで協力してやっているのじゃ。死した後も妾の魂は意識だけ残った状態でこの世にとどまり続けた。なので小僧と会った時に退屈を紛らわす対価にたまに力を貸すと契約したのじゃ。本来ならばこの様な場所など気に入らんがな。……だいたいやる事がみみっちい! 世界を統べるとか在り来りすぎじゃ! 悪魔ならもっと凄い事を目指さぬか!」

 

ハンコックはそれだけ言うと満足気な顔をして消えていく。最後に思い出したようにグレイフィアを指さし、こう言った。

 

 

 

 

 

 

「……いい年してコスプレはするな。それともメイドプレイに目覚めたか?」

 

その時の彼女の瞳は幼い頃から良く見知った相手に向ける慈しみに加え、呆れや心配が混じった物だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤龍帝を殺す? 人間なんだから英雄派にスカウトしないの?」

 

「いや、無理だろう。どうも彼の考え方は俺達とは合わないらしい。だから、計画に支障が出る前に殺しておいてくれ。内通者の話によると旧魔王派が無能姫を殺す時に出てくるらしいから、スキを狙って殺せ」

 

「まっかせといて♪」

 

この時、二人は上手くいくと思っていた。いかに神滅具を宿していようとも所詮は人間、付け入る隙は絶対にある、と思ってしまっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……馬っ鹿だなぁ。君の存在なんて気付いていたに決まっているじゃん」

 

一誠は崩れかけた鎧の指先を聖剣でできたドラゴンの鼻先に添えて呆れたような声を出す。特に力を入れているようには見えないにも関わらずドラゴンはそれ以上進めないでいた。

 

「君が何処の誰でそのドラゴンがどういう存在とかは言わなくて良いよ。石ころの由来や名前なんてどうでも良いし」

 

一誠の背から生えた黒腕は今にも消え去りそうであり、風に震えている。タンクの中に入っている液体ももう殆ど残っていない。だが、一誠は少しも慌てず目の前の少女を敵としてすら認識していない。そして腕が一層激しく震え、

 

 

 

 

 

 

 

 

腕中に無数の口が出現した。

 

「……イタダキマス」

 

その声に呼ばれたかの様に悪魔達の死体から光る玉が現れ、先程消滅した悪魔がいた場所からも光の玉が出現する。そしてその全てが腕に出現した口に吸い込まれて行き、タンク内の液体が八割ほどまで満たされると同時に鎧も完全に修復された。

 

「なっ……あぐっ!?」

 

そのことに驚いた少女は驚愕の声をあげようとするも、いつの間にか急接近していた一誠に顔面を掴まれる。鋭く尖った指先が柔肌に突き刺さり血が滲んだ。

 

「俺の覇龍は殺した相手の魂を燃料にして保つんだ。力を一気に使えば消費も激しいけど、俺の生命力は一切削らない。……本当は別の形態もあるけど玉藻に使うなって言われているからね。……ああ、ごめん。今すぐ呪いを注入して楽にしてあげるよ。ま、死んだ後も苦しみ続けるけどね」

 

一誠は明るい声で少女に向かって残酷な宣言をする。少女は痛みと恐怖から涙を流し許しを請うように何か話そうとするが口を塞がれているために話せず、一誠の掌には呪いを表す文字が蛇のように連なり一誠の腕に絡まる。そしてその蛇が少女に迫った時、空間全体が大きく震えた。

 

『……相棒。少し派手にやりすぎたな。思わぬ客人を二匹も呼んだようだ』

 

ドライグの言葉と共に空間に穴が空き、赤い巨龍が出現する。

 

「……あれは……なんだっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グレートレッド」

 

「そうそう、グレートレッドだった。……久しぶりだね、オーフィス」

 

「一誠、久しい」

 

そして、黒いドレスを着た最強の龍神が一誠の背後に現れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ディオドラは眷属を殺した二人の闖入者に対し固まっていたが、急に得意げに笑い出す。

 

「ははははは! 面白いね、君達! オーフィスの蛇を飲んで魔王クラスになった僕に勝てると思ってるのかい?」

 

だが、二人は彼の事など眼中にないといった様子で話をしていた。

 

「……にしてもあっさり捕まりすぎんだろ。性格上攻撃できなくてもよ、時間稼ぎや牽制手段としての攻撃方法を覚えておくべきだろ? せめて結界くらい習得しとけよ、アーシアちゃ~ん。……優しさは無能の免罪符にならないんだぜ?」

 

「まぁ、そこは王の責任でしょう。回復だけしかできない回復役は格好の獲物よ。守る必要があるから相手の攻撃は手薄になるし、倒せば動揺も誘えるしね」

 

「……舐めるなぁぁぁぁ!!」

 

激高したディオドラは魔力を二人に向かって放つ。だが、男が持つ聖剣のオーラによって全て消し去られてしまった。

 

「んじゃ、俺が行っても良いんだよな?あのマッドに改造されて漸く聖王剣を使用できるようになったんだから暴れさせてくれよ」

 

「……ダメよ。まずは呪いをかけなきゃ。じゃないと中途半端な所で死んじゃうわよ?」

 

その時ディオドラは言い表し様のない寒気を感じていた……。




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三十九話

閻魔大王って元人間らしいし、サーヴァントになれるのだろうか? 宝具は地獄を固有結界?

眠いので短めです 明日にはこの巻を完結させたい 四冊も漫画買ったので書くのも遅れました


一誠は自らが赤龍帝である事を必死に隠している。それは刺客を避ける為であり、全て両親の為であった。戦う力を持ち頼もしい部下も常に傍に居る自分と違い、両親は普通の人間だ。一誠は常日頃からこう考えている。

 

「俺が敵ならまず両親を狙うよ。人質にするもよし、復讐に殺すもよし。あの二人は俺の宝でありアキレス腱だ」

 

昔から霊が見える事で一誠は普通の少年ではなかった。他人には見えないものが見え聞こえない声が聞こえる。そんな異常な状況化で精神をすり減らしていく一誠が完全に壊れなかったのは両親の深い愛情があったからだ。一誠も護衛として部下を付けているものの絶対はない。その思いを汲んだオリュンポスの神々や冥府の死神達も他の勢力の前では絶対に名を呼ばない様にしている。其のくらいの気を使われる程度には彼は慕われていた。

 

《あの龍神め、余計な事を言ってくれる》

 

ハーデスは骨だけの顔で苦虫を噛み潰したような顔をする。苛立ち紛れに襲ってきたテロリストの頭を握り潰しながら画面に映ったオーフィスを睨む。その少女は大勢に聞こえる場で一誠を名前で呼んだのだ。まだほかの神話の神なら良かっただろう。だが、アザゼルには完全に気付かれてしまったかもしれない。やはり兵藤一誠こそが赤龍帝なのだと。

 

《……そろそろ潮時なのかもしれんな。小僧には覚悟を決めて貰わねば……》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一誠、我あれを倒して次元の狭間帰りたい。協力して」

 

「……やだ。ってか、名前呼ばないで。此処の様子って中継されてるだろうから」

 

一誠は顔に手を当てて困ったように言う。その間にもグレートレッドは次元の狭間に帰って行き、オーフィスは不満そな目を一誠に向ける。そしてテロリストの少女は一誠か手を自分の顔に当てたおかげで解放され、一目散に逃げ出した。

 

『相棒、追わんでいいのか?』

 

「……別に良い。今は長年の苦労が水の泡になって気が沈んでるし……呪いはちゃんと掛けたよ。神代の魔女と最強の呪術師が一緒に作った特製の呪いその2をね。オーフィスも帰って。じゃないとサマエルの毒を喰らってもらうよ?」

 

「……分かった。でも我諦めない」

 

オーフィスはサマエルの毒という言葉に少しだけ反応し、少々名残惜しそうに消えて行く。

 

「……さぁ~て、さっさと向かうとしょうか。ディオドラを使って憂さ晴らしさせて貰おう……」

 

一誠はそんな物騒な事を呟きながら神殿に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーシア!」

 

その頃、リアス達はようやく奥の神殿までたどり着いた。先程から神殿を素通りするだけで敵の姿がない。ならばこの一番奥の神殿で待ち構えているのか、と思いながら突入したその時、内部から悲鳴が聞こえてきた。

 

 

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!! も、もうこんなの気持ち良くない! 年増に痛めつけられた所で……」

 

「誰が年増ですってぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

ディオドラは見えない十字架に貼り付けにされているような格好で宙に浮き、その体を雷撃や炎が焦がし、猛烈な冷気が凍らせる。そして見覚えのある白髪の少年が聖剣を何度も彼の体に突き刺していた。

 

「あひゃひゃひゃひゃっ! コールブラントの味はどうよ? 痛いよなぁ、死にたいよなぁ? でも残念でした! 君は死ねましぇん! なんてねっ!」

 

「フリード!? ……赤龍帝が聖杯で蘇らせたのね」

 

リアスがフリードを苦々しげに見つめているとその視線に気付いたフリードが振り返る。

 

「あらら~♪ その赤髪は無能姫さんじゃあ~りませんか? 何? 今頃お出ましな訳? ぐひゃひゃひゃひゃ!」

 

「悪いけど、あの小僧は私達の獲物よ。貴女はあの子を助けてきなさい」

 

メディアはリアス達の方を向かずにそう言うと右手の人差し指を振る。するとその指の動きに合わせるかのように身動きが取れないディオドラが動き、まるでピンボールの様に壁を跳ね返る。既に顔面を何度も強打した事で歯は折れ鼻の骨は砕け。顔中腫れ上がっていた。そして手足は折れ曲がり、体には先程受けた魔術による火傷や凍傷、聖剣による傷など明らかに致命傷という物があるにも関わらず彼は辛うじて生きていた。

 

「殺し……てく……れ……」

 

血を吐きながらか細い声で彼は懇願する。だが、帰ってきた答えは非情だった。

 

「あら、無理よ。その呪いは私には解けないわ。掛けるのは何とか出来たけど、解くのは専門外なのよ。それに権力者の夢でしょ? 折角の不死を楽しみなさいな」

 

「悪いな。いくら反逆者でも魔王の身内を殺したら面倒なんでな」

 

メディアが掛けた呪いは彼女と玉藻が作り出した呪いその1。効果は彼女が言った通り不死。それだけなら良い様に思えるが、受けた傷は絶対に治らず痛みも消えなく気絶もできない。死んでない方がおかしく、死んだ方が良い、という状態で生き続けるというものだった。

 

 

 

なお、フリードが言った理由は建前でしかなく、本当の理由は彼が気に入らないでしかなかった。今も彼の頭を壁に擦りつけながら動かしている。既に想像を絶する痛みを感じているディオドラだが呪いのせいで気絶も気を失う事も許されず、ただ彼女の気が変わって死なせてくれるのを待つばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うわ~、こりゃひっどいねぇ」

 

「あら、殺してないんだから別に良いじゃない。約束は守ってるわ」

 

どうせ正体はバレているだろうが最後の悪あがきにと、一誠が禁手状態を保ったままが到着すると其処にはディオドラだった物が横たわっていた。どれほどダメージを受けても命を保つ最低限までは治癒され、再び拷問のように痛めつけられる。心が壊れることすら許されないを見て一誠は口では同情したような事を言うも、そのトーンは彼の事などどうでも良いと語っている。そしてその視線はアーシアの方に向けられていた。

 

『相棒、あの装置はおそらく神滅具で作られている。覇龍を使って体力を消耗した今の状態のお前では少々骨が折れるぞ。最悪禁手が解ける』

 

 

 

リアス達は装置に埋め込まれたアーシアを助けようと装置を破壊しにかかるもビクともしない。

 

「お願い、この装置を壊すのを手伝って!」

 

リアスがそう叫ぶも一誠は面倒くさそうに首を振った。

 

「いや、その装置って神滅具で作られてるっぽいってドライグが言うんだ。俺の覇龍って生命力は無事だけど体力は結構食うし、破壊できる保証はないよ? 別にその装置ごと持って帰って魔王にでも壊して貰えば?」

 

「アーシアが言うには、この装置はアーシアの回復の力を反転させて観覧席に向かって発動するらしいのよ!」

 

今、観覧席には同盟相手の神々や三大勢力の者が大勢いる。もしそんな事になれば大惨事となるだろう。ソレを聞いた一誠はフリードの方を向いた。

 

「了解っ!」

 

それだけで彼の言いたい事を察したフリードはコールブラントを構えアーシアに近づいていく。

 

「ちょっと、何をする気!?」

 

「決まってんだろ? 下級悪魔一人と他神話の神を含む大勢。天秤に掛けるまでもないってな!」

 

フリードはそのまま聖剣をアーシア目掛けて振り下ろした……。




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漫画版エクストラ 結局殺すならなぜ二人共助けたのだろうか? 心情を聞く為? それとも平和男と戦う動機付けかな?


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四十話

俺、キャス狐でエクストラクリアしたらccc買うんだ(今六回戦) 紅茶?


「俺が本気で怒っている時と覇龍を使っている時は出て来ないで。……そんな姿を君には見せたくないから」

 

玉藻が今の姿を得て直ぐのある日の事、一誠は玉藻にそんな頼みをした。

 

「大丈夫ですよぉ。私はそんな所を見ても嫌いになったり……」

 

「……お願い」

 

自分自身を外道と言い切る一誠であったが、自分が本当に醜いと思う姿だけは玉藻には見せたくない。そんな思いを感じ取った玉藻は彼が本気で怒った時には絶対に姿を現さない。そう誓った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「安心して! アルジェントさんは装置に枷で繋がれているだけだから手足を切り落とせば大丈夫。ほら、切り落とした手足」

 

一誠は手足を切断する事で装置から解放されたアーシアと彼女を抱き抱えるリアス達を一瞥すると血まみれの手足を枷から取り外す。それを受け取ったリアスはアーシアの血でその身を汚しながら手足を切り落としたフリードと一誠を睨んできた。

 

「よくもアーシアの手足を! 絶対に許さないわ!」

 

「え~? だって仕方ないじゃない。それとも公爵家の眷属は他の勢力のトップ陣より優先されるの? それは偉いんだね! そもそも君がその子に自衛の手段も身につけさせず、間抜けにも攫われたからでしょ? ほら、どいて。治すんだから」

 

一誠はリアスを押しのけるとアーシアの手足の切断面を合わせ、フェニックス家からの賠償品であるフェニックスの涙を振りかける。すると切断されていた手足は綺麗にくっついた。本来ならコールブラントで斬られれば消滅してしまうのだが、アーシアの手足を切断する際、フリードは完全にオーラを押さえ込んでいたのだ。

 

「さ、帰ろうか。俺もディオドラで憂さ晴らししたかったけどもう良いや。あ、フェニックスの涙の料金は後で請求するね」

 

一誠はフリードとメディアを引きつれ帰ろうとする。しかしその行く手を小猫が防ぎ、真剣な瞳で彼らを見つめていた。

 

「……ひとつ聞かせてください。貴方が三大勢力が嫌いという事は分かっています。でも、部長に対してはそれが特に強いです。どうしてなんですか?」

 

「あはははは! 他人の気持ちなんか分かる訳無いじゃない。それと俺がグレモリーを嫌う理由? 嫌わない理由を探すほうが難しいよ。あえて挙げるなら命より自分のプライドを優先させる所かな? ハッキリ言って反吐が出るよ」

 

一誠は吐き捨てるようにそう言うと転移しようとし、飛んできた魔力を片手で払いのける。不機嫌そうに振り返った先には高貴そうな服装の悪魔がいた。彼は一誠に対して警戒しながらも見下したような視線を向ける。

 

「我が名はシャルバ・ベルゼブブ。赤龍帝……いや、兵藤一誠と呼んだ方が良いか? 貴様の力は人間ながら見所がある。家族を襲われたくなければ私の手下となるが良い!」

 

「……はぁ」

 

それを聞いた一誠は溜息を吐くと禁手を解いた。

 

「イ、イッセー!? マジで赤龍帝がイッセーなのかよ!?」

 

驚いた松田は一誠に近づこうとするも小猫に裾を掴まれて止められる。彼の服の裾を掴む小猫の体は震えており。仲間であるメディアも冷や汗を流し距離をとった。

 

「拙いわね。坊やがキレたわ……」

 

「……あ~、もう。覇龍使用で疲れてるっていうのに何奴も此奴もイライラさせて……。来い、シャドウ」

 

『あ、相棒! アレは辞め……』

 

ドライグの必死で制止しようとする声も虚しくシャドウは一誠の背後に現れ、直様一誠の影に溶けていく。そして一誠の口から呪文が紡ぎ出され出した。

 

『我、目覚めるは全てを喰らいし赤龍帝なり』

 

『天地を飲み込み、希望を消し去る』

 

「……あまり持ちそうにないわね」

 

呪文を紡ぐ度に一誠の体から悍ましいオーラが溢れ出し、オーラに触れた壁や天井が飲み込まれていく。まるで意志を持つ触手のようにウネウネよ動く其れはメディアが咄嗟に張った結界で防がれるも彼女の表情は優れない。

 

「させるかぁぁぁぁっ!」

 

目の前の光景を理解できないが辛うじて非常に危険なものだと本能で理解したシャルバはオーフィスの蛇を飲んで得た力を全て注いで魔力を放つもオーラによって阻まれ、逆に伸びてきたオーラに足を絡め取られる。

 

「ば、馬鹿なっ!?」

 

彼の体は徐々に黒く染まって行き、体の感覚が無くなっていった。そしてその間も一誠の呪文は途切れず、オーラはますます悍ましさと力を増していきメディアの結界にもヒビが入り始めた。

 

『我、全てを滅ぼす破壊の化身となりて』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お止めください、ご主人様!」

 

「た、玉藻?」

 

一誠が最後の呪文を紡ごうとした時、先程から姿を現さなかった玉藻が現れ彼の腕を掴む。オーラは容赦なく彼女の体を蝕むも一誠の手を握る玉藻の手の力は弱まらず、そのまま片手で一誠の頬を打った。一同が呆然とする中、玉藻は両方の眼から大粒の涙を零す。

 

「それは…私のサポート無しじゃ…使っちゃダメだって言ったじゃ…ないですか…。もう、好きな人を…失いたく…ないんですよ」

 

「……ごめん」

 

一誠は泣きじゃくる玉藻をそっと抱き寄せる。何時の間にか一誠の体からは先程までのオーラが消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日の夜、一誠は両親に話があると言ってリビングに呼び出す。その隣には玉藻の姿があった。

 

「一誠? そちらの子は? もしかして話って彼女?」

 

「変わった格好だが中々美人じゃないか。それでお名前は?」

 

人付き合いの苦手な息子が美女を連れてきた事に両親は喜ぶ。格好は気になったが、友達の一人も連れて来た事のない息子が彼女を連れて来たという事の前では、そんな事など何処かに行った。しかし、その表情は次の瞬間固まる事になる。目の前の美女は彼らが知る子狐になったからだ。

 

「玉…藻…?」

 

 

彼らも玉藻を可愛がっていたので目の前の子狐が飼っていた子狐と酷似している事に気付く。二人が呆然とする中、一誠の背後からハーデスが現れた。急に現れた動くガイコツに二人の表情は固まり、壁際まで飛び退いた。

 

「お、お化け!」

 

《……お化けに向かってお化けって言う者に初めて会ったな。儂はお化けではない。冥府……地獄の王であり、お二人の御子息の上司だ》

 

「……父さん、母さん、ずっと隠していて御免なさい。俺、霊能力者なんだ」

 

一誠は両親に今までの事を語った。霊が見える事に始まり悪魔などが実在する事。そして自分が数年後には家を出て行く事を……。最初は信じなかった二人だが次々と証拠を示され、何より息子の真剣な目を見ては信じるしかなかった。

 

「そ、そんな……」

 

「……」

 

全てを聞かされた一誠の母親は顔面蒼白となり、父親はズッと黙っている。

 

「……本当はずっと隠しておきたかったんだ。でも、俺の正体がバレて……。知っていないと避けられない危険もあるから」

 

《残酷なようだがお二人の息子の力は人間の領域を越えている。もはや何処にも所属しないという訳には行かんのだ》

 

「ッ!」

 

ハーデスの言葉に母親は泣きながら部屋を飛び出す。後を追うとした一誠だが、その手を父親が掴んだ。

 

「父さん?」

 

「……母さんの事は私に任せなさい」

 

父親は一誠を座らせるとハーデスに向き直る。

 

「……それが、息子と私達夫婦の為なのですね?」

 

《ああ》

 

ハーデスの返事を聞いた父親は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「至らぬ所の多い愚息ですが、どうぞ宜しくお願いします」

 

そう言って深々と頭を下げた。

 

《任せておけ。其方らの息子は儂が責任持って預かる》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おはよう、母さん、父さん」

 

次の日の朝、結局母親とはあれっきりだった一誠は気不味い思いをしながらリビングに入る。すると台所に立つ母親と……玉藻の姿が目に入った。

 

 

「玉藻、これがウチの隠し味よ。貴女の料理も美味しいけど兵藤家の嫁になるなら覚えてね?」

 

「はい、お母様! えへへ……こういうのって何か良いですね」

 

二人はまるで母娘のように和気藹々と料理を作る。そして漸く息子に気付いたのか母親は振り返った。

 

「人間の姿になっても玉藻は良い子ね。娘が出来たみたいだわ。ふふ、もともとこの娘はうちの子だったわね。さぁ、席に着きなさい」

 

「う、うん」

 

昨日とは違い落ち着き払った母親に戸惑いながらも一誠は席に着く。やがて二人が作った美味しそうな朝食が並べられ、四人は一緒に朝食を取り出す。そしてその途中、母親が一誠に向かって口を開いた。

 

 

 

 

「昨日、父さんに言われたわ。貴方が出ていくのが避けられないなら、それまでの時間を大切にしよう、ってね。たまには帰って来れるんでしょう?」

 

「う、うん。……本当に御免ね」

 

「あらあら、いい年して泣かないの」

 

自分の言葉を受け泣き出した息子に対し、母親は慈しむような笑顔を向けていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……所で玉藻以外にも親しい女の子が居るんですって? 後でジックリ聞かせて貰うわよ?」

 

「は、はい!」




両親が受け入れるにが早すぎ? 原作だって何人も変態の息子に惚れて居候するの受け入れてるじゃん(笑) まぁ、洗脳されてるんだろうけど

意見 感想 誤字指摘お待ちしています

次回は番外編!


シャルバについてはその内……


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外伝 最凶の赤龍帝と最弱の赤龍帝 ①

ランスロットって伝承によるとバーサーカーだけじゃなくってランサーやライダーのクラスにも当て嵌りそうなんですね

にじふぁんの時はフェイトよく知らなかったから流し読みしていたss今なら読みたい

ギルと麻婆シスターの間に子ができて計画が狂ったって奴 移転してないかな?


両親に全てを話してから数日後、一誠は休日の午後をベットの上でまったりと過ごしていた。玉藻は母親と買い物に行っており、今家に居る人間は彼だけだ。やがて襲ってきた睡魔に抗う事なく一誠は意識を手放す。

 

 

 

「お兄ちゃん、遊んで!」

 

「お兄ちゃん、遊びましょ!」

 

「ぐふっ!?」

 

そして急に腹部に衝撃が襲い掛かり、強制的に目覚めさせれる。一誠の上には無邪気な笑顔を浮かべるありすと悪戯げに笑うアリスが乗っかっている。どうやら先程の衝撃は二人が飛び乗った事による物のようだ。

 

「……悪いけど寝かせて。昨日から書類業務もやる事になったんだ」

 

「やー! あ~そ~ん~で~! ゲームしよ、ゲーム!」

 

「ありすはこうなったらテコでも動かないわよ」

 

結局、一誠は根負けしベットから起き上がる。二人がやりたいと言い出したのは世界一有名な配管工が主役のレースゲーム。最大四人までプレイできるので後一人誘う事ができる。

 

「え~と、後一人適当なのを。俺に遠慮せずに本気でプレイしそうな奴は……」

 

『旦那! これ見てくれよ!』

 

一誠が誰を誘うか迷っているとグレンデルが現れる。彼の手にはすっかり嵌ってしまった手芸の新作が握られていた。今グレンデルが熱中しているのは糸と布で絵を描くファブリックピクチャーという物で、月夜の海と海面を跳ねるイルカが描かれている。飛び散る水滴まで描かれており、既に超一流の域まで達していた。

 

「すっごーい! ねぇ、次はウサギさんが良い! ウサギさん!」

 

『おっと、わりぃな。次の作品は決まってるんだ。ズバリ、地獄の門だ! 一メートルを超える大作の予定だぜ!』

 

「……君って邪龍だよね?」

 

『ん? なんだよ今更』

 

「……まぁ、君が良いんなら何も言わないよ」

 

その後、グレンデルもゲームに参加する事となり、四人はテレビのあるリビングへと向かう。そして扉をあけた時、一誠達の全身をヌメリとした嫌な感触が襲った。

 

「皆!」 

 

『……ああ、分かってるぜ。強制的な転移だな』

 

「ありす、名無しの森の準備よ!」

 

「うん!」

 

入ったリビングは明らかに面積が増え、見覚えのない家具も置かれている。四人は何者かによって転移させられたのだと察し、戦闘態勢を取る。すると誰かが部屋に近づいてきた。四人が警戒する中、リビングの扉が開き、

 

「あら? 出かけたんじゃなかったの。イッセー? 其れにその女の子達とドラゴンは誰?」

 

リアス・グレモリーが入ってきた。

 

「……グレモリー? まさか君の仕業?」

 

妙に親しげな態度を取るリアスに違和感を感じながらも警戒を解かない。対するリアスはなぜ警戒されているのか分からないといった態度を取っていた。

 

「も~! リアスって呼んでくれるはずでしょ? それに貴方も将来的にはグレモリーになるんだから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「巫山戯るな、なんで俺がグレモリーになるんだ! どうやら無能姫の名は伊達じゃない様だね」

 

『……なぁ、旦那。此奴ぶっ殺して良いのかよ?』

 

一誠達から溢れ出す殺気と敵意を感じたリアスは狼狽し出す。ありす達も黙ってはいるが彼女に向かって殺気を飛ばしていた。

 

「ど、どうしたのよ、イッセー!? 私何か怒らせるような事した?」

 

「怒らせるような事したかって? 君が馴れ馴れしく話しかけてきたからに決まってるじゃない。言ったでしょ? 君の事は反吐が出るくらい嫌いだって」

 

「ツ!」

 

一誠の言葉を受けたリアスは泣きながら去っていく。それを見た一誠は首を捻った後、部屋を見渡す。所々リフォームされている様だが、どうやら兵藤家のリビングに間違いが無いようだ。どういう事だと考えていると不機嫌そうな足音と共にリアスを連れたグレモリー眷属と、何故かゼノヴィアが入ってきた。

 

「イッセー君、どういう事ですの!? リアスに対して嫌いだなんてっ!」

 

「ちょっと冗談では済まされないよ」

 

前に出てきた祐斗と朱乃は咎めるように言ってくるが、状況の飲み込めないまま親しくもない相手に馴れ馴れしく話しかけられた一誠のフラストレーションは溜まっていった。

 

「……さっきから馴れ馴れしいよ。君達にそんな呼ばれ方をする覚えはないんだけど? って、言うかなんで君達が俺の家に? 早く出て行ってくれないかい?」

 

「でてけー!」

 

「無能姫とその仲間は出て行って。悪魔を招き入れた覚えはないわ」

 

殺気を剥き出しにする一誠に朱乃達が戸惑う中、又してもリビングに入ってくる者が居る。入って来たのは……一誠だった。

 

「ただいまー! あれ? 皆固まってどうしたんだ……俺がもう一人?」

 

《それだけじゃない。彼奴からも俺の気配を感じるぞ》

 

「……取敢えずこっちの一誠が本物のようね。貴方は何者かしら?」

 

「そっちの俺こそ何者なの? 随分弱々しいけど悪魔みたいだね。……取敢えずそこの堕天使総督が何か知ってそうだけど?」

 

後から来た一誠の姿を見たリアス達は一誠に警戒心を向けた後、アザザルの方を見る。彼は気まずそうに目を逸した。

 

「いやぁ~、実はよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『平行世界の一誠を呼び出したぁ~!?』

 

アザゼルが言うには並行世界の住人を呼び出す機械を発明したので一誠で試してみたというのだ。それを聞いた一同は驚愕し、一誠は不機嫌そうな顔をしている。

 

「……全く、迷惑な事だね。堕天使ってのはロクな事をしないよ」

 

「まぁ、そう言うなって、イッセー。……さっきから思ってたんだがお前もしかして人間のままか? それに後ろのドラゴンは……グレンデル!?」

 

『グハハハハ! そうだぜ、俺はグレンデル様だ』

 

「なんで此奴が居るのかは面倒だから説明しないよ。……それとこっちの俺はどうかは知らないけど、俺は君達の事嫌いだから馴れ馴れしく呼ばないでね」

 

一誠のその言葉に一同は息を呑む。目の前に居るのは別人だと分かっていても、顔も声も仲間であり慕っている一誠の物なのだ。そんな彼らの心情など知らず、ありす達は一誠の両隣に座ってリアス達を睨んでいる。そんな中、こちらの世界のドライグが不安そうに話しかけてきた。

 

《なぁ、そちらの世界の俺よ。そっちの相棒はまさか乳をつついて禁手に至ったりはしてないよな?》

 

『馬鹿か、貴様は? そんな方法で禁手に至る阿呆が何処にいる。俺の相棒は十歳の時に亜種の禁手に至り、十二歳の時にはオリジナルの覇龍を習得したぞ。……まぁ、少々性格には難が有るがな』

 

《うぉぉぉぉん! なんでそっちの相棒はまともなんだぁぁ!? 俺の相棒なんて乳龍帝なんて呼ばれてるんだぞ!?》

 

『……それがどうした! 俺なんて、俺なんてぇぇぇぇぇっ!!』

 

あまりの差にこっちのドライグは泣き出し、リアス達はコッチの一誠……イッセーを呆れたように見た。

 

「気にしない方が良いよ。俺の所のドライグなんて俺が適当に言いふらした嘘のせいでロリ龍帝ペドライグなんて呼ばれてるんだから。ちなみにアルビオンはショタ龍皇ホモビオンって呼ばれてるよ。……あ、俺はノーマルね。恋人は普通だから」

 

過度のストレスからか両方のドライグから反応が無くなる。そんな中、リアス達は最後の言葉に反応していた。

 

「あ、貴方、恋人がいるの!?」

 

「いや、普通に居るよ? まぁ、人間じゃないけどね」

 

「そ、そう……」

 

やはりイッセーの姿で自分以外の恋人が居ると言われるのはショックなのかリアスは気落ちした様子だ。そんな中、アザゼルは先程聞いた亜種の禁手やオリジナルの覇龍について聞きたそうにしている。

 

「所で俺は何時になったら帰れるの?」

 

「あ、ああ。今から二時間後には帰還装置が発動するぜ。……そんな事よりも亜種の禁手について教えてくれよ」

 

「嫌だね。言っておくけど俺もあんたの部下に命を狙われたし、俺の世界では無能姫と陰で呼ばれている彼女にさんざん迷惑かけられたんだ。好意的に接する訳無いでしょ?」

 

アザゼルの頼みをバッサリと断った一誠に対し、イッセーは不機嫌そうに話しかけた。

 

「なぁ、あっちの俺よぉ。さっきから失礼じゃないか? そっちのリアスがどんな事したか知らないが、コッチのリアスは優秀なんだぜ?」

 

「うん! そうだね、ごめん。あっちの君があまりに無能だったから、つい」

 

「……其処まで言われるなんて、そっちの私は何をしたの?」

 

この時、リアス達はタカをくくっていた。所詮は並行世界の事に過ぎないと……。




話し合いのシーンは思いついたがそれまでが難産 続きはで明日 展開は思いつき済み!

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外伝 最凶の赤龍帝と最弱の赤龍帝 ②

な、長くなりました

今年のタイプムーンのエイプリル企画はなんだろう?


「いやぁ~今日はついてますね、お母様♪」

 

「そ、そうね」

 

一誠の母親と買い物に出かけた玉藻は尻尾と狐耳を隠し、一誠の服を借りて出かけている。その右肩には商店街の福引で当たった米俵が担がれており、大勢の注目を色んな意味で集めている。絶世の美女なのだが米俵を軽々と担ぐ其の姿にナンパする者も居らず、中には声をかけようとする剛の者も居るがひと睨みされた瞬間に謎の腹痛に襲われる。

 

「おめでとう御座います! 貴女方が当店百万人目のお客様です!」

 

「ああ! それは私の落とした二千万! コレはお礼のニ百万です!」

 

このように先ほどから幸運が続き、帰る頃には最高級の牛肉やら蟹やらが荷物に加わる。財布の中身も一誠の父の年収を超え少々持ちづらくなっていた。そんな中、二人を建物の屋上からジッと見ている影が一つ。

 

「……あれが赤龍帝の母親と手下か。此処は一つ仕掛けて……」

 

学生服の上から韓服を纏った彼は何もない所から槍を取り出しスっと目を細め、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然雷に打たれた。

 

「あばばばばばば!?」

 

「落雷よ!」

 

「牛丼屋の屋根の上にいた青年が死んだ!?」

 

……多分死んでない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何かしら、あの騒ぎは?」

 

「いえいえ、お気になさらずに。ちょ~っと虫にお仕置きしただけですから♪」

 

母親の疑問を軽く流した玉藻は家の玄関まで辿り着きドアに手をかけた所で動きを止める。何時の間にか飛び出た尻尾と耳の毛が何かを警戒するように逆立っていた。

 

「……これは術の痕跡? ちっ! お母様はポチの所へ! 私は家の中に突入します!」

 

「わ、分かったわ!」

 

一誠の母がポチの所に行ったのを見届けた玉藻は尻尾を全て出した状態で家に突入し感じ取った術の痕跡を追う。リビングに入った彼女が見つけたのは一誠と他数名の匂いの痕跡と時空の歪みだった。

 

「待っててください、ご主人様!」

 

玉藻は迷う素振りも見せず歪みに干渉して空いた時空の穴に飛び込んだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~と、並行世界の君が、何故、無能姫と呼ばれるかだったよね? 実は最近までは高評価だったんだけど、ここ最近で急に転落したんだ」

 

「そんな短期間で!?」

 

一誠の言葉にリアスは息を呑む。並行世界とは言え自分の評価が急落したのだ。その理由は自分の為にも聞いていた方が良い。そう判断した彼女は真剣な顔で耳を傾ける。

 

「まずは学習能力の無さだね。こっちの……もう一々何方のとか言うの面倒だから無能姫で良い?」

 

「……構わないわ」

 

「まぁ不快だろうけど我慢してね? 実は無能姫は短期間に同じ失敗を繰り返すというミスを二つもしてるんだ。一つ目は領地への堕天使の侵入。一回目は下っ端に侵入され、挙句の果てに契約のお得意様を殺されるというミス。二回目なんて幹部であるコカビエルが部下と共に聖剣持って侵入したのにも気付かないんだ。ね? 無能でしょ?」

 

「……」

 

一誠は気付いていないが、リアスは全く同じミスをしているので無言で返すしかない。その拳は握り締められ僅かに震えていた。それは悔しさだけでなくイッセーと同じ顔同じ声で自分を無能と言われる事の悲しさも含まれているのだ。それに気付いた朱乃達は心配そうに見ている。そんな事など気付かないで一誠は続きを話しだした。

 

「二回目なんてあと少しで街が崩壊する所だったんだ。俺が居なきゃ危なかったよ。大体さぁ、そんな大物が侵入したならちゃんと助っ人の要請しておくべきだよね。そしてもっと酷いのは二個目。なんとアルジェントさんとヴラディ君がテロに利用されたんだよ。どっちも自衛手段を身に付けさせてれば防げたかもしれないのにさ。後は我が儘で婚約を破棄させようとしたり、学校を私用で十日も休んだのに兄の権力利用して公欠にしたり、旧校舎を私物化したり。……ほんと、無能な上に街の人間にとって疫病神としか言いようがなかったよ」

 

一誠はそう言い終えたあとに笑いだしたが様子がおかしい事に気付く。イッセー達が自分に敵意を向けており、リアスなどは俯いて泣いているようだ。その姿を見て一誠は全てを悟った。こっちのリアスも無能姫だったと。

 

「……何だ、こっちの君も無能なんだ」

 

「ッ! テメェ! 取り消せ! 今すぐ取り消してリアスに謝れ!」

 

激高したイッセーは一誠の胸ぐらを掴んで睨むも一誠の表情は冷めた表情のまま変わらない。

 

「俺が言ってるのは本当の事でしょ? 彼女の無能さでどれだけの人が危険な目にあって迷惑を被ったっと思ってるの?」

 

「俺達はすべて自分で解決してきた! ギャスパーだってアーシアだって自分達で助けたし、攫った奴らはぶっ飛ばした!」

 

一誠の言葉でついにリアスは本格的に泣き出してしまいイッセーの怒りは最高潮に高まる。そして一誠の顔面にイッセーの拳が迫った時、

 

 

「させないよ」

 

「させないわ」

 

「がっ!?」

 

ありすとアリスによって蹴り飛ばされる。数メートルもの距離を幼女二人に蹴り飛ばされた一誠は小猫によって受け止められた。

 

「……大丈夫ですか?」

 

「な、なんとか。有難う、小猫ちゃ……」

 

イッセーは小猫にお礼を言おうとした時に一誠を見てしまう。彼は心底自分を見下した目をしていた。

 

「……あのさぁ、ミスしたらそれを補うのは当然でしょ? ミスした時点で大勢に迷惑掛けてるんだから、後でそうしようと意味がないんだよ。例えばさぁ、会社の取引先を怒らせて大事な契約を切られかけたとするでしょ? その後何とか契約打ち切りを防いだとして、評価は上がる? 下がる? 変わらない?」

 

「……くっ!」

 

イッセーはその質問に答えられない。もし答えてしまえばリアスが無能だと認めてしまう事になるから。その時、彼の頭に疑問が過ぎった。あっちの自分が眷属でないならディオドラがアーシアを攫った時、どうやって装置から開放したのかと。その質問に彼は笑って答えた。

 

「あれ? 枷が邪魔だったから手足ぶった切って開放したよ。ちゃんとフェニックスの涙を使ったから安心してよ」

 

アーシアは一誠の言葉に青ざめる。何度も自分を助けてくれた人と同じ姿の人が自分の手足を切り落としたと平然と言っているのだ。彼女の体を震えが襲い、思わずイッセーにしがみついた。

 

「……随分嫌われたね。ま、並行世界でも君達に好かれたいとは思わないけどさ。……所でこの家随分広いけど隣家の人はどうしたの? まさか無理やり奪ったんじゃないの?」

 

「違うわ! ちゃんと代わりの家もお金も用意したわ!」

 

流石に聞き逃せなかったのかリアスは涙を流しながら一誠を睨む。だが、一誠は呆れた様な目を彼女に送った。

 

「どうせ洗脳や暗示を使ってでしょ? そういうのは無理やりって言うんだよ。合理主義の君達悪魔にはわからないかもしれないけど、家ってのは家族の思い出が篭った場所なんだ。お金や代わりの家があれば良いって物じゃないの」

 

一誠は話してる間にこれまでの事を思い出して腹が立ってきたのかピリピリした空気を放ってアザゼルの方を向いた。

 

「なんか此方の無能姫も大概だね。ねぇ、総督さん。俺の禁手について教えて欲しそうにしてたよね?」

 

「おっ! 調べさせてくれんのか!?」

 

アザゼルは嬉しそうに反応し、一誠ははコクりと頷くとリアス達を指さす。

 

「彼女達との実戦形式での中なら調べさせてあげても良いよ。こっちは俺とグレンデルと……」

 

「上等だ! 今すぐ俺がテメェをぶっ飛ばして……」

 

一誠が言葉を言い終わらない内にイッセーが飛びかかる。だが、又しても横から放たれた蹴りによって吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様と同じ姿とは言え、魂は全くの別物。ならば遠慮など致しません! 時空の壁すら乗り越えて、良妻狐のデリバリー! 玉藻、参・上!」 

 

「……あ、コイツを入れて五人で戦うからそっちも適当にメンバー選んで」

 

「む、無視ですか、ご主人様ぁ!?」

 

「玉藻が俺の傍に居るのは当たり前なんだから、並行世界までついて来ても不思議じゃないでしょ?」

 

先程までの険悪ムードなど何処かに忘れ、鬱陶しいバカップルなムードを醸しだす一誠と玉藻。そんな中、イッセーの視線は玉藻に注がれていた。抜群のスタイルに露出の多い服装。次第にその目はイヤらしい物へと変わっていく。それに気付いたのか一誠は玉藻を背中に庇うようにしてイッセーを睨んだ。

 

「……こんな状況でよくそんな目を向けられるね。ねぇ、コイツって何時もこうなの?」

 

「……恥ずかしい事ですが、そうです」

 

「……そう。決めた、お前は俺がぶっ倒す。グレンデル達は他の連中をお願いね」

 

『グハハハハハ! 任せとけ!』

 

そして一誠達は急遽用意されたゲームフィールドへと向かった。フィールドは端から端が何とか見えるくらいの広さで障害物は何もない。

 

 

「リアス、アイツは俺に任せて下さい! あなたを無能だなんて言った事、絶対に謝らせます!」

 

「……ええ」

 

イッセーは闘志を燃やしているがリアスの表情は何処か浮かない。どうやら先ほど言われた事が心に突き刺さって抜けないようだ。今回のゲームに参加するのはリアスとイッセー。そしてギャスパーと祐斗とアーシアだ。

 

 

 

 

 

『それではゲームを開始します! なお、このゲームは相手を先に全員倒した方の勝利といたします』

 

アナウンスと共に飛び出したのは祐斗。聖魔剣を片手に持ち、聖剣創造の禁手で創り出した騎士達を従えてグレンデルに切りかかる。その動きは研ぎ澄まされており、あっという間にグレンデルに接近した彼は騎士達と一斉に切り掛り、あっさりと堅牢な鱗によって全ての攻撃を弾かれる。

 

『あぁん? 何だ、そのヌルイ攻撃はよぉ。攻撃てのはこうするもんだぜ!!』

 

「がはっ!」

 

グレンデルが尾をひと振りしただけで騎士達と剣は粉々に砕かれ祐斗は空中に投げ出される。素早くい羽を出して退避しようとした祐斗だが、既にグレンデルは間近まで迫っていた。

 

『ドラゴンラリアァァァァァトッ!!』

 

横薙ぎに振るわれたグレンデルの腕は祐斗の胴体に絡みつくように振り抜かれ、その衝撃の逃げ場がないまま祐斗は地面へと叩きつけられる。この時点で彼の意識は途絶え、

 

『ドラゴン・ローリングソバットォォォォ!!』

 

回転してからのソバットキックをマトモに受けてしまう。グレンデルの巨体から放たれたソバットキックは彼の全身を襲い、衝撃で地面は砕け激しく揺れる。祐斗は全身から血を吹き出して消えていった。

 

「き、木場ぁぁぁっ! テメェ! もう勝負をついてただろ!」

 

『あぁん? 実戦形式って言っただろ? イタチの最後っ屁を警戒して何が悪いんだよ?』

 

「あはははは! 仕方ないよ、グレンデル。きっと彼らは紳士的な敵としか戦ってないんだね。にしてもさ、さっきから聞いてたら彼だけ苗字なんだね。彼の事嫌いなの?」

 

「んな訳ねぇだ……」

 

イッセーが一誠の言葉を否定しようとした時、一誠の手からオーラが放たれる。ギャスパーがそれを止めようとしたが、間に入ったグレンデルの炎で視界を防がれてしまった。

 

『グハハハハ! 目を媒介とした神器は幾らでも対処できんだよ。んで、お姫様はちゃんと守れよ?』

 

「キャァァァァァァッ!」

 

「アーシア!?」

 

イッセーがいくら待っても来ないオーラに警戒していると、後ろからアーシアの悲鳴が聴こえてくる。炎が晴れた先の地面には穴が空いており、アーシアの足元からオーラが飛び出して彼女を吹き飛ばしていた。龍のオーラをまともに食らった彼女は宙を舞いリタイアの光に包まれた。

 

「おい! お前は俺を相手にするんじゃなかったのかよ!?」

 

「そうよ、この卑怯者!」

 

「……はぁ? 君達は敵の言葉を鵜呑みにするの? 実戦形式って言ったじゃん。それに集団戦で弱い奴と回復役を先に潰すのは定石でしょ?」

 

「信じる方が悪いよね」

 

「信じる方が悪いわ」

 

リアスとイッセーは嘘をついた一誠を攻めるも逆に言い負かされる。そして言い返しに参加しなかった玉藻はギャスパーへと迫っていた。

 

「まずは金的! 次も金的! 覚悟しやがれ、これがトドメの金的だぁぁぁぁっ!!」 

 

「ぶ、部長……」

 

いくら女装していてもギャスパーは男。股間に連続の打撃からの飛び蹴りを全て股間にくらっては耐えられなかったのかふらついている。そう、玉藻の攻撃を受けたのにリタイアしていなかったのだ。それは彼が頑丈だからではなく、玉藻が手加減したからだ。フラつくギャスパーに近づいた玉藻は彼の股間を蹴り飛ばし壁に激突させる。そして執拗な蹴りの嵐を股間へと放った。

 

「往生しやがれ、これが新技! ゴールデンボール・クラッシャー・ヘルスペシャルだぁぁぁぁっ!!」

 

股間へのサマーソルトキックで彼を打ち上げた玉藻は彼より上空に飛び上がり回転し出す。そして遠心力が加わって威力を増した踵を股間へと落とし、最後に落下しながら膝を曲げ地面でバウンドしたギャスパーの股間目掛けて一気に伸ばす。全体重を乗せた蹴りが股間へと決まり、今度こそ彼はリタイアしていった。

 

「な、なんて恐ろしい技を!」

 

その技を見た男性陣は股間を押さえて竦み上がり、いい顔をして汗を拭う玉藻を見る。一方、あの痛みが分からない女性陣はそれ程反応していない。

 

「あれって痛いのかな、わたし?」

 

「あれって痛いらしいわ、あたし。そんな事より戦うわよ。無能姫をやっつけましょ」

 

「「おいで、ジャバウォック!」」

 

「な、何!?」

 

二人によって呼び出された怪物は唸り声を上げながらリアスへと迫る。滅びの魔力を放って撃退しようとしたリアスだが首を吹き飛ばしても腹に穴を開けてもその動きは止まらず、振るった拳が掠っただけで吹き飛ばされ、再び拳が向けられる。

 

 

「キャァァァァァァ!!」

 

「リアス!」

 

だが、龍星の騎士となった一誠が彼女を抱き抱え拳を避ける。ジャバウォックの拳は地面を砕くだけに留まった。

 

「へぇ、面白いね。他にもあるの? あるなら見せてよ」

 

その姿に一誠は興味津々といった態度をとり、イッセーは得意げに笑う。

 

「へっ! 見たいなら見せてやるよ。最強の形態をなぁぁぁっ!!」

 

このままでは負けると判断した一誠は最強の形態である真紅の赫龍帝になる為の呪文を唱え出す。

 

『我……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一誠の投げた唐辛子粉をまともに吸い込んで中断させられた。

 

「見せてよ、とは言ったけど、変身させるとは言ってない」

 

「目がっ!? の、喉が……」

 

唐辛子粉をまともに吸い込んだせいで喉が焼けたイッセーはもはや呪文を唱えられる状態ではなくなり、リアス共々喉を押さえている。

 

「ってか、実戦で相手のパワーアップを律儀に待ってる奴はアホでしょ? ……禁手化」

 

二人が隙だらけの内に一誠は禁手を纏う。その異様な姿に誰もが息を呑んだ。

 

「これが俺の禁手である『死を纏いし赤龍帝の(デット・オブ・ブーステッド)龍骨鎧(・ギア・ボーンメイル)』。能力は通常の力に加え、一定の条件を満たした相手を吸い込み自分と同時に力を倍加する!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

合計一六回もの倍加を受けたグレンデルはまっすぐに二人に向かって行き、そのまま轢き飛ばした。

 

「う~ん、圧勝♪」

 

 

 

 

 

 

そしてようやく二時間後になり一誠達は元の世界へと強制的に送り返される。玉藻は一誠の影に入って一緒に帰るようだ。

 

「じゃあね。あまり人間に迷惑かけないでよ、無能姫とそのお仲間さん」

 

一誠は最後にそう言い残し、玉藻にアザゼルに対して五年以内に生え際が頭頂部まで後退する呪いを掛けさせて帰っていった。こちら側のリアス達に大きな心の傷を残して……。

 




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他の外伝はまたお気に入りやuaがキリのいい数字になったら!


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放課後のラグナロク
四十一話


真女王<覇龍 で良いんでしょうか? いくらなんでも二天龍なみの強さとは思えませんし


《起きてくだせぇ、一誠様》

 

「う~ん……」

 

ある日の朝、一誠は頭に直接響く声によって起こされる。寝ぼけ眼で目覚まし時計を見るとそろそろ起きなくては朝飯を食べ損なう時間。なんとか睡魔の誘惑を振り切った一誠は上体を起こし、そのまま小さな柔らかい双丘が顔を包む。彼の上に跨って体を揺り動かしていたベンニーアの胸に顔を埋めていた。

 

「おはよう、ベンニーアちゃん」

 

《反応無しでやんすか!? それは乙女心がちょっと傷つくんでやんすが……》

 

「早くリビングに行かないと母さんが怒るよ」

 

朝っぱらからラッキースケベを起こしていても一誠はマイペースだ。その反応に少々不満そうなベンニーアだが、彼女も朝飯に遅れまいとリビングへ向かった。二人がリビングに行くと朝食の準備の真っ最中で、コーンスープが入った鍋からは湯気が立ちフライパンの上では目玉焼きが作られていた。

 

「あら、二人共起きたのね。もう直ぐ出来るから顔を洗って来なさい」

 

「も~! 休日だからってノンビリしてたらダメですよ? 良妻狐たるもの、ご主人様が規則正しい生活を送れるよう管理しますからね! あ、焼き方は両面焼きで良いですよね?」

 

「うん、ありがと」

 

一誠は言われた通り顔を洗うと食卓につく。今日の朝食は洋風となっており、全て一誠の母親の指導の下、玉藻が作ったものだ。調理技術は高いものの和食しか作れなかった彼女だが、最近は洋食や中華も作れるようになって来ている。会議の為に朝早く出かけた父親を除き、一誠達は四人全員で朝食を取った。そう、四人である。そもそも何故ベンニーアが兵藤家に居るのか。それは数日前に遡る。

 

 

 

 

 

「一誠。そういえばベンニーアって子は貴方のサポートとしてコッチに来ているのよね? 誰かと一緒に住んでるの?」

 

一誠は両親に全てを打ち明けて以来、関係する者達を紹介していた。さすが彼の両親というべきか、動く西洋人形のメリーや有名な怪談の花子や口裂け女等とも打ち解けてた。なお、ありす達は特にお気に入りのようだ。その適応力は、

 

「……適応力高すぎでしょ」

 

とそれを見た一誠は思わず突っ込んでしまった程。ベンニーアも勿論紹介しており、彼女が一人暮らしという事を教えると、

 

「駄目よ、家に連れて来なさい。いくら死神でも女の子だし、テロリストに狙われるかもしれないんだから」

 

と言われ、ハーデスや親に確認した所、全然オッケーだそうで空き部屋に入る事となった。ちなみに玉藻は一誠の影の中の異空間にある屋敷の自室に繋がる扉を既に設置済みだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばベンニーアちゃん。前から聞きたかっんだけど……なんで君がサポートに選ばれたの?」

 

《あ、それはあっしと一誠様をくっつける為だそうでやんすよ。まぁ、冥府での地位を確立する為の政略結婚みたいなもんでやんす》

 

「あ〜、やっぱりそんな所だったんですねぇ」

 

一誠の突然の質問にベンニーアは素直に答え、玉藻は平然と反応する。どうやら一誠も予想済みだったようで驚いた様子がなかった。

 

「いくら俺がオリュンポスや冥府勢に認められてても対外的な物があるからねぇ。玉藻が正妻なのは決定だから、愛人として嫁がせるには人間と最上級死神のハーフの君が丁度良いでしょ。……玉藻も怒らないんだね。メル友の清姫ちゃんと協力して焼き殺すかと思ったよ」

 

「そんな事しませんよぉ。まぁ、気に食わない事では御座いますが、ご主人様、そして将来生まれる子供の為にも盤石な地位が必要となります。その為にはまぁ、我慢致しますとも。でも、私が一番ですからね?」

 

「分かってるって。俺にとって玉藻は何よりも愛しい宝だよ」

 

一誠が上目遣いに拗ねた顔で睨んでくる玉藻の頭を撫でると尻尾がピョコピョコと動き出す。どうやら機嫌が直ったようだ。その様子を一誠の母親とベンニーアは疲れたような眼で見ていた。

 

「ラブラブねぇ。……其れで貴女は納得してるの?」

 

《勿論でやんすよ。ハーデス様は無理やり結婚させる方ではありやせんし……あっしも一誠様と会った瞬間に体に電流が流れるのを感じやしたから。あれが一目惚れっていう奴なんでやんすねぇ》

 

一誠の母親はその言葉を聞いてじっと考え込む。なお、この数日で染まったのか一誠達の物騒な会話を気にした様子はなかった。

 

 

 

 

 

 

「……一誠。このまま流されるまま結婚するのも良くないしデートでもしてきたら? 丁度ベンニーアちゃんの部屋に置く小物を買わなきゃいけなかったし。玉藻は着いて行っちゃダメよ?」

 

「……は~い」

 

「そう不満そうにしないの。貴女には一誠の好物のレシピを教えてあげるわ。言っておくけど教える時は厳しく行くわよ?」

 

「頑張ります、お母様!」

 

現金なもので先程までの不満そうな顔はどこぞに行き、尻尾も盛大に振られている。

 

 

 

「……犬だね」

 

《……犬でやんすね》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こんな物かな? 次は服でも買いに行く?」

 

一誠の手には大量の小物が入った袋が下げられており、その全ての料金を一誠が払っていた。最初は本人が払おうとしたのだが一誠はそれを固辞し、荷物も彼が持っている。

 

《いや、別に服は今度で構いませんぜ》

 

「だ~め。今度今度っていう奴ほど今度が来ないんだからさ。ほら、行くよ?」

 

一誠は半ば強引にベンニーアを連れて服屋を巡り、彼女に似合いそうな服を幾つかチョイスする。買い物が終わった頃には丁度昼食時だったので二人はランチが旨いと評判のオープンカフェに来ていた。一誠の前には大盛りの料理が何品も並び、彼はそれを平然と平らげていく。その光景にベンニーアは呆然としていた。

 

《よ、よく食べるでやんすね》

 

「まぁ、この位食べないとね。修行が結構きついから。特に今日の相手はランスロットとポチだからさ」

 

《そ、それは大変そうでやんすね》

 

そして一誠がパフェに手を付けようとした時、突如パフェが消失する。

 

「お兄ちゃん、これ貰うね!」

 

「これ貰ったわよ」

 

何時の間にか出てきたありすはパフェを食べながらそう言う。どうやら退屈だったので勝手に出てきたようだ。隣ではアリスがジュースを飲んでいた。

 

「こらこら、ちゃんと椅子に座って食べなきゃ駄目だよ」

 

「「は~い」」

 

素直に言うことを聞く二人を見て一誠は優しげに微笑んだ。

 

《前から思ってたんでやんすけど二人に甘いっすね》

 

「うん。……俺さ、妹か弟が欲しかったんだ。両親には霊が見えなかったけど、俺の弟妹なら見えてかもしれないじゃん? 色々分かち合う仲間が欲しかったんだ。あ、君も付き合いは短いけど妹みたいに思ってるよ」

 

《……妹でやんすか》

 

ベンニーアは一誠に聞こえないように小声で呟くと何やら思案しだした。その後ありす達は帰り、一誠もそのまま帰ろうと思ったのだがベンニーアに行きたい店があると言われ引っ張られていく。そのまま二人がたどり着いたのはホテル街だった。

 

「……こんな所にお店があるの?」

 

一誠が疑問を口にした時、ベンニーアが一誠の腕に強く抱きつき小ぶりな胸で腕を挟む。一誠は彼女の鼓動が高まっているのを感じ取った。

 

《……一誠様。あっしにも女のプライドがあるでやんす。あそこまで女として見てないという様に言われては黙っていられやせん。……少し休憩して行きやせんか?》

 

「いや、拙いって……」

 

《えぇい! 玉藻様としょっちゅうシてるくせに何怖気付いてるんでやんす! 据え膳食わぬは男の恥でやんすよ!》

 

「いや、その据え膳は食ったら色々死ぬから!」

 

ロリィな彼女の見た目や良妻狐の仕置き的な意味で一誠の色々な生命が危険に晒された時、知った声が聞こえてきた。

 

「ホッホッホ、久しいの。しかし昼間から女を抱こうとするとは。……この場合は逆かの?」

 

「兵藤君! 君はまだ学生なんだからこんな所に来たら駄目ですよ!」

 

そこに居たのはオーディンとロスヴァイセ、そして筋骨隆々の男性だ。その男性を見た一誠は微かに笑った。

 

「やっと会えたね、バラキエルさん。さ、後で娘さんに会いに行こう。感動の親子三人の対面と行こうじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一誠の母親からの指導を終えた玉藻が今でノンビリとしているとランスロットがソワソワしながら近付いてくる。その手にはロスヴァイセからの手紙が握られていた。

 

「玉藻殿、少々ご相談が……」

 

「え~、なんですか? も~」

 

「……自意識過剰だと思ったら笑ってください。私の思い込みだとは思うのですが……ロスヴァイセ殿は私が好きなのでしょうか?」

 

「は?」

 

その言葉を聞いた玉藻は思った。何を今更、と……。

 




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四十二話

堕天使の幹部バラキエルには愛する妻と娘が居た。そう、居たである。妻は既にこの世の者ではなく娘は彼を拒絶し旅立った。そしてその原因は彼が堕天使だったからだ。彼と妻の朱璃が出会ったのは娘が生まれる数年前に出会い恋に落ちた。しかし、伝統ある神主の一族である妻の両親はそれを認めず、娘が堕天使に誑かされたとして刺客を派遣。それを彼は撃退するもそれを恨んだ刺客達は彼に恨みを持つ者達に居場所を教え、その結果妻は殺されてしまった。

 

 

「何で傍に居てくれなかったの!? 父様が悪い堕天使だから母様が殺された。父様も黒い羽も嫌い!」、

 

そして娘は彼を拒絶し悪魔となり、数年ぶりに再会を果たすも彼を拒絶したままだ。だが、彼はいま親子三人で一つの部屋に居た。

 

「……貴方達、聞いているのかしら?」

 

「も、勿論だ!」

 

「き、聞いています!」

 

もっとも、感動の再会とは言い難かったが。彼は今、娘共々硬い床の上に正座させられている。そろそろ秋になるかという時期のせいか床は冷たく膝を冷やしていく。そして妻の眼差しは床よりも遥かに冷たかった。

 

「まずは朱乃。ずっと見守っていたけど貴女はもう少し慎みを持ちなさい。私もSだけど人前では隠していたわ。……それと、子供だけで旅を続けた事。あれは絶対に許せないわ」

 

「で、でも母様……」

 

「言い訳は許さないわ! ……お願いだからあんな無茶はしないで」

 

「……母様」

 

朱乃は涙を流しながら自分を抱きしめる母の背中を抱き返し涙を流す.バラキエルはそんな母娘の姿を見て涙を流し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……次は貴方よ。いくら拒絶されたといっても、狙われている娘を迎えにも行かないで……」

 

次の矛先は彼に向けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ帰るね。家族の会話をこれ以上盗み聞きするのは野暮ってもんだし、これ以上グレモリーと同じ部屋に居たくないから」

 

「むぅ、もう少しお主と話がしてみたかったんじゃがの」

 

オーディンは少々残念そうな顔をしながら一誠を見送る。彼らが今いるのは旧校舎の一室の前。ちょうど朱乃が使用している部屋に居たのでバラキエルを連れてきたのだ。最初は彼を拒絶していた朱乃だが、一誠が朱璃を具現化させた事で親子三人の話し合いを承諾。部屋の外から会話を盗み聞きしていた。

 

「では主。私は引き続きオーディン様の護衛につきます」

 

「うん、頑張ってねランスロット。行くよ、ベンニーアちゃん」

 

《お先に失礼するでやんす》

 

そもそもオーディンがなぜ日本に居るのかというと、日本神話大系の神々との会談を予定していたのだが内部の反対派を危惧し予定より早く来日、いろいろ忙しくなるアザゼルの代わりにバラキエルが彼の護衛についた。そしてオーディンの護衛はバラキエルとロスヴァイセだけではない。

 

「では兵藤君。またお会いしましょう」

 

「……生徒会なのに学校休んで大丈夫?」

 

「……仕事ですから。私達は学生である前に冥界の一員なのですから。……教師を目指す身としてはどうかとは思いますけど」

 

オーディンの警護を任されたのはこの街を縄張りとするリアスではなく、最近評価が上昇しているソーナだ。当初はリアス達が護衛に着くはずだったのだが最近の評価低迷を危惧して上層部の多くが反対。あえなく待機となった。そして一誠もオーディンと個人的な交友関係にあるハーデスに護衛人員を派遣するように頼まれ、ランスロットを含む二名を護衛として置く事となった。

 

「頑張ってね、ロスヴァイセさん」

 

一誠はすれ違いざまにロスヴァイセに耳打ちする。耳打ちされた当人は真っ赤になっていた。どうやらランスロットをオーディンの護衛に選んだのは彼の幸せを望んでの事のようだ。そのまま学園を後にした一誠は携帯を見るなり急に表情を変えると走り出した。

 

《どうしたでやんすか?》

 

「……玉藻が倒れた」

 

 

 

 

 

一誠は家まで必死の形相で走り、家にたどり着くなり玉藻の気配を察知して自室へ飛び込む。そこにはベットの上に寝転がる玉藻の姿が有り、その顔色はあまり良くない。

 

「やっと来たネ。待っていたヨ」

 

「マユリ! 玉藻の容態は!?」

 

一誠が診察をしていたマユリに近づくと診断書らしき紙を渡される。そこには霊力の使いすぎによる過労と書かれていた。玉藻は一誠の顔を見るなり無理に笑顔を作りおちゃらけた態度を取る。

 

「えへへ~、最近色々使いすぎちゃって。ご心配おかけしました」

 

「……この間アレを使ったお前を止めた時にダメージを受けただろう? そのダメージを回復させる為に霊力を使いすぎたんだヨ。全く、本末転倒な話だネ。全く、そろそろ研究材料が目を覚ます頃だというのに……」

 

「ちょっ!? それはご主人様には言わない約束じゃっ!?」

 

どうやら一誠が自分を責めないように玉藻自身の責任ということにする約束だったようだがマユリがバラしてしまったようだ。それを聞いた一誠が茫然自失とする中マユリは診断書で軽く一誠の頭を叩く。

 

「悪いが貴様よりコッチのほうが上なんでネ。隠し事が出来る訳無いだろう? なぁに、霊力を軽く分けてやれば数日で治る。自分を責めることなんかないヨ。血でも飲ませてやることだネ」

 

「……有難う、マユリ」

 

フンッと鼻を鳴らしてマユリは部屋から出て行き部屋には一誠と玉藻だけが残される。一誠はベット横の椅子に座るも互いに気まずさから話しかけられず暫くの間沈黙が続いた。

 

「……あの、ご主人様。この度は差し出がましい真似をしてしまい申し訳御座いません。心配させまいとして逆に心配をおかけしてしまいました」

 

「……悪いのは俺だよ。そもそもの原因が俺だし、無茶してるのに気付かなかった。……ごめん」

 

再び気不味い空気が流れる。しかし、そんな空気に我慢できなくなったのか玉藻は上半身だけ起き上がって叫んだ。

 

「あ~、もう! こういう空気は私嫌いです! もっとパァ~っと行きましょう! パァ~っと!」

 

「……そうだね、。とりあえず霊力の補給をしようか」

 

その瞬間、何を思ったのか玉藻の耳が反応し、表情は上機嫌のソレになった。

 

「みこーん! やっぱり霊力の供給といえば房中術ですよね!? あ~ん♪ まだ昼間なのにご主人様ったら、だ・い・た・ん♥ つっしやぁぁぁ! バチコーイ! やっぱりご主人様が上から覆い被さって? それとも後ろから獣のように? あっ! たまには私が上になってご奉仕なんて……きゃっ♪」

 

「どの位が良いか分からないから最初は少しね。はい、あ~ん」

 

「はむっ!」

 

一誠は玉藻をスルーしながら自分の人差し指を噛み切り血が滲んだ指先を差し出す。玉藻は滲み出す血を一滴も零してなるものかと指全体を加えチューチューと血を吸い出す。更には指全体に舌を絡めて舐めまわし、存分に唾液と血が混ざった所で嚥下を行う。一誠の上質な霊力が玉藻の体内を駆け巡り顔色が少し回復したようだ。

 

「お陰様で少し楽になりました。……あの~、もう一つお願いしても? この体を得てから体調を崩すの初めてだから少々不安なので眠るまで手を……えへへ♪」

 

手を握っていて欲しい。そう玉藻が言い終わる前に一誠の手は彼女の手を握り締める。少し恥ずかしそうにしながら玉藻はベットに身を任せ、やがてスヤスヤと寝息を立て出す。そして彼女が眠っても暫くの間一誠は彼女の手を握り締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう絶対に心配をかけないよ。絶対に君を守りぬくから……」

 

最後に玉藻に軽く口付けした後、一誠は退室する。良い夢でも見ているのか玉藻は嬉しそうに笑っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、冥界の監獄にアーサーと美猴の姿があった。二人が居るのは湿っぽく薄暗い粗末な部屋。二人共かなりの使い手なので食器も武器になりそうなものは与えられずスープも冷めている。仙術が使える美猴など鎖で縛られており二人の待遇の悪さが伺えた。

 

「……暇ですねぇ」

 

「ったく、助けに来るなら早く来いよなヴァーリ」

 

未だ来ぬ救援を今か今かと二人が待っていた時、突如轟音と共に壁が吹き飛ぶ。丁度壁際にいたアーサーは瓦礫の下敷きとなり、起き上がろうとしたその上に誰かが足を乗せた。

 

「ったっく、俺が折角助けに来たってのにクルゼレイ君は拒否すんし、シャルバ君は赤龍帝の部下に捕まっちまうしよ~。ま、暇だから孫の仲間でも助けに来たぜ。俺に仲間を助けられたと知った時の悔しそうな顔が目に浮かぶぜ、でひゃひゃひゃひゃひゃ♪ ……あ、でもアイツってホモになったんだよな。会いたくね~」

 

突如入ってきたのは銀髪の中年男性。彼は二人を監獄の外まで連れ出すとそのまま去っていった。最後にこう言い残して。

 

「俺はママンの言った通りビックな事をしなきゃいけないから、お前に構ってる時間はないって爺ちゃんが言ってたとヴァーリに伝えといて。宜しく!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ! 此処は……?」

 

シャルバが起きた時、見知らぬ手術室らしき部屋のベットに括りつけられていた。どうやら拘束具に魔力封じの刻印が刻まれているらしく力が入らない。そして戸惑っている彼の耳に上機嫌そうな声が聞こえてきた。

 

「目覚めたかネ?」

 

「だ、誰だ!?」

 

「おっと、名乗るのが遅れてたネ。私の名前は涅マユリ。只の研究者だよ。君には私の研究対象になってもらうネ」

 

「巫山戯るな! 私を誰だとっ……がぁっ!」

 

マユリの言葉にシャルバが怒りを顕にした瞬間、彼の右腕にメスが突き立てられた。

 

「五月蝿いヨ! ……なぁに、投薬は一日二十種類以内に収めるし、あまり死に至る様な研究はしないと約束しようじゃないカ。就寝時には服も着せてやるし肛門から栄養剤も与えよう! どうだネ? 研究対象にしては破格の待遇だろう? さて、まずはこの薬と行くか」

 

「(や、止めろ! 止めてくれぇぇぇぇ!!)」

 

先ほどのメスに毒でも塗られていたのかシャルバは一言も発する事ができずマユリの成すがまま薬を注入される。激痛と共に彼の意識は途絶え、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、眠るにはまだ早いヨ」

 

強制的に覚醒さされる。マユリは鼻歌を歌いながら次の薬品を選び出した……。




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四十三話

cccついに買った あとはエクストラでレベル上げしてレオと平和男倒すだけ! 鬱エンドだけど我慢! 紅茶って技使うのに一定回数トレースオンしなきゃいけないらしいけど、技使うたびにし直すのかな?それともターン経過で減っていくの?


アーサー王率いる円卓の騎士の中で最高の騎士と呼ばれた騎士が居た。本来ならば一国の王子という身の上なのだが赤子の時に国が滅亡。母親が彼を抱えて逃げ出したのだが、彼女が湖の辺で休んでいる時に湖の精霊に攫われてしまう。そして精霊に育てられた彼はアーサー王と出会い、……彼の妻であるグィネヴィアと不義の恋に落ちた。そしてこの恋が円卓の騎士の分裂を招き、国を滅亡へと導く事となる。

 

「グィネヴィア様、お迎えに上がりました。どうか私について来て下さい」

 

「いえ、もう私は貴方と共に行く気はございません」

 

アーサー王の死後、出家した彼女を迎えに行ったランスロットだが帰ってきたのは拒絶の言葉。自分の邪恋で主と仲間を失い、恋の相手さえ失ったランスロットはグィネヴィアの死を知らされた後、自ら食を絶って死を選んだという……。

 

「……私はロスヴァイセ殿自身に心惹かれたのか、グィネヴィア様に似ていらっしゃるから気に成るだけなのか、何方なのでしょう……」

 

そして新たな主を得た後、ランスロットはかつて愛した女性と瓜二つの女性と出会った。女性の名はロスヴァイセ。彼女から申し込まれた文通を続ける内に心惹かれていくランスロットだがある日ふと思った。自分は彼女をグィネヴィア様と同一視しているだけなのではないかと。その事を誰にも相談できぬまま時間ばかりが流れ、今彼は彼女と共に護衛任務に就いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらぁ、お兄さんイケメンねぇ。ほらぁ、もっと揉んで」

 

「わ、私はこういう店は……」

 

「あ~ん。私、逞しい人好き」

 

「あ、あまり触らないでくれ……」

 

護衛対象であるオーディンが観光をしたいと言うので同行した店は風俗店。俗におっぱいパブと呼ばれる店だ。浮気したり幻覚に掛けられた結果、子供もいる彼だがこのような店は不慣れならしく同じ護衛のバラキエルに視線で助けを求めるも逞しく渋い彼にも店員が集まり役に立たない。連れてきたオーディンやアザゼルは論外であり、まともなロスヴァイセやソーナ達は未成年なので待合室で待機している。非常に気不味い思いの中、時間ばかりが過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが仕事だって分かってるし、私が死んでから何年も経ってますから浮気にはならないけど……デレデレしちゃって、フフフフフ」

 

「か、会長……」

 

「我慢しなさい、サジ。私も出来れば逃げ出したいです」

 

そして待合室でも気不味い空気が流れる。一定以上の霊力が無いと見えない程度に実体化を抑えた朱璃は頭を壁から通り抜けさせ店内の様子を盗み見しながら呟く。若干ヤンデレが入ったその姿は悪霊にも見え、霊感がある客はその姿を見て一目散に逃げ出した。そして漸くして店から出て来たバラキエルが見たのは黒い笑みを浮かべる妻の姿だった……。

 

 

 

 

 

 

「……ランスロットさん」

 

なお、ランスロットを見るロスヴァイセの顔も若干怖かったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、其処は先程教えた通りにね」

 

「はい、母様」

 

次の日の早朝、朱乃はまだ実体化を続けられている母と共にお弁当を作っていた。数年ぶりの母との触れ合いに心を躍らせながら彼女は煮物を作っていく。作るお弁当は三人分。一個は自分の分、もう一個は少しずつ和解が進んでいるバラキエルの分。そして最後の一個は……。

 

「……あの方は食べて下さるかしら」

 

「大丈夫、きっと食べてくれるわ」

 

朱乃は不安そうな顔しながらオカズを弁当箱に詰めていく。バラキエルの分は朱璃が持って行き、朱乃はお弁当を二つ持って登校した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、イッセー。お前って最近ベンニーアちゃんと一緒に居るけど……付き合ってるのか?」

 

その日の昼休み、何時も通りお弁当を持って中庭に行こうとした一誠だが元浜に呼び止められる。どうやら美少女転校生として注目を浴びているベンニーアとモテるが特定に相手が居ない一誠が仲良くしていると噂になり、気になったようだ。

 

「……別に。父親の仕事関係の知り合いだよ」

 

適当に当たり障りにない事を話した一誠は教室から出ていこうとして、入り口の騒ぎに気付く。教室の入り口に二大お姉さまと呼ばれる朱乃が来ていたのだ。そして彼女は一誠の姿を見るなり恥ずかしそうにお弁当の包みを差し出した。

 

「あ、あのこれ良かったら……」

 

朱乃は一誠に包みを渡すとクラス中の男子から一誠に殺気が送られた。

 

「アイツばかりなぜモテる……」

 

「憎しみで人が殺せたら」

 

良妻狐に聞かれたら確実に呪われる言葉を吐きながら送られる視線を気にせず一誠は教室から出て行く。その手には持ってきたお弁当と先ほど渡されたお弁当が下げられていた。

 

 

 

 

 

《……あの人から貰った物を食べて大丈夫でやんすか? 主にヤンデレ的な意味で……》

 

中庭で一誠と昼食を摂ろうとしていたベンニーアは不安そうな顔をする。やはり玉藻の嫉妬を恐れているのだろう。彼女は最近毎日の様に一誠のお弁当を作っている。今も一誠が食べている三段のお重には美味しそうな料理が詰められており、主にハート型に形作られたオカズが多く新婚夫婦の愛妻弁当にしか見えなかった。

 

「いや、まぁ、後で報告しなきゃいけないだろうけど大丈夫だと思うよ。中学生の時、別の人に渡されたのを断ったら怒られたから。女の子が作ってきてくれたものを断るとは何事です! って言われたんだ」

 

《ありゃりゃ、一安心といった所でやんすね。所でご容態は?》

 

「日常生活は大丈夫だって。霊力の補給はまだ必要らしいけどね。……良かったよ」

 

一誠は安心しきった表情でお弁当を掻き込む。昼休みが終わる頃には三段重ねの重箱と朱乃の持ってきたお弁当の中身は綺麗に食べ尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ~、彼女のお弁当も美味しく頂いたって訳ですかぁ。ふ~ん」

 

「お、怒ってる?」

 

その日の放課後、家に帰った一誠がお弁当の事を報告すると玉藻は予想以上に不機嫌そうな顔をする。どうやら朱乃の件が随分お気に召さなかったようだ。

 

「いえねぇ、前同じ事があった時、受け取れって言ったのは私ですから文句は言いませんよ? でもねー、それとこれとは別って言うかー。またフラグ立てやがってこん畜生って感じなのですよ。どーせ、親の再会を果たしてくれたご主人様に好意を持ったって所でしょうねぇ」

 

不機嫌な顔のまま玉藻は指を動かす。呪いが完成していく中、一誠は彼女の頭を軽く撫でた。

 

「嫉妬してるの? 馬鹿だなぁ。助けたからって好意持たれても俺が嬉しい訳無いじゃない。そんな断片的な事で好かれるより、俺の汚い所も含めて好きって言ってくれる玉藻の気持ちの方が何倍も嬉しいよ」

 

「……その割には黒歌とかレイナーレにも手を出してますよねぇ? 付き合いの長い黒歌はまだ良いですがレイナーレはどう言い訳する気ですか?」

 

玉藻の呪いもあって最後までは行っていないが一誠は二人にも手を出している。玉藻に正式に結婚を申し込んでからは控えているが玉藻はしっかりと覚えており、此処ぞとばかりに掘り出した。

 

「……反省してます。まさか持っていた忠誠心を全て俺に向けさせたらああなるとは。出来心でした。母さんやべルセポネーさんにもこってり叱られました」

 

「……反省しているなら宜しい。でもぉ、悪いと思っているのなら今日の霊力注入は……。まだ夕御飯まで時間が御座いますし……これ以上は女の口からは言わせないで下さいまし♥」

 

一誠は無言で玉藻に覆い被さり、暫くの間ベットの軋む音と二人の声が室内に響き渡ったが防音の術もあって外には響かずに済んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一誠。玉藻は病み上がりなんだから程々にしなさいよ? あ、お父さんと孫の名前を考えておかないと」

 

だが、母親には親の勘でバッチリとバレていた……。

 

 

 

 

 

 

 

次の日、オーディンの要望で遊園地に来たランスロットはロスヴァイセと共に観覧車に乗っていた。本来ならば直属の護衛である彼女はオーディンと同じ車内に乗るべきなのだが、オーディンがロスヴァイセ抜きで匙と話したいと言い出し、一誠が派遣したもう一人の護衛と三人で乗り込んだのだ。

 

「……全く、オーディン様は」

 

「貴女も大変そうですね。私も生前は色々と振り回されてばかりでしたよ。でも、今日は楽しそうでしたね。こういう所に来るのは初めてですか?」

 

「え、ええ。私は田舎出身で学生時代も勉強ばかりだったもので……」

 

ロスヴァイセはランスロットと同じ社内に二人っきりという状況に今頃緊張しだしたの顔を真っ赤にする。そんな彼女の姿を見てランスロットはグィネヴィアとの日々を思い出し、すぐに振り払うかのように顔を振る。このまま昔を思い出していると目の前のロスヴァイセをその名で呼んでしまいそうだと思ったからだ。そしてロスヴァイセはそんな彼の姿を見て不安そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

「……それでは私達は此処で失礼いたします」

 

その日の晩、護衛時間を過ぎたランスロットは少々名残惜しそうな視線をロスヴァイセに送りながら頭を下げて帰って行く。オーディンの言いつけで彼を見送っていたロスヴァイセは思い切って感じていた疑問を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランスロットさん。今日一日私を通して他の誰かを見ていませんでしたか……?」

 

ランスロットはその問いに答える事が出来なかった……。




朱乃のヒロイン化はありません 原作でも簡単に一誠に惚れてたし、親子の和解を助けたのなら行為持つかなっと思って描きました

匙とオーディンとの会話は次回

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四十四話

ついにキャス狐でエクストラクリア! ccc 主人公を含め何があった!? まだ桜迷宮一回目の突入なのでネタバレはしないでね(笑)

あと桜に自分の名を聞かれてフランシスコ・ザビエルを選んだ人、手を挙げろ 私もだ!(笑)


円卓の騎士の一人にガウェインという騎士が居た。アーサー王の異父姉モルゴールの息子であり、強情で勇猛果敢な性格が災いする事もあったが、アーサー王の片腕として見事な働きを見せる事もあった。太陽の騎士として名高かったガウェインは朝から正午まで能力が三倍になるという能力とエクスカリバーの姉妹剣であるガラティーンを持ち……祖国の滅亡の要因となった騎士である。

 

ランスロットに弟を殺された彼は復讐心に囚われ何度も彼に挑み、その間に留守を任されていた異父弟のモードレッドが反乱を起こす。ランスロットとの戦いで受けた傷が癒えぬまま戦争に参加した彼はランスロットから受けた傷の上に一撃を受けて死亡。最後にランスロットへの謝罪と援軍要請の手紙をアーサー王に託して息を引き取った。

 

 

 

 

「さて邪龍の小僧。一つ聞くが神器を増やしたな? ヴリトラの気配が強くなっておるぞ」

 

「……はい」

 

観覧車の中、オーディンは匙に厳しい視線を送る。テロリストの戦いが激化する事が予想された為、アザゼルは匙にヴリトラ系神器を全種宿らせたのだ。最初は使いこなせるか不安だった彼も仲間を守る力を得たと感じ嬉しかった。しかし、それを聞いたソーナは複雑そうな顔をする。匙が新しい力を得た事に対する喜びと、その力の為に最低でも三人の命が犠牲になっている事実に対してだ。

 

「まぁ、暴走の危険性がある危険な神器じゃから一般人を殺して抜き取るのも……まぁ、本人や家族は納得できないじゃろうが仕方ないわい。そして抜き取った神器をただ放置しておくのも勿体無い。じゃから命を犠牲にして、等と気に病む心配はないぞ」

 

「……有難うございます」

 

どうやら随分と気に病んでいたらしくオーディンから掛けられた言葉に匙は安堵の表情をする。だが、オーディンは諭すような柔らげな表情から一転して厳しい顔つきになった。

 

「じゃが間違っても力に酔ってはならぬ。それがせめてもの手向けと思え」

 

「はい、肝に銘じておきます。有難うございました」

 

匙が深々と頭を下げた時、彼らが乗っていた観覧者が地上へと付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

あの遊園地の一件から数日が経った今でもランスロットとロスヴァイセの間には気不味い空気が流れていた。最低限の必要な事は話すがそれ以外では互いに沈黙を貫く。流石に耐え切れなくなったのかランスロットは護衛の任から解いてくれないかと一誠に頼むも却下される。

 

「個人的な感情で任務を放棄するの?」

 

そう言われては彼も従う他に無く、気不味い思いをしたまま護衛を続ける。オーディンの乗り物である六本足の馬の引く空飛ぶ馬車に乗ってた一行だが急に馬が止まった事で中に居た者はバランスを崩し、偶々立っていたロスヴァイセは前方へと倒れ込んだ。

 

「襲撃!? キャッ!」

 

「!」

 

近くに居たランスロットは素早く動き彼女に手を伸ばす。いきなりの事だったので抱き抱えるとまではいかなかったが彼の右手は彼女の体を掴んで転ばぬように支える事ができた。ただし、掴んだのは胸だったが。

 

「……申し訳ありません」

 

「キ、キャァァァァァァッ!!!」

 

馬車内にロスヴァイセの悲鳴とパンッという頬を打つ音が響き他の者達はその光景に釘付けとなる。ランスロットの頬には真っ赤な紅葉が出来ていた。

 

「……ラブコメじゃのう。もう直ぐ派遣されてくる追加の護衛も同じような事しとったわい」

 

「おいおい、マジかよ! ってか追加の護衛なんて聞いてないぞ、爺さん」

 

「うむ。本当なら止めておこうと思ったのじゃが下の者や本人がどうしてもと言い張ってな。所で次はどの店に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしろ! 襲撃があったのだから出てこんか!」

 

ランスロット達のやりとりのせいで馬車内の者達にすっかり存在を忘れられていた襲撃者の叫びが響く。仰々しく登場したにも関わらず反応してくれたのは護衛として外に居た者達のみ。それも馬車の上で胡座をかいていた男は眉を軽く動かしただけで興味なさそうにしている。襲撃者の目に涙が貯まり出した頃、ようやく中からオーディン達が出てきた。

 

 

「はじめまして、諸君! 我こそは北欧の悪神ロキだ!」

 

「……泣いておるのか?」

 

「な、泣いてなどおらぬ! 悪神の我が無視されてただけで泣いてたまるか!」

 

ロキは神々しいオーラを放っていたが、目に溜まった涙のせいで威厳の欠片もない。

 

「これは、ロキ殿。一体何用ですかな? この馬車には北欧の主神オーディン様が乗っておられなのをご存知でないので?」

 

そんな中、優しいアザゼルは先程までのやり取りなど無かったかの様に振る舞い、涙を拭ったロキもまた先ほどまでの言動を忘れたかの様に振舞う。

 

「無論承知だ! 我らが主神が我らが神話体系を抜け出、他の神話体系年と接触していると聞き、苦言を呈しに来たのだよ」

 

「堂々と言ってくれるじゃねぇか、ロキ」

 

アザゼルの声は怒気を含んでいるが、それを聞いたロキは楽しそうに笑っていた。

 

「ロキ様!これは越権行為です!主神に牙をむくなど、正気ですか!? とても許される事ではありません!」

 

スーツから鎧へと着替えたロスヴァイセはそう抗議するが、ロキは聞く耳を持とうとせず、鬱陶しげに答える

 

「一介の戦乙女ごときが我が邪魔をしないでくれないか? オーディン、まだこのような北欧神話を超えたおこないを続けるおつもりなのか?」

 

「そうじゃよ。こっちのほうが何倍も楽しいのでな。和議を果たしたらお互い大使を招き、異文化交流しようかと思っただけじゃよ」

 

それを聞き、ロキは苦笑した

 

「……貴方の考えはよく分かった。なんと愚かなことか。では、ここで黄昏を行おうではないか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、敵対という事ですね?」

 

「のわっ!?」

 

霊体化したランスロットはロキの直前で実体化するとアスカロンを頭頂部目掛けて振り下ろす。しかし不意討ちからの見惚れてしまうような見事な一撃だったにも関わらず、さすが神というべきかロキは身を捻って躱し、剣先は髪の毛を数本切り裂くだけに終わる。目の錯覚かどうかは知らないがランスロットの目には彼の髪の毛が不自然に動いたように見えた。

 

「貴様! これ高かった……いきなり何をする!?」

 

「不意打ちです」

 

既に一誠にすっかり染められて来つつあるランスロットはすかさず追撃をかけロキを追い詰める。ロキも反撃に出ようとするがランスロットの剣さばきに翻弄され体制が整えられない。そして少しずつではあるがランスロットの剣はロキを捉えその体に赤い線を刻んでいった。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ランスロットは一気に勝負を決めようと剣を大きく構えロキに飛びかかる。だが、横合いから出てきた影によって吹き飛ばされた。

 

「くっ!」

 

「おぉ! やはりお前を連れてきて良かったな、息子よ!」

 

「グルルルルルル!」

 

ランスロットを吹き飛ばしたのは灰色の毛をした巨大な狼。その名は『神喰狼(フェンリル)』。ロキの生み出した最強の魔獣にしてその牙は確実に神を死に至らしめるという。フェンリルは牙を剥き出しにし毛を逆立てながらランスロットに飛びかかったその時、先程まで馬車の上で戦いを見守っていた男性が立ち上がり飛び出した。男性は羽織をはためかせながら一気にフェンリルの下まで跳躍し腰の刀に手をかける。

 

「グルッ!?」

 

それは野生の勘か、それとも生存本能か、咄嗟にフェンリルは後方へと跳躍する。その体には八つの傷ができていた。

 

「切り損ねましたか、ポチ殿?」

 

「……ああ。あの狼、拙者の刀の危険性を咄嗟に察知した様で御座る」

 

ポチもフェンリル同様に牙を剥き出しにして好戦的な笑みを浮かべる。彼はそのまま愛刀を口元まで持って行き、刀身に付いたフェンリルの血をペロリと舐めた。

 

「……まさか息子の体に傷を付けるとはな。その刀、妖刀の類だな?」

 

「グルルルルルルルッ!」

 

ロキはポチの持つ刀を興味深そうに眺めフェンリルはより殺気立ち、本気を出したのか放たれる威圧感が増大する。その時、一向に近づく影があった。

 

「やぁ、久しぶりだねアザゼル」

 

現れたのはヴァーリ。その後ろには美猴の姿もある。

 

「ヴァーリ!? なんでテメェが!?」

 

急に現れたヴァーリに対しアザゼルは驚き、ロキは露骨に嫌そうな顔をした。その目は変質者を見る目だ。

 

「……ヴァーリ。聞いた事があるぞ。確かショタ龍皇と呼ばれる変態で、何度も幼い男児を押し倒し手篭めにしている小児性愛変質者かっ!」

 

『……死にたい』

 

「しっかりしろ、アルビオォォォォォン!! おい! 何度も幼い男児を押し倒したというが誤解だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうか。5回か」

 

「ああ、誤解なんだ」

 

「えぇい! このような変質者を相手にしたくない! オーディン、後日準備を整えて襲撃するから待っていろ!」

 

ロキはそう叫ぶとフェンリルを連れて消えて行った。それを見たヴァーリは首を傾げる。

 

「誤解だと言ったのに、なんで変質者呼ばわりされているんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、見ろよ! 校門前にスゲェ美人が居るぞ!」

 

その日、小猫はリアスから今日の部活はないと言われたので放課後に買い物でもしようと校門へと向かっていた。そして周りの声に反応して校門の方を見ると其処に居たのは……。

 

 

「姉さま!」

 

「やっほー、白音! 修行ちゃんとしてる?」

 

「……はい。頑張っています。それで姉さまはなぜ学校に?」

 

小猫は周りから聴こえてくる『姉妹!? 体型に差がありすぎだろ!?』や『世界が平等だった時など一度もないのね』とか『セクシーな姉とロリな妹、ハァハァ』等の不快な言葉を無視し……最後のは寒気が走ったので記憶から消去して黒歌に近づいていく。今日の彼女の格好は体のラインが丸分かりの赤いライダースーツ。ピチピチ過ぎて目のやり場に困る一着だ。

 

「実は~♪ イッセーと放課後デートなんだにゃ。あの駄狐が最近良い事があったらしくって、『まぁ、側室の貴女にもご主人様の愛を少~し分けて差し上げますよ。私はちょっと足腰が立ちませんので✩』ってムカつくメール送ってきたからお言葉に甘える事にしたの」

 

「……そして俺はこんな状況な訳だよ」

 

声のした方を見ると一誠が縄でミノムシのようにされて捕まっていた。縄の先を黒歌が持っている事から彼女の仕業のようだ。

 

「にゃはははは! じゃあ、また明日ね!」

 

黒歌は真っ赤なバイクに縛ったままの一誠を乗せるとそのまま走り去っていった。それを見送った小猫に精神的疲労が押し寄せてくる。

 

「……疲れました」

 

結局、小猫の休日は寝て曜日に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのさぁ、記憶や認識を操作する術って疲れるんだよ? 黒歌は苦手だから俺がやったし」

 

あの後ようやく縄から解放された一誠はオープンカフェでケーキを食べつつ文句を零す。しかし黒歌には反省の色が見られなかった。

 

「にゃはははは! 疲れてるのは玉藻とベットで愛し合ってるからじゃない? 最近ずっとだって聞いたわよ。あ、食べカスついてるにゃ」

 

黒歌は一誠に顔を近づけると口元に付いた食べカスを舐め取り……そのまま口内に舌をねじ込む。離れようとした一誠の頭を押さえた黒歌はそのまま濃厚なキスを続け、数秒後に満足そうに顔を離した。

 

「ぷはっ! あれ? 真っ赤になってる? 初心な童貞じゃあるまいし」

 

「……流石に人前は恥ずかしい」

 

咄嗟に認識阻害の術を掛けはしたが流石に恥ずかしかったのか一誠の顔は真っ赤だ。いつも人前で玉藻とイチャついてても恥ずかしいものは恥ずかしいらしい。そんな反応が気に入ったのか黒歌はそのまま自分の胸に一誠の顔を埋めだした。

 

「ほらほら、お姉さんに全部任せるにゃ。……ねぇ、このままホテル行かない? 本番までは出来ないけど、玉藻なんかより気持ち良い思いさせてあげるわよ。最近発情期が来たの。……発情期の牝は凄いわよ?」

 

「いや、黒歌も玉藻も常に発情期みたいなもんじゃない? それと、黙れ処女」

 

「あぁ!? ……こうなったら呪いとか関係ねぇ! 痛みに耐えつつ犯してやるにゃ!」

 

黒歌は一誠の顔を胸に埋めたまま押し倒すと器用に自分の服のファスナーに手をかける。何時ものように下着を着けていないので白い肌が露わになり玉藻より大きい胸が溢れ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いくら人目を避ける術を使ってるとはいえ、外でそういう事をするのどうかと思いますよ」

 

「誰!?」

 

黒歌は背後から突如聞こえてきた声に反応すると一誠から飛び退き気を練り出す。目の前にいたのは金髪の男。白い鎧を着ており腰には太陽のようなオーラを放つ剣を携えていた。男性は敵意がないことを示すためか両手を頭の上に上げて笑いかける。

 

「初めまして、赤龍帝兵藤一誠様とそのお供の方。私はアースカルズの一員です。本当なら明日着くはずでしたが緊急事態があって早めに来日致しました。とりあえず本国の指示で貴方に挨拶をしろと言われまして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……とりあえず胸を仕舞って下さいませんか?」

 

恥ずかしそうに顔を背ける男性であったが横目で黒歌の露出した胸をしっかりと見ていた。まじめそうな顔だが結構ムッツリのようだ。




フェイトゼロでセイヴァーが呼ばれてたら

ケリィ どうなるかな 人を救わない神仏は気に食わない?

先生 宗教が違うから崇めないかな?

ウェイバー 同上 諭されても 馬鹿にしやがって! 馬鹿にしやがって!

優雅 この戦争我々の勝利だ! でも負けそう うっかりミス

麻婆 導かれるかギルによって抹殺

龍ちゃん 改心か天罰か枯渇

オジさん 枯渇


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四十五話

ccc面白い ってかセイバーがマジわんこ(笑)


その昔、平安御所に『玉藻の前』という非常に美しい女性がいた。、また、美しいばかりか聡明で博識だった彼女は直ぐに上皇の目に止まり、その寵愛を一身に集めていた。彼女もまた上皇を愛し、二人は幸せになるかに見えた。だが、上皇が謎の病に倒れ、医師は邪気の仕業と判断。呼ばれた当代きっての陰陽師である安倍晴明によって玉藻の前は金毛白面九尾の狐である事が暴かれ、那須野高原で討たれる。かくして妖狐は退治され上皇の病も回復に向かったとされる。

 

 

 

……だが、とある説がある。玉藻の前が傍にいる間は上皇の容態は安定し、玉藻の前が去った数年後に彼は病死。しかも死の直後には前々から計画されていた謀反が起こったとされるのだ。果たして玉藻の前は邪悪な狐だったのか……。

 

 

 

「あ~、嫌な夢見た」

 

その日の夕方、一誠の母親が遠くに住む親類の法事に出かけると言うので昨日から留守を任されていた玉藻は夕方頃に起きる。どうやら夢見が悪かったらしく顔色が優れない。

 

「シャワーでも浴びましょう。にしても今朝は盛り上がりましたねぇ♥」

 

今朝は母親が居ないのを良い事に昨晩ついた汚れや臭いをシャワーで流していた一誠を襲い、自分はろくにシャワーを浴びぬまま二度寝をしたのだ。体中汗やらなんやらでベトベトして匂い、流石に我慢できなくなって浴室に向かおうとした時、一通の手紙が机の上にあった。上質な和紙に丁寧な字が墨で書かれておりどこか神々しい空気を発している。そして感じられる力は何処か玉藻に似ていた。

 

「……あ~あ。ついに来やがりましたねー。ま、何とかなるでしょ」

 

言葉とは裏腹に不安げな表情で手紙を見つめる玉藻は手紙を読んだ後に直ぐ仕舞い、そのまま浴室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……久しぶりですねガウェイン。まさかアースカルズに所属していようとは」

 

「ええ、私も驚きですよ。死後迎えに来たのがロリ巨乳な戦乙女でなかったら断っていました」

 

一誠がガウェインを連れて帰ると既にランスロットも帰還していた。どうやら緊急事態らしくポチを護衛に残して一時帰還してきたらしい。帰宅するなり自分を出迎えたガウェインを見てランスロットは驚き部下である元円卓の騎士の面々も気まずそうにしている。だが当の本人は生前あれほど抱いていた恨みなど忘れ去ったようにフレンドリーに接していた。

 

「どうです、後で一緒に飲みに行きませんか? いい娘が居る店があるのですよ。え? 仕事があるって? 貴方は相変わらず堅物ですね」

 

「……申し訳御座いません」

 

「まだあの事を気にしているのですか? もう良いと手紙で伝えたではありませんか。それよりチェスでもします?」

 

一誠は二人の会話を聞いて呆然としていた、アーサー王の物語やランスロットから聞いた彼は騎士道を最も重要視する堅物といった印象なのだが目の前の彼からは頭のネジが数本抜け落ちた印象を受ける。

 

「ランスロット。彼はもう君に怨念を抱いてないよ。俺が保証する」

 

「……そうですか。ですが私の行動が祖国を滅びに……」

 

一誠に励まされてもランスロットの表情は優れない。どうやらトラウマスイッチがオンになってしまっているようだ。それを見ていたガウェインはいい加減我慢できなくなったのか彼の胸ぐらを掴んだ。

 

 

 

「いい加減にしなさい! 貴方はグィネヴィア様を愛した事を後悔しているというのですか!? 己のせいで犠牲になった者に詫びるのも償うのも構いません。だけど、後悔だけはしてはなりません! それは貴方を愛した民への、騎士への、グィネヴィア様への侮辱だとなぜ分からないのです!」

 

「ッ!」

 

ガウェインはランスロットの胸ぐらを乱暴に離すと彼を突き飛ばし、先程から黙って話を聞いている一誠の方を向く。そして何を思ったのかガラティーンを抜くと無防備な一誠目掛けて振り下ろした。白刃が舞い剣のぶつかり合う音が聞こえる。咄嗟にアスカロンを抜いたランスロットがガウェインの凶刃から一誠を守っていた。

 

 

「……ガウェイン。この方は私を救ってくださった新しき主です。それに手を出そうと言うのなら、たとえアーサー王であろうとも迷いなく切り捨てます!」

 

憤怒の形相で自分を睨むランスロットに対しガウェインは剣を収め、

 

 

 

 

「ええ、それで良いのです。私たちは互いに新しき主を見つけた身。ならば過去は忘れ新しき主の為に邁進する。其れでいいじゃありませんか。……兵藤様、猿芝居にお付き合い頂き有難うございます」

 

柔らかな笑みを浮かべてそう言った。どうやら先程までの言動は芝居だったらしく、それに気付いていなかったのはランスロットだけのようだ。その証拠に他の騎士も微動だにしておらず、ランスロットが顔を向けると気不味そうに苦笑いを浮かべる。その事に気付いたランスロットの心を満たしたのは怒り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ではなく安堵。この時、ランスロットはアーサー王やガウェインに許されてなお許せなかった自分を許す事ができた。ランスロットは立ち上げると一誠の前で跪き忠義を誓うポーズを取る。

 

「主よ。改めて忠誠を誓わせて下さい。この湖の騎士ランスロット。此の身が果てるまで貴方の剣となり全ての障害を滅ぼしてご覧に入れます」

 

「うん。期待してるよ。我が剣よ!」

 

一誠も内心では、騎士って面倒っと思いながらも仰々しく応える。その様子をガウェインは苦笑しながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで聞いて下さい。王の命令で結婚したのが年上で、しかも醜女だったんですよ。そもそも王が間抜けな事に罠にかかったせいで。私が結婚しなかったら契約で国を明け渡さなかればなりませんでしたし。そもそもの原因が困った人に頼まれて屋敷に行ったって言うんですが、王の仕事は聖剣をぶっぱなすだけなんだから大人しくしておいて欲しかったですよ!」

 

「でも呪いが解けて美人になったんでしょ? 確か夜に美人になるか昼に美人なるか選ばされて奥さんの好きな方を選んだんだっけ? ……やっぱり夜に美人を選んだのは夜の生活の為? そういえば君のあの能力ってアッチの方も三倍になるの?」

 

「ははははは! ……秘密です。しかし私も年下巨乳が好きですが貴方も大概ですね。狐耳の正妻に先ほどの猫耳の女性。そういう趣味ですか?」

 

「……あの」

 

仲良く話す一誠とガウェインを見てランスロットは疎外感を感じていた。例えるならば友人に別の友人を紹介したら自分より意気投合して二人共疎遠になった、というのが近いだろう。その後、ランスロットが話に加われないままガウェインが帰る時間がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「それでは私はそろそろオーディン様に合流致します。……ランスロット。ロスヴァイセさんとの事で悩んでいますね? 確かにあの方はグィネヴィア様に似ていらっしゃいますが。恋に落ちる理由が元カノと似ているでも良いと思いますよ。私なんて好みのロリ巨乳の戦乙女と結婚しましたが、好きになった理由は見た目だけでしたよ。お付き合いしてから他の好きな部分を見つけたら良いじゃないですか。私なんて……」

 

ガウェインはその後数十分に渡り爽やかな笑顔でノロケ話を続けて帰っていく。そんな友人の背中を見てランスロットは呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何か悪いものでも食べたんでしょうか?」

 

「嫁さんがメシマズなんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、一誠が次の日の休日に何をしようかと考えながら床に入ると部屋に玉藻が入ってきた。その顔には憂いが有り、耳と尻尾が垂れ下がっている。

 

「……何があったの?」

 

「……天照から手紙が届きました。北欧の神との会談の前にご主人様と話がしたいそうです。おそらく私を構成している玉藻の前についてでしょう」

 

玉藻はその顔を不安で曇らせながら一誠に縋り付く。その瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうだ。

 

「私、不安なんです! ご主人様から引き離されちゃうんじゃないかって! 下手すれば私が吸収されて消えて無くなるんじゃないかって……」

 

ついに玉藻の瞳からは涙が溢れ出し、一誠の胸に顔を埋め嗚咽を溢す。一誠は玉藻の顔に右手を近づけ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えい!」

 

「きゃふ!?」

 

その額めがけて全力のデコピンを放つ。思わず飛び退いた玉藻の額は真っ赤に染まり先程までとは別の理由で涙目になっていた。

 

「な、何するん……」

 

「……君って馬鹿なの? 俺が絶対に奪わせやしないし、もし吸収されたら天照をぶっ殺して魂をバラバラにしてお前を抽出して再構成してあげるよ。それでも無理なら……俺も一緒に死んでやる」

 

「だ、駄目です! そんな事私がさせませんからね!」

 

一誠の言葉に玉藻の尻尾と耳はピンっと立つ。どうやら怒っているらしく毛が逆立っていた。今の彼女からは一流の戦士でも寒気を感じる程の怒気が放たれているのだが、一誠は満足気な顔をしている。

 

「それで良いんだよ。俺を死なせたくなければ君も何としても生きる事。互いに守り合えば良いんだから簡単でしょ?」

 

「……あ」

 

「俺と玉藻が居ればどんな困難も乗り越えれるさ。だからこれからも俺について来てね?」

 

「はい! 一生着いて行きます、ご主人様!」

 

その時の玉藻の顔には不安も憂いもなく、思わず一誠が見蕩れるような晴れ晴れとした笑顔があった。

 

「ん! 元気になって良かったよ。明日は休みだしデートしようか。正体バレたから人目を気にしなくても良いし」

 

「みこーん! デート? ご主人様とのデートなんて久しぶりです! おっしゃぁぁぁぁ!! 締めはラブホテ……」

 

「落ち着け!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、少々昨日の疲れが取れない一誠は眠気を堪えながら出掛ける準備を始める。玉藻などは既に起きて何時もの着物から着替えていた。ミニスカートにTシャツという何時もと違う格好の彼女に一誠は思わず見とれ、それに気付いた玉藻は顔を真っ赤にする。二人は朝食を済ませると指を絡ませる、俗に恋人繋ぎと呼ばれる手の繋ぎ方をしながら外に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、赤龍帝! ちょっと相談がぁっ!?」

 

「……まぁた厄介事ですか。ご主人様とのデートを邪魔するとかマジ死んでくださいって感じなんですけど」

 

急所に渾身の膝蹴りを喰らって悶えるアザゼルを一瞥した玉藻は苦々しげに毒を吐いた。




征服王と海賊姐さん 二人のライダーどっちが強いんだろう? 軍勢を吹き飛ばしきるまで宝具を維持できれば姐さん? 無数の戦艦による空中からの砲撃だし 不可能を可能にする ってスキル。
能力値は仕方ない最初のボスだから(笑)

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過去を悔いてはならない( *`ω´)by甥っ子 アーサー王でも切る(`・ω・´)by完璧な騎士

某騎士王(´;ω;`)


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四十六話

更新が途切れたのは言い訳しない! cccが面白かっただけだ! 通常エンドはサーヴァントエンドからサーヴァントの会話なしにしただけらしいので目指せ最低5週!

レベル高いままで俺tueeeeeも好きだ 一からレベル上げるのも好きだが強くてニューゲームはもっと好きだ

推奨レベル22のところに28で挑んだ私 セーブ&ロードの敵復活が嬉しい エクストラは端から端までのマラソンの繰り返しだったから…… しかも復活するのは最初の方の敵だから一往復しないといけなかったし……




あ、余談ですが原作追いついたら他の続き書きつつ赤髪か聖女の兄をリメイク予定

赤髪は大幅リメイクで魔王少女の息子にしてロボットとマッド以外は眷属変更

聖女兄は能力をフェイト限定にしようかと

どっちかはアイディアしだい


人は心の何処かで自分は特別だと思っている。ニュースで陰惨な事件や事故を知っても自分にはこんな不幸は降りかからないと何処かで思い、例えば多くのものが呪いに掛かったとされる禁忌にも自分なら大丈夫だと思って触れる。自分なら何も失わないと思い込みながら。

 

 

 

この世に真に特別な存在など有りはしないのに……。

 

 

 

 

 

 

 

「……テロリスト連れてアポ無し訪問なんて……冥界からの冥府への宣戦布告と取って良いのかな?」

 

「お相手致しますよ? 塵すら残さず消し去りますが」

 

今からデートに向かおうとした時の突然の訪問に、一誠と玉藻は笑顔を浮かべながらも不機嫌さを醸し出す。いや、笑顔も威嚇の一種である為、あえて笑顔を浮かべているのかもしれない。二人から放たれる怒気に突然の来客者達は気不味そうにしていた。やって来たのはアザゼルにオーディン一行とソーナとリアス、そしてその眷属達とヴァーリ達だ。

 

「……兵藤君。行き成りの訪問申し訳ありません」

 

一誠達が戦う気を示した事に嬉しそうな顔をするヴァーリを無視しソーナが頭を下げる。オーディンというハーデスの友人も居るので一誠は仕方なく一同を家に招き入れた。流石にこの大人数では少々手狭にな、とアザゼルが思った時、彼らの全身をヌメリと撫でるような感覚が襲い、何時の間にか花に囲まれた庭園に移動していた。庭園には人数分の椅子とテーブルが用意されており、ありす達がお茶とケーキの用意をしている。

 

「ようこそ、ありすのお茶会へ!」

 

「今日は名前を取らないから安心して良いわ」

 

一誠と玉藻はすぐに席に着き、ありす達は二人の前にケーキと紅茶を並べる。アザゼル達も戸惑いながら席に着いた。

 

「なぁ、赤龍帝。この空間は何なんだ? 其処の二人が関係しているようだが……非常に興味深い」

 

「……君ってショタコンなだけじゃなくてロリコンでもあったの? 宿ってるのはロリショタ皇ホモペドン? あ、ヴラディ君は逃げたほうが良いよ。男の娘の君ならヴァーリの好みドストライクだろうから」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

ギャスパーは悲鳴を上げながら壁際まで逃げる。その際にしっかりとお尻を押さえており、明らかにヴァーリを警戒している。ランスロットもありす達を守るように間に入る中、ヴァーリは静かに机に突っ伏していた。

 

「……ヴァーリ? あ、舌噛んでる」

 

美猴が覗き込むとヴァーリは口元から血を流し目は白目を向いている。そうやらショックのあまりに自ら舌を噛み切ろうとしたようだ。アルビオンに対するホモ疑惑が自分にまで及び、最近では何者かの手によって自分が小児性愛者だという噂が駆け巡っている上、先ほどのロリコン疑惑の浮上。流石の彼も耐え切れなくなったのだろう。

 

「な、何か噛ませる物は!? アルジェントさん! 彼の治療を!」

 

たちまち場が騒然となりアーシアは慌てて治療を行い出す。その間、小猫は我関せずといった様子でケーキを貪り、黒歌はその世話を焼いていた。

 

「ほら、口元にクリーム付いてるにゃ」

 

「……有難うございます」

 

数十分後、ようやくヴァーリの精神が安定したのを確認したアザゼルが用件を話しだした。ロキが連れているフェンリルは全盛期の二天龍クラスなので戦力が欲しいが英雄派のテロによって人手が足らずヴァーリ達の協力の申し込みを渋々受け入れる事になった。でもそれだけでは不安なので冥府に戦力提供を依頼した所、一斉に自分達で交渉しろっとの返答が返ってきた。

 

「テロリストの手を借りるなんて落ちぶれたね。第一彼らって弱いじゃん」

 

「……俺は弱くないぞ、兵藤一誠。何ならこの間の続きをするかい?」

 

一誠の発言にヴァーリは不機嫌そうに反応する。この間の戦いは彼にとって不満だったようだ。二天龍同士の熱い戦いを期待していた彼からすれば一誠の戦い方は許せなかったのだろう。

 

「いや、この前は俺の完勝だよ? 俺は君と違って卑怯な事をせず正々堂々戦ったんだから。まぁ、君が俺の言葉に対し勝手に間違った解釈をしたけど」

 

「……良いだろう。この場で再戦と行こうじゃ……!?」

 

ついに我慢の限界を迎えたのかヴァーリが立ち上がり、アザゼル達が慌てて押さえ付けよつとした時、ヴァーリの後ろから伸びてきた白い手がヴァーリの顎を撫でる。何時の間にかハンコックが……ヴァーリの曾祖母であるリリスが立っていた。

 

「……オマエは」

 

「ふむ。ルシファーによく似ておるよなぁ。じゃが、少々熱くなりやすいと見た。どれ、暴れたいなら妾が相手をしてやろう」

 

「……良いだろう。奴を倒す前に曾祖母のオマエで予行練習だ。歴代最強の白龍皇の力を見せてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……仕方ないね。爺さんからも条件付きで手を貸すようにメールがあったし、何人か派遣するよ」

 

一誠は嘆息すると指を鳴らす。すると一誠の背後にグレンデルとフリードが現れた。

 

「この二人と先日派遣したランスロットとポチを出すよ。それとあと数人程当日までに決めるから。本当なら実力的に俺と玉藻が行くべきなんだろうけど、俺は用事があるから少し遅れるし、玉藻は神の一種だからフェンリルの神殺しの牙が怖いしね。ま、用事が終わったら向かうよ。……本当ならシャドウがフェンリルと相性が良いんだけど今はちょっと訳が有って戦えないんだ」

 

「あぁ! 助かるぜ。んで、条件ってのは?」

 

「一つ目は人工神器の開発データの提供。二つ目はアロンダイトの情報を集める事。そして三つ目は……オーフィス打倒にサマエルを使用したいから他の勢力を説得して欲しい。この三つだよ」

 

二つ目の条件までは普通に頷いていたアザゼルであったが三つ目の条件に顔を引きつらせる。サマエルは龍に対する聖書の神の悪意によって呪われた堕天使兼ドラゴンで、余りにも危険な為にコキュートスの最新部で厳重封印する事が全勢力の合意で決まっていた。それを使用するというのだからアザゼルの反応は最もだろう。

 

「この前、オーフィスはサマエルの毒っていう言葉に反応したでしょ? もしかしたら有効かもしれないから使ってみようって話になったんだ」

 

「……俺だけでは判断できねぇ。本部に帰って話し合いをさせてくれ」

 

「仕方ないなぁ。爺さんには俺から話しとくよ」

 

漸く話が纏まりかけた頃、アーサーが話し掛けづらそうに近付いて来た。彼の視線は先程からフリードの手の中にあるコールブラントに注がれている。

 

「……あの。コールブラントを返して頂けませんか? アレって一応私の家の家宝兼国宝ですので……」

 

「なんでテロリストに強力な武器渡さなきゃいけないの? ペンドラゴン家にならお金と引き換えに渡すから頼んでみれば?」

 

一誠の言葉にアーサーはすごすごと引き下がっていく。もともと勝負に負けた際に奪われた物なので駄目元で頼んできたのだろう。そのまま大人しく、ハンコックの椅子にされているズタボロのヴァーリの元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グハハハハ! んじゃ、行ってくんぜ旦那!』

 

その後、フェンリルの弱点を探る為にロキの別の息子であるミドガルズオルムの思念体に会いに行く事となり、グレンデルが一誠の代わりに向かう。どうやら目的の龍を起こすのには他の龍の存在が必要なようだ。同行することなった元龍王のタンニーンはヴァーリやグレンデルに警戒しているが、当の二人はどこ吹く風といった様子だ。

 

「……大丈夫だろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ! そろそろ上映ですよ!」

 

グレンデル達がミドガルズオルムの元に向かっている頃、一誠と玉藻は漸くデートに向かっていた。先程までの話し合いで潰れた時間を取り戻すかの様に玉藻ははしゃいでいた。一誠は両手にポップコーンやら飲み物を持ってその後を追う。二人が席に座って直ぐに映画が始まった。

 

『i love you』

 

 

 

 

 

「はぅ~。やっぱ良いですねぇ♪」

 

玉藻は画面に憧れの視線を向ける。二人が見に来たのは洋画の恋愛物で愛し合う男女が試練を乗り越えながら結ばれるっという在り来りなものだ。それでも面白い人には面白いのかあちらこちらで観に来ていたカップルが手を重ね肩を抱き寄せ合っている。

 

 

「……玉藻」

 

「はい? なんですか、一誠さん……んっ」

 

そして一誠も玉藻の名を呼び、横を向いた瞬間に唇を重ねた後で恥ずかしそうに手を重ねた。エンディングのスタッフロールが流れる間、二人は顔を真っ赤にしながら座っている。この日は二人が初めて正体を隠さずにデートをした日であり、玉藻が一誠を初めて名前で呼んだ日であった。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、玉藻。今日は俺の事を名前で呼んでくれない? たまには主従関係無しで過ごしたいんだ」

 

「良いですよ。其れがご主人様のお望みなら私は従うまでです」

 

デートの日の朝、一誠から出された提案に玉藻は了承する。当初は名前で呼ぶくらい大した事ないと思っていた二人だったが、

 

「ご……い、一誠さん」

 

「……何?」

 

「……なんか照れくさいですね。ちょっとした事が新鮮に感じます」

 

このように妙な気恥ずかしさが二人を襲う。既に何度も肉体関係を持っているにも関わらず、その日のふたりは付き合いだして間もないカップルのようであった。二人が映画館の次に向かったのは一誠がレイナーレを殺して下僕にした公園。一誠は遊園地にでも行こうかと誘ったのだが、玉藻はそれを断った。

 

 

 

「はい、あ~ん♥」

 

「んっ。料理の腕上げたね。次はコロッケにしてくれる?」

 

玉藻が断った理由は今食べているお弁当である。近くの遊園地には持ち込んだお弁当を食べる場所がなく、丁度いい場所として今居る公園まで来たのだ。玉藻は甲斐甲斐しく一誠の世話を焼き、一誠の母親から教わって作ったオカズを一誠の口に運んでいく。彼女が幸せそうな顔で箸を進めていると、何を思ったか一誠はその箸を取る。そして、

 

「はい、あ~ん」

 

「あ、あ~ん……」

 

先ほど自分にして貰ったのと同じように箸で料理をつまむと玉藻の口元に持って行く。玉藻は顔を耳まで真っ赤にしながら口を開けた。

 

 

 

 

 

「ふぅ~、満腹満腹。玉藻、膝貸して」

 

「はい、喜んで♪」

 

食事後、一誠は玉藻の膝枕をして貰いながら微睡む。玉藻はその顔を愛おしそうに眺めていた。

 

 

 

 

「……私は既に玉藻の前でも子狐の玉藻でもない別の存在ですが、両方の記憶を持っています。ご主人様。私は玉藻の前が愛した方より貴方が好きです。子狐の玉藻の時よりも貴方が大好きです。私は貴方の事がずっとずっと大好きです!」

 

微睡む一誠にその呟きが聞こえているのか聞こえていないのかは分からないが、その口元は微かに緩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ~。今なんか旦那と大将がイチャラブってる気がしたぜ』

 

その頃、ミドガルズオルムを呼び出している真っ最中だったグレンデルは急にそんな事を呟く。周りの者達は『大罪の暴龍』とまで呼ばれたグレンデルの言葉とは思えず目が点になっている。そんな中、ミドガルズオルムの声だけが響いた。

 

『あはははは! グレンデル、君変わったね。なんかドライグとホモビ……アルビオンの気配が混じってる気がするけど、何か変わった事あった?』

 

『あぁん? せいぜい手芸や格闘技の通信教育に嵌ったくらいだな。この前マユリの野郎に武器作って貰ったしよ、早く試したいぜ』

 

「……おい、気のせいか? 今グレンデルが手芸に嵌ってるって聞こえたんだが」

 

「……俺にもそう聞こえたよ。アルビオンはどうだい?」

 

『……俺はホモじゃない俺はホモじゃない俺はホモじゃない。ホモなのはヴァー……すまん、よく聞いてなかった』

 

その後、もうツッコミを入れるのも面倒くさくなったタンニーンは目的であるフェンリルの弱点を聞き出してさっさとその場から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後、一誠が天照との会談を終え戦いの場に向かった時に目に入ってきたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランスロットさん!」

 

砕けた剣を落とし、血まみれでロスヴァイセに抱き抱えられるランスロットの姿と大小合わせて四匹(・・)のフェンリル。そして小猫を庇い背中から胸を貫かれた黒歌の姿。

 

「にゃはは……。白音…怪我…無い…?」

 

「ね、姉さまぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

小猫の悲鳴が戦場に木霊した……。




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ヴァーリはもう駄目だ お仕舞いだぁ

セイバーがデレっデレ(笑) 今から四階層


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四十七話

――――それは人の身なら気の遠くなる程、神からすれば少し前程度の昔の事。とある二人の神が雲の上から地を見下ろすと飢えと寒さで次々と人が死んでいた。見兼ねた二人は地に降り立ち、火の熾し方と風の御し方を説く。勿論、他の神々には内緒でこっそりと……。

 

「聞いたか、太刀風の? 我々のやった事がバレたらしい」

 

「本当か、雷電の? まぁ、構わん構わん!」

 

他の神は火風の理を勝手に教えたのを責め立てるも二人はどこ吹く風、全く気にしていない。たとえ咎めを受けようとも、人を救うのが二人の望みだったから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ついにこの日がやって来ましたね。今度こそはと思いますが……」

 

とあるホテルの一室で一人の女性が憂いに満ちた表情で外を眺めている。彼女の名は天照。日本神話体系の王であり、今はオーディンとの会談の為に下界へとやって来ている。そして彼女は赤龍帝・兵藤一誠と玉藻の二人との会談を望み、その事に不安になっていた。

 

「なぁに、大丈夫だろう。少なくても今までは問題がなかったんだろう?」

 

「平気平気! 少しは信じてやったらどうだ? ……まぁ、同じ事を繰り返したくないという考えは分かるがな」

 

「……ええ。だから今日見極めさせて頂きます。もし駄目だと判断したならば……」

 

天照は後ろに居た護衛らしき二人に対しそう呟き、部屋から出て行く。その際、彼女の桃色の髪の毛が微かに揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、作戦を確認するぞ。ロキの襲来と共に戦闘班と一緒に指定場所に転移。戦闘班は堕天使側からバラキエル。悪魔側からタンニーンとグレモリー眷属とシトリー眷属のゼノヴィアと匙。ただし匙は少々遅れる。天界側からはイリナ、北欧側からはロスヴァイセとガウェイン。そしてヴァーリチーム。後は冥府側からだが……」

 

会談当日の夜、アザゼルは作戦の最終確認を始める。最近のテロの影響で何処も人手が足りず、連携重視でメンバーが選抜されたのだが、冥府からのメンバーが問題だった。

 

「こうして共闘するのはお久しぶりですね、ガウェイン」

 

「ええ。円卓の騎士の力を見せてやりましょう」

 

まだガウェインと仲間だったランスロットとその部下はまだ良いだろう。だが、他のメンバーが問題だった。

 

「ひっ! ふ、フリード神父……」

 

「ん? どうしたんだよアーシアちゃ~ん。まだ手足ぶった切ったの根に持ってるの?」

 

「にゃん♪」

 

「……血がたぎる。八房が神の血を吸わせろと騒いでいるでござるよ」

 

「ちょっと、ポチ隊長にフリード。後ついでに黒歌。一応アザゼル総督が話してるんだから聞いてあげたら?」

 

『グハハハハ! 今から楽しみだぜ!』

 

一誠が派遣してきたのは何奴も一癖ある者ばかり。リアス達と二回も敵対したフリードに目が血走っている侍の犬飼ポチ。そして黒歌と堕天使レイナーレと邪龍グレンデル。とても他の者達と共闘するといったメンツではない。本来ならばシャドウを派遣して欲しかったアザゼルだが一誠から今は無理だと断られた。アザゼルも会談の仲介の為に戦闘には参加できずバラキエルを代役に立てている。

 

「……本当に大丈夫か?」

 

アザゼルが思わず呟く中、会談場所であるホテルの上空の空間に穴が空き、中からロキとフェンリルが出てきた。

 

「目標確認。作戦開始」

 

バラキエルの合図と共にホテル一帯を結界魔法陣が包み、ロキ達をリアス達ごと転移させていく。ロキはそれを感じ取りながらも何の抵抗もしなかった。一行が転移したのは古い採石場跡地。そして転移が済むと同時にグレンデルが飛び出す。その手には何時の間にか巨大なトンファーが握られており、真っ直ぐにロキへと向かって行った。

 

『グハハハハ! 一番槍は貰ったぜ!』

 

「ほぅ。滅びたはずの邪龍が相手とは! これは胸が高鳴るぞ!」

 

ロキは迎え撃つべく無数の魔法陣を出現させ光の帯を放つ。だがグレンデルは気にせず真っ直ぐ突っ込み、光の帯を真正面から受けながらもその疾走は止まらない。いや、邪龍でもトップクラスの防御力を持つ龍鱗に弾かれ光の帯はほとんど効果をなしていない。

 

「オォォォォォォォォォン!!」

 

フェンリルがロキの元へと行かせまいとグレンデルに噛み付く。グレンデルの強固な鱗もフェンリルの牙には耐えられずその身に牙が食い込み血が流れるもグレンデルは止まらない。その収まる事のない戦闘欲求こそが彼が大罪の暴龍と呼ばれる所以なのだから。

 

『行くぜ! 必殺!!』

 

「くっ!」

 

グレンデルはフェンリルに食いつかれたままロキに迫り、右手に持ったトンファーを回転させながら振り抜く。回避不能と判断したロキはその方向に防御魔法陣を設置して衝撃に備え、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま反対方向から迫った足に蹴り抜かれた。

 

『トンファーキィィィィィィク!!』

 

「がぼっ!?」

 

『ハッハァァァァァ! おい、犬っコロ。いい加減離しやがれぇ!』

 

右手のトンファーにばかり注意位を放っていた為に反応が遅れ、ロキはそのまま地面に蹴り落とされる。そしてグレンデルは噛み付いたフェンリルを下にするように地面に急降下していった。だが、フェンリルは咄嗟に牙を離すとついでとばかりにグレンデルの背中を爪で引き裂く。黒板を爪で引っ掻くような嫌な音と共にグレンデルの鱗と血飛沫が当たりに散った。

 

『グハハハハ! 痛いな、オイ!』

 

かなりのダメージを食らったにも関わらずグレンデルは楽しそうに笑ってフェンリルの方を向く。するとフェンリルの背後からポチが迫っていた。空中を飛び跳ねる彼の体中は何時の間にか狼の毛に覆われ顔は既に狼のソレとなっている。

 

「不意打ち御免!」

 

「ギャゥゥゥゥゥゥゥン!!」

 

ポチが放った神速の居合抜きは一撃でフェンリルの強固な毛皮に八つの傷を付け血を噴き出させる。グレンデルと同様に戦闘欲求が強いフェンリルもその一撃には耐えられなかったのか悲鳴を上げ怯む。その様子をタンニーンは空いた口が塞がらなかった。

 

「し、信じられん。フェンリルに易々と傷を負わせるとは……」

 

「それは当然でしょう。ポチ殿は主の側近である死霊四帝の長。そして彼の身が扱える妖刀八房は魔剣聖剣の類以外は強度に関係なく切り裂き、その際に吸った力を主に還元します。……頃合ですね。黒歌殿!」

 

「にゃん♪」

 

ランスロットの合図と共に黒歌は巨大な鎖を出現させる。この鎖の名前はグレイプニル。ドワーフが作ったこの魔法の鎖は一度は効かなかったのだがダークエルフの協力を得て強化されていた。それをヴァーリチームとタンニーンが持ち上げ投げつける。だが、フェンリルは咄嗟に飛び退き鎖から逃れ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『トンファー超天空×字拳!!』

 

「ギャンッ!」

 

グレンデルのクロスチョップによって鎖まで弾き飛ばされた。フェンリルに命中した鎖は意志を持つかのようにフェンリルに絡みつきその動きを封じる。苦しそうな狼の叫びが響き渡った。

 

「トドメで御座る!」

 

そしてポチはフェンリルの喉元目掛けて刀を振るう。だが切っ先がフェンリルに迫った瞬間、ポチは横合いから飛び出た灰色の塊に弾き飛ばされた。

 

「……まさかグレイプニルを強化してるとはな。さて、フェンリルの息子達よ! 父を捉えた者達を受け継いだ神殺しの牙で葬るが良い!!」

 

突如現れたのはフェンリルより少々小柄な灰色の狼二匹。二匹は唸り声を上げながらランスロット達の方へ向かって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご無理を言って申し訳ありませんでしたね、兵藤一誠君。そしてお久しぶりと言うべきでしょうか、玉藻の前……」

 

グレンデルがトンファーを全く使わずに戦っている頃、一誠は天照と会っていた。その体から放たれる輝きは命を育む春の日差しの様であり、その顔は玉藻と瓜二つであった。だが一誠はその事を予め知っていたのか驚いた様子もなく、玉藻に至っては不機嫌そうな顔をしている。

 

「……それで何の用ですか? 私の一部である玉藻の前の怨念を放置していたのは貴女でしょうに。それと、私をその名前で呼ばないでくれます? 私の名前はご主人様から頂いた『玉藻』だけです」

 

玉藻から放たれる明らかな敵意を気にした様子も無く、天照は着物の裾で口元を隠しながらクスクスと笑っている。その姿がカンに障ったのか玉藻の目付きはますます鋭くなっていった。

 

「……ええ、玉藻の前の怨念を放置したのは私です。……ですから今日は回収しようと思いお呼びしました」

 

その瞬間、天照の放つ空気が変わる。先程までの暖かい日差しから一変し、まるで命を奪う砂漠の灼熱の日差しを思わせる物になり、後ろで控えていた護衛二人でさえも冷や汗を流していた。

 

「ああ、別に全てを持って行く訳じゃないですよ? ちゃんと代価はお支払いいたしますし、持って行くのは玉藻の前の部分だけ。子狐の玉藻ちゃんの部分はお残し―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巫山戯るな。今の玉藻は玉藻の前と子狐の玉藻が合わさって初めて存在しているんだ。それを横合いから持っていく? 俺にとって一番大切なのは、俺が一番愛しているのは今の玉藻だ! 絶対に渡してたまるか!」

 

「ご主人様……」

 

一誠は珍しく声を荒らげながら叫ぶ。天照は一誠が庇う様に後ろにやった玉藻をチラリと見るとワザとらしく溜息を吐いた。

 

「……そうですか。なら、力尽くです」

 

その瞬間天照の体が激しく光輝き、光が晴れた時には一誠と玉藻は真っ白な部屋に居た。二人が警戒していると何処からともなく天照の声が聞こえて来た。

 

「貴方が渡さないと言うのなら力尽くでも奪います。それが嫌なら力を示しなさい。ちゃんとその子を守れる力があるかを!」

 

「きゃっ!?」

 

「玉藻!?」

 

一誠が玉藻の悲鳴に振り返ると彼女は半透明な球状の結界に閉じ込められ、部屋の中央へと移動していく。そして反対側から先ほどの護衛二人が現れた。

 

「さぁ、坊主! 今直ぐ掛かってこい!」

 

「手下の力を借りずに試練を突破できたら彼奴は無事に返してやるぜ!」

 

二人は着ていたスーツを脱ぎ捨て正体を現す。そこに居たのは大きな袋を担いだ緑色の鬼と太鼓を背負った紫色の鬼。風神と雷神という名で有名な鬼神だ。

 

「では、太刀風五郎参る!」

 

「んじゃ、雷電五郎行くぜぇ!」

 

一誠目掛けて雷撃と嵐が放たれ、部屋に轟音が響き渡った。

 

 

 

二人の神が人に火風の理を授けた事によって地上は笑顔で溢れ、その笑い声は雲を突き抜けて二人に届く。それを聞いた二人は後悔せぬと高笑いをしていた。だが、それも長くは続かない。人々は二人から教わった術を戦いの道具に使い、地上には怨嗟の声が満ち溢れ出す。それを見た二人は嘆き悲しみ、自ら牢に囚われた。それは二人が地上に降り立って、たった半年後の事……。

 

 

 

 

 




意見 感想 誤字指摘お待ちしています

さて、今回登場したのはとあるゲームでゲーム中最高クラスの強さを持つボスコンビです。一誠の相手として何がいいかと考えてこの二人にしました。っていうかこの二人が好きだったんで(笑)


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四十八話

つ、ついに評価が7を下回った (´;ω;`)

お気に入りも前回でぐっと減ったし 感想こそが動力源です


人と神は姿形が似ていたとしても全くの別物だ。脆弱で短命な人と違い、神は強靭で永遠に近い寿命を持つ。其れ故に神には生きながら死んでいるに等しい者がいる。万能ゆえに達成感がなく、長寿ゆえに生きる事に飽きている。要するに彼らは退屈し娯楽を求めていた。彼らはその力ゆえに傲慢で人を見下している。天照もそんな神の一人。

 

―――なぜ人はあんなに弱いのに生きているのだろう。なぜ一目も見た事もない自分に祈れるのだろう。

 

雲の上から自分に祈る人を見ていてそう思った彼女は気紛れを起こし、一匹の野干に自分の分身を宿らせ、記憶を消した上で人に仕えさせてみる事にした。神の王である天照にとって誰かに仕えるという事は初めてであり、分身を通して夢で見る人としての生活は彼女を楽しませ、それなりに幸せな生活だった。

 

―――人としての生活も悪くない。

 

だが、分身――玉藻の前が人間で無い事が発覚するとその幸せは一変、絶望へと変貌する。分身から押し寄せてくる胸を締め付けるような絶望と悲しみ。長らく忘れていたその感情に天照は苦しみ、やがて玉藻の前は自分の正体を思い出した。一度目は朝廷の追っ手を撃退した玉藻の前は二度目は和平を説きながら無抵抗のまま三日三晩矢の雨を受け続け死に絶え、その魂は天照の元に戻る。

 

―――神が人になりたいなど思うべきではなかった。やはり人と神は相容れぬ関係。互いの為にも関わりあうべきではないのだ。

 

後に残ったのは言い表しようのない絶望感と玉藻の前の怨念。もう悲しみと絶望を天照に送り続けるだけの其れを天照はあえて放置した。それが自分への戒めと決めて……。

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ! これも防ぐか。いや、愉快愉快!」

 

雷神は撃ちだした雷球が一誠に防がれたのを見て豪快に笑う。隣の風神も愉快そうに笑っており、二人からは一誠を見下す視線も敵意も感じられない。いうならば体育会系のOBが後輩を鍛えている、といった感じだ。

 

「……調子悪い。覇龍は詠唱時間が隙になるし、卑怯な手を使ったら玉藻に何があるか分からないし……」

 

一誠は口内ににじみ出た血を床に吐き捨てると破損した鎧を修復する。その体は雷撃で焦げ風の刃で切り裂かれ負傷していた。見るからに本気で無い攻撃にも関わらず一誠は追い詰められつつある。それは人と神の差であり、神器の不調による物だった。

 

『相棒、もう少しの辛抱だ。今神器はパワーアップの時を迎えようとしている。後はその方向性が定まれば良いのだが……』

 

玉藻を天照から守りぬく。その誓いをした時、神器に異変が起きた。皮肉な事に玉藻を守るという意思によってもたらされた強化の兆しが玉藻を救う為の障害となっている。今も雷神の爪の一撃を避けようとしたもののスピードが出ずに避けきれず、何時もより強度の低い鎧は一誠の体ごと引き裂かれる。その姿を玉藻は悲痛な面持ちで見ていた。

 

「ご主人様……」

 

玉藻は自分を閉じ込めている結界を殴りつけるも微動だにせず彼女の拳が痛むばかり。結界の効果かそれでも玉藻は結界を壊そうと足掻き続ける。すると彼女にだけ聞こえるように天照の声が届いて来た。

 

『もう止めて欲しいですか? なら玉藻の前の怨念を差し出してくださいませ。そうすれば今すぐ止めて……』

 

「黙りやがってくださいませ、クソ神さん。私は今の私を捨てる気なんてありませんよ」

 

『……そう。やっぱり自分が一番可愛いんですねー。愛しているとか言っておきながら危なくなったら自分を優先する。ま。それが気まぐれな神らしいですけど?』

 

天照の声は玉藻と同じように巫山戯た感じでどこか本心を隠している様にも思える。そしてその言葉を聞いた玉藻は、

 

 

 

 

 

 

「はっ! 何を言っているのやら。私とある程度繋がっているのに、そんな事も分からないんですかぁ?」

 

心底呆れているといった様子で鼻で笑う。最後にはオマケとばかりに吹き出した。

 

「私とご主人様は相手の為に死ぬといった関係の更に上を言っているんです。相手が自分の為に死んだら迷わず後を追う。だから私達は自分を犠牲にしない。それに私のご主人様は最強なんですよ? ……ま、今はちょっと弱っているから心配しましたけど」

 

得意げに胸を張る玉藻の視線の先では籠手から出現した黒い刃で掴みかかった雷神の腕を切り飛ばす一誠の姿があった。

 

 

 

 

「……あ~、もう難しい事考えるの辞めよ。君達ぶっ殺した際の冥府と日本神話体系の関係とか気にしなくて良いや。どうせそっちが仕掛けてきたんだし……さっさとブッ殺して玉藻と一緒に帰る! この『神喰龍剣(かみくいりゅうけん)』でね!」

 

一誠の鎧は先程までの不安定さは消え去り、むしろ以前より強く安定した力を放っている。そして右手の籠手から生えた刃。それこそが新しく手に入れた力だろう。一誠は右手の籠手から生えた黒い刃を二人に向ける。その刃先からは神殺しの力が放たれていた。

 

「ははははは! やはり人間とは凄まじいな。短期間でどんどん強くなっていく! だが、我らもまだまだ負ける訳にはいかんな、太刀風の!」

 

「全くだな、雷電の! 見ていて清々しいな。惚れた女の為に神殺しに挑むとは。だが、我らは世界最強コンビ。そう易々と首はくれてやらんぞ!」

 

人であるにも関わらず神である自分達を殺すと宣言した一誠に対し、雷神風神のコンビは楽しそうに笑う。その瞳は生徒を見守る教師、あるいは子を見守る親の様であった。

 

 

「ドライグ、聞いた? あの二人が最強コンビだって。本当の最強コンビは誰か教えてあげようよ」

 

『……そうだな。おい、よく聞け! この俺ドライグと……』

 

「最強コンビは俺と玉藻だよ。それ以外は有象無象に過ぎないね!」

 

『兵藤一誠こそが……へ?』

 

てっきり自分と一誠の事を言っているのだと思ったドライグは得意そうに叫ぼうとし、途中で言葉を切る。幸いな事にその事に気付いた者は居なかった。一誠が刃を構えると凄まじいオーラが溢れ出し、やがて凝縮されて球体となる。風神雷神の二人も雷と風を合わせ、巨大な獅子を作り出していた。

 

「「(らん)……」」

 

「神喰い……」

 

 

             「「  獅   子(じ し) !!!」」

 

               「 断 末 魔 砲 !!」

 

暴風と雷で構成された巨大な獅子と神殺しの力を込めた怨念の砲撃が同時に放たれる。その二つはまっすぐぬ向かい合い衝突しようとしたその時、砲撃が無数の枝分かれして獅子を避ける。

 

「なんと! あの様に動くとは!」

 

「だが、それでは獅子の直撃を喰らうだけだぞ!」

 

 

後方に飛び退いた一誠目掛け、獅子は意志を持つかのように向かって行き、枝分かれした砲撃は防御の構えを取った二人に向う、

 

 

 

 

 

 

 

 

「「何!?」」

 

かに思えたのだが、雷神風神の横を素通りし玉藻の方に向かっていく。それを見た玉藻は微動だにせず、砲撃は彼女の横ギリギリを掠めるようにして結界を破壊する。

 

「玉藻!」

 

「はい!」

 

結界から解放された玉藻は一誠に呼び出され直ぐ傍まで転移する。そして正面から向かってくる獅子に対して鏡を構え、結界術を発動する。

 

「……触れないで下さいまし」

 

「断末魔砲!」

 

玉藻の張った結界は獅子の威力を大幅に弱め、一誠の砲撃が完全に吹き飛ばし、残った砲撃は雷神風神へと向かっていく。

 

「「ぬぅぅぅぅ!!」」

 

二人も同様に結界を張ってそれを防ごうとしたが上空より放たれた術によって結界が破壊されてしまう。

 

「塵すら残らないかも♪」

 

玉藻の術で体勢を崩された二人を砲撃が襲い、二人の視線が一瞬覆われたその時、一誠が二人に迫っていた。

 

 

 

「言ったでしょ? 最強コンビは俺と玉藻だってさ」

 

一誠は刃を一閃。二人の胸から血飛沫が盛大に上がり地面に仰向けに倒れる。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、これは適わん!」

 

「まいったまいった! 降参降参!」

 

二人の朗らかな笑い声が聞こえ、一誠の視界が再び光に包まれる。光が収まると其処は先程天照と会った部屋。そして一誠は転移前の体勢を取っており、体の傷も痛みもない。護衛の二人も先程と同じ場所にいる。ただ、天照だけは先程居た場所ではなく、床に跪いていた。

 

「誠に無礼ながら貴方様の精神のみを飛ばし、力を試させて頂きました。……この度の一件、誠に申し訳ございません」

 

 

 

 

 

天照が自分への罰にと玉藻の前の怨念を放置してから数百年したある日、急に悲しみも絶望も感じられなくなった。昨日までは確かに送られてきたのに何故? 気になった天照が地上を見ると目に映ったのは怨念と同化して悪霊になった子狐の霊。そしてその霊に顔を舐められている子供の姿だった。

 

―――どうせあの子も拒絶するでしょう。また裏切られる絶望を味わうんですね。

 

天照は子供が何時の日か子狐を恐れ拒絶する。そしてまた悲しみや絶望の念が送られてくるものと思っていた。しかし、子狐が天照ソックリの人の姿をとっても子供は拒絶せず、悲しみや絶望の念は何時まで経っても送られてこない。反対に胸を満たす幸福感や胸を温める喜び、そして胸の高鳴りが送られてくる。それは天照がかつて手に入れ、そして失った物だった。何時しか天照は子供と子狐を見るのが日課となり、送られてくる幸福感とその姿を見るのが何よりも楽しみになっていた。

 

 

―――あの子なら大丈夫。もうあんな思いはしないわ。でも……。

 

だが、子供が成長し戦いの場に出るようになると天照を別の不安が襲う。彼が死んだ時、これまで以上の悲しみを感じるのではないか、と。幸せな生活を知ってしまった彼女にはそれが耐えられず、こういう結論に至った。

 

―――もしあの子が力不足なら玉藻の前の怨念を私の中に戻そう。そうすればあの子を失う悲しみを味合わなくて済むから……。

 

自分でも身勝手と思いつつも天照はそう決意する。だが、自分の手で一誠に攻撃できるとは思えず、人に絶望しながらも未だ人を愛し続けている二人の神に目を付け、釈放の代わりに戦って貰う事にした。二人は天照の気持ちを汲んでそれを承諾。そして一誠は玉藻と共に試練を突破して力を示したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これが今回の件を引き起こした理由でございます。全ては私の不徳の致す所。どうぞこの首で此度の一件をお収め頂けませんでしょうか」

 

天照は神妙な面持ちで一誠の前に座り込む。一誠は無言で神器を出現させる。精神世界の出来事であったが強化はされているようで禁手状態の比べると弱々しいが無抵抗の相手を殺す程の力はあった。そして一誠は右手を振り上げ、そのまま神器を仕舞う。

 

「……行くよ玉藻。ランスロット達が待ってる」

 

「はい!」

 

一誠は天照に背を向けると部屋から出ようとする。その背中に天照の声が掛けられた。

 

「私を罰しないのですか……?」

 

「玉藻は無事に俺の下に戻った。俺はそれだけで十分なんだ。それに今君を殺したら厄介な事になる。そうしたら今度こそ玉藻を失うかも知れない。だから、今回だけは今の玉藻と出会わせてくれたお礼に見逃すよ。……でも、次があると思わないでね?」

 

一誠は最後に特大の殺気を放つと部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふふふ、見逃して頂きましたね」

 

「全く、無茶しすぎではないか? もしあの小僧が殺しにかかったら……」

 

「安心しろ、雷電の。仮にも天照の惚れた男だ。その程度の判断がつかんはずがない。……そろそろオーディンとの会談だな」

 

風神はそう言うとテレビの電源を切る。高速道路で起きた玉突き事故で制服の上に韓服を着た青年が重傷を負った、というニュースの途中で画面が消えた。

 

 

 




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雷神風神は 俺の屍を越えていけ というゲームからの出演です


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四十九話

お、お気に入りが一気に十以上激減 評価配置が増えたけど高評価も増えたから多少下がっても平気だったけど……

マジ凹む あとcccマジ面白い ザビ夫、ヤンデレに好かれすぎ(笑)


《全くペルセポネーめ。こんな所に隠していたとは》

 

深夜の台所に異形の存在が居た。見た目はローブを着た骸骨、冥府の王ハーデスである。彼は妻が寝たのを見計らって寝所から抜け出し台所に忍び込む。彼の目的は妻であるぺルセポネー取って置きのカップラーメン醤油味。お湯を入れて三分待つと極上の香りが漂ってくる。ハーデスが早速食べようとした時、一誠から念話が送られてきた。

 

「あ、爺さん起きてる? ちょっと天照に舐められた真似されたんだけど」

 

《……なんだ藪から棒に。まぁ、良い。話してみよ》

 

ハーデスは一誠から先ほどあった事を聞き出す。聞き終わった頃には少々苛立っているようであった。

 

《……くだらんな。自らの過去の過ちからの後悔を他人に押し付けるとは。それも貴様が冥府で幹部の座を約束されていると知っての事だろう? ……その場で奴を殺さなかったのは正解だ。冥府から抗議して色々と搾り取ってやろう》

 

「さっすが♪ あのまま怒りに任せて行動するより、こうして公的立場を利用する方が得だからね。あははは! 許して貰ったと思ったら公式に抗議が来たと知った時の天照の顔が見てみたいな」

 

《……外道め。奴の顔は玉藻と瓜二つだろうに》

 

「……俺から玉藻を奪おうとしたのに死ぬだけで許される訳ないでしょ。向こうはこっちに負い目があるんだし搾り取れるだけ搾り取ってよ。あ、分け前は七:三ね? それと俺は見た目だけで判断しないよ? まぁ、爺さんは見た目が気に入ったからって姪を攫ったけどね」

 

《……ほっとけ》

 

その後細かい打ち合わせが行われ、ようやく終わった頃にはラーメンは伸びきっていた。ハーデスが嘆息を吐きながら啜ろうとすると台所の電気がつき……、

 

 

 

「あなた? そのラーメンはどうしたのかしら?」

 

《ぬおっ!?》

 

羅刹すら怯えて逃げ出しそうな憤怒の表情をした妻の姿があった。ハーデスは慌てた際にラーメンを溢し、彼のローブは再び醤油臭くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふははははははは! 愉快愉快!」

 

『全くだ! 喰らいやがれ、犬っころ!』

 

捕縛されたフェンリルの代わりにロキが差し向けてきたフェンリルの息子のスコルとハティ。ロキの相手をヴァーリチームに任せ、スコルを冥府組、ハティを残りが相手していた。

 

「燃え尽きなさい!」

 

グレンデルのブレスとレイナーレの光炎がその身を焼くもスコルの動きは止まらない。父親同様の戦闘欲求で飛び掛ってくる。しかし、ランスロットとポチが至近距離から斬撃の嵐を放ち、残りの騎士たちが槍や弓で攻撃を仕掛ける。そして片目に矢が刺さった時、流石のスコルも怯んだ。透かさず黒歌が腹の下に潜り込み気の篭った一撃を放つ。

 

「にゃん♪」

 

「ギャン!」

 

内蔵に深刻なダメージを受けたスコルは血を吐き出しその場にうずくまる。なんとか立ち上がろうとして力を込めたその右前足をポチが切り飛ばした。その瞬間、彼の持つ刀が意志を持つように振動しだす。

 

「至った! 遂に至ったぞ! これで拙者は狼王となる!」

 

突然高笑いを始めたポチは刀の鋒を自分の心臓に向け……そのまま突き刺した。すると刀は彼の胸に吸い込まれていきその体を黒い靄が包む。

 

「ぬっ!? 何かするようだな。ならばさせん!」

 

ロキはヴァーリ達の攻撃を捌きながら叫ぶとロキの影が蠢き中から巨大な蛇の怪物が数体現れる。そして空中のも魔方陣が現れ、中から無数のワイバーンらしき龍が出現した。

 

「ロキめ! ミドガルズオルムまで量産しているとは! それにあれはリンドヴルムか!」

 

リンドヴルム。北欧に伝わるワイバーンの一種でその尻尾は鏃のように尖り、その牙は鰐のように鋭い。そして稲光はこの龍が引き起こしていると言われている。リンドヴルム達はその伝承に違わぬ速さでランスロット達に襲いかかり、ミドガルズオルムは炎を吐きかける。その炎はタンニーンの炎で吹き飛ばされるが、リンドヴルム達はギャアギャアと知性を感じさせない鳴き声で迫った。

 

「はぁっ!」

 

ランスロットは龍殺しの力を持つアスカロンで次々と仕留めていき、他の騎士達も各々の武器で迎え撃つ。ポチを包む靄は徐々に形を成していき巨大な狼に酷似してきだした。

 

「ガラティーン!!」

 

ガフェインの持つガラティーンは太陽の力が込められた聖剣。彼自身も太陽の出ている時間にこそ本来の力を発揮するのだが、それでもアーサー王の片腕にまで上り詰めた力は凄まじく、聖剣から放たれた波動はリンドヴルムとハティを吹き飛ばす。先程から何度も雷光や滅びの魔力を受けても気にせず掛かってきたハティもこれは効いたのか動きを止めた。

 

「今だ!」

 

先程からアーシアと同じ位置に陣取り矢を放っていた松田はありったけの光の矢をハティへと打ち出す。だが、突如割り込んできた灰色の大きな影によって全て撃ち落とされてしまった。

 

「フェ、フェンリル!?」

 

なんと鎖で拘束されていたはずのフェンリルが鎖から抜け出しているではないか。見ると数匹のリンドヴルム達が前足で鎖を持っている。どうやら見た目より随分と賢かったようだ。フェンリルはリアス達をなぎ払うとロスヴァイセを狙って襲いかかる。その鋭利な爪は彼女の体を易々と切り裂き、神殺しの牙は確実にその命を奪うだろう。

 

「させませ……くっ!」

 

彼女を庇う様に間に入ったガウェインさえも一蹴され、ロスヴァイセが思わず目を閉じた。

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

しかし何時まで経っても痛みは襲ってこず代わりに温かい物が顔にかかる。目を開けてみるとランスロットがフェンリルの前に立ち塞がっていた。フェンリルの爪は彼の鎧を貫いて深く刺さり、牙をアスカロンの腹で防いではいるものの徐々に押され始める。そしてランスロットの顔にフェンリルの息がかかった時、アスカロンが粉々に砕け散った。

 

「がっ!」

 

ランスロットはそのまま爪で切り裂かれ、フェンリルの牙が彼に迫る。その時、先ほど吹き飛ばされたリアスが背後から滅びの魔力を放つ。だが、その一撃はフェンリルの毛を少し吹き飛ばすに留まり、ただ怒りを買っただけだった。リアスの方を振り向いたフェンリルは口からヨダレを垂らしながらリアスへと疾走する。恐怖からリアスが立ち竦む中、その体を横合いから押した者がいた。

 

「小猫!」

 

リアスが驚く中小猫はフッと笑い、その体にフェンリルの爪が迫る。小猫が死を覚悟して目を閉じると腹部に鋭い痛みが走る。しかしそれは予想に比べると軽い痛み目を開けた小猫が見たのは自分を抱き抱えるように庇い胸を貫かれた黒歌の姿。

 

「にゃはは……。白音…怪我…無い…?」

 

「ね、姉さまぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

黒歌の体が間に入った事によって小猫は致命傷を免れたのだ。

 

「グルルルルルル!」

 

だが、その背後からハティが迫る。その口で二人を丸ごと飲み込もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その瞬間。突如現れた、もう一体のフェンリルがその首筋に襲いかかった。

 

「拙者の仲間に何をする!」

 

「キャン!」

 

ハティの首筋に噛み付いたもう一体のフェンリルはポチの声で叫ぶ。そして黒歌の体を貫いたフェンリルは爪を引き抜くと目の前のもう一体のフェンリルに相対する。互いに睨み合い膠着状態に陥ったその時、フェンリル目掛けて缶詰が投げられ、もう一体のフェンリルは咄嗟に飛び退く。フェンリルは鬱陶しそうに缶詰を爪で切り裂き、とてつもない悪臭が辺りに漂った。

 

「ギャウンッ!?」

 

その缶詰の正体はシュール・ストレンミング。世界一臭い食品である。その香りは缶に入っている為に普段は臭わないが、一度缶を開けると悪臭が一気に吹き出す。犬の嗅覚は人より遥かに優れており、狼がベースになっているフェンリルの嗅覚はそれ以上。あまりの悪臭にフェンリルの意識が飛び、その隙をついて黒歌と小猫は回収された。二人を回収したのは駆けつけた一誠。玉藻が悪臭に顔をしかめながら小猫を抱き抱え、一誠は黒歌の亡骸(・・)を抱き抱える。

 

 

 

 

「……黒歌。ごめん、遅くなった」

 

一誠は妹を守り満足そうな表情な表情を浮かべる黒歌を抱きしめ涙する。何時もは喧嘩ばかりの玉藻も長年の付き合いである黒歌の死に居た堪れないようだ。一誠の力を使えば黒歌を霊としてこの世に繋ぎとめられるだろう。それでも彼女の死は二人の心を苛む。その時、ロキの声が響いた。彼は愉快そうな声で笑っている。

 

「ふはははははは! まずは一匹! そして貴様は赤龍帝だな? これは面白い事になりそうだ!」

 

「……少々黙りなさい」

 

「ぬっ!?」

 

愉快そうに叫んでいたロキだが玉藻から放たれる殺気に身を竦ませる。そして一誠は黒歌の亡骸を小猫に託すとロキを睨み付けた。

 

「……許さない。お前は殺す。俺の手で完膚なきまでに殺し、その魂をバラバラにして未来永劫苦しめてやる!」

 

「グルァァァァァァァァ!!」

 

「させん!」

 

復活したフェンリルが一誠へと襲い掛かるももう一体のフェンリルが間に入りそれを遮る。

 

「……ポチ? そう、至ったんだね」

 

「その通りで御座る、主よ! 拙者、フェンリルの霊力をスった事により霊格が上がりました! もはや拙者はただの人狼ではない! 狼王に候! さぁ、フェンリルの相手は拙者に任せ、主はロキを!」

 

もう一体のフェンリル……ポチはフェンリルに相対する。そしてその隣にグレンデルが並び立った。

 

『手ェ貸すぜ。その力にまだ慣れてねぇんだろ?』

 

「かたじけない!」

 

最強の魔獣を模した力を持つ狼王と大罪の暴龍との共闘。二体から放たれる威圧感にリアス達は見ているしかできない。そんな中、小猫の声が響き渡った。

 

「……お願いします。姉さまの敵をとってください!」

 

その声が合図のようにフェンリル達は同時に動いた。

 

 

 

 

 

「……ご主人様。シャドウは回復いたしましたか?」

 

「うん。小さいフェンリルの魂を食わせたらアレを使えるまでにはなったよ。玉藻、早速アレを使う。準備しろ!」

 

一誠の背後にシャドウが現れ、一誠の鎧に吸い込まれていく。その瞬間、玉藻の持つ鏡が光り輝いた。

 

 




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五十話

今回久しぶりに外道成分 次回はアンチと黒歌回の予定です


……少年誌やヤング~とかの青年誌レベルのエロ描写ならセーフかな? Bまでなら……



セイバーまじ低火力・゜・(ノД`)・゜・ キャス狐の魔力上げ チャージ 攻撃スキル のコンボが懐かしい


「ねぇ、幽霊になるのってどんな感じなのかにゃ?」

 

それは異界で行われた宴会の席の中、黒歌が脈絡なしにした質問だった。彼女からすれば特に気にしないでした質問なのだろうが、それを聞いた者達は黙り込む。普段陽気なありす達や狂っているクドラクでさえ箸を止めて俯いていた。

 

「……あれ? 私地雷踏んだ?」

 

流石に拙かったかと感じたのか黒歌の耳は垂れ下がっている。そんな中一際沈んだ顔をしていたランスロットが口を開いた。

 

「……そうですね。守護霊などの一部を除き、霊となった者には五感がなく、ただ思考のみの状態です。例えるならば、暗く冷たい海の底に永遠に一人ぼっち、と言った所でしょうか? だからその海の底から掬い上げてくれた主には皆好意を持っているのですよ」

 

「ふ~ん」

 

「黒歌さんも死んだら主が救い上げて下さいますよ。……玉藻殿に魂を食われなければですが」

 

「縁起悪っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ! 玉藻、張り切っちゃいます!」

 

玉藻の手から無数の札が舞い散り周囲を囲む。そして無数の鳥居が出現したかと思うと鏡が光り出し光の柱となった。 

 

 

出雲に神在り。審美確かに魂に息吹を。山河水天に天照す。是自在にして禊の証

 

              名を玉藻鎮石神宝宇迦之鏡也!

 

 

 

 

 

 

 

 

                               ……なんちゃって♪」

 

それを確認した一誠はダラリと腕を下げ体から力を抜く。そして感情のこもらない声で呪文を紡ぎ始めた。体からは黒く悍ましいオーラが溢れ出す。

 

『我、全てを滅ぼす破壊の化身なり』

 

『破滅を望み、希望を喰らう』

 

『我、全てを滅ぼす憎悪の化身となりて』

 

『汝を永久の絶望へと誘わん!』

 

 

 

 

 

 

    『絶望と破壊呼び魂喰らう(ディスパイア・ディストラクション・ヘル)冥覇龍(ジャガーノートドライブ・ソウルイーター)

 

 

 

其処に居たのは一匹の龍だった。いや、龍らしき存在だと言うべきだろう。その体は黒い靄に覆われ辛うじて龍らしき輪郭が確認できる。中心からはドライアイスから冷気が立ち上るように靄が溢れ続け、顔らしき場所に赤い光が二つ光っていた。

 

「な、なんだアレは!?」

 

その姿を見たヴァーリは何時もの戦闘欲求さえ忘れ立ち尽くす。その顔には本能的な恐怖が現れていた。戦闘狂の彼にとって未知数の相手というものは好奇心を刺激され戦ってみたいと思うもの。しかし今の一誠の姿を見た彼が感じたのは、今すぐ逃げ出したい、ただ其れだけだった。横を見ると美猴やアーサーも同じ表情をしている。ヴァーリの身は竦み思考が全て恐怖に塗り替えられ、

 

 

 

 

 

『ヴァーリ! 何をしている!? 今すぐ逃げろ! アレは拙すぎる!』

 

「!」

 

突如響いたアルビオンの声を聞いた途端に我に返った。彼は直様目的の相手を探す。しかし、目的の相手の傍には厄介な相手が二体居て、その二体を掻い潜り今の一誠の妨害を避けつつ目標を達成するのは不可能だろう。ヴァーリは仕方なく妥協の道を選び、

 

 

 

「アーサー! 美猴! 予定変更、奴を連れて行く!」

 

三人は既に戦える状態ではない為に後回しにされていた瀕死のスコルへと向かっていく。周りの者が気付いて近付こうとした瞬間には三人はスコルごと消え去った。

 

「畜生! これが目的だったのか!」

 

最初からヴァーリ達はフェンリルを狙っていた、という事に気付いたフリードはコールブラントの鋒を地面へと叩きつける。レイナーレも怒りから顔を顰めた。

 

「……バラキエル様、タンニーン様。彼らの参戦を許可したのは貴方方のトップです。テロリストに神殺しを明け渡す事となった責任、しっかりと追求させて頂きます」

 

既に神が居ない天界と違い神が居る他神話にとって神殺しの力は厄介な物。それを裏切り者のテロリストに奪われる切っ掛けとなったのは各勢力が出したヴァーリ達の参戦許可だ。レイナーレに横目で睨まれた彼らが居た堪れなさそうな表情をしたその時、ロキの腕に黒い茨が絡みついた。

 

 

『……苦痛の棘』

 

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

一誠の体から伸びた茨の様な物体は意志を持つかのように動いてロキを簡単に捕縛する。棘はロキの皮膚を引き裂き肉を穿つ。骨まで達した切っ先は激しく放電し、触れている場所は高熱で燃え出していた。棘で切り裂き電撃と高熱で焼く。ロキの体を途轍もない激痛が襲う中、フェンリル達の戦いも激化していた。

 

 

『オラァッ!!』

 

グレンデルによるトンファーの振り下ろしを軽々と避けたフェンリルはその体に爪痕を残す。着地の瞬間を狙ってポチが飛びかかるが身を捻って避けられ、後ろ足で蹴り飛ばされた。

 

「……やるで御座るな。しかし、まだこの体に慣れん。四足歩行での戦いがこれほど難しいとは」

 

『少し前まで二足歩行で戦ってたんだから仕方ねぇ。……こうなったら俺も奥の手使うぜ』

 

「……」

 

フェンリルは無言で目の前の敵をジッと睨む。確かにドラゴンは硬いし自分ソックリの奴は能力までほぼ同じだ。しかし傷つけられない程もなく、力はあっても使い方がまだまだだ。今フェンリルが気になっているのは目の前の敵より攫われた息子と追い詰められている父親の事。しかし、目の前の敵は倒せない敵ではないが易々と倒せる敵でもなく、背を見せれば殺られかねない。

 

両者とも硬直状態になると思われたその時、グレンデルが突進する。その手の甲には何時の間にか宝玉が出現していた。

 

『くたばれ犬っコロッ!』

 

振り抜かれた拳の威力は喰らえばフェンリルでもノーダメージではすまないであろう一撃。だが、避けるのは簡単な一撃だ。当然のように易々と避けたフェンリルはその腕に牙を突き立てる。鱗を砕き骨まで切っ先を届かせる。グレンデルの腕からは止めどなく血が流れるがフェンリルは顎の力を緩めずそのまま腕を食いちぎらんとし、そのまま浮遊感に襲われる。

 

 

 

なんとグレンデルが空いた手でフェンリルを掴み、腕に噛み付かれたままその体を持ち上げていた。そしてグレンデルの手に出現した宝玉から音声が鳴り響く。

 

『Divide!』

 

『ポチ、今だ!』

 

「承知した!」

 

グレンデルはフェンリルを勢いよく地面に叩きつけ、無防備な腹をポチの方向へと向ける。叩きつけた衝撃でグレンデルの腕の肉は大きく削がれるも覆い被さるように押さえつけ、ポチの牙がフェンリルの腹に突き刺さった。

 

『ギャウン!』

 

さすがのフェンリルも無防備な腹を噛み付かれては堪らない。しかも何時もより腹が柔らかくポチの牙は深々と刺さり内蔵を傷つける。グレンデル達はそのまま押さえつけてトドメを刺しに掛かるが纏めて弾き飛ばされた。

 

『うぉっ!?』

 

「……気を付けよ。追い詰められた獣は厄介でござる」

 

フェンリルは腹部から血を溢れ出し目は少し虚ろだ。しかし闘志は全く衰えず、反対に死の淵に達したからか決死の覚悟で道連れにしようとしていた。そして前足に力を込め、溢れ出す己の血で牙を濡らしながら唸り声を上げ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、フェンリル。動いたらロキにトドメを刺すよ』

 

「!」

 

一誠の声で動きを止める。フェンリルが憎々しげに見つめる先では黒い刃に四肢を貫かれて地面に拘束されているロキの姿が有り、その上に乗っている一誠の前足が掴んでいるのは半透明のロキ。一誠は生きたままロキの魂を引きずり出そうとしていたのだ。

 

『ねぇ、知ってる? 魂をバラバラにされると途轍もない苦痛の中永遠に彷徨うんだ。もう一度言うよ? 動くな。父親を殺されたくないだろ? なら、そのままトドメを刺されろ。そうしたらこっちも考えようじゃないか』

 

「……」

 

フェンリルは苦々しそうな表情をするとグレンデル達に腹を見せる。好きにしろ、そう語っていた。

 

 

 

「これも生存競争。負けたほうが悪い。……恨むなよ」

 

『ま、大将を怒らせた自分を恨みな』

 

頭に振り下ろされたグレンデルのトンファーは頭蓋骨を砕き、ポチの牙は喉元を食い千切る。最強の魔獣であるフェンリルは完全に息絶え、その魂はグレンデル達に吸収されていった。

 

 

 

 

 

「フェンリル! お、おい! 奴は大人しくトドメを刺された。貴様も約束を……」

 

『うん! そうだね!』

 

フェンリルの死を見て必死に叫ぶロキに対し、一誠は明るい声を掛ける。ロキは命は助かったと安堵の息を漏らし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……。約束通りに考えたけどやっぱり殺すね♪ 一応考えたんだから嘘はついてないよ。だって、俺は考えるとは言ったけど、助けるとは言ってないからね』

 

そのまま魂を握り潰された……。




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五十一話

一筋の光すらない闇の中、黒歌は意識だけの存在となっていた。体の感覚は既になく、指先一つ動かせない。先程までは妹を守ったという誇りで心を保っていたが、今は恐怖が心を染め上げている。見渡す限りの闇、闇、闇。暗闇でも目が利く猫であり悪魔である黒歌からすればその光景は初めて見る物であり、恐怖の対象でしかなかった。

 

「(怖い、怖い、怖い! 誰か、誰か、誰か……助けて!)」

 

恐怖で心は蝕まれるも悲鳴すら出ない。徐々に黒歌の心は擦り切れていき。意識が徐々に沈んでいく。しかし、その耳に誰かの声が聞こえてきた。

 

「……た。……歌。……黒歌!」

 

「(イッセー?)」

 

まるで氷付けになった様に冷め切っていた体に徐々に熱が戻りだし、闇に一筋の光が差し込む。そしてその光は段々大きくなり、やがて闇が完全に晴れると黒歌は一誠の胸に抱かれていた。

 

「おはよう、黒歌」

 

「おはよう、イッセー!」

 

黒歌は思わず一誠に抱きつきそのまま押し倒す。その胸に一誠の顔を埋めさせ首筋に手が回っていた。玉藻も一瞬怒ったような顔をするも直ぐに溜息を吐いて顔を逸らす。その口元は僅かに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~! (い、息が……)」

 

「って、貴女の胸でご主人様が窒息死しそうです! 今すぐ離れやがりなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロキとリアス達との戦いの後に行われた一誠による圧倒的蹂躙後、一誠は黒歌の死体を抱いてその場を去った。彼にとって霊を従える儀式は神聖なものであり、またアザゼルが自分を幽世の聖杯を所持していると勘違いしているので手の内を隠す為にも見られる訳には行かなかったのだ。そして玉藻が見守る中、黒歌の魂は一誠の正式な下僕となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後、ヴリトラに変化する能力を身につけた匙が駆けつけたが、全てが終わった後なので微妙な空気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ふんっ! 随分と待たせたな。言い訳の一つでも考えてきたか?》

 

ハーデスは不機嫌そうな声を出し、空洞の眼で会談相手を睨む。ハーデスは今回の件で話があると三大勢力のトップ陣を呼び出したのだ。やって来たのはサーゼクスとアザゼルとミカエル。今はテロリスト対策で忙しい身なのだがハーデスの呼び出しとあらば応じない訳には行かない。

 

 

既に一誠がロキを圧倒した事と部下であるポチがフェンリルと同等の力を得た事は報告されており、冥府はより一層重要な同盟相手となっていた。

 

《……今回の報告書を読ませて貰った。経験の浅い学生が要人の警護の殆どを占めていたなど、随分と身内を高評価しておるのだな》

 

「申し訳御座いません。何分テロ対策で人員が不足しておりまして……」

 

《人員が不足? 貴様らコウモリは魔法使いと契約しておるし、懇意にしている魔法使いの協会もあるだろう。何なら金で傭兵を雇っても良い。……メンツの問題か?》

 

「ッ!」

 

ハーデスの言葉にサーゼクスは言葉を詰まらせる。自分達から協力を申し出てきた上にアルビオンを宿すヴァーリ達やドライグを宿し強力な部下も居る一誠に協力して貰うにならまだ良かったが、そんな特別な存在でない魔法使いや傭兵に一時的とは言えテロへの警備、ましてや要人への襲撃者の撃退を任せるということには上層部から反発があったのだ。

 

ゆえに若手の顔合わせの場で言った、力は借りない、という言葉を撤回してリアス達にロキの相手をさせ、その結果、冥府所属の黒歌が死んだ。契約で戦場に出た以上死ぬ可能性があるのは分かっていたし、ハーデスは彼女自身には何の思い入れもないが、一誠が大切にしている存在が普段から気に入っていない相手の怠慢で死んだということが許せなかったのだ。

 

《……カラスや天界に至っては派遣したのは一人。しかも天界側は新人一人か。ご自慢の最強のエクソシストはどうした?》

 

ハーデスは問いながらもミカエル達の言葉には大して興味がなさそうにしている。どうせ言い訳か謝罪しかしないと踏んでいたからだ。事実彼らの口から出るのは謝罪の言葉のみ。ハーデスは辟易しながら本題に入る事にする。その手にはサマエルの封印解除に関する書類が握られていた。

 

《早速だがこれにサインして貰おう。……文句はないな?》

 

その時のハーデスは普段の間抜けなオッサンといった感じの空気は何処かに行き、世界TOPテンの一角に相応しい気迫を纏っている。サーゼクス達はその気迫に飲まれ書類にサインをした。ようやくハーデスから先程までの威圧感が消え去り彼らがホッとした時、ハーデスの口から思いもよらない言葉が飛び出した。

 

《……儂は貴様らがテロリスト共の一部とと繋がっていると思っておる》

 

「なっ!? おいおい、そりゃ冗談が過ぎるぜ爺さん」

 

アザゼルは思わず立ち上がって抗議し、サーゼクス達も遺憾といった様子だ。しかしハーデスは特に気にした様子もなく言葉を続ける。再び強者の威圧感が溢れ出した。

 

《ヴァーリ・ルシファーによるフェンリルの子の強奪。これは貴様らと違い神が居る神話体系からすれば脅威じゃ。もしロキがミドガルズオルムを量産したように神殺しの牙を持つ魔獣が大量に攻めて来たら目も当てられん。おっと、魔獣創造を持つ者もテロリストに居たか。参考にならなければよいがのぅ。確かヴァーリはアザゼル、貴様が育てたのであろう? そしてルシファー。貴様ら悪魔にとっては重要な存在じゃ。繋がっておらんと思わぬ方がどうかしておる》

 

「しかし! 我々もテロの襲撃を受けています!」

 

《敵を騙すにはまず味方から、っと言うじゃろう。それに全てと繋がっているとは言っとらんよ。一部と繋がり、他神話を再び追い込もうと考えておるのではないかと言っておるのじゃ。……まぁ、良い。明確な証拠が無い以上は此処で終わりじゃ。儂は天照や貴様らへの請求の為の書類を作らなければならんのでな》

 

ハーデスはそう言うと止められる前に転移して行った。

 

 

 

 

 

《……一誠の奴。あまり気落ちしておらんと良いが……》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父様、お母様。これから宜しくお願いします」

 

その頃、一誠の家のリビングでは猫を被った黒歌が深々と頭を下げていた。霊になった事をきかっけに彼女も居候する事にしたのだ。何時ものように肌を露出させず清楚な女性を演じている。……猫なのに猫を被るとはこれ如何に。

 

 

「あらあら、立派なお嬢さんね」

 

「こんなお嬢さんがウチの息子と結婚するなんて。……一誠、必ず大切にしなさい」

 

「……風呂行ってくる」

 

黒歌の演技にまんまと騙された両親を尻目に一誠は浴室に向かう。その姿を見る黒歌の瞳は怪しく光っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お二人共、お茶が入りましたよ♪ あれ、馬鹿猫は?」

 

玉藻がお茶を入れてリビングに入ると黒歌の姿がない。一誠の母親はお茶を啜りながら玉藻に言った。

 

「あら、その呼び方からしてやっぱり猫被ってたのね、あの子」

 

「ありゃりゃ、お分かりでしたか」

 

「当然。何年一誠の親をやっていると思うのよ。ねぇ、アナタ」

 

「……う、うん! 分かっていたさ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今日は疲れたな」

 

一誠はシャワーを浴びながら呟く。今日の戦いは精神的にも肉体的にも堪えたらしく顔に疲労の色が出ている。とにかく体を洗おうとボディソープを取ると空だった。

 

「はい、新しい奴」

 

「有難う、黒歌……うぉい!?」

 

背後から差し出されたボディソープを受け取る為一誠が後ろを向くと其処に居たのは全裸の黒歌。一誠は思わずツヤのある黒髪から絶世の美貌を持つ顔、白魚のような白い肌に豊満な胸、くびれた腰、そして大切な部分、と細い足の爪先までまじまじと見つめ、もう一度見直す。そして固まった。

 

「にゃん♪ そんなに見ないで……」

 

いかにも照れていますといった演技をしているが大根すぎてバレバレである。どうやら彼女に役者の才能はないようだ。

 

「……玉藻がかけた浮気防止の呪いは?」

 

「解けたわ♪ 多分霊体になって今のままじゃ子が出来なくなったから解いてくれたみたい。……だ・か・ら♪ 私の処女を貰って欲しいにゃ♥」

 

黒歌は一誠の背中に抱きつくと胸を擦りつける。弾力と柔らかさを併せ持つ肉の感触と吸い付くような肌の触り心地に混ざりヌメリとした感触が伝わってくる。黒歌は自分の胸の上でボディソープを泡立てると一誠の背中に擦り付けていた。細い指先は鍛えられた胸板を撫で、耳元に吐息を吹きかける。

 

「一誠ってほんと鍛えてるわね♪ 触っているだけで……あっ、あぁ……興奮してきちゃった」

 

黒歌の息遣いは徐々に荒くなりより激しく胸を擦りつけて一誠の背中を洗う。胸の先端が固くなり手も徐々に下の方に移動してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、やっぱり死んだ事落ち込んでる?」

 

「……なぁんだ。バレてたのね」

 

一誠の言葉に黒歌は動きを止めるとペロリと舌を出す。一見すると巫山戯ている様に見えるが隠しきれない憂いの色があった。

 

「……私、死ぬって事を甘く見てた。あんなに明るく振舞ってる玉藻達もこんな喪失感を感じているのね」

 

「……」

 

黒歌はしみじみと語り一誠は無言で耳を傾ける。黒歌はその姿を持てふっと笑うと再び一誠の背中に抱きついた。

 

「……だからイッセーが助けてくれた時は嬉しかった。ずっと私を傍に置いてくれる?」

 

「……うん」

 

「ありがと♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……じゃ続きね♪ 次は前側を洗うついでに貫通式を……きゃっ!?」

 

黒歌が一誠を押し倒そうとした瞬間、逆に押し倒されマウントポジションを取られる。上から黒歌を見下ろす一誠は嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 

「悪いけど俺は上の方が好きなんだ。……手加減しないからね」

 

「Sにゃ! どSが居るにゃ!? あっ!? ちょっと、何処を触って……そんな所を舐め……」

 

一時間後、すっかりグッタリとした黒歌とスッキリした表情の一誠が浴室から出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……随分とお楽しみでしたね、ご主人様? 次は私の番ですよ」

 

当然、玉藻が黒い笑みを浮かべて待ち構えており、その晩一誠は絞り尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ロスヴァイセ殿」

 

数日後、ランスロットはロスヴァイセを近所の喫茶店に呼び出していた。そもそもなんで彼女が日本に居るかというと、オーディンに忘れられて置き去りになったのだ。護衛が後から一人で帰るわけにも行かず、実質的にリストラになった彼女をリアスは眷属に誘うも実力が足りずに眷属にできず、仕方なしに教員として雇おうとした所、ハーデスが現地派遣員として雇ったのだ。

 

これには彼女が優秀である事と友であるオーディンの頼み、一誠の部下であるランスロットとの仲が発展しそうなので冥界側につかせるわけにはいかないという思惑が込められていた。

 

「あの、ランスロットさん。お怪我の方は……」

 

「ええ、今はすっかり治りました」

 

ランスロットは笑顔を見せるもロスヴァイセの表情は暗い。英霊と接っしてきた彼女は主から賜った剣が騎士の誇りである事は熟知しており、それを破壊される要因になった事が未だ気を苛んでいた。そしてもう一つ。ガウェインから教えられた事が理由の一つである。

 

「……ガウェインさんから聞きました。私って貴方がかつて愛した人にソックリなんですよね? 私に親切にしてくださったのもそれが理由ですか?」

 

彼女は心の中では、何を聞いているんだ、失礼だ、と自分に言い聞かせているが言葉は止まらない。ランスロットは彼女が話し終えるのを待ち、落ち着いた頃に口を開いた。

 

「……ええ。最初はそうでした。グィネヴィア様に似ているからこそ貴女に好意を持ったのでしょう」

 

「ッ!」

 

その言葉にロスヴァイセは泣き出しそうになるのを必死に堪える。しかし、ランスロットは彼女の手を握り締め、真剣な瞳で彼女の目を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、今は違います! 貴女の姿を見て、貴女の書いた手紙を読んで、私はロスヴァイセさんが好きになりました。……私とお付き合いして頂けませんか!?」

 

「……はい! 此れから宜しくお願いします」

 

その時の彼女は涙を流していたがそれは悲しみの涙ではなく、心からの喜びの涙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、電池切れてました。仕方ないですね。ハニーへのお土産買って帰りましょう」

 

その頃、同じ店の中にビデオカメラを持った太陽の騎士が悔しそうに呟いていたという

 

 

 




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閑話 外道が行く運動会 前編

ccc クリア! ってかシンジが ……なんで障壁が海藻? あとセイバーのプロフィール見忘れた! ラスボス弱かった レベル+6のせいか!? 次はザボ子で私初の紅茶! ボケ要員が足りない!


冥府にある焼肉屋。其処の座敷席に異様な集団が居た。一人はピエロの仮面を被ったフード、一人は白い鎧を纏った青年、一人は大柄な筋肉質の男、そして最後の一人は人間の様な体のドラゴンだ。そして座敷席には予約席であるらしく、

 

『裁縫好きの漢の会御一行様』

 

と表示されている。此処に集まってのは手芸を趣味にする男性が集う掲示板の常連達であり、今日は初めてのオフ会の様だ。……もっとも、ドラゴンは残りの三名中二名と知り合いだった為に非常に気まずかったが……。

 

『……あ~、知り合いも居るが此処はHNで名乗る所か? ……グリリンだ』

 

最初に口を開いたのは一番気不味そうなドラゴン……グレンデルである。他の面々も彼に釣られたのか口を開き始めた。

 

《プルとんです》

 

「サンナイトです」

 

「……ヘラクレだ」

 

各自自己紹介をした後、場を気まずい沈黙が包む。そうしている間にも注文した肉が届けられ、四人は黙々と食事を続けた。

 

『(だ、誰か何か言えよ……)』

 

《(き、気まずい。グレンデルさん十円あげますから何か言ってください)》

 

「(あ~くそ! サマエル奪取の作戦サボってまで来たってのに気まずいぜ)」

 

どうやら四人とも人見知りする質らしく誰も口を開こうとしない。しかし、このままではいけないと思ったのかサンナイトと名乗った青年が口を開いた。

 

「で、では皆さん約束どうりに新作を見せ合いましょう!」

 

サンナイト……お気づきの方が多数だと思うがガウェインはカバンから手縫いのヌイグルミを取り出す。その顔は自信に満ち溢れていた。

 

『……うわぁ』

 

《……何とも言い難いですね》

 

「……正直に言うべきか」

 

「ははははは! そう褒めないでください。この王とライオンの組み合わせ! まさに芸術です」

 

ガウェインは一同の反応に鼻高々といった様子ではあるが、その出来栄えは一同の反応から推して知るべしである。敢えて言うならば彼の裁縫の腕は料理の腕と同レベルと言った所だ。グレンデル達は喉元まで押し寄せた言葉を飲み込むと自分達の作品を取り出した。

 

《私は無難にクマのヌイグルミです》

 

プルとんっと名乗った道化の面の最上級死神が出したのは市販品かと思わんばかりの作品だ。みるだけで彼の腕前が伺える。

 

「俺はコレだ」

 

ヘラクレと名乗った巨漢が出したのはケルベロスのヌイグルミ。多少の粗が目立つがそれなりの出来栄えと言えるだろう。そしてグレンデルの番になると一同の視線が期待に満ちたものとなった。

 

《裁縫好きの男性が集まる掲示板でカリスマ的存在であるグリリンさんの作品ですか》

 

「……ふむ、相手にとって不足なしですね」

 

「……お前は少し黙っててくれ」

 

『んじゃ、取り出すぜ?』

 

グレンデルは空間の歪を作り出すと中から自慢の一品を取り出す。それは一メートルを超えるグレートレッドのヌイグルミだった。

 

《おお! 素晴らしい!》

 

「今回ばかりは私も負けを認めなくてはなりませんね」

 

「その自信は何処から……」

 

こうして盛り上がった一同は意気投合し、二次会としてバッテングセンターに向かった。実力者ぞろいの為にホームランを連発し、飽きてきたので最後にグレンデルが一球打つことになったのだが……。

 

『どりゃぁぁぁぁぁ!!』

 

グレンデルの打ったボールはジェット機のエンジン音のような轟音を上げながら飛んでいき、建物の天井を突き破り空の彼方へと消えていった。その後、逃げ出した一行は遊び回り、再びオフ会をする約束をして解散したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全く。ヘラクレスの奴、何処に行ったんだ?」

 

その頃、コキュートスから運び出された氷漬けのサマエルの封印解除と制御の為の作業が行われている場所を遠くから見つめる影が一つ。いや、影の近くに霧が集まりもう一人現れた。

 

「……ゲオルクか。首尾はどうだい?」

 

最初にいた人影は漢服を制服の上から着た青年、最近非常についていない幸運値Eの人だ。

 

「……何とかといった所だな。警備が厚すぎてそれほど細工をする時間がなかった。使えて一回といった所だ。ぶっつけ本番になる。今度の計画で試す、という訳にはいかないな」

 

「……そうか。……ん?」

 

漢服の青年は受けた報告に顔を顰め、近づいてくる轟音に気付く。そして振り返った瞬間、その股間に亜音速で飛来した硬球が激突し、彼は錐揉み回転をしながら吹き飛んだ。

 

「のわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「曹操の曹操が死んだ!? この玉な……大丈夫か!?」

 

多分大丈夫じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休日の朝、一誠は誰かが上に乗って体を揺さぶっている事に気付き、ムカついたので布団の中に引きずり込んでお仕置きしようと思った。万が一ありす達だったら色々と死ぬが、重さ的に違うので除外する。というよりあの二人だったら飛び乗るので腹部への衝撃で飛び起きる。そうでないっという事は違うのだろうと判断した一誠はどうせ玉藻か黒歌だろうと思い布団の中に引きずり込む。

 

「……あれ?」

 

しかし、一誠の手に伝わって来たのは何時もと違う感触。胸にやった手にはブラの感触が伝わり、大きさもそれ程ではない。中に手を入れて揉んでみたが何時もと感触が違う。そもそも二人は着けない派だ。そしてお尻にやった手が感じた感触も何時もと違う。感じたのは吸い付くような滑らかな肌と引き締まった小ぶりな尻の感触。

 

《あん! いきなり激しいでやんす》

 

そして聞こえてきた甘く切なげな吐息は二人のものではなかった。一誠が漸く目を開けると布団の中に居たのは半裸のベンニーア。上にブラとワイシャツを纏っている以外は何も着ておらず、顔を紅潮させながら吸い込まれそうな金色の瞳で一誠の目を覗き込んでいた。

 

「……え~と、何してるの?」

 

《朝這いでやんすが? いや~、このままだとあっしの名前の横に再び『影薄』って付きそうでしたので。所でこの格好はどうでやんす?》

 

「メタ発言禁止! ……その格好はベリーグット。ただ、下着はブラよりパンツの方が良かったな」

 

《……成る程。あ、お客さんが来てるでやんすよ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう。馬鹿猫も死んだの」

 

朝から一誠を訪ねてきた客の正体はメディア。彼女も黒歌とはそれなりの付き合いだったので少々思う所があるようだ。暫し沈黙が続いた後、彼女は一枚の封筒を取り出した。

 

「町内会の福引で高級ホテルの宿泊券が当たったのよ。そこで坊やの所にお誘いに来た訳」

 

「……俺とメディアさんが旅行に行くの?」

 

「そんなわけ無いでしょ。私はありすちゃん達を誘いに来たの。どう? 一緒に来ない?」

 

「行きたい!」

 

「有難うメディアさん!」

 

二人も行きたがているので一誠も反対せず、二人はメディアと一緒に旅行に行く事になった。詳しい日程はメディアの執筆状況によるのだが、そろそろ大きな仕事が終わるのでそれ程先ではないだろう。大体一誠の修学旅行と同じ頃だという話題になった時、メディアは一枚の手紙に目をやる。それは三大勢力からの運動会のお誘いだった。それによると同盟勢力ごとにチームを作って参加、となっている。

 

「……大変ねぇ。オーディンの警護に学生を使った一件で信用ガタ落ちになって、同盟断られてるんでしょ? オリュンポスも破棄はしないの?」

 

「うん! 同盟していた方が搾り取りやすいからだって。それにしてもこんなんで親睦を深めようだなんて。しかも女性の服装は体操着にブルマだよ? サーゼクスの趣味かな?」

 

「……ブルマ。アーシアちゃん、小猫ちゃん、他にもまだ見ぬ美少女が……坊や、参加しなさい。そして写真を沢山撮ってくる事! ……頼まれてたアスカロンの修復の交換条件よ」

 

「……え~!? メディアさんが勧誘が面倒だから彼らの前に姿を出したくないのは分かるけどさ……」

 

一誠は大きく溜息を吐くも普段からお世話になっている為に逆らえず、渋々参加メンバーを決めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ありすちゃん達も参加させてね!」

 

 

 

 




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閑話 外道が行く運動会 中編

ccc アーチャーが厳しい 直前にクリアしたセイバーやエクストラでクリアした玉藻はデレッデレだったのに……・゜・(ノД`)・゜・

まぁ、そうなったらキモいんだけど ってか彼のSG画 (;^Д^)キメェ  カーッ(゚Д゚≡゚д゚)、ペッ


ロスヴァイセが頭痛に苛まされながら目覚めて最初に見たのは見慣れぬ天井。痛む頭を押さえつつ思い出してみると与えられた社宅だった。冥界などから色々搾り取った冥府は様々な事業を展開。そのどれもが神がかかった成果を上げている。なお、最近では日本神話勢から譲渡された地脈の終着地に本社を置いた不動産業を始め大成功。彼女がいるのは会社所有のマンションの一室だ。

 

そしてシーツに包まった彼女は一糸纏っていなかった。

 

「……え~と、昨日は新人歓迎会を開いて頂いて、兵藤君は玉藻さん、黒歌さん、ベンニーアさんの三人を連れて先に帰って私はランスロットさんと飲み直す事になって…あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

二日酔いに苦しみながらロスヴァイセは全て思い出した。酒癖の悪い彼女はランスロットの忠告も聞かずに何件も飲み屋をハシゴ。挙句の果てに部屋まで送ってくれた彼を……襲った。シーツには血によるシミが出来ており、股の間は何やらベトベトする

 

「わ、わたす何て事を!?」

 

思わず訛りが出た彼女の脳裏には昨日の事が克明に蘇る。隙を見て服を脱いでランスロットをベットに押し倒し、着やせしていて服の上からでは分からない巨乳で彼の顔を塞ぐと服を脱がせそのまま行為を行う。最初は慌ててたランスロットだが、アーサー王から妻を寝とった際も相手に迫られるまま流された彼は今回も反抗しきれなかった。

 

「あ、あんなに激しく突かれるんなんて……いや、こ、恋人だし良いのかしら? うん! そうですね!」

 

「おや、起きましたか。申し訳ありませんが台所をお借りして朝食を作りましたよ」

 

「は、はひ! お早う御座います!」

 

ランスロットの作った朝食を食べている間ロスヴァイセは彼の顔を真っ直ぐ見れなかった。彼の顔を見るたび思い出すのは昨晩の姿。繋がった状態で強く抱きしめて自分の名を呼び、深く口付けする彼の姿を思い出す度に顔が火照り……少々濡れてきた。

 

そんな時である。仕事用に渡された携帯電話に一誠からメールが入って来た。

 

「へぇ、運動会ですか。一応同盟相手だから招待を無視したら外交能力を疑われるかも知らないからから一応参加するので街の警護を私に任せたいんですね。あれ? 大勢参加するんですよね? テロ対策は大丈夫なんでしょうか?」

 

オーディンの警護を学生であるリアス達に任せたのもテロ対策で人手が足りないからだ。しかし、運動会には幹部などの実力者も大勢が参加するという。ロスヴァイセはその事に首を傾げずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

レーティングゲーム用の空間を使った会場の空に花火が上がる。一誠が会場に着いた頃には既に三大勢力の選手達は集結し、あとは同盟相手からのゲスト選手を待つだけなのだが……。

 

「あれま、あまり来ていませんねぇ♪」

 

玉藻の指摘の通り、ゲスト選手は殆ど来ていない。チーム毎の色は天使が白、堕天使が黒、悪魔が赤、ゲストが青なのだが青色のジャージを着た選手は他のチームの十分の一にも満たない。

 

「仕方ありませんよ。同盟関係上、招待を無視できないから仕方なく派遣したといった感じらしいですから。……私も今日は本当はオフで朝からハニーと子作りに励む予定だったのですが……おっと、お久しぶりですね」

 

「あ、ガウェインさん、久しぶり」

 

「今日はランスロットは来ていないのですね。オフですか? オフですね? ……私も冥府に就職すれば。いやそうしたら年下巨乳のハニーとは……」

 

ガウェインは真剣な顔で悩み出す。その後もゲストは殆ど集まらず、一誠は仕方なしに部下を数人と助っ人を呼ぶ事にした。

 

 

 

 

「はっ! 仕方ないねぇ。この私に任せときな!」

 

「……」

 

「頼りにしてるよ、口裂け女さん。巨人さん」

 

一誠が呼んだのは異界の住人の中でも運動神経が高い組。口裂け女と廊下に出現する巨大な足の持ち主の巨人だ。周囲はその異様な姿と噂の赤龍帝である一誠に視線を送る。もっとも、男性陣は彼の部下に視線を送っていたが……。

 

 

なお、口には出さなかったが口裂け女のブルマ姿はキッツイと一誠は感じていた。

 

 

「ご主人様ぁ。この格好どうですか? お好きなようなら今晩はこの格好で……」

 

「にゃはははは! さっき白音と話ししたんだけど、胸を見て睨まれたわ」

 

「恥ずかしい……」

 

「全く! 妾に力を貸して貰えた事を感謝せよ!」

 

「ど、どうでしょうか一誠様?」

 

注目されているのは一誠の部下の中でも美人の女性陣。上から玉藻、黒歌、お市、ハンコック、レイナーレ。全員ジャージの上からでもわかるほど抜群のスタイルを持っており、動くたびに揺れている事から着けていないのは明白。天界側では堕天しそうな男性陣が続出している。なお、ありす達も一部男性陣から注目されていた。

 

 

「やぁ、よく来てくれたね」

 

「あ、これはサーゼクス殿。お久しぶりですね。いやはや、随分と集まりましたね」

 

ガウェインは挨拶をしてきたサーゼクスに挨拶し返す。その顔は微笑んでいるが目は笑っていなかった。

 

「ああ、この運動会は勢力間の友好を図るための物だからね」

 

「それはそれは。……同盟先の主神を警護する時は人手不足と言って未熟な学生を寄越しておいて、イベントに参加させる人手はあるとは。一ヶ月もしない内に子供達が急成長しましたか?」

 

ガウェインは自分の嫌味に言葉を失ったサーゼクスを置き去りにし持ち場に着く。開幕式が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……友好の為って言っておきながらこれだもんね」

 

一誠は各勢力の決起集会を遠くから見て呆れたような視線を送る。いや、実際に呆れているのだろう。堕天使側は普段から思う所があるのだから暴れ回れ、天界側は終末を彼らに、悪魔側はハルマゲドンっと大声で叫び、殺気立っている。

 

《一誠様は何か叫ばないんでやんすか?》

 

「別に良いよ。俺は基本的には戦いに思いを持ち込まないから。敵は殺す、それだけで十分でしょ」

 

 

 

そしていよいよ競技が始まった。

 

 

 

 

 

「あたしの走りは世界一ぃ!!!」

 

「……」

 

口裂け女は他の選手に圧倒的差を付けてゴールし、巨人は数跨ぎでゴールする。出だしはゲストチームの圧勝で終わった。

 

 

 

 

『借り物競走』

 

「あ、俺の番だね」

 

「ご主人様、頑張って下さい♥」

 

玉藻は飛び跳ねながら一誠を激励し。その度に乳が激しく揺れる。またしても堕天しそうな天使が続出した。

 

 

 

『位置についてヨーイ、ドン!』

 

一誠は直様禁手して駆け出す。そして真っ先にお題の入った封筒を取った。このお題は各勢力ごとに数枚ずつ出し合い、それをランダムで入れている。

 

「エターナルロリータって誰だよ!?」

 

「裁縫好きのドラゴンなんている訳無いじゃない!」

 

「コスプレババア!? セラフォ……ひぃ!」

 

どうやら他の選手は一誠が書いたお題が当たったらしく、戸惑っている。そんな中、一誠はお題を見るなりゲスト側の応援席に向かい、ガウェインの手を取った。

 

 

 

「お題を確認します」

 

「はい、これ彼の奥さんの写真」

 

「ゲスト側が一位です!」

 

 

 

 

 

 

 

「……お題は何だったんですか? 妻帯者? 幸せ者?」

 

『ロリコン』である。写真に映った彼の奥さんは胸以外は小猫位の年にしか見えなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

競技もひと段落し休憩時間。一誠は会いたくない面々に遭遇した。

 

「……何だ、君達も来ていたんだ。謹慎にでもなっていると思ったのに」

 

一誠は偶々会ったリアス達に冷たい視線を送る。この間の一件で誰かが責任を負わなければならず、評価が下がっていたリアスが生贄に選ばれた。評価が上がってきているソーナを生贄にあげた場合、民の士気に関わるので選ばれたのだ。悪魔側が冥府に出した賠償方法は大量の示談金とサーゼクス達が持つ株式をいくつか譲渡、タンニーンの持つ領地も少々譲渡される事となり、

 

 

 

リアスは残った駒を全て没収される事となった。彼女の夢はゲームのタイトル制覇。その夢は暗礁に乗り上げようとしており、一誠の口からトドメとなる言葉が放たれた。

 

 

「ねぇ、白音ちゃん。俺の所に来ない?」




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運動会は8巻(短編)後あたり 七巻でテロで人手不足って言ってたのに…… (・3・) アルェー?


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閑話 外道が行く運動会 幕間

今日は眠いので短めです ……お気に入りがまた低下 次回は外道成分予定


「……なん…ですって…?」

 

「聞こえなかった? って言うか俺は白音ちゃんに言ってるんだ。冥府に所属しないかってね」

 

リアスは一誠の言葉に固まり、直ぐに苛立った表情を見せる。しかし一誠は気にした様子もなく小猫の方を見て微笑んでいた。

 

「私を冥府にですか……?」

 

当の本人である小猫は一誠の言葉に戸惑う。主を殺して逃げ出した黒歌の事を怖がっていたが、全ては自分を守る為だと知り、今は会えなかった時間を埋めるように触れ合っている。正直言えば姉と一緒に暮らしたい。しかし、リアスには大恩がある。黒歌が逃げ出した後、白音は貴族達に殺されそうになり、サーゼクスに助けられてリアスの眷属になり、リアスは小猫の事を可愛がってくれた。

 

「……お断りします。姉様と一緒に居たいですが、会えない訳ではありませんし、部長を裏切る訳にも……」

 

「……そう。ま、無理強いはしないよ? でもさ、よく思い出してごらん? 君達姉妹が酷い目にあったのは腐った貴族のせい。そしてそんな貴族を放置しておいたのは何処の誰? ……そもそもさ、合理主義の悪魔がなんで大して関わりのない君を助けたんだろうね? 最上級悪魔クラスの姉が居るんだから、妹もって打算的な考えがあったんじゃない?」

 

「失礼な事言わないで! そんな訳ないじゃない!」

 

「おお、怖い怖い。んじゃ、俺はもう行くね? もうグレモリーについても未来は無いから考えておいてよ」

 

ついに怒り出したリアスに背を向け一誠は去っていった。

 

 

 

「……大丈夫かなぁ。リアス・グレモリーは我が儘で婚約を破棄。更に数々の失態でもはや評価は最底辺。マトモな結婚相手が見つかるとは思えないし、ライザーみたいな好色だったら眷属まで危ないよね。でも、無理やり攫う訳にもいかないし。……今日は種を植えただけで満足しよう。脈無しって訳じゃ無かったしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様ぁ。このハンバーグ、初めて作ったんですが……お味の方はどうですか?」

 

「うん、美味しいよ。玉藻は料理上手だね」

 

「えへへ~♪」

 

競技は一旦休憩となり昼食時間、手作りのお弁当を食べる一誠に不安そうに訊ねた玉藻だが、どうやら一誠はお気に召したらしく玉藻の頭を優しく撫でている。敏感な耳の辺りを撫でられ、擽ったそうな顔をしつつも幸せそうだ。その顔があまりにも魅力的に見えたので一誠が撫で続けると背中に重量感と柔らかさを併せ持つ物体が押し当てられた。

 

「にゃん♪ ねぇ、私も撫でて欲しいんだけど」

 

「あ~、はいはい」

 

「其処じゃないにゃ♪ こっちを撫でて♥」

 

黒歌は頭に向けられた手を取るとそのまま服の中に入れ、胸に持っていく。一誠の指が柔らかい乳肉に包まれた。

 

「あ…あぁ…。そう、上手にゃ…。あ、其処弱いからもっと優しく…あぁぁ」

 

「ちょっとぉっ!?何羨まけしからん事をやってやがりますかっ!? ……敏感な耳を撫でて貰い続けるか、下を撫でて貰うか迷いますね……あん!ご、ご主人様? あまり其処ばかり撫でられては、玉藻辛抱たまりません!」

 

《じゃあ、あっしは此処で我慢するでやんす》

 

ベンニーアはそう言うなり一誠の膝の上にチョコンと座る。周囲の男性陣から殺気の篭った視線を送られる一誠であったが、別の事で困っていた。

 

「……そろそろご飯食べたいんだけど」

 

大食漢の一誠にとって食事が出来ないのは非常に困る事態であるのだが、今二人を撫でている手を止めたり、ベンニーアを退かしたりしたら後が怖い。一誠が心底困っていると横から救いの手が差し伸べられた。

 

「はい、お兄ちゃん。あ~ん」

 

「次は何食べたい?」

 

ありすとアリスは一誠の口にお弁当を運んで行く。何時もなら慌てて反応しそうな玉藻達であるが、先程から敏感な所を撫でられ続けたせいで発情しておりそれ所ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~。お腹一杯♪」

 

《……あの2人は放っておいて良いんでやんすか?》

 

「ご、ご主人様ぁ」

 

「イ、イッセー」

 

既にどこが敏感か一誠に知り尽くされている二人は容赦ない手技で追い込まれ、今は足腰が立たなくなるまで発情しきっている。切なげな吐息を漏らし潤んだ目で見つめてくる姿は非常にエロかったが、一誠にとっては食事の方が優先順位が高かったようだ。

 

《……にしてもよく食べるでやんすね》

 

ベンニーアが呆れたように見つめる先には空になった重箱がある。どう見ても4~5人前は有る中身は全て一誠の腹の中に消えていった。

 

「仕方ないよ。部下に仮初の肉体を与えるのも霊力を使うんだ。そして俺にとって霊力を回復させる手段として効率が良いのが食事って訳。普通に必要な栄養以外の余剰分は霊力に換算されてるよ」

 

《今すぐ全世界のダイエッターに謝ってくるでやんす!! なんすかそのチート!? あっしが体型維持の為にどれだけ苦労していると思ってるでやんすか!?》

 

「君はもう少し肉を付けたほうが綺麗になると思うよ。俺の好みもその位だし」

 

《そ、そうでやんすか? なら、一誠様の好みに近づけるよう頑張るでやんす!》

 

ベンニーアは嬉しそうに笑うと一誠に正面から抱きつく。そのまま一誠に抱き留められ、更に嬉しそうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

一誠が三人とイチャついている頃、別の場所でもイチャついているカップルが居た。

 

「ほら、私の手作りだ。……悪かったな、午前中応援に来れなくて」

 

「いえ、お気になさらずにハニー。本当はオフだったのに、急に出かける事になった私が悪いんです」

 

ガウェインと一緒にいるのはどうやら奥さんである戦乙女の様だ。身長は小猫位で童顔だが、写真では分からない威風堂々とした空気を纏い、まるで凄腕の軍人のようだ。流れるような銀髪にオッドアイを持つ美少女だが、ガウェインを迎えに来たのが彼女なので驚いた事にロスヴァイセより年上だ。なお、体型もほとんど小猫と同じだが胸だけは黒歌以上あった。

 

「ふっ、そうだな。では、今晩は寝かせないぞダーリンよ。……早く子供が欲しいからな。互いに出来ない体ではないのだが……」

 

「そうですね。同盟先に子宝を司る神様が居ますから相談しますか?」

 

「ああ! 良い考えだ!」

 

この二人、かなり熱々の様で周囲の独り身達はブラックコーヒーを買い求めていた。

 

 

 

 

なお、求婚したのは妻からである。いきなり唇を奪うと、『お前は私の夫にする! 意義は認めん!』と宣言したらしく、後輩の戦乙女達の間で未だに噂になっている。

 

 

 




次回は 騎馬戦 綱引き 玉入れ 等等 そして恒例の……

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閑話 外道が行く運動会 後編

「(……私はどうすれば)」

 

一誠からの誘いに対し小猫は思い悩んでいた。リアスや他の眷属達とは長い付き合いであり、既に家族のような関係だ。だから彼らの前という事もあって先程は断ったが、やはり黒歌とは一緒に居たい。リアス達への義理と姉への愛情。その二つは小猫の頭を悩ませ、その日の昼食は三人前しか食べれなかった。

 

 

 

 

 

『騎馬戦』

 

昼食も終わり午後の部第一競技は騎馬戦。四人一組で帽子を取り合うというこの競技に異様なまでの情熱を燃やしている者達がいた。

 

「良いですか! 我々は元円卓の騎士の名に恥じぬ戦いを見せなければなりません! 貴方達は情けない戦いをしても平気ですか!?」

 

『否!否! 否!』

 

「そうですとも! では次に問います。我々の勝利は磐石でしょうか!?」

 

『然り! 然り! 然り!』

 

ゲストチームの殆どは円卓の騎士だった者達で占められ、ガウェインが彼らを鼓舞している。彼らを包む熱気は一気に上昇した。

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れダーリン! 勝ったらキスしてやるぞ! まぁ、負けてもキスしてやるがな!」

 

そして一気に熱気は冷める。なお、ランスロットを除いて一誠配下の元円卓の騎士達は妻どころか彼女すらいない。しかも生前からである。普段から一誠が玉藻達とイチャつき、ランスロットはロスヴァイセを送っていって朝帰り。そしてガウェインは死んでからも美人の嫁さんをゲット。……これでは士気が下がらない方がおかしいだろう。

 

「え? あ、あの、皆さんどうしたんですか?」

 

状況が飲み込めないガウェインは士気の急落に戸惑っている。しかし、騎士たちは誰も理由を話さない。まぁ、無理はないのだが。

 

「私達はモテないのに貴方がモテてるからやる気無くしました」

 

とは言えないだろう。もう直ぐ試合開始だというのに志気が上がらない事にガウェインが悩んでいると、一誠とハンコックが近づいてきた。

 

「皆。この試合で活躍したらハンコックが部下の女性陣との合コンをセッティングしてくれるって」

 

「試合をするのならば勝たねばならぬ。その程度の事で士気が上がるのならば安いものじゃ。……ボンキュッボンの美人とツルペタストンの美少女の二通り用意しておこう」

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 漲ってきたぁぁぁぁぁ!!!』

 

騎士達の熱気はガウェインが鼓舞した時よりも上がり、士気も生前にガウェインが見た事無い程に上がっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行きますよ、皆さん! ……蹂躙しろぉぉぉぉぉぉ!!」

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』

 

ガウェイン率いる元円卓の騎士達は破竹の勢いでハチマキを奪い続ける。そんな中、若手ナンバーワンのサイラオーグが立ち塞がった。

 

「これ以上暴れさせん!」

 

「面白いですね。年季の違いを見せて差し上げます!」

 

ガウェインはサイラオーグと正面から組合い、全力で押し合う。単純な力だけならサイラオーグが勝っているが、騎馬になっている三人のチームワークの差で互角に渡り合っている。しかし二人が押し合う中、横合いからアザゼルが突撃してきた。

 

「ひゃっはぁぁぁぁぁ! まとめて頂きだぁぁぁぁ!!」

 

どこぞの世紀末のモヒカンのようなセリフを吐きながらアザゼルは二人の帽子に手を伸ばす。先程から活躍している二人を此処で潰そうという考えだろう。だが、騎馬になっていたバラキエルの足が不自然に崩れ落ち、アザゼルは顔面から地面に激突する。

 

「のわっ!? 何やってやがる、バラキエル!」

 

「す、すまん。だが、突然足に妙な力が加わって……」

 

バラキエルはアザゼルに平謝りに謝り、アザゼルは仕方ねぇな、っと言いながら頭を搔く。何時の間にか帽子が無くなっていた。

 

 

 

 

 

「ウフフイ…。帽子は頂いたヨ…」

 

ポチ、レイナーレ、グリンパーチと組んだブイヨセンは細長い指先で弄ぶかの様にアザゼルから奪った帽子をクルクルと回している。

 

「確かテメェは……。あぁ! 霧吹き山のブイヨセンじゃねぇか!? さてはさっきは念動力使いやがったな!?」

 

「はて、何の事かな? 証拠でもあるのかい? クスクス……」

 

どうやらアザゼルは一誠の配下になる前のブイヨセンを知っているらしい。先程の転倒もおそらくブイヨセンの仕業なのだろうが証拠がないので追求できない。アザゼルが歯噛みする中、歓声が上がった。

 

「この勝負、私の勝利です!」

 

「くっ……」

 

ガウェインはサイラオーグの帽子を高々と掲げる。その瞬間、競技終了のホイッスルが鳴り響いた。

 

 

 

「うむ! 流石は私の夫だ! 父上も鼻が高い事だろう。……腰を屈めろ」

 

「いやはや、トール様には未だ叱られてばかりですよ」

 

ガウェインは妻の言う通りに腰を屈めて頭を下げる。すると妻はその首に手を回し、つま先立ちになってガウェインの唇にキスをした。体格差があるが為にそうしないとキスできず、傍から見れば幼い娘と父親くらい身長差がある夫婦だが、この時ばかりはカップルにしか見えなかった。

 

「んっ……れろっ…くちゅ…」

 

二人は人前で大胆に舌を絡め、数秒後に唇を離した。既に松田と元円卓の騎士達は唇を噛み締めながら血の涙を流して二人を睨んでいる。

 

 

「これ合コン相手のプロフィールね」

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

そして直ぐに機嫌が直った。騎士達にプロフィールを渡した一誠が応援席に戻ると漸く落ち着いたのか座っている玉藻と黒歌。二人は一誠に向かって手招きし、一誠が近づいた途端……押し倒した。

 

 

 

 

「大丈夫ですよ。幻覚張ってますから外からは見えません」

 

「先っちょ。先っちょ入れるだけだから」

 

「誰か、誰か助けてください!」

 

誰も好き好んでバカップルの触れ合いに関わりたくない。なので誰も止めず幻覚の外へと出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『玉入れ』

 

 

 

 

 

「おい、コラ! いくらなんでもそれは反則だろ!?」

 

選手全員参加の玉入れでアザゼルはゲスト側の選手に文句をつける。……大人げないが仕方ないだろう。グレンデルやシャドウの全長はカゴの高さを遥かに超えているのだから。

 

「背が高いのは個性でしょ?」

 

「ぐぎぎ……。お前ら、こうなったら悪魔や天使には絶対勝つぞ!」

 

最早ゲストチームには勝つのは無理だと悟った各陣営は敵を絞り、

 

 

『悪魔は死にさらせぇぇぇ!!』

 

『あの時の憾みじゃぁぁ!!』

 

各陣営、玉じゃなく光の玉や光の槍、魔力弾を打ち合う。阿鼻叫喚の地獄が広がりアナウンスが止めるも騒ぎは収まらない。

 

 

 

『これで全部か?』

 

「うん、この辺のは全部拾ったよ」

 

その間にも一誠達は青い玉を集めてはグレンデル達に渡して行く。そして全ての玉を入れ終わると、

 

「ウフフイ……」

 

『ぐわっ!?』

 

ゲストチーム以外の全選手が上から掛かられら圧力によって顔面から地面に倒れ、地面に縫い付けられる。サーゼクス達でさえ起き上がるのがやっとで玉を投げる余裕はなかった。

 

「入れた玉の数が点数になるから、点差は稼がないとね♪」

 

結局ゲストチーム以外は一個も入れられないまま制限時間がやって来た。

 

 

 

 

『綱引き』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まずはゲストチーム対天界チームですが……』

 

見るからに勝敗は明らかだった。後ろにはグレンデルやフェンリルと化したポチが控え、極め付きには覇龍状態の一誠。そして前側にはハンコックを筆頭に美女軍団。

 

『オーエス! オーエス!』

 

「む、胸がぁぁぁぁ。へそがぁぁぁぁ!!」

 

「い、いかん! このままでは堕ちる……」

 

女性陣が綱を引く度に胸がブルンブルンと揺れ、へそがはみ出る。中には服がめくれ下乳が見えている者までいた。男性陣は殆どの者が前屈みになり、天使側など羽が黒く点滅している。

 

 

「……棄権します」

 

ミカエルの英断がなければ何人かか堕天使になっていただろう。なお、彼も一瞬だけ前屈みになっていた。

 

「バカ野郎! せっかくのサービスシーンだぞ!? もっと楽しもうぜ!」

 

「私もそう思う……はい、嘘です。だからそのハリセンを仕舞ってくれ、グレイフィア」

 

「却下です」

 

その日、グレイフィアはどこかから受信した電波によって習得した奥義を発動する。その奥義の名はゴールデンボール……。

 

 

 

 

『円盤投げ』

 

「……これって運動会の競技かな?」

 

一誠は移動した先で首を捻る。この競技は円盤がどこまで飛ぶか分からないような選手が居るのでゲームのフィールドではなく、冥界の一角で行われる事となった。代表者三人が投げ、合計飛距離を競うというものだ。

 

 

 

そして、その競技の様子を遠くから伺う影が一つ。毎度おなじみ漢服の青年である。彼は解体予定で鉄骨が剥き出しになったビルから双眼鏡を使ってみていた。

 

「こんな時期に幹部を動員して運動会とは、俺たちも舐められたものだね。ま、風評操作には使えるかな? この大会中にテロを起こせば……」

 

青年は悪巧みをしつつも様子を伺い続ける。この時に帰っていれば不幸な目には合わなかったのに……。

 

 

 

 

『グハハハハ! 俺の番だな!』

 

『boost!』

 

グレンデルが気合を入れると手の甲に出現した宝玉から音声が響き彼の力が倍増する。そしてグレンデルは洗練されたフォームで円盤を構え、一切に無駄なく円盤に力を加える。円盤は一気に加速して飛んで行き周囲を衝撃波が襲う。円盤が通り過ぎた後、地面は摩擦熱で焼け焦げていた。

 

「そ、測定不能です……」

 

円盤は空の彼方へと消えて行き、この時点でゲストチームの勝利が決定した。

 

 

 

 

 

そして飛んでいった円盤は摩擦で真っ赤になり、徐々に溶け出す。そして高熱の散弾となって青年が居るビルのフロアに降り注いだ。

 

「くっ!」

 

しかし青年も中々の強者。急に飛来してきた灼熱の礫を槍で叩き落としていく。しかし全ては落としきれず、体中に刺さった礫が内側から彼の肉体を焼き、気が狂うような痛みが青年を襲う。

 

「拙い!」

 

本当に気が狂ったのか青年は痛みを堪えながら駆け出すとビルから飛び降りる。その瞬間、礫で柱をいくつか壊された事で自重を支えきれなくなったビルが倒壊し、鉄骨が地面に降り注ぐ。青年は落下していく鉄骨を踏み台にしながら飛び跳ねビルから離れていき、最後に全力で跳躍した。

 

「ぐっ! まだまだぁ!」

 

ついに足が限界を迎え血が吹き出し力が入らなくなる。空中で大きくバランスを崩した青年は真っ逆さまに地面に落ちていく。このまま落下して死ぬと思いきや青年が構えた槍の矛先から神々しいオーラが吹き出た。オーラを噴射する事で青年は落下のスピードを弱め、何とか着地する事ができた。

 

「……ふぅ。それにしても最近ツイテいない……」

 

青年は額の汗を拭うとその場に座り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

頭上から鉄骨が迫って来るのにも気付きもせずに。偶然一本の鉄骨が他の鉄骨とぶつかり合い、大きく跳ねて青年へと迫ったのだ。まるで青年に死の運命が付き纏っている様に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでは優勝を発表します! 優勝は……ゲストチーム!!』

 

一誠達の優勝を告げるアナウンスが流れる中、青年がいた場所には鉄骨が深々と刺さっていた。

 




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修学旅行はパンデモニウム
五十二話


ccc ギルを選んだ時のサーヴァントはバーサーカーだと聞きました

……一番可哀想じゃね? 忘れられっぱなし?(笑)

6回戦まで一緒に戦ってきたのに……結局


もしランスロットだったら7回戦が面白そうだな それかセイバーオルタ

エクストラでもキアラの名前出てcccが出たし、サーヴァントエンディングで言ってたのが伏線なら続編も出るかな? 


「うむ、いい湯だ。夫婦一緒の風呂は何度入っても飽きないな」

 

その日、ガウェインは妻と共に入浴していた。彼女はガウェインの足の間にその小さな体を入れ彼の胸板に頭を預けている。その小柄な矮躯からは想像できない程大きな胸は湯の中でユラユラと揺れ、絹のような手触りの銀髪はガウェインの指の間で滑っていた。

 

「今度の連休に温泉旅行でも行きますか? ……旅行といえばランスロットの主が修学旅行に行くらしいのですが大丈夫でしょうか?」

 

「……一般人と一緒に行くのだろう? テロリストからすれば格好の的だな。赤龍帝は兎も角、悪魔共は甘いと聞くぞ。……色々な意味でな」

 

彼女は詰まらなそうに言い切ると急に立ち上がる。銀の髪から雫が滴り、白い肌にはほんのり赤みが差し湯気が立っている。そしてそのままガウェインの方を振り返った。

 

「……始めるぞ。」

 

「はい!」

 

ガウェインは妻の腰に手を回しそっと抱き寄せる。彼女もまた夫の首に手を回し、そのまま二人は唇を合わせ、身を寄せ合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……無粋な」

 

しかし、ある程度互いを求め合い今から本番っといった所でけたたましく鳴るベルにより営みは中断された。このベルが鳴る時は緊急時。二人の表情は甘い生活を送る夫婦から任務を前にした騎士のものとなり、浴槽から素早く出ると即座に着替える。ガウェインは白い鎧。そして彼女は他の戦乙女よりも少々ゴツイ鎧だ。二人が呼び出された場所に向かうと既に他の者達が整列していた。

 

『隊長! 副隊長! お待ちしておりました!』

 

「何があった?」

 

ガウェインの妻は近くに居た部下に視線を送る。部下は敬礼をしながら報告を行った。

 

『はっ! ロキ様が作り出したミドガルズオルムのコピーの残りが暴れているそうです!』

 

「奴は主神の命を狙った反逆者だ。様を付ける必要はない。……それでは今から討伐に向かう! ガウェイン、行くぞ!」

 

「了解しました、隊長!」

 

二人は武器を構え、部下を引き連れて任務へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むふふ~♪」

 

「ほら、動かない」

 

一誠は耳掃除の途中で頭を動かす玉藻を叱る。先程から何度言っても彼女は一誠の腿に頬ずりをするのだ。一誠はブツブツ文句を言いながら耳掃除を続けた。

 

そもそも何で一誠が玉藻の耳掃除をやっているのかというと、次の日から三泊四日の修学旅行に向かうのでスキンシップとして耳掃除を頼まれたのだ。なお、先程まで一誠舘同様リビングに居た黒歌は先程からずっと姿が見えない。

 

「有難うございます、ご主人様♥ ……少々寂しいですね。今までずっとお側に居ましたから」

 

「……仕方ないさ。京都、嫌なんだろ?」

 

「……はい」

 

玉藻に宿る玉藻の前の記憶は未だに彼女の心に楔として残っている。故に何時も一誠にべったりな彼女も今回ばかりは留守番を望んだのだ。それでもやはり寂しいのか耳はシュンと垂れ下がり尻尾にも元気がない。その表情にも何処か陰りが見えた。

 

 

 

 

「……そろそろ寝ようか」

 

「あ、はい、キャッ!?」

 

一誠は玉藻を抱き上げるとそのままお姫様だっこで寝室へと連れて行く。そしてそのままベットに放り投げた。

 

「あん! もう、ご・う・い・ん・なんですからぁ♪ 今日は無理やりってシチュエーションですか?」

 

「いや、違うけど? ほら、尻尾出して。久しぶりにブラッシングしてあげる」

 

「え~! 交尾しましょうよぉ!」

 

一誠はタンスに仕舞っていたペット用のブラシを取り出す。玉藻は不満そうにしているが尻尾は嬉しそうにパタパタ、耳はピコピコと動いている。どうやら口と違って体は正直なようだ。一誠が持ったブラシが毛を解く度に体がビクッと動いていた。

 

「ご、ご主人様ぁ……」

 

どうやら運動会の時と同様に敏感な場所を刺激されて興奮しだした様だ。思わず飛び掛ろうとした玉藻だったがその体は石のように動かず、尻尾を刺激される感覚だけが襲って来る。涙目で一誠の顔を見ると嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 

玉藻は一瞬で理解する。体が動かないのは一誠の仕業であり、このまま自分を虐め抜くつもりだと。ちなみに相手の体の自由を奪うこの術を教えたのは玉藻だ。もっとも、相手が油断していないと使えないので教えた事すら忘れていたが。やがて一誠の人差し指が首筋に当てられ背中までツーと撫でられる。何とも言えない感覚が体中を襲った。

 

「ひゃんっ!? い、意地悪です! それにこの術は戦いの為のもので……」

 

「あ、そうだっけ? まぁ、これも戦いって事で……わっ!?」

 

一誠はもう一度背中を撫でようとした所で驚きの声を上げる。何時の間にか後ろから回された手で目を塞がれたのだ。一誠は背中に小振りで柔らかい双丘を感じ、手を振り払って振り返る。魔法陣で何時の間にか部屋に入っていたベンニーアが着物姿で抱きついていた。

 

《この服装、どうでやんすか? 夜這いに来たら面白そうな事になてったのでお邪魔させて貰ったでやんすよ》

 

「あ、うん。似合って……はっ!?」

 

一誠は正面から威圧感を感じ再び前を見る。そこには気が逸れた事で金縛りが解け、黒い笑みを浮かべる玉藻の姿があった。

 

「ふふふふふ。 あのまま玩具にされるのも面白そうでしたが、たまには私がご主人様を玩具にするのも楽しそうですねぇ♪」

 

正面から抱きついてきた玉藻は蠱惑的な笑みを浮かべて一誠の首筋に舌を這わせる。唾液を絡ませたザラザラした舌の感触が伝わって来た。そして今度は一誠が体の自由が利かなくなったのを感じる。そして一誠の付け焼刃の術と違って彼女のは神クラスの呪術。抗えるはずがなかった。

 

「あ、そうそう♪ ベンニーアさんにも混ざって頂きますよ。色々と教えて差し上げますので。……えいっ✩」

 

《あ~れ~!》

 

玉藻はベンニーアの帯を掴むとグルグル回す。まさに町娘を襲う悪代官の所業。良いではないか良いではないか、とでも言えば完璧だろう。そして死神娘はノリノリである。帯が解けると白い肌と未発達な肢体が露わになり、彼女の頬には微かに赤みが差していた。

 

「さぁて、貴女は年齢的にも順序的にも本番は早いです。ですから、ご奉仕の仕方だけ教えて差し上げますね♪」

 

《よ、よろしくお願いするでやんす》

 

ベンニーアは緊張した面持ちで唾を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ちょっと誂うつもりだったのに失敗したなぁ。まぁ、たまには良いかな?」

 

その晩、一誠は修学旅行が控えているというのに一睡も出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、起きなよ」

 

《う~ん。あと1000秒……》

 

翌朝、まっさきに潰れたベンニーアを起こしてシャワー浴びさせた一誠は荷物を確認する。なぜか少し重くなった気もするが気にしないで出かけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おはよ」

 

「おう、眠そうだなイッセー。一晩中自家発電でもやってたか?」

 

集合時間の少し前に来た一誠は欠伸を噛み殺しながら元浜達の所に行く。修学旅行は数人の班になる事になっており、面倒臭いので中学が同じだった松田と元浜と組む事にしたのだ。

 

 

 

 

もっとも、後から余計なオマケがついてくる事を知ったが。

 

「馬鹿ねぇ。兵藤って美人で年上の彼女がいるって噂なのよ。そんな事する訳ないじゃない。どうせ旅行前に彼女とヤル事ヤってたんじゃない?」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべながら近づいてきたのは桐生。変態二人組と同等のエロさを持つ女子生徒だ。なお、かなりの情報通である。彼女というキーワードを聞いて一誠に好意を持っている女子達はショックを受けた表情をし、元浜を中心とした男子陣は睨むような視線を送る。

 

「ちくしょう! 松田は美少女揃いのオカ研に入ってるし。イッセーは彼女持ちかよ! なんで俺には春が来ないんだ!?」

 

「……そりゃまぁ、女子の生理的嫌悪を誘うような事ばかりしてるからでしょ。逆に聞くけどなんでそれでモテれると思えるの?」

 

一誠はやれやれといった風に肩を竦めるとその場を離れる。去り際に松田と桐生と同じ班のアーシアとゼノヴィアにだけ聞こえるように囁いて。

 

 

「……言っとくけど旅行先で何か有っても君たちに力貸す気ないから。俺を狙ってきたのなら兎も角、君達悪魔や冥府と関係ない勢力の事なんて知った事じゃないし……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして漸く目的地である京都行きの新幹線がやって来る。別の車両には当然の如く他の客も乗っており、その中には双子らしい少女達を連れた女性の姿もあった。




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五十三話

……ふと思った エリザベートを召喚したザビーのエクストラのssが読みたいと どっかで誰か書いてないかな?


京都を目指す新幹線の中、一誠は桐生と向かい合って眉間にシワを寄せる。二人は自由行動中の観光スケジュールを調整していた。

 

「……まさか交通事故が事件に発展するなんてね」

 

先ほど聞いたラジオによると、目的地の一つの近くで交通事故が起こったのだが、被害者の青年が槍のような物を持っており、警察官の制止を振り切って逃走した為に安全の為変更する事になったのだ。

 

「……しょうがないわ。最初に稲荷山に行って、その次に……」

 

二人が話し合う中、行動を共にする松田と元浜、イリナとアーシアは話について行けず耳だけを傾けている。予定としては一日目に仏閣を巡り、二日目は食道楽という予定になっていた。漸く予定を練り直せた桐生は少々呆れたような目で一誠を見る。

 

「それにしてもよく食べるわね……」

 

「そう? 君だって甘い物好きでしょ?」

 

一誠の膝の上には山盛りのお菓子が置かれており、既にかなりの量が彼の腹に収まっている。普段から一誠は大量の食事を取っており、それなのに無駄な脂肪がついていなかった。

 

「ホント、なんで太らないの?」

 

「そう言われても昔から沢山食べるけど太った事ないな。むしろどうやったら太れるの?」

 

その瞬間、唸る鉄拳、轟く打音! これが後に数多くの怪物を拳の一撃で撃退し、ワンパンウーマンと呼ばれる戦士の伝説の始まり……、

 

 

 

 

 

なんて事はなく、桐生が思わず突き出した拳は一誠に軽々と避けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふ~ん」

 

一誠は京都駅に着くなり絡みつくような視線を感じ眉をひそめる。どうやら悪魔である松田達に対して警戒心の篭った視線を送る者達が居て、彼らの近くに居るせいで不快感を感じたようだ。

 

「ほら、早く行かないと観光の時間がなくなるわよ。早く行きましょ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都ペルセポネーホテルに」

 

 

京都ぺルセポネーホテル。最近までは京都サーゼクスホテルという名前だったが最近になって元の経営者の所有していた株式の権利が別の者に移った為に名前も変更する事となった。なお、近くには京都セラフォルーホテルもあるが、此方も近々経営者が代わるという噂がある。

 

 

 

なお、お分かりかと思うが新しい経営者はハーデス……ではなくペルセポネーである。むしろ人間界で冥府陣営が行っている会社の実権は彼女が握っており、玉藻の協力もあって大繁盛している。給料も大幅に上がりホテルの従業員も大喜びのようだ。

 

「デケェ! 本当に此処に泊まれるのか? 高級ホテルだろ?」

 

「なんでも理事長が前の経営者だったらしいよ。だから今までは宿泊費を割引して貰ってたけど、来年からは別のホテルだって」

 

「へぇ、運が良かったわね」

 

一同はホテルに荷物を置きに行く。学生証を見せるとホテルマンは快く案内してくれ、直ぐに部屋にたどり着いた。部屋割りは二人一組になっているのだが……どうやら松田だけは一人部屋のようだ。他の生徒が泊まる部屋は大きなベットがある洋室。オートロックで安全性もばっちりだ。

 

 

 

 

「な、なんで俺の部屋だけ……?」

 

しかし、松田の部屋だけは和室。しかもかなりボロボロだ。

 

「ぶはははは! どうやら割引のツケがお前に回ってきたようだな!」

 

「安心して! 学園関係者による生徒へのイジメってネットに投稿するから。多分積立金は返ってくるんじゃない?」

 

どうやら何かあった時の連絡用としてこの部屋を使う事になったらしい。それを知らない元浜は大笑いし、知っている一誠は案内したアザゼルを誂うつもりで言う。嘆く松田を残し、一誠は自室に荷物を置きに行った。すると着替えが入ったカバンの中で何かが動く気配がし、元浜に見られないように覗き込むと……、

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃん♪」

 

猫の姿をした黒歌が入っていた。

 

「……ねぇ、元浜。生ゴミって何処に出すんだっけ?」

 

「にゃっ!?」

 

「どうかしたか? なんか猫の鳴き声が聞こえたような気が……」

 

「気のせいだよ。さ、行こうか」

 

一誠はカバンに幽霊封じの結界を張ると待ち合わせ場所であるロビーに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ゼノヴィアさん達可哀そうですね。折角の旅行なのに……」

 

アーシアはゼノヴィアや匙が生徒会の仕事だけで初日の自由時間が潰れると聞き、同情の表情を浮かべる。彼女としては友人になったゼノヴィアとも楽しみたかったのだろう。

 

「まぁ、しょうがないわ。あ、お土産屋さん!」

 

元相棒のイリナはお土産屋を見つけるなり走り出す。稲荷山の麓だけあって狐関連のお土産が揃っており、その可愛さに目を奪われる。

 

「ここで少しくらいお土産買ってもお小遣い足りるかしら?」

 

「はわぁ。可愛いですね」

 

「あ、串団子売ってる。すいません、タレとアンコ各三本下さい」

 

一誠は狐のお土産に興味がないのか食い気に走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ホテルの一室では……、

 

「あ~、やっと出られた」

 

どうやらカバンに張った結界は嫌がらせ程度のものだったらしく黒歌は何とか脱出する事ができた。

 

 

「さぁ! 駄狐や死神っ子のシーンは前回で終わった! 今回は私がメインヒロインにゃ!」

 

メタな発言をしつつ黒歌は窓をすり抜けて外に飛び出る。霊体になった為に空を歩けるようになった彼女は鼻歌交じりに空中散歩と洒落込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様、京の者ではないな? その霊力、怪しすぎる! まさか貴様が母上を……」

 

その頃、一足先に頂上にたどり着いた一誠は妖怪に囲まれていた。巫女服の狐の妖怪らしき少女は烏天狗達を引き連れ一誠を取り囲む。どうやら人払いの術をかけているらしく周囲から人の気配が消え去っていた。

 

「……怪しいって。俺はただの観光客だよ? 君の母親なんて知らないって」

 

一誠は言いがかりをつけてきた少女に呆れたような視線を送る。ただ怪しいと言うだけで相手の実力も図らずに襲いかかるなど愚の骨頂である。

 

「とぼけるな! 私の目は誤魔化せんのじゃ! 皆の者、かかれ!」

 

「……行け」

 

「なっ!? な、なんだ此奴らは!」

 

何時の間にか少女達は遥かに多くの怪物に囲まれている。イソギンチャクやタコを掛け合わせたような醜悪な化物の正体は『螺湮城教本』が生み出す海魔。そして烏天狗達が駆けつけるよりも早く少女は海魔に捉えられる。ヌメヌメとした触手が体を這いずり、鋭く尖った先端が左目に突き付けられた。

 

「動かないでね。動いたらその子の目を潰すよ」

 

「姫様っ! おのれ、姫様を解放しろ!」

 

「嫌だね。この状況で逃がす馬鹿なんていないさ。あ、とりあえず仲間同士で足と翼を潰しあってね」

 

一誠は烏天狗の叫びに対し、馬鹿にしたように舌を出す海魔は少女を捉えたまま一誠に近づき、一誠は少女を盾にするように受け取る。当然、触手の先は目に突き付けたままだ。

 

「お主ら、私に構わす此奴らを討て!」

 

「へぇ、自己犠牲? でも残念。君姫様なんでしょ? そんな重要人物を力量も分かっていない相手の前まで連れて行き、死ななくても大きな怪我をさせたとあっちゃ……下手したら一族郎党処罰物? 可哀想にね。身を守る手段を持たない癖に危険に飛び込む馬鹿の命令に逆らえないばっかりに……」

 

「くっ!」

 

一誠は芝居がかった口調で少女を責め立て、自分のミスに気付いた少女は悔しさから歯噛みする。人質になる危険性がある以上、無力な自分は出てくるべきでなかったのだ。足手纏いなくせに勇み足で部下を引き連れ、その結果がコレだ。抵抗しようにも目のすぐ傍に鋭利な触手の先を突き付けられては術での抵抗もできない。

 

 

「うっ……」

 

「あれ、泣いちゃった? でも逃がさないよ。君から襲ってきたんだ。子供だからって許しはしない。罪には罰……」

 

悔しさから少女は泣き出し、一誠はそれでも容赦しない。

 

 

 

 

 

その時である。一誠の背後から気配を殺した二つの影が飛びかかった……。

 

 




イッセーsanは子供でも容赦無しです 傍から見れば悪役(笑)

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五十四話

難産でした 何とか毎日更新


一誠が幼女を触手で捕えている頃、兵藤家には大きな荷物が届いていた。宅配便で来た訳でなく、いきなりリビングに現れたその箱には送り先が書かれておらず、ただ一誠宛とだけ書かれていた。

 

「玉藻、これ何?」

 

「……はっ!? 今ご主人様が触手プレイをしているような気が!? あ、すいません。これはこの間売られた喧嘩の落とし前の取り分です」

 

天照が冥府に支払う事になったのは所有する土地を幾つかと、実質的に支配下にある妖怪からの献上品の何割かを毎月支払うというものだった。なお、賠償金もバッチリ取っている。

 

「あらまぁ、美味しそうねぇ」

 

今回送られてきたのは何かの肉や松茸等、何れも此れも神の口に入るべきものだけあって市販品とは明らかに違う。まるで黄金のような輝きを放っていた。

 

「う~ん、お母様達は人間として生きるんですよね? じゃあ、不老長寿とかの効果があるのは除けておきますね? あとは精力増強効果がある秘薬……天照も分かっていやがりますね」

 

とりあえず普通に生きるのなら食べない方が良い品は幽霊達で食べる事にし、秘薬は懐に仕舞い込んだ玉藻であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、待ってくれぇ」

 

「何よ、情けないわねぇ。アーシアでさえ平気そうなのに……」

 

頂上にある神社を目指して登山していた一一行であったが、体力のない元浜はダウンし桐生は其れを呆れたような目で見る。もっとも、二人以外は悪魔と天使なので仕方ない話なのではあるが。

 

一行が先に進んだ一誠を追って山頂まで差し掛かった頃、急に桐生と元浜の動きが止まる。辺りを見ると山頂付近だというのに登ろうとしない観光客達が何人も居た。

 

「あれ? なんか登る気がしないわ……」

 

「ああ、これ以上は登っちゃ駄目な気がする」

 

二人は無気力な目をしながらその場に座り込んだ。アーシアとイリナはその様子を不審に思い、山頂付近から妙な気配を感じ取った。

 

「……結界!? イッセー君が危ない……訳無いか」

 

「なぁ、さっき女の子二人を連れた人が山頂に向かったんだけど」

 

「大変です! すぐ助けに行かないと!」

 

松田の目が確かなら一般人が結界の中に迷い込みかねない。もし戦闘でも起きていたなら怪我をするかもしれないっと判断した三人は上に行く気のない二人を置いて山頂を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、わたしも抱っこ~」

 

「あたしはオンブで良いわ」

 

そして、山頂の境内では少女二人に背中から抱きつかれている一誠の姿があった。辺りには烏天狗らしき者達が居り、一誠の正面では巫女服狐耳の少女が尻餅をついて涙目になっている。少女二人の言葉からして抱きかかえられている所を落とされたのだろう。尻を強く打ったせいか少女はついに泣き出した。

 

「う……うぅぅぅ」

 

「あ~、泣いてる~! 弱虫♪ 弱虫♪ 弱虫狐~♪」

 

「泣き虫♪ 泣き虫♪ 泣き虫狐~♪」

 

一誠の背中から飛び降りたありす達は狐耳の少女の周りをスキップしながら囃し立てる。追い付いたアーシア達が呆然とする中、二人の襟首を掴んで止めた女性がいた。

 

「コラ! 虐めちゃダメでしょ」

 

「はーい!」

 

「分かったわ、メディアさん」

 

その女性の名はメディア。人気小説家にしてアーシアの契約相手のお得意様であった。

 

「メ、メディアさん!? それにその子達って一誠さんの……」

 

「あら、アーシアちゃ……ヤバッ!?」

 

「……あ~あ」

 

ずっと隠していた一誠との繋がりがバレてしまった事にメディアと一誠の気が逸れ、その隙に妖怪達は逃げ出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖怪に襲われた? おいおい、話は通していたし、お前は人間だろ」

 

アーシア達と合流した一誠はアザゼルに今回の一件を報告する。狐の姫を落とした時に折角買った団子まで落としてしまったらしく少々不機嫌だ。

 

「うん。姫様って呼ばれてた糞餓鬼が母上を返せって言ってたから総大将でも攫われたんじゃない? ……あれ、結構ヤバイ事態?」

 

京都には強力な力が流れており、妖怪の総大将である九尾の狐がいる事で安定している。もし攫われたらどんな事態が起きるか予想がつかない。いま異変が起きていない事から京都の外に連れて行かれたり殺されてはいないようだが、アザゼル達の顔色は最悪の事態を想定して青くなってきた。

 

「大変ねぇ」

 

「大変大変」

 

「大変だわ」

 

しかし、メディアとありす達の反応はどうでも良いといった様子である。ありす達なら兎も角、メディアなら深刻さが分かるはずなのだが……。

 

「おいおい、深刻さ分かってんのかよ。……え~と」

 

「……葛木メディアよ。京都は気に入ってるし、たかが地脈を流れる力の異変ごとき私が何とかしてあげるわ。もしもの時は娘の方を総大将の代わりに挿げ替えれば良いだけだしね。五月蝿そうな高天原は坊やが黙らせれる。はい、これで解決。私はもう行くわ」

 

「またね、お兄ちゃん」

 

「明日も会いましょ」

 

メディアは一方的に言い切るとその場を去って行った。ありす達もその後について行き呆然と立ち尽くすアザゼル達が残される。

 

「なによ、あの態度! イッセー君。あの人貴方の仲間でしょ。なんで諫めないのよ!?」

 

「何怒ってるのさ、イリナちゃん。京都に異変が起きないようにしてくれるって言ってるんじゃない。あとは妖怪の問題。何も心配する事なんて無いよ。あの人に任せておけば大丈夫さ」

 

 

一誠はそう言うなりその場を離れていく。幼馴染の思わぬ態度にイリナは再び固まっていた。

 

「……まぁ、彼奴が言うなら大丈夫なんだろうな。性格は信用できないが、能力は信用できる。ああ、今回の件は俺達大人が調べる。もしもの時は力を借りるが……折角の修学旅行だ。楽しんどけ」

 

イリナ達は戸惑いながらもその言葉に甘える事にする。

 

 

 

 

 

 

そして入浴時間、変態二人組が動き出そうとしていた。

 

「覗くぞぉぉぉっ!」

 

松田は変態的な雄叫びを上げながら浴場を目指す。今は女子の入浴時間。普段嫌われている仕返しに覗こうというのだ。最も、普段からそんな思考回路だから嫌われるのだが……。

 

松田は非常階段から浴場を目指す。ソロリソロリと足音を忍ばした彼は階段を降りて行き、

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってたぜ、松田!」

 

「げぇ、匙!?」

 

当然の様に行動を見抜いていた匙に待ち伏せされる。この後、数秒で捕まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない、兵藤と元浜は居るか?」

 

「居るよ~」

 

その頃、一誠の部屋をゼノヴィアが訪ねる。彼女は彼女で元浜が覗きに行かないように様子を見に来たのだが、帰ってきた返事は一誠の声だけだった。

 

「……元浜はどうした?」

 

「覗きに行こうとシツコく誘ってきたから、タオルで四肢と口を縛って部屋内の浴室に閉じ込めてる」

 

「……そうか」

 

これ以上指摘してはならない。そう感じたゼノヴィアはそのまま部屋を後にする。その後、一誠はバイキングに夢中になって元浜の存在を忘れ、彼が解放されたのはアザゼルが点呼に来た時だった……。

 

 




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さて、次回は妖怪からの頼み その時一誠は……?


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五十五話

一誠が修学旅行で居ない兵藤家。その二階にある一誠の部屋に玉藻が侵入していた。ベットの掛け布団を捲るなり着物を脱ぎ捨てダイブする。そして徐ろに匂いを嗅ぎだした。

 

「ご主人様のシーツ、クンカクンカ」

 

別途に残った匂いを体に擦りつけるように体を摺り寄せ、手はやがて股へと向かっていく。その顔は既に発情しており、

 

 

 

 

《すいやせん。一誠様からお電話……》

 

ベンニーアが部屋に入ってきた頃には濃厚な雌の香りが部屋に充満していた。ベットで幸福そうな顔しながらグッタリとしていた玉藻であったが、一誠からの電話と聞くなり耳がピコンと動き飛び起きる。物凄い勢いで電話を受けとった時には平然とした声を出していた。

 

「もしもし、替わりましたぁ!」

 

『あ、玉藻? 京の妖怪に襲われたんだけど、こっちの九尾って玉藻の前に関係あるの?』

 

「お~そ~わ~れ~た~!? ガッテム! 直ぐ駆けつけて皆殺しじゃぁぁぁぁ!! ……あ、朝廷と戦った時の側近です。ま、私が負けるなり逃げ出しやがりましたけどね。つーかぁ、馬鹿猫は何してやがるんですか? どうせついて行ったんでしょ?」

 

『勝手にカバンの中に入ってたから結界で閉じ込めたんだけど、帰ったら居なくなってた。一応捜索はさせてる。……ねぇ、玉藻。無理して来なくても良いよ。俺は無事に帰るから笑顔で出迎えてよ』

 

「……はい! お任せを! あ、お帰りなさいのチューしても良いですか!?」

 

『うん。って言うか寧ろしろ。ってか俺がする。てな訳だから玉藻は大人しく愛しの旦那様の帰りを待っていれば良いよ。……あと発情期だからって自重する事』

 

「は、発情期ってバレてましたか!?」

 

《え!? 万年発情期じゃ無かったんですかい!?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の早朝、一誠はホテルの屋上で座禅を組んでいた。強い力が流れる京都の朝の澄み切った空気によって一誠の霊力が活性化していく。人払いの術を掛けてあるので近付いてくる人は居らず、落ち着いた気分で座禅を続けられる。旅行中という事もあって本日の朝の訓練はこの座禅だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主、今日の訓練を始めますよ」

 

「……了解」

 

……なんて事はなく、ランスロットなど禁手時の一誠よりも強く、遥かに上の技量を持っている霊による鍛錬は旅行など関係ないとばかりに開始した。

 

 

「はぁっ!」

 

「甘い!」

 

一誠は籠手から出現させた刃でランスロットに斬りかかるもあっさりと躱され、蹴りを脇腹に貰う。結局一時間やっても刃は数回掠っただけに終わった。やはり湖の騎士の壁は厚いようだ。

 

 

「やはり主は武器の扱いはまだまだですね。……鍛錬時間を増やしましょうか?」

 

「……頼む。もしもの時にアレ頼りだけじゃ玉藻を守れなくなるかもしれないからな。手札は多い程良い」

 

服の下を痣だらけにして仰向けに倒れている一誠はランスロットの手を借りて起き上がると再び構え直す。ランスロットも微かに笑うと表情を騎士のものに切り替え一誠に殴りかかった。結局、一誠が鍛錬を終えたのはさらに一時間後の事。増えた鍛錬で疲れた後に食べる朝ごはんは格別に美味しく、何時もの三倍の量が胃に収まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ば、馬鹿な!? あの女子高生探偵に負けた事を励みに精進した、私の無敵バイキングが全滅……? 認めん、認めんぞぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事が終わってからは再び観光。一誠は満足そうに腹を押さえていた。

 

「あ~、満足満足♪」

 

「兵藤さんって沢山食べますね。……なんであれだけ食べて」

 

「それ以上は駄目! 黒化するわよ!」

 

黒化とは某腹ペコ王が病んだ腹ペコになる事である。よく知らないが多分合っている……かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……うわっ。タチが悪いのが居るなぁ。って、目が合った!)」

 

一行が最初に向かったのは清水寺。其処で一誠は一体の怨霊を発見した。其れは地脈の流れに引きずられた怨念が長い月日をかけて一つになった存在。その悪質さは一誠でさえも引く程だ。もっとも、怨霊は自分が何者かすらも分からず、ただ其処に存在し続けるだけだったのだが、一誠と目が合ってしまった。

 

『フフフ……』

 

黒くドロドロとした人型だった怨霊は目らしき赤い光を微かに動かし、嬉しそうに笑うと何処かに消えていく。一誠の背中をジットリとした汗が流れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……結構居るなぁ」

 

 

続いて銀閣寺金閣寺と回っている間、一誠は自分達を見張る妖怪の視線に気付いていた。流石にジロジロ見られるのは不愉快で、何体か死にたての霊を手に入れるも不機嫌さは収まらない。とりあえずお茶屋で休んでいる松田達の元に戻り、お茶菓子の追加注文でもしようと振り返ると一般人達は倒れ、獣耳の妖怪達が一誠達を取り囲んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とりあえず殺すな。生け捕りにして交渉材料にしろ」

 

『リョ……リョウカイィィィィィィ!!』

 

そして彼らの周りを一誠の手駒である悪霊達が取り囲んでいた。悪霊はピンク色の肉塊の様な姿をしており怨み辛みの篭った顔が全体にある。その悪霊の名前は『レギオン』。旧約聖書に登場する悪霊で『軍団』を意味する。そのレギオンは妖怪達を数で圧倒し、一斉に襲い掛かった。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「お待ちを! お待ちくださ……」

 

妖怪達はレギオンに押し潰され、或いは呪怨の篭った息を吐きかけられ倒れて行く。

 

「イッセー君!? ちょっとやりすぎ……」

 

「いや、昨日襲ってきたし。いきなり囲んだんだから情け無用でしょ? むしろ殺さない俺を聖人君子として称えるべきだと思うよ?」

 

イリナが止めようとするも一誠は聞かず、妖怪達は確かに死んではいないがズタズタになって倒れ伏していた。辺りには彼らの血潮がぶちまけられ、うめき声が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……遅かったか。おい、此奴らは戦いに来たんじゃねぇ。昨日の誤解が解けたから九尾の娘がお前に謝りたいんだとよ。着いて来てくれ」

 

「え、嫌だけど? 絶対に会いたくない。どうせ、母上を助けてくれっと言われそうだし。妖怪と同盟結びたいんでしょ? なら、実績やら何やらが関わってる君達で何とかしてよ。俺はちゃんと旅費払ってるし、仕事外だから手伝わないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……曹操。ジャンヌに掛けられた呪いの解析が終わったぞ」

 

「本当か、ゲオルク?」

 

一誠が九尾の娘との会談を拒否している頃、最近死にかけまくりの青年。どうやら曹操と言う名前らしい。そして曹操はメガネの青年……ゲオルクが話をしていた。二人の周りには巨漢の青年と白髪の青年、無表情な子供が居る。曹操に真偽を問いただされたゲオルクは深刻そうな顔で口を開いた。

 

「ああ、彼女は今も呪いのせいで高熱に苦しめられているが、どうやらそれだけじゃないらしい。あの呪いは拡散し、仲間と思っている相手に不幸を呼ぶんだ」

 

「成る程、僕の目の前で期間限定プリンの最後の一個が売り切れたのも、レオナルドが嫌いなのを我慢して食べたサラダに青虫が入ってたのも呪いのせいか」

 

「俺が犬の糞を踏んだのも、ゲオルクが風俗店に行ってマニアックな注文をした後で財布を落とした事に気付いたのも呪いのせいなのか」

 

「え? 何度も死にかけるとかは……?」

 

「「「「え?」」」」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……馬鹿みたいにゃ。ま、どうせ駄狐がなんかしたんでしょうけど……」

 

黒歌は息を殺しながら曹操らを見張る。京都観光中に挙動不審な者達を見つけた黒歌は興味本位で尾行。そしてどうやら彼らはテロリストらしいっと分かった。曹操達は黒歌に気が付かなかったのかそのまま転移して行く。黒歌も今日の宿でも取ろうかと思って歩き出し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ! 何やってんだ?」

 

「アンタは……」

 

間抜け面をした火の玉と鉢合わせした……。

 




明日はもしかしたらラスボス番外編の外伝を書くかも ふと思いついた

中学生の柳がバルバトスのワルノリで送られたのは…… 日記形式になるかも



予告

例えるならTVのスネ○と映画版のジャイア○位の差がありますね。あ、あの人、人類最古のジャイア○でした


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五十六話

アーチャー強い セイバーで結構かかったリップを2ターンキル カラドボルクが強かった

まぁ、セイバーの時より6レベほど上だったんだけど


「あ~、もう! 妖怪は何してやがりますかっ! コッチは色々忙しいっていうのに! ……まぁ、私の責任ですが」

 

「ガハハハハ! 分かっているではないか! あれはハッキリ言って八つ当たりだったからな!」

 

「うむ! おかげで天鹿児弓と天真鹿児矢を手放す事になったのだからな! 此方も徹夜続きだ!」

 

天照の目の下にはすっかりクマが出来ており、高らかに笑う雷神風神コンビも心なしか窶れている。先日の一件は三人の独断でやった事であり、流石にどうかと思った他の神々は彼女達に後始末を全てさせる事にした。当然、何時もの業務もやりながらである。

 

なお、会話に出てくる弓と矢は彼女が悪神と判断した者達を倒し地上を平定する為の使者であるアメノワカヒコに天照が渡した物であり、音信不通になった彼に雉を遣わした所射殺され、矢は天界まで届いたという。結局、彼は天照が投げ返した矢で命を絶たれたらしい。

 

地上の平定という重要任務の為に渡した弓矢。謝罪の為の品の中に入れられていたその品はハーデスの判断によって一誠の手に渡る。神を倒すために最高神からアメノワカヒコに渡した矢には神殺しの力が宿っており、もしかしたら、自分を射殺しても良い、という気持ちが篭っているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、玉藻と微かに繋がっている天照には玉藻の感情が流れ込んでくる事が有り、夜中に仕事している時に悶々とした感情が流れ込むとキツいそうだ。

 

 

「ま、感情だけとは言えオカズに困らないのは良いんですけどね」

 

……等と言っているあたり、根本的な性格は玉藻と同じなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……このような事を頼める程の関係ではない事は理解しておる。しかし、しかしどうか……母上を助けるのに力を貸して欲しい!」

 

アザゼルに連れられ妖怪の住む世界に連れて来られたイリナ達は一誠を襲った狐の少女『九重』は謝罪する事すら拒否された事に自責の念を募らせた後、イリナ達に母を助けてくれと懇願する。幼い少女が涙に声を震わす姿に胸を打たれた一行は快く引き受けた。

 

なお、交流の一環として九重が観光案内をするという話が持ち上がったものの、先日一誠に人質に取られた事や、間違いなく彼の不興を買う事が歴然としていたので白紙に戻された。

 

 

 

「……それで何の用なの、イリナちゃん?」

 

ホテルに帰ったイリナは松田達と共にはシトリー眷属と話し合った後、一誠を呼び出した。夕食をお腹いっぱい食べて機嫌の良かった一誠は呼び出しに応えたものの、真剣な眼差しの幼馴染の姿を見て要件を察し、不威厳そうな表情をする。それに合わせるかの様に下がった気温と彼から放たれるプレッシャーにたじろぐイリナであったが、震える声で何とか話しだした。

 

「……イッセー君。お願い、力を貸して!」

 

「嫌だね。俺の力を借りたきゃ冥府に話を通したら? ま、無理だろうけど」

 

既に一誠はハーデスに話を通しており、アザゼル達が対価を払うから力を借りたいと連絡を入れようとしても重要な会議中だからと話にすら応じないでいた。

 

「……イッセー君は強いでしょ? あの子には襲われたかもしれないけど、それはお母さんが心配だったからなのよ!?」

 

「それで? 確かに俺は強いよ? でも、それは力を貸す理由にはならない。力があるって事と、力を振るわなければならないって事は違うんだ。それに妖怪の総大将……八坂さんだっけ? メディアさんが地脈の流れは何とかするから問題無いって話になったでしょ?」

 

「そんな! もしかしたら死んじゃうかも知れないのよ!? あんなに小さい子がお母さんと会えなくなっても良いの?」

 

イリナは少し感情的になりだし、一誠は先程までの不機嫌さはどこかに行き、呆れ返っている。

 

「それ、君が言う? だったらさ、三大勢力の犠牲になった人達には何かないの? 例えば無理やり眷属にされた人達や神器が危険だからと殺された人達。そして天界も色々やってるよね? 神器で人生を狂わされた人だっているし……アルジェントさんや君の元相棒の様な人には同情しないの?」

 

「……え? そりゃ同情するけど」

 

「だよね。君、コカビエルの一件の時になんて言ってた? 異教徒からなら金を奪っても構わないって言ってたよね? 神は絶対! 我々の教えこそ唯一無二! そんな事を幼い頃から教えられて来たのに、偶々システムに不具合を出すからって追放された人がまともに生きていけるとでも? 訳も分からぬまま思っただろうね。自分が神を怒らせたって。 彼らを保護する施設とかは作ってなかったのかな? まず救うべきは彼らだと思うよ」

 

一誠が言葉を発する度に周囲の気温は下がり、二人の周囲に霊達が現れる。彼らは生気の篭っていない瞳を光らせ歯をカタカタと打ち付け合った。

 

「死なんて何時も理不尽に訪れる。彼らも神器なんてなかったら普通に生きられた。今も世界のどこかでは飢えや病気、そして紛争次々と人が死んでいってる。世の中なんて不平等で残酷なものさ。だから俺は一時の同情なんかで動かない。なぜなら死にたくないからさ。どんなに力があっても必ずはない。俺を動かしたかったら動くだけの理由を見せてよ。見知らぬ相手が死ぬかも知れないとかいう理由なんかじゃないのをさ」

 

一誠はそう言うと部屋に戻っていく。何時の間にか気温は元に戻り霊達は姿を消しさっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、坊や達も此処で食事なのね」

 

「あ、お兄ちゃん!」

 

「……とオマケの人達」

 

一誠達が祐斗達と嵐山で合流し観光の途中で入った店にはメディア達の姿があった。ありすは一誠の姿を見るなり手を振り、アリスはイリナ達を不機嫌そうな目で見る。そしてその二人を見る元浜の瞳は輝いていた。

 

「び、美少女。それも双子……ハァハァ……」

 

「このロリコン何とかしないと。……所で兵藤の知り合い?」

 

桐生は元浜を呆れたような目で見た後に一誠に訊く。一誠は全くブレのない声で嘘を吐いた。

 

「あ、うん。あの保護者の人が母さんの従兄弟の更に従兄弟で血は薄いけど繋がってて、近くに住んでるから仲が良いんだ。でも、あの人のお姉さん達が双子なんだけど疎遠で、生まれた子の名前を教え合わないまま決めたら同じ名前だったんだ」

 

思いつきでスラスラと嘘を吐く一誠に内心呆れつつメディアは微笑んだ。

 

「初めまして。葛木メディアよ」

 

「わたし、ありす」

 

「あたしもアリス」

 

「……メディア!? もしかして小説家の!? あぁ、間違いない! 本に載ってた写真そっくりだわ! あの、私ファンなんです!」

 

「あらあら、嬉しい事言ってくれるわね」

 

桐生は瞬く間にメディアに夢中になりイリナ達は蚊帳の外になる。メディア自身もファンは大切にするのがポリシーらしく丁寧に対応している。そんな中、アザゼルの声が聞こえてきた。

 

「おう、お前らも嵐山観光か!」

 

どうやらアザゼルも来ていたらしく……彼の手には日本酒の入ったコップが置かれている。一誠はその姿を携帯で撮ると写メにして送信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しょ、書類がやっと終わりましたぁ」

 

その頃、ロスヴァイセは与えられた現地派遣員としての仕事をこなしていた。彼女の前には書き終わった書類の分厚い山。かなりの重労働であることが見て取れるが彼女は今幸せだった。

 

美形の恋人に高い給料、そして充実した福祉。育ててくれた祖母も戦乙女としての職を失った事を心配していたが、近況を知って喜んでいた。近々顔を見に来るとも言っていたので散らかった自宅兼職場の掃除でもしようかと思った時、上司である一誠からメールが入る。

 

「……は? 緊急時で学生の手も借りなきゃいけないっていうのに作戦の指揮をする筈の人が飲酒!? 運動会の時といい、今回の時といい、本当に人手が足りないんでしょうか? ……これは急いで書類を作らないと」

 

ロスヴァイセは重くなった眼を擦りつつ書類の作成を開始した。その内容はアザゼルの業務怠慢に関する報告書。それはハーデスの手に渡り、オーディンやゼウスの目にも触れる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あら? あの子達の姿が消えたわね。アリスちゃん達、名無しの森使った?」

 

「ううん、使ってないわ」

 

「多分、神器の力よ」

 

あの後、メディア達も観光に同行したのだが渡月橋の辺りでイリナ達が消失する。メディアは最初は二人の悪戯かと思ったがどうやら違うようだ。

 

「……メディアさん。此処……」

 

一誠が指さした先には微かな空間の歪み。どうやら時間の流れも外とは違う異空間が存在するようだ。

 

「……テロね。放っておきなさい、坊や。多分『絶霧』ね。厄介な神器だけど貴方には仕掛ける気がないようよ。殺しておきたい所だけど、今すぐ突貫しても逃げられるのが関の山。それに下手に刺激して家族を狙われても何だし、確実に殺れる時に殺りなさい」

 

メディアの言葉に一誠は静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アザゼル達は彼らを異空間に引き込んだ者達。テロリスト禍の団『英雄派』と対峙していた。

 

「初めまして、アザゼル総督。いつ襲撃があるか分からないのに飲酒とは余裕がある」

 

「けっ! 言ってろ。そういうテメェらは余裕がねぇな。赤龍帝は引き込んでねぇようだが……怖いのか?」

 

アザゼルに皮肉を言ったのは曹操。その手には神々しい槍が握られている。その槍の名は『黄昏の聖槍』。最強の神滅具である。アザゼルの皮肉返しに対し、曹操は肩をすくめた。

 

「彼が怖いかって? ああ、怖いさ。でも、憧れも感じるね。人外を従え、ドラゴンの力を完全に我が物とする。まさに英雄じゃないか。だからこそ君達の味方だと勘違いしてた時は許せなくて襲ったんだけどね。……それに、ロキの戦いで見せたアレが何か解析した今、絶対に敵に回す気はない。……彼を敵に回す事になるから部下にも手を出さないよ」

 

どうやら曹操は一誠がロキ相手に見せた物の正体を知ったらしく、冷や汗を流している。

 

「……アレが何かお前らは知ってるのか?」

 

「……その様子だと君達は知らないみたいだね。まぁ、良いや。挨拶がわりに教えてあげるよ。あれは通常の覇龍に加え、サマエルのオーラから龍としてのサマエルの力、そして神の悪意を引き出して、二重の覇龍と『覇輝』を同時に発動するという禁呪の類だよ。アレは絶対に敵に回さず、通り過ぎるのを待つだけの災害の様な存在。流石にアレに手を出す勇気はないさ」




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ccc 隠しボスにsnのセイバーが欲しかった


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五十七話

「ねぇ、メディアさん。あの狐の餓鬼ってどストライクだと思ったけど、恩着せて着せ替え人形にしようとか思わなかったの?」

 

其れは食事時の事、他の者には別の会話に聞こえるように魔術をかけてメディアと話していた一誠はふと思い出したように尋ねる。可愛い女の子に可愛い服を着せるのが趣味なメディアが九重には全く興味を示していない事に疑問を感じたのだ。

 

問われたメディアは少し言いにくそうな顔をし、渋々といった様子で話しだした。

 

「……同族嫌悪って奴よ。あの子は確かに母親への愛で行動したわ。でも、其れは周囲の者を巻き込むやり方。それを考えると関わりたくないって思ったのよ……」

 

かつてオリュンポスの神々の思惑で偽りの愛情を植えつけられたメディアは惚れた男と逃げる為に王である父を裏切り、逃げる際に弟を八つ裂きにして殺し、最終的には惚れた相手に裏切られて我が子すら殺してしまった。強い無念を抱いた彼女は死後も彷徨い、やがて一誠と出会って今の平穏を得た。

 

『神共の事は今も恨んでいるけど、今の平穏が愛おしいから復讐はしない』。そう言い切った彼女は九重の今回の行動と昔の自分が重なって見え、見ているだけで辛いのだろう。

 

最後にあくまで予想なのだが、彼女が気に入った子供を可愛がるのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

剣が風を切る音と共に鈍い音が響く。イリナと祐斗が振り下ろした刃は英雄派の構成員が数人がかりで張った障壁に阻まれ通らない。元々祐斗やイリナは力よりも技術で攻めるタイプであった為、障壁を破壊する決定打に欠けていた。

 

「くっ!」

 

祐斗は着地するなりアーシアと松田の元に戻る。二人は弓と回復役と後衛向けの能力を持っているが、自分を守る手段を持たない。松田はそれ程の才能がなかった為。アーシアは性格的に攻撃手段を持っても無駄だとリアスが判断したからだ。

 

「放て、放てぇっ!」

 

直様構成員達の放った魔法が雨霰のように降り注ぐ。祐斗は聖魔剣で切り落とし、イリナと松田は光の槍と矢で撃ち落とそうとする。しかし広範囲から襲って来る魔法に対処しきれず三人共かなりの傷を負ってしまった。そして二人に庇われる様にされて無事だったアーシアは回復のオーラを飛ばす。三人は緑色のオーラに包まれ直ぐに傷が癒えるも、再び魔法が放たれた。

 

「殺せっ! 狙いはあの女だ! 彼奴は自分の身も守れん!」

 

魔法の殆どはアーシアを目標としており、凄まじい量の魔法が収束して向かっていく。

 

「アーシアさんっ!」

 

祐斗は直様アーシアを抱き上げると魔法を避ける。しかし、余波までは避けられず彼の自慢の足からは血が流れ出した。

 

「す、直ぐに回復を……きゃあっ!」

 

直ぐに彼の傷を癒そうとしたアーシアであったが、横合いから放たれた影による一撃で吹き飛ばされ気を失う。何時の間に影でできた鎧に身を纏った男が立っていた。

 

「久しぶりだなぁ! リベンジの時を待ってたぜ!」

 

「その声はっ!」

 

祐斗は彼の声に聞き覚えがあった。最近続出している神器所有者の襲撃事件。彼もその中の一人で、禁手に至ったと思われる相手であった。彼の体から伸びた影の槍が気絶したアーシアに襲いかかる。

 

「させるかよっ! なっ!?」

 

松田が槍を破壊しようと光の矢を放つも影に吸い込まれ、槍はそのまま真っ直ぐに向かっていく。そしてアーシアを串刺しする瞬間、祐斗が再び彼女を抱えて避けた為に怪我はなかったが、代わりに彼の脇腹が深く切りつけられる。

 

「今がチャンスだ!」

 

影使いの号令と共に再び魔法の雨が四人に向かって降り注ぐ。範囲内には影使いもいたが、彼は先程と同様に魔法を影に吸い込ませ無事だ。そして雨が止んだ時、アーシアを庇って全身に魔法を浴びた祐斗がいた。彼も既に意識を失っており、左の手首から先が千切飛んでいた。イリナも足をやられ、彼女に突き飛ばされた事で無事だった松田は腰を抜かし完全に戦意喪失している。

 

 

 

「ははははは! 貴方の教え子は情けないな、アザゼル総督! さっきから足の引っ張り合いじゃないかい?」

 

「うるせぇ! その口、閉じやがれ!」

 

曹操はアザゼルと戦いながら祐斗達を嘲笑する。特に彼が馬鹿にしているのはアーシアと松田だ。まだ一般人としての感覚が抜けず戦いに恐怖を抱いている彼と回復以外に戦闘に役立つ手段を持たないアーシア。特にアーシアは性格的に攻撃を当てられずとも相手の動きを阻害したり攻撃を相殺する位なら出来るはずだ。なのに彼女はその手段を習っていない。曹操はその事を笑っていた。どこまで平和ボケしているのだ、と。

 

そして既に戦意喪失した松田と気絶して動けない三人目掛けて放つ為に構成員達は大規模な詠唱を行い出す。彼らの頭上に巨大な炎球が出現し、隕石のごとく落下する。

 

 

 

「ちっ!」

 

しかし、アザゼルが投げた光の槍によって破壊され、火の礫が落ちる程度に被害は留まった。だが、その代償は大きい。アザゼルは四人を守る為、曹操に無防備な姿を晒してしまっていた。

 

「……さようなら」

 

聖槍の矛先はアザゼルの心臓めがけて放たれる。アザゼルは心臓を貫かれて死ぬと思われたが、やはり歴戦の堕天使と言うべきか、僅かに体をずらす事によって致命傷を避け、槍は彼の右腕に突き刺さる。そして聖槍から聖なるオーラが放たれる瞬間、自ら腕を切り落とす事で即死を免れた。

 

 

しかし、事態は絶望しかない。既に戦えない四人に手負いのアザゼル。対照的に曹操は多少の手傷はおってはいるが未だ万全。構成員はアザゼルの前では塵芥に過ぎないが、禁手に至った影使いの実力は未知数。さすがのアザゼルも冷や汗を流す。

 

「拙いな……」

 

アザゼルが思わず弱音を吐いた時、突如魔法陣が現れ、中から魔法使いの格好をした少女が現れる。少女はアザゼル達の方に向き直ると深々と頭を下げた。

 

「初めまして。私はルフェイ・ペンドラゴン。ヴァーリチームに所属する魔法使いです。……曹操さん、ヴァーリ様からの伝言です。『邪魔だけはするなと言ったはずだ』。全く、私達に見張りを付けるなんて……。だから、これはささやかな嫌がらせですよ♪」

 

ルフェイが曹操達に向き直ると地震が起き、地面を割って無機質な物体で出来た巨人が現れる。それを見たアザゼルは驚愕の声を上げた。

 

「ゴグマゴクか! 古の神が創って次元の狭間に放置した破壊兵器がなんでこんな所に!? 機能は停止しているはずだろ!?」

 

アザゼルは目を輝かしながらゴグマゴクを見つめていた。

 

「オーフィス様が以前、動けそうな巨人を探知してたので、ヴァーリ様が探し出したんですよ。さぁ、ゴっくん! 曹操達にお仕置きをしてください!」

 

『ゴオオオォォォオオオオオオオオッ!!』

 

ルフェイの言葉と共にゴグマゴクは10メートルはある巨体を動かし、英雄派に向かって拳を振り下ろし構成員達を吹き飛ばす。その隙にアザゼルは四人を抱えてその場を離れた。

 

 

「槍よ、貫け!」

 

曹操はゴグマゴク目掛けてオーラを放ち、ゴグマゴクを転倒させる。ルフェイはこれ以上は無駄だと判断したのか転移して行き、曹操はフッと溜息を吐いた。

 

「……とんだ邪魔が入ったな。まぁ、良いか。雑魚の相手は詰まらないし今は引いておくよ。……今夜、二条城で総大将を使って儀式を執り行う。止めたかったら来る事だね」

 

その瞬間、アザゼル達の体をヌメリとした嫌な感触が襲い、何時の間にか景色が元の戻っていた。

 

「……メディアさん」

 

「分かっているわ」

 

彼らが怪我をしているのを見たメディアは周囲の人間に術をかけ騒ぎにならないようにする。結局、アザゼルたちはそのまま冥界の病院に運ばれる事となった。松田達が重傷を負った事はグレモリー家に伝えられるも、リアス達は旧魔王が起こしたと思われる暴動の鎮圧で不在。

 

 

「……私が出るね」

 

セラフォルーは部下と妖怪達にそう告げる。彼女達は曹操達が逃げ出さない様に待ち構える予定であったが、事態の深刻さを考えて魔王自らの出撃を決定した。妖怪と会談予定だった須弥山からも援軍が来る事となっているが、援軍を待っている間に儀式が開始される可能性を考慮して待たずに向かう事となった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「曹操、儀式の場に異変が起きている。今すぐ来てくれ」

 

その頃、影使いは曹操を儀式を行う予定の場に急いで連れてきた。肝心のゲオルクは今出払っており、仕方なく見に行った曹操であったが、彼の言うような異変は見当たらない。

 

 

 

「……何処に異変……がっ!?」

 

怪訝そうな顔をして影使いの方を振り返ったその時、彼の口内に硬い物が押し込まれる。曹操の口の中に銃口を突っ込んだ影使いの頬には何時の間にか丸い模様が浮き出ており、辺りに銃声が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

「どうした!?」

 

「……此奴が裏切ったんだ。だから殺した。まぁ、コッチもただでは済まなかったけどね。悪いがフェニックスの涙が不足している今、俺は出れない。今夜は君達に任せるよ」

 

銃声を聞きつけて英雄派の幹部が駆けつけた時、そこには脇腹から血を流した曹操と血塗れで死んでいる影使いの姿があった……。

 

 

 

 

 

 

 




次回は黒歌とのイチャイチャと英雄派の儀式

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五十八話

それはセラフォルーが魔王自ら戦う決意を決めた日の昼間の事。一誠の配下である霊達、その中でも三つに分けられた部隊を率いる幹部達が集まっていた。

 

幽死霊手の長であり一誠に次ぐ権限を持ち合わせた玉藻、死霊四帝の長である犬飼ポチ、そして直属の部隊を率いる死従七士は明確な長が決まっていない為、一誠の護衛をしているランスロットと任務中の二体を除いて召集がかけられていたのだが……、

 

「何故他の奴らは来ておらん……」

 

「妾が知るか。どうせ面倒くさかったのじゃろう」

 

ポチが不機嫌そうに睨んだ先には空席の目立つ死従七士のテーブル。任務で出席できない者達を除いた中で出席していたのはハンコックだけであった。場に険悪な空気が流れる中、咳払いの音が響いた。

 

「コホンッ! え~、では只今より幹部集会を始めたいと思います。進行は私、玉藻で御座います。それでは皆様お手元の資料をご覧下さい」

 

各自言われるがままに資料に目を通す。書かれていたのは今季の予算編成について。同盟条件で冥界から定期的に支払われるようになった金の一部が一誠の懐に入る事となり、そのまま予算に回された。幽霊がお金を持ってどうするのだ、と思う者も居るだろうが、彼らも自我や知能がある以上は暇も感じるし趣味も持つ。

 

言ってしまえば今回の会議は遊興費をどの様に分配するか、というものであった。

 

「……拙者らの所は大して要らん。拙者は鍛錬が趣味であり、ブイヨセンは敵の生き血を啜るのを好む。シャドウは感情が薄く、せいぜいレイナーレが必要としている程度。まぁ、買い食いができる程度は欲しい」

 

「……適当で良いじゃろ。会議に参加しなかった奴らに文句は言わせんし、妾も金が居るなら貢がせればいい。それよりも早う帰って湯浴みがしたいのぅ……」

 

「……それでは資料にある分配予定で合意という事で。……それでは次の議題で御座います。英雄派についてですが……」

 

何時もの巫山戯た態度を何処かに置き忘れたかの様に真面目な態度で司会をしていた玉藻は更に真面目な顔をし、集まった一同も固唾を呑んで次の発言を待つ。会議の場に重苦しい空気が漂った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっちゃけ、英雄派とか仰々しい名前で呼ぶのもアレなんで、変な呼び方しません?」

 

重々しい空気は一瞬で過ぎ去った。

 

 

 

 

なお、話し合いの末、英雄の子孫が多く所属している事から、『ぼくのごせんぞさまはすごいんだよ同盟』と呼ぶ事になった。なお、表記する時は平仮名で統一するらしい。恐らくそっちの方が馬鹿っぽく思えるからだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼル達が曹操達との戦いで負傷して冥界の病院に運ばれた事は一般生徒には交通事故で運ばれたと暗示をかけ、一誠達はそのまま観光を続けていた。本来なら桐生は他の女子グループに入る所だが、彼女が上手く教師を説得して一誠達に同行した。そしてそこまでして同行する理由は当然、ファンである作家のメディアの存在である。

 

「あら、貴方達も同じ所回るのね。一緒に行く? この二人もソッチの方が嬉しいだろうし」

 

「わ~い! お兄ちゃんと一緒だ!」

 

「次は甘味を食べに行きましょ!」

 

既に決まったものとばかりに二人は一誠の手を引いて走りだし、メディアは二人の姿を見て息を荒げる。……前にも語ったが、彼女の著書は悲恋物とロリ百合だ。ロリコンの元浜に最大限の注意を払いつつ、一行は甘味巡りに出かけた。

 

 

「この場は私が奢るわ。貴方達は好きな物を頼みなさい。遠慮しなくて良いわよ」

 

「え~、じゃあ、このメニュー表に書かれているの全……」

 

「坊やは遠慮しなさい」

 

その後、一行はバッティングセンターに行き、一誠とメディアがムキになってホームラン勝負を続け、結局同点のままホテルに帰る時間となってお別れとなった。

 

「メディアさん、有難うございます!」

 

桐生は本日発売だったメディアの新刊を大切そうに持っている。その表紙には直筆のサインがされていた。

 

「あ、言い忘れてたけど私と坊やの関係は秘密よ? ファンが会わせてくれって言ってきたら面倒だもの。それじゃあ、また会いましょうね」

 

「またね、お兄ちゃん」

 

「また明日ね」

 

メディア達はホテルへと帰って行き、一誠達もホテルへと戻る。引率であるアザゼルや人気者の木場やアーシアが事故で病院に運ばれたと聞かされた生徒達は気落ちし食事が進まなかったが、その分、一誠が食べまくったので特に問題はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ沸いたかな?」

 

夕食後、一誠は部屋に備え付けられた風呂に入ろうとしていた。他の生徒と入るのは嫌な為、一人でのんびり入れる方を選んだのだ。元浜は大きな風呂が良いと言って大浴場に向かい、一誠は部屋に一人で残される。そして湧いた頃と判断して浴室のドアを開けた瞬間、空間が閉じられた。

 

 

 

 

 

「……黒歌。戻ってたんだ」

 

「にゃん♪ 良い湯加減よ、イッセー。一緒に入りましょ?」

 

既に浴槽には黒歌の姿があり、どうやら空間を切り離したのも彼女の仕業のようだ。一誠は溜息を吐きながら服を脱ぎ、黒歌と向き合うように浴槽に入る。一人入る者が増えたことでお湯が豪快に溢れ出した。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、イッセー。私の事好き? 女としてって事ね」

 

「好き」

 

一誠は即答する。満足気な顔した黒歌であったが、次の質問は答えが分かっているのか、表情に諦めの色が混じっていた。

 

「じゃあ、玉藻と私だったら、どっちが好き?」

 

「玉藻」

 

又しても即答。その事に黒歌は溜息を吐く。その答えは昔から分かっていた事実であり、確かめるまでもなかったからだ。それでも彼女は万が一、億が一の希望にすがって訊いてみた。結果は思っていた通りであったが……。

 

「……どうしたの? いきなりそんな質問してきてさ」

 

「……ん~ちょっと聞いてみたかっただけ。イッセーと玉藻は互いにとって必要不可欠で、他のは大切だけど絶対に必要、って訳じゃないって分かっていたんだけどにゃ。……ねぇ、私の事もずっと傍に置いてくれる? 何時までも愛してとは言わない。ただ、何時までも愛させて欲しいの」

 

「うん、良いよ。……御免ね」

 

「謝らないのっ! あ、そうだ!」

 

黒歌は徐ろに立ち上げると浴槽から出る。浴槽のお湯は先ほど豪快に出たせいで一誠の体では肩まで浸かれなくなっていた。

 

「ねぇ、体洗って♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……くはぁ…イッセー……」

 

「ほら、動かない」

 

「そ、そんなこと言ったってぇ……」

 

泡を含んだタオルが背中を這う度に黒歌は艶めかしい声を漏らす。先程から顔も赤くなり、どうやら興奮しているようだ。

 

「こうしていたら、この前の事思い出しちゃって……ひゃんっ!?」

 

「ああ、そういえばいつも余裕ぶっているのにいざ本番となると怖がった上に最後には乱れまくってたね」

 

「い、言わないでぇ」

 

話してる間も一誠の手は止まらず、今度は脇腹を洗い出す。敏感だったのか思わず飛び跳ねた彼女の体を押さえる様にして一誠の手は動く。続いて現れだしたのは大きな胸。張りと重量感、そして極上の柔らかさを兼ね揃えた双丘は泡まみれになり、やがて深い谷間へと手は移動していった。

 

「ちょっ!? 何処を……あぁんっ!」

 

「ちゃんと洗っておかないと駄目でしょ?」

 

一誠の手は喘ぎながらも行われる抵抗をものともせず黒歌の体を蹂躙し、やがて下腹部へと移動する。

 

「にゃぁぁぁっ!」

 

結局、黒歌はつま先まできれいさっぱり洗われてしまった。しかし、洗い終わると同時に体の力が抜けその場に倒れこむ。先ほど流したばかりだというのに体は汗ばみ、顔は淫靡な表情を浮かべていた。

 

「……もう。すっかり体が火照っちゃったにゃ。……責任とって」

 

「責任?」

 

一誠はワザとトボけ、返事を待つ。黒歌はなんとか起き上がるとやれやれといった感じで肩を竦めた。

 

「今だけは玉藻の事を忘れて私だけを愛し……欲望を全てぶちまけて。私の事なんて考慮しなくて良いから好きな様に犯して欲しいにゃ……」

 

「……」

 

黒歌の言葉と共に一誠は無言で飛び掛り、心ゆくまでふたりは交じり合った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっ! まさか魔王自ら来るとはな……」

 

 

八坂救出の為にセラフォルーが二条城に向かう途中、英雄派もとい、『ぼくのごせんぞさまはすごいんだよ同盟』の構成員達が立ちふさがる。いくら幹部ではないといっても、その数おおよそ七十少々。中には神器持ちも多く、禁手に至っている者もいる。セラフォルーはそれを一瞥し、

 

 

 

 

 

「……邪魔」

 

ただ蠅を追い払うかのような動作で彼らを全滅させる。その場にいた全員が氷に閉じ込められ、体を流れる血液や肺の中の空気さえも呆気なく凍りつく。そしてガラスが砕けるような音と共に粉々に砕け散った。

 

 

これが最強の女性悪魔の実力なのだろう。その時の彼女の声や表情には何時もの妹に甘える時や魔女っ子の格好をしている時の様な甘さはなく、ただ目の前の敵を撃破せんとする女帝の風格が感じられた。

 

 

 

魔王と英雄の戦いまであと三十分……。




まぁ、このくらいなら大丈夫でしょう 少年漫画でももっとエロイのあるし

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五十九話

サンレッドの世界ではヒーローも怪人も普通にいる という事はヒーロー物は子供向けの刑事ドラマ的な扱いなのかな?

紅茶が18階で46レベ 今回は隠しボスに挑もうかな

強化スパイクのあるなしでレベル上げ効率が違いますね 特に11階は全部倒したら9000近く稼げるから40代前半までは楽に稼げる




今回は魔王『少女(笑)』無双です


「―――こうして全ては無に帰し、最後には何も残りませんでした」

 

「やっぱりありすの話は面白いわ。あたし、貴女のお話好きよ」

 

ありす達が居るのは京都セラフォルーホテルの一室。大人二人が余裕で寝っ転がれるほど大きくフカフカのベットの上で二人は絵本を読んでいた。可愛らしい絵柄に対して内容は少々不釣り合いだが二人は楽しんでいるようだ。

 

「二人共、そろそろ寝なさい」

 

ベットの上にはポテトチップスやチョコレートなどのお菓子が広げられ、二人の口元には食べかすが着いている。ありすが次の絵本を取り出そうとした時、シャワーを浴びていたメディアが浴室から出て来た。

 

「そうね、幽霊だけどあたし達は子供、もう寝るわよ、アリス」

 

「は~い」

 

「寝る前はちゃんと歯を磨く事。それと、私は今から仕事に行ってくるけど、部屋から出ちゃ駄目よ?」

 

メディアはコートを羽織ると部屋から出ていく。二人は言われた通り歯を磨くと仲良く並んでベットに寝転んだ。

 

「おやすみ、アリス」

 

「ええ、おやすみなさい、ありす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……地脈の流れが変ね。異空間に流れているのかしら?」

 

ありす達をホテルに残し、約束通り地脈の流れを調整していたメディアは微かな異変に気付く。一見すると正常に思える流れが、ある地点から存在しない場所を通って流れているのだ。そしてその地点の空間に歪みを見つけたメディアは思案し出す。

 

「これって手出しして良いのかしら?」

 

あまり京都に詳しくない彼女は地脈の流れを正常に戻す事はできても、異空間が元々あったものなのかの判断はつかない。もし、妖怪や陰陽師が理由あって作った空間なら手出しない方が良いかも知れない。そんな事を考えていると後ろから足音が聞こえてきた。

 

「ああ、其処なら大丈夫。ゲオルクが作った空間だから手出ししても問題ないよ」

 

「あら、久しぶりね。元気だった?」

 

メディアは後ろに居る相手の方を振り返ると平然と声をかける。彼女の視線の先に居たのは英雄派、又の名を『ぼくのごせんぞさまはすごいんだよ同盟』のリーダーである曹操だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふにゃぁぁぁぁぁ」

 

浴室で一誠と限界まで体を重ね合った黒歌はすっかり体が弛緩し立ち上がる事すら出来ない。もはや思考すらままならないのか浴室に掛けた結界に綻びが生じ始めていた。

 

「……元浜はまだ帰ってきてないけどそろそろ時間だね。……後一回だけ」

 

「え? ま、待って……きゃっ、あぁぁぁぁぁん♪」

 

一誠は黒歌に覆い被さり、黒歌も手足を使ってしがみつく。結局、元浜が部屋に戻るまで行為は続けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、よく来たね。まさか魔王自らお出ましとは」

 

「……君が私を異空間に引きずり込んだんでしょ? そういうのは良いから九尾のお姫様を開放してよ」

 

セラフォルーが異空間内の二条城の本丸にたどり着くと、八坂らしき女性を捕えている英雄派もとい『ぼくのごせんぞさまはすごいんだよ同盟』の幹部達が集まっていた。白髪の剣士にゲオルク。その後ろには巨漢と幼い少年まで居る。

 

「あれ? 曹操は?」

 

「……言う必要はないさ。さて、妖怪の総大将を解放しろと言われてもそういう訳にはいかない。彼女にはグレートレッドを誘き出すための餌になって貰うよ。京都は強力なパワースポットでね、地脈に流れる力も桁違いなのさ。そしてこの異空間にも力は流れ込んでいる! さぁ、儀式の開始だ!」

 

ゲオルクは演技がかったセリフと共に大げさなポーズをとる。そして地脈を流れる猛烈なパワーが八坂に流れこむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

筈だったのだが、全く流れてこない。セラフォルーどころか仲間からも白い目で見られた事にゲオルクは赤面し、いじけだした。

 

なぜ、ゲオルクが地脈を流れる力を操作できなかったのか。それは簡単。彼よりも遥かに高位の術者であるメディアが地脈に異変が起きないように細工をしていたからである。

 

「くそっ! 何で上手くいかないんだ!?」

 

そんな事など露知らず、何度も操作しようとするも力の流れを全く変えられない。ついに疲れ果てたのかゲオルクは儀式をやめ、息は乱れきっていた。ますます彼に突き刺さる視線が冷たくなる中、巨漢がセラフォルーに飛びかかる。

 

「どうしたよ、ゲオルク! 儀式が上手く行かねぇなら、せめて此奴をぶっ殺そうぜぇぇぇぇぇぇ!!」

 

巨漢の拳はセラフォルーに避けられ地面へと激突する。その瞬間、地面が爆ぜた。これが彼の神器。殴った他対象を魔術だろうが生物だろうが爆発させる『巨人の悪戯』だ。

 

「俺の名はヘラクレス! 英雄ヘラクレスの魂を継ぐ男だぁぁぁぁっ!」

 

そんな彼の趣味は裁縫である。

 

「僕も楽しませて貰うよ。僕の名はジークフリート、君を殺す男の名だっ!」

 

「……レオナルド」

 

続いて白髪の剣士が背中から龍の腕を生やし、三本の剣で同時に斬りかかる。後ろにいる少年は影から無数の魔獣を出現させ、セラフォルーに襲いかからせた。

 

「それが『魔獣創造』だね? そして君が魔帝剣グラムの所有者なんだ」

 

既に美猴から彼らの情報を得ているセラフォルーは焦る事なく対処する。ジークフリートの剣戟は防がずに避け、魔獣は氷柱を散弾の様に放ち撃墜する。ついでとばかりに足元に氷柱を飛ばされたジークフリートは思わず後ろに飛び退いた。

 

「……強い」

 

『ぼくのごせんぞさまはすごいんだよ同盟』はセラフォルーの事を甘く見ていた。戦争で偶々手柄を立てただけの頭の軽い女だと思っていたのだ。子供がいてもおかしくない年齢にも関わらず魔法『少女』を名乗り、勢力間の会談の時にもコスプレ衣装を着てくるという非常識ぶり。なのに魔王として上級貴族の次期当主達の顔合わせに出席する時は正装をする。ハッキリ言ってなんで魔王をしている、という働きっぷりだ。

 

だから彼らは失念していた。悪魔社会は戦闘能力こそ最重要視される事に。そして今の彼女は何時もの阿呆っぽい話し方をせず、真面目な話し方をしている。そしてその表情も魔王としての風格を放っていた。

 

「どチクショォォォォォォッ!」

 

ヘラクレスは恐怖の表情を浮かべながらもセラフォルーに殴りかかる。セラフォルーはカウンターとして魔力を放ち、彼は当然のように殴り飛ばす。セラフォルーの放った魔力も爆発し、

 

 

 

 

 

 

「どわぁぁぁぁぁっ!?」

 

そのまま爆発ごとヘラクレスは凍りついた。彼の体は凍りづけにされた。

 

 

「ヘラクレス!」

 

ゲオルクは地脈を操るのを諦めセラフォルーを撃退しようと魔術を放つ。量も威力も構成員が数人がかりで放ったものを遥かに凌駕し、ジークフリートも斬りかかる。

 

「……えい!」

 

だが、魔術の全ては突如出現した氷壁に阻まれる。炎も雷も全て凍りつき、壁は更に広がっていく。

 

「くそぉぉぉぉぉっ!!」

 

ジークフリートは叫びながら壁を駆け上がり、セラフォルーに迫る。しかし、氷壁より伸びた氷の腕に掴まれてしまった。魔剣で砕こうとしたジークフリートであったが顔以外の全身が凍りつき剣が触れず、オーラさえも凍りついた。

 

「あとは君達だね。ねぇ、なんで君たちはテロリストなんてやってるのかなぁ?」

 

セラフォルーはゲオルク達を見据える。その瞳には一欠片の慈悲も篭っていなかった。そんな瞳でセラフォルーは小首を傾げながら尋ねる。見た目年齢相応の可愛らしい姿だったがゲオルクには恐怖の対象にしか見えなかった。

 

「……人間として何処までやれるか知りたい。ただ、それだけだよ」

 

「ふ~ん、立派な志だね。やってる事は三流の悪役だけど」

 

「なっ!?」

 

「君たちって英雄を名乗ってるけど、精々がRPGにたまに出てくる偽勇者だよね。勇者を名乗って好き放題して無様に負けて、『ああ、そんな奴らもいたなぁ』って朧げに思い出される程度の小物。……私はね、怒っているんだよ? 君達に、そして何より自分自身に。……だから、君達は今此処で仕留めるね」

 

セラフォルーから放たれる威圧感は激しさを増し、ゲオルクは後ずさりしようとしてその場に崩れ落ちる。横を見るとレオナルドも同じように蹲っていた。

 

「くっ!」

 

「その様子だと気付いたみたいだね。私はさっきから気付かれないように気温を下げてたんだ。もう意識を保つのも危ういでしょ?」

 

セラフォルーはニッコリ笑うと手を上に翳す。最強の女性悪魔の称号に相応しい魔力によって創り出された冷気が集まりだし、空気すら凍らしていく。

 

零と雫の(セルシウス・クロ)……」

 

セラフォルーは自身の最大技を放とうとし、ゲオルク達は死を覚悟する。しかし、その瞬間、セラフォルーめがけて横合いから魔力が放たれた。咄嗟に避けたセラフォルーであったが技は霧散する。そしていつの間にか銀髪の男性が現れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でひゃひゃひゃひゃっ! おっひさ~♪」

 

「リゼヴィム・リヴァン・ルシファー!?」

 

「ん~、そうだよ。さ、ゲオルクちゃん、仲間連れて逃げていいよ」

 

「……助かる」

 

ゲオルクは咄嗟に仲間を霧で包んで逃げようとする。セラフォルーは止めようとしたが又してもリゼヴィムによって邪魔されてしまい、何時の間にか異空間より出されていた。

 

「サーゼクス達に伝えてよ。俺っちはその内ビックな事をしに表舞台に上がるって♪」

 

最後にそんな事を言い残しリゼヴィムも消えていく。セラフォルーは悔しそうに歯噛みした後、残された八坂を保護してその場を去った。結局『ぼくのごせんぞさまはすごいんだぞ同盟』には逃げられたが最優先事項である八坂の救出には成功し、妖怪と三大勢力は同盟を結ぶ事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、疲れた。やっぱり家が一番だね」

 

「……疲れたって。部屋に戻るなり人を押し倒して思う存分に躰を堪能しておきながら言いますか……」

 

修学旅行終了後、帰宅した一誠は自室で呟く。その傍らには玉藻の姿があった。服は脱ぎ捨てられ、下着は先ほど一誠に剥ぎ取られていた。

 

「まぁまぁ、そう言わない。……ただいま」

 

「そういうのは帰ってすぐに言うものですよ。お帰りなさいませ、ご主人様」

 

一誠は玉藻と唇を重ねるとその体を抱き上げ、ベットまで運ぶ。

 

「ねぇ、さっき出したお茶に何か入れたでしょ? ……全然収まらないんだ」

 

「び、媚薬を少々……」

 

「お仕置き♪」

 

一誠は玉藻を押し倒すと籠手を出現させ能力を倍加する。そして限界まで高まった所で、

 

『Transfer』

 

その力を全て玉藻へと譲渡する。そして一誠の手が玉藻の腰を撫でた瞬間、彼女の体を今まで感じたことのないほど強い快感が襲った。

 

「ひゃぁぁぁぁんっ!? ま、まさか……」

 

「快感を感じやすくした♪」

 

一誠はそう言うなり玉藻に覆いかぶさり、胸を掴む。両手の指が柔らかい肉に沈んでいき、玉藻は声すら上げれない状態だ。その表情を存分に堪能した一誠は耳元で甘く囁く。

 

「……満足するまでね」

 

「は、はい!」

 

玉藻は覚悟を決め襲いかかるであろう未曾有の快感に期待を寄せる。そして夕食の時間まで蹂躙は続いた。なお、一誠は先ほど早めの昼食を食べたばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、一誠の家に一体の怨霊が侵入してきた。一誠が張った結界を突破した怨霊は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主! 侵入者を捕縛したで御座る」

 

「あ、ご苦労様」

 

フェンリル化したポチによって呆気なく捕まった。

 

 

「……それにしても目を付けられたとは思ったけど家まで来るとはね」

 

怨霊は一誠が京都で見かけた奴だった。あの時はモヤの塊だったが、今は人間の姿をとっている。シワができる前の大人の魅力を持った美女で陶磁器のような白い肌に黒い髪。そして狂気に染まった瞳で一誠を見つめている。

 

「あ~、またですか。まったく、何時もフラグ建設してきて」

 

その姿を見て全てを察した玉藻は呆れたような声を出し、怨霊は一誠を見つめて言った。

 

「初めまして。ワタクシは怨群佳織と申します。貴方様に惚れてやってまいりました」

 

「……はい?」

 

突然の告白と後ろから放たれる嫉妬の視線に一誠はまともに答えられず、間抜けな声しか出なかった。

 




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お気に入りが徐々に戻ってきました

評価はダダ下がりですけど・゜・(ノД`)・゜・


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学園祭のライオンハート
六十話


999さんスイマセン 頂いたキャラの名前間違ってました

霊子⇒佳織でした

十巻は短め そしていよいよ十一巻で……


メディアがなぜ曹操と会ってたのかも明らかになります


「ありゃりゃ、参ったねこりゃ」

 

一誠は闇の中で座り込みながら呟く。先程ベットの中に入ったはずなのに知らない空間に来ており、彼はそれが夢、詳しく言うのなら霊的干渉を受けて見せられている悪夢の類だと理解した。一寸先も見えないほど深い闇の上に先ほど出したはずの声すら聞こえない。常人なら気が狂いそうな空間の中、一誠は呑気げに座り込む。

 

「ウフフフ、落ち着いていらしゃいますね」

 

「……やっぱり君か」

 

そんな中、聞こえるはずのない声が一誠の耳に届く。何処か蠱惑的で妖艶さを感じさせる声の正体は怨群佳織。一誠さえも引く程の怨念を放つ怨霊であり、一誠に惚れたと言って家までやってきた相手だ。佳織は一誠の隣に座るなりしな垂れかかり、耳元で甘く囁く。

 

「私は彼処でず~っと居ましたが誰も気付いてい下さいませんでした。でも、貴方は気付いて下さいました。だから、貴方は私の運命の方に決まっていますわ! ……ねぇ、一つになりましょう?」

 

まるで水中から突き出したかの様に地面から無数の手が現れ一誠に掴みかかる。霊子も一誠にしがみつき、徐々に地面へと沈んでいった。

 

「ああ、なんて素敵なのかしら。私の運命の方と……」

 

 

 

 

 

 

 

「……鬱陶しい!」

 

「きゃっ!?」

 

突如一誠の体が光ったかと思うと無数の手や佳織の体を弾き飛ばす。そして地面から這い出てきた一誠が手を翳すと佳織の体を無数の鎖が縛り付けた。

 

「あら、緊縛プレイがお好みかしら?」

 

「……君が気付かれなかったのは、君のタチが悪すぎて見る力のある人でさえ本能的に意識の外に追いやってたからだ。……さて、俺を襲ったのは気に入らないけど、その力は評価に値する。多分魔王を超えてるんじゃないかな。俺でも最大まで倍加しないと危ないや。……我、命ずる。汝、我下僕となりて力を振るうべし!」

 

「あぁぁぁぁぁぁんっ!」

 

佳織を縛る鎖は締めつけを更に強め、強く輝き出す。放たれる光は闇を打ち消し、全ての闇が晴れた時、一誠は目を覚ます。窓を見ると朝日が差し込んでいた。

 

「……調伏完了。二度寝しよ」

 

まだ余裕で寝ていられる時間だと判断した一誠は夢の中で力を使った事による疲れを癒すべく、全裸のベンニーアを抱き枕の代わりにして睡魔を受け入れようとした時に手が彼女の小振りな胸に触れ、とりあえず揉んでおいた。

 

 

 

 

「ん~ベンニーアちゃんのちっぱいも触り心地が……ぐはっ!」

 

発言の直後、一誠の鳩尾に衝撃が走り睡魔とは別の理由で彼の意識は閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《もう少し乙女心を学ぶべきだと思いやすよ》

 

「ごめんごめん。でも、俺は小さいのにも需要があると思うよ? 大きいのには挟まれたい、小さいのは挟みたいって俺の心の師匠も言ってたし」

 

《筋金入りのどスケベでやんすね。何処の誰でやんすか?》

 

「爺さん所の次男。この前、貧乳の人との浮気現場目撃したんだけど、口止め料を貰う時に言ってた」

 

昼休み、何時もの様に一緒にお昼ご飯を食べようとしていた一誠とベンニーアは今朝の事を話していた。

 

《とりあえずヘル様にはあっしから告げ口してご褒美を頂くでやんす。分け前は7:3でいいでやんすね?》

 

「うん! 多分ボッコボコにされた後だったら口止め料を返せって言わないだろうし、両方貰っちゃおう」

 

あくどい話である。とある神が謎の悪寒に襲われる中、一誠は重箱を広げた。最近では一誠の母親と玉藻、そして黒歌がお弁当を作っており、それぞれの料理が一段毎に入っている。

 

一番上は母親が作ったオカズでササミでチーズと梅と大葉を巻いて揚げたものや豆腐ハンバーグなどが入っている。二番目は玉藻の料理が入っており、レンコン入りのツクネを串に刺したものや筑前煮、煮豆や揚げ出し豆腐などの和食が中心となっている。そして最後は黒歌の料理だ。鳥の唐揚げ入り、梅じその混ぜ込みご飯、刻んだ沢庵と焼き鮭を解してて入れた混ぜ込み飯をオムスビにし、シナっとならないようにラップでくるんだ焼き海苔が入れられている。

 

 

なお、明らかに一人で食べる量ではないが全て一誠の腹に収まる。普通サイズのお弁当を食べ終わったベンニーアはもう慣れたのかコメントをせず、黙って膝を向ける。すると一誠は何も言わずに膝に頭を乗せた。

 

「……何時も悪いね」

 

《いいやいや、これも未来の妻の役目でやんすから。……あの怨霊は本当に大丈夫でやんすか?》

 

ベンニーアの声には明らかに心配が含まれている。多くの魂を見てきた彼女から見てもアレは異常だったのだろう。いくら一誠が術で縛り付けたといっても不安は尽きないようだ。

 

 

「ん~、大丈夫」

 

しかし、当の本人は心配を知ってか知らずか呑気に答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺を殺していいのは玉藻だけだし、玉藻を殺してていいのも俺だけなんだ。だから、俺は玉藻以外には絶対に殺される気はない。実力と霊である事を考慮して一度は見逃したけど、次はないよ」

 

《そ、そうでやんすか……あれ? 寝てるでやんすか?》

 

一誠が平然と発した言葉に気圧されたベンニーアであったが、一誠が静かに寝息を立てている姿を見て微笑む。辺りをキョロキョロと見渡し人目がないのを確認した彼女はそっと顔を近づけ、軽く口付けをした。

 

《……あっしはあの二人と違って共に過ごした時間も対してありやせんし、貴方の助けにもなれやせん。でも、貴方の話を聞き、貴方の姿を見てあっしは確信しやした。貴方に惚れていると。ま、焦っても仕方ありやせんし、のんびりと行かせて頂きやすよ》

 

その時穏やかな風が吹き彼女の頬を撫でる。そろそろ季節は冬に移り変わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、一誠、ベンニーアちゃん。学園祭が近いけど二人のクラスは何をするの?」

 

それは夕食時、揚げたて熱々のトンカツに大葉を巻きながら口に運んでいた一誠の手が止まる。どうやら学園祭でのクラスの出し物について触れて欲しくなかったようだ。

 

《あっしの所はフリーマーケットでやんす、各自家から使わなくなった物を……あっしの所は古い鎌か魔術書位でやんすかねぇ?》

 

「はいはい、駄目よ。危ないでしょ? それで、一誠は何をするの?」

 

流石の適応力で軽く窘めた母親は一誠から聞き出そうとする。しばらく無言で誤魔化そうとしていた一誠であったが、二枚目のトンカツを使って作られたカツ丼を差し出されては黙っていられなかった。

 

「……執事&メイド喫茶」

 

その瞬間、玉藻と黒歌の耳が動き、一誠はカツ丼を掻き込みながら嫌な予感に襲われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、その話は協力者である魔女の耳にも届くこととなる……。

 

 




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六十一話

まずは安定の百均ゲロキリー! 婚活は削除! ヤッタネ!


「……うぅ、気持ち悪い」

 

其れは一誠が謎の悪寒に襲われた日の事。ロスヴァイセの目覚めは最悪だった。昨日は午前中で業務を終えれたのでランスロットとデートをしたのだが、食事後少し疲れたと言ってホテルへと連れ込み行為に及び、別れた後で次の日は休みだからと居酒屋をハシゴ。どうやって帰ってきたのかさえも覚えていない。

 

「……それにしても昨日は凄かったなぁ」

 

ロスヴァイセは顔を赤らめながら昨日の事を思い出す。着痩せする体格なので分からないが、脱ぐと分かる大きな胸を後ろから揉みしだかれ、何度も気絶するまで……。

 

体温が一気に上がり思わず自分で自分の体を撫で回そうとした所で彼女は部屋の惨状に気付く。コンビニの袋と缶ビールの空き缶やツマミの空き袋が散らかり、まさに汚部屋。そして今日は朝からランスロットが訪ねてくる約束になっていた。

 

「拙いです。こんな部屋を見られたら幻滅されちゃう!」

 

ロスヴァイセは慌てて掃除を始める。なお、彼女が家事全般が駄目な事をランスロットは知っていたが、彼曰く『その様な所も可愛らしいです』だそうだ。短い期間に随分アツアツになった事である。爆発すべきカップルの片方である彼女がゴミを見えない所に隠していると一冊の雑誌が目に入る。

 

「に、妊婦向け雑誌。……酔った勢いで缶ビール買うついでに買ったんでした」

 

取り敢えず仕舞おうとした瞬間、インターホンが鳴りランスロットの声が聞こえてきた。

 

『お早う御座います。最近人気のパン屋でパンを幾つか買ってまいりましたので朝食にどうですか?』

 

「あ、はい。……うっぷ」

 

『ロスヴァイセ殿!?』

 

返答中に二日酔いによる吐き気に襲われたロスヴァイセはゲロを吐きそうになり、異変を感じたランスロットは部屋に飛び込む。

 

 

 

 

 

其処で彼は口元を押さえて吐きそうにしている恋人と妊婦向け雑誌を目にした。彼女とは何度も行為に及んでおり、彼自身が天然な為に霊である事を忘れた結果行き着いた結論は……。

 

 

 

 

 

 

「す、すぐに産婦人科へ!」

 

「え、ちょ!? うっ」

 

「無理なさらずに……最短ルートで直行しますよ!」

 

ロスヴァイセをお姫様抱っこで抱き上げたランスロットは街中を一直線に走り抜け産婦人科を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、大勢の近隣住民に見られる中産婦人科に運ばれた彼女は二日酔いだと診断された……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ~、なんか面白い事が起きてるような」

 

一誠は第六感を働かせて呟く。今の時間はそうでもしないと耐えられない程に退屈な時間だったのだ。

 

「え~では、学園祭でのクラスの出し物を決めたいと思います。意見がある人は挙手をお願いします」

 

殆どの他人に興味がない一誠にとって学園祭など退屈であり、できればサボりたい所だが後で余計に面倒臭くなるのでそれもできない。なので仕方なく話い合いには出席していたが意見を出す気などなかった。

 

「はい!」

 

数名が手を上げる中、松田が元気良く手を上げる。怪我が一番軽い事もあって真っ先に退院した彼は立ち直りも早く、まだショックの抜けないアーシアとは裏腹に元気だった。

 

「では、松田くん」

 

「女子は全員胸を丸出しにしておっぱ……げふっ!」

 

取り敢えず時間を無駄に消費しそうな意見を言いだした松田の意識を刈り取った一誠は彼と同様に手を挙げていた元浜をジッと見つめ、松田を指さす。『お前もこうなりたくなかったらアホな事言うな』そう目で言っていると感じた元浜は手を下ろし、他の生徒が当てられては意見を出していく。

 

 

 

「ねぇ、執事&メイド喫茶はどう?」

 

中々良い意見が出ずに場が硬直しだした時、桐生がそんな意見を出し場がシンと静まる。誰もが固唾を呑んで彼女の話に耳を傾ける事から彼女のそっち方面への信頼が伺えて取れた。

 

「衣装は私の伝手で用意できるからあとは喫茶ね。まぁ、これは従業員で呼ぶから回転を考えて簡単な物でい良いわ。……そして私が提案するのは普通の執事やメイドじゃない! 男装執事と女装メイドよ! 想像してご覧なさい! ピッチリとした燕尾服に身を包んだアーシアヤゼノヴィアの姿を! フリフリのメイド服を着た兵藤君の姿を!」

 

「俺!?」

 

ボゥっとしながら話を聞いていた一誠は驚いて思わず声を上げる。その顔を桐生は可笑しそうに見つめていた。

 

「……ちなみに追加料金を払えばお菓子を食べさせて貰ったり、写真撮影可よ」

 

その瞬間、一誠以外の生徒の心が一つになり出し物が決定する。そして家に帰った一誠は苦し紛れの悪あがきと知りつつも女装という事は言わなかった。

 

 

 

なお、学園祭の事は冥府だけでなくオリュンポスにもバッチリと伝わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……次のゲーム内容が変更になりました」

 

生徒会室でソーナは真面目な顔をして眷属に告げる。次のゲームでは助っ人を無くし、サイラオーグとリアス、シークヴァイラとソーナという力重視同士と知能重視同士の戦いとなっていたのだが、急に変更が告げられたのだ。

 

 

「やはりテロの影響かい?」

 

「ええ、そうです。次の戦い、私達とサイラオーグのゲームのみとなりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冗談じゃないわ! なんで私のゲームがないの!?」

 

リアスの激高した声と机を叩く音が室内に響く。ようやく退院したアザゼルから告げられた事に納得がいかないのだ。勝率は低いとは言え相手は若手ナンバーワン。善戦し、もし勝つ事ができれば下がりに下がった評価を回復できるチャンスだと彼女は考えていたのだ。

 

度重なる賠償金の支払いはグレモリー家の財政を圧迫。次期当主が無能と噂が広がった為に商人の投資も激減し、リアス所有の物件やお気に入りの美術品を幾つも手放す事となった。そして遂に親類縁者からの不満が噴出し、ミリキャスが次期当主に相応しい年齢になるまで今の当主の続投が決定。つまり彼女は次期当主の座を追われる事となったのだ。

 

「……それはお前が一番分かっているだろう? 上層部はお前に何度もチャンスを与えてきた。それをお前がモノにできなかったんだ。……いや、初めからこれが目的だったのかもな才能ある若手を潰す事で自分の縁者が次期魔王になりやすくする為の上層部の策略。俺はそう思えてならねぇよ」

 

「……ッ」

 

アザゼルの言葉にリアスは無言で拳を握り締める。

 

自分を自分として愛してくれる相手との結婚を望み、ゲームでのタイトル制覇を夢見ていた一人の少女の将来は闇に閉ざされようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄板の上で油が跳ねる音が響き、肉の焼ける良い匂いが辺りに漂う。ここは北欧の神であるトールの城の中にある娘夫婦の居住区。其処では娘婿であるガウェインが愛妻の料理を心待ちにしていた。

 

「しかし、貴女の料理は何時見ても美味しそうですね」

 

「当たり前だ。お前に対する愛情を込めているからな!」

 

鉄板の上では下処理された猪の肉がジュウジュウと音を立てて焼けており、特製のソースとハーブの香りが食欲をそそる。ガウェインは差し出された肉を皿に乗せると自分の前に起く。

 

「では、どうぞ」

 

「うむ」

 

そのまま彼は妻を膝の上に乗せて食事を始めた。彼女の口に肉を運ぶ際に腕が矮躯に不釣合いな胸に当たり、やがて彼女の尻に硬い物が当たりだした。

 

「……何だ、もう我慢ができなくなったのか? まぁ、良いだろう。赤龍帝が送り込んだスパイからの情報でテロへの対策が楽になっているからな」

 

「……では、頂きます」

 

ガウェインは妻をテーブルの上に乗せて向かい合う様にすると夫婦の営みを開始する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁ! い、何時もより凄いな。お前、正午はコッチも三倍か?」

 

「……それ、酒の席でモートレッドにも言われました」

 

円卓の騎士は色々とおかしいと思わせる一日であった。なお、二人は長年夫婦をやっているので真相はすでに知られており、昼間からスる時に言う恒例の冗談である。なんでもそう言った方が高ぶるとか。

 

 

北欧も色々とおかしい。




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六十二話

昔のキャス狐強かった! アーチャーの高火力がなければ勝てなかったし、パターン読めずに7回は負けた  


ランサーに対する麻婆の扱いが 当たらない必中の槍(笑)

セイバーって最良なんですよね? 動画サイトでセイバーだけキャス狐との会話の映像が見つからない アーチャーは自力で見たけど


とある休日の昼間、人寂しい海辺に一組の親子の姿があった。父親の方は古ぼけた釣竿を使い、息子の方は綺麗で何処か神秘的な力さえ感じさせる釣り竿を使っている。それぞれ別のクーラーボックスを使い、どうやら勝負をしているようだが息子の方が圧勝していた。

 

 

「あ、キスが釣れた」

 

「またかっ!? て言うかさっきからおかしくないか!? 入れ食いにも程があるだろう!」

 

息子が餌を入れると数秒で大物が掛かり、開始数分にも関わらず既にクーラーボックスは満杯だ。反対に父親の方はボウズであり、海をよく見ると沖の方にいるはずの魚が息子が餌を入れるのを待機するように群れていた。

 

「はっはっはっ! 勝った方が掃除当番を相手に押し付けられる約束だったよね? あれ? 父さんって釣り歴20年だったっけ?」

 

「……忘れてないさ。くそぅ、まさか此処まで圧倒されるとは。……まさか霊能力を使ってないよな、一誠?」

 

「使ってないよ? ……ポセイドン様から貰った釣竿は使ってるけど」

 

「やっぱりかっ! 妙に神々しい竿だと思ったら海の神様の竿!? そりゃ釣れる筈だ! ……来週ある会社の釣り大会の時に貸してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、どうなんだ、仕事の方は?」

 

「順調だよ。俺は強いし、玉藻達も居るからね」

 

「……そうか」

 

一誠の父は釣竿を垂らし、タバコをふかしながら呟くとボンヤリと空を見上げる。その時、浮きが沈み、急いで釣り上げると藻が絡んでいた。

 

「……むぅ。なかなか釣れんな。ところで新しく部下になった彼奴は何者なんだ? ……霊感のない私でもヤバイと感じたぞ」

 

「……佳織だね。アレは怨霊の集合体。最早自我も失くし、術師でさえ本能的に目を逸らすほど悪質な存在だったんだけど僅かに残った心で寂しさを感じていたんだろうね。持っていた怨念が気付いた俺に対する好意に変わったみたい。……若干ヤンデレ入ってるけど」

 

殺して自分の一部にしようとした時点で若干とは言えないと思われるが一誠は平然と言いのけた。

 

「……大元は明治初期に夫に殺された女の人。美人だったから浮気を疑った嫉妬深い夫に殺されて屋根裏に隠されたんだ。そして息子を殺して狂いきった」

 

「親が……我が子を殺したのか!?」

 

一誠の父は唖然とした様子で反応し、一誠は悲しそうな顔をする。

 

「……うん。本人は殺そうとして殺したんじゃなくって我が子を傍に置きたいってだけだったんだけど、死霊の念って生者には毒だからさ。そうして狂った彼女は人を呪い殺し、殺された人は取り込まれながらも助けを求めて他の人を殺していく。……悪循環だよね。ま、今は俺がコントロールしてるから大丈夫だよ」

 

「……そうか。なぁ、一誠。私や母さんはお前の様に凄い力もないし、悪魔や何やらの事はさっぱり分からん。だがな、相談くらいなら乗ってやれるから吐き出したいことは吐き出せ」

 

「……ありがとう、父さん」

 

一誠はぷいっと顔を逸らしながら礼を言って立ち上がる。父も立ち上がって後片付けを終わらすと二人は車に乗り込んでいった。

 

「今日は母さんが居ないし、私達だけで魚三昧だな。玉藻は魚を捌けるんだろ? いや~、楽しみだな。今時あんな良い子他に居ないんだから大切にしてやれよ? 他の子達もな」

 

「分かってるって。責任もって幸せにしてみせるさ」

 

「……そうか。なら、安心だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ところで孫は何時ごろ抱けるんだ?」

 

「……大学出て冥府に正式に就職してからだから、最低でも6年くらいは待って欲しいなぁ……」

 

「なんだ、つまらん! 私や母さんは今年中でも大歓迎だぞ?」

 

「……色々都合があるんだよ。子供を産めるように体を創ったりとかさ。てか、高校生の息子に孫の顔見せろとか……」

 

一誠は不貞腐れたように呟くと家に帰るまでの僅かな時間を寝て過ごす。これが過去未来において最強の赤龍帝の家族との日常である。戦場では無類の強さと残酷さを持つ彼も親の前ではただの息子でしかないのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パーティ? それも冥界での? ……拒否したいなぁ」

 

冥界で行われるパーティに行くから護衛として着いてこい。ハーデスから受けた依頼に一誠は露骨に顔を顰める。絶対に行きたくないと言うのが丸分かりだった。

 

《ファファファ、そうは行かん。一応同盟相手だからな。此処で行っておかないと他の勢力から奴らの次くらいに常識知らずだと思われる。……不満そうじゃな》

 

「いや、だってグレモリーと会うかもしれないじゃん」

 

《……奴らは来ないらしいぞ。呼ばれた若手はバアルとシトリーだけだ。……パーティならご馳走が出るだろうな》

 

「後、ご馳走……いや、でもなぁ……。あれ? その手に持っているのは……」

 

ハーデスが目の前でヒラヒラさせている紙切れを見て一誠の顔色は悪くなる。それは学校関係者以外に渡される学園祭の招待券だった。要するに暗に脅しているのだ。来なかったらお前の知り合いに渡すぞ、と。

 

「……分かった。行けば良いんでしょ? ……所でほかの最上級死神の人達は?」

 

《プルートは歯医者の予約が入っており、オルクスは有給取って旅行だ。……前々から行かない為に作戦を練っていたらしい。……もしかして儂って人徳ないのか?》

 

「……」

 

《た、頼むから無言で目を晒さないでくれ》

 

「……慕われてはいると思うよ? 誕生パーティの出し物張り切ってたじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、ハーデスの護衛として冥府式の正装をした一誠と玉藻はパーティ会場に到着した。既に多くの悪魔や同盟相手の代表者がやって来ており挨拶を交わしていた。

 

「なぁ~んか、嫌々来てますって感じですねぇ。ま、同盟相手の要人の護衛を学生に任せる奴ら何ざ信用ならねーって感じですからねぇ、ご主人様」

 

玉藻が不機嫌そうに見つめる先には見知った顔がチラホラと見受けられる。ガウェインは妻と来ており笑顔で接してはいるものの本当に笑っていない事が見て取れた。

 

《さて、儂は向こうから挨拶に来るのを待つから貴様らは食事をしてきて良いぞ。ただし、酒は程ほどにな。って、もうおらん!?》

 

食事をして来ても良い、ハーデスがそう言った途端に一誠の姿は消え、離れた所にあるテーブルの近くにいた。パーティは立食形式になっており、一誠は玉藻に飲み物のグラスを持たせ、料理を食べてる。

 

「ん~♪ ミノタウロスのタタキおろしソースがけは美味しいね。玉藻も食べたら?」

 

「はい、では頂きますね♪」

 

一誠はフォークで突き刺した肉を差し出し、玉藻の口に運ぶ。二人がその後も食事を楽しむ中、招待客達は遠巻きに二人を見ていた。貴族達は侮蔑と蔑み、そして何よりも恐怖の篭った目で。嫌々来ていた同盟相手の神々は興味深そうな視線を送る。

 

そんな中、一人の悪魔が二人に近づいていった。若手ナンバーワンのサイラオーグ・バアルである。

 

 

「やぁ、久しぶりだな赤龍帝」

 

「ん……もぐもぐ…久しぶりだね……もぐもぐ」

 

「……食べるか喋るかどっちかにしてくれないか」

 

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」

 

お言葉に甘えて、とも言いたげな顔しながら一誠は食事を続け、玉藻は途切れないようにと次々に更に料理を運んでいった。

 

「……そう来たか。まぁ、選択肢を与えたのは俺だからな。この前助っ人になってくれた二人に礼を言いたくてな。有難うと言っていたと伝えてくれるか?」

 

「え? 君もロリペドなの?」

 

「……いや、白龍皇と一緒にしてくれないでくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘックション!」

 

『どうした、風邪かヴァーリ?』

 

「いや、クシャミが出ただけだ。……それより俺達の悪評をネットに流していた奴が分かったらしい。美猴がメールで……やっぱりか! 犯人は赤龍帝だ! こうなったら果たし状を送るぞ、ホモペドン! ……あ」

 

『あらぁ、此処何処かしらん? あ、私の名前はアルビオンって言うのよ。宜しくね、可愛いボ・ウ・ヤ♥』

 

もう、彼らは末期かも知れない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリが大失言をする中、グレモリー卿は娘の事に対する嫌味を敵対する貴族達に言われながら挨拶を続けていた。そんな中、一番苦手とする貴族がやって来る。妻の腹違いの兄弟であり、サイラオーグの父親であるバアル家現当主だ。

 

そして息子に家の特徴である滅びの魔力がないからと僻地に追放し、滅びの魔力に恵まれたサーゼクス達を敵視していた。

 

「フンッ、無能な娘に苦労しているようだな。……どうだ、バアル家で引き取ってやろうか?」

 

「……それはどういう意味でしょうか?」

 

「ウチの無能に嫁としてあてがえば、今度こそ滅びの魔力に恵まれた跡継ぎが生まれるだろうからな。不良品を有効活用せんかと言っておるのだ」

 




意見 感想 誤字指摘お待ちしています

もし原作で一誠がいなかったら 前の巻でのイベントは無視 ご都合主義でイベントは起こります

一巻 アーシア死亡 レイナーレが回復できる堕天使に

2巻 ライザーと結婚

3巻 ヴァーリの助けで死亡は免れる 間に合わなかったら犯されて殺される 木場は死にそう

4巻 ギャスパーは引きこもったままか 人質になってリアスは無抵抗で死亡


5巻 黒歌に小猫が誘拐され ソーナに敗北 てか黒歌に殺される

6巻 アーシア奪われる もしくは会場中に反転した回復が

7巻 ロキに殺される

9巻 二年生組死亡


10巻 サイラオーグに敗北

11巻 死亡

12巻 冥界壊滅 ソーナ達含め死亡 

14巻 居残り組がグレンデルに負けて死亡、レイヴェルは連れ去られる

15巻 グレンデルかクロウクルワッハに負けて死亡

16巻 学校吹き飛ばされロスは攫われる 他は死亡


一誠居ないとバットエンド どんだけぇ


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六十三話

アーチャークリア 宝具発動無しで倒せた しかし、前作やってないと?ってなる所があったなぁ

まぁ、外伝だから仕方ない ところで cccって何の略かな?

イヤミばかりの彼と違いキャスターは弱いけど和む

あとエンディングがセリフだけ違って内容ほぼ同じってパターンじゃなくて良かった


豪華絢爛なパーティ会場に荘厳な演奏が流れる。同盟勢力を招待してのパーティはダンスの時間になっていた。

 

「では、私達も踊りましょう、ハニー」

 

「ああ、そうだな」

 

ガウェインは妻の手を取ると静かに踊りだす。彼のかつて暮らしていた国は貧しく王族でさえも豪奢な暮らしは望めなかったがダンスの心得はあるのか、それとも北欧に来てから学んだのか見事な腕前だった。その踊りはまさに一つの芸術品。踊るふたりが美男美少女とあって周囲の者達の目も釘付けになる。

 

そんな中、一誠は玉藻と共に部屋の隅に陣取っていた。二人も踊れる事は踊れるのだが、正直言って面倒くさく、コネを作る必要もないのでただ眺めていた。そんな時、他の悪魔からダンスの誘いを先程から受けていたソーナが近寄ってきた。その顔はウンザリといった様子である。

 

「貴方達も来ていらっしゃったんですね。パーティは楽しんでいらっしゃいますか?」

 

「いえいえ、ぶっちゃけて言うと退屈していますよ。これならご主人様と夫婦の営みをしていた方が何億倍も楽しいなって、キャッ✩」

 

「……御免ね。素直で良い子なんだけど残念なんだ。……所で俺達は防波堤?」

 

一誠がニヤニヤしながら視線を向けた先にはソーナに話しかけたくとも一誠が怖くて近寄れないでいる悪魔達の姿。ソーナは溜息を吐くと深々と頭を下げた。

 

「……分かってらっしゃいましたか。申し訳ありませんでした」

 

「まぁ、良いよ。その代わりに頼みがあるんだけど……ウチのクラスの出し物の女装メイド&男装執事喫茶、できれば中止、せめて撮影はNGにして欲しい」

 

「え~! 私、保存したいですよぉ。ご主人様のメイド姿ぁ」

 

玉藻は不満そうに頬を膨らませ手をバタバタ振るが一誠はそれを無視し、ソーナも静かに微笑んだ。

 

「お安い御用です。元々どうしようか迷っていましたから」

 

ソーナは飲み物の入ったグラスを傾けると一気に飲み干す。その顔には少々の疲れが混じっていた。

 

「どうしたの?」

 

「……先程から口説いてくる殿方ばかりです。私がこの前婚約を破棄しましたから後釜を狙っているのでしょう。口では『貴女の夢は素晴らしい』っと言っていますが、目を見れば嘘を言っていると分かります」

 

「ふ~ん。良く分かったね」

 

「ええ、其の程度もできないで魔王を目指すなど戯言にもなりません。さて、将来行う冥界の改革の為にそろそろ休憩を終わらせなけれればなりませんね」

 

ソーナは頬をバンバンっと叩いて気合を入れると再び輪の中に戻っていった。

 

「……よし。撮影は防げた」

 

「……むぅ、私にはコスプレさせてプレイに励むくせにご主人様ってケチですよねー。つっうか、見事に利用されちゃいましたけど良いんですかぁ?」

 

「……うん?」

 

「ご主人様?」

 

玉藻はジト目で一誠を見る。彼女が言っているのは先程の様に二人と話しているのを他の悪魔達に見せていた事だ。今や一誠の部下の総力は生半可な勢力を超えており、彼と繋がりがあるという事は重要視されるに値する事。リアスが即刻冥界に帰還させられないのも小猫という繋がりがあるからだ。

 

 

もっとも、今回の場合は狙ってやったのかどうか証明できない上に追求しても言い掛かりに近いと周りから言われかねない。そもそもソーナにそんな意図があったかどうかも定かではないのだ。

 

「……成る程」

 

「もぅ! しっかりしてくださいませ。私も出来る限りフォロー致しますが、最終的な判断は貴方様がなさるのですよ?」

 

玉藻から説明を受けて一誠は理解し、玉藻は痛そうに頭を押さえる。そんな時、そろそろ曲もラストナンバーに移ろうとしていた。

 

「最後だし踊ろうか?」

 

「はい、喜んで♪」

 

一誠は玉藻の手を引くと部屋の隅から離れ、曲に合わせて踊り出す。所々辿たどしい所もあったが、踊る二人は本当に幸せそうだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此処は住人が掃除が苦手だとひと目で分かる程散らかったマンションの一室。まだ昼間だというのに窓には鍵が掛けられ、カーテンは締められている。それもその筈。いま部屋の中に居る二人は人耳を憚る行為をしているからだ。……いや、行為をしていたと言うべきであろう。

 

既に室内には独特の匂いが立ち込め二人とも少々息が上がっている。そして部屋の住人であるロスヴァイセは幸せそうに下腹部を撫でていた。

 

「はぁ…はぁ…今日も…良かったです…」

 

ロスヴァイセは愛しい恋人であるランスロットの腕の中で顔を赤らめ、鍛えられた胸板に顔を埋める。すると柔らかく大きい胸が彼の体に押し当てられてムニュムニュと形を変えていった。ランスロットも余韻に浸りながらロスヴァイセをそっと抱き寄せる。二人はこのまま心地よい微睡みに身を任せて眠ろうとしていた。

 

 

 

そんな時、一通の手紙が突如部屋の中に出現する。ロスヴァイセはベットに体を入れたまま手を伸ばし手紙を手に取り、ビックリしたというような顔をした。

 

「ララララ、ランスロットさん! 来週の日曜にお祖母ちゃんが来るって書いてます! ランスロットさんにも会いたいってっ!?」

 

「そうですか。なら、きちんとご挨拶をしなかければなりませんね。……まずは部屋の掃除をしましょう」

 

動揺しているロスヴァイセと違い落ち着いている彼が困ったように向けた視線の先には脱ぎ捨てられた二人の服や下着、そして散らかった部屋の惨状。

 

「……とりあえず起きたらにしましょう。もう私、腰が……」

 

「……すみません。乱れる貴女が魅力的すぎて……」

 

「……馬鹿。そういうのは口じゃなく行動で示してください」

 

ロスヴァイセは再びランスロットに抱きつくと唇を奪う。ランスロットも彼女の腰と後頭部に手を回し抱き寄せるとその体を貪りだす。結局、二人が掃除を始めたのは次の日の朝の事。すっかり汚れたシーツを洗い、むせ返るほど立ち込めた匂いを散らす為に窓を明けようとした時、玄関のチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、ロスヴァイセの祖母は孫娘に恋人ができたという事に動揺し、手紙を出し忘れていた事に気付いて中身を直さないで転送。手紙に書いていたのは『この手紙が届いた日の次の週の日曜日に会いに行きます』という内容。そして今日は土曜日であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ~んかランスロットが面白い事になりそうな予感がするなぁ。……ん」

 

パーティから帰った一誠は部屋に戻るなり誰も入ってこられないように結界を張り、そのままドレス姿の玉藻を壁と自分の間に挟むようにして押し付けると唇を重ねる。右手は大きく空いたスリットの中に入り込み、左手はドレスの上から胸の感触を堪能していた。

 

「……ご主人様ぁ。意地悪しないでくださいませ。……あっ」

 

しかし、玉藻は顔を赤らめ艶のある声を出しながらも何処か不満そうだ。先程から舌を捩じ込もうとしているにも関わらず一誠は頑なに唇を閉ざし受け入れようとしない。代わりに彼女の心情を察してか嗜虐的な笑みを浮かべながら手を動かしている。右手はスベスベの太股からモフモフの尻尾に移り、左手は首筋や耳の付け根へと移動する。

 

長い付き合いで彼女の弱点を知り尽くした一誠は甚振りながら楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、ふふふふふふふ! 仕方ないわよねぇ? 私と一誠さんはまだ出会って間もないんですもの。だから長い付き合いの玉藻さんや黒歌さんを優先しても仕方ない事ですわ。そう、今は仕方ないけど、これからお互いの事を知っていけば良いですわよね? そうに決まっていますわ。だってあの方と私は結ばれる運命ですもの。そうよ、結ばれる運命なのだから何も心配する事なんかないわよね。その内私のことを一番に優先……いえ、私以外の存在なんて気にも止めなくなるわ。だって、それが一番ですもの。私と一緒に居る事が何よりも幸せだなんて賢いあの人ならすぐに分かる事ですわよね? だって私に気づいて下さったんですから、その程度の事なんか既に気付いているわ。あら? だったらなんで今すぐ私だけを求めないのかしら? あ、そうね。きっと恥ずかしいのよ。照れなくても良いのに。一誠さんが私を求めるのは宇宙の真理であり、一般常識なんだから恥ずかしがっても仕方ないっていうのに……もぅ! あ、いけないわ。妻は三歩後ろに下がって夫の影踏まず、あの淫乱狐と同じように嫉妬だなんてみっともないわ。それに、あの人の考えに間違いなんてある訳ないんだから黙って待っていましょう。きっと何か考えがあるのよ。そうに決まっているわ。そうでないなんて天地がひっくり返ってもありえないもの。ああ、あの人に求められたらまずは何をしてあげましょうか? でも、あの人は恥ずかしやがりなんだから言い出せないかもしれないわね。他の女を抱いているのだって私を抱く時に失敗しないための予行練習に決まっていますもの。そんな事しなくても私とあの人は運命の相手なんだから失敗のしようがないっていうのに。ふふふ、愛されているわね私。此処まで誰かに愛された女なんて世界が始まって初めてじゃないかしら。そもそもあの人と私は世界一幸せなのよ。だって、ふたりが結ばれる事は恒久的な世界平和や全人類の救済よりも素晴らしいもの。それを邪魔する者は抹殺されるべきね。あら? だったら他の女を抹殺すべきかしら? いけない、いけない。浮気は男の甲斐性ですし、最後には私のもとに帰ってきて下さるに決まっていますもの。なのに怒って殺したりしたらあの人を信じていない事になるわ。運命の相手である私に信じて貰えないなんて、あの人を世界一の不幸にするわけにはいけないわ。危うく失敗する所だったわ。そうそう、邪魔といえば周りに居る男も邪魔よね? だって私以外に目を向ける必要なんてないけど、あいつらが話しかけたら優しい彼は反応しないわけにもいけないもの。あらあら、優しすぎるってのも考えものね。其の辺は運命の相手である私がなんとかしないといけないわ。兎に角、あの人は私が管理しないと……。あら? 何かしらこの手紙?」

 

その頃、ヤンデレ全開だった佳織は一通の手紙を手にする。そして一誠宛てと見るなり急いで中身を確かめた彼女の表情が変わり、目は光り髪は逆立つ。溢れ出す瘴気に触れた途端、花瓶の花は枯れ、ハエは落ちていった。

 

「許せない許せない許せないユルセナイユルセナイ……」

 

手紙の内容はヴァーリからの果たし状。一誠を挑発する文章を見た彼女は一目散に飛び出していった……。




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ヤンデレ台詞に手間取った


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六十四話

降りしきる雨の中、古ぼけた西洋屋敷の前に一台の車が止まる。車から出てきたのはいかにも遊び慣れしていそうな一組の男女。彼らは閉ざされた門からは入れないと分かるなり、崩れた塀を潜って屋敷の敷地内へと侵入した。

 

「ねぇ、本当に中に入るの? マジで何か出そう……」

 

「バッカッ! 出なくちゃ面白くねぇだろ?それに、心霊写真撮りたいって言ったのはお前だじゃん」

 

どうやら彼らは肝試しに訪れたようで、屋敷の敷地内を探索し、何処かに入れる所がないか探していた。ちょうど裏まで来た時に裏口のドアがギィギィと音を立てて開いており、二人はそこから屋敷の中に侵入する。

 

「……」

 

二人の姿を二階の窓から眺めていた血まみれの女に気付かぬまま……。女はニタリと笑うと煙のように消えて行く。女が居た場所にはホコリが積もっており、まるで最初から誰もいなかった様であった。

 

 

 

 

 

「結構雰囲気あるなぁ……」

 

「ねぇ、もう帰ろう?」

 

二人はそれぞれ一個ずつ懐中電灯を持って屋敷の中を探索する。室内には家具や調度品がそのまま残ってはいるもののクモの巣やホコリにまみれ、長い年月が経っているのかボロボロだ。床も既にガタが来ており、歩く度にギシギシとという音が鳴る。

 

「なぁ、知ってるか? この屋敷って結構な金持ちが住んでいたんだけどよ。……娘が悪魔に取り憑かれて一家全員呪い殺されたんだって。んで、行方不明になった娘の肖像画は毎晩涙を流すらしいぜ」

 

「……ねぇ、娘の肖像画って……あれじゃない?」

 

冗談半分に話す男に対し、女は恐怖の混じった顔で懐中電灯の光を絵に当てる。彼女達の目に前には美少女の肖像画が有り……その瞳から水滴が垂れていた。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? ……ん? おい、落ち着けよ」

 

女は驚いて懐中電灯を落とし、カラカラと廊下を転がっていった先でスイッチが切れたのか明かりが消える。対して男も最初は驚くも明かりを天井に向けて冷静になる。雨漏りの雫が偶々目の所に当たっていただけのようだ。

 

ヤレヤレと肩を竦めると女が探しやすいようにと懐中電灯の光を廊下に向ける。絵は突き当たりにあった為に自然と絵に背を向ける事となり、絵の中の少女が微かに微笑んだのに気付かなかった。

 

 

「も~、どこ行ったのよ~!?」

 

「ったく、散々だったな。もう帰るか。……あれ? 電池替えたばっかりなのに……」

 

男の懐中電灯はチカチカと点滅すると徐々に光を弱め、ついに消えてしまう。辺は完全に闇に閉ざされた。そして男は気付く。後ろから青白い光で照らされている事に。男が恐る恐る振り返ると、

 

 

『イラッ…シャイ…』

 

絵の中から少女が抜き出て来ており、血塗れの顔で男にほほ笑みかけた。

 

 

 

 

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……イマイチね、わたし」

 

「……イマイチよ、あたし」

 

ありす達は不満そうな顔をして画面を消す。目の前のテーブルにはお菓子とジュース、そして実際に有ったとされる怪談話を元にしたホラー映画のDVDのケースが置かれていた。

 

 

 

「そりゃまぁ、俺達幽霊だからな。ってか、俺はもっと美形だったぞ。なんだよ、あの役者」

 

不満そうな二人の背後に突如現れたのは同じく不満そうな顔をしたエクボ。彼はキョロキョロと部屋の中を見渡すと腕を組んで体を傾かせる。どうやら首を傾げているつもりらしい。

 

「なぁ、怨群は? お前らと一緒に居たはずじゃ……」

 

「オバさんなら何処か行ったわ、エクボ。上司なのに舐められてるの?」

 

「駄目よ、ありす。そういう事言っちゃ。オバさんなら手紙見て一目散に出て行ったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まだか。いや、そもそも来るのか?」

 

指定した場所で待つヴァーリは不安そうに呟く。既に覇龍になる寸前で待ち構えている事から唱えている間に攻撃されるのを用心しているのであろう。何故か相手が呪文を唱えたり変形するのを待つ者が多いが、一誠は容赦なくその隙を突く。それを理解する辺り、彼も少しは成長したようだ。

 

そしてヴァーリが欠伸を噛み殺した瞬間、地面から出てきた白い腕が彼の足首を掴んだ。慌てて振り払うと地面の中から這い出るように怨群佳織が出てきた。

 

「貴方ね、一誠さんを狙っているのは。許せない許せない許せない……」

 

「不気味な女だな。……此処は速攻で決める!」

 

ヴァーリは最後の呪文を唱えると覇龍へと化す。そして佳織へと急接近し、一気に拳を振るった。二天龍の力で殴られた彼女の体は四散し、辺りに巻き散らかされる。ヴァーリはその破片の中に果たし状がある事に気付き、先程の狂気から見て手紙を見た彼女の独断だと判断すると溜息を吐いて元の姿の戻る。

 

「……帰るか」

 

反動による疲れからか顔色の良くないヴァーリは転移しようとし、背後から聴こえてくる声に気付く。振り返ると其処には無数の佳織がいた。

 

「私を殺そうたって無駄よ? 私は皆、皆は私。私の一部になった人の数だけ私は居るの。さぁ、貴方も私になりましょう?」

 

何時の間にか佳織達はドロドロの液体になり津波のようにヴァーリに押し寄せる。疲労から満足に動けない彼はなすすべなく飲み込まれていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……此処は……何処だ……?)」

 

ヴァーリは気付くと一面の闇の中にいた。全くの無音で自分の声すら聞こえず、悪魔の目でも何も見えない。そして指先の感覚すらない中、彼の意識は再び徐々に沈んで行った。

 

 

『そうよ。そのまま眠りましょ?』

 

「(……このまま眠るのか。それも良いな……)」

 

ヴァーリは頭の中に響いてきた声に従うように意識を手放していく。他にも聞き覚えのあるような声が響いてきたが気にも止まらず、彼の意識の最後の一欠片が闇に包まれ完全に消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃっ!?」

 

……かに思われた次の瞬間、急に辺りが明るくなりヴァーリの意識が鮮明になる。目の前には膝をつく佳織の姿。そしてすぐ傍には彼をお姫様抱っこするオーフィスの姿があった。

 

「ヴァーリ、必要。だから、消させない」

 

「……あらあら、ウロボロスが相手だったら分が悪いわね。此処は帰るわ」

 

佳織は懐からカメラを取り出して今のヴァーリの姿を撮影すると地面に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

「あのままだったらヴァーリ死んでた」

 

「……有難う、助かったよ」

 

先ほどの攻撃のせいで心身共に弱まっていたヴァーリは素直に礼を言うと思わずオーフォスに抱きつく。

 

 

 

 

 

そして、又してもシャッター音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、ついにソーナとサイラオーグのゲーム当日がやって来た。両名とも掲げる夢がほぼ同じであり、だからこそ絶対に相手に勝たなくてはと意気込んでいる。

 

 

 

『さぁ! いよいよゲームです! なお、今回のゲームは短期決戦で決める為『サーヴァントダイスバトル』となっております。此処でルール説明です。

 

1.お互い最初にリーダーを決める『キングダイス』一個と他のメンバーを決める『サーヴァントダイス』を2個振り、駒の選手を戦わせます。なお、『王』の駒があるのは『キングダイス』だけで、『サーヴァントダイス』には出場者無しのハズレの目もあります。 

 

2.同じ駒が二人以上居るときはあらかじめ番号を指定しておいてください。

 

3.リーダーが負けたら他のメンバーは待機室に一回だけ戻れます。二回目以降は自動的にリタイアになりますのでご注意を。なお、既にリタイアしているメンバーやダブりが出た時は『キングダイス』なら振り直し、『サーヴァントダイス』なら出場なしとなっております。

 

4.そして相手の『王』を先に取った方を勝ちとします!

 

 

 

 実力だけでなく運も試されるこのゲーム。果たして勝負の行方は如何に!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……皆、分かっていますね? 私達はサイラオーグのチームに比べ総合的な力量は下です。……ですが、それだけで負けが決定した訳ではありません・私達の夢に為にもこのゲーム、絶対に勝ちますよ!」

 

『はい、会長!』

 

最後のミーティングを終えたソーナは眷属達を激励する。彼女の眷属は全員元人間で、神器持ちや聖剣使いは合わせて三人。悪魔の血を引く者や神器持ちを多用している他の上級悪魔に比べ力不足に思えるだろう。しかし、だからこそソーナ達が勝つ事で下級悪魔を育てる事の意義を示せるのだ。

 

 

 

 

 

 

『それでは両選手、ダイスを振ってください!』

 

いよいよ試合開始。ソーナとサイラオーグは同時にダイスを振る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんという偶然でしょう! 初戦から互いに『騎士』一名のみの戦いです!』

 

偶然にも二人ともリーダー以外はハズレの目を出し。ソーナは『騎士』の一番、サイラオーグは『騎士』の二番を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が一番手か。まぁ、私達を舐めているお偉いさんに特訓の成果を見せつけて来るよ」

 

ゼノヴィアは笑みを浮かべながら転移用の魔方陣の上に乗る。最初のバトルフィールドは障害物のない荒野。サイラオーグ側の『騎士』はゼノヴィアの姿を見るなりランスを構え、ゼノヴィアもデュランダルを下段に構え、刃先は後ろを向いている。

 

 

 

 

 

 

 

『それでは第一試合開始です!』

 

 

試合開始を告げるアナウンスと共にデュランダルから聖なるオーラが迸った……。




さて最初に出てきた幽霊は何者でしょうか? それはその内

なお、ヴァーリは十一巻で必要なので生かしました 十一巻では必要……

ロスとランスと祖母の会話は次回

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六十五話

セラフォルーって三大勢力の会談とかの時はまともな格好をするけどオーデンとかの他の勢力が来る時もコスプレしてるとか分別が有るのか無いのかわからないキャラ




フェイトゼロで呼ばれたのは輝くNEL騎士ではなくエネルだったら心綱でケリィの居場所察知して…てか先生の言うこと聞くわけがねぇ


その日、ロスヴァイセの部屋は重苦しい空気に包まれていた。室内は掃除中の為に少々散らかっており、ベットの上のシーツはシワが寄っている上に色々な物で汚れている。その上、独特の異臭から部屋の主が何をしていたのか丸分かりになっていた。

 

「貴方がランスロットさんですね? ロセからの手紙やガウェインさんから話を聞いてよく知っていますよ。初めまして、ロセの祖母のゲンドゥルと申します」

 

「初めまして。本来ならば私の方からご挨拶に向かうべき所なのですが、わざわざ御足労頂き申し訳ございません」

 

深々と頭を下げるゲンドゥルに対し、ランスロットも深々と頭を下げる。彼の目の前にいる女性はロスヴァイセの祖母であるゲンドゥル。血が繋がっているだけあってロスヴァイセにソックリだ。二人が挨拶を交わし終えた頃、ロスヴァイセがお茶を持ってやって来た。

 

「お、お祖母ちゃん。来週来るんじゃなかったのけ?」

 

どうやら急な来訪に慌てている様だ。しかし無理もない話だ。部屋の様子からして少し前まで情事の真っ最中であったと判断でき、そんな状況で忙しい両親の代わりに自分を育ててくれた祖母がやって来たのだ。思わず方言にもなるだろう。

 

「……それについては私の落ち度ですね。あの手紙は本当なら先週に出す予定でしたが、つい慌てていて出し忘れ、中身を直さぬまま出してしまっていました。……それはそうと、このお茶は何ですか? 全く、いい年してお茶も満足に入れられないとは。家事もロクに出来ていないようですね」

 

ゲンドゥルがジロリと見つめた先にあるのはゴミ箱。中には半額シールのついたお惣菜の空パックが入っており、ロクに自炊をしていない事が伺える。ソウ、ロスヴァイセは料理がど下手だったのだ。

 

「ま、まぁ、落ち着いてください、ゲンドゥルさん」

 

「貴方は黙っていて下さい。むしろ恋人なら駄目な所は駄目と言って下さらないと困ります。この様な有様では結婚した後どうなる事やら……」

 

「……え? お、お祖母ちゃん? わたす達の交際に反対してないのけ?」

 

ロスヴァイセはハッキリ言ってランスロットとの交際には反対されるだろうと思っていた。王の妻を寝取り、友人の弟達を殺したという過去は消せないからである。呆けた顔をする孫娘に対し、ゲンドゥルは嘆かわしそうに溜息を吐く。

 

「……ええ、私は反対しませんよ。彼の過去は知っていますが貴女の手紙に書かれた彼の事やガウェインさん、そしてオーディン様から話を聞き、ランスロットさんなら任せても良いと思いました。……ランスロットさん、不束かな孫娘ですが此れからもどうぞ宜しくお願いしますね」

 

「……此方こそ宜しくお願いします。ロスヴァイセ殿は必ず私が幸せに致しますのでご安心ください」

 

ゲンドゥルとランスロットは互いに深々と頭を下げ合う。色々と取り越し苦労だったのかと安心するロスヴァイセであったが、ゲンドゥルは厳しい目付きのまま彼女に座るように促した。

 

「……さて、話は纏まりましたね。ロセ、貴女は彼と結婚する意思はあるのですね?」

 

「も、勿論ずらっ! 手紙でも書いたとおり、兵藤く……さんが正式に最上級死神の地位に就いて落ち着いたら結婚しようって話に……」

 

「そうですか。……なら、貴女には家事を一から叩き込まないといけませんね。これから毎週指導に来ますよ」

 

「へ? わ、わたすも仕事の都合があって休みの日はゆっくり休んだり、ランスロットさんとデートを……」

 

「ご安心なさい。平日の仕事が終わった頃に来ますので。……返事は?」

 

「は、はい!」

 

どうやら祖母に対して苦手意識があるらしくロスヴァイセは従うしかなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……てな事があったんだって」

 

ソーナとサイラオーグのゲーム当日、用意された観覧室に続く廊下を歩きながら一誠はロスヴァイセから聞かされた愚痴の内容を話す。それを聞いた三人は各々反応を返してきた。

 

「ま、別に良いんじゃないですか。てか、この前見せて貰ったあの人の料理……いや、料理と呼びたくないあの謎の物体。マジありえねーでしたよ」

 

試作品の味見を頼まれた玉藻はこみ上げてくる吐き気を堪えながら肩を竦める。その顔には少々青みが差していた。

 

「でも交際どころか結婚も既に了承済みとか羨ましいにゃ。私なんて挨拶するのに十年以上掛かったのに」

 

《いや、黒歌さんが出会ったのは幼稚園の頃でやんしょ? その頃に挨拶してたらショタコンの変態でやんすよ。あっ! あっしの所も祖父が挨拶がしたいって言ってたでやんすよ》

 

「あ~はいはい。じゃあ、次の日曜に挨拶に行こうか」

 

一誠が背中に張り付いているベンニーアの方を振り向いて返事をすると両側から抱き着いてきている二人が腕に込める力を強める。今一誠は左右から玉藻と黒歌が抱きつき、腕は彼女達の胸谷間に挟まれ、背中にはベンニーアが抱きついているという状況で歩いている。モゲて爆発しろという言葉を送りたくなる状況で観覧室にたどり着くと、他の者達は既にやって来ていた。

 

「グハハハハ! 面白い格好で来たじゃねぇか。まぁ、お前も飲め!」

 

「ガハハハ! 駆けつけ三杯だぞ、一誠」

 

一誠が通されたのはオリュンポスと冥府勢というギリシア神話体系の神々用の部屋。内装もギリシア風になっており、彼らが好む酒や料理が用意されている。そして一誠を出迎えたゼウスとポセイドンは既に酔っ払っていた。

 

「ちょっと、お二方! ご主人様はまだ未成年なんですから飲ませないでくださいませ!」

 

「玉藻の言う通りだよ、ゼウス。ってか、そろそろ試合開始なんだから大人しく座ってな。一誠はこっちに座ると良いよ。アホ二人に絡まれたくいないだろ?」

 

ヘラはゼウスとポセイドンをのした後、ヘラは自分の隣の席を指し示す。一誠が座ると玉藻はその隣に座り、黒歌とベンニーアも近くの席に座る。今はゲームの説明がされており、どうやら今回はフェニックスの涙の支給がないようだ。

 

「ま、妥当な所だろうね。テロで需要が高まっているんだからさ」

 

なお、テロ以外にも不足の原因がある。それはライザーがハーデスに不敬な態度をとった事に対する賠償として一定期間ごとにフェニックスの涙を渡すという約束が取り決められ、その一部はオリュンポスの方にも回っている。

 

その事を知っていながら発言した時のヘラの笑みは黒いものがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、初戦から聖剣デュランダルの使い手と手合わせできるとは運が良い。互いに全力を尽くしましょうぞ。我が名はベルーガ・フルーカス。そして、此奴は我が愛馬アルトブルウなりっ!」

 

サイラオーグの騎士であるベルーガの隣に青白い炎に包まれた馬が現れる。この馬の名前は青ざめた馬(ペイル・ホース)。冥府の最下層コキュートスに住み、高位の死神の乗り物となっている馬だ。気性は荒く気に入らない相手なら主でさえ蹴り殺す程なのだがベルーガは飼い慣らしているのか難なくその背中に乗る。

 

「私達は人馬一体っ! この猛攻、防げるかっ!?」

 

彼の武器であるランスは馬上で使ってこそ真価を発揮する武器。そして神速を頬るアルトブルウの足によりその一撃は必殺と化していた。

 

「取ったっ!」

 

 

 

 

 

 

「ゼノヴィア、避けてっ!」

 

応援に来ていたイリナは観客席から叫ぶも歓声にかき消されてその声は届かない。そしてランスの鋒がゼノヴィアの心臓めがけて迫り、

 

 

 

「なっ!?」

 

 

その姿が消失する。代わりに彼女がいた場所の少し後方の地面が吹き飛んでいた。ベルーガは辺りを見渡し、地面に不審な影を発見して上を見る。するとデュランダルから莫大なオーラを放っているゼノヴィアの姿を発見した。

 

「今のを避けるとは見事っ! だが、これで終わりだっ!」

 

「それはどうかな?」

 

ベルーガの声と共にアルトブルウは嘶き空を翔る。再びランスの鋒がゼノヴィアに迫った時、彼女はデュランダルから放ったオーラを推進力にして再び攻撃を避けた。

 

「別にオーラを攻撃だけに使う事はないと会長に言われてね。漸くモノにしたよ。では、次はコッチの番だっ!」

 

空中で体制を整えたゼノヴィアは再びオーラを推進力にしてベルーガへと迫る。そして無理やり体を捻ると噴射中の聖剣のオーラでベルーガとアルトブルウを薙ぎ払った。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ぐっ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

悪魔や魔獣の弱点である聖剣のオーラをマトモに食らったベルーガ達は地面に叩きつけられ、やがてその体はリタイアの光に包まれ出す。しかし、彼は不安定な体勢で着地した為に体勢を整えられていないゼノヴィアに対し、ランスを投擲した。

 

「ただでは負けんっ!」

 

ランスは悪魔の力で投げられた事によって銃弾を超える速度でゼノヴィアに迫る。観客席の誰もがこの試合は引き分けに終わると思い、ベルーガは消えながらも笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

「……甘いな。会長はちゃんと計算済みだ」

 

しかし、ゼノヴィアの声と同時に空間が歪み、其処から吹き出したデュランダルのオーラがランスを打ち落とした。

 

 

 

 

「……会長に言われて特訓したのさ。普段デュランダルを仕舞っている空間にオーラを残し、好きな時に出し入れできないかってね」

 

「……見事なり」

 

ベルーガは賞賛の言葉と共に消えて行き、ゼノヴィアの勝利が確定した。

 

 

 

 

『サイラオーグ・バアル選手の『騎士』一名リタイア』

 

 

 

 

 

 

 

「……そんなっ!? あのゼノヴィアがテクニックを身に付けているですって!? 此れも主が死んだ事によるバランスの崩壊!?」

 

何度も任務を共にしたイリナは驚愕の声を上げる。どうやらゼノヴィアを修正不可のパワー馬鹿だと思っていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったぁ♪ ソーナちゃんが初戦を制した!」

 

魔王用の観覧室でセラフォルーは喜びながら飛び跳ねる。シスコンの彼女からすれば妹の眷属の勝利が嬉しかった様だ。しかし、同じ観覧室に居た女性はそれを咎める様な視線を送る。

 

「……セラフォルー。貴様は今、魔王としてこの場に居るのであろう? なら、今は私情を捨てよ」

 

「ご、ごめんなさい、リリス様」

 

本来の姿であるリリスの姿で観覧室に居たハンコックはセラフォルーに一喝した後、ワイングラスを傾ける。芳醇な匂いと味が彼女の口に中に広がる。そしてグラスが空になると見るや、メイド服ではなく正装をしたグレイフィアがワインを注いだ。彼女は先程まではメイド服を着ていたのだが、公式の場で私情を挟むな、とハンコックに一喝されて着替えていた。

 

「……さて、次はどうなるかのぅ」

 

ハンコックが見つめる先では画面に次の出場選手が映し出されていた。

 

ソーナ側はリーダーに『女王』である真羅椿姫。残りは『兵士』の一番である匙。そして二個目のダイスはハズレであった。

 

対するサイラオーグ側はリーダーに『戦車』。そして彼の所はダイスが二個とも当たりを引き、『僧侶』と『騎士』を引き当てた。

 

 

 

 

「……少々拙いですね。椿姫、コレを……」

 

控え室で次の試合に対して眉をひそめたソーナは椿姫に何やら渡す。その時の彼女の顔は自己嫌悪に満ちていた……。




この場で報告います 原作に追いついたら出るまで待って、その間は短編やラスボスや魔法使いの更新を頑張りつつ、赤髪と聖女の兄を少し合わせてリメイクしょうかと思います。合わせるといっても割合は9:1で眷属もロボとマッド以外は一新。キャラばかり先立って話に合わせるのを忘れてました


 もしかしたら未定の眷属一名をキャラ募集するかもしれません。その時はよろしくお願いします





あと、サーゼクスの息子じゃなく、別の魔王の息子にしようかと 展開や眷属の一部も思いついたし。オリヒロはメンドいから原作のをってか奴をそのまま単独ヒロに

リアスの眷属から一人引き抜いてプチ改造予定


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次回、ゲーム決着? 次次回は学園祭 ヒロイン達と各個にデートとクラスの出し物


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六十六話

やはりキャスターは貧弱貧弱ぅ 礼装を探索用のままランサー二回目に挑んで焦った焦った 適正レベル+10でなかったら負けてたかも


「……おい、アレ見ろよ」

 

「よく顔を出せたもんだな。冥界の恥さらし、兄の七光りの無能姫のクセに……」

 

貴族の為に用意された観覧室へと続く廊下で彼らは前方から歩いてくる相手に侮蔑の視線を送る。送られた主であるリアスと眷属達は歯を食いしばり、反応しないようにしながら与えられた部屋を目指した。

 

「……何とか間に合ったわね」

 

リアスは用意された部屋の椅子に座るとゲームフィールドに目をやる。今まさに第一試合が開始されようとしていた。先日大怪我をした木場達もアーシアの神器により、今は日常生活を送るには不自由のないレベルまで回復していた。

 

「そういえばソーナに何か頼まれたって言ってたわね、祐斗」

 

「ええ、短剣タイプの聖魔剣を渡しました」

 

二人が話していると試合開始のアナウンスが流れ、彼女らは試合に集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「匙、分かっていますね? 貴方はゼノヴィアと並ぶ切り札的存在。危険が多い『龍王変化』は禁止ですよ」

 

「……でも、副会長」

 

匙も頭では真羅の言う事が理解できる。暴走の危険性がある『龍王変化』は危険と隣り合わせの為、サイラオーグに使うのが望ましいからだ。しかし、今相手をしようとしているのは素の能力で格上の三人。そして自分と真羅はどちらかと言うとテクニックやカウンターを得意とし、決め手に欠けていた。

 

「……会長を勝たせたいのなら黙って言うことを聞いていなさい」

 

しかし、真羅は匙に再び言い聞かせると敵の方を向き長刀を構える。そして試合開始のアナウンスが流れた。

今回は石柱の立ち並ぶゲームフィールド。

 

「……ぬんっ!」

 

そして、アナウンスと共にサイラオーグの『戦車』であり、怪力を特徴とするガンドマ・バラムが石柱を掴むと二人目掛けて投げつけた。二人が避けようとした瞬間、周囲の空間が歪んだ。

 

「か、体がっ!?」

 

「甘かったね。ボクは『騎士』のリーバン・クロセル。断絶したクロセル家の末裔でハーフだから神器も持っている。僕の神器の名は『魔眼の産む枷』。見つめた先に高重力を発生させる能力さ」

 

ライトアーマーを着た金髪の優男は匙達を見つめ続ける。そしてガンドマの投擲した石柱が二人を押しつぶそうと飛来してきた。

 

「ッ! 鏡よっ!」

 

真羅は咄嗟に自らの神器を発動させる。彼女の神器は破壊された時に衝撃を倍返しする『追憶の鏡』。しかし、返っていった衝撃は距離が空いていた為に簡単に避けられ、次の石柱が何本も投擲される。

 

「……匙っ! ラインをっ!」

 

「はい!」

 

真羅の合図と共に匙は後方にラインを伸ばし、重力に抗いながら真羅の体を掴むと一気に収縮させる。ラインに引っ張られる形で退避した二人が先程まで居た場所に無数の石柱が突き刺さった。

 

「……拙いですね。私の神器は単発式。波状攻撃には対処しきれないとバレています。おそらくカウンターを警戒して遠くから倒すつもりでしょう」

 

「……先ずはあの『騎士』を倒しましょう。じゃないと攻めも回避もままなりません」

 

二人して頷くと匙はリーバンの周囲を黒炎の壁で包み込む。アザゼルより貰ったヴリトラ系神器『龍の牢獄』の能力だ。これによって彼の視界を封じる作戦だ。しかし、匙の足元に突如魔方陣が出現した瞬間、黒炎の壁は消え去る。最後の一人である『僧侶』が膝を着きながらも笑っていた。

 

「私の名はミスティータ・サブノック。私の神器は自分の力の殆どを消費する事で相手の力を封じる『異能の棺』。ヴリトラの力は封じさせて貰ったっ!」

 

「くそっ! 神器が使えないっ!」

 

匙は何とか神器を発動させようとするも発動せず、再び二人を高重力が縛り付ける。そして視線の先ではガンドマがありったけの石柱を持ち上げ投擲したその時、真羅は匙の方を向くとフッと微笑んだ。

 

「この後の事は任せましたよ、匙。……ぐっ!」

 

そして彼女は懐に忍ばしていた短剣を自分の脇腹に突き刺す。聖なるオーラを込めた短剣によるダメージで彼女の体はリタイアの光に包まれ始め、匙もルールによって光に包まれ出す。彼女が行った行為に動揺したのかリーバンの神器が解かれた。

 

「副会長、どうして!?」

 

「……貴方とゼノヴィアは私達が勝利する為の希望です。ですから、こんな所でリタイアさせる訳には行きません」

 

彼女が懐に忍ばせていた短剣はもしもの事態に備えてソーナが渡した物。そして、この事態に動揺したガンドマ達は動揺して動きを止める。此れこそが彼女の狙いであった。本来ならばリタイアするという方法もあったが、自ら重傷を負うという行動で動揺を誘う狙いだったのだ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

消えいく体で真羅は三人に向かって突撃していく。その手にはありったけの魔力が込められていた。彼女の体は徐々に薄れ始め、大ダメージを与えられるだけの射程圏内に入れるかも分からない。心無い貴族達はその姿を嘲笑したが、ガンドマ達はその姿を侮らず追撃を行った。

 

「侮っていては敗れる! ボクはヴリトラ使いを倒すからガンドマは奴を倒せ!」

 

「……了解した」

 

リーバンは再び匙を重力で縛ると魔力を打ち出す。それと同時にガンドマは真羅へと石柱を投げつけた。真羅が一度に出現させられる鏡は一つの筈。ならば真羅が自分を守った場合は匙を仕留めれ、匙を守った場合は最後の一撃を阻止できる。

 

 

そして、鏡は匙の前に鏡が現れ真羅に石柱が迫った時、彼女の前にも鏡が出現した。

 

 

「驚きましたか? 敵を騙すにはまず味方からですよ」

 

匙に向かった魔力は鏡で防がれ、ガンドマには石柱の衝撃が跳ね返る。今度は近居るで放たれたので避けられず、顎にモロに食らってしまった。これによって彼の意識は一瞬混濁し真羅への対処が遅れる。そして彼女は消え去る瞬間、魔力をリーバンに、短剣をミスティータへと投擲する。

 

 

 

 

 

「皆、勝利報告を待っていますよ……」

 

 

 

『ソーナ・シトリー選手の『女王』一名リタイア。サイラオーグ・バアル選手の『僧侶』一名リタイア』

 

惜しくもリーバンはリタイアに追い込めなかったが、フェニックスの涙の支給がないこの試合では足枷になる。それも出場選手を選べないこのゲームでは致命的だろう。それを理解していた真羅は満足しながら意識を手放した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

待機室に戻った匙は自責の念から机に拳を叩きつける。他のメンバーが声を掛けれずにいる中、ソーナの冷静な声が響いた。

 

「落ち着きなさい、サジ」

 

「でも、会ちょ……すいません」

 

冷静なソーナに思わず怒鳴りそうになった匙だったが、彼の瞳にソーナの握り込まれて震えている拳と涙が滲んでいる瞳が映る。今回自分が真羅に頼んだ作戦により彼女が誰よりも自責の念に責められながらも必死に耐えていると気付いた匙は椅子に座り込んだ。

 

「(畜生! 俺がもっと強かったらこんな事にはっ!)」

 

この時、彼自身も気付かないほど僅かではあるが彼に宿る神器が脈動しだしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様ぁ~♥ はい、あ~ん♪」

 

玉藻は手頃な大きさに切ったステーキをフォークで刺して一誠の口に運ぶ。すると今度は黒歌がコップを手に持つと一誠の口に近づけた。

 

「ほら、これ美味しいわよ」

 

「……さっきからどうしたの? ……ああ、そういう事」

 

戸惑っていた一誠だったが二人の顔に差した赤みと匂ってくるアルコール臭に気付き自体を把握する。要するに二人ともすっかり酔っ払っているのだ。

 

「グハハハハ! おい、試合はどうでも良いのか? まぁ、俺も酒の肴程度にしか見てねぇがな! おぉ! 良い飲みっぷりだなぁ」

 

《そうでやんすか? じゃあ、もう一杯》

 

ベンニーアは注がれた酒を一気に飲み干すとお代わりを要求する。彼女の後ろには度数の強い酒の瓶がいくつも転がっていた。そう、これは全て彼女が飲み干したのだ。

 

「こらっ! 餓鬼に酒なんか飲ましてるんじゃないよ! ったく、これだからウチの馬鹿共は……って、何してるんだい、玉藻!?」

 

ヘラが呆れたように見回した室内では殆どの者が酔っ払い試合に集中していない。そんな中、玉藻など胸を大きく露出させて一誠を組み伏せていた。

 

「え~? 体が火照ってきたから甘えようかと。良いじゃないですかぁー。私はご主人様の魂を予約しているんです。もちろん私の魂もご主人様の予約済み♪ 先に死んだ方が相手に魂を食べさせ、未来永劫一緒に居ようって契約済みなんですよぉ♥」

 

「ついでに言うと何らかの要因で死にかけた時、もう駄目なら殺すって約束もしてるよ」

 

「……ああ、そうかい」

 

二人のヤンデレっぷりに言葉を失ったヘラではあるが、とりあえず玉藻を引っぺがす。すると何を思ったかベンニーアがブドウをひと房持って一誠に近づき、一粒咥えると口移しで一誠の口に入れる。最後などは舌でねじ込んでいた。

 

《ファーストキス捧げちゃったでやんす》

 

「あれ? まだだっけ?」

 

「……うわぁ、流石にご主人様鬼畜過ぎませんかぁ? キスもまだなのにBまではしてやがるんでしょ?」

 

流石に玉藻も若干引いているようでジト目で一誠を見ている。

 

「ガハハハハ! 別に良いじゃねぇか。それもアリだろ? なんなら女神からも嫁貰うか?」

 

「これ以上増やすようなら殺します。何方かはご想像にお任せしますが♪」

 

「……そ、そうか。それで一誠。このゲームお前は何方が勝つと思う?」

 

「……サイラオーグがやや優勢かな? 地力で負けてるから会長はジリ貧。……ほらね」

 

一誠が指し示した先ではソーナ眷属の『戦車』と『僧侶』二名がリタイアしていた。流石に人間社会で一般人として生きてきた彼女達には少々厳し切ったようだ。

 

「にしてもバアルの所は強いわね。……無能姫が試合無しになるほど無能で良かったにゃ。白音が怪我しかねないもの。ねぇ、私もチュウ~♪」

 

「あ~、はいはい。んっ」

 

黒歌は一誠に抱きつくと胸に頬擦りして甘える。一誠は耳の付け根あたりを軽く撫でるとキスをした。すると黙っていられないのは正妻である玉藻だ。

 

「……むぅ。ご主人様? 私もキスして頂けるのでしょうか? てか、しなかったら怖いですよ」

 

「……そうだね。じゃあ、今晩部屋に来てよ」

 

「みこーん!? いやぁん♥ だ・い・た・ん・なんだからぁ」

 

「まぁ、今のままだったら会長の負けだね。相手が悪い目を引いて自分が良い目を引けたら分からないけど、そんな幸運は然う然う……」

 

 

 

 

 

 

 

「なんと! サイラオーグ選手痛恨の不運! 出場選手が『王』一人です。それに対し、ソーナ選手は『王』と『騎士』の一番と『兵士』の一番。残った主戦力そろい踏みです!」

 

「……あったよ」

 

 




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六十七話

最近エロが多すぎと指摘を受け 自粛しようと思います エロを書きたかったんだから仕方なかったんやぁぁぁ

その代わり、番外編で2番目に票が入った禍の団ルートをR18で書く予定 黒歌と玉藻メイン? 多分二~三話で終了


「……あの小僧も運が無いのぅ。まぁ、それも運命か」

 

観覧室で最終試合の組み合わせを聞いていたハンコックはワインを煽りながら呟く。その口調は、どうでも良い、といった感じだ。

 

サイラオーグは貴族の中で最も高い地位を持ち、滅びの魔力という強力な特性を持つバアル家に生まれながら、全く魔力を持たずに生まれたせいで母親と共に辺境で貧しい生活を強いられた。そして苛められながらも体を鍛え強くなったら母親が未だ治療方法の判明していない奇病を発症。時期当主の座を腹違いの弟から奪い取った今でも人質になる危険性からシトリー領の病院で眠っている。

 

禍福はあざなえる縄の如し、と言うが不幸の割合が多すぎるのだ。

 

「……この世に生まれた者は全て、決められた道を進むしかない。運命という名の道を変えられるのは一部の力有る者のみ。さて、貴様は何方じゃろうなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この試合、絶対に俺は負けん。持ち合わせてた力と志に相応しい居場所を得られる世を作る為、俺は魔王になる。その為に踏み越えさせて貰うぞ、ソーナ!」

 

「それはこちらのセリフです。全ての者に上を目指す為のチャンスを与えられる世の中を作る為、私は魔王になります.ですから貴方は踏み台になってください、サイラオーグ」

 

試合前の舌戦は互角。互いに似通った夢を持つために譲れない二人はジッと睨み合う。そして試合開始のアナウンスが今流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サジ! ゼノヴィア!」

 

「「了解っ!」」

 

ソーナの掛け声と共に二人はサイラオーグに向かい、サイラオーグが闘気を全身に漲らせ待ち構える。その闘気はまさに鉄壁の鎧。生半可な攻撃では通用しない上に唯でさえ高い彼の攻撃力を底上げする。

 

「来いっ!……ぬっ!? ソーナの仕業か……」

 

『なんと! フィールド全体を濃い霧が覆っています。直ぐに高機能カメラをご用意いたしますので少々お待ちください』

 

フィールドを包み込んだ濃霧はサイラオーグの視界を封じる。しかし、彼の耳は後方から向かってくる足音を捉え、霧に中に見える薄らとした人影を目が捉える。サイラオーグは人影目掛けて拳を振り抜いた。まるでジェット機のエンジン音のような轟音と共に空気が震え衝撃で地が削れる。そして人影は霧散し辺りに水が飛び散った。そう、彼が殴った人影はソーナが作り出した水の人形。何時の間にかサイラオーグの周囲を無数の人影が囲んでいた。

 

「……少々多いな。だが、全て倒すだけだ!」

 

サイラオーグは片っ端から人影に殴り掛かり、辺りに水がぶちまけられる。そして半分ほど破壊した時、背後から聖剣のオーラが飛来してきた。

 

「ぬんっ!」

 

サイラオーグは闘気を集中させてオーラを防ぐと飛んできた方向を見据える。濃霧の中にうっすらと剣を持ったシルエットが見え、一気に接近しようとしたその瞬間、足元が大きく滑る。何時の間にか破壊された人形の水が集まり、彼の足場は大きくぬかるんでいた。

 

「しまっ……」

 

先程から水の人形を破壊させたのは足場に水をぶちまける作戦だったと気付いた瞬間、デュランダルを構えたゼノヴィアが飛びかかる。刀身からは何時もの様にオーラが立ち上て取らず、その代わり、刃の部分に高密度のオーラが集中していた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「くっ! ……俺の闘気がっ!?」

 

とっさに闘気を纏った腕で防ごうとした時、サイラオーグの体から闘気が急速に失われる。何時の間にか地を這うようにして飛ばされた無数のラインが彼の足に付き、闘気を流出させていた。デュランダルの刃は闘気の薄くなった腕に食い込み、其の儘切り落とすかに思えたが半場で刃が止まった。

 

「くっ! 硬いな……がぁぁぁっ!」

 

「っ!」

 

ゼノヴィアは咄嗟にその場を飛び退こうとしたが剣が抜けず、そのまま殴り飛ばされる。しかし、殴られる瞬間に後ろに飛んでいた為に一撃死は防げたが、デュランダルはサイラオーグの腕に食い込んだままだ。匙は彼女の悲鳴に思わず叫んでしまいそうになるのをジッと堪える。もし叫んでしまえば声で場所を悟られるからだ。サイラオーグは服を破ると剣が刺さった右手にキツく巻き、デュランダルを引き抜く。血が吹き出るもキツく縛っている為にそれ程の量はない。

 

「コレは此処で破棄するっ! はぁっ!!」

 

サイラオーグは地面にデュランダルを置き拳を叩きつける。轟音と共に刀身にヒビが入り、連撃によって広がっていく。そしてあと一撃で砕けるまでヒビが広がった時、伸びてきたラインによって最後の一撃は避けられた。

 

「会長! デュランダルがヤバイっす。あの作戦をっ!」

 

匙は通信機に向かって叫ぶとソーナの誘導でゼノヴィアに接近してデュランダルを渡す。壊れかけたデュランダルを見た彼女は眉を顰めた。

 

「……あと二回オーラを放って一回切りつけたら壊れるね。まぁ、やるしかないか」

 

 

 

「見つけたぞっ!」

 

その時、直ぐ其処までサイラオーグが接近していた。ようやく二人を見つけた彼は一気に仕留めようと猛スピードで走り寄る。その時、ソーナからの通信が入った。

 

『今です!』

 

「うっすっ! 龍王変化(ヴリトラ・プロモーション)!!」

 

その合図と共に匙はヴリトラへと姿を変え、サイラオーグに接近する。そしてその後ろでゼノヴィアはデュランダルで突きの構えを取り、突きと共にオーラを放つ。オーラは匙を追い越すとサイラオーグへと迫った。

 

「はぁっ!」

 

それを正面から向かえようとしたサイラオーグであったが、オーラは彼を通り越し彼方へと向かっていく。そして彼がそれに気を取られた瞬間匙が直ぐ其処まで近づき黒炎を放った。

 

「ぐ! 囮かっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、本命さ。ぶっつけ本番で通用してよかったよ」

 

「なっ!? がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

サイラオーグが黒炎を振り払ったその瞬間、背後より先ほど放たれたオーラが直撃する。離れた場所のオーラを操作したゼノヴィアはサイラオーグの背後からオーラを当てたのだ。予期せぬ方向からの攻撃に吹き飛ばされそうになった時、正面からも匙が襲いかかる。全速力全体重を乗せた体当たりが直撃し、前後からの攻撃によって逃げ場を失った衝撃がサイラオーグの体を襲う。しかし、彼は吐血しながらも匙の体を掴み取った。

 

「ぬぅんっ!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

地面に強く叩きつけられ、拳をまともに食らった匙は悲鳴を上げ元の姿に戻る。ダメージによって威力が下がっていたのかリタイアはしなかったがまともに動ける状態ではない。そしてサイラオーグはトドメを刺そうと足を振り上げる。しかし、ゼノヴィアが先ほど同様に刃にだけオーラを集中させて斬りかかった。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

「そう何度も……がぼっ!?」

 

サイラオーグが迎え撃とうとしたその時、フィールドを覆っていた濃霧が晴れる。そして霧を構成していた水滴は一つの水球となってサイラオーグの顔を覆った。突然呼吸を奪われた彼は対処しきれずゼノヴィアの剣をまともに受ける。デュランダルはヒビが広がり欠け始め、サイラオーグの体は左肩から右脇腹まで斜めに深く斬り付けられた。

 

「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

聖剣は悪魔にとって弱点であり、その一撃をまともに食らったサイラオーグは叫び声と共に膝をつく。しかし、次の瞬間、彼はゼノヴィアを殴り飛ばした。既に目は虚ろで今にもリタイアしそうであるに関わらず、意地だけで意識を保ってリタイアを防いでいるのだ。

 

 

「か、会長……後は任したよ……」

 

ゼノヴィアはデュランダルからオーラを放ちながら消えていく。デュランダルが粉々に砕け、ゼノヴィアが消え去った今でもオーラは消えずソーナが出現させた水に吸い込まれていく。

 

「……木場君の聖魔剣が存在するになら、聖剣のオーラと魔力を合わせる事も可能と思い編み出した技です。『聖魔水』といった所でしょうか? さぁ、お喰らいなさい!」

 

ソーナはデュランダルのオーラと混ざり合った水の魔力をサイラオーグへと放ち、サイラオーグはそれに向かって拳を振るった。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

既に理性など吹き飛んだ状態にも関わらず彼の拳は魔力の中心を捉える。しかし、彼の拳が触れた瞬間、魔力は形を大きく崩し彼の体を包み込んだ。ソーナは疲労からか膝をつき息を切らす。フィールド全体を覆う霧や水の人形、そして先ほどの技の反動で魔力を殆ど使い果たしもう戦える状態ではない。

 

 

 

 

そして、サイラオーグはボロボロになりながらも立ち上がって来た。彼は匙を目にくれずソーナへと近付いていく。

 

 

 

「くそっ! 動け、動けよ俺の体!」

 

必死に動こうとする匙であったがダメージのせいで指先すら動かせず、ソーナに近づいていくサイラオーグを見ているしかできない。

 

 

 

 

 

 

しかし、

 

 

「動けって言ってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

その叫びが響いた瞬間、彼の神器の脈動が激しさを増して行き、彼の体を光が包む。次の瞬間、彼の体は全身を覆う鎧を纏っていた。放たれるその力に無意識下で反応したサイラオーグは匙に振り返り、匙はフラつきながらも立ち上がる。

 

「これが俺の禁手『罪科の獄炎龍王(マーレボルジェ・ヴリトラ・プロモーション)』だ!!」

 

「グォォォォォォォォォォォッ!!」

 

二人は正面から殴り合う。匙の鎧は黒炎や鎧から生えた触手でサイラオーグの力を奪い、サイラオーグの拳は彼の鎧の中の限界を迎えた体にさらなるダメージを与える。

 

 

 

 

 

そして、サイラオーグの拳が顔面に直撃した時、ついに匙の体は倒れ、鎧は解除されてしまった。至ったばかりの禁手に加え既に彼の体は限界を向かえており、もはや戦える状態ではなかったのだ。

 

「会長……皆……ごめん……」

 

匙は涙を流しながら消えていく。しかし、匙を倒したにも関わらずサイラオーグは動こうとしない。いや、動けなかった。彼もまた限界をとうに超え、それでも立ったまま気絶していたのだ。

 

 

 

 

 

『なななな、なんと! 当初の予測を超えソーナ・シトリー選手の大勝利です! 皆様! 両選手に惜しみない拍手をお願いします!!』

 

 

会場は拍手の嵐に覆われ、ハンコックや一誠さえも軽く拍手を送る。こうして若手同士の最後のゲームは大衆の予測を裏切り、ソーナの勝利で幕を閉じた。




次回、『赤龍帝と大人げない神々』 学園祭です 大集合です

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六十八話

パッションリップ 3ターンキル まぁ、推定レベル+15だから

カルナさん一戦目は一夫多妻でワンターンキル(笑)


「……邪魔」

 

「……んんっ。ご主人様ぁ……」

 

朝早くから鳴り響く目覚ましの音で目覚めた一誠は不機嫌そうな目で、自分の上に乗っかった玉藻を見つめる。昨日は一人で寝たはずなのに自分の上に乗り、足を絡ませ抱きついていた。何時もなら抱き寄せたり撫でたり襲ったりする所だが、今日の……いや、最近の彼はそうしなかった。

 

振り解こうにもガッシリしがみつかれていて外せないと見るやベットの端ににじり寄り、そのまま正面から落下する。

 

「みぎゃっ!? あ痛たたたた……」

 

仰向けになっている一誠に上から抱きついていた為に必然的に彼女が下になり、玉藻は衝撃で目を覚ました。目を覚ましてみると床で寝ており上には一誠の姿。狐の尻尾が自然とフリフリと揺れる。表情は緩み、声は甘え切ったものとなった。

 

「あぁん、もぅ♪ 朝から大胆ですねぇ。よっしぁぁぁっ! バッチ来いですよ、ご主人様ぁ♥」

 

「邪魔だから離して。学園祭の準備があるから早めに行くんだ。……誰かさんのせいでオリュンポスの神々が来られるからプレッシャーが凄いんだ」

 

しかし、一誠は表情を変えず不機嫌そうなままで冷たい声を出す。思わず離した玉藻の顔は暗くなり、耳と尻尾は垂れ下がった。

 

「……まだ怒っていらっしゃるのですね」

 

 

 

 

 

 

 

何故一誠が玉藻に此処まで冷たいのか。それは魔王主催のパーティにまで遡る。ソーナにクラスの出し物である女装メイド&男装執事喫茶を中止に、せめて写真撮影を辞めさせて欲しいと頼んだ時、秘密にしていたのに近くに玉藻が居るのを失念していたのだ。何時も傍に置いている為の弊害だろう。傍に居るのが当たり前な為に彼女の耳を気にするのをを忘れていたのだ

 

「……頼むから秘密にしておいて。特にギリシア勢。あの人達ノリが良いから知ったら絶対来る」

 

「わっかりましたぁっ! この玉藻、必ずお約束をお守りいたします!」

 

しかし約束したにも関わらずソーナ達のゲームの日に酒に酔った玉藻はうっかり口を滑らせ、ギリシア勢の知る事となった。彼らなら冥界ルートで学園祭に入る為の招待状は手に入るし、何より来る気マンマンだった。

 

約束を破った事に怒った一誠は玉藻とは最低限しか口をきかず、そのまま数日が過ぎていた。

 

 

 

 

 

 

「……まさか玉藻に裏切られるなんてね」

 

一誠は両親よりも玉藻を信用しており、その為に裏切られた事によるショックが大きかった。それからは部屋に入る事すら許さず、寂しくなって思わず忍び込んだ玉藻であったが冷たく対応される。その瞳には次第に涙が溜まってきた。

 

「……申し訳ございませんでした。反省…して…いますから…嫌わないで下さいませ…うぅ……」

 

「……本当に反省している?」

 

「はい。貴方様と過ごしてきた年月に誓い、心より反省しております。ですから、この度ばかりはどうかご容赦を……」

 

玉藻は何時になく真面目な顔つきで深々と頭を下げる。その体は不安からか微かに震えていた。

 

「……今回だけだよ? ま、俺もちょっと冷たくしすぎたし……御免ね」

 

「ご主人様ぁ!」

 

玉藻は顔をパァッっと明るくさせ、一誠の胸に飛び込む.一誠もそれを受け止め、数日ぶりに彼女の頭をそっと撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの~、結局お約束通りにお部屋で可愛がって頂けませんでしたし、今からお約束を果たして頂いても? キャッ✩ あいたぁっ!?」

 

「調子に乗らない」

 

「……は~い」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、学園祭前夜の事。兵藤家の食卓で激戦が繰り広げれようとしていた。戦いのキッカケは三人が一誠と学園祭でデートしたいと言った事から始まる。

 

 

 

「あ、無理。結構忙しいから自由時間少ないんだ。多分二人がギリギリかな? って訳で誰か一人が出し物に来て、残りは代わりにデートね」

 

その瞬間、玉藻と黒歌の間で火花が散る。どうやら二人は一誠のメイド姿が見たいようだ。

 

「……あんた、今回の事で怒らしたでしょ? 私に譲ったらどうかにゃ?」

 

「あらまぁ、何ぬかしたがるんですか? ご主人様の女装なんて一生に一度見れるかどうかですよ? これを逃すわけねぇじゃありませんか」

 

《あ、あっしはデートが良いでやんす。一緒に学園祭を見て回りやしょう。時間が来たらあっしがお迎えに上がりやすね》

 

そんな中、ベンニーアは直ぐ様デートを選ぶ。二人が驚く中、一誠は彼女を撫でていた。

 

「いやぁ、君は良い子だね。うん。女装を見ようとする二人よりもずっと良い子だよ」

 

《いえいえ、妻になる身でやんすから夫を大切にしやせんと……ねぇ》

 

一誠にバレないように向けられた笑みを見て二人は悟った。この死神娘やりやがった、と。

 

「(し、しまったにゃ。この場を利用して好感度を上げるなんてっ!)」

 

「(しかも、迎えに行くことで女装を合法的に見る気ですよ、この娘。くそっ、やりやがる)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……二人共一本取られたわね」

 

一誠の母はその様子を呆れたように見ながらお茶を啜った。

 

 

 

 

 

そして、学園祭当日、学園に入る招待客の中に異様な集団がいた。

 

「グハハハ! 中々良い所じゃねぇか」

 

「ガハハハハ! その通りだな!」

 

「お二人共、落ち着いて下さい」

 

大声で笑うのはギリシア神話の主神であるゼウスと兄弟であり海の神のポセイドン。二人を窘めたのは赤い髪を持ち日焼けした爽やか系の青年。覗いた白い歯がキラルと光っている。

 

 

そして、この三人よりも注目を集めているのは後ろを歩く美女達だ。

 

「およしな、アポロン。このアホ共に何言っても無駄だよ」

 

「そうですわ。全く、これだから男は野蛮なのです……」

 

「あらあら、良いじゃない。うちの人は忙しくて来れなかったから、私はその分楽しみたいわ。貴方達も賑やかなの好きよね?」

 

上品な婦人と言った感じのヘラにペルセポネー。活発そうな見た目と裏腹に気品を持つ言葉使いのアルテミス。男嫌いの彼女にとって自分に集中する男の視線が不快なようだ。そしてその後ろには彼女たちよりも上の美貌を持つ二人組が歩いていた。

 

 

 

 

 

 

そんな中、彼らに気付かれない様にしながら敵意を送る一人の女性。彼らの思惑で人生を狂わされた悲劇の王女メディアである。

 

「……あらかじめ坊やから聞いておいて良かったわ。アイツ等とは時間をずらして顔を出しましょう。……アーシアちゃんの執事姿~♥」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お帰りなさいませ、お嬢様」

 

一誠はぎこちない笑顔でお客を出迎える。クラス内では顔が良い方の彼は客寄せとして入り口近くに立たされていた。横には執事姿のアーシアがおり、緊張しながら接客している。

 

 

 

 

 

 

「ごしゅ……一誠さんのメイド姿、マジ天使! ぶはぁぁぁっ!」

 

「た、大変です! お客様が鼻血をっ!?」

 

鼻から色々な汁を撒き散らした玉藻は意識を失いながらも最高に良い笑顔で親指を立てていた。

 

「……とりあえず捨てておこう。焼却炉で良いよね」

 

「駄目ですからね!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、落ち着きました。あ、紅茶のセットと……メイドさんのスペシャルサービスチャレンジをっ!」

 

「……帰ったらお仕置きね」

 

「お仕置き? きゃっ✩ 調教プレイですね!? って痛ぁっ!」

 

漸く落ち着いた玉藻は鼻にティッシュを詰めながらメニューを注文する。そして迷いなく頼んだのはゲームに勝ったら指名したメイド(当然男)にお菓子を食べさせて貰えるというもの。最初は生徒会に止められたが桐生が上手いことして通した企画だ。

 

一誠は小声で脅しながらも営業スマイルを浮かべサイコロを取り出す。

 

「半? 丁?」

 

「何故にサイコロ賭博!? 半!」

 

「……ちっ。半でございます、お嬢様。では、お口をお開けください」

 

「あ~ん♥ えへへ、デートを蹴っただけの価値はありましたねぇ」

 

一応仕事なので素直に玉藻の口にお菓子を運んでいた時、離れた場所のテーブルで騒ぎが起こる。どうやら質の悪い男性客がアーシアに絡んでいるようだ。

 

「や、やめてください!」

 

「良いじゃん、こっちは客だぜ? なぁ、店抜け出して隅でもっとサービスを……」

 

辺りは騒然となり、玉藻は半目で男を睨む。

 

「……不快ですねぇ。殺しますか?」

 

「いや、後で呪うだけで良いよ。今は、お仕置き♥メイド部隊に任せよう」

 

一誠がそう言った時、怪物が現れた。

 

「コラッ! お痛しちゃダメだニョ」

 

「ちょっと顔貸してくれるかのぅ?」

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁ!死ぬかぁ! 生きるかぁ! ネズミのように逃げおおせるかぁ! 好きなのを選べぃ!」

 

現れたのはどれも二メートルを超える大男達。筋骨隆々でメイド服はピッチピチ。胸板が分厚すぎて胸の谷間が覗いているのが嬉しくない。彼らこそ、このような客対策に選ばれた、お仕置き♥メイド部隊である。

 

 

 

はっきり言って目が腐る。

 

 

男は声も出ないまま教室の外に連れて行かれた……。

 

 




性描写は抑えるがある程度のエロは書くかも

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追いついた時に書く次回作に関するキャラ募集を活動報告でやっています



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六十九話

今回は神様たちの出番なしです


「これより緊急会議を執り行います」

 

もうすぐ学園祭という大変忙しい最中、眷属を生徒会室に集めたソーナは疲れきった顔で告げ、眷属達はただならぬ様子に固唾を呑んで言葉を待った。

 

「今度の学園祭ですが、オリュンポスの神々が一般客として来られます。その時、もし不敬な行いをする者がいたら学園の管理責任が問われかねません。なので、今から対策を考えますよ」

 

『はい!』

 

サイラオーグという遥かに格上の相手との激戦を通して彼女達の絆は一層強まり、次々に対策案が上げれていく。そんな中、目の下にクマを作ったゼノヴィアがふと呟いた。

 

 

「……後ろから警護して、怪しい奴は片っ端から気絶させれば良いのでは?」

 

『それだ!』

 

学園祭の準備や学校設立の援助を申し出てきた者達への対応、そして今回の件で心労のピークを迎えていた彼女達は冷静な判断力を失い物騒な意見を採用してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

後日、それを聞かされたセラフォルーから、

 

「ソーナちゃんが壊れたっ!? いくら何でも物騒すぎるよ!」

 

と諭され、よりにもよって彼女に諭された事にショックを受けつつも冷静さを取り戻したソーナは実行犯のみ気絶させる、という比較的平和な方向に修正したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はぁ、マッサージでお願いします♥」

 

「はいはい、全く凝っていませんがお揉みします、お嬢様」

 

「あ~ん♪ 玉藻、至福の一時ですぅ。貴方に触れて頂いているだけで私は幸せなんですよ」

 

目に入れるだけでも深刻なダメージを受けるほど凶悪な『お仕置き♥メイド部隊』が質の悪い客を追い返してから数十分。玉藻は未だに一誠を傍に置いて注文を続けていた。メイド限定で肩もみのサービスが有り、メニューを全て平らげた彼女は高めの料金を払って様々なサービスを堪能していた。

 

 

 

 

「店長! 他のお客さん達が一斉にブラックコーヒーを注文して製造が追いつきません!」

 

「……しまったわね。制限時間をつけるべきだったかしら」

 

あまりの忙しさに店長である桐生含めスタッフ達はてんてこ舞いになる。それでも注文せずに居座っている訳でもないので文句も言えずに困っていた。

 

 

その後、一誠が交代する時間まで玉藻は居座り、合計八万五千円という大金を払って去っていった。なお、冷たくしていたお詫びとして学園祭での支払いは一誠が行う事になっており、いくらなんでも使いすぎと後でお仕置きされる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

《やっとデートの時間が来たでやんすね》

 

「待たせて御免ね。お詫びに何でも奢ってあげるよ」

 

約束通りに一誠と学園祭を回る事となったベンニーアは一誠の腕に抱きつき、頬を緩めながら鼻歌を歌っている。冥府育ちの半死神とはいえやはり年頃の少女。好きな相手とのデートは嬉しいようだ。二人はまずお腹を満たそうとクレープ屋を目指す。

 

クレープ屋をやっているのは菓子作りのコンテストで何度も賞を貰った調理部だ。一誠が期待して向かった時、異臭が漂ってきた。

 

《良い匂いでやんすね~♪》

 

「正気!?」

 

正直言って今すぐUターンしたい一誠であったが、嬉しそうなベンニーアの顔を見たら離れようとは言えず、恐怖心を抱きながらクレープ屋に近づいていく。

 

なお、この時の恐怖はメディアに初めて会った時に”オバさん”と言ってしまった時や、玉藻にエロ本を見つけられてしまい、笑顔でにじり寄られた時に匹敵する恐怖だった。そして、メニューを見て更に恐怖する事となる。

 

 

「……え~と、『納豆バニラ』に『くさやカスタード』。『はちみつオデン』に『絶対安全危険性皆無の謎の物体』……何これ?」

 

《じゃあ、納豆バニラをお願いしやす!》

 

「マジで!? じゃあ、俺はチョコバナナで……」

 

一誠は、一応あったマトモなメニューを選んだ。

 

「はい! 納豆バニラとチョコバナナ……っぽいナニカですね!」

 

「っぽい何か!? ……あっ」

 

確かにメニューをよく見ると細かい文字で”っぽい何か”と、うっすらと書いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、以外にいけるや。食感や味は絶対にチョコバナナじゃないけど」

 

《じゃあ、コッチも食べてみやすか? あっしもそっちを食べてみたいでやんすよ》

 

ベンニーアは食べかけのクレープを差し出し、一誠が差し出し返すと食べかけの部分に迷いなく齧り付く。実に堂々とした関節キスである。どうやら此方もお気に召したようで、凄く幸せそうだ。

 

《幸せでやんす~♪》

 

「甘いの好きなの?」

 

 

 

 

 

 

 

《ええ、それも有りやすが……貴方と一緒に食べるのが幸せなんでやんすよ》

 

ベンニーアは年頃に見合った少女らしい笑みを浮かべ、一誠も釣られて微笑んでしまった。

 

「……今度二人でケーキバイキングに行こうか?」

 

《是非っ!》

 

 

 

 

 

 

そして数日後、一誠はそのケーキバイキングの店員一同に土下座されて時間内に帰る事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お化け屋敷? こんなの入りたいの?」

 

次にやって来たのは体育館を丸ごと使った特殊メイク研究会と映像技術部合同のお化け屋敷。しかし、二人は霊能力者と死神。少しも楽しめそうにないのだが、ベンニーアはどうしても入りたいようだ。

 

《ほら、あっしはお二人に押されてタグに影薄が付きそうでやんすから、暗がりで抱きついてアピールしようかと。……好きな所触っても良いでやんすよ?》

 

「……お願いだから君まで痴女にならないで。アレはあれで良いけど、そればっかじゃキツイから」

 

二人は何だかんだ言いつつも入っていく。そして、二人を……いや、ベンニーアを卑猥な眼差しで見ている者達が居た。その中の一人は『お仕置き♥メイド部隊』にお仕置きされた男であり、その時の記憶が抜け落ち、頭頂部の髪の毛も抜け落ちている。

 

 

「おい、見たか? 外人の可愛い子だぜ。これは国際交流しておくべきだと思わねぇか?」

 

「おいおい、どんな交流だよ。そうだな、暗がりで口塞いでよ」

 

「ちゃんと俺にも回せよ?」

 

先程から聞くに耐えない会話を続けているのは近隣の不良校の生徒達。この学園に通っている知り合いから招待状を脅し取り、好みの相手を物色しようしていたのだ。当然、生徒会は既に尾行しており、体育館の中で匙がダンボールを被って待機していた。

 

『此方ブラックフレイム。奴らはどうですか? オーバー』

 

『此方パワー・イズ・パワー。体育館に入ったぞ。……だが、よりにもよって兵藤の連れを獲物に選んだみたいだ。兵藤が口パクで手を出すなと伝えてきた。 オーバー』

 

匙とゼノヴィアはトランシーバーで連絡を取り合う。最終的に報告を受けたソーナが下した決定は手出し無用。彼らの行いを噂と招待状を奪われた生徒から聞いていた彼女は彼らに容赦する気がなかった。

 

 

 

 

と言うよりも、一誠が下すお仕置きに巻き込まれたくなかったのだ。賢明な判断である。

 

 

 

 

 

《あぁん! 怖いでやんすぅ♪》

 

ベンニーアはちっとも怖がっていない口調で一誠に抱きつき、頬をすり寄せる。ついには背中に飛び乗ってオンブされるまでになった。

 

《此処はあっしの特等席でやんす。あ、乗るのは好きでやんすが、ベットの中では乗られる方が良いでやんすよ? 昨日も上から体を密着されて唇を奪われて……イヤン》

 

「……棒読みでイヤンって言ってもなぁ。それにしても君の足ってスベスベだね」

 

一誠は背負っている彼女の足を撫でる。ベンニーアはくすぐったいのか身をよじらせ、一誠の背中と彼女の胸が擦れた。

 

 

 

 

 

 

二人がイチャついている頃、二人を追っていた不良達は迷っていた。墓場を模した内装と暗幕によって薄暗く不気味な内部を歩いているのだが、先程まで見えていた二人の姿が全く見えない。

 

「おい、どうなってんだよ? たかが体育館だろ?」

 

「知らねぇよ! ったく、こうなったら絶対にあの女を好きにしなきゃ気がすまねぇ! あん? 何してんだよ?」

 

「……なぁ、今なにか聞こえなかったか? フクロウの声とか……」

 

「演出だろ? にしても腹減ったなぁ」

 

彼らは好き勝手言いながら歩き回り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて三時間が経過した。この時になると流石に何かおかしいと気付き、慌て出す。

 

「おい、どうなってんだ!? 同じ所を回っていたとしても変だろ!? うわっ!?」

 

「へ、蛇!? なんでこんな所に!?」

 

「お、おい! ……コレ」

 

一人が指差した先には三人の名前が彫られた墓石。すっかり苔むしている墓石の周囲を青い火が舞っていた・次第に生臭い風が吹き、声が聞こえてくる。

 

『クスクスクス』

 

『アハハハハハ』

 

『ホーッホッホッホッホッホ!』

 

『キシシシシシシシシ!』

 

 

 

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

 

三人は一目散に逃げ出し、墓場を走り回る。やがて墓場を抜けるとなぜか山の中になっていたが、今の彼らに変だと思う冷静さはなく、そのまま山の中を駆ける。後ろからは木を揺すりながら何かが追ってきており、何処までも、何処までも彼らは逃げ出す。

 

 

 

 

「ゆ、夢!?」

 

 

そして体感時間で一ヶ月が過ぎた頃、彼らは漸く日の下に出る事ができた。すると其処は学園祭の真っ最中の駒王学園。ふとガラスに映る自分の顔を見た時、目に入ってきたのは髪の毛がすっかり白く成り果て、やつれ切った自分の顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふふ。今まで散々好き放題してきたみたいだし、この位は仕方ないよね? ま、数十年早く歳をとっただけだし、気にしない気にしない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~ん♪ アーシアちゃん可愛いわぁ♥ 紅茶とクッキーを持って来てくれるかしら?」

 

その頃、オリュンポスの神を避けて喫茶店に入ったメディアは執事服のアーシアに夢中になっていた。

 

 

 




次回、自重しない神々の活躍です 後ついでに黒歌メイン


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七十話

どうも番外編を入れるとお気に入りが下がる傾向にあるようで・゜・(ノД`)・゜・

キャスタールートの時の壁装飾2の赤紐ってなんでしょうか?

新作 プロローグだけ投稿しました


ccc あのサーヴァント復活前のハイハイはメンドくさい いやマジで 二週目あたりからは苦痛


学園祭も午後に移りますます熱気を帯びてくる。それに合わせて生徒会メンバーの疲労が高まる中、玉藻とベンニーアは木陰で割高のフランクフルトを食べていた。

 

「にしてもありえね~。これ一本で二百五十円ですよ? 良妻としては断固抗議したい所です」

 

《いやいや、色仕掛けで割引させたじゃありやせんか》

 

ベンニーアは呆れた様な目をしながらもフランクフルトに齧り付いた。

 

「いえいえ、何をおっしゃいますか。私が色気を振りまくのはご主人様だけ。アレは鉄板を覗き込んだら偶然胸元が見えただけの事です。それが何か?」

 

玉藻が今着ているのは桃色をした現代の衣装。彼女が動く度に胸が激しく揺れ、周りの男たちの視線が釘付けになる。向こうの方では赤い髪をした男性が何故かメイド服を着た銀髪の女性に耳を引っ張られていた。

 

《むぅ、羨ましいでやんすねぇ》

 

ベンニーアは自分の慎ましい胸を触りながら呟く。黒歌といい玉藻といい、大きさも形も一流の二人と違い彼女は並だ。

 

「まぁまぁ、あの方は大きさには拘りませんから。……それよりもチャラい老人三人が救急車で運ばれていきましたけど何だったんでしょうねぇ?」

 

《あ、あれはあっしを守る為に一誠様がお仕置きした奴らでやんすよ》

 

「いいなぁ。私って強いから其処まで守って頂いたこと無いんですよ。まぁ、危険そのものから遠ざけたりされますけど♪」

 

チャラい老人の正体は近所の不良達。今まで多くの問題行動を行っており、ベンニーアに目をつけて襲おうとしていた為に一誠によって罰を受け急速に老化させられたのだ。

 

その一誠は再び喫茶店の方に行っており、メイド姿の一誠や彼とのデートを堪能した二人は上機嫌だった。

 

《今日は楽しかったでやんすよ。其方はどうでやした?》

 

「それはもう! メイド姿のご主人様、激萌え~! あぁん、もう! 今夜はお嬢様へのメイドによるお仕置きプレイですかねぇ? でもぉ、たまには私がSになってワンちゃんプレイなんて……きゃっ✩」

 

《……ツッコミ役、カムバーック》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくしっ! うぅ、風邪ひいたかな?」

 

漸く二回目のシフトが終わった一誠は黒歌との待ち合わせの場所を目指す。彼が接客をしている時にやってきたのはペルセポネーだけだったが、

 

 

「ぷっ……ご、ごめんなさ……あ~っはっはっはっはっはっはっはっ! な、何その格好っ!?」

 

っと大いに笑われ、取り敢えずバラした玉藻へのお仕置き案を考えながら目的地に着くと人集が出来ており、その中心に黒歌の姿があった。

 

 

 

「ねぇ、俺達と回らない? 奢るよ?」

 

「いやいや、僕と一緒に回りましょう」

 

等とナンパ男達が押し寄せている。それだけ今の彼女は魅力的だった。持ち合わせたプロポーションと美貌に加え、今日は着物ではなく現代衣装だ。ホットパンツを履いているせいで大きく露出した生足が眩しく、上はTシャツにノースリーブという大胆なもの。体長にあった物を着ているせいか胸の辺りがピチピチだ。

 

「あ、イッセー! こっち、こっち♪」

 

一誠を見つけた彼女は手を振り、そのたびに胸が激しく揺れる。周りの男達が前屈みになる中、黒歌は一誠に飛びつく。そのまま勢い余って押し倒された一誠は両腕で彼女を持ち上げて退かしに掛かった。

 

「あんっ。もぅ、何処触ってるの?」

 

「胸」

 

一誠の両手は彼女の胸を捉え、Tシャツ越しでも指が肉に沈んできている。よく見ると先端が少し盛り上がっている様にも見えた。そのまま歩き出そうとした二人を見て彼氏持ちかと諦める賢明な男性も居たが、中にはしつこい連中も居た。

 

「おい、待てよ。俺たちが先に声かけたんだから横入りするんじゃねぇ」

 

漫画などでこういう台詞を吐く奴が居るが、明らかに待ち合わせしてたのに横入りとか何を考えているんであろうか? 男達は黒歌の肩に手を伸ばすも、一誠はその手を振り払った。

 

「ねぇ、止めてくれる? コイツはとっくの昔に俺の女なんだからさ」

 

「そういう事。私、イッセー以外の男は眼中にないから♪」

 

一誠はあくまでにこやかに接し、口調も穏やかだが目は笑っていない。男達にだけ放たれた威圧感は戦闘中のより少々抑えた程度。当然彼ら如きが耐えられるはずもなく、その場にヘタリ込む。その隙に二人はさっさと去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

学園内を散策する中、黒歌は上機嫌そうに一誠に抱きつき、時折誘惑するように耳に息を吹きかける。心なしか顔が赤くなっていた。

 

「なんで興奮してるの? 発情期は抑えれるはずでしょ?」

 

「なっ!? 何で分かったのかにゃん?」

 

「いや、自分の女の事くらい分かるって」

 

ここで鈍感系主人公なら『風邪?』などと聞いて殴られる所だが、肉食系である霊感少年一誠君は違う。既に何度も最後まで行為を行っている相手が何で顔を赤くしているのか理解できるのだ。そして、流石の黒歌もストレートに言われたからか顔を更に真っ赤にしていた。

 

「……うん。俺の女って言って貰えて嬉しくなったの。ねぇ、また言ってくれる?」

 

「別に良いよ。黒歌は美人で気の利く大切な俺の女だよ。だからずっと傍に居てね?」

 

「……有難う」

 

黒歌はもう一誠の顔を見る事すら出来ないのか彼の肩に顔を当てながら歩く。

 

 

 

 

 

 

そんな二人を付ける者が居た。

 

 

「ガハハハハ! 聞いたか、今の?」

 

「グハハハハ! アツアツだな!」

 

付けているのはゼウスとポセイドン。先程まで一誠のクラスに居た二人だが、なぜか今はボロボロだ。とりあえずヘラも一緒に入店したとだけ言っておこう。

 

 

 

「ねぇ、弓道部が弓を使って射的やってるらしいにゃ。行ってみない?」

 

「うん、良いよ」

 

駒王学園の弓道部は全国屈指の実力を持ち、部費も多い。そして学園祭の際に使える経費も多く、今回は恒例の射的の賞品を奮発していた。

 

いまネットで話題のヌイグルミ職人『グリリン』。彗星のように現れた彼はネットで個数限定の自作のヌイグルミを販売。瞬く間に話題となり、オークションで数倍の値段を出しても買う者が続出する程だ。今秋はそんな彼の作品を総力あげて買い取り、目玉賞品としていた。

 

 

 

「あ~ん、全然とれない~」

 

「ふふふ、矢三本500円ですが、続けますか?」

 

「勿論だし~」

 

このように先ほどから躍起になって挑戦する者が居るが一個も取れない。それもその筈。顧問や部員の弓矢に対する知識をふんだんに使い、取れそうで取れない細工をしていたのだ。置き方や弦の張り等、試作に試作を重ね、まさに究極というべき領域にまで達していた。全く取れそうでないので次々に挑戦し、お金だけ無駄に使っていくのだ。

 

実は部費までつぎ込んでいた為、元が取れないとかなりやばい事になる。

 

 

 

「部長! このペースだと元が取れます!」

 

「ふっ! 当然だろう? 売れ残ったヌイグルミをオークションで売れば部費が潤う。遠征で使いすぎたからな。よし、打ち上げは焼肉だ!」

 

まさに詐欺師達の悪巧み。しかし、そんな事をやっていたら天罰が下る。そう、神直々に罰を下しに来るのだ。

 

 

 

 

 

「あれ? もう終わり?」

 

一誠達がたどり着いた時、弓道部員達はうなだれながら片付けを行っていた。

 

「……ああ。十分前に来たお客さんが商品を全て持って行ったんだ。それも、一段毎に一本の矢でな。ははっ、もう部費なんざロクに残ってねぇ」

 

 

 

 

それはまさに悪夢だった。

 

 

「一回お願いしますわ」

 

「有難うございます。一回三本で五百円ですが四本にまけておきますね」

 

やってきたのはお嬢様言葉の美人。対応した部長は思わず矢を追加してしまう。どうせ賞品は取れないのだからと油断して……。

 

 

「えい!」

 

その掛け声と共に放たれた矢は横に大きく逸れて飛んでいく。またカモになりそうだ、と部員達が思った時、矢は急激に軌道を変え、一番上の段の賞品を全て落とした。

 

「えい! えい! え~い!」

 

そして再び放たれた矢は同じように二段目、三段目、四段目、と落としていき。追加の賞品も。五百円で瞬く間に獲得される。

 

「包んでくださいます?」

 

「……はい」

 

結局、彼女一人に賞品を全て獲得され、必要な物品を買うだけの部費すら残らなかった。

 

 

 

 

 

 

ちなみに彼女の正体は狩猟の神であるアルテミス。あの程度取れて当然だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学園主催! 美人コンテストー!!」

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』

 

特設会場に男達の熱気が広がる。今から始められるのは学生以外の飛び入り有りの美人コンテスト。黒歌も当然参加しており、今から水着審査が行われようとしていた。

 

「続いてはエントリナンバー十三番! 飛び入り参加の黒歌さんだぁぁぁぁっ!」

 

「にゃん♪」

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!』

 

黒歌が着ていたのは何と旧スク水。色々とピチピチで際どく、胸の部分には『くろか』と書いているあたりマニアックだ。

 

 

一誠も思わず鼻を押さえ、黒歌は舞台からそれを見つけてニヤリと笑う。誰もが彼女が優勝だと思った時、真打が登場した。

 

 

 

 

「次の参加者ですか……美しい! 美しいとか言いようがない美女です、それでは続けてどうぞ!!」

 

『ぶっはぁぁぁっ!!』

 

その瞬間、観客の男達は一斉に鼻而を流して倒れる。現れたのはまさに美の化身、片方は紐としか言いようにない水着。あえて名付けるなら『赤い稲妻』を着たグラマラスな美女。その体はまさに芸術品であり、その美しさの前では国宝でさえ石ころ以下の価値しか感じられない。もう一人は下にパレオ付きの食い込んだ水着を着ており、上は自分の手で隠しているだけだ。

 

 

二人の名はアプロディーテーとエロース。ギリシア神話でも屈伸の美女神であり、間違っても人間の美女コンテストに出て良い存在ではない。結局、客も司会者も倒れ、参加者の中にも倒れた者が居た為、コンテストはやむなく中止となった。

 

 

取り敢えずオリュンポスの神々は自重すべきだと思う。

 

 

 

 

なお、アポロンだけはマトモに学園祭を回っていたが、キャラが薄いので忘れられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あ、白音のクラスは休憩所だったし、部の出し物は怪我人が多すぎて用意できなかったし残念にゃ」

 

コンテストが中止になった為に仕方なく園芸部主催のオープンテラスに来ていた黒歌は不満そうに漏らす。

 

「まぁ、仕方ないよ……どうしたの?」

 

一誠は黒歌のただならぬ様子に声を掛けるも、彼女はただ一点を見つめている。その視線の先にあるのは、あと少しで実が食べ頃になるキウイフルーツ。

 

 

「ッ! お金此処に置いとくわっ!」

 

「黒歌!?」

 

黒歌は代金を机の上に置くと一誠の手を引いてその場を走り出す。何時の間にか二人は人気のない校舎裏に来ており、黒歌によって空間が隔絶されていた。

 

 

 

「……あ~、もう駄目。あんな言葉かけて貰った上に、マタタビの匂いまで嗅いじゃったら……」

 

「……マタタビ? あっ!」

 

一誠は思い出した。キウイフルーツもマタタビの仲間であり、マタタビは猫に性的興奮を引き起こさせる働きがある。黒歌は発情期をコントロールでき、またメス猫はマタタビに興味を示さない事もあるのだが、一誠からかけられた言葉が引き金となって興奮してしまったようだ。既に目が座っていて正気ではない。

 

「ほらぁ、イッセーが反応していたスク水にゃ♥」

 

「うっ」

 

何時の間にか水着に着替えた黒歌は四つん這いで一誠に躙り寄り、上目遣いで見つめる。うるんだ瞳もあり、その姿は何処か背徳的で美しかった。瞬く間に壁際に追い詰められた一誠は黒歌に首筋を舐められる。

 

「良い味♪ ねぇ、もう私我慢できない……」

 

水着の肩紐が外されると押さえつけられていた巨乳が露出し暴れまわる。黒歌は一誠の胸ボタンを外すと唇を近づけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょいやさぁっ!!」

 

「にゃっ!?」

 

「玉藻っ!?」

 

しかし、あと少しで唇が重なるかに思われたその時、乱入した玉藻によって黒歌は蹴り飛ばされる。飛び蹴りの後に着地した玉藻は額の汗をぬぐった。

 

 

「ふぃ~、危なかったぜ。学園祭中は一線を超えないって約束だったのに、まんまと裏切りやがってエロ猫がっ! ご主人様と校舎裏でエッチなんざ、羨ましい! 私の後にしやがれってんだ! ……正気に戻りましたか?」

 

「……面目ないにゃ」

 

本音ダダ漏れの玉藻に手を差し出されて起き上がった黒歌はどうやら正気に戻ったらしく、いそいそと服に着替えている。なお、着替えの最中、一誠の目は玉藻によって塞がれていた。

 

 

 

 

「裸より着替える最中の方がエロいんですよ?」

 

らしい。

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ学園祭も終わりかぁ」

 

一誠が時計を見るとそろそろ終了時刻。後は片付けをして、あるのなら打ち上げをするだけだ。

 

「俺のクラスは打ち上げないし、帰りに四人でカラオケでも寄る?」

 

「勿論ですとも、ご主人様ぁん。玉藻はぁ、デュエットがしたいなぁ」

 

「私もお願いね♪」

 

《あっしも忘れないでくださいよ?》

 

 

その日の放課後、一誠達は心ゆくまで歌い続け、生徒会メンバーは疲労によって生徒会室で泥のように眠ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後、アザゼルはヴァーリと密会を行っていた。

 

「どうした? 随分やつれたが……」

 

ヴァーリはスッカリ疲れきっており、髪もボサボサだ。アザゼルの言葉に対し、彼は大きく溜息を吐く。

 

「オーフィスに抱きついている写真がネット上にバラまかれてね」

 

「……お前、やっぱロリコンだったのか?」

 

「違う! ……もうアルビオンが何を言っても反応しないんだ。前から怒っていた歴代所有者たちも何も言ってくれないし。……っと話がそれたね。オーフィスが赤龍帝について知りたがっているが、嫌われているとも分かっているらしくて、周りに居る者から話が聞きたいそうだ。誰か心当たりはないかい?」

 

「……そうか。上手い事やれば組織を……、数日待ってくれ」

 

アザゼルは何やら思案し出し、数日後に結論を出す。それが身の破滅に繋がっていると知る由もなく……。

 




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次巻から 原作キャラが退場?


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昇級試験とウロボロス
七十一話


この巻で結構な数の原作キャラが退場します お覚悟を……(;゚д゚)ゴクリ… お気に入り削除はごお勘弁を(人∀・)タノム 評価もね(>人<;)



原作で裏切ったチャンプ 聖書でもベリアルは平気で仲間を裏切るって設定らしいヽ(´Д`;)ノ


「……駄目。こんなんじゃ一緒に居られない……」

 

草木も眠る丑三つ時、玉藻は自室の机の上に大量の札を乗せ、眉間にシワを寄せる。彼女が今行っているのは、擬似的な死者蘇生の術式の構築。一誠と共に生き、子をなし、やがて共に老いていく為の肉体を作っているのだが、多くの問題が残っていた。

 

「……この術式じゃ力が下がりすぎる。こっちじゃ力は下がらないけどご主人様よりずっと長生きしすぎる。……どうすれば良いの?」

 

一誠には、冥府に所属して直ぐに肉体を作れる、と言っていたが、実態はこの通り。圧倒的な実力を持つ彼女の肉体を作る難易度は他の者達の分とは一線を博し、玉藻の肉体だけはこのままだと完成しない。主を安心させる為についた嘘が彼女を追い込んでいた。

 

「……よし! 正直に言おう!」

 

玉藻は勇気を出して真実を告げる事にし、部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの、ご主人様。少々お話が……ご主人様?」

 

玉藻が一誠の部屋に行くと、一誠は書類を睨みながら何やら考え事をしている。心なしか元気がない様に見えた。

 

「……あれ? 何時から居たの?」

 

漸く玉藻に気付いた一誠は彼女をベットに座らせ、自分も横に座る。一誠の顔には益々不安の色が浮き出ていた。

 

「……アイツから連絡があった。期末試験が終わった頃に仕掛けるらしい。ハーデスの爺さんにも伝えたし……いよいよオーフィスの首を取る。いくら悪意がなくても彼奴は危険すぎる。いや、純粋な奴の方がタチが悪い。……玉藻!」

 

「イヤン♪」

 

一誠は玉藻を抱きしめるとそのままベットに押し倒す。玉藻は先程までのシリアスさなど忘れ、受け入れ態勢ばっちりといった様子で待つが、一誠は抱きしめたまま服も脱がさずキスすらしない。その顔は玉藻の顔のすぐ横に埋めていた。

 

「ご主人様?」

 

「不安…なんだ。オーフィスは強い。もしかしたらお前や他の誰かを失ってしまうんじゃないかって不安で堪らないんだ」

 

一誠の手はますます強く玉藻を抱きしめ、体は僅かに震えている。此処に来て不安が爆発し心の弱さが露呈していた。

 

 

 

 

 

 

「ご主人様……。だったら、貴方が守って下さいませ。私も、皆も。さすれば私達が貴方をお守りします。そして仕事を終えたら一緒に騒ぎましょう」

 

「……分かった。俺が皆を守るから、皆は俺を守ってくれ。……ただし、分かっているとは思うけど俺が死にそうな時は玉藻が俺を殺してくれ。俺もお前が消え去りそうな時は俺がトドメを刺す。そうして何方かが必ず生き残り、相手の魂を食らって……」

 

「はい、ずっと一緒です。魂の朽ち果てる時まで、ずっと一緒……あぁ! その手があったか!」

 

「うわっ!? ど、どうしたの?」

 

「すみません、ご主人様! 私、ちょっと急用が御座いまして。……一時間以内に戻ってきますので他の女は呼ばないで下さいましね?」

 

玉藻は飛び起きると跳ね除けられてビックリしている一誠に一礼すると部屋から出ていった。そして自室に戻るなり術式を瞬く間に組み立てていく。

 

「私一人だけの肉体を作ろうとしたから駄目だったんですね! そう、ご主人様の新しい肉体を同時に作れば良いんですよ。後は魂を今の肉体から引っペがして新しい肉体に詰めれば~♪ 完成! ん~、私って天才!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様ぁん♪ ナデナデ、プリーズ。後はぁ、たまには私が攻めでワンちゃんプレイ何かしたいなぁ♥ ほらぁ、好きな所を舐めなさい♪」

 

一誠の部屋に戻った玉藻は今度は押し倒し、その手にはリードのついた犬用の首輪が握られている。その顔は嗜虐的な笑みを浮かべており、まさに女王といった様子だ。

 

「……えい」

 

しかし、首輪は一誠によって簡単に奪われてしまった。

 

「あれ? 首輪を取り上げて私の頭に手を? あ! 撫でてくださ……いたたたたたたっ! 御免なさい、御免なさい~! え、私が付けろと? あの~、私って狐なので犬扱いはちょっと……はい、何でもありません」

 

 

 

 

 

「さて、躾のなっていない駄犬にはたっぷりとお仕置きをしなきゃね」

 

「ひ~ん! せめて駄狐にしてくださいよぉご主人様ぁ」

 

「……旦那様。二人っきりでの時はそう呼ぶ約束だったでしょ? ダーリンが一誠でも可」

 

「……旦那様。……えへへ、やっぱり恥ずかしいですね。でも、幸せです♪」

 

玉藻は耳まで真っ赤にして微笑む。婚約指輪を貰ってから二人っきりの時には呼び方を変える筈だったのだが、気恥ずかしさから中々呼べずにいたのだ。

 

「じゃあ、続きね」

 

「誤魔化されてねぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昇進試験!? マ、マジですかっ!?」

 

匙は生徒会室で通達された事に驚く。何と彼とゼノヴィア、そして真羅の三人に昇格の話が来ているというのだ。

 

「ええ、この前のゲームでサイラオーグを倒したのが評価されたらしいです。……リアスに勝ったのは彼女の評価低迷で大したプラスにはなりませんでした」

 

「ふふっ参ったな。もう昇進試験とは」

 

「……夢のようです」

 

喜ぶ匙達を見てソーナも微笑む。普段眷属に向ける鉄面皮も何処かへ行き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……書類に書いてある通り、試験日は来週です。そして期末試験も間近。言っておきますが昇進試験の為に期末試験の勉強を疎かにするのは許しません。特に匙、貴方は中間テストの点数が散々でしたね。まだ不安定な禁手の訓練も行わなければなりませんし、覚悟なさい」

 

「は、はい!」

 

直ぐに何時もの厳しい表情に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……訪問者?」

 

その日の放課後、アザゼルのマンションに呼び出されたリアス達は訪問者があるから相手をしてくれと頼まれ首を傾げる。特にリアスなどは連日の心労から余裕がないように見えた。

 

 

リアスへの評価低迷に伴い、彼女への縁談申し込みは激減。残っているのはサイラオーグと、既に後継者が居て妻を亡くしている中年以上の貴族のみ。まともなサイラオーグは民衆からの評価上昇があり、もしかしたら話が立ち消えるかもしれない。

 

「高校在学中に相手を決めなさい。もし、できない場合は……」

 

父親である現当主は最後はあえて言わなかったが、リアスには分かっていた。これ以上不利益を及ばさないように、かつてのサイラオーグ親子同様に辺境に追放されるか……勘当だ。

 

 

「……最初に言っておくが、お前らは其奴に敵意所か殺意さえ抱きかねない。だが、其奴の願いはテロ組織を揺るがしかねないものなんだ」

 

「……分かったわ。どうせあと少しの自由ですもの。皆も其れで良いわね?」

 

「え……いや、はい……」

 

松田は最後まで迷いがあったみたいだったが、場の空気に流され頷く。

 

「……最後に一つだけ。兵藤にだけは訪問者の事がバレないようにしてくれ。下手すれば堕天使全体が滅びかねないレベルの話なんだ……」

 

アザゼルは真剣な顔でそう言い、やがて訪問者がやって来る日になった。

 

 

 

 

 

 

そして訪問者の姿を見てリアス達の体は固まる。その姿は見覚えのある少女だった。

 

 

 

「オーフィス!?」

 

そう、テロ集団のボスであるオーフィスだ。その後ろにはルフェイの姿もある。せいぜいヴァーリ程度かと思っていたリアス達は一瞬思考停止し、復活した瞬間アザゼルに詰め寄った。

 

「どういう事!? 協定違反にも程があるわ! この事を冥府が知ったら……」

 

「……ああ、俺達堕天使は滅ぼされるかもな。だが、うまいこと行けば、これ以上血が流れないかもしれないんだ。頼む、話だけでも聞いてやってくれ」

 

「我、赤龍帝の事知りたい。でも、我は嫌われてて教えてくれない。知ってる事、教えて」

 

ジッと見つめてくるオーフィスを見てリアスは嘆息を吐いた。

 

「……仕方ないわね。彼と接点があるのは一郎と小猫と……一時期お弁当を持って行ってた朱乃だけね。悪いけど相手してあげてくれる? 私は隠蔽工作をするから」

 

リアスの言葉に朱乃達は頷き、そのまま奥へと移動する。そしてオーフィスからの質問が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……連絡があった。ターゲットが動いたようだよ、ドライグ。もしかしたら、長きに渡る二天龍の争いに終止符が付くかもね」

 

『二天龍? 何を言っている相棒。天龍は俺だけだ。ホモペ何とかというのが居た気がするが、気のせいだろう。俺はもう何も言われてないし』

 

「現実逃避は良くないよ? ペドライグ。俺は、って言ってる時点で他の奴が居るの認めているじゃん」

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉん!! 折角、せっかく、奴の印象が強すぎて俺に対する噂が消えたのに、その名で呼ばないでくれぇぇぇぇ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何の用だネ? 今私は忙しいんだが……」

 

マユリは研究室で『シャルバ』と書かれた瓶を眺めている。主である一誠が訪問したというのに振り返りもせず、助手であるネムだけが応対してきた。

 

「お茶です。変な薬品は入っておりませんので、安心してお飲みください」

 

「変じゃない薬品は入ってるの?」

 

「ちっ! ……入れ直してきます」

 

ネムは舌打ちをするとその場から去って行く。残された一誠は考え事をしているマユリに話しかけた。

 

「今度オーフィスに仕掛ける」

 

「そうかネ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もしもの時は頼むよ。幽死霊手研究班班長・涅マユリ。いや、死従七士の一人『傲慢』を司りし将……」

 

「……今の私はマユリだヨ。あの姿の時とは一緒にしないでくれたまえ。それよりもスパイはバレてないんだろうネ?」

 

「……ああ。まさか奴が俺の手下だとは思わないだろうね」

 

一誠は笑みを浮かべ、入れ直されたお茶を口にした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……腹が痛い」

 

「此処にトイレは無いヨ」

 

 

 




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新作プロローグだけ公開中 続きはこの作品の17巻後 展開的に飛ばす巻があるから結構早いかも?


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七十二話

今巻最後の日常パート 次回から激動編

今後自重をやめます 外道を目指す!


テロに対抗する為、一部の若手悪魔には訓練施設の使用許可が下りており、シトリー眷属にも許可が下りていた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

今は匙とゼノヴィアが模擬戦を行っており、他のメンバーは周りで見物している。匙が鎧から放つ触手はデュランダルで切り落とされ、牽制とばかりに黒炎を放つのだが……。

 

「デュランダルッ!」

 

「なっ!?」

 

ゼノヴィアは床に刀身を突き刺し、オーラを発する。するとオーラがドーム状に広がった。黒炎はオーラを包み込む様に広がるも徐々に勢いを衰えさせ、やがて消えていく。オーラのドームもかなり消耗しているが保たれており、急にウネウネと動き出したかと思うと散弾の様に前方目掛けて飛んでいく。

 

「ちっ!」

 

匙は天井に触手を伸ばし、そのまま上空に上昇するも、既にゼノヴィアが頭上まで飛び上がっており、触手を切断した。

 

「げっ!」

 

「チェックメイトだ」

 

そのまま脳天に強烈な踵落としを受けた匙は床に激突し、何とか起き上がろうとするも首筋に刃を当てられていた。

 

「……参った」

 

「ふふ、此れで私の五戦三勝一敗一分けだな」

 

匙は残念そうに溜息を吐き、その日は此れで終了となった。

 

 

 

 

 

 

「……少し良いかい?」

 

匙がストレッチをしているとゼノヴィアが隣にやって来てスポーツドリンクを渡して座る。匙もドリンクを受け取ると隣に座った。

 

「にしても制御が難しすぎるぜ。最初の一回以来、お前に全然勝てねぇし。俺、本当にサイラオーグさんを倒せたのか?」

 

「まぁ、しょうがないさ。あの時はハイになってたから上手く制御できたんだろうし、私はお前よりも長く戦闘訓練を受けているんだぞ? 簡単に負けていられないさ。……それで要件なんだが……私と付き合う気はないかい?」

 

「ぶほぉっ!?」

 

匙はドリンクを気道に入れてしまい大いに咽せてしまった。

 

「ど、どうしたんだよ、急にっ!?」

 

「いや、この前の戦いぶりを見て胸が高鳴ってね。まぁ、吊り橋効果だとは思うが、恋心には変わりない。それに、結構ライバルが多いから焦っているんだ」

 

「ライバル?」

 

キョトンっとした匙に対し、ゼノヴィアは心底呆れたような表情を見せる。それ程までに匙の発言が馬鹿馬鹿しいと感じたようだ。

 

「……気付いてなかったのかい? 仁村と花戒と副会長もお前に惚れてるぞ?」

 

「……マジ? でも、俺は……」

 

会長が好き、彼がそう言おうとした時、ゼノヴィアは匙の右手を両手で包み込み、真っ直ぐに目を見据えた。

 

「ああ、分かってる。だが、私は諦める気はない。この場で宣言しよう。お前が会長の心を射止めるよりも先に私がお前の心を射止めてみせるとなっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、イッセー。白音の事何だけど……」

 

ベットの上で仰向けになっている一誠に四つん這いの姿勢で覆い被さった黒歌は不安そうな表情を取る。胸板に乗せられた重量感のある胸からも彼女の鼓動が感じられ、もしかしたら今度の作戦で妹が死んでしまわないか不安な様だ。

 

「……安心して。黒歌は俺の妻になるんだから、あの子は俺の義妹だよ。俺は身内は守る。俺の情報を流してるっぽいけど、彼女らが知ってる情報なんてタカが知れてる。むしろ罪悪感なしに此方に引き込む材料になるよ」

 

「有難う。……好きっ♪」

 

黒歌は一誠の首っ玉に齧り付く。一誠も右手で彼女の髪をすき、左手は腰に回す。そしてそのまま抱き寄せた。

 

「白音の事は安心したけど、こっちは安心して良いのかにゃん? 最近疲れてるでしょ?」

 

「大丈夫。君があまりにも魅力的だから……」

 

二人の唇は徐々に近づいて行き、触れ合うまであと少し……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お楽しみの所失礼します」

 

「……何?」

 

そしてあと少しの所で急にレイナーレが現れる。興が削がれたのか、はたまた仕事の話だからか、一誠は行為を中断して起き上がり、黒歌は不満そうに脇腹を抓ってきた。

 

「はっ! 先ずはアスカロンの修復と強化が終わったそうです。天界より巻き上げた『擬態の聖剣』の核を混ぜて強化致しました。そして北欧からの返答です。『今度の一件、非常に不愉快である。故にそちらの作戦に全面協力する』だそうです。また、インドラ様も『ホモペドンの魂をくれるのなら協力するZE』だそうです。……では、私は此処で失礼いたしますので続きをどうぞ、黒歌」

 

「できるかっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校帰りの学生が全て真っ直ぐ帰る訳もなく、一誠とベンニーアも帰りに喫茶店に寄っていた。

 

《良い店でやんすね。ちょっと古風で》

 

二人が入った店は昭和の香り漂う内装でクラシックが流れている。ちょび髭のマスターは一誠の姿を見るなり無言で張り紙を指し示した。

 

『大食いチャレンジに三回以上成功した方は挑戦できません』

 

この店がやっているのは丼三杯はあるチャーハンの上に海老チリと八宝菜、そして唐揚げと春巻きが、これでもかといった感じに乗っており、二十分以内に完食できれば料金五千円がタダというもので、今まで多くの者が挑戦したものの、一誠を含む三人しか成功していない。

 

「……お前と白いチビと女子高生探偵に毎回チャレンジされたら店が潰れるからな」

 

渋い見た目に似合わないアニメの美少女声で呟く店長の顔には陰りが見える。既に三人が挑戦した回数は三回を超えているのだろう。

 

「……五千円払うから出して」

 

「……良いだろう。其方の嬢ちゃんは?」

 

《あっしはケーキセットで……あれ、あの二人は?》

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりのデートだね、アーシアちゃん」

 

「そ、そうですね。最近忙しかったから」

 

店内に入ってきたのは祐斗とアーシア。実はこの二人、修学旅行の後から付き合いだしたのだ。二人共教会に酷い目に合わされたという共通点や戦いの中での吊り橋効果もあって祐斗から告白し、見事受け入れられた。二人は向かい合えるテーブル席に座りカウンターの一誠達には気付いていないようだ。

 

 

「……平和ですね。こんな日が何時までも続けば良いのに……」

 

アーシアはしみじみと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その望みはもう直ぐ潰えようとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦結構の日。タイミングを計って突入した一誠の目に映って来たのは、

 

 

 

 

 

「裏切り者め。まさかお前が裏切っていたなんて……」

 

「……」

 

曹操達と相対するアザゼルとリアス一行。隣にはオーフィスや倒れたヴァーリの姿が有り、ゲオルクの腹には黄昏の聖槍が刺さり、背中まで貫通していた。




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氷の覇王 早く書きたい 幼少期だけでも いや、ダメだ


今後、展開的に飛ばす巻あり  特にフェニックスは レイヴェル居ない グレンデル仲間

シスコン生存しか出す必要ないから


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七十三話

アーシア・アルジェントはその日の事を一生忘れないだろう。それは昇級試験の日の事だった……。

 

「今日まで悪かったな。俺の奢りだから好きなだけ食えや」

 

昇級試験とは無縁なリアス達はアザゼルに連れられて高級ホテルで食事を摂っていた。オーフィスとは今日までの付き合いである。オーフィスの連れであるルフェイは壁際で待機し、オーフィスは口元を汚しながら料理を貪り食っている。

 

「口元をキレイにしますね」

 

「んっ」

 

見かねたアーシアはハンカチでオーフィスの口元を拭い、オーフィスもなすがままにされている。どうやらこの数日感でオーフィスに対する警戒心が薄れたようだ。

 

 

 

そして一同が満足するまで食べた時、修学旅行の時に味わったヌルりとした感覚が彼女らの体を襲った。辺りから人が居なくなり、残ったのはアザゼル達のみ。

 

 

 

 

そして次の瞬間、ホテルの壁が吹き飛び曹操とゲオルクが姿を現した。

 

「これはこれは、無限龍殿。我々から堕天使総督へと鞍替えかな?」

 

曹操は槍の柄で杭を叩きながら冗談めかした様子を取る。その態度が気に入らないのかゲオルクは眉間に皺を寄せていた。

 

「……曹操。巫山戯ていないで本題に入れ」

 

「すまないすまない。さて、オーフィス。俺達の要件は分かるかな?」

 

「曹操、我を殺す気?」

 

槍の切っ先を向けられてもオーフィスは表情を変えず、曹操も攻撃をしようとしない。攻撃しても無限であるオーフィスには通用しないからだ。そして相手がその気になれば彼等の命など簡単に奪えるだろう。

 

しかし、曹操は余裕を崩さない。まるで何か秘策でもあるように。その時、ルフェイの足元が光り輝いた。

 

「掛かりましたねっ! 貴方達が来るのは分かっていました!」

 

光は更に強くなり、やがて収まった時、其処には彼女の代わりにヴァーリの姿があった。

 

「やぁ、曹操。久しぶりだね。他の奴らが居ないって事は、美猴が化けた囮の方に向かったか」

 

「……しかし、俺達が狙ってきた事に動揺しないって事は知っていてオーフィスを匿っていたか、アザゼル。さて、オーフィス。英雄派の見解を言おう。今の君は不要だ。いや、邪魔だとさえ言っても良い。英雄派に必要なのは都合の良い力の象徴。だから、新しいオーフィスを作る事にした」

 

曹操が手をサッと上げるとゲオルクの横に魔方陣が出現し、中から異形のドラゴンが現れる。上半身が張り付けにされた堕天使の其れの名はサマエル。蛇やドラゴンに対する神の悪意を受け、究極の龍殺しとなった禁忌の存在。故にコキュートスの最深部に封印され、ハーデスがオーフォス打倒の為に封印を解除しようとしていたはずだった。

 

「おいおい、冥府はお前らと繋がっていたのかよ」

 

警戒した様子のアザゼルに対し、曹操は蔑みのこもった瞳を向ける。

 

「いや、封印解除中の所に忍び込んで盗んだんだよ。と言っても一回が限度。……それと、テロリストと繋がっていたのは貴様らだろう、アザゼル。オーフィスが狙われていると知って匿っていたんだから余計にタチが悪い。……やれ」

 

曹操の掛け声と共にサマエルの舌が伸びてオーフィスを包み込む。最強の存在であるはずの彼女は抵抗すらせず脱出も出来ないようだ。そして、何かを飲み込むかのような音と共に膨らみがサマエルへと向かっていった。

 

「拙いっ! 奴ら、オーフィスの力を奪うつもりだ!」

 

「祐斗っ!」

 

リアスの指示と同時に聖魔剣が振るわれるも舌に触れた瞬間に刀身が消失する。他の物が攻撃してもそれは同じで攻撃の効果がなく、ヴァーリの力すら通用しない。

 

「……何で止めるんだい? 敵の総大将の弱体化は有難いだろう? ……ふむ、やはり其方とも繋がっていたのかい? ……ゲオルク」

 

「あ、ああ」

 

曹操は槍を構え指示を出す。ゲオルクは彼の様子のおかしさに疑問を抱きながらもサマエルを操作し、サマエルの一撃を受けたヴァーリの鎧は砕け散った。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ヴァーリッ!」

 

アザゼルは彼を庇うように立ち塞がり、アーシアは彼を回復させ出す。それを見た曹操の口元が緩んだ。

 

「おやおや、テロリストを庇った上に回復させるか。……ふぅん、やはり密通確定だね。少なくても状況証拠はバッチリだ。ゲオルク、力はどの位奪えた?」

 

「……四分の三といった所だ。君が持ってきてくれた術式の改良案は役に立ったよ。何より吸収スピードが段違いだ。だが、そろそろ限界のようだよ」

 

サマエル程の存在を操るのは負担なのかゲオルクは冷や汗を流す。やがて、サマエルは消え去っていった。後に残ったのは力を大幅に削がれ、無限ではなくなったオーフィスの姿。

 

「……ふぅ。そろそろ帰還しよう」

 

「……ああ、そうだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                     もう君に用はない。死んでクレ」

 

「うっ!?」

 

曹操の槍はゲオルクを貫き、呆然として自分を見る彼の顔を見て曹操はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーゼクス様。お客様が来ておられです」

 

「……急だね。来客の予定はなかったのだが……」

 

自室で政務をこなしていたサーゼクスは部下からの知らせに首を傾げる。隣に控えるグレイフィアを見るも彼女も予定はなかったと首を振った。

 

「それが、冥府と北欧からの使者で、此方の同盟違反についてやって来たとおっしゃってます」

 

「なっ!? ……すぐ通してくれ」

 

ただならぬ様子を察した彼は使者を通す。やって来たのはプルートとガウェインだった。二人は正装を着ており、態度には出さないが敵意を放っていた。

 

《さて、事態が事態なので挨拶を抜きにして始めさせていただきます。……貴様の妹がアザゼルと共にテロ組織と接触し、此方の情報を流していた。どう釈明する気だ?》

 

「なっ!? 何かの間違いでは!?」

 

「いえ、密偵からの確かな情報です。そしてこの情報は冥府や北欧の主神だけでなく、インドラ様や天照様にもお伝えしました。……そしてこれが署名です」

 

ガウェインが差し出したのは神々の署名。それはリアス達の処罰を一誠に一任せよという物だった。

 

《我々も三大勢力全てが奴らと繋がっているとは思っていません。さぁ、最後は貴方の署名だけです。本来ならこれだけあれば良いのですが……筋は通させて頂きますよ》

 

それは紛れもない脅迫。妹達を取るか、他全てを取るか選べ、そう言っているのだ。

 

「そういえば御子息が居られましたね? 流石に魔王の身内がこの様な事件を起こしたのですから、貴方には今後人質として御子息を差し出して頂きます。さて、北欧か冥府か。……そういえばハーデス様は悪魔が嫌いでしたね」

 

「ッ!」

 

サーゼクスは震える手で書類にサインをする。その目からは涙が流れていた。

 

 

「リアス…すまない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ行ってくるね」

 

プルートと送っていたスパイからの知らせを受け、一誠は転移の準備をする。本来は隔絶された空間だがスパイから侵入用の札を貰っていたのだ。

 

《……行ってらっせぇ》

 

今回の作戦は危険な為、ベンニーアは留守番を言い渡され今は見送りに来ている。

 

「大丈夫。俺達は無事に帰ってくるからさ」

 

《そうでやんすね。……一誠様》

 

一誠に近づいた彼女は彼の首に手を回し軽い口付けをした。

 

《……帰ったら貴方からしてくだせぇ》

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《あ、別に処女を奪うのでも良いでやんすよ? ゴムありやすし》

 

「台無しだねっ!? っていうか君、二人に染められてないっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「裏切り者め。まさかお前が裏切っていたなんて……」

 

「……」

 

一誠達がたどり着くと丁度終ろうとしていた所だった。ゲオルクは口元から血を流しながら曹操を睨み、彼は無言なままだ。

 

 

 

「あはははははは! 曹操は裏切ってないよ? ねぇ?」

 

 

 

 

 

「なっ!? なぜ貴様がっ!? それにどういう事だ!?」

 

ゲオルクは口から血を流しながら叫ぶ。未だ意識があるのは槍が弁の役目を果たし、血が流れ出るのを防いでいるからだろう。曹操はやっとこの時が来たとばかりに大いに笑う。

 

 

 

 

「くくく……くくくくくくくくくっ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教えて……アゲヨウカ?」

 

最後の言葉はゲオルクの知らない誰かの声だった……。




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七十四話

なんか今日は進まないので明日で終わらせます

しかし、構想的に14巻が書く必要がなくなりました どうしよう?




それは修学旅行の問まで遡る。アザゼル達を一蹴した曹操は部下である筈の影使いに口内を撃たれ、あっけなく死んだ。魏の覇王である曹操の子孫であり、最強の神滅具の所有者であり、『ぼくのごせんぞさまはすごんだよ同盟』のリーダーであった彼は自分かどうして殺されたのか分からないまま息絶えた。

 

「おい、早くしねぇと銃声を聞きつけた奴らが来るぜ」

 

影使いが倒れたかと思うと不細工な顔の火の玉……エクボが現れた。彼は先程まで自分が憑依していた男など興味がないとばかりに一瞥もせず虚空に話しかける。すると空間が歪み異形の存在が出てきた。

 

『アア、悪イネ。今食ベル』

 

全身をフードで包んだ異形の腕がウネウネと動き、鋭い歯を持つワームの様になる。曹操の死体はその腕に飲み込まれて行き、次の瞬間には異形は曹操となっていた。

 

「じゃ、俺は帰るから後は任したぜ、アーロニーロ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははは! 驚いたかい? 彼の名前はアーロニーロ。『暴食』を司る将さ!」

 

一誠が紹介するとアーロニーロは曹操の姿を解き、正体を現す。其処は透明なカプセルの頭部を持ち、中に液体と不気味な顔を持つボールが二個入っていた。

 

「上がアーロで下がニーロだよ」

 

 

 

『ハジメマシテ、ソシテ、サヨナラ! アト、アーロニーロハコンビ名ジャナイ!』

 

曹操、いやアーロニーロはゲオルクの体から槍を引き抜く。彼の体に空いた風穴から止めどなく血が溢れ出し、彼はうつ伏せに倒れた。しかし、何か条件を満たさないといけないのか空間が元に戻る様子はない。アザゼルはヴァーリを担ぐと一誠に近付いて来た。

 

「助かったぜ。んじゃ、帰る方法を、うぉっ!?」

 

アザゼルは頭部目掛けて放たれたトンファーの一撃を何とか避ける。何時の間にか彼らは一誠の手駒に囲まれていた。

 

「ちょっと! 何のマネよ!!」

 

「何の真似だって? 君がそれを言うかい? 裏切り者の無能姫さん。俺は君達を殺しに来たんだ。あ、ちなみに現ルシファーを含む各勢力のトップの了解は取ってるよ。オーフィスとヴァーリ達と組んで混乱を引き起こそうとしたテロリスト共を好きにしても良いってね」

 

一誠から投げ寄越された書類を見てアザゼルは騒然となる。書類には天使。堕天使以外の同盟勢力のトップのサインがされていたからだ。

 

「あ、そうそう。アーロニーロの見聞きした映像はモニターを通して各陣営のトップの皆さんが見てたから此処を切り抜けても無駄だよ。てか、逃げ出したらトップが裏切ったんだから堕天使に総攻撃をかける」

 

「一誠、我を殺す?」

 

一誠の言葉にアザゼル達が抵抗を封じられる中、オーフィスは一誠に近づくと首を傾げる。それに対し一誠は静かに微笑んだ。

 

 

 

 

 

「殺さないよ? 殺そうとして痛いしっぺ返しを食らうのは嫌だからね。……だから、封じる事にしたよ」

 

「?」

 

突如、オーフィスの体に鎖が巻きつく。それはフェンリルさえ捕らえれるグレイプニルの鎖だ。サマエルの力で力を大幅に削がれたオーフィスは鎖から逃れれず、その体を黒い球が包む。

 

「……その封印は特別性でね。次元の狭間を模した空間に対象を閉じ込める。ま、そこで我慢して大人しくしててよ」

 

一誠は笑顔で手を振り、黒球は次第に小さくなりやがて消え去った。その瞬間、一誠は緊張の糸が切れたのかその場に膝をついた。

 

「ふぅ! サマエルが効いて良かったね。メディアさん特性の術式で性能上げてたからドライグより二段下位だったかな? ホント効いてて良かった」

 

「ええ、そうですね。駄目だった場合はガチバトルする所でしたから。……さて、あとはゴミ掃除、の前に♪ なぜ貴方方の行動が筒抜けだったか種明かしです♥」

 

「なっ! 母様っ!?」

 

一誠の隣に現れたのは朱乃の守護霊をやっている母親の朱璃。彼女は悲しそうな顔で頭を下げた。

 

「驚いたかい? 君達が俺の情報をオーフィスに流していた事は彼女から聞いたんだ。ああ、彼女を責めないでね? ……幽霊が俺の言う事に逆らえるはずがないんだからさ。あはははははは!」

 

朱乃がその場にへたり込む中、一誠の笑い声が響く。すると、小猫が前に進み出た。

 

「……お願いします。何でも言う事を聞きますから、部長を、皆を殺さないでください」

 

小猫の悲痛な願い。しかし、彼女の前に現れた人物がその頬を引っぱたいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巫山戯るんじゃないにゃ、白音! イッセーを裏切っておいて許して下さい? それに、貴女達の処分は全て一任されてるの。貴女は生かし、残りを殺してもお偉いさんは誰も文句は言わないわ」

 

「ッ!」

 

小猫を叩いたのは姉である黒歌。流石の彼女でも一誠の情報を渡していた事は許せない様だ。叩かれた小猫は泣きそうな顔で黒歌を見つめ、一誠は腕を組んでウンウンと頷いている。

 

 

 

 

 

そして、何やら外道な事を思いついたという笑みを浮かべた。

 

「ねぇ、玉藻。あれだけ言ってるし、殺すのは勘弁してあげようか? とりあえずルシファーに繋げて。あ、アイツ等の声は届かない様にね」

 

「……何か考えがおありですか? まぁ、良いでしょう。貴方様に従うまでです」

 

玉藻が鏡を投げると空中にモニターが現れ、サーゼクスの顔が映る。

 

「お兄様っ!」

 

「……だから聞こえないって。ねぇ、聞いてる? 白音ちゃんが冥府に大人しく来るのなら皆殺しは勘弁してあげる。ねぇ、君もそれなら良いでしょう? 君は彼らの命を助ける為に身を捧げるんだ。助けて貰った恩返しができて良かったね♪」

 

「あ……」

 

前から小猫は一誠に誘いに対し迷っていたが、リアス達への恩義と板挟みになり受け入れれずにいた。しかし、恩人である一誠への裏切り行為に罪悪感が募り。その言葉がトドメとなる。恩義を返すという口実は彼女の心を溶かすに十分な毒だったのだ

 

「姉…さま…」

 

「白音、おいで♪」

 

小猫は熱にうかされた様なフラつく足取りで黒歌に近寄り、強く抱きしめられる。それを見た一誠は満足そうな笑みを浮かべ、リアス達に視線を戻す。

 

「じゃあ、約束は守るよ。全員は殺さない」

 

その言葉にアザゼル達は安堵する。しかし次の瞬間、その顔は絶望に染まる事となった。

 

 

 

 

 

「ただし、アザゼルには死んで貰う。組織のトップなんだから仕方ないよね。代わりに他の堕天使には手を出さないよ」

 

 

 

 

 

 

「おい、イッセー! 頼む、助けてくれよ! 友達だろ!? ぎゃっ!?」

 

松田は恐怖に染まった顔で一誠に呼びかける。だが、その顔を玉藻の鏡が強く叩いた。

 

「……友達? ご主人様の情報を敵に漏らすゲスがですか? 巫山戯んなっ! テメェは私が殺してあげましょうか?」

 

松田は頭を押さえて蹲り、一誠はサーゼクスの方を向いて聞いた。

 

 

「さて、全員は殺さないと言ったけど、数名には死んで貰う。じゃないとお偉いさま方も納得しないだろうし……ねぇ、ルシファー。魔王として答えて。テロリストの残党が残っている中、悪魔や堕天使を癒せるアルジェントさんや堕天使幹部の娘である姫島先輩とウチの所属の白音ちゃんと仲の良いヴラディ君。後、ついでに木場君と松田? それとも、散々不祥事を働き、同盟を組んだ各勢力のトップから殺して欲しいと願われてる妹?

 

 

 

 

 

 

 

ねぇ、死んで欲しいのは? 選んだ方だけを殺す。残りは生かして返してあげるよ。殺して欲しい方を名指しにして、○○を殺してくれって言ってね?」

 

 

 

 

 

 

 

「……リアスを…殺してくれ…」

 

「お兄…様…」

 

 

 

 

 

サーゼクスが苦渋の選択をする中、『ぼくのごせんぞさまはすごいんだよ同盟』の本拠地に侵入する人影があった。

 

 

 

 

「さて、久々に戦うヨ……金色疋殺地蔵!」

 

彼の刀が光り輝き、金色をした赤子の様な顔を持つ巨大な芋虫が出現した

 




一誠SANはキレてます でも、小猫を心の底から冥府に引き入れる為に我慢。代わりにエグい選択を どっちを助けて欲しい ではなく、どっちを殺して欲しい しかも実質的に選択の余地なし

次回、マユリ&○○○○無双! あと変態シスコンと愉快犯爺も登場 実質的に12巻

あと、ランサーが死んでた!


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七十五話

その日、二箇所に存在するオーフィスの何方が本物か確かめる為、『ぼくのごせんぞさまはすごいんだよ同盟』の幹部達は二手に分かれていた。ゲオルクと曹操の姿になったアーロニーロはリアス達の所に居るオーフィスを襲い、ジークフリードとレオナルドはアーサーと一緒に居るオーフィスに襲撃をかける。

 

そしてヘラクレスは冥界にある基地に残り、留守番ついでにジャンヌの遺品の整理をしていた。

 

「……うぉ、エロ下着」

 

思わず零した言葉に女性の構成員から冷たい視線が送られる。気不味さから目を逸した時、彼らの鼻腔に甘い香りが漂ってきた。

 

「……ん? なんだ、この香り……ぶはっ!?」

 

途端に襲ってくる苦痛。体中に走る激痛によって呼吸すらままならず、その場でのたうち回る。何時の間にか室内には紫の煙が充満し、体中に同じ色の斑点が出来ていた。

 

 

ああ、これは毒だな、ヘラクレスがそう判断した時には既に意識は沈んでいく最中で、そのまま彼は意識を手放した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何があった!? ヘラクレス! 返事をしろ!」

 

自分達が見張っていた方は偽物だと連絡を受けたジークフリードは基地に帰り驚愕する事となった。構成員が老若男女問わずに死に絶えていたからだ。全身に紫の斑点、目は窪み、穴という穴から血が流れ出ている。

 

「……毒か? レオ、触るなよ」

 

彼は隣に居た幼い仲間に指示を飛ばすと建物内部を慎重に探索する。そして大広間にたどり着いた時、見知らぬ男と出くわした。

 

 

 

 

 

「おや、まだ居たのかネ? そうそう、殺す前に名前を聞いておくヨ。瓶に詰める際にラベルに名前を書かなかればならないからネ」

 

禁手化(バランスブレイク)!」

 

目の前の男……マユリはヘラクレスを解剖しながら二人に話しかける。彼がこの惨状の元凶だと理解したジークフリードは禁手を使って一気に勝負を決めようとした。

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

しかし、禁手は発動しない。その姿をマユリは可笑しそうに笑っていた。

 

「無駄だヨ。スパイに集めさせたデータを元に特殊な結界を貼っている。君達ご自慢の禁手を封じる結界をネ。さぁ、実験を始めようじゃないか」

 

マユリは刃が三本ある金色の不気味な刀をジークフリードに向け、彼も龍の手の亜種である神器を発動させる。背中から生えた龍の腕と両腕の合わせて計三本の腕に名立たる魔剣を持ち、マユリ目掛けて一気に跳躍する。

 

「はぁっ! たぁっ! がぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ほっ。はっ。ふっ」

 

ジークフリードの猛攻を凌ぎながらマユリは後ずさりする。一見すると彼が押されている様に見えるが顔にも声にも余裕があり、其れがジークフリードを苛立たせる。そしてマユリを壁際まで追い詰めた彼は三本の魔剣を一気に振り下ろした。

 

「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

それは受ければ塵すら残らない程の一撃。彼の腕前もあって神速で放たれた斬撃は壁を吹き飛ばし、建物の殆どを吹き飛ばす。

 

 

 

 

「ぐふっ!」

 

そしてジークフリードは前方へと体を躱していたマユリによって脇腹を深く切り裂かれた。その場に膝をつくジークフリードがレオナルドに加勢の魔獣を創造させる指示を出そうとした時、第三者の声が響いた。

 

 

 

「でひゃひゃひゃひゃ! オモロイ事なってんじゃん、ジークちゃんよぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

「リゼヴィム!? ッ! レオを離せっ!」

 

突如現れたリゼヴィムはレオナルドを捕まえ、楽しそうに笑っている。その隣には銀髪の青年が控えていた。

 

「リゼヴィム様、そろそろ……」

 

「オッケーオッケー♪ 分かってるよユークリッド。そろそろ死神ちゃん共が来そうだし、おっぱじめっか!」

 

リゼヴィムは懐から大きい瓶を取り出す。其処には大量のオーフィスの蛇が入っており、それをレオナルドの口に無理やり流し込んだ。

 

 

「!?」

 

急激に力を底上げさせられたレオナルドはもがき苦しみ、影より魔獣を創りだす。これが彼の神器である『魔獣創造』の力。しかし、今創り出されているのは規模が違った。現れたのは無数の巨大な魔獣と一際大きい一体。

 

「……無理やり禁手に至らされたカ」

 

「せいか~い! いやぁ、デッカイ事って何があるか考えてさ……今の冥界を滅ぼそうって事になったのよ。んじゃ、後はヨロシク!」

 

リゼヴィムは無理やり力を引き出された反動で気絶したレオナルドを捨て置き、青年と共に転移していく。その頃になって死神達が現れた。

 

「マユリ殿ッ!」

 

「来るんじゃないヨッ! ……お前らは冥界に連絡を入れろ。私は一番デカイ奴の相手をするヨ。……其処の馬鹿を捕らえておきなヨ。後で実験するからネ」

 

「はっ!」

 

死神達はジークフリードとレオナルドを捕らえ、その場を去っていく。魔獣達は首都を目指して歩いて行くが、一際大きい魔獣だけはマユリをジッと見ていた。

 

「……さて、たまには本気を出すとしよう」

 

マユリは刀を鞘に戻すと懐から注射器を取り出し首に注入する。その瞬間、彼の肉体が崩れ、別の存在に変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホーッホッホッホッホッホ! さぁ、遊びましょう」

 

声こそ同じだがその姿は別物だ。毛のない真っ白な体に長い尾。頭の部分だけ紫の所がある。そして彼から放たれるオーラだけで基地の残骸が吹き飛んだ。

 

 

 

 

「ボクの名はフリーザ。死従七士の一人にして、『傲慢』を司る将だよ」

 

フリーザは芝居がかったお辞儀をし、にこりと笑った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、次の死人を決めようか?」

 

「なっ!? 兵藤君、何を言ってるんだ!? 残りは生かして返すって言ったじゃないか!」

 

一誠の言葉に祐斗は狼狽する。アザゼルはアーロニーロに生きたまま飲み込まれ、リアスは兄に見捨てられたショックで騒ぎ出し、五月蝿いからと気絶させられて捕らえられている。恐らく後で殺すのだろう。そして先程一誠が言った言葉では選ばれなかった方は生かして返す筈だったのだが……。

 

 

 

「いや、話を聞こうよ。俺は選んだ方を殺して残りは生かして返すって言ったけど、ルシファーが選んだ方とは言ってないよ? 玉藻」

 

「はい♪」

 

次の瞬間、目の前に青と赤の二つの門が現れる。一行がそれを見つめる中、一誠はアーシアに話しかけた。

 

「これが最後の選択だよ。君は回復役だから無条件で帰還させてあげる。でも、木場君と姫島先輩とヴラディ君か松田。何方には死んでもらう。さぁ、松田が入る門を選んで。ハズレに入った方は死ぬよ」

 

「そ、そんな! どうにかならないんですか!?」

 

アーシアは必死に懇願するも一誠は首を横に振るばかり。流石に今度ばかりは賠償金だけで済ます気など無いようだ。

 

アーシアが迷う中、頭の中に一誠の声が響いてきた。

 

『安全なのは赤の扉だよ。松田に青を選ばせれば木場君は無事に帰れる。ほら、大多数の為に少数を切り捨てるなんて君の尊敬するミカエルもやってるよ、君を追放したみたいにさ。……さっさと選ばないになら何方も殺す。仲間をより多く助けるにはどうしたら良い? 大丈夫、この事は黙っていてあげるよ』

 

一誠の誘惑はアーシアが心の隅に持っていた木場と一緒に帰る為に松田を見捨てても良い、っというドス黒い感情を正当化させる物。極限まで追い詰められていた上に突きつけられた非情な選択に彼女の心は参っており、誘惑を跳ね除ける力は残っていなかった

 

「あ、青」

 

『へいへい、ほら、行きなっ!』

 

「うわっ!」

 

グレンデルは松田の襟首を掴むと青い門に放り込む。その瞬間、門が消失した。

 

「おめでとう! 君達は仲間を犠牲にして生き残れた! 彼らの分まで精一杯生きたら良いと思うよ?」

 

その瞬間空間が歪みだし、アーシア達は先程まで居たホテルの内部に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「HAHAHA! んじゃ、遠慮無く貰っていくZE!」

 

インドラは瀕死のヴァーリを担ぎ上げながら高笑いをする。彼の前方には首都へと向かう大型の魔獣達が居たが、集まった神々の手によって呆気なく倒されていく。

 

《ファファファ、今回の事でグレモリー家は領地を大幅削減。……しかし兄妹の情は捨てきれんか。無能姫を生かして返してくれるなら減った領地を冥府に差し出すと言うのだからな。その他の領地も魔獣退治の代価として貰う事になっておるし……一誠、幾らか部下に治めさせるか? お前は無理だろうしな》

 

「ランスロットとハンコック位しか領地経営経験ないけど……やらせてみるよ」

 

そう、あの後サーゼクスとハーデスはリアスを生きて返す代わりに此度の件で減らされる事になるグレモリー領の幾つかを慰謝料の名目で冥府に差し出す事になったのだ。

 

 

「まぁ、生きて返す、だから……魂が抜き取られてても肉体さえ生きてれば問題はないよね?」

 

《外道が。だが、其れで良い! ……少し話がある。貴様の今後についてだ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の顛末を語ろう。冥界を襲った巨大魔獣達は神々の手によって壊滅。しかし、此度の一件で不信を抱いていると主張する彼らの力を借りる代わりに悪魔と堕天使は領地を代価として彼らに支払い、冥府がそれなりの額を支払う事で全て冥府の領地となった。

 

 

そしてグレモリー家だが此度の一件で公爵から男爵へと降格。魔王選出権も永久に失う事になり。大きく削減された領地を治めながら目覚める事のない肉体だけのリアスの世話を続ける事になる。当然、屋敷も小さくなり、使用人にも生きているのを知られる訳にはいかないので地下室でこっそりと、だ。

 

そしてサーゼクスは魔王の地位こそ保ててはいるが、息子であるミリキャスは人質として北欧に行き、妻であるグレイフィアは内通の疑いをかけられ軟禁状態となった。リゼヴィムの傍に居た青年が死んだはずの弟であり、彼と繋がっていると疑われたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

そして一誠は改まった顔で両親の前に座り、告げた。

 

 

 

 

「父さん、母さん。俺、もう人間を辞めなきゃならなくなったんだ」




さて、だいぶ死にました

リアスは魂を抜き取られ、アザゼルは食われ、ヘラクレスとジャンヌも死亡。ジークとレオは死神に捉えらえ、松田も死亡


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七十六話

これで11~14巻が終わり 次は吸血鬼編


所で疑問 オーフィスが老爺の姿のままだったら、原作一誠はあそこまで仲良くあったり助けたりしたのだろうか?

マスク・ド・マスキュリン が四次に呼ばれたという妄想が…… 

マスターがジェイムスでクラスはヒーロー マスター殺しても神器効果で蘇る(笑)

声援で強化や回復は令呪無限と同じ?


「ねぇ、完成してる?」

 

その日、一誠はマユリの研究室を訪ねていた。彼の目の前には透明のカプセルが入っており、中には培養液と一誠と瓜二つの少年が入っており、その隣には玉藻そっくりの女性が入っていた。

 

「……あと少しだヨ。全く、完全な死神の体を作らされるとはネ……実にやりがいがあるヨ!」

 

マユリは少々疲れたようながら楽しそうな表情で呟く。神の肉体を作るということは彼の好奇心を刺激した様だ。一誠はカプセルの中をジッと見ていた。

 

「……これが俺と玉藻の新しい体かぁ」

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し巻き戻り、ハーデスから言い渡された事に移る。彼が一誠に告げたのは、もう人間を辞めて死神になれ、という物だった。

 

《……今回の事でお前は目立ちすぎた。もう、仮所属やバイトなどと言える段階ではない。……明日までに考えておけ。両親に色々話すべきだからな》

 

冥府の秘術を使えば人間を半死神にする事が出来る。寿命は完全な死神よりは短いものの、人間よりは遥かに長い。一誠も最初はそれで良いと思っていた。

 

 

 

 

その日の晩の事、両親との話を終えた一誠の部屋を玉藻が訪ねてきた。また誘惑でもしに来たのかと思った一誠であったが、神妙な面持ちを見て直ぐに否定する。

 

「……どうしたの?」

 

「ご主人様。今回の件ですが、体を死神に変えるのではなく、別の体に魂を移し替えませんか? ……正直言いいますと、私の今の実力に耐えられる体を作った場合、半死神になった貴方様よりも遥かに長生きしいてしまいます。ご両親から頂いた体を完全に捨てるのは嫌かと思いますが……」

 

「あ、良いよ」

 

「……へ?」

 

余りにもあっさりとした承諾に目が点になっている玉藻を抱き寄せた一誠は天井を仰ぎながら笑った。

 

「ほら、さっき親子三人で話してたでしょ。死神になる事言ったんだけどさぁ、ふぅん、だって。俺がどんな存在になっても息子には変わらないから気にならないらしいよ。……それよりも三人を泣かす様な真似はするなって言われたよ。だから、お前に寂しい思いをさせたくないから、良いよって言ったんだ」

 

「ご主人様……大好きです!」

 

玉藻は一誠に飛びかかって押し倒すと甘える様な声で囁いた。

 

「体は私の術とマユリの技術とアーローニーロが得たアザゼルの知識を利用したら、一ヶ月後にはできます。それでぇ、体ができたら頑張ったご褒美が欲しいなぁ♥」

 

「良いよ。何でも言って」

 

 

 

 

 

「じゃあ、赤ちゃん。ご主人様の赤ちゃんが欲しいですぅ。死神になるのを早めるし、そっちの方も早めたら良いと思うんですよぉ。……駄目ですかぁ?」

 

「まぁ、父さん達にも強請られたし、作っちゃおうか?」

 

一誠は抱きしめている状況で器用に服を脱がしていく。どうやら体を新しくする前に……っといった様子だ。

 

「あぁん♪ 最高ですぅ。黒歌の体は私が産んだ後に作りますね。正妻として第一子は譲れねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《あんな事言ってますけど良いんでやすか?》

 

「仕方ないにゃ。一誠にとって玉藻は唯一無二の存在。今は二番手に甘んじるわ……今はね。あの玉藻から一番を奪うのって燃えない?」

 

なお、二人の会話はバッチリ盗み聞きされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……部長の髪の毛って綺麗ですよね。私、ずっと羨ましかったんです」

 

冥界のグレモリー男爵の屋敷にある地下室。この屋敷は元々辺境に作った別荘で、地下室は元々問題を起こした身内を監禁する為に先代当主が作らせたものだ。その地下室にリアスとアーシアの姿があった。ベットに寝かされ栄養剤の管を付けられたリアスの髪をアーシアはクシでとかしていた。

 

「……ねぇ、部長。目が覚めたら沢山お話しましょうね。まだまだ話したい事が有るんです」

 

アーシアは目覚める事のないリアスに話しかけ、虚ろな瞳で笑いかける。目の下にはクマが出来ておろ寝ていない事が分かる。いや、彼女は眠れないでいた。

 

好きな相手の為に松田を犠牲にした事への罪悪感、そして毎晩見る悪夢によって彼女の心は蝕まれていた。青い門を潜った松田は泥沼に落ち、中から出てきた手に引きずり込まれていく。そんな悪夢を毎晩鮮明に見せられているのだ。

 

「……アーシア先輩。そろそろ交代の時間ですぅ。あの、少し休んだ方が……」

 

「有難う、ギャスパー君」

 

アーシアはギャスパーに後を任せ、ふらつく足取りで地下室を出る。すると入り口付近に祐斗の姿があった。笑を浮かべているが彼も窶れており、オデコには傷があった。盗賊の捕縛任務に出かけた際に領民から石を投げられたのだ。

 

「祐斗さん! すぐ治します!」

 

慌ててアーシアが癒し、傷跡も残さず綺麗に治った。

 

「有難う、アーシアちゃん。……お疲れ様。僕も今から休憩にするよ」

 

祐斗はアーシアと共に自室を目指す。彼らに与えられたのは使用人用の相部屋。この部屋に三人で暮らしているのだ。祐斗が扉を閉めた時、アーシアが抱きついてきた。

 

「……私は最低です。部長を、松田さんを見殺しにしました」

 

「……それを言うなら僕もだよ。僕は最終的に部長を見捨てた。政治的な問題を言い訳にして見捨てたんだ」

 

祐斗もアーシアの腰に手を回し抱きしめ、そのままベットに押し倒した。

 

 

 

 

 

「……お願いします。何時もの様に一時だけでも忘れさせて下さい」

 

「……分かったよ。アーシアちゃん……アーシアァァァァァァ!」

 

「祐斗さん……祐斗ぉぉぉぉぉ」

 

二人は自責の念から逃れる為に体を重ねる。滾る獣欲に身も心も任せ、精根尽きるまで互いを求め合った。粗末なベットの軋む音と喘ぐ声が部屋に響き、淫靡な香りが充満する。そして二人は微睡みに身を任せ……終わる事ない悪夢に苛まされる。二人の心は徐々に壊れていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……リアス。なぜあの様な事をしたのですか?」

 

ソーナは生徒会室で誰にも聞かれない様に呟く。駒王学園の一般人の記憶からリアス達の記憶は消え失せ、オカルト研究部の部室も綺麗に整理されている。まるで最初から居なかったかの様に……。

 

ソーナ達の夢は革命的な行為であり、敵も多い。その為に弱みは見せられず、今や汚点とされているリアスの死を人前で悲しむ事さえ出来なかった。

 

「……この様な事ではいけませんね。リアス、御免なさい。私は貴女を忘れ、前に進みます。理想とする社会を作る為に……」

 

眷属達がリアスに囚われる中、幼馴染みのソーナは彼女を忘れ、未来に生きる決意を固めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朱乃、また食事を摂らなかったのか?」

 

「……食欲がないんです」

 

そしてもう一人の幼馴染である朱乃は父であるバラキエルの元に返され、未だ囚われ続けていた……。

 




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課外授業のデイウォーカー
七十七話


今日は氷の覇王も投稿しましたので気が向いたら読んでください


此処は旧グレモリー領にして現・冥府領の一角。街から離れた此処は特に手も入らないまま放置されており、現在大量の霊群によって地面をならし、平らにしていた。今行われているのは城の移転作業。一誠の代理として領主の任を任されたランスロットの城を異空間から冥界に移すのだ。

 

「は~い、チャッチャとしやがれですよ。此れが終わるまで私も帰れねぇんですから」

 

「……申し訳ございません、玉藻殿」

 

一誠から現場監督を任された玉藻は少々不機嫌そうながらも的確に指示を飛ばし工事は順調に進んでいた。冥府が冥界から譲り受けた土地は住民が居ない場所ばかりであり、死神や霊達が住む事になっている。工事がひと段落して休憩をとっている頃、大量の荷物を抱えたプルートがやって来た。

 

《各勢力からのお祝いの品とハーデス様からの差し入れです》

 

プルートが持って来たのは果物や各勢力毎の料理。流石に酒はないようだが、騎士達が楽しむには十分だろう。玉藻は好物を見つけ尻尾を盛大に振る。

 

「わぁ、油揚げもありますねぇ♥ ご主人様との家もご用意して頂ける事になりましたし、此れからもバリバリ働きますよ!」

 

「ああ、幽死霊手の屋敷以外に生活用の屋敷を持つのでしたね」

 

「ええ、プール付きの豪邸です♪ 夫婦の寝室意外にも個人の部屋も有りますし、将来生まれる子供用の部屋も十部屋以上有るんですよね、あぁん、早く体できないかなぁ」

 

「……十人以上? ああ、黒歌さんやベンニーアさんの子供の分もいりますか」

 

「いえ? あの二人の分は別館です。本館はぁ~♥ ご主人様と私の愛の巣ですからぁ~♪ ……高天原製の媚薬が効くんですよ。一本どうです?」

 

「……頂きます。しかし、その理論で言うと別館はお二人と主の愛の巣になるのでは?」

 

「……さ、仕事に戻りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一誠は学校で次の授業の準備をしていた。すると、真剣な顔をしたイリナが近付いてくる。どうせリアス達の事だろうとうんざりした一誠であったが、

 

 

「ねぇ、イッセー君。BLて何? ビーエル! ビーエル! って皆が騒いでいるけど意味が分からなくって」

 

バイオレンス・ラナルータ(B・L)。拳で地球を動かして昼夜を逆転させる男達の熱い物語だよ。ちなみに先月七九巻が出たから、本屋さんに行ってビーエルの最新刊は何処ですか? って聞けば分かるよ。あ、最初の人が分からなかった時の為に、他の店員さんに聞こえるように大声で聞く事をお勧めするよ」

 

「有難う! 早速放課後に行ってみるね!」

 

イリナは礼を言うとその場を去っていった。

 

「……相変わらずイリナちゃんは残念系だなぁ。LじゃなくってRなのに。本当に海外育ち? あれ? あの子って日本出身なのに弱肉強食の意味を間違ってたよね。……自称日本出身の自称海外育ち、か……」

 

なお、リアス達の件を彼女が言わないのは其処まで仲が良くないからという理由とミカエルにキツク言い渡されているからである。実に正しい選択だ。

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、両親留守で黒歌は小猫の引越しの手伝いに行っているので家には一誠とベンニーアだけが残された。今日の夕食当番は彼女であり、食卓の上にはギリシア料理が並んでいる。一誠は大皿に盛られた料理に舌鼓を打っていた。

 

「うん、美味しい!」

 

《それは良かったでやんすよ》

 

エプロンを着たベンニーアは照れ臭そうに微笑み、お盆で顔を隠す。身をよじると束ねられた髪が揺れ、エプロンの隙間から生足が見える。エプロンの下にはキワどいビキニしか着ていなかった。

 

《あの~、これに関して感想はないでやんすか? ほら。押し倒したいとか、脱がしたいとか?》

 

「……うん。立派に染められたね。……それにしても」

 

一誠は彼女の体を頭の上から爪先まで眺める。何処がとは言わないが、会った時よりも格段に成長していた。

 

「うん。育ってるね。……ねぇ、本当に良いの?」

 

《へ? ……のわっ!?》

 

徐ろに立ち上がった一誠はベンニーアを抱きしめ、吐息がかかる距離まで顔を近づけ金色の瞳を覗き込む。ベンニーアの鼓動は自然と高まり、そっと瞳を閉じると唇に柔らかい物が触れる。今二人は深い口づけをかわしていた。

 

「……俺からする約束だったからね」

 

《……続きはしないんでやんすか?》

 

「う~ん、今は君のご飯を食べたい気分かな? ベンニーアちゃんも立ってないで一緒に食べようよ」

 

一誠は一瞬迷ったが性欲よりも食欲を取り、ベンニーアもこの場は仕方ないかと諦める。彼の三大欲求は食欲が少々強めなのだ。少々残念ではあるが自分の手料理を美味しそうに食べて貰えるというのはそれはそれで嬉しいし、母親からはまず胃袋をつかめ、と言われているので今は諦める事にした。

 

 

 

 

そう、今は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終えた一誠であったが、浴槽に手を入れて顔を顰める。今日風呂を沸かすのを忘れていたのだ。とりあえず今から沸かすにしても此の儘待つのが億劫だ。かと言ってもう一度服を着るのも面倒だと思った一誠はシャワーを浴びて待っているという結論に達した。

 

 

「あ~、しくじったなぁ。まぁ、良いか」

 

《そうでやすよ。失敗は誰にだってありやすから》

 

声に反応して後ろを見ると其処には先ほどの水着姿のベンニーアが魔法陣を使って浴室に侵入していた。

 

「先にシャワー浴びたいの? なら、代わろうか?」

 

一誠は気を使って出ていこうとする。しかし、その動きは背中から抱きつかれた事によって止められた。一誠の体を掴むベンニーアの指先は一誠を軽く抓っており、振り返って見た顔は少々不機嫌そうだ。

 

《あっしでは不足でやんすか? お二人とは毎回最後まで行くのにあっしだけ……》

 

霊体である二人は絶対に妊娠しないが、ベンニーアはするので最後までは行為を行なっていない。ドラゴンの異性を惹きつける力と彼女好みだった事もあり、一誠との政略結婚を受けた時にはベンニーアは既に彼に惚れきっていた。一誠も彼女とは途中までは行っているが、それでは不満なようだ。

 

《……あっしも妻にするというのなら、お二人同様に純潔を奪うべきでやんす》

 

なお、一誠は玉藻に襲われて奪われたのである。

 

 

「……う~ん」

 

《……避妊対策はバッチリでやんすよ?》

 

その言葉によって一誠の迷いは無くなり、その日は何時もより長めに風呂に入った一誠は上機嫌で出てきて、彼に支えられるように出てきたベンニーアは少々肌つやが良くなっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……吸血鬼から頼み事? アイツ等ってプライドの塊で他種族は見下してなかったっけ?」

 

新調した体になれる為の運動をしながら一誠は首を捻る。その体は完全な死神となっており、身体能力や霊力が格段に上がっていた。彼に話を持ってきたプルートも一誠の疑問に苦笑している。依頼してきた吸血鬼と会談を行ったのは彼なのだが、その席で色々あったらしい。

 

 

《それが、同じ吸血鬼に頼むから問題はない、と言っているのですよ。……『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』の所有者が君や君の部下に会いたいそうです。なお、クドラクのお供は二名まで、とお願いする立場のくせに言ってきやがりました》

 

「……よっぽど腹が立ったんだね。言葉が乱れてるよ」

 

どうやら派閥同士で戦争を行っている時に取引のあった悪魔からライザーとの戦いの事を聞き、クドラクの事を知ったらしい。

 

今は脳筋の馬鹿だが、一応伝説級の吸血鬼なのだ。物凄い馬鹿だけど。

 

 

なお、『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』とは神滅具の一つで生命に関する力を持ち、滅んだ肉体を魂から蘇らせたり生物を強化できるが、使いすぎると精神汚染で亡者の姿が見え声が聞こえるようになるのだ。アザゼルも一誠がこの神器も持っていると思い込んでいた。

 

 

なお、一誠は素で亡者と会話でき、滅びかけた魂を復活させて擬似的な肉体を与えられ、生物の強化もできる部下は居る。

 

《……手に入れられるのなら手に入れさせて来い。ハーデス様はそうおっしゃってます。なお、今回は親睦の為という口実ですよ》

 

「……ぶっちゃけどうでも良くない? 死神化して霊力が倍増したしさ」

 

《っというのは最上級死神になった君を動かす口実で、ペルセポネー様が吸血鬼の里の名産品や土産を欲しがっているのですよっまぁ、聖杯を見てみたいとも言っていました》

 

最上級死神の地位を手に入れた一誠やその配下は今までの様に自由に動かせるという訳には行かない。バレバレの嘘であっても建前は必要なのだ。

 

 

 

 

 

《あ、コレは我々が買ってきて欲しいお土産のリストです》

 

プルートが渡して来たメモには最上級死神全員分の希望するお土産か書かれていた……。

 

 

 

 

「……とりあえず俺は学校が有るからメンバーの選抜をするね」

 




久々にr18の方に書きたい気分  さて、お相手は? (ΦωΦ)フフフ… 正妻先輩押しのけて……


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七十八話

苦戦した 

キャスターエンド マジカオス


雪と雲に覆われ太陽光が届かない街を余所者と思しき三人が歩いていた

 

『ったく、辛気臭ぇ所だな。創作意欲がちっとも湧かねぇ』

 

「……いや、もう貴方邪龍じゃないでしょ?」

 

街の中を不機嫌そうに見渡すのはTシャツにジャージ姿の大男。凶暴そうな目と鋭い歯が特長だ。なお、シャツには可愛らしい動物の絵が書かれている。そんな彼に対して呆れた様な視線を向けたのは黒髪の美女。ビシッとしたスーツに身を包み、やり手の弁護士や検事といった感じだ。

 

 

そして最後の一人は貴族風の服装に身を包み土気色の肌を持つ、

 

 

 

 

 

 

 

「ずっどぉぉぉぉぉん!! ここはぁ、ここはぁ、ここだぁぁぁぁぁ!1」

 

馬鹿だった。

 

今回吸血鬼の里に派遣されたのはレイナーレとグレンデル、そして招待を受けたクドラク。なお、同じく招待を受けた一誠は学校があるから来ていない。

 

「いや、学生は学業が本分だし」

 

っという事だ。今回の派遣は冥府側は普段買えないお土産を買ってこさせる程度にしか考えていないので別に彼が行かなくても構わなかった。

 

 

 

一誠達を招待したのは吸血鬼の男性の始祖を崇めるツェペシュ派。まぁ、要するに男尊女卑派という訳だ。どうやら最近対立するカーミラ派との戦いが激化している最中にクーデターが勃発。『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』の所有者である半吸血鬼の少女を王に据え、その少女がクドラクや一誠、そしてその部下に会いたがっているというのだが……。

 

『似た様な力を持つ旦那に会いたがってるそうだが……にしても、なぁ?』

 

「ええ、お笑い草だわ。人間を家畜と思っている吸血鬼、それも男が偉いと主張しているツェペシュ派が傀儡とは言え、『人間』の血を引く『少女』を王に据えるなんてね。道具は最後まで道具として扱う方が良いに決まっているのに。コレだから主体性が無い奴らって嫌」

 

二人は吸血鬼の悪口を言いながら進んでいく。やがて中世を思わせる古風な城に着くと吸血鬼達が慌てて出迎えてきた。

 

「こ、これはクドラク様とお供の方々! お迎えに行った者と会いませんでしたか?」

 

「……私達がクドラクのお供? 折角の迎えだけど無視させて頂いたわ。ほら、行くわよクドラク」

 

「なっ!?」

 

「ずっどぉぉぉぉぉん!!」

 

驚いて固まる彼らを無視したレイナーレはクドラクの襟首を掴んで進む。慌てて追い付いた彼らに案内されて入った玉座の間では虚ろな目をした少女が王座に座って出迎えた。

 

「初めまして、クドラク様と霊王様の部下の皆様。私はヴァレリーと言います。――そうよね。うん、私もそう思うわ」

 

ヴァレリーはニコリと笑ったかと思うと虚空に向かって話し出す。三人の目には其処に居る亡者の姿が映っていた。

 

なお、霊王とは先日の一件の対価に自分の能力を他勢力に教えた事から一誠についた異名である。

 

「……あれが聖杯の副作用って奴ね。命の理に触れ、無数の意識が流れ込む事で亡者の姿が見え声が聞こえる……一誠様と比べると随分貧弱ね」

 

レイナーレ詰まらなそうにしていると貴族風の男がやって来る。その後ろに控えた男を見た瞬間、グレンデルの表情が変わる。

 

『グハハハハ! 久しぶりじゃねぇか、おい! クロウ・クルワッハよぉ!』

 

何時の間にか人の姿を解いたグレンデルはトンファーを構え彼に向ける。しかし、その動きはレイナーレによって遮られた。

 

 

「……止めておきなさい。勝手が過ぎるわよ、グレンデル」

 

『ちっ!』

 

グレンデルは舌を打ち、不承不承といった態度でトンファーをしまう。それを見たクロウ・クルワッハは驚いたような顔をしていた。

 

「……貴様が矛を収めるとはな。霊王に飼い慣らされたか?」

 

「けっ! そう言うテメェこそ蚊の護衛かよ? 随分落ちたもんだな、元・邪龍最強さんよぉ!」

 

「……ふん。おい、マリウス。さっさと挨拶を終えろ」

 

彼に促された青年、マリウスは二人から放たれる殺気に圧されながらも笑顔を取り繕い、丁寧に挨拶をした。

 

「初めまして、皆様。私は宰相兼神器研究チームの責任者をしておりますマリウスです。どうぞお見知りおきを」

 

「ねぇ、一つ聞いて良いかしら?」

 

「ええ、構いませんよ。え~と……」

 

マリウスはレイナーレに名を尋ねるが、その目に映っていたのは侮蔑。明らかに堕天使の女性で霊体である彼女を見下していた。もっとも、レイナーレはそれに気付いていたが気にした様子を見せず、しれっと聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

「私はレイナーレ。一応上級死神の地位をハーデス様から頂いてるわ。所で、その子から何時神器を抜き取るのかしら? 研究が終わったら殺すんでしょ、その子?」

 

レイナーレは、今晩のメニューは何 、と聞くような気軽さでその質問を口にした。マリウスや部屋内の重鎮達が唖然とする中、呟くような声が響く。

 

 

 

 

 

 

「なぁぁぁぁ、レイナーレェ。あいつらはぁ、なんでぇ仲間を殺すんだぁぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、日本では一誠が次の授業の準備をしていた。午前中に国語の小テストがあったのだが、なぜかイリナは午前中に来ておらず受けれなかった。そして午後になって漸く登校した彼女は一誠に向かって走ってくる。

 

 

 

 

 

 

「イッセーくぅぅぅぅぅぅぅぅん!」

 

「五月蝿いなぁ。どうしたのイリナちゃん? 室内で走ったら危ないでしょ。それにさ、百キロ以上の人が走ったら膝への負担が拙くない?」

 

「わ、私はそんなにデブじゃないわよ! さ、最近少し太っちゃったけど」

 

「……別に君が百キロ以上だなんて言ってないでしょ? もう、被害妄想激しすぎだよ。あ~やだやだ。イチャモンつけないで欲しいなぁ」

 

鼻息荒くして唸るイリナに対し、一誠はさも困ったという様に肩をすくめる。この様なやり取りは何度もしているがイリナは毎回の様にあしらわれていた。

 

「所で何の用? っていうか午前にあった国語のテストサボっちゃ駄目じゃない。いくら自称日本育ちで国語が苦手でもさぁ」

 

「自称じゃないわよ! そ、それより昨日はよくも騙してくれたわね! おおお、おかげであんな本を……」

 

昨日、BLの意味を聞いてきた彼女に対し一誠は人気漫画のタイトルの略称だと嘘を教え、イリナはためしに読んでみようと本屋で最新刊が無いか大声で聞いたのだ。もちろん周りの反応は唖然としたもので、なれている店員さんが持ってきたのは半裸で抱き合う美男子が表紙の漫画。教会育ちで耐性の無いイリナは本を受け取って見るなり真っ赤になって逃げ出してしまい、危うく万引き犯に間違われたのだ。

 

 

 

「お。おかげで定価の何倍もの値段で買う羽目になって、警察は居合わせた会長が術を掛けて勘弁して貰ったけど……家に帰って読んでみたら、どのページもハレンチ過ぎたわ!」

 

「いや、読まなきゃ良いじゃん」

 

「……前から思っていたけどイッセー君て私の事嫌い?」

 

「いや、好きだよ」

 

「なっ!? なななななななななっ!?」

 

イリナは耳まで真っ赤にし、その場から走り去っていった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、からかったら面白いからだけどね。あれ? イリナちゃん?」

 

一誠が気付いた頃には既にイリナの姿はなく、一誠は何やら嫌な予感を感じたが、どうせギャグパートにしか関わらないか、とメタな思考をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

その後、又しても授業をフケたイリナの事等は思考の隅にやり、一誠は自宅に戻る。流石にこれ以上増えると家が狭くなるので小猫は近くのマンションで暮らし、黒歌は夕食が終わるまでは其処で過ごす事となった。両親はまだ出かけており、家に残っているのはポチと玉藻だけ。そのポチも白目をむき、泡を吹いて寝て居る。

 

 

 

「お帰りなさいませ、ご主人様ぁん♥」

 

「うん! ただいま」

 

出迎えたのは勿論玉藻だ。ただし、先日のベンニーアに対抗してか裸エプロンだが。一誠は飛びついてきた玉藻を抱き止め、ベンニーアとは何段も違う重量感のある胸の感触を堪能する。しかし次の瞬間、一誠の体を悪寒が襲う。今自分を抱き締め返している存在と同じ姿と気配の存在達に囲まれていた。

 

 

 

 

 

「ど、どうしたの?」

 

「玉藻、増えちゃいました♪ てへっ✩」

 

 

 

 

 

 




思いついたラスボス番外 吸収して強くなる三人 メルトリリス セル アーロニーロ 執筆は未定

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ワンパンのガロウ サーヴァントならバーサーカー? 


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七十九話

難産でした


「部屋をご用意致しましたので、どうぞ其方へ」

 

クドラクの問いを有耶無耶に誤魔化したマリウスの部下に案内され、レイナーレ達は客室に向かう。その途中、クドラクはずっと首を傾げていた。

 

「なぁぁ、レイナーレェ。アイツ等ってぇ、誇りある吸血鬼なんだろぉぉぉぉぉ?」

 

「ええ、自分達でそう言ってるわね。それがどうしたのかしら?」

 

「だったらぁ、なんでぇ同族に対してあんな扱いをするんだぁ? 仲間はぁ、大切だろぉぉぉ? それにぃ、聖杯の力で強化したらしいがぁ、貰い物の力の何処が偉いんだぁぁぁ?」

 

このクドラクは正式には伝説の吸血鬼であるクドラクでは無く、古代の吸血鬼の怨念にクドラクへの恐れの念などを混ぜてクドラクの姿に作り上げた存在だ。その為か知能は非常に低い。しかし、古代の吸血鬼としての記憶を持つ彼には今の吸血鬼達が誇りが有るようには見えなかった。

 

「……そうね。狭い世界しか知らないから、他人を見下さないと自分を保てないんでしょ。……昔の私みたいにね」

 

レイナーレはクドラクの疑問に対し、自嘲するように微笑んだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『え~と、織物に木彫り細工、絨毯は全部買ったし、後は何だ?』

 

「紅茶とお菓子ね。人間から吸血鬼になった者用のお菓子があるそうよ。娯楽が殆ど無いから、その分味が期待できそうね」

 

その後、城下町まで出たレイナーレとグレンデルは頼まれた土産を買っていた。買った物は片っ端から転移させ、メモに書かれたリストは殆ど買い終わっている。邪龍の視力で細かい汚れや傷を見逃さない目利き役のグレンデルと値下げ交渉役のレイナーレという組み合わせで、クドラクは馬鹿だから留守番だ。

 

『……おい、アレってもしかして』

 

「オ、オーフィス!? ど、どうしましょう!?」

 

そんな中、グレンデルは露天の商品をジッと見ている少女を見つけ指さす。其処に居たのは紛れもなく封印されたはずのオーフィスであった。

 

 

 

「お、お嬢ちゃん、それが欲しいのかい?」

 

店主が話し掛けるもオーフィスらしき少女はドラゴンの姿をしたアクセサリーをじっと見ていて何も話さない。するとグレンデルが近づいていき、店主にお金を差し出した。

 

『……端っこに細かい傷がある。少しまけろ』

 

「は、はぁ……」

 

グレンデルが差し出した金額は値札の金額と然程変わらなかったので店主も文句を言わず受け取り、アクセサリーを渡す。そしてグレンデルからオーフィスらしき少女に手渡された。

 

『ほれよ。これが欲しかったんだろ?』

 

「……懐かしい気配が三つ。何で?」

 

少女はグレンデルを見上げて首を傾げる。その時、少女の腹が盛大に鳴った。

 

 

「……ご飯にしましょうか。その子が誰か知りたいしね」

 

レイナーレは肩を竦め、二人と共に近くのレストランに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、それでお日様は明るくて暖かいんですね」

 

「そうだぞぉ。お日様はぁ、ポカポカでぇ、ピカピカなんだぁぁぁ!」

 

その頃、ヴァレリーとクドラクは庭園でお茶を飲んでいた。最も、クドラクにマナーなんて理解できず、カップを傾けて紅茶を口に流し込み、クッキーは食べ滓をボロボロと零している。明らかなマナー違反にも関わらず、そんな姿を見ているヴァレリーは楽しそうだ。

 

「ふふふ、クドラク様って伝説とは随分違うんですね。ええ、貴方達もそう思うわよね」

 

「そうかぁ、お前らもそう思うかぁぁ!」

 

普通ならヴァレリーとしか会話ができない亡者達も、同じ亡者のクドラクとは話ができるので話は弾んでいる。

 

なお、伝承のクドラクは悪疫や凶作を振りまく悪の魔術師である吸血鬼で、決まった倒し方をしないと更に強力になって復活するという。

 

狂った同士話は進み、徐々お開きといった頃、クドラクはヴァレリーの顔を覗き込んだ。

 

「なぁぁ、なんでお前逃げないんだぁ? このままだとぉ殺されるぞぉぉぉ?」

 

「逃げる? 一体何処にですか? 私は外の事を何も知りませんから……」

 

その時の彼女の瞳は先程までの狂った瞳とは違う瞳。それは全てを諦め切った瞳だった。

 

 

 

 

 

 

「当たり前だぁぁ。行った事も聞いた事もない場所の事を知っている奴なんていなぁぁぁい。お前、馬鹿かぁぁぁぁぁ? ……安心しろ小娘。余が助けてやろう。真の吸血鬼の誇りを持つ余は同族を見捨てぬ。それが半吸血鬼であってもな」

 

「……え?」

 

「どうかしたかぁぁぁぁ?」

 

ヴァレリーは一瞬だけ印象が変わったクドラクを見て驚くも、次の瞬間には先程までの馬鹿丸出しの姿に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、どうしてこんな状況に?」

 

「え~と、細胞分裂?」

 

「あ~、はいはい。玉藻って単細胞生物だったんだ」

 

一誠の目の前には正座している九人の玉藻。なお、先ほど抱きついて来たのは裸エプロンで、残りの八人は右からスク水、ナース、メイド、ゴスロリ、花嫁(和)、花嫁(洋)、学生服、そして最後に婦警。一体どこのコスプレ風俗店だと言いたくなるラインナップだ。

 

「うぅ、そこはもっとノリよく突っ込んで下さいよぉ。あ、別の物を突っ込んでも……痛ーい!?」

 

「それで、一体全体どうしてこんな事に?」

 

「ワンモア!? ……分かりましたから、そのゴミを見る目を止めてくださいよぉ。癖になっちゃいそうです♥ ……さて、冗談は此処までにします。実はご主人様が死神となった事で強化され、私としても妻として今まで以上に尽くす必要が御座います。故に、至らぬのなら人数を増やせば、と思いまして」

 

「……ゴメン。君が其処まで考えていてくれているんなんて思わなかったよ」

 

急に真面目に話しだした玉藻(裸エプロン)の言葉を聞き一誠は心を打たれる。彼女はそこまで自分の事を思っていてくれたのだな、と。

 

「何をおっしゃいます、旦那様(・・・)! 夫を支えるは妻の役目。私は良妻を目指す身として当然の事をしたまでです。……それとも、ご迷惑でしたか?」

 

最後の言葉を放つ時の玉藻の顔は不安に映震えている時の顔。一誠は思わ玉藻を抱きしめていた。

 

 

「……迷惑なんかじゃない。此れからも俺を支えてくれ。ただし、無理はダメだよ?」

 

一誠は抱きしめる腕の力を強め微笑む。玉藻も彼の背中に手を回し……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっしゃぁぁぁぁぁぁっ! 捕まえたぞ、者共ぉ!」

 

 

「……へ?」

 

急にテンションを上げて一誠を拘束する。後ろに控えていた八人はヨダレを垂らしながらにじり寄り、もれなく九人とも目が怖い。

 

「ふっふっふっ! 掛かりやがりましたね、ご主人様。いやぁ、一回多人数プレイやってみたかったんですよねぇ♥」

 

「私はぁ、獣の様に責めて欲しいなぁ♥」

 

「私はとことん攻めて差し上げます」

 

「一緒に愛し合いましょう?」

 

「ご、ご主人様と子作りなんかしたくないんですからね! あ、嘘です嘘です。したいですぅ~」

 

「ご主人様、お覚悟を。何、すぐに済みます。……二~三十時間くらい?」

 

「「「あ~、もう! 色々メンドくせぇ!」」」

 

どうやら先程までのは彼女の策略だった様だ。どこまで行ってもシリアスブレイカーの玉藻×九。彼女たちは一斉に飛びかかる。

 

 

 

 

 

しかし、襲いかかろうとしたその瞬間、部屋の景色が変わり、玉藻達は木造の旧校舎に転移していた。

 

「なっ!? どうやって!?」

 

「……死神になってから旧校舎を通らなくても異界に来れるようになってね。後、あの人に念話を送っておいたから」

 

「ま、まさか……」

 

玉藻は後ろから放たれるプレッシャーを察知してゆっくりと振り向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、説教の時間だよ馬鹿狐。SAN値の貯蔵は十分かい?』

 

そこには久しぶりの出番に張り切っているのか、迫力三割増の口裂け女が立っていた。




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八十話

「……非常に拙いですね。同じ吸血鬼なら取り込めると思ったのですが……」

 

クドラクとヴァレリーが談笑する中、マリウス達は会議室で焦りの色を見せていた。伝説の吸血鬼であるクドラクによる彼らの行動の否定は兵や一部の貴族に動揺を与え、このままでは計画に支障が出かねない。当初は仲間に引き入れて旗印にでもしようとしていたのだが、その目論見はまんまと外れてしまった。

 

「彼らはお帰りになり、その道中で何かあったが此方は何も知らない。……そうですよね?」

 

マリウスの出した結論に出席者達は頷き、その為の準備に掛かる。その様子をクロウ・クルワッハは冷めた目で見つめていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、口元にソースが付いてるわ」

 

レイナーレ達が入ったレストランではルーマニア料理を中心に多国籍な料理が楽しめ、オーフィスらしき少女は口元にソースや食べカスを付けながらグリルされた肉や野菜を頬張っている。グレンデルは店長の青ざめた顔を無視して十皿目のチャレンジメニューを完食し、追加を頼もうか迷っている所だ。レイナーレは自分の食事をそっちのけで少女の世話を焼いている。

 

『それで、お前は誰だ? 何の目的でこの里に来やがった?』

 

「……リリス。リゼヴィムを守る為に着いて来た。……懐かしい匂いがする。赤いのと白いの?」

 

もう十食べたのか、少女はフォークを置き、グレンデルの質問に答えた後、徐ろに彼の体を嗅ぎだした。

 

「止めておきなさい。其奴からは汗の匂いと加齢臭しかしないから。 ああ、私はレイナーレよ」

 

『いや、最近絵画も始めたから油絵の具の匂いもするぜ? 今度、異界の音楽家共に楽器習う事になったしよ、現世って楽しいよな。 ……俺はグレンデルだ』

 

もはや邪龍って何だっけ? といった会話を二人がしている間に何時の間にかリリスの姿は消えていた。

 

『んで、どうするよ? ハーデスには連絡したんだろ?』

 

「ええ、したわ。お土産ご苦労ですって。ヴァレリーに関しては好きにしなさいって言ってたわ。だって、私達は『女王』である彼女に招待されて来たんですもの。……その女王が殺され様としているのを見過ごすか、防ぐかは現場の判断に任せるそうよ。……それに、面白い名も聞けた事ですしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ささ、どうぞ此方へ」

 

「うぉれに、なんのようだぁ?」

 

その頃、クドラクはマリウスに案内されて城から少し離れた場所にある建物に入っていく。案内された部屋の真ん中には椅子とテーブルが有り、テーブルの上にはご馳走が用意されていた。

 

「クドラク様の為にご用意いたしました。どうぞ心ゆくまでお食べ下さい」

 

「おぉ! うぉまえ、よくやったぁぁぁ! メシ、メシィィィィィィィ!」

 

クドラクは一目散にテーブルへと駆けていき、マリウスは部屋の外に出て扉をそっと閉める。その手は壁に隠されたスイッチに触れられていた。

 

 

 

 

「……どうですか? 最後の晩餐は。……いえ、最後の昼食ですね」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

この部屋は騙した連れてきた相手を殺す為の物。スイッチを押すと床が抜け、銀の槍が姿を現す。そして運良く床の槍に刺し貫かれなくても、銀の槍が出現した天井がゆっくりと降りてきて刺し貫き押し潰す。所詮伝説は伝説。此処まですればクドラクでも死ぬと判断し、マリウスは計画を最終段階に移そうとしていた。

 

 

 

「ああ、もう直ぐですね。誇り高い我々吸血鬼が世界の覇者になる日まで……」

 

マリウスは自己陶酔しながら城へと向かう。クドラクの死を確認しないまま……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ。私達も舐められたものね。多少強化したくらいで私達に勝てる訳無いじゃない。これなら新しい奥の手はいらないかしら?」

 

『油断すんな、レイナーレ。直に面白い奴らがやって来るぜ』

 

取り敢えず城へと戻ってきた二人を待ち構えていたのは武器を持ち、殺気を放った吸血鬼達。我々は聖杯で強化されている! と自信満々に掛かってきた彼らはあっさり返り討ちにされた。レイナーレには灰にされ、グレンデルには挽肉にされた彼らは強化された再生能力も発揮できず息絶えている。そして、退屈そうに欠伸をしたレイナーレをグレンデルが諌めた時、二匹のドラゴンが出現した。

 

 

「……俺はグレンデルと戦う。お前はあの女を殺せ」

 

「やれやれ、アナタの方は楽しそうで良いですね。早めに終わらせますので、その時混ぜてくださいよ?」

 

二人の前に現れたのは最強の邪龍と呼ばれるクロウ・クルワッハ。そして、木の様な体を持つドラゴンだった。

 

「このタイミングで切り札投入って事は、やっぱり神器を抜く気ね。クドラクは何してるのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、レイナーレの予想通り、城の地下室ではヴァレリーの神器を抜く儀式が行われようとしていた。

 

 

 

「喜びなさい、ヴァレリー。混ざり物の貴女が我々純血種の役に立てるのですから光栄でしょう? 聖杯の力により我々は人間を支配し、世界を手にするのです!」

 

「クドラク様……」

 

神器を抜かれた者は死ぬ。死を前にしたヴァレリーが呼んだのは、かつて逃がした幼馴染の名ではなく、会ったばかりの男の名。マリウス達はクドラクを殺した事を教えたら目の前の彼女がどの様な反応を示すのかと嗜虐心をそそられる。

 

「ああ、彼なら……」

 

そしてクドラクの死を教えようとした瞬間、ヴァレリーの体が魔法陣の上から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……愚か者共が。力で相手を支配する事しか出来ぬのは三流の証。同族を犠牲にしなければ目的を果たせぬのならそれ以下だ。もはや貴様らが吸血鬼を名乗る事すら虫酸が走るわっ!」

 

「クドラク…様……?」

 

其処に居たのはヴァレリーを抱き抱えたクドラクの姿。その目には確かな理性、そして燃え上がるような憤怒が宿っていた。

 

「……貴様は其処で待っていろ。道具の力に酔っている屑共には余が引導を渡してやる。そうだな、全部終わったら余が直々に日本を案内してやろうっ! 日本は良いぞ。食に対する欲求が桁違いだから飯が旨い!」

 

ヴァレリーを下ろしたクドラクはマントを翻し、カラカラと哄笑するとマリウス達に向き直った。

 

「さて、仕置の時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ったく、アンタは毎回毎回っ! 大体良い事言ったなら其処で止めときなって言ってるだろ? だいたいアンタの所には餓鬼も居るんだから」

 

「いや、見た目や中身は子供ですが、全員生前と合わせると……」

 

「あぁん? 私の言葉になんか文句でもあんのかい?」

 

「い、いえ! なんでもありません!」

 

口裂け女の説教が始まってから数時間が経過し、一誠は離れた所でメリーや花子達と遊んでいた。

 

 

「そう言えばガウェインさん所、漸くご懐妊だって。ランスロットが言ってた。あ、三連続で天鱗。でも、要らないんだよな~。重殻が一個も出ないや」

 

「ご懐妊って何?」

 

「……赤ちゃんが出来る事。私は厚鱗ばっかり……」

 

一誠がゲームをしているのを頭の上に乗りながら見ていたメリーは首を傾げる。花子もゲームをしているようだが手に入ったアイテムに不満そうだ。

 

 

 

 

 

「……それで、乱交をしたかったから増えたって言うのかい?」

 

「……だってぇ、折角赤ちゃんができる体になったんだから、一日も早く産みたくって。ガウェインさんの所が出来たって聞いてつい……。数が多ければその分確率も上がりますし……。後は孕んだ体を中心に同化すれば良いかなって……」

 

耳と尻尾を垂らして落ち込んでいる玉藻達の姿に口裂け女は頭を押さえる。

 

「……同時にできた場合はどうするんだい? あと、増えた分一人当たりの時間は減るよ?」

 

「「「「「「「「「あっ! その発想はなかった!」」」」」」」」」

 

「……取り敢えず一誠を全員で襲ったら元に戻りな。あの馬鹿も九人を相手にする大変だろうしね。まぁ、一回くらいは旦那の甲斐性だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な~んか嫌な予感が。いや、良い事かも? ん? どうしたの、アリス?」

 

「お兄ちゃん。私、これに行きたい」

 

ありすは一誠の袖を引っ張ぱりながら一枚のチラシを差し出した。

 

 

 

 

 

「……実写版ミルキーのオーディション? ……コスプレババアが来そうだけど、面白いものが見れる予感がするなぁ」

 

その時、とある学園の生徒会長は謎の寒気を感じたという……。

 

 

 




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八十一話

『ハッハァァァァッ!! 楽しいなっ! 楽しいな、おいっ!!』

 

グレンデルは全身から青い血液を流しながらも高らかに笑いクロウ・クルワッハに襲い掛かる。しかし、傷だらけの彼に対しクロウ・クルワッハには殆ど傷がない。今もグレンデルが拳を突き出すも身を僅かに逸らして避け、反対に彼の胸に爪痕を付ける。堅牢さが売りのグレンデルの体はあっさりと切り裂かれていた。

 

「昔に比べて動きに無駄がなくなった。格闘技を身に付けたか。……だが、鍛えていたのは俺も同じだ。俺は滅んだと思われている間、世界を回って修練を積み、既に二天龍に匹敵する力を得た。今のお前では俺に勝てん」

 

彼から放たれるオーラは言葉に違わず全盛期のドライグ達に匹敵するだろう。グレンデルも格闘技の他に様々な敵の魂を食べてパワーアップしているといっても彼には及ばない。圧倒的な実力差を感じ取ったグレンデルは、

 

 

 

『……ハハハ。グハハハハハハハッ!! 良いぜっ! 最高だな、おいっ!!』

 

高らかに笑った。口から青い血を流しながらグレンデルは笑う。今の彼は心の底から楽しそうだった。此れこそがグレンデルの真骨頂。普段は趣味のせいで忘れられているが、自分が死ぬ事すら楽しみの一つにするほどの戦闘狂。大罪の暴龍とまで呼ばれる所以であった。

 

グレンデルは空間を歪ませトンファーを取り出す。彼が持ち手を軽く捻ると龍殺しの力を持つ刃が出現した。

 

「……戦闘狂め。だが、それでこそドラゴンだ。では、本気で行くぞ!!」

 

『あったりまえだぁぁぁっ!!!』

 

クロウ・クルワッハも楽しそうに笑うと息を吸い込みブレスを放つ。グレンデルは哄笑しながらブレス目掛けて突っ込んで行った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燃え尽きなさいっ!!」

 

レイナーレは渾身の炎光を放つも、木の様な体を持つドラゴン、宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)ラードゥンには傷一つ付けられない。結界と障壁を得意とするラードゥンの体はグレンデル同様に強固で、障壁と合わせればグレンデルを凌ぐと豪語する。窪みの様な目がレイナーレを嘲笑うかの様に怪しく光った。

 

「貴方、弱いですね。精々最上級堕天使の下の方っと言った所でしょか?」

 

「くっ!」

 

レイナーレはその言葉に歯噛みする。彼女の翼はコカビエルと同じ八枚に増えていたが、やはり経験の浅さが響いて未だ彼以下の実力しかない。

 

 

彼女は死霊四帝の中で最弱。いや、幽死霊手の中にも彼女以上の実力者は数多く居る。彼女が幹部待遇なのは情報収集の為の洗脳をしたので扱いやすいから。

 

 

 

 

「……分かってるわよ。私の力じゃ貴方に勝てないのは分かってる。自分が弱いなんて事……私が一番分かっているのよっ!!」

 

そして、それを誰よりも理解しているのはレイナーレ自身だった。彼女は叫びと共に自分ごとラードゥンを炎光で包む。激しく燃え上がる壁は周囲百メートル程を完全に包み込んだ。

 

「……愚かですね。私の障壁は熱も通しません。それに、此れだけの力を出し続ければガス欠がやって来る。……さて、疲労しきった姿を見て楽しむのも良いですが……さっさと終わらせますか」

 

ラードゥンはグレンデルとの戦いに参加する為、戦いを直ぐに終わらせようとレイナーレの居た場所まで転移する。その瞬間、轟音と共に何かが飛び出しラードゥンの体を障壁ごと貫いた。

 

 

「ば、馬鹿なっ!? 貴女には此処までの力は無かったはず……」

 

ラードゥンの体は左前足と尻尾が吹き飛んでおり、どうやら重要な器官にも損傷を受けた様で放たれるオーラも弱くなり、障壁も崩れ始めていた。そして、その崩れた箇所から周囲の炎光が流れ込み、ラードゥンの体を燃やしていく。炎が晴れた時、レイナーレは神々しいオーラを放つ弓矢を構えていた。

 

「ええ、私には無いわ。でも、力が足りないなら、他から持って来れば良いだけでしょ?」

 

レイナーレはラードゥンに嘲笑を向けながら弓を引き絞る。彼女が持っているのは天照より贈られた天鹿児弓(あまのかごゆみ)天真鹿児矢(あまのまかごや)。地上から高天原まで届いた神の弓矢の前ではラードゥンの障壁も敵わず、今度は頭部を撃ち抜かれた。

 

「……逃げられたわね」

 

だが、次の瞬間にはラードゥンの魂は別の場所へと転移していた。レイナーレも弓矢を使った疲労から追うだけの力が残っておらず、そのまま地上に降りた。

 

「さて、グレンデルの方はどうなってるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『トンファーキック!』

 

「くっ!」

 

『トンファーラリアット!』

 

「なっ!?」

 

『トンファー鉄山靠!!』

 

「ぐぉっ!?」

 

グレンデルがトンファーを使い出してから彼らの戦闘の流れは一変する。変則的な技にクロウ・クルワッハは翻弄されていた。

 

『トンファー……』

 

「(もう、惑わされん!!)

 

クロウ・クルワッハは次にどの様な攻撃が来ても対応出来るようにグレンデルの体全体を見据え集中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

『フラァァァァァァァシュッ!!!』

 

そして、トンファーから放たれた閃光をモロに見てしまい目を眩まされた。

 

「しまっ!?」

 

『つ~かまえたっ!』

 

グレンデルは怯んだクロウ・クルワッハの前足を掴み拘束する。その両腕の甲には宝玉が出現しており、同時に音声が鳴り響いた。

 

 

『Boost!!』

 

『Divide!!』

 

 

 

「なぁっ!?」

 

その瞬間、クロウ・クルワッハの力が半減し、グレンデルの力が倍増される。いや、クロウ・クルワッハから消失した力と同量が彼に付加されていた。

 

『驚いたか? 復活する際に使ったドライグの魂の欠片、そしてシャドウの野郎がヴァーリと戦った時にこっそり奪っていたホモペ……アルビオンの魂の切れ端。その両方を吸収したら手に入った力だ。ま、一回ずつしか使えねぇがなっ!!』

 

「ぐぉっ!」

 

グレンデルの強烈なヘッドバットが炸裂しクロウ・クルワッハの意識を刈り取る。だが、グレンデルはトドメを刺そうとはしなかった。

 

 

『今度は俺だけの力でテメェに勝ってやるぜ』

 

それは戦士としての誇りゆえの決断。意識を失ったクロウ・クルワッハをその場に残したグレンデルはレイナーレの下に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マリウス様っ! 一体何の騒ぎですか!?」

 

その頃、儀式の部屋の騒ぎを聞きつけた兵士達が部屋に雪崩込む。それを見たマリウスは勝ち誇った顔付きになった。

 

「おぉ! よく来たな貴様らっ! さぁ、あの男を殺せっ!!」

 

「なっ!? ク、クドラク様っ!?」

 

兵士達はマリウスが指し示した相手を見て動揺する。クドラクは伝説の吸血鬼であり、信仰の対象である。そんな彼を殺せと言われた彼らは戸惑うが、その様子にマリウスが激高した。

 

「バカ者共がっ! 私が殺せと言っているのだっ! さっさと殺さぬか!!」

 

「は、はっ!」

 

「……」

 

マリウスに威圧されクドラクに武器を向ける兵士達。だが、クドラクは腕を組んで大胆不敵に構えていた。

 

「……貴様ら。誰に向かって武器を向けている? まぁ、良い。余は寛大だ。さて、貴様らに問おう。吸血鬼の誇りがあるのなら余に従い、今の主に従うのなら余が自ら葬ってやろう。さて、どうする?」

 

『……』

 

クドラクから放たれる威圧感、そしてそれ以上のカリスマ性に固まり……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き、貴様らっ!」

 

マリウス達に刃を向けた。その瞬間、クドラクの笑い声が部屋中に響く。

 

「クハハハハハハハハッ! 良く決断したっ! 褒美に余の力の一端を見せてやろう」

 

クドラクは右手をマリウス達に向け、

 

「―――腐況の風(ふきょうのかぜ)

 

黒い風がマリウス達を包み込んだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、其処に隠れている者、さっさと出て来い。よもや余に謁見するという幸運を拒否する気ではあるまいな?」

 

クドラクはマリウス達の死体を踏み躙りながら壁を睨む。クドラクが踏んだ衝撃で死体の口から血が零れ落ち、室内に腐敗臭が漂う。流れ出る血も、全ての臓腑も腐りきった状態でマリウス達は死んでいた。これが悪病を撒き散らすと恐れられたクドラクの……正確にはクドラクという形を与えられた彼の力。

 

 

そして彼が睨んだ壁の隠し扉が開き、

 

「うひゃひゃひゃひゃっ! 凄いね、君」

 

「……」

 

リゼヴィムとリリスが現れた……。

 




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八十二話 退場者リストあり

番外編も投稿しました


「うひゃひゃひゃひゃっ! 君強いねぇ。どう、ウチ来ない?」

 

「却下だ、下郎めが。貴様、確かリゼヴィムとか言ったな?」

 

クドラクの前に現れたリゼヴィムは愉快そうに笑い、クドラクは油断なく彼と、その傍に居るリリスを見る。心なしか冷や汗が流れていた。

 

「そーだよ。俺っちがりぜヴィムだ。んで、君らが須弥山に引き渡したヴァーリの祖父。あ、誤解しないでね? アイツの事はどうでも良いから」

 

「……」

 

実の孫の事をどうでも良いと言い切るリゼヴィムにクドラクは眉を顰めたが何も言わない。ただ、自分をジッと見るリリスから意識を逸らさない様にしていた。ヴァレリーや兵士達を庇うかの様に背後にやり、代わりに自分が二人にジリジリと近づいていく。

 

「……それで貴様は何を企んでいる? 英雄派が創り出そうとした新しいオーフィスを使い、何をする気だ?」

 

「おっ! 聞いちゃう? 聞いてくれちゃう? 実はさ、ママンが悪魔なら大きい事をやれって言ってたか、何が良いか考えて思いついたんだよ。……グレートレッドを倒そうってな」

 

リゼヴィムは大袈裟な身振りをしながら嬉しそうに話す。どうやら誰かに聞かせたくて堪らなかったようだ。しかし、グレートレッドを倒すという目標にクドラクは疑問を感じる。完全なオーフィスでも倒せなかったのに、どうやって倒す気だ? と。

 

「……まさかっ! 貴様、『666(トライヘキサ)』を復活させるつもりかっ!?」

 

「うっはっ! さっすが伝説の吸血鬼なだけあんね。察しが良すぎんだろ。そう、聖杯を使って命の根源に触れてる間に見付けちゃったのよ♪ 黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)をねっ!」

 

黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)とはグレートレッドと並んで語られる伝説の魔獣で、その存在すら定かでないとされていた。リゼヴィムはそれを蘇らせ、グレートレッドを倒そうというのだ。

 

「愚かな。グレートレッドが居なくなれば次元の狭間にどのような影響が出るか分からんぞ。それがわからぬ程愚かでもあるまい。もしや、それしきも分からぬ阿呆なのか?」

 

「ん~? 分っててやってるよ? 俺は結構生きたし、最後にでかい事やったなら死んでも良いかなって感じなのよ。刹那主義っていうの? そんな感じ。ま、今の所は聖書の神が厳重な封印を掛けてるから蘇らせないんだけどね。……ねぇ、ヴァレリーちゃん。此れ何か分かる?」

 

「聖…杯……?」

 

ケラケラと笑うリゼヴィムの手の中にはヴァレリーの身に宿っているはずの聖杯が握られていた。

 

「実は君の聖杯って三個一セットだったのよ。マリウスちゃん達は気付いてなかったみたいだけどね。で、此れ返して欲しい? 返す気は無いけどね♪ っと! あっぶね~!」

 

リゼヴィムに向かって黒い風が放たれるも、リリスが手をひと振りして風を散らす。余裕のある笑みを浮かべるリゼヴィムに対し、クドラクは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「……ちっ! それで、貴様はまだ続ける気か?」

 

「うひゃひゃひゃひゃっ! 別にもう此処には用がないから帰るけど? ってか、帰って欲しいでしょ? 俺とのタイマンなら兎も角、後ろに其奴らが居る上にリリスちゃんが居るからね♪」

 

リゼヴィムは足元に魔方陣を出現させ、その場から消え去った。

 

「……覚えていろ、リゼヴィム。貴様は余が手ずから殺す。……さて、怪我はないな、小娘共?」

 

「はい。クドラク様が守って下さりましたから、私達は無事です」

 

「我ら一同感謝致しますっ!」

 

ヴァレリーは深々と頭を下げ、兵士達はその場に膝を付く。クドラクの目から先ほどまでの怒りは消え去り。温和なものへと変わっていた。

 

「さて、では外に出るぞ。再びクーデターが起きた事に対する会議を開かねばな。ぬっ!?」

 

突如城が激しく揺れ、クドラクはヴァレリーを抱えて部屋を出る。兵士達もその後に続き、彼らが外に出た時、無数の邪龍が街を襲っていた。

 

「あ、あれは……。クドラク様。私には分かります。アレは聖杯の力で強化された吸血鬼の成れの果てです……」

 

聖杯を宿している事で邪龍から放たれる聖杯の力を感じ取れたヴァレリーは力無く言う。自分に宿っていた聖杯が元でこの様な事になったのが心苦しいのだろう。その頭をクドラクはそっと撫でた。

 

「気にするでない。奴らは借り物の力で躍進を目指した恥知らず共だ。さて、貴様らに命じる。直ぐ様城下町に向かい、民を避難させよ。余は奴らを始末する」

 

「はっ! お気を付けてっ!」

 

兵士達の声援を背に受けながらクドラクは邪龍に向かって飛び立っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グハハハハッ! 脆い! 脆すぎんだろがぁぁぁっ!!』

 

「数だけで私達に勝てる訳がないでしょうっ!」

 

グレンデルとレイナーレは次々と邪龍を葬っていく。一体あたりの強さは中級悪魔より上程度。既に大部分が倒され、残った邪龍達は一斉に二人に襲い掛かる。だが、突如吹き荒れた黒い風に触れた瞬間、街に墜落していった。

 

「待たせたな」

 

「あら、まだ正気に戻ってるのね。この里の空気のおかげかしら?」

 

「……だろうな。では、余はカーミラ派の街に向かう。恐らく其処にも邪龍になった吸血鬼が居るだろうからな」

 

普段は魂の劣化で知能が低下して狂いきっているクドラクが正気に戻った理由。それはこの町の空気にあった。吸血鬼の魂が刺激を受ける事によって正気が戻りかけ、マリウスの手によって串刺しにされた際にクドラクの能力で強化されて蘇ったのだが、どうやら知能も強化されたようだ。

 

たとえ派閥は違っていても同じ吸血鬼なら助けなければならない。そう言ってカーミラ派の下に向かおうとしたクドラクであったが、グレンデルがマントを掴んだ事で動きを止められる。

 

『止めとけ止めとけ。さっき連絡したら、あの餓鬼共をカーミラ派の方に送っておいたらしい。あっちに黒幕が現れた時用だったが……今は二人が新しい玩具を使って遊んでるだろうよ』 

 

「尚更放って置けるかっ!!」

 

クドラクはグレンデルを振り払うとカーミラ派の下に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

英雄派が一誠達の手によって敗れた時、彼らの神器もしっかりと抜き取られていた。アーローニーロに食われた曹操の『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』は勿論、ゲオルクの最強の結界系神器『絶霧(ディメンション・ロスト)』、レオナルドの想像した魔獣を創りだす『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』、そして帝釈天に引き渡されたヴァーリの『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』。

 

黄昏の聖槍を除く三つは冥府・アースガルズ・須弥山で分け合う事となった。アースガルズは絶霧を取得し,須弥山は当然、白龍皇の光翼。そして冥府が取得した魔獣創造はとある二人に渡された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はゾウさんね♪」

 

「じゃあ、あたしはクマさん♪」

 

カーミラ派でも邪龍が街を襲いだしたが、急に現れた妙な魔獣によって討伐されていく。其れのドレもが絵本から抜け出したような可愛らしさと無邪気ゆえの凶悪さを兼ね揃え、街の被害を気にせず暴れまわる。そして、その全てがゴスロリ風のドレスを着た少女達によって生み出されていた。

 

そう、魔獣創造を与えられたのは、ありすとアリス。元は一つの魂だったものが分裂した二人だからこそ、一つの神器を共有できていた。二人は遊び感覚で次々と魔獣を創り出し、魔獣は邪龍相手に暴れまわる。街が無残に壊れる中、二人は手の平を合わせたまま腕を上げる。

 

「「出てきて! ジャイアント・ジャバウォック!!」」

 

二人の影から今まさに現れようとしているのは全長三十メートルを越えようとしている正体不明の怪物(ジャバウォック)。徐々に形作られていく怪物が咆哮を上げようとしたその時・

 

 

「止めぬか、馬鹿者共ッ!」

 

クドラクが二人の頭を叩き、創造は途中で中断された。クドラクは次に魔獣ごと邪龍を黒い風で包み退治する。可愛らしく凶暴な魔獣達は死ぬと同時に死体も残さず掻き消えた。

 

「ふぅ……」

 

少々疲れたのか息をつくクドラク。その時、彼の足に軽い衝撃が走る。見下ろすとアリスが彼の足をポカポカと殴りつけており、ありすは大泣きしている。

 

「クドラクがブったぁ~! うぇ~ん!!」

 

「アリスに何するのよ! この、このぉ!!」

 

 

「……やれやれ。此れだから子供は苦手なのだ。ほれ、余が飴をやるから泣きやめ」

 

クドラクは懐から飴の入った袋を取り出すと中から二個取り出し二人に差し出す。ありすは泣きやみ、

 

 

 

「ありがと! 行くわよ、ありす!」

 

「うん!」

 

アリスの手によって袋ごと持って行かれた……。

 

 

 

 

 

 

 

その後、壊滅的な被害を受けたカーミラ派とツェペシュ派は冥府主導の下に和平を結ぶ事となり、代表者であるクドラクの演説が行われる事となった。

 

 

「諸君! この度起こった悲劇は吸血鬼の誇りを忘れ、聖書の神に与えられた力を使い、獣のごとく力のみで覇を通そうとした愚か者共の手によるものである!! 忘れてはならない! 真に誇りある者は自らの力のみを使い、相手を力で屈服させずとも従えるのだ! 真の吸血鬼の誇りが何であるか、それを努々忘れるでないぞっ!! 以上である!」

 

『オォォォォォォォォォォォっ!!』

 

それは数分にも満たない僅かな時間。その僅かな時間でクドラクは民の心を掴んでいた。そして、彼がルーマニアを離れる当日、帰りの魔方陣の上にはヴァレリーの姿があった。今後の復興には冥府が大きく関わり、今回の一件には彼女の神器が利用された事もあって女王を退任。元々女性で半吸血鬼という事もあり、すぐに承認。今後は人質の名目でペルセポネーの下で働く事となった。

 

「うぉまえ、だいじょうぶかぁぁぁ?」

 

「はい。元々、下働きをさせられていましたから平気です。……あの、クドラク様。将来私をお側に置いてくださいませんか?」

 

この時、クドラクは再び正気を失っており、知性を感じさせない口調だったが、ヴァレリーの事を心配していた。それに対しヴァレリーは笑顔で答え、少々照れながら恐る恐る尋ねる。それに対しクドラクは理解できなかったのか首を傾げるだけだった。

 

 

 

「……では、私は此処で」

 

冥府に着いたヴァレリーは死神達に案内されてクドラクと別れる。その顔には一抹の寂しさが込められており、

 

 

 

 

 

 

「貴様が余に相応しい女になったら考えてやろう。それまで研鑽を忘れぬ事だ」

 

「……はい!」

 

その言葉で笑みに変わった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クリフォト? へぇ、そんな組織名にしたんだ」

 

数日後、ハーデスに呼び出された一誠はリゼヴィムから各勢力に宣戦布告の書状が送りつけられたのを聞かされる。組織名はクリフォト。セフィロトの名を冠する聖杯を悪用する事から名付けられたらしい。

 

《ファファファ、それで流石の他の神々も手を取り合う事にし、テロ組織対策特殊チームを結成する事となった。貴様、それに参加しろ。……とは言わんよ。既に貴様の部隊の方が連携やら総合力でチームより上だろう? まぁ、対外的な物もあるし、独立部隊的な扱いをゴリ押しで得ておいた。まぁ、適当に相手してやれ》

 

「……面倒臭いなぁ。まぁ、良いや。その役目、最上級死神・兵藤一誠が謹んでお受けします。ハーデス様」

 

一誠は恭しくお辞儀をし、ハーデスは気持ち悪そうな顔をしている。

 

 

《……貴様に敬語を使われるとキモい。……そうそう、貴様の屋敷が完成したぞ。見に行ったらどうだ?》

 

「あ、そうだった。じゃあ、今日は泊まろうかな? 玉藻」

 

一誠の言葉に玉藻()は反応する。まだ、一人に戻っていなかった。

 

「「「「「「「「「みこーん! お泊りですね! お風呂でお背中お流しします、ご主人様ぁん♥ ……ぬっ!?」」」」」」」」」

 

九人の玉藻は互を牽制するかの様に睨み合い、ピリピリと空気が張り詰めた。

 

 

 

 

 

 

 

《鬱陶しいから早く元に戻さぬか。あ、今言ったの秘密な》

 

「……頑張ります。あと、絶対バラす」

 

 




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死亡者

アザゼル

松田

リアス

ヴァーリ

英雄派幹部


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閑話 魔法少女?と幽霊少女 上

今回はR18の為の布石が最初にあります 微エロ


冥府の一角に最近完成した一誠の屋敷。見事な庭園を構える大正ロマン溢れる屋敷の中は和洋折衷だった。

 

「私の部屋は和室ですね。あ、奥の襖を開けたら呪術の為の部屋ですよ、ご主人様」

 

「俺の部屋は近代風の洋室だね。あ、階段とエレベーターの間に案内板がある。混浴の大浴場は一階で、普通の浴室は二階と三階に男女別にあるのか」

 

「……夫婦の寝室は大きなベットに、照明の色を変えられますね。ムードを盛り上げる音楽も流せると。流石はゼウス様の監修だけあります。侮れねぇ」

 

屋敷は地上五階地下二階の本館と地上三階地下一階の別館という作りになっており、庭には屋外プールまである。そんな豪邸を一誠は玉藻を九人全員連れて見学に来ていた。心なしか一誠はやつれており、玉藻達の肌はツヤツヤだ。

 

「……神器が無かったらヤバかった」

 

何がヤバかった、は語らない。ただ、昨日彼の寝室には強力な結界が張られ、出入りも中を伺う事もできなかった、とだけ言っておこう。

 

『まさか俺の力を情交に利用するとはな。いや、今更何も言うまい』

 

ドライグは疲弊しきった精神をこれ以上傷つけぬ為に現実から逃避する。そんな彼の呟きは玉藻の声でかき消された。

 

「あぁん、もう! ご主人様ぁ♪ 今夜は此方にお泊りになるんですよねぇ? お背中お流しますね♥ って言うか、今すぐ行きましょう! 善は急げ、ですよ?」

 

「……別に良いけどドレが流すの? 俺の背中は一つだよ? あと、今日は流石に九人は無理」

 

その瞬間、玉藻達の間で火花が飛び交う。その手には呪符が握られ一触即発の雰囲気だ。

 

「分かってるとは思うけど、玉藻同士で傷つけ合ったら駄目だよ? 俺はたまもが傷つく所は見たくないんだからさ」

 

「はぁうんっ! ご主人様、イケメン過ぎますぅ~♥ わっかりました! ジャンケンで決めますのでお先に入っていて下さいませ。乱交も楽しみましたしぃ、そろそろ戻ります。どの玉藻が中心となって一人に戻るか決めますね?」

 

「早くしてね? にしても黒歌とベンニーアちゃんは何処に行ったんだろ? 今朝から姿が見えないけど……」

 

一誠が姿の見えない二人を心配しながら大浴場に向かう中、玉藻ナインによる激闘が幕を開けようとしていた。

 

「(ふっふっふっ! 私なら最初はグーでパーを出すはず! ならばっ! 私はチョキを出す!)」

 

ナインの内の一体が自分のセコさを理解した上での作戦を立てる。成功した場合、相手が最初から反則をしているのだから文句は言われない筈だ。

 

『最初はグー!! あぁっ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……既に予想済みの方もおいでだと思うが一応書いておこう。全員、チョキを出した……。所詮は思考パターンが同じ。一誠を集団で襲った時は位置のせいで出遅れた個体が居たが今回は関係ない。そして、同じ思考パターンを持つ狐達の終りの見えないジャンケン大会が始まった。

 

 

『アイコでしょっ! アイコでしょっ! アイコでしょぉぉぉぉぉぉっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わぉ♪」

 

一誠が大浴場に入ると目に入った来たのは様々な様式の風呂。ジャグジーに檜風呂、はたまた薬湯、箸には異空間と繋げてあるのか雪国の中の露天風呂や滝が見える露天風呂まである。風呂好きの一誠からすれば正しく天国だった。

 

 

 

取り敢えず案内板に従い、入ったことのない泡風呂を目指すと、既に先客達が居た。

 

 

 

 

「ふぅん、少しは大きくなったかにゃん? イッセーに散々揉まれたせいかにゃ?」

 

《あっ…何処触ってるでやんすかぁ……。仕返しでやんすっ!》

 

「にゃっ!? い、意外とテクニシャン……」

 

其処に居たのは今朝から姿が見えなかった二人。どうやら一足先に屋敷の見学に来ていたようだ。まぁ、一緒に行こうと誘おうにも、一誠は昼前まで自室に居たのだから仕方がないのだが……。

 

兎に角一誠に気付かない二人は。浴槽の直ぐ傍で組み合って互いの胸を揉み合う。なんとも淫靡な光景で一誠は暫く見ていようとしたのだが、

 

「……あっ! やっと来たにゃんっ!」

 

《待ってたでやんすよ。ささ、此方に》

 

「あ、うん」

 

一誠は素直に二人に近寄り、

 

 

 

 

 

 

「最近ご無沙汰だったから、私、溜まってるにゃん♪」

 

《あっしも、あの日抱かれてから……》

 

 

 

……そのまま襲われた。終わった頃に漸く一人になった玉藻がやって来て。

 

 

「ご主人様ぁん♪ 今日は燃え上がりましょうね♥ って、先越されてやがる! 畜生、混ぜやがれっ!」

 

 

また襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、大丈夫? 顔色悪いよ?」

 

次の日、ありすを連れて一誠がやって来たのは『ミルキー』という人気の魔女っ子物の実写版のオーディション会場。なんと、素人からも希望者を集めて主演を決めようと言うのだ。ありすも少女なのでミルキーが好きであり、見た目年齢のせいで参加資格はないが、せめてと見学に連れてきていた。なお、アリスは興味がなく、ゲームをしたいからと来ていない。

 

見学者用の名札を貰った二人が会場を歩いていると、意外な人物が向こうからやって来た。

 

 

「あら、坊やと……ありすちゃん♥」

 

「メディアさんっ!? ま、まさか貴女も受けるの? うわっ、キッツ!」

 

「呪うわよ? 私は仕事よ。今回の脚本は私の担当なの。今日は面接官よ」

 

「うん、知ってた。……あの、お弟子さんは来て無いよね?」

 

「……さ、忙しいから行くわ。ありすちゃん、後でケーキでも食べに行きましょ」

 

メディアはそそくさとその場を後にし、一誠は顔を引きつらせた。そんな時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

「兵藤君……?」

 

其処に居たのはソーナと眷属の女性陣。全員、フリッフリのコスプレ衣装を着ていた。

 

「……プッ! い、いや、アハハ、こ、こんな所で…ひ~っひっひっ! 会長に会うなんて。ぶっふっ! し、仕事? あの年を考えないお姉さんの護衛とか? あの人、来そうだし」

 

「……はい。……すみません。いっそ、思いっきり笑って下さった方が気が楽です」

 

「あはははははははははははははははははははははははははははははははっ! ひ~っひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっ! ……写真撮って良い?」

 

「……いくら何でも笑いすぎです。あと、絶対却下っ! あら? あの子が居ませんよ?」

 

「あれ? 本当だ」

 

一誠が目を離した隙にありすの姿は消えている。辺りを見渡しても姿は見えず、まだ時間があるからと言ってくれたソーナ達が一緒に探していると、向こうからセラフォルーに手を繋がれて泣きながらやって来るありすの姿が見えた。

 

「あ、お兄ちゃ~ん! うぇ~ん! アッチにムキムキでネコミミのお化けが居たのっ! 怖いよぉぉぉぉ!」

 

「あ~はいはい。それ、人間だから。むしろ君がお化けだから。ほら、連れてきて貰ったお礼は言った? 有難うね。うちの子がお世話になったよ」

 

 

「気にしなくて良いんだよ? 私は魔法少女だからね✩」

 

その場でクルッとターンを決めるセラフォルーに対し、一誠に抱き上げられてようやく泣き止んだありすは笑みを向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「有難う! オバちゃん(・・・・・)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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閑話 魔法少女?と幽霊少女 下

この前、ネトリ槍兵こと、ディムッドの話を聞きました

主の婚約者は、婚約が決まった後、主の息子にモーションかけるの袖にされ、次にディルムッド(以後、シャイニー)にモーション(云うこと聞かなかったら死ぬ呪い付き)をかける。シャイニーが知人に相談すると、どっちでも死ぬ でも、断ったら騎士としても死ぬ 仕方なく逃避行

彼女のやったこと知ってる追手はやる気ダウン 実の兄も呆れた


その後、親切な巨人に匿われるも、この女が守っていた実に手を出して敵対 恩人を手にかける

そのご、裕福な暮らしをするも例の一件で死亡 原因は父親が殺した父が違う弟が化けた猪。あと、彼女がしたがった主を招いての宴の最中のこと


後に彼女はシャイニーの遺産を持って主と結婚



幸運eじゃ高すぎる?


結構叩かれてる彼だけど、周りも酷くね?


オバちゃん。ありすがセラフォルーに向けたその一言が辺りに響いた時、場の空気が固まった。

 

「ご、ごめん。よく聞こえなかったなぁ。お姉ちゃんになんて言ったのかもう一度言ってくれる?」

 

セラフォルーは顔を引きつらせ、彼女の下の床が凍っているが、相手が子供なので怒れず、無理して笑顔を作っている。それに対し、ありすは無邪気な笑顔で返した。

 

「うん! いいよ! お兄ちゃんの所まで連れて来てくれて有難うね、オバちゃん(・・・・・)!」

 

「……うえ~ん!!」

 

セラフォルーは逃げ出した。

 

「あの……一つ宜しいですか? お姉様は確かにありすちゃん位の子供が居てもおかしくない歳のくせに、少女とか名乗って若作りしていますが、それでもオバちゃんは勘弁してあげてください」

 

「う~ん。確かに会長の言うとおりだね。ねぇ、ありす。確かのあの人はいい歳して少女とか名乗って、年がら年中テンションのおかしい正直言って痛々しい人だけど、一応気にする年頃だから、オバちゃんはやめてあげて?」

 

「うん、分かった! あのオバちゃんに本当の事言っちゃダメなのね? は~い!」

 

二人がセラフォルーの事を好き勝手に言い、ありすが元気良く手を挙げて返事をした時、一人の人物が一向に近付き、それを見たソーナ達は言葉も出ずに固まる。

 

「……一誠君にょ?」

 

その姿は魔法少女モノの実写映画版のオーディションに来るには余りにも大きすぎ、逞しかった。両の腕は丸太の如し、ピチピチの服の上からでも分かる筋肉はまさに岩石。身につけた少女用の服と猫耳が異質さを際立たせていた。

 

「さっきのお化けだっ! 助けて、お兄ちゃん!」

 

ありすは一誠の背中に飛びつきとガタガタと震えている。だが、一誠は一瞬固まりはしたものの、直ぐに復活した。

 

「やぁ、ミルたん。やっぱり来てたんだね。ありす、大丈夫だよ。この人、メディアさんの弟子だから」

 

「その子も幽霊さんにょ? 初めまして、ミルたんだにょ」

 

「……お化けじゃないの?」

 

ありすが恐る恐る一誠の背中から身を乗り出して彼を見た時、映画関係者らしき人達が会場に入ってくる。その中にはメディアの姿もあった。

 

「見て見てソーナちゃん。魔法少女モノと特撮に定評のある遠山監督よ! それに、悲恋小説と百合モノで有名なメディア先生も居るわ!」

 

何時の間にかセラフォルーが戻てきており、何事もなかったかの様にしていた。

 

そんな中、監督が会場の女の子達をマジマジと見つめ、プロデューサーと何やら話し合っている。その視線はありすにも注がれていた。

 

 

「え~、では、今から一次試験の結果を発表します。監督はフィーリングを大切になさる方なんですよ」

 

会場がざわつく中、ソーナやセラフォルーの名が呼ばれていく。そして、

 

 

 

「最後に……そこの青年の背中に乗っている見学者の…ありすちゃん。君も二次試験に来てくれるかな?」

 

「本当? お兄ちゃん、わたし行きたい!」

 

「はいはい、良かったね」

 

「うん!」

 

ありすが満面の笑みを浮かべる中、空いた時間を使って会場を抜け出した一誠は携帯を手にとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もしもし? ……うん、そうなんだ。一応メディアさんが居るから大丈夫とは思うけど……お願いできる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二次試験は広いフロアでの面接だ。一誠と匙は魔獣創造で作り出した盗撮用の魔獣と、その魔獣から送られてくる映像を映すモニター用の魔獣で様子を伺っていた。その背後にはミルたんの姿もある。

 

「……落とされたにょ。師匠が何か言ってたにょ。酷いにょ」

 

「まぁ、気にしないほうが良いよ。それより匙君。当然テロ対策はバッチリなんだよね?」

 

「ん? ああ、当然だ。その為に俺達が来てるんだから」

 

匙の言う通り、今回ソーナ達はオーディションに出たがったセラフォルーの護衛として来ている。その事を話す匙であったが、一誠から、そしてミルたんからさえ冷酷な視線を送られた。

 

「……本気で言ってるのかにょ? 君達だけで会場の人全員を守れるとは思えないにょ。一誠君は師匠がいるから安心して来たらしいけど、君達は違うはずにょ。一般人を巻き込む覚悟はあったのかにょ?」

 

「俺が敵なら、まず一般人を捕まえ、それを人質に会長を捕らえ、腕の一本でもレヴィアタンに送って脅すね。実現可能な条件を提示して、一般人は殺して会長は返す。そしたらあの人は妹の為に一般人を見殺しにした、いや、そもそもあの人が来なければこんな事態には、ってなふうにテロ対策組織に亀裂を入れさせれる」

 

「で、でもそれなら別の時に一般人を巻き込まれても同じなんじゃ……」

 

「それは違うにょ。あくまで巻き込んだ、って感じにするのが効果的なんだにょ。全く関係のない人を巻き込んでも結束力を高めるだけ。巻き込んでこそ効果を発揮するにょ。後は妹の傷ついた姿を見させ続ける事で重要戦力である魔王の気力を削ぐ。自分のせいで、って感じだにょ。……其処までの覚悟はあったのかにょ? 言っておくけど、もう関わった以上は帰っても遅いにょ?」

 

二人の言葉に匙は気落ちする。自分も会長も、セラフォルーも其処まで考えてなかったと気付いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「(ま、手は打ってあるけど、一応苦言を言っておかないとね)」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、会場では参加者達への質問がされていた。

 

 

 

「見学に来てたけど、魔法少女は好きなのかな?」

 

「うん! ……わたし、ずっと病院に居たの。一日中ベットに繋がれて痛くて苦しかった。ママもパパも居なくて、彼処では誰も私を人間扱いしてくれなかったの」

 

「え、いや……」

 

行き成り始まった重苦しい話に質問を投げかけた監督の表情が強張る。余りにも目の前の少女の語る話は重すぎた。

 

「……私の目に映ってくるのは真っ白な壁と天井だけ。でも、たまにある調子の良い日はご本を読ませてくれたの。その中の魔法少女の本があって、ずっと憧れてたんだ。でも年齢制限で受けれなくって……」

 

それから彼女が語ったのは孤独な日々。病状は悪化し、見舞いに来ていた両親も顔を見せなくなった。それから体が漸く楽になったのに、誰もありすを見ようとはせず、病院でずっと寂しく過ごしていた。そう、一誠に見つかって引き取られるまで……。

 

それを聞いた匙は涙ぐみ、ミルたんは号泣している。会場に居る参加者や緩傾斜達も涙していた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!」

 

「うっ……、あの無邪気そうな子にそんな過去が。楽になったって言ってるけど。やっぱ死んだんだよな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。まぁ、そのあと負の感情を集めた第二人格のアリスと二人に分裂して、遊び相手欲しさに異空間に人を引き込んで殺す悪霊になってたけどね。霊力だけなら俺と同等だったから、結構やばかったよ」

 

「意外とタチ悪っ!?」

 

「まぁ、無邪気な子供だし? 知ってる? 無邪気ってのは残酷と大して変わらないんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして第三試験会場は港近くの廃工場。撮影現場になってる此処で演技の試験を行うのだが、其処にはテロリストらの姿があった

 

「我ら魔法の使い手を侮辱せし、憎き魔王レヴィアタンに罰を!」

 

彼女達は禍の団の派閥の一つの『ニルレム』。彼女達からすればセラフォルーの格好や言動は侮辱にしか映らないようだ。無理もない話だと大勢の方がお思いになるだろう。兎に角、セラフォルーに強襲をかけるべく試験会場に潜伏していた彼女達は今か今かと待ち構えていた。

 

 

 

 

 

『ゲコッ!』

 

「ねぇ、今カエルの鳴き声しなかった?」

 

確かに彼女達の耳に場違いなカエルに鳴き声が聞こえ、物陰を巨大な何かが飛び跳ねている。

 

「誰だっ!」

 

リーダー格らしい女性が炎の魔法で辺りを照らすと、そこには二メートルを優に超えるヌイグルミの様なカエル、そして其の上に乗る黒いゴスロリ風ドレスの少女が居た。

 

「……魔法少女はあの子(ありす)の夢。苦しむだけの日々に見たささやかな夢なの。……だから、ありすの夢は邪魔させない!」

 

『ゲコリ』

 

カエルの舌が伸びたかと思うと構成員を三人ほど捕まえ、丸呑みにする。他の者達が呆然とする中、カエルの腹が内部から叩かれ、それは段々激しくなっていく。そして、徐々に弱くなり、叩くのが終わった。

 

 

 

 

 

「……さぁ、次は貴女達の番よ? 貴女は生きたまま溶かされたい?」

 

『ゲコゲーコ』

 

「それとも絞め殺して丸呑み?」

 

『シャァァァァッ!!』

 

「叩いて焼いてハンバーグ?」

 

『ガァァァァァァァッ!』

 

何時の間にか彼女達をカエルが、大蛇が、正体不明の怪物(ジャバウォック)が囲み、ジリジリと近づいてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お願い助けて」

 

何度も魔獣に魔法を放つも効果がなく、次々と餌食になっていく。心を折られたリーダーは腰を抜かし、太股を温かいもので濡らしながら懇願した。

 

「……良いよ。でも、条件があるわ。ジャバウォック」

 

アリスの言葉と共にジャバウォックがリーダ以外の生き残りである三人の内二人を両手で、残る一人を足の下に敷く。

 

 

「貴女達四人の内、二人は生かしてあげる。さ、選んで。誰に生き残って欲しいの?」

 

「リーダー! 私をお願い!」

 

「いいえ、私よ! ずっと尽くして来たじゃない!」

 

両手に捕まった二人は自分が助かろうと懇願する。だが、リーダーの視線は足の下に敷かれた年若い少女に注がれていた。

 

「……お姉ちゃん」

 

「その子っ! その子を助けて!」

 

どうやら彼女の妹らしく、それを知っていた二人は、やっぱりといった怒りと悲しみに満ちた表情を向けた。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~ん。じゃあ、二人には死んで貰うね? ジャバウォック……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足元のを踏み潰しなさい」

 

「え?」

 

辺りに虫を潰した時の様なブチッといった音が響く。助けてくれと言われた少女は赤い血だまりになった。

 

 

 

「クスクス、誰も助けて欲しいって言った人を助けるなんて言ってないわ。じゃあ、二人目を決めましょ?」

 

アリスが腕を上げるとジャバウォックは掴んでいた二人を離す。その足元には鉄パイプが投げられた。

 

 

 

 

「今から殺し合って最後の一人を決めて。あ、魔法は封じたわ。それと、その二人はジャバウォックに掴まれてたのだから、ハンデに武器くらい要るわよね?」

 

「「……」」

 

見捨てられた二人は無言で鉄パイプを取るとリーダーに向かっていく。暫くの間、硬い物で肉を叩く様な音が響いた。

 

 

 

 

 

 

「……終わったわ。これで見逃してくれるんでしょ?」

 

返り血でベッタリと汚れた二人はリーダーだった物を無表情で見つめながら尋ねる。アリスはそれを聞いてニッコリと微笑み、二人の足元に魔法陣が出現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん! 約束通り、殺さないで(・・・・・)冥府に送ってあげるね♪」

 

「そんな……」

 

最後まで言葉を言い切る前に二人の姿は掻き消える。転移先では拷問の準備を整えた死神達が待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは合格者の発表です!」

 

その後、順調にオーディションは進み、合格者が発表される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合格したのは有名子役の少女だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありす、気にしない方が良いよ」

 

一誠は先程から俯いているありすを慰めようとするが彼女は顔を上げない。そして一誠が抱き締めようと腰を屈め顔を近付けた時、

 

 

「えい!」

 

額を叩かれた。

 

「お兄ちゃん、引っ掛かったぁ~! ……今日は楽しかった。わたしの我が儘聞いてくれて有難うね」

 

ありすは満面の笑みを一誠に向けると背中に飛び乗る。すると、もう一人飛び乗る姿があった。アリスである。

 

「メディアさんがケーキを奢ってくれるって言ってるわ。あたしはモンブランが良いわ」

 

「わたしはチョコケーキ! お兄ちゃん、行きましょ!」

 

「はいはい。じゃあ、しっかり捕まっていてね?」

 

一誠は二人が落ちないように注意しながら走りだす。夕日に照らされた三人の笑顔は本当に楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そして数日後、ありすとアリスの姿を見た監督からミルキーのライバルの双子の役をしないかと連絡があった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、話ってなんでしょうか?」

 

その日、レストランに呼び出されたロスヴァイセの前には真剣な顔をしたランスロットの姿があり、彼はそっと小箱を差し出した。

 

 

 

「……改めて言います。ロスヴァイセ殿、私と結婚してくださいませんか?」

 

差し出された小箱の中には指輪が入っている。ロスヴァイセは無言で手を差し出し、ランスロットは照れ臭そうに指に嵌める。その時の二人は本当に幸せそうで……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撮ったか? 今のちゃんと撮ったかっ!?」

 

「バッチリだっ! あらゆる角度から撮影し、音声も拾ったっ! あとはグレンデルに周りの音を消して貰おう! 我々はパソコンは駄目だからなっ!」

 

二人の姿を盗撮する元円卓の騎士達は楽しそうだった……。

 




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教員研修のヴァルキリー
八十三話


「へぇ、ついに結婚するんだ。それで式の様式はどうするの? 所属的にギリシア風? それともロスさんに合わせて北欧風? それとも君の故郷に合わせて……は無いか。夫にそんな決定権はないもんね」

 

ランスロットから正式に結婚する報告を受けた一誠は哀愁を漂わせながらも祝いの言葉を述べる。どうやら彼も結婚式の様式は玉藻に決定権を握られている様だ。いや、実の所三人全員に握られていた。

 

「……主も決定権が無かったのですね。まぁ、私はロスヴァイセ殿が喜ぶのが一番ですので。取りあえずはギリシア風にして、お色直しで北欧のウェディングドレスに着替えるという予定です」

 

「良いなぁ。白無垢も良いけど、純白のウェディングドレス姿の玉藻も見てみたいよ」

 

どうやら、矢張りと言うべきか玉藻は和式の結婚式を選んだようだ。一誠はランスロットと話している様だが、最後の辺りでは玉藻の膝に乗せている頭を動かし、彼女の顔をジッと見た。無言で言っているのだ。着ろ、と。

 

「うぅ、分かりましたよぉ。でも、結婚式は譲れませんから、今夜の衣装という事で」

 

「そう言えば結婚前に花嫁衣裳を着ると婚期が遅れるという言い伝えが……いえ、何でもありません」

 

この時、ランスロットは二度目の死を覚悟した。三途の川の向こうでは、息子やグィネヴィアが手を振っていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランスロットさんを紹介されるまでロセが結婚するとは夢にも思っていませんでした。色々とご迷惑をかけてはいませんか?」

 

「いやいや、ロスさんには書類仕事をやって貰ってるし、助かってるよ」

 

数日後、一誠の元を訪ねてきたロスヴァイセの祖母であるゲンドゥルは出されたお茶を飲んでいた。今日はロスヴァイセへの家事の指導とソーナからの頼まれ事があってその打ち合わせで来日し、ついでにと寄ったらしい。

 

頼みと言うのは念願の学校の建設が終わったので、仮入学した生徒達に対する公演を行って欲しいというものだった。魔法使いの集会が近くである事もあり、ゲンドゥルはそれを了承したらしい。

 

「魔法使いの集会かぁ。確か禁呪とかを持ってる人に接触する奴が増えてるから、悪用を避ける為に封印し合う事になって、それについて話し合うんだっけ?」

 

「ええ、自分で封印しても洗脳されたら意味がありませんしね。それで、お願いがあるのですが護衛役を派遣してくださいませんか? もちろん対価はお支払い致します。狙われている者達が集まるなど、襲ってくれと言っている様なものですし、私も孫娘の結婚前に心配を掛けたく有りませんので」

 

「じゃあ、ランスロットを派遣するね。アイツなら身内の為にオフを使って、って事にすれば面倒くさい手続きは要らないしさ、俺も上司として余計な仕事しなくて良いから助かるよ」

 

最上級死神になった事で部下を使う際に面倒臭い手続きをしなければならなくなった事に辟易している一誠はお茶を飲みながら笑った。

 

 

 

 

 

 

その頃、ランスロットとロスヴァイセは街中まで買い物に来ていた。ロスヴァイセの趣味である百円ショップを周り、良い物がないか物色する。

 

「……百円とは言えこの作りは酷いですね。すぐ壊れるから、また買い直さなければなりませんし」

 

「成る程。では、これなんてどうですか? キッチンペーパーがこれだけ入って百円ですよ?」

 

二人は真剣な目つきで商品を品定めする。見た目の歳や会話からして貧乏カップルに見えるが二人とも結構な高給取りである。しかし、貧乏性が抜けないロスヴァイセは便利で安い百円ショップに拘り、ランスロットも不平不満を言わずに真剣に付き合っている。相手の趣味嗜好を尊重する。それが恋愛で大切だ、というのが彼の考えだ。二人が店を出る時には商品を入れた袋がパンパンになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ! 色気がない!」

 

「そうっすよねぇ。ここは下着売り場に行って、どれが良いですか? って訊かれて赤面する隊長が見たかったのに……」

 

「諦めるな! きっと今から面白可笑しいイベントが起きるさっ!」

 

彼らはランスロットを尾行する元円卓の騎士達。もう騎士としてどこか間違っている集団だが、その実力は確かだ。彼らはランスロットと違って未だ肉体を得ておらず通行人の目の映らないのを良いことに堂々と尾行していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、次は何処に行きますか? そろそろお食事時ですし、ご馳走しますよ」

 

ランスロットは車道側を歩きながら右腕にはめた腕時計を見る。空いた左腕はロスヴァイセの手と指を絡めあうようにして繋いでいた。

 

「あ、あの、あのファミレスに行きませんか? 私クーポン持っていますからっ!」

 

慌ててバックからクーポン券を取り出そうとするロスヴァイセだったが、ランスロットは首を横に振る。

 

「いえいえ、それは別の日に貴女がお使い下さい。私も男です。好きな相手に食事を奢る時は格好を付けたいんですよ。私に意地を通させてくださいませんか? さ、お好きな店をお選びください」

 

「そ、それじゃあ最近話題のあの店に……」

 

ロスヴァイセは顔を真っ赤にしながら話題のオープンカフェを指さす。恋人達に人気の店には他にも若いカップルが居たが、二人が来ると恋人よりそっちの方に目を奪われていた。

 

 

「わぁ、あの人格好良いっ! しかもあのスーツってブランド物よね!?」

 

「うぉっ! スゲェ美人な上にスタイルもスゲェっ!」

 

美男美女の外人カップルに視線が集まる中、二人は注文の品を待っていた。

 

「では私はスープバーに行ってきます。ロスヴァイセ殿はコーンスープで良いんですよね?」

 

「あ、あの、ランスロットさん。ロスヴァイセっと呼び捨てにして下さいませんか? 私はソッチの方が良いです」

 

「では、行ってきますね、ロスヴァイセ(・・・・・・)

 

ランスロットはにっこり微笑み、ロスヴァイセは顔を真っ赤にしながらも幸せそうだ。それを遠くから見ていた騎士達も歓声を上げている。そんな中、一人の青年がロスヴァイセに近づいてきた。彼の名はユークリッド・ルキフグス。

 

「……ロスヴァイセさ…」

 

彼はロスヴァイセの名を呼んで肩に手を置こうとし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如横から放たれた投げ縄によって茂みの中に引きずり込まれた。

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

確かに後ろから呼ばれた気がして振り返ったロスヴァセであったが、振り向くと誰も居ないので空耳と判断し、丁度戻ってきたランスロットとのデートを楽しんだ。

 

 

「先ほど悪質な魔力を感じましたが、何だったんでしょうか?」

 

「さぁ? それよりも、この後はベビー用品を見に行きませんか? ほら、私が何時妊娠するか分かりませんし……今日は泊まって行きますよね? それとも、少し疲れたので何処かで休憩します?」

 

ロスヴァイセが艶のある視線を送ったのは少し離れた所にあるホテル街。その後、食事を終えた二人は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらおら、姐さんに何の用だ、ゴラァッ!!」

 

「ぶはっ! 言ってたまるものですか!」

 

「ったく男が居る女に声かけ様ってのか? はんっ! 日本の諺にあるだろ? 人の恋路を邪魔する奴は騎士に絡まれ死んじまえってなぁ!!」

 

その頃、人払いの術が施された廃ビル内でユークリッドに対するごうも……取り調べが執り行われていた。フェンリルでさえ捕まえるグレイプニルで全身を縛られたユークリッドはドラム缶に溜まった汚水に顔をつけられ、限界になったら呼吸を許され詰問される。体には油性マジックで変態やらストーカーとか書かれており、服装は汚いブリーフ一枚になっている。それでも彼は必死に抵抗する。すると騎士の一人が謎の物体を持ってきた。

 

 

「姐さんの作った味噌汁という名の暗黒物質を持ってきたぞ!」

 

そしてもう一人怪しい薬品を持ってくる者がいた。

 

「永久脱毛薬持ってきました! 玉藻様の不能の呪い付きです! あと、塗った頭皮から悪玉コレステロールを大量に吸収するらしいです!」 

 

 

 

 

 

「よしっ! 両方使っとけ!!」

 

 

 

 

その日、ユークリッドの胃と毛根は死滅した。彼は語る。味噌汁の後に飲んだ汚水が超一流レストランのスープに思えたと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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八十四話

「ご主人様……。私、綺麗ですか?」

 

「ああ、綺麗だよ。俺には勿体無い位だ」

 

森の中にある花畑に囲まれた小さな教会の前に一誠と玉藻は居た。一誠は黒のタキシード。玉藻は純白のウェディングドレスとシルクのヴェールを身に纏い、手には小さなブーケを持っている。一誠はヴェールを開き、真っ赤に染まった玉藻の頬にそっと手を当てる。そして、愛おしそうに優しくキスをした。

 

「新婦に問います。私、兵藤一誠を生涯……いえ、死後も伴侶とし、魂が尽きるまで愛を貫くと誓いますか?」

 

「……はい、誓います。新郎に問います。私、玉藻を死後も伴侶とし、魂が尽きるまで愛を貫くと誓いますか?」

 

「はい、誓います」

 

「「それでは誓いのキスを……」」

 

二人は抱き合って再びキスをし。二人だけの結婚式は終了し、一誠は玉藻をお姫様抱っこで担ぎ上げ、花畑に寝かせる。そしてそのままスカートの中に手を入れ、下着に手をかけた。

 

 

 

「脱がすよ?」

 

「ご主人様、来て……」

 

玉藻も一誠を受け入れるように両手を前に伸ばし、そのまま二人は……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……無粋」

 

っといった所で仕事用の着信音が鳴り響き、周りの景色は一変、一誠の部屋になる。どうやら先程までの景色は幻覚で、結婚式はプレイの一環だったようだ。花嫁衣裳を着た玉藻は不機嫌そうに頬を膨らませ、一誠も不満そうにしながら携帯を手に取る。発信先はランスロットの部下である元円卓の騎士達からであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主よ、申し訳ございません。テロリストの幹部を取り逃がしました」

 

「……何があったの?」

 

騎士達は昼間にあった事を一誠に説明する。ランスロットとロスヴァイセとのデートの尾行中、怪しい悪魔がロスヴァイセに声を掛けようとしていたので拷問(尋問)した所、彼女を姉の代わりにしようとしたらしいのだ。

 

「気持ち悪っ!」

 

「でしょ~? 髪の毛を死滅させて、ダークマター(姐さんの味噌汁)を飲ませた後、根性を叩き直す為に、ちっとやそっとじゃ抜けない剛毛が生える毛生え薬で黒ビキニを着てるみたいにして、亀甲縛りで放置してたんですが……ラブホに入った二人を冷やかそうと入り口前に待機しに行ってる間に逃げられまして。やっぱ、縛りにくいからってグレイプニル外したのが悪かったんですかねぇ?」

 

「半年間の減給。あ、もちろんデートの様子は……」

 

「録画済みです!」

 

「減給は三ヶ月ね。……じゃあ、俺はもう寝るから」

 

一誠は電話を切ると机の上にそっと置く。その首には玉藻の腕が後ろから絡みついていた。

 

「じゃあ、続きと行きましょうか、ア・ナ・タ♥」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう? 新居には慣れた?」

 

「……はい。姉様がご飯を持ってきてくれますし、問題はありません」

 

《すいやせんねぇ、白音さんも一緒に暮らせれば良かったんでやんすが》

 

次の日、一誠とベンニーアは小猫を交えて昼食を摂っていた。黒歌の身内なので二人も気に掛けているのだ。

 

「……気にしないで下さい。私の我侭でもありますから」

 

リアス達と違って自分は普通に暮らしている事に対する気負いは一誠の説得(洗脳)で薄れている小猫であったが、まだ心の奥底で気にしているようだ。もっとも、最近まで一誠の顔を真面に見れなかった事から考えれば大した進歩だが。

 

 

自分が人質になったから皆殺しは避けられた。元はといえばリアス達が悪い。いや、それを言うなら姉と引き裂かれた原因は貴族を管理できていないサーゼクス達にある。そう言い聞かされ、自責の念から逃れる為に小猫自身も無意識にそう思うようになり出していた。

 

まさに、一誠達の計画通りである。

 

 

 

 

「そう。なら、今度の休暇に冥界に遊びに行かない? 会長から良い物貰ったんだ。高級リゾートホテルの宿泊券。しかも、デラックススィート」

 

 

 

 

 

 

 

それは昨日の事である。一誠は行き成りソーナにホテルの宿泊券、そして大金が書かれた小切手を渡された。

 

「今度の休日、アガレス領の首都である浮遊都市アガレウスの近くの町で私達が作った学校の体験授業があります。これはアグレアスにあるホテルの宿泊券です。どうぞお使い下さい。小切手は交通費です」

 

「……確か近くにある体験入学をする町では、魔法使いの集会もあるんだっけ? 子供は人質になるよねぇ。あ、もしテロに出くわしたら嫌だなぁ」

 

「その時は迷惑料として小切手の五倍の金額をお支払い致します」

 

二人は暗に契約を交わしているのだ。何かあった時は金を対価に力を貸す。テロ対策の人員は不足しており、狙われていると分かっている魔法使いの護衛に避ける人員も少ない。かと言って正式に護衛を依頼しては学園に冥府が関わっていると思われかねない。故に、偶然居合わせたから力を借りた、という風にする事となった。

 

本当なら今回の授業も中止にするべきなのだが、そうすれば反対派の貴族に付け入る隙を見せる事となる。故にソーナは一誠に依頼する事にしたのだ。

 

 

「結構な大金だけど大丈夫?」

 

「……命はお金では買えませんから」

 

「そりゃそうだ。分かってるじゃん」

 

 

それはソーナのほぼ全財産。しかし、今回起きるであろうテロから冥界の未来を背負う子供達を守る為なら安い。ソーナはそう考えていた。それを察したのか、一誠も特に渋らず依頼を受ける事にしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハーデス様は、お前が個人的な友人から貰ったものだから関与しない、だってさ。つまり、小切手は全部俺の物って訳さ」

 

「折角のお誘いですが私は……」

 

「食事は三食バイキングだって」

 

「行きます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~う~」

 

イリナはベットの上に寝転がると枕に顔を埋め、足をバタバダと動かす。その顔は真っ赤に染まっており、先ほどから思い起こしているのは先日の一誠の言葉を思い出す。

 

『いや、好きだよ』

 

この言葉は自分の事が嫌いか、という質問に対して返された言葉で、一誠はお笑い芸人に対する『好き』のつもりで言ったのだが、教会育ちで知識が乏しいイリナは軽い恋愛脳に陥っており、likeではなくloveの方だと判断してしまっていた。

 

 

 

「……イッセー君と私は幼馴染。そして婚約者の居る死神で、私は天使。でも……あ~もう! こういう時は桐生さんに相談よ!」

 

イリナはベットの上のBL漫画を投げ捨てると、自分に足りない知識を多く持つ桐生に相談する事にした。そして一時間後、相談に乗ってもらい、とりあえずデートに誘う事にしたイリナは、

 

 

 

「あ、もしもし? 小猫ちゃん? イッセー君の家の番号教えてくれない?」

 

携帯番号どころか家の番号も知らなかったので小猫に訊いた。普通なら幼馴染なのに家の番号さえ教えて貰えていない事に疑問を持つ所なのだが、これがイリナが残念(イリナ)たる所以なのだ。数分後、一誠の許可を取った小猫から教えて貰った番号に掛けると直ぐに一誠が出た。

 

 

 

「イッセー君? 明日の放課後に遊びに行かない? 私、良い店知ってるのよ。商店街の外れにある喫茶店が美味しいのよ」

 

「なぁ~んだ、天界絡みの事言って来ると思ったけど、よく考えれば数が揃ってこその御使い(ブレイブ・セイント)なのに、ハブられてるのか何時もボッチのイリナちゃんが大役を任されるはずもないか。悪いけど面倒だから……」

 

「ちなみに私は常連だから、一緒に行けば隠しメニューも頼めるわ。隠しメニューの芋餅入り南瓜ぜんざいは最高よ。……ハブられてないもん。単独任務なだけだもん! 多分……」

 

「行く!」

 

イリナはどうでも良いが隠しメニューは食べたい一誠は即座に承諾する。だが、通話を切ると後ろに玉藻の姿があった。

 

 

 

「あの店、私も行ってみたかったんです。今度、連れて行ってくださいませ♪ 勿論、二人っきりですよ?」

 

「あれ? 怒ってないの? 良いよ、美味しかったら明後日行こう」

 

「何を怒る必要が御座います。あの自称天使にご主人様が靡く可能性は皆無。そして夫の友人関係に口出しするなど良妻狐に有るまじき行為です。でもぉ、兆が一浮気したらどうなるか分かってますよね? ゴールデンボールクラッシャーですよ? あ、ちゃんと後で癒して差し上げますから♪」

 

「いや、イリナちゃんと浮気なんて無い無い」

 

そして散々な言われ方をしている事など残念な天使(イリナ)は露程も思わず、次の日の放課後。二人はイリナが一押しする喫茶店『ファイナルティブラスト』に来ていた。店主は国籍不明の男性。たくましい体つきに左目の傷が特長だ。

 

 

「いらっしゃいませにょ」

 

「あれ? こんな店員さん居たっけ……」

 

出迎えた店員は筋肉ムキムキの漢の娘。何処かで見覚えのあるミルたんに案内され、二人は窓際の席に座る。そこでイリナは昨日伝授された作戦を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

「良い? まずパフェを注文して……食べきれないって言うの。そして二人で一杯のパフェを食べる。当然、同じスプーンでね」

 

「そ、それって間接キ……堕ちる、堕ちちゃぅぅぅぅぅっ!」

 

「そう! うまくやれば落とせるわ。あれ? イリナ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、私はオレンジジュースとダチョウ肉のボロネーゼと……抹茶パフェを」

 

イリナは伝授された作戦通りにパフェを注文する。後は折を見て決行するだけ……。

 

 

 

「じゃあ、俺は超ジャンボパフェと芋餅入り南瓜ぜんざいと特盛カツカレー、食後にホットで」

 

「そのパフェは五人前はありますけど食べれますかにょ?」

 

「大丈夫、大丈夫。それに俺は食べきれないのに注文するのって嫌いなんだ。料理を作った店の人に失礼だもん。イリナちゃんもそう思うよね? あれ? あの壁に貼られている写真。あれだけ食べれるのに其れだけで足りるの?」

 

「と、当然よ!」

 

そして、作戦決行前に作戦は失敗した。壁に貼られていたのは制限時間内に食べ切ったらタダになるメガ盛りメニューの内、五キロステーキと五人前のカツ丼、そして一リットルのクリームソーダの計三種類を食べきって自信満々にしているイリナの写真。此れで食べきれないとはとても言えず、二人は普通に食べ終えて解散した。

 

 

なお、良い店を教えて貰ったのでイリナに対する一誠の好感度が少し上昇した。

 

 

 

そしてテロが予測される休日のアグレアスの高級ホテル近くのショッピングモール。其処には一誠と玉藻と黒歌とベンニーア、そして小猫の姿があった。

 

「アレは! 期間限定モデルのネックレス!」

 

「あ、この服、白音に似合いそうね」

 

《あっしは新しいバックが欲しいでやんす》

 

「……あれ、食べたいです」

 

四人は思い思いに買い物を続け、荷物持ちは当然のごとく一誠。異空間に荷物を仕舞えるので肉体的には大丈夫でも、長時間付き合わされて精神的な疲労は溜まる一方。やがて四人がエステを受けるというので漸く休憩を取る事ができた。

 

「……あ~疲れた。何であんなに買い物が好きかな?」

 

「全くだ。俺も妹や眷属に付き合わされて疲れた。こんな事ならずっと引き篭っていた方が良かったな。なぁ?」

 

一誠の呟きが聞こえたの隣りに座っていた青年が話しかけて来た。当然二人は顔を合わせ、青年の方は一誠の顔を見て固まる。瞬く間にホスト風の整った顔が恐怖に歪んだ。

 

 

 

 

 

 

「お、お前はっ!?」

 

「あっ! 君は……誰だっけ?」

 

 




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ふと思いついたラスボス番外ネタ

メデューサ(ソウルイーター) メドーサ(GS美神) 五次ライダー(fate)

前二人で柳くんが文字通り魔『改造』


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八十五話

今日は筆が乗らないので短め 明日から一気にバトル展開


一誠の代理として出場した玉藻とのレーティングゲーム以来、ライザーとレイヴェルは引き篭っていた。ライザーは百万の軍勢に蹂躙され、レイヴェルは聖水でイッパイになった空間に閉じ込められて心と体に深い傷を負ったのだ。その傷もようやく癒え、今回気晴らしにと眷属を連れて遊びに来ていたライザーは……一誠(トラウマの原因)と再会した。

 

 

 

 

 

「……ご迷惑おかけしました」

 

「うん! 全くその通りだよ。おかげで俺まで変な目で見られちゃったじゃない」

 

一誠の顔を見たライザーは恐怖のあまり絶叫し、周囲の者は奇妙なものを見る目で二人を見つめる。居心地が悪くなった一誠は気絶して泡を吹いているライザーの髪の毛を掴み、近くの喫茶店まで引き摺っていった。その後、目を覚ましたライザーの奢りで一誠はケーキを注文し、ライザーは恐怖から敬語になっていた。

 

「あの時は本当に申し訳ございませんでした。……あの、グレモリー領の事聞きました?」

 

「……グレモリー家? ああ! 無能姫と現ルシファーの実家ね。確か荒れに荒れてるんだっけ?」

 

「ええ、破落戸が多く集まり昼間でもおちおち出歩けないようです。先日は屋敷に放火があり、地下室から誰かの焼死体が出たとか。……今となっては婚約しなくて良かったのかもしれないと思います。結婚はしても学校は好きに通わせるつもりでしたから」

 

ライザーは心底安心した様子だ。もし彼がリアスと結婚していた場合、嫌われていた彼が何を言ってもリアスは聞かなかっただろうし、そうなれば夫である彼も何かしらの罰を受けただろう。もしかしたら秘薬造りに没頭させられたかもしれない。

 

グレモリー家の次期当主としかリアスを愛しておらず、かつ彼女だけを愛する気は無かったライザーからすれば心中する気など全く無く、一誠の名が有名になった事で彼の従者に負けた事がそれ程のマイナスにならなくなったので再び縁談の話がちらほら出始めている。もはやリアスはライザーにとって苦い思い出でしかない。

 

「それにしても霊王とまで呼ばれてる貴方でも女性の尻には敷かれますか。私も買い物につき合わされてウンザリですよ。……まぁ、その分今夜は楽しませて頂きますけどね。所で貴方は脱がす派? それとも脱いで貰う派?」

 

「羞恥心に染まった顔でゆっくり脱ぐのを眺めるのも良いけど、恥ずかしそうにしているのから剥ぎ取る方が唆る」

 

その瞬間、ライザーと一誠は固い握手を交わす。ドスケベ同士でしか分からない何かで通じあったのだろう。その後タメ口を許されたライザーは、

 

「……だけど三人の内、二人は穿かない派で、三人とも付けてないんだ」

 

「むぅ、それは問題だな。だが、こう考えろ! 揺れまくってご褒美ですっ! とな」

 

猥談を続けた。

 

「……でな? 俺の眷属達は基本甘えてくるばかりで、俺としては受けに回ってみたいと思うんだが……」

 

「俺の所は玉藻は両方オッケーで、抱きしめながらが好きで、黒歌はSっ気が有るから上に乗るのが好き。ベンニーアちゃんはマゾっ気が有るから後ろから……。ちなみにサイズは大・爆・小」

 

「中々素晴らしいじゃないか! だが、俺の所も……騒がしいな。って、アイツ等何を!?」

 

エステ室から聞こえてくる喧騒に気付き視線を向けると、中から出てきたのはライザーの眷属達。エステの途中だったのか殆ど何も着ておらず、彼女達も隠そうともしていない。そしてそのまま悲鳴を上げながら何処かに逃げていった。

 

「……玉藻達と出くわしたんじゃない?」

 

「……そうだろうな。すまんが俺はアイツ等を迎えに行ってくる。また話そう。……そうそう、知ってるか? 最近、神器所有者が神器を抜かれる事件が起きているらしいぞ。どうも数ばかり多い下級神器ばかりらしいが……」

 

ライザーは会計を済ますと足早に眷属達を捕まえに行く。この後も色々と付き合わされ、一誠のホテルでの初日は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻り午前中の事。場所はソーナ達が創った学校があるアウロスという小さな町。其処にランスロットとロスヴァイセの姿があった。二人は出来たばかりの校舎を見上げる。学園名は政治的思惑が無い事示す為、『アウロス学園』と名付けられた。

 

「……身分や力に関係なく通える学校ですか。素晴らしい考えですが敵も多そうですね」

 

「実力主義の悪魔社会だからこそ、身分の低い者が強くなるのを嫌がる上層部は多い。っという事ですね」

 

ランスロットは義祖母になるグンドゥルが出席する魔法使いの集会の見学、という名目での護衛に来ており、ロスヴァイセは彼女もテロ組織に狙われている可能性があるとして一緒に来ていた。最近続出している誘拐事件。被害者の共通点は『666(トライヘキサ)』の研究をしていた事。そしてロスヴァイセも学生時代の論文でもう一つの説である『616』の方向から研究を進めていたのだ。

 

「……ランスロットさん。お願いがあります」

 

道の真ん中で立ち止まったロスヴァイセは不安そうな表情でランスロットを見詰める。自分がテロ組織に狙われ、捕まってしまったらランスロットにも害が及ぶ事に利用させられるかもしれない。いや、リゼヴィムの目的からしてそうなるだろう。積もり続ける不安はロスヴァイセの心を締め付け、

 

 

「もし私が捕まって利用されそうになったら……絶対に助け出して下さいね? 私、貴方が助けに来てくれるまで必死に抵抗しますから」

 

ランスロットという存在が居る事で解消されていた。この人(ランスロット)なら必ず自分を守ってくれる。ロスヴァイセその確信じみた信頼を彼に向けているのだ。しかし、ランスロットは首を横に振り、

 

「いえ、それは無理ですよ。……何故なら私が貴女を守り抜き、奴らに攫わせなどしないからです。ロスヴァイセ。私は此処で誓います。必ず貴女を守り切り、何時か生まれてくる子供達と幸せになると」

 

「ランスロットさん……」

 

二人は互いの手を強く握り締め、相手の目をまっすぐ見つめる。二人の唇は徐々に近づいて行き……。

 

 

 

 

 

 

 

「……んんっ! 辺りに人が居ないからと道端でキスとは慎みが足りないですよ、二人共!」

 

通りかかったグンドゥルに長々と説教を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、とある場所で悪意が動き出そうとしていた。

 

「さて、明日決行ですね。準備は宜しいですか?」

 

頭にカツラを被り、体毛がブラジャーのように生えてある青年は手元の剣を弄りながら周りの物に問い掛ける。その両手には籠手が嵌められており、剣からは魔剣らしきオーラと龍殺しの力が発せられていた。




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氷の覇王 アーシアがハッチャける予定 おじさんの<間違った>教育で ディオドラァ・・・・・・





ふと思いついたネタ 第四次聖杯戦争のサーヴァントがセイバー以外ギャグ漫画のキャラだったら

呼べるかどうかは無視(笑)


ランサー アザゼル (よんでますよアザゼルさん) 淫奔が黒子の代わり

アーチャー 本官さん (天才バカボン) 銃弾(宝具)を乱射

ライダー 両さん (こち亀) 彼でもウエイバーの成長に役立ちそう。締めるときは締めるし。後は欲が深く、娯楽好き 自転車から戦闘機まで操縦できるしライダー適正はありそう(笑)

バーサーカー 首領パッチ (ボボボーボ・ボーボボ) 騎士は無手では の代わりに様々なものを武器にする ネギ タケノコ コーラ

アサシン ハマー (ピューと吹くジャガー) 最初の方はそれなりに忍者してた……

キャスター カーメンマン(サンレッド) 模範的な市民である悪の組織フロシャイム神奈川県川崎支部所属の彼なら龍ちゃんを捕まえてくれそう




勿論、大怪我を負ってもすぐ治るギャグ補正はセイバー以外所持 

エクスカリバーを食らっても あ~死ぬかと思った、程度?


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八十六話

氷の覇王 更新しました


「……始まったね。バカンスも楽しかったけど、一度引き受けちゃったからには仕事しないとね」

 

アグレアスにあるオープンカフェで紅茶を飲んでいた一誠は、紫色から白へと変わる空を眺めていた。この事態を引き起こしたのはラードゥンの結界。空中に現れた映像に映るリゼヴィムによると、魔法使いたちが手伝ってくれないから殺す。後、アグレアスの技術も欲しい、だそうだ。三時間後に行動を起こすと宣言したところで映像は途切れた。

 

「黒歌とベンニーアちゃんはこっちで待機。霊を何体か置いておくから襲撃に備えて。行くよ、玉藻」

 

周囲が騒然となる中、一誠は浮遊都市の端へと向かう。そこからはアウロスの様子が伺える。町は紫炎の柱に囲まれており、炎からは聖なるオーラが立ち上っている。

 

「アレは聖遺物(レリック)の一つで神滅具の……紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)でしたっけ? あれに触れたら悪魔どころか魔法使いでも灰になりますねぇ」

 

「ま、同じ神滅具使いが要るなら俺も最初から本気出すか。禁手化(バランス・ブレイク)死を纏いし赤龍帝の(デット・オブ・ブーステッド)龍骨鎧(・ギア・ボーンメイル)!」

 

一誠は鎧を身に纏うと玉藻と手を繋ぎ、そのまま町目掛けて急降下していった。既に都市を囲んでいた邪龍が襲って来るも手のひと薙で肉塊となって消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん! 避難シェルターにお急ぎ下さい!」

 

 

その頃、ソーナが予め用意していた避難場所には集まった児童や保護者、町の住人達が避難していた。魔法使い達の術で避難しようとしたが聖杯によって蘇った魔源の(ディアポリズム・)禁龍(サウザンド・ドラゴン)アジ・ダハーカによって封印されてしまっている。それでも封印されていない術式を使って新しい転移の術を開発しようとしていた。

 

「……完成まで数時間。それまで町を守らないといけませんね。絶対に守りきりましょう」

 

ソーマの後ろにいる眷属や、指導に来ていたサイラオーグも頷く。そんな中、壁を背にして立っていたランスロットが部屋から出ていこうとしていた。

 

「ランスロットさん、何方へ?」

 

「避難し遅れた者が居ないか見てきます。たとえ所属が違っても弱き者を助けるは騎士たる私の務めですから」

 

ランスロットは強化されたアスカロンの柄を握り締め、そのまま町へと出て行く。既に避難を終えているのか猫の子一匹おらず、避難し遅れた住人は居ないようだ。その代わり、広場には青年が一人居た。

 

「やはり来ましたか。貴方の性格なら逃げ遅れを探しに来ると思っていましたよ。しかし、貴方達も馬鹿ですね。テロリストの言う事を鵜呑みにするとは」

 

どうやら三時間後に攻撃を開始するというのは嘘の様で、上空では邪龍達が出番を今か今かと舌なめずりしながら待っている。宣言した時間よりも早く攻撃を開始するとは……実に悪魔らしくて狡猾な作戦だ。

 

「その剣は貴方が持っていて良い剣ではないっ! 今すぐ返して貰います」

 

ランスロットが睨む先にはユークリッドの姿があり、その手にはランスロットの愛剣であったアロンダイトが握られていた。

 

「さて、この剣で貴方の主である兵藤一誠を仕留めるつもりでしたが……何を笑っているのですか?」

 

「くくく、これはお笑い草ですね。貴方如きが主に勝てるとでも? それと、貴方にその剣は使いこなせませんよ。さぁ、来なさい。若ハゲ胸毛ブラっ!」

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

ユークリッドは叫びと共にランスロットに斬りかかる。アスカロンとアロンダイトがぶつかり合い火花を散らす。婚約者とストーカーの激戦が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソーナ姫様っ! 私達も戦います!」

 

ランスロットとユークリッドの戦いが開始された頃、学園に向けて邪龍達が攻撃を開始していた。すぐに対処に向かおうとしたソーナの下には兵士の鎧を着込んだ父親達が集まっていた。量産型とは言え邪龍は邪龍。ソーナがそう言っても彼らは学校を守る為に戦うと言い張る。

 

 

 

「あはははは! 無駄だってっ!」

 

その時、彼らの背後から笑い声が聞こえてきた。

 

「兵藤君! 来てくれたのですね」

 

「まぁね。偶然(・・)アグレアスに遊びに来てたら襲撃されてるんだもん。それでさ、君達に教えてあげるけど、意地や正義感で捨てるほど命は軽い物じゃないんだよ」

 

「だがっ! 俺達はこの学校を守りたいんだ。此処は子供達の、俺達の希望なんだっ!」

 

この学校の入学希望者は才能がなく退学になった者や、地位が低くて入学さえ出来なかった子供達も多い。そんな子供達に魔力の代わりに魔法を教え、格闘を教え、この学校は彼らの希望となっていたのだ。

 

「……ふぅ。あのね、誰しも死時(しにどき)って物があるの。君達の死時は今じゃない。死ぬべき時に死ねる様に今はハンカチ噛みつつ避難してて。……アイツ等は俺が全部片付けてあげるよ」

 

一誠はクルッと背を向けると邪龍達に向かっていった。

 

 

 

 

 

「シャドウ……絶対に此奴等を通すな」

 

「了解シタ」

 

一誠が外に出るなり現れたシャドウは校舎を包み込み、近づいてきた邪龍は触れるなりサマエルの毒で息絶えていく。そして遠くから炎を吐いてくる邪龍には体の一部を弾丸のように飛ばして対処していった。

 

 

「……さて、そろそろ出て来たら?」

 

その瞬間、一誠の足元から紫炎の十字架が立ち昇る。咄嗟に飛び退いた一誠の目の前には一人の女性が現れた。

 

 

「あらあらん、避けられちゃったわん。初めまして、霊王ちゃん。わたくし、ヴァルプルガと申しますのん♪」

 

ヴァルブルガは紫色のゴスロリ衣装を着て、ゴシック調の紫に日傘を持った二十代前半の女性。一誠は彼女を見て首を傾げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと無理してない? キャラも痛々しいし……正直ないわ~」

 

「……ぶっ殺すっ!」

 

ヴァルブルガが一誠に攻撃を仕掛けようとした瞬間、巨大な影が現れる。其処にはレイナーレにやられた傷を完治させたラードゥンの姿があった。

 

 

『私も混ぜて下さいませんか? 前回のあの女は居ない様ですし暇なのですよ、っ!』

 

ラードゥンが咄嗟に障壁を張った瞬間、聖なるオーラと黒炎が同時に叩き込まれた。

 

 

 

 

「お前にばかり任せるのも問題だから俺達も戦うぜ、兵藤!」

 

「君は其処の女を頼む。私も新調したデュランダルの性能を試したいんでね」

 

「……勝手にすれば?」

 

匙とゼノヴィアはラードゥンに向かって行き、一誠はヴァルブルガに向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

 

ユークリッドはアロンダイトを力任せに振るいランスロットのアスカロンを弾き飛ばす。そのまま心臓めがけて突きを放ったユークリッドだが、ランスロットは刃を滑らせるようにして受け流した。

 

「貴方を殺してロスヴァイセさんを手に入れる。あの方は私が最も有効活用できるのです!」

 

「させませんっ! 貴方の様な男に愛する女性は渡しませんよ!」

 

二人が同時にはなった突きは互いの切っ先を捉え弾き合う。悪魔であるユークリッドの方が力では優れているのかランスロットは体勢を崩し、ユークリッドはそのまま腹部目掛けてアロンダイトを横薙ぎに払った。

 

「あの人は私の物だっ! 姉さんの代わりにするんだぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

そしてその刃はランスロットの横腹を切り裂く、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と思われた瞬間、ランスロットは身を屈めてユークリッドの懐に入り込み刃を躱す。

 

「……この世に誰かの代わりなど居ないのですよ」

 

そのまま真っ直ぐ切り上げ、

 

「そして誰かを代用品扱いした時点で貴方の想いはその程度だったというです。姉に対しても、ロスヴァイセさんに対しても。その程度の想いでは私には勝てません」

 

「がはっ!」

 

深く大上段に切り下ろした。ユークリッドの体からは血が吹き出し、アロンダイトは後方に飛んでいく。聖杯で耐性を付けているのか聖剣で切られた事による深刻なダメージは見られないが、それでも傷は深くちはとめどなく流れ落ちる。しかし、ランスロットが捕縛しようとした瞬間、彼の両腕に籠手が出現した。

 

「ふふ…ふふふふ不。、まさか本当に使う事になるとは……」

 

「それは龍の手(トゥワイス・クルティカル)ですか。ですが、今の貴方の力を四倍にしてもその怪我では……」

 

「ええ、無理でしょうね。ですがっ!」

 

ユークリッドは懐からオーフィスの蛇、そして注射器のような物を取り出す。そしてランスロットが止めるよりも早く蛇を飲み込み、注射器を首に突き刺す。その瞬間、籠手が肥大化した。

 

「これは英雄派が作っていた神器の力を引き出す薬。確か『魔人化(カオス・ブレイク)』と言ってましたね。そして……」

 

「っ! させませんっ!!」

 

ユークリッドの様子にただならぬ物を感じたランスロットは彼目掛けアスカロンを振り下ろす。だが、彼の体は黒いモヤに包まれ、中から出てきた巨大な腕に弾かれてしまった。

 

「……この薬を使った状態を彼らは『業魔人(カオス・ドライブ)』と言っていましたが、これは更に覇龍(ジャガーノートドライブ)を組み合わせた状態。強いて言うのなら『業魔龍(ジャガーノート・カオス・ドライブ)』といった所でしょうか?」

 

モヤが晴れるとユークリッドの変貌した姿が露わになる。全身を殻の様な物で覆い、背面には鋭く隆起した突起物。前腕部分はより太く強固になっており、鋭い鍵爪が生えている。顔は龍の様になり、そしてなによりも特徴的なのはその大きさ。全長は少なく見積もっても十メートルはあった。

 

「此れは厳しい戦いになりそうですね……」

 

ランスロットは油断なくユークリッドを見据える。その額からは冷や汗が流れ出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、先程まで彼が被っていたカツラは巨大化の際に引きちぎられ、風に飛ばされていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

赤き弓矢(ウェルッシュ・バゥ)!」

 

一誠の鎧に付いている赤い布が光り輝き、無数の矢となって邪龍に降り注ぐ。全身を打ち抜かれた邪龍は地面に落下して行き、ヴァルブルガも障壁や紫炎で防ごうとするも防ぎきれず体に傷を作っていく。

 

「んっもう! 大人しく萌え燃えして下さいましっ!」

 

「……うっざっ! コスプレババア一号並だね、君。もしかしてキャラ付け? やめた方が良いよ、キッツイからさっ!」

 

一誠は彼女に急接近すると鳩尾に蹴りを叩き込む。ヴァルブルガは肺の中の空気を吐き出され、意識が一瞬混濁する。その瞬間、一誠は懐に忍ばしておいた袋を顔目掛けて投げつけ、彼女に当たった瞬間、真っ赤な中身が辺りに広がった。

 

「お久しぶりの唐辛子粉だよ」

 

「目がぁ~! 目がぁぁぁぁっ!!」

 

ヴァルブルガは顔を押さえて叫び、一誠は再び急接近する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんてねん」

 

「しまっ……」

 

次の瞬間、ヴァルブルガを中心に立ち上った紫炎の十字架が一誠を飲み込む。所有者だからかヴァルブルガは焦げ跡一つない体で未だ燃え盛る十字架から脱出した。

 

「あははははははっ! ばーかばーか♪ あ~、敵が勝ったと思った瞬間にひっくり返すのって最っ高!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん! 俺もそう思うよ。玉藻はどう?」

 

「えっ!?」

 

ヴァルブルガの背後に居た一誠は彼女の背中を刺し貫いた状態で十字架に話しかける。その瞬間、十字架が霧散し、中から九本の尾を生やした玉藻が出てきた。

 

「まぁ、私も狐なので獲物を甚振るのは好きですね。それに、相手を騙して喰らうのは狐の本能ですし? では、ご主人様。どうぞ、ご一緒に」

 

 

 

 

「「あ~、敵が勝ったと思った瞬間にひっくり返すのって最っ高!」」

 

 

 




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八十七話

『Guoooooooooooooooooooooo!!』

 

「……もはや理性など残っていないようですね」

 

巨大なドラゴンへと化したユークリッドは手当たり次第に前足を振るい、尻尾を叩き付けて町を破壊していく。攻撃を受けた家々は一撃で瓦礫と化し、吐き出される火炎によって町はたちまち火の海へと変わっていく。子供達の遊びである公園が焼け落ち、母親達が財布と相談しながら買い物をする商店街が燃え尽きる。そして、ユークリッドは一際大きい建物、アウロス学園の方を向き、口の中に炎を貯めた。

 

「させませんっ!」

 

刹那、ランスロットが崩れた瓦礫の上を駆け上がりユークリッドの顔面まで飛び上がる。振るわれたアスカロンはユークリッドの眉間を守る殻に突き刺さり、其処で止まった。その瞬間、ランスロットに向かって巨大な拳が迫り、ランスロットはユークリッドの顔を蹴飛ばす事で剣を引き抜き、拳を避ける。彼の間近を十tトラックの様な拳が高速で通り過ぎていった。

 

『Goooooooooooo!!』

 

ランスロットを敵と判断したユークリッドは足を踏み鳴らして彼を踏みつぶそうとする。石畳に巨大な足跡ができ、踏み締められる度に地面は激しく揺れる。ランスロットを一向に踏みつぶせない事に苛立ちが募ったのか踏みしめ方が徐々に荒々しくなり、右足を一際大きく踏みしめた瞬間、小指が殻ごと切り飛ばされた。

 

「やはり関節部分は脆いようですね。これなら……はぁぁっ!!」

 

ランスロットはアスカロンを構えると左足に切り掛り、親指を深く切りつける。赤い血が噴水の様に吹き出し、ユークリッドは苦悶の叫び声を上げ、ランスロットとは別の方向を向いた。

 

『Gobaaaaaaaaaaaa!!』

 

「ひっ!?」

 

其処に居たのは逃げ遅れた若い女性。彼女を見つけたユークリッドは血に飢えた獣のように唾液を垂らしながら彼女に迫る。鋭い牙がビッシリ生えた大口に飲み込まれそうになった彼女は恐怖から目を閉じ、誰かに抱き抱えられたかと思うと、急に浮遊感を味わう。恐る恐る目を開けるとランスロットが彼女を抱き抱えていた。

 

「お怪我はありませんか? ……アウロス学園の方にお逃げください。彼奴は私が倒します」

 

「は、はい!」

 

女性は一目散に逃げ出し、再びランスロットを標的に定めたユークリッドは上空に飛び上がり、一気に急降下して迫って来る。巨体の落下と飛行のスピードが合わさる事で隕石の如き威力となり、直撃した地面には巨大なクレーターができ、土砂が舞い上がる。咄嗟に跳んで避けたランスロットだったが流石にノーダメージとはいかず、些か体勢が崩れていた。

 

『Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

「ッ! がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

そして、舞い上がった土砂の中から現れたユークリッドの手がランスロットを掴み、そのまま剛力で握り締める。鎧からはミシミシと音が鳴り、ランスロットの体にも激痛が走った。その声が面白いのかユークリッドの口元が緩み、自分の手ごと火炎を浴びせかける。その時、火炎の中から刃が伸びユークリッドの左目に突き刺さる。メディアの手によって変化の聖剣(エクスカリバー・ミミック)と同化したアスカロンの刃を伸ばしたのだ。

 

『Goooooooooooooooooo!?』

 

あまりの痛みにユークリッドはランスロットを取り落とし、目を押さえる。ランスロットが地面の降り立った時、足元にはアロンダイトが刺さっていた。ランスロットが柄に手を伸ばすが、まるで剣に拒否されたかの様に弾かれる。魔剣には意思がある物も有り、今のはアロンダイトがランスロットを持ち手と認めなかったのだ。

 

「……私は一度貴方を捨てた身です。ですが、図々しい願いだと承知した上で頼みます。もう一度だけで良いので私に力を貸して下さいませんか? ……彼処には傷つけてはならない方が居る」

 

ランスロットが視線を向けたのはアウロス学園。ロスヴァイセが居る場所だ……。

 

『Guoooooooooooooooooo!!!』

 

ユークリッドは潰れた目から血を流しながらランスロットに迫る。背中の突起物が光り輝き、それと同時に彼の生命力が減少していた。そして彼から放たれるオーラだが、危険な程増大する。そう、今にも爆発しそうな危うさだった。

 

そして、ランスロットは冷静な顔で再びアロンダイトに手を伸ばす。

 

「……行きますよ、アスカロン、アロンダイト」

 

二本の剣はランスロットの手に吸い付く様に収まった。そして、ユークリッドの体から溢れ出すオーラは益々激しさを増し、今にも爆発しそうだ。爆発すれば町ごと吹き飛ぶほどのエネルギーが溢れ出し、そして……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……言ったはずです。彼処には傷付けてはならない方が居る、と……」

 

『Gu…o……』

 

ユークリッドの胸は龍殺しの力を持つ二本の剣に交差した傷を付けられ、血を噴き出しながら崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はは…は、貴方を…倒せば…あの人(ロスヴァイセさん)に振り向いて頂けると…思ったの…ですが…」

 

「……あの方は強さで人を好きになったりはしないですよ」

 

元に姿の戻ったユークリッドだが、既に虫の息だ。もう助からないだろう。今際の際に彼が話したのは主であるリゼヴィムではなく、ロスヴァイセの事だった。

 

「そう…でしたか…。本当は…あんな力など使いたくは…なかったんですよ…。私自身の…力で…貴方に…勝ちたかった…。どうして…でしょうね? やはり、私は狂って…しまったのでしょうか…? 姉さんが…あの男(サーゼクス)と恋に落ちた…あの日から……」

 

ユークリッドはそのまま目を閉じ、最後に一雫の涙を流すと二度と目を覚まさなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ふぅ。貴方達も懲りませんね』

 

ラードゥンは呆れた様な声を匙とゼノヴィアに向ける。ラードゥンが退屈そうにブラつかさている前足の指全てに龍の手(トゥワイス・クリティカル)が嵌められていた。禁手に至った匙の黒炎も、ゼノヴィアの聖剣も強化されたラードゥンの障壁の前に阻まれ届かない。匙もそろそろ禁手が解けかかり、ゼノヴィアの聖剣から放たれるオーラも弱くなっていた。

 

ラードゥンが退屈そうにブラつかさている前足には

 

「……少し拙いか? だが、今日の晩飯はステーキなんだ」

 

「……なぁ、匙。この戦いが終わったら私と結婚してくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、それ死亡フラグだから。それにしても下級神器も馬鹿にはできないね」

 

「まぁ、倍加ってよく考えたら凄いですよ? ……ご主人様の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)のせいで弱く見られてますけどね」

 

『当然だっ! なんたって俺は唯一無二の天龍だからなっ!』

 

ヴァルヴルガを葬った二人は匙達の戦いを見物する。手を出そうと思えば出来るが、匙達が自分達でやると言ったので助けを請われるまで出す気がないのだ。

 

「にしても、あのコスプレババアもあっさり引っ掛かったね。最後の台詞聞いた? 『何時から入れ替わっていた?』、だって」

 

「ご主人様もノリノリで『何時から入れ替わっていないと思っていた?』、って言ってましたよね♪ ソレで、其れは誰にあげます?」

 

二人の目の前には紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)が置かれていた。一誠が誰に宿らせようか迷っている時、二人の背後に一人の少年が現れてラードゥン目掛けて一気に跳躍する。その手には神々しいオーラを放つ聖剣と膨大で荒々しい力を放つ魔剣が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう! 俺っちも混ぜてくれやっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で十七巻終了 番外編や他の作品描きつつ18巻を待つ!

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氷の覇王 女王そろそろ絞れました あと、アーシアは更にハッチャける予定


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八十八話

「「残念天使(て~んし)♪ 自称天使(てっんし)♪ 何時もボッチのハブられ天使~♪ 天使の意味があるのっかな♪」」

 

「うわ~ん!!」

 

此処は学園内にある避難シェルターの中。講師として呼ばれていたイリナは避難した者達の護衛として残っていた。最初はシエルター内なのに護衛?、と疑問符を浮かべたイリナだったが、

 

「……大きい声では言えませんが、もし魔法使いの中にテロ組織と通じている者が居たら危険ですので。それと、本当に裏切り者がいた場合、バレたと分かったら暴れだす危険性がありますので、今のは他言無用です」

 

と、ソーナから言われ残る事にし、同じ意見の一誠が残したありす達に苛められていた。

 

「貴女、講義の時に布教活動したんですって? 馬鹿(ばっか)じゃないの? 悪魔って神に祈ると痛みを受けるのよ?」

 

「それで、講義を中断させられたんでしょ? 本当(ほんと)、貴女ってそんなんだから残念(イリナ)なのよ」

 

ソーナに頼まれて講義を行ったイリナだったが、其処で布教活動を行ってしまい、保護者からのクレームで講義は中断。今、絶賛その事を囃され中である。

 

「今、何をイリナって読んだの!? あ~ん! やっぱり、この二人イッセー君の仲間だよぉ~!!」

 

その場で泣き出したイリナの周りを二人はスキップしながら周り出す。その時、二人の襟首を巨大な手が掴み、二人の体を持ち上げた。

 

『グハハハハ! 止めとけ止めとけっ! そんな事より俺様の手品を見てな』

 

二人を掴んだグレンデルは子供達の所に連れていく。どうやら元・邪龍様は手品も嗜むらしい。

 

「ねぇ、龍のオジさん! 次は何をやるの~?」

 

「早く続き続きっ!」

 

『待て待てっ! すぐ続きを見せてやるって』

 

邪龍が子供達に囲まれるという異様な光景に、術式を組み立てている魔法使い達でさえ開いた口が塞がらないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、邪龍って何だっけ?」

 

その疑問に答えれる者などその場には居なかった……。

 

 

 

 

「あれ? そういえば会長は何処に?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっはぁぁぁ!! 木屑にしてやんよぉ!!」

 

『ぐっ! なぜその相反する二本を同時に使えるのですっ!?』

 

ラードゥンの前に現れた少年……フリードは最強の聖剣であるコールブラント、そして最強の魔剣であるグラムを同時に使いラードゥンを追い詰める。強化されたラードゥンの障壁も簡単に切り裂き、その体を刻む。相反する筈の二本はまるで訓練の行き届いた軍犬の様にフリードの意思に従い、その力を万全に発揮していた。

 

「あぁん? 俺っちが天才だからさっ! 最強の聖剣を使いこなす高潔さと、最強の魔剣を使いこなす凶悪さ、その二つを併せ持ったスーパーサイ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うネ。其奴は私特性の改造魂魄だヨ。態々、グラムにも適正を付けてやったと言うのに……」

 

「反省して下さい、この駄犬」

 

「……マユリの旦那ぁ。あと、ネムの姉御はもう少し罵って下さい」

 

何時の間にか現れたマユリとネムは蔑む視線をフリードに送っていた。

 

 

 

『舐めるなぁぁぁぁっ!!』

 

ラードゥンの叫びは町全体に響き渡り空気を震わせる。フリードを球状の結界が幾重にも囲み収縮しだした。

 

『潰れろっ! 潰れてしまえっ!!』

 

「っ! 畜生がぁぁぁっ!!」

 

フリードはグラムとコールブランドが同時にオーラを放ち、結界の収縮に抗う。しかし、徐々に押し込まれていった。

 

『無駄ですっ! その結界には私の力の殆どを……』

 

 

 

 

 

 

「へぇ、力の殆どを、ねぇ。聞いたか、匙?」

 

「ああ、聞いたぜ、ゼノヴィア」

 

その瞬間、ラードゥンが体の周囲に張っていた防御障壁に穴が開く。ゼノヴィアはニヤニヤしながらエクスカリバーで強化されたデュランダル……エクス・デュランダルを向けていた。

 

『なっ!?』

 

「……支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)。私と最も相性が悪かったが、注がれる力の減った障壁に穴を開ける位はできるさ」

 

「そして、それだけ穴が開けば……」

 

 

 

 

 

 

                「「お前に攻撃が届く!!」」

 

エクス・デュランダルのオーラとヴリトラの黒炎がラードゥンを包み込む。相手の力を奪う黒炎と、魔の存在を弱らせる祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)の同時攻撃によってラードゥンの力は大きく削がれる。

 

 

 

 

 

 

 

そう、フリードを潰そうとしていた障壁が破壊可能にまで弱体化する程まで……。

 

「はっはぁ!! ブチ壊れなぁっ!!」

 

神々しい聖なるオーラと荒々しい魔のオーラ。その二つが混ざり合い、ラードゥンに直撃した。

 

『ぐわぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

ラードゥンは建物を巻き込みながら吹き飛ばされ、町の中心にある時計台にぶつかって止まる。衝撃で時計台が崩壊し、ガレキがラードゥンに降り注いだ。

 

 

 

 

「よっしゃぁぁぁっ! よくやったぜ、下僕共っ!!」

 

「「誰が下僕だっ!!」」

 

「……細かい事は気にすんなって。っと、そろそろ限界か。お前らもみてぇだな」

 

フリードはその場に膝をつき、匙も禁手を解除し息を荒げている。ゼノヴィアも立ってはいるが疲弊の色が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……殺す。貴様ら、絶対に殺すっ!!』

 

「げっ! まだ生きてるのかよっ!? マユリの旦那……って居ねぇ!?」

 

その時、ボロボロのラードゥンが瓦礫の中から起き上がる。万全の障壁を張る力は残っていない様だが未だ戦闘の意思は衰えず、反対に戦闘本能を剥き出しにしていた。その口には膨大なエネルギーが貯められ、フリード達目掛けて放たれ様としている。

 

『死ね……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様がな……」

 

『ぐふっ!?』

 

そして脳天にサイラオーグの拳を受け、エネルギーが口の中で爆発する。その体には黄金の鎧が纏われている。

 

「すまない、邪龍の相手に戸惑った。……あとは頼むぞ、ソーナ」

 

「ええ、これだけ力を貯めれば十分です。……お喰らいなさい、ラードゥン。ウォーターカッターはご存知ですか?」

 

ソーナの背後には巨大な水球が現れ、刃となってラードゥンに迫る。

 

『くそぉぉぉぉぉぉぉっ!!』

 

ラードゥンの体は水の刃によって真っ二つに切断され、左右に別れ落ちる。その体目掛けて一誠がてを伸ばしていたが……。

 

 

 

 

 

「ちぇ。魂、取り逃がしたか。惜しかったな」

 

ラードゥンの魂を確保しようとした一誠だが、聖杯の力によって紙一重で先に確保されたようだ。一誠が残念そうに肩を竦めた時、ボロボロのランスロットが戻ってきた。

 

 

「あ、終わった?」

 

「ええ、何とか終わりました。さぁ、そろそろ帰りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後、ランスロットとロスヴァイセの結婚式が冥府にて開かれた。

 

 

 

 

「あ~、テメェら、さっさとキスしろや。どうせ永遠の愛なんざ誓うまでもねぇだろ?」

 

ロスヴァイセが北欧出身なので冥府式か北欧式か迷った挙句、両方する事になり、今は冥府式の結婚式が行われている。集まったのはゲンドゥルを除けば一誠の部下と一部の死神。完璧身内だけの結婚式である。なお、北欧陣営は北欧式の時に呼ぶ予定らしい。

 

「……フリード。少しは真面目にして下さい。ロスヴァイセもそう思いますよね」

 

「構いませんよ。むしろコッチの方が私達らしいと思います。……ランスロットさんは文句あるんですか?」

 

「私もそう思います!」

 

二人はフリードが行う適当な神父役に苦笑しつつ、唇を合わせた。なお、もう尻に敷かれるのは確定のようだ。

 

 

 

 

 

そして、結婚式は第二部へと移行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  

                 「宴だぁぁぁっ!!」

 

そう、結婚式の出席者達はタダの騒ぎたい連中の集まりと化した。

 

 

特設のステージでは、ギターをグレンデル、ドラムをグリンパーチ、ヴォーカルを市が行いロックを奏でている。曲が佳境に差し掛かると市は普段の暗さや貞淑さをどこかにやり、激しくブレイクダンスを踊りだす

 

「……うわぁ、激しく踊ってるよ。あの子ってああいうタイプだったんだ」

 

「ご主人様如きに女性の本性が見抜けるはずありませんよ♪」

 

その瞬間、玉藻の瞳が怪しく光り、口元に妖艶な笑みを浮かべる。

 

「酷っ!? え? あれ? 玉藻も本性隠してる?」

 

「……ご主人様、だぁい好き♥」

 

先程の怪しさなど無かったかの様に甘えだした玉藻に対し、一誠も先程の事は片隅へと追いやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、おチビ。野菜をもう少し食べなさいよ」

 

《肉ばっかり食べてるとムダ肉ばかり付きやすよ。ちゃんとバランスよく栄養取らないと。……あんたのお姉さんは乳にばっか栄養が行ってるでやんすけど》

 

「……そうですね」

 

「ほんと、貴女ってチビね」

 

「チビ、チビ~♪」

 

「……貴女達に言われたくないです」

 

メリーを頭に乗せ、ありすとアリスと向かい合い、ベンニーアと並んでご馳走を食べている小猫は姉の方をチラリと見る。既に泥酔してあられもない姿で寝転がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなか綺麗でしたよ、ロセ。ランスロットさんも孫をよろしくお願いしますね」

 

仕事があって宴には出席できないゲンドゥルは祝いの言葉を残して帰っていき、主役である二人は離れた場所で静かに飲んでいた。

 

「さて、此れから忙しくなりますね。完成した術式を知っている魔法使いが忽然と姿を消しましたし、悪魔側にもおそらく裏切り者がいる、中々骨が折れそうです」

 

「大丈夫ですっ! 一誠さんから結婚祝いも頂きましたし、此れからは私も戦いますから。……それと、折角の結婚式の二次会なんですから仕事の話は止めて下さいね?」

 

やる気に満ちたロスヴァイセの背後には紫炎が巻き起こる。結婚祝いは紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)だった様だ。

 

「そうですね。では、後で何かお詫びをしなければなりません。何が良いですか?」

 

「早く赤ちゃんが欲しいです♪」

 

 

 

この時小猫は思った。末永く爆発して下さい、と……。

 

 




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聖誕祭のファーニーエンジェル
八十九話


こっちは久しぶりです 流石に発売してすぐに内容を晒すのどうかと思い遅れました

なお、これ以降は氷のが終わってからです まだ細かいネタを考えてない


とある蕎麦屋の片隅で一誠と父親は蕎麦を啜っていた。

 

「迷惑料代わりにクリスマスプレゼントの配達?」

 

「うん、そうだよ。この街の住人に迷惑掛けているからだってさ。自覚あったんだ、驚きだね」

 

一誠は意外そうな顔をしながら言う。この街は何度も壊滅の危機に瀕しているのでそのお詫びを兼ねてクリスマスプレゼントをD×Dのメンバーで配るらしいのだ。出来るならリサーチしたかったが、時間もなく騒ぎになっても行けないので当たり障りのない物を送る事になったらしい。

 

「玩具やネクタイとからしいよ。……馬鹿にしてるよね。わざわざこの街にやって来て、巻き込んで死なせそうになったから贈り物で謝罪? 結局、騒ぎにしたくないっていう自分達の都合を優先させてるじゃん。自覚あるなら街から出て行くか、せめて高価なもの贈るとか、存在を知っている人達にはトップ陣が土下座して回るとかしろってんだよ。父さん的にはどう思う? 物で解決ってのはさ」

 

「まぁ、社会人としてはどうかと思うぞ。贖罪の気持ちを送り物と共に伝えるというはあるが、物だけ送って謝罪完了、みたいなのはな」

 

「そうそう、どうかしてるよね。それにそれなら無理やり悪魔にされた人達や神器によって人生を狂わされた人達はどうなるのさ。彼らの方が迷惑被ってるよ? 少なくてもこの街の人は知らないままなんだからさ」

 

一誠も父親も呆れたような顔をしている。その時テレビではクリスマス特集の番組が流れていた。一誠は思い出したように懐から封筒を取り出し父親に差し出した。

 

「ちょっと早いけどいクリスマスプレゼントだよ。母さんと年末旅行でも行ってきたら? この時期でも空いている曰く付きの宿の宿泊券。俺は色々やる事が有るから行けないから、二人で行ってきてよ」

 

「……え~と、大丈夫なのか?」

 

「大丈夫大丈夫。一足先に祓っておくし、護衛付けるから」

 

不安そうな顔する父親に一誠は笑い掛けるが、父親は静かに首を振った。

 

「いや、お前の事だ。私達には理解すらできないが、危険な事もするんだろう?」

 

「……まぁね。ま、安心して。父さん達だけじゃなく、俺の身も大切にしなきゃならないってのは分かってるからさ」

 

「……そうか。それなら良いんだ。言っておくぞ。母さんや私より、お前の命を優先させろ。もしもの時には子供を生かす為に死ぬのが親の務めだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ところで三人にはどんなプレゼントを贈るんだ?」

 

「黒歌には着物と簪、ベンニーアちゃんにはドレスとネックレス、玉藻には豪華ディナーと高級ホテルのデラックススィート。……冥府に正式加入してから玉藻が財政管理をする事になって、月々自由に使えるお金がお小遣い制になったから自由に使える額が減ってさ。おかげで今月は金欠だよ。……他の部下にも何か送らなきゃいけないしさ」

 

「……お前も尻に敷かれる運命か」

 

息子同様に女房の尻に敷かれている彼は息子の肩をポンポンっと叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暇ねぇ」

 

次の日の昼間、家事を粗方終わらせた一誠の母親は居間でテレビを見ながら寝転んでいた。玉藻は冥府で用事があるからと出かけており、護衛役のポチは庭掃除、ランスロットが新婚旅行に行っているので暇な円卓の騎士達は屋根裏や屋根の掃除や屋根の修繕作業に勤しんでいる。

 

退屈していた一誠の母親はテレビを付けるも面白いものはやっておらず、この前観れるようにした冥府の番組にチャンネルを合わせる。付けたチャンネルではお昼の料理番組をやっていた。

 

 

『今日もやって来ました。グレンデルの料理教室! 先生、今日はどんな料理を教えてくれるんですか?』

 

『グハハハハ!今日は鶏もも肉のソテーの北欧風ソースだ。じゃあ、材料の紹介だ。まず……』

 

「今夜はこれにしましょう」

 

見終わった彼女がチャンネルを変えると今度は手芸番組をやっていた。

 

「今日のゲストはカリスマパッチワーク職人のグレンデル先生です」

 

「……あの世の龍は多芸なのねぇ」

 

一誠の母親が大きな誤解をした時、ベランダの窓が叩かれ、ポチが顔を出した。

 

「大奥様、客人で御座る。……主に用らしいでござるが、どうなさいますか?」

 

「あら、待ってて貰いましょう。あの子は買い物から帰ってくる頃だし、護衛の貴方達ががいれ大丈夫しょ?」

 

「はっ! 御意に御座る!」

 

ポチはその場で膝を付き、直様玄関へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~。あれ、お客さん? ……ねぇ、どんな人?」

 

一誠は帰るなり玄関にあった靴に気付き、警戒した表情でその場にいた幽霊に聞く。そして誰か聞くなり居間へと走っていく。其処にはイリナとソーナ、そして栗色の髪をした中年男性が母親と向かい合わせに座っていた。ポチや円卓の騎士は壁際で待機しており、ポチは両手両足をフェンリルに変え、円卓の騎士も何時でも武器を抜けるようにしている。その中で客人三人は居心地悪そうにしていた。

 

「兵藤君、お邪魔しています。今日はクリスマスプレゼントに付いての連絡事項を伝えに参りました」

 

「……あれって俺も参加しなきゃいけない? ……それと其処の人はイリナちゃんのお父さんだよね? あとアポはちゃんと取れ。勢力とか関係なしに礼儀だぞ」

 

話を振られた男性はニコニコ笑いながら立ち上がり一斉に近づいてきた。

 

「いやぁ、久しぶりだね、一誠君。イリナの父親の紫藤トウジだよ、いや~、何時以来かな?」

 

「確か貴方の部下が無能姫の前この街を管理していた悪魔と恋に落ち、貴方が部下を殺した後に海外逃亡した日以来じゃなかったっけ?」

 

「な、なんでそれを!?」

 

「ど、どういう事、パパ?」

 

一誠があっけらかんと言った言葉にトウジとイリナは動揺し、ソーナは初めて聞いた事に驚いて固まっている。そんな中、一誠の母親は台所まで向かっていった。

 

「一誠、私は少し席を外すわね」

 

「うん、終わったら呼ぶね。……なんで知ってるかって? 八重垣さんから聞いたからに決まってるじゃん。彼、恨んでたよ。あの頃の俺の力じゃ邪念を晴らせなかったから勧誘できなかったけど……貴方を殺したいって言ってた」

 

「……そうか。やはりな。……イリナ、丁度良い機会だからお前にも話そう。なぜ私達一家がこの街を離れなかければいけなくなったのかを」

 

「簡単に言うと名門悪魔の娘とエクソシストがマジで恋に落ちて周囲の反対を聞かず、このままでは戦争に発展しかねないからって、その人はセラフには黙って悪魔と協力して二人をぶっ殺したんだ。そのくせ、今じゃ協定結んで仲良くやろうってんだから笑えるよね」

 

真面目な表情で昔あった事を娘に話そうとしたトウジだったが、一誠がそれをあっさりと言ってしまった。この時の一誠の気持ちはただ一つ。”そういう話は他所でやれ”だった……。




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九十話

さて、次回で百話……なにか記念を書こうかな? ただ、職場で嫌なことがあったから気分がのらないけど。゚(゚´Д`゚)゚。 感想で元気が出ます


「これ、なんですか?」

 

《コウモリやカラス共が他の神話に取り入ろうとしておるのだ。オーディンや帝釈天の所にも優秀な部下宛てに送っているらしい》

 

冥府に呼び出された玉藻はハーデスから見せられた写真を見て怪訝そうな顔をする。どう見ても見合い写真だった。それも悪魔や堕天使の幹部の娘や貴族令嬢らしく何処か気品を感じさせている。それを見せたハーデスは歯をカタカタ鳴らしながら苦笑していた。

 

「ありゃりゃ、ようやく自分達の立場が分かったんですねぇ」

 

玉藻はケラケラと馬鹿にしたように笑いながら週刊誌の見出しをチラ見する。そこにはこのような事が書かれていた。

 

『高まる現政権への不満! 身内から最悪の裏切り者を出したサーゼクス・ルシファーは退任か!?』

 

『他神話に握られた冥界の財政。不況による倒産相次ぐ』

 

『グレモリー男爵家への放火犯逮捕! 犯人はルキフグス家に従っていた貴族の関係者と判明、グレイフィア・ルキフグスへの憎悪による犯行か!?』

 

《ボロッボロじゃのう。なのに、助けてもらう立場であるという自覚がないほどプライドばかりは高い。自覚があればもう少し早く申し込んで来たじゃろうに。……これだから嫌いなのだ》

 

「まぁ、もともと現政権のトップ陣は、戦争で手柄を上げた武門畑ばかり。戦闘能力は高くても、治政能力は低かったっという事でしょうねぇ。……ご主人様も勉強のハードル上げないとヤベェかも」

 

玉藻は同じく戦闘能力重視の一誠の事を考える。そんな時、彼女はふと気付いた。なぜ、自分に写真を見せているのだろうか? と。

 

「……まさか、ご主人様宛てじゃないですよね」

 

《……そのまさかだ。冥府の台頭には奴が大きく関わってきておるから、此処で繋がりを持って、今後何かあっても穏便に済まして貰いたいんじゃろう》

 

「……ふ~ん。で、話はそれだけですか?」

 

《儂とて直ぐ断りたいが、いくら格下といっても、外交というのは面倒でな。まぁ、とりあえずお前には教えておこうと思って今日呼び出した、という訳だ。取り敢えず顔だけ見て抹殺リストにでも入れておけ。後日、儂が全部断っておく》

 

「ったく、愛人はバカ猫と死神娘で十分だってのに……あれ?」

 

悪態を付きながら写真の相手を暗記していた玉藻の手がふと止まる。そこには子狐の頃から気に入らなかった少女の写真があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

イリナは自室のベットの上でヌイグルミを抱きしめながら溜息を吐く。思い起こすのは数日前にミカエルから告げられたとある提案。

 

「今、悪魔や堕天使が各神話の神々に見合いを申し込んでいます。といっても人質のようなものですが。……イリナ、貴女も最上級死神・兵藤一誠に見合いを申し込む気はありませんか?」

 

ミカエルの意図は理解できる。今の大変な状況打破の為には他神話との密接な関係構築が必要だ。特に台頭目覚しい冥府、そのエースとされる一誠との深い関係は各勢力が欲しがっている。

 

 

 

そして、イリナも個人的に彼の事が好きだった……。

 

「……何時からだったかなぁ。私がイッセー君を好きになったのは」

 

もう覚えていない頃には既にイリナは一誠が好きだった。遊びに行くとペットの子狐が唸るので彼の家には行かず、外やイリナの家でよく遊んだものだ。そして、再開してから綺麗に塗装されていた思い出のメッキがメリメリと剥がれ落ち、外道っぷりや既に居る恋人の事を知っても想いは消えず、ますます燃え上がるばかり。

 

「……あの時、私の事をlove(好き)って言ってくれたし、脈はあるのかな? ……よしっ!」

 

確かに一誠はイリナに好きと言った。ただし、loveではなく、likeだったが。そんな事など露知らず、イリナは一誠に見合いを申し込む事にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、この人だけは絶対にありませんね。私のご主人様に惚れていたから嫌っていますが、ご主人様自体はこの人に対して幼馴染以上の事は感じていませんよ」

 

《まぁ、ラノベで言えばメイン回にも関わらず、カラーイラストを合わせても絵が三種類しか書いて貰えない、というような感じだからな。その上カラーイラストと表紙が同じ絵というような気もするな》

 

「メタ発言は禁止ですよ?」

 

 

 

 

 

 

そして次の日の放課後、イリナは冷やかされるのが嫌なので人目を忍んで一誠にデートを申し込んだ。

 

「イッセー君、明日デートしよ!」

 

「え、何で? 俺達ってデートするような関係じゃないよ」

 

「え、いや、私の事がlove(好き)なのよね?」

 

「うん。(揶揄うと面白いから)like(好き)だよ」

 

「じゃ、じゃあデートしようよ」

 

「え、だから何で?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いてよ、玉藻。何故かイリナちゃんがデートを申し込んで来てさ。何でだろうね?」

 

「じぃ~」

 

その夜、昼間の事を話す一誠に対し、玉藻は少々不機嫌そうにしている。何時もの様に一誠に体を押し付け、ぴったり密着しているが頬を膨らませ、口で不機嫌そうな視線を送っていますアピールを行っている程だ。

 

「どうかした?」

 

(べっつ)にぃ~、ちっとも怒っていませんよ~? ただ~、ちょ~っと不満なだけです。どうせまた勘違いさせるようなことでも言ったんじゃないんですかぁ? ……ご主人様は悪くないと分かってはいても嫉妬しちゃいます」

 

「……う~ん。無いな! それよりも今から月夜の散歩に行かない? 君が生きてた頃によく行った高台の公園で街の灯りと月を見ながらさ。黒歌もベンニーアちゃんも居ないし、たまには二人っきりで過ごそうよ」

 

「行きます! ……少々お待ちを、覗かないでくださいませ」

 

玉藻は態度を一転させ、上機嫌で自室に向かう。自慢の尻尾は激しく振られていた。

 

 

 

 

 

 

数十分後、街を見下ろせる場所に設置された公園のベンチには並んで座る二人の姿があった

 

「此処で過ごすのも久しぶりですねぇ」

 

「うん。……最近は二人で過ごす時間が減ってごめんね」

 

「そんな! ご主人様は職務を全うされているだけですから、気にする必要は御座いません。……私はこうして隣に置いて下されば十分で御座います」

 

一誠は隣に座る玉藻の手に自分の手を重ね、玉藻は慌てて握り返す。この辺り一帯に下級霊による人払いの結界を張っているので誰もやって来ない。何時の間にか一誠の手は玉藻の肩の辺りに置かれていた。

 

 

「……それにしても君も狐時代が忘れられないの? 態々首輪とリードを付けて(・・・・・・・・・・)出かけるなんてさ」

 

「だってぇ、たまにはプレイに変化を持たせたかったんだも~ん。てへ✩」

 

「……うん。予想はしてた」

 

一誠の言葉の通り玉藻の首には狐時代にしていた首輪と散歩用のリードが装着されており、出掛ける時は来ていたコートの下は全裸である。なお、公園内で人払いの結界を張り誰も居なくなるなりコートを脱いだ玉藻は散歩プレイを申し込んだが、流石の一誠も断った。ただ、本心を言えば少しはやる気があった。

 

「……変態な私はお嫌いですか?」

 

「いや? どんな君でも俺は受け入れるよ……!」

 

一誠はそのまま玉藻を押し倒し唇を重ねようとする。しかし、突如結界が壊され、二人は即座に身構える。玉藻も何時の間にか呪術師を思わせる服装に早着替えしていた。そして侵入者の気配が徐々に近づき、その姿を現す。

 

 

「やぁ、一誠君。久しぶりだね」

 

「あ、八重垣さん。体を持ってるって事はセフィロトに協力してるの?」

 

現れたのは先日話題に上がった悪魔と恋に落ちて殺されたエクソシストの八重垣だ。あまりの怨念に当時の一誠では滅ぼすか無理やり従える事しかできず、話し合いの末に滅ぼしたはずだった。なのにこうして現れるという事は聖杯の力だろう。どうやら正解のようで八重垣は微かに笑みを浮かべている。

 

「いやいや、話が早くて良いね。最近教会関係者が次々と殺されてるのは知ってるかい? あれは僕の仕業なんだ」

 

「あ~、爺さんが言ってたような。で、動機は復讐?」

 

「ああ、そうだよ。そして君にも協力して欲しい。死人に優しい君なら協力してくれると思って頼みに来たんだ。それに、同じように異種族相手に恋に落ちた仲だろう?」

 

「そうだね。あなたの無念は散々感じたし、協力してあげたいとは思うよ。……だが、断る!」

 

「なっ!? どうしてだい?」

 

まさか断られるとは思ってなかったのか、八重垣は動揺して詰め寄って来る。だが、足元に霊力を撃ち込まれた事で、その歩みは止まった。そして八重垣が一誠を見ると不愉快そうに睨んでいる。

 

「……そうだね。第一に俺は既に冥府に所属してるからテロリストの仲間にはなれない。第二に……結界を張っていた俺の手下を滅ぼしたね? 俺は俺の部下に手を出す奴を許さない。そして、これが最も重要な理由。……お前らの中途半端な絆と俺と玉藻の絆を一緒にするな」

 

「……中途半端だと? 僕と彼女の絆を侮辱する気か!」

 

八重垣は怒り狂い一誠に飛びかかるが、一誠は軽々と躱し、八重垣の足を掛けて転ばせる。そしてそのまま彼の背中を踏みつけた。

 

 

「中途半端なんだよ、君達の絆は。絶対に許されないのは分かっていたんだから、君が信仰を捨てるか、二人で手を取り合って逃げれば良かったんだ。なのに君達は貴族のままであろうと、エクソシストのままであろうとしていた。結局、今までの人生や地位を棄ててでも、と思えない程度の絆だったんだ。もう一度言うよ。君と彼女の絆は中途半端だ!」




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九十一話

これで通算百話 あ、地蔵菩薩newさんとのコラボが決定しました。今の所アチラ様が書いてくださる予定です。私は私でエクストラ編をしようかと マユリの発明の効果で分身を異世界に送り、ありす(同じく送られた霊感の)をマスターにイレギュラークラスで召喚された一誠を書こうかと。ラスボスは勿論……ふふふふふ


雪が深々と降る田舎の温泉宿に一台の送迎バスが到着した。バスの塗装は既に禿げており、宿周辺にはろくに店が無いが、ノンビリと過ごしたい人達には丁度良いだろう。そしてバスの扉が開くと一人の少女が中から飛び出した。

 

「雪だぁ! 雪よ、わたし(アリス)! 三人とも早く早くぅ!」

 

「ほらほら、転ぶわよあたし(ありす)。オジさんとオバさん達も早く行きましょ」

 

ありすとアリスは目的の宿目掛けて走って行き、一誠の父母は荷物片手に二人の後を追っていった。

 

「なんだか一足早く孫が出来たみたいだね、母さん」

 

「そうねぇ。ところであの子達だけ残して来たけど、本当の孫の顔は何時見れるのかしら?」

 

四人がたどり着いたのは老舗の温泉宿。江戸時代から細々と営業している温泉宿で、外観もかなり古めかしい。扉を開けて中に入ると女将らしき女性が頭を下げてきた。

 

「いらっしゃいませ、ご予約の兵藤様ですね? 当旅館の女将で御座います」

 

「ええ、そうです」

 

「それでは離れにご案内いたします」

 

一誠が用意したのは離れの一室。景色も最高で露天風呂にも近い部屋だが、誰も借りたがらない理由があった。ここ数年、離れに泊まった客は心霊現象を体験していた。旅館もお祓いを頼んだりするものの効果はなく、封鎖しようとすると本館まで影響が出るので、仕方なく格安で貸し出しているのだ。

 

 

 

「……見た? 今回のお客さん、子供連れよ」

 

「あ~あ、可哀想に。噂を知らないのね」

 

「女将さんも泊まるお客を選べば良いのに。……まぁ、一定周期でお客を泊まらせないと此方まで影響が出るから仕方ないけど」

 

従業員達は四人に同情するような視線を送りつつも、自分の身に災いが降りかからないように何も言わず仕事に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

「あ~! こんな所に御札が貼ってある~!」

 

女将が逃げるように去るなり、ありすは持ち前の好奇心を発揮させて離れに飾ってあった掛け軸の後ろの御札を発見し、ベタベタ触りだす。すると一誠の母がありすの体を抱き抱えた。

 

「ほらほら、駄目よ。ありすちゃん達も幽霊なんでしょ?」

 

「は~い! でも、この御札効かないよ? 何の力も篭ってないもん」

 

一誠の母に抱えられたありすは足をバタバタさせながら御札を指さす。そもそも何故この二人が両親と一緒に居るのか、それは数日前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、護衛はどんな奴が良い?」

 

「そうねぇ。あまり見た目が怖いのは嫌だわ。怖くて落ち着かないもの」

 

一誠が母と旅行の打ち合わせをしていた時の事、突如ドタバタと足音を立てながらありす達が部屋に入って来た。

 

「お兄ちゃ~ん! クレヨンが無くなったから、新しいの買って~」

 

「お絵描きしてたら全部使っちゃったわ。新しいの買ってくれる?」

 

ありすは元気一杯に飛び付き、アリスは落ち着いた様子で一誠の袖を引っ張る。そして二人を見る母の目は輝いていた。

 

「あらあら、可愛い子達ね。この子達に護衛としての力があれば頼みたいくらいだわ」

 

「あるよ? 殴り合いとかは出来ないけど魔法は強いし、怪物とか創り出せるし護衛としての能力はあるよ。あ~、でもノンビリしたいなら子供の世話は出来ないよね?」

 

「ねぇ、二人共。温泉旅行に行きたくない?」

 

「行きたい!」

 

あたし(ありす)が行くならあたしも行くわ」

 

「……あの~、母さん?」

 

母は息子(一誠)との話より可愛い女の子(ありす達)に夢中になり、そのまま二人が護衛を引き受ける事なった。なお、父は事後承諾で聞かされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こういう御札は霊力のある人が書かないといけないって玉藻(オバ様)が言ってたわ。だから今まで悪霊が好き放題してたのよ」

 

「わたしも聞いたよ! 此処に住んでた質の悪いのは、人にチョッカイ出すのが好きだけど、長い間此処から離れられないから本館にはあまり行かなかったんだって。お兄ちゃんは地震か何かで霊道に穴が空いたから出て来たって言ってたよ!」

 

アリスは淡々と述べ、ありすは自分の事のように胸を張り自慢げに話す。その可愛らしい姿に二人に顔には笑顔が浮かぶ。一誠は幼い頃は落ち着いた子だったので、元気いっぱいな孫が出来たらこの様な感じなのだろうか、と二人は思っていた。

 

「霊道って霊の通る道だろう? 穴が空いてるって危なくないのかい?」

 

「危ないよ? でも、お兄ちゃんが塞いだわ。質の悪いのも退治したし。後は無害な霊だけよ。ほら、あの桜の下に女の人が居るでしょ? お気に入りの桜の下にいる時に殺された人らしいわ」

 

「……え?」

 

アリスが指さした中庭の桜の木の下には着物を着た女性が立っており、ジッとあらぬ方向を見ている。そしてその体は浮いていた。

 

「何でも江戸時代に神器が発動して、化物扱いされた末に殺されちゃったんですって。無害だし、もうすぐ寿命が尽きる桜と一緒に居たいって言ったからお兄ちゃんは放っておいたらしいわ。全く、お兄ちゃんの部下にも『神器被害者の会』を結成しているのがいるし、天界って本当に迷惑ね」

 

「ま、まぁ、あの子が無害だと判断したなら大丈夫だろう。……それに美人だし目の保養にも」

 

「……アナタ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……違う! 違う違う違う違うチガウチガウチガウチガウチガウチガウ!」

 

「わ~お。図星刺されて錯乱してるよ」

 

一誠に自分の恋を中途半端だと指摘された八重垣は狂ったように叫びだす。駄々っ子のようにその場で足を踏み鳴らし地面を蹴り続けるその姿からは正気が感じられず、その手には何時の間にか禍々しいオーラを放つ剣が握られていた。

 

「あっ! あの剣はっ!」

 

「何っ!? 知っているのか雷で……やめとこう。あの腐れ天照の部下の雷神の名前だ」

 

「しかも、あの剣は腐れ天照の所の天叢雲の剣ですよ。けっ! とことん迷惑かけてくれやがりますねぇ」

 

二人は同時にその場から跳ぶ。次の瞬間には剣から伸びた八匹の蛇が地中から飛び出していた。その蛇からは呪詛が流れ出している。それを見た玉藻の顔が引きつる。

 

「げげっ! 八岐大蛇ぃ!? 気を付けて下さい、ご主人様! アレに触れたら呪われますよ!」

 

「……うわ~。あれで復讐してるんでしょ? 恋人の為に信仰は捨てれないのに、自分の為にする復讐にの為には信仰に反する魔剣や邪龍の力を使えるんだ。やっぱり君の想いはその程度だったんだね。断言しよう。君はクレーリア・ベリアルに恋したんじゃない。初心な聖職者が恋に恋していただけ。その対象がたまたま悪魔だったんだから同情に値するよ」

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇっ!!」

 

一誠は馬鹿にしたような笑みを浮かべながら八重垣を指さし、八重垣は激しく怒り狂う。その怒りに反応するように八岐大蛇は激しく動き一誠に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

「うん。やっぱりこの手は有効だね♪」

 

そして、一誠に牙が迫ったその瞬間、八重垣は八岐大蛇を剣に戻す。一誠の前には一人の女性悪魔が立っていた。

 

「ク、クレーリア!?」

 

「そう。彼女こそ君が恋していたと思っていた相手であるクレーリアさん。まぁ、魂すらボロボロだったのを何とか今の状態にまで戻したんだ。今は意識は朧気だけど……俺なら簡単に戻せるよ」

 

「……条件はなんだい?」

 

八重垣は天叢雲のオーラを鎮め、警戒した目で一誠を見ている。それに対し一誠は笑顔で右手を前に差し出した。

 

天叢雲(それ)、頂戴♪」

 

「……分かった。だが、絶対に約束してくれ。彼女の精神を元に戻した上で彼女を俺に渡してくれると」

 

「随分警戒してるんだね。俺がそんなに信用できない?」

 

一誠は心外とでも言いたそうな顔をしているが、八重垣はフンッと鼻を鳴らす。

 

「今までの君の行動を振り返ってみろ」

 

一誠は腕を組み、首を傾げて自分の行いを思い出す。

 

「……あれ? 信用されない要素が何処にもないぞ? ねぇ、玉藻。俺って清廉潔白だよね?」

 

「いや、それは無理がありますよ、ご主人様」

 

「だよね~♪」

 

呆れ顔の玉藻に巫山戯た態度の一誠。そのやり取りを八重垣はジッと見ていた。

 

「早くしてくれないかい?」

 

「あ~、めんごめんご。ほら、復✩活!」

 

「正…臣……?」

 

「クレーリアァァァァ!」

 

一誠が手を振るとクレーリアの瞳に理性が宿り八重垣の名を呼ぶ。八重垣は思わず駆け出そうとするが、一誠が手を突き出してその動きを止めた。

 

「じゃあ、さっさと頂戴。あ、安心して? 渡した後で俺や玉藻が君を攻撃したりしないから」

 

「……そうだな。ほらっ!」

 

八重垣は天叢雲を一誠に手渡し、クレーリアを抱きしめる。その時、八重垣の口角が僅かに吊り上げったのを玉藻は見逃さなかった。

 

「ご主人様っ!」

 

玉藻は咄嗟に叫ぶも時すでに遅し。刀身から現れた八岐大蛇の首が一誠に襲い掛かる。それを見た八重垣の高笑いが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「あ~っはっはっはっはっはっ! 僕とクレーリアの愛を侮辱するからだ! ごふっ!? クレー…リア…?」

 

そしてクレーリアの手刀が八重垣の腹を貫く。八重垣は困惑しながらクレーリアの姿を見て固まる。そこにいたのはクレーリアではなく一誠だった。

 

「や~っぱり罠だったか。てか、気付かないとでも思ったの? あ、ご苦労様、バイパー」

 

「まぁ、報酬を貰うからには仕事はこなすよ、ボス」

 

何時の間にか一誠の背後には幻術士であるバイパーが立っており、八岐大蛇はクレーリアに襲いかかっていた。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 痛い痛い痛いぃぃぃぃぃっ!!」

 

「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「さて、愛する恋人の魂を邪龍の呪いで穢した気分はどう? ねぇねぇ、今どんな気持ち?」

 

「流石ご主人様。まじブレねぇ……でも、そんな貴方が大好きです♥」

 

「俺も君が大好きだよ。さて、彼を殺して……あ、既に死んでるか。じゃあ、魂を消滅させて……ッ!」

 

一誠は咄嗟に玉藻を抱えてその場から飛び去る。次の瞬間には小さな影が高速で動き、天叢雲と八重垣を抱えていた。

 

「リゼヴィムの頼み。邪魔するなら殺す」

 

「あ~、はいはい、この公園はお気に入りだから壊したくないし、今は戦わないよ。でも、次は相手してあげるね♪」

 

其処に居たのはオーフィスの蛇から作り出されたもう一体にウロボロス、リリスだ。流石に今彼女と戦う気はないのか一誠は肩を竦めて不戦の意思を示し、リリスはそのまま消えていった。

 

「……帰ろっか。折角のデートが散々になったね」

 

「いえいえ、中々楽しかったですよ? 私はどの様な場所で、どの様な状況でも、ご主人様と一緒なら幸せですから♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……僕が傍に居るのにイチャつかないでよ、ボス」




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九十二話

百話突破記念はこの巻が終わったら書きます 今回は話が進まず、影が薄すぎた二人が出てくる色気回です

最新刊で疑問が イリナの一枚だけの挿絵で、前の文に髪を下ろしたってあるのに結わえたままだった そういえば彼女って挿絵に登場するの初めてじゃない?


八重垣の襲撃からの帰宅地中、一誠と玉藻はオデンの屋台に立ち寄っていた。寒い夜空の下で食べるオデンの味は格別で、具の中まで絶品の出汁が染み込んでいる。そのおでんの美味しさからすれば、店主の顔に目玉を模した文様のようなものが書かれた紙が貼り付けられている事など、一誠は気にしなかった。

 

「あ、次はタコとガンモを三個ずつね」

 

「私は厚揚げと巾着を二個ずつお願いします。あと、芋焼酎を湯割りで♪」

 

「……あいよ」

 

店主は手馴れた手つきでオデンを皿に盛り付けていく。二人は絶品のオデンに舌鼓を打ちつつ、先程の事を話し始める。店主は八岐大蛇や幽霊などが平然と話に出てくるにも関わらず、少しも変わった様子を見せないで、ただ黙々と作業を続けていた。

 

 

「でさ、今度会った時に揺さぶりに使えるように恨み事でも言わせない? 貴方なんかもう嫌いよ! とかも面白いかも」

 

「……うわ~、ゲスですねぇ。ま、私は賛成ですけど♪ 使えるものは使わねば、ですね」

 

「はっ! 俺の部下を消滅させたんだから、其のくらいはしないとね。……それに、恋人とその見た目を上辺だけ真似した無能姫との見分けが付かないなんてさ」

 

「あら、坊や達じゃない。貴方達もこの屋台を知ってたの?」

 

「あ、メディアさん」

 

メディアは他の店で飲んできたのか少々酒臭く、ほろ酔い加減で暖簾をくぐる。そのままメディアは二人の隣に座った。

 

「何時もの」

 

「……あいよ」

 

彼女は此処の常連らしく、店主は注文を受けてすぐにおでんの盛り合わせカラシ多めと熱燗を出す。メディアはお猪口に酒を注ぐと一気に飲み干した。

 

「くぅ~! この一杯の為に生きてるぅ!」

 

「いや、メディアさんって幽霊じゃ……。俺は偶々見付けたんだけど、メディアさんはよく来るの?」

 

「……うっさいわね。この店は奇数の日に決まったルートを通る事で行けるのよ。私も原稿が終わったら何時も来てるわ。此処のガンモは最高なのよ~♪ ……ところで埃まみれだけど喧嘩でもした?」

 

メディアは熱々のガンモドキを息で冷ましながら口にする。一誠達も注文を続けながら先程あった事を話す。するとメデイアは呆れたように溜息を吐くと一誠の両頬を引っ張った。

 

「こらっ。恋心を利用するのは駄目でしょ、坊や。貴方が同じ事されたらどう思う?」

 

「絶対にぶっ殺してやる、と思うかな?」

 

「そう。恋心を利用する奴は万死に値するのよ。だから、坊やも同じ事しちゃ駄目よ?」

 

「……は~い」

 

メディアは嗜めるように一誠の頭を軽く小突き、一誠は軽く頷いた。

 

「……所でメディアさんは俺が本格的に冥府に所属したのに、今まで通りに接してくれるんだね。ギリシア神話勢は嫌いじゃなかったの?」

 

「あら、嫌いに決まってるじゃない。今の幸せのために復讐はしないけど、恨みは永遠に消えないわ。それと、貴方が何になろうと貴方には変わりないでしょ? その程度で態度は変えないわ」

 

少々不安そうな一誠に対し、メディアは平然と言い切る。酒のせいか寒さのせいか、彼女の頬には微かに赤みが差していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、うん。その部屋から見える池はもうすぐ赤く染まるけど、害はないから。むしろ珍しいもの見れてラッキーだと思うよ? 二人は大人しくしてる? へぇ~、あの二人がもう懐いたんだ。え? 早く孫の顔見せろって? はいはい、こればかりは授かり物だからね」

 

屋台を後にした一誠は自宅から両親に電話をかける。あまり他人に懐かないありすとアリスはもう二人に懐き、今は父親にえ絵本を読んでもらっているらしい。八重垣の事はD×Dのリーダーであるデュリオに連絡を入れており、明日詳しく話す事になった。その間に玉藻は体に付いたホコリを落とす為にお風呂を沸かしている。

 

「ご主人様ぁ~! 先に入っていて下さいませ。私は後から参りますので」

 

「え~! 恥ずかしがってる時の可愛い玉藻の服を脱がすのが楽しいのに~」

 

「……むぅ。そう言われると心が揺れましねぇ。しかしっ! 今日の為に趣向を凝らしておりますので、小しぃお待ちを!」

 

玉藻は少々迷いながらも自室に行き、一誠は言われるがまま一人でお風呂に入りに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

自室に戻った玉藻はタンスの奥に隠しておいた水着を取り出す。ほとんど隠すところがないほど露出が高いその水着は……水に触れると溶ける仕組みになっている。アダルトグッズの店で買い求めたそれを着ようとしたその時、横合いから伸びてきた手が掠め取った。

 

「ふ~ん。今夜はこれを着てイッセーを誘惑しようって魂胆なのね」

 

《……うひゃぁ~、スゲエでやんすね。流石にあっしには着る勇気がありやせん》

 

風邪をひいた小猫の看病で暫く顔を見せに来なかった黒歌と、冥府に帰省中にゴタゴタがあって帰れなくなったベンニーアは荷物を床に置くと水着をしげしげと眺めている。

 

「……ちっ、帰ってきましたか、黒歌、ベンニーアさん。妹さんの風邪と冥府でのゴタゴタはもう良いんですか?」

 

「白音ならもう治ったわ。その節は薬を調合してくれて感謝するにゃ」

 

《ゴタゴタはまだ解決してないでやんすが、ハーデス様が手を回して下さってあっしは冥府の外に出ることができやした。なんでも最上級死神が一人とその配下が何者かに攫われたらしんでやんすよ》

 

「……なる程。ところで二人はなんで私を縛っているんでしょうか?」

 

「なんでって、ロープで亀甲縛り」

 

《……いや、質問の意図が違うでやんしょう。玉藻様はあっしらが留守の間に散々可愛がってもらってんでやんしょ? ……今夜は譲るから、風呂くらいは譲って欲しいでやんす》

 

ベンニーアは顔を赤らめ、モジモジしており、黒歌も何処かソワソワしている。それを見た玉藻はピンと来た。

 

「あ、だいぶ溜まってるんですね? ……仕方ねぇ、風呂は譲ってやりますよ。でも、水着は置いて行って下さい」

 

「……ちっ」

 

水着を持っていこうとした黒歌は不承不承といった態度で水着を玉藻の傍に置く。そのまま全裸で縛られた玉藻を放置して足音を忍ばせながら風呂場へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……遅いなぁ」

 

玉藻を待っていた一誠は中々やって来ない事に退屈し、湯船に浸かって天井を見上げながら呟く。するとドアがノックされ、一誠は湯船から出るも入ってこず、不審に思ってドアに近づいた時、背中に柔らかく小振りな物が押し当てられ、細い足が体に絡みつく。

 

「あ、帰ったんだ、ベンニーアちゃん」

 

《……あまり驚かないんでやんすね……んっ》

 

天井に魔法陣を繋げ、一誠の背中に抱きついたベンニーアは彼に裸体を密着させると、振り向いた一誠の唇を奪う。暫くの間、二人は互いの唇を求め合っていた。

 

「キス、上手になったね」

 

《一誠様に喜んで貰う為に勉強したんでやんす》

 

ベンニーアは顔を真っ赤にしながら再びキスを強請るように唇を突き出す。しかし、前方から伸びてきた手に一誠の顔を掴まれて阻害された。

 

「……私の事も忘れないで欲しいにゃ、んっ」

 

一誠の顔を掴んだ黒歌はまるで匂いを擦りつけるかのように豊満な体を押し付け、一誠の口に舌を捩じ込む。一誠も負けじと舌を捩じ込み返した。

 

「二人共、おかえり。玉藻は? ……って失礼だったね」

 

「へぇ、少しは女心が分かって来た? 今から抱く相手に他の女の話題を出すのはマナー違反って分かるなんて」

 

《……今回は譲って貰ったでやんす。……あの、久々なんで沢山可愛がって……》

 

ベンニーアが言い終わる前に彼女を背中から下ろした一誠は黒歌ごと抱きしめる。きつく抱き締められた事によって三人の体は密着し、互いの息使いや鼓動が聞こえるまでになった。

 

 

 

 

 

 

 

「……いただきます」

 

そのまま一誠は二人を押し倒し、存分にその体を満喫した……。

 




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九十三話

俺屍が面白い 続編前に裏ボス倒したいと思ったが間に合いそうにないけど


あと敦賀の真名姫が真名姫二連してきた時には死んだ(笑) あのゲームって最後に行動したボスが次のターンではこちらの行動前に行動する事あるからキツイ。ま、探索用と能力強化術は野分と大照天以外は手に入ったし……早鳥がキツかった 早瀬も 残りは楽だった


「……どうしたんっすか? えらく疲れてるけど」

 

八重垣の事を報告する為にデュリオの下を訪ねた一誠に対し、彼は出会い頭にそう言ってきた。一誠の後ろに控える玉藻は肌が艶々しており元気そうだが、反対に一誠は眠そうにしており、何処かカサカサしている。

 

「うん。昨日は一晩中相手をさせられてさ。さ、本題に入ろうよ」

 

一誠はアクビを噛み殺しつつ昨日あった事をデュリオに話し始めた。

 

 

 

「……あ~、逃げられたんっすか。でも、今の君ならオーフィスの分身も倒せたんじゃないっすか?」

 

「まぁ、切り札使えば倒せる……かな? でも、リスクは大きいし、街が近かったから仕方ないよね? まさか、街の人を犠牲にしてまで其方の尻拭いをしろとか言う訳無いし。ってか、八重垣以外にも天界に不満を持つエクソシストは沢山居るよね? だって、神が居ないのに、神の名の下に悪しき敵を倒せっ! って幼い頃から教育し、それ以外の生き方なんて知らないのに、急に仲良くやれ、だもんね~」

 

「……いや、それ以上は勘弁して欲しいっすよ。ミカエル様もそれが悩みなんっすから」 

 

「ふ~ん。で、アフターケアとかちゃんとしてるの? 俺の知ってる奴には経費使い込みの穴埋めに強盗をしても、異教徒相手なら神も許すっとか言う程の奴も居るけど、再教育とかは? ……騒がしいな」  

 

一誠が訝しげに扉に視線を向けるとイリナが飛び込んできた。今日は父親やソーナ達とプレゼントの下見に行ったはずなのだが、何やら慌ただしい様子だ。

 

「一誠君、お願い、パパを助けてっ!」                                                  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん、峠は越せましたねぇ。ま、スサノオ()に敗れたような相手の呪いを、天照()の分身を取り込んだ私に解除できない筈がありませんよ」

 

玉藻は天界の病室に寝かされたトウジの体に溜まった毒の呪いを解除すると得意そうに胸を張る。彼の顔色は先程までより少し良くなったように見え、イリナはホッと胸を撫で下ろす。

 

「イリナちゃん、それで何があったの?」

 

「……実は」

 

イリナは落ち込んだ様子で何があったかを話し始める。下見の帰りに八重垣に襲われ、イリナも立ち向かったが、返り討ちにあい、最終的にイリナを庇った事でトウジがヤマタノオロチの毒を受けてしまったのだ。

 

「……私のせいだ。私が弱いからパパが死にかけたんだ」

 

「……で、君はこのまま落ち込んだままなの?」

 

椅子に座り落ち込んだ様子で項垂れているイリナの横に座った一誠は彼女の顔を見ずに行った。

 

「後悔とか無力感とかってさ、前に進めないって気持ちになるんだよね。俺も今の力を手に入れるまで、結構そんな事あったよ。俺の力が足りなくって部下が消されたりさ。……重要なのはどういう失敗をしたかじゃなくって、次に同じ状況になった時にどうするか、なんだよね」

 

「……イッセー君、慰めてくれてるの?」

 

「まぁ、君は一応幼馴染だし? 女の子としては一ミクロンも好きじゃないけど、友達としては好きな方だよ?」

 

「……え? イッセー君って私の事が女として好きなんじゃなかったの?」

 

「……うわ~。妄想ひどすぎるね。そんなんだから残念天使とか自称天使とか言われるんだよ? いくら命がけの戦いをしてるのに給料が学生のアルバイト料程度だとしても、一応天使なんだから、しっかりしないと。……ちなみに俺の所は結構貰えるんだ♪」 

 

何時の間にかイリナの顔には笑顔が戻っており、一誠と談笑をしている。その様子をトウジはジッと見ていた。                                                                                                                                                                                                                                                   

 

 

 

 

 

 

「……一誠君、少し良いかな? 話したい事があるんだ」  

 

そして帰り際、トウジは一誠を引き止めた。

 

 

 

 

「え? 嫌だけど?」

 

「私達今からデートなんです。ささ、行きましょうご主人様♪」

 

そして一誠はその頼みを却下して病室から出ていく。その後トウジは毒は抜けたものの、ダメージは回復しきっていないので天界で養生を続ける事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、せっかく天界に来たんだから、買い物でも楽しもうか?」  

 

「滅多に来れませんもんねぇ。あ、私は服と化粧品が見たいです」  

 

仲良く手を繋ぎながら歩く二人の頭上には天使の輪っかの様な物が浮いている。これは神の残したシステム に悪影響を及ぼす存在でも、システムに影響を与えないようにする道具だ。二人が居住区にある商店街に入ると天使達の視線が二人に注がれた。

 

「目立ってるね、この服装のせいかな?」

 

「まぁ、私の服装もあるでしょうね。天使ってのは清楚が一番って考えですから」

 

二人が天界に赴くにあたり、ハーデスは一誠に死神としての衣装を与えていた。衣装は瘴気を放つ黒いローブで、その背中にはマユリが改造を加えた特性の鎌が背負われている。鎌には龍の頭蓋骨のような装飾と、赤い龍の尻尾のような鞘が付けられていた。

 

そして玉藻は太陽をイメージした金色の装飾のされた服を着ており、下乳が露わになっている。下着を着けていないのか歩くと揺れている。横を通り過ぎていった男性天使の何人かは翼が黒く点滅し出していた。

 

「ありゃりゃ、純情ですねぇ、ご主人様。ま、性教育もロクに受けてない童○共じゃ仕方ないですけど。……どうしました?」

 

「……今直ぐ服を買って着替えよう」

 

一誠は不機嫌そうな顔で玉藻の手を取ると早足で歩き出す。

 

「あ、あれ? ……もしかして似合ってません?」

 

「……似合ってるよ。君を着替えさせたいのは俺の我が儘。俺以外の男が玉藻の体を見て興奮するのが嫌なだけなんだ」 

 

「……あ~ん♥ ご主人様の狐殺しぃ♪ ささ、今すぐホテルにでも行きましょう。へっへっへっ、今日も寝かせねぇぜっ! ……あり?」

 

その瞬間ブザーが鳴り響く。邪な感情に弱い天界では邪な感情を発すると警報が鳴るようになっているのだ。

 

「あの~、そこの人~。街中でエッチなこと考えたら駄目ですよ? キャッ!?」

 

そのブザーを聞きつけたのか天界一の美女と呼ばれているガブリエルが二人に近付いてくる。そしてそのまま段差に躓き 一誠にダイブした。ガブリエルが丁度一誠を押し倒す形になっており、浴場を共にした女性天使から至高と呼ばれた胸は完全に一誠の顔を挟み込んでいた。

 

「あらあら、申し訳ございません」

 

「謝る前に早くご主人様の上から退きやがれ、この無駄乳がぁ~! 触られる予定もないくせに私より大きくなりやがって! ご主人様に乗って良いのは私と残りのオマケ二人だけだぁ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの店が人気のケーキ屋よ。あ、そこの本屋なら絵本が揃っていますわ」

 

「……どうしてこうなった」

 

数分後、ガブリエルの案内で買い物を続ける一誠と玉藻の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……確か此処辺りに隠したのじゃが」

 

そしてハンコック……いや、リリスは冥府と天界を繋ぐ道で探し物をしていた。小一時間程歩き回り、目的の物を見つけた時、彼女の背後に一人の男性が立っていた。

 

「ママン……?」

        




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皆さんお中で原作は好きだけど、原作の主人公とメインヒロインが嫌いな人ってどのくらいいるんでしょうかね?


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九十四話

ガブリエルが一誠の上にダイブし、玉藻が嫉妬心を燃え上がらせた時、一誠の携帯にメールが入った。

 

「……あちゃ~。急いで天界に来たのに、もう知られてるよ」

 

「どうしましたか?」

 

一誠は直様メールを見せる。其処には冥府で待機している部下や、旅行中のありす達からのお土産のリクエストだった。

 

「……絵本(ありす達)に料理の本(グレンデル)、あとはアクセサリーや菓子や何やらか……」

 

一誠は辟易とした表情でメールの文面を見る。天界の店に詳しくない二人では滞在を許された時間を全て使ってしまいそうな量だ。

 

「……困ったな。何処に良い店があるかも分からないや」

 

「……今日のデートは中止ですかねぇ」

 

此処で、断る、という選択肢が出ない程度には玉藻も彼らの事を思っているのだろう。一誠とのデートは仲間への土産探しで潰れどうだと悟った彼女の耳と尻尾はは垂れ下がっている。

 

 

 

 

 

「あら~、でしたら私が良い店を教えますわ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この本屋は絵本と料理の本が揃っていますわ」

 

「アクセサリーですか? 申し訳ありませんが天界には装飾品は売っていませんの」

 

二人の案内を受けおったガブリエルは次々とオススメの店を紹介していく。あっという間にお土産リストのほぼ全てを買い終わり、まだデートをする時間も余っていた。

 

 

 

 

「今日はお世話になったよ、有難う」

 

「もう御主人様を押し倒した事は忘れて差し上げますね。さ、此処が一番の人気店ですよ~」

 

「いえいえ、冥府には散々ご迷惑をおかけしていますから~」

 

ガブリエルがお土産リストの最後の一つを売っているとして連れてきたのは次の界に続く門の近くのお菓子屋。一誠はお菓子を買った後その門を見上げていた。

 

「七階層からなる天界の頂上が神が住んでいた場所。神器システム……諸悪の根源が其処にあるのか」

 

「……諸悪ですか。……まぁ、貴方からすればそうなのかもしれませんね」

 

ガブリエルは沈痛な面持ちで一誠の方を見る。上を見上げる一誠の瞳に宿るのは憎悪だ。彼が神器の被害者の霊を幼い頃から見ていると聞いていたガブリエルは彼の言葉を否定できずにいた。

霊を幼い頃から見ていると聞いていたガブリエルは彼の言葉を否定できずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、リゼヴィムはとある目的の為に煉獄を訪れ、母であるリリスと再会していた。

 

「丁度良かった、貴様に言いたい事があったのじゃ、リゼヴィム」

 

「なんだよ、ママン?」

 

リゼヴィムは何時もの様ににヘラヘラしているが、何処かソワソワしていて、出雲より機嫌が良さそうだ。やはり母親であるハンコック(リリス)と再会できたのが嬉しいのだろう。

 

「とりあえず正座せぬか、バカ息子」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、一時間後。

 

「大体貴様はルシファーの血筋という自覚が足りん! 次世代の者を教育するのが年長者の務めであるにも関わらず、馬鹿孫に曾孫虐待させ、挙句の果てに堕天使の所に行かれたじゃと? その結果が変態化ではないか!」

 

「……いや、ママン。俺は怖いなら苛めれば? って言っただけで、あとはアイツが勝手に……」

 

「口答えするでないっ!!」

 

ハンコックの怒声にリゼヴィムは思わず身を竦ませる。その姿はテロ集団のボスというよりは、母親に叱られる悪ガキの様だった。

 

「我が子に恐れを抱くような屑はルシファーの血統に相応しくないから殺すのは良いとして、貴様が最後の一人となった訳じゃが、血筋を残す算段は付いておろうな?」

 

「……テへ✩ 考えてないや」

 

「こんっの、大馬鹿者がぁぁぁ!!」

 

ハンコックの怒鳴り声と拳骨の音が辺りに鳴り響き、煉獄を揺らす。リゼヴィムの頭には大きなコブが出来た……。

 

 

 

 

 

 

 

「お~、痛て。ママン、容赦無さすぎだぜ~。俺って今やテロリストの親玉だぜ? 頭にコブを作るのは勘弁してくれよ~」

 

「うむ。そうであったな。その事に付いて言うのを忘れておった。大体機様のやり方には美学が足りぬわ。妾は”悪であれ”と教えたが、常に優雅であれ、とも教えたはずじゃ。貴様のやり方は悪意を振りまくだけで美しさが足らんっ! ……さて、妾はエステの時間がそろそろなので帰らせて貰おう」

 

ハンコックは言いたいことを言ってスッキリしたのか、晴れ晴れとした態度で踵を返す。その手には朽ち果てた木の実が二つ握られていた。

 

「……なぁ、ママン。その実を俺に頂戴♪」

 

「……嫌だと言ったら?」

 

「力尽くで奪うだけだぜ、クソババァ! 親殺しってのも悪魔らしくって良いだろう? 美しさなんか要らねぇ。悪魔は悪でさえあれば良いんだよ!」

 

「良いじゃろう! 死なぬ程度に殺してくれる! 母の偉大さを思い知るが良いっ!」

 

リゼヴィムの拳とハンコックの蹴りが衝突し衝撃が周囲に広がる。辺り一帯の岩が崩れ去り、二人を中心に地面が陥没した。

 

 

「ははははは! 腕を上げたなバカ息子! じゃが、妾が変わったのは姿だけじゃと思ったかっ!」

 

ハンコックは後ろに飛びリゼヴィムに投げキッスを放つ。その瞬間、彼の肩を何かが高速で撃ち抜いた。

 

「ぐっ! 何だよその力はっ!?」

 

「コレが死従七士が一角、『色欲』の将たる妾の力じゃ!」

 

ハンコックは更に巨大なハートを作り出して引き絞る。ハートは無数の矢と化し、リゼヴィム目掛けて降り注いだ。

 

 

 

 

「ちっ! 部下を盾にするとは」

 

「アンタこそ息子に何使ってるんだよっ!」

 

リゼヴィムの周囲には矢を受けて石に変わった邪龍が転がっており、その目は何故かハートだ。何時の間にかハンコックの周囲を無数の邪龍が囲っていた。

 

「でひゃひゃひゃひゃ! いくらママンでも、この数の邪龍は……」

 

「……こんな数の龍に囲まれるなんて……妾、怖い」

 

ハンコックはモジモジしながら瞳を潤ませる。その姿に実の息子であるリゼヴィムは辟易とし、邪龍達は魅了される。そして、ハンコックはニヤリと笑うと手でハートを作った。

 

「妾に見蕩れる邪な心が其方らの体を固くする。メロメロ・メロウ」

 

ハンコックの手からハート型のビームが放たれ、それに触れた邪龍達はまとめて停止になり、地面に落ちて砕け散った。それを見たリゼヴィムは冷や汗を流し、その表情からは少々余裕が消え始めている。

 

「……おいおい、生前はそんな力は無かっただろう」

 

「この力か? 言ったであろう? 色欲の将の力じゃと。あの小僧に協力すると決めた時、妾に眠る潜在能力を解放して貰った時に目覚めたのじゃ」

 

ハンコックは木の実を弄びながら話す。するとリゼヴィムは彼女の後ろを指さした。

 

「小僧ってのは後ろの奴かよ?」

 

「むっ?」

 

ハンコックは思わず振り向き、その隙を狙って接近したリゼヴィムは木の実に手を伸ばす。直前で気付いたハンコックは木の実を掴むも一部を持って行かれた。

 

「でひゃひゃひゃっ! 馬鹿(ばっか)でぇ、ぐっ!?」

 

高笑いをするリゼヴィムだが、その顔が苦痛に歪む。彼の左手にはハンコックの蹴りが放たれており、当たった瞬間に左手は石になって砕け散っていた。

 

「……誰が馬鹿じゃ、大バカ息子が。……興が覚めた。妾は帰る」




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九十五話

「グハハハハ! こうして兄弟三人揃うのは何時以来だったか?」

 

《……ランスロットの結婚式の時に集まっただろう。ああ、二人揃って悪酔いしてヘラにぶん殴られたから覚えていないのか》

 

「ガハハハハ! そうだったな!」

 

ハーデス、ゼウス、ポセイドンの三兄弟は偶々重なった休みを利用して兄弟だけで酒宴を開いていた。既にゼウスとポセイドンは酔いが回っており、骸骨なのに飲み食いした物が何処かに消えるハーデスはチビチビ飲んでいる為か大して酔っていない。

 

《……そういえば貴様らの所にも来たのだろう、どう対処した?》

 

「頼んでいないエロDVDか?」

 

「見てないエロサイトの請求書か?」

 

《……見合いの申し込みだ》

 

ハーデスは呆れた様子で写真を取り出す。ありす達に落書きされて元々の顔は分からないが、どの写真もお見合いに出されるだけあって美女……だったようだ。鼻毛や髭、額に肉が書かれているなどで台無しだ。

 

「いや、これ可哀想だろ。言ってみれば此奴らは売られたみたいなもんだろうに……」

 

「ちなみに俺は妾増やそうとしてヘラにボコられた」

 

《……愚弟共が。ま、妾と言ってもスパイや身内にして人情に訴えかける作戦なのだろうが……愚か者が。奴にまで送った事で怖い狐の尾を踏んだぞ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ~♪ どうです、似合いますか?」

 

服屋に来た玉藻は天使用の服を着て嬉しそうにクルクル回っている。天使用の服なので露出が少なく、清楚な雰囲気を醸し出している。一応神の分身が混じっているのでそういう服も似合うのだろう。

 

「うん、似合ってるよ。そういう服も可愛いね。……汚し難い存在って感じでさ」

 

「いやん♪ 汚し難い物ほど汚し甲斐があるって事ですね? あぁ~ん、ご主人様のス・ケ・ベ♥」

 

二人を堕天防止用の結界が発動する。今回の訪問で十五回目の発動だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、イリナちゃん」

 

「……随分買ったわね」

 

買い物を済ませて優雅にアフタヌーンティーをしていた二人の前にはイリナがやって来ており、その視線は買い物袋の山に注がれている。その数大凡五十。どうやっても持ち帰れる量ではない。

 

「まぁ、もしもの時は覇龍で持って帰るよ」

 

「絶対に止めて!」

 

「じゃあ、聖ニコラスを襲ってトナカイのソリを強奪? ほら、昔約束したじゃん。聖ニコラスを強襲して全財産を奪い尽くそうってさ」

 

「サンタ捕まえてプレゼントを二人で山分け、だからね!?」

 

「……うわぁ。教徒のクセに子供達の夢を奪おうなんて……引くなぁ」

 

「それに天界でそんな事を大声で言うなんて……ご主人様、あまり近づかない方が良いですよ」

 

「酷っ!?」

 

二人は身を寄せ合ってイリナから離れる。イリナが泣きそうな顔で抗議した時、突然爆発音が鳴り響いた。

 

 

 

 

「あ、もしもしハンコック?」

 

「どんな着信音!?」

 

「爆発音だけど? イリナちゃん、耳鼻科行ったら? あ、うん。ご苦労様。後はヴァレリーちゃんに頼んで復活させて貰って。マユリが種を使って命の樹と知恵の樹を再生してくれるはずだから。……完成した時はパーティだね。……ふ~ん。じゃあ、伝えとくね」

 

「……なんか聞いていはいけない事を聞かされたような」

 

「気のせい気のせい。あ、リゼヴィムが邪龍引き連れて進行して来るってさ」

 

「え、そうなの? ……って、えぇぇぇぇぇっ!?」

 

「五月蝿いですよ、残念天使イリナさん」

 

二人はイリナを放っておいてお茶の代金を払うとその場から歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リゼヴィムがっ!? 直ぐに非戦闘員を避難させなくてはっ! デュリオに連絡を!」

 

一誠がリゼヴィム強襲を知らせると、ミカエル達は慌てて撃退の準備を始める。その様子を二人は退屈そうに見ていた。

 

「ハンコックさんの話では樹の実の欠片を手に入れたんですよねぇ? 新しい実は神が死んでから生っていないらしいし、何しに来たんでしょうか?」

 

「う~ん、ただ暇つぶしに嫌がらせにでも来たんじゃない? ほら、俺の同類らしいし」

 

「あ~、そうですねぇ。ご主人様の同類ですもんねぇ」

 

映し出された映像には天界で暴れる邪龍達の姿が映っており、中にはクロウ・クルワッハやラードゥンの姿もあった。

 

「……さて、俺達も行こうか。攫われた最上級死神(同僚)の居場所を聞き出さないと。ねぇ、ミカエルさん。俺の部下が大暴れしても大丈夫?」

 

「システムに多少の影響が出るでしょうが……お願いします」

 

「うん、上に立つ者はそうでなきゃ」

 

一誠はミカエルの決断が気に入ったらしく機嫌が良さそうだ。一誠と玉藻が部屋から出ていこうとした時、前方からイリナが走ってきた。

 

「大変よ、一誠君! お父さんの所にも敵がっ! あっ……」

 

何故か落ちていたバナナの皮を踏んだイリナは一昔前の漫画のように見事に滑り、そのまま一誠の方に飛んでいく。彼女の顔の高さはちょうど一誠の顔と同じでそのまま二人の唇が重なる……、

 

 

「おっと。危なかったぜ」

 

「ひぎゃんっ!?」

 

所で玉藻が一誠を抱き寄せてそれを回避。イリナは顔から床に激突しそのままスライディングしていく。運の悪い事にミカエルが前に居て、そのまま彼を巻き込んで壁に激突してしまった。

 

「ふ~んだ! ご主人様との強制ラブコメイベントなんか起こさせやしませんよ~だ! 全く、昔も寝込みを襲ってご主人様にキスしようとしやがったし、私が止めなきゃファーストキスを奪われてましたよ」

 

玉藻は見せつけるように一誠の唇を奪うとイリナ目掛けて舌を出す。しかしイリナはミカエルと共に壁に激突した際に気を失って聞いてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~と、八重垣がイリナちゃんの父親の居る第五天に居るんだったっけ?」

 

「ぶっちゃけ、D×Dに所属してるから協力してますけどぉ、復讐を邪魔するのは野暮ってもんですよねぇ」

 

「……いや、そういう事は誰も聞いていない所で言うもんですぜ?」

 

各階層を繋ぐ門も天界に出入りする為の門もアジ・ダハーカの力で封じられている為、一誠達は足を使って進んでいた。デュリオも合流の後同行しており、三人の前には大量の邪龍の死骸があった。天界のジョーカーであるデュリオの実力も中々で、瞬く間に量産型邪龍を倒していく。

 

 

 

 

 

『……貴様が赤龍帝か。グレンデルにはやられたが、貴様には勝たせてもらうぞ』

 

『クロウ・クルワッハ。私にも相手させてください。歴代最強最悪の実力を試してみたいのですよ』

 

そんな中、別格の二体が姿を現した。

 

 

 

「あっ、俺の手下達に負けたばっかりの二匹じゃん。直ぐに出てきて恥ずかしくないの?」

 

『やかましいですよ!』

 

『……まぁ、少しな』

 

『クロウ・クルワッハ!? ……まぁ、良いでしょう。貴方の頼もしい仲間であるグレンデル。それが敵に回る恐怖を味あわせて差し上げます!』

 

突如空中に龍門(ドラゴンゲート)が三つ出現する。その色は深緑。グレンデルを象徴する色だ。

 

『ははははは! どうです? 聖杯の力はグレンデルを量産する程までに……』

 

其処まで言ってラードゥンは言葉を途切れさせる。三体のグレンデルのコピー体は一誠の影から現れたシャドウの巨体に飲まれ身動きができなくなっていた。シャドウはサマエルのオーラを元に作られた悪霊。龍殺しの力はサマエルより数段劣るが、それでも龍殺しへの耐性を付けたコピー体の動きを封じるには十分だった。

 

『グガァァァァァァァァァァッ!』

 

『死ネ』

 

コピー体達は大した自我がないのか、ただ苦しそうに叫ぶだけ。とても料理や裁縫が好きで、格闘技を通信教育で極めているグレンデルのコピーとは思えない。そして、シャドウはコピー達の口から体内に入り内部から龍殺しの毒で侵す。まるで蚊取り線香で蚊を落とすかのようにコピー達は落ちていった。

 

「でっ? 全然大した事ないね。……まぁ、仲間と同じ姿の奴を殺さされて少し不愉快かな? ……玉藻、先に行ってて……九尾でね」

 

「了解致しました、ご主人様」

 

玉藻は先程までの巫山戯た雰囲気から神妙な面持ちになると尻尾を一気に増やす。放たれる力は覇龍時の一誠を超えていた。

 

「……強くなった? これからも尻に敷かれそうだよ」

 

「毎晩行う房中術のおかげです♥ それと、私はあくまで良妻狐。亭主関白バッチ来い! ですよ♪」

 

「……ラブラブっすね。じゃあ、此処は俺と一誠どんで……」

 

「いや、君も先に行って。俺はクロウ・クルワッハと戦うよ」

 

『我、目覚めるは覇の理を求め、死を統べし赤龍帝なり』

 

『無限を望み、夢幻を喰らう』

 

『我、死を喰らいし赤き冥府の龍となりて』

 

『死霊と悪鬼と共に、汝を冥府へと誘わん!』

 

     

 

 

         『魂を喰らいし(ヘル・ジャガーノート・ドライブ)冥覇龍(・ソウルイーター)!!』

 

一誠の変化した姿を見たクロウ・クルワッハは嬉しそうに牙を剥き出しにしている。そしてラードゥンは後ろから放たれた槍に体の一部を持て行かれた。

 

『ぐっ! な、何者です!?』

 

「死従七士が一人、『暴食』の将軍。……名前ハ、アーロニーロ、ダ」

 

「ウフフイ。久々の仕事だネ。死霊四帝の一人、ブイヨセンだヨ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……市」

 

「ヒッヒッヒ、グリンパーチだぜぇ」

 

「うぉれは、うぉれは、クドラクだぁぁぁぁ!!」

 

「拙者は犬飼ポチと申す者。死霊四帝の長なり」

 

『え、いや、ちょっと多すぎやしませんか?』

 

「六対一か。悪くないね」

 

『悪いわっ! この人でなし!』

 

 

 

 

 

 

「うん。俺はもう人じゃないよ? まぁ雑魚とは言え大勢引き連れて来たんだからさ。……殺れ」

 

一誠の合図と共に六体が一斉にラードゥンに飛びかかった……。

 

 

 




最近、psp俺の屍をやり始め、ハイスクールでクロス書きたくなりました、いや、ps版で四回もクリアしたのにまだ飽きないって凄い。主人公はクリアした人なら分かる彼(もしくは彼女)です。生年月日を入力するのにあのような訳があったとは。たまには主人公が何も知らない状態からのスタートかな?

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九十六話

「紫藤局長。僕はずっとこの時を待っていたんだ。僕と彼女を引き裂いた貴方達に復讐するこの時をねッ! 貴方もエデンの園で殉職できるのだから、本望でしょう?」

 

「……八重垣君。私の命なら君にあげよう。だから、この様な事はこれで終わりにしてくれ」

 

トウジの元までやって来た八重垣は八岐大蛇を宿した天叢雲の剣を使い、彼を殺そうとする。トウジもまた、自分の命を犠牲にして彼によるテロ行為を終わらせようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その戦い、ちょっと待ったァァァァァっ!! 悲劇の主人公気取りによるお涙頂戴の茶番劇は今をもって閉幕! 只今より、スーパー美少女狐っ子玉藻ちゃんの大舞台の始まりだァァァっ!!」

 

全く空気を読まずに現れた玉藻に二人だけでなく、辺りを破壊している邪龍達でさえ固まっている。そんな中、その邪龍達に雷が降り注いだ。

 

「あんたスゲェっすねっ!? この状況でそう言う台詞が吐けるって感心するっすよっ!?」

 

「あれま、デュリオさん、随分ボロボロですねぇ」

 

「いや、アンタのせいっすからね!? 急ぐ為に大きい狐の姿になって、”ご主人様以外の男を体に乗せる気は御座いませんが、尻尾の先端になら捕まっても良いですよ”って言ったから捕まったら、彼方此方ぶつかりまくったんっすからっ! ……あ~、八重垣さんは任せて良いっすか? 俺はアイツ等の相手をしますんで」

 

デュリオは邪龍達を見据えると再び神器を発動させて邪龍達を迎え撃つ。いつも飄々とした彼だが、この時は怒りを滲ませていた。彼は異能を持つ子供達の養成施設で育ち、自分の能力のせいで死んでいった子供達を多く見てきた。そして、その子供達の魂は天界に迎えられているのだ。

 

「ここは俺の弟や妹達が苦しまずに過ごせる場所なんだ。そこをぶっ壊すんじゃねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん。この間はデートの邪魔をされましたし、何か趣向を凝らしましょうか」

 

玉藻の目には八重垣など既に敵として映っていない。精々が目の前を飛び回る蚊蜻蛉程度の認識だ。八岐大蛇の首が一斉に襲い掛かるも、宙を舞う鏡の一撃で全て砕け散る。本来ならすぐに再生するはずなのだが、砕け散った首はピクリとも動かない。

 

「ふふふふふ、直ぐに再生する奴の対処法なんか幾らでも有るんですよ。跡形もなく吹き飛ばしたり、封印したり、……傷口を凍らせたりね」

 

「くっ!」

 

玉藻は九本の尻尾を得意げに揺らし、小馬鹿にするような笑みを浮かべながら口元を隠す。八重垣は冷や汗を流しながら天叢雲の剣を構え、そこで動きを止める。彼の周囲には無数のクレーリアが立っていた。

 

 

「……ねぇ、なんで私を攻撃したの?」

 

「なんで私を連れて逃げてくれなかったの?」

 

「私より、信仰の方が大切だったの?」

 

「ねぇ、なんで?」

 

「「「「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」」」」

 

「あ、あぁ……」

 

クレーリア達は八重垣の周囲をクルクルと回りながら恨み言を吐く。八重垣の顔からは生気が抜けて行き、天叢雲の剣を落とすとガクリと膝を折った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さぁて、素敵な夢を見ているようですし、今の内に手足をもいでおきましょうか♪」

 

「待ってくれ!」

 

八重垣に幻覚を掛けた玉藻が舌舐りをしながら八重垣に近づいた時、トウジが彼を守るように立ち塞がった。

 

「頼む、彼を許してやってくれ!」

 

「嫌です。私はご主人様から彼の事を任されました。それに彼を許す理由など私にはありません」

 

「彼がああなったのは私の責任なんだ。彼は本当は心の優しい若者で……」

 

トウジは必死になって八重垣の弁明をするが、玉藻の尻尾は彼の脇をすり抜け八重垣の四肢を切り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ達と八重垣に何があったか、なんて関係ねぇ。彼奴はテロリストで、此方は仲間が攫われてた上に手下がやられてるんですから冥府に連れて行きます。それに例え貴方が許しても、一件に関わった悪魔や聖職者を何人も殺してるんですから死刑は免れませんよ? そして、例えミカエル達が許しても他の神話体系がテロリストを許しません」

 

玉藻はあっけらかんと言い切り、トウジはその場で膝を崩した。

 

 

 

 

 

 

 

「彼は…どうしたら良かったんだい?」

 

「簡単です。本当に結ばれたいなら彼が信仰を捨てるか、二人一緒に全てを捨てて逃げれば良かったんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん、良いねぇ! 力が使いたい放題だっ!」

 

「ちっ!」

 

一誠は背中から生えた四本の腕でクロウ・クルワッハにラッシュを掛ける。彼が編み出した新たな覇龍『魂を喰らいし(ヘル・ジャガーノート・ドライブ)冥覇龍(・ソウルイーター)』は霊魂を燃料にしており、力を引き出せば引き出す程消費スピードは跳ね上がる。だが、量産型邪龍の魂を燃料にする事で常に補充し続けていた。

 

 

「……ク、クククククククク! やはり、こうでなくてはな!」

 

クロウ・クルワッハも楽しそうに笑いながら攻撃を仕掛ける。姿を隠しながらの修行の日々で彼の力は二天龍クラスになっており、苦戦するなど言う事を今まで忘れ去っていた。だが、今の一誠の力は二天龍すら大きく超えている。まさに戦闘狂の彼からすれば血湧き肉躍る戦いといった所だ。

 

「ふんっ!」

 

人間の姿から龍の姿の戻っていたクロウ・クルワッハは両腕の爪で一誠に掴みかかるが、一誠は背中の腕で手首を掴んで止める。残った二本の腕は伸びて足首を掴み動きを封じた。そして一誠の背中にあるタンクの中身が一気に減り、一誠が両腕を前に翳すと瘴気のようなものが集まり黒い球体と化す。その球体はクロウ・クルワッハの腹部に触れていた。

 

 

「怨念収束・超断末魔砲っ!」

 

 

そしてゼロ距離で放たれた一撃はクロウ・クルワッハの体を貫通し、腹に大きな風穴を空ける。だが、クロウ・クルワッハにはまだ息があった。死力を振り絞り一誠に向かってブレスを吐こうとする。だが、その背中にシャドウの分体が飛び付き、龍殺しの毒がクロウ・クルワッハを襲った。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉっ!? 一騎打ちではなかったのかっ!?」

 

「主ハ自分ガ戦ウトハ言ッタガ、手ヲ出スナ、トハ言ッテナイ」

 

「勘違いして君が悪い。それともヴァーリ同様に俺を動揺させる作戦? うわぁ、最強の邪龍も落ちたね」

 

 

一誠は胸部目掛けて手を突き出し、宝玉から音声が鳴り響く。

 

Penetrate(ぺネトレイト)

 

その瞬間、クロウ・クルワッハの胸を一誠の手が透過し、背中から出てくる。その手には心臓が握られていた。

 

「はい、さよなら。そして、これからよろしく♪」

 

そして心臓を握り潰すと同時にクロウ・クルワッハの目から生気が失われ、魂は一誠の影に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぐぉぉぉぉぉおおおっ!?』

 

「貴方も死んで行くのね……。全て市のせい……」

 

ラードゥンの結界に黒い腕が張り付く。頑強な結界がギシギシと音を立て力を吸い取っていった。結界の強度が徐々に下がり出し、ラードゥンは慌ててその場から離れると結界を張り直す。だが、その結界を黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)が貫通した。直撃こそ避けたものの体の一部が削り取られる。そして穴が空いた一瞬の内に内部にフェンリルへと化したポチが侵入していた。

 

「がぁっ!!」

 

ポチの爪はラードゥンの背中を大きく抉り、牙で右腕を食い千切る。何とか振り払ったその時、結界ごと彼の体は別の方向に引き寄せられる。其処にはストローを口にくわえたグリンパーチと、その横で拳を構えるクドラクの姿があった。

 

「んじゃ、行くぜぇ? ブレスミサイル!」

 

「俺が、俺が、殴るぅぅぅぅぅっ!!」

 

クドラクが跳躍すると先程までラーどぅン ラードゥン を吸い込んでいたグリンパート グリンパーチ はクドラク目掛けて息を吐く。クドラクはその息に乗り、吸い込まれた事で自分達の方に吸い寄せられていたラ-ドゥンに急接近。勢いそのままに結界を殴り飛ばす。結界には大きなヒビが入った。

 

『ふ、ふん! その程度で私の結界は……』

 

ラードゥンはすぐさま結界を修復しようとし……、

 

 

 

 

「喰い尽くせ『喰虚(グロトネリア)』」

 

『あがばぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

後ろから伸びてきた巨大な蛸の足に結界ごと握り潰され捕食された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うっひゃぁ。最上級死神攫ったの失策だったか?」

 

一誠達の戦いを見ていたリゼヴィムは冷や汗を流しながら姿を消す。残った邪龍達も退治され、こうして天界での騒動は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてクリスマス当日、一誠は玉藻とのディナーの後、予約していたホテルのデラックススィートに来ていた。

 

「へぇ、結構広いな……」

 

一誠は早速と言わんばかりに玉藻の肩に手を伸ばし、その手は空を切る。何時の間にか彼女は下着姿でベットの上に寝転んでおり、三人に増えていた。

 

「ご主人様、ゼウス様からお薬頂いていますよね?」

 

「……さぁ、何の事?」

 

一誠は目を逸らして口笛を吹くが嘘がバレバレだ。何時の間にか両脇にも二人の玉藻が立っていた。

 

「ヘラ様からお聞きしましたよ。さ、お薬飲んだんですから五人くらい相手しても平気ですよね♪」

 

「お風呂わぁ、玉藻AとBが前後からご奉仕致しますからぁ、汗を流したらCDEを可愛がってあげて下さいませ♥」

 

「CDEは汗を流さないの?」

 

「どうせ色々ヤって汚れますから、最後に六人で入浴して楽しみましょう♪」

 

左右から玉藻が胸で腕を挟み、ベットの上の三人は艶のある眼差しを送る。一誠はそのまま連行される様に広い浴室に連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、旦那様♪ 一日でも早く私を母親にするために頑張って下さいませ♥ ちなみに5人に注いだ分は一人に戻った時に全部一人に入ります♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、マユリは研究所で高笑いをしていた。

 

 

「ククク、やはり私は天才だネ。私以外の者は全て凡人だ!」

 

「その通りでございます、マユリ様」

 

ネムは無表情で新発明の装置を見た。巨大な装置に八脚の椅子と八個のヘルメットが付いている。

 

「……さて、早速実験体を決めなくてはネ。この分身を作り出し、異世界に送り出す装置を早く試したイ」

 

 

 

そして、マッドサイエンティストの目論見は近い内に達成される事となる……。

 




さて、ラスボスは700文字で煮詰まり 最後は考えてるけど、そこまで行くためのバトルが思いついたら書きます。

そして、合計百話突破記念として フェイトエクストラ編をします!


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番外編サンプル








「気を付けろ、奏者! このサーヴァント只者ではないぞ!」

「やぁ、貴女が僕の一回戦の相手ですね。これは可愛らしいお嬢さんだ」

「……あのサーヴァント、厄介だな。ここはマスターを……」

「……貴方は、またバーサーカーとして私の前に立ちふさがるのですね」

「おい、ライダー! あのライダーってどう見ても英霊どころか人間じゃないだろ!?」

「……へぇ、君面白いね。人間じゃないのにマスターなんかやってさ」

月の聖杯戦争にイレギュラーが入り込む時、混沌の舞台が幕を開ける


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九十七話

それは大晦日を明日に控えた日の夜。一誠がコタツに入りながらテレビを見ていると、母親と玉藻が鍋の材料を持ってやってきた。

 

「ほらほら、ゴロゴロしてないで起き上がる。もうご飯よ」

 

「うふふ、愛情たっぷりの愛妻料理ですよ」

 

 鍋の具は十五人前はあり、その殆どが一誠と黒歌の腹に収まる事だろう。ベンニーアや黒歌と小猫も集まり、父親が帰ってきた頃には鍋が良い具合に煮えていた。テレビでは大晦日の番組の宣伝をしており、毎年家族で観る番組だ。

 

「あ、母さん。俺達、年末居ないから。ギリシア神話の方で年越しの宴をやるんだけど、ハーデスの爺さんが面倒だから俺に行けって言い出してさ。ほら、俺も冥府の幹部だし一応出席しとけって」

 

「あ、そうなの? なら、お土産お願いね」

 

「俺はビーナスの写真が欲しいな。……嘘です、ごめんなさい」

 

 父親は母親に睨み付けられて黙る。やはり尻に敷かれるのは血筋の様だ。とりあえず冥府の食べ物はペルセポネーの一件の様に色々拙いので、免罪符と神酒にでもする事にした一誠であった。

 

「あらあら、神様のお酒? 楽しみねぇ」

 

「ついでにツマミの類いも頼むぞ」

 

「はいはい、神獣の肉でも買ってくるよ」

 

 先程からとんでもない事をあっさりと話している兵藤一家。適応能力の高さも血筋だろう。ちなみに今食べているのも北欧神話大系でエインフェリアに振舞われる猪の肉だ。グラム単価幾らか分からない。

 

 

 

「なら、初日の出や初詣はどうするの? 神話が違うから行かない?」

 

「いや、ウチには天照の分身が居るじゃん。太陽神で日本神話のトップだよ? こんなんでも御利益あるし。わざわざ混んでる所に行かなくてもさ」

 

「う~ん、それ聞いた途端に有り難くなくなったわね」

 

「すぴ~」

 

 当の本人(玉藻)は酔い潰れて眠っていた。一応出世や金回りに効果のある術を使えるが、今の姿を見る限り有り難みがない。

 

 

 

 

 

「……拙者もで御座るか?」

 

向こう(ギリシア神話大系)から君にも来て欲しいってさ」

 

 一緒に宴に来ないか、と誘われたポチは迷う様子を見せる。彼は狼としての本能で群れと巣を守るという考えがあり、酒も日本のが一番合うと思っているのだ。

 

「君のポリシーも分かるけどさ、たまには休んで良いと思うよ? ほら、何時も家を守ってくれてるしさ。それに、グレンデルが居るし」

 

 指差した先にはオセチの仕込みをしているグレンデルの姿、栗きんとんを摘みに来たありす達に小皿に載せたのを渡し、今は野菜を刻んでいる。家で食べる用とランスロットの所へのお裾分け、そしてプルートの所へ持って行く為の物の計三つだ。

 

 

 

 

「最近、万能の家政龍(オールマイティ・ハウスワークドラゴン)って呼ばれだしたよ」

 

「……哀れな。いや、本人が気にしていないのなら良いのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グハハハハハハ! よく来たなっ!」

 

「ガハハハハハハ! 兄貴(ハーデス)は腰痛らしいなっ!」

 

「酒臭っ! ……もう始まってるよ」

 

 一誠は開始予定時間より三十分来たのだが、既にゼウスとポセイドンは酔っ払って顔が赤くなっている。アポロンは既に泥酔して眠っており、ビーナスは裸踊りを始めている始末だ。この日、一誠はなんでハーデスや他の最上級死神が来たがらなかったのかを理解した。

 

 

(……ああ、生贄か)

 

 

 

 

 

 

「あはははは! アンタも飲みなよ、坊主!」

 

「あらあら、駄目ですよヘラ様。一誠君はまだ未成年なのですから」

 

 一誠の周りには仲の良い女神達が集まり絡む。するとドライグの声が聞こえてきた。

 

『おい、相棒。我慢が出来なくなてきたんだが』

 

「トイレ?」

 

『違うっ!』

 

「じゃあ、幼女でも抱きたくなたのかい?」

 

『俺をアルビオンと一緒にするなっ! 酒が飲みたいんだっ! ……あれ? アルビオンって誰だっけ?』

 

 かつてのライバルが余りにも酷い誹謗中傷を受けた事により、ドライグは自分の心を守る為に其の存在を忘れ去る事にしたのだ。

 

 

 

「……現実逃避だね」

 

「現実逃避ですわ」

 

「……まったく、ドライグは情けないなんだから。少しはグレンデルを見習いなよ。……はい」

 

『酒だ酒だぁぁっ!!』

 

 一誠が手を叩くと子犬サイズのドライグが出現した。ドライグまるで餌を貰った犬の様に尻尾を振りながら酒樽に向かって行く。

 

 

 

「ああやって一時的に出れる様になてから、毎日の様に酒を強請るんだ。ストレスでも溜まってるのかな?」

 

「坊やのせいだよ」

 

「貴方のせいですわ」

 

「うん。自覚はある。でも、自重はしない。その方が楽しいからっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……成る程。これが目的で御座ったか)

 

 先程まで一人でチビチビ飲んでいたポチだが。今はゼウスとポセイドンに絡まれて酒を飲んでいる。彼に目の前には見え麗しい女神達の写真があった。

 

 

「ほれ、この娘などどうだ?」

 

「海の娘は良いぞ」

 

 どうやらポチにお見合いを勧めているらしく、写真の女神達は誰も彼も着飾っている。まさに美の体現と言うべき美しさだが、ポチは首を横に振った。

 

「……実は拙者には好きなオナゴが。……同僚のレイナーレ殿で御座る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ、この前レイナーレから恋愛相談されたんだ」

 

「レイナーレって、アンタの部下だろ? 一時期手ェ出してた」

 

「……あ、はい。反省してます。口裂けさんとメリーと玉藻とランスロットとポチとアリスとハンコックに叱られました。植え付けた忠義を利用するのはどうなのかって。今は謝って関係切りました」

 

「それで、誰が好きですの?」

 

 ヘラ達はイカゲソを食べながら興味深そうに耳を傾ける。やはり女神でも野暮な話は大好物のようだ。

 

 

「ポチだって。どうも仕事の事を教わる内に好きになったらしいよ」

 

 

 

 

 

 

「あっ! お帰りなさいませ、ご主人様♪」

 

 宴から帰って来れたのは深夜。酒の匂いだけで悪酔いした一誠が家に帰ると玉藻が出迎える、リビングの方ではグレンデルやクドラク達が酒盛りで騒ぐ声が聞こえてきた。どうやら一誠の部下で忘年会をやっている様だ。今は黒歌がど下手な歌を得意げに歌っていた。目の前の玉藻もだいぶ酔っ払っているのか酒臭い。顔にはだいぶ赤みが差しており、足取りも覚束無い。そのままフラつき一誠にしな垂れかかる。

 

 

「ああん。玉藻、眠いですわ♥」

 

「じゃあ、もう寝る?」

 

「ええ、今すぐ二人の愛の巣に行きましょ……ぐ~」

 

「……本当に寝ちゃったよ」

 

一誠は腕の中でスヤスヤ寝息を立てる玉藻を部屋のベットまで連れて行く。リビングを覗き込めば先程まで騒いでいたメンバーも酔いつぶれて眠っていた。一誠は黒歌を自室のベットまで連れて行こうと思ったが、小猫が直ぐ横で眠っていたので辞める事にする。

 

 

 

 

「あれ? まだ起きてたんだ、ベンニーアちゃん」

 

一誠が自室まで行くと、ドアの前にベンニーアが立っていた。

 

《……今晩は”ベンニーア”と呼び捨てにして欲しいでやんす》

 

「……ふ~ん。じゃあ、寝ようか、ベンニーア?」

 

一誠はベンニーアと共に自室に入る。そして中の音が漏れない様に結界を張った。二人が起きてきたのは正月の昼だった。

 

 

「あ~も~! 姫初めを取られるとは~! ご主人様っ! こうなったら今直ぐ私とっ!」

 

「……ベンニーア、恐ろしい子にゃ」

 

 一誠は引き摺られるように自室に連れて行かれる。一誠がグレンデル製の絶品オセチを食べれたのは夕方の事だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……む? 相棒は何処だ?』

 

 ドライグはギリシアに忘れられていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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幼少期のゴーストテイマー
閑話 死者を受け入れた日


 ”僕”が”彼ら”と初めて出会ったのが何時だったかは覚えていない。だってそうでしょ? 犬や猫に初めて出会ったのが何時だったか覚えている人なんて多分居ないからね。僕にとって彼らは其のくらい居て当然の存在だったんだ。

 

 

 

「ねぇ、イッセー君。其処に誰も居ないよ?」

 

誂うと面白……仲の良い友達のイリナちゃんはそう言うけど、僕には確かにお兄さんの姿が見えた。このお兄さんは二日前に交通事故で死んだらしく、頭から血を流している。僕の視線に気付くと驚いた後で嬉しそうな顔で何か言っている。そう、僕には幽霊の姿が見えたんだ。でも、僕には姿は見えても声を聞いてあげる事は出来ない……。

 

「……ゴメンね」

 

「? 変なイッセー君」

 

これ以上此処に居るのも辛いし、早く立ち去ろう。だって、あの人の顔があまりにも悲しそうだったから。

 

「お兄ちゃん、まだ此処に居るのかなぁ」

 

「大丈夫よ。あの子はきっと成仏してる」

 

「……うん。きっとそうよね」

 

多分、あの人の家族だったんだろうオバさんとお姉さんは其処に居るお兄さんの目の前で居る事を否定する。お兄さんは必死に叫んで触ろうとするけど出来ず、また悲しそうな顔になった。

 

「イッセー君? さっきからどうしたの?」

 

「……何でもないよ。ただ、何でイリナちゃんは両足で犬の糞を踏んでいるのかなって思ってただけ」

 

「嘘っ!?」

 

「うん。嘘」

 

やっぱりイリナちゃん(この子)は面白いな。こういうのをリアクション芸って言うんだろうかな? ……僕は生きてる人があまり好きじゃない。彼ら(幽霊)は確かに存在して、意思もちゃんとあるのに生きてる人はそれを否定する。確かに見えないから仕方はないんだろうけど、理性と感情は別だ。だけと、両親とイリナちゃんは別。生きてるし見えないけど何故か嫌いになれないには何でだろう? 僕はそんな事を考えながらイリナちゃんと別れ、家に帰る。すると足音を立てずに駆け寄ってくる小さな影があった。

 

『キュン!』

 

「……ただいま、タマモ」

 

僕は決して触れないタマモの頭の辺りで手を動かす。とっても可愛く大切なペット(家族)だったタマモ。生まれて間もない子狐の時にウチに来て、僕の不注意で死なせてしまった時はずっと泣いていた。でも、庭に作ったお墓の傍で幽霊になったタマモを見つけ、今もこうして一緒に居る。……声が聞こえるのはなんでだろう?

 

「一誠。旅行の準備は出来たのー?」

 

「うん。もう終わってるよ、お母さん」

 

僕は昨日のウチに旅行の準備を済ませた。っと言っても着替えはお母さん達が入れてくれたし、邪魔にならない程度の玩具とお菓子を入れただけだけど。そうだ、タマモも連れて行こう。二人には見えないし逸れない様にしないとな。

 

 

そしてこの時の判断が僕の人生を大きく変える事になった……。

 

 

 

「一誠は寝てるようね。……タマモが死んでから落ち込んでいたけど立ち直って良かったわ」

 

旅行先に向かうバスの中、僕は後部座席でウトウトしていた。隣にはタマモが座っていて必死に僕にじゃれつこうとしてるけどすり抜ける。少し悲しそうな声で鳴く所も可愛いな。そうこうしている内に最初の目的地が見えてきた。

 

宿泊先は僕が福引きで当てた栃木県那須の温泉宿へのツアー。そして『九尾の狐ツアー』とかいうツアーで九尾の狐が討伐されたと伝わる那須野原に行くんだ。タマモの事があるから僕を気遣って渋った二人だけど、僕も前々から興味があったから行きたいって二人を説得した。バスが目的地に着くとお母さんは僕を揺り起こし、タマモは僕の後ろからピッタリ付いて来ていた。

 

 

そして少し歩いた先で僕は”彼女”に出会った。

 

「私、トイレに行ってくるわね」

 

「俺もだ。一誠、少し待ってなさい」

 

二人は僕を置いてトイレへと向かっていく。僕は自分でも手が掛からない子供だって自覚があるけど、二人が僕を置いていくなんて有り得ない。ほかの人たちも次々に離れていき、残されたのは僕だけだった。

 

 

「君の仕業?」

 

そう。誰かに術でも掛けられていなければ。僕とタマモの目の前には黒い靄の様な姿の幽霊が居た。何時も目にするような死んだだけの人達とは違い、一目でヤバイと気付く。……多分、逃げられないや。

 

「……貴方には私が見えるのですね。でも、眠ってる力を完全に引き出していない様です」

 

黒い靄は優しそうで…少し悲しそうなお姉さんの声で話し掛けてくる。その姿をよく見ると頭に狐の耳、お尻の辺りに九本の狐の尻尾があるように見えるけど、この人がバスガイドさんが話してくれた『玉藻の前』なのかな?

 

「ええ、そうですよ。と言っても私は残りカスの怨霊。本体が戒めの為に残したに過ぎません。……でも、もう一人は嫌になりました」

 

どうやら僕の心を読んだらしい玉藻の前さんはタマモの方をジッと見る。思わず僕が庇う様に前に出るとクスクスと笑いだした。

 

「大丈夫。その子に害は成しません。……ただ、その子の願いを叶えるだけです。貴方と一緒に過ごし、前のように撫でて欲しい。ただそれだけの、単純で尊い願い。幽霊のその子を守ろうとする貴方なら、きっと受け入れて下さいますよね?」

 

次の瞬間には玉藻の前さんの体が崩れ出し、タマモに吸い込まれていく。やがてタマモの体が光り輝き、露出の高い着物を着たお姉さんが立っていた。少し頭が弱そうでお調子者に見えるけど……間違いない。

 

「タマモ?」

 

「……はい! 私、可愛くなってリニューアルです☆」

 

「少しお馬鹿な所はそのままなんだね。ビニール袋の持ち手に頭を突っ込んで抜けなくなったのにパニックを起こして、おしっこを漏らしながら駆け回ったり、自分の尻尾を追い掛け回して目を回してたタマモのままなんだ」

 

「……うっ。あの~、ご主人様? 私、子狐のタマモがベースですが、玉藻の前の記憶や精神も引い継いでますので、その話は避けて欲しいかなぁ? ……ご主人様?」

 

「……もう少しだけ」

 

自分でも気付かないうちに僕はタマモに抱き着いていた。今まで触れなかった幽霊の体からは体温こそ感じられなかったが手に触れる尻尾の感触は生前のままだ。

 

「ええ、何時でもお触りください。……その前に」

 

屈んだタマモは両手で僕の両頬を優しく包み、そっと唇を重ねる。僕の中に何かが入ってくるのを感じた。

 

「私の霊力を送り込み、ご主人様の眠っていた霊力を目覚めさせました。中途半端に垂れ流していたらかえって危ないですし、声が聞けない事を苦悩してらっしゃいましたからね。私の声だけが貴方に届いていたのは私への愛情のおかげ。其れを考えると悔しいですが、少し位なら分けて上げます。でも、貴方の一番は私ですよ?」

 

僕の耳に先程までは聞こえなかった声が聞こえてくる。苦悶、絶望、そして孤独。望んでいない死を迎え、死してなおこの世に留まり人を求めるも気付いて貰えない彼らの慟哭が聞こえて来たんだ。

 

「……おいで。一緒に行こう」

 

だから僕は無意識の内に彼らを受け入れた。慟哭は歓喜の声に変わり、周囲に居た数多の幽霊達が僕に付いて来る。この時僕は誓ったんだ。彼らが生者に相手にして貰えないのなら、僕が相手をしよう。それがきっと僕の生まれた意味なんだ。この時、僕は心の底からそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「……また子供が迷い込んだのかい? 久しぶりだねぇ」

 

そして旅行から帰った僕は迷い込んだ場所で新しい友達を得る事になった……。




さて、新刊発売がたしか今月 それまでに過去編を終わらせたい

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閑話 異界の住人との邂逅

”学校の怪談”といえば何を思い浮かべるだろうか。真夜中に一段増える階段? 幽霊が映る鏡? やはり定番といえばトイレの花子さんだろう。じゃあ、そんなオバケ達は普段何処に居るのだろう。そもそも何処で生まれ、何故似た話が全国に広まったのだろうか……。

 

 

 

「あれ? 此処何処だろう?」

 

それは幼稚園が休みのある日の事、公園にない遊具目当てで近くの小学校に忍び込んだ一誠は気紛れを起こして旧校舎に忍び込んだ。中は埃っぽく教室内には古ぼけた机が置かれている。誰かに見られているかのような気がした一誠は奥を目指して曲がり角を曲がり、何時の間にか先程までとは違う場所に居た。それと同時に感じる視線が増し、背後から声が掛かる。

 

「赤いチャンチャンコ着せましょうか?」

 

「まだ春だよ? 着る訳無いじゃない」

 

後ろに居たのは鋭い爪が生えた腕を持つ男性。血走った目で一誠を見てはいるものの何処か戸惑っているようだ。

 

「……何、この子。普通は逃げ出すとか悲鳴を上げるとか色々有るだろ。あと、それを言ったら怪談は夏がシーズンなのに……」

 

暫く立つ尽くした後、男性は消え去る。その後、廊下を歩いている人体模型に挨拶をし、音楽室のベートーベンに音楽センスのダメ出しをされた一誠は飽きてきたのか廊下に座り込んでいた。

 

「もう帰ろうかな?」

 

「此処に来て生きて帰れると思ってるのかい? ねぇ、アタシ綺麗?」

 

声が掛けられると同時に肩に手が置かれ、振り返ると其処には口は耳まで裂け、空いた手にハサミを持った赤いコートの女が座っていた。

 

「さあ? 美的センスは人其々だし、需要はあるんじゃない?」

 

「……変な餓鬼だね。アタシが怖くないのかい?」

 

「お姉さんみたいのは昔から見てるから。え~と、口裂け女さんだよね?」

 

「ああ、そうさ。なら、この後どうなるか知ってるかい? アタシに口を切り裂かれるの…さっ!?」

 

一誠に鋏を突き出そうとした口裂け女の手が止まる。背後からその脳天に踵が振り下ろされていた。

 

「ご主人様、お怪我はありませんか? ……少しお離れを。すぐに始末いたしますので」

 

「言ってくれるじゃないのさ悪霊風情がっ! 綺麗に取り付くていてもアタシには分かるよ。アンタがとんでも無い悪霊だってねっ!」

 

玉藻と口裂け女は同時に仕掛け、決着は一瞬で付いた。玉藻の鏡は口裂け女の鋏を破壊しても尚止まらず、そのまま胴体に当たって壁まで吹き飛ばす。木造校舎の壁が崩れ、口裂け女はフラつきながら立ち上がると肩を竦めた。

 

「こりゃ負けたね。……食うなら食いな。それがルールだ。だが、他のモンには手ェ出すんじゃないよ」

 

「……良いでしょう。では、貴女を吸収し私の力に……ご主人様?」

 

負けを認めた口裂け女を吸収しようとした玉藻だが、袖を引っ張らられて動きを止める。一誠は静かに首を振っていた。

 

「駄目だよ、玉藻。僕、此処の住人と友達になりたいし」

 

「……はい、分かりました。でも、今度危害を加えようとしたら止めても無駄ですよ?」

 

二人の話を聞いていた口裂け女は頭を押さえて溜息を吐くと窓を指さす。先程まで白一色だった風景が其処だけ変わり一誠が忍び込んだ小学校の新校舎が見える。

 

「……帰りな。アンタ、霊が見えるどころか従えれる程の力を持っているみたいだけど、生者は生者と友達になるもんだよ。それに人間と友達なんて冗談じゃない。勝手にアタシ達を生み出し、勝手に忘れ去っていくような人間と友達なんてなる訳がないだろ」

 

口裂け女はそれだけ言うと影に吸い込まれるように消えて行き、一誠も素直に窓から出ていく。窓から出たあとで振り返ると先程開いていた窓は中から鍵が掛かっていた。

 

「ねえ玉藻。彼処って何だったの?」

 

「異界、と呼ぶべきでしょうか? 人が考え出した話が人の恐怖で具現化し、条件のあった場所から出入りできるようになった場所です。彼女達も同じく人の恐怖が具現化した存在。ゼロから生まれた者も居れば元々の噂に組み込まれて其の姿になった者も居ます。そして共通点は忘れ去られれば存在自体が消えるという事。少し哀れですね……」

 

玉藻は悲しそうな瞳を旧校舎に向けると狐の姿に戻り一誠の懐に飛び込んだ。

 

「では、帰りましょう。今日はぁ~、助けたお礼に沢山ナデナデして欲しいなぁ♥」

 

「はいはい、じゃあ早く帰ろうか」

 

 

 

 

 

「……良かったの?」

 

「何がだい?」

 

一誠が帰った後、異界の纏め役をやっている口裂け女は自室にしている保健室の椅子に座っていた。その横ではおかっぱ頭の少女がベットに寝転んでおり、不意に声をかける。

 

「だってあの子、私達を怖がってなかったのに……」

 

「それがどうかしたかい? アタシは人間が嫌いなんだって何度も言ってるだろ。くだらない話は止めな、花子」

 

「……」

 

花子は無言で消えて行き、口裂け女は天井を見つめて黄昏た。

 

 

 

『……知ってる? 四丁目に口裂け女が出たんだって』

 

『で、出たぁぁぁぁっ!! ポマードポマードポマード!』

 

『べ、べっこう飴、何処だっけっ!?』

 

 

「……あの頃は存在してるって実感があったねぇ。今じゃ口裂け女なんて飽きられて存在が希薄だよ……」

 

口裂け女は大きく溜息を吐くとベットに横になる。思い起こすのはかつての記憶。全国に口裂け女の噂が広がり小学生達は懐に彼女の好物と噂されたべっこう飴を忍ばせて登下校したものだ。恐怖から生まれた彼女達は恐怖が静まれば出現できなくなる。今では異界から出る事さえままならなくなった。異界では万全の力を振えるが、それも何時まで持つか分からない。異界の住人によって異界は安定しており、このまま彼女達が忘れ去られれば異界すら消え去っていくのだ。

 

「まっ! 生者も何時かは死ぬんだ。アタシ達も消えいく運命なんだろうさ」

 

まるで自分に言い聞かせるかの様に言葉を発した口裂け女は外に出れる程の力を持った仲間が持って帰った酒を煽ると静かに瞼を閉じた。

 

 

 

そして数日後の事……。

 

「また餓鬼が入って来たって? 一々報告しなくて良いよベートーベン」

 

「だが、例の小僧なのだ」

 

音楽室のベートベンから報告を受けた口裂け女が入り口に向かうと其処には人形を連れた一誠の姿があった。

 

「やっほ~!」

 

「私、メリーさん。この子に連れてこられたの」

 

「……大体の事情は把握したよ。その子は預かるからアンタは帰りな。此処は生きてる奴が来る所じゃない」

 

「……でもさ、僕は生きてる人が嫌いなんだ。友達は外国に行った一人を除いて霊だし……。また此処に来て良い?」

 

「アンタ、ボッチかい。……好きにしな。だけど、友達になんてなってあげないからね」

 

口裂け女はメリーを受け取ると異界の奥へと消えていく。この日から一誠は異界に通いつめ、街で見かけた霊や口裂け女達の同類を異界に連れてきた。やがて花子やメリーと仲良くなり、人体模型やベートベンとも打ち解け、口裂け女とも相談事を持ちかける仲になった。

 

 

 

 

 

そして数年後、小学生になった一誠はデパートで開かれたギリシア展で悲しみに染まった瞳をした一人の女性と出会った。

 

 

 

 

《最近、妙な小僧がいる?》

 

《ええ、おそらくは霊使いだと思うのですが力が桁違いのようでして》

 

《フォフォフォ、少し興味がわいた。調べて参れ、プルート》




次回で過去編終了!

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閑話 魔女と死神との交渉

それがこの世に生まれたのは数百年前。とある滅ぼされた国の姫君が敵兵から逃げる為に山に入り込み、飢えと寒さで弱った所を百足の大群に襲われ命をおとす。そして強い怨念によって復活した姫君は悪霊と化し、テリトリーに侵入した者を襲うようになったのである。

 

『肉、肉ぅぅぅぅぅっ!!』

 

今まさに一人の少年が姫君に襲われていた。悪霊とかした姫君は見た目も変わり、七メートル程ある大百足の口内に体が朽ち果て目が血走った姫君の上半身が存在する。少年は必死に走り、やがて石に躓いて転んだ所に姫君が襲いかかる。

 

『グガッ!?』

 

そして巨大な白骨の手が大百足の体を叩き潰した。少年は突如現れた巨大な人骨、ガシャドクロと呼ばれる化け物に怯む事なく立ち上がると体についた土を手で払った。

 

「さてさて、見事に誘い出されたね。ご苦労様、ガシャドクロ」

 

『ウゥゥゥゥ』

 

ガシャドクロは少年、一誠の言葉に返答するように唸ると姿を消す。一誠が指を鳴らすと周囲に無数の悪霊が現れ大百足の体に食らいつく。瞬く間に大百足の体は食い尽くされた。

 

「さて、帰るか」

 

既に用事は済んだと一誠はその場を後にする。その時、彼に背後の地面が盛り上がり、上半身だけの姫君が飛び出してきた。

 

 

「……主よ。気付いていらしましたね? 少々お遊びが過ぎますよ。そもそもあの程度の者なら貴方一人でも勝てるでしょうに……」

 

だがその腕が一誠に届く前に姫君は一刀両断される。剣を構えた青年は呆れた様な視線を一誠に向けた。

 

「仕方ないだろ? 僕、大富豪では革命返しが好きなんだ。勝ったと思った次の瞬間に再逆転された奴の顔って最高じゃない、ランスロット」

 

「……まあ、騎士は王に従うまでです。ですが必要とあらば諫言はさせて頂きますよ」

 

ランスロットは溜息を吐くと姿を消す。一誠は今度こそまっすぐ家に帰っていった。

 

 

 

 

「きゃぅ~ん! お帰りなさい、ご主人様ぁ~♪」

 

「はいはい、ただいま。……少し疲れたから寝るね」

 

一誠はタマモの膝に頭を乗せると寝息を立て出す。ランスロットが部屋から出た時、ポチが壁を背に立っていた。

 

「やれやれ、主の無茶を止めぬとは呆れるでござるな。万が一を考えなかったで御座るか?」

 

「私は主の意思を尊重したまでです。貴方には関係ありません」

 

「かっ! 若き王に理想の王である事を押し付け最後に裏切った貴様が何をほざく。……拙者は貴様など認めん。魂だけとなり消え行く定めにあった拙者を助けてくださった主の傍に貴様のような奴が居るだけでも虫酸が走るわっ!」

 

ランスロットとポチは暫し睨み合うと互いに別の方向に向かっていく。その騒ぎを部屋の中で聞いていたタマモは深く溜息を吐いた。

 

「さて、あの二人が問題を起こすようなら私が始末するとして……狭くなりましたねぇ」

 

兵藤家の周囲は無数の霊魂が漂い、屋根の上も鮨詰め状態だ。霊は人に触れられないが霊同士は触れれるので非常に狭い。一誠が節操なしに拾ってくるので日増しに狭くなっていた。

 

「私は異空間を作る術は使えませんし、誰か先生が居れば良いのですが……。それにしても……ジュルリ。いけないいけない。ご主人様の貞操を奪うのはもう少し成長してから……」

 

 

 

 

『どうした、小僧?』

 

「いや、ウチの馬鹿が馬鹿らしく馬鹿な事を言っているような気がしたんだ」

 

タマモが一誠の顔を見て舌舐りをした頃、一誠はドライグに会っていた。彼が小学三年生になった数週間前から意思疎通が可能になり、偶に目覚めたばかりの神器の中に潜って話をしているのだ。

 

 

「このままだと大きすぎるから少しずつ削いでから……」

 

『おい、何を言っている? 何か不吉な予感がするのだが……』

 

「大丈夫! 君が気付かない程度で済ますから」

 

『何をっ!?』

 

「それにしても鬱陶しいなぁ……」

 

ドライグの魂を回復可能な程度に少しずつ削ぐ計画を練っていた一誠は不快げに下に目をやる。其処には怨嗟の声を上げる先代所有者達の姿があった。

 

『小僧の霊力に当てられて意識が戻ったんだな。……少々嫌な方向にだが。おい、何をする気だ?』

 

「いや、此処なら僕も魂だけみたいなものだし……食えるかなって思って」

 

一誠の影が徐々に伸びていき先代所有者達の思念体の足元を埋め尽くす。やがて其処に居た全員が底なし沼に沈む様に影に飲み込まれて行き、影は元の大きさに戻った。

 

『……とんでもない事をするな』

 

「いやいや九才児に殺せだのなんだの常時訴え掛ける奴らだよ? 仕方ないじゃないか。あはははは!」

 

一誠は高らかに笑うとドライグから飛び降りる。地面につく前にその体は消え去り、眠っていた一誠は目を覚ました。

 

「起きましたね、ご主人様。お母様が先ほど起こしにいらっしゃましたよ」

 

「うん、分かった。……でも、もう少しだけ」

 

一誠はタマモの膝の上に座ると胸を枕に再び寝息を立てだした。ドラゴンのオスは女好き。そのドラゴン系神器所有者の思念体を吸収した一誠も異性に対する興味が強くなり出していた。

 

 

 

 

 

 

 

(ああ、退屈だわ)

 

とあるデパートで行われたギリシャ神話展。会場の隅に飾られている朽ちた石像の上に彼女は居た。足には鎖が絡み付き、鎖の片方は石像に繋がっている。彼女の名はメディア。オリンポスの神に偽りの愛情を与えられ人生を狂わされた神代の魔術師でありコルキスの王女である。死した彼女は裏切った夫が自分の為に送った石像に縛られていた。

 

(そろそろ私の魂も限界ね。生者から霊力を吸収して存在を保ってきたけど其れも限界。……嫌っ! このまま誰にも知られず消えていくなんて耐えられないわっ!)

 

メディアは自分の終わりを察して恐怖に震える。やがて負の念が彼女の体を蝕み、今まで必死になるまいとしていた醜い悪霊へと変化しようとしていた。

 

(こうなったら誰も彼も殺して道連れに……あれ?)

 

考えが完全に悪霊と化し、やがて人格が塗り潰されようとしたその瞬間、メディアは正気を取り戻す。視線に気付いて下を見ると幼い少年が見上げていた。

 

「……坊やの仕業ね。私には分かるわ。……貴方、何者?」

 

「僕? 兵藤一誠。オバさんは?」

 

「お姉さんと呼びなさい。もしくは、メディアさん。助けてくれたお礼に今回は許してあげる。でも、今度オバさんって呼んだら殺すわよ」

 

メディアは一誠を睨みながらも観察を行う。高い霊力を持つ人間がゴロゴロ存在した時代でさえ考えられない程の霊力。彼を守るように無数の霊が周囲を飛び回りメディアを威嚇している。

 

(……これは体を乗っ取るとか無理ね)

 

「じゃあ、メディアさん。僕と一緒に来ない?」

 

「嫌よ。私は男は嫌いなの。それに貴方からは私の嫌いな神の気配がするもの。何処かの神にでも気に入られてるのかしら? それに私の足の忌々しい鎖が見えないの……」

 

「えい」

 

「かし…ら?」

 

メディアを長年悩ませていた鎖は一誠の手で簡単に引き千切られる。これによりメディアは石像から完全に解放された。

 

「私を縛り続けた鎖を簡単に……。い、言っておくけど助けたからって言うことは聞かないわ。私、頼んでないもの」

 

「メディアさんが困っているみたいだから壊しただけだよ? じゃあ!」

 

「……お人好しな子。あれは私の様に利用されるだけね。まあ、関係ないけど……!」

 

去っていく一誠に背を向けたメディアは自分も何処かに向かおうと考えた所で後ろを振り返る。一誠の目の前にピエロの姿をした死神が立っていた。

 

《君が兵藤一誠君ですね? 初めまして、私は最上級死神プルート。ハーデス様の命令ですので私に付いて来て貰いますよ。……其処に見覚えのある人が居ますが……まあ、放っておきましょう。では、行きますよ》

 

(……ハーデス。憎々しいゼウスの兄ね。坊やには悪いけど関わりたくないわ)

 

プルートの背後の空間が歪み、歪みの向こうに冥府の景色が現れる。プルートは一誠の手を掴むと問答無用で歪みの中に引き摺り込みだした。

 

 

 

「……ああ、もう! その子は私の関係者よ! 私も連れて行きなさいっ!」

 

《おや、そうは見えませんでしたが。……まあ、良いでしょう。子供だけを連れて行くのは気が引けますから》

 

一誠の手を掴んで引き摺り込むのを止めたメディアを見るプルートの目が妖しく光る。メディアは一誠を抱き寄せるとプルートを睨みながら一緒に冥府に足を踏み入れた。

 

 

 

 

《まさか子供が此処までの力を持っておるとはな。フォフォフォ、愉快愉快》

 

「世間話をする為に呼んだんじゃないでしょ、ハデス。坊やに何用かしら?」

 

《何、我々が管轄すべき死者を勝手に従えている者が居ると聞いて調べさせれば、まさかの子供。さてさて、興味がわいて呼んだは良いがどうしたものか》

 

ハーデスは目の奥を光らせながら不気味に笑う。世界TOPテンの一角の実力を間近で感じ取ったメディアは恐怖を隠しながら一誠とハーデスの間に入った。

 

「昔から霊使いの類は居たはずでしょ? わざわざ呼び寄せるほどなのかしら。この子は子供なんだから早く帰して頂戴」

 

《フォフォフォ、裏切りの魔女がどういうつもりだ? 其処の小僧を殺した我が子の代わりにでも…》

 

「……アナタ、その変にしておきなさい。お巫山戯が過ぎるわよ」

 

《む、そうか? 最近の子供はゲームとかで儂みたいのに慣れてるから威厳を出してみたんだが》

 

「慣れない事はしなくて良いの。……坊や、お名前は?」

 

ハーデスの後頭部を強打して話を止めた女性は一誠の傍に寄ると屈んで視線を合わせる。冥府の王であるハーデスの後頭部を殴ったにも関わらず死神達はなんの反応も示さなかった。

 

「僕は兵藤一誠。オバ…お姉さんは?」

 

「あらあら、お上手ね。でも、オバさんかベルセポネーで良いわ。あのね、一誠君。あの人、君に力を貸して欲しいって頼みたいの。ほら、君なら知ってると思うけど霊って其処ら中に居るでしょ? 私達も回収を頑張ってるけど人手が足りなくって。それで昔から君みたいな力の持ち主の手を借りているのよ。どう? 引き受けてくれるなら多少霊を集めても目を瞑るし、お小遣いもあげるわよ?」

 

《……全部言われた》

 

「……う~ん」

 

ハーデスが落ち込み一誠が悩み出した時、メディアの周囲に魔法陣が出現する。彼女からは明確な怒気が放たれていた。

 

「……私の次はこの坊やを利用しようっていうの? 貴方達神は何時も何時も人間を利用しようていうのね。坊や! 絶対に引き受けちゃ駄目よ!」

 

「……そう。まあ、別に断っても良いわ。でも、流石にこれ以上霊を集めるのは見過ごせないわ。今まで集めた霊は見逃すけど、それ以降集められない様に力を制限させて貰うわよ」

 

「……引き受ける。だって、力が下がったら苦しんでる霊を助けられなくなるから」

 

「坊やっ!」

 

メディアにひっぱたかれた事で一誠の頬は赤くなる。メディアは一誠の肩を掴むと強く揺さぶった。

 

「十年も生きていない餓鬼がナマ言ってんじゃないわよっ! 神と契約するって事はもう二度度普通には戻れないのっ! 普通に家族と過ごして普通に恋をして普通に死んでいく。そんな幸せを二度と手に入れないのよ! よく聞きなさい、坊や。力を持っているからって力を使わなきゃいけないなんて事は絶対に無いの!」

 

「……うん、でも、僕は普通に生きられないんだ。だって、龍は戦いを呼び寄せる。僕にはこれが宿っているから……だから、普通を少しでも守る為に仲間と力が居るんだ……」

 

「それは……」

 

一誠は赤龍帝の籠手を出現させる。それを見たメディアは言葉を詰まらせハーデスは席を立とうとしてベルセポネーに止められた。

 

「……駄目よ。あの子は聖書の神に神器を植えつけられただけの被害者なんだから」

 

《ああ、そうだな……》

 

「……ハーデス。私、この坊やに協力する事にしたわ。この子が力を貸す条件として正当な額の報酬と何かあった時の後ろ盾になる事を要求するわ。……正式に所属するかどうかは坊やが成長してから交渉しなさい」

 

魔法陣を収めたメディアはハーデスに強い視線を送りながら言い放つ。壁際で待機していた死神達が動こうとしたがプルートはそれを手で制した。

 

《……ああ、それで良い。では、細かい条件を決めよう》

 

こうして兵藤一誠は冥府と契約を交わし、メディアは一誠に膨大な霊力を与えられる事で実体化して現世で暮らす事となる。本人曰く”現世で独身生活を楽しんでみたい”、だそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「と、まあ、これが私との出会いよ」

 

「へ~! お母さんとお祖父様ってそんな昔に出会ったんだ」

 

「ええ、その後は影の中に異空間を作ってあげたり、私が知る死霊魔術を教えてあげたり、私が小説家になる手伝いをして貰ったりしたわ。さて、そろそろお昼ご飯だから手を洗ってきなさい」

 

「は~い!」

 

メディアは狐の耳と尻尾が生えた少女に慈愛に満ちた笑みを向けると台所に向かって行った。

 




さて、ようやく過去終わり

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生徒会選挙のデュランダル
九十八話


人は年末年始に大いに飲み食いする。クリスマスに忘年会、新年会におせちにお餅。そして其れは天使であるイリナも同じであった。

 

「うぅ~。少しお肉が……」

 

エクソシスト時代は節制を美徳として来た上に訓練や何やらでカロリーを消費していたが、駒王学園に通いだしてからは友達とのお茶会や食べ歩きの時間ができ、正直言って太った。D×Dメンバーは悪魔達でも特別に京都でお参りが出来るようになったのだが、その帰りにコンビニの中華マンが食べたくなったのだ。

 

「少しくらいなら良いよね?」

 

その少しを後で死ぬほど公開する事になると頭では分かっているものの誘惑に勝てずイリナはコンビニに入ろうとする。すると店の中から中華マンを全て買い占めた一誠が出てきた。

 

「イリナちゃん太った? あ、忘れてた。明けましておめでとう」

 

「逆っ! 言う順番逆だからっ! てか、女の子に太ったとか言わないっ! ……て言うか、一誠君はなんで太らないのよ」

 

「余分な分は霊力に変換してるから無駄なカロリーな摂取してないよ。あ、一個食べる?」

 

「……食べる」

 

一誠とイリナは公園のベンチに座って中華マンを頬張る。一誠は一個一個を飲み込むように胃に入れていき、イリナは其の姿をボウッとしながら眺めていた。昔からイリナは一誠にからかわれていたが同時に彼の事が好きでもあった。其れは一誠にタマモ達が居ると知った今でも変わらない。

 

「お守り持ってるけど神社でも行ってたの? 聖書の神ってのは”他の神はインチキでーす! 異教徒には何しても構いませーん!”てな感じなのに。使い込んだ経費を補う為にお賽銭を盗もうとか言ってたよね、君。それとも宗旨替え?」

 

「忘れて私の黒歴史っ! それと替えてないからっ! 私、主への信仰心バリバリだからっ!」

 

「それ、浮気男が”愛しているのはお前だけだから”っていうのと変わらないよ?」

 

この様に毒を吐かれても、まだ気持ちは消えていなかった。溜息を吐きつつカレーマンに齧り付くイリナが横目で一誠の顔を見るとほんのり赤みが差している。

 

(一誠君。もしかして私の事を意識して……)

 

「じゃあ、俺は帰るね。あっ! 二度目の宗旨替えでオリンポスの神を信仰するなら教えて。ヘラ様に先に言ってゼウス様に手を出されない様にしてあげる」

 

「だから私は聖書の神を信仰してるんだってばぁぁぁぁっ!!」

 

そして少し気持ちが揺ぎ始めた。

 

 

 

 

 

一二三四五六七八九十(ひと ふた み よ いつ む なな や ここの たり)布留部 由良由良止 布留部(ふるべ ゆらゆらと ふるべ)

 

玉藻は巫女服に着替え、家の和室に作った簡易式の神殿で舞を行っていた。さすがは天照の分身の怨念を取り込んだだけあって見事な舞で、黒歌さえも見入っていた。

 

「……ふぅ。では、皆様の今年の運勢を告げましょう。まずは家長であらせられるお父様から。仕事運金運とも良好。ただしお酒は控えめにした方が宜しいかと」

 

「あら、だったら晩酌は週一で良いわね」

 

「母さんっ!?」

 

「いえいえ、流石に其れは少ないかと。お酒は心を癒す何よりの薬。私も愛飲してる身からすれば流石に週一は可哀想に思えます。では次はお母様ですが、全体運良し。今年は吉報が舞い込むでしょう。私の妊娠だったりして、キャッ♪」

 

「次は一誠かしら? あの子出掛けてるから先にベンニーアちゃん達にしたらどう?」

 

「ガンスルー!?」

 

流石は一誠の母といった所だろうか。玉藻の言動を見事に無視している。

 

「うっうっ、分かりましたよぉ。ベンニーアさんは仕事運良好。収入も多いですが支出も多いので金運はそこそこと言った所です。黒歌は正妻をもっと立てやがらねぇと幸運なんて舞い込まねーですよ」

 

「私、雑っ!?」

 

「あ、白音さんは健康運以外良好です。胃にお気をつけください。多分食べ過ぎ……」

 

「いえ、姉様が原因のストレス性胃炎だと思います」

 

「白音っ!?」

 

黒歌の扱いの悪さが露見した頃、ようやく一誠が帰って来た。手にはまだ残っている中華マンが入った袋を下げており、フラフラした足取りで靴を脱ぐ。一誠が帰ってきたと分かるなりタマモは駆け寄って行った。

 

「あぁん、ご主人様ぁ~。貴方の今年の運勢も占いましたからベットの中でジックリねっとり教えて差し上げ……ご主人様?」

 

「……ごめん。ちょっと調子悪い」

 

一誠はタマモに倒れこむとそのまま目を閉じる。抱き抱えた体温は熱く、玉の様な汗が流れていた……。

 

 

 

 

 

「死神特有の風邪とドラゴン特有の風邪を併発していますね。薬を出しておきますので暫く大人しくしていて下さい。間違っても父上の様な事はなさらないように」

 

一誠の診察を終えたアポロンはカルテに詳細を書き込むと溜息を吐く。どうやらゼウスが何かやらかした様だ。

 

「ゼウス様がどうかしたの?」

 

「風邪だったのにまた浮気に走って、結局ヘラ様から”ゴールデンボールクラッシャー・ヘラスペシャル”を食らって全治二カ月の重傷を……」

 

「それは風邪とは別なんじゃ? まあ、大人しくしておくよ」

 

一誠は薬を貰うと玉藻に付き添われて家に帰る。そして今日ばかりは玉藻もベットに潜り込んで来ない。ただ瞳をウルウルさせて顔を覗き込んでいるだけだ。

 

「うう~。ご主人様、お労しや~。代われるものなら変わって差し上げたいです」

 

「その場合、俺が更に変わるから意味がないよ。……暫く安静だから仕事の事頼むよ。死霊四帝はシャドウとブイヨセンが調整中(・・・)だからポチとレイナーレに二体の仕事を分担して貰って、幽死霊手は玉藻が居るから大丈夫。後は死従七士なんだけど、対外的な理由からルシファーの息子を親に会わせるついでに新年会が北欧であるんだ。……どっちがついでなんだか。其れで頼まれたハーデスの爺さんの護衛はランスロットに任せて。ロスさんの里帰りにもなるし、ガウェインさんへの出産祝いもついでに持って行ってね」

 

「はい、了解です! にしても例の新年会には新総督のシェムハザや副総督のベネムネも呼ばれてるんでしょう? 針のムシロって感じですよねー。ま、同情はしませんけど。……それでは私は此処で失礼致します」

 

玉藻は最後に一誠に軽く口付けをすると部屋から出ていく。何時も感じられる誰かの温もりがない事に若干の寂しさを感じながら一誠は目を閉じた。

 

 

 

 

その頃、冥府に派遣されたメンバーであるグレンデルとクロウクルワッハの間で激闘が起きていた。

 

『ちぃっ! テメェが此処までやるとはなっ!』

 

「貴様とは年期が違う。最近急成長した貴様と長年の経験に裏付けられた俺の実力の差を見せてやろう」

 

二匹はにらみ合い同時に動いた。

 

 

 

『俺様のデザートは林檎のタルトタタンだぁっ!』

 

「俺の一品は無花果のタルト。得意中の得意料理だ」

 

 

 

 

「……市には分からない。……なんでウチの邪龍は女子力が高いの? さっきから邪竜の戦いじゃない……」

 

《さぁ? 私には何とも言いようが……》

 

寄り添うようにしながら二匹のクッキングバトル(戦い)を観戦しているお市とプルートは同時に首を傾げた。

 

 

《それはそうと聞きました? 一誠君、今度揉め事が起きたら”『怠惰』の将”を働かせるって言ってましたよ》

 

「……多分無理。彼は動かないと市は思うの……」

 




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九十九話

「……ケホッ」

 

 正月が明けても一誠の風邪は一向に良くならず、未だにベットの中で寝込んでいた。熱にうなされ視線はボヤけ意識はハッキリしない。要するに非常に調子が悪かった。

 

「ああ、ご主人様ぁ。……調子が悪くて不安そうな顔も素敵ですねぇ」

 

「あ~、はいはい。アンタも体を作った時に死神に近付けたから死神風邪が感染るでしょ。安静にしなきゃいけないんだから早く出ていくにゃ。あと、アンタじゃ不安だから体は私が拭くって話は付けてるから」

 

「あ~ん! ご主人様ぁ~! くそ! 後で猫の丸焼き、なう」

 

 

 玉藻は熱に浮かされている一誠の顔を覗き込みながら涎を垂らしつつ指をワキワキ動かす。その顔は助平親父其の儘で、今にもルパンダイブしそうな所を黒歌に襟首を掴まれ部屋から連れ出された。後には静けさが残り一誠は寂しそうに溜息を吐く。

 

「……何か寂しいなぁ。何時も誰かが傍に居たからかな?」

 

 テロ対策で一誠は部下の多くを各地に派遣しており、今は一誠の不在を補う為に更に数が減っている。今家に残っているのは玉藻達三人と家を守るポチ。それと両親に護衛役の三体だけだった。母親はキッチンで兵藤家の風邪の時の定番である生姜入りの味噌汁を作っており、玉藻達が作り方を習っている声が聞こえてきた。

 

「あら、だいぶ参っているわね、坊や」

 

「あ、メディアさん。締切は大丈夫なの?」

 

「……こういう時は”お見舞いに来てくれたんだ”って言うものよ、坊や」

 

 ノックをして入ってきたメディアはお見舞いのフルーツを机の上に置くと目を逸らしながら椅子に座る。彼女のマンションでは担当の藤村大河が悲鳴を上げていた。

 

「せ、せんせー! 締切今日ですよぉぉぉぉぉっ!?」

 

 

 

「それにしても自己管理がなってないわ。貴方は多くの部下が居るんだからしっかりなさい。だいたい人の上に立つものというのはね……」

 

「……話が長いなぁ」

 

「こら! 人の話は大人しく聞くっ! 坊やはもう少し礼儀というものをね……」

 

 メディアは一誠に上に立つ者の心構えを伝授した後、喉と頭の痛みを抑える様になる魔術を掛けて帰っていった。メディアの術で少し楽になってきた一誠が退屈していると再びドアがノックされる。ドアがゆっくり開いて母親の護衛役のありすとアリスが入って来た。

 

「お兄ちゃん、大丈夫? オバさんには玉藻達が付いてるからお見舞いに来たわ」

 

「あたしが絵本読んであげるっ!」

 

 ありすは無邪気な笑みを浮かべながらベットの横に座ると絵本を広げる。そのまま一誠の返事も聞かずに絵本wの読み出し、アリスもその横に座ると絵本を覗き込む。結局、最後まで読む前に二人は一誠にもたれ掛かってスヤスヤと寝息を立てだした。

 

「……やれやれ、手間の掛かる妹みたいだよ。会った時は俺と変わらなかったのにさ」

 

 一誠は意味がないのが分かっていつつも二人を椅子に寝かせて毛布を被せる。フッと笑いながら二人の頭を撫でていると違う二人が入ってきた。

 

「……ふむ。宴か……仕事が一段落したから様子を見に来ればお邪魔したかの?」

 

「ごめんなさい……。市、お邪魔だった……? デー…仕事が終わったから寄ったのだけど……」

 

 酒樽を担いだハンコックと着飾った市はロリコンを見る目を二人に向けると部屋から出ていった。

 

 

 

「……そう。誤解なの……」

 

「妾は分かっていたぞ。お主は巨乳派だとなっ! ……はっ! 妾、ピンチ?」

 

「……今日は疲れたなぁ。ああ、お腹減ったや。それでさっきから女性陣ばかりお見舞いに来るのは何でかな?」

 

「む? お主は女ばかりの方が嬉しいと思って気を利かしたに決まっておろう。故に仲間内で取り決めをしたのじゃ。お主は色魔だから見舞いは女だけで良い、とな」

 

「レイナーレは書類仕事で忙殺されそう……。だから残った女の子で……あ、ハンコックは”子”じゃないわね……」

 

「お主も言うようになったの、市。……まあ、良い。食事が来たようじゃし、沢山食べて早く治せ」

 

ハンコックと市はありすとアリスを背負うと部屋から出ていき、其れと入れ替わるかの様に食事がやって来た。

 

 

「はい、一誠。とりあえずお粥と味噌汁を作ってきたわ」

 

「有難う、母さん。……ん、おいし」

 

 一誠は食欲がないのか五人前だけしか食べず、再びダルさに負けて眠ってしまう。その顔を母親が心配そうに見ていた。

 

「……ふぅ。早く良くなりなさい、一誠。皆心配してるわよ」

 

 母親が向けた視線の先には取り決めで姿を現さなかった男性陣や異界への入り口から口裂け女達が一誠に対して心配そうに視線を送っていた。

 

 

 

 

 

「……久しぶりだね、ミリキャス」

 

「父様っ! 母様っ!」

 

「元気そうで何よりだわ。……本当に良かった」

 

 伯母であるリアスがアザゼルと共謀してテロリストの親玉であるオーフィスを裏切り者から匿った事でヴァルハラに人質に出されたミリキャスは久々に会う両親の姿を見るなり飛び付いて行く。今日は外交という面もあるので私服ではなく仕事着としているメイド服姿のグレイフィアでさえ仕える男爵家の跡取りとしてではなく息子として接していた。

 

「……さて、もう少し離れると致しましょう」

 

 一応見張りとして付いてきたガウェインは親子団欒を邪魔しないようにと少し距離を取る。だが任務は忘れていないのか少しでもおかしな行動をしたら即処断出来るようにとガラティーンに手を掛け、職務をさぼって携帯に目をやっている様に見せ掛けながら三人の様子を伺っていた。

 

「くっ! まさか私より先にトール(御義父)様の腕の中で安心して眠るとはっ!」

 

もしかしたら職務怠慢なのかもしれない。写メで送られてきた産まれたばかりの我が子は祖父であるトールの腕の中で安らかに眠っていた。なお、子供の名前はアルトリア。金髪碧眼の可愛らしい大食らいの娘である。

 

 

「此方の生活はどうですか? 私達が至らないばかりにミリキャスには辛い思いをさせています……」

 

「大丈夫です! 皆さん良くして下さりますし、悪いのは父様ではなく裏切ったリアスですよ……」

 

「ミリキャス……?」

 

 サーゼクスは息子の言葉を聞き間違えたのかと固まる。あれほど慕っていたリアスに対しミリキャスは態度を一変させていた。そう、まるで憎々しい敵に対するかの様に。

 

「……テロリストの親玉を辞めさせる為って言い訳していたらしいですが、裏切りは裏切りです。オーフィスの蛇で力を増強させたテロリストによってどれほど被害が出たと思っているんですか! 辞めさせる? 辞めた後で大人しくしている保証は? それなら同士討ちさせて弱った所を袋叩きにしても良かったじゃないですかっ! なのに、下手に懐柔策なんか取るから僕は……」

 

「ミリキャス……」

 

 ミリキャスは涙をポロポロ涙を零し、サーゼクスとグレイフィアは例えガウェインが居なくてもリアスの弁護をする訳にはいかなくなった。

 

「お二方、そろそろ宴会の準備が整ったようです。御子息は私が見ていますのでお急ぎ下さい」

 

「あ、ああ……。ミリキャス、また会おう」

 

「手紙、書きますから……」

 

 二人は名残惜しそうに息子に声を掛け宴席へと向かう。既にミカエルとシェムハザとセラフォルーは席に着いており、居心地悪そうな顔をしていた。二人が到着したのを見たオーディンは酒盃を掲げ乾杯の音頭を取る。

 

「さて、昨年度は一部の者の暴走もあって非常に大変であったが、ハーデス殿の部下である兵藤一誠君の活躍もあって見事に解決出来た。今年度も未だに問題は残っているが、再び愚か者が暴走しない事と今ある問題が全て解決する事を願い…乾杯っ!」

 

 その宴席はまるで針の筵。三大勢力の代表者は押しつぶされそうな威圧感の中料理や酒を口に運ぶが全く味を感じない。普段は騒ぐのが好きなセラフォルーでさえも魔法少女の格好すらしていなく大人しくしていた。そんな中、一人の戦乙女がオーディンに何やら耳打ちし、オーディンと彼から小声で何やら聞かされたハーデスの雰囲気が変わった。そう、まるで獲物を前にした肉食獣のような雰囲気に……。

 

 

「ミカエル殿。同盟によって存在意義を奪われて脱走したエクソシストと赤龍帝の不調を知って逆恨みを晴らそうとした愚かな悪魔共が衝突し戦いになったそうじゃ。どうも聖剣のレプリカを手にしたエクソシストが勝ったらしいが、その中に枢機卿が三人居たとか」

 

《フォフォフォ。さてさて、困った事になったな》

 

 

 深刻な内容とは裏腹に二人は非常に楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わあ! 可愛らしい娘さんですね、先輩」

 

「こらこら、今のお前は冥府の所属だろう。それとそう言うお前の所はどうなんだ? 旦那とは上手くヤって居るか?」

 

「それはもう! ランスロットさんは普段は優しいのですが夜になると狂戦士の様になって……えへへ~」

 

「あうー」

 

「おっと、そろそろ母乳の時間だな。ふふふ、沢山飲むのだぞ、アルトリア」

 

 此方の二人も非常に楽しそうだが宴席とはうって変わって和やかな雰囲気だった。




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百話

「いやぁ、ご主人様の体調も回復してきましたし、アポロン様から普通の食事を摂る許可を頂きました。今日はお鍋ですねぇ♪」

 

 スーパーの帰り、一誠の母とありすとアリスの四人で買い物に出掛けた玉藻はエコバック片手に上機嫌で鼻歌を歌う。最近ずっと病人食ばかりだった一誠の為、今日は腕によりをかけて鍋を作ろうと張り切る玉藻を見た母親は楽しそうに笑い、ありす達は先ほど強請って買って貰った焼き芋を食べながら歩いていた。だが、角を曲がれば家が見えてくるといった所で玉藻の足が止まり狐耳が動く。

 

「……わたし(ありす)

 

「ええ、わかってるわ、あたし(アリス)

 

「え? え? ちょっと、何!?」

 

 母親が状況を理解する前にありすとアリスは玉藻を残して『名無しの森』へ避難し、玉藻が身構えた所で角から一人の老人が現れる。その顔には深い皺が刻まれ弱い八十をとうに超えている事が分かるが、首から下は顔とは裏腹に逞しく張りがある鍛え抜かれた肉体だ。そしてその体には祭服を纏っていた。

 

「急な来訪申し訳ない。私の名はヴァスコ・ストラーダ。まず言っておきますが此方に争う気は……」

 

「ちょいさっ! ……ふぅ、いい仕事しましたねぇ」

 

 ヴァスコ・ストラーダ。デュランダルの元使い手で同盟に反対するエクソシストが起こしたクーデターの首謀者の一人。玉藻の飛び蹴りをガードしたまでは良かったがそのまま押し切られ気絶させられた彼は、M字開脚した状態で縛られてイリナとゼノヴィアが同居するマンションに放り込まれた。

 

 

 

「私はエクソシストの権利と主張を守る! 例え全ての悪魔と吸血鬼が邪悪でないとしても、滅ぼすべき悪は必ず存在する! 現に魔王の身内と堕天使の前総督は無限龍を匿ったではないかっ! ここまで問題が起きたならば同盟を解消すべきだっ!」

 

 何故か拘束がどうやっても解けず、仕方なくそのままの状態で意見を主張する事となったヴァスコは声高々に叫ぶ。それは悪魔や吸血鬼に家族を殺された者が殆どを占めるクーデターのメンバーの代表としての主張。だが、やはりM字開脚状態なので締まらない。

 

「……そうですか」

 

 話を聞き出したミカエルは彼の下半身を隠した状態で話を聞く。なお、彼らは戦争ではなくD×Dのメンバーに挑戦をしに来たのであって、それを伝える前に全員が殺られればなんとか参加していなかった他の者まで止まらず泥沼になり、最後にはエクソシストが絶滅するだけと判断して事前に伝えに来たらしい。結果は見ての通りだが……。

 

「え~、兎に角どうしますか?」

 

 シリアスな空気など存在せず、ミカエルは冥府や北欧に対する対処よる胃痛を堪えながら集まったメンバーに相談する。結局、勝負を受ける事にした。

 

 

 

 

「……ふ~ん。で、行きたいの? ランスロット」

 

「ええ! 有名な剣士二人と手合わせしてみたいですし、ロスヴァイセに格好良い所を見せたいですから!」

 

「俺達も久々に暴れたいのですが……」

 

 一誠も独立部隊とはいえD×Dのメンバーの一人であり、面白そうだから誰か参加させろとハーデスにも言われたので誰を参加させるか話し合っていた。

 

「ふふふ、彼らって悪魔や堕天使に対する復讐心とかが今回の要因なんでしょ? まあ、動機は分からなくもないけど、騒ぎの隙を狙ってリゼヴィムに暴れられても迷惑だし俺も異論はないよ。そして、同盟が気に入らないから同盟の象徴に喧嘩売るならさ……神に与えられた神器で人生を狂わさせられた者達の怒りを神の下僕の彼らにぶつけても良いよね?」

 

  一誠が笑みを浮かべると室内の気温が一気に下がり知能の殆どない下級霊達が姿を現す。それは一誠が口にした神器で人生を狂わさせられた者達の霊魂。彼らは怒りをぶつける正当な理由を与えられて歓喜の声を上げる。一誠は体が冷えたのか小さなクシャミをした。

 

「……テメェら、ご主人様の風邪が悪化したら未来永劫地獄の釜にくべるぞ、コラっ! ささ、ご主人様。今すぐお布団に入りましょう。なんなら玉藻めが抱き枕に……」

 

「それはそれで魅力的だけど絶対に其処で終わらないし、風邪が感染ったらいけないから駄~目っ!」

 

 一誠は服を脱ぎ捨てて抱き着いて来た玉藻を引き剥がすとベットに潜り込む。廊下には脱ぐ一瞬前に蹴り飛ばされて追い出されたランスロットと元円卓の騎士が転がっており、小猫の手によって運び出された。

 

「……馬鹿ばっかです」

 

「にゃはは。仕方ないわよ。生前が真面目すぎたから第二の人生を謳歌する気なんだからさ」

 

「じゃあ、姉様は真面目になるんですか?」

 

「さあ? それはどうだろうかにゃん」

 

 黒歌は小猫と共に元円卓の騎士達を運び出す。客間に放り込んだ頃にロスヴァイセがランスロットを迎えに来た。

 

「あの、ランスロットさんを迎えに来ました」

 

「はいはい、お疲れ~。あ、そっちも鍋なんだ」

 

 黒歌がロスヴァイセが手に提げた袋に目をやると鍋つゆやネギやニンニクやスッポンやドリンク剤が入っており、ロスヴァイセはランスロットを担ぐと家まで転移していった。

 

「ふふふ、たまには寝込みを襲うってシチュエーションも……あ、あたすったら人前で何をっ!?」

 

「……今更でしょ。さっさと子供作りなさい」

 

「ええ、最初は女の子が良いかなって思います。あっ! 黒歌さんに子供が出来たら恋人になっちゃったりして」

 

「あはは、それも面白いかもにゃん♪」

 

 

 

 

 

「……ねぇ、黒歌。俺って自分勝手かな? 敵には厳しいのに自分や身内には甘いしさ。ほら、俺だって恨み買うような事したり関係ない民衆を巻き込むような事態に発展させてるじゃん」

 

「馬鹿ね。何を今更言ってるのよ。誰にも彼にも平等なんて機械じゃあるまいし。それが人間ってもんだにゃん。ほらほら、次は前」

 

 黒歌は一誠の汗を拭きながら体をすり寄せる。唇が触れるか触れないかの距離まで顔を近づけ手探りで体を拭いていった。

 

「……さて、次は下ね」

 

「んじゃ、よろしく」

 

 一誠は躊躇なく下を全て脱ぐとベットに寝転がる。黒歌はじっくりと手を這わす様に一誠の汗を拭いていき、最後には上から覆い被さった。

 

「私は霊体だから風邪感染らないし、こうやって密着するだけなら問題ないわよね?」

 

「……それで終わったなら良いけどね」

 

「其処は一誠の……旦那様次第って事で♪」

 

 

 

「はいはい、独り占めは駄目ですよ? さて、ご主人さ……ア・ナ・タ♪ 絶対に添い寝で済ませるから良いですよね?」

 

《あっしもご一緒させて頂くでやんすよ、ダーリン!》

 

「うん、良いよ。じゃあ、早く来なよ」

 

 一誠は布団を捲ると二人を招き入れ、四人揃って寝息を立て始める。三人は最初に言った通りに何もせず、一誠も手を出さなかった。

 

 

「……有難うね。ちょっと風邪で気が弱まっていたみたい」

 

「いえいえ、気にしないで良いですよぉ」

 

《そうそう。風邪が治ったらたっぷりと虐めて頂くでやんすから》

 

 

 

「でも、風邪引いたのが私の順番の日だから溜まったのは全て貰うわよ?」

 

「なんですとぉ!?」

 

《ぐっ! こうなったら治るまで気絶させて……》

 

 

 

「さて、このまま見学すべきか襲って黙らせるべきか追い出すべきか……どうしよう?」




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さて、また文字が何故かくっつく 編集では離れてるのに


あ、フェアリーテイルの二次始めました


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百一話

何度も行ったが赤龍帝の籠手って設定盛りすぎじゃね? 数万倍で漸く互角や数十億倍でようやく圧倒とか人間よりも悪魔は基本能力が高いのに英雄派の雑魚でさえ少しは称戦える。せめて元の二倍ずつ増えていくとかだったらさ


「……で、それを俺に教えてどうする気?」

 

一誠はミカエルから聞かされた話に対し興味なさそうに返事をする。今回のクーデターは積もりに積もった不満が爆発した事で起きたのだが、首謀者であるヴァスコらの目的は其れだけではなかった。

 

「裏切り者の炙り出し、ねぇ。で、そういう目的だから少しは手加減して欲しい、と」

 

「は、はい。彼らの気持ちをくんで下さいませんか」

 

「でもさ、裏切り者を炙り出すのは良いとして、裏切り者が居なくても何時かは起きてた事態だよね。それに、此方側が出す悪魔相手に向こうは殺す気で来るだろうし、手加減してたら痛い目を見るのは此方側だ。だからさ、三十分あげる。ランスロットとかの剣士連中も正々堂々とした戦いをしたいようだし、部下の望をかなえるのも主の責務だしね。それに、アレも貰えたしさ」

 

 一誠は指を三本立てながら後ろに目をやる。其処には布に包まれた剣が置かれていた。ミカエルは一誠の返事に安堵して胸を撫で下ろす。だが直ぐにその顔が青ざめた。彼が見た一誠の笑みは残酷極まりないものだったからだ。

 

「でも三十分が過ぎたら容赦しない。殺しはしないけど、戦士としては死んでもらうよ。もしかしたら普通の生活も送れなくなるかもしれないけどね」

 

 

 

 

「てな訳で戦いの時間は三十分だけど、更にデュランダルの前任者は弟子に押し付ける事にしたから。……我が頼もしき騎士達よ。三十分で今回の主犯の一人であるエクスカリバー使い(エヴァルド・クリスタルディ)の首を取ってこい。……あ、出来たら生かしておいてね」

 

「はっ! 必ずや時間内に仕留めてみせましょう!」

 

 ランスロットと元円卓の騎士の騎士達はその場で恭しく跪く。その前に剣が差し出された。

 

「では、信頼の証としてこれを授けよう」

 

「これは……有り難き幸せ!」

 

 

(あ~、このノリ向いてないわ。でも、最上級死神ならこういう話し方に慣れておけって言われたしなぁ)

 

 

 

 ランスロットが主君(一誠)から再び剣を賜って感動し、一誠が騎士向けの話し方に辟易としている頃、ゼノヴィアは訓練場で黄昏ていた。彼女が先ほどまで鍛錬をしていた場所はデュランダルによって徹底的に破壊されており、今は心の鍛錬の為に瞑想を行っているのだがどうも集中できない。

 

「どうかしたのかよ? ゼノヴィア」

 

「いや、今度の戦いなのだが勝てるかどうか不安でな。ヴァスコ(猊下)は歴代最強のデュランダル使い。それを三十分以内に倒すなど出来るのだろうか……」

 

 悪魔側の参加者に選ばれたゼノヴィアは内心では抗議したかったが、今のゼノヴィアの地位は下級悪魔で一誠は最上級死神。今の冥府と冥界の関係を考慮しなくても聞き届けて貰えないどころか不敬行為として主であるソーナ諸共処罰されて戦いに参加させて貰えなくなる。どうにかヴァスコ達を無事に倒せないかと苦悩しているゼノヴィアの後ろからタオルを首に掛けた匙がやって来た。

 

「出来るかどうかじゃなくて、する! 俺達はそうして来ただろ? 会長や俺達を信じろ。んで、終わったら何か美味いもん食いに行こうぜ」

 

「ああ、そうだな。元からそれしか無かった。……ただ、少しだけ勇気が足りないんだ。なぁ、匙。少し目を瞑ってくれないか」

 

「あ、ああ……」

 

 匙はゼノヴィアに言われるがまま目を瞑る。この展開で考えられるのはキス。匙は内心ドキドキしながらも平成を装おいその時を待つ。やがて顔に何か近付いてくる気配を感じ、

 

「えい!」

 

「ぶはっ!?」

 

 額に衝撃を感じて尻餅を付く。目を開けるとデコピンを放った姿勢のゼノヴィアがニヤニヤ笑っていた。

 

「何だ、キスでもするとでも思ったのか?」

 

「……違うわい」

 

「ははは、悪かった反省しているよ。……そうだな。戦いが終わったら私の初めて(・・・)をあげようじゃないか」

 

「な、なな。……良いのか?」

 

「勿論キスとかじゃなく、君が想像した”初めて”だ。ああ君も初めてなのか? それとも……」

 

 

「それとも、何ですか? 先程から高校生に有るまじき事を話していますが……」

 

「会長っ!?」

 

「いや、これは……」

 

「明日は忙しいですから今日の所はお説教は無しです。でも、終わったらお話を致しましょう。……ジックリと」

 

 ソーナは満面の笑みを浮かべながら去っていく。鍛錬後で体が暖まっているにも関わらず二人の体は小刻みに震えた。そして決戦当日、一誠は玉藻やロスヴァイセと共に観覧席に向かっていた。

 

「もう直ぐ開始時刻だね。ロスさん、準備は出来てる?」

 

「ええ、対策はバッチリです」

 

 今回の決戦は同盟の切っ掛けの地となった駒王街を模したバトルフィールドだ。既にランスロット率いる元円卓の騎士達は武器を手に構えており、ランスロットの目は遥か遠方にいるエヴァルドを捉えている。彼はエクスカリバー使いとして有名で最上級悪魔と戦える程の実力を持っている。コカビエルも彼が居たからこそエクスカリバーに興味を持ったのだ。

 

 そして決戦開始時刻、開始の合図と同時にランスロットは飛び出した。真っ直ぐエヴァルトに向かっていくランスロットの前にクーデターに参加したエクソシスト達が立ちはだかるが元円卓の騎士達が剣を振るって押さえ込む。元円卓の騎士やランスロットは邪魔をするエクソシストと剣を交え、エヴァルドが持つ剣を見て表情を強ばらせる。

 

「それはっ! エクスカリバーっ!? いや、レプリカですね」

 

「左様。貴殿はかの有名なサー・ランスロット殿だな。私は、ぐっ!?」

 

 ランスロットは相手の言葉の途中で切り掛る。その騎士に有るまじき行いにエヴァルトは振り下ろされた剣を防ぎながら顔を顰める。その瞳に映るランスロットの顔は憤怒の将に相応しいものだ。他の騎士も怒りに満ちた表情だった。

 

「……侮辱しましたね。王が国を守る為に振るい、我々が羨望の眼差しをエクスカリバーの模造品を作るなどっ!」

 

「くっ!」

 

 ランスロットはエヴァルトを蹴り飛ばして距離を開けると全身に鎧を纏う。アスカロンを鞘に収めて空いて手には別の剣が収まっていた。その剣が現れた時、エヴァルトの持つエクスカリバーのレプリカが震えだす。レプリカといってもエクスカリバーを元に作られた剣。其れ故にランスロットの持つ剣と共鳴していたのだ。

 

「行くぞ、我が相棒よ!」

 

 其の剣の名はアロンダイト。エクスカリバーの姉妹剣にしてランスロットが愛用した剣。そしてガウェインの弟を殺した為に魔剣となってしまった剣である。だが、アロンダイトはかつての聖剣の輝きを取り戻していた。

 

「はぁぁあああああああああっ!!」

 

 アロンダイトは本来のエクスカリバーと打ち合っても折れなかった程の頑強さを持つ剣。エヴァルトの持つレプリカのエクスカリバーとは格が違い、使い手同士にも大きな差がある。たった一合。たったの一合でエヴァルトの持つレプリカのエクスカリバーは刃を切られ、エヴァルトの右手右足が鮮血を撒き散らしながら飛んで行く。其れを見て固まったエクソシスト達も元円卓騎士達によって手足を切り飛ばされ、ランスロットがアスカロンを抜くと刃が多頭の蛇の様に変化して飛ばされた手足を細切れにする。こうなるとフェニックスの涙でも治療不可能だ。

 

 

「あはははは! あはははははは! 感謝してよね、ミカエルさん。これで彼らは二度と戦えない。だから今回の様な事を起こして命を落とす事もないし、今回は大人しくしていた奴らも今回の事を知ったら動かないでしょ。彼らには感謝しなくちゃね。だって、良い見せしめになってくれたんだから。あはははははははは!!」

 

 一誠は観覧席で大声を上げながら笑った。その視線は勝利の雄叫びを上げるランスロット達が映る画面があり、ロスヴァイセはその映像を見て黄色い歓声を上げる。そして約束の時間まで残り二十五分。フィールドの端では巨大な粘体の周囲を無数の音量が飛び交い、その隣には多くの棺桶に囲まれた大男が鼻提灯を出して眠っていた。




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百二話

「いやー、思ってたよりも早く済みましたねぇ。制限時間まであと二十分ですか? 終わったら宴会ですね!」

 

「では、私が何処かの店で予約を取っておきましょう」

 

 エヴァルトとその部下達はものの五分で破れ、玉藻とロスヴァイセはグルメ雑誌を広げる。冥府の代表として来ている身からすれば有り得ない行為であるにも関わらず一誠は注意せず、ミカエル達も何も言わない。それが今の冥府と三大勢力の力関係を物語っていた。

 

「でもさ、アロンダイトを聖剣に戻しちゃったのは失敗だったかな? 湖の乙女(育ての母)の祝福の影響か狂化を打ち消しちゃってるよ。あのままでも十分強いけど、野獣のような凶暴さがないんじゃ”憤怒の将”じゃないよね」

 

「ランスロットさんはベットの中では野獣ですよ? 一度始まったら夜が明けるまで苛められていますから、きゃっ♪」

 

「ご主人様もぉ~、苛めてください、って頼んだら私が泣いても苛め続けますしぃ、優しくしてください、って頼んだら本当に優しくしてくれるんですよぉ。どっちにしろ睡眠不足になりますがお肌は艶々です♪」

 

 ロスヴァイセは頬に手を当てながら昨晩の情事を思い出し、玉藻は玉藻で一誠の膝の上に横向きに座ると体を摺り寄せながら首筋を舐める。画面にはゼノヴィア達の戦いが映し出されていたが三人は特に興味がなさそうにしていた。

 

「そういえばサーゼクスさん。家の方は大変だったね。確か放火犯の一人は奥さんの元部下の遺族だったんだって? 何人も同時に放火するなんてさ、無能姫といい、奥さんといい、よほど恨まれてたんだね。しかも、お母さんは”大王家の者を男爵家の嫁として置いておくなど許せん!”、って意見が出て離婚の末に辺境に追いやられてさ」

 

「……はい。父もだいぶ塞ぎ込んでいる様で……」

 

 サーゼクスは一誠に見られないように拳を握り締め唇を噛み締める。爪が食い込んだ手の皮は破け、唇が噛み切られた事で血が流れ出す。そして何時も隣に居るグレイフィアはミリキャスとの面会後に冥府が用意した幽閉先に送られてこの場所には居なかった。

 

「それにしてもロスヴァイセも助かったね。あのまま無能姫の眷属になってたらさ、騎士の様に崩れてきた瓦礫で片足を失った上に右手がマトモに動かなくなったり、僧侶の様に顔に酷い火傷を負った上に精神を病んで神器が使えなくなったり、もう一人の僧侶の半吸血鬼の様に両目を失明……彼の場合は望みが叶ったって言っていいかな? なにせ神器の力も失って、もう誰も停められないんだからね」

 

「……一誠さん。流石に女の子が顔に火傷を負ったのを茶化すのは……」

 

「裏切り者だし、死んでないんだから別に良いと思うよ? 彼女の選択で死んだ松田も死ぬよりは顔にやけどを負うほうを選ぶだろうし……やっぱ駄目かな?」

 

「ん~、やっぱり駄目ですかねぇ? じゃあ、今日は罰としてお一人で寝て頂きます。流石に厳しく致しませんとご主人様の腐った性根は治りそうにありませんから。そ・の・か・わ・り、帰ったら夕食までとお風呂でたぁっぷり可愛がって頂きますね」

 

 玉藻は一誠の首に手を回して強く抱きつく。ゼノヴィアがヴァスコに剣を弾き飛ばされた頃にはスヤスヤと寝息を立てていた。

 

 

 

 

 

「強くなったな、ゼノヴィア。力で押し切るという長所を活かしたまま、その上で牽制の為の技術も学んでいる。それによってデュランダルの特徴である破壊力がより活かされているな」

 

「いえ、貴方にはまだ敵いません。ですが! 私は今日貴方を超える!! 行くぞ、匙!!」

 

「アレをやるのかっ!? ……ぶっつけ本番だが仕方ねぇ!」

 

 ゼノヴィアがデュランダルを高く掲げオーラを放出する。それに合わせて禁手化した匙が黒炎を聖剣のオーラに放つと聖剣と邪龍という正反対の力同士が反発し合い拡散しそうになる。だが、ゼノヴィアが腰に差した五本のエクスカリバーを一本にしたエクスカリバーからもオーラが放たれ、拡散しそうな二つのオーラを包み込んで押さえ込む。

 

「デュリオ! これだけじゃ足りない! お前の力も貸してくれ!!」

 

「マジっすかっ!? あ~も~! どうなっても知らねぇっすよ!?」

 

 デュリオも神器を発動し聖なる力の篭った雷撃をオーラに放つ。やがて聖剣・邪龍・神器の三種のオーラは混ざり合い、それを纏うデュランダルの刃が砕け散ったかと思うとオーラによって形成された新たな刃が出現した。

 

「行くぞ! これが私の…私達の全力の力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「成る程。ならば私も全力で相手しよう!!」

 

 ヴァスコもレプリカのデュランダルのオーラを全開にさせる。彼から放たれるオーラもそれに呼応するように増大し、ゼノヴィアとヴァスコは同時に動く。そのコンマ一秒後、二人の体は交差しゼノヴィアは膝をつく。前のめりに倒せそうになるのを剣を杖がわりにして堪え、対するヴァスコは悠然と立っている。

 

「……見事だ」

 

 その刹那、彼の持つデュランダルのレプリカが粉々に砕け散り、彼は前のめりに倒れる。今回のクーデターにおける三人の首謀者の内の二人にしてエクソシスト側の大将二人が負けた瞬間だった。

 

「……勝った! 勝ったぞぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 ゼノヴィアは勝利の雄叫びを上げる。だが、残ったエクソシスト達は未だ剣を構えていた。残っている者達の中の一人が殺意を剥き出しにしながら向かってくる。

 

「まだだ! まだ終わらんよ!!」

 

「ちっ! しつけぇな!」

 

匙がゼノヴィアを庇う様に立ち塞がったその時、デュリオの周囲に無数のシャボン玉が出現した。

 

「はいはい、ここは俺に任せて置いといて。もう、皆納得してくれると思うから……」

 

 このしゃぼん玉は彼の神器によるもの。触れた者の幸福な思い出を蘇らせる力を持つ。

 

 

 

「今、三十分過ギタ。約束ノ時間ダ」

 

「キシシシシ! 悪ぃなあ! お前らの出番はもう終わりなんだよ」

 

 そしてそれは上空から舞い降りた粘液の体を持つドラゴンと長い喉に縫い目のある大男の出現によって霧散した。ドラゴンの体からは常時粘液がこぼれ落ち、落ちた粘液は意思を持つように蠢きながらドラゴンの体に戻っていく。そして大男の周囲の影から無数の棺桶が出現し、中からアザゼルや英雄派が出てきた。それと同時に一誠の声が周囲に響き渡る。

 

『いやいや、残念だよ。時間内に決着が付けば良かったんだけど敵はまだやる気みたいだし俺も戦力を投入せざるを得なかった』

 

「ちょっと待ってくれ! あのしゃぼん玉の力さえあれば戦闘は終わる!」

 

『でも、中には憎しみを忘れられない者も居る。俺は常に人命優先(・・・・)なんだ。一人でも多くの人命を助ける為にも僅かな可能性も考慮しなきゃ。さて、実験…ゴホン! 戦闘を開始する前に二体を紹介しよう。男の名はゲッコーモリア。今まで忘れて…出し惜しんでいた『怠惰』の将さ。そしてもう一体はシャドウ。サマエルのオーラその他諸々から生まれた怨霊だけど、今はグレンデルとクロウクルワッハとドライグの魂の欠片を食わせて変化しているよ。大丈夫、二体の許可はとっている』

 

『……相棒。俺の許可は? てか、いつ削ったっ!?』

 

『じゃあ、実験開始!』

 

 ゼノヴィア達は強制的に転移され、一方的な戦い(蹂躙)が始まろうとしていた

 




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百三話

「貴方は正気ですかっ!? 何故この様なことが出来るんですっ!!」

 

 ミカエルは映像を見ていて我慢できなくなったのか立ち上がって怒鳴る。シェムハザやサーゼクスも怒鳴りたいにを我慢しているのは丸分かりで、それでも一誠は余裕を崩さない。ただ、玉藻は蔑んだような視線をミカエルに向けていた。

 

「労働者を使い捨てにするようなブラック企業の社長が偉そうな事言うんじゃねーですよ。貴方、エクソシスト(彼ら)に対してなにかケアしました? 彼らは今まで信じていたものを否定され、生きていく糧を失い今回の様な強硬手段に出たのですよ。せめて別の道を指し示すとかの処置を取っておけば此処までの事態にならなかったんですけどねぇ」

 

「別に良いよ、玉藻。俺は自分の性根が腐っている事も、この光景が吐き気を催す邪悪である事も自覚している。でもさ、俺は人が死ぬのを防ぎたいんだ。……死んだ後も人は苦しむからね。だから俺は幾らでも泥を被るさ。君達が分かっていてくれれば其れで良い」

 

 一誠は呟きながら映像に視線をやる。其処はまさに地獄絵図だった。

 

 

 

「総員、撤退! 建物の中に避難しろっ!」

 

 龍の姿となったシャドゥから滴る粘液に触れた者は瞬時に痩せ衰える。いくら攻撃を仕掛けても一向に効果がないと判断したエクソシスト達はゆっくりと歩いて近付いてくる者達を先に始末しようとするも、相手は堕天使の前総督や英雄の子孫。戦意が既に折れかけていた彼らでは敵うはずがなかった。

 

「キシシシシシ! テメェらが悪ぃんだぜ? リゼヴィム(テロリスト)に唆されてこんな騒動を起こしやがって。鎮圧している間にテロが起きたらどうすんだよ。相手は無関係な人間も巻き込みやがんだ」

 

「放ッテオケ、モリア。此奴ラハ自分達ノ事シカ考エテオラヌ。何人巻キ込マレテモ興味ガナイノダ」

 

「けっ! こんな雑魚の相手をさせるとはよぉ。まぁ、良いや。殺すなって言われてるから死体は手に入らねぇが、マユリが作ったクローンの肉体が有るから十分だな。影だけ頂くぜぇ?」

 

 ゲッコーモリアはエクソシストを押さえつけると影に鋏を伸ばす。すると影は根元から切り落とされエクソシストは気を失った。

 

 

 

「影とは生まれた時から共に居る分身の様な物。それを奪い、魂のない肉体に入れる事で肉体の力と影の持ち主の技術と知識を手に入れる。それが死従七士が一人『怠惰』の将”ゲッコーモリア”。言っておくけど影を奪われた」人は太陽の下に出さない方が良い。……消滅するからね。本当は人間相手にこんな事したくないんだけど、きっと不満を持ったまま潜伏している奴らはいる。此処で見せしめにしておかないと大勢の犠牲者が出掛けないんだ」

 

「……申し訳御座いませんでした」

 

 一誠の言葉を聞いたミカエルは頭を下げ、サーゼクス達も怒ろうとした自分達を恥ずかしく思う。そして、

 

 

 

 

(ぷっぷ~! 信じてやんの。いや、大部分は本当だけどさ。ちょっとしんみりした空気出すだけで大人しくなるんだから馬鹿だよねぇ)

 

 気が付かれないように舌を出し、内心で爆笑する一誠であった。そして決着がついたその時、無数の邪龍が出現した。明らかにリゼヴィムの差金だ。

 

 

「……絶対馬鹿だろ、アイツ」

 

「ロスさん、結界発動」

 

 予め予想していた一誠はロスヴァイセに用意させていた結界で邪龍達を閉じ込める。そして一誠達は呆れたような視線を画面に向けていた。

 

 

 

シャドゥ(龍の天敵)が居るのに、ドライグ級のアホだね」

 

『全くだな。俺の様に世界トップレベルにアホ……相棒っ!?』

 

 それから先は一方的な虐殺。シャドゥの体から伸びた触手は邪龍を包み込む様に広がり、捕まった邪龍は一気に骨と皮だけになる。苦悶の声が周囲に響き渡り、やがて全ての魂は一誠に回収された。

 

 

 

 

 

《さて、今回の一件は明らかに天界の手落ちじゃな。やれやれ、貴様らと同盟を組んでから厄介事ばかりだ》

 

 ハーデスはミカエル達に嫌味を言いながら後始末の話し合いを続ける。今回の話し合いで決まった事はエクソシスト達の処遇。ゲッコーモリアが奪った影は返上せず、もはや日常生活もままならない彼らの世話は当然の様に天界側が引き受ける事となった。

 

 

 

 

 

「は~い。じゃあ、今日は無礼講ってことで宜しく」

 

 その頃、一誠達は祝勝会を開いていた。場所は冥府にある一誠の城の大広間のテーブルに料理が並べられバイキング形式で各自料理を選んでいた。

 

「あたしケーキが食べたいわ」

 

「わたしも!」

 

「ほらほら、口元にクリームが付いているわ。ああ、服に付けちゃって。向こうでお着替えしましょうねぇ♪」

 

 メディアはニコニコしながらありすとアリスを衣裳室にに連れて行こうとする。其処にはメディアが用意したフリフリの衣装が何時の間にか収められていた。

 

 

「ランスロットさん。はい、あ~ん」

 

「ロスヴァイセも、あ~ん」

 

『リア充共くたばりやがれ。……あ、隊長は一度くたばってるか』

 

 ランスロットとロスヴァイセは人目もはばからずにイチャイチャし、部下の元円卓の騎士達はハンカチ噛みつつ酒を飲む。だが、数人の騎士は既に女性死神とできていて宴を抜け出してデートしていた。

 

 

「俺は飲めねぇんだが……」

 

「僕も飲めないんだけどね」

 

「なんじゃ、情けない事よなぁ」

 

 エクボとバイパーは酒を飲めないので料理を食べに行きたいが既に酔っ払っているハンコックに捕まって抜け出せない。ちなみにエクボの部下の悪霊やバイパーの部下の幻覚を得意とする霊達は上司を放っておいて存分に呑み喰いし、ハンコックの部下の女性陣も相手が居る者はイチャイチャし、非リア充はハンカチ噛みつつ自棄酒を飲み干した。

 

 

「……下らないネ。私たちは研究室に戻るヨ、ネム」

 

「はい、マユリ様」

 

 

 

 

 

《あひゃひゃひゃひゃ! (た~の)しいでやんすねぇ! そぉれ、もふもふもふもふ!》

 

「あにゃぁっ!? 誰、ベンニーア(この子)に酒飲ましたのっ!?」

 

「……う、うにゃぁぁぁぁ」

 

 臨界を超えて酒を飲んだベンニーアは暴走。黒歌と小猫に抱きつくと猫耳をモフりまくる。その手の動きはまさにテクニシャンで黒歌と小猫は快楽の海で溺れる。ちなみに巫山戯て酒を飲ましたグレンデルはベンニーアに心の傷を抉られて、同様に古傷を抉られたクロウクルワッハと共に膝を抱えて蹲っていた。

 

 

 

 

 

「ご主人様。こうして玉藻とご主人様だけになるのは久し振りですね」

 

 その頃、一誠と玉藻は宴を抜け出してテラスに来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、何時も他の者がいますからね。少し寂しいのですよ?」

 

「わ、私は別に寂しくなんかないんですからねっ! でも、ご主人様が二人っきりになりたいって言うんなら……」

 

「私が申し訳ございません。ささ、二人でゆっくり出来る所に……」

 

「あらあら、皆さんがっついていますね」

 

「騒がしい事だ。だが、こういうのも心地よい」

 

「はっ! 私がかっさらっちまっても良いんだろう?」

 

「駄目だよ~? ふわぁあ。眠いしベットに行きませんか?」

 

「あ、あの、久しぶりに頭をナデナデして欲しい…です…」

 

 

 

 何故かまた玉藻が増えた状態で……。

 




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閑話 死神の会議 上

 そろそろ春間近のせいか少々暑くなって来たとある朝、一誠が目を覚ますと身動きが取れなかった。一瞬何者かによる呪術や金縛りかと思ったが、直ぐにその原因が判明する。

 

「……うみゅ」

 

 体の上に玉藻が

 

 

 

 

「ご主人様ぁ……」

 

 二人乗っていた。いや、其れだけではない。

 

「んっ、もっと構いたいのならば許して差し上げます……」

 

 右手にはツンデレ系が、

 

「むにゃむにゃ…おいおい、もっと可愛がっておくれよ」

 

 左手には姉御系が、

 

「旦那様、其処は弱いので……」

 

 右足には淑女系が、

 

「ふふふ、頭を撫でられるのは心地よいな」

 

 左足にはクール系が抱きついている。なお、仰向けになっている一誠の下には不思議系が居て、両脇からのんびり系と真面目系が抱きつき、上に乗っているのは本体と気弱系だ。

 

 

 

「……少し暑いけどもう少しだけ」

 

 体中を包む肉体の感触に心地よさを覚えた一誠はそのまま睡魔に身を任せようとする。まだ覚醒していない頭は睡眠を欲しがっており目蓋が重かったので二度寝が始まり、

 

 

 

《起~き~る~で~や~ん~す~よ~!!》

 

「わっ!?」

 

『な、何事っ!?』

 

 部屋に入ってきたベンニーアによって起こされる。フライパンの裏をお玉で叩いてカンカンというけたたましい音を立てたベンニーアは少々憤慨した様子で一誠達を見ていた。大アクビしながら起き上がった一誠は汗やら何やらで汚れており、ベンニーアは慌てた様子でで時計を指し示す。

 

 

《も~、早くシャワーを浴びて寝癖を直しておいてくだせぇ。あっしはもう着替えていますし、一誠様のローブと仮面もご用意しているでやんすよ》

 

「……用意? え~と、ちょっと待って。いま寝起きで頭が働かないんだ……」

 

 ベンニーアの格好は黒いドレスであり、華やかなパーティ用というよりは特別な儀式用の上品なドレスだ。それを見た一誠は今日何があるかを思い出した。

 

 

 

 

 

 

「……最上級死神の会議?」

 

《ああ、そうじゃ。毎年この時期に行う事になっておっての。貴様はまだ政治には関与していないが、顔出しだけでもしておくべきではないか、との意見が出てな。とりあえず秘書代わりに付き添いの者一人を連れて出席しろ》

 

 其れは生徒会長選挙が終わった数日後の事、ハーデスに誘われたラーメン屋で三十分以内に食べきったらタダになるジャンボラーメンの三杯目を完食した一誠は今まで学生だからと免除されていた会議への出席を求められた。

 

「まあ、最近物騒だし、同盟も組んだしね。・・・・・・そういえば最近ベンニーアちゃんと二人だけで出掛けてないし、あの子の里帰りも兼ねて連れて行こうかな。少し悩みがあるようだから聞いてあげたいし」

 

《まあ、そもそも最上級死神の娘である奴を貴様と結婚させる事は政治的思惑もあったしの。死神だけの集まりなら優先的に連れて行くべきじゃろう。……む》

 

 ハーデスのレンゲから何時の間にかスープが溢れており、又してもマントに醤油の匂いが染み付いた。

 

 

 

 

 

 なお余談であるが、無駄な栄養はすべて霊力に変える術の事が最近、部下の女性陣にバレ、キツく問い詰めらる一誠の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「それにしても是だけ揃うと壮観だな、母さん」

 

「あらあら、そうね」

 

「いや、感想はそれだけっ!?」

 

 漸く身嗜みを整えた一誠が食卓に向かうと既にベンニーアが朝食の準備を終えており、一誠と両親、黒歌と小猫とベンニーアと九人に増えた玉藻が共に食事を摂りだした。なお、両親は玉藻が増えた事に大して驚いておらず、

 

「息子が死神になったり、邪龍が料理番組に出る世の中なのに狐が増えて何が変なの?」

 

「そんな事より、今日は会議なんだろう? 小さい時からの顔見知りばかりとはいえ新人なんだから遅刻はするなよ」

 

 などと平然としており、一誠は両親の異常なまでの適応能力の高さに呆れる反面、そのおかげで自分のことも受け入れて貰えたのだと思う。

 

「……有難うね。こんな俺を受け入れてくれて」

 

「何言ってるの? 親が子を受け入れるのは当然でしょ?」

 

「ほらほら、早く食べなさい。ベンニーアちゃんはもう食べ終えて最後の支度をしているぞ」

 

《ほらほら、早く行かないと遅刻するでやんすよ!》

 

 既に一誠の荷物のチェックも行ったベンニーアは靴磨きも終え、転移用の魔法陣の準備も終わらせていた。

 

 

 

「では、いってらっしゃいませご主人様」

 

「ゆっくりしてくると良いわ」

 

 とりあえずクジで代表になった大元の玉藻と黒歌に見送られながら二人は魔法陣に足を乗せる。すると底なし沼に沈むかの様に二人は魔法陣に吸い込まれていった。

 

 

 

「んじゃ、行ってくるよ」

 

《……行ってくるでやんす》

 

 一誠は笑顔で手を振り、ベンニーアは此処ぞとばかりに体を密着させながらも何処か浮かない顔付きだ。その顔を見た玉藻は何か悩んでいるかのような顔になり、黒歌は軽く溜息を吐く。そして二人が完全に転移すると同時に互いの顔を見た。

 

「仕方のない子ですねぇ」

 

「まあ、色々悩むのはあの年頃の特権にゃ。……白音も最近元気がないし、どうしようかしら」

 

 黒歌が心配そうに見つめる先にはヌイグルミを抱きしめて浮かない顔をする小猫の姿。最近冥界のグレモリー男爵家の屋敷への放火で眷属仲間だった祐斗とアーシアとギャスパーが重傷を負ったというニュースを聞いた時からこの様子だ。一応人質という名目で黒歌と同じマンションで暮らしてるが、彼女にまで危害が及ぶのを避けて兵藤家に居候を始めている。なお、そもそも別の場所で暮らしていた要因である家の狭さだが、

 

 

 

 

「お前は向こう(冥府)で暮らすらしいが沢山孫が遊びに来るだろうし、今狭くては不便だから増築するぞ」

 

 

 との父の言葉によって大勢で暮らせるまでに広くなった。なお、費用は一誠が何か言われる前に負担している。なお、悪魔から搾り取ったお金である事は秘密だ。流石に脅したみたいな事を両親には知られたくないらしい。

 

 

 

 

 

 なお、両親は既に知っていて知らないふりをしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《おお! 久しぶりだなベンニーア。一誠とは上手くいっているのか? 孫の顔は何時見れそうだ?》

 

《……げっ》

 

 会議の会場に着くなり話しかけてきた中年の死神を見たベンニーアは露骨に嫌そうな顔をする。彼の名はオルクス。人間との間にベンニーアをつくった最上級死神であり、娘からは少し嫌われている。

 

「オルクスさん、久しぶりー。孫の顔はもう少し待ってね」

 

《むぅ。まあ、良いとしよう。だが、早く頼むぞ。お前も娘との間に子が出来れば立場がよりしっかりとしたものになるだろうからな》

 

「アハハ、そうだね」

 

 

 

 

 二人は顔を見合わせて笑い合う。しかし、二人を見るベンニーアの顔には陰りが見えた……。

 

 

 

 

 




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閑話 死神の会議 下

《所詮、あっしとは政治絡みでの婚約関係でしかないんでやしょうか……》

 

 ベンニーアは一誠に気付かれないように溜息を吐く。確かに大切にしていてくれているのはわかるし、好意も感じる。数日前もベットの上で何度も気絶するまで可愛がって貰ったばかりだ。でも、それでも彼女の心に巣食う不安は晴れなかった。幼い頃からの付き合いである玉藻や黒歌と違いベンニーアが一誠と出会ってから十ヶ月も経っていない。故に軽い劣等感を感じていたのだ。

 

「ベンニーアちゃん、何処か痛い所でもあるの? 病院行く? 辛いなら休んでても良いよ」

 

《な、なんでもないでやんす》

 

 そしてこの様に優しくされる度に自分に嫌悪しているのだ。お前はなんで彼を疑うような真似をしているのだ、と……。

 

 

《ファファファ。皆揃ったな。では、これより会議を開始する》

 

 そして、不安を感じたまま最上級死神の会議が開始された……。

 

 

 

 

 

 

《そういえば、無能姫……おっと、一応会議では正式名称を使うべきだな。グレモリー男爵家の元次期当主リアス・グレモリーの眷属が放火によって大怪我したそうだが、治安悪化による月々の徴収金に影響は有るのか? プルート》

 

《いえいえ、所詮は男爵家、公爵家ならともかく大きな影響はありませんよ。それにしても獅子身中の虫とはよく言ったものですね。先の戦争で死んだルキフグス家の兵士の身内が使用人に紛れ込んでるとは。まぁ、下級にしてはソコソコやる様でしたが、薬を盛られた所を襲われればどうしようもないですね》

 

《騎士は瓦礫の下敷きになり、半吸血鬼は動揺している所を切りつけられて両目を失い、残った聖女は火に包まれて……もはや哀れみさえ感じますね。まあ、諸悪の根源は我らが期待の星が既に倒しましたけどね》

 

「そうそう、これは余談なんだけどさ、ウチのブイヨセンに偶々手に入れた魂を食べさせたら滅びの魔力っぽい力を偶然(・・)手に入れたんだ。すっごい偶然だよね~」

 

《すごい偶然じゃな》

 

《ええ、偶然が重なりましたね》

 

 ハーデスと最上級死神達は声を揃えて笑う。ベンニーアはその姿をボーっと見ていた。

 

 

 

(ああ、相変わらず腹の中が真っ黒で……素敵でやんすねぇ。味方には甘甘なのに敵は虫ケラ以下の扱い。ああ、惚れ直すでやんすよ)

 

 もう、色々と染められているベンニーア、彼女が一誠を見る目は恋する乙女のものであり、自らの体を抱きしめて身震いしていた。

 

 

 

 

 

 

「ふ~、漸く終わったよ。俺も皆と話し合いをした事はあっても、こういう会議は久々だからね」

 

 会議後、一誠が椅子に座ってグッと背伸びをしているとベンニーアが何も言わずに肩を揉みだした。

 

「あ~、そこそこ。ねぇ、この後はどうする? 時間あるしさ、今日は二人っきりで遊ぼうよ」

 

《あ…あの、あっし、行きたい所が有るんでやんすが……》

 

 ニコニコと笑う一誠に対しベンニーアはモジモジしながら願いを言った……。

 

 

 

 

 

「本当に此処で良かったの? 別にもっと大きな所でも良いんだよ? ……そういや、俺ってこういう所に来るの久々だよ。子供の時以来かな?」

 

 一誠達がやって来たのは遊園地。それも有名な大型ではなく、地方にある小さな所だ。在り来りなアトラクションしか無く、売りが少し大きめの観覧車でしかない。それでも一誠は物珍しそうな顔をしていた。

 

《あの二人とはご一緒に来た事ないんでやんすか?》

 

「うん。黒歌はお尋ね者だったし、玉藻は家でノンビリするのが好きだからさ。だから、こういう所でデートするのは君が最初」

 

《あっしが最初……》

 

「うん。じゃあ、行こうか」

 

 一誠は顔を赤らめて俯くベンニーアの肩に手を置くと軽く抱き寄せ、体をくっつけながら歩き出す。一誠の耳にはよく聞こえなかったがベンニーアは鼻歌を歌い、口元が少し緩んでいた。

 

 

 

『ばぁっ!!』

 

「……え~と、コレはなんだろう?」

 

《一つ目小僧、と思うでやんすが……》

 

 最初に入ったのはお化け屋敷。霊使いで最上級死神と最上級死神と人間のハーフにも関わらず入ったのはお化け屋敷。一つ目小僧歴三十年の(ひとつ)目太郎(めたろう)も困惑だ。カップルが来たので驚かしてやろうと思ったら冷めた態度で返され固まってしまった。

 

「まっ、この人も必死だろうし仕方ないよ」

 

《探り探りやってるのが見え見えでやんしたが、仕方ないでやんすよね……》

 

 そのまま二人は一つ目小僧の隣を通り過ぎていった。

 

 

「……チクショー!!」

 

 

 

 

 

「素材は安物だけど味はそれなり、かな?」

 

《ここのハンバーガーそれなりに人気なんでやんすよ》

 

 小腹が減った二人はフードコーナーで軽食を摂っていた。一誠は五十個ほど、ベンニーアは一個をモシャモシャと食べ進む。此処の料理は中々口に合ったらしくご機嫌だった。

 

《あ、あの、お聞きしたい事が……》

 

「何?」

 

《い、いえ何も無いでやんす……》

 

 俯いて黙り込むベンニーア、一誠はその顔を黙って見ていた。

 

 

 

 

「いやぁ、ジェットコースターとか、もっと速く動けるから詰まらないと思ったけど、結構楽しめるもんだね。君と来て良かったよ」

 

《あの、最後に観覧車に乗りやしょう。もう直ぐ始まるでやんすから……》

 

 時刻は夕暮れ、ベンニーアが指差したのは観覧車だった。

 

 

 

 

 

「うわっ! 凄いや……」

 

 炸裂音と共に夜空に火花が舞い散る。この日、この近くで花火大会が行われていたのだ。あらかじめその事を知っていたベンニーアは開始時刻に合わせて観覧車に乗ったのだが、はしゃぐ一誠と違って彼女は花火をちゃんと見ようとしていなかった。

 

「……ねぇ、それで俺に話したがってた事って何?」

 

《そ、それは……》

 

 一誠は向かい合わせの席から言い淀むベンニーアの隣に座り直す。彼女の横顔は打ち上げられる花火の明かりに照らされていた。

 

《あっし、不安なんでやんすよ。玉藻さんも黒歌さんも一誠さんに傍に居て欲しいと思われて傍に居るでやんす。でも、あっしと一誠さんは政治的な意味合いでの婚約でやんすから……》

 

「うん、そうだね」

 

《ッ!》

 

「でもさ、出会いとか一緒にいる理由なんてどうでも良いじゃない。肝心なのは一緒に居て欲しいか、一緒に居て楽しいか、でしょ? 俺は君と一緒に居たいし、一緒にいて楽しい」

 

 一誠は笑みを浮かべて跪くとそっとベンニーアの手を取った。

 

 

 

 

「俺は俺の意思として言うよ。ベンニーアちゃん、俺は君が欲しい。だからさ、俺と結婚してくれるかな?」

 

《はい!》

 

 ベンニーアはそのまま一誠に抱き着き、二人の唇が重なった……。

 

 

 

 

 

 

「……まっ、今日はそっとしておいてやりますか。私、本妻ですしぃ? 余裕が有るっていうか~」

 

「にゃははは! こうやって覗いている時点で余裕がない証拠にゃん。……あっ、イッセーの手が服の中に。幻覚で他から見えないからって……羨ましい」

 

 そして、お化け屋敷の屋根の上から其れを観察する二人の姿があった。

 

 

 

 

 

「他の八人は?」

 

「事前に察知したクロウクルワッハやポチ達上位実力者に足止め喰らっています」

 

 

 

 

 




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閑話 あぷだくしょんGEDOU

新刊出るので試し書き


 それはとある日曜日の朝の事、玉藻はヘラとペルセポネーとお茶会があるので昨日から出かけており今は居ない。何時も会社がある一誠の父や家事をしている母もこの日は少々起きるのが遅かった。

 

 寝室から出てくるとキッチンの方から味噌汁のいい臭いが漂ってきており、包丁の軽快な音が聞こえてくる。黒歌かベンニーアが朝ごはんを作っているのかと思いながらキッチンに向かった二人だが、次の瞬間には固まる事となった。

 

「お早う御座います、父さん母さん」

 

 其処に立っていたのは爽やかな笑みを向けてくる澄んだ目の息子(一誠)の姿。明らかに異常事態だ。

 

「た、大変だっ! 救急車!」

 

「駄目よっ! 普通のお医者さんじゃ治せっこないわ! きっと悪魔か何かの呪いよっ! こういう時はメディアさんかギリシャの神様に連絡をっ!」

 

「二人共! 朝から何ですか悪巫山戯なんかして。私は何処もおかしくないでしょう? 至極マトモじゃないですか、まったく……」

 

「「マトモだから慌てているんだ(のよ)!」」

 

 実の息子に倒して酷い事を言う二人だが、これでもちゃんと息子の事を心から心配しているのだ。むしろ何時も濁った目で外道な事をしている一誠の方が悪いだろう。この頃になって騒ぎを聞きつけたのか黒歌達が起きてきた。

 

「やあ、お早う御座います。今日も良い天気ですね。こんな日は何時も以上に幸せをかみしめたくなりますよ」

 

「はぁい、イッセー。おはようにゃ。……ねぇ、白音。私の気のせいかしら? 一誠が聖人君子みたいな笑みを浮かべているんだけど」

 

「有り得ませんが……現実に起こっていますね。幻覚ですね」

 

《気持ちは分かるっすけど、現実でやんすよ? ……性格が正反対になる病気でも流行っているんでやんしょうか》

 

「……むぅ、どうも皆さんの様子がおかしいですね。熱でもあるのでしょか?」

 

 おかしいのはお前だ、この場に居た全員がそう叫びたい衝動に襲われた。

 

 

 

 

 

 

「忙しい時だというのに態々すみません。私とすれば普通のつもりですが、みなさんがおかしいというのならおかしいのでしょう。それで、何か異変が起きていますか?」

 

「キモッ!? ぼ、坊やがおかしくなった。……いえ、頭のネジが外れている何処かおかしいのが何時もの坊やで、今の坊やは至極まともだからおかしいのよね。……あれ? おかしいって何だったかしら?」

 

 とりあえず頼るべき存在として認識されているメディア(締め切り当日)は真っ白な原稿を横に置いて現実逃避の為に一誠を診察する。なお、先程から担当の藤村大河からの催促の電話が鳴り響いていた。

 

「……どうも妙な術がかかってる様ね。ちょっと私の知識にあるのとは違うわ。どちらかと言うと呪いの類ね。こういったのは玉藻の方が詳しいのだけど。……とりあえず様子見ね」

 

「そうですか。あの、お世話になりました。何かお礼に出来る事は有りませんか?」

 

「だったら原稿書いて」

 

「それは駄目です。仕事は仕事ですから」

 

 浮かべているのは曇り一つない笑み。それは見る者によっては信仰の対象となるほどのもの。だが、何時もの一誠を知っているメディアは怖気しか感じなかった。

 

「とりあえず不気味だから帰りなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうですか。主殿がマトモになったのですねさて、ロスヴァイセは暫く北欧に帰っていて頂きましょう。何かあったらいけませんからね」

 

「あはははは。君も冗談が上手くなったね、ランスロット」

 

「いえ、冗談ではありませんが」

 

 続いて頼りにされたのは北欧魔術に秀でたロスヴァイセ。お茶会の後に三人で遊びに行った玉藻とは連絡が付かなかったので帰りが何時になるか分からず、取り敢えず試しに見て貰いに来たのだがこっちも買い物に行っていて留守だった。

 

 ランスロットは自ら入れたお茶を一誠達に出すとこれから起きるかも知れない天変地異にどう対処しようか思案し出す。既に元円卓の騎士達は非常物資の貯蓄の準備を始めていた。主とし忠誠を誓われている一誠だが、彼にすっかり染められたランスロット達はマトモになった一誠に対して結構酷い。何時もの彼に対する評価が伺えるというものだ。

 

「……所で昨日何かありませんでしたか? 夕方にお会いした時は何時も通りマトモじゃない普通の状態でしたが」

 

「昨日夜の散歩に出た時にUFOに襲われたくらいでしょうか? 上半分がガラスの様になっていまして触角の様な物が付いていて、下から先が拳になったマジックハンドが飛び出ている妙なUFOでして、その拳に持ったビーム銃で撃たれてから記憶が曖昧でして。まあ、特に異常というほどの事でもないかと」

 

「いや、明らかに異常な事態ですよね? ……天然外道から天然紳士になっていますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご主人様~! マトモになってしまったって聞いて慌てて帰ってきましたよ! ああ、お労しや。腐れ外道だけど身内には激甘なのがご主人様の魅力なのに。……あっ、今の状態に全く魅力が無いとは言っていませんよ? 性格が変わっても魂の輝きは変わっていませんので」

 

 夕方になって漸く帰って来た玉藻は慌てて一誠に抱き着き、一誠はそれを直ぐに抱きしめ返した。

 

「遊びに行ってたのに慌てて帰ってきてくれるなんて……やはり貴女は私が愛した女性です」

 

「ああん、そんな状態でも相変わらずですねぇ♪ ……にしてもそのUFO許すまじ! ご主人様はご主人様だから良いってのに妙な事しやがって。……バリバリ呪ってやる」

 

「こらこら、気持ちは嬉しいですが物騒な事はいけませんよ? 彼も悪気があるわけでは……多分無いでしょうし」

 

 その一言を玉藻は聞き逃さず、顔をズイっと近づける。

 

「……その口ぶりからすると姿を見ているのですね? どんなのか教えて下さい。姿が分かれば少しは呪えますので」

 

「……え~と、彼も軽い実験のつもりだったのでしょう。だからそんなに怒らないで……」

 

「よし! 犯人確定。……あのマッド、許すまじ。私の結婚詐欺処刑砲が火を噴きますよ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、涅マユリの研究所ではマユリが鼻歌を歌いながらはぐれ悪魔を解剖していた。

 

「ぎゃぁあああっ! 痛い痛いっ!」

 

「うるさいヨ! 痛覚を最大にして何処まで生きてられるかの実験なんだから当たり前だろう!」

 

 まさに外道の極みである。そして三体目の実験体が死んだ時、研究室のドアを開ける者が居た。

 

「……ネムか。私は今忙しいんだヨ! 見たら分かるだろう、この愚図! 例のUFOは途中で落ちてしまうし散々だネ」

 

「そのUFOの件でお客様です」

 

 途端、研究室の機材が凍り付く。マユリが恐る恐る振り返ると其所には悪霊としての姿を晒けだした玉藻が立っていた。

 

 

 

 

 

「ふふふ、楽に死ねると思ウナヨ?」

 

 

 それから暫くの間、マユリの姿を見た者は居ない・・・・・。

 

 




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新作書いてますので感想欲しいです


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閑話 小さくなった外道

 死神の仕事は死者の魂が迷わずあの世に行く為の案内人であり、一誠の部下達は特別に見逃す代わりに死神の仕事の手伝いをしているのだ。

 

「……浮気相手との無理心中やら痴情の縺れの殺人とか財産を巡る骨肉の争いとか……皆もっと仲良くしなよ」

 

 無論最上級死神になった一誠も死神としての仕事を任されており、最近立て続けに続いた余りにもな内容に気分がブルーになっていた。これが敵対行動取られたから叩きのめした、等だったら気にならなかったが、敵ではない者達の昼ドラの様にドロドロとした人間関係は精神的にくる物が有る様で、ベットに寝転がると枕に顔を埋めて足をバタバタ動かした。

 

「あ~も~! 純粋な幼子だった頃の俺がこんなの知ったら絶対グレてたね。断言できるよ!」

 

「ほへ? 純粋な幼子だった頃、ですか?」

 

 先程から古いアルバムを開いて写真を眺めていた玉藻は一誠の発言の意味が分からなかった様にキョトンとしている。まるで、そんな頃が貴方にあったのですか?、とでも思っているかの様だ。

 

「いやいや、嘘はいけませんよ? ご主人様。確かにご主人様には幼い頃がありました。それは幼い頃よりずっとお側に居る私が証明致しますし、そもそも木の根から育った姿で生まれたわけではないのですから当たり前ですが……純粋だった頃はないでしょ」

 

「そ〜いう事を言うのはこの口?」

 

痛い痛い、ごめんなさ~い(いひゃいいひゃい、ごめんなふぁい)!!」

 

 どうやら本気でそんな頃など無いと思っていたらしく、語る時の目は曇り一つない。当然その様に澄んだ瞳でその様な事を言われれば腹も立つし、実際怒っていた。玉藻の口の両側を持った一誠は上下左右に動かし、最初はお仕置き程度だったのが予想外に伸びるので楽しくなったのか動きが激しくなっていた。

 

「……うぅ、ちょ~っと本当の事言っただけなのにぃ」

 

「まだ言う? まったく、俺にだって純粋な頃くらいあったって。たださ、その頃は今の様な力を手に入れるなんて思ってなかったし、力の使い方も知らなかったから苦しんでる霊達に対して何も出来ない事への無力感を感じてさ……目が濁って性格が悪くなった」

 

「まぁ、確かに怨霊とかって幼子からすればSAN値削りまくりですもんねぇ。……あの、ご主人様。このような話で空気を重くしてしまいましたし、私は責任を取ろうと思います」

 

 突如口調を変えて真剣な眼差しになった玉藻。今の彼女には何時ものおちゃらけた様子は微塵もなく、天照の一部を取り込んだ者としての威厳すら感じさせる厳かな空気を纏っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ささっ! 今すぐ子作りをっ!」

 

 もっとも、その空気は0・5秒後に繰り出されたルパンダイブと共に消滅したが。器用に空中で服を脱いだ玉藻は一誠に飛びつくと甘える様に頬をすり寄せた。

 

「ねぇ、ご主人様ぁ。今晩は寝かせませんよ、ってか明日は休みだから明日の夜まで楽しみましょう! はい決定! ではでは、ご主人様もぉ、早く服をお脱ぎくださいましまし?」

 

「相変わらずシリアスクラッシャーだね。……う~ん、その提案は非常に魅力的なんだけど」

 

 一誠は両手両足を使って玉藻を強く抱き寄せる。だが、服は脱いでいなかった。

 

「え~と? 着衣プレイ?」

 

「悪いけど違うんだ。明日はさ、ありすとアリスを遊園地に連れて行く約束をしてるんだ。ほら、あの子達の相手って体力使うでしょ? だから今晩はさっきの発言の罰として一晩中抱き枕の刑って事で」

 

「ぶ~! バカ猫も死神娘も冥界エステツワーに出かけてるから独り占めできると思ったのにぃ。……まあ、約束なら仕方ありませんね。でも、埋め合わせはちゃんと、……って聞いてねぇ」

 

 余程精神的に参ってたのか静かな寝息を立てて眠っている一誠。その姿に少々不満そうな玉藻だったが溜め息を吐くと一誠の胸に顔を埋めて体を摺り寄せると直ぐに機嫌が良くなった。

 

「えへへ~。そ〜言えば今のご主人様も素敵ですがショタご主人様も可愛らしくって良かったですよねぇ、ぐへへ~。……そうだっ! ホンニャラカンタラチンカラホイ、アチャラカモクレンキューライス、ワレハモトメウッタエタリャー」

 

 寝息を立てて寝出す前に奇妙な呪文を唱える玉藻。やがて夜は更けていき、朝日が登って朝が来た。

 

 

 

 

 

 

「え~と、それでこんな事になってるのね。ねぇ、アリス(わたし)。オバ様って馬鹿じゃないかしら」

 

「それでこんな事になったのね。オバ様って馬鹿なのよ、ありす(あたし)

 

「オバ様言うなー!! うう、ほんの出来心だったんだもん。ただ眠かったし欲望がダダ漏れになったせいで少しおかしくなっちゃったけど」

 

 リビングで正座させられる玉藻はありすとアリスに見下ろされており、ソファーの上にはその様子を眺めるメディアと幼い頃の一誠(・・・・・・)の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「も~! イタズラはいけないんだよ玉藻! それで遊園地は()も行けるの?」

 

 玉藻が掛けた術は記憶と精神そのままで体だけが一時的に幼くなるという物……だった。だが、漏れ出した欲望と眠気のせいで色々おかしくなり記憶そのままで精神と肉体が幼くなっていた。

 

「取り敢えず術式は組み直したから明日には戻っているでしょうね。……私は連徹明けだから帰って寝るわね」

 

 又しても締め切りギリギリに原稿を上げたメディアはそのまま帰ろうとする。だが、その裾を一誠が掴んだ事で動きが止まった。

 

「ねぇ、メディアさんも一緒にいこ!」

 

「うっ! わ、悪いけど今日は疲れて……」

 

 今の一誠は今まで見た事のない澄んだ瞳をしておりメディアも少したじろぐも眠気を優先する。

 

「え~! メディアさん来ないの?」

 

「メディアさんも一緒に行きましょ」

 

「喜んでっ!」

 

 そして可愛らしい少女二人(ありすとアリス)の誘いであっさりと天秤は傾いた……。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの! 子供三人のお世話は大変でしょうし、私もご同行を……」

 

「あら、貴女は駄目よ。今回の件を引き起こした責任をとって旧校舎のお掃除の手伝いにでも行きなさいな。ってか美少女二人との極楽タイムの邪魔はさせないわ」

 

「あれ? 僕は?」

 

「……わ、忘れてないわよ? 貴方が居ないと二人共寂しがるでしょうし……仕方ない。あの新婚バカップルを呼び出しましょう。……流石に護衛がいるでしょうしね」

 

 

 

 この日、新婚ホヤホヤの騎士の休日は取り消しになった……。




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閑話 小さくなった外道 ②

 マッドサイエンティストという存在は非常に迷惑だ。まあ、訳すと”狂った科学者”なのだから仕方ないのだが。

 

「凄いヨ凄いヨ、これは素晴らしいネ!」

 

 ここは都市伝説組が暮らす何処かの旧校舎を模した異界。人の恐怖心から生まれた住人達は人の心から忘れ去られた今ではこの場所か精々一誠の家でしか活動できない物が殆どだ。

 

「あら、面白そうね。何を作ってるの?」

 

 この声の主も外ではロクに活動できない者の一人、”メリーさん”だ。捨てられた人形に”メリーさんへの恐怖心”等が入り込みメリーさんとなった彼女は一誠に誘われてこの場所で暮らしている。今は空中にフワフワ浮きながら先程から作業しているマユリの手元を覗き込んだ。

 

「邪魔するんじゃないヨ! オーフィスを封じ込めた宝玉を使ってアイテムを作ってるんだ。あっちに行け」

 

 マユリは虫でも追い払う様に手を振ると作業に集中し出す。当然、そのような扱いをされればメリーの不満は増すばかり。元々好奇心旺盛な性格なのでこの程度で諦めるはずがなかった

 

「ぶ~! この場所に溢れる妖気や瘴気が丁度良いから使わせろって言ったのはそっちじゃない。だったら見るくら良いでしょ! でさ、何を作ってるの?」

 

「はん! 見るだけじゃなくって質問もしてるとは頭の中までボロのようだネ。……ネム! このボロ人形を撮み出せ」

 

「了解しました、マユリ様」

 

 そのままネムに首根っこを掴まれて部屋から追い出されるメリー。

 

「開~け~ろ~! 開~け~ろ~! 開~け~な~さ~い~!」

 

 何時も手にしている鋏で扉に切り掛ってたり手でペチペチ叩いても空くはずがなく、三十分もすればメリーが飽いた。

 

「テレビでも見に行きましょ。……あ~あ、私も遊園地に行きたいなぁ」

 

 だがその願いは叶うはずがない。今のメリーでは外に出れば自我を失いタダの人形に成り下がる。此処に戻ってくれば元に戻るがその間の記憶はないのでまったくもって意味がなかった。

 

 

 

 

 

「その結婚! ちょっと待ったぁぁぁっ!!!! ……あれ? 明美は?」

 

「その人なら隣の式場ですよ」

 

 

 

「……つまんない。ふわぁ~あ」

 

 一誠が持ち込んだテレビを見るも再放送のドラマなどしかやっておらずメリーは何時の間にか瞼が重くなってしまい、リモコンの上でスヤスヤと寝入ってしまう。

 

 

 

「よく寝ているねぇ」

 

 その体にそっと赤いコートを着た女性が手を伸ばした……。

 

 

 

 

 

 

「遊園地だ! わたし、観覧車がいい!」

 

「あたしも最初は観覧車がいいわ。一番高い所で大佐のあのセリフ言いたいの」

 

 一行がやって来たのは家族連れで賑わった遊園地。今すぐにでも目的の乗り物に乗ろうとはしゃぐありすとアリス、

 

「ああ、良いわねぇ」

 

 そして其れを見ながら怪しい笑みを浮かべるメディア。一応人気小説家として顔が知られているので変装をしている。サングラスに帽子という”私、顔知られていま~す”、とアピールしているようなバレバレのものだが、其処ら辺は魔術で何とかしている、流石神代の魔女、といった所だろうか?

 

 

 それなら最初から魔術で気付かれないようにすれば変装する必要すら無いのだが。何処か抜けた王女様である。

 

 

「主、着きましたよ」

 

「ん……遊園地!」

 

 折角なのでと転移ではなく電車で来たのだが途中で疲れたのか遊園地で遊ぶ前に疲れて眠ってしまい、今はランスロットの背中の上にいた、体を揺すられて目を覚ました一誠は未だ眠そうにしているが遊園地を見るなり飛び降りた。

 

「こら! 危ないですよ」

 

「ごめんなさい……」

 

「……中身まで子供に戻っているのですね。しかし性格変わっていませんか?」

 

 ランスロットが疑問に思うのも無理はない。子供も頃の一誠を知る身からすれば同じ年頃の一誠なのに性格が大人しくて子供らしすぎるからだ。

 

「……簡単な話よ。この頃の坊やは何も出来ない自分に絶望して性格が弄れたけど、今の坊やは記憶が有るからどうにか出来る事を知っている。だから子供らしく振る舞えるのね……」

 

 メディアの言葉に場の空気が重くなる。その時、入場口の方から声が掛けられた。

 

 

「お~い! 早く早く!」

 

「早くチケット買って~」

 

「早く入りましょ」 

 

 聞こえてきたのは遊園地を純粋に楽しみにしている子供達の声。その姿に三人の気の落ち込みは晴れ、急いで売り場まで向かっていった。

 

 

 

 

「「ふはははは~! まるで人がゴミのようだぁ~!」」

 

 早速乗り込んだ観覧車で騒ぐありすとアリス。窓から外を見下ろしながら某大佐の有名台詞を叫ぶふたりを見てメディアは頭を悩ませていた。

 

「・・・・・う~ん。流石にどうなのかしら。まあ、アニメの真似だし、それなら坊やの方が悪影響だし……」

 

「僕、そんなに悪い?」

 

「あ~! メディアさんがイッセー苛めたー!」

 

「苛めたー!」

 

「ち、違うわよ!? 誤解だってば」

 

 今は一誠の方が年下の為か呼び捨てにしている二人に責められて慌てるメディア。その間、四人乗りなので余ったランスロットとロスヴァイセは何かあった時の為に外で待機していた。

 

「こういう所も良い物ですね。私達も子供が出来たら連れてきましょう」

 

「そ、そうですね。……あの、護衛って私達だけで本当に良いのでしょうか?」

 

「神滅具持ちが二人に私、そしてメディア殿が居るのですよ? 敏感な者には見えなくても悪影響が出てしまいますし、あまり目立つ力の持ち主も秘匿の点で却下。……大丈夫、ちゃんと優秀な方がついて来ていますよ」

 

 そう言ってお化け屋敷の屋根を指さすランスロット。屋根の上には見覚えのある悪霊の姿があった。

 

 

 

 

 

「ねぇ、次はコーヒーカップに乗りましょう!」

 

「私たち三人一緒のカップね!」

 

「うん、良いよ!」

 

 一誠は両側から腕組みされながらコーヒカップへと向かっていく。その姿を微笑ましそうに見詰めるランスロットとロスヴァイセ、

 

 

 

 

 

「……羨ましい羨ましい羨ましい」

 

 そして妬ましそうに一誠を睨むメディア。なんか近寄りがたいので美人でも声をかけられなかった。

 

 

 

 

「あ~、楽しかった! イッセーも私達と一緒で楽しかった?」

 

「イッセーも私達と一緒で楽しかったわよね?」

 

「うん! 二人位と遊ぶと楽しいよ! 僕、二人のこと大好き!」

 

 

 

 

「……あれって天然でしょうか? ……そういえばドライグさんは?」

 

「なんでも”相棒がまともに童心に帰って楽しい気分になってるのを邪魔したくない”、って何か有るまで表に出ない気らしいわよ。次はお化け屋敷なのね」

 

「お化け屋敷、ですか? 一体何で……?」

 

 此処のお化け屋敷は怖い事で有名だが、そもそもありす達は悪霊(幽霊)で一誠は霊感が昔からあって霊は身近な存在。態々入る意味がわからないといった様子のランスロットに対し二人と遠くの一体は同時に溜息を吐いた。

 

 

「分かってないわね」

 

「分かっていませんね」

 

「分かっていないネ」

 

「……え~と、何を?」

 

 

 

 

 

 

『バァッ!!』

 

「「きゃぁぁあああっ!!」」

 

 出てきたお化け(偽物)を見るなり悲鳴を上げて一誠に抱きつく二人。もちろん怖がってなどいなく、ここに入ったのは怖がって抱き着くといったシチュエーションの為だ。今の一誠は幼い姿なので抱き着かれていてもほのぼのとしており、思わず話し掛ける者もいた。

 

「おやおや、デートかい?」

 

「そうなるのかな? お爺さんは此処に住み着いているの? 地縛霊?」

 

「早く成仏しないと罪が重くなるよ」

 

「ハデスのお爺ちゃんは其の辺厳しいのよ」

 

 幽霊(本物)には普通に対処して進む三人。そのまま半場まで歩いた頃だろうか? 偽物の生首がぶら下がって来た。

 

 

 

「……そろそろ飽きてきたね」

 

「わたし、何か食べたいわ」

 

「お弁当があるわよ、お弁当。イッセーのお母さんとグレンデルとクロウクルワッハが作ってくれた奴」

 

 そろそろお化け屋敷がどうでも良くなった三人は特に反応せずに進んでいく。

 

 

 

 

 

 

「わっ!」

 

 その時、一人の少女が脅かすかの様に背後から大声を出してきた。

 

「……何?」

 

「え~!? それだけ~?」

 

 勿論一誠の反応は薄い。それが面白くないのか少女は頬を膨らませる。少女の見た目は金髪に青空のように澄んだ青の瞳、そしてドレスといったまるで人形の様な見た目。その胸元で大きめの石が嵌められた首飾りが光り輝いていた。

 

 

 

 

 

 

「あれ? ねぇ、アリス(わたし)。メリーって異界から出れたっけ?」

 

「メリーは出れなかったはずよ、ありす(あたし)

 

「それよりも何で人間の姿なの? メリー」

 

「……バレバレ!?」

 

 




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閑話 小さくなった外道 ③

新刊買った なんか萎えてきた そろそろ完結させようか


無限龍の宝玉(ウロボロス・オーブ)? ふ~ん」

 

「いや、そこは驚こうよ!? 無限龍よ!? それにこの体だって……」

 

 おばけ屋敷から出た一誠達は一旦休憩の為にフードコードに来ていた。何故か人間になっていたメリーと共にハンバーガーを食べながら何故その様な姿になったのか説明しだしたメリーだが、一誠達の反応は薄かった。

 

「だってマユリが居るし。どうせ変身できるようになってるんでしょ」

 

「イッセーが居るんだから非常識は今更だし。オーフィスが自由に姿を変えれたし、外でも動ける様になってるのよね」

 

「ああ、そうね。イッセーが居るんだから当たり前か」

 

 普段の行動が行動なので直接な彼女達に何も言えない一誠。確かに今までサマエルのオーラからシャドウを作り出したり、並行世界に行く装置を作り出すなど、マユリと共に非常識なことを成し遂げてきた。だからせめてフォローをと思いランスロット達の方に視線を送る一誠だったが、

 

 

「ランスロットさん、あ~ん」

 

「あ~ん」

 

「あぁん、メリーちゃんも可愛いわぁ。この後は服屋で色々と……」

 

「あ~あ、やっぱりウチの大人は役に立たないなぁ」

 

 クリームソーダを啜りながら頬杖を付く一誠。その時横からスプーンが差し出された。メリーはパフェを掬ったスプーンをそっと一誠の口に入れる。

 

「ねぇ、美味しい? 今まで物が食べらなかったからこういうの初めて食べたけど結構良いものね。この体をくれたマユリには感謝しないといけないわね」

 

「ふ~ん、それは大変だったね。俺は三大欲求のうち食欲が七割を占めてるからそういうの地獄だよ」

 

 冥府は其の地獄の最深部に存在しているし、冥界の一部は既に冥府を中心とする他神話の領地になっているのだが、其処は誰もツッコミを入れなかった。

 

「おや、性欲はそれほど割合を占めないのですね」

 

「ほら、今の僕って子供だからそういうのよく分からないんだ」

 

 ランスロットの疑問も当然だろう。三人の女性を娶り毎日の様に交わっているにも関わらず食欲が七割というのだ。

 

「まったく、子供相手に何言ってるのよ。そ〜いう事をありすちゃん達三人の前で言わないで頂戴」

 

 一誠を抜かしている所を見る限るもはや矯正不可能だと判断しているらしいメディア。ランスロットも素直に反省する中、彼の携帯にメールが入る。

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

「いえ、特に問題があるわけでは……」

 

 明らかに深刻そうな顔のランスロットが誤魔化そうとするもごまかせるはずがなく、一誠から疑わしそうな瞳を送られている。そしてテーブルの下を迂回して伸びて来た黒い手が携帯を奪い取った。

 

「はい、イッセー」

 

「どうぞ、イッセー」

 

「うん! ありがとう」

 

 ありす達が創りだし、今は人目に付かぬように影に隠れている魔獣の手から携帯を受け取る一誠。ランスロットが慌てて取り返そうとするもメール画面を開く方が早かった。

 

「……え?」

 

 携帯が一誠の手から滑り落ち床に落ちる寸前にメリーが掴み取る。メールを見た一誠は呆然としていた。

 

「もう、ダメでしょ! ……どうかしたの?」

 

「……お父さん達が襲われたって連絡が」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほんとうに良いのかなぁ」

 

 襲撃者はどうも冥界の悪魔らしく、恐らくは今のように悪魔が急激に衰退した原因が一誠に有るとして両親を人質に取ろうとしたのだろう。襲撃者の中にはレーティング・ゲームのトップランカーやその眷属も含まれており、その理由に心当たりがある一誠は腹立たしげにしている。

 

 なお、襲撃者は全て撃退し、今は両手両足を奪い舌を噛まぬように猿轡をした状態で魔力を封印して拘束しているそうだ。両親は襲撃があった事を全てが終わった後で知らされたので恐怖心すら抱いておらず、そのまま楽しめと言っている。

 

「だいじょうぶ。言葉に甘えましょ」

 

「だいじょうぶよ。楽しみましょ」

 

「……むぅ」

 

 ありす達二人は先程のパフェを食べさせた事への意趣返しの積もりなのか一誠の腕に抱きつき不満そうなメリーの顔を見て笑っている。メリーはその姿を見て頬を膨らませ、メディアはその姿が微笑ましいとビデオカメラを回していた。

 

「……あれ? なんか変な感じがする」

 

 メリーは立ち止まると下腹部を摩る。人形の時には感じる事がなかった感覚がやって来たのだ。何やら体の中のものが外に出ようとする違和感……尿意である。取り敢えずメディアに相談して理由を突き止めたメリーはトイレへと向かっていく。

 

 

 

 

《グヘヘヘヘ。ちっこいのが一匹離れたぞぉ》

 

 そして龍門をこっそり開いて一匹の邪龍が現れる。かの名はニーズヘッグ。二対の翼と四肢を持つ北欧の邪龍で大食らいの凶暴な龍だ。今まさにその体から放たれる瘴気がその姿を見て驚いている客やトイレに入ったメリーに襲い掛かる、

 

 

 

 

 

《ウフフフフイ。させないヨ》

 

 事はなく、見えない力によってニーズヘッグの周囲に留まった。周囲の客も急に虚ろな目になり周囲から離れていく。防犯カメラも軒並み故障し龍を撮した映像は全て消え去った。

 

《オメ、何もんだぁ?》

 

「私かい? 私はブイヨセン。霧吹き山のブイヨセンだヨ」

 

 元々ブイヨセンは人を攫っては好き勝手に弄んでいた大悪霊。人間を操る事などいとも容易く行え、ニーズヘッグを見ながらも遠くの一誠達に手を振っていた。

 

《地区予選だかブイヨセンだか知らねっけど、俺の邪魔すんなら食ってやるぅぅぅぅ》

 

 大口を開けてブイヨセンに飛び掛るニーズヘッグ、だがその体はまるでビデオの一時停止のように止まってしまう、ブイヨセンの念動力は既に邪龍の動きを楽に止められるレベルまで達していたのだ。

 

《ほほぅ、フェニックスの涙だネ》

 

 ニーズヘッグが体に隠していた小瓶が次々とブイヨセンの手元に飛んでくる。それを見せびらかせるように片手で弄っていたブイヨセンは空いた手を大きく開けられたニーズヘッグへと向ける。

 

《アァ、これは偶々ある悪魔の魂を食べたら奇跡的に手に入った……と必要のない冗談交じりの建前でそういう事にしている滅びの魔力だヨ。ほら、存分に食べたらどうだイ?》

 

 放たれたのは野球ボール大の二つの滅びの魔力。それはニーズヘッグの口から防ぐ為の物がない体内に入り込み、脳と心臓を破壊した。

 

《触れたら消滅するなら無理に体全体を消し去る必要はないんだヨ、ウフフイ。頭か心臓を潰せば基本的に生物は死ぬんだからネ》

 

 ニーズヘッグの魂を逃がさぬようぬ回収しながら笑うブイヨセン。其れは誰かを嘲笑っている様だった。

 

 

 

 

 

 

「色々あったけど今日は楽しかったわ。また遊びましょ」

 

「……俺は疲れたよ。いや、子供の頃の俺、曲がらなかったらあんな風だったんだ」

 

 ”倍加した力を譲渡すれば良いのでは?”、とランスロットは今更ながら思い付いたのでメディアを強化して元の姿に戻った一誠は先程までの自分の思考を思い出して一気に気疲れする。疲れから椅子に座り込む一誠。するとメリーが近付き、

 

「これは今日のお礼よ」

 

 頬にそっとキスをした。

 

「ふ~ん。まあ、受け取っておくよ」

 

「も~! あまり反応しないのね。……あの二人と違って」

 

 メリーが指さした先にはふくれっ面のアリスとありす。この後、二人からの頬へのキスを受けるまで不機嫌なままであった。

 

 

 

 

 

 

 

《ファファファファ、お主が例の愚かな女の魂から引き出した情報、それを危惧でもしたかの?》

 

「多分ね。……流石に今回の一件は見逃せない。完全に滅ぼすと旨みが無くなるからしないけど……悪魔社会にトドメを刺してやる」




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百四話

なんか最新刊が肌に合わなかった


霊感もそろそろ終了かなぁ そしたら放置してた子供世代の終わらせて


fate go 昨日登録募集終了したから今日配信だと思ったのは私だけだろうか? メールが来る度にチェックしては残念がっていました


悪魔社会は滅亡寸前である、それは張本人である悪魔達、正確には伝統と格式高い誇りある純血悪魔の何割かの者を除いた者達の共通認識だ。領地の多くを他神話に取られ、莫大な未払の賠償金を抱えている。

 

「さて、最上級死神として此度のレーティングゲームトップ陣による私の両親への襲撃行為に遺憾の念を表明させて頂こう。なお、同盟相手であるアースガルズ及び須弥山の神々も交渉の結果によっては武力制裁に加わることになっていますが……条件を飲んで頂けますね?」

 

「……はい」

 

 そして、此度の交渉によって悪魔社会の滅亡へのカウントダウンが始まった。

 

 

 

 

 

『愛しき妾の子達よ。お主らに伝えるべき事がある。心して聞くが良いっ!』

 

 それは平和なお昼どき、突如冥界の悪魔領の上空に映像が映し出される。画面に映っているのはハンコックだ。相手を見下しすぎて逆に見上げているという少々滑稽な姿を晒している彼女だが、悪魔達はその姿を馬鹿にする気など微塵も起きず、反対に畏敬の念すら感じていた。

 

「リリス様……」

 

 ハンコックの姿は何時もの黒髪の美女ではなく、本来の姿であるリリスの姿。その姿から放たれるオーラに全ての悪魔が膝を付き頭を垂れた。

 

『さて、こ度この様な場を設けたのは他でもない、貴様達を滅びから救う為だ。簡潔に言おう。悪魔である事を捨て冥府に亡命する民は全て受け入れる準備が整っている。実力主義をうたいながらもその実はチャンスすら与えられぬ者が殆どを占め、殆どの者は秘めているかもしれない才能を開花させれる機会すら与えられない。その為職業選択の幅も狭まっておる。……期限は今月中。邪魔する貴族は冥府の者の手で始末して良いと魔王との協議で決まっておる』

 

 ハンコックから告げられた言葉に動揺する冥界の民達。これがこ度の交渉で手に入れた対価の一つ。皆殺しか民の流出か、二つから選ぶように言われた魔王達は苦渋の決断を行った。

 

 そして動揺する民達の前にもう一人の人物が現れる。レーティング・ゲームの覇者ディハウザー・ベリアルだ。

 

『諸君、私は彼らの提案を飲み、最上級悪魔の地位を捨てて冥府に亡命した。そして今日は諸君に伝えるべき事がある。レーティングゲームで行われている不正に関してだ。ランキングトップ10に入る殆どの者が不正な方法で今の力を手にしている』

 

 そこから彼が語ったのは『王』の駒の存在。製作者であるアジュカが危険と判断し、彼と数名の重鎮の手元に有る其の駒は使用者の実力を十倍以上に跳ね上げる。実は彼の従兄弟であるクレーリアもその事実を知った為に殺害命令が下されたのだ。

 

『……はっきり言おう。この他のにも政治的思惑が絡み開始前から勝敗が決定している試合も存在しており、公式戦は不正の温床となっている。この様な物で夢を掴もうなど考えない事だ』

 

 ゲームの覇者自らのゲームへの否定。それは映像を見守る悪魔達の心に深く突き刺さった。

 

『さて、妾からも再び話しをしよう。転生悪魔が増えても純血主義は変わらぬ。例え成り上がったとしても、実力が有ることを理由に七十二柱の者にはさせられない危険な任務を押し付けられるであろうな。……では、キサマらの選択が最優であらん事を願う』

 

 ここで映像は消え去り、冥界はしばし静寂に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~、ご苦労様。ハンコックもディハウザー君も頑張ったね。あっ、スタッフの皆もご苦労だったね。ちゃんと約束通り冥府のテレビ局の仕事を回してあげるから安心してね」

 

 一誠は先程流れた映像を制作していたテレビ局のスタジオでヘラヘラ笑う。そのよこには不安そうな顔のでぉハウザーが立っていた。

 

「あの、お約束の……」

 

「大丈夫。君の従姉妹の魂は修復した上でちゃ~んとエリュシオンの片隅にでも送ってあげる。安心して良いよ」

 

「そうですか……」

 

 安心したように胸を撫で下ろすディハウザー。一誠から持ちかけられた契約条件は先程の証言と亡命の代わりにクレーリアの魂を修復してマトモな場所に送るというもの。それが叶えられる事に安心した彼は次の仕事に向けて体を休ませに行った。

 

「……さぁて、此処からが忙しいぞ。なにせ領民の亡命を阻止しようとするであろう貴族達の始末があるだろうからね。彼にも手伝ってもらうけど、人手が幾らあっても足りそうにないよ……」

 

 

 

 

 

 ここ数日最上級死神として多忙な日々を送る一誠だが、彼は学生でもあるので進路相談等の面倒な事も行わなければならない。この日、一誠の父は張り切って新品のスーツを買って来ていた。

 

「其処まで張り切らなくたってさ、もう俺って行き着く所まで出世してるし、適当に催眠で済ませて仕事に戻りたいんだけど」

 

「そう言うな、一誠。既に進む道は決まっているのは知っているが、先生から何時ものお前の様子を聞けるのは今日くらいだし、こうやって形だけでもキチンとしたいんだ」

 

「まぁ別に良いけどさ」

 

 嬉しそうなのを照れから隠しながら制服に皺がないか捜す一誠。台所では玉藻達が台所でお弁当の準備をしていた。

 

「ご主人様、今日のオカズは大好きな肉団子ですよ。沢山入っていますから残さず食べてくださいね?」

 

「俺が君の手料理を残す訳がないでしょ?」

 

《あっしもてつだったでやんすよ》

 

「うん。いい子いい子」

 

 両手で二人を抱き寄せる一誠。その頃黒歌はというと……。

 

「ん~、白音、幾ら何でも口に入りきらないからって鼻からも饂飩を啜らなくたって……」

 

「どんな夢見てるんですか、姉さま。ふっ!」

 

 まだ惰眠を貪り小猫に呆れられている。寝言が気に入らなかったのか小猫は拳を振り上げ、空気を切り裂く轟音と共に振り下ろした。

 

「ひぎゃんっ!? ……も、もう少しまともな起こし方はないのかにゃ?」

 

「有りません。そんな事よりもさっさとシャワーを浴びて着替えて朝ごはんを食べてください。……少し臭いですよ」

 

「まぁ昨日は張り切ったからな~。……白音も彼氏作ったら?」

 

「……興味有りません」

 

「そんな事言って、最近クロウの奴とよく話しているのは知っているわよ」

 

「……話してるだけです」

 

 あから様に視線を逸らす小猫。頬はほんのり赤くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリフトの本拠地にされたアグレアスが見つかった?」

 

《ああ、そうだ。……少し様子を見てきて欲しいのだが》

 

「……難民の受け入れに関する書類はロスさんにでも頼むか」

 

 ロスヴァイセ、残業決定。

 

 

 

 

 

 

 そして一誠がアグレアスに到着するなり巨大なオーラが入り口で待ち構えていた。

 

「リリス、だったっけ? オーフィスの分身の」

 

「ここから先、行かせない」

 

 リリスの力は二天龍の数段上。マトモにやれば一誠でも危ない相手だ。

 

「……仕方ない。相手してあげて、クロウ・クルワッハ」

 

「了解した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついでにグレンデルにポチにアーロニーロにグリンパーチにクドラクに市にブイヨセンにレイナーレに修復したラードゥンの肉体に宿ったエクボにバイパー。あっ、一応皆纏めて倍加しておくか宝玉の中に入って。……六回(六十四倍)で良いか」

 

『Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!』

 

 この中の数名は既に二天龍クラス。それの力が六十四倍になり、あまつさえ袋叩き。マトモにやったら危ない、逆に言えばマトモにやらなければ危なくないのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ! 魂と肉片は出来たら取っておいて。残りは僕と一緒にリゼヴィムと邪龍をフクロにしてくるよ」

 

 数分後、リリスは完全に無力化された




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オリジナル初めました アンケートもやってます

感想あまり来ないので来たら嬉しいです


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最終話

ああ、終わり 思いつきで書いたのがまさかの好評だったこの作品も今回で終わりです

気が乗れば番外編にも手を出したい、ただ、原作の展開が気に入らなかったので熱が冷めてしまったのですが




fateGOはデーターの復旧可能かどうかの連絡待ち タブレット壊れたから

キャス狐ピックアップガチャ? 青セイバーが来ましたが何か? すぐ壊れたから使ってないけど


 オーフィスの力を分けて作られたリリスの力は確かに強力だろう。無限ではなくなったものの其の力は二天龍っすら遥かに凌ぐ程だ。実質的に単体でのランキングは変動していない。但し、それはあくまで単体の力に限った話である。

 

「リゼヴィム、助けて……」

 

 それは蹂躙という言葉さえ生温い光景だった。気配や実体を持つ幻術に囲まれて惑わされたリリスに襲い掛かる一誠配下の者達は相手が一人でも、たとえ見た目が少女でも全く容赦しない。ただ目の前の敵を倒すことしか頭になかった。

 

 その四肢の動きは完全に奪われ、体中に龍殺しに力で付けられた傷が見られる。今は暴風のようなブレスで空中に体が浮き、二天龍に匹敵する力を六十四倍にまで倍加された龍の拳が上下から挟むように叩き付けられた。そして既に瀕死となったその矮躯をドロドロとしたゲル状の体が包む込む。

 

「イタダキマス……」

 

 龍喰らい(サマエル)のオーラを持ったシャドウの体に取り込まれたリリスの体は徐々に痩せ衰え、やがて無限から分けられた少女は無に帰った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の力は本当に厄介だと思うよ。いや、マジで。だってどうしても持って生まれた力に頼るように強くなるなってほうが無理だもん。神器無効化能力だったっけ? もし俺が霊能力も何もないタダの凡人だったらもしかしたら無能姫の眷属になってたかもしれないんだ。でも、実際は俺は死神の力も霊能力も愛すべきパートナーである玉藻も持っているし、今のようにドライグの魂を少し食べた事で本人も忘れていたような力を引き出せている。ああ、その分、龍殺しには弱くなったけど、シャドウの分身を神器の中に少し入れて置く事で平気なのさ」

 

「ぐっ! 何が言いてぇ?」

 

「貴方の様に、”ママがやれって言ったから”、って理由でテロリストになるようなマザコンはご主人様には勝てねぇって事ですよ。ではでは、さっさとトドメと行きましょう」

 

 リゼヴィムの姿を見るなり断末魔砲を打ち込み、何とか直撃を避けたものの地面に転がった彼の背中から腹を貫通するように鎌を突き刺して地面に縫い付けた一誠はリゼヴィムの頭に向かって手を翳す。

 

『Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!』

 

「まあ、体に負担がかかるからこの程度でいいか。そして……」

 

 リゼヴィムの持つ超越者の力は神器の完全無効化。通常ならば幾ら倍加しても意味がない。だが、今の一誠にはその様な事など関係なかった。

 

『Penetrate』

 

「これで君の能力も透過出来る。じゃあ、ボスっぽいくせにあっさりやられてよ。弱肉強食は君達悪魔のルールでしょ?」

 

 其の儘振り下ろされる拳。そして飛び散る肉片。その魂は事前に用意していた術式によって666の封印解除に使われる……其のはずだった。相手が魂を管理する死神で、それ以上に魂の扱いに長けた霊能力者なければ……。

 

 

「頂きまーす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー。邪龍が何体か居たんだ。シャドウにビビって逃げ出したみたいだけど」

 

「……ダガ、チャント捕エタ」

 

 シャドウの足元には干物の様に干からびた瀕死の邪龍達。あっさり見つかった彼らは見るも無残な姿で生かされていた。翼は既に引きちぎられ、足はグチャグチャに潰されて動かない。牙も全て折られ、胸に刺した剣が肺に達して居るのでブレスすら吐けなかった。

 

「うんうん、それは褒めてあげよう。……でもさ、リリスの肉片くらいは残せって言ったよね?」

 

「ムゥ……」

 

 邪龍を蹴飛ばしながらシャドウに笑みを向ける一誠だが、その瞳は笑っていない。思わず後ずさったシャドウは厳罰を危惧して縮こまるのだが、一誠の肩を玉藻が掴んだ事で動きが止まった。

 

「まあまあ、ご主人様。恩赦を出して良いと思いますよ。おめでたい事が有りましたから」

 

「リゼヴィムを倒したくらいで……えっと、まさか?」

 

 一誠の肩から放された玉藻の手は今度は自らの腹部を愛おしそうに撫でている。その意味を一部を除く全員が察した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっき術で確かめたんですけど……できちゃいました♪」

 

 

 

 

 

 それから数年後。悪魔は大きく数を減らしていた。元々の数の減少に加え、冥府が行った移民政策によるものだ。マユリが悪魔の駒を元に作った死神への転生システムによって多くの悪魔が冥界を見限って死神に転生。無論、貴族悪魔達は止めようと強攻策に出るものも居たのだが、魔王との(ほぼ脅しで結んだ)協定でそれらの物達を殲滅。この中にはグレモリー男爵も含まれていた。

 

 これによってレーティングゲームは無論消滅。ソーナ達は身分や種族に関わらず通える学校作りを目指す事となった。

 

 

 保護先であるグレモリー男爵の死亡によって保護されていたアーシア達も行き場を失い、祐斗とアーシアは心中し、ギャスパーは幼馴染であるヴァレリーの懇願で一応保護されたのだが、ショックによって塞ぎ込んでしまい精神を病んで衰弱し、ついに植物人間状態にまでなってしまった。

 

 

 堕天使も徐々に数を減らし、朱乃は心を病んだまま父と共に暮らしているが生涯正気に戻る事はなかった。天使は徐々に衰退しながらも暫くは何とか体裁を保つ事が出来た。

 

 

 

 

 

 

「玉兎君は良い子ね。将来私と結婚する?」

 

「うん!」

 

 玉藻との間の長子で長男の玉兎が生まれて早数年。メディアは自分によく懐いている彼を一番気に入っており、冗談でこのような事をよく口にする。なお実際、二十年後にはこの二人は結婚する事になるのだ。

 

 

「……あれが逆光源氏って奴かなぁ」

 

 その光景を見ながら呟く一誠。すると服の裾が引っ張られ、視線を向けると娘達が不満そうな顔をしていた。只今ママゴト遊びの真っ最中。服を引っ張っているのは長女で黒歌との間の子供である黒惠(クロエ)。その横ではベンニーアが産んだ三つ子の内、三女のアリーナと四女のアイビーが僅かに表情を変えていた。

 

「パパ! 今日はちゃんと遊んでくれるって約束でしょ!」

 

「お父様。約束はお守りください」

 

「全く。何時も仕事で居ないんだからちゃんとして欲しいわ」

 

 長女は甘えん坊だが、三つ子の娘は母親とは逆のドSでクールな性格をしており、此処に居ない次女のアリーゼは、ポチとレイナーレとの間の息子()遊びに行っている。

 

「ごめん。ごめん。じゃあ、続きをしようか」

 

 少し離れた所では生まれたばかりの次男である黒無(クロナ)を抱いた黒歌が玉藻やベンニーアと話をしている。最近婚約した白音とクロウ・クルワッハへの祝いの品の相談だ。他にも部下の中には結婚した者や恋人が出来た者がちらほら出始めている。

 

 

 

 

 兵藤一誠。かつて霊感少年だった彼の幽雅(優雅)な生活はこれからも続いていくのだ……。




熱いラストバトル? この作品は蹂躙が書きたくて書いたのですからありません


次回作の考案は出来ている 桐生ヒロインで人間主人公 基本ギャグで蹂躙系

『ハイスクールD×D とあるEの非日常』

 執筆開始日未定


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