転生チート吹雪さん (煮琶瓜)
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転生してから海が赤く染まるまでのあれこれ

「ああ! 何たる悲劇! 何たる不幸!」

 何もない空間で存在しないスポットライトの光を浴びて、一人の少女が芝居がかった所作で叫ぶ。

「青年は突然のマンホールの爆発で宙へと打ち上げられ、突風で飛ばされた看板へ激突しさらに飛翔、上昇気流にも乗り天高く舞い上がったのです!」

 両腕を高く掲げ全身をぴんと伸ばすと、数瞬停止し、腕を振り下ろした。

「そのまま地面に叩きつけられて病院へ運ばれて何事もなく退院して関係無い持病の方の医療ミスでお亡くなりになったのがあなたになりますわ」

「最初の必要だった?」

 飽きたのか唐突に普通に喋り出した少女はスポットライトからひょいと飛び出ると、その場に居たもう一人の肩をぽんと叩き、叩かれた方は呆れた様子で突っ込む。それに少女はにんまりとほほ笑んだ。

「あなたみたいなのって、結構記憶が曖昧な事が多いのですわ。だから現状の確認を、という事で」

「うん、まぁ確かにその通りみたいだけど」

 にまにまとしながら様子を伺ってくる少女を見ながら思い返せばなるほど、確かに自分が死んだところというのは確かに覚えていない青年なのだった。

「死んだ自覚はあるんだけどねぇ。医療ミスなんだ……」

「私としましてもあれだけの事故で後遺症一つ残らなかったのにと残念に思いましたわ。とても」

 残念そうどころか今にも吹き出しそうな表情で少女は告げた。

「ええ、とても残念だったのでこちらへあなたを拾い上げたという次第ですの」

「はぁ」

「気の無いお返事ですわー、悲しいですわー」

 そんな事を言われてもと青年は狼狽するしかなかった。二人の居る場所は本当に何もない空間だった。二人して同じ方向を上にして立っているが、地面も無く足元もなんとなくふわふわしているくらいだ。唐突にそんな場所に居て悲劇だ不幸だとまくし立てられたのが今である。なにがなんだかわからない。とかく自分が死んで、今は魂だけなのだろうという事だけが漠然と理解できた。

「えー……と君は天使とか死神とか何か、そういう死後がどうだとかいう感じのスピリチュアルなサムシングですか?」

「いえただの魔法使いですけれど」

「魔法使いってただのとかって頭につけていい存在だったんだ」

 全体的にゆったりとしたローブのような服装の少女は、言われてみればRPGとかに出てきそうな魔法使いの子供に見えない事もない。ただのと言われてもぴんと来ないが。

「まぁあなたの暮らしていた世界を作って遊んでたのは私ですけれどね」

「神様って言わないそれ」

「魔法使いですの。ただの」

「ただの」

「ただの」

 魔法使いとやらの平均レベルがどんなものなのか想像できない青年なのであった。

 

 

 

「さてそれでは本題に入りますけれど」

 ひとしきりただの、ただの? ただの! と言い合ったあと少女はおもむろに切り出した。

「チート能力持って異世界へGO! OK?」

「言いたい事は凄くよく分かった」

 青年はオタクであった。日本のオタク的サブカルチャーにどっぷりと浸り女人との交わりなど一切無いような、そんな状態を悲しいとすら感じない生粋のオタクであった。

 だから少女が言っている事がどういう意味なのかはすぐに分かったし、そういうシチュエーションだなというのも薄々感じていた事ではあった。だからといって急に言われてもだ。

「普通に生き返らしてもらうとかは駄目ですか」

「あなたが死んでからもう百年くらい経ってますわよ」

「あ、じゃあ異世界withチート能力でお願いします」

 百年も経った世界で生き返るなら異世界でも同じようなもんだなと即断する青年であった。

 その反応に少女はうんうんと満足げに頷くと、懐から一メートル四方のサイコロを二つ取り出し、はいと青年に手渡した。

「じゃあこれ振ってくださいまし」

「物理法則とかどうなってたの今の」

「魔法魔法」

 便利だなぁと呟きながら青年は二つのサイコロを見やる。そこには数字はなく、一つの面に一つの単語が書いてあった。

「さぁ振った振った!」

「押さないでも振るよ!」

 読もうとする青年の背をぽんぽんと叩きながら急かす少女に押され、青年はサイコロを高く放り投げた。思いの外高く投げ上げられたサイコロは、存在しない地面に叩きつけられるとほとんど転がらずに止まった。

『なんか』『つよい』

「なんかつよい」

「なんかつよい」

 青年は色々と腑に落ちなかった。

 

「というわけでー、あなたのチート能力は『なんかつよい』に決まりましたわ!」

 やったね! とサムズアップしてくる幼女に対して青年はスナギツネのような視線を返していた。

「アバウトすぎて何も伝わらないんだけど」

「私も詳細はなんにも考えておりませんわ!」

 えっへんと無発達の胸を張る少女に対し青年は不安しか覚えなかった。

「心配せずともちゃんと使える能力にはなりますわよ、その辺りの調整はお任せくださいまし」

「うん、まぁそもそも全部君に任せるしかないんだけどね」

 ただの死人である青年に、魔法使いと名乗る少女に意見する権利とかそもそもないのである。一方的に施されて得をするだけである。本当に得かは後々考える事にしよう。

「それじゃあ決める事も決めましたし、さっそく生きましょうか」

「決めるのそれだけなんだ……」

「他の事は私が面白くなるように決めますから大丈夫ですわ!」

 『面白くなるように』私が決めるのか、『私が面白く』なるように決めるのかでだいぶ安心感が違うなと思ったが、聞くに聞けない青年であった。

「生きるのに苦労しないくらいには強いと助かるんだけど」

 そう呟いた青年に、飛び切りの笑顔で少女は答えた。

「頑張ればどんな戦況でもひっくり返せるくらいにはしておきますわ!」

 その言葉を最後に青年の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 この世界は平和だ。

 謎の空間で謎の少女に謎の能力を与えられた私を待ち受けていたのは、安穏と退屈と既知に満ちた生であった。

 生まれた場所は日本の一般家庭で、時は前世の私が生まれた時分より数年だけ先の未来だった。

 当然のように現代で、魔法とか悪の組織とか超常の能力を持った異能者なんて前世に無かった要素の一切ない世界だった。

 普通に生まれた普通でない私は、チートなんて持ちながらも普通に見せかけて普通に育ち、普通に小学校を卒業し、普通に中学校へ進学した。

 それはとどのつまり、前世に一度体感したものと同じ時代を、同じ文化をもう一度過ごしているという事である。

 私はオタクだ。前世と今世で性別こそ違うが特に趣味も変わっていない。そんな状態で一度過ごした世界をもう一度やり直したらどうなるだろうか? 完全に残った前世の記憶を持っている状態でだ。

 そうだね、目新しいものが何もないね。

 世に輩出された新作、新規に開拓されたはずの概念、革新的なはずだったシステムの、それら全てが私にとっては既知だった。

 成程、手を出してはいけないものは分かる。やっておけば将来安心できるものもわかる。だがそこに冒険やなにやら、心が躍るような、新鮮な体験などは一切無かった。

 もちろん、前世の自分が死んだ時間を通り過ぎればまた私の知らないコンテンツが供給されてくるだろうという事は理解してた。せいぜい十数年待てばその時はやってくるし、それまでは普通に勉強でもして、目立たずに将来にでも備えておけばいい。時間に余裕の出来る職種に入れるようにしておけば、来るべきその日から十全に好ましい文化を堪能出来るはずだと思っていた。

 

 まぁ――そんな時は来なかったわけだが。

 

 

 

 春――出会いと別れの季節である。

 六年通った小学校に別れを告げ、少し大人気分で中学校に通い始める12歳の春。もしかしたらこの中学時代から何か、転生した時に貰った『なんかつよい』チート能力を活かさざるを得ないような特別な事態が起きたりするのだろうかと、ぼんやりと考えていた。

 おぎゃあばぶぅと普通の両親から生まれ、完全に世話をされる事への羞恥を乗り越え、ある程度動く事が出来るようになった私が最初にした事はこの世界の調査だった。

 もちろん、ようやく二足歩行が出来るようになった程度の赤子に出来る調べ物なんて、家の本を散らかす程度の事だったのだけれど。それでも四苦八苦しながら歴史書や漫画をひっくり返した結果、私にとっては意外な事に前世の知識との食い違いは全く無かった。前世で覚えた年表と寸分たがわぬ――と思う――事件や戦争の記録に、何度も読んだ覚えのある――こちらは確実に――漫画。とりあえず世間的には前世と何ら変わらない世界なんじゃないかなと考えるには十分な資料だった。

 幼稚園に入っても小学校へ進んでも前世の印象とこれっぽっちも変わらない世界で、次に私が警戒したのはこの世界にはいわゆる裏の世界が潜んでいたりしないだろうかという事だった。人知れず悪の秘密結社とヒーローが日夜闘争を繰り広げていないだろうかだとか、迫害された超能力者が寄り集まって世界征服を企んでないだろうかとか、謎の特権階級が遊びでデスゲームを開催していたりしないだろうかとか、そんな事を至極真面目に警戒していた。

 ……まぁ、一年くらいでそれらの心配も止めてしまった。そんなのが小学生に感知される程度の隠蔽しかされてないのなら、どう考えてもとっくに公になっているはずだと思ってしまったからだ。

 ちょっと運動神経が良くてそれなりに勉強もできる優等生として何かが起きるのを待ち、後半はもうこれ何も起きない平和な世界なんじゃないのかと思い始めた小学生時代は、本当に何事も起こらずに終わりを迎えた。そして私個人的にも世界的にも至極平和に中学生時代が始まりを迎えたわけなのである。

 転生者だからって私にとっての節目に何か特別な事が起こるような気がする、なんていうのはたぶん自意識過剰とかそっち方面に偏った思考だとは思うが、麗らかな日差しに包まれてぼんやりと通学路を歩いていると、始まりの季節に何か始まりそうだなー、なんて思ってしまうのだ。……起こって欲しいわけではないよ?

 

 

 

 と思ってたのがひと月前の話。その間、案の定何も起きなかった。

 何も起きなかったのだが、なんかこう、ちょっと怪しい連中は見つけたのだ。いや、怪しいというのは語弊がある。

 ハーレムである。ハーレム形成してる奴がいたのである。同じクラスに、女子四人ほど侍らせてハーレム状態の鈍感系男子が存在したのである。

 最初にそいつらが戯れてるのを見た時、学園ラブコメ、そういうのもあるのか! と私の脳裏に電撃が走った。それならこの世界が平和なのも納得がいくというものだった。転生前に言われた戦況というのも恋は戦争とかそういう方向性だったのかもしれないとか頭の沸き過ぎた思考まで飛び出した。その後ハーレムでもバトル展開のもよくあるじゃないかと思い直したが。

 それにしても一年の一学期、それもひと月目からハーレム展開とはやりおるわと思いちょっと聞き耳を立てると、どうやら一人は帰国子女で困っている所を助けられた上級生、一人はその妹でむしろ姉の方に構っていて、一人は幼馴染で一人はその親友のメガネっ子という構成らしかった。上級生は自分のクラスに帰っていただきたい。

 よく考えると好意を直接的に向けてるのはわざわざ上の階から来てる一人だけなんだが、全員その男子に対して嫌そうな態度とかは全くとらずにキャッキャウフフしている。というか近い。距離感が全体的に近い。たまにこっちがドン引きするようなラッキースケベとか出してますよあの男。先生に通報してやろうかと何回か思った。

 そんな観察を続けていたゴールデンウィーク明け。件のハーレム要員上級生から呼び出しを食らったわけだ。

 もしかしてハーレムの主の彼に気があるのかと。

 

 ねぇよ。

 

 今更だが今世の私は女で、それもかなりの美少女である。

 派手な印象のない地味目だが整った顔立ちに、短く切っているもののよく見れば分かる艶やかで張りのある黒髪。黙っていれば人形のようとまで言われたくらいである。口を開いたら完全に野郎である事は言うまでもない。だがしかし、それ故にか距離が近く感じるのだろう、小学生時代の被告白回数は二桁に乗っている。友達で居てくださいお願いします。

 そう、私は前世が男だった弊害なのか男を恋愛対象として見れないのである。と言えれば転生者の悲哀で済んだのだろうが、現実は少し違う。

 私は三次元の人間に欲情しないのである。二次専という奴だ。二次専なのだ。ハーレム男に対する感想も嫉妬ではなく純粋に、すげぇなあいつクソワロタwwwwwwとかそんな感じだったのである。そこに悪意は全くなかった。あ、全くなかったから勘違いされたのか。

 ともかく視線に気づかれてたとは思ってなかったけどそれは勘違いだから安心して求愛行動に励んでくださいという内容を最大限オブラートに包んで話した結果、若干疑わしげにではあるが引き下がってもらえた。

 ちなみに彼女が呼び出して問い質すなんて行動に出たのには理由がある。連休が明けたらハーレム要員が増えていたという切実な理由が。

 

 

 

(まさか現実で校舎裏に呼び出されるなんてなぁ)

 貴重な体験をした、と彼女は思った。創作ではよく見るシチュエーションでゲームなんかではよく体験したが、実際にそういう事が起こるのだとは全く知らなかったからだ。彼女は前世の影響で刺激に飢えているが、だからと言って悪い事をして親に心配をかけてまで求めようとは思っていない。故に偶然に起きたこの事態は彼女にとって妙に嬉しい出来事であった。

 そもそもこの元男、基本的には安定志向である。生まれてすぐに自分の能力をひけらかしたりする事のないように、特別視は出来る限りされないように振る舞いながら育った。ちょっと男の子っぽいとかぜんぜん手が掛からないとかそんな評価はされていたが、非行や奇行に走る事は無かったのである。だからちょっとした非日常みたいなのは大歓迎なのだった。

 そんなわけでルンルン気分で校舎へ帰ろうとする彼女の鼻頭でぽつん、と水滴が弾けた。

(やっべ降ってきた)

 その日は朝から曇っていて、呼び出しに応じた時点で空には厚い雲が浮かんでいた。天気予報では降るのは夕方以降と言っていたが、ちょっと早まってしまったらしい。駆け足になって下駄箱に向かう。校舎裏から少し遠いのが恨めしかった。

 角を曲がり下駄箱が見えた時、不意に三階建ての校舎の上の方から大きな音が聞こえてきた。

 悲鳴と、何かが割れる音。反射的にそちらを見上げた彼女が見たのは、破砕され宙に舞う窓ガラスと、勢い良く宙に投げ出された人間であった。

(ああ、あれは死ぬな)

 彼女は思った。あれは死ぬ。あの高さからあの勢いで落ちたら死ぬ。チート能力でいろいろと強化されている彼女にはそれが分かった。

 だから彼女は一瞬も迷わなかった。駆け足の勢いで一歩を踏み出し、チートに任せて二歩目を踏み出す。次の瞬間には数十メートルの距離は無かった事になった。落下地点に滑り込み、落ちてきた人間に負荷が掛からないように両手で受け止め、衝撃を殺すためにそのまま膝を折った。遅れてばらばらとガラスと雨が降り注いだ。

「非日常が過ぎるだろ……」

 雨だけでなく人が降ってくるとは思いもしなかったと彼女は独り言ちた。受け止めた人間――よく見たら某ハーレムの新人さんだった――をかかえ、気絶してしまったらしいその最上級生をどうしたものかと周囲を見回すと、茫然とした様子でこちらを見つめる人間が一人。強くなりだした雨に打たれながら、互いに見つめ合いになった。

(やべぇ見られた)

 彼女は焦った。オープンオタクでかつ法令順守で生きてきた彼女にとってチート能力と前世の記憶の事は彼女が抱えるほぼ唯一の秘密である。常識から逸脱しないように気を使って生きてきたこれまでの今生、誰かに自分の能力を悟られた事などはたぶん一度もなかった。悪行ではなく善行をしている場面であり恥ずべき事は何もないのだが、とりあえずで能力を隠していた彼女の肌着は内からも濡れた。

 二人が見つめ合い、雨脚は急激に強まる中、上の方も騒ぎが大きくなっていた。割れた窓の内からなんだどうした落ちた飛んでったとざわざわと声が聞こえる。人が集まってきたようだった。

 その声で我を取り戻したのか、彼女を見つめていた女性――担任の体育教師は駆け寄ってきた。

「だだ、大丈夫!?」

 明らかに動揺しながらも、彼女の事を心配してくる。わたわたと二人に怪我がないかを確認すると、はっと思い出し、懐から携帯電話を取り出すと病院へと連絡しだした。身体能力などの疑問はとりあえず棚上げしておいてくれる良い先生であった。

 

 

 診察、検査、異常ナシ!

 三階から落下した中学三年生を受け止めて普通に無傷とかこの体の耐久力すごいなぁ。どこまで無傷でやれるんだろう。と現実逃避した私です。いや反射的に人助けして困ると思わないじゃん?

 あの後病院へ運ばれた私と三年の先輩は検査を受けてどちらも問題なしと言われた。同伴した先生はほっとして胸をなでおろした後、普通は落ちてきた人を受け止めようとしたら怪我するし下手したら一緒に死んじゃいますから気を付けてくださいね、と叱ってくれた。私が完全に成功してしまっていたためものすごく言い辛そうだったし、周りも苦笑いだったが、駆け付けた私の両親はうんうんと頷いていた。心配させてしまったなぁとそこは反省している。

 落下した先輩は病院に着いた時にはもう目を覚ましていた。診察後に話を聞いてみたら急に何かに衝突されて落下したらしい。後で聞いた話によると、階段から落ちた別の生徒が防火扉に衝突し、開いた防火扉が積んであったダンボール箱をなぎ倒し、吹き飛んだダンボールが卓球のボールを運んでいた生徒に直撃し、ばら撒かれたボールで他の生徒が転倒し、転倒した生徒が抱えていた石膏像が先輩の背中に直撃したらしい。嫌なピタゴラスイッチである。昔から運が無くて……と本人は空を見上げながらぼやいていたが、私が居なかったら死んでたような事故に遭うのは洒落にならないからお祓いにでも行って欲しい。ちなみに石膏像は無事だったそうな。

 なお先輩は翌日は普通に登校してた。結構メンタル強いですね!?

 

 

 

 特に入院とかも無かった翌日のホームルーム。クラスメートの目が痛い。止めろ注目するなと言いたいが話しかけては来ない。入ってきた先生も昨日の事は話題に出さないが目線は滅茶苦茶こっちを向いている。どこまで話が回っているのか気になるが、実は私、友達が少ない。小学校時代男子を袖にしまくった結果である。私は悪くねぇと思うのだがどうだろう。

 放課後になり教室の周りに別学年が通りがかるようになると、その中にまでちらほらとこちらを伺う視線が混じっていた。どこまで流れてるんだ噂。というかそもそもどういう噂なのかと。三年の桑谷先輩キャッチしたゴリラが一年に居るらしいよ~とか言われてたら結構ショックである。

 いや私だって自己顕示欲くらいはある訳で、良い事をして注目されるの自体は嫌じゃないんだ。ただ、特に何も言わずに遠巻きに見てるだけというのは止めてほしい。凄く居心地が悪い。どうせなら褒めそやせと。叩き落とせるくらい持ち上げろと。

 そんな状況で迎えた次の日の体育。本日のメニューは50m走である。先生の目が痛い。でもごめんなさい先生、私、体育では完全に手を抜いてるんです。いつも通り適当に一緒に走るクラスメートより少し早いくらいの速度で走っておく。あまり制限しすぎると生活し辛いから、運動神経いいんだなと思われるくらいにはしておきたいのだ。

 とかやってたら授業の後先生に呼び止められて陸上部に誘われた。一緒に走った女子は陸上部だったらしい。先生は目を輝かせて私を勧誘するが、チート能力で競技会蹂躙無双はちょっと問題しかないだろうと思ったので断らせていただいた。先生は残念そうだったが、無理強いはしてこなかった。先生は。

 問題だったのは全力で走って流していた私に負けた陸上部員である。自分の足にかなり自信を持っていたらしく、体育のたびにこちらに張り合ってくるようになった。それだけなら良かったのだが、その娘、放課後になると私を捕まえて走らせようとしてくるのである。(私の頭が)悪い事に一回その娘に余裕で勝っているため、適当に負けてやるというのも難しい。というか、一回やったらふくれっ面になった。可愛かった。そしてそんな生活をひと月ほど続けていたら、なんかもういいやという気分になったので、私は先生に入部届を提出した。なんで部員でもないのにいつも居るんだろうという視線に耐えられなかった訳ではない。断じてそうではない。

 

 陸上部に入った私であるが、大会や記録会に出るつもりはなかった。それは当然、チートがチート過ぎてこの世界の人たちに失礼だからである。私の『なんかつよい』能力は本当に『なんかつよい』のだ。私はやろうと思えば震脚で地面を割ったり沈む前に足を前に出すことで水上を走ったり出来る。有体に言って人間の身体能力をしていないのである。

 だがそれで納得してくれないのが件の陸上部員の島さんだ。あんたが出ないなら私も出ないもんと駄々をこね始めたのである。なおこの陸上部、私を除くと一年の島さんが一番速い。二年三年のレベルが低いのではなく、純粋に島さんが全国レベルであるらしかった。そりゃ私スカウトされるわ。

 一般的に天才と呼び称されるレベルである島さんが、私という異物のせいで大会に参加しないというのは私としても憚られる事態である。かといって私が参加するのも問題がある。なので私はとりあえず参加登録だけして、仮病でも使って当日休もうと画策した。

 ちゃんと本気で走ってよねーと楽しそうに笑う島さんに罪悪感を覚えつつ迎えた記録会当日。早朝から、通り二本くらいしか家が離れてなかった島さんが家まで迎えにやってきて、動揺のあまり仮病とか使う暇も無く親に笑顔で送り出された私であった。

 

 普通に走るか。

 移動のバスと電車の中でさんざんどうするか考えた結果がこれである。

 いや最初は逃げる方法とかを検討していたんだ、わざと電車に乗り遅れるとか、途中で逸れて会場にたどり着けないとか。島さんに手繋がれてて無理だっただけで。この子距離近いよぉ……

 実際、普通に走ってもそこまで問題は無いはずなのだ。チートで超記録出そうが才能で高記録出そうが傍から見たら変わらない訳だし、私が地道な努力を重ねて一生懸命頑張っている人達への罪悪感に耐えられればどうにでもなる話である。一時的に注目されようがそこから記録を伸ばさなければそのうち忘れられる……はず。速いと言ってもまだ中学上位レベルしか出してない訳だから、高校レベルでは普通ってくらいに最終的に落ち着けばいいだけのはずなのだ。だから走ってしまえばいい。そしてそのうち今も速くなり続けている島さんにタイムで負けて、華麗にフェードアウト決めればいいのだ。

 この目論見には致命的な欠陥がある事に、この時の私はまるで気付いていなかった。

 

 迎えました一年女子100m走。第4レーンから、応援してくれる島さんや先生、陸上部のみんなに手を振り返し、クラウチングの態勢に。空砲の合図と同時に駆け出した周囲の女子から、わざと一瞬だけ遅れてコースへと飛び出る――人類のそれを超越した私の反射神経でスタートするとフライングを取られるからだ。そして、あんまり遅いと島さんがまた拗ねるだろうから、普段彼女と走っている時と同じくらいの力加減で走る。だが、それだけで私は一気に先頭へ躍り出て周囲をぐんぐんと引き離していった。

 本当に島さんって速いんだな。と思いながらあっという間に半分を過ぎる。その時点で私の『なんかつよい』気配感知能力は他の選手とは追いつきようのない差が出来ていると判断した。普段なら島さんから離れすぎないように、かつ手抜きしてるように見えないようにという謎の演技力を要求されるのだが、この時ばかりはそんな事は必要ない。私は自由だった。

 

 ここで問題です。普段島さんに合わせる事で一般的なタイムから逸脱しないように調整してきた私が、自由に走るとどうなるでしょう。なお私は走り始めて何秒目かカウント出来る能力を有してないものとする。

 

 

 

 10秒フラット。それが私の出したタイムである。女子100m走世界記録更新である。馬鹿じゃないの。

 

 もうね、会場全体ドン引きですよ。ざわ……ざわ……とかリアルに聞こえてくる感じ。先生も中学の仲間も唖然としていた。島さんだけ何故かドヤ顔だったけど。

 周囲からは計測間違いだろとかいやそれくらいは速かったとか聞こえてくるし、私はもう逃げ出したかった。もうフェードアウトどころじゃなかった。一人だけ寄ってきた島さん曰く、私は途中からどんどん速くなっていたらしい。自分でも途中からどれくらいの速度が丁度いいのか分からなくなってたからね、ペースメーカーって大事だね。島さんには失礼極まりないけどさ……

 100m走以外出る予定のなかった私はそのまま逃げるように帰宅。現実からも逃げるようにして自室で惰眠を貪った。

 

 

 

 翌日。家まで押しかけてきた島さんが、私の両親に見せつけるように広げたスポーツ新聞には、堂々と私の名前が載っていた。私は死にたくなった。

 ニコニコしながら歓談する両親と島さんを横目に、私はどうするか思い悩んだ。まずこれ以上スポーツの世界に関わらない。これは絶対にだ。ただの記録会ですら私の胃は悲鳴を上げている。生まれてこの方ここまでのダメージを受けたのは精神的にも肉体的にも初めてである。

 私はチート能力のせいなのかなんなのか、怪我も病気も今までした事がない。小学校なんて皆勤賞である。そのため病気がちだからとか言って誤魔化すのは不可能だ。わざと怪我するのは論外だし、なんらかのトラウマで走れなくなりましたとかそんな都合よく言い訳の出来る事態を起こせるとも思えない。ならばもう両親に絶対に走りたくない旨をぶちまけて遠い所で暮らさせてもらうか。そもそも普通に拒否したら別に走らなくていいんじゃね? とか考え始めた横で島さんが私の両親に私の身体能力の素晴らしさをプレゼンし始めていた。わざとやってんのか島ァ!!

 あわてて止めに入った私に対し、島さんは照れなくてもいいよちゃんと才能を知ってもらおうよと説得を始めた。確信犯(正用)な島さんの物言いに、両親も確かにこの記録はすごいし親としてはちゃんと支援した方が良いんじゃあないかという空気を醸し出し始める。止めろよぅ! 精神が死ぬぅ! 私が叫び出しそうになったその時、全員の携帯とスマホに同時に着信が入った。

 

 緊急事態宣言。

 

 は? と全員が急なそれに困惑する。読めば、家に帰り海岸線に絶対に近づかないように。海岸付近の住人は内陸部へ避難するように。要約するとそんな事が書いてあった。テレビを点けても詳細は言われずとにかく避難と安全確保をするようにとだけしか言わなかった。

 なんだか分からないがともかくこれはさっきまでの話を無かった事にするチャンスと思い、島さんに帰った方がいいんじゃないかと言ってみると、親が心配だからそうするね、と島さんは素直に返した。お邪魔しましたーとささっと靴を履いた島さんは、ちょいちょいと私を手招きする。なんだろうと思って近寄ると、耳元へ顔を近づけ囁きかけてきた。

 

 「逃がさないからね」

 

 確信犯(誤用)じゃねぇか島ァ!!!

 

 

 

 ちょっと怖い島さんが帰ってから暫くリビングで両親とテレビを眺めていたのだが、やはり何が起きているのかの情報は流れてこなかった。私としてはついに何か、チート能力が役に立ってしまう事態が起きたのではないかと気が気ではない。そわそわと携帯を弄るも、どうもネット回線がおかしいのか一部のサイトにしか繋がらない。はて携帯電話なせいだろうかと親に一声かけて自室に戻り、PCを立ち上げネットに接続した。

 PCからG〇〇gleやら某ちゃんねるやらようつべやらに接続を試みるが、どこにも繋がらない。だが、個人サイトや日本発祥の米付き動画サイトなどには繋がった。なんだこれ、と思いながら繋がった中で一番大きい掲示板を覗くと、やはりというべきか、緊急事態宣言総合スレがあった。緊急事態宣言とか日本終わったな始まってもいねぇよ何処の田舎だよなど序盤の糞レスの嵐を乗り越え、中盤の何が起きてんだ避難ってどこにだよという状況を把握してない人々の困惑に同調しながら、たまに張られているネタ画像に目を滑らせる。その画像群の中にその画像はあった。

 

 青い空、白い雲、白い砂浜、紅い海。

 

 それだけの画像だった。画像と一緒に投稿されたコメントは、マジでヤバイ。の一言だけ。最初はそのレスはコラだろうと笑われていた。だが、スレッドをさらに進めていくと、もう一枚、さらに一枚と別のIDの人間達が別々の写真を投稿し出していた。マジ? 赤潮? などの書き込みが増える中さらに読み進めた先には、混乱しながらスマホのカメラでどうにか撮影されたのだろう致命的な動画が待ち構えていた。

 

 

 

 動画は何を言っているか分からない複数の叫び声から始まった。カメラの先には煙と炎を上げながら崩れ落ちる複数のビル。その破片から逃げ惑う人々は一定の方向――端に映り込んだ赤く染まった海と逆側に向かっていた。人波に押されカメラがブレる。その瞬間、轟音が鳴り響き向かいのビルが爆発を起こした。悲鳴が上がる。恐怖に駆られた人々が撮影者を押しのけ逃げる。次の瞬間、また轟音が上がる。カメラがあらぬ方を向き、暫く滅茶苦茶な画面が映された。激突音。スマホが落とされたのだろう、青空が映し出された。数秒の停止の後、人影がスマホを拾い上げ直近に落ちてきたのであろうビルの看板が映し出されたところで動画は終了した。

 

 

 

 え、特撮? 最初に浮かんできた感想がそれで、その動画への最初のレスもそうだった。続きを読むと投稿者は落っこちてきた看板を避けてようやく撮ってる場合じゃないと気付いて、市街地を走り抜け崩れるもののない公園までたどり着き、避難民でごったがえすそこから動画を投稿したらしかった。

 戦争かはたまたテロか、海の色動画でも赤いぞ、何の映画の宣伝ですか? など混迷する掲示板の最新レスまで読み終えて、私は頭が痛くなった。まだ胃も痛いので今世の最大ダメージ記録更新である。誰だよこの世界が平和とか言った奴。

 水でも飲んで心を落ち着かせようとリビングに戻ると両親も騒いでいた。どうも某臨海に局のあるテレビのチャンネルが急に映らなくなったらしい。ネットのアレを見た後だから、私にはそれがどういう事なのか想像できてしまった。あの動画には映っていなかったが間違いなく、人が死んでいるんだろうなとぼんやり考える。

 思いっきり水を呷ると情報収集に戻る。増えていた画像や動画に目を通すと、そこにはやはりと言うべきか、グロ注意と書いておいてほしい類の物が含まれていた。

 もはや日本が何者かに攻撃されている事は明白だった。それが分かったからと言ってPCの前で何ができるわけでも無いのだが、私は情報収集を続けた。

 他の掲示板にも目を通し、動画投稿サイトもチェックする。その中にあった書き込みによると、どうやら現在アクセスできるのはサーバーが日本の、それも本州にあるサイトだけなのではないかという事だった。成程、海が赤くなったのと関係ありそうである。だがそうなると、我々は諸外国――どころか九州四国北海道沖縄などからも切り離されたという事になるのだろうか。これがネットだけの話ならまだいい。そう思ったのだが現実は非情で、国際通話も出来なくなっているらしかった。

 暫く調べて分かった事は、どうやら攻撃は海からの砲撃と謎の飛行物体による射撃ないし爆撃であるらしいという事だった。海を撮影した写真の中に謎の小さな船影らしきものが。攻撃されている町々の映像の中に飛び去る小さな機影が。それぞれ写っていたのだ。

 暇な人たちが合流してきたのか、掲示板のお祭り騒ぎは加速していた。今後の心配をする者、政府の批判を始める者、雑コラ作成に余念がない者、エロ画像を貼り付けだす者。普段通りの日本だなとある種の安心感を覚える。そんなネット上で私がその写真を見つけたのはまぁ必然だろう。

 それは赤い海の上に浮かんだ一隻のナニカの写真だった。それは全体的には金属に見えた。黒い船体から幾本も砲塔と思われる筒がそびえ立ち、陸地を向いたそれらからは煙が上がっている。だが目を引くのはそこではなく、船首に当たるだろう前方部分だ。そこには歯のような白いモノが並び下あごの様な形になっており、その中から白い、真っ白な人間の上半身が覗いていた。

 なんか異形の奴と戦う世界だこれ。私は確信した。そしてその数分後に投稿された動画で私は噴出した。

 

 それは赤い海の白いままの砂浜で、二人の色白の少女が口の付いたボールを次々取り出しては放り投げているほのぼの盗撮動画だった。よく似た二人の少女はどちらも白い長髪の左右に、角にも見える四角い髪飾りをしている。どちらも白いワンピース姿で、片方の服には猫のような模様が描かれていた。オレンジ色の目を陸地の方へ向けながら、一生懸命ボールを放っている。色白を通り越して真っ白な少女に高く投げ上げられたボールはそのまま空の向こうへと消え、時折空の向こうから帰ってきていた。なおタイトルは『幼女が海岸で遊んでたwwwwwwwwwwwwwww』である。

 

 どう見ても北方棲姫です、本当にありがとうございました。

 

 遊んでねーよそいつら、どう考えても攻撃してるよ! 艦載機飛ばして爆撃してるとこだよそれ! つーか北方棲妹も居るじゃねーかどうすんだこれ!!

 

 

 いやそれ以前にここ艦これ世界かよ!!

 

 

 思わず叫んでしまった伊吹 雪12才の梅雨であった。

 

 




全体にノリは軽くなる予定です。


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赤い海と艤装と適性検査と

 

 艦隊これくしょん-艦これ-

 前世の世界では色々と、それはもう良くも悪くも色々と有名なゲームであった。艦娘と呼ばれる少女たちを育て、資材を運用しながら敵を倒す。基本はそれだけのゲームである。明確なストーリーも、はっきりとした舞台設定も存在しないのが特徴というふわっとした世界観をしていて、敵も味方も何やってんだかさっぱりであった。

 そもそもこの艦これ、メディアミックスをいろいろとされた作品なのだが、作品一つ一つで固有の設定を持ち互換性がないという変わった作品だった。ある作品では敵と血みどろの殺し合いを演じ、ある作品ではクリスマスプレゼントを贈り合う。ある作品では提督と呼ばれるプレイヤーの分身がハーレムを築き、ある作品では氷上の提督がプレイヤーを艦娘にした。訳が分からないと思うが私にもわからん。

 だが一応共通して、艦娘たちはポーズにしろガチにしろ深海棲艦と呼ばれる侵略者達と日々闘争を繰り広げている設定になっている。そう、艦娘たちは、である。

 

 つまり一般人の私は何もしなくていいという事だな!

 

 私は艦娘じゃなくて普通に人の親から生まれてきた人間だからね、艤装とか持ってないし深海棲艦なんかと戦えるわけないよNE☆

 いや戦えないってのはたぶん嘘だけどさ。実際、艦娘が何とかしてくれる世界だと思うんだ。この日本って海軍とか無いけど。平成の世だからね、自衛隊しかないんだよこの世界。逆に自衛隊はあるから私が提督として起用される事も無いと思うんだ、提督の採用条件次第だけど。

 

 

 

 そんなふうに考えていた時期が私にもありました。

 

 

 

 

 

 深海棲艦の襲撃から半年、日本は完全に制海権を失っていた。今や日本であると明確に呼べるのは本州一島のみであり、四国、九州、北海道とすら一切の交信が途絶したままだった。海岸へ近づけば容赦のない砲撃が降り注ぎ、廃墟と化した港町には弔われる事のない死者が白骨を晒していた。

 赤々とした海に生命の気配はなく、標的が居ないかこちらを見張る異形の目だけが爛々と輝く。変色海域。そう名付けられた赤い海で全ての艦艇は腐食し海に没した。

 変色海域では生命は死滅し、金属は急激に腐食され風化する。影響力は上空にまで及び、航空機はどこへも辿り着けずに海へと吸い込まれる。

 日本は孤立していた。

 無論、国が何もしなかったわけではない。深海棲艦に対する攻撃は幾度も行われた。ただ彼女たちには通常兵器の一切が効果を表さなかったというだけである。それでも様々な手を使い初期の戦線から内側に侵攻させなかったのは、自衛隊の大手柄と言っていい。

 食料問題も深刻で、特に魚は普段の食卓からは一切の姿を消した。農作物の収穫に変色海域がさほど影響を与えなかったのが救いである。

 ただ状況が悪くなるばかりかと言われるとそうでもなく、当初は全く足りずに止まっていた電気の問題だけはこの半年で改善していた。新開発の発電施設が完成し、無事稼働に成功したのだ。折しも初冬であり、国民の安堵は計り知れなかった。

 そんなか細い光明を頼りに人々が生きる中、日本は新年を迎えようとしていた――

 

 

 

 

 

 艦娘現れないんですけど??????????

 

 突然停電してPC使えなくなったり、復旧したと思ったら政府から深海棲艦から攻撃されてるって発表されて町中大混乱、からの買い占め品薄物資不足。挙句の果てに一部の紙製品とかは配給制始まっちゃったよ! 米だけ普通に食べられるのは流石だと思う。

 外国から完全に孤立してるから何もかもが足りてないわけで、そんな状態だから当然のようにスポーツの大会なんかは全部中止、私の阿呆記録もなんかうやむやになった。やったぜ。

 やってねぇよ、どうすんだよこれ全然反撃出来てないぞ日本。銃も砲もミサイルもなんも効かないって何が起きてるんだ、というか発表して良かったのかそれ絶望で自殺者出たぞ。中学校普通に授業してるからあんまり危機感無いんだけど、世の中景気がどうとかいう問題を通り越しているらしい。

 なんせ生存が確認されてる日本人は一億人切ったからね! もちろん九州や四国、北海道の人間が生きてれば回復するんだけど、自衛隊が各地で頑張って深海棲艦追い返してる本州ですら人が死にまくってるわけで……

 艦娘ー!!!! はやくきてくれーっ!!!!

 

 そんな状況だけど私の周囲の人たちはみんな元気である。両親とか陸上部の皆とか島さんとか島さんとか島さんとか。

 島さんは宣言通り私を逃がしてくれなかった。非常事態宣言の後も一緒に部活に連れていかれ、毎日のように一緒に走っているのだ。そのおかげなのかなんなのか、彼女のタイムは縮まり続けている。手加減しなくていいよーっとか言われるが、そこは勘弁して欲しい。本気出すと周囲の物が吹き飛ぶんです。

 そういえば、某ハーレム軍団も元気である。最近うちの担任が参戦するようになった。大丈夫かこの学校。

 ハーレムの新人だった桑谷先輩とはたまに遊ぶようになったが、この異常事態が日常になった日本で彼女は平常通り不幸だった。普通に歩いてるだけで植木鉢のトマトが落ちて頭に直撃したり、飛んできたボールが変な跳ね方をして鳩尾に直撃したり、二巡三巡目で役満が直撃したりするのである。

 ちなみに桑谷先輩は三年生なので受験生だったりする。一応その辺りの制度はちゃんと機能しているため、受験勉強で大変そうだ。おかげでハーレムの主――提くんというが――とは若干疎遠気味で、クリスマスパーティで久々に会ってお話し出来たとメールで嬉しそうに言っていた。

 かと思えば私を校舎裏まで呼び出した二年の帰国子女――剛田先輩はそのパーティで提くんとキスまで行っていた。事故で。どんなラッキースケベ発動したらそんな事になるんですかね、とメールで聞いたら嬉し恥ずかしな文面の怪文書送りつけてきたので即座に削除した。

 実はこの半年で私と例のハーレムの女子達はそれなりに仲良くなっていた。元々気の良い人達ばかりなので、疑惑が晴れたらコミュ力糞高系女子の剛田先輩とはすんなりと打ち解け、その縁で他のハーレム員達とも友達になった。いまやパーティにも呼ばれるくらいである。陸上部のと被っちゃって行けなかったけど。

 流れで入った陸上部だが、案外私はエンジョイしていた。頭の悪い記録を出して、普段完全に手抜きしている事がバレた私が何故排斥もされずに打ち解けているのかと言えば、大体島さんのおかげである。私と一番多く走り一番多く負けている島さんが手抜きの事とか一切気にしていないそぶりなので、なんかもうどうでもよくね? とみんな感化されたらしい。

 その島さんであるが、何故かこの年末うちのこたつでごろごろしている。まるで実家のようなくつろぎ具合である。みかん欲しいねーとか言ってくるが九州四国からの供給が途絶えたみかんは例年ほど安くないのだ。我慢してほしい。

 なんで近所の島さんがうちでのんびり暖を取っているのかと言えば、彼女の両親が仕事で家を空けているからである。実は島さんの両親は今月頭から稼働の始まった新型発電施設の開発者のうちの二人で、この年末年始に問題が起きないように現場に詰めて辣腕を振るっているらしいのである。つまり私と島さんがこたつでのんべんだらりとしていられるのは彼女のご両親のおかげなのだ。実際、先月までは電力使用に制限が掛かっていた。テレビとこたつと電子レンジとポットを同時に使ってぬくぬく年を越せるだなんて誰も思っていなかったのである。

 開発者の皆様には足を向けて寝れませんなぁ。とその娘の関節を捻り上げながら思う。人のたいやきに手を出す奴はお仕置きよー。

 

 年の瀬を過ぎ、初詣も済ませ、そろそろ正月気分も終わりかなという朝、今や家で一番早起きな島さんが大慌てで私の部屋へ飛び込んできた。

 見てこれ見てと広げられた朝刊の一面を寝惚け眼を擦って見てみれば、そこには碧い海が広がっていた。

 

 

 

 自衛隊、深海棲艦の撃退に成功す。記事の内容はまとめるとそういう事だった。

 記事によれば自衛隊は新開発の武装、対深海棲艦用装着式艤装型装備、通称『艤装』を建造。選ばれた精鋭12名からなる部隊により運用し、深海棲艦と交戦。勝利し拠点へ侵攻、そこでも激戦を繰り広げたのち、その場に存在した変色海域の核の破壊に成功。海に青が戻った、という事らしい。

 戦艦長門型装備を身に付けた自衛隊員、と書かれた写真の中では、長い黒髪の女性が青い海の上に両足で立ち敬礼を行っていた。

 

 

 

 変色海域とか言ってるからアニメ版準拠かと思ってたけど、陽炎抜錨しちゃうタイプの世界だこれ!! 

 

 

 

 艦娘の設定は大きく分けて二種類存在する。一つは艦娘は建造されたりドロップしたり、自然発生だったり人工的だったりするがとにかく、艦娘は艦娘として生まれてくるタイプ。もう一つは普通の人間が艤装を纏い艦娘として戦線に立つタイプだ。

 新聞記事の内容がそのまま真実なら、この世界は後者である。長門の人、本名は伏せられてるけど自衛隊員(27)って書いてあるし。

 でもまぁ、実を言えば薄々そうなんじゃないかと思ってはいたのだ。なんせ自分の名前が名前である。

 

 伊吹 雪

 

 最初の一文字を取ったら吹雪である。特型駆逐艦一番艦の吹雪である。

 ついでに言ってしまえば、私の周囲には軍艦の名前が入った姓名を持つ人間が他にも数名いる。

 たとえば島さんのフルネームは島 風香だし、桑谷先輩は桑谷 扶美、ハーレムの構成員はそれぞれ剛田 金奈枝、剛田 比奈叡、三山 榛名、霧島 志乃、赤坂 真城。そしてハーレムの主は提 督正である。当然のようにあだ名は提督だったりもする。

 戦艦多くね? と思うが提くんが主人公な世界だと思えば不自然でもないと言えなくもない。未だにハーレム世界の可能性は捨ててないからな私は。もう平和でも何でもないけどさ。

 

 新聞を読みふけり思考を変な方向へ逸らしていった私に、これで平和になるねーと島さんは気楽に言ってくる。ソウダトイイネー……と返す私の表情はたぶん無表情ではなかったと思う。

 

 

 

 

 

 それから暫く。どうやら自衛隊が取り戻した海域は日本近海のほんの一部でしかなかったらしく、他の地域も取り戻そうと精鋭部隊は奮闘した。海は人間の生存圏である青を取り戻したり、また奪われて赤くなったりと混沌としていたが、日本は全体的に前より空気が明るくなった。ネット上も毎夜のようにお祭り騒ぎだった。なお自衛隊の長門さんはフリー素材扱いになっていた。ネット民ェ……

 誰が考えたんだか正式な名称として艦娘と呼ばれるようになった十二人の自衛隊員だが、旗艦を務めているらしい長門の人以外は非公開であり、彼女と、艦娘の司令官――提督だけがメディアに顔出ししていた。提督は結構お年を召してらっしゃるのだが、この人なんと海上幕僚長らしい。直々に指揮執ってるんだすげぇな、と思ったのだがそれには一応理由があった。

 自衛隊内提督適性者、全二名。艦娘登場前の深海棲艦との争いでかなりお亡くなりになっているが、未だ十数万人存在している自衛隊員の中で提督の適性があるのは、たった二人だけだったらしいのである。

 提督って特別な適性でなるもんなんかい、と世間では騒がれた。その後、艤装を扱えるのはやはり特別な適性を持った女性だけであると発表されてもっと騒がれた。

 艤装を扱う資質を持ち、深海棲艦と実際に戦う事が出来る女性自衛隊員、全12名。精鋭も何も、彼女らは日本の全戦力だった訳である。

 人類は深海棲艦と戦えるようになったが、数が足りず一面を攻略している間に他の一面が攻め落とされる状況となったわけだ。

 さて、なんでわざわざこんな不安を煽るような発表がされたかお分かりだろうか。

 それは国民に危機感を与え、兵力の補充をするべきだと世論を傾けるためである。

 だが現実に自衛隊員にはもう戦う適性を持つものはおらず、量産可能な艤装だけは余っている。

 その状態で何が始まるかと言えば……?

 

 そうだね、徴兵だね。

 

 

 

 

 

 凄まじい批判と論争が巻き起こった。そりゃあどんな危機的状況でも徴兵だ戦争だと言われたら反対意見くらい出るってもんである。しかもこの徴兵、対象年齢が12才から40才までの女性と下に広く、それが余計に反発を生んだ。

 せめて18か20からとかって意見が多かったのだが、国は頑としてこれを譲らず、法案は可決した。まぁ、理由が適性は加齢とともに減っていくから、だったので仕方ないのかもしれない。どんな欠陥兵器だよという突っ込みは相次いだ。

 私視点だと艦これ準拠なせいだろこれ、だったので、むしろ一桁の娘は勘定に入れてないだけマシだなという感想だった。海防艦とか……ねぇ?

 

 賛否の嵐を乗り越えた法案が通り、新年度が始まった四月の一週目。二年に進級する私は、適性検査のために中学校へ訪れていた。適性検査は地域ごとに順次行われるのだが、私たちの地域はなんと一番最初、第一期適性検査対象区域だったのである。あの幼女の作為しか感じねぇ!

 検査を受けてくださいと送られてきた書類によると、この一帯の検査会場は私たちの通う中学校で、内容は検査のための採血と軽い問診だけ。合格すると直接家に迎えが来るらしかった。逃がす気なさ過ぎてネットでネタにされた。

 そんなわけで春休み中なのにも関わらず島さんとうちの母親と一緒に中学校へやってきたのである。そう、うちのお母様は未だ30代後半、適性検査の対象なのである。検査範囲広いせいで親と同じ鎮守府に艦娘として着任する人とか普通に出そうだなこれ。ちなみに島さんの母親は既に検査を受けている、という事なので不参加である。

 というか、島さんの親はうちの家族に信頼置き過ぎじゃないだろうか。知り合ったの去年の五月なのに、年末以外もちょくちょく保護者が必要な場面でうちの親が代わりしてたぞ……発電関係で忙しいのはわかるけどさ。むしろ短い間に信頼を勝ち取ったうちの親が凄いのかもしれないが。

 閑話休題、検査会場には多くの人が詰めかけていた。やる事は多くないので回転はそれなりに早いが、島さんはおっそーいとぶー垂れていた。やっぱ島風だろお前。髪は私と同じで短かったりするけどさ。

 何本かの列から自由に並ぶスタイルだったので母と島さんと同じ列に並んでいたのだが、すぐ隣の列には無事に卒業し高校へと進んだ桑谷先輩が並んでいた。空はあんなに青いのに大変なことになったわね、と話す彼女はさらに向こうの列に並んだ女性のこぼした水を被って長い黒髪がびしょ濡れになった。やはり扶桑サンなのでは? 私は訝しんだ。

 採血は本当にただの採血だったため、何の滞りも無く終わった。次は問診だな、と並ぶ先に見当をつけていると、前方から聞きなれたデースが聞こえてきた。見れば、やはりと言うべきか現三年生の剛田先輩が堤くんに抱き着いてキャッキャウフフしていた。男性も問診だけは受けなければいけないので、剛田先輩と血液検査の後にたまたま遭遇したのだろう。公衆の面前で強制的にラブコメさせられ狼狽する彼の姿はむしろ哀れだった。

 一応は友達カテゴリに入る私を見つけ、助けを求めるような視線を送る彼を華麗にスルーして、最も空いている列に並ぶ。問診の列は男性も並んでいるため採血よりも列は長かったが、本当に簡単なものなのか、進みはかなり早かった。あ、桑谷先輩が参戦して提くんが両手に花状態になった。

 あれでキレたりしないのがハーレム構築者の懐の深さよな。と思いながら列の先のテントに入っていく人々を見る。入口の反対側に出口が付いており、一人出ては一人入るを結構なペースで繰り返していた。問診どころか書類の確認くらいしかやってなくないかこれ、と不安になっている間に私の番がやってきた。

 

 次の方どうぞー、と呼ばれるままにテントの中に入る。その中には艤装――たぶん吹雪型のどれか――を身に着けた女性が椅子に座り、こちらに手を差し出していた。だが目を引くのはその女性ではなく、その手前にある机の上である。

 

『次でボケて』

 

 そう書かれたミニサイズの画用紙をこちらに向かって一生懸命掲げる、小さな小さな人間のようなナマモノがそこには乗っかっていた。

 呆気にとられる私に、女性が書類をどうぞと催促してくる。はっとしてそれを手渡しすると、女性はここに何か見えますかーと机の上を指さして言った。ナマモノは画用紙をこちらに向かって振っている。

 私は悩んだ。これはボケるべきなのか、そう書いてあると言うべきなのかを。

 数秒悩んだ私に女性が見たままでいいですよと声をかけてくる。ナマモノは必死に画用紙を振ってアピールしてくる。私は悩んだ末、次でボケてと書いてありますと返した。

 ナマモノは画用紙を下げてがっくりと落ち込んだ。女性は目を輝かせ、こちらの両手を掴むと素晴らしいと叫んだ。

 感極まったように私の手をがっしりと掴んだ女性はすぐに正気に戻り、一つ咳払いをするとドン引きする私にそれでは退出をお願いしますと言った。

 ばいばーいと手を振る小さなナマモノに手を振り返しながらの退出の直前、艤装の彼女が書類に提督適性ありと記入したのを私は見逃さなかった。

 

 え、私提督なの? この名前で?

 

 

 

 一週間後、家に自衛隊の人間がやってきて、口頭で私が駆逐艦吹雪の適性者に選ばれた事を告げ、封筒に入った書類を渡して帰っていった。

 

 やっぱ吹雪じゃねーか!!

 

 艦娘適性は提督適性より優先されるもんなのね。問診の時のお姉さんと会ったら気まずいなぁ、と思いながら私は泣き崩れる母と怒りに震える父を宥める事に腐心した。

 

 

 




遅筆なので投稿は不定期です。
一日一話の方々とか、凄いですよね。どうやったらあんなに筆が早くなるやら……


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訓練所カッコナマモノ付き行

 父と母の興奮を収めた後、私たちは書類を読んだ。それによると、私はまず訓練所に送られ、そこで一ヶ月間艤装の扱いを学んだ後、各提督の下へ配属される事になるらしい。提督の数などは書いていなかったが、各地の鎮守府とあったので私以外にも提督の適性者は複数見つかったのだろうと思われる。

 来月には前線に出されるという事実に再度親が爆発しかけたが、私は戦いが終わったら年金貰えるってさ、老後も安心だねと務めて明るく振舞う事でそれを抑えつけた。なにか、娘がいじらしいとかそういう理由で泣きそうになっていたが、別に私は強がってるわけじゃなくてマジで危機感感じてないだけなんだよなぁ……

 ちなみに私は自衛隊所属になるわけではなく、新設の組織の所属になるらしい。徴兵じゃないと言い張るためかな? とか思ったのだが、ちゃんと給料形態とかはしっかりしていたのでどうでもよくなった。

 その他両親の半ギレ案件として、基本的に本名ではなく艤装の名前で呼ばれることになるというのがあったりもしたが、コードネームみたいで格好いいじゃんと言ったら父親は理解してくれた。男子はそういうのに憧れるもんだようん。私は今女子だけど。

 書類の中には徴兵と雇用のものとは別に、艤装の簡易的な説明書と注意書きも含まれていた。注意書きの最初に機密文書に該当するため不特定多数への頒布や公開をすると場合によっては罰せられると書いてあり、現代情報化社会への配慮を感じた。ちなみに後で調べたらこの注意書きをネットにアップした馬鹿は発見した。いや確かにそこは見せても大した問題にならんだろうけども……

 艤装の説明書はなんとも要領を得ないもので、要約すると装着すればなんとなく分かる、でまとめられてしまうようなものであった。装着の仕方と武装のリストくらいしか参考にならないぞこれ。

 武装は連装砲に三連装魚雷、爆雷投射機とかソナーなんかも交換で付けられるらしい。なんか普通に艦これの駆逐艦である。ちなみにこれらの使い方も全体にふわっとした説明で書かれていた。誰だよマニュアル作った奴……

 そうして両親とわーわー騒ぎながらすべての書類を読み終わり、私は思った。

 

 なんか全体的に緩くね?

 

 文面なんかはしっかりしているのだが、説明書はふわっふわで内容ゆるゆるのガバガバ、髪型の規定なんかも無かったし、なんなら軍隊ではないので規律などは最低限しか求めないとか書いてあった。給料は毎月ちゃんと出るし、酒保に欲しい物品を要請することも可能らしい。出撃や訓練時の服装だけは貸与された制服の着用が絶対だと書いてあったが、それ以外の時間は自由で、風紀を乱さない程度の自粛を求めるとだけ書いてあった。

 艦これ世界だからなのか、それとも逃げ出す奴を減らすための措置なのかと考えたが、たぶん前者だなと思考を止めておいた。

 読んだ両親は少し安心したような感じだったがたぶん前者だろう。うん。

 

 

 

 訓練所へは来週から入ることになるため、学校への連絡はすぐ行った。学校側も適性者が出た場合の対応はマニュアル化されていたらしく、了解の旨と明日の朝に必要書類を取りに一度学校へ来たら、後はもう登校はしなくても良いとの事だった。

 翌朝、学校へ向かう私に島さんが飛びついて言った。

「伊吹ー、私適性検査受かったよー」

「そっかー私もだわー」

「だよねー」

 何がだよねーなのかはさっぱり分からなかったが、私の背中におぶさり頭に顎をのせた島さんのゆけーという掛け声に私は駆け出した。

「私くちく? とかいうのの島風だって、伊吹のはなんだった?」

「私のは吹雪だね、特型駆逐艦の長女」

「おっ、長女? 伊吹私のお姉ちゃんになるの?」

「島風は特型じゃなかった気がする……」

「おうっ!?」

 一応は機密事項に当たるであろう内容を二人で喋くり散らしながら、学校への道をひた走る。島さんは途中で私から飛び降りると、真横を並走しだした。

「島さんは戦うの怖い?」

「どうかなー、やってみないとわかんないよそんなの」

 怯えなどを一切含まない声色、怖い怖くない以前に実感が全く沸いていないのだな、と感じる。そりゃあそうだ。私だってそうだし。

「でも、深海棲艦の奴らじゃ私には追い付けないよ!」

 島さんは結構自信家である。特に足の速さには絶対の自信を持っている。私に負け続けていてもそこが変わらないのはかなりの強メンタル持ちだと思う。

「艤装の速度って足の速さと関係あるのかなぁ……」

 私のつぶやきは速度を上げて走ってゆく島さんには伝わらず、風に溶けて消えた。

 

 

 

 学校に着き、二人して教室には寄らずに職員室へ直行する。書類を貰おうと思ったのだが、そこに居た教頭先生に校長室で待っているように言われ、私たちは初めて校長室に侵入した。

「あら、島さんに伊吹さん……そう、二人とも適性があったのね」

 そこには校長先生ではなく、私と島さんの担任にして陸上部顧問であり某ハーレムの一員……の自覚は無いだろうが私から見たら同列な赤坂 真城先生が居た。

「おはようございます!」

「ええ、おはよう」

 元気に挨拶する島さんに対して、赤坂先生はあまり元気がない。

「もしかして先生も受かったんですか?」

「ええ……」

「おおっ、じゃあ先生は伊吹の妹だったりとかするの!?」

「い、妹?」

 急に妹だとか言われても混乱するだけだよと島さんを窘め、私は先生に説明する。流れを理解した先生はなるほどと頷いて言った。

「残念ですけど、私の適性は駆逐艦じゃないの。先生のは空母、正規空母の赤城だと書いてあったわ」

 やっぱりな。と思う私と空母って何? という反応の島さん。先生はクスリと笑って空母の解説をし始めた。先生もよく知らなかったんだけど、と前置きされたそれは初心者でも概要が分かるようにちゃんとまとめられた内容で、成程まともに先生やってるんだなぁとハーレム案件で降下した彼女への評価はかなり改善された。

「じゃあ先生は飛行機飛ばすんだ、私も乗れるかな?」

「うーん、人間が乗れるサイズじゃ無さそうな書き方だったけど……」

 これくらいかな、と先生が両手で示した大きさはミニチュアかラジコンくらいのものであった。検査の時のナマモノが乗るんだろうか。それとも無人機か。どちらにしろ人間が乗ったら壊れるだろう。

 っていうか、赤城って弓で艦載機飛ばすんじゃなかったっけ。先生は弓を扱った経験とかあるんだろうか。

「先生も一か月訓練所に入るんですか?」

「ええ……駆逐艦もひと月なのね。ううん、詰め込み式になりそう」

 訓練期間が短いというのは先生も感じていた事らしい。心配そうに眉を寄せている。

 島さんが勉強はやだなーと漏らし先生がそれを窘めていると、おもむろに校長室の扉が開き、見慣れた五人が部屋へと入ってきた。

 剛田姉妹と三山さんに霧島さん、最後に提くんである。堤くんは私たちを見つけると、驚いた顔になった。

「伊吹! お前も適性通ったのか!?」

「まあねー、これからは護国の礎の艦娘様だぞ、崇めろー」

「いや、んな事言ってる場合かよ……」

 普段通りだなお前、と溜め息を吐く提くんに、先生が話しかける。先生も艦娘として適性検査を通過した事に、五人全員が驚愕していた。先生も特に親しい生徒に合格者が多すぎて困惑していた。

「提督ー、提督はなんでここに居るの?」

 艦娘って女だけでしょ? という島さんの質問に、提 督正くん――あだ名は提督――はうぐっと詰まった。それが面白かったのか、剛田姉がふふふと笑って言った。

「提督は本物の提督になったんデスヨー!」

「え、意味わかんないんだけど」

 名前関係で弄られるのを嫌がって言葉に詰まったのだと思うが、提督は提督じゃんというのが島さんの反応だった。やだこの娘、提督の意味知らないであだ名使ってたのね。

「島さん、提督っていうのはこの場合艦娘の指揮とかをする人の事だよ。つまり私たちの上司」

「上司……? ええ、提督がぁ? 頼りなーい!」

 こいつで大丈夫なのかと島さんが半眼で堤くんを睨む。そのまま堤くんの周りをぐるりと一周して言った。

「頼りない!」

「二回も言うほどか!?」

 そんなやり取りに全員が笑っていると、再度扉が開かれ校長先生がゆっくりと入ってきた。8人全員居ますねと確認すると持っていたファイルを机に置き、こちらに向きなおると、今回の招集――徴兵とは言わなかった――に関する説明を始めた。

 

 校長先生の説明によると、私達は戦いが終わり次第同じ中学に戻れるが、卒業の日を迎えてしまった場合は特別推薦枠で高校へ行けるようになっているとの事だった。他の生徒に艦娘として招集された事は伝えられないらしいが、時期が時期だけにバレバレだろう。うちの学年6人一気に居なくなるしね。

 先生に関しては復職などは優先されるかもしれないが、状況次第なのではっきりした事は言えないとの事だった。先生はちょっとしょんぼりしていた。

 親としっかり読むようにと渡された書類に、島さんがまたー? と呟いた。必要なものなのでちゃんと後で読ませようと思う。

 

 校長先生は書類を渡し終えると、生きて帰ってくるようにとだけ言って解散を促した。

 

 

 

 

 

 制服作成のための採寸や出発のための準備を済ませた後、思う存分ネット上の知りあいでない仲間達と戯れていたら、あっという間に翌週を迎えていた。訓練施設にはネット環境が無いらしいので、最低でも一か月はネット断ちになる。着任する鎮守府にはあるといいなぁ。

 荷物を背負い、心配そうにしながらしきりに話しかけてくる母に何度も大丈夫だから心配しなくていいからと返事しながら、玄関で待つ事数分。事前に知らされていた時刻通りに迎えの車はやって来た。

 車は大きなボックス車で、中が見えないように窓ガラスにはスモークフィルムが張られ、さらにカーテンまで引いてあった。助手席から一人の男性が降りてきて、手元の書類と私の顔を見比べながら確認をとる。

「伊吹 雪さんで間違いありませんね?」

 はい、と返事をすると車のドアをスライドさせ、どうぞと私に乗り込むよう促した。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 両親とそれだけ言葉を交わして私は車内に足を踏み入れた。

 

「いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませー!」

 中には島さんと見知らぬセミロングの女子が一人座っていた。どっちも特に緊張感の無い顔で、にこにこと笑っていた。

「伊吹、私より遅かったねー」

「単なる迎えの順番じゃん……」

「それ言い出したら私が一番っぽい!」

 なるほどこの娘は夕立だな、と短絡的に私の頭脳が判断する。さすがにぽいの一言でそれはどうなんだと自分でも思う。

 ドアが閉められ、出発しますと一声かけられ車が発進する。運転席と助手席の二人はどちらも男性で、私服のように見える格好をしている。目立たないようにしているのだろう。

「訓練所まで十四時間くらいかかるって。長いよね」

「そんなかかるの? じゃあ着くのは夜かぁ」

「途中で何度か休憩を挟みますので、昼食と夕食もその時になる予定です」

 助手席の男の人がこちらに説明をくれる。それに了解ですと返し、後ろの空間に荷物を押し込む。

「井口と、こちらは古橋です。これから貴方達を訓練所まで護送します。何かあったらいつでも言ってください」

「あ、伊吹です。よろしくお願いします」

「島です。お願いしまーす」

「足立です!よろしくお願いしますっ!」

 名前からも夕立みを感じる。というか、知り合いはみんな名前と艦が一致していたがそういうものなんだろうか。

「じゃあ伊吹、足立、なんかやろう」

「やるっぽい!」

「なんか、の詳細は?」

「……しりとりとか?」

「じゃあそれで――」

 そんな感じで暇をつぶしつつ、車は訓練所へと走って行った。

 

 

 

 

 

 訓練生寮と書かれた建物に到着したのは、23時頃だった。眠ってしまった島さんと足立さんを叩いて起こし降車すると、交代交代で運転していた二人も降りてきて、真剣な面持ちで敬礼をした。それに敬礼で返すと寝ぼけていた二人も見様見真似の敬礼を取った。

 去っていく車を見送り寮に入る。一見するとその建物は寮というか、一階が店舗になっているタイプの普通のアパートに見えた。

「寮に見えないっぽい」

「レストランにしか見えないんだけど」

「でも寮って書いてあるんだよなぁ」

 自動ドアの入り口をくぐり周りを見るが、やはりそこは内装の取り払われたシンプルなレストランにしか見えなかった。誰かいませんかと声をかけると、奥からはーいと返事があり、しばらくして割烹着のような服装でクレーンのような機構の付いた艤装を背負った、髪の長い女性が姿を現した。お待たせしましたと言いながら最中の乗った盆をこちらへ差し出してくる。

「給糧艦の伊良湖です。良かったら夜食にどうぞ」

 わーいと二人はさっさと受け取り、早速かぶり付いた。私も受け取ると、食べる前に確認する。

「その格好で料理されるんですか……?」

「ええ、まぁ……効率は上がるんですよ? ……ぶつけなければ」

 歯切れは悪かった。

 

「では、これが部屋割り表と鍵になります。鍵は失くさないようにしてくださいね」

 このレストランは食堂として使われ、上階のアパート部分で私たちは生活するらしい。こんな建物を使っているのは新築するのは間に合わないから、だそうである。レストランがあったような市街地で訓練などして大丈夫なのかと思ったが、この一帯は海岸に近く、一般人は立ち入り禁止の区域であるらしかった。

「二人とは別の部屋かぁ、ざんねーん」

「二人部屋じゃ仕方ないっぽい」

 部屋割りを確認すると私の部屋は206号室、同室は佐橋 杏奈さん。カッコ書きで初雪と書いてあった。

 名前に初雪要素が無い! 初めての事でちょっとビックリした。ちなみに足立さんはやっぱり夕立だった。

 

 階も違った二人と別れ、部屋割りを眺めながら自室へ向かう。表を見ると、概ね同型艦を同じ部屋にしているようで、例えば301号室は深雪と叢雲、302などは二人とも磯波だった。被ることもあるのか。ちなみに白雪は居なかったが東雲は居た。どうやら前世の私が死んだ時実装されてなかった艦娘の艤装も、この世界には存在しているらしかった。

 自室の前に着くと、中には明かりが灯っていた。ルームメイトになる佐橋さんは既に到着していたようだ。軽くノックをするとどうぞと声が返ってきた。

 ドアを開くと、中は結構立派な部屋だった。2LDKで風呂もトイレも付いている。二人で使うには広すぎるような気がする。佐橋さんが見ていたのかテレビが点けっぱなしになっていた。彼女は私よりはだいぶ早くに着いていたらしい。佐橋さんは高校生くらいか、私よりは年上に見えた。

「佐橋……です、よろしく」

「伊吹です、よろしくお願いします」

「それであの、私、こっちの部屋使いたいんだけど……いいかな」

 指さされた部屋を見るとその部屋は和室で、隣の部屋は洋室だった。問題無いので大丈夫ですと答えると、あからさまにほっとした様子になった。

「畳好きなんですか?」

「うん、それなりに……いや畳っていうか、布団が好きで」

「あー」

 分からなくもない。

 

 もう日付も変わるからとテレビを消し、佐橋さんは和室へ帰って行った。お風呂とかももう済ませていたらしく、同室の人間に挨拶するために起きていただけらしかった。荷ほどきも終わってたんじゃんさては譲る気無かったなと思いつつ、私もお風呂を済ませる。寝巻に着替え自室となる洋室で荷物を広げていると、ドアがノックされた。佐橋さんである。

「ごめん、これ忘れてた……」

 そう言って手渡されたのはビニールで梱包された洋服だった。表面に伊吹 雪と書かれたシールが貼ってある。

「制服だって……リビングにあったんだけど、ちょっと場所開けたくてどかしてたの、忘れてた……それだけ。おやすみなさい……」

 眠そうにそう言うと佐橋さんは自室へ戻って行った。

 服を取り出し、広げてみるとそれは吹雪型のセーラー服だった。成程、これが絶対に着用しろと書類に書いてあった制服か。生地はかなり強靭に作られていると私のチート感覚が告げている。部屋に来る前、伊良湖さんも明日は制服を着て六時に食堂に集合して朝食だと言っていた。本当にこれを着て訓練し、戦うのだろう。

 正直言って訳が分からないが、国を挙げてやれと言うのだから意味があるんだろうと思う。思うが……スパッツとか下に穿いちゃダメかな? 精神的には一応男な私にスカートは辛く、中学の制服もそうしてなんとか乗り切っていたのだ。明日聞いてみようと思う。

 ベッドに横たわり部屋割り表を眺める。そこには金剛や比叡の文字は無い。先輩達とは別の寮になったようだ。っていうか、駆逐艦の名前しか無いわこの寮。うとうとしながらそんな事を考えていたらそのうち眠ってしまった。

 

 翌日、手早く身支度を整え制服も着た私は、五時半を十分ほど過ぎても起きてこない佐橋さんを叩き起こし、顔を洗わせ、制服を着せて引きずるように食堂まで連れて行った。おかげでぎりぎりで遅刻するところだった。明日からはもっと早く起こそうと決心した。

 食堂には私たち以外の訓練生は既に全員揃っていて、予め決められた席に座っていた。立っているのは伊良湖さんとその横に立つ白髪の女性だけだった。

「初日から遅刻寸前とはね、まぁどちらのせいなのかは見ればわかるけど」

 白髪の女性が佐橋さんを見ながらくすりと笑う。明らかにおざなりな身支度しかされてないからね、仕方ないね。とにかく座れ、と席へ促される。私たちが席に着くのを見て白髪の女性は話し始めた。

「おはよう訓練生のみなさん。私は響、君たちの指導をする自衛隊所属の指導員だ。響というのは私の使っている艤装の名前で本名ではない。私もこれから君たちの事は艤装の名前で呼ぶのでそのつもりでいてくれ」

 響と聞いて私は驚いた。その女性が私の知っている駆逐艦響と全く印象が違っていたからだ。自衛官の響さんは背が高く、170を超えていそうに見える。雰囲気も全体的に鋭いというか、キツそうである。ただ髪は白くて長いし、目は青かった。

「教官は私を含めて四名、他の三人は今指導のための準備を行っている。食事が終わったらさっそく訓練になる……とはいえ、今日はそんなに難しい事はしないから安心してくれていい。何事も基本からだ」

 佐橋さん含め何人かが明らかに安堵した表情になる。自衛隊員の難しくないが我々にとって難しくないとは限らないと思うんですけどねぇ。

「それでは、食事を始めてくれ。何か質問があったら今のうちにしてほしい、どんな事でも構わんよ」

 その言葉でスパッツ穿いてもいいですか、と反射的に聞いてしまったが私は悪くないと思う。邪魔にならない範囲なら好きにしてくれとの事だった。

 

 私の質問のせいか微妙に弛緩した空気の中食事は始まった。メニューは白米に卵焼き、ほうれん草とベーコンの炒め物に青菜の味噌汁、漬物と今の日本基準だとかなり豪華な内容だった。特に味噌汁。こんぶもかつおも取れなくなった今海鮮出汁は貴重品なのだが、それをふんだんに使ってあった。合わせ出汁の美味さを噛み締めながら飲ませていただく。

「艦娘に選ばれたのはここに居るので全員なんですか?」

 誰かが質問を投げかけた。その質問に響教官は首を振って答えた。

「いや、この訓練所に送られたのは駆逐艦の艦娘だけだね。他の艦種は別の訓練所さ。第一訓練所は提督、第二訓練所は戦艦と巡洋艦、そしてここ第三訓練所は駆逐艦専門になっている。ちなみに第四が空母で第五がその他の潜水艦とかだな」

 どうりで剛田姉妹や三山さんが居ない訳である。周りを見渡してざっと確認するが、この場の訓練生は52人、他の訓練所も五十人くらいだと仮定するなら第一期適性検査で見つかった艦娘適性の女子は200人ほどか。どれくらいの人数を調べたのかはよく知らないが、うちの学校の7人というのはかなり多かったのではないだろうか。

「教官は、あの12人の精鋭の一人なんですか?」

「いや、違う。私は――というか、この訓練所の自衛隊員は全員あの部隊の一員ではないよ」

 え? と何人かが疑問の声を上げる。国の公式発表では戦える艦娘は12人で全員という事だったからだろう。だが教官は先ほど自分は響の艤装を使っていると言っていた。

「それじゃあ、自衛隊は嘘を吐いていたって事ですか? 本当は戦える人もっと居たって……」

「それは違う!」

 質問を遮り教官が大声を上げる。皆ぎょっとして食事の手を止めた。

「ああ、いや……すまない。だが本当に違うんだ。……そうだな、艦娘の適性値について今から教えよう」

 ちょっと待てと言って、教官は部屋の隅に置いてあったホワイトボードを持ち出した。

「まず、君たちは適性検査に合格してここに召集された訳だが、この適性検査は適性があるかないかだけが分かるなんて曖昧なものじゃなく、明確に数値として結果が出るものなんだ」

 教官がホワイトボードに文字を書く。一番下に100、その少し上に107。

「この107が私の駆逐艦響の適性値だ。もちろん他の艦の適性値はもっと低い。艤装の起動はこの数値が100を超えれば可能になる。そしてこれが今回の招集条件」

 150。とホワイトボードの中央に書かれる。

「つまり私は起動は出来るが艦娘として招集される条件を満たしていない人間というわけだ」

「起動できるだけじゃ戦えないんですか?」

「ああ、無理だ」

 教官はきっぱりと宣言した。

「私達だって何度も試したさ。だが、どうも艤装という奴は機関砲やら魚雷やらの威力まで適性値によって増減してしまう難物みたいでね」

 私だとほとんど装甲を抜けなかったよ、と教官は苦笑いした。

「適性値は低いほど1単位当たりの差が大きくなるみたいでね、107と150だと破壊力も機動力も桁が変わってくるんだ。私なんて全速力で航行するよりも普通に走った方が早いくらいだよ」

 走ったという単語に島さんがぴくりと反応し、絶対私の方が速いよという顔をする。どこに向かってるんだあの娘は。

「まぁ、そんなわけだから我々のような半端者は海には出ないが艤装が必要な仕事を割り振られているんだ。実際の所、艦娘として戦っている人間よりそちらの方が数は多い。公にはされていないが……まぁ、具体的に何をしているかは今後講義で取り扱うから楽しみにしておくといい」

 講義と聞いて、島さんも足立さんも佐橋さんも嫌そうな顔をした。現状の知り合い全員である。

「そんなまともに艤装を使えないなんて人が、私たちに教えられるんですか」

 どちらかと言えば焦りを含んだような声色で、睨むように教官を見据えながら一人が言った。

「貴女から教わって、あのクソ深海棲艦共を倒せるんですか」

 叫び出しそうなのを堪える様な詰まった声を受けて、教官はふっと笑った。

「そうさせてやるのが、私たちの仕事だ」

 二人は十秒ほど見つめ合い、やがて訓練生の方が視線を外し、目を伏せた。

「……よろしくお願いします」

 そのまま全員が食べ終わるまで朝食は無言で続いた。急にシリアスさんに顔出されると反応に困るわぁ。

 

 

 

 朝食が終わり、整列し訓練所へ向かう。訓練所は寮のすぐそばで、外観はどう見てもどこかの学校そのままだった。本来学校名が書いてあるであろう校門横のレリーフの上には第三訓練所と書かれた板が張り付けてある。校舎を通り過ぎ、列は体育館へと入って行った。

 外観は体育館なその建物は、中身は別物のように改装されていた。至る所に用途不明の配線が引かれ、天井からは吊り下げ用のクレーンが下りている。それらに囲まれるようにして52個の様々な艤装が置かれ、その周囲には大量のナマモノがうじゃうじゃと沸いていた。

 ある者は艤装を磨き、ある者は艤装のネジを締め、ある者は床の汚れをふき取り、ある者は煙突に嵌ってもがき、ある者は艤装に座ってお弁当を食べ、ある者は艤装の上で眠り、ある者はスパナを構え、ある者はドライバーでそれに応戦し、ある者は艤装の排気口から猫のような何かを引き抜こうとしていた。

 

 仕事してる奴の方が少ねぇ……!!!

 

 私は戦慄した。

 

 

 

 ナマモノ達の奇行はどうやら私にしか見えていなかったようで、誰もそれに反応せず、中の艤装を皆注視していた。教官が自分の物を探すように指示すると、みんな艤装に付いた名札を頼りに捜索を始めた。

 訓練生がそれぞれ自分の艤装の下へ移動すると、わらわらと遊んでいたナマモノたちは各々自分の持ち場があるのか、あわてて艤装の中へと駆け込んでいった。一部の艤装は入る場所が無いように見えるのだが、それでも複数のナマモノがその中へと消えて行く。外観は関係ないのかもしれない。

「では装着してくれ」

 教官の指示に従い、各々一緒に置かれたマニュアルを読みながら装着していく。基本は背負って各部を固定するだけのようだ。武装は外されている、安全面を考慮してだろう。そんなに難しくはないので暫くすると大体の娘が装着を終えた。

 そして訓練生たちの間から悲鳴が上がった。

「おうっ!?」

「なにこれ!?」

「人形っぽい?」

「まぁ、かわいらしい……」

 声を上げた少女たちの目線の先には艤装から顔を覗かせるナマモノが居た。どうやら全員ナマモノを認識したらしい。私の艤装からもおはよーとナマモノが挨拶していた。おはようさんと返しておく。教官を見ると、予想通りの反応だったのかちょっと楽しそうだった。

「教官! なんですかこれ!?」

「ふふっ……その子たちが艤装の乗組員だよ。艤装は言ってしまえば小型化した船だからね、一人で動かせるものじゃない」

 聞いてないですと叫ぶ訓練生に教官は機密事項だからねと返す。ナマモノ達の声も相まって、体育館はだいぶ騒がしかった。

 

 教官によれば、一般的にナマモノ達は艤装を付けた状態でなければ認識できず、平常時でも彼女らを知覚できる人間のみが提督になれるという事だった。その説明の最中教官は私の方をチラ見していた。私に提督適性がある事を知っているのだろう。

「提督って、艦娘ってそんなオカルトみたいな存在だったんですか!?」

「そうだ、完全に我々の知る物理法則を飛び越えた先にある存在だ。そして深海棲艦もまた、そうした我々の理解し得ない法則で動いている」

 教官の目はどこまでも真剣だった。深海棲艦は通常の兵器では傷つけられない。単純にそれが事実なのだとその目が告げていた。

 

「我々は妖精さんの力を借りて戦うしかないんだ」

 

 一瞬時が止まり、一斉に動き出す。

「妖精さん?」

「妖精さんって」

「妖精さんっぽい!」

「ああ、妖精さんだ。公式名称だ、覚えてくれ」

 教官の目はどこまでも真剣だった。ナマモノの名称は妖精さんである。単純にそれが事実なのだとその目が告げていた。

 

 『さん』まで公式なのおかしくね、という私のつぶやきに、吹雪の乗組員である妖精さんは分かるわーと頷いていた。お前らも疑問に思ってるのかよ!

 

 

 




何もかも緩い感じのを目指しているのでご注意ください。


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艤装に火をいれて

「それでは艤装の起動――抜錨を行う」

 妖精さん発言で一部の訓練生から大丈夫かこの組織なんて空気が流れる中、教官は話を先へと進めた。

「おっと……その前に、髪にゴムやピンを付けている者は外しておいてくれ。場合によっては危ない可能性がある。……いや眼鏡はそのままで大丈夫だ」

 そう言うと教官は体育館奥の舞台へ上がり、舞台袖から自身の艤装を取り出すと素早く装着した。武装もしっかりと付いたそれは大小さまざまな修復痕が付いており、真新しい感じのする訓練生たちの艤装よりも厳めしい印象を受ける。

「それでは駆逐艦響、抜錨する――」

 教官が宣言した瞬間背負った艤装から低い音が鳴り響き、排気筒から蒸気が吹き上がる。訓練生の間からも感嘆の声が上がる。背負う砲塔が動き出し特に狙いを定めずに上下に稼働を繰り返す。

「ちなみに今回は分かりやすくするためにやったが、わざわざ抜錨を口に出す必要はない」

 動かしたときにどうなるかイメージ出来たか? と聞きながら、教官は内燃機関を止めた。

「艤装に入った燃料を燃やし、エンジンを動かす。今やったのはそれだけなんだが……今のを見てやり方を理解できた者は居るか?」

 訓練生は皆押し黙った。教官はどこかのスイッチを押したりしたわけでもなく、抜錨と言った瞬間に艤装は動き出していた。口に出すことが合図になっている訳ではないと言われれば、何をもって起動したのかは私にもさっぱり分からなかった。教官は訓練生たちを見渡す。その視線は足立さん、島さん、そして私に一度ずつ止まった。ほんの一瞬の事だが、私のチート感覚は誤魔化せない。

「まぁ、そうだろうな……」

 もしやと思ったが、という小さな呟きを私の聴力は逃さない。何かあるのか私達……? 島さんも足立さんも妖精さんは見えていなかったようだから、提督適性があるわけじゃないと思うんだけど。

「それでわかるわけないじゃない」

 体育館側面の出入口から呆れたような口調で、長い黒髪の女性が口を挟んだ。説明が難しいのは分かるけど、と言って被った帽子を取りながら女性は舞台へ上がる。

「第三訓練所教官長の暁よ。私と響、それと第一練習場で待機してる雷、電の四人が貴方たちの教導を行います!」

 響教官と同じ制服を着た暁教官長は、やはりと言うべきか少女とは言えない容姿をしていた。自衛隊員なのだろうから当然なのだが、こう……なんだ、レイヤーさんがコスプレしてるみたいに見えてしまう。

 ちなみにこの暁教官長、残念ながらあまりレディという雰囲気ではなかった。

 

「艤装の起動に必要なのはそれが出来て当然という感覚を得る事です。みんな、腕を動かすのにどうやって動かしているかなんて一々考えないでしょう? それと同じで艤装を動かすのも全部頭でどうこうしようって考えるんじゃなくて感覚で行うもの、なのです!」

 響教官から場を受け次いだ暁教官長が始めた説明に、私はちょっと納得した。送られてきたマニュアルがゆるふわだった原因がこれなのだろう。手を動かす方法を文章化しろ、と言われれば私だって困る。

「さてその動かす感覚を得る方法ですが……艤装が教えてくれます」

 ん? は? え? と訓練生たちが困惑する。妖精さんじゃなくて艤装が教えてくれるの? 妖精さんを横目で伺うが、彼女たちは特におかしな反応はしていない。合ってるって事か……?

「まぁ……艤装さんはお話をされるのですね」

「ちょっと違うけどそういう認識でいいわ。直接声を出すわけではないけど」

 桜色の和装をした――おそらく春風だろう訓練生の呟きを、教官は肯定した。訓練生たちが動揺する。AIでも搭載してるんだろうか。

「艤装と精神で対話して、操作方法を学ぶ。それがあなた達の最初のカリキュラムになります!」

 思ってたよりオカルティックだなこの訓練所!?

 

 

 

 背中の艤装に集中し、対話を試みる。響教官曰く、艤装を全形の船に見立てそれに乗り込むイメージでの成功例が多いとの事である。

 私は神経を艤装に集中させる。

 中で妖精さんの動く音が聞こえる。これじゃない。

 集中、集中と誰かが呟く声が聞こえる。これじゃない。

 誰かがくしゃみをする音が聞こえる。これじゃない。

 私の心臓の鼓動音が聞こえる。これじゃない。

 誰かの服が艤装と擦れる音が聞こえる。これじゃない。

 誰かの関節が動く音が聞こえる。これじゃない。

 誰かの呼吸で揺らいだ空気の音が聞こえる。これじゃない。

 

 目を閉じ、息を止め、私そのものを艤装の中へ送り込む様をイメージする。

 自分の魂が艤装に触れ、私は中へと引き込まれる。

 何かと繋がった、そんな感覚がした。

 

 

 

 閉じた視界が開けた。そう感じた時、私は朝焼けの海上に立っていた。水平線まで続く青い海には太陽の色が混じり、空に浮かぶ雲も朝日の色を映している。その海にぽつんと、一つの船影が見えていた。

 船はゆったりと私の方へ近づいてくる。不思議と、警戒する相手ではないと理解ができた。はっきりと船の形が分かる距離まで近づくと、船上に一人、少女が立っているのが見えた。

 

 ――私が繋がったのはあの娘だ。

 

 なんとなくそう確信できた。

 互いの顔が確認できるまで近づいた船の上から、少女は敬礼の姿勢を取ったままこちらを見つめていた。今の私と同じ制服を着、肩に少しかかる程度の黒髪を首の後ろ辺りで括った、年の頃は中学生ほどと見える少女。

 

 吹雪型 1番艦 駆逐艦吹雪

 

 間違いなく、艦娘の吹雪だ。

 艤装は背負っていない。いや、おそらくは艤装に落とし込むまでもなく、乗っている船が吹雪そのものなのだ。真剣な表情でこちらを見つめる少女。雰囲気的にも場面的にも、おそらく彼女から艤装の扱いを学べ、という話なのだろう。だが――

 

 ――なんで吹雪さん、目が死んでいらっしゃるんですかね?

 

 真面目な表情だが、何か諦観というか、投げやりな雰囲気を感じるのだ。繋がっているからか、なんとなく分かる、諦めの境地。なんで? と心の中で疑問を問いかける私に、やはり繋がっているからだろう、心の声で返答があった。

 

 ――だって、だって雪さん……あなた私の力要らないじゃないですか!!

 

 すまない、チート転生者ですまない。

 転生して初めて、チート転生者である事を呪った私であった。

 

 

 

 

 

 はっと現実に引き戻される。

 いや待て、戻されちゃったけどいいのかこれ、謝っただけで終わったぞ、なんも教えてもらってないんですけど!

 慌てて周囲を見渡すと、まだ終わっていない者が多いのか、先ほどとあまり状況は変わっていなかった。ただ佐橋さんは何やら冒涜的な歌を口ずさんでいた。神格との接触じゃねーから!!

 教官達の方を見ると、響教官と目が合った。教官は一つ頷くとこちらへ近寄ってきた。

「対話出来たかい?」

「はい。でも、何も教えてもらえなかったんですが……」

「いや、あそこに入れたのならもう艤装を動かすための感覚は得ているはずだよ」

 やってごらん、と教官は促した。

 ええ、そういうもんなの? と思いつつ艤装に集中すると、成程、確かに動かせそうな気がする。今までは無かった感覚器官が生え、艤装が自分の体の一部のように馴染んだような感触がある。大丈夫かこれ。頭になんか書き込まれてない? 阿頼耶識ってない?

 少し怖いかもしれないが大丈夫だ、と教官が言う。自分も通った道だからだろう、確信のある口調だった。その言葉に押され、私は起動を開始する。

「吹雪型一番艦吹雪、抜錨します……!」

 内燃機関に火を入れる。タービンが回り、排気筒から蒸気が噴き出す。艤装から全身に力が流れ込む感覚。それは背中から心臓に、心臓から全身へと巡って行った。

 次の瞬間、もさっと、頭が若干重くなる感覚があり、私の両目の端に黒いものが入り込んだ。目線をずらし確認すると、それは髪の毛だった。手を後ろ髪に回すと、ショートで揃えていた私の髪は、掴めるほど長く伸びていた。全体的には肩にかかるくらいまで。

 

 無理やり艦娘に寄せて来やがった……!!

 

 よし上手く循環も出来ているねと教官は私の髪を見ながら言う。あ、判断基準そこなんですね。っていうか、もしかして教官たちの髪が長いのもこれが原因ですかね?

 隣では同じく起動に成功した佐橋さんが伸びた髪を見てまた冒涜的な歌を口ずさんでいた。

 

「おうっ!?」

 島さんの叫びが響き渡る、髪が伸びたのかな? と思い少し離れた場所に居る彼女の方を見ると、髪が伸びるどころか、髪の色までプラチナブロンドに変色した島さんがそこに居た。私の視線に気づくと、わなわなと震えながら両手につかんだ髪をこちらに見せつけてくる。そんなことされても。

 近くに居た暁教官長にこれ大丈夫ですかと焦りながら聞く島さんを尻目に周りを伺うと、続々と起動を成功させた訓練生たちが、やはり自分の髪を見て動揺していた。よく見ると目の色まで変わっている者もいる。足立さんも青い目をしていた。

 色とりどりの髪色になる睦月型や白露型、一部を除き長さ以外あまり変わらない我々吹雪型などいろいろ居たが、とりわけ凄いのが夕雲型である。一番艦の夕雲さんからして緑色になって驚いているのだが、長波朝霜清霜の三人の取り乱しようは凄かった。なにせ結構な長髪になった上で、内側と外側で二色に分かれているのである。妖精さんたちが大丈夫だよと宥めているのが印象的だった。

 後で聞いた話によると教官たちは髪の事について、妖精さんたちから口止めされていたらしい。悪戯心に溢れてらっしゃるなあいつら。

 

 

 

 大混乱ではあったが訓練生全員の起動が成功し、艤装を背負ったまま私たちは第一練習場へと移動する。艤装はそれなりの重さがあったはずだが、起動状態だとその重さは感じなかった。たぶん見たままの重さがあったら見るからにひ弱そうな佐橋さんとかはまともに移動出来なかったと思う。

 第一練習場は学校のプールだった。学校が訓練場に使われている理由はこれか、と少なめに水の張られた槽を見て得心する。

 待機していた雷と電の二人との挨拶を終え、プールサイドに訓練生が並ぶ。わくわくしている者や不安そうな者など反応は様々だったが、多くの訓練生は朝食時よりはやる気に見えた。

「これから航行演習の第一段階として、水上に立つ訓練を始めます」

「失敗しても足は着く深さにしてあるから、準備の出来た人から飛び込みなさい!」

 雷教官に言われるが早いか、いっちばーんと島さんが、続いてぽーいと足立さんが飛び込み、そのまま二人して沈んでいった。プールの底に足をつけた二人は、無表情でこちらを向いた。こっち見んな。

「……とまぁ、起動状態をしっかり保てないとこうなる。この第一練習場で行うのは起動状態を維持しつつ飛んだり跳ねたり出来るようになるための訓練だ。これが出来ないと戦闘以前の問題になる」

 そう言って響教官は水面に降り立った。足元が揺らめくが、沈まない。

「慣れればこの状態を丸一日維持する事も可能になる。もちろん、燃料が持てばという話にはなるけれどね」

 失敗した者は一度プールサイドに上がって起動し直しなさい、と指示され島さんと足立さんが戻ってくる。よく見ると、妖精さんが艤装から水を掻き出していた。ちゃんと仕事はするのね君ら。

 戻って来た島さんたちが再起動している間に、他の訓練生も挑戦を始めていた。少し出遅れたが私もプールサイドから水面へと足を伸ばす。私は特に問題なく水面に立ち上がった。どうやら艤装運用の新感覚に対してもチート能力が働くようで、私の艤装は安定し切っているみたいだった。

 大丈夫そうなので、とりあえず歩く。足元は地面よりは幾分か不安定で、足の普段使わないような筋肉に負荷が掛かる。佐橋さんとか辛いのでは、と思い彼女の方を見ると、案の定足をプルプルと震わせている。数秒後、そのまま力尽きて沈んだ。

 起動を維持するのは得意不得意が出るようで、ほとんど沈まない人達と何度も沈む人達が居た。島さんや足立さんは前者に属し、後者に属するのが朝に響教官とシリアスさんを交えてお話ししていた娘、曙だ。昼頃までには多くの訓練生が普通に歩くくらいは出来るようになっていた中で、彼女を含めた数名は立つ事すらままならない様子だった。島さんと足立さんは追いかけっこするわ私に飛び掛かって沈めようとしてくるわ卯月と深雪も参戦してくるわで大騒ぎだったのだが、教官たちはそちらの指導に忙しい様子でこちらの凶行にはあまり関わって来なかった。暁教官長曰く、走り回ってるのは訓練になるからそれでいいらしい。なお足が死んだ佐橋さんは水上に横たわり眠るという無駄に高度な芸当を行っていた。流石に怒られた。

 島風、夕立、卯月、深雪の四名の猛攻を抑えていると、学校のチャイムが鳴り響いた。時計を見れば正午である。暁教官長からプールから上がるように指示が出され、午前の訓練は終了した。昼食が終わったら午後は講義からなのです、という電教官からの宣告に、四人全員が嫌そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優秀な子ばっかりね」

 雷と電に引率され昼食へ向かう訓練生を見送りながら暁が呟いた。

「ああ、初起動まで最遅で27分。予想の半分以下とはね」

 あそこだけで二時間以上取られる可能性も考えたのだけど、と響が返答する。

「私達なんて半日かかったものねぇ……何が違うんだか」

「何って、適性値だろう?」

 響がため息をつく。適性値は艦娘として絶対的な力の差を生み出すと認識されている。110にも満たない二人と最低でも150の訓練生ではモノが違う。

「ん~、でもその割には起動自体はそんなに差が出なかったわよね例の三人も。というか、最速は秋雲だったし」

「……もしかしたら、上限があるのかもね」

 適性値は低ければ低いほど1の違いでの差が大きく出てくる。100と101、208と212だと前者の方が差が大きくなるのだ。そうなると極端に高い数値の場合、数値1つが持つ力の大きさも極端に小さいものとなり、結果的に意味がなくなる。という説があるのだ。

「そうだとしても我々とは天と地ほどの差があるだろうけどね」

 快晴の空を見上げ、二人はほんの一週間ほど前の事を思い出す。

 

 

 

 その日、第三訓練所に配属される事が決まった四人は最高司令部――大本営と呼ばれるそこで着任にあたっての必要書類の処理や注意事項の確認、妖精さんとの打ち合わせなどに追われていた。

 低適性とはいえ艤装を起動できる彼女達は元々与えられていた任務の重要性も低い物ではなく、ギリギリまで遠征をこなしていたため、着任まで一週間を切ってようやく異動のためのあれこれに手を付けられるようになったのである。適性者でない自衛官の手伝いはあったが、訓練用のカリキュラムなどは実際に動かす事の出来ない人間が適切な物を組むことは出来ず、他所の教官達との話し合いの元でそれらの作成も行なわなければならなかった。

 徹夜になりそうだと思いながら粛々と作業を進める彼女たちの下へ、機密文書が届いたのは1600時を回った辺りであった。教官長となる暁が内容を改めると、それは第三訓練所に送られてくる訓練生たちの詳細な経歴だった。

 書類は顔写真や身長体重のデータと来歴の二枚に収まっている者も居れば、備考が長く複数枚に分かれた者も居る。中には新聞記事が添付された者まで存在した。詳しくは食事の時に目を通そう、と思いながらさっと捲って行くと、最後に全訓練生の名前と適性のある艤装、そしてその艤装の適性値の書かれたリストが現れた。それを見た暁は眉を寄せた。

「何これタイプミス?」

 思わずそう呟き注目を集めてしまう。隠す事でもないので、ほらこれ、と適性値順に名前の載ったリストを三人に差し出した。

 

 

 

 姓 名      艦種 艦名     適性値

 

 住吉 悠     駆逐艦 曙     152

 山内 玲奈    駆逐艦 五月雨   154

          ・

          ・

          ・

          ・

          ・

          ・

 化野 世理亜   駆逐艦 漣     682

 足立 夕海    駆逐艦 夕立    9836

 島 風香     駆逐艦 島風    12883

 伊吹 雪     駆逐艦 吹雪    530000

 

 

 

「何ーザ様なのです?」

「最後の三人だけ桁がおかしいわね」

「四桁は分かるが……九千?」

 自衛隊内の適性検査で出た最大の適性値は468だったため、四桁というのはまだ理解できる数値である。が、おおよそ一万ともなるともはや何かの間違いだとしか思えなかった。ましてや五十三万などは狂気の沙汰である。

「ああ、個別の書類には正しい数値が書いてあるんじゃないか?」

 響の発言を受けて暁が確認する。だがそこにはやはり、530000の数字が書かれていた。沈黙が下りる。

「……ちょっと、確認入れてくるわね……」

 各所への確認作業まで追加され、その日は結局徹夜になった。なお数値は紛れもなく正しい値で、検査をした妖精さんも結果を二度見していたというどうでもいい情報が手に入った。

 

 

 

「今日までずっと半信半疑だったのよね、例の記事含め」

 あれは確かに信じがたいと響も同意する。奇しくも深海棲艦の攻撃と同日に発行されたスポーツ新聞に掲載された記録会の記事、内容は伊吹という少女の記録と彼女への賞賛だった。

「黄金の肉体か……」

 有り得ない記録を出した少女へのライターからの賛辞であるそれは、先ほどの訓練でもその片鱗を覗かせていた。

 夕立や島風に飛び付かれ、深雪に組み付かれ、卯月に圧し掛かられ、だが一切体を沈下させなかった吹雪を思い出す。片腕で一人をいなし、同時に二人飛び掛かればその二人が衝突しないように軌道を逸らしながら水中へ転がし、四人に捕まったかと思えば回転して全てを同時に別方向へ振り払っていた。

 そもそも吹雪は最初から、まるで熟練者であるかのように波一つ立てずに水面に立っていた。今日得たばかりのはずの感覚でそんな芸当が可能なのだろうか。

「艤装の起動方法を知らなかったのは嘘じゃなさそうだったけれど」

「あ、やっぱりあれそういう意図だったのね! 流石にある訳ないじゃない」

「提督適性まで持っているからもしかしたら、と思ったんだけどね」

 ないない、と暁は手振りまでして否定する。

「まぁ、なんにせよ手の掛かる子じゃなさそうで良かったよ」

 日本が目下解決したい問題は人手不足である。故に響は適性値の低め――自分達よりは高いわけだが――な娘達の底上げの方が現状必要な事だと考えていた。無論上の方の訓練生は手を抜くなどという事ではないが、余計に世話を焼かずとも育ってくれるのであれば有難い話である。

「そうね、最悪の事態は起きなさそうよね。楽しそうに戯れてたし」

 四人に絡まれた吹雪は、他の娘ほど朗らかそうではなかったものの口元に笑みを浮かべていた。普通の女の子よね、と暁は評した。

 その女の子に戦場での成果を期待してしまう現実に吐き気を覚える。響は歯噛みした。

「さ、私たちも昼食にしましょう。午後の準備もあるし手早くね!」

 響の様子を察したのかそうでないのか、暁は明るく響を急かす。今の感じなら今日の夜まで――悪くとも今晩中には全員が水面を歩く程度には艤装の感覚に慣れそうなのだ。こちらの不手際で練習できませんでした、などとする訳にはいかなかった。快晴の日差しの中、日向ぼっこする工廠妖精さんを回収しながら二人は食堂へ向かって行った。

 

 

 




魔法使いの少女に『私が面白くなるように』調整されているのは吹雪だけではないというお話でした。


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オカルティックが止まらない

 伊良湖さん特製の昼食を終え講義に入る。講義は校舎内の視聴覚室で行われ、基本的に他の教室は使われないらしかった。講師は主に電教官が行い、補佐に雷教官が入る。最初の題目は艤装とは何か、である。

 

 この世界において艤装とは『対深海棲艦用装着式艤装型装備』の略称である。対深海棲艦とあるように深海棲艦討伐のために開発されており、通常の物理攻撃では傷つけられない深海棲艦に有効打を与える事の出来る、現状唯一の兵器となっている。

 使用に当たっては特別な適性を持つ女性と、それとはまた別の適性を持つ提督と呼ばれる人間――こちらは性別は関係が無い――が必要となる。前者が居なければそもそも動かす事が出来ず、後者が居なければどのような攻撃であっても深海棲艦に損害を与える事が出来ない。

 提督の必要性はここにあり、提督が持つ『対物理無効化能力を無効化する力』を運用するための兵器が艤装であり、その艤装を操作し実働するのが艦娘なのである。

 純粋な兵器としての威力や射程、精度などは現状の自衛隊の武装よりも劣り、しかし、実際に戦えば確実に艤装の使用者――艦娘が勝利すると言われている。その理由は単純で、深海棲艦の持つ対物理攻撃無効化能力を艤装も有しているからである。 

 艤装の持つ対物理無効化能力は提督が居らずとも発動しており、対物理無効化能力無効化能力は提督の力が無いと発動しない。そのため、模擬戦やその他の演習などは後者の能力を使わずに行う事で安全性を高めた実施が可能である。

 

 そこまで説明を聞いて私は思った。

 これ私ら深海棲艦居なくなった後も解放されないよね?

 艦娘同士で戦うのでもなければ提督すら必要無いじゃん。相手に艦娘居なかったら敵基地の迎撃とか無視して蹂躙できちゃうよね? どう考えても次世代の軍事力である。っていうか、飛べないISじゃねぇか! いやアレよりかは大分弱そうだけども。やべぇぞこの世界、深海棲艦も脅威だけど海を取り戻した後にも戦争が見えるわ! 日本が戦争する気なくても艦娘の奪い合いになるだろ!

 とか思ったのだが、電教官によるとそういう事にはならないらしかった。その主な理由が妖精さんである。彼女たちが入っていない艤装はまともに動かす事が出来ず、妖精さんたちは人間同士の争いには協力してくれるつもりがないらしいのだ。インベーダーとかエイリアンとかプレデター相手なら協力してくれるんだろうか、と卓上でごろごろしているおサボり妖精さんにこっそり聞いてみたらいいよーと返事を頂けた。宇宙人は人類扱いでないらしい。

 

「まとめると、艤装に特殊な能力を働かせるために必要な力を供給するのが提督、艤装が動くための命令を現場で出すのが艦娘、艤装を実際に動かすのが妖精さん、という訳なのです」

「艦娘は艦長、妖精さんが乗組員に当たる訳ね」

 何か質問はありますか? と聞いてくる電教官に、はい! と大きな声で手を挙げたのは朝潮だった。

「その役割で提督が提督と呼ばれているのは何故ですか?」

 ああ……と電教官が微妙な顔になる。気になるわよね、名称周り……と雷教官も頷く。

「それは、大体妖精さんのせいなのです」

 そうなん? と目線をやると、妖精さんは小さな鉛筆で私に配布されたノートに落書きしていた。

 

「そもそも艤装がどこから現れたのか、という話からになるのですが……一般的に自衛隊が開発した、とされているのは知っていますね?」

 はい、と答える朝潮。島さんはへーって感じだった。お前私と同じ新聞読んでたよな?

「それも実物を作り上げるための環境を整えた、という意味では間違った話ではないのですが、実態は少し違うのです」

「設計したのとか、使われてる技術は自衛隊の物じゃないのよね」

 自衛隊が多数の被害を出しながらどうにかこうにか深海棲艦を追い返している時に、それは現れたのだという。

「自衛隊内でも最初の提督――宮里提督が一人の妖精さんを見出したのです」

 宮里提督はそれを幻覚と思わず、規律を無視してまで彼女を上層部に送り届けた。運の良い事に上層部の、それも幕僚長が提督適性の持ち主だった事で事態が動いたらしい。そうでなかったら病院送りだったんじゃないかなその人……

「その妖精さんが齎したのが艤装の建造技術なのです。だから私たちは妖精さんの事を出来る限り尊重しているのです」

 技術提供から前線への出動までしてくれてるわけですから、と電教官は言う。

「それで何故提督が提督という名称なのかという話に戻りますが、それは妖精さんがそう呼んでいたから、なのです。提督だけでなく、艦娘などの名称も妖精さんからなのです」

「わざわざ変える必要が無かったからそのまま使ってるのよ」

 机上の妖精さんはそーなんだーとおっしゃっていた。知らなかったのかお前。

「ああそうだ、それに関連してなんだけど、貴方達の事を艤装の名前で呼ぶのも妖精さんのためよ。あの娘たち提督以外の人間の名前なかなか覚えられないらしいのよね……」

 雷教官の言葉に、妖精さんはごめんねーと申し訳なさそうな反応をしていた。不思議な生態のナマモノである。

「だから混乱を避けるためにも皆さんにも出来るだけ艦名で呼び合って欲しいのです」

 電教官の言葉には特に不満は上がらなかった。基本的に知り合いは居ない上に初日でまだ名前も覚えていないからだろう。私と島さん――島風みたいなのは珍しいのだ。やっぱうちの中学校の艦娘、人数おかしいよな?

 

 その後、制服も艤装の一部でありある程度ダメージを吸収してくれる事、艤装を起動すると身体能力も上がる事、艤装のメンテナンスは原則として妖精さんと工廠の専門の艦娘が行うが自分でもある程度出来るようにしておいた方が良い事などが語られ、一回目の講義は終了し休憩時間となった。

 部屋割りと同じ順番なのか隣の席だった佐橋さん――初雪は、ファンタジー過ぎて逆にスラスラ頭に入ってきたけどおかげで寝れなかったとボヤいていた。いったい何がお前を睡眠に駆り立てるんだ。

 

 講義の次はまた水上訓練だった。私は特に変わりなかったのだが、不思議と周りの訓練生達は先ほどよりも安定感が増していた。教官によると感覚が定着してきたのと、妖精さんが少し個別の調整をしてくれたからであるらしかった。勝手に定着してくってちょっと怖い。

 午後の訓練は深雪がブレイクダンスしようとして沈んだり漣が逆立ちした状態で沈んで犬神家したりはしたが平和に終わり、艤装を置いてシャワーを浴び、夕食になった。

 

 

 

 アジが出た。今の日本では見られなくなったはずの海のお魚が食卓に並んでいた。しかも冷凍っぽくもない。脂の乗ったいいアジの開きだった。感動した。招集されて良かったかもしれない。少なくとも食事に関しては良い物が期待できそうだ。私と同じく魚料理に色めき立った様子の一部の訓練生とお肉食べたい系女子とで一瞬にらみ合いになったが、伊良湖さんの明日はお肉にしますねという発言で即座に鎮火された。

 アジに箸を入れると身から脂が湧き出してくる。口に運べば魚の旨味と程よい塩気が私の脳を揺らした。添えられた大根おろしも嬉しい。あっという間に食べ終わり、余韻に浸る。魚うめぇ……

 食後、伊良湖さんに漁業出来るようになったんですかと質問が飛ぶ。その質問に伊良湖さんは笑顔で、だが若干答え辛そうな声色で返答した。

 

 実はこの訓練所で出す食事は全て艤装で生産したものなんです。

 

 どういうことだってばよ。困惑する私たちに伊良湖さんは説明を始めた。

 伊良湖さんの食糧事情講座によると、青さを取り戻した海でも未だ魚介類は戻っておらず、そもそも戻ってくるのかも不明であるらしい。そんな状態でどこでどうやって夕食の魚を調達したのかというと……給糧艦の艤装に燃料と弾薬と鋼材とボーキサイト突っ込んで製造したらしい。そうはならんやろ。

 養殖魚ならぬ量産魚。食べて大丈夫なんですかそれ、という質問に対しては成分的には完全に普通の魚だったから大丈夫ですと返ってきた。そもそも艤装が開発されてから今日まで自衛隊の艦娘達はそれを食べて生き抜いてきたらしい。実績あるなら大丈夫だな?

 艤装で製造した食材には滋養強壮効果や疲労回復効果もあるらしく、体力の無い訓練生でもちゃんと食べれば翌日にはまた訓練に励めるようになると伊良湖さんは言っていた。良い事尽くめであるらしい。原料名が明らかに食料でない事を除けば。

 そこを突っ込まれた伊良湖さんはあれ? という反応をした。一緒に食事を取っていた電教官がまだ教えてないのですとフォローを入れる。

 艤装に使われる燃料や弾薬は通常そう呼ばれる物とは違う物体で、どちらかと言えば霊的資源とでも言うべきものである。詳しい説明はまた後日になるが、ともかく鋼材とかボーキサイトとか呼ばれてはいるがそれも妖精さん案件であり、実際には全くの別物である。との事だった。どっちにしろ食べていい物なのかはさっぱりなのだが、とりあえず金属なんかを食物に変換しているわけではないらしい。

 まぁそれならいいか、と思う。だって美味しかったし。だって美味しかったし。だって美味しかったし。美食は七難隠すのだ。

 オカルトが過ぎてもう感覚が麻痺してきた訓練生たちは、私以外も割とそんな感じだった。

 

 

 

「ああ~……そこそこ……あ"あ"あ"-……」

 美味しいがちょっと不審な夕食を終え、部屋に帰って来た私は初雪の脚をマッサージしていた。初雪の脚は筋肉が無く、かなり細い。今日の訓練とも言えないような何かですら張りつめ、かなり凝り固まっていた。もみがいがある。

「はわぁ…………吹雪が同室で良かった……マッサージ上手いし、アニメ流しても嫌がらないし……」

「私もオタクだからねぇ」

 初雪は持ち込んだDVDを再生していた。某巨大人造人間が心の壁を張る奴である。この世界で新劇場版完結すんのかなぁ、と思いつつ眺める。部屋の中に居た妖精さんも興味津々である。ちなみにマッサージにはチート能力を使っている。チート力加減を楽しむがいいわふはは。

 ここの兵器の作画いいよね……。いい……などとアニメ談義をしていると、玄関のチャイムが鳴った。はーいと出ればそこに居たのは島さん――島風である。島風制服の際どい恰好のままで入り口からうさ耳のようなものを覗かせていた。

「伊吹ー、走ろー」

「走りません」

 ガチャリとドアを閉めるとチャイムが連打される。

「は~し~~ろ~~~~よ~~~~~~~~」

 ドアの向こうから恨めしそうな声が聞こえてくる。近所迷惑なので開けてやった。

「走る?」

 走りません。と期待に満ちた視線を一刀両断する。

「訓練中なんだから体を休めて明日に備えなよ、そういう自己管理も仕事の内だよ?」

「えー、だってこの寮テレビとか付いてないし、暇なんだもん」

 秋雲はお絵かき始めちゃったし、と島風はぼやく。ルームメイトに放置されて寂しかったようだ。

「あれ、テレビ?」

 リビングを振り返ると、そこには寝ころびながら薄型テレビでDVDを鑑賞する初雪の姿がある。こちらの会話を聞いていたのか、起き上がりテレビを指さしながら言った。

「これ私の私物」

「テレビごと持ってきてたの!?」

 持ち込み禁止に指定されてなかったから、と言う初雪はものすごいドヤ顔だった。

 

「テレビ持ち込むなんてやるねー」

 島風は部屋へ上がりこんできた。リビングに座り込むと一緒にアニメを見始める。島風本人はオタク趣味はあまりないのだが、年末年始とうちで過ごしたのもあり理解はその辺の人々よりある方だ。暫く三人で鑑賞する。

「そういえば、初雪は伊吹の妹なの?」

 EDに入ったタイミングで島風が聞く。

「それまだ引っ張ってたのか……てか、呼び方直さないと。怒られても知らんよ」

 初雪は最初何を言われたのか分からない様子だったが、少ししてアイデアロールに成功した。

「ああ……吹雪型の妹……って事か。確かに、一番と三番だからそうなる……かな」

「おおっ」

 本当にお姉ちゃんなんだーと島風は感嘆する。その言葉に初雪はこちらを見つめた。

「お姉ちゃん……お姉ちゃん……なんだろう、すごくしっくりくる……」

 おねえちゃーんと言いながらこちらにしな垂れかかってくる。重くはないがうざいので床に転がして足つぼをマッサージしてやる。うごごごと妙な声を上げて初雪は轟沈した。年上だろお前。

 チート指圧を足の裏に受け痛気持ちいいと呻る初雪の耳に、島風が口元を寄せ囁く。

「い……吹雪は甘えようとすると嫌がるけど、出来ないでいると手伝ってくれるよ」

 なんのアドバイスだよ。

 

 暫くマッサージしていると疲れからか初雪は眠ってしまったので、和室に布団を敷いて放り込んでおく。風呂は明日の朝入れよう。リビングに戻るとテレビを消した島風が待ち構えていた。

「じゃあ走ろうか」

「走りません」

 どんだけ走りたいんだお前は。大体もう日も落ちていて暗いし、無用に出歩かないようにとも言われている。どこ走る気なのさ。

「廊下とか?」

「迷惑過ぎるわ」

「じゃあ……校庭とか?」

 勝手に使えないでしょ、と返したら、島風は許可貰ってくる! と飛び出して行った。数分もせずに戻ってくる。

「駄目だったー。感覚定着させるためにもうさっさと寝なさいだってー」

 それだけ言って仕方ないしもう寝るかなーと島風は部屋へと戻って行った。私も軽くリビングを片付けて、一風呂浴びて寝る事にした。ほら、妖精さんもお家へお帰り。え、うちで寝る? いいけど。

 

 

 

 翌日の訓練は水上歩行から少し進歩して、水面を滑る訓練だった。定着が進んだのだろう、訓練生はそこそこの説明でも滑る感覚を理解できていた。意外な事に初雪は滑るのが上手く、足動かさなくていいから楽とまで漏らしていた。逆に大変だったのが島風である。彼女の滑走は速すぎて、細かい制動が出来ていなかったのである。

 思い切りしぶきを上げて、島風が高速で走る。プールの端で止まれずに、そのままジャンプしてプールサイドを飛び越え、フェンスに突っ込み停止する。艤装に物理無効能力が無かったら怪我してたんじゃないだろうか。そんな事を何度か繰り返し、最終的には私がプール端でキャッチする形で落ち着いた。私の練習? 最初から急停止も急加速も出来ましたよ。チート便利だなぁ。

 フェンスをとんてんかんてんとハンマーで修理する妖精さんを眺めながら、ターンしようとして曲がり切れずに横転する島風を受け止める。ターンより先にゆっくり滑る練習したら? え、今より遅くできない? お前の艤装どうなってんだ……?

 

 

 

 お昼を食べ、体の休憩を兼ねた二日目の講義の時間である。

 今日のお題は適性値について、だった。基本的には初日の朝食で響教官が話してくれた内容と変わらず、高ければ強く、低ければ弱いという話だったのだが、電教官はそもそも適性値というのが何であるかまで踏み込んだ説明を行った。

 

 適性値とは、『死者も含めた人類の無意識や精神、記憶、魂などの集合体』の中に存在する『過去の軍艦の意識』と同調し、その力を引き出し増幅する能力の強さの値である。

 

 つまり最初にやった艦娘との対話は艤装と話していた訳ではなく、艤装を通して集合体の中の軍艦の意識と話をしていた訳である。あれこの世界のオリジナル吹雪さんだったのか……

 ちなみに提督も別口でこの集合体にアクセスして、そこから無効化能力を引き出してくるらしい。そのうち召喚能力者とか出てくるんじゃないかこの世界。

 にしてもなんだろうね、このファンタジーワールド。グレートスピリットとかアカシックレコードとか英霊の座とかそういう類のに接続して戦闘プログラムダウンロードして脳か魂にインストールしたってのが昨日のあらすじだったわ。先に説明していただきたかった。

 一般的に適性値が高いと制御も上手く、低いと制御も出力も低くなってしまうため戦闘に堪えるだけの人間はかなり限られるのだそうだ。そうなると島風って適性低いのだろうか、速度は出せそうだったけれども。私の適性値は……どうなんだろう、チートで完全制御してる感覚があるため高い低いはよく分からない。まぁ吹雪さんは要らないだろって突っ込んできたし、チート能力あれば要らない程度なんじゃないかなたぶん。

 

 

 

 午後の訓練もプールでの滑走練習だった。相変わらず島風は滑って転んで転覆していたが、午前に比べるとマシになってきている。自然に定着するなら反復練習に意味は無いのではないかと少し思ったのだが、そんな事はないらしい。少しずつ曲がれるようになって行く島風を受け止めながら思う。減速の練習しろよ。

 日が暮れ夕食を終えると、昨日と違いプールでの自己練習が許可された。島風にプールへと連行され、練習に付き合わされる。島風以外にも割と練習する人は多く、曙や夕雲さん、足立さん――夕立なんかも参加していた。当然のように初雪は不参加だった。

 夕立はぽいぽい言いながら華麗に四回転からの三回転半ジャンプを決めていた。そんな適性値高そうな夕立の行動を複雑そうな目で見つめるのが曙である。彼女は滑るの自体は下手ではないのだが、とにかく加速が遅い。最高速度は悪くなさそうなのだがあれだと回避行動は難しいだろう。それでも聞こえてくる響教官のアドバイスを拾っていくと、曙の成長速度が遅いわけではなく上の方がおかしいだけらしかった。漣とか荒ぶる鷹のポーズで高速移動かましてたしね。あれは気持ち悪かった。

 

 

 

 翌日翌々日と滑走の練習が続き、島風も小回りは利かないまでも減速を覚え、全員が様になって来た四日目の夕食後。私と島風、夕立、漣の四人は暁教官長に呼び出された。なんでも明日からの砲撃訓練に先立ってテストしておきたい事があるので手伝って貰いたいとの事だった。四人とも特段拒否する理由は無かったので、夕闇の中を教官達と艤装を背負って行く事になった。行き先は海に面しているという第二練習場である。

 第二練習場までの道のりは暗く、電灯も灯いていない。町中を通っているのだが、海に近いこの地域はとうにゴーストタウンと化しており、人間どころかほとんど生き物の気配を感じない。荒れ果てたとまでは行かないまでも、手入れをされなくなった街路樹などは乱雑に枝を伸ばしている。そんな中を暁教官長の背負った探照灯で照らしながら進んでいく。適性値は低いと言うが、そういった装備は普通に使えているようだった。

 

 第二練習場は海に面しているというか、港の倉庫街の一角だった。波止場がすぐそばにあるような舗装された岸壁から海に立てられた標的を狙い撃つ、とにかく砲の扱いに慣れるための練習場であるらしかった。

 到着すると、響教官が倉庫の中から艦砲を運び出し一人一人に配布した。吹雪型がよく持っているあれである。たぶん12.7cm連装砲か何かだと思うが、見てもよく分からなかった。それを装備しろというので手に持ち、艤装を起動する時のように、本来人間に無い感覚を使って起動する。砲身を動かす感覚が分かるようになったので練習もかねて上下にうねうねさせておく。それを見た三人も一緒にうねうねやり始めたので、砲門を突き合わせて皆でうねうねする。教官達は生ぬるい笑みを浮かべていた。

 そうしている間に練習場に設置された電灯が点けられ、海上を照らした。暗い水面には固定された標的がいくつか浮かんでいる。ではまず漣から、と暁教官長に名を呼ばれ漣は発射位置についた。

「それじゃあ漣、一番左の標的を全力で撃ってみて。持たせたのは連装砲だけど、一発だけでいいわ」

 漣はおkおkと狙いを定める。初めてで一番手だというのに、少しも緊張した様子は見られない。自然体でネットスラング垂れ流す系女子なのだ。

「それでは第一射、用意! てー!」

 暁教官長の若干可愛らしい号令と同時、漣の構えた連装砲から砲弾が飛び出す。真っ直ぐに標的へと向かったそれは、見事に上部の的部分を粉砕した。少し遠くで水しぶきが上がる。

「初弾命中キタコレ!」

 漣が歓声を上げる。初心者のはずだが安定感のある射撃であった。連射しても結構当てそうな雰囲気がある。教官達も感心した様子だった。

 漣が下がり、二番手は夕立である。同じように構え、渾身の力を込めるように一声ぽい! と鳴いた。暁教官長がごくりとつばを飲み込む。

「それでは……第二射。用意……てー!」

 撃った、そう思った次の瞬間砲弾は標的の足と海面の接水点に着弾し、大きな水柱を上げた。轟音が鳴り、吹き飛ばされた海水が海面に叩きつけられる音がしばらく響いた。海水の雨が治まると、海面には根元を粉砕され折れ飛んだ標的が残されていた。

「外しちゃったっぽい?」

「威力ヤバくて草」

「うん、まぁ……外れかな、いろいろと期待は出来そうだけれど」

 響教官の評に頑張りまーすと返答して夕立は下がって行った。三番目は島風だ。気合十分という感じで連装砲を構え、お願いしますと教官に合図した。

「それじゃあ第三射用意、てー!」

 島風の発射した砲弾は標的の斜め上をすり抜け、遠くの海面へと着水した。衝撃が海面を削り、斜めの水柱が水煙を上げる。

「普通に外した……」

 威力はともかく、完全に的から逸れてしまったそれを見て島風はしょんぼりした。

「初めてなんだからそんなものよ、これから当てられるように練習すればいいわ」

 雷教官のフォローにはい! と元気よく答えて島風は下がる。最後は私である。私が一歩前に踏み出すと、暁教官長は心なしか後ろに下がり、その後何やら覚悟を決めたように一歩前に出た。

「では、第四射、用意!!」

 一際大きくなった声を背に私は構えた連装砲に力を籠める。全力でと言うのだから全力の、手加減抜きで!

「てー!!」

 発射音が鳴った。

 

 暫く静寂が辺りを包み、数秒後、島風があれ? と声を発する。

「吹雪今撃ったよね?」

「弾どこ行ったっぽい?」

「空砲?」

 三人の訓練生が騒ぎ出す。教官達も不思議顔をしている中、一人、双眼鏡で的の観測を行っていた電教官だけは何が起きたのか理解していた。

「命中、なのです」

 電教官が双眼鏡を暁教官に手渡す。的を覗き込んだ暁教官はあ、と声を漏らした。的の中心部には砲弾の直径と全く同じサイズの穴が空いていた。私の撃った砲弾は確かに的に命中していたのだ。ただ音もなく命中し、中心を貫通し、的を揺らす事もなく水平線の彼方へと飛んで行ってしまったというだけで。

「ええ……?」

 何がどうしてそうなった、という感じの声を暁教官長が上げた。私が聞きたいです。

 暫く相談し、とりあえず問題なく訓練は実施できそうだ、という結論に達したらしい教官陣をよそに私は確信した。

 私の適性値、絶対高いわこれ。

 

 

 




どこからどこまで説明書くべきなのかって悩みますね。
まぁこれの場合妖精さんSUGEEEEEEEEって事だけ覚えて貰えれば大丈夫なんですけど。


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武装練習

 巻雲には納得できない事がある。

 それは自分が艦娘として招集され訓練所に送られた事ではない。親は泣いたが誰かがやらなければいけない事だ。

 巻雲には納得できない事がある。

 それは自分達が名前でなく船の名前で呼ばれる事でも、食事の製造過程が怪しい事でもない。名前は特にこだわりはないし被ってる娘も名字が同じと思えば不便しない。食事はとても美味しいから問題ない。

 巻雲には納得できない事がある。

 それは知らない他人と暮らさせられる事でも、寮という名のアパートから訓練以外で外出出来ない事でも、訓練生がみんな元気で騒がしい事でもない。同室の夕雲さんはとても優しくて包容力もあって憧れるくらいだし、外に出る用事は特にないし、元気があるのは良い事だ。

 巻雲には納得できない事がある。

 それは自分の使う事になる兵器がオカルト染みている事でも、謎の小人が世界に蔓延っていた事でも、霊や魂が実在しているらしい事でも、適性値なる数字で強弱が決まる理不尽な仕様がある事でもない。ちゃんと使えるなら科学的である必要なんて感じないし、妖精さんがそこらに居ると考えるとちょっと恥ずかしいあれこれはあるけど見えないならそこまで気にならないし、幽霊が本当に居たってちょっと夜中にトイレに行くのが怖くなるだけだし、適性値が低くて戦えないと分かるのはむしろいい事だろうと思う。

 巻雲には納得できない事がある。

 それは先日始まった砲撃訓練で的にさっぱり弾を当てられない事でも、漣のように片手撃ちでもガンガン当てていく訓練生が居る事でも、明らかにやる気の無かった初雪が動体への射撃でトップクラスの成績を出している事でも、島風が連射しすぎて弾薬を枯渇させ砲身も破損させた事でも、その島風にちゃんと狙うように注意する吹雪が全く的を見ないで命中させている事でもない。自分が当てられないのはなんかもう適性低いんだろうなと薄々理解出来たし、逆に漣は高いんだろうなと分かるし、初雪はFPSで鍛えたと自己申告してたし、島風の連射速度は装填速度がおかしな事になってるだけだし、吹雪は水上訓練の時点でちょっとあれだったのでなんかもうそういうものなんだろうと夕雲型の中で意見の一致を見ている。

 巻雲には納得できない事がある。

 それは今お茶を淹れてくれている十代にしか見えない夕雲さんが既婚者でありなんなら子供も居るらしいという事ではない。旦那さんがうらやましいだけである。

「巻雲さん、そんなに悩んでも仕方ないわよ。本物の巻雲さんもそうだったんでしょう?」

「そうですけどぉ……どうしても納得がいかないんです!」

 巻雲には納得できない事がある。

 召集前、自分の詳細な身体データは自衛隊に送られているはずである。わざわざ他人に測ってもらったのだから正確な数値が届いたはずだ。だというのに。だというのに。

「どうして巻雲の制服はこんなに袖が余っているのですか……!?」

 オーダーメイドで作られているはずなのに、どうしてこうなった。可愛いじゃないと慰めてくれる夕雲さんには悪いがそういう問題ではないのである。捲ってもいつの間にか元に戻っている不思議な袖をぺしぺしとテーブルに叩きつけてやるが、悲しいかなそいつが縮んでくれたりはしないのだった。

 

 

 

 

 

 試射の翌日から砲撃訓練が始まった。今までよりも分かりやすい凶器を扱うという事でやはり皆最初は尻込みしていたが、順番に撃たされているうちにだんだん楽しくなってくる者も出たようで、最終的に彼女たちは当てた外した端だ中央だと競い合うようになっていた。漣や夕立も参加し好成績を収め、島風は手数で補おうとして砲塔が消耗し妖精さんから怒られた。

 そんな流れに触発されたのが初雪である。どうも最初はやる気が見られなかったのだが、ゲームの様相を呈して来ると様子が変わり、楽しそうに狙い撃つようになった。特筆すべきはそのAIM力で、動いている的への命中率は漣や夕立を超えて二位だった。一位はうん。威力も調整できるようになったからうん。

 

 砲撃訓練三日目、私達は居残りでまたテストに駆り出された。メンバーも変わらず漣、夕立、島風、私である。適性値の高い訓練生が装備を使っても大丈夫なのかを試しているのだろう、というのはもう四人とも気付いていたので、誰も拒否はしなかった。

 その日試したのは魚雷と爆雷だった。遠くに大きな的が用意され、そこに魚雷を撃ち込まされる。比べた感じだと漣が一番狙いが正確で、夕立が一番威力が強く、島風が一番弾速が早かった。

 私の番になり、前回同様若干緊張した様子の暁教官長の合図で魚雷を撃つ。結果として的が消滅した。効果範囲が異様に広いとか、凄まじい爆風が起きるとか、魚雷なのに貫通していくとかそういう事はなく、普通に命中したところに普通に爆発してチリ一つ残さずに的を消滅させた。とりあえず味方を巻き込んだりはしなさそうなのでいいんじゃないだろうか。

 続いて爆雷もテストしたが、水中なのでどうなったのかはよく分からなかった。投射機で投げたらめっちゃ飛んでったりはしたけど。

 結論としては、私の砲雷撃は人に向けるのは心配だけど訓練自体は他の訓練生と同じでいいだろう、という事だった。ただ演習の際は全力で撃たないようにとは言われてしまった。威力の調整出来なかったら演習出禁だったのかもしかして。

 

 

 

 夕食を終え部屋に戻り、風呂も済ませた就寝前の自由時間。島風と一緒に初雪のマッサージを行う。初雪の足は初日に比べると少し筋肉が付いてきたようで、伊良湖さんの食事は実際に回復効果があるんだと納得できる。これはアスリート大歓喜なのでは。今後のスポーツ界では艤装で作った食事がマストになるかもしれない。そんなとこに注力出来るようになるの何年先だよって話だけど。

 馬乗りになった島風に指圧され気持ちよさそうに声を上げる初雪を見ながら某火星の水先案内人アニメのOPに耳を傾けていると、チャイムが鳴りごめんくださいと声が聞こえてきた。ノブを回してみればドアの先に居たのは曙で、なにやら真面目な表情でこちらを見つめていた。

「ちょっと聞きたい事があるんだけど、今いい?」

「いいよー」

 別段やる事がある訳でもないしと部屋に招き入れると、島風が初雪にキャメルクラッチをキメていた。

「お茶入れてくるから適当に座ってて」

「え、スルーでいいのあれ、島風なんでここに……っていうかテレビ? アニメやってるしどこから突っ込めばいいのよこの部屋!?」

 私の私物ですと苦しそうに自慢げな声を出すという高等技術を初雪が行う。本気で技をかけられている訳ではないらしい。冷蔵庫から四人分のお茶――これも伊良湖さん製である――をコップに注ぎ茶菓子とともにテーブルに出せば、ぱっと島風が飛んできて菓子の包みを開け始めた。なお茶菓子は五月雨の私物である。持ってきたは良いけど賞味期限がもうすぐそこだったと皆に配っていたのだ。

「それで聞きたい事って?」

「ああ、うん、聞きたいのは砲撃の事よ。あんたと初雪は上手く当てるじゃない? 何かコツとかあるなら教えて欲しい」

 曙の砲撃訓練時の成績は普通ちょっと下くらいである。飛び抜けて下手という訳ではないが上手とは言えないだろう精度であり、やる気勢の彼女が満足できる結果は出ていないだろう。しかし、コツと言われてもだ。

「的と自分との距離をなんとなく理解して弾が到達する頃に的が立ってるであろう位置に撃ってるんだけど……」

「そのなんとなくを知りたいんだけど」

 チート能力です。とは流石に言えない訳で。

 私の感知能力はなんかつよいため目を瞑っていても周囲の状況くらいは分かるのだが、その感覚を他人に説明したところで理解出来るとは思えないし、分かっても真似は出来ないだろう。そうなるともうなんとなくですとしか言いようがない。チート能力さんにはお世話になっていて感謝しているがこうも正面から力の出どころを聞かれると困ってしまう。私がアドバイスなんてしても何の糧にもならないだろう。

「的をよく見て次の位置を予測するって事しかしてないからそう言われると自分でもよく分かんないなぁ」

「あんた的見ないで当ててるじゃない……」

 いわれてみればそうである。私は的を目視せずに撃つ時がある――いや見てない訳ではないのだ。なんというか見るの定義が違う。私の場合聴覚とか肌の触覚で位置関係を把握できる、素でソナーを装着しているような状態なのである。だから他を注視しながら逆方向の標的を打ち抜くなんて事が普通に出来てしまう。傍から見たら何がどうなってるのかさっぱりだろう。

「……とにかく、何か特別な事を心がけてるとかって事は無いのね」

「アッ、ソウデスネ」

 答えに窮する私を半眼で見つめながら曙がまとめる。呆れてるというか、諦めてる感じの声色で。何の理論もない事やってるから説明できないんだ済まぬ。

「じゃあ初雪はどう? あんたはどうやって当ててるの」

「ん……私? 私は……FPSで鍛えただけだし……」

 茶菓子をむしゃむしゃしながら初雪が返答する。その答えに曙は眉を寄せた。

「ここに来る前から訓練してたって事? えふぴーえす、って何?」

「……なんだっけ。ふぁーすと……?」

「ファーストパーソンシューティングね、一人称視点で銃撃ったりするゲームの事」

「ゲーム!?」

 そんなので訓練になる訳ないじゃない、と曙がため息をつく。その反応に初雪はむっとして言葉を返した。

「やってないのに分かる訳ないし……実際私上手いし……」

「う、まぁそうね、確かにやってみないと……」

「ゲームするの? レースしよレース」

「いやそもそもゲーム機無いからね」

 流石の初雪もテレビとDVD/ブルーレイ再生機器と円盤だけで荷物が一杯になり持って来れなかったらしく、この部屋にゲーム機は携帯機しか無い。じゃあできないね、と諦めムードになった私たちの背後の扉が突然開き、玄関から何かが飛び込んできた。

「話は聞かせてもらったぞ! 人類は滅亡する!」

『な、なんだってー!?』

 入室するなり大声を上げた漣に、私と初雪がテンプレで返す。漣は満足げに頷くと握手を求めてきた。シェイクハンドシェイクハンド。

「……いや何してるのよ漣」

「はっ。ぼのたんが入って行くのが見えたのでつい聞き耳を立てていました!」

 何故か敬礼で返答する漣に曙は呆れ顔である。ぼのたんは止めろと言う声を背に、とりあえずお茶を一杯追加しておく。

「あざーっす……はぁ、お茶ウマー……」

「何しに出て来たのよあんたは」

「おおそうだ、さっきの話の続きをしよう」

「FPSの事? ゲーム機本体もPCも無いからうちじゃ出来ないかなー」

 携帯機じゃ参考にもならないだろうしという私の言葉ににやりとすると、漣は叫んだ。

「ノートPCは、ありまぁす!」

「マジでか」

 反応したのは初雪である。彼女はデスクトップ派だったらしく、ノートPCは所有していなかったために訓練所には持って来られなかったのだ。なおこんなご時世であるのでPCなんかは新品どころか中古でも阿呆みたいな値段がしたりする。

「ちゃんとゲーミングですぜ旦那」

「有能かよ……」

 持ってくるからちょっと待っててと言い残して漣は部屋を出た。後に残るのはwktkした初雪と何が起きてるのかちょっと理解できてない曙である。今のうちに概要を説明しておこう。

 

 漣が持ってきたノートPCを起動し、ゲームを起動する。知らないタイトルだったがFPSなのだろう。そのまま曙に席を譲り、自身は後ろから解説と実況を始めた。

 曙はFPSこそ知らなかったもののゲームをした経験自体はあるらしく、キーボードとマウスの複合操作に戸惑っていはいたが何をするゲームなのかはすぐに察せたようだった。

「ゾンビホラーじゃないのこれ!」

「セヤナー」

「どっからそんな声出たの?」

 ちゃんと銃はいっぱい撃てるから、と先へ進めるよう促す漣を疑いながらも素直に進めていく曙。主人公たちの立てこもるショッピングモールにゾンビが雪崩れ込んできて本編開始である。チュートリアル的に拳銃を渡されそれで応戦する事になったのだが、マウスでのAIMに気を取られて足が止まっていたりと曙の操作はやはり拙い物であった。数分格闘するがゾンビに接近され、あえなくゲームオーバーと相成った。

 悔しかったのか声まで出してえいやせいやと奮闘すると、一時間も経つ頃には進めるようになり、気が付けばその場のゾンビを殲滅できるようになっていた。

「どうですかなぼのたん、砲撃上手くなりそう?」

「なる訳ないでしょ」

 明日試してみるけどと曙は続けたが、ちょっと待って欲しい。

「たぶん明日から雷撃の訓練なんだよね……」

「えっ」

「テストやったからね、仕方ないね」

「えっ」

「魚雷の速さは島風が一番だよ!」

「うん」

 どの道連装砲も実戦で使うのだから無駄になったりはしないだろうが、ゲームをする意味があったのか確認するのは無理だろう。

「先に言いなさいよ!!」

 近所への迷惑を考えて声をある程度控えていた曙も、さすがに堪え切れなかったらしい。声にびっくりして隅で寝ていた妖精さんがびくりと飛び起きた。

 

 そろそろ寝ないと明日に響くから、と曙と漣は各々の部屋へと帰って行った。ご馳走様でしたと言って行く辺り育ちの良さが伺える。初雪は最後までゲームしたがり妖怪PCおいてけと化していたが、絶対徹夜するから持って帰ってもらった。ぶーたれてないでさっさと歯磨いて寝なさい。

 部屋に戻るといつの間にか島風が私のベッドで寝ていたので叩き起こして部屋へ帰らせた。ちゃんと歯を磨くのよー。

 

 

 

 

 

 翌日からの訓練はやはり雷撃訓練だった。爆発物を扱うという事で今まで以上の緊張感が漂っている。艤装を起動している限り誤射してもダメージは入らないはずだが、もしも起動を切らした時にぶつけたら……と思うと皆怖いのだ。陸から撃っていたのが海に浮かびながらになるというのも、難易度の上昇ポイントだ。

 訓練生が海に立ち、魚雷を発射する。思ったところに飛ばすという点では砲撃より楽なのか、固定物への攻撃はかなりの命中率だったのだが、動く目標へと的を変えたとたん皆当たらなくなってしまった。同じ速度で動いているとはいえ、砲弾に比べたら遅い魚雷で偏差撃ちするのは難しいという事だろうか。例外なのが島風と夕立で、島風は単純に魚雷の速度がやたら早く、夕立は速度とか関係なしに当てまくっていた。

 それでも二日三日と練習するうちにマシにはなってくる。初春などはわざわざもう一回集合体の中の人と話してコツを習ってきたらしい。そんな事出来るのか、と思い試してみたが私は接続できなかった。着信拒否されてない?

 

 魚雷の次は爆雷だろうと思っていたら、艤装にソナーが取り付けられていた。投射機もセットで付いていたため一緒に訓練するのだろう。海に出て起動すると、海底の様子がよく分かる。っていうか、下に潜水艦娘居るんですけど。私以外にも何か居ると気付いた訓練生は複数いて、教官に報告するとそれはこの辺りの巡回を行っている自衛隊の戦闘部隊ではない艦娘であるらしかった。

 今日は海中で訓練を手伝ってくれるらしい自衛官さんが海面に上がってくる。ぷはぁと息を吐き海面に立ち上がった彼女は伊19と名乗った。しかし、彼女の服装はウェットスーツである。どうもスクール水着の上にさらに着込んでいるらしい、有りなのかそれ。スパッツ穿いてる私が言えた事ではないかもしれないけど。

 イクさんが再び潜り、訓練生がソナーで彼女を見つける。そして爆雷を放り込む。ただし爆発しないように調整されたものを。妖精さんはその辺りの調整が出来るらしく、爆破の訓練はイクさんが撤収してから行われた。

 ソナーの運用は落ち着いていて集中力のある訓練生たちが得意で、夕立や漣はむしろ苦戦する側だった。意外だったのが島風で、集中力が高いのかかなり遠くに居るイクさんも発見していた。初雪は集中し過ぎて眠りかけていた。

 ちなみにこのソナー、精度が落ちるものの妖精さんに任せきりでも運用できるらしい。不得意なら妖精さんに任せて他の事を頑張った方が良いのかもしれない。

 次の日には電探――レーダーの訓練も行われ、そちらはイクさんの同僚の飛鷹さんが協力してくれた。レーダーそのものの仕様よりも式神召喚な艦載機の方が気になって仕方なかったんだけど本当にどうなってるんですかねあれ。手光ってるし。ちょっと真似してみたら私の手も光ったし。駆逐艦が光らせても艦載できねーよ。

 

 

 

 訓練は進み、特殊な装備を扱う訓練が始まった。と言っても、本当に特殊な装備があるのなんてほんの一部――というか、叢雲と島風くらいで、他は探照灯や照明弾の練習である。

 叢雲の特殊装備というのは、何故か吹雪型で唯一形の違う彼女の艤装に最初から付いている、槍のように見えるあれである。ちゃんと武装として機能するらしく、起動したら鉄板を軽く貫通していた。私も欲しい、頼んだら配備してもらえないだろうか。

 そんな事を考えながら探照灯を極限まで細めてレーザー撃てないかとかそんな馬鹿みたいな事をやっていたら、島風が後ろから突撃してきた。ぼふんと私の背に飛びつき、島風が艤装の上に乗る。それに続いて連続した三つの衝撃が私に襲い掛かってきた。頭上でオウッという鳴き声とミューキューキャーと三つの鳴き声がする。

「連装砲ちゃんおもーい!」

「人に乗っかっといて言うセリフかねそれは」

 四角い頭部に角のような砲身を持ち、ドラム缶のような胴体から短い手足が生えた三体のゆるキャラ。一匹は何故かぜかましと書かれた浮き輪をしているが、他はしていないから必要ないんじゃないのかと突っ込みたくなる。12.7cm連装砲D型、連装砲ちゃんと呼ばれるそれらが島風の特殊装備だった。

 私から飛び降りた連装砲ちゃん達は島風の後をカルガモの子供のようにくっついていく。見た目も相まって非常にかわいらしい光景である。写真かなにかであれば。この連装砲ちゃん、見た目に反して島風の速度に普通に付いていける航行速度をもっている。しかもその状態で頭から砲弾をぶっ放すのである。命中率はそこそこだが三体も一人に付けられるなら十分すぎる。なんだこの自立型移動砲台、ガチ兵器かよ。こいつ量産して皆に配備した方がいいんじゃないだろうか。

 実際可愛いし強いので欲しがる訓練生は多かったのだが、自立型の装備は扱うのに特殊な適性が必要らしく、訓練生の中では島風だけが使えるらしかった。第一期訓練生に天津風は居ないので連装砲くんは配備されていないのだ。

 ちなみに連装砲ちゃん達は訓練の後普通に島風の部屋に居付いた。撃ったりしないのなら燃料とか要らないらしい。どうやって動いてるんだお前ら。

 

 

 

 一通り装備の訓練が終わり複合的な扱い方や動きながら撃つ訓練も終え、訓練所で過ごす期間も半分を切った午後、響教官から告知があった。

 明日から実戦に向けた訓練の一環として艦娘対艦娘の演習を行う。

 いつかはやると分かっていた事だが、実際に行われると言われた訓練生たちはかなり動揺していた。提督の力を得ていない艤装で艦娘を攻撃しても効果はないと聞いてはいても、仲間を撃つのはそりゃあ抵抗がある。顔を青ざめさせ眩暈を起こす訓練生まで出て来る始末である。撃ちあえるのかこれ。

 必要なら私で試してみるかい、と響教官はそう言ったが流石に誰もやろうとしない。それなら私がやってやろうか、と思った時、曙が前に進み出た。

 教官に確認を取り、構え、撃つ。駆逐艦の砲撃とはいえ掠っただけでも人間程度粉砕する威力を持つそれは、見事に頭部を捉え爆発した。一瞬の静寂の後、教官は何事もなかったかのように動き出し、砕け散った砲弾の欠片を服からはたき落とした。

 ざわざわと揺れる訓練生たちに、曙が叫ぶ。

「あたしはあのクソ深海棲艦共をぶっ潰したい! あたしはあいつらには殺されたくない! 生き残って戦うためになんだってやるわ! そのためにここに来た!! あんたたちはどうなの、大丈夫だって分かってる相手を撃てないって言ってあたしの邪魔をするの!? 撃ちなさいよ!! 全部避けてやるわよ、あんたたちの弾なんて!」

 大言壮語である。曙の練習の様子を知っている者なら分かる話なのだが、彼女は訓練生の中でもおそらく最低クラスの適性値だ。初雪や漣の砲撃を、島風や夕立の雷撃を避けきるのは不可能だろう。

「ぼのたん私の弾全部避けれるのぉ~?」

「やってやるわよ!」

「砲撃も雷撃も本気で撃って大丈夫っぽい?」

「やってみなさいよ!」

「あんまり遅いと至近距離から撃つからね!」

「やらせやしないわよ!」

 曙の練習の様子を知っている者なら分かる話なのだが、彼女は訓練生の中では普通くらいの実力の持ち主だ。知っている者は知っている、彼女はどう見たって適性値が低めのグループに入るのに、この訓練所で一番努力して、真っ当に力を付けてきているのだ。

「全力でやって、心折れたりしない?」

「やれるもんならやってみなさいよ!!」

 いい返事である。そこまで言われちゃ仕方ない、威力に関しては禁止されてるので抑えるが、それ以外は全力でお相手しよう。

 

 解散となり、各々艤装の保管へと向かう。明日の演習に想いを馳せながら歩くその道中、私は暁教官長に呼び止められた。

「吹雪、悪いんだけど貴女は明日別の訓練をするから、朝食が済んだら食堂に残っててちょうだい」

 出禁食らった……だと……?

 

 

 




この時期は暑さと眠さが同時に襲い掛かってきますね。
座ってるだけで朝になるの止めていただきたい。


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提督来りて

 訓練所の前に停まった黒塗りの車から、体格のいい男性が降りてくる。男性はゆったりとした動作で入り口に立ち敬礼する私と暁教官長に歩み寄って来た。顔に刻まれた皺は苦労のためか、年不相応に深い。かなりの年配なのかと思っていたが、実年齢はお爺さんと呼んでいいのか微妙なラインだった。テレビで見た時に貫禄のある体型だと思ったが、間近で見ると見事な筋肉量であると分かる。かなり鍛えているのだろう、動きに余裕こそあれ緩慢という印象はない。威圧感はさほどないのだが、堂々たる威厳に満ちている。

 楽にしてくれと言われ、敬礼を崩す。暁教官長は緊張した様子で何度も瞬きをしている。男性がこちらに目を向け、ふむと一度頷いた。

「君が吹雪くんだね?」

「はい! 駆逐艦吹雪の艤装を預からせて頂いております」

 男性はふふと笑う。威厳は残っているが、雰囲気がかなり柔らかくなった。相当に対人慣れしている。

「そうかしこまらなくていい、君は自衛隊の所属ではないのだからね。今日、私はただの教師役としてここに来ているのだし、自衛隊のお偉いさんだとは思わなくていいよ」

「でしたら、これは今日に至るまで国を守って来られた先達に対する敬意であるとお思いください」

 無茶苦茶言うんじゃねぇよ、と思いながら言葉を返す。そもそも敬意を持ってる事自体は本当の事である。目の前の男性は深海棲艦到来から今現在に至るまで司令官として戦い続け、十二人しか居ない艦娘戦闘艦隊に一人の死者も出さずに近海を奪い返した生きる伝説なのだ。尊敬とか感謝とかそんなのしか出て来ないのである。

 本当に、なんでわざわざこんな所までおいで下さったんだこの提督……いや私の訓練のためなんだけどさ。

 

 

 

 私の本日のメニューは提督としての能力獲得訓練である、と聞かされ、私は一人だけ演習から外された事を納得した。無効化能力を貫通する能力が暴発でもしようものなら下手したら死ぬもんな、そりゃそっちの訓練が先だわ。

 本来であればもっと早くに訓練するべきだったらしいのだが、教師役の出来る人間が自衛隊に二人しか存在せず、その両名ともが多忙であり、第一訓練所の提督たちの教導と深海棲艦の攻撃が一段落するまでこちらに係う余裕が無かったのだそうだ。それがどうにかなってこちらへ来られると連絡が来たのが昨日の事で、演習開始の前日だったのはたまたまであるらしかった。

 ちなみに教官達は私が自分に提督適性があると気付いている事は知っていたらしく、その辺りはさらっと流された。まぁ割と妖精さんと艤装付けないで話しているから今更である。

 そういうわけで暁教官長と校門前で提督を待っていた訳だ。そしたら来たのが海上幕僚長である。私はてっきり妖精さん発見者の宮里提督の方が来るのかと思ってたんだけどなぁ。っていうか、暁教官長も一瞬固まってたから知らなかったなこれ。

 

 提督と一緒に工廠へ向かう。暁教官長は他訓練生の指導に専念してくれていいと言われ演習の方へ向かったので、今は私と提督と無数の妖精さんしかこの場に居ない。

 自分以外の素の状態で妖精さんが見える相手は初めてなので、私の妖精さんの扱いが正しいのかがどうかが今更ながら気になってくる。講義を聞いていると見放されたら日本が詰むレベルで重大な存在なんだけど、基本こいつらはゆるいのでぞんざいな扱いになりがちなんだよね。あ、提督も帽子に潜もうとした妖精さん摘まみ上げてるわ。いいんだあれで……

 体育館という名の工廠には吹雪の艤装だけがぽつんと置かれ、中から大量の妖精さんが詰まっている気配がする。普段の倍は間違いなく入ってそうなんだけど、お前ら提督来たからって張り切ってるの? それでちゃんと動く?

「さて、これより訓練を始める訳だが、吹雪君は自分の艤装に貫通能力を与えてみようと試した事はあるかね」

「いえ、ありません」

「それは良かった、下手に成功していたら危なかったかもしれないからね。慎重でよろしい」

 そう言うと提督は艤装に手を当て、少しの間目を閉じる。やがて瞼を開くとよしと呟き、こちらに装着するよう促した。背負おうとして持ち上げたら案の定妖精さんがきゃーと溢れ出してきたので艤装を軽く揺すると、板張りの床に妖精さんの山が出来上がった。倍どころじゃなかったわ。

「うん……その、ふ、普段と違う感覚があると……ふふ……思うのだが、どうかね」

 笑いそうになるのを堪える提督の言に従い艤装に集中すると、なるほど、何か今まで無かった力のようなものがどこかから流れ込んでいるのが分かる。

「ありました、これが提督から艦娘へ供給される力……ですか?」

「うむ、今その艤装へは私から無効化貫通能力の付与を行っている。それを攻撃に乗せて、ようやく深海棲艦と戦えるようになるというわけだ」

 与えられた力は艤装の中に留まり、放たれるのを大人しく待っているように感じる。この状態でも能力を使わないで撃つ、というのは可能そうだが、これがそうだと私が理解していない状況での演習はうん、やらせたくないだろう。

「一度撃ってみるかね?」

 冗談めかして提督が言う。もちろんこんなところで砲撃とかは出来る訳ないのだが……

「少し力をお借りします」

「ほう?」

 被害を出さない事なら構わないよ、と興味深げに提督からの許可が出たので思いついたそれを実行に移す事にした。

 要領としては、レーダーの訓練の時と同じだ。艤装から提督の力を自分の手に移し、凝縮していく。手がうっすらと光りはじめ、やがて消える。だが力は消えたわけではなく、手の中で力強さを増している。続けていくと圧縮された力が指先から手首までに蓄積された。

 さて、出来たと思うんだけどどうしようかこれ。よく考えたらぶつけるとこ無いから確認できないんだけど。

「いや、うむ……それはあー……安全に解除出来そうかね?」

「あ、はい。それは大丈夫です」

 自身の感覚として生えるものならチートの適用範囲内なのでそこは大丈夫である。そもそも物理無効化能力を無効化する能力だし、特に危険性は無い。提督自身は自分の供給した力が今、どういう状態になっているのか把握できているのだろう。困惑させてしまって申し訳ない。

「貫通能力を体に浸透させたのか……どういう理由で発動しているのかも分かっていない力だ、おかしくはないのだろうが……」

「実用性に問題がありそうですね」

 自分でやっといてなんだが、近接格闘を深海棲艦に挑むとかそんな事にしか使えないし、弾切れにでもならなければわざわざやる必要のない事である。

「吹雪君、ちなみになんだが、それは飛ばしたり出来ないのかね」

 こう、エネルギー弾的に。と提督はおっしゃられる。なんか目が輝いてるんですがもしかしてそういうのお好みでいらっしゃる? でも流石に無理だと思いますよそれは……

 

 なお試してみたら飛ばせはするものの破壊力は皆無という事が発覚した。

 

 

 

 気を取り直して、私の提督としての能力訓練である。艤装から先ほどまであった力が抜きだされるのを感じる。提督が供給を止めるだけでなく、一度空にしたのだろう。そんな事も出来るのか。

「まず君がやらなければならないのは『人類の思念の集合体』への接触だ。そこから先ほどの力を引き出して、艤装へ送る形になる」

 一度艤装を置くように指示される。艦娘との接触になってしまわないようにだろう。私は二度目に成功した事ないからあまり関係ない気もするけど。

「自分自身も人間である以上、そこに初めから繋がっていると想像したまえ。艤装は船に乗り込むイメージだと聞くが、こちらは自分の魂の底にある繋がりを手繰るような感覚だな」

 深く考えずに感覚に任せた方が私はやり易かったよ、と提督は言う。感覚任せでいいならチートさんがそういうの得意なので行ける、と思い全力で魂の感覚を探っていく。そもそも私は転生前に一回、魂だけという状態になっている。だから魂がどういうものなのかはなんとな~くではあるが知っているのだ。なので、自分の魂を把握するのは難しくなかった。

 体の奥底でも体全体に広がる感じでもなく魂は普通に、ただそこにあるのだと感じられる。それの内部から集合無意識的な奴に繋がる経路を探すわけなのだが、これもあっさりと見つかった。というか、どうも私の魂はその接続部が後付けされたようになっていて、他所に比べて大きな違和感があったのである。たぶん転生前に生きてた世界にはその手のオカルトに接続する機構とか存在してなかったんだろう。こっちに転生するにあたって魂自体を弄られて交信出来るようにされたものと思われる。怖っ。

 私の魂の構造は置いといて、確かに奥底では何か大きなモノの一端に触れているようだ。ちょっと向こうを覗いただけで深淵が見えたというか見えなかったというか、壮大過ぎて何一つ理解できなかった。います。というかこれ、無理に理解しようとしたらヤバい予感がビンビンするうえねこがいます。なんか、チート能力さんもそれ以上いけないって言ってる。よろしくおねがいします。

 

「大丈夫かね?」

 気が付くと目の前に提督が居た。反応が無くなった私を心配して声をかけてくれたらしい。集中し過ぎたわ、失敗失敗。目の端に映る妖精さんの山の頂上に白い毛のないねこが見えた気がしたが、妖精さんに抜猫されて居なくなった。

「繋がる場所は理解できたように思います。何か、とても大きいものが視えました」

「おお……そこから先ほどの力を汲み上げられれば成功だ」

「出来ました」

「うむ……うん?」

 さっき力を動かす方法はしっかり学んだわけなので、供給口の場所さえ分かれば感覚的に使う事が出来てしまうのが転生者の面目躍如なのだ。チート能力におんぶにだっこなのは言うまでもない。もう自分の単体の性能とか酷い事になってる気がしてならないが分離できないからなぁ。

「ふむ、確かに出来ているようだね……?」

 提督が確認のためか顎に手を当て前かがみでこちらをじっくりと眺める。同じくこの力を扱える提督は、私の中に渦巻く力も感じ取れるのだろう。今私の魂には集合体さんから無効化能力を無効化する力が流れ込み、蓄積されて行っている。感覚的には水路を開くというのが近く、力んだり引っ張り出したりする必要はなく、開けっ放しにしておけば意識しなくても勝手に流れてくるようだった。

「ではそれを艤装へ流してみようか。意識的に流し込むのではなく、放っておいても継続的に供給されるようなラインを繋がなければならないのだが……そうだね、自分の艦隊に組み込んで指揮下に入れるイメージでいいと思う」

 一般人はその感覚分かんないと思うんです。と思いながらちょっと試行錯誤して、他の工程の数倍の時間をかけて取り組んだ結果、最終的には艦これの編成画面を想像したらすんなり行けた。

 

「思ったより早く済んでしまったな」

 現在時刻0730、提督がいらっしゃってからおおよそ三十分しか経っていない。個人差はあれ数日かかったりもする訓練だったらしいのだが、チート能力さんがやってくれました。

「何か聞いておきたい事があったら言いたまえ、艤装や提督のこと以外でも気になる事があればなんでもいい。今後の事で気になる事もあるだろう?」

「それでは……自衛隊の精鋭部隊と呼ばれる十二人の艦名を教えていただけますか?」

「ん……ああ、成程。公式には発表されていなかったね、私も同じ立場だったら気になるところだな」

 鷹揚に笑いながら提督は答えてくれた。

 

 戦艦 長門

 戦艦 伊勢

 戦艦 日向

 戦艦 武蔵

 正規空母 蒼龍

 正規空母 飛龍

 軽空母 龍驤

 重巡洋艦 那智

 重巡洋艦 筑摩

 軽巡洋艦 五十鈴

 軽巡洋艦 由良

 駆逐艦 荒潮

 

 以上十二名である。年齢で適性が偏ってるのか何なのか、駆逐艦は一人しかいないし、潜水艦や海防艦は居もしないという。だがそれよりも気になってしまったのは……

「はは、飛龍に反応したね。君は戦艦の歴史に詳しい方なのかな」

「申し訳ありません、関係ないという事は承知しているのですが……」

「いや、構わないよ。かの御仁とは名の由来も同じくさせて貰っていてね。嫌な事など何もない」

 正直吹き出しそうになったのは秘密だ。飛龍どころか五十鈴も居るし。これもあの少女が仕組んだのか、ただの偶然なのかは分からないが、縁起がいいんだか悪いんだか微妙な所である。

「彼女たちと並び立てるよう、精進し給えよ」

「はい、了解であります! 楠木 多聞丸提督!」

 うむと提督は頷いた。飛龍さん秘書艦だったりとかするのかなぁ。制度があるのか知らんけども。

 

 貫通能力の出力調整を練習しながら質問と回答を繰り返す。それによると、精鋭部隊は昨日まで変色海域で戦いその核を破壊、一つ青い海を取り戻した。だがしかし、その間に他の海域を赤く塗りなおされてしまったらしく、次の出撃のため艤装の入渠と艦娘の休養を行っている、との事である。

 今の訓練生が海に立つようになれば戦力は数だけなら十倍以上になるため、易々と近海を奪われる事は無くなるだろう、と提督は言う。その時は二週間後まで迫っている。

「とはいえ、焦ってはいけない。今は練度を出来る限り上げてもらう時期だ。流石にまともに演習もさせずに戦場に出すわけにもいかない。君のように優秀な成績を修めている者でもね」

 経験は何よりの宝になるよ、と提督は言う。

「吹雪くんからは今すぐにでも戦場に出たいという気迫を感じる。そしてそれは驕りや暴力的な欲求から来るものではなさそうだね、どちらかと言うと……罪悪感か」

 超能力者か何かでいらっしゃる? 私最初に深海棲艦が現れた時に艦娘に任せときゃいっかーって思って何にもしなかったのちょっとだけど気にしてるんだよ、冷静に考えてあの時点で出来る事なんて何もないんだけど、こうして自分が戦う側に立つための大義名分を与えられたら気になってきちゃったんだよ。もっと前からなんか出来たんじゃないかってさ。でも口にしないで理解されるとは思ってなかったわ。態度に出てたんだとしたらちょっと恥ずかしい。

「力の強さ故か……今すぐにでも助けになりたいというのは有難いが、君に幾ら才があったとしても今すぐに海へ連れ出す事は出来ない。まぁその、法律やらの問題もあるが、君にも出来るだけ訓練を積んでもらいたい。君だけではなく、君と訓練する仲間のためにもね」

「皆の手本になれという事でしょうか」

「それもあるが、報告書通りなら真似したくても出来ないだろうなぁ、あれは」

 ですよね。何故か私の砲弾貫通弾になったり魚雷が分子か原子レベルに崩壊させたりしますもんね。あんなのみんな出来るようになったら深海棲艦完全に滅ぶわ。

「君にはやってもらいたい事があるんだ、高いレベルで艦娘の力を備え、提督としての力もそれだけ精微に扱える君にしか出来ない仕事がね」

 そう言って無効化貫通能力を武装一つ一つに別々の濃度で供給する私を見ながら、楠木提督はにやりと笑った。なんだか猛烈に悪い予感がしてきたのう……

 

 

 

 提督としての能力は十分に扱えていると楠木提督に太鼓判を押され、私は演習に合流することになった。道すがら提督は乗って来た車に寄ると、双眼鏡を他の荷物と一緒に持ち出した。訓練を見学するらしい。

 演習場へ到着すると、提督は教官に一声かけ窓付きの倉庫の二階へ上がって行った。訓練生には何も言わずに見ているつもりらしい、無駄に緊張させないためだろう。教官たちはおどろきとまどっていたけどな!

 暁教官長にこっちの訓練に参加する旨を伝えると、今日は一対一の訓練をしているらしく、じゃあとりあえず私とやりましょうとグループ作ってーって言われたら一人余った時みたいな対応をされた。辛い。

 

 

 

 

 

 暁は困惑していた。演習開始後即座に撃ち抜かれ妖精さんに大破判定を下されたのはいい、予想の範囲内であるし目視可能な距離から開始したこちらが悪い。仕切りなおしたら避けた魚雷が真横で爆発しそれに掠っただけで轟沈判定されたのもいい、その距離だとまだ消滅するような威力だったのだろう。だがこれはなんだ。

(全然当たらないじゃない……!)

 暁の砲撃は適性値の割には、と枕詞が付くものの悪い命中率ではない。むしろ低適性ながら人に教える事が出来るくらいの練度は持っているのだ。だが、真正面からゆっくりと近づいてくる吹雪に対して、彼女の放った砲弾は一つたりとも当たりはしなかった。大きな回避行動を取るでもない、弾が的を大きく外れている訳でもない。だが当たらない。

 暁が砲弾を放つ。会心の一発だ、直撃する時の手ごたえを感じた。

「なんで……ッ!?」

 艤装で強化された動体視力が映したのは、吹雪の真横をすり抜けるように通り過ぎる砲弾の姿であった。

 先ほどからそうだ、当たるはずだったすべての弾がギリギリで彼女の横を通り過ぎて行く。暁の連装砲は適性値の関係なのか、全てが狙いの中心に飛ぶほど精度の良いものではない。故に、撃つタイミングに合わせて動いたのでは有り得ない現象のはずなのだ。

(軌道を見てから避けてるって事!?)

 それも体を一切動かさずに。理論的には分からないでもない、単純に考えて瞬間的に数センチだけ滑走機能で横に滑り急停止すればいいのだ。放たれた砲弾を目視で見切り、軌道上からぎりぎり外れる程度に横に滑り、急停止して慣性を殺す。実際、砲弾が通り過ぎた直後に吹雪の髪は少しだけ揺れている。やっているのはそれだけの事なのだろう。

(人間技じゃない)

 茫然と撃った最後の一発は、狙いを外して遠くの海面へ沈んで行った。髪は揺るぎもしなかった。

 

 

 

 

 

 砲弾避けながら近接戦しようとしたら暁教官長が機能停止した件について。いや、私も悪いかなーとは思ったんだよ、でも暁教官長の弾って砲身の狙いは完璧なのにぶれるからあれ避けるのはかなりいい訓練になりそうだなって前から感じてたんだ。実際かなり神経を使った。体勢を崩さないように最小限の動きで躱しつつ、いつでも撃てるようにしておくのって集中力要るのね。

 放心した暁教官長が再起動するまでの数秒、私は撃って良いのか悩み続けた。

 

 戻って来た暁教官長に提案され、私は一撃食らえば大破、あちらは耐久百倍というルールで演習することになった。暁教官長は恥ずかしいけどそうでもしないと訓練にならない、と言って肩を落とした。教官長の艤装の妖精さんたちも一緒にしょぼーんとしていた。

 ルールを変えての第一戦、開始四十五秒、暁撃沈。第二戦、開始六十二秒、暁撃沈。第三戦、開始二十三秒、暁撃沈。

 この後滅茶苦茶倍率上げた。

 

 余談だが今回の演習、他の訓練生は定期的に相手を変えていたらしいのだが、私の相手は最後まで暁教官長だった。理由を聞けばトラウマにしかならないからだそうである。そうかな……そうかも……

 

 

 

 楠木提督は昼休憩前に帰って行った。去り際には双眼鏡と一緒に車から持ってきた物を私に手渡してこう言い残した。

「では、例の件よろしく頼むよ。教官達には私から話を通しておくから心配しなくてよろしい」

 私の心配そこじゃないです。とは口に出せなかった。預かったそれを見つめて思う、用意が良すぎる。どう考えても最初からやらせる気だったんだろうなぁ、私の評価どう伝わってたんだろう。まぁ、期待外れって事は無かったと思うんだけど。

 

 

 

 日が落ち、少しだけ夜戦演習も行われた帰り道。私に何百発と撃たれてもへこたれずに私を三度被弾させた気丈な暁教官長と明日の事について話し合い、別れたタイミングで初雪が這い寄ってきた。

「づがれ"だあ"~……もう……足動かないよぉ……」

 泣き言をいいながらこちらに寄りかかってくる。初雪は夜戦最後の相手が夕立であり、追い立て狩り殺さんと迫るぽいぬ相手に延々と逃げ回っていたらしい。滑るだけではおっつかなかったから脚も動かして必死で闇の中を駆けずり回ったそうな。

「お姉ちゃんおぶってー」

「誰が姉か」

 そう返しながら初雪を艤装の上に乗っける。本当に辛そうにしているので仕方ない、引きずる訳にも行かないし。初雪の体は軽い。筋肉が付いてきたとはいえ元々は贅肉すらほとんどなく、食もかなり細かった。回復効果があるのでちゃんと食べないと翌日が辛くなるため、今は無理やり食べさせるようにしている。お菓子は放っておいても食べるのでただの好き嫌いのような気もするし。

 学校までの道のりを歩みだそうとしたところで、後ろからパタパタと複数の走る音が聞こえてくる。そいつらは円陣を組み私を取り囲むと、腕組みをして宣った。

「校門まで競争しよー!」

「しようぜ!」

「するっぽい!」

「するぴょん!」

「きゅー!」

「みゅー!」

「きゃー!」

 順に島風、深雪、夕立、卯月、連装砲ちゃん×3である。諦めたような顔つきをした叢雲も混ざっていた。無理やり連れて来られたのであろう。

「初雪連れてかなきゃだから今日は止めとく」

 14の視線が背中の初雪に注がれる。初雪は一瞬怯んだが、やがてぐだぁと私に密着するように乗り掛かった。

「ここは絶対に譲らない……!」

「何の覚悟決めてるの」

 謎の決意を秘めた表情で絶対にどかぬと表明する。そんな初雪に、島風はそのままでもいいよーと言う。

「私たちが合わせればいいよね!」

 そう言って連装砲ちゃんを投げ上げると、背中で受け止めドッキングした。オウッと鳴き声が響く。思ったより衝撃が大きかったらしい。

「こ、これで公平でしょ!」

 そういう問題じゃないと思うのだが、気が付けば夕立と卯月も一体ずつ連装砲ちゃんを背負い準備万端という顔でこちらを見ていた。一人余った深雪はちょっと考えて叢雲を手招きすると、腰を落とし後ろ手で支えを作る。

「よっしゃ来い!」

「行かないわよ」

 ジト目で睨まれた深雪だったが、すぐにはっとすると叢雲の背中側に回って艤装をよじ登り、叢雲の頭に浮かぶパーツを掴んだ。

「下がいいなら言えよー」

「なんでそうなったの!?」

 準備が整ったと判断したらしく、それじゃあはじめるっぽいと言う夕立に従い、私の横に四組が並ぶ。なんだかんだ付き合いの良い叢雲であった。

「位置についてー、用意……」

「ぴょん!」

 夕立の発艦合図を遮って自分で声を上げ、卯月が飛び出した。フライングである。続いて島風が走り出し、台詞を取られた夕立もずるいっぽーいと後を追う。残された叢雲と私も苦笑いしながら駆け出した。深雪が行け行けーと応援し、背中の初雪がぐええと唸り声を上げる。

 明日からの事を考えるとちょっと憂鬱だが、頑張って頼み事をこなそうと思う。それが彼女らのためにもなるはずだから。

 

 

 

 下手したら心が折れるかもしれないけど大丈夫だろ……多分。

 

 

 




飛ばした提督の力は本当に殺傷能力とか無いので提督はちょっとしょんぼりだったそうな。


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痛い演習

「ああああああぁぁぁ!!!」

 裂帛の気合と共に敵の懐に踏み込む。拳の間合い。低い体勢から、握りしめた連装砲を拳ごと下から上に思い切り振り抜き、白いにやけ面に接射する。だが、発射音が鳴り響いた瞬間には敵は軽く仰け反り、射撃を回避していた。被ったフードだけが動きに付いてこれず、浅く切り裂かれる。この距離でも当たらないのか! 曙は内心で舌を打った。

「右っぽい!」

 無理な体勢からの発射による硬直を狙い、敵が体の後ろに伸びた尾をぐるりと叩きつけてくる。咄嗟に腕で防ぐも、それはしなやかに曙に巻き付いた。一瞬、締め付けによる痛みで呼吸を詰まらせる間に、曙は空中へと放り投げられた。黒塗りの艦載機が水面から離れた駆逐艦に狙いを定める。

「やらせはせん!」

「そこっぽい!」

 その敵機に初雪の弾が直撃し、投げ上げた隙を突いた複数の砲雷撃が敵船に迫る。爆風で水柱が上がった。

 水面を転がり、せき込みながら起き上がった曙は警戒しながら水柱を睨みつける。息が整う間もなく、海面は静まり返った。敵影は無い。

「居ない……!?」

 何処へ行った、と周囲を見渡すが、辺りに居るのは同様に困惑する同艦隊の駆逐艦ばかりである。誰も彼もが中小の損傷を受け、曙自身も小破ではあるが一撃を喰らっている。大破まで行っている者はいないが、何人かはもう一度攻撃を耐えられるかも怪しい。後方ではソナーとレーダーを備えた夕雲が難しい顔をして索敵していた。

「これは……曙さん! 下よ!」

 夕雲の叫びと同時に、曙の足にびちゃりと冷たいものが絡みついた。ぞわりと総毛立ち、反射的に下を向いた曙が見たのは、自分のソックスに食い込む白い指と、赤く光る双眸だった。

 

 

 

 

 

「ストップ! ストーーーップなのですー!!」

 傍で監督していた電教官から待ったが掛かってしまったので、曙の足を解放する。海中に引きずり込んであげようと思ったのに残念である。水面に立ち上がり、フードを取って水を払うと、だばぁと大量の海水が落ちる。潜水したから当たり前か。

「今沈めようとしましたよね!? 流石に息が出来ないのは無効化能力でもどうにもならないのです! というか駆逐艦の艤装に水中呼吸の機能は付いてないのに潜ったら駄目なのですー!? 妖精さんもぐったりしてるのです!」

 電教官がこちらに駆け寄りながらまくし立ててくる。見れば私の艤装の上では妖精さんたちがぴゅーぴゅーと天に向かって水を吹き出していた。すまぬ。

 

 

 

 実戦演習二日目、現在第三訓練所では私一名vs駆逐艦隊十二名という糞みたいなハンデ戦が執り行われています。

 しかも私は深海棲艦のコスプレ状態で。

 前日に楠木提督に渡された、にやけ面のお面とフード付き外套と白手袋に白タイツ、それに巨大尻尾のレ級なりきり五点セットを装着した状態で。お面とか目が光るギミック付いてやんの。吹雪型の制服を外すわけにはいかないから本家と違って外套になってるんだろうけど、お面はかなり本物に似ているらしい。あの提督茶目っ気あり過ぎだろ……。

 ちなみに尻尾は普通にしても動かないので錨を中に仕込んで手動で動かしている。さっきも武器として使ったが、実は私の発案ではなく暁教官長の戦術だったりする。昨日二回ほどそれでやられたのでパクらせていただいた。水中から飛び出してくる鎖とか初見で完全回避は無理だったのだ、油断してたつもりはないのだけど、完全に不意を突かれた。経験不足と実力差を痛感したね。私よりあの人がチート持ってた方が絶対有効活用できると思うの。

 その暁教官長だが、今現在は早朝に行われたテストで私から百回ほど攻撃を受け艤装が大破、現在艤装入渠中のため陸からの監督をしている。何のテストかって? 私の『最小限の物理無効化能力貫通能力を使った攻撃』を受けた人間が死なないかどうかのテストだよ。艤装と制服にダメージが吸収される謎システムになってるとはいえ、覚悟決まり過ぎだろあの人。物理無効化能力自体は艤装の他の機能が壊れたとしても核が残ってれば最後の最後まで使えるらしいけど、流石に撃ってるこっちが怖かったわ。昨日私の相手ずっとしてたのも、本当に演習に参加させても大丈夫なのか自分の体で確かめてたんだろうなあれ。

 そう、今私は提督の力を使って演習に参加している。というか、私が楠木提督に頼まれた本題がそれなのだ。ごくごく薄ーく貫通能力を使う事で少しだけダメージを与え、戦闘中の痛みを体感させる。一撃喰らっても戦意喪失しないように鍛え上げてくれってな話である。実際一撃目で明らかに動きに精彩を欠くようになった訓練生は多かった。例外だったのは初雪、曙、そして夕立くらいである。特に夕立はやばい、あいつむしろ動き良くなったぞなんなのあの娘ソロモンの悪夢なの。なお島風は当たった瞬間すっころんで吹っ飛んでいって連装砲ちゃんと玉突き事故起こして勝手に戦線離脱していた。

 先制でとりあえず全員に一発ずつ命中させ、反撃も十一人くらいじゃ普通の砲撃だと私なら避け切れるようだったので、一人ずつ仕留めて行こうと思って曙に接近したらむしろ向こうから踏み込んできたのがさっきまでの状況である。結果、水中に沈むのも沈めるのも禁止という事になった。

 

 

 

 仕切りなおして最初から、距離も離されてしまったので索敵からである。と言っても、基本的に私の方が発見が早い。というのもこちらはレーダー以外に偵察機を飛ばせるからである。飛ばしてるの私じゃなくて飛鷹さんだけどな!! 1vs12と言ったが攻撃対象にしていいのが私だけという話であり、正確には自衛隊の飛鷹さんと一緒だったりするのだ。こっちにも貫通能力を付与しているため、私の脳内艦これ編成画面には飛鷹さんが吹雪さんと一緒に登録されていたりする。ちなみに飛鷹さんの攻撃が大丈夫かは雷教官が試した。こっちも中破したので入渠中である。

 さほど離れてはいないので、数分のうちに敵艦隊を捕捉する。既に中破小破まで持って行っているので開幕狙撃は止めて飛鷹さんに艦上戦闘機を向かわせてもらう。私はその間に右に回り込んで強襲を仕掛けさせていただこうと思います。

 

 右手側に大回りして敵の左面を突くように接近していくと、訓練生たちが艦戦を狙い撃っているのが見えた。なので私はしっかりと狙いを付けさせて貰って雷撃を放ち、同時に速度を上げて魚雷に続いて吶喊する。索敵を行っていたのだろう、夕雲さんがはっとこちらを向き仲間に警告を放った。だが、警告された側の反応が遅い。魚雷が炸裂する。

 上がった三つの水柱の合間を抜け、近くの漣にすれ違いざまの一撃を撃ち込む。向こうからも一発飛んできたが、急加速する事で紙一重で回避する。勢いのまま夕雲さんに飛び掛かり接射し、手近な連装砲ちゃんを島風に投げ飛ばす。艦戦の処理を終え一息ついた初雪にも砲撃を喰らわせると、残りの夕立、曙、叢雲、山風、秋雲、連装砲ちゃん二体から一斉に砲弾が飛んでくる。それら全てを躱そうとして、最後の一撃がフードを掠めた。夕立である。マジでなんなのあのぽいぬ。怖いんだけど。

 外れたと見るや叢雲が槍のようなものを構え突進し、それに合わせて夕立と曙も前進してくる。フェンシングのような鋭い踏み込みで放たれた叢雲の刺突を、片手で絡め、抑え込む。ぎょっとした表情の叢雲の腕を取り、背中から水面に叩きつける。跳ねあがった水しぶきの合間から飛んできた砲撃を軽く跳躍して回避し、曙の眼前に着地する。曙は自分から一歩踏み込み、先ほどの再現になった。

 曙のアッパーを上体逸らしで避け、左から尻尾を叩きつける。だが、今回それは曙に当たらなかった。前にさらに飛び込んで私の右脇を抜けて行ったのだ。学習してる。尻尾をぶつける為に回転した私と曙の視線が交錯する。ほぼゼロ距離、曙の発射管から魚雷が打ち出された。自爆でもする気なのかと驚愕しながら、着水前の魚雷を足で優しく蹴り上げる。ソフトタッチされたそれらは爆発することなく上空へ打ち上げられた。愕然とした声を上げ一瞬硬直した曙は、距離を離そうと水面を蹴る。判断が遅い。私は振り上げた踵をそのまま曙に叩きつけた。

 曙が大破した瞬間、真後ろから高速のドロップキックが飛んできた。島風である。どうやら連装砲ちゃんを叩きつけられても行動不能に陥らなかったらしく、とりゃーと怒りに任せてぶっ飛んで来やがったのだ。島風の全速力を乗っけた高速の人間砲弾、だが、しかし、まるで全然! この私を倒すには程遠いんだよねぇ! 私は体を捻り、突っ込んできた島風の足をつかみ取り、勢いを殺さずに、逆にさらに力を込めて島風を飛んできた方向へと一回転して投げ返す。オウッ!? と鳴き声を上げながら島風は水面を何度か跳ね、最後には半泣きの山風に激突し二人とも沈黙した。

 島風を投げ飛ばした隙を逃さず攻撃してくるのが夕立である。完璧に心臓を捉えたそれを、私は思い切り仰け反る事で回避する。空を見上げる体勢になった私が見たものは、砲弾の軌道上に降り注ぐさきほど蹴飛ばした魚雷であった。やべぇ。

 

 爆風が辺りを襲い、近くに倒れていた曙が衝撃で海面を転がる――まぁ曙の魚雷は無効化貫通しないから無傷だろう。その光景を二十メートルほど離れた位置に立ち、私は眺めた。夕立の方にも視線をやるが、流石に狙ってやった事じゃなかったのか、秋雲や別に気を失ったりはしていない他の訓練生と一緒にびっくりした表情でこっちを見ているだけだった。

「ブッキー今の何……?」

 私の横から漣が質問してきた。困惑気味というか、何かむしろ興奮したような感じなのは気のせいだろうか。

「今のは打ち上げた曙の魚雷が夕立の砲弾と当たっちゃっただけだよ」

「いやそっちじゃなくて」

 漣はわざわざ膝を曲げ、後ろに倒れこみブリッジの態勢になると言葉を続けた。

「こうマトリックス避けしてたっしょ、あっちで。なのになんでどうして一秒後には私の横に立ってんだお」

「残像だ」

「瞬歩か響転か飛廉脚でも習得してらっしゃいます?」

 全部オサレの奴じゃねーか。そんな事出来る訳……出来ないよな……?

「単に強化された筋力で横に跳んだだけだよ」

 実際、爆発前にチート筋力を海面に叩きつけて、普通に横にぶっ飛んで爆破範囲外に無事着地しただけである。

「強化量すごいですね」

「それほどでもない」

 何で強化されたのかは言わなかったので、チート能力だとは思わないだろう。艤装にも身体能力強化能力あるし。

「ところで私まだ中破なんすよ」

「知ってた」

 言いながら構えた漣を先に撃ち抜き、その砲音で我に返った夕立と秋雲も撃ち抜いて、倒れただけの連中に止めを刺して、その演習は終了となった。勝利Sだなうん。曙と夕立の攻撃がフードに掠ってるから完全を付けるのは憚られる。

 なお後で聞いた話だが、夕立は私の高速移動に驚いてただけで魚雷は狙って撃ち抜いてたらしい。恐ろしや……

 

 艤装が完全に動かなくなる程酷い状態の人は居なかったので、陸に上がって反省会である。まず航空機に気を取られ過ぎて周囲の警戒がおろそかだった点を注意される。さもありなん、一発の砲撃も出来ずに格闘距離まで近づかれるとか最悪である。

 次に安易に距離を詰め過ぎだと言われた。一人が格闘戦やってたら他の艦娘達は撃てもしない遊兵になっちゃうもんね、普通。その状態で撃ってきてた悪夢みたいなのも居たけど。私も接近戦はあんまりしないように注意された。深海棲艦も一般に砲雷撃や艦戦メインであり、殴り合いはそんなにしてこないものらしい。

 そして予想外の事が起きても戦いの手を止めてはいけないと注意される。確かに実戦で予想外の爆発が起きた程度で回避行動も忘れるようだと死が見えそうだ。私も気を付けないと。

 全体にはその三つが大きな注意点として挙げられ、個別の検討へ移っていく。初雪は一つの事が終わっても油断しないように、叢雲は一撃止められても次に繋げるようになどなど皆それぞれ課題を提示されていく中、とても強く注意されたのが曙だ。

 問題だったのは当然ながら、ゼロ距離雷撃の事である。根本的に私たちに求められているのは、死んでも敵を殺すだなんて事ではない。私たちのやるべき事は、生きて深海棲艦を追い払い続ける事なのだ。こっちの方が圧倒的に数が少ないんだから、痛み分けは負けである。というか、そうでなくとも基本的に艦娘よりも装甲が厚いのか何なのかとにかく耐久力の高い深海棲艦の鬼級姫級に対して、自爆覚悟で相打ち同ダメージってあんまり意味がないらしいし。

 最後に私に対する注意であるが、妖精さんに気を遣ってあげなさいとの事だった。私の艤装から出た妖精さんの中に他の妖精さんから背中をさすられている娘が居たからだろう。お前ら船酔いとかするんだ……

 ちなみに教官達から一番評価が高かったのは夕雲さんである。水中に潜った私も横からの雷撃もしっかりと発見してたし、飛鷹さんの艦戦も最初に見つけたらしい。駆逐艦の訓練生で最年長なのもあってとても頼もしい。

 

 

 

 午前中の演習を終え、修理が必要な艤装を工廠へと運び入れる。午前中に遣り合った十二人の艤装は大破状態なのだが、数時間で全員修理完了するらしい。流石駆逐艦だわ。逆に言えば数時間はかかるので、午後は講義からである。

 昼食のため食堂へ向かう道すがら、山風と目が合った。びくりと山風は一瞬だけ硬直し、目を伏せて走り去って行った。怖がられてるわー……

 でもまぁ、仕方ないだろう。他の十人は志願だったのだが、彼女と初雪だけは教官側からの指示で参加させられていたのだ。志願者のほとんどが成績優秀者だったために、最後の二人も上位の方から選んだ結果だったので他意とかは全くないんだろうけど、望まずに痛めつけられたのはちょっと可哀そうである。午後には全員私に撃ち抜かれる予定であるというのは置いておいて。

 あ、走ってった山風が島風に追いかけられてる。その娘かけっこしてるわけじゃねーから!

 

 

 

 午後の講義の内容は我々の艤装の燃料や食料の生産に使われる資材についてである。

 前に伊良湖さんが軽く触れていた通り、我々の使う燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイト等々はそういった名前で呼ばれているだけで元々それらの言葉が指す物体とは全く性質の違う物体である。その正体は霊体の残滓や塵、思念や魂の欠片、集合無意識の断片、瘴気、魔力などなどが混ざり合い溶け合った、人類がこの星に生まれて以降積み重ねられ続けてきた霊的資源であるらしい。

 これらの霊的資源は霊地と呼ばれるような場所や海上の特定の地点などで採集されるのだが、その採取方法は至極簡単で、専用の道具を設置すればフルオートでやってくれるのだそうだ。ただし問題点が三つほどある。一つ目は一度に取れる量はさほど多くなく、同じ場所での採取はある程度期間をおかないと出来ない事。二つ目は一回の採取にそれなりの時間がかかる事。三つ目は採取に必要な専用の道具というのが艤装に装着する特殊装備であるという事。

 つまりこの霊的資源、収集に艦娘が必要なのである。

 

「私たちのような戦闘に適さない艦娘がこの作業――遠征任務を行っていた訳なのです」

「ここに配属になる直前まで私達四人、恐山でドラム缶担いでたのよ」

 やっぱりあるのか、ドラム缶。っていうか恐山て。

「本州にある霊地を回って資源の確保をするのが、今までの遠征班の任務だったのです」

 そうしてかき集めた中から燃料や弾薬、艤装建造のための鋼材なんかもやりくりしていたらしい。ちなみに資源収集が始まる前の一番最初の艤装は霊地で直接建造して、霊脈に燃料タンクと艦娘を突っ込んで稼働出来るだけの燃料が溜まるのを待ったりしてたらしい。

「でもこれからは戦闘を行う艦娘の数が十倍以上になる関係で、どうしても本州内部で採集出来るだけの量じゃ足りなくなってくるの」

「なので、必要になるのが海上の霊脈、もしくは本州以外の島々の霊地での資源収集なのです。ですが現状、海上には青い海であっても深海棲艦が現れるので、今のままでは採集は行えません。そこで皆さんの出番なのです」

「採集や運搬の遠征に燃費の悪い戦艦とかを使うのは効率が悪すぎるでしょ? だからあなた達が遠征部隊に護衛として同行するか、鎮守府次第だけど、あなたたち自身が収集係として遠征任務に出るかになるわ」

 つまり私たちも場合によってはドラム缶を引いて海を渡らなければならない訳だ。この話に対しては戦うのが嫌いな娘たちからは良い反応を得ていたが、逆に戦いたがっている少数は不満気だった。私なんかはちょっと楽しそうだなと思うのだが。

「ただ勘違いしないで欲しいのですが、配属先でどういった役割を与えられるにしても、海の上に出れば戦いになってしまう可能性は高いのです」

 むしろ戦艦や空母が同行できない分、単純な迎撃任務などより危険度が高くなる事も有りうる、と電教官は言う。それでも遠征任務は絶対に必要なのだ。兵站がボロボロだと戦いにすらならないからね仕方ないね。

「それに遠征任務には日本国民の生活も係っていたりするわ」

 雷教官の言葉に訓練生がざわつく。

「あなた達の適性検査に使った注射器、実はあれ、燃料や鋼材にならなかった抽出した残りの部分から作られているのよ!」

 原料などを外国から入手出来ない現状では検査用の道具や諸々の用意も容易ではなかったらしく、全て自衛隊が工面したのだとか。艤装以外にも使えるとか便利だな霊的資源。

「深海棲艦を退けて諸外国と連絡が取れたとしても、少なくとも数年は通商の回復は見込めないのです。それまでの間どうするのか、という事の答えの一つがこれなのです」

 燃料や鋼材はもとより、ガラス製品や食料にまでなるのなら成程、国民生活の助けになりそうである。

「去年の暮れから稼働している新型の発電所も艤装と同じ燃料を使用していたりするので、本当に大切な任務なのですよ」

「艤装の技術を応用して発電機にしたらしいわね」

 よくよく考えれば、艤装も新型発電もほぼ同時期の登場である。関係ない訳がないわな、と思いながら島風を見やると、ほへーと何一つ理解していなさそうな顔で聞いていた。大丈夫か、お前のご両親の仕事の話だぞ今の。

 

 

 

 

 

「それで飛鷹、あなたから見て吹雪はどうだった?」

 昼食を終え、訓練生達が講義を受けている間に暁、響、飛鷹の三人は報告書の作成と今後のための打ち合わせを行っていた。問われた飛鷹は少し考えるようなそぶりを見せると、自分の感想を口に出した。

「何もかもおかしいからどこから突っ込むべきなのか分からないわ」

 うん、と暁が頷き、響も瞑目する。誰もが思った事だが、反省会の時は誰も突っ込まなかった。突っ込めなかったとも言える。

「なんでコスプレしてるのあの娘」

 楠木提督に頼まれたからじゃないかしら、と暁が答える。衣装まで用意してたみたいだからね、と響がそれに補足を入れる。

「あの尻尾、錨が入ってるって本人は言ってたけど、巻きつけて人を放り投げるって器用すぎない?」

 あれって暁が教えたんだよね、と響が確認をする。やっては見せたけど教えてないわよ、と暁がぼやく。

「目視できるギリギリの位置から狙撃してたけど、あれ普通の連装砲よね? なんで連射で命中するのかしら」

 普通に的当てしてる時も外したの見た事ないのよね、と暁がため息をつく。砲撃も雷撃も爆雷なんかも狙った所に飛ばせると言ってたよ、と響も付け加える。

「砲撃の威力もコントロールしてるのか、全員一回じゃ大破しないように撃ってたようだし」

 あれは暁で色々試した結果だよね、と響が言う。楠木提督から大丈夫だって聞いてはいたけど恐ろしい体験だった、と暁は吐き出した。

「複数から同時に撃たれても当たってなかったけれど、あれって見切って避けてたのよね?」

 そうね、と暁は遠い目をした。服に掠ってはいたらしいけどね、と響は苦笑いを滲ませる。

「刺突を止めたり蹴り倒したり投げ飛ばしたりしてたけど、護身術か何か得意なのかしら」

 そういう情報は無いんだけどね、と響は資料をめくる。身体能力任せじゃないかしら、と暁は考察した。

「身体能力と言えば、ジャンプ力もおかしいわよね。助走無しでえーと、縦二メートルくらいは飛んでたような……」

 元々の身体能力がね、と暁が例の新聞記事を指す。それに艤装の身体能力強化が加わった結果があれみたいだね、と響が言葉を継いだ。

「ただ力が強いんじゃなくてそれを制御し切ってるっていうのが恐ろしいわね。魚雷を爆発させずに蹴り飛ばすって」

 感度が高かったりしたら出来ないだろうからやらないように指導するわ、と暁は意気込む。そもそも格闘距離に入るの自体あまり良くないからね、と響も同意する。

「最後に見せた瞬間移動なんだけど、あれって他の娘にも出来ると思う?」

 無理じゃないかな、と響は難しい顔になる。習得出来るなら有用でしょうけどね、と暁も眉を寄せた。

「それでちょっと、確認しておきたいんだけど」

 飛鷹は一度言葉を切った。一筋の汗が頬を伝う。

「あれで全力を出してないって本当?」

 暁は目を逸らし、響は窓から空を見上げた。その反応で、飛鷹は真実を悟った。

 そもそも読ませてもらったレポートから察せられる彼女の正しい運用法は、桁違いの弾速と埒外の威力でもってアウトレンジから一方的に撃ち続け、高い航行速度で追いつかれもしないという身も蓋もない物のはずなのだ。自分から距離を詰めて肉弾戦を挑むような真似をする必要はまるで無い。いやそれをやられたら訓練にならないのだろうけども。

 総括すると。

「あの娘、本物のレ級より強くない……?」

 沈黙が下りる。遠くで鉄を打ち付けるような音がしている。訓練生たちの艤装は現在鋭意修理中だ。

 

「ま、まぁ、強い分にはいいわよね、頼もしいし。噂じゃあれに準ずる娘が十人は居るんでしょ?」

 ああ、と響が引き出しから一枚の紙を取り出し飛鷹に手渡した。

「今回の適性検査で見つかった適性者の上位者……のリストだよ、異常適性者なんて失礼な呼び方をする人も居たみたいだね」

「あら、これって機密じゃないの? 読んじゃっていいのかしら」

「貴女にはこれからも演習を手伝って貰う事になるし、口外しなければ別にいいわよ。教える相手の事は知っておいた方が良いわ」

 そうね、と飛鷹は同意して書類を覗き込み、噴き出した。

 

 

 

 

 

 姓 名      艦種 艦名     適性値

 

 剛田 金奈枝   戦艦 金剛     32515

 剛田 比奈叡   戦艦 比叡     5855

 三山 榛名    戦艦 榛名     15123

 霧島 志乃    戦艦 霧島     8812

 桑谷 扶美    戦艦 扶桑     14444

 赤坂 真城    正規空母 赤城   3898

 上河辺 北斗   軽巡洋艦 北上   10010

 伊吹 雪     駆逐艦 吹雪    530000

 足立 夕海    駆逐艦 夕立    9836

 島 風香     駆逐艦 島風    12883

 提 Rosa      潜水艦 呂500   13341

 

 

 

 以下艤装未開発に付き招集見送り

 

 提 Benedikta  戦艦 Bismarck    1613

 久我山 歩宇良  重巡洋艦 Pola     4594

 

 

 

 

 

「これはひどい」

「酷いわよねぇ」

「自衛隊が100だ200だで一喜一憂してたのを思うとね」

 三人とも嘆息した。

「ただ、これを見る限りやっぱり吹雪は何かおかしいわよね」

「ただ六桁が希少なだけなのか、それとも彼女が特異点の中心なのかは今後の適性検査待ちね……本当におかしいのは吹雪なのかそれともあの地域なのかもはっきりしてないし」

「ああ、今も調査されているんじゃないかな、あの地域は」

 あの地域? と一人だけ詳しい話を知らない飛鷹が疑問符を付ける。基本的に偵察や巡回の任務以外に付いていない彼女はあまり事情に詳しくはない。

「このリストに載っている娘達はね、多くが同じ地域、それもかなり狭い、ほとんどご近所さんって言ってもいいくらいの近距離に暮らしていたのよ」

「少し離れた所に住んでいる娘も居たらしいけどね、代わりに仕事場がその地域にあったり、親戚がその地域に住んでいたりしたらしいんだ」

「……それって」

 飛鷹は息を呑んだ。暁は目を細め、響は歯を噛みしめた。

「可能性の話だしまだ何も分かってないらしいけど、地域か、人か、それとも別のナニカか……もしかしたらそこには、艦娘の適性値を上げるモノが存在しているかもしれない。なんて話よ」

 五月の生温い空気が窓を抜け、廊下へと染み渡る。飛鷹は身震いした。

 

 

 




人生トップレベルにいろいろあり過ぎてだいぶ遅くなりました。
コロナ自粛が懐かしいですわ……まぁ続いても困るんですけど。


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初めての○○

 昏い水底に脈動する薄桃色の有機的な、生きたまま皮を剥いだ何かの肉のように見える塊がいくつも見える。それらは時折、層の薄い部分から邪な光を漏らしている。一つ一つが常に軽い振幅を繰り返し、互いにぶつかり合い、水面を波立たせる。だが、不気味にその空間は静まり返っていた。

 その場に足を踏み入れた研究者が感嘆の声を上げながら地底湖に大きな波を立てる。水の跳ねる大きな音が地下空洞に響き、飲み込まれた。そして返答するかのように、暗澹たる静謐を湛えていた空間がぐわん、ぐわん、と歪むかのような低い音を立て始めた。

 ぐわん、ぐわん、ぐわん、ぐわん、ぐわん。

 何か巨大なものが呻るような調子で響くそれに気圧された研究員が、一歩後ろに下がる。土で汚れた白衣から携帯電話が落ち、水面に落下した。先ほどよりもさらに大きな音が空間を走る。ぴたりと呻りが止み、辺りを静寂が包み込んだ。絶えず続いていた湖面の揺らぎも静止した。

 研究者が慌て、携帯電話を拾い上げようと手を伸ばす。その腕に、いつの間にか漂って来たのか、先ほどまで水中にあった肉塊が触れる。何かが千切れるような音がして肉塊が裂け、次の瞬間には研究者の肩から先は消失した。一瞬だけ、呆けたように己の腕を食いちぎったナニカを見つめ、研究者は痛みに絶叫を上げた。

 叫びに返答するように、ぐわん、ぐわん、と反響が返ってくる。ぐわん、ぐわん、ぐわん、ぐわ、ぐわ、ぐわ、ぐわぐわぐわ。次第に高くなるそれが、自ら餌になりに来た欲深い愚者を嘲笑う声だと、本能的に、ようやく研究者は気が付いた。

 研究者が最期に見たのは、周囲を囲む肉塊と、その中からこちらを見つめる昏い光を放つ異形の眼だった。

 

 

 

 

 

「これらの光景を目にした探索者はSANチェック、失敗で1D6、成功で1のSAN消失です」

「あ、意外と低い」

「この後神話生物見たことによるチェックも入るからね」

「待って発狂しちゃう……」

「ここで発狂した時はシナリオ側で発狂内容決まってるみたいだから安心して振ってね!」

「マーシャルアーツが仇になる予感がしますなあ」

「全体的にSAN値削られがちなシナリオにしたからねぇ~」

 タブレットに日課であるらしい日記風漫画を描きながら、シナリオ製作者の秋雲先生がコメントした。現在私たちは自室でSAN値直葬されるTRPGをプレイしている。ルールブックとシナリオ集の提供は島風と同室の秋雲先生だが、彼女はセッションに参加していない。先日、レ級コスプレセットが大きく破損する前にしっかりスケッチしておきたい、と言って部屋に訪れ手土産に寄こしたのがこれら一式で、部屋の主である私と初雪、大体いつも居る島風、たまたまその時に居た漣の四人でプレイする事になったのである。私がGMで。

 なんで秋雲先生がこんなもん持ってたのかと言えば、彼女が最初に参加した同人誌がこのシナリオ集だったかららしい。シナリオ一本と各所のイラストの一部を担当したもので、お守り代わりに持ってきたのだとか。私がオタク趣味だと島風から聞いてそれならばと持ってきたのだそうだ。

 見せてもらった秋雲先生の日記は、訓練所で印象深かった事をほぼ誇張無しで書いていくノンフィクション形式、と一話目に書いてあったのだが、その内容は何も知らない人には誇張されてると思いこまれるだろうなと感じるような内容だった。主に私関連。

 客観的に見られるとなんだ、気持ち悪いな私。初日はともかく二日目以降は全体的に悪目立ちしていて、急停止急加速を試してたところとか、ぶっ飛んできた島風を受け止めるとことかも描かれていた。武装の訓練時はよそ見撃ちで当ててたり雷撃で的が消滅するとかなんだこいつ。極めつけがレ級コスして訓練生相手に無双だよ。なんで一部ホラー調なんですかね。ちなみに秋雲先生的にはチート転生者かなんかかなって感想だったらしい。正解。

 私の事以外にも訓練生たちの雑多なあれこれが描かれていて、例えば秋月と照月は実姉妹で初日は泣きながら食事を摂っていたとか、深雪と叢雲が殴り合いの末仲良くなってたらしいとか、すっころんだ五月雨が朝潮の下着ひっかけて脱がせたとか、実家が神職な初春が交霊術やって本物の駆逐艦初春の中の人を降ろしたらしいけど口調とか一緒でよく分からなかったとか、実は電教官が結構なオタだとか。いやこれ私関係無いところも誇張されてるように見え……あ、されてないんですか、そうですか。

 なお一番描写が多かったのは私ではなく、夕雲型のあれこれである。初日の夜、髪が伸びたり色が変わったりそもそも戦うなんて出来るのか、とかの不安で泣きそうになっている清霜を夕雲さんが色々お話して立ち直らせ、そこからなんやかんやの不安を皆が夕雲さんに打ち明けていって、夕雲型は結束を深めたらしい。道理で彼女たちの仲が良さそうだった訳である。吹雪型なんて同室の人たちはそれぞれ仲いいけど姉妹艦でどうこうって特にないからね。私もネームシップだけど包容力的な安心感は無理だわ。戦力的な頼もしさの方なら行けると思うけど。秋雲先生も夕雲さんは自慢の姉だと胸を張っていた。あれ、でも秋雲って陽炎型……いや、よそう、私の勝手な推測でみんなを混乱させたくない。

 ちなみに今セッションは前半の山場くらいだがそろそろ寝る時間である。探索者がここを逃げきれたら続きは明日だなうん。出目をチートの超感覚で調整してささっと逃がそう。GM初めてやったけどなんとかなりそうで良かった。

 

 

 

 

 

 その日、飛鷹は訓練所から離れ通常の哨戒任務に就いていた。現在訓練所では1vs26とかどうしてそうなったのかちょっと理解できない訓練が行われているはずである。前日にその条件かつ飛鷹有りで行われた演習は吹雪の完勝――少々外套が裂けた程度のダメージで終わったため、今日は飛鷹無しでという事らしい。

 レ級の衣装は傷つくたびに吹雪が補修しているが、そろそろ修復痕が目立ってきている。とはいえ、今日までの訓練において吹雪がダメージらしいダメージを負った事は一度も無かった。しかも飛鷹の見立てが正しければ、吹雪は今現在も成長過程であり、相手が増えているにもかかわらず衣装への被弾回数は変わっていないように見えた。一見すると吹雪が教導しているように見えるのだが、飛鷹はこの訓練はむしろ、吹雪を育てるために行われているのではないか、と感じていた。他の訓練生が育っていない訳ではない、どころか夕立始め一部の娘達は成長が著しい。だが、飛鷹は違和感が拭えなかった。どうしても吹雪に一人で多数を相手させる訓練を積ませているように思えてならなかったのだ。

「でも、それは……制度的に難しい、と思う」

 そもそも原則として一人で出撃する事は許されていない、と僚艦として同伴している霰は言う。起動可能な最低限の適性値しか持たない飛鷹であっても一人で海に出る事は禁止されているくらいには艦娘は貴重である。まして現在最大の適性値を誇る人間を一人で海に出すというのは有り得ない話だろう。艦娘達は視界の確保や何かあった時に曳航するために最低でも二人組で運用されている。普通に考えれば吹雪だけが例外とはならないはずである。

「普通が通じるのかどうかよね」

「通じないなら、心配しなくても大丈夫……じゃない?」

 まぁ、そうよね、と飛鷹も同意する。哨戒中の友人同士の雑談に深い意味など無いのでそんなもんである。心配なのは本当だが、まぁ流石に単騎突撃は無いだろうと笑い合った。

 

 そうして暫く哨戒を続けていると、哨戒機内の妖精さんとリンクした飛鷹の視界がぼんやりと海に浮かぶ何かを捉えた。

「あれは……船?」

「船? ……見間違い、じゃない?」

 適性値の低い飛鷹の場合、哨戒機から得られる視力はあまりよろしくない。だがそれでも、普通に海に浮かび人の乗っているような船を見間違えたりはしない。特に日の出ているうちは。

「うん、やっぱり船だわ。フィッシングボートって奴かしら」

 さほど大きくはない船上に複数の男女がひしめき合っていた。何をやっているのかまではわからないが、どうにも呑気そうに見える。陸地の見える程度の位置で船を止め、何かの機材を弄ったり、瓶のようなものに口を付け中身を煽ったりしているようだった。

「……はい、はい……了解…………この辺り、航行許可の出てる船舶は無いって」

 飛鷹が船を見ている間に、霰は本部に確認を取っていた。精鋭部隊の活躍でこの一帯の海は青かったが危険区域である事に変わりはなく、現在でも立ち入り禁止であり船を出すには特別な許可が必要である。無断で侵入すれば場合によっては拘置所送りである。

「はぁ……なんでまたこんな危険な所にわざわざ。自殺志願者かしら」

 ため息をつく飛鷹に、霰もやれやれと首を振った。こういう事例は今までにも例があったが、彼女たちが遭遇するのは初めてだった。

 

 海に浮かぶボートの上で五人の男女が盛り上がっていた。一人は持ったカメラをノートPCに繋ぎ、周囲を映している。他の四人はカメラに向かって大声で喋り散らしており、中にはまだ日も高いというのに酒を口にする者までいた。

「いやまさかね、我々もエンジンが止まるとは思わんかったですけどね! まぁ動画的には美味しいかなーってね!」

「エンジンどうですかー? 動きそう?」

 女性が少し離れて機関部を見ている男性に話しかける。一人だけかなり年の離れた男性はちょっとまだわからないですと返答した。

「まぁまぁ、帰りたくなったらね、最悪手漕ぎでも、手漕ぎでもほら、陸地近いから!」

「一応ゴムボートも乗っけてきてますもんねー」

「やー言われた通りにしといてよかったっすね!」

 カメラに向かって口々に捲し立てる。カメラを持った男性は声を上げている四人を映しながらPCの画面を覗き込んだ。

「あーやっぱ米どんどん荒れてますねぇ」

「マジかーだろうなー、見せて見せて」

「もう5000超えてんすね、みんなありがとーう」

 危険区域に出てまで彼らが何をしているのかと言えば、動画の配信である。未だ死滅していない動画投稿サイトで生放送を行っているのである。元々彼らはさほど人気のない生主達で、不人気同士で寄り集まり色々と相談し検討した結果が敵性体の存在する海へ繰り出すという行為であった。当然のようにコメント欄は荒れ、『今すぐ止めろ』や『カエレ!』といったコメントはかなり優しい方であり、ストレートに『死ね』や『くたばれ』というコメントも散見された。

「いやめっちゃ辛辣ですけどね! ほら平和なもんですよほら、なんもいないからね!」

 カメラを持つ男性に指示して周囲を撮影させる。周辺には軽い波が立っている程度で特に何も映らなかった。暫く四人が海に向かって叫んだり、水面に釣り糸を垂らしてみたりするが、特に何の反応も帰ってこない。

 しばらくそうしていると、カメラを持った男が急にあっと短く声を上げた。

「あれ! 皆さん! あれ、何かこっち来てます!」

 指さされた方を全員が注視する。その先には遠く、小さく見えるが確かに何かの影があった。もしや深海棲艦か、とざわつくが、どうもそれは人影のようであった。

「ん、んん! あれまさか人?」

「人……っぽいね、二人? こっち来てんねぇ!」

「まさか? まさかまさかの?」

「艦娘だ! 艦娘様が来て下さったぞー!」

 盛り上がり所がきた、と五人は大騒ぎする。機材の向こうに居る視聴者に向けて盛んに声を張るが、コメントは冷ややかなもので、『自衛隊に迷惑をかけるな』だとか『チョウシニノルナ!』だとかが大半であった。相変わらずストレートなコメントも多かった。

 見え始めてから数分後、それなりに時間がたってからようやく二人の艦娘は船の下へ到着し、接舷して声をかけた。

「こんにちは……自衛隊のもの、ですが」

「ちわー! 艦娘の人ですよね! お名前は!?」

「霰です。……お話いいですか」

「アラレ! アラレちゃんだって!」

「んちゃ!」

「んちゃ」

「やらなくていいのよ霰……」

 わざわざ反応を返す同僚に呆れながら、もう一人は自分たちに向けられたカメラを睨みつけた。

「艦娘の飛鷹です、とりあえずカメラは置いてください、あなた達は今危険区域に居ます。今すぐ陸へ引き返してください!」

「いやー、それがエンジンの方がね、故障しちゃいましてー……ほら、整備とかもあれだったので」

 素直にカメラを置き――ただし電源は入っていたし完全に艦娘二人をレンズに収めていたが――状況を説明すると、飛鷹は険しい顔になった。

「それは……困りましたね」

「曳いていける……?」

「厳しいと思う」

 高適性であるかそうでなくても戦艦や重巡洋艦の艦娘であるなら曳航するという手段も使えたのだろうが、残念ながらここに居る艦娘は極低適性の軽空母と駆逐艦である。それなりの大きさがあり複数の人間が乗りこんでいるような船というのは手に余る案件だった。

「ちなみに艦娘さんは修理とか……」

「出来ないですよ、工作艦じゃないですし」

「ですよねー」

「あ、こっちのゴムボートなら行けます?」

 船の上の女性が指したのはオレンジ色をしたオール付きのゴムボートだった。エンジンを見ている人間を入れて六人、少し多いがそれなら引いていけなくはない。

「それなら……行けます」

 霰の言葉に飛鷹は頷くと、てきぱきと船上の人間に指示を出し始めた。

「ではそれに空気を入れてください、準備が出来次第陸まで送ります。荷物は大事なものだけまとめておいてください。あとロープがあればお願いします。霰は本部に連絡をお願い」

 その間自分は周囲の警戒だ、と巻物状の甲板を広げ、紙人形の依代で格納した偵察機を追加で呼び出すと発艦させた。船の上からは歓声が上がった。

「かぁっこいー!」

「何今の! お札!?」

「もう一回! もう一回お願いします!!」

 一度置いたカメラをまた構え、カメラマンが叫ぶ。その男を飛鷹はねめつけた。

「撮影禁止です! それにそんな事をしている場合ではないのよ! ここは本当に危険……地帯……」

 途中で飛鷹の語気は弱まった。そのまま口を閉じ、目も閉じる。訝しがる周囲をよそに飛鷹は集中した。

 民間人との接触前から警戒に飛んでいた妖精さんの目を借り、海を注視する。青い海上に立つ三つの航跡波。それは真っ黒い新手の魚のように見えた。

「嘘でしょ……!?」

 本部と通信していた霰も、騒がしかった船上の人間達にも、嫌な予感が伝播する。そいつらは完全に狙いをすまし、こちらに向けて進攻していた。

 

 

 

 

 

 演習で26人蹴散らしたけど質問ある? 特定されない範囲で。

 時間は昼前、午前の最後という事で全員大破させたんだけど、午後の訓練に修理間に合うんだろうかとちょっと不安である。午前最後と午後最後の二回に分けてやるから戦力均等にするのかと思ったら上位26人とやらされたのは笑うしかなかったわ。昨日はそうだったのになんでやろなぁ。もう訓練期間一週間切ってるけど、最後は全員vs私一人とかもやらされるんだろうか。いやたぶん弾さえ足りれば普通に勝てるけども。

 連携とか学んだ駆逐艦の皆は以前よりも結構手ごわくなっている。全体的に隙が減ってきてるし回避能力も向上している。近接攻撃を積極的に使わないようにと釘を刺されてるから基本砲雷撃戦なんだけど、撃った時には外れてる娘が何人かいる。緩急付けて来るから単純な偏差撃ちじゃもう当たらないんだよなぁ。

 ちなみに私とばかり模擬戦してるわけじゃなく、他訓練生同士で複数vs複数とか教官を旗艦にして護衛する訓練とかもやっている。でも私はそっちにあんまり参加していない。一回教官に良いのかと聞いてみたら参加させてはもらえた。護衛される側で。なんでさ。

 

 コスプレ衣装を脱いでさて反省会だな、と化け物を見るような目の娘と頼れる仲間を見る目の娘に二極化してきた訓練生達と教官を待っていると、慌てた様子の電教官がこちらへ走ってやってきた。

「皆さん海岸から離れてくださーい! 近海に深海棲艦が出現したそうなのです!」

 その知らせに訓練生たちがざわついた。ここで艤装が無事なら倒しに行こうぜ! と言いだす者が現れたかもしれないが、残念ながら上位の成績を持つ娘は私以外全滅している。曙などは恨めしそうに水平線を睨みつけたが残念、彼女も魚雷を叩きこまれて大破状態だ。無論やったのは私である。

 私と戦っていた26人以外も演習を終え合流し、点呼を取って全員居るかを確認をする。艤装の妖精さんたちも一部一緒になって返事しているためかなり騒がしい。島風なんて呼ばれたら連装砲ちゃん達も鳴くし。

 不安なのか妙にそわそわしている娘や額に眉を寄せる娘、その娘達の不安を除くように大丈夫よと声をかける夕雲さんや教官達を見つめていると、不意に、私の脳内艦これ編成画面が開かれた。

 なんだ私の脳が不具合でも起こしたかと編成画面をチェックするが、ぱっと見た感じでは普段と変わらず、吹雪と飛鷹が隣同士に編成されているだけである。なんで開いたんだ? と思い注視――脳内なので注視というのはおかしいかもしれないがともかく画面に集中すると、その瞬間、飛鷹の編成されている枠が何かの衝撃を受けたかのように揺れた。なんだと思い飛鷹の状態を確認すると、いつの間にか飛鷹のアイコンの横に文字が浮かび上がっていた。

 

 小破

 

 うぇ? と変な声が出た。

 本日飛鷹さんは訓練に参加していないが、私は彼女を編成から外していなかった。それは単に解除するのを忘れていたというだけなのだが、なんだこれ、提督って自分の指揮下の艦娘の状態分かるもんなの? っていうか、え、何、飛鷹さん小破したの? 何してんの? 戦ってんの? 戦ってるの? 戦ってるよなぁこれ? あの人適性値私の知る中で最低って聞いてるんだけど、戦って大丈夫なの? ジャスト100って言ってたぞ、訓練手伝わされてたのも無効化貫通調整ミスっても訓練生殺しようがないってのが主な理由だって自己申告してたんだぞあの人。

 いや大丈夫じゃないわこれ。飛鷹さんの枠がまた振動するのを確認して私は我に返った。ゲームじゃないからか数値もゲージも見えないけど装甲削られてるって事だよなこれ、見回りして深海棲艦と遭遇して逃げられなかったって事だろうか。状況が分からん。つーか場所も分からないから助けにも行けないぞこれ、本当に編成画面だけで別機能とか付いてないのは確認済みだ。ピンチ知らせてくれるのは今知ったけど、実際何が起きてるのかの詳細も欲しかった。

「教官長! 飛鷹さんが戦ってるんですか!?」

「えっ……!? どうしてそれを、あ、いや誤解しないで、発見者は飛鷹みたいだけど退避命令が出てるはずよ」

 近くに居た暁教官長に駆け寄り確認を取るが、戦っているとは知らないらしかった。そんな状態で当然居場所なんて知っているはずもない。とりあえず提督の能力で艤装の状態がある程度分かるとだけ説明しておく。教官長はそんな力あるの!? と驚いていたが、本部に確認を取ってくれることになった。

 訓練生たちの列から離れながら、教官長が艤装に付けた妖精さん特製であるらしい通信機を取り上げ本部に繋ごうと操作を始める。途端に、聞き覚えのある声が通信機から流れ出てきた。

「――暁くんかね」

「へっ、あっ、はい。暁です!」

 暁教官長が突然繋がった事と、通信に出た相手の声の両方に驚き焦ったようにわたわたとしながら通信機とこっちを交互に見た。

「――楠木だ。近くに吹雪くんは居るかね」

「居ます!」

 楠木提督の低い声に慌てて返事をすると、提督はふむと一拍だけ間を開けた。

「――確認したい事があったのだが、どうやら必要は無さそうかな」

 私が存在を主張しようと焦った声を上げただけで、楠木提督は状況を理解したらしい。前も思ったけど洞察力どうなってんですかあなた。

「――飛鷹くんと霰くんが民間人保護の最中に深海棲艦に襲撃された。確認された数は3、軽母ヌ級と駆逐イ級二体と思われるとの事だ」

 教官長が息を呑む。私もやっぱりそうかと拳を握りしめた。

「――行くかね」

「行きます!」

 楠木提督とは数時間程度の付き合いだが、どうも私の性格というか、どういう行動に出るかは読み切られているようである。有難い。その言葉に焦ったのは暁教官長である。

「提督!? それは……」

 法的な障害とか、突然の実戦だとか、いろいろと問題はあるのだろう。だが楠木提督は暁教官長の言葉を遮った。

「――なに、演習中に偶然通りかかったとでもすればなんとでもなる……暁くん、羅針盤は持っているね」

「……はい」

「――では吹雪くんにそれを。吹雪くん、羅針盤に飛鷹くんの居場所を指すよう念じたまえ。それで妖精さんがやってくれる」

 了解、と私と暁教官長の声が重なる。教官長が複雑そうな表情で妖精さんから羅針盤を受け取り、私に差し出した。受け取った羅針盤に脳内編成画面の飛鷹を投影しながら念じると、ぽんっと音を立てて魔女を思わせる帽子を被った妖精さんが現れ私の肩に着地すると、まわしていくよーと気合の入った声を上げた。回さないで飛鷹さんの方指して?

「――ああ、そうだ吹雪くん、流石に一人で行かせると言い訳が利かなくてね。誰か一人だけでいい、連れて行ってくれ」

 えっ、と私は硬直した。今現在、戦闘に耐えうる艦娘は半分くらい大破している。そして説明無しですぐ連れ出せそうな、私とある程度仲良くしてくれている連中は全員その中に入っているのである。島さんが無事なら速度的に一択だったんだけど。

「私が行きます」

 立候補したのは暁教官長だった。こちらを真っ直ぐに見つめ、手を広げた。

「私の速度だときっと間に合わないから、背負って行って。目標が見えたら投げ捨てて構わないから」

 分かりました、と返事をして暁教官長の足元を掬い、艤装ごと抱きかかえる。

「え、ちょっと、なんで!?」

「すいません、背負うと多分振り落とします。速度を出すならこっちの方が安定するので――」

 多分これが一番早いと思います。

 

 

 

 

 

「――では他の教官達には私から説明しておこう」

 楠木提督はそう言うと暁との通信を終了した。それを確認した吹雪は舌を噛まないように気を付けてくださいと勧告すると、羅針盤の指す方へ向けて地面を蹴りつけた。

 次の瞬間、今までに体感した事のない圧力が暁の体を襲った。艤装の物理無効化能力で痛みこそないが、まともに身動きする事すら困難なそれが加速によって掛かったGであると理解した時、暁は恐怖した。

 凄まじい速度で陸地が流れていく。海岸線に沿って移動している事は理解できるが自分達がどれくらいの速度で移動しているのかが理解できない。暁が生きて来て経験した、人間の目線で体感したどの速度よりもそれは速かったのだ。暁は自分が一つ、勘違いをしていた事に気が付いた。

 吹雪は全力で力を込めれば一瞬だけなら瞬間移動のような超高速を出せる。暁はそう思っていた。緊急回避のために力ずくで、無理矢理に自身を吹き飛ばしている。暁だけではない、訓練所の誰もがそう思っていたはずだ。だが違った。

 おそらくは、あれこそが吹雪にとっての通常の戦闘機動だ。

 海上を行く吹雪の足は数秒に一回しか水面に接していない。片足で水平方向への跳躍を繰り返しているのだ。着水の瞬間に水を蹴り急加速して、空気抵抗で次第に減速し、逆の足で再度加速する。歩幅こそ異様に長いが、それは明らかに滑走ではなく走行だった。抱きかかえられている暁には正確にどれくらいの速度なのかまるで分らなかったが、最高速の一瞬はあの演習での動きと同じ速度なのではないかと感じた。

 つまるところ吹雪の場合、艤装の滑走能力を使うよりも走った方が速いという訳である。滑って移動する事自体が彼女にとっては手加減だったのだろう。

 別に悪い事ではない、というか、想定以上の速さなのだから良い事なのだろう。問題なのはその動きを今、暁を抱えた状態でやった事である。急加速、減速、急加速、減速、それは延々と繰り返されるGの連鎖であった。

(え、目的地までこれ続くの?)

 吹雪が一歩跳ぶ度に暁の全身が揺さぶられる。飛鷹が訓練所からどれくらい離れた位置に居るのか分からなかったが、暁の胃からは既にレディにあるまじきものが溢れ出そうになっていた。

 

 

 

 

 

 吹雪たちが訓練所を出る少し前、深海棲艦が迫っていると飛鷹に告げられた船上は大騒ぎになっていた。

「ええ! マジですか?」

「本当に来るとは……」

「あーでもほら! 艦娘さん居るし、倒せます……よね?」

 その言葉に飛鷹は厳しい表情で答えた。

「私たちは戦闘部隊ではありません、説明は省きますが戦っても勝つ事は無いと思ってください。だから避難の準備を急いで!」

 飛鷹の強い口調に、船上は思い出したかのように動き始める。それを見守りながら一方で深海棲艦を見張る飛鷹に、霰が声をかけた。

「本部から……連れられるだけ連れて、避難するようにって……」

「……ボートの用意が出来るまであと数分、私たちの速度で逃げられるかしら」

 今から陸まで退避すれば確実に逃げられる。いっそ何人かだけ抱えて逃げた方が期待値的には良いのかもしれない、と脳裏に過る。本部もそういうつもりで言ったのだろうと思われるが、選べと言われてもそう簡単に選べる話ではなかった。そこに話が聞こえていたのだろう、船上から声が掛かった。

「あの、艦娘の姉さん、戦えないんすよね、だったらあー……俺ら置いて先逃げてください」

「はぁ!?」

 何言ってんだこいつ。飛鷹と霰の心情は一致した。

「えーとですね、僕らぶっちゃけ、死にに来たんす。もう、いろいろあって、最期に一花上げて、それで運悪きゃ死ぬだろって……」

「それでねぇ! 巻き込んで死なれるのは流石に俺らも嫌なんでね! いやこんな事やっといて今更何言ってんだって話なんですけどね! 正直艦娘が来てくれるとも、戦えない艦娘ってのが居るとも思ってなかったんですわ!」

 飛鷹や霰のような戦えない艦娘の存在は報道されていない、だから彼らが知らないのは当然なのだが、そもそも深海棲艦に遭遇したとしても助けが来る可能性すら考えていなかったという。

 霰は思う、ああこれはアカン奴だ、飛鷹に直撃してる。隣の飛鷹を見れば、無表情で懐から紙人形を取り出していた。

「飛鷹……」

「ごめん、霰、時間稼ぐ」

「言うと思った……けど、私達じゃ貫通出来ないから……落ち着いて」

 提督にも一度に力を供給出来る数に限界がある。現状で働いている楠木提督と宮里提督は適性値の高めな艦娘達で手一杯であり、二人のような適性値の低めな艦娘達は提督の力を受用出来ていない。本来は。

「それが最悪な事に、私は今、提督の指揮下なのよ」

 言って爆撃機を発艦させる。幸か不幸か、飛鷹は吹雪の、伊吹提督の力を受けたままであった。

「ちょ、いいんですって、本当に! 逃げてくださいよ!」

「五月蝿い!!」

 焦る男の声に飛鷹は鋭く叫んだ。

「私は、あなた達みたいなのを減らすために艦娘になったのよ……!」

 続き、絞り出された飛鷹の声に、誰も何も言えなかった。

 

 飛鷹の艦載機は弱い。正確には飛鷹の適性値が低すぎるだけでまともに戦える空母が運用すればそれなりの性能を発揮するのだが、ともかく今この場においては非常に弱かった。

 敵空母に発見され、発艦した敵戦闘機に大半が撃ち落され、敵艦への爆撃へ成功した者もまともな損害を与える事は出来ない。それでも回避行動を取らせ前進を遅らせてはいたのだが、最初こそまともに応戦していた深海棲艦も脅威足り得ないと見切りをつけると、避けるそぶりすら見せなくなった。パラシュートで脱出する妖精さんだけが悔し気に頬を膨らませていた。

 

「飛鷹、準備完了したよ……行こう」

 集中していた飛鷹が声に振り向くと、海に浮かんだゴムボートにぎっちりと民間人六人を乗せ、牽引用のロープを艤装に結び付けた霰が手振りで合図を送っていた。飛鷹は安堵の息を漏らした。

「間に合った、かしらね」

「荷物も、ほとんど置いてきてもらったから……」

「まぁ元々大したもん持ってきてなかったっすけどねー」

「カメラとノートはね、ちょっともったいないですけどもね」

 この期に及んで余計な荷物を持ってったり出来ないです、と男は苦笑いした。飛鷹も同じ苦笑いを返すと、行きましょうと一声かけ、滑り出した。

 

 瞬間、直掩機が爆散した。なに、と声を上げる間もなく飛鷹に銃弾が降り注ぐ。緑色の光を放つ一機の敵艦載機が空から機銃を掃射していた。

 運良くほとんどの弾丸は狙いを外し、飛鷹の装甲をそこそこに削る程度に終わる。飛鷹が空を見上げると、敵機は一度離れ、反転しようとしていた。

「霰、行って!」

 あれの狙いは自分だと理解し叫ぶ。そのまま手元に数機だけ残った戦闘機を展開するが、再度狙いを定めた機銃が飛鷹に牙をむいた。甲板に穴が開き、体に衝撃が走る。だが発艦は間に合った。

 撃ち出された戦闘機が敵機を狙う。飛鷹の艦載機は弱い。一対一なら勝ち目は無かったが、今現在は多対一、時間を稼ぐくらいならどうにかなる。後ろを見れば、霰は無事に出発したらしく、陸へとゴムボートを曳航し始めていた。

 後に続くか一瞬考えるが、敵機の攻撃が一撃でも掠ればゴムボートはひとたまりもない。別方向に逃げるかとも思ったが、上空の邪魔者が確実にこちらを追ってくれる保証がない。飛鷹はその場に留まった。

 空中戦はこちらが多数であるにもかかわらず優位には進まず、妖精さん達は時間をかけ一機また一機と撃墜されて行った。それでも最後の一機が敵機に突撃し、諸共に爆散する。無事に脱出した妖精さんが飛鷹に手を振りながらゆっくりと落ちていく。飛鷹、初めての敵機撃墜であった。

 とはいえ、もう遅い。遅いのだ。一機相手をするのに時間をかけ過ぎた。倒せるなんて思っていなかったから残ったけど、逃げておけばよかったかしら。そう少し後悔しながら飛鷹は前方を見やる。黄色い暗光を纏う深海棲艦が、もはや逃れ得ない距離まで迫っていた。

 結局自分に出来る事は時間稼ぎだけか、飛鷹は覚悟を決め、迫るイ級を正眼に置き全集中力を目に込める。こちらに向かい一直線へと進む敵艦を、挑んで来いとばかりに睨みつける。数秒の対峙、高速で航行する黒い船体の口内から砲塔が覗いた瞬間、飛鷹は全力で横へと跳んだ。

 一瞬前まで飛鷹の居た空間を砲弾が裂いた。一撃躱してやったぞ、と続く砲撃に晒されながら飛鷹は笑う。二射を海面に転がりながらさらに避け、三射目を髪に掠らせ、だが四射目はついに避け切れなかった。肩口から衝撃が走り、艤装が崩壊し服が弾け飛ぶ。ダメージを肩代わりされ飛鷹自身に怪我は無かったが、衝撃で倒れこみ、艤装もほとんどの機能を停止した。

 最早撃つ必要もないとばかりに砲塔を飲み込んだ敵艦が飛鷹を喰らわんと猛進する。よろめきながら起き上がり、どうにか避ける方法を模索するが、迫る巨体を前に、飛鷹は前後左右どこにも逃げようがないと悟った。もはやこれまで。だが、絶対に目は背けない。飲み込まれるなら、腹の中で暴れてやろうと歯を食いしばる。イ級が大口を開け水面を跳ね、飛鷹へ飛び掛かった。

 

 衝撃はやって来なかった。飛鷹の目前の空中で、それは完全に停止してしまっていた。いや、停止しているのではない。それはたった一本の腕で押し留められていた。

 数瞬の後、物理法則という名の常識を盾に、脳が理解を拒否していた光景を、飛鷹はようやく認識した。飛鷹よりも小さな体躯、細い手足、その大きくもない五指にイ級は掴み取られ、宙に固定されていた。

 

「もう大丈夫」

 

 声の主が振り返る。頼もしげな笑みを浮かべ、安心していいとその態度で示す。頂点に近い太陽がその娘を照らした。見覚えのあり過ぎる顔、全ての疑問を置き去りにして彼女は宣言する。

 

「私が来た!!」

 

 一層笑みを深くして、敵に向き直り、少女は腕を引くと逆の拳を叩きつける。イ級は轟音と共に四散した。

 

 降り注ぐ深海棲艦の破片の雨の中、飛鷹は茫然としながら援軍……だと思われる艦娘の名を呼んだ。

「吹雪……?」

「はい。助けに来ました、飛鷹さん」

 笑顔で発せられたその言葉に返事をする前に、前方から砲音がした。

「おっと」

 軽い声を上げ、吹雪が腕を振るう。へぇーと声を上げ手元を見る吹雪につられ、飛鷹も覗き込めば、その手には発射されたものであろう、砲弾が握られていた。

「深海棲艦の砲弾ってこんなのなんですね。なんか光ってますよっと」

 言いながら受け止めたらしい砲弾を投げ返す。雑なフォームで繰り出されたそれは撃ち出された砲塔へと突き刺さり、無事に爆発。特にオーラも無かったイ級は轟沈した。

「あと一体……でしたよね?」

「えっ、ああ、そうね、後は空母が一隻ね」

 もはや何が起きているんだか理解が追いつかない飛鷹に吹雪は確認を取ると、水平線に目を凝らす。ぎりぎり見える位置に、軽母ヌ級は進んでしまっていた。ああ、あれか、と吹雪は呟いた。

「ちょっと行ってきますね」

 ヌ級が船体を割られるのに、何十秒も掛からなかった。

 

 

 

 

 

 ヌ級はチョップしたらモルスァとも言わずに沈む。吹雪、覚えた!

 すでに発艦されていた深海棲艦の飛行機達を踏み壊しながら飛鷹さんと合流すると、顔色が悪い割にどこかスッキリとした表情の暁教官長も追いついてきた。本当に途中で放り投げて来ちゃったので謝ったが、笑顔で気にしなくていいわよと言ってくれた。良い人だなぁ、ちょっと顔が強張ってたけど。

 飛鷹さんは大破状態で、教官長曰く後一撃でも受けていたら轟沈していたらしい。それでも体にはほとんど傷もない辺り艤装と制服の高性能さは大したものだと思う。服は剥けるけど。

 飛鷹さんは助けに来た事にお礼を言うと、でもどうしてここに? という疑問を投げかけてきた。暁教官長がそれに対して説明をしている間に、私は倒し忘れが居ないか周囲を警戒する事にした。

 周囲の音や気配を感じながら先ほどの戦い……戦いかあれ? ともかくさっきの出来事を思い返す。いや、イ級ならぶっつけ本番でも何とかなるだろうと思いながら走ってたんだが、まさか深海棲艦をぶん殴る羽目になるとは思わなかった。幼稚園入る前くらいに近所のそれなりの岩を全力で殴ったら粉微塵に吹き飛んだから今なら深海棲艦も行けるだろうとは踏んでたんだけど、ちゃんと通じて良かった良かった。

 しかし今日、出撃できて良かった。飛鷹さんをちゃんと助けられたのもそうだが、私自身の致命的な弱点がおかげで露呈した。これが強敵との戦いの直前に発生してたら死んでたかもしれん。そう思いながら艤装の中の、完全にノックアウトされた妖精さん達を見やると、すまぬ……と苦し気な呻りが聞こえてきた。こちらこそ申し訳ない。

 

 特に周囲に敵影は無さそうなので二人に一声かけ、念のため残されたフィッシングボートに上がり、内部を検める。中には人が残ったりはしておらず、点けっぱなしのノートパソコンとそれに接続された何かの機材から伸びるカメラやマイク、それに酒瓶や化粧品などが雑多に放置されていた。

 ノートを覗き込むと、そこには私的に見慣れたサイトの、生放送枠が表示されていた。コメント欄がとんでもない勢いで流れている。どんな人気配信見てたんだと思ったが、配信映像を見て私は硬直した。海が映っている。というか、私が助けた時から経緯の説明を受けている今に至るまで大きく動いていない飛鷹さんと暁教官長らしき人物が画面に映っている。

 おいまさか、と思い放置されたカメラの角度をよく見ると、それは飛鷹さん達の方を向いている。カメラの前に手を翳してみる。画面の映像が何かに遮られ、コメントはさらに加速した。

「あ、ああ、あああああああああああああああああああああ!?」

「吹雪!?」

「どうしたの!?」

 急に大声を上げた私に二人が驚き、こちらへやってくるのが見える。私はあわてて機材のコードを引き抜いた。

 映ってないよね、流石にそんな偶然無いよね、頼む映ってないでくれ! よりによってオールマイトだよ、あれだよ、夕雲さんみたいなのは無理だからって安心させる方法考えた結果が、ヒーローは笑顔で安心させるってあれだったんだよ! しかも結構大声で言ってたぞ私! 頼む、あんなのネット上に流れたとか言わないでくれ!! ネット上に流れちゃったら一生ものだよ! ネットのおもちゃだよ!! 私は頭を抱えて神に祈った。例の幼女の飛び切りの笑顔とサムズアップが私の脳裏に閃いた。畜生、絶対駄目な奴だこれ!

 

 

 




色々一段落したので更新速度を上げたいところです。
タグの要素すらまだまだまともに回収出来てないですからねぇ……



追記
長10cm砲ちゃんに関しては完全にやらかしていますので修正せずに晒し上げておこうと思います。
大変ご迷惑をおかけしました。


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掲示板の反応

艦娘総合スレPart1922

 

 

1 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  自衛隊公式

  http://XXXX/XXXXXX

  艦娘まとめ

  http://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  日本の軍艦まとめ

  http://XX/XX/XXXX/XX

 

  ◆前スレ

  艦娘総合スレPart1920

  http://XXXXXXXXXX/XXXXXX/XXXX/XXXXXXXX/

  艦娘総合スレPart1921

  http://XXXXXXXXXX/XXXXXX/XXXX/XXXXXXXX/

 

  ◆適性検査と招集の議論はこちらで

  http://XXXXXXXXXX/XXXXXX/XXXX/XXXXXXXX/  

 

  ◇次スレは>>900が宣言してから立てる事、踏み逃げの場合は誰でもいいけど宣言はしましょう

 

2 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  Q:艦娘って何?

  A:自衛隊が作った艤装と呼ばれる兵器を扱える女性の総称です。

 

  Q:どうやってなるの?

  A:適性検査に合格すればなれます。

 

  Q:なりたくないんだけど?

  A:強制です。是非もありません。議論は別スレへ。

 

  Q:じゃあここなんのスレなの?

  A:艦娘について雑談するスレです。

 

  Q:長門さんって何者?

  A:スレのアイドルです。自衛隊員で艦娘もしています。

 

  Q:他の艦娘って居ないの?

  A:こっちが知りたい。

 

3 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  乙

 

4 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  盾乙

 

5 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  テンプレ乙

 

6 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  乙新鮮な長門さんよー

  ttp://XXX/XXXXX/XX

 

7 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  とれたてぴちぴちで草

 

8 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>6

  魚とかもう一年くらい食ってないから既に懐かしい

 

9 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  魚にも穴はあるんだよな……

 

10 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>9

  流石の俺もそれは引くわ

 

13 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>8

  サカナサイキンウミニモイナイシナ……

 

16 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>13

  カタカナニキオッスオッス

 

 

 

319 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>281

  俺も無職だけど適性検査落ちて喜んでいいのか悲しむべきなのか分からなかったな

 

320 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  【速報】生配信に艦娘

  http://XXXXXXXXXXX/XXXX/XXXXXXXXXXXXXXXX

 

321 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>281

  俺氏先端恐怖症、適性検査の恐怖にむせび泣く

 

322 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>281

  ちゃんと親孝行するんやで(ニッコリ

 

323 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>320

  釣り乙

 

324 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>320

  釣り乙

 

325 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>320

  釣り乙

 

326 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>320

  釣りって分かってるのに悔しい……でも!(ビクンビクン

 

327 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>319

  こんなとこに居る奴が受かっても絶対役に立たないからwwwww

 

328 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>320

  マジっぽくね?

 

329 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  嘘だ、絶対釣りだゾ

 

330 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  艦娘来てるわ

  http://XXXXXXXXXXX/XXXX/XXXXXXXXXXXXXXXX

 

331 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>323-325

  三つ子乙

 

332 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  艦娘っぽいの来てるけどまだ分からん放送見つけた

  http://XXXXXXXXXXX/XXXX/XXXXXXXXXXXXXXXX

 

333 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>320

  見て来たけど人間っぽいのが居るだけで艦娘かわかんね

  つーか喋りがうるさくて苦痛

 

334 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  色が深海棲艦っぽくないしやっぱ艦娘では

  

335 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>320>>330>>332

  同じURLが三体……来るぞ、遊馬!

 

 

 

611 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  艦娘だったわ

 

612 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>320

  ガチで艦娘だったお前ら急げ!

 

613 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  どうしてそんなうそつくの?

 

614 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  んちゃwwwwwwwwwwwww

 

615 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ノリ良いなwwwwwwwwwwwwwww

 

616 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  んちゃ!

 

617 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  んちゃwwwwww

 

618 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  んちゃ!

 

627 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  アラレちゃんに何言わせてんだ

  アラレちゃんだったら普通だった

 

629 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  【速報】艦娘アラレちゃん確定

  http://XXXXXXXXXXX/XXXX/XXXXXXXXXXXXXXXX

 

633 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  もう一人は飛鷹

 

638 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  艦娘来た瞬間の米多すぎて顔が見えなかった件について

 

640 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  空母の飛鷹と駆逐艦の霰か

  霰がトンボ釣りでもしてんのかね

 

648 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>640

  カンムスニトンボツリイルカ?

 

650 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  カメラを置け(電源を切れとは言われてない)

 

666 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  これ艦娘の人ら生配信って気付いてなくね?

 

680 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>666

  気付いてないっぽい、普通に不味いだろこれ

 

691 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  地味に工作艦の艦娘が存在してるっぽい事が判明した件

 

702 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>691

  艦娘って十二人しか居ないのに工作艦とかおらんやろ

 

708 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>702

  戦闘部隊の人数が12人なんであって工作艦とか給油艦は数に入ってない説もあるで

 

709 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さんの方が階級上っぽい?

 

712 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんだあのでっかいモノ……

 

715 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>709

  指示出してるしそうなんじゃね

 

716 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんか巻物出て来たwwwwwwwwwwwwww

 

717 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんで巻物wwwwwww

 

718 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  艦娘じゃなくて陰陽師では?

 

719 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  巻物wwwwwwww

 

748 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ええ……

 

751 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  あれ艦載機かよwwwwwww意味不wwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

752 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんか巫女服っぽいと思ったら式神召喚したでござる の巻き

 

759 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  撮影禁止(生配信中)

 

771 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  やっぱり撮っちゃいけない奴でしたねぇ

 

772 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  当たり前だよなぁ?

 

790 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  あっ(察し

 

810 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  え?

 

811 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ウッソだろお前

 

812 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  タイミングが良すぎるンゴ……

 

815 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  実戦配信になる?

 

820 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  深海棲艦クル━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━??

 

841 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  カエレ!

 

960 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  【悲報】戦闘部隊以外の艦娘、実在する

 

962 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  戦えない艦娘とか

 

980 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  勝つ事はないだけだから負けもしないかもしれん

 

998 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>1000なら俺も艦娘

 

999 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>1000なら無事に逃げ切る

 

1000 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  質問いいですか?

 

 

 

 

 

艦娘総合スレPart1923

 

 

32 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  艦娘降臨中

  http://XXXXXXXXXXX/XXXX/XXXXXXXXXXXXXXXX

 

48 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さんに怒られたい

 

63 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>48

  わかる

 

69 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>48

  ワカル

 

153 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  つーか飛鷹はどうして深海棲艦来てるって分かったんだレーダーでも付けてんの?

 

213 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>153

  軍艦の力云々だし付けてるんじゃね

 

219 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>153

  飛ばしてた艦載機から連絡来ただけだべ

 

415 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  は?

 

421 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  何言ってんだこいつ

 

423 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  一人で氏んでろよ

 

431 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  何言ってんだこいつ

 

432 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  何言ってだこいつ

 

441 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ちょっと何言ってるかわかんないっすね

 

553 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  うんこ製造機の俺の方がマシでワロタwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

573 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>553

  働けニート

 

581 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>573

  募集自体ネーヨハゲ!!!!!!

 

613 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>573

  こんな時間に似ちゃんねる見てる時点でみんな(゚∀゚)人(゚∀゚)ナカーマ

 

631 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>581

  また髪の話してる……

 

731 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  とりあえずこいつらは生きて帰ってきてもらってちゃんと裁かれて欲しい

 

812 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さんからいっぱい出て来たな

 

815 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  提督とこの状況に何の関係があるのかコレガワカラナイ

 

836 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>812

  飛鷹さんでいっぱい出たに見えた

 

851 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  もうこいつらほんと黙れよ聞いてるだけでイライラするわ

 

877 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  流石にキレたwwwwwwwwwww

 

880 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さん……

 

881 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>836

  こんな時に下ネタ言う男の人って……

 

885 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  自衛隊員って人めっちゃ死んでるらしいな

 

900 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さんがまともすぎて死にたくなる

 

911 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>881

  うるせーよおっさん

 

919 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>900踏んだけど似ちゃんのスレ立てよくわからんから誰か頼む

 

941 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  戦えないのに海に出るとか命がけやろ

  ワイやったらできんな

 

955 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>941

  戦えても命がけなんですがそれは

 

960 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  新スレよー

  http://XXXXXXXXXX/XXXXXX/XXXX/XXXXXXXX/

 

973 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  代理立て

  http://XXXXXXXXXX/XXXXXX/XXXX/XXXXXXXX/

 

991 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>960>>973

  乙だけどちゃんと宣言しろよ

 

993 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>960>>973

  重複乙この速さなら使い切るだろうけど>>1くらい嫁や  

 

 

 

 

 

艦娘総合スレPart1924

 

 

5 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  こっちか

 

6 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  こっちが先か

 

15 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  次立てる奴は1926な

 

153 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  たまに艦娘が映るように位置調整してんの助かるけど腹立つな

 

189 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>153

  ボート膨らまして荷物まとめるだけだから暇なんだろほんと氏ねよ

 

263 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さん動かなくなったけど大丈夫かね

 

281 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>63

  式神出すくらいだし遠隔操作とかしてるんじゃね

 

401 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  よく見ると飛鷹さんの手光ってて笑う

 

412 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>401

  ヨクミルトジモカイテアル

 

423 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>401

  なにわろとんねん

 

813 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ボート投げた?

 

820 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ボート空気入ったっぽいな

 

912 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  いそげー

 

945 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  次スレ

  http://XXXXXXXXXX/XXXXXX/XXXX/XXXXXXXX/

 

950 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  のりこめー^^

 

981 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  わぁい^^

 

983 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>945

  次立てるのは1926って言ったじゃないですかァー!

 

 

 

 

 

艦娘総合スレPart1924

 

 

10 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  重複スレ

  Part1925として再利用

 

33 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  次こっちか

 

62 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さんしか映ってないからわからんけど今ボートに乗り込んでる?

 

92 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  アラレちゃんが行ったからボート出来てるっぽいな

 

450 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  さっさと逃げろー

 

461 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  キタ―――(゚∀゚)―――― !!

 

471 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  これで安心して寝れるわ

 

477 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ほっとしてる飛鷹さん可愛い

 

550 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  こいつら喋るだけで胸糞なのなんなの

  人を不快にさせる天才なの

 

680 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんか爆発した

 

682 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ああああああああああああああああああああああああああああああ

 

698 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さんやられてね?

 

720 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  撃たれてる

 

725 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  敵の航空機から撃たれてる?

 

730 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  間に合ってNEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE

 

821 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  あれ深海棲艦の戦闘機だな

 

983 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  こいつだな

  http:/XXXXXXXX/XX

 

1000 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>1000ならどうせみんないなくなる

 

 

 

 

 

艦娘総合スレPart1925

 

 

7 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ここはPart1926です

  次スレは1927でお願いします

 

42 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  前>>1000なんであんな事書いた! 言え!

 

44 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  前>>1000死ねよ

 

45 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>1000おまえがいなくなれよ

 

285 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  味方機複数なのに落とされてるのなんなん

 

319 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さんマジで戦えないんだなこれ

 

333 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さん逃げて―

 

357 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ナンデソレデウミニデレルノ

 

461 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんで逃げないの?

 

519 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>461

  囮やってる

 

610 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>461

  深海棲艦がボート追っかけてったら民間人全員死ぬからだろ

 

721 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  よく見えないけどもう半分くらいになってる?

 

813 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  敵機が強いんじゃなくて味方機が弱いってのが泣ける

 

 

 

 

 

艦娘総合スレPart1927

 

 

6 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さん死んだらワイも死ぬわ

  だから死なないでクレメンス

 

25 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>6

  迷惑なだけだから止めろカス

 

521 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  もう一機しか残ってなくね?

 

587 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ヤバイよヤバイよヤバイよヤバイ!!ヤバイって!!本当にヤバイよコレはヤバイ!!

 

720 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  やったか!?

 

729 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  やったか!?

 

731 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  倒した?

 

748 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さん行けるやん!

 

752 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  キタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆

 

810 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>748

  マジレスすると何体も出して自爆特攻して一機撃破は行けてないと思う

 

919 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さん早く逃げて― 

 

930 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  早すぎるから次々スレも立てとくわ

 

974 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>930

  次々々々々くらいまでたてちゃっていいんじゃね?

 

 

 

 

 

艦娘総合スレPart1928

 

 

9 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さんなんで逃げへんのやろ

 

39 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんか遠く見てるけどまだいるの?

 

189 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  そら艦載機が飛んできた以上空母もおるやろ

 

253 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんか黒いの居ない?

 

288 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  あっ

 

510 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  逃げてええええええええええええええええ

 

644 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  来る時の速度も遅かったしもう逃げられないのか

 

731 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  艦娘ハード過ぎィ!!

 

991 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  避けた

 

993 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  撃たれた?

 

997 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  避けた!?

 

1000 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  すげぇ

 

 

 

 

 

艦娘総合スレPart1928

 

 

9 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  深海棲艦でかいな

 

104 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  また避けたぞ

 

248 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  避けてるけどこれ相手近づいてきてるからどの道

 

511 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ああああああああああああああああああs」

 

538 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  当たったああああああああああああああああああああああああああああああ

 

539 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  らめええええええええええええええええええええええええ

 

692 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  うごいてる

 

696 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  まだ生きてる!

 

703 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  逃げて超逃げて

 

919 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  あああああ来てるううううううううううううう

 

999 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>1000なら援軍が来る

 

1000 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>1000なら飛鷹さんが助かる

 

 

 

 

 

艦娘総合スレPart1929

 

 

4 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  もうだめぽ

 

78 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さん死なないで

 

98 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  やめてえええええええええ

 

178 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  深海棲艦怖すぎワロエナイ

 

354 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  止まった?

 

379 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  映像止まったわ

 

387 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  流石に運営が動いたか

 

419 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  止まってなくね?

 

428 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さんあああああああああああああああ

 

430 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  どうなってんだこれ

 

433 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんかいる

 

434 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  止めてるwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

469 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  え止めてんのこれ

 

511 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  援軍かね

 

513 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  オールマイトwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

515 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  誰だよ

 

516 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  私がwwwww来たwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

517 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  オールマイトじゃねーかwwwwwwwwwwwwww

 

523 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんだ映画の宣伝か

 

524 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんでオールマイトwwwwwwwwwwwwww

 

526 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  戦闘部隊来た?

 

530 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さん大丈夫ならなんでもええわ

 

612 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  いや化け物だろこれ

 

620 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  腕強すぎだろwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

838 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ええ

 

839 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  草

 

840 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  爆発したwwwww

 

841 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  流石にねーよwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

842 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ええええええええええええええええええええええええwwwwwwww

 

843 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  オールマイトだコレ!?

 

845 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

846 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  あれプロパガンダ映像だっけこれ

 

848 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  えなんで爆発したの今

 

927 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  デトロイトスマッシュwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

987 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>848

  ぶん殴ってたぞ

 

991 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  バラバラになってんだけどなにこれ

 

 

 

艦娘総合スレPart1930

 

 

19 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  深海棲艦って脆いの?

 

31 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  笑うしかないわこんなんwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

58 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  聞き取れなかったんだけど飛鷹さんなんつってった?

 

117 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さんが死ななそうでワイ満足

 

155 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  精鋭部隊ヤバすぎない?

 

211 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  流石にイメージ映像泣きがしてきた

 

238 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>58

  たぶん吹雪って言ってた

 

617 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんか投げたな

 

634 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんか光ってますじゃねーよ馬鹿!

 

745 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ええ頭お菓子

 

793 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  フォーム汚すぎ0点

 

857 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  砲音?→投球→爆発音

  これは……

 

911 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  今投げ返したろwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

934 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  投げるならちゃんと投げんかい

 

1000 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  やきう民怒りの投球指導

 

 

 

 

 

艦娘総合スレPart1931

 

 

38 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  三体いたのか

 

107 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さん混乱してるじゃねーかwwwwwwwwwww

 

454 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  どこいくねーん

 

513 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  消えたぞ

 

534 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  移動速すぎィ!

 

618 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なにがなんだかわからない

 

819 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さん服直そうとしてて草wwwwwwwwww

 

954 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>819

  援軍来たしもうやれる事ないんだろ

 

 

 

 

 

艦娘総合スレPart1931

 

 

28 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹さんが無事でほんと良かったわ

 

113 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  今どっから戻って来たし

 

128 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  身体能力が可笑しすぎて笑いしか出ない

 

207 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  終わった感出てるけど勝ったの?

 

310 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>207

  たぶん勝って終わった

 

314 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  もうひとり来たな

 

537 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  暁か

 

543 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  教官長?

 

551 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  暁教官長

 

713 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんか幼いとは思ったけどどう見てもこの子自衛隊員じゃないよな

 

725 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  招集された子?

 

813 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  放り投げたwwwwwwwwwwww

 

825 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  教官投げたのかよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

827 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  どうしてそうなったwwwwwwwwwwwwww

 

1000 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>1000なら

 

 

 

 

 

艦娘総合スレPart1931

 

 

35 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  やっぱ飛鷹さんやばかったのか

 

51 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  前>>1000なんか言えよ

 

135 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  轟沈=死だよなこれ

 

158 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  サンキューオールマイト

 

178 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  つーか吹雪ってこの娘駆逐艦の艦娘かよwwwwwwwwwwwwwww

 

620 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  待って暁の喋ってるの機密っぽいんだけど

 

628 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  聞こえてるけどいいのこれ

 

648 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  やっぱ訓練生なのかオールマイト

 

655 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  嘘つけ絶対ワザとだゾ

 

672 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  偶然を強調しすぎだろwwwwwwwwwwwwwww

 

701 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  聞かれちゃいけない会話垂れ流しになってますねぇ……

 

721 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  たまたま通りかかっただけだからセーフ

 

741 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  通りすがりのオールマイト

 

757 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  上がって来たな

 

762 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  一瞬顔映ったけど凄い美人だったなオールマイト

 

812 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  あ

 

834 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  気付いたっぽい

 

912 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  びっくりした

 

914 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  声でけーよオールマイトwwwwwwwwwwwww

 

 

 

 

 

艦娘総合スレPart1932

 

51 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  カメラ止められた?

 

82 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  音も映像も切れた

 

102 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  完全に切れたな

 

108 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  機密どんだけ垂れ流しになったんだこれwwwwwwwwwww

 

231 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  この数十分で今までに出た情報の数十倍くらい色々分かったな

 

248 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  アラレちゃん大丈夫なんかな

 

312 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>248

  これでそっちだけやられてたら悲しすぎるわ

 

608 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  とりあえず戦える艦娘と戦えない艦娘の差があり過ぎて笑えないレベルなのは分かった

 

689 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>608

  なんで多聞丸が徴兵に拘ってたのかはよく分かったな

 

751 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  動画上がったぞ

  http://XXXXXXXXXX/XXXX/XXXXXXXXXXXX

 

767 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>751

  はえーよホセ

 

861 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>751

  今来たからありがたい

 

 

 

 

 

艦娘総合スレPart1970

 

 

211 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  【速報】自衛隊緊急会見

 

234 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  そらそうよ

 

245 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  オールマイトの正体も出るかな?

 

312 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>245

  それはもう2時間前に判明してる

 

315 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>245

  特定班がくっそ優秀だったからもう本名まで分かってんだよなぁ

 

450 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>315

  元々一部で有名な子だっただけだゾ

 

532 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  たぶん深海棲艦来てなかったら滅茶苦茶有名になってただろうからなオールマイト

 

541 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  12才で100m10秒ってマ?

 

681 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>541

  動画あるぞ

  http://XXXX/XX/XXXX/XXXXXXXXXX

 

699 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  こいつ神様から何物与えられてんですかね

 

723 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>699

  与えられた結果前線送りにされるのはもうただの悪意なのでは(名推理

 

777 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>681

  これ何がおかしいってどう見てもスタート出遅れてんだよな

  計測ミスだったとしても世界レベルは確定っていう

 

821 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  この動画去年のだから今は中二か

  あっそれでかぁ

 

893 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>821

  実際スゴイのは中二病扱いでいいのだろうか

 

923 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ついでに比較画像

  http://XX/XXXX/XX/XXXXXX

 

931 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>923

  何の比較してるんですかねぇ

 

963 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>923

  飛鷹さんより長門さんの方が大きいんだな

  吹雪はまだ未来あるけど暁……

 

 

 

艦娘総合スレPart2001

 

 

313 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  自衛隊緊急会見まとめ

 

  ・無許可の撮影及び配信に関する謝罪と再発の防止

  ・自衛隊には戦闘部隊以外の艦娘が存在していて戦闘は出来ないものの偵察などの任務に就いている

  ・生配信されたオールマイトは駆逐艦吹雪の適性者でまだ訓練生

  ・助けに来たのはたまたま通りかかったから

  ・助けに来たのはたまたま通りかかったから

  ・吹雪は現在の適性者の中で適性が最高

  ・艤装には身体能力を向上させる機能がある

  ・あれが平均的な艦娘の戦闘力という訳ではない

  ・飛鷹は最低クラスの適性で吹雪の百分の一以下

  ・艤装にはダメージ吸収機能がありギリギリまで中の人は傷つかない

  ・素手の肉弾戦は推奨されないから今後招集される人は真似しないでください

  ・長門さんも殴り倒したことはあるけど爆発四散はしなかった

  ・生主達については現行の法に則った罰則以上は考えてない

  ・動画については転載されても削除はしないが誹謗中傷などに対しては厳格な対応をしていく

  ・今後楠木提督は総司令として大きな作戦の指揮などを執る

  ・普段の艦娘の指揮はそれぞれの鎮守府の他の提督とその補佐たちに委任される

  ・艤装を起動は出来るが戦闘は出来ない程度の適性の女性も志願制で登用していく予定

 

  ・楠木提督はヒロアカ読者

 

326 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  大事な事なので二回言いました

 

333 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  全員オールマイトと同じ戦闘力だったら良かったのにな

 

341 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  オールマイトとしっぽりする提督誰なんやろ裏山

 

352 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>341

  ホモかよ

 

355 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>341

  たぶん自衛隊のもう一人の提督じゃね

  情報全く出てないからどんなんかは知らんが一般人にあれ預けないだろ

 

412 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  多聞丸がヒロアカ知ってるのが一番の衝撃だった

 

429 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>412

  会見までに読んできた可能性

 

433 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  動画はなんで放置されるんや?

  消してってもええやろあんな胸糞

 

438 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>433

  消したら増えるからだろ誹謗中傷するような動画だけに的絞った方が楽ですしおすし

 

441 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>433

  もしかして→ プロパガンダ

 

450 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  配信のせいで戦えない艦娘の戦えなさに説得力があり過ぎる

 

537 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  人類最高適性×100m10秒=オールマイト

  分かりやすいな?

 

551 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>537

  イチ□ーや室イ犬が艦娘だったら糞強かったんだろうなって

 

560 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>551

  そこは吉田シ少保里とかじゃないのか

 

581 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  自衛隊に都合のいい偶然起き過ぎだろ絶対仕込みだわ

 

612 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>581

  配信に合わせて都合良くなるような事だけ発表したんだゾ

 

623 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>581

  深海棲艦操れるならもう戦争終わってんだよなぁ

 

643 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  知り合いが艦娘になったっぽいんだけど吹雪の子と同じとこ配属されてくんないかなぁ

 

673 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  とりあえず日本が何とかなりそうで良かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嗚呼、嗚呼と少女が嗚咽を漏らす。

 深海棲艦の攻撃に晒され人の居なくなった町の、傷一つない家屋のカーテンを閉め切った薄暗い部屋で、モニターに向かい白い少女が涙を流していた。

 あんな艦娘が存在するはずがない。ましてただの駆逐艦である吹雪がそうであるはずがない。今の自分になら分かる、あんな力は本来この世界にはあり得ない。

「ワタシ以外ニモ居タ……」

 生まれた場所から逃げ、人の世に交わる事も諦め、目的も持たずに虚しく境界で遊び続けていた少女にとって、それは希望だった。

 もう全ての書き込みをカタカナで行うような、誰にも伝わらない自虐をする必要もない。種族は違えど同じ境遇の人間がいるならきっと、自分の事も分かってくれるだろう。

 問題があるとしたら当人の居場所が分からない事と、もう一つ。

「正面カラ行ッタラ殴リ殺サレソウ……」

 話をする前に、木っ端微塵に吹き飛ばされそうだ。動画を何度も見返しながら、小さな深海棲艦は頭を悩ませ続けた。

 

 

 




前話とセットですがセット過ぎて別に最後の方以外読まなくても問題ない内容になりました。
書いてて楽しかったですが再現率は微妙ですね……


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しゅうちしん の こうげき

 PCの中で少女が深海棲艦を粉微塵に砕く。背中に仲間を庇い怨敵を打ち破るその姿に対して外から叩きつけられたコメントは、賞賛二割否定一割、ドン引き二割に草四割、ついでに解説その他がちょっと。動画の中の自分の凶行を目の当たりにして私は顔を覆った。

「チーズ蒸しパンになりたい」

 恥ずかしいとかそういうレベルじゃない。中学生だからセーフ? 中の私は前世じゃ成人だよ! 今すぐPCを破壊してしまいたい。飛鷹さんが真っ当に人類の守護者やってた直後に迫真のオールマイトってなんだよ。呼び方もオールマイトと吹雪と本名と全部混ざって三人居るみたいになってるし。つーかなんで本名バレてんだよ! 私なんかしたっけ!? したわ!! 世界記録出してたわ! もうやだネット怖い! せいしんをころさえぅ! おうちかえぅ!

「落ち着くのです吹雪、それはどちらかというと何もかも面倒になった時の台詞で、恥ずかしくなった時のじゃないのです」

 そういやこの人ヲタなんだっけ、と指の隙間から電教官の顔を見ると、こちらを心配しているような表情であり茶化している訳ではないようだった。どう慰めていいか電教官も対処に困っているのだろう。そりゃこんな阿呆みたいな状況どうしたらいいかなんてわからんわな。

 

 私たちは飛鷹さんを助けた後、生主達を引っ張って陸まで避難していた霰さんに追いつき、やって来た自衛隊員に飛鷹さんたちをお任せして訓練所に戻ってきた。飛鷹さんはほとんど怪我らしい怪我もしていなかったのだが、一応検査のために病院行き。民間人六名は……どうなるんだろう、自衛隊の人たちは淡々とした対応だったけど、私のチート感覚だと滅茶苦茶怒ってるようにも見えたんだが。

 戻ってこれた時にはまだ日が出ているくらいで、訓練生たちは響教官と雷教官指導の下で演習をしているらしかった。私たちはそれには合流せずに、とりあえず寮の教官達の部屋で、訓練との兼ね合いで繋がらないようにしていただけだったらしいネットワークに接続。私と暁教官長、電教官で揃って動画サイトに投稿されてしまった救出劇を視聴した。どうなってるのか気になり過ぎて訓練どころじゃなかったのである。結果、私と教官長は轟沈した。

「ふふふ……いいじゃない吹雪、あれが漫画の物まねだって、悪い事した訳じゃないんだから……」

 死んだ目で暁教官長がフォローを入れる。私なんて機密漏洩よ、と魂が抜け出るような声を喉から捻り出した。

「暁も不可抗力でわざとじゃないのですから、そんなに落ち込まなくてもいいと思うのです……致命的な事は言ってないですし」

「偶然って一文に四回も入ってたら故意だって言ってるようなものじゃない……」

 ついでに言えば、羅針盤の仕様とかも口走っている。そう考えると私などより遥かに不味い立場なのだろう。私は恥ずかしさとかで顔面から火を噴いて全身に廻り髪が燃え尽き焼けた骨が残る程度の致命傷で済むが、暁教官長の場合なんらかの罰則が付く可能性があるような気がする。なにせ私と教官長では立場が違う。私は未成年であり、そもそも自衛隊員ではなく別組織の国家公務員だし。名目上。暁教官長は完全に自衛官で成人、しかも教官長なのでこの訓練所の責任者である。降格くらいは覚悟しなければいけないのかもしれない。次の教官長は響かしらと遠い目で呟く暁教官長は、結局自衛隊の公式会見が始まるまでそのままだった。

 

 公式会見の生放送が終わると、暁教官長は正気を取り戻した。どうやら上層部はこの件については偶然で押し通すつもりらしいので、たぶん処分も最低限で済むっぽさを感じるし大丈夫だろう。逆に私は恥ずかしさが増していた。名指しで真似しないで下さいとか言われたよ! そりゃ真似しちゃ駄目だよ、だってあれ艤装関係ないもの! ただのチート能力だもの! 艤装無しでも足場あれば同じ事出来るもん私!! オリジナル吹雪さんに無性に謝りたい。

 それにしても私の適性値って最低でも一万は超えてるのか。雷撃とか威力おかしかったから納得ではあるんだけど、訓練生に適性値が伝えられないのはこれのせいもあるんだろうか。最低が150で最高だと10000を超えて来るってどっちにもいい影響がある気がしない。

 私の艤装ほど変な挙動をしてる人は他の訓練生の中に居ないので、たぶんこれも自称魔法使いの仕業なのだろうけど、一万越えはともかく千超えたりっていうのは私以外にどれくらいいるんだろうか。ここの駆逐艦の中だと一番怪しいのはやっぱり夕立で、次点で島風、だいぶ離れて漣や初雪が候補か。夕立は純粋に私除けば圧倒的に強いし、漣も安定して優秀。初雪は射撃特化だけどそこだけなら夕立より精度は上だ。島風は速いだけだけど速さが足りすぎてて夕立でも全く追いつけない。あの娘は通常航行だけなら私が本気出してもほぼ同速である。足まで使えば流石に私のが速いと思うけど。周りに合わせるために演習中はまともに強みを活かせていないんでちょっと不遇なんだよね島風。それでも連装砲ちゃん達は普通に付いてくるんで火力も悪くないし地味にレーダーやソナーが訓練生で上位の成績だったりするから本体も役に立ってない訳ではない。あれ、島風もしかして滅茶苦茶優秀……?

 しかし動画、削除してくれないのか……いや根絶は無理っていうのは分かるんだけどね? 正直そんなとこに人員回してらんねーよってのも分かるし、もう既に本名まで出回ってるから手遅れなのも分かる。でも親に見られたらって思うと死ぬほど恥ずかしい。っていうか、うちの親普通にネットする種族だからもう見てるか今日中に見ちゃうかだろうからもうどうしようもない。無事なのは伝わるから悪い事ばっかりじゃないけど、もう戦い終わったら独り立ちしようかな……給料貰えるんだし。いつ終わるかは知らんけど。

 そういえば本名バレって普通に考えて記録会のアレからだよな? 中学もバレてるのは当然として……自宅バレしてないよな……?

 

 教官達の部屋で久々にネットに触れさせて貰う。と言っても遊んでるわけではなくて、自分の事がどれくらい把握されているのか調べるのである。

 普段常駐していた掲示板群――変色海域出現以降の新興のサイトの中で最も栄えていて、某ちゃんねると同じな見慣れた形式を採用しているそこへと繋ぎ、艦娘系のスレからリンクを……辿るまでもなく伊吹雪ちゃん専用スレがあったわ糞が。しかもこれ艦娘としての私じゃなくて短距離走者としての私のスレだわ、場所も艦娘板じゃないし。エゴサした事無かったから知らなかったんだがこれのpart1立ったの掲示板設立と同日くらいっていう。こんなスレ削除してくれよと思うが、正直この掲示板の運営はそういうとこはほんとどうしようもないレベルの対応なので仕方ない。国もそんなとこに対応してる場合じゃないからやりたい放題である。私的にはだがそれがいいって感覚だったのは否定できない。

 このスレ、最初は私が生きてるかどうかとか記録や動画の真偽をゆっくりと話してたっぽいんだけど、現行近くのスレでは一気に加速して艦娘になってたとか生存確認とか記念真紀子とかの書き込みばかりになっていた。最近まで生きてるか死んでるかも把握できてなかったようなので、住所までは割れてなかったんだろうと思う。このスレでは。

 問題は艦娘系のスレの方である。覗いたら誕生日血液型成績まで容赦なく全部載ってた。というか自称知り合いがめっちゃ書き込んでた。誰だよ、私の男性事情まで書いた奴。

 それによると私は男に擦り寄って相手がその気になったら袖にしてまた別の男に擦り寄ってく毒婦らしい。振った件数も大体合ってるし、本当に知り合いの犯行だなこれ。オタクって事も書いてあるし。いやそこはオールマイトした時点で分かりきってる気がするが。

 横から覗いていた暁教官長は眉をひそめて酷い中傷ねと言っていたが、申し訳ない、それたぶん傍から見たらただの事実です。私にその気が一切無かったという事実が入ってないだけで。

 中学だと男子はともかく女子は陸上部の連中とハーレムの人達以外ほとんど話もしなかったレベルのコミュ力なので、女子からの印象は多分最悪だったのが私である。振った男子達の関係者と本人からは嫌われてるだろうし、小学校時代だけで二桁、中学でも一年で三人だったか振っているため候補者も多い。なので誰がやったかとかはさっぱり分からん。完全に無関係の奴がノっちゃっただけって可能性も普通にあるし。幸運だったのは書き方が酷すぎて信じてる奴の方が少なそうな事だろうか。ただの騙りか怪文書にしか見えないもんなこれ。嫌われてるっていうか恨まれてるような気がしてきた。

 教官長は消してもらうとかした方がいいんじゃないかと言うが、ここだけ消されたら信憑性が増しちゃうから放置でいいと思います。と言ったら、辛かったらちゃんと言いなさいよと心底心配そうに言われてしまった。良い人だなぁ、これで私がもっと凹んでたら完璧だった気がするが、残念ながらネットでは日常茶飯事なので私のメンタルへのダメージは軽微、小破もしてないくらいである。私やらかし動画二種類見せられる方がやむまである。

 とりあえず色々とリンクを辿ったりもしてみたが、伊吹の家の住所までは出ていなかった。でも中学がバレてる以上時間の問題という気がする。両親に迷惑掛からないといいけど……

 暁教官長と飛鷹さん、霰さんの事も調べたが、そちらは自衛隊員である以上の情報はまだ出回っていなかった。フェイスブックとかやってなくて良かったですね。

 

 その後、大本営の方から連絡があり、今回の事は口外しない事と、処分などはないという事が伝えられた。教官長はほっと胸をなでおろしていた。

 

 

 

 夕食を摂り、時間的にも訓練に合流は出来ないだろうから精神を休めなさい、という事で自室に戻された私はとりあえずゆっくりとシャワーを浴びながら羞恥の感情と格闘し、丁寧に体を拭きながら忸怩たる思いを組み技で締め落とし、さっと部屋着に着替えながら慙愧の念と砲撃戦を繰り広げた。一人になったとたん恥ずかしさの野郎、集団で襲い掛かってきやがる。

 ブリッジからの逆立ちからの一本指立て伏せで湧き上がる思いを外へ逃がそうと奮闘していると、ドアの開く音が聞こえ、複数の足音が玄関へと入ってきた。吹雪いるー? と声が聞こえて来たので地に足を付け、居るよーと言いながら自室から出ると、島風と初雪がこちらに心配気な視線を向けてきた。

「吹雪なんかあった? 風邪?」

 島風はこちらにトトトと駆け寄ってくると額に手を当て熱を測る。むっ、と呻ると一歩離れ、首を傾げながら言った。

「ちょっと熱い?」

「それは風呂上がりだからじゃないかな……」

 ついでに軽い運動もしていたが、体温が上がるほどの事はしていないので関係ないだろう。

 じゃあなんで? と聞いてくる島風の問に私が返せず窮していると、初雪も全身から心配しましたオーラを立ち昇らせながらこちらをじぃっと見つめてきた。

「吹雪……大丈夫?」

「うん、まぁ……大丈夫だよ。体に異常とかじゃないから明日には復帰できると思う」

 とりあえず風呂と着替えを済ませた方が良いんじゃないかと言うと、二人とも素直に風呂場に消えていった。……いや待て二人で入る気かお前ら。

 

 何故か私の服を華麗に着こなす島風と、普通に自分の楽な服装になった初雪にテーブルに着席させられ事情聴取される。しかし私は口止めされてる身なので何があったかを話す訳にはいかない。ちょっと熱があった事にでもした方が良かったとちょっと思うが、心配もさせたくないしどうしたものか。

「体調不良じゃない?」

「ないです」

「精神的な不調でもない?」

「ないです」

 二人が思いつくことを適当に並べ立て、それに私が返答する。少々下世話な質問も飛び交ったがまぁ女子しか居ないから大丈夫かな。

「艤装が壊れちゃったとか?」

「ないです」

「秘密の任務とかだったりもしない?」

「……ないです」

 そっか分かったと二人は勝手に納得した。ちょっと自分の頭の回転の遅さにびっくりしたが、まぁ、嘘は一つも吐いてないしオールマイトした事も言っていないから大丈夫だな、あれ任務じゃなくて偶然だし。

 

 尋問が終わり、一息入れようと冷蔵庫に常備された伊良湖さん特製のお茶を注いでいると、誰かがチャイムを鳴らしてごめんくださいと訪ねて来た。何か礼儀正しいなと思いながら玄関を開けると、漣に肩をがっちりとホールドされた状態の曙と目が合った。

「あ、吹雪……こんばんは」

「こんばんわー……漣は何やってんの?」

 挨拶もそこそこに曙を正面に固定している漣を覗き込む。漣はよくぞ聞いてくれたとばかりに破顔した。

「いやー、ぼのたんがチャイム押すかどうか延々悩んでたもんだからついつい」

「もう押したんだからいいでしょ、さっさと離しなさいよ!」

 えへへ、と笑う漣に怒る曙、とりあえず玄関で騒がれるのもなんなので中に入ってもらう事にした。

 

「それで、曙はどうしたの?」

 まぁ心配して来てくれたのだろうとは思うのだが、一応聞いておく。曙はちょっとだけ焦ったような表情を見せた後、ノートを取り出して渡してきた。

「これ、今日の講義のノート。出てなかったでしょ? ……どうせ初雪も島風もまともにメモとってないだろうなって思って」

「ああ、完全に忘れてた! ありがとう、すごく助かる」

 すっかり頭から抜けていた事へのフォローに心から感謝が湧いてくる。島風と初雪は素知らぬ振りをしていたが、お前ら何も言わないのは図星だからであろうそうであろう?

 

 ノートをめくりながら今日の講義の事を聞いていくと、今日は本州周辺の海域がどうなっているかという話をしたらしかった。

 今現在、変色海域から通常の青い海へと戻せているのは大体海岸線沿いに五割程度で、北海道に面した青森や近畿地方以西は全くの手つかず、ここ最近では能登半島辺りで精鋭部隊が深海棲艦と陣取り合戦をしていたらしかった。多分楠木提督がここに来る前か後のどっちかがそこだったんだろうなと思う。

 深海棲艦は海岸に沿って攻めて来るとは限らず、それこそ神奈川辺りに突然変色海域が発生する事も有り得るらしい。そのため精鋭部隊の人達が丸一日休めるという事はほとんどなく、給糧艦の回復能力が無かったら過労死待ったなしの状況だったらしい。なお私たちはその長門さんをコラの素材にして遊んでいました。私がされたとしても文句は言えない……

 そんな状況を打破するべく招集されたのが私達であり、求められるのは兎にも角にも変色海域の拡大阻止と物資調達。他の島々、特に敵性体が多く確認されている北海道や四国、九州を取り戻すのはもっと数が揃ってから……という話であるらしかった。適性検査自体は第二次第三次と順次実施される予定なのだが、現状だと資材が足りないのだそうな。招集が発令されてから私たちの適性検査まではさほど間が無かったように感じたが、それは可決前から準備を行っていたからなんだろうな。手回し手回し。

 そして私達の配属先なのだが、どうも状況に応じて艦隊ごと異動する事が有り得るらしく、基本的には提督単位で扱われるらしかった。たとえば最初は横須賀に配属になったとしても、提督に呉への異動命令が出れば私達も全員それに付いていくことになるんだとか。もちろん個別の異動命令もあるようだけど。

 それ以外にも重要な作戦の時には選抜された艦娘達が提督を置いて出張する事もあり、割とフレキシブルというか詳細に決まってないだろ感を醸し出していた。規則規則で柔軟性がないのとどっちがいいのかは私には分からん。

 ちなみにであるが、提督として活動するのは楠木提督を除いて9名。私たちはその9人にそれぞれ振り分けられるらしい。ただし、均等ではなく、任される場所の重要性に応じて多少人数に変動があるのだとか。

 

「まぁ、あんたの配属先は最重要区域でしょうね」

 曙がふぅと息を吐きだしながら、私を見た。周りで遊んでいた三人もそらそうよと彼女の言葉に同意する。目の合った曙は羨まし気というか恨めし気というか、なんとも複雑な表情をしていた。

「曙は……」

 なんで戦いたいの? と聞こうとして止めた。どうにも踏み込んでいい事なのか分からないし、そもそも五人も居る部屋で始める話じゃないだろう。

「……何よ?」

「うん……今日はありがとう。その、心配してくれて」

「はぁ!?」

 誤魔化すために礼を言った私に、曙はぎょっとした声を上げて慌てたように否定を始めた。

「別に、心配して来たわけじゃないわよ!? ただ同室の初雪はどう見てもやる気ないし絶対板書書き写してないだろうからノート見せてあげないと、今日なんて結構重要な話だった訳だし、明日になってからじゃこっちが内容思い出すのも大変でしょ。それに普段みんな気にしてないけどあんた年少組じゃない、なのに一人だけで複数の相手させられてるし、そんなのが突然来なくなったから気になっただけ。何かあったのかなとは思ったけど普通に出て来るし体調が悪いとかじゃないみたいだから普通に勉強させちゃったけど怪我もしてないみたいだしほら心配する要素自体無いでしょ。そもそもチャイム押したの私じゃなくて漣よ、私はそんなに親しくないのに押しかけたら悪いかもと思って帰ろうとしてたくらいよ!?」

「ぼのたん、もうそれ心配したとしか言ってない……」

 初雪が割り込んで突っ込みを入れた。その言葉に顔を真っ赤にして違うわよ! と叫び、曙は初雪にさらなる否定を叩きつける。その光景をにやにやと笑いながら見ていた漣はススっとこちらに近づいて来ると、私の耳元で大きく囁いた。

「うちの姉、かわいいっしょ?」

「聞こえてるわよ漣!!」

 そりゃ聞かせたんだろうからなぁ、と思いながらノートを閉じ、騒ぎの裏で鳴っていたチャイムに応答するために玄関に出る。玄関口にはやほ~と秋雲先生が来ていたのでどうぞと部屋へ上げると、中では丁度、島風が喋り出すところだった。

「姉って言えば、秋雲ってなんで夕雲の事姉さんって呼んでるのか誰か知ってる? 秋雲って陽炎型だよね?」

 お前なんでこのタイミングでそれ言ったよ、つーか知ってたのかお前。後ろでばさりと何かが落ちるような音が聞こえ振り向けば、秋雲先生の足元には支給されたノートがあり、曙と同じ理由で来てくれたんだなと察した。彼女の場合は漫画のネタという意味合いもあるだろうが、最早それどころでは無いようで、ふらふらと倒れるように着席すると天井を仰ぎ見ながら、自分だけやけに部屋が離れてるなとは思ってたんだとか呟き始めた。

 最終的に秋雲先生が正気を取り戻すまでには小一時間ほどを要した。

 

 

 

 翌日には平静さを取り戻したというか、昨日の騒ぎで色々吹き飛んで行ったというか、もうやっちゃったものは仕方ないと開き直った私は訓練を再開した。教官達は貫通能力の制御とかの心配をしていたがそこは問題ない。そもそもチート能力さんに精神的動揺による操作ミスは一切ないのである。

 動画の事は隠しようがないのでいつかはみんな見る事になるのだろうが、それはもうその時に対応を考えようと思考を停止させた。恥ずかしさがぶり返して来たら困るからね。そう思いながら訓練生を引きつけて、この日から加わったイクさんに処理してもらう。潜水艦ってやっぱ怖いわ。

 さらにその翌日には飛鷹さんも復帰した。飛鷹さんは体に異常はなかったらしく、体調的には前日にもう復帰してもいいくらいだったらしいのだが、昨日は上層部からお叱りを受けて始末書を書いたりしていたらしい。逃げろって言われてるのに戦ったんだからだいぶ温情のある、というか激甘な処分である。減俸とかはあるらしいけど。一日休んだおかげか調子も良さそうだったし、心配は無さそうで本当に良かった。

 

 私以外の訓練生も一人側で多対一の訓練をやったその日の講義の後、訓練生全員は電教官達から簡単な枠の印刷された紙を配布された。

「今配った紙には皆さんの配属先に関しての希望を書いて欲しいのです」

「参考程度のものだから効果には期待しないで欲しいんだけど、こうして欲しいって事があったら思った通りに書いてもらっていいわ」

 皆がざわざわと騒ぎ出す。誰もそんなもの、参考程度にも聞いてもらえると思っていなかったのである。でもって私への熱い視線がいくつか注がれる。ちらりとこっちを見たのが曙や山雲、手元とこっちを交互に見る島風、私の様子を観察している秋雲先生、そしてこっちをガン見する初雪。こいつ、配属先でも甘える気か……!?

 とりあえず視線はスルーして自分の手元に集中する事にする。と言っても、特に考えるような事もない。最前線希望、とだけ書いて提出する事にした。私の手元を見て初雪が悩み始めたが、結局お姉ちゃんと一緒がいいですと書いて出すことにしたようだった。それじゃ伝わらなくないですかね……?

 

 

 

 

 

 四人の教官が寮の一室、暁と響の使用している部屋で訓練生たちの評価を行っていた。訓練期間も残り数日となり、よほどの事がない限り今回の評価を基に配属先が決定される事になるため、普段以上に慎重に検討を重ねながら成績を付けていく。提出させた希望も必要ならばそこに書き加えられるが、どの程度の効果があるのかは教官達にも分からなかった。

「やっぱり同室の子と一緒になりたがる子が多いわね」

「それはそうだろうね、どうしても気が合わないって組み合わせも無かったようだし」

「殴り合いが始まった時はどうなるかと思ったけど、予想以上にみんな仲良いものねぇ」

 訓練開始日から三週間以上が経ち、各部屋の艦娘達はそれぞれの形で友誼を結び、中には昔からの友人であるかのように見えるほどの者たちも生まれていた。もちろん、それほど仲の良くない組み合わせもあったが。

「同室以外だと、やっぱり夕雲が強いのです。同型艦からの支持率は圧倒的、なのです」

「意外だったのは吹雪かしら。案外人気ないのよね」

「配属先が激戦区で確定だからじゃないかな、それは」 

 成程、と雷は納得した。確かに彼女の配属先は間違いなく楽な場所ではない。同じ場所に配属されたら大変だろう。同じ提督に預けられたとしても、同時に出撃するとは限らない訳だし。

「当人の希望もこうだしね……」

「流石というかなんというか……」

 最前線希望とだけ書かれたそれは、自信過剰でもなんでもなく、そこへ行くべきという使命感か義務感の産物だろう。書かなくても間違いなくそうなるだろうというのが教官達の共通認識ではあるが。

 吹雪の名前を挙げているのは漣と曙、それとたぶん初雪。漣は吹雪以外にも趣味の合う娘や仲のいい娘全てを挙げており、数が十を超えるため書かなくても一人くらいは一緒になりそうだ。初雪は分かりにくいが彼女から見て姉に該当するのが吹雪しか居ないのでおそらくそうだと思われる。

「これは激戦区に行きたいって意味よね」

 雷が曙の用紙を指して言った。曙は人一倍深海棲艦への敵意が強い。訓練中は特別仲が良さそうではなかった事もあり、吹雪の配属先なら多くの敵と戦えると踏んでの希望だろうと思われたのだ。

「経歴を考えれば仕方ないのかもしれないですけど、少し心配なのです……」

 曙は自主的な練習が許される日には、毎回時間いっぱいまで体を使う娘だった。自爆紛いの戦法も併せて、己の身を顧みない傾向があると思われるのだ。

「本人も言っていたけど、死にたがっている訳ではないよ。むしろ生きて、出来るだけ多く斃してやろうってタイプだね。指導には従うし、ちゃんと指揮する人間が居れば問題無いと思う」

 曙と一番関わりの深かった響が言う。彼女からしたら、曙はむしろ素直ないい子じゃないだろうかという評価だった。敵への殺意はかなりあるけれども。

「来歴で言うのなら、彼女の方が心配かな」

 響が指したのは夕雲の希望用紙だった。そこには簡潔に、四国への作戦の際には参加させて欲しいとの旨だけが書かれていた。

「夕雲は……そうなるわよね」

「なのです……」

「書類を届けた時にもそう言ってたらしいものね……」

 場の雰囲気が暗くなる。大規模な作戦の際には優秀な艦娘が選抜される予定になっている。そして夕雲は撃ち合いこそ得意でないものの、それ以外の能力は訓練所でトップクラスである。順当に行けば声がかかるはずだ。その時にいつも通りに戦えるのなら問題ないのだが。

 暫く粛々と評価を付けていくと、突然チャイムが軽快な音を鳴らした。部屋の主である暁が応対に向かうと、ドアの外には私服の吹雪が立っていた。吹雪は年の割には落ち着いて見えるが、数日前にあんな事があったばかりである。何か不安や苦しい事でもあったかと案じたが、形の良い口から響く調子はどうにも軽く、そういった話ではないようだった。

 

 

 

 

 

「はぁ、妖精さんが……ああ、それで殴ってたのね」

「はい、動けなくなっていたので他にし様もなく」

「そういえば以前の演習の時にも気分が悪そうな娘が居たね」

「水を噴いてる子も居たのです……けどそれは別件なのです?」

「妖精さんも生き物って事かしら」

 教官長の部屋に発覚した弱点の事を相談に行ったら教官四人に囲まれた件について。四人とも同じ困った顔で眉を寄せ、頭を捻ってくれている。そうしてると本当に姉妹みたいに見えるなぁ、適性って性格的な部分の影響もあるんだろうか。

「うーん、そういう事例は聞いた事がないわね……」

 皆は? と問う暁教官長に三人とも首を横に振った。

「使わない……では根本的な解決にならないか」

「妖精さんに耐えられるように訓練してもらうとか?」

「あー、それはちょっと相談してみたんですが……」

 一応艤装の妖精さん達とも解決策を話し合ってはみたのだ、耐えられるように訓練するとかそういうのに向いた妖精さんとか居ないのかと。だが返ってきた答えはどっちもNOで、訓練がどうとか適性がどうとかそういう問題ではなく、物理ダメージ無効じゃなかったら死んでるようなシェイクっぷりはたとえ妖精さんでもどうしようもないらしかった。

 あれは無理よね、と苦渋の表情をしながら暁教官長が呟いた。どうやら腕の中でも苦しかったらしい。悪い事をしたなぁ。

「一回だけなら問題は出なかったのですよね?」

「昨日一昨日と演習終わりに試してみたんですが、連続三回目あたりから艤装の運用に支障が出始めるみたいです」

 五回目を過ぎると照準が定まらなくなり、十回もやればほとんどがダウンする。唯一根性で残った娘も手足がガクガクであった。よく嫌がりもせずに実験に付き合ってくれたもんである。

「……やはり使わないのが一番いいのでは?」

「でも緊急時にあれはとても有用だと思うのです」

 教官達もいい案は浮かばないようで、とりあえず上に報告をして、向こうでも解決策を探ってもらおうという事になった。

「後はそうね……集合体の中の吹雪に聞きに行くのはどうかしら、私達よりは何か分かるかもしれないわ」

 オリジナルの艦娘と再接触をして何らかのアドバイスを受ける事はそれほど珍しい事ではないし、吹雪の事なのだから吹雪に聞くのが一番でしょう、と暁教官長は言う。

 工廠へ行くなら鍵開けるわよ、と言ってくれたので、その申し出に有難く乗らせてもらう事にした。でも私再接触成功した事無いんだよなぁ。

 

 工廠では私の破壊した艤装の修理が行われていた。妖精さん達がせわしなく資材を運び、図面を見て指示を出し、溶接を行い、夜食のラーメンを啜り、クレーンでターザンし、ねこのようなものと戯れていた。やっぱ半分くらい働いてなくないですかね?

 私の艤装は特に傷ついていないため、片付けた時のまま置いてあった。同行した教官長に断って、艤装に触れる。

 目を閉じ、あの時に見た駆逐艦吹雪に乗り込むイメージで艤装に集中すると、あっさりと私の精神は吸い込まれていった。

 

 

 

 視界が開けると、やはりそこは前にも見た朝焼けの大海で、私は既に船上に立っていた。どうやら船首の辺りに居るようで、振り向けば砲台や艦橋が見える。

 しかし甲板に吹雪さんの姿はなく、代わりに机が一台置いてあった。小学校や中学校で使うようなそれの上には、何十枚かの冊子が納まった木のケースが置いてあり、その横にはご自由にお取りくださいと書かれた紙の筒が立っていた。

 不審に思いながらも近寄って、冊子を一枚手に取り確認する。表紙に書いてあるタイトルは『艤装の使い方』だった。

 

 

 

 はっと現実に引き戻される。

 いや待て、戻されちゃったけどいいのかこれ、入れたけど会う事も出来なかったぞ。冊子はなに、私以外の吹雪の適性者に対する配慮か何か? これ私のせい? 私のせいかな!? 私のせいだよね畜生!!

 つーか吹雪さん何やってんの!? 会いたくもないって事ですか!? 着信拒否とどっちがいいのか分かんないレベルなんですけど!!

 頭を抱えた私に、教官長から心配気な声がかかる。大丈夫ですと返し、会えなかったという事実だけ伝えるとちょっと意外そうな顔をしていた。

 とりあえず入れる事はわかったので、今度会えたらちゃんと謝っておこうと思う。

 何を謝ったらいいのかもよく分からないんだけどね!!!

 

 

 




悪い印象を持たれるとあれなので一応書いておきますと、吹雪さんは嫌がらせとかでこんな事してるわけではありません。


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配属先と仲間たち

 脳内でオリジナル吹雪さんの所から貰って来た冊子を読み返す。九九の暗記でもしたかのように全文を完璧に諳んじられるそれは、何度読んでも訓練初日に教えてもらった――もとい、脳内に書き込まれた艤装の操作方法と寸分違わぬ内容だった。私は既に感覚を得ていたので違いは分からないのだが、おそらくはこれを持ち帰れば艤装の操作が出来るようになる、という代物なのだろうと思われる。集合体さんはどうしても人の頭の中を弄りたいらしい。怖い。

 たぶん、これは今後現れるであろう私以外の吹雪の適性者に向けられたものなんだろう。私が持っててもまるで意味が無いものだ。そうなるとオリジナル吹雪さん、人前に出るのも嫌になっちゃったんだろうか。私みたいなチート転生者のせいで他の娘さんたちがオリジナル艦娘と交流できる機会を奪われるというのは、なんというか。とてもつらい。

 

 そんな事を考えながらぼーっと神隠しな銭湯のアニメを眺めている本日は、訓練最終日前日の夜。明日は午前中だけ訓練して、午後には配属先の通知がなされ、明後日になれば鎮守府へと我々は出荷される手はずである。家に帰ったりは出来ないらしい。まぁそんな事やったら絶対逃げる奴出るから仕方ないんだろうけど。どうも戦わせると戦うけど機会があれば逃げ出したそうな娘は少数ながら居て、そりゃ元々一般人なんだから当たり前なのだけれど、本当にやって行けるのか心配になる。海に出れば不思議とみんな頑張るんだけどねぇ。

 今現在部屋に居るのは私と初雪と島風のみ。初雪は毎度のマッサージを終え、寮に入った当初と比べればだいぶ筋肉の付いた足を揃えて漣から借りたPCで遊んでいる。持ち主の漣本人は今現在、最終日くらいは私を倒してやろうと意気込んだ連中と作戦会議に勤しんでいるらしい。弱点とか話し合ってるんだろうか。

 しばらく初雪の建設する豆腐ハウスに装飾が要るか否かを議論していると、おじゃましゃーすと漣が入ってきた。PCを引き取りに来たらしい。なかなか手放そうとしない初雪に手を焼く漣に島風が会議の結果を問うと、漣は満面の笑みで答えた。

「明日卒業パーティーする事になったんでヨロ!」

 作戦会議は?

 

 

 

 訓練最終日、本日はそもそも対私の訓練は行われなかった。やった事は本当に基本中の基本、駆逐艦として他の艦種をサポートする訓練である。

 勿論今までもその手の訓練がなかったわけではないのだが、最終日にもそれを持ってきた理由は簡単で、火力で劣る我々駆逐艦が大型相手に拘って他が疎かになっては味方全てが困る事になるからだそうな。やっぱり潜水艦は危険が危ないらしい。

 なおナチュラルに私が大型扱いされた事に関しては誰も突っ込まなかった。

 

 最後に、私の提督の力を使って全員に無効化貫通能力を扱う練習をする事になった。これに関しては別段何の問題もなく、全員普通に艤装に力を乗せて扱う事が出来たようだ。一番の収穫は私の最大供給人数が判明した事だろう。

 私の一度に扱える艦娘の数は24名。つまり艦隊4×6人である。脳内編成画面が艦これ風なのは伊達ではなかったらしい。ちなみにこの人数、提督の中では現状最下位らしい。ちょっと意外。

 後に知った話だが、一位は提提督だった。手当たり次第に供給しても底が見えなかったそうな。流石すぎるわあやつ。

 

 

 

 最後の訓練を終え、訓練所最後の昼食を摂り終わると、その場で明日までの予定に関して伝えられる。今日の午後は荷物をまとめたりといった退居の準備が終われば後は自由。明日は朝食を食べたらすぐに鎮守府に向けて出発になるとの事だった。

 そして全員に一枚の同じ紙と別々の封筒が手渡された。配属先の一覧表と、給与明細である。そう、我々は訓練生の時点でもう給料が発生しているのである。幾ら位貰えるのかちょっと気になるが、ともかくまずは配属先だ。

 

 私の配属先は宮里艦隊、自衛隊最初の提督である宮里提督の所だろう。一緒に配属されるのは、私こと吹雪、深雪、叢雲、曙、初春、山雲、秋雲先生、夕雲さんの八名。場所は――書いてないか。機密情報って事かね?

 他の配属先を眺めると、夕立や漣、初雪や島風は全員別々の鎮守府に送られるようだった。たぶん戦闘力上位九名は順々に割り振られてるなこれ、夕雲さんが私と一緒なのはたぶん撃ち合いはそれほどでもないからだろう。それ以外はよく分からん。ただ、宮里艦隊行になった人間の中に明らかに弱い娘は居ない。人数も多めだし間違いなく激戦区送りですね、分かります。

 私はコミュ力高めではないので秋雲先生が一緒なのが割と心強い。他にも深雪は本人の性格なのか割と気安いし、叢雲や曙は心根が優しい。山雲はそもそも当たりが柔らかいし、夕雲さんは実はさほど話した事がないけど夕雲さんだから大丈夫だろう。初春は……秋雲先生のおかげで降霊術の印象しかないんだけど、たぶん大丈夫、うん。

 

 配属表を見ている私の横で初雪がぐでんととろけてテーブルに溢れ出した。どんよりとしたオーラを全身から垂れ流し、上半身を前に倒して、目に涙を浮かべこちらに横向きに顔を向けている。

「お姉ちゃんと……別のところになっちゃった……」

 涙目でこちらを見つめる初雪は、もう何もかも希望が無いというようにだらんと両の手を机上に放り出し、明細の入った封筒を放った。

「成績順だろこれ? しょーがねーって」

 笑いながら声をかけて来た深雪の声にはっと気が付いて、初雪はもう一度表を覗き込む。その数秒後、顔を伏せて声を震わせながら嘆いた。

「頑張らなければ良かった……!!」

「それだと戦いで死ぬわよ」

 床に落ちた封筒を拾い上げながら、叢雲が呆れた声を出した。初雪の頭部に封筒を叩きつけると、私の方に声をかけてくる。

「配属先、一緒になったわね。これからもよろしく」

 こちらこそよろしく、と返した私と深雪、叢雲の顔を順繰りに見て、初雪は怨嗟の声を上げた。

「ずるい……深雪、艦隊換わって……」

「いや流石に無理だろー」

 無理っすよね? と深雪が教官に確認を取るも、ムリダナと一刀両断にされ、ほらなと初雪に苦笑いを向ける。初雪はまたテーブルに突っ伏した。

「今夜はヤケ酒してやる……」

「いや、未成年が飲んじゃ駄目だよ」

 私の突っ込みに初雪はこちらに向き直ると声を上げた。

「え?」

「え?」

 初雪の疑問の声に私も疑問の声を返す。

「え?」

「え?」

 一瞬置いて、深雪と叢雲も声を上げる。

「え?」

「え?」

「え?」

 聞こえていたらしく、周囲の娘達も似たような声を上げた。訓練所で初めて初雪以外の吹雪型の心が一つになった瞬間であった。

 初雪さん、あなたお幾つでいらっしゃる?

 

 ちなみに初雪は提艦隊行である。あ奴は女性関係以外は結構頼りになるのでそっちに甘えたらどうだろう。

 

 

 

 部屋に戻り、持ち帰ったレンジでチンされたチーズのようになっている初雪をリビングに転がして、自室で給料明細を開く。中に記された金額は私の前世の給料を遥かに超えていく金額であり、こんな世の中で金の価値がどうなるか分かったもんじゃないとはいえ、未成年に渡して大丈夫なのかと心配になってくる。

 まぁそれはそれとして、これなら配属先でもPC買えるかな。最近はお高いから良いのは無理でもネットに繋ぐのに不自由しない程度の奴なら普通に行けそうだ。問題は配属先にネット環境があるのかどうなのかか。

 気分を明るくしながら部屋の私物を片付ける。と言っても、私の私物はさほど多くない。少しずつ整理していた事もあり、一時間もすれば部屋はすっかり片付いてしまった。最後に残ったレ級なりきりセットをどうしようかと少し悩んだが、まぁ持って行っても大丈夫だろう。一応思い出の品だし捨てたくはないのだ。掃除とかは私達の退去後にしっかりやるとの事で、あまり気にしなくてもよいらしい。パーティーは夕食の時らしいので暇になってしまった。

 リビングに戻ると初雪がのろのろとテレビやAV機器を片付け始めていたので、一緒になってケーブルを取り外す。緩衝材と一緒にBD/DVDプレイヤーを箱に詰め込んでいると、やっほーとチャイムを鳴らす文化を忘却して久しい島風が入室してきた。片付けは? と聞くと、既に終わったとドヤられた。残念だったな、私も終わってるぞ。

 

 三人でリビングの片付けを終え、初雪の部屋もやってしまおうという流れになり和室に移動する。布団は毎日畳ませていたため何ともないが、ティッシュとか爪切りとかのちょっとした日用品が散乱気味だ。それらを片付け荷物をまとめさせていると、初雪の荷物の中にブランデーらしきボトルを発見した。本当に持ってたのかと思いながら取り出してみると、たぶんそれなりにいい奴じゃないかと思われる未開封品だった。荷物の中にほっぽってあったけど大丈夫なんだろうか。

 詳しくないので初雪に保管とかこれでいいのかと聞いてみたが、初雪も祖父から貰っただけでよく分からないらしい。早く飲んじゃった方がいいんじゃないのと島風は言うが、全部一気に飲むのは止めようね。

 

 

 

 普段と同じ食堂で催されたパーティーの料理はやたら豪華だった。どうも伊良湖さんwith妖精さん達が目いっぱい頑張ってくれたらしい。バイキング形式で、立ち食いしてもいいし座ってもいい。伊良湖さんは作るのに手いっぱいだったようで、配膳は漣を筆頭に朧や曙なんかが手伝っていた。綾波型主導だったっぽいなこのパーティー。飾り付けも小道具が無いなりにしっかりやっていて雰囲気も出ている。

 食事が始まると各々仲のいい娘達と集まって、互いに励まし合ったり別れを惜しんだり、どっちが戦果を挙げるか競い合おうと約束したり、それぞれの形で楽しんでいるようだった。

 私はと言えばいつも通りというかなんというか、本当に飲み始めた初雪さんと、ちょっと飲んでみたそうな島風と、行儀よくお座りする連装砲ちゃんたちとテーブルを囲んでいる。島風、お前は飲んじゃ駄目だぞ。

 途中、いろいろな所を飛び回っている漣がここにも顔を出したり、山風が逃げたりしてごめんなさいと謝って逃げたり、何人も連装砲ちゃん達にお別れを言いに来たり、通り掛かった響教官が初雪の酒に興味を示して暁教官長に曳航されて行ったりしたが、概ね平和だった。

 しばらく時間が過ぎ、皆もお腹が膨れてきて人気の食べ物も品切れになったタイミングで、漣が全体に号令をかけた。曰く、配属先が一緒の人達とも交流して行こうとの事。じゃあ行ってくるねーと島風はちゃっちゃと移動を始めたが、初雪は動こうとしなかったので提艦隊の集まっている所へ持って行った。

 

 宮里艦隊の集まりへ向かうと、既に私以外は揃っていて、お疲れさまと夕雲さんが労ってくれた。嘘みたいだろ、あんまり初雪と歳変わらないんだぜこの人……

 深雪、叢雲、曙、初春、山雲、秋雲、夕雲、全員へよろしくと一通り挨拶を済ませると、深雪が笑いながら言った。

「どんな奴と一緒になるかと思ってたけど、吹雪と一緒なら安心だな!」

 滅茶苦茶強いし、と明るい声を上げる。それに首を振って答えたのは曙である。

「あんたね、気楽過ぎよ。吹雪が居るって事は私たちが行くのは絶対敵の多い所よ」

「それに吹雪を私達に合わせると思う? 吹雪は戦闘部隊で私たちは資源収集の護衛って事も有り得るのよ」

 叢雲の援護射撃と合わさった、当たりキツめな二人の言葉に、深雪はたじろいだ。

「でもー上の人達は私達を選んだわけだからー、なんとかなると思うー」

「そうね、みんなで何とかしましょう」

 ねーと山雲と夕雲さんが声を合わせる。のほほんとした調子の二人に、曙と叢雲も言い返さなかった。代わりに眉を寄せたのが初春である。集まった面子と配属表を見比べて考え込んでしまった彼女に、秋雲先生が話しかけた。

「初春、なんかあった?」

「うむ……いや、なんじゃ、ただの推測なのじゃが……もしや我々は実力で選ばれたのではないのではないかと思えてな」

 その心は? と相槌を打たれ、初春は自説を唱え始めた。

「まず、上から数えて九人目までをそれぞれ別の艦隊に配置しておる……これは吹雪や夕立といった明らかに優秀だった者が分けられておるから間違いないじゃろう。この辺りじゃな」

 うんうんと全員が同意し、初春が私以外の8人の名前を二重線で消す。そこはやっぱりみんな分かるのね。

「残りの訓練生の中から、少しでも吹雪を忌避する者を除く」

 初春がペンで一部の名前に線を引いていく。なんか雲行きが怪しくなってきたな。

「さらに、吹雪に頼りきりになりかねん者も除く」

 訓練生の名前がさらに減る。何故か初雪だけ二重に消された。

「最後に吹雪より幼い者を除く」

 最終的に一人の名前も消えていない艦隊は、宮里艦隊のみとなった。

「とまぁこのように、吹雪に負担の掛からない人間で構成されたのではないか、と思えてならんわけなのじゃが」

 実際どう? という視線が私に向けられる。いや、流石に皆の内心までは分かんねーですよ私は。

「ええ~? でもあたしだって吹雪の事頼りにしてるぜ?」

「頼もしく思う事と頼り切るのは違う、深雪は吹雪が居るからといって吹雪に任せてしまおうなどとは思わんじゃろ?」

 それはむしろ私が思う奴ですねすいません。深雪はまぁそれはないかな、と返す。私より立派ですわこの娘。

「なるほどねぇ~、明らかに強い吹雪が余計な事で疲れないような選出……かもって事かぁ」

 皆を観察して日記漫画のネタ集めをしている秋雲先生にも、割と納得のいく説だったようだ。私もそこそこの数が消された表とこの艦隊のメンバーを見比べて、ちょっと納得できる点に気が付いた。

「たぶん、この残った名前の人達を成績順に並べて、上から七人選んだらこの面子になるかも……?」

「ふむ、吹雪が言うのならそこは間違いなかろ」

「それじゃあ~、一応実力は加味されてるって事ねー」

 やっぱり問題ないねーと伸びやかに山雲がまとめた。実力的には全員中位以上だと思う。けど、もし選出の基準の中心が私だったらと思うとなんだか悪い事をした気分になる。そんな思いが表情に出ていたのか、クスリと笑って夕雲さんが私の肩を叩いた。

「難しく考える事はないわ、要するにただ相性を見ただけよ」

 ほら見て、と夕雲さんは自分の配属表を広げて私に見せた。

「こことここ、ここなんかもそうだけど、結構同室の娘が一緒にされているでしょ? 仲の良い子たちを出来るだけ同じ場所へ行けるようにしてくれてるのね。私達だって一緒よ、嫌い合ったりしない、上手くやっていけそうな人達で纏めただけ」

「それに、このメンバーで負担が軽くなるのは吹雪だけじゃないわよね」

 叢雲が夕雲さんを見ながら言った。夕雲さんは少し迷ったが、そうかもねと複雑そうに同意した。

「この説で行くなら、夕雲型が一人だけなのも多分狙ってやった事でしょ……秋雲まで姉って呼んでるのはイレギュラーでしょうし」

 秋雲先生がごふぅとダメージを受けた。結局姉さんと呼び続ける事にしたようなんだが、同型艦でなかった事からは未だに立ち直り切れていないらしい。

 初雪の年齢を盛大に勘違いしていたので自信が持てないのだが、おそらく二十代の夕雲さん、大学生くらいに見える秋雲先生、高校生だろう叢雲、初春、山雲の三人、深雪と曙は中学生くらいで、たぶん私と同じか上級生。なので私は色々気遣われてしまう立場のようだ。でも、前世含めると最年長なので有難いけどすごく気恥しい。もっとしっかりするべきだろうか。

 

「吹雪はともかく初春、あんた周りをよく見てるのね」

 私は誰が吹雪の事嫌いかなんて知らなかったわ、と曙が言いだした。初春は言葉を受けて何故か目を泳がせた。

「ああ……うむ、なんというか前の職業柄、かのう……」

「あー、巫女さんー? みたいな事してたのよねー?」

「巫女……そうじゃな、広義の意味では。一応そちらが基になっておった……と思う」

 初春は言い淀む。あまり触れてほしくなさそうなのだが、深雪が気にせず突っ込んでいった。

「それで喋り方も珍しいカンジなのか? 巫女さんってどういう仕事してたんだ?」

 興味津々といった様子で、好奇心をまるで隠さない深雪を無下に扱えなかったらしく、初春は自分の事を語り出した。

「わらわがしておったのは……どちらかと言えば人生相談に近いものじゃよ」

 あらあらまぁまぁと全員が驚く、初春は高校一年か二年生くらいに見える。正確な助言だったとしても信頼されるかと言われると微妙な所だ。

「この訓練所で学んだ今ならば信じて貰えると思って言うが、わらわは所謂、霊能力者という奴でな」

 生まれつき霊や神格を視て話す事が出来る。と初春は言った。最近知ったがこの世界はすっごいファンタジーワールドだったので、そりゃあそんなのもいるよなぁ、と思ってしまう。妖精さんとか今もテーブルの隅でテンション上がって踊り狂ってるのとか居るし。落ちるなよお前ら。

「相談者に憑いた不浄な者の弔い方や、守護霊の語る運気を保つ術なんかを授けておった……親主導での」

 新興宗教という奴じゃの、と初春は苦々しく言い捨てた。なんでも物心付いた時には祭り上げられていたらしい。彼女の助言はかなり正確で有用で、代わりにものすごくお高かったとか。それでも信者の人達は結構な頻度で訪れて初春を頼り縋ってくる。親ではなく、信者の人達に憑いた善い霊から学びを得た初春はそれを見捨てる事が出来ずに託宣を繰り返し、親は儲かり、信者は救いを得た。

「しかし、わらわが育つにつれ、力そのものが弱まってしまってのう。今となっては口調がおかしな唯の女子高生よ」

 いや今は艦娘か、と初春は笑った。妖精さんも普通の時は見えないらしい。提督適性とは違うものなのか。

「あれ、それじゃあ交霊会は何だったの? ふつ~に霊能力みたいな事してなかった?」

「どうやら艤装が触媒になるようでの、わらわの弱った力でもあれがあればそれくらいは出来るのじゃ。装着しているお主等を通して駆逐艦の神霊を視たりも出来るぞ」

 どうやら艤装は霊的な道具として滅茶苦茶優秀らしい。霊的資源から作られるらしいのである意味当然か。もっと強い霊能力者なら霊圧飛ばしたり出来るんだろうか、ちょっと見てみたいかも。

「ふむ、語りが過ぎたの……聞き上手が多いのも考え物じゃのう」

 あまり人に話したことはなかったのじゃがな、と言って初春は恥ずかしそうに目を伏せた。少し懐かしさも混ざった表情が印象的だった。

「じゃあー、召集の時は大変だったんじゃないー?」

 山雲の問に初春は軽く首を振って否定で返した。

「いや、その頃にはもう団体自体が無くなっておったからな。深海棲艦が来て以降はわらわも叔母に預けられておったし、特に何もなかったのう」

「初春、あんたの親、もしかして……」

 曙が深刻そうな表情になる。深海棲艦が来てから保護者変わるって言ったら、あんまりいい予想は出来ない。

「ん? ああ、いや、死んではおらぬよ。ただ少し……………………塀の中に居るだけでな」

 初春が微妙な顔になる。曙も微妙な顔になる。たぶん私も微妙な顔をしていたと思う。

 

 

 

 司会進行も務める漣に暁教官長が引っ張り出され、最後の訓示をさせられる。準備していなかったらしく、無茶ぶりが飛んできた瞬間は慌てふためいていたものの、前に出てしまえば言うべき事はしっかりと押さえたまともな話になっていた。教官長の貫禄である。

 教官長の話を最後にパーティーの終わりが告げられ、漣たちは片付けを始めた。参加者達は部屋へ帰る者や交流を続ける者、まだ食べている者など様々だったが、我々宮里艦隊行の面々は夕雲さんの下へ夕雲型が集まってきてしまったために解散となった。秋雲先生は残ったけど。

 初雪を拾って帰るか、と思い提艦隊の所へ向かおうとする私に、初春が声をかけて来た。

「吹雪、少し良いかの?」

 人気のあまりない食堂の隅の方へと誘われ、何かと思って付いていく。私の方へ向き直った初春は、私の目を見て心配そうに、抑えた声で言った。

「間違っていたら失礼だとは思うのじゃが聞かせてくれ。おぬし、もしや艦の神霊と上手く行っていないのではないか?」

 どきりと心臓が鳴る音が聞こえた。硬直した私の表情から、初春は自分の考えが正しいと察したようだった。

「やはりそうか……」

「どうして……?」

 霊能力者ってすごい、そんな感想が出て来た。

「先ほど、おぬしらを通して神霊が見えるといったであろう? 皆の前では言わなかったが、一時期に、ほんの一日だけじゃが、どうしてかそれらが見えなくなっておった娘達が居っての」

「一日って事は」

「うむ、皆、今ではまた見えるようになっておるよ……おぬし以外はな」

 何その嫌な例外、っていうか、私以外にも着信拒否されたりした娘が居たんだろうか。見えなくなったってそういう事でいいのか?

「その、見えなくなってたのって誰だか聞いてもいい?」

「む……そうじゃな、何か参考になるやもしれぬし、良かろ」

 初春が名前を挙げたのは私以外に四人、叢雲、漣、五月雨、そして電教官であった。

「わらわには共通点がわからぬ、そもそもその日の前後で何が変わったわけでもない。おぬしも特に問題は無さそうじゃったしのう」

 初春は自分の勘違いか、霊能力がさらに劣化しただけかもしれないとも思っていたらしい。ただ、私だけはずっとオリジナル吹雪さんの存在が感じ取れず。気にはなっていたとの事。

「同じ艦隊になったのも何かの縁、今のわらわでどれだけ力になれるかは分からぬが、何か出来る事があればいつでも言うが良い」

 今からでも良いぞ、と言ってくれるがとりあえずは大丈夫なので、何かあったらお願いしますと保留しておく。なんだこの艦隊、いい人ばっかかよ。

 

 では明日、と言って去って行く初春を見送りながら思う。吹雪、叢雲、漣、電、五月雨……って、そりゃ初春には分からんだろう、私的には物凄ーく憶えのある組み合わせなんですけどね。これやっぱり例の幼女関連だよなぁ。大丈夫かな吹雪さん、なんかめんどくさい事に巻き込まれてない? 単に私が嫌になっただけの方がマシだった気がしてならない。

 

 

 

 部屋の和室に布団を敷き、眠ってしまった初雪を投げ込むと、衝撃で目を覚ましたのかおやすみぃと寝ぼけた声を上げた。その声にお休みなさいと返して明かりを消して退室する。

 リビングに戻ると島風が物の少なくなった部屋で転がっていた。連装砲ちゃんと妖精さんも一緒にころころしている。何やってんのお前ら、と声をかけると島風は正座の態勢になり、手前の床を叩いて座りなさいと私にジェスチャーした。対面に胡坐で座り込み、それで何さと聞いてみれば、島風はそこで初めて何を話そうか考え始めたようだった。お前ノリと勢いだけで座らせたんだなそうなんだな。

「明日から戦いに行くけど、鎮守府って走れるところだと思う?」

「知らんがな……いや、でも普通に考えたら走れないほど狭いって事ないんじゃない?」

 庭くらいあるでしょと言うと、そっかーと返ってきた。

「じゃあちゃんと走ってね、鈍っちゃうから」

「え、私の話?」

 お前の着任先の話じゃないんかい、いや私のはチート能力だから鈍るとかないし、そもそもここ一か月まともに走ってないから手遅れでは……っていうか。

「島風は大丈夫なの? 最近あんまり本格的に走ってないような」

「どうかなー、あんまり変わった気はしないけど。あ、走る場所は大丈夫だよ、ちゃんと走れるところって希望出したから!」

 何書いてんだこの子。希望用紙にそんな事書いたのたぶんお前が最初で最後だろ。

「変わってないってのは伊良湖さんの栄養食のおかげかなぁ」

「おうっ? そんな効果もあるの? じゃあ練習もすれば今よりももっと速くなれる?」

「いやわからんけどね、初雪は筋肉付いてきてたよ」

 そっかーと島風は嬉しそうにうんうん頷いた。連装砲ちゃん達も真似して頷いた。可愛い。

「初雪っていえば、提督の所に行かされるよね、初雪。提督で大丈夫かな?」

 分かり辛いがクラスメートの提提督の事だろう、あだ名が提督だったから仕方ないんだが。

「まぁ、大丈夫じゃない? 気遣い出来る方だし、なんかあれば力になってくれるでしょあいつは。女性関係は整理しろよって思うけど」

「そう? 頼りなくない?」

「剛田先輩の話とか聞いてるとやる時はやるって感じかな、見てても困ってる人を見捨てるタイプじゃないしね」

 へー、と島風は感心したように声を上げた。同じクラスに居ると先輩達ハーレムメンバーに囲まれ巻き起こるToLoveるの対処に奔走している所しか見えないからだろう。私は最終的に先輩に連れられて家まで遊びに行った程度には仲良くなったから知ってるが、そうでなければなんでモテてるのかも分からないだろう。

「吹雪って提督の事好きなの?」

「友達としてはね」

 恋愛対象にはなりませんなぁ。

 

 そんな感じのどうでもいいような話を時計が頂点を過ぎるくらいまで延々続け、普通に眠くなってきた島風は普通に部屋へと帰って行った。

 なんだかんだ島風……島さんと駄弁ったのは久しぶりだった気がする。なんとなく満足感を得ながらベッドへ潜り込み、そのまま朝までぐっすりと眠った。

 

 

 




話を進めようと思ったら変わった口調の娘喋らせたい病が発病しました。楽しい。


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鎮守府へ行ったら

 出発の朝、移動は制服でなくてもいいらしいので普通の私服で朝食を頂き、荷物を持って訓練所へ向かう。校庭には九台のマイクロバス、道路の方には既に艤装を積み終わったトラックが待機していた。どちらも普通に走ってそうな奴なのはやっぱり目立たないようにするための工夫だろうか。

 荷物を載せ、同行する二人の自衛官に挨拶しようとそちらを見れば、片方はここに来るときにもお世話になった古橋さんだった。お久しぶりですと声をかけるとまさか覚えられているとは思わなかったらしく、光栄ですと言われてしまった。絶対動画見ただろこの人……

 

 駆逐艦の皆は最後の別れと言わんばかりに号泣する娘や、爽やかにまたねーと別れて行く娘など様々な反応をしていたが、私の知り合いは割とドライ寄りだった。初雪はちょっと嫌そうだったしさんざん嘆いていたが、それでもバスの前まで行くと観念して、またねと言って乗り込んで行った。たぶん一番いい席を確保したくてさっさと乗ったんだと思う。漣は友達になった娘が多く、私もその一人として挨拶代わりにピシガシグッグッさせられた。島風は知らん、いちばーんと言って寮から最初に飛び出してったのを見たのが最後だったし。

 まぁ、私の場合は友人と呼べるくらいの仲の娘がほとんど強者だったから仕方ないのだ。たぶんみんな大作戦があれば招集されるだろうからその時会える。死ななけりゃ。そもそも話したかったら電話でもメールでもなんでもすればいいんだ、現代っ子なんだし。鎮守府で通じるかは分からんけど。

 バスに乗り込み、特に席順は決まっていなかったので先に乗っていた深雪と叢雲に挨拶して適当に座る。そのうち他の面々も乗車し、最後に秋雲先生と夕雲さんが入ってきて8人全員が揃う。窓から外を覗いてみるともう殆ど誰も残っていなかった。夕雲型仲良いなぁ。

 

 大人しく出発を待っていると、最後に暁教官長がやって来た。人数を数えて全員揃ってるわね、と確認すると自分も前の方に着席する。あれ、と思った私は教官長に声をかけた。

「教官長も一緒に行くんですか?」

「ええ、私も宮里艦隊に所属になるのよ」

 えっ、と誰かから声が漏れる。戦えないのに大丈夫なのか、というか。

「教官長、やっぱり左遷……」

「違うわよ!」

 例の件で罰則を受けたのかと思ったのだが違うらしい。左遷? と事情を知らない皆から疑問の声が上がり、暁教官長は説明する事になった。

「次の適性検査が行われるまで訓練所自体の仕事ってほとんど無いのよ。でも艤装を扱える人間を遊ばせてはいられないから、私たちも通常の遠征任務に戻るの。それで何故か、何故か私も宮里艦隊へ一時異動になったの」

 鎮守府には戦闘部隊だけでなく、哨戒や収集その他色々をこなす戦えない艦娘達も一緒に仲良く所属する。海岸近くの霊地での収集任務だとは思うけど、場合によってはあなた達の世話になるからその時はよろしく、と笑う教官長に、私たちもよろしくお願いしますと声を揃えた。

 説明を終えて前を向こうとした教官長は、ふと思い出したかのようにちょっと来てと私を手招きした。近寄ると、他に聞こえないように小さな声で耳打ちされた。

「飛鷹と霰も宮里艦隊へ異動らしいわよ」

「……例の動画の関係者が一か所にまとめられたと」

「そういう事みたいね……」

 二人でため息をつく。監視か対処かなんだかは分からないけれど、なんやかんやでその方が上はやり易いんだろう。というかそれ、本当に左遷じゃないんですよね?

 

 運転手をしてくれる自衛隊のお二方によると、今日私たちは第二訓練所で戦艦と巡洋艦の艦娘達と合流して、そこからそれぞれの鎮守府へ向かうらしかった。第二訓練所までは三時間ほどで着くらしいので、そこで一旦休憩になる。

 マイクロバスが順々に出発し、同じ道を行く。流石に海岸線からは離れて行くようで、しばらくすると時折通行人が見えるようになった。まだ結構海岸線に近いと思うのだが、一応危険域からは出ているらしい。バスの中ではそれほど浮かれた娘もおらず、補助席を引き出して皆で静かにカードに興じた。初春が透視してないかってくらい強いんだけどなんなの霊能力なの。

 

 

 

 そろそろ日も高くなって来るかという頃、バスは第二訓練所に到着した。バスが停車すると私達もお手洗いに行ったりしても良いとの事で降車が許可される。一応行っておこうかと思いバスステップを踏んだその瞬間、目の前を夕立が駆けて行き、合流する艦娘の一人目掛けて猛突進した。

 何やってんだあのぽいぬ、と思い突撃された娘さんを見てみると、それは某ハーレムの一員である三山さん――榛名さんであった。夕立にお久しぶりっぽいぽいぽーいと滅茶苦茶懐かれている。夕立は訓練所まで私と同じ車で行ったのでそれなりにご近所さんだろうとは思っていたが、よもや榛名さんと知り合いとは。中学は違うので小学校が同じだったとかかもしれない。

 第二訓練所はどうやら市営の体育館とプール、それに併設されているやはり市営の建物を使っているようで、私達の第三訓練所とは少し趣が違う。トイレを済ませ、ちょっと挨拶しておきたい人が五人――さっきの榛名さん除けば四人――ほど居るはずなので探してみると、Hey! と向こうから声をかけてきた。行けば探していた五人全員が固まっていて、三山さんは解放され代わりに霧島さん――艦名でも霧島さん――が夕立に纏わりつかれていた。

 お久しぶりです、と呼びかけてくれた剛田先輩――金剛さんに挨拶すると、お久しぶりネー! と滅茶苦茶ハグされた。何故か既に暗い雰囲気を纏っている桑谷先輩――扶桑さんに挨拶して、何かあったのか尋ねてみると、どうやら金剛さんが提艦隊に配属され自分は違う鎮守府へ、訓練所で仲良くなった娘とも別々になってしまったんだとか。また五人全員に聞いてみたが、私と同じ宮里艦隊になった人は居なかった。ただ同学年の方の剛田さん――比叡さんと島風は同じ艦隊だった。

 

 金剛さんに初雪を、比叡さんに島風をそれぞれよろしくと――私が言うのはおかしい気もしたが――お願いし、みんなでまた集まってpartyしましょうネーと約束してバスの方へ戻ると、宮里艦隊行のバスの中は個性的な面々で溢れかえっていた。

 まず私が乗車した瞬間カメラを構えた娘、その奥に片目に眼帯をつけた娘、座席に座り昏いオーラを放ちながら姉さま姉さまと呟く娘、その隣に暗いオーラを放ちながら北上さん北上さんと呟く娘、最後に私を見て目を見開いた健康的な筋肉の付いた肉体に短めのサイドテールをした娘。

 サイドテールの娘はちょっとごめんとカメラの娘の横を通りこちらへ歩み寄ると、私の顔をまじまじと見て緊張した面持ちで口を開いた。

「あの、伊吹……雪さん……ですか?」

「あ、はい、そうです」

 肯定の返事に彼女は嬉しそうな声を上げた。どうやら私の事を知っているらしい、嫌な予感がする。金剛さんや扶桑さんは知っている様子ではなかったのだが、彼女は例の動画を見たんだろうか。第二訓練所もネットには通じないものだと思っていたんだけれど。

 暫くまごついていたサイドテールさんは、思い切ったように両手を差し出すと顔を紅潮させて大声で言った。

「あなたのファンです、握手してください!」

 後部座席の方から駆逐艦達の視線が突き刺さる。カメラの娘はその様子を激写し、眼帯の娘は興味深げにこちらを片目で見つめ、何事か呟いている二人は特に反応せずにそのままだった。私は内心困り果てながら、とりあえず愛想笑いを浮かべ、握手を交わしておいた。

 

「へぇ、長良が言ってたスゲー奴ってそいつなのか?」

 凄い偶然だな、と眼帯の娘――天龍さんが言う。それに反応したサイドテールの娘――長良さんが、止める間もなく語る語る。

 どうもこの長良さんは例のオールマイトな動画を見たのではなく、私がやらかした陸上の記録会に参加していたらしかった。生で私の走りを見て感動してファンになって誰かが撮影してネット上に流した動画も視聴していたんだそうな。ついでにスマホに動画保存してあるらしい。おい馬鹿止めろ見せようとするな。私が死ぬ方へ向かって全力疾走するんじゃあない。というかみんなでカードしてて忘れてたけどよく考えたら訓練所出たらスマホでニュース見れるから私の奇行もバレるじゃねーか。いやもうそれ以前に現在進行形で駆逐艦達の視線が痛い。悪い意味の視線じゃないんだろうけどチート能力でやらかしただけだから恥ずかしさマシマシで胸焼けしそう。つーかマジでいたのか短距離走者雪ちゃん12才のファン、掲示板でネタにされてるだけであって欲しかったわ。

 恥ずかしいから止めてくださいとお願いして鑑賞会は止めてもらったが、深雪とか明らかに興味あり気だったし絶対後で見るんだろうなぁ……

 

 第二訓練場の教官達に挨拶へ行っていた暁教官長が戻ってくると、全員揃っているわねと確認を取る。どうやら合流するのは戦艦1、重巡1、軽巡3で全員であるらしい。少なくね? と思って聞いてみたのだが、第二訓練場に艦娘は37人しか居なかったらしい。なのでこれでも平均以上の人数なのだとか。戦艦の艦娘などは9人を下回っていて、場所によっては一隻も配備されないという。そんなレアだったのか戦艦娘、うちの中学出身が半分以上じゃん、なに、あそこ秘密の艦娘養殖場か何かだったの?

 私はてっきり今回実戦投入される艦娘は200人くらい居るだろうと思ってたんだけど、もしかして駆逐艦が異様に多い艦これ仕様で第三訓練所が膨れてただけだったんだろうか。

 

 

 

 バスが出発し、一部の車はすぐに別の道へと分かれて行った。私達の目的地までは五時間ほどらしいので、夕方になる前には着けるだろう。そこで宮里提督の指揮の下戦う事になる……んだよな? いや艦これの感覚だとそうなるんだけど、この世界の場合、通常の鎮守府では自衛隊の艦娘の中でも作戦立案に優れた人らの指揮になるらしいんだ基本的には。提督は妖精さんとのコミュニケーションや艦娘への力の供給などでそれをサポートするのが主な役目で、本当に提督とは名ばかりなのである。書類仕事はさせられるようだが。

 ただ宮里提督だけは自衛隊の出身であるため本人がちゃんと提督(艦これ的な意味で)するらしいのだ。私も最近知ったが提督は自分の指揮下にある艦娘の状況をだいぶ大雑把にだが把握できるようなので、提督が指揮できるのなら効率面でも優れるだろう。

 では何が疑問なのかと言えばこの宮里提督、今までも――それこそ艤装や艦娘が公になった時点から存在は示唆されていたのだが、名前は元よりどこで何をやっているかなどの情報は全く発表されていなかった事である。精鋭部隊の指揮は楠木提督が執っていたらしいがその補助でもしていたんだろうか。妖精さんを上層部へ届けるファインプレーをしたとは習ったけど、普通に考えてそれは狂人一歩手前の行いではないだろうか。

「宮里提督ってどんな人なんですか?」

 通路を挟んで隣に座る暁教官長に話しかける。長良さんの視線とみんなの追及とあとなんか暗いオーラから逃れるために前の方へ座っていたのだ。私に問われた教官長は、ちょっと困った様子で答えを返した。

「私もよくは知らないのよね。話した事もないし……聞いたところによると貴女とはある意味近くてすごく遠いらしいけど」

「ある意味?」

 私に近いってなんだ、オールマイトか何かなのかその提督。すげぇ頼りになりそうだなオールマイト提督。絶対艦娘要らないわ。

 どういう意味なのか問おうとした時、後ろの方からどよめく声が上がった。ついそちらを見てみれば、そこにはスマホを持つ秋雲先生とそれを覗き込む天龍さんと駆逐艦達の姿。あっ、と思いながら聞き耳を立てれば、流れている音声は聞き覚えのあるモノだった。

 どう聞いても聞き覚えしかない私の叫び声とともに動画が終了し、ゆっくりと顔を上げこちらを向いた秋雲先生と目が合う。しばらくの沈黙の後、先生は口を開いた。

「Plus Ultra」

 やけに良い発音に、天龍さんが噴き出した。

 

 

 

 私が羞恥心で顔を覆っている間に、暁教官長は顛末の説明を終えた。駆逐の皆は何時の事だったかまで見当がついたらしく、驚き半分納得半分といった感じで、敵艦粉々に吹き飛ばした件に関しては吹雪だしで終わっていた。あなた方の中で私の評価はどうなっておいでで?

 一方第二訓練所からの面々はというと多種多様な反応だった。カメラの娘――青葉さんは恥ずかしがる私をカメラに収めようとしていたし、長良さんは艦娘としても凄いんですねと感心しきりだった。天龍さんはやるじゃねえかと笑い、姉さまオーラを放っていた娘――山城さんは私の様子を見て不幸なのねと同情的で、北上さんオーラを放っていた娘――大井さんは北上さんも強いと主張し出した。誰も引いたりはしてないのは良かったと思うんだけど、大井さんは大丈夫なんだろうか。逆に心配になった。

 

 恥ずかしさから復帰した私は深雪に呼ばれて後ろの席へと戻る。別に隠す事なかったぞと言ってくれるが、そもそも口止めされてたからね仕方ないね。空いてる所へ座ると天龍さんが肩を叩き、向こうじゃオレの実力も見せてやると宣言してきた。大井さんにあなたそんなに強かったかしらと言われていたが、天龍さんは自信ありげに世界水準越えの胸部を張っていた。

 私はもう同じ事だろうと思い、見せてもいいですよと言ったら、長良さんは嬉々として10秒フラットの動画を再生した。これに一番反応したのは山城さんで、やっぱり不幸なのねと激しく憐れまれた。他の皆もそれなりに思う所があったらしく、世が世ならトップアスリートの卵として君臨していたかもしれない私に同情的で、一部深海棲艦への怒りを激しく燃やしていた。私にそのつもりが無いと言えない雰囲気になってしまったので見せたのは失敗だった気がするが、知らないところで見られる方が恥ずかしかったからしょうがない。秋雲先生はめっちゃメモとってた。

 

 その後の数時間、最新の自衛隊の発表を調べて適性値一万越えがバレたりはしたが概ね平和にバスは運行した。途中で昼食を食べるためにバスから降りた時には同じ方向へ向かっているのは二台のみになっていて、そのうちの一台から飛び出した島風に比叡さんがひえーと手を焼いているのが、もう一台から初雪が笑顔の金剛さんに引っぱり出されているのが見えたりした。本当に世話してくれてるらしい。島風と比叡さんは同学年だし、初雪は年上のはずなんですけどねぇ。

 結局みんな同じ所で食事になったため、島風にやるねーと言われたり一部の人達から滅茶苦茶見られたりした。みんな動画見てやがるぜ、情報化社会ヤベェな!! 初雪に金剛さんに手加減するように言ってくれと頼まれたりもしたが、普通に断った。

 昼食を終えるとバスは散り散りに出発した。私たちはまたカードしたり、各々気になってた事をスマホで調べたりして時間を潰していたが、ふと外を見ると辺りからは人の気配が消えていて、海の近くの立ち入り禁止区域までやって来たのだと気が付いた。

 そろそろ鎮守府に到着か、と皆が少し緊張してきた頃にそれは見えた。

 

 赤い海。

 

 随伴員の一人が立ち上がり、海を確認すると無線で連絡を取り始める。私達も茫然と海の方を見つめた。誰ともなくマジか、と呟くと、車内は大騒ぎになった。青葉さんは海の方を撮影し、曙は怒りを滾らせた顔で海を睨み、深雪は本当にヤバい所だったと叫び、初春は厳しい顔をし、大井さんは北上さーんと助けを求め、山城さんは不幸だわと呟いた。

 混沌とする場の空気を収めたのは、天龍さんだった。手を打ち鳴らし自分に注目を集めると、オレ達ならやれる、と大きくはないが自信の籠った声で断言する。根拠も何も提示されない一言だったが、なんでかものすごい説得力を感じた。

 

 

 

 変色海域と化した海が見えてから一時間もせずにバスは港近くの建物へと到着した。なかなか立派な煉瓦風の建物で、クレーンや重機が辺りに見られる工廠と思しき場所なんかも見える。私達がバスから降りると、私たちの艤装を積んで後ろを走っていたトラックのさらに後ろからもう一台バスがやってきて、私達と同じように十人が降りて来た。

 空母や潜水艦であろうその娘達にこんにちはと挨拶していると、自衛隊の人達は私達に少し待つように言い建物へと走って行った。暁教官長の一声でとりあえず艦種別に整列して待っていると、さほど経たないうちに三人の女性が入り口の門から姿を現した。全員変わった服装をしており、艦娘だと分かる。そしてその中の一人は顔にも見覚えがあった。あり過ぎた。

 一人は特徴的なサンバイザーのようなものを被ったミニスカート姿の女性。恰好からしておそらくは龍驤さん……だと思われるのだが、なんだろう、身長はそこそこあるし立派な双丘がそびえている。自信が持てない。

 一人は肩や腰の一部分が露出したセーラー服のようなものに身を包み、頭にレーダーのような形の髪飾りを付け、長い髪をポニーテールにした女性。大和さんだろう。楠木提督の言っていた精鋭部隊の中には名前が無かったと思うので、戦闘部隊以外の所属だろうか。

 そして最後の一人はへそ出し脇出しルックに短いスカート、頭に触覚のような角のような不思議なデザインのものを付けたやはり髪の長い女性。それほど筋肉質ではないのだが、全体的に力強い印象を受ける。この人だけは間違いない、ネット上で幾度となく拝見したご尊顔。長門さんだ。

「雑コラの人だ……」

 秋雲先生が呟いた。流石にそれは失礼だと思うんですよ先生。私も思ったけど。

 

 赤い海を背景にした三人が私たちの前に辿り着くと、緊張感で一気に空気が硬くなる。やはり有名な長門さんに視線が集まる中、一歩前に出たのは推定大和さんだった。

「こんにちは皆さん、私は宮里 幸。この鎮守府では皆さんの司令官、提督を務めさせていただきます」

 何人かから驚いたような声が漏れる。私も驚いたし、なんなら訓練所から来た人たちは暁教官長以外みんな驚いていたように思う。前に立つこの女性、明らかに艦娘用の衣装を着ているが、提督であるらしい。おそらくは提督と艦娘の両適性持ち。私とある意味似てるってそういう事か、というかまず女提督だったのか宮里提督。あと名前も被ってるわ、ユキさんっておっしゃるのね。

「本来なら、これから寮へ荷物を置いて、鎮守府内を案内する予定だったのですが……」

 宮里提督が海に目線をやる。赤く変色した海面には何の生き物の気配も感じない。晴れているのだが、どこか空も暗く感じ、太陽の光は掠れて見えた。

「このような状況ですので、案内は後日、本日はこれより任務となります」

 山城さんが口の中で不幸だわと呟いたのを私のチート感覚が捉える。急に出撃になるのは他の娘達も不安そうで、明らかにやる気になっているのは天龍さんや曙、それに私くらいのものだった。

「宮里艦隊はこれより本日中に、担当海域内に発生した変色海域の攻略と、核の破壊を目指します。本来なら何日かに分けて行われる場合もある作戦なのですが、今回は拙速が求められると判断されました」

 説明によると、今目の前に広がっている赤い海はたった一時間前に発生したばかりで、さらに出現の瞬間を見張りに出ていた艦娘が観測、核の位置の特定まで成功しているのだという。

「過去の観測から変色海域の出現から敵艦の数が最大になるまで数日はかかる事が分かっています。ですから敵の数が少ない今のうちに核を破壊するのが、今回の目的です」

 そこまで言うと提督は一歩下がり、アイコンタクトの後に長門さんが前へと歩み出てた。

「本日よりお前たちと艦隊を組むことになる長門だ。今回の作戦では私が旗艦を務める。提督と明石二名、間宮……それと暁以外のここに居る艦娘全員が出撃になる、今すぐに覚悟を済ませてくれ」

 長門さんも宮里提督も、言葉の端々から済まなそうな気配を漂わせている。たぶん作戦を決めたのは彼女らじゃないんだろう。初日にいきなり敵拠点に突っ込めとか言ってるようなもんだしやらせたいとは思わないわな。

「作戦目標は本日中の対象の破壊だが、これは人命より優先されない。航行不能などの危険な状態になった者は随時護衛を付け撤退、場合によっては鎮守府の放棄も視野に入る。勿論それを前提とはしないがな」

「現在時刻1520、ですので1600までに制服と艤装を装着し、正門前に集合してください」

「トイレも済ませておくように」

 重要なんだろうが、突然トイレとか言われるとちょっと気が抜ける。しかしこの人数で全員が駆け込んだら時間までに支度は間に合うんだろうか。複数あるとは思うけれど。

「それと、吹雪は別の指令があるので残ってください」

 なんでか名指しで呼ばれた私に視線が突き刺さる。今日はこんなのばっかりで、ちょっと慣れてきたかもしれない。

 

 

 

 他の娘達がバス内に荷物を出して着替えに向かっている間に、私は宮里提督から戦闘部隊以外の自衛隊の艦娘達を紹介されていた。何故一人だけ呼び出してそんな事をと思ったら、彼女達にも貫通能力を使えるようにしておきたいからだという。宮里提督はそれほど最大供給数が多くないらしく、一人で全員に行きわたらせられなかったらしい。それでも私よりは多いみたいなのだけども。

 戦闘の出来ない自衛隊の人達はかなり数が居て、偵察機を飛ばしての哨戒や夜の見張り、工廠での作業や近場での資源収集などを行っている。ぱっと見た感じでは駆逐や軽巡、軽空母が多く、その中に飛鷹さんや霰さんも居た。暁教官長もそちらに合流し、私も自分の準備があるので余っている人達に集まってもらうようお願いすると、何故かその中に宮里提督も混ざっていた。曰く、宮里提督も艦娘だが戦闘部隊に入れる適性値は持ってないからであるらしい。私から遠いってのはそこの事だろうか。

 私の艤装は宮里提督が、宮里提督の艤装は私が無効貫通能力を付加する事になっているらしいのだが、これは私に何かあった時に提督がすぐに把握できるようにするためなんだそうな。羅針盤を使っての位置特定にも関わるらしいので、基本は私も提督から供給を受けなければならないらしい。

 そんな説明を受けながら、急いで集まった人たちの艤装へ提督の力の供給を開始する。私の脳内艦これ編成画面に暁、飛鷹、霰、川内、多摩、鳳翔などが配置され、そのうち一人だけ大和が混ざる。やっぱり提督は大和だった。他が小型ばかりなのもあり、大和の艤装が一際大きく見える。中には妖精さんが駆逐艦よりも大量に詰まっていて、それでいて居心地は良さそうだった。居住性がいいんだろうか。

 

 

 

 艤装を背負って正門へ向かうと、当然私が最後だった。別の事してたから仕方ないんだけど時間ギリギリで、提督がかなり申し訳なさそうにしていた。

 周りを見ればみんな艤装を背負ったからか先ほどまでより気合の入った表情をしている。それを頼もし気に見つめていた長門さんが時間だと告げ、点呼を取る。最初に呼ばれたのは山城さんだった。

 

 戦艦    長門 山城

 正規空母  加賀 瑞鶴

 軽空母   龍驤 隼鷹

 重巡洋艦  青葉

 軽巡洋艦  天龍 大井 長良

 駆逐艦   吹雪 深雪 叢雲 曙 初春 山雲 秋雲 夕雲

 潜水艦   伊168 伊19

 水上機母艦 秋津洲

 補給艦   速吸

 

 以上が宮里艦隊の戦闘部隊である。明石二名も前線に出れなくもないらしいが、今回はお留守番だそうな。

 名前を列挙すると駆逐艦がやっぱり多い。空母が結構居るのは安心できるのだが、秋津洲。え、大丈夫なの秋津洲。艦これの印象だとほんと秋津洲なんだけど。

 しかし、これでも宮里艦隊は人数が多い方だというのだから全体で戦えるのは150前後くらいしか居ないのではないだろうか。他の鎮守府って何人くらいいるんだろう。

 

「よし、それでは今回の作戦を説明する……と言っても、今回する事は単純極まりない」

 鎮守府の中から持ち出したのであろうホワイトボードに張りつけられた地図の一点、孤島になっているそこを指して長門さんは言う。

「この島へ最短ルートで進撃、存在する変色海域の核を破壊する。それだけだ」

 マジでこの作戦、それだけらしい。兵は神速を貴ぶって言うし、私的には敵をぶっ倒せばいいという分かりやすいのは大歓迎なのだけども。

 私と同じ脳筋思考の連中がいいねと笑う。慎重派な人たちは心配そうだが、難しい事を考えながら戦うよりはいいんじゃないだろうか、最初だし。初任務としてはだいぶハードだと思うが。

 

 提督が戦闘部隊全てを指揮下に入れる。これで全員深海棲艦に攻撃できるようになったわけだ。宮里提督からの供給でも自分でやる時と同じ感覚で扱えそうなので安心した。

 では行くぞと長門さんが音頭を取り、私たちはすぐ傍の港へと移動する。変色した海を初めて間近で見る事になったが、やはりすごく違和感がある。深雪のこんなの海じゃないという呟きが耳に残った。

 変色海域では艤装は少しずつ破損し、最終的には完全に機能を停止するためギリギリまで海には入らない。壊れる速度はそれほどでもなく、無傷なら24時間は持つらしいが、そもそもあまり長居したくないし。

 長門さんと宮里提督が頷き合い、提督が宣言する。

「それでは宮里艦隊、全艦出撃! 健闘を祈る!」

 往くぞと長門さんが力強く海へと踏み出し、よっしゃあと天龍さんが後に続いた。私は深雪、曙らと共にそのすぐ後に海へと飛び込んだ。

 海の水は冷たく、飛沫を浴びるだけでまるで体の芯まで底冷えしそうに感じる。訓練場ではそんな事はなかったし、変色海域だからなんだろうか。艤装からは小さく悲鳴を上げるような音が聞こえ、ほんの少しずつではあるが壊れて行っている事が分かった。期待はしていなかったけど、劇場版の吹雪さん仕様ではないらしい。

 妖精さん達はやる気十分といった様子で、がんばるぞーおーと気勢を上げていた。でも高速移動は勘弁して欲しいと漏らしている娘も居たが済まない、必要があったら使っていくつもりなんだ。本当に申し訳ない。

 

 

 




秋雲起用の理由の五割が今回の台詞一行です。
どこにも深い理由が存在しない。そんなライトなお話でした。


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『駆逐艦』

 陣形を崩さずに航海するの辛い。

 いや、気合入れて飛び出したのはいいんだけど、出発して一時間、私は交戦とかしていなかった。正確に言えば敵は来てたんだけど私たちの方までは来れなかった。なんでかって言えば、一度に現れる敵の数がごく少数だったのと、空母の皆さんが強かったからである。見敵必殺じゃないが敵の砲戦距離に入る……どころかこちらの位置を察知する前に殲滅してしまったらしい。敵に空母が居たらまた違ったのだろうが、駆逐艦と軽巡くらいしか居なかったから仕方ないね。

 今も警戒は皆で続けているし、私だってチート感覚さん総動員で対潜警戒している。だけど私以外の一部の艦娘も拍子抜けしてしまったようで、ちゃんとやってはいるが集中し切れていない感じがする。もちろん夕雲さんとかは真剣そのものなので、本当に頭が下がる。

 そんな中、私は低速艦に合わせて航行する歯がゆさを味わっていた。訓練所では一人で飛び回ってる事が多かったからあんまり気にしてなかったし、組むとしても皆駆逐艦だったから問題にならなかったんだが、私の最大航行速度より遥かに前進速度が遅いから気を抜くと前に出てしまいそうになるのだ。島風もこんな感覚を味わってたんだろうか。真面目にやってたんだなぁあの娘。

 そんな事を考えていると、私のソナーに敵潜水艦らしき反応があった。おそらくこちらには気づいておらず、離れていくような動きをしている。長門さんへ報告すると、距離と数を求められた。

「数は2、距離は南東約50kmです」

 今の海って生き物がまったく居ないから、障害物がない地形ならけっこう遠くまで聞こえる。なので50キロなら私の聴音機の索敵範囲内なのである。チート能力込みで。長門さんには微妙な顔で近づいて来なければ無視でいいと言われた。まぁそうなるな。私達がここまで移動してきた距離より遠いし。報告を疑うような事は言わない辺りいい人だと思う。

 ちなみに私はレーダーよりもソナーの方が遥かに得意である。潜望鏡とかも見逃さないくらい視力もいいと思うので潜水艦は任せろー。

 

 

 

 偵察に出ていた二式大艇ちゃんと接続した秋津洲さんから報告が入る。現在、目標の島では敵基地と思われる何かの建設が始まっており、陸上には複数の人型が見え、周辺にも複数の深海棲艦が見受けられるとの事だった。二式大艇ちゃんは当然のように発見されて追われたらしいが、飛行速度で並大抵の航空機に後れを取る訳もなく無事に離脱。こちらへ帰投中だ。

「基地か、そうなると恐らく姫級……もしくは鬼級が居るな」

 長門さん曰く、深海棲艦が基地を作る場合大抵そこにリーダー格が陣取っており、個体によってはその基地と同期するような動きでこちらに対応してくると言う。たぶん艦これで基地型とか陸上型とか言われる連中だろう。ちなみに基地無しで動き回る場合もあるらしい……というか、この日本で最初に確認された陸上型って本州まで乗り込んできて艦載機投げまくってた北方棲姫と北方棲妹だったなそういえば。

 さて、我々の取る作戦は単純明快。空母と補給艦と秋津洲さんとその護衛だけ残して他全員で突撃。以上である。作戦って言わねぇなこれ! というのも変色海域の性質上、囮だなんだとかやればやるほど不利になって行くからである。練度が高く完璧な連携をすぐに行える部隊ならいいのだろうが、即席チームの我々が何か難しい事をしようとすると時間のロスで艤装がどんどん傷ついてしまう。しかも通信が物凄い不安定で、妖精さん特製の通信機を使っても安定して話せず、離れれば離れるほど繋がり辛くなるという。この赤い海は性質が悪いったらないのだ。

 突撃するのは長門さんに山城さん、青葉さん、天龍さん、長良さん、深雪、叢雲、曙、秋雲先生、それに私の十名。勿論空母の援護はあるので制空権どうのはお任せである。龍驤さん居て良かった。

 突撃メンバーに選ばれた深雪は緊張した様子でぐっと目を瞑り、何度か唾液を嚥下していたが、見かねた叢雲に頭をはたかれてなんとか平常運転へ戻っていた。緊張してなさそうなのは天龍さんくらいで、私だって平常より心拍数が高い気がする。山城さんに至っては姉さまオーラが砲塔にまで及んでいた。なんらかの強化でもされるんだろうか。

 羅針盤の妖精さんに方向を確認した長門さんの号令で加賀さんと瑞鶴さんが競い合うように矢を撃ち出し、龍驤さんと隼鷹さんが紙人形を発艦させる。それらは空中で、あるいは甲板上で姿を変えると水平線に向かって飛び去った。速吸さんも少数ではあるが水上機を発進させ、私達もその後を追うように未だ視えぬ島へと走り出す。ちなみに秋津洲さんは二式大艇ちゃんを一機しか積んでおらず、後は泊地修理用の資材と索敵用の機材しか持っていないので応援していた。

 

 

 

 出発してさほど経たずに空に航空機が躍っているのが見えた。恐らくはその直下に島があるはずで、そこへ向かって前進しつつ敵を倒せばいいわけだ。聴音機には遠くの敵と思われる駆動音がはっきりと聞こえ、近くの水面下からも僅かに気配を感じる。私は爆雷を放った。

「爆雷投射!」

 やってから気付いて周りに警告する。投射機から放たれた複数の爆雷は弧を描き2kmほど先の敵直上へと着水した。水中から爆音が響く。

「敵……か?」

 天龍さんが爆雷の飛んで行った方を見ながら呟いた。水中なのでよく分からなかったらしい。長門さんもよく分からなかったようで、位置の共有はしっかりやってくれと言われてしまった。

 爆発で起きた音が静まると、敵と思われる反応は消えていた。撃破できたと思う旨を報告すると、なら良しと長門さんは頷いた。

 日はだいぶ傾いてきたが未だ空は明るく、先の上空では味方と敵が入り乱れて撃ち合っている。そこへ向かって汽缶を回していると、ついに敵艦が見えてきた。島の周囲に配置されたそれらは、こちらに向かって前進しているようだった。

「よし、各自射程に捉え次第砲撃開始だ、ただし対潜警戒は怠るなよ!」

 長門さんから許可が出たので、先陣を切って突っ込んでくる水平線上のイ級に向かって私は砲弾を発射した。

 

 

 

 

 

 実際にやられると訳が分からない。長門は混乱と戦慄を同時に味わっていた。

 自身が命令を飛ばしたと同時に吹雪が二発発砲、数秒後には敵先頭二体の駆逐イ級が失速し、動きを停止する。装填を終えた吹雪からさらに発砲音が響き、続くイ級と軽巡ホ級も数秒後には海中へ沈んだ。その次にもイ級二体、その次はイ級とロ級。数秒間隔でただの連装砲から撃ち出される普通の砲弾が、一発で敵兵船を仕留めていた。

 吹雪の最大威力の砲弾は高速で直進し的を貫く、凡そ砲撃とは呼べないような代物であるとは長門も聞いていた。長門は宮里艦隊においては旗艦でありながら秘書艦のような役目も果たしており、そのため提督とは情報を共有していたし、精鋭部隊を率いていた立場上それ以上の情報も知り得ている。吹雪の情報は手に入る限りの全てを頭に叩き込んであり、当然、その書類上の優秀さも理解していた。

 的を文字通り射貫く貫通力、並みの艦娘では視認不可能な弾速、視界内の相手なら撃ち込める精度、それら全てを吹雪は持ち合わせていると長門は知っている。だが、それら全てを苦も無く同時に発揮できると長門は理解していなかった。

 視界内の相手に有効な攻撃が撃てますとされた報告書を見て、視界内の相手なら何の手間もなく撃ち殺せますという意味だとは思わないくらいには、長門は常識人だったのだ。

 そもそも艦娘の有効射程は元となった軍艦に比べると短い。これは砲弾が届くとか届かないとかではなく、純粋に的が小さい事に由来する。本来ある程度近づかなければお互い当たらないのだ。ところがこの駆逐艦ときたら、まともに狙いを付けているようにも見えないのに、完璧な精度で敵艦に致命打を与え続けている。

 当初、明らかに射程外に居る敵船に向けて発砲した吹雪を訝しむ目で見ていた青葉も、焦るなよと笑っていた天龍も、それが命中し敵を屠っているのだと気付いた時、明らかに狼狽した。吹雪の射程を知っていた長門ですら本当にこうなるとは信じていなかったのだから、知らなかった艦娘達なら事態に気づけただけでも優秀と言えるだろう。

 冷静だったのは駆逐艦達で、吹雪が砲撃に集中していると見るや四人とも対空、対潜警戒へ意識を切り替えていた。一緒に訓練に参加していた彼女達の場合、吹雪ならやりかねないと思っていたのだ。吹雪がフルスペックを活用したらどうなるのか、という訓練所で流れた与太話が、そのまま現実だったという程度の話である。

 

 艦隊が島を目指し前進する。順調に進行を続ける十人だったが、その道程は異様と言えた。

 先頭を行く駆逐艦が敵を視界にとらえた瞬間、それは撃ち殺され物言わぬオブジェクトと化す。追いかける戦艦、巡洋艦は何もしていない――否、何もする事が無いのだ。時折こちらに向かおうとする航空機の編隊が現れるも、それすら砲弾で叩き落とされる。時たま爆雷が投擲機から放たれ海中へと沈んで行き、その下に潜む船を塵へ還していた。潜水艦の位置や数は一応報告されていたが、報告直後には存在が抹消されているために意味があるとは言い難かった。

 島が見えた頃に、最初に撃たれた深海棲艦の横を通り過ぎる事になったのだが、軽く検分すればそれらの頭蓋と思われる部分には、抵抗も受けずに何かが通り抜けたような不自然な穴が空いていた。

 ワンマンアーミー、いやネイビーかな。そんな呟きが青葉から漏れる。異常な威力と射程の連装砲、それを振るいながら潜水艦を探り出し的確に爆雷を投げ込む対潜性能、数キロ先の航空機を連装砲で撃ち抜ける対空性能。今は使っていないが、接近されても駆逐艦を拳で消し飛ばせる近接性能。周囲の駆逐艦や戦艦達も、ごく一部を除いた全員が一致した感想を持った。

 ――もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 島が見えて来たので報告すると、長門さんは再度警戒を強めるよう全員に勧告した。今のところ私の一撃で倒せているが、姫級だったらどうなるか分からないし当然か。

 近づいていくと、島の周りにはそれなりの数の深海棲艦が回遊しており、そいつらは上空の戦闘機や爆撃機をどうにか落とそうとしているようだった。どうやらこちらの優勢であるらしい、空母の人達優秀だなぁ。そう思いながら高射砲らしきものを装備している奴から順に撃っていく。この世界の深海棲艦はどうも武装を変える事が出来るようで、高角砲だったり連装砲だったり単装砲だったりするので識別がちょっとややこしい。敵空母は見当たらないので島の中かこちらから見えない側なのか、ともかく離れているようだった。

 前から迫るイ級を撃って、高射砲を撃とうとしているホ級を撃って、岩陰から出ようとしていたリ級を撃って、その奥の岩場から覗いていた北方棲姫みたいなのも撃って、たまに爆雷。魚雷さんの出番が行方不明なのはどうしたものか。それにしても一人で殲滅しちゃってるけど私の行動は正しいのだろうか。いや味方が傷ついてないから悪い事無いと思うけど、まぁ駄目だったら長門さんが止めてくれるだろう。っていうか、今さらっと姫級居たぞ、位置が悪くてちゃんと倒せたのか確認できなかったんだけど。周りに大したのが居ないと思ったら中は結構危ないのかなこの島。

 

 少し進むと島の全形が見えた。視界に入る砂浜の少し奥、木々の茂る緑の手前に何か黒い、壁のようなものが一部だけ建設されている。どういう手順で建てているのかは分からないが、その手前からは海岸に向かって黒い滑走路のようなものが伸び、暗くなり始めた周囲を照らすように明かりが灯っていた。

 飛行場っぽく見えるそれらを庇うかのように島の中から、滑走路のような手すりの付いた浮遊する椅子、という感じの艤装を身に着けた白い長髪の女性が姿を現した。右手側には口内に大口径の砲を覗かせた口部を模した生体パーツも繋がっている。頭部には二本の鈍角な角を生やし、紅い目で機嫌悪そうにこちらを睨んでいた。そいつは私の知識と照らし合わせるなら、飛行場姫と呼ばれる深海棲艦の姫だった。

 なので、頭と左胸に一発ずつ撃ち込んだら、何故か当たってない艤装が粉々に吹き飛んで女性体も動かなくなった。人間型の深海棲艦は艦娘と同じように艤装にダメージを肩代わりさせる能力を持っていると習った気がするのでそれだろうか。

 長門さんに報告すると、そうかと短く呟いてからもう一度そうかと呟いた。

 

 

 

 出来る限り周囲の敵を排除して、私達は島へと上陸した。陸だーと喜びの声を上げる深雪と天龍さんを背に辺りを見回すと、砂浜の先にはやはり飛行場を建設しようとしていたようで、全体的に黒い金属のような質感をした物質で舗装されていた。その中に推定飛行場姫だったものが倒れている。

 警戒しながら顔面に大穴の開いた深海棲艦の死体に長門さんが近づいて行き、ちゃんと死んでいるか確認を取る。暫く検分し、確実に機能を停止していると確信してようやく長門さんは一息ついたようだった。額の汗を拭うと羅針盤を取り出し、妖精さんに変色海域の核の方向を尋ねる。羅針盤とその妖精さんはそういう物の方向がなんとなく分かるらしいのだ、精度はそれなりな上にデコイで誤魔化されたりもするそうだが。ヒヨコのようなものを頭に乗っけた妖精さんがあっち! と指さしたのは黒い壁、作りかけというか作り始めの基地の方だった。

 

 周囲を警戒しながら壁の裏に回った私達が見たものは、赤くない、むしろ青黒いと言った方が近い光を静かに放つ、それ自体には色の無い結晶体だった。直径一メートルほどに乱雑なカットをされたそれは壁の裏に設置された黒い柱のようなものに埋め込まれており、本来はそれを中心に基地が作られるはずだったのだろうと察せられる。周囲の空間は淀んでいるというか、なんとなく息苦しい。それを前にして長門さんはこちらへ振り向いた。

「吹雪、これを出来る限り損傷させずに二つに割れるか?」

「二つにですか?」

 理由はよく分からないが、言われたので検討するために前に出る。触っても大丈夫だと言うので指先で軽く突いてみると、それはなんだか生温かかった。ちょっと気味が悪いと思いつつも大丈夫そうなのでしっかりと触れてみたが、流石に強度は分からない。

「失敗しても問題はない……まぁ、出来たら少し嬉しい程度の話だ。気楽にやってくれ」

「そういう事でしたら……」

 振りかぶって、手刀を柱に叩きつける。私が垂直に腕を振りぬくと、それほど大きくない音を立てて結晶が柱ごと二つに分かれ倒れて行った。黒い光が霧散し、辺りの空気が清浄に戻る。

「出来るんですね……!?」

 後ろで見守っていた青葉さんが驚きの声を上げた。長門さんも手刀で柱ごと行ったのには少し驚いた様子だったが、両断され光を失いただの透明な結晶となったそれを見て頬を緩ませる。すっぱりと綺麗に絶たれた切断面を見て喜色を隠せないようだった。

「普通に破壊するんじゃ駄目だったんですか?」

 疑問を口にしたのは曙だった。壊すだけなら砲弾でも撃ち込めば一撃だったと思うので、私も何故こっちに振ったのかは疑問に感じる。その質問に長門さんは分かれた結晶体を柱から抜き取りながら答えた。

「この結晶核は資源に変わるんだ、この大きさなら遠征五回分は堅い。普通に壊しても問題が起きる訳じゃあないんだが」

 破片を回収し損ねると勿体ないからな、と言いつつ二つの結晶を回収した長門さんはそれらを艤装の中に仕舞い込む――艤装には見た目以上の弾薬や燃料が積み込めるが、それらと同じ扱いらしい。

「これで海も元に戻ったはずだ、龍驤達と合流しよう」

 これで一段落付いたのかと壁の横から砂浜の方を覗き見ると、夕日に照らし出され先ほどまでとは違う茜色を見せる海の姿がそこにあった。

 

 長門さんが通信機で龍驤さん達に連絡している間、私達は周囲に撃ち漏らしが居ないか確認する作業に出た。私はちょっと気になっていた岩場へ向かいその周囲を確認したが、北方棲姫と思われる死体は発見できなかった。レーダーで木々の生い茂る森の中を精査できたりはしないから、島の中に逃げ込まれてると不味いんだけど大丈夫かなぁ。

 実は本州で一度で一番多くの被害が出たのは海戦ではなく陸戦である。姫級が都市部に単騎で徒歩で来た事があり、ほとんどテロ同然に撃ちまくられたのだ。深海棲艦自体が陸地を嫌がる性質でも持っているのか発生件数は少ないが、とにかく被害が出るまで敵性体を見つけるのが難しいというのが大問題で、発生するたびに自衛隊が乗員を犠牲にして車やらなんやらで海まで追い返していた。ダメージは無くても押す事は可能だったらしい。艤装が発表されてからは聞かなくなったので、監視体制が既に確立したか該当個体が討伐されたんだと思われる。

 ちなみに映像が残っており公開もされているが、映っていたのが推定防空埋護姫だったため迷子になって町中まで来ちゃったのではないかと私は勝手に思ってるんだがどうだろう。

 閑話休題、深海棲艦に島内に逃げ込んだりされた場合確実に見つけ出す手段を私達は有していないのだ。勿論普通に目視は出来るし、激しく動いてれば音やら何やらで分かるだろうけども、伏して待たれたら超困る。島の内側を警戒しながら通信を終えた長門さんへと報告すると、艤装を外したりはせず油断もしないようにと改めて皆に通達された。

 

 龍驤さん率いる空母四人と護衛六人と補給艦一人と秋津洲さんが島までやってきた。それまでには周囲の海に敵が残っていないか確認し終わり、後は島内だが、これはもう変色海域でもなくなっているし無理をする必要は無いという判断になった。というのも日がもうほとんど沈んでいて、これから探索するなら一晩明かすか探照灯で照らしながらでもないと不可能だからである。

 一休みしたら鎮守府へ向けて帰艦と長門さんが宣言し、私達は速吸さんから補給を受ける事になった。私以外ほぼ弾薬を消費していないのを彼女はしきりに不思議がっていた。なんか悪い事した気分なのはなぜだろう。

 一番に補給を受けたため、他の艦娘達の給油が終わるまで暇になり、私は島の中の警戒をしておく事にした。作りかけの黒壁の向こう側はちょっと木が無くなっており、そちらに向けて建物を造っていくつもりだったのだろうと分かる。私が破壊した柱の他にはまだ何もなく、伐採されたであろう木々すら残っていない。どこかへ運んだのか消滅したのか、その辺りは分からないが。

 森の外と中の境辺りから中を覗き込み、敵が居たりしないかチート視力で観察していると、私の目の端に光る物が映った。何だと思いそちらを見ると、地面から何か金属質な尖った物が表出している。気になったので力任せに引きずり出してみると、思ったよりも遥かに大きく、人一人くらいは入りそうな四角いモノが地面から飛び出した。同時に被さっていた土が舞い上がり大きな音が響き渡った。

 メタリックに黒光りする四角い物体、よく見るとそれには継ぎ目のようなものがあり、もしかして箱ではないかと思われた。妖精さん達に何か分かるか聞こうと思い艤装を見ると、彼女たちはやったーと喜んでいた。説明もおくれよ。

 土煙と音に何かあったかと駆けて来た長門さんと龍驤さんにたぶん箱であろうそれを見せてみると、彼女達も喜色満面、手を取り合って大喜びした。だから何なんですかねこれ。

 疑問顔の私に気づいた長門さんは一つ咳払いすると、これは深海棲艦が資材を運搬する時に使う箱だと説明してくれた。艤装と同じで見た目より霊的資源をかなり多く積む事が可能で、基地建設中のこの島のものなら中身はかなり期待出来るらしかった。あるだろうとは思っていたけど、日が落ち命には代えられないので諦めていた所に発見され、二人して喜んでしまったらしい。

 ともかく箱自体は水に浮かばず艤装にも収納できないため、このままでは運べない。開けて中身を検める事になった。長門さんの妖精さんが箱に乗ったり叩いたり、溝を擦ったり土を払ったりしてしばらく経つと、妖精さんが私に話しかけてくる。さかさまだからひっくりかえして。中身が大丈夫か心配になった。

 逆さまの箱を直してあげると妖精さん達はまた調べ始めた。他の艦娘達も何かあったかと集まってきてしまい、色々説明していると、突然箱の上部が開き中身が見えた。そして長門さんが中身を覗き込んだ、その瞬間に島の中から小さく物音が聞こえ、はっとして発生源に振り返れば、体の各所に砲塔を備えた黒い魚のようなものがこちらに照準を合わせ、それと臀部で繋がった少女がこちらを見て嗤っていた。

 

 箱を囮にしての奇襲。蓋が開いて警戒が薄くなった一瞬、誰もそちらに気を向けていなかった。たぶん見つかる程度の場所に埋めたのもわざとで、全部計算尽くで近くに潜んでいたのだろう。動く音が聞こえないか微妙な、だが気付かれても回避は間に合わない距離。戦艦レ級、その主砲副砲の全てが間抜けな兵隊を撃ち殺さんと狙いを定めた。

 レ級にとって不幸だったのは、私の耳がとても良い事と、私の動体視力や反射神経が異常な事。それと彼女の必殺距離は、私がただの一歩で到達できる間合いだった事だ。

 右足に力を込めて空間を跳ぶ。一足で移動を終え、着地の勢いに任せて左手を振るい、異形部分を裏拳で殴りつける。砲塔や歯のようなものを持ったそれは弾け飛び、少女部分が勢いに飲まれ軽く宙へ浮き上がった。何事かとこちらを向いたレ級と目が合う。私は右腕で、目線ごとその顔面を叩き潰した。生き物味のない、まるで鉄塊でも殴りつけたような感触が全身を伝わる。首から上を失った猟奇死体が太い幹に叩きつけられ、大木はそこから軋みを上げて折れ、ゆっくりと倒れていった。

 結局近接能力に頼ってしまう私です。妖精さん、お許しください。

 

 異常に気づいた長門さん達に状況を説明すると、自衛隊の二人は厳しい顔になって周囲への警戒を強めるよう指示を出した。私の聴覚や視覚には他の深海棲艦は視えないのだが、流石に完全に動かない奴は分からないと今のでよく分かったし、油断は出来ない。今の一人だけだったらいいけど複数いたらマジでやベーイので、やっぱり結構入っていた箱の資材を速吸さんと秋津洲さんと二式大艇ちゃんに分けて積み込んでもらい、さっさと出発する事になった。

 長門さんも首のないレ級の死体を見て流石に動揺していたが、それを繁みに隠すとよくやったと私に声をかけてくれた。飛行場姫よりも酷い状態だったから周りに見えないように配慮したんだろう。

 出発直前、長門さんが砲撃で壁を、加賀さんが爆撃機で滑走路を破壊した。私達はそれに反応して敵が出てきたりしないか警戒していたが、別になんにも出てこなかった。あの一体が勝手にやっていただけだったのかもしれない。

 

 鎮守府に向けて出発し、周囲を警戒しながら思う。初めて人型を素手でやっちまった。でも想像してたよりなんて事はないな。私ってこういう所すっごいドライだったんだなぁ。こういう時代なら悪くはないけどなぁって。

 

 

 

 んなわけねーだろ糞が。これヤバいわ、何がヤバいって、人間の形したのを素手で殴り殺していささかも動揺が無いのがヤバい。前に飛鷹さん助けに出撃した時からちょっと思ってたけど、これ私精神にもなんかされてるわ。戦えるようにされてるわ。チート能力で体をなんかつよくしたついでに精神もなんかつよくされてる? いやなんかつよい結果ならいいんだけど、倫理観とか弄られてないよね? 今更ながら滅茶苦茶怖いんですけど! 本物の人間を殴って大丈夫な気はしないので、敵限定であると信じたい。いつの間にか殺戮マシーンでしたとかそういうのは勘弁してほしいわ本当に。相手から見たら今の時点でもうあんまり変わんないだろうというのは置いといて。

 ……まぁ、恐怖で戦えませんでした、とか言うよりかは全然マシなんだけどね、実際。

 

 

 

 

 

 

 

 転生者、北方棲姫は泣いていた。半年ほど前から勝手に借りた、電気設備の死んでいない安全なお家の中で泣いていた。

 吹雪の存在を知った転生北方棲姫は、絶対に転生者だと確信して、とにかく会って話をしたいと思い艦娘や深海棲艦の情報を集めに集めた。結果、訓練の終了時期は艦娘に選ばれた子供達の関係者の呟きから特定出来たが、それ以外の事は一切分からなかった。そりゃあネット上での素人の情報収集などそんなもんであるが、北方棲姫はどうしても吹雪に会いたかったので地団駄を踏んだ。

 そして訓練終了日当日……と北方棲姫が判断したその日を、何の成果もなく迎えてしまった。結局行く当てがなく、白旗でも挙げて町中に繰り出そうかとも思ったのだが、それをするにはとにかくこの世界における深海棲艦の素行が悪すぎた。

 まず日本で最初に撮られた姫級が艦載機飛ばしてる北方棲姫と北方棲妹――勿論転生者北方棲姫とは別人――であり、撮られた場所と大量に撃ち殺されーの爆破されーのした地域が驚きの一致で、彼女らがどれだけ被害を出したか結構はっきりしている。この時点でもうハードルがエベレストなのだが、さらに人の住処に一人で歩いて行って大暴れしてくれた姫級までこの世界には存在する。当然、人々からの深海棲艦に対する好感度はマイナスを突き抜けてアンダーフローを期待したくなる領域なわけで、まともな扱いを受けられる可能性を想像できないのである。つまり世間が怖くて表に出る勇気が湧いて来ない。

 もうこれ適当に近海を回ってた方が逢える可能性あるんじゃないかと思い始めた午後、北方棲姫の下に避難情報が流れてきた。それは変色海域出現の知らせで、もし万が一近隣に残っている人は直ちに避難するようにというここ一年で何度も流れ見慣れた珍しくもないものだ。だが北方棲姫はこれを見ていいアイディアが浮かんでしまった。

 ――この新しい所で待ってたら艦娘が奪い返しに来ないかな?

 避難情報を確認すると、ここに落ち着く前に通った場所であり、行こうと思えば今すぐにも行ける。艦娘が来たとして、吹雪が来る可能性はとても低いのは分かっているが、別の艦娘でもとりあえず後をつけて鎮守府の場所でも特定できれば何かしらの進展はあるかもしれない。それに何かピンチになってたら助けて恩でも売れれば儲けものだ。艦載機も弾薬も一切持っていないけど。そう思って北方棲姫は現地へ跳んだ。

 

 転生者北方棲姫の艤装は出し入れ可能である。これが転生特典的な物なのかこの世界の深海棲艦がみんなそうなのかは知らないが、これがとても便利で重量まで無くなるから人間の家でも普通に生活が出来るのだ。また、砲弾も艦載機も持っていない北方棲姫にとってはこれを高速で出し入れしながらぶん殴るのが唯一の戦闘手段である。ただ生きていくだけなら問題なかったため燃料すら最初に持っていた分の残りしか無かったが、変色海域の核まで辿り着くのには問題無かった。

 艦載機が自分の思い通り動くなら普通に戦えたんだけどなぁ、と島の岩場から飛行場姫たちが基地建設に勤しむのを見ながら一年前に想いを馳せる。

 実を言えば、最初この姿でこの世界に現れた際には、艦載機は満載の状態だったのだ。実際見るとネコヤキはかなりおどろおどろしく、怖いなーと思いながら発艦させてみると、それは目の前の海岸へ勝手に向かい既に人気のない港を勝手に攻撃し始めた。焦って止まるよう呼び掛けてみても全然止まる気配が無かったので、北方棲姫はそいつを自身の手で打ち落す羽目になった。

 その後、遠洋に出て制御できないのか試してみるも全く出来ず、飛び去ろうとするそれらを逃がす訳にも行かないので、結局全機自らの手で撃破する事になったのだった。砲弾なんかも考え無しに撃っていたらそのうち尽き、補給の当ても無かったのでそのままだ。

 暫くそんな事を思い返しながら周囲の光景を眺めていると、飛行場姫が指を差し、空で何かが追い立てられた。もしや本当に来たのか、と驚きながら暫く待つと、遠くの空から飛行機がたくさんやって来て、島は戦場へと変わった。

 慌てて岩場に身を隠し、周囲の海を見渡すが、艦娘らしき影は何も見えない。そりゃあ航空機の方が到達は早いよね、と思いながら水平線を眺めていると、音もなく、海上の艦が沈み始めた。

 何が起きてるのかよくは理解できなかったが、ともかく艦娘が来たんじゃないかと思い切って顔を出し、そして見た。まだ米粒よりも小さかったが、北方棲姫の深海棲艦アイにはよく見える。前世でよく見た制服、動画で何度も見た整った顔立ち、背負った艤装、間違いない、あれは吹雪だ!

 そう思った矢先、感動する暇も無く何かが眼前まで飛んできた。北方棲姫は動体視力も良かったので理解する。砲弾。速……避……無理!! 受け止める無事で!? 出来る!?

 否

 

 死

 

 

 

 次の瞬間、北方棲姫は今日まで過ごした家の中に居た。死の確信が全身を這い回り、床にへたり込む。指は震え、足はすくみ、目からは知らず涙が流れ出していた。

 危なかった。一瞬でも発動が遅れていたら本当に死んでいた。

 北方棲姫は転生者である。それも転生する際に自称魔法使いらしい神様っぽい何かからチート能力を貰った、チート転生者である。彼女から貰ったチート能力は『いつでも』『いける』。一度視界に入れた事のある場所にしか跳べない以外、一切の制限がない無限の瞬間移動能力。それが北方棲姫のチートだった。

 それが故に、多少危ない目に遭っても逃げ出せる自信があったし、実際逃げ果せている。だがあんなぎりぎりになるなどとは思ってもみなかった。何処から飛んで来たんだあの砲弾、と思うがそんなの吹雪が撃ったに決まっている。あの娘、先頭で連装砲構えてたんだからまず間違いない。

 イ級殴り殺せて砲撃まで強いってどんなチート持ってたらそうなるんだ。それじゃあそもそも近づけないじゃないか。床に転がりながら北方棲姫は泣いた。

 

 体が恐怖から立ち直ってからも、北方棲姫は暫くぐずっていた。転生前ならいざ知らず、今の見た目は幼女だし、そもそも誰も見ていないのだから遠慮もない。うめき声を上げ、泣き声を上げ、かかとで床を叩いて音を鳴らしてとやりたい放題する。やがて疲れて、涙も乾き、気持ち悪いので顔を洗おうと立ち上がった瞬間。

 

 ぴんぽーん。

 

 鳴るはずのないチャイムが音を立てた。

 北方棲姫は硬直する。この家はギリギリだが、避難地域に入っている。発見した時点で恐らく放棄されており、実際今まで誰も戻っては来なかった。

 

 ぴんぽんぴんぽーん。

 

 連続で二回鳴った。もしや家主が帰って来たのか、とも思ったが、それならチャイムを鳴らす必要は無いはずだ。

 がちゃがちゃとノブを回そうとする音が聞こえる。鍵に阻まれドアは開かなかったが、北方棲姫は恐怖を感じた。

 

 ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん。

 

 滅茶苦茶に連打されたチャイムがけたたましい叫びを上げる。北方棲姫はひぃっと悲鳴を上げると思わず数歩後ずさり、足をもつれさせ尻もちをついた。さっき抜けた腰がまた脱力し、立ち上がれない。

 出来るだけ物陰に寄り、玄関側から身を隠す。そうしている間に、チャイムの雨は止んでいた。

 そのまま一分ほど震えていたが、外の何かからのアクションはない。動けない北方棲姫は怯えながら時が過ぎるのを待つしかなかった。

 

 さらに数分が経ち、何も起きなかった事で、北方棲姫は少し余裕を取り戻した。もしかしたら外に居た存在はもうどこかへ行ってしまったのではないか、そんな気持ちで、だが音をたてないようにゆっくりと立ち上がり、もう今日は自室に籠ろうと歩き出す。

 そして気が付いた。今日、思い付きで出掛けたから、ちゃんと戸締りしていない。

 ゆっくりと窓の方へ振り返ると、オレンジ色の眼と目が合った。それは今、丁度、窓を開き入ってこようとする所だった。

 真っ白い顔を歪めると、くぐもった様な独特の、しかし女性と分かる声で語りかけてくる。

『ホーッポチャアアアアアアン……アーソビーマショォォォォォ……』

 北方棲姫は泣いた。

 

 

 

『エ、イヤ、泣クナヨ……!?』

 そんなに怖くないだろ今の。北方棲姫を泣かせたへんたいふしんしゃさんは、恐怖に震える幼女を前に、あやせばいいのかなんなのか、ただただ困り果てた。

 

 

 




残酷な描写タグはこの程度の回収具合になります。


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編成しようそうしよう

「いや、教えろよ!! そんな話してないって! 聞いてる!?」

 隣の部屋から寮内に響き渡る、深雪の怒声で目が覚めた。同室になった曙も目が覚めたのか、二段ベッドの上からなによと呻く声が聞こえる。鎮守府着任二日目の朝は、あんまりいい感じに始まらなかった。

 ほんと朝から何だよと思いつつベッドの下段から這い出ようとすると、壁の向こうから深雪の悲鳴が聞こえてきた。たぶん訓練所から引き続きルームメイトになった叢雲から何らかの制裁を受けたんだろう。

 

 

 

「親父がさ、絶対教えないから諦めろとか言うもんだから熱くなっちゃって……悪かったよ」

 食堂で朝食を頂きながら駆逐艦のみんなで深雪の弁明を聞くと、家族に仕送りしようとしたら断られてヒートアップ、口論になってつい大声を出してしまったんだという。

 深雪の一家は住んでいた一帯が避難区域に指定されてしまい、避難所から叔父の申し出で家へと転がり込んだのだそうだ。叔父一家との折り合いは悪くなかったのだが、父親が漁師で潰しがきかず、収入面で色々と苦労していたらしい。

 そんな時、深雪は艦娘に選ばれ、高給取りになった。昨晩の内に出来ると確認して喜び勇んで振り込もうとしたら、使ってる銀行すら教えて貰えなかったんだとか。

「あたしだけちゃんとした物食べてるのも嫌だからさー、どうにかしたいんだけど……」

 箸でサラダに添えられたミニトマトを転がしつつ深雪はぼやいた。今居る食堂は寮から地続きで、一日三回までならいつ来ても食事を出してもらえる。それこそ深夜までやっていて食べる時間も自由なのは、時間を揃えるのがほぼ不可能だからだろう。今だって自衛隊の人達は見張りに出たりしているはずだし。

 今、食堂では招集された間宮さんと自衛隊の間宮さん、それに自衛隊の伊良湖さん――訓練所とは別の人――が働いていて、訓練所とはちょっと違う味付けだが、今日の朝食も昨日の夕食もとても美味しかった。三人も居るのはやはり24時間稼働なのと、艦娘以外の人達も同じ食堂で食べるからだろう。

 この鎮守府では艦娘以外の女性や男性も働いていて、主に陸側の見張りや物資の輸送なんかを担当している。妖精さんが自分達を認識できない人間をあまり喜ばないらしく、工廠なんかには入らないらしい。私達も悪い事したら憲兵さんに捕まるんだろうか。いや憲兵って名前ではないだろうけど。

「親父は我慢すればいいんだろうけど、あたしんち弟妹いるからさー、あいつ等には食べさせてやりたいじゃん」

 最終的に深雪は指でミニトマトを摘まみ上げ、口の中へと放り込んだ。あまり好きではないのだろう、水で勢いよく流し込んでから続ける。

「自分のためにとっとけっていうけど、これからどうなるか分かんないし、使っちゃった方がいいと思うんだけどなぁ」

「深雪、アンタまさか親にそう言ったの……?」

 え、言ったけど。深雪がキョトンとした顔で告げ、叢雲と曙に阿呆かと左右両足を蹴りつけられる。戦争に取られた娘に朝っぱらからそんな事言われた親御さん、今頃泣いてるんじゃないかなぁ……

 

 

 

 昨日いきなり出撃したのもあり、本日私達は待機しつつ、用事やなんやらを済ませる事になっている。休みではなく待機なのは、近海に深海棲艦が出現したら掃討へ向かわなければならないからだ。昨日変色海域化してたくらいなので、きっとまだまだ敵はいるんだろう。休みとれる日って来るんだろうか。

 そんなわけで食堂の隣にある酒保にやってきたのだ。昨夜はご飯食べてお風呂入って荷物置いて寝たのでまだどんな物が置いてあるのか確認していない。ちょっとワクワクしながら覗いてみると、そこは結構普通の商店みたいになっていた。お酒にお菓子、缶詰や乾物、電池やライター、冷蔵ケースなんかもあって中にはアイスクリームも売っていた。全体的に保存が利くものが多く、生の食べ物はほとんどない。値段はたぶんそこらで買うよりも安く、嗜好品は値上がりが著しい昨今にしてはかなり良心的だと思う。

 だけども、私が欲しいのはそういうのじゃあないのだ。私が欲しいのは快適にネットに繋げるもの、つまりスマホかPCである。私はこの世界では所謂ガラケーを後生大事に使っていた――前世ではかなり早い段階でスマホに乗り換えていたのであえて逆の体験を試していた――から、ネットをするにはかなり不便なのである。

 この鎮守府は携帯電話も繋がるしネット環境も生きていて、節度を守り機密に触れたり艦娘だと公言したりしなければ使ってもよいとの事だったので、是非とも設備を整えたい。ちなみに悪さすると色々楽しい事になるぞと長門さんが言っていた。

 暫く生活雑貨や食べ物を見て回るが目的と合致する物はなかったので、レジで注文に関して聞いてみると、取り寄せ用のリストを渡された。リストを見ると電化製品や大きめの訓練器具、調理器具、布団や毛布、机に椅子、洋服等々様々な物が載っており、一部の物は倉庫に置いてあるだけですぐに持って来れるとも書いてあった。

 暫くめくって見ていくと電子機器の頁があり、その中に私の求めてやまないパソコンちゃんがあった。しっかりと性能まで載っていて、なんか知らんが値段も実際安い。性能は……全部グラボなんかは乗ってないけどそれ以外は問題なさそう? デスクトップ型とノート型があり、とりあえずネット巡回出来ればいいのでノート一択。個室ならデスクトップも良いかもしれないけど相部屋だし。

 レジのお兄さんに教えて貰いながら書類に記入して提出する。早ければ明後日くらいには届くとの事なので、とても楽しみである。

 

 

 

 結論から言うと、家が特定されてた。

 やりたい事やったから私も両親へ連絡しないといけないと思い、二人部屋の相方になった曙も丁度部屋に居なかったので電話をかけ、ゆっくりと話をした結果、私の気分は落ち込んでいた。

 父も母も元気そうでそれは良かったのだけど、どうやら不審者が周囲に出没し、マスコミも嗅ぎ付け、自衛隊の人が訪ねてきて保護されたという。道理で、家にかけても反応が無く、携帯の方じゃなきゃ出なかった。家の方は今使ってないらしく無人だが、自衛隊の人の話では変なのが来たりしてるから近づかない方がいいとかなんとか。

 二人とも動画は当日の内に見たらしく、滅茶苦茶笑えたと言っていた。特定されたことに関して謝ったら、謝るよりもちゃんとお前のHDDその他を盗まれないように持ち出した事に礼を言ってくれと言われた。へい中身見てないだろうなマイファザー、今度送っとくっていや要らないよ!?

 丁重に扱われて生活には全く困ってないし、仕事場にも送り迎え付きのVIP待遇だから気にせず好きにやるといい。こっちは快適過ぎて元の生活には戻れないかもしれないくらいだぞ、とか言われたので、じゃあ慣れ切る前に日本を平和にしてやんよと約束して電話を終えた。

 いやほんと、変なチート転生者にはもったいない両親だわ。落ち込んでる場合じゃないなうん。

 

 

 

 ベッドに寝そべって気分を落ち着けていると、館内放送が入り、軽巡と駆逐艦が呼び出された。制服と艤装を装着し集合、ただし出撃ではないという。

 何やらされるんだと思いながら急いで支度を済ませると、宮里提督と長門さん、龍驤さんが艤装は付けずに港で私達を待っていた。ちなみに提督は大和の制服ではなく提督っぽい格好をしている。初日にあの格好だったのは緊急時だからだったらしい。

 全員揃うと提督から何をするのか説明された。宮里艦隊では戦闘部隊を幾つかに分けて運用するのだが、その班分けのために速力を見たいので、通常航行で出せる持続可能な最高速度を見たいのだという。たぶん近い人たちが纏められるんだろう。そういえば訓練所じゃ最大速度で走ったら誰が上位に来るのかは正確に試した事が無かった気がする。一位二位は私と島風だっただろうけども。

 長門さんの号令で各艦一斉にスタート、飛び出したのは私こと吹雪、大きく遅れて二番手につけるのは長良さん。叢雲、天龍さんがそれに続き、そこから残りの駆逐艦と大井さんはほぼ団子で、最後尾が夕雲さんだった。

 確かめたいのは維持できる速度だったため暫く辺りを往復するが、大きく順位が変わる事はなかった。自由に滑れるのたーのしー!

 そこまでと提督から終了の合図が出され、私達は帰港した。これで解散なのかと思いきや宮里提督は私に例の走行での最高速を見せて欲しいと言ってきた。妖精さんに負担がかかるから許可を貰ってからでいいか聞いてみると勿論ですと言ってくれたので、艤装の中の妖精さんと話を付ける。結果として、一名だけ残して後は一時退避する事になった。それでも大砲とか使わないなら艤装は動くらしい。まぁ浮ける能力だけ残ってればいいんだけれども。

 妖精さんはおもいっきりやっていいよ! と勇ましく言ってくれたので、全力で走り、反転して港まで帰り、また反転して海へ出るのを繰り返した。私は体力もチートで上がっているため、全力移動するだけなら何時間でも行けたりする。流石に音速を超えたりするほど速くはないから提督からはちゃんと私の姿が見えているはず。

 提督に終了を告げられ艤装の中を見ると、こちらを見て仁王立ちした妖精さんがニヒルに笑って仰向けにぶっ倒れた。無茶しやがって……

 

 

 

 

 

 鎮守府内の提督に与えられる執務室で、三人の女性が会議を行っていた。

「やはり、通常の編成で吹雪を使うのは無駄が多すぎるように思う」

「せやな、空から見てたから分かるけど、あれと組ませてたら経験もなんも積めん」

 参加者の一人、長門の発言にもう一人の参加者である龍驤が同意する。議題は艦隊の編成について、なのだが、実際の所問題になっているのはほとんど吹雪一人であった。前日の出撃で航空支援を受ければ一人で変色海域を制圧できると証明してしまった吹雪は、どう扱うのが正しいのか自衛隊の人間にも判断の付かない存在となっていた。

 普通の艦隊に組み込んだ場合、彼女は他の駆逐艦や巡洋艦、戦艦に至るまでの仕事をほぼ奪い尽くし、燃料を無為に消費するだけの存在に変えてしまうというのはよく分かった。本人はやたらと燃費がいいのが悪質である。

 吹雪一人が活躍するのは他の艦娘がまともに実戦を経験する事も出来ないという事なので、最終的には総合力が低くなってしまう可能性も考えられる。

 一人で深海棲艦を惨殺出来るという事実を隠さず、躊躇なく相手の急所を砕くのも問題で、同行する人間にとっては恐怖の対象になりかねない。綺麗に顔面を撃ち抜かれていた飛行場姫はマシな方で、素手で作り出されたレ級の首無し死体などは、自身も姫級の首級を挙げている長門であっても目を背けたくなるほど悲惨な状態であった。それを虫でも掃ったかのような表情で報告してくる吹雪が、普通の感性をした人間からどう見られるかは説明も要らないだろう。

「それでも、一人で出撃させる訳には行かないですから……」

 三人目の参加者である宮里提督が言う。規則的にも心情的にも、それは出来ないのである。一人で行かせて何かあったら、責任問題で済まされない。物理的に首を飛ばされてもおかしいと言い切れないくらいには彼女の戦力はどの方位から見ても魅力的であった。

 宮里達からしたら決戦兵器をポンと渡されて、燃費がいいから普段使いもしてね、でも決戦兵器だからいざって時に使えなくなってたら怒るよ、などと言われているようなものだ。実際にその戦闘力を目の当たりにした二人には、一人で戦場に出した程度でどうにかなるとは到底思えなかったのだが、それでも最低一人は付ける必要がある。

「それやったら、誰かしら生贄にする必要があるな?」

「言い方が悪すぎるぞ龍驤、それにそうなった場合、候補になるのは……」

「ま、うちやろなあ」

 龍驤は軽空母である。そのため航空支援も行えるし、速度もそれなりに早い。最低限の自衛も行えるため二人の班を組むならうってつけと言える。だがしかし。

「それでも彼女の機動力は生かしきれないんですよね」

「……うちも、あそこまで速度差があるとは思ってなかったからなぁ」

 先ほど行われた競争を思い出す。軽めに見積もって他の艦娘の五倍以上の速度で走り抜ける吹雪を見て、殆ど全員が気付いたのだ。

 あ、こいつ昨日本気出してなかったな。

 勿論、悪意などではなく他の艦娘に合わせた結果であるので仕方ないのだが、全体で相性を確かめようと思ったら、本来の殲滅速度はもっと早いという可能性が浮かび上がってしまったのである。

「一応、第二訓練所では一番速かった長良が居るが……」

「相手になっとらんかったね」

 この鎮守府には訓練所での成績が平均以上だった者のみが集められている。だが、それでも適性値が1000を超える者は吹雪以外にはおらず、技術だとか練度だとかが介在する以前の根本的な性能に差が生じ過ぎていた。

「暁の話では、第三訓練所には速度だけなら張り合える娘が一人居たという事だったが」

 駆逐艦島風。暁によれば、航行速度に関しては吹雪と同等で、出身地から中学、部活動に至るまで一緒であり、寮でも非常に仲が良かったという。それだけなら吹雪と組ませるのにうってつけの艦娘であるのだが。

「一万オーバーは引っ張ってこれんやろ?」

 問題になるのは彼女自身が非常に適性値が高く、エース級になると目されている事である。速度以外もそこそこ優秀で、連装砲ちゃんを有するために総合的な火力も高い。戦力を各所に置きたい自衛隊としては、吹雪の居る宮里艦隊に引き抜きを許す事は無いだろうと龍驤には思えた。

「一応、可能性が無い訳ではないんです」

「何?」

「え、やれるん?」

 自衛隊の方針から言って、適性値十万越えと一万越えを同艦隊に置くことは通常嫌がられる。しかし、宮里は不可能ではないと思っていた。

「吹雪に付いて行けるのが島風だけという事は、島風に付いて行けるのも吹雪だけという事ですから」

 おそらく、向こうの鎮守府も島風の速度を生かしきれずに持て余すことになるはずなのだ。そして吹雪と違い、島風の最大の長所は速度であり、それ以外はそこそこ優秀という程度。吹雪以上に普通の使い方が勿体ない娘なのだ。

「とはいえ、蓋を開けたらあちらの鎮守府では効率的な編成が見つかってました、なんて事も有り得る訳ですけど」

「そりゃそうや……まぁ居らん奴の事はそこまでにしよ」

「そうですね、話が逸れました」

 

 一度仕切り直し。ホワイトボードに書かれた数字を見つめ、長門がため息をついた。

「結局、これをどうするかだな」

 これ、と言われたのは宮里艦隊に与えられた霊的資源採集のノルマである。以前の自衛隊の実績と今必要とされている量、それと各鎮守府の戦力を加味されてそれぞれ別の数字を託されており、三人にとっては頭痛の種となっていた。

「普通にやっていて届く数値ではないですよね……」

「主に吹雪のおかげやろな、これ。本人が悪い訳ではないけれども」

 吹雪の適性値は53万である。彼女一人が居るだけで、艦隊の平均適性値がおかしな数値になっている。そのためなのか、目標の数字は今までの常識で考えれば有り得ない数値になってしまっていた。宮里としては是非、中央値を使うように変更してほしい所である。

「昨日の収支で必要量の五分の一に届かなかった訳だからな。逆に言えば、あれがあと五回あればそれで終わるんだが」

「あんな都合のいい状態の、五か所も六か所もあるわけないわな」

 変色海域の核と、奪取した敵基地建設用の資材。合計した結果は今までにない大戦果となったのだが、それでも足りない。全く足りない。

 三人が悩んでいるのは、吹雪をどう効率的に扱えば資源回収に人手を回せるか、であった。

 許されるなら吹雪一人を変色海域へ突っ込ませて、深海棲艦から資源を奪い取ってきてもらいたいくらいなのだが、当然それは許されない。

「……もうこの際、無視して良いんと違うかこれ。上も達成できると思ってないやろ……」

「そうしたいところだがな。努力自体を放棄したら、何を言われるかわからんぞ」

 ただでさえ精鋭部隊で旗艦を務めた長門と適性値日本最高の吹雪を有する宮里艦隊である。吹雪抜きでの平均適性値も高いため、結果が出せなければ酷くバッシングを受けるのは目に見えていた。必要ならばそれを受ける覚悟はあるが、三人だって人間であり、避けられるなら避けたいところだ。

「それに全鎮守府が目標を達成できれば、来月には次の適性検査が行えるそうですから。やはり諦めたくはないです」

 適性検査に使われる器具や建造される艤装の材料など、一度の適性検査で必要とされる資源の量はかなり多い。訓練に使う燃料や資材も少なくなく、一回目の時は給糧艦に回す自分達の食糧分を少し減らして量を底上げしていたりする。

 新しく民間人から招集するのは心が痛むが、やらなければ各地の解放もままならない。艦娘の数はまだまだ十分とは言えないのだ。

「……その、私としてはこれなんてどうかな、と思うのですが」

 そう言って宮里は一枚の紙を取り出した。何回か名前を書いては消した跡が見え、草案の一つだと分かる。

「提督、まさかそれは……」

「例のやつです……私もこれの使用を検討する日が来るとは思わなかったんですけどね」

 長門は苦い顔つきになった。それは鎮守府に着任するより前に、宮里と長門が冗談で考え出した編成である。吹雪は最初から宮里に預けられると決まっていたため、前々から楠木提督にも色々と相談していたのだが、たまたま見つけた楠木がこれはとてもいいじゃないかと大笑いした曰く付きの逸品なのだ。

「でも、これなら吹雪の全速力……走行の方も活かせる可能性があります」

「妖精さん駄目になるのに何につかうんやあんなの」

 唯一知らない龍驤が差し出された紙を受け取る。そこに書かれた内容は単純で、かつ今までに話し合った運用とはかなり方向性の違うものだった。龍驤は不審気に眉を寄せ、暫く押し黙ると、小さく呟いた。

「……………………正気か」

 

 

 

 

 

 お昼ご飯を食べに行ったら、巡洋艦の人達と遭遇した。なんでか天龍さんに一緒に食おうぜと誘われたので、青葉さんと長良さん、大井さんにも許可をもらってテーブルを囲む。

 天龍さんがお前あんなに速かったのかよと笑いながら私の背中を叩く。その様子を青葉さんが撮影し、大井さんが食事中は止めなさいよとたしなめる。大井さんはバスの中では北上さん北上さん言っててヤベー人かと思ってたのだが、話してみるとかなり常識人というか、基本的にツッコミ役なのではないかと察せられた。天龍さんや青葉さんが自由過ぎるだけかもしれない。

 私の正面に座る長良さんはどことなく緊張した面持ちで、目が泳ぎ、箸の先が震えていた。たまにちらりとこちらを見るのだが、すぐに目線がどこかへ行き、話しかけても来ない。

 すごい人に見えるのはチート能力のおかげであって私の実力とは言い難く、私としては過大な評価を頂いている事が心苦しいので、こっちから部活の後輩とでも思って普通に扱ってくださいって言ってみたら、無理だと即答されてしまった。大井さんは吹雪の方が気を遣うでしょと私を援護し、短距離の事が無くても強すぎて下に置けないんじゃないですか、と青葉さんは長良さんの方をフォローをした。実際に見た青葉さんと見てない大井さんの差だろうか。っていうか地味に青葉さんも私に丁寧語使ってるしなんか壁を感じる。その点天龍さんって凄いよな、最後まで一切遠慮なかったもん。

 長良さんに関してはもう慣れてもらうしかない。鎮守府で一緒に生活するんだし大したもんじゃあないとそのうち分かってもらえるといいなと思います。

 

 

 

 昼食を終え、自分の艤装の装備に関して工廠の人達と相談してみようと思って廊下を歩いていると、向かいからやって来た山城さんに捕まった。

 山城さんは扶桑さんの友人に、名字を伊吹という駆逐艦吹雪の適性者が居る事を知っていたらしい。私がそうなのかと聞いてきて、肯定したら是非扶桑姉さまの話を聞かせて欲しいと頼み込んだ。やっぱりというか、扶桑さんが訓練所で仲良くなった娘というのは彼女だったらしい。

 廊下で話すのもなんなので人気の少なそうな屋上で、と思って階段を上り切った瞬間、突然大雨に見舞われ山城さんの部屋へ行く事になった。扶桑さんもそうだったけど本当に不幸属性な人が存在するんだよねこの世界。逆に雪風の適性者とかはどうなるんだろう、訓練所には居なかったから謎に包まれている。

 

 山城さんは速吸さんと同室なのだが、彼女は外出していて居なかった。靴を脱いでお邪魔すると、午前の内に酒保で出してもらったのか、小さめのテーブルとチェアが揃えてあった。うちの部屋には作業用の折り畳み式のテーブルくらいしかないので、その辺りは今後曙と話し合っていく所存である。

 椅子に腰かけると、山城さんが備え付けの冷蔵庫からお茶を出し、カップに注いで出してくれた。対面に座った山城さんはハリーハリーと話をせがんで来たので、出来るだけ脚色をせずに話す事にした。

 

 校舎の三階から事故で落ちて来た時点で尋常じゃない不幸さを持っている扶桑さん――桑谷先輩だが、その不幸はどういうわけか、全体的にはちょっと運が悪い程度で済み、致命的な事態は引き起こされていない。たとえば今の例だと下に私が居たため無傷で済んでいる。

 他にも新型発電所の稼働日に家の配線がおかしくなって扶桑先輩の部屋だけ電気がつかなくなったけど工事で普通に直ったり、出掛けたら引ったくりに遭ったけどバッグのベルトが千切れて絡まった引ったくりが転んでお縄になったり、配給のトイレットペーパーを受け取ったらミシン目が付いてなかったけど使い辛いだけだったり、配給に必要なチケットを盗まれて霧島さんが犯人見つけ出して私との連携で取り返したけど犯人が猫だったり、受験当日に深海棲艦の襲撃が重なって延期になったせいでデートが潰れたり、私の家に遊びに来たら丁度島さんも来ていて滅茶苦茶走らされた挙句に貧血でふらついてたまたまそこにいた提督と衝突して6と9の形になったり。いや最後のは提督のラッキースケベが発動しただけのような気もする。

 出会って一年で結構一緒に遊んだ間柄のため話せる内容はそれなりにあるのだが、山城さんは提督の話をしたら絶対零度の声で、

 

 へぇ。

 

 と呟いたので、半分くらいしか言えなくなった。これ以上ヘイトを溜めると奴が刺されかねない雰囲気が出てたから仕方ないね。既に手遅れかもしれないが。

 というか、出会って一か月の相手によくそれだけ執着できるなぁ。と思ったけど徴兵されて不安定になってる所で優しいお姉さまに出会っちゃってコロッと行ったのかな。かなりいい人だし美人さんだしね。

 

 流れで本名を教えて貰えたのだが、山城さんは名字を城山さんというらしい。この人も名前に適性の艦名が入っている。さっきの昼食中には天龍さんに名乗られたんだけど、彼女の名前も龍田川 天音。かと思えば大井さん長良さん青葉さんは三人とも入っていないのだ。なんか違いがあるのだろうか。さっぱり分からん。

 駆逐艦の人達だと入ってるのは私と初春、夕雲さんの三人で、後の五人は入っていない。たまたまというには多い気がするんだけど全員ってわけじゃないのはどういう事なのか。例の少女の陰謀を感じる。

 

 

 

 なんだかんだと話していたら三時を過ぎ、速吸さんも戻り、流石に話し疲れたという事でお開きになった。

 お邪魔しましたと部屋を出て、今度こそ工廠へ行こうかと思い廊下を行くと、窓の外で秋津洲さんが二式大艇ちゃんと戯れているのを目撃した。一瞬ヤバいものを見た気がしたが、よく見ると二式大艇ちゃんは喜ぶようなジェスチャーをしていたので、連装砲ちゃんと同じで自立して動く機能が付いているんだろうと察しが付いた。かわいい。

 邪魔しちゃ悪いので通り過ぎると、明石さんが別の明石さんを引きずっていた。どうかしたのか尋ねてみたら、艤装を見てて徹夜した結果、割り当てられた部屋に眠りに行く途中でぶっ倒れたらしかった。変色海域に出ると戦闘しなくても破損してしまうのが原因なんだろうな、とか思っていたら全然違って、趣味でテンション上がって妖精さんと一緒になって弄り倒した結果らしい。手伝いますよと持ち上げたら、本当にただただ寝ているだけだった。

 見た目より力強いんですねと言われたが、そこは突っ込まないで欲しい。チート能力である。

 

 

 

 引きずられてた方の明石さんをベッドへ寝かせると、引きずってた方の明石さんは工廠へ戻ると言うので一緒に廊下を行く事になった。装備に関して聞いてみると、調整はともかく変更となると宮里提督の許可が要るだろうという事だった。そりゃそうか。魚雷さんの出番が無さそうなので変えて貰って、連装砲二刀流にでもしたらどうかと思ったんだけど。

 工廠では妖精さん達がせっせと遊んで――もとい働いていた。今は艤装ではなく普通の船、クルーザーか漁船か区別はつかないがともかく通常の船舶の整備を行っているようで、何に使うのかと思ったら収集部隊の人達をこれで運ぶらしい。護衛として私達が守るのはこの船になるのだとか。艤装の事だけやる部署かと思ったらそうでもないんだな、と感心する。でもタイタニックしてるそこの妖精さん達は縁起悪いからやめようね。

 

 私の装備に関しては任務に合わせて提督と相談した方がいいという事でやる事がなくなった。なので酒保に寄って飲み物とお菓子をちょっとだけ買っておこうと思い、店内に足を踏み入れると、深雪と叢雲がなにやら書類と格闘していた。

 どうやら深雪はみんなのアドバイスでなんとか口座番号を聞き出すことに成功、妹と弟とついでに兄への貸しにするから帰ったらねーちゃん孝行しろよという事になったらしい。それで振り込みに来たら結構書類が多かったとの事である。ATMが設置されてるわけじゃないからねぇ。

 私も買い物を済ませ、ついでにちょっと引き出しておこうと思ったらやっぱり書類を渡され、深雪と並んで記入する羽目になった。これ書類が面倒で散財する気無くさせようとかそういう狙いない? 無いか。

 

 

 

 そんなこんなで部屋に戻った時には五時を回り、戻っていた曙と家具に関して相談していると放送が入り、明日以降の部隊編成についての話をすると本日二度目の招集がかけられた。

 曙や飛び出してきた皆と一緒に寮から出て会議室へ向かうと、宮里提督や長門さんが真剣な面持ちで待ち受けており、龍驤さんは私を見つけると微妙な顔で目を逸らした。なんだろうと思いながら適当に中の黒板が見える位置に行き全員揃うのを待っていると、宮里提督もこちらを見てちょっと申し訳なさそうな表情をしている。なに、私何かされるの?

 

 最後に寝ていた明石さんが入室して話が始まった。前置きして曰く、これは暫定的な配置で無理があったら配置換えは即日行われるとの事である。そんなに危ない事やるんだろうか、とざわめきが起こり、龍驤さんが手を叩いて静かにさせる。そして長門さんが大きめの用紙を黒板に貼り付けた。

 その紙には第一から第四艦隊に全員の名前が書かれており、一番上の名前が旗艦であるらしかった。

 第一艦隊の旗艦は当然のように長門さんであり、山城さんや青葉さんを含めた重量級だが打撃力のある主力部隊。秋津洲さんもここに入っている。

 第二艦隊の旗艦は龍驤さん……ではなく加賀さん。正規空母二人を含む航空戦力を主とする部隊で、私だったらこっちの方が相手をしたくないかもしれない。

 第三艦隊の旗艦は天龍さんで、どう見ても水雷戦隊。足も速くて燃費も良い、使い勝手の良さそうな部隊である。

 第四艦隊の旗艦は私だった。

 

 

 

 宮里第四艦隊の、イカれたメンバー紹介するぜ!

 

 

 

 

 

 駆逐艦の吹雪!

 

 

 

 

 

 以上だ!

 

 

 

 うん、まぁ、なんだろう。正直ちょっと納得した。

 でも問題なのはそこじゃあないんだ。いやそこもだいぶ問題なんだけど、個人的にもっと気になる部分がある。なんなら私以外も気になってる人多そうだし、曙とか今にも糞って口から飛び出しそうな顔してる。

 第一艦隊から第三艦隊までと第四艦隊の間には仕切りがあって、第一艦隊のちょっと上と第四艦隊のちょっと上にさらに文字が書いてあった。

 それが戦闘部隊と護衛部隊。

 つまり第一艦隊から第三艦隊までは戦闘部隊で、第四艦隊は護衛部隊って事である。

 

 え、私護衛なの? 霊的資源収集の護衛だよねこれ? マジで? 一人で?

 宮里提督の顔へゆっくりと視線をやるとしっかりと見つめ返してきて、はっきりと頷かれた。ああ、合っているんだなぁと理解して、もう一度黒板を見て思う。

 

 わけがわからないよ。

 

 

 




ここからが本当の地獄だ……(吹雪以外)


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ごえいぶたいのおしごと

 朝の風が気持ちいい。第四艦隊として働き始めて早三日、私は護衛している船から離れ海上を走り回っていた。向かう先はこれから資源収集に向かう島、そこに居座る深海棲艦の排除が今の目的なのだ。

 私を護衛に回すと言われた時はしまった糞提督だと正直ちょっと思ったんだけど、蓋を開けたらそんな事は全くなく、私が働いてる実感をストレスなく感じられる神采配だった。いやぁ疑っちゃったのすごい恥ずかしい。

 

 そもそも霊的資源収集の護衛って何をするのか? 私はまずそこから勘違いしていたのである。私はてっきり回収部隊の乗った船の周りで索敵しつつ敵が来たら倒すとかそういう受動的なのを想像していたんだけれども、これが大間違いだった。

 私の仕事はこっちにやってくる可能性のある敵、および目的地に存在している敵の全てを撃滅する事だったのだ。つまり滅茶苦茶能動的。サーチ&デストロイちゃんはここに居たよ。

 しかし私一人だとさほど倒せないんじゃないかなって初日は思った。凄い思った。駄菓子菓子、ここは適性値最低一万越えと元精鋭部隊旗艦が同時に配属されたヤベー海域であったのを私は忘れていたのである。

 収集部隊の人達にご挨拶していざ出航、と同時に提督から指示が来るわけですよ。曰く、先に出て敵部隊に応戦してた加賀さん達が対応しきれなかったはぐれを倒しに向かってくれと。その時点で私はまだ自分がする事をよく理解できてなかったんで船から離れるのが心配だったんだけど、とりあえず現場へ滑って行って、ささっと撃破。それで残りが居ないかソナーで確認するわけですよ。そしたら端の方にちょっとそれっぽいのが映ったんだけど、これ追ってくより船と合流した方がいいよなぁと思ってとりあえず報告上げたんですよ。そしたらじゃあそれ追って倒しといてくれと言われた訳ですね。

 この時点でなんかおかしいんだけど、とりあえずまあ、そいつらはサクッと撃ち倒してもう居ないなと確認して船の所へ向かおうとしたんだよ。そしたら今度は船の方から連絡が入って、直掩機が深海棲艦見つけたから帰ってきてくれだそうで。おいおい結構遠いぞ間に合うのかこれって焦ったんだけど、そしたら提督ってば走っておkとか言い出すんですよ。え、いいんですか妖精さん潰れますよって、いや私も事前に説明されてなかった訳じゃないんだけど、出航数十分でやるとは思わなかったわけで。でも命令だから、妖精さん達に謝って海面を跳んで帰って船の上にね。そこでやったよね、妖精さんの総入れ替え。

 

 いや、言われてみたら簡単な話だったんだよ。乗ってる妖精さんが潰れるなら次の妖精さん乗せればいいじゃないっていう。妖精さんって数的には結構居て、訓練所ですら私の艤装に無駄にいっぱい入ってたくらい余剰人員で溢れているのである。だったらその娘達に頑張ってもらいましょうっていうのが宮里提督の考えだった。私は妖精さんをどうにか生き残らせる方向で考えてたから目から鱗が溢れ出した。

 もちろん入れ替える妖精さんを置いておける場所が無いと絶対に出来ないから攻め入る時なんかは使えない手なんだけど、行きはともかく拠点への帰りでは私の移動速度を最大限に発揮しても良くなった。必要なら負傷者を拠点まで運び出して、そこで妖精さんを交換しちゃえば私はそのまま前線に戻れたりもする。

 問題は妖精さんへの負担が頭おかしいくらい大きい事なんだけど、これは宮里提督が妖精さんに頭を下げて了解を得たらしい。無効化無効化能力を供給できる人数が提督ごとに違うように、提督って人によって得意分野が違うらしいのだが、宮里提督の得意分野は妖精さんに好かれる事なんだそうな。よほどの無茶でも頭を下げて誠心誠意お願いすれば聞いてもらえるとか。私の全速力ってそんなに無茶なのか……

 ちなみに私の得意分野はよく分からない。とりあえず宮里提督も私も共通して、無効化貫通を他人に付与するのが不得手な方というのははっきりしてるんだけど。ワースト一位二位らしいから。

 

 話を戻して、船で新たな妖精さん達と組んだ私はそのまま敵を粉砕、一旦船へ引き上げるととりあえず敵影は無くなったとの事なので、周囲の安全確認をしてこようと先行する。するとソナーにまた敵が引っかかる。撃破。またソナー使う。なんかいる。撃破。ソナー、発見、撃破。ソナー、発見、撃破。お前ら私の索敵範囲内に居る確率高くない? って思ったんだけど、大体が一匹二匹でたまに四匹とかだし斥候にしては堂々としてるし、一般通過深海棲艦なのか、ともかく侵攻しに来た連中じゃなさそうな感じだった。

 初日の目的地は海の上の霊脈、なので海のど真ん中。自衛隊の人達が船から降りて艤装に付けた収集装置でドラム缶に資源を詰め込んでいる間、私はソナーとレーダーを使って全力で敵を探査。すると向こうからやって来たのは輸送ワ級と護衛の皆さん、倒してみたら腹の中から先日も見た黒い箱が。ただし中身は空っぽだった。どうやら向こうの収集部隊だったらしい。

 うん。つまりこの海域って敵艦隊が普通に資源回収に来る場所だったんだ。そりゃ変色海域化もしますわ。

 戦闘部隊のみんなはその状況をどうにかするために防衛ラインを押し上げて、敵の拠点になってる島を攻略しようと動いていたらしい。私は中に既に入り込んでるのや抜けて来ちゃったのを見つけて狩ってたわけですね。

 

 そんな感じに一昨日、昨日と海を走り回ってエリミネーターしておりました。それで本日は目前の島へやって来た訳なんですが、空に敵の直掩機見えてんだよなぁ……こっちも見つかってるよなこれ。まあいいか、倒してこよう。

 

 

 

 

 

 なんで私はこんな所に居るんだろう。宮里艦隊に配属されて五日。一時的に訓練所から異動しただけだったはずの暁は、どういう訳か収集部隊の班長として船の上で指揮を執っていた。

「教官長、遠い目をしてどうしたんです?」

「教官長吹雪の心配してるにゃ?」

「……でも、心配しても仕方ないって、教官長が一番知ってるはず……」

「私達が心配するのは失礼なくらいにゃしい……」

「拙そうだったら私が連れ帰るから安心しなよ、教官長!」

 船には十二人の艦娘が乗っているが、全員艤装を付けているため狭苦しい。マッド明石率いる妖精さん造船部によって改造されたこの船は普通より速度が出ている。そのためか今はそれなりに涼しいが、来月辺りからは厳しそうだ。

 先行している吹雪を追って、多摩の操舵で海を駆ける。船の上では鳳翔と飛鷹が航空機で周囲の警戒に当たり、霰と薄雲、磯波や睦月、皐月、潮に子日なんかがレーダーやソナーで探査を行い、吹雪に何かあった時の救助役に川内が待機している。これに統率する暁を含めた十二人が現状の宮里艦隊収集部隊遠征班の構成員となる。

「ねえ、教官長呼び止めない?」

 今の暁は教官長ではなく班長だし、そうでなくても年上含む同じ自衛隊の仲間に教官長教官長と言われるのは居心地があまりよろしくなかった。

「もう定着しちゃいましたし……」

「今更変えるのもにゃぁー」

 諦めろ、と周囲から返された暁は項垂れ、どうしてこうなったのかと考える。いや考えるまでもなく、吹雪が教官長と呼んだのを川内が真似して、多摩や霰がそれに乗っかったせいなのだが。

「あなた達ってそんなにノリ軽かったかしら……多摩なんてほとんど猫みたいになってるし」

「猫じゃないにゃ」

 そうは言うが、彼女はもうとっくに時期も終わったというのに自室にこたつを置き、中で丸くなっているところを目撃されている。さらには普段からにゃーにゃー言っているため説得力がまるでない。

 多摩に限った話ではないが、艦娘達は良くも悪くも自身の艤装と繋がる中の人の影響を受けやすい。おかげで一部の自衛隊員は口調が酷い事になっていたりするが、実害はないので無視されていたりする。今のところ性格や思想そのものに多大な影響はないとされているが、怪しい物だと考えている人間は少なくなかった。

 招集された娘達には伏せられている、どころか自衛隊員たちも実際の所は何も伝えられていないのだが、多摩のような影響の顕著な者が身近に居るため確実に何らかの干渉を受けているのだろうと多くは勘付いていた。

 尤も、だからと言って使用を止めるような選択肢が存在しないのが現状である。本人の自我にまで影響が及ぶようなら変わるかもしれないが、今のところは目立って悪い影響というのも特に見受けられない。精々語尾がクマになったりちょっと料理に興味が出たり姉妹艦と仲良くなったりする程度なのだ。そもそもどういう訳だか元から集合無意識内の艦娘と近い性格をしている者も多いので、実態は闇の中である。

「本土の収集ばっかりだったみたいだから知らないでしょうけど、最近は割とこんなもんよ。というか、訓練所でのあなた達も大差なかったと思うんだけど」

 飛鷹が直掩機に周囲の警戒をさせながら先週までの様子に言及した。暁も心当たりがないでもない。妹艦三人とはかなり気安い関係になっていたし、昔よりも感情的というか、感情が表に出やすくなったような気はしているのだ。

「あ、あの、教官長……足元……」

 潮に言われて床を見やれば、わらわらと走り回る妖精さんの一人が暁の靴と甲板に挟まれていた。慌てて足を退けると、潮にたすかりもうしたと頭を下げてわらわらしている中に消えて行った。吹雪の交代要員として船に乗せられているため、助かったのかどうかは微妙な所である。

 妖精さんの中でも耐久力に自信のある娘が集められているらしいのだが、自称であり、実際どう違うのかは宮里提督もよく分かっていないらしい。そもそも自信があろうがなかろうが死んだりはしないのでそもそも意味があるのかも不明である。

 そんな妖精さん達を眺めていると通信機に掃討完了の知らせが入る。島内全域の調査が出来ている訳ではないが、とりあえずこれで上陸は出来るはずだ。

「それじゃ、こいつの初お披露目だね」

 川内がゴーグルのようなものを弄びながら楽し気に笑う。暁はその新装備よりも、吹雪の報告から双子棲姫なる姫級の名前が出た事の方が気になった。

 

 

 

 

 

 敵に見つかってると思ったら姫級に熱烈歓迎された。いや普通に海岸に居たからびっくりしたわ、どうなってんだこの海域、地獄か何か? 二人居たから別々に撃ったら二人で一人の深海双子棲姫だったらしく、一発で艤装は吹き飛んだものの二発目の当たった片割れしか倒せなかった。一発目で艤装は大部分が吹き飛んでいたのだがそんな状態でも機能は停止していなかったらしく、おかげで大量の発艦を許してしまったんだが、魚雷の代わりに積んでいた機銃が役に立ってくれた。

 私の機銃は威力は普通よりちょっとある程度で、弾速もさほど速くない。集弾性なんかはむしろ悪いくらいで、代わりに有り得ないくらい連射速度が速い。結果どうなるかと言うと、狙わずに撃った場合私の正面に円錐状に拡散する弾の壁が広がる。最初に自分で見た時はショットガンか何かかと思った。

 連装砲に比べると射程でも威力でも遥かに劣るのだが、一気に複数の相手を狙えるという利点がある。連装砲は二体ずつしか狙えないから航空機相手ならこっちの方が便利ではある。

 ではなぜ最初から積んでいなかったのかと言えば、燃費が滅茶苦茶悪いからである。私のAIM速度と精度だと全弾当て切るのはちょっと難しく、連射が早すぎてタップ撃ちとかも無理……妖精さんが対応しきれないのだ。そのためベルト一つ分撃ち尽くす勢いで目の前の敵を殲滅するしかなく、早々に弾が尽きる事になってしまう。それなら連装砲で一体ずつ狙い撃った方が良いだろうってなった結果なのだ。

 今回は護衛一人で航空機絶対落とすウーマンにならないといけないから持ってきたのだが、敵が大量展開してきた時にはかなり使えた。姫級相手にはいいかもしれない。

 余談だが、生き残ってた双子の片割れは艦載機出した後、リロードの終わった連装砲で撃ち殺したので姫の方が艦載機よりも先に死ぬという悲劇が起きていたりする。

 

 

 

 暁教官長率いる収集部隊が上陸を果たし、川内さんが意気揚々とメカメカしいゴーグルを被って電源を入れ、島の奥や周囲の地形を見渡した。どこか楽し気な感嘆の声が上がり、とりあえず居ないみたいだよとみんなに呼びかけた。双子の死体を調べていた教官長達から了解と返ってくる。

 川内さんが付けているのはこの度宮里艦隊で試用する事になった、暗視装置である。サーモグラフィ的な見え方で昼間でも夜でも潜伏している深海棲艦を見分けられる……かもしれないのだとか。

 そう、この間レ級がアンブッシュからの奇襲をしてきたという報告を受けて、対策に上の人達が用意した普通の暗視ゴーグルの、なれの果てである。

 一昨日の時点で送られてきて、昨日テストしてあんまり効果が見られず、使えなさそうなら弄らせてくれと言って引きずられてた方の明石さんwith妖精さんズが一晩でやってくれた艦娘専用対深海棲艦暗視ゴーグルなのだ。

 ちゃんと働くなら頼もしいのだがこのゴーグル、扱うのに特殊な適性が必要というちょっと扱い辛い物に仕上がっていて、この部隊だと川内さん以外には扱えない。しかも装備スロットを使う。

 この世界の艤装は艦これのそれよりも未改造状態で装備を積めるのだけど、本体から離して使う連装砲なんかも、扱うための機構を本体側に設置しなくてはいけない。砲塔が手元にあるのに弾がどこから来るのかというとその本体側から霊的に送られてくるのである。霊的に接続されてるんだって妖精さんが言ってた。すげぇな霊。

 これは島風の連装砲ちゃんなんかも例外ではなく、島風側にも連装砲ちゃんの弾薬が格納してあったりするのだ。その分他の武装があまり積めなくなるので、島風自身は主砲を持たずに訓練してみたりもしていた。どのみちレーダーとか魚雷とかの方が得意だったしな島風。

 ドラム缶も特殊装備の内に入り、使用のための機構を艤装に取り付けないと上手い事資源を格納出来ないらしい。なので、戦力と回収量はトレードオフになるのだ。本来は。

 ともあれ、川内さんは居ないというし私も気配を感じないので、船を鳳翔さんに任せて霊地に向けて出発となった。目的地までのナビは羅針盤妖精さんにお願いである。羅針盤の有用度高いなぁ、スロットも食わないし。

 

 周囲を警戒しながら十二人でドラム缶を担いでしばらく行くと、谷間のようになっている所があり、その下が収集地点になる霊脈だと妖精さんが教えてくれた。艤装を起動しているので飛び降りればノーダメージで着地出来るが、問題は帰りである。

 下から谷間を海の側へ歩いて行けばそのうち島の沿岸に辿り着いて、大回りで船へ帰れるかもしれないが、かかる時間が未知数なのだ。今日回る予定なのはこの島だけでも他にもう一か所、他にも行きとは違うルートで海上の霊脈を通っていく予定なので、あまり時間をかけたくないというのが私達の本音である。

 どうしましょうかとみんなで相談した結果、暁教官長が出した案が採用された。本人が採用されてドン引きしていた。

 

 ささっと紐無しバンジーして、下の安全を確認。何も居ないのを確かめて合図を出すと、収集部隊の皆さんも空母の飛鷹さんを残して飛び降りて来る。川内さん以外はみんなちゃんと着地できてなかったけれど、埃を払うと素早く資源の収集を始めた。

 私と飛鷹さん、川内さんを除いた九人が収集に当たり、私達は周囲を警戒する。飛鷹さんはともかく何故川内さんが収集に参加しないのかと言えば、彼女は私が大破したり何らかの理由で航行不能に陥った場合に私を回収する役割を持っていて、収集用装備ではないからである。そのため缶とタービンもちょっと他と違うらしい。

 川内さんは適性値が戦闘部隊の水準まで届かない自衛隊員の中では最高の部類で、速さだけなら精鋭部隊の高速艦と遜色ない程度だった。そこへ速度特化の改装を行ったため、私の知ってる中でもかなり速い部類となっている。その代わり攻撃力とかはほとんどないらしいが。

 本人は半端者でも役に立てるみたいで良かったよと言っていたが、私から言わせて貰うなら、まともに戦えないのに海に出て哨戒したりしてくれてる人達は半端ではないと思う。

 暫くして収集が終わる。九人でやったからかそれほど掛かってはいないが、その分多く回らされるのでみんな急いで動いている。片付けもすぐに終え、それじゃあやってくれと言われたので、とりあえず教官長から抱え上げて、崖の上まで跳躍した。

 上の飛鷹さんの所に教官長を降ろして、大丈夫か聞いてみるとこないだのより大分マシと返答された。やっぱりキツかったんですねぇ。

 その後八往復してみんなを上に運んでいると、その間に川内さんだけ自力で登攀し切っていた。ジャパニーズNINJAの末裔か何かだろうか。

 

 島のもう一か所の収集場所へ向かう途中で何かが蠢く音が聞こえてきて、私は隊の歩を止めさせた。忍び足で音の方へ近寄ってみると、海岸線で深海棲艦たちが例の黒い箱を輸送艦へと積み込んでいるのが見えた。

 全員撃ちぬいて箱だけ回収して戻り、皆で目的の霊脈へ向かったのだが、やはりと言うべきか収集されたばかりでほとんど資源は残っていなかった。それを敵からぶんどったのでむしろ時短になったわけだ。

 じゃあ用事終わっちゃったから船へと戻ろうとなった時、川内さんが敵航空機を発見した。そいつは島の外からこっちへやって来た偵察機のようで、さっきの敵収集部隊の異変に気付いて派遣されたものかもしれなかった。

 どうするべきか迷ったが、教官長が倒せそうなら空母ごと倒してきて欲しいと言うので、そうした。

 空母ヲ級を倒してじゃあ戻るかと思っていたら、鳳翔さんの残った船の方から敵艦発見の知らせが飛んできたので、妖精さんに断って全力疾走。辿り着いたら既に妖精さんを積み替えてる暇のない距離だったので拳を振るって解決させてもらった。この方法に限る。

 

 その後、討伐例の無かったらしい双子棲姫の死体も積んで島を後にすると、海上の霊地を回りつつその場その場で見つけた敵を撃ち倒し、私達は鎮守府へ帰り付いた。

 これにて午前の部終了である。当然午後もあるのでお昼を食べて少し休憩したら出発になる。私の仕事は概ねそんな感じで、非常に遣り甲斐のある仕事と言える。

 

 

 

 収集部隊の皆さんとお昼を頂いていると、天龍さん率いる水雷戦隊も午前の仕事を終えて戻ってきた。話を聞けば、一昨日から今日までで敵拠点に通じるルートは確保出来たとの事で、明日にも戦闘部隊総出で拠点をぶっ壊しにいくのだそうだ。

「吹雪は通常通り、護衛の方に専念させると提督は言っておったぞ。わらわ達でやり切れると判断したようじゃのう」

「あ、そうなんだ……」

「まあオレ達に任せときな。近くの拠点が無くなればそっちも楽になるはずだぜ」

 そうは言うが、戦闘部隊の面々は割と艤装を壊して帰ってくるのだ。大破までは誰も行っていないようだが、天龍さんなんて毎日一度は被弾している。そんな事を思っているのが顔に出ていたのか、曙が鼻を鳴らして私に言った。

「こっちは二十人以上いるのに、アンタ一人に心配されるような謂れはないわよ」

「別に変色海域に行くわけじゃないしー、大丈夫よー?」

 山雲も心配するなと言ってくれる。まぁ確かに、これで私が居ないから駄目でしたとか言われたら日本は完全に詰んでた事になるので大丈夫だと思いたい。思っていいよね?

 

 翌日の収集場所はやろうと思えばみんなの救援に向かえる所だった。提督も心配してたのね……

 私が気もそぞろに敵の飛行機を撃ち落していると、教官長がこっちのルートで行きましょうかと戦闘部隊の目的地に近い方を通ってくれた。特に私が呼び出されるような事もなく、少しだけ遠回りになったけど、拠点に向かうと思しき連中から資源強奪出来たので良かったと思います。

「教官長って吹雪にちょっとだけ甘いよね」

「あれくらいいいでしょ、損失も無かったし」

「班長にされた理由が分かりやすいですよね」

 なんて会話が聞こえたりもしたが、確かに知らない人より話しやすくて助かっているから、教官長には悪いけど付き合って頂きたい。

 

 

 

 結果的に拠点破壊作戦は小破二名、中破四名、大破一名、轟沈一名で終わった。

 轟沈したのは深雪。本人曰く、魚雷の当たり所が悪かったとの事。滅茶苦茶痛かったらしいが大きな怪我はないようで安心した、

 うん、この世界って艤装の轟沈=死ってわけじゃないのである。轟沈する直前、艤装は最後の力を振り絞ってダメージを相当受け止めてくれて、艦娘にはほぼダメージが行かないのだ。もちろん威力が高すぎると貫通するらしいけれど、大破状態から無理矢理進軍でもしない限りそんな事にはまずならないとの事である。

 大破進撃ダメ、ゼッタイ。

 ちなみにこれで死なないかと言うとそうでもなく、艤装が無くなればそのまま海に放り出されるわけで、味方が拾い上げてくれる状況じゃなければそのままお亡くなりになる。なので普通に危なかったはずなんだが、本人の表情は至って明るいもので、むしろ自分の艤装に乗っていた妖精さんがどうなったのかが心配なようだった。

 なお生き残ったとはいえ艤装をロストした事には変わりなく、深雪は代わりの艤装が送られてくるまでお休みである。鎮守府で建造してもいいらしいんだけど、深雪の艤装は余っていて替えがあるのでそっちを先にという事らしかった。

 

 この海域には同じような拠点があと十個はあるらしいんだけど本当に大丈夫なんですかねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

「オーッス、ホッポチャンヨー、ソロソロドウスッカ決マッタカー?」

 転生北方棲姫の住処に数日前から入りびたり、好き勝手に生活している厄介者が今日もやってきた。

「ダカラ、ワタシニ何ヲサセルノカ教エテクレナイト答エラレナイノ!」

 あの日、ホラーゲームか何かかと思うようなシチュエーションで家に入り込んだそいつは泣きじゃくる北方棲姫を落ち着かせると、自分達の所で一緒に働かないかと勧誘を仕掛けてきたのである。

 お国のために転生者仲間で一緒に働こうぜと嘯くそいつに、驚きながら具体的に何をするのか聞いてみると、聞いてないから知らないなどと宣ったので、北方棲姫は脅かされた怒りもあって突っぱねた。そうしたらそいつは毎日遊びに来るようになってしまったのである。

「床抜ケルカラ艤装シマッテ」

 北方棲姫の方も人恋しかったので来てくれるの自体は吝かではなく、玄関まで迎えに出て招き入れると前日にもした注意をまた口にする。気を抜くと尻尾の艤装と一緒にくつろごうとするので初日は大変だったのだ。

「分カッテルヨ……ソレト、今日ハ色々許可貰ッテ来タカラ説明シテヤレルゾ」

 普段しているにやけ面を少しだけ真面目なものに変えて言う。北方棲姫は思った事が口に出た。

「最初カラソウシテヨ」

「ゴモットモデ」

 言ってケラケラと笑う転生者、戦艦レ級に、北方棲姫は思いっきりため息をついてやった。

 

 

 

「ソレデ、何ヲ話シテクレルノ?」

 居間で茶を出すと、対面に座って話を始める。椅子が結構高いため、足が浮くのはご愛嬌だ。

「オ前ノ仕事内容ト、ウチノ大将ノ名前以外ナラナンデモイイゾ」

「一番知リタイ所ダヨソレガ!」

 結局何をするのかは教えてくれないらしいと聞いて、北方棲姫は両足をバタつかせた。

「大将ガ自分デ教エルカラッテ言ウンダカラ仕方ネーダロ。オレニモ理由ハヨク分カンネーシ」

「ジャア、アナタ達ノ人数トヤッテ来タ事ヲ教エテ!」

 それなら言えるぜとレ級は笑う。深海棲艦特有の白い肌と白い歯が光る。

「マズ人数ハ、オレト大将ノ合ワセテ二人」

「少ナッ!?」

「オ前デ三人目ナンダヨナァ、吹雪誘ウ訳ニ行カネーラシーシ」

「……ン、吹雪ニ声掛ケタリシテナイノ?」

 どう見ても転生者なのに。深海棲艦限定の集まりにでもするつもりなのか、と北方棲姫が疑問を口にすると、レ級はしまったという表情になった。

「言イ忘レテタケド、ホッポチャン、絶対ニ吹雪ト接触スルナヨ」

「エ、ナンデ? 殺サレルカラ?」

「イヤ、オ前ノ能力ナラ殺サレナイヨウニ話セルダロ……ソージャナクテ、深海棲艦ニ転生者ガ居ルト思ワレルノガ不味インダトサ」

 一瞬でも撃つのを躊躇されると良くないらしい、とレ級は語る。それだけ深海棲艦が強力なのか、北方棲姫にはよく分からなかったが、それよりも聞きたい事が増えた。

「ナンデ私ノチート能力知ッテルノ……?」

「大将ガソウイウ能力ナンダヨ、ナンデモ『やたらと みえる』ラシイゼ。オ前ノ居場所モソレデ特定シタンダト」

「エエ……ナンカズルイ……ジャアレ級ノ能力ハナンナノ?」

 私だけ知られてるのはなんか嫌だと言う北方棲姫に、レ級は待ってましたとばかりに笑みを深くした。

「見逃スナヨ」

 短く告げて、レ級の姿が掻き消える。あれ、と思う間もなく、北方棲姫の耳元に、冷たい吐息が吹きかけられた。

 ホワァ!? と変な声が出た北方棲姫が振り返ると、そこではレ級が楽しそうにケラケラと笑っていた。

「私ト同ジ能力……?」

「残念、違ウンダナァ」

 瞬間移動なんてしてないぞ、とレ級は笑う。もっと簡単に、普通に回り込んだだけだと言う。

「オレノ能力ハ『ちょう はやい』ッテナ。分カリヤスイダロ?」

 分かりやすく強力な能力である。北方棲姫は吹雪の高速弾を捉える事が出来る程度には動体視力が高い、それが油断していたとはいえ全く影を捉えられなかったのだから相当に速い。人類の敵だったらヤバい奴だと今更ながらに北方棲姫は認識した。

「他ニモ早口言葉トカ得意ダゾ」

「ソノ情報イルカ?」

 思わず言ったが、人類の脅威にはならなそうだな、とちょっとだけ安心したので必要だったかもしれない。

「ア、ジャア吹雪ノチートモ知ッテタリスルノ?」

「ア~~~~知ッテル知ッテル。アイツハ『なんか つよい』ダッテヨ」

「ソレハ……強ソウダネ」

「コメントシヅレーヨナ」

 本人の預かり知らぬ所で秘密が拡散されて行く吹雪であった。

 

「ンデナンダッケ、今マデノ活動?」

 席に座りなおしてレ級が続ける。北方棲姫が頷くのを見て、腕組みして考え出した。

「エ~ト……最近ノヲマトメルト……世論操作?」

「世論操作!?」

 予想外の活動内容に北方棲姫が目を見開いた。その能力で世論操作ってなんなんだと。

「イヤ待テ、コレハ言ッチャ駄目ナ奴ダッタワ。忘レロ」

「無理ダヨ!?」

「アア、ソウダ、埋護姫倒シタワ」

「ア、アレ倒シタノレ級ナノ……デモソレヨリ世論操作……」

「忘レロ」

 いいから忘れるんだという絶対に話さないという鉄の意思と鋼の強さを感じるレ級の態度に、北方棲姫はとりあえず聞きだすのを諦める事にした。もちろん今後追及するつもりである。

「オレモマダ大将ニ拾ワレテ半年クライダシナァ。ヤバイ所ノ穴埋メトカシテタンダケド、最近艦娘ガ増エタカラソッチニ任セテ他ノ事シテンダヨ」

「私ノ勧誘トカ?」

「ソウソウ」

 もっと前に来ればよかったのに、と北方棲姫は思わなくもなかったが、下手なタイミングだと視界に入った瞬間に逃げていた可能性もあるので何とも言えない。

「今日モコノ後、別ノ奴迎エニ行クゼ。オ前ノ僚艦ノ予定ノ奴」

「ウン、チョット待ッテ……」

 北方棲姫は頭が痛くなってきた。

 

 

 

「コンナ場所ニ居ルノ?」

「居ル……ラシイゾ、オレノ能力ジャネーカラ本当カハ知ラン」

 戦艦レ級とその小脇に抱えられた北方棲姫はとある島の海側からしか入れない、ゲームのダンジョンのような洞窟へとやって来ていた。深海棲艦はそんなに夜目が利かないため、奥の方はよく見えない。

 帰りが楽になるから一緒に行こうぜとレ級の脇に抱えられ、家を飛び出し、音速を超える速度で一緒にここまでぶっ飛んで来た北方棲姫だが、道中でさんざん恐怖の涙を流したため、今は結構平静に戻っていた。

「アア、ヤッパ居ルゼ。耳澄マシテミナ」

 言われた通りに音に集中してみると確かに、奥の方からなにやらベーイベーイと鳴き声とも泣き声とも区別のつかない何かが幽かな波音に混ざって聞こえてきていた。

「正体ガネタバレサレタ気ガスル……!」

「アッレェ……? 深海棲艦仲間ッテ聞イテタンダケドナァ」

 訝しがりながら尻尾の艤装から探照灯を照射すると、レ級は北方棲姫を抱えたまま奥へと進んで行った。

 

 

 

「ひぇっ……! だ、誰!? 人間……? ぼ、ボクはガンビア・ベイ、ただの迷子のアメリカの艦娘だよ!」

 少しだけ奥に行った所で、探し人は見つかった。探照灯に照らされて、照らした側の様子は逆光でよく見えなかったらしい。人間だろうと勘違いしている。

 ツインテールにされた白い髪、目の色もなんとなく全体的に白っぽい。そいつは肩の出た服を着て、周囲に浮き輪のような何かを侍らせ地面に座り込んでいた。

「オマエノヨウナガンビア・ベイガイルカ!!」

「あ、ああ……!? 深海棲艦!? もうだめだぁ、おしまいだぁ……」

 流暢に喋ってはいるが、明らかに艦娘ではなく深海棲艦の特徴を持っているそいつは、レ級の籠った様な声の調子で二人の正体に気づいてしまった。浮き輪のような深海棲艦を抱きしめて、涙を流して震え出す。

「上司ノ人ノ情報、正確ミタイダネ。ダッテコノ人……」

 どう見ても護衛棲水姫です。本当にありがとうございました。

 

 

 




地獄(吹雪とランダム遭遇する)
ガンビア・ベイを名乗る不審者ってやろうと思ったら幼女を抱えたまま探照灯振り回す奴の方が不審者になってしまいました。


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×収集 〇強奪

 ヤター鎮守府でのネット環境できたよー。

 深雪が轟沈したわーとか言いながら食堂に入ってきてリアルにお茶吹いたその日の夜、酒保からようやく届いたノートPCの環境設定をパパっと済ませて、曙と相談して置いたテーブルの上で久しぶりにネットサーフィンを行った。タッチパッドがちょっと使い辛い。

 お気に入りの絵師の居場所とか探しなおすのは苦労したけれどノートは結構快適に動いてくれて、性能面では不満が無い。オンボードなので3Dモデル処理の要るゲームなんかはまともに出来ないだろうけど、そもそもそんなのやってる暇はないしな。マウスとマウスパッドだけは今度買おうと思ったけど。

 巡回予定のサイトを一通りブックマークして、やってまいりましたエゴサのお時間です。正直やらない方が精神衛生に良い気もするけど、やらずにはいられない微妙な乙女心である。私は中身男だけれども。未だに女の子の自覚あんまりないんだよねぇ不思議な事に。

 伊吹スペース雪と入れて検索スタート。トップに躍り出る自衛隊のホームページ。まぁ、そうなるな。検索候補に伊吹 雪 かわいいとかあるのは見なかった事にしておく。

 自衛隊は特に目新しい情報は公開していなかったので次へ行く。開いてみたらまとめサイトのようで、この間の事件の事がかなり詳細に纏められていた。私の名前とか教官長の名前とか飛鷹さんの階級とかまで載っている。教官長結局特定されたのか……ドジっ子扱いされてるの可哀想なんだけど。大丈夫? 訓練所に戻れる?

 ネット上には私の情報も増えていた。どういう訳か訓練所での様子が一部漏れていて、他の娘達を一人で相手取って訓練していた事まで書かれている。知られて何か問題のある話ではないだろうけど、どっから流出したんだこれ。同期の誰かが書いたのかなぁ。

 ついでに掲示板の方も覗いてみると、一話丸々霰さんに雑コラされたスランプしてるドクターな漫画とかが投稿されていた。作った奴暇過ぎませんかね。

 あと地球割るシーンだけ私になってるのはなんなん。

 相変わらず書き込みはふざけている物が多いが、どういうわけだか以前より召集の是非の書き込みとかは減っていた。私が醜態を晒したあの事件のインパクトが弱まればまた増えるような気はするけど、せっかく公開されちゃったんだし出来るだけ長持ちしてほしいものである。無関係のスレにまで出没して議論するから邪魔な事この上なかったからさ。

 でも音MAD作るのは止めて欲しい。まともなのが売ってなくって良いイヤホンじゃないんで音漏れが怖いから音量小さめにして見るしかないじゃないか。

 

「何その動画……」

 音声を無理やり合成して喋らせる動画からタグを辿ってどれくらいネタにされているのか調べていたら、後ろから曙の呟きが聞こえた。振り返ってみると、眉を寄せて心底理解できないといった表情で画面を覗き込む曙と目が合った。結局音が漏れてたっぽい。

「ごめん、うるさかった?」

「音はそれ程じゃなかったけど……それ、吹雪を馬鹿にしてるのよね?」

 なんでそんなの視てるの? と名状しがたい物を見るような目を向けてくる。御尤もである。

「興味本位?」

「嫌じゃないの、そういうの」

「かなり恥ずかしいけど……別に、馬鹿にしてるとか貶めたいとかそういうのじゃないし、構わないかな」

 こう、メンタルに来るものはあるんだが、それ以上にコメントが滅茶苦茶明るいのでいいかなって気分になるのだ。暗いニュースばっかりだし、私としてはネタ動画が増えてくれるのは嬉しい。私以外が素材だともっといいが、動画に撮られた私の声は自分で出して自分に聞こえるそれとはまた趣が違い、正直他人の声にしか聞こえない。なのでそれほど嫌悪感とかも無いのだ。

 でも曙には、説明してもあんまり理解してもらえなかった。そりゃあそのはずで、書き込まれた文章は草が生えてたり性的な事を想起させる内容だったりして、一見すると嘲笑されてるように見えてしまうのだ。ネット上の文化を理解してないと悪意や敵意から作られたものではないと分からないだろう。俺の股間にもパンチしてくださいとかレベル高すぎるだろ死ぬぞ。

「でもそいつら、良い事しても悪い事しても文句ばっかり付けるじゃない」

 確かに。どんなものでもとりあえず物言いがつくのがネットの悪い所であり面白い所である。動画の範囲内だと人助けしかしてない私も批判されるくらいだから筋金入りだ。ただ、それがどこまで本気なのかというと別問題で、本気でそんな事言ってる人なんて一割も居ないだろうというのが正直な感想である。

 何せ、某ちゃんねるなんて五割が全文読まないでスレタイだけで判断して書き込んでったりする場所だからな!!

 正気の人がただの遊び場だと理解せずに見たらそりゃあすれ違う。おふざけと悪ノリとマジレスと煽りの間隙から本当の考えなんて導き出せるはずもない。一見で理解出来たら天才だ。メンタリストになれますよ。特に最近ストレスでも溜まってるのか以前より色々激しいし、むしろ昔に戻ってる感じがする。

 という内容を比較的オブラートに包んでただ私の心配してるだけの曙に言ってみたが、納得はしてもらえなかった。言葉の端々から嫌悪感を感じるので、以前に何か嫌な物でも見たのかもしれない。

 とりあえず良いイヤンホホかヘッドンホホも取り寄せてもらおう。もっと変な動画見る予定だし。

 

 

 

 あくる日、戦闘部隊が取り戻した深海棲艦が拠点として使っていた島に赴いた私達は、そこに集められていた資源を回収すると次の島に向かい、そこの敵を殲滅したらその島にも資源が集められているという幸運に出くわした。

 やってる事が採掘とか採集とかじゃなくて強盗になってるけど、効率はとても良いので助かる。悲しむ人も居ないしな、悲しみそうな集積地棲姫は資源と一緒に船に積み込んであげたし。

 しかしこの集められた資源はどこかに送られる予定だったんだろうかと教官長達と話していると、偵察機からこちらに向かう輸送艦発見との一報が。やったぜと思って倒してみたけれど中身はからっぽで、荷物を取りに来た奴だったんだろうと思われた。こいつが本部か別の戦線か知らないけど何処かへと運ぶ手筈だったんだろう。

 そんな事をやっていたら船の積載がギリギリになってしまったため、一旦鎮守府に帰港して荷物を降ろして再出発。次に戻って来れた時はもう三時を回っていて、おかげでお昼がだいぶ遅くなってしまった。

 

 結局午後の便も終わるのが遅くなってしまい、帰ってきたらもう深夜一歩手前。明日も早朝からお仕事なのでさっさとお風呂入ってご飯食べて報告書書いて寝なきゃいけない。一人部隊の旗艦だからちょっとした書類仕事があるのである。齢十三にして前世より社畜してる。

 駆逐艦だしちゃちゃっと入浴を済ませて食堂へ赴くと、長門さんが赤い顔でテーブルに全身を預け胡乱な目でコップを握りしめており、その様子を肴に隼鷹さんが日本酒を嗜んでいた。奥には宮里提督と龍驤さん、テーブルを繋げて加賀さんに夕雲さんと秋雲先生も一緒に卓を囲んでいる。戦闘部隊の成人組と提督で飲んでいるようだ。

 私に気づいた提督がお疲れさまと声を掛けてくれたのでお疲れ様ですと返すと、隼鷹さんが吹雪も飲む? と言って来た。本気な訳もないので軽くお断りして自分の食事を始めると、長門さんがふらふらしながらこちらへ歩み寄りがばっと抱き着いて、こんなに小さいのに吹雪は頑張ってるなぁ……と私の頭を撫で始めた。長門さんが大きいだけで私は年齢別で平均くらいである。

 提督が酔いの回った長門さんを私から引き剥がし、ごめんなさいねとおっしゃるので、長門さんは褒めたかっただけみたいなので別に謝る必要は無いですよと伝えた所、提督にも撫でられてしまった。さてはこの人も酔ってるな?

 二人が席に戻ったので食事を再開すると、秋雲先生が向かいの席にやって来て近況を質問された。まぁ忙しいけどそれほど苦労はしてないですよと返答して、こちらからも戦闘部隊の事を聞いてみると、昨日成功したのでまた敵戦力を削りながら次の島を攻略していく事になっているらしい。深雪の事もあったので心配なのだが、私達も日ごとに強くなってるし絶対大丈夫だよと秋雲先生は胸を叩いた。

 

 食事を終えると本格的に長門さんが駄目になっていて、龍驤さんも椅子に寄りかかって眠ってしまっているのが見えた。提督が部屋まで送ってきますねと長門さんを背負い、食堂を出るのが私と同時になった。

 提督だって酔っているように見えて心配なので、歩調を合わせて一緒に行く。吹雪ちゃんは優しいですねと提督は言うけど酔っぱらい二人を放置する方が精神衛生的に悪いと思うの。っていうかちゃん付けになってるし大分回ってますよね提督。

 途中収集部隊の面々とすれ違い、一階を過ぎて階段を上がると廊下の電気が消えていて真っ暗だった。灯火しようにも電源の位置が分からなかったので、仕方なく手元で明かりを点けると宮里提督が驚いたように声を上げた。

「何ですかそれ!?」

「ああ、無効化貫通能力を圧縮すると光るんですよ」

 何ですかそれ!? ともう一度言った提督に説明したけど、感覚的に理解が出来ないようだった。まず自分の体に貫通付与とか考えたことが無かったらしい。

「そもそも艤装以外に供給できるなんて聞いた事が無いですし……」

「たぶん艤装無しで出来るのは提督の人だけだと思います。魂から艤装へのラインに流すのではなくて、自分の体に直接回す感覚でやってます」

 暫く廊下で試してみたが宮里提督には上手く光らせられないようで、それ以前に自分の体に無効化貫通能力を流せないようだった。あれ、もしかしてこれが提督としての私の得意分野なのか?

 

 

 

 そんな事があってから大体一週間。戦闘部隊は一つ二つと着実に敵の拠点となった島を開放し、収集部隊も活動範囲を広げて行った。

 私はそのうちは敵の数も減るんだろうと思っていたのだけれど、活動場所が移り変わるおかげか新鮮で活きの良い深海棲艦が毎日のように大漁だった。毎日のように姫か鬼に出会うくらいには大漁だった。

 敵の数もそうなんだけど、変な方から来たりもするので走る回数が増えて妖精さんの替えが足りなくなり、収集部隊の人達から分けて貰うなんて事態にも陥ったりした。

 そうやって深海棲艦を拳で倒していて、ふと、殴ってばっかりで他の事をあんまり試してないなぁと思ったので、チョップしてみたり踏み潰したり蹴り砕いたりしてみたのだがいまいちしっくりと来ない。鎮守府に帰り付いてから、どうしてでしょうと教官長に相談してみたら川内さんが話に乗ってきて、とりあえず各攻撃法を見せてみる事になった。パンチ、キック、チョップ、スタンピング、とりあえず海の上でやって見せたら、川内さんはフォームひっどいねと呆れたように笑った。

 カラテの有段者であるらしい川内さんに手取り足取り矯正してもらうと、確かに動きが引き締まった感じがする。一時間くらいだけどいろいろ教えて貰って、結果的に全体的に隙とか減った気がするので今後も習えそうな事はご教授賜りたい。チート能力さんが結構な速度で吸収してくれるしね。

 川内さんに本格的にやってみないか誘われたが、それは相手がヤベー事になる気しかしないのでちょっと。川内さんフルコンタクト派らしいし。

 

 

 

 ある日、いつも通りに遭遇した深海棲艦を倒していると、飛行場姫(五日ぶり三度目)と遭遇したので倒したら、珍しく胸の方に穴が開き顔は無事な死体が出来上がった。私は基本的に姫級は連装砲の左右で顔と胸の両方を狙うんだけど、大抵は胸に先に命中して艤装が損壊→顔面に当たって致命傷の流れになる。でも今回は逆だったらしい。

 収集を終え、私が周囲に残っていないか警戒していると、綺麗な顔した死体を検分していた暁教官長が飛行場姫の目を閉じ、汚れを払ってやっているのが目に入った。

「ああ、気になった? 敵だけど、流石に死んじゃったらね」

 こちらが見ている事に気が付いて教官長が苦笑いする。私はそういうの全然気にしてなかったからちょっと新鮮だった。

「女の子ですもんね、一応」

「女の子……なのかしら、深海棲艦って」

 教官長は思案顔になったが、すぐに気を取り直して飛行場姫を持ち上げ船の方へと運び出した。

「どうして攻めて来たのかは知らないけど、この後たぶん解剖されたりするんでしょうし、最期の身だしなみくらいは……って思っただけだから、手加減とかしたら駄目よ?」

「あ、それは大丈夫です」

 深海棲艦殺すべし、慈悲はない。とまでは言わないが、よほどの理由が無ければ躊躇しないと思う。それで身内や仲間が死んだら泣けもしないし。

「姫級相手にそんな情けを掛けてられるの、ここくらいよね」

 飛鷹さんの呆れた声に同意の声が多数上がる。教官長も確かにと頷いた。

 そうは言っていたけれど、後々よく見るようにしてみたら、収集部隊の皆さんは結構そういう事をやっていた。何と言っていいか分からないけど、嫌いじゃない。

 

 

 

 という事があってから早二週間。戦闘部隊の人達は頑張って担当区域の拠点をほぼ制圧する事に成功していた。しかも最初の深雪以来轟沈は出なかったらしいし、本当に優秀な人たちである。

 私達も行動範囲がやたら広がって、午前中に出て昼をまたいで夜に帰る事も増えてきた。鎮守府の周りはだいぶ落ち着いてくれたようで、私が護衛していない収集部隊が近海を回り始めたりもしている。敵が来たら逃げるし慎重に航行しているから効率は今一つらしいが、やらないよりはだいぶいいとの事である。

 危なく収集部隊の船にまで辿り着かれそうになったものの最近上がり調子な飛鷹さんが一撃入れて怯ませている間に私が間に合う、なんて一幕があったりしたけど、なんとか今日も鎮守府に帰り着けた。資材の搬入と確認作業を行う収集部隊の皆さんと分かれ、一風呂浴びて食事して、倒した数とかを書類に記したら自由時間である。と言ってもネットするだけだけども。

 最近、漣から連絡があって艦娘専用のチャットルームが開設したとの事で、動画見ながらそこに入り浸るのがマイブームである。スマホでのグループもあるらしいんだけど私ガラケーだからうん。

 他の鎮守府の近況とかを聞いたりするんだけど、いろいろな証言をまとめた結果、どうもうちの鎮守府ってブラックなんじゃないかという疑惑が浮上した。

 漣の所とかは自分達から拠点に仕掛けに行く事なんてほとんどないらしく、そもそも範囲内に明確な敵拠点が見当たらないとか。これには秋雲先生も苦笑い。山風の所はそれよりは出撃頻度も拠点攻略もあったけど、姫級なんて一度見ただけで気が付いたらろーちゃんが魚雷で吹き飛ばしてたから戦ってないって言うし。待って、うちの鎮守府なんなの。

 と思ったら夕立の所の鈴谷さん曰く姫はともかく鬼は結構見るとの事で、初雪の所も金剛さんが主砲斉射したり三式弾で拠点ごと燃やし尽くしてなんとかしてるだけで十回以上は鬼級姫級と遭遇しているらしい。鎮守府ごとの難易度格差が酷い。

 ちなみにうちの戦闘部隊も合わせて十三体倒している。これで轟沈一回だけってなんだよエリートかよ。私が倒した分も入れたら次点の提艦隊にダブルスコア余裕なんだけど。本当にドコなんだよ……ここは……

 あと、死亡者なのだがこれが不思議と未だに出ていないようなので安心である。巻雲と清霜がMIAになって翌日に鎮守府近くの浜辺に打ち上げられてたとかそんな事はあったらしいけど。

 

 そんな感じでお互いの近況報告やら最近見つけた面白い動画とかの話をしてたら曙が帰って来たので、一緒になってネット上でお話する。目の前に居るので変な感覚だが他の娘とも話すから仕方ないのだ。

 暫く皆でキャッキャウフフしていると、鈴谷さんが新しいのあったよと画像を一枚貼り付けた。開いてみると、吹雪VS深海棲艦VSダークライのコラ画像だった。ダークライさんまた巻き込まれてる。

 どういうわけかこの人たち、艦娘関連のネタ画像を見つけてはチャットに張り付けてくから油断してると恥ずかしさがぶり返しそうになる。最近は慣れてきてネタ動画とかなら大丈夫なんだけど、元のアレを見せられると頭がおかしくなって死ぬ。

 そんな流れになるたびに難色を示すのが曙である。別に流れを遮ったりはしないのだがどうにも好かない様子で、貼られた画像を見てはこちらの様子を伺ってくるが、私はむしろ笑ってたりするので特にそれ以上何も起きない。

 ネット関連で何かあったんだろうけど、聞いていいのか分からない。というか、本名と合わせて大体何があったのか想像できちゃうのがなぁ。曙の名字は住吉っていうんだけど、深海棲艦が海に現れてから起きた事件で有名な物の中に、その名字の人が起こしたのがあるんだ。

 おばあちゃんが家に忘れ物取りに行って深海棲艦に砲撃されて、連れ戻そうとしたお巡りさんとかを複数巻き込んで亡くなったって話だから悪いのは完全に深海棲艦なんだけど、これがなんで有名なのかっていうと動画が残ってるからなんだよね。しかも曙のものらしき声も入ってる。

 まぁ叩かれましたよね、そのおばあちゃん。ボケが入ってたらしいから責めるのもどうかと思うんだけど、私の覚えてる限りでも見捨てろよとか死にたい奴は死なせとけよとかそんなのを見た覚えがある。しかもお巡りさんの方も叩かれたんだよ、意味分からん事に。たぶんそういうの見ちゃったんだろうなぁ。

 ちなみにその事件に巻き込まれたお巡りさんの名字は化野で、漣の名字も化野である。偶然かな?

 

 

 

 

 

 

 

 発足から三週間と四日。宮里艦隊は資源収集の目標を達成した。

 どうしてこうなった、と宮里 幸は回顧する。長門や龍驤に諦めないとは伝えたが、本来なら有り得ない事態で、期限まで少し残っている事に背筋が粟立つものを感じた。

 当初は普通の艦隊よりもかなり早いペースで集まっている程度で、あまりに高いノルマの前には無力に等しい収集効率だったのだが、事態が変わったのが五日目である。前日までに吹雪をほぼ単騎で運用し、限界がどこにあるのか大まかにでも把握しようとして失敗した宮里はその日、賭けに近い指示を出した。

 宮里には預けられた艦娘を最大限に有効活用する義務がある。そのために後ろめたさを感じながらも、収集部隊と護衛の吹雪に無理難題を投げかけた。

 それが未制圧の敵収集基地の強襲である。

 当然ながら不可能と判断される場合は各自の判断で即帰投、吹雪にも無理な事は絶対にしないようにと伝えられたのだが、当の本人はとても軽い調子で出発して行き、普段通りに制圧を完了した。

 その一報が届いた時、宮里は完全に理解した。ああ、本当に、次元が違う。吹雪の制圧した島は、前日に戦闘部隊が轟沈者まで出しながらようやく敵を排除せしめた地域と、大差のない戦力が存在していたはずなのだ。それこそ、初日の変色海域よりも数が多いくらいには。

 この子には、こちらが掛けなければいけない保険が枷にしかなっていない。いやそもそも、保険になっているのか怪しいものだ。彼女がどうにかされる相手に他の戦力を搔き集めた所で到底勝てるとは思えない。

 海から帰った吹雪はいつもと何ら変わらない様子で、いつもと同じように午後の収集へと出かけて行った。とても死闘を演じて来たとは思えない様子に、恐らくは普段とさほど変わらない作業でしかなかったのだろうと察する。その日の出来事を知った長門が慣れない酒に呑まれてしまったのを責める気にはなれなかった。

 翌日からはもう遠慮はなく、多少敵が多い地域にも吹雪を派遣して、それとは逆の方面へ戦闘部隊を展開した。それで問題なく回るのだから止める事も出来ない。宮里も変色海域ギリギリを攻めていく姿勢を見せたため殲滅はさらに加速した。

 収集部隊とは名ばかりの略奪部隊と化していたが、深海棲艦が悠々と集めたそれを掠め取るのは、さながら蜂の巣から蜂蜜を採集するかの如き素晴らしい効率を産み出した。

 また二週間も経つ頃には鎮守府近海からは深海棲艦の気配が消え、護衛を付けない収集部隊が出動可能になった事も収集速度に拍車をかけた。

 そして本日、収集部隊の戦利品を整理した結果、目標となっていた霊的資源の量に達してしまったのである。

 前提として敵が効率的な収集を行っていなければ成立しないやり方で、敵の減った今では同じ海域で同じ事は出来ないだろう。これ以上を求められたら毎日変色海域に繰り出すしかない。宮里としては流石にそれは勘弁願いたい所である。自分の脳内に艤装の状態が悪くなったと通知が来るたびに胃が痛くなる思いをするくらいなのだから。

 だがしかしである。経験を積み練度を上げ、姫級であっても斃してみせる戦闘部隊、その戦闘部隊と同等以上の戦果を挙げながら同時に護衛までこなす吹雪。異常な量を収め続ける収集部隊。この時、宮里艦隊の評価は既に、ちょっとおかしな事になっていた。

 

 それにしても、と宮里は思う。吹雪は戦力としても異常なのだが、それ以外も所々がおかしい。

 例えば書類仕事。便宜上護衛部隊の旗艦なために毎日提出させているのだが、これがどうにもおかしな点が見受けられない。間違っていないというのが間違っている。吹雪は十三歳の中学生でありこんな物を書き慣れているとは思えないのだが、忘れた事も遅れた事も特にない。

 例えば体力。ほぼ休みなく、妖精さんが尽きるくらいまで走り回っているはずなのだが疲れた様子は見えず、毎日休み明けのような顔色で鎮守府を出ていくのだ。余りにも元気過ぎて待機命令も出し辛いくらいである。

 例えば格闘能力。深海棲艦を拳で跡形もなく吹き飛ばすというのに、体の使い方は完全な素人だったらしいのだが、今現在では殴り合いで川内が普通に負けている。天才だわこの娘と川内は言っていた。魚型の深海棲艦を粉々にしないように殴り殺せるようになったそうである。

 弱点は自分からコミュニケーションを取りに行かない事だろうか。話しかけられれば素直な応対で返しているし必要なら質問も普通にしてくるが、自分から雑談を始める所は見た事が無い。そのため積極的に話しかけていく天龍はともかく他の艦娘達とは問題も起きなければ交友関係も築けていない様子で、概ね訓練所からの知り合いとばかり仲良くしているように見える。

 実力と自己評価が一致していない一面も見られ、過剰に他人の評価が高い……というか、自身への評価が妙に低いように感じる事もあるが、それは欠点か美点か微妙な所だろう。

 

 吹雪のような超適性の人間がどうして生まれたのか当然ながら調査はされているのだが、両親は人当たりの良い普通の人達で、生まれも育ちも異常性は無い。宮里にも回って来た調査報告によれば、学校での素行もある一点を除けば問題なし。今の所どうしてああなったのかは全く不明で、ただの突然変異的な物か、他の高適性者が周囲に存在している点から土地柄ではないかとも言われている。

 ある一点とは趣味嗜好の事で、三次元の人間に性的な興味が持てないと学内で公言していた事が判明している。友人は男性の方が多く、本人の趣味は男性的であり私服にスカート等の女性的なものは一切ない。無作法でないため公的な場では目立たないが、時折垣間見える所作はどことなく男の子のようで、化粧や装飾品にも興味を示さない。だが有体に言って美形であり、飾り気は無いが色気はある。そのためたいへんおモテになられるらしいのだが、本人はそれを嫌がっている。

 所謂オタク趣味であり、少年漫画や美少女漫画を好む傾向にあり、少女漫画や耽美方面に関しては興味が無い。アニメは動画配信派。なんでこんな情報があるのだろう。宮里は嘆息した。

 身体能力に関しては本人が秘匿していた節があり、百メートルを十秒で走りきる脚を持っている事などは両親ですら記録を出すまでは知らなかったようで、未だに信じ切れていないらしい。隠していた理由は不明だが、嗜好と合わせて鑑みるに運動部への所属や面倒を嫌ったのではないかと思われる。人命救助が切っ掛けとならなければ未だに明るみに出ていなかった可能性もあるのではないだろうか。

 実際の身体能力は天賦の才と言う他なく、数カ月の部活動の後に女性としては人類最高峰の速度を手に入れている。それ以前になんらかのトレーニングや指導を受けていた記録もないため、素人がただ走る練習をしただけでトップアスリートを超え世界記録を叩き出した事になる。

 

 総括すると、全ての人類を過去にする身体能力を持っているだけで人格面はただのオタク気質な男子ではないだろうかというのが宮里の感想であった。

 降って湧いたはずの戦闘力に簡単に適応している点は異常であるが、これは艤装の影響だろうと考えられる。そもそも招集された全員にその傾向はあり、まともな訓練を受けていないのに一月で戦えるようになったのはそういう理由だろう。公式な回答は無いが、上層部は艤装が精神に及ぼす影響を把握していると思われる。

 酷い事をしている、とは思うが彼女達に頼らなければ撃たれるのは無力な人々だ。やらねばならない。そう思いながら吹雪から提出された書類に目を通す。姫級を三体討伐していた。もうやだこの海域。

 

 

 

 

 

 第一期の艦娘達が配属されてから約一か月。宮里は艦娘組織の中枢部、大本営を訪れていた。足を踏み入れた会議室には既に多数の提督と秘書艦が席に着き、一部の人間は何故宮里は一人なのかと怪訝そうな顔で見つめてくる。

 普通の提督は基本的に鎮守府運営を行っている自衛隊員と行動を共にしているが、宮里だけは自身が直接艦隊運用を行っているため、単独で大本営までやって来ても問題ない。そもそも秘書艦が戦闘部隊旗艦の長門なので連れて来るわけにもいかなかったのだ。

 宮里は第一訓練所で提督たちを相手に講師を務めていた。そのため秘書艦はともかく提督全員と顔見知りである。一人一人に挨拶すれば、皆が顔を覚えていた様子で挨拶を返してきた。一通り知り合いに声をかけ終わると、名前を探して席へ向かう。宮里の席は総司令である楠木のすぐ傍で、なんとも判り易い場所だ、と宮里は感じた。

 暫く報告書などの資料を整理していると、宮里を含めた九人の提督が揃い、その後から楠木を筆頭とした大本営の上層部が姿を現し、ゆったりと席へ向かう。

 全鎮守府合同の定例報告会、その第一回目が本日この大本営で行われようとしていた。

 

 

 

 報告会は楠木提督の時事の挨拶から始まり、恙無く戦果と各海域の現状に流れて行った。目立った戦果を挙げているのはやはり適性の高い者が多く、千を超える十一人の内で特殊任務に就いていた赤城と運用の難しい島風を除いた九人がそれぞれの鎮守府で力を発揮している。その中でも特に大きな戦果を挙げているのは四人。

 

 完成済みの敵基地を統率する姫級ごと三式弾で滅却し、甘い砲弾は拳で弾き飛ばす金剛。

 他者のフォローと戦艦としての攻撃力を両立し、艦隊全体の戦闘力を引き上げる榛名。

 そこ以外は普通の艦娘と大差ないが、一度の魚雷斉射で敵艦隊を壊滅させる北上。

 他の艦娘の戦果の合計と同等の撃破数を一人で叩き出した吹雪。

 

 吹雪に関して宮里が報告した時、提督はともかく秘書艦達は疑わし気な反応を見せる者もあったが、吹雪の討伐した姫級は全て写真記録が取られており、その特徴的な死体の様子から同一犯の犯行であると納得せざるを得なかった。

 各鎮守府近海は概ね敵からの侵攻を防げており特に問題の起きている場所はないようで、初日の宮里艦隊担当区域以降は変色海域の出現も観測されていない。本州防衛は今の所上手く行っていると言えた。

 

「さて、諸君らに集めて貰っていた資源に関してだが、全ての鎮守府が目標を達成。問題が起きなければ今月中にも第二回の適性検査が行われる事になった」

 おお、と提督たちから感嘆の声が漏れる。宮里艦隊のノルマを知っている者から猜疑の目を向けられたりもしたが達成しちゃったものは仕方ない。宮里はもう開き直っていた。

「それどころかある程度余裕も出来た。大きな作戦を実行できるくらいにね」

 楠木提督は一度言葉を切り、真剣な口調でまた話し始める。

「今月まで大本営の所属として、北海道、四国、九州への偵察任務を行っていた赤城君から、三島全てに生存者が確認できたとの報告が入っている」

 知らされていなかった人間達が騒めく。今までも生存者と思しき反応は見える事があったのだが、通信は出来ず、海岸線に近づく事も難しいためはっきりとした状況は不明だったのである。それを高適性者の偵察機で無理矢理変色海域を抜けて調査していたのだと言う。

「それによれば各島とも海岸線から離れた地域に生活圏を構築しているものと見られるが、周囲の陸地にまで深海棲艦が闊歩しており予断を許さない状況との事だ」

 故に、と楠木ははっきりと宣言した。

「我々は来月、第二期適性者が配属され次第、国土の奪還へと向かう。 最初の目標は四国だ!」

 若い提督たちと気炎を上げながら、やはりそうかと宮里は思う。宮里艦隊の鎮守府は位置的に四国と近い。明らかに意識的に敵の戦力を削らされていたのだ。そうなると次は……

「それに伴って、宮里艦隊には拠点作りに邪魔な敵性体の排除と該当地域の変色海域の正常化へ動いて貰いたい」

 ですよねぇ。宮里は瞑目した。

「護衛部隊から吹雪を外す必要がありますので、収集効率は今までよりも落ちてしまいますが」

「構わん。必要な分は今日までに納めて貰っているよ」

 艦隊運用に関しては今まで通りの編成に吹雪を旗艦とした一隊を加えればいいだろう。問題は誰を吹雪と組ませるか、という点になる。

「……出来れば一人、こちらへの転属を許可して頂きたいのですが」

 宮里の指名した艦娘は配属先で持て余されており、願い出は大した問題もなく受理された。そんな簡単に通るなら最初からうちに配属して欲しかった。心からそう思った宮里であった。

 

 

 




曙の問題はたぶん吹雪の知らないところで漣と解決するんだと思います。


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島風の吹いた日

 お給料の明細がえらい事になっている。

 宮里艦隊発足から一月、私達は二度目の給料日を迎えた。提督が大本営へ会議に行ってるのもあって今日は私や戦闘部隊の皆、収集部隊の人達も鎮守府で待機だったので、受け取った給料明細を開いてみたら嫌な汗が出ること出る事。

 給料明細って九桁行けるもんなんだね初めて知ったわ。

 いやなんすかこれ、億超えてるんですけど頭大丈夫ですか。そう思ってちゃんと詳細を確認したら割と納得行った。

 訓練生の時も貰った基本給、訓練所卒業して艤装を扱う免許を取得した故の技能給、旗艦やってるために発生した管理職手当。ここまでなら前世と比較して滅茶苦茶高給って程度で済むんだけど、それら以外で悪さしてる奴が居やがったのだ。

 それが討伐報酬である。これは報奨金の掛けられた深海棲艦を倒した艦隊に与えられるもので、その対象は現時点では姫級と鬼級全て。姫級一体一千万、鬼級一体八百万。これを人数割して支払われる。あんまり差が無いのは実は姫級鬼級を決めてるのが妖精さんで名前付けてるのもそうだからだろう。たぶん金額決めた側がどれくらい差があるのか分かってない。私もよく分かってない。

 それで、私が先月倒した姫級と鬼級は全部で四十体を超える。そして私の所属する第四艦隊は人数が一人なので姫と鬼が同数だったとして、締めの日の関係で40体からは少し減るはずだから30体としても1000万~800万×30÷1でもうなんだこれ。たぶん前世で定年まで生きてたとしてもこんな稼げなかった自信があるぞ私は。

 こんな事になったのはたぶん、この組織が軍隊ではないという事になっているせいだろう。私達は一応公務員なのだが、法律的には資格を取って国に雇われた深海棲艦駆除のプロというのが近い。戦闘行為じゃなくてただの駆除作業ですよという建前なのだ。だから厄介な案件にはしっかり手当てがついてくるという訳だ。

 うん、実はこの日本で深海棲艦って文書の上では敵性体や侵略者と見做されていない。人権とかなんとか以前に、あいつらは法律上、ただの害獣扱いなのである。それが私達が軍隊じゃないのに戦える法的な根拠になってるらしいんだけど詳しくは知らない。

 なのでたとえば何らかの方法で人間が艦娘使って攻めて来たとしたら私は艤装で応戦する権利が無かったりする。あくまで砲口を向けていいのが深海棲艦だけなのよね。

 

 話が逸れたがこの大金どうしよう。いや無理に使う必要とか無いから取っておけばいいんだけど、有るとなるとちょっとくらい贅沢しても許されるかなって気分になったりならなかったりする。プレミアム付いてる昔のLDとか見てみたいのあるし。

 あ、でもお金使うのに書類書かないといけないのかなり面倒くさい。ちょっと意欲が萎えた。成程、天引きじゃないのはこういう理由か。っていうかカードとか無いから通販するにしても振り込み? 鎮守府から出来るのかそれ。

 

 自分の贅沢は置いといて、誕生日がそろそろの父に何か送っておこうと思って酒保へとやって来た。今、私の両親は国に保護されていて家に居ないので何か届けたり出来るのかよく分からない。だから確認する必要があったんですね。

 酒保では深雪が仕送りのために書類を認めていた。今日は一人で来ているようで、こちらに気付くとおはようと軽く手を振った。

「吹雪は買い物?」

「買い物もするけど、今日は荷物届けたりとか出来るのか聞きに来たのがメインだね」

 深雪に返してレジのお兄さんにやりたい事が出来るのか聞いてみると、お兄さんも判断が付かなかったようで確認してきますと何処かへ消えて行った。事例が特殊過ぎただろうか。

「……吹雪の親って避難所生活してんの?」

「ん、ああー、いや私のあれで実家特定されちゃって保護されてるだけだよ、妙に目立っちゃったみたいだから仕方ない」

 明確に特別扱いされてるけどまぁ艦娘の身内だからそんなもんなんだろう。

「うへぇ、ゆーめーぜーって奴か。家まで変なの来んの?」

「来たらしいよ。私は戻ってないからよく分かんないけど、家に入ろうとして捕まった人とかも居るらしいし」

「何それ怖っ」

「ねー」

 暫く買うものを物色しながらそんな話をしていると、書き込んでいた深雪の手が止まり、ペンをくるくる回して悩み始めた。覗いてみれば送る金額で迷っている。

「先月と一緒じゃ駄目なの?」

「叢雲もそう言ってたけどさ、今月かなり増えたからどうしようかなって……あ、吹雪も増えた?」

「ああうん、滅茶苦茶増えた」

 3億くらい。

「でも、あんまり送ると怒られるんでしょ」

「そうなんだよなーやっぱ、前と同じでいいか」

 そう言って深雪が残りの部分と格闘している間にレジのお兄さんが帰ってきて、届けるのは大丈夫だけどあんまり大きい物は止めて欲しいと伝えてくれた。私ほどじゃないけど読む方だし、レアな古漫画でも送ってみるかな……?

 

 

 

 

 

 翌日、宮里提督が帰ってきておっしゃる事には、私達はこれから四国に向かって変色海域を開放していく仕事に就くらしい。それに伴って護衛部隊は戦闘部隊に配置換え、収集部隊は継続するものの今までのような強行な遠征は行えなくなってしまう。

 再来週にも第二期の適性検査が行われ、私達と同じならその二週間後に招集。そこから一月後には新人が配属になる。私達もその時点でまだ三カ月目なんだから新人って気もするけども。

 暁教官長は無事に訓練所に戻れるらしく、とりあえず今月中には一旦お別れらしい。後々はどうなるか分からないけど今の調子だとまたこっちに戻される気もする。

 私の所属する第四艦隊だが、変色海域を攻めるにあたって他所の鎮守府から貰ってきて一人増員されるらしい。まぁ島さんだろうなと思ったら案の定島風だった。やべぇ鎮守府来てから一回も走ってないわ。聞き込みされたらサボってたのバレるわ。

 その日は収集部隊最後の大仕事として変色海域ギリギリを探索してきた。結構儲かったので良かったと思います。まる。

 

 翌朝、背中に張り付いていた島風を掛け布団に包んで縛って床に放って朝食を食べに行こうとしたらその状態からドロップキックされた。避けたけど。

 

 

 

「やっぱりあっちとは味付け違うんだねー」

 呆れかえった曙が解放してしまったので仕方なく三人連れ立って朝ごはんに行ったら、島風は鮭の西京焼きを頬張りながら食レポを始めた。なんでも全体的にこっちの方が丁寧な味がするらしい。前の鎮守府に居た給糧艦の人は艦娘になるまで料理とかあんまりした事無かったんだとか。

「それでなんで私の布団で寝てたの」

「布団が温まってたから」

 今の時期だともう暑いだけじゃないかそれは。真面目に理由を聞いてみると、真夜中に鎮守府に到着して部屋に案内されたのはいいけど移動中全部寝てたから眠気もなく、ちょっと出歩いてみたら私の部屋を見つけてしまい、まだ起きていた曙に部屋に入れて貰ったらすぐ眠くなってきたらしい。

 つまり曙のせいでは? と思って味噌汁を飲み干した彼女の方を見てみると、スッと露骨に目を逸らされた。まぁ悪い事した訳じゃないからいいんだけども。

「そういえば一人部屋なの島風」

 この艦隊、収集、偵察、戦闘、護衛部隊に分けて運用されてるんだけど、艦娘なら寮内での扱いは平等である。なので別部隊の人と同室も有り得るけど今は合計して偶数だったはず。部屋は余ってるけど人は余っていなかったと思うので、一人で移籍してきた島風はあぶれてしまう。

「そうだよ、二段ベッド一人で使えるよー」

「意味無ぇー……」

 まだ荷解きもしてないけどねと卵焼きを口に放り込んだ島風は、思った味と違ったらしくしょっぱいと漏らした。前のとこの卵焼きは甘かったらしい。

「良かったら私と部屋を代わる?」

 突然そんな事を言い出した曙に、島風は目を丸くしてオウッと鳴いて返した。

「どうせ入り浸るんでしょ? 実質三人部屋になるじゃない。訓練所みたいにやたら広いなら別にいいけど、ここでやられたら狭いし暑苦しいのよ」

「じゃあ代わってあげる!」

「なんで恩を売ったみたいな言い方したし」

 まぁどうせ毎日来るだろうし、同じ部隊で働く以上悪い事は無いだろうから島風と同室なのは構わんのだけども。

「曙はいいの? 一人で大丈夫?」

「人を寂しがり屋みたいに……別に何にも問題ないわよ」

 部屋の入れ替えはちゃんと申請すれば許可してもらえるはずなので、制度的にも大丈夫ではあるんだろうけど。

「いや寂しがりとかそういう事でなく、曙は何かこう一人で放っておくと……抱えたものを放出できずに色々ため込んだ挙句増幅して行って勝手にドツボに嵌りそうというか……」

「あんた島風が来たとたん遠慮が消え去ったわね!?」

 声が大きくなった曙に視線が集まる。この後戦闘部隊は招集が掛かっているのもあり、朝食を取っているのは私たち以外にも大勢居たわけで。曙は少し恥ずかしそうな表情になった。

 島風は曙の言葉を疑問に思ったのか、私を指差して言う。行儀悪いぞ止めなさい。

「吹雪って元々あんまり遠慮なくない?」

「島風や初雪くらいよ、気を遣われてなかったの。こいつ鎮守府に来てからすごく良い子してたんだから」

 ええー、と島風がこっちを覗き込んでくる。暫く見つめ合ったのち何かに思い当たったのか、そうかそうかと頷きだした。

「吹雪は人見知りするから」

「待って、それだと私同室の子にも一か月慣れなかったコミュ力って事になっちゃう」

「自覚無いの?」

「あるけども……!!」

 潜水艦の二人とか加賀さんとかまともに話した事無いくらいのコミュ力だけれども! 結局長良さんともほとんど顔つき合わせてないからお互い全然打ち解けてなかったりするけれども!!

「ああ、吹雪ってPC越しと対面で結構違うもんね、口調とか態度とか。あっちが素なんでしょ?」

「あれも素とは言い難いんだけど……」

 そんな風に思ってたのか曙さんよ。でも違うからね。ネットで使うミーム飛び交う口調が素だったらヤベー奴だからね。どんな萌えキャラだと。

「遠慮してると話もしてくれないけど、自分の方から行けば慣れてくれるよ」

「野生動物の餌付けか何かかな?」

「って金奈枝が言ってた」

「金剛さん……!?」

 いや確かに向こうからグイグイ来られて最終的に仲良くなったけどさぁ。その感想は知りたくなかったかな!

「慣れたら扱いが雑になってくるよ。遊びに行っても放置されたりとか」

「ほぼ毎日来るからだよ?」

 部活帰りに島さん、休日に島さん、訓練所で島風ってなったらそんな扱いにもなるわ。一年生後半はもう年末年始じゃなくてもうちで夕ご飯食べてたんだぞこの娘。

「召集の前から仲良かったってのは聞いてたけど、友達っていうかむしろ姉妹みたいね」

 曙の言葉に島風と顔を見合わせる。成程、とお互い頷き合った。

「でも吹雪は妹より弟って感じかなー」

「え、何歩か譲っても私が兄だよね」

「訂正するのそこ!?」

 まだまだ心根は男子だからね。TS転生者特有の精神変容とか全然起きる気配が無いから仕方ないのだ。たぶんそういう調整にしたんだろう、あの自称魔法使いさんが。

 

 結局、その場に提督も居たので許可を頂き、島風と曙は部屋を交換する事になった。提督は年相応な所を初めて見た気がすると感心したような様子だったが、私の中身もしかして子供っぽいんだろうか。前世と合わせたら幾つになるっけな?

 

 

 

 

 

 朝食を終え招集時間になり、私達は会議室に集まった。まずは島風の紹介から始まって、明日以降の予定に話が進む。

 まず設定された目標は四国攻めの出来る拠点の確保になっている。そのために私達が先だってやる事は何かというと、紀伊半島の解放である。この鎮守府からはそれなりに近いけれど、流石に毎回往復する訳にも行かないので泊りがけになったりもするらしい。というか変色海域から解放出来たらそっちに引っ越す予定だとか。ちなみに紀伊半島はまだ内陸部には人が住んでいる。まぁ広いからな紀伊半島。

 私達が居なくなったら今の海域はどうなるんだろうと思ったら、別の鎮守府が一緒に受け持つようになるらしい。範囲凄い広くなると思うんだけど大丈夫なんだろうかその鎮守府。

 ともかく変色海域の核を壊す事に注力させてくれるらしいので第四艦隊も遠慮なく最前線で戦わせてもらえるのだ。島風も入ったから速度もばっちりだしね。

 

「変色海域へ積極的に攻撃を仕掛けるようになるので、今まで以上に厳しい戦いになると予想されます。初日の時はなり立てでしたが、今後攻めるのは去年の深海棲艦の侵攻以来、一度も取り返していない地域……変色海域化してから時間が経っているため、完成した基地などもあるでしょう」

 宮里提督も苦い顔つきである。一艦隊でやる仕事なのかそれ、と思ったけど自衛隊の精鋭部隊なんてもっと少ない人数でやってたわ。もしかしなくても凄い人達だったと再認識した。

「皆さんの戦績を見れば今のままでも戦えないという事は無いでしょうが、大本営側としても出来うる限り戦力を整えてから任務に挑んで貰いたいと考えているそうです」

 目標は達成してもらいたいけど、無理して犠牲を出すのはよろしくない。結局適性値が150を超える艦娘って150人居ないらしいからなぁ。給糧艦とかは除いた数だけど、全人口合わせても千人行くか怪しい気がする。

「そのために今回、個別の改造が許可されました」

 今までは誰がどこを伸ばすべきなのか未知数だったのもあり見送られていたため、現状で改造までしてある――所謂『改』になっている艦娘はこの鎮守府に二人しかいなかった。ちなみに龍驤さんと川内さんだそうである。川内さん私に何かあった時のためにそこまでしてたのね……

 龍驤さんは元の艤装だと体に合わなかったとかなんとかそんな噂。

 

「改造の詳細については明石達を交えて個別に相談したいと思います。それ以外で何か質問がありますか?」

 その言葉に静かに挙手したのは夕雲さんだった。昨日提督から軽く話をされた時からなんだか張りつめている。元気がない訳ではなさそうなんだけど。

「大きな作戦になると各鎮守府から選抜されたメンバーで挑む事になる、という事ですが……その、基準などはあるのでしょうか」

 ああ、と宮里提督は何かに納得した顔になって、すぐになんとも言い辛そうな声色で返答した。

「基本的に選抜される艦娘は、その鎮守府の提督や秘書艦達が推薦して、大本営が最終的な決定を下す形になります。推薦自体に明確な基準は無いですね、優秀だと判断されれば得意分野が何であるかは関係ないんです……けど」

 宮里提督の言葉が止まり、目が泳ぐ。

「そもそも四国奪還作戦、宮里艦隊の戦闘部隊は全員参加です」

 ん? と誰かから疑問の声が漏れる。数秒の沈黙の後、それとは別に龍驤さんが声を上げた。

「うちら、そんなにヤバい事になってた?」

「なってましたね……」

 一部の世情に疎い娘とそういう話の苦手な娘以外は概ねそのやり取りで理解出来た。私もPCを通して他の鎮守府の戦果を知っているため大体の理由は察せられる。とても良い事をしたはずなので誇っていいと思うのだけど、長門さんも難しい顔になっていた。

「つまり、我々はやり過ぎた訳だな」

「言い方は悪いですが、そういう事になりますね」

「あの、具体的にどれくらいだったのかお聞きしてもよろしいですか?」

 青葉さんが興味津々に切り込んで行った。何の話か分かってなさそうな一部の人間以外は皆関心あり気で、私もどんなリザルトになったのかはかなり気になる。宮里提督は言って良いものか少し迷ったようだったが、最終的にはこちらをちらりと見ながら口を開いた。

「吹雪の戦果は除いて……」

 なんで?

「それでも次点の提艦隊と比べてダブルスコアですね」

 どよめきの声が上がる。分かっていなかった人たちもようやく内容が呑み込めたようで、驚いたりオレ達なら当然だなって態度だったりしていた。うんまぁ、そんな事になってたら全員参加だわ。なんだそのエース部隊。っていうか、その成績+私の撃破数が出せる海域って本当に何なの。よく誰も死ななかったな……

「……この艦隊の人数は他所より多いと聞いています。それなら個人の戦果はさほどではないのでは」

「いえ、人数で割った平均スコアです」

 加賀さんが正確な所を問うが、当然のように考慮されていた。逃げ場は無いね!

「なんで吹雪除かれたの?」

 一人だけ何も把握してない島風が小声で聞いてきた。私だけ別の事してたからだと思うけど、今する訳には行かないから後でちゃんと説明してやんよ。

 

 結局最後の方は宮里艦隊の強かった所や褒められた所、逆に課題になっている点の振り返りになった。

 宮里提督によると、第一から第三艦隊で特に想定以上の戦果を挙げたのは第三艦隊、つまり天龍さん率いる水雷戦隊だったとの事。他の二艦隊が悪かったのではなく、第三艦隊が思っていたよりも遥かに攻撃性が高かったのが原因だと言う。

 自衛隊にほとんど居なかった駆逐艦の火力が思いの外強かったらしいのだけど、その筆頭が秋雲先生だというから驚いた。訓練所じゃ優秀な部類には入ってもそんなに目立つ方じゃなかったんだけどなぁ。あれか、私には当たらなかったからよく分かってなかったとかそういう事?

 

 

 

「貴女が改造……? 資源が無限にある訳ではないのよ」

「どういう意味よ!?」

 会議が終わり部屋へ戻ろうと歩いていると、廊下の先から加賀さんと瑞鶴さんの声が響いてきた。冷静っぽく見えて完全に言葉の足りてない加賀さんと、素直にそれを受け取っちゃってトサカに来ちゃう瑞鶴さん。ここで暮らしていると割と見られる光景ではある。

「あの二人って仲悪いの?」

「そんな事は無いと思うなぁ」

 関係性を全く知らない島風には急に喧嘩し出したように見えたらしい。ただの日常会話なのだけど。

 

 我々の場合、改造は滅茶苦茶資材を使う。

 というのも、私達が今使っている艤装は初めから出来得る限りの底上げをしてあるからである。ゲームで言ったら近代化改修をフルにしてある状態なのだ。改造しようにも出来るだけの余剰が無いし、無理やりやれば下手すれば壊れる。

 なので今ある艤装を改造するのではなく、新しい艤装を建造してそれを個別に調整してから最大まで近代化改修的な事をする形になる。そのために資材を阿呆ほど消費するのだ。今使ってるのは鎮守府に予備として置いておくんだとか。川内さんが改造を許されたのは、たぶん戦闘部隊じゃないからほとんど建造時のそのままで使用していたのが理由だと思われる。

 更なる問題点として、この世界の改造は総合的にはそこまで強くならない癖に燃費は悪化する、というのがある。なんでも本来の形からずらすと燃料効率が低下していく傾向が見られるのだとか。そのくせゲームのように全体的な能力が上がるような事にはならず、あくまで長所を伸ばす、短所を補う程度の効果しか見込めないのだ。

 

 はっきり言えばこの改造、私はする意味が全く無い。

 

 だって私、能力的にはオールラウンダーという名のナニカだもの。長所も短所も特に無いんだもの。強いて言うなら攻撃力が強みだろうけどこれ以上そこを伸ばしてどうする。現状でもオーバーキルだぞ。

 まぁ、制服が変わる訳でもない辺り『改二』は別にありそうな感じはするんだけど、吹雪さんの不在が続いてるからその辺り聞けないんだよなぁ……

 

 閑話休題、とどのつまり加賀さんの言いたい事はたぶん、『現状でバランスが取れていて目立った欠点の無い瑞鶴は改造する必要性が薄い』って事だと思われる。タイプとしては私と同じですな。

 そんな訳で、私含めて今回は改造を見送る娘も多い。例えば深雪や青葉さんなんかも現状のバランスが合っているためそのままの方がいいらしい。

 逆に大幅に改造するらしいのが叢雲と天龍さん、それに秋雲先生と夕雲さんである。

 叢雲と天龍さんは二人揃って近接寄りの性能にするらしく、瞬発力や肉体強化を底上げしていくのだとか。訓練所だと推奨されてなかったけど、天龍さんとか砲弾切り払い出来るらしいし適性次第なんだろう。

 秋雲先生と夕雲さんは装備の種類を固定して柔軟性を無くしてしまう代わりに、それらの運用の効率を上げて行くとの事である。

 ちなみに島風はさらに速度特化にしたかったらしいけど、そもそも宮里艦隊での使用感がまだ不明なため改造自体許可されなかった。

 

 

 

 

 

「一応確認しておくが、海に出たら命令には従って貰うぞ。分かっているな」

「……ちゃんとした命令なら、聞きます」

「なら良し! 心配は要らないぞ、宮里はまともな提督だ」

 艤装を付けて途中で一緒になった宮里提督と集合場所まで出向くと、島風と長門さんが話をしていた。こちらに気付くと島風は駆け寄ってきておそーいと周囲を跳ね回り、連装砲ちゃんたちも一緒になってぴょんぴょんする。かわいい。それを見た自衛隊の二人はくすくす笑っていた。なんか私が恥ずかしいじゃん止めて。

 今日は私と島風が第四艦隊として上手く噛み合うかどうかテストのために海に出る。流石に即実戦投入は怖いものね。

「それじゃあ吹雪、島風を指揮下に入れてください」

 オウッと島風が驚きの声を上げた。この場合の指揮下に入れるとは、提督として無効化貫通能力を付与する事なんだけども。

「戦闘部隊は全員、提督が供給なさるんじゃないんですか?」

「基本的にはその予定だったのだけど……その方が島風は安心でしょう?」

 そうですけど……と呟いて、島風はちょっと悩んでから答えた。

「宮里提督なら別に、いいですよ」

「ありがとう、島風。でもごめんなさい……実は、私もう供給できる人数が一杯で……」

 オ、オゥと島風が困った声を上げた。珍しい。

 

 海に出ると島風は付いて来れるかと言わんばかりにタービンを回し、私を速度の地平へ誘おうとしてくる。競争するんじゃないんだけども、最大船速で並走できるかも大事っちゃ大事かなと思って一緒になって全力でやってみたら、ほぼ同じくらいの速度で延々追いかけっこする羽目になった。

 今回は哨戒ついでのテストなので敵が居たらある程度島風に戦わせなきゃいけなかったんだけど、やらせてみたら結構普通に戦えるようで、イ級くらいなら鎧袖一触。火力は物足りない感じだけど速いってのはやっぱ強いね、被弾ゼロだったし。

 島風は戦闘中はともかく走り回ってる間は終始楽しそうで、帰港した時も満足気だった。連装砲ちゃん達も嬉しそうだったし仲はとても良好なんだなこの子たち。

 

 

 

 

 

 検証を無事終えて運用に支障なしと判断されたため、これで私と島風の二隻で第四艦隊結成となる。宮里提督も帰り着いた私達を安堵の表情で迎えると、改めてよろしくと島風と挨拶を交わした。

 久々に思いっきり走ったよーと気分の盛り上がりまくった島風は、そのテンションのまま私の手を取ると寮の裏の広場まで走って行く。当然掴まれた私も走る事になった。途中すれ違った間宮さんズに微笑まし気に見られたのがちょっと恥ずかしい。

 

「それじゃあ走ろっか」

「ええ……散々走り回ってきたのにまた?」

「海の上と陸の上は別腹でしょ!」

 広場に付くと島風は一緒に走るよと私の背中を物理的に押してきた。一応ちゃんと整えられたスペースになっていて、走る事は可能だ――というか、現在進行形で長良さんが走っている。短距離的ではなく長距離か中距離の走り方をしているように見え、結構速い……と思う。

 実戦という名の運動をしてきた後なので体はまだ温まっているが一応軽く体を伸ばしていると、こちらに気付いた長良さんが恐る恐ると遠巻きにこちらを窺ってきた。そうだよね、今まで一回もここで走ってなかったのに急に来たら気になるよね。

 その視線に目ざとく気付いた島風はテトテト走り、ストップウォッチありますかーと話しかけに行った。ほぼ初対面でもさらっと話しかけてくる島風に、長良さんはここにまとめて置いてあるよとすぐ傍の保管場所を示す。艤装での計測とかにも使うため誰でも使っていいらしい。知らなかったわ。

「吹雪ー、長良が測ってくれるって!」

「え、いいんですか? 自分のトレーニングしてたんじゃ」

「う、うん。いいの、もう終わるところだったから……それより二人のを見てみたいなって」

 全然接して来なかったせいかまだ私と話すのに緊張している長良さんは、島風というか島さんの事も知っているらしかった。島さんは私を除けばあの地域の同年代でぶっちぎりの一位だったりしたので記録会に参加していたなら当然かもしれない。

「あんまり期待しないでくださいね……」

 手は抜くからな!! 私この一年でちゃんと練習したからね、記録出し過ぎないように!

 

 

 

「きゅ、9秒93っ……!?」

 私と島風二人のタイムを測り、手元に目を落とした長良さんの声が裏返った。

 そうだね、この二カ月は全く練習してなかったね。しかも海の上では遠慮なく全力疾走してたわけで、完全に感覚が麻痺してたわ。残念ながら当然と言える。

「んー? 吹雪遅くなってない? サボってた?」

「いや九秒台なら遅くはなってないでしょ……」

 あれぇー、と島風が顔に疑問符を浮かべる。何か納得が行っていないらしい。フォームでも崩れてたかね?

「島風はどうなのさ、訓練所でやらなかったブランクとか大丈夫だった?」

 停止していた長良さんが私の言葉ではっと気が付いたようにもう片方の手に持った島風の記録にも目をやった。そしてあっと声が上がった。

「10秒49……」

 オウッ!? っと島風からも声が上がった。いや待って、公式世界記録タイじゃん。私が遅くなったんじゃなくて島風が速くなってんじゃん。流石におかしくね?

「計測ミスかな、ごめんね」

 なんだ押し間違いか、と三人で笑ったけど、その後何度か計測してみてもやっぱり島風は十秒台だった。故障かと思って別のストップウォッチも使ってみたけど、それでもやっぱり記録は変わらない。島風も長良さんも混乱して、私の記録どころではなくなった。

「……っていうかさ、島風スタミナもおかしくない?」

 息も切らせてない私が言うのもなんだけど、艤装で全力滑走するのは一般的には疲れる行為である。私と張り合い続けてすぐ、まともな休憩も取らずに100m走で十秒台連発するのはいかにもおかしい。

 どういう事なのか三人寄って考えてみるも、文殊の知恵は出てこない。霊的資源たっぷりのご飯のせいで成長しちゃったとかだろうかという説をなんとか絞り出した時、突然パシャリと音がした。

「あ、どもども、恐縮です」

 反射的に音源へ顔を向けた私と目が合ったのは青葉さんだった。珍しい組み合わせに話題の新人まで入って顔を突き合わせていたものだから、つい撮ってしまったらしい。困っている私達の様子を見て、何かありましたかと好奇心全開で議論にも参戦してくる。こういう場合有難いなぁ。

 

「特に記録が上がるような覚えは無いし、むしろ下がってもおかしくない状況だったと。ははあ……」

 事情を聴いた青葉さんは少し考える素振りを見せると、メモを取りながら眉を顰めた。

「私は個人的に色々と情報を集めてまして、他の鎮守府の方々ともネットを通じて交流をしているんですが……そこで耳にした噂と合致する状況ですね」

 おおっと感嘆の声を上げる私達に、あくまで噂ですよ、と青葉さんは前置きする。

「えと、私達が艤装を使うと精神面に影響を受けるのはご存じだと思いますが……」

「おうっ!?」

「えっ!」

「そうなんですか?」

「あ、そこからでしたか」

 青葉さん曰く、訓練所では明言されていなかったがこれはほぼ確定だという。でなきゃなんで一般人の我々があんなに勇敢に戦えるものかと。嗜好なども影響を受けて艦娘に引っ張られるらしく、こちらは特に自衛隊の人達に顕著に見られるとの事。今まであまり興味の無かった厨二文化に触れたくなったり、蟹や兎を飼いたくなったりするんだそうな。その他語尾や口調がすごい事になってる人達も居るらしいクマ。

 あれ、私が姫級撃ち殺しても何も感じないのってチート能力じゃなくてこっちの影響? でも吹雪さんってそういうイメージじゃないんだけど。心ブリザードさんだったりはしないと思うんだけどよく分からん。どっちだったとしてもどうしようもないけど。

「それでどうも、肉体面もかなり影響を受けるのではないかという話になってましてね。顕著なのはやっぱり髪ですね。いくら切っても艤装を起動するとこの長さになりますし」

 髪の毛以外がそうでも不思議じゃないですよ、とピンクのような褐色のような色をしたそれを弄りながら青葉さんは言う。ただそれ以外に関しては今まで明確な証拠は挙がってなかったらしい。

「精神だけでなく肉体も強化される可能性はあると思います。悪影響があるのかは分かりませんし、まぁ、そもそも確証の無い話なので全く別の原因だったりするかもですけどね」

 他所の鎮守府だと、胸部のおもちが増えたの減ったのそんな話になっていたそうな。思ったより数段平和な話題だったわ。

「つまり、解決法はとりあえずなさそうな感じですかね」

「そうなりますね。申し訳ないですけど」

 新しい説は手に入れたけど対処とかには一切繋がらない。使うの止める訳には行かないからねぇ。

「じゃあ提督に聞いてみようよ」

 話を聞いていた島風が出し抜けに言った。確かにこの話が正しいなら提督かつ自衛隊員な宮里提督は何か知っていそうではあるけれども。

「知ってたとしても機密じゃない?」

「大丈夫! 昨日ここ来た時に分からない事があったら何でも聞いてねって言ってたから!」

 それは寮生活と仕事の話じゃないかなぁ。

 

 

 

 本当に執務室へ突撃した島風のハイテンション口撃に宮里提督が当惑してしまったため、一旦島風を回収してどうどうと落ち着かせていると、その間に長良さんと青葉さんが事情を説明してくれた。提督はどうやら心当たりがあるようで、何やら悩み始めた。

「それに関しては私が説明しよう」

 執務室のドア――私達の通った入り口ではなく、横に付いている休憩室か仮眠室か何かに繋がる扉をズバンと開けて、長門さんが入室された。制服のへそ出しルックではなくパンツルックな私服で、頭のパーツも未装着という珍しい格好をしている。提督の側へ歩み寄ると、二人で頷き合ってから口を開く。

「まず勘違いしないでもらいたいのだが、我々も正確な所は知らない。この件に関しては一切通達がされていないからだ。ここで聞いた話も他言無用……正しいか分からないからな」

 話してくれるのは、実際に影響が顕著に表れた艦娘が出た場合、流石に放置は出来ないからだそうである。経過を見て問題があるか判断したいらしい。

「島風の足が速くなっているという話だったが、確かにそれと似たような例は一部の自衛隊員にも表れている。というか……いや見せた方が分かりやすいな」

 そう言って長門さんは部屋の片隅から古新聞を取り出すと、折り畳まれたそれを折り畳まれたまま、素手で二つに引き裂いた。さらにそれを重ねるとまた二つに裂き、唖然とする三人を尻目に散らばらないよう丁寧に元の場所へと戻した。

「見て貰った通り、私自身が前例なんだ。ただ、私がこうなったのは最近……ここ二カ月くらいか。使い始めてからの半年ほどはここまでの影響は無かった。だが島風は私のそれよりも遥かに症状の出が早い」

 はやいという単語に島風がオッっと反応した。いや褒めてるわけじゃないからね?

「そうなると、適性値が関係しているかもしれないが……いや、それは置いておこう。ともかく、この現象に関して分かっている事は少ない。明確に出ているのが私と島風を含めても片手の指で収まる人数しか居ないんだ」

 少なくとも長門さんは力が強くなっても制御し切れているそうで、間違って物を壊したりはしないらしい。一応精密検査なんかも受けたらしいが健康そのものでむしろ発症前より調子は良いくらいなんだとか。でも明らかに筋肉量を超越した腕力が出るため、何らかの異常であるのは間違い無いと言う。

 艤装の使用を止めれば治る物なのかも試す訳に行かないため不明、上がり続けるのか現状で止まるのかまだ上がるのかも不明。ただ集合体の長門さんは悪い事にはならないと言っていたらしい。ただそれは戦闘面での話な訳で。

 

 これ、艦娘止めても影響が抜けたか証明出来なきゃ私達競技会とか参加できなくね?

 

 私的にはね、参加しなくていい大義名分が向こうからやって来たようなもんなんだけど、この場に洒落にならないのが二人ほど居る訳で喜べない。まぁ片方は明らかに何も勘付いてないですごいなーって顔してるけど、長良さんは気付いてしまったようでSAN値が削られた表情をしていた。ドーピングだよねぇこれ。

 

 結局提督たちもただちに健康に害はないはずという事しか分からないらしく、経過観察のためにこまめな報告をするように言われて話が終わる。途中で出て来た島風の適性値の話に青葉さんが食いついて聞き出そうとしていたけれど、長門さんが自衛隊で一番適性値が高かったが島風はそれ以上である事しか教えて貰えなかった。

 ついでなので明日の予定を提督に確認しようと思ったら、話があるので私だけ残るようにと言って来た。気落ちした様子の長良さんと特に変化の見られない島風、まだ色々聞きたそうな青葉さんの退出を見送り提督と向き合うと、私に心配気な眼差しを向けてくる。

「長門が話した症状が現れている自衛隊員は、全員適性値が元精鋭部隊でもトップクラスの艦娘です。そして今回発症したと思われる島風はその精鋭部隊よりも適性値が高い」

 それも遥かにな、と長門さんが付け加える。そんな事言われると私も具体的な数値知りたくなってくるんですけど。

「そして吹雪、あなたはその島風よりも適性値が高い。ですので、吹雪も発症する可能性が高いと言えます……いえ、むしろ、もう症状が出ているのではないですか?」

 長門のを見た時もあまり驚いてなかったですし。と言われてしまうと返答に困る。長門さんのは自分も同じ事出来るから驚愕より感心になっちゃったからだと思うけども。私のって艤装の影響じゃないからどう答えればいいんだこれ。いや、むしろ既成事実を作るチャンスか? 正直最近、転生はともかくチート能力の事は伝えてもなんかオカルト的なあれこれと思って貰える気もしているんだけど。霊能力者が普通に居たし。

 とりあえず明言は避けて、先ほど長門さんが仕舞い込んだ古新聞を取り出し、それを両手で掴む。そのまま二つに引き裂くと長門さんと同じようにまた重ねてもう一度分割して見せてみた。ついでに結構細かくなってしまったので両手で握りこみ、ばらけない様に圧縮して、ピンポン玉のようになったそれを執務机に転がした。

 絞り出すように分かりましたと言った提督と私以上かと呟く長門さんを見て、正しかったのかやらかしたのか判断に困ったのが私です。でも、もしもの時は艤装なくても力が強いよって知っといてもらうのは悪くないと思うんだよなぁ。

「いつから、そうなんですか?」

 そのまま明日の予定の話も終えて退出しようと思ったら、提督に聞かれてしまった。

「最初からです」

 命令で艤装を毎日使ってたからとかじゃないから安心して頂きたい。そう思ったのだけど、むしろ二人の表情は険しくなった。なんでやろなあ。

 

 

 

 島風と曙、二人の引っ越しを終え、部屋で暫く島風と話をしながら適当にネットを巡回していたら、気付けばもう日が変わろうかという時間になっていた。明日も早いから寝ようと言ってPCをスリープさせて布団に潜ると、仰向けに寝そべる私の横に温かい物が滑り込んで来た。それはおやすみと囁くとさらにこちらに体を寄せて来る。

「島さんのベッドは上だよ?」

「連装砲ちゃん達が上で寝ちゃってるから」

 普段仲は良いけど流石に一緒に寝ると硬いらしい。だからしょうがないよねとぐいぐい体で私を押して、自分の領域を広げにかかる。仕方ないので少し壁側にズレてやると、空いた隙間に躊躇なく飛び込んできた。

 島風は私より体温がちょっと高めなのか、触れていると温かい。冬場ならともかく夏も近くなってくると暑苦しいかも。なんて思っていたら、すぐに横から寝息が聞こえてきた。初めての所で働いて、なんだかんだで疲れていたのだろう。

 実の所、島さんは一緒に居てもそんなに手がかかるタイプではない。構って欲しそうにはするし、なんなら突撃してくるが、それでもほっといたりすると一人で遊んでいるような娘で、あんまり直接的に甘えては来ない。だから一緒に生活した時期でも同じ布団で寝た事はそんなになかったりする。それが二日連続で、というのは珍しい。

 たぶん前の鎮守府でなんかあったんだろうなぁ。提督も何となく気遣ってる様子だったし、島さん本人も前の所の話はほとんどしようとしなかった。比叡さんの事とか、食事の味とか、集合体の島風とかけっこして勝ったとかそんなのは話してくれたけど。

 言いたい事は愚痴も文句も言ってくる娘なので、前の鎮守府の事は言いたくないんだろうと思う。無理に吐かせるのも違うし、言いたくなったらちゃんと聞く事にしようか。そう思いつつ、寝返りでこちらに寄って来た島さんに毛布をちゃんとかけてやり、以前より長くなったお互いの髪が絡まないように微調整していたら、そのうち私も眠ってしまった。

 

 翌朝、起きたら島さんはまだ眠っていて、私の腕に収まっていた。どうしたもんかと周りを見回したら、先に起きていたらしくこちらを覗き込んでいる連装砲ちゃんとその上に乗っかった妖精さんと目が合った。連装砲ちゃんは手で目を覆うようなジェスチャーでいやんいやんと頭を振って、なんだか恥ずかしそうな雰囲気でキューと鳴き、妖精さんはこちらをじっと見て、ゆうべはおたのしみでしたねと妄言を吐いた。そういうんじゃない。

 

 

 




もう大丈夫かと思ったら別の色々が起きたでござる の巻
まぁ半分くらいはやりたい事が重なりまくった結果なんですけど。


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gbgb転生者s

 変色海域正常化RTAはぁじまぁるよー。

 走者が私しか居ないので自動的に世界記録です。

 昨日一泊した泊地を出発してよーいスタート。

 僚艦は島風、速度的に一択になります。

 他の艦隊は本隊として正面から、第四艦隊は別動隊としてイキますよ~イクイク。

 羅針盤妖精さんを頼って核に向かって側面からこっそり突撃じゃー!

 道中たまに雑魚と遭遇しますが一撃で倒せるので一戦当たりのロスは少なめです。

 島風が僚艦の場合レーダーは任せてしまえるのでソナーに集中出来ます。楽出来ていいゾ~これ。

 ……雑魚多い、多くない? クズ運ですねクォレハ。

 タイム的にまずあじなので雑魚戦は出来る限り避けたいのですが、ランダムエンカなので祈祷力が試されます。

 

 そろそろ通常の海域を抜けて変色海域に入ります。ました。

 ここからは時々姫級や鬼級が出るようになります……お、出ましたね。

 はい。見ての通り姫級は二発掛かります。報酬は良いですがあんまり出会うとタイム壊れちゃ~う。

 滅多にありませんが同時に二匹来たりすると艦載機の発艦を許してしまう事があるため、そうならない事を祈りま……

 ファッ!? 三匹!?

 と、とりあえず一匹倒しておきましょう。

 残ったのは姫と鬼が一体ずつ、姫級を先に倒して行きたいところですが……ああ、発艦されましたね。深海棲艦の屑がこの野郎……

 こうなると航空戦力の排除が優先です。機銃でパパパっとやって、終わり!

 リロードの終わった連装砲で姫級をメっして、残りは鬼級です。

 おっ、島風がやってくれましたね。艤装の発艦口が壊れて艦載機が出せなかったようです。こういう事があるのも島風の良い所です。連装砲ちゃんのアシストも光ります。

 

 (ここから暫く何もなかったのでドヤってる島風とかわいい連装砲ちゃんをお楽しみください)

 

 目標の島が見えてきました。周囲に大して敵の音はしないのでこのまま直進して良さそうです。

 島には基地が建設されていますね。はえ~すっごい大きい……

 変色海域になって長い地域では大規模な拠点になってるケースが多くてやめたくなりますよ~RTA~。

 核も基地の中心部に格納されているので外からだと位置が見えません。

 外から狙い撃つのは厳しいので基地内の敵を排除してから捜索する事になるのですが、なかなか数が多いので全て倒しきるのは大変です。

 だから艦隊を分けて陽動してもらう必要があったんですね。

 上手く行ってればある程度出払ってくれているはずですが、迎撃に出ているかの確認は必須です。

 出撃タイミングに遭遇した場合は乱戦になります(一敗)

 今回はかなり釣れてくれたようでいいゾ~コレ。

 完璧に行っても基地を操る施設型の姫級は常駐しているので戦闘自体は避けられませんが……基地の上で一匹動いてるのが見えてますね。

 ここから狙撃してもいいのですが、ここでオリチャー発動!

 近づける所まで近づきます。一歩で到達できる距離まで行けるのが理想ですがそれは厳しいですかね。

 丁度いい所に岩礁があったのでここからスナイプしましょう。ちょっと遮蔽がありますが気付かれなければ当たるでしょう。

 暴れんなよ……暴れんなよ……

 はい、いい感じに当たりましたね。ですがこの姫級、二発では倒れませんでした。これは大当たりです。

 基地を統括している姫級は基地自体が艤装扱いになるらしく、ダメージがそっちに流れるんですね。

 基地が大きいとその分体力も増えます。

 なので、倒れなかった屋上の姫級がこの基地の司令官という事になります。

 ……まだこちらには気付いていませんね。

 しかし、このまま装弾を待っていると基地内の航空機なんかが発艦して、処理が面倒になってしまいます。

 目算でここからだと概ね三歩、ギリギリですがまぁ行けるでしょう。

 島風にハンドサインで待機してもらって一歩。

 基地直下まで飛び込む二歩。

 基地上部の姫級の所まで飛び上がる三歩。

 おまたせ! 地獄への片道切符しかなかったけどいいかな?

 

 司令官を倒すと同時に基地の機能も大体停止してくれるので、見えて殴れる位置に居たのは幸運でしたね。

 一部壁も崩れるため基地はあーもうめちゃくちゃだよ。

 この状態だと敵艦の連携が難しくなるらしいので、あとは各個撃破しながら内部を探索するだけです。

 島風を呼び寄せつつ、合流までに出来るだけ気配の元を絶って行きましょう。

 既に基地の屋上に陣取っているとは思っていないでしょうから、不意を衝くのは簡単で……

 なんだこの幼女!?

 魚雷を抱えた潜水新棲姫ちゃんと遭遇してしまいました。

 艤装を付けていないのでお休み中だったんでしょうか?

 深海棲艦の生態を知れる貴重な資料だったかもしれません。もう居なくなりましたが。

 

 島風と連装砲ちゃんと合流したら本格的に殲滅開始です。

 と言っても、基地内の個体が多い訳ではないです。

 深海棲艦も地上では性能を発揮し切れないのかあんまり地上には居ないんですね。

 なので探索自体は結構楽に進められます。

 気配を感じたら即射撃で済むこちらと、味方かを識別しないといけない相手では反応速度が違うのも、追い風ですね。

 おっ、壁の向こうから青い光が漏れています。核の設置部屋ですね、見ての通り光ってくれるので壁が無ければすぐ見つかります。

 これを叩き割って、終わり! 閉廷! 以上! 皆解散!

 外に出て破壊完了を報告したらタイマーストップです。

 敵が残っているかもしれないので最後まで気を抜かないようにしましょう(一敗)

 

 

 な ん で 海 が 赤 い ま ま な ん で す か

 

 

 妖精さんに確認しますがこの基地にはもう核はないそうです。

 つまり核の影響する領域が被っていて、ここだけ破壊しても海は赤いままという事ですね。

 お前のチャートガバガバじゃねぇか!

 元々運要素が強いんですがこれは予想してなかったです。

 そもそも作戦自体の見直しが必要な事態なので、島風とも相談した結果、とりあえず本隊の応援に行く事で意見が一致しました。

 ただ位置が漠然としか分からないので辿り着けるかは微妙な所です。一人くらいは私の指揮下にしておくべきでしたかね。そうすれば辿れたんですが。

 ともかく気を取り直して出発で……

 ファッ!?

 突然海が青く戻りました……これもうわかんねぇな。

 取り急ぎ通信で連絡を取ります。

 ほうほう(梟)は?(困惑)

 ええ……どうやら本隊の方が核を見つけて壊したそうです。基地にあるとは限らないからね仕方ないね。

 と、ともかくここでタイマーストップです。

 記録は妖精さんによるとさんじかんくらいだそうです。思ったより曖昧な時間感覚で生きてますね……

 ともかく次に走るのは明後日以降になります。その日までさよなら、さよなら、さよなら。

 

 

 

 

 

 島風が配属されてから数日後、宮里艦隊は変色海域の攻略に乗り出した。

 と言っても最初は周辺の敵の排除から……だったはずなんだけど、その日私達は変色海域の核を二つ破壊する事に成功している。敵が丁度運搬して来たのを壊しただけだったのだけれど、問題なのはそれが別々の輸送部隊が運んでいた荷物だったって事だ。

 こっちに向かって変色海域を一気に広げようとしてるんじゃね? って話になって、ゆっくりやってたら進まないなって結論になったから、ほぼ一日おきに核の破壊に出てるんだよね私達。全体の被害によっては帰投して風呂入って寝て起きたら修理終わってるから飯食って出動とかもある。

 当然明石さん達は昼夜逆転してるし、戦闘部隊は毎回数人残して他は全員出撃である。なお残される待機要員の中に第四艦隊が入る事は無い模様。

 

 私と島風さぁ、二人で基地に突撃とか普通にさせられるんだけどこれ大丈夫? いやたぶん運用としては合ってるんだよ分かるよ凄い分かる。基地破壊率100%だしどっちも被弾すらしないし、無策じゃなくて敵おびき出してからとかだしそれが何か知らんがすごい刺さってるし。

 しかも私はチート能力で、島風は艤装の良いのか悪いのかよく分からん影響でスタミナもあるもんだから元気一杯、休ませる必要も別に無いんだこれが。すげぇな私ら使い易過ぎて救済ユニットみたいになってるぞ。

 他の人達も酷使と言っていい状態だけど、別に士気も下がってないんだこの艦隊。むしろ凄い高い。青葉さんの言った通り精神面の影響が大きいのか、嫌気が差すとかはなくて、むしろ戦果の大きさが自信に繋がってる様子なのだ。

 じゃあ何が問題なのかって? 提督の胃。

 やっぱ宮里提督、私の運用に向いてない気がするなぁ。普通に善い人に見た目だけは中学生な兵器渡したらそりゃ辛えでしょ。

 全員体調とかに問題出ないスケジュール組んでるだけ楠木提督よりマシってそれは褒め言葉なんですかね長門さん。っていうか楠木提督これ以上なのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨーシ、オ前ラ今カラ大将ントコ行クゾー」

 回収された護衛棲水姫――本人がベイベイ鳴いてガンビア・ベイを騙ろうとしたために、そのままベイというあだ名にされたその転生者と北方棲姫が一緒に暮らし始めてから暫く。唐突にやってきたレ級は出された茶を飲み干すとそう告げた。

「ズイブン急ダネ」

 放置状態でまったり暮らしていた北方棲姫は胡乱気な瞳でレ級を見つめ、護衛棲水姫は付いてきた三人の浮輪さんを抱きかかえて呻く。

「ボクなんて行っても役に立たないと思うんだけど……」

 ボソボソベイベイ呟く事には、艦載機も砲弾も無いし北方棲姫のようにワープ能力なんかも持っていない自分が仕事なんて貰っても、まともに役立てる気がしないとの事だった。戦えるような精神性も有していないため本当にただの足手まといじゃないかと心配している。

「連レテ来イッテンダカラ何カ使イ道アンダロ? 知ラネーケド」

「でも浮輪さんもこう言ってるし……」

「私達ニハ何言ッテルノカ分カンナイヨ」

 浮輪さんは三人それぞれ固有の意思を持っていて、護衛棲水姫はお話も出来る。ただし、護衛棲水姫以外には声を聞き取る事すら不可能であるが。

 さもありなん、彼女のチートは知ある者との意思疎通能力『ぜんぶ』『いえる』である。

 言語能力の有無、発声機能の有無にかかわらず、ある程度の知能さえあれば護衛棲水姫は会話を成立させてしまう。それこそ、そこらに生えた木だとか古い年月を経た大岩だとかそんなものとすら言葉を交わせるのである。

 ただしそれ以外は特に何も出来ない。深海棲艦としてはほぼ能力が死んでいて、北方棲姫と同じく艦載機を操れず、撃ち落す事も出来なかったので何処かへ飛び去るのを見送ってお終いであった。別段人間だった頃に極めて優秀な能力を持っていたなんて事もなく、平々凡々な学生が死んで生まれなおして今に至る。そのためなんか役に立ってくれと言われても戸惑いしか出てこないのだ。

「浮輪モ持ッテッテイイカラハヨ支度セーヤ」

 護衛棲水姫は保護されるのを条件に協力する事に承諾している。なんでその条件で北方棲姫が無断で借りた家に居候しているのかはなんかもう完全に流れだったので誰も疑問に思っていない。北方棲姫もなし崩しに面子に加えられてしまっていたが、護衛棲水姫を放っておくのは色々と不安だったので仕方が無かった。

 支度なんて言っても精々戸締りくらいだったのですぐに終わり、玄関から出ると護衛棲水姫はレ級におぶさり、北方棲姫は脇に抱えられる。出発ーと軽い号令を掛けてレ級の足が大地を蹴り、風景を置き去りにして消えて行った。

 

 

 

 そこは割と厳重に警備された建物だった。市街地の中心ではないがさほど離れてはおらず、入り口には警備の人間が二人立っている。周囲に監視カメラなどはあるものの、死角はそれなりにあるらしく、北方棲姫たちはそこに潜み目的地を窺っていた。

「アソコノ開イテル窓アンダロ、アレ入口ナ」

「ドウ見テモ人間用ノ施設ナンダケド?」

「大将さん、人間なの……?」

 北方棲姫達はてっきり、自分達と同じ深海棲艦の転生者が『大将』なのかと思っていたのだが、運搬されてきた先は明らかに普通の人間――それも組織化された何者かが出入りする建物である。護衛棲水姫も不安げな声を上げ、腰にぶら下がる浮輪さんにぽんぽんと励まされていた。

「大将マデ深海棲艦ッテ言ッタ覚エハネェナ」

「ソモソモ何モ教エテクレテナカッタカラネ」

 肝心な事は何も言ってない。ジトっと睨む北方棲姫の視線を難なく回避し、レ級は入り口に指定された窓を指さした。

「ンジャアホッポチャン、中ニワープシテクレヤ。視界内ナラ行ケルンダロ?」

 お前ら抱えてくと窓枠に引っかかる。そう言ったレ級に北方棲姫がため息で返した次の瞬間には、三人揃って室内に足を着けていた。

 

 

 

 その部屋には体格の良い男が居た。壮年と老年の間ほどに見える筋肉質で大柄な男性が、背で腕を組み執務用であろう机の前に立ち、深海棲艦達の方を無言で見つめている。窓から注ぐ陽の光に照らされた面様は張り付けたような無表情で、恵まれた体格と相まって強い威圧感を放っていた。

 北方棲姫は目をしばたたかせて正面に立つその顔を見つめるとあっと声を上げ、信じがたいと表情を変える。その男は現状の日本においては五指に入る話題の人物であった。

「楠木提督……!?」

「私が大将です。」

 男性――楠木 多聞丸は己が件の大将であると断言する。護衛棲水姫は世情に疎く、よく知らない名前であったが、その場の雰囲気でなんだか大物なんだろうとなんとなく察した。

「大将ジャナクテ幕僚長ジャン!!」

「似タヨウナモンダロ?」

「私が大将です。」

 あだ名だしいいだろ別に、と笑うレ級は楠木提督の側に立ち、浮輪を含めた五人の深海棲艦を振り返る。しっかり五人と向き合うと堂々と宣った。

「大本営へヨウコソ、歓迎スルゼ転生者諸君!」

「私が大将です。」

 やっぱり自衛隊関係の建物なのかと北方棲姫は得心したが、そんな事より気になる事がある。

「アノ、楠木提督サッキカラ……」

「私が大将です。」

「…………」

「…………」

 沈黙が下りた。護衛棲水姫は何を言っていいのか分からない。レ級も微妙な顔をしている。

「アノ」

「私が大将です。」

「ロマサガ3カヨ!!」

 こいつ間違いなく転生者だ。北方棲姫は確信した。

 

 

 

「ほら、通じただろう? 通じる人には通じるものなんだよ」

「ハァ、知ルカヨ産マレル前ノゲームダゼ?」

「なんの集まりだっけこれ……」

 なんのネタか分からなかった護衛棲水姫の呟きに、浮輪達もうんうんと頷いている。なんのネタか分かってしまった北方棲姫は目の前の二人をジト目で見つめた。

「はは、そう睨まないでくれ給えよ。まずは緊張を解さないといけないと思ってね。敬意を払う気も無くなっただろう? いやいや勿論北方くんなら理解してくれると知った上でのネタ振りだったんだよ、誰かが突っ込んでくれないと止めるに止められないしね。ずっと言い続ける羽目になったかもなぁ。この中では北方君が私に次いで年長なんだ……ああ、私は今世を含めなくても君より年上だよ。転生者全体で見ても高い方……それは全世界で100人くらいかな。日本にはそれほど居ないけれど心配しなくて大丈夫だよ。必要な人材には必要な時に協力を仰ぐからね。チート能力が今の状況では役に立たない子も結構多くてねぇ、戦後復興向きな子が案外多いんだ。うんそうだね君の思ってる通りだよ、こうすれば分かりやすいと思ったんだがうむ納得してくれたようで何より。他に知りたい事があったら答えるけど別に口にしなくても……」

「滅茶苦茶心読ンデ来マスネ!?」

 一人でしゃべり始めた楠木提督に深海棲艦たちはドン引きである。北方棲姫だけは自分の思い浮かべただけの疑問にことごとく返答されて驚愕もしていたが。

「オレラニ伝ワラネーカラ普通ニ喋レヨ」

「そうだね。まぁ、これで私の能力については少し理解してもらえたかな」

 チート能力『やたらと』『みえる』は他人の心の中も見える能力である。北方棲姫はたった今それを分からせられた。自分の心に浮かんだ疑問に一々返答されたのだ。

「……能力教エルカラ信用シロッテ事?」

 公開する必要の無い、察しが良くなければ言わないと分からない能力である。存在を明かしても不信感しか得られそうにはない。

「私相手に取り繕う意味は無いよ、という事さ。ほらレ級くんもいつも通りだろう?」

「コイツニ敬語トカ使イタクネーカラナ」

 功績実績はともかく中身糞オタだぞこいつ、とはレ級の評である。

「えっと、心読まれるの? 怖い……」

 護衛棲水姫はちょっと話についていけていなかったが、察したら察したで恐怖感が湧き上がってきた。バレたくないことだってあるのだ。性癖とか性癖とか性癖とか。

「申し訳ないがそこは我慢してくれると有難い。画面越しとかも考えたのだがね、君たちが一番信用してくれるのが結局、対面での対話なのだよ」

「能力オフニシタラ良インジャ?」

 北方棲姫は当たり前の解決法を提示したが、楠木はかぶりを振ってため息を付いた。

「それが出来れば良かったんだけどねぇ」

「オンオフ出来ネーンダトサ、『やたらと』ッテ奴ハ」

「常時発動型のパッシブ能力なのだよ。ベイくんの能力と似ているかな、君も聞こえてくる声を受け取らないようには出来ないだろう?」

 そう言われると、確かに無理な気がする。わざわざ試した事は無かったが、耳を塞ぐとか、そういう物理的な方法以外で出来る気はしなかった。

「まぁなんだね、君のそれは特に言う気は無いし……ノータッチならいいんじゃないかな」

「言ってる! 半分くらい言ってるそれ……!」

 北方棲姫を横目で見て、何の話か察していない様子だったので護衛棲水姫は安心すると同時に確信した。この人、結構なクソ提督だ。

 

「まぁそんな訳で、君たちに仕事を頼みたいのだよ」

 執務室に置かれたソファーに北方棲姫たちを招くと、手ずから茶を淹れ楠木提督は切り出した。

「前後ガ繋ガッテネーゾ」

 神妙な顔になって言う楠木の側に立ち、呆れた顔をするレ級。仲良いんだなと北方棲姫と護衛棲水姫の見解は一致した。

「聞イタラ絶対引キ受ケテモラウゾトカ言ワナイ?」

「ホッポチャンガ本気デ逃ゲ回ッタラ絶対捕マラナイカラ心配スンナ」

「限界無しのワープ能力って酷いよね……」

 及び腰な北方棲姫の様子を見て、楠木は顎に手を当て少し思案し、ああと何かを思いついた。

「それなら報酬の話からしようか、その方がやる気が出るかもしれないね」

「あ、報酬出るんですね……」

「ソリャ無報酬デヤレトカ言ワネーワ」

 流石にね、と楠木も同意する。護衛棲水姫の腰から降りて行儀よく三人並んで腰かける深海浮輪も、興味有り気に楠木の方を見つめた。目っぽい物は無いが。

「報酬は大きく分けて二つある」

「小分けにするともっと多いんだ」

「まぁ色々と併せる必要があるからね。まず一つ目は君達の戸籍。二つ目は普通にお金だね」

「戸籍!?」

 それは確かに欲しい。北方棲姫はかなり心が揺れ動いた。

「今の状況なら偽装はそう難しくない。お金の方はそうだね、北方くんの暮らしていた家も付けようか」

「エ、アノ家買ッテクレルノ?」

「買ウッテ言ウカ……ナァ」

「あそこは元々私の持ち家だよ」

 はぁ!? 北方棲姫は愕然とした。あの家に辿り着いたのはたまたま日が落ちそうな時間に通り掛かって、鍵が開きっぱなしになっていたから。そこに至るまでの間に干渉を受けたような覚えは全く無かった。

「わぁ、凄い偶然……」

「ナ訳ナイデショ!? 楠木提督、心ダケジャナクテ未来カ何カ見エテルヨネソレ!?」

 うん。と楠木は頷いて鷹揚に笑い、軽く拍手を送る。

「御明察! それが私の最大の能力だよ」

 うわぁと呻いて、北方棲姫は呆然とした。つまりこの提督は北方棲姫の辿り着く家を特定して、事前に購入していたのだろう。そこに居付きたくなるような条件も全部整えられていたに違いない。家電とかちゃんと動いたし。

「ココマデノヤリトリ全部茶番ジャン……」

「そこまで万能な能力ではないんだよねぇ。観測した時点で変わってしまうから、参考程度にしかならんよ」

「ンナ事言ッテホッポチャントベイノ居場所ハ完璧ダッタケドナ」

 これ大丈夫なのかと不信感を募らせる北方棲姫とは対照的に、護衛棲水姫はむしろ感心した様子で呑気そうな表情をしている。疑うだとかそういうのよりも先に、するべき事があると感じたのだ。

「予知でボクの事見つけてくれたんだ……そっか……ありがとうございます」

 座ったままではあるが、出来るだけ頭を下げて感謝を伝えた。

 護衛棲水姫が目を覚ました時、周囲にはなんだか怖い雰囲気の深海棲艦だらけで、浮輪達は一緒にいたけれど、ずっと怯えて洞窟に引きこもっていたのだ。レ級たちが迎えに来なければもっと長い事そうしていた事は想像に難くない。そこにあるのが打算だったとしても、護衛棲水姫にとって救いの一手だった事は間違いのない事実である。

 まっすぐな言葉に楠木は笑い声をあげ、北方棲姫はなんだか毒気を抜かれてしまった。レ級は呆れた様子で人がいいなぁおいとか呟いている。

「ハァ………………戸籍アッテモ、コノ見タ目ジャ普通ニ生活ハ出来ナイト思ウンダケド、家貰ッテモ仕方ナクナイ?」

 批判めいたことを口にしたところで何の意味もないと悟り、北方棲姫は話を続ける事にした。警戒心が消えた訳ではないけれど、心も未来も読める相手に何の意味があるのかという思いもある。小さいが見間違えようの無い額の角を弄りながら質問を飛ばした。

「そこはどうにかできる子が居るんだ、丁度いい事に」

「転生者?」

「勿論」

 姿かたちを変えられるチート能力者がこの世界に存在している、と楠木は言う。ただし、本当に姿が変わるだけらしいが。

「ただ居場所がなぁ……現在地がブラジルでね」

「遠ッ、裏側ジャン、地球ノ」

「……というかブラジルって、海外って今どうなってるんだろう……」

「そうだね、そこは説明しておこうか。君達に頼む仕事にも関わってくるしね」

 関わるのか、と意外に思ったのが顔に出ている北方棲姫に一つ頷くと、楠木提督は自分の茶を一口に飲み干した。

 

「まず今の世界の海の状態だが……まぁ、赤いねぇ」

「赤イカァ」

「陸地の無い所や完全な無人島だったりすると手出しされていない場所も残っているようだが、人の居る地域は日本と同日に一気に制圧されてしまっているよ」

 素晴らしい手際だったと楠木提督は褒め称えるが、この場の誰も嬉しくない話である。

「他ノ国モ沿岸部トカハ日本ミタイニナッテルノ?」

「それは国にもよるよ。ただ、日本はむしろ手緩い攻め方をされているんだよなぁ」

 ええっ、と北方棲姫は驚いた。海に出た際に結構姫級や鬼級を見かけた覚えがあるし、被害もかなり出ているのに。

「全世界を一気に攻めているようだからね、当然差し向けられる戦力は重要な地域とそれ以外で偏りがある」

 アメリカや中国なんかは日本より強大な戦力でもって攻め立てられているらしい。大陸故に陸地側はまだまだ何とかなっているが、既に滅んだ国も複数存在しているとか。

「本来なら、他国から切り離された時点で日本は詰んでいるからね。本格的に攻める必要は無いと知っているんだ彼女等は」

「アイツ等日本舐メ腐ッテルカラナ、護衛モ付ケズニ水着デブラブラ遊ンデタゾコノ間」

「夏姫存在するんだ……」

「比叡ニ燃ヤサレテタケドナ」

 三式弾直撃してお亡くなりになったそうな。

 

「ところで、君達は今、世界で一番戦力――艦娘を揃えているのはどの国だと思う?」

「え、ええと、アメリカ? それかロシアか中国……?」

 急な質問に困惑する護衛棲水姫は咄嗟に大きな国を挙げたが、楠木は首を横に振った。北方棲姫はそれを見て冷静に返した。

「日本デショ、楠木提督ガ居ルシ。アンナ意味ノ分カラナイ装備半年ヤソコラデ正式配備スルッテ、上ノ人間ガ色々知ッテナイト無理ダヨ」

 よくよく考れば、上層部に転生者が居るのは予見出来た事である。答えを知っていれば簡単な事だが、北方棲姫は言われるまでは全然気が付かなかった。他の国にも転生者が食い込んでいるとかでなければ、妖精さんの存在すら認められていない可能性が高いだろう。北方棲姫だって存在の説明はされても未だに実物を見た事が無いくらいなのだし。

「正解。北方くんは聡いのか鈍いのかよく分からないねぇ」

「褒メテナイヨネソレ」

 不服そうに飛ばされた視線を笑って受け流し、楠木提督は続ける。

「現在艤装が国家レベルで運用されているのは日本だけだよ。そこまでは行っていなくても企業主導でそろそろ実戦レベルに達するのがアメリカで、ロシアももう建造自体は始まっている頃合いかな。そういう意味ではベイくんも惜しかった。個人で戦っているイギリスとかの例もあるけれど……まぁ例外だねあそこは」

「個人?」

「転生者だね」

「ああ……」

 聖剣を振るって深海棲艦を薙ぎ倒すヤベー奴と魔砲を振るって深海棲艦を薙ぎ払うヤベー奴が合わさって最強に見える。

「艦これ……?」

「その二人も艤装の適性は持っているんだけどねぇ」

 申し訳程度の艦これ要素であるらしい。

「サッキモナンカ言ッテタケド、全世界デ100人モ居タラソウイウノモ居ルヨネ……」

「私の知る限りの人数だから、もっと居るかもしれないねぇ」

 孤独感で泣いてたのが馬鹿みたいだと北方棲姫は少し落ち込んだ。普通に暮らしていて遭遇するような人数ではないのだろうが、一人きりだと思っていた時期もあったのだから仕方ないだろう。

「話を戻すけれど、ともかく今はまだ艤装はまともに広まっていないんだ。それに各国の連携もねぇ、新兵器の情報なんてそうそう開示してくれない……まぁ、条件を付けて交渉とかはするだろうけれど」

「ンナ事ヤッテル間ニドッカガ耐エラレズニ滅ンデ、ソコヲ攻メテタ戦力ガ他所ヘ流入シテ連鎖的ニヤラレルッテヨ」

 楠木のチート能力はそういう光景を見せて来た。チート能力者は本当にチートなので割と生き残れるが、一般的な人類は深海棲艦に撃たれれば死ぬし、そうでなくても生活基盤が無くなれば容易に命を失う。

「なので、我々で艤装を広めようと思います」

 はぁ、と相槌を打って暫くしてから、北方棲姫は言ってる意味を理解した。つまりそれが自分達に頼みたいという仕事なのだろう。

「……ソノタメニ私ガ要ルノ?」 

「そうだよ」

 深海棲艦に対抗するための手段は日本に艤装という形で存在している。だがそれを、変色海域を越え他国へと受け渡す手段を保有していなかった。今までは。

「深海棲艦であるボク達なら海を渡って、艤装の事を教えに行ける……?」

「マァ、ソウイウ話ダナ」

 北方棲姫なら一度辿り着いてしまえば自由に行き来が可能になる。チート能力『いつでも』『いける』は人数や荷物の量も融通の利く能力であり、利便性も非常に高い。某魔法使いがバランス調整を放棄したかのような頭のおかしい能力なのである。深海棲艦である彼女達が直接頒布する事は出来なくとも、一度日本に帰って交渉自体は別の人物に任せてしまえばいい。

「それ、ボクいる……?」

 ほっぽちゃんだけで良くないですか、と護衛棲水姫は訝しがる。

「ホッポチャン寂シガリダカラヨ」

「まぁ、それもあるがね」

「アルノ!?」

「北方くん一人で放り出すとトラブルに対処出来なかったりするんだよ」

 二人で協力すればなんとかなる場面でも、一人だと逃げ帰るしかなくなったりするのだ。一旦逃げてもすぐ戻れる能力ではあるが。

「それに、ベイくんに本当の仕事があるのは辿り着いた後、情報提供のための交渉を行う時だからね」

「通訳ですか……」

 チート能力『ぜんぶ』『いえる』は同時通訳としては最強の能力である。細かなニュアンスや慣用句、スラングであったとしても絶対に取り違える事は無い。問題があるとしたら、護衛棲水姫の肌は白すぎて到底人間に見えないという事だろうか。それも他の転生者が協力してくれるのなら解決する。転生者凄い便利。

「私達ハ一回外国ニ行ッテ、ワープデ戻ッテ楠木提督ヲ連レテマタワープスレバイインダネ」

「それで、ボクが交渉する楠木さんの通訳をする……? 考えただけで緊張してくる……」

「見タ目ハ……化粧デナントカナルンジャネーノ? 顔以外出ス必要ネーダロ」

 護衛棲水姫の見た目はかなり人間に近いため、色さえどうにかできれば凌げない事もないだろう。ブラジルまで行って外見変化の能力者を拾ってくるのも有りかもしれないが。

「概ねそんな感じだね。ただ、交渉に赴くのは私だけではないよ」

「エ、他ニ事情知ッテル人居ルノ?」

 転生者メンバーは楠木とレ級に新入りの二人だけだと聞いていたし、かなり内々の話だと北方棲姫は思っていた。護衛棲水姫も同じで、さらなる緊張を強いられそうで戦々恐々としてしまう。

「まぁ今回の事もあるから諸国にもある程度覚えて貰えるようにはして来たがね、それでも成果はまずまずってところさ。……そんな私の顔などよりも、遥かに有名で名の通った方が居るんだよこの国にはね」

 レ級は即座にそれが誰であるかを察した。護衛棲水姫はちょっと考えて、白い相貌をさらに青くした。北方棲姫はどうにも見当がつかなかったが、場の雰囲気でなんだか大物が出てきそうだとは勘付いた。

 

「まぁ、交渉については私の能力もフル活用して上手くやるよ。君達はまず、目的地にしっかりと辿り着けるように頑張ってもらいたい」

 北方棲姫も実は高速移動する方法を持っているが、正確な方向を向き続けられるかと言われると自信を持てない。逐一方向を確認、修正する必要に駆られるのだ。そのため、ワープによる往復などよりも最初の道中の方が遥かに困難である。

「マダ引キ受ケルッテ言ッテナインダケド……マァイイカ。ソレデ、最初ハドコニ行ケバイイノ?」

 もう引き受ける前提で全てが進んでいるので、北方棲姫は諦めた。護衛棲水姫もあわあわと挙動不審になってはいるが、嫌だとは言っていないし。

「最初に行って貰うのは、台湾だよ」

「台湾? 未来視デソコガイイッテ分カルンダロウケド、ナンデマタ……」

「そこに、是非力を借りたい転生者が居てねぇ」

 基本的に人道をどこかに置き去りにしている艤装の有用性を証明するために、同行してくれる使用者は必須なのだ。その上でその同行者がこちらの秘密を共有できる、つまり転生者であるのが望ましいと言う。

「転生者は普通より適性値が高い子が大半でね。それに、彼女はとても運が良いんだよ」

 是非あやかりたい。楠木提督は口元に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 出発は明日、レ級は他の仕事があるので日本に残留、二人と浮輪三人で頑張ってくれという条件でも引き受けてくれた北方棲姫と護衛棲水姫と浮輪が一度家に帰るのを見送り、執務室は楠木とレ級の二人が残された。レ級は空いたソファーにほぼ寝そべるように乗り込み、楠木の方を首だけで向いた。

「オ人ヨシ二人デ良カッタナァ、多聞丸チャン」

「そう言うものじゃあないよ、素直に引き受けて貰えて助かったのは確かだが」

「素直過ギテ心配ニナッタガネェ、オレハ」

 言ってない事など山のようにある、というか、背景説明をほとんど何もしていない楠木とレ級である。同じ転生者だからと警戒が緩んでいるのか、生来そういう性質なのかは知らないが、いつか悪い奴に騙されそうだ。

「転生者は君みたいな子ばかりだから大丈夫だよ」

「心配極マリネェナソリャ」

「内心本気で心配してるのが君の良い所だと思うよ」

 誰がいい子ちゃんだボケと口でだけはそう言って、しばらくぼんやりと寝っ転がっていたレ級は、思い出したように懐をまさぐると、服の中からSDカードを取り出し楠木に向かって放り投げた。

「コナイダ言ッテタ奴ナ。音声映像タイミング完璧ダッタゼ、島風ノ顔ガ入ラナイヨウニスンノハ難儀ダッタケドナ」

「毎度済まないね……よし、大丈夫そうだ」

 受け取った楠木はそれを機械に掛けるでもなくただ見つめると、内容を検めたかのような返答をした。チート能力である。

「ソンナモン何ニ使ウンダ? 辞メサセルダケナラ要ラネーダロソンナノ」

「辞めさせはしないよ、現状ではまだ手が足りないからね。無論、大人しくはしてもらうが。これの使い道については……まぁ、彼はともかく彼の実家には使い道があると言っておこうか」

 うへぇとレ級は苦い物を空気と共に吐き出した。憂鬱そうな表情で、その時の事を思い出す。

「島風モ可哀想ニナ。ッツーカ、ソンナノノタメニワザワザ吹雪ト別艦隊ニシタノカヨ」

「いや、あれは資源回収と戦力増強が主目的だよ。吹雪くんは島風くんや転生者と一緒にいるとそちらとばかり仲良くする傾向があるからねぇ……」

「オ前ジャ思イ付カナカッタトカ言ウアレカ……宮里提督ガ優秀デ良カッタナ」

「島風くんと一緒にすると普通に戦闘部隊になるようだったから、一時的に引き離したんだよ」

 おかげで助けられる人数が万単位で増えたのだから必要な一手だったと楠木は語る。

「後はまぁ……正直あそこまで拗れるとは思って無かったと言うか……ね」

「ア゛ア゛?」

 レ級の口から少女が出してはいけない類の音声が漏れる。一瞬で楠木の眼前まで迫ると、その頬を掴み左右に伸び縮みさせた。

「ツマリ、マ~タガバッタンダナ!? 何時モ何時モ、テメェノ計画ガバガバジャネーカ!!」

 フォローさせられる方の身にもなれと柔らかな頬肉を摘まみ続けるレ級に、楠木は悪気は無かったんだと弁明する。島風に関してはちゃんと吹雪の下に送ったのでケアもしてくれる……というか、一緒に居るだけで立ち直ってくれるので問題もあんまりないのだ。辛い思いはしただろうが。

「ツクヅク糞提督ダナテメーハ!」

 限界まで引っ張って勢いよく離すと、レ級はソファーに戻り今度は普通に座ると自分用の茶を飲み干した。証拠映像を撮るに当たって、結構な胸糞シーンを見せられる羽目になったのである。楠木は不機嫌そうな双眸に睨まれて、身が縮こまる思いであった。

「ンデ、ソノ配置ニシテ上手ク行ッタノカヨ。資源ノ方ハ聞イタケド、戦力ノ方」

「ああ、そっちは問題ない……というか、予想以上の成果が出たようでね」

 本来ならば二人の予定が三人、さらに吹雪自身が強化されるというサプライズまで発生したと楠木は語る。成果としてこれ以上は無いだろう。

「三人カ、増エテハイルンダローガ、多イノカソレ」

「人数もだけど、面子が良いね」

 戦えるようになれば頼りになる娘ばかりだよ。多少痛む頬を撫でながら楠木はにやりと笑みを浮かべる。

「彼女達が戦えないのは非常に勿体なかったからね。いやぁ、素晴らしい結果だったよ」

 今度は蹴りが飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事なの……」

 宮里艦隊の泊地内の訓練場、戦闘部隊が実戦で忙しいためにあまり使われていないそこで、教官長として訓練場に戻る予定の暁は一人、砲門から煙を上げながら呆然としていた。

 視線の先には複数の、完全に破砕された訓練用の的。一応はイ級と同じ程度の硬度を持つそれらの残骸を前に、暁は結構長い事途方に暮れた。

 

 

 

 




楠木と一緒に交渉に行く例のあの方は本編に一切出て来ません。


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お悩みとか名前とか適性値とか

 変色海域に長居した結果、被弾は無くても艤装がそこそこのダメージを受けたので修理に出して、今日も元気に出撃じゃー。

 とか思ってたら、長門さんと山城さんと瑞鶴さんと龍驤さんと天龍さんと長良さんと深雪と秋津洲さんが同時に大破したため修理が終わっていなかった。いやぁリコリス棲姫は強敵でしたね。私は別動隊の仕事をしていたので戦っていないのだが、戦艦棲姫三体が護衛に付いた大激戦だったそうな。泊地が直近に二か所とかほんと止めていただきたい。

 そんな訳で今日はお休みを貰ってしまったのだ。出れないほどの損傷じゃないので何かあったら呼び出されるだろう状態を休みと言ってしまっていいのかは不明だが。

 ともかく、今日は部屋でゆっくりしてようかなとか思っていた訳なのだが、そうさせてくれないのが島風である。じゃあ久々に思いっきり走ろうと言い出して付き合わされることになった。まぁ、ネット巡回したりするだけだし別にいいのだけども。

 

 動きやすい服装――私はTシャツとジャージのズボンで島風は短パン――に着替え、連装砲ちゃん達と連れ立って寮の裏手にある広場までやってくると、表情の抜け落ちたような顔で長良さんが走っているのが見えた。

 ダメージの方は全然抜けてないというか、抜ける理由が無いというか。一応、戦闘には支障無いようなのだが傍目に見るだけでも消沈しているのが分かり易く、大井さんが心配気にしているのを見た事もある。機密に触れる事なので迂闊な人物に相談する訳にも行かないだろうし、私達の方にも話を振ってこない。というか話しかけてこない。こちらから話しかけに行こうにも根本的に真剣に陸上をやっていない私から言える事なんて無いというか……何言っても失礼に当たる気しかしない訳で。

 おはようございまーすと島風に挨拶され、ぎこちない表情でそれに返す長良さんに私も挨拶をすると、彼女はもっと硬い表情になってしまった。そのまま軽く返答だけして走って行く長良さんは若干ペースが上がっており、まるで逃げているようにも見える。ペース大丈夫だろうか。

 

 準備運動を終え、後ろでキャーキューミューと応援してくれる連装砲ちゃん達に手を振って、軽く二人で走ってみたのだがやはり島風の足はかなり速くなっていて、それ以上に持久力が上がっているのが分かった。本来島風は短距離走者なのだが、同年代どころかもっと上の年代の長距離走者並みの速度を維持して走り続ける事が可能になっていたのだ。

 つまりどういう事かと言うと島風は長良さんと並走しやがった。長良さんは長距離走者で、しかも年上――高校生である。本来私達が敵う理由は無いのだけど、一緒に走らされてる私も島風も余裕で追いつき丁度いい感じの速度でしばらく走ってしまった。

 ペースを落とし、そこから始まる島風の雑談。インハイ復活したらいいねーとか、そしたらみんな出れそうだねーとか、長良も速いよねーとか、吹雪は出る気ないのーとか。

 最初は長良さんも硬くではあるが返答してくれていたのだが、次第に黙り込んで行って、最終的に目から涙を流し始めた。

 流石に島風もオウッと動揺して足を止め、私も流石に泣き出すとは思わなかったので硬直した。島風と二人で宥めつつ、連装砲ちゃん達も座っている階段状になっている所で長良さんを落ち着かせ、どうしたのか事情を聞くことになった。だけど、明らかに何一つ気付いてない島風に長良さんも事情説明出来ない訳で、仕方がないのでまず私が島風に話をする事になった。

 

 

 

「ドーピングかぁ」

「そういう事になるかも……って話だから、まだなんとも言えないけどね。艦娘辞めたら普通に治るかもしれないし」

 説明を終えると、島風はちょっと悩ましい顔になって、長良さんはちょっと驚いた顔をしていた。これは話を振ってくるも何も、そもそも私が気付いてるって事を察してなかった感じですね、分かります。

「まぁ、元々公式な大会とかに出る気のない私はあんまり関係ないんだけど……」

「え~」

「えっ!?」

 ついでに言っておいた私の意向に、明言はしていなかったがなんとなくでも知っていた島風はともかく、長良さんは赤くなった目を見開いて大層に驚いていた。そりゃあんだけ頭の悪い記録を出しといて、自分でも何を今更感が酷いので私の事をよく知らなければそうなるよなぁ。

「でっ、出ないの……?」

「あ、はい。出ない方向で考えてます」

 っていうか絶対出ないです。動画残っちゃってるけど、それはそれとして出るつもりは私にはないのだ。問題の理由付けも、私が艤装を一番上手く使えるんだ! でいい気がするのよね。妖精さんが居る限り艤装は動くし、動くなら需要あるだろう。話を聞くと妖精さん、別に深海棲艦追い払っても居なくなったりしないらしいし。それはそれで火種って気はするけども。身体能力が戻らないからって理由にすると他の娘も疑われる気がするのでそっちは無しだと思うんだよね。

 驚き過ぎて涙も引っ込んだ長良さんと、ちょっと不満そうな島風。今さっき君にとって結構重大な事言ったと思うんだけどちゃんと理解してる?

「伊吹、やりたい事見つかったの?」

「あー……まぁ、そんな感じ」

 元々私はやりたい事とかは特に無く、将来は仕事をしながらオタク趣味を拗らせて行こうと思っていた。そこへ現状の社会情勢である。今オタク業界は壊滅してるんだよね。嘘みたいだろ? 秋雲先生マジで先生だったんだぜ、あの人。連載してた出版社が物理的に消滅して強制終了されただけで。

 そうなると私が自分の嗜好のために出来る事ってなんぞや、って言ったら、真面目に戦う事以外ない訳で。まぁあれだよね、艦娘の運用が続くようならたぶん私は艤装が使えなくなるまでずっとそこに居ると思う。加齢で適性が減ってくらしいから強制定年で色々安心だし。チート転生者に定年があるのかは知らんが。

「それじゃ仕方ないかー」

 島風はむむむと眉を寄せて悩みながらそう言って石段に腰を下ろすと、連装砲ちゃんを一体膝に乗せてそう言った。わちき許された。

「私の事なんかより島さんと長良さんの方が問題なんだけど分かってる?」

 そう言った私に向かって島風はふふんと笑って、腕組みして足を踏み鳴らしながら立ち上がる。転げ落ちた連装砲ちゃんが頭を打ちそうだったのでキャッチしておく。

「もし後遺症が残るんだったら、そうなった人でも出れる大会を作ればいいよ!」

 お前は何を言っているんだ。突っ込んでしまった私に島風が答えて曰く、自分達で艦娘も出れる陸上大会作ろうとの事。

「海上じゃなくて?」

「走るのは陸だから!」

 いやそれでいいのかお前。実に前向きっていうか……何この……何?

 詳しく説明を聞いてみると、何らかの後遺症とか性別がどうこうとかそんなの関係ない大会開こうぜって事らしい。いいけどそれ主催するのは滅茶苦茶大変じゃないだろうか。お金もかかるだろうし。

 長良さんも最初は島風の発言に唖然として、暫くしてから笑い出した。連装砲ちゃん達もつられて笑っていた。

 

 元気の出て来た長良さんに詳しく話を聞いたところ、長良さんが涙を流したのは私や島風の事を慮った結果だという事が判明した。自分も辛いが、私や才能もあって既に症状も出ている島風は知ったらもっと辛いのではないのか、とか考えてた所に島風からラッシュを喰らって泣いてしまったらしい。良い人かよ。

 二人とも思ってたよりも全然ダメージ無さそうにしてたし、島風に至っては長良さんも巻き込みそうな解決案……解決案? とにかく提案までしてくるほどだったので笑っちゃったのだとか。ひどーいって島風は言うけど発想が斜め上でそんなん草生えますわ。

 長良さんは悩んでも仕方ないかと伸びをして、島風は悩んでるくらいなら走ろーと元気に声を上げ、連装砲ちゃんも然り然りと頷く。ともかく今日は走るぞと意気込んで広場に向かい歩き出す二人を眺めながら、とりあえずお金は貯めておこうと心に決めて、ゆっくり二人を追いかけた。

 

 

 

 走って休んでまた走って、正午を回ったのでお昼にしようと食堂まで三人と三体でやってきたら、どういう訳か旧収集部隊の面々が揃って昼食を摂っていた。

 旧収集部隊は私が変色海域への進攻に使われる事になり護衛が居なくなったため解散、構成員はそれぞれ哨戒や偵察、収集(普通の)などに振り分けられて活動時間が別々になってしまったため、真昼間に集まったりするのは難しい。はずだと私は認識していたのだけど、十二人全員揃って仲良く……というには微妙に空気が重いような気もするが、ともかく同じテーブルについていた。

 軽く挨拶を交わして何かあったのか聞いてみたが、特に何もないよと返される。ただ、一部の人の腕には四角い小さめの絆創膏が見えた。健康診断かな? 隠す意味が全く分からんけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 適性検査の結果が出るのは早い。技術を持った妖精さんと採血キットさえ用意出来れば十人二十人くらいならあっという間に終わってしまう。とはいえ無駄に回数を増やすのは資源の無駄遣いであるため、通常であれば一度適性者と認められた人間の再検査というのは行われない。精々適性が下がり艤装が動かせなくなった艦娘の最終確認くらいであった。

 その日、宮里艦隊では複数人の適性検査がひっそりと行われた。吹雪と組んでいた十二人に長門、龍驤、それに秋雲を加えた十五名の採血が午前中に行われ、午後には結果が宮里提督の下へと届けられる。その紙面を見て、宮里は頭と胃を痛くした。

 

 

 

「なにこれ、滅っ茶苦茶やん」

 執務室に呼び出された長門、龍驤、暁、飛鷹、川内、五人の艦娘達が差し出された検査結果を見て、内容を理解し、一番に龍驤が口を開いた。他の艦娘達もまったく同じ思いを抱き、喜びより困惑が先に立つ。何かしらの手違いの可能性すら頭に浮かんだ。

「……っていうかこれやとうちがおかしいみたいに見えるんだけど、そういう訳じゃないよね?」

「今までの私達の認識だと、そのはずです」

 宮里も苦笑いするしかない。艦娘の適性値は艤装にもよるが、特に駆逐艦などは基本的に年若い方が高くなる傾向にある。そのため年を取れば数値は低下して行くと考えられ、実際に配備から半年以上が経過した今では、起動ギリギリの適性値しか持たなかった自衛隊員の中から起動不全に陥り艦娘を辞す者も現れていた。

 そこへ来て暁の報告である。とある異常な地域の例もあり、まさかともしやの両方の考えが合わさった提督は無駄になる事を覚悟で大本営へ適性検査の実施を具申し、許可を得られたのが昨日の話である。結果的に意味はあった――というか、予想を遥かに上回る結果が出てしまった。

「龍驤以外は全員上昇か……」

 戦闘部隊外の十二人全員に、長門と秋雲までもが適性値の上昇が確認される。それが妖精さんの出した検査結果だった。龍驤のみ、唯一変化が無い。

「うちも減ってないだけマシ……なんやけど、ほんまなんやもうこれ」

「変わった我々も上がり幅に差があるな。最大上昇は……暁だな。次いで飛鷹、秋雲、川内、そして私の順か。私はかなり離れているが……」

 長門は変化前と後の数値を見比べる。他の収集部隊の面々はほぼ誤差に見える者が多く、多くても10が関の山であったが、挙げられた五人は変化が顕著であった。長門は少し伸びが悪いが、他は一番低い川内でも300近い上昇を見せている。明らかな異常事態だった。

「暁、最初に気付いたのはお前だそうだが、いったい何時からなんだ。兆候はあったのか?」

「あっ、はい、いえ、収集部隊の時は殆ど武装を取り払っていて、移動も船に乗っていたので、気付いてなかった……のです……」

 呆然と結果を見つめていた暁は声を掛けられはっとして思い出しながら返答する。吹雪に護衛されていた時の暁の仕事は資源収集と索敵、それに班員のまとめ役であり、ほぼ適性値による変動が体感できるような事はしていなかった。そのためか、先日勘を取り戻そうと砲撃の練習を行うまでは自身の変化には全く気付かなかったのだ。

「私も最近調子が良いとは思っていましたけど、攻撃機は積んでいなかったので……」

「私は改装した艤装が馴染んできたのかなーくらいに思ってて……」

 飛鷹と川内も同じく気付いていなかった。飛鷹は正直に言えば、吹雪に助けられて以降ずっと調子が良かったのもあり、ちらりとその可能性を浮かべなかったでもない。だがまさか、特に何をしたでもない自分の適性値が上がるとは思っていなかったし、川内に至ってはそもそも上がる可能性があるという事すら知らなかった。

「いやぁ、よもや上がってるとは。これなら戦闘部隊も行けるかな?」

 呼び出された三人とも余裕で150越えてるし。川内は明るい語調で言うが、提督としてはかなり悩ましい事態である。と言うのも、対外的に自衛隊の戦闘可能な艦娘は十二人であると明言されているからである。そこへ一気に三人追加、というのは何やら悪い方へ勘繰られてもおかしくない。そもそも適性値を上げる方法が存在するなら招集自体必要無いという話になりかねないのだ。

「ちなみに提督はどうして上がったのか心当たりはあるの?」

「吹雪ですかね」

「吹雪やろなぁ」

「吹雪だろうな」

「吹雪よね」

「吹雪以外ってあるの?」

 即答され、やっぱそうかぁ、と川内は得心した。あの明らかにおかしい生物なら、そういう事をやらかしてもおかしくないと感じられたのだ。

「だが、条件が分からんな。吹雪の指揮下にと言うのなら私と秋雲が上がっている理由の説明がつかない」

「え、長門本当に分からんの?」

「いや、思い当たる節はあるが……正直、そんな事で上がると信じたくないだけだ」

 複雑そうな長門の言葉に宮里提督はかぶりを振り、目を閉じた。

「たぶん、それで合っていると思います。考えてみれば、秋雲だけではないですね。おそらく、吹雪と接していた時間の長い駆逐艦は全員、適性値が上がっているんでしょう」

 訓練場での成績を鑑みれば全員元々優秀である。だが、それを考慮しても、彼女たちの戦果は明らかに大きい。攻撃力が想定していたよりも高いはずだ、と宮里は呟いた。

「つまり、どういう事?」

 事情に全く通じていない川内は隣の暁に小声で聞いてみる。全員に聞こえていたため、答えは龍驤から返ってきた。

「吹雪と仲良うすると、適性値が上がる。っぽいって話」

 うちはほぼ話もせんかったからね、と龍驤は笑う。龍驤だけに限った話ではなく、空母や潜水艦の面々はほとんど吹雪と交流が無い。その彼女達は良くも悪くも訓練所で発揮した戦力をそのまま保持し、逆に吹雪と交流が深い――ある程度でしかないが――駆逐艦や巡洋艦の面々は自衛隊の目算していたよりもかなり高い実力を持っているというのが宮里艦隊の現状である。

 そこへ来て、対吹雪用のクッション役として収集部隊に配属された暁と飛鷹、吹雪に基本的な格闘術を教え込んだ川内の適性値が戦闘に堪える水準まで上がったとなっては、最早推測は確信の域にまで上り詰めていた。

「ともかく、この結果は貴方達の証言も含め今日中に上へ報告します。三人の扱いはまだ分かりませんが、おそらく訓練所に戻される事は無いのではないかと……」

 そりゃそうだ、と全員が納得した。指導だけなら他の艦娘でいいのだ、戦える者は戦える場所にというのが今の方針なのだからして。

 一応調整はしておくべきだろうという事で、艤装を用いて訓練場である程度の慣らしの指示を出し、その場は解散となった。

 

 

 

 数時間後には大本営から新たな戦闘部隊メンバーは宮里艦隊で管理、運用するようにと指示が出された。艤装も日付が変わるまでには戦闘用の物が届くよう取り計らうとの事である。

 おかしい。宮里の胸中は不信感で満たされた。

 事実確認の連絡もなく、悩む事すら無かったような、まるで決まっていたかのようなスムーズな決定である。一応、艦娘の人事に関しては楠木が最終的な決定権を持っているとはいえ、どう考えても早すぎるだろう。

 それ以前にも不審な点は多い。たとえばそもそも暁と飛鷹が吹雪と同じ鎮守府に異動になった点だ。世間に顔を晒してしまった者を一か所に、という話ではあったが、今この状況になって改めて振り返ると非常に怪しい。それは吹雪と仲を深めさせるための方便だったのではないのかと疑ってしまう。ひょっとすると、暁が教官長に選ばれた事自体が、というのは流石に考えすぎだろうが。

 当然言えない事もあるだろうとは宮里も理解しているのだが、それでも疑いの芽が出れば気にはなる。上を疑うべきではないだろうが、部下の命に関わる問題でもあり、宮里はさらに悩まされる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局休日をほぼ走り込みで消費した翌日、艤装の修理をしっかり終わらせ死体となった明石さん達を踏み越えて、宮里艦隊の戦闘部隊は今日も今日とて出撃のためのミーティングに集まった。

 一昨日は二か所同時に敵泊地を潰したし、今日はその周辺を掃討して明日明後日にまた変色海域かなと思いながら会議室の扉をくぐると、しっかりと艦娘の制服を着こんだ川内さんがおーっすと挨拶を繰り出してきた。

 なんで居るんだろうと疑問に思いながら何か楽しそうな様子の川内さんと暫くお話していると、暁教官長と飛鷹さんまで入室してきて、一緒に入ってきた長門さんと共に提督の後ろに控えた。川内さんも引きずられて行った。

 暫くして戦闘部隊も揃い、提督から発表される今日の作戦の概要を頭に叩き込む。と言ってもやっぱりただの掃討と変色海域近辺の偵察くらいだったけど、どういう訳かこのところよりも出撃人数が多かった。いつもは近海で何かあった時のために何人か鎮守府に残して行くのだけれど、そちらを減らして戦闘部隊マシマシ。で、その穴は今提督の後ろで真面目な顔してる三人に埋めて貰うと。

 ええ、大丈夫なのそれ。適性値上がったから大丈夫? あ、そうなんですか。へぇ、適性値って上がるんだ。知らなかった。

 

 うぇっ、マジで? 上がったの? っていうか上がるもんなの? 割とさらっと告げられたその事実に会議室内はざわついた。曙とかめっちゃ食いついて上げる方法を聞きに行ったが、どうやら自衛隊側でも理由は不明らしい。ただ検査したら上がってたから採用されたとか。

 実際、色々検証した結果戦闘に堪えるだけの能力があったらしいので使える物は使っていく事に決まり、でもいきなり私達と同じ所に放り込むのは不安なためまずは近海の警備からで、慣れたら合流という事になったそうな。

 ツッコミたい事は多々あるが、とりあえず川内さんがはしゃいでた訳は分かった。それに飛鷹さんが戦えるようになったのはなんか嬉しいな。適性値低くても戦いに行ける人だし、頼もしい。でもその二人よりも私的にさらに注目度が高いのが暁教官長である。いやもう教官長に戻らないのかな? 呼び方考え直した方がいいんだろうか。そんな事を思っていたら、一部の人から三人の実力に疑問の声が上がった。でもそこはたぶん問題ないと思うのです。

 川内さんは身体能力高め、近接戦でばっさばっさやる天龍さんと同じタイプで速度はさらに早い。旧収集部隊でも夜戦忍者の片鱗が見えていた。飛鷹さんもきっちり索敵をこなし、潜水艦も見つけ出せるくらいの頼もしい人だ。暁教官長に至っては現状唯一の私に有効打を与えた存在である。敵味方ひっくるめて。しかも三度。

 それを言ったら教官長に誤解を生む表現は止めて!? と叫ばれてしまった。事実なのに……

 

 

 

 

 

 その日の出撃を終え、無事に全員帰港。提督が話があると言っていたので執務室に向かったが、丁度離席していたようで、机の上からずり落ちそうになる書類の束を必死で押さえる妖精さん以外は誰も居なかった。

 たすけてーと呼ばれたので書類を取り上げると、持ち上がった書類に引っ付いて妖精さんも持ち上がった。何してんの君。

 妖精さんを回収して提督の机に書類を戻すが、その時自然とめくれたページの一部が目に映ってしまった。そこには長門さんの本名が書かれており、その名字は長門。どうやら長門さんも姓名に艦名が入ってる勢だったらしい。

 書類を落ちないよう纏めつつ、つい触ってしまったらしい妖精さんを窘めていると、龍驤さんが入室してきて、机周りを弄っている私の事を見咎めた。注意されたが妖精さんじゃ、妖精さんの仕業じゃと説明したらすぐ納得されて、逆に謝ってきた。

「信じていただけるんですね」

「そりゃまあ、吹雪が真面目って事くらいは知っとるしな。それに宮里提督の周りは妖精さんのせいで散らかったりとか、よくあるからなぁ」

 艤装を装着していない今の龍驤さんに妖精さんは見えないが、提督の周辺で妖精さんがよくいたずらをしているのは知っているとの事である。殆ど話もした事のない龍驤さんだが、良い人っぽくて助かった。

 龍驤さんは私の触っていた書類を見て、これかぁと呟いてから私に見えないように裏返す。

「すいません、名前だけ見えてしまったんですが……」

「ん、まぁそんくらい構わんやろ。そもそもこれ機密ってほどのもんでもないしな」

 そしてそこで会話が止まった。龍驤さんも用事があるようで一緒に提督を待つ事になるのだが、何を話すべきなのか、そもそも話した方がいいのかがさっぱり分からない。龍驤さんもこちらを気にしているそぶりなのだが、やはりどう話しかけたものか困ってるのだろう。今までちゃんと話して来なかったツケが廻って来た感がある。

 さっきの書類結局何だったのか、とか聞いてみてもいいのかもしれない。機密じゃないらしいし。長門さん以外にも複数の見た事のない名前が載っていて、出来るだけ見ないようにはしていたが武蔵や陸奥の名前があったのは認識してしまっている。

「なあ吹雪、さっきの報告書、どこまで見た?」

「長門さんの本名と、戦艦の名前が幾つかあるのだけ……」

「本名……まぁ、そうか」

 迷った末話しかけて来た龍驤さんは微妙な表情になった。なんか含みのある感じだけど、話題にしてくれたのなら聞いておこう。

「長門さん、もそうですけど、私も名前に自分の艦の名前が入ってるんですよね。龍驤さんはどうですか?」

「うち? うちは入ってないよ。加藤の寿子ちゃんやからね、普通の名前でしょ」

 確かに普通である。入ってる人と入ってない人の差はなんなんだ本当に。

「普通かどうかで言えば私の名前も普通ですけどね。伊吹の雪ちゃんと申しまして」

「ははっ、確かに。でも知ってる? キミの名前、吹雪以外の名前も入ってるで」

「伊吹ですね。未成の……重巡か空母でしたか」

 龍驤さんは感心した様子でほほうと息を吐き出しながら腕を組んだ。豊満と言っていい胸が揺れる。

「知ってるもんやね……軍艦とか興味ある方?」

「いえ、召集前に吹雪について少し調べて、その時に偶然見つけました」

 そっかーそりゃ調べるわなと龍驤さんはうんうん頷いた。一緒に胸が揺れてる。割と自分の使用する艤装の由来を調べた人間は多いのではないだろうか。私は実際の所、前世で読んでた漫画にあったから知ってただけだけどな!!

「案外そっちの適性もあったりするんですかね」

「どうやろ……うちは個人個人の詳しい適性値まで知らんから吹雪のまでは分からんけど、複数の艤装が扱えるって子は居るよ」

 一人一種類って訳ではないらしい。聞けば、各々最も高い適性値を持つ艦の艤装を割り当てられているが、姉妹艦の艤装も扱えるという娘はさほど珍しくないのだとか。案外私も初雪や深雪のは使えるのかもしれない。叢雲はなんか色々違うから難しそうな気がするが。

「それにしても、結構多いですよね、自分の名前に使える艦の名前が入ってる事」

「それな」

 やっぱ気付くよなぁと龍驤さんはぼやいた。そりゃあ気付くだろう、大変失礼な話だが、金剛さんはともかく比叡さんなんか入れるために無理矢理名付けたように見えるし。

「自衛隊でも適性値と関係あるんやないかって調べてるんよ。で、今吹雪もさっきチラ見した奴あるやん? それその関係の奴」

 マジかよちゃんと見とくんだった。いや知ってもしょうがないんだけど凄い気になってるんで出来れば知りたかった。私が書類の方をまじまじと見つめていると、隣の龍驤さんは耐えきれないといった感じで吹き出した。

「案外判り易いなキミ……でもあれ、結局分からんって事しか書いてないで。ただの実験結果やから」

「実験……?」

「そ、人道的に問題なくて、コストも全くかからない、やる価値があるのかも分からないような奴」

 姓名変更実験。それは戦闘に堪えうる艦娘を十二人しか確保出来なかった自衛隊が、数撃てば何か当たるんじゃね的な考えの下行った奇行の一つだという。

「ま、名前変えるだけで適性値上がったら苦労せんわな」

「……じゃあ長門さんの本名って」

「もっと違う名前やね。戸籍上は長門になってるはずやけど」

 この実験、精鋭部隊は半数、それ以外にも多数の艦娘が参加したが、結論としては無意味だろうと言われてしまったそうな。いやそれが分かったのは収穫なんだろうけど、なんか悲しい。ゲン担ぎでやった奴も多いみたいだからと龍驤さんは言うけれども。

 

 そんな事を話していたら宮里提督が帰ってきた。私への要件は、以前に報告書についでに書いておいた第一から第三艦隊に私の指揮下の艦娘が居た方が良いのではないかという案を正式に採用、新たに加わった三人をその枠として配置するという話だった。旧収集部隊のメンバーは私の指揮下から外していないので、つまりは現状維持って事だね。

 

 

 

 宮里提督との話を終えて部屋に帰ろうと廊下に出たら、見慣れないけど見慣れた人物が前から歩いてきた。その人は片手に小ぶりなスーツケースを下げてゆったりと廊下を歩き、自分の口元に人差し指を当て騒がないようにとジェスチャーを飛ばして来る。

 そのまま敬礼する私とすれ違い、提督の執務室をノックすると、ゆっくりと扉を開け、用事を終えて出て来た龍驤さんと入れ違いに部屋へと消えて行く。龍驤さんは閉じられた扉を三度見くらいしていた。

 なんでここに楠木提督が!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、聞きたい事があるようなら、答えようか」

 宮里は混乱していた。吹雪と龍驤の用事を済ませ、書類仕事を片付けてしまおうと思った矢先、突然現れて開口一番そんな事を言い出したのが自分の上司――この場に居るはずがない人間だったからである。

「ああ、挨拶などは構わんよ。これだけ置かせてくれれば椅子も茶も要らない」

 そう言ってスーツケースを宮里の執務机に置いたその人物は、名を楠木 多聞丸といった。

「そういう訳には」

「いやぁ、用が済めばすぐ帰る予定だからね。一度座ると立ち上がるのが億劫になってしまうよ」

 冗談めかしてそう言うが、宮里からしたら笑えない。普通に座って欲しかった。せめてこれだけはと自分も立った状態で楠木提督に向かい合いになる。

「さぁ時間も有限だからね、あるだろう? 疑問に思っている事が」

 宮里は一瞬悩んで、少しだけ言葉を選ぶ。

「はい、でしたら、お聞きします。……吹雪には他の艦娘の適性値を上昇させる力がある、のでしょうか」

 知っていたのではないか、というか、もうこれ絶対知ってたよねと思いながら投げた質問は、やはりというか肯定の声でもって返答された。

「そうだね。あるよ」

「……何故それを隠されていたのか、お聞きしてもよろしいでしょうか」

 ふむと楠木は少しだけ考える素振りをすると、宮里の目を真っ直ぐに見つめた。

「その疑問に答える前に、おそらく君がしている勘違いを一つ訂正しておこう」

 適性値を上げる力は提督共通の能力だよ。

 言われた言葉を一瞬、宮里は理解出来なかった。

「吹雪くん固有の能力ではない。まぁ、その能力が異常に強いという点は特異だろうけれどね」

「では、私でも適性値を上げる事が出来ると……?」

「出来るとも。君も、もちろん私も」

 まぁ私は条件を満たせないだろうがと楠木は笑う。その言葉から、思っていた以上に楠木が事情に通じていると宮里は理解した。

「方法もはっきりしているのですか?」

「ああ、至極単純で、とても難しい方法だよ……本当に単純なんだ。何せお互いがお互いを信頼する、それだけでいいのだから」

 君がゲームでもするなら、好感度を上げると表現するのが分かりやすいのだけどね。と楠木提督は言う。残念ながら宮里はその手のゲームをやる方ではないが、説明がなされなかった理由は見当がついた。

「知ってしまうと、それを目的としてしまう可能性が出る。だから秘匿されていたのですね」

「然り。心の底からの信頼関係である方が望ましいようでね。それも双方向で、だ。単純だが非常に面倒臭い」

 提督側と艦娘側の、片方でも打算だと成立しない。必要なのは強い絆なのだと言う。つまり今回適性値が上がったのは吹雪を認めて、吹雪からも信頼を勝ち取った艦娘達なのだ。

「……五番目が長門と言うのが少し腑に落ちませんが」

「ん? いや、違うよ。というか、気付き給えよ。長門を好いているのも長門が好いているのも吹雪くんではないだろう」

 あっと宮里は声を上げた。適性値を上げる能力は全提督が有しているという。吹雪が原因でないなら一番可能性が高いのは誰なのか。

「私ですか!?」

「そうなるね。私の分は今更上がらないだろうし」

 そう言うと楠木は懐から取り出した鍵をスーツケースに差し込むと、蓋を開け中身が見える様に宮里へと差し出した。中には十個の小さな箱が詰められている。

「これは妖精さんが作った、提督の適性値を上げる力を効率的に運用するための装置だ」

 その道具自体に適性値を上げるような効果はないが、既に提督と強い絆を結んだ艦娘が身に着ける事で提督との繋がりを霊的に強め、結果的に適性値も上がって行く。妖精さん特有のオカルティックでファンタスティックな逸品であると言う。

「中身は全て同じでデザインは選べないのが申し訳ないがね、とりあえず一つは君に預けよう。なに、誰に渡すも自由だよ」

「その性能だと意味があるのは一人しか居ないですよね? というか、どこまでご存じなんですか……!?」

「はっはっは、義娘をよろしく頼むよ」

 スーツケースから一つ取り出された小箱の側面にはどういう訳か括弧書きで仮と印字されている。もしかしてテストに使われているのだろうか。宮里は少し心配になった。

 

 

 

 

 

 その後もなんやかんやと話し合い、見送りするという宮里を押し留めて、楠木は一人港の暗闇で独り言ちる。

「危なくレ級くんに殴られるところだったが……ふぅ、リカバリーできて良かった……」

 やはりアドリブを入れるのは慎重にやらないと駄目だなぁと呟く楠木の計画は、今日も今日とてガバガバだった。

 

 

 




でも送り迎えはレ級なので結局バレます。


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提督の胃は犠牲になったのだ

「嵌めてくれるかい、幸」

「勿論……どの指がいいか教えて貰える?」

 差し出された長門の左手を取り、素知らぬ振りで宮里は微笑んだ。片手に持った銀色の指輪には太陽の光が映り込み、祝福の輝きを放っていた。

 自分は何を見せられているんだ。龍驤は虚ろな目で二人の奥にある窓から覗く青空を見つめていた。

 

 

 

「で、自分らさぁ、呼び出されたと思ったらけったいなもん見せつけられた独り身のうちに、何か言う事あるよな?」

 ごめんなさい、と二人の声が完璧に重なった。仲良しか。はぁとため息を吐いて龍驤は長門の薬指に嵌められた指輪を睨んだ。

 適性値を上げる道具、そんな物が実在してしまったらしい。しかも自分には使えない――少なくとも恋人か親友レベルの仲でないと効果を発揮しないとなると、龍驤の眼には少しだけ憎く映ってしまう。割と焦りが出てくる年齢なのだ。

「それ、どれくらい上がるん? 吹雪レベルはともかく金剛とか島風レベルまで行ける?」

「それが、妖精さんの証言から作られたもので実際の効果がどれくらいになるかは不明らしくて……」

 宮里と長門が第一号であり、テストも兼ねての使用となる。着ければ一気に上がるというものではなく、あくまでも適性値上昇の補助であり目に見えた効果が出るまではそれなりに時間がかかるとか。性能にはそこそこの期待が持てるらしいが、おそらく万単位は厳しいし、吹雪並みは不可能だろうと楠木提督は言っていた。

「無しでも島風を一万オーバーまで引き上げた吹雪が規格外、という事だな」

「正確にはあれは相乗効果だろうという話ですが」

 吹雪の通っていた中学校の同教室には吹雪以外にも一人、提督の適性を持つ男子生徒が在籍していた。そしてその男子は、提督としては天才と呼べる能力を有していると言われている。

「金剛の三万越えは両者と仲が良かった結果みたいですね」

「コミュ力高い方が強くなれるし、強く出来るって事か……吹雪はちょっと持ち腐れとるなぁ」

 自分から新しく交友を広げようとしないのはだいぶ勿体ない。とはいえ、事情を説明してしまえば本当の友人になるのが難しくなるため、吹雪の意識を変えさせるなら何か別のアプローチが必要になる。勿論打算から始まる友情もなくはないだろうが。

「説明されちゃったうちはもう、絶望的やん……」

「そこは申し訳ないと思っています。でも、既に打算で近づこうとしていたでしょう?」

 まぁそうだけど。苦々しい顔つきになった龍驤も本気で不満がある訳ではない。ちょっと適性値目的で仲良くなってみようかな、などと不埒な考えを持っていたのは確かなので、それが無意味だと知れたのは良かったようにも思える。打算では駄目だと思いながら接するのと完全な打算で交流するのはどちらがいいのかまでは分からなかったが。

「普通にしているのが一番だろう。積極的に話をするべきだとは思うがな、悪い娘ではないし」

「苦手な癖によく言うわ」

 吹雪はむしろ、関わりの少なさの割には長門に懐いていた。あまり話す機会はないが宮里の秘書艦でもある以上、第四艦隊の旗艦として書類を提出に来る吹雪とはどうしたって顔を合わせる。その時に向けられる視線は好意的なものなのだが、その原因がネット上のアレらだろうと理解している長門からすると、あまり嬉しくない。というか、苦手意識の助長にしかなっていなかったりする。

 元々、吹雪に対して長門は警戒心を持っていた。敵だと思っていた訳ではなく、楠木提督の仕込みの可能性を考えていたのだ。何でも使う――それこそ必要なら自分の籍や体まで差し出す勢いのあの男なら、非合法に適性値の高い人間を作り出すとか、士気のために適性値を盛るとか、そのくらいはやり兼ねないと思っていた。

 吹雪は日本、延いては自衛隊にとっても都合が良すぎる。招集をかけてもどうにかなるか分からないような状況で、一度目の検査で発見され、今までの常識を覆す戦闘力を持ち、指示は素直に受け入れ、増長するような気配も無い。特に大人の手を煩わせるような事もせず、駆逐艦であるためコストパフォーマンスにも優れる。

 自己評価も低い――というか、自身の実力や挙げた戦果がどの程度のものであるか正確に理解しているにもかかわらず、出した結果を自分の功績と捉えていない節がある。全体主義という事ではないだろうが、報告書などを読むとむしろ自分という駒を使いこなす宮里や、必要なサポートをこなす仲間への評価が高いという有様である。

 どうしたらこんなのが生まれるのだろう、と長門は不思議に思うが、別にそれらは何も悪い事ではない。長門自身狭量な事だとは思うが、苦手意識の根底にあるのは結局、叩き込まれた拳でスクラップへと変えられたレ級の惨殺死体なのだ。

「悪い人間でないだろうとは本気で思っているんだがな……」

「まぁどうしても得意不得意は出るか。うちも加賀とか会話続かんし」

 無口というか不愛想というか。彼女が提督だったら大変だったろうと龍驤は口元に笑みを浮かべた。主に瑞鶴が。

 

「そういうわけなので、吹雪とは打算目的で近づくのではなく、出来るだけ普通に信頼関係を築いてください」

「さらっと難しい事を……」

 そうとしか言いようが無いのだろうが、酷いぶん投げっぷりである。

「それで本題なのですが」

「今の本題じゃないの!? じゃあなんでうちあんなの見せつけられたん!?」

 流れで。と宮里は顔を赤らめ、目線を泳がせながら長門の方へと流した。目の合った長門は微笑み、龍驤は頬を引きつらせた。

「二人の関係は知ってたけどさぁ……それで、本題って何?」

 龍驤の言葉に宮里は表情を暗くして一つ頷くと、重々しい声で言った。

「来週、この鎮守府に取材が来ます」

 長門と龍驤の動きが止まり、しばし沈黙が訪れる。彼女たちの知る限り、鎮守府の内情や艦娘の運用などは今まで秘匿されて来た。それをここに来て、取材などと言い出されるのは。

「あの男、ついにボケたか……!」

 宮里もフォローしたい所だったが、正直なところを言えば彼女も上層部の正気を疑っていた。取材は有りかもしれないが、これは無いだろう。鎮守府に送られてきた資料には、生放送の三文字が燦然たる輝きを放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の任務を受け取りに、みんなで作戦会議室までえっちらおっちらやってくると、既に準備を整えて皆が揃うのを待っている宮里提督と長門さんが室内にいる訳ですよー。前日の出撃ではほぼ被害も出なかったので今日は予定通り変色海域へ吶喊な予定だなーって思いつつ挨拶したわけですよー。そしたら長門さんの左の指辺りに何やら光る影があるわけですよー。よく見たら指輪な訳ですよー。しかも薬指ですよー。

 昨日まで何もなかったのにって思わずガン見したら何故か恥じらう宮里提督。長門さんは余裕の表情で居ようとしてるけど、ちょっとにやけそうになっている。教授!! これはいったい!?

 ケッコンカッコカリだよ。

 いや本当にそうかは知らないけども、雰囲気的には近い物を感じる。いやいや実際にあんなシステムあると思えないから普通に贈っただけかな? 薬指にするようなものを。

 うん、まぁ、なんだろう。本当に贈り主が提督か分からないし? そうだとしても問題ないだろうし? そういうのって人それぞれですし? もうそろそろ配慮が叫ばれる時代キテマシタワーでしたし? スルーでいいよね? よね?

 

 動揺を抑え込んでるうちにミーティングが始まり、今日の任務を言い渡され、内容はいつも通りの基地破壊だった。それはいいんだけど、今日から自衛隊の編入組を前線投入しますと提督が言い出したから大変だった。様子見一日で終わらせちゃったよこの人。私は個人個人の能力面では大丈夫だろうと思ってるけど、実際組み込まれる第一から第三艦隊からしたら連携面とかで混乱しそう。

 

 

 

 って思ってたのが数時間前。変色海域で核を叩き割って、通信で状況を聞いてみたら特に大きな問題もなく、深雪殿がまた大破しておられたくらいだった。なんか回避率悪いんだよなぁ深雪。

 とりあえず陽動で主力部隊同士の戦いになった向こうも優勢って事なので、私と島風はソナーとレーダーで雑魚狩りである。後で敵基地に残された資源を速吸さんと秋津洲さんに回収してもらわなきゃいけないから結構大事な仕事だったりするのだこれが。

 それにしてもこの海域はかなり面倒くさい。小さい核を各所に配置して変色海域を維持しているらしく、落とさなければいけない拠点が阿呆みたいに多いのだ。しかも陸地とは限らず、海上にぽつんと設置されて護衛が付いてるだけなんてのもあった。敵の数もやたらと多く、姫級も何体居るんだよって話だし。こいつらが攻め上がって来てたら日本ってもっと酷い事になってたと思うんだけど、どういうつもりなんだろう。

 そんな事を思いながら見つけた潜水艦に爆雷を投げつけていると、島風がオウッと鳴いて空の彼方を指差した。敵機である。普段見ている戦闘機や爆撃機なんかより大きいそれをとりあえず撃ち落としたら、着水した瞬間に赤い海が辺り一面に広がった。

 なんだそりゃと思いながら墜ちた場所へと急行した私達が見た物は、青い光を弱弱しく放つごくごく小さな核だった。それこそ、私達の視界内くらいまでしか効果が無さそうなくらいに。

 とりあえず握りつぶして海を青く戻したら、島風がまた鳴いた。視線を誘導されてさっきと同じ方角に目をやれば、そこにはさっきと同じ航空機が十九機。反射的に二機撃ち抜いてから気付く。輸送機じゃねーかあれ。

 なんか面倒くさい事態になっている気がする。そう思いながら散開して逃げようとするそれらを出来る限り撃ち壊すが、装填が間に合わずに五機は水平線の彼方へと消えて行った。当然のように海は撃ち落した輸送機から零れ落ちた微小な核によって変色海域化したし、どうしたらいいんだこれ。

 他にし様もないので海に落ちてしまった十四個を一つ一つ壊して艤装の中へ仕舞い込んで、とりあえず報告しようと思ったその矢先、遠くに見える水平線の一部が白く染まったのが見えた。

 今度は何だよと警戒しながら注視していると、その方向から大きな波が押し寄せてくる。私も島風もバランス感覚に優れているため転覆するような事態にはならなかったが、乗り越えた際に連装砲ちゃん達が若干流され隊列は崩れてしまった。

 水平線上の白い何かは先ほどよりもさらに大きくなっていて、今見えてる部分だけで全長千メートルは越えていそうに見えた。どうやら今の波はその妙なデカブツが浮上してきた余波だったらしい。その突然現れた島のような、異様に大きな白い何かを警戒しながら連装砲ちゃん達と合流し、撃つべきかどうか逡巡していると、白いそれの先端部分が開き、中にはこれまた真っ白い歯のような物が並んでいるのが見えた。口かあれはと呑気な事を考えた次の瞬間。飛来した何かに吹き飛ばされ、私と島風達は宙を舞った。

 

 

 

 空中で体を捻り、島風を受け止めて着水する。ざっと確認するが、私も島風も特に外傷はないようだ。なんだ今の。いやチート能力さんはなんだったのかきっちり判断しているのだけど、私自身が理解できない。っていうか、それは艦これでやる事じゃないと思うの。

 今のはたぶん、ただ声を上げただけ、なんじゃないだろうか。指向性も何もないただの大声。砲撃でもなんでもないから物理無効化能力を貫通してこなかったみたいな、攻撃ですらなさそうな何か。

 私の視線の先に君臨するそれは、下手な島よりも巨大な白いクジラだった。

 え、まさかあれ太平洋深海棲姫とかだったりする? 想像してたよりデカいんだけど。ああ、よく見ると申し訳程度に背中に大砲も乗っかってるわ。背中にちょこんと乗っかってて体の大きさに全くサイズ見合ってないけど。もしかしたら艤装は大きくなるけど武装は大きくならないとかそういう話なんだろうか。手足みたいなのもちょこんと生えてる。いや大本がでかいからちょこんってサイズ感でもないけど。つーか本体どこだよ、クジラしか見えないんだけども。

 たぶんあれも深海棲艦なのでとりあえず撃ってみる。発射、命中。そりゃそうだ、デカすぎて届けば当たるレベルだもの。だがしかし、弾が貫通して穴は開くけど効いてる感じが全くない。でっかい島レベルの巨体にただの砲弾が当たったからなんだって話である。貫通弾以外ならどうだろうと試してみるも、そうすると強いとは言っても駆逐艦レベルな訳で。表面が凹んだり傷ついたりはするけど致命傷には程遠い。

 駆逐艦吹雪として戦っている時の私って、ゲームで例えるとクリティカル率とクリティカル時のダメージ上昇率が異様に高いクリ特化キャラみたいな感じなんだよね。勿論攻撃力も高いんだけど、本当にヤバいのはそこじゃなくて、確実に急所を射抜けるところ。私が姫級を弐撃決殺出来るのは人間部分が丸出しだからっていうのが大きいんだ。弱点丸出しの相手は私にとってカモだったんだよ。

 つまりどういう事かと言うと、私の砲撃だとあのクジラ倒せません! 本体見えてれば他の姫級と同じだけど、見えないからムリムリかた陸奥りである。魚雷があれば……いやあれも威力はともかく範囲は微妙だもんなぁ、どうだろう。

 そう思いながらも十発ほどは撃ってみたが、やはり効いている様子はない。というか、特に反応が無い。島風も魚雷を撃つけれど、全弾命中しても微動だにしない。どういうつもりだろうと出方を窺いながら、提督に報告するために通信機を起動しようとしたら、空からさっき逃げた敵輸送機が舞い戻って来た。撃ち落すと変色海域化するしどうしたもんかと迷っているうちに一機が乗せてた荷物を投下して、海はやっぱり赤く染まった。

 連絡出来ないじゃねーかと思いつつ、とりあえず小さな核を今度は撃って壊したら、次にやって来た輸送機がまた投下して海は青くなってから即赤くなる。それも壊したらまた次のが置き土産をして行く。無限ループって怖くね?

 そもそもさっきまで敵の泊地を襲撃してたわけで、弾薬だってもうそんなに余裕が無い。これはもう、直接殴りに行くしかないか。そう思って水平線に向かって島風と走り出した。

 

 赤く染まった海を少し進んでクジラの影が大きくなってきたと思った頃。その大きな口元が少しだけ動いた気がした。さっきの推定ただの声がまた来るんじゃないかと島風に言って足を止め、海にしっかり足を着けてそれが来るのを待ち受ける。一呼吸おいて、音の嵐が私達を掬い上げ、遥か後方へとぶっ飛ばした。

 吹き飛ばされる私と島風に連装砲ちゃん達。それと、なんか小さな深海棲艦。なんだこいつと思ってよく見ると、赤ん坊のような小さな人型に帽子のような、頭と一体化してるのか被っているのか微妙な艤装を乗っけたようじょにすらなっていない何か。PT小鬼群とか呼ばれる連中の一匹だった。

 焦ったようにぱたぱたと手足を振り回すそいつは受け身を取れず、盛大に赤い海面へと叩きつけられた。普通に着水した私達に水飛沫が降り注ぐ。あのクジラ、敵味方無差別に吹っ飛ばしてるんだなぁ。浮き上がって来た小鬼は私達に気付くとそそくさと逃げようとしたので撃っておいた。

 私達が戻されたのはたぶん進んだ距離とほぼ同じかそれ以上で、こうなるともう普通に滑走して近づくのは無理じゃないかと思われる。連打出来るのかは不明だけど、わざわざ出て来たって事はこちらを認識しているのだろうし。飛ばされないように耐えようにもここは海のど真ん中、掴まる場所とかは一切無いのである。全力で走って行けばどうにかなりそうな気はするけれど、それをやっていいのかどうかの判断に困る。変色海域化してるから指示も仰げない。

 でもそもそもあのクジラ倒すのって今回の任務じゃないので無理をする理由もない訳で。一旦引いて提督に決めてもらう方がいいと判断して制圧した敵泊地まで引き返し、一息つく。輸送機もわざわざここまで追ってこないらしく、周辺の海は青いままである。一応の目標は達成してると言っていいかなたぶん。

 

 提督に報告を上げているうちに敵主力部隊を倒した本隊がこちらに向かって来たので、長門さんにも事情を説明する。長門さんはなんだそりゃって感じの反応だったけれど、ともかく事実確認だとしっかり偵察機を出してくれてた。

 飛ばした龍驤さんと飛鷹さん(New)の報告によると、やっぱり白クジラは水平線でぷかぷかしているらしく、しかも悪い事に私達の進行予定のルート上に鎮座ましましているとの事。倒してかないといけないのかアレ。

 

 

 

 戦艦の砲撃なら効くだろうかとみんなでクジラ見物に向かい、全員で撃ってみた。普段は的が小さいためやらないだけで、私以外の砲撃も水平線まで届くことは届くのだ。今回は相手がでかいので届けば当たる。なので魚雷も大砲も、速吸さんの積んだ帰り用の予備だけ残して撃ちまくった。

 がっ……!駄目っ……! いや削れてはいるんだ、数週間絶え間なく撃ち続ければ倒せるんじゃないかって程度には。当然ながらそんな事出来る訳ないし、そもそも続けてたら相手も反撃してくるだろう。今の所動かないけど。

 みんなが撃ってるうちに接近出来ないかと試してもみたんだけれど、私達が近づこうとするとやっぱり吹き飛ばしを喰らった。私達だけでなく主力部隊の面々も巻き込まれ、なんだこれはどうすればいいのだと大混乱が巻き起こった。水中の潜水艦二人も音でソナーがぐちゃぐちゃだったという。

 長門さんもこれには参ったようで、とりあえず今日の所は鎮守府に戻って提督となんらかの方策を考えるという。ううん。言い時なんだろうか。

 

 

 

 

 

 帰港して、一風呂浴びて、どうしたもんかと思い悩む。ぶっちゃけ、あのクジラは足下に辿り着けさえすればたぶん殴り殺せる。流石に一撃では無理だろうけど、ぶっ壊しながら掘り進めるんじゃないかと何となくわかるのだ。でもそれを提督に信じて貰う方法が分からないのである。

 チート転生者だっていうのが私の力の根源な訳だけど、それ説明して納得する奴は流石に居ないだろう。っていうか、それでじゃあやらせるかってなったらその方が困るわ。合ってる確信はあるけど倒せるってのも勘でしかないし。

 怪力を持ってるのは見せたけど、それが巨大深海棲艦を近接格闘戦でどうこうできる程だってのは分からないだろう。実演……って何見せればいいんだ、さっき制圧した島でも沈めりゃいいのか。

 そんな事を考えながら報告書を書き上げると、提督からの呼び出しアナウンスが来た。

 

 

 

「私の武装では、恐らく倒すのは難しいと思います。人部分が見えれば狙い撃つことは可能ですが」

 報告書を受け取った提督はそれをざっと読むと、私の最大火力であれを仕留められるのかを聞いてきた。私の返答は流石に予想していたらしくショックは受けていなさそうに見える。私はちょっとだけ悩んだけれど、とりあえず、まずは言うだけ言ってみる事にした。

「武装以外でなら、恐らく正面から倒せます」

「武装以外だと?」

 反応したのは長門さんである。秘書艦だから一緒に居るのは当たり前だなとずっと思ってたんだけど、指輪のせいで何やら意味深に思えてくる長門さんである。何を言い出すのかと宮里提督の顔にも疑問符が浮かんだ。

「殴れればなんとかします」

「お前は何を言っているんだ」

 流石に長門さんからツッコミを入れられた。

 

 

 

 

 

 そんな話をしたのが昨日の事である。その後ビルの素手解体を経て提督が作戦を立案、ちょっと特殊過ぎるので上層部の許可待ちになった。承認されたらすぐ実行できるように準備はしておこうって事で、今日は潜水艦のお二人との打ち合わせと練習である。

 艤装フェチ拗らせて徹夜とかしない方の明石さんと一緒に艤装とタンクを担いで演習場までやってくると、既に伊168さんと伊19さんは準備を終えて水面に佇んでいた。スクール水着のような制服の上にセーラー服を着た伊168さんと、スクール水着そのまんまな伊19さん。あんまりというか、まったくと言っていいほど話した事無いからちょっと緊張する。こちらに気付いた二人に挨拶すると伊168さんは心配気に、伊19さんは気楽そうに挨拶を返してきた。

「ねぇ明石、この作戦本当に大丈夫なの?」

「だから~それを今から確認するのー!」

 何度かされた遣り取りなのか伊19さんはちょっと呆れた様子で、明石さんもやってみないと何とも言えないと苦笑いだった。そんなことよりと伊19さんはこちらに寄って来て、にんまりと悪戯っぽく笑った。

「吹雪はどっちに抱かれたいのね?」

「語弊しかない言い方しますね!?」

 私に言われた伊19さんから、え? って感じの顔が返って来たんだけど。天然なのかまさか。

「ごめんね吹雪、イクは勘違いされやすい子だから……」

「アッハイ」

 すげぇや、これも艤装の影響なんだろうか。元々こんなだと周囲の男子大変だったろうしなぁ、デカいし。

「一応、こっちではイムヤの方が安定するかなと考えてたんだけど……」

 明石さんはお胸を凝視している。そんな理由で決まるのか……比べられた伊168さんも不満気で、セクハラ紛いの視線からはさっと胸を隠した。

「あはは……ごめんなさい。時間はあるしとりあえず両方試してみよっか」

 流石に気まずかったらしい明石さんの指示で、私達は試行錯誤する事になった。

 

 今回の作戦は……っていうか、今回の作戦もって感じだけど、単純明快。潜水艦の二人で私をクジラの所まで運んで行って、私がクジラをぶっ飛ばす。基本それだけである。あのクジラの大声は水中まではさほど効果が及ばないらしく、深い所なら進んで行けるだろうという話なのだ。他の戦闘部隊のメンバーは砲撃を飛ばしたりして囮役をやってくれるらしい。ちなみに提督の考えは乗り込んで本体を見つけ出して討伐だそうだけど、本当に出来るのなら素手でクジラをぶっ壊してもいいとの事。

 私達が行くのは当然海の底で、圧力は艤装が何とかしてくれても水中呼吸の出来ない私はフルフェイスのマスクを装備している。私は艤装と一緒に空気の詰まったタンクを背負って、潜水艦組のどちらかが私の艤装か私自身を掴んで抱えて潜水していく事になる。

 最初は伊168さんと試し、速度は落ちるものの潜るの自体は問題なく、やり辛いが魚雷だって撃てるとの事だった。長時間は腕が辛くないかと思ったのだけど、案外そこは平気らしい。

 次に試した伊19さんは明石さんの見立て通りというか、ご立派な二物がお邪魔あそばされて持ち辛かったらしい。こっちの方がいいかもーと言って私を逆さまにして地面に背を向けた形の私を海へと引きずり込むと、自身の双丘に私の頭部を埋めた。視界が完全に塞がれてちょっと怖かったです。

 どっちが良いかと言われたら誰がどう見ても完全に伊168さんだったので、特に相談らしきものもなくそちらに決まった。

 

 ちょっと潜りながら近海を回り、特に問題なさそうだったので途中見つけたイ級ロ級なんかを粉砕しつつ、明石さんも含めた四人で変色海域までお出かけして問題無いかのテストになる。この場合でも私が旗艦扱いらしい。報告書が厚くなるな……

 潜水すると吹雪の艤装に乗った妖精さんは耐えられないため、艤装を起動したら潜水艦の二人の艤装に分けて乗船させてもらい、目的地でこっちに戻ってきてもらう手はずになっている。この辺りは収集部隊で培った乗せ換えノウハウのちょっとした応用である。一人は残って貰わないといけないから可哀相な奴が発生するのはうん。

 到着した変色海域で伊168さんに抱えられ海中に飛び込むと、芯まで冷え込むような骨の奥底まで染み込む冷たさが襲い掛かって来た。だというのに別段体が震えるでもなく、冷え切り動かなくなるという事も無い。幻覚、という訳ではないのだろうが、肉体じゃなくて精神にだけ作用する冷たさなのかもしれない。なんだそれ。問題なのは麻痺もしないからひたすら冷たい事だろう。潜水艦の人達毎回こんな状態で戦ってるのかと驚かされた。

 視界は赤い以外はむしろ良好で、普通の海域より遠くまで見渡せるようだった。気づかれやすいって事だから今回の作戦だと嬉しくない。私も一応索敵には参加するので合図の出し方は決めてある、いつでもいいですよとサインを出していざ出発。

 と意気込んでみたはいいけど特になんにも居なかったので、十分くらいで無事浮上。タンクなどにも異常はなく明石さんからもOKが出たので、上のGOサインが出たら作戦は実行される運びとなった。

 

 許可ってどれくらいで下りますかねーとかそもそも下りるのかなぁとか雑談しながら鎮守府まで帰り着き、工廠にて明石さんの能力で艤装の受けたダメージを修理してもらっていると、心配と不安の入り混じった表情の伊168さんが近くまで寄って来て口を開いた。

「今回の作戦、吹雪は大丈夫なの?」

「えっと、はい。息苦しかったりとかはなかったので問題ないと思います。艤装も濡らしても大丈夫でしたし」

 訓練所でもやったので知っていたが、艤装は案外沈めてもちゃんと動くのだ。乗組員の妖精さん以外。戦力の足りなかった自衛隊でもその辺りの検証はやっていたらしく、意味のあるのか不明な実験シリーズの内の一つとしてデータが残っていたため今回採用になったらしい。吸うのが普通の空気と違うため喉が渇いたりはするけれど、流石明石さんに調整されただけあってマスクもしっかり機能している。でも、伊168さんが聞きたかったのはそういう事ではないようだった。そうじゃなくてと少し目線が逸らされる。

「今日初めて見せて貰ったけど、あれが普段通りなんだよね。ならきっと普段の吹雪なら大丈夫なんだと思う。だけど、この作戦だと吹雪は途中まで戦えない海中を進まなきゃいけないんだよ」

 潜水艦の二人とは交流も無ければ一緒に戦った経験も実は一回も無かった。今回ちょっと雑魚掃討したのが初めてだったりする。最初にこの鎮守府に来た時も空母の護衛に回されてて、一緒に突撃はしなかったし。

「あたし達に命を預けられる?」

 伊168さんは真剣な表情だったので、たぶん私は相対的に間抜け面だったのではなかろうか。いやなんて言うか、正直その発想が無かったというか――私、別に水中でも戦えちゃうんだよなぁ。潜水艦のように正しい方向へ正確に進み続けるとかは出来ないから潜水前提の運用は出来ないけれど、ちょっと潜って敵を殴り倒す程度は出来る。昔海へ遊びに行った時、海中で割と普通に動けたからまず間違いない。マスク外れたら息が出来ないからやりたくはないけど。

「さっきは居なかったけど、敵に見つかったら戦闘になる。攻撃された時は避け切れないかもしれない。吹雪には絶対に当たらないようにするけど、衝撃は来るかもしれない。魚雷が近くで爆発したら渦に巻かれちゃうかもしれない。でも、動かないで。私を信じてじっとしててくれる?」

「それは……」

 どうだろう。恐怖でってのは無いような……気がするけれど。もし私が恐慌状態にでもなって暴れたりしたら、私だけでなく伊168さんも危ない。

「たぶん……としか言えないです。でも伊168さんを信じられないとかじゃなくて……とにかく、気を付けます」

 伊168さんは腰に手を当てて、低めの姿勢から煮え切らない感じの返事をした私の顔を覗き込んだ。顔が近い。暫く見つめ合いになり、正直に答えない方が良かったのだろうかと考え始めた頃にようやくスッと下がって行った。

「なんか恥ずかしい事した気がする! でもそうね、私も信じる事にする」

 一緒に頑張ろうね、と言って小走りに去って行った伊168さんを見送ると、ちょっと遠巻きに見ていた伊19さんもそれに続いてまたねーと出て行った。私も帰ろうかと思い工廠を出ると、少し離れた所から二人が手を振りながら大声を上げるのが見えた。

「あたしの事はイムヤでいいからねー!!」

「イクもイクって呼んで欲しいのね~!」

 いいちろくはちさん呼びは気になったらしい。私も言い辛かったので許可貰えて助かった。っていうか、イクさん一人称イクになってるのは大丈夫なんだろうか……? 影響強くない?

 

 

 

 寮に帰ってお風呂でも入るべと歩いていたら、向かいから歩いてきた長門さんに呼び止められた。工廠の陰に誘導され、真剣な面持ちの長門さんと対峙する。でも指輪が気になるんですけどそれ本当になんなんですかね。

「先ほど、大本営から承認を得た」

 おお、と漏らした私を複雑そうに見据え、長門さんは案外かわいらしい方面と評判の声を紡ぎ出す。

「お前たちの方に問題が無ければ明日にも実行に移す事になるが」

「はい、特に問題はありませんでした。詳細は報告書でいいでしょうか」

「ああ。すまないが早めに頼む。出来る限り不備が無いか検討したい」

 明石さんの方から技術面の報告書も行くはず……行くよな? そういやあの人帰ってすぐ修理始めちゃったけど大丈夫だよな……?

 そんな思考が表に出ていたという事は無いだろうが、長門さんはこちらをほとんど渋面と言っていい表情で見ていた。暫くして、言い辛い事があるが、言わないといけない。そんな感じの声が喉から這い出て来た。

「次の作戦……いや、次だけじゃないな。今後もお前と、それ以外の艦娘――私も含めてだが、同じ艦隊として編成される場合が出てくると思う」

 今回の場合だとイムヤさんとイクさんが僚艦となる。普段は島風だけだけど、今回は逆に島風は別の部隊として働きに出るのだ。あのクジラみたいな変な奴があの一体だけとは思えないので、今後もこういう事はたぶんある。それは仕方ない。

「その時なんだが、場合によっては作戦が失敗する事もあるだろう」

 そりゃありますわな。今回だって大量の潜水艦が待ち受けていましたとか言われたら進めないだろうし。

「そうなった場合、ただ遂行不能になっただけで帰って来れる状況ならそれでいい。全員で帰ってこい。だがそうでない場合――例えば艦隊が壊滅状態の場合だ」

 あんまり考えたくないが、敵が強すぎて全員やられる事が無いとは言い切れない。私も今回の作戦みたいに制限が付く事もあるだろうし。普通はそうなる前に撤退するんだろうけども。

「どうあっても、お前だけは絶対に帰ってこい。他者を犠牲にしても、だ」

 変色海域において、離れた場所に居る上官に一々指示を仰ぐ事は不可能である。故に、最初からそう決めておかないといけない。そういう話なのだろう。

 それだけ私は戦力として大きい。他の鎮守府から精鋭と呼ばれ始めたらしい宮里艦隊戦闘部隊を犠牲にする価値があるくらい。それはまぁ、一応自分の出した戦果がヤバいのは承知してるから分かる。

 でもそれはそれとして、すぐに了解の返事をする事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 そして決行の朝が来た。昨晩のうちにやるよーと伝えられ、今朝に島風にがんばってねーと送り出され、やって来たのが一昨日制圧した島である。ここからこっそりと海底を通って大きなクジラっぽい深海棲艦みたいなものに向けて進んでいく計画だ。

 私の艤装を掴んで引っ張って行ってくれるのがイムヤさんで、索敵やなんかをやってくれるのがイクさん。私は一応目視での警戒はするけれど、それ以外は特に何が出来る訳でもないからただの荷物である。

 昨日ちょっと練習したとはいえ、ぶっつけ本番よりマシ程度で出動する羽目になったイムヤさんはちょっと緊張気味だった。まぁでも仕方ないのだ、なんせあのクジラゆっくりとだけど動いてこちらに向かってるらしいから。あんなもんが陸に到達した日には新しい山が誕生する。それは言い過ぎかもしれないけど、私達は吹き飛ばされるだけで済む咆哮も普通に町一個壊滅する奴だからねあれ。艦これってそんなんだっけ……?

 本隊という名の陽動部隊も配置についたくらいの時間になって、提督から作戦開始の指示が飛ばされた。一応変色海域内からでも艦娘から提督に合図程度なら出す方法があったりするので正確なタイミングのはずのそれを受けて、私達は海へと飛び込んだ。

 

 海の中は静かで、私の呼吸音が一番大きく聞こえる。そんな水中を粛々と進んでいくイムヤさんとイクさん。生物が居ないせいか視界はかなり澄んでいて、敵も味方も索敵には事欠かないだろう。私の耳はマスクでふさがれているものの、周囲の様子が全く分からないというほどではない。チート能力万歳である。

 艤装で繋がっているイムヤさんは時折手が震えていて、細かい振動が背に伝わってその緊張を感じた。周囲にはまだ敵影は無く、周囲を警戒するイクさんも無言だ。というか、基本的に潜水艦の人達は戦闘区域内でおしゃべりとかはしないらしい。ソナーに引っかかる可能性が上がるような気がするからと聞いたが、実際どうなのかは分からない。ともかく基本はハンドサインで、それが見えない深さではレーダーとソナーが目となり耳となる。なので私は発声厳禁なのだ。

 暫く静寂の海を進んでいくと、突然目の前が赤く染まり、水温に慣れたはずの肌に骨まで達する極寒の冷気が突き刺さった。変色海域の赤い水と通常海域の透明な海水は混じり合わないようで、両者の間を移動すると酷い落差に襲われる。その不快感に声を上げそうになったが、チートさんが抑え込んでくれた。ありがてぇ。

 ここからは敵が増えると予測されるため、殆ど光の届かない海底付近を進む事になる。なので私はもはや何も出来る事は無い。精々耳を澄まして何か無いか探り続けるくらいである。妖精さんがもっと残れればソナーを使えたんだろうけど、妖精さんだって出来ない事は出来ないので仕方ないのだ。残ってくれた一人には感謝の念が絶えない。

 私の耳にはイムヤさんの鼓動や、艤装の効果で出来るようになっているらしい呼吸の音がよく聞こえ、腕の震えが頻度を増しているのも伝わってくる。それでも指を離したりは無さそうで、ちゃんと目的地まで届けるという意思を感じる。

 その様子が明らかに変わったのは、艤装を軽く叩いて送られるサインで残り半分と伝えられた直後だった。少し速度を落とし呼吸もゆっくりとした潜めるような物に変え、水を掻いていた二人の足の動きも止められる。おそらくは索敵に集中し出したのだろうと思われた。私も周囲の様子を感じ取ろうとしてみたが、艤装が接しているイムヤさんと近くにいるイクさんの気配くらいしか分からない。殆ど音のしない真っ暗闇に自分の呼吸音だけは異様に大きく感じられた。

 暫くして、イムヤさんの指先の震えが私の体を揺らした。ゆっくりと二人が停止し、私にも敵発見のサインが送られる。停まったのは敵をやり過ごすためだ、私を抱いて戦闘とかかなり不利になるから仕方ねぇんだ。

 

 そのまま岩場の陰になっているらしき場所で数分待機して、状況の分からない私が焦れて来た頃に、突然、艤装を掴む腕がびくりと震え、イムヤさんは海水を思い切り蹴りつけ急発進した。私を振り落とさないようにしっかり握りしめながらも出来得る限りの速度でその場を離脱した十数秒後、後方から響いてきたのは爆発音だった。

 状況はよく分からないが、ともかく周囲にイクさんの気配がない。おそらくは交戦に出たか散開したかのどちらかで、たぶんやられてはいない。と思いたい。イムヤさんは前進を続け、私はそれに曳かれていくしか出来ない。分かってはいたけど滅茶苦茶歯がゆい。

 伝わってくる震えが酷くなるイムヤさんと何も出来ない私はそのまま進み続け、道程の3/4を過ぎようかという頃、私の耳に前方から赤い海を掻き分け迫る何らかの音が飛び込んだ。その瞬間、私はぐるりと180度回転し、さっきまで居た位置を何かの音源が通過して行った。おそらくは魚雷。正面から飛んできたそれは遥か後方へと飛んでいき、しばらくの後に音だけが小さく追いかけてきた。

 避け切ったはずのイムヤさんの呼吸は今までよりも遥かに荒くなり、がっちりと握られた拳からは細かな震えが嫌でも伝わってくる。この段になって、私はようやくはっきりとそれを認識した。

 

 イムヤさん滅茶苦茶怖がってるじゃねーか!!!

 失敗成功の重責から来る緊張じゃなくて、死への恐怖で震えてたわ!! つーか当たり前だ、ここ戦場、足手まとい抱えて突っ込めとか怖いに決まってる! そりゃ信じられるか聞くわ、今のも私が驚いて暴れてたらイムヤさん被弾案件だったわ! そうだよね、チート能力とか持ってて死の恐怖感じてない私と違って普通の学生やってたんだもんね!?

 っていうか、これも今気づいたけど、潜水艦って轟沈したらワンチャンも無く死亡だコレ!? 海の底だぞここ、僚艦の有無とか関係ねぇや! 呼吸も出来なきゃ圧力もやべぇ! 仮に浮き上がれても待ってるのは圧力差だわ!!

 長門さんの言ってた事もようやく分かった。イムヤさんがやられたら救助しなくていいからさっさと浮き上がって逃げろって事だね! 高確率でもう死んでるから!! 装甲薄いもんね潜水艦って。魚雷直撃即轟沈が有り得るんだねきっと!

 大破状態なら救助は可能だろうけど、大破と轟沈の判断をこの光のない中で私が出来るかというと普通に考えたら無理だ。轟沈してるかもしれないイムヤさんを探して私を危険に晒すくらいなら大破かもしれないイムヤさんは見捨てろって事だった訳だ。

 どんな気持ちで任務に就いたんだイムヤさん、私が助けなくていいと伝えられてる事はたぶん知っていると思うんだけど。提督はちゃんと説明して、同意を得てから発令してるはずだ。私もそうだったし。でもそんな自分を救わない、足は引っ張る相手を抱えて死線に潜るってなにそれ怖い。やらなきゃクジラがやってきて、失敗したら自分は海に一人沈んで行く。世界線によっては深海棲艦化待ったなしのシチュである。なんもかんも政治が悪い。 

 

 ごちゃごちゃ考えてる間に私は元の体勢に戻されて、イムヤさんも呼吸を整えた。再び魚雷が飛んできたが、これは掠りもせずに頭上を抜ける。でもその瞬間、イムヤさんの息は止まっていた。

 真正面から撃たれているために、このまま向かえば的中率は上がってしまう。しかしイムヤさんは迂回などは考えていない様子で、真っ直ぐ前へと進んでいく。再度飛来した魚雷を今度は思い切り沈む事で回避すると、そのまま私の艤装を握る手を左手一本に持ち替え、空いた右手で魚雷を掴み出した。

 出来得る限りの速度を乗せてイムヤさんは正面へと突進し、私にも感じ取れる距離にまで迫った敵潜水艦に向けてさらに加速する。次弾を放たんとする潜水ソ級に向かい、撃ち出されたそれを先ほどとは逆に、私を支点にして半回転する事で躱す。そして勢いを保ったまま敵性体に肉薄すると、その真横を逆さまになったまま通り過ぎ、すれ違いざまに右手の魚雷を叩きつけた。

 直近で爆発が起き、その衝撃を受けながらも体勢を立て直すイムヤさん。同時に私も向きが元に戻り、そして見つけてしまった。倒したソ級のさらに奥、今の私でも聞こえる距離で、潜水ヨ級が艤装の大口を開いている。イムヤさんの息が詰まった。

 爆音、衝撃、振動。私達に狙いを定めたそいつは、イムヤさんの隙を見てえたりと笑い、そのまま真横から突き刺さった魚雷によって爆発四散した。何事かと思った私の聴覚に伝わったのは、居場所をこちらに伝えるため発せられたイクさんの声。私という荷物を持っていないため迂回しても追いつけたらしい。私とイムヤさんは心底安堵した。

 

 合流したイクさんに先導され、私達は多少浅い位置を通り、しばらくの後に水面へと顔を出した。太陽の光が眩しい。チート能力さんが一瞬で適応してくれてすぐに周りを見れるようになるが、それが少しだけ惜しく感じられた。

 周りを見渡すと、真後ろは視界一杯に広がる白い壁で塗りつぶされている。見上げれば縞模様のような黒い部分も見えた。どうやら水中を通り抜けて、無事にクジラの裏側へと抜けたらしい。それを確認した私は壁面に指を突き刺し、無理矢理体を水中から引き上げた。イクさんからえっと声が上がったが、しょうがないじゃん出来るんだもん。

 そのまま引きつった表情のイムヤさんから預かってもらっていた妖精さんを受け渡してもらい、無事に水面に降り立った。妖精さんは艤装から必死に水を掻き出している。逆立ちしたら一気に排出できるかなとか思ったけれど、妖精さんも転がり出そうなので止めておいた。

 イクさんからも分乗させて貰っていた妖精さんを受け取り、さてここからは私のお仕事である。手始めに、腕を振るって装甲を引き裂く。そして出来た亀裂に両手を添え上下に無理矢理こじ開けた。えらい音を立てて、白いが感触としては金属のように感じるそれは歪曲し、やがて破断し、人一人が余裕で立てるだけの大穴が出来上がった。振り向けば、唖然としたイムヤさんと目が合ってしまった。無理もない。

 作戦通りなら、イムヤさんとイクさんはこの後は索敵しつつ私の後方を守ってくれる予定である。でも、たぶんそれは必要ない。起動したソナーにはもう何も映っていないから。私の知覚はどういう訳か、かつてない程研ぎ澄まされていた。

 

 それが海底で聴力だけに頼ったせいだったのか、それとも別の何かに触発されたせいだったのか、正直よく分からなかったのだけど。ともかく私は今、ものすごく昂っていた。

 私はこの世界に転生してから、一度たりとも真に死の恐怖を感じた事は無い。強すぎる弊害、とは単純に言い切れないが、それは割と、緊張感を私から奪っていたのだと思う。今回も、正直に言えば自分が死ぬ可能性は無かったと確信している。

 でもそれは私だけだ。私以外は普通に死ぬのだと、知識で知ってるだけで理解してなかったと今日気付いた。深雪が轟沈したと聞いた時だって、驚きはしたけど居なくなる可能性を考え込んだりしなかった気がする。まぁあれは本人がピンピンしてたのもあるけれども。

 私に勇気はない。というか今の所、勇気を試されたことが無い。私はそれを出さなくても状況に対処出来てしまうからだ。戦いに対して恐怖感が一切無いからなのだ。それは恐らく、力さえ持っていれば誰でも出来る。

 例えば、私が今持っているチート能力を奪われて、それでも戦いに赴く事が出来るか? 勇気とはそういう事なんだろう。出来るような気もするし、出来ないような気もする。実際に問われた事のない私はその答えを持っていない。

 イムヤさんはそれを持っていた。それはたぶん、心から振り絞ったもので、とても尊い物なのだ。艤装の影響とか、関係ない。今それを持って立ったのはイムヤさんなんだから。

 

 でもそれってよォ~~~~!! テメー等が来なけりゃあそもそも出さなくて済んだモンだよなァ~~~~~~!!??

 

 本当なら今頃みんなそれぞれの学校に通って、授業でも受けてるような時間だ。サボって昼寝とかしてるような奴も居るだろうけど、死の影に怯えながら昏い水底を震えて進むような目に遭わされる人なんて居なかったはずだった。

 平和で、退屈で、ちょっと恋愛だとか将来の心配とかに悩む時期。思い出になったり、黒歴史になったり。成長するには必要で、人によっては戻りたいとすら思う、青春時代。でも、そうはならなかった。ならなかったんだよ、ロック。だから、この話が始まったんだ。

 うだうだ思考が廻ったけれど、私の残念な頭じゃたぶんこの感覚は継続しない。経験則で言うなら一晩寝たら元に戻る。元々呑気な性分なんだ、そこは今も昔も変わらない。でも今は、今日この日は全部を乗っけて戦ってやろうって気になった。

 私が出来る事は実際あんまり多くない。それは力ずくで解決できる事にしか役立たないからで、命令でさらに制限されるからでもある。だけど、その範囲を拡張する方法が目の前にある。

 

 二人に見ていてくださいと声をかける。提督にちゃんと報告してもらいたいのだ、私が持っている破壊力がどれほどなのかを。

 片手にイムヤさんの中に勇を見た感動を、もう片方にそれを出さざるを得ない状況への怒りを込めて。私は巨大太平洋深海棲姫に全力の拳を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 その日、太平洋深海棲姫と呼称される『姫』級の深海棲艦を討伐せんと編成された宮里艦隊の攻撃部隊は、大砲、魚雷、爆撃、そのどれもが効果的と言える成果を挙げないその巨体が、見る間に削れ、歪み、断末魔の叫びを上げながら水平線をのたうつのを見た。

 激しく波打つ赤い海面に、まき散らされる内臓がごとき巨大な金属塊。島ほどもあったその深海棲艦はさしたる時間を掛けず砕き均され、ついには海へと没して行く。

 そして水上へと取り残された人型の本体は何も分からぬまま、歩み寄った駆逐艦によってその頭蓋をへし折られた。

 

 

 




 日本の勝利である。


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色とりどりな悩みの種

「マジデアレヲ殴リ殺スノカヨ!」

 馬鹿じゃないのかあいつ。転生者レ級は巻き起こされた破壊の嵐を飛ばした偵察機で見て、大笑いしていた。一応太平洋深海棲姫が吹雪によって倒される事は聞いていたのだが、素手で何もかもを終わらせていくとは思わなかったのだ。

「エー」「アンナニ大キカッタ」「ノニネー」「怖イ怖イ」「チョトsYレナランショコレハ」

 レ級の周りに漂う小さな沢山の深海棲艦達もすごいなーひどいなーと感心しきりである。別々の口から順々に、繋がった文章が溢れ出す。ぱちぱちと拍手を送っている者も見受けられた。

「大事ニ育テタ」「ジックリコトコト」「煮込ンデハナイ」「クジラサン倒サレチャッタ」「ケドイイノ?」

「マァ、アンダケニナルマデ資材搔キ集メサセンノハ苦労シタケドナ。ソモソモソウイウ作戦ダゾ。ハハッ、アイツラドンダケ時間ト労力消費シタカネ?」

 レ級がやった事は実の所そんなに難しい事ではない。元々自身の艤装を肥大、拡張したがっていた太平洋深海棲姫を唆して実行に移させ、他所へ送られるはずだった資材も掠め取ってノリノリで投入しただけなのだ。どれだけ大きくなろうが本体を撃たれれば吹雪に殺されると思ったからこその行動だったため、人間部分が中に隠れてしまった事に少し焦ったのは秘密である。

「ワァ」「鬼畜ー」「ヨッ」「極悪非道ー」「内憂ノ鑑ー」「最終的ニ吹雪任セッテドウナノ」

 酷い評価をされたレ級は周りをぷかぷか浮かんでいるちっちゃなそいつらのうちの一匹の襟足あたりを掴み、自分の眼前まで持ち上げ、その人間部分を指で突っついてやった。幼児特有の柔らかさが返ってきて、ちょっと面食らう。一皮剥けば金属の塊みたいなイキモノな訳ではあるが。

「元々ヤル気ノアッタ奴手伝ッタダケダッツーノ。ツーカ普通ニ話セヨ、鬱陶シーゾ。聞キヅレーシ」

「エー」「デモ我々」「個性ヲ出シテ行キタイ」「ト」「思ッテルカラー」「ネ」

「音源コロコロ変エルンジャネーヨ……割リ当テ適当過ギテ一文字ノ奴居ルジャネーカ」

 吹雪の方から目を離し呆れかえった瞳で振り返れば、そこは大量の幼児のような深海棲艦で溢れかえっていた。よちよちと水面に立つ者や仰向けになって水面を漂う者、何人か重なってわちゃわちゃしている者、レ級によじ登ろうとしている者など、思い思いの行動を取る数えるのも面倒なほどの大量の深海棲艦。とりあえずレ級は号令を掛けて、吹雪から離れるよう指示を出した。バレて撃たれたくなかったのだ。

 

「ツーカ、オ前今何匹居ンノ? 百万匹トカ言ッテタケド。一昨日一匹ヤラレタンダロ?」

「エッ」「サァ」「私ニモワカラン」「増エタリ減ッタリスルカラネー」「ノリデ」

「増エンノカヨ」

 しかもノリで。流石転生者、意味不明な生態をしている。与えられる仕事に対して有用なので文句はないレ級だったが、理不尽過ぎて笑いも出なかった。

「我々ハ」「『いっぱい』」「『いる』」「カラー」「仕方ナイネ」

「何スレバイイカ理解シテンノカ不安ニナルンダヨナァオ前ラ……」

 見た目には被り物をした赤ん坊より少し大きいくらいの子供が戯れているようにしか見えない。レ級からすれば真面目に喋っているようにも見えないために、信用に足る相手なのかが全く分からなかった。一体一体の力もかなり弱く、一緒に吹雪から避難するためにレ級はかなり速度を落として水上を滑っている。

「シテルシテル」「大丈夫大丈夫」「イケルイケル」

「本当カヨ……」

 胡乱気な目つきになったレ級の登頂に成功した個体が、ぺちぺちと頭を叩いてくる。うざったいので摘まんで放り投げると、わーいと喜んで飛んで行った。子供かよ。そんな事を思っているレ級の足元をちょいちょいと突く幼女が一匹。そいつはレ級を見上げると、形の良い、目元が隠れているためにそこだけ目立つ口唇を開いた。

「コウ見エテモ一ツノ意思ニ統括サレタ一個人ダカラ大丈夫ダヨ。体ハ万単位デ見タ目モ子供ダケド、中身ハ大人ダカラ」

「急ニ真面目ニナラナイデ貰エマス?」

「我ガ名ハ」「PT小鬼群」「我々ハ」「大勢デアルガユエニ」

「急ニ不真面目ニナラナイデ貰エマス?」

 本当にちゃんと仕事するんだろうか。話によると年上らしい幼女軍団を眺めて、レ級はむしろ不安が増した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一対一で対面での報告を終えたら、提督に派手にやりましたねと呆れ半分感嘆半分くらいのトーンで言われた。

 実は特殊個体の実例として正面から撃っていた戦闘部隊の方で動画を撮っていたらしく、何が起きたのかを提督は完全に把握していた。私もそれを見せて貰ったんだけど……なぁにこれぇ。

 踊り狂うクジラが尻尾側から爆ぜていく衝撃映像、最後に出てきた人影が頭砕かれて終わる謎演出付き。ホラーかな? 体液が飛び散ったりとか無いからR-18Gとかにはならないと思うけど、成程。帰り道でイムヤさんの顔色が悪かったのはもしやこれのせいでは。至近距離で見せつけるのは不味かったかなー。イクさんは割と平気そうだったのでグロ耐性持ちなのかもしれない。

 まぁ提督は私の身体能力がいろいろぶっ飛んでる事を正確に把握してくれたようだし、目論見は成功してるからいいんじゃないだろうか。いや気分悪くさせたのは良くないけど。

 なおこの映像、巨大深海棲艦実在の証拠としてしっかり保管されるらしい。これは……恥になる奴じゃな? 将来的にドキュメンタリーとか歴史番組で取り上げられてうわああああああってなる奴。私映ってるとこ消したりとか……駄目? ですよねー。息苦しいからってマスク外したのが仇になるとは思わなんだ。いや待てよ個人の判別までは……どうだろう……出来ない? 出来ないといいなぁ。

 色々聞かれて答えた結果、提督は私の純粋な攻撃力関係も上に報告してくれる事になった。心配そうに本当にいいのかと聞かれたけれど、私が考えるよりよっぽどまともな活用法を提示してくれるはずだしええやろ。

 

 そのまま来週の話になったのだけど、提督がこれまた深刻そうな顔をするものだから何事かと思ったら、取材がこの鎮守府へとやってくるのだそうである。

 基本は取材陣を入れて生放送、今後の私達の目標とか進捗とか敵の動きとかそういうのを発表したりするらしい。宮里提督も初めてメディアに顔を出す事になるのだとか。

 じゃあ邪魔にならないようにしてないとですねーとか呑気な事言ってたら、提督はスッと私に計画書を差し出し、該当箇所を指差した。

 正気じゃなかった。

 

 

 

 とりあえず報告書を仕上げないといけないので詳しい話は明日にでも、という事になり執務室から退出し、ちょっと憂鬱な気持ちで部屋に帰る事になった。

 寮に帰ろうと歩いていると裏手の運動場の方から騒がしい声が響いてきた。複数人で騒いでいるようで、気になったので覗いてみると、そこに居たのは深雪と叢雲、それに暁教官長だった。辺りにはボールが散乱していて、教官長も握っている。何やってんだろうと思って見ていたら、特に隠れている訳でもなかったので見つかってしまった。

 いい所に居るじゃないかちょっとこっちに来なさいと呼ばれて行くと、今からボールを投げるから砲弾だと思って避けてくれとの事。戦場だと思ってやってくれってつまり訓練してたのね。

 正面に立った深雪がその斜め後ろ辺りに立つ暁教官長に始めと言われ、私に向かって思いっきりボールを投げつける。でも、そもそも避けるまでもない。外れている。ありゃとぼやきながら叢雲から次のボールを受け取った深雪は、今度はよーく狙って放り投げた。ちゃんと当たる軌道だったので半歩だけズレて避けてみたら、叢雲に名状し難い物を見た顔をされてしまった。そういや陸でやって見せるのは初めてか。

 その後も次々に投げつけられる深雪の球を躱したり見切ったりしていると、不意に、教官長から鋭い球が飛んで来た。深雪の球と同時だったそれらを一歩踏み込む事で両方回避すると、深雪はおーと歓声を上げ、叢雲はまぁそうなるわよねと呟いた。

 

「ほら、 吹雪レベルだと説明無しでもちゃんと避けられるのよ」

 同じ事を叢雲相手に深雪もやったらしいのだけど、どうやら見事に教官長の球に撃沈されたらしい。他の人達は出来るのかって疑問を深雪が呈した時に、ちょうど私が通り掛かってやらされたわけだ。

「深雪は一点に集中し過ぎよ。一対一なら長所になり得るかもしれないけど、実際には多対多になるんだから、周囲にも目を配れるようにならないとね」

 私は一緒に出撃しないのでよく知らなかったのだが、深雪はどうも自分が狙っている相手以外からの被弾率が高いらしく、それを自覚させるための訓練だったらしい。私のように説明無しでやらされて、叢雲に集中しすぎて視界内に居るはずの教官長の投擲が視えてなかったと。それは確かに不味いわ。訓練所だと普通に避けてた記憶があったので不思議だったのだけど成程、やたら大破してるのはそういう理由だったのね。

 深雪も納得出来たところでじゃあ特訓しましょうか、という事になったのでささっとボールを搔き集め、マウンドに立つ。私も今日はもう特に予定もないので付き合う事にしたのだ。

「吹雪、出来るだけ強く投げて、集中しないと避けられないくらい……あー、でも怪我はさせない程度でよろしく」

「クジラの時くらい力入れたらボールが飛ばずに破裂しそうだなー」

「艤装無しであれは無理でしょ」

 全員見てたらしい。うんまぁ、動画撮ってたの青葉さんらしいからそうだよね。引かれてないだけマシなんだけど。マシなんだけどさぁ、これ諦められてるだけだよね?

 そんな恥ずかしさやらなんやらを込めて投げたボールは高速で深雪に直撃した。

 

 

 

 

 

 他の艦隊に交ざって仕事した島風から、やっぱり航行速度が遅くて窮屈だったと言われながらクジラの向こう側の世界を探索した帰り。挨拶したらビクンと反応したイムヤさんとやほーいと手を振るイクさんと分かれ提督の下へ向かう。夕暮れだというのに汗ばみそうな陽気のその道すがら、こんな海でも夏は来るんだなぁと四季を感じていたら、そろそろ島風の誕生日じゃなかったかと急に思い出した。

 去年は特に何も贈らなかった――というか、深海棲艦が来てそれどころじゃなかったしそもそも知らなかったんだけど、今年はちゃんと知っているし何も無しというのが不義理な程度には仲が良いと思っているので何かしたい。かと言って鎮守府で誕生会とかする訳にもいかんし。それやり始めたら年何回パーティするんだって話になるからね、非戦闘部隊の艦娘も寮に居るんだし。あんまり話した事も無いけど。

 じゃあ何を贈るかって話なんだけど、これが難しい。なんせ島風、お金持ってるから。あいつ今月の給料ほぼ私のから旗艦手当引いた額になるからね。普通に億行っちゃうんだよ欲しい物があったら自分で買える。金銭感覚破壊されないか心配になるわ。

 まぁ贈り物ってのはそういう問題じゃないんだろうけど、そうでなくても私達は鎮守府から基本出れない訳で。一番欲しいというか喜びそうなのはスポーツ関連の品だけど、そういうのって島風自身が選んだり直に着けてみたりしないとだから難しい。他の何かだって買おうと思ったら酒保か通販――これも酒保通すけど、ともかく二択になる。なーんかいい物無いかねぇ。私なら自分で買おうって程興味のない漫画とか贈られたら嬉しいんだけど。

 

 

 

 宮里提督からの説明と当日の予定やなんやを話し合い、とりあえず納得はともかく理解はして退出。どうなんだろうこれはと思うが、とりあえず、私は出演予定である。

 どうしてそうなったのかと言えば、まぁ注目度が高すぎるのと今回の企画……いや企画とか言う時点で色々おかしいんだが、それには私を出さない理由があんまり無かったからだろう。

 私以外の戦闘部隊は普段通り居残り組を置いて通常海域内の哨戒任務に出て貰って、報道陣の撤収まで頑張ってもらうらしい。適性値が上がった三人はそっちに行って貰うためにこの間から前線送りにされていたんだそうな。教官長と飛鷹さんは非戦闘部隊として顔知られてるもんなぁ。

 ちなみに私が居残りである関係で島風も待機である。珍しいんだが、当日は部屋から出してもらえないという可哀想な事になる。連装砲ちゃん達と遊んでるしか無いな。

 いやしかし、私を選ぶのは人選ミスじゃないかなーと思う。失言しそうで嫌だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「心配しないでください! 食料は私が何とかします!」

 深海棲艦が現れてから一年以上。港街に住んでいた彼女達の一家は住処を追われ、困窮していた。逃げられただけでも幸運であるし、避難後も衛生面の悪化や医療体制の崩壊で死に追いやられる人間が後を絶たない中、七人家族の誰一人欠けていないのは奇跡に近かった。当日は全員ばらばらに出かけていたのに合流できたことも含め。

 避難先で見知らぬ隣人たちと身を寄せ合い、時に衝突し、友情を育み、助け合って来た。その多くが病で失われたのが先月の話である。去年に何とか確保した農地も、活用できる知識のある人間が居なくなれば何も生み出してはくれない。果樹の類はある程度実を付けてくれる物もあるだろうが、足りるかと言われると心許ない。

 だから彼女は奔走する。病が流行った時も海辺の医療機関を調べて回り、出来得る限りの薬を持ち帰り、疫病の拡大を押し留めた。仲間に医療従事者が居たため予防は出来たが、治療までは至らなかったのが悔しくてたまらない。

 空気は最悪だった。謂われなく責められる医師に、電波の入らなくなったラジオ。解決へ向かうどころか悪化しているようにしか感じられない現状に、彼女は打開策を模索した。結果、とりあえず美味しい物でも食べたら落ち着くんじゃないかという発想に至った。美食は全てを解決するのだ。

 彼女の能力を以ってすれば、食料調達は容易い。幸い深海棲艦は食料に興味を示さなかったため、保存の利く缶詰などは今でも食べられるものばかりだったのだ。もちろん長く続けば尽きてしまうだろうが、当面は全く問題ない。それくらいしか残らなかったから。

 啖呵を切ったからには絶対にやってみせる。気合を入れてよく行った食料品店へ出掛け、何事もなく食料を手に入れ帰り着く。たまに足付きの深海棲艦がうろついているのを見かけたが、運よく気付かれる事は無かった。

 家族は心配してくれたが、医療品や衣料品まで持ってくる彼女は避難当初から英雄扱いで、今に至っても頼られる存在であったのだ。失敗した人間の多さがそれを助長した。

 必要な物があったら言って欲しい。そう言ったが、本当に皆が欲しい物は用意出来ないと彼女自身が一番よく分かっていた。

 

 その日も彼女は食料を漁りに港までやって来ていた。もっと海から遠い場所で済ませてしまっても良かったのだが、一番深くまで忍び込めるのが自分であるため、他に調達へ向かうかもしれない誰かにそちらは残しておいたのだ。

 目についた白骨を脇に寄せ手を合わせる余裕まで見せながら、今日はここにしようかと見上げた建物はどうやら砲撃を受けた跡があり、各所にはひびが走っていた。崩れる前に中の物を回収した方がいいだろうし、次回もここで良いかもしれない。屋上に旗が残っているため場所も分かりやすかった。

 中に入り込み、今回はとにかく味が良くて豪華そうな保存食や缶詰を手早く見繕うと、手際よくリュックサックに放り込む。いくらチート能力のある転生者だからって、危険地帯に長居すればその分の危機はやってくるかもしれない。そう思いながらも上の階もしっかり覗いて、屋上への扉が開いているのを発見した。

 屋上へ出るとなんだか色々散乱していて、どうやら複数の人間がここで亡くなったのだという事が理解出来る。外のものと同じく軽く弔っておこうと一歩踏み出して、それがこちらに近づいている事に気が付いた。

 真っ白い顔をした人間のような二体のイキモノ。前世では姫と呼ばれたそれらを彼女は今世で初めて目撃した。

 今まで見た中で一番強そうなのでもヲ級止まりだったのに、どうして今更になってあんなのが、と驚愕しながらも、身を潜めて観察する。片方は名前まで思い出せなかったが、もう片方はその高名故に一目で判別出来た。小さな体躯にワンピースのような服装、手にはミトンのような大きな手袋を付けた少女。北方棲姫、ほっぽちゃんだろう。

 うわぁ可愛いと呑気な事を思いながら上からその二人の美少女を観察していると、不意に北方棲姫が顔を上げ、ばっちり目と目が合ってしまった。

「居ターーーーーーーー!!」

 突如大声を上げた北方棲姫に驚かされ、流石に不味いと思い慌てて建物内に逃れようと屋上の床を強く踏みしめた瞬間。何故だか蹴った足場が突然に傾ぎ滑り出し、彼女は宙へと放り出された。

 

 

 

 

 

 赤い赤い海を越え、北方棲姫と護衛棲水姫with浮輪三人衆は陸地へと辿り着いた。道中は方向を間違えたり他の深海棲艦の艦隊に混ぜられそうになったりと様々な苦労があったが、なんとか言われた日までに目標と思われる場所に到達し、二人と三匹は安堵の息を漏らした。

 周囲を見渡せばそこは荒廃した港で、護衛棲水姫に確認してもらったが台湾で間違いないらしかった。彼女の翻訳能力は文字も行けるのだ。近くの商店と思しき場所を調べれば、無傷の缶詰が転がっていたりして、深海棲艦の攻撃から免れるために放棄された時のままなのだろうと窺い知れる。少し意外だったのは、行く道に遺体が転がっていたりはしなかった事だろう。余程避難がスムーズだったか、それともわざわざ片付けた何者かが居たのかまでは分からなかった。攻撃の跡はそこかしこに見られるため被害が出なかったわけではないと思われるのだが。

「目的ノ子ドコダロウネ」

「うん……ここに来れればすぐ会えるって聞いてたけど……」

 多聞丸はそう言っていたが、人の生活している気配はない。それも当然の話で、今この瞬間にも海にはイ級の影が見えていたりするのだ。危険過ぎて海岸線での生活は不可能だろう。深海浮輪も周囲を見渡しているが、特に何も見当たらないという。

 それにしても今日は暑い。北方棲姫には肌に太陽の光が焼けつくように感じられた。深海棲艦になっても感覚器官はしっかり仕事をしていて、寒い暑いに特に人間だった頃と変わった感じはない。中身は人間とは全く違っているらしいのに不思議なものだと思いながら辺りを窺っていると、ふっと、一瞬だけだが、雲も無いのに陽光が陰ったように感じられた。

 何だろうと思い太陽を見上げると、眩しく感じはするが眩む事無い――こんな所で人間との差を感じさせられた――北方棲姫の眼には砲撃を受けたのだろう、無数にひびの入った建物と、その屋上で翻る何かの文字が書かれた旗と、その下に身を隠しているつもりで半分以上体を露出した少女と女性の中間くらいの人間が映った。

「居ターーーーーーーー!!」

 つい大声を上げ、ついでに指まで差せば、その人間はびくっと反応して、逃げ出そうとして、突如崩れ出した建物から投げ出された。

 突然の事に一瞬面食らったが、そこはチート能力者の反射神経。自分の身を宙を舞う女の子の直近まで跳ばすと手を伸ばし、触れた彼女と一緒に元の位置まで跳んで戻る。ついでに慣性も殺しておいた。

 救助された側は何が起こったのか分からなかったらしく、突然地面に尻もちをついた事に驚き、周囲を見回し、目の前に居た北方棲姫に気付いて悲鳴を上げた。

 ついでに護衛棲水姫も何が起こったのか分からなかったので、突然の悲鳴にびっくりしていた。

 

「大丈夫?」

 声を掛けられキョトンとしたその娘の様子を見て、ああそうかと思い至り、北方棲姫は護衛棲水姫に振り返った。

「ベイ、通訳シテー」

「あっ、いえ、日本語分かります!」

 台湾の娘は唐突に日本語が飛んできて戸惑ったが、無事に頭を切り替えて日本語で返した。ババっと立ち上がると、驚きと興味に目を輝かせて北方棲姫ににじり寄る。

「あの! もしかして助けていただきましたか!?」

「ア、アア、ウン。助ケタネ……」

 何この娘近い。圧倒される北方棲姫におおーと感激した声を聴かせると、ちょっとだけ離れて勢いよく頭を下げた。

「ありがとうございます! 死んじゃうところでした!!」

 背中の大きなリュックから缶詰がごろんごろんと躍り出て地面にばら撒かれる。本当に大丈夫かこの娘、アニメのテンプレみたいな事してるけど。姫の二人は心配になった。

 

「こんな所で何を……って、どう見ても食料集めてたんだよね……? 出歩いて大丈夫なの?」

「大丈夫です! 一度も襲われてませんから!」

 転がる缶を拾い集めながら女の子は元気一杯に返事をした。テンションが高い。

「隠レルノハ上手ソウジャ無カッタケド……」

「はい! 私、『とっても』『ラッキー』なので!」

「根拠薄クナイ?」

 というか、根拠になっていない。ただの幸運で生き残っているのなら、一度の不運で死に至りそうなものだ。今だって危なかったわけだし。警戒心も強くなさそうで、なんだか見ていて不安になる。でも目の前の女の子は何にも心配ありませんとばかりに微笑んでいる。それがこの一年間で身に付いた、周囲を安心させるための処世術の一種だと知るのは少し先の話だった。

「ところで『艦これ』って知ってるかな……?」

 護衛棲水姫は唐突にぶっこんだ。目の前の彼女で合っているのか確認したかったのだ。言われたその子は目をぱちくりと瞬かせ、暫くしてから今まで見せていた以上の弾ける笑顔と弾む声でもって返答した。

 

 

 

「それじゃあ、これからお世話になります! よろしくお願いしますね、しれぇ!」

 家族や仲間への物資支援と安全な拠点の情報を対価に、その娘は協力すると約束をしてくれた。北方棲姫に連れられやって来た楠木が満足気に頷き握手を交わすと、その帽子の中から複数の妖精さんが溢れ出し、わーわーきゃーきゃーと地面に積み上がる。北方棲姫や護衛棲水姫を見て震え上がる者も居たが、ほとんどは自分達を見てわぁかわいいと撫ぜようとする新しい仲間に、期待の眼差しを向けていた。

「では早速だけれど、最初の仕事をしてもらおうかな。と言っても、君は指示をするだけなんだけれどね」

 そう言って置いてあった釘のようなものの含まれた一セットと、それとは別のガスバーナーのようなものが含まれたもう一セットを手渡す。その後ろから、帽子から出てきた妖精さん達とは別の妖精さん達がえっちらおっちら鉄やらなんやらに見える物を運んできた。

「なんですこれ? 大工さんでもするんですか!?」

「いや、君にはまず、自分の使う艤装を建造して貰わないといけないんだ。日本では日本の艦しか建造出来なくてね」

 この世界にはそういう縛りがある。おそらくは集合無意識の方に何かあるのだろうと楠木は思っていたが、詳しい理由はよく分かっていない。

「私の……で、日本で造れない……って事は、あっちですね! 分かりました!」

 日本で造れないの微妙な感じですねと呟いたのはほんとに微妙な話だったので、みんな聞かなかった事にした。

「コノ世界ノ建造ッテ何造ルカ選ベルンダ、便利ダネ」

 ゲームなら資材の量だけ選んでそこからランダムである。選ばせろよと北方棲姫も何度か思った事があった。特に大型。

「いや、妖精さん任せだよ。私の知る限り何を造るかまでお願いできるのは一人だけだねぇ」

 でも彼女なら問題は無いと楠木は言う。何しろ『とっても』『ラッキー』だから。開発資材と高速建造材を両手に持って妖精さんと戯れる女の子を、楠木は頼もしげに見つめた。

 

 

 




なお楠木自身は妖精さんに話しかけるタイミングをずらしたりする事で完成品をある程度コントロール出来る模様。


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北上さんが一番燃えた日

 まず映し出されたのは敷地の外と内を隔てる入り口と、その傍らに立つ守衛だった。筋肉質な体躯と精悍な顔つき、漢の中の漢と言える偉丈夫。それが二人、門の左右に立ち多少緊張した面持ちで周囲を見張っている。

 次に画面に入り込んできたのはマイクを持った若い女性――音信不通となったキャスターの代わりに登板するようになった、子役上がりだがハッキリとした喋りで好評を得ている――リポーターだ。装着したハンズフリーなマイクに向かって爽やかな声で挨拶をすると、門を守る自衛隊員にも一礼し、カメラと一緒に門をくぐった。

 その先に待っていたのは二人の人間である。片方は菊の印をあしらった金属製に見えるサンバイザーを付け、どこか狩衣を思わせる上着に短めのスカートを履いた女性。体はしっかりとした凹凸があり、肉感的と言っていい。女性的な魅力と引き締まった筋肉を併せ持ち、いい女と言うのがしっくりと来る。

 そしてもう一人は女学生の制服のような服を着た、まだ顔付きに幼さの残る少女だった。化粧などは明らかにしていないにもかかわらず、並び立った芸能人と遜色ない程に、その容姿はカメラ越しにも目を引いている。肩まである髪は後ろで一纏めにされ、覗く形の良い首元の輪郭は湛えた薄い笑みと共に見る者に健康的な色香を感じさせた。

 

  :えらい美人が出てきた件について

  :マジで吹雪じゃねーか!

  :やっぱここが当たりか

  :明らかに回線強いとこだから分かってた

  :親の顔より見たオールマイト

  :↑もっとちゃんと原作見て

  :他が外れみたいに言うんじゃないちょっと注目度が下がるだけだぞ

 

「おはようございます! 宮里艦隊第四戦闘部隊所属、駆逐艦の吹雪です。本日はよろしくお願いします!」

「おはようございます。第二戦闘部隊所属、軽空母の龍驤です。よろしくお願いします」

「おはようございまーす! 本日は招集された適性者の皆さんの中から代表で選ばれた吹雪さんと、自衛隊所属の龍驤さん。それに私、筑波 藍の三人でこの鎮守府の紹介をさせて貰います! お二人とも、本日はよろしくお願いします!」

 大きめの身振りで頭を下げたリポーター――筑波に二人も再度一礼する。吹雪は普通に、龍驤は敬礼で。その際、吹雪はちらりと手に持った端末の画面を確認した。

 

  :吹雪(゜∀゜)キター!!!!

  :吹雪が居ると聞いて他チャンネルから

  :筑波ちゃんも出世したもんだ

  :蘭姉ちゃん?

  :↑蘭じゃなくて藍だぞ

  :オールマイト感無いな

  :子供にこんな事させていいの?

  :↑戦わせるより健全では

  :吹雪なのかオールマイトなのかはっきりして

  :吹雪

  :宮里艦隊の宮里って地名?人名?

  :雪ちゃんかわいい

  :糞ビッチ雪ちゃん

  :おっと誹謗中傷はBANだぞ

  :※100m十秒台で走ります

  :龍驤さんエッッッッ

  :なお顔

  :芸能人に挟まれた一般人なだけだから……

  :↑芸能人は一人なんだよなぁ

  :他もなんか可愛い子ばっかだし選んでんだろうなぁ

  :戦闘部隊ならこの人って十二人の一人?

  :オールマイトで第四部隊なのか

 

「あー。私の本名は一応、公表しない方向ですのでご了承ください。知ってる人は知ってるみたいですが。艦隊名の宮里はこの鎮守府の提督の名前です。艦隊ごと異動する場合もありますのでどの艦隊も提督の名前で区別されてるんですね。なので、もしこの鎮守府の位置を特定出来ても私達は居ない可能性が高いので悪しからず……あ、宮里提督は只今自衛隊の公式生放送の方に出演されていますので、よろしければそちらをご覧ください。部隊は番号での優劣とかはなくて、運用の違いですね。龍驤さんは旧精鋭部隊の一人で、メンバーは今は各鎮守府で指導しつつ先頭に立ってるそうです。あと私はオールマイトではないのでちゃんと原作読んでください」

 突然喋り始めた吹雪をぎょっとした目で龍驤が見つめ、やはり手元に持っていた端末を確認して納得の表情を見せた。筑波は一度も噛まずに言い切った事に感嘆の声を漏らしつつ、吹雪の後に続いた。

「こんな感じに今日は皆さんのコメントを放送に反映させていただくことになっています! コメントは公式ホームページ、または配信サイトのコメント欄からどうぞー。あ、有料会員限定となっていますが、今からの登録でも間に合いますよ!」

 

  :急に喋るな

  :雪ちゃん本名で合ってたんやなって

  :吹雪の提督自衛隊の人か

  :チッ

  :自衛隊の方一緒に見てるけど宮里提督って女?

  :どう見ても宮里提督女性っぽいなまだ喋ってないけど

  :何する部隊なんだ第四部隊

  :精鋭部隊ktkr

  :部隊としては解散してたのか

  :嘘つけ絶対オールマイトだゾ

  :原作読んだ後動画見なおしたけどオールマイトだったぞ

  :龍城が今見てたけど吹雪っていつ米見てた?

  :龍驤な

  :礼しながら見てたあんまり礼儀は良くないね

  :俺らのコメントとか拾って大丈夫なのかね

  :公式放送を炎上させていけ

  :露骨な宣伝

  :課金を煽っていくスタイル

  :いうて500円だし

  :人増えると一般垢は追い出されるから気を付けろよ

  :手遅れでは

  :入れもしなかったから登録してきました(半ギレ)

 

「えー、今回の放送は、自衛隊の公式会見の裏でとはなりますが、各局が別々の鎮守府から、各鎮守府の実態と招集された適性者がどのような環境で生活を送っているのかを見ていただき、今後の招集に対する理解を得るのが目的となっております」

「そこは言っていいんですか?」

 龍驤の説明に筑波が疑問を呈する。吹雪は何故か龍驤を訝し気に見つめていた。

「はい。決して粗雑な扱いなどはしていないと理解していただくために、多角的な判断材料として複数の鎮守府を見ていただこうという事で今回のような形での放送となっています。ですので、基本的に情勢や今後の予定等は表の――自衛隊の会見の方で行われる予定ですのでそちらをご視聴ください。また、今日の放送はあくまで招集された人間の視点で、というのを目的としますので進行は私より吹雪が主体になります…………あの、吹雪は何? 何かありましたか?」

 感心したような、妙な物を見るような目で自分を見ていた吹雪が流石に気になり、龍驤は声をかけた。

「龍驤さんって標準語も喋れたんですね」

「んなとこ気にしとったんかい!?」

 

  :裏……?

  :一番視聴率取れそうなのを民放に渡したの草

  :自衛隊のは公共放送でだからセーフ

  :大 本 営 発 表

  :そうならないように複数のを見せるって話だから

  :偏るのが見える見える

  :自衛隊と自衛隊じゃないのがあるみたいに聞こえるんだけどどういう事?

  :↑招集された子は別の組織所属になるんだぞ建前上

  :表も重要そうなんだけど後でいいな!

  :よくねぇよどっちもみろ

  :吹雪メインとか需要の分かってる組織ですね……

  :いや真面目にやれよ子供にやらせんなks

  :公式の放送としてはどうなの

  :炎上祥鳳かな?

  :祥鳳じゃなくて龍驤だろいい加減にしろ!

  :草

  :関西の人ですねクォレは……

  :オールマイト緊張感無さ過ぎだろwwwwwww

  :緊張した結果なのでは?

 

「そんな訳で、龍驤さんは私が機密に触れそうになった時に止めたりする役をしてくれる事になっています。ですので、質問によっては答えられないものもありますのでご了承ください。また、私からの個人的なお願いです」

 一度言葉を切り、真剣な表情で吹雪はカメラに改めて向き直る。龍驤と筑波も打ち合わせに無い急な話に――口調の話も無かったが――何を言うつもりなのかと吹雪を見守った。

「今回の放送に出演する艦娘は各局の合計でかなり多くなると思いますが、彼女たちを素材化してコラージュを作ったりネタ動画を編集したりしないようお願いいたします」

「えっ、そこ?」

 筑波は困惑した声を漏らし、龍驤はむしろ納得の表情を見せた。最初に姿を見せた艦娘である長門のネット上での状態を知っていたからだ。

「結構大事な事なんですよ、何故か人力ボカロにされたりしますから! あ、私の事は新素材にしてくださって構いません。もう今更なので」

 そう言いながら胸の前で両手を組み、あざといポーズで上目遣いにカメラに向かってお願いしますと囁いた。

 

  :吹雪だけにやらせられんわな

  :初めからやらせなきゃいいだろ……

  :おじちゃんかわいいこのお願いならなんでもきいちゃうよ

  :↑死んで(はーと)

  :偽ちゃんねる民怒られてんぞ

  :自分の動画見てるのかこいつ

  :歌う吹雪とかいうごり押しを越えた何かすこ

  :これは毒婦

  :やはりビッチなのでは?

  :ヌッ

  :ふぅ……

  :流石に引くわ

  :他のとこもだけど自由過ぎない?

 

「自由度につきましては公序良俗に反さない範囲で自由にやっていいと言われているおかげですね。ちゃんと時間内に予定を全部消化するようにとは指示されてますけど。っていうか、他の所どうなってるんですか?」

 

  :こっちに質問してくるのは予想外

  :初手で愛を叫んだり出演者が顔出し上等の配信者だったりしただけよ

  :凄い勢いでぽいぽいしてるのもあるぞ

  :霧島のとこ以外全員芸人みたいになってる

  :聖徳太子多くね?

  :霧島は霧島でチェックワンツーから始まったけどな

 

「何やってんだ金剛さん……いやまぁ、特に問題は無さそうなので早速紹介の方へ移りたいと思います」

 はいまずはこちら、と吹雪が店員が商品を紹介でもするように掌を向けて差したのは、先ほどカメラも通って来た門であった。

「ここが入り口になります。守衛さんが十二時間、二交代制で見張りに立ってくれています。物資搬入の受付なんかも担当しているそうで、見た目の印象よりはやる事は多いんだそうです。男の人ばかりですけど、艦娘とは別の所に寝泊まりしていますので滅多な事は起こらないかと思います。食堂は一緒なんですけどね」

 

  :それいる?

  :俺らを見つけたら排除する人達

  :艦娘とお近づきになれそう

  :↑こういう奴が居ないかどうか心配だろうって紹介されたんだな

  :男ばっかで別の所に住んでるのかアッー!

  :そういうのにすぐ結びつけるのは良くないと思います

  :食堂って何が出るの?

 

「艦娘にお近づきには……どうでしょうね、私は話した事ないです。少なくとも仕事中にそういう目的で話しかけてくるような不真面目な人は居なかったので安心してもらっていいと思います。食堂は後で回りますのでお楽しみに」

「門に立っている方達は自衛隊の皆さんなんですよね?」

 筑波の質問に吹雪は、龍驤へ目線をやる事で返答する。これは打ち合わせ通りなので、龍驤はすぐに回答した。

「はい。各鎮守府共通で、警備や清掃、物資の運搬などは自衛隊が行っております。一部は男性ですが、女性隊員の方が人数的には多いです」

 見張りは門のところ以外にも居るので人数はそれなりに居ますと付け加え、他に特にいう事も無かったのか、それでは中へと三人は入り口を離れ奥へと進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初っ端から滑った感がある。

 いやでもさぁ、言っておかないと絶対増えるじゃん? 言っても増えるだろうからもう自分から素材投げて注目集めてくしかないよねって思った結果がこれだよ!!

 っていうか、ほんと正気じゃないわこの企画。私は良いんだよ別に出演したって。もう顔出ちゃったし特定もされてるし。でも今回それどころじゃないからね、うち以外の鎮守府も入れたら出演予定者多すぎて宮里提督も頭抱えてたからね。

 なんなんですかね、自衛隊の公式放送とは別に私達の所属組織の公式生放送withネット生配信って。しかも一か所じゃなくて五か所同時。頭沸いてると思う。あと出演者に知り合い多すぎて困るわ。宮里艦隊は私と龍驤さんで、他の艦隊は代表一名+旧精鋭部隊員+提督でやるらしいんだけど、代表者枠五人の内知らないのが一人だけ――北上さんだけってお前。

 金剛さんは案の定バーニングラブしちゃったらしいし、夕立はぽいぽいしてるみたいだし、北上さんはなんか元々結構名の通った配信者だったらしいし。私三次元の顔出しとか一切興味ないから知らなかったんだけど、人気がどれくらいだったのかはファンだった大井さんが大いに語ってくださったのでよく分かった。霧島さんの所が一番まともにやれそうな気がするので頑張ってもらいたい。

 

 それにしても配信サイトの方からのコメントが一切自重ないから困る。ここから拾うの絶対炎上すると思うんだけど大丈夫なんだろうか。いや燃やした方が注目度上がっていいのか? 意図的にやれるほどの能力はないんだけどさ。

 筑波さんとは打ち合わせでも話をしたけど陽のオーラを常時放出していて浄化されそうになった。なのに気が付いたらメイン進行私になってたんだけどどういう事だってばよ。芸能人居るのにどうしてそうなったのか、これがわからない。

 今はチート能力さんが無理矢理動揺と緊張をねじ伏せて普通に喋ってるように見せかけてくれてるけど、私はすでにいっぱいいっぱいだぞ。つーかチート能力さんの応用力がヤバい。敵を狙い撃つ時とかの精密動作の応用でこんな事出来るとは思ってなかった。

 まぁ龍驤さんにすっげぇ失礼な事は言ったんだけどな!! 本音が口からまろび出ちゃったんだよ後で謝ろう。

 門番の人達に関しては普通に喋れたと思うけど、実は一個だけ嘘を吐いていて、本当は話しかけられて言葉を交わした事が何度かある。ただナンパとかじゃなくて、声援を貰ったのだ。ややこしくなるから言わなかったけどね。

 

 

 

 三人で海の傍を通り、施設の二階へ上がり会議室なんかを案内する。これは特に変わった事も無いのでさらっと終わってしまった。おかげで米欄が私への質問とかで埋まる埋まる。それ以外には他の放送の状況も流れて来ていて、意外とみんな割と無難にやっているらしい。北上さん以外。

「あ、ここはトイレです。一応男子トイレもありますが……割と私達が使ってますね、こちらまで男性の方来ませんし」

 

  :その情報は要らなかった

  :prpr

  :男女別れてるような建物なんだな

  :何その女子高の現実みたいな

 

 そういや元々は何の建物なんだろうここ、実は私も知らないから答えられん。新築ではないから何かに使われてたはずなんだけど。そう思いつつ次に向かった先は提督の執務室である。まぁ中にカメラを入れる訳には行かないので入り口をさらっと紹介するだけなんだけど。この建物は生活や戦闘に直接関係ないから本当に見せるだけなのだ。

 でもなんか、実際扉の所まで来たら入り口が若干開いていて、中からとても聞き覚えのある駆動音がしている。常人の耳だと直接耳をくっつけなければ聞こえないようなそれに嫌な予感を感じ、扉を完全に閉めてしまおうかと手を伸ばしたその時に、きゅぅーと悲し気な泣き声を出しながら、扉の隙間からにゅっと三頭身くらいで頭に砲身を付けた金属のようなもので出来たそれが顔を覗かせた。その子は見慣れた私の顔を見るや、きゅっきゅぅーと鳴きながらこちらの胸に飛び込んだ。

 咄嗟に体で隠そうと思ったけど、私の体なんて結構小さい訳で。ヤバいなぁと思った時にはもうカメラにばっちりと映り込んだ連装砲ちゃんであった。なんでやねんという顔をしている龍驤さんを横目に、私はとりあえずコメントを確認した。

 

  :かわいい

  :ゆるキャラかな?

  :PR用にそんなの作る暇あるのか……

  :頭大砲はうるさそう

  :どこで売ってますか?

 

「非売品です」

「そうだけども」

 何を言ってるんだ私は。

 ちゃんと突っ込んでくれた龍驤さんも困ってたようで、とりあえず紹介しても良いか聞いてみたら、どの道武装は後で紹介する予定だったからまぁいいかと返答を貰えた。本当にいいのかは不安そうだったけど。

「この子は12.7cm連装砲D型、通称連装砲ちゃんです。ゆるキャラじゃなくてれっきとした艦娘の武装なんですよ」

 腕に抱いた連装砲ちゃんを前に出し、よく見える様にカメラに向ける。連装砲ちゃんはきゃーと恥ずかしそうに頭と体をゆすった。

「艤装とリンクして自動で敵を撃ってくれるすごいやつだよ」

 

  :予定外?

  :放送事故臭いな

  :リポーターが一番焦ってますね

  :放送事故で干される可能性あるからしゃーない

  :武装!?

  :武装て

  :かわいい

  :頭の奴本物かよ

  :カメラに向けないで 

  :何ゲットロボなんですかね

  :↑そら深海棲艦のタマよ

  :AI搭載した兵器完成してんの?

  :艦娘の必要性ある?

  :流石に自動迎撃するだけなのでは

  :CIWS的な奴か

  :このサイズで火力足りてるんだろうか

  :こんなのあるなら徴兵する必要なくね?

  :吹雪と一緒に出撃するんですか

  :なるほどサイドキックか

 

「あー、この子は子機みたいなもので、親機を接続している艤装が起動していないと撃ったりは出来ないので今は安全です。弾も今の状態だと入ってない……入ってないよね?」

 ちょっと心配になったので確認したが、連装砲ちゃんはうんうん頷いたので大丈夫だろう。自分で扱う訳じゃないから結構知らないんだよなぁこの子たちの仕様。

「この子たちはAIは搭載していますけど、艤装から離れて戦ったりは出来ないらしいので艦娘は必須になります。それと艦娘の中でも適性のある子しか扱えないらしくて、たとえば私や龍驤さんには無理です。私の知ってる限りだと一人だけしか装備している艦娘は居ません……あ、自衛隊には居るんですかね?」

「連装砲ちゃんは現在、全体で一名しか使用可能な艦娘は確認されていません。ただ、別の型……C型だったかな? それの適性者は他に確認されています。戦闘部隊に入れる適性値ではないですけどね」

 私の急な質問にも龍驤さんはちゃんと答えてくれた。C型ってなんだろう、Dの前っぽいから連装砲くんかな? あっちもかわいいからちょっと見てみたいかも。

「この連装砲ちゃんも適性値の影響を受ける、という事でいいんですか?」

「そう聞いています。ですので火力に関しては使い手次第になるかと思います。私とも一緒に出撃しますが、使い手の子が優秀……うん、優秀なので上位の深海棲艦にも通用するだけの力はありますね」

 結構敵倒してるんですよーと頭を撫でると、連装砲ちゃんはくすぐったそうにきゅうきゅう鳴いた。しかしなんでここに居たんだこの子、島風が面倒見てるはずだったんだけど。

 

  :たまなしって事は女の子だな

  :分かってないのに人に向けるのひでぇwww

  :あくまで艦娘の装備でしかない?

  :単独で動けないのか

  :また欠陥兵器か

  :なんでそんな仕様になってんだろ

  :CとDで何が違うんだ

  :言い淀まないであげて

  :オールマイト目線で優秀ライン上なのはエース級なのでは

  :深海棲艦って上位下位あるの?

  :↑人型ほど上位らしいぞ

  :町一個壊滅させた奴は上位種だったって多聞丸が言ってた

  :ぼくの単装砲もなでなでしてください!

  :いいからその短小砲しまえよ

 

「武器にしては軽いんですね?」

 筑波さんが私に片手で抱かれつつ撫でまわされている連装砲ちゃんを見て、反動とかは大丈夫なんですかと疑問をぶつけてきた。言われてみればよく引っ繰り返らないなこの子ら、バランス悪そうに見えるのに。いや私達も大概なんだが。

「重さは子供くらい……ですかね。抱っこしてみますか?」

 それじゃあと腕を伸ばしてきた筑波さんにそっと連装砲ちゃんを受け渡す。両手でしっかりと支えた筑波さんは、それでも案外重かったのかおおうと声を出して腕を震わせた。片足を大きく踏み出しなんとか全身で支え、体勢を立て直して私のように片腕で支えようとしたが、暫く奮闘したのち無理ぃと言ってゆっくりと連装砲ちゃんを床に降ろした。細いもんなぁ筑波さん。

「よ、よく片腕で持てますね……?」

「まぁそれなりに筋力は有りますから……」

 

  :金属の割には軽い?

  :弾は入ってないから軽いのか

  :重そうですね

  :重いのかよ!

  :オールマイトとキャスターじゃなぁ……

  :やっぱりオールマイトじゃないか!(歓喜)

  :子供くらいの重さの奴腕伸ばしきってるとこから受け取るのはそりゃ辛いだろ

  :十五キロ前後?金属だしもっとありそうだけど

  :足だけじゃなくて腕も素で強かったのか

  :どっちにしろ金属製にしては軽い気がするが

  :それなり(オールマイト基準)

 

 これは私が力強いんじゃなくて筑波さんが虚弱なだけだと思うの。

 筑波さんが息を整えるのを待って、連装砲ちゃんに延々構ってる訳にも行かないので次へ行きましょうと移動する事になった。連装砲ちゃんも後で行く工廠へ預けようという事になって連れて行く。割と手足は短いけどこっちに合わせてせかせかぴょんぴょん付いてくる。かわいい。

 

 次にやって来たのは実はこの建物の一階フロアをほぼ完全に占めている施設である。私は利用したことが無いのだが、人によっては数日に一度はお世話になっているらしい。

「ここが医務室です。軽い診断から手術までやれる設備が整っていまして、医師の方も24時間体制で詰めています。薬局も兼ねていまして、二日酔いの薬から湿布、あと月一のアレ用の薬とかも出してもらえるそうです」

 実戦で大きな怪我をした人間がまだ一人もいないため実は暇だったりしないかという疑惑があるのだが、当然必要な場所である。

「こちらでは血液検査も行えまして、本日はこれから適性検査の実演も行わせてもらいます。ですので、注射や血の苦手な方は暫く音声のみでお楽しみ頂く事を推奨させて戴きますね」

 当然のように筑波さんが検体である。体張るなぁ。本人は七割くらいこれのために居るって言ってたけどそれは謙遜のし過ぎではないだろうか。

 

  :そりゃ医者は居るか

  :女医さんばっかなのかね

  :え、酒飲めるの

  :二日酔いで海に出る奴とか居んの?

  :月のはね、辛いからね

  :艦娘ってその辺り大変そう

  :雪ちゃんはもうきてるのかな?

  :↑ほんとにキモいんで止めて貰えませんか

 

「ここの職員は女性ばかり……という訳でもないらしいですが、ほとんど女性ですね。お酒は自費で購入するなら飲めます、もちろん未成年は駄目ですが。月のものに関しては艤装を付けると大分調子が良くなるらしいですよ。妙な所で便利なんですよね艤装って」

 ちなみに私はまだきてないのでフルタイムで戦える。むしろ来なくていいわ一生。っていうか、中身男なんだけどくるんだろうか。

「あ、準備が整ったようなので筑波さんにお渡ししますね」

 カメラが筑波さんの方に集中する。まぁ実演と言っても普通の採血と何も変わらない。その事を理解してもらうために映すんだからそれはいいんだけど、なんか妖精さんが一人ナースキャップ被って台の上に立ってて危なっかしい。反応する訳にも行かないしどうしたもんだと思ってたら筑波さんの出した右腕に弾かれて落ちて行った。何やってんだか。きょろきょろしてた連装砲ちゃんに拾われて頭に乗っかって一休みし始めたけど、何しに来たの君……

 筑波さんの方はぷすっと刺されてちゅーと出てきてはい終わり。本当にそれだけなので準備を入れても何分も掛からない。まぁ大勢の女性を流れ作業で相手する訳なのでそんなもんだろう。採った血液は専用の試験管のような容器に入れて、検査用の機械へ掛けられた。

「これで一時間もしないうちに結果が出るんだそうですよ! 適性があったらどうなっちゃうんでしょうね?」

「その場合は恐らく訓練所を貸し切りに出来ると思います」

 龍驤さん曰く、一斉検査じゃない場合も適性値が150を超えていたら即時招集らしい。マンツーマンで教えて貰えるとか滅茶苦茶贅沢じゃん絶対やりたくない。

 

  :本気でただの採血じゃねーか!

  :これ映す意味あった?

  :変な扉を開く奴なら出そうだが

  :なんていうか……その……下品なんですが……

  :手遅れ

  :変な事はしないって分かったので良いのでは

  :そもそもただの採血だって最初から発表されてるんだよなあ

  :貸し切りは辛そう

 

 結果は番組後半でーとバラエティあるあるをかましつつ、我々は次の施設へと向かった。次は工廠なので、そこで頭に乗っけた妖精さんと一緒に周囲を見回しながらこっちについてきている連装砲ちゃんともお別れ予定である。

 

 

 

 移動中に黙ってるのも何なので公式サイトの方のコメントにも答えていきましょうと三人で目を滑らせる。でも私個人への質問が多すぎてとても困る。時間が余ったら答えても良いかもしれないけど、全体の話を優先したいんだこっちとしては。

「『怪我人はどれくらい出ていますか? 死者は今の所居ないと報じられていますが事実ですか?』……これはすぐ答えられますね。私の知る限り艦娘から死者は出ていませんし、怪我も大きなのは聞いた事無いです」

 私達の鎮守府で一番大きな怪我というか症状というか、ともかく医務室に世話になったのは轟沈して海に放り出された深雪だ。その深雪にしたって検査したら異常無しだったんで、マジで怪我と言える怪我をした人間が居ないんだよなぁこの鎮守府。たぶん私の投げたボールの作ったたんこぶが一番の重傷である。あ、これも深雪だわ。

「どの鎮守府もネットワークに接続できる環境が整っているので、私達も一応連絡網というか……それぞれ個人的に連絡を取り合っていて、ある程度の情報は回ってくるんですね。でもそこで亡くなったとか欠損したとかの話は聞かないので、たぶん本当に居ないんだと思います」

「強いんですね!」

「強いですよー」

 本当にどの艦隊も任務こなせてるらしいので強いと思う。所によりたまに失敗して半壊したりしてるらしいけどとりあえずそれは言わんでもいいだろう。

 

  :怪我人すらいないのは嘘くさい

  :オールマイトが守ってるんだろ

  :神戸牛上ロースから解説入って草

  :北上「あたしたち艤装の効果で怪我とかしないから~」

  :北上はなんで吹雪の配信見ながら配信してるんですかね……

  :ヤベー奴過ぎるだろ

  :スマホ五台でネット配信自分のとこ以外全部流しながら放送してるぞあいつ

  :あれに許可出るとか日本終わったな

  :日向の表情が明らかに許可出してない奴のそれ

 

 なんで高級肉から解説来てるんだと思ったら北上さんの配信者としての名前らしい。なんか私の失言とかどうでも良くなるくらいおかしな事してませんかね。見たくなるじゃんやめてよ。

「次の質問です、『宮里提督ってどんな人ですか?』」

 筑波さんが次の質問に移ったため北上さんについて突っ込む機会を逃した。いや突っ込まなくていいんだろうけど。

「宮里提督は自衛隊から出た一番最初の提督で、一番最初に艤装を起動した人です」

 これは私も昨日知ったのだけど、この日本で最初に作られた艤装って宮里提督の大和らしいのである。つまり、訓練所で習った艤装造って起動するために霊脈に投げこまれたっていう可哀想な人、あれは宮里提督の事だったんだそうな。

「宮里提督は提督と艦娘の適性を両方持っていて、しかも自衛隊の人なのでどの感覚も分かる凄い人なんですよ」

「戦闘部隊水準の適性値ではありませんが、鎮守府最後の防衛線として艤装を装備する事もあります。今の所は宮里提督が戦いに出るような事態には陥っていないので、提督としての仕事が主となっていますが」

「初日以外で艦娘の制服姿を見た事無いですねそういえば」

 私達が全員核に向かって突っ込んでった時、実は防衛は宮里提督と明石さん達がやっていたらしい。と言っても、別段鎮守府まで突っ込んでくる連中は居なかったそうだが。

 

  :多聞丸より先なのか

  :技術畑の人なのかね

  :そもそも提督ってなんなの

  :両方!?

  :両方持ってる人とか居るんだ

  :つよそう

  :だからオールマイト渡されたのか

  :艦娘にもなれるなら提督も女の方が有利じゃねーか

  :艦娘としては飛鷹さんレベルって事か

  :防衛出来るなら飛鷹さんよりは高いだろ

  :あの人自衛隊でも最低クラスだぞ

  :初日は艦娘の格好してたんだ

  :そっちも見てみたい

  :っていうか最初はヤバかったって事では?

 

「初日は設備見て回る前に出撃しました。ちゃんと長門さんと龍驤さんに先輩として音頭を取ってもらえたので安心して戦えましたよ」

「……MVPは吹雪やったけどな」

 龍驤さんの放送に乗るか微妙なほどの小さな呟きは、コメントを見る限りではマイクに拾われてはいないようだった。

 

  :最前線送り

  :思ったよりヤバかった

  :長門も居るの?

  :長門は自衛隊の方で宮里艦隊所属って言ってたぞ

  :吹雪さっきからいつ米見てるんだ

  :たまにスワイプしてるのが見えるからたぶんチラ見だけで全部読んでる

  :動体視力良すぎない?

  :うちは一族だった可能性が出て来た

 

 人を物騒な一族出身にしないで欲しい。そう思っていたら工廠へ着いたので一旦質問コーナーは打ち切りである。

 

 

 

 工廠にはクレーンが設置されていたり重機が置かれていたりして、見た目にもそうだと分かりやすい。船の改修なんかもするから色々と必要なんだと思うけど、あれ動かすの妖精さんなんだよね。普通のサイズなので妖精さんが動かしているのは不自然過ぎてたまに不安になる。

「ここが工廠です。私達の使う艤装や、収集部隊の使う船なんかの整備点検、場合によっては改修や改造も行ってくれる所です」

 一応船を入れる所は外から見える構造なのだが、艤装のあれこれは海に隣接した建物内でやっている。なので今回入るのも建物内だ。扉を開け放っておはようございまーすと元気よく内に入っていく。

「ああ、来ちゃった! 明灯、起きてってば、だから徹夜は駄目って言ったのに~!」

 私達を出迎えたのは放送事故のかぐわしいかほりのする半泣きの声だった。

 ちょっと待ってて、とヤバそうな気配を感じ取った龍驤さんがカメラを待たせ、先に様子を見に行った。筑波さんもこれには苦笑い。っていうか明石さん(マッドでない)の声は放送に乗ったので既に手遅れという気はする。

 

  :草

  :やらせじゃないなら凄いなあかり(仮名)

  :公式放送の姿か?これが…

  :徹夜で仕事してたんだろ褒めてやれ

  :徹夜で仕事しなきゃいけない環境なのが悪い

  :俺も二徹でこれ見てるんだけど寝ていい?

  :↑仕事終わってるならいいぞ

 

「えーと、一応フォローしておきますと、昨日艤装が二つほど大破――そのままだと戦闘不能なくらい破損したらしいので、それでたぶん今朝の出撃に間に合わせるために徹夜になったのではないかと」

「今も多くの艦娘は海に出ていると聞いていますが、この工廠の方達の努力に支えられて出撃出来ている訳ですね!」

 筑波さんも乗ってくれて助かる。遠くからは小さくもうあっちは寝かしといてええよと聞こえ、二人分の足音が近づいてくるのが分かった。心配そうにしていた連装砲ちゃんも一安心である。

 

「お待たせいたしました! この工廠を預からせて戴いております、工作艦の一人、明石です。よろしくお願いします!」

 若干どころでは無い緊張感で張った表情ながらも、明石さんはしっかりと言い切って頭を下げた。艤装を装着して艦娘だと分かりやすいようにしてカメラに映っている。

 

  :髪すごいな

  :なにその髪色

  :髪の規定とか無いの?

  :工作艦とか居たのか

  :これは食堂に間宮が居るな

  :その髪はなんあんですかふざけないでください

  :吹雪のより大分デカい艤装

 

「私達工作艦の仕事は、主に艤装の修理や改造、武装の付け替えなどです。海に出る事はあまりなくて、戦闘能力は最低限しか持っていません。ほとんど裏方の艦娘になります」

 奥へどうぞ、と明石さんに案内され私達は工廠の中へと入っていく。筑波さんがその道中、打ち合わせ通りに髪について言及したので、龍驤さんが解説する事になった。

 私達は知っている事だが艤装を起動すると、髪の長さと色はその艦ごとに決まったものに強制的に合わせられる。これは可逆の変化……というか、艤装の使用を止めるとその後に伸びてきた分は普通に地毛の色で生えてくるらしい。面白いのは髪を染めていたとしても決まった色に自動的に染めなおされるという事だろう。あと、長髪の人が短髪な艦の艤装を起動すると一瞬で短くなるとか。ある種伸びるのより不気味だとかいう評判である。

 私ももっと短かったんですよーと言ったら、龍驤さんも明石さんも私もですよと頷いていた。髪長い艦娘多いよね。

 

  :艤装ヤバくない?

  :体に影響出るのはやばたにえん

  :髪だけならいいけど

  :ほんとに変わるのか

  :こんな物許されると思ってるんですか?

  :噂じゃなかったのね

  :噂はどっから出てたのあれ

  :↑艦娘の親

  :目の色も変わるらしいな

  :これは使わせたくない

  :ああ長門さんや宮里さんの髪が変に長いのってそういう

  :人の体を何だと思ってんだ

  :ハゲの希望の星

  :男には使えねーから

  :(´・ω・`)また髪の話してる

 

 案の定批判は多い。でもこの情報って既にネット上じゃ都市伝説どころかほぼ事実扱いだったんだよね。情報元はどうも自分の無事を知らせるための自撮り写真からみたいなんで、そもそもネットに繋げるようにしたのが間違いだった気がせんでもない。繋がらなかった場合私は欲求不満で死ぬが。

 軟着陸してくれるといいなぁと思いつつ、工房へ我々は突入した。中は普段よりだいぶ片付けられており、繋がっている艤装の保管場所――イメージとしてはロボットアニメのハンガーが近い――に置かれた艤装も普段より小綺麗に見える。妖精さんがしっかり磨いたのだろう。

 明石さんは中をスラスラとほとんど噛むような事も無く解説して行って、明石の艤装で修理する所も軽く見せてくれたりした。生えているクレーンなんかは結構器用に扱えるようで、まるで手が何本か余分にあるような自然かつ効率的な仕事ぶり。その流麗ながら実践的で機敏な動きの背後に、この二カ月ちょっとでくぐり抜けた修羅場の影が見えた気がした。

 世話になってるんだなぁと今更ながら実感しつつ、ちょっと気になって工房の隅の方を覗いてみると、陰になった所に妖精さんを枕にして作業台でうつ伏せに眠っているマッドな方の明石さんが居た。この人はこの人で頑張った結果がこれなんだろうから責める気になれない。いや問題ではあるんだけど。

 枕にされてる妖精さんは若干苦しそうだけどこの子も寝てるのでたぶん一緒に頑張ったんだろう、有難い。見れば妖精サイズの帽子が床に飛んでいたので初心者マークの付いたそれは彼女の横にそっと置いておいた。それにしても、明石さん艤装付けたまんま寝ちゃってるんだけどこれ体痛くならないだろうか。

 

 筑波さんが賑やかに受け答えして盛り上げつつ、工房内から保管場所まで移動して、カメラは艤装にフォーカスした。今目の前には四つの艤装があり、大きさの順に並べられている。今日出撃していない人たちの奴だ。

「これが実際に使われている戦闘部隊の艤装です。左から、駆逐艦、軽空母、軽巡洋艦、戦艦の艤装で、ここに並べてはいませんが、潜水艦や補給艦の艦娘も居るんですよ」

 私は言いながらまず駆逐艦の艤装に寄ると、接続されているレーダーやソナー、爆雷投射機などを見やすいように角度を変えて見せた。

「この艤装の名前は吹雪……つまり、私の使っている艤装です。魚雷を使う機会があまり無いので取り外して、機銃や連装砲の弾薬を多めに積んでいます。珍しい構成らしいですけど、足周りが自由になって楽なんですよ」

 吹雪型は発射管を足に装着するのだが、魚雷を使わない私はそれが無くていいので艤装の装着自体もかなり早い。走る時も気にしなくて済むのでこれからも使わないかもしれない。敵次第な所はあるけど、威力過剰で範囲は普通って使い辛過ぎるのよね……

 

  :艤装の紹介助かる

  :戦艦デカいな

  :なんだあのでっかいモノ……

  :軽空母がやっぱり巻物な件について

  :比べると駆逐艦小さいな

  :この艤装付けると殴り殺せるようになるんですか?

  :潜水艦の見たかったなちょっと想像付かない

  :駆逐艦って魚雷無しで火力足りるのか

  :↑足りなきゃ殴るんだろ

  :酸素魚雷とかお使いにならない?

  :対潜対空寄りの構成なんかな

  :メイン火力じゃなくて護衛艦か

 

 すまねぇメイン火力なんだ。連装砲だけで大体倒せるとか思わないよねそうだよね。

「艤装には身体能力を強化する効果があるのですが、同じくらいの適性値でも人によってどれくらい強くなるかが違うらしいんです。基本的には殴って倒せるような強化量にはならないので、某動画を見た人は絶対に真似しないでください」

 実際には天龍さんとか叢雲みたいに武器を使えば近接戦も行ける艦娘は結構いるらしいのだけど、素手での撃破は今の所、長門さんの一件と私の多数しか確認されていない。本来なら長門さん凄くない? って話になるんじゃないのかと思うのだけど、私がやり過ぎて目立ってない感がある。

 

  :しないから安心しろ

  :強化系だったか

  :オールマイトにしか出来ない所業

  :適性値最高でもないと駄目なのか

  :得意不得意出るもんなのか

  :某動画って何?

  :↑ご存じないのですか!?

 

「艦娘の能力は人によっては航行速度は凄いけど他はそれなりとか、異様に動体射撃が得意とか……かなり個性が出ますよ。ちなみに私はソナーが得意です。私はソナーが得意です。大事な事なので二回言いました。殴るのだけじゃないんですよ!」

 これは真面目な話になるのだけど、たぶん私が本来得意なのは対潜である。チート聴力を抜きにしても、レーダーに比べてソナーの方が明らかに精度が良いのだ。レーダーは適性値の割に性能低い気がするから本当は苦手なんだと思う。

 

 さておき、次は軽空母である。こっちは龍驤さんに解説してもらう事になる。私は使えそうなエフェクトは出せるけど実際使った事は無いからね。たぶん何かしらの適性があるんだろうけど、テストすらしない辺り低い適性なんじゃないかな。

 龍驤さんの説明によると、やっぱり陰陽術ベースの術式で艦載機を式神として操るらしい。自分の意識を乗せる事も可能で、その場合俯瞰視点で周囲を視れて大変便利なのだとか。艦爆とか艦攻とか色々種類もあるけれど、偵察や観測が最重要項目なので、これが得意だと重宝される。でも宮里艦隊だと実は秋津洲さんが一番遠くまで見渡せるらしい。泊地修理も出来るので実際優秀なんだけど、ゲームのイメージが強すぎるんだよなぁ。

 

  :これ正気で言ってる?

  :陰陽術はねーよwwwwwwww

  :飛鷹さんのでも言われてたけどマジで式神かあれ

  :ええ実在すんのかよ

  :陰陽寮復権させなきゃ……

  :オカルトってレベルじゃねーぞ!

  :ふざけた事を言っていないで本当の事を報道するべき

  :艦娘が事実を知ってるとは限らないから……

  :実際ミサイルも効かない連中がいるからなぁ

  :たぶん事実だからなこれオカルトを否定するのが間違ってたってだけよ

  :くねくね……八尺様……きさらぎ駅……

  :↑その辺りはガチ創作だから

  :意識憑依させるの楽しそうだな

  :空飛べるようなもんだし絶対楽しい

  :敵に近寄らなくていいし守って貰えるしなるなら空母がいいなぁ

  :なお近寄られた場合

 

 コメントだと信じるor信じないで五分五分くらいか。心から信じてる人はもっと少ないだろうけど、現実はもっとファンタジーなんだよなぁ。

「信じられないかもしれませんが、霊能力や超能力は実在します……って言うと、マジシャンの前口上か何かみたいですね。ともかく次はこちら、軽巡洋艦の大井さんの艤装ですね」

 大井さんは自分から提督に上申して今日の待機組に入った。理由はもちろん北上さんで、たぶん今は宮里艦隊の放送そっちのけで北上さんの視聴してると思われる。あの人なんで北上さん絡むとポンコツになるんだろう、集合無意識の大井さんの影響なんだろうか。

 艤装の方はというと、割とスタンダードな軽巡で、魚雷が多い訳でもないため改二で雷巡になったりとかは想像の付かない感じになっている。あるのかなぁ改二。

 大井さんの艤装は私のそれと見比べると表面に修理痕が多く、最前線で戦ってるのがよく分かる。変色海域の継続ダメージがあるので私のも新品同然って訳でもないのだけど、被弾の有無は結構判り易い。深雪のとか改造した人達のとか二個目なのに既に折れたりひん曲がったりで凄い事になってるし。

「どうしても戦えばダメージを受けます。ですが、艤装には使用者を守る機能が付いていますので、完全に壊れない限り怪我をする事はありません。水中で息が出来るようになったりはしないので潜ったりするのは潜水艦にお願いした方がいいですけどね」

 

 じゃあ次です、と言って紹介したのは戦艦の艤装。明らかに他よりも大きく、重量感があり、見た目からしてもう強そう。左右に備えられた46cm三連装砲に複数の副砲、背面だけでなく体全体を覆ってしまえそうなほどの巨躯。誰がどう見たって、普通の人間では背負うなど到底不可能だとしか思えないだろうそれは、いろんな意味でこの艦隊最後の切り札である。

「これは宮里提督の艤装、戦艦大和です」

 何しろ出撃するくらいなら逃げた方がいい訳だから。これ付けて出撃するっていうのはなんかもう駄目な時であるからして。

 大和に関しては実際に動いた所を見た事が無いので私も実態は知らない。なので解説は明石さんに丸投げである。ちゃんと動くように整備点検は欠かしていないのだそうだ。

「大和は最高の火力と最悪の燃費を併せ持つこの日本最初の艤装で、起動するには駆逐艦の十数倍の燃料が必要になります。その代わりに、戦闘部隊未満の適性値でも上位種でない深海棲艦なら打倒し得るだけの一撃を六連射出来たりと圧倒的な性能を持っているんですが……」

 そこで一度言葉を切ると明石さんは表情を一変させ、絶望の闇を秘めた瞳で若干唇を震わせながら続けた。

「まかり間違って大破でもしようものなら、修復に数十時間かかります……!!」

「重要かそれ!?」

「可動部が、可動部が多過ぎる上構造が複雑なんですよ!? どうして大口径と柔軟性を両立させようとするんです!? 運用するなら専任の整備班を組まないと無理なレベルなんですよこれ!!」

 長門さんの倍以上の関節とかいう悪夢の艤装なんだそうな。

 

  :大和じゃねーか!

  :宇宙行けそう

  :波動砲はどこから撃つの?

  :大和なのかあの提督

  :なんで最初にそんなもん作ったし

  :適性値足りなくても使えるのに戦わないとか

  :燃費悪すぎて起動しない方がマシなんだろ

  :燃料も限られてるってそれ一番言われてるから

  :徹夜不可避

  :もしかして艤装って船ごとに整備方法違うの……?

  :独自仕様……納期……うっ、頭が

  :数十時間って長いの?

  :↑戦艦と考えたら糞短いけどワンオペでやらされたら死ぬわ

  :何人くらいで整備してんだろうな

  :毎日出撃するとかじゃなきゃそう問題にならんくらいでは

  :↑今も戦闘部隊の大半出撃してるんですが

  :一人徹夜で寝落ちするレベルだぞ公式生放送あるのに

  :ブラック過ぎてワロエナイ

  :っていうかこの人もたぶんほぼ寝てないよね……

 

「まぁその、そういう……戦闘部隊以外の手も足りないという事情がありまして、来週の第二次適性検査と同じくらいに、戦闘部隊以外の艦娘の募集が始まります。必要とされているのは主に工作艦と給糧艦、それに空母と駆逐艦、海防艦です。詳しくは自衛隊広報の方をご確認ください」

「ご応募お待ちしております……」

 微妙に素が出てしまって恥じらう龍驤さんと虚ろな目で地獄で会おうぜと囁く明石さん。二人の解説が終わり、カメラが端で見切れてた私も映るように少し引く。そんな折、私の足元をちょろちょろしていた連装砲ちゃんが、何かを見つけてきゅーとそちらに向けて走って行った。釣られてカメラもそちらを映す。

 それは兎の耳のようなものを頭に乗っけて、やたらと短いスカートを際どい位置に付けた人型実体だった。そいつは無言で手招きした連装砲ちゃんに無言で赤と白の救命浮輪を穿かせると、無言でうんうんと頷いて無言でこっそり去ろうとする。でも連装砲ちゃんがありがとうとぶんぶん手を振りながらきゅーきゅー鳴いてるからお前が無言でも意味ないぞ。っていうか、カメラが連装砲ちゃん追っちゃったからバッチリ映ってるぞ。なんでわざわざ制服着たんだお前、いやたぶん私達が制服なのとあくまで待機であって休暇じゃないからだろうって分かるよ。分かるんだけどさぁ。お前のそれが映るのはね、ちょっと不味いかなって雪ちゃん思うの。だってアレだよ、コスプレ衣装って言ってもギリギリ許されるか分からないレベルだよその服は。悪気は無いんだろう、連装砲ちゃんの様子見に来ただけっていうか、浮輪届けに来ただけなんだろう。こっちが見てるのに気づいて、声を出さずにこちらに向かって頑張れーと手を振ってくるのはまぁいい子だと思う。でもその手を振り上げた瞬間、ただでさえ短いスカートが勢いよく翻り、色々大公開時代に突入した。

 

 いや何やってんだ島風ェ!!!

 

 

 




この話があくまで軽い話だという事を忘れちゃいかんって思いながら書いたらただの設定纏めみたいな事になった件。
設定からして酷いからですねはい。


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放送事故は起こるさ

 その瞬間、私は産まれなおしてからこれまでで、最大最高の速度と精度を発揮したように思う。

 一足飛びに島風の眼前まで駆け、翻ったそのスカートの端を指先で捉え、中身が見えないように抑えつける。私の出した風圧で島風の髪が放射状に散らばり、オウッという鳴き声が眼前の喉から漏れ聞こえた。目と目が合い、数秒の硬直。島風は怪訝そうに眉を寄せると口を開いた。

「何してるの吹雪?」

「こっちのセリフだよ!?」

 出来る限りの最短最速でエグい角度のそれを隠しはしたものの、明らかに電波に乗っかって、島風のZ旗パンツは全国に生でお届けされた。なのにこいつ全然動じてない。たぶん、ここ何か月か周りにまともに男が居ないから服装に関して自覚が全く無いのと、今現在居るのがカメラマンさんまで含めて全員女性なのが悪い方向へ合わさった結果か。ともかく本人はえらく呑気だった。

 さて、とりあえず隠すべきものは隠したけど、ここからどうしたらいいんだ。とりあえず島風はフェードアウトさせた方がいいのかな、引っ張ってくか、でも急にそんな事して大丈夫だろうか、まずマイク切らなきゃ、なんて、混乱していた私よりも、先に動いた人物が居た。龍驤さんである。

 

 ――後からアルコールの入った龍驤さんに聞いた話であるが、この時の龍驤さんの脳内では、放送事故だわぁとかこんな阿呆みたいな事させたらそら事故るわとか出撃してた方が楽やったなとか色々ぐるぐるしてたらしいのだけど、廻して遠心分離した結果、最終的に残ったのは島風自身の事だったらしい。やるかどうかは一瞬だけ迷って、すぐさま、後で全部多聞丸に責任押し付けようと決めたんだとか。

 龍驤さんは私達の方へと歩み寄り、私をアイコンタクトで制すると、苦笑いしながら島風に話しかけた。

「制服でとは言いましたが、制服だけでなくても良かったんですよ?」

 言ってる意味が分からなかったのか少し首を傾げる島風の横に龍驤さんが並ぶ。私もよく分かんなかったので龍驤さんをまじまじ見つめてしまった。出演予定は無かったはずだけど。言った龍驤さんは島風をしっかりカメラに映る位置に誘導すると、続けて喋り始める。

「こちらは駆逐艦の島風。連装砲ちゃんの使用適性を持った、戦闘部隊の一人です。露出の多い服装なので驚かれた方も多いと思いますが、これは島風の制服です」

 オイオイオイ死ぬわ提督の胃。

 え、なんでばらしたの? ばらして大丈夫な情報なの? 自害なの? ランサーの親戚なの? 絶句する私をよそに、龍驤さんは話し続けた。

「艦娘は艦娘として活動するに当たり、制服の着用は絶対になります。これは制服が艤装の一部であり、生命を守るための機能を有しているからです。着ていない場合、艤装損壊時の生存率が大幅に下がります」

 ここまで説明されて、ようやく私も龍驤さんの意図が読めた。たぶん、龍驤さんは島風がこの格好を強制されている事を強調して、風評被害が及ばない様にしようとしてくれているのだろう。でも、当事者である島風は全然理解していないのか、龍驤さんを訝し気に見つめていた。

「とはいえ、制服の上に何かを着たり、追加で穿いたりする分には問題ありません。ですので、島風の場合でしたら、スパッツやジャージの上にスカートを付ける事は可能です。必要なら外套を羽織ってもいいですし、極端な話、ウェットスーツを着てしまっても構いません。申請すればある程度の物は支給される場合もあります」

 龍驤さんによる島風と制服両方に対するフォロー。普段からこんな格好じゃないですよと激しくアピールするそれは、島風が普段からこの制服一揃えのみで活動していると知らなければ説得力があるだろう。島風が余計な事を言わなければ問題ない、そう思ったが、龍驤さんをおかしなものを見る目で眺めていた島風は口を開き、独り言のように呟いた。なかなか通る声をしているため、龍驤さんの言葉が止まった瞬間に発されたそれは、見事にマイクに突き刺さった。

「関西弁じゃない……!」

「キミらは打ち合わせかなんかしたの!?」

 

  :なんだこいつ

  :やべぇの写った

  :なんだその服wwwwwwwwwwwww

  :痴女だああああああああああああああああああああああああああああ

  :私服がヤベー奴

  :これはひどい

  :ふぅ……

  :連装砲ちゃんウッキウキじゃん

  :スカート短くない?

  :パンツかと思ったら浮輪か

  :ぜ か ま し

  :右からでしまかぜかな

  :可愛いのに服のセンスが

  :制服じゃないよねこれ

  :浮輪届けに来たのかこの子

  :あ

  :見えた!

  :放送事故

  :!?

  :えっはや

  :うわ早

  :なんだ今の

  :ラグった?

  :吹雪いつの間に移動したし

  :スカート抑えに行ったのかwwwwwww

  :足速いっつーか足付いてなかったろ今

  :飛んでってワロタwwwwwwwwwwwwwwww

  :パンツ見てから縮地余裕でした

  :素が出て草

  :ほんとだよ

  :お前の服装が何やってんのだよ

  :まぁいきなり飛び掛かられたら混乱するのは分かる

  :パンツエグ過ぎてヤバいスカートの上から出てるのパンツの紐じゃん

  :女所帯ってこうなるのか……

  :↑なるか馬鹿!

  :提督になりたくなってきた

  :制服?

  :連装砲ちゃんこの子のなのか

  :は?

  :制服かよ!

  :制服wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

  :ないわ

  :え流石に酷くね

  :かわいそうな子だった

  :これは許されませんね

  :日本オワタ\(^o^)/

  :ふざけてるんですか?

  :島風って速い奴だっけ

  :誰の趣味だよwwwwwwwww

  :嬉しそうだったのは飼い主が来たからか

  :これで守れるとかうせやろ?

  :生存率に直結する服装がこちらになります

  :嘘だと思いたいけど嘘つく理由が無いんだよなぁ……

  :ああ下に何か着ていいのね

  :流石にこれで出撃はしないか

  :それをはくなんてとんでもない!

  :嘘つけ絶対このままだゾ

  :そもそもこんな服を着せようとしない方がいいと思います

  :艤装とセットってこれ自体は変えられないのかね

  :説明のための生贄にされたのか

  :ウェットスーツの上にこれ着るのはシュールだなw

  :連装砲ちゃんが吹雪と一緒に出撃するって言ってたしこの子吹雪の僚艦ですかね

  :こいつwwwwwwwww

  :ひでぇ

  :龍驤さん関西弁の印象強すぎない?

  :漫才してんじゃねーんだぞ

  :これは吹雪の同僚ですわ

 

「制服は艤装ごとに固定で、変えられません。私のこのセーラー服も決められた服装ですが、このように下にスパッツなどを穿くのは全然問題ないです」

 本当はズボンが良いんですけどねーと言いながら、私は軽く自分のスカートを摘まみ上げスパッツを少しだけ見えるようにした。インパクトで勝てる気はしないけど、ちょっとでも印象が分散してくれることを願って。

「あー……まぁ、はい。そんなわけで、デザイン等に不満があっても何かしらで補うようにして、絶対に着用せずに出撃するような事は無いようにと徹底しています」

 起動自体は制服無くても出来るんだけど、物理無効化能力が機能不全を起こす可能性があるらしいからね、仕方ないね。

 

  :長門もへそ出てるしなぁ

  :金剛とか霧島も大概

  :金剛と霧島は同じような制服だから同型艦で共通っぽい?

  :エッッッ

  :何故見せたし

  :あーだめだめ

  :なんでたまにビッチムーブするの?

  :怪文書が笑えなくなってきた

  :三次に興味ありませんとか公言するオタらしいからなこいつ

  :あの怪文どこまでほんとなんだ

 

 

 

 島風と連装砲ちゃんを工廠に預けて、私達は次の建物に向かう事になった。島風も映るつもりはなかったため、じゃあねーと手を振りこちらを見送って、連装砲ちゃんも一緒になってぴょんぴょんはねる。残りの二体も近くにいたらしく、合流してミューキューキャーと手をふりふりしていた。かわいい。

 

 島風の混乱の裏でひっそりと川内さんが大破したりしていたが、変色海域へは行ってないのでたぶん大丈夫だろう。と思っていたら筑波さんがコメントを選ぶ振りをしながら予定通りの進行を始めた。

「では、また質問コーナーになりまーす! 今度は私が選んでいきますねー……はい、『学校へ行っていないと思うのですが、勉学や進学についてはどうなっているのでしょう。娘が艦娘になったら勉強しなくていいじゃんなどと言っていて心配です』……との事ですが、どうなんでしょう?」

「少なくとも、私はやってないですね……」

 なんせ教科書とか持ち込んでないからね、やりようがない。個人的には平和になってからやりたいだけやればいいじゃんくらいの考えなので、別に今できなくてもいいと思うのだけど。いやそれで私の適性値が目減りして無くなる前に平和にならなかったとかってなると困るけど。

「鎮守府での学習活動は、基本的に自主勉強になります。各鎮守府ともある程度以上に出来る人間は居ますので、分からない所を聞く事は可能だと思いますが……」

 龍驤さんも歯切れが悪い。宮里艦隊では、少なくとも私の知る限り勉強とかは誰もしていない。っていうかね、はっきり言えばそんな事してる暇がないんだよねこの艦隊。交代交代で待機の日があるとはいえ、それ以外はほぼ毎日出撃してるから、勉強でストレス溜めるくらいなら遊ぶなり寝るなりしてリフレッシュしてた方が建設的なレベルなのだ。そんな中でも日記漫画をしっかり描いてるから秋雲先生は色々凄い。

「復学に関しましては、元の学校に戻ってもいいですし、それが難しいようなら転校する事も可能です。進学については特別推薦制度がありますので、素行に重大な問題が無ければ高校にも大学にも進む事が出来ます。学費は全額免除で、ある程度学校も選べます。専門学校なども選択肢にありますよ」

「ちゃんと考えられているんですねー」

「ただ、付いて行けるかどうかは本人次第になってしまいますね……一応、入学を遅らせるという事も出来ますので、準備してからというのは可能です」

 艦娘を辞めて暫くしてから学校へ行くのは有りであるらしい。結構色々保障がされているので安心なんだかそうでないんだか。

 

  :勉強するより命懸けで戦いたい娘

  :二階級特進しそう

  :勉強するより訓練とかするよね

  :勉強の時間くらいは確保してあげて欲しい

  :↑あっても絶対しないぞソースは俺

  :受験しなくていいの羨ましい

  :入るのはともかく進級と卒業が人より苦労するでこれ

  :一年くらい予備校通いしてからの方が良さそう

  :そもそも学校行くような年の間に戦い終わるんですかね

  :↑適性値は減るから戦えなくなったら退役って自衛隊の方で言ってた

  :就学より婚期の方が問題起きそう

 

 

 

 工廠から入り口側に少し戻った所にある四階建ての建物、殆どの窓にはカーテンが引かれ、中は見えないようになっている。明かりも一部を除いて消えていて、殆ど人が残っていないため物音もあまりしない。いや、私には残った人が動く音が聞こえてたりしてるんだけども。

「ここは私達の暮らしている寮になります。裏手には広場があって、そこで運動したり出来るようになってるんですよ。私もよく走っています」

 でも私達は寮の入り口を素通りし、まずはこっちですと寮と繋がった隣の建物の入り口をくぐり抜けた。

「ここが食堂です。私達はほぼ毎日ここで食事をとっています。一日三回までならいつ来ても食事を出してもらえまして、二十四時間営業なので深夜まで任務の日でも大丈夫です。艦娘専用という訳ではないので、守衛の方や搬入に来られた方々も食事して行かれますね」

 木のテーブルに木の椅子、ちょっとした観葉植物なんかも置かれていて、無機質な感じではなく、大衆食堂と言われたら納得してしまいそうな装いである。中に入った私達が厨房の方へ声をかけると、はーいと返事があり、中から割烹着のような制服を着て艤装を背負った女性が二人現れた。

「給糧艦の間宮です」

「給糧艦の伊良湖です。こちらの食堂では、私達給糧艦の艦娘が食材の生成から実際の調理までを、艤装を使用して行っております」

 配膳はしてないので実はあんまり顔合わせしないんだよね。受け取り口に妖精さんがそっと乗せてってくれるのだ。私と宮里提督以外の人には怪奇現象に見えてると思う。

 

  :結構デカいな

  :寮母とか居るんだろうか

  :走る(100m十秒

  :走ってるとこ見たいな

  :入らないんかーい!

  :食堂別の建物なのか

  :食生活は気になってた

  :毎食食えてる?

  :普通の食堂ですね

  :給糧艦ktkr

  :割烹着はもしかして制服なんだろうか

  :生成? 精製?

  :食材の生成って何

  :髪長いけど入らない?

  :艤装背負って料理するのか……

 

「私達の背負った艤装に何の意味があるのか、視聴者の皆様は疑問に思われるかと思います。ですので、今日はこの艤装の使い方の一部を実演させていただきます」

 伊良湖さんはニッコリと笑うと、陰に置いてあった小さいドラム缶――収集部隊の集めた霊的資源が入ったそれを間宮さんの艤装へと開けずにそのまま投入した。

 間宮さんの艤装が起動し、小さく音を立てて中の機械が仕事を始める。そして十秒もしないうちに音は止み、中から妖精さんがひょっこりと顔を出して、経木の包みを間宮さんに手渡した。

「これが、この給糧艦の一番大事な仕事、そして今回広く募集する理由です」

 そう言って開けられた包みから出て来たのは、色つやの良い、明らかに新鮮な牛肉だ。質も良さそうで、赤身に程よく脂が混じっている。高級品の類はどれもこれも高騰している今の世間じゃあ、並大抵ではお目にかかれないだろう逸品。この鎮守府だと結構普通に食べれます。なお原料。

「給糧艦の艦娘は、特定の資源から食料を生産する能力を持ちます。野菜、穀物、肉、魚……概ね何でも作れますが、質と速度はそれぞれの適性によって変わってきます。例えば間宮さんはこの通り、お肉が得意です。私は何故かサツマイモだけ極端に上手く作れて、それ以外は彼女に及びません。個人差がかなり大きいんですね。ですので、たくさんの人達に協力いただいて、資源を効率よく使って行こうというのが今の方針になっています」

 私達と同期で現在給糧艦で最高の適性値を誇る間宮さんは、高品質なものを安定供給できる最高の人材なのである。回復効果が高いのも嬉しい。

 

  :気になってた

  :邪魔にしか見えない

  :燃料?

  :ちゃんと動くんだなぁ

  :まともに動いてるの見るの初めてだけど何してるか分からん

  :肉屋みたいな包みだなw

  :うまそう

  :マジで肉じゃん

  :いい肉使ってる

  :生産……?

  :合成肉かこれ?

  :作れるの!?

  :マジかよ

  :人類進歩しすぎだろ

  :味はどうなのだ

  :SFの時代始まってた

  :入れたの燃料じゃなくて材料か

  :食べて大丈夫なのかそれは

  :何故薩摩芋

  :サツマイモは……普通にどこでも育つからあんま需要無さそう

  :今いろんなとこで見るよなサツマイモ

  :庭でも育つからなぁ

  :なんで給糧艦募集してんのかと思ったらこれ俺らにも食わせる気だな

  :栄養バランスを考えていきたいと

 

「安全性に関しましては、調査で通常の食品との差異は見受けられないという結果が出ています。実際に、私達自衛隊員はこの半年以上艤装で生み出された食料で生活していますが、健康被害等は出ていません」

「味は凄く美味しいですよ」

 私の端的な褒め言葉にありがとうございますと笑って返すと、伊良湖さんは長方形のトレーに乗った料理を脇から取り出した。テーブルの上にそれが置かれると、カメラはそれらがしっかりと映るように焦点を合わせに行く。

「実際に艤装で作られた食材を調理したものがこちらです。今日の献立はあさりの炊き込みご飯と鶏肉とネギのソテー、ほうれん草とエビのサラダにだし巻き卵、大根のお味噌汁……それと漬物ですね」

 貝の出汁でふっくらと炊き上げたお米と焼いたネギの添えられた鶏肉、エビの赤とほうれん草の緑が見事な一皿に、野菜たっぷりの出汁巻き、湯気を立てる作り立ての味噌汁。漬物は好みが分かれるが、嫌なら言えば除いておいてくれる。夕食でも満足できそうだが、これお昼ご飯である。夕飯だとさらにデザートも付く。

 ちょっと頂いてみましょうと筑波さんが試食して、絶賛する。さもありなん。ガチで美味いのだここの食事は。食材も良いけど料理の腕もかなり良い。宮里艦隊は戦闘部隊以外も鎮守府にて最強。

 

  :艤装が出来た頃から実食してるのか

  :自分達で人体実験したのか……

  :被害出てたらヤバかったのでは?

  :遺伝子組み換えよりヤバそうなんですが

  :大人と子供で違う可能性があるのでは

  :吹雪「美味しいからヨシ!」

  :美味しいものには勝てなかったよ……

  :普通に美味そう

  :食べ物が良いと士気上がるからなぁ

  :筑波ちゃん美味しそうだけど語彙が消失してる

  :絶対美味しい

  :そんなエサで俺が釣られどうやったら艦娘になれますかね?

  :戦闘部隊以外も食べてんのずるくね?

  :危険地帯に出張してんだから許してあげて

 

「アレルギーなどのある方には、事前の申告があれば専用の食事を用意する事が可能です。戦闘部隊にお渡しする糧食……お弁当みたいなものですね、それもここで作っています。それと、お料理が趣味だという方には厨房の設備をお貸しする事も出来ます。ただ材料費は自費になってしまいますが……」

 等々、様々な食生活の説明を私達は受けた。私も知らなかった事もあったりしたが、無事に間宮さんと伊良湖さんとは別れを告げ、私達は次の場所へと歩を進める事になった。

 

 

 

 入ってきた側とは逆の出入り口を通り、建物の奥へと進む。目的地は食堂のすぐ隣、雑多な品物が立ち並ぶ空間だ。

「こちらは酒保です。色々な物を売っていて、色々な手続きも出来ます……なんかコンビニみたいですね」

 商品も急に足りなくなって買いに走るような物とかが多いので、間違ってないと思う。お菓子やお酒も売ってるし。ああでも、肉まんとかおでんは置いてないか。

 カメラさんが中に入り、商品を映していく。特に問題のある物は無いので事故は起きない。良い事だわ。レジのお姉さんが映されると一礼して、でも特にその人でないと説明出来ない事は無かったのでこちらにカメラは戻って来た。

 私と龍驤さんで置いてない商品の事やお金の移動に書面での申請が必要な事などを説明して、ここは終わりだ。ちゃんと必要な物は揃えられると理解してもらえればいい訳だからね。

 

  :ほんとにコンビニで草

  :ポテチやっす

  :生理用品を映すな

  :全体的に安いな……儲け考えてない感じか

  :酒の種類多くて笑う

  :天引きじゃないんだなぁ

  :一日外出権とか売ってないの?

  :地下帝国ではない

  :家族に送金するだけで書類書かされるのか……

  :つーか仕送りしてる娘居るのね

  :PC買えます(実体験)

  :吹雪絶対ネットの監視してるよね?

  :間違いなく動画とかはチェックしてますねぇ

  :誹謗中傷したらオールマイトに襲撃されそう

 

 

 

 酒保を抜けて、二階では自衛隊の公式放送をやっているはずなのでそちらには行かず、中通路を通って隣の建物――我々の暮らす寮へと進む。一階は共用スペースがあり、みんなで集まったり出来る部屋が幾つかある。誰かが置いて行ったトランプや将棋盤なんかがあったりするが、基本的にはイスとテーブルだけだったり、畳部屋に座布団が積まれてたりするだけで特に説明する事は無い。

 というか、私は碌に使ってないから説明できることが無いわ。割と大人で集まって飲んでたり、第一とか第三艦隊で自主反省会してたりしたらしいんだけど、どっちも私は関わりないしね。うん関わりないからなんだよ。呼ばれてないだけとかじゃないからほんと。島風たまに出てたみたいだけど。

 

 ささっと流して次へ向かう。続くのは一階の半分ほどを占め、我々艦娘にとって無いと物凄く困る施設、お風呂である。 

 風呂場は更衣室があり、複数のシャワーがあり、大きな浴槽がある。まぁなんというか、普通の共用風呂である。TS転生者たる私は、二次専ゆえにあまり興味は無いのだが、見てしまうのは失礼にあたるだろうと勝手に思っているので大体一人か、付いてくる島風と一緒に入っている。私達は航行速度が速いのでそういう事が可能なのだ。

 基本的に私達や偵察に出ている自衛隊の艦娘達の帰艦に合わせてお湯を入れるため、清掃の人か誰かがそういった作業をしているはずなのだが、私はそれをやっている人物を見たことが無い。私達の素敵な友人とはまた別のようせいさんなのかもしれない。

 

  :風呂だああああああああああああああ

  :ゴクゴクゴク

  :入らないんですか?

  :入ろう

  :ゆっくりしていってね!!

  :お湯が入ってないやん!

  :急に気持ち悪くなったな

  :連装砲ちゃんも入るの?

  :オールマイトの入浴シーン映して?

  :↑筋肉凄そう

  :時間とか決まってるわけじゃないのか

  :海から帰ってきてそのまま布団とか飛び込めないわな

  :潮でべたべたした雪ちゃんとべたべたしたい

 

 

 

 風呂場を出て私達は二階へ上がる。ここからは私達の生活スペースである。とはいえ、個人個人の使ってる部屋に入る訳にも行かないので空き部屋と龍驤さんwith鳳翔さんの部屋を軽く見せるくらいの予定。私の部屋を見せても良かったのだけど、本来なら島風が待機してるはずだったからね。

 そう思いながら階段を上りきると、直前まで静かだった廊下の向こうから、急に、ちょっっっとだけ汚い音が溢れ出してきた。まるで何かに打ち震える魂から無理矢理引き摺り出されたようなそいつは、結構な音量で全国の茶の間に響いた。

 

「ん゛あ゛あ゛ああ……き゛た゛か゛み゛さ゛あ゛あ゛ああああん゛ん゛ん゛ん……!!」

 

 大井さんである。

 流石に予想外で完全に硬直した私の代わりに、最早無表情と化した龍驤さんがものすごい勢いで駆けて行った。大井さんの部屋の前で一度立ち止まり、冷静にマイクをオフにすると、全く冷静でない力加減で扉を開け放ち、勢いで戻ってくるドアと一緒に部屋へと飛び込んだ。

「大井ィ!! お前、お前あれほど静かに見ィ言うたろうが――――!!」

「りゅ、龍驤さん!? 違、違うんです、私の昂る北上さん愛が勝手に……!」

「言い訳にもなっとらんやないかい!?」

 丸聞こえである。でもとりあえず、まぁ、島風に比べたらそれほど重大な事でもないだろう。アイドルのファンとか実物見て奇声あげて気絶とかほんとにあるらしいし、多少はね? ちょっと球磨型の評判はアレな事になると思うけど。うん。階段に近い部屋だったのが敗因だな。

「えー……このように、壁があまり厚くありませんので、大きな声を出すと周囲に丸聞こえです。はい」

「みたいですねー……」

 筑波さんもこれには苦笑い。狙いすましたようなタイミングだったように感じるけど、たぶん、定期的に奇声を放ってただけじゃねーかなこれ……

 最終的に無慈悲な龍驤さんの手で放送を切られた大井さんは無言で涙の海に沈んだらしい。ご冥福をお祈りします。

 

  :何?

  :怖い

  :えっ何?

  :北上?

  :亡霊かな?

  :心霊現象かよ

  :放送事故

  :北上さんって言ってたな

  :あっ

  :龍驤さん?

  :これは相当キてますね 

  :ト、トビラダイーン!!

  :マジギレじゃねーかwwwwwww

  :素が出ちゃったねぇ

  :これは関西弁のイメージが強くなる

  :大井だから北上の妹艦か

  :どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!

  :↑北上の放送でコメント読まれちゃったからっぽい

  :北上「大井っちじゃん宮里艦隊どう?すごい頑張ってるねー」→北上さあああああん

  :タイミング悪すぎて草

  :姉妹仲かなり良さそうなのに裏目に出てるのほんとひで

  :島風より同情の余地が無いですね……

 

 

 

 大井さんの事を居なかった事にして、龍驤さんは粛々と寮の紹介をこなしていった。笑顔が怖い。龍驤さんの部屋はしっかり整頓されていて、家具なんかは私達の部屋よりも充実していた。どちらかというと鳳翔さんの趣味らしいけど。

 屋上へ出て、これで概ね生活に関係する施設の紹介は終わりだ。通信室とかは見せてないけど、あそこは私達は全く入らないからいいだろう。

 なのでアレを話さなくてはいけない。話していいのかなぁこれ、いやでも割とモチベーションに繋がる話でもありうーん。

 

「屋上は開放されているので、好きに出入りできるようになっています。と言っても特に何もないんですけどね」

 ではここで質問コーナーです、と屋上から見える海を背景に私はカメラと向き合った。

「『艦娘として招集されてから三カ月ほど経ちますが、何か悩み事はありますか』との事ですが、はい、あります。実はそろそろ友人の誕生日が近いのですが、プレゼントをどうするかで迷っています。何故かというと、その友人も艦娘で、私とほぼ同額の給金を今月支給されるからですね」

 というわけで、お給料の話です。と言った私に、筑波さんが前振りだったんですかと小さく突っ込んだ。そうだよ。

 

  :龍驤さんニッコニコやぞ

  :大井どうなったんだ……

  :割と部屋は普通だったな

  :掃除は自分達でだと酷い事になってる部屋もありそうだな

  :それほど小物とか無いのは引っ越す前提だからか

  :屋上本当にアンテナとかくらいしか無いのな

  :海綺麗だなー

  :その質問はそういう話をしたかったわけじゃないと思うの

  :悩み事だけども

  :艦娘としての悩みじゃねーのかよw

  :ヒャッハー金だ金だー!

  :高い高いとは散々言われてるけど

  :少なくとも酒は買えるレベル

 

「私達の給料は、基本給と技能給、まずこれが固定で支払われます。これに加えて、旗艦――隊のリーダーですね、これを務めた日数に応じて手当てが発生します。代わりに報告書を書く仕事なんかが増えたりしますが」

 艦隊の人数に関わらないため、少数艦隊の旗艦だと仕事量に対して結構な額が貰えるから実は美味しかったりする。流石に言わないけど。

「そこまでが普通の、所謂給料になります。金額は……具体的な数字は控えさせていただきますが、結構高給です」

 っていうか、正確な数字忘れちゃった☆ 私の給料、別の部分が肥大化してるから基本給の印象薄いんだよ……

「それで、もう一つ大事な要素として、報奨金があります。これは上位種とされる深海棲艦を討伐した場合や、特殊な作戦に参加した場合に支払われるものです。額は上位種の種類によって一千万から八百万。作戦に関しては内容によって様々ですが、前回宮里艦隊で行った特殊個体の討伐作戦だと、一億になりました。これを作戦の参加人数で頭割りした金額が実際に支払われます」

 税金でかなり取られるから実際にはもっと減りますけどね、と付け足したが、筑波さんは驚いていた。

 ちなみに前回の作戦というのはもちろん例のクジラの事で、囮役も含めた全員で割るため一人当たりは500万を割る。本来はそんなもんなんだよね。私が一人で何十体も姫や鬼を殺して回ってたのがおかしいだけで、普通の艦隊は少なくても五人は居るから姫級倒しても200万くらい。いやくらいじゃねぇわ十分多いわ。やっぱ感覚がおかしくなってる。

 

  :技能給ってなんか出来るの?

  :長門が旗艦やってそうだけど部隊ごとに居るのかね

  :戦いから帰って来てから報告書書くのか……

  :結構とは

  :そこぼかすのか……

  :覚えてないんじゃね?

  :上位種に賞金掛かってるんだ

  :一千万はすごいな

  :どれくらい居るのかによるけど結構貰える?

  :オールマイトさんは何体くらい倒したんですか?

  :一億

  :一億!?

  :1億円とかマジかよ遊んで暮らせるじゃん

  :↑ちゃんと計算してみた方がいい

  :人数で割るのか

  :頭割りじゃ大した事ないかな?

  :10人で1000万ずつとかならかなり多いけど100人とかだと微妙?

  :元が大きいからそこそこの人数でも結構貰えそうだな

  :そもそも何人くらい参加したんだろ

  :税別か

  :税金かなり取られそう

  :額によっちゃ半分くらい取られるからなぁ

  :そもそも今の日本で貨幣価値が安定するかって問題もあるしな

  :っていうか特殊な作戦って何やったの?

  :金剛が吹雪のとこが一番姫級倒してるって言ってたけどマ?

 

「あ、技能というのは、艤装を扱う技能の事です。訓練所で一か月訓練する事で取得できます。艤装はこれ、扱うための資格が存在していまして、私達戦闘部隊は全員それを持っている事になりますね。作戦の参加人数は前回だと二十人くらいです」

 実は、結構受け取り拒否したがる人が出たんだよねぇ、なんもやってないからって。もちろんそんな訳ないのできっちり受け取ってもらう事になったようだけども。

「姫級の討伐数は、まぁ、宮里艦隊が一位です。出現数が一番多かったみたいですねー」

 

 作戦内容に関しては機密事項なので流石に内緒ですと言って話を締めくくる。これでもう大体終わった訳なんだが、時間くんが大分お余りになられている。この場合……艤装を稼働させてどういうものなのか見て貰おうって話だったな。じゃあ工廠で艤装取って来ないと……島風まだ居るよなぁ。

 あ、いや、その前にもう一個やる事あったわ。と、足元でできたよーとぴょんこぴょんこしている妖精さんを見て思い出す。軽くその子に頷くと、筑波さんと龍驤さんにそろそろ適性検査の結果が出たのではと申し上げて、医務室に行く事にした。

 

 

 

「さて、それじゃあ道中はまた質問に答えていきますね。『訓練所ではどんな事をさせられるんですか?』」

「あ、それは私も気になります! 体力作りとかやったんですか?」

「あーいえ、主に技術と戦闘経験を積み重ねる感じでしたね。筋トレとか走り込みとか、そういう感じのは無かったです。むしろ明日もあるから疲れを残さないように、さっさと寝てよく休みなさいと言われました」

 体力は艤装産の食事を食べてれば勝手に付くからだろうけどね。初雪とか最初と最後で結構持久力が違ってたし。

「訓練所でやったのは……最初はそうですね、艤装の起動でした。その後にプールで水の上に立つ練習をして、上手く立てるようになってからは武装の扱いを習いましたね。それが一通り終わったら、後は演習でした。あ、合間合間に講義の時間もあった。そう考えると訓練所では勉強しましたね、学校のとは違いますけど」

「演習というのはどんな事をするんですか? ちょっと予想がつかないんですけど……」

「駆逐艦は駆逐艦専門の訓練所だったので他の艦種の事は分からないんですが、私達は相手や人数を変えながらの対人戦……訓練生同士の模擬戦を繰り返しました。対空、対潜なんかは自衛隊の人に手伝って貰って、実際にレーダーやソナーで捜索してみたりして扱いを学びましたね」

 私以外の訓練生同士の対戦も多かったから、割とみんなが全員の実力を把握してるのよね。

「あと、訓練生も艤装で作られた料理を食べるので食事はかなり良かったです。それと基本給だけですけど、給料も出ました。それでも結構多かったですけどね」

 

  :一か月だっけスパルタしてそう

  :体力無いと死にそう

  :ねないこだれだ

  :最初から海には行かないか

  :投げ捨てられた教官長に習ったのかね

  :演習ばっかなのか、一月じゃしょうがないのかね

  :結局勉強するのか

  :そりゃ兵器扱うのに知識無しは怖いしな

  :延々戦わされるの?

  :蟲毒かよ

  :教官とも戦ったのかね戦闘部隊じゃないんだろうけど強いんだろうか

  :↑適性値低いなら弱いのでは

  :あの料理訓練所からなのか裏山

  :給料はそりゃブラックじゃなきゃ研修でも出るしな

  :報奨金が百万単位だし訓練生でもかなり貰ってそう

 

「教官の皆さんはそうですね、凄かったですよ。適性値が戦闘部隊標準まで届かない自衛隊の艦娘ですが、ほとんどの訓練生は一度はやられてました」

 例外は糞みたいな回避率を誇り連装砲ちゃんが援護射撃までする島風と、なんかもう最初から普通に強かった夕立くらいだろう。

「ちなみに吹雪さんは?」

「私もやられましたよ……その、教官長に。訓練生からは有効打受けなかったんですけど、教官長には何度かやられましたね。威力が伴わないので模擬戦だけの実力だとは仰ってましたけど、適性値が高ければ私なんかよりよほど強かったんじゃないかと思います」

 あと同じチート能力持ってたらね。

 

  :技術はあっても力が無い感じか

  :オールマイト倒す教官長って何者だよ

  :グラントリノかな?

  :滅茶苦茶評価高いな

  :尊敬してるんやなって

  :でも投げる

  :飛鷹さん助けるためだから……

  :わざわざ演習抜けて助けに行ったのかねあれ

  :あれ近くで襲われてたって下手したら訓練場に敵行ってたよね

 

「ああ……例の動画で、飛鷹さんを助けられたのはたまたまですね、たまたま。タイミング的にギリギリだったので、教官長は投げるしかなかったんです! 抱えたままイ級の前に飛び出たら危ないと思ったんですよ!」

 実際、ちょっと遅かったら間に合わない程度には余裕が無かったので、教官長はどうあっても投げ捨てられる運命だったと言わざるを得ない。無効化能力で怪我とかはしないから大丈夫だろって思ったのは事実だけれど。

 

  :そうだねたまたまだね!

  :公式発表で『ぐうぜんとおりかかっただけ』だからね!

  :まぁ近くに居たのは本当に偶然だろうしなぁ

  :でもオールマイトする余裕はあった

  :オールマイトするために投げ捨てた訳じゃないのか

  :イキューっていうのかアレ

  :っていうかそもそもなんで抱えてたの?

 

「あ、いろはにほへとの『い』にドレッドノート級とかの級を合わせて、イ級です。現状最弱と言われてる深海棲艦の駆逐艦ですね。教官長を抱えてたのは、救助の訓練のためです。私達は僚艦が自力航行不能になった場合、曳航……つまり引っ張るなりして連れ帰らないといけませんので、どう運ぶのが一番楽か試してたんです」

 この辺りはどう答えるか相談済みである。連れてかなきゃいけなかったけど追いつけないから抱きかかえましたとか正直に答えたら教官長の立場が無い。ただでさえドジっ子とか言われてるのに。

「で! ですね。私がーその、オールマイト氏みたいな言動をした理由ですけど、招集の直前くらいにヒロアカの原作を読んでたのと、印象に残ってるゲームのセリフで、自分以外の誰かを救いたいならせめて笑いながら救いに行け、苦しみを伴って助けに来られても迷惑だ、望むのは問答無用のハッピーエンド――みたいなセリフがありまして。その二つが混ざった結果がアレです。原作者様、並びに関係各所には多大なご迷惑をお掛けしまして、大変申し訳なく思っております……」

 実際、変な手紙とか行ったと思うんだよなぁ、いつかちゃんと謝りたい。いやそれも迷惑なだけかな。

 

  :い級か

  :一番弱いからいなら次のはろなんだろうか

  :あれで最弱なのか……

  :抱えた方が楽だったのかw

  :引っ張る方が水の抵抗あるもんね

  :ええー?ほんとにござるかぁ?

  :分かってたけどオタクじゃんw

  :いいセリフだな

  :あれそれエロゲ……

  :Fateじゃん

  :アヴェンジャーの奴?

  :エロg……いや、もう少し様子を見よう。俺の予感だけでみんなを混乱させたくない

  :エロゲーマーかよwwwwwwwwwwwwwwwwww

  :しかもファンディスクだろそれw

  :雪ちゃん幾つだっけ?

  :おい中学生

  :いや待て全年齢版もあるぞ

  :あっちも対象年齢15歳以上ですね

  :似たようなセリフのある全年齢対象ゲーかもしれないだろ!

  :そういうのに興味ある年頃だから

  :多感な時期だからね

 

「あっ…………」

 やらかした。

 そうだよエロゲだよあれ、つーかやったのそもそも今世じゃねぇよ前世だよ。今持ってもいねぇわどうしよう、いや待てよ父なら持ってそうだがどうだろう。少なくとも叔母は持ってたような、貸してくれるって言ってた覚えがいやそんな問題じゃねぇわ。このまんまじゃ雪ちゃん全国的にむっつりスケベとして名を馳せちゃうじゃん。馬鹿なの? 私は馬鹿なの? 死ぬの? 原作読んだだけで良かったじゃんなんでhollowの話までしたんだ私は。動画で見た……? いや駄目だ、なんか公言したら叩かれるタイプの奴だそれは。推奨できない。ちゃんと買ってやろうね。通販で買いました……? いや買えねーよ阿呆か。絶対親にバレるわ。ああいやvita版が……畜生! そっちも駄目か!! よし、もう言及しなくていいな! 傷が広がるだけだもんな! いいよエロゲーマーで、いやよくないけどなんかこう……中学生のお茶目で済まされるだろ。許して。

「…………はい、次の質問です」

 

  :草

  :判り易い反応をありがとう

  :マジかよwwwwwww

  :これは原作やってますねぇ

  :親は知ってるんだろうか

  :無かった事にしようとしてんぞ

  :こいつwwwwwwwwwwwww

  :何事もなかったかのようにwww

  :※艦娘全一の姿です

  :なんでこんな可愛い娘がオタクやってんだ……

  :Hなのはいけないと思います!

  :あれ、吹雪と北上って知り合い?

  :コメント確認した龍驤さんが完全に諦観の表情してる

  :流石に草

 

「えーと、『吹雪さんはとても強いと聞きました。それならどうかお一人で何とかできませんか、一人暮らしをしていた娘が招集され、残されたもう一人の娘まで招集されないか心配で夜も眠れません』との事ですが……」

 さっさと話題変えたくて適当に選んだけど何それ可哀想。でも私にそれ言っても仕方ないんですよね残念ながら。笑ってるコメントの連中は無視だ無視。

「申し訳ありませんが、誰か一人、異常に強い艦娘が一人居たとして、その一人で現状をどうにか出来るかと言うと、出来ません」

 私が言うと説得力無いかもなんだけど、一応私は本当にそう思っている。

「私は強いです。それは間違いありません。思い上がっているように聞こえるかもしれませんが、これはもう事実として、現状私は、少なくとも宮里艦隊では直接戦闘すれば最強です」

 どれだけ謙遜した所で無意味なくらいの戦果を挙げてるからね。隠す気もなく強いんだからいっぱい使っていただきたい。

「でも、私じゃ海底に潜る事は出来ません。駆逐艦ですから。航空機を飛ばして偵察したり、爆撃したりも出来ません。私はソナーは得意ですけど、レーダーは普通くらいです。だから僚艦にレーダーはほとんど任せています。艤装の仕様ですけど、戦闘用の装備をしている私は資源収集が出来ません。収集する人が居ないと燃料が手に入らないので、一人になったら最後には艤装が動かせなくなります。私は被弾はほとんどしませんけど、それはダメージが全く無いという事ではありません。修理やメンテナンスをして貰えないとそのうち艤装は壊れます。あと私、料理もあんまりできないですし、作戦の立案とかなんかはもう不可能です」

 普通に戦うという一分野においては私の右に出る艦娘は居ない。チート転生者だから。でも私ってマジでそれだけなんだよね。そこがぶっ飛んでてヤバいって事には今は目を瞑ろう。

「私は目の前の敵は倒せます。でも、敵は私の目の前に居ない奴の方が多いんです。私達が一か所に集まらずに複数の鎮守府に分かれているのも、出来るだけ広い範囲をカバーして、戦えない人たちを守るためです。だから、どうしても数は必要になります」

 何卒ご了承ください、と足を止めてカメラに向かい頭を下げる。龍驤さんも一緒に頭を下げた。

 

  :エロゲと質問の温度差で風邪引きそう

  :住所で検査範囲決めてるからそういう事もあるわな

  :そりゃ無理だろ

  :おーおー好き勝手言いなさる

  :なんかすごい自信だ

  :戦果出してるらしいからな

  :自衛隊の方で宮里艦隊かなり戦果上げてる感じ臭わせてたし

  :長門さんより強いの?

  :吹雪は宮里艦隊にて最強

  :日向が航空機に反応してて草

  :島風以外の僚艦何が居るんだろ

  :燃料とか自転車操業ってマジなのかw

  :オールマイトの手料理食べてみたい

  :※良い事言ってる風ですがエロゲーマーです

  :野球でも強い打者には敬遠するしそらそいつ一人じゃ勝てないわ

  :これ全部エロゲの事誤魔化すために言ってると思うと草生える

  :内容自体は本音だろw

  :第四って主に何やってる艦隊なんだろ戦ってるのは分かるけど

  :とっ散らかってるけど要するに一人で戦術的勝利は出来るけど戦略的勝利は無理って事だな

  :↑それもなんか違わないか

  :一人で戦術勝利の時点でヤベー奴

 

 顔を上げると丁度ぴったり医務室のある建物の前で、入り口では検査結果を持った医師の方が私達を待ってくれていた。筑波さんがありがとうございますとそれを受け取り、目を通す。まぁ、当然ながら打ち合わせで一回検査しているから結果は知ってるんだけども。

 筑波さんはおおーと驚いたふりをしながら結果の印字されたレシートのような紙……たぶん感熱紙かなんかだろうそれの一番上、本名の書かれた部分を折り曲げて見えないようにすると、両手で構えてカメラにしっかり見せつけた。

 

  軽巡洋艦 那珂 2189

  軽巡洋艦 神通 197

  軽巡洋艦 川内 113

 

 100未満は表示しないようになってるらしく、設定を変えればもっと色々出てくるとの事だったが、ともかく川内型は三つとも動かせるという結果となった。召集が150からなので2000を超えてるのは凄いんじゃないだろうか。他の対照になる例を知らないからよく分かんないけど。

 ちなみに筑波さん、筑波 藍というのは芸名で、本名を那珂川 藍瑠というらしい。アイ(ド)ルの那珂ちゃんじゃんふざけてんのかってちょっと思った。

 

 

 




那珂川さんが筑波さんになった理由は私に知識が無いからです。
wikiって凄いですよね。


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まとめサイトの反応

【悲報】宮里艦隊、ブラック企業だった

 

 

1 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  山口艦隊→担当地域は広いものの敵も散発的に現れる程度

  九曽神艦隊→敵拠点は落としに行くものの変色海域化してないのが主

  賀藤艦隊→一日一回は敵が艦隊組んで攻めて来るけど深追いはしない

  提艦隊→オセロ状態だけど変色海域まで行くのは一週間に一度くらい

  宮里艦隊→二日に一回変色海域へ遠征

 

2 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんで生放送中に変色海域の手前でドンパチしてるんですかね……

 

3 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  川内さんエロかったからヨシ!

 

4 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>3

  戦って服ボロボロになってんだから何も良くねぇよ

 

5 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  明日予定通り変色海域だねーとか言ってる島風訓練され杉

 

6 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  生放送翌日も出撃なの草も生えない

 

7 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  配属されたくない鎮守府ナンバーワンになってて草生えた

 

8 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>7

  普通は生放送してる時に大破して戦線離脱してくる奴が映る艦隊に行きたくないわwww

 

9 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  給料とか食事とかは一番良さそうだったんだけどなぁ

 

10 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  給料は半分出来高制だから忙しさとトレードオフだし……

 

11 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  川内さん曳いてきた艦娘の子吹雪と同じ制服だけど何なんだろ

 

12 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>11

  吹雪型はかなりいっぱい居るから特定不能

 

13 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>12

  でも暁が違う制服だから綾波型とかは制服違うんじゃね

 

14 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  それでも候補が10個くらいあるんだよなぁ

 

15 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  あかりちゃんが寝落ちしてた時点で分かってた

 

16 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  工廠の人ら今日も徹夜なんだろうな……

 

 

 

 

 

【朗報】配信中の艦娘達、全員意見が一致してしまう

 

 

318 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  金剛「吹雪が一番強いって聞くけど私も負けないヨー!」

  霧島「宮里艦隊の部隊の一つが非常に高い戦果を挙げているそうです」

  北上「吹雪の戦果ヤバいからさー」

  夕立「吹雪はすごかったっぽい!」  

 

  吹雪「私が宮里艦隊で最強です」

 

322 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>318

  まぁオールマイトだし

 

325 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>318

  誰もエロゲオタだとは思ってなかったろうな

 

327 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  駆逐艦は同じ訓練所だったらしいから夕立は分かるんだが

  他が把握できてるって事は倒した数なんかは情報共有されてるって事なのかね

 

343 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>327

  グループチャットしたりしてるらしいぞ

 

330 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  訓練所で成績上から半分相手にして完勝

  初戦闘で敵駆逐艦殴り殺して砲弾投げ返す

  ノールックショット命中率100%

 

  こんな奴に勝てる訳ないだろ!!!

 

333 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  懸賞金は部隊単位なのに伝わってる戦果が吹雪個人なのがヤバいと思うわ

 

334 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  普通に考えて一対多数とか多方向から撃たれて死ぬと思うんだけど

 

336 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>334

  当たらなかったらしいな

 

337 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  もう適性値の問題じゃないよなそれ

 

339 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  カメラ目線で解説しながら的に普通に当ててたし

  艤装とか関係なく本人がおかしいだけだろあれ

 

 

 

 

 

【衝撃】吹雪と夕立の証言を合わせた結果、とんでもない事実が発覚してしまうwwwww

 

 

1 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  6人くらいで挑んで倒せない場合のある鬼級

  と一人で互角以上にやり合える夕立

  を含んだ二十人以上に完勝する吹雪

  に勝った暁が一番ヤバいという風潮

 

2 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  しかも戦闘部隊じゃない

 

3 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  でも投げられるし機密は漏洩する

 

4 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  不可抗力だから……

 

5 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  飛鷹ので戦えない奴はほんと無理なんだなって思ってたけど

  暁のせいで他の連中が怪しくなってきた感がある

 

6 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>5

  提艦隊の砲撃比較見れば分かるけど適性値で威力違い過ぎるから無理ゾ

 

7 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  速度も差が出るのにどうやって勝ったのかが謎過ぎる

 

8 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  一発も当てられなかったっぽい→さすオールマイト

  教官長にやられました→!!!!!??????

 

9 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  つくづく艤装が欠陥兵器過ぎる

 

10 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  でも何回かって言ってただけだから最終的には勝ってるよねあれ

 

11 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  元々ただのオタクみたいだから最初は弱かっただけかもしれない

  一か月でなろう主人公みたいな性能になってるけど

 

12 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>11

  それって教官長が教えるのも上手だったって事では

 

13 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>12

  考察すると隙が減っていく女

 

14 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  強制生配信で隙だらけだっただろいい加減にしろ!

 

 

 

 

 

艦隊ごとの格差凄くない?

 

 

113 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  生活風景が場所によって違うけど艦隊ごとの格差凄くない?

  全然軍隊してないのはいいけど差があり過ぎて変なとこ行かされる子がかわいそうになったわ

 

115 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  宮里艦隊は勉強させてもらえない

  提艦隊は教え合ってる

  山口艦隊は凄い教えるのが上手な自衛隊員の艦娘が居る

  賀藤艦隊は元教師の提督が教えてくれる

  九曽神艦隊は提督が邪魔しに来る

 

119 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>115

  九曽神提督のは笑い話になる程度のだから大丈夫

 

121 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  九曽神提督は子供に人気ありそう

 

122 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  宮里艦隊だけ戦時下過ぎて笑えない……

 

124 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  宮里艦隊→二人一部屋

  提艦隊→三人一部屋

  山口艦隊→四人一部屋

  九曽神艦隊→二人一部屋ただし狭い

  賀藤艦隊→六人一部屋ただし滅茶苦茶広い

 

127 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>124

  宮里艦隊が一番過ごしやすそう

 

128 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  北上のとこ狭すぎてほぼ談話室とかで交流させられるとかぼっちには辛い過ぎる

 

130 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  夕立のとこもキツいな仕切りはあったけど

 

132 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  賀藤艦隊は仕切りがあるから実質個室

 

135 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>132

  そう捉えられる陽キャはこんなとこに居ないんで

 

140 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>124

  こうして見るとほぼ危険度に比例してない?

  普通の四人部屋と広い六人部屋どっちがいいのかは分からんけど

 

142 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>140

  危険度で優遇されるなら吹雪のとこ個室で良くね……?

 

145 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  実は宮里艦隊冷遇されてる説

 

146 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  セキュリティとか倫理的にとかなんかで一人は駄目なだけだろたぶん……

 

 

 

 

 

どこに配属されたら一番安全だと思う?

 

1 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  霧島の所?

 

2 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  どう考えても霧島の所

 

5 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  金剛の所も金剛が強いからありかもしれない

 

10 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  でも金剛のとこは精神が死ぬから

 

12 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>10

  放送の時のノリでずっとやられるのはキツいよな

 

13 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>12

  バーニングラアアアァァァヴ!!

 

15 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>13

  おばちゃんもうあのノリには付いて行けそうになくてねぇ

 

16 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ノリっていうか提督にあれやってるの延々見せつけられるのがキツい

 

6 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  夕立のとこもあんまり厳しくなさそうだったけど

 

9 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>6

  敵がいつ大規模に襲ってくるか分かんねーぞあそこ

  生放送中も敵襲で緊急出動してたし

 

21 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  北上のとこも楽そうじゃね?

 

22 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>21

  瑞雲の話を聞きたいのか?

 

24 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>22

  ちょっとだけ聞きたいかも

 

25 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>24

  北上が本気で嫌がってんだぞちょっとで済むわけねーだろ

 

29 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  せめて危険かどうかを基準に語ってもらえませんかねぇ……

 

121 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  宮里艦隊は?吹雪が守ってくれるなら安心じゃん

 

122 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>121

  死にたいらしいな

 

123 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>121

  論外

 

124 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>121

  志願して行くのはただの自殺とか言われるレベル

 

125 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>121

  戦果考察見てみ?

  あそこで求められる能力吹雪を除いても他の倍くらいだぞ

 

126 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  死者は出してないのに酷い言われ様である

 

 

 

 

 

連装砲ちゃんまとめ

 

 

765 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

 

766 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

 

767 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

 

768 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  かわいい

 

769 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

  ttp://XX/XXXXXX/XX/XXXXXXXX

 

770 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  助かる

 

771 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  丁度切らしてた

 

772 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ぬいぐるみかなんか出さないかなぁ

 

773 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ふぅ……お前らいやらしい目で見るなよ

 

774 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>773

  お前以外見てないから安心しろ

 

 

 

 

 

【動画】宮里第四部隊と賀藤第三部隊の速度を比較した結果wwwww

 

1 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ttp://XXX/XXXX/XXXXXXXX

 

2 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  やっぱり速かったか

 

3 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  比べるまでも無かったと思うけど実際比べるとヤバいな

 

4 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  島風が早いのは元が元だから分かるけど吹雪wwwwwwww

 

5 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  賀藤艦隊の中で速い方なんだよなこの子ら

 

6 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  十倍くらい速くね?

 

7 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>6

  検証だと六倍ちょいらしい

 

8 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  適性値の暴力すぎる……

 

9 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  島風が引き抜かれたの当然っていうか一度でも別艦隊にしたの無能すぎない?

 

10 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  そりゃ二人艦隊になるよねっていう

 

11 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  二人で宮里艦隊の戦果の約半分を叩き出せた理由

 

12 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  速さ足りすぎだろ

 

13 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  連装砲ちゃんがきっちり付いてってるのがシュール

 

 

 

 

 

【炎上】北上(神戸牛上ロース)さん、自ら火をつけて大炎上してしまうwwwwww

 

 

1 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  誰が灯油を被れと言った

 

2 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  日向の反応見るに誰も言ってない

 

3 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  でも酸素マスクはあったじゃん?

 

4 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>2

  テレビ局の方とは全部話付いてたみたいよ

  日向だけ知らなかった

 

5 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  動画

  ttp://XXX/XXXX/XXXXXXXX

 

6 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  提督は知ってたのがほんと草

 

7 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  悪質なドッキリだよなあれ

 

8 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>5

  これで北上どころか制服に焦げ一つないのはスゲーわ

 

9 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  防御能力の検証だからな

 

10 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  消火してからの北上はまともな事言ってたんだけど

  あれ島風背中から撃ってるようなもんだよね

 

11 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>10

  北上「基本制服の改造とかしないよ、だって怖いでしょ機能無くなったらどうするのさ」

  島風「」

 

12 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  そりゃ機能が失われるギリギリまで着崩すチキンレースとかしたくないわな

 

13 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  おかげで島風があのまま出撃してる説が立ち上がったけどなw

 

14 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  流石にスパッツかなんか普段からはいてるでしょ

 

15 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  制服が気に入らないから艦娘側でどうにかしてくれって言った奴へのカウンターが島風に決まるのは酷いが笑ったわ

 

16 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  提督がノリノリで消火器ぶっかけてるとこすこ

 

17 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ドッキリの報復に一晩航空機の話をされるのが確定した提督と北上の表情が一番笑えた

 

18 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  きのうはおたのしみでしたね(日向と瑞鳳が)

 

19 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  凄い綺麗に燃えてるな

 

 

 

  放送局のスレが

 

 

 

 

 

【画像】配信に出演した艦娘まとめ

 

 

112 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  艦隊ごと

 

  宮里艦隊

   大和(宮里提督) https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   長門 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   吹雪 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   龍驤 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   那珂(筑波) https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   明石 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   島風 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   伊良湖 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   間宮 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   大井 https://XXXX/XX/XXX.mp3

   川内 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   不明(吹雪型?の黒髪) https://XXXXXX/XXXXX.jpg

 

113 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  提艦隊

   金剛 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   飛龍 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   大淀 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   荒潮 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   初雪 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   明石 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   早埼 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   間宮 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   迅鯨 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   愛宕 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   白雪 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   神風 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   春風 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

 

114 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  賀藤艦隊

   夕立 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   武蔵 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   鈴谷 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   熊野 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   時雨 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   杵埼 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   朝日 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   明石 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   大淀 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   不明(白露型?の茶髪) https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   不明(吹雪型?の茶髪) https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   不明(暁型?の白髪) https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   不明(暁型?の茶髪) https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   不明(↓と同型と思われるアホ毛) https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   不明(↑と同型と思われる眼帯) https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   不明(完全に情報無し黒髪) https://XXXXXX/XXXXX.jpg

 

115 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  山口艦隊

   霧島 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   筑摩 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   大淀 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   荒埼 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   明石 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   磯波(←の方) https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   磯波(→の方) https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   綾波 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   神州丸 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

 

116 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  九曽神艦隊

   北上 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   日向 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   明石 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   伊良湖 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   大淀 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   瑞鳳 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   那智 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   鳳翔 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   秋月 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   照月 https://XXXXXX/XXXXX.jpg

   松(画像無し北上による言及のみ)

   竹(同上)

   梅(同上)

 

117 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  乙

 

118 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  これは乙

 

121 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  合わせると結構出てたんだなぁ

 

125 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  大井だけmp3じゃねーかw

 

126 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  まとめて開いたら大井の声が流れて漏らした

 

128 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  磯波二人いるとこはややこしくないんだろうか

 

129 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>128

  山田とか佐藤とかが二人居てもそれほどややこしくないし

 

130 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  結局同型は制服同じで確定なの?

 

133 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>130

  確定じゃないけど吹雪と白雪、初雪、磯波が同じで

  綾波が色違いみたいだからたぶんそう

 

135 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  特型でも吹雪綾波暁でそれぞれ制服違うのね

 

138 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  比較すると島風が目立つ……ように見えて長門も大概だった

  へそ!

 

143 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>138

  長門はたぶん艤装が目立ちまくってたのと成人女性だから島風ほど言われてなかったけど

  漁れば性的搾取がどうだとかいう書き込みは結構あったりする

 

145 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  長門はインナー着ろよって思ったけどよく考えたらこれも北上がいってた通りなんだろうな

  公式の写真撮る時は着ても良かったと思うけど

 

141 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  へそより足出してる連中が多いのが気になった

  長ズボンだと濡れて重くなるとかあるのかね

 

148 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  全体通して思うのは司会やってた子らが高レベル過ぎてやっぱ顔で選んでたんだなって

 

152 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>148

  アイドルグループ組めるレベルだよな

 

153 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  北上は美少女じゃなかったら絶対許されてない

 

158 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>153

  美少女でも許されてないんですがそれは

 

154 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  金剛にバーニングラヴされてる提提督を許すな

 

159 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  提提督は可愛い顔してるし女装させてみたい

 

161 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>159

  可愛かったっけなんか顔の印象薄いわ

 

178 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  賀藤艦隊の正体不明な子らは生きて帰れたんだろうか

 

181 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>178

  近海に出るのいつもの事らしいし大丈夫だろ

 

182 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>178

  夜には帰ってきてたって親族が情報流してたぞ

 

162 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  明石と大淀多くない?

 

164 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>162

  工作艦は種類少なかったんだろうと思うけど大淀はマジで分からんよな

 

167 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  宮里艦隊以外作戦担当が全員大淀なのほんと草

  しかも全員眼鏡

 

168 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>167

  眼鏡掛けてたら適性持ちとかそんな緩い艤装の可能性が……?

 

170 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  単に勉強してきた人たちでやり過ぎて目が悪くなっただけだろ

 

172 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  これ眼鏡同じデザインっぽいから制服の一部なのでは?

 

179 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>172

  マジだ制服だわこれ

 

181 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  大淀になると強制メガネっ子なのかwwwwww

 

215 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんで武蔵だけ自衛隊員の服装なんだろ

 

217 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>215

  察してやれたぶん島風や長門と同じ方向性だ

 

218 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  つまり武蔵の同型艦である大和の宮里提督は……?

 

 

 

 

 

各鎮守府ってどの辺にあるの?

 

 

1 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  うちの地元神奈川だけどあるの?

 

2 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  横須賀はありそう

 

3 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  宮里艦隊は吹雪の証言からして伊勢湾辺り

  推定されてる配備初日くらいに変色海域から解放されたのがその辺

 

4 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  提艦隊はおそらく能登半島辺り

  オセロしてるって言ってたから露骨

 

5 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  賀藤艦隊はかなり北の方だと思われる

  北海道からめっちゃ敵来ててヤバいっぽい

 

6 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  九曽神艦隊はたぶん新潟

  佐渡島っぽいの見えてる

 

7 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  山口艦隊が一番分からないんだけどたぶん太平洋側

  太陽と海の位置関係からだから変なとこにあったらさっぱり分からん

 

  つーか全部予想だから間違ってるかもしれんし

  そもそも公開したくらいだからもう居ないんじゃね?

 

8 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>3-7

  有能

 

9 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  引っ越しするとか言ってたからもう居ないだろうけどこれは有能

 

11 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  これ海沿い探せば普通に見つかりそうだな

  まぁ特定しても屈強な漢達に捕まるだけなんだけど

 

 

 

 

 

吹雪型って強いの?

 

 

112 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  吹雪はさんざん強いって言われてるけど姉妹艦も強いんだろうか

 

118 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  宮里艦隊のもう一人はたぶん強いだろ他は知らんが

 

120 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  初雪は金剛が頼りになるって言ってたからたぶん強い

 

128 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>120

  あれ戦艦な金剛の護衛としての意味だから強いかは微妙では

 

129 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  しかも対空の話だけだったし

 

131 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  磯波二人が同じ艤装使っても全然能力違うからほんとに個人差でしかないと思う

 

133 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  暁も姉妹艦っちゃ姉妹艦なんだよな

 

134 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  そう言われると関係ありそうな気もしてくる

 

138 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  金剛が戦艦と巡洋艦で一番成績良かったってのと暁を暁型と捉えるのなら

  一番艦が強いのでは

 

140 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  適性値の暴力だろ

 

151 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  そもそも吹雪型と白露型とかで何か違うのかと言われるとよく分からんしなぁ

 

153 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  もう一人吹雪適性の子がいればはっきりする気がする

 

154 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>153

  それ比べられてめっちゃ苦労する奴

 

155 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  オールマイトなら出来たぞ?

 

 

 

 

 

【評価】公式放送を個人的に評価していく

 

 

1 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ・宮里艦隊

 

  事故大杉

  勝手に動く連装砲ちゃんはともかく島風と大井はどうにかできたはず

  寝落ちして出られなかった奴とか大破して破れた服で映っちゃった奴とかもほんと酷い

  反面吹雪は中学生ながら終始ちゃんとやってた印象エロゲカミングアウトは駄目だけど

  龍驤と筑波さんも真面目にやってた感じだったけど適性検査は事前に結果知ってただろあれ

  後半に吹雪と島風で実演してくれたのは良かったんだけど他艦隊と違って二人とも強くて

  比較対象が無いから普通はどうなのかが単体じゃ分からないのは問題

  情報源として見るなら信憑性はあるけどブラックさが見えて視聴者側を不安にしたように思う

  放送の意義を考えると後で怒られてないか心配になる

 

2 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ・賀藤艦隊

 

  ぽいぽいし杉

  いやほんとずっと言ってるっぽい夕立司会に選んだ奴誰っぽい?

  内容は割と無難というか生活風景は一番よく分かったっぽい

  途中で敵が来ちゃったのが唯一の事故だけどあれは仕方ないっぽい

  普通に生活してた子が敵襲って聞いて即戦闘準備終わらせるのは格好良かったっぽい

  でも自分の子供がああなるまで訓練させられるって思ったら印象微妙っぽい?

  最後まで出撃した子達が帰ってこなかったから安否が気になるのがマイナスポイントっぽい

 

3 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ・提艦隊

 

  誰か金剛を止めろよ

  初手からバーニングラブして終始提督への好意を隠さないのは呆れ通り越して尊敬した

  けどおかげで提提督が余計なヘイト買ってて可哀想でしかない羨ましいけど

  紹介も主観入り過ぎ……だけど逆に実際どう見えてるのかは分かってそこは良かった

  戦闘部隊とそれ以外の比較とかやってくれたのもとても参考になった

  案内自体はちゃんとやってたから評価は悪くないんだけどけどとにかく金剛の印象が強すぎ

  ところで紹介以降後ろの方でチラ見えしてる迅鯨はなんだったんですかね?

 

4 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ・山口艦隊

 

  癒し枠

  凄い普通で他を見てからだと物凄い安心感がある

  放送部員だったという霧島のしっかりした喋りと鎮守府全体の真面目な雰囲気が好印象

  提督は謎の威厳と貫禄があって頼りになりそうだけど完全に孫を見る目してて和む

  ダブル磯波と綾波で能力比較とかやってくれたのも有難かった

  逆にアクが少なすぎてバラエティだったら駄目なんだろうけどこれ公式放送だから

  点数を出すなら100点だと思うマジ優等生

 

5 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ・九曽神艦隊

 

  論外

  プロ視聴者に喧嘩売る

  非人道兵器について言及する

  セクハラ一歩手前の提督

  友人の米を優先して読む

  炎上(物理)

  瑞雲

  お前らようつべの配信してんじゃねーんだぞと言いたい

  アーカイブで見返すなら普通に面白いのが腹立つ

  一番好き

 

6 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ・自衛隊

 

  凄く堅苦しい良くも悪くも普段通りで事故とかは当然無いし安定してたけど

  そもそも他の放送を許したのが自衛隊だと思われるので実質戦犯

  宮里提督を秘匿してたのは史実再現かなんかなのだろうか

  四国取り返すよーって発表したのはいいけど

  航路切り開きに行ってる宮里艦隊の負担がヤバい事になってるんですがそれは

  新発表多かったのに他より話題になってないのは笑える

 

7 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  こいつ大井じゃね?

 

8 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  北上擁護する奴は大井だという風潮は良くない

 

9 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  野生の瑞雲好きかもしれない

 

 

 

 

 

吹雪の好きなキャラwwwwwwwwwwwwwww

 

 

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  エンデヴァーの方が好きとかお前

 

2 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  あれは草生えた

 

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  ちょっと改心したとはいえどこがいいのか

 

4 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ツンデレのおっさんキャラが好きなんだろうか

 

5 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  他の好きなキャラ

  宮内れんげ

  青山ブルーマウンテン

  藤村大河

  陽夏木ミカン

  蛇喰夢子

  ヘカーティア

 

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  普通にきららが上がってくるのなんなの

 

7 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  まちカドまぞくだけ知らなかったんだけど読んだら面白かったわ

 

8 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  少なくとも腐ではないってか中身俺らだよね吹雪

 

9 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  全体に変人キャラが好きそう

 

10 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ヘカちゃんが変なのは服装だけだから……

 

 

 

 

 

【悲報】金剛さん、努力家だった

 

 

831 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  完全に日本語の発音ですねってコメントへの返し

  「聞き取り辛いみたいだったからちゃんと聞き取れるように直したんだヨー!」

  違うそうじゃない

 

832 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  英語が出ないようにするんじゃないのか……

 

833 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  努力の方向音痴ってこういう事なんだなって

 

 

 

 

 

【動画あり】吹雪と夕立と綾波と白雪の連装砲比較

 

 

333 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  吹雪の連装砲と夕立の連装砲と綾波の連装砲と白雪の連装砲比較

  ttp://XXX/XXXX/XXXXXXXX

 

340 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  やっぱ吹雪おかしいわ

 

341 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  推定の適性値順に並べてくと戦闘部隊とそれ以外の差がほんと酷いな

 

344 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  一撃で的完全に砕いてる夕立も大概だけど

  綺麗に穴空いてる吹雪は相当ヤバい

 

346 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  たぶん綾波が平均的な艦娘で

  強い艦娘は夕立みたいになって

  なんか超越すると吹雪みたいになる

 

349 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  魚雷イラネって言ってたのも納得

 

350 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  威力もだけど弾速がヤバい

  撃った瞬間着弾してるやんけ……

 

353 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  こうして見ると現代兵器より明らかに弱いんだよな艦娘

  吹雪以外

 

357 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>353

  物理攻撃無効化を抜けるかどうかが問題らしいからなぁ

 

367 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  暁はこれにどうやって勝ったんだよ

 

 

 

 

 

適性値って何なの?

 

 

1 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  そんな訳の分からない数値で戦闘力決まるとか理不尽過ぎない?

 

2 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  理不尽な仕様だから徴兵するしかなかったんだろ

 

3 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんでそんな仕様で作っちゃったのか

 

4 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  結構誰でも使えるようにしろって意見見るけど

  出来るならそうするに決まってんだろとしか言いようがない

 

5 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  無効化能力を使える装備を作ろう!←わかる

  出来たけど使い手を選ぶぞ!←わかる

  適性値で出力が変わるぞ!←わかる

  適性値高ければ殴るだけで敵を倒せるぞ!←わからない

 

6 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  外骨格とかじゃないのに腕力が上がるって訳わからんよな

  バイキルトでも掛かるのかと

 

7 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  艦娘が艤装の力を引き出すんじゃなくて

  艤装が艦娘の力を引き出してるって言った方がしっくりくるんだよな

  個人差があり過ぎて艤装に本当の力が眠ってるって感じじゃない

 

8 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  同じ艤装使ってんのに得意分野が変わるっておかしいよなぁ

 

9 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  絶対なんか隠してるよな

 

 

 

 

 

雪ちゃんって俺らの上位種かなんかなの?

 

 

1 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  適性値最高

  美形

  クソ高身体能力

  素人が生放送やり切る精神力

  学校の成績も良いらしいしなんなのこの子

 

2 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なお萌え豚

 

3 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  上位種っていうかなろう主人公感はある

 

4 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  どっちかって言うと夢主じゃね女子だし

 

5 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  島風出たとこでちょっと見えたけど身体能力はマジでおかしい

  画面外から水平方向にジャンプして来てたし

 

6 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  筋肉が無い訳じゃないけど100m10秒台行けそうには見えないんだよな

  あれで本当に行けるんだったらたぶん筋肉の構造か密度が全く違う

 

7 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  何がおかしいって陸上始めたのが中一からで例の記録出すまで

  どう計算しても半年経ってないとこ

 

8 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  順当に育ってたら男子の記録すら食い破りそうなんだよな

 

9 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>5

  あれ計算したら時速100km超えてんじゃねって検証班が頭抱えてたわ

 

10 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>9

  生身でそれはマジで人間じゃないんですが……

 

11 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>10

  だから困惑してるのよ

  艤装の近くだったから効果範囲内で筋力上がってたんじゃねって話も出てるけど

 

12 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>11

  普通ならそっちの方が現実味あるんだけど

  素の身体能力ですって言われた方が納得できそうな俺ガイル

 

13 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  あんま気にされてないけどあの速度でピタッと止まったのもヤバいんだよなぁ

 

14 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  あれは制服の機能で反動無くしたんでしょ

 

15 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  制服も艤装の一部みたいな話だから着てたらある程度能力上がるんじゃね?

  微々たるものだから吹雪しか顕著になってないだけで

 

16 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  やっぱ制服と艤装が悪さしてたのかねぇ

 

17 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  体はともかく顔は地味めだけどかなり美人よな

  派手な感じじゃないけどずっと見てても疲れない感じ

 

18 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  あれで普通に男子とオタトーク繰り広げたらしいからヤバい

  俺なら勘違いする

 

19 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>18

  袖にしてたってのはそういう事なんだろうな

  気は一切ないっていうか三次に興味ないらしいから不毛なんだけど

 

20 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  二次元にしか興味ない上に好きなキャラで挙げたのほとんど女キャラなので……

 

21 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  三次元に興味出たとしても男には興味なさそうだよな

 

22 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  メンタル破壊されて怪文書書いちゃう奴が出る程度には悪女

 

23 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  あれ書いた奴は吹雪の事嫌いな奴じゃないかね

  すごい憎しみを感じる

 

24 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  フラれた男子を好きだった女子とかが書いたのかもしれない

 

25 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  誰が書いたのかは知らんけど誹謗中傷と個人情報の事に完全に抵触してたから

  たぶんとっくに処されてるよね

 

26 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  あの怪文書にエロゲの事無かったし内緒だったんやろなって思うとかなり可哀そう

 

27 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  頭に関しては割とアホというか結構うっかりしてそうだけどなエロゲとか

 

28 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  失言多いよね二人艦隊と関西弁にエロゲと

 

29 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  なんかよく見るけど二人艦隊ってどこで言ってた?

  見返したけどそんな場面無かったと思うんだけど

 

30 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>29

  直接言ったんじゃなくて吹雪の発言と他鎮守府の証言を合わせるとそうなるってだけ

  だから吹雪のとこだけ見てても分からんぞ

 

31 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  吹雪は第四部隊が速度自慢って事と島風が僚艦って事しか言ってないからな

  吹雪のために移動があった事をバラしたのは金剛で

  速度が必要だからって理由で移動があったのをバラしたのが霧島

  吹雪と島風が早すぎて他は追いつくどころじゃなかったのをバラしたのは夕立

  凄い勢いで突っ込んでぶっ飛ばしてるらしいと言ったのが北上

  全部合わせると速すぎる吹雪と島風を組ませて二人で高速機動部隊やってるって事になる

 

32 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  予想できないだろそれはwwwwwwwww

 

33 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  失言ではない罠

 

 

 

 

 

【リーク情報】各鎮守府最強の艦娘【嘘か誠か】

 

941 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  各鎮守府最強の艦娘と大体の適性値

 

  赤城 四千弱

  比叡 六千弱

  霧島 九千弱

  夕立 一万弱

  北上 一万強

  呂500 一万三千強

  扶桑 一万五千弱

  榛名 一万五千強

  金剛 三万二千強

  吹雪 五十三万

 

  番外

  那珂 二千強

  島風 一万三千弱

  ビスマルク 二千弱

  ポーラ 五千弱

 

942 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  釣り乙

 

943 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  どこ情報だよwwwwwww

 

944 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  流石に草

 

945 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  少年漫画みたいなインフレしやがってと思ったら吹雪で吹いたwwwww

 

946 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  どこのフリーザ様だよ

 

947 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  つーか鎮守府9個しかねーから

 

948 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  本当だったら割と納得な数値ではある

 

949 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ほんとだったら適性値と顔面偏差値が関係ありそうになるから絶対釣り

 

950 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ビスマルクとポーラって海外の船だろそもそも艤装あるのか?

 

951 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  那珂が最強クラスに片足突っ込まされてて笑う

 

952 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  招集条件満たしただけでも酷い偶然なのに上位20位以内とかねーよwwwwwww

 

953 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  戦艦多すぎるし改変するなら削って空母と重巡軽巡もっと増やした方がいいな

 

953 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  呂500ってなんだと思ったら潜水艦か

 

954 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  これは本気出したら一億超えそうな吹雪

 

955 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>954

  最終的には黄金になるからそこは通過地点だぞ

 

 

 

 

 

吹雪のやってそうなゲーム

 

1 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  Fate/stay night

 

2 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  マブラヴオルタネイティヴ

 

3 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  デモンベイン

 

4 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  はじめてのおるすばん

 

5 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  シルヴァリオヴェンデッタ

 

6 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  装甲悪鬼村正

 

7 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  dies irae

 

8 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  月姫

 

9 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  巫女巫女ナース

 

10 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  乙女はお姉さまに恋してる

 

11 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  クロスチャンネル

 

12 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  バルドフォースエグゼ

 

13 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  ランス

 

14 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  恋姫無双

 

15 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  神咒神威神楽

 

16 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  エロゲばっかじゃねーか

 

 

 

 

 

【謎】夕立の髪と目wwwwwwwwwwwwwww

 

 

52 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  艤装付けた後夕立の髪の毛がたまに跳ねるようになったの笑う

  手で押さえても暫くしたらまた出てくるのは凄い

 

58 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>52

  基本真っ直ぐな髪質っぽいのになんで上の方だけあんな癖強いんだろうな

 

60 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  >>58

  本人の髪質と艤装の影響が競合してるとか?

 

61 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  犬耳みたいであれはあれで可愛い

 

73 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  実は髪が跳ねる瞬間目の色も変わってる

  http://XX/XX/XXXX/XXXXXX.gif

 

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  >>73

  これ洒落にならん奴なのでは?

 

76 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  そもそも緑の時点で素の色ではないだろうけど

  コロコロ変わるのはヤバい

 

79 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  艤装付けてない時は何も無かったから艤装の影響なんだろうけど怖いなこれ

 

80 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  本人は元気そうだけど

 

81 以下、〇ちゃんねるに代わってお送りします

  むしろ本人は元気そうだから怖いんだよな……

 

 

 

 

 

【画像あり】艦娘達のえちえち画像wwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

 

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「スゲー事ニナッテンナ」

 燃えてる燃えてる、と手元のスマホを覗きながらレ級は乾いた笑いを上げた。外洋から帰って来て、事態を把握しネットを覗いてみたらこの始末である。それでご感想は、とこの事態を引き起こした元凶の方を振り向けば、そいつは執務机に突っ伏して半死半生の様相で弱弱しく口を開いた。

「龍驤くんが居なければ即死だった……」

 艦娘自身に向けられる感情に悪い物はそう多くないのだが、自衛隊、特に責任者側の人間に対してのそれは目を覆いたくなるような惨状になっている。龍驤のフォローのおかげで最悪は免れているのだが、過激なものになると犯行予告としか取れないようなものも散見された。

「ツー事ハ、ヤッパ島風ハ予定外カ」

「うん……いや、まさか軽く挨拶したのが裏目に出るとは思わなかった」

 生放送直前に楠木は吹雪と島風、それに連装砲ちゃん達と軽く話をしたのだが、どうやらその時に何かのはずみで干されていた浮輪が窓から放り出されてしまったようなのだ。それを連装砲ちゃんが探しに出て、追いかけた島風が見つけてあの事態に陥ったという訳である。

「龍驤も災難ね」

 もう一人、ソファーに座ったブロンドの女性もくすくすと笑う。目の前のノートパソコンに手を伸ばし、いくつかの文章をタイピングするとそれを送信して、一仕事終えたと伸びをした。

「様子を見に来ただけの私にまでタスクを割り振るんだもの。驚いちゃったけど……とりあえず、これで一段落ね」

「ああ、事情が分かる人間は貴重でね。ありがとう、君が協力的で助かった、本当に」

 割と心からの感謝を向けられた女性は楠木に微笑むと、どういたしましてと言いながら席を立った。

「気にしないで、私とあなたの仲じゃない。それより、あなたの能力なら防げそうなものだけど、そうでもないのね?」

「ソレナ、コイツ未来視出来ル癖ニ滅茶苦茶ガバルンダヨナァ」

 修正に奔走するのは基本的に本人で、場合によりレ級にも仕事が行く。そのためレ級としてはもっと精度を上げて欲しい所である。

「私の眼はね、『やたらと』『みえる』訳なんだけれど、これは字面から受ける印象そのままの能力なんだ」

 見る事が出来るのではなく、見えてしまう能力。他のチート能力に比べると遥かに制御が利かず、見たいものだけが見えるとは限らない、結構な困ったちゃんなのだ。

「私に見えるのは結果だけ。今回も結果だけを言えば、目的は達しているんだよ……過程が想定の数倍酷くなっただけでね。挨拶前の予知ではもっと穏便に終わるはずだったんだけどなぁ」

「ドウシテソウナルノカ、ソレガ分カンネーッテノハ不便ダナ。ッツーカ、那珂ハトモカク、他モ達成出来テタノカ。コノ状態デ」

「制限は無いけど完璧には視得ないのか……私のも何が起きるのかは予測するしかないから少し分かるかな」

 制限は多いしある意味対極の能力だけどね、と笑いながら閉じたノートパソコンを楠木に押し付る。他に用事は無いかと確認した女性は思いついたように悪戯っぽく提案した。

「このまま秘書艦でもやらせてもらおっかな?」

「勘弁してくれ……ただでさえ君と私の能力は相性が悪すぎるのに」

 冗談よ、と言いながら女性は窓際の長いカーテンに向かって歩み寄ると、それを手に取った。

「それじゃあ、吉報が届くのを楽しみに待ってるわね。そろそろほっぽちゃん達もこっちに着くんでしょう?」

「ああ、来月辺りには君の艤装が作れるはずだよ」

「そう。それなら、しっかり英気を養っておかないとね」

 そう言いながら体をカーテンの影へと滑り込ませると、特に意味もなく二人から身を隠し、またねと言ってその場から跡形もなく消滅した。

 暫くの沈黙。レ級はスマホを切ると仕舞い込み、楠木と向き合い口を開いた。

「デ、アイツ誰?」

 全く知らない人間だった。

 

 

 




この形式でやると文字数が参考にならなくなりますね。


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適性値上昇中

 うわあなんだか凄いことになっちゃったぞ。

 生放送を終えて暫く。第二次適性検査が実施された事もあり、ネット上はまだまだお祭り騒ぎが続いていた。書かれているのは私の事だったり、島風の事だったり、金剛さんの事だったり、北上さんの事だったりするが、内容は割と好意的で案外叩かれてない。いや勿論案外なだけで叩いてる書き込みもけっこうあるんだけど。

 私はやっぱり失言が不味かったらしく、アダルトゲームについては散々笑われている。いいじゃん、Fateは文学だよ?

 島風は制服が叩かれているだけでほぼほぼ本人は叩かれていない。全部龍驤さんのおかげである。放送が終わった後に二人でお礼を言いに行った時にはなんだか遠い目で声もエエンヤデとか細い事になってたけど。そんな龍驤さんは、楠木提督に君が居てくれてよかったと震え声で本気で感謝を伝えられ、流石に面食らった様子だったけれど、翌日にはある程度復活していた。

 金剛さんは平常運転だった。平常すぎて普通にお叱りの声が多かった。怒ってるとか憎まれてるとかじゃなくて叱られてる感じなのは人徳で良いんだろうか。まぁ提督には頑張って貰いたい。なんかフラグ立てると不味そうな子にフラグ立っちゃってるみたいだけど。

 北上さんは……どこから突っ込めばいいんだろう。まず、私の勘違いからだろうか。私、北上さんは知り合いじゃないと思ってたんだけど、普通に知り合いだったわ。っていうか身内だったわ。具体的には叔母。私の母方の祖父の再婚相手の連れ子で血は繋がってないんだけど、一応交流もある人だった。ちなみに歳は母より私との方が遥かに近い。っつーか高校生である。

 最初配信を見た時はリアルに噴いた。だって知ってる顔なんだもの。そんなに連絡とる方じゃなくて今何やってるか全く知らなかったから、まさか艦娘になってるとは思わなかったんだよ。慌てて母に電話してみると、母はちゃんと叔母が北上として働いている事を知っていて、聞けば私に招集の知らせが届いた翌日には話をされていたらしかった。

 じゃあなんで私は知らされてなかったんだよという話になると思うのだが、これに関しては北上さん本人から電話で理由を聞きだす事に成功した。曰く、びっくりさせたかったから。いやお前ふざけんなよ。訓練所も配属先も違ったから機を逸したじゃねーよ。下手したら知らない間に身内が戦いで亡くなってたじゃん。いや北上さん糞強いらしいけど。

 仲は交流の薄さの割には良かったと思うけど、配信者やってるとか全然知らんかったわ。でも炎上(物理)はヤベーだろどんなショッキング映像だよ。当然のように各方面からぶっ叩かれて、ネット上でも北上は叩いていいみたいな風潮が出来上がっている。けど、これたぶんわざとだよなぁ。

 身内の贔屓目だけど、やっていい事と悪い事が分からないタイプじゃないと思うんだ。なのであれは悪目立ちする事で叩くなら私を叩いていいのよってヘイトコントロールしてるんじゃないだろうか。まぁそれにしたってやり過ぎなんだけどな!! ちなみに本人は何も言わなかったので真相は知らない。ただの悪ノリかもしれない。

 

「ヘーイ、ブッキー! 画面とにらめっこしてないでサー、もっとお話でもしまショー?」

 現行スレで艦娘叩きをする奴とレスバトルを繰り広げていた私に後ろから話しかけてきたのは、不満気な顔をした金剛さんだった。振り向けば腰に手を当て頬を膨らませたご尊顔をこちらに向けている。畳張りの床では寝そべった初雪と壁にもたれ掛かって座った島風が、二人とも漫画を読みふけっていた。初雪はじっくり読んでいるためまだ数巻しか進んでいないが、島風はもう全体の半分を超えている。そこは速くしなくていいのでは。

 二人が読んでいるのは私が島風の誕生日に贈ったものだ。結局生放送で言っちゃったから本人からリクエストが来たのである。曰く、なんか最近よく名前聞くけど読んだ事ないから読みたかったらしい。じゃあ送るかと通販で探したら、最近は印刷会社があれこれあって高騰してるらしく、既刊を揃えたら結構な出費になった。まぁほぼ新品の良品だから……と思ったけど転売だよなこれちょっと微妙な気持ちになる。でも新品売ってないんだもん、ヒロアカ。

「まぁ、積もる話はありますが……金剛さん絶対提督の話するでしょ? 私は奴の恥部になる風説をこの鎮守府に流布したくないです。一応友達なので」

 私達は昨日、生放送をした場所から今居る鎮守府にお引越しした。そしたらこの鎮守府、寮の壁がめっちゃ薄かったのだ。なので金剛さんがテンション高めに喋り散らしたらあっという間に宮里艦隊の全艦娘にハーレム提督の実態が知れ渡る事になる。本人と話したら迅鯨さんとか大淀さんとかがハーレムインしたっぽかったし。奴に自覚はなさそうだったが。

「向こうだと、私が提督に会いに執務室に行ったら大体もう誰か居たりして、あまり進展してないんデース! 迅鯨は露骨ですケド、最近は朝雲なんかも怪しいんですヨー!!」

 私の発言を無視して話し始めやがったわこの人。そして壁の向こうからガタッと誰かが勢いよく立ち上がる音が聞こえた。落ち着け山雲。

 

 

 

 私達がここへ引っ越して来た日、つまり昨日だが、今度の鎮守府は四人部屋になると聞かされ部屋割りに悩みつつ、戦闘後に直接こちらに入港した私達を出迎えたのは、金剛さんと初雪、大淀さんと思われる艦娘、それに提提督だった。

 お久しぶりネーと走って飛びついてくる金剛さんをいなして、なんでお前らここに居んの? と提提督に聞いてみた所、援軍というかなんというか、今攻めている面倒な海域攻略のために金剛さんを貸し出す事になったからだというのである。初雪は金剛さんの護衛でやっぱり援軍として加わり、提督は付き添いで来ただけだから大淀さんと宮里提督との打ち合わせが終わったら大淀さんと一緒に帰るとの事だった。

 そしてそのまま暫く提督と雑談していたら、いつの間にか私と島風、初雪、金剛さんで四人一部屋にされていた。私の意見は尊重されないらしい。いや別に嫌じゃないからいいんだけど。

 その後、みんなで暫く交流してる間に宮里提督と大淀さんは会談を終え、提提督は大淀さんに連れられて自分の鎮守府へと帰って行った。金剛さんは大淀さんを恨めし気な目で見送り、当の大淀さんは私を見てこの子もか~って表情をしていた。残念外れだ。

 

 

 

 そして翌日の今朝、長門さんを旗艦とする部隊と金剛さんを旗艦とする部隊と私&島風の三部隊に分かれ、連携してこちらを狙い続ける三か所の敵拠点を同時に襲撃し、これを撃滅した。

 金剛さんに随伴して護衛をしてた初雪によると、金剛さんの三式弾の斉射で敵の基地が半壊、次弾装填している間に他の面子による追撃で敵の姫級を討ち取ったらしい。

 宮里艦隊の面々から見て金剛さんの火力は驚くべきものだったらしく、聞いた話じゃ金剛さんは長門さんや山城さんと比べても圧倒的な火力を有してるという話だった。

 逆に金剛さんや初雪からは、宮里艦隊は舌を巻くほどの高練度に見えたらしい。金剛さんが強すぎる提艦隊では、姫級や鬼級を倒すに当たってはほぼ金剛さんをどう有効に使うかという作戦になるらしく、戦艦無しでも鬼級くらいなら仕留められる宮里艦隊はやはり精鋭に映るのだとか。気迫が違うとは金剛さんの談である。

 まぁ、私と島風抜きでも他の鎮守府より戦果上だからなここ。というか、その状態で金剛さん抜きになった提艦隊は大丈夫なんだろうか。いや大丈夫じゃなきゃ援軍とかよこさないだろうけどちょっと心配。

 

 そんな話をしながら久々な初雪のマッサージを終え――初雪の足はもう常人と同じくらいには筋肉が付いていたから要らなかった気もするが――私が軽いネット巡回をしていたら金剛さんに話しかけられたという次第である。

「それでー、金剛さんー? もっとお話聞かせて欲しいな~?」

 そして会話の開始三十秒で隣の部屋から駆けつけて来たのがこちらの山雲さんになります。さしもの金剛さんも笑顔から発される強い圧力にたじろいでいた。

「ごめんなさい金剛さん。山雲さんは朝雲さんと仲が良かったから、向こうでどうしてるか気になっていたみたいで……」

「私も他の鎮守府の事は知りたいな~、生放送のも見たけどねぇ。向こうの提督そんな凄いの?」

「わらわも何人か近況が気になる友が居ってのう、後で良いから聞かせて貰えぬか」

 気が付けば隣の部屋の住人が全員こっちへやって来ていた。狭くは無いから問題ないけど、突然人が増えた事に初雪は動揺していた。

 

 結局、騒がしくなった私達の部屋が気になったらしく深雪や叢雲、大井さんや天龍さんまで話に参加して来る事になった。みんな他所の事は知りたかったらしい。そのため談話室へと場所を移して開催された金剛さんの提艦隊語りは、引き摺られて参加させられた初雪の補足という別視点からのアプローチもあり大層な盛り上がりを見せる事になった。金剛さんの高いトーク力が光る。

 最終的に戦闘部隊のほとんどが参加し、ジュースやお菓子も持ち出されたため二人の歓迎会みたいになって、何故か提督たちの訓練所で講師をしていた宮里提督に提提督の訓練所での様子を話させるまで行った。付き合いいいですね宮里提督。

 

 

 

 明日も出撃ですよーという宮里提督の一声で、もういい時間だったのもあり解散となった。ちゃんと歯を磨きましょうねという夕雲さんの声もあり、寝る前の支度をみんなして整えていると、私を見つめる瞳が二つ。それはあまり話した事の無い加賀さんの物だった。

 加賀さんは騒ぎを聞きつけた瑞鶴さんに連れられて会に参加していたが、話には殆ど加わらず、黙々とお菓子を口に収めていた。その状態でも聞いてはいたみたいだけども。そんな加賀さんが今、歯を磨きながら私の事をじっと見つめている。

 何か用だろうかととりあえず加賀さんを待ってみると、こちらへと歩み寄ってきて、目線を外さずに口を開いた。

「率直に言って、あなたは私達の事を歯牙にもかけていないのだと思っていたわ」

 違ったのね。と加賀さんは表情も変えずに口にする。私は唐突な話だったので面食らい、こっちも率直な感想が出てしまった。

「加賀さんにそれを言われるとは思いませんでした」

 失礼すぎる。言っちゃってからそう思ったが、言われた加賀さんは怒ったり気分を害したりと言った様子は見せなかった。むしろ少し面白かったようで、ちょっと口元に笑みが浮かんだように見えた。

「放送でもそうだったけれど、あなたは当惑すると思っている事がそのまま出るのね……口にする前に考える癖をつけた方が良いと思うわ」

 ぐぅの音も出ねぇや。私は焦ったり混乱したり緊張したり羞恥心が天元突破したりすると、思考がぐるぐる回り出して精査出来ずに明後日の方向へぶっ飛んでいく事がたまにある。その結果がオールマイトだったりクジラの解体ショーだったりするわけだ。直したいのはやまやまだが、実は前世からなので直らんような気がする。

「生放送は見させて貰いました。頑張っていたと思うわ、アダルトゲームはどうかと思うけれど」

「あれは忘れてください」

 他の人らも周りに居るのにそこを弄るのは止めろォ! R18なシリーズって意識が無かったんだもんよしょうがないじゃん!

「忘れるのは難しい……いえ、そこは置いておきましょう。肝要なのは、極端な強さを持つあなたは、私達の事を軽視しているものだと私が思い込んでいたという事よ」

「空母を軽視するのはかなりアレだと思うんですが……」

 そうね、と加賀さんは同意した。ええ、私そこまで阿呆に見えてたの? 実際頭の良さは微妙なんだけどさぁ。

「でも間違っていた。あなたは他の艦種どころか、兵站の重要性まで理解しているようだし」

「まぁ、そうですね、理解し切れているかは怪しいですが……訓練所でもある程度習いましたし」

 そうよねと加賀さんは頷きながら、歯を磨きながらこっちを気にしている瑞鶴さんに目をやった。理解してなかったんだろうか。

「私達はお互い、自分から他人に話しかけるような積極性を持っていなかった。きっとそれだけの話だったのね。あなたも私に無視されているように感じていたんでしょう?」

 目線をこちらへ戻し、加賀さんは問いかけた。まぁ、無視かはともかくそんな感じではあった。用事が無ければそんなもんかなとも思ってたけれど。

 まぁ多少は、と曖昧に頷いた私を見て、加賀さんはため息のように深く息を吐きだした。一度目を瞑り、またこちらをしっかりと見据えると、スッと右手を差し出した。

「すれ違うのは止めにしましょう。私は加賀美 沙希。今後ともよろしく」

「あっ、はい。伊吹 雪です。よろしくお願いします!」

 その手を取り、しっかりと握手しながら、失礼な事に、半分くらい全然関係ない事を私は思った。

 加賀岬かよ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 台湾から中国へ渡り、通訳の仕事で残る事になった護衛棲水姫を置いて、北方棲姫はレ級に背負われ大地を往く。超高速で疾走するレ級の背で、周囲を見渡しながら出来る限りの位置を記録していくが、どこをどう進んでいるのかは全く理解できていなかった。

 能力の恩恵なのか、地形の記憶は完璧である。なので通ったその場所にまた行きたいと思えばまた戻れるのだろうが、そもそもその位置が地球上のどこなのかはさっぱり分からなくなってしまった北方棲姫であった。

 時折日本に帰って休憩などを挟みつつ、各国の首都をマーキングしていく。各国の様子は北方棲姫が思っていたほどは悪くなく、多聞丸に確認してもやはり島国の方が酷い事になっていると返答された。もっとも、このまま行けば状況は悪化するばかりらしいけれども。

 そうして暫くは行く先々のマーキングに勤しんでいた北方棲姫であるが、ヨーロッパを抜けたある時にレ級の都合がつかず、だからといって休むのもどうかと思われたものだから、少しでも進んでおこうと最寄りの変色海域を陸地沿いに行ってみる事にした。

 レ級は心配ではあったが、多聞丸も止めなかったし大丈夫だろうと北方棲姫を送り出した。一人はどうかと思ったので群体なPT小鬼のうち一体だけは持たせたが。

 

 護衛棲水姫と台湾で仲間にした艦娘――丹陽は艤装普及の仕事でしっかり成果を挙げているようだ、と自分以上に小さな深海棲艦と駄弁りながら北方棲姫は赤い海沿いを進んでいく。道中で見つけた姫級なんかをスルーしつつ、姫級が海岸線に居るってかなりヤバいのでは? なんて思いながらちょっと休憩と陸地に上がり、近くの建物を見てみれば、それは見事に粉砕されていて、やっぱり海の傍は酷いなぁと再確認させられてしまったのだった。

 無惨な状態の建物群を暫く進み何か休める椅子でも残っていないか、いつの間にか増えていたPT小鬼と三人で周囲を見渡していると、不意に、何かが動く気配。驚いてそちらを振り向けば、茶色い毛色の筋肉質な男性が割と呑気してた三人に向かって銃を構えていた。

 銃を向けられたのは初めてだったため、ちょっと慌てて両手を上げた北方棲姫だったが、よくよく考えると別に効きはしないなぁと思いなおしてある程度余裕を取り戻し、その後暫く困り果てた。銃を持った男性は何かを大声で言っているのだが、それがどういう意味なのかさっぱり分からなかったのだ。

 日本語と英語をちょっとくらいしか分からない北方棲姫は、手を上げたままの姿勢でPT小鬼に分かるか聞いてみたが、どちらもさっぱりであるらしかった。男の方はそれを見咎め、さらに大きな声で何かを叫んだ。

「ドウシヨウ、全然分カンナイケド、動クナッテ言ワレテルノカナ?」

「ドウシヨウネー」「ビックリシテ」「体ガ増エチャッタ!」

 そんな理由で増えないで欲しい。北方棲姫は三体になったPT小鬼をジト目で見つめた。そうしている間にも男は北方棲姫に向けて銃、おそらくアサルトライフルであろうそれをしっかりと構えている。ただ緊張しているのか、よく見れば細かく震えているし、呼吸は少し荒かった。能力も使えば制圧は容易だろう。ただ、それをしたところでどうなるものでもない。転移して逃げてしまおうか、そう思っていると、男の背後から不意にブロンドの髪をした女性が顔を覗かせた。

 女が男に声をかけると、男は不意を衝かれたらしく目を剥いて視線だけをそちらに向け、女の顔を見てさらに驚いたようだった。しかしその動揺からすぐに立ち直ると目線を北方棲姫たちの方へと戻し、小さめの声で何かを話し始める。北方棲姫達にも普通に聞こえる程度ではあったのだが、やはり何を言っているのかは分からなかった。

 状況には場違いな親し気な声をかける女性の言葉に、驚いたり詰問したりするような口調で返答していた男性は、やがて何かを考え始め、暫くすると銃を降ろして女性に何かを告げた。ブロンドの女性はそれに一言だけ返すと、北方棲姫たちに向かって微笑みかけ、そのままゆっくりと歩き出す。男性とは全く違った態度に不信感と違和感を覚えつつ目の前まで進んでくるのを待つと、女性は手の届きそうな距離で立ち止まり口を開いた。

「こんにちは、ようこそスウェーデンへ!」

 おもっくそ日本語だったので、北方棲姫は度肝を抜かれた。PT小鬼は五体まで増えた。

「私はイェータ・月島。あなた達と同じ転生者です」

「アッハイ」

「仲間ダー」「アレ?」「ヨク分カッタネ!」「我々ガ転生者ッテ」「見テ分カル?」

 群と化したPT小鬼の言葉にふふふと笑うと、見た目じゃ分からないなーとその質問を否定した。

「ほっぽちゃん、多聞丸を呼んで来てもらえる? 彼、きっと待ってると思うから」

 なんだかすごい親しげだぞこの人。とりあえず信用出来るか多聞丸に聞いてからにしよう、そう思いながら北方棲姫は一度日本へと転移した。

 

 数分後、舞い戻った北方棲姫と同行した多聞丸の見た物は、高く山積みになったPT小鬼群と、それに押しつぶされた女性と男性の二人だった。

 

 

 

「はあ、助かった……本当に死ぬかと……本体だから普通に死んじゃうところだった……」

「ゴメンネー」「銃持ッテル方ガ」「走ッテ来タカラ」「ツイ」「我々弱ソウニ見エルカラネ」「仕方ナイネ」「実際弱イシ」「デモ」「普通ノ人ニ負ケルホド」「デハナイ」

 銃を持った男は気絶してしまっていた。多聞丸の見立てでは命に別状はないらしく、転生者の女性もそれには一安心。後で介抱して、全部夢だったとでも思って貰う事にした。

「ソモソモ、私達ト会ウツモリダッタノナラ連レテ来ナイ方ガヨカッタンジャ……」

「あー、ええとね、私、さっきまで彼とは見知らぬ他人だったから」

 今はもう心の友だけど。男性を膝枕しながらそんな事をのたまったものだから、北方棲姫は言ってる意味が捉えきれなかった。

「そういう能力だと思っておいて。彼の過去には私が『たしかに』『いた』し、実際に私は彼の娘を助けて来た。その縁で今回は信用してもらったの。誰も損してない、凄くフェアな関係なんです」

「気絶サセタノニ?」「誰ガソンナ酷イ事ヲ」「私ガヤリマシタ」「ナンテ野郎ダ」

 それはそれって事で。そう言ってブロンドの女性は男性の頭を撫でた。

 

「さて……うーん、まぁ大丈夫かな? 君の艤装の話なんだが……」

「ア、艦娘ナンダコノ人」

 増えてしまったPT小鬼を日本近海へと還しつつ、北方棲姫は話を聞いていた。高速でその場と海を行ったり来たりの転移を繰り返しながらの荒業である。

「ああ、転生者で人間の女性になった子達は全員何かしらの適性がある……でだ、軽く視たが、とりあえず艦娘として活動してもらって問題なさそうだね。君の事だ、そうおかしな事はしないだろうし」

「それはもちろん。計画の邪魔になるような事はしない、艤装があれば助けられる人が格段に増えるから絶対に欲しいけどね」

 何でも出来る万能の能力ではまったくないのだ。自分に出来る範囲を増やしておきたいというのが彼女の偽らざる本音だった。

「まぁ、それ以前にどうやら君の能力は転生者には不完全な効果しか発揮しないみたいだけれどね」

「え、なにそれ聞いてない」

 魔法使いを自称する少女から貰った能力が妙に複雑だったため、事前にしっかりと説明を受けてこの世界に送り出されているのだが、そんな話は全く聞いていない。いや、それを言うならそもそも自分以外の転生者の存在自体聞いてはいなかったのだが。

「説明が難しいが……君自身がそうであるように、俯瞰的に……というか、時間軸の外からこの世界を認識する能力は転生者共通で与えられているようでね。普段認識は出来ないようだが使われれば記憶が二重になる。君との接触が短時間だったレ級君は気付いていないようだったが」

「……まぁ、むしろ都合はいいかな?」

「うむ」

 なんか二人で納得してるけど、北方棲姫はさっぱり意味が分からなかった。

「待テ多聞丸!」「何ノ事ダ!」「マルデ意味ガ分カランゾ!」

 折角一体まで減らしたPT小鬼が再度増殖して文句を言う。何故わざわざ増えるのか。北方棲姫はため息を吐いた。

 

 

 




イェータはGötaと書くそうです。
名字だけ名乗らせるのはどうかと思った結果そっちで悩む羽目になるとは思いませんでした。


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台風(平和)

「嘘ですよね……? 嘘だと言ってください、提督!」

 生放送に出演した方の明石さんが宮里提督に縋りついて絶望の眼差しを向ける。その様子を無念の表情で見返しながら、宮里提督も苦しそうな声を上げた。

「私も、信じたくは無かったのですが……」

「そんな、だって、金剛さんが合流して……なのに……」

 明石さんが床に崩れ落ち、手と膝を突く。それはもう見事なorzだった。

「ごめんなさい、上も余裕が無いんです。私の能力を腐らせておく事は出来ないと、そう言われては……」

「それは分かりますけど……」

 明石さんの後ろから生放送中は寝落ちしてた方の明石さんが歩み寄り、出れた方の明石さんを落ち着かせるようにゆっくりと背中をさする。さすられた明石さんはゆっくりと立ち上がると、がばりと顔を上げ、叫んだ。

「なんでうちで戦艦七隻建造だなんて事になったんですか――!?」

「…………私以外の提督だと作る艤装を指定できないからです……」

 折しも第二期適性検査の結果が出た直後である。駆逐艦ならばいざ知らず、戦艦狙いで大型建造連打は大本営もやりたくないらしい。そりゃあ、長門狙って陸奥になったりするくらいなら宮里提督にやってもらった方がずっといいだろう。この世界ドロップ艦とか無いから建造に頼るしか無いしね。

 宮里提督の提督としての得意分野は『妖精さんに好かれてお願いを聞いて貰える事』なんだけど、これがなんと建造や開発にも適用されてしまうらしいと聞いた時の私の驚愕ぶりが分かるだろうか。彼女の手にかかればガチャ形式のはずの建造が、指定の材料さえ揃えれば確実に欲しい艦と引き替えて貰える普通の買い物や取引のようになるのである。初期に資材の足りない自衛隊が適性者の戦艦や空母をしっかり揃えられたのは宮里提督の寄与によるものだったらしい。

 まぁ私が驚愕したのはゲームみたいな形式になってるっていう事実にだけどな!

 正確には指定は出来る、指定は出来るのだが、作ってる最中に別の物になって行くらしい。金剛作ってるなと思ってたら出来上がったのは榛名だったりするんだそうな。酷い時には駆逐艦作ろうとして潜水艦が出来たりしたとか。お前らノリだけで建造してない?

 

 大変だなぁと艤装を装着しながら他人事のように背後の騒動を聞き流す。納期来週頭で一週間切ってるとか今日中に援軍は来ますよとか聞こえるけどまぁ、とりあえず、無駄な被弾はしないように気を付けようと皆で頷き合った。

 

 

 

 

 

 あくる日は大嵐だった。海は大しけ、風はびゅうびゅう吹きすさび、寮の窓枠ががたがた揺れる。横殴りの雨が絶え間なく壁を打ち、空から地上へ幾度も幾度も雷が落ちた。割と古い建物なので雨漏りなんかが起きないかちょっと心配。勿論そんな状態で出撃なんて出来るはずもなく、一応予報はされていたので計画通りに本日は待機という名のお休みである。当然ながら、深海棲艦が攻めて来たらこの状態でも出るんだけどね。

 今居る鎮守府は前の所と施設の配置がちょっと違い、寮と食堂が全く別の建物になっている。なので移動で若干濡れつつ、休みだワッショイと前日から食料まで用意して全力で引きこもろうとした初雪を部屋から引き摺り出した金剛さんと島風と一緒に朝食を摂りに行った。

 食堂へ入れば割と食べ終わって歓談していたりしてあまり席が空いていない。なので初雪を色々していて出遅れた私達は飛鷹さんと隼鷹さんと一緒にテーブルを囲む事になった。

 この二人、自衛隊員と招集された艦娘で係わり薄そうだよなーとか最初は思っていたのだけど、飛鷹さんが戦闘部隊入りした時点でもう、お祝いだと酒を酌み交わすくらいには仲が良くなってたんだよね。同型艦ってそういうもんなんだろうか。

「大風様様だねぇ、今日は飲むぞー!」

「駄目に決まってるでしょ!?」

 でも朝っぱらから酒瓶を取り出した隼鷹さんは流石に飛鷹さんに怒られていた。未成年も多いからね、悪い大人は修正されちまうんだ。せめて夜にしなさいと飛鷹さんはお冠だった。

「大体、一応は今も鎮守府での待機であって休みじゃないんだから。深海棲艦が攻めて来たらどうするのよ」

「その時は……あたしを置いて先に行け……!」

 流石にどつかれてた。でも別に、隼鷹さんはその対応が嫌そうではないので姉妹のじゃれ合い的な奴なんだろう。二人とも年齢知らないからどっちが姉かとか分からんけど。

 なお食事中、飛鷹さんの一瞬の隙を見計らって隼鷹さんはコップに酒を注いでいた。恐ろしく速い手酌、私でなきゃ見逃しちゃうね。

 

 

 

「あれ、ここって取っちゃっていいんだっけ? なんか抜けそうで抜けないんだけど」

「妖精さんが滅茶苦茶焦ってるから駄目じゃないかな」

 胡坐をかき首を傾げながら自分の使っている艤装の手入れを行う深雪と、その深雪の膝を一生懸命ぺしぺし叩く妖精さん。私達は今、艤装のメンテナンス中である。

 普段なら艤装の管理は明石さんや妖精さんに全部任せてしまっているのだけど、生憎今は現在進行形で彼女達は修羅場っている。なのでちょっとした手入れくらいは自分達でやっておこうという話になったのだ。工廠へとやって来たら既に大和型の何がしかが一隻完成していて驚いたものである。

 自分の艤装を手元に置いて、訓練所で習ったメンテナンス方法を思い出しながらパーツを磨いていくのだが、さっきも言った通り私達はこれを普段人任せにしていた。なのでもう半分くらいは忘却の彼方。適宜妖精さんに聞ける私はどうにかこうにかやれたのだが、艤装を付けないと見えない面々は当然のように酷い事になった。

 分解しちゃいけない所が取れそうになったり、曲げちゃいけない方向に曲がりそうになったり。みんながおかしな事をしそうになるたび妖精さんが大慌てで止めようとするから、それを私が伝える事で何とかなったけれど、教官長は教え直した方が良いのかしらと悩んでいた。

 意外だったのは初雪で、完璧とまでは行かないまでも、割と無難にやれていた。金剛さんに話を聞けば、提艦隊では結構自分でやらされていたらしい。金剛さん自身も自分の艤装の手入れは出来るようで、ただ本格的にやると凄く時間がかかるらしく、とりあえず重要な所だけしっかりやってお茶を濁していた。戦艦故致し方なし。

 

「あ」

 全体的にどうにかなったしそろそろ片付けようかとなった頃、何かが折れ飛ぶ乾いた音が辺りに響いた。床に視線をやれば関節部が分解した謎アームと硬直した妖精さん。視線を上げると困った顔をした初春が破損した可動部の片割れを手に途方に暮れていた。

「何もしとらんのに壊れたのじゃが……」

「それ……大体何かした人のセリフ……」

 初雪にツッコまれた初春は、むぅと押し黙ってしまう。まぁ、確かに壊れやすそうな部位ではある。そもそも初春は手つきが危なっかしい……経歴故にか細々とした事をやり慣れてないようで、おっかなびっくりという感じでかなり丁寧に磨いていた。それで割れたのだから初春のせいというか、もう消耗していて丁度限界が来ただけだったんじゃないだろうかと思う。

 

 理由はともかく壊れた事は事実だと初春はしっかり明石さん達に謝りに行った。修理は予備のアームと付け替えるだけで済むらしく、明石さん達からもここはすぐ駄目になるんですよとのフォローが入る。見るからに丈夫そうではないもんなぁ。

 予備は数が結構あるらしく、一か所付け替えるだけならそう時間もかからない。初春も明石さん達も一安心である。むしろ戦闘中に壊れなくて良かったまであるかもしれない。

「わらわも吹雪のように器用であったら良かったのだがのう……」

「あー……私はほら、ブラインドタッチとかで鍛えただけだから」

 嘘だよチート能力だよ。つーかなんだその理由、初雪がFPSで射撃上手くなったのより説得力ねーわ。

 チート能力さんはこのところ昔より本気を出してきたようで、左の手だけでネジを固定しながらドライバーを回すとか普通にやってくれるようになった。いや前から出来たのかもしれないんだけど、なんか狙撃を繰り返してるうちに精密動作がこなれて来たような気がするのだ。

 それを利用して自分のメンテはさっさと終わらせて、周囲の妖精さんの反応をみんなに教えてたのが私です。妖精さんに建造やらないかって誘われたけど私工作艦じゃないからそれは無理なのでは……

 ぶらいんどたっち? と聞き慣れない単語だった様子で聞き返してきた初春に概要を説明すると、呆れるどころか成程成程と納得した様子を見せてきて、妙な返しをしてしまった事に罪悪感が湧いた。

「ごめん、冗談」

「であろうな、流石にそれだけで身に付くとは思えん」

 それはそれとして、知らない文化だったので機会があれば教えて欲しいと初春は頼んできた。それは構わないのだけど、初春はPC使う事ってあるんだろうか。全然そういう印象無いんだよなぁ。

 

 

 

 繰り出された叢雲の杖を、鏡写しに相殺する。こちらの持つ杖を一度下に払って繰り出されたその一撃を、間に合うはずの無い体勢から無理やり弾かれて、叢雲は大きく体勢を崩した。対する私は一切揺らぐ事は無い。そのまま振りぬいて頭を打つ、直前で腕を止めた。

「あ~……、そこまで、とかいう必要もないねこれ……」

 とんでもない力業。あらぬ方向へ切っ先を飛ばされようが構える前に打たれようが、私の反応速度と動作速度は相手の遥か上を行き、どんな体勢からでも後の先すら可能にする。やっぱスポーツ的な奴に使っちゃ駄目だわこのチート。出力が違い過ぎて叢雲が大型機械を素手で止めようとした人みたいになってたもん。

 審判役の川内さんは完全に呆れ返り、金剛さんと島風はまあそうなるなという感じだった。

 

 メンテナンスを終わらせて大雨の中を寮へと帰る途中、私は叢雲に誘われてあんまり物の置いてない倉庫へとやって来た。そこで叢雲に渡されたのが棒である。しっかり研かれささくれ一つない棒である。

 何これと叢雲に聞いてみたら、どうも川内さんから私にちょっと教えたら色々カラテの技を覚えたって話を聞いたらしく、興味が湧いてしまったらしい。杖術だとどうなるのかやってみてくれないかと叢雲は言った。先生役は当然叢雲、達人とかではないらしいのだけど、同年代だと行ける方ではあったらしい。

 それで暫く習ってみて、そしたらなんか変なものを見る目で見られてしまった。いやあ、見て覚えろって言われるとほとんど出来ないんだけど、ちゃんと指導してもらえるとチート能力さんってば私の体に合うようにしっかり最適化してくれるんだよね。見ただけじゃよく分かんないのは頭は良くなってないからだろうか。

 一振りごとに動作が洗練されていく私の異常を理解しているのかしていないのか、横で一緒になってそこらにあったプラスチックの棒を振っていた金剛さんと島風の上げた楽し気な声で、何故か倉庫内で寝ていた川内さんが起きてきた。川内さんは最近夜中に目が冴えて来る事があるらしく、そうなると変な時間に眠くなってしまうらしい。間違いなく集合無意識の川内さんの影響だろう。うちの鎮守府はあんまり夜戦しないんだけど、その内夜戦夜戦と叫び始めるんだろうか。

 閑話休題。起きて来た川内さんを見た叢雲が丁度いいからとスポンジを巻いた棒を新たに持ち出し、私達は軽く打ち合ってみた。その結果、私という重戦車に竹槍で挑む叢雲みたいな構図になった。審判というか、必要なら止める役を任された川内さんもこれには苦笑い。

「いや……もう、才能差とかそういう話じゃないわ、何これ」

「身体能力に差があり過ぎて技術以前の問題になるよねー」

 これで習得も早いって酷くない? って川内さんはおっしゃる。私も全く同感だわ。川内さんと叢雲は気が合ったらしく、私に本格的にあらゆる格闘技を詰め込んだらどうなるのかという話をしていた。ゴッドルガールでも生み出す気?

 

 

 

 何故かカラテの型までやらされて時間は昼。倉庫で修行してた五人でさらに酷くなってきた雨の中を突っ切り食堂までやってくると、朝と同じ席に隼鷹さんが居て、どうしてか飛鷹さんがテーブルに突っ伏して眠っていた。なんでやろなぁ。

 昼のカレーうどん定食を妖精さんから受け取っていると、丁度入って来た天龍さんと目が合った。天龍さんはようと挨拶して食事を受け取ると私達と同じテーブルまでやってきて、一緒に食事を摂り始めた。

 天龍さんは豪快に、しかし汁を飛ばしたりするような粗相は一切ない、ある意味華麗な食べっぷりを披露すると、しっかり咀嚼して完全に飲み込んでから思い出したように口を開いた。

「そういや吹雪、こないだの生放送の時に変な質問あっただろ? なんか一人でやってくれーみたいな奴」

「あーありましたね。娘さんが一人艦娘になってもう一人もされないか心配って奴でしたっけ」

「その艦娘になった娘ってのさ、オレなんだよ」

 自分を指さして天龍さんは言った。ええ……と私の喉から呟きが漏れる。それを気にせずに天龍さんは言葉を続けた。

「いや、実はオレもさっき知ったんだ。悪かったな、うちの親が変な事言って」

「ああ、いや、天龍さんのせいではないですし、そもそも特に気にしてなかったですけど……天龍さん妹さん居たんですね」

 正直、エロゲとかのせいでそっちはほとんど忘れてたくらいだったりする。一人で出来るならやってもいいんだけど、絶対無理だしな。それより天龍の妹って言われたらどうしたって龍田が思い浮かぶ訳なんだけど、適性値ってそういう血縁とか血統って関係あるんだろうか。金剛さんの妹はしっかり比叡だったけど。

「居るぜ、自慢の妹がな!」

 天龍さんは堂々と妹は凄いぞと言い切った。そこから始まる妹トーク。なんか聞いてると、妹さんは滅茶苦茶優秀で長女の天龍さんを差し置いて家の何かの後継者に選ばれたらしい。どうにも自慢げだったので天龍さん自身はそれに関してはどうでもよかったっぽいが、ちょっと気を遣ってアパートを借りて大学へ通ってたらしい。

「で、あいつも適性検査通ったんだと」

「結局!?」

 親御さん泣くしかないじゃねーか!!

 

 妹は可愛いですよネーとやはり妹の居る金剛さんからこぼれる惚気話を天龍さんは楽しそうに受け止める。天龍さんから見ると金剛さんも年下だし、可愛いものなんだろうか。世界水準超えてくるスタイルも相まってそうしてると大人のお姉さんっぽいんだけど、出撃時とかは凄いテンション上がってて前のめりな感じになるんだよなあ天龍さん。

 そんな感じにお話ししてる皆を眺めながらたまに相槌を打っているうちに食事も終わり、解散の空気になった。叢雲に誘われた段階で既に帰還していた初雪も気になるし、一回部屋に帰るかと思いトレーを厨房へ返す。中で妖精さんが頑張って運んでいるのが見えて、軽くがんばえーと応援していたら、金剛さんにHEY! と名前を呼ばれた。

 なんだろうと顔を向けてみれば、そこには私を手招きする金剛さんと手帳を持った青葉さんが。奥の席へと歩いて行くので付いて行ってみると、ブッキーはこっちデースと金剛さんの隣に座らされた。

「あの、何故吹雪さんを?」

「提督の事なら、ブッキーも色々話せるからだヨー!」

「いえ、提艦隊の事が聞きたいんであって提提督の事が聞きたいわけではないんですが……いや、提さんの事も聞きますけどね?」

 青葉さんは苦笑いである。どんだけ奴の事を語りたいんだ……

「ああでも、吹雪さんにも聞きたい事はあったので付き合って貰えるとありがたいです」

「構いませんよー特に用事は無かったですし」

 そう返すと、青葉さんはお茶を入れてくれて、良かったらおやつにでもどうぞと紙の包みまで渡された。中にはいくつか個包装のお菓子が入っている。

 

 それで聞きたい事というのはですねと席に着いた青葉さんは切り出した。まず聞いたのは提艦隊の現状、特に艦娘達の体調に関する事である。これはつまり、聞きたいのは艤装の影響の事なんだろうなと察しがついた。

 金剛さんから見てだが、提艦隊には特に体調が悪かったり体に変な兆候の見られる艦娘というのは居ないらしい。ただ、精神的にはそうでもないような人は居たそうで。

「愛宕はよくぱんぱかしてましたネー。あれはたぶん艤装の影響デース」

「ぱんぱか……?」

 こう、ぱんぱかぱーんって。金剛さんが実演して見せてくれた。どうやら訓練所ではやってなかったらしいので、間違いなく集合無意識の方からの影響だろうと金剛さんは言う。金剛さんも影響があるっぽいという事は知っていたらしい。

「後は……そうデスネー、迅鯨が元からああなのかもしれないからちょっと分からないケド、負のオーラを纏ってる時があるんだヨー」

 提督とスキンシップしてたりすると、可視化できそうなくらいの圧力を感じる事があるらしい。霊能力とかあるみたいだからなぁ、この世界。

「でも提督は何にも気付いてないから気のせいかもしれないネー!」

「いや、それはあいつだからなだけだと思いますよ」

 幼馴染や不幸な先輩からの熱視線に気づかないレベルだからな。自分じゃなくて傍の恋敵に向けられたのとか絶対気付いてない。不思議な事に他人同士の恋愛関係は普通に察知するけど。

「あはは、提提督も罪作りですねー。金剛さんの事もあんまり意識してないみたいでしたし」

「そうなんデスヨ! いくら言っても分かって貰えないんだヨー……」

 ブッキー慰めてと金剛さんが抱き着いてくる。私より身長があるのもあって、形の良い胸が押し付けられた。仕方ないのではいはいどうどうと適当に慰めておく。

「……これをやられて意識しないって、提提督は悟りでも開いてるんですかね?」

 目の前でべたべたしている金剛さんを見て、青葉さんが本気で疑問に思っている声を上げた。ちょっと顔見せしただけの短い時間だったけど、その間も名残惜しさに引っ付いたりしてたもんね金剛さん。でも違うんだ、そうじゃあないんだ本当は。

「いや、金剛さんの場合……」

「うう、ブッキー優しいネー、嫁に来なヨー……」

「こういう事を平気で私や他の友人にも言うので本気にされてないだけです」

 男相手は一人にしかやってないんだけど、私どころか恋敵のはずの榛名さんにまで言うからなこの人。実際、金剛さんは意識されている方である。というか、金剛さんレベルのアプローチして初めて意識される凄い奴なのだが、さらに意識したとしてもちょっとした勘違いで本気で言ってるわけじゃないなと判断してくるヤベー奴でもあるのである。お前攻略難易度調整ミスってるよって何度も思った。

 なんで私が知ってるかって? 金剛さんに連れられて提家に遊びに行った時、金剛さんの離席中に相談されたから。お前馬鹿だろって言ったらそうだよなそんな訳ないよなってそっちの方向に勘違いされた。正直すまんかったと思っている。

 でも、提督のお嫁さんになってユッキーや榛名をお嫁さんにしたいとか言い出す金剛さんサイドにも問題があると思うの。

 

「それで、えー、体調は問題なさそうという事で、別の切り口から」

 青葉さんは話題を元に戻すと、スマホを取り出してとある動画を再生した。それはこの間の生放送の切り取りで、映っているのは夕立である。艤装を背負い使い方等の解説をして行き、ある時、耳よりも少し上あたりの髪の毛がぴょんと跳ねて反り返った。その瞬間、その一瞬だけ、夕立の眼は赤く染まる。動画はその瞬間の夕立の顔とその前の夕立の顔――というか、瞳の色を並べて比較して終わった。夕立、改二になりかけてない?

「こんな感じで、妙な事になっている子が現れているんです。提艦隊ではこういう事は無かったですかね?」

「Hmm……流石にこういうのは無かったネー……これは艤装の影響なんでショーカ?」

 金剛さんはその現象にはびっくりしたようで、心当たりは特にないようだった。まぁ、どういう条件で起きる現象なのかさっぱりだしねぇ。前に適性値が高い方が変化が起こりやすいようだと匂わされていた青葉さんは、訓練所で一番の強さだった金剛さんに何か異変が起きていないか気になっていたようで、体に異常無いかと聞いていた。でも金剛さんは特に肉体に違和感は出ていないらしい。最近は前よりTea timeが楽しみになってるとは言ってたけど、前からそんな感じだから違いが分かんないです。

 

「後は……そうだ、これ聞いておきたかったんですけど、金剛さんも吹雪さんも事前に艦娘の訓練してたとか、そういう事は無いですよね?」

「Ahーそれはないヨー、召集されるとは思ってなかったですしネ」

「私も無いです……どうしてそんな事を?」

 まぁそうですよねと青葉さんは頬を掻く。ちょっと言い辛そうにしながら手帳から何枚も写真を取り出すと、こちらに見やすいようにテーブルに広げた。左側に金剛、比叡、榛名、霧島、扶桑、吹雪、島風、夕立を。右側には北上さんと、何故か一枚だけ画質の粗い水着の女の子の写真が置かれる。改めて見ると美形ばっかである。つーか並べられると何だこれ、アイドルグループの生写真か何か?

「これ、第二訓練所での成績と各鎮守府の面々の証言からみんなで考えた突出して強い……と言われる艦娘達です」

 みんな、というのはスマホコミュニティ参加者の事だろう。私はガラケーだから参加してない奴。PCから入れる奴は私もしっかり見て書いたりもしてるけど、そっちもちょっと気になる。けど今はそれよりもだ。

「知り合いばっかなんですけど……?」

「みんなお友達デース! あ、比叡は妹ですネ」

 榛名さんと扶桑さんを友達と言い切れるのがすげぇよ。夕立とは配属当日の合流の時に知り合って、各鎮守府行きのバスに乗り込むまでの短時間だけで友誼を結んでたらしい。コミュ強すぎて怖い。

「……という事は、こちらの子もお知合いですか?」

 青葉さんが水着の子の写真を取り上げる。金剛さんは自信満々に胸を張ると宣言した。

「Rosaは私の義妹になる予定ですヨー!」

 意味不明すぎて青葉さんの時が止まる。その向かいで、私もかなり驚いていた。私はその子は艦娘になれないはずだと思っていたからだ。

「ローザ……? 小学生のはずじゃ……」

「吹雪さんも知り合いなんです?」

 写真を貸してもらい写りの悪いそれをしっかり検分するが、それはどう見ても提提督の妹さん、現在小学六年生のはずの提 Rosaにしか見えなかった。おいおい提督の奴なんも言ってなかったぞどうなってやがる。

「えーと、そうですね、とりあえず一応説明しておきますと……小学生でも適性検査の時点で十二歳を迎えていれば召集の対象になります。第一期は四月だったのでごく少数ですが……小学生の艦娘も居ますよ」

 驚き混乱する私を見かねてか、青葉さんが解説してくれた。言われてみればそりゃそうだ。中学生からじゃなくて十二歳からだもんね、そりゃ居るわ。

「そのせいで余計な批判を生んでたとは思いますけどね……と、それは置いておいて、この子も召集前からのお知り合いですか……」

 そう言うと青葉さんはスッと写真を左側の私達と合流させた。右側に北上さんだけが残る。ああ、これそういう事?

「北上さんは私の叔母ですよ」

 青葉さんは意外な関係性にええっと声を上げ、私の背後からは謎の圧力と共に大井さんの声が迫って来た。ローザに驚いてまるで警戒してなかったとはいえ、私の索敵範囲内には居なかったのによく聞こえましたね……

 

 大井さんは一瞬テンションが振り切れていたものの、基本的には常識人なので退散させる事に成功した。後でちゃんと話す事にはなったが。

 しかしこれで、写真の艦娘は全員縁が繋がっているという事が判明してしまった。青葉さんは改めて写真を右側に並べると、中断していた話を再開する。

「それで、えー、妹になる予定っていうのはいったい?」

「ああ、ローザは提提督の妹なんですよ。血は繋がってないらしいですけど」

「提督と結婚したら義妹になりマース!」

 ああ、そういう。と青葉さんは微妙な表情になった。捕らぬ狸の皮算用的な話である。提提督の妹であるという話には驚いたようで、かなり悩んでから口を開いた。

「そうなると……これだけの美少女軍団が一か所に集まってた上に全員強いって事になるんですよね。なんですかそれ、アニメか漫画ですか?」

「ゲームかもしれませんね」

 艦これ的な意味で。まぁ、誰がどう見ても不自然ですよね。明らかに例の魔法使いの子が何かやったんだろうとは思うけど、具体的にどうなってるのかは私にも分からん。私みたいなTS転生者も混ざってるし何がしたいんだあの子は。ハーレムか、ハーレムなのか。私が二次専で実はがっかりしてたりしない? メス堕ち展開とか無いよ? 大丈夫?

「美人じゃないと強くなれないとか、そんな事は無いと思いたいんですが……」

「それは流石に……」

 無いよね?

「無いと言い切ってしまいたいところですけどねー、実際、艦娘って美人な方が結構多いじゃないですか。ここには挙げてないですけど、天龍さんとかも美人さでは負けてませんし……」

 戦果的には追いついてないらしい。あの人近接戦闘が得意とかいう艦娘としてどうなのかって戦い方するらしいから仕方ないね。

「確かに提艦隊も可愛い娘が多いデース。提督がユーワクされてないか心配になるネー」

 金剛さんにも誘惑され切らないくらいだから実力行使されない限り大丈夫じゃないですかね。既成事実作られたら知らんけど、なんか普通に責任取りそうな気はする。

「迅鯨さんやこの間来てた大淀さんも美人ですよね…………そうだ、あの二人の本名ってご存知ですか?」

「Hmm~、知ってはいますネー、でも勝手に教えられないデース! 個人ジョーホーダネー!」

 割と本名の取り扱いは微妙な所である。訓練所での寮の部屋割り表に全員分書いてあったりした程度の物なのだが、普段艦名で呼び合ってるのもあり、人によっては全く教えようとはしなかったりするらしい。っていうか、よく考えたら私自身龍驤さんと加賀さんくらいにしか名乗ってないかも。名乗ってないのにみんな知ってるような気がするけど。

「フルネームは聞きませんが……その名前にですね、その人が使ってる艤装の名前が入ってたりしませんか?」

「ああ、やっぱり気になりますよねそれ」

 私が気付くくらいなので、当然ながら調べている人達はみんな気付いているのだろう。金剛さんの回答は〇だったので、青葉さんはやっぱりかとため息を吐いた。

「美人さん達みんな名前と適性が一致してるんですよねぇ~……ただ、一致してるからと言って強いとは限らないみたいなんですが」

 例えば大淀さんは名前に艦名が入っているが、戦闘部隊に入れない程度の適性値しか持っていないらしい。でも関係無いと言うには強いと言われる人間の名前に入っているケースが多すぎる。

「集合無意識の人達も美人の方が好きだったりするんですかねぇ」

「そういう話なんでしょうか……?」

 もしそうなら俗物的過ぎませんかね集合無意識。人間のだし案外そんなもんだったりするんだろうか。

 

 

 

 暫くお話したものの、結局特に進展はなく、何も分からないまま終わった。まぁ、今日得た情報から青葉さんは色々推測するのかもしれないが、何らかの成果を得られるのだろうか。凄いファンタジーな事が起きた結果な気がするんだけども。

 そう思いながら貰ったお菓子を手に食堂のある建物を出ると、お昼の前には豪雨と言って良かった空模様はいつの間にやら治まっていて、青空に太陽が浮かんでいるのが見えた。予報よりもだいぶ早い。やったぜと傘を手に下げ寮までの道を行こうとしたら、工廠の方から歩いてくる影が目に映った。

 かなり嵩のある薄紫色の髪を上部でまとめ、その頭上にV字型の何かを浮かべた少女。背負った艤装からは二本の腕が伸び、その先には連装砲が装着されている。しっかりと制服を着こみ手袋まで付け、気の強そうな紫の瞳でこちらを睥睨しながらじっくりと歩を進めてくる。その体は、何か全体的に輝かしい無形の何かで覆われ、陽の光に照らされ混じり合ったそれは可視化され、極光となって澄んだ空気を貫き私に届いていた。

 なんだアレ。いや、見た目には知り合いなんだけど明らかに違う。具体的にはオーラが違う。呆然としてその場から動けずにいると、その少女はこちらへと歩を進め、私の前までやってくると何かに気付いたようにはっとして足を止めた。

「む……そうか、貴様が吹雪の適性者じゃな?」

「え、あ、はい……え……っと、初春?」

 いかにも。と目の前の存在は首肯した。そうだよね、どう見ても初春だよね。明らかに初春じゃないけど、外見だけは初春そのものである。元々宗教で祭り上げられて不思議じゃないくらいの美人さんなんだけど、今の彼女はそれに加えて雰囲気も一般人のそれとはまるで違う。敬われ、上位の存在として扱われるのが当然であると言葉にするまでもなく周囲に得心させるような存在感があるのだ。

 初春に見える存在は私の顔や体をつぶさに観察し、成程成程と何かに納得した様子で一歩下がり少しの間何かを考え、口を開いた。

「初依が世話になっておるな」

「えあ、いえ、春原さんにはむしろお世話になっております」

 春原 初依、初春の本名である。目の前の人物はやっぱり私の知る初春とは別人のようだ。じゃあ誰か、と言えば、訓練所であったらしい出来事を考えれば候補は一人しか居ないだろう。

「あの、初春さんですか……? 駆逐艦の」

「うむ。初春型駆逐艦、1番艦の初春じゃ。今は初依の体を借りておるがのう」

 謎のオーラを発しながら、初春さんは堂々とした自然体で肯定した。初春さん、マジで降霊術出来たんだなぁ。

 

 

 




この世界、深海棲艦の仕様的に天候が酷い方が安全かもしれないとちょっと思いました。


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たぶん数カ月相当のコミュ

「なんじゃそれは、訳が分からん」

 質問いいですかと言ったら良かろうと言われたので、オリジナル吹雪さんが何故か艤装から行ける空間に居ないって相談してみた。そしたら初春さんはちょっと考えてからそう言った。

 私はたまにだけど吹雪さんの様子は見に行っていて、でもこれまで全く変化は無く、ずっと冊子だけがぽつんと船上に置いてある状態だった。艦の扉や窓は溶接でもされたように動かず、まさか壊してしまうわけにもいかないから船内には入れない。そのため探索出来ないから完全に手詰まりで、どうにもならない状態が続いていた。まぁ特にそれで問題があるかって言うと全く無かったんだけども。

「入れぬと言うのなら分からんでもないが……居らぬとはどういう事じゃ?」

「それはそのまま、あそこに入っても船の上にも周囲にも吹雪さんは見当たらないんです。最初は会うのも拒否されるくらい嫌われたのかと思ったんですけど……」

「何かしたのか?」

 チート能力使って素手で深海棲艦ぶっ飛ばしました。って言ったら初春さんに怪訝な顔をされた。

「ちぃと……いや、言葉の意味はともかく、その能力とやらが他者に代償を求める類の物でもなければ問題は無いと思うが」

「や、人々の魂を生贄にとかそういうタイプじゃないです」

「なら貴様が嫌われている訳ではないじゃろう。まぁ、拗ねている可能性は否定せんが……いや、それ以前の問題でな。わらわ達はそもそもあの場所を弄る事など出来んはずなのじゃ」

 入場拒否であるならともかく、冊子を置いて自分は引っ込むなど不可能である。初春さんは言い切った。じゃあこの脳内の冊子なんなんですかね。

「そも、貴様は艦娘とは何だと思っておる?」

「ええと……集合無意識の方の艦娘の事でしたら、軍艦の魂であると聞いています」

「半分は合っているがそれだと語弊があるのう」

 この世界の艦娘とは、過去の軍艦に宿った魂を核に、その軍艦を建造や運用をした人々の思念、参加した戦いで発生した死者の魂の一部、船に対する畏敬の念や信仰、祈り、何か関係ありそうな要素、思い込みや誤解、逸話から想起された空想なんかが混ざり合い生じたある種の神霊である。

 初春さんの解説によるとそういう事らしい。対応するエピソードがあればそれらも影響するふんわり具合で、時代によって結構姿形は変わるんだそうな。初春さんが言うならそうなんだろう。でもそうだとしてそれと艦の魂だけの場合で今の状況に対する違いが全然分からないんですけど。

「貴様には分かりやすい艦や人間体の方が本体に見えたのだろうがな、わらわ達は艦船のみを主体としている訳ではない。実際には艦の存在を許容するあの空間、あの風景そのものがわらわ達なのじゃ。故に、自分の力であの場所を改変する事は出来ん。それは己の魂を書き換えるのと同義だからのう」

「つまり……えーと、冊子が存在する事自体が不自然なんですか?」

「そうじゃ。そもそも、空間に入れたという事は貴様はその時点で吹雪に会っている事になる。故に、そんなものは必要が無いはずなのじゃ。だから置いてある意味が分からんし、どうやって置いたのかも分からん」

 なんか思ってたより訳の分からない事態になってたらしい。眉を寄せた初春さんも本気で見当がつかないらしく、困ったような声色だった。

「可能性としては、意識のみで移動した……? いや、しかし、それは有り得るのか……?」

「今の初春さんのような状態にずっとなっているとか?」

 霊能力で降霊……というか、神降ろしだなこれ。それをずっとやってるなんて事は無いだろうか。難しそうだけど。

「いや、今のわらわも本体が直接宿っている訳ではない。あくまで本体は思念体に留まっておって、そこから初依の体を操作しているだけというのが近いのじゃ」

 この状態でも他の適性者が初春さんに会いに行けば普通に会えるらしい。こっちとあっちで別々の対応するくらいは余裕なんだとか。なので同じようにただ呼び出されただけであれば、吹雪さんも私に対応する事が出来るはずなのだと言う。魂を宿すのとは全く違う事柄なんだとか。

「すまぬが、わらわも知らぬ事の方が多い。わらわ達は全体で見れば末端の方でな、宮里提督にも艤装の影響の事を聞かれたが、正確な事は答えられなんだ」

 悲報、初春さん、意外と艤装の仕様とか知らない。本人曰く、管轄違いだとか。妖精さんの方が詳しいまであるらしい。

 っていうか、宮里提督と話したりしてたのね。全然知らなかったわ。

 

「まあ、吹雪の側に悪意はないと思うぞ。あれは真面目な性質じゃからな、話した事は無いが」

 こちらに顕現でもしないとお互い話も出来んからな、と初春さんが話を纏めるとほぼ同時に、止んでいた風が急に吹き出した。それはかなり強い圧力で私達に纏わり付き、それと同時に初春さんは何かを悟ったようにため息を吐いた。

「時間切れじゃな。一度この艦隊の食堂へ行ってみたかったんじゃが……」

 どうやら初春さん、お昼を食べに来てたらしい。美味しいって聞いてたんだろうか。

「ああ、すみません。お引止めしてしまって」

「いや元々声をかけたのはこちらじゃ。気にする事は無い」

 そう言って初春さんはお腹を鳴らした。めっちゃお腹空いてるやん……

「……違うぞ? これは初依が昼餉を逃したせいであって、わらわの影響ではない。勘違いせんように」

 じっと見つめてしまった私の視線に堪えられなかったのか初春さんは言い訳を始めた。まぁお昼時を少し過ぎてるから仕方ないと思う。

 丁度持っていたので良かったらどうぞとお菓子の入った紙袋を渡すと、初春さんは良い心がけじゃと開けようとして、一瞬だけ強く発光するとその動きを止めた。うおっまぶしっ。

 光が収まると初春さんはぼんやりとした顔で周囲を見渡し、手元の紙袋を訝し気に見つめ、正面の私に目を止めた。寝起きのようなものなのか、目の焦点も若干合ってない。

「どこじゃここは……?」

 放っていたオーラは完全に無くなり、纏う雰囲気はいつもの初春のそれになっている。初春さんとの接続が切れたのだろう。そう思うと同時、稲光が差し、大粒の豪雨が私達に吹き付けた。慌てて屋根の下へと避難し風雨を凌ぐ。どうやら台風は過ぎ去ったわけではなく、丁度この辺りが台風の目か何かに入っていただけだったらしい。

 食堂の軒先へと出戻りして話を聞けば、やはり艦娘の初春さんではなく人間の初春だった。なんでも初春は修理された艤装の動作チェックをしていたら急に落雷があり、驚いて初春さんを憑依させてしまったらしい。台風の影響かもしれないと本人は言っていた。天気で繋がりやすくなったりするのか……

 余談だが、初春さんに渡したお菓子はそのまま初春が艤装にお供えしておいたらしい。朝には無くなっていたので妖精さんが食べちゃったのかもしれない。

 

 初春は艤装を工廠へと返してから食事にするとの事なのでそこで分かれ、私は嵐の中を寮へと戻る事にした。

 道中先ほどの初春さんとの会話を思い返すが、異常な事が起きているって事が明確になっただけで何も判明していないのが分かるのみで進展はない。あの空間自体が吹雪さんだったらしいけど、今のあそこからは吹雪さんっぽい気配も感じないんだよね、そういうものだと思って見ればまた違うんだろうか。

 ところであの空間を艦娘本人が弄れないんなら別の誰かがあの冊子を置いたことになると思うんだけど、それって艤装を動かすための感覚を学びに来る人間がいるって知らないとやらない事だよね。つまり下手人は少なくとも私達、人間の艦娘の事情は理解してるって事だ。その上で妨害する意思はないんだろうと思うから、たぶん敵って訳じゃない。っていうか、ぶっちゃけもうあれ完全に私を転生させたあの娘の関係なんだろなーって感じてるんだけどどうだろう。でもそうだとして、なんでそんな事したのかは全く分からん。誰か教えてくれ。

 

 

 

 一旦部屋に寄って着替えを手にして風呂場へ向かう。流石に濡れて寒くなって来たので一回シャワーを浴びる事にしたのだ。この時間ならまだ人もいないだろうと思っての行動だったが、入ってみたら多摩さんがそれなりに広さのある湯船でふやけていた。

「いらっしゃいにゃ~吹雪が一番乗りにゃあ」

「え、多摩さんが一番なんじゃ」

「あたしゃ~掃除してついでに入ってるだけだにゃぁ……」

 ふにゃぁと多摩さんがとろける。猫は液体と言うが、お風呂で軟体になるのは何か違う話のような気がする。これも艤装のせいなんだろうか、体が強靭になってる長門さんと逆方向に影響受けてません?

「風呂掃除って多摩さんがやってたんですか?」

「いやあ今日だけにゃ、掃除の人が来れなかったからにゃあ」

 本当なら鎮守府の清掃はきっちり手配されていて、私達艦娘がやる必要は無い。だけど今日は台風だったせいかその辺りが上手く回らなかったらしい。ここ危険地帯だしね一応。

「普段あんまり役に立ってないからにゃ、こういう時にしっかりやっておくのが精神安定のコツにゃ」

「多摩さんのおかげで私達は凄く助かってますけど……」

 シャワーを緩く出しながら多摩さんとお話する。多摩さんは収集部隊が乗る船の操舵手を務めていて、働いているか働いていないかで言ったら滅茶苦茶働いていると思う。確かに他の人達よりも艦娘としての仕事は少ない気はするけど、それはちゃんと船を守ってるからだし。

「自分がどう思うかだから仕方ないにゃ、こればっかりは自己評価が大事なのにゃ~」

 凄く呑気そうな声で全く呑気でない内心を多摩さんは吐露した。分からなくもないけど、ちょっと悲しい。いや自分の中で折り合い付けた結果みたいだからいいんだろうけどさ。

「そういうものですか」

「全然納得してなさそうだにゃあ」

「……分かります?」

 なんとなくにゃあと湯船から悪戯っぽい声が飛ぶ。分かり易いのかなぁ私。なんか前にも他の人に見透かされた経験があるし、言葉尻に出ちゃったりしてるのかもしれない。

「それにしても……綺麗な体してるにゃ」

 気が付けば多摩さんは私の体をじっと見つめていた。見られてどうという事は無いはずなんだけど、遠慮なくガン見とかされるとちょっと恥ずかしくなってしまう。角度的に変なものは見えてないはずだけど。

 私の体は自分で言うのもなんだがかなり高レベルのバランスで纏まっている。手足の長さや肩幅、腰や尻のラインまでなんだか見ていると妙にしっくりとくる納まり具合。胸は無いけど。完璧な人体モデルって言われたら人によっては納得すると思う。それは私の努力の結果とかではなくて、完全に生まれ持っての物である。シミ一つ、傷一つすらない体は正直に言えば綺麗過ぎて作り物染みて見え、実際に作り物――例のあの娘のデザイン通りなんだろうと思う。遺伝子とかどうなってんだろ。 

「でも思ったより筋肉少ないにゃ、よくそれで殴り倒せるにゃぁ」

 艤装の影響かにゃーと呟きながら多摩さんは湯船に沈んで行った。自由だなあ。たぶん、元々はもっと取り繕える人だったんじゃないかと思うんだけどね。なんかもう艦娘の多摩じゃなくてもっと別の猫的な何かの影響でも受けてるんじゃないかと感じる。お風呂は嫌いじゃないみたいだけど。

「自分で言うのもなんだけどにゃ、多摩は艤装の影響がかなり大きいにゃ。油断してるとすぐにゃーにゃー言ってしまうにゃ」

 社会復帰が辛いレベル。使うの止めたら抜けるのかな……抜けるといいな……保証とかされるんだろうかこれ。加古やシロッコの適性者かなんかで眠りがちにでもなったりしたら、結構なハンデになっちゃう気がするけど。

「吹雪は艤装の影響あるのにゃ? 髪は普通の色してるけどにゃ」

 体の方はともかく精神的にはどうなのか、と多摩さんは問う。言われてみれば思い当たる節があんまり無い。そもそも吹雪さんの影響受けるとどうなるんだろう、吹雪さんと言えば……………………何だ?

 え、マジで何だろう、なんかアサリとシジミとハマグリが浮かぶんだけど。あとロシア語。メディアミックスごとの設定の弊害がヤバい。深海な吹雪さんは関係無いだろうし……やっぱり生真面目さ? いやでも問題児とか書かれてなかったっけ。まぁ今どっか行ってるのは問題かもしれない、本人の意思かは分からんけど。後はスカートの下の白いアレ……は私元々見せるの別に恥ずかしくないしなぁ。

「…………………………普通に戦えてるのは吹雪さんのおかげではないかと思います」

 長い沈黙の後、私はようやくそう答えた。多摩さんは納得してくれたみたいだったけど、実際吹雪さんの人型実体が居ない状態でも影響あるのかはよく分かんないんだよね。チート能力のせいな可能性もあるし。っていうか、もしかして私ってチート能力のせいで艦娘の研究考察の邪魔になってね……?

 

 

 

 風呂から上がり部屋へ帰ると、何故か曙がちゃぶ台に向かって教科書とノートを広げていた。同じ卓には初雪と金剛さん、それに何故か連装砲ちゃんが一体。島風は隅っこで残りの連装砲ちゃん達と漫画を読んでいる。私が靴を脱いで畳へ上がると連装砲ちゃんはみゅーと鳴いて場所を空け、私は自動的に空いたそこへ入る事になった。いや別に入らなくても良かったんだろうけど折角の好意だしね?

 曙は問題集と乱闘しているようだけど、握られたシャーペンの先は空を切り、完全に設問に翻弄されていた。そりゃうちの艦隊忙しいし、曙は時間が空いたら自主練してるような娘なんだからそうもなる。勉強自体久々だったんじゃないだろうか。

 座ってみると向かい合いになった金剛さんも勉強していたようで、国語の教科書を手元に置いていた。二人とも中三で、今年中に戦いが終わってくれたりしたら受験が待ってるからなぁ。意外だったのは初雪で、どうやら二人に勉強を教えているらしかった。考えてみれば初雪ってかなり年上だもんね。って思ってどこまで行ったのか聞いてみたら博士課程終わらせたって待ってお前ほんと幾つなの。

 私もちょっとやっておくべきなのかなぁと雰囲気に若干流されつつ、今は教科書が無いから仕方ないねと自分に言い訳してノートPCを胡坐をかいた足の上に広げる。流石にちゃぶ台の上に出すのは気が引けた。その状態で暫く三人がワイワイやってるのをBGMにしていると、突然初雪が私の脚の開いたとこに頭を預けてごろりと畳に寝ころんだ。

「勉強飽きた……遊んで」

 おい年上。見た目高校生くらいだけどよく考えたらアラサーに片足突っ込んでるだろお前。いや前世入れたらまだ私の方が長く生きてるけどさぁ。

 ごろりごろりし始めた初雪を放置して、最近増えて来た艦娘の考察やなんかを調べていると、金剛さんが分からない所を私に質問してきた。躓いたのは古語の活用部分のようで、まぁ私にも分かる範囲だったので解説を入れる。それを見た曙はなんだか不思議そうにしていた。

「勉強出来る方なんだっけ。同じ部屋だった時はしてるようには見えなかったけど」

「吹雪は勉強できるよ、家でも全然してなかったけど!」

「いやテスト期間とかはちゃんとやってたからね?」

 島風はそういう事言うけど、前世っていう予習があるおかげで授業での吸収量がかなり多いだけだからたぶんそのまんまだと高校で躓くと思う。中学と高校で勉強のレベル違い過ぎるんだよ、私には。

「去年は散々お世話になったヨー。ニホンゴムズカシイネー」

「金剛さん国語以外は元々成績いいじゃないですか、ほとんど何にもしてませんよ」

 この金剛さん、コミュ強者な上に美人で成績優秀で運動神経も良いとかいう超スペックである。なので交流する人数が私と桁違いなため、言うほど私が勉強教えたという事実は無い。でもそうだと分かりようのない曙は素直に感心したようで、じゃあこれ分かる? と私に数学の問題を差し出した。応用でもない問題だったから普通に答えたら、曙は複雑な顔を見せた。

「やっぱり急にやっても駄目かしらね……普段からやらないと」

「曙も勉強してなかったもんね」

 一か月くらい同じ部屋で暮らしていたんだけど、曙が勉強をしている所はついぞ見なかったと思う。ノートをしっかり取って私に見せに来てくれるくらいに真面目なんだけど、ここ数カ月はそれどころじゃなかったからね。曙は基本、深海棲艦退治に全力なのだ。

「いいわよ、こうなったらもう一生艦娘してやるから」

 曙は筆記用具を机に転がして、体を畳に投げ出した。台風で訓練すら出来なくて暇だからって思い付きで勉強してただけだったようだ。うちの部屋に来てたのは同学年の金剛さんが居たかららしい。曙は私と同じで教科書類はそもそも持ち込んでおらず、今見ていた教材も全部金剛さんのだったりする。深海棲艦への殺意で荷物が一杯だったから仕方ないね。

「それじゃあ私と進路希望一緒になるね」

「え、そうなの。意外、あんたスポーツ選手志望じゃないの?」

「うん。艦娘続けられなくてもそっちには進まないと思う」

「……それ以前に、解放してもらえるのかな……お姉ちゃんって」

 現状最強だし、ある程度平和になっても自由になれるのかは怪しい。初雪は突然ネガティブな事を言い出した。まぁ、私としてはそれで構わないから問題にならないと思うけど。

「別に艦娘のままで困らないから私の事はいいとして、金剛さんと島風はなぁ……」

「オッ? 私? 別に艦娘続けてもいいけどねー。走れなくなるわけじゃないし」

「私も提督と一緒なら大丈夫ダヨー」

 絶対辞めたいって奴ほとんど居ねぇなこの部屋。つーか前にも思ったけど、島風意外と競技会とかに興味ないのな、私は走らせる割に。私が出なければ自分も出ないってあれは脅しじゃなくて本気だったのか。

「私は辞めたい……院も出たのに……」

「そういえば初雪って何の大学行ってたの?」

「薬学」

 初雪に薬出して貰うのはなんか不安だなぁ……

 

 

 

 勉強する雰囲気でもなくなっていたので皆で遊んでたらいい時間になり夕食へ向かう。雨はもう止んでいて、水溜まりはあるけど濡れる事は無さそうだった。明日は天気良さそうだから普通に出撃ですな。

 食堂に入ると中でスタンバイしていた大井さんがスッと立ち上がり、笑顔で私を手招きした。怖い。恐る恐る近寄ると、大井さんはわざわざ私の分の食事を持ってきてくれて、私は対面に座らされる。笑顔のままの大井さんもゆっくりと席に着くと、食事に手を付ける事も無く私を見つめて笑みを深くした。

 この後滅茶苦茶尋問された。

 

 

 

 北上さんと私はそれ程交流が無かったと大井さんに納得してもらうのにそこそこ手間取ったものの、私は無事に食堂を出る事に成功した。一部始終を隼鷹さんに肴にされたりしたけれど、あの人肝臓大丈夫なんだろうか。ともかくこれで一安心だと寮へ帰る道すがら、埠頭で二式大艇ちゃんと戯れる秋津洲さんが見えたりしたが、あれは邪魔しない方がいいよなうん。

 部屋に帰り付けば先に戻ったみんなは風呂も済ませてしまったようで、金剛さん以外は着替えて遊んでいた。金剛さんの代わりに引き続き曙が部屋に居て、何故か初雪の持ってきたノートPCでFPSをやらされている。どうやら初雪に射撃のコツを聞いてみた結果らしい。訓練所でもやってたけど意味あるんだろうか。後ろから覗いてみたら意外に善戦しているようだったけど、関係ないんじゃないかなぁ。

 

 曙が特殊部隊を仲間と連携して倒しているのを見ていたら、廊下の方から騒がしい声が聞こえて来て、部屋の扉がバァ~ンと開かれた。目線をやるまでもなく下手人は金剛さんで、寝間着姿で機嫌良さそうにドーゾドーゾと誰かを部屋へと招き入れると私達に向かって形の良い胸を張った。

「今日のspecial guestダヨー!」

「お邪魔します」

「邪魔するわよ」

 はてと思い振り返ってみれば、そこに居たのは加賀さんと瑞鶴さんである。言うまでもなくこの部屋に来るのは二人とも初めてで、恐るべき金剛さんのコミュ力を窺い知れた。

 誘われたからにはと遠慮なく上がる泰然自若とした加賀さんと、若干所在なさげにちらちらとこちらの反応を気にしている瑞鶴さん。対照的な二人は金剛さんの引っ張り出した座布団――私達の入居前から置いてあった奴――に誘導され、テレビの前に腰を下ろした。

「初雪ー、これ借りるネー」 

「え……いいけど、やるなら私もやりたい……」

 取り出したのは初雪の私物で、提艦隊で購入してわざわざこっちまで持ってきたゲーム機である。ただ初雪は対人ゲーはあんまり持っていなくて、大人数でやれるようなのは無かった気がするけど。隅で連装砲ちゃんと戯れていた島風も興味を惹かれたご様子で、連装砲ちゃん達を積み上げながら三人の様子を窺っていた。

「何をするんですか?」

「これよ」

 間宮特製紅茶を冷蔵庫から出しながら聞いてみたら、答えを返したのは加賀さんだった。懐から手に取り眼前に掲げて見せたそれは、どう見ても世界一有名な髭のレースゲームである。島風がオウッと鳴いてテレビの前に滑り込んで行った。曙や初雪もそちらに興味が向いたらしく、ノートPCを畳んだ。

 私も私もとぴょんこぴょんこしている島風を順番にやりましょうねと窘め、加賀さんはゲームを起動する。そして更新データのダウンロードが始まった。最近のゲームってそうだよね……

 

 七人分の紅茶を入れてちょっとの間だけお話ししたり順番を決めたりしている間に更新は終わり、最初の四人がコントローラーを持った。私はあぶれたので見学である。下位二人が入れ替わるルールでやったのだけど、見ていたら思ったより加賀さんはずっと上手かった。操作自体は思い出しながらって感じだったんだけど、アイテムを使うべきタイミングとかはちゃんと分かっているようで、対人戦を結構してきた人間だと分かる。

「加賀さんゲームするんですね。意外でした」

「そうね、深海棲艦が来る少し前までは付き合いでやっていたわ」

 弟が居たから。と加賀さんは呟いた。過去形かぁ……とその言葉尻に私と曙、それと金剛さんはなんとなく事情を察してしまった。表情があからさまに暗くなった曙を見て、あぶれ三人衆の一人になっていた瑞鶴さんはため息を吐いた。

「亡くなってないわよ、加賀の弟。アメリカに留学してるんだって。そこまで言うならちゃんと教えなさいよね……」

「Ahー……でも会えないのには変わりないネー」

「ええ、だから私は変色海域を抜けて、迎えに行く事にしたのよ」

 それが加賀さんのモチベーションらしい。海外の諸国がどうなってるのか分からないけど、アメリカの内陸部なら島国なんかよりは安全だろう。深海棲艦ってそれほど陸地に上がってこないし、深海棲艦に害されてる可能性は高くないと思う。深海棲艦には。

 

 言葉の足りない加賀さんは、変な空気にしたまま一位を取った。アイテムで吹き飛ばされた二位の島風は不満気だったが、それを見た加賀さんに鎧袖一触ですと挑発されて、次は勝つよーと意気込んだ。加賀さん結構愉快な性格してるな。とりあえず三位四位は交代なので私以外が行った。私、多人数実況とか見てるの好きなんだよね。

 そんな風に入れ替わり立ち代わり何レースもやっていたら、大人数でゲームをしていたのもあって紅茶のストックが切れてしまった。飲み物が無いのもなんだし貰いに行ってこようと思い容器に手を伸ばしたら、金剛さんの手が伸びてきて、さっと卓上のそれをかっさらわれた。

「Next raceで負けた人が貰ってくる事にするヨー!」

 突然の罰ゲームの追加である。いやまぁ、次の試合はこの部屋の住人四人だから丁度いいと言えば丁度いいんだけども。

 

 

 

 途中まで一位だったのにアイテムグォレンダァ! で最下位まで転落したでござる。 の巻。

 元々取りに行くつもりだったからいいんだけどそんなとこで連携するのは酷いと思います。などと思いながら寮を出ると、台風一過特有の澄んだ空気が胸いっぱいに飛び込んだ。見上げれば都会暮らしではまず見られない星の海が、鎮守府から漏れる光に負ける事無く輝いている。埠頭では秋津洲さんも二式大艇ちゃんと一緒に同じ星空を見上げていた。邪魔せんとこ。

 足音を立てないようにこっそりささっと通り過ぎて、二十四時間営業故にまだまだ賑わう食堂に足を踏み入れる。中では普通に夕食を摂る警備の方達に交じって隼鷹さんが夕雲さんと呑んでいた。結局一日中酒を手放さなかったなぁこの人。

 台風でも水中はあまり影響が無いために、実は今日も周辺の警備をしていた潜水艦のお二人に挨拶して、妖精さんに容器を渡す。金剛さんの希望でうちの部屋では紅茶になっているけど、この間宮特製紅茶は緑茶や麦茶、さらにはコーヒーなんかも選択出来る。艤装で淹れた回復効果のある体にとても良い飲み物でみんな常飲するから、酒保の飲料は今一つ売り上げが伸びないらしい。酒以外。

 

 紅茶でお願いとオーダーして、妖精さんが何人か集まっていくぞーえいえいおーと小さな体で新しい容器に注いでいく様子を見守っていると、ちょっと来てーと隼鷹さんからお声が掛かった。

「四国に夕雲の旦那さんとお子さん居るんだってさー」

「隼鷹さん!?」

 行ってみたら、いきなりそんな事をぶっちゃけられて驚いた。驚いたのは隼鷹さんから言われた事にであって、内容にではないけれどね。夕雲さんの事は正直、大体見当がついてたし。夕雲さんは若年層にそういう他人の事情が少しでも負担になるのは避けたかったようで、私含めた中高生にその手の話は全くしていなかったんだけど、四国って言われた時の態度があからさま過ぎたからたぶん皆気付いてると思う。秘密を公開されてしまった夕雲さんはかなり動揺して、見た事ない程狼狽していた。

「どうして……」

「分かり易かったし。匂わされてモヤモヤするくらいなら、スッキリハッキリスパッと説明した方がマシだって」

 それはそうだけど、勝手にやるのはどうなんですかね……? いやでも自分からは絶対言わなかったろうしなぁ。

「だからって、何も一番大変な子に……」

「そりゃあ違うね」

 自分がどんな顔して戦ってるか分かってる? 隼鷹さんにそう問われて、夕雲さんは言葉に詰まった。私は一緒に出撃しないからよく知らないけど、そんな酷い顔してたのか。反応的に多少自覚はあったっぽいかな、こっちには見せないように気を使ってたんだろうなぁ。

「一番大変な事になってるのはあんただよ。他人に気を使ってる余裕なんて無いだろ、フォローしてもらうくらいのつもりで居な」

 駆逐艦の中でもレーダーやソナーに長けた夕雲さんは索敵の要みたいな部分がある。特に艤装を改造してからはそれが顕著で、動かず待機している潜水艦でも見つけてくれていた。らしい。

「自分が潰れたら沈むのは他の連中だってのは分かってるだろ? 追いつめられて切羽詰まった精神状態じゃ見つかるもんも見つからないって。気付かれない様にとか、心配かけない様にとか、気が急いてる時にそんなのに意識回してたら全部中途半端になっちまうよ」

 それに……と隼鷹さんは一度言葉を切って、私をじっと見つめて来た。数秒目と目が合う。それだけで隼鷹さんは何かを確信したのか視線を外し、夕雲さんと向き直った。

「この艦隊で一番余裕があるのは吹雪だよ」

「ええっ?」

 言われた事が意外過ぎたのか、夕雲さんは普段あまり出さないような高い声を上げた。でもたぶんその通りだわ。私、チート能力で体力的に余裕があるし、チート能力で戦闘力高すぎて戦闘として成立してないレベルだから精神的にも何の問題も無い。

「むしろ真剣味が足りないくらいじゃないかね。仲間の事情くらいは積ませといた方が安定するってもんよ」

 おお初めて言われたわそれ。解釈完全一致だわ。私お気楽過ぎだよね、真面目にやってはいるつもりだけど必死さとか全然無いからね。分かる人には分かるんだなぁ。

「吹雪に余計な世話をかけずに済む奴で選んだ、なんて話もあったけどさ、肝心の吹雪は容量駄々余ってるようにしか見えないんだけど?」

 どう? って聞かれたので、私は深く深く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪って怒ったりしないのかしら」

 吹雪が飲み物を貰いに部屋を出て少ししてから、曙がぽつりと呟いた。今さっき、吹雪は示し合わせたような他プレイヤーの連携攻撃で最下位まで叩き落とされたのだが、それを怒るでも嘆くでもなく、楽しそうな笑いを漏らしていた。笑うしかなかっただけかもしれない。

 曙は宮里艦隊に配属された当初は吹雪と相部屋で暮らしていたのだが、その頃の事を思い返しても吹雪の目が吊り上がった所を見た記憶が全く無い。変な動画で声を抑えて笑っている所なら何度も見たが。

「そうだネー、私が冤罪掛けた時も怒りはしなかったヨー!」

「え、何それ何やったのあんた」

 金剛は勘違いで吹雪を校舎裏に呼び出し詰問して、誤解を訂正されて、背中を押された事がある。たぶんそれが無ければ今ほど仲良くはなっていなかっただろうと金剛は思っていた。

「ブッキーは中学校で評判最悪だったんデース。話してみたら良い子でしたケド」

「コミュニティでも噂と実像がかなり違うと話題になっていたわね」

 わざと順位を落として雷を引きつつ、加賀も話題に参加した。艦娘専用のコミュニティ、スマホ限定で組まれたそこは、既に未参加の艦娘達の噂が飛び交う魔境となっている。そんな場所なので、あらゆる部分に突っ込み所が存在する吹雪の話題は当然のように頻出していた。

「……あれは本人に見せたくないわ」

「お姉ちゃんあれくらいなら笑って流しそうだけど……」

 ねらーだし。悪口雑言は見慣れているだろう、と実像をよく知らない瑞鶴に言っていたら、初雪の車は加賀に踏み潰された。

「自分の顔でふざけた画像作られても笑ってられるくらいだしねぇ」

 コラについてはむしろ曙の方が憤慨していたくらいで、本人は面白がってPC内に保存していたりもする。自分の事のはずなのにどこか他人事のようで、吹雪のそういう所が曙はちょっとだけ苦手だった。

「吹雪は怒る前に手が出るよー」

 お菓子横取りしようとしたら関節を極められたと島風は言う。その他にも、起きて来ないのでフライングボディプレスしたり、お菓子を食べた手で漫画を読もうとした時なんかもそうなった。

「それは島風が悪い」

「怒りはしないんだ……」

 艦娘になる前からの友人である島風と金剛も、吹雪が怒りを露わにする所は見た覚えがない。そもそも全体的に感情表現は薄く、一番感情が出るのがオタク友達と遊んでいる時だったと島風は語る。

「だから男好きとか言われてたみたい、趣味が合うのが男子ばっかりだったから」

 実際にはそういう興味はないと本人が公言してからも、その手の目線は多かったらしい。すこぶる美人なのである程度は仕方がないとも言えるが。

「変なのに付きまとわれたりしてた時も怒ってはなかったし。あ、もちろん嫌がってはいたよ」

 余談だが、その変なのは霧島の身内に〆られて姿を消した。閑話休題。結局、二人も本気で怒る所を見た事は無いのである。島風は結構はたかれたりねじられたりはしていたが、注意の範囲内だろう。

「あ、でも前にこれをやられたらキレるかもって本人から聞いた事ありマース! 意味は分かりませんでしたケド」

 その言葉で全員の注目が金剛に集まった。島風も聞いたことが無かったので興味津々である。金剛は額に指をあて、ムムムッと力溜めて、しっかりと思い出そうと記憶を探った。暫くの後、カッと目を開くと高らかな声を響かせる。

「確かそう、『百合の間に男を挟む』って言ってたデース!」

 その瞬間、部屋の扉が勢いよく開かれた。驚いた皆がそちらを振り向けば、そこに立っていたのは秋雲だ。何故か入り口に立ったまま、瞳を閉じて腕組みしながら腹の底から言霊を絞り出した。

「分かる……!!!!」

 それだけ言って扉が閉じられる。何故だか異様なほどに実感と苦痛の感じられる叫びであった。

「…………注意書きもなく……急に生やされるのも嫌だよね……」

「分かる……!」

 初雪の呟きに呼応してまたしても扉が開かれ、一言発してまた閉められる。

「いやもう普通に入ってきなさいよ!?」

 曙に怒られた。

 

 

 

「あれ、秋雲先生こんばんは」

「おばんー」

 両手に一つずつ紅茶と緑茶の入った容器を抱え、吹雪が部屋へ帰還した。出発時点よりも数が増えているが、人数を考慮しての物だろう。それか自分が飲みたかったか。

「お姉ちゃん」

 ちゃぶ台に茶を置き秋雲用のコップを出している吹雪に、負けて転がっていた初雪が擦り寄って行き声をかけた。最早定着してしまったのか、誰も呼び方には突っ込まない。

「私、昔同人活動してたんだ……」

「あ、そうなんだ」

 意外そうではない。吹雪も初雪も所謂オタクであるために、お互いそういう事をしていてもおかしくないと思っていたのだ。

「あんまり売れなかったんだけど……一つだけ完売したのがあって……」

 周囲の雰囲気が変わる。行くのか、本当に行くのかと秋雲は視線を画面と行ったり来たりさせ、金剛は知らないからネーと頬を引きつらせた。島風は状況がよく分からなかったのでレースに集中している。

「青山と真手の間に男挟んだら売れたわ」

「なんだァ? てめェ……」

 吹雪、キレた!!

 

 

 




ちゃんと嘘だって謝ったら許してもらえた模様。


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転生者が あらわれた!

 他人の性癖を弄ると待ってるのは戦争だけだから……やめようね!

 台風が過ぎ去って、普段通りの出撃頻度へ戻った宮里艦隊は前へ前へと進んでいた。ペース的にはかなり順調で、第二期適性者が各地に配属されるまでに目標は達成出来るんじゃないかな。

 って思ってたのが先週の話。私達は紀伊半島を折り返し、ついには四国が見える位置まで到達していたんだけど、そこから先が酷かった。姫級はそんなに居なかったんだ、今までの海域よりも少ないくらいでもしかしたら丁度空白になってたのかもしれない。その代わりにうじゃうじゃと四国の方からやって来たのが航空機の群れである。

 数が多すぎて対処しているだけで弾薬が底を突き、速度差があるから無視して突破も不可能という嫌がらせ。四国に大規模な航空基地が建設されてるのは明白だった。

 変色海域の核の位置を探している間に襲われる。弾薬が減って来たから速吸さんに補給してもらってたら襲われる。変色海域の核を破壊して帰ろうとして襲われる。上空を警戒してたら潜水艦も来る。対潜も気を抜かずにやってたら満を持しての姫級のご登場。地獄かな?

 それに加えて敵だって取り返された海域を放っておいてはくれないから、一晩経ったらまた変色海域化してたなんて事もざらにある。なので、その侵攻部隊の対処を任されたのは私達第四艦隊であった。何故かと言えば姫級鬼級が部隊を率いてる場合が多かったからで、私たち以外だと被害が出るため結果的に進行が遅れるかららしい。

 そんなわけでこのままじゃ目標地点にいつ到達できるか分かったもんじゃない。って事で進むために何種類かの方法を宮里提督たちが考えて、ある軽巡洋艦が進言した一つの案が採用された。

 夜戦である。

 クリーチャー染みた外見をしているため意外に思われるかもしれないが、この世界の深海棲艦は夜目が利かない。普通の人間よりは利くのかもしれないけれど、昼間に比べて視界が狭まるのは間違いなかった。そして敵の飛ばす航空機たちも夜間専用でなければ夜はまともに使えず、しかもそっちの数は圧倒的少数。まぁこっちの夜偵とかもあんまり無かったから増産で悲鳴を上げる明石さんとか見られたんだけど。

 でも、それに加えてこっちには夜戦を有利に運べる道具が存在してたのだ。そう、いつぞや作られた深海棲艦識別用暗視ゴーグルである。

 宮里艦隊では川内さんしか使えない。そもそも島の中で敵の待ち伏せとか全然なかった。装備スロットを使うから付けてると火力が減る。等々の理由からあまり評価されてなかったそのゴーグルなのだが、実は川内さんはずっと装備し続けていて、この度ようやくその真価を発揮する時が来たのだ。

 私と島風は夜戦部隊には参加していないので完全に人づて――っていうか秋雲先生に聞いた話になるのだが、その性能は夜の海じゃかなり頼りになったそうな。

 

 夜戦が承認された瞬間、川内さんのテンションはおかしくなった。やっぱりというかなんというか、集合無意識側からの影響はかなり大きかったらしく、やったぜってハイタッチさせられた。多摩さんもそうだったけど艦娘に寄るとフランクさが増すなぁ……ちなみに私達は再侵攻を防ぐために昼間に出撃だったから夜戦やらないんだけどね。

 夜戦となれば主役になるのは軽巡や駆逐艦である。なので水雷戦隊である第三部隊を再編して、夜戦部隊として艤装を黒塗りにしたりとかして川内さんは元気に出撃して行った。

 そしてその夜、川内さんは大活躍したのだ。近接戦闘で。

 いやいやなんでそんな事になったんだよって思ってちゃんと聞いてみたら、例のゴーグルは夜間の索敵では当然のように高性能を発揮して、先制攻撃に成功。勢いでそのまま制圧して、核の破壊を他に任せて周囲を見張っていた川内さんは、敵の増援を発見したらしい。

 纏まっていた他の艦娘達に気を取られ、一人少し離れていた川内さんに気付かずに深海棲艦達は前進して来る。なので川内さん、砲戦が始まった瞬間に奇襲を仕掛け、敵旗艦に肉薄した。背後から突き刺さる砲弾に動転した軽巡ツ級は、続く魚雷によって哀れ爆発四散。残った烏合の衆は逃げる事も出来ず、至近距離のはずの川内さんを見つけ出す事すら出来ず殲滅された。

 まぁ私が直接見たのは勝手に凸った川内さんが長門さんに怒られてる所だけだったんだけどね。

 

 そういうわけで、私達は歩みを進める夜戦部隊と拓いた海域を維持する昼戦部隊に分かれてお仕事したのだ。夕雲さん等からしたら見えているのに向かってはいけないのはかなり歯がゆいと思うけど、まず避難経路を作らないといけないからなぁ。助けに行って帰れないとか洒落にならん。

 私と島風は敵の輸送部隊から変色海域の核を奪い取ったり、発生してしまった変色海域に戦力が揃う前にカチコミをかけたりとあちらこちらを飛び回っていた。近場で量が多いのとかは長門さんや金剛さんが何とかしてくれるので、私達が行かされるのは基本遠い所である。深海棲艦側から見たら機動力がおかし過ぎて複数の部隊にやられてると思われてたんじゃないかと思う。

 

 

 

 そんな生活がしばらく続き、到達しました大阪湾。ここと向かいの淡路島の解放のためにまたお引越しである。と言っても越せる建物を探すところからだったから数日かかったけど。 

 私達の目標は淡路島の方で、四国はそこから攻略するらしい。とはいえ、大阪湾を無視して淡路島に行く訳にも行かないからまずはそっちを取り返さなきゃいけない。

 だがこの大阪湾、一筋縄では行かなかった。変色海域の核が見つからなかったのである。

 というのもこの海域、入ってみたら変色海域の核を細かく砕いたもの――クジラを倒す前に輸送機が持ってきてたあれよりさらに小さいものが多数ばら撒かれていたのである。コスト重くね? って思ったけど効果は覿面で、羅針盤妖精さんの羅針盤はぐるぐるぐるぐる大回転。大きいのがどこにあるのか全く検知出来なくなってしまった。

 さらに悪い事に一々回収してもそれらは翌日にはまたばら撒かれているのである。資源的にはかなり美味しいんだけどね、目的さえなければこのまま受け取り続けたいくらい。当然そんな訳には行かないので、もう無視して本命を探しましょうって事で、ローラー作戦的にあちこち回り、何日も足止めを喰らって今に至る。

 せめて全員で当たれれば良かったんだけど、残念ながら私達第四艦隊は攻め上がってくる敵艦隊を相手しなきゃいけないから捜索には未参加で、今日発見の知らせが入った時にも北方棲妹を他界他界している時だった。

 発見場所は海の底。そりゃあ見つからない訳である。発見者はイムヤさんとイクさんで、見張りすら居なかったのでほぼ完全な状態で持ち帰れたそうな。見張りがソナーに引っかかったら困るからそうなってんだろうか、本気でただの嫌がらせじゃねーか。

 そんな感じで色々障害はあったけど、あんまり私は関わってない感じである。役には立ってたと思うようん。

 

 

 

 さて、今日は大阪湾大掃除である。海底の本体を回収した結果、海の上の細かいのを取り除けば大阪湾は解放出来る事になったので、第一から第三艦隊までのほとんどの艦娘で回収していくらしい。

 うん、また第四艦隊は別任務なんだ。済まない。敵が来るから仕方ないね。でもまぁ、それも今日までの話である。

 実は今日、第二期適性者が配属される予定なんだ。結構先だと思ってたら滅茶苦茶足止めされて気が付いたら一月経ってたんだよ。怖いわー、人手不足怖いわー。

 一応、新しく艦娘が配属されたらすぐ四国行けるようにするのが理想って話だったみたいだけど、公的には宮里艦隊の目標は大阪湾奪還までとされている。つまりギリギリセーフである。っていうか、そっちでも無茶振りだったんじゃないのかこれ。宮里提督陥れられてない? 大丈夫?

 それで、二期の人達が配属されるとなんで私達がやってくる侵攻部隊への対処をしなくてよくなるのかというと、それは新しい提督たちの新しい鎮守府が設立されるためである。宮里艦隊が受け持ってた所を他の艦隊が代わりに維持してくれるようになるのだ。

 ちなみに代わってくれるのは比叡さんのところである。島風が最初に所属してたとこだね。元々比叡さん達の居た所に新しい艦隊が入って、私達の居た所に比叡さん達が入るらしい。

 あとなんか、艦隊名は前と変わってた。不思議だね!

 

 そんな話を島風とせずに、今朝変色海域化したばっかりの地域を元に戻す。移動が手間なだけで基地作って待ち構えてる連中と比べたらちょろいもんだぜ。

 そう思いながら核を二つに折る。ちょっと正方形だったけどやってみたら折れた。その瞬間、一瞬だけ、ほんの一瞬だけであるが、私の艤装に救難信号が届けられた。

 妖精さんはかなり優秀で、その一瞬だけで方向を特定してくれて、宮里提督にも確認を取り大急ぎで救助へ向かう事になった。

 

 

 

 島風を抱えて海を走る。妖精さんがお亡くなりになりかねない高速機動で世界を縮めながら、発信されてた方向へと水平ジャンプを繰り返す。腕の中の島風はノリノリで、すごく楽しそうだった。連装砲ちゃん達は振り落とされまいと必死にしがみついている。

 なんで私が走っているのかといえば、救難信号が一瞬だったからである。これはつまり、出した人間が救難信号を出す事すら出来なくなってる可能性があるって事だ。さらに言えば、出された信号が艦娘専用のものだったんだよ。どこの誰だかは分からないけど、なんでこんなとこに居たんだろう。

 飛鷹さんの時と同じで羅針盤妖精さんに方向を修正してもらいながら脚を動かす。そして見えて来たのは一つの小島。後で確認したら以前にも来た事があったその島の上に、見た事の無い女性が若干困った様子で立っていた。

 まず見えたのが後ろでまとめられた青灰色の髪で、余りの部分が肩に掛かっている。艦娘としては珍しい普通の軍服のような制服を身にまとい、背負う艤装も見覚えが無いが、航空機の運用を念頭に置いた設計なのは見て取れる。眉を寄せて辺りを見回すその相貌はかなりの美しさで、特徴的な泣きぼくろがそれを引き立てていた。

 その頭上には丸い、どうやって飛んでるのか理解できないような形状の敵航空機が複数旋回して、どうやらその艦娘に狙いを定めているようだった。すぐにでも銃口が背面を捉えるが、当の本人はそれに気付いていないのか身を隠そうとすらしていない。

 なので私は島風を放り投げ、さらに速度を上げた一歩を踏み込んだ。音や光は無理だとしても、風くらいは置き去りにして、女性の背後へ回り込む。それと同時に敵機から無数の弾丸が放たれた。

 

 私の動体視力はその全てを捉える。当たるのも、当たらないのも、避けられるのも、避けられないのも。当たらないのは無視でいい、避けられるので避けたら後ろの女性に当たるのは避けない、避けられないのは避けられないからしょうがない、まとめて一緒に打ち落とす!

 連装砲と機銃を両手に構え、だが砲塔は使わない。っていうか妖精さんがぶっ倒れてるから使えない! 必要なのは側面の装甲部分、分厚くなってるその場所だ。それと靴の装甲部分。

 迫る弾丸、弾丸、弾丸の雨。でも大半は無視でいい。どうせ急所に当たらない。多少の被弾は無視でいい。どうせ撃ったり出来ないんだから、大破しようが関係ない!

 私の頭に真っ直ぐ飛ぶ、避けてはいけないその弾を、避けられないならどうするか? 喰らう? 受ける? 耐え忍ぶ?

 いいえ、私は逸らします。左で一発、右で二発。右足三発、左で四発。勢い付けて艤装で五発。後はなんかもう数えない。こういうのはノリだよノリ。チート強化で異常になってる私の手足の器用さは、普通の弾の軌道なら、無理矢理無理くり変えちゃえる。弾と装甲が触れ合う一瞬、ソフトタッチで軽く押し、無害な場所へ受け流す! やれると思っていたけれど、実際やるのは初めてで、思ってたよりも簡単だった。

 傍から見たら私の手足、えらい勢いで動いているように見えるだろうけど、まぁその辺りはしょうがない。いつの間にやら弾を止め、突っ込んできた艦爆を、跳んで掴んで叩きつける。私の武装が使えないなら敵のを使えばいいじゃない。爆発物を積む方が悪い。自爆されたら困るけど、どうやら出来ないみたいだし。

 敵機を敵機に打ち付けて、余った奴を踏み潰し、気付けば空の音は止み、敵は姿を消していた。周囲にあるのは無惨に飛び散る残骸と、引き攣った顔の全く知らない艦娘さん。

 うん、まぁ……もうちょっと落ち着いて生きるべきかな私。

 

 

 

 助けに入った少し後。私は戦慄していた。なんだこの子。

「ゴト、だいじょうぶ? 怪我してない?」

 私の知らない艦娘の女性が、私の知らない艦娘の少女に心配されている。日焼けした肌が眩しく小柄で可愛らしい、袖無しの水兵服を着た、私よりも年下だと思われるその子は、まぁなんというか、どう見てもマエストラーレ級。っつーか、服にLIって書いてあるから三番艦のリベッチオだろう。

 この子は私が航空機を全滅させてからすぐに、海の方からえらい勢いで突っ込んで来た。これは過剰な表現でなく、本当にとんでもない速度が出ていたのだ。具体的に言うなら、普通の六倍とか言われた私や島風以上。七~八倍は出てたんじゃないだろうか。

 そんなスピードで飛びついたものだからやられた側はたまったもんじゃない。艤装を付けているからダメージは無いだろうけど、押し倒されるを通り越して少し地面を削りながら島内へ押し込まれていた。ぅゎょぅι゛ょっょぃ。

 いや冗談抜きで、なんだこの子。ヤバいわー海外艦ヤバいわー。いや、海外艦っていうかこの子がなんだろうけどね?

 私は今さっきの航空機の攻撃も含めて、命の危機を感じた事は無かった。でも実は、これがチート能力で生死に関する判断力も強くなってるのか、ただ単に私が能天気で愚鈍なだけだったのかはさっぱり分からなかったんだ。

 でもはっきりした。私は前者だった。チート能力さんそんなとこも強化してくれてた。目の前でひたすら心配しながら、ゴトと呼ばれた艦娘に怪我が無いかぺたぺた触って確認している女の子のおかげでそれが分かった。

 

 こいつ、私より強くねー?

 

 ヤベーのが居る、としか言いようがない。見ているだけでなんとなく分かる。この子強い。超強い。気から戦闘力測れるとかそういう訳じゃないけど、今まで見知った艦娘とは全く違う。初春さん――本物の艦娘の初春さんともまた違った気配で、小さな体の奥の奥から、底の知れない力を感じる。敵対されたら生き残れるだろうかってレベル。少なくとも基礎スペックで負けてる自信がある。ゴトランドさんの方は何も感じないけど、推定リベッチオの方はこれ、間違いなく私より適性値が上だわ。

 

 って言ってもまぁ、恐怖感とかは別に無いんだけどね。実際にそんな事は妖精さんがしてくれないから。私が艦娘に砲口を向けても撃ってくれない様に、私が艦娘に砲口を向けられても撃たれる事は無い。艦娘同士で殺し合いは出来ない様になってるのだ。そもそも相手に敵意とか無さそうだし。

 そしてたぶん、この子は艤装を外したら普通の子だ。筋肉の付き方とかが島風や長良さんなんかと全然違う。何かしらの運動のために鍛えたりは全くされていない。なんなら艦娘として必要な筋肉すら発達していないように見える。

 なので私を害せる力はあるけど脅威ではない。と思う。この結論に至るまで一秒くらい。やっぱ生存に関する能力強化されてるだろこれ。勉強は全然楽になってないのはどういう事なんだよマジで。

 

 

 

「助けてくれてありがとう、自己紹介をさせて頂戴」

 纏わり付く最強に見える幼女を窘めて、艦娘の女性は私と膨れ面の島風にお礼を言って来た。島風は急に投げられたのが不満なご様子。そりゃそうか、教官長の心が広かっただけでこれが普通の反応である。

「私はゴトランド、艦娘として働いているわ。それでこっちはリベッチオ」

「リベだよ、よろしくね……?」 

 やっぱり海外艦らしい。ゴトランドさんは非常に友好的な笑みを浮かべているが、リベッチオの方はなんだかおっかなびっくりというか、若干緊張しているように見える。島風がよろしくーと軽い調子で返事をしたら、そっちには人懐っこい笑みを向けた。

「ええと……お二人の所属を聞いてもいいでしょうか」

 ゴトランドはスウェーデン、リベッチオはイタリアの艦である。今まで海外艦の艦娘って見た事無かったから、組み合わせはよく分からんが、もしかして外国からやって来た人達なのかなぁと思ったのだけど。

「私達は大本営直属、つまり楠木提督指揮下の艦娘です。外国人を大々的に戦いに参加させられないから……って言ったら事情を察してもらえるかな」

 違ったらしい。日本に逗留していたら帰れなくなってしまった外国籍の人間で、放っておくのは惜しい適性値を持っていた人達、とゴトランドさんは説明してくれた。確かにリベッチオは見えた部分だけでも滅茶苦茶な速度を持ってたし、あれを捨て置く手は無いだろう。

 私は別段疑ってなかったのだけど、ゴトランドさんは証拠にと言って楠木提督と通信を繋ぎ、一月くらいぶりにその渋い声を聴く事になった。楠木提督からは宮里提督以外には秘密にしておいてくれと言われたので存在が機密だったのかもしれない。報告自体はちゃんとやってもいいらしいので一安心。ところでゴトランドさんの呼び方が多聞丸だったんだけどどういう関係なんですかねお二人。怖くて聞けねぇ。

 

 任務の内容は極秘だからと当然教えて貰えなかったけど、とりあえず二人ともこの島に置いて行って大丈夫らしい。さっきのアレのせいでリベッチオはともかくゴトランドさんはちょっと心配になるんだけど、ゴトランドさんは大丈夫だと言う。まぁ本人がそういうなら大丈夫なんだろう。救難信号もリベッチオ宛てだったみたいだし。

 私とゴトランドさんがお話ししている間、リベッチオは島風と歓談していて、話しぶりから知らない相手でもフランクに話の出来るタイプだと察せられる。でも私が目線をそちらに向けてみたら、なんだか怯えるような態度になってゴトランドさんの後ろに隠れてしまった。

 まぁ、航空機相手に暴れてるの見られただろうからなぁ。仕方ないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イェータ・月島のチート能力、『たしかに』『いた』は一言で表してしまえば過去改変能力である。

 名字や使える艤装の種類からしても、明らかにどこかの秀九郎さんを意識した能力に仕上げられているのだが、それとは明確に違う点が幾つもある。というか、完全に別物と言っていい能力になっていた。

 細かい事は省くが、彼女の能力で過去を改変する場合、まず彼女の分身体が過去に送られる。その分身が起こした結果は全世界的に適用され、改変前の世界は転生者たちの記憶に残った残滓を除いてそもそも無かった事になる。

 作り出される分身は送り込む先の時代のイェータ自身と同スペックとなる。持ち物も発動先の時代の自分が所有していたものしか再現できない。同じ時代に複数送り込むことは出来るのだが、一人の人間が複数のイェータを同時に直接認識してしまった場合、全てがその時点で消滅してしまう。そのためやりたい放題かと言われるとそうでもなく、自身が生まれる前には影響を及ぼせないし、何も出来ない時期もかなりあるのだ。

 イェータが艤装を欲したのはこの仕様のせいである。あの時点まで改変能力があっても避難誘導や救助くらいしか出来ず、戦う事は出来なかったのだ。受け取ってからの後は全世界に自分自身を展開して、ゴトランドとして人々を守っている。未来の世界で都市伝説的な存在として語られるようになってしまうのはご愛敬である。

 適性値は普通の基準で言えば高く、航空巡洋艦であるため単体でもかなり戦えたのが功を奏し、人助けは順調に行えた。その助けられた人々の中には、転生者の姿もあった。

 

 

 

「あれが日本最強の艦娘……悲しくなるくらい戦闘力が違うなぁ」

 人を――合流予定の丹陽を待つため別れた吹雪と島風の姿を見送りながらゴトランドは独り言ちた。ゴトランドは別に弱くはない。それどころか艦娘全体で言えば上位に入る。ついでに少しくらいなら絡んでも問題ない提督に絡んでドーピングしておいたので、最初よりは多少強くなってもいる。

 だが、戦闘向けのチート能力とそれ以外の明確な差はいかんともし難かった。どうして自分を庇いながら敵の弾丸を打ち払っておいて、無傷で元気に帰って行けるのか。ノータイムで救助に体を張れるとてもいい子だとは思うのだが、内心ドン引きであった。いや本当に、素敵な娘だとは思うのだが。

 隣のリベッチオを覗き込めば、水平線に消えるまでじぃっと吹雪の方を見つめていて、強く意識している事が窺えた。

「勝てそう?」

「無理だよ!?」

 大声で言われて、ゴトランドはきょとんとしてしまう。リベッチオは見れば分かるでしょ、という態度だったが、ゴトランドからすれば意外だった。事前にされていた話と少し違っていたからである。

「多聞丸は貴女がこの世界で最強の艦娘だって言ってたじゃない?」

「違うよ、楠木提督は『艦娘として最強』って言ったの」

 リベッチオは胸いっぱいに爽やかになった空気を吸うと、思いっきり吐き出しながら砂浜に座り込んだ。

 リベッチオだって結構自信があったのだ。初めて艤装を付けた瞬間にこれが自分に与えられた力なんだと理解して、これなら深海棲艦達も蹴散らせると確信を持った。少数ながら知り合った他の艦娘達と比較しても圧倒的な自分の能力に、一人でも大概の敵はどうにかなるだろうと考えていたのだ。でもなんか、あれは違う。

「私は敵の弾丸受け流したりとか、出来ないからね? 飛行機と同じ高さまでジャンプも出来ないし、爆発するようなの手に持って殴りつけるとかも、やったら手の方が吹き飛んじゃうから絶対無理だよ?」

「……あれって艤装の防御能力のおかげじゃないの? それならリベもかなり……」

「違うよ!?」

 それは絶対違う、とリベッチオは叫んだ。あんなのと一緒にされたくない。そんな思いが喉から飛び出した結果である。

「それなら艤装がちょっとは傷ついてるよ、あれはたぶんね、弾も爆風も見切ってるの。防いでるんじゃなくて流してるんだよどっちも」

 有体に言って頭がおかしい。適性値が高ければ動体視力や体を動かす速度も強化される。成程その通りである。リベッチオの適性値は間違いなく人類最強であり、超高水準の肉体強化が遠距離精密射撃を連射可能にしたりはする。でも、だからと言って、弾丸の軌道を見切ってノーダメージで逸らすなどと言うのはやれと言われてもやりたくないし、絶対に自分からやりに行ったりはしない。やって出来るか出来ないかという以前の問題なのだ。

「もし戦ったら……たぶん、お互い最初の一撃で艤装が壊れて、そのまま海の上を走って来た吹雪に殴り殺されて終わりだと思うなー」

 それくらい出来そう。艦娘としては自分の方が強いだろうというくらいの自負はあるのだが、それ以外の部分で相性が最悪という気しかしない。吹雪が視てなんとなくリベッチオの強さを感じたように、リベッチオの方も吹雪の中で猛る力を理解してしまっていた。

 お互い駆逐艦故か、それとも単に適性が被ったのか、装甲に対して攻撃力の方が高く、当たればどちらも一撃で、弾速がおかしいので避けられないのも同じだと感じる。なのでサーチ&デストロイし合って同時に発砲ともなれば、二人とも艤装だけ崩壊して、裸一貫での殴り合いに持ち込まれる可能性は非常に高い。

「私は艤装を付けてる時は『みょうに』『つよい』だけで、それ以外はふつ~の女の子だから。模擬戦ならともかく殺し合いならあんなの絶対勝てないよ」

 装備が全壊したと思ったら、中の生身の部分が普通に超高速でぶん殴ってくるとか悪夢でしかない。勝てるか馬鹿。そもそもリベッチオは吹雪と違って体は強くないのだ。

「普通に死に掛けてたくらいだものね……」

 リベッチオはチート能力有りと言われて転生したにもかかわらず一切発現の兆候がなく、悪化した世界情勢の煽りを受けて今の時代でありがちな死に方をする所だった。幸いゴトランドによって救助された訳なのだが、本来辿るはずだった末路の記憶は彼女の脳裏に焼き付いていた。

「餓死って辛いんだよー」

「軽く言うなあ」

 チート能力『みょうに』『つよい』は条件を満さないと効果を発揮しないタイプの能力である。常時発動万能型の『なんか』『つよい』と比べると圧倒的に汎用性で劣り、最高出力はかなり勝っているという扱い辛い能力なのだ。そのため普通に生きるのには一切役に立たない。産まれは結構恵まれていたのだが、不幸な事に家の立地は海沿いで、深海棲艦到来の第一波で一家は離散。リベッチオは飢えて死に掛けた。 

「というかね、そもそも戦果比べの話のつもりだったんだけど……」

「そっちはもっとむりー」

 燃料弾薬無しで戦えそうな奴にどう勝てというのか。リベッチオは丹陽が北方棲姫に連れられて来るまでふて寝を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通信だと誰に聞かれるか分からないし、とりあえず救助は成功したとだけ伝えて私と島風は帰港した。ちゃんと報告しないとだけど報告書にどこまで書くべきなんだろうとかあれはちょっと怪しいよなぁとか考えていると、港の方がなんだか少し騒がしい。

 陸へ上がって声のする方を覗いてみると、そこに居たのは今日留守番だった曙と龍驤さん、それと見知らぬ三人だった。

 一人は小柄に茶色のポニーテールのニコニコ笑う可愛らしい少女。その隣には白髪で表情の読み取れない、黒い帽子を被った女の子。奥には凛々しい表情の、黒い長髪を左で纏めたサイドポニーの女性。どうやら鎮守府を案内されているようで、恐らくはこの三人が新たに艦隊に加わる第二期の人達なんだろうと察しがついた。

 人数少ないなぁと私は思ったのだけど、新しい鎮守府が設立される事もあり、ほとんどの鎮守府はそもそも人数が増えないんだとか。宮里艦隊はやらなかったけど、大抵の場所は新人が数人入る代わりに同じ数だけ新しい鎮守府に異動になったりするんだそうな。

 宮里艦隊に来ても大丈夫と判断されるくらいだしきっと優秀なんだろうなと思いながら眺めていたら、島風と連装砲ちゃんが目を輝かせて走って行った。新人だーと大はしゃぎで三人の周りを跳ね回り、新人さんの方も本物だぁと騒いでいた。その中の一人の声がなんだか妙に耳に残った。

「吹雪、あんたも来なさいよ」

 島風が居るのだからと当たりを付けたのだろう、私を見つけた曙が名前を呼び、釣られて三人の視線がこちらを向く。仕方ないので歩いて行くと、新人さん達はなんだかざわざわ本当に居たとかなんとか言っていた。私何だと思われてるんですかねぇ。

「こんにちわ、駆逐艦の吹雪です。よろしくお願いします」

「重巡洋艦の那智だ。よろしくお願いする」

 那智さんが真面目そうな表情で挨拶を返す。しっかりしていそうでなんだか安心した。

「響だよ。生放送は見てたよ。よろしく」

 その情報は要らなかった。いや、艦娘になる人たちは大体見たんだろうなぁとは思ってたからいいんだけどさぁ……私と同年代か少し上か、なんだか掴みどころが無さそうな子だった。

 最後に残ったポニーテールの子はなんだか緊張した面持ちで、私の方に一歩進むと顔を紅潮させて叫んだ。

「睦月型駆逐艦7番艦の文月ですっ。よ、よろしくお願いますっっ!!」

 かわいい。いや、ほんと可愛い。すごく可愛い。超かわいい。

 声が。

 何この子、声優さんみたいな声してる。文月だから? 文月だもんね。文月じゃしょうがないよね。

 私はオタクな訳だが、別に声優さん大好きって訳ではない。ただそれは所謂声優オタクじゃないというだけで、ダメ絶対音感はそれなりに高レベルだし、なんなら顔の良し悪しよりかは声の良し悪しの方が評価に影響したりする。どうせ聞くなら多少下手でも声優のカバー曲の方が好きだったりもして、他人に好きな楽曲をお勧めできないのが私です。

 そんな私が聴いた瞬間こいつぁ上物ですぜ旦那ぐへへってなるハイパーボイスをその小さな体から響かせたのが目の前の文月である。ちょっと上擦っているのに掠れたり濁ったりしていなかったのが素敵。

 文月は大声になってしまったのを気にしてか、はわわあわわと少し後ろに引っ込んで行った。はずかしーと呟くその声も大変可愛らしい。

 この子が声優になったら絶対推すねってくらいの勢いで居たら、龍驤さんがじゃあそろそろ行くでーと引率のお姉さんをし始めて、三人はそちらに注目した。なので私はもう完全に勢いで、こちらを見ていない隙に小さな声で聖句を唱えた。

「世に文月のあらんことを……」

 言い終わる直前、急にこっちをちらっと振り返った文月とおもっくそ目が合ってしまった。気まずい。

 文月は目をぱちくりとしばたたかせ、ふふっと笑って、私にとって致命的な事を言い放った。

「それ、流行ってるんですか?」

 

 は? 何が?

 一瞬理解出来なかった。私が言ったのは前世でたまに見た広義過ぎる意味でのネットミームの一種である。そう、前世の物なのだ。

「これ聞いたの、どこかで」

 若干だが自分の声が震えているのが分かる。頭が血が上ったように熱くなって、指先も震え出す。私の様子が変だと気付いたのか何なのか、文月は少しだけ躊躇ってから口に出した。

「さっき、工廠で、妖精さんが」

 私は地面を蹴った。

 

 

 

 工廠へ向かって突き進む。位置は上陸地点のすぐそこだから、無理矢理数歩で到達する。遠慮する余裕も無いので勢いよく扉を開け放つと、たくさんの妖精さんと明石さん達がなんだなんだとこちらを向いた。

 どいつだ、どいつが言った? 妖精さんは今日これまで、おかしな言動は数多くしても前世に関わるワードを呟くような奴はいなかった。だから今の世界に無いはずの物を知ってる奴は、きっと私と同郷に違いない。

 私は阿呆だけど、今までこの世界に他に転生者が居る可能性を考えなかった訳じゃあないんだ。ただ何の根拠も無かったし、艦娘になってからは私が分かり易くチート全開にしてても誰も何も言わないから、居ないのかなぁと漠然と思ってた。でも、どうやら違ったようだなあ?

 周囲の妖精さん達の反応は様々で、急に入って来た私を困惑した様子で見つめる者やどうしたのーと声を掛けてくれる者、なんだ吹雪かとスルーして艤装の整備を続ける者やネジと一緒にくるくる回る奴まで居た。

 ちくしょう全然見分けがつかねぇ。っていうか、根本的に見た目で違いが分かる訳ないんだよな。だったらどうやって見つけるんだ、何か分かる様な反応を引き出せばいいのか。どうしたら分かる。どうしたらそんなん分かるんだ。

 私だったら反応する事、つまり転生者だけが反応出来る事、なんだそれ、そんなのあるか?

 いやあるわ、っつーか分かったから今私は走って来たんじゃん!

 

「ボクカワウソが、ボクカワウソが出たぞーっ!!」

 

 えって顔になる明石さん。殆どの妖精さん達は意味が分からなかったようで、首を捻ったりなにそれーって聞いてきたりでおかしな反応はしなかった。急に大声を出したのでびっくりした子やどうしたのーだいじょうぶーなんて言ってくれる優しい子も居る。

 そしてその中に一人だけ、明らかに違う反応を示した奴が居やがったのだ。そいつは大和の艤装の後ろで何か作業をやっていて、私が言葉を放った少し後、堪え切れずに失笑を漏らした。

 

 私がそいつの方を向く。そいつも私の方を向く。視線が交錯し、そいつはようやく自分の失敗を悟った。

「お前だァ!!!!」

 私は俊足の一歩で飛び掛かり、そいつを両手でしっかりと、被った帽子ごと押さえ込んだ。暴れるそいつに抜けられない様その体を鷲掴みにして、そのまま工廠を飛び出し錯乱したまま自室へ向けて走り出す。

「ぬ、抜かったアアアアアアァァァァァァ…………」

 その妖精さんの叫び声は、ドップラー効果を齎しながら鎮守府中に木霊したという。

 

 

 




ようやく出せてすっきり。
一応最初に予定してた転生者はこれで全員です。予定外に増える可能性は全く否定できませんが。


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転生チート妖精さん

 部屋の扉をこじ開けて、私は部屋へ躍り込んだ。ドアの鍵をしっかりかけ、手の中のそいつを改めて観察する。もはや観念したのか抵抗はしておらず、むしろ怯えたような目でこっちを見つめている。どうやら逃げたりはしなさそうなので机の上にそっと下ろすと、その妖精さんはゆっくりと立ち上がり周囲を見渡した。

 改めて観察してみると、なんだかこの子、見覚えがある。妖精さん特有の可愛らしい瞳。茶色い髪は左右で括られ、服は薄いクリーム色の水兵服。頭には制服と同じ色の帽子を被っており、それに巻かれた萌黄色のリボンには艦 これと書かれている。そしてその艦とこれの間には初心者マークがあしらわれていた。

 思い出した。この子あれだ、一か月くらい前の生放送の時にマッドな方の明石さんに枕にされてた子じゃん。帽子の意匠で思い出した。あれ、こいつ何時から居たんだ……? っていうか。

「妖怪猫吊るし……!?」

 どう見てもそいつは初代エラー娘と呼ばれるそれの姿をしていたのだった。

 

 

 

「すみませんでした」

 お互い落ち着いて、私が最初にした事は謝罪であった。

「いや、分かって貰えればいいんだ、俺から見たら吹雪でも巨人みたいに見えるんだってのは把握しといて」

 突然やって来た自分の十倍以上の背丈の存在に鷲掴みにされて巣まで連れ去られた人の心境を述べよ。配点十点。

 正解、むっちゃ怖い。

 何すんだよもーと文句を言われて、初めて私はその事に気が付いた。控えめに言って駄目人間である。

「本当に申し訳ない。私以外にも居たと思ったら我を忘れて……」

「あ、ちょっと待って」

 私の言葉を遮ると、転生者妖精さんはなんでか手を翳してくるくると回り始めた。三回転ほどして動きを止めると大丈夫そうかなと呟いて、私の方へ向き直る。

「盗聴器とかは無さそうだな」

「今ので分かるんだ?」

 というか盗聴器って。そんなの仕掛ける奴居ないだろ……って思うんだけどそうでもないんだろうか。

「とりあえず、艤装も外に出そうぜ。中の連中にあんまり聞かれたくない」

 言われて思い出す。そういえば艤装背負いっぱなしだわ。でも見てみたら私の高速ダッシュのせいで中の妖精さんは大半がダウンしていて、そもそも話なんて聞ける元気はなさそうだった。

「廊下に放り出すの躊躇われる状態なんだけど……」

「……じゃあ、いっか」

 結構優しそうな子でちょっと安心した。

 

「じゃあ自己紹介をしようか、俺の名前はエラー妖精猫吊るし。チュートリアル娘やってる一般通過転生者だ。よろしくね」

「それ名前かなぁ」

 名乗る気無いだろお前。って思ったんだけど、なんかこの子、前世の名前覚えてないらしい。なにそれ、私バッチリ覚えてるんだけど。

「いや、俺妖精さんじゃん? 妖精さんって全人類の霊的集合体から生まれて来るんだけど、こっちに出てきた時に名前置き忘れて来たみたいでなぁ」

 さっぱり思い出せません! とちっちゃい体でちっちゃい胸を張った。

「まぁ好きに呼んでくれ、長い付き合いになりそうだし」

「そう言われても……何か今世での呼ばれ方とか持ってないの?」

「いやぁ、そもそも妖精さんって個人の区別が曖昧でさー」

 名前で呼ばれるとか無かったらしい。言われてみれば私もあんまり気にした事無いな。入れ替えちゃうからってのもあるけど。

「宮里提督や楠木提督は見分けてくれてたし、明石達も顔覚えてくれてるけど、呼び名って言われるとな」

 せっかくだから付けて、と転生妖精さんは言う。なんか責任重くないかと思ったけど、少し考えて適当に思いついた名前を挙げていく事にした。

「エラー妖精だからえっちゃんとか」

「謎のヒロインかな?」

「猫吊るしだからルーシーとか」

「首とか四肢とかもぎそう」

「チュートリアル娘だからトリエルとか」

「この妖精さんバディから溢れる母性を感じ取っちゃったかー」

 私と妖精さんは口を閉じ視線を絡め合った。部屋の中に緊張が走る。暫くお互いを見つめ、私達はどちらからともなく右手を差し出し握手を交わした。

 

 私も一応名乗ってみたけど知ってるーと返された。そりゃそうか。とりあえず艤装は扉の前に降ろし、私は椅子に腰かけた。この鎮守府は二人部屋で部屋の壁はそこそこ厚く、大声でなければ気にならない程度の音漏れしかしない。鍵も掛けたので話し合うには丁度良いだろう。盗聴器もないらしいし。

 机の上には私のノートPCと件の妖精さんが乗っかっていて、立っているより目線が近くなって多少は話しやすい。まぁだいぶ大きさに差があるのはどうしようもないので巨人に見えるのは変わらないんだろうけど。

「それで猫吊るし、なんで工廠で隠れて仕事してたのか聞いていい? 私が転生者なのは分かってたと思うんだけど」

 妖怪猫吊るしだからもうそのまんま猫吊るし。呼び捨てになってるけど、本人は別にそれでいいらしい。本名を思い出せたらそっちで呼ぼうかと考えている。

 その猫吊るしだが、私に見つかって連れ込まれる時に抜かったとか口走ってたんだよね。だからこの子、意図的に私から身を隠していたんだと思うんだ。なので理由を聞いてみたら、猫吊るしは腕組みしてちょっと悩んだ後、かなり言い辛そうに教えてくれた。

「いやさ、吹雪ってチート能力全開で最強の艦娘として君臨してるだろ? 正直、実際出してる戦果の割には謙虚だと思うんだけどさ……転生者だろうなって予想の付く奴から見たら、こう、自分以外の転生者絶対許さないマンの可能性を考えない訳にいかなくてだな」

 別に吹雪が悪い事したとかじゃないから勘違いしないでくれ、と補足しつつ猫吊るしは続ける。

「俺、戦闘能力はほとんど無いんだよ。それで自分よりサイズも大きくて滅茶苦茶やってる奴の前に無防備に出るのってどうしても怖くてな。だからまずはどういう奴か実際に確かめようと思って観察してたんだ」

 どうやら猫吊るしは妖精さんとしてかなり仕事が出来るらしく、観察するためだからって暇してるのは勿体ないので工廠で働きながら事を進めていたらしい。その結果。

「デスマーチの連続で全然観察出来なくってな……」

 宮里艦隊の工廠は、ながらで勤まるほど甘くなかったらしい。

 

 工廠は妖精さん増員とか自衛隊の工作艦の人達増員とかで以前よりはマシになっているそうである。でも第三期の適性検査があったらまた戦艦造らされるんだろうなぁ……

「まぁそんな訳でたぶん大丈夫だろうけど確信は持てないくらいの状態でずっと居たんだわ」

「ずっとって、そんな前から居たの?」

「かれこれ一月半くらいになるかな。例の生放送よりちょっと前くらいに宮里艦隊に来たよ」

 吹雪の存在は適性検査の時点で知ってたけどな、と猫吊るしは呟いた。どういう事だってばよ。

「大本営の方で色々作っててなかなかこっちに来れなくてさー、あ、でも作ったのは会心の出来だぜ!」

 なんだか自慢げに鼻息をふんすと鳴らされた。必要だったら吹雪の分も作ってやるからなと謎の気概も宣誓される。

「そもそも何作ったのさ」

「ケッコン指輪!」

 それはあれか、長門さんの指にほぼ常時ついてるアレの事か。あれ作ったのお前かよ。っつーか本物かよあれ。

「この世界ってケッコンカッコカリ実在すんの……?」

「するよ!!」

「するかぁ……」

 詳しく概要を聞いてみれば、非常に仲の良い艦娘に対して提督が専用の指輪を贈る事で成立するらしい。この世界ってレベルは存在しないからレベル上限が上がるような効果はないらしいのだけど、代わりに適性値が上がるそうな。何それ艦娘垂涎じゃん。

「恋人レベルの仲の良さじゃないと効果出ないし大量生産する意味は無いんだけど、効果は高い。はず」

 吹雪は恋人居ないの? って聞いてくるけど分かってて言ってるだろお前。

「私二次専なんで」

「知ってた。でも恋人じゃなくてもそれくらい親しければ大丈夫だから、親友とかでもいいぞ」

 はぁ親友。まぁ、一番親しいと思われる島風は兄弟姉妹とか言われるレベルだから行けそうかなぁ。金剛さんは……微妙。っつーか指輪なら私より提提督から貰いたいだろう。後は……初雪? いやあれはどうなんだろう。甘えてはくるけど実際どういう経歴なのかとかもよく知らなかったりするんだが。

「あ、ちなみに提督によってケッコン出来る人数が違うんだぜ。これ面白い事に艦隊に組み込める人数と比例してるみたいでさー、中央値で二人か三人くらいしか無理なんだよな」

「私、一期の提督で指揮可能な人数最下位なんだけど……」

「なので吹雪がケッコン出来るのは一人になります」

 成程。成程?

 

「装飾は選べないっていうか、すっごいシンプルデザインだから自分で選んだプレゼントも別に贈るといいと思うよ」

「まぁそれはとりあえず置いとこう。それより猫吊るし、私の事前から知ってたって何時からこっちの世界で活動してたの? なんか結構長そうだけど」

 私の質問に、猫吊るしはよくぞ聞いてくれましたという感じにふっふっふと笑い出した。妖精さんだから可愛いだけだしいいけど。

「この日本に艤装の作り方を持ち込んだのは何を隠そうこの俺さ!!」

「え、マジで?」

「マジマジ」

 マジらしい。腰に手を当て褒めてもいいのよとばかりに胸を張る猫吊るし。割と足を向けて寝られないタイプの存在だったようだ。

「宮里提督が妖精さんを最初に見つけたって聞いてるけど」

「それが俺。集合体から飛び出て見える奴を探してたら、向こうから見つけてくれたんだわ」

 小さな体で移動もままならなかったそうで、あの時は助かったわーと笑う。サイズ感が全然違うもんな。

「ん、じゃあ艦娘とか深海棲艦とか妖精さんとか呼び始めたのって……」

「俺!!」

 自分でもまさか『さん』付けで定着するとは思ってなかったらしい。勢いって怖いね。

「そんでまー、他の妖精さんも提督二人に呼んでもらって、大和の艤装作って、その後も色々必要な装備とか機材とか作ってたんだよ。適性検査用の機械とかな」

「ああ、あの印刷してくれる奴」

「そうそう。宮里艦隊にある奴は小型だからあんまり大勢のは出来ないけど、最初に作った奴はかなり効率よく一度に大量にやれるようになってるんだぜ」

 検査用のシリンダーが使い捨てじゃなければなぁと猫吊るしはぼやいた。確かにそれならもう本州中の適性検査が全部終わってただろうしねぇ。ちなみに検査自体には関わってないらしい。まぁ、機械の設定して稼働させるだけなら要らないわな。

「んでー……自衛隊が戦えるようになって、そこから一回目の適性検査まではほとんどずっと艤装とそれ用の装備の作成してたな。なんせ今ほど適性の高い工作艦がいなかったからさ、検査が終わってから作ってたら時間かかり過ぎるってんで、無駄になるの覚悟で色々作っておかなきゃだったんだよ」

 その吹雪も建造手伝ったんだぞ、って猫吊るしさんはおっしゃる。これ転生者製だったのか……いや口振りからして一人で作った訳じゃないんだろけど。艤装を見つめてみたけど他との差異があるのかはよく分からなかった。

「一期の招集がされてからは大本営の方でケッコン指輪の開発とかに携わってた。適性値が上げられるとか絶対有用じゃんって思ったからな。今使ってるのは長門だけだけど、吹雪から見てどう? 効果出てる?」

 わくわくしながら聞いてくるけどすまん、私長門さんと全く一緒の戦場行かないから全然分からん。

 

「ってそうだ、それならもしかして艤装の仕様とかはよく知ってる?」

「その説明をする前に、俺の能力の詳細を理解する必要がある。少し長くなるぞ」

「もちろんだ、やっとらしくなってきたな猫吊るし」

 何らしくって転生者らしく。やっぱりチート能力持ちなのか。まぁ私だけ持って他の人には無いとかそんな不公平無いだろう。あったら私の責任が重すぎて胃痛で死ぬ。

「とりあえずどういうのか実演して見せるわ」

 だからこのノート開いて、と私のPCを指差した。おいまさか壊す気じゃないだろうな。一瞬そう思ったけどそれなら別に開かなくてもやれるわな。

 言われた通りに二つ折りになっていたそれを開くと、いつも通りにスリープからの復帰のためのパスワードを入れる画面が現れる。普段の癖で入力しようとキーボード部分に腕を伸ばしたら、ちょっと待ちたまえと止められた。

 本当に開くだけで良かったのかと思いながら手を膝の上に戻す。猫吊るしはノートPCのふちに手をかけると、いくぞーと軽く声をかけ、よいさーと言いながら能力を発動した。

 その瞬間。何故か私のノートPCは見慣れた壁紙を表示した。特に何のガジェットも配置されていない、なんならアイコンなんかも存在しない。完全に壁紙と下部のツールバーだけの簡素なそれは、いつも通りの私のデスクトップ画面だった。

「なんだ、キャラ画像とかじゃないんだな壁紙」

「そりゃ同室の子にも見られるもんだし……」

 ただの夜の湖の絵にしてある。いやそれはどうでもいいんだ大事な事じゃない。

「何やったの?」

「まぁ待てここからだ」

 猫吊るしがそういうと、画面の中が激しく動き始めた。コマンドプロンプトのような窓が複数開き、0と1の羅列が滅茶苦茶に表示される。いや、たぶん意味のある並びなのだろうけど私には理解できなかった。流石に二進数の機械言語は履修してないわ。

「……あら意外、スパイウェアとか入ってないのな」

「入っててたまるか!?」

「いやだってこれ、酒保で買った奴だろ? なんか仕込んでるんじゃねーかなって思ってたんだけどなんもないな。綺麗なもんだ」

 ちゃんとウイルス対策とかしてるからね? って思ったけどそういう話じゃなかったらしい。いや流石に一艦娘の使うパソコンにそんなもん仕込まないだろ。と言いたい所だが私が一般艦娘かと言われるとかなり怪しい。制度的には普通の艦娘のはずなんだけど。

「好意でチェックしてくれたんだと思っておくけど……なに、それが猫吊るしの能力なの?」

 ここまで、猫吊るしはふちに手をかけてはいるけどキーボードやマウスといった入力用のデバイスには一切触っていなかった。なのに私のPCは見た事ないくらい活発にお仕事をなさっている。お前そんなに頑張れる奴だったんだな……基本動画見たり掲示板見たりチャットしたりするくらいだから知らなかったよ。

「ああ、これが俺の貰ったチート能力の一端だな。『いろいろ』『つかえる』って名前で、本当に色々使える便利な能力だよ」

 さっきくるくる回って盗聴器探してたのもこれのちょっとした応用らしい。かなり便利。

「もしかしてサイコロ振った?」

「振った振った。やっぱ吹雪もかー」

 笑う猫吊るしから話を聞いてみたら、やっぱり転生させてくれたのは例の自称魔法使いの女の子で、変な空間でサイコロを振らされたのも一緒だったらしい。やっぱり猫吊るしも面白くなるようにされたから妖精さんになったんだろうか。

「私の能力は『なんか』『つよい』って名前で、私が強いのはこれのおかげ」

「なんか?」

「なんか」

 一方的に教えて貰うのも悪いから言ったけど、詳細は私も知らん。説明とか一切無かったんだもん仕方ないじゃん。戦闘力めっちゃ上がるからとても有難く使わせてもらってるけど。

「ところでコレ何やってんの? ずっと動いてるけど」

 PCは延々と0と1を書き出し続けていて、何かをしているようなのだが、何をしているのかは私にはまるで分らなかった。

「検索履歴とかブックマークとかから吹雪の性癖割り出してる」

「止めろ」

「はい」

 素直に止めてくれた。初めからやらないでもらいたい。

 

「俺のこの能力は別に電子機器だけに作用するもんじゃなくてな。種族的な特性なんかも完璧に使いこなせるんだ」

 なんでも妖精さんって連中は実は結構個体差があって、エンジニアでもパイロットでもネイビーでもなんでも出来るってもんでもないらしい。私が普段使い潰してる子らは、そのほとんどが飛行機に乗って活躍したり工廠で明石さん達と死線を超える事は出来ないのだとか。

 ところがどっこいこの転生妖精さんは違う。そのチート能力によって妖精さんの出来る事ならあらゆる事に精通し、持ってる知識なんかも他妖精さんの比ではないと言う。だからケッコン指輪の作り方とか分かったんだそうな。

 さっきやって見せたようにパソコンなんかは触れただけで思い通りに操れ、パスワードによるロックなんかも全く意味を為さない。うーんチート。分かり易い。っていうか、さては破壊工作とかスパイ大作戦とか滅茶苦茶得意でしょ君。普通の人には見えないし。

「艤装の事もその能力で?」

「うーん、それは微妙なとこだと思う。俺以外の妖精さんも普通に建造方法知ってるみたいだし、工廠で働くような奴らなら誰でも造り方だけなら普及出来たんじゃないかな。妖精さんはあの時点でもうこの世界に湧き出てきてたし。真っ先に飛び出したのが俺だっただけで」

 猫吊るしはこっちの世界に生まれる前から魂とかの集合体の中に暫く居たらしい。卵の状態でも意識があったみたいな感じなんだろうか。少しの間持ってる情報を精査して、自分が妖精さんだと断定、艤装の事を人間に伝えるために出来るだけ早く出てくるように努力したんだそうな。えらい。

「まぁそんなわけで、艤装の事はよく知ってる。なんか知りたい事ある?」

 ありますとも。ずっと心に引っかかってスッキリしない案件が結構色々ありますとも。聞いていいなら聞きたい事は沢山あるが、とりあえず一番気になってる事からだ。

「艤装って体や心に影響が出るよね?」

「あー……出るな」

「だよね。あれって使うの止めれば抜けたりする?」

 猫吊るしは難しい顔になった。知らないというよりは答え方に迷っているという感じで、何やらややこしい事になってそうだという予感がする。

「今のまま使ってるだけなら、使うのを止めれば影響は抜ける。はずだ」

「なにその含み」

「俺からすると、既に体の方にまで影響がはっきり出てるって事自体ちょっと意外なんだよ……まず、なんで影響が出るのかって事から説明しようか」

 

 この世界の人間は魂の形や状態によって肉体や精神が変化する。

 まとめるとそういう事らしい。イエーイファンタジー世界。またかよ。

「例えるとなんだが……そうだな、呪術廻戦の真人、知ってる?」

「知ってる……無為転変か、え、そういう話なの? それだと戻らなくない?」

 無為転変。それはざっくり言えば自分や他人の魂の形を変える事で肉体にまで変化を齎す術である。大体異形化する上ほぼ即死とかいう酷い技なんだけど、それと同じなの? ヤバいだろそれ。

「いや、例に出したけどあれとはかなり違う。分かり易いかと思ったから言ったけど誤解させたならすまん」

 びっくりさせないで欲しい。アレだったらやべーわ、完全に鬱アニメの世界だったわ。何かマギカとか誰々が勇者であったりするところだったわ。

「この世界の場合、自分の魂以外に、傍に居る魂の影響も受けるんだよ」

 ペットは飼い主に似るというが、この世界だとそれは真実なんだそうだ。お互いにお互いの魂が影響し合った結果、本当に似てくるものであるらしい。尤も、通常であればそこまで大きな変化はしない。精々相手の好みが理解出来るようになり易いとかそんな程度で、大きな差は出ないと言う。

 だが、艦娘は違う。艦娘になった女性達は、通常の人間の魂よりも遥かに強大な艦の魂と接し続けなければいけない。史実や多数の想いで補強された伝説的な存在の影響力は普通の魂よりも遥かに強く、その上艤装でそれと魂で直接的に繋がってしまう。そうなれば知らず知らずの内に精神や感覚が影響を受けて行き、私達の知る艦これの艦娘に近い言動をするようになるのは必然だと言う。

「だから、使うのを止めさえすれば元に戻る?」

「うん。艤装に触れなければそんなに長い事掛からずに元に戻るはずだ。精神の方はな」

 肉体の方も戻らないという訳ではないらしく、ただ精神に比べると熱し辛く冷め辛いみたいな感覚で、ちょっと時間がかかるらしい。どれくらいかは影響の深さによるそうだけど……十年二十年とか掛かったらどうしようもないな。

「つっても、精神はともかく肉体は抜けなくても大して問題無いだろ、むしろ便利じゃないか?」

「あー……まぁ、そうね、普通なら。そうかも」

 一部の人間には大問題なんだよなぁ……

 

「そんなとこまで考えてなかった」

 島風と長良さんの事を話した結果、猫吊るしは机の上で膝と手を突き、見事なorzのポーズをとった。明石さんもやってたなそれ。もしかして影響し合ってない?

「艤装の仕様自体は元々のものなんでしょ? 猫吊るしのせいじゃないよ」

「そうだけどさ……」

 持ち込んだ張本人故か、気になるらしい。真面目じゃん。

「そういえば宮里提督にもそれ言ってなかったの? 長門さんも提督も知らなかったみたいなんだけど」

「え、俺、楠木提督には言ったぞ。宮里提督には確かに言ってないけど……」

 そこから他の人に伝わってないと。

「隠した?」

「隠したっぽいなぁ」

 もしかして広めちゃ駄目な奴かこれ。どういう意図があるか知らないけど、勝手に広めると良くない奴だろうか。まさか忘れてたとかそんな事は無いだろうし。

「公式に認めない方が良い事ってのもあるのかな……」

「ああ、ソシャゲのバグ対応とかな」

「炎上する奴じゃん!」

 楠木提督が知ってるなら言わないのにはなんか意味があると思うから、私から言わない方が良いのだろうけど、長良さんや青葉さん達に伝えたい気持ちもある。いや、悩むのは一人の時にしよう。

「話変わるけどさ、この世界って改二はあるの?」

 落ち込む話を続けるのも悪いし、私としては違う話題へ移るつもりだったのだけど、それを言ったら猫吊るしは渋面になった。

「話変わってねーよ」

「OK、大体察した」

 クソデカ影響ですね、分かります。

 

 改二。

 艦これだと艤装の形や艦種なんかが別のものに変わったりするかなり特殊な改装で、色々要求されるものの、基本的には上位互換になれる重要な要素だった。純粋に能力が上がったり、今までは使えなかった特殊な装備が使える様になったり、場合によっては名前が変わったりもする。素の状態から改という強化形態を経て至るのが一般的である。

「この世界にも改二に該当すると思われるものはある。ただ、別に一回目の改造はしなくてもなれるからこの名前が正しい表現なのかは微妙なとこ」

 たとえば私の艤装は艦これで言ったら素の吹雪で近代化改修を最大までやった様な状態なのだが、この状態から一気に改二になる事が可能らしい。確かにそれだと二じゃないな、改飛ばしてるし。

「詳細も俺達の知ってる艦これのものとはかなり違ってな。まず、人によってその姿が変わる」

「それはコンバート改装とかじゃなくて?」

 艦これでは一部の艦娘は改二からさらに改二甲や改二護という特殊な形態に改装出来る。素の改二に戻したり出来る場合もあって、純粋に上位互換とはならない事が多い。

「そっちは俺の知る限り無いな。一人に一つの改二だけ。その代わりか知らんけど、改装した姿は多種多様っぽい」

 断言できないのは未だ誰も改二になっていないからとの事。一応元の艦に沿った強化形態になるのが基本らしいけど、もしかして大和が宇宙戦艦になったりとかするんだろうか。流石に無いか。

「んで、なれる条件だが……もう大体分かってるみたいだけど、体の方にまで集合体の艦娘の影響が強く出てる事が一つ目だ」

 つまり、長門さんや島風はもうその条件はクリアしている事になる。私はどうなんだろ。よく分からん。

「それで二つ目……一個目を満たした上でこの条件をクリア出来れば晴れて改二になれる」

 そう言って猫吊るしは言葉を切った。あんまり言いたくないのだろう、腕組みしてサイズ大きめの頭を左右に振ってうんうん呻っている。暫くそうしていたが、じっと見つめていた私の瞳を見つめ返して、真剣な口調で条件を言った。

「霊的集合体の中に居る艦娘に自分を認めさせて、魂の一部を分けて貰う事」

「うん……うん?」

 待ってそんな事出来るの。分けて大丈夫なもんなの魂って。痛そうとかそういうレベルじゃなさそうなんだけど。

「そしてその魂を自分の中に受け入れる事。それが二つ目だよ」

 何それ怖い。いや怖いっていうか、大丈夫なのかそれ。いや大丈夫なら言い渋らないわな。絶対大丈夫じゃないわ。

「それさ、さっきまでの話の流れで考えたら……」

「精神と体への影響が基本的に永続になります」

 マジかよ。

 マジなんだろうなこれ。魂の影響受けて変容するって話なのに艦娘の魂分けて貰うとかしたらそりゃあ治るもんも治らなくなるわ。初春さんのオーラ凄かったもんなぁ、あれを発するようなのの一部とか、受け入れたら影響不可避だろう。

「あ、でも人格が乗っ取られたりはしないはずだから、そこは安心していいと思う。たぶん」

「そこは断言して欲しかった」

 まぁ、相手は艦娘だしそんなに酷い事はしないんだろう。そこに在るだけでヤバいだろうけど。

「で、そこに加えて……」

「まだなんかあるの?」

「体型とかも普通では有り得ないくらいに艦娘に引っ張られるようになります」

 今現在、噂程度に胸とか胸とか、あと胸とかが大きくなったり小さくなったりといった話が各所で出回っている。でも、それはまだ普通に生活しててもある程度有り得るレベルの事ではあったのだ。有り得ない、と言うからにはそれとは比にならないくらいの変化が起きるって事なんだろう。つまり。

「龍驤さんの龍驤さんが龍驤さんみたいになるって事!?」

「それでなんとなく言いたい事が伝わるのほんと酷いと思うわ」

 でもそういう事だと猫吊るしは言う。さらに言えば、もし龍驤さんが改二になれば、龍驤さんのお餅だけでなく、身長までも艦娘に近づいてしまうらしい。

「これが割と洒落にならなくてなぁ、人によっては外見が若返っちゃうんだ。で、その状態で固定される」

「待って、何それなんか全然違う理由で使われそうなんだけど」

 固定? 固定ってなんだ? 変わらないって事だよね? 何年経ってもって事?

「そうだね不老だね。なんと人類の夢の一つが叶っちまうんだ」

 へーすごいなー。

「あの、それって艤装使うの止めたら戻ったりは」

「しません」

「ちなみに外見だけで中身は年取るとかは」

「ないです」

「つまり怪我とか病気で死なない限り?」

「永遠に生きれます」

 オイオイオイ死なないわ艦娘。戦って死ねみたいな状態になるのかよ、思ったより酷い物だったわ艤装。っていうかあれだな、結局戦う奴にリスクある感じの世界じゃんここ。いやメリットに感じる人も多いだろうけど。

「……そりゃ隠すわ」

「だよなぁ」

 どうにか性転換して使えないか試そうとする奴多発しそう。

 

「戦力的にはした方がいいんだろうけど、したらかなり人間じゃなくなるよねそれ」

「筋力とかだいぶおかしな事になるみたいだぞ。船の馬力再現したらさもありなんって感じだけど」

 決めるのは私じゃあないけど、出来る限りしないで済ませられるに越したことはないと思う。ただ、もし私が指揮をする側なら絶対やらせるんだよなぁ……改二ってそれだけ強力だったから。させずに死なれるくらいならして貰って多少変になっても生きててもらいたいし。

「せめて永続じゃなければねぇ。一時的なものなら多少若返っても喜ばれるだけだと思うんだけど……受け入れた魂って分離とか出来ないの?」

「出来るよ」

 猫吊るしはさらっと言いやがった。今までの話何だったんですかねぇ。キレていい?

「正確には、俺ならそれが出来る装置を開発出来る」

 どことなく褒めて欲しそうな顔な猫吊るし。私はむしろ君を吊るしたくなってきたんだけど大丈夫?

「って言ってもまだ開発に全く着手してないんだけどな。俺の持ってる妖精さんの知識からたぶん出来るだろうってのが分かるだけで、今の所は他に比べて優先度全く無いからさ」

「成程。つまり、猫吊るしが死んだりすると戻す方法が無くなる訳だ」

 命拾いしたな。いや本当にやったりしないけど、あんまりびっくりさせないで欲しい。ほんとにそんなことはしないけども。

 

「しかし妖精さんって、妖精さんに生まれ変わるだけでこういう情報背負わされるのね。大変そうだわ」

 産まれ直していきなりどこまで公開すりゃいいのかと悩まされるわけである。それ以外にも小さくて苦労するとか基本的に人間から認識されないわでかなりハードモードじゃなかろうか。潰れてもペラペラになるだけみたいなギャグ時空の生命体ではあるが。だからか普通の妖精さんが深刻に悩んでるとことか見た事無いけど、転生者はそうもいかない。

「まぁ……………………実は、自分で選んだんだけどな、転生先」

「え、そんなのあったの?」

 私無かったぞそんなの。サイコロ振っただけで何か選択するような余地はなかった気がする。

「転生実行される直前にさ、凄い気楽に聞かれたんだよ。二択出されてどっちがいいか選ばせてあげますわーとかって」

 逝ってらっしゃいと言われた直後、自称魔法使いは思い出したようにそんな事を言い出したらしい。暗転を始めた意識と視界にぼんやりと浮かぶ二つの選択肢。刹那の余裕しかないその状態で、猫吊るしは反射的に決めてしまったらしい。

「選ぶだろっ……!」

 絞り出すような声色。そうしてしまったのはきっとあの娘の思い通りの展開だったのだろう。その事が相当悔しいのか、猫吊るしは憤死しそうという表現が似合いそうな顔になっていた。

「『妖精』と『春雨』だったら、『妖精』をっ……!!」

 誰だってそーする。私もそーする。転生先の世界知らなきゃ食べ物にしか思えないもん。選択肢のようで選択肢の無い二択。春雨選んでたら今頃同僚だったりしたんだろうか。あの魔法使いを名乗る娘、もしかしてかなり性格悪いのでは……?

 

 

 




吹雪の場合でも『妖精』と『吹雪』になりますが流石に意味不明ですね。


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ぁゃιぃけど実害はたぶん無い

 転生者って何人くらい居るんだろう。少なくともここに二人居るのだけれど。

 私は今まで転生者は私一人かなと思っていたんだけど、実際には猫吊るしも妖精さんとして転生していた。そうなると私達以外の転生者も居そうな気がしてくる。っていうか、怪しいのが二人、可能性ありそうだけどたぶん違うって奴が一人ぱっと思いつくんだけれど。

「猫吊るしは私以外の転生者って知ってる? 私は怪しいと思う人が居るだけで他には知らないんだけど」

「怪しいと思ってる奴なら俺も一人だけ居る。何回も会ってるし話もしてるけど、そうだぞって言われた事は無い奴が」

 どうやら私と同じ状況っぽい。それにたぶん同じ人だろこれ。さっきも名前出してたし。

「楠木提督?」

「楠木提督」

 せやなって顔をして来た。まぁ、そうなるな。どう考えても怪し過ぎるもんあの人。

 

 楠木多聞丸はこの世界の日本海防のトップである。妻と一人娘がおり、娘も自衛隊員……らしい。ネットでの噂だから真実かどうかは知らない。

 深海棲艦が来た直後、通常兵器が効かないという混乱から立ち直らせて、なんとか地上へ上がってきたモノは追い払う事に成功。暫くののち宮里提督の持ってきた猫吊るしの話を信じて艤装造りを敢行。精鋭という名の唯一戦闘可能だった部隊を指揮して、的確な指揮や采配で日本近海を――敵が少数の場所とはいえ――艦娘の死者数0で取り戻して行った。控えめに言って未来の歴史系ソシャゲで女体化された上にSSRにされそうな経歴である。そもそも深海棲艦が来る前から超有能で有名だったらしいし。

 そんなお人な訳なのだが、もうここまでで怪しい箇所が幾つもある。まず、猫吊るしの話を全面的に信じたのがとても怪しい。普通疑うよね深海棲艦とほぼ同時に出て来た小人とか。そもそも即時採用とかそのための下地作りでもしてなきゃ出来なくないだろうか。個人じゃなくて組織だし、しかも国家元首とかって訳でもない。どうやったのか本気で分からん。

 次に自分で指揮取って普通に連戦連勝、しかも艦娘に死亡者を出さなかった事。まぁ天才的司令官って話なのかもしれないけど……普通にやってそんな事出来るだろうか。なんかチート能力使ってない? なんなら今だって艦娘の死者が出ないように配置してるんじゃないかな、有難い事に。

 実際対面した時にも思ったけど、たぶん心か何か読めるような能力持ってるんじゃないかなあ楠木提督は。もしくはアンサートーカー的な奴か。自分で戦うようなのじゃなくてなんらかの情報収集系だろうと予想。

 最後に名前。多聞丸て。艦これ世界だからかなってスルーしてたけど転生者探そうぜってなったら滅茶苦茶疑わしいわその名前。無関係だったらくっっっそ失礼だけども。あとそんな名前の海自の偉い人が前世に居たら絶対ネタにされてるから、少なくとも前世の世界には居なかった人物だと思われる。

 

「以上の理由から楠木提督は転生者であると主張させていただきます」

「異議無し」

 猫吊るしは然り然りと頷いた。どうやら中から見てても不自然なほど簡単に受け容れられて、異様なほど開発建造運用が円滑に進んで行ったらしい。

「正直隠す気を感じなかったな。でも言っては来なかったし、俺も聞かなかった」

「それはなんで?」

「必要が無かったからっていうのが一番大きい。俺は開発、向こうは指揮。無駄に馴れ合う意味無いし、忙しそうだったからなー」

 それは分かる、絶対忙しいもん楠木提督。うちの宮里提督ですら結構書類仕事あるみたいなんだけど、間違いなくそれ以上にやる事が多いはずだ。決める事もそのための判断材料も桁違いの量になってそうだし、時間なんていくらあっても足りないんじゃないだろうか。それとなんていうか、立場が上の方過ぎて余計な事するの憚られるんだよね、同じ転生者だったとしても。何やっても迷惑になる気しかしない。

 なので、私もこっちから転生者なのか確認する事は無いと思う。もし楠木提督が転生者で、その事を明かす必要があるのなら向こうから言ってくるだろう。私はあくまで一兵卒だからね、仲間意識で馴れ馴れしくなるとかあったら良い事とか何も無い訳で。大体、私が転生者だろうがそうでなかろうが大きな戦力なのには変わりないんだからどっちでもいいし。

 あれ、そう考えると明かす意味も明かされる理由も無いな。これ知る事にデメリットしかなかった感じかもしかして。よく考えたら初対面の時に私が戦いに対して前向きって事は理解されてたし、向こうからしたら余計な事をする必要が無かったのか?

「ん? じゃあなんで猫吊るしは私のとこには確認に来たの?」

「楠木提督の事は見てたから真面目に日本のためにやってるって分かるけど、吹雪がどうなのかは分かんなかったからだよ」

 ちゃんと確認しないと不安だったらしい。もし人類に敵対的だったら暗殺方法仕込んどこうと思ってたって怖い事言うなよ。お前の能力が実際どこまで出来るのかは知らないけど、少なくとも社会的に殺すのは簡単だろ絶対。

 

「しかしそっか、それだとリベッチオには会った事無い?」

「は? リベッチオ?」

 なんか困惑された。別におかしな名前は言ってないと思うんだけど。

「え? 何? 会ったの? リベッチオに?」

「さっき…………あ」

 やべぇ、楠木提督に機密だって言われたの忘れてた。いや妖精さんだからセーフか? いやアウトか。口ごもった私の態度を気にせずに、猫吊るしは額の皺を深くした。

「この世界の艤装ってさぁ、建造する国の艦しか造れないんだよ」

「えっ」

 ゴトランドさん、はっきり大本営所属って言ってたぞ。じゃああの艤装どっから出たんだ。国外? いや行けないだろ外国は。でも見た事無い艤装だったし、制服がゲームそのまんまだったから嘘ではないと思うんだけど。

「その子、私よりたぶん強かったんだけど」

「もうそれ転生者で確定だろ!?」

 気付けよと叫ばれた。自分でもそう思うわ。何で気付かなかったんだろうね。不思議だね、私の頭脳。

 

 リベッチオは推定転生者として、ゴトランドさんはどうだろう。引っかかるのは助けた前後でかなり余裕というか、動揺が見られなかった事だろうか。私の行動には引いてた気がするけど。もしかしたら何らかの能力で安全が保障されていたのかもしれない。こっちも転生者かなぁ、強そうではなかったけど。

 ちなみに可能性があるかもしれないけど違うだろうと思っているのは提提督である。あいつは話してても普通に現地人っぽいから違うと思う。なんか色々規格外みたいだから若干怪しいけど。

 

 

 

 楠木提督が指揮してる部隊って言ってたよとかじゃあそこの所属全員転生者じゃないのもうとか話をしていたら、私の聴覚に廊下を歩く足音が聞こえて来た。ちょっと声を小さくして聞こえないようにしてやり過ごそうと思ったのだけど、その気配は部屋の前で立ち止まり、少しして扉が軽く叩かれた。

「吹雪、居ますか?」

 宮里提督の声だ。そう思った瞬間、猫吊るしもピクリと反応して、ささっと身支度してはよ出ろはよ出ろと目配せをして来た。いやそんなしないでも出るけど。

 返事をして、置いてあった艤装を退けて扉を開けると、やはりそこに居たのは宮里提督だった。なんだか心配そうな瞳でこちらを見ている。

「大丈夫ですか、何かありましたか?」

 どうやら通報を受け、私の奇行が完璧に宮里提督に伝わってしまったらしい。明らかに変な人だったろうからなぁ。気遣わしげな宮里提督にどう答えたものかと私が少し迷っていると、猫吊るしがてこてこ床を歩いてきて、ぴょんと飛び上がると私の頭に着地した。ジャンプ力凄いなお前。やっはろーと挨拶する猫吊るしに宮里提督はかなり驚いた風だった。

「久しぶりー元気してたー?」

「ええ、私は元気ですが……あなたは大本営付きだったはずでは?」

 提督は猫吊るしがこっちに来ていた事を知らなかったらしい。この調子だと楠木提督にも言ってないんじゃないだろうか。

 暫くこっちで働くよーとどことなく間延びした口調で話す猫吊るし。もしやこいつ、猫を吊るさないで被ってるのか。そうしていると平均的な妖精さんっぽいので転生者以外にはこうなのかもしれない。本来の口調とか隠す意味があるのかはよく分からんが、宮里提督からしたらその口調は普通のようで、特に疑われるような事も無く二人は会話をしていた。

「でも、どうして吹雪の部屋に居るんですか? あなたは開発や建造の担当ですよね」

「ケッコンについて説明してたんだよー」

 そういう方向で行くらしいので私も頷いておいた。当然頭上の猫吊るしごとなのでかなり揺れたはずだが、かなり安定して乗っかっているようで特に滑り落ちたりはしない。バランス感覚とかも最大限に『つかえる』んだろうきっと。

「結婚……?」

 しかし言い訳は宮里提督には伝わらなかったようで、妖精さんって結婚するんですかとちょっと斜め上の返事が返って来た。私達も何故宮里提督がそんな反応なのかちょっと分からなかった。

「長門に指輪渡したでしょ、あれの事だよー?」

「えっ?」

 どうやら宮里提督はその行為の名前を知らなかったらしい。豆鉄砲でも喰らったようになって、数秒で理解してちょっと恥ずかしそうな表情をした。

「そんな名称だったんですか……!?」

「そうだよ、ケッコンカッコカリだよ」

「カッコカリまで入れちゃって大丈夫?」

 お前もしかしなくてもその調子で妖精さんにもさん付けて正式名称にしただろ。いや今回は合ってるんだけど。

「そ、そうですか……ケッコン、ですか……楠木提督は仰ってませんでしたけど……」

「あれ、そうなんですか?」

 そういうのって完璧には共有されてないんだろうか。まぁ必要な情報かと言われると微妙だけど、知らせても問題は無さそうな気がするんだけど。そんな事を思っていたら、私の髪をカーペット代わりにしている猫吊るしが、何かに思い至った様子であっと声を上げた。

「……正式名称、伝えてなかったかも……」

 ハハハこやつめ!

 

 

 

 無理はしないでくださいねともう一度大丈夫か確認されて、実際そういう精神的不調とかが理由での奇行ではなかったので大丈夫ですと答えると、宮里提督はそれ以上は突っ込まなかった。代わりに後で執務室まで来るようにと言われたので、とりあえず艤装を工廠へ返しに行って明石さん達に謝罪して、身支度にシャワーを浴びて頭を洗おうとしたら、何やら頭の上に柔らかい物体が。

 なんぞこれと思って眼前に持ってくると苦笑いを浮かべた猫吊るしだった。そういや降ろしてなかったわ。提督にしか基本的に見えない妖精さんと喋りながら歩いてたら不審者だからってお互い無言だったんでつい忘れてたんだよ。いつ乗せっぱなしなのに気付くんだろうと思って工廠を出ても黙ってたらしいが、ごめんたぶん頭洗わなかったら一生気付かなかったわ。っていうか私さっき明石さん達に頭下げたんだけど落ちないのな。それも能力の一端なんだろうか。

 ついでなので一緒にお風呂に入って小声で雑談していると、島風が入ってきて高速で体を流すと浴槽へと飛び込んだ。ここの風呂場は大きさがそこそこ程度なので若干危ない。猫吊るしは波に流されて行った。

 島風は鎮守府案内に付いて行ったらしく、新人三人とある程度話をして来たらしい。吹雪も来たらよかったのにって言うけど私も行ってたら空気が硬くなってた気がするわ。

 

 

 

 風呂から上がり報告書を拵えて、言われた時間通りに提督の執務室へと入ると、そこには宮里提督と文月が待っていた。さっき奇行を見せつけたばかりなので若干気まずい。私はそう感じたのだが、文月の方はそうでもないらしく、私の頭頂部を見てとても不思議そうな顔をしていた。私もなんで文月が居るのか不思議なんだけれど。

 さておき宮里提督に風呂上がりに急いで書き上げた報告書を提出する。内容が内容なのでざっと読んだ提督の眉間にしわが寄っていたが、とりあえずそれの事は一度棚上げするようで、机の脇に纏めると、私の頭上を凝視する文月と私達の方へと向き直った。宮里提督の視線も私の上の方へ向かって行く。

「あの、どうして妖精さんを乗せているんですか……?」

 話が始まる前に突っ込まれた。今、私の頭上では猫吊るしが眠っている。ここに来る前、工廠まで妖精さんの足じゃ遠いだろうから乗っけてってやろうかと思ったら、道中でこいつ人様の頭上で居眠りし出したんだ。車に揺られると心地いい的なアレだろうか、歩くたびに上下に滅茶苦茶揺れてると思うんだけど。

「死ぬほど疲れてたんだと思います」

「降ろしてあげた方がいいんじゃ……?」

 文月がとても可愛いらしい声でそう言うけど、そうも行かないんだなコレが。

「なんか髪に張り付いちゃってて、無理に剥がすと私の頭が剥けるかこの子が潰れそうなんだ……」

 たぶん、眠りながら無意識でチート能力使ってるんだと思うんだけどね。私の頭を寝具として『つかえる』んだと推測される。なんか応用が滅茶苦茶利く能力っぽいなぁ。妖精さんがそういう生態なだけという可能性はたぶん無いし。

 宮里提督は妖精さんの奇行には慣れている様で、じゃあ仕方がないですねと軽く流した。流石提督最古参である。文月はそれでいいんだとびっくりしていたが、妖精さんは基本行動の是非を気にしても仕方ない存在だからね。戦場では全員真面目に働いてくれる良い子達だからそこは安心して欲しい。

「既に会ったとは聞きましたが、一応紹介しておきますね。彼女は文月、第二期に招集された駆逐艦の艦娘です」

 よろしくお願いしますっと文月が一礼した。こちらも返礼したが、頭上の猫吊るしは微動だにしない。たまに寝返りは打つくせにどうなってんだこいつ。

「そして、文月は提督でもあります。私と吹雪に続く三人目の艦娘と提督の同時適性持ちですね」

 えっ、そうなの。って思ってついつい文月の方を見てしまった。文月はこちらの視線に軽く頷いて肯定を返してくる。言われてみればさっきから猫吊るしの事見えてましたね、今もちらちら見てるし。やっぱ目立つ?

 提督の用件は、鎮守府に提督が増えたので無効化貫通能力の担当を再編する、という事だった。まぁ相談というよりかは決定事項の通達であり、特に問題も無かったので宮里提督側で考えた通りの配置になった。

 基本的に文月は私と宮里提督の二人掛でも余っていた非戦闘部隊への供給が主になる。戦闘部隊で変わったのは第一から第三に文月が担当する相手が決められたくらいで、私達第四艦隊には全然影響が無い。でもこれで文月が所属する艦隊――基本第三らしい――は変色海域内でもまっすぐ他艦隊の救援に向かえるようになるから、かなりメリットは大きいだろう。変色海域は持続ダメージより通信とかが制限される事の方がキツいからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケッコンか……妖精さんも妙な事を考えるものだな」

 自分に贈られた指輪を眺めながら長門は照れを隠すように呟いた。

「嬉しそうに言うやん……」

 その口元には微かに笑みが浮かんでおり、喜色は一切抑えられていない。龍驤の呆れたような視線も物ともしなかった。部屋の中の三人の中で一人だけあぶれているような状態なので、何か胸の内に木枯らしでも吹いたような寒さを龍驤だけは感じてしまう。

「私のケッコン可能な数は一人だけだろうという事なので、長門が唯一という事になりますね」

「え、そうなん?」

「無効化能力を供給できる数が関係しているらしいです」

 吹雪の頭の上で眠っていた妖精さん――日本で確認された一番最初の妖精さんである彼女からされた話が正しいのであれば、宮里と吹雪は一人、文月はぎりぎり二人行けるか行けないかであるらしい。話し合いの終わり頃にはっと飛び起きて、若干寝ぼけていそうだった彼女の発言を信用し切って大丈夫かという問題はあるが。ちなみに提提督は今の所不明である。妖精さん曰く、上限があるのかすら分からんとの事。

「なんや、あわよくばって思ってたんやけどな」

 少し笑いを含みながら冗談っぽく言っているし、実際にそれは冗談だったのだが、長門から龍驤へは少し冷ややかな目線が送られた。そんなパートナーを宮里は軽く窘めると、私達より吹雪の事ですと話題を転換した。

「吹雪も一人にしか渡せないらしいので、出来れば相手は慎重に選んで貰いたいのですが……」

 吹雪の親しくなった相手の適性値を上げる力は群を抜いている。その能力をさらに増幅するケッコンカッコカリを行った場合、選ばれたケッコン相手がどこまで強くなれるのかは未知数だ。流石に吹雪レベルまで、とは行かないだろうと全員が思っていたが。

「だが現状、島風以外の選択肢は無いだろう。強制出来るようなシステムでも無いようだしな」

「金剛もえらい仲良いけど、四国入ったら提艦隊に戻る予定やしね」

「本当は自衛隊の中からというのが理想なんですけどね」

 適性値が上昇する可能性があるという事実は公表されるという事が決定した。というのも、戦闘部隊基準まで上がった人数が増えてきて隠すのも難しくなってきたからである。宮里艦隊はそうでもないのだが、提艦隊の自衛隊員達は既に六人が戦えるようになっており、その噂は自衛隊員の間のみならず、召集された艦娘達の間でも囁かれるようになっていた。

 批判は大きくなるだろうが、どの道四国攻めで他の鎮守府から選抜された艦娘達と合流すれば暁や飛鷹も多くの目にさらされる事になる。戦力的に小さくない彼女達を使わないという選択肢は無いため、時間の問題ではあったのだ。宮里艦隊の面々が外へとほとんど漏らさなかった方が奇跡に近いのだし。

「うちはまぁ無理だとしても、空母の誰かに渡して貰いたいってのはあるな」

 優秀な空母は幾ら居ても困らないのだ。現状、空母の保持数が一位なのが宮里艦隊であるくらいには希少で、今回も空母が欲しいと上申した鎮守府は多かったが、どこも通らなかった。新しい鎮守府へ配属するだけで限界な人数しか居なかったのである。

「島風は現状で能力的には間に合っているからな」

 島風は強い。それこそ、通常の艦隊であればエースになれるだけの実力を持っている。火力は高い適性値に対してそれ程でもないが、それ以外の能力は高レベルに纏まっており、索敵も特にレーダーの扱いは全駆逐艦の中でもトップクラスと言われている。

 火力にしたところで一万を超える適性値の割には、という話であり、連装砲ちゃん達との連携と高速高精度の雷撃は鬼級程度なら時間を掛ければ一人で倒し得ると吹雪の報告書にはあった。何故か島風の評価だけ微妙に厳しいので過大評価という事も無いだろう。

 問題なのは適性値が上がって主に上昇するのが速度であろうという点だ。そこは今より上がる意味がかなり薄い。島風には吹雪に同伴してもらわなければいけないのだから、吹雪の速度が今より上昇する事でもない限りは無駄になる可能性が高い。勿論、吹雪が艤装を失い島風は無事という状況であれば非常に有用な能力になるのだろうが。

「……吹雪の能力なら親しさに関係なく効果があったりはしないだろうか」

「それやと提提督は適性値上げ放題になるな」

 流石に無いわと龍驤は笑った。そうだったらどれだけ良いかとは思うが、流石にそんな都合の良い事にはなっていないだろう。

「龍驤や私はともかく、他はどうだ。かなり活躍はしているが」

「前回の検査で一番適性値が上がっていたのは暁でしたが……おそらくあの時点からあまり仲は深まってはいないと思われます」

 暁、飛鷹、川内は適性値の上昇が確認されてすぐに戦闘部隊に配置転換され、そこでかなりの戦果を挙げている。

 飛鷹は堅実な航空機の運用が評価され、純粋な戦闘力こそ正規空母に劣るものの取り回しの良さもありかなり重宝されている。自衛隊員なので他の艦娘よりも頼みやすいというのもあるが。

 川内は夜戦でかなり評価を上げた。スタンドプレイこそ厳重に注意されたが、夜間でこそ能力を発揮するという理由不明の特性を持っているようで、夜の海では他者の追随を許さない信頼性がある。それと、おそらく三人の中で戦闘部隊に配置されて以降、吹雪と一番仲良くなっているのが川内だ。たまに一緒に体を動かしているのが目撃されている。

 暁は、宮里の目から見ても非常に強い。吹雪から三本取った、というのを本人は過大評価だと悩んでいたが、実際には、吹雪にそれを言わせるだけの実力はしっかりと具えていた。一か月間酷使され急成長させられた宮里艦隊戦闘部隊に、配属時点では実戦経験がほとんど無かったにも拘らず、その日のうちに同格以上と認められている結構な化け物なのである。ただ、そのせいで吹雪との交流はほとんど出来なかったようであるが。

 戦闘部隊の面々は向上心が強い者が多い。これは訓練所の段階でそういう傾向の強かった艦娘を選んで配属したために当然と言える。そのため戦闘後に反省会を自主的に開いたりなどは当たり前のように行われていた。疲れを取らないといけないので演習などはほとんど行われていなかったが、待機の日に自分の弱点を補うための訓練をする者は多く、自分では分からない部分を他者に指摘してもらうためアドバイスを求める事も多い。そして、その相談を受けるのは主に暁である。

 暁の純粋な技量は全艦娘の中でも突出していると言って良い。その事実と教官長として教導に当たっていたという経歴を加味された結果、駆逐艦や巡洋艦、果ては空母にまで助言を求められるようになってしまったのだ。そのため暇さえあれば仲間の訓練に奔走しているような状態であり、それを必要としない吹雪とは自然と疎遠になってしまっていた。

 暁自身は空母の事なんて分からないとぼやいていたが、なんだかんだと伝手を頼って情報を集めたりしてどうにかしてしまい、最早教官長というあだ名を避けられないくらいには頼りにされている。本人も訂正は諦めた。

「新人も入ったし、吹雪に構う時間もっと減りそうやね。駆逐艦二人居るし」

 別段、そういう任務を与えられる訳ではないのだが、今の空気だと恐らく自然と担当になる。特に響は同型艦であり、他の艦娘に任せる理由の方が乏しい。

「文月と響、それに那智か。全員高めの適性値だが、戦場で動けるかは別問題だからな……」

「適性値的には……全員1000以下やけど、これかなり高いよな?」

「以下というか……まぁ、そうなんですが。第二期の適性者は第一期よりも平均値がかなり低かったので、文月が駆逐艦の中では最高値だったようですね」

「平均値に関しては前回がおかしかっただけだろう」

 何しろ二百人も居ない中に53万が一人居た訳だから。

「今回は一番高くて4000代ですからね。やはり第一期は吹雪と提提督の存在が大きかったようです」

 結局のところ、提督の影響で適性値が伸びていない素の状態では、四桁に届くか届かないかくらいが限界なのではないかと思われる。今回の適性検査でも1000を超える人間は三人確認されたが、その全員が例の地域への出入りが確認されているため、吹雪か提提督の影響を受けていると考えられていた。

「文月のケッコンとやらは、暫く様子見やからいいとして……結局吹雪はすぐ島風に渡すん?」

「本人はちょっと考えると言っていました」

 身体能力が上がる事に引っかかっているのかもしれないし、可能性は低いが他に渡したい人が居るのかもしれない。ただ照れが入っているだけかもしれないが。

「島風に渡すなら急ぎという訳でもないので考えておくようにだけ言っておきました。早い方が良いのは間違いないですけどね」

 そう言って宮里は話を締めくくった。

「それで本題なのですが」

「長かったな前振り!? というか前もあったなこの流れ!?」

 本題、というのは明日以降の予定の話である。大阪湾全域を取り戻す事に成功したため、次はそこを守りつつ淡路島と本州間のルートを開拓しなければならない。そのためには淡路島を挟んだ反対側の海域もある程度は取り戻す必要がある。なので、宮里艦隊はこのまま海岸線沿いに瀬戸内海を進み、明石海峡の安全を確保するのが当面の目的になる。その予定だった。

 

 

 

 長門達と宮里提督が打ち合わせをしている頃、通信室で働く人間達もネットワークの監視や周辺の警備部とのやりとりなどでそれなりの多忙さを味わっていた。尤もそれは普段通りの業務であり、トラブルが起きていたとか、異常なスケジュールであったりしたわけではない。暇な時分などあまり無いというだけである。

 いつも通り忙しくしつつも、大阪湾を取り戻した事への喜びでどことなく浮ついた雰囲気になっていた通信室に、海の向こうから見慣れぬ電波がやって来た。

 変色海域が正常な海へと戻ったが故に届いたそれは一般的に救難信号と呼ばれるもので、SOSという簡単な三文字だけを繰り返し本州へと広く発信し続けていた。

 

 

 




書いてる最中に意識が落ちるの止めてくれよ……


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ずっと何かが乗っている

 淡路島から救助の要請が来た。

 私達がそう提督から聞かされた時、何人かは明らかに表情が変わり、一人は若干息が荒くなっていた。ほんとに余裕無いんですね夕雲さん。まぁ、淡路島の規模で生き残りが居て首尾よくそれを助けられるなら、四国の方ではもっと多くを救えるかもしれないんだから仕方ないんだけども。

 当然、すぐに助けに行こうぜって声は上がって、提督もそれに頷いた。ただこれ、使命感とか正義感とか、そういう理由からではなく、やらないとちょっと不味い事になるからなんだそうな。

 退避ルートを確立していない、本州まで上手く送り届けたとしてもその後精神的肉体的にケアする環境も完全には整っていない。そもそも敵戦力の把握や淡路島を挟んだ反対側の変色海域の偵察もまともにされてない今、本当ならすぐには救助へ向わせたくなかったようなのだけど、どうしてもやらないといけなくなった。

 なんでかと言えば、救難信号を受け取ったのが私達だけではなかったからである。今の日本って、色々問題起きてるし食い詰めてる人もいっぱいいる訳なんだけど、インターネットとかメディアとかは正常……ではないけど動いてるんだ。そんな状態で不特定多数に信号が送られちゃったもんだから、もうね、一瞬ですよ。

 本州全土に知れ渡っちゃったよね、生き残りの存在。私なんて宮里提督から言われるより早くネットで知ったからね。デマだろって思ってたけど。だって取り戻した日のそのうちだったし、受信したって奴大阪湾が青かったから動画撮ってきましたとかふざけた事言ってんだもの。まだ危険地帯だ馬鹿。

 ネット上じゃお祭り騒ぎになっていて、メディアも速報出しちゃったテヘペロって状態で、今はまだ危ないから行きません!!!! とか私達が言い張るのはちょっと不味い。ただでさえ第二期の招集があったばっかりだっていうのにお題目の人助けを実行しないのは、ちょっとどころでなく批判の的になる。っていうかなってた。言ってる人いた。反論しておいた。

 深海棲艦がSOSに対してどういう反応を示すのかも分からない。反応する事もあれば反応しない事もあるらしく、最悪の場合淡路島に姫級が大挙して押し寄せるなんて事も考えられ、そうなったら誰も生き残れないだろう。あいつら殆どが航空機使うから一体で町一つぶっ潰せるし。

 艦娘である私達の士気にも関わり、これでSOSを出した人が死んだりしたら私だって凹む。人を助けに行ける事がモチベーションの人は結構多いみたいだし。

 そんな理由が色々積み重なった結果、私達の出動は決まってしまったわけである。まぁ、やる事は救助に行く自衛隊の人達の護衛なんだけどね。私達は陸地で全能力を発揮できる存在じゃないからさ。私以外。

 

 

 

 私達の出発はSOSを受け取った翌日の早朝になった。私達だけで出発していいならもっと早くに出れたのだけれど、自衛隊の人達が乗る船とか、避難のために必要な道具とかを用意していたらそれくらいになってしまったのだ。でもこれ文句出ないくらい迅速にやっているんだよね、四国攻めのための準備がとっくに始まってたのが良かったらしい。

 よろしくお願いしますと挨拶し合い、配置の確認とかもろもろを終えて早速出発。皆やる気は十分で、天龍さんなんかは刀を振り上げて鼓舞の声を上げていた。ただ、夕雲さんは普段に増して物静かで、提督に声を掛けられても反応が鈍かったりしてたので少し心配になる。旦那さんと娘さんは四国らしいからまだ少し助けに行けるのは先なんだけど、やっぱり重ねてしまうものがあるんだろう。

 新人三人は流石にお留守番だ。勿論帰る場所を守る仕事って事だから普通に重要な役目なんだけど、那智さんは少し不満そうで、響は了解とは言ってたけど何を考えているかよく分からなくて、文月はあからさまにほっとしていた。

 どうやら文月は宮里艦隊では珍しく戦いに対して恐怖感を持っているらしい。いやそれが正常なんだけど、うちの艦隊は恐怖心より戦う理由の方が強い人が多いから、そういうタイプは少数派なのだ。たぶん私の戦う理由が一番ふわっとしてて軽いからなこの艦隊……

 そんな文月は出発前の私達に、頑張ってください! とえらい可愛らしい声で私の頭上を気にしながらエールを送ってくれた。すっごいアガった。ゲームだったらキラキラ付いてるくらい。

 

 私達第四艦隊が立つのは護衛艦隊の一番前である。理由は単純で、もし敵が見つかったら瞬殺して絶対に自衛隊員の乗った船が撃たれないようにするためだ。私には一か月くらいとはいえ収集部隊を守った実績があるから起用されたんだろうと思う。

 出来得る限りの偵察などは空母の皆さんが頑張ってやってくれて、とりあえず敵は見当たらないという話で、実際近くには全然居なかったので、さほど時間もかからずに目標地点まで到達した。このまま救助までいければいいけどねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮里艦隊に出入りする人間の中で、他の鎮守府の様子も知る者からすると、宮里艦隊の艦娘達の士気の高さはある種異様に映る。

 そもそも一般的な鎮守府において、艦娘という名で招集された民間人の少女たちは本当にただの民間人だった。戦闘に対する忌避感や恐怖心が強く、一部のやる気のある娘や元々自衛官だった旧精鋭部隊の艦娘に引き摺られるように海へ出て、水面へ足を着けて初めてその日の覚悟を胸から絞り出すような有様で、戦えはするものの積極性は皆無。金銭や食事に釣られてやる気を出すなら良い方で、半数とは言わないまでも、その半分くらいの人間は逃げようも無いからと仕方なく戦場へ立っている。死者が出ていないのが不思議なくらいであった。

 生放送に選ばれなかった鎮守府は特にそういった傾向が強く、物資の搬入をしているだけでも厭戦の空気が伝わってくるような場所すら存在していた。不安を誤魔化すため仲間と身を寄せ合って気を紛らわし、海の上に立てばある程度落ち着き、陸に帰るとまた気が沈み込む。配属から数か月経った今ではかなり落ち着きが見られるようにはなっているが、あまり強くないとされる艦娘が多い鎮守府ほどそういった傾向が顕著に見られた。おそらくは艤装からの影響が小さいために適応出来なかったのだろうと言われている。見ている側はその痛々しい様子に罪悪感を感じさせられたという。

 翻って、宮里艦隊はと言えば。まず毎日の出撃において遅刻をするようなものはまず居らず、準備は手早く入念に、意気揚々と海へ繰り出していく。日用品の搬入をしているだけでもその活気ある声は聞こえてきて、その水平線へと向かって行く背中を見送れば、背後ではその日待機になっている艦娘が効率的な弾薬の運用や魚雷と砲弾の積載比率について話し合っている。帰ってくればその日の反省点をチェックして、何か必要な事があれば直ちに提督へと相談が持ち込まれ、翌日にはそれらを反映して再び海へと戻って行く。見ている側には他の鎮守府とはまた別の罪悪感が生まれたという。

 そんな妙な士気のせいか、宮里艦隊には深海棲艦に恨みのある者のみが集められたという噂が立っていた。家族を殺された、家を燃やされた、片目を奪われた、楽しみに取っておいた酒瓶を撃ち抜かれた等々、個人差はあれど復讐心に憑り付かれた人間で固められた戦闘狂いの艦隊。敵を殺すためなら己の身も顧みない、死んでないだけで死んで元々な戦い方をしている。口さがない者達のそんな噂話に信憑性が出てしまう経歴の持ち主が複数居て、挙げた戦果と出撃回数もそれを補強してしまっていた。

 

 今日未明、淡路島への救助部隊が鎮守府に到着した時にも既に艦娘達は粗方の用意は済ませ、いつでも出発できる態勢を整えていた。代表者である宮里提督と打ち合わせをしながら、護衛に当たる艦娘達とも配置や緊急時の動きなどを確認して行く。その様子は真剣そのもので、敬語や堅苦しい言葉遣いに慣れないのか時折変な単語が飛び出すが、殆どが十代だとは思えないほど落ち着き、しっかりと統率がとれている。ただその面様の奥に垣間見えるのは、ごく一部を除き、ようやく表れた人命を救えるという最高の成果に向かって目を輝かせる普通の少女たちの顔だった。

 宮里艦隊の艦娘達は純粋にやる気に満ち溢れていて、深海棲艦を殺せればいいなどというような荒んだ様子ではない。それどころか自分達自身と護衛対象の安全のために念入りに打ち合わせを行っていて、救助に行く側もされる側も誰も死なせないという気概を感じ取れる。噂なんて当てにならないものだ。そう口に出した一人は周囲に同感だと笑われた。

 

 逆に、噂通りであった事もある。

 例えば天龍。鼻筋の通ったきりりとした顔付で、目つきは少し鋭いが快活な雰囲気と相まって気風の良さそうな印象を受ける。片目が眼帯で覆われているがそれが不格好に見える事は無く、服装の一部として整った眉目を強調させていた。

 例えば初春。優雅な所作と長く変わった色合いの髪が合わさり、神秘的な雰囲気を匂わせている。自分が衆目に晒された時どう見えるのかを熟知しているようで、完璧な姿勢と整った顔立ちは宗教画のようで畏れ多さすら感じさせた。

 例えば加賀。派手さのない、大和撫子という言葉を彷彿とさせる佇まいなのだが、あまり表情が変化しない事もあり冷たい印象を受けてしまう。しかし、ふとした時に見せる笑顔はそれ故に普通以上の強い印象を残す。弓を取り矢を番えるその凛とした姿は切り取って残しておきたくなる程だ。

 例えば夕雲。何処か陰のある若奥様といった風情で、実年齢以上の色気がある。今は少し鳴りを潜めてしまっているが、本来の彼女は仲間への気配りを忘れず、傍に居るだけで安心感を得られる包容力をも持ち合わせていた。

 例えば島風。陸上競技で鍛えられた健康的な肉体を惜しげもなく晒し、どことなく眠たげな眼で忙しなく動き回っている。機敏な動きで跳ね回るため過激な衣装からともすれば各部が見えそうになるが、それが色気でなく愛嬌になるのは天性の才能だろう。止まっていると美少女だが、動いていると小動物的な何かに見える。後ろを付いて行く連装砲ちゃん共々撫でてあげたくなる者も多かった。

 そう、宮里艦隊の艦娘は噂通り、容姿に恵まれた者が多かった。宮里自身が女性でなければ嫉妬の声の一つも上がっただろう。本人にとっては甚だ遺憾であろうが。

 そもそも艦娘は全体にやけに容貌の整った者が多い。その上で、各鎮守府で目立った成果を挙げる者たちは押し並べて容姿も優れている。そのため綺麗所は戦闘力も高いなどという風評が出来上がるのは自然な成り行きであった。恵まれなければ弱いという訳ではないためどういった理由でそうなっているのかは全く分かっていなかったが。

 そんな流言の中心人物が、宮里艦隊には所属していた。

 

 その艦娘は艦娘の中でも年少の部類に入る。下限十二歳に対して十三歳という若さだったが、第四艦隊の旗艦として救助部隊を形式ばった挨拶で出迎え、作戦会議も真面目に取り組んでいた。戦艦以上の攻撃能力を持つ駆逐艦であると世間を騒がせ、公的な記録でも他を圧倒する数字を叩き出しているにしては控えめな態度で、自衛隊員達に対しては一定以上の敬意がある様に見受けられ、深海棲艦と見るや射殺するだとか、素手で戦艦の装甲を叩き割るだとか、そんな噂よりはかなり大人しい人物像をしているようだった。

 一見すれば美しい少女である。目を引くような派手な美貌という訳ではないが作り物のように整っていて、どことなくぼんやりとした薄い表情は儚さを感じさせる。周囲の艦娘達の会話は見守る様に聞き入っているが、その控えめな態度と裏腹に、時折話を振られた際の受け答えはしっかりとしていた。

 

 ――実の所、純粋にコミュニケーション能力が低く、感情に似つかわしい表情が出なかったり積極的に会話に参加するのが苦手だったりするだけなのではあるが――

 

 必要な事を必要なだけの言葉で簡潔に伝える様子は年齢不相応の落ち着きを感じさせ、知らない人間が来て気になって仕方が無いのかそわそわと動き回る島風とは対照的に見える。その島風に連装砲ちゃんを積み重ねて大人しくさせるその動きは俊敏かつ正確無比であり、その優れた運動能力が脚だけに留まるものではないと知れた。世界に通用する肉体というのは過大な評価ではないのだろう。

 それでいて体の線は平均的な細さで、均整がとれ無駄は無いのだが、まるで戦うのに向いているようには見えない。セーラー服にスカートという女学生のような――実際中学生であるが――制服に身を包み、時折何事か呟いている。一見すると独り言のように聞こえるのだが、自分の艤装に関する事を話しているようで、どうやら普通の人間には見えない、妖精さんと呼ばれる謎の生き物に話し掛けているらしかった。

「ねぇこれ大丈夫? 止まったりしない? 誰も乗ってないのに動いてるんだけど…………ええ、そういうものなの? じゃあ機会あったら遠慮なく行くわ…………うん、まぁ、そうかな……そうかも……」

 傍から聞けば意味が分からない事を呟きながら、妙に整った顔のパーツを歪めている。その様子を見た他の艦娘達の視線は何故かその頭上へ向き、どういった理由か一様に困惑の色を見せていた。

 出港までの間そんな調子で、他の艦娘達の普段以上の意気軒高たる様とは対照的に意気込んだ様子も委縮した様子もまるで無い。普段通りであろう緊張感が欠片も無い様子は、彼女をよく知る者には頼もしく映り、知らない者には不安に映った。

「吹雪」

 港を出る直前、長門に呼び止められ作戦に関する注意を改めて受けていたが、それに関してだけは表情は変わらないものの明らかに不服そうな雰囲気を見せ、一瞬だけちらりと自衛官達の様子を窺った。直後には了解の返事をしていたが、本当に従うのかは微妙な所だろうと思われる。必要なら見捨てるようにと言い残しその場を離れた長門には、見ていた自衛隊の同輩からお疲れさまと労いの言葉がかけられた。

 言われた側の少女、吹雪は長門さん大変だなぁと呟くと、雰囲気を先ほどまでとは違う何か良いものでも見たような明るい物に変える。長門は嫌われ役のつもりで言っていたが、吹雪からの好感度は上昇するばかりであった。

 

 

 

「あの子、目を閉じてるんだが大丈夫なのか?」

 出港直後、危険地帯への船出で緊張感に満ちた船上からそんな声が飛び出した。他の隊員が確認すれば、成程、確かに護衛として先頭に立った吹雪が目を瞑って航行している。

「ああ、あれはソナーに集中してるんだよ」

 答えたのは交換要員の妖精さんを艤装に詰め込んだ駆逐艦皐月の艦娘だった。収集部隊の一人として吹雪に護衛されていた頃、時折ああして耳を澄ませては見つけた遠くの敵に爆雷を投げつけているのを見たと言う。

「吹雪は集中したら水中の索敵範囲が艦隊で一番なんだ」

 耳が非常に良く、適性値と合わさってほぼ敵が動く音を聞き逃す事は無い。それどころか、今自分達が話している声もしっかり聞こえているはずだと皐月は苦笑いした。空中は他の艦娘の方が得意、らしいが、それもミスをした所は見たことが無い。おそらく比べているのが全艦娘でトップクラスと言われる人間達なのだろう。戦闘部隊に入る事すら出来ない皐月には酷く遠い話だった。

 目視はしなくて大丈夫なのかと不思議がる自衛隊員の面々をよそに、吹雪は向きを少しずつ変えながら対潜警戒を行っている。まああの子に任せておけば間違いは無いよと羨まし気に皐月が語っていると、突然、吹雪ははっと目を見開くと鋭い声を上げた。

「敵です! 数3、南西60km、進路は南東!」

 自衛隊員達に緊張が走る。だが、その報告を聞いた艦娘達の表情は微妙な物だった。

「吹雪」

 長門は沈痛な面持ちで答えた。

「湾外の、こちらから離れて行っている敵のは今回は置いておこう」

 60km先というのは位置的に大阪湾をとっくに出ている。そんな所に居る潜水艦の位置を言われても正直困ってしまう。もちろん報告自体は助かるし、もしかしたら吹雪にとってはすぐ行って帰って来れる程度の距離なのかもしれないが。長門は寄ってくるようならまた報告をするように言った。

 問題無し、進行を続けると通達され、隊は進み続ける。その船の上の自衛隊員達は今のやり取りに感心したようだった。

「艦娘のソナーもなかなか索敵範囲広いんだなあ」

「まっさかぁ」

 相変わらず一人だけ別の運用が必要な能力をしている。皐月は乾いた笑いを漏らした。

 

 

 

 その後は特に何も起こらず、艦隊は淡路島へと到着した。そこは救難信号の発信源からは近いが港ではなくただの砂浜だったが、周囲から多少は見え辛くなっていて、海側の敵から船を守るには悪くない位置だと思われる。すぐ奥は林のようになっていて、周辺に人が住んでいるような雰囲気では無かったが一応整備された道も見えていた。

 時間にすれば数時間も無い航海だったが、昨日まで変色海域であり今現在も危険地帯とされる地域を渡るのはそれだけで既に自衛官達の神経を相当に削っている。一息ついた人間も多かったが、しかし、本番はここからなのだ。

 捜索隊がボートで接岸し上陸を果たすと艦娘達は周囲の警戒に当たる。何人かは陸地の方を目視やレーダーを使っての探査で警戒し、それ以外は多くが海からの敵襲に備えていたが、一人、どういう訳か熟練がどうとかなんとか妖精さんと話しながら地面を見つめる者があった。吹雪である。

 長門さん、とはっきり聞こえるが大声ではない程度の声で呼びかけると、砂浜を指差した。

「ここと、ここ……あと、あっち? あれですね、あ、あそこにも……何かが陸地に向かって移動して行った跡があると妖精さんが」

 報告を受けた長門が検分すればそれは確かに何かが這ったような跡で、砂地で消えかかっているがまだ新しく見える。遠くの方には足跡と思しきものもあるようだった。どうやら見え辛い場所を選んだのはこちらだけではなかったらしい。

「川内!」

「もうやってますよーっと」

 陸の警戒をしていた中で一人だけやたらとメカニカルなゴーグルを付けた艦娘、川内は視界内をその機能でもって精査して行く。深海棲艦はかなり体温が低いため専用に調整されたサーモセンサーならばある程度発見が可能である。そのための装備を艦隊で唯一持っている川内は、いつも以上に集中したが、周囲にその影を見つける事は出来なかった。

 すぐ近くには居ないだろう、と報告がなされると長門は全体に島内への警戒態勢を強めるよう命令を出し、海側の探知をしていた中から何人かを陸側へと移動させる事にした。とはいえ、上陸する人数を変える事は適性的に不可能であるため海からの警戒ではあったが。

 

 島内に深海棲艦が潜んでいる可能性が高いと分かってもやる事は変わらない。そもそもその可能性は考慮された上で作戦は実行に移されているからだ。護衛の艦娘を付けた捜索隊は浜を出て島の奥、救難信号の発信源へと向かって行った。

 先頭に立つのは川内、陸地での索敵能力が突出しているための人選である。次いで島風、主にレーダーで航空機への警戒を担う。そして吹雪、彼女は一人だけ陸地でも戦えると認識されている。最後に皐月、吹雪の妖精さんの交代要員を積み、適性は低いがレーダーや目視での索敵も行う。この四人が捜索に当たる自衛隊員達の護衛となる。

 事前に発信源のおおよその位置とその場所までの道筋は地図で照合してあるため、一行は確認を挟みながら慎重に先へと進んで行く。いつ深海棲艦と出くわすかも分からないその道中、警戒を緩めないよう慎重に進んでいた隊の前に、道を塞ぐ土砂と複数の倒木が姿を現した。

 迂回するか乗り越えていくか。土砂崩れ自体はとうに治まった後のようで、もう周囲が崩れる心配は無さそうだが、場所が悪く、迂回するならかなりの遠回りをするか道なき道を往くしかない。深海棲艦が救難信号に反応しているような形跡があった以上出来る限り道を急ぎたいのだが、乗り越えるにもかなり足場が悪く、せめて土砂だけならばと話し合っていると、声を上げたものが居た。吹雪である。

「木がなければ大丈夫なんですか?」

 隊長がそうだねと肯定すると、分かりましたと軽く返事をして吹雪は倒木へと近づいて行った。何かする気かと問おうとして、隊長が口を開くその前に。ひょい、と。幹の直径が40~50cmはありそうなそれが宙へと持ちあがった。おかしな光景、明らかに自身よりも質量のある物体を両の手で掴み、中学生平均程度の体格しかない小娘が、空のダンボール箱でも持ち上げたような気楽さでくるりと方向転換し、小物か何かを片付けるかのように成木を道の脇へと転がした。

 オウッと鳴いた島風と苦笑を漏らした川内以外が名状し難いその行為に絶句している間に、吹雪は頷くしか出来なくなった隊長に許可を取ると邪魔になっていたそれらをすっかり片付けてしまった。艦娘達には分かったが、時折何か妖精さんと相談しながらやっていたので、隅へと追いやられたそれらが転がって来たりはしないだろうと思われる。

「艤装って凄いんだな……」

「あれが平均に少しでも近いとは思わないで欲しいんだけどなぁ」

 皐月の呟きは皆の胸中に自然に染み込んで行き、そりゃあそうだと全員が心の中で同意した。

 

 塞がれた道を越え、捜索隊は慎重に周囲の警戒は怠らないようにしつつも出来る限り急いで進む。時折野生動物が飛び出したり、放置された車や火災の跡らしき物を見かけたりはしたが人間は見当たらない。死体などとも遭遇しないのはこの辺りでは誰も死ななかったのか、それとも死体を持ち去った何者かが居るのかは杳として知れなかったが、足を止めずに済んだという一点においてはどちらでも有難かった。

 坂道を上がり、そろそろ目標地点が見えて来るのではないかという頃になると、敵も向かっている可能性があるという緊張の中で誰一人声を発さなくなっていた。目指す先は崖のようになっていて、登攀しようというのでなければ目的地へは少し遠回りしてさらに上がっていく必要がある。敵からも狙われやすいだろう位置で、さっさと抜けてしまいたいのと、もうすぐ救助対象が見つかるかもしれないという期待感で一行の足は速くなった。

 坂道の曲がり角に差し掛かり、ここを折り返せば発信源があるはずだと隊長が零した。見事にU字をしたカーブにはガードレールが半端に取り付けられ、その向こうは極端な角度の下り坂になっており、さらにその奥の高い場所には別の道が見える。植物の生い茂ったそこには影のようなものが踊っていた。

 その瞬間、何かが破裂するような音が隊を貫いた。周囲の警戒を強めていた川内が音の発信源の方を睨めば、その方向から再度同じ音が響く。続き三度目の音が聞こえた時、音の主が上方に見えていた奥の道に姿を現した。

 そいつは四度目の音を鳴らしながら背走で駆けて来る。見た目は中高生くらいか、手に金管楽器のようなものを持ち、焦った表情をした少女だ。その娘は少し前を向いて走るとまた背後に向けて爆音を放ち、救助隊の存在には全く気付かない様子でやって来た方向を睨みつけ、足を止め両手を上げた。

 何をやっているのか全く分からず、救助隊は困惑し、どうしていいかすぐに判断が付かない。ほんの数秒、声を掛けて良いものか躊躇った自衛官達の視線の先、少女の出て来た側から一つ、少女が走って行こうとしていた側からも、もう一つ人影が現れた。そいつらは白い口元から機械音のような堪え切れない嗤い声を吐き出しながら逃げていた少女に歩み寄って行く。

 両方とも同じようなセーラー服を着て、詰め寄られている少女よりもさらに年若く見える、異常に青白い肌に緑色の瞳と角の生えた異形。片方はブーツのような物を履いているように見えるが、もう片方は素足である。そいつらは少女の目の前まで歩いてくると顔を覗き込み、邪な笑顔で語りかけた。

「オニゴッコハオシマイ?」

「オトリノツモリダッタノカ? バッカジャネェノ」

 言って、二人同時に大きな嘲笑の声を上げる。その様子を見た少女は負けじと笑い返してやった。

「そのつもりの奴に二人も引き付けられてんだ、馬鹿はテメー等の方だろ!!」

 嗤い声がぴたりと止んで、面白くなさそうな視線が不敵に笑う少女に突き刺さった。どちらともなくため息を吐き、突如、己の半身――深海棲艦そのものである異形の艤装を顕現すると、その砲口を少女へと突き付けた。

「モウイイ、ツマンナインダヨオマエ、シネ」

 吐き捨てるような声と同時、谷間を挟んで距離があり、どうにも出来なかった自衛隊員達の前で、発砲音が鳴った。

 崩れ落ちる一つの影。同時に破砕音が鳴り響き、少女へと向けられた砲口がその付け根からへし折れた。驚愕しながらも人を越えた反射神経で深海棲艦は飛び退る。いつの間にか、少女と深海棲艦の間には今までに無かった人影があった。吹雪である。

 さっきまで確実に隣で捜索隊の護衛に付いていたはずだ。いつの間にそこへ移動したのか――ただ単にその場から跳躍しただけであるが――自衛隊員も深海棲艦も全く理解が出来なかった。艦娘達には凡その見当は付いたが、それでも信じ難い光景だったと言う。

「ナンダオマエ……ナニヲシタ!?」

 半ばから折り千切られた自分の艤装と、完全にその艤装が崩壊し動かなくなった仲間の、穴の空いた顔面を見て、一人になった深海棲艦は叫び声を上げた。

 

「深海棲艦って、本当に喋るんだね、初めて声聞いたわ」

 

 帰って来た返答は全く予想外のものだった。極めて平常な声色、目の前の相手をまるで脅威と感じていないのだと誰もが知れた。いやそもそも、深海棲艦への返答ではなかったのだろう。相手の姿をしっかりと瞳に映してはいても、その表情は敵を敵と認めてはいなかった。

 

「いや、知識では知ってたんだけどほら」

 

 もう一度発砲音が響き渡る。先ほどと同じ、それ程大きくもない、吹雪の連装砲の音だ。

 

「普段声の聞こえる距離まで近づけないからさ」

 

 発射と着弾が同時に起こる。残っていた異形の半分だけ原形を留めていた艤装も吹き飛び、その体はゆっくりと地に伏した。連装砲から煙が上がる。立っているのは少女と吹雪の二人だけになった。

 

 吹雪がゆっくりと少女の方を振り向くと、少女は余りに意味不明な出来事から我に返り、びくりと震えた。何があったのかは全く理解できないが、それでも彼女は目の前の光景と眼前の美人からせめて目だけは離すまいとしっかり前を向いている。正直に言えば恐ろしかった。相手が人間なのかもよく分からなかったから。

「ごめんなさい、驚いて対応が遅れました!」

 なので、勢いよく頭を下げられた事に面食らい、お、おう……と弱り切った声を出してしまった彼女が情けないなどという事は決してないのだ。

 

 

 




自分のオリ主を褒め称えるって思いの外辛いですね。変な笑いが出ます。
俺TUEEEEEEEEEEEもの書いといて何言ってんだって感じですが。

去年はコロナの影響で時間いっぱいあって書けるじゃん投降してみよとか思って勢いでやれたくらいなのに今年はどうしてその余裕が無いのか。コレガワカラナイ。


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見た目が一番の問題点

「吹雪なんで妖精さん頭に乗っけてるの?」

 出発の直前、小首傾げた島風にそんな事を質問された。連装砲ちゃんも真似してきゅー? と鳴きながら頭を傾けている。かわいい。

「高い所に居た方が周りが良く見えるんだって」

「艤装の中よりはなー」

 島風はそっかーと納得してくれたようで、自分の艤装の妖精さんに誰か頭の上に乗るかと聞いていた。みんな遠慮してたけど。

 島風以外にも気にしてる人は結構……というか、たぶん見えてる人達全員気になってたと思うんだけど、理由を聞いてくる人はあんまり居なかった。私が提督適性を持ってるのは知れ渡ってるからそういう事もあるんだろうとでも思われたのかもしれない。吹雪だしって声が聞こえたのは気のせいだようん。

 

 

 

 今回の淡路島遠征、私は頭の上に猫吊るしを乗っけて出動している。

 なんで艤装の中に入れないのふざけてるのと言われそうな格好になっているが、これは島風にも言ったように猫吊るしの能力を発揮するのに船内よりも都合が良かったからである。艤装の中でも能力が使えないって訳ではなく頭上の方がより良い、と言われてしまってはしようがなかった。存在を忘れるくらい軽いから乗っけてても問題無いしね。頭ぶん回しても落ちないし。

 いやそもそもなんで連れてってんだよって話だけど、これはもう単純に、猫吊るし本人が同行して人助けに役立ちたいって立候補した上、能力的にも滅茶苦茶優秀だったからである。自己申告で妖精さんの種族的な特性は全部使いこなせると宣ってた猫吊るしは、チート転生者の名に恥じないだけの高スペックの持ち主だったのだ。

 艤装という兵器は通常、複数の妖精さんが内部で頑張って動かしている。そのため中の妖精さんが足りなければ運用に支障をきたし、場合によっては装備がちゃんと動かなくなったりしてしまう。逆に多過ぎても身動きがとり辛くなって、やっぱり問題があるらしい。

 ところが猫吊るしの場合、これをたった一人で動かせる。それどころか直接艤装に触れていなくても完璧に操作出来るのだ。最初は私も何がどうしてそうなるんだろうと思ったけど、聞けば頭の上から私を通して艤装にチートの力を流し込んで操作しているんだとか。だから流石に艦娘から離れて動かしたりは出来ないらしいのだけど、私を通して艤装を動かす関係上、普通に稼働させるよりも私の意思を反映しやすいというメリットがあったりもするそうな。

 さらにこの猫吊るし、艤装を動かしながら他の妖精さんの役割も同時にこなせるマルチタスクの持ち主だった。私の頭の上で何をやってるのかと言えば、そう、熟練見張員のお仕事である。正直、私以外に乗せた方がいいような気もするのだけど、本人が私に乗るというのだからまぁそこは仕方ない。

 実際これがかなり役に立って、深海棲艦の痕跡などは私より先に発見してくれているし、猫吊るしが目視をやってくれるため私はソナーに集中出来たりもする。他にも航空機の整備とかもやってやんよって言ってたけど私は積んでないから無意味なのが惜しい。

 計算能力が高いのか知らないけれど、倒木とかもどう動かしたら周囲を崩さずどう積んだら安定するかなんて事も分かるらしく、居るとかなり頼りになる。私自身は感覚を研ぎ澄ませて周囲を警戒し、体の方は猫吊るしの指示通りに撤去作業するだけだったのめっちゃ楽でした。

 問題点としては転生者故か他の妖精さんよりお喋りで、猫吊るしが見えてる艦娘達はともかく見えてない人たちには私が延々独り言を呟いてるように見える事だろうか。いや、妖精さんの事は自衛隊の人達はみんな知ってるから分かってくれる人は分かってくれるんだろうけど、事情を知らない人には完全に変な人でしかないだろう。例えば目の前で困惑してるトランペットを持った子とかには。

 

 

 

 深海棲艦が喋る事を知識では知っていても実感した事の無かった私は、それを聞き取った瞬間驚きで反応が遅れてしまった。いやね、今までも声の届く範囲に近づいた事は何度もあったんだけど、そういう場合は文章になるほど長く声を上げる暇を与えずに泣いたり笑ったり出来なくさせてたからさ……

 おかげで民間人が砲塔を突き付けられるまでぼーっとしていて、猫吊るしにヤベーぞ姫級だなんで見つめてんだおいと言われるまで動けなかった。言われてはっと我に返り、地面を蹴って片方を倒しつつ拳でもう片方の武装を叩き割り、猫吊るしに理由を簡潔に説明しながらやたら早く再装填の終わった連装砲で止めを刺し、要救助者だった人へは思いっきり頭を下げた。本当に申し訳ない。

 救助された中高生くらいか、結構な美人さんに見えるその娘さんはちょっと困った様子だったが、私が頭を上げて救助に来たと説明すれば、私の肩をガっと掴んで必死な様子で逆に頭を下げて来た。

「頼む、兄貴達も助けてくれ……!!」

 オナシャス!! と焦り過ぎて若干舌が回っていない様子で懇願してくる。何があったか分からないので話を聞かなきゃ始まらないんだけど私だけで事情聴取は効率が悪い。だからって悠長に歩いて少し下の方の道に居る皆と合流してたら取り返しのつかない事になりそうだったので、ちょっと我慢してくださいねと一言断り抱え上げ、舌を噛まないように注意勧告をして跳躍した。着地は完璧だったからほとんど振動も行かなかったはずである。

 

 目を白黒させながらも要点を纏めて話してくれた彼女によれば、どうやら救難信号を出したのは彼女と同じグループの一員で、慎重論を唱えるリーダーみたいな立場の人――彼女のお兄さんらしい――の反対を押し切って強行したらしい。やっちゃったものは仕方ないので信号を出した場所で何人か交代制で待機していたら、丁度彼女とその友達が交代要員として、一緒にお兄さんも様子を確認しにやって来たまさにその時に深海棲艦が現れ、皆散り散りになって逃げたのだそうだ。

 話してくれている彼女は咄嗟に友人が趣味で持ち続けていたトランペットを強奪、吹き鳴らしながら逃げて注意を引こうとして、二体も引き付けて私達の前まで辿り着いたらしい。まず死亡確定だったろうに凄い勇気あるなこの人。

 彼女が確認した深海棲艦は全部で三体、全員真っ白い人間みたいな姿で顔はしっかり見えてたらしいから鬼や姫、良くても戦艦とか巡洋艦な訳で、殺すつもりだったらとっくに殺されてたんだろうなとは思う。なんか追いかけて遊んでた風な台詞だったし。それでも2/3を一人で誘い出したんだから凄い。

 すぐにでも助けに行って欲しそうな様子ではあったけど、どこへ逃げて行ったか分からない事にはどうしようもないためとりあえず急いで発信源となった建物へと向かう事になった。こっちへ来ている可能性もあるため警戒は怠らないようにはしたが、出来るだけ急いで進む。川内さんは木々の間にしっかりと目を光らせて少しの変化も見逃さないよう努めていた。

 

 当初の目的地だった建設物に辿り着くや否や、私の頭の上に陣取る猫吊るしがあっと声を上げ、地面の方を指差した。

「おいそこ、足跡残ってるぞ!」

 私を含めた艦娘四人が一斉に示された場所へ注目する。見れば成程、確かにそれは足跡だった。道を逸れ、木々の中へと消えていくそれはむき出しの土にはっきりと深く残っており、どうやらかなり重いモノが通った跡だと窺い知れる。人間じゃなくて深海棲艦のっぽい。

「追います!」

 私達艦娘には一応ちゃんと指揮系統があって、今この場で一番優先されるのは戦闘部隊かつ自衛隊員でもある川内さんの判断である。勝手に行けないのでやると断言する形ではあるが許可を求めると、川内さんはニっと笑って親指を立てた。

「行こうか!」

 おそらく戦闘部隊で私の戦闘力を一番見知っているのは島風で、一番肌で知っているのは川内さんだ。たまに組み手とか演武とか一緒にやっているし、一回だけだけど、艤装付けて物理を無効化した状態のまま本気で殴り合うとかやった事がある。ちょっと張り切って空中コンボしたら水面をはねながらぶっ飛んで行ったりしてたけど大丈夫だった。だからか、さらっと許可が出た。

 

 救助隊と助けた娘さん――五十嵐さんというらしい――を建物内に避難させ、島風と皐月さんを置いて川内さんと足跡を追う。全力で駆けたいところだけれど、足跡を見失ったら本末転倒なので猫吊るしが捜索出来る程度の速さで走る。それこそ百メートル十秒ペースくらいで。川内さんは艤装による強化量がかなり大きいのか結構足が速く、これくらいなら余裕で付いて来れるようだった。

 周囲は風で木々が騒めき、遠くの音は聞こえ辛い。叫び声でも出していれば方向も分かるだろうけどそういう気配は無いため今は痕跡を辿るしかないだろう。猫吊るしが正確に足跡を捉えてくれるのが有難い。たまに硬くなっているのか分かり辛い場所のものも完璧に見つけ出してくれている。

 暫く進むと川内さんがはっと声を上げると急加速して、私の前へと一歩出た。そしてその勢いのまま宙へと飛び上がると木の枝を踏みつけさらに上昇、木の天辺へと足を着ける。ニンジャだコレ!? とか驚いている暇も無く、木の上から叫びが上がった。

「居たぞ吹雪! そのまま直進!」

 ゴーグルで深海棲艦を捕捉した川内さんの声に呼応して、私は脚を解き放つ。急に流れ出した景色に頭上から声が上がるけど、大丈夫って出発前に言ってたから大丈夫だろう。目の前に迫る大木をステップで躱し、突き出る木の根を飛び越えて、視界が開けた先にそいつは居た。

 見えたのは後ろ姿だったが、それでもはっきりと分かる。腰くらいまである白い髪、膝くらいまでの巻きスカートのようなものを履き上半身には丈の短いジャケットに見える物を羽織った人型。景色の中で一か所だけ無彩色なそいつはかなり目立っている。だが、その場で最も存在感を発揮しているのはそいつではなかった。その横に侍るハンマーヘッドシャークのような姿をして宙に浮く何か、そいつの巨体と非現実感が目を惹き過ぎていた。

「南太平洋空母棲姫か!」

 私の走りに揺さぶられながら、猫吊るしが特徴的過ぎるそいつの名を看破する。敵はこちらに気付いた様子は無く、ただ目線の先へ向けて艦載機を放っていた。おそらくその先に人が居ると思われるが、私からはまだ見えない。

 ともあれ、見敵したからには手加減無用、足元の地面をつま先で捉え、吹き飛ばしながら加速する。深海棲艦の居場所までは大体五百メートルか、十歩もかからず余裕で届く。少し短めのストローク、直前で姿勢を低くして、その足元へと速度を殺さないまま飛び込んだ。何かが飛んで来たと気付いた時にはもう遅い、私はサメの直下で拳を突き上げ、全身のバネでもってその腹部を貫いた。一瞬の拮抗も無く、その艤装は爆散し、空一面を破片が覆った。

 降り注ぐ艤装だったもの越しに、飛び上がった私と人型の目が合う。そいつは突然の出来事に目を見開くと、驚いたような声を上げた。

「オマエッ!? マサカフブッ」

 言い終わる前に私の踵が頭部を穿ち、その顔面を地面へ叩き込んだ。即死である。

 

 本体は倒したものの、発艦してしまった航空機は上空を彷徨い、どうやら主を倒した私を目標に定めたようだった。

「猫吊るし、行ける?」

「行けるぞーぇ」

 若干辛そうな声が帰って来た。けど返事出来るなら大丈夫だろう。上空をぐるりと回りながら私に銃口を向ける敵機の位置を耳で確認し、こちらも銃口を向ける。本当に行けるのかちょっと不安だったけれど、とりあえず撃ち方はじめーと思いながら引き金を引けば、弾はしっかり出てくれた。何か普段よりもブレとかもしないから、十八機居るそいつらに一発ずつ、機銃の弾をプレゼントしてやった。

 落ちる深海棲艦の飛行機、機銃からは弾を込める音が聞こえて来る。どうやら何の問題も無く、艤装は普通に稼働しているようだ。私が全力疾走したにも関わらず。

「うん、好調だわ……猫吊るしは気持ち悪かったりしない? 大丈夫?」

「体はへーき。でも、そこのグロ注意な死体がちょっと……」

 言われてみれば、頭部が破壊され地面にめり込んだそれは人様に見せられない類の奴になってたかもしれない。どうやら猫吊るしは肉体的にではなく精神的に辛かったようだ。ちょっと申し訳ない。

 

 猫吊るしは私が全速力で何歩走っても倒れない妖精さんである。

 他の妖精さんの場合、三歩目くらいで艤装がおかしな動きを始めるんだけど、猫吊るしならそういう事はたぶん起きないと自己申告され、今日の準備をしている間に色々試した結果、それは事実だと確認が取れた。宮里提督にも報告して実際にやって見せて、一応皐月さんに交代要員を乗せる事を条件に乗船許可が下りたのが日が昇る前の話。なので半ばぶっつけ本番だったんだけど、猫吊るしはしっかり仕事をしてくれた。

 それと今、実際に撃ってみて分かった事がある。それは、猫吊るしと艤装を操作している場合、私は機銃のタップ撃ちが可能になるって事だ。普通の時は細かく撃ち分けるのは無理なんだけど、これは私の適性値の暴力による高すぎる発射レートに妖精さんが付いてこられないのが原因だからで、猫吊るしにとっては対応可能な範囲の事だったらしい。

 チート能力で自分の体を使いこなして酔ったりしないようにしているらしいけど、こいつはいったいどこまでやれる子なんだろうか。疲れたりはするから休みなく働くのはヤダって言ってたけど。

 

 猫吊るしの健康状態は良好みたいなので、南太平洋空母棲姫が見ていた方向へ視線をやると、そこにはいくつか建物が立っていた。その上空を先ほど撃ち落としたのと同じ連中が旋回していて、どうやらその中央にある一つの小屋――というには豪華なしっかりとした建物を攻撃しているようだった。

 たぶんそこに逃げ込んだ人が居るのだろうと当たりを付け、攻撃している連中にも弾丸をプレゼント。喜び過ぎて全員動かなくなったのを確認し、渡し忘れが居ないかレーダーでもちゃんと確かめた。吹雪サンタはあわてんぼうではないのだ。今夏だけど。

 周囲に目を光らせつつ建物へと近づくと、銃弾を撃ち込まれてはいるものの建物自体はまだまだ元気そうだった。とりあえず民間人の保護をせねばと入口へ近づき、ごめん下さいとドアを叩くが反応が無い。私の所属を言っても分からないだろうから、自衛隊の者ですと嘘も言ってみたが反応が無い。そりゃまあ、怪しいし、これで喜んで出て来たら童話の子ヤギ見習えよって話になっちゃうから仕方ないけど。

 もしかしてもう逃げて居ないのかなぁと思って耳を澄ませてみると、奥の方から話し声がする。どうやら少なくとも二人は居るらしい。どうしたもんかなと思ってごめんくださいと続けていると、川内さんが追いついてきて、事情を把握すると、五十嵐さんから要請を受けて来ましたと声を掛けた。一発だった。

 

 

 

 中に籠っていたのは二人だけで、五十嵐さんの話だと五人居たはずなので後二人。とりあえず見つかった二人を保護し、最初の建物まで送り届けると、もう一人既に保護されていた。聞けば逃げ回って一周して戻ってきたらしい。なので残りはあと一人、なのだけど。

 私と川内さんで保護したのはリーダーの男性と五十嵐さんと同年代だろう女の子で、その子は建物に辿り着くと五十嵐さんの頬をぶん殴ったのち抱き合って和解、トランペットを受け取っていた。彼女の持ち物であったらしい。

 それを眺めながら合流した島風と何かあったか情報交換していると、川内さんや救助隊の隊長さんが救助したリーダーの男性――五十嵐さんのお兄さんらしい人との話し合いを終え帰って来た。それで出した結論は、島内の生き残りで所在が分かっている人達の安全を優先する、という事だった。

 これはまぁ当然と言えば当然かもしれない。足跡は深海棲艦の物だけだったからどこへ逃げたか分からないし、もしかしたらもう自力で住処まで戻っているかもしれないからね。あとは、まぁ……今から探しても生存率に大差ないかなって、うん。仕方ないね。

 ところでリーダーさん、さっきから私の頭の上見てるんだよね。猫吊るしが手を振ったら振り返してたし、この人あれだね、提督さんだね。これって報告する必要あるよね。やだなぁ。

 

 

 

 

 

 私達は五十嵐さん達の暮らしていた避難先へ赴き、どうするのかを話し合う事になった。と言っても私はただ護衛するだけなんだけども。

 道中、五十嵐さんは私達艦娘に興味を引かれた様子で色々と話し掛けて来た。やはり目の前で砲塔を圧し折ったのはインパクトがあったらしく、それ付けたら出来るのかと艤装を見て目を輝かせていたけど申し訳ない、私以外たぶん無理です。武器有りなら天龍さんや叢雲は結構行けるみたいだけど素手はちょっと。

 救助隊員さんが適性検査や召集の話を軽くすると、私達が中学生な事に気付いて嘘だろって顔してたけど、自分が受ける事に関しては前向きそうな感じだった。でも次の適性検査何時になるんだか決まってないんだよなぁ。そもそも淡路島から救助された人たちってその辺りどうなるんだろ、適性検査は地域ごとに順番だから受け入れ先によるとかなんだろうか。

 トランペットの持ち主だった娘さん――霜田さんも乗り気のようで、どうしたら受けられるのかとかを二人して根掘り葉掘り質問していた。し過ぎてリーダーさんに叱られてた。警戒しながら歩いてる最中だったからね仕方ないね。

 自力で合流したもう一人は五十嵐さん達より少し年上に見え、名を鈴音、名字を五十嵐さんという。つまり最初に会った五十嵐さん――五十嵐 陽さんのお姉さんである。リーダーさんが長男で長女が鈴音さん、陽さんが次女で下にもう一人居るんだそうな。

 この後に実際会って知ったけど、その末妹の名前は四季さんといい、霜田さんも含めて四人とも容姿はかなり良い方だった。何故だろう、全員適性検査に受かりそうな気がしてならない。ちなみにリーダーさんの名前は怜寛さんというらしい。

 

 避難した人達の住んでいる場所はさほど遠くなく、歩きで30分も掛からなかった。聞けばもっと奥には別のグループが暮らしていて、そういうコロニーみたいなものが複数存在しているらしい。

 私達が到着してすぐに出会った第一村人は救助隊の姿を見て大げさに驚くと、リーダーさんと少し話して救助隊の皆を奥へと案内して行った。川内さんもそれに付いて行ったが、私と島風は皐月さんに引率されて辺りの警戒に当たる事になった。

 昼過ぎくらいまではそこで周囲の索敵とかをしつつ生活の様子を見ていたのだけど、淡路島の人達は思ったよりも逞しく生きていたようで、野山での採集くらいはしてるんだろなと思っていたら農業までやっていて、やはり芋が全てを解決してくれていたらしい。本州でも無双してるからなこいつら。本当に有難い存在である。

 私達の事を遠巻きに見る視線なんかはひっきりなしに感じて、そちらの方をちらりと見れば、明らかに疑わし気な表情でこちらを睨んでいる人や逆に涙ぐんで拝んでるような人も居て、みんな五十嵐さん達に邪魔しなーい邪魔しなーいと追い散らされていた。

 道中で聞いた話だと、海沿いに出ると砲撃され、陸にもたまに爆撃機なんかがやって来るからうかつに出歩くと撃ち殺されたりするらしいのだけど、この辺りは大丈夫なのか割と皆さん気軽に外に出てらっしゃる。洗濯物なんかも干してあって、目立たないのかちょっと心配になるけど、上空からは見え辛くなる様に工夫はしているとの事だった。そういう類の知恵を出していたのが見つからなかった五人目さんで、住処にも逃げ戻っていなかったと五十嵐さん達はかなり心配そうにしていた。かなり要領の良い人で、自力で戻ってるんじゃないかという期待がかなり大きかったらしい。探しに行くのは流石に止めたけどしぶしぶといった様子だった。

 生き残った人達はここに集まっているだけでもかなり居るようで、用意した船で一度に運び切れるかと言われれば無理だろうと思われる。本州とはそう離れてないからピストン輸送する事になるだろう。問題なのはやはり護衛で、海に出てからはともかく船に向かう道中は私くらいしか有効な戦力が居ない。いやさっきの動き見てると川内さんもかなり行けそうではあるけど、どの道数は少ないから、大勢を私達だけで守らなきゃいけないため手が足りないかもしれない。

 

 と思っていたのだけど、それに関しては猫吊るしはあんまり心配いらないだろうという見解を示した。

「あいつら基本陸上苦手だからな、艦娘の護衛が居ればそれだけで抑止になるよ。艦の連中って陸地で戦うのに全く向いてないし、基地型は守りはともかく攻めは今一つだし。あいつらだってまともに動けない場所で的にはなりたくないだろうよ」

 まぁ艦載機は普通に飛ばすだろうから対空警戒は密にしなきゃいけないし、鬼やら姫やら以外の一般深海棲艦は割と足付いてれば上がってくるかもしれないらしいけど、海大好きだから沿岸部から離れないだろうという事である。言われてみれば、構造的に陸地じゃそもそもまともに動けないような奴も結構居るしな深海棲艦。性質的にも基本、海が見えないような位置まで進む奴は遊びに来てるか迷子くらいらしい。根本的に船、という事なのだろう。

「あれ、じゃあ深海棲艦ってどうやって内陸部攻め落とす気だったんだろ」

「無効化貫通されなきゃ不得意でもどうにでもなるし……あと、あいつら別に陸地は奥まで制圧する気ねーぞ」

 なんだそれ、初耳なんだけど。島風と皐月さんから少し距離を取って猫吊るしに質問してみる事にした。

「じゃああいつら何しに攻めて来てるの?」

「変色海域を広げて維持しに来てるんだよ」

 それでいい、それだけでいいんだと猫吊るしは首を左右に振って言葉を選びながら回答した。

「あれってさ、ただ海が赤くなって生物が居られなくなるだけじゃないんだわ」

 変色海域化が長期化すると、陸地が浸食されて海に沈むんだよ。

 と猫吊るしはおっしゃった。地上の制圧とか必要無いらしい。制海権だけ握っておけばそっちもその内手に入るから。成程、それなら確かに無理に陸地まで上がってくる必要ないよなぁって納得は出来たんだけどさぁ。

 

 艦これRPGの設定まで混合してたのかよこの世界。

 

 艦これRPGというのは艦これをモチーフにしたTRPG、テーブルトークロールプレイングゲームで、例に漏れず、設定が他メディアと統一されていないために独自色がなかなか強くなっているシリーズだ。

 リプレイの話になるが基本的にノリは軽く、GMが提督で、その素性や鎮守府とか部隊の名前が大惨事表で決まったりするどちらかと言えばギャグ寄りと言っていい作品になっている。ランダム要素が強いため色々安定しないのも特徴だろう。

 その割には深海棲艦が陸地を浸食する、なんて設定があり、放っておいたら人類どころか世界がヤバい系の世界だったりもする訳なんだが。

 そういやファンタジー要素もあったなあのTRPG、もしかしてこの世界もどっかの社に姫級が封印されてたりとかしない? 妖精さん提督とか居たりしない? あとあの世界ブラック鎮守府とかもあるよ? 大丈夫?

「ちなみにそれ、猶予どれくらい?」

「日本くらいなら五年で全部沈む。大体二~三年超えると崩壊し始めるからまだ少し余裕あるかな」

 意外と余裕あったわ。

 いや余裕あるのかこれ? 深海棲艦現れてからもう一年と何ヵ月か経つんだけど。最短あと半年くらいでどこかしら沈み始めそうなんだけど。対応方法が確立してからの発生ならともかく、今みたいに艤装の建造と人員の招集から始めないといけない場合はキツいなこれ。普通だったら普及までの間にだいぶやられちゃいそうだ。

「ちなみにそれ、提督たちには」

「どっちにも言った」

 つまり宮里提督は知ってるのか、変色海域攻略を急いでたのはノルマ以外にそれもあったからかな。私をフル活用しても間に合うか分からないもんなぁ、三ヵ月掛かってやっと四国だし。

 日本以外って今どうなってんだろう、猫吊るしは妖精さんは他の国にも出て来てると思うって言ってたけど……受け入れて貰えてるんだろうか。早くしないと手遅れになりそうなんだが。いや日本より進んでる可能性も無くはないけども。

「ん、じゃあさっきの連中何しに来てたんだろ」

「撃たないで追っかけまわしてる時点でな……遊びに来てたんじゃね?」

 ただ殺そうと思えば砲撃すれば一発だし、わざわざ艤装を仕舞って脚を動かす必要は全く無い。あれは嗜虐心を満たすためのお遊びじゃあないかと猫吊るしは言う。でも、その後少しだけ間をおいて、あ、違うかもと自分の言葉を否定し出した。

「宮里艦隊への嫌がらせかも……」

「え、なにそれは」

「いや、あいつらだって救難信号出てればそのうち本州から助けに来るってのは予想出来るだろ? その時救助対象がもう死んでたら、こう、嫌だろ」

「嫌だけどさ……」

 五人目の人の事もあるから今も現在進行形でモヤってるけどさ。戦略的にはあんまり意味無くないかそれ、いやそれで間に合いませんでしたってなってもこっちの士気とか下がるか? っていうね。 むしろ上がりそうな気がするんだけど、宮里艦隊の人達の場合。ああ、でも国内はヤバいかもわからんね。いろいろ。

「あと、大阪湾取り戻されたからそれの対応とか」

「普通に考えてそっちが本命じゃないですかね?」

 まぁ、一般人追いつめて笑ってたんだから遊んでたのは間違いないだろうけども。もしかしたら私達と戦うために来て、救難信号出てたからついでに挨拶しといたとかそういう話だったのかもしれない。もう死んじゃったから真相は闇の中だけど。

 

 

 

 

 

 避難民の第一陣を連れて上陸地点まで戻る。結局、淡路島を離れたくない人や様子見する人達が出たため全員は連れて来られなかった。一度に全員は船に乗り切らないからこちらとしては丁度良かったんだけどね。というか、それでも何回かに分ける事になったし。

 他のコロニーもあるから今日だけで終わる事は無いだろう……っていうか、把握できてないのもあるだろうから内部探索が必須で、そうなると私ずっと陸かなぁって思ったけどそうでもないらしい。通常時は戦わないで逃げる前提で戦闘部隊以外の艦娘が索敵やるんだそうな。宮里艦隊に川内さんしかいなかっただけで例のサーモセンサーを付けられる人はそれなりに居るらしく、今回は内部の詳しい状況が分からなかったのと、大阪湾を取り戻したばかりだったから特別編成だったとの事である。

 海岸に着くと付近に拠点が設営されていて、二回目以降に船に乗る人たちも待機できるようになっていた。乗船やなんやに関しては私達に出来る事は無いので後ろから深海棲艦が追って来てたりしないか警戒していると、報告へ行っていた川内さんが戻ってきて、補給しろってさーと指示をくれた。近くのテントに速吸さんが待機しているらしい。

 結構大きいそのテントに入ると、中には複数の自衛隊員がダンボールを開けたりだとか何か作業をやっていて、それに混ざって何故か深雪が空になったそれを畳んで片付けていた。艤装も付けておらず、服装のせいで見た目にはただの女学生がボランティアか体験学習でもしているように見える。

 深雪何やってるの、と後ろから入って来た島風が声を掛けると、それでこちらに気付いたようでいつも通りの明るい笑顔でおかえりーと言って、近くにあった水入りのペットボトルを投げ渡してくれた。思ったよりは冷えてて美味い。

 それで何してたの? と島風がもう一回聞くと、深雪は努めて明るく轟沈したわーと返答した。久々にやったわっていや笑い事じゃないだろ……怪我はないらしいし、今回はちょっと余裕があったとかで水も飲まずに済んで乗組員の妖精さんも全員拾い集められたらしい。猫吊るしもほっとしていた。

 そういうわけで艤装を失ったので淡路島の人達と一緒に本州まで帰る事になったんだけど、ただじっと待ってるのは暇なので雑用をして時間を潰していたんだそうな。本当になんの不調も無いらしいけど、鎮守府に帰ったら一応検査は受ける事になるとか。なら今も安静にしといた方がいいんじゃないかと思うが動かずにはいられないんだろう、性格的に。

 なお深雪は言わなかったけど、補給をしてくれた速吸さんによると深雪の轟沈は船を魚雷から庇った結果だったらしい。漢気溢れてる。

 

 私と島風の補給が終わり、川内さんの順番が回ってきた頃、にわかに外が騒がしくなった。喧嘩っぽい口調の声が聞こえるので場合によっては止めようと表へ出ると、リーダーさんが妹の五十嵐さんに詰め寄られているのが目に入った。その後ろでは休憩に来たか誘導に来たのか、秋雲先生が状況が分からない様子で困り果てている。

「駄目だよ陽、今から戻るのは迷惑にしかならない」

「そうだけど、見捨てて逃げられないだろ!? 俺等がどれだけ世話になったと思ってるんだよ!」

 口ぶりからして例の五人目の話をしているらしく、結局戻って来なかったその人を自分だけでも探しに行きたいと五十嵐さんは主張しているようだ。こちらへ向かう時も彼女は周囲を見回しながらだったし、気持ちが分からないとは言わないけど、今戻られるのはこっちとしてはかなり困る。気持ちは分からないでもないんだけど。

「忘れたの陽、あの人はいつも僕たちを助けるために心を配ってくれてたんだ。無理して誰か犠牲になったら彼女は絶対喜ばないよ」

「兄貴こそ、忘れちまったのかよ! 俺も、あの時海岸に居た連中も、あの人が居なきゃ全員死んでた! それだけじゃない、食料庫の鍵を見つけられたのも、引きこもってた兄貴が外に出られたのも、病気が蔓延しなかったのも、他所の連中との喧嘩で怪我人が出なかったのも、あの場所で襲われずに暮らすことができたのも……」

 五十嵐さんの口調はどんどん強くなっていき、事情をよく知らない私達でもなんか凄い人だった事を否応なく理解させられた。リーダーさんも苦渋の表情で、どちらも見捨てたくないという点では意見は一致しているのだろう。ただ、リーダーさんはリーダーなのでたった一人のためにその許可は出せないのだ。そして、言葉に溜めた思いを五十嵐さんは一気に解き放った。

 

 

「全部、月島さんが居たからじゃないか……!」

 

 

 私と猫吊るしと深雪と秋雲先生、それと誘導してた自衛隊員の内三人と避難民の内十八人が、全員同時に噴き出した。

 

 

 

 

 




なお途中から髪が変色した模様。


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 結局、五十嵐さんはリーダーさんに押し切られる形で船へ乗り込んだ。というか、敵偵察機が来たので撃ち落としたりしてるどさくさに紛れて、リーダーさんに同調したちょっと栄養不足気味で筋力が落ちてる屈強だっただろう人達に船へと積み込まれて行った。月島さんならそうした方が喜ぶ、というのは共通の認識だったらしい。

 お騒がせしましたと頭を下げて回り、リーダーさんも船へと乗り込んで行く。本当は最後まで残っていたかったようなのだけど、申し訳ない事に彼にはこちらからの用事があるため急ぎ本州へ向かって貰う事になったのだ。

 本当ならまとめ役だったリーダーさんには一区切り付くまで残って貰った方が良かったのかもしれないけど、そういう訳にも行かなかった。なにしろ彼は艦娘適性よりも希少な提督適性の持ち主だったから。危険地帯に残しておけなかったのだ。

 そうだね私が報告したからだね。でもしない訳に行かないからね、提督が足りないといくら艦娘が居ても敵倒せないし。

 

 後で深雪から聞いた話なのだけれど、この後、本州に着いた五十嵐さんはお兄さんが招集されると聞いて自分も適性検査を受けたいとその場に駆けつけていた楠木提督に直訴、なんだかんだで受けられることになったらしい。たぶん一斉検査が存在するだけでそれ以外で検査しちゃいけないって決まりがある訳じゃないからやれた事だろう。法律にも穴はあるんだよな……

 

 

 

 深雪も乗った船を見送りながら、私はやれる事はやっておこうと思って猫吊るしに相談を持ち掛けた。ちょっといろんな理由で躊躇していたのだけど、んな事してる場合じゃあないと今回よく分かったからだ。月島って人も、私達が十分か二十分か、あと少し早かったら普通に保護出来てたかもしれない。そう思ったら出来るだけの強化はしておきたくなった。追いつめられるほど必死になるとかだと別の問題が発生しそうだけどそういう話ではなかったし。

 猫吊るし側は快諾してくれて、材料も宮里提督の許可が既に出ているので問題ない。鎮守府に戻ったら修理とかの優先事項が終わり次第取り掛かってくれるという。っていうか、猫吊るしもしかして私から降りた後工廠でも仕事するの? ちゃんと休んでる? 生放送の時も明石さんと寝てたし私の頭の上でも爆睡してたしちょっと心配なんだけど。

 ちなみに深雪は予備の艤装を持ってまたこちらに戻ってくる予定である。最近は戦艦や重巡、正規空母なんかはともかく、駆逐艦はちゃんと予備の物を鎮守府に置いてあるのだ。勿論吹雪もあるけど、出来るだけ今の艤装を大事に使って行きたいものである。

 

 

 

 ピストン輸送のため船が帰ってくるのを待ちつつ周囲の警戒なんかをやっていると、時折敵機が飛んでくる。攻撃機ではなく偵察機のようなのだが、どうも四国の方から飛んできているみたいで、やっぱり危険地帯なんだなぁと分からされた。

 そうやって避難を待ってくれた皆さんを守っていると、本州の方から船が戻って来た。船には当然護衛が付いていて、直掩機なんかも出しながら慎重にかつ素早く進んでいる。どうやら他の艦隊――私達から引き継いで陸上での護衛などを担当する人達と合流したらしく、人数が行きよりも大幅に増えていて、海防艦らしき制服の人まで見えた。存在していたらしい。

 そしてその護衛の中に、見慣れないシルエットの見知った顔が交ざっているのも見えた。その女性は私に気付くと大きく手を振り笑いかけた。以前より遥かに伸びた長い黒髪が揺れ、和装のような制服によく似合っている。

「久しぶりですね、伊吹さん、島さん……いえ、今は吹雪さんと島風さんと呼んだ方がいいですね」

「こんにちは!」

「お久しぶりです、赤坂先生……赤城さん」

 陸に着き、一通りの報告や連絡を済ませ、艦載機を島内に放ってからこちらに話し掛けて来たのは、私や島さんの担任にして陸上部顧問もやっていた赤坂先生である。お互いの無事を喜び合い、島風は周囲を跳び回り、私は頭上の猫吊るしの事を突っ込まれた。見張りですと説明して、なんでここに先生が居るのかを尋ねてみると、先生――赤城さんは偵察にも集中しながら近況を教えてくださった。

 赤城さんは私達と違って鎮守府に配属される事はなく、大本営直属の艦娘として特殊な任務に携わっていたらしい。と言っても、違法性があるとかそういう話ではなく、全体の指針などに関わる案件をこなしていたのだそうだ。

 変色海域を抜けての偵察なんかが主な仕事で、本州以外に生き残りが居る事を初めて確認したのも赤城さんであるらしい。それはつまり、妖精さんの目を通してどういう状況なのか確認してしまったという事でもあるのだろうけれど。

 機密だったりなんだりで色々と言えない事は多いようで、実際どうだったのかは教えて貰えなかった。酷すぎてやる気なくなっても良すぎてやる気なくなっても困るもんね、しょうがない。でもそういうのとは別に、楠木提督の下で働いていたという先生には聞いておきたい事が一つあったので、迷いつつも聞いてみる事にした。私ではなく猫吊るしが。

「先生さん、楠木提督のとこに居た時さー、海外艦の艤装使ってる人って居た?」

 そういえば猫吊るしにあの二人の事は機密だって言ってなかったわ。

 いや、猫吊るしは妖精さんだから人間のあれこれに縛られる必要はないかもしれないけど、私が猫吊るしに言っちゃったのにフォローするの忘れてたわ。あの人たち、問題になるかならないかで言ったら外交問題になる奴なんだよなぁ自己申告通りの存在だったとしたらだけど。外国籍の人勝手に戦闘に出してるんだもん、変色海域ほっとくとヤバいから仕方ないんだけど、それはそれとして。

「海外艦……ああ、ビスマルクさん達の事ね。ええ、居ますよ」

 知らない名前出ちゃった。

 いや名前自体は知ってるけど、え、何? その人も転生者? 頭上で猫吊るしもちょっとびっくりしてるんだけど。っていうか、猫吊るしの認識が間違ってなきゃその国か縁の濃い土地じゃないと造れないらしいのになんでイタリアのリベッチオとスウェーデンのゴトランドとドイツのビスマルクだよ、共通点どこだよ。まるで訳が分からんぞ。

 話によると、ビスマルク以外にポーラなんかも居たそうで、同じ艦隊で出撃したりたまに夜にお話とかもしてたらしい。絶対アルコールが入ってたんだろうなぁ。

 私は海外艦自体が機密なのかと思っていたけれど、普通に存在を教えてくれた辺り赤城さんは海外艦の事を機密とは認識していないらしい。あの人たちの立場が問題なだけで海外艦自体は合法って事なんだろうか。

「そういえば、吹雪さんたちは提くんと仲が良かったですよね……」

 何故そこで奴の名前が出て来るんだろう。あれか、ハーレムの一員(推定無自覚)だったからか。とか思ったけど、随伴で一緒に来たらしい海防艦の人がやって来てこの話題が続かなかったのでどうして突然そんな事を言い出したのか、この時は分からなかった。

 赤城さんは艦載機での島内の探索や捜索が今回の任務で、そのために直前の任務を急いで終わらせ空腹を押して馳せ参じたらしい。月島さんの事もしっかり探しておいてくれると言ってくれた、見つかるといいなぁ。

 

 

 

 

 

 希望者を無事本州へ送り届けとりあえずの私達の任務は終わり、赤城さんの見立てでは島内に深海棲艦は見受けられないとの事なので、明日からは別艦隊に島内や付近の海域の警備の事はお任せして私達は反対側の海域制圧へ行くことになった。引き継ぐのは新人多めの新設艦隊に大本営付きの赤城さん達の混成らしく、何かあれば当然宮里艦隊に救援要請が来るそうな。

 そんな事を説明されつつ鎮守府に帰り付くと、宮里提督と、何故か楠木提督に出迎えられた。いや何故かってそりゃあ初の海を越えての生存者だから駆けつけたんだろうけども。

 二人から労いの言葉を掛けられ、艤装を置いてそのまま解散になった。お風呂は一度に入れる人数に限界があるため先に食事に行ったり部屋に戻ったり各々用事を済ませに向かう流れだったので、私も食べて来ようかと思ったら、例によって降ろすのを忘れていた猫吊るしが頭上からこちらの頭をぺしぺししながら話し掛けて来た。

「吹雪ー、悪いけど楠木提督のとこに連れてってくれない?」

「え、いいけど……なんで?」

「俺もやれる事はやっとく事にした」

 そう言われると断り辛い。迷惑な可能性はあるけどまぁ、駄目そうならすぐ引き上げればいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮里は頭痛がしていた。

 楠木提督が吹雪に、というかその頭上の妖精さんに連れ出され、長門と二人きりになった執務室で書類に目を通しながら今の状況を整理する。

 淡路島の救助活動はおおよそ予定通り順調に進み、生存者は想像よりも多く――それでもおそらく全体で一割も残っていないと思われるが――健康状態もさほど悪くない。最悪、救難信号自体が深海棲艦の罠である可能性もあったため、淡路島の事に関しては大成功と言って良い。自分達の仕事を引き継ぐのが新しい艦隊であるというのが懸念事項ではあったが、少なくとも訓練所ではトップの成績を誇った赤城を付けるためそれほどの心配はしていない。自分達がフォロー可能な距離であるというのも大きかった。

 では何がそれほど彼女の頭を悩ませているのかと言えば、本日淡路島で救助された女性達の強い要請によって行われた、適性検査の結果である。

 中心となったのは淡路島で発見された提督の身内で、招集が確定してしまった兄を支えたいという気持ちは宮里にも理解出来る。問題なのは、その嘆願がトップである楠木提督に直接為され、許可され、そのまま実行され、出た結果が異常だった事である。

「これは……事実なんだな」

 側の長門も結果を見て呻いていた。楠木提督ですらかなり結果に驚いていたのだ、誰だって何かの間違いではないかと疑うだろう。前例を知っていたとしても。

「だとしたら、なんというか……出来過ぎだな。運命的とでも言えばいいのか」

「間に合ったのも、実際に助かったのも吹雪の功績ですからね……」

 本当に良くやったものだと長門は呟いた。道中での撤去作業の事も行われた戦闘の事も報告されている。彼女が居なければ間に合わなかったというのは想像に難くない。もし助けた相手が普通の一般人だったなら、ただの大きな功績で済み、宮里の悩みの種にはならなかったろう。素直に喜びと安堵の感情に浸っていられたはずだった。

 

 

 

 

 

 姓 名      艦種 艦名     適性値

 

 

 

 霜田 朝     駆逐艦 朝霜     1010

 野分 智     駆逐艦 野分     2100

 波場 彼岸    駆逐艦 岸波     2106

 百敷 名波    駆逐艦 敷波     3393

 磯野 真波    駆逐艦 磯波     5108

 五十嵐 鈴音   軽巡洋艦 五十鈴   5979

 五十嵐 四季   潜水艦 伊504    7125

 五十嵐 陽    駆逐艦 嵐      10697

 

 

 

 五十嵐 怜寛  提督

 

 

 

 

 

 第一期の招集でも似たような、数値だけで言えばもっと酷い物を見たが、今回特筆すべき点は、全員が志願者であるという点と、範囲が非常に狭いという点だ。自分から適性検査を受けたのは十二名。通過率は脅威の66%である。淡路島のただ一点にこれだけの適性値の人間が偶然集まっていたなどとはまるで考えられなかった。

「家族がかなり高くなっているな。これは、まず間違いないか」

「はい。吹雪と提提督に続く、三人目だと思われます」

 提督には艦娘の適性値を引き上げる能力があり、中にはその力が異常に高い者が存在する。残念ながら宮里や楠木はそうではなかったが、今回思ってもみなかった所から才の持ち主が発見されたという訳だった。しかも同じ才を持つ吹雪がそれを救出したと言うのだから、運命的と言う他ない。

「例によって名前もか。こればかりは本当に理由が分からないな……いやこれは、今回は提督の方もか……?」

「……いがら『しれいかん』、ですからね……提提督も似たような部類ですから、吹雪だけ少し浮いていますね」

 宮里は苦笑いを浮かべ、長門も乾いた笑いを上げる。これに関しては、今の所完全にお手上げ状態だった。宮里艦隊にも適性のある艤装の名前が本名に入っている人間は複数居るが、その適性値は高めではあるが常識の範囲内で、適性を上げる力の強い提督たちとも接点がなかったという者が大半なのだ。名前が先にあるのか、適性が先にあるのか。実験のしようもなく、誰にも答えられない難問であった。

「それで、この八名、提督を含めて九名か。使うのか?」

「他と同じく一月の訓練ののちに、だそうです。人数が少ないので一か所でやるようですが……配属先はどうなるか」

 基本的には実力の高い者たちはバラバラに配属されてしまう。しかし、兄のためという理由が多分にある嵐の適性者などは引き離してしまった場合、あまり良い事にはならなそうだと宮里は感じている。なにしろ適性値が一万を超えているほどだ、かなり仲が良い兄妹なのだろう。

「それもあるが……避難民からというのがな。批判は免れんだろうな」

「それでも使わない選択が出来るほどの余裕はないそうです」

 それはそうだと長門も頷いた。結局今回もそうだが、絶望的に人手が足りていない。吹雪が居たためどうとでもなったが、本来なら陸上での姫級との対峙などは艦娘本体でやってしまえば恐ろしい消耗を余儀なくされる案件なのだ。互いに避けられず、逃げられず、砲撃の威力はさほど変化が無いという悪夢。交戦許可は当然出ないだろう。唯一、航空機による攻撃は可能かもしれない、空母の重要性はこんな所でも発揮される。だがその空母の割合が少ない以上、どうにか上陸自体を防がなければならないのだ。そのために数はどうしても必要になる。

「戦車娘とかは居ないんでしょうか……」

 遠い目で宮里は呟いた。艦で地上戦は本当に勘弁願いたいのだ、やるなら専門の人間が欲しい。そんな話をしていると、突然、執務室のドアがノックされ、楠木の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってください、本当に、少しだけ、待ってください。飲み込み切れません……」

 宮里提督 は 混乱している!

 いやまあ、当然だとは思うの。今日こっちでも色々あったらしくて、その上でちょっとどころでなくファンタジーな話ぶち込まれたら普通消化不良起こしますよね。転生者でもかなりキツいもん。胃もたれするわ。

 長門さんも正気を疑う目でこっち……というか猫吊るしの事見てる。そりゃあまぁ、そうですよね。本気で言ってた方がヤバいもん。事実らしいけど。

 

 猫吊るしに頼まれて楠木提督の元へ連れて行くと、どういう訳か私も話に参加する事になった。

 応接室で対面に座り、猫吊るしを中央のテーブルへと乗せ、二人の会話を見守りつつ、たまに相槌や意見を述べる。正直私の意見とかどうでもいいと思うのだけど、楠木提督的にはよくなかったらしい。やっぱり人当たりが非常に良い。騙されてるのか単にそういう人なのかはよく分からないけど、信用させるのとか滅茶苦茶上手いんだろうと思う。私なんて楠木提督が悪意でやってる可能性とか今でも全く疑ってないし。

 話は問題無く……ある意味大問題な方向へ進み、それじゃあ行こうかと提督が立ち上がり、猫吊るしは私の頭に飛び乗った。自然、私も行く事になってしまう。解せぬ。

 

 そして宮里提督の執務室へとお邪魔して、色々話した結果、宮里提督と長門さんは頭痛を深めてしまったのだった。

「本当なんだな、全て」

 長門さんから猫吊るしへ最終確認が入った。それに頷くと、猫吊るしは嘘は吐かないと断言する。それを聞いた長門さんは難しい顔になり、顰めた眉を解すように額に手を当てた。

「強化形態と、それに伴う不老化……流石に簡単には信じられんな……」

 普通そうですよねえ。

 

 猫吊るしのやっておきたいやれる事、というのは要するに情報の開示だった。今の状況であれば何人かはもう改二になれる可能性があるため、出来れば提督たちに周知させておきたいって事らしい。

 ただ、何か考えがあって秘匿した可能性が高く、独断でやるのは不味いかもしれないから、まずは楠木提督と相談する事にしたわけだ。難色を示されるかと思ったけど、割とあっさりと許可が出て、三人で執務室に乗り込む事になり、情報という名の鉛の砲丸をそこで仕事をしていた二人へと投げつけた。結果は大破一名と中破一名と言ったところか。

「これは公表はする訳には行きませんよね……」

「そうだねえ、少なくとも世界的に戦況が安定しないと出来ないかな。特に不老部分はね」

 逆に、改二の存在そのものは隠さない方向で行くらしい。喧伝もしないようだけど、なれる人が出れば自然と広まるだろう。そして第一号になれそうな人物は、何かを決意したような表情で、確認してきますと言って退出して行った。扉が静かに閉じられ、工廠へと走る足音が響き渡った。

 

 暫く宮里提督が猫吊るしに質問を繰り返し、いつもと口調が違いますねと猫を被ってた事にまで言及された頃に長門さんは戻ってきた。その表情は先ほどまでと変わらない、それどころか、少し険しさを増しているように見えた。そのまま定位置なのか、宮里提督の横まで重い足取りで辿り着く。

「…………どうでしたか?」

 誰も聞かないので、私が聞いた。たぶん、艤装で集合体の長門さんに会いに行って来たのだと思うんだけど。長門さんは静かに首を振り、ため息を吐いた。

「許可は出せないそうだ…………ああ、つまり、強化形態の存在そのものは確認が取れた」

 長門さんは過去に集合無意識の長門さんに体の異常について質問した事があったが、その時は改二の事は教えて貰えなかったらしく、ただ悪い物でないとだけ言われたと聞いている。だが今回は、明確に拒否されたようだ。

「長門で駄目なのか!?」

 私からしたら意外な結果で、猫吊るしにも意外な結果だったらしい。長門さんも不服な様子だった。

 長門さんは過去に精鋭部隊で旗艦を務め、現状でも宮里艦隊の戦闘部隊で実質的なトップ、言ってしまえば前線指揮官である。私や加賀さん、天龍さんも艦隊の旗艦を努めるが、実際の立場は一段どころか二段三段は上なのだ。戦闘能力も聞いた限りでは高く、部隊を纏める能力も有り、事務的な事なども完璧だと思われる。

 そんな長門さんで改二になれない。いや、それはなんか、他の人達絶望しか無くない?

「吹雪はどうだ、もう確認はしたのか?」

「あー……いえ、それが……」

 私も猫吊るしから聞いて淡路島に行く前に一応確認しに行ったんですけどね。許可を取るとか取らないとかそういう以前の問題なんだよなぁ……

 

「今までは混乱を避けるのと、そもそもどの程度で兆候が出るのかが不明だったから秘匿していたが、これからは強化形態――改二については、提督や運営に携わる人間達には周知させて行こうと思っている。覆水を盆に返す手立てもあるようだしね」

 楠木提督が猫吊るしを優し気と言ってもいい視線で見やる。それに鷹揚に頷くと、猫吊るしは楠木提督を見上げた。

「図面は引ける。けど、検体が無い以上本当に分離出来るかは保証し切れないぞ。細かい調整もしなきゃだろうし」

「問題ないよ。基本的な構造と理論が分かれば、後は艤研が上手い事やるだろう。彼らなら足がかりになる基盤さえあればどうにかしてくれる」

 艤研かぁ……と猫吊るしは遠い目で呟いた。なんだその反応、大丈夫なのかその人達、あれか、マッド系の集まりとかなのか。長門さんもあいつらか……って表情してるんだけど、宮里提督も若干表情が引き攣ってるんだけど。

「あの、ギケンというのは……」

「ん、そっか、吹雪は知らないか。艤研ってのはあれだ、艤装技術研究所の略だ。吹雪が知ってそうなのだと……新型発電機開発した連中」

「ああー、それなら知ってる」

 発電すらままならなかった本州にとりあえずの安寧を齎した、技術面での英雄達である。そういえば訓練所で艤装の技術を応用したとか聞いた覚えがあるし、艤装の知識を持って来た猫吊るしとは縁が深いのだろう。マッドっぽいけど、きっと優秀な人たちなんだろうなぁ、マッドっぽいけど。

 ところでそこ、もしかしなくても島さんのご両親が所属してる所では……?

 

 

 

 

 

 島さんの親御さんがマッドサイエンティストな可能性を感じた翌日、淡路島の向こう側へ進出するため作戦会議を終え、艤装を取りに工廠内の艤装置き場までやってくると、猫吊るしが吹雪の艤装の上で待ち構えていた。

「ご注文の品をお届けに参りました!」

「えっ、早くない?」

 昨日の今日だよ? そんな簡単に出来るのそれ。なんて思ったけど、よく見たら猫吊るしはかなり眠たげで、どうやら一睡もせずに仕事をしてくれたらしかった。私にモノの入った小箱を受け渡すと、じゃあ俺は寝るから、と言って大和の艤装の中へと消えて行った。お前そこに住んでたんかい。

 今日は猫吊るしは同行しない、というか、大きな任務以外では基本的に鎮守府の仕事を優先するつもりらしい。まぁ、普段通りの迎撃や襲撃に猫吊るしが必要かと言われると微妙な所だし仕方ないね。走っても大丈夫なのは便利なんだけど、そもそもそんな事する必要がある場面はあんまり無いし。

 そんなわけなので普段通りに妖精さん達の詰まった艤装を背負い装着して、すぐ隣で連装砲ちゃん達の弾薬がちゃんとセットされているか確認している島風に声を掛ける。なあにーと若干間延びした、普段通りの声が帰って来た。

「島さん、これ持ってって……っていうか、身に付けといて」

「おうっ? なあにこれ」

 島風に小箱を押し付ける。受け取った島風は躊躇なく、素早く手早く開封すると、中身を見てもう一度オウッと鳴いた。

「なにこれ、艤装のパーツ?」

「いや指輪だよそれ……確かにシンプルだけどさ」

 言われてみればどっかに使われてるベアリングかなんかに見えなくもないけども。装飾が少なくて側面にちょっと溝があるかなーくらいだけども。

「……え、指輪? へー。くれるの?」

「うん。とりあえず、身に付けとけば効果あるらしいから持っておいて」

 効果? と島風が首を傾げたので、適性値が上がるかもしれないって話で支給されたと端的に説明しておく。一応、周りには聞こえない様に配慮しながら。島風はその話に驚いたようで、オオッと声を上げた。連装砲ちゃん達はキャッキャと喜んでいる。かわいい。

「うーん…………話は分かったけど、付けとくのはちょっとねー」

 流石に戦闘中は邪魔になるらしい。いやお前、連装砲ちゃん使う関係で両手空いてるじゃん……主砲外付けなんだから。

「ほら、落としても困るでしょ!」

 確かにそうなんだけど、サイズはちゃんと合ってるはずだからそうそう外れないと思うんだが。って言ってみたけど、何が気に入らないのか島風は難色を示し続け、最終的にとりあえず今日は持ってくだけ持ってく事に決まった。まぁ、仕様的に身に着けてさえいればいいらしく、指に嵌めなくっても効果は出ると聞いてるから問題は無いだろう。

「ネックレスにでもする?」

「私そういうの持ってないよ」

 じゃあ買うかーという話になって、帰って来たら一緒に選ぶ事になった。通販かネットオークションしか選択肢ないんだけども。

 なおその日、島風は終始ご機嫌だった。お前結局気に入ったのか気に入らなかったのかどっちなんだよ。

 

 

 




多聞丸から見た吹雪と艦娘のケッコンフラグ

初雪→同じ鎮守府に配属する
深雪→同じ艦隊に配属して轟沈を防がせる
叢雲→棒術、杖術、槍術のどれかを極める
曙→同室で居続けた上で曙の問題を解決する
初春→転生者である事を打ち明ける
秋雲→深海棲艦襲来前に伊吹を即売会へ行かせる
夕雲→四国奪還を十二月以降にする
天龍→同じ艦隊に配属して倍以上の戦果を挙げた上で天龍が一番最初に改二になる
大井→無理
長良→記録会の時点で知り合って交友を深める
秋津洲→二式大艇ちゃんガチ勢になる
龍驤→龍驤が改二になってから恋人がいない状態で三年経過
川内→川内が戦闘部隊に入る前に深雪を二度轟沈させる
暁→訓練所で暁が吹雪に勝利した上で暁の教練を十回以上手伝う
金剛→提提督とフラグを立てさせない
比叡→一緒に金剛の恋路を全力で応援する
霧島→霧島組に入る
榛名→榛名の恋路を全力で応援した上で、榛名がフられる
長門→無理
大和→無理

なお島風を同艦隊に配属しない事が前提である。


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緊急メンテ? やったぜ

 見覚えのある船に乗って真昼の海を進む。透明な海面を覗き込めばたくさんの誰かが底に沈み、空を見上げれば銃弾の雨が降り注ぐ。船体に穴が開き、水が流れ込む。それを掻き出す誰かの腕をぼんやりと見つめていると、船から小さな船が降り、それに乗った誰かが消えて行った。次いで船の後部で爆発が起こり、それに振り向けば船体が傾いているのが見え、気が付けば船は宇宙空間を漂っていた。

 夢だ。

 どう見ても夢だった。きらきらと明滅を繰り返す星の大海へ船は進み、熱風をまき散らす太陽の横を通り過ぎ、冷たく光る知らない恒星を突き抜ける。時間の間隔は不透明で、船の中にはもう誰も居ないのか物音一つしない。甲板に居る自身の存在だけがなんとなく浮いていた。

 そうして進み続けてふと辺りを見回すと、周囲には何もなくなっていた。星も、空気も、時間も、空間もない。ただ船と自分だけはそのままそこにある。そんな場所だった。

 船が止まる。先が存在しないので止まったというよりは進めなくなったと言うのが正しいかもしれない。後ろを振り返っても来た道も見えなかった。仕方がないので自分で歩こうと船から飛び降りると、地面はないのにふわりとそこに着地した。夢って奴は便利でいい。

 船の足元からどっちへ行こうか見回せば、遠くの方にぽつんと何かが何もない空間に浮いているのが見えた。特に目指す指針も無かったので、それに向かって走り出す。歩くのはまどろっこしかった。

 なんだか思った以上の勢いで脚は進み、すぐにそれの下へと辿り着いた。自分の立ってる所よりもそれは上の方に居て、宙に浮かんでいるご様子だ。ぷかぷかしているそれはとうにこちらに気付いていたのか手を振って、ふわふわゆっくりと降りて来た。

『こんばんは』

 至極友好的にそれは話し掛けて来た。見た目には可愛らしい、小さな女の子に見える。異常に長い亜麻色の髪を足元で折り返し、頭の後ろで纏められたそれはもう一度かかとの近くまで伸びていた。目元はなんだか細められ、半眼と言っていい表情で口元には薄い笑みが浮かんでいる。しかし一番目についたのは髪でも表情でもなく耳だった。長い。なんだか異常に長い。生活に不便そうなくらいにはその子の耳は長かった。

 女の子は歓迎してくれているようで、何もなかった所にテーブルと椅子を取り出すと、お茶をどうぞと紅茶みたいなものとケーキに見えるものを出してくれた。食べてみたらそれはとってもおいしくて、気が付けば皿は空になっていた。対面に座る女の子がにこにこしながらもう一皿出して来る。それを今度はゆっくり食べていると、その子は何か楽しそうに喋り出した。

『成程、どうしてここに貴女が来れたのかと思ったのですけれど、それのせいですわね』

 女の子がびしっと指を差す。示した先は自分の指で、よく見てみたらそこには指輪が嵌っていた。そういえば昨夜は付けたまま寝たような気がする。

『没アイテムをチートコードで無理矢理出現させるような真似をしたせいで、想定外の挙動をしたんですわね……本来なら提督の力で艦娘と人間のラインを強固にするアイテムですのに』

 提督の力でなく、チート能力に反応してしまった。と言うが、何を言っているのかは全く分からない、とりあえずケーキが美味しかった。

『それで私に繋がったという事は……まぁそれはいっか。ともかく、これは私の不手際ですわね、チートを仕様として実装するのには検証不足でしたわ』

 女の子がぱちんと指を鳴らす。急に何だろうと思い紅茶を口に含みながら首を傾げてみせると、女の子はふふっと笑った。

『とりあえず修正しましたから、今後はここに来る事は無いでしょう。もちろん自分の才覚でもって到達するのは自由ですけれど』

 相変わらずよく分からなかったけれど、もうこの夢は見ないという事だろう。美味しいお菓子があるのでちょっと残念だった。

『そうだ、折角ですし……』

 女の子は何かを思いついた様子で懐を探ると、明らかにそこに入るはずの無い、一メートル四方ほどの大きな立方体をテーブルの上に取り出して、こちらと目を合わせにんまりと笑う。

『ダイスでも振って行きます?』

 なんだかとても悪い予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っていう夢を見たよ!」

 起き抜けに島さんからそんな話をされた私は一気に目が覚めた。自分がいろんな意味でヤバい状況に居た事に気付いていないだろう呑気な表情が眼前に広がっている。

「夢の話されてもなぁ」

 と、口では言ってみたんだけれど、マジで? お前あの子に会ったの? あの子たぶん創造主とかそういう類の奴なんだけど? 頭の中が?で埋め尽くされたんだけど??????????

「え、それで、振ったのサイコロ」

「後にしてたら振る前に起きちゃった」

 セーフかな……?

 

「それで、その子から吹雪に伝言があって」

「夢の伝言て」

 いやちょっと面白かった上はっきり覚えてるからって冗談で言ってるだけなんだろうけども、内容が私の知ってるそれと一致してるから何一つ笑えない。偶然と言うにはちょっと無理があるし、たぶん本物だったんだろうと思われるんだが、そこから伝言と来た。私に直接言えばいいのに……っていうか、もしかして以前脳裏に見えた気がする笑顔のあの子は幻覚じゃなくて本物からの電波だったりとかするのだろうか。

「不具合のお詫びの品は艤装の中に入れておくから受け取ってください、だって」

 ソシャゲか何かですか?

 

 朝食前に大和から猫吊るしを引っ張り出して事情を説明すると、猫吊るしにも意味不明だったようで、とりあえず島風を診てくれる事になった。

 部屋に戻って島風の頭の上に猫吊るしを乗っけると、見えていない島風が連装砲ちゃんと戯れている間にささっと診断を終え、私の方へ飛び移った。

「島風自体に問題は無さそうだ。ただ、言ってた通り指輪の機構が一部改変されてるな……修正パッチ当てられてるみたいな感じ」

 本当にあった事だというのは確定か。幸い、島風自体には問題は無いらしいからそれは良かったわ。と言っても、そういうのの専門家という訳ではないから正確な事は言えないし、隠そうと思えばあの子ならいくらでも隠せるだろうという話だけども。なにせ私達にチート能力さんを付与した張本人だからなぁ、抜け道なんかは知り尽くしてるだろう。

「不具合修正って事なら何もされてないんじゃないか? ダイスも振らなかったって言うし」

 振ってたらどうなってたかは……考えるだけ無駄か。貰えたとも限らないし。

「ああ、でもたぶん話すように思考誘導とかはされてるんじゃね、夢の話とか普通しないし」

 伝わらなかったら困るもんね。艤装の中から正体不明の物が出て来る事になっちゃう。

 

 もう一度工廠まで行って、伝言が本当なのかどうか確かめるため吹雪の艤装の前に立つ。表と裏をつぶさに観察し、中を猫吊るしに検めてもらうがしかし、特に何も見つからない。私への伝言というからてっきり吹雪の中かと思ったのだけど、もしかして島風の方だろうかとそちらを捜索しても、やはり何も見つからなかった。

 暫く艤装をひっくり返し、まさか他の艤装かと隣の艤装に目を付けだした頃、猫吊るしがふと気付いたように声を上げた。

「中って、もしかして集合無意識の中の事なんじゃないか?」

 成程と思って吹雪の中へ飛び込むと、どうやら正解のようで、入り込んだ吹雪の甲板には赤いリボンの掛けられたプレゼントボックスが鎮座ましましていたのだった。なお吹雪さんは不在である。不法侵入されて受け渡し場所にされてるけどいいんだろうか。

 まさか罠だとかそういう事は無いと思うけど、なんとなく慎重な気持ちになりながら結び目を解いて、蓋になっている上面をゆっくりと持ち上げる。特に何も起きないのを確認してから、思い切って中を覗き込んだ。

 中にあったのは、一枚の横長の紙のようなもの。お札のような短冊のような形で、持ち上げるとひらひらしている。やっぱ紙だこれ。よく見るとミシン目のようなものが付いており、簡単に切り取れるようになっていた。

 裏側には注意事項のようなものが書いてあって、どうやら一枚につき使えるのは一人だけ、でも一回使えばその人はフリーパスになるらしい。

 表には改二確定チケットと書いてあった。

 

 

 

 

 

「それで、こちらが実物になります」

「うん、話はね、分かったんだが…………うん。何それ」

 目の前で楠木提督が頭痛が痛そうな表情をしている。ついでに口調から微妙に素が出ている気がする。楠木提督も困惑とかするんだなぁ。

 

 楠木提督は今、宮里艦隊の居る鎮守府に滞在している。というのも、もう淡路島の避難が終わったらすぐに四国へ攻め入る関係でこちらの方が色々と融通が利いて便利だからだ。なので今回の件もすぐ相談に行けて助かった。

 私が集合無意識から自分の体に意識を戻すと、何故か私はチケットを現実に持ち込んでしまっていた。まぁ、正直それはそこまで驚くような事ではない。もうオカルトにも慣れてきたからこの程度じゃまだまだ驚くほどの刺激じゃあないのだ。

 猫吊るしにもチケットを見せ、二人でどうすんべと相談したのだけど、モノがモノだけに処遇に困ってしまった。何しろ、裏側に『条件の達成状況に関わらず改二への改装、及び使用が可能になります』なんて書いてあるものだから。

 たぶん使えば私は改二になれるし、チケットには対象の指定が無かったから、長門さんやもしかしたら大和――宮里提督に使える可能性もある。でも、私は昨日、吹雪さんに会えないから許可取る以前の問題ですとハッキリ言ってしまった。前々から提督たちに状況は報告しているのだが、改善の兆しは無いと言ってしまったのだ。それを今日、突然出来るようになりましたというのはどうだろう。

 それに加えて、改二にはデメリットもある。場合によっては運用を変える必要が出てしまうし、燃費も悪化する可能性が高い。そうなると私の低コスト高性能という特徴が失われる訳で。

 そもそも、一番大きな問題点として、チケットの事を信用してもらえるかという話である。突然こんなもん発生する世界だとか私達だって知らなかったというのに、転生がどうとかそういう前提を知らない人達に理解してもらえるだろうか。

 そういう話を猫吊るしとした結果、丁度良い所に推定転生者である楠木提督がいらっしゃったので相談に乗っていただいたという訳である。これで転生者じゃなかったら色々アレだなとは思う。

 一応転生の事は省いて説明して、猫吊るしから神様的な奴からの贈り物と補足を入れて貰ったため、転生者じゃなくても意味は通る話になってはいるはず。なってるといいな。なってなかったら完全に頭のおかしい人だからね!!

 

「とりあえず、預からせてもらってもいいかな?」

 楠木提督は私と頭上の猫吊るし、それと手元のチケットを見比べて、悩んだ末にそう言った。返事をしてチケットを渡すと、楠木提督は受け取ったそれをじぃっと見つめ、眉間にしわを寄せ、裏の注意書きまでしっかり読んで、ファイルケースに挟みこみ、それをさらにクリアケースに収め、足元にあったらしい鞄の中へと厳重に仕舞い込んだ。

 なんだかとてもご迷惑をかけた気がするんだけど、勝手に使うよりはいいと思うんだ、たぶん。

 

 

 

 

 

 そんな事が朝にあって、その後は普通に出撃した。チケットの事は気になったが、それはそれとして任務を疎かにするわけには行かないし、私が考えるよりも有意義に使ってくれるはずだと全力で丸投げした事を正当化しておく。私の信用度とか信頼度とかがガクッと下がったりした可能性には目を瞑っておいた。

 そんな頭にポップアップしてくるよしなしごとを隅の方へと片付けつつ、淡路島の向こう側をちょっと解放して帰りがけに大阪湾の方に襲来して来た敵を片付けていたら、本隊よりも帰りが遅くなってしまった。シャワーを浴びて食事を摂り、部屋へ戻るべと島風と歩いていたら、談話室の方からぞろぞろと揃って本隊の皆が退出して来た。どうやら今日の反省会を終えた所のようだ。

 談話室にはまだ何人か居残っていて、通り掛かりに足を止めずに軽く中を覗いてみれば、視線を彷徨わせていた文月とばっちり目が合った。文月はぱっと立ち上がり、可愛らしい声でちょっといいですかと私達を呼び止める。私はそれにほいほい付いて行った。急ぎの用事とかは無かったし。

 中に入ると文月以外にも新人の響さんや那智さん、それに秋雲先生と暁教官長、ついでにぐだっとなった初雪が残っていた。死んでる。ホワイトボードには消したり書いたりの跡があり、今は番号の振られたマグネットの船が規則正しく貼り付けられていた。陣形について話し合ったのだろう。

 とりあえず席につき、何の用なのか聞いてみると、戦いについて私達第四艦隊の話も聞いてみたいという事だった。秋雲先生と教官長が微妙な笑みを浮かべている。うん、まぁ、参考になりませんよね……

 新人三人組も今日は出撃メンバーに入っていて変色海域まで行かされたのだけど、どうやらあまり芳しい成果は挙げられなかったようだ。数か月最前線で戦い続けて来た戦闘部隊に混ざって無事に帰って来ただけでもかなり凄いんじゃないかと思うけど、それはそれとして早く追いつきたいという気持ちがあるらしい。

 とはいえ私が何か役に立つアドバイスを出来るかと言えば、そんなもんは無理なのである。だって未だに感覚的にやってるだけだからね。チート能力さんのおかげだからね、探して狙って撃って場合によっては殴ってるだけだからね本当に。そう考えると殆ど成長してない気がするな私。気が付けば格闘能力は上がってるし、精度とかも向上してるような気はするんだけど、元々外さないからよく分からない。

 一応、頼まれたので今日あった出来事を話してみる事にした。けど、本隊の狙うそれとは離れた場所にある変色海域の核を壊すために、通常航行の範囲で出せる最高速で突撃して、全部撃ち殺して核を叩き割って来ただけだからなぁ。あと攻めてきた奴の迎撃もしたか。

 私達は少数だから陣形とかはあんまり気にしていない――一応、連装砲ちゃん達は島風に指揮されて並びを変えたりする事はあるけど。索敵に関しては対潜は私、対空は島風が得意としていて、攻撃自体も射程と精度と速度がぶっ壊れているため相手の攻撃範囲に入る前に大体殲滅しちゃっている。なので撃たれる事自体が少ない。マジで言える事が無いんだよなぁ。

 そういうわけでちゃんと話はしたけれども、内容は理解の範疇ではなかったようだ。うんまぁ、そうだよね。島風の連装砲ちゃん指揮講座の方が役に立ったまである。

 

 

 

 ぐでーんととろけた初雪を担いで部屋へと戻る。今の鎮守府だと別の部屋の住人なんだけど、何故か私が上半身、島風が足を持って運んだ結果私達の部屋へと搬入された。何やってるんだろうこの人たちって視線のまま連装砲ちゃん達を引率してくれた文月も一緒である。

 やらないならやらないで何とかなるらしいけどやった方が後が楽みたいなので初雪の足をもみほぐしていると、室内を見回していた文月が本棚の方に目を留めた。そこには主に島風に贈ったヒロアカ単行本と、時勢のせいで売りに出されたそこそこ珍しい昔の漫画が一緒くたに置かれている。後者は私がちょっと読んでみたかったのと、出品者が割と切実な文章書いてて気になったため購入に至ったものだ。なお面白かったし過去の相場見たらそれより安かった、買い叩いたみたいでちょっと気が引けてたりする。父も読みたがっていたので今度送り付ける予定だ。

 文月はヒロアカを見てやっぱりあるんだぁと楽し気なかわいい声を出すと、読んでもいいですかとこちらに許可を取ってページをめくった。古書の方の。そっちかーいと思ってマッサージを続行しながら見ていると、思ったよりも真剣に読んでいるようだった。

「文月は漫画とか……あふぅ……読む方なの……?」

 初雪が刺激に耐えられずに声をあげながら問う。それにそうですねーと笑いながら返しつつ、文月は頁を進める。

「漫画も読むし、アニメもラノベも好きですよ。勉強する時はラジオとかもよく聞いてたなぁ……終わっちゃったのも多いけど」

 思ったよりガチ方面だったでござる。ヒロアカより昔の漫画に興味惹かれたのはもう読んだ事あったからだろうか。私と初雪は同胞の登場を喜んだ。まぁ趣味が合うとは限らんわけだけども。

 ちなみに文月は中学一年生らしく、私達の一個下。そのため現在この鎮守府で最年少となっている。そのせいか私にもさん付けである。ちなみに誕生日的に二番目に幼いのは私だ。あんまり自覚無いけどね。

 

「吹雪さんは、アスリートになるの?」

 漫画を読みながらたまにこちらの様子を窺っていた文月から、そんな質問が飛んで来た。もしかしてこの子もファンだった的なあれこれだったりするんだろうかと内心恐々としてしまう。忘れたいのに過去の方が私を追いかけて来やがる。

「なる気はないかなー」

 私の返答を聞いて、そっか、と文月は短く嘆息を漏らし、物憂げに本を閉じると丁寧に棚へ戻した。はみ出ない様にしっかり漫画と漫画の間に収めると、緩慢な動作でゆらりとこちらへ向かってきて、私の対面に座り込む。少しお悩み有り気な表情が視界に入って来た。

「あたしね、声優目指してるんだぁ……」

『おお……』

 私と初雪の感嘆の声がシンクロした。すごく良い声だからね、仕方ないね。なったら推すよーと二人して笑顔で伝えてみたが、文月の表情は微妙な物だった。

「でもね、それっていいのかなって最近思ってて」

「えっ、何か悪い事ある?」

 私は話が見えなかった。連装砲ちゃんと戯れていた島風からもオウッ? と疑問の声が上がった。初雪も不審気だ。

「あたし、産まれた時からずっとこの声してるんだよ」

 聞けば、文月はかなり昔から声優になりたかったらしい。物心付いた時には声の仕事に憧れを持ち、発声練習とかは小さいころからやっていて、今以上に声に磨きをかけようとしていたんだそうな。でも、生まれ持ったそれ以上にはどうやってもならなかったという。

 普通に考えたら知らない間に練習の成果出てるだけじゃないだろうかと思ったのだけれど、録音を聞いたりしてもほとんど変化がみられないらしい。

「でも、声だけでなれるって訳じゃないし……声が完璧なら、演技力も鍛えたら……?」

 ちょっとやってみて、と初雪が無茶振りをする。確かに、何に悩んでいるのかよく分からないが、声が最初からステカンスト状態なせいで満足できないなら、演技力や表現力を鍛えて満足するしかない。とりあえず、その辺りにあった漫画を手渡してみた。

 結果、こいつはちょっと洒落にならん天賦の才持ちなんじゃあないのかという事だけが分かった。

 声が良いのは分かってた事なんだけど、この子、初見で別キャラの演じ分けまでやりやがったのだ。それはもう、目を瞑ってたら分からないレベルのやつを。

 助けを求める弱者の声、駆けつけたヒーローの勇ましい声、送られる声援、焦る悪役の声、ニュースキャスターの原稿を読み上げる声、それを見て憧れを募らせる子供の声。少女特有の高さだけは誤魔化せていなかったけれど、どれもまるで別人のように聞こえた。ナチュラルに男が排除された世界みたいになってたけどそこはしょうがない。

「最初からね、これくらい出来るの。どう思う……?」

 いやどうって。どうしようもねぇよって事しか分からんのですが。だってこれ、自分の声が相手にどう聞こえてるかまで完璧に把握出来てて、いきなり言われてもちゃんと出来てたって自信持ってるって事でしょ? もうこのままオーディション受けたら方向性間違えない限り即デビュー出来ると思うんだけど。天才中学生声優として話題性までバッチリだと思うんだけど。容姿も、なんか金剛さんとか島風たちと同じように美少女だし。たぶん本名に文と月が入ってると思うんですけど(名推理)

 ああでも、何に悩んでるのかは分かった気がする。

「つまり、文月は才能があり過ぎて、それに乗っかる事に罪悪感があると」

 うん。と文月は首肯した。天才ゆえの苦悩とでもいうのだろうか、他の人なら才能があると言われる人間でも努力しないと手に入らない領域の能力を産まれた時から持っているから、悪い事はしていないのにズルをしている気分になるのだろう。真面目に考えるとドツボに入りそうな問題である。特に自分の好きな事に関してならなおさら。

「完全に私見になっちゃうけど、気にしなくていいと思うな」

 私がそう言うと、何故か島風がオッっと鳴いた。

「才能の差って誰にでもあるものだし、それが飛び抜けて高いからってやりたい事をやっちゃ駄目なんて事は無いと思うよ。そんなの言いだしたら、極論だけど、最低の才能無し以外は何もやっちゃいけない事になっちゃうし」

 どうしても納得いかないなら、それでも努力し続けるしかないと思う。天与のものなんて自分でどうこう出来るものでなし、持ってないのを嘆くのは仕方ないとしても、持ってる事を厭うのは各方面に失礼だよね。

 みたいな事を三人で話していて、気が付いたら島風が連装砲ちゃんを抱きしめながら、私の事を半眼で見つめていた。

「伊吹がそれ言うんだ……」

 私のはチートだから……なんか違うじゃん?

 

 

 

 概ね私と同意見だった初雪と、まず深海棲艦に勝たないとどうしようもないよねという結論に至った文月が部屋に戻ってから、島風と通販サイトやオークションを見て回る。昨日はこれっていうのが無かったから、今日中には決めてしまいたい。頑丈なのがいいと思うんだけど、あんまり無骨すぎるのは気に入らないらしいから難しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎮守府の一室で三人の男女が密会を行っていた。一人は壮年の男性、楠木 多聞丸。それに向かい合う若い女性、ゴトランド。そして最後は白い肌を持つ女の子のような生物、戦艦レ級。顔を突き合わせてテーブルの上に置かれた物に対して、それぞれの思いを巡らせていた。

「コレ、計画ニハ?」

「あると思うかい?」

「ネーヨナ」

 質問した方も分かっていたが、一応確認を取っただけである。ため息を吐くと、レ級はやれやれとかぶりを振った。

「一応確認させてほしいんだけど、多聞丸の能力だとあの子の動向までは計算に入れられないって事で良いんだよね?」

「うん、そうだね。私の未来視はあくまでこの世界の今の時間軸での出来事しか参照してくれない。だから、世界の外側からの干渉は全く予想が付かないんだ」

 そのため、目の前のこれが湧いて出た時は嫌な汗が止まらなかった。これ自体はむしろ有用な物のはずではあるのだが。

「久しぶりに干渉して来たと思ったら、まさかこんなものを寄越すとはなぁ……」

 あん? とレ級が呟く。言葉の端が引っかかったのだ。

「アイツ、他ニモナーンカヤラカシテルノカ?」

「ああ、まぁ……情勢がこちらの不利になる様な事ではなかったけどね」

 多聞丸は言葉を濁し、あまり説明したくない事なのだろうと二人は察した。こういう場合、突っ込むのはきっと誰の得にもならない。必要な事なら言ってくれるだろうというくらいの信用は持っていた。

「それでこれ、使うの? というか、本当に使えるの?」

「それがなぁ……」

 ゴトランドの問いに多聞丸は顔を顰めた。目の前にあるこの改二確定などと書かれた意味不明のチケット、どうやら存在そのものが理の外にあるようで、多聞丸のチート能力でも全容が窺い知れないのだ。齎す結果も見通す事が出来ず、複製も無理だろうと思われる。

「彼女の事だし、書いてあるそのままの物だとは思うんだけどねぇ」

 わざわざ嘘を書いて辱めようだとかそういう目的ではないだろうと言う多聞丸に、確かにそういうタイプじゃなさそうだったと二人も同意した。どちらかと言えば、虚言を弄さずに嵌めて来そうな印象だったのだ。

「ゴトランドニデモ使ッテミルカ? 効率ハ一番イイダロ」

「あ、私はいいかな。もう自力でなれそうだから。それよりレ級やほっぽちゃんに使うとどうなるか気にならない?」

「好奇心デ変ナ事サセヨウトスンノヤメロ」

 ゴトランドの艤装使用時間は長い。能力の関係上、圧倒的に他の艦娘達よりも密度が濃いのだ。適性値が上がっている事もあり、肉体への影響は既に出始めていた。

「あ、そうだ多聞丸。淡路島の皆宛てに手紙書くけど、私も艦娘として登用された事にしておいて大丈夫?」

「あの子たちの訓練が終わってからなら構わないよ」

「オイ話逸レテルゾ」

 この二人、誰かが修正しないと延々横道を走り続ける傾向がある。そのくせちゃんと目的地には向かうのだが、一緒に話をしている人間にとってはたまったものではなかった。

「実際ノトコ、使ウトシタラヤッパ吹雪ニナルノカ?」

「そうだね、このまま行けば吹雪くんが改二になるのは当分先だし、早まって悪い事は特にないかな。それにこのチケットの所有権は本来吹雪くんのものだから……他に使った場合、あの子がへそを曲げる可能性が出て来そうだ」

「創造主みたいな子の機嫌は損ねたくないものね」

 ただなぁ、と多聞丸はぼやいた。未来を見据え、可能性を探していく。その中にあるかなり先の鎮守府の風景には、改二となった吹雪の艤装の姿があった。

「正直、吹雪くんの改二は今の段階だとあんまり意味がなぁ……」

「……アイツノ強サ、艤装関係ネーシナ」

 弱い訳じゃないんだけどね、と楠木はフォローを入れたが、燃費が悪化するのは避けられないためメリットとデメリットの釣り合いは微妙な所だろう。

「まあ、改二にした艤装は置いておいて予備の改装前の方をメインに使ってもらってもいい訳だから」

 改二の条件が揃っても、改二しか扱えなくなるという訳ではない。性能が大幅に変わる場合などはそういう選択肢も無い訳ではなかった。普通は改二の方が強力であるため選ばない道ではあるが。

 

「ジャアソレノ処遇ハソレデイイトシテ……ダ」

 レ級の鋭い目線が多聞丸を貫く。腕と足が組まれ、睨みつけるような表情も相まって強い威圧感を放っている。

「多聞丸チャンヨー、オ前、吹雪ニ完全ニ転生者ッテ確信持タレテルジャネーカ」

「こんなの渡してくるくらいだもんねぇ」

 妖精さんのとりなしがあったにせよ、普通にただの組織のトップな人だと思われていたら丸投げしてくる事は無いだろう。それくらいの理性はある人間だろうと吹雪は認識されていた。

「予定ジャ最後マデ明確ニシナイッテ話ダッタロ? ナーンデエラー娘ト合流シチャッテルンデスカネェ」

 レ級がイギリスや北海道、アメリカや鉄底海峡で調整を行っている間に事は済んでしまった。気が付いた時にはもう二人でわちゃわちゃやっていたのだ。

「あー、その件に関しては誠に申し訳ないと思っている」

「やらかしたの? 修正が利かない案件なんだけど……」

 検証の結果、ゴトランドの過去改変は転生者の記憶は改竄出来ない事が判明している。過去が変わるのに記憶は改変前のものも維持されるのだ。吹雪が既に認識している事柄に関しては、最早消し去る術が無い。

「いや、実は……別に吹雪くんに転生者の存在がバレても特に進行に影響は無いうぉっふ!」

 レ級の足が超高速で多聞丸の鼻面に押し付けられた。睨むのを通り越して、レ級は半分笑い顔のような表情になっている。

「嘘ツイタ箇所全部吐ケ」

 多聞丸なりに頑張った結果ではあるのだろうから、美少女に踏みにじられるのはちょっと可哀想にも思えたが、ゴトランドも本当の所を知りたかったので特に何も言わないでおいた。

 

 

 

「話ハ分カッタ」

「うーん、微妙に納得できないけど……いいか。話せるようになったら教えてね」

 多聞丸の話を一言でまとめると、『吹雪に全部を話して引き入れた場合多聞丸がストレスで死ぬ』という事であった。

 レ級は己の知っている事柄からどうしてそうなるのか理解出来たが、ゴトランドは微妙な所で、イマイチそれが想像出来ない。基本的に善良にだいぶ寄っている吹雪と猫吊るしの性格がこの件に関しては悪い目を引き続ける事になるらしいが、何故そうなるのかはよく分からなかった。おそらくはまだ知らない事情が関係するのだろうとゴトランドは判ずる。

「すまないね、全部が終わったらちゃんと皆に説明はするよ……もちろん吹雪くんと猫吊るしくんにもね」

「あ、結局猫吊るしにするんだ、呼び方」

「吹雪くんが確定したからね、それに倣う事にしたよ」

 可能性としては色々あったのだが、結局、一番順当な物になった。意外性は無いが分かり易くていいだろう。艦これの初期を知らない人間にとっては完全に意味不明な呼び方ではあろうが。

「オイ、今ノ状態ナラ大丈夫ナンダナ?」

「ああ、確定じゃなくて確信なら大丈夫だよ。北方くんを会わせると不味かったのは、彼女の場合一人だけ仲間外れにされている知り合いを放っておけなくなるからというのが大きくてね」

 いい子ばかりなのだが、相乗効果で多聞丸の胃は破壊される。そして多聞丸が入院などという話になると、死者が膨れ上がるのだ。隙あらば権力闘争をやり始めるのは何時の時代も変わらない。

「ガバラネーダロウナ……」

 レ級にジト目で見つめられた多聞丸は乾いた笑いを上げるしかなかった。自信のほどは微妙である。

「あ、そういえば吹雪がケッコンしたのも想定より早くない?」

「いや、あれは君のおかげなんだが」

 えっ、とゴトランドは豆鉄砲でも食らったような表情を見せた。心当たりが全く無かったのだ。

「これに関してはマイナス要素は無かったから、むしろ有難い……はずだったんだがなあ」

 チケットをちらりと見て微妙な表情になったが、多聞丸は続ける。

「淡路島で行方不明になっただろう? それが吹雪くんに刺激を与えたようでね」

 本来なら、島風を慮って、もう少し後。島風が改二になってしまってからになるはずだったのだ。実のところケッコンカッコカリについては吹雪も結構悩んでいて、人間を半分辞めさせる事になるかもしれないようなモノを渡すのは躊躇っていたのである。もっとも、渡さなくても島風は勝手に改二になっていた可能性が非常に高いのだが。

「あら、顔を合わせたくない人が多かったからフェードアウトしただけだったんだけど、意外な効果ね」

 ゴトランドは世界各所に偏在しているような状態である。そのため、同じ救助隊員や艦娘と別の場所で別の人間として出会ってしまう危険性を持っている。一度なら他人の空似で済むかもしれないが、三度四度と続いたらそういう訳にも行かなくなるだろう。説明すれば理解してくれるだろう吹雪にバレる方がまだマシと言える。

「ケッコンか……そうだ、私がケッコン出来る相手って居る?」

「それはどっちとしてだい?」

 ゴトランドは提督適性も持っている。自分自身しか指揮下に入れていないため有効活用出来ているとは言い難いのだが、妖精さんを呼び寄せるのが得意分野であり、自分の能力との相性はかなり良い。

「両方」

「そうだね……今の段階だと、私から指輪を渡せるくらいだなあ」

「エッ」

「えっ」

 レ級もゴトランドも驚いた。両者とも、そんなに信頼が篤いとは思っていなかったのだ。

「まぁ、驚く気持ちは分かるがね。私は未来視でいろんな可能性を見る関係上、元々相性のいい相手にはすぐ惚れてしまうのさ」

 実の所、多聞丸から転生者への好感度は、ほぼ全員に対して指輪を渡せてしまうくらいに高かったりするのだ。

「ああ、私もそういう傾向があるから分かるかも」

 対するゴトランドも大概である。過去に己の分身を送り込み過去を改変する能力なのだが、この分身の体験は本体が行ったものと全く同列の価値を持ってフィードバックされるのだ。つまり、彼女にとっては淡路島で皆で助け合ったのも、多聞丸の指示で各所へ遠征したのも、崩れ落ちるビルから子供を助け出して瓦礫に押しつぶされたのも、全て紛れもない現実であった。

 あと普通に惚れっぽい。人が好きだから人からも好かれるタイプの人間である。

「ああ、勿論レ級くんにも私から渡せるくらいの絆はあるよ」

「ンナ事言ウ必要アッタカ?」

 深海棲艦に渡してどうすんだ。意味ねーだろ。公開する意味もねーだろ。阿呆なのか、馬鹿なのか。レ級がそう罵倒している間に、多聞丸は置いてあった鞄を手に取ると、その奥から二つの小箱を取り出した。

「というわけで、どうぞ」

「わーい」

「ドウゾジャネェヨ!?」

 素直に受け取ったゴトランドが箱を開ければ、中身は案の定指輪だった。今のゴトランドは本体ではないが、後で多聞丸を迎えに来る予定の北方棲姫に届けてもらえば同じ事である。指に嵌めてみればぴったりとフィットした。ふしぎなちからでサイズが可変なのかもしれない。

「イヤ、オレガ貰ッテモ資源ノ無駄ダロ……」

「ほんとぉ?」

 ゴトランドが口角を吊り上げてレ級を細めた目で見つめる。指輪の効果なんていうのは、適性値云々だけで測れるようなものではないのだ。レ級は舌打ちして、その後顕現させた艤装に無言で指輪を放り込んだ。ゴトランドは笑った。

「ヨーシ、表ヘ出ロ、ドウセ分身ナンダ、オレカラモプレゼントヲクレテヤンヨ」

「それはバレるから止めてくれ……」

 現在地は宮里艦隊の居る鎮守府である。ゴトランドはともかく、レ級が姿を見られるのは問題しかない。レ級も本気で怒っている訳ではないので、ごめんなさいねとゴトランドが謝る事で収束した。照れ隠しで撃たれるのは流石に御免なのである。

 不貞腐れて長椅子へと寝転んだレ級を尻目に、ゴトランドは話題を無理矢理変える事にした。

「それにしても、この指輪って以前に作った物よね?」

「ああ、猫吊るしくんが開発した初期の物の一つだよ。と言っても島風くん用の物と何が変わるという訳でもないが」

 ふむ、とゴトランドは指輪を見つめ、思い付いた事をそのまま口に出した。

「じゃあ、これ、バグ取りされてなかったりして」

「ハハハまさか」

「ネエダロ流石ニ」

「だよねー」

 当然他のも修正してあるだろう。三人とも意見は一致した。

 

 

 

 

 

 翌日、多聞丸とレ級とゴトランドの元に一枚ずつ詫びチケットが送られた。

 

 

 




軽い話じゃなくて馬鹿みたいな話になった気がします。
吹雪がドラマチックに改二になるとかは無いんだ、本当に申し訳ない。
だっていくら演出しても戦力的には大して変わらないんだもの……


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吹雪とはいったい……うごごご!!

 改二改装の時間だオラァ!!

 結局、楠木提督に渡したチケットは私の所に帰って来た。理由としては、なんだかんだ妖精さんのサポートを受けやすい私が使うのが何かあった時リカバリーが利きやすいからだそうな。怪しいからなこのチケット。

 出撃している間にチケットの事は省いてだけど宮里提督への説明もしておいて貰えるという事で、サクッと淡路島周辺を平定して鎮守府へと帰って来た。今週か来週中には四国行けそうな気がする。

 それじゃあさっそくチケットを使用してサクッと改二になってやろうと思って部屋まで取りに来た訳なのだけれど、手に取って眺めてみて初めて、はてこのチケットはどう使うものなのだろうと困ってしまった。使い方書いてないんだもん。

 でもそんな時頼りになるのが猫吊るしである。彼女のチート能力に掛かればそんなお悩みも即解決、どんな道具のお悩みもまずはご相談くださいなのだ。チケットを渡してみると猫吊るしはそれをしげしげと見つめ、特に何もせずに私に返してくれた。曰く、このチケット、艦娘ではなく提督が使用する物なんだとか。改二にしたい子を指定して、妖精さんにチケット渡せばそれでOKらしい。

 じゃあはい、と提督の私が吹雪を指定して戻って来たチケットを猫吊るしに投げ返す。そうしたら猫吊るしは冒頭の台詞を叫びながら私の頭の上に飛び乗り、気が付いたら周囲に居た他の妖精さんも私の頭や肩の上に並んでいた。あれ、これ私がこのまま工廠まで運ばないといけない奴?

 

 最終的に大量の妖精さんを腕に抱え込んで、遭遇した文月に首を傾げられつつ工房へと到達した。中では楠木提督と宮里提督、それに長門さんと明石さん達工作艦の皆さんが何やら話し合いを行っている。いや、話し合いというか、楠木提督が長門さんと問答か何かしていたっぽい? 私が入って行ったら丁度終わってしまったようで内容までは分からなかったけど、私の聴覚にはそれなりの距離から二人の声が聞こえていた。妖精さん達がわーわーきゃーきゃーしてるせいで聞き取れなかったけど、盗み聞きみたいになるし逆に良かったかもしれない。

 長門さんは私の入室に気付くと一歩下がって道を空けた。困惑気味な表情と心配そうな雰囲気が合わさったなんとも言えない顔色だったけれど、とりあえずこちらを慮ってくれているのは分かる。急に状況が変わったからなぁ、長門さんは出撃して帰ってきてから話を聞いたはずだし。

 宮里提督も心なしか戸惑っているように見えたけど、私が工廠の中ほどまで進んだ段階で妖精さんの皆がよしやるぞーと腕の中から頭の上からぴょいぴょい飛び出し艤装の方へと駆けて行ったものだから、そのまま建造がなし崩し的に始まってしまい話し掛ける機会を逸してしまったようだった。実行される事は決まってたし、楠木提督が傍に居るから色々言い辛いってのもあったかもしれないけど。

 

 工廠のクレーンで低い位置に吊るされた私の艤装、通常の吹雪のそれに妖精さんが群がって行く。私達はそれを無言で見つめている。正直気まずい。カーンカーンカーンと不吉な音が聞こえたりする中、妖精さん達はスパナでボルトを締めたり、連装砲を一旦外して脇に寄せたり、ドリルを振り回したり、艤装の上で頭を捻ったり、排気塔の中から頭だけ出してみたり、中から鋼材らしきものを運び出したり、その中に混じっていたねこのようなものを四匹繋げて消し去ったり、使っていなかった魚雷の発射管を探して大冒険したりしていた。心なしか普段よりちゃんと働いてる割合が多い気がする。っていうか、頭捻ってるの猫吊るしじゃん。お前手順間違えたとか言わないだろうな……

 そんな事を考えていたら、猫吊るしは手招きしながらおいでおいでと私に呼びかけて来た。なんだろうと思って行き来する妖精さん達を踏まない様に気を付けながら艤装の所へ近づいてみると、ある程度近づいた段階で、突然、艤装に精神を吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 もう慣れた感覚ではあるが、突然やられると流石に驚くわ。そう思いつつ周りを見回すと、やはりというかそこは駆逐艦吹雪の船上だった。空の模様は少し雲の浮かんだ晴れ、朝焼けに照らされて海も船体も輝いている。いつも通り吹雪さんは不在で、冊子が置いてある机も普段と変わらない様子だった。なお以前枚数を数えたら地味に減っていたのでたぶん二期の適性者に吹雪の子が居ると思われる。

 なんでこっちに引っ張りこまれたんだろうと思い暫く周囲を見て回り、ふと気になって吹雪の内部へ繋がると思われる扉に触れてみた。するとそれは突然音も無く開き、奥の照明がちかちかと点き始めた。内部は異様な暗さで、灯りの周囲すらほとんど見えない。私はチート能力さんでそれでもなんとなく中の様子が分かるのだが、普通の人だと歩くのも危ないだろう。

 少し躊躇っていると、直近の灯がびかびかと光って主張を始めた。入って来いやオラァンという事だろう。まぁどの道行かないという選択肢も無いので、気を付けながら一歩足を踏み入れる。その瞬間、音を立てずに扉が閉じられた。

 暗い通路の先には十数メートル先まで電灯ともガス灯とも付かない明かりが点々と灯されていて、私が先に進むとさらに奥の物が点火される仕組みになっていた。そのうち二股に分かれた通路に出くわせば、その片側だけに新たな光が差し、こっちへおいでと誘導してくれる。そんな事を何度も繰り返し、外観よりだいぶ広くないかこれと私が思い始めた頃に、照明は深部を照らすのを止め、一つの扉を映し出した。

 それは鉄か何かで出来ているように見え、薄っすらと錆が浮かんでいる。取っ手や鍵穴などが付いており、一見したところでは普通の片開きの扉だ。入ればいいのだろうかと思いノブに手を伸ばすと、寸前でガチャリと鍵の開く音が聞こえ、そのまま捻ればそれは思いの外抵抗無く、あっさりと私に道を譲った。

 

 中には明かりが一切無く、詳しい様子までは分からない。ただ、私の肌感覚には部屋の中央に何かが居るのが視えていた。もしかして久しぶりに会えたのか、そう喜び勇んで中へと失礼すると、やはり後ろの扉は閉まり、同時に周囲の壁が暗く紅い光を放ち、周囲を淡く照らし出した。

 中央にはやはり、訓練初日に見た顔があった。

 ただなんか、鎖のような物が中途半端に繋がった首輪をしていて、目が赤くて、髪が白くて、短い角が二本生えていて、肌も真っ白で、左手が黒い何かヒレみたいな形状になってる。

 

 

 

 

 

 深海吹雪じゃねぇか!!!!

 

 

 

 

 

 どこからどう見ても劇場版の吹雪さんの半身というかなんというかなあのお方だった。え、深海棲艦化してたの? それとも来るとこ間違えた? なんて思いつつ真剣に殴りかかるか検討していると、あの時と同じように目の前の女の子は私に思念を飛ばしてきた。

 

 ――やめて……私は深海棲艦じゃないから。

 

 前もそうだったのだがどうやらこの空間、艦娘と適性者は魂と魂で繋がっているせいかある程度思考が読まれてしまう。なので私のどうしよっかなー殴っとこうかなーという考えを読み取ってしまったらしい。心底止めて欲しそうな心の声だった。

 逆にこちらも相手の感情などがある程度見えるので、どうやら嘘は吐いてなさそうだと分かる。とはいえ、姿が例のアレなので言葉の説得力は皆無な訳で。一応警戒は解かないようにしておくしかなかった。というか、じゃあ貴女は誰ですか?

 

 ――私も吹雪、以前ここに居た吹雪の別側面。居なくなったあの子の代わりに配置されているの。

 

 悲報、吹雪さんやっぱり居なくなってた。いや、ずっと不在ではあったんだけど、ワンチャン奥に引っ込んでるだけかもって思いもあったんだ。それを否定された。信用していい相手なのかよく分からないけど、とりあえずこちらを騙そうという気配も感じない。私よりここに詳しいだろうから誤魔化そうと思えば誤魔化せるんだろうけども。

 

 ――あの子がどこへ行ったのかは私も知らない、私は追いやられた可能性の一つ、微弱な存在でしかない。だから、ここから出て行くのは凄く疲れるし、こんな姿だから、外から見られない方がみんな安心できるでしょう。

 

 今は改二の審判のためだけに頑張ってこの場に出てきているらしい。曰く、吹雪さんである事は間違いないらしく、自分の主体をやっていた彼女が何処かへ消えた事は分かるし、今はこの世界全体が彼女の領域なのだそうだ。

 なら姿どうにかすればいいのでは、って思ったけどそういえば自力で風景とか変えるの無理なんだっけっと初春さんの言を思い出す。逸話とか神霊とかが混ざり混ざって艦娘になるらしいけど、この吹雪さんはいったいどういう部分がどうなって深海棲艦の見た目になったんだろう。っていうか、今更だけど深海棲艦ってなんなんだろう。

 

 ――私は私の欠片を渡すのに相応しいかを見極めるだけ。他の支援は期待しないで。

 

 そう言って、深海っぽい吹雪さんは私の方へゆっくり歩み寄ってくる。多分信用していい人だと思うので私もそれを待ち受ける。何しろ、もう既に最初に会った吹雪さんより会話してるからね私達。

 手の届く距離まで近づいた吹雪さんが私の瞳を覗き込む。身長はほとんど同じ――もしかしたら全く同じかもしれないくらいなので、お互いまっすぐ前を見つめる形になった。

 

 ――どうして改二になりたいの?

 

 どうして。どうしてってそりゃ、強いし、チケット貰ったからなれそうだなって思って軽い気持ちで。そう思ったら目の前の彼女は不満気に顔を歪めた。

 

 ――正直ね……じゃあどうして強くなりたいの?

 

 強くなりたい理由。そりゃあ、強ければ強いだけ便利だし、いっぱい使って貰えればそれだけ助けられる人が増えるかもしれないわけで。つまり人助けのため? まぁ改二にならなくても十分強いはずではあるのだけども、今以上があるなら是非なりたい。きっと有効に使って貰えるはず。自分で考えても糞みたいな成果になる気しかしないから指揮してくれる人が必須だけど。

 それと別の話になるけど――改二が悪い物じゃないって知ってもらいたいというのもある。この世界の改二は言っちゃ悪いけど話に聞いただけだと印象が最悪だ。不老化は恩恵と言えるかもしれないけど、代わりに艦娘の魂を受け容れなきゃいけないなら、戦わないでは居られなくなるだろう。軍艦の魂なんだからそれは仕方のない事だ。

 でも、艦娘はそれだけの存在じゃないはずなのだ。これは転生者な私や猫吊るし、それときっとまだ居るであろう同郷達くらいしか分からない事だけど、艦娘というのは戦って戦って、それで死ぬだけだとか、そんな悲しい存在じゃあなかったはずだ。もっと無暗に明るくて、馬鹿らしくて、くだらない、でも楽しい要素に溢れていたと私は認識している。二次創作とかアンソロジーに影響され過ぎた印象だとか言ってはいけない。

 この世界の艦娘が本当にそういう存在なのか実際よく知らないけど、私は彼女等の魂はきっと一緒に居ても大丈夫なものだと信じているのだ。だから、そう思っている私が一番に改二になって後に続く人達の不安を少しでも和らげられたらいいな、とは思っている。

 まぁそもそも戦力上がるよ!! 死に辛くなるよ!! って言われたら多少不安でも普通にやるだろうから関係無いよねとは自分でも思う。

 

 そんな事を上手く言語化できずに考えていたら、目の前にあった赤い瞳がすっと遠ざかって行った。終わりだろうか。元の位置へ戻って行って、白い女の子はため息を吐いた。

 

 ――考えも覚悟も、何もかも足りてない。

 

 ストレートォ!

分かるけども。分かりますけども。でも本音でそんな感じなんですもん。偽りようもなさそうだし、しょうがないじゃないですかー。たぶん本来私はここに立てる資格すら持ってないんだろうなぁ、チケットで無理矢理入って来ちゃっただけで。

 

 ――でも、いいわ。そもそも私に拒否権は無いの。

 

 確定チケットですもんね。確定ですもんね。絶対させなきゃいけないんですもんね。あれ、もしかして私悪い事してる? 関係を深めるどころか悪化してないこれ?

 ヤバいよヤバいよと内心で滅茶苦茶焦っていると、深海の見た目をした吹雪さんは私の方へ赤い血管のような模様の走った左腕を差し出してきた。そのヒレのような手の平に、周囲で暗く室内を照らしていた赤い光が集まって行く。だんだんとそれは球状に纏まってゆき、四方の壁と天井からすっかり光が無くなってしまった頃、吹雪さんの手がその球体ごとぐっと閉じられた。中のものを圧縮するように拳が強く握りしめられる。

 暫くして、再びその指が開かれると、そこには紅黒い輝きを放ち、辺りを瘴気のようなモノで淀ませる何かが浮かんでいた。

 

 ――さあ、どうぞ。

 

 いやどうぞって。

 いやうん。うん? これ大丈夫? 大丈夫な奴? なんか凄い深海側っぽい見た目してるんだけど? 取り込んだら深海棲艦になったりしない? いやたぶん目の前の自称吹雪さんは大丈夫な人だと思うんだけど、これが大丈夫な物なのかは自信が持てないんですけど? もしかして怒ってる? 意にそぐわない感じで渡さなきゃいけなくなって怒ってらっしゃる? ヤベー部分渡そうとしてません? この世界の艦娘の魂はヤバいブツだよって分からせようとしてません?

 ちょっと私が逡巡していると、吹雪さんは手の上の物を軽く放った。すると、不思議な事にその紅くて黒い塊は宙に浮いたままふわふわと私の方へと漂って来る。ちょっとかわいい。

 呆然とそれを眺めていると、吹雪さんの魂の欠片は私の目の前で静止した。吹雪さんの方を窺ってみれば、私の事をじっと見つめている。これ以上何かを言おうという気を感じないので、もう後は私がどうするか、という事なのだろう。

 つまり取り込まないという選択肢もあると? そういえば扉は閉まっているけれど、鍵がかかった音を聞いた覚えは無い。帰ろうと思えばこのまま帰れるのかもしれない。でもなー…………なんかそれは嫌だ。

 私が艦娘を大丈夫な存在だと信じているのは嘘じゃないのだ。だから、これも受け取って大丈夫だと思う。ただ見た目がなぁ……大丈夫かなぁこれ……まぁちょっと覚悟はしておくか。駄目だったら駄目だったで、後に続く子達への教訓くらいにはなるだろう。無理矢理駄目、絶対。って感じで。悪い例として残ってくれるよきっと。

 

 目の前で浮かんでいる吹雪さんの魂の一片に腕を伸ばすと、それはゆっくりと私の両手に収まった。温かいような冷たいような、不思議な感覚が伝わってくる。なんとなくどうすればいいのかは理解出来たので、少し躊躇いながら、暗い光を放つそれをそのまま自分の胸へと押し込んだ。

 

 体に溶け込む寸前、紅黒い光は失われ、気のせいか吹雪さんが少し微笑んだように感じた。

 

 

 

 

 

 はっと我に返ると、私は艤装の目の前で立ち尽くしていた。意識を向こう側へ飛ばしている間に一歩くらいは進んだようだが、未だ艤装まで辿り着いていない。結構長居したような気がしたが実際には一瞬の出来事だったようだ。

 体調には不全な点はない、普段通り絶好調だ。私の体は寝不足で頭が動かないとかはあっても体は動くからね。ただ、なんとなくだけど魂に変化があるような気がする。後で確認してみないと確かな事は言えないけど、やっぱり吹雪さんだったと思うあの人から貰った欠片がインストールされているのだろう。

 これで私は改二の艤装を動かせるようになったんだろうか。正直そこまで何かが変わったかと言われると首を捻らざるを得ないんだけど。とりあえず、猫吊るしが待っているので艤装までの数歩を詰めてしまう事にした。

 

 辿り着くとちょっとそこに立っててくれと言われ、艤装の向かいに立たされる。すると何人かの妖精さんがやって来て、メジャーを私に巻きつけ始めた。くるくると私の胴回りや胸回り、肩幅や腕の長さなんかを計測すると、その結果をささっと紙に写し、妖精さん達は頷き合う。そしてどこからか生地を取り出すと、皆でちくちくやり始めた。制服って手縫いだったのか……

 そのまま動かないでねーと写真でも撮る時みたいに言われたのでじっとして妖精さん達の働きぶりを観察していると、猫吊るしの優秀さが良く目に入った。どうやら工廠の妖精さん達の中でもリーダー格のようで、自分でも工具を振り回しつつ、周囲の子らに正確に、たぶん正確に指示を与えていた。いや私には合ってるのか分からないからさ。

 暫くそうやって見つめていたのだけれど、なんだか外観にほとんど変化は見られず、中からパーツを持ち出しているのがいやに目に付いた。持ち込んでいる事もあるのだけど、なんか入る数より出て行っている数の方が多い気がする。ちょっと不安。

 

 カーンカーンカーンと工具の音だけが響き渡り、なんとも言われないのでそれをずっと聞き続けていると、気が付けば妖精さん達の出入りは無くなり、猫吊るしだけが艤装の上に立っていた。こちらを見ているので終わったか聞いてみると、残りは仕上げだけだと言う。

「今の艤装は組んであるだけ、あとは吹雪がこれに触れて自分の要素を反映させれば完成だ!」

「どういう仕組みなのそれ」

 斬魄刀かなんかなのこれ。一人に一つの改二って本当にそういう意味なのかよ。

「とにかく触って、いつもみたいに起動してくれれば行けるよ」

 猫吊るしが艤装から飛び降り、ハリーハリーと急かしてくる。提督たちの方へ振り返ってみると、宮里提督も楠木提督も頷いていた。とりあえずやってみろって事だろう。それじゃあと失礼して、見た目はほぼいままで通りな艤装に手を触れ、火を入れる。

 そして艤装は光を放った。

 

 

 

 溢れる光が治まると、そこには先ほどまでと少し様子の変わった艤装が鎮座していた。特に変わったのが背中で艤装を固定するためのアームだ。今までは背嚢のごとく背負っていたのだが、それが脇腹の辺りで固定されるようになる。結構太い骨組みになっていて頑丈そうなのも良し。

 ただ、それ以外は見た目にはほとんど変わっていないように見える。大きさも同じだし。

「ねえ猫吊るし、これ成功してる? 背負う部分以外の違いが分からないんだけど……」

「ん~? おかしいな、そいつに合った武装も付いてくるはずなんだが……」

 酸素魚雷とか高射装置とか、初回のみ一緒に出来上がるらしい。私なら水中聴音機とか爆雷投射機の高性能な奴が付属しても良さそうなものである。でも、そういうのは少なくとも見た目には一緒になっていないようだった。近くに制服も畳んで置いてあるが、それはちょっと後回しだ。

 猫吊るしは中を見てみるわと艤装の中へ飛び乗って、小さな体で探検に向かう。直後、悲鳴が聞こえて来た。大丈夫かと私が問うと、今度は歓声が返って来る。

「凄いぞ吹雪! 中めっちゃ広い!!」

 そっかぁ。

 

 

 

 終わったと見て、提督たちと長門さんもこちらへやって来た。これで完成なのかと流石に艤装を背負っていないために一人見えも聞こえもしていない長門さんに問われたが、私も一応そうらしいとしか答えられない。そうこうしているうちに猫吊るしが興奮した様子でぴょんと飛び出して来た。

「分かったぞ吹雪! こいつの特性!!」

 そう言う猫吊るしは両手で何かを掲げている。それは円筒状で、金属製に見えた。

「ねえ猫吊るし、まさかとは思うんだけど、私の改二について来た装備ってそれ?」

「ああ!!」

 そっかぁ。

 そっかぁ……

「一応聞いておくけどさ、それ、何?」

 そいつにはぐるりと一周ラベルが張られていて、品名とか、内容量とか、納入日とかが印字されている。装備かなぁ、装備だったなぁ、そういえば。艦これ的には。

「缶詰!!」

「だよね?」

 それは缶詰だった。未開封の秋刀魚の缶詰であった。

「おにぎりも一緒に入ってたよ!!」

「戦闘糧食かな?」

 猫吊るし、ヤケクソになってない? 大丈夫? 私は大丈夫じゃない。

 

「改装を実行したら缶詰が生まれた……?」

 長門さんは困惑している。そりゃそうですよね、私も意味が分からないですし。

 って思ったのだが、長門さん的にはそうでもなかったようで、給糧艦の例があるからそういう事もあるのだろうかとある程度の納得を得ていた。懐が深い、でいいのだろうかこの場合。

「それで猫吊るしさん、この新しい吹雪の特性というのは……?」

 宮里提督が続きを促す。猫吊るしって名称染っちゃったのはちょっと悪い事したかもなぁと思っていたら、猫吊るしの方は気にせず目をキラキラさせながら私達に解説を始めてくれた。

「まずこの吹雪改二ですが、出力や速力なんかの基礎的な性能は、以前と全く変わりません!!」

 駄目じゃねぇか!?

 待って、改二だよね? ちゃんと改装したんだよね? どうしてそうなるの、チケットで無理矢理行ったから? え、そんな事ある? 詫びチケだよねあれ。運営の罠とかそんな事ある? 吹雪さんやっぱり怒ってた?

「その代わり、中の構造が最適化された上、空間が拡張されてて滅茶苦茶広いんだ。余剰スペースがとんでもない事になってる」

「何それ、弾薬いっぱい積めるって事?」

 最初のインパクトが酷かったが、それは悪くないかもしれない。純粋に継戦能力が上がるって事だし、今までよりも長期の任務が可能になれそうだ。楠木提督も興味深げに聞いている。

「うん、それもあるし、種類もいろいろ積めるぞ。素の武装が全然無い代わりに装備スロットが凄く多い」

「ふむ……つまり、連装砲、高角砲、機銃、魚雷、爆雷なんかを同時に装備できると」

 楠木提督の問に、猫吊るしはああ! と答えた。この世界だと元々ゲームより色々積めるんだけど、それ以上になるんだそうな。あれ、私の能力とは結構噛み合ってる……?

「でも、こいつの真価はそこじゃないな」

 普通の装備だけ詰むのは勿体ないと猫吊るしは言った。

「吹雪に適性が無いから連装砲ちゃんとか甲標的とかの独立して火力を発揮できるタイプの奴は無理なんだけど、そういうのじゃなければそこそこデカいのを乗っけられるぜこいつ」

 たとえば内火艇は無理なのだが、大発は行けるらしい。どう違うのかよく分からないが、攻撃能力のある奴は無理なんだそうだ。なお航空機はそもそも形状的に全部アウトらしい。私の適性謎過ぎない?

「それと、大型のレーダーとかソナーも行けるな。ああ、あとあれだ、川内の使ってるアレも」

 サーモセンサー付きゴーグルも装備可能な範囲らしい。いや、でも私普通に目がいいからあれはあっても変わらん気がするわ。

「で、個人的に面白かったのがこれ!」

 秋刀魚缶以上に面白い事があるのか。さらっと私が自分のアイデンティティについて悩んでしまいそうな事を言い放った猫吊るしは艤装の中に手を突っ込むと、にゅるんと何枚かに渡る紙の束を引っ張り出した。それには何か数値が書いてあって、どうやら何かの目録であるようだった。私に差し出してきたので受け取り、全員で覗き込む。

「12.7cm弾24ケース、燃料48本に……ん、三式弾? え、三式弾使えるの?」

「ムリダナ」

 無理なのかよ。私が使ったらどうなるのか気になってた装備の上位だったんだけど。じゃあこの目録何? 積んでる物のリストとかじゃないのこれ。

 私が胡乱気に書類を見つめていると、宮里提督が何かに気付いたのか隣ではっと息を呑み、ほんの少しだけ震える声で、猫吊るしに根本的な所について質問した。

「あの、この吹雪改二、艦種は……艦種はどうなっているんですか……?」

 よくぞ聞いてくれました。口には出さなかったが猫吊るしの表情は雄弁にそう語っていた。

 

「高速輸送艦です!!」

 

 私は固まった。宮里提督は予期していたのだろうが、それでも指先が震えていた。楠木提督は小さくほぉと漏らし、長門さんは聞こえていないので宮里提督の反応を気遣わしそうに見つめていた。

 高速輸送艦っていうのは何だろう。つまりは輸送用で速度がある奴って事? なんか戦闘用っぽくない響きだけど、待って、それが私の改二なの? 確かに改装で艦種が変わる艦娘は居た。でも自分にそれが降りかかるとは思ってなかった。まして戦闘向きじゃない奴になるなんていうのは。

 でも、そうか、これ吹雪さんが戦後まで長く生き残った場合のIF改装か何かかな? 軍艦として型落ちして輸送艦に改装されたとかそんな感じ?

「あ、輸送艦になってるけど、一応戦闘力は上がってるからそこは勘違いしないで貰いたいな。基本性能は変わってないけど、一応手数は増やせるからな、一応」

 こいつ、三回も一応って言ったぞ。あのやずやですら二回なのに。猫吊るしは洋上補給も出来るよと努めて明るく言った。補給艦じゃねそれ。

「でもこれ、燃費悪くなるんでしょ、強化量と見合ってる?」

「んー、積載以外ほとんど変わって無いから最低限しか上がらないみたいだし、総合的にはプラスなんじゃないか。元々が駆逐艦で低燃費だしな」

 ならいいか。いや、実際使うかどうかは私が決める事ではないだろうけど、明らかに弱くないなら問題無い。そもそも、改装前でも別段困ってはいなかったわけだしね。

 しかし輸送艦、輸送艦かぁ。意外かと言われれば滅茶苦茶意外である。というか、これもしかしなくてもチート能力さんは改二に影響してないよなぁ。してたら近接特化とかになりそうだし。なのでこれは私の才能や資質、精神性なんかがそのまんま反映された結果なのだろう。

 この世界の改二はその人間の性質が強く出るらしいので、それが正しいのだとしたら、素の状態の私には戦闘の才能が全く無いのだろう。なにせ出てきた装備が戦闘糧食と秋刀魚の缶詰と、あとたぶん洋上補給である。どう見たって支援系の艦だわ、戦わせたら沈みそう。

「ともかく、ちゃんと動くのか試してみましょう。使うかどうかはその結果次第で考えます」

「そうだねそういう性能なら、次の作戦でやってもらいたい事もある。何がどれくらい使えるのかしっかり確かめておこう」

 この艤装でやらせたい事とはいったい……ネズミ輸送とか? 滅茶苦茶向いてそうだけども。

 

 

 

 テストのためにとりあえず一通りの武装を付けてもらう事になった。出番だヒャッハー新しい艤装見せろオラッとマッド入ってる方の明石さんも突っ込んで行ったが、それでも装備するのにはそれなりに時間がかかるらしい。その間暇をしててもしょうがないので、横に畳んであった新しい制服を広げてみた。

 第一印象としては、黒い。今までの制服と基本的なデザインは一緒なのだが、なんか黒い。白地だったのが黒地になっている。もしかしたら夜間迷彩的なイメージなのだろうか。それと艦これの吹雪改二みたいな赤いラインもきっちり入っていて、気のせいか、あの吹雪さんの別側面さんの左手みたいな印象を受けない事もない。たぶん気のせいかなうん。

 

 ちょっと着替えてみようかと思って提督たちに一声かけ、最寄りの空きスペースでささっと脱いでぱぱっと袖を通していると、遠くから宮里提督と長門さんの声が聞こえて来た。どうやら一部始終がよく分からなかった長門さんにあらましを語っている様で、ただ、宮里提督の声にあまり元気がない事が気に掛かる。

 今までの戦績から考えたら期待外れ感あるもんなぁ、と思いつつ、盗み聞きしているみたいで申し訳ないので耳を塞いどこうかなぁとか考えていたら、長門さんがぽつりと、まさか戦闘に向いていないのかと呟いたのまで耳に入ってしまった。輸送艦だもんなぁ、戦闘力は向上してるって言われてるけど輸送艦って言われたらなぁ。

 実際にはチート能力さんのおかげでどうにでもなるので、ちゃんとやってちゃんと出来るって見せておかないと不味いだろう。これで出撃頻度が落ちたりするのは誰も得しないからね。

 そう思いながら外に出て改二になった艤装の様子を見に行ったら、ダブル明石さんと猫吊るしと妖精さん達がノリノリで全装備連装砲とかいう意味不明な事をやろうとしていたので提督たちに通報しておいた。明石さん、マッドじゃないと思ってた方も大概なのでは……?

 

 

 




確定チケの仕様→対象になった適性者を認めてくれる側面を強制的に表出させる。

吹雪の改二に対する考察は大体間違ってます。


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もっと速く疾走れ艦娘

 艦娘の魂を取り込むとそれに影響されて体に変化が現れるという。それがちょっと気になって、試運転終わりにシャワーを浴びながら体をくまなく調べてみたのだけど、今の所はまだ何も変化は無いようだった。

 猫吊るしの話だと早ければその場で、遅くても一年以内には影響が出切る、と思うたぶん。という事なのでまだまだ先になるのかもしれない。ただ私と吹雪さんの場合体格とかにあまり差が無く、変容もそれほど目立ちそうにはないから、出てるけど気付けてないだけの可能性が大いにあるんだよね。まぁそれならその程度って事なのでいいんだけど。

 問題は深海吹雪さんの影響が出てしまった場合である。流石に大丈夫だとは思うんだけどね、深海吹雪さん深海棲艦っぽい見た目なだけで最初に会った吹雪さんの一部みたいだから、彼女の影響だけが顕著に出るとかは無い……はず。でも万が一にも角とか生えて来たら困るなぁ、あとあの手だとタイピングとかすごいやり辛そう。そう思いながら髪を流し、艤装の影響で伸びているそれに触って確かめてみるが、そこも改二以前とは変化が無いようだった。角も生えそうな様子とか無いからヨシ!

 しかし私、これで不老になったんだよな。私自身は何の覚悟もないしチート能力さん除いたら大した奴でもないのに。そう考えるとあの詫びチケットヤバすぎない? 実質不老化ご招待券じゃんあれ、一兆ドルでも買い手付きそうだわ。艦娘の適性がある女性しか使えないだろうけど。

 流石にあんな危険な物を安易にばら撒いたりはしないと思うんだけど、また貰える機会とかあるんだろうか。いや配布=何かしらバグってるなんだから無い方が良いに決まってるんだけどさ。でもみんな好きだろ、詫び石。

 

 

 

 

 

 翌朝、どういう訳かみんなで走る事になった。

 いや、どういうも何も次の作戦の参加者決めるための体力測定らしいんだけど、なんでか艤装無しで制服は着用なんだよね。改二への移行条件満たしてるかもついでに調べようとしてるんだろうか。

 出発地点に並んだ宮里艦隊のみんな+αを見てみれば、島風は喜んでスタート前なのに走り出し、長良さんも気合は十分といった感じ。陸上部はそりゃまぁ強いだろう。長良さんに艤装の影響が出てるのかがかなり気になる所。

 天龍さんはいつも通り自信有り気で、大井さんは逆に自信は無さげ。筋肉量が違うので仕方ないね、天龍さんは元々武道か何かやっていたらしく綺麗な体つきをしてたりするのだ。だからかこないだ姫級の首刎ねたらしい。すげぇ。

 深雪と叢雲はどちらもやる気は十分そうで、初春と山雲はいつも通りな感じに見え、曙はやる気通り越して若干目が怖くなっており、そして夕雲さんは表情が死んでいる。このテストの結果が良くなくても通常の四国攻めには参加出来るって言われてるんだけどなぁ。

 秋雲先生は文月と話をしていて、なんか私と同じくアガってるっぽかった。やっぱりアニメ声には敏感な性質なんだろう。仲間ですな。

 瑞鶴さんは加賀さんには負けたくないと意識しまくっているのが傍から見ててもよく分かり、その加賀さんは普段通りのすまし顔だ。でも勝負ごとに手を抜くタイプじゃないから全力で走りそうな気はする。ゲームやってても本気で潰しに来るし。

 山城さんは意外な意気込みを見せていて、ただ、走るのに袖が凄く邪魔そうに見える。でも不幸な事に括るための物を持っていなかったためそのまま走るようだ。同じくひらひらしてる金剛さんも走るには向いてないデースとぼやいていた。

 イムヤさんとイクさんはどちらも水着での参戦である。制服だから仕方ないのだが、イムヤさんはちょっと恥ずかしそうだ。水中とはやっぱり違うのだろう。イクさん? あの人恥ずかしげも無くばるんばるんしてたよ。楠木提督居るんだけどね、本当に気にしないタイプらしい。なお楠木提督の方も気にしてなかった。ストイックというかなんというか、艦娘って女性ばっかりだしもう慣れてるのかもしれない。

 秋津洲さんは憂鬱そうに二式大艇ちゃんを抱きしめてため息を吐き、速吸さんがそれを見て心配気に声を掛けている。この二人、支援寄りの艦娘繋がりなのか結構仲がいいらしい。秋津洲さんは二式大艇ちゃんとばっかり仲良くしてるのかと思ってたけどそうでもないようで、実際にはみんなと上手くやっている。って金剛さんが言ってた。

 隼鷹さんはちょっと気分が良くなさそうで、飛鷹さんに気遣われながら窘められていた。なんか新しい呑み仲間見つけて盛り上がってしまったらしい。出撃だったら艤装に触ってるうちに多少なら治っちゃうらしいから多分油断してたんだろう。

 その呑み仲間になった那智さんは響に心配されていて、やっぱりこっちも二日酔いっぽい。と言っても一応背中をピンと伸ばして立ってはいるので走れはすると思う。全力を出せるかは微妙だけど。

 川内さんは朝が来ちゃってちょっと気だるげだったけど、柔軟はしっかりやっていた。やっぱり夜型になってしまっているんだろう。そういう意味ではもう体に影響出てる気がする。

 暁教官長と龍驤さんはどちらも普段と変わらない感じで、必要ならみんなのサポートに入る態勢だった。新人三名に二日酔い二名じゃそうなりますよね。

 長門さんは自分の手足を確かめるように軽く動かしている。たぶん今の身体能力と走った時のイメージを修正してるんだと思う。確実に影響は出ている人なので、どうなるのかかなり気になる所だ。身長もあるし足は速そうだけど果たして。

 青葉さんは少し離れてそんな皆を撮影していた。何に使うかは知らないけれど、少なくとも秋雲先生はたまに資料に借りるらしい。案外後世で記録資料として重要な存在になったりするのかもしれない。

 初雪は私の背中でお亡くなりあそばされている。でも、そろそろ甦らせてスタートラインに立たせなければいけない。走って行った島風も捕まえにゃならんし。

 

 

 

 各人揃いまして一斉にスタート。好スタートを切ったのは島風と長門さん。それに長良さんと深雪と天龍さん、それに金剛さんが続く。コースは鎮守府裏庭を十周、都合2000mほどでそこそこの長さになる。なので殆どはペースは控えめで、とりあえず完走を目指そうという走りをしていた。

 そんな後続を全く気にしていないのが島風である。元々えらく速いのに、今はスタミナも艤装の影響で上がってるから遠慮無しにぶっ飛ばしている。なんか100mを全力で走るよりは少し抑え目程度の速度出してるんだけど、これ影響抜けた後ちゃんと走り方元に戻せるのかなぁ……

 その島風の後ろにぴったり付けているのが長門さんだ。やはり体力が上がっているのか苦しそうな様子は全く無く、動きも軽快で腕以外の筋力も上がっているのだろうと見受けられる。やっぱり身体能力的にはもう改二になれそうな気がするんだけど、なんで拒否されたんだろう。

 その二人にだいぶ遅れて三番目を往くのは天龍さんだった。前二人がおかしいだけで十分速い。ただ、そのすぐ後ろの長良さんに比べると動きが荒く、スタミナの消費が激しそうに見える。長良さんはマイペースにやっていた。普段から走ってますしねぇ。ただ、私の見る限り最初期より速くなってる気が……給糧艦製の美味しいご飯のおかげで筋肉がいい感じに発達しただけかもしれないけど。その一つ後ろに居る金剛さんは元々運動は出来る方だけど、運動部という訳ではなかったしどうなんだろう。

 深雪は前の方に付いてくのは厳しいと感じたのか、ペースを抑えて叢雲や速吸さん、加賀さんや瑞鶴さん達の集団に合流している。それでも私達の学校の陸上部の人達より速い程度ではあるので持つかどうかは心配だけど。

 心配と言えば夕雲さんも三番目の集団に居て、ちょっと無理してるように見える。あんまり運動得意そうには見えないもんなぁ。

 那智さんや隼鷹さん、川内さん等不調組は後ろの方でゆっくり走っている。なお最後尾は当然のように初雪だ。真面目にやれと言いたい所だけど、たぶんちゃんと走ってはいるのでもしかしたらあれで全力なのかもしれない。

 

 滅茶苦茶やってる先頭二人以外はそもそも走った経験のある人間が少なく、レースが動いたのは残り二周に入ってからだった。途中からずるずると落ちて行った夕雲さんは後方集団に消えていき、代わりに物凄い脚で上がって来たのが川内さんだ。走ってるうちに眠気が消えたんだろうか。やはり辛くなったらしい深雪を追い抜き、金剛さんに迫っていく。負けじと金剛さんもペースを上げ、巻き込まれる形で天龍さんの足も回転数を増した。その三人を見ても変わらないのが長良さんだ。変わらない速度でタイムを刻んでいく。

 その後ろでは後方集団で足を溜めていた山城さんも前に迫り、二人で争っていた加賀さんと瑞鶴さんを追い抜いて加速して行く。イムヤさんもスタミナを残していたらしく、使い切らんとエンジンをかけ、逆にイクさんはこれ以上は無理だという表情をしていた。なんか走り辛そうだったしなぁ、揺れてて。

 前のペースが上がったのを受け、曙も前に出ようと叢雲と並ぶとその瞬間、叢雲の方が負けじとさらに前に出た。それにむっとしたのか何なのか、どうにか抜いてやろうとさらに曙が踏み出せば、叢雲はさらに速度を上げて行ってしまった。元々運動してたかどうかが明暗を分けてる気がする。

 秋雲先生や秋津洲さんはかなり後ろの方に居るにも関わらず辛そうで、長良さん達から余裕の周回遅れを喰らって元インドア派の悲哀を感じさせた。初雪よりは速いんだけども。

 

 ラスト半周、まぁこの時点で島風と長門さんはとうにゴールしてたのでどう足掻いても三着争いなのだが、先頭を行くのは天龍さん。それを川内さんが猛追し、金剛さんも必死に追いかける。その後ろから今まで速度を保っていた長良さんがやって来た。

 長良さんはまだまだ体力が残っていたようで、速度の上がらなくなっていた金剛さんを躱し、川内さんを追い越し、ライン手前で天龍さんを差し切って三着でゴールイン。四着五着は天龍さんと川内さんがほぼ同着、六着は後方から突っ込んできた叢雲で、金剛さんは惜しくも七着だった。山城さんイムヤさんが続き八着九着で、地味に上がって来ていた龍驤さんが十着である。

 その龍驤さんの隣で初雪が終わった風の雰囲気を出して減速してたけど、お前はあと三周残ってるからな。

 

 最終的に全員完走してたけど、島風と長門さん以外は全員疲れ切っていたのでこの二人以外はまだ改二にはなれそうにない。天龍さんとかは少し影響出始めてそうな感じするけどどうなんだろう。そもそもどれくらいから行けるもんなのかよく分からないし、安易に勧められるもんでもないし、提督たちはどうするつもりなんだろうか。

 ちなみに今回私は走っていない。だって作戦には参加確定しててもう改二にもなってるから必要無かったんだもの。ペース滅茶苦茶になっちゃうから仕方ないね。作戦ではあの高速輸送艦吹雪を使うらしいけど、いったい何をさせられるのだろう。

 

 

 

 

 

 走り終わって昼食摂って、みんな回復したから午後は出ようと思ったら、なんか大きめの部隊がやって来たと淡路島の方から連絡があった。

 方向的にも位置的にも鎮守府から出ると素早く駆けつけられる侵攻ルートだったので、みんなでそれらの対応をこなす。まぁ第四艦隊はいつも通りの別動隊だったんだけども。

 一応改二で、かつ初めてなので猫吊るしも一緒に出たんだけれど、なんというか、普通に使う分には今までと特に変わりがない。弾はいっぱい積んでるし、魚雷も持ってくるようにしたから硬い相手にも対応出来る。対空も充実のラインナップになった。でもさ、使う相手居ないんだよね……

 根本的に連装砲でも下級は一撃。鬼や姫、レ級なんかも二発で倒せるから結局魚雷さん使わないし、対空砲火もなんとかなってたわけで。まぁ複数の相手が同時に逃げようとしても取り逃がさなくはなったと思う。ちなみに大型レーダーとソナーは鎮守府に予備が無かったので未搭載である。今までと同じのだから狭くはなってないけど範囲が広がってもいないのだ。

 やっぱり継戦能力を部隊単位で上げられるのが強みなのかなぁ、なんか私が思ってたより搭載量が増えてたみたいで、連装砲ちゃんにバカスカ撃たせても島風に補給してやれば何とかなるようになったし。補給艦の艦娘もあんまり数が居ないみたいだから役には立つと思うんだけど、個人的には範囲攻撃が欲しかったんだよね。私の武装は適性値がおかしいのかチート能力さんの影響なのか挙動が変なのが多いんだけど、広範囲高威力っていうのは無いからさ。まだ使った事ないけど対地装備も魚雷さんと同じ挙動しそうなんだよなぁ……超高威力で範囲普通っていうあれと。地面えぐっちゃうんじゃね?

 なお食料を積んでる時は高速移動しないでくれと猫吊るしから釘を刺された。燃料や弾薬はちゃんと固定すればどうにかなるけど、食べ物はよっぽど形がしっかりしてるの以外駄目なんだとか。超高速で出来立てをお届けは出来ないらしい。

 

 

 

 

 

 深海棲艦を追っ払って帰り道、鎮守府も見えてきた。そこでちょっと、猫吊るしに聞きたい事があったので、島風にはもう少し艤装を慣らすからと先に帰ってもらう事にした。

「おっ? じゃあ一緒に走る?」

「いいえソナーとかの調整だから走りません」

 ちぇー、とぶーたれつつ島風は素直に帰って行った。お前午前中走ったろうに。長門さんぶっちぎってたろうに。

 新しくなった艤装の事は出発前にちょっと改装したとだけ伝えたらそっかーと納得してもらえて、連装砲ちゃん達の補給も便利だねーで済んだので特に疑われずには済んでいる。でも、もうちょっと艤装に興味持った方がいいと思うの。

 

 

 

「んー、機器の調子は前と変わらず、特に問題なさそうだけどな。なんか違和感あった?」

「ソナーの調整だと言ったな。あれは嘘だ」

 すまねぇ、島風に……というか他の人に聞かせていい話じゃなさそうだったから帰って貰っただけなんだ。本当に済まない。猫吊るしはなんだよもーとぼやいたものの、聞きたい事があると言ったら頭の上から肩へぴょんと飛び降り、とてとて腕を伝って私の手の平まで歩いて渡ると、こっちを向いて話をする態勢になった。

「改二とかそっちに関係する話か?」

「うん、艤装の事じゃないけどそっちも絡むかな」

 まぁ正直、猫吊るしが知っているのかも微妙な話なんだけどね。でも、他に聞ける人居ないからなぁ。

 

 私は昨日、深海吹雪さんみたいな見た目をした吹雪さんの一側面に会って来た。でもあの吹雪さん、自分ではっきり言っていたけど、深海棲艦ではないらしいのだ。そしてそれは伝わる感情を読み解く限りでは嘘ではなかった。これって、私から見るとちょっと変なんだ。

 私は今まで前世の記憶から、深海棲艦は艦娘と表裏一体の存在なんじゃないかと漠然と思っていた。深海棲艦も艦娘の側面の一つというか、裏の顔とか悪落ち後とかそんな感じの物だと考えていたのだ。ゲームで色々露骨だし、アニメに至ってはもうそのまんまそういう設定になっていたから、そう思い込んでいた。でもなんか、よくよく考えたら誰もこの世界じゃそんな事言ってないんだよね。

 あの場面、もし吹雪さんに深海棲艦の要素があるなら、深海棲艦だけど敵じゃない、という答えでないとおかしいはずなのだ。そうでなきゃ嘘になっちゃう。だからあれは本当に見た目だけ……たぶん、駆逐艦や軍隊、戦争、死への恐怖や畏怖が強く出た形態だったのだろうと思われる。

 まぁ、まだ深海棲艦まで行ってないからセーフ的な意味合いだった可能性もあるんだけど、だからこそ、ちゃんと確認しておきたかったのだ。

「猫吊るしは、深海棲艦って何なのか知ってる?」

 あいつらがどこから来たのか今更だけど気になっちゃったんだよ。訓練所でも鎮守府に着任してからも、その辺りの事は誰も何も言わなかった。知らなかったのか隠してるのか、たぶん前者だろうとは思うのだけど。

「あー、それ聞いちゃう?」

 問われた猫吊るしはあんまり答えたくなさそうだけど、とりあえず知ってる事は知っている様子だった。教えてくれないという訳ではないようで、頭を軽く左右に振りつつどう表現したものかと言葉を選んでいる。

「言いたくないなら無理には聞かないけど」

「ん~~いや、教えとくわ。吹雪なら大丈夫そうだし」

 大丈夫じゃない可能性があるのか……

 

「まずそうだな、妖精さんが何なのかからもう一度説明し直すか」

 そういえばそれもよく知らないな。私の知識だと、妖精さんは人類の無意識とかの集合体から産まれて来て人間を助けてくれる存在という事になっている。猫吊るしも集合体から出て来たって言ってたし。

「妖精さんっていうのはな、人間の『助けたいのです!』って感情や記憶が過去にあった魂の残滓を核にして出来た人型なんだ」

 集合無意識内でいろんな断片を寄せ集めて、現行人類のために過去も含めた人間の総意で作り出した存在なのだという。

「それはつまり……あいつ等もしかして、中身はご先祖様なの……?」

「まあ、そうなるな」

 と言っても、あくまで魂の残りカスみたいなものを核としていて、記憶や人格を保っていたりはしないらしい。例外的なのが猫吊るしで、転生者の魂に妖精さんとしての肉付けをされているため前世の事は完璧に覚えているのだそうだ。名前だけは何処かに置いてきてしまったらしいが。

「その割にはあいつら結構遊んでない?」

 人間味があると言えばそうなのかもしれないけど、戦場へ出た時はともかく鎮守府だとおさぼりしてたり寝てたり食べてたりする所をよく見る。かわいいので許せる。

「それは理性がないからだな。完全な状態の魂を持ってるわけじゃない上、体も半霊体で衝動にブレーキを掛ける機能が付いてないんだ。だから勢いに任せて変な事やり出すんだよ」

 それでも半分以上は働くし、戦場では完璧に仕事するんだから善性の生物である事は明らかだろう。いや生き物なのか微妙な所らしいけど。

「それで何しに妖精さんがこの世界に来てるかっていうと、まぁ深海棲艦の駆除な訳だ。つっても、妖精さん単体じゃ無理な訳なんだが」

「それちょっと疑問なんだけど、妖精さんじゃなくて艦娘を直接出したりは出来なかったの?」

 まぁ無理だから今の状態なんだろうとは思うけど、少なくとも初春さんは初春の体を借りて現世に干渉出来る様子だった。存在感は凄かったし、こちらへ完全に呼び出せればかなりの戦力になるんじゃないだろうか。

「んー、無理だと思う。そもそも存在の方向性が違うんだよな。あの集合体の艦娘はあくまでも、過去の軍艦の情報の集合体であって、人類の守護のために生み出された物って訳じゃないから」

 折り紙で作った手裏剣と絵画くらい別物、と猫吊るしは例えた。まるで意味が分からんがとりあえず振り回せば後者の方が強そうな気がしてならない。

「本人たちは産まれのせいか守護る気はかなりあるから、力は貸してくれるんだけどな」

「有難いよねぇ」

 初春さんは初春の事を気に掛けてる風だったし、吹雪さんも改二になるために魂を分けてくれた。協力的ではあるのだ、出ては来れないだけで。でだ。今の話から分かった事が一つある。

「じゃあやっぱり、深海棲艦は艦娘とは関係ない?」

「うん、少なくとも倒したら艦娘になったり沈没したら深海棲艦になるとか、そんな関係じゃない」

 やっぱりこの世界において、深海棲艦はそもそも艦娘と対になる存在ではないようだ。

「……っていうかな、うん……たぶん、深海棲艦って名付けちゃったのが誤解を生んでるんだよな」

「え、それじゃ猫吊るしのせいじゃん」

 そうなんだよなーと猫吊るしは脱力した。基本的にこの世界の艦これ要素回りは猫吊るしの発言で名前が確定して行ったらしいのだけど……お前、名付け適当どころか失敗してたの?

「実はあいつら、艦娘の情報を参照してるから深海棲艦の姿をしてるだけで、別物なんだよ。今は姿形に引っ張られて艦の性質を持ってるけど本質はあんなんじゃないんだ」

「ちょっと何言ってるか分かんないっすね」

 実際、名称だけの話なので転生者以外は別に困らないのだろうけど。何と戦わされてるんですかねぇ私達は。

 

「深海棲艦が何者かって話なんだが、その理解のためにもまず、あいつらが何のために人間を攻撃しているのかを先に説明させてもらうぞ」

「侵略じゃないの? 陸地を沈めに来てるって言ってたよね」

「言ったけど、それは目的じゃない。手段だ」

 陸地沈めて海を広げるのは彼女等にとって効率的なやり方ではあっても、それ自体はどうでもいい事であるらしい。変色海域ですら、目的を達せられるのなら展開は必須ではないという。

「そのどうでもいい事のために私ら苦しめられてるのか……」

「まぁ、それが目的だからな」

 どれだよ。

「ちょっと分かり辛かったからちゃんと言って貰っていい?」

 そう伝えてみたら、猫吊るしはこっちの目をしっかり見て、はっきりとした声で断言した。

「あいつらの目的は、『人間を苦しめる事』です」

 ええ……なにそれは。目的なのかそれは。人間嫌いなの? 人間大っ嫌いなの? それともドSさんなの? 苦しんでる人間ちゃん可愛いよぉとか思ってるの? つーか漠然としすぎだろ目的。確かに今日本国民結構苦しんでる人多いけどさぁ。

「深海棲艦の正体が何かって言うとだな、あいつ等は人間の悪意や害意が人類の魂や集合無意識の許容量を超えて、溢れ出して実体化したものなんだ」

 成程、なんかどっかで聞いたような設定だな。実際やられると厄介とかそういうレベルじゃないけど。人類が滅びへ向かうのは人類の意思その物なのだとか言ってきそう。

「この世界の人類は、集合無意識に過去の人らの想いが積み重なってくように、種として続くだけでどんどん霊的な物が蓄積されてくんだ。問題なのはそれが正の方向の物ばっかじゃないって事でな」

 守りたい、助けたい、救いたい、なんて想いが積み重なって妖精さんを生み出したように、その裏では苦しめたい、貶めたい、殺したい、嬲りたい、悲しませたい、泣かせたい、嘲りたい、なんて昏い感情も溜め込まれて行ったらしい。

 そして去年、それらは許容量の限界を超えて溢れ出し、実体を持ってその欲望を満たし始めたのだという。知性があるのが最高に性質が悪い。

「あいつらは人間が存在し続けて、負の感情の蓄積速度が自浄速度を超えてたらいつかは湧いてくるもんだったんだ。まぁ、例えるならあれだ。生活習慣病だな」

 おい例え。例えのせいで一気に人類が不摂生だっただけみたいになったんだが。いや、そういう事なのか? 予防もできない事はないものだったりしたんだろうか。

「まぁそういう奴らなんでな、あいつらの目的は自分達の元になった欲求を叶え続ける事なんだ。つまり、あいつらにはそもそも、人間を滅ぼそうなんて気はさらさらない。出来るだけ長く、そして強く苦しめ続けるのが目的なんだ」

 全滅を狙うような奴は居たとしてもごく少数だろうと猫吊るしは言う。そりゃまぁ、ガチで人間滅びて欲しいとか思ってる人は多くないだろうけども。

「まぁ、効率的に苦しめるために滅茶苦茶殺すんだけどな。あいつらも理性無いからやり過ぎるみたいだし」

「ああ、淡路島で言ってたのはそういう事か」

 猫吊るしはあの時、深海棲艦は宮里艦隊への嫌がらせで一般人を襲っていたのかもしれないと言っていた。あの時は妄言かと思ったんだけど、それなら分からんでもない。確かにあれで五十嵐さん達が亡くなってたら私達は絶対悲しんでただろうからね。

「やり過ぎるってもしや絶滅レベルまで行ったりする?」

「それはたぶん無理。あいつらは存在の維持にある程度人間が必要だから。妖精さんもだけど、根本的に存在の保証が物質界じゃなくて集合無意識に依存してるんだ。だからそっちが崩壊するレベルまで人間が減ったら勝手に消滅するな」

 最大出現数が人類の数に比例していて、生きた人間が減れば減るほど深海棲艦達も数を減らして行くらしい。何そのなんの救いにもならない勝利方法。

「実は一番楽にあいつらに勝つ方法って一般人大虐殺して数減らす事なんだよな……」

「あー……なんかこう、公表したら事件起きちゃいそうだそれは」

 口実を与えたらアカンわ。

 

「ところでつまり、あいつらって半分くらいは人間って事?」

「人間から湧き出たモノであって人間そのものかって言われるとなぁ。ただ妖精さんと一緒で魂魄の残骸を核にしてるみたいだから、妖精さんを人間と認めるならそうなるかもな」

 成程、妖精さんとは構造が似てるのか、正か負かの違いはあるけど。っつーか、そう考えたらこの世界で深海棲艦と対になってるのって妖精さんなのでは……

「あれ、猫吊るしって転生者の魂を正の感情でコーティングして妖精さんになったんだよね?」

「概ねそんな感じだな」

 それじゃあもしやと思うのだけど、逆も有り得るって事じゃあないだろうか。

「……負の方で体を作ったら深海棲艦になってたのかな」

「それな。もしかしたら転生のあの時、春雨の方を選んでたら俺は今頃駆逐棲姫だったんじゃないかなってちょっと思うわ」

 駆逐艦春雨とよく似た深海棲艦、駆逐棲姫。もしそうなっていたら今頃まだ艤装は建造できてなかったかもしれない。そう考えたら世界的にも重要な選択だったのかも分からんね。

「っていうかさ、もしかして深海棲艦にも転生者居る?」

「その可能性があるからあんまり言いたくなかったんだよ……」

 私は基本的に見敵必殺である。そのため、相手がチート能力で回避するとか防ぐとかをしない限り、転生者かどうかなんて判別する前に殺してしまうだろう……というか、もう殺してる可能性があるなこれ。でもなぁ。

「いや別に、気にしないけどね」

「そう? 本当に?」

 猫吊るしは気づかわし気にこちらを見上げて来る。でも心配は要らないのだ。

「確かめなければ確率が残るだけで中身が何だったかなんて分かんないから」

「酷い暴論を見た」

 だってさぁ、実際居るかも分からない他人を慮るくらいならねぇ。確実に守れる仲間と日本国民優先しますよそりゃ。それに私のチート能力さんは私が多少精神的に動揺したところで射撃にブレを出したりはしないのだ。なので躊躇って撃ち損ねる事とかも有り得ない。そもそも最前線に居る私の前に出て来るって普通に考えたらそいつは深海棲艦側に加担してるような奴だろう。チート能力使われる前に倒せるなら万々歳まであるぞ。

「んな事言って、死後に発動するスタンドとかだったらどうすんだよ」

「海の上だから勝手に波追いかけてくでしょ」

 ノトーリアスBIGは洒落にならんけど流石にそんな奴居ないだろう。居ないよね?

 

「でさ、猫吊るし。深海棲艦が人間から湧き出た物だって言うけど、倒し続ければ枯渇して居なくなったりするの?」

 それを聞くと、猫吊るしは神妙な顔になってゆっくり首を横に振った。やっぱ無理か。

「例えるなら生活習慣病だって言ったろ? 根本的な所が変わらなきゃもう永遠に湧き出してくるよ。人間の健康状態だと思ってくれ、一度発症したら二度と完治はしない、そういう病気だ」

 対症療法で症状を抑える事は出来ても、根治は不可能なんだそうだ。深海棲艦は症状であって病巣ではないらしい。体質改善しなきゃいけないんだろうけど、そもそも負の感情を溜まり辛くするってどうしたらいいのかさっぱり分からん。一応、新しく出現する速度よりも早く駆除し続ければ数は減らせるらしいから、戦い続ければどうにかならないでもないらしいが。

「改二の重さが増したなぁ……」

 改二になった艦娘は歳を取らなくなる。それどころか、外見年齢はその艤装を扱うのに最適な年齢にまで若返ったりもするらしい。寿命で死なないのって色々大変そうだと漠然と思ってはいたが、こうなるともう、一度改二になったら死ぬまで艦娘やらなきゃならんのではないだろうか。

「分離装置がちゃんと完成してくれるといいけど」

 出来なかったら引退すら出来なさそうだし。完成したとしてもさせて貰えるのかも微妙な所だ。

「一応図面は投げたから、あとは艤研の連中次第だな。向こうの妖精さん達は研究職としては優秀だし、人間の研究員もなんか色々凄かったから大丈夫だ」

 その表現だと駄目そうなんだが。倫理観とかが。

 

「そういえば本来は深海棲艦の形じゃないって言ってたけど、本当はどういう姿なの?」

「ああいや、本来は特に決まった形なんて無いんだわ。悪意の塊だからな、不定形だ。ただそれだとこっちに出て来ると完全に知性も持てなくて不便だから、今の人類に合わせた姿と苦しめる方法を持って物質化したって訳」

 今回の場合それが世界大戦の恐怖や海への畏れであり、艦娘の負の側面と似ているのはそれが元ネタだから、みたいな塩梅らしい。場合によっては他の姿になる可能性もあっただろうと言う。でもたぶん、その辺りはあの魔法使いの子が調整して今の深海棲艦に落ち着けたんじゃないだろうか。でなきゃ艦これにならんし。その見解は私と猫吊るしで一致した。

「現世に出たのが今だったから、大戦中の軍艦に機能を盛った感じの性能になってる訳だ。つまり時代が違えばもっと違う姿だったんだろうな……まぁ、出現時期は固定されてたんだろうなって気はするが」

「へぇ、世界大戦前ならどんなんだったんだろ。騎馬隊とか?」

「妖怪とかモンスターになるんじゃないか? 迷信が活発だったろうし……いや、この世界じゃオカルトは実在してるから迷信どころか真実の可能性もあるけど」

 平安時代とかだったら陰陽師vs百鬼夜行になったんだろうか。妖精さんも時代に合わせて姿や能力を変えると言うが、どうなっていたか全く予想が付かない。もしかしたら式神扱いだったかもね。

「でも数万年後くらいの未来の艦娘と深海棲艦の姿は予想付くわ」

「ああ、私もそれは付くわ」

 数万年後まで行ったら、人間はきっと地球を飛び出して星々を旅しているだろう。そして戦争もするだろう。そうなったら、おそらくそっちの船を基にした姿をしているはずだ。だからきっと。

「宇宙艦娘vs宇宙深海棲艦だね……!」

「凄いB級臭がする……!!」

 そんな阿呆な事を言い合ってみたけど、下手したらその時代でも、私ってまだ生きてるんだよなぁ。その場合装備のアップデートはして貰えるんだろうか。殴ればいいのはたぶん変わんないけどちょっと気になった。スターデストロイヤーとかに改装できるのかな?

 

 

 




そういう設定なので実は転生者が居なくても詰んではいないんですよね。詰んでは。


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淡路島泊地合同交流会

「よ、よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします」

 お互いに頭を下げ合う。ただの挨拶なのに微妙に緊張してしまう。相手の方はもっとしているみたいだったけども。

 目の前の娘は中学生くらいで、私とおそらく同い年くらいに見える。なのでお互い敬語で話す必要は無い気がするのだけど、まぁ初対面だから仕方がないだろう。ガチガチになりながら硬い動作で顔を上げると、そのままその子は固まってしまった。そして私も固まってしまう。こっからどーすりゃええねん。

 私と全く同じ髪の長さをして、おそらくは整っている、しかし派手さは見られない顔立ちの艦娘。私がこの間まで身に着けていたのと全く同じ制服を纏い、私が使っていたのと全く同じ艤装を背負っている。

 特型駆逐艦一番艦の適性者、つまりは、私と同じく吹雪を扱う後輩。第二期の適性検査を通過してどこかの鎮守府に配属され、優秀だった故に今回の四国攻略戦に派遣されてきた有望株の一人。それが目の前の少女だ。

 完全な同型の子って初めてだからどう接していいのか分からないんだけど誰か教えてくれない?

 

 

 

 

 

 今、私達は淡路島の港に停泊中だ。ここから大きく三つの隊に分かれて四国への航路を確保して、内部の掃討なんかもやれるだけやる事になっている。生き残った四国の人達への支援や避難なんかは自衛隊の人達のお仕事になるから、出来るだけ討ち漏らさないように陸地の連中を排除したいところ。あんまり殺しには来ないらしいけど、見つかったら普通に撃たれちゃうからね。

 

 この日、宮里艦隊は戦闘部隊全員で出撃すると、敵部隊との戦いで最終調整をするという若干どころでなく頭のおかしい事をしてから、一旦鎮守府に戻って宮里提督や明石さん達と合流し、その足で淡路島へと向かった。

 作戦に必要な物資のうち私の艤装に積み込める物は積み込んで貰い輸送艦の仕事も行ったが、どうやら艤装に艤装は入らないらしく、宮里提督の大和は船で輸送する事になった。今回、宮里提督も大和を起動する事になるらしいのだ。と言っても司令部の警備を薄くしてしまうために掛けておく保険であり、戦うのは本当に最終手段らしいが。

 鎮守府で試運転を行っていた宮里提督は大和がちゃんと起動した時、明らかに安堵の表情を浮かべていた。燃料の問題があるからとここ数か月まともに起動していなかったために、今もちゃんと適性値が基準値に届いているのか分からず、前と同じように動かせるのかどうか心配だったようだ。完全に妖精さんの住処と化してましたしねぇ。

 一応大砲も撃ってテストしているのを荷物の積み込みの間見学させて貰ったが、命中率とかは……うん、まぁ、久しぶりらしいから仕方ないね。なんか記憶と実際の感覚にズレがあるって長門さんに相談してたのは聞こえた。戦う事にならないといいけど。

 

 そんな訳で皆で雁首揃えて泊地に足を踏み入れたのだ。すると集まる視線&視線。どうやら他の鎮守府からの選抜メンバーはもうこの場に揃って待機していたらしい。そりゃ私達一戦してから来てるからそうなるわ。不躾な視線や遠慮がちな視線、いろんな態度の人が居たけれど、私や島風の姿を見てどこの誰が来たのか悟った人が多かったようだ。生放送のせいだろうけど覚えられてるなぁ、悪い事じゃないんだろうけども。

 本当にあんな大勢で来るんだとか、全員代表レベルらしいよとか囁き合う声も聞こえて来る。他の鎮守府は能力の高い艦娘を選抜しているらしいので確かに宮里艦隊は色々おかしい。でも他の鎮守府から出張してきた子も少なくはないようなんだけどなぁ。

 見える範囲に居るだけでも結構知ってる顔が居て、訓練所で一緒だった駆逐艦の面々も居るんだけれど、それ以前からの知り合いがやたらと多かった。その一人に向かって凄まじい勢いで大井さんが突っ込んで行く。言うまでも無く北上さんの所である。

 北上さんに絡みに行ったというか絡み付きに行った大井さんの嬌声が響く中、逆にこちらに向かって駆けて来た人が居た。その人物はお姉さまが好きすぎて生きるのが楽しいタイプの人なのだが、今日はそのお姉さまに一礼だけして島風に吶喊、仰け反った島風の肩を揺すりながらひええと泣き声を漏らす。島風は揺すられながらオウッオウッとメトロノームみたいなリズミカルな声を上げた。一時期は同じ鎮守府で働いていたから心配していたんだろう、というのは分かるんだが落ち着いてくれ比叡さん。

 

 比叡さんと島風が回想モードのようだったので、私は一言残して艤装を預けに技術畑の人達の下へ向かう事にした。話されてない内容に触れそうだったしね、勝手に聴くのは良くないだろう。

 ミーティングの始まる時間までは自由なため、宮里艦隊の皆も方々に散り友人達と久方ぶりに親交を深めていて、曙の所に漣が突撃して来たり、夕雲さんの周りには少数ながら夕雲型が集っていたりしていた。夕雲型は半数以上が選抜されなかったらしい、訓練所でもモチベの低い子が多かったみたいだからしょうがないか。

 夕雲さんは特殊な作戦にはメンバーとして選ばれなかった。そのせいでなのか、もう本当に心が落ち着かなくて仕方がなかったようで、選ばれた私達に旦那さんと娘さんの写真を見せて、もし見かけたらよろしくお願いしますと頭まで下げて回っていた。普通の四国行きのメンバーには入ってるんだけどねぇ。

 閑話休題、加賀さんは赤城さんの所へ向かい、天龍さんは知り合い――っていうかたぶん妹さんに後ろから話しかけられてビックリしているのが見えた。文月は訓練所で出来た友人達の下へ駆け、その可愛らしい声で鼓舞して回り、秋津洲さんは別の秋津洲さんとお互いの二式大艇ちゃんを紹介し合っている。何やってんのあの人たち。

 

 工廠……と言うには微妙な最低限の設備のそこへ向かう道すがら、私にはかなり多くの視線が注がれた。今回の作戦、当然ながら艦娘以外も相当数が参加して支援やらなんやらをしてくれているため、結構な人数がこの場で働いている訳なんだが……明らかに艦娘であろう人達からの熱視線が凄い。それ以外の人達もそれなりの頻度で知ってる顔だという表情をしているのだが、艤装を背負っている人達からの視線は痛い位だった。

 そりゃあ生放送とか例の百メートル走とか例の強制配信とか色々あったから知名度は上がってるだろうって自覚はあるけど、じろじろ見るくらいなら話し掛けてきてもいいんだよ。対応には苦慮する自信があるけど。

 なんて思っていたらすぐに工作艦の皆さんの所に着いてしまったので、艤装を降ろして中身の搬出やメンテナンス、それに装備の換装なんかをお願いする事にした。今回作戦のために普段使わない装備を他所から持って来てもらったので、今から着工して開始時間までに何とかしてもらわないといけないのだ。私の頭上からは猫吊るしもぴょんと飛び出し、手伝ってくるわーと言って輸送艦吹雪の中へと消えて行った。

 あっ、注目されてた理由これかぁ!

 

 重量も違和感も無いからって案の定猫吊るしの事を忘れていた私がちょっと忸怩たる想いを抱えていると、後ろの方からぱたぱたとこちらに走って来る音が聞こえて来た。足音の主は私に迫り、うわぁいと喜びの声を上げながら勢いをつけて飛び掛かってくる。

「ユキおねーちゃーん!!」

 聞き覚えのかなりある声、友人の家に遊びに行ったら結構な確率で出くわすその子は最初の頃は警戒して近づいて来なかったのだけど、一度慣れると無駄に人懐っこく、こちらが頑丈なのを良い事にぴょいぴょい飛び付いてくるようになった。今みたいに。

 受け止めてくれると確信しているのか、後先考えずに全身を宙に乗っけた全力の体当たりを仕掛けたその子の体を、仕方が無いので背で受け止めて背筋を使って跳ね上げる。打ち上げられて落ちて来た体をそのまま両手でキャッチして、頭上でくるくる回してから足からゆっくり地面に降ろしてやった。割と普段通りの対応である。その子は目を回しながらも楽しそうに笑っていた。周囲から微笑まし気な視線が集まる。その中には知り合いの物もあった。なんか恥ずかしい。

「お久しぶり、ですって」

「うん、久しぶりだねローザ。でも急に飛び掛かってくるのは止めようね」

 現れたのは提提督の妹、提ローザである。スク水のようなものの上に丈のやたらと短いセーラー服のようなものを合わせた制服を着て、細い躰の日に焼けた肌にプラチナブロンドの髪がよく映えている。見慣れた弾ける笑顔だが、こうして見るとあからさまにろーちゃんなのだ。なんで気付かねぇかな私。

 はーいと素直な返事をしてくれたが、毎度返事はいいだけなのでたぶんまたボディプレスしてくるだろうという確信がある。まぁでも、元気そうなのでそこは安心した。まさか艦娘やってるとは思っていなかったので結構心配していたのだ。何しろ私はこの子の連絡先を知らなかったし、提提督すら潜水艦をやってると把握していなかったのだから。

「ユキおねえちゃんの活躍、ろーちゃんいっぱい見ましたって! はい! ろーちゃんも、負けないように頑張ってます!」

 ふんすふんすと気合入ってますって感じに意気込んで見せるローザ、改めろーちゃん。一人称変わってるじゃん……影響強くない? 改二になれたりしないだろうな……っていうか、ろーちゃんって改二どうなるんだろう、原作じゃそもそもろーちゃん形態が改二の位置付けだったと思うんだけど。

 ローザは招集されてからこれまで、艦娘の中にそこそこ居るはずの知り合いと全く関われずに配属先で頑張っていたらしい。送られた先の鎮守府はあまりやる気は無いけど実力はそこそこある様な子が多かったようで、出撃頻度の割にはのんびりしていたと言う。そんな中でやる気も具えたローザは成績ではぶっちぎりでトップだったそうで、当然のように今回の作戦にも推挙され参加が決まったらしい。そういえばろーちゃんが姫級爆殺してるとか聞いた覚えがあるわ。

 今回知り合いとみんなで同じ作戦に参加出来るのが嬉しいらしく、かなりはしゃいだ様子で普段以上に笑顔が爛漫と輝いていた。別に同じ鎮守府の仲間と仲が悪かったという訳ではないらしいけど、元々の知り合いは別腹なのだろう。でもそれならちゃんと艦娘になりますって言っといて欲しかったなぁ……

「ところでユキおねえちゃんはいつお嫁さんに来ますかって」

「行かないからね?」

 突然だが、ローザは割とヤベー奴である。何がヤバいかというと、この娘、積極的に兄のハーレムを成立させようとしてくるのだ。いや策略かましてくるとかじゃなくてストレートに言ってくるだけだから可愛い物なんだけど、この特性が金剛さんとめっちゃ噛み合ってしまう。あの人はハーレム容認派というか、男女問わず好きな人は好きみたいな感じなのでみんなで幸せになろうぜとか平気で言い出す人である。それとローザを組み合わせると無邪気さと陽の者のオーラが合わさって収拾が付かなくなるのだ。本人は遊んでくれるお姉ちゃんが増えると嬉しい程度の感覚で言ってるみたいなんだけどね。

 金剛さん筆頭にあのグループはみんな気に入られているようで、全員三度は言われているらしいと聞く。みんな大好きだからって兄を通して姉妹になりたがってるだけなんだとは思うんだが、迅鯨さんとか大淀さんとかが参戦した今の状況でこの子の言動は色々不味い気がするなぁ。なお島さんは一度も言われていないらしい。理由は分からんが。

 ローザは私の返答に残念そうな表情を見せると、今度は逆に私の近況について質問して来た。普通にやってただけだから張り切りガールに言ってあげられる事とか無いんだけど、とりあえず私の事よりもっと優先するべき事があると思うの。

「ローザ、提督には会って来たの?」

「おにいちゃんは迷子なので、ろーちゃんもいっぱい探してます!」

 提艦隊はかなり優秀な鎮守府で、うちみたいに全員参加までは行かないものの、今回かなりの大所帯で来る事になっている。そのため提提督も同行予定だと金剛さんが喜びの声を上げていた。時間的に既に淡路島に到着してるんじゃないかと思うのだけど、どうやらろーちゃんはまだ会えていないらしかった。一回きちんと家族会議するべきだと思うんだけど。

「迷子は提提督じゃなくてお前の方でち」

 話す私達に向かって工廠の入口の方からツッコミが入る。誰ぞと思いそちらを見ると、桃色の髪をしてろーちゃんと似た――少しセーラー服部分の袖や裾は長い――格好の成人と見られる女性がそこに立っていた。

「でっち!」

 知り合いらしく、弾んだ声を上げるとローザは笑顔で体当たりを仕掛けに行った。かなり懐いてる御様子。でっちと呼ばれた伊58らしき人はそれを軽く受け止めると、目線をローザに合わせてから厳しい顔で軽めに釘を刺した。

「知らない人も居るのにでっちは止めよう? ね?」

「ユキおねえちゃん、紹介します! 一緒に鎮守府でお仕事してるでっちですって!」

 言われた側はどこ吹く風である。呼ばれた側は頭が痛そうだったけど、ローザに紹介を任せていると先入観まみれで酷い事になりそうだと判断したのか、諦めて自己紹介を始めた。

「潜水艦の伊58でち。ろー……呂500とは同室の縁です。出来ればでっちじゃなくて、せめてゴーヤって呼んで欲しいでち。と言っても、私は戦闘部隊ではないのであまり顔を合わせる事はないかもしれないけど」

 見事に語尾にでちが付いている。戦闘部隊でないという事は招集された艦娘ではなく自衛隊員なのだろうから、長く艤装を使った結果だろう。多摩さんと同じタイプですな。

 こっちは吹雪をやってるユキお姉ちゃんですっ、とローザが私の紹介をしたが、ゴーヤさんは私の顔は知っている様子だった。やっぱり初対面の人に顔を知られてるのって気恥ずかしさがあるな。

「でっちは一緒に出撃はしませんけど、ろーちゃんのおししょー様ですって! いっぱい教えてもらってます!」

「それならでっち呼びは止めて差し上げなよ……」

 心底慕っている感じであるのに呼び方は指定させてくれないらしい。変なとこ頑固だなこの子は。

「というか、なんで吹雪はお姉ちゃんなのにゴーヤはでっちなんでち……?」

 解せぬというその呟きに、ローザは心底分からないという顔をした。

「でっちはでっちだよ……?」

 ローザの中ではでっちはお姉ちゃんではなくでっちらしい。どういう事だかはさっぱり分からん。

 

「もう今更だし、良くはないけど今はそれは置いとく事にするでち。それより、提提督なら港の方に居たよ。大人気みたいだったでち」

「ああ、そうだよローザ。ちゃんと提督に会って無事だって知らせて来な。心配してたよあいつ」

 提提督には私からローザの事を伝えたのだけれど、提督的には寝耳に水だったらしく大層驚いていた。間違いじゃないのか各所に確認も取って、その後、ローザ本人に問い質して何故か秘密にしていたと判明したらしいが、電話やメールだけのやりとりじゃなくてちゃんと対面で話し合った方が良いと思うのだ。

「そもそもなんで皆に黙ってたの?」

 いや、この子が慣れた相手に滅茶苦茶懐くだけで私とは深い仲でもないから私が知らないのはおかしくないんだけど、提督が知らなかったのは不味いだろう。血は繋がってないらしいけど兄妹なのに。

「うー…………それは、ねー?」

 ローザは物凄く言い淀んだ。まごまごして目線を逸らし、くねくね体を振って人差し指と人差し指を合わせてもじもじとしている。可愛いんだが、そんなに言い辛い事なんだろうか。ゴーヤさんはある程度事情に通じているのか、ため息を吐いて本人が白状するのを待っている。別に、私は、怒ったりしないので気楽にゲロってくれて大丈夫なのだけど。私は。

 小動物みたいな動きのローザを暫く見つめていると、不意に工廠の入り口側に影が差し、聞き覚えのある誰かの声が木霊した。

「それは私から説明しよーう!」

 電話口では生放送の後に何度か聞いたけど、生の声は一年ぶりくらいか、最後に会ったのが深海棲艦がやって来た後の生存確認だったっけな。その人は何故か、右足を曲げ左足を立てて腰を落とした由緒正しき雷巡のポーズでこっちを見ていた。

「げ、北斗おばさん」

「ハハッ、流石にその反応は失礼だと流石の北上様も思うんだよねー」

 さっきもスルーされたし、と呟きながら普通に立ち上がり、私の血縁の無い叔母は歩み寄って来た。いやしょうがないじゃないですか、大井さんがねんがんのきたかみさんに突撃して行ったの邪魔したら悪いと思ったんだよ。

 何故かこちらではなくローザの側に立つ、私にとっては付き合いの薄い親戚であるこの人こそは、一斉生放送である種の伝説を作り上げた全艦娘中最高峰の魚雷使い、球磨型三番艦の北上さんである。

「あとおばさんは普通に傷つくぞー。我女子高生ぞー」

 エロゲやったり生配信で炎上(物理)する人を女子高生扱いは無理でしょ。本人がアップした配信のアーカイブでもちょくちょく炎上案件あったし、なんで許されてるんだろうこの人。いやネット上じゃ未だに叩かれ続けてるけど、割と擁護も湧くんだよね。ちなみに北上擁護派はひっくるめて大井と呼ばれている。

「北斗おねえちゃん……!」

 ローザは心強そうに味方の登場に鼓舞されていた。まごついた態度から一変、告白する勇気が出たご様子である。でもごめん、それより気になる事があるんだけど。

「北上さんとローザって知り合いなの?」

「いとこですって!」

「血は繋がってないけどねー」

 ちょっと待って欲しい。初めて聞いたぞそれ。どういうことだキバヤシ、世間が狭すぎるぞ。

 

 詳しく聞けば、まず北上さんは私の祖父の再婚相手の連れ子なのだが、その北上さんの実父が亡くなった提くんの実母の兄であるらしいのだ。そしてローザは今の提家の奥さんの連れ子であるため、北上さんは提くんとは血が繋がっているがローザとは繋がっていないという事になるんだそうな。そんなわけで、兄の従姉なんだから自分の従姉でもあるだろうとそういう話らしい。

「え、じゃあ私とローザって親戚関係なの?」

 ついでに提督も。北上さんの時点で血縁じゃないし滅茶苦茶薄い縁ではあるけども。

「そうなの?」

「そうだよー」

 ローザも知らなかったらしい。北上さんに確認を取ると、花が咲いたような笑顔になった。

「ユキおねえちゃんがもうおねえちゃんでしたっ!」

「いや私の母の義姉妹の義従妹だからお姉ちゃん要素は無いのでは……」

 関係性はよく分からんが世代に直したらローザの方が一個上になるんじゃないだろうか。年下だけど。

 この色々家庭の事情を孕んでいそうな話に巻き込まれた無関係なゴーヤさんは眉を寄せ、手で抑えた口の中で適性値がどうとか親戚関係がどうとか呟いていたけど、関係あるのかなぁこれ。確かに私達三人とも青葉さんの挙げた目立って強い艦娘に入れられてたけれども。

 

「まぁその辺りは各々保護者に後で確認する事にしてですね、話の続きをしましょうか」

 結局なんでローザは秘密にしちゃったんですかね。ベネディクタさん――ローザと提督のお母さんは知ってたんだろうか。理由を話すよう促すと、ローザと北上さんは顔を見合わせ頷き合うと、それで通じ合ったのかこっちに向き直って口を開いた。

「あたしが誘って」

「ろーちゃんもうっかり乗っちゃいましたって……」

 うっかりじゃ仕方ないな。

 いや仕方なくねぇよ。北上さんが係わって来た時点でなんとなく察してたけど、悪質なドッキリ計画して失敗してただけかよ!

 北上さんは私に自分が艦娘になった事を言わなかった。訓練所で会えるだろうから驚かしてやろうという考えで内緒にしていたらしいのだが、どうやらこの迷惑系配信者、一人じゃなくてローザも巻き込んで計画を実行していたらしいのだ。

 聞けば対象は私と提督の二人、仕掛け人も北上さんとローザの二人。そういうサプライズだったらしいのだが、見事に企画倒れに終わった。いや確かにあそこまで他の艦種と係わり合いが薄くなるとは私も思ってなかったけど、成功すれば数週間程度の話だったのだろうけど、家族相手にやるのは不味いだろう常識的に考えて。私と北上さんでもギリギリだぞ。

「北上さん、ベネディクタさんに殴られる覚悟の準備をしておいた方が良いと思います」

「やっぱりそう思う?」

「おかーさんには北斗おねえちゃんの事、内緒にしておいて欲しいなってろーちゃん思います……駄目……?」

 お父さんは温厚な人だから手は出ないと思うんだけどね。ベネディクタさんはな……苛烈ではないんだけど、締める所は締める人だから。北上さんもヤベーと思っていたらしい。ローザは自分はともかく北上さんは叱られない方向で終わらせたいらしいけど、二人揃って素直に謝った方が良いと思います。

 

 

「手遅れよローザ」

 

 

 突然、工廠の奥の方から声がした。

 聞き覚えのある声に、三人でぎくりとして振り返ると、そこには灰色の軍帽を被り、呆れ返ったような目でこちらを見つめる美人さんが立っていた。

 腋や肩を首元近くまで露出した大胆な制服で、太ももも一部露わになっている。十代にも間違われるその若々しい外見からは想像も出来ないだろうが、二人の子供を持つ人妻で、金剛さんがその息子に積極的なアプローチをするのを咎めないくらいの度量も持っている。そしてこの場の誰一人、こんな所に居るとは想像もしていなかった人物である。

「おかーさん……!?」

 ローザは驚きのあまり北上さんや私とその人を交互に見つめ、北上さんも流石に狼狽していた。私はと言えば、提家の父は大丈夫だろうかと若干心配になっていた。一人残されるの辛くね?

 そんな我々をじっとりと見つめながら、現れた女性、提ベネディクタさんは淡々と距離を詰める。一歩踏み出すたびにローザは追いつめられた表情に変わって行った。

「私はねローザ、貴女が自分からトクマサに話したいというから任せたのよ。なのにそんな事を考えていただなんて……育て方を間違えたかしら」

 トクマサというのは提督の本名である。提 督正なのであだ名は提督。今もローザの事を案じてるんじゃないだろうか、基本善い奴だし。

 ローザは涙目になりつつ、助けを求めるようにゴーヤさんの方を見ると、でっちぃと呻いた。かなり懐いているようだから、ついつい頼ってしまうのだろう。まだ子供だし、本来の保護者に怒られそうになってるからしょうがない。

 だがそれが逆にローザの母の逆鱗に触れた!

「お世話になっている人を丁稚呼ばわりだなんて、ローザ、あなた随分と偉くなったのね」

 怒髪天を衝くとでも言えばいいのか、表情はむしろ柔らかめなのだが、完全にお怒り遊ばされているオーラが噴出して見える。ローザは恐怖でぴぃと鳴き、北上さんもこれはアカンと全部私の責任ですと言って九十度に腰を曲げた。

 

 

 

「一応擁護しておくと、北上はろー……呂500のためにやったんだと思うでち」

「それはまぁ、なんとなく分かります。悪い人ではないと思いますし。きっと、たぶん、おそらく、めいびー」

 今、工廠の片隅にある小部屋で北上さんとローザが正座で説教を受けている。家族内での話であるため私とゴーヤさんは自主的に工廠の外へと出て少しだけ話をした。

 ゴーヤさん曰く、本来は案外ナイーブなローザの緊張や不安をお遊びで誤魔化すって計画だったんだろうとの事である。実は目的も達してるから大失敗でもない……いや別の不安を生んだからただ失敗するより悪かったかもしれんけど。

 ゴーヤさんとローザは訓練所からの付き合いであるらしく、妙に懐かれてしまってからはほぼ潜水艦のエースの付き人扱いされているのだそうだ。ローザからしたら鎮守府でもサポートしてもらえてかなり心強かったんじゃないだろうか。心細そうにしてる時もあったらしいし。

「私は終わるのを待つけど、吹雪はどうするでち?」

「あー……提督、提くんが港の方に居たならそっちに知らせてきます。あいつも心配してたので」

 たぶん金剛さん辺りに見つかって動けなくなってるんじゃないだろうか。ローザの事を探してはいると思うけど、他の人達をスルー出来る性格でもないし。

 では失礼しますと言って、ゴーヤさんと北上さんを出待ちしてる大井さんに一礼して私は工廠を後にした。

 

 

 

 港の方まで戻ってみると、成程確かに提督は居た。何やら宮里提督と同じ格好をした見知らぬ女性と歓談していたようで、周囲に金剛さんや大淀さん、それ以外にも服装はともかく顔は知らない艦娘が何人か居て、それを後方から迅鯨さんがじっと見つめている。

 邪魔しちゃ悪いし金剛さんに伝言だけ頼もうかと近づいて行ったら、向こうの方が気付いて私に向かって手を振って来た。仕方がないのでそっちと話す事にしたが、迅鯨さんの眼が怖い。

「おっす提督。お前のハーレム拡大してない?」

「第一声でなに阿呆な事言ってるんだお前は。皆仕事仲間だよ、失礼だろ……」

 いや失礼なのお前の対応だと思う。

 

 提督に紹介されたが、話をしていた女性はローザの所属する鎮守府の提督さんだったらしい。やっぱりローザの事を探していたようで、所在を尋ねていたようだ。提督さん目線では行方不明になってたみたいだけど。

「ローザなら今、工廠の方でベネディクタさんに説教喰らってるよ」

 用件でもあったのでさらりと伝えてみたら、提督は言われた事が一瞬分からなかったのか、ちょっと考えてる顔になった。ちょっとした沈黙。飲み込んで、噛み砕き、理解するまで三秒ほど掛かった。

「なんでだよ!?」

 知らんがな。説明される前に説教モード入ったから私も事情は知らないのだ。いや、たぶんビスマルクの恰好だったと思うから、赤坂先生が言ってた一緒に働いてたビスマルクさんがベネディクタさんだったんだろうけど……これ、親子揃って提督に何にも言ってないのでは。何やってんだあの人たち。いやベネディクタさんの方はしなかったんじゃなくて、機密云々で出来なかっただけかもしれんが。

 

 

 

 提督は工廠の方へ走って行ったので流れで解散になった。金剛さんとかは付いて行ったけど。

 女性提督さんも自身の担当する艦娘に連れられて行ったので、ハーレムメンバーと思しき面々に挨拶だけして私も移動する事にした。と言っても行く当てがないので知り合いを適当に探すだけなのだけど。

 道中榛名さんと霧島さんがやっぱりローザを探していたので工廠の方へ誘導したり、山城さんが扶桑さんとお話していたので挨拶だけして通り過ぎたりしていたら、あまり人気のない船着き場まで来てしまった。

 一応海に敵とか居ないだろうなまぁ居ないかとぼんやりしながら海の方を眺めていたら、遠くの水上に人影が見え、それに目線を持って行かれた。色合い的に深海棲艦ではなく艦娘だろうと思われるが、一応警戒して接岸するまで見つめていたら、陸へ上がって来たその娘とバッチリ目が合ってしまった。よく見ると、何故か手に芋を持っている。

 私の顔を見たその子はあ、と短く声を上げるとなにやら慌て始め、ふかしてあるように見える芋を艤装に仕舞い、最終的に何故か敬礼の形を取ると滅茶苦茶硬い声で自己紹介を始めた。

「司波艦隊所属、駆逐艦の吹雪です! 第二期から艦娘として配属されました!」

「あ、宮里艦隊の吹雪です」

 そして冒頭へ戻る。

 

 

 

 なんでこの子こんなに緊張してるんだろうと考えつつ見つめ合う。長い沈黙。誰か助けてくれと私が思い始めた頃、相手も耐えかねたのか急に先手を取って来た。

「あの! お、お芋食べますか!?」

「あっ、戴きます」

 おそらくお互い混乱していたせいだと思うのだが、どうしてそんな流れになったのかは思い返してもまるで分らない。

 

「美味しい」

 ポロリと素直な感想がこぼれて出た。実際美味しいんだこのお芋、ただふかしただけのサツマイモなのに自然な甘みが体に満ちて幸せな気分になる。砂糖なんていらんかったんや、いや甘露煮とかも好きだけど。吹雪は私の言葉に喜んでくれて、お茶まで入れてもらってしまった。お芋共々艤装の中に入っていたらしい。

「その芋、うちの実家で作った物なんです。訓練所に持って入ったんですけど、食べきれなくて今日まで残っちゃいまして……」

 訓練所は三食しっかり食事が出る。量もそこそこあり回復のためにしっかり食べさせられるので、余計な物を収められるほど胃にスペースが無かったらしい。

「今回の作戦、初めての大きい作戦で緊張するといけないから、よく食べてたものを持ってきたんです。少しはリラックス出来るかなって」

 さっき海の上に居たのも落ち着くからなんだそうだ。ちゃんと許可を貰って、精神統一のために海風を浴びて来たらしい。たぶんうちの鎮守府の連中が大物過ぎるだけで、この吹雪さんくらいメンタルにブレがあってそれをどうにか平常に持って行こうとするのが普通なんだろうなぁ。夕雲さんは別の張りつめ方しちゃってるけど、隼鷹さんなんかは昨晩も普通に飲んでたし。

「貰っちゃって大丈夫だったの?」

 聞く限り、結構大事で貴重なものだ。味の良さからしてそこらの庭先で作ったような代物でなく、プロがしっかりと管理した高級品だろう。今の時代だと味の良さと値段は三乗で比例するからなぁ。心配になったのだけれど、それは大丈夫らしい。

「まだ結構ありますから!」

 そう言って取り出されたのはアルミホイルに包まれた芋&芋。ごろごろ出て来るそれはむしろ一人では食べきれなさそうな量がある。もう用意してる時点で緊張MAXで正常な判断出来てなかったのでは……?

 

 吹雪は私の顔を知っていたらしい。生放送は普通に見ていて、動画もちょっとだけ触れてみて、同学年なのに凄い人も居るものだと活躍を眺め、検査を受けに行った時も自分には関係のない遠い存在だと思っていた。なので吹雪の適性者と知らされた時は驚いて声も出せなかったし、両親はぶっ倒れたらしい。

 訓練所では吹雪であるというだけで期待……というか好奇心混じりの目で見られ、同室の子すらそんな感じだったので余り打ち解けられなかったという。教官達には先達の戦績なんかは気にしないようにと言われていたらしいけどあまり効果は見られず、そもそも吹雪さん自身多大に意識してしまっていたため他の子たちに文句も言い辛かったようだ。なんか申し訳ない。

 そんな吹雪の実際の実力がどれくらいだったかというと、概ね訓練所で二番手三番手くらいだったらしい。一期生だと私を除いて一番が夕立、二番が島風、三番が漣くらいだったのであいつらと同格と考えたらかなり優秀なのではないだろうか。ちなみに二期生で一番成績が良かったのは文月だったそうな。あの子実力もあったのか……一緒に戦ってないから知らなかった。

 というか、これで弱かったら吹雪は針のムシロだったのでは。むしろ吹雪もかなり優秀だから三期以降の吹雪の適性者のハードルが高すぎる気がせんでもない。

 そんな立場だったので、当然ながら今回の作戦にも確定参加だったらしい。配属先でちゃんと戦えてたというので心配もないだろう。一応戦いのコツとかのアドバイスも求められたのだけれど、私から言える事は特になかった。そもそも訓練所で上位の成績ならチート抜きの素の実力はたぶん私より上だよ……

 

 そのまま招集時間が来るまで吹雪とゆっくり話をしてしまった。ちょっとは緊張が解れてるといいんだけど。

 今着ている黒い制服の事なんかも聞かれたのだが、いずれ分かるさいずれなと誤魔化すしかなかった。発表予定がこの作戦終わってからなんだよね、私に先行実装されちゃったからテストケース扱いで実戦投入されました的なサムシングになるらしい。夕立なんかは発表即改装まで行けそうだけど実際どうなんだろう、眼の色とかおかしくなってたしもう取り込んでるまでありそうなのが怖い。

 集合体の中で吹雪さんに会えたのかも聞いてみたけれど、やっぱり冊子が置いてあるだけだったという。中の吹雪さんも行方不明だと言ってたしそりゃあそうか。ちなみに何も問題無く動かせているらしい。有用だなあの冊子。

 ところでこの吹雪、顔とかはそうでもないんだけど、雰囲気が集合無意識の行方不明の吹雪さんとちょっと似ている。適性者ってそういうもんなのかな、まだ強い影響を受けるほど艤装は使ってないと思うんだけど。っていうか、もしや今は影響されるとしたら深海吹雪似さんの方になるのか……?

 ちなみにこの子、お名前は雪村 伊吹さんというらしい。私の苗字と自分の名前が一緒という事で話題に上がった。入ってるなぁ、吹雪。被ってるケースは初めてなんだけどそういう場合もあるのね。

 

 

 

 そろそろ集合場所に向かおうなんて話になり、二人で海岸を発つと、赤いスカートを穿いた誰かが脇の縁石に座り込んで居た。女性なので艦娘だろうと思われるのだが、なんだか調子がよくなさそうに見える。大丈夫かと心配になり吹雪が声を掛けると、その人はゆっくりと顔を上げ、虚ろな表情で吹雪を見ると、何かに気付いたように鼻で大きく息を吸った。

「芋焼酎の匂い~」

 ちげぇよただのふかし芋だよ。突然過ぎて吹雪もえって顔してるじゃん。アル中か何かですかね、うちの隼鷹さんより酷そうなんですが。

 というか、この人あれか、格好的に赤坂先生の言ってたポーラの人か……確かに日本人離れした顔をしているし、海外艦を動かせそうな雰囲気を感じる。アルコールの臭いはしないから禁酒かなんかさせられたのだろうか。ポーラにそれは拷問のような気もするが、現実的に作戦前に飲まれたら困るもんなぁ。

 吹雪がこれの事ですかとお芋を見せたらこれはこれでと言って喜んで食べたのでお腹が空いていただけかもしれない。さては晩酌で済ませちゃうからってちゃんとご飯食べないタイプだな?

 

 

 

 

 

 やっぱりポーラだったポーラさんも連れて集合場所まで行き、それほど長くない楠木提督の演説を終え、作戦の参加者に関する重大な発表へ移った。まぁ、内容は適性値の上がった自衛隊員達の戦闘部隊への投入の件なので私達は知っていたし、噂を積極的に流させたらしいのでそれ程の衝撃は無かったように見える。多少のざわつきはあったけどね。

 うちの艦隊から三名、提艦隊から八名、それ以外からも一名だけ戦闘部隊基準に到達した自衛隊員が現れたとの事で、招集人数を考えたらそこそこ大きな戦力増強になっていると言って良いと思う。第一期第二期合わせて300人行かなかったらしいからなぁ。っつーかあれ、面子に大淀さんも入ってるじゃん、あの人作戦担当な上に戦闘部隊にまで入ったのか、頼もしいね。

 

 全体集合を終え一旦解散となり、総員戦闘準備を済ませて部隊ごとの集合場所に向かう事となった。私が参加するのは第一から第三まである部隊の中の第三部隊である。なんか一番最後の部隊になる事が多いのは気のせいだろうか。

 工廠で吹雪改二を受け取り、猫吊るしを頭に装着して新しい装備の使い方を習いつつ出発地点まで向かう。道中吹雪が居たので手を振ったら笑顔で振り返してくれたが、頭上の猫吊るしを見てやっぱり疑問符を浮かべていた。

 目的地に到着すると既に殆どの艦娘が揃っていた。工廠で改造してもらってたから仕方ないんだが、私は何故かこういう時にゆっくりした登場になる事が多いんだよなぁ、配属初日とかもそうだった気がする。

 ざっと見渡した感じでは宮里艦隊の面子が多く、他艦隊の人達はそれ程人数が居ない。というか、他の部隊に比べるとそもそも人数が少ない。大火力な戦艦や重巡洋艦は一人もおらず、空母も正規空母は居ない。そういう人たちは正面を征く第一部隊に行っているのだ。

 私が合流すると、島風がおっそーいと飛んできて、私の周りをぐるぐる回った。今回連装砲ちゃんを連れてきていないので寂しかったのかもしれない。長良さんが相手をしてくれていたようで、なんだか少しお疲れに見えた。

 水際では叢雲が槍のようなものの最終調整を行っていて、深雪がそれにちょっかいをかけているのが見える。すっと忍び寄り背中を押そうとして眼前に槍の先端を突き付けられていた。龍驤さんはそれを横目に多摩さんと自衛隊員の球磨さんと何か話をしていて、文月は他艦隊の桃とお互いを鼓舞し合っている。

 そんな中、私に向かって久しぶりーと話し掛けて来たのが筑波さん――もとい那珂さんだ。どうやら那珂さんはかなり優秀だったらしく、突然現れてエース級の活躍をし出したダークホースとしてPCの艦娘コミュで有名になっていたりする。適性値二千台はやっぱり凄い数値だったのだろう。

 こちらからもお久しぶりですと挨拶を返し、暫く雑談していると、会話が切れたタイミングで天龍さんもこちらにやって来て、後ろに控えていた女性を紹介してくれた。

 天龍さんとよく似た顔立ちで、泣きぼくろが整った容姿に映える美女。頭上には謎の飛行ユニットを浮かべ、艤装には薙刀のような武器が具えられている。天龍さんと同じくスタイルもかなり良く、湛えた笑みも相まって全体に怪しい色気を放っていた。龍田の適性者で、名前を龍田川 楓さんというそうだ。

 どちらかと言えばおっとりしてそうな雰囲気があるが、何故かチート能力さんはかなり強そうだという判断を下している。もしかしたら天龍さんと同じで近接タイプの人だったりするのかもしれない。

 そうして皆で時間が来るのを待っていると、後ろから遅くなりましたと慌てた声を出しながら、さっき別れた吹雪が駆けこんできた。その場の全員の注意を惹いてしまい、居心地悪そうに愛想笑いを浮かべている。他所の集合場所に居なかったかと質問したら、芋を知り合いに配布していたと答えてくれた。やっぱ多かったのか……

 

 吹雪が増えたと戦慄する島風に何故か並ばされ、似てるような似てないようなと見比べられていると、今回の旗艦となる軽巡洋艦が全員に集合を呼びかけて来た。そろそろ日も陰ろうかという時間、夕日を浴びたその人はきらきらした眩しい笑顔を見せていた。出発した時からなんかキラ付いていたのだが、どうやらテンションは落ちなかったらしい。むしろさらに上がってる気がしなくもない。

「全員集まってるね! 私が今回この部隊の隊長を努める、軽巡の川内です!」

 選出としてはまぁ、妥当なんだと思う。宮里艦隊の戦闘部隊で自衛隊員でもあり、淡路島の時もやってたし。でも今回の場合、ちょっとだけ不安点がある。

「出発前に今回の作戦をちょっとおさらいしておくよ! まず、今回の作戦で行われるのは……」

 川内さんは溜めた。言いたくて言いたくて仕方がなかったのだろう。分かるけど、川内さんだし仕方ないんだろうけど、ちょっとアガり過ぎてて心配になってしまう。

「夜戦だあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 両手を突き上げ、イヤッホォォォウと心底嬉しそうに叫ぶ川内さん。流石に龍驤さんが落ち着けと宥めに行った。

 でも今回の作戦、これは夜戦と言って良いのだろうか。いや間違いなく夜間に及ぶ作戦ではあるのだけど、第一部隊と第二部隊はともかく、この第三部隊に関しては夜戦なのかと言われると微妙な気がする。まぁどの道もうやるしかないし、川内さんのやる気は出るようなので余計な事は言わないけど。

 川内さんは龍田さんにあら~と笑われていたけれど、吹雪には元気な人ですねと好印象を与えたようだった。なお同型艦の那珂さんにはあれが一番艦かぁと微妙な表情をされている。普通の時は頼もしい人なんですよ? ほんとだよ?

 

 

 




吹雪は確認してませんが、裏で提督がパーフェクトコミュニケーションしたため北上とろーちゃんは許されました。


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やれる事をやった結果がこれだよ!!

 昏い海を十五人で進んでいく。出発時点では普通の海だった足元は既に変色海域へと変わり、夏だというのに底冷えするような寒さが靴を貫通して伝わってくる。それでいて熱さを緩和してくれるわけではないので不快指数が酷い事になっていた。

 日は沈み、明かりも点けられないため互いの位置はかなり分かり辛い……と言っても私はチート能力さんがどうにかしてくれる訳なんだが、他の仲間はそうも行かない。暗視ゴーグルの使える川内さんと手分けしてだれも逸れないように気を遣いながら進む事になる。その上で海中にも注意を払わなきゃならないため、普段よりかなり神経を削った。なおダイヤ製の模様。

 そういうわけで私は対潜と味方の動きに集中していたため、レーダーは島風や他の皆にお任せである。代わりに潜水艦は全部見つけるから許せ。海中には結構敵さんがいっぱい居て、私達は前進しつつ、敵に見つからないルートを行かなければならないので作戦的にとても大事な仕事なのだ。

 今も二キロほど向こうに居るが、こちらに気付いた様子は無いためそのまま放置して行く事になる。倒そうと思えば倒せるが、倒した相手を観測してる敵艦とか居たら困るからなぁ。

「あっ、敵機発見……まっすぐ本隊の方へ向かってると思われます。こっちには気付いてないみたいです」

「よし、じゃあスルーで」

 航空機も同じで、こちらにアクションをしていない奴らは無視してスニーキング優先なのだ。報告した島風は了解ですと返答すると、一言断ってから背中の多摩さんの位置を修正し、安定する姿勢を見つけると満足気に鳴いた。

「苦労かけてごめんにゃ……」

「到着したら乗せてもらいますし、気にしないでいいです!」

 今、島風の背には多摩さんが括り付けられている。工作艦の皆様の作ったオーダーメイド背負子で安定した輸送を可能にしているが、それなりの速度で走っているため結構ズレるらしい。まぁ、艤装も背負ってるから仕方ない。というか、艤装を背負った多摩さんをさらに背負う島風という絵面が酷い。島風は適性値が高いらしく筋力やスタミナも高いから問題無くこなせてはいるが、この状態じゃ戦闘はちょっと出来ないだろう。連装砲ちゃんも連れて来てないし。

 そんな二人の向こうで、今日初めて会った球磨さんも同じような済まなそうな表情で那珂さんに背負われていた。戦闘部隊じゃないお二人は普通に航行させると速度差が酷いから仕方ないね。那珂さんもそこそこ余裕はある様子で、芸能人は体力勝負ですからと笑っていた。ちなみに那珂さんは噂じゃとても優秀な艦娘と言われていて、今もおそらく身体能力がかなりバフされてるように見えるんだが、この人、いつかは引退して芸能界に戻れるんだろうか……?

 

 

 

 実際の所、距離的にはさほどでもなかったので無事に見つからずに私達は目標地点まで到達した……と思う。泳がされてる可能性はどうしたって否定出来ない。大丈夫だとは思うけど、覚悟は要るだろう。

 目の前に広がる砂浜には人気は無く、深海棲艦も近くには居ないように感じる。というのも、実は宮里艦隊が今日まで淡路島周辺で暴れまわった結果、敵が戦力を纏めだしてしまったからなのだ。それが観測出来たため、こちらも正面で敵を抑える第一部隊と回り込んで海岸付近の航空基地を攻撃する第二部隊、それと我々第三部隊に別れて戦う事になったのである。

 第二部隊には私が知る限りでは最大火力の金剛さんが居るので、敵基地は大炎上間違いなし。私も三式弾使いたい。いやあれ本来は対空装備だけどね。

 

 接岸し、私以外が陸に上がった。多摩さんと球磨さんが降ろされ、各々が周囲を見渡して辺りの地形を確認している。それを見ていると川内さんから合図があったので、最後にもう一度敵影が無いかチート能力さんに精査してもらって、頭上の猫吊るしに声を掛けた。

「発艦よーい」

「よーそろー」

 腰を落として艤装後部を海面に付け、後部ハッチを開く。私は知らなかったのだが、どうやら改二になった時にそういう機能が付いたらしいのだ。荷物の積み下ろしなんかにも使えるという艤装内部へと歪曲して繋がったそこから、ゆっくりと小さな船が姿を現した。

 一隻が海に出ると続いてもう一隻がゆっくり海に出て、私の横を迂回して陸の方へと向かって行く。その間に、どういう原理なのかはさっぱり分からないのだが、船は徐々に巨大化して行った。進むほどに大きく――というか、元の姿に戻って行くそれは、海岸に着く頃には私の身長を追い越す大きさになっていた。

「思ったよりデカいな……」

「そりゃ一応、特の方だからな」

 でなきゃ色々乗せられないしと猫吊るしは言うのだが、目の前の二隻が艤装に積み込まれていたという事実が微妙に納得いかない。いや、燃料とか資材とかいっぱい入るし今更なんだけども。どういう原理なんだろうか。

 ひょいと跳んで上に飛び乗り、ちょっと中を覗いてみるが、問題なさそうなので私もそのまま船の縁を伝って上陸した。船には乗組員などは乗っておらず、どうやら猫吊るしが操作しているらしい。通常は別途妖精さんが必要になるので普段使いの時は忘れないように気を付けないとだなぁ。

 海岸では皆初めて見るせいか、感心したように艦艇を取り囲んでいる。猫吊るしがちょっと下がってと声を掛けると離れて行き、それを確認すると猫吊るしは下ろすぞーとまた一声。すると船の前面部分が海岸の方へ倒れ込み、渡し板となって陸と船とを繋いだ。突然浮いたりすると困るのでちゃんと動かないか確認すると、多摩さんと球磨さんがその上を通ってそれぞれ別の船上へと上がって行った。

 

 今回私が積んで来たこれは特大発動艇と呼ばれるものである。主に兵隊や物資なんかの輸送に使われるもので、艦これにも装備として存在していた。吹雪改二は扱えなかったと思うが、この世界だと個人の適性が改二に現れるため、私には使用が可能なのだ。最初は自衛隊のあきつ丸さんが同行して持って来てくれるはずだったのだが、私で事足りるようになってしまったためその案は流れたと聞いている。

 球磨型の二人が大発の中へ消えてから数分も経たず、中からエンジン音が聞こえてきた。どちらの船からも何か重い物が動き出したような独特の振動を感じ、舟板は軋み、船は上下に少し揺れた。暫くすると、二台の装甲車がぬっと現れ、足元を確かめるようにゆっくりと慎重に板を下って来る。砂浜まで無事に降りると、そこから少し進んで坂を上がり、舗装された――ひびが入っていたが――道路に停車した。

 装甲車は私達が艤装を付けたまま乗るために上部の装甲が取り払われていて、やろうと思えば上半身を出して射撃する事も可能となっている。そのせいで防御性能はかなり下がっていると思われるが、それは仕方がないだろう。同様に武装も無くなっているのだが、これはそもそも相手に効果が無いので当然と言える。

 左右で対面になっている座席にはちゃんとクッションシートが敷かれていて、長時間の搭乗でも問題なさそうだ。川内さんの号令で二班に別れて乗り込むと、片側四輪ずつのタイヤを回転させて車両はすぐに発進した。

 

 

 

 四国北東部には四つの大きな航空基地が建設されている。淡路島から偵察機を飛ばした赤城さんの報告によりそれが判明した。

 位置は海のすぐ傍、艦娘の射程圏内にあるのが二つ。残りの二つは内陸部で、海から狙う事は不可能だろうと思われるくらいには海岸から距離があった。通常であれば近くの二か所を攻め落として、その後に航空機による破壊作戦でも執るのがいいのだろうが……幸いというかなんというか、この日本には陸上戦が出来る艦娘とかいう意味不明な連中が居たのである。

 その筆頭が私だよ!!

 つまり今回の作戦、私達をこっそり敵基地まで運んで行って反撃される前にぶっ潰そうぜという簡潔に言えばそういう話なんだ。

 まず第一部隊が正面から航空基地Aとその近辺に集まっていた敵大艦隊を相手取り、その隙に第二部隊が航空基地Bを強襲して破壊、しかる後に第一部隊と交戦中の敵艦隊を横から攻撃するというのが本隊の作戦になっている。私達はそこに援護が入らないよう、航空基地CとDに忍び寄ってささっと滅却するのがお仕事って訳なのだ。最初に作戦を聞いた時の私の感想が艦これって何だっけだったのは言うまでもない。

 そういう訳で地上戦になるから最悪の場合走って逃げたりしなきゃならない。だからこないだ競争させられて、体力のある人間が選定されたんですね。そして私以外も居るから足になる乗り物が必要になったという事で、改造した装甲車も用意されたのだ。

 最初私はわざわざ大発に積まないで艤装に直接入れたらいいんじゃないのかと思ったのだけど、そもそも単品だと縮小出来ないと言われてしまった。あれは艤装専用に開発された大発だから可能な事であるらしい。当然そういう訳なので海上、せめて水上でなければ出し入れは不可能となっていて、便利なんだかそうでもないんだか分からない仕上がりになっている。いや拠点とか無い場所に車持ち込めるってたぶん凄いんだけどね。

 運転手には宮里艦隊から多摩さん、九曽神艦隊から球磨さんが選ばれている。だから島風と那珂さんが頑張って二人を運んだのだ。どちらも戦闘部隊ではないが運転技術に関しては信頼していいらしい。多摩さんは船以外も色々動かせるらしく、重機の免許も持っていると言っていた。艦娘としては戦闘部隊に入れない適性値らしいけど、戦闘以外でかなりお世話になっている気がしてならない。

 ちなみに車は運転席も改装してあって、艤装を付けたままでもギリギリ運転できるようになっている。大分きついみたいだけど。

 

 

 

 先頭を球磨さん、後続に多摩さんが付けて道なりに進んで行く。最初の目標である航空基地Dまでは基本それで行けるらしい。月明りも無く電灯も点いてないのでほとんど道が見えない状態なのだが、球磨さんはこの辺りの出身だそうで、時々照らして確認する程度で何とかしていた。どうやら妖精さんにも手伝って貰っている様で、危ないよーと時々声が聞こえている。

 私は球磨さんの車に乗せて貰い、立って周囲を見回して警戒を行っている。海岸線から離れると元は田んぼか畑だったのだろうと分かる場所で、だが一見するだけでも完全に荒れ果てていた。人の手が入ってないのだろうその土ばかりの地面には雑草が生い茂り、その中に何か大きいモノが這いずりながら進んだような跡も残っている。おそらくは深海棲艦の移動した後だろう。今は周囲に見当たらないが、徘徊していて危険だから人が立ち入らなくなったのかもしれない。もし見つけたら襲われたり報告される前に倒さなきゃいけないので索敵は怠れないのだ。

 同じ車両に乗る吹雪と島風も周囲を見回そうとしていたが、全然見えなかったようで断念してレーダーに集中する事にしたようだった。見晴らしのいい場所を走っているので通りがかりの敵夜偵とかが居たら即発見間違いなしだから頑張ってもらいたい。いや私もレーダー自体は使ってるんだけどね。

「なあ吹雪」

「はい」

「はいっ!」

 急に天龍さんが名前を呼んだので、宮里艦隊の吹雪と司波艦隊の吹雪が揃って反応してしまった。そりゃそうもなろう、どっちも吹雪だもん。

「あー…………黒い方」

 少し迷って、天龍さんは色で呼んだ。確かに制服の色が一番分かり易いわな、私は黒くて吹雪は白いし。お困り気味な姉の表情を見て龍田さんがふふっと笑っていた。

「その頭の上の、そのまんまで大丈夫なのか?」

「大丈夫だと思います。淡路島でもこの状態で戦えましたし」

 どうやら猫吊るしの事が不思議だったらしい。まぁ傍から見たら猫吊るしは仕事してないように見えるかもしれないのである程度は仕方ないだろう。実態はブラック企業もびっくりのワンオペ状態なんだが。

「その子は何か特別なのかしら~?」

 龍田さんも気にはなっていたのか、じっと私の少し上を見つめながら質問してきた。龍田さんから妙な圧力でも感じたのか猫吊るしはちょっと怖気づいて後ずさりしている。私の頭上だから特に逃げ場はない。

「まあ、そうですね……私の知る妖精さんの中では一番優秀な奴です」

 私の言葉に猫吊るしは小さすぎてあるんだかないんだか観測する事すら出来ないお胸を張った。そういや確認してなかったけど猫吊るしって中身は男でいいんだろうか。一緒に風呂に入った時に色々付いてない事は確認しているのだけれど。

 

 妖精さんって妖精さんごとに差があったんですかと驚く吹雪に対して猫吊るしが生態について解説していると、球磨さんから川内さんに声が掛かった。曰く、この先の坂を上がると見晴らしの良い場所に出てすぐに下るようになっているのだが、敵が居た場合そちら側からもしっかり見えてしまうだろうとの事だった。暗いので深海棲艦からも視認し辛いはずではあるが、念のため確認してから進みたいという。

「そういうわけで龍驤、偵察出せる?」

『出せるには出せるけど、むしろレーダーに掛かるリスクの方が高ない?』

 龍驤さんは後続の多摩さんの方に乗っているため通信機越しの声になる。傍受されてたら大変な事になるが、そこは妖精さん製の通信機だから大丈夫らしい。

 反対意見を出された川内さんは一理あると悩み出した。誰かしら偵察に出すのがいいのか、一機ぐらいならばれへんかと飛ばしてしまうか、闇夜を信じて突っ切ってしまうか、迂回してそこは避けてしまうか。一番確実なのは迂回する事なのだろうが、問題は遠回りしてちゃんと目的地に着けるかどうかである。地図は持って来ているし周辺の地形は頭に叩き込んであるらしいのだが、それでも出来る事なら予定通りの道を行きたい所なのだ。この八輪車の走破性を以てしても通行が不可能になっている道がある可能性を否定できないから、行ける所は行っちゃわないと場合によっては収拾が付かなくなるからね。

 正直私が偵察してくればいいというか、そもそも私単騎で航空基地潰してくれば良くないかと思わんでもないのだけれど、国が懸かるとそういう訳にも行かないらしい。投入はするけど絶対に死なせたくないから出来る限り慎重にやるんだと長門さんも川内さんに仰っていた。私の強さ、理論的に意味不明だろうから仕方ないか。チートだし。

 そんな事を考えていたら、ふと頭の中でアイディアが閃く音がした。川内さんが悩んでいたのはそんなに長い時間ではない。だがその短い時間で、非常に珍しい事に、私にいい考えが浮かんでしまった。浮かんでしまったのである。

 

 

 

「それじゃあやりまーす」

 坂道の直前、そこそこ急勾配なそこの底で、私は大地を踏みしめていた。背後からは川内さんのやってヨシの声と本気でやるのかという呆れ混じりの視線が飛んでくる。まぁ、割と何言ってんだコイツ案件なので仕方がない。思い浮かんですぐに聞いてみて、やれると言っていたのでたぶんしっかりやってくれるだろう。

 頭の上に居る猫吊るしに一声かけて、鷲掴みにする。猫吊るしは覚悟は出来ていたようで、その状態でこちらを見て一思いに頼むと頷いていた。協力的で助かる。

 私はそのまま振りかぶり、潰さないように気を付けながら力を込めて、上に向かってまっすぐに手を振るい、猫吊るしを垂直に放り投げた。渾身の無回転投球、ボールだったらナックルになっている所だ。猫吊るしはぐんぐん空へと昇って行き、かなりの高所で停止すると急いで周囲を見渡して、そのまま重力に体を引かれて私の手の中に帰って来た。

 猫吊るしはチート転生者だ。非常に便利で応用の利く能力を有しており、見た目にはそう見えないが、感覚器、特に視力が非常に優れていて、見張りに立って貰えば人間よりも遥かに少ない光量でより子細な観測を行ってくれる。淡路島ではその性能を存分に発揮し、結構な速度の中でも足跡をしっかり見つけて追ってくれていた。

 だからね、もうこいつぶん投げて空から見て来てもらえば全部解決するんじゃないのかって思い付いちゃったんだよ。手のひらサイズだから敵からも見えないだろうし、レーダーに引っかかるような存在でもないし、割と夜闇の中でも周囲が見えてるから大体の状況把握なら行けるんだって言うんだもの。

 私の身体能力と軽くて小さいのに高性能な猫吊るし、単品でも凶悪なのに合わせると相乗効果でえらい事になる。1+1は2だが私と猫吊るしのチート能力さんは合わさると1+1で200だ。10倍だぞ10倍。

「見えた?」

「見えた……っつーか、あれ俺じゃなくても見えるわ」

 完璧に観測機の役割を果たした猫吊るしは何を見たのか、川内達を呼んでくれと眉間に皺を寄せながら言った。

 

 

 

 なんだありゃ、と川内さんは先の光景を見て呟いた。一緒に上って来た球磨さんも厳しい表情をしている。

 徒歩で坂を上がり、低い体勢で農地であったろう場所を見下ろす私達の瞳に映ったのは、数百メートル先の農道であろう道をだいぶはみ出しながら並んで歩く、深海棲艦の群れだった。

 ざっと見た感じでは姫や鬼どころかレ級やヲ級と言った人型に近い個体すらいない、下位と呼ばれる深海棲艦の群れ。軽母ヌ級が四本の手足で地面を這い、軽巡ト級が腕だけで全身を支えて進み、脚の生えた駆逐イ級が船首を上げて短い脚でよちよち歩いていたりなんかする。あんまり可愛くはない。

 問題はその数が見えてるだけで300は居るって事だろう。そいつらが整列……というにはきっちり並んでないけど、概ね五列くらいに並んで同じ方向へと進んで行く。探照灯を点けて周囲を照らしている個体が居るため集団はかなり目立っていて、おそらく敵が居る可能性すら考えていないものと思われる。そのせいか索敵もまともにやっていないようで、こちらに向けて照射するような奴は居なかった。

「球磨、あいつらってスルーして行ける?」

「あいつらの歩いてる道、通る予定だった奴だクマ……避けてくならかなり迂回しないとならんクマ」

 私達の進んできた道と群れの進んでいる道は途中で合流していて、そこを避けて通るならかなり違うルートを行く事になる。というか、あの群れを避けて行くならだいぶ大回りで迂回しないと危ないんじゃないだろうか。ぜんぜん飛ばしてる気配は無いけど、一応空母も居るし。

「それ以前にさ、あいつ等の向かってる先って俺等と一緒じゃないか?」

 頭の上から猫吊るしの声がする。川内さんと球磨さん、二人の珍し気な視線がこっちを向いた。妖精さんって積極的に話し合いに参加してくることはまず無いから、猫吊るしみたいに意見を出してくる奴は初めてらしい。中身は普通に人間だからなぁ。

「この先のどっかの基地が目的地っぽいよね確かに」

 赤城さんの見つけた敵航空基地B・C・Dは一直線上になるように並んでいる。なのでこの道を行けばまずDに、次いでC、最後に海岸線のBに着くはずなのだ。今の状況だとたぶん艦娘からの攻撃が海から届くAかBへの援軍だろうと思われるんだが、Bが目的地だった場合、CとDの破壊が任務の私達とは進路が被ってしまう。

「迂回しても背後から襲われる可能性があるって事か……」

「基地の破壊ってどれくらい掛かるクマ?」

「姫級が守っているならその個体を発見し次第ですね。でもそうでないならそこそこ掛かりますよ」

 基地とリンクしているおひいさまが居るならそいつを撃ち殺せば同時に基地も機能を停止してくれる。全体的に能力が上がる代わりにそういう脆弱性を抱えているため、戦闘力で大幅に上回っているならそっちの方が早く倒せるのだ。居ない場合純粋に基地をぶっ壊して行かないといけないから、時間効率で見たらかなりよろしくない事になる。

「倒して行くしかないかぁ……」

 川内さんの呟きにぎょっとしたのが球磨さんである。いやいやと首を振って無理だろクマと一般的には無謀としか言いようのないその発言にツッコんだ。

 だがなぁ……他の艦隊から来ている球磨さんには分からないだろうけど、ここには私が居るからなぁ……などと若干思い上がった感じの事を考えつつ、もう一度敵の群れをつぶさに観察する。やっぱり数は多いけれど雑兵ばかりで、倒すだけなら行けると思う。ただ数が多すぎて取り逃しが出ないかは自信が無い。弾薬は結構あるからここで一戦しても基地攻略に問題は無い……はず。解体作業するなら基本手作業だし。

 と、そこで、私のチート視力さんと猫吊るしのそれが同時に同じものを発見した。それは深海棲艦達を挟んで道の向こう、畑のはずだった場所に生い茂った雑草の中、段差になって一段下がった場所にうずくまって隠れていた。

『生存者だ……』

 私と猫吊るしの声が重なった。

 

 一旦下に戻り、情報を共有して、数分で出された意見を川内さんが纏めて、結果、龍田さんの案が採用された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍田川 楓は天才と呼ばれる人間である。

 幼少の砌から神童と呼ばれ、十五の時には会長を勤める祖父に後継者として父を飛ばして指名され、周囲もそれが当然であると受け容れた。今の世で一族経営などと時代錯誤ではないかと言う者はあったが、楓の能力を疑う者はいなかったのである。

 楓には姉があった。気風の良いさっぱりとした性格で、楓も小さな頃からよく懐き、同じだけの勉強をして、同じだけ遊んで、同じだけ肉体や精神の鍛錬も行った。だが結果として、全ての面で楓が上回った。

 一つ下であるにも関わらず常に物事の理解は楓の方が早かったし、あらゆる遊戯においては姉をねじ伏せ、剣を取れば喉元を裂き、構えた槍を叩き落とし、拳を払い地に倒し、そのまま組み伏せ弄ぶ。

 誤解の無いように先に言えば姉は楓を大層に可愛がっていたし、楓の方もいろんな意味で姉が大好きだった。しかし、純粋な能力差から姉に敗北した経験の無い楓は、根の部分で姉は自分より格の落ちる生物であろうと見下す気持ちもあったのである。

 

 楓が指名を受け暫くして、姉が高校を卒業すると同時に家を出て、一人暮らしをしつつ大学へ通うようになった。楓は姉を訪ねようとその街まで出掛けそこである少年と出会い仲良くなったのだが、それはさておき。それなりの頻度で姉の元へと遊びに行くようになった楓はその日、一緒に買い物でもしようと沿岸部にある繁華街へと連れ立って出掛ける事にした。

 服を選びまだ昼には早いしどうしようかと二人で相談していると、不意に、全身を感じた事の無い悪寒が走り抜けた。すわ何事かと辺りを見回せば、眼前に広がる海は赤々と色を変え、今まで澄み渡っていた空では翳りくすんだ太陽がかろうじて地を照らしている。楓が目に何か異常でも起きたかと疑っていると、背後でさっき入った店のビルが爆発を起こし、見る間に倒壊して行った。

 次々と視界の建物が崩されて行く中、ここは不味いと姉に手を掴まれ、引き摺られるようにして楓は逃げた。逃げ込んだ先はそこそこの大きさの広場で、同じように走ってくる者や好奇心に駆られむしろ海の方へと行こうとする者が見える。後者は姉に死にたいのかと一喝されていた。現状を把握しようとスマホを見ると、出された緊急事態宣言の通知が今更やって来て、遅いわよと楓は内心でため息を吐いた。

 数分の後に人数は増え、事態を把握した者が多くなってくると、広場は騒がしくなっていった。逃げた方が良いと分かっている人は多数居たようだったが、実際に動き出せる者は居ない。そんな時、中央にある高台――水の出ていない噴水だろうそれに登り、音頭を取り始める女性が現れた。それは他でもない、楓の姉、龍田川 天音その人であった。

 天音の扇動は楓から見ても見事なものと言えた。よく通る声で、不安要素など無いと言わんばかりの大きな態度と胸を誇示し、言ってる事は筋が通り分かり易い。混乱の無いよう並んで進む様に指示し、出発まではそう時間も掛からなかった。避難経路に関しては楓に丸投げだったのだが、それはおそらく信頼からだろうと思う事にした。実際判断できたし、きっとそうだろう。

 どこへ避難するのか、どういう道順で行けばいいのか、自信を持って先導してくれる誰かに判断を預けるというのは大層楽だったようで、大半が天音に付いて来た。勿論集団が動いたからなんとなく釣られただけの人間も多かっただろうが、大差はない。先頭を行く者が間違っていたら大量の死者を生みかねない状況だったが、天音の堂々たる態度は一切崩れなかった。もしや思っていたよりも大人物だったのではないかと楓の心根が刺激され出した頃、突然そいつらは現れた。

 

 最初に気付いたのは足をくじき親に背負われた少年だった。ラジコン! と空を差してみせたその指先を両親が見やったその瞬間、その飛行物体から進行方向にあったマンションに何かが撃ち込まれ、破砕音と爆音が響き、建物はひしゃげ崩れ去った。

 恐慌が起きる。進もうとしていた道が瓦礫で塞がれ、空を飛ぶ何かから間違いようもなく攻撃を受けているのだから当然そうなるだろうと楓は判断した。そう頭は判断が出来た。だが、体の方はそれに何かしらの対応をしようと動き出す事はなかった。楓自身、呆然としてしまったのだ。

 一方で、即座に反応できたのは天音の方だった。幸運な事に、彼女には鉄道の地下への入り口が見えたのだ。相手が飛行機なら狭い場所には入って来れないはずだと叫び、一団をそちらへ誘導する。自身は外に残って詰まらず流れるように、崩れた隊列でも止まらないよう避難を進めて行く。楓もなんとか立ち直るとそれを手伝い最後まで地上に残る事になった。

 残る人数が十を切った頃、先ほどとは違う形状の航空機が現れた。これは不味いと急ぎ残りを階段に詰め込むと、最後に残った二人も地下へ向かって飛び込んだ。それと同時に機体から投下された爆弾が地下入り口の屋根に直撃する。楓の足が地面を離れ数段先の踊場へ着く。その瞬間に後ろから衝撃が走り、二人はさらに前へと投げ出され、楓は一瞬意識を失った。

 

 気が付いた時には楓はうつ伏せの状態で誰かの下敷きになっていた。何がどうなったのか、直ちに理解は出来なかったが、振り向けば乗っているのは姉である。力なく自分に体重を預ける天音は完全に気を失っている様子で、呼吸はしているようだがピクリとも動かない。負担にならないよう慎重に下から抜け出すと、自身の体も痛む中で容体を診ようと手を伸ばし、ひっと楓は悲鳴を上げた。

 服は爆風によって飛ばされた瓦礫か何かに切り裂かれ、背中から複数の出血が見られる。だがそれはさほど大きいものではなく、致命傷ではないだろう。だが、横に向けられた顔から覗く左目だけは、もう、誰が見ても取り返しのつかない状態になっていた。

 ともかく止血を、と周囲の手も借りやり遂げると、暫くもせずに天音は意識を取り戻した。楓は止めたが自分の力で立ち上がると、足が完全に止まっていた皆に崩れた入り口から離れるよう促し、集団が内陸方向に向けて動き始めてからようやく自分の状態に気が付いたようだった。

 

 その後も努めて明るく振舞い、楓に支えられながらも自分に付いて来た全員を天音は生存させ、安全と思われる場所で保護されてからようやく意識を失った。命に別状はなかったが、半年以上の入院を余儀なくされ、医者にはそれだけ出血して半年で済んだのが奇跡だと言われた。実際の所、医療現場もひっ迫しており、早期に元気を取り戻した天音を長々と置いておく余裕が無かったが故の退院であり、それを理解はしていても、楓は心の中で憤慨した。

 その数か月後、天音が艦娘の天龍として招集され、楓が笑顔でブチ切れたのは別の話。

 

 

 

 次の適性検査では楓も龍田として訓練所に送られた。一応、姉と同じ宮里艦隊への配属を希望したのだが、第二訓練所で優秀な成績を修めた楓――龍田は別の新設の鎮守府へ支柱、エースとして送られる事になった。これに関しては不満ではあったが、さほどおかしい事だとは感じなかったため反発心はさほど無い。不満ではあったが。

 艦娘になった龍田は、既存の鎮守府から新兵を支えるためやってきた――生活面はともかく戦闘ではあまり頼りにならない――先輩から教えられ、艦娘専用のコミュニティに参加する事になり、そこで自分の姉の噂を目にする事になった。

 まず、宮里艦隊の艦娘達は押し並べて評判が悪い。というのも、明らかに他を超越した戦果を個人単位で出してしまっているからである。嫉妬とかそういうのを超えて、そもそもまともに信じている方が少数派だったのだ。例えば最弱の部類とされる深雪であっても、通常の出撃で鬼級の単騎撃破という暴挙に出ていたりする。これは他の鎮守府であれば特別褒章――人によってだがアイスクリーム奢ってくれるとかその程度――が提督個人から賞金とは別に出されるようなレベルの戦果なのだ。信じている人間達にも狂戦士だなんだと揶揄される始末だった。

 最強と言われる吹雪に至っては目も当てられない。エース級が揃う宮里艦隊の他構成員の戦果を合計して、なお足りないと言われるだけの撃破数とされており、信じるのであれば、全体の1/4を超える数の深海棲艦を一人――ないし島風を含めて二人で始末している計算になってしまう。姫級の討伐数などはもっと極端な比率になるため、生放送などで情報を得ていたとしても、疑うなと言う方が無理だろう。

 だが、龍田は信じた。それはただ額面通りに受け取ったという話ではなく、事前に姉から――誘導尋問的に――聞き及んでいた内容と一致していたからである。情報元は信用できなくとも、天龍の私見は信頼できたのだ。

 肝心の姉の評価はと言えば、判断に困るというのが大半であった。艦娘なのに剣を振るうって何の冗談なんだという意見が多く、近接戦闘への評価は割と辛辣である。実際訓練所でも推奨はされなかった。

 ただ、天龍は戦闘以外の評価は極めて良好な艦娘であった。訓練生時代はムードメーカーとして金剛と双璧であり、徴兵――招集され、ともすれば暗くなりそうな訓練所も、雰囲気は終始良好な物であったという。鎮守府でも水雷戦隊の旗艦を務め、未成年に偏る駆逐艦達を見事に牽引してみせている。無茶をしようとする者を諭したり、調子を落としている者の相談に乗ったりと精神面での貢献はかなり大きいとの事だった。旗艦なのに先陣を切って突っ込んで行くのはどうなのかと、やはり近接癖については問題視されていたが。

 姉は間違いなく上等な人間だったと、龍田ははっきりと理解した。深海棲艦が現れたあの日から、かつては自分でも理解出来ていなかった心根に潜む浅慮の優越感は姿を消していたが、艦娘としての天音の客観的な評価を見て、以前の自分は結構恥ずかしい奴だったのではないかと思い至り、態度に出てはいなかっただろうかとベッドの上で秘かに顔を赤らめた。

 

 

 

 淡路島では久々に姉に会えると喜んで待ち伏せを行い、驚かせることに成功した。からかい甲斐のある姉の姿にやっぱりこれね~と満足する龍田の目の端に、最強と名高い駆逐艦の姿が映り込んだ。

 その瞬間に、それはナニかマズいモノであると脳のどこかが警鐘を鳴らし、筋肉が緊張状態に入り無意識に数歩下がらされた。おかげで海へ落ちかけて、姉に支えられる羽目になった。

 作戦へ移るため集合場所へ姉と共に向かえば、同じ部隊になるので当然なのだが、そのヘンなヤツと再び出くわしてしまった。姉を通して自己紹介し合ったが、目の前の艦娘は何かがおかしい。何がおかしいのかは分からなかったが、頭に乗せている妖精さんの事が些末と思えるくらい、酷い違和感を感じるのだ。

 表には出さないよう取り繕ったが、吹雪との交流は酷く緊張感を伴い、途中で現れた芋を配って来たというもう一人の吹雪や無邪気に夜戦を喜ぶ川内にはむしろ癒された龍田なのであった。

 

 

 

 四国へ乗り込む段になると、違和感はますます大きくなった。大発の事は訓練所で聞き及んでいたが、駆逐艦に使える物だと習った覚えは無い。吹雪の制服が変わっていた事もあり、龍田はなんとなくではあるが、艦娘の力には先があるのではないかという事に勘付いてしまった。

 そしてその力は、おそらく最近見つかった物ではないだろう。テストで使用するならば、最大戦力の吹雪でそれを行うなどまず有り得ない話なのだから。検証も終え、ある程度の安定した運用が実現出来ているはずなのだ。だというのに公表されずに居たという事は、何かしらの代償が存在するのではないかという所まで龍田は読み切った。流石にそれがどんなものなのかまでは想像の埒外であったが。

 装甲車に乗り込み中で話もしたが、吹雪への違和感は増して行った。姉は信頼しているようであったが、他の娘達に比べてなんとも緊張感が薄く自然体に近く見え、本当に戦いに行く姿勢になっているのか少し不安になるほどだった。

 吹雪が自身の頭上の妖精さんを投げ上げるという偵察方法を大真面目に進言した時、龍田は冗談でそんな事を言っているのかと思ったが、実際にやられてしまうと笑いも出てこない。吹雪もおかしいが妖精さんも大概だった。常識は投げ捨てた方が有効な時もあると知っていたが、艦娘の運用にも通用する話だったらしい。きっと妖精さんサイズでなくても遥か上空まで飛ばせるのだろう、島ほどある大きさの深海棲艦を一人で平らに均したなんて噂もあったのだし。

 だから、数百体は居るという敵の群れへの攻撃方法としてその案がさらっと出てきたのは、概ね吹雪のせいだったと言える。

 

 

 

「では行きますが……本当にいいんですね?」

 吹雪が部隊長である川内に問う。勿論だと川内は頷き、吹雪はじゃあやるかーと頭上の妖精に一声かけてから龍田に向き直った。龍田の方は既に準備は完了していたので、後は実行に移すだけである。

 よろしくお願いしますと言う吹雪の腕に、お邪魔しま~すと龍田が乗り込み、足を揃えて体を真っ直ぐに立てた。用意よしと見た猫吊るしと呼ばれる妖精さんのカウントダウンがすぐさま始まり、3カウントの後、龍田は敵集団に向けて射出された。

 

 

 




Q.なんで多聞丸は川内さんを部隊長にしたんです?
A.トンチキ作戦(有効)を実行してくれるから


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艦これ無双

 猫吊るしを投げ上げたように、艦娘を敵に向かって投げつければ陸上でも奇襲が成立するのではないか。龍田の出したのはそういう意見であった。

 戦った方が良いだろうと判断した川内だったが、あの数相手にまともに撃ち合いはしたくない。地上では遠距離の敵の砲撃を避ける事が難しく、回避しながら撃つというのも滑走が出来ない以上はまず不可能で、走ったり転げたりしながら遠くの敵に当てていくのは吹雪くらいしか出来ないと思われた。相手も避けられないだろうが、数で劣るこちらの方が分が悪いだろう。

 ならば面子から言っても近接戦闘で戦うべきだと思ったのだが、問題になるのは距離であった。坂の手前側なら見つかる事はないだろうが、超えてしまえば間に遮蔽物は無い。発見される可能性は高く、一度捕捉されれば逃げようもない。

 吹雪だけなら高速移動で一気に接敵出来てしまうため、もう全部任せてしまった方が良いのだろうかと川内が思い始めたその矢先、飛び出したのが龍田の意見だった。流石に無理だろうと誰しも思ったし、龍田も正直たたき台くらいにしかならないだろうと思ったのだが、吹雪はあっさり出来ると断言した。

 そして試しに川内を投げ上げてみた所、狙った場所に放物線を描いて投げ落とせると判明し、作戦は実行に移される事になった。

 

 艦娘には物理的な衝撃がダメージにならない。それ故に龍田は着地のダメージを考える必要は無かった。完璧な角度で投げ出され、姿勢を整えていれば体が無駄に回転する事も無い。それがどれほどの精度で筋肉を制御出来れば行える異業なのか、きっと理解しない方が良いのだろうと龍田は直感した。

 艤装から抜いた薙刀を構え、地面に降り立つ瞬間を待つ。狙った場所は敵の真っただ中、列の左端――坂の方から見て手前側に居たヌ級、その真後ろ。放棄され荒れたその土の地面に、龍田の足が着いた。瞬間、百メートル以上の距離を落下して来た人間の質量を叩きつけられた地面が爆ぜ、土煙が舞った。

 その音と衝撃に反応した深海棲艦が自分を見るより早く、龍田は薙刀を縦に振るう。薙刀の刃と金属製であろうヌ級の背面装甲が触れ合い、そのまま音も立てずにヌ級は臀部から頭部を両断された。それを確認もせず、龍田は横へ跳んだ。体勢を低くし、滑るように駆けるとそのまま横一閃、砲台小鬼二体を切り払い、並んだPT小鬼三匹へ一気に穂先を突き入れた。出来上がった三つの死体を一振りで打ち捨て、その勢いで体を回しト級の懐へと入り込むと、装甲に守られていない前腕から喉までを一挙に切り裂き息の根を止める。崩れ落ちるその体の影へ潜むと、目の合った向かいのイ級を笑顔で蹴り付け、バランスを崩しロ級に激突したそいつの胴体を二体纏めて断ち切った。

 艦娘の武装は適性値の影響を受ける。それは近接用装備も例外ではない。通常であれば金属を金属で切り裂く事は容易な事ではなく、まして人の腕で行うのはまず不可能である。しかし、龍田の第二期適性者中第二位の適性値と、生まれ持った素養がそれを可能とした。下位深海棲艦の装甲を裂くのは彼女にとって多少コツが要る程度の事に過ぎなかった。

 全ては一瞬の出来事である。何か攻撃を受けたと深海棲艦が理解する前に、着弾地点から二十メートルは離れた場所まで龍田は駆けた。着弾地点に何もないと見て、砲撃かと辺りを警戒し出した頭の付かない烏合の衆たる敵の様子を確認して、死体の陰で龍田は浮かべた笑みを深くする。どうやら自分の周りのやられた仲間が斬られたのだとも気付いていない。こいつらは結局は船、戦闘とは即ち砲雷撃に航空戦と頭にあるのだろう。闇夜も敵の常識も、完全に龍田の味方となっていた。

 息を整えト級の陰から飛び出すと、直近の軽空母を真横から口に沿っておろし、その横をすり抜けると奥に居たもう一体の同型艦も同じ形に切り揃えてやる。そこから近くのハ級の大きな一つ目に薙刀を突き刺し、棒高跳びの要領で上に飛びあがり、龍田は空から魚雷をばら撒いた。

 爆音が上がる。周囲の敵艦の注目が起爆に巻き込まれた軽巡達に向いたのを尻目に、龍田は一度這いずるヨ級に着地すると、前に大きく飛び上がり、そのまま一気に敵の列を超え、薙刀を軽く振るって直近のホ級へ砲撃を叩き込んだ。敵の注目が嗤う龍田へ集まった。

 龍田が艦娘であると気付いた深海棲艦達が咄嗟に狙いを定め、発射態勢に入る、その直前。闇夜を切り裂き天から剣士が飛来した。派手な音と共に一隻空母を叩き潰し、気合一発、声を張り上げ大剣を引き抜き周囲の敵をなぎ倒す。とたんに砲塔を向けられるが、その砲口から弾が放たれるよりも刃が突き入れられる方が早かった。本体ごと大砲が爆散し、上がった炎が剣士――天龍の眼帯を照らした。

 天龍ちゃんが元気そうでなによりだと思いながら、龍田も目の前の深海棲艦へと突進していた。足元へ潜り込むと、喉元を狙い全力で薙刀を突き上げる。少し浮き上がった人より少し大きなそれを右手側への盾として、左手奥の別の個体へ一足で近づくと、既に龍田に狙いを定め撃ち放たんとしていたその単装砲の先端へと刃の腹を沿わせ、柄の中ほどに置いた左手を支点にして右手で石突を絶妙な力加減で押してやった。砲身がずれる、だが発射を止める事は出来なかったのだろう、そのまま弾は射出され、龍田の横を通り過ぎ、全く別の巡洋艦が轟沈した。

 お疲れ様~とそいつを突き殺し、踊る様なステップで薙刀を振るう。直近の敵の四肢が斬り飛ばされ、首が舞い、肢体が転がる。反撃を試みる者も居たが、その全てが見切られ、逸らされ、逆に利用される始末。まともな知能を持つ個体が居れば、悪夢のように感じたであろう。さもありなん、龍田川 楓――軽巡洋艦 龍田は、この世界が本来の姿であれば、全艦娘中最強の近接能力適性を持つ人間である。

 

 龍田から言わせれば、近寄ってしまった方が深海棲艦の相手をするのは楽だ。確かに人間に比べると質量で勝る個体が多く、まともにぶつかれば艦娘の方が力負けするだろう。しかし、それだけだ。

 そもそも深海棲艦の多くは足元を狙えるような構造になっていない。大砲の可動範囲が足りていないのだ。基本的に遠距離での撃ち合いを想定しているのだから当然なのだろうが、近寄られた場合、柔軟性に富んだ艦娘に比べ手札が圧倒的に少なくなる。人型の場合はまた話が変わってくるが、怪物のような形をしたものほど行動が読み易い。そのため体躯の小さい小鬼たちの方が厄介で、巨体の隙間にそれらが隠れていないかの方が神経を使う。見つければ倒すのは楽であるし、陸上なら魚雷も扱い辛いため一撃は大したことが無いのが救いだろう。

 撃つよりも斬る方が早い、なんなら刺すのはもっと早い。必要なら脚や拳も使えるし、狙われても砲塔の向きから着弾点も分かり易い。弾薬も使わないし音も最低限で済む。暗器や毒を用いる事も無い。龍田からすれば深海棲艦相手の近接格闘は対人戦よりもずっと楽だった。

 言うまでもなく、天才と呼び称される人間以外には理解不能な考えである。

 まず通常の艦娘であれば一撃で倒すような真似が出来るはずもないのだ。その上倒しきれなければ障害物となり味方の邪魔になるし、攻撃を受ければ耐久力で劣るため一方的に蹂躙される。そもそもそれ以前の問題として、普通は近づく前に撃ち倒されてしまう。近づけば近づくほど砲撃も魚雷も命中率を増すため、危険を冒して手の届く距離まで詰めるくらいなら、自分も普通に撃った方がダメージ効率も生存率もいいのだ。近接戦闘が推奨されないのは当然と言えた。

 

 しかし少なくとも今の状況では龍田は正しかった。龍田も、次いで降下した天龍も、さらに続いた叢雲も、通常の艦娘と比する意味がない程近接戦闘に長けていたのだから。

 敵に寄っては両手で構えた剣で叩き潰し、撃ち出された砲弾を見切って切り払うという人知の及ばぬ技を見せる天龍もまた、理外の天才の一人である。龍田程に流麗な動きではないが、それ以上の膂力と高い反射神経でもって無理矢理敵を突破して行くその姿はまさに狂戦士。宮里艦隊の悪評の一因となっているそれを大いに振るい、深海棲艦をただの鉄屑へと変えて行った。

 天龍に続いて降り立った叢雲も尋常ではない。槍の使い手としては二人ほどの技量は無いが、艤装から伸びた二本のアームがその実力差を埋めていた。自分の腕と別に動かせるそれはとかく応用範囲が広く、攻撃の隙を埋めるもよし、刺突で穿った穴に致命の一撃を叩き込むもよし、必要ならば別々の敵へ攻撃を仕掛ける事も可能である。

 三人が敵を仕留めている間、その相手はと言えば完全に攻めあぐねていた。兎にも角にも位置関係が悪い。直近に寄られれば砲塔は相手の方へ向けられず、では殴ろうかと振り上げた腕は切断され、そのやられた味方ごと撃ってしまおうとしても、暗い中を動き回る相手ではそうそう狙いが定まらない。ある程度距離があれば通常の砲撃と同じように狙えたのであろうが、列を為していたために仲間が壁となっていた。

 それでも、中には動きの遅い叢雲を捉える者も現れたのだ。そのヘ級は確かに完璧に狙いを付けて少女へ死の砲撃を喰らわせる準備が出来ていた。ヨシ撃つぞ! ヘ級は右手の速射砲に力を込めた。

「イヤーッ!」

 突如、空から叫びを上げながらオレンジ色の衣装に身を包んだ艦娘が現れ、魚雷を投擲した!

「グワーッ!」

 魚雷が頭部へと突き刺さり、哀れヘ級は爆発四散した。川内=サンのエントリーだ!

 なんかあの人だけ世界観違わない? などと思いつつも叢雲は背中を預け、自身は前面に集中する。背後では川内が砲撃と雷撃――投げつけているが――を駆使しての近接戦闘を行っている。戦い方としては叢雲と似通っているが、近接用の武器を用いずカラテで殴るという点が大きく違った。深海棲艦相手にやる事ではないのは言うまでもない。

 

 

 

 四人となり、ますますの奮戦を見せる近接部隊の頭の上を、一人の艦娘が投げ飛ばされて行った。うさ耳のような飾りをなびかせ、戦闘が行われている敵の列を通り過ぎると、その奥、雑草だらけの畑に存在する段差のさらに向こう側にスタっと着地して、さっと辺りを見回した。そうしてすぐに目的の物を発見するとしゃがみ込み、その地面に伏して息を潜めている男性にすいませーんと声を掛ける。

 反応は劇的だった。男はうわぁと叫んで飛び起きると、逃げ延びようと足を踏み出す。しかし、しゃがんだ体勢のままオウッと鳴いて自分を見上げるセーラー服に見えない事も無い服装の少女を見て、混乱のあまりに動きを止めた。

「自衛隊の者ですが避難誘導しますのでおぶさってもらっていいですか?」

「えっ、自衛、えっ?」

 明らかに自衛隊員ではない少女、何故誘導するのにおぶされと言うのか、どうしてそんな破廉恥な格好をしているのか。男性には何一つ意味が分からなかった。

 

 

 

 島風が生存者の保護へ向かうのを、イ級の砲撃を躱しながら龍田は確認した。異常に脚が速く、それでいて地上での戦闘にはあまり向いていない島風は戦うよりも保護活動に回した方が有益だろうと判断され、龍田達を囮にして生き残りを戦場から遠ざける役割を与えられた。急に現れた妙な格好の人間に素直に付いて来てくれるかは少し心配だったが、艦娘の力なら最悪、無理矢理拉致すれば済むだろう。

 そう思いながら自分に贈り物をしてくれたイ級に返礼をお見舞いすると、その亡骸を足場に龍田は高く宙を舞った。直後、イ級だったものに砲弾が突き刺さり、内部の弾薬が誘爆を起こす。足元で起こったそれから逃れつつ、次の獲物に向けて薙刀を構え、跳躍の頂点から一気に振り下ろそうとした。その時。

 龍田は確かに暗闇の奥に見た。列を成していた深海棲艦の進行方向側、隊の先頭集団が、津波にでも飲み込まれたかのように一番前から押し戻されて行く光景を。

 

 いつの間にか――おそらくは島風を放った後、自身も跳んだか駆け抜けたかしたのだろう、軍団の進行方向には一人の少女が立ちはだかり、向けられた探照灯の光でその姿を露わにしていた。深海棲艦達がそれを艦娘だと認識出来たかどうか、その刹那。少女はただの一歩で間合いを詰めると、最寄りの深海棲艦へとその細腕を振るった。

 放たれた拳が黒い巨体へと突き刺さる。次の瞬間、その深海棲艦の肉体は飛散し、散弾となって後ろの集団をバラバラに引き裂いた。

 気付いた時には、少女は既にばら撒かれた金属片のさらに奥に居た。右足を軸にくるりと回転すると、周囲を埋めていた深海棲艦達が左足で体を横一線に引き裂かれ絶命する。そのままもう一回転して、泣き別れになった上半分を蹴り付けると、それはそのまま幾つかの砲弾となって辺りを吹き飛ばした。

 反射的にか、弾をくぐり抜け横から果敢に挑みかかった手足付きの巨体が居たが、そいつはごく軽い物でも持ち上げるように脚を掴まれ、武器代わりに振るわれる結果に終わった。一度の薙ぎ払いで完全に原形を無くしていたため、装備としては落第点だろう。代わりに威力は高かったようで、前列に残っていたかつて深海棲艦だった物全てが辺り一面に散らばった。

 

 なにあれ。

 龍田には理解は出来るが納得し辛い光景だった。跳躍から着地しつつ空母を一体両断するまでの間に、先頭では破壊の限りが尽くされている。龍田はとりあえず、間違いなく助けに行く必要は無さそうだったので、目の前の敵に集中する事にした。

 直後には近接部隊が戦闘を行っている位置より後方の敵に対して、坂の向こうから投げられずに残っていた艦娘達による砲撃も始まり、混乱の中で深海棲艦はその数を減らして行った。大勢は決したが、龍田や天龍達は少なくなってきた敵を狩り尽くさんと暗闇の中目を凝らし、最後の一匹を倒しきるまで戦い続ける。

 その間中、何かを砕く音と何かが破裂する音と何かの散らばる音が延々と前方から響き続けていた。

 

 

 

 終わってみれば、被弾ゼロの完勝であった。陸上で性能を発揮し切れないタイプの深海棲艦ばかりで構成されていたのが勝因だが、無傷というのはメンバーの近接戦能力が如実に表れた結果と言えるだろう。

 龍田は倒し損ねや道を逸れていた個体が居ないか周囲を窺いながら、今回の戦果をざっと確認してみようとしたが、自分や天龍の撃破した物はともかく、先頭から逆走して来た吹雪に轢き潰され原形を留めていない破片状の物体はどうやっても正確に数えられそうにはなかった。

 吹雪が薙ぎ倒して進んだ距離から見て、間違いなく半数……どころか2/3以上は彼女一人に蹂躙されている。総数300をゆうに超える群れだったはずだが、全滅までに五分も掛からなかった。龍田が戦い始めてからのカウントなので、吹雪が拳を振るっていた時間はもっと短い。あれが最強、と龍田は独り言ちた。

 吹雪には適性値が数十万はあるのではないかという噂がある。これは訓練場の教官達や自衛隊の艦娘達から聞いた話を総合した結果とされ、直接的な数値を聞いた者は居ないものの、第二期の適性者に彼女の百分の一以上の適性値を持ったものが居ないらしいという話になっていた。

 おそらくそれは間違っていない、どころか、それでは色々と足りそうにないように思えて龍田は眉を顰ませる。それだけで説明が付くものなのか、怪しいように彼女には感じられたのだ。その違和感を埋める物が吹雪の身に着けた黒い制服なのか、それとも全く別の何かなのかは分からなかったが。

 艦娘と呼ぶのを憚られるような戦い方をしていた本人はと言えば、戦いの前後で特に変わりのない表情で川内に話しかけ、そういう指示だったとはいえ戦場から離れ何処かへと走り去った島風を探すため、頭上の妖精さんをまた放り投げていた。

 

 

 

 ちゃんと考えて走っていたらしく島風は自力で装甲車まで帰還した。背負われた男性は怪我は無いものの何かぐったりとしている。どうやら高速で走り回る島風の機動力に完全にやられてしまったらしい。

「あの、大丈夫ですか?」

「あっ、ああ、大丈夫です……」

 島風の背から下ろされた息も絶え絶えなその姿に、流石に引き回した本人も申し訳なく思ったのか心配気な声を掛けた。男性は呼吸を落ち着かせると、状況を確認しようと周りを見渡した。しかし自分を囲んだ統一感の無い面々の姿を見て、いっそう混乱は深まって行く。突然の事で誰に現状を確認したらいいのかすら迷う男の前に、隊のリーダーである川内が歩み出た。

「自衛隊の川内です。車の方まで御同行願えますでしょうか」

 努めて愛想の良い笑顔を浮かべる川内に、男性もハイと頷くしかなかった。

 

 男が乗り込み促されるまま座席へ腰を下ろすと、川内と球磨も対面に座る。乗り込む前に他の艦娘へと指示を出しておいたので、車外の人間は各々警戒やその他の作業へと向かって行った。

「えー、ではまず、お名前を伺ってもよろしいですか?」

「三雲 はるおです…………あ、名前は東に雄と書きます」

 メモを取る球磨の姿を見て男はそう付け足し、川内はその名前に引っ掛かりを覚えたが、とりあえず後に回す事にした。

 

「つまり、川内さん達はあの魚人達と戦う特殊部隊という事ですか……」

「作戦内容までは話せませんが、そう思って頂いて良いと思います」

 男性――三雲はかなり冷静だった。島風の背で大きな振動を与えられ続け興奮するような元気が残っていなかったのもあるが、それを差し引いてもかなり落ち着いた性格の持ち主なのだろう。周囲を見張る娘達の殆どが招集――徴兵された未成年であると知っても声を荒らげるような事はなかった。悲しそうではあったが、納得の色が濃い声色で受け容れて行った。

「三雲さんはここで何を? お一人ですか?」

「ああ、私は一人です……いえ、一人になりました……」

 本当は仲間が居たのだ、魚人――深海棲艦を見つけ、冷静さを欠いて物音を立て、失態を悟り三雲から離れる様に逃げ、撃ち殺されただけで。

「ここへは食料や燃料の捜索へ来ました。一応、成果もあったんですよ? ……あの群れから隠れるために置いてきてしまいましたが」

 ハハハと三雲は乾いた笑いを上げた。一人が命を棄てた果てに手に入れた収穫物だというのに、自分の命を繋ぐためにそれすら棄ててくるしかなかった事に、笑うしかなかったのだ。川内と球磨の二人はどうやら四国の中は相当酷い状況らしいと察した。

「最初は私達も畑を耕してなんとかしようとしていたんです。奴らは我々の生活圏まではあまり、やって来なかったですから」

 遠出すれば撃たれる可能性が高くなることは把握していたし、しなくても最初の一年は割とどうにかなったのだ。食料の備蓄はある程度あり、様々な知識のある人間が居たため、近場で農耕を行っていれば本州からの助けが来るまで持つかもしれないと希望を持つ者は多かった。実際、このままでも案外なるようになるのではないかと三雲自身思っていなかったと言えば嘘になる。

 しかし今年、春を迎え、作物が芽吹き出した頃、それを嘲笑うかのように空爆が行われ、畑は全て焼き払われた。

 諦めず夏に向けてもう一度と植え直しもしたが、その度に空から悪意がまき散らされ、そして最後には備蓄していた食糧庫にすら火の手が回る。最早、外へ食料を求めるしかなかったのだ。

「我々は、助かるのでしょうか」

 真剣な表情だった。今、ここに戦うために来てくれた人間達が居る。しかし、それを信じて任せてしまっていいのか三雲には最早判断が付かなかった。戦っているのが数か月前まで一般人であったというのなら猶更である。

「助けるさ」

 声は装甲車の上部、艤装の突出した部分のために開いたそこからやって来た。中の三人がはっと見上げれば、そこから天龍が中を覗いていた。装甲車の上部に乗り、いつも通りの不敵な笑顔で、絶対の自信を持っていると言わんばかりの顔付きをしている。目の合った三雲に任せろと笑いかけると、川内へと自分の用事を告げた。

「川内、撤去作業終わったぜ。っつっても、ほとんど吹雪が片付けたんだけどな」

 艦娘達が暴れに暴れた結果、通るはずだった道は鉄塊の転がる不毛の大地と化した。それをどうにか通れるように障害物を退けなければならなかったのだが、吹雪が邪魔な大物だけを脇へと放る事で最小限の時間でやり遂げた。

「よし、じゃあ出発しよう、天龍は悪いけどそのままみんな呼んで来て。あと、出発前に補給も吹雪から受けといてね。三雲さんは……」

 そこで川内は一瞬言い淀んだ。ここへ置いて行くのも目的地まで連れて行くのもどちらもリスクがある。だから、もう自分達に利のある方を選ぶ事にした。

「申し訳ないですが、このまま同乗して頂けますか、この先の道の状況など知りたい事が幾つかありまして」

「分かりました。私に分かる事でしたらいくらでも」

 強い瞳で三雲は同意した。天龍の言葉は響いたらしい。カリスマ性凄いなあの子、と地図を引っ張り出しながら球磨は心の中で拍手を送った。

「そういえば、間違っていたら失礼なんですが、もしかして三雲さん、ご結婚されておられますか?」

「えっ……ええ、確かに。私には妻がありますが……………………まさか、夕日の事を知っているんですか!?」

 栄養が足りなかったのか、人相が変わっているとまでは言わないが、多少なりとも元よりやつれ、その上何日も剃れていないのだろう、顎や口元には伸びだした髭が浮かび全体に泥や何かで汚れてしまっている。そのため川内もすぐには気付けなかったのだが、よく見ればその顔には見覚えがあった。

 三雲 夕日――宮里艦隊に所属する駆逐艦夕雲の適性者に見せられた写真の中に、彼の姿はあったのだ。

 

 

 

「彼女はどうして人形を頭に乗せているんですか?」

 道中、地図で道の状況は通るのに問題無いだろうと確認し終えた後、三雲が聞き辛そうに、しかしどうしても気になったのか吹雪の頭上を見つめてそう質問した。問いの中心になった吹雪はきょとんとして、頭上の妖精さんはあっこいつもかぁと呟いた。川内はややこしい事になって来て、夕雲にどう説明したらいいんだと頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 目的地までの間には幾つか建物があり、その中で無傷で残っている物の中に三雲は暫く隠れる事になった。自分からそれを提案してくれて、正直に言えば川内はかなり助かった。

 固辞する三雲に吹雪の艤装から取り出した数日分の固形食料と水を押し付けると、部隊は決意を新たに出発する。目的地まではそう遠くなく、哨戒機などが居ても全く不思議はない。対空警戒は怠れなかった。

 

 

 

「おかしい」

 農道を抜け木々の茂る林道へと入り、目的地付近まで到達した頃。呟いたのは吹雪の頭上の猫吊るしと呼ばれる妖精さんだった。最初に口に出したのは彼女だったが、他の艦娘達も今の状況を同じように感じている。

「道、間違えたかな?」

「いや、地図通りクマ。そもそもほぼ一本道だったから間違えようが無いクマ」

 一応もう一度確認した球磨だったが、やはり道を間違えたとは思えない。だが、もう目視できてもおかしくないくらい敵基地に近づいているはずだというのに、ここまで敵航空機の一機たりとも、哨戒や見張りをする深海棲艦の一匹たりとも、その影すら見かける事が無かったのだ。

 何か異常な事が起きている予感がする。川内は龍驤に指示して見つかるのを覚悟で偵察を出した。暫くして齎された龍驤の報告は、基地上空まで障害なく到達したという、一行の誰も予想していないものだった。

 

 

 

「もしかしてこれ、放棄されてる?」

「でも那珂ちゃん先輩、あの基地完全な形で残って見えますよ? 一部明かりもついてますし」

「龍驤さん、上からはどうなってますか?」

「……なんも居らんように見えるな。姫級どころか、猫の子一匹も見えん」

「誘い込まれてんのか……?」

「でもこの距離ならもう砲撃届いちゃうわよ~?」

 主砲の有効射程圏内に入っても敵航空基地からの反応は一切見られなかった。装甲車を降り、多摩と球磨を残して、艦娘達は夜陰と木々の合間に姿を隠しつつ進む。だが警戒態勢に入った彼女達の緊張を裏切って、隊は何の障害も無くその黒く金属質な建造物を見下ろせる位置にまで到達してしまった。

 眼下の塒は今までに宮里艦隊が相手をして来た基地に比べ建物の規模が大きく、滑走路や出入口の数も多いように見える。防衛用の砲台も幾つも見え、既にその牙が届く距離にまで隊は迫っていた。しかし、赤い光の灯る場所はあれど、施設全てが沈黙を続け、辺りは不気味に静まり返っていた。

「周囲には何も動いてる気配が無いですね……虫とかは居ますけど」

 耳を澄ませた黒い制服の吹雪から報告が上がる。吹雪が言うならそうなのだろうと宮里艦隊でない他の艦娘達には理解し難い納得を以て、川内は決断した。

「よし、ここから砲撃を行う。総員撃ち方用意ー!」

 流石に無警戒に接近するのは危ないだろうし、もし中で眠っていたりするのであればこれで何かしらの反応を返すかもしれない。そう思っての命令だったが、結局砲弾を何度も撃ち込まれ、一角を崩されるに至っても基地からは何も出ては来なかった。

 やはり無人。そう判断するのに十分な判断材料を得られ、このままここから完全に破壊してしまうのか、それとも他の方法を取るのかという判断を川内が迫られた時、龍驤が叫んだ。

「来た! 敵襲、北西からや!」

 北西、もう一つの目標がある方角である。龍驤の報告によれば敵機の数はかなり多く編隊を組んでおり、明らかに哨戒という雰囲気ではない。しかし航空機以外の気配は無く、地上は変わらず静寂に支配されていた。

「見つかってたか? でもそれにしちゃ……」

「考察は後! 総員対空砲準備、あと、吹雪、悪いけどちょっと行ってきて」

 眼下の基地を指差して、川内は黒い吹雪に指示を出す。その意図を察し、はいと大きな声で返事をすると、頭上で呟く猫吊るしごと吹雪は一瞬でその場から消え去った。

 

 敵航空機がやって来る。その数は明らかに一介の空母から発艦できる量を越えていて、他の基地から飛ばされたのだと理解出来た。各々可能な限り身を隠しつつ、それらの対応に追われていると、倒した量よりさらに多くがまた空の向こうからやって来る。

 異常な数だった。身を隠していた森林が焼け、弾丸が傍を掠めていく。こちらの姿を完璧に捉えられてはいないようだが、大方の位置は把握されている様で、常時動き回りながら空へ向かって撃ち続けるしかない。艦娘達は弾薬も体力も段々と削られて行った。

 予備の弾薬は吹雪の中にあるため、今の手持ちを使い切る事に問題は無い。しかし、終端の見えない敵の群れに、心の余裕も徐々に無くなって行く。戦いは長引いた。

 天を埋め尽くさんばかりに飛来する敵機の数に、もしや淡路島方面に軍を向けず、こちらに対して主戦力を投入しているのではないかと龍田が思い始めた頃、突然、深海棲艦の航空機に覆われた空の一角が急速に晴れ出した。見れば敵機が一挙に墜とされて行くのが確認出来る。その現象は徐々に範囲を広げて行き、ついには頭上を飛び回っていた敵は一掃され、遠くでは後続が引き返して行くのも見えた。

 勝った。そう理解して、龍田は安堵とともに詰まっていた息を一気に吐き出した。気が付けば近くには吹雪が立ち、機銃を両手に持って撃ち漏らしが居ないかと周囲を睥睨している。

 状況からおそらく最後のあれは吹雪の援護だろうと龍田には予想が付いたし、空に集中していたため見てはいなかったが、何故最初から攻撃に参加せず途中からの参戦になったのかも大体見当は付いた。

 恐ろしい地力の差。彼女が武器を取れば敵戦力であったはずのものがただの射的の的へと成り下がる。これが招集で見つかった元一般人であるなどと信じられる人間がどれだけ居るものか。この日のために作り上げられた人型の兵器だと言われた方がまだ受け容れ易いだろう。

 自分を心配する眼で見てくるその少女型の何かに手を振り無事を伝えながら、龍田は破壊目標とされていた敵基地のあったはずの場所を見下ろした。そこには石粒程度の黒い破片だけが転がるただの更地があった。

 どうやら一人で敵基地を跡形もなく片付けたらしい。

 流石の龍田もドン引きした。

 

 

 




桃を出したのは那珂ちゃん先輩呼びさせたかったのが理由の七割です。
そういうのもっと欲しいから同型以外との絡み増やしてくださいなんでもはしません。

三人称で戦闘描写しようとするとただでさえ遅筆なのに倍くらい時間かかって笑えることが判明しました。怖い。


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吹雪さんの目が死んでた理由

「私、吹雪さんが本当はどんなだったかみんなに話す約束なんだけど……こんなのどう話したらいいのかな……」

「正直に話すしかなくない?」

「私達もフォローは入れるよぉー」

 吹雪と桃とあと文月の会話が聞こえる。三人は航空基地跡地を覗きながら喋っていて、私には聞こえない様に一応気を遣ってかなりの小声でひそひそとやっていた。でも残念ながらチート聴覚さんには丸聞こえである。

 三人とも同じ訓練所の同期だけあって仲は良好らしく、互いに遠慮したところは見受けられない。同年代なのも大きいだろうか。

「同じ艤装を使ってるはずなのに、何が違うんだろう」

「服の色は違うよね。あと背負い方?」

「きっとあの艤装、マグネットコーティングされてるかHi-νなんだよぉ」

 誰がガンダムやねん。ある意味ニアピンかもしれんけど。っていうかそれ他の二人に通じるのか文月。

 

 

 

 どういう訳か無人だった基地を粉砕して、周囲を警戒しつつその場で補給を行いながら先ほどまでの出来事について話し合う。私達が撃ち始めて少ししたら敵機が飛んで来たり、基地の中に誰も居なかったりとさっきのあれは明らかに不自然で、この先に罠なりなんなりが待ち構えているのだろうという事で意見は一致した。

 明らかに私達は発見されていて、それはまぁ、弱めとはいえあれだけの数の深海棲艦を千切って投げて来たのだから仕方ないのだろうけど、問題なのは私達が感知出来ない方法でこちらの位置を大雑把にだが把握してたっぽいって事だ。

 これはかなり洒落になっていない事態である。第三部隊で一番レーダーの得意な島風ですらこちらを監視するような航空機は一度も捉えていなかったし、私のチート感覚さんもそれっぽいのは見つけていない。どうやってこっちの位置を見つけてたのかはさっぱり分かっていなかった。

 猫吊るしは壊した基地から別の基地に何らかの連絡が行って、砲撃された方向だけを伝えた結果なんじゃないかと仮説を立てていたが、私の破壊活動中に逃げ出したようなのは居なかったし、中にも敵は残っていなかったので方法に疑問が残る。自動化されてたとかか?

 他にはオタと非オタの間に横たわる意識差の悲哀を味わった文月から監視衛星でも飛んでるのかなぁとかそんな意見も出たけれど、それだと手の打ちようが無いからそうでない事を祈っておこう。

 そんな話をしてたら補給が一通り終わったので装甲車まで引き返す事になった。私達が見つかっている以上残してきた球磨多摩さん達も襲われている可能性があって、お二人が戦闘部隊でないのもあって心配だったのだけれど、これに関しては杞憂で特に敵影なんかは無かった様だ。

 とりあえず第一目標だった基地Dの破壊には成功したと伝えられると二人は喜色をほんのりと浮かべて、じゃあ次の目的地までこのまま行くのかにゃーと当然の流れでそういう話になったのだが、無人基地など敵の不審な動きもあり、今後の動向をみんなで相談する事になった。

 

「楠木提督からは、状況によっては撤退してもいいけど見もしないで逃げるのは止めてくれって言われてるんだよね」

 川内さんによると、明らかに向こうの戦力が過剰だったりした場合は戦わない事も許可されているらしい。とはいえ、この隊のリーダーは300以上の敵の群れを殲滅して行く判断をする川内さんなのでその辺りの基準はかなり厳しくなっている。自然、話は罠だろうがぶっ潰してやんよという方向性に進んで行った。

「吹雪ちゃん、弾薬はどれくらい残ってるのかしら~?」

「六割強くらいですね。ただ対空砲や機銃の弾は他に比べると減ってます。航空基地相手だったので多めに積んで貰ったんですが……」

 航空機多過ぎなんよ。猫吊るしに普通より長い弾帯作ってもらったのに何回かリロードを挟んでやっとお帰り頂けたくらいいっぱい飛んでたからなぁ。あれ以上に敵が居るかもしれないと考えると、帰りの分が残らない可能性が出て来る。いや私は跳んで殴ればいいんだけども。

「一直線で行くのは良くなさそうだにゃ」

「どれくらいの精度で捕捉されてるのかにもよるクマ」

 道は幾つかあるため、今現在地を把握されていないのならぐるっと回って後ろから攻撃したりする事も出来なくは無さそうだと球磨さんは言う。夕雲さんの旦那さんの証言で通れなくなってる道が幾つか判明しているから、他の道も大丈夫だとは言い切れないのが不安要素だろう。

「でも、あまり時間を掛けても居られないですよね?」

 私達の目的は淡路島方面への敵援護を潰す事、なので慎重にやり過ぎて本隊側に悪影響が出るのはかなりよろしくないと言える。だからって短絡的に正面突撃じゃオラァ! となるような蛮族にはなれない訳なんだが。

 ただ個人的には、文句なくチートな転生者が二人居る部隊だから神の御加護任せで脳死突撃の方が効率はいいんじゃないかとは思わなくもない。調子に乗って死ぬタイプの転生者ムーブと言われればその通りなのだけど、拙速で人命が繋がる場面……かもしれないから色々と歯がゆい。楠木提督も転生者だと思うんだけど、私に比べると凄く慎重な人って気がする。聞き及ぶ評判は優秀、有能、勇敢と褒め称えるものばっかりだし、きっと作戦に穴とかも無いんだろうなぁ。

 だから私に単騎突撃させないのも何かしらの考えがあっての物だと思うんだ。もしかしたら、私一人じゃどうにもならない場面、なんてのがこの先に待っているのかもしれない。そんな相手が居たらチート転生者抜きでの攻略は無理臭いから、絶対に戦力を損なわないように徹底していたりとかするんだろう。たぶん。

 そんなこんなでなんやかんやと話し合いは進み、とりあえず今攻撃を受けてない以上は警戒しつつ前進、攻撃が来るようなら位置を把握され続けているという事なので、一旦身を隠してタゲ切りしようという事になった。

 あえて攻撃しない事で誘い込まれてたら? その時はプランBである。

 なお車両二つあるんだし二手に分かれて挟み撃ちとかどうよって案も出たけど、空探の精度とか戦力の薄い側――私の居ない方が集中攻撃されたら各個撃破になる可能性があるなどの理由で採用されなかった。さっきと同じだけの戦力展開されたら普通にキツいもんなぁ。

 

 

 

 周囲を警戒しつつ車に揺られる。車内の面子は特に変わっていないが、口数は今までよりもさらに少なくなっていた。元々そんな滅茶苦茶話してたりはしてなかったんだけども、それよりさらに減っていて皆の緊張度合いがよく分かる。私はと言えば普段と同じ事しか出来ない訳なので耳と目とレーダーで索敵に集中しつつ、さっきの戦いを振り返っていた。

 川内さんに指示されて建物を粉砕していた私なのだが、実はあの時ただただぶん殴っていたという訳ではない。あの基地は人間が建てたというには性根が捻じれ過ぎた構造をしてたが、確かに建造物ではあったのだ。だからここを壊せば一気に崩れる、みたいな場所が複数あって、私には無理だったけど猫吊るしはその位置を的確に見破れた。なので一方を殴り壊す合間にその位置に魚雷ぶん投げて爆破解体もしてたんだよね。

 尤もビルじゃないから一度に全部なんてのは無理な訳で、細かく複数回やってたから時間はかかってしまった。大きめの破片ぶん殴って砕いたりもしたけど、これはどこに格納庫があるのかよく分からなかったからである。深海棲艦の航空機ってサイズはラジコンくらいのものだから基地のどこからでも発進出来そうで怖いんだよあいつ等。

 おかげで援護が遅くなってしまったけれど、みんな優秀で誰もやられてなかったからセーフという事にしておきたい。跡地を見た別艦隊の人達にはちょっと遠巻きにされてた気がするけど、私が同じ立場でもそうするというか、補給は普通に受けてくれたからまぁ、うん。仕方ないね。

 私の暴力的な行為に対して宮里艦隊の仲間はまたやってるくらいの反応だったのだが、それはそれで訓練され過ぎじゃないだろうか。派手にやったなーって深雪に笑われたけど、巨大鯨の時ほどのインパクトは無かったそうな。良くも悪くもあれが基準になっちゃってるのか……

 それにしても誰一人敵の大群に襲われたり襲ったりしても文句一つ出ないのは凄いと思う。天龍さんとか私に投げられるの楽しそうだったからな、叢雲は微妙な顔してたが。川内さんは合わせて三回投げたけど飛び方がだんだん上手くなってって面白かったです。島風はなんか発射されながら自分で落下位置調整してたぞあいつ運動神経良すぎだろ。

 多数の雑魚を蹴散らしたあの戦い、私の見てた限りだと龍田さんが一番強かったように思う。私以外が地上でどれくらい戦えるのか不安だったんだけど、あれなら心配要らないなってくらい凄く凄かった。私なんてほぼチートさん任せで戦ってるだけなのに、龍田さんは業でズンバラリと行ってたからね。装甲がスパッと断ち切られてて、武術家の技術と艤装の能力が合わさるとああなるんだなぁって感動しちゃったよ。

 被弾したら痛いで済まないだろうに至近距離で戦える胆力も素晴らしい。二期の適性者って実戦配備からまだ二週間経ってないから新兵もいい所なはずなのに、あの人は歴戦の猛者みたいになってた。何やってた人なんだろう。

 吹雪や桃、文月も真っ当に戦えているようで、寄って斬るみたいなのは無理でも敵航空機を撃ち落とすのは問題無いようだった。じっくりは見てないけど、指示に従ってちゃんと必要な事をやり遂げているのだから悲観するような腕前じゃないだろうと思う。吹雪に関しては比較対象が私になっちゃうのが悲しい所か。チート転生者ってほんと理不尽。

 

 そんな事を考えつつ空に不審な影が無いか見張っていると、突然私の脳内艦これ編成画面――提督としての能力がイメージ化したんだと思われるそれが開かれた。これが勝手に出てくる時って碌な事になってないんだよなぁと意識を向けてみれば、そこには輝く中破の文字が。

「川内さん、飛鷹さんが中破したみたいです」

 私が物理無効化貫通能力を付与している相手は基本的に収集部隊や偵察部隊の面々なのだが、緊急時のために戦闘部隊にも三人だけ私が担当している人達が居る。それが飛鷹さん、川内さん、暁教官長だ。提督と艦娘の繋がりを羅針盤妖精さんが辿ってくれるため、必要なら私が駆けつけられるようにと三人は別々の部隊に振り分けられているのだが、それは今回も例外ではなく、川内さんは第三部隊、教官長は第二、飛鷹さんは第一に入って戦いへと臨んでいた。

「飛鷹が……? 吹雪、暁の方はどうなってる?」

「教官長は特に大きな被弾は無いようです」

 大まかな被害状況しか分からないし周囲の状況が見える訳じゃないから、実際どうなってるかまではさっぱりである。でも、空母で基本的に後方に居る飛鷹さんが攻撃を受けてるというのはあんまりいい予感はしなかった。本隊の戦況、あんまり良くないのかなぁ。

「やっぱり悠長にはやってられないか……」

 今壊しに向かっている基地からさっき見た量の援軍が本隊に殺到したらかなり不味いだろう、というのは第三部隊の共通認識である。こっちの方に引き付けられてるといいんだが、もしかしたら私達を無視してもう淡路島方面に意識を切り替えてる可能性もあるから、早く移動して出来るだけ時間を空けずに攻撃を始めたいところなのだ。

 車内では私と川内さんの会話の意味がよく分からなかった吹雪が、島風から私が提督でもあると説明を受けている。文月の事があるのでそういう人間も居るという事は知っていたようだが、私がそうだった事にはびっくりしていた。龍田さんはそうなんだ~と笑っていた。

 

 

 

 心なしか球磨さんもさらに速度を上げて、目的地までもう半分も過ぎたという頃。周囲には依然敵の気配はなく、並の人間なら集中の維持も辛くなってくる時分。またしても編成画面が開かれた。

 

「はっ?」

 

 声が出た。はとふぁの中間ぐらいの音が驚きと共に喉から飛び出してしまった。

 私は24人の艦娘に物理無効化貫通能力を付与している。その中で戦闘部隊は三名、その他は全員非戦闘部隊だ。その中で今日、淡路島まで一緒に行ったのは五人。戦闘部隊の三人と、後続車両で運転をしてくれている多摩さん。それともう一人。

「大和、小破?」

 戦艦大和。この日本で最初に造られた艤装であり、燃費が悪すぎる故にすぐに使われなくなったそれは、今回保険として淡路島まで輸送されていた。当然、よっぽどのことが無ければ使う事にはならないはずだった物だ。

 提督が貫通能力を送るのは艦娘ではなく艤装ごとだ。だから、たまたま砲撃やら爆撃やらが保管してある艤装に命中してしまった、というのも有り得る。艦娘本人は全然違う場所に居る可能性もある。いやねぇよ。っつーかそっちの方がヤベーよ。

 普通に考えて撃って撃たれてし合っているのだろう。使える当人が戦闘部隊水準の適性値を持っていないらしいから、そんな事まずやらないと思ってたんですけどね。本人も滅多な事ではやりませんよって今朝言ってたんだけどなぁ。

「宮里提督が戦ってる……?」

 宮里提督と私は互いに相手の艤装に無効化貫通能力を供給する間柄である。これはやっぱり救助なんかに使えるかもしれないというのが一番の理由になっている訳なのだが、根本的に宮里提督は艤装を使わないし、私は被弾したことが無いため全く機能する場面は存在しなかった。なのに、それが今回突然私にプレッシャーを掛けて来やがった。

 え、今第一部隊どうなってんの? 押し込まれてんの?? 淡路島の司令部まで??? あそこ長門さんとか加賀さんとか居るんだけど???? 最精鋭とか言われてる連中の半分以上第一に居るはずなんだけど?????

 私の呟きにみんなもぎょっとしたようで、島風はオウッと鳴いたし天龍さんもマジかよと目を見開いていた。川内さんがその場を鎮め私に詳細を尋ねてきたけれど、私にも分からないので分かりませんとしか答えようが無い。

 ただ、飛鷹さんもそうだけどガンガン被弾してるとかそういう事でなく、中破と小破からは特に変わっていないので一方的に不利な状況を押し付けられてるとかではない……といいなあと思います。飛鷹さんは引き上げたのかもしれない。この世界だと空母の人達も夜戦出来なくは無いけど不得意だし。

 しかし宮里提督、戦えてるのかなぁ。今朝の段階だと当たらなそうだったんだけど……感覚の修正は出来たんだろうか。

 

 そんな事があっても索敵を疎かにするわけにはいかないし、そもそもどうしようもないので周囲の警戒に注力する。気にはなるけど。滅茶苦茶気にはなるけど。私達の任務はあくまで基地の破壊なのだ。助けに行くとか行かないとかはそれが終わってからだ。

 しかし、私達の方には何にも来ないのである。空には偵察機とかそんなのすら飛んでない。野山を駆け回るイ級とかそういうのも居ない。しごく平和なもんである。

 そうして残っていた半分の行程も、私に伝わった情報以外は特にトラブルも起きずに殆どが消化され、敵の直掩機らしき物がレーダーに映った時にはもう敵航空基地は目と鼻の先にあった。

 

 

 

 見えた飛行物体を撃ち落とし、暫く。私達は車を降り、球磨さん多摩さんを残して道路から逸れて徒歩で基地へと向かっていた。直掩機を墜とした事で私達が直近まで到達した事はバレているはずで、実際龍驤さんが飛ばした偵察機は上空で追い回されたらしい。でも、何故だかさっぱり分からないのだが、私達に向けて爆撃機を寄越したりとかは一切行われていなかった。

 一応木々の多く生い茂る場所を選んで進んでいるから見失っただけって線もなくは無いのだけれど、それにしたって偵察機も来ないのはおかしくないだろうか。相手が何を考えてるのかさっぱり分からない。潰してきた無人基地とは違って普通に使われてはいると思う……というか、直掩機出てるから明らかに何かしら居るはずなのだ。それにさっきから、私の耳には何か金属質な異音が聞こえてきている。やっぱり稼働してるっぽい。

 私達の事は完全に無視して兵力を集中させているのだろうかと囁き合いつつ、隊は急ぎ足で進んで行く。基地の立地は結構平らな場所で、周囲には凹凸なんかがあんまり無い。なのである程度の距離まで来たらたぶん簡単に見つかってしまうだろう。規模的には四つ見つかった中で一番小さい基地だったという話なので、防衛用の砲台なんかはそこまで多くないと思われるのが救いか。

 視界の先には光が見える。深海棲艦はそんなに夜目が利かないからか、拠点にはちゃんと照明が設置されているのだ。木々の合間から漏れ出したその朧げな明かりを目指して進み、数歩進んでは周囲に目を配り、また前へと歩き出す。さほど長くは無い道筋の向こう、誘蛾灯のように部隊を導くそれが一際輝きを増した時、私達は見た。

 

 それは一見すれば死体置き場か何かに見えた。イ級、ロ級、ハ級、ニ級、その他様々な深海棲艦が組み合い、絡み合い、犇めき合いながら積み重なっている。個々の装甲と装甲の隙間は黒い金属のようなもので埋められ、互いに固着し、一塊となっていた。

 だがそれらは全て生きているのだろう。各々が身動きをしようとしているのか、そこかしこから流し込まれた金属が軋む不協和音が聞こえるのだ。耳障りな多数の異音は混ざり合い、誰かへの怨嗟の声として辺りに響いていた。

 深海棲艦達は不規則に、中心から無造作に積み上げられているようで、全形は歪な円錐形のような形になっている。壁面には重ねられた者達の物であろう砲塔が生え、天に地にと無作為な方向へと向けられていた。

 異形のピラミッドとでも呼ぶべきそれは三百メートルは向こうに建っているにもかかわらず、私達の視界一杯に広がっている。一面だけでも万をゆうに越える下級の深海棲艦とそれ以上の砲台が接着された巨大基地。深海棲艦特有の歯のようなものが並び口内が覗くその外壁は、凡そまともな神経をしていれば登ろうとは、そもそも近づこうとは思えないくらいに不快さが極まる邪悪な建築物であった。

 その頂には、探照灯で堂々と照らされ、鋭い視線で私達を見下ろす白い影があった。

 

『……オイテケ……』

 

 それは頭から四角い鈍角な二本の角を生やした少女の姿をしていた。首輪のような装飾とミトンのような手袋をして、ワンピースのような衣服を身に着ている。足元は基地であろう深海棲艦の塊に埋まっており、どうやらその子も一体となっているらしかった。

 北方棲姫と呼ばれる姫。やはり捕捉はされていたのだろう。基地型と言われ、本州に到達した際には多大な被害を生んだ少女が、オレンジ色に輝く瞳で私達を睥睨していた。

 

『フブキ……オイテケ……!』

 

 

 

 

 

「え、どっちの?」

 拡声でもされているのか、距離があるのに異常によく通るその声が耳に入って、つい、私は思った事を口に出してしまった。いや私だろうけど、どう考えても私だろうけども。

 私の声もまた拾われているのか、どうやら北方棲姫にまで届いたらしく、小首を傾げ、木の陰に隠れて自分を覗き見ている私達を観察し、私と吹雪の二人に気付くとあれっという顔になって軽く後ろを振り向いた。どうやら艤装の見分けが付くらしい。深海棲艦ってそうなのか、初めて知った。

「ド、ドッチダ……?」

「黒イ方ダヨー」

『クロイノダ……!!』

 後ろの誰かにこっそり聞いて、ばっとこちらに振り向くと私の方を指差した。これは拡声していなかったので私以外には聞こえてないと思う。奥に誰か居るのだろうが、こちらからでは見えない。大きくはないのだろう。というか、私も吹雪もほぼ隠れてるのによく見えたな。いや元から知ってたのか?

『フブキオイテ……カエレ……!』

 他は見逃してくれるつもりなのか北方棲姫はそんな事を言い出した。どうしてそんなに私にヘイト向いてるのかは分からない。いや敵倒しまくってるからだろうけども、だからってそんなの聞ける訳もなく。軽く川内さんとアイコンタクトすると、ハンドサインで簡潔な指示が飛んで来た。撃て。

 そりゃ当然の判断である。明らかにこの基地……基地かこれ? 分からないがともかく基地のような塊の統率者であろう姫級が上半身丸出しで居てくれているのだ。これで撃たないとかある訳ない。交渉の余地が有りそうにも見えるが、猫吊るしから聞かされたあいつらの本性を考えたらまず不可能だろうし、ともかく命令が出たからには撃っておこう。撃った。

 

 抜き打ちで放たれた二つの砲弾が北方棲姫に突き刺さる。軽い炸裂音がした。

 それだけだった。当たったはずの北方棲姫は健在だったし、基地の方も目に見えたダメージは受けていないように感じる。外してはいない。ちゃんと当たったのが見えていたから、絶対にそれは無いはずだ。

 通常私の砲撃を基地とリンクした姫級に当てればかなり大きなダメージになる。一撃は無理だったとしても基地の一部分は吹き飛んだり破損したりするのだが、今回の場合、全くそういう事が起きなかった。耐久力が高すぎるのか、それともそもそも効いていないのか。何故だと私が疑問に思う前に、ぎろりと小さな姫級がこちらを睨んだ。被害は受けていないように見えたが、撃たれた事は分かったようで、明らかに怒りを覚えた様子で私に向かって叫びを上げた。

『ヒキョウモノ……! チョウシニ、ノルナ……!』

 声に合わせて基地全体が振動を始め、北方棲姫の足元、超多数の深海棲艦達の落ち窪んだ眼窩が一斉に光を放つ。なんかヤバい。そう思った次の瞬間には、壁から突き出したバラバラの砲塔、万を超えるその全てから、一斉に弾が吐き出された。

 

 前に出て砲弾を叩き落とす。弾の数は数えようが無いが、そのほとんどはあらぬ方向へと飛んで行き、私達に直撃する物は百もない。問題なのはそれらが全て同一タイミングで飛んできているという事だ。素手で全部やるのはちょっと難しいだろう。だから、私は両足の発射管から計八発の魚雷を投げつけた。

 私の魚雷は爆発すると、小さな範囲ではあるがその中にある物を消滅させる。粉々に吹き飛ばしてるのか分解してるのかその辺りはよく分からないが、とにかく後には何も残らないのだ。基本的にそれ以外は割と普通の魚雷であるため、他の武装に比べると滅茶苦茶使い辛い。だから前は外していたんだけど、改二になった事でスロットに余裕が出来たからと持って来ていたのだ。今回はそれが役に立った。

 魚雷がそれぞれ別の砲弾に激突する。線で繋げば円になるよう投擲されたそれらは爆発を起こし、極短時間だが触れた物全てを飲み込む壁を私達の前に出現させた。それに巻き込まれ、迫っていた砲弾の殆どがこの世から去って行った。残ったのは僅かに三個、その内二つをつかみ取り、片方を残った一つに、もう片方を北方棲姫にぶん投げる。やっぱり炸裂音がしたが、怒りの視線がさらに強くなっただけで、損害は出していないようだった。後ろからは木々の薙ぎ倒される音が聞こえる。

「全員後退! 木の陰に隠れろ!」

 全員が川内さんの指示に従って動き出す。一斉砲撃の通った後には横倒しになった大木が転がり、それらは頼りないが遮蔽物となっていた。根元から砕けていたりはするものの、複数を挟めば砲撃もすぐには届かないだろう。掴んで分かったが威力は大したことが無いし。

 私も一旦まだ倒れていない物の後ろに身を隠す。近くには深雪が居て、低い姿勢で敵の塊の方を覗いていた。

「何だあれ、生きてんの!?」

「生きたまま建材にされてるみたいだよ」

 私の返答に深雪は不快そうに顔を顰めた。私だってあれはあんまり好みじゃない。というか、あんなの好きな奴居ないだろう。

 周囲を視れば全員無事なようで、すぐに撃てる態勢にはなっている。みんなちゃんと隠れているが、連射されると突破される心配があるんだよなぁ、所詮ただの木だし。と思ったが、敵はとりあえず追撃は仕掛けて来なかった。溜めが要る攻撃なのかもしれない。

 もう二発撃って、ついでに魚雷も投げつけてみたが怒りを買うだけで効果が見られないのを確認していると、川内さんが寄って来た。攻撃の事を聞かれ、当たったけど効かなかった事を報告する。

「吹雪、撃つのと殴るのってどっちが有効?」

「殴る方です」

 深雪からええ……と若干引いた声が漏れ聞こえて来た。仕方ないじゃん、単純な威力ならそっちの方が上なんだよ。射程が全然違うから普段は連装砲の方が有用なだけで。

 川内さんは一瞬だけ悩んだようだった。殴り倒せる可能性は有るが、効かない可能性も高い。私ならとりあえず殴ってから考えるけど、下手を打って私を失う訳にも行かないから難しい所なのだろう。何せこの基地破壊作戦、そもそもが私ありきなのだから。

 面子を見てもらえれば分かるのだが、この部隊は殆ど駆逐艦と軽巡洋艦で構成されている。敵基地へ攻撃に向かうのに、空母すら龍驤さん一人きりである。しかも夜なのもあってほぼ偵察要員だし。この人数、この編成で普通にやったら陸上の基地破壊とかかなりキツい。

 だからこの部隊には最初から私の超火力でぶっ潰す以外の選択肢って無いんだよね。勿論どうやってぶつけるのかは考えなきゃならんのだけれど、まず、私以外に私の攻撃性を再現出来ないから情報収集自体が難しいんだよなぁ。私の射撃や打撃が通用するのかを確認するために私が必要という酷い状態になっているのである。それでいて要求されてるのが援護潰しだから仕事は早い方が好ましいっていうね。

 なので常に即断即決が必要で、だからこそ思い切りのいい川内さんが部隊長に任命されたのだと私は思っている。

「よし吹雪、こっちの事はいい、ぶん殴って来い! たぶんあいつの攻撃近い方が当たらないよ!」

 敵の砲台、数は異様に多いもののどうやら動かす事が出来ないようなのだ。最初見た時と撃った時で全然変わってなかったし、今に至るまでも微動だにしていない。それに動かせるなら無駄に森林破壊とかしないだろう。深海棲艦だって弾は無限じゃないからね。環境破壊は気持ちいいゾイとか言い出す感じでもないし。

 少し残していくのに不安があったのだけど、行っていいというのなら是非もない。私は地面を蹴って飛び出した。

 

 一歩二歩と助走を付け、数百メートルを加速に使う。腕を思い切り振りかぶり、過去最大級に勢いを付けて目の前の壁へ高速の拳を突き入れた。普段通りでも壁一つくらいは余裕で突き抜け粉々に砕くその一撃は、しかし何の破壊も齎さない。手応えはある。深海棲艦を殴り壊した時にいつも感じる感覚が私の拳に返って来ている。だが少なくとも、見た目にそれは現れていなかった。

 正直、ピラミッド部分を叩いて済むなら精神的にも楽だったのだが、こうなってくるともう仕方なかった。絵面が酷いのであまり人様に見せたくないのだが、もう、やるしかなかったのだ。

 最下層のイ級を踏みつけ私は深海棲艦で出来た階段を駆け上がる。ついでに踏み壊す威力で蹴っておくが、やっぱり効果は無い。砲台は見立て通り動かないようで、障害もなく三歩で天辺へと辿り着いた。

 一番上は半径三メートルほどの空間が平らになっていて、その中央に北方棲姫が膝から下を埋めている。元が小さい姫なので、こうなると私の腰ほどもない。ああ、小さい。小さいなぁ、本当に。北方棲姫は何か言おうとしていた。でも、危ないからそれを聞いては居られないのだ。一人だったらちょっと考えたかもしれないけど、後ろに仲間が居るからさ。躊躇していられないので、私はその小さな頭に、己の脚を全力で叩き込んだ。

 一発。効果は無いようだ。二発。効果は無いようだ。三発。効果は無いようだ。オイオイオイ何だこいつタフとかそういう問題じゃない。私の体には艤装を通して物理攻撃無効化貫通能力が完璧に通っている。これで殴れば普通に深海棲艦にダメージが入るはずだというのに、目の前の姫級と来たら全く堪えた様子がない。

 四発五発と続けざまに蹴りを放ち、そのまま無停止の三十連打に繋げるが、敵は大きく仰け反る事すらしなかった。それどころか狂暴な笑みを浮かべて私に向かって強い瞳を向けて来る。

「イモウトノカタキ……! イノチ、オイテケ……!!」

 絞り出すような叫びと共に、北方棲姫の背後から複数の攻撃機が現れた。防いで話して登って蹴ってしている間に発艦されたらしい。成程、そっちを優先してたから追撃が無かったのか、と思いつつ、蹴る足を止めずに見えた奴らは機銃で撃ち落としてやった。

 しかし妹、妹ね。北方棲姫だし、たぶん北方棲妹の事だろうか。どうやら仇討ちのために私を狙っていたらしい。え、こいつらってそういう感傷あるの? 説明された出自的にそういうのとは無縁なのかと思ってたわ。意外。もしかしたら、この深海棲艦の山も私のために築いたのだろうか。でも、もしそうだったとしたら非常に申し訳ないのだが。

「心当たりが多過ぎてどの北方棲妹か分からないんだけど……」

「コロス!!」

 だってこの世界、同じ種類の姫級が複数居るんだもん。北方棲姫も北方棲妹も何回か倒してるしどれが目の前の個体の妹だったかなんて私には分からんのである。猫吊るしは頭上で煽りよると呆れた声を出した。

 返答が気に入らなかったのか――気に入る訳ないんだが――目の前の小さいのは白い顔を怒りに染めて自分の艤装を顕現させた。そのまま私に砲撃をかましつつ、体のそこかしこから球体の航空機を空へと発艦させる。それらは足元に広がる基地から飛び立った物と合流すると、私に牙を剥いた。

 気付けば四方八方を飛行物体に囲まれていた。どうやら低い位置を通って大回りで上空まで上がっていたらしい。私に向かって銃弾と爆弾を雨のように降らせ、個体によっては体当たりまで仕掛けて来る。北方棲姫自身が巻き込まれるのもお構いなしだ。どうやら自爆もダメージが通っていないらしく、私の避けた銃弾を全身に浴びつつ艤装からの砲撃も続行されていた。

 飛び交う敵機の位置は聴覚と視覚と肌感覚で把握出来る。なので避けるの自体は大した難易度じゃなかったが、どうしたって攻撃速度は鈍くなる。避けて蹴って、撃って避けて、避けて蹴って撃って。北方棲姫の周りをぐるぐる何回転もしてしまった。

 そうして回避している間にもガンガン発艦されている様で、周囲の飛行機は数を増して行く。私も北方棲姫に攻撃しながら撃ち落としてはいるのだが、やっぱり蹴りながらだとバランスが悪いのもあって効率がイマイチよろしくない。救いなのは憎い敵である私に攻撃を集中しているらしく、部隊のみんなは攻撃されていない事だ。本人たちもそれに気付いているのか、援護射撃をしてくれている。ただ敵の数が多過ぎるせいで上空から敵の数が減る気配はまるで無かった。

 砕けない北方棲姫と当たらない私。正統派タンクVS回避壁みたいな戦いになってしまい、どちらも決定打が無い。というか、私もう二百回は姫級の艤装でも余裕で崩壊するくらいの威力で蹴ってると思うのだけれど、本当にダメージ無いのかこの子。もしやあれか、ギミック解かないとダメージが行かないとかそういう類の奴か。え、そんなのある? ゲームじゃないんだよ?

 流石に一回退いた方がいいんじゃないかと頭の中に過ったが、しかしあちらの攻撃も当たらない以上、弾切れを待つという手段も取れなくはない。何せ私は肉弾戦が出来る訳だから、対空さえ諦めればどうにかなる。相手もそれを分かっていたのだろう。勝負を仕掛けてきたのは向こうからだった。

 北方棲姫が砲撃の手を止め、力を溜める様に拳をぎゅっと握りしめる。基地全体が鳴動し、一体化した深海棲艦達が昏い光を放った。先ほどよりも溜めは長く、それだけ力を注ぎ込んでいるように見えた。

 砲撃が来る! それは分かったが、私の立っている頂は平らで、砲台は設置されていない。まさか私じゃなくて部隊の皆への攻撃かと訝しんだその瞬間。私の足元、平坦だった山頂の全てが溶け落ち、密集した多数の砲口へと姿を変えた。

 

 

 

 

 

「大丈夫か吹雪!?」

「あー、うん、大丈夫っぽい」

 敵基地から少し離れた場所に着地した私を見て、深雪が駆け寄って来た。どうも最初に隠れた辺りまで跳んでしまったらしい。頭の上を確認すると猫吊るしも無事な様子で、私の頭の上で空を見上げて警戒態勢に入っている。立ち直り早いなぁ。

 敵は私の位置が分かっていないのか、すぐに追撃をしてくる感じではない。というか一蹴りでここまでぶっ飛んで来ちゃったから、倒せたのか倒せてないのかも判っていないんじゃないだろうか。

 それにしても罠とはやりおる。いや罠を警戒してなかった訳じゃないんだけど、足元が急にメタモルフォーゼするとか思わないだろ普通。融点の低い薄い板で誤魔化してたとかなんだろうか。普通に変形してたとしてもそれほど驚かないけども。

 北方棲姫を蹴りながら戦ってなかったらヤバかったかもしれない。足が相手の体に届いていたから、それを足場に強引に自分の体を弾き飛ばす事で、足元から撃ち出される砲弾を避けられたのだ。代わりにかなりぶっ飛んでしまったのだけど、見失わせる事にも繋がった様なので結果的には悪くないだろう。

「いや、どうするかなあれ。猫吊るし、攻撃通ってたと思う?」

「さっぱり分からん。まさか新しい無効化能力でも習得されたのかねぇ、対処法知らないぞそんなん」

 猫吊るしが知らなかったら誰も分からないんだよなぁ。とりあえず、ヘイトが私に向いているみたいだからここに残って避けまくってれば援護に向かわせないという目的は達成出来る。まぁ丸一日避け続けるくらいは出来ると思うのだけれど、問題は私は人間の生理現象を克服出来たりはしていないという事だ。端的に換言すると、私徹夜苦手なんだよ。戦いながら寝るとかは無いだろうけど、集中力が持つかどうかはよく分からん。

「いや、たぶん結構効いてるぜ」

 傍の深雪が、基地のある一点を指差しながら私に向かってはっきりとそう言った。

「あたし対空とかそんなに得意じゃないからさ、弱点とか無いか山の方をずっと見てたんだ」

 深雪は目がいい、らしい。私はほぼ一緒に戦ったことが無いからそこまで詳しく知らないんだけど、艤装を付けた時に出る身体能力強化の効果が感覚器に大きな影響を与えているとかで、集中していると水平線の彼方まで見えたりするらしいのだ。ただし集中しすぎてその一点以外が見えなくなるという大問題を抱えているのだそうだが。

「何回か自分でもやったからなんとなく分かるんだ。あいつ、吹雪が攻撃するたびに轟沈してるぜ」

 指先の示す場所には当然ごちゃごちゃと固められた深海棲艦の塊があった。だがよくよく見ればその中に、装甲が完全に砕け中身がはみ出し掛けている物が混ざっている。聞けば、それは私が上で戦っている最中、特に攻撃が当たった訳でもないのに急に圧壊したらしいのだ。

「艤装ってさ、壊れる時にダメージ吸ってくれるだろ? 艦娘も姫級もそれは一緒だから、たぶんそれを悪用してるんじゃないか?」

「融合してる内の一体にダメージ全部押し付けてるって事……?」

「……そうか、下級の深海棲艦を艤装に仕立てて高速で付け替えしてるのかアイツ」

 猫吊るしはそれで大体の絡繰りが理解出来たらしい。納得したと言わんばかりに握った拳と開いた手の平をぽんっと打ち鳴らした。

「つまり残機制だ! 一体が死んでダメージ持ってくから全体にはダメージが入ってないように見えてただけじゃねぇか!」

 数万体の深海棲艦の内、一体だけが艤装になり、それ以外は全て本体となる。

 攻撃を受ければその一体が全てを引き受け、死ぬ事で他へダメージを残さない。威力が大きすぎれば超過したダメージは本体へと向かうはずなのだが、そもそもその本体は数万体の深海棲艦で出来ていて、構造上全体に均等に分散されるため一体当たりのダメージは数万分の一。装甲を揺らす事すら出来なかったのだろう。死んだ直後にはまた別の一体が艤装となっていて、次の攻撃も耐えられると、そういう構造じゃないかと猫吊るしは言う。いやそれ倒すまでに何万回攻撃したらいいんですかね?

 あの深海棲艦の山、外観だけでも万を超える数が積み重なっているのである。中が空洞とか言わない限りは芯まで同じものが詰まってると考えられる訳なので、実際の数はもっともっと多いだろう。一秒に十回攻撃しても一時間以上掛かりそう。実際には撃たれるから回避しなきゃならんわけで、もっとレート低くなるし。

「攻撃全部避けながら地道に殴れと……?」

「流石に吹雪の艤装にも何万発も弾入ってないよなー」

「一応、今言った通りならどこ攻撃しても同じなのが救いかね」

 そんな訳で正しいのか検証する事になった。撃った。関係ないとこ壊れた。大体合ってるんじゃねって結論になった。

 

「あれさ、機銃で撃ちまくってどうにかできたりしないの?」

 こちらから砲撃したら流石に見つかってしまい、差し向けられた飛行物体を撃ち落としていた所、傍で山に向かって砲撃していた深雪にそんな事を問われた。

「吹雪の機銃がイ級とか倒せるなら行けると思うが……」

「私の機銃、レートはともかく威力は深雪のとそんな変わんないから無理じゃないかな」

 そっかーと深雪は残念そうにしながら砲弾を基地のようなものにぶつけ続けている。そうすると、たまにだが部品になっている深海棲艦が破損し、機能を停止する場合があった。つまり、深雪の攻撃も普通に効いているようなのだ。

「うん、やっぱりあいつ残機一個辺りの体力は高くない……っつーか、艤装にされてる下位連中の耐久そのまんまみたいだな」

 つまり、糞みたいな残機数を誇ってるだけで防御力とかは一切強化されてないのだあいつは。おそらく一番相性が良いのは金剛さんだろう、三式弾一発で数百の命を持って行けるはずだ。でもこの部隊にはそういう拡散する武装積んでる人居ないんだよなぁ。私が使える中なら一気に複数を投下する爆雷や魚雷が良いのかもしれないけど、今回ほとんど積んできてないし。

「吹雪に対空任せてあたし達で攻撃する?」

「弾が持たないと思う」

 機銃の弾もう三割も残ってないんだよね。改二でいっぱい積めるからってバカスカ撃ちすぎたわ。深雪と猫吊るしが敵の仕様大体解いてくれて凄く助かったのに、私がやらかしてる感がある。いやそれ以前に純粋に物資不足なのだ。輸送艦一個じゃ足りねーよ。敵の補給線断って戦闘機出せないようにして、こっちは完璧に物資供給しつつ戦艦で殴り続けるような大作戦立てなきゃ倒せない奴だろコイツ。イベボスじゃん。完全にイベントのギミックボスじゃん。そんなもん実装されてんのかよこの世界。

 可能性があるとしたらやっぱり私が殴る事だろう。結局そこに行きつくんだよね、弾が無いからしょうがないんだが艦娘の所業じゃない。いや艦娘である前にチート転生者なんだけどさぁ。

 どこを叩いても同じなら、わざわざ北方棲姫の所まで上がる事も無い。壁をぶん殴ってればいいだけだ。両手が使えるため効率も段違いだろう。ただ、結局避けながらになるのは変わらないから時間がどれだけかかるか知れたもんじゃない。空の連中は無限に見えるくらい際限なく湧いてくるし、もしかしたら先にあれを叩き落として回った方がいいのだろうか。一応飛行高度は跳べば届く程度ではあるんだが。

「あっ」

 ふと、私はそれに気が付いた。つい上げてしまった声に猫吊るしと深雪が気を引かれ、目線をこっちに持ってくる。

「あったわ、弾」

 深雪はマジで!? とびっくりして、猫吊るしは怪訝な顔になった。

 

 

 

 基地の真下まで助走をつけ、今度は殴らずに高く空へと跳び上がる。艦娘も深海棲艦も、航空機はそれほど高い所を飛んでいない。だから私が跳躍すれば余裕で足が届いてしまう。そういえば初めて墜とした時もこれやったなぁと思いつつ、その高度まで到達し、直近の一機を踏みつけて、私はさらに上昇した。

 実は航空機の真上は地上に比べれば割と安全である。深海棲艦の使っているそれらは海上の艦娘や陸上の人間を相手するのに調整された兵器であり、どれもこれも下か正面に向かって攻撃するための調整をされているからだ。もしそれらを踏みつけ足場にしてジャンプ出来るような赤か緑の帽子を被ったナイスヒゲみたいな御仁がいらっしゃったら是非お試しいただきたい。

 幾つか敵機を乗り継いで、やってきました基地上空。眼下に広がるそれはやっぱり大きく、航空写真でも撮ったら目立って仕方がないだろうなと思わされる。私達が見ていた側の反対にも深海棲艦畑は続いており、どうやら全壊するまではまだまだ余裕がありそうだった。だから自爆しながら戦えたんだなあの娘。

 だがその大きさは命取りだ。私だって初めてやる事なので命中率に関しては自信が無いのだが、流石にこれは外さない。適当にやったって余程じゃなければ当たるだろう。端に掠るだけでも本体に当てたのと同じになるみたいだし。

 頭の上の猫吊るしは深海棲艦がゴミのようだとなんだかテンションが上がっている。いや状況がおかし過ぎて面白くなっちゃったんだろうけどね。だって私今、深海棲艦の飛行機踏んではジャンプ踏んではジャンプって無限1upでもやってんのかって挙動してるしね。猫吊るし乗っけてここまでの奇行するの初めてだから仕方ないね。でも私に乗り続けるなら慣れて欲しい。

 それじゃあやるぞと声を掛けると、急にシリアスぶった声になった了解の返事が返って来る。いい返事になんとなく満足しつつ、私は艤装から全身に巡らせていた物理無効化貫通能力の供給を切った。

 宮里提督から空間を越えて送られてくるそれは艤装の中で停滞し、力の途絶えた私の体は深海棲艦にダメージを与えられなくなる。こうなればチート身体能力さんでもどうにもならないのは訓練所で艦娘の皆相手に実験済みだ。だけどそれが今は都合が良いのである。

 私は向かいから飛んで来た丸い敵機の銃撃を、足元の別の一体を蹴って上に躱すと、撃ってきたそいつをすれ違いざまに思いっきり、真下の基地に向かって蹴り飛ばした。

 

 深海棲艦は基本的に物理ダメージを受けないが、物理法則に従って押し出す事は出来る。

 これは自衛隊の皆さんが文字通り決死の作戦で証明してくれた事実である。彼らは艤装が建造され艦娘が配備されるまでの間、そうして戦車や装甲車、時には生身で海まで深海棲艦を押し戻していたのだ。

 たまに艦娘が出て来たから無駄死にだったとか、そんな声を聞くことがある。まぁ、普通に叩かれて消える程度の大きさではあるのだが、私としてはそういう事をいう人たちに大声で言いたい。

 今、現時点で最強の私が戦えてるのは、そういう人たちのおかげであると。

 私の足から射出された球状に耳が生えたような空飛ぶボールは、空気を裂き、音を追い越し、一切の損傷を受けないまま、北方棲姫の脳天に突き刺さった。

 

 完璧に命中した航空機は砕け散り、同時に端の方で一体のロ級が全壊するのが確認できた。よし行ける。深海棲艦で深海棲艦を殴ると攻撃が通るのはここまでの道中で確認していたのだが、航空機で基地をとなるとどうなのか分からなかったのだけれど、しっかりダメージになっているようだ。

 そうと分かれば最早躊躇う理由もない。私はまた一機を蹴り飛ばし、両の手で別の一機ずつを掴み取ると渾身の力で投げつける。三つの星が地へと駆け、基地へと着弾すると同時に三つの命を刈り取った。

 それを見届けながらまた他の機体を足場に宙を踊り、近くの奴を手当たり次第に投げつける。一発、五発、十五発。空から堕ちる幾筋もの流星は、全てが深海棲艦の一塊へと降り注ぎ、その一部を確実に削って行く。

 ああでもやっぱり、あんまり効率は良くないな。所詮私のリーチは中学生女子、高速で飛び回っても限度がある。敵は動くし射線上に入らない様に軌道も気を付けなきゃならないし。どうにも手足の届く範囲が狭すぎる。

 それを何か補えないかと艤装の中に積んでる物を思い出す。でも弾薬じゃあ意味が無い。使っても目減りしない物。それでいて遠くまで届くもの。何か有用なものは無いかと記憶を探り、そして思い出した。別に、武器である必要は無いじゃあないか。

 艤装は小型化した艦であるが為に、普段使わないのにデフォルトで備え付けられているパーツが幾つかある。人によっては外してしまっているが、私の艤装は改二になってから未調整故に、それはしっかり残っていた。訓練場でチート能力頼りの私に技術の大事さを教えてくれたそれは、明らかに間違った用途で振るわれようとしていた。

 足元の敵を蹴り、掴み、投げつつ私を狙う連中の位置を調整する。出来る限り一直線になるように、編隊がばらける事の無いように。条件をしっかり整えて、私は目の前に躍り出る。敵機が私を照準内に捉えた瞬間、渾身の力を込めて、私は鎖を振り下ろした。

 並んだ航空機が纏めて地上へ落ちて行く。勢いは素手でやるより無さそうだが、弱いの一匹倒すのには問題ないだけの威力はあるだろう。私はそのまま縦に回転すると、鎖でもって周囲の航空機を叩き落とし、その全てを砲弾へと変えた。十発、二十五発、五十発。射程が違うから効率は段違いだ。その分難易度が高いけど、それでもチート能力さんは何とかしてくれている。

 勢い余って足場にするための物を残しておくのを忘れたため、私の体は重力に従って落ち始めた。だがまだ慌てるような時間じゃない。丁度良く横を通ろうとしている機体が見えたため、それに向かって鎖を振るう。そして鎖の先端に繋がる錨をそいつに突き刺して、思い切り下へと叩き付ける事で自分の体を空へと再び引き上げた。

 私が振るっているのは艤装の錨だ。海底に付けなければいけないせいか、太さと大きさはともかく長さはかなりあるそれは、実は伸ばすと結構遠くまで届くのだ。これで罠を張られて負けたのが訓練場での私である。耐久力にハンデはあったけどこっちもチート能力ってハンデを付けてた状態なので、あれは実質同条件だったから完全に私の敗北である。異論は教官長本人の物も認めない。

 ただこの錨、普通に攻撃に使うと鎖が千切れる。当たり前だが武器ではないのである。壊れるの覚悟で使う事は出来るけども。しかしそこはチート転生者。チート能力さんを以ってすれば壊さずにさして重量の無い敵機を地面に叩き付けるくらいは出来てしまうのだ。ちなみに地上からだと流石に長さが足りないため空中での運用が前提になるのがネックである。

 周囲の敵機が全滅したため、他の一団の下へ跳んで行き、錨と鎖をぶん回す。撃たれる事は幾度もあれど、地上に居るより頻度は少なく、見切るに大して労もない。腕を振るい、脚を叩き付け、あまりに近ければ頭突きでもって周囲の全てを北方棲姫に向かって射出して行く。

 これでも殴った方がまだ効率は良いのだろうけれど、弾を使わずに安全が確保できるというのが何より大きい。深雪に伝えて貰う事で第三部隊の皆も基地への攻撃へと切り替えたためダメージはさらに加速した。

 この期に及んで北方棲姫は未だ私へのみ攻撃を続けている。余程恨みは深いらしい。私にとってはかなり都合のいい展開ではあるので文句は全く無いけど。そういえば、最初に相談していたらしき個体は影も形も見えないのだがどこへ行ってしまったのだろう。逃げたのか、それとも基地と融合しているのか。もしかしたら今もこちらを見ているのかもしれない、私の制服の色まで把握していたようだったし。

 また一団が消滅したので他の奴らに切り替える。航空機自体はまだまだ飛んできていて弾には困らないからどんどん喰らわせてあげようね。なんて幾つも叩き付け続けていたら、真下から砲弾が飛んで来た。丁度いいのでそれを蹴って自分の軌道を変更しておく。重量のある弾で助かった。

 

 敵は私を殺したくて仕方がないのか攻撃の手を緩める事はなかった。敵機は私をどうにか撃とうとしてくるし、北方棲姫本人も下から砲撃を続けている。一斉射撃はやって来なかったけど、それはたぶん砲塔が上を向いてるのが殆ど無かったからだろう。上空で跳ね続けるとか想定してなかったんだろうなぁ。北方棲姫の周囲、山頂で足場になってた奴らも真っ直ぐに直立し過ぎていて踏み入らなければ絶対に当たらないし。

 とはいえ、空の連中を引っ込めたとしても同じと言えば同じである。その場合は私が直接殴りに行くだけだし、DPSはそっちの方が高いのだ。ついでの話をするならば、この程度なら私の体力は回復速度の方が消耗速度より上である。だって下級一匹倒す程度の火力でいいから全力で振るってないんだもの。そりゃ疲れたりしないよ。殴るより繊細な作業だから神経はそこそこ使うけど。

 だからこの盤面、私が盛大にミスするか、北方棲姫が状況を打破する何かを持っていない限り、艦娘側の勝利になるのである。

 まぁ、時間がかかり過ぎて私の眠気とかが限界を迎える可能性は否定できないため勝ち確ではないんだけどね。とかく敵の物量がどれくらいあるのかが分からないのが痛い。航空機を全部墜としきればもう後は普通に殴って勝てると思うのだけど、建材にしてる奴らの数より少ないって事は無いような気がするんだよなぁ。

 

 打ち落として撃たれて蹴って投げて絡めて体当たりされて避けてと空中戦は長く続いた。機体が砲弾のような勢いで地上へ降り注ぐ度、基地に埋め込まれた深海棲艦達は軋みを上げ、僅かな破砕音と共にその命を散らしていく。

 その回数が数千を数え、空が白み、壁面にもひび割れ体液のようなものを内から溢れさせた個体が目立つようになった頃。北方棲姫は新しい航空機を発進させるのを止めた。

 それが格納している機体が切れたからなのか無意味と悟ったからなのか、正確には分からなかった。しかし、私を見つめる彼女の目には、怒り以外に諦観の光が宿っているのが見え、もしかしたら後者なのかと思わされた。

 私は突っ込んでくる残りの敵機を全て北方棲姫に投げつけると、空から落下を開始する。足場が無くなったので当然の結果だ。位置は基地直上の中央付近。当然天辺の罠の場所からは少し離れている。その罠の中心部に居る小さな深海棲艦の姫は、私に向かって唐突に、短く、率直な、自分の意思を口にした。

「シネ」

 音が聞こえた。それは基地の全体から響いて来た。出しているのは材料にされた全ての深海棲艦達。低く、呻くような、あらゆる物を呪う怨嗟の声。震えは大地を這い回り、私の表皮を撫で、辺りを悪意で満たして行った。

 北方棲姫の口角が吊り上がる。それは、その姿形に似合わない、邪悪を煮詰め顔の形に形成したような表情だった。

 悪寒が全身を走り抜ける。間違いなく私を殺すための何かが来ると理解出来た。

 瞬間、私の視界は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 音と認識すら出来ない衝撃波が辺りを襲った。木々は吹き飛び、大地は抉れ、基地から離れた場所から攻撃を続けていた艦娘達も地面ごと宙へと投げ出された。

 空には見事なキノコの雲。熱と瓦礫が周辺を埋め、攻撃を受けていなかった第三部隊の人員にも、ただ一瞬の破壊の嵐でそれぞれ大なり小なりの被害が出てしまっている。体が痛むのを堪え、起き上がった彼女達が見た物は、轟々と煙を上げ続ける爆発の中心部と、蹂躙しつくされた自分達以外の全てだった。

 自爆。つまりはそういう事なのだろう。戦い続けても埒が明かず負けが見えた北方棲姫は、生きた深海棲艦の多いうちに、その全てを破壊力へと変換して、たった一人を殺そうとしたのだ。

 万単位の深海棲艦が一斉に爆発を起こせばどうなるか。その答えが眼前の光景だ。距離のあった艦娘達ですら無事な者は居ない。衝撃は空間そのものがひしゃげるかのような威力で一帯を薙ぎ倒して行った。では、中心で戦っていた人間などはどうなったのか。

「伊吹……?」

 呟いたのは島風だった。位置が良かったのか部隊の中でも艤装の損傷が少なく、服も土埃にまみれてはいたが殆ど解れもない。それ故、一番に起き上がり、一番に状況を把握してしまった。基地の方向を見つめ、呆然と立ち尽くしている。

「何?」

 ので、後ろから返事をした。呼ばれたし。

 

 

 

 先に言っておくと私は無傷である。

 爆発の瞬間、魚雷を前方に射出して衝撃を軽減し、流れを見切って爆風から身を守ったのだ。私のチートボディと来たら、脱力と緊張を繰り返してそんな事までやってくれたのである。消力かよ。

 いや魚雷の功績が大きかったんだけどね、今度から絶対持ってくわ。使い辛いとか言ってすまんかった。どう考えても使い方間違ってるけど凄い有能な子だったわ。

 猫吊るしも無事で、そもそも半実体だからというのもあるだろうが、私と同じように受け流していたようだ。こいつも自分の体を完全に使いこなせるチートだからだろう。実は同じ大きさだったら私より格闘強かったりしない?

 私達は着地も無事に成功したのだけれど、空中に居たせいで滅茶苦茶遠くまで飛ばされて、走って戻って来たら丁度島さんが声を出したところに遭遇したという訳である。

 島風はオッ!?と驚いた鳴き声を上げると、こちらに振り向いて名状し難い表情になった。呆れてるのか喜んでるのか、よく分からんがとりあえず、無事を喜び合う前に言わなきゃならん事がある。

「前向いて島風、まだ終わってない!」

 私の言葉に驚きの声を上げつつ、島風は基地のあった方向を向いた。いや、まだ基地はあるのだ。遠くへ吹き飛ばされながらも、私のチート視力はそれを捉えていた。

「おいおい、あれで死んでないっての?」

 少し離れた所で無事に起き上がった川内さんがこちらに駆けて来る。中破くらいのダメージを受けているが、戦闘自体はまだ可能だろう。他にみんなも各々態勢を立て直し、全員でモクモクと上がる煙が収まるのを見つめていた。

「いえ、たぶん北方棲姫は死にました。ただ……」

 煙が収まりを見せ、空に広がった雲だけが残る。その真下には、黒い金属質の、深海棲艦の埋め込まれていない、普通の壁が見えた。

「おそらくあれ、小規模な基地の上に無理矢理積み上げたものだったんじゃないでしょうか」

 赤城さんの報告では、ここにあるのは比較的小さな施設であるはずだったのだ。なのに、私達が相手したものはかなりデカかった。おそらくは、発見してから数日中に突貫工事であのサイズになるまで組んだのだろう。だから砲塔の向きとか揃ってなかったのかもしれない。

 爆発の跡にはよく見るおかしな個所の無い、全く普通の敵基地が建っていた。基地の上部には姫級らしき影が動いており、それは自身の手に持った小さな別の深海棲艦――おそらくPT小鬼かなにかの死体を忌々し気に放り捨てていた。

「という事は、残ったアレさえ壊しちゃえばうちらの勝ちって事やな?」

 基地には無数のひびが入っており、どうやら無傷とは行かなかったように見える。味方の自爆ダメージで瀕死とかちょっと可哀想かもしれない。だがこちらとしてはかなり助かる。こっちもあんまり状況良くないし。

「って言っても、もうあれなら吹雪が撃って終わりじゃない、弾はまだあるでしょ?」

 叢雲の言う通りである。あれだけダメージが入っていて、さらに本体であろう姫級が見えているのでもう私が撃てば終わる。終わるんだけどね。

「それなんだけど、すみません、川内さん報告があります」

 どうした、と川内さんはこちらを向いた。そして、私の状態に初めて気が付いたようだった。

 私は無傷である。それは間違いない。何なら制服も破れたりはしていない。私は爆風を受け流して、全くダメージは受けなかったからだ。でも、受け流すのには力を抜いたり入れたり、柔軟性が必要だったんだよね。

 

「輸送艦吹雪改二、轟沈しました」

 

 私の背負った艤装はね、鉄の塊みたいなもんだからさ、柔軟性とか無かったんだよね……

 

 ぎょっとした視線が集まった。みんな事態を把握して、沈黙が下りる。どうすんだこれ、いや、別に私この状態でも殴りに行けるけど、その説明から始めなきゃいけないだろうか。

 基地の方からはあの糞餓鬼めと姫級の罵り声が微かに聞こえる。チート感覚さんのおかげとはいえだいぶ大声で叫んでいるらしい。キレ散らかしていらっしゃる。

 そんな周囲の沈黙を破ったのは、白い制服を着た司波艦隊の吹雪であった。

 

「あ、じゃあ私の艤装使いますか? 同じ吹雪……なんですよね? 一応」

 

 基地は壊滅した。

 

 

 




たぶんこの戦いで一番肝を冷やして胃や心臓を痛めたのは自分の出番が回って来た上突然吹雪が轟沈したのだけ伝わって来た宮里提督。


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後始末が大変だった

 縁起でもない夢を見た。

 かなり私の心情的によろしくない夢で、有り得ない話でも無さそうなのが質が悪い。全身が汗で熱を奪われ冷えていた。

 そんなものを見てしまったのはたぶん残暑で未だに続く熱気のせいで、熱源が私の背に密着しているせいでもある。なので昨晩から背中に張り付いて離れなかった島さんはとりあえず布団で簀巻きにしておいた。

 それにしても現実には宮里艦隊の皆は特に誰も怪我してないのに酷い夢を見てしまったものである。今回の四国奪還作戦、宮里艦隊に限らず全体に轟沈者は多く出たけど大怪我をした人は居なかったらしいのに。一番悪くて大量に海水飲んで病院送りだったそうな。いやかなり洒落にならんのだけどねそれも。最悪死ぬし。

 

 

 

 私達は基地を更地にした後、装甲車へ戻りそのまま北上した。置いて来た夕雲さんの旦那さんも心配だったのだが、本隊の戦況があまりよろしく無さそうだったので援軍に向かう事になったのだ。

 尤も、海岸線に出るギリギリで通信が回復し、基地及び変色海域の核の破壊に成功したと連絡が入ったため私達がそれ以上戦う事はなかったんだけど。

 川内さんがこちらも任務に成功した事と全員の安否を報告すると、通信機の先の宮里提督はあからさまに安堵した様子で、よくよく考えたら私達みんな小破以上になってるからそりゃあ心配しただろうなと罪悪感に駆られてしまった。私なんて轟沈してたしな。

 どうやら北方棲姫のだいばくはつは淡路島方面からも観測出来ていたようで、状況から見てそれに巻き込まれて部隊に大打撃が入ったと予想されていたらしい。正解である。まさかキノコ雲が上がる様な事態になるとは誰も想像していなかった訳で、味方どころか敵も驚いていたそうな。

 基地の破壊に成功しほぼほぼ戦いも終わったとか言うので、私達も一旦海に出て淡路島まで戻る事になった。逃げて来た連中を処理しつつ帰り着き、報告を済ませて一息ついていると、既に掃討戦のようなものが始まっているらしいとの話が私達の耳に飛び込んでくるではないか。顔を見合わせそれならば参加した方がいいのかと提督たちに指示を仰ぎに行った所、私達は全員検査の列にぶち込まれた。

 私is轟沈、吹雪は艤装を外したまま戦場に居たし、他の面々も記録に無い大爆発の爆心地付近にいたのだから当然の措置である。みんな元気は元気だったけど、体の中で何が起きてるか分からないから仕方ないだろう。まぁ特に誰もなんもなかったんだけど。

 猫吊るしは特に診断とかは受けないのでどうするのかなと思っていたら、通り掛かった明石さん(マッドでないが大概)に笑顔で手招かれ修理へと駆り出されて行った。よく働くなぁ。

 列には吹雪と同艦隊の子も居て、お互いに検査しなきゃいけないんだから無事じゃないけど命はあった事を喜び合っていた。ちなみにその子は私の姿を見て何かびっくりしていたものの、目は合わせてくれなかった。怖がられてるんだろうか。

 

 診察前に艤装を預けに行ったのだが、私が吹雪の艤装を借りていた事には大層驚かれた。北方棲姫の下から出て来た姫級……リコリス棲姫だったらしいそいつを撃ち殺すために使わせてもらったんだけど、結局泊地に帰り着くまでずっと私が背負う事になったんだよね。その方が道中の敵にも対応できるからって。

 吹雪は完全に無防備な状態になるから申し訳なかったんだけど、本人曰く、自分が戦うよりも安心だろうとの事だった。まぁ勿論そうなったからには絶対傷つけさせんつもりで働いたんだが、そもそも陸地ではもう敵と遭遇しなかったんだよね。海の奴らは慌てて逃げて来てたから発見も容易で即射殺だったから戦闘とも呼べないような状態だったし。

 戦地で命を守る鎧でもある艤装を外して私に預けてくれた吹雪だが、やっぱり恐怖感はあったようで、外した時はともかくその後装甲車に乗り込むときには恐怖感からか体が若干強張っているようだった。そりゃあ艤装を付けてれば直撃でも耐えられるような攻撃も、生身なら即死になるのだから当然だろう。

 でも、表には出さないように頑張っていて、暗い様子も見せず声は明るく笑顔でしっかり受け答えしていた。とても気立ての良い娘で、勇気も有り、絶対に犠牲にしてはいかん人だとかなり私のやる気は滾った。まぁまともに敵居なかったんだけども。

 

 検診が終わると待っていたのは四国への直行で、戻ってきた道をもう一度引き返して、夕雲さんの旦那さんを迎えに行く事になった。

 メンバーは予備の艤装――改二にはなってない奴――を装備した私と川内さんと島風、多摩さん、それに夕雲さんの五人。夕雲さんがどういう経緯で情報を得たのかは知らないけれど、自分の夫がそこに居ると知ったからには止まる事なんて当然出来なくて、楠木提督に同行を願い出たらしい。

 索敵要員はどの道必要だからと許可が出され、道中夕雲さんは凄い集中力で周囲の警戒に当たっていた。注意が散漫になるどころか真剣さが増していて、見てて痛々しいレベルだったんだけど、後でこっそり教えて貰った話だとそれでもここ数週間よりは遥かにマシな顔だったらしい。まだまだ夕雲さんも若いから仕方ないね。ちなみに敵は居なかった。

 旦那さんに待ってて貰っている建物に着くと、川内さんが中に声を掛け、暫くして本人がしっかりとした足取りで姿を現した。入り口で待っていた夕雲さんと旦那さんの目が合い、表情を失い、荷物を取り落とし、駆け、抱き合う。そこから先は私は見ていないのでよく知らない。索敵に集中したからな! どういう表情か分からんけど見られたいもんでもないだろうしね。

 

 多少は落ち着いた二人を車に乗せ、そのまままた淡路島の方へとんぼ返りする事になった。生き残っている人達の居場所とかの情報を貰いたいのと、本人が希少な提督適性持ちだから保護しなきゃいけないという理由からだ。

 旦那さんは夕雲さんが戦っているという事実に目を剥かんばかりに驚いていたが、自分も前線に出る立場ではないとはいえ、戦いに参加させられる可能性が高いと聞くと、それはむしろ望むところと決意を秘めた表情で夕雲さんと頷き合っていた。

 娘さんはご両親に預けているそうで、無事ではあるもののやはり栄養面などが心配だと言っていた。食糧問題はかなり深刻で、切り詰めつつどうにかしようとしていたらしいのだが、どうしたって争いになったりなんだりで困った事になっていたらしい。話じゃ傷害事件にまで発展するような事もあったそうな。

 ちなみにこの時点で既に艦娘護衛の下で自衛隊が上陸を始めており、敵襲などにも遭わなかったため、その日のうちに食料や医療の支援や本州への避難が始まっていたりする。なので後で聞いた所によると娘さんもちゃんと食べられるようになったとの事。

 この食料であるが、実は一般公募で雇用された適性値低めな給糧艦の皆さんが作成した艤装製のものだったりする。本州にも天然物は余裕って程溢れちゃいないからね、量産品を持ってくるしかない。むしろそれが出来るような超技術が無かったら助けに行って餓死させるとかいう事になりかねなかったから、本当に有難い物を伝えてくれたもんだと感謝しないといけないのだ。伝えた本人は私の頭の上で寝こけたりする奴だけど。

 ちなみに造るために鋼材やらボーキサイトやら燃料やらが要るため、私達は未だに資材にはあんまり余裕が無かったりする。いや、最初期よりは遥かに良いらしいけどね、第二期の人達も来たから暫くはまた不安定だろうけど。でも四国の霊的資源を回収出来ればかなり違うと思う。深海棲艦が奪っちゃってて残ってないかもだけど。

 

 最低限の身だしなみを整えた三雲さんを提督たちの下へと送り届けると、それで私達の仕事はお終いになった。自衛隊の人達の護衛は他の艦隊に任せる事になり、宮里艦隊と提艦隊、それに九曽神艦隊は全員帰投、睡眠を含めた休息を取るよう命じられた。

 というのも、私達、翌日から普通に出撃だったからである。

 提艦隊が日本海側、九曽神艦隊が瀬戸内海、そして我々宮里艦隊が太平洋側を解放に向かう事になるのだそうだ。九曽神艦隊には赤坂先生――赤城さんとベネディクタさん――ビスマルクさんが一時配属になるとの事で、やらかしが発覚したばかりな北上さんの目はハイライトがお亡くなりになっていた。

 提艦隊は戦闘部隊に昇格、と言っていいのか分からないがともかく適性値が基準を超えた人達がそのまま配属になるらしく、元々人数が多かったのにさらに規模が拡大するんだそうだ。提督本人が言っていたが、自衛隊から上がって来た人達と招集された人たちの折衝はなかなか大変らしい。

 たぶんそれ取り持てる提督お前くらいだから頑張れよって言ったら、げんなりしてたけど、最後には笑って頑張るって言っていた。おう刺されないように気を付けろよ。

 そして我らが宮里艦隊は、荷物を取りに一回鎮守府まで戻ったら、それで金剛さんと初雪がお別れとなる。これは最初から決まっていた事で、四国までの道のりを切り開くために来てもらったんだからまぁ仕方のない事なのだ。二人は提艦隊に戻って実力を発揮してもらう事になるんだが、二人とも凄い強いらしいので宮里艦隊はかなりの戦力低下を余儀なくされてしまう。だから第二期の適性者から三人が編入されたんですね。

 そこに加えてさらに追加のメンバーが今回仲間入りする事になったのである。

 

 

 

 

 

 そうして宮里艦隊は一旦大阪湾まで戻って来たのだ。当たり前だけど工廠の設備はこっちの方が整っているため、修理が捗るんだそうな。徹夜確定らしいけど。

 夕雲さんも残るような事はせず、こちらで次の出撃まで体を休める事にしていた。申告すれば旦那さんのそばに居させてもらえそうな雰囲気だったのだけど、本人がそこまで甘えるのを良しとしなかったのである。今まで凄ぅく心配していたけど、生きて無事でいるのが分かっていればそれで戦えるらしい。強いなぁ。

 シャワーを浴びて、連絡を受け準備してくれていた食事を頂きながら新人を歓迎し、別れる二人とも色々話し、ぐずる初雪を寝かしつけて部屋へ戻ると、連装砲ちゃん達がキューミューキャーとお出迎えしてくれてた。かわいい。癒されながらも睡魔がえらい勢いで殴り掛かって来てたので一撫でだけしてからベッドへ向かうと、一緒に戻って来た島風が何故か一緒にベッドイン。暑いから止めろと言ったけれど、無言のまま寝入ってしまったので諦めて私も眠りについた。

 

 そして朝。夢見が悪かったので島風を巻いて部屋を出た。既に若干暑いが爽やかな空気が気持ちいい。そのうち島風巻きから脱出した島さんも追いついて来るだろうとゆっくり食堂へ向かっていると、廊下で奇妙な物体に出くわした。

 それは癖の強い長い明るめの茶色い体毛を床一面に広げ、手足を無造作に放り出していた。全体には人間のような形状をしていたが、文明人というにはあまりに野性的過ぎる格好をしており、投げ出された乳房は下着を抜け出し、股にはかろうじて布が掛かっているのもののそれ以外には肌を隠すためのものは一切身に着けていない。全身は窓から差す朝日に照らされ、安らかで幸せそうな表情で涎を垂らしている。その白い肌の人物の、とても柔らかそうな肉体の上には、何故か響――いや響さんが乗っかっていた。

 響さんは現状の宮里艦隊で一番小さな体格で、それでもどこか大人びた表情から私と同年代くらいのちっちゃい子、みたいに見える人だ。では何故そんな彼女をさん付けするのかと言えば、響さんは成人女性だからである。昨日の新歓でもめっちゃ飲んでた。つーか艦娘、見た目と年齢が素で一致してない人多くないですかね……?

 その響さんが、一人のほぼ全裸な女性の胸に顔を埋めて廊下で無表情に眠りに落ちていた。何だこの状況。響さんの方は楽そうな普通の服を着ているから変な事してた訳じゃないと思うんだけど。

 変な事はしてなくても大変な状態になっている、響さんの布団にされているその女性は名前をポーラさんといい、今回大本営から宮里艦隊に配置転換された期待のニューフェイスである。パッと見では外人さんに見えるのだが、ハーフであり国籍とか本人の認識とかそういうのは完全に日本人なのだそうだ。

 淡路島で出会った時は本当に禁酒をしていたらしいのだが、昨日四国到達祝いと新人歓迎と送別会を纏めてやった際にお酒を解禁。私達が部屋に戻る時も酒飲みたちは楽しそうにやっていたので、まぁただ飲み過ぎただけだろう。

 でももしかしたら意識不明とかの不味い状態の可能性もあるかもしれないと思い近寄ってみると、とても酒臭い。うん、やっぱただの酔っぱらい二名だこれ。部屋に帰ろうとして辿り着く前に寝落ちしただけだわこの人たち。どうしようこれ、とりあえず起こした方がいいのだろうか。たぶん提督や長門さんに見つかったら流石に怒られると思うんだけど。いや怒られた方がいいのかこの場合?

 私がちょっとだけ悩んでいると、案の定後ろから身支度を最速で最低限整えた島風が抗議の声を上げながら追いついて来た。立ち止まっている私に一撃食らわせようとしたので軽めに避けてみた所、島風は私の先にある教育上非常に宜しくない光景を目の当たりにしてしまい、オウッと鳴いて硬直した。流石に意味不明だったらしい。しかし復活は早く、すぐに気を取り直すと倒れているというか眠っている二人の肩を揺すりに行った。

 島風は素早い。なんか最近さらに磨きが掛かって来ていて、足以外も色々と速くなっているのだが、今回もそれは例外ではなかった。素早く近寄って、高速で手を伸ばし、本人的には普通に二人を起こそうと揺さぶり始めた。

 問題だったのは、それが泥酔して廊下で夢の世界へと旅立った二人にはちょっと刺激が強すぎたって事だ。割とがっくんがっくん行って、まず目覚めたのは響さん。島風と目が合うと小さくおはようと呟いて、よろよろと立ち上がると傍の厠へ駆けこんで行った。セーフである。

 そして残されたもう一人も重い眼を開き、島風を、次いで私を見るとお芋の子ぉと呟いた。それ私じゃない。言ってそのままゆったりとした動作で立ち上がると、のんびりとした動作で辺りを見回し、トイレの印を見つけると笑顔でふらふらとそちらへ歩いて行った。そしてドアノブを捻る。開かない。

 この鎮守府のトイレは全部、普通の個室である。一応建物内に複数あるのだが、幾人も同時に催すとちょっと厄介な事になる構造をしているのだ。そして今、そこにあるものは響さんが使用している。鍵もきっちり掛けたようで、何度か捻られたがドアはびくともしなかった。

 ポーラさんが涙目で私達の方へと振り向く。来たばかりでここの構造はよく知らない彼女は余裕の表情で、でも全く余裕の無い顔色をしていた。すっと片手が顔の前に上げられる。綺麗な五本の指全てが立てられている。何かと思って注視すれば、ゆっくりと親指が折られ、立っている指は四本になった。次にはじわじわ小指が折り畳まれて行く。

 それを見て、私はようやく意図を察した。カウントダウンしてやがる!

 咄嗟に柔らかい体を抱き上げると、私は廊下を一足に駆け抜けた。靴も履かずに玄関を飛び出し、門を抜け、海に向かって全力で跳ぶ。埠頭に降り立つ私と、指折り数える余裕すら無くして目を回すポーラさん。その体をしっかり支えつつ、頭を海面に向けてやった。

 世界一汚い撒き餌が海に放たれ、ポーラさんは再度の禁酒を言い渡された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨット」

 軽い声を出して北方棲姫が自分の家へと降り立った。護衛棲水姫と丹陽にそれぞれ右手と左手を繋ぎ、三人で纏まってチート能力で玄関までワープしてきたのだ。既に戸籍を貰い、家の方も譲渡されているので胸を張って我が家と呼べる事に北方棲姫の心は躍った。

「オ帰リー」「ゴ飯ニスル?」「オ風呂ニスル?」「ソレトモ」「ア」「タ」「リ」「マ」「エ」「ダ」「ノクラッカー?」

 エプロンを身に付け、コンロの前に積み重なった自分自身に乗っかって鍋をかき混ぜていたPT小鬼群が家主の帰還に気付くと一斉に顔を向けて出迎えた。北方棲姫が家を出た時は一人だけだったのに、なんでか数が増えている。またどこかの海へ放流しないといけないじゃないか。北方棲姫はため息を吐きつつ、出迎えられるのは嫌ではなかったので笑顔でただいまと返した。どうやら食事の用意をしてくれていたらしく、辺りにはクリーミーな匂いが漂っている。

「最後は人数足りなかったんだね……」

「丹陽はお風呂入りたいです!」

 お邪魔しますと言って二人も家へと入って行く。わらわらと寄って来た何体かのPT小鬼がどうぞと言うので持った手荷物を預けると、ちいさな手でわっしょいわっしょいとそれらを客間まで運んで行った。別の個体はタオルを持ち、お背中お流ししますねーと言って、丹陽と二人で浴室へと消えて行く。

 下の騒ぎを聞きつけて、二階からはノートPCを小脇に抱えた戦艦レ級が姿を現した。よう、と軽く挨拶しながらリビングまで来ると、不仕付けにソファーへと寝転がって手元でパソコンを弄り始める。異様に速い指の動きに感心しながら、勝手に家に上がりこんでいた事には触れず、北方棲姫はレ級の後ろに回り込み画面を覗き込んだ。

「何ヤッテルノ?」

「エンコードノ調子見テルダケダナ……マァ終ワッタラ見セテヤルヨ」

「エンコ……って、動画編集でもやってるの……?」

 護衛棲水姫も向かいに座り、小鬼の淹れてくれたお茶をすする。食事の用意もしてくれている様で、台所ではわーわー言いながら複数のちっちゃな深海棲艦がひしめき合っていた。護衛棲水姫はほっこりした。

「今度他ノ国ノ連中ニ見セル資料ヲナ……ソレヨリ、オ前ラノ進捗ハドウナンダヨ」

「ん……とりあえず、今日の話し合いは一応纏まったよ……ボクは何もやってないけど……」

 少し落ち込んだ表情を見せる護衛棲水姫に、レ級は訝しげな顔になった。通訳の護衛棲水姫が何もしなくていい交渉相手に覚えがなかったのだ。多聞丸に理解出来る言語圏の相手でも、万が一を考えれば彼女を横に置いた方が間違いがない。

「オ前ラ今日ドコ行ッテキタンダ?」

「アメリカの、ヨークタウン姉妹のところ」

 あああそこか、とレ級も脳内から記憶を掬い上げた。確かに展開によっては必要が無いだろう。なにしろ、ヨークタウン級が三隻揃ったその姉妹は全員が転生者なのだから。

「公用語が英語だったから楠木提督は普通に喋れたし…………その、来た人みんな元日本人だからか話し合いも日本語だったんだよね……」

 アメリカには転生者が複数人存在している。それも点在しているのではなく、一つの共同体として同じ組織――というか、ある転生者を長とする会社に所属していた。今回の会談も所属している人間で都合の付いた者は全員が参加している。近隣諸国や深海棲艦からもこっそりと集めているために、二十を超える異界の魂の持ち主が一堂に会していた。

 そのトップがヨークタウンである。妹のエンタープライズとホーネットと共に妖怪猫パンチから艤装の製造技術を学び、自身の会社で艤装を量産し、政府に売りつける事で莫大な利益を得ている、並みいる富豪の中でも今最も勢いがあると目される女傑なのだ。アメリカで深海棲艦を初めて討伐せしめたのも彼女達であり、特に全米最強の艦娘であるエンタープライズの戦果は時間効率で言うなら吹雪すら上回っていた。

「マ、上手イ事協力ヲ取リ付ケタンナライインジャネーノ。出番無クテモ」

「そうなんだけど……やっぱりボク要るのかなぁって。決戦にも参加しない予定だし……」

 しない、と護衛棲水姫は言ったが、実の所は戦闘への参加を禁止されている。争いに全く適さない性格の上、チート能力も戦いに向いていないからだ。義務感から同行すると表明したのだが、多聞丸にはバッサリと切られてしまった。自分でも足を引っ張るような気はしていたのでわだかまり等は全く無い。

「デモアレ、決戦ッテ参加スル人ノ方ガ少ナイヨ。予定ダト……私、レ級、丹陽、PT小鬼、リベッチオ、ゴトランド、ヴェールヌイ、アークロイヤル、ウォースパイト、レーベ、エンタープライズ、ホーネット、ヲ級、駆逐古鬼、戦艦棲姫、戦艦棲姫、軽巡棲鬼、潜水新棲姫、五島沖海底姫……後ハマダ遭エテナイ宗谷クライデショ?」

 北方棲姫が指折り数えて名前を挙げて行く。南極で氷漬けになって仮死状態で生きているという宗谷を含め丁度二十人なので指は二周してまた開かれた。100人以上居るらしい転生者の内の1/5程度なので、参加しなくても恥ずかしい事じゃないと北方棲姫は言う。

「アト多聞丸チャント猫パンチト猫土下座ナ」

「あ、今日の話し合いだとヨークタウンさんも参加したいって……」

 レ級の補足で思い出し、護衛棲水姫が数刻前の出来事を話しだした。どうやら三姉妹全員で参戦したという箔が欲しいらしいのだ。明らかに転生者内での地位向上を狙っているようで、悪い人ではないのだが上昇志向が強く、護衛棲水姫はあまり得意な相手とは言い辛かった。

「ヨークタウンッテ全然戦闘向キノ能力ジャナカッタヨナ?」

「うん、『むきゅうに』『かせげる』んだって。性格に合ってるらしくって、お金の匂いがするからってボクをスカウトするくらい積極的な人で……ちょっと苦手……」

 護衛棲水姫の翻訳能力は戦闘以外には非常に有用な能力である。正しく使える人間と組めば巨万の富を得る一助に十分なり得るのだ。そういった戦闘能力以外が優秀な転生者は多く、全体の七割がそれに当たる。そのためヨークタウンは今のうちから転生者たちと出来得る限りの繋がりを持っておきたいのだと思われた。そういう人間だけを選んだのか転生者は人が良い者が多く、彼女自身が金持ちで善良という希少種ではあるので縁を結ぶ事自体は多聞丸も歓迎しているのだが、そのために、むしろ出陣に関しては難色を示している。

「楠木提督は自分が亡くなってからは転生者のまとめ役になって欲しいって期待してるみたいで、そこを突かれて押し切られちゃったから……」

 弱くはないが特別強くもない。仕方がないので改二確定チケットの内一枚をヨークタウンに使う事で戦力としてもそれなりのものにする事にした。なおチケットは買い取りである。日本の転生者勢の活動資金として有効活用される事となった。

「本当は後ろにしっかり構えてサポートに徹して貰いたかったらしいんだけどね……」

「……多聞丸チャン以外ハ早々死ナナイカラナ」

 転生者には男性が異常に少ない。というか、確認されている限り多聞丸一人である。世界設定の都合なのか、艦娘と提督の適性を持った女性か深海棲艦、あるいは妖精さんばかりなのだ。多聞丸だけが寿命を克服する方法を持っていないため、既にそれなりの歳な事もあり、五十年以内には亡くなるのだろうと転生者の間でも考えられていた。激務の割に元気なのですぐに死にそうだと思っている者はいなかったが。

 今は年長者で能力により望みも理解できる多聞丸が各地の転生者を取りまとめているのだが、いずれ確実に居なくなる。そのため深海棲艦を含む事があり、扱いの難しい転生者たちを引っ張って行く次のリーダーは確実に必要なのだ。元がただのオタク趣味の入った一般人ばかりであるため、それが出来る人間が限られるというのも大きい。あらゆる分野に点在する殺さなきゃ死なない天賦の才の持ち主達を野放しにされると、いろんな場所で問題が起きる。

 

「それで、えっとそうそう、能力、楠木提督やゴトランドさんの能力って凄く強いのに、なんでボクのはこう微妙なのかなって」

 自分の発言で微妙な空気になった気がしたので護衛棲水姫は無理矢理話題を軌道修正した。寿命関連は戦いが一段落した後で考えるべき問題なのだ。

「アア、多聞丸チャンニヨルト転生者ノチート能力ッテノハ全員強サハ同ジクライラシーゾ」

「えっ?」

「ソウナノ?」

 護衛棲水姫は北方棲姫の方を見つめてしまった。北方棲姫の能力は明らかに強い。距離も人数の制限もない無限回数のワープ能力。発動した際に直前に持っていた運動エネルギーを保持するか殺すかなんて調整も出来るおまけ付きだ。自分の能力と比較した場合、控えめに言ってもRとSSRくらいの格差があるように感じられたのだ。

「複雑ナ事ヤル能力ホド内部デ色々ヤルノニ処理能力持ッテカレテ、効果ガ小サイヨウニ見エルンダトサ」

「シンプルイズベスト的ナ?」

「簡単ナ」「ヤツホド」「強イ」

「そんなスタンドみたいな……」

 無生物とすら意思疎通が可能な護衛棲水姫の能力は、まず自我の無い相手にそれを定義する所から始まるようになっている。実は、人間と話すだけの現状ではかなり力を持て余してしまっているのである。本来ならば地球そのものと交渉出来るような強力な能力であったりするのだが。

「チート能力モ鍛エラレルラシイカラ、気長ニ頑張ッテミタライーンジャネ?」

 例えばレ級の場合だと、最初は早口言葉にまでは能力が適用されなかったのだが、練習の末に圧縮言語レベルにまで高速化する事に成功している。なお聞き取れる者は居ない。

「植物とでも話せばいいのかなぁ……」

「実ハ」「我々ガ」「増エルノモ」「修行ノ一環」「デス!!」

「増エナイ努力ヲシテ?」

 気が付けば、PT小鬼がソファーの周りにわらわらと涌いていた。台所の方でも相変わらずわちゃわちゃしているので、余った連中が移動してきたのだろうと推察できる。そのうち全海域でPT小鬼が見られるようになるかもしれない。北方棲姫は嘆息した。

 

「楠木提督モ意味無クベイヲ連レテッタ訳ジャナイダロウシ、顔合ワセサセテオキタカッタンジャナイノ?」

「ドーダカ。アイツ変ナトコデガバルカラナァ……今回ノ四国戦デモ一人片手吹ッ飛ンデゴトランドガ仕事スル事ニナッタシ」

 今回も連れてってから気付いたんじゃね? 護衛棲水姫と楠木提督の両方へのフォローを入れようとする北方棲姫に、レ級の無情な見解が突き刺さった。

「……一人で済んでるのって凄いんじゃ……?」

「アイツ自身ガ犠牲0デ行クッツッタカラ一人デモアウトダ」

「厳しいですね、秘書艦だけあります!」

 疑問を呈する護衛棲水姫と厳しい顔つきでそれに返すレ級の間に、丹陽の声が割り込んだ。風呂から上がり、タオルを体に巻き付けた状態で、何故かほかほかと湯気を立てるPT小鬼の一体を胸に抱いている。髪も乱雑に拭き取っただけなのか、水が滴りかけていた。

「早カッタネ? 暖マレタ?」

「いえそれが、この子を湯船に浮かべておいたら茹っちゃいまして」

 丹陽の腕の中でぐだっとしている小鬼をそっとソファーに横たえると、別のPT小鬼たちがその個体に群がり、脈を取ったり額を合わせて異形部分がかち合ったりとちょっとした騒ぎになってしまった。

「ユデダコー」「ナンテ事ダ」「モウ助カラナイゾ♥」「死亡確認!」「連レヲ起コサナイデヤッテクレ」

「タコジャネーダロ……アトオレハ秘書艦ジャナイ」

 余裕がありそうなのでたぶんのぼせただけだろうと全員が判断出来た。その個体は他の個体によって冷房のよく当たる場所に安置され、さらに他の個体がひえぴたーと低い体温を活かして冷やしに行ったため心配もないだろう。そもそも一体が死亡したところで特に影響のない連中である事だし。

 

 

 

 なんだかんだで丹陽もリビングにやって来たため皆で食事を頂き、食器をすっかり片付けてから北方棲姫はソファーに腰を下ろした。隣ではレ級がノートPCを覗いており、どうやらエンコードは終わったらしく、何かの書類をやっつけているようだった。タイピングがとても速い。

「ソウイエバサッキノ動画ッテナンノヤツダッタノ?」

「アレハ四国デ小鬼ガ撮ッテキタヤツダナ」

 吹雪の戦闘記録、とレ級が端的な説明をすると、北方棲姫は興味有り気に身を乗り出した。最初に存在を確認した転生者だったからか、北方棲姫は吹雪の事が大いに気になっているのである。護衛棲水姫もそういえば実際に見た事はなかったと言いながら二人の方へ寄って来た。

「丹陽も戦闘力の高い人がどんな戦い方をしてるのか気になります!」

「参考ニハナラント思ウゾ」

 なぁ? とレ級がPT小鬼に目配せすると、そだねーと小鬼もうんうん頷いた。

 

 

 

「コレドウナッテルノ?」

 五人で動画を見る。並んで見ようと思うと狭いので、護衛棲水姫の膝に北方棲姫が座り、さらにその北方棲姫にPT小鬼が抱えられている。護衛棲水姫は可愛らしい様子に身悶えした。

 動画は複数の物を切り貼りしたようになっていて、どうやら殆どが定点カメラの映像のように見える。ただ、その設置個所が異常であり、吹雪達は道なき木々の中を進んでいたりするのに完璧に姿を捉えられており、明らかに通る場所に先回りして仕掛けているのだろうと思われるのだ。

「多聞丸案件」

「成程」

「チナミニコレ」「木ヲクリヌイテ」「中ニ仕込ンダンダヨ」「普通ダト」「吹雪ニバレルカラネ」

 別に道中の映像までは必要無かったのだが、PT小鬼は無駄に凝り性だった。おかげで深海棲艦の列に混ざって行進し、戦闘に巻き込まれて自身が龍田に突き殺される瞬間なんかも映像に入っていたりする。しかし無駄にグロシーンを増やす意味は無かったので、そういうシーンだけはレ級の手によって別に分けられ他の転生者にお届けされる事になった。複数のカメラにそんなデータが跨っているせいで、回収も編集も担当していた彼女は無駄に面倒な思いを味わわされていたりする。

「工作してるっていうのは知ってたけど……そんな事やってたの?」

「基本ハ」「教唆ト」「手引キ」「無線モヤッタヨ」「自分ヲ木ニ埋メタリ」「見ツカラナイカハラハラダッタネ」

 PT小鬼は深海棲艦の基地に吹雪達の隊の進行状況を逐一報告し、いいタイミングで警戒させ、航空機を吹雪の所へ向かわせるよう仕向ける事で淡路島への援軍を防いでいたりする。第三部隊は何故動向が把握されているのか疑問に思っていたようだったが、蓋を開ければ簡単で、各所に埋められたPT小鬼にずっと見張られていたというだけなのである。一体が見た物を他の全員で共有出来るPT小鬼群ならではの荒業だ。実の所、呼吸の一つでもしていたなら吹雪に発見されていただろう事は間違いなく、深海棲艦の非生命体的な特性のおかげで命拾いし続けていた。殺されて何が変わるでもないというのは置いておいて。

 部隊の413体切り(内転生者PT小鬼6体)を同じ艦娘である丹陽が賞賛し、吹雪が一つ目の基地を更地にする姿に護衛棲水姫が恐怖心を覚え、そして映像は問題の二つ目の基地のシーンへと到達した。

 

「ネエコレ私ドウイウ顔デ見タライイノ?」

「笑ウシカ」「ナイト思ウヨ」

 自分と同じ顔が吹雪に蹴られ続ける映像である。勿論別人である事は分かっているし、完全に敵なのだから仕方ないのだろうが、北方棲姫は凄く微妙な気持ちになった。心なしか自分の体も痛い気がする。

 映像はかなりの遠方からズームで撮られていた。そのため吹雪が空中に上がった時もちゃんと捉えられていたのだが、そこから先の戦い方などは完全に戦闘力に関連しないチートの持ち主たちには意味不明な領域だった。いつから自分達は少年誌のインフレバトル漫画世界に飲み込まれてしまったのかと冷や汗をかくしかない。

 北方棲姫が自爆した後も中々酷い物だった。遠方から写していたカメラですら映像が歪むほどの規模の威力だったというのに、ほぼ中心で爆風を受けた吹雪は無傷だったのだから。艤装は壊れていたが、そちらの方が正常だとしか言いようがなかった。

 そしておまけのようにリコリス棲姫が狙撃で倒され動画は幕を閉じた。PT小鬼の補足によると、リコリス棲姫が直接持って盾にしていたのも転生者小鬼の内の一体だったらしい。割とどうでもよかった。

 

 

 

 動画が終わり、それを見た転生者達は各々その内容を飲み込んだ。正直胃もたれがしそうであったが、とりあえず頼もしい事は頼もしいのだから良い事なのだろう。立場的には味方であるのだし。

「凄いなぁ……リベッチオやエンタープライズさんも同格なら、もう深海棲艦に負ける事はないんじゃない……?」

 転生者には複数の異常な戦闘力を誇る者が居る。数は少ないが、一人一人が吹雪と同水準であるのなら、それらが集まっても勝てない相手というのはちょっと考えづらいと護衛棲水姫には思えた。もし居たら転生者無しのこの世界は完全に詰んでいるだろうし。

「それ酷い風評被害だからね?」

 気が付けば、PCを覗き込んでいた五人の後ろに深海浮輪を抱きかかえたリベッチオが立っていた。護衛棲水姫の発言にジトっとした目で反論し、不服であると頬を膨らませている。

「アレ、リベッチオ居タノ?」

「コイツ編集中ノ動画見テヘソ曲ゲテズット二階デフテ寝シテタゾ」

「だって絶対比べられるんだもん! リベはあんなの出来ませんっ!!」

 飛行機を足場にしての空中戦。いくら艦娘として強いリベッチオであっても真似は不可能であった。艤装さえ背負っていれば身体能力もかなりの上昇を見せるリベッチオなのだが、あれはなんかもうそういう問題ではなかったのだ。

「デモオ前、アノ北方棲姫倒セタダロ?」

「倒せても接近戦も空中戦もしないよ!?」

「あ、倒せることは倒せるんだ……」

 そうなんですか!? と丹陽が尊敬の目をリベッチオに向けた。そのキラキラした目線に向かってふふんと無い胸を張ると、リベッチオは得意げに口元を歪める。吹雪のような無茶苦茶な真似は出来ずとも、素の実力には自信があるのだ。

「リベの新しい艤装とゲザの力を合わせたら、あんなのすぐ燃やし尽くせちゃうんだから!」

「ヨッ!」「改二三番乗リ!」「巨砲オ化ケ!」「名誉戦艦!」「44口径積める駆逐艦トハイッタイ……」

 Libeccio nuovo。それがゴトランドにチケットを譲られる形で改二へと移行したリベッチオの、新しい艤装に付けられた名前である。

 吹雪のそれとは違い全体に性能が大きく向上しているそれは、現状存在する中では最も戦闘向けに調整された改二の艤装だった。特徴として少数ではあるが大口径の砲台を運用できるという駆逐艦をかなり逸脱した性質を持っていて、三式弾や徹甲弾も使用が可能となっている。

 そこに妖怪猫土下座と呼ばれる転生者を乗せて完成するのが、全転生者中純粋な艦娘としては最強の駆逐艦リベッチオだ。肉弾戦などは不得手だが、速度も殲滅力も超高レベルに纏まっている。だが他の転生者と戦うと相性負けするのが目に見えているのが本人的には不満だった。

「ソウイエバ、ゲザ……猫土下座ハ?」

「ゲザはいつも通り、艤装に籠って出て来ないよ。猫吊るしって子みたいに頭に乗られるよりはずっといいけどね」

 猫土下座は引き篭もりの妖精さんである。前世も今世も引き篭もりである。妖精さんに転生したらお腹も特に空かなくなったので喜んで引き篭もっている。リベッチオの艤装に乗り込み能力を行使する事で役には立っているので文句を言われる筋合いも無いと心穏やかに引き篭もっている。リベッチオとは上手くやれている。今後も引き篭もる予定なのでリベッチオとは永い付き合いになるのだが、それは別の話である。

 

「マァリベッチオノ事ハ置イトイテ、ダ」

「えっ酷」

「トニカクコレデ超特殊個体ノ内2体ヲ一気ニ始末出来タ訳ダ」

 今回の四国での戦いは、その二体を利用して事を有利に運ぶのが転生者達の目標になっていた。他の深海棲艦とは隔絶した異能を持ち、普通に戦えば少なくない犠牲を強いられるそれらは何故か日本近海にばかり存在している。

 この世界にはその異常な性質を持った深海棲艦というのが全部で七体存在する。多聞丸をして超特殊と言わしめるそれらは、さもありなん、転生者達をこの世界に送り込んだ自称魔法使いによってそうあれかしと創造された特別な個体たちであった。

 人間の中に調整された、艦娘になるべくしてなる者が居る様に、深海棲艦にもそのライバルとして立ちはだかる者が存在していたのだ。

 有体に言えばボスモンスターである。

「えっと、あの自爆した北方棲姫がそうなのは判ったんですけど、もう一体はどれだったんですか?」

 四国戦の詳細をちゃんとは聞かされていない丹陽が小さく手を上げて発言した。動画の中に他に強そうなのは居なかった気がしたのだ。それにレ級は頷くと、動画の終わりの方へシークバーを動かし、映っている死に掛けのリコリス棲姫を指差した。

「コイツ」

「へっ?」

 丹陽はきょとんとした。動画をもう一度再生し、死に様をもう一度よく見てみるが、どうしても吹雪に一蹴されているようにしか見えなかった。

「ゴ説明シヨウ!!」

 画面を見つめる丹陽とテーブルの間から、にゅっとPT小鬼が顔を出す。今まで居なかったので増えたものだと思われる。

「実ハ、吹雪ノ攻撃ヲ防イデイタダメージ移シ替エ能力、アレハ北方棲姫ノジャナクテ、コッチノリコリス棲姫ノダッタンダヨ!!」『ナ、ナンダッテー!?』

 必死そうな表情で訴えるPT小鬼に、今まで居なかった周囲の小鬼が声を合わせて定型的な反応を返した。言ってる内容は普通の説明なのだが、何故か一々ボケが入り、その度に数も増える。今何人くらい居るんだろう。そう思いつつ、北方棲姫はとりあえず直近の小鬼を近海へとワープさせた。自分を含まないワープ能力の行使、その初めての成功であった。

「アー……ツマリダナ、『憤怒』ノ北方棲姫ト『嫉妬』ノリコリス棲姫ハオ互イ融合スル事デ能力ヲ共有シテタンダヨ」

 超特殊個体は人間が越えるべき壁である事と、七つの大きな負の感情を力の根源とする事から、七つの大罪になぞらえて呼ばれている。多聞丸の趣味である。そういう類のオタクだったのである。察してあげて欲しい。

 『憤怒』は怒りに任せて他の深海棲艦と融合し、己の破壊力に変える能力を持っている。即ち、最後に見せた自爆や無尽蔵に見えた艦載機などがその能力の一端である。あれでも意図的に準備するための時間を削られたため、砲台などは不完全な状態であった。

 『嫉妬』は自分より優れたものが許せない。他の全てを自分の艤装に貶める事を至上の喜びとし、己の負うべき負担の全てをその相手に押し付ける能力を持っている。弱い深海棲艦を引き寄せる能力も有しており、基地があれだけ肥大化したのもそれが原因である。ただし自分以上の能力の者は弱りでもしていない限り本来は取り込めない。

 今回の場合、PT小鬼に唆された北方棲姫が自らリコリス棲姫に協力を願い入れ、リコリス側も愉悦のままにこれを承諾。リコリス棲姫を本体、本来融合できない同格の北方棲姫を艤装としての歪な協力態勢が敷かれた結果があの惨状である。結果的には北方棲姫が勝手に自爆を敢行したため、リコリス棲姫はまともな戦闘も行えずに討ち取られる事となった。

「二乗デ」「強クナル」「シ」「ドウカト思ッタンダケド」「四国中ノ」「下級深海棲艦」「一掃スル」「チャ~ンス」「ダッタカラネー」「吹雪強イワー」「拍手ー」「喝采!」

 集まったPT小鬼がわーわーぱちぱちと手を叩き始める。愛らしいその様子に護衛棲水姫は顔を綻ばせた。

「自衛隊の上陸作戦がスムーズに行くようにって事?」

「アア、モウアソコ碌ニザコハ残ッテネーカラナ。新米艦隊デモ楽ニ護衛出来ルッテ訳ダ」

 そして姫級や鬼級などの強力な個体は宮里艦隊や九曽神艦隊に任せられる事になる。海からは変わらず敵が押し寄せるので、宮里艦隊の負担はあまり軽くならなかったりするが、それはこの場の誰も知る由が無かった。

「マ、ソンナ訳デ。残リノ超特殊個体ハ三体ダナ」

「あれ……四体じゃなかったっけ。前に吹雪の倒した『強欲』以外に何かあった……?」

「リベが昨日、沖縄で『怠惰』をやっつけて来たんだよ!」

 取り巻きはともかく本人は何もして来なかったとリベッチオは言う。『怠惰』はその名の通り、攻撃すらしなかったのである。代わりに周囲の深海棲艦を強化し続けるという能力を有しており、放置すればフラッグシップしか居ない海域が誕生したりする厄介極まりない相手であった。

 『強欲』は以前に均されたクジラ、太平洋深海棲姫の事だ。資材の許す限り無限に己の艤装を大きく出来る性質を持っており、こちらも放置すれば取り返しのつかない事になりかねない難物だったのだが、レ級によって過剰な養分を与えられ、その喜びの内に吹雪に全てを粉砕されている。最期の一瞬までは最も幸福な深海棲艦だったかもしれない。

「ジャア、残リハ『傲慢』『暴食』『色欲』?」

 北方棲姫の質問にレ級は首肯した。異常なのがそれらであるというだけで、ただそれらを倒しても戦いが終わる訳ではない。だが、転生者達にはそれが一つの区切りになると考えられていた。

「えっと、『色欲』は決戦の時に倒すんですよね?」

「『暴食』ハ」「マタ」「吹雪任セ」「ノ」「人任セー」「ホンマ酷イ話ヤデ」

 吹雪だけでボスクラスを四体倒す計算になる。あまりにも負担が大きいように感じて、北方棲姫は眉を顰めた。苦労を押し付けてしまうのはあまり良い事には感じられない性分なのだ。

「ネエ、レ級、ヤッパリ吹雪モココニ呼ンジャ駄目?」

 作戦が変えられないにしても、やっぱり苦労を分かち合いたい。なんだか仲間外れにしている様で、北方棲姫には今の関係はあんまり気持ちが良くなかった。

 対するレ級も望んでそうしている訳ではない。そのため正直に言えばこちらに引き込んでしまいたい気持ちは大きかった。この中で一番長く吹雪の動向を見守って来たのは、他ならぬレ級なのだから。

「超特殊連中ヲ全員片付ケタラ、吹雪ニモ全部話スカラ……ソレマデ待ッテクレ、ダソウダ」

 多聞丸にはそう言われている。それが嘘だった場合、レ級は酷い折檻をする予定を立てていた。いくら多聞丸が予知しようが、レ級の超速からは逃れられないのである。

「じゃあ、頑張って残りの三体倒しましょう!」

「一体は吹雪任せなんだってば」

「それに決戦ももうちょっと先だしね……北海道の後でしょ……?」

「ダナ、ソレマデハ条件ガ揃ワナイッテヨ」

 ただ倒すだけでは意味が薄いのだ。四国のように出来るだけ人類側への利益が大きくなるような状態での討伐が望ましかった。勿論、ガバり方次第では早まったり遅くなったりもするのだろうが。

「それじゃあ、ええと『傲慢』! 『傲慢』は出来るだけ早く倒しに行きましょう!」

「悪イガソレモ無理ダナ」

 何でですか!? と丹陽が元気な反応を返す。北方棲姫も護衛棲水姫も『傲慢』についてはよく知らなかったので、揃って首を傾げた。

「『傲慢』モ工作シテカラ倒スノ?」

「イヤ、ソレ以前ノ問題ダナ」

 『傲慢』はそもそも転生者には倒す事が出来ない。少なくともレ級が多聞丸から聞いた話ではそういう事になっていた。

「えっ……じゃあどうするの? 放置?」

 流石にそれは無いとレ級は首を振った。超特殊個体は対処を怠ると大きな被害を撒き散らすのだ。『傲慢』もそれは例外ではない。

「多聞丸チャンモソコハ考エテ事ヲ進メテタトカデナ。出来ルダケ成功率ガ高クナルヨウニ調整シテルンダトヨ」

 どうにかしないといけないと予知から読み取れているのだから、当然対策は講じている。その策謀は、二十年前には既に始まっていたという。余計な事をすれば悪い方へ向かう可能性も高く、これに関しては他の転生者達は結果が出るのを待つしかなかった。

「マ、精々上手クイクヨーニ祈ットクカネ」

「祈るって誰に?」

「ソリャオ前、例ノ神様ニダロ」

 この世界の神。と言われて全員の脳裏に浮かぶのは例の自称魔法使いだ。皆その娘に転生させられているし、一部はこの世界がその娘によって創られたと直接説明もされている。だが祈るのはどうだろう。

「諸悪ノ根源ジャン……」

「絶対御利益無いよアイツ」

「助けるつもりがあったらもっと早くやってるよね……」

「見テ」「楽シム」「ッテ言ッテタ」「愉悦部員カナ?」

「悪趣味ですね!」

「祟ラレテモ知ラネーゾオ前ラ」

 自己の同一性を保ったままの転生に感謝の気持ちが無い訳ではないのだが、各々世界の惨状を知っているために、少女の評価はボロボロだった。

 

 

 




たぶん丹陽崇めてた方がマシ。


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実は色々漏れてるのだが気付いていない系主人公

 ポーラさんを医務室に預け、ついでに寝落ちした那智さんから掛けられていたポーラさんの衣服を回収し、宮里提督にちょっと禁酒しましょうかと言われて半泣きになっている彼女の横にそっとおいておく。その時、提督から今日は待機してくださいと言い渡された。どうやら艤装の修理などの都合らしい。あと、予備だった艤装の改二への改装に私自身が要るからかな。

 失礼しますと退出して食堂へ向かう。道中響さんと合流したが、既に制服に着替え涼しい顔になっていた。トイレに駆け込んだ割には平素と変わりない様子で、あんまり表に出ないのか本当に大丈夫なのかは定かではないが、たぶん禁酒命令も出されずに済むのだろうと思われる。

 そのまま島風も含めた三人で朝食へ赴くと、食堂では既に多くの人達が食べ始めたり終わったりしていてそれなりの賑わいを見せていた。ポーラさん関連で色々あったせいで微妙に出遅れてしまったようだ。どうやら今日は焼きたてのパンが出されているらしく、妖精さんがミトンをつけて窯でごそごそやっているのが見える。どう見てもサイズ感おかしいんだけど、人間向けの大きさでちゃんと出て来るので結構力持ちなのかもしれない。

 私達も食事を頂こうとカウンターの方へ頼みに行くと、丁度そこで秋雲先生に出くわした。ちょっと夢見がアレだったせいで、先生の左腕をじっと見つめてしまう。でも、どうやら特に問題なさそうで手はちょっとペンだこか何かの痕はあるだけで綺麗なものだった。

「ん、どうかした?」

 秋雲先生が怪訝な顔になる。ちょっと注目しすぎて疑問に思われてしまったようだ。ただの夢なので何があるという訳でもなく、誤魔化しに今度また漫画を見せて欲しいと頼んだところ快諾された。許可取れたらweb公開したいらしいので、知り合いに読まれるのも抵抗は少ないっぽい。

 

「吹雪ー、走り方教えてー」

 流れで秋雲先生も合流し四人で相席してクロワッサンやサラダを頂いていると、島風がそんな事を言い出した。

 さっき今日はある程度の自由になると知らされたばかりで特に私達に予定は無い。だから、暇な時間にって事なんだろう。戦って帰ってきてから長良さんや最近では那智さんとも中庭や外周回ったりする事があるし、並走したりするのは全く構わんのだけども……それ以前の問題として。

「いや島風の方がフォーム綺麗じゃん……」

 私の方が速いというだけで走るのは島風の方が上手なのである。そもそも島風は、普通の公立校で専門のトレーナーが付いてる訳でもないのに同年代最速クラスのタイムを叩き出す天才である。お前もっといいとこ行けよって思うし、深海棲艦が来なかったらそうなってたんじゃないかと思うんだが、ともかく私から教えられる事とかは存在しない。チート能力さんは自分のフォームは最適化してくれるけど、私の場合不自然な筋力の方に合わされちゃうから普通の走る姿勢とは違う形になるし、いわんや他人の走り方をや、なのだ。

「そうじゃなくて! さっきのポーラさん持ってった奴!」

 あっ、さっきのやつかぁ、うん、まぁ、当たり前だけど見られてるよなぁ。その場で特に言われなかったから気にしてないのかと思ったけど、そんな事はなかった様だ。寮の廊下にポーラさんの口から出る淑女を巻き散らしたくなかったから咄嗟にやったのだけど、ちょっと面倒かもしれない。

 正直、転生云々はともかく、自分の身体能力を隠すつもりが最早私にはないので時間の問題だったとは思う。そもそも生放送の時に高速移動したしな。カメラの前で。あれ検証動画とか上がってて艤装ってヤバくね? って主張の論拠に組み込まれたりするから私のやらかしの中でも最上位のミスだったりするんだよね。

 だから速さを求め続ける島風がどうやってるのか知りたいと思うのは分かる。スゲーよく分かる。でも、今は止めて欲しかったかもしれない。向かいの秋雲先生が左手の箸を置いてネタを期待する目でこっちを見ているし、周囲のテーブルには真相を追う青葉さんや力を求める曙が居たりするのである。説明し辛い。

「私もあれやりたい!」

 島風は目を輝かせ鼻息荒めに言ってくるが、技術でやってるとは言い難い所業なのでとても困る。島風は艤装の影響が出てきているが、私レベルの筋力があるという訳ではないため、あれは出来ないんじゃないだろうか。

 というのを説明したい所なのだが、そもそも艤装を使っていると身体能力が上がるっぽいというのは秘密である。島風は知っている事だし、皆大体勘付いてるらしいけど、だからって雑談で言っていい内容じゃないんだよなぁ。

 秋雲先生には悪いけど、後で自室に戻ってから話せばいいだろうと判断して、どう言うか考える時間を稼ぐために口に入れたレタスを咀嚼していると、入り口から深雪と叢雲が入ってくるのが見えた。少し遅いのはまた深雪が手間を掛けさせたのかもしれない。二人――というか深雪は、私を見つけるとおはようと元気に挨拶してこちらに寄って来た。

「なあ吹雪、昨日聞きそびれたんだけどお前、いつ輸送艦になったの?」

 レタス吹くかと思った。

 そういや口走ったような気がする。淡路島で、報告のために。しかも改二って言ったような気もする。旗艦だった川内さんには説明してあったけど、他の娘達にはさっぱりだったもんね。そりゃ疑問に思うわ。制服も黒くなってるしな。っていうか今着てるしね。一人だけ服も変わってたらそりゃ目立つわ。でも一応機密です。不老化はやべーからさ。話せないんだよな。誰だよ機密漏らした奴。私だよ! 失態多めでお送りしてるよ!!

 秋雲先生の目から逃がしてくれなさそうな光が放たれる。曙も輸送艦……? と呟いてこちらを見た。青葉さんも聞き耳を立てているようでちらりとこちらを窺っている。響さんは二つあったクロワッサンの内一つをナイフで切るとサラダを詰め込みサンドイッチを拵えた。

「あとさ、あの爆発で艤装壊れてたんだよな? 着地の時に体痛めなかったか?」

 深雪様……お前結構鋭いのな。普通に心配してくれてるみたいなんだけど、なんとも答え辛い質問である。艤装が壊れ、その後に数百メートル吹っ飛ばされながら上空から落下したわけで。爆発で死ななくても普通はそれで死ぬもんなぁ。チート能力さんのおかげで無傷で切り抜けられたけど、受け身どうこうでどうにかなるレベルじゃない。

 深雪に他意は無さそうで、この後出撃で今しか機会がなかったから問いを投げかけて来たのだろうと思われる。でも島風のも深雪のも答え辛い。

「吹雪の艤装は機密だってー。そのうち発表されるって言ってたけど!」

 そう思っていたら何故か回答したのは島風だった。

「あれ島風知ってたの?」

「吹雪が黒くなってすぐ提督に聞いたよ!」

 そりゃそうか。私の説明だけで納得したわけでもなかったらしい。ちょっと改装しただけとしか言ってなかったから当たり前の反応である。深雪もそっかーとそれじゃあ仕方ないなって反応をしていて、私が思っていたより機密だから話せないというのは効果があるようだった。まぁ、知ってはいると公言してるようなもんだから多用はしたくないけど。

「体の方は大丈夫だよ。お医者さんも問題無いって言ってたし……着地はほら、私結構運動神経良いから」

 結構……? と叢雲が半眼でこちらを見つめて来た。いやだって、チート能力さんのおかげだから超良いと言い切るのもどうかと思われるんだもの。

 

 二人が朝食を貰いに行き、島風がさっきあった半裸ポーラさんの話を秋雲先生にし始める。明日には鎮守府中に広まってそうだなぁ、などと思っていると、今度は響さんがクロワッサンサンドを頬張りながら私の事を見つめている事に気が付いた。さっきぶちまけてたみたいだけど大丈夫なんだろうかと思いつつ見つめ返してみると、響さんはゆっくりと胃の中にそれを詰め込み、お茶を啜ってから思っていた事を口に出した。

「着地したという話は艤装を使うと身体能力に影響があるという噂と関係あるのかい?」

「話聞いてたんですね?」

 なんか全然聞いてない風だったのにちゃんと内容は頭に入れていたらしい。油断してて思った事が口に出てしまった。

「何故だろう、よく言われる。だけど私はちゃんと聞いているよ。そんな事より回答が欲しいな」

 慣れているのかあんまり私の失礼な言葉は気にしていない風で、知りたい事を追及してくる。と言われても、体への影響に関しては猫吊るしから提督たちにも伝わって、改めて内緒にするよう言われているので教えられないんだよね。

「申し訳ないんですが言えません……」

「そうか。まぁ、それならそれでいいんだ」

 響さんはそう言うとお茶を飲み干し、改めて私の方に向き直る。実は胃が辛かったりするんだろうか。

「もう一つ、私達の名前についても聞きたいのだけど」

「ああ、やっぱり皆さん気付いてるんですねそれ」

「第二期にも結構居たからね。一期の方が数的には多かった様だけど」

 スマホコミュニティの方でも相当話題に上がっているらしく、響さんも気になっていたらしい。しかしこれに関しては猫吊るしすら知らないらしいので本当に答えが分からない。楠木提督なら知ってるんだろうか。

「私もよく分からないんですよね、興味はあるんですが、被る場合があるのも最近知ったくらいです」

「そうか……うん。参考になったよ。ありがとう」

 どう参考になったのかはよく分からなかったけど、響さん的には収穫があったらしい。私に礼を言うとそのままご馳走様と席を立ち、トレーを厨房の方へと返却しようと歩き出す。その途中で、ふと足を止めてこちらを振り返った。

「そうだ、役に立つかは分からないけど、私の名前を教えておくよ。私は本名を真頼 響というんだ」

 つまり入っている側だね、と響さんは笑った。響さん、そのまんま響だったのか……

「それと、那智と文月も入っている側だよ。特に文月はなかなか……」

「待って響ちゃん!!」

 突然、愛らしくよく通る音が辺りに響き渡った。見るまでもなくその天使のような声の主は文月である。ガタリと音を立てて食事の席から立ち上がると、私達の方へと小走りに駆けて来た。

「自分で! 自分で言うからぁ……」

「そうかい?」

 響さんは小首を傾げて私の方へと道を譲った。文月はありがとぉと伝えると、こちらに向かってとぼとぼと歩いてくる。なんか凄い言いたくなさそうなんだけど。

「別に、嫌なら無理に教えなくてもいいんだよ? 私も知られてるだけで言い回ってる訳じゃないし」

「あっ、いや吹雪さんに言うのが嫌とかじゃないですからっ」

 文月は少し慌てた様子だった。私もそんなつもりは無かったので内心ちょっと慌ててしまう。言葉の裏で強要したみたいに聞こえたかもしれない。ヤな先輩である。

 文月は落ち着くためにか一回深呼吸をすると、思いっきり空気を吐き出した。よしと気合を入れるとペンと手帳を取り出し、そこに何やら大きめの文字を書き込むと、こちらに見える様にテーブルの上に差し出した。

 まず最初に文の文字があった。

 その次には月の文字があった。

 それで終わりだった。

「……これが本名って事?」

「はい」

「文が名字で、月が名前?」

「はい」

 成程無駄が無い。

 いや無駄が無いとかそういうのは置いておいて。確かに名前に意味がありそうという状況でこれは言い出し辛いかもしれない。まんまじゃんこれ。島風もオウッと鳴いている。文月は表情の無い顔ですっと名字を指差した。

「それで、これ『文』って書いて『かざり』と読みます」

 失礼ながら『ふみ』ではないのがちょっと残念だと思ってしまった。本当に申し訳ない。

 文月は次に名前の方へ視線と指先を向けると躊躇うように一瞬だけ目を閉じ、俯きがちにこちらを見て、おずおずと口を開いた。

「その……吹雪さんは『DEATH NOTE』って読んだ事、ある……?」

「あー」

 天使じゃなくて神であらせられたか。新世界の。

 

 

 

 

 

 戦闘部隊の面々が戦いに出てから大体一時間。お別れになる初雪と金剛さんを見送りに私達は門外まで出て来ていた。提艦隊までは車で行くらしく、スモークガラスで中が見え辛くしてある一般車が鎮守府に着けている。相変わらず普通の車に擬態して行くようだ。

 さて肝心の二人であるが、案の定というかなんというか、初雪はかなり抵抗した。割と宮里艦隊の人間――というか主に私や秋雲先生、最近だと文月とも趣味が合い、出撃時以外はだらけてもそこそこ許されるのが気に入っていたらしい。

 いや、これ初雪が優秀だったから許されてたらしいんだけどね。初雪はあんまり熱心に艦娘としての活動をするタイプではない。なので向上心の高い曙なんかとはそりが合わない訳なのだが、そこに文句を付けられるほど二人の能力差は無かったようなのだ。訓練所でも射撃の成績最上位だった初雪は、対艦対空対潜を問わず敵に当てる事に関しては駆逐艦の中でも群を抜いているのだとか。

 翻って提艦隊ではどうだったのかというと、なんか初雪さん、私生活だらしないけど頼れる年長者みたいな立ち位置だったらしいのである。

 これを最初に金剛さんから聞いた時、私の頭の中は疑問符で埋め尽くされた。だって私は初雪がしっかりしてる所とか見た事無いからね!! 逆に金剛さんからしたら年下に甘えに行く初雪の方がびっくりだったらしいけど。

 いや考えてみたら初雪は全艦娘の中でも年長の方なのでおかしくはないんだよね。っていうかむしろ年下に甘えてる方が変な訳で。もしかして私が居ない方がしっかりするのだろうかと思ったが、そのうち提艦隊に返却されるし、と本人の好きにさせていた結果が一回り以上年下の娘の膝でふにゃふにゃになりながらアニメ見てスナック摘まんでる初雪ちゃん(大学院卒)である。今考えると絵面が酷い。

「いやじゃぁ……あんな鎮守府に帰りとうないぃ……」

「なんで初春みたいな口調になってるんデス?」

 金剛さんに米俵のごとく担がれた初雪が泣き言を漏らしながら運ばれて行く。よほど嫌なのか肩の上でじたばたともがいているが、金剛さんは微動だにしなかった。艤装の影響出てない?

「でも初雪、提艦隊の方がちゃんと休み取れると思うよ?」

「そこに関しては本当に申し訳ないと思っています……」

 私の迂闊な発言に、一緒に見送りに来ていた宮里提督が少しだけ沈んだ表情になった。仕方ない所なので気にしないでくださいとフォローを入れておいたけど、やっぱ罪悪感強いんだなぁ。

「お姉ちゃんは……あそこの実態を知らないから簡単に言えるんだよ……」

「Hmm~? 皆いい子ばっかりでいい所だと思いますけどネー?」

 流石金剛さんは恋敵だろうがなんだろうが皆に対して好感度高めであるらしい。極根明の彼女にとっては大好きな提督も居る為早く戻りたいのが提艦隊という場所のようだ。

「金剛は当人だから気にならないんだろうけど……! エブリデイシュラバヤ沖海戦なんだよあそこ……!!」

 だがしかし、初雪からしたら金剛さん達はバチバチやり合ってるようにしか見えないんだそうな。なんで年長者だからって彼氏居ない歴=年齢の喪女が恋愛相談されにゃならんのだと初雪は嘆く。しかも複数に相談されるのに相手の男は一人である。穏便に事が進む様にかなり気を使わされるらしい。

「せめてお姉ちゃんを提艦隊にください……!!」

「Wow! それはnice ideaだネー!」

「勘弁してください……」

 二人とも私を持ち帰ろうとしたが、宮里提督にお断りされた。当たり前である。その後金剛さんに車に積み込まれた初雪は、涙ながらに提艦隊へとドナドナされて行った。まったねーと手を振る島風と連装砲ちゃん達にはちゃんと手を振り返していたので本気で気落ちしてるとかではたぶん無いだろう。どうせまた大きい作戦あったら会えるだろうしね、次は九州かな?

 

 

 

 

 

 二人を送り出してから暫くして工廠に呼び出され、予備だった艤装を改二に改装した。前回と同じように光る艤装に私が触れる事で完成したのだが、しかし中に缶詰が生成される事はなかった。あれは一回目にしか出て来ないらしい。レア装備の量産とかは出来ない仕様の様だ。残念。

 工廠の皆様はだいぶ疲弊してらっしゃる様子で、それでも妖精さん達がわちゃわちゃと高速輸送艦吹雪を改装している間も他の艤装を着々と仕上げていた。猫吊るしによると夜の間に戦艦や空母を優先して修理したらしく、予備のある駆逐艦の皆は今日はそっちを使って出撃していて、普段使いの物を現在修理中なんだとか。大変な職場だなぁと眺めていたら、猫吊るしに完成した艤装の運搬を頼まれて、ついでに調整待ちの間少しだけ働かされる事になった。

 仕事自体は別にいいんだけど、艤装付けてない状態で身体能力大公開になっているのはどうなんだろう。そう思いつつ大和の艤装を猫吊るしの所まで持って行く。やっぱりデカくて普通に持つにはバランスが悪く、材質も相まって普通の人間では持ち上げられそうにない。

 床置きだとやり辛いとの事なのでゆっくり傷つけないようにクレーンに吊るし、下からよく見てみると装甲が結構削れている。やっぱり戦って被弾していたのは間違い無いようだ。本人からは言われていないが、噂では姫級ぶちのめしたらしいとされていた。本当なら戦力になりそうだけど、そういう話は聞こえてこない。やっぱり燃費が問題になるんだろうか。食料に霊的資源を持ってかれるからなぁ。

 

 運んだり資材や在庫の整理をしている間に私の艤装の調整が終わり、とりあえず試用してみたが特に問題は無さそうだった。今まで使ってた奴と特に変わった感覚は無く、妖精さん達の匠の仕事ぶりが伝わってくる。

 折角なので海の上を駆けて気持ちのいい午前の風を受けつつ、妖精さんが大丈夫な速度の限界点を探っていると、陸の方から島風が呼んでいる声が聞こえてきた。行ってみればポーラさんと一緒になって私を探していた様子で、走り方教えてーと朝の続きが始まった。

 まぁ教えるのはいいけどたぶん出来ないよ、と言ったら島風は自尊心を刺激された様子で工廠へ向かって行った。とりあえず艤装を付けた状態で出来ないか試す心づもりらしい。変なフォーム覚えて走り方が崩れる方が問題だと思うんだけどなぁ。

 残されたのはポーラさんである。この人、どうやら今日は元々待機の予定だったらしく、そのせいで飲み過ぎてしまったらしい。と自己申告していた。どうやら昨晩の記憶は曖昧のようで、隼鷹さんや響さん、那智さん等と楽しく飲んだという結果だけが残っている。大破まで行ってる艤装を工廠で見たから、もしかしたら死線を潜り抜けた反動だったんじゃないかと思わんでもない。でも共同生活の場であられもない姿で爆睡キメるのは許されねぇんだ。未成年多いから仕方ないね。

 そんな訳で配属されたばかりのポーラさんの鎮守府案内を島風に任せて、私は自分の艤装にかまけさせて貰った訳である。ポーラさんは穏やかそうな表情で私達の遣り取りを見守っていて、島風が走って行った時もいってらっしゃ~いとふわふわした調子だった。基本はおっとりした感じなんだろうか。

「……うららかなこの日にこんな美少女たちにお酌されたいだけの人生でした……」

 いややっぱただの飲兵衛だわ。

「もしかしてポーラさん結構ネットとか見ます?」

「見ますよ~。仕事から帰って、缶ビール開けてぇ、パソコン立ち上げてぇ、ぐいっと…………飲みたぁい……」

 しょんぼりしてしまった。いやまだ禁酒半日もしてないですよね? なんならまだちょっと体にアルコール残ってるくらいですよね? つーかこの人自身結構な美人さんなんだけどなんか色々駄目な匂いがする。アル中系OLキャラみたいな匂いがする。誰かザラ姉様連れてきて。

「そういえばその節はご迷惑をお掛けしました~」

「ああいえ、凄く揺れたと思うんですが体調は大丈夫でしたか?」

 口から色々出てたしまず大丈夫ではなかったろうけど、今は顔色も悪くない。実際問題無いらしく、元気ですよ~とポーラさんは力こぶを作って見せた。あんまり出来て無い。

「禁酒命令が出たから…………一週間くらいは痴態をお見せする事も無いと思いますので~」

「期間開けたらすぐ飲むつもりなんですね?」

 艦娘は基本的に公序良俗に反さない範囲で自由に過ごしていい事になっている。なので提督直々の禁酒命令が出た事自体珍しい……というか宮里艦隊では初めてであり、期間も短く一週程度らしい。そもそも慣れるまではちょっとお酒は止めて戦いに集中しましょうって話だったみたいなのでポーラさんのためでもあるんだが、たぶんこの人は解禁即深酒する気だ。どんだけお酒好きなんだろう。

「前後不覚にならない程度に抑えておいた方がいいのでは……」

 私の言葉にポーラさんはゆっくりと頷いて、本当ならそうなんですがと言って説明を始めた。

「私、宮里艦隊にはいろんなお酒が売ってるって聞いて楽しみにしてたんです~」

 確かに、ここの酒保はやたら種類豊富なお酒を置いている。噂ではみんな給糧艦謹製のお茶で疲労回復に努めるせいでソフトドリンクが全く売れないからと、隼鷹さん需要の見込める高級酒を取り揃えたとか言われていた。実際生放送前くらいからだんだん増えていたので間違ってないと思う。

「来てみたら想像以上でした~。お値段も良心的で、お給料も増えたのでー、今まで我慢してた大吟醸……ちょっとお高めのお酒なんかも手が届いちゃうんですよ~。もう飲むしか無いです~」

 見た目はともかく中身が日本人なせいか日本酒も嗜むらしい。前世じゃ私も嫌いじゃなかったがその執着心はよく分からん。

「そう、お酒は百薬の長~命の水と申します~。つまり命の供給なので、止めたら心身ともに栄養不足で不調を極め、やがて死に至ります~」

 何言ってんだこいつ。

「そういう訳なのでもしポーラが一本開けてても提督にはご内密な方向で~」

「あっはい絶対通報しますね」

 ご無体な~とポーラさんは笑った。流石に冗談だったらしい。冗談だよな……?

 

 

 

 昼まで海で走り回り、結局習得は出来なかった島風と共に昼食を終える。ポーラさんが端の方で缶を開けていたのでちょっと見てしまったが、ノンアルコールだったので通報は止めておいた。執着が凄い。

 食堂を出て、四国関連の報道がどうなったのか調べようと部屋へ向かう道すがら、酒保の前を通りかかると会計の人に呼び止められた。何かと思えば私と島風宛てに荷物が届いていたらしく、さほど大きくない包みをそれぞれ一つずつ手渡された。ダンボールに入れられたそれは軽く、私の方の中身に関しては察しが付く。でも島風の方は何だろう、まぁ買い物の一つや二つはするだろうから同時に届いても不思議ではないけども。

 

 部屋へ戻ると島風は手早く中身を検め始めた。私もそれに倣って開封し、ちゃんと現物を確認する。中身はたぶん注文した通りの品で、ちょっと心配だったが思ったよりは頑丈そうだった。

「はい、これあげる!」

 私より手早く作業を終えた島風が、取り出した箱をこちらに向かって差し出した。虚を突かれてちょっと私の動きが止まる。それ自分のじゃないんかい。

「じゃあこっちのもどうぞ」

 かく言う私のも自分用じゃないのである。中身は以前注文した島風用の指輪を付けられるネックレスチェーンだ。銀色系のシンプルなデザインで、強度と島風の趣味から選考された物なのだが、ケッコン指輪とは結構合うと思われる。どっちも装飾少な目だしね。

 お互いに箱を向け合って謎の緊張感が走るが、島風の方が先に動き、同時に互いのを受け取って事無きを得た。島風が箱を開きに掛かるのを尻目にいったい何をくれたのかと手元を見れば、そこにあったのは渡した物と全く同じネックレスチェーンである。あれ間違えたかなと指輪を付けようと弄り出している島風を見るが、私の渡した物は間違いなく島風の手に渡っていた。

「島風これ」

「お返し」

 若干そっけない感じで、チェーンとリングを接続するのに集中してる素振りの返事が返って来た。まぁ、そんな高い物でもないし、悪い気はせんのだけれども。

「私これに付けるようなもの持ってないんだけど……」

「おうっ? じゃあそれはまた今度あげるねー」

 そこまで考えてなかったらしい。いや私があげた指輪は支給品だから、ちゃんと買って贈られるのはなんか悪い気がするわ。

「別に気にしなくてもいいよ」

「えー、収まり悪くない?」

 まぁ、これは本来何か付ける前提の物なのでそれはそうかもしれない。でもなぁ。

 とか思っていたら、顔にでも出ていたのか島風は私の感情を読み取ったようだった。

「じゃあ誕生日にあげるね!」

 誕生日プレゼントならいいでしょ、と島風は言う。漫画の単行本だったとはいえ私も贈ったから拒否権は無いものと思われる。どんなのがいいかとこちらに質問してくるくらいで、誰がどう見たって注文する気満々だし。

 ちなみに私の誕生日は11月だ。まだちょっと先なので暫くは何も付いていないこれを付ける事になる。まぁ付けるためのパーツはあるから本当に何にもないって訳じゃないし……まぁ、いいか。

 この日以降、島風はちゃんと服の下に指輪を提げている事が多くなった。これで適性値は上がるだろうか。上がったら上がったで改二に近づくのだろうし、良いのか悪いのかはよく分からん。けどまぁ、島さんはそこそこ気に入っているようなので良いのだろうと私は思いました。まる。

 

 




初雪はこの後自衛隊勢力の強まった提艦隊で多少しっかりさせられながらお前らショタコンかよとツッコみ続ける毎日を送らされます。健康的ですね!
なお中二がショタかどうかについては異論を認めます。


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※説明の許可は出ています

 四国への航路が確立して早二週間。宮里艦隊はまた拠点の位置を変えていた。今度の場所は四国側で、三人部屋だったので久々に曙と一緒になった。部屋の定員が度々変わるのは工廠を設置出来るかどうかを重視して場所を選んでいるかららしい。

 私と島風とは行く先が違うので朝晩くらいしか曙とは一緒にならない訳なのだけど、なんか前より雰囲気が刺々しいというか重々しいというか、やっぱり色々抱え込んで放出できなくなってるように見える。まぁ原因ははっきりしてるんだが。

 前回の大作戦、曙は小破で戦いを終えている。轟沈した艤装も多かった中でこれはかなり優秀と言える結果なのだが、曙はこれに満足できなかった。何故なら、本来なら曙は沈んでいるはずだったからである。

 まぁなんだ、つまり曙は庇われてなんとか生き残ったらしいんだよね、しかも代わりに沈んだのが漣だったとか。そのせいでメンタルは大悪化、以前より修練に身が入り、戦闘中は目がギラついてると聞く。漣自身は元気にしてるらしいけどそういう問題ではないようだ。

 ちょっと心配な状態なのだけど、別に悪い事をする訳でなし、私達に当たったりするわけでもなしで何か言うタイミングとかもない。そもそも一生懸命さが加速してるだけな人の何を注意すりゃいいのかという話である。休めって私達が言っても説得力無いしな。みんなほぼ毎日出撃してるし。

 なのでちょっと島風に押さえて貰って強制的にマッサージだけしておいた。抵抗されるなら話のとっかかりになるだろうと思ったのだけど、曙はやってる最中に寝息を立て始め、そのまま朝まですやすや行った。仕方ないので全力で解すだけ解したけど、割と柔らかかったから疲れが溜まったりはしてなさそうだった。

 セクハラ案件だけど許してほしい。ほら、女子中学生が上級生にじゃれてるだけだから。ガワは。

 

 

 

 今日も今日とて出撃だーと会議室に集まって本日の目標等の指令を受ける。前日までは概ね泊地潰しと迎撃だったので今日もそれかなと思ったのだが、今日は毛色の違う話がやってきた。決まったのが昨晩も遅い時間だったらしく大本営側も対応に追われたらしいその任務は、地上での護衛と討伐である。

 一昨日、四国内部で自衛隊の輸送部隊の護衛や索敵に当たっている艦隊が、陸上で姫級を発見してしまったらしいのだ。その時は偵察機を囮に全員撤退に成功、被害は特に出なかったのだが、その姫級は海へ戻って行くどころか輸送ルートのすぐ近くに居座ってしまったんだとか。

 だから少数で派遣出来て地上の姫級でも討伐可能な宮里艦隊の第四艦隊――つまり私と島風が派遣される事になったのだ。他のみんなは昨日までと一緒で、太平洋沿いに四国周辺の変色海域を解放して行く作業である。

 今攻めている海域は大阪湾付近のように大量の航空機が飛んでくるような事は無いのだけど、不定期に太平洋から姫や鬼を含まない艦隊がやって来て、油断すると核を設置して行く嫌な所だ。倒すのは楽だけど広範囲に散発的にやってくるものだから部隊がいくつか別れて展開、かつ適性外の空母の人達までフル稼働で警戒網を敷いている。そのために他所の鎮守府から異動して来た人達も居るくらいで、元居た所には民間から登用された適性低めな艦娘達が穴埋めで入っているらしい。なお安全性皆無なのでそういう人達は宮里艦隊には来ない。

 この海域何が困るって、襲撃が一日中やって来る事なんだよね。夜間飛行向きのを揃えてなかった――というか北方棲姫が対私用に温存していたっぽい――淡路島までの道中では夜中の襲撃はそんなになかったんで昼間に寝て夜戦だワッショイしてどうにかしてたんだけど、今回は朝昼晩と深夜まで遠慮なしの突撃をやたらめったらかましてくる。おかげで川内さんは今回もほぼ毎日真夜中に出撃する羽目になっている。本人大喜びだけど。

 

 

 

 

 

 そんな訳で四国を反時計回りに戻って行って、主に四国内部で活動している人達の鎮守府まで島風とぶっ飛ばしてきたのである。陸地を車で行くより艤装で滑走してった方がずっと速いため大して時間はかからなかった。まだ日も高くなく、さっさと終わらせれば今日中に帰れるかもしれない。まぁ護衛も仕事の内だからそっちがどうなるのかにもよるけども。

 今回は猫吊るしも同行してくれている。陸地での戦闘になる予定だから念のためだ。工廠は人数増加で航空機の整備に追われているが、こっちも少し増えたので何とかなっているらしい。出来るだけ被弾しないようにして負担を軽減したいと思う所存です。

 

 目的地が見えたので速度を緩めると、島風はいっちばーんと陸に向かって突っ込んで行った。連装砲ちゃん達もミューキューキャーとそれに続く。お前らその勢いで建物まで行く気なのかと思いつつ埠頭に着け、上まで跳び上がって、私は普通に歩く事にした。なんか恥ずかしいし。

 少し歩いて波の音より生活音や整備の音がしっかり聞こえるようになってきた頃、前の方から四角い頭に二本の砲身を生やしたシルエットがこちらに向かって短い手足でトテトテ走って来た。かわいい。何かあったかと思いしゃがんで目線を合わせると、その子は不思議そうな、でも少しふてぶてしい感じの表情でこちらを見つめ返してくる。

「連装砲ちゃん……?」

 いやなんか違うなこの子。可愛いのは可愛いんだけど、普段見慣れた無邪気な感じとはちょっと違う。ニヒルというか、斜に構えてる感じの顔付きをしているように見える。もしやこの子は別個体か。第二期の適性者に使える子が居たのだろうか。

 ちょっと気になり持ち上げてみると、驚いてしまったようで歯を食いしばって手足をばたばた振り回しだした。かわいい。でもどうして走って来たのだろうと思いそのまま奥の方を見てみれば、向こうの方から辺りを見回して何かを探している長髪の娘が目に入った。相手もこちらを見つけたらしく、小走りに駆けて来る。

 その子は最初は私が両手で掴んだマスコットのような兵器に注目していたのだが、近づいて来て私の顔を認識すると、おっと小さく声を上げ、私の頭上の猫吊るしを見てんっ? という表情になった。だが手の届く距離まで近づいてくると私のいで立ちに興味を引かれてしまったらしく、面白そうに顔を近づけて黒い制服の観察を始めた。

 私の方もその子の服装をよく見る事が出来たのだが、その子は何故か制服の上から白衣を羽織っている。まぁ、おかしくはない。なんせその下が高いヒールにガーターベルトを履いて、スカートは穿いてないみたいな服装だったからだ。長い銀色の髪は吹き流しを着けるためにかツーサイドアップにされており、その頂には小さな煙突のような帽子が被せられている。年代的には私や島風と同じか少し上くらいか、中学生くらいに見え、格好を恥ずかしがって上着を着るくらいは十分にあり得そうに感じた。

 島風が極端なだけなんだよなぁとまるで隠す気の無い僚艦を思い浮かべつつ、服装からして推定天津風であろうその子に連装砲――たぶん連装砲くんと思われる子をどうぞと受け渡す。どうやらちょっと忘れかけていたようで、受け取った時はそういえば探してたんだったという表情だった。

「ありがとう伊吹さん、久しぶりね」

 

 えっ、誰だっけ。

 

 辛うじて口には出さなかったけれど、内心私は凄く焦った。何しろ誰だかさっぱり分からないのである。私は県外に知り合いは特に居ない。いや親戚くらいは居るけど、それを含めても知り合いは大体が第一期の適性検査の範囲に住んでいて、駆逐艦の適性者だったら同じ訓練所になったはずなのだ。でも、自立稼働するタイプの装備を使えるのは第一期生には島風だけしか居なかったと思うんだけど。

 いや、もしかしたら一般公募で採用された娘とかかな? もし同じ学校の子だったら凄く申し訳ない。私、女子とは陸上部と金剛型の面々くらいしか仲良くなかったから顔を覚えてないだけの可能性が捨てきれない。

「その黒い制服、それが貴女の改二の制服よね? 色が変わっただけかと思ったけど光の反射具合からして材質自体が違うみたいね。面白いわ」

 ちょっと待ってなんで改二の事知ってんの? 機密だよねそれ???

「あなたも久しぶり、最近見ないと思ったら宮里艦隊の方に居たのね」

 今度は猫吊るしと目を合わせて言った。え、お前知り合いなの? って思ったら頭上からは猫吊るしが目をぱちくりとしている気配がしてきた。お前も分かんないんかい。

 私達が混乱している間にその娘は連装砲くんを地面に降ろすと周囲を見渡した。何も居ないと確認すると小首を傾げてこちらに向き直る。その顔をよく見て思い出そうとしてみるも、天津風だからか少し島風と似ているような気がするだけで該当する知り合いはいないように思えた。

「今日は一人……って事は無いわよね。単艦での運用は禁止されてるはずだし……」

 もしかして先に行ったのかしらと鎮守府の建物の方を天津風らしき娘は振り返った。丁度その時だった、何処かへと走り去って行った島風がこちらに向かって引き返して来たのは。どうやら私が付いてきていないと気付いて迎えに来たっぽい。私とたぶん天津風だろう艦娘に気付くと駆け寄って来て、何かを感じ取ったのか天津風の事をじぃっと見つめだした。

 島風はオウッと鳴きながら天津風の顔を間近に捉え、角度を変えて斜め下や真横からも観察すると、服装に目をやり、連装砲くんに手を振り、ぴょんぴょん跳ねると上からも天津風を検分した。何度かジャンプして無事に着地すると無言で二人見つめ合う。こうして並ぶと背は同じくらいか、島風の方も高いヒールを履いているため本当に差は無いようだった。薄い金と銀の髪が突然の海風に靡き、それが治まった頃、島風は眉を顰めて開きっぱなしになっていた口から物凄く胡乱げな声を発した。

 

「何やってんのおかーさん……」

 

 

 

 なんて?????

 

 お母さんって何? mother? your mother? いやどうサバを読んでもお前を産んだ年齢の人には見えねーよ。つーか私お前のお母様の顔知ってるよ? 若々しい表情の美人さんだったけどこんな幼い顔立ちはしてなかったよね?? 最後に会ったの新年あけてちょっと経っての一月末くらいだけどまだ忘れてないよ??? とりあえず発電機が安定したからって夫婦で一回帰ってきて、島さんの顔見てうちの両親に色々頼んですぐ戻ってったけど、中学生もかくやなんて見た目じゃなかったよ???? ちゃんと大人の女性だったよ?????

 島風の足元からひょっこり出て来た連装砲ちゃん達が連装砲くんに跳び付いて、キャーキャー言いながらじゃれ合っている。かわいい。いやそんな事考えてる場合じゃなくて。目の前にはじっとりとした視線で相手を見つめる島風とそれを受け止めて白衣をたなびかせる天津風。島風のお母さん発言を受けた彼女はふっと笑って言い返した。

「何言ってんのよ、どう見たって艦娘でしょ?」

「なんで艦娘の格好してるのって聞いてるの!」

 格好より年齢を突っ込めよ。

 え、何? 私が変なの? 二人の中では特に見た目変わってないの? つーか本当に島さんのお母さんなの? 研究者やって発電機開発とかに携わってたはずでは?

「それはね、あたしが古参の艦娘の一人だからよ。機密だったから風香には言ってなかったけど」

 まぁ古参と言っても半年くらいしか変わらないんだけど。そう言いながら天津風――天津風さんは距離を詰めると島風の頭を撫で始めた。久しぶりねと抱きしめて、長くなった髪を手で優しく梳く。島風の方も自然に受け入れていて、どうやら本当に島さんの母親、島 天香さんであるようだと納得させられてしまった。

 二人は暫くそうやっていたけれど、島さんの方が私が見ている事に気付くとオウッと鳴いて腕から抜け出し、照れ隠しみたいな声色で天津風さんに問い質した。

「それで! なんでおかーさん若くなってるの? 縮んでるし!!」

 あ、やっぱ若返ってるよね?

 

 

 

 天津風さんはとりあえず説明の前にここの指揮官に挨拶してきなさいと私達を建物の方へ促した。普通の鎮守府は提督ではなく自衛隊の艦娘が作戦指揮を執り行っていて、この場合指揮官とはその人の事を言う。この鎮守府だと鹿島さんで、丁寧な対応の出来る色気のあるお姉さんって感じの人だった。ちなみに提督は全提督中最年少、つまりは下限の十二歳の男の子である。性癖が危ぶまれる。

 ここで再度任務の確認をしたが、私達がやる事は輸送の護衛と補助、それと姫級の討伐となっていた。討伐対象は最短かつ多くの物資を運べる幹線道路のすぐ近くに陣取ってしまっていて、四国への支援物資や医療機材なんかの供給が滞ってしまっている。悪い事に出現が復興計画のための大事な荷物を運ぶ重要な輸送計画ともぶつかってしまい、早急な対処が求められた結果私達の出張が決まったらしい。

 道中ちょっとだけ見えたのだけど、この鎮守府の艦娘は大人が多い。たぶん戦わずに迂回や撤退をこなすのが主任務だから判断力重視の人選なんだろうと猫吊るしは言っていた。その分戦闘力は低いようで、護衛まで任務に入っているのはこれ以上深海棲艦に邪魔をされると期日までに計画を完遂出来なくなりそうだからだそうな。

 

 そして今居るのがその計画的に目的地まで輸送しなきゃならない重要な機材の目の前である。

 大きめのバックパック程度なそれは、明らかに人が装着するための機構が備わっており、各所にはコードを繋ぐためのプラグが配置されている。これだけなら何かのついでで運べそうだし、おそらく今はバラされているだけで使用時にはもっと巨大な何かになるのだろうと容易く想像が付いた。数は三つ、背負えるという共通点はあるものの、一つ一つの形はかなり違う。

 近くにはさっき別れたばかりの天津風さんが待っていて、じゃあ説明するわねと私達に向かって目を輝かせたとても楽しそうな表情で語りかけてきた。若干子供時代に還ってません? 私の頭上では猫吊るしが何か知ってそうな声色であー……と呟いていた。

「これがあたしの艤装、発電艦『天津風』よ!!」

 つまりどういうことだってばよ?

 

 

 

 去年末から本州では新型の発電機により電力の供給が再開されている。技術的には艤装の建造技術から派生して開発されたもので、小型ながら一基でも大きな電力を賄える変換効率に優れたものだと私達も教わった。

 今、私達の目の前にあるその実物はというと、これがどう見ても艤装そのものなのである。

 武装は取り払われ、ジェネレーターとして不全なく機能するようにか排熱機構らしきものが増設されているが、艤装の原型は失われていない。天津風さんの傍にある三つのうちの一つ、腰にマウントして使用出来るようになっているそれが元は普通に駆逐艦天津風だったのだろうというのは想像に難くなかった。

「ええと……つまり島さんのお母さんが艦娘として発電機に改造した艤装を動かして発電してたって事で合ってます……?」

 天津風さんはそうよと言いながら首肯した。成程、帰ってこれない訳である。艤装ってのは適性者が居ないと動かない。これが見たまま艤装と同じ性質ならば、おそらく天津風さんは発電のために一日中艤装に張り付き続けていたのだろう。まさに身を削るような献身。それでこんな姿に……いやそれは関係無いか。

 新型発電機の正体は、どうやら専用に改装した艤装だったらしい。微妙な差で悪化する燃料効率と発電量との戦いだったと天津風さんは語る。開発自体彼女の艤装で押し進められていたらしく、そのデータを基に他の艤装も改造可能になったのだとか。ただし、集合無意識側の許可が得られないと駄目だそうで、天津風や夕張などの一部の艦娘からしか承認されていないそうな。

 今、本州の方の発電は新しく採用された民間の人達が交代制でやっているらしい。一応ある程度……数メートルまでなら離れても起動を維持できるらしく、負担の割に高給で秘かな人気であるとか。ただ拘束時間は長い。天津風さんは起動したまま寝て、起きたら交代して研究や整備をしていたそうだ。あれ、あんまり厳しくない?

 今の本州には四国で生き残った人たち全員を受け容れるだけのキャパシティは無い。無理にやれば治安悪化や避難民への差別的な扱いなんかは避けられないと言われている。だから、伝手が無かったり住処が無事な人たちはなんとかこっちに留まって貰わないといけないのだ。その支援のために発電施設の復帰を、という計画であるらしい。

「二人に警護して貰うのはこの発電機一式と、携わる艦娘と技術者になります。勿論あたしも含めてね」

 天津風さんは戦闘部隊水準の適性値は無いらしい。戦えるなら自力で行くんだけどねと零していた。目的地に着きさえすれば組み立ての指揮から起動まで全部やれるみたいだし、かなり重要性の高い人材だろうから無茶はしないで頂きたい。

 

「それで、おかーさんはなんで小さくなったの?」

 さっきまでの説明は今回の任務の背景説明である。島風からしたらもっと重要な母の異変に関しては、なんのフォローもされていなかった。それはそれはご不満だった様子で、連装砲ちゃんを抱きかかえ顎を乗っけて頬を膨らませている。意味不明だもんなぁ、さっきまでの話と全然繋がりを感じないだろうし。

 逆に私と猫吊るしは何があったか予想が出来た。というか、他にそんな現象が起きる心当たりがない。間違いない、この人は改二に到達している。長門さんでもなれていない以上、チケットで無理矢理合格した私以外になっている人が居るとは思っていなかったのだけど、どうやらそうでもなかったようだ。戦闘部隊に入れないくらいの適性値でもなれるというのも意外だった。

 でもこれどう説明する気なんだろう。改二については現在機密扱いで話す事が出来ないはずだ。だからってそこで秘密だよ☆ とか言い出したら流石に島風も怒ると思うんだけど。

「それはね、艤装には若返りと美肌の効果があるからよ」

 島風はオウッ!? と鳴いた。いや間違ってないけども。それ副作用なんだよなぁ……っていうか、普通に言っちゃうんですね天津風さん。

 

 天津風さんは島風に語った。改二の存在、それに伴うメリットデメリット、そして自分が若返り不老の存在となった事まで洗いざらい。話を理解した島風は私の方を振り向くと、びっくりした顔でのたまった。

「じゃあ伊吹ももっとちっちゃくなるの!?」

「なりません」

 私と島風だと島風の方が身長が高い。私は女子平均くらいなので島風がちょっと高いだけだが、私は元男として出来れば男子平均くらい欲しいのだ。だというのに逆に縮んでたまるかというのだ。いや既に吹雪さんと同じくらいだからもう伸びないんだろうけども。つーか今の話で私もなってるって分かったのか……いや分かるよな、私改二って口走ってるし制服の色変わってるし。

「あの、言ってしまって良かったんですか? 私は知らされていましたが、一応機密ですよね?」

 私の問いに天津風さんはふふんと笑うと、大丈夫よと自信有り気な様子を見せた。

「改二の存在自体はもう今日明日中にも情報が解禁されるわよ」

 その妖精さんのおかげでね、と私の頭上に目を向けると、猫吊るしに向かって微笑みかける。

「設計図ありがとうね、ちゃんと完成したわよアレ」

「えっ、もう出来たのか!?」

 そっちに投げてから一月経ってねーぞと猫吊るしは驚きのあまり立ち上がって跳ねた。そういや知り合いなんだな、私と同じく誰だか分かってなかったみたいだけども。

「ほぼ組み上げるだけだったもの。発電の時とは違うわよ」

 猫吊るしの描いた設計図、それは間違いなく艦娘の魂の分離装置の事だろう。完成度が高かったようで、図面通りに造ったらそのまま使えてしまったらしい。

「ちゃんと自分で実験したから実用性も問題無しよ。何回もやったら天津風には怒られたけどね……」

 どうやら天津風さん、集合無意識の天津風さんから魂の一部を貰っては分離し貰っては分離しと試用を繰り返したらしい。よく怒られるだけで済みましたね……悪意からの行動じゃないからかなぁ。私がやったらあの深海吹雪に似た吹雪さんはキレそうな気がする。

 っていうか、一回分離してもまた分けて貰えるのね。意外。まあ流石にちゃんとした理由がないと駄目だろうけど。たとえば一回引退して、旦那さんが亡くなった後にもう一回とかなら行けるだろうか。

「テスト出来ないから実証どうするか悩んでたんだけどな、最悪吹雪でやるつもりだったんだけど、まさかそっちでやれるとはなぁ」

「ま、あたしもまだなったばっかりだから、長く改二で居続けた場合にどうなるかは分からないんだけどね」

 あれ、なったばっかりなのか。体が縮むくらいだから改二になってそこそこ経っているのかと思い込んでいた。聞けばなったのは私が改二になってすぐ、楠木提督から話を聞いて試しに艤装から接続してみたら許されたらしい。

「ただ私は話と違って体に影響が出てなかったのになれたから、ちょっとケースとしては特殊かもしれないのよね。体が変わるのも一瞬だったし」

 まぁたぶん他も分離出来るだろうと天津風さんは笑った。いやそこたぶんじゃ困るんですが。

 

「あれ、これがおかーさんの改二の艤装って奴なの? なんか違わない?」

 話をかみ砕いていた島風が発電艦となった天津風を指差して聞いた。言われてみれば、それは発電機に人為的に改造された艤装である。改二の奴はなんかもっと、妖精さんが弄った後にバーって光るものだ。

 島風の指摘は正しかったらしく、それは別よと天津風さんは微笑んだ。娘の気づきから成長を感じて嬉しかったのかもしれない。見る? と優しく聞く天津風さんに見る! と元気に返す島風。私も自分以外の改二は初めてなので興味があり、預けられている工廠まで見に行く事になった。

 

 さして距離がある訳でもなく、工廠まではすぐ着いた。ゆっくりと扉が開けられると、中の目線が一斉にこちらに向かって来る。

 まず目に入ったのは一番手前の連装砲くんと連装砲くん。その奥に連装砲くんと連装砲くん。一段上がって連装砲くん。クレーンに吊り下げられメンテナンスを受けている連装砲くん。工作艦の艦娘にネジを締められている連装砲くんと開けられている連装砲くん。寝そべった連装砲くんの上に乗る連装砲くんの上に乗る連装砲くん。艤装に取り付けられて動けそうにない連装砲くん。

 総勢十二体の連装砲くんが一斉にこちらを向いた。

 えっなにここ。流石に怖いんだけど。いやかわいいけど、多くない? 島風は驚き過ぎてオッと短く鳴いた。連装砲ちゃんもびっくりしている。

 天津風さんは工廠の中へするりと入り込むと、向けられる視線をものともせずに壁際に置かれたぴかぴかの艤装に手を置いた。すると、自由だった一部の連装砲くん達がわぁっとそこへ集まって、天津風さんを中心に円陣を組んだ。

「これがあたしの改二、多数の砲台を運用するのに特化した、多砲塔艦天津風改二よ!」

 どうやらこの場に居る連装砲くんは全てが天津風さんの武装であるらしい。明らかに駆逐艦には乗り切らない数の砲台だと思うんだけど、有りなのかそれ。そう突っ込みたかったのだけれど、よく考えたら輸送艦になってる私が言えた義理じゃあない。ちょっとこれからなるであろう皆の改二が心配になって来た。

 島風のとかどうなるんだろう、親子だし同じ方向性だったりとかしないだろうか。十二体の連装砲ちゃん……部屋が狭くなりそうだなぁ。

 

 

 




起動したまま寝て、起きたら交代して研究や整備をしていた(娘とその友人を心配させない表現)


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※この吹雪は特殊な訓練を受けていません。

 準備を進める鎮守府の戦闘部隊の皆さんと挨拶を交わし、申し訳なさそうな視線と若干敵意……ではないが複雑な感情の入り混じった視線を背に私と島風は出発した。

 今回の作戦、まず私達は姫級の討伐へと向かう事になる。敵の位置情報は飛ばしている偵察機からの最新の物を用意され、途中までは車で、近づいてからは徒歩――というか私と島風なので走って向かう手はずだった。

 そして倒したのがこちらの空母水鬼さんになります。姫級じゃなくて鬼級じゃんとか思ったけど、そりゃそういう事もたまにはあるだろう。確認したら目標はこの個体で合ってたみたいだし、ただのヒューマンエラーですな。

 強さも水鬼だけあって空母としてはかなり強力だったらしいのだけど、島風に全機捕捉されて私に撃ち落とされた挙句、本体は我々の視界に入った瞬間二連撃で顔面が消し飛んで地に伏した。グロ死体だからあんまり見ないようにしようね島風。

 

 さてこの空母水鬼、なんでもただこの場に居座っていた訳ではなく一つの家屋に出入りしていたらしいのだ。偵察をしていた別艦隊の隼鷹さんによると、私達が出発した時にも部屋の中に居て、こちらの接近に気付くまでは内部で何かに勤しんでいた様子だったという。中にも深海棲艦が居る可能性があるから、そっちも調べないとならないだろう。

 建物自体は大きくない。というか、ただの古い平屋の民家である。全体に木造だが、最近掃除でもされたのか外観からはそれなりに清潔な印象を受けた。カーテンが引かれ中は見えないが、内から活発に動くような気配はしてきていない。とりあえず島風に離れて待機してもらって、壁に耳を付け内部を探る。すぐに中から何かの息遣いが聞こえてきた。

 それは例えるなら、フルマラソンを走った後しばらく休んで呼吸が整ったかのような深いが荒くは無い呼吸音で、深海棲艦が出していると言うには普通の生き物らし過ぎるように感じた。もしや民間人が囚われているのではないかと私の中にいつにない緊張感が走る。

 慎重に耳で中の様子を確かめ、一人の呼吸音しかしていないと判断した私は開く窓が無いか近くの物に触れてみた。開けばそこから覗いてみるつもりだったのだが、どこもきっちり閉められている。こっそり壊してみようかとも思ったけれど、中に何か居たら音でバレる可能性は高い。そもそも音の出ている艤装で隠密は難しいし、それならいっそ普通に入ろうか。そう思って私は引き戸の玄関に手を伸ばした。

 鍵は開いていた。やはりしっかりメンテナンスされている様で、余計な引っ掛かりは感じない。私は極力素早く、かつ出来る限り音が出ない様にその扉を開くと、最小の動きで中へと滑り込んだ。

 平屋は電気が通っていないせいで明かりが無かったが、開いた扉から漏れる日の光で内部は見える。外の小綺麗さとは裏腹に玄関は物が散乱していた。それを乗り越えた次の扉の先、そちら側から呼吸音は聞こえてくる。それ以外の物音はしないが、前にレ級を見逃したように動いていない深海棲艦は非常に見つけ辛い。私は最大限周囲を警戒しながらそこへと足を踏み入れた。

 奥には痩躯の人間が留められていた。部屋の中央で椅子に座らされ、手足を縛られそこに括り付けられている。中年と青年の間くらいの男性で、疲労からか目は血走り頬はこけていたが、気力は折れていないのか、素早く侵入した私を捉えると歯を食いしばりながら睨みつけて来る。そして私が十代も半ばに届くかという程度の女子であると認識すると、驚いたような顔つきになり、次にああっと声を上げ、なんとか身を隠そうと体を捩った。縄がぎしぎしと鳴った。

 私は周囲に他に何も居ないかと頭の冷静な部分で確認し、部屋にはその男性一人きりであると確信して、初めて男性と向き合った。向き合わざるを得なかった。その全裸で股間を大開きに固定された男性と。

 あの水鬼さん、本当にナニをシてやがったんですかねぇ?????

 

 

 

 男性(着衣)をかなり気まずい空気のまま車まで送り届け、私達は来た道を引き返した。道中で情報収集のため自衛隊の人達が彼に質問していたのを聞いてしまったが、どうやらあの空母水鬼、見つけた男性を追い回した挙句逃げ込んだ家まで乗り込んできて拘束監禁。服もその時部屋の隅に投げ捨てられた(残ってて助かった)らしく、二日間に渡って――私達が居る為かめっちゃ言葉を濁した――あれこれをされていた上お持ち帰りまでされるところだったらしい。おいマジで何してやがんだあの水鬼。

 どうもあの深海棲艦、男性を見つける以前から帰り道が分からなくなってたらしく、海の方向を聞いたりもしてきたという。留まっていたのは航空機を使って道を探していたからのようだ。海までの距離的にそんなに時間がかかるとも思えないし、今日中にも出発のつもりだったのかもしれない。

 それでこの男の人なんだけど、なんか、またかよって感じなんだけど、提督なんだよなぁ。猫吊るし見えてる。これ偶然かなぁ。私が出会うのが、じゃなくって、深海棲艦に狙われたのが。

 もしかしてあいつら提督と一般人の見分け付いたりしない? だとしたら凄い嫌な予感がする。具体的にはこの先の土地では提督が狩り尽くされてるような予感が。

 でもなんで持ち帰ろうとしてたんだろう。利用価値でもあるのか? 深海提督? そういうのあるのかこの世界? まぁ、ただあの水鬼が46cm砲に惚れただけの可能性もあるけど。

 

 

 

 

 

 討伐完了の報を受けこちらに向かって沢山の大型車でやって来た輸送部隊の皆さんと合流して、一旦鎮守府預かりになるという男性と分かれ私達も索敵に励む。先ほどの水鬼が放った飛行機がまだ辺りを彷徨っている可能性もあり、まだまだ気は抜けない状態なのだ。

 とはいえ、もう海岸線から十ウンkmも離れた地帯である。そうそう敵は居ない訳で、深海棲艦に出くわすよりも人間に出くわす方が早かった。

 そう、人間である。一般人である。姫級が出たのに近くに一般人が居たのである。

 勿論封鎖が行われなかったわけではない。主要道路はちゃんと通行止めにしてあったらしいし、そもそも基本的に勝手な移動は行わないようにという話になっているのだ。危ないし、護り切れないから。

 でもその一団、怖かったらしいのだな。撃ち殺されるのを間近で見てしまったり人間同士の争いに巻き込まれて被害にあったりで、こんな所に居られるかって人達の集まりだった。

 彼らの目的地は本州、いやまだ橋落ちてるんだけどどうやって行く気なんだろうと言いたいところだが、そんな状況が分かってるのは私達が情報に恵まれてる側だからである。彼らには伝聞でしか物が伝わっていないのだ。ただ道が拓けて、本州からは食べ物や医療品が送られてくる。行けばきっと助かるに違いないってな具合である。

 その状態で昨日、避難予定の人達は延期になり食料も届かなかったという噂が流れてしまったらしい。おかげで現地の一部は混乱し、まさか見捨てられたのではという疑念が一瞬で沸騰し、とにかく確認をと行動に出てしまったのが彼らである。人手の不足で封鎖し切れてない細かい道を通って来てしまったそうな。

 勿論ほとんどの人はまだ様子見で、指示には従っている人が大半だ。でも、どうしたって抑えられない層は出てくるものらしい。これで彼らに何かあったら自衛隊のせいにされるんだろうか。ネット上だとこの人たちの方が自己責任論で殴られるのだろうけど、どっちも問題しか無い話である。つまり全部深海棲艦が悪い。駆逐したい。輸送艦だけど。

 結局話し合いの末、彼らは輸送部隊と街へ戻る事になった。船を出す予定は無いからね仕方ないね。電力も復旧予定だからそうなったら少しは安心できるはず。街には私達が絶対無事に送り届けてやんよ。

 って思ってたら本当に敵が来てびっくりした。と言っても、野生のイ級が道に向かって崖上から飛び降りて来ただけだったから撃ち殺して終わりだったんだけども。確認したら周囲には他に居なかったし、当然積み荷にも民間人にも被害は無かったからヨシ!

 

 

 

 

 

 道なりに進み、第一目的地の集落化していた地域を目指す。まずは滞ってた食料や医薬品を届けてから発電所へ向かう予定だ。元からある施設を再利用するらしい。

 通ってきた道は町中にあったのだが、周囲は燃やされたり崩されたりと建物の被害が大きく、今は回収の間にあっていない屍だけが静かに過ごしているようだった。いや見え辛い位置にあって気付かれなかっただけっぽいけどね、私は目が良かったから分かっちゃったけど。一応報告はしておく事にする。

 海から遠ざかるほど目に見えた被害は減って行くらしいのだが、しかし、そうと分からないくらい至る所に破壊の爪痕は残されていた。焼夷弾でも使われたのか火災の跡が多く、建物の根幹は無事でも明らかに撃たれたような穴が開いている物も散見される。猫吊るし曰く割と最近――それこそ私達が四国まで到達する直前に倒壊したのではないかと思われる新しい廃屋もあり、そりゃこんなとこ住めねーわと思い知らされた。

 今はもう護衛部隊もほとんど深海棲艦に出くわさないくらいで、空母なんかはさっきの水鬼が初めての遭遇だったらしいから、かなり安全にはなっている。けどそう言っただけで信じられるもんでもないだろうし、人が戻るのは暫く先になりそうだ。まだ野良深海棲艦も居るみたいだしね、暫くは艦娘の常駐が必須だろう。

 

 そんなわけで恙無く物資輸送は進み、羽織っておきなさいと天津風さんが島風にお揃いの白衣を渡したりする一幕もありつつ、私達は避難した人々の暮らすコロニーに到着した。

 どれだけ効果があったのかは疑問なバリケードのようなものを通過し、入り口近くの拠点化されている場所に車を着ける。中は意外と人通りが有るため案外普通の町に見えた。ただ、商店なんかは開いていないし、電気が無いため明かりに乏しい。通りがかる人達にはこちらを訝しげな目で見ている人もいて、特に私と島風、それに天津風さんや輸送トラックの上が注目されていた。

 私達が見られてしまうのは外見が幼いからだろう。大人っぽい人ばかりが集められた艦隊が護衛に付いていた所に突然中学生くらいの子たちが来たらそりゃ疑問にも思う。中には微笑ましい物を見るほのぼのしたような表情のおばあちゃんとかも居た。背負うの体験させて貰ってるとか思われたのかもしれない。

 トラックが注目されたのは上には警備として連装砲くんが乗っかっているからだ。天津風さんも艦娘なので見張りくらいにはなると護衛に参加しているから、彼らも一緒に手伝ってくれているのだ。ただ、後で聞いた話だとふざけてるのかとクレームが来たらしい。かわいいぬいぐるみかなんかにしか見えないもんなぁ……

 

 食料などの補給物資と発電機一式は別のトラックなので、すぐに分かれて発電所予定地に出発するのかと思いきや、ここで一旦休憩となった。いやよく考えたらほぼ休み無しで海の上を走り続ける私達が変なんであって、それが普通なんだけどね。普段は昼食も索敵しながらさっさと済ませてるからなぁ、あんまり島風に早食いはさせたくないんだけど、一々陸へ上がるという訳にも行かないからね仕方ないね。

 島風は天津風さんと話しに行ったので、猫吊るしと二人でお昼になった。休憩室もあったが、艤装を背負ったままだしと思い外に出る。端の段差に腰を掛け、頭上で妖精さん用の小さなお重を空ける音を聞きつつ、私も宮里艦隊とはまた違った味付けのお弁当を頂いた。

 食べながら少し遠くで物資の分配なんかに当たっている人達を見つめる。ここだけでも結構な数の生き残りが居て、そんなコロニーがやはり複数あるらしいので食料供給だけでもかなり大変だろう。深海棲艦の目的が人を苦しめることなら今も目標は達せられ続けていると言えなくもない。

 一応艤装を背負いレーダーは動かし続けているのだが、特に反応は無い。有ったら困るが、あり得ないとは言えないのが困りものだ。テロって対策難しいんだなぁと今更ながらに思う。サイズが人間かそれより少し大きい程度で見つけ辛いのが大問題で、もしかしたら巨大怪獣だったりした方が相手をするのが楽なのかもしれない。倒すのが厳しくなるか。

 そんな益体もない事を考えながら二人でお茶をしばいていたら、拠点の裏手、石段で上がれるようになっている広場の木々の合間に知っている顔が覗いた気がした。見上げてみれば、そこには確かにその人が居た。青灰色の髪に特徴的な泣きぼくろ。美しいと思われる造形の顔を厳しく歪ませ、居住地の奥の方を悩まし気に見つめている。それはいつか見た怪しい艦娘のお姉さんであった。

 

 はっとして立ち上がり、私は駆けた。横に伸びる階段を無視して一歩で跳び上がり、真剣な表情で何かを思い悩む女性の側に着地する。やってから思ったが誰がどう見ても私の方が怪しい。

 その人は自分の近くに降り立った私を見て驚いたように動きを止め、吹雪、と小さな声を漏らした。対する私の方も、つい反射的にノープランで来てしまったため対面して困ってしまった。ただただ見つめざるを得ない、特に用事があるでもないし。いや聞きたい事はいっぱいあるんだけども。

「お久しぶりです、ゴトランドさん」

「ゴトランド……!?」

 私の挨拶に反応したのはされた当人ではなく、急に走り出した私の動きにも完璧に付いて来た猫吊るしだった。転生者の可能性が高いとして話していた相手が突然現れて驚いている様子で、慌てて飲んでいたちっちゃな水筒を艤装に放り込んだ。

 ゴトランドさんは艤装は身に着けていないし、制服も着ていなかった。私服のようで薄手のスカートを穿き、首元にはネックレスが覗いている。左手では指輪が光っていて結構おしゃれに見え……あ、ケッコン指輪だあれ。

 私が相手は誰だろうとか考えている間に、ゴトランドさんは動揺から立ち直り、軽く久しぶりねと返した後、何かを迷うように短く目を伏せた。そして次に顔を上げた時には、彼女の瞳には強い決意が宿っているように見えた。私の方へ一歩踏み出し、真剣な表情でまっすぐにこちらを見据え、真摯な声を投げ掛けてくる。

「お願い吹雪、猫吊るし、助けて欲しい」

「分かりました」

 私は頼める立場ではないけれど、とゴトランドさんは続けようとして、私の返答に遮られた。驚いた表情で何かを問おうとして、その時間が惜しかったのか、かぶりを振ると機敏な動きで見つめていた方向を指差した。

「あそこの一番高い建物、あそこに向かって跳んで。説明はあっちでする」

 示された先には他よりも背丈のあるビルが聳え立っていた。窓からは積まれた荷物や生活する多数の人々が見えており、どうやら家として使われているようだと察せる。周囲には雑多に物が積まれていて、生ごみはともかく置き場に困った粗大ごみなんかが処理できずに放置されているのだろうと思われた。

 あんなところに何が、とは思ったけれど、即断で了承してしまったから仕方ないねと私は地面を思い切り蹴りつけた。風景が後ろへ流れていく。後ろではゴトランドさんの気配が消失した。ワープ能力かなんか持ってるのかな? っていうか、あの人私が跳べるって知ってるって事は能力把握してるんじゃん怖。

 

 許可を取るのを忘れたので道中猫吊るしに大丈夫だった? って聞いたら仕方ねーなーって返ってきて安心した。ゴトランドさんが余りにも大真面目に何かに悩んでいたようだったから無下に出来なかったというか、まぁ、きっと悪い事ではない。と思うからつい了承してしまったのだ。それくらい本気で悩んでいる顔だったのだ。

 ゴトランドさんの人柄はよく知らないし、転生者なのも予想でしかない。けど、少なくともリベッチオが本気で心配して全力で抱き着きに行くくらいには慕われてる人ではあるのだ。リベッチオの方もどんな娘かよく知らないけど、割と素直そうだった。つまり素直に私を怖がってたって事である。辛い。

 話が飛んだが、私の中でゴトランドさんは悪い印象ではないんだ。だから助けてくれと面と向かって言われたら助けざるを得ない。言われなきゃ踏み込めない程度のコミュ力だからちゃんと言ってくれるの凄い助かる。休憩時間中だったしね。ああでも勝手が過ぎるだろうか。休憩中とはいえ、後で怒られるかもしれない。

 

 なんて考えていたら、ビルの入り口に到着した。周囲には結構な数の人がおり、どうやら皆建物から離れる様に移動しているように見える。急に現れた私には驚いていたり気付いてもいなかったりと様々な反応だった。その人ごみをすり抜けて、ゴトランドさんがこちらに駆け寄ってくる。やっぱりワープしてたわこの人。

「ありがとう吹雪、さっそくだけど……」

「おい待て、勝手に話を進めるんじゃない。まずは何をさせるか目的を話せ」

 受けちゃったのは仕方ないにしても、それはそれとして猫吊るしとしてはちゃんと言葉を交わして確認を取りたいらしい。ゴトランドさんの方も一つ頷くと、簡潔にそれを言葉に出した。

「人助けよ」

「OK分かった指示をくれ」

 それでいいんだ……いやそれすら聞いてない私が言える事じゃないけども。

 猫吊るしの反応に、これまたちょっとだけ驚いた様子のゴトランドさんは一つ頷いた。

「このビルや周辺の建物に残った人達を連れ出してほしい。無理矢理でいいし、なんだったら建物を破壊してもいいから。理由は……」

 ゴトランドさんの説明が途切れる。ビルを振り返り、何かを確認すると、急に駆け足になった周囲の人達に向かってよく通る声を張り上げた。

「慌てないで! バリケードの方まで歩いて行けば大丈夫だから!」

 一定の信用があるのだろう、それで一部の人達は早足程度に落ち着いた。だが全員とは行かず、何人かは慌てて逃げ出していく。何が起きているんだと彼らの出て来たビルの方を見れば、原因はすぐに知れた。

 入り口奥からうっすらと漂う黒煙。私のチート嗅覚には何か焦げ臭いにおいも少し感じられる。耳を澄ませば何かが爆ぜるような音が地面の下から響き、階段を駆け上がるような音が建物から聞こえて来た。

 成程。

 

 火事か!!

 

 気付いた瞬間私は駆け出した。入り口から逃げ出す人の横をくぐり抜け、階段に向かって走りながら耳で人の位置を探り出す。出火は恐らく地下、下階から逃げ出す人たちの声がしているが、上階は静かだからたぶんそう。っていうか下からゴトランドさんの声してる、瞬間移動して避難誘導始めたのか? なら下は任せていいはず。なら私が行くべきは上か? そう思った瞬間、艤装の通信機に着信があった。

 猫吊るしが手早く出れば通信相手はゴトランドさんだ。でも下階からも相変わらずゴトランドさんの声がしている。ワープじゃねぇな分身かなんかだこれ、それでどうにかしないって事は何かしらの制限がありそうだけど、まぁそれはいいんだ重要な事じゃない。

 ゴトランドさんの通信は簡潔だった。上を頼む、下は任せて。OK承った。

 自衛隊へと通信を繋げて火事の通報をしながら、階段を跳び上がり近くの扉を抉じ開ける。中には二人が座って食事、一人が睡眠中で計三人。轟音に驚きこちらを見るが済まない説明してる時間がない。座った二人を担ぎあげ、残った一人を錨でソフトタッチで引き寄せて、開いていた窓から脱出する。着地した先にはゴトランドさんが待っていた。やっぱ分身してますよね?

 腕の二人を出来る限り衝撃が無い様地面に降ろし、遅れて鎖に繋がれて降って来た一人も無事に軟着陸させる。ゴトランドさんとアイコンタクトして頷き合うと、私は出て来た窓から再度内部に侵入した。たぶん説明はやってくれるはず。

 再度廊下へ飛び出しはす向かいへ突撃する。そこには一人の老婦人。一気に近寄り抱きかかえると、そのままベランダへ飛び出して、外へ跳びつつ上階に向かって錨を投げ、直上で空を見ていた青年を巻き取って、二人を外へ着地させる。案の定そこにはゴトランドさんが居た。どうやってんだこの人。って思ったら空には直掩機が飛んでいる。成程それで監視してるのか。

 二人を任せ再度中へと舞い戻る。向かいのガラス窓に突っ込んで、傍の男性を右肩に、奥に居た女性を左肩に持ち上げると、そのまま足元の幼児を脇に挟む。正面の壁を蹴り砕き、脱出経路を確保したら、そのままそこから飛び出した。

 今度は自分からゴトランドさんの所へ飛ぶと、三人を任せ次の階へと急ぐ。さっきの階はこれで全員だった。気が付くと錨の繋がる鎖にはテープが巻かれ、安全性に配慮された状態に変わっている。猫吊るしが一瞬でやってくれたらしい。傷つけないように気を使っていたからありがたい。

 三階に向かって直接跳んで、開いた窓からエントリー。さぁ問題はここからだ。二階は大して人が居なかったけど、ここから上はもっと居る。通路には雑多に物が積まれ、炎が上がれば一気に燃え広がってしまうのは想像に難くない。あんまり勝手な消費はしたくなかったのだけれど、弾薬を使う事も視野に入れ、私は中の人々を一網打尽にする強制避難に没頭した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう百人は助け出してる。

 もはやわざとではないかと疑われそうな発言の入った映像が投稿されたのは四国が解放され、丁度一月が過ぎた頃だった。その時分には一部地域の電力は回復され、通信機器はある程度の機能を取り戻し、本州と四国は情報交換が可能となっていた。

 そんな中で幾つも投稿された、混乱のさなかにあった四国が映された動画の内幾つかかがそれである。貴重なモバイルバッテリーを消費して記録されたそれらの中でも特に異彩を放ち、衆目に晒されるや様々な憶測や疑惑を呼び、賛否の別れる論争を巻き起こした。

 映されたのは火災現場とその救助活動に当たる一人の少女。異常な挙動と速度で高階層から人々を運び出し、人々の避難を進める自衛隊員達の下へと送り届けている。

 助け出された被災者の中にはあまりの緩急の差に気分を悪くする者こそあれ大事に至った者は居らず、一瞬前まで身を置いていた建築物の業火に飲まれたる様を見上げ、呆然と立ち尽くす者は後を絶たなかった。

 時折映る艤装と呼ばれる特殊装備を背負った少女の造形は作り物のように整っており、それでいて無機質でない。声こそ上げていなかったが、その表情は確かに笑顔だったのだ。既に一定以上の知名度を持っていた彼女は、過去の発言通りに、笑って人々を助けていたのである。

 それを不謹慎と取る者も居れば、理想とする英雄像に倣ったものであると取る者も居た。だが、粗さなどはともかく、彼女の行動そのものを否定する人間はほとんど存在しなかった。これは純粋に人助けであったのと、そもそも艦娘の任務内容と制度が一般に知られていなかったからであろう。つまるところ、一連の行動は命令の下で行われたものと誤認されたのである。

 代わりに議論の的にされたのは、彼女の非常識な身体能力だった。明らかに人間のそれを逸脱した少女の挙動と恐れることなく炎の中へと突き進む様子を見れば、誰が何をどう解釈したところで、艤装という新兵器には使用者の心身への極度な影響があるとしか考えられなかったのである。

 動画の終盤には、猛火が建物間の可燃物を渡り周辺へと延焼を広げる様子が映し出されていた。それをどうにか防いだのも、件の女子中学生であるように見えた。彼女が何かを投げる動作をした瞬間、それらは跡形もなく消滅したのだ。結果的に武装の危険度なども問題視され、論争は激化の一途を辿る事となった。

 ただこの頃から、艦娘とは、艤装とは戦いだけに用いられるものではなく、平時であっても有用な物ではないかという認識も広まって行く事となった。後に消防隊などに艦娘枠が常設されるようになった一因と伝えられている。

 

 

 




通信機からの声と肉声を同時に認識しても大丈夫なのは魔法使いが設定したゴトランドの能力がガバガバだからです。
分身の上位互換にならないようにするための措置なので抜け道を使って行くのは本人的には構わないようです。


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艦娘専用掲示板

 ☆艦娘専用掲示板☆

 

 ・新板です。楽しく使ってね。仲良く使ってね。

 ・匿名制じゃないので気を付けて使ってくださいね☆

 ・認証の都合でスマホ限定です。ガラケー派とPC派には大変申し訳ないm(_ _)m

 ・スレ立ては改行可能。返信は一行です。

 ・管理はするので削除されても泣かない。

 

 

 

 

 

 

 

No.1 テスト 投稿者:漣@管理人 (20XX/05/XX)

  テスト

  テステス

 

 

 漣@管理人>  よし (20XX/05/XX)

 曙@宮里艦隊>  いきなり人が帰りそうな事するのはやめなさい。 (20XX/05/XX)

 漣@管理人>  みんな帰っちゃったらつまりここは私とぼのたん二人きりの空間という事? (20XX/05/XX)

 綾波@おゆはん中>   |Д`) (20XX/05/XX)

 敷波@夕餉>  |∀ ゚) (20XX/05/XX)

 朧@宇佐山艦隊>  ドキドキ (20XX/05/XX)

 曙@宮里艦隊>  そこの姉二人は食事終わってからにしなさい。 (20XX/05/XX)

 曙@宮里艦隊>  あとぼのたんはやめて (20XX/05/XX)

 潮@宇佐山艦隊>  にゃーん (20XX/05/XX)

 漣@管理人>  にゃーん (20XX/05/XX)

 綾波@おゆはん中>  にゃーん (20XX/05/XX)

 朧@宇佐山艦隊>  にゃーん (20XX/05/XX)

 敷波@ごちそうさまでした>  にゃーん (20XX/05/XX)

 曙@宮里艦隊>  にゃーん (20XX/05/XX)

 曙@宮里艦隊>  なにこれ? (20XX/05/XX)

 曙@宮里艦隊>  いいかげんこの記事消さない? (20XX/07/XX)

 漣@管理人>  いやにゃーん (20XX/07/XX)

 潮@宇佐山艦隊>  どうしてあの時の私が猫になったのか思い出せない…… (20XX/07/XX)

 朧@宇佐山艦隊>  直前に大破してたからじゃない? (20XX/07/XX)

 

 

 

 

 

No.2 初出撃の思い出 投稿者:曙@宮里艦隊

  管理人に頼まれたのでテスト代わりに。

  折角なので初出撃の時の感想でも書いていってください。

 

  私は何もしないまま終わったので無力感が凄かったです。

 

 

 

 漣@管理人>  サンキューぼのたん

 漣@管理人>  最初に出撃した時は敵がイ級一匹で魚雷一発で終わって拍子抜けだったぬ

 朧@宇佐山艦隊>  私が頑張らないとみんな死んじゃうって思いました。

 潮@宇佐山艦隊>  その節は大変ご迷惑をお掛けしました……

 綾波@山口艦隊>  何やったの?

 潮@宇佐山艦隊>  魚雷を発射し損ねて落として自分に……

 朧@宇佐山艦隊>  それで強い相手が居るんじゃないかと出撃になったのが扶桑さん達の初出撃でした。

 潮@宇佐山艦隊>  本当にごめんなさい……

 扶桑@宇佐山艦隊>  気にしないで。おかげで本番で緊張せずに済んだから。

 綾波@山口艦隊>  綾波の所は霧島さんがみんなを引き締めてくれて凄く安心して出撃出来ました。後で年下と聞いて驚きでした。

 霧島@山口艦隊>  恐縮です。綾波さん達も頼もしかったですよ!

 山風@藤艦隊>  家に帰りたい、でもろーちゃんが頑張ってるのにそういう事言ってられないし……って思ったと思う

 ろーちゃん@藤艦隊>  がんばりました!!

 五月雨@藤艦隊>  実は私も爆雷落としちゃいました。

 ろーちゃん@藤艦隊>  びっくりしました!!!

 天龍@宮里艦隊>  危ねぇ!?

 

 

 

 

 

No.5 某動画に関して 投稿者:望月@竹下艦隊

  某生配信に関して総合スレッドです。

  感想でもお気持でもご自由に。

  ただし削除されるような発言は控える事、イイネ?

  ↑            ↑実際大事    ↑

  ↑                     ↑

  もう一回読んでください。          ↑

                        ↑

  ちゃんと理解していただけましたでしょうか?

 

  参考動画:https:XXXXXXXXXX/X/XXX/XXX

 

 

 

 (削除されました)

 (削除されました)

 漣@管理人>  アッハイ

 望月@竹下艦隊>  早い早い

 卯月@ぷっぷくぷ~>  ご苦労様ぴょん

 漣@管理人>  初手暴言はやめてくだちい

 望月@竹下艦隊>  ちょっとだけ付け足しておいた

 漣@管理人>  あざーっす

 天龍@宮里艦隊>  駆逐艦って皆ああいう近接戦するのかと一瞬思ったな。

 卯月@ぷっぷくぷ~>  無茶言うなぴょん

 初春@宮里艦隊>  そうであったらどれだけ良かったでしょう。

 竹@九曽神艦隊>  いやよくはねえだろ。

 金剛@提艦隊>  吹雪の事なので正直に言うと、やはりそうなったかという感覚でしたね。

 比叡@原須艦隊>  吹雪さんですからね!

 霧島@山口艦隊>  元々強いものね。

 磯波@砲雷撃が得意な方>  あれ、お知り合いですか?

 金剛@提艦隊>  同じ学校です。私は一つ学年が上ですけど、比叡達はクラスメートです。

 青葉@宮里艦隊>  それ別所で詳しく聞かせていただいていいですか?

 磯波@対空対潜が得意な方> 訓練所に来る前から強かったんでしょうか……?

 霧島@山口艦隊>  うちの武闘派を制圧していたのでかなり強いかと思われます。

 陽炎@原須艦隊>  武闘派って何……?

 榛名@竹下艦隊>  霧島は友達思いで人当たりも良いですから、それだけ知っていれば大丈夫です。

 島風@原須艦隊>  やっぱり速いよね!

 夕立@賀藤艦隊っぽい>  あれされると倒すの難しいっぽい! 全然当たらないっぽい!!

 山風@藤艦隊>  どうしてナチュラルに倒す方向に行くの……?

 響@賀藤艦隊>  人助けに走ったのは良い事だけど、法的には問題だね。あの時点ではまだ無免許なんだから。まぁ超法規的に許されるのだろうけれど、これが常態化するのが良い事だとは思わないな。でも人命に代えられるかと言うとそういう訳ではないから間違っているとも言えない。が、未熟な者が真似したら取り返しの付かない事になりかねない。今回の場合は教官長が付いていたから大丈夫なのだろうけれど……悪しき前例にならないといいが。

 雷@賀藤艦隊>  纏めると?

 響@賀藤艦隊>  Хорошо!

 電@賀藤艦隊>  褒めてたのです!?

 巻雲@藤艦隊>  艦娘が勘違いされるぅ……

 陽炎@原須艦隊>  自衛隊側で訂正は入れられたけどあれじゃね。

 清霜@藤艦隊>  吹雪はなんで大砲撃たなかったんだろう、節約?

 北上@掲示板っていうかチャット染みて来た>  吹雪って撃つのは苦手なん?

 漣@管理人>  成績一位でしたが何か?

 北上@返信早くね?>  なら何故殴ったし

 綾波@山口艦隊>  砲弾キャッチが一番意味不明だと思うんですけど。

 金剛@提艦隊>  私も叩いて弾き飛ばすくらいは出来ますね。キャッチは無理だと思いますけど。

 北上@返信早くね?>  えっ

 漣@管理人>  なにそれこわい

 望月@竹下艦隊>  艤装起動ライン:100 召集ライン:150 吹雪ライン:10000

 望月@竹下艦隊>  正直もっと高いんじゃないかと思うんだけど。

 叢雲@宮里艦隊>  同感。

 山雲@宮里艦隊>  そうだねー。

 曙@宮里艦隊>  でしょうね。私達の百倍程度な訳ないでしょこいつが。

 深雪@宮里艦隊>  一人で姫級複数倒してるもんなぁ

 五月雨@藤艦隊>  そういう情報は共有してるんですか?

 深雪@宮里艦隊>  いや工廠に回収した死体が寝かされてた。

 五月雨@藤艦隊>  私絶対宮里艦隊行きたくないです。

 夕雲@宮里艦隊>  研究所に送る物を一時保管してただけで、いつもある訳ではないのよ?

 深雪@宮里艦隊>  しかしオールマイトって。本当にオタクなんだな吹雪って。カッコ良かったとは思うけど。

 叢雲@宮里艦隊>  知ってるならあんたも似たようなもんじゃないの?

 深雪@宮里艦隊>  あたしは弟のジャンプ流し読みしてただけだっての

 初雪@提艦隊>  コッチヘオイデ

 秋雲@エア新刊どうすんべ> 入り口なんてそんなもんよ……

 望月@竹下艦隊>  そういえば吹雪は腐?

 秋雲@宮里艦隊>  NOT腐

 初雪@提艦隊>  むしろ百合の方が好きっぽい

 深雪@宮里艦隊>  どっから花が出て来たのかぜんぜん分かんねー。

 漣@管理人>  そのままの君でいて

 名取@藤艦隊>  実は知り合いなのですが、本人に伝えていないのでたぶん把握されてない私です。

 金剛@提艦隊>  名取先輩伝えてなかったんですか?やろうと思えばすぐ出来ますよ。

 名取@藤艦隊>  いえいいです。もし会えたらにしておきます……なんか有名になったから連絡とったみたいで恥ずかしいですし……

 島風@原須艦隊>  金剛の知り合いってもしかして私も知ってる人?

 名取@藤艦隊>  去年まで陸上部の部長だった人ですよー。

 島風@原須艦隊>  あ、お久しぶりです。ご無沙汰してます。

 時雨@賀藤艦隊>  急に口調が変わったね。

 霧島@山口艦隊>  島風さんはなんだかんだで体育会系なので。

 島風@原須艦隊>  目上の人には普通じゃない……?

 卯月@ギクゥ!>  うちの提督は気にしないって言ってくれたぴょん!

 北上@九曽神艦隊>  そういや誰も気にしてないけどタメの人多いよねー

 青葉@宮里艦隊>  これも艤装の影響ですかねぇ。

 山城@宮里艦隊>  掲示板ですら口調がおかしくなるくらいだもの、明らかにそうでしょうよ。

 菊月@オンセ参加者募集中>  実名に所属校、本当かは分からないけど住所まで。酷いな。

 五月雨@藤艦隊>  私達も名前を知られたらこうなるんでしょうか……

 時雨@賀藤艦隊>  流石に普通の艦娘ではこうならないと思うよ。世界記録のせいじゃないかな。

 鈴谷@賀藤艦隊>  ジャスト十秒はエゲツないよねぇ

 陸奥@山口艦隊>  流石に計測ミスじゃないの?

 長良@宮里艦隊>  それは無いです。一緒に走ってた人達の記録は普通よりちょっと悪いくらいだったですし。

 名取@藤艦隊>  私も引退前だったのでその場に居ましたけど、あれはミスではないと思います。

 時雨@賀藤艦隊>  身体能力と艦娘としての適正に関係があったりするのかもしれないね。

 青葉@宮里艦隊>  その線も考えたんですよね、でも成績上位者の中に運動が不得意な人も居るので微妙な所です。

 初春@宮里艦隊>  私は艤装無しで艦娘の力を借りられる説を推したいと思います。

 子日@お休みの日>  自分が出来るから?

 初春@宮里艦隊>  私は降ろしたまま戦うのは難しいですけれどね。戦って貰う事は可能ですが。

 皐月@提艦隊>  どう違うのそれ。

 初春@宮里艦隊>  体の支配権を受け渡すかどうか、という事です。

 如月@提艦隊>  超常の上位存在に全身を支配させて好き放題して貰うだなんてそんな……

 荒潮@提艦隊>  あらまあ、本物の霊能力者ってスゴイ事するのねぇ~。

 大井@竹下艦隊>  私も北上さんにならされてみたいです!!

 初春@宮里艦隊>  待てお主等何か違う話をしておらぬか?

 子日@お休みの日>  あ、やっぱり初春はのじゃってた方が落ち着くなー。

 初春@宮里艦隊>  子日がこちらの方がいいならそうするかのう。皆口調など気にしておらぬようじゃしな。

 朧@宇佐山艦隊>  吹雪だけじゃなくて教官長もバレちゃったんだねえ。

 夕雲@宮里艦隊>  表彰経験が仇になるとは、と本人も落ち込んでいましたよ。

 山城@宮里艦隊>  不幸ね……

 響@賀藤艦隊>  夕雲さんは暁教官長と連絡を取り合っているのかい?

 夕雲@宮里艦隊>  暁教官長はうちの収集部隊で働いているのよ。訓練期間中以外も働くのだと仰られていました。

 秋雲@ペン入れの時間をください>  飛鷹さんと霰さんも居るから全員集められてるんだよねぇ

 陽炎@原須艦隊>  なんか陰謀の臭いがするのよね。

 文月@宮里艦隊>  あの生配信みんなびっくりしてたんだねぇ

 多摩@厳島艦隊>  仕込み説は覆されたかー

 吹雪@司波艦隊の方です!!>  二期生にああいう事出来る人は居なかったしそうだよね。

 卯月@ぷっぷくぷ~ん>  新人の吹雪はできないぴょん?

 吹雪@司波艦隊の方です!!>  出来ません!!

 

 

 

 

 

No.XX 一度でも轟沈した奴は素直に名乗り出なさい 投稿者:望月@やらかした

 

  真面目な話、誰も見てない方向から魚雷撃たれたらどうしようもないと思うんだよ。

  ちゃんと警戒もしてたんだけど動いてない潜水艦ってどうしようもないでしょあれ……

 

  まぁ一緒に狙われた漣は完璧に回避していたんですけどね。

  助けてくれてありがとう。

 

  そんな感じに九死に一生を得た人達が愚痴るスレ。

  轟沈経験のある人だけ書き込みOK。

  盛り上がらない事を祈りましょう。

 

 

 

 夕張@竹下艦隊>  はい

 望月@やらかした>  はいじゃないが

 夕張@竹下艦隊>  ほんとにね

 夕張@竹下艦隊>  バランスが悪すぎて普通にやられましたねはい。

 望月@やらかした>  流石に許可のギリギリの線を狙ってくのは許されなかったねー

 夕張@竹下艦隊>  行けると思ったんだけどなぁ、実際乗るには乗ったし。

 望月@やらかした>  さては反省してないな?

 夕張@竹下艦隊>  荒潮さんは凄い笑ってたんだけどね。自衛隊の一番尖った実験部隊でも実戦で実験とか絶対やらないって。

 望月@やらかした>  あれガチギレの笑みだよ

 深雪@宮里艦隊>  やっちゃった……迫って来る鬼級に対応してて気付いたら轟沈してた。

 深雪@宮里艦隊>  何が起きたんだかさっぱり分からない内にやられて、あって思ったら水の中だった。

 深雪@宮里艦隊>  すぐ拾ってもらえたけど、妖精さんが一部行方不明らしい。

 深雪@宮里艦隊>  へこむわー。

 望月@竹下艦隊>  迫ってきてた奴に止め刺されなくて良かったじゃん

 深雪@宮里艦隊>  ああ、鬼級の方は倒してたから大丈夫だった。倒した瞬間やられちゃってさー。

 望月@竹下艦隊>  一瞬の油断が命取りだったと

 深雪@宮里艦隊>  油断したつもりもなかったんだけどなぁ、他にも姫とか鬼残ってたし。

 望月@竹下艦隊>  どんな編成の奴ら相手したのさ君ら

 深雪@宮里艦隊>  姫×3 鬼×2 その他50だったかそんなもん。

 望月@竹下艦隊>  ?????????

 望月@竹下艦隊>  えそんな出るの?

 深雪@宮里艦隊>  こっちから攻撃仕掛けたから。それに一度に出てきたわけでもないし。

 深雪@宮里艦隊>  あたし以外誰も轟沈まで行かなかったからちょっと悔しい。

 望月@竹下艦隊>  うちの艦隊ならたぶんその1/3でも全滅すると思うんだけど

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 望月@竹下艦隊>  言いたい事言ってるけど君は轟沈したの?

 望月@竹下艦隊>  おっと管理乙

 清霜@藤艦隊>  轟沈しました。生きてます。

 巻雲@藤艦隊>  同じくですけど生きてます。

 清霜@藤艦隊>  それで浜に流れ着いた時なんだけど、吹雪を見たような気がするんだよね。

 望月@竹下艦隊>  どういう事?近くに居たの?

 清霜@藤艦隊>  詳しく書くとね、巻雲と二人でいっしょにやられちゃって揃っておぼれちゃったんだよ。

 清霜@藤艦隊>  それでも流されて鎮守府まで帰れたみたいなんだけど、その時に見た気がするの。

 清霜@藤艦隊>  しかもその吹雪、訓練の時のお面とフードしてた。

 巻雲@藤艦隊>  巻雲も見ました! 目も光ってました!

 望月@竹下艦隊>  それあの衣装のモデルになったってそこそこ強い深海棲艦じゃね……?

 深雪@宮里艦隊>  吹雪に聞いてみたけど知らないって。

 深雪@宮里艦隊>  モデルになったのはレ級だな、たまに見るけどあの時の吹雪よりは弱いよ。

 夕張@竹下艦隊>  レ級って戦艦のでしょ? あれより強いんだあのオールマイト。

 清霜@藤艦隊>  助けてもらったんだと思うんだけどなぁ、溺れててよく覚えてないけど引っ張って貰ったような気がする。

 島風@宮里艦隊>  吹雪轟沈したよ。

 島風@宮里艦隊>  吹雪が書き込めないから代わりに書いておくね!

 望月@お留守番>  またまた御冗談を

 雷@賀藤艦隊>  誤報よね?

 漣@管理人>  本人確認したけどマジっす

 清霜@藤艦隊>  嘘でしょ?

 電@賀藤艦隊>  ウソは嫌いなのです!!

 漣@管理人>  ワタシウソツカナイネー

 子日@今日は四国へ行った日!>  あれ、吹雪って艤装背負って帰って来てたよね?

 漣@管理人>  あれ二期生の奴借りただけなんですと

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 白雪@司波艦隊>  うちの吹雪ちゃんのだったそうです。使う人次第であそこまで変わるなんてって感激してました。

 長波@布江艦隊>  やっぱりあの爆発?でやったのかね。海峡からも見えたぞあれ。

 深雪@宮里艦隊>  そーそー。あれ吹雪狙いの自爆だったけど艤装が壊れて本人無傷だった。

 望月@お留守番>  深海棲艦って自爆とかするのか初めて聞いたぞ

 望月@お留守番>  ってーか漣ももしかしてやらかした?

 漣@管理人>  やっちゃったぜ!

 時雨@賀藤艦隊>  今回は轟沈した子が多いよ。

 神通@井口艦隊>  二期生の参加者は半壊しました……

 武蔵@厳島艦隊>  なに心配する事は無い。どう考えても私の轟沈が最大被害額だ。

 赤城@要艦隊>  戦艦は作成コストが高いらしいですからね。

 衣笠@井口艦隊>  正規空母も洒落にならないよね?

 鈴谷@賀藤艦隊>  重巡もそれなりらしいよ。自分で言うのもなんだけど。

 望月@お留守番>  立て直せる資材あるのか心配になって来たぞ?

 望月@お留守番>  ちなみに死人は?

 漣@管理人>  いないそうであります!

 望月@お留守番>  そっかよかった

 

 

 

 

 

No.XX 鎮守府ごはん 投稿者:鳳翔@提艦隊

  給糧艦の方達が毎日腕を振るってくださる鎮守府での食事についてお話しませんか。

  提艦隊では艦娘と自衛隊の方々全員分を作っているので戦闘部隊に負けず劣らずの激戦が毎日繰り広げられています。

  それなのに味の方も妥協なく、お出汁もしっかり取られ、灰汁取りも抜かりない細やかな仕事ぶりでした。

  私もたまにお手伝いさせてもらっていますが、給糧艦の方達はやはり手際が良く、見習って技術を高めて行けたらと思っております。

 

 

 

 間宮@提艦隊>  恐縮です。鳳翔さんとはお互いに高めあえたらと思っています。頑張りましょうね!

 早埼@提艦隊>  というか、我々の料理スキルは艤装のアシストがあるからなので素の実力は鳳翔さんの方が上説があるんですが……

 千代田@宇佐山艦隊>  鳳翔さん空母ですよね?

 鳳翔@提艦隊>  料理好きなんです。素人が邪魔するのはどうかとも思ったのですが、ご厚意で手伝いを許してもらいました。

 神風@提艦隊>  鳳翔さん体力凄いですよね……いつ休んでるの?

 鳳翔@提艦隊>  よく食べ、よく寝る。それだけですよ。

 朝雲@提艦隊>  それだけでなんとかなるんだ……?

 初雪@糞ほど疲れた>  3日に一回は凄い凝ったのが出て来るのはこれが原因か…… 

 望月@マターリ>  凝ってる分には良くない?うちの艦隊結構ワイルドなの出て来たりするんだけど。

 菊月@部員募集中>  マグロの丸焼きが出た時はどうしようかと思ったな。

 漣@管理中>  あれはあれで楽しかったからおkですけどねー味は良かったし

 伊良湖@竹下艦隊>  実は妖精さんに献立を任せた結果があれでした。

 望月@マターリ>  流石妖精さん

 漣@管理中>  文句のつけようもなく完璧で幸福なメニューでしたね!!

 初雪@糞ほど疲れた>  そこまで極端じゃなくていいけど……たまにジャンクフード食べたくなって酒保でポテチとジュース買ったりしちゃう。

 曙@宮里艦隊>  ジュース買うくらいならお茶淹れてもらいなさいよ。砂糖も貰えば甘く出来るわよ。

 初雪@糞ほど疲れた>  お給料いいから節約する必要無いし……

 清霜@藤艦隊>  艦娘になって数少ない良かった事だもんね、お菓子とジュース食べ放題!

 曙@宮里艦隊>  少しでも体力回復しときなさいって言ってるんだけど。お金の話なんてしてないわよ。体力無いなら無いなりにちゃんと回復しとかないとじゃないの。

 漣@管理中>  薬草でも食っとけとかそういう

 望月@マターリ>  そこまでやんなくても普通の食事分で十分疲労取れない?

 叢雲@宮里艦隊>  やってみれば分かるけど結構差が出るわよ。寝るまでに2リットルくらい飲んでおくと。

 清霜@藤艦隊>  そんなに飲んだら寝れないと思う。おなかちゃぷちゃぷになっちゃわない?

 深雪@宮里艦隊>  慣れれば寝れるもんだよ。ただ朝トイレが凄い混んでる。

 初雪@糞ほど疲れた>  最近おトイレ近いから……

 朝雲@提艦隊>  初雪さんは今肉体年齢どれくらいなの?

 望月@マターリ>  あそっかー宮里艦隊か。そこまでやらないと持たないんだね君達

 三隈@藤艦隊>  宮里艦隊は地獄か何かを担当してらっしゃるの……?

 夕雲@宮里艦隊>  給糧艦の方達の名誉のために言っておきますけど、食事は毎日とても美味しい食事をバランスよく用意してもらえています。決して担当者に何か問題があるとかではないのよ?

 

 

 

 

 

No.XX 凄い発見した 投稿者:隼鷹@宮里艦隊

  二日酔いの状態で艤装付けると暫くしたら治る!

  これはもしや飲み放題なのでは?

 

 

 

 雲龍@宇佐山艦隊>  二日酔いのまま出撃した空母が居るらしい。

 曙@宮里艦隊>  飛鷹さんに通報しておきますね。

 隼鷹@宮里艦隊>  いやいやちゃんと治ってるからね。任務には支障出してないから飛鷹だって気にしないって。真面目だけど飲むときは一緒に飲むし言う必要無いから。むしろ暮らしのお役立ち情報だから。

 響@賀藤艦隊>  必 死 だ な

 明石@九曽神艦隊>  ご冥福をお祈りしま~す。

 隼鷹@反省中>  本当に通報する奴があるか

 ポーラ@宮里艦隊編入組>  良い事聞きました~。

 那智@宮里艦隊>  過信すると艤装を使わない任務の時に酷い目に遭うぞ……

 隼鷹@宮里艦隊>  そう言わずに今夜どう?

 ポーラ@宮里艦隊編入組>  いいですね~ご一緒しま~す。

 那智@宮里艦隊>  いや、お前たち言わずとも毎晩飲んでるじゃないか。

 響@宮里艦隊>  那智もね。

 那智@宮里艦隊>  響もだろう?

 

 

 

 

 

No.XX 最近体が重いんです 投稿者:潮@宇佐山艦隊

  このところは以前よりも筋肉も付いてきて、出撃も多少楽になっていたんです。

  でもここ一週間くらいはどうしてか体が重くて……

  お医者さんに見てもらった方がいいのでしょうか。

  まだなんだか重いなという程度で、何かに差し支えるというほどではないのですが……

 

 

 

 朧@カニ飼い始めました>  それは胸の話でなくて?

 潮@宇佐山艦隊>  真面目な話だよお……

 漣@管理人>  でもこの間の自撮りだと明らかに……成長期ですなあ

 敷波@山口艦隊>  成長期だからね。

 綾波@山口艦隊>  栄養もたっぷり取ってしっかり実りましたか。

 潮@宇佐山艦隊>  言われてみれば重いのは胸のあたりのような気がして来た……?

 曙@宮里艦隊>  騙されないで潮……ちゃんと診てもらいなさいよ。

 潮@宇佐山艦隊>  あのごめんなさい。先日お医者さんに診てもらって結果が出たんです。

 潮@宇佐山艦隊>  結果としては異常無しでした。でも、重い事は重いので原因を一緒に考えてもらったんです。

 潮@宇佐山艦隊>  それで前の測定結果と比べたら、胸囲が思ったより上がってて、もしかしたらそれが原因ではないかという結論に……

 朧@カニ飼育中>  やっぱり?

 瑞鳳@九曽神艦隊>  なにそれずるい!私なんて減っちゃったのに!

 曙@宮里艦隊>  ええ……

 漣@裏山>  草

 愛宕@提艦隊>  私もサイズアップしちゃって困ってるわ~。通販だと本当に合ってるか分からないのよねぇ。

 朝潮@宇佐山艦隊>  私は体を使うようになったおかげか余計な脂肪が落ちたように思います。

 大鯨@賀藤艦隊>  私も最近少しきついような……

 初雪@提艦隊>  そりゃ、栄養状態が良くなったり運動するようになったりしたら肉付きも変わって来るよ。

 初雪@提艦隊>  ちな私は変わってない……筋肉は少し付いたのに何故……

 青葉@宮里艦隊>  ここまで多くの方に影響が出ているとなると何かありそうですね。艤装のせいでしょうか?

 木曾@賀藤艦隊>  なんでも艤装に責任を求めるのはどうなんだ。

 天龍@宮里艦隊>  特に害も無いしなぁ。むしろ縮んだら動きやすくなっていいんじゃないのか?

 深雪@宮里艦隊>  これが持てる者の余裕……!

 フーミィ@山口艦隊>  今……天龍は持たざる者を全て敵に回した……。

 望月@実は増えた側>  許されざるよ

 天龍@宮里艦隊>  いやほんと、デカくても動きづらいだけなんだって。減った方がいいぞ絶対。

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 漣@管理中>  気持ちは分からんでもないけど嫉妬乙という事で削除よー

 

 

 

 

 

No.XX 異動があったって本当? 投稿者:由良@竹下艦隊

  よりによって宮里艦隊って聞いたけど、その子大丈夫?

 

 

 

 深雪@宮里艦隊>  島風なら吹雪の僚艦やってるからだいじょぶ。

 鈴谷@賀藤艦隊>  それはだいじょばなくない?

 叢雲@宮里艦隊>  第三訓練所でトップクラスだった子で私達よりかなり強いわよ島風。

 三隈@藤艦隊>  それは吹雪並みという事でしょうか……?

 叢雲@宮里艦隊>  それはない。

 初雪@ゲームさせろ>  それはない。

 卯月@九曽神艦隊>  それはない。

 秋雲@宮里艦隊>  それはない。

 漣@管理人>  それはない。

 菊月@週末オンセやります>  それはない。

 望月@竹下艦隊>  それはない。

 漣@管理人>  他の訓練所に行ってた人達向けに解説しますとですね、第三での成績は概ね三層に別れるんですな。

 漣@管理人>  他<<<<<島風、夕立<<<越えられない壁<<<越えられない壁<<<越えられない壁<<<越えられない壁<<<ウォールマリア<<<越えられない壁<<<越えられない壁<<<越えられない壁<<<吹雪

 漣@管理人>  こんな感じに。なのでかなり強いわけであります。

 曙@宮里艦隊>  言いたい事は分かるけど壁多すぎて伝わり辛くないこれ。

 朝潮@宇佐山艦隊>  謙遜されていますが、他と島風さん達の間に漣さんが入りますよね?

 漣@管理人> いや漣さんはトップ3に比べたら全然普通だにゃー。謙遜とかでなく。

 長波@髪洗う手間が凄い>  個人的にその下くらいに初雪が来るのが納得いかないんだよなぁ。

 初雪@ゲームしてる>  ドヤァ……

 磯波@納豆が苦手な方>  他って書いてあるけど、そこも四層くらいに分かれてたよね。

 磯波@豆腐が苦手な方>  とても強い、強い、普通、それ以外に別れてたね。

 由良@竹下艦隊>  それ以外って何……?

 望月@まったりしたい>  潜在能力はありそうなのに性格的に向いてなかった人とか姉妹艦に付きっきりだった人とかやたら近接戦やりたがる人とかふざけ過ぎててよく分からなかった卯月とか

 山風@藤艦隊>  一人でみんな倒すようなのに立ち向かうのはちょっと……

 卯月@賀藤艦隊>  どーしてうーちゃんだけ名指しぴょん!?

 愛宕@提艦隊>  誰も吹雪の位置には突っ込まないのねぇ。

 山風@藤艦隊>  もっと壁増やしても分かり辛いだけだし……

 千代田@宇佐山艦隊>  本当はもっと多いって事!?

 

 

 

 

 

No.XX 成績発表ってやった? 投稿者:北上@砲撃当たんない

  一か月の鎮守府ごとの成績って他の艦隊でも聞いた?

  ほとんど規模順で順位的には妥当もいいとこだったけどさー

  一か所変なとこあるよね?

 

 

 

 秋雲@宮里艦隊>  おっそうだな

 山雲@宮里艦隊>  いったいどこの事なのやら~。

 瑞鶴@宮里艦隊>  変ってその艦隊に失礼じゃない?

 青葉@宮里艦隊>  グラフで比較するとそれほど差はないかもしれませんよ。

 秋津洲@宮里艦隊>  資料のミスかも!

 曙@宮里艦隊>  誇る所じゃないの一応。

 天龍@宮里艦隊>  まあオレたちだからな。

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 霞@九曽神艦隊>  他の何倍?10倍?有り得ないでしょ。

 叢雲@宮里艦隊>  あれね、大半吹雪の戦果なのよ。

 霞@九曽神艦隊>  成程ね。

 北上@魚雷は当たる>  それで納得しちゃうんだー

 陸奥@山口艦隊>  参考までに聞きたいんだけれど、どれくらい吹雪が倒したの?

 叢雲@宮里艦隊>  七割以上、だと思うわ。細かい所まで知らないけど。

 青葉@宮里艦隊>  概ね吹雪さんの戦果を除いて個人スコアが提艦隊の倍だそうですので、それくらいで合ってると思います。

 北上@対空砲も当たらん>  それ吹雪だけで鎮守府幾つか分になんない?

 青葉@宮里艦隊>  そうですね。計算すると鎮守府8.5個分です。

 フーミィ@山口艦隊>  流石に盛ってない……?

 響@賀藤艦隊>  いくら強くてもそんなになるだろうか。

 (削除されました)

 朝潮@宇佐山艦隊>  一人で他全員と同じくらい倒している計算になるのですが、合っていますか?

 青葉@宮里艦隊>  そうなります。

 夕張@竹下艦隊>  流石に何かの間違いでしょ?どこか桁間違ってるのよ。よくある奴。

 綾波@山口艦隊>  でも吹雪だし……

 敷波@山口艦隊>  吹雪だもんね……

 北上@でも魚雷は当たる>  吹雪に対する信頼篤いなあ

 竹@九曽神艦隊>  一緒に訓練すると分かりますよ。心をやられます。

 松@九曽神艦隊>  同じスタートラインだからって張り合おうとして、見事に砲撃訓練一日目で折られたのが何人か。

 漣@管理人>  その前日の時点で察した私が通りますよ。

 松@九曽神艦隊>  折れなかった子達も模擬戦でゆでる前のパスタみたいにされました。

 皐月@提艦隊>  結局模擬戦被弾0で終わってたからね。

 北上@魚雷増やすかな>  とりあえず駆逐艦達から見たら間違いなさそうなのか。

 イムヤ@宮里艦隊>  あたし達も何度も確認したけど、数値に間違いはないって提督は言ってた。報告書を出したのが自分だからよく覚えてたんだって。

 陸奥@山口艦隊>  まるでお話の中のヒーローね。主人公よりは主人公が憧れるタイプのキャラクターだけど。

 望月@うちが最下位だと思ってた>  オールマイトかな?

 菊月@竹下艦隊>  オールマイトだな。

 雲龍@宇佐山艦隊>  吹雪の異常さは分かったけど、それ以外も大概。

 (削除されました)

 扶桑@宇佐山艦隊>  他の方々も二番目の提艦隊の倍って凄まじいわね……

 金剛@提艦隊>  悔しいです!

 皐月@提艦隊>  いやうちの半分以上倒してるの金剛さんだから金剛さんは負けてないよ!

 北上@卯月を上に>  色々聞いてるけど艦娘ってのは強い人がひたすら強いみたいだねえ

 卯月@北上の上にいる!>  言ってる北上は強い側ぴょん。

 北上@駆逐艦うざいー>  あたしゃちょっと魚雷が得意なだけだよー

 初雪@忙しいと思ったら二位とか>  ちなみにだけど吹雪も訓練所で当てられた事はあるって言ってたよ。相手教官長だったらしいけど。

 望月@うちが最下位だと思ってた>  あの人そんな強かったのか……

 

 

 

 

 

No.XX 最近無性に言いたくなる人集合 投稿者:電@賀藤艦隊なのです

  なのです!

 

 

 

 球磨@賀藤艦隊>  クマ!

 夕立@賀藤艦隊っぽい>  ぽい!

 卯月@照月のおかず取ったら罪悪感が凄かった>  ぴょん!

 秋津洲@宮里艦隊>  かも!

 由良@竹下艦隊>  ねっ!

 イク@宮里艦隊>  なのね!

 陸奥@山口艦隊>  あらあら

 響@гатоу флот>  Хорошо

 ろーちゃん@でっちはでちっていってますって!>  Danke!

 漣@管理人>  キタ━━━(゚∀゚)━━━!!

 金剛@提艦隊>  Burning love!

 三隈@藤艦隊>  くまりんこ!

 鬼怒@藤艦隊>  パナイ!

 愛宕@提艦隊>  ぱんぱかぱ~ん!

 子日@宇佐山艦隊 > 今日は何の日?

 雷@賀藤艦隊>  頼っていいのよ!

 榛名@竹下艦隊>  大丈夫です。

 大井@竹下艦隊>  北上さん!

 大井@宮里艦隊>  北上さん!!

 比叡@ >  ひえー

 木曾@賀藤艦隊>  大井はなんか違うだろ。

 球磨@賀藤艦隊>  おっと木曾もここに書き込んだからには何か言ってしまうクマ?

 卯月@秋月のおかず取ったら罪悪感が凄かった>  まさかまさかツッコミたいだけでつい書いたとかじゃないぴょん?

 大井@宮里艦隊>  ちなみに多摩さんは「にゃー」って言ってしまうそうですよ北上さん!

 響@гатоу флот>  Спасибо

 漣@管理人>   (0゜・∀・)wktk

 木曾@賀藤艦隊>  キソー

 球磨@賀藤艦隊>  凄く変わってますね。

 卯月@九曽神艦隊>  大変そうですね。

 漣@竹下艦隊>  そうなんだ、すごいね!

 木曾@賀藤艦隊>  よし分かった俺は明日から武蔵の姐さんに随伴させてもらう。

 球磨@賀藤艦隊>  ごめんなさい許してください夕立と浦波と東雲と響一人で押さえるのは無理です。

 卯月@九曽神艦隊>  大変そうですね。

 響@гатоу флот> До свидания.

 

 

 

 

 

No.XX 艤装って使わないパーツ付いてるよね 投稿者:鬼怒@藤艦隊

  マストみたいのとか、艦橋みたいのとか要らないとこあるよね?

  あと錨、あれ何に使うの?

 

 

 

 浦波@賀藤艦隊>  え、普通に使いますよね?

 浦波@賀藤艦隊>  重心ずらして避けるとか、引っかけて態勢崩すとか色々出来ますよね?

 浦波@賀藤艦隊>  叩き付けるのは強度を増してもらわないと厳しかったですけど、改造してもらったら砲台を叩き壊すなんて事も出来るようになりましたよ。

 鬼怒@藤艦隊>  ごめんどのパーツの話?

 浦波@賀藤艦隊>  すみません、錨です。

 鬼怒@藤艦隊>  私の知ってる錨と違う……

 深雪@宮里艦隊>  吹雪が四国で浦波の言ってたのに近い使い方してたよ。相手に引っ掛けて自分を引き寄せてた。

 浦波@賀藤艦隊>  流石一番艦分かっていらっしゃる。

 浦波@賀藤艦隊>  深雪さんもやりませんか?

 深雪@宮里艦隊>  あっはっは無理。

 浦波@賀藤艦隊>  やはり錨は有用……!

 浜風@要艦隊>  例の救助動画の事だと思いますがあれは特殊では。

 卯月@ぴょん曽神艦隊>  あんなの吹雪型以外やろうとも思わないぴょん!

 初雪@出戻り>  型って付けるの止めようか

 

 

 

 

 

No.XX たまに変な深海棲艦が居るらしいですが。 投稿者:青葉@宮里艦隊

  目撃例募集してます。

 

 

 

 比叡@ >  水着を着た姫級なら見ました。

 雲龍@宇佐山艦隊>  模型で遊んでる小さな姫級なら……

 山風@藤艦隊>  急に浮かんできて目が合って、あって思ったら逃げてった姫級はいたよ。

 北上@九曽神艦隊>  イ級の上にのって大はしゃぎしてるPT小鬼ならこないだ見たよ

 青葉@宮里艦隊>  いやそういう方向性でなく……まぁその個体等も気にはなりますけども。

 

 

 

 

 

No.XX 特殊個体について 投稿者:球磨@賀藤艦隊

  つい先日公開された巨大クジラみたいな奴についての詳細情報求む。

  あれ動画のラストどうなったのかも含めて。

  なんで本体露出した所で終わってるの?

 

 

 

 青葉@宮里艦隊>  どうもこうも吹雪さんが倒して終わりです。

 球磨@賀藤艦隊>  いやどう倒したのかが知りたいクマ。

 青葉@宮里艦隊>  たぶん想像通りではないかなーと思いますよ。

 球磨@賀藤艦隊>  そっかー。

 球磨@賀藤艦隊>  そういえばこの間青葉が立ててた目撃情報のってこれのせい?

 青葉@宮里艦隊>  ですです。他所にはああいうの出てないのかなーと思いまして。

 夕張@竹下艦隊>  やっぱりOFA継承してるよねあの子。

 鈴谷@賀藤艦隊>  あれ本当に素手でやってる?遠くてちょっと分かり辛かったんだけど。

 イク@宮里艦隊>  素手だったのね!叩くたびに曲がって取れて飛んでってたなのね!

 木曾@賀藤艦隊>  そうか、目の前で見た奴も居るんだな。どうやってたんだあれ?

 イク@宮里艦隊>  普通に素手で切ったり開けたり千切ったりしてたと思うの。力強いだけなのね。

 イムヤ@宮里艦隊>  そうだね、それだけだったよ。何も特別な事はしてなかったんじゃないかな。

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 イク@宮里艦隊>  言いすぎなのね~。嫌いだって勘違いされちゃいそうなの。

 イムヤ@宮里艦隊>  ごめん。消しとく。

 イムヤ@宮里艦隊>  いい子だから、それだけは知っておいてあげて。

 イムヤ@宮里艦隊>  あたしが言うのもなんだけど。

 吹雪@司波艦隊>  たぶん特殊だと思われるのが四国に居ました。

 吹雪@司波艦隊>  宮里艦隊の吹雪さんと空中戦の末に自爆、吹雪さんの艤装と相打ちになりました。

 球磨@賀藤艦隊>  待つクマ空中戦って何クマ。艦載機?

 吹雪@司波艦隊>  ああ、すみません。敵は飛んでいませんでした。空中戦というのはおかしかったですね。

 球磨@賀藤艦隊>  吹雪は飛んでたクマ!?

 

 

 

 

 

 

No.XX 生放送反省会 投稿者:望月@流石にワロタ

  五か所の鎮守府から配信された生放送について語る場所です。

 

  参考動画

  https:XXXXXXXXXX/X/XXX/XXX

  https:XXXXXXXXXX/X/XXX/XXX

  https:XXXXXXXXXX/X/XXX/XXX

  https:XXXXXXXXXX/X/XXX/XXX

  https:XXXXXXXXXX/X/XXX/XXX

  https:XXXXXXXXXX/X/XXX/XXX

  https:XXXXXXXXXX/X/XXX/XXX

 

 

 

 望月@流石にワロタ>  とりあえず北上に許可出した奴は反省した方がいいと思うよ。

 由良@宇佐山艦隊>  山口艦隊と賀藤艦隊はいいとして、他三つはどうしてああなったの?

 夕立@賀藤艦隊>  許されたっぽい!

 北上@炎上中>  面白いかなと思って提案したら局の方からOK出ちゃったZE★

 大井@竹下艦隊>  エキサイティングでしたよ北上さん!

 長波@ > どっちかって言うとサイコホラーだろあれ……

 金剛@提艦隊>  提督への愛が抑えきれなかったです!!

 比叡@ > 元気そうで何よりでした!

 霧島@山口艦隊>  甘やかしていい所じゃないと思いますよ比叡さん。

 千代田@宇佐山艦隊>  宮里艦隊がお色気とお笑い担当扱いになってるの酷すぎて笑うんだけど。

 長月@竹下艦隊>  吹雪はまぁ、わざとなんだろうが……島風がな。

 陽炎@ > あの格好で出ちゃったらね。元気そうで良かったけど。

 朝霜@ > 島風でトドメと見せかけてからの大井からの川内だぞ。どうしようもねぇよ。

 利根@山口艦隊>  あの川内どのは件の十二人の一人という事でいいのだな?

 朝潮@宇佐山艦隊>  宮里艦隊で活動されている前精鋭部隊の艦娘は長門さんと龍驤さんと聞いていますが、もう一人おられたのでしょうか?

 叢雲@宮里艦隊>  川内さんはあの精鋭部隊の所属じゃないわよ。

 竹@九曽神艦隊>  うん?宮里艦隊だと適性外の連中も前線に出てんのか?

 叢雲@宮里艦隊>  偵察や索敵には出てるわよ。

 夕雲@宮里艦隊>  どうしても私達だけではカバーしきれないもの。他の艦隊でもそうなっているはずですよ。

 利根@山口艦隊>  ああそちらの部隊の人間か!吹雪が親し気な反応だったので勘違いしてしまったわ。

 叢雲@宮里艦隊>  吹雪にとっては格闘戦の師匠だからね。一瞬で越えられたらしいけど。

 望月@流石にワロタ>  それはもしかしてヤベー奴なのでは……?

 山雲@宮里艦隊>  酷い風評被害だねー。

 卯月@ぴょーん>  そういえば吹雪は鎮守府でもエロゲやるぴょん?

 如月@提艦隊>  お年頃だもの、興味津々よね。

 曙@宮里艦隊>  やる訳ないでしょ。あいつ変な動画見てるだけでゲームはしてなかったわよ。

 荒潮@提艦隊>  あらぁ~、やっぱりそういう動画見るのねぇ。

 曙@宮里艦隊>  違うったら!あいつが見てたのは自分をネタにされてるような奴よ。

 松@九曽神艦隊>  それはそれでどうなんです……?

 漣@管理人>  そういえば宮里艦隊の方の大井さんはいらっしゃりやがりませんね。感想戦と来たら長文でも投げつけて来るかなと期待してたんですがねー。

 島風@宮里艦隊>  今長門さんに怒られてるよ!

 

 

 

 

 

No.XX 誰か一緒にゲーム配信とかしない? 投稿者:北上@高評価チャンネル登録お願いします

  最近配信再開しようかと思ってるんだけどさー

  コラボしてくれる人居ない?艦娘コラボ配信とか絶対伸びると思うんだよ

  まぁ許可取れたらになるけど

  あと絶対荒らされるからメンタル強い人限定ねー

 

  過去動画はこちら

  https://XXXXXXXXXX/XX/XXX/XXX

  https://XXX/XXXX/XXXXX/XX

 

 

 

 大井@宮里艦隊>  楽しみにしてます!

 大井@竹下艦隊>  絶対見ます!!

 夕立@賀藤艦隊っぽい>  生放送の反省ぜんぜんしてないっぽい。

 木曾@ガトー艦隊>  実現したとして何をする気なんだ?

 北上@高評価チャンネル登録お願いします>  ゲームとか雑談くらい?

 球磨@賀藤艦隊>  まずゲーム持ってる子が少ないと思う。

 春風@提艦隊>  確か提艦隊では初雪さんが持ってらしたと思いますけど、今は宮里艦隊の方へ行かれてますね。

 初雪@出向中>  持ってきちゃったからそっち残ってないよ。そもそも何やるのか知らないけど。

 イムヤ@宮里艦隊>  スマホゲーならするけどたぶん違う奴だよね?

 北上@高評価チャンネル登録お願いします>  PCが一番楽だけど最新ハードならなんでも行けるかな、スマホは画面映えがねー

 島風@宮里艦隊>  レースしようレース。

 島風@宮里艦隊>  そういえば前聞いたけど吹雪と親戚なら誘ったら?

 島風@宮里艦隊>  パソコン持ってるよ。

 北上@高評価チャンネル登録お願いします>  北上さまが完全に霞むから嫌じゃー

 大井@竹下艦隊>  北上さんなら負けないと思います!

 大井@宮里艦隊>  北上さんの方がトークとか絶対上手ですよ!

 漣@削除対象多すぎるだろjk>  吹雪だと寄生扱いされそうですからなぁ

 北上@高評価チャンネル登録お願いします>  それな

 木曾@ガトー艦隊>  大井が一緒にやったらいいんじゃないのか?どうせ片方は声も割れてるんだ。

 大井@竹下艦隊>  それはちょっと。

 大井@宮里艦隊>  畏れ多いと言いますか。

 北上@高評価チャンネル登録お願いします>  既に二人には断られてるんだよねー

 卯月@提督の椅子にブーブクッション仕込んだら大淀がドン引きしてた>  やってみたいけど顔出しNGだぴょん!

 球磨@賀藤艦隊>  FPS初心者とやるのも面白そう。

 朝潮@宇佐山艦隊>  盛り上がっている所恐縮ですが、まず許可を取るのが先ではないでしょうか?

 北上@高評価チャンネル登録お願いします>  確かに。じゃあ取って来るかぁ……

 漣@管理業務中>  場合によってはこのスレ全削除なんでよろー

 北上@高評価チャンネル登録お願いします>  マジすかーがんばるー

 北上@高評価チャンネル登録お願いします>  なんか流れで提督とやる事になったわ

 大井@竹下艦隊>  楽しみにしてます!

 大井@宮里艦隊>  絶対見ます!!

 卯月@提督の膝硬い>  提督ノリノリだぴょん

 霞@九曽神艦隊>  あいつに変な事やらせないでくれる?

 瑞鳳@九九曽神艦隊>  手遅れですね。さっき酒保で機材の手配してたよ。

 加賀@宮里艦隊>  楽しそうでいいわね九曽神艦隊

 

 

 

 

 

No.XX 名前と適性艦の関係について 投稿者:神州丸@山口艦隊

  名前と適性値に関係はあるのか?

  関係があったとして何故そんな事になっているのか?

  そう言った事を気が済むまで語る場です。

  証拠や結論は出ないものと思われるので注意。

 

 

 

 神州丸@山口艦隊>  立てた。私は入っていません。

 漣@管理人>  乙、入ってないでーす。

 鈴谷@賀藤艦隊>  あざーっす。入ってるー。てか名字まんま。

 名取@藤艦隊>  お疲れ様です。入っていません。

 秋雲@宮里艦隊>  のりこめー^^

 漣@管理人>  わぁい^^

 秋雲@宮里艦隊>  あ、入ってないです。

 響@賀藤艦隊>  お疲れ様。響とは入っていないな。

 清霜@藤艦隊>  名前の中に艦名はないです。なんか入ってるのかっこよくっていいなぁ。

 青葉@宮里艦隊>  私は入ってないです。そのせいかそれ程強くはないんですよね。

 瑞鳳@九曽神艦隊>  関係あるの?私は入ってるけど強くはないよ?

 大井@竹下艦隊>  私もさほど強くないですね。一応入ってはいるけれど、あっちの大井さんの方が強いくらいよ。

 卯月@九曽神艦隊>  うーちゃんも入ってるぴょん。でも別に成績良くなかったぴょん!

 時雨@賀藤艦隊>  卯月は成績は良くなくても適性値は高そうだったけどね。

 清霜@藤艦隊>  第三訓練所では入ってる吹雪、夕立、島風だけレベルが違う感じだったわね。他はどうだったの?

 瑞鳳@九曽神艦隊>  第四もやっぱりトップ三人は入ってたわね。中でも赤城さんが突出してた。

 イムヤ@宮里艦隊>  第五訓練所の潜水艦組は最年少の呂500、ろーちゃんが一番強くて、それ以外はあんまり変わらなかった。イクがちょっと強かったかな?あと一人心配になるくらい潜るのが苦手な子は居たよ。

 間宮@原須艦隊>  給糧艦では宮里艦隊へ行った間宮さんが一番上手でした。生成も速かったです。

 明石@竹下艦隊>  工作艦も宮里艦隊に行った二人はいい腕してたよ。やっぱりあそこエリートが集められてるんじゃない?

 名取@藤艦隊>  第二も一番だった金剛さんをはじめ、上から6番目までは全員入ってます。やはりその六人が一線を画していましたね。

 卯月@九曽神艦隊>  金剛型四人と北上と……あとだれぴょん?

 名取@藤艦隊>  扶桑さんです。

 青葉@宮里艦隊>  金剛さんが図抜けていましたけど、榛名さんと扶桑さんも負けてはいなかったですね。霧島さんと比叡さんはその三人に比べるとまだ普通で、そんな中を一芸特化で突き抜けて行ったのが北上さんです。

 大井@竹下艦隊>  流石北上さん!!

 鈴谷@賀藤艦隊>  むしろ金剛型が普通って思っちゃって重巡はみんな自分達の微妙さに泣かされたよ。

 青葉@宮里艦隊>  戦艦の半分が金剛型だった訳ですからね。うちの長門さんが旧精鋭部隊で最高火力だったらしいので、あの五人がおかしかったんだと分かりましたが。

 大井@竹下艦隊>  教官達が喜んでたのも今なら納得できますよね。精鋭部隊の方にはギリギリ150程度の人達も居たらしいですから猶更。

 漣@管理人>  意外なのは宮里艦隊の駆逐艦にそんな入ってる人が居ない事ですかね。あそこ色々参考にならないんで例外扱いでいい気もしなくもないですが!

 秋雲@宮里艦隊>  筆頭の吹雪と島風を抜くと、夕雲姉さんと初春だけだかんね。駆逐艦以外は天龍に山城、加賀、瑞鶴、隼鷹、秋津洲、イク、速吸、それに明石に間宮(敬称略)で入ってる人大杉問題な感じだけど。

 初雪@提艦隊>  提艦隊も異様に多い……っていうか、入ってない方が少ない……

 神州丸@山口艦隊>  明らかに宮里・提の二つは集められているように見えるな。配属を決める側は何かしら知っていそうだ。筑摩さんは知らなそうだったから、係わっているのはもっと上の階級だけだろうが。

 卯月@九曽神艦隊>  そういえば自衛隊の精鋭部隊の人達は入ってないぴょん?

 青葉@宮里艦隊>  入ってる人も入ってない人も居ます。ただ、長門さん辺りは本名を名乗ってないですね。あの人、名字は違うはずなんですが何故か長門姓を名乗っているんですよね。

 響@賀藤艦隊>  それはゲン担ぎらしいよ。武蔵さんに聞いた。

 青葉@宮里艦隊>  確かに今の状況だと強くなれそうな気はしますねえ。

 望月@竹下艦隊>  長門さんの本名、たまに見るけどあれはそもそも本当なのか?

 青葉@宮里艦隊>  おそらく正しい情報です。出所もはっきりしてますし、名前の方は一致してます。

 イムヤ@宮里艦隊>  強さはともかく入ってる人達ってみんな美人だよね。

 鈴谷@賀藤艦隊>  でしょー?

 大井@竹下艦隊>  北上さん綺麗さの中に可愛らしさもあって最高ですよね!!

 山城@宮里艦隊>  扶桑姉さまは本当にお美しい……

 比叡@ >  金剛お姉さまは近所でも学内でも評判でした!

 加賀@宮里艦隊>  赤城さんはとても美人でした。

 瑞鳳@九曽神艦隊>  隼鷹さん格好良かったな。お酒絡まなければ。

 夕張@竹下艦隊>  実は結構自信あります。

 卯月@九曽神艦隊>  褒めてる連中みんな自分も入ってる奴らぴょん。持てる者の余裕ぴょん。

 漣@管理人>  オマエモナー

 初雪@提艦隊>  お姉ちゃん美人なのに化粧とか手入れとか一切してなかった……羨ましい……

 初雪@提艦隊>  島風も可愛いのにそういう事してる雰囲気なかったな……羨ましい……

 漣@管理人>  あの二人に囲まれると凄そうですな。色々と。

 初雪@提艦隊>  ね。天国かと思った。

 如月@提艦隊>  もしかして女性として競い合う気持ちすら消え去ってる……?

 漣@管理人>  集計してみたけど、二期生って入ってる側少ないですな。

 青葉@宮里艦隊>  ですね。やはり地域性だったりしたのでしょうか……?

 名取@藤艦隊>  金剛型や吹雪さん島風さんが同じ学校ですしね。

 青葉@宮里艦隊>  でも一番驚いたのは吹雪二人目ですかね。被りは初めてなのに、よりによって吹雪とは……

 川内@宮里艦隊>  被りはこっちでも初めて確認したらしいよ。

 青葉@宮里艦隊>  おや、川内さんアカウント取得出来たんですか?

 漣@管理人>  余程問題あるとかじゃなきゃ新人ちゃん達にも発効してますよん

 青葉@宮里艦隊>  いやそういう問題じゃないというか……自衛隊員ですよ川内さん。

 漣@管理人>  mjsk

 漣@管理人>  招待コード付きで申請あったから宮里艦隊の新人かと思ってた

 川内@宮里艦隊>  あれ、文月から渡されたんでやってみたんだけど不味かった?

 文月@宮里艦隊>  川内さん一期生じゃなかったんですか!?

 川内@宮里艦隊>  ごめん違うんだわ。ちょっとそっち行って説明する。

 漣@管理人>  チャットの方で個別に話して把握しました。ただの勘違いですね。川内さんのアカウントは本人の同意により凍結とさせていただきました。

 文月@宮里艦隊>  ご迷惑おかけしました!

 漣@管理人>  いえいえ、川内さんは生放送に出てたので仕方ないですよ。

 曙@宮里艦隊>  チャットの方って言うけどここも似たような状態よね。

 漣@管理人>  お気に入りと通知と自動更新機能付きですからなぁ

 秋雲@宮里艦隊>  各鎮守府に話は行ったと思うから言うけど、文月が川内さんを一期生と間違えたのは川内さんが昇格組だからなんだよね。一緒に出撃したから勘違いしちゃったみたいね。

 霞@九曽神艦隊>  ちゃんと説明しておきなさいよ。分かる訳ないでしょそれ。

 文月@宮里艦隊>  あっ違うんだよ。ちゃんと説明はされてたんだ。でも、暁教官長と飛鷹さんがメンバーに居たからその二人の事って意識が強かったの……あとその、川内さんあまりにもらしすぎてというか、自衛隊員っぽさがなかったから……良い意味でね?

 響@宮里艦隊>  あの二人は有名だからね。良くも悪くも。

 陽炎@布江艦隊>  ねぇ飛鷹さんって本当に戦えなかったの?正直滅茶苦茶疑ってる。

 青葉@宮里艦隊>  少なくとも本人の認識ではそうらしいです。

 瑞鳳@九曽神艦隊>  適性値が上がるなら私達必要……?って最初なら思ってたんだろうけどね。実際のところ十人二十人増えてもどうしようもないよね。

 長波@布江艦隊>  増えるのは分かった。新発見ってのも理解した。でも提艦隊の数はおかしいだろ。なんで他が多くて三人なのに八人も。絶対なんかあるぞあれ。

 青葉@宮里艦隊>  情報を纏めると色々仮説は立ちますねえ。有り得るのかはともかく。

 

 

 

 

 

No.XX 異動!!! 投稿者:望月@私は動かないぞぉ

  第二期適性者の艦隊新設と編入に合わせて異動があるっていうじゃん。

  うちの艦隊は二人out二人in予定らしいんだけど他はどうなの?

 

 

 

 夕立@賀藤艦隊>  賀藤艦隊も二人出るっぽい!木曾とまるゆっぽい!!

 木曾@賀藤艦隊>  厳島艦隊に異動になった。まるゆも一緒だ。入れ替わりで二人入る。

 球磨@賀藤艦隊>  行かないで欲しいクマ……

 木曾@賀藤艦隊>  なんだ、寂しいのか?

 球磨@賀藤艦隊>  駆逐艦誰が纏めると思ってるクマ!新人の教育もあるクマ!どうするクマこの艦隊!!

 木曾@賀藤艦隊>  頑張れ。

 球磨@賀藤艦隊>  妹が冷たいクマ……泣きたいクマ……

 北上@九曽神艦隊>  うちは三人outで三人in。これはどこも人数は変わらない感じかねー?

 大井@宮里艦隊>  宮里艦隊は誰も出ないですけど三人入って来るそうです!増員ですね!

 北上@九曽神艦隊>  大井っちのとこは納得だよねー

 大井@竹下艦隊>  竹下艦隊は二人出て二人入ります。

 望月@私は動かないぞォ>  竹下はあたしが最初に言ったっしょ

 大井@竹下艦隊>  自分で北上さんに伝えたかったのよ……!!

 望月@そっかー>  そっかー

 霧島@山口艦隊>  山口艦隊も-2+2です。一対一での交換が基本みたいね。

 磯波@異動する方>  異動になりました。

 磯波@異動する方>  同じく異動になりました。

 望月@そっかー>  名前同じにされるとほんとにどっちかわっかんないんだよなー

 愛宕@提艦隊>  提艦隊も二人出て二人入りまーす。

 漣@宇佐山艦隊>  同じく宇佐山も2:2交換ですな

 長波@ >  うちは異動無し、編入二名。そして提督が代わる。繰り返す、提督が代わる!!

 望月@竹下艦隊>  おめでとう!

 夕立@賀藤艦隊>  おめでとうっぽい!

 北上@九曽神艦隊>  おめー

 霧島@山口艦隊>  おめでとうでいいのかしらこれ……でもようやくね。

 陽炎@ >  次の提督は私達に艦隊名を消させない人だといいんだけど……

 

 

 

 

 

No.XX 連装砲ちゃん二期生にも居るの? 投稿者:島風@宮里艦隊

  一期生には私しか居なかったんだけど、二期生にはいたの?

  適性が合わないと使えないって言ってたから居ない?

 

 

 

 桃@八月朔日艦隊>  連装砲ちゃんは居なかったよ。他の子は居たけど。

 初月@要艦隊>  僕の長10cmだね。みんな連装砲ちゃんに倣ってちゃん付けで呼んでいたけど。

 島風@宮里艦隊>  おおっ居るんだ。

 島風@宮里艦隊>  連装砲ちゃんとどっちが速いかな!?

 初月@要艦隊>  残念だけど艤装に付けて運用するタイプだから自走はさせないんだ……

 島風@宮里艦隊>  そっかー残念。

 初月@要艦隊>  でも自動で狙いを定めてくれるのは凄く助かるよ。それに愛嬌もある。

 島風@宮里艦隊>  妹か弟みたいな感じだよね。

 桃@八月朔日艦隊>  いーなー。私も欲しかった。

 卯月@んょぴ>  そういえば秋月と照月が言ってたけど、艤装の中の秋月と照月は連装砲ちゃんみたいなのと一緒だったらしいぴょん。

 初月@要艦隊>  秋月型の先輩か、話してみたいな。二期生には僕以外居なかったから。

 卯月@んょぴ>  あの二人スマホもガラケーも持ってないぴょん。

 桃@八月朔日艦隊>  お給料いいんだし買っちゃえばいいのに。

 卯月@んょぴ>  ぜんぶ仕送りしてるぴょん。だからたまにうーちゃんのおかし分けてあげるぴょん。

 島風@宮里艦隊>  二人分全部してるの?

 島風@宮里艦隊>  億行かない?足りないの?

 卯月@んょぴ>  新人に教えとくぴょん。島風のは参考にしちゃ駄目だぴょん。こいつ吹雪の僚艦だぴょん!

 初月@要艦隊>  宮里艦隊ってそうなのか……

 曙@宮里艦隊>  吹雪と島風だけだから。一緒にしないで。

 曙@宮里艦隊>  でもそれにしたって艦娘姉妹二人分で足りないってどんな大家族よ。

 北上@動画編集中>  いやーなんか一族郎党らしいよ。故郷追われてみんなで寄り合ってたから、自分達だけ裕福になるのは嫌なんだって。うちの艦隊けっこー成績いいのにギリギリらしいし人数はかなりのもんだと思われ

 初月@要艦隊>  そうか……そういう事ならわがままは言えないな。悪い人達じゃ無さそうだから少し残念だけどね。

 卯月@んょぴ>  いやいやうーちゃんのスマホ貸してくるから好きなだけ話せばいいぴょん!

 

 

 

 

 

No.XX 淡路島の報告 投稿者:秋雲@宮里艦隊

  本日淡路島まで行ってまいりました。

  生存者居ました。合計人数は未発表ですが、護送も今進められています。

  やったぜ。

 

 

 

 初雪@宮里艦隊出向中>  成し遂げたぜ

 漣@管理してる場合じゃねぇ!>  作戦成功おめ!

 秋雲@宮里艦隊>  まあ奥まで行ったの吹雪と島風くらいだったんだけどね!!

 初春@宮里艦隊>  退路の確保も立派な任務じゃ。誇って良かろう。

 山風@藤艦隊>  おめでとう。遠くからひっそり応援してる……

 曙@宮里艦隊>  何言ってるのよ、山風は成績いい方なんだから次の四国戦は来るんでしょ?

 山風@藤艦隊>  行きたくない……

 大東@書田艦隊>  宮里艦隊の交代要員で淡路島まで来たぞー!

 大東@書田艦隊>  噂の吹雪とも遭遇したけどほんとに美人でびっくりだった。

 大東@書田艦隊>  んで、艦娘になる前は知らなかったけど、あの子妖精さん頭に乗っけて戦ってんだな。よくあの状態でバランス取れるもんだ。まー噂通り強かったからいいんだろうけど、あれって出しといて大丈夫なん?

 漣@管理してる場合じゃねぇ!>  え、何それは

 響@賀藤艦隊>  訓練所では頭に乗せたりはしていなかったよ。頭に飼ってた可能性は否定しないけれど。

 電@賀藤艦隊>  響ちゃん凄く失礼な事言ってるのです!?

 秋雲@宮里艦隊>  あーあれね。あれ今回から。

 島風@宮里艦隊>  あれは見晴らしがいいかららしいよ!

 陽炎@布江艦隊>  そんな理由で出しておいて大丈夫なの?

 島風@宮里艦隊>  一回も落ちなかったし大丈夫だと思う。

 漣@管理人>  ええ、頭に乗っけてたら例のこうそくいどう使えなくないすか

 島風@宮里艦隊>  使ってたけど大丈夫そうだったよ!

 漣@管理人>  妖精さんってスゴイ、改めてそう思った

 明石@宮里艦隊>  ちなみにあの妖精さん、うちの艦隊で一番働く妖精さんです。妖精さん達の中でもリーダー格みたいで、居ると居ないとでその班の作業効率が三~五割変わります。ただ提督曰く、吹雪さんの能力を一番引き出せるからと前線へ連れられて行きました。前線で使うとどう変わるっていうのよ……

 明石@竹下艦隊>  うちにください!

 明石@提艦隊>  うちにもください!

 明石@賀藤艦隊>  いいやうちだね!!

 明石@九曽神艦隊>  落ち着けみんなその子はうちで引き取る!

 明石@宮里艦隊>  あげません!!!!

 卯月@九曽神艦隊>  明石ってこんなに居たぴょん?

 明石@八月朔日艦隊>  ここにいるぞー!

 明石@厳島艦隊>  あ、すみません新人の明石です。こっちにもいます。

 明石@山田艦隊>  工作艦は種類があまり無いせいなのかだだ被りでしたからねぇ。

 明石@要艦隊>  給糧艦と工作艦は意外と数も居たしね。

 卯月@九曽神艦隊>  もう誰が誰だか分かんないぴょん!

 鈴谷@賀藤艦隊>  避難民に適性検査やったってホント?

 深雪@宮里艦隊>  ほんと。あたし見てたから知ってるけど、希望した人だけで無理矢理とかじゃないよ。

 青葉@宮里艦隊>  まぁ、公表されたらどう足掻いても叩かれますけどね。

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 漣@管理人>  公表されなくてもこれだよ!!っていうかわざとだろおまいら!!

 

 

 

 

 

No.XX 四国行けなかった雑魚どもが正座で結果を待つスレ 投稿者:望月@お留守番

  四国に派遣されて行ったエリートどもの帰りを無事を祈りながら待つ場所です。

  ねぇ同じ艦隊の仲間が戦いに行ったのに自分は待機とか今どんな気持ち?ねぇどんな気持ち?

 

 

 

 響@賀藤艦隊>  自虐乙。

 望月@お留守番>  べ、別に本当は行きたかったとかじゃないんだからねっ!勘違いしないでよね!!

 電@賀藤艦隊>  変なキャラになってるのです……

 雷@賀藤艦隊>  留守番だって大事な仕事よ。今敵が来たら私達がやっつけなきゃなんだから!

 暁@賀藤艦隊>  それに二期生は本当に優秀だった子達以外、基本的に待機よね?

 響@賀藤艦隊>  いや、暁は純粋に実力不足だと思うよ。

 暁@賀藤艦隊>  分かってるわよ!

 清霜@藤艦隊>  そういえばいつの間にか一期生二期生って定着してるけど正式名称なの?

 薄雲@司波艦隊>  いえ、あれは那珂さんが言ってたのが皆に感染したものです。

 由良@宇佐山艦隊>  ああ、筑波さん。

 雪風@山田艦隊>  訓練開始時期が中途半端だったからと模擬戦の相手をしていただきました!その時、最初に二期生の皆さんって言っていて、どこかのアイドルグループみたいだという話になって定着しました!

 時津風@林艦隊>  芸能人の発言だったからインパクトが大きかったんだよね。

 磯風@八月朔日艦隊>  しかし遠くで四国の命運をかけた戦いをしていると思うと一日待機は落ち着かんな……何か給糧艦でも手伝って来てやろうか。

 浦風@八月朔日艦隊>  止めい。

 利根@山口艦隊>  そもそも夜戦の予定じゃぞ。まだ始まってもおらんだろうに。

 望月@お留守番>  速報<作戦成功> 

 巻雲@藤艦隊>  本当ですか!?

 巻雲@藤艦隊>  本当みたいです!!

 潮@宇佐山艦隊>  さすが漣ちゃん、連絡が速いね。

 清霜@藤艦隊>  いつのまにか寝ちゃってた……成功したみたいで良かったわ。

 望月@お留守番>  徹夜組乙ーもう寝ていいぞー

 響@賀藤艦隊>  だが出撃だ。

 雷@賀藤艦隊>  ほらね!必要だったでしょ!

 

 

 

 

 

 

 

No.XX 四国解放戦反省会 投稿者:漣@管理人

  無事成功を収めた四国戦の話のやり取りをする場所です。

  あまり強い言葉を使わないよう心がけましょう。弱く見えます。

 

 

 

 (削除されました)

 漣@管理人>  わざとやってませんか

 夕張@竹下艦隊>  管理お疲れ様です。色々あり過ぎて書きたい事は多いけど、一つ先に聞かせて。金剛さんが訓練時代よりさらに三式弾の威力高くなってたけどどうやったのあれ?

 青葉@宮里艦隊>  それこそ適性値が上がったんじゃないですかね?

 木曾@厳島艦隊>  自衛隊のが上がるなら召集組も上がるだろうからな。

 愛宕@提艦隊>  金剛は出力もだけど、技量が凄くなってたわね~。火力よりそこに驚いたわ。私達も強くなったと思ったのにそれ以上に伸びてるんだもの。なかなか差が縮まらないわねぇ。

 金剛@出向中>  宮里艦隊で切磋琢磨した結果です。連日出撃してましたからね!

 朝雲@提艦隊>  聞いてはいたけど宮里艦隊は噂通りなのね……山雲も強くなっちゃってて、ちょっと置いてかれた気分。

 山雲@宮里艦隊>  朝雲姉も強くなってたよー。お揃いね~♪

 卯月@ぷっぷくぷしゅぅ>  宮里艦隊は提督まで強いのずるいぴょん!

 鳳翔@提艦隊>  お一人で敵部隊を倒し切っていましたね……勿論援護はしましたけど。

 叢雲@宮里艦隊>  提督一回も戦ってる所見た事ないけど、強いの?

 加賀@宮里艦隊>  砲撃の威力だけは高いですね。今回初めて見ましたが、長門さんや山城さんと比べると艤装に振り回されている印象です。

 卯月@ぷっぷくぷしゅぅ>  秘密にしすぎて腐ったぴょん?

 青葉@宮里艦隊>  おそらくですが、宮里提督も適性値が上昇した一人なのだと思われます。ほとんど艤装に触っていなかったので純粋な練度不足ですかね。

 望月@お留守番>  宮里艦隊的には部隊一つ潰せても微妙扱いなのか……

 瑞鶴@宮里艦隊>  それ、伸びしろがあって凄いって意味よ。

 北上@ここからが本当の地獄だ……>  実際対面して分かったけどさ、練度とかの話をするなら宮里艦隊と提艦隊が双璧だね。その二つだけ平均値が違う感じがした。

 大井@宮里艦隊>  北上さんほど強い人はそんなに居ないですけどね!!

 時雨@賀藤艦隊>  技量では宮里艦隊、出力では提艦隊って印象を受けたね。正直宮里艦隊の戦果は何らかの欺瞞が含まれていると思ってたんだけど、そんな事はなかったのかもしれないと思い直した。

 夕立@賀藤艦隊っぽい!>  秋雲の砲撃凄かったっぽい!威力上がったっぽい?

 漣@管理人>  秋雲先生自分の書いてる漫画だと弱そうなのに実際はちゅよいの酷くね?

 叢雲@宮里艦隊>  駆逐艦の中じゃうちで一番強いわよ秋雲。吹雪と島風は除いてだけど。

 秋雲@宮里艦隊>  そうかねぇ~?近接じゃ叢雲に勝てないし索敵じゃ夕雲姉さんに完敗してるよ?あんまり訓練生の時から変わった感じしないんだけど

 青葉@宮里艦隊>  我々自身では訓練生時代との差は分かり辛いんですよねぇ。

 子日@今日は四国へ行った日!>  教官長が一番びっくりだったよ!!

 雷@賀藤艦隊>  教官長居たの?訓練所では戦えそうになかったじゃない?

 山風@藤艦隊>  最前線に最初から最後まで居続けて、それで無傷で帰って来てた……

 子日@今日は四国へ行った日!>  適性値が上がって戦闘部隊に入ってたんだって。訓練所とぜんぜん違う動きしてたよぉ。

 初春@宮里艦隊>  無傷の者はごく少数だったからか、逆に目立っておったな。

 朝雲@提艦隊>  吹雪からの評価は正しかったって事ね。

 北上@ここからが本当の地獄だ……>  適性値同じなら吹雪より強いってあれ?それはどうかなー

 暁@賀藤艦隊>  同じ暁でこの評価の差……私も頑張らなくっちゃ。

 響@賀藤艦隊>  がんばえー

 暁@賀藤艦隊>  馬鹿にしてるでしょ!?

 皐月@提艦隊>  轟沈スレの吹雪轟沈って本当なんだ……やっぱり爆発のせい?

 雪風@山田艦隊>  海の上からも陸地が大爆発してたのが見えました!

 吹雪@司波艦隊>  あの爆発は基地が自爆した結果です。轟沈は一人で済みましたけど、少し離れた場所に居ても小破や中破までは行く威力でした。

 深雪@宮里艦隊>  よそにも書いたけど完全に吹雪を狙い撃ちして来てた。あたし達なんて帰っていいとか言われたぞ深海棲艦に。

 漣@管理人>  草

 龍田@林艦隊>  あれだけ強ければ仕方ないわね~。敵の大半を一人で片付けていたもの。

 桃@八月朔日艦隊>  桃たちが航空機相手にしている間に基地一つ粉々にしてたもんね。

 文月@宮里艦隊>  比喩無しで粉々になってたね……

 漣@管理人>  草

 雪風@山田艦隊>  やっぱり素手でやったんですか?

 桃@八月朔日艦隊>  そうだよ!見てたけど右ストレートで壁が一面壊されてた!

 文月@宮里艦隊>  やっぱり前世がオールマイトだったりしたのかなあ。

 秋雲@宮里艦隊>  TS転生オールマイトとはなかなか業が深い……

 望月@お留守番>  探せば既にありそうなのがなんとも

 

 

 

 

 

No.XX 謎の五十嵐艦隊 投稿者:漣@管理人

  新設された五十嵐艦隊について情報求ム。

  話だけで伝手が無いから招待も出来なくて困っております。

  というか、どこから出て来たんですあの艦隊?

 

 

 

 深雪@宮里艦隊>  五十嵐艦隊なら淡路島の志願者と大本営で働いてた人達の一部が合体して生まれた鎮守府だよ。

 漣@管理人>  秒で正体が判明した!?

 ポーラ@宮里艦隊>  私と一緒に働いてた皆さんですね~。

 漣@管理人>  あらま。それじゃ連絡先持ってたりされます?

 深雪@宮里艦隊>  それならあたしが持ってる。一緒に避難した時交換した奴。招待送っとく?

 漣@管理人>  オナシャス!

 北上@意外と燃えなかった>  ポーラと一緒って事はその人達は海外艦?

 ポーラ@宮里艦隊>  そうなりますね。

 北上@意外と燃えなかった>  幻の第六訓練所とか中々にロックな事するよねー

 赤城@九曽神艦隊>  海外の艦は最初は建造の仕方が分からなくて、最初の招集のしばらく後に建造できるようになったから、らしいですよ。

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  元響だよ。その関係か、この間建造可能になったらしい新しい艤装を支給されたよ。こっちの方が適正が高かったんだそうだ。もっと早くに欲しかったな。

 暁@賀藤艦隊>  艤装変えた日から二期生トップと同じくらい強くなってびっくりしちゃったわ!

 雷@賀藤艦隊>  最初からそっちの艤装だったら四国も行けたわね。

 電@賀藤艦隊>  頼もしいですけど、ちょっと寂しいのです……

 Верный@гатоу флот>  大丈夫、私は私さ。

 電@賀藤艦隊>  名前欄が全然大丈夫じゃなさそうなのです!?

 

 

 

 

 

No.XX ポーラとビスマルクが実在した件について 投稿者:北上@ビスマルクさんこわひ

  >各鎮守府最強の艦娘と大体の適性値

 

  >赤城 四千弱

  >比叡 六千弱

  >霧島 九千弱

  >夕立 一万弱

  >北上 一万強

  >呂500 一万三千強

  >扶桑 一万五千弱

  >榛名 一万五千強

  >金剛 三万二千強

  >吹雪 五十三万

 

  >番外

  >那珂 二千強

  >島風 一万三千弱

  >ビスマルク 二千弱

  >ポーラ 五千弱

  

  これガチリークだったことない?

  他も大体合ってそうだしさー

 

 

 

 加賀@宮里艦隊>  赤城さんも実在ですしね。何故か存在を疑われていましたが。

 北上@ビス子さん怖ひ>  そうそう。結局全員実在の人物だったというね

 卯月@ビスマルクさんに叱られる北上さんの巻き添えで赤城先生に説教される理不尽な現状に対して遺憾の意を表明し続ける所存であります>  赤城せんせーのはどこにも着任情報がなかったせいだぴょん。

 望月@竹下艦隊>  自分で適性値一万強の可能性あるって言っちゃう北上△

 北上@ビス子さん怖ひ>  そんなに褒めるんじゃあないよ

 大井@宮里艦隊>  北上さんならそれくらいはありますよね。

 大井@竹下艦隊>  むしろもっとあるのでは?

 青葉@宮里艦隊>  艦娘の現状を知らないと書けないとは言われてたんですよね。艦娘のだれかのジョーク説が有力だったんですが……主に吹雪さんの適性値のせいで。

 望月@竹下艦隊>  吹雪「私の適性値は53万です」

 北上@ビス子さん怖ひ>  「ですがもちろんフルパワーであなたと戦う気はありませんからご心配なく」

 綾波@山口艦隊>  訓練所で本当にそんな感じだったんですよね……

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  フルパワーで来られたら全員死んでいたよ。

 卯月@長すぎたから止めるぴょん>  吹雪だからフリーザじゃなくてブリザードだぴょん!

 択捉@林艦隊>  すみません、二期生なためか分からないのですが、吹雪さんの53万に何か意味があるんですか?

 望月@竹下艦隊>  ごめんドラゴンボールネタなんだ。艦娘関係なくてね

 北上@ビス子さん怖ひ>  DBを知らない世代……実在したのか……

 秋雲@宮里艦隊>  まあここに居る誰もリアタイでアニメ見たりした人は居ないと思うけどねえ

 深雪@宮里艦隊>  なんか再放送かなんかやってなかったっけ?弟が見てた。

 初雪@提艦隊>  あれ……まさか本放送見た覚えがあるの私だけ……?

 文月@宮里艦隊>  初雪さん本当は何歳なの……?

 

 

 

 

 

No.XX 某氏の救助活動総合 投稿者:漣@管理人

  色々と言いたい事はあると思いますが、ほんわかレスで行きましょう。

 

  https://XXXXXXXXXX/XXXXX/XXXXXXX.mp4

  https://XXXXXXXXXX/XXXXX/XXXXXXX.mp4

  https://XXXXX/XXXXX/XXXX/XXX.mp4

  https://XXXXX/XXXX/XXXXXXXXXX.mp4

  https://XXXXXXXXX/X/XXXXX/XXXXX.mp4

  https://XXXXXXXXXX/XXXXX/XXXXXXX.mp4

  https://XXXX/XXXXX/XXXXXXX.mp4

 

 

 

 (削除されました)

 漣@管理人>  最早様式美

 時雨@賀藤艦隊>  お疲れ様。こうして動画になると本当に意味が分からないね彼女は。

 神州丸@山口艦隊>  そもそも何をやっているんだこれは……?救助だという事は分かるが……

 球磨@賀藤艦隊>  火事に巻き込まれて救出活動してるっぽい何かクマ。

 巻雲@藤艦隊>  もう艦娘への誤解が止められなさそうですよぉ……

 五月雨@藤艦隊>  同じ事を求められたりしないですよね……?

 (削除されました)

 千代田@宇佐山艦隊>  速すぎてトラウマになってそうだけど助かってるのこれ?

 (削除されました)

 北上@動画完成>  もう百人は救い出してるの人はもうそれ言いたかっただけだよね。

 扶桑@宇佐山艦隊>  私の時もこうやって助けたのかしら……

 夕立@賀藤艦隊>  ビルから飛び降りるのやってみたいっぽい!

 陽炎@布江艦隊>  艤装を付けてるから大丈夫なんでしょうけど、普通怖くない?度胸あるわね。

 龍田@林艦隊>  着地の時に完全に衝撃を殺してるわね~。そうでないと救助した人が死んでいるもの。体の使い方が上手いのね、きっと。適性値や艤装の問題じゃないわ。

 長良@宮里艦隊>  体を使う事全般に才能があるみたいだから、こういう事も出来ちゃうんだね。

 龍田@林艦隊>  それで済む話なのかしら……?

 金剛@提艦隊>  吹雪は召集前も屋根の上飛び回ったりしてたね。これくらい出来ますよ。

 霧島@山口艦隊>  拳銃を持っただけの相手なら瞬殺出来たものね。

 漣@管理人>  金剛姉妹と吹雪と島風辺りの私生活に興味が湧き過ぎて辛い。召集前は漫画の世界にでも居たんです?

 榛名@竹下艦隊>  流石にそんな機会は一度か二度だったから大丈夫です。

 朧@カニが増えました>  普通は一度も無いんだよ?

 夕張@竹下艦隊>  要救助者に巻きつけてるのは何?錨?器用に動かすなぁ。

 菊月@部員募集中>  完全にネットのおもちゃだけど本人的にはどうなんだこれは。

 (削除されました)

 摩耶@要艦隊>  炎が怖くねぇのかこいつ。燃えないって言っても息が出来るようになる訳じゃないんだろ?

 大東@書田艦隊>  うちの艦隊に援軍に来たと思ったらこれだよ。

 有明@書田艦隊>  昼食だと目を離した隙に人助けに走ってたな。

 秋雲@宮里艦隊>  それだけ聞くと完全にオールマイトな件について

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  明らかに任務外の救助活動、しかもおそらくは独断で弾薬も使用。反論の余地なく違反行為だね。ただ規則だからって助けられる人命を見捨てていたら全体の評価に関わる話になってしまうし良し悪しは難しい所か。専門家でないだろうに先走ったのも問題で、何か間違えたら事態を悪化させる可能性もあったんじゃないだろうか。まぁ、成功している以上はそこまで酷い事にはならない……おそらくはまた任務だった事にされるのかな?利用出来そうな事件だしイメージの向上に使われそうだね。バレた時の反動が怖いけれど、吹雪個人の評価は下がらないだろうな。実際助けたくて走っただけだろうし。衝動的にやるのは大問題だけどね。

 雷@賀藤艦隊>  纏めると?

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  Хорошо!

 電@賀藤艦隊>  前にも見た流れなのです。

 暁@賀藤艦隊>  困ってる人を助けに行った素敵なレディだものね!

 

 

 

 

 

 

No.XX 新発表された艤装の新形態に関して 投稿者:漣@管理人

  一斉に情報解禁となったらしい艤装の新強化、改二について話し合う場所です。

 

  ・改二とは艤装の強化形態であり、今までの物と大幅に変化する場合がある。

  ・原則的に集合無意識内の艦娘から許可を得られないと改装できない。

  ・許可の条件は不明。

  ・許可が貰えても勝手にその許可証(?)を受け取らない事。

  ・艤装の影響が肉体レベルに達しているのが最低条件。

  ・相応のリスクがあるため、絶対に勝手に事を進めない様に。

 

  うちで言われたのはこれくらい。

 

 

 

 漣@管理人>  肉体面への影響を肯定されちゃったのが一番の驚きですなぁ

 (削除されました)

 綾波@山口艦隊>  その辺りはもうどう考えてもそうだったから誤魔化すのは止めたとか?

 長波@布江艦隊>  吹雪の身体能力と夕立の目を知ってたら誤魔化され様がなかったからねぇ。

 望月@ノ>  聞いてすぐ艤装の所に行った奴挙手!

 漣@管理人>  ノ

 清霜@藤艦隊>  はーい。

 陽炎@布江艦隊>  そりゃ、行くでしょ。

 北上@九曽神艦隊>  ノ

 暁@賀藤艦隊>  はい!

 綾波@山口艦隊>  ノシ

 敷波@山口艦隊>  ノシ

 朝潮@宇佐山艦隊>  行きましたが許可は得られませんでした。

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  艦隊の皆で行ったよ。案の定夕立が許可を貰えたよ。

 夕立@賀藤艦隊>  夕立からはいいよって言われた!でも上の人からの許可待ちっぽい!

 陽炎@布江艦隊>  夕立はそりゃそうよね。むしろなれなかった方が驚きだわ。

 球磨@賀藤艦隊>  これだけクマクマ言わされてるのになれなかったクマ……

 多摩@厳島艦隊>  多摩はこれから積極的ににゃーにゃー鳴いて行く事にするにゃ。

 木曾@厳島艦隊>  意味あるのかそれは……?

 夕張@竹下艦隊>  結局夕立以外は全滅?後は宮里艦隊か。

 子日@宇佐山艦隊>  たぶんあの黒い制服が改二のだろうから、吹雪はなってるよね。

 漣@管理人>  そういえば宮里艦隊の報告はまだ一つもないですな。お忙しい感じですかなー

 

 

 

 

 

No.XX 改二に関して再度の注意がされたんですが 投稿者:漣@管理人

  絶対に集合無意識の艦娘から、それがなんであっても、安全そうに見えても勝手に受け取らないようにと言われた件について。

  かなり重要な事なのか、絶対に駄目だと何度か念押しされました。

 

  もしかして誰か何かやった?

 

 

 

 北上@動画撮影完了>  昨日の今日で言われるって事はねぇー

 山風@藤艦隊>  許可貰えてたの夕立だけだったよね……?

 卯月@卯月にいたずらされたからやり返しに行こうと思います>  夕立まさか……?ぴょん。

 夕立@賀藤艦隊>  夕立じゃないっぽい!ちゃんと我慢してるっぽい!

 望月@おお厄い厄い>  夕立じゃないならもうあそこしかないじゃん

 初雪@提艦隊>  お姉ちゃん大丈夫かな……?

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  結局どこもやらかした覚えがないと。

 望月@おお厄い厄い>  宮里艦隊「あれ、うちの艦隊また何かやっちゃいました?」

 望月@おお厄い厄い>  つまりこういう事だな

 漣@管理人>  危険度が高いから何度か言っただけかもしれませんぞ

 青葉@宮里艦隊>  はいはいそうです宮里艦隊ですよ。

 漣@管理人>  ktkr

 望月@おお厄い厄い>  すみません本気じゃないんです許してください何でもしますから

 北上@動画編集中>  ん?

 青葉@宮里艦隊>  いえ実際うちなので特にそういうのはないです。

 青葉@宮里艦隊>  それで何があったのかなんですが、提督たちの許可を得られたので、注意喚起のためにも書いて行きますね。言いたい事や聞きたい事はあるかと思いますが、とりあえず最後まで書かせてください。

 青葉@宮里艦隊>  まず、宮里艦隊でも昨夜、改二に関しての告知がされました。

 青葉@宮里艦隊>  この時に吹雪さんが既になっている、という事実も発表されました。吹雪さん自身はこの時まだ任務中で不在でしたが。

 青葉@宮里艦隊>  発表後、まだ帰っていなかった吹雪さん島風さんを除いた全員で工廠へ向かい、改二になれるかを艦娘に確認する事になりました。

 青葉@宮里艦隊>  確認自体はそれぞれ短時間ですので、そう時間はかかりませんでした。私は残念ながらまだ無理だという事で、ちょっとインタビューして方法なんかを聞き出そうとしたんですが、駄目でした。

 青葉@宮里艦隊>  現実に戻って、ほとんどの人達がもう終わっているのを確認して、それぞれの結果を聞いていたらですね。

 青葉@宮里艦隊>  急に曙さんが倒れまして。

 青葉@宮里艦隊>  その時私はまだ艤装を背負ったままだったんですが、倒れた曙さんを見たら、体から何か大きな気配というか圧力が噴出していまして、それに圧倒されて倒れた彼女に近づけなかったんです。

 青葉@宮里艦隊>  この時、艤装を背負っていたかどうかで見えていたものが違ったそうでして、背負っていない人には真っ青になった曙さんが苦しみながら倒れただけに見えたそうです。ただ、簡単に近づけなかったのだけは同じだったみたいですが。

 青葉@宮里艦隊>  曙さんは細かく声を上げながらもがいていて、でも誰も動けない状態でした。

 青葉@宮里艦隊>  その時突然、初春さんが光り出しまして。後で聞いたら艦娘の初春を降霊していたらしいんですが、ともかくその状態で曙さんに駆け寄りました。

 青葉@宮里艦隊>  曙さんの下に辿り着いた初春さんは祝詞を上げながら手を叩いたり払ったりして祈り始めました。すると、曙さんの体の中から凄まじい圧力を発する何かが浮かび上がって来たんです。

 青葉@宮里艦隊>  初春さんはその塊のようなものを慎重に手にすると、近くにあった曙さんの艤装の中にゆっくり押し込み、再度祝詞を上げてそれを封印しました。

 青葉@宮里艦隊>  すると曙さんは正常な呼吸に戻り、噴出していた気配も消え去りました。

 青葉@宮里艦隊>  私達も動けるようになり、すぐにお医者様が呼ばれました。

 青葉@宮里艦隊>  曙さんは医務室に運ばれ検査等を受けましたが異常無し、翌日には目覚めていましたし、特に不調もなかったそうです。今日は大事を取って休まされていましたが。

 青葉@宮里艦隊>  それで何があったのか曙さんに話を聞いたのですが、どうやら曙さん、最初集合無意識の曙に改二への改装を拒否されたらしいんです。

 青葉@宮里艦隊>  それで売り言葉に買い言葉で喧嘩になってしまい、今やったら相当苦しむ羽目になってなれるかどうかも怪しいぞと脅されたらしいんです。でも曙さんはそれでもいいと言ってしまったらしいんですね。

 青葉@宮里艦隊>  すると艦娘の曙さんはなら好きにしろと言って、改二になるための許可証をくれたそうなんです。その許可証が圧力を放っていた気配の塊の正体でした。

 青葉@宮里艦隊>  本来そのまま受け取らないで一旦置いて、許可を取りに行くべきだったんですが。

 青葉@宮里艦隊>  どうもお互い感情的だったせいか受け渡しというか投げつけられる形になってしまったそうで、キャッチ出来ずに体に勢いよくぶつかってしまい、結果受け取ってしまったという事でした。

 青葉@宮里艦隊>  艦娘の言った通り曙さんは苦しむ羽目になりましたが、許可証自体を摘出されて封印もされたのでもちろん改二にはなれていません。

 青葉@宮里艦隊>  で、初春さんの方なんですが、彼女、集合無意識の艦娘を降霊すると基本的に意識がなくなるらしいんですが、昨日のこの事件の時は意識を保てたそうなんです。

 青葉@宮里艦隊>  それはどうやら初春さんは霊的素質が成長して、艦娘の魂をある程度借り受けて、自分の意思で扱えるようになったかららしいんですね。

 青葉@宮里艦隊>  結果、それが艦娘の初春に認められて、初春さんが改二になりました。

 青葉@宮里艦隊>  気が付いたら妖精さん達が大張り切りで改装してましたね。

 青葉@宮里艦隊>  こっちも本来は許可を先に取るべきなんですが不可抗力という事になりました。

 青葉@宮里艦隊>  あった事は異常です。じゃなくて以上です。

 青葉@宮里艦隊>  あ、終わりなんで突っ込んでいいですよ。

 卯月@九曽神艦隊>  なんで途中からファンタジー小説になったぴょん?

 青葉@宮里艦隊>  私が知りたいですよ!話を纏めるとこうなるんだから仕方ないじゃないですか!!吹雪さんにも聞いたらちゃんと体に影響が出てればたぶん平気だったと思いますよって何一つ疑ってる感じじゃなかったのでたぶん同じプロセス通過してますし!!現実が小説より奇っていうか完全にラノベの世界でしたよ!今更ですけど!!

 秋雲@宮里艦隊>  そのまま漫画に出来そうな展開が目の前で起きてたんだけど、実際やられると困惑しか出て来ないもんだねぇ。

 初雪@提艦隊>  でも漫画にされるんでしょう?

 秋雲@宮里艦隊>  Exactly(そのとおりでございます)

 

 

 




書いていて出番が偏り過ぎてどうしたものかと思いました。うーちゃん使いやすいですね。
最初は日付を付けようかとも思ったのですが、ひたすら読み辛くて断念。名残で最初にちょっとだけ付いてます。

基本的に書きたいものを書いているので書きたくなったから書いたんですが、この形式普通に書くより時間掛かりますね……


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距離を測るのが苦手系転生者

 救助に集中してたら滅茶苦茶撮られてて知名度マシマシチョモランマ。いや撮られてるのは気付いてたし、知名度は前からかなりあったんだけど、もうなんか例のあの人リスペクトしてるって風潮が否定不可能なレベルに到達した。誰だよ場面再現しようとした奴。

 ネットワーク復旧した瞬間えらい勢いで動画が拡散したらしくて、任務を終えて鎮守府に帰り付いた私がネット巡回しつつ艦娘コミュ(PC版)に顔出したら無言で動画貼られたねこれ。視聴したらなぁにこれぇってなってヤバいよヤバいよ思いながら別視点のも全部見て、最終的にその日はもうどうにでもなーれーと思いながらふて寝した。

 

 あの日の火事は結局、周囲の物を爆破したりなんだりして延焼を抑える事に成功し、ビル一つを燃やし尽くして他が多少焦げる程度で被害は収まった。人的被害は無し……まぁ、私の雑な地上お届けサービスのせいで気分が悪くなった人は居たみたいだけど、そこは炎に巻かれるよりマシだったと思っていただくしかない。

 駆けつけた自衛隊の人達やあのコロニーで自警をしていた人たちが途中から避難誘導をやってくれたので、私は要救助者を降ろすのと燃えそうな物体をこの世から撤去する作業に集中出来た。おかげで手早く終わったのだけれど、なんだかんだで時間は食い、元の任務が遅れる事になってしまった。尤もこれに関しては私が不参加だったとしても出発できなかっただろうという話ではあったけれど。

 その後、結構予定は崩れていたもののそのまま護衛して発電所まで新型発電機を輸送、後を書田艦隊のお姉さま方に任せて急いで宮里艦隊まで戻る事になった。そのためゴトランドさんとは話せなかったんだよね。あの人最後まで現場で色々してたみたいだから。艦娘としてではなかったけれど。

 ちなみにだいぶ後に知った話であるが、火事の原因は特定できなかったそうである。地下に色々あり過ぎて、さらにその色々はほぼ燃え尽きていて、その上調べられるようになるまで時間が空き、最早どれが火元なんだかよく分かんなかったんだそうな。

 

 

 

 その後暫くは特に何事もなく、私達は太平洋沿いに変色海域を解放して行った。敵の様相は特に変わらず、こちらの消耗でも狙っているのかと思わせられる神出鬼没具合で、私達第四艦隊は普段通り休み無しである。どこからそんなに湧いてくるんだよほんと。

 聞く所によると日本海沿いの提艦隊はこちらに比べるとまだ敵の出現頻度が少ないのだが、代わりに一度に大量に攻めて来るらしい。そのため結構進むのが早い代わりに、攻めて来られると全戦力を向けないといけなくなったりするのだそうだ。

 瀬戸内海側の九曽神艦隊は奇襲が多いようで、しっかりと索敵をしながら進んでいるという。とにかく島の数が多く、放っておいて先へ進むのは流石に危ないため一々確認の手間を取られるらしい。おかげで距離的には一番短いのだが、小豆島以西はなかなか先に進めないでいるとか。あと、小豆島内部は酷い有様だったらしいけど、一応生き残りは居たという。

 話が逸れたがそんな感じで各所ともじわじわと前に進んでいて、進捗次第じゃ来月再来月には九州行けるんじゃねって思ってたら、電力回復してネット復旧して四国から投下された動画に不意打ち喰らって私は死んだ。スイーツ(笑)

 救助関係の話は宮里提督の所にも報告が行っていて、怒られはしなかったけど弾薬の無断使用に関してはやんわりと注意された。提督的には救助自体は褒めたかったようなのだけど、勝手な行動を面と向かって賞賛する訳にも行かない訳で、少し悩ませてしまったようだ。長門さんも微妙な顔で、休憩中はちゃんと休めと心配半分っぽい事を言ってくれた。そして動画が公開されたら二人とも遠い目になってしまわれた。本当に申し訳ない。

 そうして私も提督も長門さんもダメージを受けた数日後、今度は改二の情報が解禁を迎えた。

 で、私の知らない間に曙が倒れて、初春が改二になった。

 

 

 

 今回、全鎮守府で改二に至ったのは三人に留まった。

 一人目は夕立、これはもう予想の範疇というか、みんな納得しか無かったらしい。目の色とか強さとか色々あったからなぁ。改二になった写真が私の方にも流れて来たのだけど、やっぱり髪型がぽいぬと化していた。

 性能は聞いた感じだと火力がかなり向上したらしい。夜戦も得意っぽい? 同じ鎮守府でないのでよく分からんのだけれど、魚雷に顔が付いてたのはなんなんだろうか。ペイント?

 

 二人目は初春。ほぼ不可抗力というか……曙の魂の中から曙さんの欠片を取り出すために降神したらそのまま一部を取り込んでしまったらしいんだよね。初春さんが初春に己の力で救ってみせよと言ったとか言わなかったとかそんな展開があったみたいなんだけど、私その場に居なかったからよく分かんない。青葉さんはファンタジー世界たるこの世を儚んでた。

 気になる性能の方はというと今までの初春の上位互換で、燃費以外は真っ当に向上しているという。対空得意めで、私みたいな変な進化はしておらず、真っ当に駆逐艦として強化されているらしい。要は普通に初春改二っぽい。ちょっと霊能力特化型とかになるんじゃないかと期待してたのは内緒である。

 外見も付いたアームが骨太で頑丈そうなものになり、その先に付いた部位も大きくなっている。本人的には安定性が上がって扱いやすくなったらしいが、見た目にはむしろバランスとり辛そうなんだよなぁ。

 初春本人の容姿にも影響が出て、初春の髪は更なるボリュームアップを見せた。いやほんと、長いわ嵩があるわで洗うのとか大変そう。制服も変わり、丈が短くなったためスパッツの導入を検討しているという。

 総括すると、全体的に私の知っている初春改二と全く同じように見える。別の初春改二を並べてみたら差異が分かるのかもしれないが、とりあえず初春改二っぽい初春改二だった。輸送艦と化した私が極端だっただけかもしれない。

 猫吊るしにも確認したけど覚えてる限りじゃ艦これのそれと違いが分からないという。私――というか、猫吊るしもそうらしいんだけど、前世の記憶というか、ゲームの情報とかはなんか忘れないんだよね。魂で覚えてるとかなんだろうか。たぶんそれが悪さしてるせいで、私は未だに女の子の自覚が薄いんだと思うんだけれど。有難いと思っていいのか問題なのかは微妙な所。

 

 そして、三人目。三人目は川内さんである。もう一度言うが川内さんである。気が付いたらなってた。

 初日は曙が倒れたためそっちの対応したりで聞けなかったらしいのだけど、翌日改めて確認してみたら、いっぱい夜戦やったし夜戦好きになってくれたみたいだしあげてもいいよって凄い軽い反応で許可をくれたらしい。それでいいのか中の川内さん。

 とりあえず受け取りは保留して、提督からの詳細な説明を受けて大本営側の承認も得てから、川内さんは艦娘の魂を自分の中に取り込んだんだそうだ。そして改二になった訳なんだが……なんか全然私の知ってる川内改二と違うんだよなぁ。 

 まず制服が黒っぽい。お揃いだねーとか笑ってたけど、私のとは雰囲気が違う。なんかこう……暗殺者っぽい? 私のは黒に赤いラインでともすると禍々しい感じの配色なんだけど、川内さんのは本当に目立たないような黒白灰色で無彩色なのだ。ただこれどっちか言ったら都市迷彩では……? 形状的には私の知ってる川内改二に近くてスカートにマフラーで腋出しなんだけど。

 能力的には静粛性が増したらしい。何それって思って詳しく聞いたら、どうも川内さんの改二艤装は起動しても普通の半分未満の音しか鳴らないらしいのだ。しかも消音機能付きで動く川内さんの衣擦れの音なんかも聞こえなくなる。なので後ろから敵に忍び寄って暗殺とか出来そうだとか。

 さらに身体能力の強化量が高いらしく、魚雷を遠くまで投げたり空手パンチで敵にダメージを与えたりとかが前以上に出来るようになったらしい。制服に籠手のようなものも付いていて、明らかに格闘戦が想定されているようにも見える。

 いやもうね、前々から思ってたけど、川内さん絶対忍者だろ……それもスレイヤーとか後ろに付くタイプの奴。

 問題なのは普通の艦娘として運用するならあんまり役に立たない能力だって事だねって本人は笑ってた。いや基礎スペックも上がってるらしいんだけどね。初春が真っ当に強化されてるおかげで微妙に見えるとの事。

 というか、受け容れたって事は不老化や肉体への影響も了承したって事なんだよね。宮里艦隊の二人は初春の髪の毛以外は特に今の所変化は見られないけど、そのうち川内さんも若返ったりするんだろうか。今でも実年齢より若く見えるんだけども。

 長門さんがなれてなくて川内さんがなってる辺り、ゲーム準拠でなり易い艦娘なり辛い艦娘ってのがあるのだろうか。夕立もあまり高いレベルじゃなかったはずだし。初春は……なんか例外って気がする。

 

 最後に僚艦である島風の改二についてだ。いやまぁ、なってないんだけども、どうも島風は島風さんにもうちょっと安定してからと言われて拒否されたらしい。何が安定してないのか分からんのだけれど、体への影響とかは十分であるらしい。

 

 

 

 

 

 改二を二人迎えて戦力的にはさらに増強された宮里艦隊であるが、一人、現在絶不調の娘が居る。そう、曙である。

 目覚めて再度検診を受け、一日休んだ曙は、私達が戻った時には消沈した様子で自分のベッドの上に転がっていた。明らかにぼんやりとした様子で、私達が帰って来た事にも気付いておらず、島風が心配して声を掛けて初めて軽い反応を返してきたくらいの重症。連装砲ちゃん達も心配気だった。

 どうも昼も食べずにそうしていたらしく、一緒に食堂行こうと誘われても動こうとしない。仕方がないのでおにぎりを間宮さんに頼んで拵えてもらって、曙の横に供えておいた。中身はその日のおかずだった海老天である。

 就寝前には宮里提督が明日も休むか聞きに来て、曙の目にはちょっと生気が戻った。嫌ですと腹の奥から声を絞り出し、消灯前にはおにぎりもしっかり食べて、翌日はちゃんと出撃して行った。

 そしてその日部屋に戻ると、曙はベッドの上で体育座りしていた。悪化したのか改善したのかはさっぱり分からなかった。

 一緒に行ったみんなに聞いたところによると、足手纏いになったりはしておらず、戦闘自体は普通にこなせていたらしい。それまでと同じように必死で、ただ目には力が無かったようだが。一応この日以降普通に食事は摂っていた。

 明らかに元気がなくなっており、私やみんなは心配していたが、大丈夫大丈夫ってbotみたいな返ししてくるんだこの子。どうしろっつーんだ。私コミュ力低いし島風もあんまり人に気を遣った交流できるタイプじゃねーんだぞ。

 ちょっとどころでなく気まずい三人部屋で、画面の向こうの曙の姉妹艦たちに解決策がないか聞いてみたりもしたのだけれど、どうにもこの曙さん、スマホの電源切っちゃってて電話をしても出ないらしい。綾波型は一緒に卒業パーティなどを計画するくらい仲が良かったので、お話したらまた違うかとも思ったのだけどなぁ。

 仕方がないので私の携帯に電話してもらって、曙に渡してみようとしたのだが、無言で首を振って出てくれなかった。こいつは中々の難敵である。いや、戦えてない訳でもないから時間が解決するのを待った方がいい可能性もあるんだけど……何もしないでいたら沈みましたって言われるのが一番嫌な訳で。困った私は宮里提督の所に行く事にした。

 

 

 

 執務室までやってくると、丁度青葉さんが出てくるところだった。青葉さんは私に気付くと一瞬驚いたような表情をして、すぐに笑顔で挨拶をして帰って行った。

 私が提督に会いに行くのは旗艦をやっている以上さほど珍しくないのだけれど何に驚いたのだろうかと思いつつ、入った部屋で宮里提督と、一緒に居た長門さんに曙についての話をする。当然ながら提督達も気にしていたようでこちらが様子を聞かれたが、あんまり芳しくない返事しか出来ない。そうですか、と暗い表情を見せないようにしつつも隠しきれていない提督に、私は相談を持ち掛けてみた。

 ちょっと他の鎮守府まで走って行って綾波型攫ってきていいですかと。

 いいわけないだろうと長門さんにツッコまれた。

 

 そして翌日、提督に私と島風は呼び出され、何故か楠木提督と電話越しにお話しする事になった。

 

 

 

 

 

 朝日に照らされ輝く海の向こうに、ある程度切り拓かれた小島が見えた。がーがーうるさく鳴く鳥の、足元にある海岸からはやたら長い桟橋が出されており、古ぼけた木の板がまだまだ折れぬと踏ん張りを利かせている。深海棲艦と戦う事になった今でなければ使われる機会も僅少だったろうそこには、魔改造された弓道着のような赤い服を来た女性が立っていた。私と島風が高速で近づいているのに気が付くと大きく手を振って来る。我々はかなりの速度故に振り返す前に桟橋まで辿り着いてしまったが、女性は気にせずにこちらに向かって笑顔を投げかけた。

「おはようございます、吹雪さん、島風さん。それと……ええと、連装砲……ちゃんと、妖精さん」

「おはようございます!」

「おはようございます」

「みゅー!」

「きゅー!」

「きゃー!」

「おはよーございまーす」

 どうやら連装砲ちゃんに馴染みが無かったご様子で、挨拶をした方がいいのか一瞬迷ったようだったが、短いおててをふりふりする連装砲ちゃん達にほっこりした様子で手を振り返している。そんな女性の艦娘としての名前は赤城という。どうやら私達を迎えに来てくれたらしい。こちらへどうぞと桟橋に上がった私達を島の内部に招き入れ、一つの建物へと案内した。

 まずは提督と司令官への挨拶からですねと入り口に足を踏み入れると、玄関口でばったりと緋色の髪に三日月の髪飾りをした少女と出会ってしまった。

「あっ、ほんとに吹雪だぴょん!」

 特徴的過ぎる語尾の少女、卯月はそう言うとぱたぱたと動き出し、にっげろーとこれまた古い建物の奥へと走り去って行く。それを見た島風が反射的にか卯月を追って駆け出そうとしたが、挨拶もする前だというのに他所様の敷地で暴走させる訳にも行かないので捕まえておいた。

 呆れた様子の赤城さんが気を取り直して執務室へと案内しようとしたところ、逃げた卯月が戻ってきて、近くの部屋へと駆け込んだ。何やってんだろうと思っていたら、赤城さんが盛大にため息を吐いた。どうやらその部屋が執務室だったらしい。扉の前まで歩いて行けば、少し開いた引き戸から卯月の顔が半分だけ覗いている。

「ふっふっふ、うーちゃんを捕まえたくばこの扉を開いてみるがよい……」

 いや別に、誰も卯月を捕まえたいとは特に思っていないのだけれども。目的地がそこなので扉は開かないといけない訳で。前に立っていた赤城さんが頭の痛そうな顔をしながら引き戸の側面に手をかけて、扉をガラリと引き開けた。

 瞬間落ちる、何らかの粉がたっぷり盛られた黒板消し。それは一歩踏み込んだ赤城さんの頭目掛け、完璧なタイミングで降って来る。

 だが済まない。私には最初から見えてたんだ。赤城さんの頭の少し上に手を伸ばし、私は黒板消しを指で軽くはじいた。

「ぴょん!?」

「ぐはぁっ!?」

「きゃっ!?」

 私の指先でコントロールされた黒板消しは狙い通りに卯月の額に命中し、さらにその勢いで後ろへ飛んで、座っていた男性へと激突した。その隣で書類を抱えていた女性に弾けた粉が降りかかり、反射的に投げ上げられた紙の束が部屋中を舞い踊る。卯月に当たった後の事考えてなかったですねはい。

 

 

 

「提督ー、そろそろ挨拶終わっ…………なにやってんの?」

 入り口のドアをスッと開け、頭だけにゅっと入って来た北上さんの見た物は、床に正座する卯月と私、それと島風with連装砲ちゃんだった。猫吊るしも私の頭の上で正座しているがたぶん見えてない。

「反省中ぴょん」

 卯月が赤城さんに叱られ、自発的に正座を始めたのでほぼ同罪――卯月に攻撃とか考えないでキャッチすりゃ良かったんだよ――な私も横に並び、ノリで島風や猫吊るしも足を折ったためこうなった。眼鏡の秘書風の女性も困り顔である。その女性は北上さんがやって来たのを契機に、話を進めますので立ってくださいと私達に号令を掛けた。

「では、改めて。私がこの鎮守府の司令官を務めさせて貰っている大淀です。こちらは九曽神提督になります」

「九曽神 七雄だ。よろしくお願いしたい」

 まだ少し制服の粉を払いきれていない大淀さん。それに座ったまま完全に粉まみれの九曽神提督。私と卯月の連係プレーで大変なご迷惑をお掛けしてしまったなぁ。初対面だったのに。

「さて君達、今回の件、ちゃんと反省しているかな?」

「ぴょん」

「はい」

 卯月よ返答はそれでいいのか。

「くくく……ではちゃんと罰も受けてもらう事にしようか……」

 九曽神提督はにやりと笑った。大淀さんが生温い視線を送っている。

「君達には体で償って貰おう、今夜私の部屋へ来てもらえるね?」

「何言ってんのよこのクズ!!」

 扉をズドンと開けて、霞が怒れる瞳で提督の下へと攻め入った。どうやら北上さんの後ろで控えていたらしい。ズンズン一歩一歩を強く踏みしめながら詰め寄り、そのまま仁王立ちで目の前に立ちはだかると、心底見下げ果てたという視線でもって提督さんを睨みつけた。

「ただでさえクズなのに……なに、アンタロリコンだったの? 中学生に手を出そうとするなんて……!」

「ふむ…………霞、今日は配信の収録予定日だ」

 ゲストで出てもらおうと思ったんだがな。九曽神提督は努めて平静な表情でそう言った。でもにやけそうになっているのが隠しきれていない。成程、さてはこの人、霞を弄りたかっただけだな?

 

 

 

 今回、私達第四艦隊は九曽神艦隊へと出向する事になった。理由としては単純で、九曽神艦隊の攻略がちょっと遅れ気味だからである。どうやら他と出来るだけ足並みを揃えたいらしいのだ。

 私と島風が来ただけでどれだけ変わるかというと、二部隊+護衛艦隊しか存在しない九曽神艦隊に一部隊増えるようなもんなので大体攻略に使える戦力が1.5倍である。部隊数だけで考えるとだけど。実態はまぁ……どう少なく見積もっても倍くらいにはなるんじゃないだろうかって楠木提督が言ってた。

 そんな我々が抜けて宮里艦隊は大丈夫なのかと私は思ったのだけれど、それは心配要らなかった。いや心配はするけど、ちゃんと上の人達も考えて……考えてだよな? 策を練っていたのである。

 その策というのが、現状暇な艦隊――と言っても攻略に乗り出している三か所と北を支えてる賀藤艦隊に比べたら、ではあるが――からの宮里艦隊への出向である。つまり金剛さんや初雪と一緒って事だね。

 この出向、私と島風の穴埋め以外にも幾つかの狙いがあるらしく、その一つが出向した側の戦闘技術の向上である。なんでも提艦隊に戻った金剛さんが超強化されていたとかで、本人の証言的にも宮里ーズブートキャンプを受けたらみんな強くなれるんじゃねぇのとそんな意見が上層部で出た結果なんだとか。だから私達が九曽神艦隊に行ってその穴埋めに、なんて回りくどい事になった訳だ。

 もちろん宮里艦隊は最前線なので危険性が高く、評判的に強制するのも士気に関わるため、出向はある程度以上の技量を持った人間限定での希望制だった。そしてさらにその鎮守府に絶対不可欠な人材も出向不可で、候補者自体がかなり限られていたそうだ。そのため龍田さんなんかは強く希望を出したけれど撥ねられたらしい。

 私も詳細な面子は聞いていないのだけれど、何人かからは来ると連絡を貰ったので曙の事は安心して任せて来た。まぁ入れ替わりだから会ってもいないんだけどね!!

 そんな訳でこれから二週間ほどは九曽神艦隊で働く予定である。まぁ進捗が悪かったら伸びる可能性もあるし、宮里艦隊の方がどうにもならないようなら戻される可能性もあるらしいけれども。ただ今の宮里艦隊は敵の襲撃頻度はともかく質は前ほどじゃないのでどうにかなるだろうと思う。たぶん。

 

 

 

 どっちにしろ駄目に決まってるでしょこのクズと震え声で言い残して霞は早足で去っていった。いやうん、なんか弄りたくなる気持ちはなんか分からんでもないんだけど、後が大変だったりしませんかね。

「ああ、収録は本当だから気が向いたら来てくれ。場所は私の部屋ではなくこの部屋だ。顔が嫌なら声だけでもいいし、コントローラーを握っているだけでも構わない」

 気が済んだのか全身にまぶされていた粉を払いながら、提督がこちらに向かって声を掛けた。この人、以前北上さんと動画で共演して、それが楽しかったのかなんなのか、その後に自分でも動画作り始めて投稿してるんだよね。現役提督の配信とか頭おかし過ぎるので再生数は凄い勢いで伸びている。かなり面白いし艦娘がゲストで出てたりするけど、視聴者が期待するような鎮守府とかの事情には一切触れられない。でなきゃ許可出ないんだろうけど徹底っぷりが凄いらしい。それでも北上さんと同じでコメントとかは常に燃え上がっているが……まぁそりゃそうなるわ。それでも内容で評価されてたりするから侮れない。

「えー、話を戻しますが、これから二週間、吹雪さんと島風さんには九曽神艦隊で戦って貰う事になります。任務としては宮里艦隊でやっていた事とあまり変わらない……はずです」

 気を取り直して大淀さんが与えられる任務の事を説明し始めた。私と島風はやっぱり二人部隊で運用されるらしく、高い索敵能力と機動力を活かして発見した敵や航空部隊の見つけた艦隊なんかを潰して行って欲しいとの事だった。特に島の多いこの地域では地上の敵を倒しに行かないといけない場合もあり、普通の艦娘だとかなり手間取ってしまうらしいのでそっちも任される事になる。この間からそうだけど私陸上戦担当って認識されてない? いや全然構わんけどもさ。

「元々居る九曽神艦隊の皆には大規模な拠点に、小規模でも戦力をある程度割かないと対応しきれないような場所には貴方達に行って貰う形になります……何か不安点や問題のありそうな事があったら何でも言ってくださいね。逐次対応しますので」

 場合によっては作戦の根本的な見直しもするとの事だ。何かあるか考えてみたが、特に無い。効率的にどうなのかはやってみないと正直分からないけれど、出来るか出来ないかで言ったら問題無くできるだろうと思われる。島風も言いたい事は無いようだった。

「分かりました。何かあったら報告します」

「お願いします……本当に、遠慮しないで言ってくださいね」

 こちらの助けになると思って、と大淀さんは本当に助けを求めるような視線でそう言った。その対応に九曽神提督は笑いを漏らし、席を立つと大淀さんの肩を叩いてやれやれと首を軽く振る。

「君達に何かあると自分の首が飛ぶと大淀は考えているようでね。ああ、立場的な意味でなく、物理的に」

「既に戦艦のビスマルクさんと正規空母の赤城さんを援軍として派遣してもらってたんですよ? これで結果がマイナスだなんて事になったら本当にそうなりますよ……少なくとも社会的には即死です……!」

 既に若干立場が悪いそうな。どうやらこの場合、私がもうなんかかなり有名なのも良くないらしい。私が死んだり大怪我したりしたら、派遣先の指揮を執っていた人間、つまり大淀さんは間違いなく碌な目に遭わないだろうというのは確かに予想出来た。とはいえ犯罪行為でないので死刑になったりはしないだろう。私刑に遭う可能性は否定できんが。

「大淀さん提督の動画にも出ちゃってたもんねー、声だけだけどさ」

 などと北上さんはおっしゃるが、それで特定するのはかなり難しいのでは……いやでも特定班有能な時はほんと凄いからなぁ。ああそれ以前に公式生放送にも出ちゃってたからどうしようもないのか。成程詰んでる。失敗は許されないね!

 

 飛び散った粉を掃除するという提督を残し、私達は工廠へ向かった。別に指揮を執るとかでもないのでそんなものらしい。退出前に無効化貫通の付与は私の艤装にだけ行ってもらった。

 踏みしめればぎしぎしと鳴る古い廊下を渡り着いたそこには艦娘達が揃っていた。去って行った霞も混ざっている。私と島風が入って行くと、方々で作業したりくつろいだりと自由にやっていた面々がぞろぞろと集まって来て、艦種ごとにゆるく整列した。一緒に来た卯月や北上さん達もそちらに合流し、司令官である大淀さんはそれを見て私と島風の紹介に入った。

 九曽神艦隊側が私達に注目し、対面の私も彼女達に注目する。知っている顔がかなり多い。一緒に訓練した一期の駆逐艦達は当然として、義叔母の北上さんと担任で部活の顧問だった赤城さん、友人の母であるビスマルクさん、それと生放送に出てた面々。二期の人達なんかは流石に知らなかったけれど、逆に私の顔は全員知っているようで、複雑そうな視線も結構あった。自分達の力不足で援軍を寄越された事に対する感情からなのか、私個人への印象のせいなのかは知らんけど。

 

 紹介が終わると三十分後に出撃という事で、本日待機の人と出撃組に分かれる事になった。私と島風は早速出撃である。なんだかんだ言っていたが大淀さんはちゃんと使ってくれるつもりらしい。

 一時解散と言われ自由になると、訓練所で一緒だった秋月と照月が跳び付いて来た。連装砲ちゃんに。二人は連装砲ちゃん達を特に可愛がっていた覚えがあるのだが、久しぶりー覚えてるー? と構いに行って、きゅー? と首を傾げられていた。かわいそう。

「覚えてないかぁ」

「島風いいなー、可愛いなー、私達もマスコット欲しいよー……初月は一緒らしいのになぁ」

 秋月は連装砲ちゃんを撫でまわしながら残念そうに呟き、照月も抱きしめながらぼやいている。別鎮守府の秋月型には長10cm砲ちゃんを使える子が居るらしいのにこの二人には使えないのがだいぶ悔しいらしい。なんでやろなぁ。

「やっぱり適性値が足りないせいかな? 本当は持ってるのが正しいみたいなんだけどねー」

「私なんて、今や二期生より弱いくらいだからね……」

 だからか秋月は主に収集部隊の護衛役をやっているらしい。確かに二人とも上位には入っていなかった覚えがあるので適性値が高くはないのかもしれないけど……関係あるんだろうか。戦闘部隊に入れない天津風さんが改二になったらサッカーチームを余裕で作れる子だくさんになってたから何か別問題という気がしてならない。

 連装砲ちゃん達も可愛がられるのは吝かではないらしく、構い倒してくれる秋月姉妹ときゃっきゃしている。島風も二人と連装砲ちゃんについて話し始め、それに二期の駆逐艦らしい不知火と黒潮も合流してわいわいと盛り上がって行った。新人の二人は私の方もちらちらと見ていたが、別に話し掛けて来てもええねんで。

 しばらく五人と三体を見つめていたら、私の方へそろりと近づいてくる影があった。何ぞと思って振り向けば、そこでは明石さんが瞳を輝かせて私の頭上を狙っていた。この人も生放送で見た覚えがある。急に振り向いた私に驚きつつ、興奮した様子の彼女は目線を私の少し上にやりつつ、荒めの息を吐き出した。

「猫ちゃん、猫ちゃんを私にください!!」

 いや猫は飼ってないが?

 ……じゃなくて、猫吊るしの事だろうか。そういえば艤装背負ってるし、さっきから乗っけた猫吊るしをロックオンしてたのか。

「猫吊るしを持って行かれると艤装が動かなくなるので、ごめんなさい」

「上陸の時のために付いて来たからなぁ。まぁ、帰って来たら手伝うから」

 どうもこの明石さん、四国戦の時に支援に来ていて、その時猫吊るしと知り合っていたらしい。短い時間だが一緒に働きその能力に惚れ込んでしまったようだ。

「吹雪さん! 出来るだけ早く任務終わらせてください!!」

「いやまぁ、最善は尽くしますけど、早く終わらせたら次の地域が回って来るんじゃないでしょうか」

 たぶん結構やる事多いと思うから、たとえば午前のうちに予定が全部終わったとしても翌日分が繰り上がって来るだけのような気がする。それを言うと明石さんはがっくりと肩を落としてしまった。それを見た猫吊るしが仕方ねーなーと明石さんの頭に飛び移り、ちょっと行ってくると妖精さん達に指示を出しに向かって行った。出撃時間までそんなにないが、それだけでも結構違うらしい。明石さんはいい笑顔になっていた。

 二人を見送って手持無沙汰になった私が壁の染みになっていると、和装のような上着にスカートっぽい格好の女性がこちらに向かって歩いて来た。私の服に目を留めると、ふむと一度頷いて、目を合わせて問うてくる。

「それが改二の制服か……着心地はどうなんだ? 体に異常があったりはしないな?」

「あっ、はい、大丈夫です。服も体も」

 どうやら改二関係で心配してくれたらしい。曙の事が全鎮守府に細かい事はともかく無理にやってぶっ倒れた娘が居ると通達されているらしいのでそのせいだろう。そうかと女性はゆっくりとまた頷くと、思い出したように自己紹介を始めた。

「私は日向、自衛隊の所属だ。改二になるにはまだ足りないと言われた程度の練度だが、ともかく暫くの間よろしく頼む」

「はい! 吹雪です、よろしくお願いします!」

 日向さんは適性値が高い方ではなかったせいか体に影響が出ておらず、それがどうにかならない限り許可出来ないとはっきり言われたらしい。つまりそれ以外は問題無いって事だろう。既に艦娘に認められてるんだなぁ。ある意味長門さんと対極なのかもしれない。長門さんがなんで駄目なのかはよく分かってないけども。

「そういえば君の艤装は改二になる事で色々と載るようになったらしいな」

「はい、そうですね。大発はこの間の作戦で使いました」

 私の返答にそうか……と呟くと、日向さんは懐を探り始め、何か深い緑色に赤丸のあしらわれた物を取り出した。私に向かってそれをスッと差し出し、どうだろうと口を開いた。

「その艤装には、航空機は載らないのだろうか。そう例えば…………瑞雲とか」

 

 しまった! 日向師匠だ!

 

 えっ、認められてるってそういう事? いや違うよね? 流石に違うよね? 瑞雲教の伝道師として認められてるとかそんなオチじゃないよね? 真っ当に戦艦として認められてるんですよね?? 精神的な影響が強いのか生放送でも航空機について語ってたけど、あれはきっと航空戦力の重要さについて熟知してらっしゃるからですよね!? 航空自衛隊の人じゃないかってネットじゃ考察されてましたよ!! でも瑞雲持ち歩いてるのは説明付かないな? いや私に聞きたくて持って来ただけかな??

「航空機は全部無理だと妖精さんから聞いています」

 猫吊るしから聞いた事をそのまま伝えてみると、特に表情は変わらなかったがちょっとしょんぼりとした雰囲気を醸し出し始めた。そのまま手に持った瑞雲を懐に仕舞うと、ともかくお互い沈まないよう気を付けて頑張ろうなと言い残して去って行った。果たして布教と挨拶どっちが本旨だったのかは定かではない。

 その後ビスマルクさんが挨拶しに来たり、霞と九曽神提督が年の離れた幼馴染だと判明したりしたのだが、この日はなんかもう日向さんに瑞雲を勧められるとかいうイベントのインパクトが強すぎて、印象が薄くなってしまったのだった。覚えてないとかは流石にないけどね?

 

 

 

 出撃に関しては特に言うような事も無く、地形が複雑なくらいで宮里艦隊でやってた事と大差は無かった。奇襲を仕掛けようとしていた連中は確かに多く、かなり危ない場所であるのは確かだけど、私達には効果が薄い。なんせ五十キロくらいならソナーで大体分かるからな私。島内が難しいのが大問題だけどさ。そう考えると乗せられるなら悪くないんだよな瑞雲。無理だけど。

 ちなみにこの日の姫級鬼級討伐数は総計18体。報告したら大淀さんは死んだ目になった。私も姫級ばっかの部隊が島影に隠れてこっそり来てるとか思わんかったからびっくりだったよ。死体は後で回収してもらった。

 っていうか、今更だけどあれだね、楠木提督見えてるね、何かしらが。私達が来なかったら大惨事だっただろこれ。いや案外北上さんやビスマルクさん、赤城さん達が何とかしたかもしれないけれどもね。三人とも凄い強いらしいから。

 

 その日の夜、夕食後に執務室の前を通ったら本当に動画撮影をしようとしていたのでお邪魔させてもらった。久々に男友達とやるようなノリでゲームやったわ。楽しかった。なお動画はお蔵入りである。理由は分からんが、距離近すぎるでしょこのクズと霞が乱入したせいかもしれない。お前らもうケッコンしろよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃の宮里艦隊

 

 

 




最後のあとがきでやろうと思ったんですが、あとがきだと特殊な表示を受け付けないようなので本文に。
こういう機能は本当にありがたいですね、使いこなせているかと言われると全く出来てない訳ですが。


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適性値速上々↑↑

 吹雪が一時的に宮里艦隊を離れると聞かされ、最も衝撃を受けたのは宮里だった。

 可能性としては考えていなかった訳ではない。太平洋に面する現状の海域は異常な頻度で深海棲艦が出没するものの、その質は――今まで宮里艦隊が相手をして来た連中と比べて――低く、吹雪と島風はその機動力こそ有効活用されていたが、戦闘力は持て余されていたからだ。きっと他の、姫級が徒党を組んでくるという日本海側や索敵能力が重要になる瀬戸内海側の方が、理不尽なまでのその能力を活かせるだろう。そういう考えは確かにあったのだ。

 だが、実際にそうなると決まった時、宮里の心中を占めたのは絶大な不安感であった。宮里にとっては恥ずべき事に、一人の艦娘に心の底で頼り切ってしまっていたのである。自身の采配の根底に、吹雪が居る事による安心感が影響している事には気付いていたが、その比重は思った以上に大きかったのだ。

 現在攻略中の一帯は回数こそ多いが、襲撃してきたのは下位の深海棲艦ばかりという事がほとんどである。しかし、姫級や鬼級がまったく居ないという訳ではない。思い出したかのように上位個体に率いられた中ほどの規模の部隊が襲い掛かって来る事もあり、大規模な侵攻がいつあったとしてもおかしいとは言えない状況であった。

 そんな海域である。当然、絶対的な戦闘能力を持つ吹雪がいつでも救援に行ける状態で控えているのといないのとでは、気の収まりようが全く違う。その上、宮里にとっては吹雪が居ない状況での指揮自体がほぼ初めての経験になるのだ。

 自分は恵まれている。宮里は今更ながらに強くその事を実感させられた。他の司令官たちは居ればほぼどんな状況でも覆せるような鬼札など、当然無い状態で采配を行っているのだ。そんな中で宮里だけ手厚い保険を掛けられているような状態だった。他が壊滅したとしても、吹雪さえ投入すればどうにかしてしまうだろうというのは誰の想像にも、宮里自身の想像にも難くなかったのだ。

 当然良い傾向ではない。それを前提としないだけの分別が宮里にはあったが、しない事と出来ないという事、それだけの違いの重さがどれほどのものなのか、今更になってようやく理解が出来たのだった。

 さらに問題な事に、その頼っていた相手が一般人から召集された中学生である。本人の適性や精神性が影響するという改二改装が、明らかに戦闘向きではなかったりする相手でもある。表面上の感情的には戦力として使い倒す事に抵抗すらあったのだ。なのに、実際には、心の奥では、居ないと不安だと考えていた。滅茶苦茶頼りにしていた。その結果。

 

 

 

 宮里 幸     戦艦 大和     4684

 

 

 

 その結果がこの適性値である。宮里はすごく恥ずかしかった。

 艦娘の適性値は提督との信頼関係で上昇するという。吹雪から好意的に思われていた事は素直に嬉しいのだが、自分側の感情が間違いなく褒められた経緯で育まれていない事に、宮里は忸怩たるものを感じてしまったのだった。

 執務室の机に向かい、自分の情けなさに走り出したくなるような衝動を覚えつつ、無論そんな事をする訳にも行かないので誤魔化すように書類に文字を叩き付ける。慣れたもので、それでも雑にはならないくらいには整っている。筆圧はちょっと強かったけれども。

 

 それにしても、と宮里は思う。吹雪は表情に出にくいだけで素直なので嫌われていない事は分かっていたが、半年と経たずに4000を超えるほどに信頼して貰えているのは予想外だった。

 宮里ならば、お国のためと大義名分があるのを良い事にほぼ休みなく戦わせるような相手を好きにはなれない。一応、上にも下にも修理の都合だなどと言い訳して待機させたりはしていたが、滅多にある事ではなかったし。

 戦うのが好きなのだろうかと思った事もあったのだが、改二は戦闘向きとは言い辛い物だったため首を傾げざるを得ない。結果的にただ出力を強化するよりもよほど有効に働いてはいたので、現状に対する最適化ではないかという説も飛び出たりしたのだが、それが出来るなら川内はもうちょっと違う形になったのではないだろうかと宮里は考えていた。

 現状、改二は性能が純粋に強化される者と少し違った方向性を獲得する者に別れるのだろうと言われている。前者は初春と夕立で、後者は吹雪と川内だ。どちらが良いと一概に言えるものではないのだが、川内に関しては正直使い所に非常に困らされていた。

 なにせ闇討ち特化である。速度や隠密性が高く、十全にその性能を活かすなら単艦運用が求められるのだ。そんな事はそもそも禁止であるし、今となっては戦闘部隊でも強力な部類に入る川内を特攻紛いの鉄砲玉扱いなど出来るはずもない。たまに勝手に裏を取って、姫級の首級を挙げてきたりはするが。

 そう、川内は明らかに適性値が高くなっていた。資源の問題で再度の適性検査は行われていないが、恐らくは宮里よりもさらに高い。空中で一度に複数回殴られ、水平に海面をぶっ飛ばされて、その直後に笑顔で吹雪と話していたのを宮里は目撃している。吹雪の方はやべっと呟いていたのだが、戻って来た川内の楽しそうな姿に安心するを通り越して感心しているようだった。空手――本当に空手なのか宮里には判断が付かなかったが――の指導をされたりといった積み重ねもあり、仲はかなり良好だったと言える。

 吹雪は好意を向けられると素直に好意で返してくる。恋愛的な云々は駄目なようだが、少なくとも遊びに誘われて用事もないのに断るという事は無いようだった。コミュニケーションを自分から取るのが苦手なだけで、拒否している訳ではないのである。その結果として、金剛や川内などの積極的に絡んでくる人間の適性値が上がっていくのだろう。

 それ以外にも、初雪が宮里艦隊から戻って以降さらに強くなったと聞くので、吹雪は甘えられるのは問題無いとも考えられる。もしかして頼り切りの自分はそっちのカテゴリに分類されているのだろうかと少し宮里は心配になった。

 周りの人間も、元プロの漫画家で尊敬され趣味も合う秋雲はかなり強くなっている。全く気兼ねなく話し掛ける天龍や深雪、叢雲、伊19なども相応に上昇を見せていて、龍驤も色々と言ってはいたが、結局生放送の一件以来出力が向上してきた実感があるという。一方で、山雲や速吸などの関わりの薄い娘はあまり変化が見られていない。例外的なのが秋津洲で、どういう理由か二式大艇ちゃんが強化され続けていた。吹雪と関係あるのかは不明である。

 長門に関しては完全に長門側の問題で上がっていないように感じる。長門自身は酷い事も言っているから好かれはしないだろうと考えているようだったが、宮里からはどう見ても吹雪にそう考えている事自体がバレているようにしか見えない。元々嫌われていない……というか、むしろ好かれていた事もあり、長門の意識が変わればそれで解決しそうである。でも吹雪……というか自分以外の提督に心を開かれたら、それはそれで複雑な気持ちという乙女心もあるのであった。2X歳が乙女かは議論の対象であるとしてここでは考慮しない事とする。

 総括すれば、なんでもいいから悪意無く話し掛けたら懐くんじゃないのかこの子というアレな評価をせざるを得ない事になるので、少し吹雪の将来が心配になった宮里なのだった。

 少し前に、艦娘達の知り得る情報から吹雪に適性値を上げる能力がある事を推理できる、という事が証明されてしまったのだが、吹雪本人が気付いた様子は無い。だがもし知られても、吹雪側はそんなに変わりそうにないなと宮里は感じていた。懸念があるとしたら――中途半端に仲良くなってしまった娘の事くらいか。書類を片付けつつその子に不幸が無ければいいと考えを巡らせていたら、部屋の外から騒がしい声が聞こえてきた。

 

 

 

 執務室の戸が叩かれ、夕雲に連れられて十名が入室して来た。全員が自ら希望して宮里艦隊にやって来た人間である。その全員の顔に宮里は覚えがあった。八人が四国にも来ていた艦娘であり、一人は淡路島での一件で顔を知っている。最後の一人も四国で顔を合わせていた。

 整列した十人に自己紹介を済ませると、今回の出向に関する注意点などを確認して行く。特にスキルアップに関しては気を付けてもらわないといけない事が多いのだ。主に暁と工廠の負担軽減のために。

 実戦をしながらの訓練になるが、担当は最初から暁だと決まっていた。本人もそのつもりだったし、宮里もそうなると思っていたし、楠木提督すらそうする予定で居た。異論を差し挟む余地も人間も無かったのでもちろんそうなったのだが、問題は別の所からやって来た。他の鎮守府から来た人材以外にも指導が必要になってしまったのである。

 

「この度は私達の要望をお聞き入れくださいまして、ありがとうございます」

 説明を終え、九人の艦娘達が夕雲に連れられて行くと、一人残された男性が宮里に丁寧に頭を下げた。

「いえ、こちらの都合でそうさせてもらった事ですので、気になさらないでください」

 何しろ最前線である。本来なら辞令一つで行かされる事に恨みごとの一つでも出てきて当然なのだ。だが男性達にはそれでも本当に有難かったらしい。

「こんな状況で妻と同じ場所で働かせて貰えるのですから、感謝の言葉くらいは言わせてください」

 男――三雲提督は四国で発見された提督適性の持ち主であり、宮里艦隊で働く夕雲の夫である。提督としての能力を獲得するや、宮里艦隊に配属になったのだ。

「夕雲も同じ事を言っていましたね……」

 宮里の言葉に三雲は照れるように笑った。二人とも根が真面目なのだろうなと、宮里も釣られて笑った。

 

「それでは三雲提督、貴方の任務について説明させてもらいます」

 三雲は宮里の部下として扱われる事になる。立場的には他の鎮守府の提督に近く、作戦指揮などには係わらないが一部の書類仕事には携わり、平時は戦闘部隊以外の艦娘への無効化貫通能力の付与が主な仕事だ。

「今までもこの鎮守府には提督が三人……私と文月、それに出向中の吹雪が居たのですが、それでも賄いきれていなかったので……索敵のために人員を増やした弊害ですね」

 夕雲だけは三雲に任せても良かったのだが、本人達が効率的でないだろうと辞退した。実際、夕雲の被弾状況は索敵の精度に関わるため情報を得られて悪い事は無い。夕雲は優秀なのだ。

「ただ、基本的に戦闘は行わない艦娘達ですので、必要なら供給を切ってしまって構いません。三雲提督にお願いする一番大事な仕事は、私に何かあった場合の交代要員です」

 二期適性者がある程度安定して護衛などをこなせるようになり、燃料供給はある程度安定した。最早適性値が4000を超える人間を遊ばせておく理由も無い。今回の練度向上作戦、参加するのは何も、出向して来た人員だけではないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出向二日目。今日も無事に深海棲艦退治を終えた。初日みたいな言うような事件は無かったけど、この辺りは変なとこから深海棲艦出て来るみたいだからすっごい危ない。猫吊るしが付いてきてくれてるんで陸上も行けるけど、そうじゃなきゃ遠距離攻撃を捨てなきゃいけなかったかもしれない。割と陸に居るんだもんそりゃ私来させられるわ。

 だがまぁ、とりあえずは私達の索敵能力なら何とかなっている。私のソナーよりは見張りの猫吊るしと島風のソナーの方が役に立ってる気がするけど。ちなみにたまに猫吊るしを投げていて、やっぱり発見率がかなり高い。居てくれてよかった。てーか航空機欲しいなぁ、攻撃はいいけど偵察がしたい。瑞雲欲しいなマジで(洗脳済み)

 ともかく怪我も無く九曽神艦隊の古い建物に帰り着き、私達は揃って工廠へ艤装を置きに向かう。荷物を降ろし、もう暗いけどとりあえずお風呂かななどと考えていると、島風が改二の事に関して島風さんに聞いてくると言って、目を閉じ意識を集合無意識へと飛ばした。

 思考加速でもしているのか、あちら側とこちら側だと時間の感じ方が違う。だからすぐに戻って来るだろうとは思うのだが、保障は無いし待ってるべきか否かを迷っていると、港の方に普通の船が戻ってきた。九曽神艦隊の収集部隊である。

 宮里艦隊だと今は護衛部隊が存在していないため危険な所にはあまり行かないらしいのだけど、こっちはちゃんと護衛を付けて敵が出てもおかしくない所にも行っているらしい。今日護衛に付いていたのは秋月姉妹と伊8、はちさんだ。少ししたら三人とも艤装を置きにやってきた。

「あっ吹雪だ。今帰り?」

 私を見つけて話し掛けて来たのは照月だ。偶然だねーとこちらに歩み寄ってきて、壁際に座って目を閉じている島風と連装砲ちゃんを見つけるとそっちに吸い寄せられて行った。

「あれ、みんなお眠? 夜更かしでもしちゃった?」

「艦娘に会いに行ってるだけだよ」

 連装砲ちゃんも一緒に。最近割と島風がよく行くので知ったのだけど、連装砲ちゃんも島風に引率されれば集合無意識に入れるみたいなんだよね。たぶん今頃みんなできゃっきゃしてるんだろう。

 それを説明すると秋月は眠っている連装砲ちゃんを撫でながら羨ましそうな顔を見せた。かわいいし強いから仕方ないね。私だって使えるなら使いたいもん、私が使った場合どんな動きするのかも興味あるし。

「装備として使えなくてもいいから一体作って貰えないかなぁ」

「資源の無駄過ぎる……」

 こんなんだけど連装砲ちゃんは結構維持コストが高いらしい。私も明石さん達から聞いただけだけど修理もかなり手間みたいだし、定期メンテナンスも必要だろうから普通にペットでも飼った方が安くつきそうな気がする。

「ええー、でも吹雪だってかわいいの好きでしょ?」

 妖精さん頭に乗っけてるくらいだし、と私の頭上を見ながら照月は笑った。そういや降ろしてなかったわ。

「いやこれはこの方がいいから乗せてるだけだからね」

「じゃあかわいいのは嫌い?」

 いや嫌いじゃないけども。そういう問題じゃないんだよなぁ、中身が完全に同類だし。オタ仲間だし。TS転生者だし。確認したら前世普通に男で、子供を助けて轢かれそうだった女性を助けて死んだとかいうテンプレ転生者だったし。本人覚えてなくてそう聞いただけらしいけど。現世でも色々忙しく働いていて、給料とか出ないからそれらは全部好意からである。なんかもう凄い良い奴なんだよなぁ。っつーかよく考えたら今世では全然オタク的な活動出来てなくない? まぁでもそれはそれとして。

「そもそも猫吊るしかわいい?」

「は? 滅茶苦茶プリティだが?」

 頭上から猫吊るしの抗議の声が上がった。いやお前動きとか仕草とか完全に男なんだもん。それはそれで需要あるかもしれんけど、私からしたら普通の妖精さんの方がかわいい。

「えーかわいいよ! ねー?」

「ねー!」

 猫吊るしと照月が一緒に首を傾げてねーと言い合っている。中身知ってると結構アレだぞお前。生中継で全国に媚びた私が言えた事ではないけれども。

「私も妖精さん乗っけようかな?」

「あ、それはやめたげて。普通の子は落っこっちゃうから」

 無情のマジレスである。私もやった事は無かったけどやっぱり落ちるのか。チート能力で張り付いてるだけだもんな猫吊るしも。

「やっぱりその子は特別なんだ……?」

 いつの間にか艤装を置いて来たのだろう、スク水に帽子を被り膝上のソックスを穿きさらに眼鏡を掛けた金髪の女性が一冊の本を携えて後ろから声を掛けて来た。潜水艦の伊8……はちさんである。どうやら猫吊るしの事はある程度聞き及んでいる様で、物珍し気ではあるが疑わし気な様子ではなかった。妖精さんが見えているのはたぶん本のせいだろう。あれ召喚用の魔導書みたいな奴らしいから。それだけでいいってのは初めて知った。

「スマホコミュでも話題になってたよ。凄い妖精さんが宮里艦隊にいるって」

「そうなんですか?」

「そうなんだ! 君って凄いの!?」

「スゴイぞー! カッコいいぞー!」

 はちさんによれば、どうも猫吊るしは結構有名になってしまっているらしかった。私の頭に乗っているせいで。うんまぁね、同じ妖精さんずっと乗せてる現最強とか乗っかってる奴も有名になっちゃうよねそりゃそうだ。一番の需要は工廠らしいけど。

「艤装に乗せるとやっぱり違う?」

「そうですね、だいぶ違いますよ。動きがかなり滑らかになりますし、心なしか出力も上がります。無駄が無くなるんでしょうね。たぶんはちさんのに乗せても実感できるくらい変わるんじゃないかと思います」

 へぇ~とはちさんは感心したように私の頭上の猫吊るしを撫でた。猫吊るしは抵抗せずに可愛がられているが、お前それでいいのか?

「おお、人懐っこい……割と逃げて行くんだけどね、妖精さんって」

「あー、俺等にとっては人間ってでっかいからなー」

 別に構われるのが嫌なわけじゃなく、お触りされるのが普通に怖いだけらしい。個体差が結構あるから大丈夫な子も居るだろうけど。

 話している間もはちさんは猫吊るしを可愛がり続けている。私の頭の上の。普通の人には私が撫でられてるみたいに見えるだろこれ。

「はちさん、あの、くすぐったいので……」

「あ、ごめんね」

 抗議すればすぐ止めてくれて、代わりに私を見つめて悩ましげな表情になった。猫吊るしはぐしゃぐしゃになった髪を整え始めた。

「私の事、はっちゃんでいいし、敬語も使わなくていいよ? はちしゃ……はちさんって言い辛くない?」

 噛んだ。

 確かに言い辛いのかもしれない。私自身はチートのおかげで余程焦ってなきゃ大丈夫な気がするけど。

「年上ですし……」

「年齢の事いうなら照月もそうだよね?」

 若干恥ずかしそうだったので噛んだ事には触れなかったら、こっちの痛い所に触れられてしまった。その辺り完全に感覚でやってるからなぁ。

「駆逐艦の皆には何故か自然とため口になるんですよね……成人してたりするとそうでもないみたいなんですが……」

 人妻な夕雲さんとかにはならないんだけど、高校生くらいの秋月姉妹なんかには自然と口調が緩くなるのだ。かと思えば山城さんには丁寧語になっちゃうし、自分でも基準がどうなってんだかよく分かってなかったりする。

「……艤装の影響?」

「ですかねぇ」

 たぶんその可能性が一番高いと思う。コミュの方で口調に関しても取り沙汰されてたとかで、はちさんもすぐにそう思い至った。クマクマにゃーにゃーぴょんぴょんぽいぽい言わされるより遥かに分かりにくいけれど、私も確実に影響を受けてたって事だろう。吹雪さん準拠を完全再現するなら、たぶんちゃん付けでみんなを呼んだりしなきゃならんのだけど、いつか私もそうなるんだろうか。

「まあ無理強いはしないけど、気は使わなくていいからね。緩く行こう、割とそういう艦隊だし」

「確かに宮里艦隊に比べると空気緩いよなここ、戦いに対して前向きでも後ろ向きでもない感じ」

 猫吊るしの言う通りで、ここは好戦的な雰囲気も厭戦の空気も無い。なんというか、良くも悪くも気負いがないのだ。真剣みが無いというのとはまた違うのだけれど。

「概ね北上さんと卯月と九七が居るおかげのような……」

「九七て。もう提督あだ名呼びなんだ? 距離の詰め方エグいね吹雪……」

 いや九曽神提督が九七式艦娘被攻撃機って名前で動画投稿してるからなんですけどねこれ。昨夜一緒にゲームやって呼び慣れてしまった結果だから許してほしい。公的な場とかで出ないよう気を付けないといけないなとは思います。

 本当に男子との距離感凄いんだねと、これまた話題になってしまっていたらしい事をジト目で言われてしまった。中身が男だからなぁ、自分からは誘いに行かないけど誘われたらホイホイ付いて行っちゃうのだ。なお恋愛感情は一切生まれない模様。

「んー、楽しそうだなぁスマホコミュ。ある事ない事色々ありそう」

「あれ、照月はスマホ持ってないんだ」

「避難する時にね、持って来れなくてそのままなんだよー」

 そういえば避難組なんだっけ。泣いてご飯食べてたらしいしかなり食い詰めてたんだろうなぁ。なんて思っていたら、艤装を片付けて身軽になった秋月が丁度こちらへやってきた。話は聞こえていたらしく、照月の傍までやってくると困った顔で妹の頭を撫で始めた。

「我慢しないで買ってもいいんだよ、深香」

 須増 深香、照月の本名である。秋月の方は須増 真深という。何歳差なのかとか細かい事はよく知らないけれど、秋月はしっかり姉をやっているようだ。私みたいな似非姉とは格が違う。そもそも似非妹の方が年上だったし。

「んー……いいよ、みんな困ってるんだし、ごはん優先で!」

「そう? スマホ一台くらいで誰も文句言ったりしないと思うけど……」

「真深姉の分もいるでしょー?」

 それに最近高いしなー、と照月はぼやいた。通信費はそれ程でもないのだが、本体はだいぶ価格が高騰してるからなぁ。壊れると修理すらままならなかったりするのでみんな扱いには気を遣うようになってたりするくらいだし。怖くてトイレにも持ち込めないと誰かが言っていた。

 いや実際の所、普通の部隊でも姫級一体倒せばお釣りがくるはずなんだけどね。手続き手続きで自由に引き出したり出来ないからかまだみんな金銭感覚は崩壊してないのだ。一番ヤベーのは私と島風じゃないだろうか。昨日だけで一人数千万稼いでるし。なお税金。

「二人は仕送りとかしてる感じ?」

「うん。同じ村のみんなに……漁村だったから、稼ぎようが無くなっちゃって」

「あー……深雪もそんな感じだったな。けど、村単位?」

「私達は村でも特殊な家系だったから」

 聞けばこの二人、地元じゃほぼお姫様扱いだったらしい。代々まとめ役というか権力者というか、法的な権利を持たない指導者の家柄だそうで、そりゃあもう大切にされていたんだそうな。子供が少ない地方の集落って事もあったのかもしれないけど、今どき珍しい話である。

 ただ当然、何かあった際には村の皆の保障とかをしなきゃならない立場のようで、両親も喧嘩の仲裁とか漁場のトラブルなんかの対応はしっかりやっていたそうな。姉妹も自分達を大事にしてくれた地元とそこに住む人々に愛着が湧いていたという。古い慣習とはいえ上手く回っていたらしいのだが、そこへやって来ちゃったのが深海棲艦である。村は襲われ人は撃たれ、みんなで逃げて避難所へ行き、最低限寝床の確保は出来たが、問題はその後だったらしい。

「避難所ってさ、本当に最低限の生活しか出来ないんだよねぇ」

 米はある。水もある。だからそうそう死にはしない。でもそれだけ。同じ立場の人達がいっぱい居るから働き口は少ない。その僅かな席だって、仕事に役立つ技能を持った人が優先される。漁師たちには居場所が無かったのだという。

 だが一番悪かったのはまとめ役であった彼女達の父親が、一連の騒動で命を落としていた事だったらしい。優秀だったようで、居ればその益荒男が先頭に立ってどんな状況でもなんとか立て直せただろうと思われていたんだそうな。支柱が居るかって大事よね。

 けどそんな音頭を取っていた人間は居なくなり、しかし行く当てのない村の人達は知り合いで固まってどうにか暮らして行くしかなかった。そうなった時、船頭を引き継ぐ者がどうしても必要だったのである。

「だから今は秋月姉がうちの当主なんだよ!」

「村を代表してここに来てるんだ……出稼ぎみたいな感じだね」

 尊重される代わりに生活の保障をする。当主となってすぐには出来なかったけど、艦娘として選ばれたおかげでそれが不完全ながら可能になったという。孝行娘過ぎる……何人養ってんだこの二人。単位が村って。いや村民も自助努力を欠かしてる訳じゃないっぽいけどさ。ちなみにお金の管理は母親に任せているらしい。その母親は外様だから当主引き継げなかったとかなんとか村社会めんどくせーなおい。

「だから危険手当も欲しいんだけど、現実は甘くなかったね……」

 たとえばだが、私が同じ立場なら余裕で養える。何せ既に姫級数百体倒してるからね。島風と半分こしてもなんとかなるだろう。だが秋月姉妹は、残念ながら弱い。海域攻略中に収集部隊の護衛に回されるくらい弱いのだ。いやたぶん対空が得意って特性も加味した結果だとは思うけどね。

「ああ、連装砲ちゃん欲しいってそういう事情もあってなのか。悪い、かわいいからだけかと思ってた」

 猫吊るしがごめんなーと二人に謝った。秋月は艤装をしてないので見えてないだろうけど。

「あはは、護衛も悪くないから気にしないでよ! なにしろ前線よりよっぽど安全だから。長く続けられるっていうのも大事だよ」

 っていうか、使えなくてもいいって言ってたから可愛いが理由の大半じゃないだろうか。使えるに越した事は無いだろうけれど。それを言ったら照月は正解っ! と辺りに響く声で大笑いした。

 

 島風を待っている間そんな話をしていたら前線へ行っていた面々も帰還して、工廠はにわかに活気付いた。なんだか結構被弾している人が多く、結構な激戦になった事が窺える。全員居るっぽいから轟沈とかは無かった様だけど、やっぱり結構大変な所に行かされてるみたいだなぁ。

 明石さんが猫吊るしを迎えに来たので受け渡すと、大喜びで走って行った。戦艦でも大破したのかもしれない。ばいばーいと護衛部隊の皆に手を振る猫吊るしを見送りながら島風起きないなぁと思っていると、艤装を付けたままの卯月がなにやってるぴょんと話し掛けてきた。秋月姉妹の来歴について聞いてたと言うと、何かを思い付いた様子でにんまりとしながら私の目を見つめて来る。

「二人は自分のお小遣いも貰わないで全部仕送りしてるぴょん! 偉いぴょん!」

 せやな。首肯してやると卯月の方もうんうん頷いて、そうだろうそうだろうと自分で自分の言葉を肯定し出した。

「ところで吹雪はこっちに越してきてまだ引っ越し蕎麦は配ってないぴょん?」

「そもそも出向で配るもんなんですかねぇ」

「でもちゃんとご飯がでるのにお蕎麦はちょっと重いぴょん!」

 それはそう。みんな女の子だしな。秋月姉妹とかそんな食べそうにないし。

「だから、ちょっと良いお菓子を秋月と照月に買ってきてあげるといいとうーちゃんは思いますぴょん!」

 ふむなるほど。

「でもそれ二人だけにやると角立たない?」

「じゃあうーちゃんの分も一緒に買ってくるぴょん!」

 お前自分が食べたいだけであろうそうであろう? いやお菓子買うのはいいけど。どうせ私も食べるし、この艦隊だと配るかはともかく用意しとくのはいいだろうし。

「じゃあなんか買って来るかぁ……」

「わーい、ごちそうさまでーす!」

「ちょっと照月、中学生にたからないの!」

 秋月は遠慮がちだけど、照月は素直に喜んだ。まぁ私年下だから秋月の方が常識的な反応であろう。

「吹雪、気にしなくていいからね。私達の問題は私達だけの問題なんだから」

 寄付とかも募ってないらしい。いやまぁ、それやり出したら同じような状況の人どんだけ居るんだよって話にもなりかねないし、そこまでやる気は元々ないけどさぁ。

「でも秋月、正直さ、事情知ってて横でお菓子食べるの凄く気まずいから、個別に送るかはともかく大入りの奴は一緒に食べてよ。同室のよしみで」

 この鎮守府……っていうか泊地、なんかやたらと大部屋で駆逐艦全員同室なんだもん。私普通に部屋でお菓子食べるのに、横に節約してる子がいたらちょっと抵抗あるじゃん。年上だけど後輩の二期の人達も居るし、自分だけパクパクですわと行く訳にもいくまいよ。

 そんな理由で照月と酒保に行く事になった。秋月も照月が調子に乗らない様にと付いてきてくれるようで、ここの酒保は利用したことが無かったのでとても助かる。宮里艦隊と違ったら困るからね、運営が一緒だから同じだとは思うけれど。

 卯月と照月が艤装を置きに走っている間も秋月は遠慮し切りだったが、口調からしてたぶんお菓子自体は嫌ではないんだろうと思う。そういう子にお腹いっぱい食べさせたいと思うのが我々チート転生者だ。自分じゃあんまり高いのは食べないんだけど、ちょっとだけいいのを買ってみても良いかもしれない。そもそも酒保にお高いのがあるのかは知らんけども。

 

 待ってたら島風も起きてきたので一緒に買い出しに行って、卯月主導で夜にはみんなで色々食べた。

 興味も有り、ちょっと良いお菓子を買ってみたところ秋月には遠慮されてしまったのだが、人数分買っちゃったからと説得してお口に入れてもらった。幸せそうだった。やっぱ好きなんすねぇ。照月はあんまり遠慮してなかったけど、人の分を取るとかそういうのは無かった。島風はやろうとしたので制裁しておいた。

 卯月はやっぱり自分でも食べていたけれど、案外遠慮がちというか、どうやら秋月姉妹に食べさせたいって方が本音だったっぽい。自分であげすぎて秋月が遠慮するようになってしまったと漏らしていた。ついでに本当に買いに行ったからちょっと焦った事も聞き出せた。冗談だったらしい。

 二期生とも話せて多少警戒心も薄れてくれたと思うけど、布団に散ったカスを外にはたきにいかなきゃならなくなったのは不知火の落ち度だからなお前。

 途中で北上さんと提督が乱入して来てカオスだったのだが、最終的に九曽神提督は霞に退治された。それが平常運転らしい。おもしれー艦隊である。

 

 

 




冷静に考えて訓練付けにするより一個人と仲良くした方が強くなれるの凄い酷いなって思いました。
いや訓練や実践もした方が掛け算的に強くなる設定ではあるんですが。


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あっ(察し)

 九曽神艦隊の朝は早い。艦娘達の朝は吹奏楽部だった卯月のトランペットと学生時代はエアギターを嗜んだという提督のサクソフォンとのジャムセッションから始まる。時たまカスタネットの北上さんが混ざるらしい。

 二人もしくは三人が退治されると朝食の時間になる。出される料理は宮里艦隊と比べると香辛料や酢などの刺激の強い物が多く使われている印象だが、味は良い。テーブルには複数のスパイスが用意され、それらも艤装製の体力回復効果のある代物だという。油断すると振りかけられたりすり替えられたりするので卯月の横に置いてはいけない。

 朝食が終わればミーティングに入り出撃だ。この辺りの流れは宮里艦隊と大差はない。ただ朝にふざけ過ぎた卯月とか北上さんとか九曽神提督が叱られるパートが入ったりする。叱るのは主に霞と那智さん――宮里艦隊に居る二期生の那智さんとは別人――だったのが、最近では主に赤城さんになっているらしい。流石教師。

 この艦隊では大淀さんが司令官なので作戦説明なんかも彼女から行われる。方向性としては宮里艦隊よりも安全志向……というか、慎重だ。宮里艦隊が変態ローテだっただけでこっちが普通らしいけど、戦闘部隊は一日変色海域へ出たら翌日は休養か軽い任務になっている。

 ここ数日の進捗は良いようで、周辺の脅威の排除に私達を使っている事もありしっかり変色海域を戻して行けているとの事である。横から来た相手に対応してるうちに削られて撤退って事が多かったようなので、私達の索敵能力と機動力はかなり助かると大淀さんは喜んでいた。

 ちなみに私と島風は宮里艦隊と同じような頻度で出撃している。なんでかって? それが大淀さんが提示された出向の条件だったからだよ!! 楠木提督私達に容赦ねぇな!!! いいけど! 疲れてないからいいけど!! 全力で使い倒してくれてむしろ有難いけど!! 暇過ぎて焦るよりいいよ確かに!! 出撃させろって言いに行っちゃう可能性も否定できないしね! 宮里提督と大淀さんはどっちも私達に対して申し訳なさそうだったけどどう考えてもお二人のせいじゃないから気にしないで貰いたい。効率はいいですからね効率は。

 

 

 

 今日も無事に敵を粉砕して帰り、艤装を預けに古い建物の工廠へ向かう。壁とか床とか、設置されてる機械がぶつかったら崩れそうなんだよなぁここ。

 艤装を置くと島風は一言断って目を閉じ意識を集合無意識に飛ばす。最近は毎日こんな感じで島風さんに会いに行っているのだ。改二のために安定云々の話なのだろうけれど、詳しい事は教えて貰っていない。まぁその内どうにかなるんだろう。行き詰ってたら相談してくると思う。たぶん。

 さて本人からは別に待ってなくていいって言われてるからシャワーでも浴びに行ってもいいんだけれど、今日は卯月が非番なために放っとくといたずらされる恐れがある。いや別に、本当に致命的な事とかはしないっぽいから構わないっちゃ構わないんだが。

 この鎮守府は寝室が大部屋で、戦闘部隊は艦種別に分かれているんだけど、北上さんの私物のゲーム機が今は何故か駆逐艦の部屋にあったりする。なのでさっさとさっぱりして久々にゲームでもしようかなぁとか考えつつ明石さんの所へ猫吊るしを運ぼうとして、ふと、この前頭に浮かんだ事を思い出した。

 猫吊るしってちゃんと休んでるんだろうか。

 大和の艤装を寝床にしていたのは知っているが、それは必須な程度の休憩を取ってただけっぽいんだよね。いつ見ても何かしらの仕事をしているような気がするのだ。私に付いてくるのも含めて。

「猫吊るしって最近遊んだりしてる?」

「やー最近は真面目に仕事してるから、武装全部連装砲にしたりとかは宮里提督に阻止されて以来やってないぞ」

 猫吊るしの中身はオタクである。待機時間とかに雑談すると話も合うんでゲームしたりアニメ見たりは好きなはず。でもこいつがそんな事してるとこは一回も見た事ないんだよね。なのでそういうののつもりで話題を振った訳なんだけど、返って来たのはなんか違う反応だった。っていうかアレやっぱりふざけてたのか。テストだったからだろうけどさぁ……

「いやまぁそれも楽しそうだけど……そっちじゃなくて、オタ活の方」

「あー……そっちか。いや、そっちはやってないわ。漫画とか物理的に読むの難しいし」

 サイズ感がなぁと猫吊るしはぼやく。全長でも手のひらサイズな猫吊るしのちっちゃなおててだと一ページめくるのも一苦労だもんな。電子書籍なら行けそうな気もするけど見辛い事には変わりなさそうだし。

「アニメとかゲームは?」

「アニメはいいかもな、距離取れば普通に見れるし。でもゲームはコントローラー持てんからなぁ」

 何せコントローラーの方がデカい。腕を広げても左右両端のボタンに手が届かないだろう。でもその辺りは猫吊るしならどうにか出来そうな気もするんだけど。

「能力で操作出来たりしないの?」

「出来ない事は無いんだけどなー、思った通りに完璧に動かせちゃうからさ」

 猫吊るしのチート能力『いろいろ』『つかえる』はかなり汎用性が高い。電子機器を触れるだけで動かせるのは以前見せてもらったが、それはゲーム機でも変わらないらしい。ただ動かすのではなく超高精度で動かせてしまうため、本人の動体視力や反射神経も合わさって小足見てから昇竜余裕になってしまうんだとか。

「RPGとかなら関係ないんだろうけど時間かかるってのもあってやってないな」

 その辺りは私と同じ……というか、私以上に働いてるんだからもっと時間は無いだろう。うん良くない質問だったな。っていうか、やってみた事自体はあるのか。

「まー平和になったらやらせてもらうから気にすんな。今はやれる事多いからさ、そっちをやっときたい」

「働き過ぎて死にそうで怖いんだよなぁ」

 妖精さんだから死なないらしいけど、過労でぶっ倒れるとかない? 妖精さんだから大丈夫なんだろうか。

「それを言い出したら吹雪だって相当働いてるだろ? 一緒だ一緒」

「いや、私のは体力が有り余ってるだけだから」

 能力的にほぼ無限に働き続けられるからね私は。いや私も今は休むより働きたいから猫吊るしの気持ちも分かるんだけどね。だから大丈夫だって言われたら無理には止めないけど、過労になる前にちゃんと休んで欲しいなぁ。

 

 

 

 お互い無理はしないようにしようと言い合って猫吊るしと分かれ、シャワーを浴びて酒保に寄ると、中では赤城さんがお菓子コーナーを覗いていた。手に取っているのは干し芋である。おいしいですよね。私が入って来た事に気付いた赤城さんと挨拶を交わし、他の物も物色している彼女と並んで私も今日のお菓子を選んで行く。みんなに配ったりはしないけど、置いてあったら食べても良い事になってるから減りが結構早いのだ。

 今日は和菓子で攻めてみようか。そんな事を思っていると、赤城さんの提げたカゴに次々物が積まれて行った。干し柿、ポテチ、チョココーティングされたクッキー、麩菓子、パックご飯、おはぎ、アイス、かき氷、チーズ、だんご、梨、缶詰、煮卵、味噌汁。えっ何それ一日分?

 いやいやまさかと戸惑っていると、じっと見ていたのに気づかれて、はにかんだような照れ顔を拝見させていただく事になった。美人だから見せる人選べば凄い事になりそう。

「最近ね、お腹がとっても空くのよ……」

 うんまぁ、赤城さんだしね。そうなりますよね。この世界の艦娘ってコミカルな要素とか二次要素とかに溢れてるみたいだし。転生者にしか分からないだろうけど、赤城さんなら仕方ない。っていうか、この世界の赤城さんってやっぱりそうなのか……だとしたら食堂で出される定量だけじゃあちょっとお腹が寂しいのだろう。いやそれ以前の問題として。

「赤城さん、艦娘になる前から結構食べますもんね」

 私達の担任で陸上部顧問で体育教師の赤坂先生は、学校でも健啖家の片鱗を見せていた。深海棲艦が来る前は毎日昼に大きなお弁当箱とおにぎり三つくらい持って来てたのを知っているし、部の打ち上げでも一番食べていたのは先生である。あの襲来の日以降は食べ物の高騰とかで減らさざるを得なかったようだけれど……酒保は安いし、給料も上がっちゃったから阻む物が無くなったんだろう。そりゃあ暴食にもなりますよね。赤城さんだし。

「……以前はここまでは食べませんでしたからね?」

 ええー? ほんとにござるかぁ?

「どうして疑わし気な目で見るんですか!? 本当にこんなに必要になったのはごく最近なのよ!」

「あっ、ええ、はい。艤装の影響ですよね? 分かります分かります」

 視線が正直過ぎたらしく憤慨させてしまった。いやあ、元々結構食べてるイメージあったからつい。申し訳ないとは思っている。

 でもごく最近、という事はやっぱり艤装を使う事で出た体への影響なのだろう。口調とか夜戦とか色々あるけど、これは金銭的に直接被害の出る影響だから割と洒落にならなそう。健康面も心配なんだけどちゃんと保障されるようになってるんだろうか。

「え、これって艤装のせいなんですか?」

「え、違うんですか? 身体的に影響が出るって言われてますよね?」

「それは聞いてますけど……」

 まさかそんな出方をするとは考えてもみなかった。赤城さんの反応はそんな感じだった。確かに、体に影響って言われて食欲増進とは普通思わないのかもしれない。転生者だと一発なんですけどねぇ。

「その、戦いに出たりして前よりもっと運動するようになったから、そのせいかと……」

「…………つまり食べる量、それで納得出来る程度しか増えてないって事では……?」

 そう言った瞬間、赤城さんの動きは止まり、見えてる端からじわじわと顔が赤くなって行った。図星かぁ……

「その、艤装関係無かったとしても恥ずかしい事じゃないと思いますよ。自分のお金で買ってるわけですし……」

「いいえ! いいえ違います! これは艤装の影響です!! そうですとも! はい!!」

 そう言って赤城さんはレジに向かって早足で去って行った。微妙に涙目だったのは気のせいじゃないと思う。なんか凄い申し訳ない事をした気がする。

 その後、赤城さんの買った量が多すぎて普通に会計で追いついたのでちょっと気まずかった。

 

 古い建物の中を赤城さんと話しながら歩く。結局彼女は支払いなどをしている間に落ち着いたらしく、外で私を待っていてくれていた。元々そんなに感情的な方じゃないし、根本的に良い人なのだ。

「それでですね、本当に艤装の影響ならちゃんと相談した方がいいと思うんです。もしかしたら食事代も経費で落ちるかもしれませんし……」

 議題は酒保での話の続きである。私達が仕事上必要な物は国の方がある程度都合してくれる事になっているのだ。だから赤城さんだけ自腹というのはどうにも納得が行かない。たとえ半分以上は元からだとしても。

「流石にそれは難しいんじゃないでしょうか……?」

 まぁ私も証明は大変だと思うのだけど、変な影響への対応自体は前例があるんだよね。

「宮里艦隊に川内さんという軽巡の艦娘が居るんですが、彼女は昼夜が逆転するような影響が出てまして。その対策に昼間に眠って夜に起きて働く許可がしっかり出てるんですね」

 本人から聞いた話なのだけど、日が出てる最中に寝るための暗幕とかアイマスクとかそういうの、全部経費で落ちたらしいんだよね。半ば冗談でお願いしたら通っちゃって、川内さん本人が一番びっくりしたみたいだけど。

 それを聞いた赤城さんはちょっと悩んだ様子だったが、そもそも艤装の影響であるのならそれは報告が必須だ。どんな情報が重要なのか私達には分からないのだから。

「じゃあ、聞くだけ聞いてみましょうか……メディカルチェックはお願いしたかったですしね」

 自分でもこんなに食べて大丈夫なのか心配ではあったらしい。艤装の影響なら大きな問題は起きないだろうとは思うけど、太った様子もないので余分に摂ったカロリーがどこへ行ったのかは私も気になる。まさか消えたりはしないだろうし、どこかに溜まってるんだろうか。

 なお後日の話であるが、赤城さんの食欲は艤装由来と正式に認められ、経費こそ出なかったものの食堂で出される量をかなり増やしてもらえるようにはなったそうである。健康にも問題は無かったそうなので一安心だ。噂じゃ買い食いは続けてたらしいけどね。

 

 

 

 赤城さんと分かれ自室に入るとそこには誰も居なかった。着替えを取りに来た時も居なかったし、卯月は何処かへとお出かけらしい。泊地内からは出てないだろうけども。

 とりあえずPCを点けて特に変わった連絡も来てない事を確認して、私はゲーム機と向かい合った。実は中に何のソフトが入ってるか知らないんだよね、私達が来てから誰も起動してなかったから。中身が空って事は無いと思うんだけど、今遊べるものがインストールされているのかは分からない。それを確かめるのも楽しみの内である。

 ではいざ起動、と思い手を伸ばしたところ、その手が届く直前に、窓の外に居た人物と目がバッチリあってしまった。長い髪を三つ編みにした軽巡、北上さんである。どうやら主力部隊はいつの間にか帰ってきていたらしい。

 北上さんは一瞬だけ横にちらりと視線を向け、その後私に向かって笑いかけると鍵の掛かっていなかった窓を引き上げた。窓の横、私から見て死角になった壁の向こうにも誰かいる気配がする。一人じゃないっぽい。

「吹雪お疲れー。今日の釣果はどんなもん?」

「雑魚ばっかでしたよ。大物はさっぱりです」

 本日は姫級も鬼級も見かけなかった。代わりにレ級とかル級とかタ級とかは居たけど。あいつら倒しても報奨金出ないんだよね、地味に嫌がられていたりする。

 こっちからも北上さん達の戦果を聞いてみたら、変色海域の核を首尾よく破壊して来れたという。一応大淀さんから連絡はされているので姫級が出たのまでは知っていたけど、思ったよりも余裕があった感じの口調で、かなりの頼もしさを感じる。

「こっちはでっかいのが釣れちゃってさ、クジラみたいなのとサメみたいなのとクラゲみたいなのが一緒に来ててんやわんやだったよ~」

 それで釣りみたいな話になったのか。先制雷撃が完璧に決まったらしく倒すの自体は問題無かったというけれど、私と島風が周囲で暴れてなかったらそこに戦艦たちが加わってたかもしれないんで洒落にならない。そりゃ中々前に進んだり出来ないよなあ。

「大淀さんから聞いたけど初日に吹雪、十体以上姫と鬼倒したらしいじゃん? その時大淀さんどうだった? あの人三体でも悲鳴上げるんだよねー」

「目が死んでましたね」

 猫吊るし同伴なのもあって報告から全滅まで一分かからなかったんだけど、首を持って帰る代わりに撮った写真見せたら精神に何かしらのダメージを負った顔してたよね。ちなみに死体は後日回収して研究所送りにしたらしい。新発見のとか居たからなぁ。

 聞いた北上さんはそーなのかーと笑いながら、なんでか少し心配そうな表情も見せた。

「吹雪って大人とは上手くやれてる? 大淀さんとか若干怖がってるっていうかー……畏怖してる感じになっちゃってるけど」

 畏怖って何。私そんな恐ろしいんだろうか。自衛隊の人達から嫌われてるってほどの視線向けられたことは無いからそこまで変な事にはなってないと思うんだけど……でも、他の艦娘と戦闘能力が隔絶し過ぎているからか、助言なんかを求められるような事もほとんどないのが私である。適性値の差以外の答えが返って来そうにないから仕方ないね。適性外の人達って技量だけなら戦闘部隊の子達より上って人は結構居るらしいので、むしろ私が教えて欲しいかもしれない。そもそも話し掛けられないんだけど。

「まぁ……ちゃんと報連相は滞りなく行われてるから大丈夫だと思います」

「最低限じゃん……」

 呆れられてしまった。でもほら、それすら出来なくなる場合とかあるらしいから、聞き及んだ話だけど。だから私なんてマシな方ですよたぶん。

「ああでも提督とは仲良いよね、初日から」

 ぴくり、と壁の向こうから反応があった。成程、隠れてるのは卯月かと思ってたけれど、霞っぽいかな? そうなると、提督の話が本題だろうか。大変だな北上さん。

「あれはどっちかって言うと九曽神提督の度量が広いからですね。普段通りでいいぞって言われて本当に普段通りにやったらそのまま受け容れられたので」

「親戚の集まりでも見た事ないレベルのフランクさだったけどねー」

 初日の夜、提督と一緒にゲームをやったのだけど、その時の様子を北上さんはバッチリ目撃しているのである。後ろで私を見て爆笑してたんだよなぁこの人。今も思い出してか若干にやけている。

 しかしなー、あれって私の転生云々が悪さした結果男子との方がノリノリで遊べるってだけなんだよなぁ。だから説明が難しいっていうか、正直したくないんだよね。別にするなと誰かに止められてる訳ではないんだけれど、感情的になんか嫌だ。

「実は私、女子と話す時の方が緊張するんですよね」

「へぇ? そりゃなんでまた」

「理由はよく分からないんですが……過去の体験のせいですかね?」

 前世レベルの過去だから誰も理解出来てないと思うけど、まぁ、リア充ではなかったよね。かなしいね。そんなあれこれがありつつ、童貞力が高まった結果が今なのだ。

「そもそも私、二次専でリアルの男子は恋愛対象にならないんですよ。そうなると性質的に男子の方が話し易いんです趣味が合うので」

「あー、あの話マジなんだ」

 マジっす。そう頷いた私を北上さんは深刻そうな顔で見た。まぁ、あんまり健康的な話ではないのかもしれないけど、現実的に無理なもんは無理だしね。親戚には知っといてもらった方がいいだろう。

「吹雪ってさー……キャラクターは女の子の方が好きだよね」

「そうですね、好きな男キャラも居ますけど」

 萌え豚だもの、そうもなろう。しかも百合厨だぞノーマルが行けない訳じゃないけれど。返事を聞いた北上さんの目は、少しだけ鋭くなった。気がする。普段から割と気だるげというか呑気というか、柔らかめな雰囲気を纏っているのだけれど、それが少しだけ引き締まった。

「どうしてそうなのかって自分で分かる?」

「えっ? んー?」

 どうしてかって、それはキャラによって違うんだけど、たぶん全体的な傾向の話だろうか。それだとまぁ、アレな表現を避けて言えばだ。

「可愛いからですかね」

「あー……分かる分かる。でも男でも可愛いキャラ居るじゃん? そっちは無理?」

「男の娘はなんとか……」

 男キャラはなー、たまに女性向けの奴が目に入ってたぶん可愛いのであろう描写がなされてたりも見えたりするんだが、まぁ……保存したくなるかと言われると趣味には合わないよね。滅茶苦茶上手いのとかだと性癖関係なく賞賛したくはなるけど。

 そういう回答をもうちょっとオブラートに包んで渡したら、北上さんはそれはそれは微妙な顔になってくださった。何かを察してしまったらしい。

「…………吹雪さ、艦娘やってる間は二次専のまんまの方が……いややっぱりなんでもない。忘れて?」

 北上さんは思い付いた事を言おうとして、途中で止めた。何を察したのかは私には察せなかったけど、とりあえず空気は微妙なものになってしまった。

「あ、そうだ北上さん、こっちにあるゲーム借りようと思ったんですが大丈夫ですよね?」

「お? ああ、いいよいいよー。ってか北上様も一緒にやる」

 微妙な間に耐えられなかったので話題を変えたら、北上さんは靴を脱いでよっこらせっとそのまま窓枠を乗り越えて来た。そして身を乗り出して靴を回収する――その瞬間に、アイコンタクトで隠れていた人間を撤収させたようだった。誰かのさして体重は無さそうな足音が去って行く。やっぱり霞っぽい気がするけど、話は参考になったんだろうか。

 霞はたまにだが、私が九曽神提督と話している時に疑わし気な目で見ている事があった。別に私には悪意も害意も無いのだと分かってもらえるといいのだけれど……さっきの内容的に望み薄のような気もする。つーか私の性癖とか聞いてどうなるってんだって話だわな。

 なお、この後から霞は九曽神提督が居ない時でもたまに私を警戒する素振りを見せるようになった。何故?

 

 

 

 ゲーム機の中には結構色々入っていた。昔のゲーム機と違って選べばそのまま遊べるって便利だよなーなどと思いつつチート反射神経で北上さんのコンボ技を全段ブロッキングしていると、遠くの方から何かが跳ね回るような音と島さんが走り回るような音が微かに私の耳に入り込んだ。

 何事だろうと少し耳を澄ませてみれば騒ぐ声も聞こえてきて、窓の外、北上さんが入って来た方の地面を卯月が走り抜けていくのが見えた。次いで島風がそれを追いかけて行く。追いかけっこでもしてらっしゃる?

 完封されてひっでーと笑い転げる北上さんもなんだなんだと気が付いたようで二人揃って窓外を覗けば、そこにはぴょんぴょこ逃げる緋色の髪した卯月が一匹。その後ろにはえらい勢いで獲物に向かって猛進する金の髪した島風も一匹。ああこれは何かされましたね間違いない。

 しかし追うのが島風である。奴の足は普通の人間が逃げ切れるほど遅くない。どちらも艤装を付けていないので身体能力勝負になるし、体力的にも卯月に到底勝ち目は無い。最初はそう思っていたのだけれど。

 追いかけっこは結構長い事続いた。分かったのは、卯月は色々上手いって事だ。曲がったり障害物を利用して捕まらないよう立ちまわっている。乱雑に生えた木々の根が島風の走りの邪魔になっていたりもして、地形選びも完璧だ。地の利を上手く活用している。

 それでも根本的に速度差はある訳で、そのうち上手く速度に乗った島風が、卯月の背をようやく捉えた。そう思ったその瞬間、ぴょーんと跳ねた追われる兎は頭上の枝を引っ掴み、体全体を太い枝にまで引っ張り上げた。オウッと驚愕する島風をぷっぷくぷーと挑発すると、そのまま他に飛び移り、器用に屋根まで逃げてしまった。いや乗って大丈夫なのかここの天井。抜けない? 取り残された島風も同じルートで昇って行ったがちょっと心配になってしまった。

 っていうか卯月凄いな。島風と張り合えるのかあいつ。走るのそのものは島風の方が速いみたいだけど、体を動かすセンスが飛び抜けてる。勿論、今の島風の追撃から逃れられる以上それだけではないだろうけども。

「北上さん、卯月って……」

「あーうん、もう影響がかなり出てるよー」

 やっぱり艤装の影響が出ているらしい。適性値が高い方が影響は出やすいみたいだけど、体質とか艦種とかも関係ありそうだなこれ。金剛さんはまだはっきりとは出てないみたいだし。

「そういえば北上さんはどうなんですか?」

 たぶん高適性だと思うんですけど。問えば答えはイエスで、やっぱりそこそこ影響は現れているらしかった。でもまだまだ素手で深海棲艦は倒せないねーなんて笑っていたけれど、私のは艤装の影響じゃないから参考にしないでいただきたい。

 

 流石に延々暴走を続けさせるのもどうかと思ったので、北上さんと連れ立って二人の様子を見に行く事にした。場合によっては止める構え。上でどったんばったんと大騒ぎしていた二人は地面に降り立ち、今は玄関からまてーやだぴょんと声がする。行ってみればやっぱり卯月が追われていて、でも二人共ちゃんと靴は脱いでいた。意外と律儀。

 さっきと変わらず地形を利用してぴょんぴょん逃げ回る卯月と高速の脚で追いかける島風。まぁ、止めるだけなら私が一気に制圧すればいいだけではある。でもそれって根本的な解決にならないわけで、そもそも島風は何をされたのか。ああ、瑞鳳さんが二人の通った風圧でスカートを捲られた。あの勢いで走っているとそれだけで結構迷惑だなぁなんて思いながらいつ止めようか窺っていると、ふと、卯月の手元に銀色の光が見えた。

 よくよく見ればそれは私の渡したネックレスチェーンのように見える。成程、持って行かれちゃったのか。悪意でやってる表情じゃないし、手に取って眺めてたら島風が起きて来たからつい逃げたとかそんな感じだろうか。指輪付いてるもんなぁ、年頃なら気になるだろう。困らせようとは思ってないと思うたぶん。

 被害者側だろう島風の方は、怒ったりはしていないみたいだけれどなんだか焦れている顔だった。取られた事が嫌だったのか、運動部でもない相手が捕まらないのが自尊心に響くのか、はたまた別の理由なのか、その辺りは分からない。普段通りなら追いかけっこを楽しみそうなものだけど。

 卯月が廊下の方へと駆けて行く。さほど長い通路ではないため島風はトップスピードに乗れないだろう。ここでも進路の選択眼が光っている、何度も曲がって追いつかせないつもりだ。曲がり切れなければ大幅なロスになってしまう故、前を行き選択権がある卯月の方が屋内では有利か。

 島風もそれを察したのだろうか。気持ち大きめの声で待て卯月と叫ぶ。卯月の方は軽くふり向くと、ぷっぷくぷ~と再度笑って廊下へ逃げ込んだ。島風も廊下へ飛び込んでいく。だがその時にはもう、卯月は通路の中ほどに居た。通路の先はT字路で、通路の左右に部屋もある。逃走経路は数多い。卯月はどこに行くかの判断を迫られ、島風の脚にはさらなる力が籠った。

「待てって、言ってるでしょ!!」

 力の込められた左足が床を捉え、そこから島風の全身に進むための力が行き渡る。足の指先を、足首を、膝を腿を腰を胸を肩腕頭を、尋常ならざる力が駆け抜けていく。

 次の瞬間。島風の体は撃ち出されるように前方へと吹き飛んで行った。

 廊下を一陣の風が吹き抜ける。風の名前は島風。その姿はたぶん、私にしか見えなかったと思う。

 超高速、超長歩幅の一足。

 それは要するに、私がチート能力でやってる事とほぼ同一のものだった。

 空中で島風の顔が驚きに変わる。思わぬ結果だったのか、その体は目標だった卯月の斜め上を抜け、そのまま突き当りに突っ込んで行く。だがこの島風、運動神経も尋常なものではない。衝突するその刹那、くるりと体を回転させ、膝を曲げて足から壁に着地した。

 そしてそのまま抜けた壁と一緒に外へと転がり落ちて行った。古い建物に全体重掛けたらそらそうなるわ。

 木壁が崩れる轟音。突然起こった惨劇に、卯月は何が起こったのか分からず目を白黒させている。私はその横を通って島風の方へと駆け寄った。

 島風はバラバラになった木片と一緒に空を見上げていた。見た感じ怪我は無さそうだ。艤装の影響で体が丈夫になっているのが幸いしたのか、それともあの状態でしっかり受け身を取ったのか。ともかく血の臭いなどはしなかった。

 私が顔を覗き込むと島風はこっちに焦点を合わせてきて、誰だか気付くとじわじわと口元を歪めて行く。そのまま万歳のポーズをとると、満面の笑みを私に見せた。

「出来たよ! 伊吹!!」

 うん、うん。お前が島風さんと艤装の中で何やってたのかようやく察しが付いたわ。何教えてんだ島風さん。っていうか教えられたのか島風さん。すげぇや。でもね。

「制御し切れてないから出来てるとは言わないんじゃないかな……」

 島風はオウッ!?と鳴いた。

 

 

 




現世で圧倒的に速い奴を放置してるのに島風が改二の許可くれる訳ないよねというお話でした。


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恩寵(笑)

 猫吊るしを乗っけた島風が海上で見事にすっ転び続けている。一応両足どちらでも出来るようなのだが、どっちでやっても歩幅が安定していない。バランス感覚は優れているので着地はなんとかなってるけど、あれだと普通に滑走した方がマシだろう。

 先日の一件以来、島風は高速で一歩を踏み出す事が出来るようになった。集合無意識内でさんざん練習していたらしく、そちらではとうに形になっていたって話なんだけど、現実ではやろうと思っても発動せず、したと思っても不発に終わり、なかなか上手く出来なかったという。

 それもそのはず、猫吊るし曰く、島風のこの動きはオカルトに属する超能力――何らかの物理法則を超越した力による速度ブースト的なサムシングであるのだから。

 私の高速移動は身体能力由来だ。地面や水面を蹴り飛ばして無理矢理体をぶっ飛ばしているだけ、バッタみたいな跳躍を連続で行っているだけなのである。そのため私の通った跡は場合によっては破壊されている。人間一人を撃ち出す威力で踏み切っているのだから当然だろう。一応被害が少なくなる様にやってはいるけど、完全にとは行かない。

 しかし島風は違う。この間は室内で発動していたが、後で調べたら着地した壁はともかく踏み出した廊下は何事も無かった。地を蹴る事を発動条件にしてはいるが、私が行っているのとはかなりプロセスが異なっているらしいのだ。

 島風の超加速はどちらかというとスラスターを噴かせているのに近い。足から何かの力を噴射して加速しているのだそうである。発動個所は足だが力は進む方向と逆方向に発射されているため下の地面は影響を受けないという訳だ。

 つまりこれ、瞬歩とか瞬動とか縮地とかではない。類似するものを挙げるなら、Fateの青王の魔力放出である。

 いや島風さんマジで何教えてんの?????

 

 

 

 

 

 島風が壁を突き抜けた直後、当然ながら轟音が立ったために戦闘部隊も夜勤の非戦闘部隊も大淀さんも九曽神提督も警備の人達もみんな集まってきてしまった。なので島風が転んで壁に衝突したら崩れたと挙動以外は嘘でない説明をしたら普通に納得された。いやぁ、皆のこの建物に対する印象がよく分かったね。

 ただ、司令官である大淀さんには本当の事を話さないという訳にも行かず、場所を移して島風が私と同じような高速移動を生身で実現した結果であると報告したんだ。そしたら大淀さんは宇宙に放られた猫のような状態になってしまった。どうやらファンタジー世界で生きているという自覚はまだ薄かったらしい。

 でもそんな状態になってもすぐ気を取り直し、ちゃんとした対応をしてくれて、島風は怪我がないかきちんとお医者さんに診てもらう事になった。結果は問題無しだったけど、そもそも島風の現状が現代医学で対応できる範疇だったのかが私には分からなかったので、さらに猫吊るしにも診てもらった訳だ。その結果分かったのが私の高速移動と島風の高速移動の差異という訳である。

 

 

 

「まぁそんな訳で、たぶん体には問題ないんじゃないかと思う。たぶん筋肉を限界以上に使ってるとかそういうのじゃないから、脚が壊れたりはしないだろ……たぶん。たぶん放出してるものも体を傷つけてる感じは無いから、たぶん無害」

「たぶん多くね?」

「専門家じゃないんだからしょうがないだろー」

 島風の事について、猫吊るしがあんまり広めたい感じの話じゃないというので、私達は屋根の上でこっそりと話し合う事にした。誰かが来ても気配を察知できるからたぶん誰にも聞かれないだろう。この屋根歩くと音鳴るし。

「何かを出して加速してるっていうのは分かったんだよね? 目に見えない推進剤積んでるようなもんって理解したけど……何を出してるのかは分からない感じか」

「いやそれも大体分かるんだが……」

「分かるんかい」

「あ、たぶんなたぶん」

 なんでそんなに自信無さ気な表現になるのか。いや、無さ気っていうか専門家じゃないから自信は無いのか。それでも私みたいに何一つ分からん奴よりはマシな答えを持ってるはずな訳で。

「じゃあ、参考程度に聞いておくから教えて」

 そうしてくれと一つ頷いてから、屋根の一番高い所に座る私の顔を見上げて話し出した。

「まず勘違いしないで貰いたいから先に言っておくけど、島風は転生者でもないしチート持ってる訳でもない」

 いやそれは知ってるが。知ってるが……猫吊るし視点で確定情報なのかそれ。

「見分け方とかあるの?」

「あるぞ」

 あるんだ。

「俺なら体を触って魂まで時間かけて診れば分かる。転生者の魂って加工跡があるんだよ。俺のにもあるし、吹雪のにもある」

「あー……あれか」

 そういえば、提督の能力を習得する時に機能が魂に後付けされてたような覚えがある。ああいうのが猫吊るしには分かるのか。猫吊るしは私が知っている事は意外そうだったが、話が早くて助かると軽く笑った。

「島風にはあの跡が無いからな、たぶん俺たちの同類ではない。と思う」

「たぶんなのは消そうと思えば消せそうだから?」

 猫吊るしは頷いた。おそらくだが、わざと残しているか面倒だからわざわざ消さなかったかだろうと私も思う。あの自称魔法使い、その辺り自由に出来そうだし。

「俺等と同じようにしてると思うんだよな、もしあの時に与えてるなら」

 島風は以前この世界の創造主と思しき魔法使いと対面してしまっている。本人は夢だと認識しているみたいだが、実際にあった出来事であり、何かされたとしたらその時だろう。サイコロは振らなかったらしいけど、本当にそれでチートを回避出来たのかは分かったもんじゃない。

 というか、そもそもあの子は創造主的なサムシングだ。何も与えられなかったとしても、勝手に何かしらの影響を受けてしまうなんてのは普通にありそうな話である。いあいあ。

「じゃあなんでその話し出したの? 影響はあるかもしれないから?」

 違うならわざわざ言う必要なくない? 私のそんな疑問に、猫吊るしは眉を寄せて回答を呟いた。

「そりゃお前……島風の放出してる力が俺等の使ってる能力と同じ力だからだよ」

 ほうほう(梟)そうなのか。

 ごめん意味が分からん。

「チート持ってないってさっき言ったばっかじゃん?」

「そういう反応すると思ったから先に転生者じゃないって言ったんだわ」

 反応を読み切られていた私である。脳筋寄りで単純だからね仕方ないね。

 

「まずだな、吹雪はたぶんチート能力に関して思い違いをしてると思うんだ」

 お前、自分の力をこの世界に存在しない、外部から概念ごと持ち込んだ力だと思ってるだろ。

 猫吊るしはそう言った。私は一瞬意味が理解できなかった。

「……………………え、違うの?」

 思ってるよ? どう考えてもなんか普通じゃない、逸脱した能力じゃん。違ったの?

「違うんだよ。実は俺等の使ってる力、それ自体は元々この世界にも普通にある力なんだ。俺の知ってるこの世界の法則に含まれてる」

「えー……? えー……んー…………えー?」

 全然腑に落ちない。だってお前、こんな馬鹿身体能力してる奴が過去に存在してたら伝説になってるよ。いやなってるって事なのか? 髪伸ばしまくった怪力の人とか、あれが実在だとかそういう感じ?

「説明続けるぞ。その力は人間なら多かれ少なかれ誰でも持ってる物でな。使えた奴は過去にも存在してるはずだ、名前は魔力とか法力とか……まぁ、色々あるだろうけど」

 他にも霊力とか呪力とか巫力とか。最後の方特定作品になってない?

「俺等が異常なのはその量と、それを決まった方向性でだけど使いこなせてる事。具体的な総量は分からないけど……吹雪が普段から発揮してる力だけでも平均……っつーかその辺の一般自衛隊員の億から兆倍くらいかな」

「それ普通は使い物にならん奴だな?」

「うむ。たぶん初春で一億人に一人とか十億人に一人とかそういうクラスだと思う」

 つまり猫吊るしの言う事が正しいのであれば、初春の霊能力も私達のチート能力と同質の物であると。曙さんの魂の一部を摘出して封印したらしいからかなり強力なんだろうとは思っていたけれども、それは予想外だった。

「んでその力…………そのとかあのとか付けるのめんどくさいからもう魔力でいいかな? 魔法使いの女の子から貰った力の略で魔力って事で」

「ああうん。好きにしてもろて」

「じゃあそうするわ。その魔力はさ、特定の使い方しか出来ないとかそういうのが無いんだよ。ちゃんと制御できればたぶんどんな事にでも使えるようになる」

 この世界に存在するのにこの世界の法則に従わない力。方向性も限界も特になく、制御さえ出来て量が足りればまさしく万能足り得る力。

 だから肉体を強化したり、あらゆるものを使いこなしたり、霊が見えたり、足から放出して推進力に変えたり出来るらしい。あー、なんだろう、なろう系ラノベの魔力想像したら分かり易くなったわ。成程ね。

「つまり、私達が貰ったチート能力の正体は莫大な魔力と、それを扱うための制御能力であると」

「そういう事だ。吹雪と俺で全く違う能力に見えるのは使い方……言っちゃえば術式が違うからだな。術式なんて言うほどかっちりしたもんかは知らんが」

 私と猫吊るしだと持ってる力は同じものだけど、出力するための回路が違うからまるで違う結果が出て来るらしい。たぶん、あの時振ったサイコロで決められたのがその回路の形なんだろう。

「あ、あとたぶんだけど、修行したらお互い同じ事が出来るようになると思うぞ」

 さらにその回路、別に一人一つしか持てないとかそういう事は無いらしい。マジかよ。猫吊るしの能力便利そうだから会得出来るならしたいんだけど。

「『いろいろ』『つかえる』能力ってどれくらい修行したら使えるようになるかな?」

「たぶんだけど……早ければ一万年くらい? 修行だけに集中して」

「分かった諦める」

 一万年修行漬けとか悟り啓いちゃいそう。文明の利器で何でも出来るようになるまで待った方がずっと早そうだわ。吹雪似さんのおかげで出来ない事も無いんだろうけど、やりたいかと言われると絶対やりたくない。

「っていうかさ、なんか魔力っていうか念能力感あるよね。発だけみたいだけど」

「俺もそれは思った」

 私が強化系で猫吊るしは操作系、島風は放出系かな。初春は……特質? カリスマ性あるっぽいし。

 

「話を戻すけど、島風の使い方は俺等のに比べると滅茶苦茶単純だな。実体への影響力を持たせて足から噴出してるだけだから」

「単純なのそれ……?」

「俺の能力に比べたらずっとな。その分覚えるのは簡単だったと思うぞ、でなきゃ数か月で形になんてならないだろうし」

 実際には月よりも週で数えた方が分かり易いくらいだと思う。たぶん練習始めたの、ポーラさんが撒き餌したあの日以降だろうし。

「んでだ、まぁ、能力の根幹とかそういうのが分かって貰えたところで問題について話そうか」

「問題、多そうだよね」

 まあ問題だらけだろう。実用に足るのかとかもあるし、まずどっから湧いたのその力って話だしなぁ。全部説明しなきゃならんのだろうか。どうなるんだそれ、皆で修行する事になったりするの? 緊急回避に使えるだけでも明らかに有用そうだけど。

「まず使用回数の問題。チート転生者だったら魔力量が阿呆みたいにあるから問題無いんだろうが、島風は普通に現地人だからな……」

「やっぱり限度がある? もしかして使い切りで使い切ったら回復しないとかそういう仕様だったりする?」

「あ、それは大丈夫だ。筋肉みたいなもんだと思ってくれていいぞ、むしろ使うと後々増える」

 けど疲労はするから使用限度はあるそうな。本当にMPとかそういう類の物だと思っていいらしい。私達のも増えるんだろうか、初期値が大きすぎて多少の増減じゃ誤差になりそうな気はするけれども。

「今後はもっと伸びるだろうけど、今の島風だと限界までやって200歩が限界かな」

「思ったより使えるね」

 島風の才能が凄いのか燃費の良い技なのかは分からないけど、ストロークが長いのもあって結構な距離を進めそうな気がする。限界までやらせるのは問題しか無いから実際にはもっと少なくなるだろうけど。

「けど、航行と考えたら少ないだろ? 精々5kmくらいにしかならないからな。陸地通ってショートカットするのには凄い使えると思う」

 25mくらいはぶっ飛べる計算なのか、初速と着地時の速度差ヤバそうだなぁ。歩幅を狭めれば最高速で走り続けられそうだけど、距離はもっと短くなるだろうし……ってそうだ。

「まず対応してる妖精さんが居ないじゃん」

「そう、それが二つ目の問題点だな」

 高速移動に耐え得る妖精さんは少ない。っていうか、今の所猫吊るししか確認されていない。私だってさんざん悩まされた問題だし、今だって猫吊るしが居ない時は使えない訳で。

「……もしかしてマジで緊急時にしか使えない?」

「しかも島風の場合連装砲ちゃん達が一緒に居るからな。艤装にくっつけられるように改造するとかしとかないと、置いてくしかなくなるな」

 島風の一番重要な任務は私が自力航行不能になった場合の曳航……というか、背負うなり抱えるなりしての撤退である。だからそれにだけ使うなら大した問題にならない――いや私が生身であの速度に耐えられるという証明をしなきゃならないのは問題だろうか。普通の人間だとGで死ぬ奴だからなぁ。つーか島風あいつ艤装無しでよく使えたな、体の保護も同時にやってるんだろうか。

「あ、でも島風さんが教えるくらいだから島風さんに何かあてがあったりしない?」

「えっ、あー……いや、でも島風だぞ……? そこまで考えてるか……?」

 猫吊るしは眉を寄せ、何一つ期待してなさそうな表情になってしまった。島風さんの評価が酷い。

「もうちょっと艦娘を信用して差し上げろ」

「艦娘だから信用できないんだが?」

 それは二次創作の読み過ぎだと思うよ。と思いつつ、善性や戦意はともかくそれ以外のうっかりとかポンコツとかについては私も完全に否定は出来ないのであった。

 

「まぁ艦娘の島風については島風に確認してもらうとして、後は社会性の問題だな」

「私達もそうだけど実験動物にされたりしそうだよね、社会にバレたら」

 超能力者みたいなもんだもんね、マッドな人達にモルモットにされるかもしれないよね。いや日本でそこまで人権無視な事が許されるかは知らんけど。

 そんな事を思ったけれど、猫吊るしが言いたいのはそういうのではなくて、もっと個人的な話だった。

「そうじゃなくてさ、気付かないか吹雪。以前お前が俺に言った事だぞ。島風はあいつ、短距離走者なんだよな?」

「……………………あっ」

 そっか、島風もうあいつ、ある意味じゃ私と同じなんだ。

「艦娘の影響が抜けても、もう島風はまともに競技には出れない……?」

「たぶんな……常時強化状態の吹雪とは違って発動しなきゃ影響無いみたいだけど、使ってないっていう証明が今の科学じゃ不可能だろうからな。この力が公に認められたら、恐らくかなりの制限を受けるようになると思う」

 今まではスタミナも脚力も魂が艦娘に引っ張られた結果でしかなかった。だから艤装を使うのを止めてしまえば元に戻れる可能性があったのだ。でも、今回のこれは違う。これは島風――島さん自身が習得してしまった、今まで周知されていなかったただけの、元々人間が習得可能な技術なのだ。私が艦娘になる前からチート能力を使えたように、島風が元の島さんに戻ったとしても、きっと使えてしまうだろう。

「一応言っておくが、俺は島風の能力について、きっちり報告するからな。大丈夫だとは思うけど健康被害が本当に出ないかは保証出来ないし」

「ああうん。それはもちろん。他にも使える人が出るかもしれないしね」

 元々世界に存在する力なら、やり方さえ分かれば習得できる人は他にも居ると思う。習得難度と有用性が釣り合うのかは微妙な気がするが。島風だって管理する側が状態を把握してないのは不味いだろうしね、使い過ぎて魔力切れとか言われなきゃ分かる訳ないし。

 それにまぁ……今までの反応を鑑みるに、競技に出れないとかそういうの、本人は大して気にしないような気がするわ。足が速くなったのを素直に喜んで、今のを極めたら身体能力強化も練習し出すとかそんな事になりそう。一番気にするのは……長良さんかな、すげぇ良い人だからまた泣くかもなあ。あ、あと赤城さんも気にはするかな、教え子だし。

 

「んでさ……これ、どうやって報告しようか悩んでるんだけど」

「どうって、それはまず司令官の大淀さんに……」

 大淀さんに…………大淀さんか…………

「言って大丈夫かなあの人。ファンタジー耐性無さそうなんだけど」

「いやぁ……どうだろ。最悪吹雪がおかしくなったって思われるかもな。かと言って俺一人で信用してもらえるほど大淀と信頼関係無いし……むぅ、妖精さんぼでーだと滅茶苦茶めんどくさくなるなこれ。ちゃんと最初から楠木提督に言っとけば良かった。要らない情報だと思ってたんだけどなぁ」

 猫吊るしは魔力の使用を後天的に習得する人が出て来るとは思っていなかったらしい。艤装や艦娘云々だけでも情報過多だったろうし、仕方ないね。たぶん胸に秘めてる世界の法則はまだまだいっぱいあるんだろうなぁ。

 遠くから壁の修繕をする九曽神提督と自衛官達の明るい声が聞こえて来る。あの人多芸だなぁ、などと思いながら私達は報告すべき内容に頭を悩ませた。

 

 

 

「……という訳で、島風の高速移動に関しては一種の超能力のようなものだと思って欲しい。人間に元々備わった力の発展形だから危険性は低いと思うけど、要経過観察だな」

 結局私達は私たち自身の事は省いて全部ぶっちゃけましたとさ。いや、転生とか魔法使いの子とかは直接島風と関係無いから言わなかったけど、それ以外は何が漏れると不味いか分かんなかったからね、仕方ないね。

 ぶちまけられた側の大淀さんはと言えば、完全に無言で無表情になってしまった。処理が追いついて無さそう。しばらく私と猫吊るしを真顔で見つめ、眼鏡を直すと、ちょっと待ってと手だけでこちらを制し、座っていた机の引き出しをゆっくりと開いた。

 私の上で猫吊るしがなんだなんだと中を覗き込む。見ればそこから出てきたのは一台の通信機だ。大淀さんはそれを淀みなく操作すると、その先に居た人間と短く言葉を交わす。そして通信機を私達の方へと差し出してきた。聞こえる声は楠木提督の物だった。ホットラインって実在するんだね、初めて見たわ。

 

 

 

 

 

 そうして楠木提督と詳しい事を話し合った結果、中途半端に使える方が危ないのではないかという事で合意に至り、島風は完全に使いこなせるようになるまで出撃後に修行する事に相成ったのである。実用云々は後で考える事になった。また建物を壊されたら困るもんね。

 猫吊るしを乗っけた島風が空中で派手に回転し、水飛沫を上げながら海面に着地する。その飛沫の掛からない位置で私は二人を観察しているのだが、たまに島風がこっちに飛んでくるから気が抜けない。艤装付けてるからダメージは無いので危険性は無いけど、びっくりするし集中が解けるから止めて欲しい。私だってただ見つめてる訳じゃないのである。

 

 猫吊るしの話を聞いていて、私は気付いてしまったのだ。

 私はある意味、島風未満であるという事実に。

 島風は魔力を自分の力で制御して、噴射という形で能力として発揮している。これはちゃんと自分の意思で自分の力を引き出して、しっかり管理出来ているという事だ。

 翻って、私はどうかといえば。そう、チート能力さん自身に全部任せっきりなのだ。私は能力のオンオフなんて出来ないのである。

 体の制御は完璧だよ? でもそれはチート筋力をチート器用さで精密に操ってるって事であって、力そのものが消えている訳じゃないんだ。出力を抑えられるのと出力が出ない状態にするのは意味が違う。以前は身体能力が糞高くなる能力だから仕方ないねって思ってたんだけど、猫吊るしの解説聞いたらそうでもないんじゃないかという事に気付かされた。だって私、普段から延々魔力を消費し続けてるらしいんだもの。回復量が多いから疲れもしないだけだったんだもの。

 つまるところ、私は転生してから今までずっと、チート能力が発動状態を継続していただけで、実際には一度も使えていなかったんじゃなかろうか、という話である。

 これに気付いた時、正直滅茶苦茶恥ずかしかったよね。その前提で自分の行動を見返すと、完全に能力使いこなせてないイキり転生者ムーブしてるよね私。他の転生者に会ったらSEKKYOUされるところだったね。いや自分じゃ分かんねーよこれ。ありがとう猫吊るし、やんわりと気付かせてくれて。たぶんそんな気も無かっただろうけども。

 勿論ずっとオンでも問題がある訳じゃないし、オフに出来るからってオフにするかは別なのだけれど……実はコントロール出来てませんでしたは不味いだろうやっぱり。猫吊るしはちゃんと出来てるから言い訳も利かないし。

 それと、私としては島風の高速移動も出来れば習得したいのだ。だってあれ、構造的にたぶん空飛べるぜ空。超楽しそう。

 

 そんなわけで、まずは自分の魔力を感じる所から始めてみている訳なのだ。なのだが……今の所、全然制御出来そうな気配を感じない。

 自分の魂を探ってみると、提督の力の源である集合無意識との接続点は感じられる。ただ、これはチート能力とは関係が無いようで、ちょっと弄ってみても開いたり閉じたり出来るだけで魔力が揺らいだ感じは全く無い。

 っていうか、そもそも魔力ってどんなんなんですかね? 私、今まで生きててそんなの自分から感じた事ないんだけど。提督の力を使いこなすのは全く問題なく出来たのに、そっちは気配すら分からないんだけど。

 これはチート能力の対応範囲の問題なんだろうか。『なんか』『つよい』さんは身体能力や感覚器官、それとバランス感覚なんかも強化される。提督の力はその強化範囲の枠内にあり、それ故すぐに使いこなせたけど、魔力は枠の外にあるから無理とか、そういう話?

 だとしたら、魔力に関しては私自身の、チート能力抜きの才覚で当らないといけないのだろうか。それは……どうなんだ? 今の所魂からも肉体からも魔力らしい気配は感じない。制御云々以前の問題で、話にもならない感じなんだけど。

 日が落ちるまで続けたが、結局特に進展はなく、何も感じ取ることはできなかった。

 あれ、もしかして、私ってそういう才能全くない……?

 

 

 

 

 

 少々打ちひしがれつつ、島風に疲れが見え始めたのでトレーニングを終了する。オーバーワークは厳禁なのだ。筋肉と一緒ならインターバルを置かなくちゃね。

 私達に付き合ってくれた猫吊るしを工廠へと投げ入れて、明石さんの頭上に十点の着地を決めたのを見届け手を振って分かれる。遅くならないようにさっさと食事や風呂を済ませて部屋へ戻ると、そこには神妙な顔つきで正座する卯月の姿があった。

 私と島風が中に入ると卯月はそのままの姿勢で器用にこちらへ這い寄って来て、手を突きゆっくりと頭を床に擦り付けた。DOGEZAである。

 ごめんなさい、とぴょんを付けるのを忘れながら卯月は島風に謝った。島風の方はそこまで気にしていなかったようで、オウッと鳴いて驚いている。ネックレスと指輪自体は壁が壊れたすぐ後に返してもらってるんだが、島風は検査に行ってしまったため私経由でだったのだ。そのため謝るタイミングが無かったのだろう。

 口調とかから察するに本気で謝ってるようで特に悪意とかは無かったようなのだが……まぁ人の物勝手に触るのは良くないわな。卯月は特に自分の行いで島風が怪我をしていたかもしれないというのが堪えたようで、思い返せば壁が崩れた後は呆然としていたような気がする。なお島風本人は物が還って来たら刹那で忘れてた。根本的に粘性の低い気質をしているのだ。

 そんな訳で島風の許しが出たので、卯月はぴょんっと元気よく立ち上がると、いつもの調子を取り戻した。他の子達も一安心である。島風も卯月もどちらも心配されていたらしい。

「そういえば島風、あの指輪って大事な物だったぴょん?」

 口調は元気になっているが、視線はまだちょっと他所を向いている。本調子とは行かないか。聞かれた島風は寝巻の襟から指輪を出すと、手に取ってからちょっと悩んだ。

「指輪は別に……支給品だし、艤装のパーツみたいなものだよね?」

「ああ、まぁ似たようなもんだね。効果は機密みたいだけど」

 私に確認を取って来たので言える所は言っておく。島風にも適性値の事については伏せる様に言ってあったが、どうやらちゃんと内緒にしておいてくれているようだ。

「ああ~、それ装備の一部だったぴょん! どうりで長門さんのと同じだったわけだぴょん!」

 えっ、と思ったが、そういえば卯月、こいつ四国奪還戦に来てたんだったな。その時長門さんの指輪見てたのか。もしかしてそれで気になっちゃって犯行に及んだのか?

 なんて思ってたら、卯月は長門さんの写真を見せてくれた。どうやら四国の時に盗み撮りされた物らしく、それが卯月の方まで回って来たものであるらしい。写った長門さんの左手薬指には、見事にケッコン指輪が輝いていた。さてはこれと見比べて本当に同じか確かめてたなお前。

「そーそー、だから指輪は別にそんなに大事じゃなくて」

 島風の方も同一の品とはとっくに気付いていたようで、特に重要視はしていなかったらしい。一応能力上がって生存に繋がるかもしれないから大事にしてほしいんですけどねぇ。

「見たければ見てもいいよー」

 そう言って島風は指輪をネックレスチェーンから外すと、卯月の方に差し出した。でも卯月の方も同一の物だとはっきりしたならそれ以上は見る意味もない訳で。若干脱力しつつ遠慮して、心遣いだけ受け取っていた。

「でもそれなら何故あんな鬼ごっこを?」

 終わりそうだった話に、不知火が一石の疑問を投じた。鋭い眼光でこちらを見つめている。でもここ数日で分かった事なのだが、別に睨んでいるとかではなくて、目の上あたりの表情筋がよく動くせいで過剰表現になってしまっているだけっぽい。別に怒ってはいないのだ。

「首にかかってたもん取り上げられたら、つい追いかけてしまうんはしかたない思うけどなぁ」

 隣の黒潮の言葉からは、だからってあんまり暴れられるのはちょっと、という言外の主張を感じる。コミュ弱の私にはこっちの方が厄介である。黒い子ではない。たぶん。

「指輪もよくはないけど、こっちはもっと嫌だったの!」

 そう言って島風が掲げて見せたのは、ネックレスチェーンの方である。言わずもがな、私と交換し合った奴である。

「そっちは大事な物だったぴょん?」

「……そこそこ?」

 島風は若干言い淀んで、自分で言って首を捻った。よく分かってないんだなそうなんだな。まぁ、送った物を大事にされるのは悪い気はしないけども。

「まあ、駄目になっちゃったら新しいの買ってもいいし、そんなに気にしなくても」

「えっそういう問題じゃないでしょ!」

 正直半分以上照れで言った私の言葉に大きく反応したのは、目を丸くした照月だった。私の胸元辺りをビシッと指差すと、そのまま早足で寄って来て、その指で私を突きまわす。

「友達とお揃いのネックレスなんだから、大事にしてて当然でしょー?」

 その言葉に私は固まった。実は私、貰ったチェーンはちゃんと身に付けて出撃していたりする。ただ、私は普段から服装はきっちり整えているため、制服の首回りは見えない様になっているのだ。そして部屋着の時は外して仕舞っているから、着替え中に遭遇でもしない限り気付かれないと思っていた。いやぁ、女子の観察眼舐めてたわ。

「お揃いにしてたぴょん?」

 恐る恐るといった様子でそれが真実なのか確かめる卯月に、島風は笑顔で答える。知られてるなら否定する必要も無いもんなぁ。

「うん! これ、っ、吹雪から貰った奴だよ!」

 卯月は再度土下座した。

 

 

 




あっ、魔力で作ったケーキが消化されてますわ……
まあいっか……別に悪影響とかありませんし……

                   ――創造主の独り言


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難しい相手

 早いもので、九曽神艦隊への出向期間もあと三日で終わりである。進捗は良好で、特に問題が起きなければ私と島風は明々後日には宮里艦隊へと帰る予定だ。時間がもったいないので当日帰って翌日には出撃予定である。わぁい。

 宮里艦隊の方も順調に進んでいて、私達第四艦隊が抜けた穴を修行しに来た面々と宮里提督が見事に埋めてくれていたらしい。宮里提督はちょっと大破してたみたいだけど。

 集まった娘達は軒並み優秀で、暁教官長や他の艦隊メンバーの教えを吸収して、毎日倒れる様に眠っているという。ハード過ぎて体壊しそうって本人たちは思ってたらしいのだけど、経験者達の奨めでお茶を飲みまくったら翌日には出れるくらいには回復してて怖かったって吹雪が言ってた。ちなみにあの鎮守府、収容人数の割にトイレは少なめである。

 そう、吹雪、四国で一緒になった司波艦隊の吹雪も宮里艦隊に来てたんだ。秋雲先生が気を利かせて教えてくれたおかげで色々お話しする事が出来たんだけど、彼女的には私が居なくて残念だったらしい。出来れば色々教えて貰いたかったって言ってたけど、正直私が居なくて良かったと思う。何の参考にもなんないからね!!

 その話の時に曙の事も聞いたのだけど、なんか、綾波型はお通夜状態だったらしい。漣でも無理だったかぁと思いつつ詳細を聞いてみたら、漣でも無理だったというか、漣だから無理だったというか……案の定二人は変な因縁がある間柄であったようで、その問題が一気に噴出したんだとか。

 具体的には吹雪と秋雲先生越しなのでよく分からなかったんだが、要約するとこんな感じだったと思われる。

 

 

 

 

 

 

 地獄かな?

 

 

 

 まぁ綾波と朧と深雪と叢雲がどうにか頑張ってるみたいで、今の所両者とも出撃には問題無いらしい。結局一番悪いのは深海棲艦だもんね。怒りはそっちに向くよね。深海棲艦って人間由来成分100%らしいから結局人類が悪いになるとかは置いといて。

 っていうか、特型の皆仲良いのね、私だけ別のとこ居るから微妙に疎外感がなくもない。かと言って私が居たってどうにか出来る気は全くしないんだけど。同室だったのに特に何も出来てなかったしな。私と入れ替わりで出向期間が終わるから、あと三日でどうにかならんと漣は調子を落として帰ってく事になるんだが、大丈夫なんだろうか。

 

 曙達の事は今考えてもどうしようもないので戻ってから考えるとして、私達の近況であるが、とりあえず島風の高速移動が一歩目は安定するようになった。なので緊急回避としてはもう十分通用すると思う、妖精さんも一歩か二歩くらいなら耐えてくれるしね。

 ただ二歩目以降はあんまり安定してなくて、どうも着地からの再発動の際の出力が安定しないらしいのだが、上手く出来るようになるのはきっと時間の問題だろうと思われる。一歩目だって日に日に上手になってくのが見て取れてたし。

 魔力の容量自体もじわじわ増えてるようで、疲れずに使える回数が当初の倍以上になっている。使い慣れてロスが減ったとかそういうのもあるかもしれないけど、どちらにせよ才能あり過ぎじゃないかお前。

 逆に私はと言えば、はっきり言って何一つ進展していなかったりする。魔力ってどんな形してんのって所から全く進んでいないのである。まるで成長していない……

 もちろん練習を怠ったとかそういう訳ではない。九曽神提督が瑞鳳さんに卵焼きを差し出されて、たべりゅ? されてる時も自分の魂に集中してたし、ビスマルクさんと赤城さんと北上さんに提提督一派……っていうか金剛型一派の事を聞かれた時も自分の体に集中していた。蒼龍さんと日向さんの元自衛隊精鋭部隊のお二人と長門さんと宮里提督の関係が進んだかどうかとかそんな話をしている時も提督能力の操作から派生して何か出来ないか試していたし、そろそろ姫級の数にも慣れて来た大淀さんに基地があったから壊しておきましたって報告書を出して表情を消去している時も後ろで手を光らせていた。

 でもまるで全然進歩は無いんだよなぁ。対照出来るのが島風しか居ないから私が才能無いのかこれが普通なのかもまるで分らん。猫吊るしのチートを習得するのに一万年って言われたけど、私の場合もっと掛かりそうな気がしてならない。

 

 

 

 そんな訳で魔力制御がにっちもさっちも行かないため、私は島風に倣う事にした。つまり、集合無意識の艦娘の所で修練する事にしたのである。

 島風に断って猫吊るしを渡し、練習に出たのを見送って、艤装から集合無意識へと飛び込む。接続自体は簡単に出来て、私は朝焼けの船上へと吸い込まれて行った。

 中は相変わらず人気は無く、特に今までと変わった様子はない。吹雪似さんは相変わらず船の中なのだろう。冊子の置かれた机が寂しそうに甲板に立たされていた。

 まぁでも、場所を借りるのには丁度良い。一応船の入口の方に練習させてもらう旨を断り、自分自身に集中する。深く集中してみれば、現実世界とはなんだか少し感覚が違い、これならもしやと思わされた。ここでの自分は人の形をしているけれど、実際には肉体が無いのが良い方に働くのかもしれない。

 

 なんて思ってたら体感で二十時間ほどが過ぎた。

 

 うん。

 いや。

 はい。

 全然わっかんねーわこれ。

 なんだろう、この世界でも身体能力がぶっ壊れてるのは分かるんだ、高速移動の応用で高速反復横跳びとか普通に出来たし。だから外と一緒でチート能力……魔力が何らかの形で影響してるんだとは思う。でも私にとってその状態って普通であって、その状態じゃ無くすっていうのが感覚的に全く分からない。島風が中で練習できた以上、多少外との違いはあっても使う使わないという切り替えそのものはこっちでも出来るはずなんだけどなぁ。

 今の状態なら魔力を感じ易いだろうと思ったのだけどそんな事も無く、むしろ周囲の空間から何かしらの力を感じ取れるもんだからそっちが気になってしまう始末だった。たぶん艦娘の――吹雪さんの気配だと思うんだけどね、特に船の奥から強く感じるし。

 

 何十時間も進展のない事ばかりを続けても仕方がないので、アプローチを変えてみようと表では避けていた事をちょっとやってみる事にした。

 船の上から飛び降りて、朝焼けを映して輝く水面に降り立つ。どうもこの空間の海は実際のそれとは性質が違うらしく、艤装とかは無くても普通に踏み締める事が出来るようなのだ。最初にここに来た時の初期地点が海の上だったのをよく覚えている。

 海の上はごくごく弱い波があり少しだけ陸よりも不安定だが、足場としては申し分ない。姿勢を正し、右脚を少し前に出す。それを少し持ち上げ精神を鎮め、普段筋力の抑えに使っている制御力を、全て解放する側へと反転させる。イメージするのはスーパーロボットの謎動力に謎燃料を過剰にぶち込み各機関を過剰回転させる図。何かが燃え上がるような感覚を覚えた一瞬、自分の鼓動と集中が一本の線に繋がったと感じたその時、チート能力さんと呼吸を合わせるように、私は海面に足を叩き付けた。

 私を中心に周囲が沈下して行く。当然私も一緒に水底へと落ちて行った。水面はあっという間に底へ着き、勢いよく周囲へと弾かれる。海底の土へと私は着地した。

 周囲を見ればおわん型に海に穴が開いていて、少しずつ速度を落としながらその範囲が広がっているのが見える。そうはならんやろ。モーセかな? さっきまで乗っていた駆逐艦吹雪は流れに押されて少し遠くの方に行ってしまったが、特に沈みそうな気配はない。たぶん本当に水に浮いてる訳じゃないんだろう。

 いやしかし、やっぱりそうだとこの光景を見て確信する。どうやら私は自分の出力を意図的に上げる事は可能みたいだ。普通の状態で震脚しても流石にこんな風にはならないからね。魔力って燃料を使ってると分かったから、使用量を増やせば行けるだろうと思った結果がこれである。制御とかは出来てる感じがしないから、チート能力さんが私の意思を反映してくれてるだけなんだろうけど……なんでオンオフはしてくれないんだろう。

 これが出来るなら逆に燃料を少なくすれば出力抑えられて、最終的には解除出来るかもって思うじゃん? ところがそれはそうも行きそうにないのだ。何故なら私は自分の魔力自体は認識できていないからである。あくまでこうしたいってイメージが出来るだけで、こうするって自分で主導出来てはいないんだ。つまりさっきのはチート能力さんのただの忖度であり、私の実力ではない。イメージでテンション上げ下げして結果的に心臓の鼓動を加減速させる事は出来るけど、止める事は出来ないのと同じようなもんである。

 そんな感覚的に理解出来た事を頭の中で言語化していたら、周囲の海水が元に戻ろうと押し寄せて来たので慌てて船まで跳んで戻った。見る間に穴は塞がって行き、中央で波と波とが衝突し、海水が空へと吹き上がる。現実でやったら酷い事になりそう。

 物理法則どうなってんだろうと思いながら大きく揺れる海面を眺める事暫し、間抜け面を晒す私の背後で、感情任せに思いっきりドアを開け放ったような音がした。見れば駆逐艦吹雪の入り口が開いている。どうやら私はやらかしてしまったらしい。

 

 

 

 明らかに中の人がお怒りになっているであろうと尻込みしていると入り口直近の電灯が急かすように明滅したため諦めて内部にお邪魔した私を待っていたのは、どう見ても不機嫌そうな深海吹雪に似た容姿をした吹雪さんだった。二度目の邂逅がこんな事になろうとは予想だにしなかったわ……

 場所は前回もお邪魔した部屋なのだが、私が持って行ったため無くなったはずの壁の紅い光が復活していて、不愉快そうにゆっくりと脈動している。心なしか空気も淀んでいるような気がした。

 

 ――暴れるなら他所でやりなさい。

 

 いや本当に申し訳ない。

 何時間も進展が無くて、つい苛立ちをぶつけてしまったような処もあるため頭を下げるしかない。完全に私が悪いからね。ごめんなさい。

 腰を折った私に対して吹雪さんは憂鬱そうなため息を吐いて見せると、顔を上げなさい、とこちらに許してくれる感じの――どちらかと言えば呆れ返ったニュアンスの思念を送ってきた。情けない適性者ですまない。

 

 ――この空間は私そのもの。この体も、艦も、空も。当然、海も。拳を振るったところでどうにかなるほど脆くはないけれど……貴女のその力をぶつけようとするのは止めなさい。恐怖を感じるから。

 

 そうか、あの海も吹雪さんなのか。言われてみれば空間自体がそうだと前々から言われていたし、そこら中から吹雪さんらしき気配も感じていた。そりゃ海もそうだわ。顔が赤熱する感覚と頭を地に擦り付けたくなる衝動を覚えたが、実行する前に吹雪さんに止められた。話が進まないからやりたければ外に出てから勝手にやれと仰せである。

 

 ――何の目的かは知らないけれど、瞑想くらいなら好きに場所を使っても構わない。

 

 けど次に破壊活動を行おうとしたら叩き出す。この場所の主なんだから当然かもしれないが、それくらいは出来るらしい。幸いな事に変な所を壊したとかでないためダメージは無いらしいのだが、人間で言ったら体内から横隔膜を圧迫されたような感じだったという。しゃっくりかな?

 しかし、あんな事したのにこの場での修行自体は許してくれるのか。見た目は深海棲艦っぽいけど普通に人が良い……やはり別側面なだけで根幹は吹雪さんだという事か。有難い事である。

 っていうか、私の魔力って吹雪さんでも脅威なんだなぁ。集合無意識って凄い強大なイメージだったんだけど、ダメージを与えるのはチート転生者なら可能だったりするのだろうか。現行の人類+過去の人類の蓄積に攻撃通るって私達一人一人にどんだけ強い力を渡したんだ、あの魔法使いの娘は。

 

 ――貴女の持つ力は異常だから。それこそ私達の力なんて必要ないとあの子が錯覚してしまうくらいに。

 

 そういえば最初に会った吹雪さんは私を見る目が死んでいたっけ。実際には物凄く助けられているから、出来ればその事を報告したいのだけど……いや、目の前の吹雪さんに理解してもらってれば大丈夫なんだろうけどもさ。一応同一人物だし。

 っていうか、会えないだろうと思って考えから外してたんだけど、吹雪さん達って私達の力の事感じ取れるんだよね。島風さんみたいに私の修行見てくれたりしないだろうか。なんて考えたのだけど、こちらの心を読み取った吹雪さんはどことなく渋い顔になり、じいっとこちらを見つめると、やがて軽く首を傾げた。

 

 ――私、貴女の力の使い方なんて分からないのだけれど。

 

 えっ、そうなの? 島風は島風さんに集合無意識内で教えて貰ったって言ってたんだけど、その辺りの知識量は艦娘によって違うのだろうか。島風さんの方が詳しいというのはなんというか、意外な話であるが。

 

 ――それは具体的な使い方は知らずに出来そうだったからやらせたら出来た、程度の事でしょう。島風だし。

 

 島風さんの印象が酷い。確かに放出して加速っていうのは発想としては単純でしょうけども。

 島風さんと直接会った事は無いらしいので印象は本当に印象だけの話らしいのだけど、真面目な話、魔力に関してはまず間違いなく艦娘間で知識に差は無いはずだという。魔術的な事が主流の技術となって艦船を建造していたのならともかく、艦娘たちは科学技術の申し子なのだから個人に宿る変な力の使い方なんて分かる訳ないだろう、というのが吹雪さんの主張である。

 

 ――私は存在とその大きさを理解する事は出来る。でもそれ以上の事は知らない。

 

 という事なので、この後暫く私の魔力がどう動いているかを診てもらい、それを基に私も同じ事を感じ取ろうと練習させて貰った。

 まぁお互い全然分かんなかったんだけどね。私は自分の魔力一切感じ取れないし、吹雪さんの方は私の魔力が大きすぎて動いてるんだか動いてないんだか全く分からなかったらしい。なんとなくテンション上げた時の燃焼量が増えてるような気はしたらしいけど、それくらいだそうな。

 いやしかし、チート能力の扱い方を巡ってこっちの吹雪さんと一緒に首を傾げる事になるとか改二になった時は思いもしなかったわ……

 

 五時間くらい二人で色々試してみたのだが、私の魔力は私自身が制御出来ていなくても安定はしているって事くらいしか分からなかった。でも、やってる間に思い出した事がある。

 それは、私は以前に魔力か何かの力を感じ取った事があるって事だ。物凄く強い力、それこそ使い方さえ合っていれば今の私を殺せてしまうような力を、他の人間から。

 そう、それは猫吊るしを捕まえた日、その少し前に、リベと名乗った少女からである。ゴトランドさんはたぶん転生者だし、あの子もおそらくそうだろう。なのであの時感じた底の知れない力、あれがきっと魔力だったんじゃあないだろうか。

 だとしたら不味い。何が不味いって、猫吊るしの衝撃が強すぎて具体的にあの力がどんなんだったかよく覚えていないのである。リベ――リベッチオの存在はちゃんと覚えてるけど、魔力がどんな感じだったのかは全く覚えてない。持ってたって記憶しかない。困る。

 集合無意識内の艦娘の気配とは違う……と思う。なんかもっと危なそうだった気がする。チート能力完全発動中の私を傷つけられるような力だから、質自体が違うかもしれない。そう考えながら自分の魂をまたゆっくりと精査するが、特になんにも感じない。

 ……いや、これおかしくないか? なんで他人の魔力らしきものは感知出来たのに自分からは何にも感じないんだ? あれが魔力じゃなかったにしても、私のチート能力さんには何かしらの力の有無が分かる機能があるって事のはずなんだけど。

 私には無くてリベッチオにはあっただけか? 何か別の力が? もしかしたらチートで何らかの力を生成して、それを基にして能力強化とかをするチートだったのかもしれないけど……私のうろ覚えの記憶が正しいのなら、アレは何か底の知れない力だったように思う。だからあれが魔力だと思うんだよなぁ。

 ただ、猫吊るしからも何も感じないし、ゴトランドさんからも感じなかったんだよね。そうなるとやっぱりアレは別の力だった可能性が高いだろうか。考えれば考えるほど訳が分からなくなっていくんだが、誰か助けてくれ。

 

 

 

 

 

 流石に長居しすぎたのでお礼を言って退出する。今度何かお供えしておこう。そう思いながら目を開けると、既に外は真っ暗になっていた。半開きにされた工廠のシャッターから覗く海がそこそこ荒い波を立てている。あんまり天気は良くないのかもしれない。

 私は床に足を伸ばして座り込み艤装に寄りかかった状態で意識を飛ばしていたのだが、特に体が凝り固まった様子はない。チート能力さんのおかげでその辺りはいつでも万全なのだ。代わりに右肩に何か乗っているような違和感があり、横目で見ればそこには金色の毛の塊が乗っかっていた。島風の頭である。

 たぶん私より先に練習を終えて、待っている間に寝ちゃったんだろう。小さな寝息も聞こえて来る。先に帰って貰って良かったんだが、まぁ私も待ったことはあるしお相子か。ただ島風の場合、格好が制服のままだと寒そうに見える。露出多すぎなんだよなぁ。

 起こそうかと思い手を伸ばし、そしてふと思った。そういえば、私は島風の魔力は感じ取れるんだろうか。最初に見た時、何かしらの力が島風の脚を巡って行くのは理解出来た気がしたんだけど。

 瞳を閉じて隣の島風に集中する。基礎代謝が良いのか何なのか密着している部分はちょっと温かい。まぁそれはいいとして、島風の体から魔力的な物の気配があるか探って行く。耳を澄ませば心臓の鼓動と呼吸音が聞こえ、それにより動く筋繊維や骨格の擦れる音、血液が循環し内臓が稼働し肉体を健常に保つ律動なんかも感じる。うーん健康体。

 いやそうじゃなくて。特に悪い所無さそうなのは良い事だけど今知りたいのはそういうことじゃなくて。聴覚を研ぎ澄ませたのが悪かったか、魔力を感じるならもっと別の感覚だよね。第六感とかそういうの。そう思って念じてみるが、まぁ自分のすら分からないのに他人のなんか簡単に分かる訳ないですよね。

 

 そんなふうに考えていた時期が私にもありました。

 

 それは例えるなら、粘性の全くない液体のような印象を受けた。島風の奥深く、おそらくは魂と肉体の境辺りを軽快に走り回っている。量は少ない、たぶん練習でかなりの量を使ってしまっていたのだろう。ただ、島風のさらに奥からそれらは少しずつ湧き出して来ているようだった。回復しているのだろう。根源は肉体ではなく魂であるように感じられた。

 はっとしてそれに触れようと手を伸ばす。すると当然、こちらに体重を掛けていた島風はバランスを崩して倒れ込む。私の目の前をプラチナブロンドの頭が通過して行き、私の太ももの上に収まった。膝枕の完成である。衝撃で目覚めるかと思ったがそうでもないらしく、島風は寝息を立て続けている。丁度良いのでこのまま調べさせてもらう事にした。

 もう一度視界を閉じ、さっき見つけた感覚に集中する。一度見つけたそれを認識するのは難しい事では全く無かった。先ほどよりもほんのちょっとだけ量の増えた何かは元気に島風の肉体を駆け回っている。これみんなこうなんだろうか。島さんの性質が影響してたりしない?

 ともかく、たぶんこれが魔力だろうと思われるので、似たような物が私の中にないか探してみる。

 うん。

 無いな!!!

 相変わらず自分からは何も感じない。そうなるとこれは魔力ではないのだろうか。でも、他に該当しそうな物って思い当たらないのだけれど。魔力じゃなきゃ何なのよ。

 しばらく島風の魂やらを観察しつつ、自分のそれと比べてみようとするが、他人の魂や精神の精査は私には出来ないようだとしか分からなかった。そういう能力じゃないだろうからね仕方ないね。

 島風の推定魔力の流れに合わせて島風の体をなぞってみる。特に規則性なんかは感じられず、適当にそこらを走り回ってる……ような気がする。持ち主そっくりである。流れにパターンでもあれば私の側に応用できたかもしれないけど、これだと望みは薄そうだ。

 魔力の動きを追いながら自分の同じ部位にも同時に意識を向けてみるが、やっぱり自分には流れている感じはない。他人の方が分かり易いってどういう事なんだ。なんてぼやきながら島風の魔力を指先で追い続けていると、ある時魔力の一団が頭の方へと飛び跳ねて行った。それを追って私の指も島風の顔に向かって行く。するとそこで、バッチリと開いた瞳と目が合ってしまった。

 そりゃ体を指でくすぐられてたら目も覚めるわな。なんか申し訳ない。島風は状況がよく分かっていない様子で、眼前に突き付けられた人差し指に焦点を合わせようとしている。引っ込めれば今度は自分の枕にしている物を見つめだした。残念それは私のお膝さんだ。

 島風はかなり眠そうで、変な事をして起こしてしまったのを悪かったと感じる。でも丁度良かったので、私は島風に少しお願いをしてみる事にした。

「島風、ちょっと発動しない程度に魔力を足に集めてみてくれない?」

「おうっ……? いいよー……」

 他に良い単語も無かったので島風にも魔力の事は魔力で通している。なのですぐに理解してやってくれたのだけれど、そうして足に元気よく集まっていったものは、やっぱりさっきから島風の中を軽快に巡っていたそれなのだった。召集されて楽しそうに目的地に一目散に駆けてってた。ほんと使ってる本人にそっくりだなぁ。

 

 色々あったが今日分かった結論はこうである。

 私は魔力を感じ取る事が出来る。でも私は今の所自分の魔力は感じ取る事は出来ない。そして感じ取れないので当然操作も出来ない。

 つまりどういう事だってばよ? 大きすぎて感じ取れない的なサムシングだろうか。えっ、自分の体に宿った力に対してそんな事ってある?

 

 

 

 

 

 かなり時間が経っていたらしく部屋へ帰ったらもうみんな寝ていてびっくりした翌日。残り滞在日数は二日。今日も今日とて深海棲艦討伐日和。いいお天気である。波は物凄く静かで滑走しやすい。島風と連装砲ちゃん達も大はしゃぎしている。

 朝のミーティング通りのコースを辿り、見つけた敵を殲滅して行く。今日の戦果は潜水艦多め。大型は重巡止まりで姫や鬼どころか普通の戦艦も居なかった。これは本隊の九曽神艦隊の皆様が結構な苦労をしてるんじゃあないかと思いつつ、つつがなく担当区域の掃討を終える。一応変色海域だったのだけれど、やってる最中に青色を取り戻したので向こうの作戦自体は順調だったようだと分かった。

 それじゃあ帰りますかと一息ついて、泊地に向けて滑り出したその直後。急に、私の艤装に備え付けられた通信機が鳴り出した。こちらから指示を仰ぐことはたまにあるんだが、向こうからというのは珍しい。何か悪い予感を覚えつつ出てみれば、さらに珍しい事に、電波の向こうに居るのは大淀さんではなく九曽神提督だった。吹雪で間違いないかと問われたので肯定すると、初日以来久々に聞く真剣な声で、提督は通信の理由を説明し始めた。

『先ほど収集部隊の活動していた場所に突如、変色海域と見られる現象が発生した。すまないが吹雪、指定する地点へ至急向かって欲しい』

 背後からは大淀さんの越権行為ですよという声が聞こえて来る。でも、なんだか声に勢いが無い。迷っているっぽい? 私を派遣するかで悩んだのか? これは、ただ変色海域が出て来ただけではなさそうだ。

「分かりました。ポイントの位置確認が取れ次第出発します」

 現在地から目的地まで、海の上に標識なんかは無い訳なので方向を間違えないよう海図の確認はちゃんとやらなければならない。まぁ大体妖精さん任せなんだけども、妖精さんも絶対ではないから、たまにちょっとズレちゃったりとかするんだよね。そんな仕事も猫吊るしは非常に迅速かつ正確にやってくれたりするので居ると本当に頼りになる。尤も、今回の場合はそれをする必要自体が無かったのだけれど。

『いや、南東の方へ向けて出来るだけ早く出発してくれ。細かい進路はこちらから指示を出す……私の提督としての得意分野は、指揮している艦娘の位置を把握する事なのでね』

 提督って人によって結構能力が違うらしいのだが、九曽神提督は自分の指揮下にある艦娘――正確には艤装の大まかな位置が分かるのだという。今は私の艤装も九曽神提督から無効化能力を供給してもらっているから、収集部隊と私の相対的な位置を見て直接どちらへ行けばいいか指示が出せるんだそうだ。私なら途中に障害物があっても飛び越えて行けるから直進で大丈夫だしね。かなり便利。

 

 横で聞いていた島風を抱え、連装砲ちゃん達を背負って海を疾走る。こうすると島風はもう戦えなくなっちゃうんだが、この際四の五の言っていられない。収集部隊の人達が無事なら妖精さんを交換してもらえばいいし。妖精さんには悪いけど。

 九曽神提督の指示に従って左右に少しずつ進路をずらしながら水平に飛び跳ねつつ、何が起きたか説明を受ける。なんでも収集部隊が護衛三人を伴って海上の霊的資源を絞り出している最中、突然海の色が変わり、何故か、その海域からほとんどの艦娘達が弾き出されたのだという。

 正直何がなんだかよく分からんのだが、一文で要約したらそういう事になるらしい。頭に疑問符を浮かべつつ足を動かし続けると、現場はそれ程離れた場所ではなかったようで、十分な説明が得られる前に青い海の上に立つ人影が見えて来た。それは泊地で見慣れた収集部隊の人達なのだが……様子がおかしい。何故か自衛隊員の皆さんは海に降りているし、収集に使っているはずの船が見当たらない。いや変色海域化したらしいから沈んだのかな? 上空では直掩機が周囲を飛び回り、その下の艦娘達の砲口からは煙が上がっていた。

 戦闘してる!? と驚きながら速度を上げて近づいて行き、一番近かった球磨さんの横に着地する。一緒に四国に行って運転手を務めて貰ったあの球磨さんである。急に出現した私達にはとても驚いた様子だった。

 球磨さんがつい上げてしまった声に注意を引かれ、他の皆さんの視線もこっちに集まって来る。同じように驚いた顔をする人、私を見て安堵したような表情をする人など色々な反応をしていたが、それよりも私は彼女達の先にある海に視線を吸い寄せられた。

 そこにある海は赤かった。

 いや、変色海域なんてもう見慣れているから、青くない海はもう珍しくもなんともない。でも、今視界に広がる海はそのいつも眺めるそれとはまるで質の違うものだった。普段のそれは例えるなら静脈血で、赤黒く濁った様な色をしている。だが、そこで波打ち渦を巻いているそれは動脈血。即ち、鮮血のような色彩を私の瞳に映していた。

「なんだこれ……」

 私の思考と猫吊るしの呟きが重なり合う。今この場所は変色海域と通常海域の丁度境に位置しているらしく、ほんの少し先で赤い海と青い海がきっちりと分かたれていて、私達は全員青い側に立っている。赤い側には見える範囲には何も居らず、ただただ不気味な色の海が揺れていた。

「吹雪!」

 島風を降ろし、隣の球磨さんに状況を聞こうと思ったら、少し離れた所から私を呼ぶ声がした。見れば照月がこちらに向かって必死な形相で迫って来ている。今日は秋月と伊8――はちさんと共に収集部隊の護衛に付いていたのだけど……そういえば他の二人はどこだろう。

「吹雪! 吹雪!! お願い、お姉ちゃんを助けて!!」

 照月は私の傍に急行し、半分飛び掛かるように私の腕を両手で握りしめた。その手は大きく震え、痛くなりそうなくらい指先に力が入っている。

「落ち着いて照月、何があったか、ちゃんと教えて」

 焦っているのは伝わって来たのだけれど、状況はよく分からないので説明を求めたら、じれったそうに言葉を選ぶ照月に代わって、傍に居た球磨さんと通信機の先の九曽神提督が何が起きたのかを詳細かつ簡潔に語ってくれた。

 

「秋月だけ変色海域の中に取り残された訳か」

『そうだ。その上で、今現在何者かと交戦している』

 説明によるとこうだ。収集任務中に海が赤く染まった瞬間、艦娘達は何か物凄い力によって青い通常の海まで弾き飛ばされた。まるで水平方向に向かって落下するように外まで一直線に運ばれて行ったらしいのだが、何故か、秋月だけはそうはならずにその場に普通に立っていたという。

 秋月の方も事態に気付き、一旦は合流する動きを見せたらしいのだが、しばらくするとその移動は止まり、そのすぐ後に被弾情報が提督の下へと齎された。一人で交戦状態に陥ったと判断した提督が私に通信したのはそのすぐ後であるらしい。判断が早い。

 それなら照月は――すごく言いたくないが自衛隊の戦えない艦娘達よりも秋月一人の方が重要度が高いので――すぐに九曽神提督から位置情報を貰って救援に行くべきなのだが、これがそうも行かなかった。何故か、鮮やかに赤く輝くこの変色海域は、外から中に入る事が出来なかったのである。

「口で言うより見てもらった方が分かり易いと思うクマ」

 そう言って球磨さんは自分の一門だけ付けていた砲台を変色海域に向けると、狙いを付けずに発射した。戦闘部隊のそれよりも幾分か遅い砲弾が飛んで行き、やがて赤と青の境に到達する。二つの色が混じり合わずに対面しているその直上で、緩い弧を描いて直進する砲弾は、急にその横方向への速度を0にした。そのままゆっくりと重力に引かれ、完全な形を保ったまま青い水底へと沈んで行く。

「ええ……?」

 周囲を見れば自衛隊の人達の中には境界の上で何かを押すようなジェスチャーをしている人間も居た。艤装が派手な音を立てているため結構な出力で前に進もうとしていると分かるのだが、何かに阻まれているのか、その体は全く動いていない。皆でどうにか入れないかさっきから試しているらしいのだが、まるで手応えが無いのだという。

「向こうまで見て来たけど、どこもこうで入れないの! どうして!?」

 そう言われても私にも分からない。頭上の猫吊るしも困惑した様子で変色海域を見渡している。こいつが分からなきゃたぶん誰も何が起きてるのか分からないんだよなぁ。困った。

「とりあえず、私も入れないか試してみるよ」

 焦る照月にそう告げて、お願いと頷く彼女を横目に私と島風と連装砲ちゃん達も変色海域に向かって攻撃を仕掛ける事にした。

 まずは連装砲の高速弾。球磨さんの砲撃と全く同じ動きで海底まで落ちて行った。威力や速度の問題ではないっぽい。

 次に魚雷。やはり動きが途中で止まり、しかし境界線で起爆はせずにそのまま進もうとしている。着発式だったんだけど……どうやら何かにぶつかっている訳ではなく、速度だけを殺されているっぽい。え、なにそれ。とりあえず撃ち抜いて起爆してみたが周囲に変化無し。爆風も変色海域側には届いていない様子だった。

 島風たちの攻撃も効果はなく、私の持った他の武装も無意味に終わる。全体的な感想としては、そもそも攻撃が何にも当たってはいないのではないだろうかと感じる。どうなってんだかさっぱり分からない。途中、はちさんが浮上してきて海底からも入れなかったと教えてくれた。上も飛行機に乗った妖精さんが何度も突進しているが、どれだけやっても落ちて来るばかりである。もうこうなれば、私に出来る事は一つだろう。

 周囲の皆から少し離れ、魔力が燃えて全身を巡る想像を強く浮かべる。イメージとしてはアレだ。ドラゴンボールの人達が全身から気を噴出する奴。意識をそうやって集中すると、昨日集合無意識内でそうだったように、私の感覚が制御するより解放する方向へと変わって行った。

 行ける。そう確信できた瞬間、一足で変色海域との距離を詰め、全身を捻りながら、神経を集中させた拳を真っ直ぐ前へと突き出した。

 異様な感覚がした。何かに当たるでもなく、的を外したでもなく、私の体に反動も伝わらず、何らかの被害を巻き散らす事も無く。ただ、私の拳は空中で停止していた。

「なんだこれ、壁とかがある訳じゃないのか……?」

 奇妙な感覚が私の腕から体へと伝播している。障害物に阻まれている感じではなく、力そのものを殺されているような異様な感触。引く事には問題無さそうだが、押しても前へは進まない。漫画とかではこういうのよく見るけれど……

「これは、結界だ」

 頭上の猫吊るしがまたファンタジーな事を言い始めた。

「そんなのあるの?」

「ある。っていうか、そもそも変色海域がそうだ。普通のもこれも境界がはっきりしてるだろ?」

 言われてみると、確かにこの世界の変色海域って普通の海水と混じり合わずに急に青から赤に変化している。特に入るのを遮られたりしないだけであれも仕切ではあるのか。

「これはたぶん、外からの干渉を防ぐ効果があるんだと思う。それと、話から考えると対象以外を中から追放する効果も。そうなると……秋月を狙い撃ちして来た? いや、それよりはたまたま秋月が残れる条件に引っかかった可能性の方が高いか……?」

「理由とかはいい、それよりこれ解除する方法とかは分かる?」

 私が問うと、猫吊るしは赤い海を――赤い海のある空間を険しい顔で睨みつけた。

「相手が深海棲艦なら、おそらく、普通の変色海域と同じだろうが……」

 普通の変色海域の解除方法は単純である。核を見つけて、破壊すればいいだけ。でもそれって、今の状況だと最悪じゃないですかね。

「まさかこれ、外からは何も出来ないタイプの奴……?」

 変色海域の核は変色海域の中に存在する。中心部から少しズレてたりする事はあるけれど、外殻付近で見た事は無い。つまりこの場合、外から干渉出来ないのであれば、破壊出来る可能性があるのは中に居るはずの秋月自身だけという事になってしまうのだ。

「こっちから解除とか無効化とか、何かそういうの無い?」

「あったらやってる……! そもそも専門外だ、術に関しちゃ概要くらいしか履修してねえよ!」

 一応、霊的集合体の方に陰陽術とかの知識もあるにはあったらしい。ただ、猫吊るしは自分が妖精さんで色々艦これ準拠の世界だと理解していたため、そっちはそこまで多く勉強してこなかったのだという。持ってく情報を取捨選択して出来るだけ急いでこっちに来てくれたらしいから仕方ない。チート能力でもここから操作は無理なようで、核に直接触れでもしなけりゃ操作出来ないと言う。

 これは不味い、チート転生者が二人揃って対処不能の事態というのは、あるかもしれないとは思ってたけど、実際遭遇すると滅茶苦茶焦る。時間的な余裕があるならともかく、既に秋月が会敵してしまっていると考えられる以上、ゆっくり策を練ってもいられない。

 この状況で私が出来る事ってなんだ!? 何も考えつかねぇぞ!! 周囲を回るか? いや駄目だろ、照月が言ってたけどここと特に変わらないらしいし……もし外周から見える位置に秋月が居たとしても手出しできないなら意味が薄い。秋月とは通信すら出来てないってさっき言ってたんだけど、提督の艦娘の状態把握能力は阻害されてないんだよな。物理法則に則ってなければ行けるのか? そうだとしてどうしたら中に干渉出来る? なんか方法はあるか!? ……いや全然思いつかん!! そもそも猫吊るしで分からんのにもっと苦手な私が考えて分かる訳ないじゃんって話である。 よし考えるのは猫吊るしに任せよう! 私は私の出来る一番上手な事をやろう!!

「猫吊るしなんか対処法考えて!」

「丸投げ!?」

「私は、力押しを試す……!」

 考えるとかそういうのはいい、知識不足だし、そもそもあんまり向いてない。だから私のやる事は、最初っからずっと同じだ! 力任せにぶっ潰す!! 今出せる力で足りないのなら、今よりもっと力を出すしかないだろう!

 心を燃やせ!!!

 テンションを上げろ!!

 チート能力を制御できない私が今以上に力を発揮するにはそれしかない!

 拳は未だ境界上で静止している。力は緩めていないが先ほどから一寸も動かない。結界とか普通に考えて物理で突破とか出来るもんじゃないのだろう。手順を踏むか、内から壊すか、そういう面倒な事が必要なんだ。きっと。

 知るかバカ!!

 そんなことより筋肉だ!!

 暴力は全てを解決する!!

 浅い呼吸を深くして、あらゆる筋肉に活を入れる。そして生まれたエネルギーを、全て拳の先に注ぎ込む!

 足元の海が波紋を立てる。それは始めは自然の波にかき消されるほど小さな震えだった。しかし私が込める力を増す度に、余波が全身を震わす度に、だんだん荒さを増して行く。周囲からもそれはしっかり見えていたようで、膝を超える程の高さになった頃に困惑の声が上がっていた。

 だが説明は後! 今はとにかく全身全霊を以って目の前の結界を打開せねばならないのだ。私の中にあるチート能力さんを私は操れないけれど、チート能力さんの方に私と呼吸を合わせてくれる気はあるらしい。だからどうにかこっちからも、体から心から魂から、あらゆる場所から力を捻り出してやろうじゃないか!

 小さくだが私の喉から声が漏れる音がする。腹に力が入り、肺の空気を絞り出し、熱い呼気が声帯を揺らしているのだ。瞬間的に力む事は多々あるが、チート筋力全開で力を長く入れ続けるのは初めての経験になる。

 私とチート能力さんが同じ目的に向かって歩調を合わせ、高まる心臓の鼓動に乗せて、己の魔力を炉にくべる。今までよりもはっきりと、完全に、その機構が型に嵌った感覚がした。

 

 

 

 今だ! パワーをストレングスに!!

 

 ――いいですとも!

 

 

 

 立っていた海面が弾ける。波が私の背を越えて、周囲にざあと降り注ぐ。前に突きだした腕に直撃するが、不思議と冷たさは感じない。行ける。不思議な確信があった。あっと猫吊るしの声がした。

「動いてるぞ……!」

 私の拳は少しずつ、秒速5ミリメートル程の低速ではあるが、確実に前に進み始めたのだ。ゆっくりと突き出される拳の先端は何か異質な物に触れたような感覚があり、まるで何かが私を押し戻そうとしているような圧力を受けている。

 ふざけた抵抗。今までは何も感じさせずに動きを止めるだけだったのに、境界を突き抜けた先からは斥力のような追い出そうとする力が働いていた。

 だが弱い。それは、動きを止めさせられた侵入を拒む力に対して、遥かに弱い力だった。人一人を弾くだけの力は十分に有しているのだろうが、それは私に対しては弱すぎる。

 ゆっくりと確実に前へと踏み込む。正直自分でもどういう理屈で進めているのかよく分からんが、入れているのでとにかくヨシ! もう拳は完全に向こう側へと抜けている。自衛隊の人達も、私が動き始めている事に気付いたようだった。

「あっ、えっ、お、押した方がいい!?」

 自分も入ろうと悪戦苦闘していた照月も、こちらの変化に戸惑いつつやれる事は無いかと声を上げる。それを島風が素早く止めて、邪魔しない方がいいと教え、動かずこちらを見つめてきた。近づかれると危ないだろうから助かったわ。

 肘が抜け、二の腕の半分を過ぎる。魔力の燃焼サイクルは上手く続いている……ような気がする。相変わらず感知は出来ない。でも進める。だからとりあえずこれでいい。肩が境界に触れ、膝や顔も結界内へ侵入を試み始める――

 

 その瞬間に、私の視界から赤い色が消え去った。

 同時に一切の抵抗が消失し、私は大きくたたらを踏んだ。

 顔を上げると、そこは普通の青い海。変色海域は消滅していた。

 振り返れば困惑した様子の皆が居る。どうやら中が凪状態だったとかそういう訳ではないらしい。照月がはっと我に返ると走り出し、私を抜いて進んで行く。やっぱり海は普通の状態に戻ったらしかった。嫌な予感がした。

 何が起きたか猫吊るしに確認しようとして、気付く。確認するなら別の人にだ。通信機に声を掛ける――その前に、通信機の方から九曽神提督の声が聞こえた。

『秋月の位置情報をロストした。艤装の状態は、轟沈だ』

 私は今まで腕に使っていた力を、全て足へと割り振った。海水が派手に爆発した。

 

 

 

 かつてない速度で海面が後ろへと流れて行く。音速は超えていないと思うが、先に行った照月は最初の三秒で追い越していた。島風に自衛隊員達と待つよう無線で指示を送り、司令部の方へとまた通信する。

「九七、最終位置は!?」

『真っ直ぐだ! その速度なら後7秒! 5、4、3、2、そこだ!!』

 声に合わせて急停止する。周囲には人影は無い。秋月も、深海棲艦も。見渡す私と猫吊るし。声を上げたのは猫吊るしの方だった。

「右四十七度! 132メートル! あったぞ、残骸だ!」

 報告に従い一歩でそこまで到達する。そこには確かに何らかの破片が浮かび、まさに沈んで行く所だった。だが周囲に秋月は居ない。服の一片なども浮いていない、近くに陸地は見えるが、そちらにも何も動く物はない。見渡しても敵の一人も居やしなかった。

 落ち着け。

 私が海の上で何かを探す時、最も頼れる物は何だった? そうだ、それは目ではない。私が一番得意な感覚は、視力では無かったはずだ。

 足に回したチート能力さんの強化能力を、自分の耳へと集中する。私は艤装に積まれている、水中聴音機に感覚を向けた。

 

 

 

 何者も住まない海の中。変色海域化によって追い出された海の生物が未だ戻らぬ命の故郷。波の音と海流のうねる音だけが厳かに響くその中に。私より少し大きい程度の何かが、内から空気を吐き出しながらゆっくりと沈んで行く不協和音が聞こえる。

 

 

 

「猫吊るし! 息を止めろ!」

 説明してる時間が惜しい。位置はここからさらに200mほど陸地に寄った辺り。私はもう一度足へとチートな力を込め、全力で上へと高く高く跳ね上がり、空中で反転して腕を伸ばし、落下速度そのままに目標地点に跳び込んだ。

 海の水が目に染みたりはしない。チート能力さんのおかげなのか艤装のおかげなのかはよく分からないけど、それが非常に有難い。私の体は勢いよく海中を潜って行く。そして、何十メートルも行かない所で、沈んで行く秋月に追いついた。

 少し行きすぎたので態勢を整えつつ少し戻り、両腕で秋月を受け止める。そのまま浮き上がろうかと思ったのだけど、よく考えたら秋月は艤装が轟沈して生身の状態である。このまま引き上げて大丈夫なんだろうか。そう思って一度動きを止めたら、猫吊るしが私の頭から離れ秋月の頭に取り付いて、陸地の方を斜めに指差した。このまま泳いで陸に向かいつつゆっくり上がって行けという事だろうか。

 助言通りに足を動かし、猫吊るしが指で丸を作ったのを確認しつつ、出来る限りの速度で海中を泳ぐ。周囲は私以外に動く物の音は無く、どうやら秋月を沈めた犯人はもう逃げ去った後だと思われた。居たらついでに魚雷でも投げつけておこうかと思ったのだけど。

 居ない奴の事なんかよりも今大事なのは秋月だ。まだそれほど時間が経っていないおかげなのか、少しだけどぬくもりを感じる。

 でも鼓動を感じない。

 心肺停止状態。おそらく、海から上がった後、処置を間違えれば――――糞、蘇生方法ってどうやるんだっけ。一応訓練所で習ったはずだけど、ちゃんと覚えてない。数か月前のうろ覚えの知識でやっていい事なのか? 自衛隊の人達ならまず間違いなくやれる人が居るはずだけど、現在地が海の上だから、陸まで連れてくる間の往復時間で手遅れになりそうだ。後は猫吊るしだけど……そんな事まで知ってるだろうか。

 そんな事を考えつつ、猫吊るしの誘導に従って浮上する。居なかったらこの時点でアウトだった予感しかしない。長く息を止めていたからか少し咽ていたようだったが、こいつは本当に有能of有能である。息が整い次第すぐに発見と状態を司令部側に知らせたりもしていた。

 目の前の浜へ足を付け、揺らさないように気を付けつつ、急いで砂浜を越えて多少はしっかりとした地面まで秋月を運び、改めて状態を確認する。こういう時チート聴覚は便利だ。診断が一瞬で終わる。大きな出血無し、呼吸無し、脈拍無し。畜生。

 こういう場合、どうするんだった? 確か無理に水を吐かせるのは危ないと言っていた気がする。人工呼吸と心臓マッサージをやり始めて良かったはずだ。良かったよな? いやそもそも運んでる最中もやった方が良かったんだったか? 思い出すの遅すぎだろ私。なんかもう自信はまるで無いが、でもここに至ってはやるしかない。

「猫吊るし、これから心肺蘇生をする。間違いが分かったら教えて」

「ああ……いや、吹雪は心臓マッサージにだけ集中してくれ、それ以外は俺がやる!」

 えっお前その体格で人工呼吸出来るの? 心臓マッサージも重量足り無さそうだけど……いや、疑ってる場合じゃない。とにかくやれるだけの事はやろう。

 押すべき場所は胸の中心、邪魔な下着を指の力で制服ごと引き千切り、圧迫個所を確認する。確か乳頭と乳頭の間だったか? そこに重ねた両手を垂直に付け、猫吊るしに目で合図を送り、潰さないよう加減をしながら押し込んだ。

 回数は……一分間に何回だっけ? いやそもそも時間を正確に測る能力が無いからどう足掻いても分からないんだけど、ともかく一秒二回くらいのつもりで圧迫して行く。血の巡る音がちゃんと聞こえる強さで、内臓や骨を傷つけない程度の力で、正確に。

 猫吊るしは秋月の頭を横に向けると、側頭部……というか髪の上に乗り、目を閉じ秋月の額に手を当てている。何をやってるのかはよく分からないが、人工呼吸をするわけじゃないのか? そんな疑問を覚えた瞬間、秋月の口から水が噴出した。

 驚きつつもそのままマッサージをやり続ける。秋月の口からは私の動きに合わせて海水が排出される。やがて肺の中身を吐き出し切ったのか、ひゅっと息を吸う音を立てると、秋月はそのまま盛大に咳き込んだ。

 体が跳ねるように動き、慌てて胸から手を退ける。暫く秋月は身を捩っていたが、やがて落ち着き仰向けに転がると、確かめるように指先を動かし始めた。私の聴覚には、秋月が自分で息をする音と、動き出した心臓の音が確かに聞こえていた。助けられた……のかな?

 猫吊るしは秋月の髪の中に沈んでいるが、どうやら私の頭上に居る時と同じように張り付いている様で、秋月が動いてもそこからずれるという事は無かった。ただ目を瞑ったままなので、まだ何かしらやっているのだろうと思われ、話しかけるのは憚られる。心臓は動いているし、息もしている以上、私はもう待つ事しか出来そうにない。

 温めたりした方がいいのだろうかと考えつつ、悪化しないか聴覚だけは研ぎ澄ませて様子を観察していると、暫くして秋月の瞼がゆっくりと開かれた。艤装の影響か、少し灰色がかって見える瞳が私を映す。もう目が覚めたのか、早い! 良かった。良かったはずだ。でも、何故だろう。その瞳は、まるで人形がこちらを見ているような、そんな違和感を私に感じさせる、妙に生気の無い瞳だった。

「秋月……? 大丈夫?」

 私の問いに、秋月は頷きつつ、こちらに片手を向けて近寄ろうとする私を制する。そして目を閉じゆっくり息を吸うと、もう一度思いっきり咳をした。そして軽く喉を鳴らすと、あ、あ、あ、とごくごく軽い発声を行ってから、こちらに視線を向け、手を突き上体を起こすと、慣らした喉から言葉を紡いだ。

「うん。ああ……大丈夫そうだ。心肺ともに問題無し。ちゃんと生きてる。はぁー……一時はどうなるかと思ったけど、上手く行って良かった」

 言葉遣いとかに違和感ありまくって何一つ大丈夫そうじゃないんですがそれは。

 頭上を見れば猫吊るしが目を閉じたまま秋月に乗っかっている。まるで、抜け殻にでもなったかのように微動だにしていない。え、何? そういう事? お前そんな事も出来たの?

「……猫吊るし?」

「…………うん」

 目を伏せ、憂鬱そうに。秋月の体を操作した猫吊るしが、秋月の声で、私に返答を寄越した。

 

 ともかくまだ安静にさせておいた方がいいだろうという事で、秋月with猫吊るしにはまた横になって貰う。体を温めた方がいいだろうという事で、私の艤装から出した布切れで体を拭き、毛布も掛けておく。私の艤装って輸送艦だからそういうのも入ってるんだよね。補給物資扱いでちょっとしたものなら積み込めるらしい。ちょっと濡れちゃってたけど無いよりいいだろう。

 取り出す時に猫吊るしは一回秋月から外れて、物資を持ち出してまた秋月に取り付いた。外れている間にも悪化した様子は見られなかったのでちゃんと生命活動は行われているらしいと分かる。おそらく心臓が止まっていた時間は長くないと思われるから、大丈夫だとは思うんだけど……ちゃんと検査してもらわないと分からない。

 私も余った布で頭を拭いて、服を絞り水気を払いつつ周囲の警戒をしていると、遠くから照月が大慌てでやって来て、私を見つけて駆け寄ってくる。そのまま秋月を見つけて叫びを上げ、息をしていると気付くまで大騒ぎになった。照月が声を掛けた瞬間、猫吊るしではなく秋月が一瞬だけ目を覚まして照月の手を握ったとか色々あったせいである。

 照月を静めてから自衛隊の艦娘の人達とも連絡を取り、なんやかんやで全員帰還、秋月は医療スタッフに預けられる事になった。照月はその夜眠れなかったようで、ずっと海に向かって祈っていた。

 

 

 

 翌日、不可解な新種の変色海域の事もあり、収集部隊は活動内容を変更し、索敵と調査を行う事になった。主力部隊も前日変色海域の解放に行ったため待機。私と島風も休みを言い渡された。大淀さんが戦闘部隊を未知の敵にぶつける様な真似は避けた結果である。

 私達は仕方ないので魔力の扱いを練習していたのだけど、まぁ、身は入らないよね。特に感知出来るようになった訳でもないから話も進まないし。隣で島風も瞑想していたのだが、こっちの魔力もこの間より元気がない。それが普通に分かったのが意味不明である。

 そうしてちょっと暗い雰囲気で午前中を過ごし、昼前、そろそろ食堂でも行こうかと考え始めた頃に、秋月が目を覚ましたとの速報が入った。

 

 検査を終え、面会が許されたのがもう夕方になろうという頃。聞いた話だと、何の問題も見つからなかったとの事である。良かった。

 いの一番に照月が向かおうとして、私と島風にも一緒に来てほしいと腕を掴まれた。たぶん、誰かしら一緒でないと不安だったのだろうと思う。丁度その時、戦闘部隊は近くまで来ていた敵の迎撃に行っていたから、他に頼れる人が居なかったし。

 病室に入れば秋月はベッドの上で体を起こしていて、入って来た照月の心配気な様子を見て困ったように微笑んだ。目にはちゃんと生気があり、上に猫吊るしが乗っていたが、ちゃんと自分で動いている様子だった。

「お姉ちゃん……! お゛ね゛え゛ぢゃん゛……!!」

「こら深香、泣かないの」

 照月は秋月に抱き着いて、大声を上げて大量に涙を零す。秋月はそんな照月の頭を優しく撫でてあげていた。姉力高ぇ。そのまま鼻を啜ったりうーうー呻り続ける照月を抱きしめると、顔をこちらに向けて来る。

「ありがとう吹雪、助けてくれたって、聞いたよ」

「あ゛り゛が゛と゛う゛!!」

 照月も顔を秋月の胸元に埋めたままお礼を言って来た。秋月の服は涙とかで酷い事になってそうである。

「借り、作っちゃったね……吹雪達にそういうの、あんまり作りたくなかったんだけど……」

「いやそれは借りとかじゃないから気にしないで」

 そんなもん言い出したらきりが無いし、一応命令でやった事に入る案件だからそもそも私の功績とも言い難い。死ななかっただけで間に合ったかって言われると微妙だしね。

「ありがとう……私も吹雪くらい強ければ良かったんだけどなあ……」

 秋月は目を伏せ、暫く照月の息遣いだけが病室に響いた。私はそれに何か掛けてあげられるような言葉を持っていないから、ちょっと困る。強くなる方法とか知らないし、自分が努力とかで強くなった訳でもないから気軽に頑張れとも言えない。

 自分の発言で微妙な空気になってしまったと察した秋月は、ちょっと焦った顔つきで照月を引きはがし、頭を撫でながら泣き止んだのを確認し、後ろを向かせて背中を押した。

「ほら深香、シャンとして! また明日から出撃でしょ、護衛だってちゃんとやらないとなんだから、今日はちゃんと寝なさいよ」

 私もすぐに復帰するから、と言って、照月に戻って休むよう促す。眠れてないのもお見通しかぁ。

「真深姉、復帰して大丈夫なの……?」

「うん。本当に、心臓、が、止まってたのか信じられないくらい元気だから」

 照月はかなり元気が出たようで、呼び方がお姉ちゃんから元に戻っている。小さい頃の呼び方とかなんだろうか。

「吹雪と島風も、本当にありがとうね。私はもう大丈夫だから、心配しないで」

「お大事にー!」

「うん、元気そうで安心したよ。それじゃあ私達はこれで……猫吊るしはどうする?」

 お開きっぽい流れだったので途中からベッドの縁にまで移動していた猫吊るしに声を掛けると、じゃあ、という感じで私の伸ばした腕に飛び乗った。他の皆は居たの? って感じの反応だったが見えてなかったから仕方ないね。流石に艤装付けて来てる人は居なかったから残念ながら当然だし。

 それじゃあまたねと挨拶し合い私達が部屋を出ると、入れ違いに九曽神提督がお見舞いに入って行った。私に指示を出した事は違反行為だったのだけど、処罰は大淀さんからの厳重注意だけで済んだようである。

 秋月の少し喜色の滲んだ声が聞こえた。仲はいいっぽい。そして、提督が入室してから暫く、私達が十分に病室から離れた頃に。私の耳にだけは押し殺したような秋月の嗚咽が届いてしまったのだった。

 

 

 

 軽い足取りで島風が走って行き、その後を照月が追いかけて行く。二人ともかなり心は晴れたようだ。だが、ここに一人、明らかに曇りっぱなしの奴が私の手の平の上で立ち尽くしていた。こいつ、いつもは遠慮なく頭に飛び乗って来るくせに、今日に限ってはどことなくしおらしい様子なのだ。

「猫吊るし、秋月は実際どうなの?」

「ん……ああ、秋月は大丈夫だ。検査とかも見てたけど、医者が大丈夫って言ってたし、俺も大丈夫だと思う」

 医学的にもチート能力的にも問題無さそうなら、きっと本当に何も問題ないのだろう。良かった良かった。後はこうなった原因を作ってくれやがった深海棲艦だが……その辺りの聴取は大淀さんがやると思うので調査も含めて結果待ちである。一人で行って良いなら捜索に出たい所なんだけどね。

 騒がしめの二人が何処かへ走り去ったので、潮風を感じながら夕暮れの中をゆっくりと歩いて行く。こうして歩いていると深海棲艦が攻めて来ているとか嘘みたいに感じられる。海の中に生き物の気配が無いとか、そういう異常性はあるのだけれど。

「なあ、吹雪」

 じっくりと歩を進めていると、大人しくしていた猫吊るしが急に口を開いた。窺うようにこちらを振り向くと、私にちゃんと目線を合わせた。

「俺の能力なんだけど……」

「うん」

 『いろいろ』『つかえる』は本当に色々使える能力である。直接的にもかなりお世話になっているし、これを持った猫吊るしが居なかったら、日本は今頃もっと死者が出ていたであろう事も想像に難くない。とても有用かつ便利な能力で、さらにその応用性は、私が想像していたよりも遥かに高い次元にあったようだ。

「実は、人間の体も『つかえる』範囲に入る」

「みたいだね」

 まぁそりゃ、よくよく考えたらなんだが、機械類を使えて人間の体を使えないってどういう理屈だよって話だよね。人間の場合魂とか誰でも少しは持ってるらしい魔力とか色々障害になりそうなものはあるけど、我々が持っているのは神様――らしき自称魔法使い謹製のチート能力である。そんじょそこらの要素じゃあ邪魔になったりしないだろう。

 そしておそらくだが、猫吊るしは私を殺せる。社会的にではなく、物理的に。だって体を操れるのなら心臓でも肺でも止めてしまえばいいのだから。最初に出会った時、敵対的なら殺す気だったと言っていたけれど、あれは本当にそのままの意味だった訳だ。

 猫吊るしは言うだけ言って押し黙った。え、それだけ? じゃあ私からも言いたい事があるんだけれど。

「ねえ猫吊るし、その能力使えばさ……一緒にゲーム出来たりしない?」

「はぁ?」

「え、無理かな。行ける気がするんだけど。私の手だけ猫吊るしが操作すれば普通にゲームしてる感覚になりそうじゃない?」

 ええ……と猫吊るしは呆れたような表情になった。いや、お前体格的にゲーム難しいって言ってたじゃん。

「……それ吹雪は出来ないだろ、一緒にって言えるのか?」

「私は足で操作すればいいと思う」

 やった事ないけど、出来なくもないだろう。むしろ私も反射神経とかの抑制になって丁度良いかもしれない。

「いや……うん、まぁ、そうか」

 納得して頂けたらしい。

「あー……でも俺、人間は意識無い奴しかちゃんと動かせないんだが……いや本人の許可があれば行けるのか……?」

 どうやらまともに使ったことが無いらしく、詳細はちゃんと把握してないようだ。まあ駄目なら駄目でしょうがない。思い付きだし、出来たら儲け物程度の話だしね。

「じゃあ今から試そう」

 そう伝えて、猫吊るしを上に放り投げる。一瞬慌てたようだったけど、見事に頭に着地するのを確認して、私は部屋まで走り出した。

 このあと滅茶苦茶対戦した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い変色海域が消え去ってすぐ。一人の深海棲艦が超高速で出発地点へと帰還した。陸地に上がると目的地まで早足で歩き、渋面を浮かべながら近くの流木に勢いよく腰を下ろす。その不機嫌そうな様子を見て、近くに居た人間の女性は苦笑いした。

「駄目ダナ。解除シテ即逃ゲシヤガッタ」

「まぁ、分かってた事ではあるけどね。多聞丸が無理だって言うんだから普通には無理だよ」

 深海棲艦――レ級は、女性――ゴトランドの言葉にため息を漏らす。確かに大体の場合はそうである事に異論はないのだが。

「タマニ阿呆ミテーナガバヤラカスカラナ。今回モソウナラ良カッタンダガ……」

「展開はともかく、能力に関しては間違わないよ。予測を読み違えるのとは違うもの」

 レ級だってそれは分かっている。だが、それでも間違っていて欲しいと思う事はあるものなのだ。

「私の方も駄目だった。あの変色海域が発生中の空間に分身は出せないみたい」

 二人の目的は特殊な変色海域と、その発生源となっている深海棲艦の調査、及び討伐である。出来ないだろうと言われてはいたが、試しもせずに諦めるのはどうかと思ったのだ。

「ソーナルト後ハホッポチャントエンプラカ……」

「そっちも駄目だったって、さっき通信来たよ」

 北方棲姫の瞬間移動能力でも、赤い変色海域には入れなかった。一応、発生予定の場所に予め待機もしていた。だが、深海棲艦である北方棲姫やレ級であっても、あの変色海域は例外なく弾き出す性質を持っていたのだ。

 調査にはもう一人、アメリカから空母エンタープライズが参加している。『だいたい』『つらぬく』絶対貫通能力を持つ彼女の場合、境界を超える事だけなら可能だった。

「エンタープライズは入れたけど、すぐ弾き出されちゃったって。押されてるんじゃなくて重力が横にも発生してるみたいな感じだったから駄目だったって言ってた」

 ただ押されただけならその圧力を『つらぬく』事が出来ただろうが、彼女の場合概念的な物などは無視出来ないのである。少なくとも、今の所は。

「ハー、糞ガ。アレノ何処ガプライドナンダヨ」

「まぁ、そこは無理矢理当て嵌めただけだから……」

 レ級の毒づきに、内心ではゴトランドも賛同した。実際、自尊心も無ければ驕りもある感じではない。むしろ、逆と言って良かった。

「吹雪ガ侵入シテ来タノニ気付イテ怯エテ逃ゲテッタンダロアレ」

「適性値の感知能力なんて持ってるらしいから……そりゃあ53万は怖いでしょ」

 秋月に止めを刺さずに逃げ出したんだからいいじゃない。とゴトランドは言うが、レ級としてはそれを含めて面倒臭い限りであった。

「オカゲデ出現条件ガ分カリ辛レーンダヨ」

 超特殊個体『傲慢』。その能力は大きく分けて三つある。

 一つ目は、特殊な変色海域の展開。条件に掛かった一人以外を排斥し、強制的に一対一に持ち込む、嫌がらせのような能力である。

 二つ目は、集合無意識内へ肉体ごと移動する事。これにより通常時はどこを探しても見つからない。さらにその中を通って移動まで行うため、『傲慢』が通常海域に存在している時間が一瞬たりとも存在しないのである。現世に居る時は常に赤い変色海域に護られているのだ。

 三つ目は、適性値の感知。この能力により戦う相手を決定している。戦う相手は倒す意味があって、自分が勝てる相手。つまり、弱すぎる相手とも強すぎる相手とも戦う気が無いのである。

「適性値200以上1000未満で、艦隊の中で一番適性値の低い相手を選出して戦闘。艦隊内に1000未満の艦娘が居なかったり、居ても適性値が1万以上の艦娘が居るとそもそも出て来ない。だもんね」

 そして転生者の艦娘は、提督やチートの影響が無ければ、適性値が丁度1000なのである。そのため転生者は倒そうと思ってもそもそも会えないし、適性値を下げる様なチート能力も現在まで確認されていない。そのため転生者が打倒する事は不可能であろうと言われているのだ。

「ヨクモマァソンナ糞仕様ニシテクレタモンダ……誰ヘノ嫌ガラセダヨ」

「理不尽と高難易度を履き違えた調整って感じはあるねー」

 強すぎる艦娘だけでは倒せないようにと考えた結果生み出されたのだろうが、発売から年数の経過したカードゲームの新パックのように分かり辛い能力になってしまっている。要約してしまえば戦闘部隊の中で適性値の低めな相手と1vs1をするというだけの能力なのであるが。

「例のあの子の手作りだけあって一体だけ倒せば後には続かないらしいから、どうにか頑張って倒して貰うしかないかな」

「……正直、ソッチノ仕込ミノ方ニ問題有リソウデ怖ェンダヨナァ……」

 致命的にガバらなければいいけれど、過去に細かいやらかしは幾つもある。二人は目を合わせ、揃ってため息を吐いた。

 

 

 




後半が重め(当社比)なので前半で中和しようと結果、やたらと長くなりました。


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みんな色々あったっぽい

 ワレ宮里艦隊ニ帰還セリ。

 いや、本当に久々に帰って来た。なんせ、明日には帰りかーとか思ってたら延長を言い渡されちゃったからね、その日の夜に。もうちょっと早く言って欲しかった。卯月とかなんだったらお別れだから今日は何か奢ってもいいぴょんとか言い出してたからね。ちょっと気まずかったよね。

 期間が伸びた理由は簡単で、変な変色海域の展開を行ったと思われる個体を取り逃がしたから、である。基本外からは入れないっぽいんだけど私は無理矢理突破出来そうだったという事で、また出た時の対策にと残された訳だ。でも結局、その後あの赤い海は私達の目の前には現れなかったんだけど。私達の目の前には。

 つまりは別の所に出現したという事ですねはい。最初に出た場所は瀬戸内海からは本州を挟んで反対側、京都府は若狭湾、舞鶴である。

 日本海側は提艦隊が変色海域を解放しながら先行し、通った後を他の鎮守府が護るという形で平定が進められているのだが、今現在提艦隊は若狭湾をとっくに通り越し、島根に入る所だったらしい。そのため鎮守府もそっちの方まで移動しており、遭遇したのは別の艦隊――井口艦隊という大半が二期生で構成された艦隊だった。

 一応既に侵入を阻む新型変色海域の事は各司令官達に通達されていたのだが、あれってごり押し出来る私以外に外から何とか出来る人なんて居ない訳で。そうなると犠牲者がね…………まぁ、出ませんでしたね。不思議と。

 いやもちろん理由はちゃんとあるんだ。あの変な変色海域、チートさんに頑張って貰えば侵入出来そうだったのは置いといて、基本的には外から中に干渉出来ないんだけど……中から外へ出るのは可能だったらしいのである。

 もちろん敵に追いかけられて一方的に撃たれ続けたという話なんだけど、それを凌ぎ切って変色海域の端まで到達できればそこは普通に通り抜けられたのだという。ちなみにその人、最後には大破状態まで追い込まれて浮く機能以外がほぼ停止したため自力で走って逃げ切ったそうな。境界を抜ければ追って来ないようで、そのまま弾き出された人たちと合流、赤い変色海域もいつの間にか消滅していたという。

 またその数日後にはさらに別の場所で出現が確認された。その時は展開した位置の問題か範囲内に陸地が含まれていて、そこまで逃げるとそれ以上は結界内でも追って来なかったらしい。ただしその場合でも結界から出るまで海から延々砲撃が来るらしいけど。

 これらの事から、変色海域を展開中に範囲を移動させる事及び連続での展開はしないか出来ない、陸地は嫌い、などの推論が立てられた。なのでとにかく遭遇したら逃げ一択。倒そうとか絶対にしないようにと厳命された。私や金剛さん以外。私達はいいのか……

 またいずれの事例も秋月が変色海域内で見た深海棲艦と特徴が一致しており、同一個体もしくは同型個体と考えられている。この特殊な個体、その名を地中海弩級水姫といい、その名の通りド級なクソデカ砲台振り回して物凄いステキ極まる笑顔で追い回してくるという。何故かお供などを連れておらず、艦載機も積んでいないようで一対一になるらしいのだけれど、正面から打倒するのは辛い相手だろう。何しろ戦艦のそれも水姫である。足はそんなに速くなかったらしいけど、気が付いた時にはもう射程内に入ってしまっているらしいし。

 さてこいつの登場により変わった事がある。それは、艦娘の士気である。いやもうね、駄々下がりらしいですよ。私は士気の低い鎮守府に行ったことが無いからあんまり実感ないんだけど。

 今までは群れて連携してどうにかしてたし、実際なってたんだけど、それが出来なくなる上いつそうなるかも分からない。そりゃ怖いよね。強い人達なら……って思うかもしれないけど、糞強いって言われる金剛さんや夕立、北上さん辺りならともかく、普通の艦娘は姫級どころかモブの戦艦クラスでも一人じゃどうにも出来ない訳でね。今回は逃げるのに成功したけれど、一般的な強さの艦娘なら秋月と同じような目に遭わされる事は想像に難くない訳で。かと言って生存率に関わっちゃうから情報封鎖をする訳にも行かなかった。赤くなったら即逃走、この判断が出来るか出来ないかで話が全く変わっちゃうから仕方ないんだけど。

 さらに一過性でない問題なのが、今まで発見された地中海弩級水姫が同一個体だったとして、そいつを倒せたところで他の奴が使ってこないという保証は全く無いって所だ。固有の技能――それこそ私達のチート能力みたいなもんだったらまだいいけれど、普通に他の深海棲艦も習得出来ましたーとか言われても何の不思議も無い。私が今すぐにそいつをぶっ倒したとしても即座に不安は取り除かれないだろう。酷い毒だ、誰だこんな糞能力許した奴。

 

 まぁそんな訳で、九曽神艦隊ではなく別の場所で大暴れされちゃったため、私が残る意味は薄いだろうという事で宮里艦隊へと戻される事になったのである。まぁつまり、他の所より宮里艦隊の人達守った方が利益になるって事なんだろうなぁ……悲しい話だ。

 宮里艦隊では私の出向が延びたのに合わせて、訓練に来た皆も期間が延長された。そのおかげか、曙や漣の問題は一応の解決を見たらしい。最後に支えになったのは結局姉妹艦だったらしいのだけれど、そこに至るまでの立役者となったのは改二になり霊能力も取り戻した初春だったそうだ。あまりにもあんまりな綾波型の惨状を見て立ち上がってくれたらしい。聞いたところによると……やったらしいっすよ、降霊会。

 

 鎮守府の場所が移っていたためちょっと探したりしたけど無事到着。宮里提督に顔を見せ、挨拶もそこそこに工廠の人達に猫吊るしを預けずに出撃である。明石さん達には申し訳ないのだけれど、例の変色海域が近くに出たら走って向かわないといけないから必須になっちゃったんだよね、猫吊るし。絶望の声が上がったが私にはどうしようもないのである。深海棲艦を恨むしかないと思う。

 やる事は普通の迎撃だったのですぐ終わり、ついでに周囲の探索も頼まれていたので探してみたが、特に周囲には何も無し。例の奴が出ないかなーなどと思ってみたがその気配も無し。私と1vs1してくれないかなぁ。

 なんて思いながら次の指示を受け、なんだかんだで五か所ほど倒して回った。これだよこれ。有効活用されてる感が凄い。懐かしい。

 

 

 

 そろそろまともにブーストを使って走れるようになってきた島風に普通の航行状態で少しずつ魔力放出して常識の範囲内で加速する新技を披露されつつ鎮守府に帰り着く。普通そっちの方先に覚えない?

 猫吊るしごと艤装を工廠に預け、慣れない場所で若干手間取りつつお風呂を済ませると、部屋では曙が私達を待っていた。今日は夜の出撃当番だったらしく荷物を置きに来た時も鎮守府に居て、出撃前にも一応顔は見たのだけど、急いでたのもあって話せてはいなかったんだよね。表情は出向前と比べるとずいぶんと晴れやかなもので、私と島風と向かい合うや頭を下げて謝罪と感謝の言葉を述べて来た。

 曰く、気に掛けてくれてありがとう、ちゃんと応答出来なくてごめんなさいとの事だったが、大して役にも立てなかったので気が引ける。島風の方も気にしなくていいよー程度の反応で、連装砲ちゃん達は曙が元気になったのを無邪気に喜んでいる様子だった。

「それで、その……あたし達に何があったか、聞く?」

 神妙な表情で曙は問いかけてきた。まぁ、興味が無いと言えば嘘になるけれど。隣の島風を見れば向こうもこっちを見返して来て、どっちでもいいよーと小声で伝えられた。私が決めていいらしい。

「いや、いいよ。もっと気楽に話せるようになったらにしよう」

 そんな軽くなる日が来るのかは知らんけど。でも、少なくとも目の前で真剣そのものと言った顔をしている曙に言わせたいとは思わないんだよね。大体予想が付いてるってのもあるけれど。

「まあほら、お酒の席で話せるくらいになってからって事で」

「何年後よ……」

 雪ちゃん13才だから最低7年後である。いやもう暫くで14になるからもうちょっと早いかな? っていうか、私の体って吹雪さん準拠の年齢で成長止まるはずなんだけど成人したら飲んでいいんだろうか。

「まあ、でもいいわよそれで…………そこまであんた達と付き合い続くかしら」

 島風がオウッと鳴いた。どうやら続ける気だったらしい。一応私とは進路希望が同じだから連絡は取り合うんじゃないかと思うけどね。7年もあれば変わってるかもしれないけど。

 曙の雰囲気は柔らかくなり、緊張が取れたように見受けられた。やっぱり話したい訳ではなかったらしい。曙だけじゃなくて漣の事情も絡むっぽいからなぁ。

 じゃあ別の事を、という流れで荷物を整理したり報告書を拵えたりしつつ、私達はこの一か月にちょっと足りない空白を埋めて行った。

 

 

 

「魔力、というのは私達にも扱えるものなのでしょうか」

 夕食やなんかを終え、帰って来た昼当番の戦闘部隊の皆とおかえりただいまと挨拶を交わし合い、川内さんに率いられた夜戦部隊を見送って、私は猫吊るしと一緒に宮里提督と長門さんの前に立った。九曽神艦隊での事、そして魔力関連の云々を詳細に説明するためである。

 もちろん言える事は大体向こうで報告したから目新しい事は特に無いのだけれど、宮里提督はもう一歩前に踏み出してきた。

「ちょっと動かしたり出来るようになれるかっていうなら誰でもなれます。でも実用レベルまで行けるかどうかはその人次第です」

 問題になるのは結局魔力の量であるらしい。元が少なくても頑張って増やす事は可能なのだけれど、実用圏内に至るまでにかかる時間を考えたら他の事を習得した方がマシじゃなかろうかと猫吊るしは言う。最悪百年単位になるらしい。そりゃ勧められんわ。

 長門さんは猫吊るしの声が聞こえないので私が同時通訳しているが、今日の猫吊るしは割と丁寧な言葉遣いになっている。テンションによって変わってる気がするのは気のせいだろうか。

「たとえば、私はどうでしょう。猫吊るしさんなら分かるんですよね?」

 猫吊るしは他人の魔力量を測れる。一応私も魔力の有無だけなら感じる事が出来るようになった訳なのだけど、猫吊るしは自分の中に何か基準を持っているらしく、一般的な平均と比べてどうなのかも判断が可能らしい。

 お体に触ってもいいなら調べますよと言う猫吊るしに、宮里提督はお願いしますと手を差し出した。どうも猫吊るし、基本的には個人情報だしお触りするのはセクハラだしそもそも実用レベルの奴なんて居ないだろうし居ても戦闘に使わないだろとか思っててまともに魔力計測は行っていなかったんだそうだ。一般的な平均が自分の認識と合ってるかだけ確認してそれきりだったそうな。例外的に初春は気になり過ぎて調べたらしいけど。ガチ霊能力者とか居たらそりゃ気になるよね。

 私の頭の上で猫吊るしと提督が手と指を繋ぐ。そのまま少し沈黙して、三十秒ほどで猫吊るしは手を離した。

「えー……平均未満なので、艦娘として普通に研鑽して頂いた方が宜しいかと存じます……その、被弾率的にも……」

 言い辛かったのか妙に丁寧さが増している。いやなんか、宮里提督……っていうか大和さん、火力は申し分ない通り越して全艦娘中三位四位を争うレベルらしいんだけど、他の戦艦と比べても被弾が多いんだそうな。工廠で猫吊るしが明石さん達に泣き付かれてた。宮里艦隊っていうハードモード部隊でいきなり実戦投入されてるんだから仕方ないとは思うんですけどね。

 宮里提督は少し気落ちした様子でそうですか……と呟いた。出るたびに攻撃を受けるのは自分でも気にしていたらしい。デカくて目立つから狙われやすいのかもしれない。だからこそ回避運動は習熟してもらわなきゃいけないんだろうけど。

「基本的には戦闘に堪えるものではないと思って貰った方がいいです。島風や初春はどっちも天才って言っていいくらいなんで参考にしない方がいいですね」

 猫吊るしの言葉に疑問を感じたのか、宮里提督は私の事をまじまじと見つめた。私の目と提督の目が合った。

「吹雪はどうなんですか?」

「こいつは才能とかそういう問題じゃないので……」

 正しいけどその言い方はどうなんだ。通訳するのに言わなきゃいけないの抵抗あるぞ。言ったけど。

 言われて眉を顰めたのは長門さんである。ファンタジー世界な事への苦情は例の魔法使いを名乗る不審な少女に言っていただくしかない。

「吹雪の身体能力は艦娘の影響ではなく、魔力の影響だった。という認識で合っているか?」

「あっ、はい。そうらしいです。生まれつきです」

 私の身体能力に関しても大体報告済みである。とはいえ、転生の事は言っていない。これは私自身というよりは他の転生者に配慮してなんだけどね。その辺り言って大丈夫なのか楠木提督に確認出来ないからなぁ。魔力周りは楠木提督が公……ではないけど一部の人には伝えたらしいから言って大丈夫なんだと思っている。間違ってたらごめんなさい。

 ともかく。私の返事を聞いた長門さんは自分の手の平を見つめ、何かを確かめるように閉じたり開いたりし始めた。何度かそれを繰り返し、私の方、というか猫吊るしの方へと指を差しだした。

「私のも測って貰えるか?」

「はーい」

 猫吊るしは軽い声を上げると長門さんの指をちっちゃいおててで包み込む。長門さんはその感触も感じられないので、今やってますと伝えておく。そのまままた三十秒ほどが過ぎ去った。

「うん……大体島風の六分の一くらいなんで、十分使えますね」

「……それは実用範囲内なのか……?」

「私はそれ未満なんですね……」

 二人ともどう判断していい物か困ったようだ。けど、猫吊るしによれば連続で使用出来る島風やそれ以上の魔力量を持つ初春が超優秀なだけで、長門さんでも普通よりはかなり多いらしい。宮里提督はうん。

「とはいえ、習得への道筋も拓かれてはいないですから、無理に覚える様な物ではないと思います。ぶっちゃけ長門なら普通に戦った方が強くなれると思いますよ、被弾率も高くないですし」

 初春は天然物で生まれつき使えるし、島風は道もないのに無理矢理突き抜けて行って習得した。私と猫吊るしに至っては使えるように調整されてるだけだからね。身に着けるための先人の経験や知識が不足しまくっているのである。

「だが、極めれば吹雪のようになるのだろう?」

「いやほんと吹雪を参考にしないでください。こいつの魔力量島風の億倍はあるんで」

 島風と比べてもそんななの? 兆倍って誇張無しだったのか……チートって本当にずるいなぁ。まぁ私の場合それに甘え過ぎてて極めるどころかまともに使いこなせてすらいないんだけども。それを言ったら二人ともかなり驚いた様子だった。そりゃ、すぐ目の前に島みたいなクジラ一匹素手で解体するような力の奴が居てそれを抑えられてないとか言われたらドン引きですわな。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず魔力に関しては秘匿する方向で行くらしい。まぁ、それにかまけられても困るもんね。みんなまだまだ普通の艦娘として伸びしろがあるみたいだし。

 そんなわけで翌日になり、私達は今日も今日とて楽しい楽しい出撃である。いや楽しいかは微妙だけども。

 昨日に引き続き迎撃と敵の集まっていると思しき場所の襲撃の両方をやらせて頂けるそうで。張り切って出た私を待っていたのは空母から発艦したと思われる敵機の群れだった。即時鎮圧である。

 周囲を回って敵艦隊を葬りつつ、並行して変色海域の核も探して行く。これがそれなりの頻度で見つかるのだが、どうもこの海域、様子がおかしい。

 というのも、昨日から幾つか潰しているのだが、紅い海が青い輝きを取り戻してくれないのである。と言ってもそれ自体は別におかしな話ではない。前にもあったけど、変色海域の核と変色海域の核で効果範囲が被ってしまうと片方を壊しても海は元には戻らないのだ。

 けど今回の場合、三つ壊しても四つ壊しても海は紅いまんまだった。もしかしてダミーなのかとも思ったけれど、猫吊るし曰くちゃんと本物であるらしい。一応範囲が狭まってもいるそうで、小さいのが大量に配置されているだけだろうとの事である。前も似たような事あったなぁ。もしかして時間稼ぎされてる? 資源的には結構美味いんだけどイラっとくるぜ。

 

 帰投命令が出たので鎮守府に戻り、艤装を置きに工廠へ行けば、格納場所の一角が目に見えて静謐というか、清浄な空気の漂う神聖な空間と化していた。

 その中心に居るのは初春である。目を閉じ艤装に手を当てて、どうやら集合無意識に精神がお出掛けしている様子だった。

 これもある種の結界かなぁなどと思いつつ、さっさと降ろして走り去った島風に倣い自分の艤装を片付けようとして、初春の居るそこへと足を踏み入れると、彼女は急に目を覚ましこちらを振り返った。もしや本当に結界かなんか張っていらっしゃった?

「む……吹雪か。何かおかしな気配がしたと思ったのじゃが……」

 どうやら普通とは違う何かを感知したらしい。初春は辺りを見渡したが特に周囲に変わった様子はなく、気のせいかと呟くとこちらに向き直って、何かに気付いて軽く目を見開いた。訝しむ様に私の少し後ろ辺りを見つめると、そこから目を離さずに厳しい顔で私に問う。

「吹雪お主、何から力を借りておる……?」

 何ってそりゃあなた、吹雪さんでは? 後は猫吊るしとか、チート能力さんだとか。ある意味じゃ魔法使いの子の力も借りてる事になるだろうか。そう考えると一切自分の力で戦ってないな私。

 少し魔力であろう力を体に滾らせた初春の目線は私を通り越して艤装の方に向いている。そうなるとチート云々では無くて吹雪さんの方だろう。いやでも、借りてるのは普通に吹雪さんの力のはずなんだけど――いや待って。もしかして初春、吹雪さんが見えてたりとかする? 吹雪さん(しんかいふうのすがた)が。

 

「つまり、害は無いのじゃな?」

「うん。見た目は深海棲艦に似てるけど、中身はいい人だよ」

 全く問題無いと説明してみたら、半信半疑と言った様子だけれど一応納得してもらえた。確かに見た目だけだと怪しいよなぁ。

 初春は以前、艤装を通して艦娘の姿が見えると言っていた。吹雪さんの姿だけは見えなくなっていたみたいだったけれど、それは元の吹雪さんが何処かに行ってしまい、代わりに出て来た深海似の吹雪さんは奥に引きこもっていたからだったと私は予想している。

「初春、今は吹雪さん見えるの?」

「……見えておるな。話の通りであるなら、出て来たか、わらわが力を取り戻してきたからじゃろうな」

 警戒はまだ少ししているような素振りだけれど、とりあえず敵意は収めてくれた。私を心配しての事だろうからちょっと反応に困る。私は吹雪さんを完全に信用してるからなぁ。

「改二になってから霊能力が戻って来てるんだよね? 大丈夫なの、それって」

 初春の改二改装に関しては顛末を見てはいないけど聞いてはいる。でもなんでそうなったのかとか、そういうのはよく分かっていなかったりする。初春的には戻っていい物なんだろうか。

「うむ、特に問題は無いぞ。そうじゃな、この際じゃ、吹雪にも説明しておこうか」

 そう言う初春の顔は少し恥ずかしそうだった。

「実はの、わらわの霊能力は使えなくなっただけで、無くなった訳ではなかったらしいのじゃ」

 初春は新興宗教的なアレの神託の巫女とかそういう類のソレだった訳なのだが、成長に伴い彼女の中には信者に対する罪悪感や自分の行いに対する忌避感なんかが育って行った。その結果、体はともかく心の方が不安定になり、霊能力が使えなくなって行ったという。おかげで初春頼りだった組織は瓦解。初春の肉体の方は叔母の尽力もあり健全に保たれたというのだが。

「要は、精神的な問題で使えなくなっておっただけのようでな。力そのものは全く衰えてはいなかった、という事らしいのじゃ」

 だから、曙の危機という力を振るう事に躊躇いを感じさせない場面では全力を出す事が出来たらしい。艦娘の初春さんは霊力――私達が魔力と呼んでいるそれが無くなっていない事を最初から理解していたとかで、それと向き合い自分自身の心を深く知る事を改二改装への条件に設定していたんだそうな。

「今思えば、口調が普通でないままだったのも精神の乱れの現れだったのじゃろうな……未練とは違うが、霊障を患う者たちの助けになりたいと思う心は残ってしまっておったようじゃ。知らず力を封じるほどに嫌気が差していたというのにのう」

 その辺りを自覚して、ちゃんと向き合って初めて改二になれる。予定だった、らしい。

「初春って初春さんに任せようとしたら自分でやれって言われて、実際曙さんの魂封印して見せたらそのまますぐに改二になったって聞いたんだけど……前々から自分の事を考えるように言われてたりしたの?」

 私そういうの一切無かったからなぁ、みんなそれとなく艦娘から魂を分けてもらうための条件を提示されてたりするんだろうか。吹雪さんは本当はどうしたら認めてくれたんだろう。チケットで無理矢理やっちゃったから謎のままである。

「いや、わらわも改二になってから初めてその辺りの説明を受けたのじゃ」

 え、それだと向き合う暇無くない? 曙任されて一瞬でその辺りの自覚から覚悟完了まで行ったの?

「いや……それがのう、どうも初春殿は……ノリと勢いで予定を全部前倒しにしたとかでのう……」

 自分の内面について深く考えたのは私達が出向しているこの数週間の間だったという。完全に自分の心根を理解出来たのは降霊会の最中だったらしい。

 初春さん……前に初春に憑依合体してた時もちょっと思ったけど、さては結構愉快な人だな?

 

 

 




やってたソシャゲが終わって虚脱感に包まれました。かなしいなあ。
まぁ何度もしてきた経験ではあるんですが。


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課金用のあれこれも酒保で受付してくれるらしい

 朝ご飯を食べに行ったら三雲夫妻が一緒に朝食をとっているのを目にした。仲は大変よろしいご様子で、他の人達からは生温い目で見られていたりする。でも寮の問題で別居中なのだ。流石に艦娘の住処に入れる訳にも行かんし、逆も問題しかないからね。

 四国で救助した三雲さん――三雲提督は召集された日付が微妙だったのと宮里提督が戦闘部隊にも入る事になった関係で宮里艦隊へやって来る事になった。今は主に偵察部隊などの戦闘を行わない艦娘に無効化貫通能力を付与していて、一部の機密に触れない類の書類仕事なんかも担当しているらしい。

 提督としては私や宮里提督、文月よりも供給可能数が多く、時期が合っていれば一つの鎮守府を任せられていたくらいはあるそうなので、もし三期の提督が滅茶苦茶少なかったりしたら独立するかもなんて噂もある。もしそうなったら夕雲さんも連れてくんだろうか。なんて思いつつわかめご飯とわかめの味噌汁とわかめの酢の物と鰊の昆布巻きという海藻推しな朝食を妖精さんから受け取って席へ向かえば、夕雲さんの指に嵌ったリングが見えた。ああやっぱりケッコンしてるのか。そりゃあ私と島風で渡せるんだし、夫婦であるなら当然だろうけど。

 ただちょっと気になる事もある。それは三雲提督は私達よりケッコン指輪を渡せる相手が多いであろうって事だ。供給できる数に比例するらしいからね、ちなみに九曽神提督で4~5人行けるらしい。夕雲さん的にはどうなんだろう、重婚。いや本当に籍を入れる結婚とは違うけどさ。

 ぼんやりとそんな事を考えつつ二人の事を見ていたら、横からやってきた山雲に怪訝な顔で見られてしまった。山雲は私の見ていた方へと目をやると、そこに居た夫婦に気付いてあらぁ~と小さく声を漏らす。少し食傷気味の呻きだった。

「仲良しで羨ましいよね~」

「そうだね。助けられて良かったよ」

 まぁ何しろ深海棲艦の真横で隠れてた訳で。何かの拍子に死んでても可笑しくなかったからねぇ。

 小声での遣り取りの後、先に行っていた島風と合流して流れで三人一緒のテーブルに着く。今日山雲は変色海域へ出るそうで、私達と同じ方面の違う場所へと向かう事になるらしい。戦闘部隊の方は特に怪我人が出るでもなく、迎撃や襲撃は問題無く行えているというのだが、この間の私達と同じで変色海域の核をぶっ壊してもぶっ壊しても海は元に戻らない様子。遅延行為やめてください。

 島風が一番最初に食べ終わり、私達を待つ体制になる。食べるのも早い。いや早食いまでは行かないペースだからいいけど。島風に合わせて急いで箸を進めるのもなーと思って普通に食べていたら、手持無沙汰にしている島風に、山雲が思い出したように質問を投げかけた。

「島風は吹雪から指輪貰ってるんだよね~?」

 オッっと島風が鳴いた。これの事? と胸元から取り出すと、見えるように手に乗せる。山雲の方はそうそれ~と言ってしげしげとそれを観察し出した。

「やっぱりこれ夕雲さんのと同じよね~?」

「支給品だからねえ」

 私の答えに山雲はちょっと悩んだ様子で、でも聞いちゃっていいかなーと軽い口調でその噂を口にした。

「この指輪は~、提督が仲良しの艦娘に渡す物ってほんと~?」

 現状、同じ指輪を所持しているのは三人。長門さんと島風と夕雲さんだ。そして傍から見てても明らかにその三人はそれぞれ宮里提督、私、三雲提督と仲が良い。成程、噂にくらいなるわな、しかも指輪だし。

「まあ、そうだね。いい効果が見込めるらしいよ。どうしてかは知らないけど」

 これに関してはマジでどうしてかは知らない。なんで指輪で適性値上がるんだろう、そういえば。いやそういう魔法の道具ですって言われたりしたらそっかーとしか言えないんだけども。

「ちゃんと意味のある物なんだねー」

 てっきり婚約指輪とかの仲間かと思ってたのよ~と山雲は笑う。名称的には大体合ってるから困る。でも同じデザインでそれはどうなんだろうと思わんでもない。

「それでね、これってー、他の鎮守府の提督さん達も渡したりするんだよね~?」

「うん。九曽神艦隊の方でも提督がどうしようか悩んでたよ」

 私達が宮里艦隊に戻って来る直前の話である。指輪幾つか並べて真剣に検討を重ねていた。でも、あそこはみんな提督と仲良かったけど、ケッコンまで行けるのはどのくらい居たんだろう。霞はまず間違いなく行けると思うけれど。

「じゃあ、提艦隊の提督さんも配るんだ~……」

 いや配るって。結構条件厳しそうだしそこまで気楽に渡せるもんでもない気がするけどどうだろう。でも聞きたい事は分かったぞ。

「つまり山雲は朝雲が指輪を渡されてないか心配だと」

「あのね吹雪」

 私の言葉を遮り、山雲は今まで聞いた事もない程真剣な声で私に語りかけて来た。目にも力が入り、表情はキッと引き締まっている。

「喩えや冗談でも言っていい事と悪い事があるんだよー?」

「自分から振ったのに!?」

 理不尽!!

「察したなら口にしちゃ駄目なのよ~……だって言葉にしたら、ああ涙が……」

 山雲は目じりから本当に粒を溢れさせた。そんなに嫌なんだろうか。それを見た島風はオウッと鳴いて戦慄した様子で呟いた。

「吹雪が山雲泣かせてる……!」

「人聞きが悪い事を言うんじゃあないよ」

 悲しい気持ちになるのは本当らしいけど、涙まで見せたのは冗談のつもりだったようで、山雲は私達のやりとりに笑いを溢した。まぁ実際、仲の良さって観点で言うならまず最初に金剛さんの手に渡るだろう。そしてあの人だったら間違いなく私に言ってくるし、なんならコミュニティに写真アップするまである。特に悪気も無く。薬指に嵌めて。

 しかし艦娘からの影響強いなぁ、そんなに付き合い長くないだろうに想像だけで涙が出て来るとは。なんて思ってその辺りを突っ込んだら、出撃時間直前まで延々姉自慢された。

 そんなだから別鎮守府に配属されたんじゃなかろうか。一緒にしといたら色々支障出そうだもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通常とは違う変色海域の展開が確認され、吹雪が宮里艦隊に帰還してから数日。イムヤは開かれる事になった講習会に参加しようと、赤いポニーテールを弾ませて、現鎮守府で最も広い部屋である作戦会議室を訪れていた。

 開かれていた扉を潜れば、中には既に出撃後に立ち寄ったのであろう戦闘部隊の娘達が既に何人も待機している。数から見てこれから夜戦に挑む夜勤組以外は殆どが参加するのだろうと思われた。戦闘能力に直結する話ではないのに勤勉なものだ、などとイムヤは自分の事を棚に上げた感想を抱いた。

 イクはどこだろうかと先に行ったはずの宮里艦隊に二人しかいない潜水艦娘の片割れを探し、イムヤは辺りを見回した。視界には入らなかったが、一塊となっている酒盛り組――編入組が多いせいか妙に仲が良い――の向こう側、あまり陽の当たらない隅の辺りから彼女の明るい声が聞こえる。心根も好みも明るいイクにしては珍しい、と少し訝しく思いつつそちらへ足を進めると、やはりイクが誰かに向かって話し掛けていた。その誰かの顔を見て、イムヤはぎくりと足を止めた。

 その少女は見た目には体格の良い方ではない。むしろやや筋力の付いて来た宮里艦隊の中にあっては華奢とすら見える。全体の均整は異常に整っており、肉が付き過ぎてはいないが健康的で、半袖の制服から覗く二の腕などは不思議な色気を感じさせた。姿勢は良く、話し掛けている人間に対する物腰もどちらかと言えば穏やかであり、声だけを聞けばはっきりとした発声と滑舌の良さから明朗な印象を抱くかもしれない。だがその作り物めいた美しさの顔貌に映す表情は、それすらもどこか作り物めいていた。

 今もイクに話し掛けられ丁寧に返答を返しているが、どういう訳か、返答に対して顔の動きが一挙動に満たない分だけ遅れて見える。無表情ではない。ただ、その笑顔がイムヤはどこかわざとらしく感じられてしまうのだ。イクはこれを可愛らしいと評していたが、イムヤから見たら不気味だった。

 

 ――なお、コミュニケーション能力の無い人間が頑張って相手に表情を合わせている状態なので、別にどちらも間違ってはいない。どう見るかだ。

 

 近づく事を躊躇ったイムヤに対して、件の少女は少しだけ、様子を窺うように視線を向けた。

 捕捉されている。一度も声を上げていない、視界は人混みで遮られ入室もまともに見えていなかったはずだというのに、そいつは完全にイムヤをイムヤだと認識していた。最初から気を遣ったような態度なのがその証拠である。

 イムヤはその娘――吹雪が苦手だ。かつて巻き起こった兵器を用いない純粋な暴力の嵐は、自身に向けられていなかったにも拘らず、イムヤの心に耐え難い恐怖を刻み込んだ。そしてその事を、どうも吹雪は理解している。イムヤが避けているのもあるが、吹雪の方もイムヤに軽い挨拶以上の関わりは持とうとしない。最初は普通に挨拶をしてくれていたが、暫くしたらイクと話している所へ遭遇すると、そそくさと何処かに去ってしまうようになった。明らかに気を遣われている。自身の存在が相手の精神的な負担になると理解して、関わり合いになる事を避けようとしてくれているのだ。

 ところで、イムヤはどちらかと言うなら真面目で実直な性格である。そのため、吹雪の気遣いはむしろイムヤを追い詰めていた。何せ、別段悪い事を――相手からの印象を気にせず驚異的な腕力を見せつけたという点を無視すればだが――していない相手を一方的に嫌っている構図である。吹雪側に――トラウマ級の惨劇の舞台の幕を開けた事を除き――落ち度が無い以上、イムヤの側としては悪感情を抱いている事に罪悪感を感じざるを得ない。さらに吹雪が気を利かせて立ち去る事により、会話を通して分かり合う事も難しくなっていた。関係改善の目途は全く立っていなかったのだ。

 だがここへ来て、急にその機会が訪れたようにイムヤは感じた。まだ講義の開始時間まで少しだが時間がある。吹雪側は逃げようが無く、イクが既に話し掛けているため取っ掛かりもあるだろう。奥には島風も居り、彼女には特に隔意が無いため会話の一助になってくれるかもしれない。後はイムヤ次第だった。

 悪い子ではないと知っている。だから話し掛けても嫌な思いはさせられないと分かっていた。だが恐怖心が邪魔をする。もしも相手を不快にさせて、つい手が出たらどうなるだろう? 金属の塊を引き裂き、一振りで抉り飛ばすその細指が、もしも人に向けられたら? 果たしてその相手は無事で居られるものだろうか? もちろん、今は艤装を付けていないためそんな事は出来ない――とイムヤは思っている――訳ではあるけれど。

 尻込みするイムヤの足はなかなか動く事は無かった。迷っていた時間その物はイムヤの体感に対してそれ程長くはなかったが、その整った容姿の少女を見ているだけで体はじんわりと汗ばんだ。勇気がすぼむ。少なくともイクは楽しそうにお喋りしているのだし、無理に話しかける事もないのではないか。そんな気がした。

 ――ぽん、と。イムヤの肩に手が置かれた。ぎくりとして慌てて振り向けば、悪戯っぽい顔で笑う、青葉の姿がそこにはあった。迷ってないでさっさと行け。その笑顔からはそんな圧を感じた。

 青葉は最近、何故か吹雪と友好を深める事を推奨している。同じ艦隊で働くのだから当然仲は良い方が良いに決まっているが、このところは特にそういう活動に積極的だ。あからさまに苦手としているイムヤなどは標的……というと大げさだが、よく話題を向けられて、表情から良かれと思ってやっているという事も伝わっていた。そのためここで彼女が来た事にはそれほど驚きはない。ただ、物理的に背中を押すのは止めて欲しかった。

 行こうという気が無くもなかったイムヤは青葉に殆ど抵抗も出来ず、吹雪の前まで押し出された。笑顔のイクがそれに気付き、吹雪も表情筋はあまり動かなかったがやや意外そうな目線をイムヤに向ける。その奥で島風は連装砲ちゃんと超高速アルプス一万尺を繰り広げていた。

「こ、こんにちは」

 少し引き攣ったが、イムヤの喉は無事に挨拶を発する事に成功した。こんにちは、と軽く礼をしつつ吹雪が返し、最早打撃の応酬と言っていい速度で連装砲ちゃんと手の平をぶつけ合う島風もそれに続く。イクが少し場所を空け、イムヤは吹雪と並ぶ形になった。

 青葉とイクがアイコンタクトを交わし、片や悪い笑顔で、片や悪戯っぽい笑顔で少し下がる。どうやら二人ともイムヤに会話をさせようという魂胆だった。全く気楽にやってくれるが、イムヤにとっては有難さと殴りたさは半々くらいで釣り合っている。

 吹雪とイムヤの目が合う。どちらもどうしたものかと一瞬迷い、先に口を開いたのは、余計な事を考えていない吹雪の方だった。

「お久しぶりです、イムヤさん」

「うん、久しぶり……えっと、九曽神艦隊に行って以来、ううん、もっと前かな、最後にお話したの」 

 既に吹雪達が帰って来てから数日が経過している。その間にまともに話す事は無かったし、そもそもお互い避けていたためきちんと顔を合わせるの自体が数カ月ぶりだ。四国よりも前かもしれませんね、と返答が帰って来て、そこから少し沈黙。島風も連装砲ちゃんとの手合わせを止め二人の方を見つめた。

「……少し意外だったかも。吹雪がこういう講習に参加するのって」

「あ、いや実は、この講習、私の要請……という事になるみたいです」

「そうなんだ?」

 イムヤは内心、口調よりもかなり驚いていた。最強の艦娘として君臨している目の前の少女に他人に頼る印象を全く持っていなかったからだ。過去の作戦ではイムヤに任せられる事もあるにはあったが、あれはまた別の話だろう。

「九曽神艦隊の方でやる機会があったんですが……いや、どうも自信を持って出来なかったんです」

「あ、聞いたかも。でも、ちゃんと出来てたって話だったような……?」

「いえ、それがほとんど猫――妖精さん任せだったんです。だから、いざという時には自分で出来るようにしておきたいと思って。訓練所の時のノートを読んだりネットで調べてみたりもしたんですけど……」

 ノートだと要点しか書いておらず、ネット上の情報だと色々あってどれが正しいのかよく分からない。そのためちゃんとした資料を求めて談話室――主に反省会などが開かれるため戦術などに関する本などが置かれたそこへ、吹雪は足を運んだ。その時である。

「それっぽいのに目星を付けていたら、丁度青葉さんが通り掛かりまして」

 何をしているのか説明したら、それなら心当たりがありますよ、と青葉は講師になれる人物を紹介してくれたのだ。連れられて教えを乞うてみれば、それならいっそ皆に一から教え直そうという話にまで、吹雪の手を離れて飛躍して行ったという。その結果開かれる事に決まったのが、今回の救急救命講習会であるらしい。

「へえ、青葉が」

 軽く横目で見てみれば、青葉の方は恐縮ですと笑っている。どうやら青葉自身も吹雪と交流を増やすため努力しているようだとイムヤは察した。

 それにしても吹雪である。機会があったから参加したのではなく、自分から手段を求めに行ってたとはイムヤは思ってもみなかった。そもそもあまり話もしていないのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、抱いている暴力的なあの印象とはかなり人物像が食い違う。

「吹雪でも人を助けるのって難しかった?」

「そうですね……ただ敵を倒すのよりもずっと大変でした」

 吹雪からすれば敵を蹴散らすのはそう手の掛かる事でもないらしい。力任せで済むのならずっと楽で、殴って済むなら簡単でいいという。

「あの時のクジラみたいに?」

「いや、まぁ、そうですね。アレが弱かったとは言いませんけど……」

 吹雪は口ごもった。吹雪からしたら、イムヤの方からあの件に触れて来るのは意外だったのだ。イムヤも言っておいて、自分で微妙な気持ちになった。トラウマまで行ってはいないが、やはり恐怖体験ではあったのだ。

 少しの沈黙。島風が連装砲ちゃんを抱きかかえながら二人を訝し気に見つめている。青葉とイクは何か温かな目で見守っていた。保護者か何かだろうか。

「あっそうだ! 全然話変わっちゃうんだけど、吹雪ってゲームするんだよね!?」

 イムヤはどうするか焦りつつ迷った末、完全に違う話をする事に決めた。慌てっぷりが声に出た。

「えっ、はいやりますけど……」

「あたしもね、スマホの奴だけどゲームやるんだ。それで、PC版もある奴もあるから、もしかしたらやってたりしないかなって」

 実を言えば、イムヤはサブカルチャーに理解のある側の人間である。秋雲のように創作活動をする訳でもなければ、吹雪のようにそれだけに耽溺している訳でもなかったが、趣味の一つと言えるくらいにはそちらの道に漬かっていた。

「えっ、タイトルなんですか? 今の時期だとなんだろう、知ってるのあるかな……」

 思ったより食いつきも良く、吹雪はあまりソシャゲはやらないようだったが、話してみれば原作を履修済みの作品などは幾つかあった。どうやらオタクを拗らせているという評判はその通りで、さっきまでと比べると目の輝きが随分と違う。綺麗な見た目も相まって、羨ましいくらい可愛らしい。イムヤは少し笑いを漏らした。

「ふふ……でも、吹雪はなんか趣味が男の子みたいね」

「イムヤさんは女性向けのが多いですもんね。うーん。あんまり知ってるの無いなぁ……っていうか、なんか結構いっぱいやってますね」

「いや、艦娘になってから他の趣味ってそんなに出来なくなっちゃったじゃない? そうなったら自然と、ね……」

 艦娘は鎮守府から私用で出掛ける事が出来ない。そのためどうしても出来る事が限られてしまうのだ。宮里艦隊の場合、出撃頻度も並ではないため体を動かさずに手元で出来るスマホゲーはイムヤにとってマストだった。

「よく付いて行けますね……私なら一個か二個で限界です」

「まあ、そこはほら、課金して時短してるのとかもあるから」

 課金、と吹雪は目を丸くした。そういう表情はちゃんとすぐ顔に出るらしい。

「私達ってお給料出てるでしょ? 未成年にしてはすっごくいい金額貰えてるから、ちょっとくらいって思ったら、ね?」

 何せイムヤの預金も既に数千万の領域である。多少使っても痛くない、それどころかストレスの発散になると思えば経費みたいなものと自分に言い聞かせる事が可能だったのだ。

「大丈夫ですか? 私達って戦い終わったら収入無くなっちゃうかもしれないですよ? 止められます?」

 なんだかとても心配そうに発せられたその言葉に、イムヤは強い違和感を抱いた。

 そこに、そうなるであろう事を疑うような響きが一切無かったからである。課金を止められないという部分ではなく、戦いが終わるという部分に。

 つまり吹雪は、この戦争がいつかは終わる、いや、終わらせられると思っていて、その上で、その時にイムヤはまだ生きているだろう、いや、間違いなく生きている。そんな風に思っているのだ。考えすぎかもしれないが、吹雪の咄嗟の言葉からは、仲間が与えられた報酬を使い切る事なく戦場で死ぬような、そんな事にはならないと確信しているように感じられた。

 仲間の死について考えたことが無いわけではないだろう。むしろ救命講習を求めるくらいなのだから真面目に考えたはずだ。ちゃんと悩んで、理解して……るかはともかく、その上で吹雪はこうなのだろう、きっと。

「あー……それは大丈夫だよ。未成年で限度額あるから、まだ廃課金まで行ってないし」

「それ限度額まではやってるって事ですよね?」

 なんか真面目に心配されている。イムヤは笑い出したくなった。でもなんとなく、それは悔しい気がしたので、もっと心配させてみようかとイムヤはからかいの言葉を口にする。正直、少し怖かったのだけど、ここで会話を止めてしまうよりずっといいような予感がしたのだ。

「そうだね……でも、吹雪……あたし、もう交換チケット付きのなんかは見た瞬間に体が疼いて、気が付いたら買っちゃってるようになったんだ……」

「ガチャ沼に嵌らなければまだ引き返せますよ!!」

 何の話してんだこいつら。そんな視線が島風の方から突き刺さったが、課金の是非について、二人はそれなりに盛り上がったのだった。

 

 その後、講師としてやって来た皐月と多摩が二人でやる方法も教えたため近くに居たイムヤは吹雪と島風と組まされることになったり要救助者役になった吹雪がやたら色っぽくてイムヤがドキドキしたりと色々あったが、ともかく参加者は概ね正しい救命方法を身に付けた。もちろん、本番で出来るかはまた別なのだが、宮里艦隊の人間にはその辺りはあまり心配要らないだろうという信頼感がある。度胸が凄い連中なのだ。

 次は妖精さんが居なくても自力で何とか出来ますと意気込む吹雪を見送って、イムヤはイクと合流した。仲良くなれたみたいで良かったのねーと明るい調子の相方に、イムヤがじっとりとした視線を送ってやれば、まるで気にした様子もなく、飛び切りの笑顔が返って来る。本当に、ムカつくくらいに根が明るい。

 結局、話題が合う事は分かったけれど、吹雪への恐怖が完全に拭われた訳ではない。一回で全部を変えられるほどイムヤは器用な性質ではなかったし、あの子は普通に扱うには難し過ぎるのだ。適性値は意味の分からないくらい高いのだろうし、美貌もちょっと整い方がえげつない。あれノーメイクかよふざけんなと、顔に触れた時の衝撃を思い出す。暴力装置としての性能と普段の態度と外見の良さが合わさってかなりとっつき辛いのだ。

 ただ、力に任せて壊す事よりも害われた物を直す事の方がずっと難しいと知っている吹雪なら、きっと脆い自分達に向けて感情的にその腕を振るう事は無いだろう。そこは至極簡単に胸に落ちて来たのだった。

 

 

 

 

 

 夜戦部隊を見送り、書類仕事を終えた宮里が自室の扉をくぐると、部屋のベッドに長門が寝転がり、自身の手の平を見つめていた。軽く動かしながら何かに集中してみたり、ぎゅっと握っては力を抜いてみたりを繰り返す。長門と宮里は相部屋であるが、ここ数日、長門はずっとこんな調子である。

「魔力操作、出来そうですか?」

「……どうかな。島風に聞いてみたが、あの娘は操作出来るようになるのにはそれなりに手間取ったようだが、感じられるようになるまでにはさして苦労はしなかったそうだよ」

 妖精さんに天才と評されるだけの事はある、と長門は苦笑いした。長門は今現在、自身の魔力を感じ取る事すら出来ていない。練習時間もそう取れないため仕方ない面が大きいが、すぐに出来たという実例が近くに居ると、少し焦りが出てしまう。

「そもそも、魔力というのは実在するものなんでしょうか……?」

 実際に島風がブーストを習得している以上、何かしらの力が働いているのは間違いないだろう。ただ、それが個人の生まれ持った資質に寄るもので、艤装などのオカルティックな道具と関係のない事柄であるという話に対して、宮里は懐疑的だった。

「……存在していると、私は確信しているよ」

 逆に長門はそこを疑う事は全くしていなかった。確信があるのだ。長門は、おそらく、幼少の頃にそれを見た事がある。記憶の通りであるなら、それは間違いなく異能の力――クレアボヤンスと呼ばれる類の物だった。

 

 宮里が寝巻に着替え、自分のベッドに腰かける。長門はまだ横になったまま手の平を見つめて精神を集中させていた。見れば、その指にはしっかりとケッコン指輪が嵌められている。こんな時でもちゃんと付けてくれているらしい。宮里は大きく息を吐いた。

「そっちへ行っても、いいですか……?」

「ん……構わないよ。おいで、幸」

 長門は上に持ち上げていた左腕を降ろすと横に広げ、宮里の方へ体を向けると、残った右腕を差し出した。宮里がその手を取れば、女性にしては大柄な長門の躰に、宮里は簡単に引き込まれる。ふくよかな長門の胸に顔を埋めれば、しっかりと汚れを落として来たのだろう、清潔感のある芳りが宮里の鼻腔をくすぐった。

 明日の事を考えるなら、このまま眠りに就くべきだろう。安定感のある長門の腕に抱かれ、心地よく朝を迎えられる事は疑いようが無い。だけれども。宮里は既に自分との絆を大事にしてくれている長門に、完全にやられてしまっていたのだった。

 長門の双丘から名残惜し気に顔を引き抜くと、宮里は簡素で飾り気のない長門の寝巻の、そこから覗く首元に

 

 




GLタグが付いてるのは主にこの二人が原因です。

追記
感想欄に実際にワッフルワッフル等の続きを求めていると思われる内容、及び他の感想へ言及した内容を書き込まないようお願い致します。
この度は大変ご迷惑をおかけいたしました。


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考えるな、感じろ

 楠木 清実は父親が居ない。

 正確には、中学に上がり暫く経つまでは居ないと思っていた。いつもはそれなりに大きな家に自分と母親しか居らず、父親のようなものは見えなかったのでそう思い込んでしまっていたのだ。体も懐も大きめに育った清実は特にそれについて気にした事もなく、たまに家にやって来る人間に実父は亡くなっていると聞かされて、それで完全に納得してしまっていた。だからその事について詳しく知ったのは、経済観念がある程度発達して、自分達の生活費はどこから出ているのだろうという疑問を覚えてからであった。

 まずもって、母に収入は無い。これは間違いないだろうと清実は考えていた。何せ清実が驚くほどの世間知らずである。清実から見ても妙に整った作法と染みついた佇まいからして、どこぞの令嬢であったのだろうという事は察しが付いていたのだが、わざわざ確認した事は無かった。特に娘にその手の教育をするでもなく、清実自身はかなり自由に育てられていたからだ。

 母がその手の話を一切して来なかったため、なんとなく娘としては母の生家について話題に上げるのは躊躇われた。何せ普段は二人きりで暮らしているのだ、問題が無いのであれば、祖父や祖母の顔も知らないというのは有り得ないだろう。写真くらいはありそうなものだし、存命ならば会う機会もあったはずだ。おそらくは関係がかなり悪いか、既に亡くなっているかだろうと清実は当たりを付けていた。

 そのため清実は別の人間に聞いてみる事にした。それがたまに家にやって来ては母とも自分とも親しく話をしたり遊んで行ったりするおじさん、多聞丸である。

 ――過程などを省いた答を言えば、その多聞丸おじさんが戸籍上の義父であり、生活費等を世話していたとの事だった。

 それを聞いた時、清実は人生で一番――後に更新されるが――驚いた。清実は多聞丸の事を多聞丸おじさんと呼んでいたのだが、それは名字が自分と同じであるために、母か実父の兄弟であろうと思い込んでいたためだ。まさか母の婚姻相手であるとはまるで考えた事すら無かったのである。

 理由は大きく二つある。一つ目は顔を合わせるのが年に数える程度であった事。この時点の多聞丸は各所への根回しや実務などで多忙を極め、たまに家に顔を出して数時間過ごしてはそのまま睡眠も取らずにまた仕事へと向かっていたのだ。そのため、清実には家人と認識されていなかったのである。

 二つ目は、多聞丸と母の間にまるで男と女の匂いを感じなかった事だ。清実はあまりその手の機微に聡い方ではなかったが、流石に物心付いた時から顔を合わせている多聞丸と母の関係性くらいは分かる。どう見ても兄妹か、あるいは同年代の友人としか清実の目には映らなかった。

 そもそも、多聞丸は家にいる時、母よりも清実の方に構っている事が多かった。母が物静かな人柄だったのもあるだろうが、清実自身も多聞丸によく懐き、遊んでもらった記憶は数多い。趣味なのか多聞丸の方からゲーム機やアナログゲームなどを持ち込む事も多く、家に置いて行くものだから、清実は意外とそちらの文化に明るかったりするくらいである。

 清実から見て多聞丸は結構子供っぽい所のあるおじさんであった。一緒に遊ぶときは終始楽しそうであったし、勝負事に関しては清実相手であってもあんまり手を抜いてはくれない。神経衰弱を全て先行一ターン目でめくり切ってワンキルされた時は流石に清実も怒ったが、後々思い返せばあれはあれで打ち解けるための方策だったのだろうと大人になってから理解出来た。

 ただ、その方法に関しては全く当時は分からなかった。使ったトランプは新品だったし、後から検分してもおかしな点は一切見当たらない。何らかの手品であろうと当時は無理矢理納得していたが……

 そういった違和感はその一件だけではなかった。見えていないはずの母の動向から食事の時間ぴったりに遊びを終わらせたり、来客を室内から感知してみたり、挙句の果てには清実の友人が冗談で貸してきた超能力開発ゲームを一度で完全クリアしてみせたりしたのだ。友人には信じてもらえなかった。

 閑話休題、婚姻について清実が詳しい経緯を問えば、母とは相談済みであったのか短いやり取りの後に多聞丸は語り出した。

 

 多聞丸と清実の母は清実が生まれるずっと前から家に決められた婚約者だった。どちらもかなり良い家柄であるらしく、どんな意味があるのだかはよくは知らないが、所謂政略結婚という奴であるという。そのため殆ど母が生まれた時からの付き合いなのだそうだ。

 多聞丸と母は少し年が離れているため、母が幼少の頃から今に至るまで、ずっと多聞丸は頼れる兄のような存在であったらしい。だから、母が恋をしたのも多聞丸ではなかったのだ。

 過程は色々とあったようだが、結果的に母はその相手――つまり清実の実父と駆け落ちをした。そこから清実が産まれるまで、慣れない暮らしで大変にしながらも幸せに暮らしていたらしい。だが、清実が生まれてすぐに、実父は事故に遭い天へと召されてしまったのだ。

 そこからは大問題だった。一人で娘を育てて行けると楽観する事は流石に出来ず、恥を忍び実家に頭を下げて娘だけでもと頼み込んだりしてみたが、そうそう上手くはいかない。実父側の親類にも頼れるような相手は居らず、母が本当に困り果てた時。救いの手を差し伸べたのが多聞丸だったという。

 元々婚約者であり、実家側も楠木の家との関係修復になるなら良しとしたため話は簡単に纏まった。多聞丸自身いい年で身を固めねばならず、それなら小さな頃から知っている清実の母の方が他の誰かを娶るよりも有難かったという。清実の実父とも友人関係であり、清実を引き取るのにも抵抗は無かったらしい。

 ――それもそのはず、駆け落ちを支援したのも手引きしたのも多聞丸だったくらいなのだから。

 友人どころか親友と言っていい間柄だった、私よりもあの人との方が仲が良かった、なんて思い出を清実は母から話された。多聞丸はその辺りについては恥じいるものでもあるのか苦笑いを浮かべていたが、どうやら友人関係にあったのは事実なようで、彼の忘れ形見を放っておくのは憚られたと普段あまり見せない真剣な光を眼に浮かべていた。

 今まで知らなかった事実が次々判明して行く。それも何か、割と創作染みているというか、かなりドラマチックな展開があって今があるらしい。そんな親の悲喜交々の顛末をしっかり受け止めた清実は消化不良を起こし、この後、本人的には思い返したくもない事であるが、反抗期へと突入した。

 

 

 

 無事に非行に走るまでは行かずに中学時代を終え、高校へ進んだ清実は自衛隊に入る事を決めた。それは勿論多聞丸の影響も大きかったのだが、それ以上の理由が清実にはあった。

 清実は割と体格が良い。それは太っているという事ではなく、骨格がしっかりとしていて背が高いという意味である。どうやら体付きに関しては偉丈夫であったという実父からの遺伝らしく、小学生の頃から自分より大きな同年代の娘は周りに居なかったし、男子であっても並ぶ者は数少なかった。そのためか、清実は周囲から格好良い女性像を求められるきらいがあったのである。

 無論、これは清実自身の性格にも起因している。他人に媚びて利を得ようとするタイプではなかったし、積極的に陰口を叩くのも好まなかった。それで浮かない程度にはコミュニケーション能力もあり、友人もそれなりに獲得している。そして何より、清実は本当に困っている人間に手を差し伸べるのを躊躇わなかった。

 体格と性格、二つの格が相まり、学生時代の清実は非常にモテた。同性から。そして清実自身、その事に悪い気は全くしていなかった。清実は実の所、自分自身がかけ離れていたためか、可愛らしい物が幼少期からずっと好きだったのだ。自分を頼って来るか弱い女子は、彼女にとって愛で守護る対象となっていたのである。結果的に嗜好はそっちに行って戻って来なかった。

 そんな人間である清実は、自分の体格や体力、護りたいと思うものなどを加味した結果、国防という道に行きついたのだ。母は心配したが、多聞丸は真摯に話を聞き、進路への現実的な問題点などを洗い出す事までしてくれた。まるでそうなるのが自分にとって都合がいいかのようだった。

 

 

 

 入隊してから、清実は多聞丸の噂話を聞くことが多くなった。清実は多聞丸との係わりを公言してはいないので、わざと聞かせているのか単に噂自体が亜音速で飛び回っているのかは定かではなかったが、その内容はあまり良くないものも多かった。

 曰く、自分の体を売って取り入る事で出世した。

 曰く、自衛隊の活動と全く関係の無い交流で出世した。

 曰く、奥さんと上手く行ってない。

 曰く、休憩中に謎の踊りを踊ったり回転したり足踏みしたりしていた。

 曰く、ヅラ。

 曰く、人を人と思っていない。

 とりあえず三番目と五番目に関しては疑いようもなくただのデマなのであるが、それ以外に関しては清実も否定はしきれなかった。二番目の是非は難しい所だが、多聞丸が自衛隊と関係の無さそうな所へ出掛けていたのは知っていて、四番目は何か普通にやりそうだなあなどと思ってしまったのだ。一番目に関しては……母と肉体関係無いみたいだし有り得なくもないかなーと清実はむしろ納得が行った。自分も同性好きだし。

 六番目の噂は忌まわしき者共が海の底より這い出でた後にその真偽を思い知ることとなった。

 

 

 

 多聞丸が居なければ確実に日本国に倍以上の被害が出ていたと巷ではよく言われている。

 必要な箇所で必要なだけの人数を的確に殺し、最大数の人間を確実に生かす指揮能力。

 たとえその時点では無意味に見える投入も、後から全体像を見返せば妙手の一言に尽きる、正確に敵の戦力戦術を読み切る予知能力染みた洞察力。

 守備に必要な物事を円滑に進め、国内の障害を事前に取り除ける政治力。

 それらが一人の人間に集約された結果、外見がかなり見れるモノであったのも幸いし、多聞丸は英雄として本州でその名を馳せる事になった。重要な会見は自らが直接出向き、流暢で明快な語り口調で分かり易く扇動――もしくは先導する様も印象的であり、ともすれば物語の主人公的にでも見えたという。

 だがそれは安全な内陸から見た場合である。

 実際に戦う人間達にとって、臨海は地獄だった。命令通りに死にに行き、命令に従い人々を助ける。かと思えば命令により人を見捨てる場合もあった。まだ生きている隊員も効率が悪ければ救出を見切り、どの道深海棲艦が跋扈していれば使える物ではないとはいえ、他人の家やビルなども爆破などして利用するのは日常茶飯事だった。いや、財産や自衛隊員の命であればまだいい方だったかもしれない。時には、結果的にとはいえ、少人数の民間人を囮にし、大多数を生かす事すらあったのだから。多聞丸の用兵は的確で、無慈悲だった。

 

 そんな初期対応の時期が過ぎようとしていた頃、清実は壁際に設置された消火器に向かって話し掛ける女性隊員を発見した。通信機器か何かを使っているのかと思ったが、耳元や口元にそれらの端末は無く、手にも何も握られてはいない。

 ああ、もしや、気が触れてしまったのか。などという考えに至った清実がどう対応するべきか迷っていると、女性は何かを掬い上げるような動作をすると、何も無い手の平の上に気を配りながら何処かへと駆けて行ってしまった。その先には、たまたま、おそらくはたまたまそこに居た、多聞丸の姿があった。

 そして暫くの後、不可解な血液検査が行われ、清実は長門になった。

 

 

 

 発足した戦闘部隊において、長門は最も高い戦闘力を持っていた。単純に適性値が他よりも高く、あらゆる性能が飛び抜けていたのだ。

 航空戦力とは比べようが無いが、少なくとも同じ戦艦である武蔵や伊勢、日向などとは明確な実力差を有しており、機動力も戦艦にしては良い方だった。そのため、旗艦の座を手にしたのは親の七光りなどではなく実力での事であると、少なくとも戦闘部隊に近しい隊員たちからは認められていた。判断力にも優れ、間違えれば全滅すら有り得る場面を幾度となく回避している。流石は楠木の娘、などという声が聞こえる事もあった。血は繋がっていないのだが。

 そんな長門だが、艦娘として戦い始めて最初の数か月は幾度となく大破や轟沈を繰り返していた。これは別に、長門がカタログスペックより弱かっただとか、味方が不甲斐なさ過ぎたとか、そういう話ではない。戦闘部隊の艦種に偏りがあり、攻撃するのは得意でもされるのは苦手であった事と、多聞丸が糞ローテで酷使しまくったのが原因である。

 多聞丸は一切の妥協も情けも戦闘部隊に持たなかった。命令を下すその目は長門を娘として見ておらず、それどころか人間として見ているかも怪しい。噂通りであると言えるのかもしれない。戦闘部隊は命を賭けた戦いを連日強いられる事となった。

 だがその事に、長門はむしろ頼もしさを感じていた。義娘だからと手緩い指揮を行わないというのは、長門にとっては信頼と信用に値する要素だったのだ。

 しかし、まともに休みも取れないような激務の連続で、長門の心は疲弊して行った。肉体の方は給糧艦の製造した食料が回復してくれたし、だんだんと謎の強化を遂げていたが、長門は旗艦である事もあり、他と比べても精神面のすり減りが著しかったのだ。

 それを癒したのが以前に不審な挙動を行っていた女性、宮里である。宮里は現状打破の一手を持ち込んだ存在、妖精さん――自分からそう名乗ったらしい――が初めてコンタクトを成功させた人間であり、その当時はまだ二人しか見つかっていなかった提督の内の一人だった。そのため学びと実務の両面から常に戦闘部隊の側に寄り添い、支えになろうと奮闘していたのだ。

 宮里は実を言えば、長門が自分で思っていた自分の好みからは外れていた。小さくもないし、自分を頼って来るわけでもない。むしろ頼りになろうとしてくるし、出来る事なら何でもやるという気概に満ち溢れていた。そんな一生懸命努力している姿に、長門はだんだんと惹かれて行ったのだ。尤も、龍驤辺りから言わせれば長門が落ちたのは一瞬の事だったらしいが。

 宮里の方はというと、当初は旗艦として部隊を率い自身の疲労を物ともせずに部隊員を奮い立たせ、雑コラされてもそれで心が晴れるならと受け容れる体勢まで見せた長門の姿に憧れに近い想いを抱いていた。だが、短い休憩中に見せる素顔や持ち物から垣間見える好みなどには可愛らしい部分が多く、その上、その事を若干恥ずかしがっている節まで時折長門は垣間見せる。ギャップで宮里が落ちるのも早かった。

 そんな二人である。ある日に倒れるように艤装を置いた長門を頑張って寝所まで運んだ宮里が無事でいられるなどという事は無かった訳なのだった。休めよ。

 

 

 

 長門は多聞丸を未だに義父としては見れなかったが、一人の人間としては信頼し、友愛的な意味で慕っていた。反抗期からの流れで素直に甘えるような事は出来なかったが、気恥ずかしさや態度を変える事への違和感などからであり、最初期の頃からケッコン指輪を贈れるくらいには好感度が高かったのだ。そんな長門であっても、唯一召集に関してだけは嚥下し切れない物があった。

 多聞丸は召集――徴兵に対しては非常に積極的だった。年齢の下限に関して出来る限りの引き下げを、と自ら話し合いに出るほどで、小さな子供に何か恨みでもあるのだろうかと噂になったくらいである。

 勿論長門も十二人で戦い続けた所で今以上に状況が良くなる事は絶対に無いと戦闘部隊の誰よりも理解はしていたが、それでも感情的には全く呑み込めなかった。そもそもそんな子供を集めた所でどれほどの戦力になるのか疑問だったし、下手をすれば長門達も戦うどころではなくなってしまうのではないかという懸念もあった。艤装という生身に近い装備で戦う事がどれほどの恐怖を伴う物かよく知っていたが故に。

 だが、長門はその不満を口に出す事はしなかった。理由は至って単純で、対案が全く無かったためだ。そもそも専門家でもない長門がとやかく考えるような話でもなく、消化し切れない後ろめたさを胸に詰まらせたまま、命令に従って働くしかなかったのである。

 

 そうして訪れた四月。その時点で既に宮里の下で働く事が決まっていた長門の所にも、召集対象になった女性達の噂がいくつか流れて来た。その中で最も大きな話題になっていたのが、異常な適性値を持つ中学生前後の少女達の事である。

 長門ですら足元にも及ばない超高適性を持った十数人、それが一度の適性検査で見つかったというのだ。検査を受けた人数は自衛隊員の数よりも遥かに多いため、長門以上の人間も出るだろうというのは予想されていた事である。だが、その数値が高いを通り越して成層圏を突き破ろうとは検査をしていた妖精さんすら思っていなかった。

 自衛隊の戦闘部隊は召集された艦娘達の訓練が終わり次第各地に散らばり、先達として彼女等を率いて戦う事になっていた。そのため訓練生達の詳細な情報もそれぞれの手に渡っていたりする。なので、当然ながら、全員がその数値をほぼ同時に目にしてしまったのだ。

 530000ジャスト。

 意味不明だった。

 長門達の手に渡った時点で書類の情報は間違いないか入念に審査されているはずであり、冗談で書いたものが残ったとは考え辛い。しかしそれでも、間違いではないのかと戦闘部隊の全員が確認に向かったという。

 

 そこから長門達は新体制までの間に出来る限り変色海域の解放を進めつつ、合間に訓練生たちの情報もしっかりと確認するようになった。そうして分かったのは、報告書通りであるならば、自分達は明らかに弱かったという事である。

 曰く、三式弾を使わせたら海が燃えた。

 曰く、艦載機を初めて飛ばしたその日から曲芸飛行が可能だった。

 曰く、逆立ち状態から魚雷を発射して全弾的に命中させた。

 曰く、並の数倍の速度で航行しつつ自動射撃が出来る為走っているだけで相手は死ぬ。

 曰く、どれだけの砲火に晒されようと決して被弾せず自身の砲撃はどこからでも当てる。

 もしかして自分達は集合無意識から疎まれているのだろうか、そう思えてしまうくらいに、そこにあった艦娘の姿は戦闘部隊の知る物とかけ離れていた。

 それでも、召集された娘達は志願したわけでもない民間人である。しっかりと自分達が支えてやらなければならない。この時は長門もそう思っていたのだ。

 

 暫くして、艦娘が素手で敵性艦を砕く衝撃映像が日本中に撒き散らされた。

 長門は後からそれを見て、凄まじい不信感に襲われた。長門自身、深海棲艦を素手で殴り殺した事はある。だがそれは、あくまで砲塔が使い物にならなくなった所に接近戦を挑まれたためであり、望んでやった訳でもなければ戦術の一つとして組み込んでいた訳でもなかったのだ。

 だがあの訓練生、吹雪はどうだろう。人を飲み込むほどの大口の前に立ち塞がるのに恐怖などは無かったのか? 金属質の大質量を相手に殴ってどうにかなると分かっていてやったのか? いやそれ以前に、どうしてあの娘は突進してくる巨躯を片腕で止められると判断出来た? ――あの娘、本当にただの民間人か?

 この疑問が浮かんだのは、艤装を装備している時としていない時で長門の身体能力に大きな差があったからだ。少なくとも、長門は試してみるまで装備中にどの程度まで力を発揮出来るのか理解は出来ていなかった。直感的に分かったのだというならそれまでだが、そうだとしたら本当に天才だ。もしや多聞丸が召集の下限を引き下げたのは彼女のためではないだろうか、などと飛躍し過ぎた思考まで飛び出す始末であった。正解である。

 それでも、本当にただの中学生であるのならば、大人が支えるべきだという思いは変わらなかった。

 

 

 

 実は前々から訓練された人間だったりしないだろうかと疑ってはいたが、証拠はなく、むしろそうであった方がマシなのかもしれないなどと思いつつ迎えた配属日当日。鎮守府の置かれた海域は変色海域と化した。

 当然のように上から出撃命令が下り、重い心で新人達を迎えた長門は整列した彼女達一人一人を見やり、思った。

 美人多くないか?

 長門が知る限り、目の前の艦娘達は訓練所での成績と持ち合わせた精神性などを基に選抜されたはずである。だというのに、まるで違う視点から決定されたかのように整った容姿の者が多かったのだ。

 その中でも特に目を惹いたのが、件の怪しい駆逐艦、吹雪だ。可愛らしさもさる事ながら、他者と違いこちらを見るその表情から緊張の欠片も見出す事が出来なかったのである。あと、何故か龍驤の胸をガン見していた。立派な物ではあるがそんなに気になったのだろうか。

 

 吹雪の存在は異常の一言に尽きた。別世代の兵器でも扱っているかのような隔絶した能力は長門が本来すべきだった仕事を奪い去ってしまった。ほとんど指導の必要も無ければ、口出しの暇すら無かったのだ。吹雪が事も無げに一撃――本人曰く二撃だったらしい――で撃ち倒した姫級など、旧戦闘部隊が轟沈者を出しながらなんとか退けたモノと同型である。それは長門が認識する前に既に事切れていた。

 腕力の強さも見せてもらったが、それそのものはあまり問題ではない。長門自身強化量はかなり高かったし、その長門の千倍以上の適性値であれば無くはないだろうと思えたからだ。ただやはり、手刀で変色海域の核を切断出来ると判断した事には違和感があった。

 だがこの時点では別段、長門は吹雪の事を嫌っていた訳でもなければ、苦手意識を抱いていた訳でもなかった。むしろ好意的だったと言っていい。可愛いし。

 致命的だったのは、一瞬気が緩んだところに奇襲を仕掛けられ、気付いた時には吹雪が制圧を完了していた、一連の流れのその後だった。

 確実に己の拳で人型の敵を叩き潰し、吹雪は涼しい顔でその事を報告してくる。確認に向かえば、確かにそこには生物としての尊厳そのものを打ち砕かれたような、首から上を力任せにえぐり取られた状態の惨殺死体が転がっていた。

 それを見た時、長門の心を占めた物は恐怖――――ではなかった。

 それは普通に考えたら当然で、長門にとっては悍ましい物。

 この子が居ればきっと日本は大丈夫だ。そんな恥ずべき考え。

 依頼心だった。

 

 

 

 とはいえ、怖くなかったわけではない。当たり前だが、平気な顔して人間の顔したイキモノを惨殺する奴は恐ろしいに決まっている。長門も例外ではなかった。個人として付き合おうとすると、どうしてもあの時の様が思い浮かぶのだ。

 そんな長門の内心をよそに、吹雪は長門に対してやけに好意的だった。積極的に話し掛けて来るだとかそういう事は全く無かったが、何故だか尊敬の念の籠った視線を向けられて、長門は複雑な思いを抱える事になった。

 吹雪は明らかにネット上にてさんざん長門で遊んだ連中の一人である。それは反応からして間違いない。というか、その辺りは完全に調べが付いていた。そしてそれは、吹雪が普通にそうやって暮らしていた一般人であることの証左に他ならない。だが、それにしては彼女は平然と戦い過ぎていた。戦いに対して忌避感を持つどころか、迂遠にではあるが報告書にはもっと戦いたい旨が書かれていた事すらある。

 島風が艦隊に着任すると、長門の混乱はもっと深くなった。吹雪に子供っぽい所が見え隠れするようになったのである。

 親しい者にだけ行うぞんざいな対応は吹雪が普通の少女であると感じさせるには十分で、それならば単に戦うのが好きなだけなのだろうかと言われると、それも微妙な所だった。

 そうしていると、今度は吹雪に適性値を上昇させる力がある事も判明し、長門は何が正しいのか全く分からなくなった。ご都合過ぎる能力を持つのに、育ちはただの一般人で、戦いに向いた性格をしていて、ネットで遊び回る普通のオタク。意味不明である。誰かが仕組んでいると言われた方が納得出来そうだったが、長門には誰ならそんな事が可能なのか皆目見当もつかなかった。神様謹製無双系チート転生者という一文で説明が付くのであるが、そこまでその手の文化に詳しくないため、流石に思い至らない。

 

 大きな危険が予想される任務の前には、長門は吹雪に何を犠牲にしてでも生き延びるように命令した。本来ならば提督である宮里の仕事だったのだが、指揮を執る人間へ少しでも反発心が湧かないようにとの配慮から長門が代行したのだ。

 自分の命を最優先するよう言われた吹雪は全身から不満気な雰囲気を漂わせるが、一応は了解を返してくる。戦うのは大丈夫でもそういう事まで割り切れはしないのだろう。その一方で、対する長門の方もそれを言わなければいけない現状を恥じていた。

 吹雪は両親を人質に取られているも同然である。そんな娘に仲間を殺してでも帰って来て戦い続けろと言い放っているのだ。嫌われて当然だし、殴られたって文句は言えない。だがそれでも命令するしか無いのだ。吹雪に代わる戦力など日本に存在していないのだから。

 言葉にするたびに長門は酷い葛藤を覚えた。いつまでこんな事を続けなければならないのかと悩み苦しんだ。吹雪に文句の一つも言われた方が楽だったかもしれない。なお吹雪は人質どうこうとか全く気付いていなかったので長門さん立派だなぁくらいにしか感じていなかった。

 

 

 

 巨大鯨を片付け、生放送が終わると、吹雪はほとんど英雄扱いになっていた。市井の者ならいざ知らず自衛隊の中からもそう呼ぶ声は聞こえ、長門はその度に眉を顰めた。中学生相手にそれはどうなんだと。

 この頃から吹雪は奇行が目立つようになっていた。以前からそういう傾向はあったが、特に淡路島へと行く直前辺りからは虚空に向かって話し掛ける姿が多く見られている。実の所妖精さんとお話しているだけなのだが、その妖精さんを頭に乗っけて出撃する姿などは、結構個性的な宮里艦隊の中にあっても突出して変な奴であった。

 だがそこに、その頭の上の生物が日本で一番最初に見つかった最も有能で最も豊富な知識を持つ最も重要な妖精さんだという事実を付け加えるとどうだろう。本人の容姿も合わさり、やっぱり何か特別な、選ばれた人間に見えてしまうのである。

 最早吹雪が最前線で勝利を重ねる事に疑問を持つものは居なかった。長門ですら頼り切るような真似は絶対にしたくないとは思っても、彼女が戦いに行く事自体には不自然さを感じなくなり始めていたのだ。毎日元気に出撃するその姿を見て、吹雪は戦う事に肉体的にも精神的にも適性があったのだろうと誰もが認めていた。

 

 だが吹雪の改二は輸送艦だった。

 突然降って湧いた強化形態の話。確認すれば今のお前にはやれんと集合無意識に拒否され、精進しようと心に決めた矢先の事である。

 改二はその人間の個性や適性が大きく出る、一人一人固有のものであるという。たとえば後になる川内であれば本人が得意とする肉弾戦と隠密性に優れた艤装が生み出されている。吹雪の場合、それが、補給艦の仕事も兼ねられる輸送艦だったのだ。

 明らかに戦闘向きではない。後方や前線の少し後ろで味方の支援を行う分にはかなり優秀であろうが、前に立たせればすぐに水底へ沈もうというのは想像に難くなかった。吹雪はただ適性値が高いから強いだけだったのだ。長門はそう思ってしまった。事実はどうあれ。

 思えば宮里艦隊の艦娘が前向きなだけで、本来民間人の彼女達は無理矢理召集され命を賭けさせられる事に反発を覚えたって何の不思議もない。なのに最も出撃回数が多く、最も戦果を挙げ、最も危険な場所へ送られる吹雪から、長門は不満の一つも聞いた覚えが無かった。それが長門や宮里を慮った結果なのかそれとも他の理由か、全く分からない。最早長門は吹雪が何なのか正体を見失ってしまっていた。

 

 そして魔力の話が出て来ると、長門には吹雪が得体のしれない物に見える様になった。吹雪の話を信じるのであれば、吹雪は生まれつきあらゆる物を拳で砕くだけの力を有していた事になる。だが吹雪の両親は、吹雪の運動神経がかなり優れたものだと思ってはいても、その全容をまるで把握してはいなかった。

 どちらの話も信じるのであれば、吹雪は幼少の、少なくとも自我が芽生えた時点から自分の力が異常な物であると認識し、抑えて生活していた事になってしまうのだ。親ですら力の強さを認識出来ない僅かの間に隠すという判断が出来た、その判断基準はどこから来たのか? それがまるで分からなかった。

 だが魔力の話そのものは長門にとって幸甚だった。長門は吹雪の正体が何であれ、頼り切る事に忌避感を覚えていたのだ。同じ位階に至る階梯があるのであればそれを上らない理由は存在しなかった。

 

 

 

 

 

「真面目に考えすぎじゃないかねえ」

「不真面目に当たる訳には行かないだろう……」

 夜の食堂の一角、酒を嗜む大人の専用席となったそこで三人の艦娘が酒を酌み交わしていた。一人は隼鷹、この空間の主である。二人目は長門、たまにはどうだと誘われて、巧みな話術で内心を吐露させられていた。一応機密には触れないよう気を遣っているが、既に回っているのかちょっと怪しい。三人目は大和――宮里提督、あまり酒に強くない長門をお持ち帰りして添い寝しようと企んでいる。

「召集されて来た未成年を雑に戦場に放り出したくないってのは分かるよ。でもさ、少なくとも吹雪に関しては間違いなく、出撃に何のストレスも感じてないよあの子」

 隼鷹の見立てだと、吹雪が感じているのは達成感や満足感だけだ。そもそも吹雪は表現が薄いだけで内に溜め込んでいる訳ではない。本当は戦いが負担になっているとかそういうのは全然全く一切無いだろうと隼鷹は考えていた。

「艤装の影響でか?」

「いいや、あの子個人の問題でさ」

「問題……ですか?」

 妙な言い方だと宮里は首を傾げた。この前線であれば、出撃が苦にならないというのは悪い事ではないはずである。他所の話ではあるがあまりの戦いたくなさに心身の調和がとれず、体調を崩した者だって居るくらいなのだから。

「二人なら知ってると思うけど、あたしは以前、かなり碌でもない所で働いてたんだ」

 隼鷹の言葉に、長門と宮里は無言の肯定で返した。提督とその秘書艦である二人は指揮する艦娘達の個人情報はかなりの所まで知っている。前職くらいは当然把握していた。

「こことは全然違う方向性だけど、命のやり取りも行われるような職場だったよ」

 隼鷹は艦娘になる以前、違法賭博場――所謂裏カジノで働いていた。それもただ金を賭けたギャンブルが出来るだけの場所ではない。そこでは命をチップに換える事が可能だったのだ。そしてそれを賭けた人間達による、特殊なルール下における命懸けの頭脳戦を売りにした、一種の見世物も開かれていた。

 デスゲームである。

 参加は強制ではない。ただ、そこに至ってしまった者たちに選択肢など有って無いような物だった。参加せずに肉体的、精神的な死を迎えるか、参加して生き残るか。そういう人間が多く集められていた。

 隼鷹はそんな場所でコンパニオンとして働いていた。観覧して楽しむ人間達や待機中の参加者をもてなすのが主な仕事であり、運営そのものには係わっていなかったし、ほぼ強制的にやらされていた立場ではあるのだが、逮捕されなかっただけで問題だらけの行いである。

「いろんな奴が居たよ。絶対に勝とうって気概のある奴も居れば、怯えてガチガチの奴も居た。でも共通して命懸けだった。けど、中にゃそうじゃない奴も居てね」

 そこは命をチップに換える事が可能な場所であったが、命以外もチップに換える事が可能だった。つまり、富裕層が命ではなく金を対価にゲームに参加する事も出来たのである。

「不正の無いようにって服装を統一する時もあったんだけどね、それでも目を見ればどっちかなんて一目瞭然だったね」

 重さが違うのだ。金で参加している人間は負けても賭け金を失うだけで済む。その額は安いものではないが、その賭場を知るような金持ちにとってははした金のようなものだった。負けても失ったという実感すら湧かなかったろう。

「……吹雪は金持ち側の目をしているとでも?」

 長門が睨むような目つきで隼鷹を見据えた。その言葉に、隼鷹は思った通りの反応だと口の端を少しだけ吊り上げながら、ゆっくりと首を振った。

「いいや、あいつの目はあたしら……参加してる連中を憐れみながら、どうにも出来ないその状況に憤ってる奴と同じ目さ」

 それはある種の自虐のように聞こえた。

「吹雪はきっと、かなりいい奴なんだよ。それでもって、強すぎるんだ。だからあの子にとっちゃたぶん、今やってるのはそもそも戦いじゃあない」

 仲間の負担を少なくするためのただの作業。苦にはならなかったろう。だって命なんて最初から懸けていないのだから。

「同じ参加者のはずなのにあの子だけ命どころか何も懸けてるつもりがないんだ。倒されたら自分が死ぬ可能性があるって、知ってはいても未だに実感出来てないんだよ」

 宮里艦隊の酒盛り組は毎日のように一緒に飲む。それは明日誰が欠けるとも知れないからで、それが自分になる可能性が大いにあると知っているためだ。未だに誰も亡くなってはいないが、いつそうなってもおかしくないと肌で感じる毎日を送っているからなのだ。

 一方吹雪はといえば、勝って当然、帰れて当然、腐るほど体力があり休息もほとんど必要とせず、仕事が少ないとむしろ不安になるらしかった。轟沈してもその態度が変わらない辺り筋金入りで、長門が心配している事の、それ以前の心構えが出来ているかがまず怪しい。

 ただそれが悪い事かと問われても、隼鷹はそうは思わなかった。隼鷹から言わせれば、どの道やらなきゃいけないのだから重く考えすぎる必要なんて無い。真面目にやってないだとか慢心しているだとかであれば問題だが、吹雪のそれは余裕という物だ。それならば多様性の範疇だろうと隼鷹は考えていた。だって後が無い故に全力で思考を回す最後まで諦めない貧乏人と、追い詰められていないが故に広い視界と柔軟性を持つ金持ちで、勝率なんて大差は無かったのだから。

 吹雪の思考回路を支えているのはその圧倒的な強さだ。それを持って、能天気に駆除作業に勤しんでいるだけの人間なのだ。そんな奴相手に未成年がどうだとか、向き不向きがどうだとか、考える意味が全く無い。農薬撒くのにヘリの操縦ミスを心配する奴は居ても害虫に殺される心配をする奴は居ないのである。

 隼鷹から見て、吹雪は規格外の強さ以外は、出来る事を出来るだけやっている善良な一般市民でしかなかった。

 

 いやしかし、と長門が反論を口にしようとして、半分喉から声を絞り出した所で、ふっと、そのまま動きを止めた。隼鷹がそちらを見ればその瞼は重く閉じられ、体はテーブルに半分寄り掛かっている。どうやら完全に潰れてしまったようだった。

 ああこれはお開きだねえと言いたい事はとりあえず言った隼鷹が宣言すると、ぐったりと力なく席に転がる長門はそのまま笑顔の宮里に抱えられ、鎮守府の夜闇へと姿を消して行ったのだった。

 

 

 

 それにしてもと隼鷹は思う。長門はどうにもクソ真面目な性質であるらしい。あの調子だと昔の自分の職場で楠木提督を見かけた事があるなんて告げ口したら憤死しちゃいそうである。ましてデスゲームでは無い普通のギャンブルだったにせよ、大勝ちして去って行ったと知ったらいったいどうなってしまうのか。ちょっと見てみたい気もする隼鷹なのだった。

 余談だが、その賭場は最後の会場が海に近かったおかげで深海棲艦に叩き潰され、運営全員お亡くなりになっている。そのおかげで隼鷹は解放されているので、彼女はごく稀に存在する深海棲艦が到来した事で真っ当な道に戻って来れた数少ない人間であったりする。実はそんなに深海棲艦に恨みなんて無かったりするのだ。それはそれとしてアパートの壁ごと酒棚吹っ飛ばしたのは絶対に許さないけれども。

 しかし、どうしてデスゲームの黒幕なんて慎重に慎重を重ねないといけないような連中が、わざわざ一か所に集まってそれで殺されちゃったんだろうねえ、と隼鷹は当時を思い返す。別に何か特別なイベントがあった訳でもないと思うのだけれど。

 まあ、下っ端どころか運営に絡んでもいない接待役である。よく分からないが上ではなんか色々あったんだろう。例えば、絶対に無視できない立場の人間が強権振るって摘発に乗り出してきたから、対策会議してたとか、ね。

 

 

 




チート転生者の相手って思考停止でSUGEEEEEEしてた方が絶対楽ですよね。


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そりゃそうなるわ

 最近青葉さんの様子がおかしい。

 いやおかしいというか、なんだろう。私と他の人の仲を取り持とうとしてくれている……ような気がする。

 元々私はあんまり自分から話しかけるタイプではない。普通に苦手だ。それでも発足から数か月が経ち、私も島風曰く馴れてきて、宮里艦隊の人達とはそこそこ交流を持つようになっている。

 訓練所からの付き合いの皆や向こうから話し掛けて来てくれる人たちとはちゃんと話すし、最近だとポーラさんにはよく絡まれる。いやあの人の場合常時酔っぱらってるみたいなテンションで誰にでも話し掛けてるだけなんだけども。

 今でも練習を続けている長良さんやジョギングが日課らしい那智さんとも時間が合えば島風を挟んでお喋りする事があるし、大井さんには北上さんの事を洗いざらい白状させられた。他にも秋雲先生文月等のオタク仲間とはよくトークして盛り上がるし、最近だとイムヤさんも加わる事がある。でも、係わりの無い人達とはさっぱりだった訳なんだよね。

 そこに手を入れ出したのが青葉さんだったのである。私が割と出撃後は暇に飽かしてネット上で艦娘擁護したり動画漁ったりしてるのは知ってたらしく、その時間に誰かしらを連れて遊びに来たり、逆に私達を部屋に誘ったりするようになった。

 ただ上手く行ってるかと言うと……微妙? いや、これ完全に私のせいなんだけど、艦娘としての仕事の事はともかくそれ以外のオタクカルチャーに絡まない話とか私が居てもさっぱり盛り上げられないんだよね。全然何言ってんのか分かんないんだもん。

 まぁそれでも一定の成果ってのはあるもんで、少なくとも瑞鶴さんとは本名を交換し合う事に成功した。加賀さんがやってたしって理由だったけど、どんだけ加賀さん気にしてんだろうこの人。

 その加賀さんとも遊んだんだけれど、あの人本気でゲーム全般上手いんだよなぁ。別に自分の趣味という訳ではなく、弟さんや友達との付き合いでやってただけっぽいのだけれど、これが才能の差だろうか。文月が音ゲーで自信粉砕されてた。

 自衛隊からの昇格組である暁教官長や飛鷹さんからは訓練所の引き継ぎとかの話を今更聞くことが出来た。どうやら響教官が教官長に昇格して、新たに雪風教官が加わったとの事である。幸運に恵まれそうだな訓練所。ちなみに実際に指導された響さんは響教官長とは酒を通じて意気投合したとの事だった。なお雷教官の雷が落ちた模様。

 山城さんとも話す機会を設けられ、やっぱり扶桑さん関連で色々語ったりしたんだが、何故だろう、最初の時とは違って提提督関連も嫌そうな顔はしなかった。たぶん四国攻めの時に扶桑さんに連れられて会っていて、それで印象が変わったのだとは思うのだけれど……へえあの人が、とむしろ関心のありそうな感じにまで変化していたんだよね。いやほんと、何があったんだろう。

 それはともかく、そんな調子で青葉さんは私と周りの距離を縮める手伝いをしてくれているのである。仲良くして悪い事なんて無いので有難い事なのであるが、どうして急にそんな事し始めたのかはよく分からない。山雲が指輪に関しての噂を知っていたので、当然知っているであろう青葉さんもそれ関連で仲良くさせといた方がいいって判断したのかもしれない。まぁ私はもうこれ以上指輪は使えないのだけれども。

 

 

 

 最近の日本はあまり変色海域の解放が進んでいない。北では攻めが苛烈になり、元々かなり精強と名高い賀藤艦隊と最近頭角を現しまくっている五十嵐艦隊が連携してなんとか防いでくれている。あっち側の担当は元々敵を本州に来させないのが主な役割だからそれを十全にこなせていると言えるのだけれど、問題は南、つまりは私達の方だった。

 宮里艦隊の周囲は今現在、むしろ敵の攻め手は温くなっている。代わりに敵さんは嫌がらせに特化した事をやってくるようになったのだ。前からそういう傾向はあったけど最近はそれが特に顕著で、偽物の核で時間を無駄に浪費させられる事がやけに多くなっていた。

 おそらく今攻略しようとしている海域の変色海域の核はかなり奥まった場所にある。それはもうとっくに予想が付いていたのだが、ただ、その奥さ加減が問題だった。なんせ私と島風と連装砲ちゃん達なんてこないだ、本物の核が見つからないまま九州に到達しちゃったし。

 そしてこの傾向が見られるのは宮里艦隊の担当海域だけじゃあないのである。聞けば他の攻略に赴いている二つの艦隊、提艦隊と九曽神艦隊も全く同じ事態に陥っているらしいのだ。

 三つの艦隊はそれぞれ別ルートで九州に向かって出来る限り急いで進んでいる。私達が足踏みしている間に提艦隊は九州までもう一歩の所まで進撃し、九曽神艦隊もついに瀬戸内海の終わりが見えて来た。だがそこからどの艦隊も前に進めなくなってしまったのだ。変色海域の核が見当たらないというただ一点の大問題のおかげで。

 これで向かいにある敵基地に核が設置されているとか言うのであれば特に問題は無かった。それなら四国と一緒で大攻勢して潰してやれば何とかなる。いや凄い大変ではあったかもしれんけど、なんとかはなった。でもこの海域、そうじゃなかったんだよね。

 さっきも言った通り、私達第四艦隊は一回九州に到達してしまっている。実はその時に、沿岸にあった敵基地ぶっ潰しちゃったんだわ。勢い余って。でもそこには核の材料はあっても核そのものは設置されていなかったのである。余談だが鎮守府に帰って報告したら普通に怒られた。そりゃそうだ。言い訳させて貰うなら攻めてった訳じゃなくて発見されちゃったから対処してたらいつの間にかって感じだから許して欲しい。駄目?

 まぁでもこの一件で核の位置は大体予想が付いた。進行不能になってる範囲から考えて、おそらくは九州を挟んだ向こう側に過去に類を見ない超巨大な核が存在しているんじゃあないかって上も下も意見が一致した。きっと九州を飛び越えて本州と四国の一部を巻き込んでしまうほどの大きさの奴がたぶん有明海かどっかにあるんだろう。三つの艦隊はどこも同じ変色海域に行く手を阻まれていたという訳である。

 これが正しいとしたらその影響範囲はかなりデカい。今までの観測から変色海域は大小の差はあれど中心から概ね円形に展開されていて、核はその中心から外縁までの半分の距離より内側にある事が分かっている。なので下手をするとこの変色海域、対馬を越えて韓国辺りまで届いている可能性があるのだ。まぁそれはそれとして対馬にも個別に核が設置されてる気はするが。

 

 さてこうなると問題はそれをどうやって攻略するかである。ぶっちゃけ行くだけなら簡単……ではないにしろ行けるんだ、九州から本州の方を向いた基地を勝手に壊した馬鹿が居たせいで四国から九州のルートが拓けちゃってるから。ただ、だからって突撃して一度の遠征で核の破壊に成功しなかった場合、作戦に参加した艦娘は基本的に救助待ちになってしまうんだよね。

 どういう事かっていうと、変色海域の隠された効果がその猛威を完璧に揮って来やがるのだ。実は変色海域には艤装に継続ダメージを与えるっていう不思議な特性がある。私の艤装も毎回修理に出されるのはこれのせいなんだけど、普段は出撃中はそんなに気にならない……まぁ、基本被弾の無い私達だからっていうのもあるけど、他のみんなもそれがトドメになって轟沈なんて事態には殆どならないような、そんな程度の速度でしか傷つけられないようなものなんだ。

 でも九州を回って反対側までってなると話が違う。行きだけならどうにでもなるし戦闘が起きないのであれば帰って来る事も可能だろうけれど、現状九州の内部ですらあんまり情報が無いというのにその向こう側だなんて何が起きてもおかしくない訳で。確実に敵は居るし、苦戦でもしようものなら帰りの分の艤装のHPは無くなってしまうだろう。そうなったらもう陸に避難するしかない。でも、陸地なら安全かっていうと全くそうではない訳でね。殆ど解放された四国ですら下級ばかりとはいえ徘徊エネミーがそこそこの頻度で見つかるのに、完全に変色海域内の九州とかどうなってるかなんて分かったもんじゃない。逃げ込んだ先で全滅とか普通にあり得る。ボウケンシャーみたいに糸持ってけるなら良かったんだけど。

 地上を通って反対側へっていうのもリスクが高い。何度も言うけど陸戦はデメリットが多すぎるのだ。こちらが先に敵を発見できればなんとかなるんだけど、逆の場合はそりゃあもう酷い事になる。なった。死人出なかったけどこないだ書田艦隊が轟沈五名くらい出して鬼級の首取ったらしい。鬼一体でそれだぞ姫居たらどうなるんだよ……

 もう全部千切って投げて来るから私一人だけぶち込めよって思わなくもないんだが、万が一にもあり得ないとは思うがもし許可されたとしても、戦闘はともかく核の捜索が私一人だとどうにもならない。ダミーが多数用意されてる可能性は高いし、深海にあった場合私じゃ発見が不可能になる。私は目も耳もいいけれど、そもそも光自体が無かったり何も動いてない場合は発見出来ないからね。

 大艦隊で護衛している、とかなら私でも見つけられるだろうけど、なんか戦力小出しにして嫌がらせして来ている現状を鑑みると期待薄って気がするんだよね。っていうか遅延行為ばっかで相手がどういう勝ち筋狙ってるのかよく分かんないんだよなぁ。もしかしたら南は時間稼ぎに徹してるだけでもうまともに戦う気が無いのかもしれないなんて話も出てきている。その場合本命は北だろうかねぇ。それか横浜辺りに奇襲してくるか。猫吊るしの話を元に考えるとそもそも勝とうって気が無い可能性もあるのが酷い。

 閑話休題、とにかく四国や本州からの長期遠征は艦娘を一人でも失うと大打撃になる現状では変色海域内の大移動は取りたくない選択肢になっているのだ。でもだからと言って生存者が確認されている九州を放っておく訳にも行かないわけで。じゃあどうすんのさって言ったら、もう、作るしかないよね、拠点。九州に。

 

 

 

 

 

「イヤぁ~~~! 大艇ちゃんとあたしはいつも一緒かも~!!」

 秋津洲さんの泣き声が聞こえる。格納庫に広げられたシートの上に置かれた二式大艇ちゃんに抱き着いて、秋津洲さんは心の底から嘆きの叫びを上げていた。

「我慢してくれ秋津洲。今回の作戦、修理拠点が完成するまではお前達の積んだ修理材だけが頼りなんだ」

 対応しているのは長門さんだ。変色海域内の解放前の土地に拠点を作りに行く関係上、普段と違い陸側からの資材の供給は有り得ず、収集班の汲み上げた霊的資源も手元に来るまでラグが出来てしまうため、二式大艇ちゃんを運用する燃料も積んで行くスペースも無いのだと懇切丁寧に説明している。

 今回明石さん達も一緒に海峡を超えて行く事になるんだけど、召集された二人の明石さんはずっと工廠で私達の艤装の面倒を見てくれていて、そのおかげで実戦経験どころか海に出た事すらほとんど無かったりするんだよね。だから、泊地修理の経験値は秋津洲さんの方が圧倒的に高いのだ。なので司令部的には秋津洲さんにはそっちに集中してもらいたいんだそうな。二式大艇ちゃんは航続距離が長くて速度もあるためかなりの有用性があるらしいんだけど、今回の場合秋津洲さんに求められる役割とは噛み合わなかったのである。大きくて目立つのも結構なマイナスポイントだ。

「吹雪にいっぱい積んでってもらえば大丈夫かも!?」

「拠点の建材を押し込む予定で、そちらにも空きはほとんどないんだ」

 使う予定の無い二式大艇よりは資材を優先したいと秋津洲さんの発言はバッサリと斬られた。こっちにも矛先が向いていたが、長門さんの言う通り輸送艦の私の側も余剰スペースはあんまりない。簡易とはいえ工廠や寝床なんかを作らなきゃならないから仕方ないんだけども。

 

 この度、私達宮里艦隊は九州に探索拠点を作るための拠点を設置する事になった。四国の向かい側で距離的には大したことのない位置なのだけれど、変色海域内に組み上げるとなるとどうしても普段と勝手が違う。私達がいつも使う鎮守府って呼んでる建物群は自衛隊の皆さんが資材の搬入から工廠の機器の導入までを事前にやってくれているのだが、今回の場合は普通の船で行き来出来ないため、艦娘がそれらの作業を行わなければならないのだ。

 そうなると動員されるのが戦闘部隊水準の適性を持たない自衛隊の艦娘だ。その辺りの技術を持った人たちを集め、戦闘部隊で護衛して行く事になる。なんだかんだ毎回お世話になってるんだよなぁ、こういう所もっとアピールして評価に繋げられないだろうかって思うんだけど、民間人戦わせて自衛隊は支援ってイメージが悪すぎてどうしようもないんだよね……絶対必要な所なんだけど。

 ちなみに護衛には私達も加わり索敵を行う訳なのだが、今回私は基本的に超機動を行えない。なんでかって言えば、私が今回のメイン輸送艦だからである。艦の中は資材で一杯で、車とか小型クレーンとかも大発に乗っけて積んであるのだ。だから中が滅茶苦茶になるような動きは禁止されてしまったって訳。一応固定はしてあるからちょっとくらいは大丈夫だと思うんだけど念のためだからね仕方ないね。

 

 秋津洲さんだって今回の作戦の主旨はちゃんと理解している訳で、どうしても二式大艇ちゃんが居ないと嫌って訳ではなかったらしく、最終的には大艇ちゃんに今生の別れのような涙声でまたねと告げると夕日に向かって走って行った。なお任務の開始は明日である。

 大艇ちゃんも大変だなぁなんて思いながら彼女……彼女か? 女性人格なんだろうか、なんとなく女の子っぽい印象だけど……ともかく二式大艇ちゃんの方を見れば、ばっちりと側面に描かれた顔と目が合った。それただのペイントじゃないんだ……?

 私がお互いピントが合ったと確信出来た事に動揺していると、大艇ちゃんは少し困った様な笑顔でこちらに向かって機首を下げた。妹をよろしくお願いしますと言わんばかりのどことなく畏まった雰囲気だった。え何、君らの関係性そっちが姉なの? どう考えても秋津洲さんの方が産まれたの早いよ??

 

 

 

 

 

 朝に出て、陽が陰るより前には目的地に着いた。

 四国から九州に行くのにしては掛かりすぎって思うかもしれないけど、四国の端から行ったわけじゃないのと、自衛隊の艦娘達の速度の合わせ技である。適性値が低いって本当に致命的なんだよねこの世界。出力も速力もなにもかも影響されるって酷い。どういう基準で高い低い決まってるのかもよく分からないしなぁ。推定高めの人達はなんとなく集合無意識の艦娘に似てるらしいけど、全然違う人も居るみたいだし。龍驤さんとか。

 実は速度だけなら私の大発に乗せるって手もあったんだけどね。これなら一般の、それこそ男性の自衛隊員が九州に乗り込めるはずなんだけど、万一敵の攻撃が通ろうものなら全員お亡くなりになるので採用されなかった。

 じゃあ艦娘乗っけてけばって私は思ったんだけど、猫吊るし曰く、艦娘は大発に乗れないらしいんだよね。正確には艤装乗せると何故か暫くのちに沈むらしい。大発に駆逐艦やら戦艦やらは乗らないとそういう事なんだろうか。理不尽である。ちなみに私が四国で少しだけ乗ったのもあんまり良くはなかったらしい。

 でもまぁ、ちゃんとみんな無事に到着出来たから問題は無いのだ。道中何度か襲われたけど、ほとんど被害らしい被害も出なかったし。

 

 陸に上がるとまずは索敵が行われた。一応前日までにすぐ傍に敵拠点が無い事などは確認しているけど、敵の勢力圏の中なので半日もあれば状況が変わっていてもおかしくない。なのでみんな真剣に周囲に目を凝らしている。私も耳を澄ましつつ猫吊るしを投げ上げて辺りを見回してもらうが特に何も無し。最近投妖精さんフォームが定まって来たんだけどこれ定番にしちゃっていいんだろうか。なんて思ってたら問題無しとの判断が下ったので、私は艤装から大発だけ発艦させてから艤装を背から降ろして自衛隊の皆さんに受け渡した。

 私のものに限らず艤装は霊的資源だけであれば艦娘無しでも搬入出が可能である。問題は大発とかに乗っけた普通の物質で構成された物で、これらもそれなりの量を一度に運べるのだが、代わりに適性者無しだと出し入れが不可能になる。その上、起動していない状態で海の上に出すと乗っけた重量がそのまま圧し掛かって来るのだ。当然、小舟であればそのまま沈んでしまう。

 これたぶん、艤装に物を入れて運べばホイポイカプセルみたいになっちゃう事への対策だと思うんだよね。その仕様が無ければ物凄い便利だったと思う。輸送艦を大量に作って船に乗っければ荷物運び放題だったろうし。まぁそれが許されると輸送艦娘の仕事がかなり限られちゃうから仕方なかったのかもしれない。二式大艇ちゃんも似たような事出来るらしいし。

 そもそも、適性者が居ない状態の艤装って見た目以上に重い。猫吊るしによると艤装が集合無意識と繋がっているが故のデメリットらしいんだが、海の上だとその艦の元の重量をある程度受け継いじゃうらしいのだ。だから予備の艤装を誰かに持たせて行くってのが出来ないらしい。

 でもこれ、知っての通り抜け道があってだな。

 

「吹雪さん」

 荷物を降ろした私に向かって一人の女性が駆けて来る。その人は今回の任務に当たって他艦隊からわざわざ来てくださった自衛隊の艦娘の一人だった。今回は割とそういう人が多く、注目されがちなのもあってちょっと私は居辛かったりする。でも、目の前で止まって艤装を降ろしている彼女と私とは、今日が初対面という訳ではない。むしろ目の前のこの人は、私が産まれて初めて実際に会った艦娘である。

「どうぞ、燃料の補給は終わらせてあります」

「ありがとうございます、白雪さん」

 抱えた艤装をこちらに受け渡す自衛隊の艦娘、白雪さん。実はこの人、適性検査の日が私との初遭遇である。そう、彼女は私の提督適性の面接を行ったあの艦娘さんだったりするのだ。

 最大適性は呼び名の通りの白雪で、あの時の見立て通りやっぱり吹雪型だった。本人は私に顔を覚えられているとは思っていなかったらしく、あの時大声を上げた事もあって、記憶されていると知った時はちょっと恥ずかしそうだった。

「破損状況は問題の無い程度、という事ですが……」

「はい、これくらいなら大丈夫だと思います。そんなに長居もしませんから」

 渡された艤装を軽く検分してみたが、まあ私達の速度なら壊れる前に変色海域を余裕で抜けられる程度のダメージである。白雪さんがさっきまで使っていた艤装なので変色海域の影響は受けているけれど、大して問題は無さそうだった。

「白雪さんは大丈夫ですか? 艤装が無くなりますけど……」

「そこは承知して来ていますから、こちらの事は気になさらないでください」

 同じ艤装を扱える艦娘が現地で無装備になる事を覚悟出来るなら、予備の艤装は持って来れる。四国でも似たような事態になったけれど、今回はその抜け道が最初から航路に設定されていた。

 白雪さんは今、私と同じ色で同じ長さの髪をしてここにいる。本来の自分の白雪の艤装ではなく、私のために吹雪の艤装を使って九州までやって来たからだ。話によれば白雪さんは動かすだけなら十種類以上行けるというかなり珍しい艦娘だそうで、その中で白雪の適性値が一番高かったから白雪を使っているだけなのだという。吹雪型だけじゃなくて特型に満遍なく適性があるとかで、艤装を変えるたびに髪の色が大変化するからちょっと心配になってしまうらしい。夕雲型や白露型を複数使えるとかよりはマシのような気がしなくもない。

 お気をつけて、と告げると白雪さんは設営の準備に走って行った。一人だけ無防備な状態でこんな所で作業とか、今日もまたお世話になった人が増えてしまった。ちゃんと報いるためにも今日も一日頑張るぞい。もう夕方近いけど。

 

 レーダーで索敵しているはずの島風を探して辺りを見回すと、周囲では球磨さんと多摩さんが大発から重機を下ろしていたり、皐月さんがちょっと気分が優れない人の体調のチェックを行ったりしていた。この間の講習で知ったばかりなのだけれど、皐月さんって医官らしいんだよね。淡路島の時に同行者に選出されたのもそれが理由の一つだったんだそうな。

 変色海域を抜けて来るなんて非戦闘員の人達にとっては初めての経験な訳で、そりゃあ体調がおかしくなる人も出る。さらにここで何かあったら皐月さんが診なきゃならないのでプレッシャーは凄そうだ。

 艦娘で医師免許持ってる人とか彼女ともう一人くらいしか居ないらしいので、実は皐月さんも替えの利かない人材の一人なんだとか。作戦会議で執刀も視野に入れてねって楠木提督に言われて顔面蒼白になってたのは記憶に新しい。まだ若いからね皐月さん。

 知らない艦娘達の間を抜け、訓練所でお世話になった伊良湖さんに挨拶して、見つけた島風を連れて海に出る。宮里提督に予定通りに発つ旨を伝えると、私と島風と連装砲ちゃんは九州を後にした。

 猫吊るしには妖精さんを目いっぱい働かせるために残ってもらうため、今回は普通に滑走だけで行く予定である。だから走るんじゃあないよ島風。おい走んな。妖精さんが死ぬ。

 

 私の今回のお仕事は輸送艦である。それも一回運んで終わりとかそういう話じゃあない。容量に限界があるから、何往復かして必要な物を揃えなければならないのである。だから今回、輸送艦吹雪はなんと三隻用意されたのだ。

 私が護衛をしながら持って行ったのが一隻目、今は九州で妖精さん達がえっちらおっちら中から荷物を取り出しているはずだ。そして二隻目と三隻目は今、宮里艦隊の鎮守府で荷物を満載にして私の事を待っている。私と島風は高速でそれを取りに戻って、資材と一緒にまた九州へと舞い戻らなきゃならないのである。

 つまり今日、寝るまでに、我々第四艦隊は九州四国間を後二往復せねばならんという話なのだ。何かあったら三往復目も視野に入っていたりする。だから荷物の積み下ろしが終わるのを待ってられなくて、白雪さんに普通の吹雪の艤装を持って行ってもらった訳なのだ。

 ちなみにこの作戦、必要に迫られるたびに私に輸送艦としての任務が発生する。今作っているのは基地を作るための基地で、九州の反対側に到達するまでに何回か拠点を移す予定が存在するからたぶんそこそこの頻度で行き来する事になるんじゃないだろうか。もう内陸突っ切ってった方が早そうだけど、そこは安全策を取らざるを得ないようだ。全然安全でないというのは置いといて。

 うん、あれだな、私輸送艦で良かったなこれ。変に戦闘力上がるよりよっぽど役に立てるわ。護衛の要らない高速輸送艦で他勢力の勢力圏内に拠点作るとか頭おかしい。いない間に拠点そのものが襲われたら困るけども、宮里艦隊の人達って基本強いからなんとかなる。たぶん。

 

 

 

 

 

 島風が高速で走る事を主眼に置かれた作戦に大はしゃぎだった事を除けば特に問題らしい問題もなく、私達は予定通りに往復を終えた。

 いや、本当に特に何事も無かったんだよね。敵は出たけど下級ばっかりだったし、鎮守府の方は他の艦隊の人達が守ってくれているからそっちも心配しなくていい。ちなみに九曽神艦隊である。瀬戸内海はとりあえず大きな動きが無ければ様子見で問題無いらしい。

 私は鎮守府から輸送艦吹雪(1)で出て、九州から駆逐艦吹雪で帰り、また鎮守府から今度は輸送艦吹雪(2)で出発、九州で搬出の終わった輸送艦吹雪(1)に乗り換え鎮守府へ戻り、今は輸送艦吹雪(3)で荷物をここまで運んで来た訳だ。なので今九州には私専用の艤装が二つもあるんだが、代わりに白雪さんが使う分の艤装はここには無くなってしまっている。改二は強いけどその辺りの融通が利かないのが困りものだ。いやそんなケース滅多にないだろうけどさ。

 そんな訳で艤装と荷物を納入して任務を完了するため設営地点に戻ると、そこには既に簡易な建物が完成していた。どうやら寝床などを優先したらしく工廠はまだ出来ていない様子で、テントの中で秋津洲さんが寂しそうに修理に勤しんでいた。ちなみに大艇ちゃんは日向さんに熱い視線で見つめられていたので寂しくはしていないと思う。あの人瑞雲以外も意外と行ける口らしい。

 妖精さん達に艤装を預け、二往復終わりましたと提督に報告に行ったらば、それじゃあ今日はもう休んでくださいと指示を受けた。戦闘部隊の皆は索敵なんかを行いながら順番に休憩に入っているらしい。私も起きたらその中に入る事になる。徹夜は苦手なので助かった。

 ここは危険地帯で、我々が見つかっていないなんて考えは捨てた方がいいくらいなので、実は撤退が最初から視野に入っている。というのも、この作戦って相手の攻め手が温いのを良い事に無理矢理敢行されてるようなもんだから、前提としてこっちの戦力を力押しでどうにか出来ちゃうような大部隊を私が居ない時に投入されるとそれだけで瓦解するんだよね。だから輸送時間は出来るだけ少なくした方がいいんだけど、私以外が行くと護衛を付けなきゃならないのでどっちもデメリットがあって悩み所さんなのだ。

 一応ここが完成したら提艦隊が合流して攻めと守りに分かれる予定になってはいるのだけれど……実際の所、敵戦力がどれだけ残っているのやらはよく分かんないからなぁ。

 

 空を見上げると星が出ていて、空気が澄んでいる事がよく分かった。変色海域の効果範囲内ではあるのだけれど、海上でなければあんまり影響は見られないのだ。

 そろそろ夜中は寒い季節で、薄着の私達は艤装が無いと冷えてしまう。上着を着る事も検討しないとなぁなんて考えながら、明石さん達に艤装を預けに行った島風を待っていると、島風の入って行ったそのテントから入れ違いで長門さんが出て来るのが目に入った。どうやら長門さんも艤装を修理してもらいながら休憩に入るところのようで、目が合うとこちらに向かって歩いてくる。さもありなん、仮眠所は私の向こう側である。

「今日は終わりか?」

 長門さんは私の前で足を止めると、労わりの心が漏れる声色でこちらに話し掛けて来た。これから眠って朝に備える旨を伝えると、長門さんは頷いて、ほんの一瞬だけ迷った末に私に質問を投げかけた。

「輸送任務はどうだ? 普段の討伐任務と比べてだが」

「敵も大したことが無かったので、楽でした。島風を抑えるのが一番難しかったですかね……」

 楽か、と長門さんは呟くと、そうだったとしても体調には気を払い疲れや体の違和感が出たらすぐに言うようにと促した。うーん心配されてる。

「今日は敵はここには出現しなかったが、明日はどうなるか分からん。撃退出来る規模ならいいが、もし、どうにもならないような数だったなら、我々は撤退しなければならない」

 その時、私達が回収しないといけないのは皐月くらいであり、他の自衛隊員達は見捨てなければならない。長門さんはそう語る。努めて平坦に。おかげでむしろ言いたくもやりたくもないんだなというのがひしひしと伝わって来ちゃってるけど。

 ちゃんと逃げろよ、絶対だぞという長門さんの言葉に頷けば、長門さんはしっかり体を休めるようにと言い残して足取り重く去って行った。長門さんはこの作戦、賛成か反対かで言えば大反対だったみたいだからなぁ。っていうか、現場の人間で賛成意見な人殆ど居なかったっぽいんだよね。私は楠木提督が主導してるからたぶん大丈夫なんだろうなって思ってるんだけど、転生者って変な前提持ってる私と他の人達じゃあ感想に大きな差が出てしまうよねそりゃ。いや転生とか関係なく楠木提督だから大丈夫って人は結構居るらしいけどさ。

 辺りからは響く建築の音と、少しくぐもった修理の音、それに動き回る艦娘と妖精さん達の声以外は特になんにも聞こえない。とりあえず今は眠ってしまって大丈夫だろう。騒がしい島風と連装砲ちゃん達の音がテントから出て来るのを待って、私達は寝所へ向かった。

 

 

 

 

 

 異音。

 それは恐らく東の方から聞こえてきた。

 知らず気を張っていたのだろうか、私ははっと目を覚まし、何かの危機感を覚え、素足で外へ飛び出した。同時、辺りに警報が鳴り響く。

 頭上には輝く星々、地表には赤黒く染まった海の水。そのどちらにも、点々と黒い金属質な物体が浮かび上がっていた。

 砲撃。

 それは水平線からこちらに向けて発射され、空中で爆散しその身を分けると、地上に存在する私達に向かって降り注ごうとする所だった。

 

 ――三式弾だコレ!?

 

 私は足元の小石を拾い上げると慌てて空へと放り投げた。高速で飛ぶ丸い何の変哲もない小石。それは直近にあった弾子の一つを弾き飛ばすと、それに弾かれその隣の弾、更に弾かれまた次の弾と連鎖を続け、弾かれた弾もまた他の弾と追突し、計百十二の弾を打ち落とす事に成功した。

 だがそれだけ、三式弾一発に含まれる数百の弾子全てを相手するには到底力が及ばなかった。でも、そのそれだけの成果が、石と同時に走り出していた私の進む道を切り開いた。

 恐らく相手はまともに狙いを付けていなかった。いや付けてはいたのだろうが、最も効果的な場所に落とすだけの精度を持っていなかったのだろう。弾子の大半は誰も居ない空き地に落ち、何の被害も及ぼさない。ただほんの一部だけが、明石さん達が作業をしていたテントに着弾し、熱を伴う爆発を巻き起こした。

 中からはずっと金属に金属をぶつける音が聞こえていた。居るのだ、中に人がまだ。私は上がろうとする火の手を無視してテントの中へと跳び込んだ。

 果たして中には二人の明石さんと秋津洲さんが倒れていた。突然の事に叫びも上げられず、衝撃のままに倒れ込んだのだろう。どうやら意識はありそうで、背負った艤装の被害も大したことは無さそうだった。三人とも物陰に隠れるように倒れていたのも良かったのかもしれない。何かが三人の盾になっていたのだ。

 しかしまずはとにかく避難である。被害に遭ったテントは今にも崩れそうになっている。私はまず二人の体を引っ掴み、それぞれ右と左の肩に乗せ、最後の一人も担ぎあげるとその場からひょいと離脱した。

 その時に見えてしまった。明石さん達を守っていたものの正体が。それはかなり大きな艤装だった。宮里艦隊で三番目に大きな艤装。下部を修理していたのだろう、少し高い所に置かれたそれは長門さんの艤装であった。起動状態でもないのに仲間を護ってくれたらしい。すげぇや。

 それと少し離れた所に私の艤装二つも置いてあった。装甲が外され機関部が露出しているのでたぶんメンテナンス真っ最中だったものと思われる。位置的には端の方、一番奥にあったからか被弾もしておらず、どうやら無傷である様子。あの状態で起動出来るかは分からないけど後で回収はせねばなるまい。だがとりあえず、普通の火なら燃えたりしないのでそれは後。今は一旦明石さん達を避難させる事に注力した。

 

 テントの外へと二歩で飛び出て、そこでハタと気が付いた。よく考えたら三人とも艤装背負ってるんだから私が運ばなくても大丈夫だったかもなと。

 だがまあ、避難が早いに越した事は無いだろう。ともかく海から離れた位置まで明石さん達を運ぼうと、私はさらなる一歩を踏み出そうとして、その刹那。またしても上空で砲弾が弾け飛んだ。

 大きな弾から撃ち出された小さな弾が散弾となって降り注ぐ。ただそれは、今度は狙い通りなのかそうでないのか、私達の上を素通りして先ほどまで居たテントの奥側に集中的に突き刺さった。私の艤装が置かれていた、テントの奥側に集中的に。

 何かが爆発する音が二回聞こえた。

 

 ギ、艤装ダイーーー~ン!!!

 

 

 




二隻は犠牲になりましたが死傷者は出ていないので問題ありません。


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誰かじゃなくて自分で止めた結果がこれだよ

 急襲に反応し、泊地は一気に目を覚ました。事態に気付き鳴らされた警報と砲撃の落ちる爆音に叩き起こされた人間達が、己の艤装の下へと走って行く。急ぎ夜番の艦娘達と合流し、状況次第で直ちに出撃するために。長門もその飛び出した中の一人だった。

 他の娘と違ったのは向かった先である。長門は艤装を預けた際、おそらく夜明け頃まで修理は終わらないと告げられていた。そのため艤装の保管されている工廠予定地ではなく、預けた明石達の所へと直接受け取りに走ったのだ。

 そこで見たのは、テントの外で何かの上に乗せられて混乱した様子でもがく明石と明石と秋津洲だった。積み方が雑なのか身に着けた艤装同士が干渉して身動きは取り辛そうだ。その三人の下からは、靴も履いていない素の足のようなものが生えていた。奥では完全に倒壊した修理工場代わりにされていたテントが炎を上げ始めている。自分の艤装はあの中だろうと判断は出来たが、長門は違和感しかない奇怪な塊を前に足を止めるしかなかった。

 それが立ち尽くしていたのは一瞬の事だったのか、急に長門の方へと向きを変えると一歩を踏み出そうとして、長門に気付いてその動きを止めた。改めて見ればどうやら異形の物体は明石達を背負った人間だったらしく、やけに造りの整ったその目の中に長門を映すと、少し驚いた様子で左右完全な対称に見える唇の奥から音を発した。

「長門さん!」

 それは吹雪だった。明らかに普通の人間には背負えない重量を肩に背に乗せ、それを感じさせない声で向かい合った長門の名を呼んでいる。何やってんだこの子。長門の寝起きの頭はそんな感想を吐き出す以外出来なかった。

「下ろしてほしいかも! 関節極まってるかも!!」

「えっあっ、済みません!」

 長門が何かリアクションを取る前に、秋津洲の四肢が限界を迎えた。いや、艤装を背負っているためダメージは無いはずなのだが、精神的に辛かったのかもしれない。

 慎重に、けれど素早く吹雪は三人を地面に降ろした。関節に異常は無かった様子の秋津洲が安心した様子で立ち上がり、明石達も状況は呑み込めていない様子だったが艤装を背負い直して態勢を整える。それを見届けると、吹雪は何かに気付いたようにあっと声を上げた。そのまま後ろを振り返ると、長門が止める暇も無く、崩れたテントに向かって走り出す。残像が見えそうな速さだった。

 反射的に長門も後を追おうと走り出し、数歩先に居た明石の横を通り過ぎた時、何かを頭上に掲げて吹雪が炎の中から飛び出してきた。そのまま長門の目の前に着地すると、お届け物ですと言わんばかりに長門の横にその明らかに吹雪自身より重量のある荷物をそっと据える。それはどうやら長門の装備するべき艤装だった。

「これ、使えますかね……?」

 吹雪は心配そうな声で聞いた。艤装にはかなり被弾の跡があり、修理の途中だったのか、部分的に装甲が剥がされてしまっている箇所もある。一目で状態を見抜いた明石達から絶望の悲鳴が上がった。

「折角直したのに!!」

「大破寄りの中破……って所かな……」

 完全に壊れてはいない。だが戦いに出すにはかなり躊躇する状態である。今回は夜戦になると思われるため長門は出撃を見送った方がいいかもしれない。だがそんな事よりもだ。

「お前は何をやってるんだ……!?」

 長門は吹雪を真っ直ぐに見つめていた。人によっては睨まれたと思うかもしれないくらい真剣な表情で、あまりの事に語気も荒くなっている。

 艤装は確かに長門に必要だった。出撃は出来ずとも身に着けていれば生存率は格段に上がるし、所在不明であるよりは対処もし易い。変色海域内で信頼性こそ損なわれているが、通信機だって付いている。身体強化量は変わらないため救助や工作も可能であるし、他にどうしようもなければただ味方の前に居るだけでも盾として機能しなくもない。総じて有ると無いとではあらゆる点で大きな差が出るのは確かである。

「生身で炎に跳び込む馬鹿がどこに居る!!」

 だがそれは、他の艦娘が命の危険を冒してまで得なければならないほどのものではない。まして最大戦力の担い手がやるべき事では絶対になかった。

 言われた吹雪も多少不味い事をやっている自覚はあったのか、少し目を伏せ、しかしすぐに長門の目を見返した。

「私の体は丈夫なんです、例のあの、体質のせいで」

「だとしてもっ……!」

 そういう問題ではない。魔力という特異な能力を計算に入れたとしても、発生するガスまで大丈夫と言う保証はないし、あったとしてもやっていいという事にはならないのだ。

「いや、話は後だ。艤装を取って来い、吹雪」

 ここで言い争う意味は無い。今ここは危険地帯であり、吹雪をこのまま生身で居させるのはリスクしかない。長門の冷静な部分がそう判断を下した。

「あっ」

「吹雪さんの艤装って」

「あの中かも……」

 修理工となっていた三人が不味いと冷や汗をかきながら指差したのは、吹雪が飛び出してきた炎を上げるテントそのものだった。それを見つめて、長門も吹雪も言うべき事を見失った。

「…………えっと、取ってきますね」

「いや……私が行く」

 長門は気勢を完全に削がれた。

 

 

 

「これは……どうなんだ、明石」

 急ごしらえとは言え多少は遮蔽になる仮眠施設の影に場所を移し、吹雪の艤装の状態の検分が行われた。折れたマスト、露出した核、抉れ欠損した排気塔、大発の出入口などは開閉部が消失してしまっている。長門が自分の艤装で物理ダメージを無効化しつつ運び出したその二つの艤装は、しかし、誰がどう見ても動くとは思えないくらいに大きく破損してしまっていた。

「お手上げですね……二隻とも轟沈判定です、基幹部まで逝ってますからこれだと浮く事すら……」

「やはりか……」

 これで吹雪は海に出られない事が確定した。艦隊は戦力が大幅に低下する事になる。幅が大きすぎて眩暈がしそうなほどだった。起動は出来ている長門の通信機からは概ね皆出撃態勢に入り終え、襲撃時に見張りについていた一部は既に航空機の一団と戦い始めている旨が聞こえて来る。

 どうやら敵の数はかなり多い様子だが、報告によるとその出現位置は砲撃がここまで届くとは思えない距離だった。最初の三式弾の二撃は突出した一体だけによるものだったようだ。多くが射程圏内に入っていないうちにこちらに迎撃態勢を取らせてくれた事は不幸中の幸いだったが、その一体が出した被害はかなり大きかったと言える。何しろ最大戦力の消失である。その一体に関しては、川内が勝手に首を獲りに向かった。夜でテンション上がって元々海に出ていたらしい。止めようにもいいタイミングで通信が繋がらなくなったので彼女に関しては後でまた始末書を書かせねばならない。

「仕方がない、避難するとしよう」

 今ここに艦娘は五人居るが、戦えるのは長門のみ。他は泊地修理特化装備をした三人と生身の吹雪だけである。動ける長門も海に出て動き回るには艤装の状態が心許ない。それならば四人を護るために動いた方が有益だろうという判断だ。

 その旨を宮里提督に報告し、想定されていた緊急時の避難計画通り、ある程度安全性の高い場所へと移動を開始しようと長門は周囲に目を走らせる。少なくとも見える範囲には問題は無く、レーダーにも影は無い。避難するなら今だろう。

「長門さん」

 そのタイミングで、吹雪が声を上げた。吹雪は何かに迷っているような素振りだったが、自分の中で何かが定まったのか、意を決したように長門の方をしっかり見て、言葉を続ける。

「私、戦えます」

 こいつは何を言っているんだろう。

 長門は返答に窮した。だって普通に考えて、今の状態で戦える訳はないのだから。正気を疑わざるを得ないのだが、吹雪の様子に特におかしな所はなく、普段より少し真剣そうなくらいであった。

「戦えるんです、私、艤装を付けていても付けていなくても、筋力とかは変わらないんです!」

 えっ、と周囲から困惑の声がした。長門はある程度把握していたが、他の娘達はそうではない。突然の告白に目を白黒とさせていた。

「……だとしても、海には出せない」

「私、水の上なら走れます! 以前試しましたけど、沈んだりしません。変色海域だって大丈夫です!」

 吹雪は片手を前に差し出した。なんだと四人が注目すれば、その拳は突然光を放ち、周囲を明るく照らし出す。

「無効化能力だって自力で貫通出来ます、自分の体に付与出来るんです!」

 言いながら、吹雪は自分の壊れた艤装に歩み寄ると、折れて使い物にならなくなったマストを取り外した。それを軽く宙に放り、輝く拳を一閃させる。一瞬の後、乾いた音を立て、縦に両断された帆柱が地面を転がった。

 ひえっと小さな悲鳴が上がる。素手で金属を切り裂くのを見せられて、驚きのあまり誰かの口からつい出てしまった物だった。

「お願いします長門さん、行かせてください!」

 吹雪は真剣な目で長門に許可を求めた。その瞳からは、一切の恐怖も焦りも感じられなかった。

 

「駄目だ」

 

 長門が思ったより、言葉はすんなりと出て来た。吹雪の方も却下されると分かっていたのだろう、やはりという雰囲気が出ている。だが、諦める事はしなかった。その薄い表情から、何か説得材料を探そうと頭を回転させているのが目に見えた。

 

 長門が覚えている限りでは。吹雪は勝手な振る舞いをする事は少なかった。殆どの事はしっかりと許可を取ってから行い、突飛な事をするのは大体が緊急時か伺いを立てる事が出来ない場合だけである。たとえば今回であれば、突然の襲撃に対して咄嗟に明石達の救助に向かい、混乱したまま生身で長門の艤装も取りに炎の中へと走って行ってしまっただけなのだろうと理解していた。

 それはつまり、吹雪にとって突入する空間が燃え上がっているなんて程度の話は、躊躇いが発生するような事態ではないという事だ。生まれつき身体能力がおかしい故か、根本的に安全圏の範囲が他人と大きく違っているのだ。

 吹雪は素直に命令を聞き、非常に強く、真面目に戦いに取り組む模範的と言っていい艦娘である。だが、兵士として訓練された人間では決してない。だから、ついやってしまうのだろう。考え込む時間が無い場面で、普通の感覚では死に直結すると思われるような行動を、何の気負いもなく、その場の勢いで。

 長門は隼鷹の言っていた事を思い出した。成程、確かにそうだった。それが常識の範囲を逸脱し、許される範囲に収まっていないというだけで、言っていた通りだったのだ。

 この娘はできる事をできる範囲でやっているだけだ。

 無装備で戦いに行くのも、その範囲内であるというだけの話なのだ。恐怖などあろうはずもない、できて当然な事をできると宣言しているだけなのだから。焦りなどあろうはずもない、仲間を案じるあまりに無理を言っている訳でもないのだから。

 判断基準が違い過ぎるのだ。普通と異常の境を頭で理解できているのに、感覚的にはまるで一致していない。普通の人間から見て相当の覚悟や集中を必要とするように見える事が、吹雪にとっては片手間で出来るような事でしかない。吹雪はどうやら今の状態でも戦いに行けば勝てると確信しているし、おそらくは、本当に余裕で勝って来るのだろう。

 なんとも頼もしい話だ。危機的状況の場所に置いておけば、自分から戦って勝ってくれる。人間として扱わない方が、きっと誰しもの利益になるのだろう。

 鎮守府の外を見渡せば、幼い英雄に向けた賛美の声などいくらでも聞こえて来る。艦娘に頼るしかない現状、それは仕方の無い事だ。特に吹雪の場合、場所も時も選ばずにそう言われるだけの成果を上げるのだから、そりゃあ頼りにもされるだろう。長門だって、頼っていないなどとは口が裂けても言えない状態である。全体に練度が上がり、倒せる敵が増えてきた今であっても、同鎮守府の戦果の過半数は吹雪が挙げているのだから。

 たった一人を前線に縛り付けておくだけで、半永続的な勝利が約束される。なにしろ吹雪は最早不老である。百年後でも千年後でも、その戦闘力が損なわれる事は無いだろう。

 深海棲艦はいつか居なくなるのだろうかという議論は暇なく行われている。尚早過ぎて結論なんて出ない話ではあるが、前線で奴らを見続けて来た長門には、消えて無くなって全てが解決するだとか、そんな事は有り得ないように思えた。

 だからそれと戦う事の出来る艦娘は絶対に必要なのだ。吹雪は戦わなければいけない。だって戦えるのだから。だって誰よりも強いのだから。

 できるのだからできるだけの事をしなければならない。

 

 そんな馬鹿な話があってたまるものか。

 

 吹雪は召集されてきた一般人だ。おそらく、正義感に燃えて知らない誰かのために行動するタイプでもない。目の前の手の届く範囲を護ろうという優しさはあれど、見えない所で死んで行く誰かのために身を捧げようという人間ではないのだ。そうであったなら、最初に深海棲艦が現れた時に戦いに赴いているだろう。本人の言が正しいのなら、当時も今とほとんど変わらない戦闘力だったはずなのだから。

 吹雪は『普通の』善い娘なのだ。決して逸脱した無私の精神を持った人類への奉仕者などでは全くない。それが、危機に瀕した日本のために、自由を奪われ戦いに身を投じさせられている。どう言い繕ったところで、その事実に変わりはない。

 滅びの危機なのだから、戦える人間は戦うべきなのだろうか。きっとそれはその通りだ。そう思って自分から戦いに行く奴の事をきっとヒーローと言うのだろう。現実に居たらとてつもなく有難い存在だ、けれど迷惑な一面も少なからずある。だってそれは、許可も得ずに勝手に戦っているという事でもあるのだから。

 そういう意味で、吹雪はヒーローではない。その場の判断で暴走する事はあるが、勝手に戦いに行った事は無いのだ。どちらがより善いとかの話ではない、性質が違うのだ。

 意識的なのか無意識なのかは分からないが、吹雪は自分が力を使う事に、制度的な許可を求めている節が見える。おそらくは、勝手な判断で動いた場合の影響を自分で読み切れていない。やれるかどうかは分かっても、やっていいのかが分からないのだろう。だから許可さえあれば、その善性から喜んで命令を全うしてくれるのだ。

 ならばその許可を与える側は無制限に命令をするべきなのだろうか。やらせればできる。だからやらせる。正しいように思える。平時ではないのだ、前線で潰れもしない奴を使い倒して責められる謂れも無いだろう。

 戦えるのだから戦わせるべきなのだ。強いのだから他人を護って当然なのだ。できる人間はできる事を十全にやって、それで初めて今の状況を打破出来るのだから。

 そんな事を厚顔無恥に言う奴が居たら、間違いなく長門はぶん殴っている。 

 そもそもやれる人間はやれる事を全てやるべきなのだと言う話が大嘘だ。そうであるのなら、何故内地で安全に暮らしている連中は己の隣人を護るために海までやって来ないのだ。倒す事は不可能でも、やれる事などいくらでもあるというのに。

 日本国においてすべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するからか? 全く以ってその通りだ。否定出来る要素が無い。だがそれは吹雪も持っている権利のはずだ。強いと権利を剥奪されると言うのでもない限りは。

 吹雪が戦いに怯える人格だったらもっと分かり易かったかもしれない。出来る事をやるだけだからと全く恐怖を感じないような奴だったから、こんなに分かり辛くなっているのだ。それを責めるのはお門違いだろうけども。

 

 吹雪はどうにか許可をもぎ取ろうと頭を悩ませている。戦いたいのではなくて、やれる事をやらずに後悔する羽目になるのが嫌なのだろう。その気持ちは長門にもよく分かった。だが絶対に、それをさせる訳には行かないのだ。

「吹雪」

 長門は吹雪の名前を呼ぶと両肩に手を置き、目線を同じ高さに揃えた。初めての事に吹雪が動揺するのが伝わってくる。造形が整ってはいるが、極端に綺麗でも濁っている訳でもない、普通の目をしていた。

「お前は法律上、他の艦娘と同列に扱われている」

 えっ、と吹雪が声を漏らした。何か考えていた事と全く違う事を言われて目を瞬かせている。吹雪が混乱している間にも、長門は言葉を続けた。

「艦娘は法律上、艤装を使った場合にのみ、深海棲艦との戦闘を許される」

「はい……でも、私、艤装が無くても戦えます。絶対に勝って見せます」

 長門は静かに首を振った。そういう問題じゃあない。艤装が無くても吹雪は深海棲艦に勝てるだなんて事は、とうに予想が付いていた。それだけの情報は吹雪自身が開示していたし、実際に見せた能力から考えても明らかだ。でもそれが正しかったとして、無装備での出撃が許可される事など有り得ない。

「違うんだ吹雪。戦う事が可能なのと、戦っていい状態である事は全く違う事なんだ」

 吹雪は今、戦闘不能状態である。実際にはどうであったとしても、今の吹雪を制度上で戦闘可能と扱う事は不可能だった。

「……戦ってはいけないって事ですか?」

「少し違う」

 長門の返答に吹雪は訝しげな顔をした。そういう表情は読み易い。表現は薄いが誤魔化そうとはしていない故だろう。素直なのだ。

「お前は今、戦えない状態なんだ」

 何を言われてるのか分からない。自分の主張を完全に無視されて、吹雪は困惑していた。

「吹雪、艦娘が深海棲艦と戦っているのは、艦娘以外は誰も戦う事が出来ないからだ。戦える人間が、戦えない人間を護っているだけなんだ。だが、その戦えるかどうかの基準は、あくまでも艤装を使えるか使えないか、そこだけだ」

 戦いに恐怖を感じない吹雪と、模擬戦ですら忌避する臆病な艦娘達とで、法律上の違いは一切ない。ここで吹雪が戦いに出るのが許可されるのであれば、他の、普通の艦娘達も生身で戦わせていい事になってしまうだろう。

「艤装が無い時の艦娘は、ただの一民間人だ。護られるべき普通の子供なんだ。いや……本当は、艤装が無い時だけじゃない。本当なら普段だってそのはずなんだ。お前達に頼ってしまう私がこんな事を言っても納得出来ないかもしれないが……」

 肩に置かれた長門の指に少し力が篭る。吹雪にとっては痒くもないくらいのはずなのに、なんでか、それが少し痛く感じられた。

「吹雪、お前も普通の日本国民なんだよ」

 現実的に吹雪は強い、それ故、休ませてやれる暇は殆ど無い。でも、それでも、吹雪が本来享受するべき権利が消えて無くなるというのはおかしな話だ。だから。

「吹雪、お前だって、艤装が無い時くらいは誰かに護られていいんだ……!」

 吹雪が子供でなければまた言う事が違ったかもしれない。今がもっと追い詰められていればこんな事は言っていられなかったかもしれない。不合理で、平等性すら無いと長門自身分かっていた。だがそれでも、長門が平和な国の中で培ってきた倫理観は、年端も行かない子供を命綱すら持たせずに戦場に出す事など、絶対に許さなかった。

 

 

 

 

 

 次の瞬間には、長門は何処かの港に居た。背負っていたはずの艤装は無く、捕まえていたはずの吹雪も目の前から消えている。見渡せば青々とした真昼の空、それに海。静かだが力強い波の声。埠頭には一隻の戦艦が着けている。

 そこはいつも見る、集合無意識の長門の中だった。普段通り穏やかに、柔らかな日差しが辺りを包み込んでいる。でも何故突然自分はここに居るのか、長門にはそれが分からなかった。ここで戦艦長門を眺めながら艦娘の長門と話をさせてもらう事もあるが、自分からではなく向こうからというのは初めての事だった。

 

 ――清実。

 

 急に長門――清実は名前を呼ばれ、振り返った。一部には装甲が付いているものの腋や腹などの露出の多い服、全体に女性的でありながらも何処か力強さも感じさせる体付き。艶やかな腰まである黒髪を風にたなびかせ、見た目には気の強そうな眼で清実を見つめている。そこには果たして、人類の集合無意識内で産まれた戦艦の化身、艦娘の長門が佇んでいた。

 長門の口元にはどこか満足気な笑みが浮かび、鋭さを感じさせる眦も幾分か緩んで見える。空間の特性故か、清実にはなんとなく、長門のそれが同志に向ける親愛の表情であると理解出来た。

 

 ――子供(くちくかん)は、守護(まも)らねばな。

 

 何か振り仮名(ルビ)おかしくないですか。言葉と共に乗せられた想いも一緒に受け取った清実は、少し自分の感じ方が正しいのか不安になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の肩を押さえていた長門さんの力が一瞬緩んだ。そう思った次の瞬間、長門さんの内側から今までと違う力が溢れて来るのが分かった。

 島風の魔力を感知して以来、私は触れる程距離が近ければ相手の魔力を感知出来るようになっている。長門さんはどうやら魔力の訓練を始めていて、ある程度魂の奥から引き出す事が出来るようになったみたいなんだけど、その漏れ出た魔力の合間から、違う力が滾っているのを感じたのだ。

 自分も似た物を与っているから分かる。おそらくそれは艦娘の、戦艦長門の魂の一部だった。つまるところ長門さんは、今この瞬間に改二の条件を満たしたのだろうと思われる。理由は……まあ、その、私をちゃんと止めたから、なんだろうか。この場合。

 いやしかし、そうか。そうなるのか。私が戦えば被害も消費もかなり少なく出来る自信はあるし、三式弾の威力が大したことが無かったのを鑑みれば負ける事もまず無いだろうと思うのだけれど。それでも長門さんだけじゃなく、集合無意識側から見ても、私は今戦うべきじゃあないらしかった。

 っていうかね。私今滅茶苦茶恥ずかしい。こう、長門さんに言われて初めて気づいたんだけどさ、私がさっき言った事ね、要約するとさぁ。

『私は強いんだから特別扱いしてよね!!』

 って事になるんだよね。うわっ……私の自意識、過剰すぎ……?

 あれだね、私たぶん文月と真逆の事思ってたわ。文月は才能故にそれを使うのを躊躇ってたけど、私は天与の能力故に使わないのを躊躇ってたとこあるよね。とりあえず命令こなしたらその日は満足して寝てたんだけど、体は動くのに仕事が出来ない状態だとこうなるのか私、初めて知った。

 いや実際特別扱いしてくれた方が色々捗ると思うんだけど、そりゃ制度上は無理だわ。分かってたけど、許可出せるわけないよねっていう。前に九曽神艦隊の大淀さんも心配してたけど、下手な事して私に何かあった場合命令した人は酷い事になる可能性もあるみたいだし。

 まあ長門さんはその辺りを考えて却下したわけではないのだろうけどね。なんか、なんだろう。どうやら私は思っていた以上に長門さんに心労を与えていたっぽい。根本的に真面目な人で、召集された子供達を戦わせるのに抵抗を持ってるのは分かってたんだけど、さっきの私の無配慮で無思慮なおねだりを聞いて溜め込める容量を超過してしまったようだった。私に怒りをぶつけるような発露ではなかったけれど、キレてたよねさっきの。おブチギレにおなり遊ばされてたよね。色々申し訳ない。

 いやまさか、チート転生者として生まれ変わって、その力をちゃんと発揮して、その上で護られてていいとか言われると思わなかった。この状況で子供は子供だと、両親以外でそんな事言ってくれる人がいるとか予想外だった。私そういうの好き。二次専じゃなかったら惚れてたかもしれん。二次専だからそういうの無いけど。

 正直、出撃した方がいいっていう考えは間違ってないと思うのだけど……私のたぶんちゃんとやれるから大丈夫だなんて軽々しい主観だけの私見じゃ何の保障にもならないのは確かだ。報告書出せるレベルの検証をちゃんと他の人を交えてやらないと根拠には全くならないだろう。なのでもう、行きたかったら命令違反して勝手に行くしかない訳なんだが、それは最終手段にしておいた方がいい気がする。間違いなく勝手を通した事は問題になるし、いざって時に信用が足りなくて何かの許可が下りませんでしたってなると困る。

 今がそのいざじゃないのかって話なんだけど、それは微妙な所だ。だって、私がここで出ないといけないような状況なら完全に作戦は失敗なんだから。私がここに居ない時どうすんだよって話になっちゃうもん。逆に、この状況でも押し返せるのなら作戦は続行になるだろう。たぶん、なのだけれど、私がここで勝手に行って、作戦が白紙に戻ると、九州の死者は増えてしまうと思う。

 仲間に関して言うなら宮里艦隊はかなり強い。もし、戦況が悪くなるにしても一瞬で壊滅とはならないはずで、撤退とかもちゃんとやり切ってくれるはずだ。だから何かあったとしても、それを聞いてから私が海面を走って駆けつけるくらいの余裕はあると思う。たぶん、きっと。

 まぁそんなのは今思い付いた出なくていい理由探しな訳なんだが。

 

 なんて考えてたら長門さんの意識が帰って来た。時間的にはごく短いそれこそ一瞬と言っていい程度だったのだけれど、私から視るとビフォーアフターでかなりの違いを感じる。長門さんが艦娘の魂の一部を取り込んだのは間違いなさそうだった。

「長門! 吹雪!」

 私達が見つめ合いになっていると、大きなシルエットがこちらに向かって声を上げながら走って来た。見れば宮里提督である。提督は向かい合っている私達の所までやってくると、背負った艤装で若干動き辛そうにしつつ、私に向かって口を開いた。

「話は聞かせてもらいました」

 どうやら長門さん、通信機付けっぱなしで私の説得に当たっていたらしい。え、全部聞かれてたの? やだ、羞恥心で焼け死にそう。

 私はそんな心持ちで、長門さんもやっちゃった系の表情をしていたのだけれど、他の人達的には恥ずかしいような事ではなかったらしい。宮里提督は至極真面目な表情で、揶揄したりする気は一切ないであろう口調で、顔から大炎上を起こしそうな私に向かって語りかけた。

「吹雪、貴女を出撃させて万に一つの可能性で死なれた場合と、出撃させずにそれなりの確率で他の艦娘が失われる場合の、最終的な被害の期待値の話をさせて貰いますね」

「いえ、結論(オチ)が読めたので大丈夫です……」

 どうやら理詰めで言っても私が生身で出撃する根拠は薄いようだった。

 

 

 

 宮里提督は長門さんも私もまともに艤装が動かないと聞いて、出撃する皆を送り出してから護衛に来てくれたらしい。本人曰く、夜戦で自分が出ても足手纏いにしかならないからとの事だった。陸で警戒に当たってた方がマシだそうな。昼戦ならかなりの戦力らしいんだけどね。

 出撃できない事に納得した旨を伝えると、宮里提督だけでなく、明石さん達も含めて全員があからさまにほっとした様子を見せた。うんまぁ、頭おかしくなったとしか思えないからね仕方ないね。

 提督の大和には猫吊るしが乗り込んでいて、私の頭にぴょんと飛び乗ると、気持ちは分かると囁いて深く頷いた。分かってくれて有難いのか聞かれてて恥ずかしいのかよく分からん感情が湧いてくるから掘り返さないで欲しい。でもありがとう。

 壊れた私の二つの艤装、輸送艦吹雪参号と肆号は私が担いで行く事にした。放置は色々忍びないし、盾にならない事も無い。それくらいは提督たちも許してくれた。私がひょいと軽く持ち上げてしまったのもあるだろうけど。

 それじゃあ急ごうと避難のために動き出すと、その道すがら長門さんから集合無意識から長門の魂の一部を借り受けた事が提督に報告された。やっぱりあちらに意識が飛んでいたらしい。宮里提督は驚いていたようだったけれど、貰えた事自体は意外そうな感じではない。駄目だった事の方が予想外でしたもんねぇ。

「体調に問題は無いですか? 肉体的には受け取っても大丈夫と言っていましたが……」

「特に変化は無いな。むしろ、どこかすっきりとした気分だよ」

 長門さんは以前に艦娘の長門さんから、改二になるのに十分なくらい体は強化されていると言われていた。だから今回保留はせずに受け取ったのだろうと思われる。そもそも勝手に受け取らないようにっていう通達は不老化なんかのリスクを説明するためだから、知ってる長門さんには関係ないし。受け取れる時に受け取らないとまた何かの理由で断られるかもしれないしね。

 ただまあ、今貰って意味があるかと言われるとあんまり無い。この世界の艤装ってゲームと同じで改二にするために改装を挟まないといけないから、今すぐになれる訳じゃないのだ。私の時は何時間もかかるようなのではなかったけれど、戦艦の場合はどうなのだろう。

「ねえ猫吊るし、戦艦の改二改装って時間掛かる?」

「ちょっとは掛かるけど、吹雪の時とそんな変わらんと思う。艦種で変わったりはしないな」

 その辺りも艦これと変わらない感じかな。一瞬で終わらないとこは違うけど、建造や入渠と違って長さは同じであるらしい。なんかこの世界って変な所がゲーム準拠になってるんだよなぁ。そういう世界に作ったのだとは思うけれど、そのおかげで抜け道が出来たり融通が利かなくなったりしている気がしてならない。

 そんな世界の仕組みに関して想いを馳せると、ふと、とある現象の事を思い出した。

「…………ん、そういえばさ、アレだと改二になった時って艤装のダメージ直らなかったっけ」

「ん、うん。あー……直るな、アレだと」

 声は自然と囁き合うように小さくなった。どちらも口にはしなかったが、ゲームでの話である。HPは全快するとか確かそんな仕様だったはずだ。いやでも、まさかそんな。それは流石に無いと思うのだけれど。

「こっちでも直ったりする?」

「……直るなあ」

 直るのか。ええ、そんなとこ原作準拠なの? いやなんか最後に光って変化を誤魔化してる感じだったから直っても視覚的におかしな事にはならないんだろうけどさぁ。

「じゃあ長門さんの艤装って改装しちゃった方が早いんだあれ……」

「だなあ」

 戦艦は修理に時間が掛かる。ゲームと違って事に当たっている工作艦や工廠の妖精さん達の実力次第で時間は短くできるものの、大破に近い状態となると宮里艦隊の面々であってもかなりの時間を取られる事は想像に難くなかった。

 その手間を省けるのであれば、長門さんが今改二の資格を手にしたのは十分に意味があったと言える。とはいえだ。

「それって今できる?」

「いや、工廠が出来上がってないから流石にちょっと。吊り下げたり持ち上げたり出来ないと細かいとこがムリダナ」

 それに短いとは言っても時間が掛からないという訳ではないから、今から始めて戦闘が終わるまでに間に合うかって問題もある。可能だったら長門さんが参戦できて現場の指揮が捗っただろうけど、聞いてみたら妖精さんの働きぶり次第だからなんとも言えないそうな。やっぱり猫吊るしが居ると早く終わる案件らしい。そういや指揮してたね。

 今戦況はどうなんだろうか、まだ出たばっかりだから事態が動いてもいないだろうか。砲撃があれ以降来ないのを見ると、川内さんは突出していたという相手と交戦してるのかもしれない。っていうか、川内さん絶対また怒られるぞ……営倉行きとかあるのかな?

 しかしこうなると、猫吊るしがこっちに来たのはちょっと勿体なかったかもしれない。誰かしらと一緒に行けば多少なりとも乗せた娘の強化になったんだけど。特に島風なら魔力ブーストを使えるようになって相性が良い。まあ連続使用でなければ居なくても大丈夫だけどさ。

 私もそうだけど、チート能力持ちを手持無沙汰にしておくのはなんだかかなり勿体ない。猫吊るしだったら今できるのは、やっぱり状況を無視してになっちゃうけど施設整備とかになるんだろうか。あとは見張りか、定期的に放り投げて周囲を見てもらった方がいいかもしれない。ああ、多少なりとも傷ついた明石さん達の修理もあるか。結構できる事あるな。流石便利系能力。

 翻って私はどうだろう。私って身体能力高いだけだからな。設営の手伝いは出来るけど、専門知識が無いから本当に力仕事だけになる。艤装関係なんてさっぱり分からないし、前にもやったけど重い艤装を持ち上げて移動させるくらいしか手伝えそうにない。

 そう持ち上げて。持ち上げて……?

 持ち上げられるやん。

 え、行ける? 私がクレーン代わりになれば長門さんの改装行けちゃう?

 いやでも、結局時間的にどうなんだろう。そっちは短縮しようが…………いやあるわ。あったわ、猫吊るしの作業速度を上げる方法。以前に試して、結局可能だった奴が。あれ、でも両立できるかこれ?

 猫吊るしは実際、一人で工廠の妖精さんの仕事は全部できる。一つ一つのクオリティもスピーディさも段違いで、他の妖精さんとは一線を画した能力を持っているのだ。でも手数や移動の問題はどうしても避けられなくて、複数の妖精さんを指揮しながらの方が通常は能率が遥かに良いのである。でもそれは、猫吊るしのサイズが艤装に対して極端に小さいのが一番の原因なんだよね。

 私は思い付いたそれを猫吊るしに実行可能か確かめた。猫吊るしは呆れたような顔をして、私の警戒心の薄さを心配しつつも、行けるだろうと太鼓判を押してくれた。

 

 

 

 長門さんの艤装を改二にしちゃいたいんですがと二人で改二改装の仕様も説明しつつ宮里提督にお願いしたら、提督はちょっと考えて許可をくれた。理由としては長門さんの修理が本来かなり時間が掛かるのと、私が機械類の代わりになるからどこでもできるという事、それと猫吊るしが大丈夫と言ってるからというのが大きかったと思う。私が他の変な事言い出すよりは、っていうのもあるだろうけど。

 避難先に指定された場所はまだ設置の全然済んでいない工廠予定地の中だった。ここが現状一番頑丈に出来ているらしい。すぐ近くに工具とかもあって大変都合がいい。まるであつらえられたみたいだね!

 長門さんから艤装を受け取り、片手で持ちながら底の方を弄れるかチェックしてもらうが問題無し。私はやり方が分からないが、猫吊るしならどうにでもなるだろう。

 明石さん達は自分達の艤装を互いに修理して戦闘部隊の帰還に備えるとの事で別室へ行った。損害はそこまでではないようで、また砲撃があったりしなければ問題無く直せるだろうとの事である。宮里提督もお願いしますと私達に告げて自分は外の仕事に戻って行った。海には出なくても色々やる事はあるから見守っている暇は無いのだろう。自衛隊の艦娘の皆さんも警戒に当たったりしているため、ここに居るのは私と猫吊るし、それに長門さんだけだ。

 それじゃあささっとやっちゃおうかとそれっぽい工具を猫吊るしに言われた通りに搔き集め、長門の艤装に向かい合う。長門さんに始めますと声を掛け、頷いたのを確認して、私は全身の力を抜いた。途端、頭上から全身を何かの力が駆け抜けていくのを感じた。

 

「改二改装の時間だオラァ!!」

 

 私の喉から、私の声で、私の物じゃない言葉が飛び出す。いや、私の時も言ってたけど、お前それ毎回言うの? いいけど、長門さんびっくりしてんじゃん。気配で分かるわ、ビクッてしてたよ今。

 体の方は具合を確かめるように二本の足でしっかり立ち、握った拳をもう片方の手で包み指を鳴らそうと奮闘している。ごめん、私の体そういうの鳴らないんだわ。ちょっと不満そうに眉を寄せると、まあいいかと言った感じで置いてあった工具を艤装の周囲に適当に転がして、迷い無く装甲を剥がして機関部に手を突っ込んだ。

 傍から見たら、きっと私が力任せに引きちぎったように見えただろう。一秒にも満たない時間の出来事で、何か工作染みた事をしているようには感じられなかったはずだ。だが違う、ほぼ一動作で解体したため分かり辛いが、接合部はきっちり外せる所は外されて、溶接されている所も後を考えて綺麗に切り裂かれている。っていうか、目線の操作ができないのもあって私も視認は無理だった。手の感覚で何やってるかは分かったけれども。

「待て吹雪、お前ちゃんと指示を受けているのか!?」

 当然後ろから見てた長門さんには何が起きているのか意味不明である。妖精さんの言う事聞いて私が作業するって言ったからねそりゃあね。長門さんは今猫吊るしも見えてないはずなので、なんか私がいきなり艤装壊し始めたように見えてるだろう。

「大丈夫、指示通りです!」

 私の声を使って私の言葉で返す。その間にも体はガンガン動いていて、轟沈した私の艤装の奥から使える一部を切り出すと、それを長門から取り出した缶と手元で融合させた。いや、手順的には解体して組み合わせて新しい物を作ってるんだが。

 長門さんはその魔法染みた光景を見て凄く胡乱気な声を出していたが、実際指示通りなんですよねぇこれ。声で指示してるんじゃなくて、頭の上から体に直接指示出してるだけで。

 いやでも、長門さんが納得できないのはよく分かる。だって私もこんなんなるとか思ってなかったもん。私の体は身を乗り出すと砲塔を解体して取り外しつつ艤装の周りをぐるりと回る。戻った時には長門は全武装が取り払われて床に並べられていた。それ先にやった方が早かったんじゃないのかと思うが体勢変える方が手間だったんだろうか。

 私の体は腕を伸ばし、かなり簡素になった長門を持ち上げると、工具と一緒に軽く上に放り投げる。長門さんがえっと声を上げ、私も流石においと声が出た。次の瞬間には滅茶苦茶な精度で指先が動き、気付けば底面の作業は全てが終了していた。体は片手で艤装を受け止めると、遅れて落ちて来た切断機なんかと一緒に音もなく床へと戻し、次の作業へと取り掛かる。

 滅茶苦茶である。いや、チート転生者が二人でチート能力組み合わせて作業してるんだから仕方ないんだけど。私の筋力、器用さ、素早さが『なんか』『つよい』体を猫吊るしが知識と経験とかを組み合わせて『いろいろ』『つかえる』んだからこうなるのは自明の理だったんだろうけど。それにしたってお前、あれだよ、フリーザ最終形態になるかと思ったらゴールデンフリーザになってたみたいな超進化してるよこれ。

 人生何が役に立つか分からないとは言うけれど、よもや猫吊るしとゲームしたのが役に立つとはやってる時は思わなかった。私の体を猫吊るしの能力で操作できるのは分かってたけど、五感やなんかも全部使わせるとこんなんなるとは私の動体視力をもってしても見抜けなんだ。

 しかもこれ、私自身も体の操作権を失ってる訳じゃないんだよね。どういう器用な真似したらそういう事になるのかはさっぱり分からないんだが、今私の体は猫吊るしと私の両方が好きに動かせるのである。私がチート能力で強化している体を猫吊るしが上から操ってる状態で、別に私が動かすのを封じてはいないからとかそんなんだろうか。感覚的に猫吊るしの操作より私の意志の方が優先されるっぽいのはなんだろう、気遣い?

 問題点としては、この状態で戦闘するのはあんまり意味が無いって事だろうか。どう見ても私より体を使いこなせているように感じるのだが、どうしたって反応速度とかは私自身が戦ってる時の方が高くなるらしいのだ。別に出力が上がる訳でもないので戦闘に関しては私が自分でやるのが最高効率じゃないかと本人が言っていた。

 とはいえ、作業精度に関しては話が別だ。猫吊るしの頭の中の設計図通りの物であるのなら、どこをどう外して組んでくっつければいいのか分かっている状態なのであれば、この手が通り過ぎた瞬間にもうその作業は終わっている。猫吊るし単体だと速度も力も大きさも足りていないのでできない芸当なのだけど、私の体がその弱点をカバーしてくれた。

 指とか凄い気持ち悪い動き方してるからね! どうせ最後はモーフィングだからって時間の掛かる溶接じゃなくて有り余る力に任せて圧縮接合してやがるからね猫吊るし! ボルトとか指で外して指で付けてるからな! しかも二本じゃなくて一本で!! これ改二以外で使えねーわ、謎の光さんに仕上げ任せてるようなもんだぞこれ! ちょっとそれで大丈夫なのか心配になるんだが、猫吊るしだから大丈夫だろう。きっと。

 

 長門さんが目を白黒させながら私の体で行われる奇行の数々を見つめているうちに、猫吊るしは作業を終えて一息ついた。時間にして三分も経っていないように思われる。目の前にはそれなりにパーツが増えたり減ったりしている長門の艤装。私の輸送艦吹雪と比べると仕上げ前から結構見た目が変わっている。

 猫吊るしは散らばった工具を脇へと片付けると、長門さんの方を振り向いて一礼した。同時、私達の足元に妖精さん達が生地のようなものを持ってえっちらおっちら歩いて来る。

「……終わった……のか?」

 呆けたような声だった。長門さんは声が結構可愛らしいのでドキッとする。二次元ならギャップ萌えとか言われる類のアレが発生してた。

「はい。仕上げ……の前に、計測させて貰ってもいいですか?」

 そう言って、私は妖精さんが一緒に持ってきていたメジャーを手に取った。頭上では猫吊るしが次は縫製じゃーと言いながら見えない敵を相手にシャドーボクシングをしている。テンション上がり過ぎだろお前。

 私よりはかなり背のある長門さんは、動揺から抜け出せないまま私with猫吊るしにメジャーでグルグル巻きにされ、体のサイズを正確に把握されてしまった。その時の感触からかなりの筋肉量でありながら各所に柔らかさも残っている事が把握できたのだが、その辺りの情報は宮里提督以外が知るべきではないと思うので脳の奥に封印しておこうと思う。

 計測も時間的にはごく短かったのだが、その間に多少は気を取り直せたのか、長門さんはしっかりとした目で自分の艤装と向き合った。切り替えが早い。私達は長門さんの新しい制服作りに使う道具を妖精さんから受け取りつつ、それじゃあお願いしますと仕上げをするよう促した。

 長門さんは一つ頷くと艤装に向かって歩み寄り、以前よりシンプルになったそれに軽く触れる。そのまま瞳を閉じると、一瞬何かを祈るように動きを止め、その目を薄く開いた。

 瞬間、長門の艤装は眩い光を放ち、長門さんはその洪水に飲み込まれる。私達はそれを生地を裁断しつつ縫い合わせて金属部分を曲げ伸ばししながら見つめていた。

 

 変化は一瞬だった。艤装は破損個所の全てが癒されたその真の姿を露わにし、同時に生まれた新たな武装がその威容を誇っている。私達も新しい制服の縫製を終えた。

 長門さんの改二の艤装は全体的には戦艦を二つに割ったような形状をしていて、私の知っている長門改二と似ているように見える。だが全体に砲の数は少ない。これは恐らく増設が可能なので出撃前にさっき外したのを付けた方が良いだろう。

 特徴的なのはその二又に分かれた船体の左右両方に取り付けられた追加装甲だ。増設バルジ……なのかこれ? なんかどっちかって言うと盾っぽいんだけど。砲台の直下から左右の底面近くまでを覆ってて受け流しとかできそうなんだけど。でも形状的にはギリギリバルジ……いや、うん。バルジって事にしておこう。艦だからね、きっとバルジに違いない。盾じゃなくて。先端が尖ってるから衝角成分もある気もするし。

 全体的にも要所の装甲が厚みを増していて、その表面は正面を向かせない事で貫通し辛くなっている。傾斜装甲って奴だろうか。どうも関節部がかなり上下に動きそうなので当て方を間違えなければかなりの防御力を発揮するだろう。

 後は恐らく、缶も特別製になっている。猫吊るしが改装している時の感触は私にも伝わって来ていたのだが、機関周りは大幅に弄られていた。それを鑑みるに、たぶんこの長門改二は速力も改善されているものと思われる。

 合わせるとこの長門改二は、盾のような物を二つ持って高速で動き回る高耐久艦であろう。

 うん。あれだな。

 メイン盾だなこれ。

 かばう持って味方を護って走り回るナイトじゃないかなこれ。

 

 

 

 いや、長門さん旗艦なんですけど。庇われる側なんですけど。

 

 え、庇うの? 長門さんが前に出て?

 いやこう……大人として間違った姿ではないと思うけど、戦艦としてはだいぶ間違ってる気がしてならない。好きだけど、これ宮里艦隊の戦い方に噛み合う? たぶん燃料消費増えてるんだけど、大丈夫ですかね?

 しかしそんな事を今ここで考えていても仕方がない。とりあえずこれで海には出れるのだし、通常の長門でも長門さんは戦力的に問題があるわけじゃない。私はとりあえず、手元の真新しい制服を長門さんにお届けする事にした。

 長門さんは自分の新しい艤装を見つめていたが、私の声にはっとすると、こちらに向き直って真面目な顔で制服を受け取った。そして着替えなければならない事に思い至ると、端に寄って行き、私に一声かけるとその場で服を脱ぎ始める。私は全力で目を逸らした。

「よし吹雪、とりあえず外してた装備元に戻そう、装備スロットは増えてるみたいだからバルジはそのままでも行けるはずだ」

 猫吊るしもそちらを見ないように改装の話へと意識を戻したようだ。っていうか、これ猫吊るし的には普通にバルジらしい。まあ猫吊るしが言うならそうなんだろう。私の見立てなんかよりよっぽど信憑性がある。

 猫吊るしの魔力に身を任せれば、さっきの動きと逆回しで砲台が取り付けられて行く。プラモデルでもこんな簡単にくっ付かねぇよと思わされる速度だが、そこはチート能力の面目躍如、ついでに補給もサクッと終えて、いつでも長門改二が動かせる態勢が整った。生地を届けてくれた妖精さん達も、のりこめーと艤装に向かって殺到していく。

 振り向けば着替えの終わった長門さんがこちらを見つめ、一瞬目を離した隙に戦艦として完成している事に驚いているとも呆れているとも付かない表情をしている。新しい服装は普通の長門改二と大差ない。全体的な露出は減っているけど相変わらずのへそ出しで、色合いも殆ど一緒だと思われる。

 ただ違う個所もあって、腕部は手袋というよりは籠手のようになっていて、脚部も装甲に覆われている。やっぱ盾職だわこの人。マントみたいなロングコートなのと頭に突起の付いた冠のようなものを着けているのも相まって、見た目が完全に騎士然としたそれになってる。おへそは出てるけど。

 長門さんに道を譲ると彼女はコートの裾を翻しながら早足で艤装まで歩を進め、艤装の端に手を掛けると同時、そのまま一気に起動状態まで持って行った。今まで以上に深く力強い振動が工廠を揺らし、出入口を越え外の世界まで鳴り響く。隣の部屋から早いもう終わったのかと明石さんの声が聞こえて来た。

 起動された艤装は長門さんの二本の腕に持ち上げられ、そのままその背に納まった。長門改二は己が在るべき場所に至ったと、喜びの蒸気を思い切り噴き、内部全ての汽罐を以て鬨の声を上げる。突貫工事で付けられた砲台達も問題無く稼働しているようで、確かめるように可動域の限界に挑んでいた。

 長門さんは確かめるようにゆっくりと艤装を操作していたが、やがてよしと頷くとこちらの側へと体を向け、今までよりももっと真っ直ぐな瞳で私を見た。どういった心境の変化なのかはよく分からないのだけれど、改二のあれこれで何かあったか、言う事言って感情が一旦鎮静されたか、なんかそんなのだろうか。そこに判断付くようならコミュ弱名乗ってない訳なんだが。

「助かった。行ってくる」

 色々言いたい事はあるだろうに、長門さんは短く礼を言うに留めた。猫吊るしの事とかの説明も後でした方が良いんだろうか。その辺りどこまで話すか本人と相談しておかないとだなあ、チート能力の非人道的使用法の事とか気にしてるっぽいし。

 まあそれはさておき、丁度良いので私は頭の上から猫吊るしを摘まんで手の平に乗っけ、長門さんに向かって差し出した。猫吊るしはビシッと敬礼を決め、視線を移した長門さんと見つめ合いになる。

「連れて行ってください、役に立つと思います。他の子よりもその艤装の事が分かるはずなので」

「完璧なサポート体制でお送りしてやる!!」

 お前なんでテンション上がりっぱなしなんだよ。いや、そういやこいつ私の改二の時も連装砲いっぱいつけてみようとしてたし、新しい物事を試すのが好きなのか? マッド明石と一緒に徹夜して生放送で寝入るくらいだしなあ。ちょっと心配になるけどちゃんとしたテストもしてない艤装使ってもらうのに猫吊るし無しは怖過ぎるからなあ。超有能だからなんかあってもきっちり対処してくれるはず。

 長門さんは分かったと言って微笑むと、こちらに向かって手を差し伸べた。ぴょんと跳ねて私から長門さんへと飛び移る猫吊るし。その猫吊るしを落とさないよう慎重に、長門さんは自分の頭の上に運んで行った。動揺する私と猫吊るし。長門さんはそのまま猫吊るしを冠の中に収めると、軽く首を振って落ちたりしないか確かめた。

「意外と重さはないのだな」

「普通に艤装に入れていいんですよ?」

 確かに私はやってるけども。長門さんが乗っけてると違和感が凄い。他人から見るとこんな感じなのか……いや乗っけるの止めたりはしないけどさ。

「この方が能力を活かせるんだろう?」

「それはそうですが」

 私が同意を示したら、長門さんはならばよしと頷いた。そのまま私の横を軽く微笑みながら通り過ぎる。

「吹雪、結局お前の力に頼った身で言うのは醜怪に過ぎると思うが」

 長門さんは入り口に向かって歩いて行く。その背筋の伸びた堂々たる立ち振る舞いは、成程、この深海棲艦の脅威に晒された日本国の水際を先頭に立って守り抜いた女傑の物である。

「私達を信じて待っていてくれ」

 長門さんの顔は見えない。というか、艤装が大きいから全体にあんまりよく見えない。ただそれでも、その言葉からは鉄の意志と鋼の強さを感じさせられた。

「勝ってくる」

 そう言い残して長門さんは出撃して行った。人形のような愛くるしい、猫吊るしという名の妖精さんを頭の上に乗せたまま。

 

 無理にでも艤装に押し込んどいた方が良かったかなってちょっと思いました。まる。

 

 

 




感想を読んだ感想→→→なんかごめん。

長門さんが改二になれなかった理由は幾つかあるのですが、一番大きいのは『ただの一般人で子供でもあるはずの吹雪が出撃して戦って来るのが当然だと思い始めてた』からです。
実は吹雪に会う前の長門さんなら改二条件満たしてたというオチ。
チート転生者って碌な事しないな!!


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噂で聞いたって言われて本当に噂だった確率を求めよ

「長門!」

 提督に改装が終わった事を報告し、十分も経っていなかった事に驚愕されながらも急ぎ海へ出て幾らもしない頃。新しくなった動力に物を言わせ快調に滑り出した長門の下に、水上を這い寄るように忍び寄る影があった。全体に黒く夜に溶け込んだその姿は音を頼りに振り向いても一瞬その姿を認識させず、日の落ちた現在を支配するに相応しい隠密性を具えていた。

「艤装壊れたって通信入ってたけど、何それ、改二? あ、猫いるじゃん、ちょっと貸して。あと陸の方に敵行かなかった?」

 目を合わせる間にそいつは長門に複数の質問を投げかけて来た。それに答えず、長門はため息交じりの厳しい視線を向けてやる。自分の立場の不味さに多少なりとも自覚があるのか、目の前の人物は気まずそうな表情で着けていた機械的なゴーグルを外し、少し身を引き締めると長門の言葉を待つ態勢に入った。

「川内、まず状況を報告しろ。お前が一人で会敵した後、相手はどうなった」

「はーい……えーと、先ず報告した通り、砲撃を行っていたのは姫級一人、名前までは分からなかったけど、砲塔いっぱいの大きめの奴でした。で、ある程度近づけたんですが、気が付いたら目の前から消えてて見失いました」

 無彩色の制服を身に着けた艦娘、川内は集合無意識の影響を受けすぎて砕けてしまった口調であまり洒落にならない事を報告した。泊地近くで姫級が自由になっているというのは大問題である。本人の談によれば報告はしようとしていたのだが、変色海域に電波が妨げられ満足な通信ができなかったらしい。

「ただ、本当に大きい……艤装が今の長門のそれよりもかなり大きくて、大砲も沢山付いてたから、まだこの辺りに居るのならかなり分かり易いと思われます」

 なので陸地には向かわず本隊と合流しに戻ったのではないかと川内も考えていたらしい。潜水艦の可能性も無くはないだろうが、少なくとも見失った瞬間の海中は全く以って静かで、見た目にも潜るタイプの服装はしていないようだったという。

「消えたというのは? どの方向へ移動しようとするのかも見えなかったという事か?」

「それがさ、瞬きもしてないのに突然視界から消えたんだよ。まさかステルス能力とかいう訳じゃないと思うんだけど」

 そんな奴が居たらお手上げである。奇襲も輸送もやりたい放題だろう。そんなんあったら私も欲しい、と川内は呟いた。

「なので猫吊るしを貸してください」

「一応聞くが、どうするつもりだ?」

「そりゃあ、上に投げるんだよ」

 吹雪式偵察法である。この妖精さんはそういう運用をするのが正しいのだろうと川内は認識していた。おそらく既に件の深海棲艦は周辺に居ないとは思うが、念のため猫吊るしにも確認してもらおうと考えたのだ。吹雪程上手く出来るかは怪しいが、川内だって身体能力はかなり強化されている。軽い妖精さんを投げ上げればかなりの高度まで届くだろう。それで見つからなければ居ないと思って間違いない。問題はキャッチだが、今の川内の視力と反応速度であれば多少変な位置に落ちてもカバー可能だ。

「横回転を加える感じで頼む」

 長門の上に乗っかった猫吊るしもサムズアップを見せ、やる気満々の様子だった。投げられる事にももう慣れきっており、任せておけと余裕の笑みを浮かべている。長門は慣れていなかったので本当にそれでいいのかとちょっと得心が行かなかった。

 念には念を入れ、長門が投げて川内が落下地点に向かう態勢で偵察は執り行われた。結果的に長門の手元へとそのまま落ちて来たため杞憂だったのだが、その力加減は微妙な所だった。

 

 

 

 

 

 猫吊るしが甲高い可愛らしい悲鳴を響かせながら高速できりもみ回転している頃、前線では既に戦いが始まっていた。敵の数は分かっているだけで28、内12体が人型をしている。夜戦である事を踏まえれば、未発見の敵性艦も多く存在していると考えられた。対する宮里艦隊は吹雪と長門を欠き、夜戦の大好きな川内も合流していない。陸に数人を残し防衛に当てているのもあり、総力戦とは言い難い状況である。

 とはいえ、絶望的な状況かと言われると決してそうではなかった。何故ならば、宮里艦隊において最も強いのは、夜戦に強い駆逐艦と軽巡洋艦の二種だったからである。

 本人たちは与り知らぬ事ではあるが、現状宮里艦隊の駆逐と軽巡は既にその適性値が三桁に留まる者は存在しない程に高まっていた。詰め込まれた出撃回数による戦闘経験の多さにも支えられ、特に夜戦においては比肩する部隊は存在しないと言ってよい実力を誇っている。

 無論、敵も夜に襲撃を掛けるだけあってそれ用の装備をしている。姫でも鬼でもない怪物の姿をした駆逐艦を多く揃え、人の姿を真似たモノ達も雷撃を意識した装備を多く積んで来ていた。その上で数も宮里艦隊を大きく上回り、通常の戦であれば耐久力の差も相まって負ける事は無いであろう布陣を整えていたのである。

 彼女達にとって不幸だったのは、前線指揮を務めていた重巡棲姫が開戦間もなく、魚雷の嵐を抜けて来た槍使いに胸を貫かれ、その背後から現れた剣士によって首を刎ねられた事だろう。近接戦も想定していなかったわけではないが、格闘戦の距離になるとは想定していなかったが故の悲劇である。これには欺瞞情報を流していたスパイもにっこり。してやったりだぜと笑ってそのまま天龍に斬り殺された。そろそろ総数三百万体を超える中の一体であるため特に問題は無い。

 指揮艦が失われた事により、下位の深海棲艦達の命令が適切に更新されなくなる。勿論一時的な物であり、指揮権を継ぐ者も決まっていたのだが、そもそも轟沈したと発覚するのに多少時間を要してしまった。開幕の先制雷撃を突破され砲撃も受けずに斬撃で落とされたために失われた事に気付けなかったのである。

 事態を理解した時には既に片手に余る数の駆逐艦が沈み、それ以上の数の小鬼が海の藻屑と化していた。しかしそれで大勢が決したわけではない。深海棲艦は未だ宮里艦隊の総数よりも多くが残っており、互いに空母や潜水艦の被害は無く、主力もその力を発揮し切っていない。こうしてどちらにとっても油断のできない戦いが幕を開けた。

 

 宮里艦隊の駆逐艦の中で強者を挙げるとするなら、それは当然吹雪であり、その次に島風の名前を出す者が殆どである。明らかに突出した能力を持つ二人であり、特に吹雪などは艦娘なのかも怪しいと思われるほど能力の差は歴然としていた。

 しかし三番手を決めろと言われると、途端に意見が分かれる事になる。候補者は概ね三人、増大した艤装の出力もさる事ながら本人の技量が全艦娘中でも飛び抜けて高い暁、着任当初はあまり目立たなかったが徐々に頭角を現し激励されるとやたら元気が出ると評判の文月、そして砲雷撃の威力が吹雪を除けば駆逐艦の中で最も高い秋雲である。

 この海戦で、秋雲は通常通りに己の仕事を全うしていた。火力の高い彼女の役割は主に攻撃で、その一撃は下位の深海棲艦を容易に海の藻屑に変える事が可能である。戦いに先だっていつも通りに文月のらぶりーボイスで鼓舞された秋雲は士気も高く、吹雪の艤装が壊れて出れなくなったという悪い知らせも漫画のネタとして利用できると思えば苦にならなかった。会敵直後から快調に砲撃を飛ばし、敵が統制を取り戻し反撃が激しくなった頃には既に五隻に致命傷を負わせ、次の獲物にも狙いを定めているほどだった。

 しかし暗く見え辛い夜中の海上では、敵の動く先を読み切り自分の弾速に合わせ予想位置に正確に砲雷撃を撃ち込むのには相応の集中を求められる。神経を研ぎ澄まし、絶好の瞬間を捉え弾を放つ。その瞬間に隙が生じてしまうのはどうしても避け難い事なのだ。

 故に、秋雲の会心の一撃が放たれた直後、自身に迫る雷撃の影に気付けたのは完全に偶然だった。秋雲の装甲は並の駆逐艦程度、直撃すれば一撃で大破も有り得る。左前方より迫る魚雷は既に着弾まで一秒未満。秋雲の進行方向に完全に重なる軌道であった。

 だがこの秋雲、既に基本性能が並のそれを凌駕している。他の艦娘に合わせ緩めていた速度を一瞬解放すると、魚雷の通過地点を通り抜け、それを避け切る事に成功した。妙に上がった適性値の恩恵である。

「うわあぁっ!?」

 そしてその魚雷は、右斜め後方で陣形をしっかり守っていた深雪に直撃したのだった。

 

 秋雲は衝撃で倒れ伏した深雪の下へ駆け寄ると、助け起こし声を掛けた。意識ははっきりしている様で大丈夫だと掠れた声で返って来る。海面に浮けているため間違いなく轟沈はしていないが、損傷は酷く、戦いを続けられそうにはとても見えない。大破の、それもかなり悪い状態であった。制服も端は焦げ、ブラウスは露出し、スカートなどは半ばまでスリットのように割かれてしまっている。

「ごめん深雪!」

 肩を貸しながら秋雲は謝罪の言葉を掛けた。深雪の被弾は急な事とはいえ後続に警告を出さなかった、明確な秋雲のミスである。しかしそこに拘ってはいられない。魚雷が当たった事は認識されている可能性が高い、動かなければよい的になってしまう。深雪を牽引のために連結すると、秋雲はまた動き出そうとした。

「秋雲! 前!」

 急に、深雪から警告が飛んだ。反射的にそちらを向いた秋雲は、艤装に上げられた動体視力により、はっきりと、まだ動き出していない自分達へと飛来する大きな砲弾を目撃した。

 それは咄嗟の判断だった。適性値が高いだろうと言われていても、吹雪や島風のような瞬間移動染みた制動ができる訳ではない。跳び退こうにも深雪を半ば背負っている状態では難しく、撃ち落とすなんて離れ業が自分にできようはずもない。だから迫る凶弾を避ける事は不可能で、もし深雪の方があれを受けてしまえば間違いなく轟沈する。この状況での轟沈は、良くない。だから秋雲は、砲弾に背を向けて、深雪を自分の腕の中に抱え込んだ。

 

 

 

 衝撃は来なかった。何かに衝突し、爆発する音が体を揺らしたが、秋雲も深雪も何の傷も負っていない。

 状況を先に理解出来たのは深雪だった。庇われた側で、目が正面を向いたままだったのだ。だから彼女の優れた瞳には、その頼もしい背中がしっかりと映っていた。見慣れないシルエットをした、見慣れた背中。頑丈そうな装甲に覆われた艤装を掲げ、飛来した痛恨の一撃を完全に防ぎ切り、悠然と夜の海に佇んでいる。それは来ないはずだった、自分達の指揮官の姿だった。

「長門さん……!」

「長門さん!?」

 秋雲も次いで何が起きたか把握した。自分達の知らない艤装に身を包んだ長門に庇われたのだ。何故、と少し混乱する。振り向いた長門と目が合った。その頭上には、何故か妖精さんが鎮座ましましていた。

 

 

 

「長門! お前来られんはずじゃ……いやその艤装、まさか改装したんか!?」

 妙に高い機動力で深雪と秋雲を守りつつ、戦艦特有の大口径を深海棲艦に押し付けていた長門に向かって、慌てた様子の龍驤が走ってやって来た。ここに無いはずのその威容の正体に勘付くと、是と返してきた長門に向かい、それにしたって早すぎるだろうという疑問を今は重要でないと横へと投げ捨てながら相談に移る。

「指揮はうちが続ける。で、ええな?」

「ああ。今来た私では状況が分からないからな。その方が混乱も無いだろう」

 今回、長門の不在により龍驤が前線での命令を下していた。責任を被る覚悟もあり、そこそこ判断力にも優れ、俯瞰視点で見渡せるため、実際の所長門が執るより適切な指示を行える可能性もあるが故の人選である。尤も通信が完全には機能しない以上、結局各部隊の判断に任される部分が大きく、初手突撃を敢行し成功させる連中が居たりもした訳なのだが。

「おし、深雪は退避、秋雲は隊列に戻れ。護衛は……」

 自力航行も難しいであろう深雪を逃がすには誰かが付かねばならない。戦力的には大きい秋雲を抜けさせる訳には行かないため、龍驤としては他の誰かを指名したい所である。候補者は何人かいる。その中で今一番近くに居るのは誰だろうかと上空の視点から周囲に目を向けると、丁度、陣形を崩さない程度に高速で動き続けている少女がこちらの傍まで寄っているのが見つかった。

「島風ー!!」

 一応通信も入れつつ、大声でその娘に向かって呼びかければ、オウッと急に呼ばれてびっくりした声を上げながら、そいつは超高速で龍驤の所まで跳んで来た。次いで三体の砲台も連れ立ってやってくる。四人とも傷の一つも無い。なんですか! ミューキューキャー! とみんなで元気に返事をした。

「島風……?」

 飛来する弾の中で仲間に当たりそうな物だけを的確にバルジのようなもので逸らしつつ、不思議そうに呟いたのは長門である。島風は間違いなく強い。吹雪が異常過ぎて目立っていないだけで、採られているデータから見る攻撃性能は長門などは余裕で上回っているはずで、今外す理由が分からなかったのだ。反対意見や苦言のつもりのない、口から洩れてしまっただけの疑問である。

「あーそれがなぁ……こいつ、僚艦が僚艦なせいか変な癖が付いてるみたいでな」

 上から航空機視点で俯瞰していた龍驤にはそれがよく見えた。明らかな異常、強い事は強いが、他と全く足並みの揃わないその所業が。

「島風、お前弾どれくらい残ってる?」

「砲弾六割、魚雷は今装填してるのでお終いです」

 それは圧倒的な弾薬の消費速度である。航行速度も狙いを付けるのも弾速も、そして装填速度も島風はやたらと速かったのだ。命中率もそれなりに良く、DPSに換算すれば相応の超好成績を叩き出すのであろうが、消耗が島風に偏るのはあまり宜しい事だとは言えない。連装砲ちゃん達が物理的に頭を冷やしながら使う砲弾はともかく、特に島風が自身で扱う魚雷の消費は深刻だった。得意だからと多めに積んでいるというのにその状態なのである。

 おそらくは基本的に第四艦隊は見敵必殺であり一度に長時間の戦闘を行わない事と、旗艦である吹雪が輸送艦で大量の弾薬を積んでいるのが原因の大本なのだろう。今まで島風には継戦を考える必要性が全く無かったのだ。瞬発火力が何より大事で、一戦終わったら吹雪に補給してもらう。その運用であれば間違いなく強い。強いのだろうが、今この場だと少し問題だった。補給のできる速吸は居るが、島風に全部を渡してしまうと他が困る。

「島風は深雪を連れて一時退避、補給して、そこから先は提督の指示を仰ぐように」

 かなりの速さを誇る島風であれば、深雪を送り届けて補給を終えた後にこちらに戻って来ても、ロスは最小限に抑えられる。場合によっては泊地の警備に回してしまっても良いかもしれない。レーダーがかなり得意らしいので、意外と向いているのではないだろうか。本人の気質はともかくとして。

 島風は了解と一声上げ、秋雲から深雪を引き取ると、曳航のため深雪にロープを巻きつけた。辛くない体勢になっているのを確認すると、勢い良く泊地に向かって走り出す。深雪の絶叫とも歓声ともつかない奇声が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何が起きてもいいように耳を澄ましつつ、近くの工作具を手に猫吊るしの動作を反芻していたら、外から騒がしい声が聞こえてきた。

 声からしてどうも島風と深雪のようで、退避ついでに補給に戻って来たらしかった。なんか早くね? って思いつつ引き篭もってた部屋から隣を覗いてみると、深雪が外した艤装を明石さん達が検分して、秋津洲さんが島風に補給をしようとしている所だった。その秋津洲さんを艤装が無くて外での作業が行えない白雪さんが手伝っている。深雪の艤装は轟沈判定……なんでも引き返す道中で継続ダメージに止めを刺されたらしい。珍しい。

 島風に引っ張られて帰って来たらしい深雪は全身ぼろぼろで、下着や素肌が見えてしまっていた。あの格好はあんまりだろうと思い辺りを見回せば、長門さんの制服の生地の余りが残っている。余り物なのでさほど大きくはないのだが、肩か腰かどっちか覆うくらいは行けるだろう。寝床なら肌掛けとかあったんだけど、今戻るのはちょっと危ないから仕方ない。布を手に持ち入って行けば、気付いた深雪がこちらに向かってふらふら~と寄って来た。

「やった?」

「やった~……」

 消沈した消え入りそうな声で、深雪はこちらに寄り掛かって来る。顔色は若干悪く、かなり揺らされたであろう事は想像に難くなかった。島風が遠慮してゆっくり航行したとか無いだろうし。

 とりあえず上の方が損傷が酷そうだったので、掛けてやろうと布を持った手を肩まで持ち上げると、その手をばっと掴まれて、跳び付いた深雪に私は床へと引き摺り倒された。深雪は私の腕を掴んだまま足でも挟みこみ、さらに私の体に引っかけると、私の肘を逆方向へと極めに掛かる。成程、どうやらこれは腕十字固め。何をする気かと思ったら関節技掛けに来やがった。

「お前~、艤装無しで出ようとしてたの聞こえてたからなー」

 あの一連のやり取りはやっぱり聞こえていたらしい。出たばっかりか出る直前くらいだったのだろう、長門さんの通信機が高性能だったおかげでしっかり音を拾われて、きっちり耳にお届けされていたようだ。深雪に聞こえてたって事は他の皆にもバッチリ聞こえてたって事な訳で。やだもー恥ずかしいったりゃありゃしない。

 深雪は私の腕を割と本気で締めに来る。だが甘い。私の無駄に高い筋力は素人の関節技など力任せで防いでしまえるのだ。深雪は全く動かない私の関節をどうにか極めようともがくが、残念ながら技量も筋力も足りていない。

「もうちょっと、あたしらを、信用、しろって、お、ま、え、の、腕どーなってんだ、これぇ……」

 息を荒くしながら奮闘していたが、やがて力を使い果たしたのか、深雪は脱力して床に転がった。勝った。

「長門さんにも同じ事言われたわ」

「だろー?」

 はぁーと長いため息を吐くと、体を起こし胡坐をかく。私も同じ体勢になると、持ち続けていた布を今度こそ深雪に掛けてやる。サンキュと複雑そうな顔でお礼を言われた。

「みんな強いからさ、別に吹雪が一日くらいサボったってどうにもなったりしないって。気持ちは分かるけど、艤装の都合が付いてなくて休んでいいみたいな時はちゃんと休んどけよ」

 深雪は腕を組むと、自分の明らかに戦えない状態の艤装を見つめ、実感の籠った言葉を強く口に出した。

「でないとあたしの立場がない……!」

 この深雪氏、現在召集組の艦娘内で轟沈数がぶっちぎりのトップである。

 

 

 

 島風も混ざってそもそも艤装無しでどうやって出るんだよーなんて話を軽くしていたら、宮里提督が皐月さんを伴ってやって来て、深雪の様子を確かめると補給を終えた島風を連れて足早に去って行った。どうやら島風はこっちの守備に回されるらしい。なんでも偵察機みたいなのが発見されたとかで、航空機への対策を厚くしておきたいとの事。レーダー上手くて連装砲ちゃん達が撃ち落としてくれる島風が戻って来たのは渡りに船だったらしい。前線の方がちょっと心配になるけど、そもそも島風って殆ど私と一緒に出ててあっちの艦隊に居る前提で考えられてないと思うから大丈夫だろう。たぶん。

 残された皐月さんは深雪に向かい、問診触診などを通して異常が無いかを確かめた。とはいえ受け答えははっきりしているし私に関節技仕掛けに来るくらいなので普通に元気である。皐月さんも特に問題無しと診断した。その皐月さんはこのままここに残るようで、明石さん達の診察も行う様子。炎に巻かれかけたし被弾してるもんなぁ。

「それで、本当に艤装無しで深海棲艦倒せるならさ、別に吹雪の艤装に拘らなくてもいいって事だよな」

 診てもらうために外した布をまた被って戻って来た深雪はしばらく黙って明石さん達の診察を見つめていたが、やがて沈黙が気まずかったのか、白雪さんを見ながらさっきの話の続きを始めた。いろんな艤装を使える彼女のように私も他の物を扱えるのなら、確かにその通りかもしれない。私が生身で出れないのは艤装での肉体へのダメージ回避ができなくて危ないからっていうのが大きいのだろうし。

「まあ適性値関係なく殴り倒せると思うから、起動できるなら何でも行けるんじゃないかな」

 まぁ壊れかけとかは駄目だろうけども。適性値とかの問題じゃなく、倫理的な問題で。

「なんか他に使える艤装ありそうだけどなー、吹雪の適性値五十三万らしいし」

「いやあれはネタでしょ……」

 そういう話が出回ってるのは知ってるけど、何をどうしたらフリーザ様になるというのか。もし真実ならお野菜ネームに気を付けなければいけないじゃないか。

「白雪……さんが使えるのってやっぱり吹雪型が多いんすか?」

 深雪が側で資材を選り分けていた白雪さんに問いかける。急に話しかけられた白雪さんはちょっと数を数える様な動作をした。

「そうですね、吹雪型が一番多いです。私の場合、綾波や雷電なども使えるので、参考になるかは分かりませんけれど」

「やっぱ姉妹艦って使いやすいんすかねー」

「そういう傾向はあるように思います。たとえば皐月ちゃ……んも卯月を使えますから」

 急に話が自分の方にやって来て、秋津洲さんの診断をしていた皐月さんは苦々しい顔になった。うーちゃん使えるって聞くと途端に愉快な人っぽく感じるのは何故だろう。皐月さんは二度とアレは使いたくないと呟いていた。何があったし。

「やっぱ吹雪もあたしの使えたりしない? 実際使うかはともかくさ、今度ちょっと試してみない?」

 深雪様は興味津々の御様子である。この分だと自分で吹雪が起動できないかとかは既に試してそうだ。まあ、私としても今後何かあって出たくなった時に深雪の艤装でも最低限の防御能力を付加できるってなったら心強いのは確かなんだけど。

「無理だから変な事しないでよ」

 私達に向かってビシッと言い放ったのは皐月さんである。眉を寄せ、大人しくしてなよと軽く嘆息した。

「艤装の影響が心や体に出るのは知ってるよね? 一つですら度合いが未知数なのに、複数のだなんてどうなるか知れたものじゃないよ。できないはずだけど、絶対にやめて」

 白雪さんはその辺りのテストケースとしての役割も持っているらしい。見た感じ変な事にはなっていなさそうだけれど、確かにこれで改二の許可が二種から出たりしたらどうなるのかってさっぱり分からんな。両方の影響受けるんだろうか。髪の色凄い事になりそう。改二になっている艦娘がそれ以外の艤装を起動した場合にどうなるかも判明していないだろうから、やってみたら突然倒れましたとかも有り得なくもない訳で、そりゃあ止めて欲しいだろう。ここでやったら診断するの皐月さんになるし。

「あれ……皐月さん、吹雪の使える艦の事知ってたりします?」

「おっと」

 深雪がはっと気づいたように問えば、口が滑った、という感じで皐月さんは目を逸らした。成程、知らなきゃ断言はできないだろう。医官だから知らされてるとかなんだろうか、関係なさそうな気もするけれど。

 深雪は皐月さんの方へと擦り寄って行くと、教えてくださいおなしゃす!! とおねだりを始めた。折角なので私もそこに加えてもらい、二人で一緒に頭を下げる。皐月さんはなんだこれと困惑気味である。

 私は艤装が無いから出られない事には納得した。納得したけど、それはそれとして、自分が採れる手段に関してはちゃんと把握しておきたいのだ。そりゃあ私が判断するの自体が間違ってると言われるとその通りなのだけど、後になって実は出来る事ありましたって言われたら絶対悲しくなるからね。

 皐月さんはどうすりゃいいんだと白雪さんとアイコンタクトを取るが、白雪さんも困った笑みを浮かべるばかり。どうやら白雪さんの方は知らないようで、教えていいのか悪いのかも判断できない状態なのだと思われる。明石さん達も気になっている様子で、周囲から味方の居なくなった皐月さんはやがて纏わり付く私達の前に屈し、諦めたように口を開いた。

「とりあえず提督に言っていいか聞いてみるから、許可が出たらね?」

 皐月さんはゆっくりと艤装の通信機に手を伸ばし、ため息交じりにコールする。内心、間違いなく却下されると踏んで通信を繋いだのだろうけど、その選択により皐月さんは見事に退路を塞がれたのだった。

 

「先に言っておくけど、ボクの知ってる話は噂話程度……ってほど信憑性が低くもないんだけど、正確な値まで知ってる訳じゃないんだ。だから、後でちゃんと提督に確認してね」

 皐月さんはそんな前置きをした。皐月さんは自衛隊の精鋭部隊と行動を共にしていた非戦闘部隊の艦娘の一人で、知っているのはその時に漏れ聞こえてきたからなんだそうな。人の口に戸は立てられないというか、まあ控えめな声でも横で話してりゃ把握しちゃえるよねとの事。って事は長門さんや龍驤さんは知ってるって事かな……龍驤さんてば前その話した時は隠してたのね、いや当たり前なんだけど。

「まず、吹雪の使える艤装は六つ」

 思ったより多い。え、そんなあったの私の適性。隣の深雪も多いっすねと驚いている。

「一つ目が知っての通り吹雪。数値は伏せるけど、これの適性値が一番高いよ」

 なんで伏せる必要があるんです?

「吹雪の適性値は吹雪のが強すぎて他のは不確定要素にしかならないんだけど……二つ目ね」

 そんなに差があったのだろうか。那珂さんも那珂と他で結構差があったし、あんな感じかな。

「二つ目は潜水艦。伊号第二潜水艦……艦娘の言い方に合わせるなら、伊2だね」

「潜水艦!?」

「あ、伊って入ってるんですね」

 潜水艦ってのも意外だけど、名前、そっちでも回収されるのか……

「……あれ、じゃあなんでクジラの時使わなかったんだろ」

 私に潜水艦の適性があるのなら、そっちを使うなりしてどうにかできなかったんだろうか。吹雪程の適性値は無いって事かな?

「ああ、それは簡単だよ。単に艤装がこの世に存在してないからだね」

 皐月さん曰く、適性者は発見されているものの艤装そのものは建造不能という事例は結構あるらしく、伊2もその中の一つであるという。その筆頭が海外艦だったんだけど、そっちは今はもう少数ながら建造が可能になっている。なら伊2も行けるようになってたりしないだろうかって思うけど、まあ、吹雪以外を使わせる意味自体薄いのだろう。

「で、次三つ目。三つ目は重巡洋艦、伊吹」

「本名じゃん!」

「あ、やっぱりあるんですね伊吹」

 もう流れ的に絶対あると思ったけど、案の定である。でもって、使わせない理由も、たぶん前と同じだろう。

「未成艦でしたよね。ということはやっぱり……」

「そう。これも艤装の方が造れないんだってさ」

 皐月さんも苦笑いである。まああったとしても駆逐艦の方がコスパいいし使われない気はするけれども。

「これに関してはなんで適性者が居るのかの方が気になるね。まあ、集合無意識の中でどうなってるかなんて知りようがないんだけど。それで、四つ目」

 それは艦これっぽい世界だから、なのかなぁ。IFの奴も割とあるって事だろう。たぶん。

「四つ目は空母。空母伊吹」

「ん?」

「ええ?」

 私と深雪は二人とも疑問の声を上げた。聞きながら作業を行っていた明石さん達もこちらを見て不思議そうにしている。皐月さんはわかるよーと言って微妙にしたり顔だった。

「艤装ってさ、改装後に名前が変わったりすると別のものとして扱われる場合があるんだ。春日丸と大鷹で別の適性が必要だったりする訳」

 そういえば訓練所で一緒だった響はヴェールヌイの艤装も使えて、そっちの方が適性値が高かったって聞いている。成程、伊吹はその亜種になるのか。

「伊吹って建造中に巡洋艦から空母に変更されたらしいんだけど、適性値としてはどっちのも存在してるみたいなんだ。つまり、巡洋艦として完成した『重巡洋艦伊吹』と空母として完成した『空母伊吹』が集合無意識の中には別々に存在してるんだってさ」

 完成自体がIFの話なのに、そのIFがさらに分岐した状態でちゃんと集合無意識内に成立しているらしい。それ以上の事は自衛隊でも分かってないんじゃないかと皐月さんは言う。この辺り、猫吊るしの方が詳細に知ってるかもしれない。

「分かると思うけど、こっちも艤装は未発見……まあ、未成艦だからね。ある方が不自然だよ」

 こっちに関しては巡洋艦よりもかなり勿体ない。私が航空機も使えたらそれはそれは便利だろう、いや適性値次第ではあるんだけど。

「これってその適性のせいだったんですねぇ」

 そう言って、私は自分の手を光らせた。物理無効化を圧縮した時とは違う、陰陽道系のなにがしかの光り方。よく見ると中に雑に勅とか令とか書いてあるのが見える。洗練されてない。

「……艤装無しでそんな事できる人知らないんだけど……」

 皐月さんは呻いた。いやまあ、陰陽道ベースのあれやこれやであって陰陽術自体は艤装無しでも使える物だろうから、多少はね? 使い手居ないけど。でもそう考えると私のこれもしかしてなんかに使える? いや使い方分からんからどうしようもないんだけど。

「あー……まあいいや。それに関しては提督とちゃんと話し合ってね。ボクの手におえる話じゃないから」

 体調に関わったりするなら話は聞くけど、と付け足して、皐月さんは次の艦の話へと移って行った。

「五つ目ー、五つ目は、巡洋戦艦伊吹」

「伊吹多くないすか!?」

「巡洋戦艦……って解体された方ですっけ」

 第二次世界大戦前の話だったはずだけど……え、あるんだ。いや確かに人類が積み重ねて来た記録の一つだからおかしくはないんだろうけど。

「そうだね、巡洋艦と空母の伊吹とは別の艦で、古いせいかこっちも艤装は確認されてない」

 でも適性値自体は存在しているとの事。理由はどうあれ使えないって事には変わりない訳ですね。

「とまあ、これで分かったと思うけど、吹雪は適性自体は他にもあるんだけど、殆ど艤装自体が造れないんだよ」

 その上、適性値の暴力と純粋な暴力が合わさって、あったとしても燃費のいい駆逐艦でいいじゃんとしかなりそうにない。潜水艦と空母は使い所ありそうだけど、巡洋艦と戦艦はなあ……三式弾使えるかも怪しいし。

「あれ、六つっすよね? 六つ目は?」

「その六つ目もあんまり意味が無くてね……駆逐艦なんだよ、それも吹雪に比べるとかなり適性値が低い。百倍くらい違うって話だったと思うよ」

 百倍って。私の吹雪の適性値って最低一万のはずだから、100で起動ギリギリの可能性もある訳か。ちなみに仮に53万だとしたら5000前後である。那珂さんの適性値考えると有り得そうなのが困る。

「駆逐艦朝潮、それが吹雪の六つ目の艦で、一番適性値が低い艤装だね」

「あ、普通に建造できる艤装なんですね」

 っていうか同期に居るわ朝潮。大破させて曳航のために触った事もあるわ。使えたのかあの艤装。しかしここに来て名前が全然関係無いの行ったな。だから適性低いんだろうか。全く分からん。

「そういえば宮里艦隊には居ないですよね、朝潮」

「うん。たぶん、間違って起動しないように吹雪の傍には置かないようにしたんじゃないかな」

 さっきも言ってたけど、超適性の吹雪を持つ私が朝潮を起動した場合、吹雪の運用に支障が出る可能性が無いとは言い切れない。艤装っていうのはまだまだ未知の兵器であり、その実態を暴くために糞高適性値雪ちゃんを実験に使うとかは有り得ない事なのだろう。予備なら吹雪もう一隻置いておけばいいわけだしね。

「上は同時に起動した場合とかその辺りも色々知ってそうだけどね……隠蔽体質は今に始まった事じゃ……っとこれは関係無いな。とにかく、吹雪は他の吹雪型や宮里艦隊にある艤装は使えないんだ。メリットもあんまりないから、もし朝潮が近くにあっても使ったりはしないようにね」

「はい!」

 朝潮風にまっすぐ元気よく返事してみたけど、よく考えたら猫吊るし居ないから細かくて伝わらないどころか誰にも伝わらないモノマネになってるなこれ。

 ところで皐月さん、いくらなんでも詳し過ぎるし絶対又聞きとかじゃないですよね。見ちゃいけないのに見ちゃったとか、そんな感じ? 突っ込んでいいのか気になって仕方ないんですけど!

 

 

 

「実はあたし、吹雪の予備用に配属されたんじゃないかって噂あってさ。ちょっと気にしてた」

「深雪より強いの、たとえば九曽神艦隊だと北上さんくらいだったと思うよ?」

 私が深雪を使えるのかどうなのか、深雪が知りたがってたのはそういう理由だったらしい。疑念が晴れたみたいでスッキリとした顔をしている。っていうか、被弾多めなだけで鬼級単騎で倒せる奴を一般的に弱いとは言わない。誰だ滅茶苦茶な事言った奴は。

 被弾率に関しても改善してないという訳でもないらしいから、ほんとにエリート部隊の一角なんだよね深雪。まあ何かあったら言えって言われてるらしくて、大破したり轟沈したりするたびに連絡してるみたいだから、親御さんは気が気でないだろうけど。

 そんな話をしつつ、私達は戦闘部隊の帰還を待っていた。時折外から島風の鳴き声とか連装砲ちゃんが撃ってる音とかが聞こえていたので航空機がこっちに攻めて来てるのは間違いなさそうだったけれど、誰かが被弾している感じではなく、迎撃は上手く行ってるのだろうと思われる。

 そうして暫く、長門さんの改装の事とかについても話し込み、秋津洲さん達もとりあえず自分の艤装の処置を終えた頃、速吸さんが工廠の方へ戻ってきた。どうやら速吸さんは大破したとかではなく補給に戻ってきたようで、護衛してきた山雲と一緒に急いで荷物を積み込んでいる。速吸さんが全部積み荷を吐き出すくらいには時間が経っていたらしい。

 暇過ぎた私と深雪も積み込みくらいならと張り切って手伝いつつ二人から話を聞いたのだけど、どうやら戦況は優勢で、敵の総数はまだ何とも言えないけれど、このまま行けばもうすぐ撤退に追い込めるんじゃないかとの事だった。なんか夜戦である事を加味してもだんだん敵の支援機が減って行ったらしく、全然合流してこない川内さんがまた敵後方で大暴れしてたんじゃないかという話も聞けた。

 時計を見ればそろそろ日も出そうな時刻である。夜から朝、昼へと変われば航空機の有用性はぐんと上がる訳で、それまでに敵空母が殲滅されてたら滅茶苦茶有利ではあるんだろうけど……川内さん、厳罰物の事平気でやってない? 大丈夫?

 そんな事を考えていたら、妖精さん達がつみこみおわりましたーと敬礼をしてまた艤装へと乗り込んで行った。速吸さんと山雲もそれを確認するともう一度気を引き締め、じゃあまた行ってくるねと工廠を後にしようとして、私達も二人を見送ろうと出入り口で顔を外へと覗かせた。その時に。

 私の目に、海の向こうから加賀さんが吹き飛ばされてくるのが映った。

 日の上りかけた朱色の空。水平線の彼方まで雲一つもなく晴れ渡っている。太陽の光で煌めく水面には波も無く、海はとても穏やかな様子である。その上を、加賀さんが、天龍さんが、秋雲先生が、次々に、まるで水平に落ちて来るかのように飛ばされて来ていた。

 陸地まで到達した皆はそこで勢いが緩み、全員浜に着地した。飛ばされた場所にはばらつきがあり、天龍さんなんかは結構遠くに足を着けている。人によってはかなりの速度で地面に転がったりもしていたけれど、艤装の効果でダメージは無いはずなので大丈夫だろう。

 私はそれを見るや、勢いを付け、数歩で海に向かって突撃していた。だってその色が、いつか見た鮮血のようなそれに変わっていたものだから。

 

「点呼ー! 確認急げー!」

 後ろで龍驤さんが慌てて人数の確認を行っている。元々陸に残っていた瑞鶴さんが加賀さんに駆け寄り無事を確認する声も聞こえた。どうやら全員突然陸まで戻されたらしく、通信機も使って連絡を取り合っているようだ。その間、私は特殊変色海域の境界面に苦戦を強いられていた。

 たぶんこの赤い海は以前に、九曽神艦隊で見た特殊変色海域と同じものだと思われる。例の秋月が沈みかけたあの一件だ。ならば、その原因となったであろう深海棲艦がこの中には居るはずで、排除できればかなり艦娘達の精神的な負担の軽減になるはずだ。そして私は、一度無理矢理中へ押し通る事に成功しかけている。だから今回も頑張れば入れるはずだ。そう思ったのだけれど。

 問題だったのは、私の現在地である。ここは波の寄せては返す砂浜で、どうにも足元が覚束ない。拳を前に付き出そうと思い切り地面を踏みしめれば、体の方がじりじり後ろへ沈み込んで行く。さらに悪い事に、この変色海域ときたら、境界面が波に合わせて動いていたのである。

 おそらくは効果範囲が海の上限定という条件の副産物なのだと思うのだが、満ち引きする波が私の事を阻む。前回は壁のようにそそり立っていたから押しやすかったのだが、前後に行ったり来たりされると滅茶苦茶やり辛い。少し入ったと思ったら、その位置よりも後ろにまでスッと引いて行きやがる。ええ、どうすりゃいいんだこれ。

「下がれ吹雪!!」

 そんな事を考えていたら、私の奇行に気付いた龍驤さんがこっちに向かって大声を上げた。そりゃそうだ。やっちゃ駄目な事だから、そりゃあね。

「やっぱりこれ、例の奴か。気持ちは分からんでもないけど、下がっといて」

 龍驤さんはこちらに駆けて来ると私の腕を引っ張って海から引き離し、陸の方へと押しやった。そして自分も艦載機で突破を試みつつ、艦隊の皆と連絡を付け、無事な人間を数えて行く。

 特殊変色海域は今までの事例から一人だけを除いて他の全員を外へと弾き出す性質があると知られている。つまり、誰かが内部に取り残されているはずなのだ。それが誰なのかは、陸地へ上がり通信が回復したおかげで、すぐに二人に絞られた。

 その内の一人はそもそもどこで何をやっていたのか自体が不明であり、変な場所に居たためにどこかここから遠い場所へ弾き出されたものと考えられる。対してもう一人は当時、龍驤さんの確認できる位置に居たらしい。吹き飛ばされているのならば、普通に考えて近くに居るはずだろうと考えられた。

「取り残されたのは、長門か……!」

 龍驤さんが真っ赤に揺らめく水面を睨む。その向こうからは、何の音も聞こえては来なかった。

 

 

 




実は指輪の効果を踏まえても、あの時点で海に居た中で一番適性値が低いのは長門です。
宮里提督は適性値上げる能力高くないっていうかワーストだからね仕方ないね。
教官長はもう収集部隊で深海棲艦弔ってた時点でオーバーキルなんだすまない……





今回なんと、BMM様からファンアートなるものを頂いてしまいました。
紹介の許可が頂けましたので、是非こちらからどうぞ。
デフォルメされたキャラや表情が大好きなので、北上さんの表情や猫吊るし、一番下の島風が大のお気に入りです。
膝枕してる吹雪の表情も薄めですがタワー的な物が建築されそうで……しゅき。まあ中身はTS転生者なんですけどね!!
書き始めた当初はまさかこういった物を描いていただける事があるとは全く思っていなかったので、本当に嬉しい限りです。
BMM様この度は本当にありがとうございました!



実は他の作者様に描いて頂いたものもいくつか目にする機会があったのですが、勝手に紹介するのはどうかと思い触れずにおりました。
もし作者様がここで紹介されてもいいと思ってくださるのでしたら、気が向いたら時にでも是非ご連絡ください。


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傲慢かしましくてよかですか

 暑い。

 突然周囲の海が真っ赤に染まり仲間が遠くへ飛ばされた後、残された長門がその空間に対して抱いた印象は、意外にそんなものだった。

 普通の変色海域では日光は何かに遮られているかのようにその輝きを曇らせ、浴びる波の飛沫は冷たく、吹く風は容赦なく体温を奪って行く。そこは夏の、それも昼間であっても寒いと感じてしまう事すらあるような場所なのである。

 だが今ここはどうだろう。太陽の光は身を刺すほどに強く照り、風は誰かの吐息のような熱を宿している。赤い海水だけはやはり冷たいが、それが触れた個所には焼け付くような幻痛が走り、実際よりも遥かに高い温度に感じられた。

 頭の上からは猫吊るしと呼ばれる妖精さんが急な事に困惑しながらも辺りを警戒している様子が伝わってくる。長門も周囲を見渡すが、敵の姿は見当たらない。現在艤装本体はほぼ損傷無し、砲弾を受けたバルジに歪みは出ているが、元よりそういう構造になっているため内部にダメージは通っていない。

 撤退するべきだろう。この特殊な変色海域に取り込まれた場合は速やかに避難するようにと基本的には命令している。長門はその命令を出す側に近かったが、本人もそれに則りこの場を去るべきであると判断した。

『ワシハミテイタ』

 長門が足を止めたのは、遠くからくぐもった様な声が聞こえて来たからだ。耳に聞こえる音なのか脳に直接響く念なのか判然としないそれは、日の昇る方から聞こえて来るように感じられた。

『ズットミテイタンダヨ。コンナトコロマデクルマエカラネェ……』

 振り向けば眩しい程の太陽の光。その中に、長門は確かに何者かの影を見た。何時から居たのかは分からない。それは猫吊るしですら気付けぬ間にそこに存在していた。

『リソウテキナカンタイダッタ。ツヨイ、ツヨイカンムスタチダ。ホカモミテキタガ、ココイジョウニカガヤイテイルヤツラハ……モウイッカショクライダッタ』

 そいつは明らかに長門に向かって語り掛けて来ていた。深海棲艦が日本語を使い意思疎通をしている事は一般的にも知られている。だが、会話が成立したという例は実はかなり少ない。それっぽい煽りをしてくる事はままあるのだが。

『ヤハリアアデナクテハネェ……タタカウキノナイレンチュウハマダシモ、センジョウニタトウッテンダカラサ』

 無視して逃げるべきだったかもしれないが、長門は動かなかった。おそらくは、この声の主は各地で艦娘を襲撃し、現在進行形で脅威として恐れられているモノと同一個体だろう。それが何かを自分から伝えようとして来ているのである。もしかしたら、何か回避や打倒するための情報を漏らすかもしれないとそう思ったのだ。

『ソリャアナカニハイマイチナノモイルケドネェ、マ、キュウユカンニシチャアガンバッテルホウサ』

 どちらかと言えば優しい口調である。給油艦、おそらくは速吸の事か。馬鹿にしているようだが評価もしているようで、長門には真意は分からない。ただ、深海棲艦にそれ程の情緒があったらしいという事に驚かされた。

『ウエノホウハテンジョウシラズ、オソレオオイクライサネ。ヨクモマア、コレダケノメンツヲアツメタトカンシンスルヨ』

 声はだんだんと近づいてくる。同時にその影も輪郭をはっきりとさせて行く。幾つもの牙の生えた左右二つの口部から多数の砲塔が突き出た、異形の艤装。背にも大型の砲台が積まれ、その前には羊のような角を生やし夜会服のような物を身に着けた人型が座している。逆光で顔形はよく分からないが、その中にあっても不気味に光る二つの赤い瞳だけは強く浮かび上がって見えた。

『ダガ、ココハサァ、シキカンガヨクナインダ……!』

 急に、その語気が鋭さを増した。一対の目は燃え上がるように輝きを増し、砲台が音を立てて屹立する。

『オマエノコトダヨ、ナガトォ!!』

 爆音が轟いた。一斉に、その大きな砲口が火を噴いたのだ。狙いを付けていない、威嚇目的の砲撃。当てる気すらなかったのかもしれない。絶対に命中しないと軌道を見切った長門の周囲に幾つもの水柱が上がった。

『オマエガ、オマエダケガ、ヨワイ――!!』

 その深海棲艦――地中海弩級水姫の赤い双眸が長門を射貫く。そこからは何故か、明確な怒りを感じ取る事ができた。

「そうだな」

 対する長門は、その言葉にしっかりと頷いた。

「全く以って同意見だ」

 長門にとって、それは自覚のある事だったのだ。実の所、長門の砲撃は威力で見ると一部の駆逐艦にすら劣る。適性値の差がどうだと言ってしまえばそれまでだが、燃料効率の問題もあり、褒められた状態では全くないと本人は思っていた。無論前線指揮官としては優秀であるし、多聞丸やゴトランドなどの未来を知る人間から言わせれば、彼女でなければとうに複数の死人を出し戦線を瓦解させてしまっているのは間違いないくらいの絶対になくてはならない人材であるのだが。

 ともあれ、それは長門にとって今は重要な事ではない。結局の所、組織立った運用を目指す以上長門個人の能力の多寡はそれ程問題にならない。吹雪程突き抜けていたら別問題かもしれないが。しかし、そんな事よりも看過できない可能性に、長門は地中海弩級水姫の言葉から行きついたのだ。

「私が弱いから私をここに残した、そうなんだな」

 長門の言葉が不思議な程に辺りに響き渡る。声の届いた水鬼が怒れる眼のまま、その問いに明確に答えを返した。

『オマエタチノヨウナヨワイヤツガ、カンムスヲナノッテウミニイルノガ、ワシハマッタクキニイラナイノサァ!!』

 言って、大砲の狙いを長門に定める。長門の方はその言葉を聞いて、一つの説が正しかったと確信に至った。

「お前、お前は、弱い艦娘を狙って引き金を引いていたのか……!」

 自衛隊も特殊変色海域に隔離された艦娘の共通点を調べなかった訳ではない。ただ、ケースによっては周りにもっと弱い、戦闘部隊でない艦娘が居たために確定はできなかったのだ。だが、そもそも相手が戦闘部隊とそれ以外を分けて考えていたという、その前提を加えれば。答えには容易に辿り着く事が出来た。

 長門は改二改装にあたって精神を落ち着けるよう心がけ、実際にかなりの冷静さを取り戻していた。だが、それは動揺が消えて無くなったという事ではない。吹雪による精神攻撃は確実に平常心を削っていて、そこから休息無しに今ここに居る長門は、初めから薄氷の上で平静さを保っていたに過ぎなかった。

『チョウヤトンボヲトリトハイワン……! オマエタチナドカンムスデハナイワ!!』

 何言ってんだコイツ。長門の頭上で猫吊るしが呟いた。何故その結論になったのかまるで分らなかったのだ。逆に長門はある程度の理解はできた。要はこいつは何か、艦娘に対する理想があって、それに満たない奴を殺しに来ていたのだ。そうすれば邪魔者が消えて、全体が理想に近づくから。そんなくだらない理由で人の命を奪いに来たのだと理解できた。

「そんな理由で人を撃つのか! 巫山戯るなよ貴様ァ!!」

 長門の全砲門が一斉にその発射口を正面に向けた。狙いは既に定まっている。殺意が交錯した。

 瞬間、海を二つの衝撃が震わせた。宙で砲弾と砲弾がぶつかり合い、互いに砕け、赤い波間に沈んで消える。長門は己の上げる砲煙の間から、地中海弩級水姫が顔に浮かべた悪意を笑みとして張り付けるのを見た。

『ムダナテイコウヲスルンジャアナイ……! ウレシイダロウ? キョウトイウヒニ、オマエハセイキョウナルカンムスタチノイシズエニナレルンダ……!!』

「そうだな。今日、また一つこの海から脅威を取り除けるんだ、嬉しいに決まっている。それを積み重ねれば、平和の礎だって築けるはずだ!」

 だから、と声が重なった。

『オマエハココデ――』

「お前はここで――」

 砲撃と共に、互いに怒りをぶつけ合う。

『シズメ!!』

「倒す!!」

 海上でまたも砲弾が正面から激突し、塵となって消えて行く。頭上では猫吊るしもやあってやるぜと仁王立ちを決めていた。

 

 

 

 地中海弩級水姫と長門の戦いは、意外なほどに地味な立ち上がりを見せた。地中海弩級水姫は航空戦艦である。故に当然、航空機の運用が可能なはずだった。しかし、この個体は自身の能力の代償としてそれらを装備していなかったのだ。集合無意識内を渡り歩く事ができる能力を、自分以外に使う事ができなかったのである。

 故に、長門に対して主に砲撃と雷撃による攻撃を行うしかないのだが、この地中海弩級水姫、まず以って大きな間違いを犯している。それは、自分の存在を誇示した事である。

 当然の話なのだが、砲弾や魚雷はその発射場所が特定されていない方が当たりやすい。多対多であるならばともかく、一対一である程度距離が空いているならばかなり直撃を避けられてしまうのだ。勿論普通の動体視力や反応速度であれば一つ見逃した物が直撃するなんて事もよくある話なのだが、今回の場合は残念な事に、長門の頭上に居るナマモノが大問題だった。

 猫吊るしは絶対に攻撃を見逃さない。チート転生者と手を組むという、絶対的なアドバンテージが長門に大きな優位性を与えていたのである。

 しかし長門の側もまた、猫吊るしの存在によって最初は慎重な戦いを選択させられていた。それというのも、猫吊るしが地中海弩級水姫が航空戦艦であると識っていたせいである。過去の遭遇報告には使ってきたという情報は無かったが、突然周囲に攻撃機や爆撃機を展開される事が有り得ないとは猫吊るしには言い切れなかった。そのためある程度の距離を保ち、発艦されても対処できるようにと警戒を怠れなかったのだ。

 そして勿論、長門自身も地中海弩級水姫に完全に居場所を特定されている。地中海弩級水姫の艤装は大きく回避力はそれ程でもないが、反応速度そのものは水姫水準。直撃を取ることは困難であり、急所以外に当たったとしても深海棲艦特有の潤沢な装甲で致命打に至る事は無い。

 直撃する軌道の物は躱し、どうしても避け切れないタイミングの物は出来得る限り盾のようなもので受け流す長門。それに対し、有り余る体力で消耗戦を押し付けてくる地中海弩級水姫。どちらも相手に引導を渡すには決め手に欠ける状態となったのだった。

 

「旗色は良くない……か」

 現状は長門にとって不利と言ってよかった。攻撃は当たりはしているが致命傷に至りそうな気配は今の所無い。長門の側も艤装の装甲以外は未だ損傷していないが、盾として使われているバルジのように見えてちょっとバルジとは言い難い気のする追加装甲はじきに使いものにならなくなるだろう事は想像に難くなかった。一撃でも直撃を取れれば状況が変わる可能性もあるが、それは長門側も同じ事である。いや、それ以前の問題として。

「ですね、目視できる敵の損傷度合から推測するに、このままだと削り切る前に弾が先に尽きます」

 頭上の猫吊るしが長門の呟きに同意する。艤装にはもうそれほど弾薬が残っていなかった。何しろ夜戦からそのまま強制決闘へと持ち込まれているのである。速攻で片を付けられるなら十分な程度には持っていたのだが、長く撃ち合いを続けるには不利な状態だったのだ。強さ的には一般的な姫級と大差はない、むしろ航空機などを積極的に使ってこない分楽に勝てそうな相手ではあったのだが。

「これでは川内の事をとやかくは言えないな……」

 長門がぴたりと航行を止める。次の瞬間には進路上だった場所に複数の砲撃が着弾した。噴き上がる海水を浴びながら、長門は逆方向に急激に加速し次の攻撃に備えて体勢を立て直す。普段であればかなり難しい挙動だが、猫吊るしの存在によって艤装と長門の意志の間にタイムラグが殆ど無くなっているために実現が可能となっていた。

 こうして避けている間に長門の頭は多少は冷静さを取り戻していた。普通に考えて、長門は撤退を選択するべきだった。今の長門は艤装は改二に改装したばかりであり安定しているとは言い難く、連戦で万全の状態でも全くない。それでも長門一人の問題であればまだ擁護のしようもあったのだが、現在長門は一番失ってはいけない妖精さんを連れて出撃している。連れ帰れなければ日本の安寧全てに影響してしまう可能性すらあった。

 では絶対に逃げるべきだったかと言うとそうではない。地中海弩級水姫はその遭遇の仕様上、どうしても正面から相対さなければならない難敵である。そのため戦艦であり実力も高い長門が結界内に取り込まれた事はむしろ千載一遇のチャンスであると言っていい。長門は宮里艦隊の中では強い方ではない。だがそれは、艦娘の(吹雪を除く)平均的な強さが通常の鎮守府のエース級を超える宮里艦隊だからであって、一般的に見たら上澄みの中の一人なのである。一度で倒そうと考えるなら、他の機会など無いと言っていいだろう。

 長門はその辺りは正確な認識を持っていた。おそらく、長門ですら逃げるしかなかったという話が蔓延すれば今以上に士気は落ちる。半端に強く、実力以上の知名度があるのがこの場合宜しくない。長門は元々一般人な召集された艦娘達にとっては、メディア戦略の甲斐あって、最前線で戦い続ける高潔な防人であると偶像的な認知をされているのである。

 ところで、川内が独断専行で空母や敵旗艦の首を獲りに行って許され――てはいないが注意や叱責、始末書程度で済まされ厳罰に処されていないのには理由がある。それは非常に単純に、完全に人手不足で一人戦えなくなるだけで大問題が発生する最前線において、味方の被害を最小限に抑えられる完璧な成果を挙げ続けているからだ。良い事であるはずがないのだが、勝って来たという現実が批判意見を駆逐してしまっていた。そもそも単艦運用という規則的に命令できない事を勝手に実行しているだけの川内はむしろ周囲からの内心の評価は良かったりするくらいである。

 同じように、天龍や叢雲もあまり褒められた戦い方をしない事が多い。得意とする距離が近接であるためある程度仕方がないのだが、明確に禁じていない場合、隙あらば突撃してしまうのだ。ただ相応の危険性はあるが、そのおかげで敵の隊列が乱れ、連携を阻止し、被害の軽減につながる事は少なくないため注意はされるが重大な違反とはされていない。

 要するに、多少無茶で強引でも勝ってくれば割と許されるのが宮里艦隊という所だった。

 

 地中海弩級水姫は長門に休む暇を与えないつもりであるかのような砲撃を行っているが、ただただ装填の終わった傍から撃ち続けているという訳ではなかった。砲撃と砲撃の合間の隙ができる限り無いように、それぞれの砲台の発射間隔はある程度守って戦っていたのである。

 自身も動きつつ、意外な程に機動性の良い長門を追い詰めるように時には直接、時には進路を塞ぐように、一撃一撃が致命打になり得るはずの重い砲撃を撃ち放つ。直撃は避けられているが、砲撃は徐々に長門の装甲を削って行く。思いの外粘るが、時間を掛ければ己に軍配が上がるだろう。地中海弩級水姫はそう判断した。

 だが、だがしかし、である。地中海弩級水姫からすると、それはまったく宜しくない。何故なら、この海域には居るのだ、結界を貫通して自分に会いに来ようとしてくれる艦娘が。彼女と対面してしまえば、自分はどうなってしまうか分からない。先ほど境界上で異常な力が侵入を試みているのを感知できたのもあり、内心では決着を急ぎたい気持ちが高まっていた。

 長門は出来得る限り隙を晒さないよう常に動き、緩急を付け軌道も読み辛いよう滑走している。だがそれでも、幾つか癖のようなものはあった。反転癖とでも言えばいいのか、進路を塞がれると90度以上の旋回をして進路を変えるのだ。当然その瞬間はその速度は大幅に落ちている。故に、そこは大きな狙い目だった。

 等間隔に撃っていた砲撃のリズムを崩し、長門が進もうとする位置へと多くを撃ちこむ。完全に軌道を見切った長門はそれを避ける為、ほぼ180度回転し、真後ろに向けて急加速を始める。

『ソコダ!!』

 生まれた隙に、残った砲口の全てをつぎ込む。避けられまいし、防ぎきれまい。並の戦艦であれば必死の連撃である。視えた所でどうなるものか。

「ここだ!」

 しかしそれは長門の狙い通りの行動でしかなかった。そもそも一戦で見切られるほどの明確な隙などは、生憎長門は持ち合わせていない。そう見えたのであればそれは虚実に惑わされた結果であろう。

 深海棲艦の攻撃にも呼吸のようなものはある。艦を基にした存在であるために彼女達にも弾を込め、狙いを付ける時間が必要となるからだ。一つの意思が全ての武装を統括している都合上、むしろ本来の戦艦などよりよほど顕著に表れていると言っていい。

 長門はそれを読むのが非常に上手かった。長門が前線指揮官として最も優れている点の一つであり、艦隊を相手にする時ですら敵の一瞬の意識の間を見通す事を可能としている。まして敵が一体だけの今であれば、それは何も難しい事ではなかった。故に、自分の動きからそれを作り出す事すら可能だったのだ。

 長門は、自分の加速に合わせ海面を蹴り、その進路をさらに無理矢理に歪めると、迫る砲弾を己の艤装に受け止めた。バルジで止め、逸らし、被害を最小限に抑え込む。しかし、仕留め切らんと多量に放たれた砲弾の全てを捌き切る事はできようもなかった。側面が爆ぜ、装甲が砕け散る。だがそれでも怯む事は無く、長門は己の定めた航路を、地中海弩級水姫へと向かう道を、一直線に驀進し始めた。

 地中海弩級水姫への距離はそう遠くはない。撃てる大砲を撃ち尽くし、再装填へ取り掛かったばかりのそいつまで、阻む物は何も存在しなかった。苦し紛れに放たれた魚雷を左右に躱し、新調した汽缶の性能に任せて突き進む。

 高速の矢となり迫る長門に対し、地中海弩級水姫が選択したのは近接攻撃による迎撃だった。艤装の巨大な咢でその身を食いちぎってくれようと、大口を開け自らも距離を詰める。二つある内右の口部を突き出すと、眼前の艦娘を喰らってしまえと叫びを上げた。人の腕ほどもある巨大な歯牙が、長門の体を貫かんと勢いよく振り抜かれた。

 鉄を砕く音がした。

 

 地中海弩級水姫はその瞬間、ただ呆ける事しかできなかった。その光景の理解を脳が拒んだのだ。人一人など原形も残さぬ肉塊に変えてしまえるはずの己の刃、左右ふたつの内その片割れの、その全てが。気付けば一つ残らず叩き折られていた。

 例えばそれが、長門の艤装とぶつかり合いになった結果であれば驚きは少なかっただろう。だがしかし、眼前で起きた事は地中海弩級水姫の常識を遥かに超え、己の存在しない正気を疑わざるを得ない精神状態にまで突き落した。

 それは唯一つの拳によって成された事である。左右から迫る上あごと下あごの、それぞれから生えた多数の歯牙。それらを睨みながら前進を止めなかった長門は、自分の体にその切っ先が突き立たんとしたその瞬間、急激にその速度を衰えさせた。目の前で攻撃対象を失った顎が海水だけを飲み込んで行く。それを確認した長門は、今度は逆に瞬間的に自分に加速を加えると、繋がり一並びとなった歯の集まるそこへ、全力の己の拳を叩き付けたのだ。

 一か所に受けた衝撃が艤装の全てを貫いて行く。本体にまで届く威力のそれを受け、前歯も奥歯も纏めて砕かれた艤装の右頭は、たまらずその口蓋を露わにした。その開かれた喉の奥に、今度は長門の艤装の左半分が突き込まれた。

「この距離なら外さないな」

 後退を、と地中海弩級水姫の頭に過った瞬間には、長門から40cmを超える砲弾が発射されていた。くぐもった爆音とともに、装甲の内側を死が蹂躙して行く。二発、三発、長門の砲撃は止まらない。左の側に存在する主砲副砲の全てが火を噴いた。

 

 長門が歯も舌の代わりに生えていた砲台も無くなった大口から艤装を引き抜いた時には、地中海弩級水姫の艤装は右半分が完全にその機能を停止してしまっていた。それでもまだ人型部分は健在であり、内部で繋がっているために大きな被害は出ていたが、左半分も未だ動かせる状態である。

 だが、最早大勢は決していた。砲塔は半分以上が使い物にならず速度も十全に出せないであろう己と、被弾こそあれ動く事に問題は出ていない様子の長門。どれだけ気楽な頭をしている者が見ても、その勝敗は既に明らかだった。

 だから、それはただのかんしゃくのようなものだった。自分とぶつかり足の止まった長門に向かい、左側に残された大砲から、ようやく再装填の終わった砲弾をまともな狙いも付けることなく吐き出したのは。

 その凶弾は果たして、長門に向かって一直線に向かって行った。近すぎる距離、大きな艤装を盾にするには間に合わないタイミング、絶妙に噛み合ったそれは、一瞬で長門の眼前まで到達した。

「破ぁ!!」

 と長門が叫んだ。同時にその拳が振るわれ、地中海弩級水姫の砲弾をぶん殴る。弾は遥か遠くまで飛ばされると、そのまま水面に柱を残して消えて行った。

『ナンジャソリャア!?』

 ぎょっとしたのは地中海弩級水姫である。なまじ動体視力が良いがために、その凶行を完全に視界に捉えてしまったのだ。続けざまに装填の終わった砲台も長門に向けるが、それらは狙いを大きく外し、ただただ遠くの海へと消えて行ったのだった。

 長門はその射撃に合わせて走り出した。砲塔の向きを見れば当たらないというのはすぐに分かる。撃ち出された弾を無視して地中海弩級水姫の懐にまで入り込むと、全力の踏み込みを以って、その腹に拳を叩き付けた。渾身の一撃。本体の受けたダメージを吸収し、辛うじて動いていた艤装は爆炎を上げ、その機能を完全に停止した。

 機能を失った地中海弩級水姫の艤装が主の下を離れ、海へと没して行く。それを背に感じながら、最期に彼女が見た物は、まるで大きな剣のように振り上げられた長門の艤装が、自分に向かって振り下ろされるところだった。

 

 

 

 

 

 海辺から真っ赤な変色海域へとどうにか侵入できないかと試みていた艦娘達の目の前で、変色海域は突然元の赤黒さを取り戻した。

 それがどういう事なのか判断の付かなかった龍驤が、兎にも角にもと飛ばした偵察機はやがて一つの死体を担ぎ陸へと向かう長門の姿を発見する。その事に安堵のため息を吐いた龍驤だったが、直後、その背負っていた元姫級の深海棲艦の惨憺たる有様を見て、このまま陸に上がらせていい物か少し悩む羽目になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの! 大丈夫ですか!?」

 時は少し戻り、長門が交戦を始める少し前の事である。凡その予想通りに敵空母の尻に大穴を開けに向かっていた川内は、特殊変色海域の展開によって思いっきり陸地とは逆方向にぶっ飛ばされていた。

 突然の事ではあったが運動能力に秀でた川内は飛ばされながらも体勢をしっかり整えていたのだが、近くを空母ヲ級が一緒に横に向かって落ちていたのが良くなかった。そいつにありったけの魚雷をぶつける作業が加わっため、いざ真っ赤な海の端に到達した時には姿勢が崩れ、川内は赤黒い海を四~五回転する羽目になったのだ。

 別にダメージは無かったがなんとなく、いったいなーと呟きつつ、さっと立ち上がった川内に、声を掛けるものがあった。すわ何者だと誰何の声を上げた川内に、声の主は慌てながらも姿勢を正し敬礼を向ける。見た目には完全に人間で、年の頃は十代前半、どうやら敵ではないようだった。

 同じく敬礼を返した川内がその娘の事を観察すれば、その顔に見覚えは無かったが、その格好にはよく見覚えがあった。その背後には空母や巡洋艦を含む複数の艦娘が隊を成していたが、やはり川内の知る者は居ない。

 だがそれは、かなりおかしな話である。年恰好からして明らかに自衛隊員ではない目の前の少女は、どういう訳か、自分の仲間のものと色以外は全く同じ、白いセーラー服を身に着けていたのだ。身に着けた艤装の形もよく似ており、おそらくは同じ艦であろうと思われる。

 しかし、川内はその艤装を扱う戦闘部隊の人間は全員顔を知っていた。そもそも二人しか居ないのだから忘れようもない。だが少女はそのどちらでもない、全く知らない顔だったのである。

「沖縄から参りました、雪吹(いぶき) 吹雪と申します! この雪吹艦隊の旗艦と提督を務めさせてもらっております!」

 えっなにそれは。川内は目が点になった。

 

 

 




Q.傲慢って結局何だったの
A.解釈違い起こした艦娘に物理的に攻撃してくる厄介オタ

 追記
 なんか凄く分かり辛い表現になっているみたいで、かなり誤解を与えてしまっているようなのですが、吹雪の服装してる子は一人だけで、後の子は別の艦娘です。
 分かり辛くて大変申し訳ありません。少し修正しましたが果たして。




前回色々書いたところ、紹介の許可が頂けました!
実は結構前に描いて頂いたもので、有難いと思いつつ勝手な紹介は控えていたのですが、最初に見つけた時は驚き過ぎてマガジンマークが飛び出た事をよく覚えています。
よろしかったら是非こちらからどうぞ。
個人的に、何か覚悟決めた風でもなく殺れそうだからってつい殴りに行ってる感じが出ていてとても好きです。
うみへび様この度は本当にありがとうございました!


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沖縄島より泳がず参った

「沖縄周辺ではあまり深海棲艦の動きは活発でなかった訳ですね」

「はい。海岸に近づくのは危険でしたけど、最初の時以外は陸にまで上がって来る事はなかったです。なのでその……人間同士の争いの方が深刻で……」

 あの日、本州がそうであったように、沖縄も突如として変色海域に取り囲まれて危機的な状況に陥っていたのだそうだ。沖縄へやって来た深海棲艦は、まず初めに米軍基地へと襲い掛かったらしい。軍施設なんかを破壊し尽くし、市街をついでのように蹂躙し、抵抗しようとする人々をもぐもぐしたりして、各方面に甚大な被害を生み出し海へと帰って行ったという。

 沢山の人が亡くなって、その埋葬も済まないまま、生き抜くためにみんな必死で頑張っていたのだそうだけど……やっぱり問題になったのは物資や住居の不足だったという。当然争いになり、心が荒むと暴力的にもなり、そして、そこにあったものが振るわれてしまったようで。

 まぁその、あれだ。崩壊した基地の中にあった、ちょっとした長さの筒から大した大きさでもない金属を凄い勢いで飛ばすアレが、火を噴いて暴れちゃったんだそうな。

「でも、それを諫める人達もちゃんと居たんです。だから今はそれなりに安定……とまでは言えないかもしれないですけど、日常的にそういう事が起きたりはしていないです」

 たぶん、言葉で言うほど簡単な事ではなかっただろう。みんなでどうにかしたらしいけど、その過程は想像し切れないほどの苦労で満ちていたに違いない。この今自分達の事を語ってくれている吹雪さんも諫めた側だったようで、言葉の端々からは苦労の影が見え隠れしている。

 でもね、私は、非常に申し訳ないんだけれども。おっしゃってるあなた自身と、その後ろでうんうん頷きながらあの時は大変だったよねぇーなんて面をしている左目の下辺りに黒子のある青っぽい髪の人の存在が気になって話に集中し切れないんだ……

 なぁんでそっち側にいらっしゃるんですかねぇ、ゴトランドさん。

 

 

 

 

 

 長門さんは勝って帰って来た。特殊変色海域が消失し普通の変色海域に戻って暫くしたら、倒した相手を背負って堂々と帰還なされたのである。

 死体は龍驤さんが用意していた布にさっと隠してしまったから顔は見れなかったのだけど、おそらくは私が会えなかった奴と同一個体だろうと長門さんは言っていた。ちょっと会話できたらしい。なんか猫吊るしはステインの方がマシだったって言ってたけどどういう事なのかはよく分からん。動きでも止めて来たの?

 ともかく長門さんは戻ったものの特殊変色海域を展開していた奴以外との決着はまだ付いていない訳で、宮里提督の指示のもと皆は改めて周囲の警戒態勢に入り、私と深雪は工廠の方へ戻る事に。そこでお前また生身でなんかやろうとしただろーって深雪に弄られていたら、今度は川内さんが帰って来た。知らない顔と知ってる顔、その両方を連れて。

 その人達を見て声を上げなかった私を褒めて欲しい。だってその中に、ここに居るはずのない存在がなんでか二人も居たんだから。

 

 川内さんが帰ってきた時、地上側も含め周囲から深海棲艦の気配は既に消えていた。どうやら特殊変色海域が展開された時に敵も逆方向に吹っ飛ばされてたようで、なんかそのまま沖へと帰って行ったっぽい。戦局はこっちに有利だったみたいだからついでに撤退したんだろう。

 索敵なんかは当然続けられるんだけど、警戒態勢は多少緩める事になり、私と深雪もとりあえず寝に戻るなりして次の命令を待つよう指示された。なので二人してもう別に眠くもなかったので工廠の設営なんかを手伝っていたのである。

 取り急ぎ長門さんの艤装を応急処置して、工廠の準備が整い次第私の艤装を建造する予定にしたと宮里提督は言っていた。ただそうする事により資材が心許なくなってくるため、私はまた本州の方へ戻って残っている輸送艦吹雪を使って往復する事になるという。ゲームみたいに30303030レシピとかって訳には行かないらしかった。

 私が川内さんの帰還に気付いたのは残骸になったテントから回収された資材を工廠へ運ぼうとしていた時だ。いっぱい持ったら本当に持てるんだにゃ……って若干引かれてた所で丁度海岸線を歩いて来たのである。

 ただいまーとの元気な声と複数の足音がして、あれっと思った私が振り向くと、そこに居たのは元気そうな川内さんと、川内さん以外の六人の艦娘だった。一瞬警戒に当たっていた誰かしらと合流したのかと思ったのだけど、その六人をよく見てそうじゃないと気付いて、顔をしっかり認識して、私は持ってた資材入りの十段重ねの箱を潰しそうになった。

 川内さんは提督居る? って聞いて来てたけど、私の脳内はそれどころじゃあない。六人の内二人と見つめ合いになり、一人は意味深に笑いつつ人差し指を口元に当てるジェスチャーを、もう一人は私を見てびっくりした様子で慌てて目を逸らしていた。宮里提督はすぐそこに居て自分からこっちに向かってきたので川内さんの視線はすぐそちらに移り、私の動揺はそんなに目立ってはいなかったと思う。

 目を逸らした彼女は、宮里提督に吹雪と名乗っていた。

 

 川内さんの連れ帰ったその艦隊はそれ程規模は大きくなかった。駆逐艦4隻に巡洋艦1隻、空母が1隻の6人編成である。

 宮里提督に面会した彼女達は沖縄からやって来たと主張した。でもそう言われてもその真偽は提督にもさっぱり分からない訳で、とりあえず艤装は置いて貰ってから詳しく事情を聞くことに。わいのわいのと工廠へ行き、ついでにボディチェックなんかもして安全確認。信用してないムーブだけれど、こっちから見たら怪し過ぎるのは理解して貰えたらしく、特に文句は言われなかった。一部不満そうではあったけれども。

 工廠での身体検査中、私は隣の部屋に隔離されていたのだけれど、ドアの隙間から旗艦と名乗った吹雪さんと一人だけ海外艦なゴトランドさんをずっと注目し続けていた。いや邪な理由での覗きじゃないから許して。だって、二人とも見覚えあるんだもの。ゴトランドさんは四国近海と四国内部で会ったあの推定転生者のゴトランドさんと同一人物に見えるし、吹雪さんの方は……いやでも、他人の空似かなぁって思うんだけど、もろに吹雪さんである。

 つまりなんだ、私の記憶の中にある、集合無意識内にいらっしゃったオリジナル艦娘の吹雪さんと、彼女は全く同じ顔をしていた。年恰好も同じくらいだろう、私ともそう離れてないと思われる。本人とは一回しか会ってないけれど、その後に全く同じ顔で色違いな深海風吹雪さんとは割と話しているので間違いない。お芋育ててそうな可愛らしいご尊顔であらせられる。

 吹雪さんは私と深海っぽい吹雪さんから見て行方不明になっていたのだけれど……え、あれ本人? ゴトランドさんが居るのはなんか分身能力っぽいの持ってるみたいだから沖縄にも居たんじゃないかって推測できるんだけど、吹雪さんの方は全く意味が分からない。目を逸らしてたから少なくとも私を見てなにがしかの引っ掛かりを覚えたのだとは思うのだけれど……いや制服のせいかもしれんけどね、色違いの黒制服だし。っていうか、この吹雪さんたぶん服装からして改二なんだよなぁ、制服のラインの色が違うから分かり易い。もしかして真っ当な駆逐艦吹雪改二だろうか。あとで見せてもらいたいかもしれない。

 なんて事を考えつつ覗きを継続していたら、宮里提督がこちらへやって来て、ゴトランドさんに驚いて私の頭の上に避難して来てた猫吊るしを回収しに来た。どうやら一緒に話を聞いて知識とのすり合わせをして欲しかったらしい。

 でも、そしたら猫吊るしの奴、吹雪も一緒でいいですかって私も巻き込みにかかりやがったのである。いやまぁ、ゴトランドさん警戒しての事だろうっていうのはなんとなく察せられたけども。あの人の能力全容が知れないし、猫吊るし的には純粋暴力装置の私を保険に連れて行きたかったのだろう。宮里提督はちょっと悩んだ末にOKを出した。曰く、たぶん一緒に本州に行って貰う事になると思うから、だそうである。頭に妖精さんを乗っけた私が奇異の目で見られるのは……もうしょうがないだろうこの際。

 ともかく凶器なんかは持っていないと確認ができて、工廠奥の一室――長門の改装を行ったところへ彼女達は移動して行った。こちらのメンバーは宮里提督と長門さんと猫吊るしとおまけの私。対する沖縄組は吹雪さんと叢雲、電、五月雨、それに大井さんとゴトランドさんである。なんか初期艦ばっかりだな?

 

 吹雪さんの話はまず彼女達の目的から始まった。現在地は沖縄どころか九州の、それもかなり四国よりの場所である。そんな所まで彼女等が何をしに来ていたのかというと、これはもう単純に、本州と連絡を取りに来たのだそうである。川内さんと出会わなければそのまま本州まで行ってしまうつもりだったらしい。本州に行こうと思った理由は幾つかあるのだそうだけど、一番大きな理由はやっぱり食糧問題なのだという。

 沖縄が深海棲艦の襲撃を受けた際、最も被害を受けたのは兵器を持って反攻した軍人達だった。どうも抵抗する人間を優先的に狙っていたらしく、特に何もせず逃げ惑っていた民間人はあまり襲われなかったのだとか。ただ、施設や建物は破壊されたためにそれが逆に争いに繋がったらしいけれども……ともかく、沖縄には結構な人数が生き残っていたと言う。

 一年目はなんとかなった。吹雪さんやゴトランドさん達の尽力もあり、それなりのまとまりを見せてどうにか乗り切れたらしいのだ。素直にすごいと思う。でも、二年目が続くかというと、それはちょっと難しかったようで。

「やっぱり機械の恩恵がないと農業も十分にはできなくってね、保存食とか合わせてかなり切り詰めても去年でもうギリギリだったんだ」

 生きるための障害になったのは食料不足で、その根本的な原因はエネルギー不足だった。ガソリンスタンドやら発電施設やらガスの貯蔵タンクやらが初日でやられていたらしく、どうやら深海棲艦は最初からそれ狙いで攻めて来ていたらしい。以降殆ど襲撃が無かったのはもう目的を達していたからだろうとゴトランドさんは言う。

 艦娘が居るなら給糧艦でどうにかできないかとも思ったのだけど、よく考えたらあれだって組織立った兵站の賜物だもんなぁ。マンパワーって偉大。って思ったらそもそも適性者が見つかっていないらしかった。それじゃどうしようもないですね……

「だから、私達は支援を求めに来たんです。本州にそれだけの余裕がある事を祈って」

 九州の南海岸近くでは人を確認できなかったようで、そこから無理に九州の内部を調査するより本州まで行ってしまった方が可能性があるだろうという事になり、吹雪さんたちが派遣されることになったらしい。いや、される事になったっていうか。

「私達の司令官は吹雪ちゃんなので、最終的に決めたのは吹雪ちゃんなのです」

 私どころか宮里艦隊最年少の文月よりもさらに年下に見える電によると、なんかこの吹雪さん、沖縄艦娘の最高司令官らしいんだよね……

 

 勿論そんな事になったのには理由がある。まず艦娘が生まれている以上、妖精さんと出会ってその言葉を信じた提督適性の持ち主が絶対に居る訳なのだが、沖縄の場合それはこの目の前の吹雪さん、雪吹 吹雪さんだった。これは特に不思議でもない。猫吊るしも沖縄に出現した妖精さんもそりゃ居るよって頷いていた。提督と艦娘の二重適性持ちだって宮里提督と私、それに文月と三人も前例があるし、確率的にはそこそこなのだろうと思われる。

 問題だったのは、彼女の言葉を信じる人間が殆ど居なかったという事だ。そりゃそうだ、吹雪さん以外には見えてないんだから。見えない物を信じる人はごく少数だし、何より、沖縄では積極的に生存者を襲わない深海棲艦を無理に攻撃する必要性を感じる人はあんまり居なかったらしいのだ。刺激してどうなるかなんて分かったもんじゃないだろうから仕方ないね。

 でもそうなるともう吹雪さんは勝手に事を進めるしか無かったそうで。霊脈の上で妖精さん達と何日も泊まり込んで自分の艤装を作り出し、適性者もどうにか少ない検査キットで見つけ出したのだという。何も強制できないため、見つかっても協力してくれるかは完全に本人たちの厚意次第だった訳で。よく口説き落とせたものだと関心する。私だったら勧誘の時点で詰んでたわ。

 そうしてなんとか艤装も必要な物を作り出し、吹雪さんたちは戦える事を証明してみせた。やっぱり余計な事をしない方がいいのではって声もあったようだけど、そこから要請を受けて他の島の様子を見に行ったりしてるうちにある程度の信頼は得られたらしい。そうしたら、今度は吹雪さん任せでなく大人がしっかり考えて運用した方が良いのではないかって話になって来たみたいなんだけども。

「まともに私達の支援も指揮のための勉強もして来なかった連中に命令権を預けられる訳ないでしょ? 短くても経験のある吹雪が続けた方がマシだったのよ」

 発言者の叢雲を筆頭に、所属艦娘の殆どがそれを拒否したらしかった。心情的に嫌で能力的にも不審じゃそりゃお断りだわ。って思ったんだけどそういう話ではなかった様子。

「叢雲は自分達がやられた時に命令した人の責任になっちゃうのが嫌だったんだよね~」

「黙ってなさいゴトランド」

 小中学生みたいな見た目の子供たちに指示出して死なれたら普通気に病むからって理由だったらしい。一応ね、軍人さんとか自衛隊員とかも生き残ってる人達は居たらしいんだけど、まぁ勢力図とか色々あってそっちに預けるのもちょっと無理だったそうな。なので生き残った人達のために最大限の働きをする事を約束した上で、吹雪さんが背負い込む事になったらしい。吹雪さんなら大丈夫って信頼感が凄い。

 勿論これは最終決定権の話であって、作戦に関する意見とか年の功から来る助言なんかはしっかり貰っていたと吹雪さんは言うけれど、それでも普通に考えたら有り得ない組織体系な訳で。宮里提督からはそれを続けるのは難しいかもしれないという言葉が出た。

「恐らくですが、自衛隊の方から指揮官が派遣されるか既存の組織に組み込まれるかのどちらかではないかと思います」

 当然ながら明らかに未成年な吹雪さんに指揮権を持たせっぱなしとはならないだろう。っていうか、道中が危な過ぎて沖縄に帰らせてもらえるかも怪しいような気がする。その場合私達と一緒に九州攻めをしてから沖縄に戻る事になるかもなぁ、戻れるの何時になるのか分からんけどさ。

「そもそも私達ってどういう扱いになるのよ。本州も碌な事になってなさそうだけど」

 叢雲の視線が私を貫く。現役中学生がこんなところに居るのは確かに碌でもない状況であるので反論のしようもない。これに対し宮里提督は現状の組織形態や召集の事などを軽く説明し、やはり確実な事は言えないものの、それに準じた扱いをされる可能性が高い事を告げた。

「一度適性検査を行って、戦闘部隊水準の適性値が確認されればそのまま戦闘部隊として配属されるか……既に連携等が確立しているでしょうから、もしかしたら一つの部隊として独立して運用される可能性もあります。ただ……」

 電に視線が送られる。どきりとしたのか胸の前で指を組み、電は不安げに宮里提督を見返した。

「召集は原則、十二歳からと決まっています……」

 宮里艦隊最年少の文月よりさらに幼く見える電。その体格は、大きめに見積もっても十歳かそこらにしか見えないものだったのである。普通に考えて適性値をクリアしていても実戦に出させては貰えないだろう。十二だって低すぎるって言われるくらいなんだから。

「だっ、大丈夫なのです! これでも電は二十歳なのです! お酒も飲めちゃうのです!!」

 明らかに焦りが見える言葉が返って来た。いやまぁ、そういう事も無い訳ではないから積極的な否定はできないですけどもね。

「それなら……大丈夫ですね?」

 宮里提督も微妙な表情である。まぁ、戸籍調べれば実年齢はたぶん分かるだろうし、本当なら問題無いだろう。どの道ここから本州に行くにしても沖縄に戻るにしても艤装を使わなきゃ話にならないので、深く突っ込む意味はなさそうである。

 

 吹雪さん達の目的が分かった所で、話題は沖縄周辺の海の状況へと移って行った。どうやら雪吹艦隊はそれなりに変色海域の核の破壊に成功しており、島々の行き来こそ危険でほぼ行われていないものの、海はそれなりに青さを取り戻している所が多いらしい。

 特に周辺のまとめ役だったらしい明らかに特別扱いをされていた個体を撃破した後は、元々それ程活発でなかったのがさらに鈍化したとの事で、九州まで来れたのはその影響が大きかったという。というか、むしろ吹雪さんたちは今回到達するのは無理だろうと思っていたらしい。余裕のあるうちに引き返す予定で前進して、殆ど戦いすら起きなかったためにここまで来てしまい、川内さんに遭遇してしまったんだとか。

「もしかしたら皆さんと戦うために南の方は手薄だったのかもしれないですね」

 今回の襲撃は結構数が居たらしいので、丁度隙を衝いた形になったのかもしれない。だとしたらかなり幸運だろう。川内さんと出会えたのとか偶然に偶然が重なった結果だった訳だ。ウンガイイナー。

 ただ長門さん曰く、先ほど戦った艦隊規模程度で周辺の敵が目に見えて減っているのだとしたら、配置されている元々の数が今までに比べて少な過ぎるという。やっぱりもう奪還される前提になってるのかなぁ、九州。

 吹雪さん達にも聞いたのだけれど、ここに来るまでに変色海域の核は見なかったという。積極的な探索はしていないだろうけど、やっぱり隠されているんだろうか。妖精さんが反応すらしなかったらしいので少なくとも彼女等の通って来た航路には無さそうだけど。

 本州の状況と現れる深海棲艦の数を話したところ、やはり沖縄とは量も質も段違いみたいでかなりの驚きがあったようだった。まぁ、宮里艦隊と比較したのが悪かった気がしないでもないけども。

 

「本州へと戻る予定の部隊がありますので、それに同行して本州へと渡ってもらおうと思います。こちらの準備が整うまで待ってもらう事になりますが、よろしいですか?」

 自分の一存でどうなるものではないけれど、一応紹介状的な物も用意すると宮里提督は約束した。ゴトランドさんが持って来ていたという沖縄の現状を記した資料も手渡されていたので、それと一緒に上層部に渡るようにするんだろう。その辺りについては私はどういう流れで進んで行く物なのか知らないので何も言えないのだけれど、とりあえず雪吹艦隊側は安堵した様子でよろしくお願いしますと頭を下げていた。

 っていうか、戻る予定の部隊って私と島風ですよね? 二人なんだけど部隊って言って大丈夫なんですかね……?

 

 

 

 雪吹艦隊の皆さんにはとりあえず休息を取って貰う事になり、私も吹雪さんとゴトランドさんの事に後ろ髪を引かれながら工廠の準備の手伝いに戻ろうとした。気にはなるけど吹雪さんにはどう話を振ったものか分からないし、ゴトランドさんに関しては知らない振りの方が良さそうな気がする。宮里提督は楠木提督の下にゴトランドっていう艦娘が居るのは知っているからね、下手な事をしたら同一人物ってバレるかもしれない。その辺りを理解されていいのかどうなのか私にはよく分かんないのだ。

 警戒が解けないのか私の頭から降りない猫吊るしを乗せたまま、私は鉄骨のようなものを担いで持って行く。猫吊るしの指示に従いボルトを締めて、そろそろ建造も出来るんじゃないかなと思い始めた頃に、その人はこっちに向かって躊躇いがちに、ゆっくりと歩いてやって来た。

「あのっ……今から少し話せますか?」

 周囲の目を気にしてか控えめの声で、私と上の猫吊るしくらいにしか聞こえないよう小さく小さくささやいた。

「雪さん」

 ああ、やっぱりそうなんだ。

 驚きとかそういうのを飛び越えて、私の胸には納得だけが浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練所で伊吹 雪と初めて対面した時、駆逐艦吹雪の艦娘は驚愕した。だってその娘が、明らかにおかしな程の強い力を持って自分の中に入って来たものだから。発揮し尽くせば艦娘の内部、ごく一部とはいえ人類の歴史そのものであるそこを大きく破壊してしまえそうな圧倒的なその力を見て、恐怖と無力感に同時に襲われてしまったのだ。

 きっと持てる力を全て使えば自分の助けなんて全く必要ない。よしんば使い道はあったとしても、無くても特に不自由なんてしないだろうという事は想像に難くなかった。

 だから艤装の使い方を学んで行った彼女を追い出すような形になったのは、どちらかと言えば艤装に過度な期待を持たせないためだった。吹雪に拘るくらいなら自分の力で全力を尽くしてもらった方が本人も安全だし絶対強いと思ったからなのだ。まぁ、ちょっと拗ね気味だったという事も無いとは言わないけれど。

 でも、その後の訓練の様子はちゃんと見守っていたのだ。自分から引き出した力を何かとんでもない大きさにまで増幅して使いこなしていて、思ったよりも役に立てそうだと安心したりもしていたりする。訓練自体は真面目に取り組んでいたし、周囲の子達の助けになれる場面ではちゃんと手助けしたりもしていて、強い力を見て投げ出しそうになった事を反省させられもしたのだった。

 

 適性者の事は好きになれた。そうなると、俄然気になってくるのが持っている力の事である。見るからに異常としか言いようのない強さのそれ。人一人が持つには過剰で、解放すれば周囲を破壊し尽くして余りあるだろうそれは、艤装を通して繋がっている吹雪から見て、普段はかなり出力を抑えているように感じられたのだ。

 それが意識的な物なら問題ない。必要な時には全力で振るってくれるのだろう事は見ていてなんとなく理解できた。でも、そもそもこの大きすぎる力は、ちゃんと制御出来ているのだろうか。それが吹雪は気になって仕方がなかったのだ。

 もしもちゃんと使えていなかったとしたら、暴走して大爆発なんてのも有り得ないと言い切れない。そうなったら本人すら無事で済むかは分からないし、近くに人が居れば確実に助からないだろう。物理攻撃じゃないから艤装の守りも貫通しそうだし。

 だから吹雪は確認のため、適性者が自分の中に意識を送り込んでくるように、自分の意識を伊吹 雪の中に接続したのである。

 伊吹 雪の中は端的に言って普通だった。特に激しい波がある訳でなく、極端に陰鬱という事も逆に眩しいばかりに光り輝いているという事もない。持っている力以外はごくごく普通の一般人。他人の魂や精神を垣間見る事は初めてだったので断言はできなかったけれど、おかしな部分があるようには感じなかった。圧倒的な存在感を持ち、入り込んだ直後から静かな暴威に潰されそうになるほどの強大なその力以外は。

 

 つよい。

 奥に進んだ吹雪がその力と向かい合って抱いた感想はその一言だった。他に何も言いようが無い。強いがために強いと感じさせられる、強い存在なのだという事だけが感覚全てで理解できた。

 普通の人間がこんな物を持っているというのは有り得る事なんだろうか、吹雪はかなり疑問に思ったが、少なくともそれは間違いなくここに存在している。そしてそれは、強い気配を漏らしてはいるが、吹雪の心配は杞憂でしかなかったと確信できるくらいに、完璧に安定しているように感じられた。

 強い強い何かの奔流。魂から湧き上がっているのか他から供給されているのか、その辺りはよく分からなかったが、ともかく消費されて終わりという類の物でなさそうだというのは理解できる。羨ましいとすら感じてしまう。だって自分がそれを持っていたら、適性者に頼らずとも自分で戦えそうな気すらしたから。

 もうちょっと詳しく知りたいと、吹雪はそれに触れてみた。その瞬間に、何かが、その力の中から、じろりと自分に強い視線を向けた事が理解できた。

 

 ――誰だお前は!!

 

 それは吹雪に話し掛けて来た。目のようなものは辺りに見受けられないのに、視られていると分かる。その声が目の前のなんかつよい力のものであろうというのは、なんとなくだが判断できた。

 

 ――お、お邪魔してます!

 

 艦娘本体ではなく、その末端を伸ばして潜入しているような状態である。本体ですら揺るがされそうだったというのに、その一部では軽く消し飛ばされてもおかしくない。恐怖からちょっと声は震えていた。

 

 ――ラッシャーセー。

 

 いらっしゃいませと言いたかったのだろうか。舌足らずというか、気だるげに早口に言ったような響きだったが、どうにも排斥しようという気は感じられない。

 暫しの沈黙。吹雪は何を言っていいのか分からなかったし、相手も何も言ってこない。ただ、じぃっと吹雪を見つめているのはなんとなく理解させられた。

 

 ――あの、私、吹雪と申します。この度は雪さんの中にお邪魔させていただいて……力がちゃんと制御できているかどうか確認しに参りました。

 

 吹雪は正直に用件を話す事にした。交流を重ねた訳ではないけれど、なんとなく、雪さんならそれで許してくれそうだと思ったのだ。結果的に点検に来た整備士か何かのようになってしまったが。

 

 ――ゆっくりしていってね!

 

 その言葉と共に視線がかなり和らいだ。調べてもいい、という事か。

 既に吹雪は制御できているのだろうと納得していたのだが、口に出してしまったからにはもっとちゃんとやるべきだろうか、と持ち前の真面目さが囁いてくる。実際この強い力に対して恐怖はあるが、もっと知りたいと思う気持ちもある。少し迷った末に吹雪は手を伸ばし、もう一度それに触れてみた。

 それは言うなれば純粋な、方向性を持っていない力の塊だった。それが湧き出し吹き上がり、表面に出ている身体能力へと変換されて行く。

 

 ――凄い……

 

 純粋な驚嘆、何か凄い物に触れた感動や特に隠せてもいない羨望を乗せた言葉だった。ついつい口から出てしまったそれはその場によく響き、視線の主からもなんだか機嫌が良さそうな雰囲気が発された。

 それがきっと良くなかった。

 

 ――力が欲しいか?

 

 えっ、と吹雪は硬直した。急に悪寒が走り、目の前の存在から一歩だけ距離を取る。見つめ合いになったように吹雪には感じられた。

 

 ――欲しい、です。

 

 あくまで正直に向き合った。嘘を吐いても見抜かれるような気がしたのと、ほんの少しだけれど、本当に貰えるのならばという思いもあったからだ。

 でもきっとそれも良くなかった。

 

 ――力が欲しいのなら……

 

 声の主はそこで溜めた。何か意味があるのか分からない。ただ何故か、異様にその溜めは長く感じられた。

 

 ――もらってくるといいよ。

 

 誰から? などと思う間もなく、突然真横に扉のようなものが出現した。余り飾り気のない、乗り物の入り口のような形である。吹雪が何が起きているのか分からず困惑している間にその扉は音を立てて左右に開かれた。

 

 ――あなたはこのさきにいってもいいし、いかなくてもいい。

 

 自分で選べ、という事か。もし入ったら本当に力を貰えるのだろうか。相手の言葉からは悪意を感じはしなかったけれど、自分の領域でもない場所である。信憑性があるとは言えない。

 少しの間吹雪は迷った。扉の先は真っ暗で、何があるのかもよく分からない。でももし、本当に目の前のものと同質の力が得られるのであれば、それはきっと素晴らしい事だ。

 吹雪は根本的に人間ではない。人間のような姿形をしているが、擬人化された駆逐艦である。その構成を司るものの中には、かつて自分の妻や子供、親兄弟のために戦った人間達の遺志も含まれていた。

 だから、年端も行かない少女たちに戦ってもらうしかないという現状は、全く好きになれないものだったのである。直接自分で戦ったり、そうでなくてももっと強力な支援が行えるのであれば、それはきっと素晴らしい事なのだ。

 

 ――お邪魔しますっ……!

 

 覚悟を決めて、おっかなびっくり中へと足を踏み入れる。慎重に、何かあったらすぐ逃げられるように、闇に目を凝らしながら吹雪はゆっくりと扉をくぐった。

 

 ――ダァシェリイェス。

 

 そんな吹雪の後ろで、無情に扉は閉められたのだった。

 

 

 

 先に進むしかなくなった吹雪は、仕方がないのでまっすぐ前へと歩いて行った。周囲には何の目印もなく、本当に進めているのかは分からない。けれどとにかく足は止めないようにと一生懸命動かし続けた。

 何も無い空間である。本当にまるで何もなく、この先があるのかすら不明確だ。暗闇ですらないのか、自分の姿だけは良く見える。距離感はなく、どれだけ歩いたかはもうよく分からなくなっていた。もしかして自分はここに閉じ込められたのではないだろうかと不安が頭をもたげて来る。そんな頃に。ふと、視界の隅に、何かが浮かんでいるのが映り込んだ。

 はっとしてそれを注視すれば、遠くの方にぽつんと何かが何もない空間に浮いているのがよく見えた。吹雪は見つけたそれを逃がすまいと、勢いよく走り出す。そしてすぐにその真下へと辿り付いた。

 それはぷかぷかと宙に浮かんでいたが、どうやらこちらには気付いていたようで、手を振ってふわふわゆっくりと降りてくる。それは日本人では有り得ない容姿をした、小さな女の子に見えた。何かに呆れたような表情で、降下しながらため息を吐いて何事かを呟いている。

『察してはいましたけれど、あの子ってば未だに自分の力だと納得できておりませんのね。十数年は使い続けているでしょうに、いまだにここに繋がっているだなんて。まあ、今後は振るう機会も増えるでしょうから、自覚に関してはそのうち進むかしら……ねえ、どう思います?』

 吹雪と目を合わせ、少女は返事を求めて来た。そんな事を言われても、この時の吹雪には全く意味が分からなかったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうして魔法使いを名乗るあの子に人間として転生させてもらったのが私です」

「ちょっと待って濃すぎる」

「つまり転生者……ってコト!?」

 え、何? どっから突っ込めばいいのこれ。いやあの子何やってんの? 吹雪さんを集合無意識から切り離して転生させたの? だから行方不明になってたんだ? っていうか、私の中からあの自称魔法使いの所に繋がってんの?? そういや島風も会ってたな、指輪の不具合って言ってたけど、もしかして私の責任もあったりする? いやそれもあるけど、何? 私の中って誰か居るの?? いや、そう言えば以前、なんか返事されたような覚えがあったりなかったりするけれど、あんなん定型ネタ思い浮かべたら返しも自動的に浮かんできた程度の事だと思ってたんですけど!? あれガチで返事かよ!!

 あれだよね。なんとなく中の人の正体も察せれるよね。私は基本、チート能力は自分の力だけど自分の力じゃないって感覚なんだ。自分が好きに使っていい物だとは思っているけど、あくまであの子の物だとも思っている。だから頭の中じゃチート能力さんって呼んだりしてたんだけど……まさかそのせいで人格持っちゃった感じだったりとかする? 私の中で魔力を制御してくれて、使いやすいように必要な分だけ強化したりしてくれてたりとかしてた? だったらヤベーな私、マジで能力におんぶにだっこじゃん。恥ずかし過ぎる。

 私が私の魔力を満足に扱えないのって、もしかしなくても私が自分で自分の力を受け容れられてないから……だったりとかする訳なんですかね。うわぁ……

 

 

 




吹雪さんの正体が正体なので宮里提督への説明は欺瞞がいっぱいです。


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転生チート吹雪さん

「改めまして、雪吹 吹雪です」

「伊吹 雪です」

 私達は誰も来なさそうな工廠の裏へ場所を移して向かい合った。チート聴覚で周囲に誰も居ない事を確認しているので誰かに聞かれたりはしないはずだ。壁が結構ぶ厚いから建物の中にも声は聞こえないだろう。猫吊るしが同行しているけれど、それに関しては最初に断ったら大丈夫だと言ってくれた。

「それで、その…………集合無意識の中で生まれた特型駆逐艦吹雪型一番艦の人格、つまり艦娘の一部だった者です!」

「そんなことある?」

「私の名前知ってましたし、記憶の中と同じ顔をしてますし、本当なんだと思うんですが……」

 猫吊るしはぱちくりとおめめを瞬かせていたけれど、私は嘘だとは思えなかった。名前に関してはゴトランドさんに聞いた可能性も無くはないけど、そもそもそんな嘘吐く意味がまるで分からないし。

「どうしてそんな事になったんですか?」

 って聞いたらなんか、思ってたより私の責任っぽかった。自称魔法使いさん疑ってごめんね、吹雪さんのお願い叶えてくれただけで主犯じゃなかったわ……

 

 

 

 吹雪さんが人間として生誕したのは大体今から十四年前、私の中から異空間らしきところに飛ばされて転生させてもらったその時よりも、そこそこ過去の日付だったらしい。ちゃんと人間の両親から生まれて来たらしく、戸籍もあるし、しっかり学校にも通っていたのだという。

 これに引っ掛かりを覚えたのは猫吊るしである。じゃあ深海棲艦が来るまでどうしてたんですかと私の頭上で首を傾げて質問し、された吹雪さんは苦い顔で頬を掻いた。

「それが、『今赤ん坊として生まれられても何もできないし、だからってこっちの都合での干渉なのにいっぱい改変されたら他の頑張ってる転生者に悪いから、過去への影響を最小限にするため』とかで……最近まで転生前の記憶を封印されていたんです」

 だから吹雪さんは自分の事を普通の中学生だと思っていたし、人間に何かが混ざったものだとか、考えた事も……いやそういう年頃だからちょっと考えてみた事がなかったわけでもなかったらしいけれども、特に優れた能力がある訳でもないので普通の一般人でしかないだろうと結論付けていたらしい。軍艦とかに惹かれたりはしてたらしいけど。

 吹雪さんは沖縄で育ったわけではなく、親戚のお姉さんの結婚式に出席してその翌日に深海棲艦の襲撃に遭ってしまった本州の人なのだそうだ。地元民でもない人間がその状況でどれだけ苦労したかは筆舌に尽くしがたいだろうが、強く生きてはいたらしい。親戚が居たから、そうでなかった旅行者の人達よりは遥かに恵まれていたと本人は言う。

 

 記憶を取り戻したのは深海棲艦の襲撃があったさらに後。吹雪さんが集合無意識から切り離され、転生する事になった日の、その翌日だった。目を覚ましたら自分が何者だったのか完璧に理解していたという。ちょっとした恐怖体験である。

 人間の雪吹 吹雪としてのアイデンティティと急に生えて来たそれより遥かに長く続く駆逐艦吹雪としてのアイデンティティは特に矛盾なく両立したようで、とにかくその日から自分に出来る事をやり遂げて、今日ここまで到達したのだという。話の通りなら転生したのは私が訓練所にいる間で、記憶が戻ったのもそうだという事になる。なので、戦ってきた期間は私達と殆ど同じくらいだろう。

「艤装と適性者、よく揃いましたね?」

 艤装の建造は基本ランダムである。いやまあ、宮里提督という例外が居るので吹雪さんもそうだとしてもおかしくないのだけれど、人員に関してはそうは行かない。本州で大々的に行って、戦闘に堪えるのは数百人程度しか見つからないくらいには適性者は希少なのだ。

 吹雪さんが活動を始めたのは今年の四月から五月の間だろう。そこからまず自分の艤装を建造するだけの霊的資源を確保し、建造を行う。ここで指定できるならいいけれど、そうでないなら第一のお祈りポイントだ。さらに余った資源で検査キットを作成し、適性検査を行う。ここでちゃんと適性者を引けるかどうかという第二お祈りポイントが発生する。それが終わったら見つけた適性者用の艤装も建造しないといけないので、すぐにお祈りポイント三つ目である。祈祷力試されすぎだろ。どんなRTAだよ。

 これでちゃんと戦果まで挙げてるんだからヤバい。人数が増えて来たら資源収集と海域攻略、建造などを分担して並列に行えるようになるかもしれないけど、最初は一人でやり切らなきゃならない訳で。燃料や弾薬を集めるのだってままならなかったろう。ドロップ艦とか無い世界だから出撃しても仲間は増えないし、むしろ資材を消費するんだから遠のくと言ってしまっていい。仲間が欲しかったら地道に霊地や霊脈を回って収集するしかないのだ。当然時間のかかる作業だし、それだけで今日までの時間を消費したと言われたって別に何もおかしくない。沖縄本島一か所だけの霊的資源だから量も限られてるだろうし、かなりのバランス感覚を要求されると思われる。

 だがしかし、である。そのそもそもの前提を覆すのが転生者なのであった。

「その辺りは私が授かった能力がなんとかしました」

 そうこの吹雪さん、私達がそうであるように、自称魔法使いのあの子から力を貰った、所謂チート転生者なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹雪は目覚めてすぐに海岸に走り、自分の中に蘇った記憶と現状に差異が無い事を確認した。アレの名前は深海棲艦、赤い海は変色海域、自分は艦娘の生まれ変わりで、自覚をもって呼んでみれば妖精さんが集合無意識から飛び出してくる。おかしくなった自分の妄想なんかではけっしてなく、全てが事実でこれが自分の現実なのだと肌で理解できた。

 だから、自分の中にある普通じゃない力もすぐに見つけられた。それはかつて見た奔流程の強さはなかったけれど、確かに自分の中から湧き上がっている。自分の中に急に何かが増えたという感覚ではない。きっと、記憶と一緒に封印されていただけだったのだろう。今までは存在を意識できなかったのだけれど、有難い事に使い方も分かり失敗もしなさそうだった。

 何が起こるのか、正確な事は分からなかった。どういう能力なのか概要だけは聞いていたが、どういった発露をするのかまでは知らされていなかったのだ。使ってみてのお楽しみ、と件の少女は言っていたが、望んだ結果が得られるのかは分からない。そもそも今では普通の人間としての感性も有している吹雪には、昨日まで恐怖の対象でしかなかった深海棲艦と自分がまともに戦えるかどうかも疑問だった。

 でも、それで怖じ気づくほど吹雪はやわに育ってはいなかった。仲間に向いた銃口を、正論でぶん殴って自分に引き付けるくらいの胆力は有していたのである。

 始めはゆっくり慎重に。じっくりと自分の中から力を引き出して行く。本当にちょっとだけ、しみ出す程度にそれを解放した。瞬間である。

 ぽん。と、そんな軽い音が鳴りそうな気安さで、吹雪の目の前に薄い板が現れた。

 えっと思って辺りを見回すが、辺りは浜と赤い海ばかりである。変わったのはその目の前の薄い板のような物だけだった。それは何かに支えられている訳でもないのに宙に浮き、吹雪の反応を待っている。これが自分の能力……の一部なのだろうかとその板をしっかり眺めてみれば、そこにはどこか艦のような趣を感じさせる装備に身を包んだ少女達の絵が描かれていた。その左下にはSTARTの文字も見て取れて、成程、これはスマホやパソコンのアプリ起動画面のようなものなのだなと理解させられた。

 とりあえず、他にどうしようもなさそうだったので指先でSTARTの文字に触れてみれば、どうやらタッチパネル的な物だったのか、画面は暗転し中央には戦艦のような小さなシルエットが浮かび上がった。ぷかぷか陽気に揺れている。

 ほんの一秒か二秒か、それだけの長い時間が過ぎた後、唐突に次の画面が表示された。新しく文字が書かれており、それは吹雪にはこう読めた。

 

 

 

 ⚙提督の名前を決めてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の力を一言で雪さん達に分かるように伝えるなら、この世界で『艦これ』する能力、だそうです」

「伝わり方エグいんだが?」

「何が起きたのか大体察せました……」

 なお、艦これという単語を教えたのはゴトランドさんだそうである。やっぱりあの人原作知識持ちの転生者だな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹雪は入力欄に自分の本名を書き込んだ。12文字までと注意書きが記されていたが、名字を入れてもだいぶ余るため問題はない。意外と手書き入力だったそれに誤字が無いかしっかりと確認した後、現れた決定ボタンを躊躇いがちにタッチする。特に音もなく画面は次へと移行した。

 

 

 

 ⚙好きな艦娘を選んでください

 

 

 

 あれ、と吹雪は首を傾げた。選べと書いてあるのに画面には他に目立つものが表示されていなかったからだ。表示に時間が掛かっているのだろうか。携帯端末感覚で少し待ってみる。すると、現れた時のように音もなく、板は唐突に消失してしまった。

 すわ力の何かを失敗したかと吹雪が焦ったその瞬間、これまた突然、目の前の景色が歪みだした。捻じれるように海が歪み、砂の地面が時計回りに空へと延びる。水平線が雲と混ざり合い、波は真横に飛沫を上げた。

 いや、おかしくなっているのは遠くの景色ではなく目の前の空間だろう。吹雪は直感した。光の通り道が屈折しているから奥が歪んで見えているのだ。これは自分の授かった能力の影響なのだろうか。まるで分からなかったが、無意識が安全を求め体は一歩後ずさった。

 空間の捻じれはやがて向こう側の景色が見えないほどに酷くなり、気が付けばそれは明かりの無いトンネルのように真っ暗な穴へと変わっていた。黒々としたそこは奥があるのかすらも不明瞭で、怪しさから覗き込む事も躊躇われる。

 そんな所から、ゆったりとした足取りで、一つの人型が姿を表し、軽い動作で歪みの境界を踏み越えた。

 薄い黄土色の制服に身を包み、背には艦を模した機械のようなものを背負った茶色いセミロングの女性。艦娘の本能からか、吹雪にはそれが何者なのか容易に判別できた。

「……おはよう」

「お、おはようございます?」

 歪みから出て吹雪と向かい合った女性は割と普通に挨拶の言葉を送って来た。反射的に返したが、艤装も身に着け戦闘態勢をしっかり整えているその艦娘をどう扱うべきなのか吹雪には全く分からない。

「大井さん、ですよね……?」

「ええ、見ての通り。球磨型軽巡洋艦の四番艦、大井よ」

 そんな風に、普通は見ても全く分からない事を、同じ艦娘なんだから当然分かるだろうくらいの自然な態度で目の前の女性は言ってきたのだった。

 

 

 

 

 

 宙に浮いていた魔法使いを自称する自分達の世界を作ったという女の子と色々とお話させてもらい、最終的に一回では済まない事を条件に現世への介入を許可された際、吹雪は文字の印された二つの賽を振らされた。その時に出た目の片方は、偶然にも――偶然にもと少女は言い張っていた――自分をそこへと送り込んだ力の持ち主と全く同じだったのだが、もう片方はなんだかよく分からない文字列になっていた。

 括弧の中に二つの丸と逆さまになったアルファベットの最初の文字、その左右には棒が伸び、左端には片仮名が二文字、右端には二つのエクスクラメーションマーク。どちらかと言えばそれは字でなく絵に見えた。

 どんな力になるのこれ、噴き出した少女に問いかけてみれば、じゃあまあ召喚能力にでもしましょうかと軽い口調で仰られる。文章はあいまいで、そこから連想して作られる能力は発想次第でかなり融通が利きそうに思える。希望を言うべきかとも思ったけれど、察していたのか吹雪自身も戦えるようにしておくと先んじて言われ、口出しし辛くなってしまった。

 少女は少し考えて、ちょっと仕様を纏めるから相談でもして待ってるようにと言い残し、くるんくるんと指を回して出現させた椅子に腰を掛け、一緒に出て来た机に向かって紙とペンで仕様書を拵えだした。ついでのように何もない空から四人の艦娘達が降って来て、えっ何ここと混乱した様子で辺りを見回した。

 四苦八苦しながら状況を説明し、現世で一緒に戦う事になりそうだと言えば、四人の顔は真剣な物へと変わって行く。やる気十分そうに笑う者、不安そうながら精一杯やろうという気概に溢れた者と反応は様々だったけれど、嫌がる者は一人たりとも居ない。皆現状に思う所があったのだろう。

 しばらくは陣形や戦術、武器の扱いなんかについて語り合い、話も煮詰まって来ると軍艦時代の思い出話に花を咲かせ、やがて自身の適性者の事にまで話が及んだ頃。机に嚙り付いていた少女の腕がピタッと止まり、デキマシタワーと両手を上げて、書いてた紙を飛び散らせた。どうやら書類自体は全く不要だったらしい。

 五人に向かって笑顔でぴょんと跳んでくると、最初に四人と一つの内からどれかを選んで貰うから、とりあえずそれについては意見交換してもいいですわ、と対立煽りのような事を言い出した。邪気は無さそうな笑顔だった。

 

 

 

 

 

 だから吹雪は困惑した。だって相談をした四人の中に、大井は入っていなかったのだから。

「言いたい事はあるだろうけど、とりあえず揃うのを待ってちょうだい」

 そう言って大井は後ろを振り返った。そこには相変わらず黒い大穴が浮いている。無音の歪みを見つめると、それは理から外れ切ったものなのだとはっきりと理解できた。下手に弄れば周囲の全てを喰らい付くし、宙に開く大穴となってこの世に残ってしまうだろう。自分の中に燻る力があれを作り出したのだとすれば、恐るべき事実である。

 しばらく二人で無言のままにうねる空間を見つめていると、その暗闇の中から、一人、誰かの影が姿を現した。おはよ、と軽く挨拶して穴をくぐり抜けて来る。その艦娘の後ろからはさらに続々と艤装を付けた艦娘が現れ、最終的に大井を含めて五人の少女が吹雪の前に立ち並んだ。

「昨日ぶり……と言っても吹雪から見ると十年以上経ってるんだっけ?」

「あの神様もおかしな事しますなぁ」

「転生と転移と憑依は違うと言っていたのです」

「きっと何かこだわりがあるんですね!」

 叢雲、漣、電、五月雨。あの時一緒に歓談した四人が、目の前でがやがやと会話を繰り広げている。その横では大井が微妙な目線をみんなに送り、場違い感から少し居辛そうにしていた。何故か、その光景を見て、吹雪は目頭が熱くなるのを感じた。

「みんな、久しぶり……!」

 気付けば涙が浮かんでいた。何泣いてるのよと妹は呆れた顔だったが、こればかりは仕方がない。記憶は思い出せなかったけれど、吹雪の中の艦娘の部分は本能的に寂しさを感じていたのだろう。だって艦は隊を組むものなんだから、たった一人だけで居るのはとってもたまらないものなのだ。

 つられて涙を見せる電と、二人を心配して焦り始める五月雨。我々も感情豊かになったものですなぁと笑う漣に、心底頭が痛そうな叢雲。実際人格を持って会うのは二度目なはずなのに、やけに馴染んだような感覚がして、気付けば五人とも笑顔になっていた。

 

「そろそろ話を進めていいかしら」

 しばらく五人が親交を深め合い、そのやりとりが落ち着くまで保護者のごとく辛抱強く待っていた大井は、複雑そうな顔で話を切り出した。

「すみません、なんだか嬉しくなってしまって……」

 大井はため息を吐きながらも、いいわよと口元を緩ませた。しかし、何かに眉を顰めると、真面目な顔になって五人と向き合った。

「まず私に関してだけど、これを見てもらえる?」

 そう言って懐から取り出されたのは二枚の書類である。大井がその内一枚を吹雪に差し出すと、他の四人も集まって来て五人で覗き込む形になった。

 

 

 

 

 

 ■事前登録報酬配布のお知らせ

 

 深海棲艦出現までにご登録いただき、誠にありがとうございました。

 事前登録特典として、下記の艦娘及びアイテムを配布いたしました!

 

 

 軽巡洋艦 大井 × 1

 燃料 × 3000

 弾薬 × 3000

 鋼材 × 3000

 ボーキサイト × 3000

 

 

 配布物は既に鎮守府の状態に反映されております。

 お手元のブラウザでご確認ください。

 

 

 

 

 

 大した量の文章でもなく、吹雪はすぐに読み終わった。込み上げてきた物は困惑である。事前登録って何。

 登録……というか契約したのは時間軸で言ったらとっくに深海棲艦は現れていた時期のはずだ。転生して十年以上前に産まれたから、それでずれてしまったのだろうか。配布物に関してもよく分からない。3000ずつというのはどれくらいの量なのだろう。それと、大井さん。大井さんは配布されていいのだろうか。納得は……していないのかもしれない、微妙な顔をしていたし。あと鎮守府ってどこのだろう。この沖縄にそんなものは無いと思うのだけれど。

 周りの仲間も首を捻っていたり訝し気な表情で見つめていたりしたけれど、ただ一人、漣だけは何故か納得した顔だった。

「大井さんは仲間になってくれるって事でおけすか?」

「ええ。多少納得のいかない点はあるけれど」

「配布ですもんね……」

 自分が配布と称していきなり沖縄へ遣わされたら吹雪だって納得はできないだろう。受け容れてくれているのはとても有り難かった。戦力的に一人増えるのはきっと少なくないのだから。

「少し不快な言い方よね。でも、本当にいいのよ、そんな事は」

 大井は吹雪の方を向いて微笑んだ。すごく綺麗で、人によってはある種の感情を発症してしまうかもしれないくらい、可愛らしい微笑みだった。

「仲間になれば将来的に、北上さんと会わせてくれるんでしょう?」

 それはもう、美しい、物凄い圧力を感じる表情だった。

 

「それで、確定で吹雪の所に行くからか知らないけれど、ついでみたいに私の頭に基本的な仕様が詰め込まれているのよ。助手か秘書にでもなれっていうのかしら」

 大井が表情を変え、ジトッとした目で未だに開き続けている黒穴の先を睨みつける。だがその奥には何も見えず、何の反応も返って来る事は無かった。

「まあ、いいわ。とにかく多少の資材が配布されているから、最初はそれでやりくりして行きましょう……それで、これも読んでちょうだい」

 見せられたのは二枚の内のもう一枚。最初のに比べると多少渡し辛そうに、大井は苦虫をかみつぶしたような表情でそれを突き付けた。

 

 

 

 

 

 ■仕様変更のお知らせ

 

 日頃よりご愛顧いただきまして、

 誠にありがとうございます。

 

 このたび、ご利用いただきました転生者さまへ

 お伝えしなければならないことがございます。

 

 今回転生者さまの能力に致命的な不具合があったため、

 世界の緊急メンテナンスを実施しておりました。

 

 なんとかサービスを再開すべく、集合無意識との間で

 調整をおこなっておりましたが、発生する欠損の補完が難しく

 大変遺憾ながら、仕様を根本から変更する判断をせざるを得ない状況となりました。

 

 このため、大変急なお話ではございますが、

 集合無意識から抽出し肉体を得た艦娘ではなく、

 集合無意識から複製し肉体を与えた艦娘を配備するように変更させていただきます。

 

 長らくお待たせし、サービスにご期待頂きましたお客さまには

 この様な結果となりましたことを、心よりお詫び申し上げます。

 

 新しい仕様として、複製の得た経験、情報等は

 消滅時に本体へと同期されるよう設定いたしました。

 変更前と能力の使用感は大きく変わらないよう注意しておりますが

 どうかご留意の程よろしくお願い致します。

 

 また、お詫びとして以下の艦娘、及びアイテムを送らせていただきます。

 

 

 駆逐艦 叢雲 × 1

 駆逐艦 漣 × 1

 駆逐艦 電 × 1

 駆逐艦 五月雨 × 1

 高速修復材 × 3

 開発資材 × 1

 震電改 × 1

 家具:お詫び掛け軸 × 1

 

 

 今後ともチート能力をご愛顧いただきますよう

 よろしくお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

「ええ……?」

「詫び石ktkr!」

「いや、洒落にならない事書いてあるんだけど」

「電は偽物だったのです……?」

「まったく分からないですけど……そうなんですか?」

「吹雪以外は、私も含めてそうみたいね。ただ感覚的には自分は自分だし、気にするような事じゃないと思うわよ」

 スワンプマンという思考実験がある。『沼で雷に撃たれて死んだ人間』と『その人間の情報、思考、記憶、体の状態などの一切合切が完全に同じ状態にコピーされて沼から産まれた存在』は果たして同一人物と言えるのかどうかという哲学的な話だ。

 これに本体が健在であり、その本体が後々記憶を継承するという条件を加えられたのが今の彼女達の状態である。本体が存在し繋がっている事が救いになるか絶望になるかは本人次第だろう。

「私のせい……かな」

 吹雪が顔を伏せ小さな声を口から漏らした。実感は湧かない。周りの皆は前に会った時と違うようには感じないし、吹雪の中の艦娘部分は仲間だよ! と叫んでいるのだ。偽物だなんて有り得ない。でも、それはそれとして、書かれている事が本当ならば、そうなったのは自分の持っている能力がおかしな事になっているせいなのだろう。ちゃんと使えなかったせいで不具合なんて発生してしまったのだろうかと頭に過ってしまうのだ。

「何言ってるのよ。あの子供がちゃんとしたシステムを組めなかったのが原因でしょ」

 バッサリ行ったのは叢雲である。言いながら呆れた顔で吹雪の尻をひっぱたいた。ばちんと高らかな音が鳴り、吹雪は痛みに跳び上がる。さもありなん、艦娘の力はかなり強いのだ。

「なのです。思う所はありますけど、吹雪ちゃんのせいじゃないのです!」

「正直に言うと、本当なのかもよく分からないですし……もし本当でも、記憶は残るみたいだから、きっと大丈夫!」

 電も五月雨も、沈み込んだ様子は見せなかった。そもそも五人にとっては言われても自覚できないような話である。嘘ではないのだろうけれど、現状特に意味のある情報ではなかったのだ。

「それに、詫び石代わりに漣達が配られたみたいですからなー。これでもう心置きなく最初の選択をできるっしょ?」

 叩かれた吹雪の尻を撫ぜながら漣は笑った。結局昨日の相談の際、五つの選択肢を最後まで悩んだのは吹雪だったのだ。他の四人の意見は最初から一致しており、今回、他を選ぶ理由もほぼ無くなった。

「そっか……うん。そうだね。話を先に進めよう」

 そう言って、吹雪は決意を新たにした。想定外の人数で始められるのだ。状況は悪くなるどころか良くなっているのである。ならば、この機を自分のお気持ち程度で無にする訳には行かなかった。

 周りを見渡して、仲間と頷き合い、微笑み合い、ちょっとの沈黙。吹雪は目を閉じ、そしてまた開いた。

「あの、大井さん、ブラウザ開けないんですけど、どうやって選択すればいいんでしょうか!?」

 自分の能力のはずなのに仕様がさっぱり分からない。吹雪は自分が情けなくなった。

 

 あの穴に向かって宣言するだけで大丈夫、と大井は自分に植え付けられた知識を乾いた笑いと共に吐き出した。それを受け、六人で歪みと向かい合う。何故か実際行う吹雪よりも、五月雨の方が緊張している様子だった。

 吹雪が一歩前に出る。奥の見えない黒穴が、大口を開けて構えていた。無音の空洞、詰め込まれたような闇の塊。その奥に向かって、吹雪は大きく声を張り上げた。

「私は、吹雪を選択します!!」

 音が大穴へと飲み込まれて行く。残響もなく、それは奥へ奥へと飛んで行った。

 吹雪か叢雲か漣か電か五月雨か。吹雪は今、ゲームである艦隊これくしょんで言う所の初期艦を選択させられていた。最初の一人、誰を選んでも戦力的には大差がないと聞かされていたが、吹雪はかなり悩んだのだ。だってそれは、自分自身を選び一人で戦い始めるか、自分は戦えない代わりに誰かと二人で頑張るかという選択だったのだから。

 ただ、そもそものその前提は、他ならぬあの魔法使いの少女自身によって崩されてしまった。むしろ他を選ぶと何か、アイデンティティの崩壊的な事が起こりそうな予感すらする。だから吹雪は迷うことなく、自分の戦闘能力を選択する事ができたのだった。

 宣言して十秒か、あるいは二十秒か。それ程長くはない時間が過ぎ、吹雪が何か間違えただろうかと思い始めた頃に、深淵の向こうから金属質な何かが音もなく現れた。

 それは吹雪にとってはどこか懐かしく、郷愁の念を抱かせるような形状をしていた。排気塔も砲台も、魚雷発射管も何もかも。見ただけで理解できる。あれは自分の、未だに欠けている何かを埋めるものだ。どういう理屈でか分からないが、それはゆっくりと宙を滑り、吹雪の目の前に着地した。

 指先でそれに、自分自身の艤装に触れてみる。人間と艦娘が境なく混在している吹雪の中で何かが噛み合い、喜びと戦いの予感に体が震えるのが感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦隊の皆さん全員艦娘なんですか……」

「艦娘受肉させる能力なのか……」

 道理で、と言うべきなのか、皆さん美人だったもんなぁ。艦娘はかわいい。みんな知ってるね。受肉させたら美少女艦隊になるよそりゃ。いや人間の艦娘もなんか美形多めなんだけどさ。っていうかあれだ、電さんてば二十歳どころじゃないですね年齢。受肉してからで計算したら一年も経ってないみたいだけども。

「あ、ゴトランドさんだけは違いますよ。あの人はずっと沖縄に居た普通……じゃないですけど、人間の艦娘です」

 なんでもゴトランドさんは深海棲艦襲来時から吹雪さんと一緒に治安の維持に努めていたんだそうだ。私と同じで現役中学生だというのに吹雪さんは案外立場がしっかりしていたらしいのだが、それはゴトランドさんに功績を押し付けられていたからなのだという。

 ゴトランドさんはこの世界についてとか他の転生者に関してもなんか色々知ってそうだけど……まあ、言う気があったらその内言ってくるだろう。話を聞いても悪い事するどころか良い事しかしてないっぽいし、たぶん悪意で黙ってるとかじゃあないと思う。完全に吹雪さんが吹雪さんだと気付いてたっぽいムーブしてるから、何かしらの情報源があるのだろうけど……たぶん楠木提督だよなぁ。本人がそういう能力なのか協力者にそういう人が居るのかは分からんけど。

「ゴトランドさんはいつの間にか艤装を持ってて、その日からお手伝いしてくれるようになりました」

「怪し過ぎない?」

「転生者なの隠す気もないのかあの人……」

 叢雲さんとか滅茶苦茶警戒してたらしい。まあ吹雪さんは信用してたのと素で良い人っぽいからすぐ打ち解けたみたいだけど。

「それで、私の能力って仲間を増やせるんです。無制限にとは行かないですけど……」

 艤装を入手した際にそれが初入手だと、艦娘が一緒についてくるシステムなんだとか。被ると艤装だけしか出て来ないとかで、私が私を見つめてたりする事にはならなかったっぽい。艤装を作った後にその艦娘を呼ぶかどうかも選択できて、艤装は出来ちゃったけどとりあえず今はこの艦種必要じゃないなとかって場合に実体化は後にするなんて事も可能なんだとか。

「実は、ちょっと事情がありまして、増やすのは最小限に抑えなきゃいけなかったんです」

「ああ分かった。さっき言ってた奴だな」

 はて、と私は首を捻ったが、頭上の猫吊るしは事情を察する事ができたようだった。流石私より頭の回転が早い。私が鈍いだけかもしれんが。

「はい。さっきも説明しましたが、とにかく食料が足りなかったんです……」

 沖縄には本当に食料が無い。なのでこれがもう洒落にならないくらい厳しく管理されてたらしく、いきなり五人増えた時点で大問題、無制限に増やしたりしたらあっという間に養いきれなくなってしまう。だから、ゴトランドさんを入れて十人しか戦力として運用できなかったのだそうだ。っていうかそれでもきつかったそうな。

 吹雪さんの能力で受肉した艦娘は普通に食料を必要とする。当然と言えば当然なんだけど、こう、領地で常備兵を雇用できるかどうかみたいな話になるのはもう艦これじゃないと思う。今更過ぎるけど。

「私の能力、出て来るのは艦娘や艤装だけじゃないんです。条件を満たせば燃料や弾薬を貰える場合もあるんです……でも、食料は全然で」

「ああ、艦これする能力ってそういう……」

 どうも吹雪さんの能力、任務システムが実装されてらっしゃるらしい。

 聞けば日、週、月、と期間に制限のある繰り返し行える物から期間に制限は無い代わりに一度しか達成できない物まで様々だが、まともに食べ物が貰える任務は無かったのだという。貰えてもおにぎり何個かとかだったそうで。それたぶん普通の食料じゃないから大事に取っといた方が……え、もう食べた? 腐るよりはいいですねはい。

「だから食料のために本州を目指していたというのは嘘ではないです。ただ、本州へ到達する、という任務があったからっていうのも大きな理由なんです」

 任務の内容は艦これのそれとはだいぶ違うようで、艦娘や深海棲艦とは全く関係のない人助けをする任務なんかもあったらしい。今回吹雪さん達が狙ったのはそのうちの一つ。九州をスルーしようとしたのはそれの達成を優先したかったからなのだそうだ。

「本州へ到達すれば、貰えるんです……給糧艦が、間宮さんが……!」

「あー……」

「艦これの建造じゃ出ないもんな、給糧艦」

 一応本州でも戦いが始まってる事を吹雪さんは知っていたけれど、沖縄を支援するだけの余裕があるかは分からなかった。それでもこの世界だと食料を生み出せる間宮さんが来てくれるのであれば、資材を生み出せる吹雪さん自身の能力と相まって、自分達の食い扶持くらいは稼げるだろうと踏んだんだそうだ。ただ艦これ仕様の間宮さんって使い捨て……いや、たぶん大丈夫……大丈夫だよな……?

 ちなみに、課金要素はないそうだけど、画面内の部屋の模様替えとかはできるらしい。あと、羊を飛ばしてぶつけるゲームがあったり変な所をつついたら妖精さんが踊る映像が流れたりとかもするらしい。いったいどこを目指してんだあの子は。

 さらなる余談だが、吹雪さんの任務は一々選んで受領してから達成する必要が無く、条件を満たせば幾つでも完了可能状態になるようなUIであるらしい。ちゃんと機能改修してやがる……

 

 猫吊るし曰く、吹雪さんのチートは条件を設定してそれを満たさなければ効果を発揮しない代わりにただ魔力を使うよりも高い効能を得るタイプの術式なのだという。能力としては艦娘を生み出した所で終了しており、それ故に生み出された側の維持には食料も水も必要になる訳だ。終了しているために一度出した艦娘を消す事もできない。いや、殺したりする事は可能なんだろうけどね、普通に生き物として成立してるんだから。

 で、吹雪さんがなんでわざわざ私にその辺りの事情を話してくれたのかというと、これはもう完全に吹雪さんの厚意というか……誠意だった。私に対して不義理な事をしたくなかったらしい。真面目な人だなぁ。

 なのでお返しという訳ではないが、現状集合無意識の吹雪がどうなっているのかとか深海吹雪に似た吹雪さんの事なんかをお話ししたら、これが大層驚かれた御様子で、だから仕様変更になったのかぁと納得しているみたいだった。確かに、他の艦娘達も深海棲艦っぽい人達が代理になったりしたら大混乱である。

「吹雪さんの艤装からはあそこには行けないんですか?」

「そうなんですよ、能力で作った艤装ってその機能が付いてないみたいで」

 集合無意識からやってきた艦娘が使うためのものだから、通常の艤装とは少し違う物なのかもしれない。一応明石さん達はメンテナンスできてたっぽいから基本は一緒なんだろうけども。

 

 

 

 今度私の艤装から一緒に集合無意識に行ってみましょうかなんて話をして、お互いにもうちょっと詳しい現在の日本の状況について情報を交換し合っていたら、いつの間にか結構時間が経ってしまっていた。流石に不審がられるかなと思い、私達は工廠へと帰るべく建物の陰からこっそり抜け出した。

 そうして表に出て陽の光を浴びたのだけど、なんだか工廠の向こうから殺気立ったものを感じる。吹雪さんと猫吊るしも分かったらしく、三人とも気になったので戻る前にそちらを覗いて見てみれば、海岸から少し離れた辺りで艤装を背負った二つの影がなんでか睨み合っている。どういう訳だかお互い手にした槍のような物を向け合って、違う構えで臨戦態勢に入っていた。叢雲と叢雲さんである。

「何やってるの叢雲ちゃん!?」

 驚いた吹雪さんが駆け寄って行く。二人とも艤装を付けてるし、無効化能力も使ってなさそうなので怪我はしないと思われるのだけど……何? 喧嘩?

「ああ吹雪、丁度いいわ。試合開始の宣言をしなさい」

「なんで!?」

 吹雪さんも大困惑である。でもそんな事は関係ないとばかりに叢雲さんはすぐ打ちかかれるよう腰を落とし、うちの叢雲もやる気十分な様子で槍を構え直した。二人とも張りつめた空気で吹雪さんの合図を待っている。

「ねえ深雪、あれ何やってんの?」

 私はと言えば、丁度深雪が通りかかったので事のあらましを尋ねていた。いやだって、あっちを見てやってるやってるって呟いてたんだもん。

「あれなー、なんか最初は普通に話してたんだけど、だんだんヒートアップして気が付いたらああなってた」

「つまり何も分からんと」

「あたしも出たり入ったりしてたからなぁ。ずっと見てた訳じゃないよ」

 っていうか吹雪はどこ行ってたんだよーと笑い混じりに深雪は私の痛い所を突いてくる。仕方がないので吹雪さんとお話してたと内容には触れずに説明したら、なんでか深雪は納得の表情を見せた。

「やっぱ同じ艦娘の適性持ってると気が合うんだなぁ」

 まあ確かに、訓練所でもダブル磯波はやたら仲がよろしかった。でもさあ、例えば曙と曙とか霞と霞とかえらい事になりそうな予感しかしないんだが。担当する提督の胃が。

「深雪って二期生にも居ないんだよなー。沖縄の方に居たりしないかな?」

「あー、いや、今の所居ないっぽいよ」

 吹雪さんの能力って建造した後に艦娘を実体化するか選べるらしいから艤装のストックの中にはあるかもしれないけど、とりあえず聞いたメンバーに深雪は居なかった。戦争を知らない艦って事で現代っ子には結構適性者居そうな気もするけどね、関係ないか。

 そっかー残念と言い残して深雪は去って行く。両手に荷物を持っているし、まだ手伝いの最中だったのだろう。私も叢雲達の事が一段落したら合流した方が良いかもしれない。なんて思いながら見送ると、歩を進めて行く深雪の向こうに、今までは叢雲達に気を取られて気付いていなかったけれど、二人の大井さんも向かい合ってるのが見えてしまった。

 同じように腕組みをして真剣な表情で見つめ合う大井さんと大井さん。どちらも基本的に真面目っぽいその二人は、ある時ふっと体勢を解いて、どちらからともなく、同時に右手を差し出した。固く固く、謎の信念を篭められた熱い握手が交わされる。

 あれ絶対北上さん関連で意気投合しただろ。間違いない。

 

 

 




魔法使いを自称する少女がそんな仕様に悪意なくしくさったのは自分もそんな感じだからです。
自分が全然大丈夫だし問題無いだろってガバガバ倫理観でやってます。

ローソンコラボの深雪可愛い。でもコンビニ自体行かないんですよねぇ……





今回またしてもBMM様からイラストを頂いてしましました!
しかも二枚。二枚ってなんだろう……二枚って事ですね!

一枚目はこちら、深海棲艦の転生者達ですね!
動画編集してたレ級やどう見ても目つきが怪しいベイを名乗る不審者や抱えられたほっぽちゃん等々、色々拾われてて見ていてとても楽しくなります。
当方可愛いSDキャラやゆるキャラ好き好き侍なので、浮輪さん達や泣いてる護衛棲水姫やほっぽちゃん、笑顔のレ級に胸がとても熱くなります!

二枚目はこちら、とっても凛々しい長門さんの改二です!!
手足の装備と艤装のバルジ……っぽいものが合わさり、まるで二振りの大剣を操る騎士のような装いですね!
ポーズも大好きで、翻ったコートが厨二心を擽ります。覗くふとももも素敵。好き。
そして猫吊るしの存在感が凄い。視線誘導力が強すぎるぞこいつ!?

BMM様本当に素敵なイラストをありがとうございました!


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お前それで良いのか?

 私の目の前で吹雪さんと吹雪さんが見つめ合っている。いや、見つめ合ってるっていうか、片方がめっちゃ睨んでて、もう片方はその視線を前に居心地悪そうにもじもじしていらっしゃる。

 いつも通りの朝焼けの空、青い海にはオレンジ色の光が混ざり込み、私達の乗った艦はその中をぷかぷか浮かんでいた。ここは集合無意識の中、吹雪さんの領域内の、駆逐艦吹雪の甲板である。

 まあつまり、私の艤装が完成したため吹雪さんがここに来れるか試してみたら見事に成功した上、深海風の吹雪さんが中で待ち構えていらっしゃったという訳なのだが……わあ、深海似さんから滅茶苦茶不機嫌な感情が流れ込んでくるぞぉ。

 

 ――事の次第の詳細を。全部、話して。

 

 静かだが、隠し事したらぶっ転がすぞ☆くらいの圧力を伴ったお言葉である。その深海棲艦に似た姿だと洒落にならないんですが……

 

 

 

 

 

 打ち合った叢雲さんと叢雲がお互いを認め合って、改二にもそのうちなれるでしょと色々察されそうな話をし始めるのを他所に、私は猫吊るしと一緒に工廠の手伝いに戻る事にした。まあ、もうその時には建造を始められるくらいには場の環境は整っていて、猫吊るしを明石さん達に渡したらそのまま作業が始まったので私は要らなくなってしまったのだが。

 猫吊るしは基本的に私の体を使うつもりはないらしく、はっきりと緊急時以外は絶対やだと言われてしまった。私は別に構わないのだが、それで癖になって他人の体を使うのに躊躇が無くなったら寄生生物みたいなサムシングになるから嫌なんだそうで。まあ本人的にゲームするくらいならセーフみたいで対戦はしてくれるっぽいからいいんだけど。

 でもあれ見た目は悪いんだよね、足でコントローラー持つから。宮里艦隊に帰って来てからもやったんだけど割とみんなに見られてて、秋雲先生とか深雪に見られた時は爆笑されたし、叢雲とか山雲、青葉さん達には心配されちゃったりもした。曙はまたなんか変な事してる……って視線が刺さって痛かったです。文月は猫吊るしが見えているので普通に一緒に遊びました。あの子そういう所柔軟というか、私の頭の上を見て妖精さんと遊んでたんだなって即納得してくれたんだよね。島風は真似しようとしてコントローラーと悪戦苦闘してたけどお前がやる意味は無いぞ。

 それで、他のお手伝いを色々してるうちに艤装は完成し、無事起動。私は戦場へ出る権利を獲得した。試運転と称して辺りを回ってみたのだけれど、それを見ていた吹雪さんは何故だか最初にお会いした時のような目をしていらっしゃった。猫吊るし乗っけて走ったのが悪かったのかもしれない。

 あれと比較されてるの? とかって叢雲ーズが会話してるのを尻目に、陸に上がった私は吹雪さんと合流し、そのまま宮里提督と共に打ち合わせに入った。私はこれでも第四艦隊の旗艦だからちゃんとそういう場には出なきゃならないのである。

 と言っても指令自体には大した変更はなく、往復して輸送する任務に雪吹艦隊の護衛と道案内が追加されるくらいだった。向こうで指揮を執ってる九曽神艦隊の大淀さんに話を通したりもしなきゃいけないけれど、まあ顔見知りではあるので問題無いだろう。胃薬が増えるかもしれないのは申し訳ないけれど。

 

 

 

 そんな訳で話し合いはすぐ終わった。時間も遅くないので吹雪さんたちの艤装のメンテナンスが終わり次第出発となる。ほとんど変色海域のダメージだけだったのと、駆逐艦が大半だったがためにそれもあと少しで終わるとの事だった。

 じゃあ準備して待ちましょうかとなった訳なのだが、そもそも私も吹雪さん達も特筆して持って行くような荷物がある訳でなし、特にする事は無かったんだよね。なのでトイレとかそういうのを除いても、ちょっと時間が空いてしまったのだ。

 だからかなり気になってた吹雪さんの艤装を見せてもらう事にしたのである。いやぁ、チート能力で生み出したって言われるとどこがどう違うのかとかすっごい興味出るじゃん? そう思って触らせてもらったのだけれど……そもそも吹雪さんの艤装、改二だったから何も分かんなかったんだよね。

 この世界の改二の艤装は改二になったその人固有の物になり、他の適性者に動かす事はできなくなる。これはどうも吹雪さんの物も一緒であるらしく、私には吹雪さんの艤装を使う事は不可能だったのだ。

 っていうか、聞けばなんかゴトランドさんの艤装も改二だったらしいし、練度結構高そうなんだよね雪吹艦隊。性能を聞くと吹雪さんの改二は普通の――艦これの吹雪改二とほぼ同じっぽかった。私と違って真っ当に駆逐艦として強化されているようで、使えるのなら違いを体感してみたかったけれど、これが触れてもうんともすんとも言わないのである。まあ仕様上当然なんだろうけども。

 ゴトランドさんの方はどうやら艦種が変わるタイプの改二だったようで、航空巡洋艦から空母に変わっているらしかった。なのでどちらかと言えば私や川内さん、長門さんみたいなちょっと変則的な強化がされた側なのだと思う。いや、輸送艦になってる私やニンジャやナイトにクラスチェンジしてるお二人と比べれば至極真っ当な進化してるんだけどさ。

 

 私が雪吹艦隊の艤装を眺めていると、吹雪さんの方も私達の使っている艤装が気になったらしく、触っていいかと尋ねられた。勿論断る理由もなかったので、一応まだ近くに居た宮里提督に許可を取ってから背負ってもらったのだけれど、こちらは特に問題なく起動された。むしろ動かせなかった方が言い訳に困ったかもしれないから万々歳である。

 特に操作などにも違和感は無いようで、吹雪さんのチートで創られた艤装が失われても普通に造られた艤装で代用が可能だと分かったのは収穫だと思う。逆はどうなんだろ、叢雲に叢雲さんのを使ってもらうとかすれば分かると思うけど……やらせるための言い訳が思いつかなかったので実行はできなかった。

 流石に海には出なかったがその場でできる一通りの操作を試した吹雪さんは艤装を置くと、私に向かって神妙な顔で、さらにもう一つの頼みを切り出した。曰く、この艤装を使って元の自分の古巣への接続を試してみてもいいだろうかと。

 これも特に断る理由もなく、試してみる価値はありますぜとOKしたところ、吹雪さんは目を閉じ艤装に集中し始めた。すると数秒後にはその吹雪さんの気配が薄くなる。どうやら立ったまま意識が向こうに旅立ったご様子である。なので一応、あの二人が対面するなら立ち会った方がいいかなと思い、吹雪さんの横に並んで私も同じ場所へと飛び込んだのだ。

 結果、深海風の吹雪さんと普通の吹雪さんが見つめ合ってる所に遭遇してしまったという訳である。最終的にはため息を吐きながらも吹雪さんの事を認めてくれたのでやった甲斐はあったと思うようん。

 ただ私の力に関してはさっさと意思疎通するなりして被害者を出すのを止めろとのお言葉を頂いてしまった。本当に申し訳ない。

 

 

 

 

 

 四国までの航路を島風が快調にブッ飛ばし、その後ろを荷物を背負った私と雪吹艦隊が追従して行く。と言っても見えなくなる所まで行くとかそういう事は無く、ちゃんと陣形を心なしか守ってはいるような気はする。雪吹艦隊の皆さんもその速さには感心した様子で、吹雪さんも流石島風ちゃんと呟いていた。でもあれ本気出してないんですよね……

 かく言う吹雪さん達もおそらくだけど本州の平均的な艦娘達よりかは足が速く、やっぱり全体的にかなり強いんじゃないかなと感じさせられる。隊列なんかも見事なもので、ともすれば集中力が他所へと向いて速度を出し過ぎそうになる私なんかよりは余程練度が高いと思われた。

 とはいえ、戦闘能力の方は見せてもらう機会が無かったんだけどね。二回ほど敵がやって来たけど、こっちに来る前に撃ち抜いて沈めておいたり爆雷遠投して爆☆殺したりしちゃったから。

 そんな道中だったのだけれど、変色海域は変色海域だったので気は抜けず、いつの間にか居なくなってたけど出発前には合流してたゴトランドさんも含めみんな真剣そのものといった様子だったためそんなに会話とかは発生しなかったのだった。私は無用に話し掛けられるほどのコミュ力無いしね。気になる事は多いんだけどさ。

 

 そんな訳で島風がもっと速く行きたそうだった以外は粛々と航海は進み、あっという間に陸地が目の前に迫って来た。吹雪さん達も一安心である。って言っても彼女達の目的地は本州で、ここはまだ四国なんだけども。

 陸が見えてしまえば鎮守府まではあっという間で、建物群もすぐに目視できるようになった。私達も使っていた場所なのでだいぶ見知った景色である。まぁ、九州を狙ってくために急ごしらえで改装とか改造をされた所だからそんなに立派な物ではないのだけれども、機能としてはしっかりしているので安心して頂きたい。

 なんて思いつつ上陸できる場所まで吹雪さん達を先導していると、その埠頭にこちらに向かって鷹揚に手を振る人影を発見した。クリーム色のへそ出し制服を着て長い三つ編みを垂らしたどこか掴み所のない印象の艦娘、そう、ハイパー北上さまである。

 先触れは出していないのでおそらくたまたま外に居たのだと思うけど、艤装を付けていないためちょっと危ない。まぁちゃんと索敵とかは行われてるはずだから大丈夫だろうけども。北上さんはこっちこっちと上がりやすい場所まで誘導してくれて、頭を振るって水気を飛ばす連装砲ちゃんと戯れながら、お帰りーと私達を歓迎してくれたのだった。

 私と島風が前に居たため最初は気付かなかったようなのだが、陸地を踏んだ雪吹艦隊の面々を見て北上さんは、はてどちら様? と首を傾げた。うわー美人さんばっかだねぇなどと笑っていたが、その辺りは北上さんも大概だったりする。

「沖縄からいらっしゃった雪吹艦隊の皆さんです」

「沖縄」

 流石の北上さんも驚いた様子で、六人の方を改めて確認し始めた。艦種なんかも見定めて、その中の大井さんに気付くと知らない大井っちだーと笑いかける。大井さんは無反応だった。それを気にした素振りもなく、北上さんはちょっと大淀さん呼んでくるわと執務室のある建物へと走って行った。話が早くて助かりますわ。

 勝手に入るのも何なのでちょっと待ちましょうかと私達は頷き合った。渡す紹介状なんかを取り出して円滑に話が進むように準備もしておく。その時に、ふと、北上さんの駆けて行った方を見つめ続けていた大井さんが呟いた。

「北上さんが……居るわよ?」

 どうやら無反応だったんじゃなくて驚き過ぎてリアクションが出なかっただけっぽい。北上さんがそんなに好きか。好きなんだろうなぁ。

「いや、でも普通の適性者ですよあの北上さん」

 私が吹雪さんに色々事情を聞かされたのを雪吹艦隊の皆さんは知っている。というか、相談の上で話す事に決めたらしい。なので私の方も大井さんが集合無意識の中から出て来た存在という前提で話ができるのだ。まあ島風は知らないからあんまり聞かれないように配慮せにゃならんのだけれども、五月雨さんと一緒に連装砲ちゃんと戯れてるからたぶん大丈夫だろう。

「それは分かってるわ、墨田さんからもそう聞いていたし……」

 墨田 可奈、宮里艦隊の大井さんの本名である。どうやら名字で呼ぶ事になったらしい。ちなみに大井さんは大井さんと呼ばれていた。名字って事にしたんだろうか。

「でも、あれは北上さんなのよ。北上さんじゃないのに、北上さんなの」

 なんか気配とか印象とか、そういうのが大井さんの北上さんセンサーにビンビンに引っ掛かるらしい。大井さんの場合だとそんな機能も無いと言い切れないから困る。

「それは改二になっているからではなくてですか?」

 北上さん、いつの間にやら改二になってるっぽいんだよね。へそ出てるから分かり易い。昨日一昨日と会った時は普通の制服だったのでまだなり立てだと思うんだけども、ともかく、なったからには集合無意識の北上さんからその一部を与っているはずなのだ。だからそれを誤検知してるとかじゃあないだろうかと思ったのだけれども。

「そう、なのかしら。改二なら確かに納得が……そうよね。印象は北上さんそのものだけれど、別人というのは分かるし……いえ、待って。あの北上さんは北上さんから認められた一部に北上さんを含む北上さんという事なのだから実質北上さんなのでは……?」

「吹雪さん、食糧問題解決したらまず北上さんを呼んであげた方がいいと思います」

「北上さんの艤装まだ造れていないんですよね……」

 誤検知っていうか禁断症状で過敏になってるだけかもしれない。北上さんがこっちに顕現したらえらい事になりそうだけど、まあ大丈夫だろう。北上さんだし。会った事無いけど。

 

 

 

 大淀さんはわざわざこちらまで出向いて吹雪さん達を中へと案内してくれた。大きめの応接室とか設置されてないのでブリーフィングルームでの対応になったけれど、ちゃんと席などは用意されており、できる限り丁寧に扱おうという心遣いは感じられた。クッションとか敷かれてたんだけど誰かの私物なんだろうか。

 紹介状に目を通した大淀さんは自分の手に余るとして、殆ど躊躇もなくホットラインを起動した。ただ私が魔力とか言い出した時よりは落ち着いた様子で、困ってというよりはこの件を楠木提督に直接伝えるべきだと判断したからっぽい印象である。変なとこを通したくなかったのかもしれない。

 そうして吹雪さんと楠木提督は直接話をして、説明や質疑応答などをこなして行った結果、雪吹艦隊は陸路と海路を使って本州まで移動する事が決定された。とにかく一度大本営側で色々検査したり必要な情報を交換したりしたいという話で、吹雪さん達の目的にも合致していて特に反対意見も出なかったため、明日には出発になるらしい。

 大本営側の準備なんかもあるために今日はこの鎮守府で一泊して行く事になるそうで、大淀さんは部屋を用意しますねと鎮守府の人達に指示を出しに行こうと席を立った。その指に、キラリと光る指輪が一つ。あれなるはどう見てもケッコン指輪、島風や長門さんが持っている物と同じ奴である。九曽神提督ってば大淀さんに送ってたのね。間違いなく霞にも送ってると思うけど。そのうち大淀さんも戦場に出れるようになるかもしれない、あれにどれくらいの効果があるのかはよく分からんけども。

 大淀さんは私の視線には気付かずに外へ出ようと扉を開いた。その瞬間、開いた扉の向こうから倒れ込んでくる四つの影。卯月と照月と北上さん、それに九曽神提督である。聞き耳を立ててる事には気付いてたけど、相変わらずノリが良い人達だなぁ。後ろで秋月が愛想笑いを浮かべていた。

 

 

 

 諸々の手配を手早く済ませた大淀さんに呼び出され、私は執務室で沖縄の事とは関係ない九州遠征部隊の現状を報告した。長門さんが改二になったとか特殊変色海域の主を討伐したとかその辺りの話はかなり食いつきが良く、隠し切れずに喜色が露わになっていた。やっぱり秋月の件は気にしてたんだなぁ。実は私が背負ってきてた荷物がそいつの入った死体袋だったのだが、それに関しては研究機関に送りますねと引きつった笑いで答えてくれた。

「こっちでは問題は起きていませんか?」

 必要なら宮里提督に伝えなければいけないので聞いてみたけれど、特にこちらで何か考えなければならないような事は無いようだった。私達の使っていた施設をそのまま使っているので各所スムーズに動いているらしい。まあ九州まで持って行けない個人の所有物が残されてたりはするのでその辺りの取り扱いは注意してるみたいだけれども。

「まあなんというか……個人間の問題なら起きてるんですけどね……」

 なんて事を、大淀さんは右手の人差し指に付けた指輪を見つめながら呟いていた。

 

 

 

 大淀さんへの報告も済ませ、持って行くべき資材なんかは既に輸送艦吹雪に積み込まれているというので、私達はすぐに九州に戻る事になった。とりあえず吹雪さん達とはここでお別れである。話したい事とかはまだあるけど……まあ、個人の都合で作戦に支障を出す訳には行かないから仕方ないね。

 艤装を受け取りに工廠まで行くとそこには既に島風が居て、卯月や照月と一緒に連装砲ちゃんと遊んでいる。秋月も浮輪を付けた子を撫でていて、その子は嬉しそうにミューと鳴いていた。

 そろそろ出発する旨を伝えると、なんでか卯月が駆け寄って来て、目の前でくるりと回って何処か自信有り気な笑みを見せる。どうした急にと用件を問えば、卯月はふっふっふと笑い始めた。

「うーちゃんはこないだ会った時よりちょっと魅力的なれでぃになりました! さて問題だぴょん!! 一体どこが変わったでしょ~か!」

「指輪してる」

 何か言い始めたので即答してやった。いやだって、なんか明らかに指輪付けてるんだもん、左手の薬指に。ケッコン指輪。

 卯月は難しい顔で呻った後、正解っ! と破顔した。年齢的に元ネタ見た事あるか怪しい気がする。

「卯月ケッコンしたんだって。九曽神提督と」

「その言い方は物凄い誤解しか生まないと思うんだ」

 籍入れたみたいに言うんじゃあないよ。大体あの人本命霞だろ。

「しかもうーちゃんだけじゃないぴょん! 重婚だぴょん! 酷い男も居たもんだぴょん!!」

「誤解の広がる表現をわざとするのは止めたげてよ」

 なお言ってる卯月はニッコニコである。九曽神提督と普通に仲良かったみたいだからなぁ。恋愛感情かどうかは知らんけど。

「秋月姉も貰ったんだよ」

 私の分はなかったけどね!! などと照月は元気よく言った。悲壮感とかは全く無く、むしろ笑っていた。たぶん本気で気にしてないと思われるが、私はその辺りの機微はそんなに鋭くないので真相は不明である。

 暴露された秋月ははにかんだような表情で胸元から首に掛かった紐を取り出した。飾り気のない、どこにでもありそうな普通の紐だ。その先の方には、案の定指輪が付いている。こちらに軽く見せてくれたのだが、何やら恥ずかしくなったのか、すぐにまた仕舞い込んでしまった。

 いやその……何? なんか卯月と違って反応がガチっぽいというか……卯月は明らかに冗談で薬指に付けてるんだけど、秋月はなんか……何? そういうのだったの? 涙を見せれる相手だってのは気付いてたけども。

「……ごケッコンおめでとうございます?」

 何を言うべきか困った結果、そんな言葉が飛び出てしまった。照月と卯月は噴き出して、秋月は顔を真っ赤にした。

「それでさ、聞いてよ吹雪、島風! 提督ってば、変なとこヘタレなんだよ!」

 照月が笑いに言葉をつっかえさせながら糾弾する。それはもう、大淀さんの言ってた本当の意味を凡そ察せてしまうような事実であった。

「絶対渡す気マンマンなのに、あの人、霞には指輪渡せてないんだよ!!」

 大丈夫か照月、貴女のお姉さん、隣でちょっと曇ってますよ。

 

 

 

「雪さん、また元気でお会いしましょう」

 これからまた戻るの大変だね、なんて九曽神艦隊の皆と話をしながら出航の準備を進めていたら、出歩くことを許可されたらしい吹雪さんがわざわざ見送りに来てくれた。戦いが続けばまた会う事もあるだろう……というか、改二だし強いだろうから吹雪さんも大規模作戦には呼ばれるんじゃなかろうか。

「はい。吹雪さんもこれから大変だと思いますけど、どうかお元気で」

 私は元気が有り余ってるので問題ないけれど、吹雪さんは沖縄艦娘の代表者なのもあって色々とやる事が多くなるだろうから体には気を付けて欲しい。楠木提督は使える人なら使い倒すっぽいからなぁ。ある意味信頼の証なんだろうか。

 まあそれはそれとして、なのだけれど。

「あの、吹雪さん。ちょっと気になってたんですけど、私に敬語を使わなくていいんですよ?」

 実はこれ、ずっと気になっていたのである。艦時代を入れれば私の方が遥かに年下で、肉体年齢も同年代のはずだ。だから使われる理由が全く無い。存在の大きさ的にも吹雪さんの方がずっと上だし。使われる理由が本当に無い。

「ああ……その、雪さんはとっても強いので、自然とこうなってしまったんですよね……」

 ああーと私の周りの駆逐艦共はみんなで納得の声を上げやがった。たぶんみんなが思ってるのとは違ってチート能力の強さの話なんだけど、実際に挙げてる戦果的にもまったく否定できないから困る。

「でもそうだね、私も雪さん……雪ちゃんとは仲良くしたいから、止めようかな」

 吹雪さんはそう言ってこちらに歩み寄って来る。そして私の手を取ると、その顔に満面の笑みを浮かべた。

「ただし、お互いに。ねっ?」

 ええ、なんだか畏れ多い。とは思うのだけれど、ここで断るのは悪いだろう。願望込みで好意でだと思うし、私も仲良くできるのなら仲良くさせて頂きたいのが本音である。

「うん、じゃあよろしく、雪吹さん」

 周りの皆がん? って顔をした。皆は吹雪さんのフルネーム知らないから仕方ないね。なんせ私もいぶきで吹雪さんもいぶきである。字は違うみたいだけれど、読みは一緒なのだ。

「あれ、何かむしろ距離が遠くなったような……」

「いや私、女子の呼び方名字にさん付けがデフォだから……」

 何せ島風すら本来島さん呼びである。雪吹さんの場合は吹雪が人間としての名前でもあるせいで名前で呼んでるみたいになってただけなのだ。

「……吹雪でいいよ?」

「はあ、じゃあ、まあ、よろしく。吹雪」

 なんかすっっっっっっっっっっごく気後れしちゃうんだけども、なんかそういう事になった。横で島風がオウッと鳴いた。

 

 

 

「それじゃあ、みんなまたね」

「まったねー」

 準備が終わり、私と島風は艤装を背負い海に出る。見送ってくれる皆に手を振ると、声を聞きつけて来たのか北上さんや一緒に居たらしい大井さんも姿を現した。そういえばお話できなかったなぁと思いつつ、一応お祝いの言葉を送っておく。

「北上さーん! 改二おめでとうございまーす!」

 北上さんはにっと笑ってありがとーうと大声で返すと、制服のポケットをまさぐり何かを取り出した。それをこちらに向かって掲げると、自慢するように見せびらかした。

「提督からこんなんもらっちゃったわー!」

 見ればそれはケッコン指輪である。北上さんも貰ってたんかい。っていうか、これもしかして特別感無くす事で霞に渡しやすくしようとしてたりする? どんだけ霞に素直になれないんだ九七。

 などと思う私の視線の先では大井さんがゆっくりと卒倒していた。どっとはらい。

 

 

 




出会った時にはもう勝負ついてた秋月さん。


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ガバっていうか失敗談

「ガバッタ奴、怒ラナイカラ素直ニ手ェ挙ゲロー」

 大本営と呼ばれる建物群の奥深く、一部の存在以外は訪れる者の無いその部屋に複数の人型をしたモノが蠢いていた。各々用意された席に着き、目線をある程度揃えている。その中の一人の言葉に、ある者は顔を顰め、ある者は恥ずかしそうに手近に居た浮輪を抱きしめた。しかし暫くの後に、その場の全員が各々違った高さに手を挙げた。

「……マァ、自分デモヤッテルオレガ言ウノモナンダガ、酷イナオイ」

「全員はびっくりだよ……」

「体増エルタビ」「ガバモ」「増エル」「ネ」

「大丈夫? チャント軌道修正デキテル?」

「うん、まあ……大丈夫だろう、たぶん」

「たぶんかぁ」

「怖いですね!」

「そこは断言して欲しかったよ!」

 只今反省会真っ最中である。各々成功も失敗も曝け出し今後の動きに関して確認し合う場なのだが、今回はその内容が色々と、普段に増して酷かった。

 

「オレカラ言ウガ、アー…………山風轟沈サセタ」

「ヤッチ」「マッタ」「ナァ!」

「どうしてそんな事になったんです?」

 第一の報告者、レ級は盛大に眉を歪ませながら吐き出した。つい先日、山風が轟沈する予知が出ていたため藤艦隊へと向かったのだが、誤って自分が山風を盛大に轟沈させてしまったのだと。

「使イ慣レネーモン無理ニ使ウモンジャネーナ」

 その原因はといえば、ただの練度不足である。自分の能力で砲弾よりも遥かに速く動けるレ級は自身の武装をほぼ使う機会が無かったために、いざ大砲を使用してみたら思わぬ方向へ大暴投してしまったのだ。勿論基本的にはそこまで酷い精度ではなく、誤射が起こる確率自体は非常に低かった故の使用だったのだが、レ級は見事に本番でその可能性を引き当ててしまった。嬉しくもなんともない豪運である。

「やり直す?」

「いや、このままで大丈夫だよ。むしろ美音子くんが指輪を渡す踏ん切りが付いたようだから、悪い結果ではなかったんじゃないかな」

「誰?」

「藤提督だよ」

「み」「~」「ね」「こ」「ち」「ゃ」「~」「ん」

「ボクでもできない発音平気でするよね……」

「藤提督ソンナ名前ダッタノ!?」

「本人は気に入ってたよ」

 たぶん、名付けた側の意図は察していないだろうけれども。

 

「我々ハ」「魚雷デ」「自爆シマシタ」「キャア」「ジブンゴロシ」

「自爆ならそんなに問題ない……よね。当たっちゃった子は可哀想だけど……」

 第二の報告者、PT小鬼群は群体の転生者である。一匹二匹死んだところで何が変わるでもなく、そもそも別々の個ですらない。そのため自爆自体は報告するような話でもないのだが、問題は別の所にあった。

「ソイツ」「ギリギリ」「生キテテ」「捕マッチャッタ」「テヘペロ」「☆」

 PT小鬼は見た目は少女どころか赤子に近い。その幼い肢体が艤装の残骸に引っ掛かってぷかぷか波間に漂っているのを艦娘に見つかってしまったのだ。手足が短く引っ掛かった部分に手が届かなかったのが敗因である。

「私」「PT小鬼サン」「今」「研究所ニ」「居ルノ」

 艦娘達はその個体を捕獲して、どうするべきか迷いに迷った。最早武装もない赤ん坊のようなそれを殺してしまうのは気が引け、逃がしてしまうとまた敵として立ちはだかってくる可能性がある。だから、とりあえず、鎮守府まで連れて帰ってしまったのだ。そっちの方が危ないのだが、召集された艦娘達からは死者が出た事もなく、かなり緩んでいたのが原因だろう。それと、発見者が電だったのも。

 艦娘達はやっぱりその鎮守府で作戦を統括していた大淀にその子を提出した。流石に自分達で保護するとかそういう極端な行動には出なかったが、電は最後まで小鬼の処遇を心配していたという。

 大淀は戦慄しながらも上にそれを報告した。すると引き取り先として手を挙げたのが深海棲艦を研究している人間達である。暴れない生きた検体とか需要しかなかったのだ。ちなみに彼らの挙手に潜在的な危険度は考慮に入れられていない。発電機を完成させた艤装研究所に比べて成果が上がっていないグループだったのである。

「彼らに任せておくと未来でちょっと役に立つ技術に繋がるみたいなんだけれど……PT小鬼くんは電極から電気を流されるのは大丈夫な方かね?」

「駄目ミタイ」「デスネ」「クッソ」「痛イ」「ナウ」

「現在進行形ナノ!?」

「人間じゃないからってそういう事するんだ、へぇ~」

「本来ノコノ世界考エタラ間違ッテルトハ言エネーケドナ……」

 本来ならば人類の九割九分九厘以上が死滅する未来である。尤も、多数の転生者が居るこの世界線でそうはならないのだが、そんな事が彼らに分かるはずもなし。敵対種族への非人道行為を責められるのは結果論でしかない。いや普通に良い事ではないのだけれども。

「彼らの戦後のためにも改変しておくね」

 明るみに出る前に無かった事にする事に決まった。改変は即時行われたが、痛みの記憶が残ったのは致し方ない犠牲である。

 

「ボクは迷子になって会合に遅れました……」

 第三の報告者、護衛棲水姫はとても恥ずかしそうに告白した。周囲の浮輪さん達も心なしかしぼんで見える。芸の細かい連中である。

「ほっぽに送ってもらわなかったの?」

「アリバイ作りみたいなものでね、駅の監視カメラに映って貰いたかったんだよ……」

 あまりにも神出鬼没では怪しいを通り越してしまい信用されない場面が出て来るのだ。ある程度の隙を見せておくのも交渉テクの一つとして機能する、場合がある。のだが。

「まさか浮輪さんが地図を読めないとは思わなくて……」

「浮輪ガソンナモン読メル訳ネーダロ!?」

 三体の浮輪さんはなんでか申し訳なさそうに床に正座している。浮輪が絶妙なバランスで並んでいるようにしか見えない。

「だって海図は読めるから……地図も行けるのかと思ってて……」

「もしかしてベイさんずっと浮輪さんに任せてたんですか?」

 こくりと護衛棲水姫は頷いた。護衛棲水姫は方向音痴である。地図も海図も全く読めないのだ。実際の風景と地図の記号が全く繋がらないのである。

「ツーカソコハチャント予知シトケヨ」

「いや、したんだよ? ほぼほぼ予定時間前後には着くはずだったんだよ。ゴトランドくんの修正範囲とベイくんの移動範囲が被ってしまわなければ」

 直接の干渉が行われた訳ではない。だがそれでも、本来起こるはずだった乱射事件を未然に防いだ結果人の流れが変わってしまい、護衛棲水姫は行くはずだった道を逸れてしまったのである。

「だから実質私の失敗なんだ、ごめんね」

「う、ううん、違うよ。ボクが読めないのが悪いんだよ……」

「一緒ニ勉強シヨウネ」

 北方棲姫の言葉に護衛棲水姫ははにかんだ笑顔で頷いた。ノータッチを掲げるタイプの人間ではあるが、一緒にお勉強するくらいは許されるだろう、きっと。尤も、北方棲姫の方から無防備に触れて来る事も多いので触れないというのはだいぶ難易度が高いのだが。

「ともかくこれに関しては特に問題は無かったから、特に修正とかは考えなくていいよ。私は英語なら普通に喋れるからね」

 やっぱりボクの通訳要らなくない? と護衛棲水姫はちょっぴり落ち込んだ。

 

「私ハ家ヲ水浸シニシマシタ」

 第四の報告者、北方棲姫は深く反省した様子の小さな声で報告した。現場は北方棲姫の貰った家のほぼ全体である。

「最近アポートノ練習シテルンダケド、チョット失敗シテ海水呼ビ出シチャッテ……」

「オレノ編集データガ家具ゴト全部吹ッ飛ンダ……」

 北方棲姫は最近、物を他所へワープさせるだけでなく他所から手元へワープさせる事が可能になった。ただその精度は酷い物で、テーブルの上のリモコンを取ろうとして電池だけ引き抜いてしまうのが現状である。だからこそ練習を重ねていたのだが、ある時――というか昨日、それを大失敗してしまったのだ。

「家ノ中ノ我々ト」「間違エテ海ノ」「上ノ我々ヲ呼ンダモンダカラ」「周囲ノ水ゴト」「来チャッタ♥」

「何をどうしたらそうなるの?」

「マーキングスルト動カサレテモ呼ビ出セルンダヨ」

「我々ハ」「全部デ」「一人」「ダカラ」「一体」「マーキング」「サレルト」「全員」「対象ニ」「ナル」「ッポイ」「ヌ」

 おかげで対象の指定がずいぶんとややこしい事になる。家の中に手元に移動させる物があるはずなのに四方八方からそれと同じ気配を感じるのだ、北方棲姫のミスはそれによる混乱が原因だった。意図せずして上級者向けに手を出してしまった故の事故だったのである。

「ほっぽちゃん、能力の成長すごいですね!」

「ワープノ始マル位置ガ違ウダケダカラソンナニ……」

 正直なところ、北方棲姫はそれほど地力が伸びた気はしていなかった。明確に新しく習得したと言えるのが本人的にはマーカーの設置くらいだったからだ。それにしたって本人的にはただのワープ地点の記憶の応用でしかない。案外何かやっちゃいました適性のある娘なのである。

「レ級はちゃんとバックアップ取ってなかったの?」

「ソレゴト流サレテタンダヨ……アンナ危ネー映像他所ニ保管シタクネーッテンデ全部家ン中ダッタカラナァ」

 レ級の取り扱っている情報は深海棲艦視点でのものが多い。主な撮影者はPT小鬼達とレ級自身であり、敵対者から見た吹雪や現状知り得ないはずの南極付近の映像まで、流出すれば大炎上間違いなしの物が各種取り揃えられている。中にはどこかの誰かの不祥事の証拠なんかもあるため取り扱いには慎重さを求められるのだ。

 そんな劇物であるため、使っている端末や保存媒体なんかはネットワークに接続されていないスタンドアローンなものになっている。当然クラウド化などもされていないため物理的にやられてしまえば一巻の終わりである。複製の数自体も少なく、それらがまとめて保管されているために起きた悲劇だった。

「直前のほっぽちゃんに注意しておくね」

 修正しても誰も損しない案件だったため、北方棲姫の過去に誰も居ない一人きりのはずの部屋で背後から急に肩に手を置かれる恐怖体験が追加される事が決定された。

 

「丹陽、宝くじで一等当てちゃいました!」

 第五の報告者、丹陽の能力は色々と悪用……もとい有効活用が可能である。その事に目を付けたアメリカのヨークタウンに唆され、一回だけですよと適当な番号を買ってみたところ一発で大当たりを引き当ててしまったのだ。ギネス記録級の奴を。

「それってガバなの?」

「宝くじを当てた事そのものは特に問題ないんだけれどねえ。本来のキャリーオーバーを全額得るはずだった人も当てると碌な目に遭わないようだったし。不味かったのは顔写真が載ってしまった事かなあ、ヨークタウンくんの傍に居るだけでもかなり目立つからね」

 ヨークタウンは今現在、米国で英雄としても守銭奴としても死ぬほど高名である。艤装の建造技術に関しては独占状態から国への公開へと踏み切り、代わりに様々な対価を得て企業家として更なる躍進を遂げ続けている。アメリカが曲がりなりにも深海棲艦に対抗できているのは彼女の手腕によると認識している人々はかなり多いし、事実として彼女が独断でやり遂げた事で助けられた人間は非常に多かった。

 その近くで類稀なる幸運を発揮し、転生者特有の愛らしさも持つアジア人の丹陽はとにかく目立つ。ただ仲良くしている所を目撃されただけでも疑いの目が向けられるというのに、そこへ宝くじである。絶対なんかやっただろアレと良くない噂が広がるのは当然の流れだった。

「ヨークノ野郎、未ダニ感覚ガ日本ノ一般庶民ダカラナ。自分ガ差別意識ネーカラッテ脇ガ甘過ギナンダヨ」

「そこは良い所じゃない? あれで高慢なお嬢様してたら……ちょっと面白いよね」

「ホーネットさんの胃が荒れちゃうよ」

「丹陽ノ面ガ割レルト」「ドウナルノ?」「キャー」「丹陽チャン」「コッチムイテー」

「色々あるけれど、とりあえず直近で千人ほど死傷者が出るねぇ」

「なんで……?」

 何とかなっているとはいえ、情勢が不安定な状態なのには変わりない。そこに火種っぽい物を放り込んだら嬉々として燃やす連中も居るのである。

「記事ダケ出ナイヨウニスル?」

「それが無難だね」

「OK、やっておく」

「できるんだ……」

「メディア関係には伝手がいっぱいあるからね、なんとかするよ」

「流石ッツーカナンツーカ……」

「お金はどうしますか? 丹陽には大きすぎてお金って実感も湧かないんですけど……」

「ふむ、丹陽くんの自由にして問題なさそうだけれど……そうだね、どうしても有効に活用したいならヨークタウンくんに預けてしまってもいいと思うよ。信用できる取引先を知っているからね」

 そもそもヨークタウンが主原因なのだから責任は取って貰おうとそういう事になった。ヨークタウンの資産から見たら大した額ではないので問題も少ないだろう。

「でもちょっとだけ無駄遣いしたくなるねー」

「分かります!」

「ナンカ欲シイモノトカアルノ?」

「酒!」「博打!」「女!」

「タダノ駄目ナオッサンジャネーカ」

 PT小鬼には外見年齢的にどれも満足に摂取出来ない成分である。

 

「神様になりました」

「どういう事なの……」

「少しね、アークとウォー様の後ろで色々知ってる謎の預言者ムーブしてたら自然と……」

「何ヤッテンダオ前……」

 第六の報告者、ゴトランドは世界各地に偏在している。未来からの情報を持ち、その場に合わせた動きで過去を改変し、毎日毎日悲劇に見舞われる人間を減らし続けているのだが、実はその時に周囲に見せる態度はその時々で違ったりするのだ。

 ゴトランドは概ね素であるフレンドリーなお姉さんとして振る舞う事が多いのだが、時には冷徹な女スパイとして情報を提供したり、肉食系アマゾネスとして周囲をまとめ上げたりもしている。その中でも特に異質なロールプレイを見せたのがイギリスだった。

 元々英国では日常の裏で転生者アークロイヤルが聖剣を振るいわるいまじょの率いる闇の軍勢を討伐したり、転生者ウォースパイトが魔砲でもって湧き上がる邪悪の源泉を根源まで抹消するなんて事が行われていた。この世界でも有数のファンタジーワールドだったのである。

 敵自身が人目を避け影で活動していたためにその戦いが一般に知れ渡る事はなく、ヒーロー達も存在は噂されども信じられてはいなかったのだが、深海棲艦が現れて以降は事情がすっかり変わってしまった。白昼堂々と人を襲い変色海域で陸地を囲む深海棲艦は、その存在を隠す気が一切無かったのだ。当然、それに対抗しようと奮闘する二人の活動もまた、衆目に晒される事になってしまったのである。

 そこにさらなる油を注いだのがゴトランドだった。元々は目立つ転生者達に協力する分身体には違うキャラ付けをしておこうというそれだけの考えでやり始めた事だったのだが、これが妙な具合に状況に嵌まってしまったのだ。

 ゴトランドはいつどこがどう襲われるかを知っている。なのでその情報を二人に惜しみなく与え、光り輝く聖なる剣と人知の及ばぬ極光でもって兵器の通じない蛮族を駆逐させていた。アークロイヤルの剣が一度振るわれれば聖なる光と共に眼前の深海棲艦は両断され、ウォースパイトが杖をかざせば海面ごと一群が焼き払われる。そしてそれらは人々を傷つける事は無いのである。まさに英雄、何かの生まれ変わりだとか復活した本人だとかそんな噂が囁かれるようになるまでまったく時間は掛からなかった。えらく美人であるし。

 そしてそんな彼女達を支援するゴトランドは先行して預言染みた事を被災予定地に流布しまくった。一応顔は見え辛いようにとフードを目深にかぶったりといった偽装はしていたが、その美しさまでが覆い隠されることは無い。むしろ神秘的な目立ち方をしてしまっていた。普通に顔出ししてた方がマシだったであろう。その状態で避難誘導や事前の警告なんかも行うのだから非常に性質が悪かった。

 当然あれは何者だという話になったのだが、それを聞かれた英雄の二人は言い方に迷った挙句、とても素直に答えたのである。あれは自分達を導く人類の守護者であると。世界中でそんな事をしていると知っていたが故に。

 結果として、ゴトランドは彼の人を導く美しき乙女の地位を手に入れてしまったのだった。本気で信じている人間はごく少数だったが、なんかすげぇ存在だというのは共通認識である。

「まさか人間扱いを通り越すとは思わなかった……」

「うーん、本当に祈りを捧げられているなあ。殆どは守って貰えたらラッキーくらいの軽い感じだけれど……あと神様というよりは精霊様だとか神の使いだとかそっち方面のようだね」

「深海棲艦ガ」「悪イヨー」「深海棲艦」「ガー」

「普通にサポートしてれば良かったのに、そういうとこあるよねゴトって」

「普通にやってもアークくんの仲間と思われたら似たようなものなのだけれどね」

「艤装広めても駄目なんですか……?」

「結局アークくんが率いてしまうからなあ」

 アークロイヤルは普通にイギリス国民である。徴兵すれば普通に面子に入って来るし普通に艦娘としても強い上に普通でないカリスマ性を持っているためどう足掻いてもリーダーとして先陣を切るようになってしまうのだ。空母なのに。ちなみに聖剣に再生効果とかがあるため暗殺もできないという糞仕様である。こいつほっといていいんだろうか。

「ソレデコレッテ、修正デキルノ?」

「いやーキツイでしょ」

 今回こうなってしまったのはゴトランドが何度も何度も正体不明の預言者として活動した結果である。修正しようと思えばイギリスでの活動全部をやり直さなければならないだろう。自分の行動を打ち消すところから始めなければいけないため予期せぬ失敗をする可能性も高く、現実的とは言えなかった。

「いっそ利用してしまおうか、時々だけれど使える場面もありそうだからね」

「うわぁ……戦後が怖いなぁ……」

 ゴトランドのあらゆる場所での目撃証言と映像記録等からそれらに同一人物説が唱えられ、世界中にひっそりと信奉者が増える事態に陥る事になるのはちょっと先の話である。

 

 

 

「そろそろ本題行かない?」

「ソーダナ、結局オレ等ノハ割トドーニデモナル案件ダッタシ」

「そうかなぁ……?」

 一部大問題だったように護衛棲水姫には思えたが、ともかく多くの視線は第七の報告者、楠木 多聞丸へと注がれた。ここまでは前座だという事は全員が理解している。緊張感の増して行く室内。多聞丸は全員を見回すと、一度息を全て吐き出し、ゆっくりと声を絞り出した。

 

「ど う し て 吹 雪 く ん と 吹 雪 さ ん が 合 流 し て る ん で す か ?」

 

 凄まじく震えた声だった。両手で顔を覆い、失意に項垂れる様子は誰から見ても痛々しい。北方棲姫や護衛棲水姫は心配気な声を掛けると、丹陽も不安げに目を伏せる。一方レ級は多聞丸の側へと超高速で移動すると脚部に下段蹴りをお見舞いした。

「ンナ振リハイイカラ、普通ニ喋レ」

 スパンと良い音の鳴る綺麗なローキックだった。

 

「ソレデ、ドウシテソンナ事ニナッタノ?」

 痛がる多聞丸はさておき、北方棲姫は話を先に進める事にした。その気配を察して多聞丸も顔を上げ少し引きつった声で話し始める。レ級は鼻を鳴らした。

「川内くんがね……凄く低い確率を引いたんだ……」

「凄いよね、飛距離も方向も完璧だったよ彼女」

 多聞丸の予知は予知した段階で本人の行動が多少は変わってしまうため絶対に当たらない。ごくごく似通った結果にできるというだけで、全く同じ結果にはならなくなってしまうのだ。何が影響してそうなったのかは分からない。何しろ心臓の鼓動とか、ちょっとした視線の動きだとかで物事が変化してしまうのだから原因の特定は難しいのだ。それでも極力影響を出さないように振る舞っていたというのに、今回川内は雪吹艦隊の目の前へと吹き飛ばされるという奇跡を起こしてくれたのだった。

「ある程度距離があるなら私が誤魔化せるはずだったんだけど……目の前は無理だったよ、流石に」

 そもそも川内が空母を仕留めに来る確率は実はそれほど高くなかった。だというのに現実には特殊変色海域展開時の位置関係や角度まで完璧だったのだから恐れ入る。何かそういう低い確率を的確に引ける術でも習得してるのかと疑いたくなるくらいだった。

「えっと……吹雪さんも転生者に入るから、ゴトランドさんの能力でも記憶が残るんですよね……? それなら飛んで来た時点で一回やり直せば良かったんじゃ……?」

 ゴトランドの能力は転生者には完全な効果を発揮しない。これは経緯が特殊な元艦娘の吹雪であっても同じである。ただ、宮里艦隊の吹雪がそうであるように能力を使われたと認識していない場合ただの夢であると認識する事も多いのだ。この辺りはゴトランドの能力であるせいかゴトランド自身がその世界線をどこまで進めたかが大きく影響する。ゴトランド主観でまだ起こっていない出来事は、そのまま時間が進めば未来に起こるはずの事だったとしても記憶に残る事は無いのである。

 例えばだが、ゴトランドが料理をして多聞丸の前にそれを置き、食べる前に過去に分身を送り込んで食材を全く別の物に入れ替えた場合、多聞丸の記憶には別の料理を出されたはずだった事は残るのだが、その元の料理の味の記憶は存在できない。味を覚えておいてほしかったら食べた後に改変する必要があるのだ。

 今回の場合、川内が飛んできた時点で雪吹艦隊に居たゴトランド主導で過去改変を行えば、吹雪と吹雪を再会させずに事を進める事は可能だった。ただし、それは他の条件を完全に無視した場合である。

「今回の作戦、そこ以外は完璧だったんだよ……」

 吹雪の艤装轟沈から長門による傲慢討伐まで追記回数0、一切ガバのない理想の展開だったのだ。川内の事を除けば、ではあるが。

「ソモソモ吹雪ヘノ好感度足リテネーッテノガ難易度上ガッタ原因ダロ? 実行以前ガガバガバダッタジャネーカ今回」

「それ私のせいかなあ……大本を辿れば島風くんと例のあの子が会ってしまったせいなんだが」

 今回の作戦の根幹は、長門の適性値を1000にギリギリ届かない所に抑えて長門を餌に傲慢を一本釣りする、という物だった。そのため楽に計画を完遂させようと思うなら他の艦娘全員の適性値を1000以上にまで引き上げる必要があったのだが、それが予期せぬ出来事で難しくなってしまったのである。

「島風ガ魔法ヲ使ウ」「ト」「吹雪ガチートノ修行ヲ始メル」「ト」「交流ノ時間ガ減ル」「ト」「適性値ガ上ガリ辛クナル」「ト」「計画ガガバル」「ト」「何ガ始マルンデス?」「第三次大戦ダ」

「割と洒落にならないから困る」

 吹雪は暇な時に自分のチート能力と向き合うようになった。それ自体は本来悪い事でも何でもないのだが、元々他人と積極的に交流しない吹雪がさらにその機会を減らしてしまう事により、周囲の適性値が足りなくなってしまったのだ。青葉にある程度提督の好感度と適性値上昇の事を理解させるという手段も取ったのだが、最終的には速吸の好感度が足りなくなった。

「速吸くんが補給物資を積み込んでいる間に傲慢が出てくれるよう調整するのは難しくてね。その上で他の条件も色々あったし、やり直してもあそこまで上手く行くかどうかは分からないんだよ」

 ゴトランドの能力は同じ部分を改変したい場合、過去に送った分身の改変をさらなる分身で上書きする必要がある。その仕様上、何度もやり直せる能力ではあっても何度でもやり直せる能力ではないのだ。回数に限界が存在する以上、結果に関してはある程度の妥協は絶対に必要になる。

「だから通したんだ……分かりました。でも、合流って予定外なんですよね? この先に影響はないんですか……?」

「基本は問題無いはず、なんだけれどね」

「基本ネェ」

 レ級の瞳が胡乱気な物になる。そう言われておかしな事になって修正に走り回った記憶のあるレ級としてはなんとも信用し難い言葉だった。

「吹雪さんには悪いのだけれども、元々彼女には戦うよりも人数を増やすために働いて貰おうと思っていたんだ。彼女の能力は成長するとある程度クエストの報酬を任意で決められるようになるからね。まあいい物を貰おうと思うと内容が厳しくなるようだけれど、そこは他の転生者と協力すればなんとかなる」

 むしろ宮里艦隊の吹雪という胸のつかえが取れる分、円滑に物事が進むくらいである。なので問題が出る可能性があるのはそちら側ではない。

「吹雪くんのチート能力がまた誰かを外の世界へ飛ばしたりしなければ、問題は無いはずなんだ。本当に」

 予定では吹雪がその辺りの事を知るのは少し先になる予定だった。そこからゆっくりと扱いを習得して能力と和解すればよかったのだが、指輪の不具合から始まる一連の流れによりその辺りのチャートは既に無茶苦茶になっている。異常事態が起きないよう細心の注意を払って進めてはいるが、何かを間違えて吹雪自身が飛ばされてしまったりすると手の施しようが無い。この世界の外を多聞丸は見通せないのである。

「触らぬ神に祟りなしだったんですね」

「大丈夫? ガバがガバを呼んでない?」

「まあ、計画の完遂までそれ程期間もないからなんとかなる……といいなあ」

「曖昧!?」

「っていうか、決戦の日にち決まったの?」

「コッチノ」「世論操作ハ」「順調ダヨ」「傲慢モ亡クナッタ」「カラソロソロ」「ハー」「ジマー」「ルヨー」「戦イハマ」「ダダケドネ!」

「艤装の普及も進んでるから、ちゃんと合わせられるはず……」

「うん。それに関しては心配ない、各国に不安要素もそれほどないから我々が勝てるかどうかだね。負ける事はほぼないけれど勝てない可能性はあるから、頑張ろう」

 はーいと決戦に参加する面々から返事が上がる。多聞丸から見たら吹雪がおかしな事になる可能性よりも自分達が作戦を完遂できない可能性の方が高そうなのだ。注意はするが、そちらにばかりかまけてもいられないのだった。

 

 

 

「ソウイエバ、飛バシチャッタケドリベッチオハ何カ失敗シタノ? 手挙ゲテタヨネ?」

 なんだか解散の雰囲気になった部屋の中で、北方棲姫は思い出したように声を掛けた。この場の八人全員がガバったと言っていたのに一人だけ報告していなかった気がしたのだ。言われた当の本人は微妙な顔をしたが、うーんと頭を捻るとやがて勿体付けような笑顔で話をし始めた。

「リベ? リベはねぇ――」

 

「死にました」

 第八の報告者、リベッチオは端的に言った。滅茶苦茶分かり易かった。みんな納得の説明であった。

「一週間ブリ」「七度目」「リベッチオ」「スグ死ヌ」「ミンチヨリ」「ヒデェヤ」

「そんな凄惨な死に方はしてませんっ!!」

 手近に居たPT小鬼を引っ掴むと、リベッチオはその頬をぐいと引き伸ばした。幼児特有の柔らかさでもっちもっちの手触りである。感触の良さに思わず揉み続けたくなった。

「いや、まさか十秒目を離した隙に死なれるとは思わなくって……」

「リベも故郷があんな世紀末みたいになってると思わなかったよ!」

 リベッチオはゴトランドに回収されて以降、両親と再会を果たしている。父も母も無事だが生活はギリギリで、リベッチオはそんな二人へ定期的に食料やらなんやらを届けているのだ。仕事を任されているのだと親にも周囲にも説明していて、実際滅茶苦茶艦娘として働いているので本当なのだが、それをまともな仕事だと思わなかった人間も結構居るわけで。

「話がしたいって言うから素直に行ったのに、叩くんだもん。でも物の出所を教えないと殺すって言いながらの脅しのつもりの一発目で死ぬってなかなかなくない?」

 リベッチオは艤装を背負わなければ肉体的には普通の子供と大差がない。それ故に、転生者の中では圧倒的に死にやすいのだ。道を歩いていたら襲われて死に、悲鳴を聞きつけて駆けつければ巻き込まれて死に、誘拐され辱められそうになったために自害し、他の転生者の能力に巻き込まれて死ぬ。何か呪われているんじゃないかというレベルで死にまくっている。既に改二になっておりこの先強くなって行くのは間違いないのだが、今の所はまだ叩かれた拍子に体勢を崩し変な所に頭をぶつけてそのまま死んでしまう程度の耐久力しか持ち合わせていないのだ。

「オ前ホント自分ノ命軽イヨナ……」

「ゴトが生き返らせてくれるからね!」

「私の能力も限界はあるからできるだけ死なないで欲しいんだけどなぁ」

 最初の餓死が辛すぎたせいか、大して苦しみの続かない死に方をしてもリベッチオは殆どダメージを受けない。記憶が続く関係で実質死んでいないも同然だからというのもあるが、それにしたって死生観がすでにバグってしまっている。ある意味転生者としての適性は高いのかもしれない。

「それでも、知らない人に付いて行っちゃ駄目ですよ」

 丹陽は諭すようにリベッチオの頭を撫でながら注意を促した。だがこのリベッチオ、精神年齢が体に引き摺られまくっているきらいはあるが、見た目に反して中の人は一応大人である。その扱いはちょっとどころでなく不満だった。頬を膨らませて丹陽の物言いに反抗する。

「知らない人じゃないですー! 近所に住んでたお兄ちゃんですー! 去年まで一緒に遊んでくれてましたー!」

 うわぁ。周囲の皆はドン引きだった。詳しい事を知っているゴトランドすら表情が引きつっている。

「その……辛くないの……? それ……」

 護衛棲水姫はもし自分だったらと思うと笑えなかった。極限状態で人に裏切られる経験なんて、漫画や何かで読むならともかく、実際にやられて立ち直れる気がしなかったのだ。

「え? だって、追い詰められての事じゃん。本当はいいお兄ちゃんだって知ってるから別に……それに、お兄ちゃんリベが死んじゃった後すっごく泣いてたから」

 その男性は誤ってリベッチオを殺害してからその男自身の助けを呼ぶ声を聞きつけたゴトランドが現場に踏み込むまで、遺体に縋りつきながらボロボロと涙を流し謝り続けていたのだ。引き剥がされた時にも抵抗らしい抵抗はなく、只々後悔し続けている様子だった。

「だから無かった事にした後普通に仲良くしてたの?」

「うん、妹がいるんだけどね、あ、その子もリベの幼馴染なんだけど、栄養失調だったんだって。それと他の家族とか親戚とかもみんな。だから人から取るしかなかったんだって。ゴトがやり直してくれたから、いっっっぱい食料持って行って分けてあげたからもう大丈夫」

 そのため今の世界線だと涙を流しながらリベッチオに礼を言い続けていた。リベッチオ的には大満足の結果である。

「器ガ大キイナー」「体ハチッチャイノニネ!」

「PTに言われたくないよ!?」

 リベッチオは手元のPT小鬼をくすぐり倒す事にした。幼児のきゃっきゃとした甲高い声が辺りに響き渡る。少し漏れ聞こえて怪談のような噂話になるのは別の話である。

「あれ、でもリベ、貴女あの彼の声聞こえていたの? 見た感じ即死っぽく見えたけど」

「ソンナ酷イ状態ダッタノ!?」

 そんなに酷くはないけど完全に刺さってたから、と何がどこにとは言わずにゴトランドは説明した。ヒエッっと北方棲姫は鳴いた。

「あ、気付いた? リベね、最近死んだ後も周りの状況とか分かるようになったんだよ」

「ナン……」「ダト……?」「ドウイウ……」「事ダ……?」

「リベもよく分かんないけど、たぶん死んだ後が『みょうに』『つよい』のかも」

「ホッポチャンミテーニ能力成長シタッテカ?」

「斜メ上ノ成長シテル……」

 皆の視線が多聞丸に集まった。きっと説明できるに違いないという信頼の表れである。多聞丸からしたら知らん何それ怖でしかなかったが。

「あー…………そうだね、この世界には知っての通り魂とか集合無意識とか実在している訳だから、あるんじゃあないかな、そういう事も。我々のチート能力も肉体よりは魂依存だからね、死んだら幽霊として活動できるというのも有り得ると思うよ。きっとリベッチオ君の能力適応範囲が広がったという事だろう。うん」

 多聞丸はなんとかそれっぽい回答をする事に成功した。レ級がジト目だったのは言うまでもない。

「やっぱりそうだよね? これ練習したら艤装無くても戦えるようになったりしないかな?」

「そもそも練習してほしくないんだけど……」

「えー、極めたら吹雪やプライズとも戦えるかもしれないのに!」

「その二人敵じゃないからね?」

 リベッチオは自分の能力が他に比べて微妙だという考えに囚われてしまっている。実際の所それは間違っているのだが、主観的に自分より強いとしか思えない連中が居るせいでいくら説明されても納得は行かないのである。

「私はリベッチオに気軽に死んでほしくないな。いつでも私が助けられるとは限らないし」

「そう? ゴト、リベが死んだら悲しい? 生き返るのに?」

「勿論だよ。友達が傷ついて悲しくない訳ないじゃない。できるだけ命は大事に生きてほしい」

 ゴトランドからすればリベッチオはかなり親しく付き合っている年の離れた友人なのだ。死なれるたびに心を凄く痛めている。リベッチオ本人が大して気にもしていないとしても、周りは全くそうではないのである。

 うん。とゴトランドの説得にリベッチオは素直に頷いた。互いに目と目を合わせ、約束だよと笑い合う。美人のお姉さんと美少女の心温まる風景だった。中の人の性別とか前世の年齢とか考慮にまったく入れなければ。

「そうだ、それでね。リベが少しでも体が強くなるようにこれを受け取って欲しいんだけど……」

 そう言ってゴトランドは懐から小さな箱を取り出した。目の前にそっと差し出されたそれが何であるか、リベッチオは理解すると、驚きの後に満面の笑みをその可愛らしい顔に浮かべた。

「リベでいいの……?」

「うん。受け取って貰える?」

 はいっ。

 リベッチオは元気に声を上げると受け取った小箱をゆっくりと開け、中に入っていたものを取り出した。それはケッコン指輪である。どれかの指に付けようと試行錯誤をしてみるが、サイズが大きくどの指にもしっかりとは嵌まらない。仕方がないのでリベッチオは着ていた制服のネクタイに通し、タイリングとして身に着けた。

「どうかな?」

「うん、似合うよ。落ち着いた色が足されていい感じ」

 リベッチオは嬉しそうにはにかんだ。暫くして何かを思い付いた顔になり、自分の持ってきたバッグの中をひっくり返すと、中から渡されたものと同じ小箱を取り出した。

 ゴトランドもリベッチオも提督の適性を持つ。これは二人に限った話ではなく、人間の女性に転生した者は全員何かしらの艤装の適性と提督の能力を持ち、本名に艦を思わせる文字が入っているのだ。だから当然、リベッチオもケッコンカッコカリを提督側として可能なのである。

「ゴト、お返しにこれあげるね!」

「あ、私はいいよ、もう多聞丸から貰ってるから」

 リベッチオのやる気が下がった。

 

 

 




リベッチオは渡せる数が1つだからお返しじゃなくてもっと考えてからの方がいいよ、と後でフォローが入りました。


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ガチ恋距離(基本の間合い)

「お姉ちゃん指輪ちょうだい」

 拠点が完成し特に目立った問題もないという事で予定通りに提艦隊と合流し、久しぶりに初雪達と顔を合わせ抱き着いて来た金剛さんを持ち上げて無理矢理引き剥がしてたらいきなり物をねだられた。一緒に出迎えた島風もオウッと鳴いている。

 最近、艦娘界隈はケッコンラッシュである。先駆けたのは宮里提督でその次に私が行った訳だが、他の鎮守府の提督たちもそれに続いて仲良くなった子達に次々と指輪を贈っているのだそうだ。

 私の知る限りだと三雲提督が夕雲さんに、九曽神提督が大淀さんと卯月と秋月と北上さんに渡している。あと霞ともちゃんとケッコンするはずだ。もし次会った時にまだ贈っていなかったら私は彼をぶん殴らなくてはならない。

 やっぱり一番係わりの多い秘書艦……というか司令官やってる艦娘がお相手になる事が多いようで、噂じゃあ最年少の書田提督が鹿島さんに渡して完全におねショタ同人展開待ったなしらしいがまあ実際の所はまともな分別を持っていると思うから大丈夫だろう。そもそも私は本人と面識があるがそんな有明の女王みたいな人ではなかったし。

「いや、私指輪あげられるの一人だけだから無理」

 そんな流れはあるのだが私はそれ以前の問題としてもう枠が無い。っていうかそもそも初雪だと効果があるのか微妙なラインである。猫吊るしは親友か恋人レベルが必要って言ってたから、むしろ九曽神提督とかも実際そこまで仲がいいのかちょっと疑問だったりするくらいな訳で。まあ初雪の場合は行けてもおかしくないんだろうけど……私恋人とか親友とか居た事ないから匙加減がよく分からんのよね。恋人は興味ない(ガチ)だったし普通の友達はともかく親友ってどっから親友なのかとかよく知らんし。

「え、どういうこと?」

 なんて事とは関係なく、初雪はこっちの事情を全く理解できてない表情だった。そういやそうか、提艦隊だもんな。猫吊るしが言ってた事を加味したらそういう事だろう。金剛さんもクエスチョンマーク生やした顔してるし。ついでに島風もエッと鳴いていた。その鳴き方は珍しいな。

 

「え、あれって人数上限とかあったの……?」

「そうだよ」

 案の定、提艦隊の皆は指輪を渡せる数が普通は有限だと知らなかった。提督の奴、どうも自分的に仲の良い娘や欲しがった相手には無条件でばら撒いてるようで、金剛さんどころか戦闘部隊全員貰っているらしい。初雪と一部のツンデレ気味の艦以外。いやツン発揮してる奴はむしろ貰っとけよ好意あるんだろそれ。

「提督はその辺り天才で、上限がぶっ壊れてるだけらしいよ。私は提督としての才能はあんまないから」

 何しろ私未満の供給最大数してる提督って未だに居ないからね。四国で見つかった深海棲艦に襲われてた(性的な意味で)彼も私よりかなり行けたらしいし。

「お姉ちゃん……もしかして人と係わる能力低い?」

「何を今更」

 関係あるの? と島風は疑問そうに呟いていた。私がコミュ力控えめなのは前々からみんな知ってる事だけど、それが供給数に関係あるかと言われるとそれは確かに疑問である。提督だって別にコミュ力お化けって訳ではないし。低い方ではまったくないけれども。

「それで、じゃあその一つは……」

「島風にあげた」

 私が端的に告げると、隣で島風が首元からネックレスを取り出し初雪にその先端に下がるシンプルな指輪を見せびらかした。初雪はあ"ーとくっそ汚い声を出し、金剛さんはお揃いネー! と自分の薬指の物を見せつける。デザインとかは全く一緒だからなぁ。こうなると私は持ってないから仲間外れ感がある。いや別に要らんのだけれども。

「やっぱりそれがお姉ちゃんの指輪だったか……」

 初雪は島風の指輪をじっとりとした目で睨みつけた。別に奪い取ろうとかそういうつもりはないらしく、いいなーと漏らしつつため息だけ深く吐き出した。

「あれ、指輪に気付いてはいたんだ?」

「だってお姉ちゃん、それ私達が居た時に渡したでしょ……」

 そういえば渡した時にはまだ初雪も金剛さんも宮里艦隊に出向中だったっけ。わざわざ見せびらかしたとは思わないけど、ふとした瞬間に持ってるのを見てたのかもしれない。ネックレスは渡す前だったはずだから保管方法も微妙な事になってたはずだし。

「まあ、そういう訳だから提督から貰ってよ。なんかハードル低いみたいだし」

「そうネー! 初雪は提督とgood friendだから効果もきっとあるはずデース!」

 金剛さんはニッコニコの笑顔だった。これあれだな、たぶんばら撒かれ過ぎて金剛さん的にあんまり重要な物扱いされてないな指輪。それはそれとして左手の薬指に付けてるけども。

「そういえば初雪はちゃんと提督と仲良くやってるんですか? あんまり初雪からは肯定的な話聞かなかったですけど」

「提督とは仲は悪くない……程度。たまにお姉ちゃんの話したりするけどそんなに仲良くないと思う……」

 初雪は眉を顰めて何事か思い出している様子だった。金剛さんの言葉に過去を振り返っているのだろうけれど、特段仲良くなったという覚えは無いようで効果が出るかは疑問のご様子。ただその会話自体は割と盛り上がってたらしい。なんか碌な事話されてない気がするのは気のせいだろうか。

「っていうか、そうでなくても提督のは嫌……」

 なんでさ。と思ったのだが、そこには浅いけど割と切実な理由があった。

「同類項で纏められたくない……」

 初雪は少し遠くで打ち合わせを行っている大淀さん達提艦隊の自衛隊員の艦娘総勢十二名に視線を向けた。適性値が上がった為に戦闘部隊へと昇格した人達で、全員からかなりのやる気が見て取れる。四国の時は八人だったと思うんだけど増えたなあ。初雪とは駆逐艦の皆より余程年齢の近い人が多く、確かに年齢別に纏めるならあっち側なんだろうけど……彼女達と初雪はかなり立場が違うと思うんだけど。

「ショタコン扱いは嫌……」

 なんて考えてたら初雪は何か滅茶苦茶失礼な事を言い出した。

「いやまあ、仲良くなきゃ効果ないみたいだけどさ。受け取ったらそういう対象って事ではないでしょ」

 でなきゃそっちの気のない女性提督とかどうすんのさ。なんて私の軽い言葉に初雪はむっとした表情を返すと、求めてないのに反論のために提艦隊の実情を暴露し始めやがった。

「あの人たちはそうなんだよお姉ちゃん……毎日迅鯨とけん制し合ってたり金剛さんとアプローチ勝負みたいになってるんだよ……!」

「みんなLoveのRivalデース!!」

 二人の説明によればなんか知らんが昇格組の皆さん、みんな提督LOVE勢であるらしい。積極的に挨拶するくらいならともかく、人によっては完全に落とす気の距離感の人とか居るそうな。いやいやまさかまさかと思うが、そういえば大淀さんはなんか私の提督との接し方を気にしてた覚えがないでもない。いやでもなあ。あいつ確かに変にモテるけどそんなんなるか……? 金剛さんにせよ榛名さんにせよ一応理由があって惚れてたんだが、この半年くらいであの十二人全員にフラグ建てたとでも言うのだろうか。ちょっと盗み見るように観察してみると、確かに何人かが見える様に指輪を付けているのは分かった。うーん、でもとりあえず適性値のために付けてみるってのもありそうだから分からん。

 しかし初雪の話を鵜呑みにはできないけれども、っていうか過剰表現なのは明らかだけれども、金剛さんの反応的には事実も含まれているっぽい。にわかには信じがたいがそういう人も居るのは確かなのだろう。でもいくら提督が基本いい奴だって言っても短期間で十二人も落としたってのはほんと信じられないんだけど……あ、いや、待てよ。これはむしろ考え方が逆なのかもしれない。

 もしもの話だが、ケッコンまで行ければ適性値が上がるという話を事前に知っていて、艦娘と提督の相性まで分かる人間が居たとしたらどうだろう。もしもその人が艦娘の配属に関して口出しできる立場に居たのなら、短期間で仲良くなれる組み合わせにしたりとかしないだろうか。

 戦闘部隊に入れない艦娘は戦闘部隊の艦娘よりも数が多い。その中から提督に惚れやすい人間をピックアップしたとすればどうだろう。別に恋愛感情じゃなくてもいいから、とにかく人間的に相性の良い艦娘を。それならなんか納得できない事もない。いやでも十二人は多いか……?

 ……ん? いや待て。それ以前に、指輪を配ったのはごく最近……っていうか昨日一昨日くらいの話みたいだから、あの十二人って指輪を貰う前に適性値上がってるんだよな? そうなると候補者はもっと減るはずだからやっぱりなんかおかしいな。適性値が上がったからここに居るんであって、指輪を貰ったのとここに居るのは関係無いはず。でも初雪と金剛さん曰く、全員提督が恋愛にせよ友愛にせよ大好きらしい。これはどういう事だろう。

 適性値が戦闘部隊水準にまで後々上がる上に提督と仲良くなれる人間を集めた? いやそれ満たす確率どんなもんだよ。っていうか今の所上がったって確認されてるのあの人たち含めて十六人かなんかだぞ。偏りすぎだろ。やっぱ提督フェロモンかなんか撒き散らしてんのか? 転生者か? 魅了系チートか? いやいや違うだろう。たぶん違うような気がする。なんか納得行かないというか、あいつはチート転生者じゃないような気がするんだよなあ。私だってハーレム作ってるような奴ちょっとは怪しんだわけで、横で観察してたけどあれは天然物という気がする。勘だけど。じゃあなんだろう、これも考え方が逆なのか。もっと納得いく理由ってなんだろう。むしろ適性値が上がるための条件を満たせば指輪も渡せるようになるとかそっちの方がありそうな。

「正直、金剛さんがくっ付いてくれれば解決すると思うんだけど……流石にNTRとかはないだろうから……」

「毎日Burning loveしてるんデース!! でも応えてくれないんダヨー! 提督のBOKUNENJINー!!」

「nt……? 何?」

「おいやめろ馬鹿この話は早くも終了ですね」

 青少年に悪影響を齎す言葉を覚えようとするんじゃないよ島風。脳が破壊されてしまうじゃあないか。

「っていうか……なんで提督は金剛さんに抱き着かれて笑って流せるんだろ……」

「あー……あいつ周囲の女子が基本距離近いから、陽の者ってのは概ねそういうもんなんだと思い込んでるんだと思う」

 まず妹のローザ……ろーちゃんが凄い。あの子懐いた相手にはゼロ距離が基本だから、兄にも滅茶苦茶べったりしてる。遊びに行ったらソファーで座る提督の膝の上で丸まって幸せそうに眠ってた。性癖破壊されちゃうヤバいヤバい。いや提督ぜんぜんそういう気微塵もなさそうだったけどなんなのあいつ。

 次に榛名さんもよろしくない。幼馴染だからか勉強教えて貰う時とか普通に顔とかすっごい近かった。尤も榛名さん本人は大丈夫ですってふりしてただけで傍から見たら全然大丈夫じゃなさそうだったけどね。でも提督はマジで大丈夫そうだったから酷い。たぶん小さい時は普通にあの距離で過ごしてたんだろうなあ。

 そして霧島さんも微妙だ。榛名さんの親友なんだが、彼女は男女の区別なくその時の感情の大きさで距離が変わる。正負に関係なく大きければ大きい程近くなるのだ。なので怒らせると目の前で睨まれるし、喜ばせてもすぐ傍で笑い合ったりする事になる。

 さらには中学に入ってから出会った剛田姉妹、金剛さんと比叡さんもかなりのものである。金剛さんは言わずもがな、私の知る限り場所も時間も選ばずに延々アプローチを続けているし、比叡さんの方も巻き込まれる形でToLoveるしていた。っていうか比叡さんも基本は距離感緩いんだよね、提督の事は姉絡みで微妙に敵視してたけど、他の人には男女問わず明るく元気に近い距離でお話ししていた。なのでやっぱりあれくらい普通だよなって思われてた可能性がある。

 なあんて話を初雪にしたら、終わった頃には横から島風がじっとりとした目で私の事を見つめていた。

「伊吹が自分の事棚に上げてる……」

「そうデース! ユッキーもとっても仲良しさんだったネー」

「お姉ちゃん……評判通りの事したでしょ、聞いてるよ……」

 まぁ、その、そうね。そうかもしれない。でもあれだよ、男同士の距離感であって過剰にべたべたしてた訳じゃないから、あんま関係ないと思うんだけど……え? マッサージ? 足つぼくらいなら提督にもやったよ。罰ゲームで。いやあれローザとベネディクタさんにもやったし……一番効いてたのは提督のお父さんだったけども。

 

 

 

 

 

 そんな話をして提艦隊と連携が始まったのがこの間の話。そこから時が過ぎる事一週間。私達は四国から見て九州の反対側、有明海まで到達していた。

 これは今までに比べると圧倒的にペースが早い。だって愛知から九州に入るまでに半年以上かかってる訳だから、それに比べたら数倍くらいの勢いがある。何故そうなれたのかと言えば、それには主に二つの大きな理由があった。

 一つは今この海域の攻略を進めているのが宮里艦隊と提艦隊の連合艦隊であるという事だ。知っての通り宮里艦隊は現在最強の艦隊とか言われてたりするらしいなかなかアレな所なのだが、それに追いすがり段々実力差を縮めているのが提艦隊なのだという。

 つまるところ一位と二位。当然足して三位になったりはしない訳で、合わさったその戦闘力たるやなんかもうこれ他の鎮守府全部敵に回しても普通に勝てんじゃねぇのかレベルだったらしい。らしいっていうのは私は見てないからなんだけどねええ平常運転で二人艦隊でしたとも。

 もう一つはこの海域にはそもそも深海棲艦があんまり居なかった事である。一つ目意味ねぇなおい。

 雪吹艦隊の人達も言っていたのだけれど、九州の周りは本当に敵が居なかった。いや全く居ない訳じゃなくて、散発的には遭遇するし少数ながら姫級鬼級だって発見されているんだけど、でも全体的な印象としては本当に敵が居ない。どれくらい居ないかって言うと、この一週間で四国の太平洋側で一日に遭遇した数と大差ないくらいしか出会わないレベルで敵が居なかった。

 ならもっと早く進めなかったのかって話だけど、それは変色海域の核を捜索しながらだからちょっと厳しい。一応は変色海域内なので警戒自体は怠れないしね。これでも予定より拠点の数を減らして進行してるのでちょっと安全面が心配だったりとかするし。

 それで肝心の核なのだけれど、これが一向に見つかる気配がない。大きいのどころか小さいのすら。誤魔化す気はあるのかダミーは結構置かれていて、それに釣られるように私達は半周以上して有明海まで来てしまったのだった。

 というのも、実を言えば大きな反応を進んだ方向以外から感じ取る事はあったのだ。ただその反応は陸地側からだったのである。当然ながらほとんどの艦娘は陸上適性を持たない。だから時間が取られる可能性の高いそっちを優先する事はできず、先に海から探索していたという訳だ。

 それで有明海まで到達したのだけれど……反応はやっぱり陸地側にあった。方向的に有明海にある可能性も高かったんだけど、有明海側から見ても九州内部を指していたのである。これはもう陸地を探索するしかないだろうか。今までも偵察機で調べたりはしてたんだけど、特に拠点らしきものは発見できてないんだよね。

 っていうか、なんかこの九州の深海棲艦達は他に比べてやる気が感じられない。人員もあんまり居ないけど基地とかも全然無かったぞここ。収集基地らしきものはあったけど敵はほとんど居なくて、一時的に保管していただけっぽい資材が多少残っているくらいだった。戦果としては楽で美味しかったからいいんだけどさ。

 もしかしたら沖縄と同じで勝手に干上がるのを待ってるのかもしれないと宮里提督達は言っていた。そうだとしても違和感がある程に抵抗が無さ過ぎたから、核周辺に戦力を集結させてたりしないかと警戒はしてる訳なんだけど。

 そういう理由があり、有明海をみんなが探索してるその間に、選抜されたメンバーで陸地の反応も追う事になったのである。

 

 非常に大きな危険を伴う地上探索班であるが、その面子は非常に少なかった。最小限の人数で調べて、駄目ならもう無理矢理人を連れてきて人海戦術するしかないだろうという話である。

 メンバーは旗艦に実績のある川内さん、装甲車の運転手に多摩さん、上空から捜索してくれる龍驤さん、レーダーで周囲を警戒する島風、耳や目の良さで感知ができて陸でも敵をぶっ飛ばせる私。以上五名である。提督たちは基地を攻める訳でもないし戦力は吹雪だけで十分ですよね……って話してた。私もそう思う。

 四国で一緒に上陸した人達なので皆勝手は分かっているのもあり、編成された翌日にはもう車を出す事になった。なお今回は朝からの任務だったので川内さんのテンションは低め。むしろ夜に無理する理由が無いのでキャンプするなり大丈夫そうな建物で休むなり泊地に戻るなりする予定である。

 

 

 

 三角測量っぽいやり方で大体の反応地点を予測して私達は泊地を出発した。私のやる事は四国戦の時と変わらず、猫吊るしを頭に乗っけて周囲の索敵である。ついでに何か変なものが無いかも観察する。目的地付近までの数時間、違和感を見逃したりしないように頑張らねば。

 なんて思ってたんだけどさ。私って今まで色々あって自分の一番強化しやすい感覚が聴覚だってのが判明してるじゃん? それで、チート能力さんと呼吸合わせると強化量上がるっぽいってのも分かってるじゃん? だからちょっとね、お願いしてみたんだよ。聴覚強化、イクゾー! って。そしたら、別に返事とかはなかったんだけど、脳内BGMが鳴った後、なんか耳めっちゃ聞こえるようになったんだよね。

 今までもそれなりの範囲を耳で視る事ができたんだけど、それでも距離的にはそんなに広くなかった。百メートルくらいは行けても一キロ二キロは無理だったんだ。それが何か、急激に半径が広がった。近くの物が聞こえ過ぎるという事はなく遠くの物も追加で聞こえるようになった感じで、道の奥に見える山の木々の葉が風で落ちる音すら拾えるようになっている。

 まるで地上でソナーを使ってるみたいな感じで、これなら深海棲艦に先手を取られる事もまず無いだろうと思われた。もし取られても攻撃がこちらに届く前にその弾が風を切る音を私が感知してしまえる。そうなればもうそれを撃ち落とすなりなんなりしてしまえばいいだけだ。私の正確性なら飛んでくる弾を迎撃するぐらいは造作もないからね。

 ただ問題はこの状態、たぶん普通より凄い疲れる。脳が。いやまあ考えてみれば当然の話で距離が伸びたら範囲は三乗とかで増えてくんだからそりゃあ負担は大きくなるわけで。前世からイマイチ頭のよろしくない私の場合処理能力も限界ってもんがあるから仕方ないね。っていうかそうなると体じゃなくて魂の問題のような気がしてならない。もしかして魂に引っ張られて脳の機能が低下してたりする?

 

 そんな訳で自分の根本的なスペックに疑問を抱きながら、長時間やっても知恵熱出ない程度の強化量へと調整して貰って、私は周囲の警戒に当たる事にした。泊地からほど近い舗装された、ただし散らかり放題なコンクリートの道を私達は進んでいる。住宅地のど真ん中だが山や林も遠くなく、割と自然は豊かである。海に近い町であるため深海棲艦の爪痕は大きく、一見して今は誰も住んでいないように感じる。上陸して暴れ回ったのではないかと思われるような跡もあり、初期の混乱は酷かったのではないかと思わされた。

 そんな場所でもこうして耳を傾けていると本当にいろんな音が聞こえて来る。五月蝿いくらいに響き渡るエンジンの音、遠くからこちらを覗く鳥の羽ばたき、車輪が散らばった瓦礫を踏み締める破砕音、欠けた窓ガラスを虫が這い回る数多の足の擦れ合い、木の根元の茸が栗鼠に触れられ飛び出た胞子が撒き散らされる音、なんだこいつと叫ぶ低い声、島風の吐息が車外へ漏れ出し空気と混ざって行く音、地の底で流れる水、未だ時を刻み続ける秒針の音、興奮した何かの荒れた息遣い、龍驤さんの飛ばした偵察機が上空を旋回する音、川内さんのやせんーの呟き。

 いや待って変なのあった。スルーしちゃいけない感じの奴があった。

「川内さん! 人の声がします!」

「なにっ」

 神経を研ぎ澄まし、声がした方へ意識を集中する。目でなく耳で遠くの様子を探り、そして見つけた。何か大きな者と向かい合う二人組。山中の道なき道で、声を上げずに向かい合ったなにかとにらみ合いになりながら静かに後ずさっている。これは……襲われてるか、その一歩手前か。どちらにせよただならぬ状況なのは間違いないだろう。

「距離は……大体3km先、林の中です!」

「遠くない!? よく分かったな吹雪!!」

 川内さんだけでなく、龍驤さんも呆れ顔である。それはともかく、向こうはあんまりのんびりしていられる感じではなさそうだ。何と相対してるのかまでは分からないけれど、付かず離れずでお互いゆっくり移動している。

「何かに襲われているようなんですが、行ってきていいですか!?」

「いいよ! 助けてこい、後から追いつく!」

 即答だった。あまりの早さにちょっと面食らいつつ、私は走る車から軽い跳躍で飛び出した。一度地面に着地して、今度は足に思い切り力を籠める。足元のコンクリートが爆発した。

 私の体が宙を舞う。高い建物がなくて真っ直ぐ進めるから助かった。迂回したりしなくて済む。後ろでは川内さんが車を止めるよう指示しているのが聞こえる。頭の上で猫吊るしがイヤッッホォォォオオォオウ! と歓声を上げた。

 流れて行く景色、建物群を飛び越えて、林の入り口にあっという間に到着する。着弾点が土だったため粉塵が舞うがそれを気にしてはいられない。私は音源に向かって今度は跳ばずに走り出した。邪魔な木々をくぐり抜け、立ちはだかる斜面を駆け上がり、何かに怯える二人の人間の前へと躍り出る。そして私はそれと相対する事になった。

 大きさは1.5mくらいか、正直それ程大きくは感じない。真っ黒な体は独特の光沢があり、その首元だけが白い輝きを放っている。指からは鋭い爪が伸び、半端に開かれた口元にも鋭い牙が覗いていた。好戦的な雰囲気はあまり感じないが、その太い四肢に一度捉えられたなら人の命など容易く狩り取られるであろう事は想像に難くない。こちらの登場には驚いた様子で私をじっくり観察するように見つめている。私も驚愕でそいつをまじまじと見つめる事になってしまった。

「ツキノワグマ!?」

「やっぱそうだよね!?」

 どういうわけか、そこに居たのは九州ではすでに絶滅したとされる哺乳類の一種、立派な成体のツキノワグマだったのである。

 え、これ駆除しちゃまずい奴だよね? どう対応したらいいんだろ……?




向かい合ってた熊と人間「なんだこいつ!?」


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イベントスキップ

 彼にとって森山は己の領土だった。ここには生まれ持った強靭な毛皮を害せるような強者は居らず、生い茂る木々は首を垂れ自ら税を差し出してくる。生まれ持っての山の王。それが自分だった。

 ある日、いつものように民草からの供物を食んでくれようと彼は寝所を出た。日は照り木々の隙間から溢れた光は目覚めたばかりで心なしか冷えていた体を柔らかく温めてくれる。冬は遠くない。まだまだ秋の実りは多く今はまだ食べるに事欠く事は無いが、暫くすればあの厳しい季節がまた訪れ眠って過ごす事を余儀なくされてしまうだろう。だからその日が来る前にでき得る限り体に力を蓄えておかなければならない。故に今日も一日胃に食料を詰め込むのだ。

 しかし、と暫く周囲を見回った彼は思い返した。昨日までの散策でもうこの辺り一帯の草の根共は自分に捧げるべき実りを出し尽くしてしまった様子だった。ならばきっと今日再度同じ所を訪れたところで多くの収穫を得るのは難しいだろう。であれば、此度は遠征するのも一興かもしれない。

 思い立った彼は山を下った。急な斜面の突き出た岩を器用に飛び移り、道なき道を頑丈な前足で踏破して行く。やがて辿り着いた新たな土地には、まだ手の付けられていない木の実や果実がそこかしこに転がっていた。彼は徴収を行う事に決めた。

 噛み砕き、飲み込み、己の血肉へと変えて行く。阻む者は居ない。どうやらここも自分の領地だったようだ。であれば何に憚る事もないだろう。目に付く美味そうなものを彼は次々と口に放り込んだ。

 暫く一心不乱に取り立てを行っていると、よく聞こえると自慢の彼の耳が、ふと、何かが蠢く音を察知した。それは己の向かっていた方向のすぐ脇からで、彼にはそれが非常に耳障りだった。仔狸程度であれば気にも留めないが、それは何かもっと、自分ほどに大きな体をした何者かの気配だったのだ。

 彼は慎重にそちらに向かって歩き出した。実を言えば、それだけの大きさの他者と遭遇するのはこの土地で暮らし始めてついぞなかった出来事であった。細心の注意を払い、しかし争いになった時自分が負けるなどとは露ほども思わぬ堂々たる足どりで何かを伝え合う声の下へと進んで行く。どうやら侵入者は複数居るようだった。

 そこで見た物は二つの足で立つ初めて見る生き物である。分かってはいたが、大きい。四足を地に付ける今の自分を遥か頭上より見下ろしている。だがその体には警戒するべき鋭い爪も、大きな牙も見受けられなかった。四肢は細く、満足に食べられていないのかそういう生物なのかは分からないが、全体の体格も自分に比べれば遥かに見劣りする。表皮もさほど硬そうには見えない。負ける要素は無いように思われた。

 しかし問題は数である。相手は二人組だった。追い払う事は可能だろうが未見の相手である、何をやって来るかはまるで分らない。大胆ではあるが浅慮ではない彼はまず出方を窺う事に決めた。

 暫くの間、互いに見つめ合いになった。相手は少しずつ後退し、それに合わせ自分も少し距離を縮める。最も己の力を発揮できる間合い、それを崩さない慎重な立ち回りだ。何か、もし自分への害意でも見せれば一息に飛び掛かり、その柔肌を蹂躙してやろうと彼はにらみを利かせていた。

 じり、と相手が動く。その足が、急にその速度を速めた。その動きに彼の脳は過敏に反応した。尖らせた神経が全身に攻撃命令を下し、一息でその距離を詰めてくれようと両足に力が掛かる。

 その瞬間に、先ほどまでとは比較にならない轟音が鳴り響き、咄嗟の警戒に彼が目を見開いた時には、既に自分の間合い内にそれが入り込んでいた。

 

 なんだこいつ!?

 

 いつの間にそこに居たのか、彼には殆ど理解できなかった。全くそれがいつ出現したのか見えなかったのだ。一応、外見的には背に硬そうな甲羅を背負ってはいるが奥の二人よりはかなり小さい。力強さという物はそこには無く、毛皮に覆われているでもない首元に爪の一撃も見舞ってやれば、そのまま絶命しそうなほどにか弱く見えた。

 だが、ああ、何という事だろうか。彼は彼が思っている以上に賢く、愚かではいられなかった。僅かな時間で彼は理解していた。あれは、紛れもない、間違いようもない、自分の死そのものであるのだと。

 目の前のそれは自分を目の前にして警戒態勢にすら入っていないように見えた。敵意も悪意も無いのだろう、むしろこちらの存在に驚愕している様子である。しかし、それから受ける印象は、何か全く得体のしれない、ただただ強大な物であった。今まで支配者であったはずの己は酷く矮小な存在でしかなかったと、今初めて感じる五感を越えた何かが告げていた。

 湧き上がったのは純粋な恐怖である。四つの足は震え、今まで己の中に聳えていた誇りは自ら砂となって崩れ落ちた。本能が、魂が叫ぶのである。終わりだと。

 顕現した己の死と向かい合った者の反応は主に二つ。反抗か、逃避か。だが、彼の選んだものはそのどちらでもなかった。堂々と、崩れ落ちそうになる四肢を辛うじて残った砂粒の自尊心で抑え込み、その顕現した恐怖の化身の前に歩み出て見せたのである」

「どうした急に」

 クマーさんの相手してたら突然猫吊るしが何らかの電波を受信し始めた。流石に野生生物がそんな面白いことを考えてはいないだろう常識的に考えて。いや確かにゆっくり静かにこちらに歩み寄って来て停止してるし、なんかこう体勢的に首を差し出してるみたいになってるけども。絞首台に送られた王族が最期まで無様な姿は見せないようにと気高く振舞ってるような風格は感じるけれども。

 

 私は飛び込んで行って突然の熊に驚いてウカツにも動きを止めた。まあその場の全員みんなびっくりしたみたいで人も獣もみんな停止状態になってたから問題は無かったんだけども、そのまま推定ツキノワグマと見つめ合う事数秒。彼、もしくは彼女はこちらに大人しく投降した。そしたら猫吊るしがなんか言い始めた。正しくはないと思う。

 しかし襲い掛かって来ないとはいえ相手は野生生物、どうしたものかは普通に困る。後ろの人達もどうしたらいいのか困惑している様子で、逃げるべきなのか留まるべきなのかも分かっていないご様子。

 熊さんは大人しいしちょっと撫でてみたくなる衝動に駆られるのだけれども、野生の生き物にそんな事していいのかどうかがよく分からん。とりあえずここから急に襲われても艤装のおかげで怪我とかはしないはずなんだけど、私スルーして後ろに向かわれるとちょっと困る。いや取り押さえる事は普通に可能だろうけど、怖がらせちゃうし。やっぱり熊さんにはどうにかご退散願った方がいいだろう。とりあえず、突然暴力的になるのはどうかと思うので、伝わるかは分からないが目線を合わせて忠告してみる事にした。

「やまへかえるんだなおまえにもかぞくがいるだろう……」

 猫吊るしが咽た。いやしょうがないじゃん出ちゃったんだから。ソレントへ帰れよぅとか歌い出さなかっただけマシだよたぶん。

 肝心の熊の方はというとじっと何か覚悟の決まってそうな瞳でこちらを見つめるばかりである。当たり前だけど何言われてるか分かってませんねこれは。仕方ないのでちょっと失礼して、体を持ち上げて反対側を向かせる。そしてぐいっと尻を押してやった。特に抵抗もなく前に向かって微動だにせずに少しだけ熊は押し出された。

 何度かそれを繰り返すと、そいつはゆっくりと不思議そうに一度こちらを向き、慎重に前に歩き出した。なんか恐る恐ると言った様子に見える。でも二十歩くらい行った所でもう一度振り返ると、突然弾かれたように走り出し木々の中へと消えて行った。

 私の耳には熊さんが駆けて駆けてとにかくここから逃れようとするのが視える。一心不乱に走っているのでたぶんこっちに戻ってきたりすることは無いだろう。いったい何から逃げてるんでしょうねえ……野生の希少種っぽい相手に危害加えるつもりなんてこれっぽっちもなかったんだけれど。そんなに怖いのかなあ私。

 っていうか、言っといてなんだけどあのツキノワグマって家族とかくまぴょいする相手とか居るんだろうか。最後の一頭とかそんな事無いよな……?

 

 熊の脅威が去ったと見て、後ろの人達は全身から力が抜けたようだった。へたり込んだりするほどではないみたいだし、私へ警戒というか困惑というか猜疑というかなんなんだこいつみたいな目線は向けたままなので緊張が完全に途切れた訳ではないようだけど、先ほどよりも明らかに危機感はないように見える。まあ、言葉が通じるだけ私の方がマシなのは間違いない。

 とりあえず振り向いてお怪我はありませんかーと確認し、狼狽した様子ながら特に問題ありませんと帰って来たので通信機で川内さんに連絡を取る事にする。追いつくって言ってたけど、たぶん想定外に私の移動経路が真っ直ぐだったと思うし。

「こちら吹雪、応答願います、どうぞ」

『こちら地上探索班川内、状況を。どうぞ』

 出るのは凄い早かった。すぐ出れるようにって構えていたんだろうか。通信機の向こうから漏れ聞こえる息遣いはそんなに変わった所はないけれど、集中すると凄い動いてるような風を切るような音が後ろで鳴っている。これは……走って追いかけて来てる? どうやら本当に合流する気だったようだ。

「生存者と思われる二名を保護しました。迷彩柄の上下を着た男女です。どうぞ」

『了解……襲ってたって奴はどうなった? どうぞ』

「熊だったので山へ帰しました。どうぞ」

 ん? と疑問の声の後、川内さんから返答が少し止まった。動く音は続いているが、エンジン音は聞こえないためやっぱり走っているっぽい。

『球磨? ……艦娘?』

「いえ、熊です、ツキノワグマ……ベアーですベアー。どうぞ」

 熊ぁ!? と大きな声が通信機と林の入口の両方から聞こえて来た。思ったよりずっと近くに居たようだ。通信している声が漏れ聞こえたようで生き残りであろう二人も苦笑いしていた。

 

 

 

 川内さんから指示されて私達は林の傍の整備された道まで降りる事になった。どうやら川内さんは私が発った後に自分も跳躍して、ちょくちょく改造され続けてるらしい暗視ゴーグルの別機能も使って私が林に踏み入るまでは視認していたらしい。でも、そこから先はどこまで行ったかちゃんとは分からなかったのだそうだ。いや足跡残ってるだろうから捜索すれば分かるんだろうけど時間の無駄だしね。

 合流し、やっぱり跳んで走って来ていた川内さんと一緒に車を待ちつつ民間人のお二人から話を聞いたのだけど、何でもこの二人、私達が通って来た町とその先にある海の様子を調べにやって来たらしかった。そのために双眼鏡なんかも持っていて、林の中に居たのは敵――つまりは深海棲艦に見つかり辛くするためだったようだ。四国でもそうだったけどあいつら基本道があればそっちを使うみたいだから確かにそれは効果的だろう。まあ全然関係ないとこから突撃してくるようなのも居るみたいだけど少数派らしいし。言ってはいなかったけど迷彩服なのも対策の一環だろう。

 海に深海棲艦が少なかったのと同じようにここ最近は内陸部でも深海棲艦の目撃数なんかが減っていたんだそうで、そのためもしや何か変化があったのではないかという事で調査に駆り出されたのが彼らだった。くまさんに出会ったのは完全に想定外だったそうな。そりゃそうだ。

 私達の正体についてはお二人はかなり驚いていた。というのも、私はどう見ても成人してないし川内さんも改二になってから若々しさに磨きが掛かっているからだ。川内さん、元々あんまり大人っぽくないというのに改二になって某夜戦忍者の影響を更に受けだしたせいか言われないと学生に間違われるレベルなんだよね……見た目はそんなに変わってないんだけどなんだろう、雰囲気がそう思わせるんだろうか。改二の制服も相まって自衛隊員とは言ってもまず信じられないレベル。実際彼らが完全に信じてくれたのは装甲車で迎えに来た龍驤さんと多摩さんを見てからだった。二人も年を重ねてるように見える訳ではないんだけど、私や川内さんに比べればまだ納得の範囲内だったのだろう。なお島風の服装。

 

 

 

 さてこの発見されたお二人であるが、とりあえず本人達が良ければ泊地に案内するようにと提督から指示が来た。っていうのも、避難先に戻って適当な事を吹聴されたら困るからである。誤解を恐れない言い方をするならそもそも私達は彼らを直接救援に来たわけではないし、目的を達成してその救援がやって来れるようにする目途もまだまだ立っていないのだ。だからしっかり現状を理解して貰って、黙っていてもらうかちゃんと正確な情報を伝えてもらわなければいけない。食料支援とかもあんまりできる様な状態じゃないから仕方ないね。

 彼らは海に近づく事に難色を示していたのだが、私達が寝泊まりしているような所で見回りや見張りなんかもきっちりされているとちゃんと説明して、ちゃんと戦えるのだとその辺りに放置されてた車を持ち上げて見せたりもして最終的には説得に成功。彼らも情報は欲しかったようで、車の中でお互い情報を交換したりもしたのだけれど、その中には気になる点が幾つかあった。

 一つは私達が向かおうとしていた地点の周辺の話。そこは彼らの拠点としている町からは遠くないらしいのだけれど、数か月前にその辺りにあった谷が面影も残さずに崩れ落ち、流れていた川ごと完全に埋まってしまったらしいのだ。その上で、どういう訳かその川の流れ自体はせき止められず、上流からの水は海へと流れ出続けているのだと言う。そして、その谷から流れてる水は、海の水と同じようにどす黒い赤に染まってしまっているらしいのだ。

 二つ目はその谷が崩れてしまったと分かる少し前に、その付近で多数の人型の深海棲艦が人型でない者を引き連れて闊歩していたのが発見されている事。そして三つ目はその前後に何か酷い轟音が谷の方から響き渡っていたという事だ。

 これは完全に当たりだろう。っていうか、もうこれどう考えても川の上に変色海域の核を設置して谷爆破して埋めて帰っただろあいつら。ふざけんな。土木工事必要なレベルの遅延行為とか誰だよ考え付いた奴。っていうか水が流れ続けてる辺りあいつらも普通に埋めたんじゃなくて何らかの工作してるだろ。地雷とか埋めてあっても何の不思議もないぞこれ……

 あと一連の話で少し気になったのだけれど、音のしてた時期がどうも私達が九州どころか四国に到達するよりも前っぽいんだよね。たぶんクジラを解体した後くらいだろうか。埋めるのって向こうにメリットばっかりある訳でも無くて、時間さえ掛ければ確実に核が破壊されるってデメリットもあるはずなんだけどって猫吊るしが言ってるんだけど、深海棲艦はそんな前から九州放棄を視野に入れてたって事なんだろうか。悪い事考えてそうで嫌だなあ。

 最後に気になった四つ目の話。なんかぁ、この人たちの上司というかまとめ役みたいな人が居るらしいんだけど、その人、目元に黒子のある髪を青っぽく染めた美人の日系人で月島さんって言うらしいんすよねぇ。やっぱり各地に遍在してんのかあの人。っていうか月島って事は淡路島の件の行方不明者もそうだったっぽいなこれ……間違いなく北海道にもいるんだろうなあ。それできっとそこでも人助けしてるんだ。すげえ有難いな何なんだあの人。

 

 

 

 

 

 泊地まで二人を送り届けると私達は再出発した。向かう先は同じ方向だけど目標地点はさらに明確になっている。とりあえず崩れたという谷を見に行く事に決まったのだ。そこじゃなかったらマジでもう手がかりが何にも無くなるからこれで終わってくれるといいんだけどねえ。

 なんて思いながら同じ道を再び行く。今度は悲鳴が聞こえるようなトラブルもなく、私達はあっという間に市街地を抜けた。そのまま元々人気の無さそうな、でもしっかり舗装された道を装甲車で進んで行く。インフラ整備の賜物である。さらに奥がどうなってるかまでは知らんけど。

 聞いた通り行く道にも周囲にも深海棲艦の気配はほとんどなく、あってもイ級が一匹だけでとぼとぼ歩いているだけとかそんなんだった。一応許可を得て狩っておいたけど、軽く調べたらそいつと来たらまともに弾薬すら持っていなかった。きっと迷子になって彷徨ってただけだったんじゃあないだろうかと思われる。考えてたより内部はずっと安全そうで驚きしかないのだけれど、まあ解放後の救援活動や支援物資の運搬は四国よりもかなり楽に進められそうだから良かったんじゃないだろうか。

 

 道のりを快速に突き進み山の方へと分け入って暫くするとさほど大きくはない川が見えて来た。流れはあまり急ではなく深くもなさそうで渡ろうと思えば簡単に渡れる程度の物なのだが、その河水は聞いた通りに赤黒い。これを追って遡上して行けば件の場所にまで着くのだろうと思われる。ただ、川沿いに車が進める道路が存在していなかったため、そこからは徒歩で谷を目指す事になった。

 河原……というには狭いそこは整えられてはいなかったが特に歩き辛いという事もなく、私達は順調に進んで行った。やはり変色しているからかそこに命の気配はなく、どことなく周囲はうすら寒い。一応私達は川の上も歩けるのだが、なんとなくみんな地上の方を選択して谷の方へと向かう事になった。

 やっぱり敵とか居ないなぁと思いつつ、頭の上で反応完璧にこっちからだわって上流を指してる猫吊るしにも進行方向の正しさを保証されながら早足で歩く事一時間くらい。私達は川の出現地点まで到達した。変な言い方だと思うが、その地面の下から急に赤い水が噴き出しているのだから仕方がない。その奥は何と言えばいいのだろう、急な坂? 20mくらいはあるか、確かに崩れて谷間ごと埋まってしまったような状態で、ただ、川の周囲は明らかに自然の仕業とは思えない程度には押し固められているように見えた。

 とりあえず猫吊るしを放り投げて上からも見てもらったのだけど、やっぱり無理矢理崩されてこうなったんじゃないかと思われるらしい。時間が経ってるからそれなりには自然に見えるらしいけど猫吊るしの目は誤魔化し切れないようだ。

 方向も上からと下からの反応を合わせて鑑みるにこのすぐ奥、完全に崩れたその地中ではなかろうかという話である。龍驤さんがマジかぁと呟いた。気持ちは分かる。だってここ、重機使って掘り返そうと思ったら道を作る所から始めなきゃならない程度には奥地だもん。いやそこまで距離はないんだけど、地図を確認してもここに昇って来る道も下りて来る道も無いんだよね。明らかに狙ってここに設置されてる。どんだけ遅延行為好きなんだよ。

 川内さんが提督に報告している間に、私は新しい斜面と化したそこを少し調べてみる事にした。よく固められている箇所に耳を付け、目を閉じ土砂全体に耳を澄ます。島風が何やってんだこいつって雰囲気でこっち見てるけどこれが一番分かるんだからしょうがないじゃん。

 土の向こう主に聞こえてくるのは下を通っている様子の川の流れ。どうやら金属的な物かとにかく硬い何かで流れを保護されているようで淀みや閊えは全く無く、ある程度なら増水しても溢れ無さそうな気配を感じる。上流がどうなってるかは分からんけど氾濫は今の所してないんじゃないだろうか。そんなに大きな川じゃないからしてもそんなに脅威にはならなそうだけど。

 そんな流れのさらに奥、崩れた土砂とその下にある元々の地面に跨るように、何か巨大な塊が鎮座しているのが分かる。直径にして十メートルくらいはあるか、気配からしてもたぶんこれが変色海域の核だろう。普通の物は一メートルあれば大きい方なのでこれはかなりの大物である。質量にしたら千倍近くある事になるし。

 構造的には川の幅を無理矢理広げた場所の真ん中にそれが突き刺され、それを何かで固定している感じになっている。周囲を水が流れているみたいで、もしかしたらこんな所に設置するためにそういう構造にする必要があったのかもしれない。普通は海の上か近くにあるもんなぁ。

 そしてその周り……というか、埋め立てられた土砂の中に満遍なくなのだが、大きな金属製と思われる塊がばらばらに埋まっている。私としては凄く馴染みのある造形、おそらくイ級とかロ級とかハ級とかニ級だろう。おいおい深海棲艦埋まってんよここ。あれか内側から崩したら自分達ごと埋まったとかなのか。なにやってんだこいつら。

 っていうか、たぶんこいつら生きてるよなぁ。今は動いてないみたいだけど、掘り出したりしたら動き出しちゃうんじゃないだろうか。人形っぽいのは居なさそうだし、もしかしてわざと部下を埋めたのか。嫌がらせで。

 

「……という風に感じられるので普通に掘り出したら危ないと思われます」

「時間稼ぎに全力過ぎだろ……」

 川内さんに言ったら説明難しいからって提督に直接報告させられて、終えたら猫吊るしのぼやきが入った。龍驤さんによると周囲に敵影も無いらしいのでここを囮に周囲を囲んでくるとかそういう事もないっぽい。マジで勝つ気のあるやり口じゃないのである。島風もさっさと解決させてくれない事にご立腹だ。速さだけじゃなくて早さもあった方がいいらしい。

 宮里提督は報告を基に大淀さん達と対応を考えるとの事で、とりあえず私達は周囲を見張りつつできる範囲で調査を続ける事になった。上流でも見てくりゃいいんだろうか。奥に目標があるのが分かってるのに直接攻撃できない事に島風も不満そうである。普段から少し眠たげな目がさらにジトっと細められた。

「もう吹雪が押しつぶしちゃえば?」

「いや、流石に衝撃分散されちゃうんじゃないかなあ」

「行けたとして思いっきり土が爆発して悲惨な事になりそうだよな」

 確かに、多少固められてるとはいえ土砂だから飛散して最悪私が埋まりそうである。っていうか島風は私の事何だと思ってるんですかねぇ。日頃の行いが悪いという自覚はあるけども。

「やるなら衝撃だけ中に貫通させるとかそんな事でもできなきゃ危ないと思う」

「浸透勁とかか? 吹雪って剛拳タイプだもんな戦い方」

「できないの?」

「できる訳ないでしょ」

 っていうか実在するのかそんな技。多少ならともかく完全に力を内側にだけピンポイントでぶつけるとかできたらそんなのマジカル太極拳もびっくりじゃん。いや待てよこの世界ファンタジー世界だから無いとは言い切れないかもしれない。でもそんなもん使えそうな人とか心当たりが……心当たりが…………

 私がちらりと後ろを振り返るとそこに居るのは川内さんである。龍驤さん多摩さんと一旦休憩にしようかと相談している所だった。いやでもなあ。いくら素手で深海棲艦倒せるからって流石にそんな変な技使えたりはしないと思うんだよ。

 あ、でも、もしかして使い手の知り合いとかは居たりしないだろうか。

「川内さん、攻撃した個所より奥に衝撃が貫通する技とかに心当たりってあります?」

「どうした急に」

 川内さんは突然話しかけられて訳の分からない事を言われて戸惑ってしまったようだった。流石に急すぎたらしい。

「柔拳とか浸透勁とか言われる奴です」

「いや、それは分かるけど流石に……」

 川内さんは難しい顔になった。流石に無いか。

「うちの奥義の一つだから吹雪でも一年、いや一月くらいは……」

「あるんかい!?」

 ツッコミは龍驤さんから食い気味に飛んだ。島風はその早さにオウッと目を輝かせていた。

 

 

 

 

 

「じゃあ行きまーす」

 私は埋まった谷の正面に立ち、背の向こうの皆へ通信機越しに声を掛けた。谷からはちょっと離れて貰っていて、失敗しても安全なはずである。通信機の向こうからはオーライと返答が返って来た。川内さんの声だが諦観に満ち溢れている。

 いや、悪い事したような気はしてるんだ。休憩時間中に実演して貰って手取り足取り教えて貰ったら頭の中に電球が浮かんでやり方分かっちゃったのは流石に罪悪感しかない。チート能力さん最近自重なくなってない?

 それはともかく、なんかやれそうですって宮里提督に報告したら、少しでも不安点があるようなら絶対やらないでくださいって言われたのでもっと念入りに調べて、別に中に爆発物が仕込まれてるとか特にそういう事はなさそうだったので私達はやる事にした。

 両足を地面にしっかり付け、二つの掌も正面の土砂にぴったりと当てる。事前に斜面を少し削り取る事でまっすぐに整形し、力が奥にまで届きやすいよう加工してある。ついでに固めてあるのでもし失敗しても多少崩れにくいだろう。普段頭の上に居る猫吊るしには艤装の中に入って貰っている。最悪の場合私の体を操作してもらう事もあるだろうしね。

 そのまま体中の無駄な力を眠らせるように一旦抜いて、私は息を整える。そこから一気に目覚めるように、全身の筋肉に活力を与え、それらから生まれた力を心臓で束ね、体の中心から両の掌へ、そこから目標物へと一斉に撃ち放った。

 島風曰くその瞬間、ズン、と地面が揺れたような気がしたらしい。他へ衝撃が行ってるって事は完璧には成功してなかったんだと思う。

 でもとりあえず、私には衝撃が土の奥の奥にあるその塊の内部で炸裂したのが感じられた。突然目の前の壁が崩れ落ちたりして来ないだろうかと警戒をしていたがそんな事は無く、やがて噴き出していた赤い水が透明になり、中から細かな色の無い結晶が流れ出て来るのが確認できた。どうやらしっかり内部で粉々に砕け散ってくれたらしい。とりあえず報告を、と思い通信機を手に取ると、逆にコールが掛かって来た。

『もしもし、お姉ちゃん? なんかやった? どーぞー』

「え、初雪?」

 通信相手は思ってもない人物だった。あれっと思ったのだけれど、そうか、ここのが本体なら海の方でも分かるのか。

「ああ、うん、核壊したよ。今そっちどうなってる? どうぞ」

『やっぱり……こっちは真っ青だよ。空も海も。どぞー』

 どうやら本当に色々終わったらしい。とりあえず報告とか色々せにゃならんので一言断って通信を終え、川内さん達と合流する。ああでもどうしよう。核しか潰さなかったから、深海棲艦は埋まったままなんだよね。

 なんてそんな心配をよそに、虚無の表情からいつの間にやら元に戻った川内さんは私の背中をばんばん叩いてくる。何か良いことを思いついたようで、笑顔を浮かべて突然それを言い出した。

「吹雪! 家に養子に来て家業継がない!?」

「いや私の家親子仲悪くないんで」

 っていうか普通に嫌だよ、川内さんちの家業ってそれ絶対忍者だもん……

 

 

 

「吹雪、ちょっと思ったんだけどにゃ」

 谷や周囲の変化を警戒しつつ、川から流れ出続ける核の破片を勿体ないから皆で回収していると、多摩さんが声を掛けて来た。何だろうと思いそちらの方へ振り向くと、多摩さんは何か非常に言い辛そうな表情で私に向かってこう告げた。

「吹雪なら普通に連装砲で撃てば届いたんじゃないのかにゃ……?」

 私は何度か瞬きをした後、あ、と間抜けな声を上げた。

 

 

 




土嚢も基地の壁もぶち抜く凄い砲撃だよ!


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そうだ東北、行こう

 九州は変色海域から解放された。

 あの後、練習も兼ねて谷に埋まった深海棲艦達も外から浸透勁で叩き潰した私達は多量の霊的資源を持って泊地まで帰還した。一部水流に乗ってどんぶらこと海へと消えて行っちゃったのはちょっと勿体なかったけれど、たぶん八割以上は回収できたと思うのでまあ及第点だろう。中にもちょっと残ってるっぽいけど掘り返すのは危ないし時間もかかるのでやめておいた。

 戻って来てまず目に入ったのは私達と同じように帰還した他の艦娘達と、その彼女達に向かって涙を浮かべながら礼を言い続ける熊さんと向かい合ってた男性だった。聞けばこの人海が青色に戻る瞬間を目撃していたらしく、あまりの驚きに暫く腰を抜かしてしまっていたらしい。そして立ち直ったら今度はそれを成し遂げた艦娘達に対して感謝の気持ちが湧き上がりまくって来たそうで、最終的に実行犯だった私達地上探索班に対しては地に頭を付けんばかりの角度で礼を行っていた。片割れの女性の方は流石に引いてた。

 宮里提督や大淀さんは繋がるようになった本州への通信で忙しそうで、漏れ聞こえた所によるならば、どうやら私達は体制が整い次第北海道へ殴り込みへ向かう事になりそうだった。燃料やらなんやらは今さっき回収したそれの元が私の背にたんまりと詰め込まれているし、もしかすると三期の適性検査を待たずに北海道も取り返せるかもしれない。

 問題はやっぱり防衛の方で、どうしたって人数が要るからそこがどうにもならないようなら召集を優先する事になるだろうって話である。ただこれも、吹雪さん……じゃなかった吹雪が居るから割とどうにかなりそうなんだよね。数自体を増やせるのってやっぱり強い。普段使いするなら突出した戦力一人よりもそこそこ戦える人間を複数って方が利便性は遥かに高いのだ。代わりに一点突破が必要な場面では私みたいなのも役に立つだろう。っていうかこれに関しては立ってた自信がけっこうある。クジラとか自爆した北方棲姫とかの時に。

 吹雪さ……吹雪がガンガン人数増やしたら沖縄がヤベー所扱いになるような気もするが、その辺りは楠木提督がたぶん何とかしてくれるだろう。これで転生者でもなんでもなかったら逆に笑えるけれど、ゴトランドさんと知り合いなのは確定だから何かしら事情を知ってはいると思う。ゴトランドさんが黒幕の可能性も否定できないけれど、ゴトランドさんも信用して大丈夫だと私は思い込んでいるので問題ない。

 そういえばあの時ゴトランドさんと一緒に居たリベッチオは今どうしてるんだろう。あの子も推定転生者で、私の勘だと私と同じ超戦闘力なチート能力持ってると思うのだけれども、彼女もどこかで戦っているんだろうか。同じように強い変な奴にぶつけられたりしてるのかな? ちょっとお話してみたいけれど怯えられてたから応じてくれないかもしれない。今思えば私チート能力野放し状態なんだからそりゃ見る人が見たら怖いよねえ。それが分かったせいなのかは知らんけども。

 

 その後、数日間深海棲艦の攻勢が無いか備えつつ九州内部の深海棲艦の討伐を――主に私が――行い、沖縄の各島までの航路が拓けているのも――九州で地上戦してた私と島風を除いたみんなが――確認し、宮里艦隊は北に向かう事になった。

 九州は南側を八月朔日艦隊、北側を提艦隊が担当する事になり、提艦隊は対馬の奪還に向けて作戦を展開して行くとの事である。八月朔日艦隊は二期生が大半を占める艦隊だけど、九州沖縄間に敵があんまり確認されていないから任せても大丈夫だろうと判断されたんだと思う。知り合いは四国でご一緒した桃くらいしか居ないからよく分からんのだけれどもね。

 沖縄はやっぱり雪吹艦隊の縄張りだからってそのまま託される事になった。今までと違ってちゃんと私達と同じ組織に組み込まれる事にはなり、そのため司令官が派遣される事になったらしいんだけど……吹、吹雪が言うには彼女が呼び出した大淀さんがその地位に就いたとの事だった。安心なんだか何なんだか。っていうか楠木提督戸籍とか経歴とか偽造してない? そういうのできるタイプの人だったのか……

 

 

 

 北に向かっては久々にバスに乗っての大移動である。最初に比べると人数も増え、皆打ち解けているので車内はだいぶ騒がしい。宮里艦隊に所属していた戦闘部隊でない人達の一部が八月朔日艦隊に異動になったりして人数は減っているのだけれど、それでもバス三台に分乗する形になったのだから私が交流してない人達の数に今更ながらびっくりする。いや夜勤の人達とかぜんぜん生活時間重ならないから仕方ないんだけどさ。

 私が乗ったバスには召集組の戦闘部隊の皆が揃っていた。一期二期それ以外と関係なくみんな居て、そうなると当然成人してる皆さんも揃っている訳である。でも流石に大っぴらに酒盛りを始めたりはしなかったから安心して欲しい。精々中身の見えない響さんの水筒をポーラさん隼鷹さん等が飲み回してただけである。中身は茶色っぽかったからきっと麦茶かなんかだろう。

 私も結構会話に参加させられて、流れで文月とデュエットさせられたりもした。なんでカラオケ付いてんだこのバス。つーか文月歌も死ぬほど上手いんだけどさっさとデビューして欲しい。あと連装砲ちゃんにマイク持たせたらすっごいノリノリだったし音程も大体合ってた。三体でキャーキャー歌っててすごくかわいかったです。

 

 我々は九州の向かいから北海道の向かいまで高速道路も使って乗ってバス一本で行く事になっている。これは警備上の問題とかが大きく、私達の世間からの注目度があんまり良くない形で発揮される恐れがあるからであるらしい。そうじゃなきゃ電車の方が早かったんだろうけどね。車の数自体が減っているため移動自体は結構スムーズで、渋滞なんかは余程酷い事故でもなければ大丈夫そうだ。

 当然休憩は何度か挟む事になる訳なんだけれど、トイレに行くなら外に出ねばならず、場合によっては順番待ちになってしまう。その時にこっちを気にしない人ばかりならいいけど、どうやったって目に入っちゃうの自体は避けられず、困った事に無駄に知名度のある人間が我々の中に複数いる。だからと対策のために私達に渡されたものがサングラスとマスクである。

 まあ確かに、これ付けてればじっと見られない限り正体を看破されないかもしれない。他の顔が割れてない人達もマスクは渡されて、島風や龍驤さん、暁教官長や飛鷹さんなどのメディア露出しちゃった組はやっぱりサングラス装備をさせられている。当然長門さんと宮里提督も……なんだが、長門さん長身で長髪で有名人だから普通にバレそうなんだよなぁ。っていうか時代的に全員マスクウーマンは普通に怪しいというか逆に目立つような気がしてならない。実際バスから皆で出たら何事かと見られてたし。

 でもまあ、その場で騒がれなければ気付かれても大した問題じゃないんだよね。長くそこに留まる訳じゃないし、北へ注力して行く事は発表済みだから私達がそっちへ行く事も大方の予想通りだろう。よく見るスレでもどうせ九州もあいつらがやったんだろうし北もあいつら行くだろくらいの感じだったし。なんかリークマンが居るみたいで割と艦娘の情報漏れてんだよなぁ。信じられてるかは微妙だけど私から見たらそれなりに正しい奴がさ。

 

 なんて思いつつ二回目の休憩である。特に混んでいるという事もなく、むしろ止まっていた車は二台だけと閑散としていたのが私達のせいでにわかに騒がしくなってしまったパーキングエリアで用を足し、開いていない売店を見て経済活動滞ってるんだなあと実感しつつマスク越しに外の空気を味わわせてもらう。

「こういうの見てると切なくなるねえ」

 話し掛けて来たのはばっちりマスクを付けた秋雲先生だった。建物はゴミが散らかっていたりはしないため小汚い印象ではないが、人の出入りが殆ど無いせいか雑草なんかが生い茂っているので廃墟感が出てしまっている。むしろちゃんとトイレが整備されてるのが凄く有難い事なんだろう。

 後ろの方から開いてない? マジかぁ、とか言葉を交わす男の人達の声が聞こえてくる。車で連れ立ってやって来たのだろうか、食料とかの当てにしてたのならちょっと可哀想。

「ここで働いていた人達は今どうしてるんでしょうね」

 海に近い訳ではないし、あの日深海棲艦に襲われた可能性は低い。でもその後どうなったかは全然分からん。配給される紙製品とかを余裕ある人に売って糊口を凌いでる人だって居る世の中だしなあ。

「それは分かんないけど、とりあえずちょいとそのままね」

 秋雲先生はそう言うと、取り出したスマホで私の横顔を撮影した。いやサングラスにマスクの中学生撮ってどうすんですかね。

「吹雪って表情変えずに雰囲気だけ変えるの得意だよねえ」

 イラストにするの難しいんだよ、とか秋雲先生は笑っておっしゃった。え、だから撮ったの? 一体どんな感じだったんだ私。いや今じっくり描いてられるほど時間に余裕ないからってのもあるんだろうけども。

「この不審者スタイルでも分かるくらい雰囲気変わってます?」

「なーんかセンチメンタルな雰囲気だったねぇ」

 いやまあ感傷的って意味では合ってるけども。撮られた瞬間にはもう霧散しちゃってそうだけどなあ。

「そういえば移動中の事も描かれるんですか?」

「連装砲ちゃんトリオのお歌は絶対描くよ~」

「楽しみにしてます」

 秋雲先生の連装砲ちゃんすごいかわいいからね。SDキャラとかミニキャラとかがとてもお上手なお方なのだ。私の言葉に秋雲先生はクスリと笑うとスマホをスワイプしつつ思い出したように言葉を続けた。

「あと、川内さんがすごい自然に召集組に溶け込んでるのも描きたい」

「一人だけ賭けダウト参戦してましたもんね……」

 お昼のおかずを賭けて開かれた問題の賭博であったが、川内さんは注意もせずにノリノリで参加していた。まあ宮里提督もレートをそれ以上にしないのならとやかくは言わないってスタンスだったんだけども、流石にプレイヤーまでやったのは川内さんだけである。長門さんもこれには苦笑い。ちなみに一位に最下位が一品譲渡するルールで、川内さんは四勝三敗で一品獲得である。極端な戦績だなあ。

「んー、しかし、やっぱサービスエリアの名物とかは全滅かもねえ。ちょっと楽しみにしてたんだけど……」

「交通量が多い所は残ってるかもしれませんけど…………? あ、秋雲先生ちょっと動かないでくださいね」

 へ? と不意を衝かれて言葉通りに停止した秋雲先生の顔に、私は掛けていたサングラスを素早くかつ丁寧に押し付けた。ちゃんと外れないよう耳に掛け、痛くない程度にしっかりきっちり装着させる。

「え、何々!? 暗っ、じゃなくて、サングラス? 急に何!?」

 どうやら動作が早すぎて何をされたか視えなかったみたいだけれど、状況はすぐに理解できたようだった。この辺りの判断力の高さが最前線でやって行ける事の証左なんだろうなあ。

「静かに……撮られてます」

 秋雲先生の向こう側に焦点を合わせれば、さっき会話してた男性二人組の片割れがこちらに向かってスマホのカメラを向けている。角度的に閉店してる建物を映してるって感じでもない。景色を撮ってる可能性は無くもないけど、どっちにしろ私達が入っている事には変わりないだろう。指の動きから見て動画かな、一回だけ音がしていたし。

 秋雲先生はあちゃあと肩を落とすと私の視線を追って後ろの男を睨みつけた。気付かれた事に気付いた男がスマホを仕舞うのを確認すると、まいったねぇーと言いながら、私の肩を優しく押してバスに向かって歩き出す。

「サングラスありがとね」

 私がサングラスを着けていたのは私が吹雪であると気付かれないようにするためだ。既に面が割れてる以上気付かれた後には着けてても意味があんまり無い。だから秋雲先生の顔を撮られないようにするために渡したんだけど……その意図も理解してくれていたらしい。意味あるといいんですけどねぇと苦笑いで返すと秋雲先生もほんとにねえとため息混じりに深く息を吐いた。

 いやしかし、しぶといというか図太いなあの男の人。秋雲先生の視線が外れたとたん撮影再開してらっしゃりやがるわ。どうやら本当に私達を撮っていたようで、カメラは完全に私と秋雲先生を追っている。ちょっと手振って脅かしとくか。ファンサにしかならん気がしなくもないけれども。

 

 

 

 なんてやってた数時間後。次の休憩時間である。バスがパーキングエリアに入ると、そこにはそこそこ多くの車が止まっていた。さっき停まった所よりもだいぶ都会に出た関係で交通量自体が増えていたから、利用者が単純に多いんだろう。これなら売店も開いてんじゃね?

 って呑気に思ってた私の耳に、外でされてる誰かの会話が飛び込んでくる。曰く、あれじゃね来たぞほんとだあれだ当たったバッテリー切れた。うーんこの。明らかにこっち向いて言ってる聞こえ方してるんだよなあ。なに、アイドルかなんかの出待ち?

 宮里提督に報告すれば、じゃあ一旦ここはスルーして少し先の所に行きましょうという事になった。それで解決するんだろうかと思いつつ、ちょっとネットを調べてみれば、さっき撮られた私と秋雲先生の動画がおもっくそ投稿されてバズってた。なおファンサの効果は絶大だった。私ってば阿呆すぎない?

 私達がこれかあと動画鑑賞会してる間に宮里提督は電話で何やら遣り取りをしていて、漏れ聞こえた感じだとどうもこの程度なら想定内の事だったようだ。暫くしたらバスは一旦高速道路を降り、そのまま行きついた先には複数の普通の車が待機していた。どうやら目立つバスから降りて三々五々に分乗して目的地に向かうらしい。

 特に誰がどの車とかは決めていなかったらしく、宮里提督の配慮の足りない体育の授業みたいな台詞と共に私達は自由に組を編成する事になった。まあ、当然のように島風がこれにしよーって私を引っ張って行った上連装砲ちゃんで座席が埋まったから私は何も悩まなくて済んだんだが。

 乗り込んだ車はそこそこ横に幅があり、私と連装砲ちゃん二体と島風が並んでちょっと余裕があるくらいだった。三体並べるとぎっちりしてしまうので島風の膝に浮輪を付けた子が座っている。狭くなるから外した方がいいんだろうけど、そうすると悲しそうな顔するのよねこの子。まあしょんぼりしてるのもそれはそれでかわいいけどかわいそうだからそのままでいいか。

 私達が座るよう言われたのは後部座席で、運転席と助手席は自衛隊の人達が使用するとの事だった。後部側の左右の窓はブラインドが置かれ私達が見え辛いようにしてあるけれど、前の方はそうも行かないからだろう。

 先に乗り込んだ私達が連装砲ちゃんのポジションを試行錯誤していると、バタバタとハンドル側の扉が開かれて、にゅっと多摩さんが入って来た。なんか全体的に動作が猫っぽいんだよなあ、以前よりさらに影響が進んでいるような気がする。次いで開いた逆側の扉からは皐月さんが顔を見せ、私を見るとげっと呻るように硬直して、直後には愛想笑いを浮かべていた。

 皐月さん、医官だからか私の体が変な事がよく分かるらしくドン引き勢の一人なんだよね。嫌われてるって感じではなくて、なんかこう……人間かどうか疑われているような気がする。友好的ではあるから安心して頂きたい。DNA的にはたぶんホモサピエンスだし。

 

 出発する他の車に続いて多摩さんもブレーキから足を離して発進した。どうやらオートマであるらしい。来た道とは違う通りを伝って再度高速道路に入り、並ばずそれぞれバラバラに目的地に向かって走って行く。ここからは休憩も任意で取る事になり、顔の割れてる私や島風以外はマスクも取ってしまうんだそうだ。ちょっと羨ましいかもしれない。私達は外せない……っていうか下手したらトイレ行くために高速降りなきゃいけないからなあ。

 バスの時とは打って変わって粛々と車は進んで行く。私は基本話しかけるの苦手だし、島風はなんか連装砲ちゃんの可動部の汚れが気になったらしく早々に手入れを始めてしまった。連装砲ちゃんはそこに手を入れられるたびにくすぐったそうにキャーキャー鳴いている。かわいい。皐月さんはこっちを気にしているようだけど特に話す事は無いのか無言だし、多摩さんは運転にかなり集中していた。ここで事故ると責任がヤバいだろうからプレッシャー凄いんだろうなあ。面子が現状替えの利かない人員ばっかりですもんねこの車。

 とはいえ暫くすると高速にも慣れ、ある程度多摩さんの筋肉から強張りが消えてくる。そうなると口を開く余裕も出て来たのか、多摩さんはまるで世間話でもするかのようにこちらに向かって話し掛けて来た。

「そういえばこの間検査したら基準値超えてて、明日から多摩も戦闘部隊入る事になったにゃ」

 オウッと島風が鳴き声を上げた。連装砲ちゃん達も口々に鳴いた。たぶん祝福してるんだと思う。私の口からもおお、と感嘆のような声が漏れた。多摩さんは前々から戦闘部隊に入れないのを気にしていたし、きっとめでたい事だろう。実際大変なのはこれからだろうと思うけれどもとりあえず、おめでとうございますと口に出して伝えておいた。

「ありがとにゃ…………ただにゃ……」

 ミラーに映る多摩さんの顔にはちょっと複雑そうな表情が浮かんでいる。そりゃあ急な話だし、何かしら不安はあるんだろうなと思ったのだけれど、実際にはそれとはちょっと違う問題が発生していたようだった。

「多摩の能力だと宮里艦隊に付いて行くのは厳しいから、賀藤艦隊に移籍する事になったんだにゃ……」

 宮里艦隊はとても強い。私が居るせいで世間からの評判は取られがちなんだけど、元々訓練所での成績が優秀だった人達が最前線で経験を積みまくった結果磨き上げられた、精鋭揃いの部隊なのである。

 割と初期に昇格した三人――飛鷹さん、川内さん、暁教官長はまだ大丈夫だった。空母の飛鷹さんは戦闘部隊水準の空母ってだけでも重宝されたし、川内さんもまだまだ研磨が不十分な面子に付いて行けたし、教官長はなんか能力バグってる。

 二期生の合流組の三人――文月、響さん、那智さんも最初は苦労していたようだったけれど、そもそも三人とも訓練所で最上位の成績だったのだ。言っちゃえば才覚が違うし、加入した前後はそこまで激しい戦いはしてなかった(当社比)ので成長させられるくらいの余裕もあった。その少し後に加入したポーラさんも元々楠木提督指揮下で戦っていたため十分な経験値を獲得して……いやあの人飲みまくって他の人より訓練時間とか短いのに普通に強いらしいからやっぱり天才の領域だわ。一人だけ海外艦部隊から宮里艦隊に来るだけあるわ。

 ともかく発足から半年以上が経過し成長を遂げた今の宮里艦隊戦闘部隊に、新人が生半可な才で編入する事はできないらしいのだ。させられた人間が死んでしまうから。

「そういう訳で吹雪と島風と連装砲ちゃん達とは今日でお別れなのにゃ……」

 名残惜しそうに多摩さんは言う。思えば多摩さんには配属初期からお世話になり続けている。収集部隊の乗る船の操舵手であったり装甲車の運転手だったりしていたし、懐かしい所ではお風呂掃除もやっていた。普段は全然違う仕事をしているからあんまり顔を合わせないんだけど、要所要所で関わり合いになり、今もこうして目的地まで連れて行ってもらっている。私の世話になった人ランキングでも上位に入る一人なのだ。

「みんな元気でにゃ……」

 うん。ありがとうございます…………いや、うーん。その。本当に有難いんだけれど、でも、多摩さん、お別れってそうは言いますけれども。

「賀藤艦隊ってこれから行く着任先で合流しますよね……?」

 賀藤艦隊。生放送にも出た、夕立の所属する北部最強の防人である。鎮守府の位置は今向かっている場所と全く同じ。当然宮里艦隊とは合同作戦になるし、なんだったら私と島風はともかく他の部隊は連合を組んで一緒に行動する場合もあると布告されている。なので戦闘部隊入りで生活サイクルがそっち準拠になるならむしろ会う機会増えません? ミーティングとかで。あと、賀藤艦隊って北の精鋭って言われるところだから、多摩さん普通に期待されてる……っていうか人数バランスとかでそっちに回されただけじゃないですかね……?

「その通りにゃ。だから改めて、これからまた暫くよろしくにゃ!」

 今後賀藤艦隊と別れたらその時こそ本当におさらばですってなるのだろうけども、それがいつになるかは分からない。北海道って広いし、敵の数次第じゃ第三第四の適性検査を待ってからというのも有り得る訳で。逆に一週間後に決戦しまーすって可能性もなくはないけれど、流石にそんな無茶は……九州のやり方見てると無いと言い切れないのが困るなあ。

 島風はちょっとしんみりしてたのか、むぅーと頬を膨らませ、思わせぶりなのは良くないと思いまーすとぶーたれた。ごめんにゃと返す多摩さんは完全に緊張は抜けた様子で、私達はすいすい高速道路を進んで行く。その横で、今度は皐月さんが複雑そうな表情を浮かべていた。

「皐月は言わなくていいにゃ?」

「その振りしたら言わなくてもほとんど同じだと思うんだけど」

 その様子に気付いた多摩さんは軽い調子で話を振った。渋い顔になってしまった皐月さんは私の方をちらりと見ると、悩ましい様子でゆっくりと喋り出す。

「ボクもね、一応戦闘部隊水準にまで適性値が上がったんだ」

 語る皐月さんはどうにも嬉しそうな様子ではない。いや、本来はむしろ喜ぶ方が希少なんだろうけども。

「たださ、本当にギリギリなんだよね。多摩の1/5くらいしかなくって」

 戦闘部隊の採用基準が150、ギリギリだというのなら160行かないくらいなんだろうか。とりあえずその5倍というのなら……多摩さん750前後? 実数でどれくらいの強さになるのかはよく分からんけれども、やっぱ多摩さん結構強いのでは? 2000ちょっとの那珂さんが凄い強いと評判になってたくらいだし、たぶん悪い数値じゃないだろう。逆に、皐月さんは宮里艦隊の戦闘部隊に入るには適性値が足りていないと思われる。

「ボクは元々医療関係の知識があるから宮里艦隊に配属されてるんだ。収集部隊に居たのも、吹雪に何かあった時にすぐ処置ができるようにだしね」

 私は知らなかったのだけど、戦力として頭のおかしい私を損なわないようにするために、宮里提督たちは最大限の手を尽くしていたらしい。その実行された中の一つが皐月さんだったのだそうだ。言われてみれば、淡路島の時に皐月さんが探索メンバーに入っていたのも医師免許持ちだからなんでしたっけ。

「だから今回も戦闘部隊に直接は入らない事になったんだよ」

 代わりにもし何かあったら前線まで自力で駆けつける事を期待されるようになったらしい。つまり、私と島風が同時に動けなくなったりしたら、皐月さんに救援任務が回ってくる可能性が生まれたという事である。勿論一人で行かされはしないだろうけれど、その場で処置できるかどうかで生存率が変わって来る事態なんていくらでも考えられるからね仕方ないね。

「まあそういう訳だから……あんまり無理しないでね?」

 皐月さんも収集部隊で仕事をこなしていた以上海に出る覚悟が無い訳ではないんだろうけども、私達が負傷するような場所に出動して生きて帰れる気はしていないらしい。だいたい吹雪の年でっての自体……って口の中で呟いていたので、どうやら純粋に私達を心配する気持ちもあるらしい。本当に内心複雑だったんだろうなあ。

「今後ともよろしくお願いします」

「お願いしまーす!」

 私と島風は軽く二人に頭を下げた。連装砲ちゃんも真似して鳴き声を上げつつ頭を下げた。かわいい。

 

 

 

 その後暫く順調に進み、また休憩を挟もうかと車内の意見が一致した頃。多摩さんの持たされていた連絡用の携帯電話に大本営側から着信があった。多摩さんが出ればその相手は他の誰でもなく楠木提督である。流石に存在しない猫尻尾と猫耳がピンと伸びた多摩さんが緊張した声で応対すれば、最寄りの海岸に車を置いて海から北に向かってくれとの指令が電話の向こうから下された。

 どうやら九州を解放して以降敵の襲撃頻度が増えてしまったとかで、発見された敵艦隊の迎撃に向かう人手が丁度欲しかったらしい。ついでに皐月さんと多摩さんもちょっと実戦してきなさいという話である。

 当然従わない理由も無かったので、艤装を乗せたトラックと合流して回収しつつ、私達は青い海へと繰り出した。結果、やっぱり皐月さんはそのまま戦闘部隊入りは厳しそうだという事がよく分かった。技量云々は置いておいて、純粋に速度差が多摩さんと比べても結構あるから、足並みをそろえるのが難しいのである。

 逆に多摩さんは問題なく前線を駆け抜けられそうだと思われた。私がフォローする前提で撃ち合いなどを試してみたのだけれど、多摩さんは敵軽巡に一人で勝って見せたのだ。初実戦でこれなら十分だろう。他の敵は予め私が沈めておいたから複数相手だとどうなるかは未知数だけど、きっと経験豊かな賀藤艦隊の人達が支えてくれるはずだ。皐月さんは相変わらず無茶苦茶だねと乾いた笑いを漏らしていた。

 

 そうして私達が目的地の賀藤艦隊本拠地に辿り着いたのはもう夜も更けてからの事になった。時間に間に合わせるために皐月さんと多摩さんがそれぞれ私と島風に曳航されて海の上を引き回される事になったのはご愛敬である。

 他の面々と海の側から合流し、なんで艤装を背負っているのか説明しながら、これから世話になる鎮守府の敷地内へとみんな揃って踏み入った。建物は今まで私達が回って来たところがそうだったように新築ではなく若干古めかしかったりしたが、しっかりと補強された跡があり拠点としては中々頑丈そうに見える。

 規模としては過去最大で、昨日まで居た泊地と比べればずっと過ごしやすいだろう。工廠や食堂なんかも大規模で、もう遅い時間だというのに活気のある声がそこかしこから聞こえていた。それもそのはずこの鎮守府、三つの艦隊が合同で使う前提で整備されているからである。

 まず車内でも話題に上がっていた最初期から北の防衛を預かっていた賀藤艦隊、ここが最初にこの地に着任した艦隊だ。そして今最後に到着したのが我々、南からの刺客、宮里艦隊。それともう一つ、私達より前から防衛に従事している艦娘達もこの中で暮らしているのである。その艦隊の名は五十嵐艦隊。淡路島の生存者と海外艦という極端な人員で構成された最も新しい艦隊である。

 まあ、どの艦隊と組んだとしても私と島風が二人と三体でお使いなのに変わりはないんですけどね!!

 

 

 

 出迎えてくださった司令官の大淀さんに案内され、まず私達は艤装を置きに、他の皆も自分の物の状態を確認するために工廠に向かう事になった。長距離の移動で不調が出てたら困るからね、襲撃が多いという北の地でいつ出撃になるか分からない以上当然最優先事項である。

 明かりの点いた入り口から中に入ると外から見た印象通りに内部はかなり広々としていた。特に天井はかなり高く、鉄骨の梁が複数通っているのが見え、その上から様々な音が漏れている。設置されたクレーンも空間に余裕があって動きにかなり融通が利きそうだ。その下の作業場は絶賛稼働中のようで、知らない明石さんと完全に知らない工作艦の艦娘が忙しそうに艤装の修復を行っていた。

 気になる事は幾つかあるが、とりあえず艤装の置き場を探さねばならない。私がどこだろうと周りを見回していると、島風がささっと走って行ってしまい、艦名もよく分からない工作艦の人にお願いしまーすと身に着けていたそれを受け渡し始めた。親切そうな笑顔で対応してもらっている。あれに続けば大丈夫だろうと私も自然とそちらへ吸い寄せられた。瞬間、頭上から感じる鈍い殺気と何かが風を切って落ちる音。

「お命頂戴っぽい!!」

「上から失礼いたします!」

 魚雷を手に頭から突っ込んでくる夕立と、投擲した錨を操り鎖で私を絡め取ろうとしている浦波だった。梁の上からの奇襲である。浦波の鎖は一瞬で私の周囲を囲み、縛り上げようと収縮を始めた。上正面からは顔の描かれた夕立の魚雷が彼女の手により振り下ろされるように迫っている。

 成程、横に逃げられない完璧な連携だ。どちらかだけを防げてももう片方が致命打になり得る。奇襲である事も手伝い咄嗟に対応するのは難しいだろう。私は自分の錨を夕立の方に投げつけた。

 しかしこの夕立、並みの運動神経ではない。体を軽く捻ると軌道を変えずに錨だけを器用に避ける。私の錨は夕立の横を素通りした。でもごめん、軌道上に居ただけで夕立はそもそも狙ってないんだ。

 夕立よりも一瞬早く、浦波の鎖が私に迫ってくる。だが、それが私の体に到達するよりも、私の錨とそれに繋がる鎖が、浦波の手元から延びた鎖の根本に絡まる方が早かった。浦波は表情を歪めている。途中からもう私の意図に気付いていたようだったが、艤装と繋がっている以上即パージとかはできないからね仕方ないね。

 私は手元を軽く捻り、伸ばした鎖を引き戻した。浦波の体が宙に浮く。あっと短めな悲鳴を上げると、浦波は自然落下する夕立に、追いついて背中側から激突した。

 軌道がずれ態勢も崩した二人が床に衝突し、一度跳ねるとごろんごろんと私の横を転がって行く。そのまま壁にぶつかって止まったが、まあ艤装を背負っているし怪我はあるまい。

「奇襲するなら声上げちゃ駄目じゃない?」

 気になったのでアドバイスしておく。まあそれ以前に居るの視えてたから奇襲になってないんだけども。

 

 二人は勢いが付き過ぎて目を回してしまったようなので、放っておいて梁を見上げる。するとさっと頭を引っ込める影が七つ。そして反応が遅れて丸見えになってる子も一人。服装と黒い帽子的に暁だろう。知らない顔だしたぶん二期生の子かな。私と目が合うとばつが悪そうにもじもじと顔を引っ込めて行った。

 なんか可愛らしい反応だけど、あの子らも襲い掛かって来るつもりなんだろうか。流石に困るぞそれ。ちょっと見つめてみたけれど、八人とも息を潜めてこちらの様子を窺うばかりである。

 なのでひょいっと跳び上がり、こんばんはーと梁の上に乗りご挨拶。蒼白になる暁と隠れてたその姉妹三人。そういや賀藤艦隊って六駆揃ってるんだっけ。まあ年齢はバラバラ……っていうか暁が一番年下みたいだけれども。

 その奥に目をやれば時雨が引き攣った笑顔で挨拶を返してくれて、さらに奥には少し前に見た顔が三つあった。一日だけの付き合いだけれど、印象が強かったのでその顔はよく覚えている。噂には聞いていたけれど、本当に艦娘になってたんだなぁ。

「お久しぶりです五十嵐さん」

「あ、ああ、久しぶり……なんだ、相変わらずすげぇ身体能力してるな……」

 出会った時に深海棲艦の武装を殴り壊しているせいか、どうしてもその印象が強いらしい。淡路島の生存者、五十嵐 陽さんは呆れたような感心したような半々の表情をしていた。横では五十嵐さんの姉妹二人も同じような色を浮かべていて、血の繋がりを感じさせる。

 ちなみにお兄さんの怜寛さんがこの三人を担当している提督だ。秋月と照月もそうだったけど兄弟姉妹は一緒にして行く方針なんだろうか。比叡さんだけ金剛さんから離されてるけど。

 

 

 

「本当に申し訳ない。こちらの管理不行き届きです」

 二十代後半くらいの男性が私達に向かって丁寧に頭を下げている。駆けつけた時から生真面目な空気を身に纏い、顛末を聞くや夕立と浦波、それと上に登っていたみんなに謝罪するよう促して、自身も監督すべき大人の責任であると深く腰を折った。彼の名前は賀藤 信、賀藤艦隊の提督である。

「いえ、じゃれ合いみたいなものですのでお気になさらず……」

 被害者の私――被害者かどうかは正直疑問だが、ともかく襲撃された私の超許す旨の言葉に夕立がぱあっと明るい笑顔を浮かべ、その感情に呼応するように犬耳のような跳ねた髪の毛がパタパタパタパタ上下に揺れた。えっそれ動くの? 神経通ってるの??

 動揺したままとりあえず落ち着こうと艤装を預けている間に話は進み、気が付けば主犯の二人はトイレ掃除と艤装磨きの罰を受ける事に決まっていた。他の八人は一応止めようとしていたらしいので謹慎……というか暫く大人しくさせられるだけで済んだらしい。まあ、後々見かけたのだけれど一緒になって艤装をピカピカにしていたからそれぞれ反省する点はあったんだろう。たぶんノリで上ってノリで襲撃しただけなんだろうけどね。

 

 

 

 そのまま講堂のような場所で賀藤艦隊、五十嵐艦隊の皆と顔合わせをする事になった。この建物も新築ではないのだけれど、元々何に使われる場所だったのかはよく分からん。広いからやっぱりなんらかの基地とか市場とかだったりしたんだろうか。

 二つの艦隊には知ってる顔もあれば知らない顔もあり、交流はあるけど今日初めて会った人なんかもいる。ネット上での付き合いだから実際に顔を見ると結構印象が違う。なんか思ったよりギャルっぽいというか女子高生感強いな鈴谷さん。

 私達が一通りの挨拶を終えると司令官である賀藤艦隊の大淀さんから今後の方針なんかの説明が始まった。それによると、五十嵐艦隊の司令官とうちの宮里提督も作戦に対して意見は出すものの、この鎮守府の最高決定権はこの大淀さんが持つ事になるんだそうだ。指揮系統の一本化は基本だからね仕方ないね。

 出撃に関しては宮里艦隊が中心となり北海道への航路を拓いて行く形になるそうで、まあ私達からすると今までとあんまりやる事は変わらなそうだった。賀藤・五十嵐の二艦隊は本州へ襲撃を仕掛けて来る深海棲艦の迎撃をしたり、必要に応じて宮里艦隊に混ざって出撃する形になるという。

 これはたぶん実力云々も勿論あるのだろうけども、それ以上にやり慣れた仕事をやらせた方が良いだろうって判断なんだと思われる。賀藤艦隊は設立からこっちずっと北で迎撃を続けていた訳だから、私達よりずっと防衛に慣れているだろう。逆に宮里艦隊は攻めの実績が大きいのでまた任されるという訳だ。

 私はこれに凄く納得が行った。後ろを護ってくれる人たちが居るなら安心して遠征できるし、南の戦線より気持ちの上では楽かもしれないくらいだと思えたのだ。でもなんだろう、夕立達からちょっとだけ、ちょっとだけ不満そうな気配を感じる。

「大淀司令官、少しよろしいでしょうか」

 声を上げたのは賀藤提督だった。どうぞと促され壇上に立った彼は、堂々と背筋のしゃんと伸びた姿勢で私達全員に向かって語り出した。

「提督を務めさせてもらっている賀藤です。私は、力の供給を行う事になった提督はその艦隊に対して、たとえ召集によりその立場に就かされた者だとしても、大人として責任を負うべきだと考えています」

 急に何の話? と思ったのは私だけではあるまい。島風とか声に出さずにオウッ? っと鳴いている。

「私は最初に北の地を踏んだ時分、この子達が戦い生き残る事ができるのか、正直に言えば疑問でした。すぐにでも奴等に撃たれ、無惨な結果に終わるのではないかと恐れていたのです。だが……実際にはそうはならなかった。彼女達は不断の努力と、持ち前の負けん気で、敵を撃ち破って見せたのです」

 普通の子供だったのに戦えるわけがない、というのは大多数の意見である。私だってそう思ってた。艤装の影響だって初期は今より少なかっただろうし、間違いなく本人の資質の問題はあるだろう。どの程度かは知らんけど。

「私は彼女達の強さを、命を賭し懸命に戦う姿をこの目で見続けて来ました。幸いにして誰一人欠ける事はありませんでしたが、しかし、そうなっておかしいと思える日は一日たりとも有りはしなかった……知っている方も居るかもしれませんが、私は以前は教師をやっておりました」

 だからこそ、子供を預かる事には人一倍重さを感じてしまうのだと言う。そういや生放送でも言ってたなあそんな事。

「私は知っています。艦隊の全員が夜中に叩き起こされ、戦いを強制されてなお弱音を吐かなかった事を。それどころか、護るべきもののために死力を尽くし溺れて帰ってもまた闘志を燃やし戦いに戻って行く様も。ずっと見続けて来ました」

 なんか思ったよりガンギマってない賀藤艦隊。っていうか、賀藤提督って厳しくてむしろ尻叩いてた側って聞いてるんだけど、もしかして合わせてただけなんだろうか。

「気付けば私も彼女達であればきっと生きて戻って来てくれるだろうと信頼を寄せるようになっておりました」

 だが、と少し語調を強くして賀藤提督は続ける。

「ここに来て、知らぬ艦隊を中心にして作戦を組み直すと言われれば、どうして内心穏やかでいられましょうか」

 私達で言うならば、突然雪吹艦隊を中心に作戦進めるからサポートに回ってねと言われるような物だろうか。いや私は雪吹艦隊の正体を知ってるから別に構わないだろうけれど……例えば宮里提督から見たらかなり疑問だろう。

「私は彼女達の命を半端な者に預け無惨に散らせるような事態を招くのだけは、絶対に許されないと思っています。多くは言うでしょう。宮里艦隊であれば、賀藤艦隊に任せるよりずっと安心であると。確実な戦果を持ち帰ると」

 実際、評価で言えば私達の方が高い。っていうか、別に私達の実力を疑ってる訳ではないのだと思う。感情的な納得が付いて来ないのだ。たぶん、賀藤提督が、ではないだろうけれど。

「だが私は、いや我々は、実際の貴女達の強さを知らない。故に、見せて頂きたい! 貴女方が命を預けられるだけの力を持った艦娘であるのかを! 宮里艦隊がいったいどれ程の艦隊であるのかを!」

 纏めるとつまり、こういう事である。

 

 演習(バトル)しようぜ!!

 

 

 

 

 

「宮里艦隊、先頭に立つのは天龍。気合十分、いい顔してますね」

「いい感じに気合が乗っていますね、好闘を期待したいです」

「賀藤五十嵐連合艦隊、先頭はおっと、夕立と嵐が突出しているようです。かかってしまっているのでしょうか」

「私一押しの艦娘。気合入れて欲しいですね」

「あの、吹雪、猫吊るし……二人ともどうしたんですか急に?」

 私と頭上の猫吊るしの会話に、宮里提督からツッコミが入った。いや、猫吊るしが急にネタを振って来るから答えちゃっただけなんだけど、突っ込まれるとなんだかとっても答え辛い。

「いえその……実況と解説みたいな奴です。はい」

 私の言葉に納得したのか、宮里提督はそれ以上は触れて来なかった。なんだろう、気を遣われた気がする。

「その子はなんだかよく喋るね。妖精さんだと珍しいなあ、動きはうるさい子が多いけど」

 微笑ましげに笑うのは双眼鏡を片手に持った五十嵐提督である。割と穏やかな人だけど、淡路島の集落でリーダーをやっていたくらいなのできっとそれだけではないのだろう。なんか以前は引き篭もってたらしいんだけど、そこから代表者にまでなった、とても色々ありそうな人なのだ。

「しかし、大丈夫なのですか? 彼女が一番強いと聞いていますが……」

「いえ、むしろ吹雪を入れると演習が成立しませんので……」

 私を見つめながらの賀藤提督の質問に、宮里提督は苦笑いで返した。情報は行っていると思うのだけど、実際紙に書いてある事を鵜呑みにできるかと言われると難しいのだろう。だって私の戦果意味不明な事しか書いてないだろうし。

 それにしても、昨晩演習を行うと決まった時点でも思ったけど、やっぱり賀藤提督は別に私達の実力を疑ってなさそうである。たぶん納得行っていないのは賀藤艦隊で頑張って北の地を護ってきた艦娘達なんだろうなあ。

 っていうか、提督の一存で決められる事ではないので、きっと最初からやる事は決まっていたのだと思う。演説内容が嘘だとは思わないけれど、わざわざしたのはどちらも全力でやってくれないと困るからだろう。私が居ない状態でも宮里艦隊は格上だと全員が心から納得してくれないと、どこかで不和が生まれるかもしれないしね。

 そう、今の状況的に言うまでもないだろうけれども、私はこの演習、出禁である。知ってた。

 

 

 




なお演習描写はカットの模様。


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No.XX 吹雪と島風が来ますぴょん 投稿者:卯月@ぷっぷくぷくぷくぷっぷくぷ~

  こっちに出向するって向かってきてるぴょん

  うーちゃんはどうしたらいいんだぴょん

 

 

 

 卯月@ぷっ(略>  うーちゃんのやる事↓×5

 卯月@ぷっ(略>  恨まれそうなのは無しで

 望月@竹下艦隊>  そういうスレかー

 望月@竹下艦隊>  連装砲ちゃんを攫って神棚に飾る

 大東@書田艦隊>  お茶を淹れたと見せかけて中身マウンテンデュー。

 時津風@林艦隊>  黒板消しをドアに挟む。

 望月@竹下艦隊>  古典的なの来たな……!

 清霜@藤艦隊>  怒られるだけで済む奴で良かった。

 大東@書田艦隊>  黒板消しあるのかね?

 卯月@ぷっ(略>  それはだいじょぶぴょん

 望月@竹下艦隊>  むしろマウンテンデューの方がないと思う

 卯月@ぷっ(略>  丁度消したてのがあったはずだからやってきますぴょん!

 卯月@ぷっ(略>  外から声するしもう来ちゃったかもしれないぴょん

 卯月@ぷっ(略>  ちょっと見て来るぴょん!

 望月@竹下艦隊>  後で報告よろ

 望月@竹下艦隊>  報告無いしこれは処されたかな?

 時津風@林艦隊>  なむなむ

 卯月@反省中>  はい

 望月@竹下艦隊>  やっぱり処されてるじゃないか!

 卯月@反省中>  もう来てたから急いで取って来て、挟んだら赤城先生が先頭だったぴょん

 清霜@藤艦隊>  先生相手にやっちゃったの?

 望月@竹下艦隊>  学校かな?

 卯月@反省中>  でも吹雪が黒板消しスパイクしてうーちゃんに直撃したぴょん

 朧@宇佐山艦隊>  因果応報だねえ。

 卯月@反省中>  その後飛んでった黒板消しが提督にも当たってみんなで正座したぴょん!

 望月@竹下艦隊>  吹雪も?

 卯月@反省中>  吹雪も島風も連装砲ちゃんもだぴょん!

 望月@竹下艦隊>  ちょっと笑える光景

 時津風@林艦隊>  割とノリいいんだね吹雪達って。

 卯月@反省中>  そういう訳でいたずらとしては失敗したぴょん!

 清霜@藤艦隊>  ある意味成功してるよね?

 卯月@反省終了>  そういう訳でうーちゃんが次にやる事↓×5

 望月@竹下艦隊>  もっと反省した方がいいのでは?

 朧@宇佐山艦隊>  全く反省してない……

 清霜@藤艦隊>  吹雪の前で即席ラップを披露する。

 時津風@林艦隊>  島風にコートを着せる。

 赤城@九曽神艦隊出向中>  卯月さん、後で職員室に来てください。

 卯月@反省中>  イエスマム!!

 望月@竹下艦隊>  学校かな?

 

 

 

 

 

 

 

No.XX 改二に関して考えるスレ 投稿者:神州丸@山口艦隊

  新しく情報の公開された艤装の強化形態、改二に関して話し合うスレです。

  なり方や出る影響、性能や変化点などの情報も求めています。

  主に艤装の事を話し合う場ですので、使用者本人に関してはほどほどに。

 

 

 

 神州丸@山口艦隊>  ・駆逐艦吹雪→輸送艦吹雪改二

 神州丸@山口艦隊>  駆逐艦から輸送艦への艦種が変更、それに伴い積載量が大幅に増加している。出力や速度に関してはほぼ据え置きだが、装備可能な数そのものが増えており攻撃性はそれなりに上がっている。

 神州丸@山口艦隊>  特筆すべきはその汎用性で、設置してはいないが食品の加工、保存施設やクレーンなどの修理用の施設などの増設も不可能ではないらしい。

 神州丸@山口艦隊>  実質的に汎用艦であり、輸送艦と称されるのは特に改造されてない状態ではスペースが多く荷物を大量に積めるからだと思われる。つまりやろうと思えば給糧艦や工作艦の真似事も可能。本職よりも効率は劣るだろうという話ではあるが。

 神州丸@山口艦隊>  大発などを運用可能だが、攻撃能力のある甲標的や飛行能力のある物は一切使用不能。この辺りは使用者に適性が無いためであるらしい。

 神州丸@山口艦隊>  外観は制服の色が黒くなっているのが特徴で、艤装自体の変化は僅か。背負うのではなく腰に付ける形式になっているくらいか。使用者本人にも変化は見られない。

 神州丸@山口艦隊>  ・駆逐艦夕立→駆逐艦夕立改二

 神州丸@山口艦隊>  駆逐艦としての火力が大幅に増加した火力特化型。装備数も多少増えほぼ全ての攻撃性能が上がっているが、特筆すべきはやはり砲戦火力と雷装だろう。

 神州丸@山口艦隊>  反面耐久力などはほとんど変わらず、当たると脆い駆逐艦である事には変わりがない。使用者の技量が運用に大きく関わると言える。

 神州丸@山口艦隊>  艤装自体の外見もマストが設置されたり左右に砲台が増えたりと大きく変わっているが、それ以上に使用者本人の変化が大きな特徴となっている。

 神州丸@山口艦隊>  髪は上部の一部が跳ね動物の耳のような形状になり、瞳の色は赤く染まっているが、本人曰く違和感は特にないっぽいとの事。

 神州丸@山口艦隊>  制服はマフラーが追加されたのが一番大きな変化である。それ以外も腰回りのラインなどの装飾が増えているため改装前より多少派手に見える。

 神州丸@山口艦隊> また、何故か彼女の艤装から取り出された魚雷は顔の絵が書かれている。たまに表情も変わる。意味があるのかは不明。

 神州丸@山口艦隊>  ・駆逐艦初春→駆逐艦初春改二

 神州丸@山口艦隊>  全体に性能は向上しているが、特に特殊とまでは言えないものの対空性能が大きく上昇し、対潜能力や雷撃能力も分かり易く増している。純粋な火力よりは支援艦としての能力が上がったと思われる。

 神州丸@山口艦隊>  他と比べても艤装の外見が著しく変わっており、艤装から延びたアームの先の砲台が巨大化するなど見た目には改装した同一艦というよりも後継艦か何かのようである。

 神州丸@山口艦隊>  一部の浮遊していたパーツが減ったものの頭上の物などは健在。

 神州丸@山口艦隊>  制服は元々のものより著しく布面積が減っており、ノースリーブで丈も短いため非常に肌色率が高い。また使用者の髪がボリュームアップし、付けた紙垂のような飾りがその周りを囲んでいる。頭部パーツと同じ要領で浮いているのではないかとは本人談である。

 神州丸@山口艦隊> ・ 軽巡洋艦川内→軽巡洋艦川内改二ボ

 神州丸@山口艦隊>  特に静音性と機動力が大きく向上し、夜間に発見されるリスクが大きく低減した夜戦特化型。その他の能力は微増程度。

 神州丸@山口艦隊>  また身体能力を上げる能力が高いようであり、深海棲艦との格闘が強く想定されている現状唯一の改二である(吹雪のそれは艤装の特性に関係無いものと思われる)

 神州丸@山口艦隊>  例によって武装の増設箇所が増えているが、特性的に性能補助の装備を付ける事が多い。撃ち合いよりは忍び寄って攻撃をぶつけるような隠密行動を得意としている。

 神州丸@山口艦隊>  名称に関しては猫吊るしと呼ばれる宮里艦隊の妖精さんが言っていたらしく、ボに関しては詳細不明。

 神州丸@山口艦隊>  ただでさえサイズが小さめな川内の艤装であるのに、そこからさらに大きめのパーツがオミットされており、外観はかなり軽量。

 神州丸@山口艦隊>  制服の色は無彩色で隠密性に寄与している。赤色をした変色海域に白黒の艦娘はむしろ目立つのではないかと思われるがそうでもないらしい。

 神州丸@山口艦隊>  制服の形状そのものも大幅に変わっており、大きく長いマフラーや装甲付きの手甲が追加されている。帯で服を纏めるなど全体には和装に近い装いになっている。

 神州丸@山口艦隊>  なお腋が出ている。

 神州丸@山口艦隊>  以上が現在判明している四隻である。

 神州丸@山口艦隊>  抜けている事があれば捕捉をお願いしたい。

 漣@管理人>  乙!

 初雪@提艦隊>  乙カレー

 青葉@宮里艦隊>  お疲れ様です!

 秋雲@宮里艦隊>  乙!!

 望月@竹下艦隊>  思ったより長い乙

 響@宮里艦隊>  お疲れ様。

 ガンビア・ベイ@五十嵐艦隊>  お疲れ様です。

 北上@⑨曽神艦隊>  乙

 明石@宮里艦隊>  お疲れ様です。吹雪さんと川内さんの改二の名称は猫吊るしの発言なのでほぼ間違いないかと思います。ボは戊と書くようです。

 卯月@乙ぴょん>  猫吊るしって妖精さんこないだ吹雪の頭の上で踊ってたけどそんな信用できる奴ぴょん?

 明石@宮里艦隊>  彼女を疑うのが艤装の存在そのものを疑うのと同じな程度には。

 青葉@宮里艦隊>  艤装を作った張本人ですからねえ。

 秋雲@宮里艦隊>  設計図持ち込んだだけらしいけどあんま変わらないか

 明石@宮里艦隊>  他の妖精さんに比べると話が通じるんで質問もしやすいんですが、大抵の疑問に答えられるくらい知識があるので他の子とはやっぱり違うみたいなんですよね。

 明石@九曽神艦隊>  工廠に常駐してもらいたいんですけどどうにかなりませんか?

 明石@宮里艦隊>  吹雪さんに頼んで?

 文月@宮里艦隊>  吹雪さんと一緒にお風呂入ってるくらいだし無理じゃないかなぁ~

 初雪@初雪に滅茶苦茶悩まれて草>  お姉ちゃん訓練所でも妖精さんとは仲良しだったし妖精さん好きだよね

 島風@宮里艦隊>  吹雪はかわいい物好きだから。

 はち@ちゃんさん>  あの子滅茶苦茶人に慣れてるよね。吹雪より懐っこい。

 明石@宮里艦隊>  受け答えもしっかりしててやっぱり他の妖精さんとちょっと違うんだよね。仕草が男の子っぽいし実は男の娘だったりとかするかもしれません。

 初雪@結局体強くなってから考える事になって更に草>  それは女装子とかでは……?

 ガンビア・ベイ@五十嵐艦隊>  どこに反応してるの……?

 神州丸@山口艦隊>  猫吊るしと吹雪に関しては専用スレの方でやってもらえないだろうか。ここはあくまで改二に関して話す場ですよ。

 時雨@賀藤艦隊>  一人一人の性質に沿った固有の艤装が生まれる。というのはいいんだけど、そのせいで夕立の評判が狂犬になったのはどうにかならないかな。

 明石@賀藤艦隊>  整備大変になるからワンオフ仕様ははよくないよ!?

 秋雲@通販しか無いのちょっと不便>  攻撃特化で見た目犬っぽいから残当

 暁@賀藤艦隊>  別に狂暴じゃないのに……犬っぽいのはそうだけど。

 文月@宮里艦隊>  斬魄刀みたいな感じだから本人の性格そのものじゃないよねえ

 漣@かんりちゅう>  自分の奴はどうなるのか妄想が止まりませんなあ

 神州丸@山口艦隊>  何を基に性能が決まるのかよく分からないからな。川内改二戊など普通の川内とほとんど関係のない強化をされているように見える。

 文月@宮里艦隊>  川内さんは中の人成分100%だよねえ

 漣@かんりちゅう>  そんな長く居なかったけど夜戦好きな印象強杉ですわあの人

 子日@今日は何の日?マジで分かんない>  初春はどうしてああなったのかな?

 秋雲@通販しか無いのちょっと不便>  結構世話焼きだからとか?

 漣@かんりちゅう>  ありがたい人ですからなあ

 子日@子日でない事だけは確か>  あのせくしーな制服になっちゃったのは?

 秋雲@同人脳>  そりゃあーた巫女さん的な何かって言ったらせくしーですよ

 文月@宮里艦隊>  みんな大喜びだよお

 漣@かんりちゅう>  酷い風評被害を見た

 深雪@宮里艦隊>  吹雪って自分は飛ぶのに飛行機とか使えないの不思議だよなあ。

 時雨@賀藤艦隊>  飛ぶのを不思議に思った方が良くないかい?

 文月@宮里艦隊>  ふぶきちゃんはなんでとぶのんー?

 秋雲@秋雲先生入稿まだです>  輸送艦ですけどー

 青葉@宮里艦隊>  真面目に返すなら、単純にサイズ不足なんだと思いますけどね。内火艇が駄目な辺り攻撃力の有無も関係あるかもしれませんが。

 神州丸@山口艦隊>  あれだけ戦果を挙げておいて本人の改二は後方支援向きというのは不思議なものだ。適性値だけが問題なのだろうか。

 隼鷹@宮里艦隊>  個人的には支援向きってのは疑問だけどねえ。

 隼鷹@宮里艦隊>  むしろ吹雪の命令があればそれを真面目にこなす性質が反映されたせいで色々やれる艦になったって気がするよ。

 青葉@宮里艦隊>  新説来ましたね。

 秋雲@ペン入れもしたいけど……!>  確かに頼んだらなんでもやってくれそうではある

 深雪@宮里艦隊>  自分から雑用するもんな。お茶入れたりとか初雪の世話とか。

 初雪@筋トレやあだ>  お姉ちゃんのお姉ちゃん業務は雑用だったのか……

 隼鷹@宮里艦隊>  いや確かにお酌頼んだらしてくれたけどそうじゃなくて。

 秋雲@ラフ画超楽しい>  制服キャバかな?

 隼鷹@宮里艦隊>  頼んだのポーラだからね?

 隼鷹@宮里艦隊>  いやそういう問題でもなく、あの子きっと戦闘と輸送の任務が等価でしょ。

 隼鷹@宮里艦隊>  戦闘に向いてない支援に向いてるじゃなくて、どっちもやれた方が便利だからどっちもやれる改二になったって気がする。

 加賀@宮里艦隊>  兵站に携わるのと前線で戦うのどちらが重要か分かっていないようでしたね。

 神州丸@山口艦隊>  どちらも重要では?

 加賀@宮里艦隊>  そうですね。

 神州丸@山口艦隊>  どちらも重要だからどちらもできるようになったと言いたいのだろうか?

 加賀@宮里艦隊>  はい。

 神州丸@山口艦隊>  そうか……

 北上@改二イェーイ>  改二になったんで報告上げまーす

 北上@改二イェーイ>  ・軽巡洋艦北上→重雷装巡洋艦北上改二

 北上@改二イェーイ>  殆どの性能が微増程度で、魚雷関係だけやたらと充実した雷撃に特化した改二だよ

 北上@改二イェーイ>  五連装魚雷になった上数も激増、ついでに甲標的も積める

 北上@改二イェーイ>  とにかく魚雷をたくさん撃つための艤装って感じだねー

 北上@改二イェーイ>  形は魚雷発射管の数以外はそんなに変わんないかな?

 北上@改二イェーイ>  あ、艦橋の形は結構違うな

 北上@改二イェーイ>  でもこれどう影響するのかよく分からないんだよねえ

 北上@改二イェーイ>  服装は色が変わってクリーム色になってちょっと派手になったかな?

 北上@改二イェーイ>  あとへそ出し

 北上@改二イェーイ>  もうそろそろ寒いんだよねぇ……

 北上@改二イェーイ>  報告お終い!

 大井@竹下艦隊>  おめでとうございます北上さん!!

 漣@管理人>  おめー

 望月@竹下艦隊>  おめでとう

 夕張@竹下艦隊>  おめでとう。大井さんの喜びの声がここまで聞こえる……

 神州丸@山口艦隊>  おめでとうございます。完全に能力準拠の改二か。

 北上@改二イェーイ>  そだねー。北上さま魚雷は得意だから予想の範囲内ではあった

 大井@竹下艦隊>  北上さん以上の魚雷使いなんて一期にも二期にもいないですからね!

 綾波@山口艦隊>  おめでとうございます。逆に性格や性質準拠な所とか無いんですか?

 北上@改二イェーイ>  ちょっと自分じゃ思い付かないなー……配信でもできるようになったら面白かったかもしれないけどそういうのは付いてないし

 大井@竹下艦隊>  北上さんの出撃配信!?見たいです!!

 漣@管理人>  さっきから大井さんの書き込みが北上さんのから二秒とかでもう恐怖体験なんよ

 山風@藤艦隊>  おめでとう……改二が体に良いものかは知らないけど……

 神州丸@山口艦隊>  集合無意識側からの許可を得られた理由は分かるだろうか。

 北上@改二イェーイ>  大丈夫そうだしなっとく?って北上さんには言われた

 大井@竹下艦隊>  北上さんと北上さんで分かり合ってるんですね!

 神州丸@山口艦隊>  それだと体の事なのか他の事も含むのか分からないな。

 北上@改二イェーイ>  実際明確な条件とかなかったっぽいからな~

 北上@改二イェーイ>  ちょっと許可取るから待っててったら気が変わらないうちによろしくね~とか言われたし

 望月@竹下艦隊>  一回司令官に報告してなんか注意受けるやつか。何言われた?

 卯月@九曽神艦隊>  ここでこっそりその機密情報教えてくれたりは?

 北上@改二イェーイ>  しなーい

 卯月@九曽神艦隊>  けちぴょん

 望月@竹下艦隊>  チッ

 北上@改二イェーイ>  割と軽率に言えない奴だったから諦めて自分で許可貰いな

 北上@改二イェーイ>  まあそんな酷い事じゃないから怖がんなくていいと思うよ

 卯月@ぴょい>  島風によると長門さんが改二になったらしいぴょん

 漣@管理人>  おおようやくですか

 望月@竹下艦隊>  あの人なんでなれないのって言われ続けてたもんな

 朝雲@提艦隊>  宮里艦隊って変色海域の真っ只中でしょ?どうやって改装したのよ。

 初雪@提艦隊>  無謀な作戦中

 皐月@提艦隊>  ボクらもそこに合流するんだけどね?

 卯月@ぴょい>  なんか吹雪が手伝ったらしいぴょん!

 初雪@提艦隊>  お姉ちゃんか……

 望月@竹下艦隊>  大丈夫?空飛べるようにされたりしてない?

 朝雲@提艦隊>  汎用艦だから手伝えたって事?

 卯月@ぴょい>  クレーンの代わりするって言ってたらしいぴょん!!生身で!!

 漣@管理人>  また腕力に物を言わせておられる……

 初雪@提艦隊>  つよい(確信)

 明石@九曽神艦隊>  ・駆逐艦吹雪→駆逐艦吹雪改二

 明石@九曽神艦隊>  宮里艦隊のではなく、沖縄から来た吹雪さんの艤装です。

 明石@九曽神艦隊>  能力等は駆逐艦として普通に強くなったとの事で、宮里艦隊の彼女のそれとはだいぶ違うと思われます。

 明石@九曽神艦隊>  特に対空性能は以前と比べ物にならないとの事です。

 明石@九曽神艦隊>  制服が白いのも宮里艦隊の吹雪とは違う点でした。

 明石@九曽神艦隊>  詳細はまだ分かりませんが取り急ぎ本人から聞いた事をメモ代わりに。

 卯月@ぴょぴょい>  まさかの

 はち@九曽神艦隊>  沖縄勢凄いねえ。

 山風@藤艦隊>  よりによって吹雪……

 長波@布江艦隊>  やっぱ吹雪ってなんか特別なのか?

 望月@竹下艦隊>  宮里艦隊のとだいぶ違う?艦種すら違うなら同じ所の方が少ないかな

 漣@管理人>  制服の色とか艦種とか、こっちの方が正道感を感じる

 明石@九曽神艦隊>  整備しててもこっちの方が普通の駆逐艦って感じだった。

 野分@五十嵐艦隊>  そんな吹雪が普通じゃないみたいな……

 漣@管理人>  普通な所はありましたか?

 望月@竹下艦隊>  そんなものはない

 北上@本日情報過多>  ハイパー北上さまの話題性が消し飛ぶ話がいくつも来てて笑う

 大井@竹下艦隊>  北上さんの事と比べたら興味はそそられませんよ!

 北上@本日情報過多>  そういえば沖縄の艦隊にも大井っちいたよ~

 大井@竹下艦隊>  そうなんですか?

 北上@本日情報過多>  さっき立ち眩みしてたから医務室まで送ったとこ

 大井@竹下艦隊>  医務室まで!?北上さんに!!?

 漣@管理人>  大井さん声めっちゃ漏れてますんで抑えてもらってもいいすか?

 明石@宮里艦隊>  ・戦艦長門→戦艦長門改二

 明石@宮里艦隊>  火力はほぼ据え置きで、装備数の増加分くらいしか変わりません。

 明石@宮里艦隊>  特筆すべき点は非常に強靭な装甲と、他戦艦の追随を許さない瞬発力を手に入れた事です。

 明石@宮里艦隊>  追加された装甲は戦艦の砲撃を受け止めたり受け流したりする事が可能で、それを活かせるようにか艤装そのものが上下左右に大きく可動するようになりました。

 明石@宮里艦隊>  つまりメンテナンスの難易度が上がりました。

 明石@宮里艦隊>  機関部が刷新されていて、最高速も上がっているのですが、それ以上に静止状態からの加速力が大幅に改善されています。総じて回避力や防御力の向上が著しいです。

 明石@宮里艦隊>  缶がかつてない構造をしているのでメンテナンスの難易度が(略

 明石@宮里艦隊>  結果として、長門さんは味方を庇い致命傷になりかねない一撃を防ぐようになったそうです。主に庇われるのは大和や加賀なので工廠としてはそこには勲章授与したいくらいですね。

 明石@宮里艦隊>  艤装は中央で二つに割った戦艦を両脇に構えるような変わった形状で、左右両方の下部に大きな装甲が付いてます。それ以外の各所も厚みが増して堅牢な印象ですね。

 明石@宮里艦隊>  制服は手足に装甲が追加されて、全体的に鎧でも着こんでるみたいになってます。ちなみに吹雪の手作りだそうです。素手で加工してたらしいです。

 明石@宮里艦隊>  あとへそは出てます。

 明石@宮里艦隊>  以上、長門さんの改二のまとめです。猫吊るしは甲か丙かそれとも騎士にでもするかって名前で悩んでました。

 北上@九曽神艦隊>  お疲れーその性能でへそ出し継続なの笑うしかない

 神州丸@山口艦隊>  報告助かります。工作艦目線もなかなか面白いな。

 卯月@九曽神艦隊>  乙ぴょん。またアクが強いのが来たぴょん

 時雨@賀藤艦隊>  自分のへそだけは護らないのか……

 深雪@宮里艦隊>  お疲れ様っす!長門さんも腹の周りだけ心許ないって言ってた。

 叢雲@宮里艦隊>  お疲れ様。書いてないけど装甲は先端が刃物みたいになってて、突いたり叩き斬ったりが可能になっているのよ。近接性能がかなり上がってるわね。

 北上@九曽神艦隊>  宮里艦隊近接格闘部に期待の追加メンバーが!?

 清霜@藤艦隊>  今まで聞いた事ないタイプの艤装ね。格好良いかも!

 コロラド@五十嵐艦隊>  まさに騎士道精神の具現ね!素晴らしいじゃない!

 漣@かんりにん>  完全にゲームの盾職じゃないですかこれ

 時津風@林艦隊>  自衛隊組の改二今の所全部変な方向行っちゃってるね。

 秋雲@宮里艦隊>  ニンジャとナイトだからねえ……

 叢雲@宮里艦隊>  二人ともかなり強いんだけど、宮里提督は頭抱えてたわね。

 漣@かんりにん>  運用が今までとかなり違いそうですしそうもなりますわ

 山城@宮里艦隊>  迷走しすぎて何故か私に第一艦隊の旗艦の打診が来たのよね……

 叢雲@宮里艦隊>  積極的に弾に当たりに行くから旗艦に全然向いてないのよねこの改二。

 扶桑@宇佐山艦隊>  まあ、山城が宮里艦隊の旗艦に?それはとても名誉な事ね。

 山城@宮里艦隊>  はい!前向きに検討しようと思います、姉様!

 

 

 

 

 

No.XX 特殊変色海域について 投稿者:漣@管理人

  瀬戸内海で確認された特殊変色海域について情報を共有しましょう。

  現在、中に取り残された場合即座に撤退し、交戦はしないよう各鎮守府に指示が出ています。

  周囲が鮮やかな赤に染まった場合、迷わず逃げ出してください。

 

 

 

 漣@管理人>  取り急ぎ。

 漣@管理人>  九曽神艦隊が遭遇、吹雪でも倒せずに轟沈一名?

 北上@九曽神艦隊>  正確にゃ海域に入れなかったから交戦すらできなかったらしい

 黒潮@九曽神艦隊>  轟沈した子は助かってるからそこは安心してええよ。

 菊月@キャンペーン第四話日程調整中>  侵入不能とはどういう事なんだ……?

 山風@藤艦隊>  一人だけ置いてけぼりって何がどうなったの?

 卯月@照月in>  海が真っ赤になった瞬間、外に向かって弾き出されちゃったんだよ!

 卯月@照月in>  秋月姉だけ取り残されてたのが見えたんだけど、戻ろうと思っても赤い方へは進めなかったの。押しても撃っても全然駄目だった。

 時雨@賀藤艦隊>  卯月かと思ったら中身は照月なのかい?

 卯月@照月in>  卯月からスマホ借りてる。

 卯月@照月in>  それで吹雪が助けに来たんだけど、吹雪でもゆっくりしか入れなくて。

 卯月@照月in>  少しずつ進んでたらその赤いのがいきなりなくなったんだけど、その時には秋月姉はやられちゃってた。

 卯月@照月in>  秋月姉はその時なんか砲台たくさんついた姫級に襲われたんだって。

 菊月@調整中>  進めないというのは壁か何かがあるようなイメージだろうか。

 卯月@照月in>  壁に当たる感じじゃなくて、動きが止まっちゃう感じだったよ。砲弾も魚雷もそこでピタッと止まっちゃうの。吹雪の連装砲でも駄目だった。

 時雨@賀藤艦隊>  砲弾は止まるのに吹雪自身はゆっくりでも入れるのか……

 卯月@照月in>  凄かったよ!海が吹雪を中心に波打ってた!

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  一人だけ少年漫画の世界に生きてないかい?

 菊月@調整中>  その変色海域自体漫画か何かの結界みたいな印象を受けるんだが。

 卯月@照月in>  それ、猫吊るしも結界って言ってた気がする!決壊?って思ったけどたぶんそっち!

 摩耶@要艦隊>  猫吊るしてどうすんだよ。

 北上@九曽神艦隊>  猫吊るしは吹雪の頭に乗ってる妖精さんの名前だよー

 山風@藤艦隊> 妖精さんって名前あったの……?

 夕張@竹下艦隊>  普通の妖精さんは無いみたいよ。

 北上@九曽神艦隊>  猫吊るしについては専スレあるからそっち見て貰った方が早いよ。大体吹雪と居るか工廠で仕事してて優秀って事だけ知ってればいいと思うけど。

 望月@竹下艦隊>  吹雪が連れ回し過ぎて工廠から文句出る子

 不知火@久曽神艦隊>  しかし彼女が居なければ心肺蘇生に失敗していた可能性があったらしいので連れていて正解だったかと。

 山風@藤艦隊>  心肺蘇生?聞いてない……なにそれ……

 清霜@藤艦隊>  轟沈しただけじゃないの!?

 菊月@調整中>  轟沈、結界、一人……そういう事か。吹雪でギリギリだったのか?

 (削除されました)

 睦月@井口艦隊>  嘘、そんなの普通間に合わにゃいし……

 子日@宇佐山艦隊>  逃げ切らなきゃ死んじゃうって事!?

 黒潮@九曽神艦隊>  不知火?

 不知火@久曽神艦隊>  不知火に落ち度でも?

 黒潮@九曽神艦隊>  不知火。

 不知火@久曽神艦隊>  ごめんなさい。

 睦月@井口艦隊>  遭遇しました。神通さんが取り残されて大破にゃしい……

 卯月@九曽神艦隊>  そっち行ったぴょん?

 朝雲@提艦隊>  井口艦隊は……日本海側か。

 清霜@藤艦隊>  大破って事は無事?

 睦月@井口艦隊>  舞鶴って言われてますにゃ。神通さんは無事です!

 薄雲@井口艦隊>  本当に入れなくて試行錯誤してる所に半裸の神通さんが……

 神通@井口艦隊>  それは艤装と制服の仕様のせいです……!!

 卯月@九曽神艦隊>  やっぱり姫級に襲われたぴょん?それで服びりびりにされたぴょん?

 望月@竹下艦隊>  ヤベーぞレイプだ!

 神通@井口艦隊>  襲われましたがそういう話ではありません。

 神通@井口艦隊>  突然変色海域化して、他の皆が何処かへ飛ばされたので、その方向へ向かってすぐに走り出して難を逃れる事に成功しました。

 清霜@藤艦隊>  大破して服がボロボロにされてるのは難を逃れてるの?

 神通@井口艦隊>  怪我一つなく鎮守府まで帰り付けたのでそう言って差し支えないかと。

 神通@井口艦隊>  見えた敵は一人、妖精さん達は地中海弩級水姫だと言っていました。

 青葉@宮里艦隊>  地中海要素はどこから来たんでしょうね。今に始まった事じゃないですが。

 神通@井口艦隊>  弩級の名の通り戦艦だったようで、速力的には軽巡洋艦である私に追いつけない程度でした。ですが多くの砲台を構えており、断続的に砲撃を行ってくるので注意してください。

 卯月@九曽神艦隊>  秋月の言ってたのと同じだぴょん、同じ奴っぽい?

 朝雲@提艦隊>  戦艦の水姫って一人で倒せる相手じゃないわよね……

 神通@井口艦隊>  だからこそ逃げるよう厳命されているのだと思います。かなり頑丈そうでしたし、一撃も重かったので一人で正面から当たるのは避けるべきでしょう。

 神通@井口艦隊>  ともかく通常海域との境まで逃げれば最悪情報は残せるだろうと思ったのですが、結果的にそこを通り抜ける事が可能だったためなんとか生還いたしました。

 神通@井口艦隊>  変色海域自体は私が通常海域の側に出てすぐに消滅していました。

 睦月@井口艦隊>  私達は敵の姿は見てないし、端の方までは追って来ないのかも?

 神通@井口艦隊>  気になった事として「弱い奴は消えろ」「逃げ回るだけか雑魚め」など延々とこちらの弱さをあげつらった罵倒を繰り返してきた事を挙げられます。

 北上@九曽神艦隊>  あー秋月も凄い言われたって言ってた

 卯月@九曽神艦隊>  隔離した本人が言う事じゃないぴょん!

 神通@井口艦隊>  実際弱い艦娘なので言い返す事もできなかったです。

 阿賀野@井口艦隊>  弱い……?神通が……?

 睦月@井口艦隊>  うちの艦隊だと上位の成績じゃないですか神通さん。

 神通@井口艦隊>  弱った相手に止めを刺す事や薄い場所を叩いたりして成績が伸びただけですので……実際の兵装の威力や航行速度では皆さんより劣っているかと思います。

 青葉@宮里艦隊>  本人は強いけど適性値が追いついてないタイプですかね?

 北上@九曽神艦隊>  自分に厳しいタイプかー、毎日自省してそう。理想が高いとも言う

 神通@井口艦隊>  理想は吹雪さんです。

 青葉@宮里艦隊>  (アカン)

 清霜@藤艦隊>  凄い強いもんね!

 (削除されました)

 北上@九曽神艦隊>  あれは憧れるもんじゃないねー

 朝雲@提艦隊>  あれ適性値の暴力でしょ?真逆じゃない?

 青葉@宮里艦隊>  ですねえ。参考にするなら元精鋭部隊の技量の方が建設的かと。

 青葉@宮里艦隊>  あ、吹雪さんの場合技量も超高レベルではありますよ。

 神通@井口艦隊>  追いつけないのは分かっているんです。しかし、理想と言うのであれば数日で拳術を修めたという才覚に憧れを抱かずにはいられません。

 卯月@九曽神艦隊>  そこなんだぴょん!?

 五月雨@藤艦隊>  遭遇しました!逃げ切りました!

 清霜@藤艦隊>  良かったよぉ……戻ってこないから沈んじゃったかと思った……

 巻雲@藤艦隊>  陸路で戻ってくるのは予想外だよぉ。でも良かった……

 五月雨@藤艦隊>  海に戻るのが怖くて徒歩で戻ったから時間掛かっちゃいました。

 漣@ご迷惑おかけしました!>  陸まで逃げ切れば大丈夫だったん?

 五月雨@藤艦隊>  暫く撃ってきてたけど、追いかけては来なかったよ。

 五月雨@藤艦隊>  速力で負けてたみたいだから陸の傍で助かりました。

 山風@藤艦隊>  次会ったらどうなるか……

 五月雨@藤艦隊>  走る練習しておかないとね。

 初雪@提艦隊>  早くなるかなそれ……?

 神州丸@山口艦隊>  藤艦隊か。太平洋側だったと記憶しているが……?

 五月雨@藤艦隊>  そうですね、そう言われてます。東の海の朝焼けが綺麗なんですよ。

 神州丸@山口艦隊>  景色はともかく、先日の井口艦隊と真逆の位置じゃないか。

 望月@竹下艦隊>  瀬戸内海→日本海→太平洋→? これもうどこ来ても不思議じゃないね

 夕立@賀藤艦隊>  いろんなところに来るならうちにきて夕立と戦うっぽい!

 望月@竹下艦隊>  っていうか、一体の犯行なのかなこれ?

 五月雨@藤艦隊>  あ!会ったのは今までの証言と同じ相手だと思います!砲塔いっぱいでたくさん悪口言われました!

 初雪@提艦隊>  同じ個体なのか、その種類全体がそういう奴なのかどっちだろ……?

 望月@竹下艦隊>  移動が早すぎるし別個体なんじゃ?個体で特徴ある奴とか例ある?

 漣@ご迷惑おかけしました!>  宮里艦隊が討伐した某巨大鯨とか?

 初雪@提艦隊>  四国にすごい自爆した北方棲姫居たっていうけど……

 望月@竹下艦隊>  どっちも吹雪居ないと対処できない奴じゃーん

 清霜@藤艦隊>  もしかして、特徴的な能力持った個体って吹雪が蹴散らした中に入ってて気づかなかっただけって事ない?

 神州丸@山口艦隊>  後は金剛に燃やされたか、か。有りそうで困るな。

 巻雲@藤艦隊>  流されてるけど夕立も遭っても戦っちゃだめだよぉ?逃げないと!

 夕立@賀藤艦隊>  交戦許可出たっぽい!!

 初雪@提艦隊>  金剛さんも出てたから、戦艦倒せる人には出たみたい。たぶんお姉ちゃんにも出てる。

 ろーちゃん@藤艦隊>  ろーちゃんが会ったら倒しますって!!

 名取@藤艦隊>  ろーちゃんには出てないから駄目だよ。

 神州丸@山口艦隊>  命令に違反してはいけないぞ。でもそうか、戦艦相手なら潜水艦ならかなり有利ではありそうだな。

 ろーちゃん@藤艦隊>  ろーちゃんがんばりますって!はい!

 名取@藤艦隊>  駄目なんだってばー。

 五月雨@藤艦隊>  後でゴーヤさんに止めてもらうように言っておきますね。

 ビスマルク@私正式配属されないのかしら>  それには及ばないわ。今から電話するから。

 初雪@提艦隊>  母親出てくるの強すぎて草

 神通@井口艦隊>  本日二度目の遭遇を乗り切りました。

 青葉@宮里艦隊>  Oh……同じ人ですか。

 神通@井口艦隊>  他の娘が被害に遭わなくて良かったです。

 衣笠@井口艦隊>  良くはないでしょ!

 睦月@井口艦隊>  また大破してましたし、全く良くないよぉ……

 薄雲@井口艦隊>  制服はギリギリ無事でした。

 神通@井口艦隊>  多少被害は抑えられましたね。大破には変わりないのですが。

 青葉@宮里艦隊>  大破だと安定して逃げられるとも言い切れませんし、気を付けて頂きたいですが……前回と同じ相手でしたか?

 神通@井口艦隊>  そうですね、罵倒もしてきましたし、外見も同じだったと思います。

 漣@かんりちう>  同じ人狙うのかたまたまなのかが気になりますなあ。

 神通@井口艦隊>  三度目があれば流石に偶然ではないと思いますが……

 白雪@司波艦隊>  襲われました。逃げ切りましたが轟沈です。

 吹雪@司波艦隊>  泳いで帰ってくるとは思わなかったけど無事で良かった……

 深雪@宮里艦隊>  泳いで!?

 叢雲@宮里艦隊>  よく無事だったわね。

 磯波@襲われてない方>  即死ではないから有り得なくはない?

 磯波@襲われた方>  止め刺されなくて良かった……

 白雪@司波艦隊>  一度追いつかれたんだけど、探照灯が意外と効いたみたいで。

 浦波@賀藤艦隊>  なるほど目くらまし。

 薄雲@井口艦隊>  意外と光の影響をちゃんと受けるもんね。

 白雪@司波艦隊>  照射してすぐ轟沈したから、逆に海の中の私は見えなかったんだと思う。

 深雪@宮里艦隊>  よく咄嗟に思い付いたなぁそんなの。

 白雪@司波艦隊>  沈みそうで浮くのに必死だったんだけど、なんとか見つからずに離れる事に成功。陸の方角に泳いでたらすぐ見つけてもらえて助かりました。

 深雪@宮里艦隊>  変色海域ってなんでかやたら沈みやすいよな。

 吹雪@司波艦隊>  普通の船も沈むもんね。水が軽いのかな?

 叢雲@宮里艦隊>  目くらまし出来るくらい強い探照灯着けてて良かったわね。私の奴だと出来るか怪しいんだけど、普段から夜戦してるの?

 白雪@司波艦隊>  実は昨日大本営の方から送られて、試しに夜戦で使ってそのまま……だからたまたまだったの。それと出発前にゴトランドさんと夜戦でいきなりやられたら困るよねってお話してなかったら思い付かなかったと思う。

 初雪@提艦隊>  太陽拳はフリーザ様にも効くからね……

 浦波@賀藤艦隊>  ブリザード様には?

 初雪@提艦隊>  お姉ちゃんは目を瞑っても的当てできるからそういうの意味無いし

 吹雪@司波艦隊>  私はできませんからね?

 薄雲@井口艦隊>  弄られ過ぎて言われる前から護身発動してる……

 神通@井口艦隊>  本日、三度目の遭遇をしました。

 漣@管理作業中>  ′Д`)ェェェェェエエエ工工工

 初雪@九州送り>  完全に狙い撃ちされてるじゃないですかヤダー!

 睦月@井口艦隊>  急に来るから心臓に悪いのね……

 時雨@賀藤艦隊>  なんか通り掛かりで襲われてないかい?

 北上@四国にいる>  ランダムじゃなさそうだねえ流石に

 神通@井口艦隊>  中破で済んだのが不幸中の幸いでした。

 時雨@賀藤艦隊>  着実に被害を減らしているね。

 神通@井口艦隊>  多少慣れて来ました。それと、相手も少し困った様子だったので。

 初雪@九州送り>  なんで襲撃懸けた側が困ってるの……?

 北上@四国にいる>  弾忘れて来てたとか?

 神通@井口艦隊>  いえそれが、またお前か、と。

 漣@管理作業中>  神通さんの方が言いたそうな台詞

 初雪@九州送り>  お前が隔離したんやろがい!!

 睦月@井口艦隊>  すっっっっっごい腹立つぅ!

 時雨@賀藤艦隊>  もしかして向こうも対象の指定はできていないのかな?

 北上@四国にいる>  こいつ!って選ぶんじゃなくて条件に引っかかった人が残されてるっぽい感じかねー。連続で偶然って可能性も無くはないだろうけども。

 漣@管理作業中>  神通さんは条件に合致してるから三回もドンパチさせられたと

 時雨@賀藤艦隊>  その条件が分かるといいんだけどね。艦種は今の所駆逐艦と軽巡だけ?

 漣@管理作業中>  駆逐、軽巡、駆逐、軽巡、駆逐、駆逐、軽巡←今ここ

 初雪@九州送り>  法則性はどこ……?ここ?

 睦月@井口艦隊>  半分近く神通さんが襲われてる……

 初雪@九州送り>  ここだけ見ると駆逐艦or神通さんの二択になってるという

 北上@四国にいる>  北上さま襲ってくれたら返り討ちにしちゃるんだけどね

 時雨@賀藤艦隊>  神通さんを除くとあまり強くない子ばかり襲われてるらしいけれど。

 初雪@九州送り>  適性値参照してたりとかする?

 北上@四国にいる>  それも考えたけど、秋月が襲われた時収集部隊も居たからもっと低い人がいっぱい居たんだよね

 漣@管理作業中>  低すぎる人達は除いたとか?

 睦月@井口艦隊>  宮里艦隊とかに行ってくれたら低い人でも倒せたりしないかな。

 漣@管理作業中>  あそこ一番低そうな人でも平均の倍超えてそうですしおすし

 時雨@賀藤艦隊>  範囲内に神通さんが居た事が意外だったのなら、その前から見られていて別の子を狙ってた可能性もありそうかな?

 神通@井口艦隊>  そういえば今回は航路の近くで収集部隊が作業していましたね。

 北上@四国にいる>  狙われてたのそっちじゃない?

 初雪@九州送り>  本当に通り掛かりで襲われてた可能性が……?

 時雨@賀藤艦隊>  神通さんの方が通り掛かってたのか……

 卯月@指輪の違和感が凄い>  なんか長門さんが倒したらしいぴょん!

 卯月@指輪の違和感が凄い>  ソースは大淀司令官

 卯月@指輪の違和感が凄い>  しれーかんは吹雪から聞いたみたいだぴょん!

 漣@管理人>  mjsk

 敷波@山口艦隊>  雑に朗報持ってくるじゃん。

 武蔵@厳島艦隊>  流石長門さんだ、良い腹筋をしているだけある。

 望月@竹下艦隊>  そっか輸送するから連絡員も吹雪が兼ねるのか

 卯月@指輪の違和が凄い>  死体も持って来てたぴょん!

 大東@書田艦隊>  わざわざ担いで渡ったのか。海防すんのかね?

 大東@書田艦隊>  海防じゃねーや解剖だ!

 卯月@指輪の違が凄い>  あと秋月に見せて合ってるか確認したぴょん

 敷波@山口艦隊>  死体見せられた秋月カワイソーじゃない?

 北上@改二と指輪が合わさって最強に見える>  しかも結局判断付かなかったという

 卯月@指輪のが凄い>  うーちゃんは見せてもらえない状態だったっぽいぴょん!

 漣@管理人>  戦艦同士で撃ち合った死体はかなり酷そうですし残当

 卯月@指輪が凄い>  大口径と大口径のぶつかり稽古だぴょん!!

 武蔵@厳島艦隊>  艤装が無くなった人型に直撃させるとどうしてもな。

 敷波@山口艦隊>  うええ……

 不知火@九曾神艦隊>  いえ、何か鋭利な刃物で頭部を上から叩き切られたような状態だったので砲撃ではなく他の攻撃かと。頭の頂点から胸の中ほどまで達する一撃で、顔の部品は揃っているものの判別となると非常に難しい状態でした。

 敷波@山口艦隊>  うげえ……

 黒潮@九曽神艦隊>  不知火。

 

 

 

 

 

No.XX 指輪総合スレ 投稿者:漣@管理人

  情報が錯綜する謎の指輪に関して情報交換するスレです。

  現状分かっている事は少ないですが、

 

  ・提督から艦娘に対して贈る事が可能。

  ・贈られた指輪を身に着けていると艦娘としての能力向上が見込める。

  ・ある程度以上に仲が良くないと無意味。

  ・贈られる側の戦闘部隊、非戦闘部隊は問わない。

  ・提督適性を持つ艦娘も贈る事が可能。

  ・指輪は必ずしも指に嵌めなくても良い。

  ・デザインは一種類。

 

  などの特徴があります。

  また効果に関してはまだ不明確な部分が多いとの事です。

 

 

 

 漣@管理人>  なあにこれえ

 望月@竹下艦隊>  ギャルゲかな?

 北上@九曽神艦隊>  RPGかSLGみたいなとこあるよねって思ってたらこれですよ

 青葉@宮里艦隊>  もうちょっと手加減してくれませんかね現実さん。

 秋雲@宮里艦隊>  鎮守府は婚活会場だった……?

 卯月@九曽神艦隊>  比率偏り過ぎだぴょん!

 文月@宮里艦隊>  女提督でも贈れるみたいだから……

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  居たぞ文提督だ!

 時津風@林艦隊>  囲め囲めー!

 初雪@提艦隊>  オラッ!指輪寄越せッ!

 文月@宮里艦隊>  初雪さんは提提督から貰ってよ!!

 初雪@提艦隊>  やだ!!!

 漣@管理人>  現状分かってる中で効果出てそうな人って居る?

 青葉@宮里艦隊>  正直よく分かんないんですよね。むしろ持ってない人達の伸びが良いので。

 望月@竹下艦隊>  能力の向上ってどう考えても適性値だよねー

 雪風@山田艦隊>  どうして提督と仲良くすると強くなるんですか?

 卯月@九曽神艦隊>  さっぱりわかんないぴょん!

 北上@九曽神艦隊>  ギャルゲシステム

 秋雲@宮里艦隊>  細かいこたぁいいから仲良くしとけよって圧力を感じる

 青葉@宮里艦隊>  かなり仲良くならないと駄目だから強奪する意味はないそうですが……

 秋雲@宮里艦隊>  艦娘になる前から夫婦な夕雲姉さんはすぐ効果出そうだけど、問題は索敵が得意分野なんで砲撃とかより違いが分かり辛そうなとこ

 北上@九曽神艦隊>  長門さんは?

 青葉@宮里艦隊>  長門さんは最初に宮里提督から貰ったみたいですけど、途中で砲撃の威力や諸々他の娘に抜かれてますね……

 漣@管理人>  草枯れる

 卯月@九曽神艦隊>  効果ないぴょん!?

 曙@宮里艦隊>  適性値関係ない所が凄く頼りになる人だから気にならないんだけどね。

 鈴谷@賀藤艦隊>  むしろ他の威力がヤバいだけで長門さん自身は高水準だったし。

 望月@竹下艦隊>  宮里艦隊の人達の基準が違い過ぎてずれてる予感がする

 青葉@宮里艦隊>  ちなみに同じく所有している島風さんは徹頭徹尾物凄く速い上、強さに関しては常時吹雪さんと一緒なので全く差が分かりません。

 長良@宮里艦隊>  足は物凄く速くなってるんだけどね……

 漣@管理人>  それは別件では?改二にはすぐなれそうですけれども

 名取@藤艦隊>  ちなみに今はどれくらいのタイムなんですか?

 長良@宮里艦隊>  この間5秒切りました。

 名取@藤艦隊>  100m?

 長良@宮里艦隊>  はい

 鈴谷@賀藤艦隊>  やば、世界記録更新してんじゃん。

 鈴谷@賀藤艦隊>  してるよね?

 青葉@宮里艦隊>  現在世界記録は非公式ですが吹雪さんの十秒ジャストです。

 望月@竹下艦隊>  人間辞めてる……

 卯月@九曽神艦隊>  ちなみにうーちゃんも十秒切れるぴょん

 北上@九曽神艦隊>  北上さまも十秒台出せたりする

 夕張@竹下艦隊>  艤装くんさあ……

 初雪@提艦隊>  道理で金剛さんから逃げられない訳だ

 皐月@提艦隊>  いや初雪さんは自分の身体能力が低すぎるだけだよ。

 名取@藤艦隊>  もう聞くの怖いけど、気になるから聞いておきますね。吹雪はどう?

 長良@宮里艦隊>  この間1秒切りました。

 名取@藤艦隊>  そっかあ。

 夕張@竹下艦隊>  諦めの境地まで行ってる……

 霧島@山口艦隊>  元々屋根まで一足飛びで跳び上がれる身体能力ですので、艤装で強化されれば妥当な所ですね。

 榛名@竹下艦隊>  壁くらいなら走れましたからね。

 青葉@宮里艦隊>  別の次元の話されてます?

 扶桑@宇佐山艦隊>  猫がね、片側二車線の向こうの端の車線で轢かれかけたのよ。それを見てから駆けて助けるのが間に合うの。それが吹雪さん。

 青葉@宮里艦隊>  前々から思ってたんですが、吹雪さんの十秒ジャストって滅茶苦茶手抜いた記録ですよねあれ?

 阿賀野@井口艦隊>  指輪貰っちゃいましたー。

 神通@井口艦隊>  提督曰く、凄い世話してお互いの私室にも入ってるのに不愉快そうになる訳でもないしこれで効果なかったら女性不信になる、だそうです。

 阿賀野@井口艦隊>  謎の責任感が襲ってくるんだけどぉ!

 衣笠@井口艦隊>  責任取ってあげて。いろいろ破壊されてるよあの人!

 睦月@井口艦隊>  それにまんざらでもなさそうにゃしい……

 薄雲@井口艦隊>  本日は終始おくちゆるゆるでしたとさ。

 那珂@八月朔日艦隊出向中>  よく考えたらこれって那珂ちゃん達出向組は絶望的?

 赤城@書田艦隊出向中>  そうですね、以前からの知り合いでないと厳しいかもしれません。

 那珂@八月朔日艦隊出向中>  だよねー!?仲良くなる前に異動だもん!

 ビスマルク@司波艦隊出向中>  知り合いでも会えないと貰えないのよね。

 コロラド@五十嵐艦隊>  子供が居る艦隊に配属してもらえないなんて酷い話よね!

 ビスマルク@司波艦隊出向中>  それはまあ、甘えが出るからいいのよ。

 ビスマルク@司波艦隊出向中>  ただ生存率を考えるとね。私はいいけどろーちゃんの手にはどうにか渡るようにできないかと思うわ。

 山風@藤艦隊>  ろーちゃんなら藤提督から貰ってたからそれじゃ駄目?

 ビスマルク@司波艦隊出向中>  ありがとう、全く聞いてないからちょっと電話するわ。

 金剛@提艦隊!!>  指輪貰いましたよ!!

 皐月@提艦隊>  みんなね。

 朝雲@提艦隊>  まさか貰えるとは……

 漣@かんかんりんりん>  おや、提艦隊は結構貰えた人居た感じなんです?

 初雪@提艦隊>  応募者全員サービス

 鳳翔@提艦隊>  戦闘部隊、収集部隊、給糧艦、工作艦を問わず希望者は全員頂けました。私もまさか貰えるだなんて思わなかったので驚いてしまいました。

 漣@かんかんりんりん>  えっなにそれは

 初雪@提艦隊>  なんかばら撒いてた

 明石@提艦隊>  大淀さんから説明あって、希望者は提督から受け取ってくださーいってノリだったようちの艦隊。

 愛宕@提艦隊>  ぱんぱかぱ~ん!って言い疲れちゃった。

 朝雲@提艦隊>  授与される度に言ったりするから……

 漣@かんかんりんりん>  まあ誰に効果出るかはっきりと分かるもんじゃないでしょうし全員に渡すのもありっちゃあり?資源の無駄な気もしますが

 皐月@提艦隊>  っていうか初雪さんは貰わなくて良かったの?

 初雪@提艦隊>  私はお姉ちゃんから貰う……作戦がちゃんと進んだら会うし……

 時津風@林艦隊>  貰えるといいね!

 初雪@提艦隊>  お姉ちゃんならくれるはず……!

 時津風@林艦隊>  いやそれ以前に変色海域に持ってってるかなって。

 初雪@提艦隊>  確かに

 金剛@提艦隊!!>  盲点でした!

 初雪@提艦隊>  いや行き来するらしいから戻った時にでも取って来てもらえばいいのか

 金剛@提艦隊!!>  そうですね!二つ持って来てもらいましょうね!

 漣@かんかんりんりん>  この人吹雪からも貰う気だ……!

 北上@九曽神艦隊>  指輪もろたで工藤!

 望月@竹下艦隊>  せやかて工藤!

 卯月@九曽神艦隊>  うーちゃんも貰ったぴょん!

 瑞鳳@九曽神艦隊>  頂きました。あと秋月と大淀司令官も。

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  とんでもないプレイボーイが誕生している……!

 時雨@賀藤艦隊>  うちの提督なんて真面目過ぎて司令官にすら渡せてないのにね。

 霞@>  みんなおめでとう。

 北上@九曽神艦隊>  ちょっと北上さま提督殴って来る用事ができた

 卯月@九曽神艦隊>  指輪返上も辞さない

 黒潮@九曽神艦隊>  ほんまいけずやわあ……って言ってられるうちにどうにかしてほしい。

 不知火@九曽神艦隊>  何故提督は本命に渡さないのでしょう?

 黒潮@九曽神艦隊>  不知火。

 不知火@九曽神艦隊>  不知火に落ち度でも?

 黒潮@九曽神艦隊>  もっと言ったれ。

 不知火@九曽神艦隊>  許された……!

 山風@藤艦隊>  轟沈したら指輪貰った……

 ガンビア・ベイ@五十嵐艦隊>  なんで……?

 山風@藤艦隊>  死なれるより良いって……

 名取@藤艦隊>  おめでとう。ちなみに藤提督の指輪はこれで打ち止めだそうです……上限あったんですね。

 五月雨@藤艦隊>  提督ずっと悩んでたから、いい機会だったね。

 清霜@藤艦隊>  私も欲しかったなー。提督好きだし。

 ろーちゃん@藤艦隊>  ろーちゃんもてーとく大好きですって!とくにお耳!

 コロラド@五十嵐艦隊>  そういえばろーちゃんにはもう渡していたのよね。山風はどうして保留されてたの?

 山風@藤艦隊>  なんでだろう……?ママはお前に渡すのは怖いって言ってたけど……

 鬼怒@藤艦隊>  ママ呼ばわりされるのが分かり切ってたからだよ!?

 名取@藤艦隊>  言い間違えとかじゃなかったんだあれ……

 漣@管理人>  なんて事だ、もう助からないゾ♥

 

 

 

 

 

No.XX 雪吹艦隊について 投稿者:卯月@九曽神艦隊

  沖縄から来た雪吹艦隊について語るところ

 

 

 

 漣@管理人>  悪戯なら消しますよ?

 卯月@九曽神艦隊>  いたずらじゃないぴょん!本当に来たんだぴょん!

 北上@改二になったんだが?>  ガチのマジに来たんだよねえ

 漣@管理人>  うそん

 神州丸@山口艦隊>  成程つまり、沖縄で提督として目覚めた雪吹さんが吹雪として雪吹艦隊の旗艦兼提督兼司令官で戦いある程度目途が付いて四国まで吹雪に連れられて来たと。

 卯月@九曽神艦隊>  そんな感じだぴょん!

 初雪@悲報九州行き確定>  吹雪とはいったい……うごごご

 漣@管理人>  この世界において吹雪って一体何なん……?

 龍田@林艦隊>  三人目ね~本名に吹雪が入っている子。

 木曾@厳島艦隊>  沖縄に艦娘が居たのは……妖精さんさえ居ればおかしくもないのか?

 神州丸@山口艦隊>  本州では宮里提督が一番に発見した。沖縄ではそれが雪吹提督だったという事だろう。かなり偶然が重なったのだろうとは思うが……

 武蔵@厳島艦隊>  日本以外の各国も抵抗できている可能性が出てきたな。

 漣@管理人>  ですなあ。日本で二人が戦いを始めてる訳ですから、単純計算で百人くらい同じ事になってるかもしれませぬ。

 雪風@山田艦隊>  でも軍や政府の上層が動いてくれる幸運な所はどれくらいあるか……

 時津風@林艦隊>  そう考えると一番凄いの楠木提督だよね。あたし達を戦場に駆り出した張本人だから褒めたくないけどさー。

 赤城@移動中>  私達も召集に関しては肯定的に語れないので庇い辛いんですよね。お話しするととても善い方なんですけど……

 山風@藤艦隊>  大丈夫? 先生騙されてない?

 青葉@宮里艦隊>  雪吹艦隊は無事に沖縄へと帰って行きました。今後は我々と同じように大本営の指揮下で働くことになるそうです。

 深雪@宮里艦隊>  吹雪と吹雪がすごい仲良くなってたのが印象的だったなー。

 卯月@九曽神艦隊>  名前で呼んでって友達になってたぴょん!

 秋雲@宮里艦隊>  大丈夫?吹雪沖縄に持ってこうとしてない?

 青葉@宮里艦隊>  国の方針に従うらしいので大丈夫でしょう。たぶん。

 望月@竹下艦隊>  そういえば雪吹艦隊の人達はここに来たりしないの?

 深雪@宮里艦隊>  誘ったんだけど誰もスマホ持って来てなかったんだよなぁ。

 漣@管理人>  通信できなかったでしょうし不携帯も止む無し

 叢雲@宮里艦隊>  むしろちゃんと持って来てた私達はなんなのかしら。

 深雪@宮里艦隊>  あるとなんだかんだ便利だからしょうがない。通信できなくっても。

 青葉@宮里艦隊>  通じないとは分かっていてもやっぱり手元にないと落ち着かないんですよね。現代病なんでしょうかねこれも。

 漣@管理人>  こっちとしては色々知らせてもらえて大助かりなんですがねー

 

 

 

 

 

No.XX 賀藤・五十嵐連合艦隊vs宮里艦隊大規模演習反省会会場 投稿者:磯波@五十嵐艦隊

  1X月XX日に、

  賀藤・五十嵐連合全艦隊 対 宮里第一・第二・第三艦隊+駆逐艦島風

  で行われた大規模演習に関して話し合うスレッドです。

  感想、意見、雑談その他なんでもどうぞ。

  参加者以外の書き込みも歓迎します。

 

 

 

 磯波@五十嵐艦隊>  ただし誹謗中傷等は書き込まないようお願いします。

 岸波@五十嵐艦隊>  お疲れ様。

 鈴谷@賀藤艦隊>  スレ立ておっつ!

 神通@井口艦隊>  本当にやったんですね……?

 五十鈴@五十嵐艦隊>  突然だったけどやるって決まったらやるわよ、そりゃ。

 漣@管理人>  や、聞いた時mjskってなったけど今日は結果聞くの楽しみで仕方なかったです

 北上@九曽神艦隊>  素直に吹雪抜きって書いた方が早くない?

 磯波@五十嵐艦隊>  あ……実は武蔵さんと宮里提督も不参加でした。書き忘れですね……

 深雪@宮里艦隊>  燃料消費が長門さんとかとも比べ物にならないらしいからしゃーない。

 衣笠@井口艦隊>  どうして吹雪抜いたの?

 青葉@宮里艦隊>  言う必要ある?

 卯月@九曽神艦隊>  それでどっち勝ったぴょん?

 秋雲@宮里艦隊>  勝ち申した

 ごーちゃん@五十嵐艦隊>  あい、長期戦になって宮里艦隊の判定勝ちだよ。

 嵐@五十嵐艦隊>  つってもこっちの方が数多かったんだから大負けだけどな。

 夕立@ぽい>  悔しいっぽい!

 ガンビア・ベイ@五十嵐艦隊>  駆逐艦のみんなはがんばってたんですけどね……。

 大鳳@賀藤艦隊>  航空支援が先に壊滅してしまってはね。

 グラーフ@五十嵐艦隊>  本当に申し訳ない。

 暁@賀藤艦隊>  あの人どこから出てきたの?気が付いたら後ろで三隻沈んでたのよね……

 島風@宮里艦隊>  川内さんなら陸路だって言ってたよ。

 暁@賀藤艦隊>  そんなのあり!?

 青葉@宮里艦隊>  正確には陸伝いでギリギリ海上を通って行ったそうです。いやあの人最初は走ってく気満々でしたけどね、流石に宮里提督に止められました。

 比叡@布江艦隊>  改二になってるんでしたっけ?体力なんかも上がるんだ。

 浦波@賀藤艦隊>  深海棲艦も陸に上がれない訳ではないですし無しとは言えないですかね。

 卯月@九曽神艦隊>  その意見は頭吹雪型ぴょん

 深雪@宮里艦隊>  実際吹雪は見つかりづらくなっていいんじゃないかって言ってた。

 初雪@提艦隊>  まず吹雪『型』に反論して?

 熊野@賀藤艦隊>  単独行動にも相応のリスクがある以上、単純にこちらの索敵力不足としか言えませんね。むしろ彼女の技術を褒めるべきなのでしょう。

 ヴェールヌイ@ガトー艦隊>  あの時点で轟沈判定で見学してた暁が気付かないくらいだからね。ステルス性能は噂通りだったよ。改二ってスゴイ、改めてそう思った。

 暁@賀藤艦隊>  前線の方に集中してたせいもあるかもしれないわ。そっちが気になっちゃってて。

 電@賀藤艦隊>  教官長なのです?

 雷@賀藤艦隊>  強いっていうか上手なのよねあの人。参考になるわよね。

 夕立@っぽい>  嵐と二人がかりで倒しきれなかったの初めてっぽい!

 嵐@五十嵐艦隊>  剣持って突撃とか盾持って防御とか全速力で行ったり来たりとか、そういう特別な動きなんもしてなかったのになあの人。素で姫級より強いって事だろ?

 時雨@賀藤艦隊>  駆逐のエース二人をツートップにしてある程度暴れてもらう予定だったのに終わってみたら普通に抑え込まれてるんだからたまったものじゃないよ。ついでのように暁も轟沈させてるし。

 漣@管理人>  夕立さんに仕事させなかったんですか?

 夕立@っっぽい>  できなかったっぽい!

 曙@宮里艦隊>  暴れられると困るから対策したのよ。教官長当てる以外も色々やってた。

 山雲@宮里艦隊>  吹雪が夕立を自由にしたら殺されますよ~って言ってたからね~。

 夕立@っっっぽい>  こっちが殺されかけたっぽい!

 青葉@宮里艦隊>  むしろ徹底マークされてたのに生き残ってて怖すぎるんですが……

 陽炎@布江艦隊>  吹雪でも警戒しなきゃいけないっていうの大き過ぎない?

 曙@宮里艦隊>  対駆逐艦はとにかく夕立と嵐を警戒しつつ数を減らしてくって方針だったから、火力自体はそこそこな教官長は対夕立にぴったりだったの。ただ正直時間はかかっても倒し切れると思ってたのよね。想像以上に夕立が強かったわ。あと気付いたら暁倒してたのはこっちも計算外。

 ヴェールヌイ@ガトー艦隊>  この扱いの差。

 暁@賀藤艦隊>  かなり情けなかった自覚はあるわよ!

 青葉@宮里艦隊>  勘違いしないで頂きたいのですけど、早めに頭数を減らして行く方針だったので元々暁さんは優先排除対象ではあったんですよ。つまりそういう評価だったのは間違いないのですが、序盤で倒されたの自体はどちらかというとこちらの戦術のせいです。

 叢雲@宮里艦隊>  参考にしたかったのなら丁度良かったわね。教官長も訓練計画作ってたわよ。暁型の。

 漣@管理人>  あっ

 朧@宇佐山艦隊>  ひえっ

 綾波@山口艦隊>  あーあ

 朝潮@宇佐山艦隊>  やはり同型は訓練しやすいのでしょうか。

 北上@九曽神艦隊>  何人かトラウマになってない?

 ヴェールヌイ@海外艦?>  私はもう暁型じゃないから……

 電@賀藤艦隊>  悲しい事言わないでほしいのです。

 叢雲@宮里艦隊>  心配しなくても全員よ。私達も含めて。

 清霜@藤艦隊>  演習の問題点全部洗い出されてる奴だ……

 望月@そっち勤務じゃなくて助かった>  ちょっと待って教官長参加して夕立相手しながら全体見てたの?

 深雪@宮里艦隊>  6vs6の小隊戦もやったからそっちも参考にしたんだと思う。

 卯月@九曽神艦隊>  教官長ならやりかねないぴょん!

 鈴谷@賀藤艦隊>  話には聞いてたけど長門さんおかしいでしょ。あれ絶対バルジじゃない!

 望月@竹下艦隊>  バルジじゃなかったらなんなのよ

 文月@宮里艦隊>  騎士盾…かな?

 熊野@賀藤艦隊>  盾があるからといって戦艦が駆逐艦を護るのはどうかと思いますわ。

 夕雲@宮里艦隊>  お恥ずかしい所をお見せしました。

 秋雲@宮里艦隊>  夕雲姉さんは索敵が主な仕事だから……

 鈴谷@賀藤艦隊>  秋雲も庇われてなかった?

 夕雲@宮里艦隊>  秋雲さんは砲戦火力が主な仕事だから……

 長月@竹下艦隊>  こんな所で姉妹の庇い合い発動されてもな。

 望月@竹下艦隊>  姉妹ですらない定期

 山雲@宮里艦隊>  実際~優勢なら夕雲さんが倒される方が困るのよ~。

 秋雲@宮里艦隊>  一転攻勢のタイミング計ってるとかなら長門さん居ないと困るんだけどね

 望月@竹下艦隊>  前線指揮官倒されても最低限はどうにかなるって事?修羅の国かな?

 初春@宮里艦隊>  いや、単純に今はもう長門殿は旗艦をしておらぬというだけじゃ。

 野分@五十嵐艦隊> 今回山城さんが旗艦だったのは戦い方が変わったから、という事でいいのかな。

 山城@宮里艦隊>  どうして経験者が他に居るのに私に回って来たのか……不幸だわ……

 加賀@宮里艦隊>  実戦でなくて良かったわね。

 扶桑@宇佐山艦隊>  山城、立派になったのね。

 山城@宮里艦隊>  ありがとうございます姉様!戦艦山城不肖ながらこれからも精進して参ります!!

 大井@宮里艦隊>  立派というか、怖いくらいだったけれどね。慣れたらどうなるのかしら……

 青葉@宮里艦隊>  旗艦として働いてる時には不幸って言わないんですよね。案外向いてるのかもしれません。

 球磨@賀藤艦隊>  とりあえず球磨が言いたい事は一つクマ。深雪が弱いとか言った奴表に出ろクマ。

 ごーちゃん@五十嵐艦隊>  潜水艦が貧弱ってゆった人も、正座して。

 皐月@提艦隊>  たぶん誰も言ってないんだよなぁ。

 漣@管理人>  まあ管理してる側から言わせてもらいますと、その辺ほぼ自己申告ですな

 漣@管理人>  深雪に関しては『吹雪型の中では』あんまり目立った特徴が無いのと、轟沈回数のせいで『防御面が』疎かになってるっていう風潮のせいだと思われ

 漣@管理人>  潜水艦に関しては人数が少なくて艦隊戦で存在感薄いよねって話かと

 漣@管理人>  っていうか一人で人型深海棲艦倒していつもの事みたいな顔してる連中が弱い訳ねーです

 綾波@山口艦隊>  みんな宮里艦隊に出向するといいよ。実力上がるし。

 山風@藤艦隊>  死にたくないから遠慮させてもらいたいなって……

 フーミィ@山口艦隊>  結局、宮里艦隊が、終始優勢だった?

 山城@宮里艦隊>  実の所は駆逐艦達がかなり厄介で、守りに入られ始めてからは攻めきれなかったから空母が無事だったら分からなかったわね。

 時雨@賀藤艦隊>  人数で勝ってるから囲んだ方がいいんじゃないかって作戦だったんだけど、大失敗だったね。

 ガンビア・ベイ@五十嵐艦隊>  そもそも囲めてませんでした!

 球磨@賀藤艦隊>  正直島風が横に向かって飛び出した時点で嫌な予感しかしなかったクマ。

 天龍@宮里艦隊>  攻め慣れてないんだろうなってのが伝わって来るくらいだったからな。

 レーベ@五十嵐艦隊>  普段僕らは迎撃が主な任務だから……

 マックス@五十嵐艦隊>  陸に上がられないようにとか、偵察部隊を護りながらとか、そういう戦いは慣れたけれどね。

 天龍@宮里艦隊>  夕立が最大まで暴れたとしても他がその調子だったからな。夕立とベールヌイ、浦波と東雲、あと嵐と磯波辺りは攻めもいい線だったと思うぜ。

 北上@九曽神艦隊> 吹雪型多くて草

 スキャンプ@ガトー級>  結局大淀が正しかったって事か。あたいらの攻めは経験値不足。まぁ暫くは大人しく分業するさ。

 漣@管理人>  だから教官長の指導が必要だったんですね

 雪風@山田艦隊>  死屍累々の予感がします!

 吹雪@司波艦隊>  教官長の指導、そんなに厳しかったかな……?

 桃@八月朔日艦隊>  指導の態度とか姿勢は厳しくなかったけど、頻度と密度が……

 朧@宇佐山艦隊>  基本からねって言って身に付くまで毎日毎日出撃後にやるのはなんていうか、地獄だったよ……

 夕立@っっっっっっっっっっぽい>  頑張って吹雪倒せるようになるっぽい!

 岸波@五十嵐艦隊>  どこから出てるのそのやる気?

 

 

 

 

 

No.XX 賀藤・五十嵐連合艦隊vs宮里艦隊小規模演習反省会会場 投稿者:磯波@五十嵐艦隊

  1X月XX日に、

  賀藤・五十嵐連合全艦隊 対 宮里第一・第二・第三艦隊+駆逐艦島風

  で行われた六対六の小規模演習に関して話し合うスレッドです。

  感想、意見、雑談その他なんでもどうぞ。

  参加者以外の書き込みも歓迎します。

 

  【戦績】

  一回戦 賀藤艦隊×―◎宮里艦隊

  二回戦 五十嵐艦隊×―◎宮里艦隊

  三回戦 賀藤艦隊×―◎宮里艦隊

  四回戦 賀藤・五十嵐連合艦隊◎―×宮里艦隊

  五回戦 海外艦連合×―◎伊吹艦隊

  六回戦 賀藤・五十嵐連合艦隊×―◎文・宮里連合艦隊

 

 

 

 磯波@五十嵐艦隊>  誹謗中傷等は書き込まないようお願いします。

 熊野@賀藤艦隊>  お疲れ様です。

 金剛@提艦隊>  お疲れです。

 浦波@賀藤艦隊> おつです。

 北上@九曽神艦隊>  伊吹艦隊 is 何

 北上@九曽神艦隊>  あと文艦隊も

 如月@提艦隊>  一回しか勝ってないと思うべきなのか一回勝ちを奪ってると思うべきなのか……

 青葉@宮里艦隊>  伊吹艦隊は吹雪さんが無効貫通を付与してる人達で揃えた部隊です。

 青葉@宮里艦隊>  メンバーは島風、暁、皐月、川内、飛鷹、大和(敬称略)で、宮里提督もこれだけ参加されました。

 夕張@竹下艦隊>  案外バランス良さそう。

 長波@布江艦隊>  島風と教官長揃ってる時点で止めようがなくねぇか?

 神通@井口艦隊>  川内姉さんも強いでしょうし大和も火力が高いと聞きますが……統率はとれたのでしょうか。

 皐月@提艦隊>  宮里艦隊にも皐月居たの!?

 島風@伊吹艦隊>  皐月さんは戦闘部隊に入れるようになったばっかりの昇格組だよ。

 島風@宮里艦隊>  基本戦わないけど、お医者さんだから前線での診察とかしてくれるって。

 巻雲@藤艦隊>  医官って事ですか?そんな人も居るんですねぇ。

 熊野@賀藤艦隊>  彼女一人だけ目に見えて練度も適性値も低くて、実質六対五だったのでもしかしたらなんとかなるかもと思ったんですわよ。思ったんですわよねぇ……

 文月@宮里艦隊>  ちなみに文艦隊はあたしだよぉ。いちおう提督だからね!

 霧島@山口艦隊>  纏めると、一回戦と二回戦は普通に力負け、三回戦は空母の練度差が如実に出て、五回戦は島風さんが強すぎて、六回戦は文月さんの声援が強すぎたと。

 文月@宮里艦隊>  私のだけなんか違うよぉ……

 秋雲@宮里艦隊>  実際アガるからね仕方ないね

 ポーラ@宮里艦隊>  分かります~かわいらしい美声でお酒が進む進む。

 初雪@提艦隊>  わかりみが深い……

 金剛@提艦隊>  ぜかましは捕まえられないとどうしようもなさそうですね。

 熊野@賀藤艦隊>  どうしようもありませんでしたわ!しかも捉えたと思ったら消えますのよあの子!

 電@賀藤艦隊>  吹雪のアレ使ってたのです……

 雷@賀藤艦隊>  アレって吹雪以外も使えたのね?

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊> しまかぜの こうそくいどう!

 島風@宮里艦隊>  できる人はできるらしいよ。

 島風@宮里艦隊>  妖精さんが対応できないからあんまりやらないように言われてるけど。

 島風@宮里艦隊>  今回は猫吊るし借りたからやれたけど、普段は駄目なんだって。

 明石@宮里艦隊>  猫吊るしさんが吹雪さん専属みたいになってる理由の一つだそうです。

 明石@賀藤艦隊>  他にもああいう子居ないの?

 島風@宮里艦隊>  前に聞いたけど、猫吊るしも知らないって。

 島風@宮里艦隊>  私専属の子も見つかったら第四ももっと早く動けるんだけどねー。

 大東@書田艦隊>  使用者のスペックに兵器が追いついてないみたいな状態なのか……

 文月@宮里艦隊>  NT-1開発しなきゃ……

 秋雲@宮里艦隊>  宮里提督折角出てきたのに殆ど出番無くて(´·ω·`)こんな感じになってた。

 青葉@宮里艦隊>  いやまあ、燃料とか弾薬とか駆逐艦のより高いので結果的には良かったのではないかと……

 霧島@山口艦隊>  四回戦は夕立さんが頑張って勝利したという事ですね。

 長良@宮里艦隊>  吹雪が警戒してた理由を分からされました……

 曙@宮里艦隊>  改二になって犬っぽさに磨きが掛かったと思ってたらとんだ猛獣だったわ。

 那智@宮里艦隊>  弾を避けた先に置かれた魚雷を避けたらその先に次の砲弾が飛んできていたんだが、何手先まで読めていたんだあの娘は。

 時雨@賀藤艦隊>  大規模戦で圧力掛けられて封じられたストレスが爆発しちゃった感じだったね。

 夕立@っっっっぽい>  がんばったっぽい!でも島風とか教官長とか吹雪とかには勝ってないっぽい!そのうち倒すっぽい!!

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  うーんこの狂犬。

 暁@賀藤艦隊>  吹雪も倒す気なの純粋に凄いと思うの。

 

 

 

 

 

No.XX 宮里・賀藤・五十嵐連合艦隊vs吹雪反省会会場 投稿者:磯波@五十嵐艦隊

  1X月XX日に、

  宮里・賀藤・五十嵐連合全艦隊 対 吹雪

  で行われた演習に関して話し合うスレッドです。

  感想、意見、雑談その他なんでもどうぞ。

  参加者以外の書き込みも歓迎します。

 

 

 

 磯波@五十嵐艦隊>  はい。

 卯月@九曽神艦隊>  はいじゃないぴょん

 望月@竹下艦隊>  (マジでやりやがったこいつらという顔)

 漣@管理人>  草

 北上@九曽神艦隊>  これはひどい

 伊勢@司波艦隊>  よく許可が出たわね。

 陽炎@布江艦隊>  誰がやらせたのよこれ。

 神風@提艦隊>  うそでしょ……

 金剛@提艦隊>  正直やると思いましたけどね。

 黒潮@九曽神艦隊>  え、ほんまに吹雪単騎でやったん?

 秋雲@宮里艦隊>  そうだよ

 五月雨@藤艦隊>  どうしてそんな事に……?

 扶桑@宇佐山艦隊>  きっと本人はやる気十分だったと思いますよ。

 大井@宮里艦隊>  吹雪は「本当にいいんですか?じゃあ全力でやりますね」って。

 菊月@竹下艦隊>  全力で殺ったのか……

 はっちゃん@九曽神艦隊>  大 惨 事 の 予 感 ! !

 電@賀藤艦隊>  夕立ちゃんや浦波ちゃん、それに川内さんや天龍さんが本気でって言っちゃったのです。

 雷@賀藤艦隊>  私達は止めたわよ!

 暁@賀藤艦隊>  興味本位で見てみたいとか言うんじゃなかったわ……

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  物理的に見えないしね。

 木曾@厳島艦隊>  ちょっと戦ってみたかったな。

 球磨@賀藤艦隊>  やめとけクマ。

 清霜@藤艦隊>  え、これアグレッサーモードですらないの?

 叢雲@宮里艦隊>  訓練所の仮装ほど手加減してなかったわよ。

 磯波@吹雪に凹られた方>  皆さん勇気ありますね。

 磯波@吹雪に凸られた方>  私は正直二度と立ち向かいたくないです。

 山風@藤艦隊>  投げられる……

 衣笠@井口艦隊>  一部トラウマになってない?

 青葉@宮里艦隊>  訓練の時はわざと痛くしたらしいからある程度仕方ないね。

 北上@九曽神艦隊>  それで、どっち勝ったの?

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  三分持たなかったよ。

 青葉@宮里艦隊>  正確には一分五十一秒なので二分持ってないですね。

 (削除されました)

 子日@宇佐山艦隊>  潜水艦とか全部含めて轟沈させるまでで2分なの?

 初春@宮里艦隊>  うむ。航空機や連装砲ちゃんも含めて二分以内じゃな。

 摩耶@要艦隊>  潜水艦二分以内ってどういう事だよ。よっぽど固まってたのか?

 イムヤ@宮里艦隊>  全員バラバラだったよ。でも吹雪だから……

 ごーちゃん@五十嵐艦隊>  潜水艦はー……一番最初にやられちゃった。

 イク@宮里艦隊>  始まって10秒くらいで全員轟沈したのね!

 イムヤ@宮里艦隊>  怖いけど演習だしって言い聞かせてたら終わってたよね。

 衣笠@井口艦隊>  バラけてたのに十秒で全員っておかしいよね。話盛ってない?

 秋雲@宮里艦隊>  なんというか、天からふりそそぐものが世界をほろぼした……?

 島風@宮里艦隊>  知らないと分かり辛いよねあれ。

 曙@宮里艦隊>  一言で言ったら開始地点から爆雷放り投げただけなんでしょうけどね。

 イムヤ@宮里艦隊>  気が付いたら真上に爆雷落ちて来てたのはどうしようもないよ……

 ごーちゃん@五十嵐艦隊>  水中からは落ちて来てるの見えないので、詰みだったねえ。

 磯風@八月朔日艦隊>  よく分からないが余程相性が悪かったのだろうか?

 青葉@宮里艦隊>  吹雪さんってあれで対潜特化の能力をしてますからね。相性で言ったら最悪かと思います。

 卯月@九曽神艦隊>  特化の意味が分からなくなったから辞書引いてくるぴょん!

 青葉@宮里艦隊>  まあ自分でも書いてて違和感酷いんですが、適性値と身体感覚の暴力が吹き荒れてるだけで、対空なんかはむしろ苦手といってもいいくらいだったりするそうでしてね。

 青葉@宮里艦隊> 適性値と得意分野が噛み合った結果、吹雪さんの水中索敵範囲は五十キロを超えてるわけで。当然のように開始地点がもう索敵範囲内に入ってる。

 青葉@宮里艦隊>  だから後は正確に潜水艦の進行方向に爆雷を落とすだけで倒せるという訳ですね。はい。

 漣@管理人>  説明されても意味分からん件

 菊月@竹下艦隊>  演習の自分開始地点から敵開始地点まで艦娘サイズの目標に当たるよう正確に投げつける「だけ」か。成程簡単だな。

 卯月@九曽神艦隊>  次は簡単の意味調べるぴょん!

 龍田@林艦隊>  ちょっと待って、吹雪ちゃんって対空苦手なの?空いっぱいに広がる大編隊一人で落としてたわよ~?

 青葉@宮里艦隊>  まああくまで相対的にですので……不得意な分野でも他の艦娘よりは遥かに成績は良いです。

 青葉@宮里艦隊>  参考までに吹雪さんの自認だと、5段階評価で対潜5、格闘戦5、機動力4、砲戦3、雷撃2、対空1くらいだそうです。

 青葉@宮里艦隊>  実際レーダーが苦手で主に島風さんの受け持ちになってるようですね。

 龍田@林艦隊>  もしかして適正的には地上戦に向いてない……?

 天龍@宮里艦隊>  いや地上戦に向いた艦娘って何だよ。

 加賀@宮里艦隊>  空母としては飛ばしていた子達を踏み台にされなくて良かったと思いました。

 瑞鶴@宮里艦隊>  射程内に入った順に撃墜判定されてたし足場として使えなかっただけじゃないのあれ……?

 ガンビア・ベイ@五十嵐艦隊>  認識する前に撃墜判定されるから視界切り替えが大変で……あんなの無理ぃ……

 龍鳳@賀藤艦隊>  一応、撃墜された事で位置の予測はできましたけど、移動が早すぎて意味がなかったですね。

 大鯨@賀藤艦隊>  あれでは観測射撃どころではないですね。

 フレイ@賀藤艦隊>  大鯨さんは相性最悪ですね。彼女。

 ニム@賀藤艦隊>  あたしたちが最初にやられたしね!

 イムヤ@宮里艦隊>  せっかく潜水母艦とご一緒できると思ったらこれだもの。

 イク@宮里艦隊>  分かってたけど思った以上に酷かったのね!

 時雨@賀藤艦隊>  結局一回避けた夕立が交戦時間最大?

 青葉@宮里艦隊>  ですね。他は順次死亡判定貰ってますので、一回避けてから後回しにされた夕立さんが最大です。

 雷@賀藤艦隊>  夕立はどうやってあれを避けたのよ!私なんて気が付いたら一キロくらい吹き飛ばされてたんだけど!?

 電@賀藤艦隊>  自分が飛んでるのに気づいて初めて撃たれたって分かったのです……

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  弾の直進する力が強すぎて撃たれた側が飛行するの面白すぎるだろう。暁が縦回転しながら跳ね飛ばされたせいで笑いそうになったじゃないか。

 暁@賀藤艦隊>  私のせいじゃないわよね!?っていうかなんで私だけ上に飛ばされたの?

 秋雲@宮里艦隊>  バグらせた物理演算ゲーみたいな挙動だったねえ。

 球磨@賀藤艦隊>  たぶん高速貫通弾と物理無効が干渉して物凄い力で押された結果クマ。

 敷波@五十嵐艦隊>  防ごうとした人達も凄い事になってたしねー。

 天龍@宮里艦隊>  剣で逸らしたら勢いで海中に沈むのは予想外過ぎたな。

 深雪@宮里艦隊>  長門さんが回転してたのくらいしか分かんなかったけどそんな面白い事になってたのかー。見たかったなあ。

 五十鈴@五十嵐艦隊>  長門さんは盾で防いだからああなったのよね?それでも死亡判定なんだからあの装甲でも貫通されちゃうって事か。凄い威力ね。

 望月@竹下艦隊>  っていうか死亡判定って何?吹雪はそんな徹底的にやったの?

 青葉@宮里艦隊>  吹雪さん曰くですが、全員を姫級鬼級と想定して、連装砲の左右両方で一人につき二発ずつ撃ったんだそうです。

 青葉@宮里艦隊>  そうすると我々は両方が直撃するので、一発目で轟沈判定、二発目で死亡判定になります。ほぼ同時着弾なので見た目には一発で即死してるように見えるんですけどね。

 初春@宮里艦隊>  艤装の機能停止後に攻撃を受ければ死ぬ。とは言うが、大破状態で同時に複数を受けるのも駄目だという事じゃな。

 子日@宇佐山艦隊>  HP全快からのそれはなんか別の問題だよ!

 木曾@厳島艦隊>  結局攻撃を当てるどころか攻撃する前に終わってないかこれ?

 夕立@っっっぽい>  一応夕立と教官長は撃ったっぽい!

 島風@宮里艦隊>  私も魚雷撃ったよ、撃った直後に当たらない位置に移動されてたけど。

 フレイ@賀藤艦隊>  夕立は避けてから魚雷でやられるまで撃ってた。

 雷@賀藤艦隊>  夕立は本当にどうやって避けたのよ。吹雪が見えもしなかったでしょ?

 夕立@っっっっっぽい>  見えなかったっぽい?

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  もしかして →雷に見えてなかっただけ

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  いや私も見えてなかったんだけれどね。

 夕立@っっっっっっぽい>  見えてたら雷も避けられたっぽい!撃ってくるタイミングは訓練所と同じだったっぽい!

 雷@賀藤艦隊>  何ヵ月前の話よ!?覚えてないわよそんなの!!

 雷@賀藤艦隊>  っていうか吹雪の撃って来るタイミングなんて訓練所でも分かってなかったわよ!

 電@賀藤艦隊>  前提がおかし過ぎて真似のしようがないのです……

 暁@賀藤艦隊>  そういえば教官長も死亡じゃなくて轟沈判定だったから一発は避けてるみたいなのよね……分かってれば対処できるっていうのはその通りなのかしら。

 夕立@っっっっっっっぽい>  ぽい!だからもっと慣れて全部避け切れたら倒せるようになるっぽい!

 初雪@提艦隊>  お姉ちゃんの場合その後もだいぶ問題だと思う……

 

 

 

 

 

No.XX 宮里・賀藤・五十嵐連合艦隊vs吹雪(装備使用禁止&コスプレ)反省会会場 投稿者:磯波@五十嵐艦隊

  1X月XX日に、

  宮里・賀藤・五十嵐連合全艦隊 対 吹雪(装備及び高速移動の禁止)

  で行われた演習に関して話し合うスレッドです。

  感想、意見、雑談その他なんでもどうぞ。

  参加者以外の書き込みも歓迎します。

 

  特殊ルールとして、輸送艦吹雪は全ての武装(錨等も含む)の使用禁止、乗組員の妖精さんは無作為に選んだ一人のみの使用、筋力を用いた高速移動の禁止等の制限が課せられました。

  また、吹雪は戦艦レ級風のコスチュームを着用した状態での演習となりました。

 

 

 

 磯波@五十嵐艦隊>  当日行われたのはこれが最後になります。

 望月@竹下艦隊>  何やってんの?

 北上@九曽神艦隊>  これはひどい

 漣@管理人>  酷杉ワロタwwwwwwwww

 菊月@竹下艦隊>  誰がここまでやれと言った。

 卯月@九曽神艦隊>  強 制 オ ー ル マ イ ト

 皐月@提艦隊>  移動力に制限ある辺りオールマイトですらないよね。

 山風@藤艦隊>  普通にやるよりむしろ酷い目に遭わされそう……

 朝潮@宇佐山艦隊>  あの衣装まだ持っていたんですね。懐かしいです。

 雪風@山田艦隊>  さすがにどうしようもない……どうしようもないですよね?

 神州丸@山口艦隊>  虐めか何かか?

 桃@八月朔日艦隊>  気持ちは分かるけど!

 白雪@司波艦隊>  どう戦えと……?

 吹雪@司波艦隊>  でも吹雪さんならなんとかなりそうな気もする。

 神通@井口艦隊>  川内姉さんも止めなかったんでしょうか……

 島風@宮里艦隊>  川内さんはノリノリだったよ!

 時雨@賀藤艦隊>  むしろ宮里艦隊の方が納得顔していたからね。

 鳳翔@提艦隊>  いったいどうしてこんな条件になったのでしょうか……?

 夕張@竹下艦隊>  確かにどうなるのか気にはなるけど、誰の発案なのやら。

 暁@賀藤艦隊>  まさか通ると思わなくて……

 電@賀藤艦隊>  冗談のつもりだったのです……

 雷@賀藤艦隊>  どこまで手加減して貰ったら勝てるかって話だったのよね……

 叢雲@宮里艦隊>  あまりにも早く終わって不完全燃焼だったみたいだったから仕方ないわよ。

 深雪@宮里艦隊>  なんだかんだこういう訓練に参加してみたかったみたいだからなー。

 初雪@提艦隊>  お姉ちゃん絶対楽しそうだったでしょ。

 浦波@賀藤艦隊>  声の調子は軽かったですね。表情にはあまり出てませんでしたけど。

 磯波@五十嵐艦隊>  終わってからも楽しげに見えなくもなかったですね。悪い子じゃなさそうで良かった。

 磯波@当時を思い出して震える方>  悪い子ではないですよ。ちょっと容赦はないですけど。

 磯波@当時を思い出して戦慄く方>  鍛えるためにしっかりやってくれてたのでむしろ良い子かなと。容赦はないですけど。

 時津風@林艦隊>  さすが姉妹艦、吹雪に対する理解度が深いんだね。

 北上@九曽神艦隊>  それで、勝ったの?

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  三分持ったよ。

 木曾@厳島艦隊>  負けたのかよ!!

 朝雲@提艦隊>  それこそ潜水艦はどうしたのよ。装備使えないんじゃどうしようもないでしょ?

 陽炎@布江艦隊>  他は殴ったんでしょうけど、水中に居たら手出しできないわよね。顔出したの?

 イムヤ@宮里艦隊>  正直よく分かんなかったんだよね……

 ごーちゃん@五十嵐艦隊>  上に居る~?って思ったら、揺れて、轟沈したよね。

 スキャンプ@五十嵐艦隊>  あんなもん予想出来るわけねえだろ……

 ニム@賀藤艦隊>  説明されたからって納得出来るかは別だよね!

 イク@宮里艦隊>  潜って来るかもとは思ったけどそれ以前だったのね~。

 フレイ@賀藤艦隊>  何をされたのかって終わってから聞いたけど、上の海面を足で踏み締めただけってどういう事?

 島風@宮里艦隊>  あれも川内さんのせいだよ。

 天龍@宮里艦隊>  まさか浸透勁まで身に付けてるとはなあ。

 叢雲@宮里艦隊>  存在は知ってたけど液体に向かって使えるもんなのねあれ……

 文月@宮里艦隊>  海に向かって浸透勁撃って中の人達攻撃した……ってコト!?

 スキャンプ@五十嵐艦隊>  何度説明されても意味分かんねぇよなあ!?

 ごーちゃん@五十嵐艦隊>  実演もしてもらったけど、どうしてそうなるのかぜんぜんわかんないよ……

 イムヤ@宮里艦隊>  吹雪だから仕方ないってなってたけどそっか。これが普通の反応だよね。

 神通@井口艦隊>  配属時は素人だったと聞いていますが……姉さんはどれだけの修練を積ませたのでしょう……?

 島風@宮里艦隊>  10分くらい?

 叢雲@宮里艦隊>  本当にそれくらいで覚えたらしいから反応に困るのよね……

 天龍@宮里艦隊>  川内が天才っていうくらいだからな。

 龍田@林艦隊>  川内ちゃんもかなり使えるみたいだったけど~あれには負けるわよねぇ。

 神通@井口艦隊>  あの手の技は年単位の修行が必要になるのが一般的なのですが……

 朧@宇佐山艦隊>  それが一般的って認識な神通さんも割と別世界に生きてますよね。

 加賀@宮里艦隊>  空母としては飛ばしていた子達を踏み台にされなくて良かったと思いました。

 望月@竹下艦隊>  さっき見た

 瑞鶴@宮里艦隊>  吹雪も沈めたりすると壊れるかもって思ったとかで海に叩き落としたりはしなかったのよね。

 グラーフ@五十嵐艦隊>  代わりに全て陸地に投げ飛ばすのは常軌を逸していると思うが……

 ガンビア・ベイ@五十嵐艦隊>  人って物を投げた反動で空を飛べるんだなって……

 漣@管理人>  ま~た飛行機使って空飛んだんすかあの子

 綾波@山口艦隊>  飛行機で空飛ぶって普通じゃない?

 敷波@山口艦隊>  飛行機の使い方が大問題だよ。

 野分@五十嵐艦隊>  海岸に突き刺さった艦載機の林。あれを見た時、何故だか笑いが込み上げて来ました。

 夕張@竹下艦隊>  物を投げると投げた物の重量と飛ばした距離に応じて反作用で自分も力を受けるから、確かに浮く事も不可能じゃないよね!どれくらいの膂力があれば空中で10kgにも全然足りない艦載機投げて空に浮かべるのかは全く分かんないけど!!

 速吸@宮里艦隊>  上手い事連続キャッチアンドリリースするので感心して見てました。

 龍鳳@賀藤艦隊>  どうしてあれで一度も被弾していないんでしょう?

 大鯨@賀藤艦隊>  投げた反動で正確に最寄りの他機まで飛べるから……なんでしょうか。

 大鳳@賀藤艦隊>  艤装の可能性を見たようなそうでもないような微妙な気持ちでした。

 ガンビア・ベイ@五十嵐艦隊>  同じ事できるようになっても困るんですけどぉ……

 夕立@っっっっっっっっぽい>  楽しそうっぽい!!

 子日@宇佐山艦隊>  飛行機踏んづけてジャンプし続けるの一度やってみたいよね!

 初春@宮里艦隊>  いや、いくら習熟したとしても普通ああはならぬと思うぞ。

 暁@賀藤艦隊>  でも島風は飛んでたし……

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  島風は普通枠じゃないからね。

 朝霜@五十嵐艦隊>  まずさー、直進して来てるのに攻撃が当たらない時点でどうしようもねーじゃんあれ。

 岸波@五十嵐艦隊>  被弾0ってああいう事だったのね。

 嵐@五十嵐艦隊>  発射されてから避けるのは分かるけど、あんだけ囲まれてるのにどうやってんだろうな。

 曙@宮里艦隊>  訓練所でもあんなだったからね。

 青葉@宮里艦隊>  だからこそ機銃とかも使って弾幕張ったんですけどねぇ。なんで全部避けられてるんですかね?

 時雨@賀藤艦隊>  相変わらず後ろにも目が付いていたね。

 望月@竹下艦隊>  着弾に時間差があるから間を抜けられるらしいね

 スキャンプ@五十嵐艦隊>  隙間があるってのは避けられる理由にはならないだろ……

 朝雲@提艦隊>  っていうか、発射されてから避けるのだけなら分かるんだ嵐……

 暁@賀藤艦隊>  嵐はできるからね。

 電@賀藤艦隊>  夕立ちゃんと並んで反射神経凄いのです!

 嵐@五十嵐艦隊>  単発ならある程度。ただ何発も連射されたら無理だから同列にするなよ?

 雷@賀藤艦隊>  夕立もやれるし、なんだったらヴェールヌイもできなくないのよ!

 ヴェールヌイ@賀藤艦隊>  いや私は暁と雷と電のくらいしか無理だよ。それも目線とか動きでタイミングが分かるからだしね。

 暁@賀藤艦隊>  えっ……私達そんなに読みやすいの?

 電@賀藤艦隊>  ショックなのです……

 雷@賀藤艦隊>  もっと練習しないと駄目かしら?

 夕立@っっっっっっっっっぽい>  別に他とそんなに変わんないっぽい?夕立はちょっと分かんないっぽい!

 ろーちゃん@藤艦隊>  なかよきことはうつくしきかな、ですって!

 深雪@宮里艦隊>  みんな艤装殴られて轟沈判定なの凄いよな。誰も体は叩かれてないの。

 叢雲@宮里艦隊>  海の上でスライディングしたり五メートルくらい跳び上がったりやりたい放題だったけどね……

 金剛@提艦隊>  その辺りはほとんど生身でもできますからね!

 敷波@五十嵐艦隊>  近接戦闘すら手加減してたって事?一応は気遣いしてたわけなんだ?

 曙@宮里艦隊>  そりゃ初対面の相手殴りたくないでしょ。訓練所ではやってたけど。

 叢雲@宮里艦隊>  格闘覚えて余裕出来たからかしらね。元々痛めつけるのが好きな訳じゃないでしょうし。

 秋雲@宮里艦隊>  なお島風

 レーベ@五十嵐艦隊>  素の速度が島風の方が上だったから仕方ない……仕方ないかなあれ。

 秋津洲@宮里艦隊>  死ぬかと思ったかも……

 曙@宮里艦隊>  物凄い回転してたものね、二式大艇ちゃん。

 島風@宮里艦隊>  もう飛び道具ないと思ったのに!

 秋津洲@宮里艦隊>  吹雪が他の子を投げ始めたから遠くに逃がしてたのよ。一緒に投げられるよりいいかもって思って。

 青葉@宮里艦隊>  結果的に止めの一撃になりましたねぇ。

 秋津洲@宮里艦隊>  砲弾の代わりにぶつけられるなんて思わないかも!

 グラーフ@五十嵐艦隊>  視界共有を切らなかったのか?

 秋津洲@宮里艦隊>  見失った瞬間投げられたから切ってる暇なかったかもー。

 大井@宮里艦隊>  迂回して戻った直後に捕まって投げられるだなんて思わないものね。

 天龍@宮里艦隊>  作戦失敗した時点で逃げ撃ちに変えたのは良かったと思うけどな。

 長良@宮里艦隊>  他に止めようもなさそうだし、もしかして二式大艇ちゃんが戻って来なかったら私達が投げつけられてたのかな……?

 時雨@賀藤艦隊>  そして何もされない連装砲ちゃん。

 島風@宮里艦隊>  吹雪は連装砲ちゃん達可愛がってくれてるからね!

 曙@宮里艦隊>  島風が轟沈判定された時点であの子達もアウトだからじゃない?

 熊野@賀藤艦隊>  結局作戦失敗したのは何が原因だったんですの?空飛ぶ島風さんを囮にして夕立さんが砲台突き付けるとこまでは上手く行きましたよね?

 島風@宮里艦隊>  あれも大体川内さんのせいだよ。

 秋雲@宮里艦隊>  川内さん大戦犯過ぎる……

 叢雲@宮里艦隊>  浸透勁なんて教えるから……

 青葉@宮里艦隊>  いや流石に自分の体に浸透勁叩き込んで背中に密着した砲塔吹き飛ばすのは想像しろという方が無茶なのでは。

 夕立@っっっっっっっっっっっっっぽい>  発射が間に合ってれば勝てたっぽい!

 叢雲@宮里艦隊>  そのコンマ一秒未満が埋まらない相手なのがね。

 嵐@五十嵐艦隊>  普通の人間であれに肉薄できただけでもすげえよ。

 ガンビア・ベイ@五十嵐艦隊>  浮いてる相手の背中をジャンプして取れるのは普通じゃないと思う……

 深雪@宮里艦隊>  いくら吹雪でも空中で触れるものもなければって思ったんだけどなぁ。突き付けたのが敗因になるってのはまさか過ぎるから仕方ないけど。

 夕立@っっっっっっっっっっっっっっぽい>  ちょっと離して撃てば間に合ってたっぽい!?

 敷波@五十嵐艦隊>  なんでだろ、それはそれで普通に避けられそうな気がする。

 深雪@宮里艦隊>  分かる。

 叢雲@宮里艦隊>  なんでかしら、絶対避けられるわよね。断言出来る。

 浦波@賀藤艦隊>  東雲姉さんと教官長と連携して空中に追いやるのは上手く行ったのであの感覚を忘れないようにしたいです!

 球磨@賀藤艦隊>  錨と鎖は使い所に困るから普通の訓練して欲しいクマ……

 鈴谷@賀藤艦隊>  むしろ急に言われて合わせられる教官長は何?普段から使ってるの?

 秋雲@宮里艦隊>  (使って)ないです

 漣@管理人>  掴まれてフレイル代わりにされなくて良かったですねって感想が出てきて困りますなあ

 文月@宮里艦隊>  やらない縛りだったんだよねえ。

 山雲@宮里艦隊>  錨や砲弾投げ返したりするのも禁止だったのよ~。

 山城@宮里艦隊>  航空機投げつけるのも禁止しておくべきだったわね。

 望月@竹下艦隊>  (っていうかそもそも一発当てても吹雪の事だし轟沈しないんじゃないだろうか……?)

 長波@布江艦隊>  なんかさらっと流されてたんだが空飛ぶ島風ってなんだよ。

 望月@竹下艦隊>  吹雪が飛ぶんだから僚艦の島風だって飛ぶでしょ(思考放棄)

 漣@管理人>  艦娘は飛べないという常識の方が間違っていた……?

 曙@宮里艦隊>  吹雪は飛んでないわよ。あれは投げた反動でジャンプしてただけだもの。

 睦月@井口艦隊>  それだと島風の方は普通に飛んでたみたいにゃしぃ。

 曙@宮里艦隊>  そうよ。

 漣@管理人>  えっ

 望月@竹下艦隊>  お前は何を言っているんだ

 初春@宮里艦隊>  まあ……実際飛んでおったしな……

 曙@宮里艦隊>  吹雪すら知らなかったみたいだけどね、だから一瞬動き止まったんだし。

 睦月@井口艦隊>  どういう事なの……?

 初春@宮里艦隊>  わらわの使う霊力と似た性質のものを体から放出して飛んでおるようじゃな。ただ、飛行というよりは空中で跳躍を繰り返しておるのに近かったように思うが。

 望月@竹下艦隊>  え、艤装ってそんな事できるようになるの?

 初春@宮里艦隊>  体に影響が出る事の亜種かもしれんのう。

 曙@宮里艦隊>  放出できるものなんだ……

 漣@管理人>  ぼのたんもよく分かってないかったんかーい

(削除されました)

 子日@宇佐山艦隊>  どっちかっていうとホバリングだったの?

 初春@宮里艦隊>  うむ、バランスが悪いのか攻撃まではできない様子じゃったがの。

 島風@宮里艦隊>  コツは掴めたから次はもっと上手にできるよ!

 北上@九曽神艦隊>  あーアレか、壁吹っ飛ばした奴

 島風@宮里艦隊>  あれの応用だから、たぶんみんなできるよ。

 漣@管理人>  みんなできる(できない)

 長波@布江艦隊>  今までと違う方向性の心配が芽生えて来たぞ……?

 那智@宮里艦隊>  しかしこの訓練意味はあったのか。吹雪が距離を取られるだけでは?

 コロラド@五十嵐艦隊>  あら、それなら簡単よ。この演習はむしろ大淀司令官のためにあった。それだけの事なのよ。

 青葉@宮里艦隊>  まあぶっちゃけ、吹雪さんの戦力を計りたかったっていうのが第一目的だったでしょうからね。

 夕雲@宮里艦隊>  どこまでの無茶なら耐えられるのか見たかったんでしょうね。囲まれても殆ど当たりもしないなんて聞いて納得できる物じゃないもの。

 秋雲@宮里艦隊>  あと連帯感の構築とかもかな?吹雪に凹られた仲間

 青葉@宮里艦隊>  宮里艦隊に倒された、で終わって悪感情持たれると困るからですか。確かに吹雪さんに対抗するために力合わせましたからねぇ。短時間とはいえ。

 暁@賀藤艦隊>  それって酷くない?吹雪だけ最後まで敵扱いじゃない!

 青葉@宮里艦隊>  そう思ったなら積極的に話しかけてあげてください。いい人なので怖がらなくて大丈夫ですよ。

 暁@賀藤艦隊>  わかったわ!

 曙@宮里艦隊>  急に暁型が押しかけて来たから何かと思ったら……ここのせいか。

 青葉@宮里艦隊>  あ、本当に行ったんですね暁さん。

 曙@宮里艦隊>  姉妹艦四人と教官長連れてね。

 青葉@宮里艦隊>  何やってんですかね暁さん!?

 

 

 




なんかすごい時間掛った……いや色々立て込んでたせいもあるんですが。
描写はしないが言及はするってやりたかったんですが、時間かかり過ぎててあとがきに書いた事とか絶対忘れられてる感が凄い。


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お徳用転生者セット

 やりやがった。

 島さんめ、思いっきり人前で空飛びやがった。

 っていうか、お前、飛ぶのか……いや、やれそうだとは思ってたけど本当にやるとは読めなかった。このチート転生者の目をもってしても。

 まあ飛べるの自体は別にいいんだよ。なんか放出してるんだから出力次第じゃそりゃ飛べるよ。どっちかっていうと空中で跳ね続ける感じだったけど、逆に機動力は出せそうだし使い勝手も悪くはないだろうし。

 でもお前他の人の目線とかお気になさらない? 賀藤艦隊と五十嵐艦隊の一部の人達完全に動揺してたよ? あっほんとに飛ぶんだ……って感じの顔してたよ?

 私も私でどう言い訳したもんだと頭の中がぐるんぐるんした結果夕立に背中取られるし、まったくもって散々だった。自分の鳩尾ぶん殴って弾き飛ばせたから良かったものの、夕立の一撃なんて喰らったら私はともかく艤装が持ったかはかなり怪しい。威力がやたら高そうだったから当たれば一撃だった可能性が普通にある。怖いぽいぬである。

 その後高速で逃げ撃ちを始めた島風を、丁度こっちにやって来た二式大艇ちゃんを投げつけて黙らせたわけなんだが、その時ばっちりと側面に描かれた大艇ちゃんの目と目が合ったんだよね。おかげで罪悪感が凄い凄い。演習の後に工廠で本人……本機? ともかく大艇ちゃんに謝りに行ったら、いいのよ……と言わんばかりに優しく頭を撫でられた。二式大艇ちゃんに。何その包容力、姉度高過ぎない?

 

 今回の演習、私は負ける訳にはいかなかった。っていうのも、完全な有効活用をしてもらうために大淀司令官に自分の強さをアピールしなくちゃいけなかったからだ。

 勿論司令官はデータから見える私の強さは理解しているだろうし、今までの戦歴からどれくらいの戦いで無傷で帰って来たかも知っているだろう。でも、私ってそこから読み取れる虚像ほど弱くないんだよね。

 嘘みたいだろ? カタログスペックの方が弱いんだぜ私。だから実像をちゃんと見てもらう必要があったんですね。

 実の所、私は実戦で全ての力を出し切らないといけない程に追い込まれた事は無い。一番苦戦した北方棲姫も時間こそかかるが殴ってれば撃破可能な範囲でしかなかった。なのにあの一戦、公式記録では私は轟沈なのである。本体無傷でピンピンしてたし、そのまま継戦可能だったにも拘らずだ。だから残念ながら、私が全力を出した時どうなるのか書類からはまともに読み取れなくなってしまっているんだとか。

 最近浸透勁も習得したのでその傾向はさらに増し、チート能力さんが絶好調なため最大出力もたぶん過去より上がっている。全能力を発揮した場合、もう自分でもどこまでできるのか完全に把握できてなかったりするんだよなぁ。感覚的にこれはできるこれは無理ってのはあるんだけど、なんか全容がよく分からん事になっちゃってるわ。

 そういう理由で皆の精神力を生贄に私の強さをアッピルするための場を用意してもらった訳なのだ。元々は戦う予定なんて無かったのだけれど、誘われたら参加するよね。仕方ないよね。

 縛りプレイに関しては渡りに船ではあったのだけれど、私の全力に多少なりとも近い姿を皆に見せつけて大丈夫なのかはちょっと不安だった。そしたら当日の夜に暁型が六人で遊びに来てすごく凄かったって褒められ……褒められてたよなあれ? とにかくドン引きとかではなかったみたいなので良かったと思います(小学生並みの感想)

 ちなみに、カタログスペック云々は宮里提督の受け売りである。報告書には全部書いてるけど、自分でいくら読み返しても本人を直接見て感じられる程の強さを表現できてはいなかったとの事。大淀司令官も二面三面どころか四面作戦も行けそうですねって眼鏡を拭きながら呟いてたのでちゃんと理解して貰えたんだろうと思われる。やったぜ。

 

 それで問題の島風なんだが……なんかあんまり問題になってないっぽい? いや、気にはされてるしお前それどうなってんのって聞かれたりはしたんだけど、おかしいですよって言い出す人は特に居ないんだよね不思議な事に。

 暁型はむしろ憧れの目線を送ってたし、曙や叢雲は直接的にやり方に関して質問してきた。長門さんは許可出せるくらい安定してから使えと釘は刺していたが練習する事を止めなかったし、大淀さんは使い道を真剣に検討している。夕立は左右に安定しない飛び方を披露する島風を見て興奮したのか跳び付いた挙句墜落させていて、初春に至ってはお主等も使えたんじゃのうとなんとなく嬉しそうだった。なんか同種の力だって理解が及んだらしい。霊視的なのの応用なんだろうか。

 でもまあ考えてみたら当たり前の話で、これって私もそうだけど島風も阿呆みたいに強い頼られる側の艦娘だからなんだよね。艤装って召集された艦娘達からしたら限界も分からなければどこに変な機能が付いてるかも分からない、新開発されて使用を強制されてるオカルト装備な訳で。適性値が明らかに高い島風が普通は使えない機構を稼働させたって考えると別におかしな話でも何でもなかった訳だ。

 艤装……というか、艦娘が普通どこまでできるのかっていう基準が、転生者で艦これの知識を持つ私とこの世界で今見えてる物から判断するしかない彼女達では全く違う。私から見たら島風は、艦娘が飛ぶか馬鹿! って感じなんだけど、みんなから見たら、へー艦娘って適性次第じゃ飛べるんだへー、って感じであるらしい。物凄い誤解を生んでいるが才能次第で他の人も飛べるらしいからそこは許せ。

 つまり、島風が艤装とか関係なく飛んでるってバレるとちょっと不味いかもしれないんだが、そこもこの世界がオカルティックである事を理解している面々ならたぶん受け容れてもらえると思うんだよね。妖精さんや集合無意識の中の艦娘やらが居るんだから魔法や霊能力があったっておかしくない。そう思ってる人達は結構居るらしいし。

 そう考えると私の身体能力も別に召集前からだって隠す必要もないのかなと思わなくもない。ぶっちゃけ扶桑さん辺りにはそれなりにバレていただろうし。オープンにはしてなかったけど使う機会はあったからなあ。何故か提ハーレム周りに関わった時はそういうのが必要になる漫画みたいなイベントが頻発してたもんだから。私は隠しはするけど必要なら使って行くスタイルだったから、結構怪力で瞬発力もあって対人戦できる方って思われてるはず。人外レベルとは思われてないはずだけど。たぶん。

 両親にも伝えるべきなのかもしれんけど、実はそっちの方がハードル高いんだよねえ。なにせ発揮する機会が全然なかったから。たぶん、私が物凄い隠蔽下手だったとかそういうオチが付かない限り、二人は娘の運動神経はかなり良いみたいだくらいにしか思ってないはずなんだ。小学校卒業まで本当に平和だったからさ。

 閑話休題、島風に関しては現状問題無し。ただ、私も私もってなられるとちょっと困るかなって感じである。一応猫吊るしなら検査できるけど、島風レベルに使えるようになる人ってまず居ないらしいから。っていうか、出力もだけど制御も問題だろうしね。あれたぶん島風――島さんが自前の運動神経でどうにかしちゃってるだけだろうから。

 まあそんな訳で引いてる人も居るけど、概ねの反応としては実際飛んでんだから飛ぶもんなんだろうって感じである。なお吹雪の僚艦だしねとか言ってた声は聞こえなかった事にしておく物とする。

 

 

 

 さて、演習を終えた私達は北海道を取り戻すべく活動を開始した。指揮を執るのは大淀司令官。艦娘の中では最年長の部類に入るらしいが、それを思わせないくらい若々しくキビキビとした動きをする人である。

 そんな彼女の下で再編成された私達であるが、合同で作戦を進める関係で宮里第一だの賀藤第三だのと言ってると指示の取り違えが発生したりするかもしれないからと新しい番号が割り振られる事になった。

 私達宮里第四艦隊の新しい数字は十、連合第十艦隊となった。なお十までしか部隊は無いためまたしても最後の数字である。

 ちなみに最初はアルファ・ブラボー・チャーリーみたいなのにする案もあったらしいんだけど、短期間の間に私達全員が覚えられるかどうか怪しいという事で普通の数字になったとかいう経緯があったとかなかったとか。正直助かった。

 余談だが、実は隠された第零艦隊が便宜上存在していたりする。所属者は皐月さんただ一人。本人はどうして……ってなってた。

 

 新しい数字を戴いた私と島風は出撃命令に従って早速海へと突撃した。で、普通に二百体くらい屠って帰還した。なんだここ敵多過ぎィ!!

 いやだってお前、私達が今日やったの迎撃だぞ。それも遠くの方を迂回して本州狙ってくる連中の。敵の面子は姫や鬼は全然居なかったけれど、普通の人型や魚型の奴らはそれはもうわんさか居やがった。どっから湧いてんだよマジで。

 一部隊一部隊は大した数じゃあないんだ、他の艦隊でも苦労しないレベル(宮里艦隊基準)でしかない。でもね、そこから索敵のために耳を澄ますとちょっと遠くに居るんだよね、複数の部隊が。しかも戦ってる間にまたどっかから湧いてるみたいでそれが延々続くのである。

 これを賀藤艦隊はずっと食い止めてたのかって戦慄したんだけど、よくよく話を聞いたらここまで酷くなったのはこの数日の事であるらしかった。前から他と比べて敵の数はかなりの多さだったのだけれど、流石に一日で数百とかそんな次元ではなかったという。明らかに敵が北に回すリソースそのものが激増しているようなのだ。

 まあつまり、九州を放棄してやりたかった事がこれなのだろうなと、私達は初日で思いっきり理解らされた訳である。

 ちなみに演習の日は敵が来たら私が出る予定だった。私が不参加予定だったのは実はそれもあったのである。まあ結局参加したし、島風はどっちも最初から参加予定で来たら演習から抜ける手筈だったんだけども。なお夜中に来たため暁型に見送られて出撃した模様。

 

 ところでこれ、一見すると戦力の逐次投入に見えるんだよね。私は深海棲艦の性質を猫吊るしから聞いているのもあり、悪手というかほぼ嫌がらせだけでそんな事してるんだろうなって思ったんだ。実際宮里艦隊が即合流してなかったら効果的だったと思うし。

 でも司令官の見立てだと、それはちょっと違うんじゃないかという話だった。曰く、こちらを攻め続ける事で圧力を掛け負担を強いる目的があるのは確かだろうが、実のところ、逐次投入ではないと思われる。らしい。

 深海棲艦達の目的はこちらが守るしかない状況を作り、その間に本命の部隊を整える事。つまり、姫級鬼級を主とした部隊が北海道には控えていて、今現在、それらが着々と大侵攻の準備を整えているのではないかと言うのである。

 根拠は幾つかある。まず私も証人なんだけど、姫や鬼が全然攻めて来ていない事。捨て駒というか、倒されても構わない奴等しか海に出してないっぽいんだよね。なんかこう……在庫処分セールみたいな印象を受ける。

 次に、実は本州北部以外の地域ではここ数日、全体的に深海棲艦の発見数が極端に減っている事。統計で見るとしばらく前――長門さんが地中海弩級水姫を〆た辺りから減少傾向だったらしいのだけれど、九州を解放してから露骨に減ったのだそうだ。遅いのか早いのか分からない所業である。

 そして最後、これがかなり大きいのだが、今日私達とは別方向に出撃した秋津洲さんが二式大艇ちゃんを飛ばして偵察を行った結果、北海道海岸沿いの崖上で大きなかがり火を焚きながら踊り狂うPT小鬼の群れの向こうに、大規模な建設中の基地と多数の人型深海棲艦の影を捉える事に成功したのである。

 ……………………どういう状況????????

 

 

 

 二式大艇ちゃんには今、録画用のカメラが取り付けられている。これは秋津洲さんの目が捉えきれなかった情報を精査するための物で、変色海域内部の情報を艦娘以外が知れる数少ない手段である。なので前述の情報の信憑性に繋がった訳なんだけど……その内容に私は困惑するしかなかった。

 いやだって、キャンプファイヤーかよってくらいの大きな焚火を数十体のPT小鬼群が囲んで全く同じ振り付けを完璧な同期で踊ってんだもん。真顔で。

 で、その奥に建設中と思われる基地もしっかり映ってるんだけど、秋津洲さんの目線は小鬼達に釘付けだったそうです。そりゃそうだ。基地の規模は本当に大きく、何より作業をしている人型の数がかなり多い。多すぎるのかにらみ合いしてる奴とかもちらりと映っていた。

 ただそっちに関しては大艇ちゃんもすぐ見つかって引き返す所だったんで時間としては長くないんだ。だから小鬼の方が動画内で死ぬほど目立ってる。意図も読めないし。火を焚く意味はどこにあったんだろう。

 一緒に映像見てた猫吊るしは頭の上で完コピして踊り出したが、私達以外の反応は様々だった。気が抜けたような笑いを漏らす人、真面目に意図を考察し出す人、あっ意味とか無いなこれと察した表情の人、明らかに何も考えてない島風、真似して踊り出すも頭身の違いでどこかしっくり来てないっぽいぽいぬ、出撃の後にみっちり訓練やってそれどころじゃなくなってる暁型。そんな色々な顔が見える中で、一番眉を歪めて難しい表情をしているのは、どういう訳か文月だった。

 すぐ横に居る文月は眉間に皺を寄せまくり、かわいいと言われる顔の造形をすっかり変えてしまっている。渋面と言うか、何かを物凄く悩んでいる様子だった。そのくせ目はループする映像をしっかり捉え、喉からはんむむと声になり損ねた吐息が漏れ出している。何かそんなに気になる部分があったんだろうか。

「文月」

 私が小声で話しかけると、文月ははっとした様子でこちらを見た。その瞬間には顔は普段通りに戻っていた。もしかして普段から表情取り繕ってる? すげえ、声優デビューしてイベントとかに呼ばれても完璧なファンサできるじゃん。才能の塊かよ。

「気になる事があったら司令官に言った方がいいと思うよ」

「あっ、うん。そのね、気になるっていうか……」

 私の言葉に文月はちょっと迷った様子を見せたが、やがてちょっと苦笑気味の表情になると、画面の中で踊り狂う小さな影を指して言ってきた。やたらめったらかわいい声で。

「このダンス、どういう意味があるのかなあ……って」

 密かに静かに進めなければいけないであろう作戦を行っている場所のすぐ傍で明らかに目立つこの愚行である。そりゃみんな解釈に困るわ。

「私にも分からん。ここで火を点ける意味がある気がしないし……」

 正直、テンション上がってついやっちゃったんDA☆って言われても納得する所業。だって利敵行為にしかなってないだろこれ。実際こっちは見つけてるし。

「えっと、それも分かんないけど、そっちじゃなくて……この振り付け、踊りに意味はあるのかなって」

「あー……」

「テンション上がってつい体が動いちゃったって感じじゃないよね。だってこれだけ揃ってるんだし。何か意図があるんじゃないかなぁ……って」

 踊りというのは基本的に何かしらの目的がある。例えば神様への奉納であったり、感謝や感動を表すものだったり、高度な技術を競うためであったり、何かメッセージを伝えるための手段だったり、ただただ衝動から生まれた感情の発露だったりと様々に。文月が気にしていたのはどうして火を焚くだけではなく、それを囲んでみんなで踊っていたのかという事だったようだ。

「神様とか、崇めてたりするのかなあ。それとも節目に踊る文化があるとか……ねえ、吹雪さんと猫吊るしさんはどう思う?」

 じっと文月はこちらを見つめて来る。私と同じく猫吊るしが見えているためか、その視線は上下に揺れていた。

 しかし意味かぁ。まあその、思い付く事がないでもない。ただ、それが誰の何に対してなのかはさっぱり分からないのだけれど、どういう意味のある踊りなのかは私には伝わってくる……伝わってしまう物があるにはあるのである。

「えっと、そうだね。ただの印象だけの話になっちゃうけど……」

 証拠もなんにもお出しできないので言葉を濁しながらにはなるが、一応の答えはないでもないのだ。猫吊るしも察してるみたいだけど……

「何かを促してるんじゃないかな……例えば、あれだ。反省とか」

 音楽とか無いし手の短さで再現率低かったから最初はなんだか分かんなかったんだけど、猫吊るしが死んだ目で踊り始めた時点でようやく察せたんだよね。ああ、被り物繋がりかぁ……って。

 っていうか、アレ転生者だよね? 本人なのか操作してるのかは分からんけど、明らかに転生者インストールされてるよね? え、どうすんのこれ。ちょっと小鬼撃ち辛いじゃん。味方っぽいの居るのにぶっ殺せるほど私図太くな……いや割と行けそうだわ。別に躊躇いとか生まれないって確信あるわ。何この心ブリザード様。チート能力さんなんかした? へんじがないただのほんしょうのようだ。やだ、私元々こんなん? いや、流石に確定なら撃てないけど、まだ確率が増しただけだからだろうけどさ。撃ちたくはないけど必要なら撃てるよたぶん。

 そんな変な困惑を続けている私をよそに、回答を聞いた文月はなるほどねーと何か得心が行ったような顔で画面の方へと目を戻した。その表情に先ほどまでの深刻さは無い。どうやら反省を促すダンスと言われてある程度得心が行ったらしい。あれか、ガノタだからか。ガノタだから納得しちゃったのか。凄いなガノタ。

 

 

 

 

 

 そんな事があった翌日である。私達は海に出て、今日も今日とて深海棲艦狩りである。いや基地の方の対処もしなきゃならないんだけど、相手の居城は北海道の陸地な訳で、そう易々と攻め込めるもんではなかったのだ。

 勿論征伐に行くなら早いに越した事はないんだけど、流石に上からの許可としっかりとした作戦が要る訳で。昨日の今日で許可が下りるはずもなく、ともかく航路の確保と敵の削減に励む事になった。

 私も深海棲艦の転生者がいるっぽいと分かった以上、多少見極めなんかも行いたい所ではあったのだけれど、それはそれとして敵はやって来る訳で。迎撃迎撃また迎撃と今日ももう既に二百体近くを葬り去っている。

 幸いな事に押し寄せて来る深海棲艦の数には波があるようで、ピークを過ぎればどんどん部隊は減っていく。なので索敵範囲内の相手が居なくなったら帰投と決め、そして目の前に居るのがその最後の部隊最後の一匹である。

 でもってPT小鬼である。

 うん。小鬼なんだよなぁ。

 捕まえちゃった。

 とりあえず両手を掴みぶらんぶらん吊り下げて目線を合わせているんだが、こいつ、ていくおーふ☆とか言って緊張感無くきゃっきゃきゃっきゃ笑ってんだよなぁ。いやあその反応は転生者でしょ。抵抗する気もなさそうだし。

 質問……というかこの場合尋問になるのだろうか。そう言った事をやりたいのだけれど、出撃中だから後ろに島風が居るんだよね。普通の質問ならともかく転生周りの事聞かれるのはなぁ。問題があるかないかと言われるとそんなにないのだろうけれど、知られたいかというとそうではない訳で。他の人達にも関わる問題になっちゃうしね。

 なんて思ってたら、小鬼の方がこっそりと、島風に聞こえない程度の……っていうか私達以外なら聞き逃しそうな小声で囁いてきた。

「オカシ好キカイ?」

「うん、大好きSA」

「オイラもだーい好きでゲス」

 一瞬で分かり合う三人。間違いねぇ転生者だ。いやこの世界にもあるネタだけど、この場で言うのは転生者だろ。絶対。

「夜ニ寮ノ屋上デ待ッテテ」

「おk」

 急に普通の言葉になったから逆にびっくりした。いやそりゃあ用件をネタ台詞で伝えようとはせんだろうけども、ちょっと昔の掲示板の返答みたいになってしまった。

 あれでも、屋上で待ってても来れるのかこの子? 寮って思いっきり鎮守府の中なんだけど。そういう移動能力でも持ってるんだろうか。っていうか完全に私の顔知ってるって事だよねこれ。怖。

 でもまあいいか。この子達がやってたのは明らかにこっちの利になる事だったし、たぶん味方なんだと思うから。敵だったら……まあその時はその時だろう。こっちの支配領域に罠仕掛けられるっていうならそれはもうどうしようもないだろうし。

 それで、この子どうしたらいいんだろう。伝える事は伝えたって雰囲気になっちゃったんだけど、リリース? リリースしたらいいの? いや私が逃がすって不自然過ぎるんだけど。今までほぼほぼ敵取り逃した事とかないよ? 倒したふりでもしとくかね? 上に放り投げて無効貫通切った連装砲で撃てば遠くに飛んでくだろうし、それでいいか。なんか1キロくらい吹っ飛んだとか暁型の面々も言ってたし、倒したかどうかとか島風からはよく分からんはず。

 それで行こうと腕を下げ、放り上げようとしたその時。PT小鬼がいきなり大きな声を一つ上げ、足を大きく振って暴れ出した。急な事に内心首を傾げつつ手を放し、海にぼちゃりと落としてやると、私の耳に飛び込んだのは時計の針が動くようなチッチチッチの機械音。

 そうか、頭の中に爆弾が!

「オ許シクダサイ!!」

 そしてそのままボンと大きな音を立て、私の目の前で爆散するPT小鬼。正直ほぼ確定転生者に突然凶行に走られて少しビビったんだけど、そういや複数で同期してたし人形か分身的な奴だったのだろう。そりゃ私に接触して伝言するなら離脱方法も考えてるわな。いやだからって頭の艤装っぽい奴の中に爆弾仕込むか普通。っていうか、さっきの前振りかよ!

 

 

 

 

 

 急に爆発音がしてびっくりした島風に大丈夫かと心配されてから数時間後。すっかり空が暗くなってから、私は外壁を蹴って屋上へぴょんと降り立った。

 いや最初は普通に階段で行こうと思ったんだよ。そしたら施錠されてて出られなかったんだ。自分の勝手で抉じ開ける訳にも行かないし、仕方ないから最寄りの窓から向かいの壁を蹴って屋上に三角飛びで到達したという訳である。ちなみに出る時にちゃんと窓は閉めておいた。鍵は掛かってないので帰りもそこから入るつもり。

 さて屋上に来た私であるが、まず最初にやるべき事は周囲の環境の把握である。というのも、実はここに登るのは初めてで何があるのか知らないんだよね。例えば監視カメラがあった場合、それに密会現場が映っちゃうと不味い訳で。とりあえずは端にあった鉄柵の上に着地して、ぐるりと辺りを見回してみた。

 一応上や下の明かりがここらも多少は照らしているから意外と目でも周りが見える。辺りにあるのは貯水タンクとなんか背の高い四角い機械。正体は分からんけど動いてる音はしないから、非常電源か何かかな? とりあえず放置でいいだろう。あとは入り口に一つの監視カメラ。角度的に私が映っているとは思えないし、場所を選べば無視しても大丈夫かもしれないけれど、相手がどうやって来るか分かんないから一応対処はしておいた方が良いだろう。

 猫吊るし、君に決めた! とモンスターボールとかには入ってない生の猫吊るしを監視カメラに投げつける。勿論壊れないように軽く、ふんわり弧を描くように。狙い過たず、猫吊るしはカメラに命中して落ちないようにしっかりとしがみついた。

 そのまま待つ事数秒程、猫吊るしはぴょんとそこから飛び降りると、私に向かって手招きした。どうやら処置は終わったらしい。

「できた?」

「でけたー。これで暫くは何も動いてない映像を録画し続けるはずだ」

 猫吊るしのチート能力は機械類を自由自在に使いこなせる。らしい。しかも直接触りさえすれば、それが制御している本体でなくても操れてしまうのだそうで。監視カメラの映像改竄くらいは秒でできちゃうみたいなのだ。なんていうかあれだね、情報収集も好き放題やれそうだし基本的に人に見えないから、やろうと思えば核戦争とか自由自在に引き起こせるんだろうなあこの子。私より遥かにヤバい気がしてならない。

 お疲れーと掌を差し出して頭の上まで運んでやると猫吊るしは定位置に収まった。そのままきょろきょろと周囲を警戒し始める。でもまあ、特に何も居ない訳で。そのまま十数分が経過した。

 

「……いつ来んのかね?」

「さぁ……時間も決めとくべきだったね」

 何せ指定が夜である。一般的に今の時期だと9時間以上は幅がある。っていうか、下手するともう相手の思ってた時間を過ぎてる可能性も無くはないんだよね。自由になるまでにちょっと時間が掛かっちゃったから。報告とか確認とか、抜けられない用事が色々あったのである。

「よく考えたら今日かどうかもちゃんと確認してないね……」

「指定無かったしな。これで来なかったら寝不足狙う罠か何かだろきっと」

 そんな軽口を叩くけど、語調的には全くそんな事は思っていなさそうだった。きっと来る。私は何となく確信しているのだけれど、どうやら猫吊るしも同じらしい。――索敵範囲内に何かが入り込んだ――同じネタを共有できる相手とは敵対したくないし本当に仲間だといいんだけどねぇ。――それは秒も経ずに私の後ろに着地する――まあこっちの立場に気を遣ってくれてるみたいだし心配は要らないと思うけれど。――その時には私の手刀が相手の首筋に迫っていた――こう急に来られるとびっくりするなぁ。

「ッブネェ……!」

 そいつは不意打ち気味に叩き込まれようとした一撃を後ろに飛び退く事で逃れ、そのまま私に鋭い眼光を飛ばしてきた。勢いで被っていたフードが外れたそいつの目と目が合い、互いに顔を認識する。

 戦艦レ級。だと思う。服も見た目もそうだし、なんだったら私の持ってる例のお面にそっくりである。成程、あれのモデルさんかな?

「ごめん、急に後ろに立たれたからつい」

「ツイデ頸動脈モッテクノカオ前……」

 いやあ、反射的にというか、状況判断が正しいか精査する前に手が出てしまった。それだけ相手が速かったという事なわけで、割と戦いたくない。っていうか、避け切られてるから持ってけてないよね? 大丈夫だよね?

「今ノハレ級ガ」「悪イヨーレ級ガー」

 じっとりとした目で私を睨むどう見ても戦艦レ級なそいつの背から、二体のPT小鬼がひょっこりと顔を覗かせた。言われた本人は自覚があるのか言われてちょっと気まずそうだ。まあ正面から来てくれたら私も流石にやんなかったしね。

「我々ノ時モ一匹一匹」「暗ガリニ引キズリ込ンダシ」

「結局意味無カッタンダカライイダロアレハ」

「ホラー演出好きなの?」

 今も背後に立って驚かせようとしてたんだろうか。だとしたら申し訳ない、音よりも遅い速度だと私は全方位視えちゃうんだ。でも、避けた瞬間のバックステップは背後を取ろうとして出してたのよりだいぶ速かったから、本気出したらどうだろう。捕捉し切れない可能性が否定できない。っていうかたぶん背中の子達に気を遣って緩い速度で来たんだよね? なんか全力でチートを使ってなかったんじゃないかってそんな気がする。もしかしていい奴なのでは?

「へいお三人さんいちゃついてないでこっちに構えよ。同郷でいいんだよなお前ら?」

 私の頭をぺしぺしして音を立てて存在をアピールする猫吊るし。やるなら自分の手を叩きなさいよ。痛くないけどさぁ。

 言われた三人は猫吊るしに視線を向け、そのうちの二人……レ級の左右の肩によじ登った小鬼二人は顔を見合わせ首を傾げた。かわいいかもしれない。

「三人?」「二人シカ」「居ナイヨネー?」

 訂正、レ級の頭上の一人を入れた三人が顔を見合わせていた。いや、っていうか今スポーンした? 居なかったろ最初。何処から来たんだ移動してきた気配もなかったぞ。猫吊るしも訝し気に三体のPT小鬼を見つめている。

「コイツノ事ハ気ニスンナ。ソウイウ能力ダ。ツーカ増エンジャネーヨ、捨テテケネーンダゾココジャ」

 私達の反応を見たレ級はため息交じりに教えてくれた。成程、増えるし増えたのは好きに操作できる感じかね。道理で完璧なシンクロ率で踊れるわけである。自爆したのも増えたうちの一体だからなのか。痛覚とかどうなんだろ。感じるなら割とガンギマってる気がしなくもない。

 

「ヨシ、トリアエズオレ等ハオ前等ヲ知ッテルケド、オ前等ハオレ等ヲ知ラネーハズダカラ自己紹介カラダナ」

 動いてない謎の機械に腰かけて、レ級と呼ばれた深海棲艦の少女が話し出した。対する私は屋上入り口の屋根に腰かけている。それで概ね目線が合ったのである。ちょっと高い所にいるけれど、下からは見えないはず。たぶん。

「オレハ戦艦レ級……ニ転生シタ転生者ダ。元人間。能力名ハ『ちょう』『はやい』」

 頭上の猫吊るしがなんでかオウッと鳴いた。いや、本人も聞いたら鳴きそうだけれども。

「マア、高速移動デキル能力ナンダガ……普通ニ気取ラレテタラ立ツ瀬ネーワナ」

「あれが全速力ならなー」

 どうやら猫吊るしも本気出してないだろうと思ったらしい。レ級は肩を竦めるばかりで答えなかったけど、ほぼ肯定と一緒だろう。

「ンデ、コイツハPT小鬼群……間違ッテネーカラナ? マジデ群体ヤッテンダコイツ」

 レ級が膝に乗っけたちっちゃいのを一人持ち上げた。足元では四人の小鬼がわちゃわちゃしている。すっごい増えるね君。

「我々ハ」「『いっぱい』」「『いる』」「ヨ」「!」「エネルギーガ」「溜マッテナクテモ」「無料デ」「増エチマウンダ」

 言ってる間に私の周りにわらわら小鬼が湧いて来た。聴覚には何もない所に急に出現する様が克明に映っている。正直、この子が今までこの世界で見た中で一番理不尽な事してると思う。分かってたつもりだったけど、チート能力ってとんでもないのばっかなんだなあ……っていうかさ。

「小鬼って、たぶん今日が初対面じゃないよね?」

「ハイ」「ウン」「Yes」「セヤネ」「セヤナー」「正解!」「博士!」「ゴ立派!」

 凄い肯定するやん。ただ一斉にこっち向くのはちょっと怖い。統率取れた赤子って割とホラーだよね。

「ちょっと聞きにくいんだけど、私どれくらい倒し……殺しちゃってる?」

『0』

 即答だった。レ級も何か口を開こうとしていたけれど、それより早くその場の全ての小鬼から同時に返事が飛んで来た。

『私ハ全部デ一人。ダカラ、一人モ死ンデナイ』

 ね? と全PT小鬼が全く同じ動きで小首を傾げた。気にするなって事だろう。

「補足シトクト、オ前ラハ転生者ハ一人モ殺シテナイゾ」

 つーかお前等の前に撃たれて不味い奴は出さない。との事である。つまり君ら以外にも居るのね、転生者。でもまあそれはいいんだ。殺してないって言うなら良かった。手加減する理由にはならないけど、気にはなってたからなぁ。

「じゃあ、倒された君らは何体くらい?」

「エッ」「ドウダロ」「100匹クライ?」「200ハ行カナイト思ウ」「ソノ間クライ?」

「思ったより多いな……」

「なんかごめん」

「400万クライ居ルラシイカラ気ニシナクテイイトオモウゾ」

「ソレハソウ」

 私の横に突然PT小鬼が一体出現し、肩を叩くとまあ気にすんなよと笑いかけてきた。出現位置とかも決められるんだその能力。

 

「それで、お前らなんで今更出てきたんだ?」

 一応私達も名乗り能力も開示したのだが、どうやらしっかりこっちの事は把握している様子だった。怖……くはないか。いい人達っぽいし。閑話休題、猫吊るしが話を本題に進めると、レ級は眉間に皺を寄せて少し言い辛そうに言ってきた。

「ソノ前ニ一ツ謝ラセテクレ。オ前等ダケハブッテ戦ワセテ済マナカッタ」

 レ級と小鬼達が揃って頭を下げて来る。いや、それはなんか違うと思う。確かに挨拶とかは無かったけどさ。

「たぶん、二人……二人? も戦ってたんでしょ? 直接交戦してたかは知らないけどさ」

 じゃなきゃ100体以上も群体の一部を倒してたとか無いと思うの。絶対裏工作とか誘導とかしてたでしょ。だから謝るような事ないと思うんだよね。猫吊るしもうんうん頭上で頷いている。こっちも責める気は無いようだ。そもそも私達って特に周囲に被害とかも出てないもんねぇ。出てたら文句の一つも言いたくなったかもしれないけどさ。

 レ級はそっかと言ってため息を吐いた。なんだかむしろやり辛そうだ。え、そんなに私達に負担強いてたの? 怒られるの覚悟してくるくらい? 自覚全く無いんだけど。猫吊るしは確かに大変そうだったけど、工廠の仕事は他の人達が居ても忙しさが変わるタイプの作業じゃないだろうし。

「ジャア、ソノ上デ悪インダガ、マダ暫クオ前等ダケデ頑張ッテモラウ予定デダナ……」

 しかも説明できない事が多くてマジで自己紹介だけになりそうな勢いなのだという。何しに来たの君ら……謝罪?

 小鬼達は私達の足元でわちゃわちゃしながらこちらの話に耳を傾けている。どうやら事情説明に関してはレ級に任せてしまうつもりらしい。なんだろう、レ級の方が事情に詳しいのかな? もし組織的に動いてるならそういう事もあるか。気安いから上下厳しいとかは無さそうだけど。

「じゃあなんで俺らの前に出てきたんだ? あんな事やったら俺らも見るの分かるだろ」

 猫吊るしの言葉に私も頷いておく。あの反省を促すダンスとキャンプファイヤーはどう考えても悪目立ちしすぎである。っていうか、後者はともかく前者は転生者アピールにしかなってないし。

「コッチデモ色々アッテナ……端的ニ言ウト、一番人ヲ助ケラレルルートガコレダッタンダヨ」

「コレガ」「一番」「多イト」「思イマス」

「転生者の中にTASさんでもいらっしゃる?」

「ドッチカッテートスコアアタックダケドナ」

 私達をこっちで戦わせて、自分達は他所で色々やってた方が人が救えるらしい。それはまあ、分からんでもない。私だけでも相手が一群になっててくれれば倒せるからね。散発的に来られたり囮使われたりするとキツいし、そっちの対処をしてくれた方が正直言って有難い。転生者を一纏めにして使う意味は確かにかなり薄いだろう。

「存在ヲ知ラセタノハ、情報ヲ自衛隊……ッツーカ大淀ニ流スノニ不自然ナ事スッカラ、オ前ラニ先ニオレ等ノ事知ラセテ捜索トカノ時間ヲ取ラセナイヨウニスルタメダ」

「ああ……確かに小鬼探しに行こうか考えてた。ロスになるから止めて欲しかったと」

「どういう青写真なのか分からんけど、不味い事があるなら先言っとけよー気を付けとくから」

 猫吊るしも納得のご様子である。確かに、間違いの無いように言うべき事は言っておいて貰うべきだろう。私も頷いておいた。メモは……持って来てないわ。まあ書いたもの見られても困るし、猫吊るしならたぶん覚えておけるだろう。きっと。

「…………イヤ、有難インダガ……イイノカオ前等、ソレデ」

 対するレ級はと言えば、私達の反応に驚いたような顔で瞼をしばたたかせていた。うん、やっぱ良い人っぽい気がする。

 怒られるとか難色を示されるとか、そういう反応が少しはあると思ってたんだろう。だが残念だったな。我々は実の所、それ以前の問題なんだぞ。

「俺らはさ、世界を救えるビジョンとかそういうのが特に無いんだわ。だからお前等に計画があるなら全力でそれに乗っかるぞ」

「戦うのもほとんど命令された通りにやってるだけだからねえ。ぶっちゃけ、どうしたら大勢救えるかとか全く分かんないし」

 猫吊るしは色々情報持ってるし頑張り屋さんで有能極まってるけど、それはそれとして戦略立てて何かやれるわけではない。立場的にもそうだけど、根本的に技術屋で現場が好きなタイプらしいのだ。マッド明石さん達と楽しそうに仕事してるのをよく見かける。連れ回すの本当は悪いんだよね。連れてくけど。

 私に関してはもう、本当にただ強いだけである。今の状態から北海道に攻め込むのが正解なのかとか絶対判断が付かないし、誰が正しい事を言ってるのかも正直よく分かってない。でも、目の前のレ級はたぶん信用できると思う。勘だけど、私の勘はどうもチート能力で強化されてるっぽいからへーきへーき。

「アー……成程。成程。ソウイウ感ジナノカ……聞イチャイタガ……」

 なんだか呆れたような感心したような目つきで見られてしまった。仕方ないじゃんマジで分かんないんだからさ。なんて思いつつ見つめていたら、レ級は頭を強めに掻きむしり、よし、と一息ついてまた口を開いた。

「ソレナラ、何モ考エズニ指示通リ戦ッテクレリャ問題無イハズダ。ナンカ問題アッタラウチノ大将達ニ軌道修正サセル」

 なんか力関係が察せられるお言葉である。思ったより中心に居そうというか、もしかして能力的に向いてただけで連絡員するような立場じゃ無かったりしない? いや、まともに組織になってないだけかもしれんけど。

 しかし大将、ねえ。所属グループの頭って意味で使われる言葉ではあるけれど……この場合ってそのまんまの意味だったりするのかな?

「大将が誰かとか、そういうのは教えて貰えたりは……」

「悪イ、ソレ教エルト自分ガ死ヌッツッテ口止メサレテンダ」

 どういう事だってばよ。知ると死ぬ? 私達がじゃなくて相手が?? まるで訳が分からんのだが???

「ストレス」「デ」「オ亡クナリ」「ニ」「ナル」「ラシイナ」「ナンデ?」「シラネ」

「ストレスで!?」

「なんやかんやあって殺されるとかじゃないのか……」

 え、私と猫吊るしってそんなヤバいストレッサーなの? 確かに色々やらかしてるけどそんな酷かった? あれかなチート能力あんま隠してないのとか悪かったかな? でもやんないと勝てなさそうだし……仕方なくない? いや仕方ないから力振るうの自体は止めて来なかったのかな? っていうかレ級たちは大丈夫? 死なない?

「……なんか直した方がいいとことかある?」

「イヤ、コノ件ニ関シチャオ前等ニ非ハネェヨ。完全ニアノ馬鹿ガ悪イ」

 だから、別にそのまんまでいいらしい。むしろチート能力に関してはひけらかしてって問題無いとまで言われてしまった。いや、制御し切れてないこれを見せつけて行くのは色々恥ずかしいからやりたくないんだけど。

「ドーセオカルトニ関シチャ全世界ニ存在大公開予定ダカラナ」

「集合無意識以外も公にする予定なのか? 陰陽術とか、ある程度なら復刻もできるだろうけど大体失伝してるだろ」

「他ノ転生者ガナ……言イ訳利カナイ連中ガ大暴レシテンダヨナァ、イギリストカ」

 あとオーストラリアとかブラジルとかアフリカとかインドとか。アメリカとか中国とかロシアは大丈夫なのか……

「っていうか、転生者って何人くらい居るの?」

「アー、ソーダナ。ソノ辺リ話セルトコマデ教エトクワ。ゴトランドモマダ正体言ッテナカッタロ?」

 あ、やっぱあの人も仲間か。じゃあ全然問題ないなこのグループ。勘だけど。

 

 レ級の話を詳しく聞いた結果、現在ある程度以上の協力関係を結べている転生者は総勢87名に及ぶ事が判明した。

 ちょっと待って想定の五倍は居るんだけど、転生者ってそんな多かったの?

「オ前等入レテナイカラ、総数ハ余裕デ90超エルナ。大将ハ100人以上居ルッツッテタガ」

「それ全員がチート能力持ってるの? 大丈夫? 地球滅びない?」

「酷イ」「レベルデ」「バランスガ」「取レテイル」

「世界中に散ってるならそれでも足りないんだろうけどさぁ……あの自称魔法使い加減とか知らないのか」

 何せ猫吊るし一人だけでもネットワークを通じて色々酷い事できそうな力を有している。私だって大抵の護りを突破して要人暗殺とか可能だろうし、小鬼も400万だかなんだかの深海棲艦が一挙に押し寄せてきたりしたらそれだけで脅威だろう。思ってたよりヤベーぞこの世界。何度目だこの独白。

「マァ、戦闘向ケノ奴ハ意外ト少ネーケドナ」

 金回りが異常に良くなるとか、異常に防御力が高いだけで攻撃全然できないとか、夢の中で他人に影響を与えられるだけの人とかも多いのだとレ級は言う。最後の奴際どい衣装着てそう。

「今ノ状況ガ一段落付イタラ引キ合ワセルシ、ソントキャ大将ニモ挨拶サセッカラ」

「大丈夫なの? 死なない?」

「死ンダラソノ時ハソノ時ダナ」

「雑だなおい」

 どうもレ級は本当に死ぬとは思っていないっぽい。まあ即死したりはしないだろうけど……負担になるのは事実なんじゃないのかなぁ。

「それで、一段落ってのは具体的にいつ頃になるんだ? 北海道取り戻したらか?」

 猫吊るしが腕組みをして、真剣な目で問いかけた。詳細な計画の事は言えないっぽいけれど、どれくらい先になるのかは私も知りたい。そもそも猫吊るしの話じゃ根絶は無理って話だから、どこかで妥協するんだとは思うけど……それとも誰か封印魔法でも使えるんだろうか。そうだったら凄く助かるんだけどなあ。

「一週間後ダ」

 レ級は誤魔化しはしないとばかりにこちらをしっかりと見据えてそう答えた。思ったよりずっと近い。っていうか、それだと……

「私の誕生日くらいか……」

「エッ」

 そうなのか? とレ級が最寄りの小鬼に目配せする。その子は首を振って知らなーいとアピールする。ただの偶然かな?

「……ソレハタマタマダト思ウガ……トモカク、ソコデ色々ヤルカラ、ソレガ終ワッタラ一段落ダナ」

 それ以上詳しい事は教えられないらしい。まあ、教えられてもできる事があるかと言うと無さそうな気もするのだけれど。覚悟しとくくらい? 一週間って短いよなあ……っていうか、演習とかやったのに有効期間そこまでの可能性出てきたなこれ。いいけどさ。楽しかったし。

 

 誕生日云々はともかく、私達はとにかく命令に従って深海棲艦をぶっ倒しつつ、一週間後も頑張ればそれでいいらしい。なんだ、ほぼいつも通りじゃん。

「一週間だけなのに説明必要だったのか?」

「ソンダケ露骨ニヤルンダトヨ。予定ヨリ色々早メラレルッテ分カッチマッテナ……」

「大胆ナ」「チャート変更ハ」「転生者ノ」「特権」

 どうも元々は説明無しでも違和感の無い程度の誘導しかしない予定だったらしいのだけれど、無理を通してでも強行する事でより多くを救えると判明してしまったのだとか。具体的には500万人くらい。そりゃしょうがないわ。説明に来るしかないわ。

「アル事ニ大成功シタ奴ガ居テナ、ソイツノ大手柄ダ。転生者ジャネーカラ本人ニハ知ラセネーケド、吹雪モ感謝シトクトイイゾ。青葉ニ」

「青葉さん!?」

 青葉さん500万人助けたの!? いや将来的にって話なんだろうけど何したのあの人、転生者グループと繋がりとかあったの??

 って思ったけれど、そういう話じゃないらしい。なんでもちょっとミスって青葉さんに情報流して色々やらせなきゃいけなくなったと思ったら、結果的にもっと生存者が増えるルートが見つかったのだという。うーんナイスリカバリー。RTAか何か?

 なんて、そんな話も交えつつ、私達は話してもらえる限りの情報を遣り取りして行った。結果分かった事は少なかったのだけど、なんか楽しかったから話をして良かったのだと思う。教えられないってのがなんでなのかとか、不安要素も多いんだけどね。私は好きだよ、レ級も小鬼も。だからそれでいいのだ。きっと。

 

 

 

「ンジャ、時間モ遅クナッタシソロソロ引キ上ゲヨウカト思ウンダガ……」

 言いながら、レ級は足元に目をやった。

「ドースッカナコレ」

 そこにはPT小鬼が居た。いっぱい。

「減らしたりはできないの?」

「無理ー」「我々ハ増エルガ」「減ラヌ!!」「失セヌ!!」「省ミヌ!!」

「無暗ニ増エンノハ反省シロッテ言ワレテンダロ毎度毎度」

 どうやらこの小鬼群、度々増えては海に不法投棄されているらしい。止めてよPT小鬼いっぱいの海域とかどんだけ運ゲー強いる気だよ。いやいつも通りな気もするけど。

「小分ケニシテ持ッテクシカネーカ……」

 言うまでもなく、この屋上に放置して行く訳にはいかない。見つかったら事だし、今はまともに機能していないとはいえ監視カメラもあるのだ。ここに居させるのは大問題にしかならないだろう。

「つってもなー、何往復くらい必要なんだコレ?」

 猫吊るしも私の頭頂部から屋上の床を見下ろした。そこはちっちゃな赤ん坊みたいな深海棲艦で埋め尽くされている。足の踏み場もない。見れば折り重なって遊んでる奴等も居る始末。自由だなあ。

「十往復ジャ利カネーダローナ。畜生メ」

 レ級は片手で顔を覆い、大きくため息を吐いた。感じる圧倒的苦労人ポジの波動。頑張ってるんだろうなあきっと。

 そんなレ級のためにちょっと頭を捻ったら、私の頭にいい考えが浮かんで来た。ちょっと見た目は悪いっていうか酷いけど、たぶんなんとかなるはずだ。時間もさほどかからない。そう、私ならね。

 

「それじゃあやりまーす」

 ちょっと確認を取って、深海棲艦の転生者はちゃんと物理ダメージ無効化を持ってると分かったので、私は思い付いた策を実行する事にした。周囲にはわらわら集まったPT小鬼達、猫吊るしは端の手すりの上、レ級はその隣に並んで後ろに控えている。

「イイトモー!」

 私の掌に乗っかった一人の小鬼が返事した。どうやら準備はいいらしい。むしろわくわくした表情になっている。あんたも好きねえ。

 既に方向は合わせてある。距離も大して遠くない。故に失敗は絶対無い。チート能力さんもやる気のような気がする。

 なのでスポーツ選手が砲丸に対してするように、海に向かってPT小鬼を放り投げた。イヤッッホォォォオオォオウ! と声を上げ、小さな影が真夜中の空を飛んで行く。おい馬鹿大声出すなバレたらどうすんだ。

 大丈夫かなーと思いつつ待つ事数秒、私の隣で一人の小鬼がぴょんと跳ねた。その子は着弾確認! と伝えるとそのまま私の腕に飛び乗って、わくわくした表情でハリーハリーとせがんでくる。楽しかったらしい。

 もしや分体ってかなり便利なのではと思いつつ、その子も軽く海まで投げてやると、次の子がひょいっと跳んでくる。よし来た喰らえとそいつもそのまま飛ばしてやった。すると次のも乗って来る。ならばと私も間髪入れずに腕を前へと突き出した。

 そうやってどんどん小鬼を射出していると、なんだか楽しくなってくる。いっぱい居るから効率良く行かなきゃね。投げられる方も慣れてきたのか撃ち出した瞬間次の子が飛び乗ってくるようになり、サイクルはどんどん早くなって行った。

「アイツ普段カラアンナ感ジナノカ?」

「割と」

 なんか後ろから聞こえて来るけど仕方ないじゃん。こちとら現役中学生やぞ、学校行ってないけども。たまにはこういうテンションの時もあるよ。たまには。

 

 

 




アニメ見ました。
ドシリアスの中から濃厚なやましぐ成分を接種できて大変満足させていただいております。
アニメだと思ってたより小鬼ちゃんたちの年齢が高そうだったのでちょっと印象違うかもしれませんが、うちの子はゲーム寄りという事で何卒。

P.S. 突然の一般通過島風であのカットだけ別作品になるの強すぎて大好き。


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ハジメテのケイケン

 これはひどい。

 PT小鬼群とレ級との密会を終えた翌日。出撃中の私達が見た物は、沖から流れて来る大量の赤子のような物体だった。島風に周囲を警戒させつつそれらを詳しく検分してみれば、それは艤装を剥がれたPT小鬼の死骸である。

 普段通りちゃんとやっとけと聞いていたのでそれを大淀さんに通報すると、すぐさま調査隊として派遣される私達。ぷかぷか漂う小鬼を辿ったその先には、なんか見覚えのあるパーツをふんだんに使った建設中の小さな基地と、本州の胸を横からぶん殴ろうと画策している深海棲艦の皆さんがいらっしゃったのだった。

 

 

 

 

 

「つまり、PT小鬼群を解体して建材に利用していたと?」

「はい。殲滅後に解体した物の一部を現在工廠で調査中ですが、形や材質からしてほぼ間違いないそうです」

 あと、昨日の話的にもね。露骨にやるってマジで骨見せてどうすんだあいつら。いや完成前に知れるようにだろうけどさあ! 人間じゃないから血液ドバーとか内臓グチャァとかそういうのは無かったけどさあ! 島風も居るんだからもうちょっと配慮とかして欲しかったなあ!! 私も大概な事してるけど小鬼は見た目が悪すぎだよなあ!! いや500万人に代えられないってのは分かるけどもね。

 大淀さんは報告を聞きつつ報告書の方も同時に読み、幾つかの疑問な点を聞いてくる。私の分かる範囲内でそれらに嘘偽りなく答えていると、やがて納得が行ったのか、司令官はズレた書類をトントン纏めながら呟いた。

「ふむ……物資不足、と捉えるのはこちらに都合が良すぎますかね……」

 え、そう繋がるの? 成程、確かに潤沢な物資があるならやりそうにない気はしますね。でも無いって事……いや、そうか。レ級たちは早急に事を進めたがってたから、こちらが攻めかかれる理由を提供しようとしてるのか。いやでも連日いっぱい来てるのはなんだよ、あんな大量に出撃させてるのに物資が少ないとかあるの? 燃料あるって事では……廃棄? ただ捨てるの勿体ないから使い捨ててる? もしや行きの燃料しか持たされてないとかそういう、つまり特攻? いや、どっちかって言うとこの場合……

「口減らし……?」

 私の呟きに、大淀さんがほうと感心した様な声を上げた。眼鏡を光らせつつ私の方へ視線を向け、可能性の一つではありますね、と頷いた。

「幾つかの検体を調べた所、異常に弾薬や燃料の所持量が少ない個体が確認できているんです。決めつける訳には行かないですが、もしかしたら、早めに攻めに転じる事になるかもしれませんね」

 上層部次第ではあるんですけどね、と大淀さんは小さく笑った。うん、まあ、そりゃそうですよね。でもそっか。こういう報告が積み重なって一週間後に繋がるのかな? 意思決定機関に伝手があったとして、説得材料は必要だもんね。それにしたって早すぎるとは思うけど。やっぱり例の大将って楠木提督なのでは……? ストレスで死んじゃうほど弱そうには思えないけれど。

 

 

 

 敵が出たら行って貰うがとりあえずは待機と告げられて、私は執務室を後にした。現在は建材を持ち帰った事もありまだ日も落ちてない時刻である。

 廊下を歩けば近くの部屋からは提督たちの声が聞こえて来る。現在この鎮守府には私達も含め複数の提督能力持ちが集められているのだが、守衛や出入りの輸送隊などを除けば基本、鎮守府は女所帯である。そのため男提督たちは肩身が狭く、すぐに互いにシンパシーを感じ合って寄り集まる事に成功していた。昨日は三雲提督、五十嵐提督、賀藤提督の三人がそれぞれ親しい艦娘に絡まれながら一緒に仕事を片付けていたのを覚えている。

 年齢的にはみんな若い。見た目には全員十代後半から二十代だろうと思われる。一番若いのは五十嵐提督で、一番年上なのが既婚で子供もいる三雲提督かな。賀藤提督は……実はよく分からんのよね。二十代後半くらいかなって思ったけど、割と三十代四十代の風格も感じる。真面目な青年というよりは真面目さが凝り固まってる印象を受けちゃうんだよなぁ。悪い人ではまったくなさそうなんだけど。

 まあ容姿の良し悪しもある程度を超えると差がよく分からんようになる私に他人の年齢を当てろってのがまず無理な話である。そもそも知りたきゃ聞けばいいしね。別に内緒にとかしてないだろうし。

 提督たちはどうやら一息ついている所のようで、それぞれカップに入った飲み物……匂い的にコーヒーだろうそれを手に何やら話し合っているようだった。部屋の外から盗み聞きするのは良くないかなとは思うのだが、私の聴力だとこの距離じゃ耳を塞いでも内容まではっきり分かってしまう。最近はチート能力さんの調子もとっても良いからね仕方ないね。

「僕の場合は家族と元々の仲間達だったのであまり問題にならなかったですね。数もそれで丁度で、他の皆にはちょっと不公平だったかもしれなくて申し訳なかったですけど」

「私は妻にだったので……その日の内に渡してしまいました」

 内容的には……指輪の話かな? 五十嵐提督は艦娘になった妹三人とその友達に配布したと聞いているし、三雲提督は夕雲さん以外に渡してないらしいから合ってると思う。っていうか九州急襲した時は不参加だった三雲提督が夕雲さん以外に渡せるほど仲良くなってたらそれはそれで問題な気がする。

「……やはり身内であるならともかく、言ってしまえば職場の同僚でしかない私がこういった物を渡すのは……」

「気持ちは分かりますけど……」

 賀藤提督が渡すか迷ってるっぽい? 身内でも何でもない女子に渡すのは確かにハードル高いですよねぇ。私も転生前に同じ事やれって言われたらすっごく困ったと思う。効果出なかったら気まずいってレベルじゃないし。でもなー、感情的に困らされるのはあるけど、渡さない方に傾くほどの理由ってなんかあるかな?

 などと思いつつ部屋の前を通り過ぎようとしたのだけれど、この部屋のドアってガラス窓付いてるタイプなんだよね。だもんだから女子中学生平均くらいの身長はある私の顔はしっかり中から見えてしまったようで。あっと短い声を上げ小走りに寄って来た五十嵐提督に呼び止められてしまったのだった。

 ちょっとだけいいかなと仰るので了承して、部屋に入るとコーヒーを淹れて貰えそうになったのだけど、それは遠慮させて貰う。島風を待たせてるから長居する訳には行かないのだ。まあ暇なら暇で走るか連装砲ちゃん達と遊ぶか魔力制御の練習でもしてるだろうけどさ。

「吹雪さんは指輪を島風さんに渡してるんだよね?」

「はい。召集前から同じ学校のクラスメートで部活仲間で検査も一緒に行く仲だったので」

「思ってたより仲良かった……!」

 検査云々はネット漁っても情報出て来ないからね仕方ないね。そういう訳だし私に指輪の事を聞いても意味が無い事はしっかり分かって貰えたと思う。最初から渡せそうなくらいだったから配属後に知り合った場合の参考にはならないのだ。

「えっと……じゃあ、吹雪さんが指輪を貰うとしたらどう思う? 例えば僕からとか。ちょっと艦娘側からしたらどういう感覚なのか知りたいんだけど……」

「私より他の子に渡した方が良いと思いますよ。感情的な話ではなくて、私がこれ以上強くなる意味が現状薄いので」

 いやそういうのを聞きたいんじゃないってのは分かってるんだけどね。実際この感想が最初に出て来ると思うんだよなあ。

「渡されるの自体は嫌じゃない?」

「嫌じゃないというか……普通は余程相手に嫌悪感があるのでなければ好意的に受け取ると思います。生存率に直結しますから」

 だよねーと五十嵐提督は我が意を得たりと笑みを浮かべた。やっぱり提督側から見てもそうだよね? 強くなれる指輪なんだから、相手に死んでほしいとかでない限り渡さない理由って無いよね? 効果出るのも仲が良い場合だから嫌ってるって事もないはずだし、賀藤提督は何に迷ってるんだろう。

「いやしかし、ケッコンというものを軽々しく行うのはどうかと……」

「そこ!?」

「私は妻だから問題無かったのは確かですが……」

「僕なんて妹三人が入ってるんですよ?」

 名称かよ! ケッコンカッコカリだから別に婚姻関係結ぶ訳じゃないですよ賀藤提督! 生真面目が過ぎませんか貴方! 平時ならむしろ信用できるけど非常時ですよ今! っていうか猫吊るし! そのまんま伝えたから変な弊害出てるぞお前! あと広めたの誰だよ! 正式名称それでいいのかよ!!

「というかそれだと私とか宮里提督は同性婚になるんですが……」

「近年の倫理の流れを鑑みても、その辺りは互いの同意があれば良いかと思います」

 そこは理解あるんだ。

 

 

 

 

 

 島風に待機命令の事を伝えるため、解析に勤しむ活発な声の響く工廠へと探しに行くと、島風は自分の艤装を抱えるような姿勢で眠っていた。いや、これはたぶん集合無意識の方へ行ってるのかな? 連装砲ちゃん達も座る島風に寄り掛かって目を閉じてるし。

 まあ、それなら別段起こす事もない。どうせ待機だし、必要なら揺すれば起きる。そういう仕様なのだ。走らされる事もなさそうだし私も吹雪さん(深海風)の所へ行こうかな? なんて思いながら横に置いてある自分の艤装へ歩み寄る。置き場は隣同士なので起こさないように気を付けて。極力足音を立てないように。

 気を付けてたんだけどなあ。艤装の横に到着して、それじゃ行きますかーとその場に座り込みふと横を見たら、ぱっちりと目を開けた島風と視線が交錯してしまったのだった。

 おはよう、と言う間もなく島風はこちらににじり寄って来て、ぐいぐいとこちらに顔を近づけて来る。ソーシャルディスタンスの確保とかは無い。毎度の事ながら距離近いなあ。

「競争しよ!」

「なんでまた急に……」

「本気で!」

 話を聞いてくれません。私の質問をどこかにうっちゃった島風はほら行くよ行くよと艤装を身に付けながら急かしてくる。微妙な顔をしているつもりの私の艤装を持ち上げて、私の背中に取り付けようとまでしてくるが残念だったな。それは自動的にくっ付くようなもんじゃあない。

 艤装の必要性に関してはまあ分かる。もう私達が全速力出すと危険な領域になってるからね。今や島風の100mタイムは5秒を切る。時速にして平均70km超え、当然ながら最高速はもっと出てる訳で。転んだり衝突したりしたら普通に死ぬ。っていうか、よく転ばずに走り切れるよねバランス感覚神懸かってるわ。

「いや、勝手に艤装使えないでしょ」

「前に許可貰わなかった?」

 ぱちくりとおめめを瞬かせつつ、オウッ? っと鳴いて軽く小首を軽く傾げる島風と同じ動きで左右に首を振る連装砲ちゃん。かわいい。それはともかく燃料が無制限ではない現状で私的利用はあんまり推奨されない。いや最低限なら良いですよって言われてたけどさ。

「宮里提督にでしょ? ここのトップは大淀さんだから、また別じゃない?」

 まあ、物理無効化とダメージの肩代わりだけならほぼ燃料要らないんだけどね。実は。たぶん機能停止寸前でも機能するようにそうなってるんじゃないかって猫吊るしは言ってた。航行とか物理的な影響を出すためには必須らしいけど。

 島風はじゃあ許可貰ってくるね!! って言って走り去った。全力疾走まで行かないけどかなり速度を出して。危ないなあ、いや島風なら人が居てもきっちり避けるだろうけど。ちなみに連装砲ちゃん達は残されている。海ではともかく陸では付いて行けないからね仕方ないね。

 仕方ないから連装砲ちゃんと戯れてたら体感一分くらいで島風は帰って来た。早いなおい。

 

 

 

 猫吊るしは忙しそうだったのでその辺りに居た妖精さんを一人ずつ回収して艤装を動かしてもらい、私と島風は海に出た。大淀さんと一緒に。

 いや、なんか審判してくれる事になったんだよね。司令官って暇なの? って思ったんだけどそういう訳でなく、二人で競った場合の最高速がどんなもんなのか見てみたかったらしい。そういや演習の時は遠目だったし足も使って走り続ける事はしてなかったですね。戦闘用と移動用に差があるのかないのかそういう所を見たいご様子。

 この時点で分かると思うが、これから行われるのは真っ当な徒競走などでは全くない。ジャンル不明の速さ比べなのだ。

 そういう訳で二つのブイを浮かべてゴールを作り、大淀さんが目視で判定するためにその横に。私と島風は大体100mくらいかなー程度の距離から並んでスタートする事になった。正確に計りようが無かったから距離は曖昧である。

「本気で走ってね! 本気でだよ!!」

 島風はふんすふんすと鼻息荒く私に全力を出すよう言い続けている。いや、まあ、いいけどさ。陸でやると危ないから障害の無い水上に出た訳だしね。

「艤装有りの全力だとアレの速度勝負になるけどいいの?」

 高速移動(アレ)。緊急回避や敵との距離調整に主に使うが、連続で使用可能なため移動手段としてもかなり有用な物だ。その速さたるや音速の数分の一程度の移動力を誇っている。妖精さんが酷い事になるから基本使えないけど。乗ってくれた妖精さんは私の方は任せろという顔をして、島風の方はえっ……って表情になった。あれ、よく見たら配属初期にシャトルランに付き合ってくれた子だな私の方のこの子。毎度すまんね。後でなんかお菓子でもあげてお礼するか……島風の方の子にもね。

 島風はそんな妖精さんの様子に気付いているのかいないのか、連装砲ちゃん達を脇に移動させながらも既に集中に入り始めているのが窺えた。やる気だなあ。

「何やってもいいよ。とにかく全力でやってくれるなら」

 声もどことなく落ち着いてるように感じるが、ほほう。言いましたな島風さん。いや妨害は流石に無しだろうけれど、それ以外は本当に何やってもいい訳だな? って言っても私は普通に高速移動連発するだけ……いや、この距離だと全力の一歩で走り切る方が早いかな……? 100mって短いんだよねえ、私達の最高速に対しては。

 うーんしかし、本気でやってリクエストは毎度の事ではあるのだけれど、今回はなんか真剣さが違う。普段はちょっとふくれたりする程度なんだけど、この走りを適当に流したら拳を向けて来そうな気配すら感じる。殴られても効かないけどさ。

 島風自身も出せる全力で走るつもりなのだろう、体中の力という力――魔力含む――が研ぎ澄まされていくのが見ていて分かる。なんか、真面目にやらないのは失礼に当たる気がしてきた。連装砲ちゃん達はいつも通りミューキューキャーと応援してくれている。かわいい。かわいいけど、そっちに注目してる場合じゃない。

 島風が本気で集中するのは珍しい。いや、普段の練習でもしっかり走りに意識を向けてはいるのだけれど、集中というよりは熱中しているっていう方が近いのだ。島風にとって走る事は心の底から楽しい事で、私に負けようが艤装の影響でやたらと身体能力が高くなろうが魔力で高速移動できるようになろうがその辺りは変わらない。ある種求道的というか、自分が使える手段でいかに速くなれるかが大事であって、勝敗にあんまり頓着してる感じじゃないんだよね。

 そんな島風が傍目に分かるほどの集中を見せてるっていうのは滅多にはない光景なのだ。なんで急にやる気になったのかは知らないが、これを無視して適当に流したいとは思わない。そりゃあ公式の大会とかで使うにはチート能力は馬鹿げてるとしか言いようがない物だけれど、今回のこれはそういうのじゃないし。

 じゃあ、本気でやるか。そういう事になった。

 

 私の戦術は超単純。一歩で100mを詰めてゴールする。それだけ。ぶっちゃけそれ以外はむしろ遅くなる気しかしない。私達の場合、力を前進する速度に変えられる角度に限界があるんだよね。その関係で地面――この場合水面か、そこに普通に走るみたいに足を着けようとするとどうしても全力で体を押し出す訳には行かなくなる。斜めにぶっ飛んでっちゃうからね。それに極端な前傾姿勢っても限度がある訳で、クラウチングのように手を突けるスタート時が一番発射角度を小さくできるのだ。だから一歩目で最大加速が可能ならそれが最高速度になる……はず。

 勿論空気抵抗で減速するし重力に従って落ちて来るからもっと距離があれば違うんだけど、100mくらいだと私の技術じゃそうなる。例えば50m地点に一度足を着けて再加速するとかって手もあるけど、そのための角度調整や動く事による抵抗の増加でたぶん遅くなる……気がする。いや実際やってないから分からんけども。

 だから勝負は一歩目。全力の一撃を足を通して海へと叩き付ける必要があるのだ。ではそのために必要な事は何でしょう。それはまあ、あんまり褒められたことではないのだけれど、チート能力さんに協力してもらう事だろう。私の本気っていうのはチート能力さん込みの話だからね仕方ないね。

 そういう訳で別に戦闘とかじゃないけど力貸して頂けませんかと自分の中へと問いかけてみれば、がんばれ♥がんばれ♥という返事と共に全身に力が漲って来る。よし行けるな。

 ここからさらに自力で魔力やらなんやらを足に集中したりできれば良かったのだけど、未だに自分の魔力を感じ取れない私にはそれはできない芸当である。仕方ないのでただひたすらにテンションを上げる。思い出すのは特殊変色海域との初遭遇、例の通れない境界上を無理矢理突破しようとした時。

 チート能力さんと息を合わせるように全身に力を行き渡らせる。魂の奥から汲み上げて、心臓でそれを循環させるイメージ。強く、速く、勢い良く。何度も何度も心の中で繰り返す。血液と共に頭のてっぺんから足の先、五指の全てに至るまで、細胞一つ一つに力が宿って行く。気がする。

 前の時は拳に全力を注ぎ続けたためか反作用的に足元が波打ってしまったが、今回は特にそうなる様子はない。静かなものだ。静かなものだけど、何故だろう。あの猛進より強く、爆ぜそうなくらい体が滾っている。無駄に漏れていないせいかな。

 やろっか。隣の島風に声を掛ける。集中を維持しながら伸びをして体をほぐしていた島風は私の方を向き、視線をゆっくり絡ませると、両の口角を吊り上げた。

 

 

 

 判定するためゴール地点に居る大淀さんに手を振ってお願いしますと声を上げ、私と島風はそれっぽい位置に付く。スタートの合図は連装砲ちゃんにお願いして空砲を撃ってもらう手筈だ。

 海面に手を突くというなんとも不思議な感覚を味わいつつ、隣の島風と共に姿勢を整える。だけれども、その姿勢は私と島風でちょっと違っている。島風のそれは普通にクラウチングだ。足を支えるブロックが無いため器用に足先を半分だけ海中に沈めて角度を付けている。

 対する私は両足を曲げ、海面に膝が沈み込むような体勢で頭を前に向けている。足先も島風の真似をして少し沈めておく。不格好ではあるけど仕方ない。だってそうでしょ、一度で100m跳ぶのなら、両足揃えた方が力が入るに決まってるもの。

 お互いにやり方に対しては特に何も言わない。これは競争であって100m走ではないのだからスタイルの違いは出て当然なのだ。その辺りの認識は同じという事でいいらしい。島風は……走る気かな? 以前見た限りだと島風が連続で高速移動を使うとどんどん加速していくのは確かなんだけど、100mでどこまでやれるのかは分からない。最高速に到達するのには距離が足りない気はするけれど、克服してる可能性はある。私の報告中とかによく島風さんの所で修行しているし。逆に空中ステップの方は現状加速力がそこまで出ないみたいだから使わないと思われる。

 横に並ぶと島風の足に魔力が集まっているのがよく分かった。以前感じた回復中のそれとはまるで違う力強さ。使えば使うほど鍛えられて最大値が上がるというが、あの時と比べてどれくらいの物になったのか、具体的にはわからないけど数倍くらいには増えていそうな予感がする。

 たぶん速い。きっと速い。間違いなく速い。チート能力抜きだったら勝負にもならないくらいの実力差がある。当然と言えば当然で、私は正確にはアスリートでも何でもない、土俵に立つのも失礼なレベルの何かでしかない。

 けど、『なんか』『つよい』身体能力と『なんか』『つよい』感覚任せの私に勝負を挑んだのは島風だ。そしてそれを受けたのは私だ。私はチート能力さんと一緒に走る私として勝負を受けたんだ。だから絶対手は抜かない。使うの主に足だけど。

 っていうか普通に負けたくない。負けたら負けたで仕方ないくらいの拘りしかないけどそれはそれとして今まで勝ち続けてるのに負けるのなんかやだ。だから全力で勝ちに行く。道徳的にどうとか正当性がどうとかはぽーいで。

 

 私と島風が同時に連装砲ちゃん達に目を向ける。三体は鳴き声を響かせながら砲塔を上空へと向けると、準備いいよとこちらに視線を返してきた。

 島風の魔力が膨れ上がる。やはりスタートダッシュで急加速するつもりなのは同じか。そのまま何歩か挟んでさらに加速するつもり……いや、これはちょっと違う? 島風のそれは片足にだけ集中している。そうか、同じ量を噴出させるなら片足に集中させた方が推進力が出るのか!

 私とはそもそも前提が違うんだ、あくまで筋力の私と魔力がメイン出力の島風だとスタイルが違って当然だった。おそらくこれ、島風は空中で加速してくるつもりだな。持続的に放出して航行速度を上げたりするのは前にやってるのを見た事あるし、当然空中でも可能だろう。高速移動のような爆発的な加速度は出ないはずだけど、スタートダッシュで高速移動、そこからはジェット噴射でかなりの速度になる気がする。陸上要素投げ捨ててるけど、角度と魔力の集中具合からして100m内での着地はしないと見た。

 成程、つまり、初速でぶっちぎれなければ私の負けだなこれ。分かり易い。足には自然と今まで以上の力が篭る。それでいて無駄に強張る事もない。非常にしなやかで融通の利く肉体だ。中の人に不釣り合いだが有難い。

 はち切れそうなほどに高まった何かが血を廻る。足だけで飛び出す訳じゃない。体中の筋力を使い、全身全霊で最速の一歩を刻むのだ。そうじゃなきゃ勝てない気がした。

 前を向く。顔は水面に向けているけど、感覚的に。ああ、スカート脱いでおけばよかったかな。なんて今更思う。どうせスパッツだし。空気抵抗をできるだけ少なくした方が良かっただろう。

 島風は完全に前を向いている。私と違って肌感覚とかで周囲の事が分からないから当然か。少しでも曲がればタイムロスになるもんね。

 用意からドンまでの数秒。一瞬の出遅れで負けが確定する短距離で、それでも私にはその通りの時間にしか感じられなかったのだけれど。その数秒が終わる瞬間。連装砲ちゃんが空砲を撃ち鳴らしたその瞬間に、私と島風は同時に足下を吹き飛ばした。

 

 大きく海面を抉り取り、飛び出したのは私だった。両足を使った高速移動。着地の事を考えずに速度だけを追及したそれは、同じく着地も何もない姿勢で空中へと発射された島風を初速で圧倒していた。

 問題は、ここから私は減速して行くしかないという事だ。艤装を付けていても空気抵抗は受ける。ダメージにはならないが、速度はしっかり落ちるのだ。私はスタート時点より速くなることは無い。でも逆に島風はそうではない。噴射の加速力がさほど出なかったとしても、減速しないだけでかなりのアドバンテージになり得るだろう。

 しかし、それでも。それでも私が四半の工程を過ぎる頃に未だ島風はその半分の地点に届いていなかった。100mしかない直線コースでこの初速差は、絶望的と言っていい。余程魔力が伸びていなければ。よしんば伸びていたとして、放出量が追いついていなければ。覆せない距離である。

 そして(チート能力さん)は気付いている。島風の魔力はかなり伸びているけれど、放出能力に関しては大した脅威にならないと。

 だから負けない。私は極力速度が落ちないよう体勢を崩さずに進んでいれば、負けない。

 

 

 私の遥か後方で、海が弾け飛んだ。

 

 

 音すら届く前の、肌に刺さる光の反射の違和感で私はそれに気が付いた。自分の動きが速過ぎて、音頼りでは認識するのが間に合わない。何が、と、海面と水平になった体越しに私はそれを目で確認した。

 言うまでもない。島風だった。それは島風が水面を蹴り、魔力を爆発させ、高速移動を行った余波だったのだ。

 そして見た。自分の高速移動の勢いで宙へと跳ね上がり、次の瞬間には、魔力を全身から上空へと噴射し、水面へと舞い戻る島風の姿を。

 一歩。高速移動を右脚で発動する。宙に浮いた体を無理矢理魔力噴射で水面へと押し付ける。そしてまた一歩。高速移動を左足で発動する。それは歪だけれど、誰が見たってこう言うに違いない。

 それは極めて特殊な、走法だった。

 私は勘違いしていた。自分ができるから、いや、それしかできないから、島風もまともに走れないんじゃないかって。勝手にそう思ってしまった。短距離で最速を求めるなら地に足は付かないと、本気で結論付けていた。でも、違った。

 島風はあくまで走る気でいて、ちゃんとその方法を見つけて来ていたのだ。それがまともな軌道じゃなかったとしても、ただ立ち幅跳びするだけなんてのよりよっぽど早い方法を。

 しかもどうやら、進化したのは技の合成だけじゃない。いつの間にか放出した魔力が物理的に周囲の物体を弾き飛ばすように高速移動自体が変質している。今までは瞬間的に島風から高密度で噴出するだけだったそれは、今や噴出どころかその足下で盛大に炸裂し海を掻き混ぜ猛らせていた。

 差が詰まる。私の想像を遥かに超えた速度で、私と島風の彼我の差が詰まって行く。一歩一歩は私の両足の一撃に遥かに及ばないが、島風のバランス感覚に支えられたそれは、あっという間にその暴威を超えて行く。

 あ、負ける。

 そう思ったのは工程の半分を過ぎた時。そして理解した瞬間には、私は完全に抜き去られていた。

 島風の背中が近くに見える。ゴールまではあと半分の半分とその半分。一瞬の出来事で、理解の方がそれくらいになってやっと追いついた。

 そっか。

 負けるのか。

 なんかこう、転生してからこういう真面目な勝負事で負けるのって初めてだな。

 

 

 

 

 

 え、やだけど?

 

 

 

 

 

 絶対やだけど? チート能力使って普通に負けるとか嫌すぎるんですけど?? 大した理由なんてないけど滅茶苦茶やだよ??? ここから勝つには? どうしたらいいかな? うん分かんない。分かんないね。分かんないから、勝ちそうな奴の真似しよう。いやでも私魔力放出とかできないしなぁ。姿勢制御だけであの急降下は無理だし。急募、今すぐ出せるもの。とかく足さえ付ければ何とかなる。出力は私の方が上なんだ、一歩でも再加速できれば初速も相まってあの背中を抜けるはず。っていうか抜く。何時か負けるにしても今はやだ。負ける覚悟が足りてなかった。っていうかそんなもん要ると思ってなかった。だから水面を蹴り飛ばす方法。なんか。なんかあるかな。

 ……あるわ。あったわ。マジで何でもいいならだけど、一個見つけたわ。言ったよな島風、確かにそう言った。覚えてるよ私は。何やってもいいからって、確かに言った。覚えててよかった。

 そう思った時にはもう艤装に手を突っ込んで、妖精さんを取り出して、腰に付いた艤装の装着機構を解除していた。そのまま肘で、思いっきり。艤装を空へと弾き飛ばす。

 私の艤装は改二になった際、ベルトで背負う形態からアームのようなパーツで腰に固定する形態へと変化している。それが今、どういう因果か役立った。

 天高く舞い上がる吹雪改二。反作用で、私の体は水面へと堕ちて行く。姿勢に関しては問題ない。思った通りの場所へ思った形で降り立てる。サンキューチート。毎回毎回すまないね。

 そのまま私は着水する。艤装無しで飛び込めば、普通は当然沈むだろうけど問題ない。何故ならば、私は横ベクトルにも動き続けているからだ。つまり小石が跳ねるが如く、鋭い水きり状態になる。だが当然、ただ勢い任せで水面を跳ねる訳じゃあない。だってそれじゃ加速しない。むしろ減速しちゃうよね。

 私の前では島風が足下を爆散させながら走っている。そうなると当然、その後は滅茶苦茶に荒れ狂い、かなり高く波打っている。だがそれがいい。すごくいい。

 私は海水が持ち上がる瞬間のそこへ狙い通りに着水して、その波を両の足で思いっきり蹴りつけた。

 瞬間私を襲う、スタート時とはまったく比較にならない負荷。そりゃそうだ、だって艤装付けてないもん。生身でやったら普通倒れたり、最悪死んだりする奴だろうと思われる。私はチート転生者だから耐えられるけど、そうじゃなかったら耐えられなかった。

 猛烈なGと引き換えに、私の体は生身としては有り得ない急な加速でぶっ飛んだ。波の角度が良かったから、さっきまでより低い軌道でぎゅんぎゅん前へと進んで行く。迫る島風の背、それに私が追いついたのは、残りわずかに十数メートルの地点だった。島風の顔が驚愕に歪む。

 もう後は本当に、私にできる事は無い。他に質量のある物をもってないから、無駄に動いても抵抗が増えて速度ロスになるだけだ。精々上手に姿勢を真っ直ぐ保つ事くらい。

 だからおい、島風。それ以上加速するな。待て、おい馬鹿止めろ、嬉しそうに笑って魔力を解き放つんじゃあない。明らかに今覚えました、みたいなやり方で高速移動と全身の魔力放出を同時に重ね合わせて加速力を増加させるのはよせ。

 最後の一メートルくらい。段々と減速してゆく私と、最後の一歩を踏み出す島風。私の方がまだ少しだけ前に居る。ああ、でも。島風は、最後の最後で、高速移動と魔力放出と艤装の航行能力を組み合わせる術を身に着けたようだった。

 

 ゴール。

 差されて差してもう一回差された長いようでその実一秒未満なそれは、傍から見たら本当に一瞬で終わっただろう。

 私も島風もゴールラインを遥かに超えて彼方まで吹き飛んでいく。そりゃあそうだ、私はブレーキなんてできる体勢じゃないし、島風なんて最後の最後まで加速し続けてたんだから。

 仕方ないので暫く飛んで、水面に手が届くようになったタイミングで海面を叩いていったん止まり、そのまま生身で大淀さんの方まで駆け戻る。そしてゴールラインを超えて逆走し、ある地点で止まって足踏みを繰り返した。

 超高速の足踏みにより、私の体は沈まない。物理法則も何もあったもんじゃないが実はこれは昔からできる事だったりする。そのまま暫く待っていると、澄み渡った空の上から私の手元に放った艤装が落ちて来た。うむ。狙い通りである。

 艤装を背負いなおし、ギリギリダウンしてない妖精さんに申し訳ないと思いつつ、艤装を再起動してもらう。いやあ……今回のこれ、後で吹雪さんに怒られそうな気しかしない。ちゃんと対面で謝ろう。会って貰えたら。

 

 ついでに連装砲ちゃん達を回収して、妖精さんに申し訳ないので少し早足で大淀さんの所へまで歩いて行くと、丁度反対側から島風も普通に滑って来た。なんだか普段に増してぼんやりとした目つきで、眉も少し寄っている。

「……勝った?」

「そうだね」

 お前の勝ちだよ。ハナ差、それも日本人のそれ程度の着差で。

 うーん、と島風は首を捻る。納得行ってない……っていうか、自分でよく分かんなかったのかもしれない。コンマ何秒差だよって話だもんなぁ。

 島風は大淀さんにもどっちが勝ってましたかと聞いているが、大淀さんもたぶん島風さん……? と自信無さ気である。うんまあ、砲音がしたと思ったら凄い勢いで何かが飛んでったようにしか見えなかっただろうし。仕方ないね。

「ちょっと待ってね」

 そう言って島風は短く瞳を閉じた。数秒後にはまた開き、ふぅと一息ついてから報告する。

「島風も私が勝ってたって言ってた」

 見られてたのか。いや、仕様上そういうもんなんだろうけど……不味い。艤装ぶん投げたの筒抜けじゃん。絶対怒られる。許して。

「えー、では、島風さんの勝利という事で。よろしいですね?」

「はい」

「はいっ!」

 一応は審判の大淀さんが、今回の勝負結果を確定させる。頷く私と、何故か手まで上げる島風。どうやら徐々に実感が湧いて来たらしい。連装砲ちゃん達がミューキューキャーと笑顔で島風に群がって行く。かわいい。

「……それで、艦娘の方はどうでしたか?」

「あっ、はい! 駆逐艦島風、改二の条件を達成して、許可を貰いました」

 受け取りは保留中です。と島風は大淀さんに報告した。えっ、今回のこれそういうのだったの? 気合入ってると思ったらそういう事だったのか。大淀さんが来てくれたのもそういう……っていうか、島風さんは何を条件にしてんのさ。私に勝ったら? ええ、そんな条件な事ある?

 大淀さんはそれは良かったです、と嬉しそうに頷いた。手続きとかが必要らしく上からの承認待ちだが、貰ったらすぐ改装を行うとの事だ。島風さんってそれまで待っててくれるんだろうか。おっそーいって言われちゃいそうだけど。

 島風は改二については母君であらせられる天津風さんから聞いて殆どの事は知っているから改めて説明する必要無いし、大淀さんもその辺は楽……いや、覚えてるかな島風。なんかあの日は他にも色々インパクト強い事があったし忘れてそうな気がしなくもない。

「受け取るの?」

「おうっ? 受け取らない理由ってある?」

 おかーさんが解除する機械作ってくれてたでしょ? って島風は仰られる。まあそうなんだけど……いや、でもそうか。島風って見た目にもそんな変わらないだろうし、あんまりデメリットとか無いか。性格に出る影響に関しては今更だし、そもそも島さんの場合元と変わった気がしないし。

「それに、島風ももっともっと速くなれるかもって言ってたから! 改装したら、今度はもっとちゃんと吹雪に勝つからね!」

 あ、ごめん。次やったら私が勝つよ。

 口に出しては言わないけれど、心の中で思うだけだけど、これは強がりとかそういうんじゃなくて。次同じ条件でやって、今回みたいな進化を島風が起こさなければ、間違いなく私が勝つ。そういう確信がある。酷い負け方をしておいて非常にアレな話なんだが、きっとそういう事になる。なんで言い切れるのかと言えば、この試合で私はチート能力さんの一端を掴んだ……気がするからだ。

 その証左に、私は今、明らかに足の筋力が上がっている。たぶんさっき二歩目を海に叩き付けた時も一歩目より上がってたんだけど、そこよりさらに上昇を見せているのだ。そして、私は今完全に力を抜いてるのにそれが元に戻る気配が無い。うん。つまり、そういう事だよねこれ。

 ただ、これは私が上手く使えるようになったからだとか、そういう話ではないんだ。むしろ逆。確信した。この子は制御できない。っていうか、仮に制御できたとして、強くなる事はおそらく無い。誘導くらいはできるかもしれないけど。

 と言うのも、私の『なんか』『つよい』チート能力さん。この子さ、なんか私が思ってた身体強化能力とか、そういうタイプの能力じゃあないっぽいんだよねえ……

 強化自体は確かにされてる。それは間違いないんだけど、その、なんというか、副次効果っていうか、結果的にそうなっただけというか結果を出すためにそうなっただけっぽいんだ。違和感は無かったけどさ。思い返すと結界に力押しで入り込めるって時点で何かおかしいって事に気付けよって話になるんだけどさ。

「あ、そうだ。今日から雪って呼ぶから、雪も名前で呼んでね」

「なんで?????」

 待って話が飛び過ぎて意味が分からない。

「…………嫌?」

「別に嫌ではないけど急すぎてびっくりした」

 不安そうな顔になるんじゃあないよ。なんかそういうのって宣言するもんだと思ってなかっただけだよ。私にもそうしてって話だからなんだろうけどさ。

 返事を聞いた島風は満足気な表情でしゃがみ込み、連装砲ちゃん達とハイタッチを決めた。まあそうしたいなら別に構わないけれども。

「なんで突然そういう話になったの?」

「勝ったらそうするって前から決めてたから!」

 聞けば私が陸上部に入った頃にはそう決めていて、今まで真面目なレースでは一度も勝てずにずるずる来てしまったらしい。いや別に気にする必要無かったと思うんだが、島さんなりのこだわりという事か。

「まあ、拒否するような事じゃないからいいけど、私普段は島風って呼ぶよ?」

 オウッ!?っと島風は鳴いた。いやそりゃそうでしょ。そういう規定なんだから、艦娘として働いてる時はそうしなきゃならんのだ。だから呼べないんだ仕方ないんだ。

「えー…………あっ、もしかして雪、私の名前覚えてないの!?」

「流石にそれはないので心配しないでください風香さん」

「なんで敬語?」

 フルネームが島 風香な事くらいは覚えてるよ流石に。でもね、風香さんや。私は女子相手に名前で呼んだ経験とかほぼほぼ無いから割と扱いに困るんだよ。吹雪s……吹雪にもめっちゃ手こずってるし。

「あと、さんも要らないよ」

「えー」

 やっぱりそう来やがったか。いや私だって別に嫌なわけじゃないよ? ただ名字から名前にいきなり切り替えるのは積み重ねの無かった吹雪のよりもだいぶハードルが高いんだ。気恥ずかしさとかが強すぎる。

「じゃあっ、今からもう一回勝負して決めよう! 今度は雪がルール決める番!!」

 微妙な反応を見て再戦を申し出てきたが、もしやこの風香さん、自分が好きな距離で好きな事やって勝った事に若干思う所があるのだろうか。それとも負けた私の方がチャレンジャーになるからか?

 大淀さんは青春ですねえという顔で微笑んでいて、止める気は無さそうだ。やるならとことんやって決着つけとけとそういう感じなのか、或いは一ページを邪魔しちゃ悪いと思っているのか。悪い人じゃないんだろうけど。悪い人じゃないんだろうけどさ。

 あ、いや、そんな事より、まず別の事を気にした方が良さそうだ。ちょっと哀れな事になっている子がそこに見える。私は島風の艤装を指差した。

「その状態で競争は無理でしょ」

 オウッ? っと風香さんは首を傾げて後ろを覗き込んだ。そこに居るのは完全にノックダウンされた妖精さんである。さもありなん。私以上の変態機動で上下に振り回されたのだから、普通の妖精さんが耐えられるはずもない。

 流石に焦った顔になる風香さん。大丈夫? って声かけするけど、妖精さんはまともに返事する気力もないご様子だ。見かねた大淀さんが自分の艤装から救援部隊を送り出し、その子はちっちゃな担架で運ばれて行った。

「えっと、じゃあ艤装使わないで普通に走る?」

「いや…………風香も。魔力残ってないでしょ。それで勝てるって思うなら付き合うけど」

「じゃあ走るよ!」

 思うんだ。流石。

 

 

 

 

 

 大淀さんの生温かい視線を感じつつ、私達は鎮守府へと帰って来た。普通に走るというので艤装を戻しに工廠へ向かえば、そこにはいつの間にやらいくつも艤装が戻されており、賀藤艦隊の防衛部隊が帰還しているのが窺えた。だというのに、周囲は何やら妙に静まり返っている。

 普段なら明石さんの奇声とか明石さんの嬌声とかが作業の音と共に聞こえてきて騒がしいくらいだというのに、修理の音すらなんでか全く聞こえない。おかしいなと思いつつ、呼吸音の多数する方を覗き見れば、そこには何故だか人だかりが出来ていた。

 それは工廠の人員と賀藤艦隊の面々であった。目を凝らすまでもなく猫吊るしもマッドな感じの明石さんの頭上に居る。どういう訳かみんな押し並べて息を殺し、一方向を見つめていた。

 背後を取って一番近くの子の背を突けば、ぴきゃっと可愛らしい悲鳴が上がる。暁である。涙目になった暁に姉妹艦からシーッと静かにするよう注意が飛んだ。悪い事した。

 私と気付いた暁型に手招きされ、私達も端に入れられる。大淀さんだけちょっとびっくりされてたけど、別に見ちゃいけないとかではないらしく島風共々その空間を覗き込んだ。

 

 工廠裏手の空間、さして広くないそこで二人の人間が向かい合っていた。一人は周りの皆の担当提督、賀藤提督。もう一人は訓練所で私達と一緒に育てられ、ぽいぬと一緒に連れられて行ったもう一人の犬系(に改装したらなると思われる)艦娘。時雨だった。

 見れば賀藤提督の両腕は時雨に向かって差し出されている。その先にあるのは、小箱に飾られたケッコン指輪であった。

 あ、結局渡す事に決めたんだ。などと呑気に先ほどの事を思い返していると、暫く硬直状態だったらしい時雨が突然足に力を入れ、その力を思い切り解き放った。

 飛び掛かる時雨、逃げる訳にも行かず受け止める賀藤提督。二人は頭一つ分は身長差があるのだけれど、時雨は一度でぴったりに高さを合わせていた。そのまま二人の影と影とが重なって、私の周りからは押し殺した嬉しそうな悲鳴が上がる。大淀さんは若いっていいわねーと凄く優しい目をしていた。

 

 後で聞いた話だと、ちょっと前に時雨から賀藤提督に告白していたらしい。ただその時は返事を保留されたそうなのだけど、タイミングの悪い事に、その直後にケッコンカッコカリの話が舞い込んでしまったのだとか。

 うん。そりゃあ渡すの躊躇うよね。だってそれもう返事だし、なんだったら前提がそっちになるもん。そっちを前提に付き合ってくださいになるもん。気軽さの欠片もないもん。

 まあ、なんだ。ご結婚おめでとうございます。

 

 

 




次話投稿までに島風改二が実装されてなかった場合、風香さんの改二は酷い事になります。
チート能力の詳細に関してはまたいつか。ただそんなに難しい話ではないですし期待するような物でもないです。
矛盾の量が凄い事になりそうで怖いけどNE!!!!!


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ちょっと待て何だそれは

 

 ――艤装を足の速さを競うのに使うのは構わない。ええ。構わないわ。けれど……

 

 集合無意識の片隅、駆逐艦吹雪の領域へと意識を滑り込ませた私は、夜明けの海に漂う巨体の内部へと招待されていた。ちかちかと誘導してくれる電灯の後ろを進み、以前も開いたドアをゆっくり引く。その先に待っていたのは暗く紅く明滅する不機嫌そうな光る壁と、中央に配された椅子で片足を抱いて気だるげに座っていらっしゃる深海棲艦似の吹雪さんである。

 明らかに不機嫌。怒りと悲しみと呆れとが混ざり合った複雑な感情で部屋そのものが蠢くように光を放っている。あんまりにも申し訳ないので、私は全力で頭を下げるしかないのであった。

 

 

 

 賀藤艦隊の面々が時雨に祝いの言葉を掛けつつ冷やかしているのを横目に、私は艤装から集合無意識に接続した。いや、私もおめでとうくらいは言ったけど、訓練所以来ほぼほぼ係わりの無かった時雨の事だったので混ざり辛かったんだよねえ。

 そうして逃げるように謝罪しにやって来た訳なんだけど、吹雪さんは私の艤装の扱い方が全く気に入らなかったようで、私の頭はヒレのようになっている左手でちょっと強めにぺしぺし叩かれたのであった。体は痛くないけど心が痛い。

 どうやら吹雪さんは艤装がパージされても少しの間なら私の事が把握できるらしく、肘でぶん投げて海上を生身で走った事などは完全にバレてドン引かれていた。本当に艤装要る? と問われてしまったが、有ると無いとじゃ大違いなので絶対要る。なのでそれをしっかり伝えたら、緊急時以外は絶対やらないようにと釘を何度か刺した後に使用の継続を許していただけたのだった。緊急時なら許してくれる辺りやっぱり見た目が深海棲艦なだけで良い人である。

 

 ――それで、その力との対話は進んでいる?

 

 吹雪さんの一部を転生させてしまった件で私は一度怒られて、二度と同じ事を繰り返さないよう力の制御を求められた。私もどうしてそんな事になったのかいまいち理解できていないのだけれど、やったのはチート能力さんなのは確定的に明らかである。だからちゃんと向き合って暴走しないようにしろと仰せつかったのだ。

 でもそれに関して進展してるかというとぜんぜんしてない。

 いやね、チート能力さんは最近私が存在を意識したせいか返事……のようなものを返してくれるようになったんだけど、単語っていうかネタみたいな返答をしてくるだけで基本的に会話にはならないのである。たぶん語彙の引き出しは私の脳からで、見知ったミームばっかりなのはそのせいだろう。あくまで私の持った私の力、という事なんだろうと思われる。

 そんなんでなんで例の魔法使いの所へ吹雪さんを飛ばせたのかと言えば、あの子と力の接続がされたままだったから、と考えるのが自然なのだろう。たぶんなんだけど、魔法使いのあの子は私に力を譲渡したつもりだったのに私はあくまで借りてるだけみたいな感覚だったせいで、ちゃんと受け取りの判子かなんかが押せてなかったんじゃないだろうか。

 ……そう考えると、もしかして私ってあの自称魔法使いになんらかの対価を捧げる代わりに力を与えられたみたいな話になるんだろうか。それだとこの世界に突っ込まれて観察されるのが対価で、私が勝手にちゃんと力を受け取らなかっただけって事で納得いくんだけど。なんか奪われたりはたぶんしてないし。

 あと、これもたぶんになっちゃうけど、チート能力さんの仕様にも問題があったのだと思う。私が勝手にそうだと思い込んでるだけだけど、『なんか』『つよい』はきっと判断力を能力自体が持っていないと成立しないはずだから、私の意図を超えた効果を発揮する権限が能力自体にあったのだと考えられるのである。

 私の認識と能力自身の判断、それが干渉した結果繋がりっぱなしになるわそこを辿って集合無意識の一部を謎空間にはじき出すわの大問題に発展したんだろうと私は結論付けている。だから、まあ……私が『なんか』『つよい』のが自分の力だと思えるようになればそれだけで解決するんじゃないかなあとは思うのだ。

 けどなあ。強すぎんのよこの力。私完全に前世覚えてるんだけど、普通の人間だったからね? 今の超人やってる私と差があり過ぎて認識を変えるのが一朝一夕には行かないような気しかしない。具体的には、最低でもこの状態で前世より生きないと無理じゃないだろうか。いや記憶が薄れない以上もっと長くなる可能性も高い。

 だから試せる事と言えば、結局話しかける事くらいなんだよね。それで飛ばさないように頼んでおくくらいしかないだろう。

 なのでまたこの場を借りて対話させてくれと頼んでみたら、暴発されると嫌だから甲板でやってと言われてしまったのであった。信用されてない。

 

 そんな訳で艦から出て魂に心を集中させる。そうしてちょっとお話良いですかとチート能力さんに語り掛ける。返事はない。まあ、割とそんなもんである。

 暫く手を変え品を変え、返事が来ないか試してみるも、一向に何かを言ってくれる様子はない。うーんやっぱり使う時じゃないと駄目なんだろうか。テンションが上がってるとネタにネタで返してくれたりもするんだけど、そういう時って質問とかしてる場合じゃないからなあ。

 でもそれじゃあ、仕方がない。状況を再現してみるしかないだろう。吹雪さんには悪いけれど荒らさない程度に力を使わせてもらおうか。

 私は甲板から跳んで海に降り立った。相変わらず不安定ながら普通に立つ事ができる不思議な水でできていて、足を動かす必要が無いから現実よりも体勢を保つのが遥かに楽ですごく良い。

 ここなら直接力をぶつけなければたぶん問題無いだろう。私は力を増すために、テンションを上げる作業に入る。思い出すのはさっきの事、超速進化で私の事を差し切った島風の走り。あれはなんか、とっても凄くて凄かった。たぶん天才が努力した結晶があの瞬間に形となって現れたのだと思うのだけど、私としては次やる時はそれに勝つつもりでいるのである。

 いや今も勝てる自信はあるけれども、もっと速くならないと競走中にさらなる高みへ駆け上がられそうな予感しかしないのだ。だから今のうちに私も走る方法を見つけないといけない。その練習のために、チート能力さんにも力を貸してほしいんだ。

 正直に言って、今日の敗北はかなり嫌だったと言わざるを得ない。別に負けて何が変わるでもないのだけれど、なんか、とってもやだったのだ。

 そりゃあ毎日毎日真剣に走ってる風香に負けるのは当然の節理ではあるのだけれど、それはそれとして、勝てるなら勝ってしまいたい気持ちがある。最初の頃なら考えられない話だなあ。勝ち続けて変なプライドでも芽生えちゃったんだろうか。

 ともかく、全力で足を動かして、その上で速く走る方法を探すためにチート能力さんにもご助力を願いたいという訳です。どうぞご協力オナシャス!!

 

 ――いやですとも!

 

 なんて、頭に何かしら涌いてそうな事を考えていたら、私の内側からどことなく不機嫌そうな声が返って来た。

 初めての反応にちょっと慌ててしまったのだけど、別に力が抜けるとかそういう事は無いっぽい。ただ、普段以上に力が増すような事もない。なんというか、普通の状態。これは……これは……?

「もしかして拗ねていらっしゃる?」

 

 ――違うよ。全然違うよ。

 

 いやその返答はだいぶ拗ねてるんじゃあないだろうか。え、何? 初敗北して拗ねたの? うせやん。君そんなしっかりした人格だったの? ってのもあるけど、その、力にプライドとかある感じなんだ……?

 なんて思ってたら、むううううううう! っとふくれるような声がして、チート能力さんは無事返事をしてくれなくなった。えー。困る。

 

 

 

 

 

「雪ー、雪ー?」

 ゆさゆさゆさゆさと高速で揺すられる感覚で私は目を覚ました。目の前には見慣れた島風が張り切った様子で眠たげな瞳を輝かせている。

「ん……なんかあった?」

 揺すられるとこっちに引き戻されるのは知ってたけど、実際やられるのは初めてだ。まあタイミング的には丁度良かった、チート能力さんがあの様子じゃあちょっと時間を置いて出直した方が確実だろう。機嫌が悪い時は待ちに徹するに限るのだ。本当に拗ねていたらの話だけども。

「島風改装するって! 行こう!!」

「早くない?」

 ええ? 島風さんから許可取ったの今さっきだよ? 私が吹雪さんの所に居たのなんて現実時間で数分とかだよ?? これもう大淀さんが連絡して二つ返事でOK出てるだろ。一瞬たりとも迷われなかっただろ。いや許可しない理由ってのも特に無かったんだろうけども。

 軽く辺りを見回すと周囲にはまだ賀藤艦隊の皆が残っていた。島風の声が聞こえたようで改装って改二かな? すごーいなどと騒めく声が耳に届いている。まだまだ例が少ないから精鋭の証みたいな捉え方をされているのだろう。実際には影響の深度と艦娘からの許可の問題であって能力自体は関係ないみたいなんだけどね。

「金奈枝と扶美先輩も許可申請してたから、ついでで私のも出たんだって!」

「金剛さんと扶桑さんが?」

 なんと。どっちもかなり優秀……というか、金剛さんは私が居なければ頂点獲ってたとか言われるレベルだから不思議はないけれど、また急な。扶桑さんも戦果はかなり挙げてるらしいと聞くし、艦娘の覚えも目出度かったんだろうか。

 っていうか、もしやこれも露骨な誘導されてたりとかするのかな。無くても定期的に確認はしてるだろうけど凄い被り方してるぞ……全員同校出身だし。

 島風はほらほらはやくーと私の手を引き、それに追随するように連装砲ちゃん達が私の後ろ、寄り掛かっていた艤装との隙間に入り込み背や尻をぐいぐいと押してくる。連携して立ち上がらせようとしているのだろうがそんな事せんでも自分で立つからちょっと待って欲しい。連装砲ちゃんの体は金属質なのでぶつかるとちょっと痛いのだ。かわいいけど。

 

 そのまま片手に自分の艤装を持った島風に手を引かれて連れられて行けば、奥では大淀さんが明石さん達に説明を行っていた。猫吊るしも他の妖精さん達と一緒におっしゃやったるぞおらっしゃーとやる気満々で拳を振り上げている。お前最近猫被んないよな。別に必要ないけどさ。

 その輪の中に進み出た島風が自分の艤装を差し出すと、そこに猫吊るしが飛び乗ってあっちあっちと作業場所を指差した。オッっと一鳴きした島風はそのままそこに自分の艤装を設置する。片手で。腕力も結構影響出てるなあ。

 ぼんやりその光景を眺めていたら大淀さんがこっちに来て、それじゃあ号令をお願いしますねと私に向かって言い出した。ん? と思ったがそういえば提督の指示が必要みたいな感じなのかこれ。別に誰でもいいんだろうけど、島風の担当は私だからって配慮してくれたのかもしれない。

 じゃあ、駆逐艦島風改二改装開始してくださーいと妖精さん達に向かって宣言すると、猫吊るしがいつも通り改二改装の時間だオラァと叫んで一番に艤装に飛び込んで行った。次々後を続く妖精さん達と、明石さん達。いや明石さん達は周囲で手伝ってるだけで中には入れないんだけどさ。

 島風の方にはメジャーを持った妖精さん達が群がって行って、採寸しながら生地やボタンを用意している。そういえば島風は身長とかどうなるんだろう。集合無意識の島風さんと会った事は無いからどれくらい差があるのかとかさっぱり分からない。個人的に風香は島風として特に違和感ないからあんまり変わらないような気はするけどね。

 いやしかし、待ってる側暇だなこれ。大勢の前で猫吊るしに体操作させる訳にも行かないから手伝えないし……せめて資材運びくらいやらせてもらっても……え、要らない? でも君らの体格で運ぶの大変じゃない? 提督は見てるのも仕事? ほら私本業艦娘の方だから……駄目? そっかー。

 

 

 

 

 

 目の前を島風が力強く滑走していく。その動きは、かつてのそれよりさらに速い。特に滞りなく改二改装は実行され、問題なく完遂された。出来上がった島風改二はまあ大方の予想通り、速度特化の劇物である。

 ゲームで言うなら高速だったのが高速+か最速になった感じだろうか。高速で行ったり来たりを繰り返す島風の様子を見ていると、一段どころか二段階くらい速度が上がっている印象を受ける。つまり、通常航行ではもう私は全く追いつけそうにない。

 前からその傾向はあったんだけど、改二になったらそれがさらに顕著になった。指輪効果で適性値が上がると共に速度も上がってたと思われるからなあ。適性値は据え置きだろう私が追いつこうと思ったら走るしかないからもう完全に猫吊るし必須である。

 島風は服装的には殆ど何も変わっていない。目立つ変化は頭のうさ耳リボンが白くなってるくらいだろう。そう、決戦modeである。通常時より露出が増えるとかでなくて良かったとは思うが地味と言えば地味な変化で、本人もちょっと残念そうだった。

 艤装の方は少しだけ外観が変わった。具体的には、後部と左右に連装砲ちゃん達を装着できる箇所が増設されたのである。試しにくっ付けてみたら駆逐艦としては大型の艤装になって驚いたが、連装砲ちゃん達は結構しっかり固定されている様子で動くのに支障はないとの事。着脱も早く、連装砲ちゃん達が飛び乗って自分で嵌ってくれるため急ぎの時も安心である。

 その連装砲ちゃん達であるが、別に数が増えたりはしなかった。天津風さんの改二が凄い事になっていたのでちょっと心配だったのだが、娘の島風はその特性は受け継がなかったらしい。

 っていうかね、島風の改二、装備スロット増えなかったんだよ。いや、正確に言えば増えてはいる。増えてはいるのだけれど、固有装備がそこに入って取り外せない状態であるらしいのだ。おかげで火力はほぼ据え置き、一応内部の最適化で発射レートがさらに上がったりはしてるそうだけど、他の改二と比較すると単純な攻撃能力で言うとかなり見劣りする。装備数だけはしっかり増えた私の改二と比べてもである。

「大淀指令! 一晩、一晩でいいので、あれを詳しく調べさせてください!!」

「駄目です」

「リバースエンジニアリングにご興味はありませんか!?」

「ちゃんと元に戻しますから!!」

「駄目です」

「メンテとか全部間に合わせますから!!!」

「そういうのは戦況が落ち着いてからです」

「落ち着いちゃったら私達絶対に呼ばれないじゃないですか……!!」

「そうですよ! どうせもっと上の権威の人達が独占するんです!」

「……貴女達が艦娘として残留するなら呼ばれそうな気はしますが……現状最も詳しいですし……」

 後方で大淀司令官とマッド明石さんとマッドじゃないと思ってた方の明石さん達の声がしている。いや、まあ。私も気持ちは分かるんだけど、一点モノだから壊されたら困るし……

「島風ー! 問題なさそうなら戻って来てー!」

 ともかく連装砲ちゃん達を担いで景気よくぶっ飛ばしている島風に声を掛ける。私の立った岸壁から見て水平線の方へと走っていた島風は、それに気付いてオウッっと鳴き、一切の減速をする事なく、その進行方向を180度転換した。

 見れば見るほど違和感が酷い。島風は弧を描いて逆側に進みだすとか、一旦速度を0にして再加速するとか、そういう通常の反転をしている訳ではない。完全に、一切の減速も余計な距離を移動する事もなく、その進む向きを操っているのである。

 この世界で改二に改装すると、初回に限りであるが、一緒に装備が生まれて来る。私の場合は戦闘糧食と秋刀魚の缶詰と洋上補給。これは二回目以降は生まれないため失うと二度と手に入らない可能性があるレアものだったりとかするし、実は私の秋刀魚の缶詰もその類だったりするのだが、島風のもその例に漏れなかった。

 と言うよりも、どうやら風香の改二はその産まれて来る装備品こそが真価であったようなのだ。ある意味では現状で最も特異な改二と言えるのかもしれない。猫吊るしが報告を上げた時、私は固まったし、大淀さんも固まった。島風自身は事の重大さを理解しておらず、明石さん達は大興奮だった。

 その問題の生まれてきた装備というのが、慣性制御装置である。

 慣性制御装置である。

 大事な事なので二回言いました。

 お前なんで時代置き去りにしてんだよ……速過ぎだろ……

 

「で、実際どうなの?」

「頭おかしい」

「おうっ!? 酷くない!?」

 酷くないと思う。だってお前、個人に搭載可能な小型慣性制御装置だよ? いや一応艤装の中は見た目より広いらしいから実際にはもっとでっかいんだろうけどそれにしたって最大の想定しても一駆逐艦に搭載できるサイズだよ? なんでWW2からSFに跳んでんだよ。科学の発展もはやーいとかもうそういうレベルじゃないんだよなあ。

「燃料消費多いくらいしか弱点ないぞこれ……たぶん衝撃吸収も行けるから防御力も上がるし滅茶苦茶だ。っつーか、完全にオーパーツ。艤装の事理解しないで発掘されたらタイムトラベラー疑われるレベル」

 直撃は無理にしてもカス当たりくらいなら被害を無くせてしまうらしい。何その……何? 逆に直撃は無理なのは何なの? バランス調整? いや、そんなもんあるのか知らんけど。

「一応、専用装備化してて他に搭載するのは無理だし一体化してるから取り外すのも無理っていうのが問題点だな。あと、たぶんもう一台改装しても付属しないから生産方法は確立しときたい」

 あっと思ったがもう遅い。猫吊るしの言葉にほらああ言ってますよと明石さん達がまた言い出した。確かに構造が分かったら文明の発展に寄与しそうではあるけども。

「じゃあ……走る?」

「!! うん!!」

 後ろの騒ぎを放置して、私は島風から猫吊るしを受け取った。島風改二の中には今、普通の妖精さんも入っている。だから運用には問題ない。私達は背負った艤装を起動すると水面に降りてやる気満々な島風に並んだ。

 これから行われるのは連続高速移動と慣性制御装置を併用した場合、通常の妖精さんが耐えられるのかどうかのテストである。なんか知らんが内部が滅茶苦茶快適になるらしいんだよね。揺れが全然無いとかなんとか。

 魔力をほとんど使いきっているため十数歩程度になるのだけれど、それでも隣の島風は嬉しそうにしている。これが上手く行ったら私達はもうほぼ常時走って移動する事になるだろうから楽しみで仕方ないのだろう。まあ無理だったとしても島風の速度が上がってる関係で、結局私は走る事になるんだけどね。

 

 

 

 

 

 二人で疾走して、妖精さん達がぴんぴんしてるのを確認して私達は帰路についた。大淀司令官と明石さん達はメンテナンスしてる時に装甲がちょっと外れるくらいは仕方ないだろうという事で決着したようで、目のギラついた宮里艦隊のダブル明石さんを呆れた目で眺める賀藤艦隊の明石さんが見られたりはしたが概ね平和に島風の艤装は回収されて行った。猫吊るしも笑顔でそれに付いて行った。たぶん徹夜コース。大淀さんは子細を上に報告しなければいけないようで頭が痛そうに執務室へと戻って行った。お疲れ様過ぎる……

 しかし、本当にどうなるんだろう島風。実は現状チート能力の事が転生云々とバラしていない私より遥かに重大な位置に居るような気がするんだけど。

 だってこの子、謎のエネルギーを操る手段を習得して慣性制御装置を産んだとかいう訳の分からない存在になっちゃってるからね。もう世が世ならとか言ってる場合でなく本人も研究対象じゃなかろうか。私や初春みたいに生まれつき使えた訳じゃないのがレベル高い。後天的にできるようになる可能性を開拓したって事だもん。いや魔法使いのあの子に会っちゃったのも影響してるかもしれないけどさ。

 

 なんて考えながら酒保でお菓子を物色する。現実逃避半分に島風の改二祝いと競争の時に潰してしまった妖精さんへのお詫びの品を選んでいるのだ。

 ここは過去最大規模の鎮守府故か品揃えが他と比べてかなり良い。だから選択肢には困らないけど、逆に多くて悩まされる。別に金銭的には困ってないし候補の奴全部買っても問題ないけど、流石にそこまで金銭感覚崩壊してないしね。

「へえおめでとう……思ったより掛ったわね」

「ありがとー。走り方覚えるの大変だったんだよ! 雪にもちゃんと走ってもらわないとだったし!」

「あんた名前で呼んでたっけ?」

 レジ前に設置されたスペースでは曙と島風が揃って書類に筆を走らせている。出金するにも取り寄せるにも必要になるため二人とも慣れたものだ。使い放題よりは将来のためにいいだろうから仕方ないんだけど、正直ちょっとめんどくさい。

 私達が島風改二の検証を行っている間に曙は帰って来ていたようで、酒保に来た時には既に購入する品を吟味している最中だった。書き物があるという島風はささっとそっちに合流し、普通に買い物するだけの私は離れて店内を見て回る。そうしている間に目聡い曙に頭飾りの変化を見抜かれ、改装したと説明する事に相成ったようだ。

「それで、どんな改二になったの?」

「すっごく速くなったよ!!」

 やっぱりそうなんだと笑いをこぼす曙とすっごいよと笑顔で更に強調する島風。対して私の方は島風が慣性制御装置に関して話してしまわないかと気を揉んでいた。

 島風改二から生まれた特殊装備についてはとりあえずかん口令が敷かれている。あんなもんの存在を無駄に広める訳には行かないからある種当然の処置だろう。なので島風も言ったらいけないんだけど……とりあえずバラしそうな気配は無いので大丈夫そうかな? いや、実際にはその辺りしっかりしてる子なんだけどね。むしろ私より失言が少ない可能性もあったりするくらいには。

「あたしもそろそろ再挑戦するかな……」

「大丈夫そうなの?」

「影響はかなり出てきたわよ。まあ……あんた達程露骨じゃないけど」

 言いつつ私の方へと目を向ける曙。棚と向かい合ってて目は合わないが愁いを帯びた表情なのは分かる。一回倒れてるから不安なのだろう。なっても良いと認められてはいるのだろうけどねえ。

 などと思いっきり盗み聞きをしていたら、入り口からかなりの勢いで飛び込んで来た重巡洋艦が一人、瞳を輝かせながら島風に向かって突撃して行った。青葉さんである。どうやら島風の変化に外から気付いたらしい。結構目立つんだなあのウサ耳風髪留め。

 なおこの後、島風は青葉さんに根掘り葉掘り聞かれていたが言うべきでない事は全く言わなかった。逆に話の流れで青葉さん達の身体能力がどうなってるのかが知れたのだけど、曙共々そこそこ高い天井まで軽く飛んで手を触れるくらいは余裕なご様子。そろそろ改二になる人たちも増えて来るのかもしれない。拒否する人も……出るのかな?

 

 

 

 

 

 翌日。予定の日まであと五日……くらいであるのだが、昨夜にちょっと動きがあった。上層部が急に、大規模な攻勢を決定したのである。

 通達では六日後……つまり今日から見て五日後に決行予定で、それに合わせて各鎮守府からそれぞれの最高戦力が送られてくるらしい。人数的には四国の時よりもさらに少数精鋭予定との事で、とにかく素早く事を進める方針のようだった。

 おかげで昨晩は金剛さんから改二になりました!! とそっち行きます!! のメールが連続で入って来るわ初雪から選出されちゃったヤダー!! の泣き言が入って来るわで大変だった。金剛さんはともかく初雪……今更だけどマジで精鋭扱いなんだなぁ。提艦隊その二人しか来ないらしいし。

 他には扶桑さん、北上さん、比叡さん、榛名さん、霧島さん、漣、吹雪(二期生の方)からも連絡が来ている。沖縄組は何やら台湾の方から敵が流入してるとかで不参加である。もしかしたらそっちの解放に動くかもしれないらしいが国際的には大丈夫なんだろうか。いやそんな事言ってる場合でもないだろうけどさ。

 

 ともかく全ては五日後である。なので今日は普通に迎撃や調査をして態勢を整える作業なのだ。つまり昨日と一緒だね。

 違うのは第十艦隊の機動力である。昨日島風改二は猫吊るしに頼らずとも高速移動が可能だと結論付けられたので、本日は現場で使ってみて実用に耐えるかの検証をしているのだ。

 結果は……目の前の真っ赤な海で背負った連装砲ちゃん達の連装砲と元々付いてる魚雷をガンガンぶっ放してる島風を見れば分かるだろう。大成功である。しかも戦闘中に弾が飛んで来たら横に跳んで避けるとかもできる。いやそもそも普通に滑走してるだけで速過ぎてまともに当たらないんだけども。

 この改二、火力は上がってないもののとにかく速さが並外れているため想像以上に強くて便利。何しろ未だ午前であるにもかかわらず、我々は既に二百を超える深海棲艦を海の底へと叩き込む事に成功している。移動時間が短縮されてロスが減った賜物である。

 燃費は悪化してるけど、私の方に燃料を多めに積んであるから問題ない。戦闘スタイル的に弾薬の消費も早いし、相性は悪くないと思う。むしろ他と組むのが難しい傾向にあると言われていたのがさらに極まってしまった感がある。もう他に島風が居たとしても隊を組むのは難しいだろう。

 走っては撃ち、走っては蹴り、走っては殴り倒す。島風の魔力もかなり増えているためなかなか底を突く事もない。なので昼休憩を挟みつつ、私達はスコアアタックのごとく延々敵を狩り続けたのであった。

 

 そろそろ帰るべきかな、と思ったのは積んでいた魚雷を島風に全部詰め込んだ時である。島風が高速移動後に戦えるのかを確認するために撃たせまくったせいで消費が非常に多かったのだ。

 とりあえず今海中に視えている潜水艦だけ始末したら一回変色海域から出て連絡を入れて帰投しよう。そう思って爆雷を水平線に向かって放り投げると、丁度そのタイミングで、鎮守府の方から通信機に着信が入ったのだった。

『第十艦隊、第十艦隊。応答願いますどうぞ』

「第十艦隊、吹雪です。何かありましたか? どうぞ」

 実は、どうぞ言わなくても良いらしいんだけどねこの通信機。ただ変色海域内だとノイズが走ったり全く繋がらなかったりするので片方ずつ喋るに越した事はないってだけの話なのだ。

 通信相手は大淀さん、少し声が歪んで聞こえるが変色海域内なら会話になるのは大分マシな方である。まともな音になってない場合も多々あるからなあ。

 大淀さんはまず私達の現在地の確認を取った。第十艦隊は猫吊るしが居るのでその辺りは抜かりない。正確な情報をお届けできる。通信機の向こうからは紙の擦れる音がして、海図と見比べているのだろうと思われた。たまにアナログになるんだよねこの組織。

『第十艦隊へ、救援要請です。第九艦隊、ガンビア・ベイが轟沈、戦闘は終了しましたが、適性者が行方不明になっています。合流し捜索に当たってください。どうぞ』

 オウッっと島風が声を上げた。私もちょっと動揺したが成程、海面海中なら私が一番広くを探せるもんな。そして今なら島風を抱える必要もなく合流可能。私達に話が来るのは道理と言えた。さらに言えば。

「了解。とりあえず現場に直進します」

 現在、私が提督として無効化貫通能力を付与している艦娘が十一個ある艦隊全部に最低一人は配されているのだ。おかげで結構頻繁に被弾情報が送られて来てたまに心臓に悪かったりもするのだけれど、こういう時は本当に役に立つ。

 第九であればそれはレーベレヒト・マース、レーベである。なので彼女を思い浮かべ、提督に担当艦娘への道を指し示す羅針盤妖精さんの能力をも併せ持った猫吊るしにお願いする。

「羅針盤は持ったな!! 行くぞォ!!」

 いやお願いじゃねぇなこれ。仕方ないじゃん艤装の中の渡そうと思ったら猫吊るしもう構えてたんだもん。結構焦ってて出ちゃったんだもん。

 ともかく私の号令と共に第十艦隊は動き出す。現場に向かって真っすぐに。本気の高速移動でもって。

 

 

 

 道のりの半分を過ぎたくらいか、青い海へと出てなお疾走を続ける私達は無人の海を一足数十メートルの歩幅で飛び跳ねていた。周囲の警戒は怠らず、視覚聴覚は常にフル稼働で私の脳に情報を送り続けている。

 ともかく合流したらすぐにソナーで周囲を探ってみなければいけない。幸い轟沈場所は変色海域ではなさそうなので波間に浮かんでいる可能性は十分ある。変色海域ではかなり難しいらしいが通常海域ならば浮くだけなら何とかなるはずだ。

 そう考えながら全力で走る私の目の端に、金色と赤色と青色が映り込んだ。

 まさか敵かとその異物の方を睨み付ければ、そこにあったのは探しに来たそれそのものである。つまり、なんとガンビア・ベイさんその人であった。

 マジかと思い進路を変え、一瞬で横へと降り立てば、艤装を失ったガンビーさんは下半身を水中へと沈めながらも赤い何かを腰に据え、目を閉じ口を半開きにしてぷかぷか呑気に浮かんでいた。うん。呼吸音もするし間違いなく生きてる。良かった。良かったけどこう、表情のせいで若干腹立つな?

 しかし目立つ色をしていてくれていて助かった。金色の髪が水上に映えて良い感じ。そうじゃなければ見逃してたかも。浮きにしているお腰の物も赤くてここでは分かり易い。良いチョイスだと言わざるを得ない。

 言わざるを得ないんだが……なんだろう。それは赤くて、ドーナツ状で、手足みたいなものと角みたいなのが生えていて、口っぽく見える裂け目がある。あ、私に気付いて手を振ってる。かわいい。っていうか君目とか無いけど私の事分かるんだ?

 温厚そうな動作に感じられない敵意。まあまず間違いなく普通に助けてくれてるだけだろう。ガンビア・ベイだから? そうだよね、ガンビア・ベイは放っておけないよね君等なら。

 そう思えて仕方がない真っ赤な体な彼の言い訳の利かない正体ですが、どう見ても深海浮輪さんです。本当にありがとうございました。

 

 

 




創造主のなんでもできる力を少量とはいえ取り込んだ奴が自身の個性を反映するモノを使った結果がこれだよ!!


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カワイイってなんだ

 浮輪さんだなぁ。浮輪さんだよなあ。と思いつつ、とりあえずガンビア・ベイさんを抱き上げて、呼吸音など体の状態を確認しながら橈艇を猫吊るしに取り出してもらう事にした。

 私の艤装は色々載っているのだけれど、救助用の小舟だとかも大発と同じ要領で詰め込まれていて割と内部の容量を取っているのだという。整備はちゃんとされてるようで、初めて使うが特に問題は見られない。後ろからすっ飛んで来た島風の驚く声を背に、私はガンビア・ベイさんをその船上に横たえた。

 状況を確認するから発見報告しておいてと島風に頼み、船の外からガンビア・ベイさんに猫吊るしをポンと置く。私より正確にできるからお任せである。その間に私は浮輪さんをさっと取り上げて、橈艇の影で島風に届かないよう囁いた。

「浮輪さんは敵?」

 全身を横に震えさせる浮輪さん。

「仲間?」

 全身を縦に震えさせる浮輪さん。

「鎮守府の人達に会わせても大丈夫?」

 全身を横に震えさせる浮輪さん。

「私の事知ってる?」

 全身を縦に震えさせる浮輪さん。

 うーん……もしやと思ったが、この浮輪さんはやっぱり露骨な調整の一つ、なんだろうか。だとしたら転生者って可能性もあるなあ。どうしよう。仲間の命の恩人だしその辺りに投げ捨てるのは躊躇われるけど、かと言って持ち帰るのも問題がある。敵だったらって可能性を0にはできないからなあ。喋ってくれると助かるんだけど、そういう気配が無いので発声機能を持ってないのかもしれない。

 なんて迷ってたら島風が報告を終えこちらに寄ってくる気配がしたので、私は咄嗟に浮輪さんを自分の艤装に突っ込んだ。思ったよりすんなり中に入った浮輪さんは中でころんと転がって、壁に当たってその場に横たわったようだった。自分でやっといてなんだけどちょっとかわいそう。

 何やってるのと問いかけて来た島風に索敵してたと嘘ではない返答をして猫吊るしの方に声を掛ければ、ガンビア・ベイさんに異常無しとの報告が上がって来た。どうやらショックで気絶してるだけで外傷は見られず、服も裂けてはいるが原形を留める程度の被害しか受けていないとの事である。ただ海水に漬かっていたせいで体が冷えてるから早いとこ鎮守府に搬送した方がいいらしい。もう距離的にも遠くなかったので要救助者にはそのまま安静にしていて貰い、私が船を曳いてとっとと帰る事になった。

 えっちらおっちら時速百キロメートル以上で走っている間、艤装の中の深海浮輪さんの様子はそれはもう大人しいものだった。猫吊るし曰く壁のでっぱりにぶら下がってぶらんぶらん揺れていたらしい。新手の備品か何かかな?

 

 

 

 

 

 五十嵐艦隊の面々に感謝されつつ、まだ昼過ぎくらいだったので再出撃。その間に浮輪さんの事をどうにかしたかったのだけれど、周りに人が多すぎて駄目だった。いや出先で島風の目を盗んで外洋にぶん投げるくらいは可能だったんだけど、流石に良心が咎めちゃったのだ。

 結局、私が行動を起こしたのはその日の夜になった。消灯後、同室の島風、曙、文月が寝息を立てるのを確認してからチート肉体制御力で物音一つ立てずに部屋から脱出し、寝巻のまま工廠へと向かう。寒い。

 工廠ではガンビア・ベイさんが轟沈するくらいには激しい戦いがあったせいか未だ作業音がガンガン鳴り響いており、私の接近に気付く者は誰一人居ない。一応言い訳のために艤装の中にお財布置いて来たんだけど無意味だったようだ。

 できるだけ気配を消して自分の艤装へ忍び寄ると、中では念のために浮輪さんの見張りをしていたはずの猫吊るしがなんでか一緒に楽しそうに踊っていた。まあ警戒する相手じゃなかったのだろうと納得しつつ、二人を引っ掴んで外へ出る。今度は本当に財布を忘れてしまったが、どうせ明日も艤装使うし別に構いはしないだろう。

 ぴょんぴょん跳んで工廠の天井に上がり、海岸線の光の当たらない場所に目星を付ける。どこがいいかなーと結構いい眺めを若干楽しんでいると、遠くから、私の耳に聞き慣れない声が届き始めた。

 ずっと鎮守府の少なくない夜勤の人達の声は聞こえていたのだけれど、それとは別、小さいのにやたらとはっきりとした声が人目に付き辛そうな岩場の方から発されている。それは何か形容し難い、ベーイベーイの泣き声のように私には聞こえたのだった。

 もしやと思い足を動かし、声の主との距離を無かった事にしてやると、そこには真っ白な体に白黒混ざったツインテールを持ち、腰に付けた白い浮輪さんに差し出されたハンカチで涙を拭いながらひっくひっくとしゃくりあげる、どう見ても人間じゃない女の子が足を投げ出して座り込んでいたのだった。

 

「良かったよぉ……帰ってこないから、うっかり割られちゃったんじゃないかって……」

「いや、この子ビニール製じゃないし割れなくないです?」

 手渡した浮輪さんを抱きしめて、頬ずりしながら少女は涙目で鼻を啜った。まあ力入れたら割れるかもしれないけどさ。力加減完璧だから私。

 暫くそうして赤くて丸いナイスガイ……いやもしかしたら女の子か……? 分からんけどその子との再会を喜んでいた明らかに深海棲艦な白い娘はやがて落ち着いたのか私の方を上目づかいで見ると、涙ぐんで赤みの差していた頬をさらに恥ずかしそうに赤く染めた。

「あの……ご迷惑おかけしました……」

「いえこちらこそ。ガンビア・ベイさんを助けてくださったんですよね?」

「同郷って事でいいんだよな?」

 待ってる間にいつもの位置に移動した猫吊るしと私の続く問いかけに、その子は首肯で答えてはにかんだ。白い浮輪さんは保護者めいた雰囲気で見守っている。目は無いけど。赤い浮輪さんにもお礼を言ったらいいって事よって感じで口角を軽く上げてサムズアップした。

「えっと、ボクは護衛棲水姫、みんなはベイって呼びます……転生者です」

 よろしくお願いします、とお互い頭を下げ合った。立ち上がると私よりも背が高い。奇しくもガンビア・ベイさんと同じくらいに見える。偶然……かなあこれ。

 それにしてもボクっ子か。この世界には結構居るけれど、この場合は私と同じなんだろうか。つまり、TS転生者。なんとなく親近感がある。小鬼は性別を感じさせなかったからなあ。レ級もなんかそういうの無かったけど。

 私と猫吊るしも名乗ったが当然のように既に知っているような反応で、そもそも陣営の転生者に知らない人は居ないと思うとまで言われてしまった。なんでさ。

「この子達は深海浮輪さん……こっちで産まれた時からの付き合いです」

 三人……人? ともかく浮輪さん達が護衛棲水姫さんの足下に並び、ビシッと敬礼を決めてくれた。かわいい。

「この子達は転生者ではない?」

「うん。あ、でも普通の深海棲艦……でもないのかな? なんでか人間さんに敵意持ってないです」

「ああ、この世界の深海棲艦はあくまで人間の負の感情とか意思が具現化したモノだからな。別に人間を殺したり傷つけたがる奴ばっかじゃないんだ。こいつらは……まあ、直接害のある感情が核にはなってないんだと思うぞ」

 猫吊るしは言葉を濁したが、表情と口振りからしてたぶんそれがどういう物なのか見当は付いてるんだと思う。ただ、護衛棲水姫さん本人には言い辛い内容だったっぽいだけで。え、何それ超気になる。後で聞いてみようかな。

 護衛棲水姫さんは感心した様子で話を聞き、浮輪さん達にそうなの? と確認をするも、本人達は知らないらしく三人揃ってさあ? という感じで体を斜めに傾げさせた。かわいい。

「あっ、うん。でも、ゴトランドさんがここなら平気って……それに、ほっぽちゃんが迎えに来るから……」

 急に、護衛棲水姫さんがそんな事を言い出した。へえ、北方棲姫も仲間に居るんだ……四国で凄い蹴ったりしたからちょっと顔合わせ辛いかもしれん。いや別個体だろってのは分かるけどさ……別個体だよね?

「ここから自力で逃げるのは無理だよぉ……ボク戦えないし……」

 その言葉は明らかに浮輪さん達に向けられていた。でも、私の聴覚には何の声も聞こえていない。そもそも喋れるなら最初からやってるだろうしね。つまり何か別の方法で意思疎通を行っているのだと思われる。護衛棲水姫だもんなあ、深海棲艦としての能力なんだろうか。ちょっと羨ましいかもしれない。

「浮輪さん達はなんて言ってるんですか?」

「ああっ、ごめんなさい……えっと、見つかる前に撤収した方がいいんじゃないかって。でも、ボクだと海で艦娘に見つかったら普通に沈められちゃうので……」

 現在は日の出ている間の襲撃が多くて、今の時間夜戦部隊は海に出ていないはずだけど……まあ、その辺りは知らないのかもしれない。川内さんが勝手にふらふらしてる可能性も完全には否定できないしね。だいぶ不満そうだったし。

「戦うのは苦手なんですか?」

「苦手っていうか……無理です……」

 さてこの護衛棲水姫さん、本人曰く、全く戦う事に関して適性が無いらしいのである。撃てば外し艦載機はまともに扱えず殴りかかれば足がもつれ魚雷は手元で爆発する。そもそもの話戦う事に恐怖心があり過ぎてまともに立ち向かう事すらできそうにない。なんとも残念な転生者なのだという。

「吹雪さんは凄いですよね……強いですし、なによりちゃんと戦えてるし……」

「チート無かったらだいぶ怪しいので、私の功績とは言い辛い所があるんですが……」

 一応真面目にやってるつもりなのは私のおかげと言えるだろうけど戦果についてはなあ。チート能力さんが強すぎて敵が怖くないレベルってだけだから私自身を褒められるとちょっと困る。

「護衛棲水姫は戦える能力じゃないのか?」

「あっ、うん。ボクのは翻訳能力だから……それで浮輪さんともお話できるんです」

 だから気に入っている。気に入ってはいるけど、色々と役に立てなくて申し訳なく思っているらしい。成程。チート能力で会話してたのか。それじゃあ私には理解できない訳である。聞こえない辺り音以外で会話してたんだろうか。音以外の言語……プログラミング言語とかも行けそうだなあ。

 猫吊るしは直接は戦えない能力という繋がりからか護衛棲水姫さんの能力に興味を持ったようで、色々と、それこそ根掘り葉掘り彼女の情報を聞きに行った。結果、どうやら彼女が世界中に艤装を普及するため同時通訳として奮闘している事が判明した。うん……割と重要人物では……?

 世界に対してどれくらいの規模で普及活動に勤しんでいるのかはよく知らないけれど、誤訳を起こさない上微妙なニュアンスも伝えられるチートっていうのはかなり有難いんじゃないだろうか。それに護衛棲水姫さんかなりの美人だと思われるし、顔色だけ何とかしたらきっと印象もかなり良い。声も美麗だし……あ、そういえばレ級達はちょっと籠ってるというかくぐもってるというか微妙な違和感があったんだけど、それが感じられないのもチートの恩恵なんだろうか。なんていうか、適材適所で普通にすごく役に立つ能力だと思われる。

「実は私より役に立ってたりしません?」

「いやっ……! それはぜんぜん、無いと思いますっ……!」

 うーん自己評価が低い。替えが利く程度ですって本人は言うけれど、私だってナンバーワンではあってもオンリーワンじゃないから替えようと思えば替えられると思うんだけど。たぶん小鬼とか猫吊るしの方が居ないと不味いと思うの。っていうか戦力だってもっと使いやすい転生者居てもおかしくないし。

 っていうか、他の転生者との交渉にも役立つよね。日本人ばっかならともかく外国語しか分からない人も居るかもしれないし。そう考えると間接的に物凄い数助けてる可能性もあるなぁ。浮輪さん行けるなら普通の動物とかも行けそうだし割と色々できそうな……

「あ、もしかしてその能力って連装砲ちゃんの言葉も分かったりするんですか?」

「あっ、そうですね! 連装砲ちゃん達のは分かります!」

 マジかよ羨ましい。ちょっとそのチートの使い方教えて……え? 習得難易度猫吊るしのと変わんないの? 万年単位か……厳しい。あれだ、聞き取る方だけならもっと短くなったりしない? いやそれでも千年単位行きそうか。なんか方法ない? 連装砲ちゃん喋れるように改造する方が早そうなんだけど。

 なんて遣り取りをしていたら、護衛棲水姫さんは私達を見ながらくすくすと笑い始めた。どうもつい漏れてしまったものであるらしく、慌てた様子でごめんなさいと俯いてしまったけれど。

「笑っていいんだぜ、この連装砲ちゃんとお話ししたいTS日本艦娘最強物理で殴ればいい系転生者様をよ!」

「もっと優しい言い方があろうもん……」

「くふっ……仲良いんですね……」

 なんか浮輪さんも優しい目をしている。目は無いけど。いやでも、言いたい事分かったら便利じゃん。結構あるんだよ何を伝えたいのか理解に苦しむ事。

 

 護衛棲水姫さんは一人じゃ帰れないからお迎えを待つと言う。なのでそれまではという事で少し突っ込んだ話をして海外の情報とかを教えて貰ったのだけど、艤装の普及はとりあえず進行してはいるらしかった。ただ、まだまだ配備まで行ける所は少ないようで日本のようにすんなりとは行っていないとか。まあ日本は楠木提督がこっちの関係者だろうから例外だろう。あと転生者企業が存在するとかいうアメリカも。

 会長以下幹部全員が転生者で構成された運営上手く行ってるのか疑問なその企業だが、どうもみんなチート能力と未来知識全開で仕事するもんだから成績は優秀通り越して世界一名乗って問題ないくらいになっているらしい。だがしかし、そうなると当然恨みとか妬みとか買いまくる訳で、あんまり平和ではないとかなんとか。まあサイバー関係糞強転生者とか空間支配系能力者とかそんな連中が居るみたいだから大丈夫ではあるみたいだけども。

 聞いた中だと一番ヤバいのが会長で、金稼ぎが滅茶苦茶上手い代わりにお嬢様口調で高笑いするらしい。普通に生まれ育ったTS転生者なのに。ロールプレイでもしてるんだろうか。転生者で姉妹やってるらしいけどみんなですわますわで会話するんだろうか。怖。

「みんな能力も凄くて、僕が一番微妙かな……って」

「いや、無生物と話せるって強くないですか……?」

「世界設定次第じゃ阿呆みたいに強かった可能性があるな。どこぞのおじさんとかみたいに」

 場合によっては魔法使い放題とかあったかもしれないとは猫吊るしの談である。この艦これっぽいけどかなり艦これじゃない世界では精霊とかそういうの希少らしく、その辺りに漂ってたりはしないから万能に使えたりはしないようだけど。いや居るのかよ精霊。それも集合無意識からの派生なんだろうか。

「この世界じゃあんまり使い道無いよね……」

「サイコメトラーもどきはできそうだけどなー」

「実体のない相手と話せるなら集合無意識と話とかできそうですけどね」

 まあ話せたからなんだって話ではあるんだけど、情報収集とかには使えそうな気がする。その辺の石ともお話できるとは言うけれど、実体のある意思のない物よりは実体のない意思のある物の方が会話はしやすいんじゃないだろうか。

 っていうか……実体がなくて意思があるっぽいものか。滅茶苦茶心当たりがあるっていうか、それならちょっと試してみてほしいかもしれない。ちょっと危険性がない訳じゃないんだけど、たぶん大丈夫なはず。

「あの、お願いしたい事があるんですけど、いいでしょうか?」

「あっはい! えっと、なんでしょう……?」

 急な私の言葉に護衛棲水姫さんは目を丸くしつつ人の良さそうな顔で少しだけ首を傾げた。自分が私に対してできそうな事に心当たりがなかったのだろう。まあそりゃあ、猫吊るしくらいしか今の私の現状知らない訳だからなあ。

「私のチート能力さんとお話できるか試してみてほしいんです」

 護衛棲水姫さんの首の角度は深くなった。

 

「わっ……あ、えっと、こんばんは……? ほ、ほんとに話せるんだ……!?」

 私の手を握り、護衛棲水姫さんが呟いた。説明を聞いても半信半疑のだいぶ疑寄りだったみたいだけれど、やってみたら普通に成功してしまって目に見えて困惑している。駄目だったら頭おかしいと思われてたかもしれない。拗ねちゃったと思われるチート能力さんに対話拒否されてるのはよろしくないから早めに解決できるならって思ったんだけど浅慮過ぎただろうか。いや成功してるから良いのかこの場合?

「あっはい。はい。よろしくお願いしますナイトハルトさん」

「ちょっと待って」

 チート能力さんてば殿下の名乗りかなんかやりやがったんだなそうなんだな?

 

「ごめんなさい、ボクあんまり昔のゲームって詳しくなくて……」

 いや、まあ……古いゲームだしね。私も散々ネタにされてなかったら知らなかったと思うし。っていうか、チート能力さん、能力使って話しかけてもネタまみれになるのか……

「えっと……こう、上手い事翻訳して言いたい事に変換したりとかできませんかね?」

「なんか凄い高度な事要求されてる!?」

「チート能力にもできない事くらいはあるからな?」

 猫吊るしからもツッコミを入れられてしまった。そりゃそうか。

 でも私の無茶振りにも護衛棲水姫さんは真摯に対応してくれて、うんうん呻りながら試行錯誤を繰り返してくれた。何か本人的にも引っ掛かる部分があるようで、たまに、故事成語も翻訳できるのに定型文は……とか熟語や慣用句との境は……とか呟いている。

 そのまま暫くじっと私の手を握りながらチート能力さんとぼそぼそベイベイやっていたのだけれど、ある時何か天啓でも得たかのようにハッと空を仰ぎ見た。そしてその口元から、私の知っている言葉を紡ぎ出したのである。

「宇宙のすべてが、うん、わかって……きたぞ……」

「ちょっと待って!?」

「受信したらヤバい奴だそれ!?」

 ゲッター線は駄目だよ!? と焦る私と猫吊るし。対する護衛棲水姫さんは、その反応を見てふふっと笑いを漏らすと、ちょっとだけ得意げな笑みを浮かべたのだった。

「ちゃんと、知ってる言葉に聞こえました?」

 今度は私達が困惑する番だった。聞こえたも何も完全に空間と時間とおれとの関係がすごく簡単なことだって理解っちゃったような事言ってたじゃん。少なくとも私の聴覚には完璧にそう聞こえていたし、猫吊るしだってそうだろう。

 でも、護衛棲水姫さんによると違うらしいのだ。護衛棲水姫さんは、そういう事だったのか、程度の意味を込めて、『あああああ』と発しただけだった。だというのに、私達にはちゃんとパロネタに聞こえてしまったと言うのである。

 曰く、言語なんて理解できないはずの木や石に意味が伝わるんだからそもそも言葉である必要は無かったと今理解できた、そうで。応用すれば自分の意思をそのまま相手に理解しやすい形で翻訳して、さらに文体の方向性も変えられるっぽいんだとか。

「すなはちかくし古語にし話しもうなり」

「なんて?」

「分かり辛くもできるのか……」

 いや、流石に大体分かるけどね? 古語にしたりもできるんだから新語……いや新語か? まあ最近の言葉にもできるし知ってる人しか知らないネタにも変換できるって事なんだろう。つまり。

「これならきっと、カールさんの言葉も翻訳できるはずです……!」

「すみませんその名前一旦忘れてもらえますか?」

「もう何言ってもあの声に変換されそうなんだが?」

 止めてくれ猫吊るし、たぶんチート能力さんはそういう事する。私ってば前世の記憶はまったく褪せないもんだから殿下ボイスは完全収録なんだ。止めてくれ。

 

 気を取り直し、再度私の手を握る護衛棲水姫さん。そのままもう一回挨拶に入り、今度こそちゃんとそれを終えたようだった。

「よろしくお願いします。『なんか』『つよい』さん……えっと。同時通訳しますね?」

「お願いします」

 いや、私の発言は常時理解してるっぽいんだけどねチート能力さん。でも私の方はそうでもないというか、ちゃんと話せたことがないので若干緊張する。

 私はチート能力さんが本当に拗ねているのか、拗ねていたとして、どうしたら満足なのかが知りたい。あと、また誰かしらを謎空間へ送るような事になるのは困るから、ちゃんとお話しして色々決めておきたい。だからその事を、護衛棲水姫さんの口からチート能力さんに伝えてもらう。

 私が発した言葉がそのまま護衛棲水姫さんから返って来る。迂遠なそれを受けたチート能力さんがどういう反応をしたのか、正確には分からないけれど。護衛棲水姫さんは返答を聞いて、明らかに困惑している様子だった。

「えっと……そのまま伝えます……ね? 『勝てたもん!』……だそうです」

「はぇ?」

 予想外な答えだった。勝てた。勝てたっていうのは、あの島風とのレースにだろうか。いや私は普通に負けてたと思うのだけど。うーん感覚とかは私と同じものを使ってるはずだし、視間違いって事も無いはずだから……えっと、それはつまり……

「チート能力さん視点ではあそこから勝てたはずなのに私が負けたから、拗ねた?」

「『拗ねてないもん!』……だそうです」

 あ、やっぱ護衛棲水姫さんの復唱要らないんだ……じゃなくて。拗ねてはいるだろそれ。理由が想定とちょっと違っただけで。

 だそうです要らなくね、と私の頭上で猫吊るしが溢した。護衛棲水姫さんもそうですねと頷いた。私もそう思う。いやそうだけどそうじゃなくて。

 うん。うーん。まあ…………なぁ。勝てたか勝てなかったかと言えば、実の所は、勝つ方法が全く無かった、って訳じゃ確かにないんだけどね。

「『なんかつよいはね敗北なんてしないし後塵を拝さないしやる事全部がめちゃくちゃでなきゃいけないの』」

 つまるところ、チート能力『なんか』『つよい』としては、やれば勝てそうな選択肢を選ばなかったにも関わらず本気でやって負けた感じになってるのが辛い、という事であるらしかった。アイデンティティが名前通りだからとかなんだろうか……っていうか普通にパロ入れて来るんだ。いいけど。

「でもその方法はライン越えでしょ」

「『でも勝てたもん!!』」

 頑な。だけど、私の考えてる方法とチート能力さんが思ってるのは一緒っぽいな。だけどそれはなあ……

「それって『つよい』かなあ」

「『!?』」

 護衛棲水姫さんは結構表現力豊かだった。

「確かに、私が思い付く限りの手を使わなかったのは認めるよ。それが妨害行為とかでもなくて、なんなら艤装をパージした時点で色々投げ捨ててるから今更ってのも認める」

 まあ、私が悪いんだよなこれ。たぶん中途半端な事したのが良くなかった。結構足掻いちゃったから最後の最後でその選択肢だけは取らなかったのがストレスになっちゃったんだろう。最初から走るのだけで諦めて負けてたら拗ねなかったんだろうなあって確信がある。

「でもね、チート能力さん。手に持ってた妖精さんぶん投げるのは『つよい』奴のやる事じゃないと思うんだ……」

 あのレース、私が最後に差し切られたのは私は加速ができなくて島風はそれができたからだ。でも実は、手に握っていた妖精さんを後ろに向かって全力で放り投げれば、ちょっとくらいの加速は可能だったのである。っていうか、そもそも妖精さんを艤装から取り出さなければ勝ってたかもしれないしね。手早くやったとはいえタイムロスで空気抵抗も増えてたからさ。

 私の発言に猫吊るしはえって顔になった。護衛棲水姫さんも微妙な顔である。

「『なんか』『つよい』チート能力さんとしてはさ、他のちっちゃい子を砲弾にして勝つ奴と、全力で挑んでくるライバルに潔く負ける奴。前者の方が強そうだとは思わないでしょ?」

「『ほんとだ!!』」

「だからあれはあれで良いと思うんだ。駄目?」

「『駄目じゃなかった!!』」

 なんか幼い子を口八丁で騙してる気分になって来たんだけど大丈夫かなこれ。でも、本音ではある。私一応人道的に生きてるからな! 艤装は投げたけどさ!!

「それじゃあ、またお話ししてくれるかなー?」

「『いいともー!』」

 護衛棲水姫さんは苦笑いだったが、ともかくチート能力さんの機嫌は直ってくれたっぽい。この子ってば、倫理観とか情緒とかが全く未成熟だったんだなぁ。これも私が能力に関して無頓着というか、全然分かってなかったせいだろうか。今後はちゃんと教育していくべきだろう。いやそんな事可能なのかはぜんぜん分かんないけども。ああ、でも、次話す時、ちゃんとこれは言っておこう。

 どんな選択肢を取ったとしても、風香はそれを超えて来たと思うよ。って。それだけは。

 

 

 

「本当にお世話になりました」

 あざまーと私の中から声がする。なんかいつもより自我がはっきりしてない? 気のせい? 護衛棲水姫さんは私達にどういたしましてと笑顔で答え、浮輪さん達は頑張れよ若人みたいな感じを醸し出す。浮輪さん達精神年齢幾つくらいなんだろ……?

「にしても来ないな迎え」

 私の依頼を終え、その背景であるチキチキぜかまし改二レースの説明まできっちりやり切ってしまったのだけど、護衛棲水姫さんの迎えは未だ現れる気配を感じられなかった。朝までまだ時間はあるし向こうは余裕を持った時間配分で動いているのかもしれない。

「そうそう見つかるような場所ではないけど……ん」

 スッと、空間そのものに滑り込む様に、私の索敵範囲内に突然人型のモノが生えて来た。それも三つ。一つはかなり小さく、一つは私とあまり変わらないくらい。最後の一つは私より大きく、そして何かを背負っているようだった。

「オマタセー」

 最初に声を上げたのは一番小さい人影だった。声質的に深海棲艦。とはいえ、敵意やなんかは感じない。転生者だろう。っていうか、視える姿形的に北方棲姫だな。

 ちょっとだけ離れた、私達の周りよりさらに影になっている場所に出現したその子はこちらに向かって駆けてきて、人影が二つある事に気付いて足を止める。目をしばたたかせてこちらを見やり、それが私であると気付くや、アレェー!? と驚きの声を上げて後ろの二人にその首だけを振り返らせた。

「吹雪居ルケド!?」

「ほんとですね!」

「そうだねー不思議だねー」

 え、私居ちゃ駄目だったの? 残して帰った方が良かった感じ? チート能力さん関係で時間食ってるのは予想外だったのかな?

「こんばんは吹雪、猫吊るし。私よ」

「それで分かるほど俺ら面識ないだろゴトランド」

「分かってるじゃない」

 一人一歩前に進み出た大きめの人――ゴトランドさんは笑顔で猫吊るしに答えると、困った顔をしている他の子達をそのままにこちらに向かって真剣な眼差しを向けて来た。何故か艤装を背負っているため臨戦態勢のようにも見える。それと、今まで会った時よりも遥かに強い圧力……おそらく魔力の物であろうものを感じる。たぶん本体で来てるのかな? 分身能力か何か持ってるみたいだし。

 お久しぶりですとゴトランドさんと挨拶を交わしている間、残りの二人はその背に隠れ隙間からこちらをちらちらと窺っていた。北方棲姫の方はおっかなびっくりといった様子で、もう片方はそれに釣られてついノリでといった表情だ。この子は服装的に……丹陽かな? 絶対幸運チートだな(偏見)

「大丈夫だよほっぽちゃん……怖くないよ」

 護衛棲水姫さんがフォローに向かい、二人もゴトランドさんの背から歩み出る。そのまま私の前まで来ると、人間の子の方が私の手を取り太陽のような明るい笑顔を撃ち上げた。眩しい。

「初めまして! 丹陽を名乗らせてもらってます! TS転生者です!! 『とっても』『ラッキー』です!!!」

 待ってくれたまえことばの洪水をワッといっきにあびせかけるのは。眼前の少女と女性の中間くらいの娘は目をシイタケのごとく輝かせ、ご高名かねがね伺ってますと詰め寄って来る。近い近い。この子近い。島風も近いし何なのレア駆逐艦はプライベートスペース狭めなの? っていうか私マジで有名なのかよ恥ずかしいんだけど。

「猫吊るしさん本当に猫吊るしなんですね! 猫土下座さんと猫パンチちゃんと猫垂らしさんもそうでしたけど!」

 あ、俺以外にも居るんだって反応の猫吊るしとも握手を交わして丹陽さんは下がって行った。流石に0距離がデフォではないらしい。挨拶のために連れて来てくれたんですねとゴトランドさんに笑顔で感謝していたけれど、言われた本人は何か言葉を濁しているような反応で、どうやら別の目的が有りそうだと察せられた。

「アノ……ヨ、ヨロシクオネガイシマス……!」

 護衛棲水姫さんにコワクナイヨーと背中を押された北方棲姫が手袋を外し、ちっちゃなおててで私に握手を求めてくる。それ外れるんだ……

 ちょっと力を入れたら潰れそうに見えて深海棲艦だからそうでもないであろうそれを軽く握ってシェイクハンド。北方棲姫の表情は解れる様にほにゃりと崩れ、安心した様な嬉しそうな笑顔になった。おいなんだこの生物可愛いぞ。でもどうせTS転生者なんだろ騙されんぞ。って思ってたら横から見てた護衛棲水姫さんめっちゃほっこりしてるんだけどお前……まさか……?

 

「吹雪、お願いがあるの」

 挨拶も済ませ、迎えに来ただけで用事とかないから撤収するかって空気に他の娘達がなった所で、ゴトランドさんが急に切り出した。一人だけ明らかに異質な空気だったので意外ではないけれど、なんだろう、以前の人助けの時とは少し違うトーンな気がする。

「……内容次第です」

 ゴトランドさんは何故だかクスリと笑った。察しがいいのねと小さく呟き、改めて私の目と目を合わせて来る。綺麗な瞳だ。たぶん美人さんだし、この人にガチ恋してる人は多そうだなって場違いな感想が浮かんだ。

「これは凄く個人的なお願いよ。世界的に見て誰が助かる訳でもないし、むしろ……下手をしたら死者が増える可能性もある、凄く個人的なお願い。だから断られても絶対に禍根にはしないって、先に言っておくね」

「正直ですね」

 なんかむしろガチっぽいんだが。え、何させる気なの? 私一応組織に所属する人間だからあんまり派手なのは断らなきゃいけないんだけど……いやそれ以前に犠牲者が出るような頼み普通に嫌なんですけど。

 ゴトランドさんは数拍置いた。私に咀嚼させる時間であると同時に、ゴトランドさん自身に迷い……じゃなさそうだな。可能かどうかに自信が無いような感じに見える。単純に暴力振るわせるとかじゃなさそう?

 周りのみんなは何も聞いていないらしく、突然の事に黙って行く末を見守る態勢になっている。猫吊るしも不審気な瞳を向けて私の頭に仁王立ちだ。ゴトランドさんはその視線を真っ向から受け止めると、そのまま口を開いた。

「私をあの子、神様ではない魔法使いを自称する子の所に飛ばしてください」

 お願いします。ゴトランドさんは頭を下げた。

 ちょっと事態を飲み込むまでに数瞬掛かった。え、正気です? あの子たぶんかなり愉快犯的な事してくるタイプですよ? 会ってどうする気なんだろう。っていうかそもそもの話。

「……それって実際可能なんですか?」

 警戒は確かにしていた。でも本当にできるのかは実は分かってないんだよね。まして任意でとなると私にはどうなるかまるで見当が付かない。ただ、ゴトランドさんは無理ではないと判断しているらしかった。

「沖縄の吹雪を飛ばしたでしょう? 彼女は集合無意識の一部で、艦娘の魂の一部でもあるの」

 だから魂が主幹となっている転生者も理論上飛ばせるはず……であるらしい。そういえば沖縄に出張してましたもんねゴトランドさん。当然そっちの事情にも明るいんだ。それにそうか、島さんが行ってるんだから他の人も行ける……のか?

「いや、でも吹雪さ……吹雪の場合、私の魂へ自分から入った結果らしいので、それができないと……」

「ううん、今回はもう一つの、島風のやり方を真似させてもらうつもり」

 島風の? って、あれは指輪のバグとの相乗効果だったと思うんだけど。自力で何かしたとかじゃなくないです?

「成程、夢経由か」

「ご明察」

 猫吊るしが正答したらしい。うん……? えっと、確かに風香は寝てる間に迷い込んだっぽかったけども。あれってケッコン指輪を通したから有り得ただけじゃないの? 私とゴトランドさんじゃ成立しなくない?

「えっと……ゴトランドさんとケッコンしろと?」

 周りの三人がどよめいた。私以上に状況を飲み込めてなさそうだから、ケッコンカッコカリの事だけ分かった結果だろう。

「それも考えたけど……たぶん、もうバグ修正されてるから無意味だし、私と吹雪ができるほど親しいかって言うと疑問で」

 それはそう。嫌いじゃないしむしろ好きだけど、ゴトランドさんから見たら戦闘力が頼りにはなってもそれ以上って事ないだろう。あまりにも交流が少ないですもんね。

「だからこの子に協力してもらう事にしたの」

 ゴトランドさんは自分の背負ったそれを指先で軽く叩いた。艤装……? いや、中に一つだけ気配を感じる。サイズ的には妖精さんか。

「ここには今、妖怪猫土下座……つまり、猫吊るしと同じ転生者の妖精さんが入っているわ」

 成程、と護衛棲水姫さん達が少し納得の色を見せた。どうやらそれができる子、というのは間違いないらしい。

「彼女の能力は『ゆめが』『いっぱい』、夢の世界を操れる夢魔みたいな子だよ……代わりに大体寝てるんだけどね」

「起キテテモ艤装カラ出テコナイケドネ……」

「よく連れ出せましたね!」

 引き篭もりかなんかなんだろうかその子。いや、まあ100人近い転生者の中にはそういう人も居るだろうけどもさ。

「普段はリベッチオの艤装に夢を見せて無限弾薬を実現してるんだけど、今回は私と吹雪を繋いでもらう手はずになってるわ。勿論、吹雪が承諾してくれたらだけど」

 夢の世界は精神と心の世界。その深くは魂と通じ、繋がり合い行き来できれば底に溜まった淀みを祓う事すら可能らしい。中々に強い、っていうかマジでどっかで聞いた能力なんですがそれは。やっぱ普通にチート能力に分類されるレベルだよなあアレ。

 今回の手順を簡単に言うと、私とゴトランドさんが寝る→ゴトランドさんが猫土下座の能力で私の夢を通って魂まで入って来る→チート能力さんに魔法使いの子までの道を開いて貰う。って事になるらしい。まあ、信用云々は置いておいて、実現できるなら私のデメリットとかは特に無さそうだけども……

「あの、それって戻って来れるんですか……?」

「分からないわ」

 これまた正直な回答だった。一応、島風が無事に目覚めている事から戻るの自体は可能だろうという話だったが、魔法使いの子のサービスだった可能性もあり、確実に成功するとは全く言えないのだという。

「それでも行きたいってのか?」

「ええ。それに、正直に言っちゃうと、そこまで戻れなくなる可能性が高いとは思わないのよね」

 もし行ったら二度と戻れないような穴なのなら、それこそ例のあの子がきっちり塞いでいるんじゃないかとゴトランドさんは分析しているらしい。そうかなあ。なんか普通に忘れてるとか有りそうなんだけど。

「それに念のため丹陽も連れて来たし」

「私そのために呼ばれたんですか!?」

 丹陽さんは超幸運のチート転生者なのだそうだ。だから枕元に置いておけばその恩恵がある――かもしれないらしい。そこも不明確なのね。

「そんな何の保証も無い事をしてまであっちへ行って、いったい何をしたいんですか……?」

 私の言葉にゴトランドさんは少しだけ眉を歪めた。当然の質問で、される事は分かっていたのだろう。表情に反して答えはすぐに返って来た。

「ごめんなさい、それは言えないの。私の目的は、貴方が知らない方が良い方向へ進むような事情を含んでいるから……」

 なにそれ。そりゃそういうのもあるだろうけど……いや、なんかこの間同じような対応をされた覚えがあるな。あれはそう、あの日の夜のレ級からだ。ストレスがどうとか言われたような覚えがある。

「もしかして、大将さん関連だったりとかしますか?」

「……鋭いね」

 ゴトランドさんはちょっと驚いたようだった。内容は言えないみたいだけど、それで間違いないらしい。そういや私に知られると死ぬらしいですね大将さん。それを言えないって事は死んでほしいとか害したいとかじゃない訳で、むしろどう考えてもその逆だろう。そしてそれをするために私を利用したいという話なのかーそーなのかー。

 いや結局人のためじゃないのかそれ。何なんだこの人。つまり個人的に大将さん助けたいから力を貸してって事? 無限に良い人かよ。それなら最初からそう言ってくだち!!

「ちょっとチート能力さんに聞いてみます」

 まあどの道、私には可能かどうかすらよく分かんないから任せっきりになる訳なんだがな!! 何しろどこをどう切り取っても私のする事が存在しない。夢に入って来るのは猫土下座任せ、入ってから魔法使いのあの子の所に行くまではチート能力さん任せでその後はゴトランドさんがどうにかしなきゃいけないのである。私がする事なんて精々頑張って寝るくらいだろう。

「……なあ、それ今じゃなきゃ駄目なのか?」

 私が聞いてみるかと自分の内部に集中しだした瞬間、猫吊るしが突然疑問の声を上げた。どうやら私と同じく結局人助けなんじゃないかという結論に達したようで表情から険はとれているが、今度はどうにも得心が行かないという顔になっている。

 でも言われてみると確かにそうだ。もう数日で何か大きな動きのある日を迎える訳で、リスクがあるならそれが終わってからの方が良いに決まっている。それにレ級から説明の約束をされてるんだから、そこ以降なら事情だってちゃんと話して問題なくなるはずなのだ。

「あ、それなんだけど、どうも吹雪からの繋がりってもう数日くらいで閉じちゃうみたいなのよ」

「えっ」

「私も詳しい事情は分からないんだけど、そのー……大将はそう言ってたわ」

 何か変化でもあった? ってゴトランドさんはおっしゃった。いや、そんなもん……あったなぁついさっき。護衛棲水姫さんを通してちょっとお話ししたよなぁ。え、あれのせいなの? まあ確かに、もう魔法使いの子の手を離れた存在なんだなって感覚にはなった気はするけど。かなり人格がちゃんとあるっぽい感じなせいで。

「あれ、じゃあもしかしてもう繋がらないとかない?」

「あ、それは大丈夫です! さっきからアウグストちゃん『オッケーだもの!』って言ってます」

 護衛棲水姫さん!! もう殿下の事は脳から消去してくれませんかねえ!?

 

 

 

 

 

 そんな訳で私は寝た。

 ゴトランドさんの持って来てた毛布に包まって猫吊るしをカイロ代わりにしてたらあっという間に眠りについて、気が付いたらそこはふわふわしたお布団の中だった。いや夢の中だろここ。なんで初手で布団入ってんだよ。

 どうも猫土下座の能力は相手を明晰夢状態にするなんて事も可能らしく、姿こそ見せなかったものの、影響下に入った私をここが夢だと理解した上で目覚める事なく自由に動けるようにしてくれているようだった。結構ヤバい能力だな?

 周囲を見回せば、ここは見慣れた前世の自室。死んだらしいその日直前くらいの状態である。成程、すり減らないせいで前世の記憶が色濃く反映されてるっぽいかな?

 手近にあったスマホを起動してみれば、懐かしい事に現世では未だ発売されてない、むしろ発売される未来が来るのかすら不明なアプリや電子書籍なんかで中は溢れ返っていた。どうも一緒に眠った猫吊るしすらいないようだし、人が来るか事が済むまで中身を堪能しても良いかもしれない。

 なんて思いつつPCはどうかと慣れた手つきで電源を入れれば、起動中のモニタに映る、最早見慣れた雪ちゃんの顔。そういえば、記憶にあるより部屋が少し広く感じるような気がしなくもない。座ってみれば椅子も全く高さが合わない。価値観とかそういうのはともかく、私は女の子の体をとっくに自分の物だと認識していたらしい。まあ性自認が男なのは変わんないんだけども。

 ただ、なんだろう。どういう訳だか髪が異様に伸びている。元々はショートで、吹雪になってからは肩まであったのだけれど、なんでか今は腰まである。順調に長くなってるんじゃないよ邪魔だよ流石に。服装は寝た時のままなのだけど、これはこっちでも布団に入ってたから仕方ないだろう。

 ちょっと今の自分の容姿が気になってしまい、私は起動しきったPCをとりあえずスリープさせて、部屋の外へと出る事にした。人と会うのに髪が跳ねてたりしたら恥ずかしいし、ちょっと洗面所の鏡を覗いてみようと思ったのである。

 部屋のドアを開けると、そこは伊吹の家の自室だった。

 いやどういう繋がり方だよ。部屋から部屋じゃ外出らんないじゃん。つーか流石私、インドア派。部屋から出ようって気が微塵も感じられない構造である。

 ただまあ、ここに繋がってるならそれはそれでやる事がある。それ即ち、着替えである。人と会うのにこの格好は無いだろう。幸いこっちなら体のサイズに合うのがある。向こうにあるのは成人男性用だから助かったかもしれない。

 適当にクローゼットをひっくり返し、艦娘になる前のいつもの服を身に着ける。スカート類なんて全く無いし穿く気もないのでジーンズもどきにその辺に掛かってたシャツを着て、上からコートを羽織って終わりである。いや寒くはないんだけど一応外は冬な訳で、コートは気分の問題である。

 ついでに靴下も履いてからもう一度ドアを開いてみるが、やっぱりその先は前世の私の部屋である。やだ出れない。仕方がないので掛かっていたカーテンを開き、窓から外へ出る事にした。

 果たしてその先は最初の鎮守府の自室であった。

 私どんだけ外出たくねーんだよ。

 最初は曙と、その後は島風と生活した部屋だが、実の所大した特徴は無い。精々二段ベッドがあるくらいである。私達そんな部屋のレイアウトとか拘らなかったからなあ。いやテーブルくらいはあるけどさ。

 ともかく窓と窓とが繋がっているようなので、鎮守府の部屋にお邪魔してみる。中には特に何もなく、連装砲ちゃん達が居たりもしなかった。仕方がないのでそのまま向かいのドアを開く。

 すると案の定、そこは次の鎮守府の部屋だった。

 中略するがその次の部屋もやっぱりその次の鎮守府の部屋で、その次の部屋もそうだった。だから最新の部屋まで行けば何かあるんじゃないかと進んでみたが、その先にあったのは、私が前世で一番最初に暮らしていた部屋である。

 もうオチを察していたけれど、さらに先へと進んでみたら、そこにあったのは最初に私が目覚めた前世の部屋でしたとさ。無限ループって怖くね?

 一応伊吹の部屋も覗いてみたが、私がさっき散らかした跡があり、普通にループしてると分かるだけだった。うーん、困った。これだとゴトランドさん入って来れなくね? いや夢だしどうにかなるのかな? チート能力を使うんだからどうにでもなりそうではあるし。

 とは思ったものの、よくよく考えたらこれは夢。別に、私の深層心理そのものとかそういう話じゃあない。たぶん。だったら、ちょっと無茶をしたって大丈夫だろう。私はそう思い込む事にした。

 

 川内さんから習った通りの型を取り、私は体に気合を込める。力は問題なくぐるぐる回り、ここでも普通に発揮できそうだと理解できた。

 なので思い切り跳び上がり、私は天井を強めに殴りつけた。

 ぼむんと拍子抜けな音を立てて、屋根が根こそぎ吹き飛んでいく。流石夢の世界、物理法則もおかしいらしい。

 天井だったものが空の果てまで飛んで行くのを眺めながら、私は開いた大穴から軽い跳躍で跳び出した。部屋の上には満点の星空が広がっていて、だというのに地平線の空は太陽に照らされて青々と輝いている。流石夢、よく分かんない光景だ。

 私が降り立った外の地面はなんだかもふっとした毛の生えた色とりどりの大きなクッションのようなもので埋め尽くされていて、正直かなり歩き辛そうだった。まあ跳ねてけばいいだけなんだけど、自分の夢だと思うとこう……感性アレだなと思わなくもなくてちょっともにょる。

 ただまあ、あの部屋の中で待ってるよりはここの方がマシだろう。視界は良好で遠くまで見渡せるから、誰かが来たら一発で分かる。ここからどうやって私の魂まで行くのか、それともここがもう魂の内部なのか。正直まったくよく分かんないんだけど、とりあえず誰か来てから相談しよう。

 そう思いつつふかふかなクッションの上に横たわる。あっこれ凄い現実にも欲しい。今度通販で似たようなの探してみよう。

 なんて、呑気な事を考えていたら、何かが綿を踏みしめてこちらへやってくる音が聞こえて来た。その人はどうやら進むのに全く苦労していないようで、軽快な足取りでこちらに向かって歩いてくる。

 凄い、体の使い方がとてつもなく上手。体がクッションに沈み込む前に足を上手い事滑らせて、しっかり上を歩いている。私もチート能力さんのおかげで似たような事はできるけど、結構力任せな所があるから見習いたい。感心しながら上体を起こし、もうかなり近くまでやって来ていたその人と向かい合う。

 そこに居たのは、全く見覚えのない、私と同じくらいの年で桃色の髪をサイドテールにして白い帽子を被った、紅い瞳の女の子だった。

 

 

 




書きたいものを書くと酷い物が出来るタイプの人間なのでここから先本当に酷いです。ご注意ください。





改三……改三…………?


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夢の中へ行ってみたら驚きの結果が!

 立ち上がり、改めて視界に捉えてみるが、やっぱりその女の子には見覚えが無かった。

 いや、それは彼女のどちらかと言えば柔和な部類に入る顔の話であって、全体の姿形にではない。上から下までちゃんと見ると、一番特徴的なのは白い帽子の横から飛び出した薄桃色なサイドテールの、その先端の方だけが何故か青みがかっている部分だろう。このグラデーションは一部の艦娘に見られる不思議な質感であり、可愛らしいワンポイントでもある。だからモチーフ……というか、何を立体化した存在であるのかは概ね理解できるんだけども。

 この娘、服装が完全にいい男なんだよなあ。帰り道の公園のトイレ前のベンチに座っていそうな。シャツを着ていて胸元がはだけたりはしていないって違いはあるが、見るからに何処ぞの作業員っぽい青のツナギ姿なのである。そこ以外は白露型駆逐艦の春雨さんにとってもよく似ているんだけれど。

 あと何故か、被ったベレー帽のベルト部分には初心者マークがあしらわれていて、その左右には分かれて艦 これと印字されている。成程。

「提督、おはようございます」

「春雨は司令官呼びだよ、猫吊るし」

「そうだっけ……そうだわ」

 一瞬だけ少女っぽい仕草でこちらに呼びかけて即座に素に戻る春雨もどき。っつーか猫吊るし。私同様前世の記憶は薄れないのでちゃんとエミュれば間違えなかったろうに。まあその場のノリで適当にやった結果だろうけどさぁ。

「その格好どうしたの?」

「なんか現実から目覚めたらこうだったわ」

「自力で変身したとかじゃないんだ」

「服は自分で選んだけどな」

 それでなんでウホッって反応されそうな装いになるのか。コレガワカラナイ。いや似合わないとかそういう事はないんだけどさ。ちなみに帽子とシャツは初期装備だったらしい。制服は付属しなかったのか……

「その姿って春雨と妖精の二択関係ある?」

「あるんじゃないかと思うけど確証はないなー」

 猫吊るしは転生する際、意識が暗転する直前にその選択を突き付けられ、咄嗟に妖精を選んだという経歴を持つ。結果として妖怪猫吊るしとしてこの世に生を受ける事になった訳だが……逆を選んでいたらどうなったのか、その答えがこれなのかもしれない。こうして見ると完全にTS転生者なんだなあ、普段は妖精さんボディだから性別を感じる事すらないんだけど。

「若干猫吊るし要素残ってるのなんなの」

「結局夢だから色々混ざってんじゃないかね。なんか吹雪も髪長いし」

 それを言われると反論のしようもない。猫吊るしは猫吊るしなんだから要素があってもおかしくないけど私のは完全に原因不明だしね。前世も今世もこんな伸ばした事ないし、長髪に憧れた事もない。キャラとしては好きだけども。黒髪ロング。

「妖精さんになったりはできない感じ?」

「できないと思うけど、別に困らないだろ?」

 確かに夢の中限定なら別に困らない。外でこのままだと私が全力を出せなくなるのでちょっと困ってしまうのだけど、それだって艤装のまともな運用を諦めれば何とかなる話である。でもほら、普段が普段だからさ。

「頭に乗せたら流石にバランス悪いなって」

「肩車の方が良さそうではある」

 そういう事になった。

 

 

 

 止まっていても仕方ないだろうと私は猫吊るしと歩き出す。ゴトランドさん曰く一度合流した方が深部を目指しやすいらしいので彼女を探さなきゃいけないんだけど、もうこの辺りまで来てるんだろうか。あの人も寝ようとしてたけど私の方がすぐ寝ちゃったから外がどうなってるのかよく分からんのよね。なので雑談しつつ辺りを探してみる事にしたのだ。

「そういえば選んだって事は服は自由に変えられるんだ?」

「ん、いや、服はなんかいっぱい落ちて来てたぞ。空から」

 どういう状況だよ。この世界雨じゃなくて服が降るの? クッション敷き詰められてるしふわふわし過ぎだろ。

「あっちに穴が開いてて、そこに向かってこう……ひらひらしてたんで取って着替えてたら何かが飛んでくのが見えてな。気になってそっちに歩いてったら吹雪が居た訳だ」

 どうも猫吊るしは私が上空に殴り飛ばした屋根を目撃したらしく、ただ彷徨うくらいならとその根元の方へと歩き出し、そしたらすぐに私に遭遇したようだった。スタート地点が意外と私と近かったのかな?

「あ、ほらあれだ。あのでっかいヤツの上に穴がある」

 指差された方を見れば確かにそこには他よりもかなり大きなクッションが切り立つ崖のごとく鎮座している。気になったので猫吊るし諸共上まで跳べば、そこには半径50メートルを超えるかくらいの大きな穴が開いていて、その真上からはたくさんの何かがゆっくりと舞い落ちるように降りしきっていた。思ったよりも量が多い。

 近づいてみれば成程それは服である。よくありそうな普段着っぽい物から和服、水着、メイド服、果ては鎧に宇宙服。色も形も様々で統一性は感じられない。普通に清潔そうで、どれも一揃いになっていて欠けている事も無さそうだ。ただ一つ問題があるとすれば、それらが全部、何処かで見た覚えのある物ばっかりな事だろう。

「なんでコスプレ衣装が不法投棄されてるんですかねえ」

「俺に聞かれても」

 どこぞのケモミミ陸上競技選手の勝負服達が目の前を通過して行く。その奥ではプリティなキュアしてくれそうなドレスとお邪魔な魔女の衣装が揺れている。あ、ビキニアーマーまであるわ。無差別すぎるだろジャンルで分けろ。

「たまに下着混じってんだけど元キャラとサイズ合ってんのかね」

「さあ……?」

 そもそもサイズ知らないキャラの方が多いしなあ。明らかに今の私にも猫吊るしにも合わなそうなのが混じっているし元のイメージに近づけようって気は感じられるけれど。

 見上げれば服は次から次へと落ちて来る。物によってはふわふわと漂いながら下に向かって行くのだが、どうやら穴の範囲外に出る事は無いようで、縁に引っかかったりもしていない。

 穴の中を覗いてみると、少なくとも視える範囲には底がなく、光の届かない暗闇に服が消えて行くのだけが確認できた。もしかしたら無限に続いていたりするのかもしれない。っていうかよく見たら穴の内壁はスポンジ製っぽい。割と落ちても安全そうな気がして来た。

「ここ順路だったりとかしない?」

「あー確かに魂の方に繋がってそうではあるな」

 夢から魂にって言うとどうしても底へ底へと潜って行く印象になる。ここならかなり深くまで行けそうな気がするんだけど……まあ、確証とかは何一つない話だ。猫土下座さんがちゃんとナビゲートしてくれるといいんだけど。

「あっ」

 私の耳に、視慣れたものが飛び込んで来た。上を見れば確かにそれはそこにある。ちょっと斜め前に跳び、落ちて来る布地を掴んで対岸に着地すれば、確認するまでもなくそれは着慣れたいつもの制服である。

「……着るのか?」

「えー……どうしよ。スパッツ無しのスカートはキツいんだけど……」

 いや、マジでどうしよう。手元にある黒い吹雪改二の制服に目を落とす。いやね、流石に艤装投げ捨てたのが昨日の今日なのに制服も穴に吸われるのを見過ごすなんてのはちょっと無いかなって。そう思ったから手に取ったんだけど、着たいかと言われると別に着たいわけではないんだよね。そもそもスカート好きじゃないから私。制服のデザインとかが気に入らない訳では全くないんだけどさ。

 ちょっと悩む。床においてったら穴に捨ててくのと大差ないし、かと言って袋もないのに手に持ってるのもなんだか煩わしいだろう。着てしまうのが一番いいのだろうけれど、スカート一枚すぐ下着というのはどうにも落ち着かないのである。仕方がないので私は間を取る事にした。

 まず猫吊るしを下ろして上着を脱ぐ。そして制服の上部分を着て、ズボンはそのままにスカートを穿く。そして上着の袖部分を腰に巻いて、猫吊るしを乗せたら完成である。

「お前それで良いのか?」

「いやたまに居るじゃんスカートの下ジャージな女子」

 あれの亜種だと強弁したい。

 

 

 

 服を一新して暫く周囲を見て回ったのだけど、どうもこの辺りは他に目立つものは何もなさそうだった。穴のある区画だけ一段高い所にあって、四方は崖に囲まれている。そこから見える景色はどの方向も見渡す限りの毛生えクッションの荒野だったのだ。

 私が吹き飛ばした屋根のところだけめくれているため他の場所も地中には何かあるのかもしれないが、判別できそうな特徴は見当たらない。まあ、適当に掘ってれば何処かに出そうな気はするけれども。

「ここで待ってるのが一番見つけてもらえそうじゃない?」

「だなあ。上から降って来てるのも見えるだろうしとりあえずここ目指しとけば安牌な雰囲気はある」

 私の夢を通りたいという話なのでゴトランドさんの方から来てくれるはずだけど、どこから来るのかは全く分からない。そもそも合流せずに通り過ぎる可能性があるのも困りものだ。挨拶はするって言ってたけど、合流できなかったら先に進む事を優先したいだろうし。

 暫く降ってくる衣装をお題にオタク談議に花を咲かす。その結果分かったのだけど、落ちてくる衣装の中に猫吊るしだけが知っていて私の知らないようなものは存在しないようだった。逆はたまにある辺りやっぱり私の夢、という事なのだろう。 猫吊るしのも混ざってる可能性は否定できないけれどもね。

 会話の途中、ふと見ると白露型の制服が宙を舞っていたので取ってあげたら

されてしまったのでリリースした。普段スカートなの実は思う所があったりするんだろうか。私みたいな格好になるのが嫌だっただけの可能性もあるが。

 

 そんなこんなで少し経ち、猫吊るしがここに入っちゃってるのは一緒の毛布で寝たからかねえ、なんて二人で考察していた頃である。私達がやって来た方向に何やら大きな影が差した。見ればその星空の向こう、明るく陽が輝いている方から大きなものが進んできている。それは形状的には船に見えた。

 船の上には軍艦っぽい武装が見えるが、前世の記憶と照らし合わせてもそのシルエットはまったく見た覚えがない。おそらく外国船で、さらに言えば形状的に空母ではないかと思われるのだが、何だろう、結構無理に改造した様な跡が見えるような気がする。歪ではなくそういうものとして成立してる感じもあるけれど、本来の形とはまた違うような印象を受けるのだ。あと空を飛んでいるが、これは夢の中だからだろう。

 船はぐんぐん近づいて来て、崖に接岸すると錨を降ろす。そして大きな板をこちらに渡すと、それを通って四つの影が現れた。それは紛れもなくゴトランドさんである。それと、護衛棲水姫さんっぽい人とどちらかと言えば雪風に見える人と推定北方棲姫。私と猫吊るしを見つけると手を振って駆け寄りつつ、困った顔で口を開いた。

「どうして肩車をしているの……?」

 いやなんか、収まりが良かったから……つい……

 

「猫吊るしさんだったんですか!?」

「てっきり夢の世界の人かと……」

「なんか春雨っぽいんだね?」

 合流してからずっとしていた肩車を解いて猫吊るしの事を説明したら、四人はたいそう驚いた様子になった。本人は何故かドヤ顔である。見た目春雨っぽいから違和感が凄い。転生者ってあんまり自分の性格と適性艦は関係ないのだろうか。いや猫吊るしは春雨適正とは限らんけども。

「ところでそちらの三人は?」

「ああ、こっちも夢の世界なせいかちょっと見た目が違うけど、ベイとほっぽちゃんと丹陽よ」

 ベイ――護衛棲水姫さんは外の世界より血色が良く、かなり色白な人程度に収まっている。それと、私とは逆で短髪だ。ただ髪の色などは変わっておらず、全体的にはやっぱりなんか白っぽい。

 ほっぽちゃん――北方棲姫も同じような状態で、特徴的な角が消えて代わりに髪留めが付いている。髪の長さなどは変わっておらず、ちょっとだけ育ってる気はするけど体型的に子供未満なのも変わらない。本人はなんか不満そうだった。

 丹陽さんは、逆になんでか縮んでいる。年齢的に私よりも下に見え、服装も丈の短いワンピースのようなもので丹陽というよりは雪風――それも改装前の姿に近い。護衛棲水姫さんの表情がちょっと怪しい。

 夢の中であることだし、それぞれ転生前の要素が現れているのだろうか。まあ私の髪も猫吊るしの状態も前世まったく関係無いからそういう話では全くない可能性も多分にある。夢って自分で操作してるけど自分の体じゃないとかまあまあ普通の事だしね。

 ちなみにゴトランドさんは全くと言っていい程違いがない。一人だけ安定している、という事だろうか。私と十歳くらいしか変わらなく見えるけど……いや十年って大きいか。ともかく、傾向としては転生して長い方が姿が変わってない気がする。二年未満の猫吊るしと同じく深海棲艦が現れてからであろう二人の変化が著しい事からして。

「しかしなんで皆で来てるんだ? てっきりゴトランドだけで来るもんだと思ってたんだが」

「私もそのつもりだったんだけどね……」

 そもそもゴトランドさんはお守り代わりに丹陽さんを置いておく以外、他の人を巻き込む気は無いようだった。私だって通り道になる以上の事を求められていないし、猫吊るしに至ってはそもそも呼ばれていなかったりする。でも他の転生者の皆はゴトランドさんに対して強い仲間意識を持っている様で、放っておいてはくれなかったのだ。

「付いて行った方がラッキーがおすそわけできるかもって思ったので!」

「私ならここからでもワープで一緒に帰れるかなって思って」

「『なんか』『つよい』ちゃんとゴトランドさんがちゃんと意思疎通できるか心配で……」

 三人とも、それぞれ自分が役に立てるだろうと判断して付いてきてしまったんだそうである。つまり現実だと全員寝てるって事なんだが、一応浮輪さん達が見張りに立ってくれてるので安心してもいいそうな。っていうか、北方棲姫ワープ能力なのか、道理で突然現れてた訳だ。

 ゴトランドさん的には危ないかもしれない橋を自分以外に渡らせるのはまったく本意でないようで、気遣いが嬉しくはあるが自分の都合に付き合わせている事がかなり申し訳なさそうだった。でも三人からしたら仲間を放って帰るのは心苦しいに違いないだろうし、そりゃあ一緒に来もするだろう。全員良い人っぽいし。

「船はこれ、ゴトランドか?」

「うん。私の改二、空母になったゴトランドを擬人化ならぬ擬艦化したものね。猫土下座が移動手段にって出してくれたんだ」

 ああそれで多少違和感があったのか。空母化ってかなり無理矢理やってそうだし本来のゴトランドとはかなり形が変わっているのだろう、見覚えがない訳である。それにしても流石夢チートと言うべきなのか、普通にそんなの出せるんだなあ。便利。

 ちなみに猫土下座自身は船内で舵を取ってるそうなのだが、閉じこもってて出て来ないとの事。ちょっと挨拶しておきたいけど本人が会いたくないんじゃ仕方ないか。

「……あー、一応、夢の中で時間経つのはかなりゆっくりみたいだけど、進まない訳じゃないから私達は行くね。付き合ってくれてありがとう、吹雪。それと猫吊るしも」

 やはり時間を掛け過ぎるのはよろしくないのか、ゴトランドさんは急ぎ出発するという。手を差し出してきたので軽めにとって握手を交わす。猫吊るしとも同じ事をしたゴトランドさんはじゃあと言ってその場を離れ、艦にしっかりとした足取りで戻って行った。

 その後を続く北方棲姫、丹陽さん、護衛棲水姫さん、猫吊るし、それと私。

「えっと……」

「自分の魂まで行く訳ですし、そこまでご一緒させてください」

 ゴトランドさんは正直そんな気はしてた、という苦笑気味な笑顔だった。だってここで起きるの待ってても仕方ないし、私の夢と魂通るなら私の案内があった方が絶対いいじゃないですか。私構造全く知らないけど。

 ちなみに猫吊るしは吹雪の魂とチートにめっちゃ興味あるとの事である。同じ立場なら私もそうすると思うから文句は無いけどちょっと色々見られるのは恥ずかしい気がせんでもない。

 

 甲板から辺りを見回すが、やっぱり天から降り注ぐコスプレ衣装とその落ちる先以外に目立った要素などはなく、その大穴にしても全長100mを超えるであろう空母ゴトランドが入って行くにはちょっと大きさが足りていない。ここからどうやって先に進むのだろうと出発に揺れる艦上で丹陽さんを肩車していると、船体はみるみるうちに地上を離れ空へ空へと向かって行った。

 ぐんぐん迫る夜の空、二つのつぶらな目の付いた星々の横を通り過ぎ、私達はたくさんのコスプレ衣装が出て来ていた天上へと吸い込まれて行く。そっちが順路だったのか……どうしても底の方にあるって印象だから下へ向かうのかと思い込んでたわ。っていうか甲板にめっちゃ服落ちて来るんだけど止まんないのこれ。

 艦が降り注ぐ服で埋まらないよう纏めて船外に放り投げていると、突然ちゃぽんと水溜まりに投げ入れられたような感覚がして、世界の端か何かの境界を通り抜けたと直感できた。見ればさっきまで格闘していた布や鎧は跡形もなく消えていて、一面には背の低い草原が広がっていた。

 芝生と言ってもいいくらいの草の海は遥か彼方まで続いており、空には眩しくない程度に太陽が輝いている。遠くからは温かな風が流れ、それに乗って何か呑気な鳴き声が聞こえて来た。見ればそこでは饅頭のようにデフォルメされた人間の頭のような生き物が日を浴びながらゆっくりしている。

 空母ゴトランドは草原の上をかなり低い、座礁スレスレの高度で飛んでいた。今まで居た場所の痕跡は私と猫吊るしが着たままの服以外は何もなく、急にその場に出現した様な格好である。次元移動、というか階層移動でもした感じだ。こうして夢の奥へ行けば魂まで辿り着けるという事なのだろう。

 別段外敵などは居ないようなのでみんなで地上を見下ろすと、そこでは多種多様な生き物がくつろいでいた。饅頭のような紅白と白黒、紫色の毛のような脚を持つタコ、同じような色合いのヤドカリ、エビフライが好きそうな赤いスライム、チョコミントが好きそうな青いスライム、ずんだが好きそうな緑の鳥、包丁のような角をしたキリン、明るい女の子の可愛らしい中にも優しさあふれる声を出しそうな草、のとのとワで顔が構成された三頭身くらいのリボンの何か、それによく似た水を被ると増えそうな二頭身くらいのナニカ、煙突や砲台のようなものを背負ったかたつむり。

「うわっ……私の脳内、平和すぎ……?」

「割とヤバいの混じってるんですが」

「普通の生き物が一匹も居ない……」

 たぶん刺激しなければ大人しいから大丈夫。正直ちょっと降りて散策したくなったのだけど、ゴトランドさんを見送りたいので我慢である。

 内部で操舵する猫土下座には往くべき道が見えているのか艦は真っ直ぐ進んで行く。速度的にはそれ程でなく、ゆっくりしている生き物たちに手を振るとたまに反応を返してくれる奴も居た。かわいい。

 

 暫く……体感で十分ほど空飛ぶ艦に揺られながらみんなをあだ名で呼ぶ許可を貰ったりしていて、ふと、来た方を振り返ってみた時である。彼方まで続く緑の地平、その奥に、突然何か黄色の点が浮かび上がった。

 それはみるみるうちに大きくなり、こちらの倍以上の速度で迫って来る。私が後方を見つめている事に気付いた他の皆もそれを目撃し、あれはなんだと甲板はにわかに騒がしくなった。

 その頃には、私はそいつの正体を見極める事に成功している。それは長い四足で滑るように走る獣だ。黄色い体毛に茶色い斑点を持ち、各脚には兵器と思しき機械がそれぞれ装備されている。また、脚と同程度には首が長く、口部からは前歯のようなものが覗いていた。全長は大きく、空に浮かぶ私達より頭の位置が高い。そしてその背には、茶色い毛皮をした別の生命体が鎮座しているのだった。

 そいつらは進む私達にあっという間に追いつくと並び掛け、首だけをぐるりと回してこちらを向いた。頭頂から伸びる角が光を放ち、私達をまぶしく照らし出す。あれなるはおそらく探照灯。なんでそんなもんが付いているのかは全く不明である。別段悪意で光った訳ではないようで、それはすぐに強さを調節すると、灯りをちかちかちかと点滅させた。

「あっ……こ、こんにちは……?」

 はたしてベイさんが困惑した様子でそれに返事をした。どうやら言語……モールス信号か何かであったらしい。私分かんないんだけど私の夢の中の生き物は使えるのか……

「お前の脳内さぁ……」

「いやたぶん猫吊るしの脳内にも住んでるでしょ」

 だってお前知ってたじゃん。最初に対面した時、片割れを。だったら絶対こいつも知ってるし住みついてるよ頭の中に。私はそう思いながらこちらを見つめるキリン改二と、その背に乗ったボクカワウソに手を振った。

 

 表情の読めない二匹と楽しく並走していて、気が付いたら私達は世界の端にまで辿り着いていた。

 草原は突然途切れ、その先には地面が無い。地面どころか何も無い。丁度3Dゲーのフィールド端まで来たような状態だ。まあ私達は飛んでる訳だしこのままでも進めるだろうが走ってるキリン改二は無理だろう。名残惜しいような惜しくないような気持ちだがここでお別れか。

 って思ったら普通に虚空を走って付いて来た。なんだお前。

 そのまま一分ほど行っただろうか。さっきも感じた水面に投げ込まれる感覚をまた覚え、気が付いたら私達は夜の山上から眼下の湖を一望していた。

 湖は山に全面を取り囲まれ、月を背景に佇んでいる。水面に映る大きな月影、その光が岸辺に生える木々を映し出し、風の一つもないのに茂る枝葉をさざめかせていた。そのどこか既視感のある光景に見惚れていると、艦は一気に斜面を下り、湖の縁へと着陸した。

 次いで斜面を駆け下りて来るキリン改二。あっ、階層超えられる感じなんだ?

 

 空母ゴトランドはそこから動く気配を見せなかった。降りろ、という事だろうか。私達が少しの間迷っていると、ひょいとボクカワウソが甲板に飛び乗って来た。その両手には何か、メッセージウインドウのようなものが握られていた。

 

 ←順路

 

 そこにはそれだけが書かれている。えっ、お前道案内なの? 困惑する私達をよそに、ボクカワウソは尻尾を振りながら板を渡して艦をゆっくり降りて行く。かわいいと素直に言いたくないのは何故だろう。

 皆でおっかなびっくりその後ろに付いて行くと、ボクカワウソは湖の一歩手前で振り返り、ウインドウを高く掲げてこちらにそれを見せつけて来た。

 

 ↓順路↓

 

 そして道を譲るようなジェスチャーで、さあどうぞと湖に向かって私達を促した。

「潜れって事?」

 案内人は頷いた。いや、まあ私は全く構わないけど……

「みんな泳げる?」

「普通に泳ぐくらいならできるよ。でも、潜水はやった事ないね」

「ボクも……」

「丹陽泳ぎは得意ですよ!」

「俺は能力でできる」

「私は肺活量に自信は無いけど……ここ、夢だから」

 普通の水じゃないんじゃないかとゴトランドさんは言う。確かに、普通月がこんなにくっきりとは映らないだろう。反射率100%超えてそうだもん。もしかしたら水じゃないのかもしれない。

 ボクカワウソの横を通り、月の湖に手を浸す。普通に水の感触がするが、見た目に反してそれは温水のように暖かい。どうやら冷える事は無さそうだ。私はそれを掬い上げ、少し口に含んでみた。

 何せ私由来成分であるからして、私にはとりあえず無害だろうと思っての行為だったのだが、それで一つの事に気が付いた。確かめる為、今度は顔を水面に付ける。成程。

「これ、水中で呼吸できますね」

 振り向いてちょっと驚いていた皆に教えると、メッセージウインドウにそうだねと表示された。最初から教えてくれない?

 

 

 

 >ここから さきは たましいの りょういき

 >そこに わたしは ついて いけません

 

 全部説明しろオラァンと私と猫吊るしとほっぽちゃんに説得された結果、猫土下座はなんでか全部ひらがなとカタカナでボードにメッセージを送ってきた。この期に及んで顔を出す気はないらしい。割といい根性してる奴である。

 

 >みずうみの なかは もう ゆめのそと

 >たましいの なか こころの ふかみ

 >ふかく もぐれば おくそこまでは すぐでしょう

 >そこからは ふぶきの チートに たのんでください

 

 私の魂液体なのだろうかとちょっと思ったが、魂を疑似的に空間として把握できるようにしてあるだけでそのものって訳ではないらしいと後で猫吊るしから教わった。チート能力が不思議過ぎて創作物の知識が無かったら理解できなかったかもしれない。ありがとうオタク文化。

 

 >ようが おわって めが さめたら

 >わたしを リベッチオに もどしておいて ください

 >リベが すねたら めんどう なので

 

「自分では戻らないのか……」

 猫吊るしは呟いたけど、まあこっちは手伝って貰ってる側だから多少はね? っていうか猫土下座も夢の中に居るから当たり前だけど寝てるのか。そして私達より長く寝るつもりなのだろう。夢を操れるならやれる事とかいっぱいありそうだし楽しいのかもしれない。

 

 >それと ふぶき こんやは あなたの

 >ゆめに いさせて ください ませんか

 

「えっ、いいですけど、なんで?」

 自分で言うのもなんだけどふわふわだったぞ私の夢。この階層はちょっと真面目っぽいけど他二つはなんかこう、アレだったぞ。正直割と恥ずかしいぞ。

 

 >よどみの ない ゆめは きちょうです

 >とくに こんな よのなか では

 >くらい こころが たまり やすい

 >それが ないのは とても のうてn

 

 >すなおで すてきな せいしん こうぞうです

 >やきつくす ほどに ひかりが つよくない

 >のも みりょく です そうじて

 >おひるね するのに とっても よさげ

 

「これ私馬鹿にされてるよね?」

「褒められてるんじゃないのか、一応」

 

 >リベの ちょうみりょう ていどの よどみも

 >ふだんづかいなら すごく おちつく けれど

 >きゅうじつに くるなら ここは かくべつ

 

「ソムリエか何か?」

「私の事褒めてるように見せかけて相棒の事惚気てないこれ?」

「仲良しか」

「そうだね、リベとゲザは遠慮要らない仲だし……相性はかなりいいよ」

 いやまあ、居心地がいいのならいくらでも居てくれて構わないのだけれども、面と向かって格別とか言われると照れる。でも私もあの一層目か二層目でごろりと寝ころんで午睡に浸りたいかと言われると凄くしたい。色々終わったら頼んでみようかな?

 

 猫土下座はひらがなのまま、この先へは湖水を気にせず地面に沿って進んで行けば進めると教えてくれた。ただ、水面から先には力を及ぼす事が難しいらしく、実際に何があるのかは分からないという。感覚的には私のチート能力さんが迎合してくれてるのもあって魂の奥、自称魔法使いな子の所への道まで遠くはないだろうとの事だったが。

 ゴトランドさんを先頭にして転生者達が私の魂の方へと潜って行く。不測の事態に備える為、この領域の持ち主たる私はそれを最後尾から見守っている。何も起きないとは思うんだけど、念のために。

 最後のベイさんがおっかなびっくり全身を沈めるのを眺め、私もゆっくり水面に足を着ける。うーん温水プール。あったかい。そのままさらにもう一歩を踏み出そうとしたら、ぽんっとボクカワウソに肩を叩かれた。

 

 >では わたしは しつれい します

 >おきても おこさないで ください ゆめは

 >しばらく このまま なので ねなおしても

 >ここに これますよ やったね !

 

 表情か感情か何か読まれてますねクォレは。やだ超恥ずかしい。私ってそんな分かり易いかな。外でも結構読まれたりしがちなんだけども。いやそもそも私の夢だから伝わってたとかそういう話だったりするのか? よく分からんがまた来ます。

 私が頷くとボクカワウソはずっとこっちを眺めていたキリン改二に飛び乗って、空に向かって去って行った。普通に飛ぶのか……

 その空を駆ける天馬ならぬ天キリンが姿を消して前の階層に戻る、その瞬間、背に乗ったボクカワウソのさらに後ろに、背中が大きく開き足腰も露出の多い大胆な衣装を身にまとった女の子の姿が薄っすらと見えた気がした。だいぶ危機管理できてなさそうな格好だったけど、もしかして一層の時にあの服回収してたんだろうか。

 

 猫土下座withボクカワウソfeat.キリン改二を見送って、私もみんなの後を追おうと湖の方に振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんかいる。

 

 それは頭に黒いリボンを生やした白くて柔らかそうな生き物だった。丸い丸いつぶらな瞳でじぃっとこちらを見つめている。何処か顔文字めいた表情で私の方へ顔を向け、先端が錨のようになっている赤い縞模様の付いた尻尾をゆっくりと振っていた。

 なんだこいつ。それは私が気付かないほどの一瞬の間にそこに現出していた。さっきまでは確かに居なかったと思うが何時から居たんだろう。お互い見つめ合いになり、そいつとの間に謎の緊張感が走る。そもそも私の索敵を外れるというのは尋常ではない。いや、単に今ポップしただけの可能性の方が高いんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い出したように鳴かれても困るが。

 一応敵意なんかはなさそうな声だったし特に動きもないので、意を決し私はゆっくり歩を進める。暖かな液体が脚に絡み付くが、波がある訳でもなく動き辛いという事は無さそうだ。

 湖はかなり底が深いようで、最初の数歩までは殆ど傾斜も無かったのだがその先は自転車で下りるならブレーキを引きながらの方が安全だろうってくらいには急な坂になっている。おかげで先を行く皆の頭はもう月光に隠されて目では見えなくなってしまっていた。

 私は靴を履いていないのだけれど、指の間に砂が入ってくる感じはしない。むしろ足下はしっかりしている。人工的な感じすら覚える……っていうか、人の魂のなんやかんやをなんやかんやで認識できるようにしてるとからしいから完全に人工物なせいだろう。天上の大きな月が実は巨大な宇宙船ですとか言われてもおかしくないのかもしれない。

 顎まで湖に沈めるが、温めのお風呂にでも浸かってるかのような安心感はあっても不快感みたいなものは全く無い。まあ私自身が駄目だったら他の皆はもっとキツいだろうから良い事だろう。

 視れば少し先でゴトランドさん達は歩を緩め、丁度ベイさんがそこに追いつくところだった。ちゃんと呼吸はできている様子で苦しんだりはしていない。どういう状態なのかは全く分からんが夢と魂と精神の話なのでそういうもんなのだろう。待たせるのは悪いのでさっさと私も進む事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こっちみんな。

 

 

 

 

 

「なんか思ったよりなんもないなここ」

「夢の方はクリーチャーだらけだったからね……」

「可愛かったですね!」

 かわいい(私の脳内が)になってしまうので止めて欲しい。でも丹陽さんの顔に悪意は全くなく、普通に褒めてるつもりのようだった。上機嫌なにっこにっこの笑顔の弾んだ足取りで進んでいる。

「三か所目だけぜんぜん感じが違ったけど、あれは魂に近かったから?」

「いやあれ吹雪のパソコンの壁紙だな」

「…………あっ、ほんとだ」

 いわれてみればそうである。ぜかまざらしが生息してた以外ほぼまんまだ。私のPCは相部屋なのもありキャラクターなどは書かれていない湖のイラストになっているのだが、成程、たしかにああいう感じの雰囲気だった。ちょっとくらいは真面目な要素があったと思ったがそんな事はなかったぜ!

 気付いてなかったのかよと呆れた目をされたが二次元を三次元化されると割と分かり辛いんだって。猫吊るしは図面書くのとか上手だしそういう変換も得意っぽいからすぐ分かったんだろうけどさ。

「以前ゲザに聞いたけど、夢の世界の形って日によって変わるらしいから……あんまり意味は無いかもね」

「じゃあ吹雪の夢もロボットがレーザー撃って追いかけて来たり戦争で荒廃した世界だった可能性が……?」

「なさそう……」

 なんでだよあるかもしれないだろシリアス要素。いや自分でもロボットが出て来てもガンダムファイトしてそうだなって気はするけども。

 

 水中を坂道に沿ってえっちらおっちら降りて行く。足下はいつの間にからか継ぎ目も何もない真っ白な床になっており、完全に砂や土は見られなくなった。

 更に暫く進めば傾斜はどんどん緩くなり、終には完全に平な空間へと続いていた。ここが底なのかとも思うが、それにしては空間は四方八方へと伸びていてまだまだ先に進めそうに見える。

 こうなると困ってしまうのが私達である。さっきまでは下へ下へと進めば魂の底にまで辿り着くだろうと軽い気持ちで歩けたが、道を間違える可能性を考え出すと少しだけれど足が止まる。みんなは私に分からないかと言ってきたけれど、そんなもん分かるなら最初から案内してるんだよなぁ。

 何か違いが無いだろうかと辺りを見回してみるが、本当に地平線の限りまで水と白い床ばかりで他に差異は見受けられない。耳を澄まして観察しても特に何の音もしない――――いや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またお前か。

 なんか尻尾をすごい勢いで動かして軽快な速度でぶっ飛ばしている。そいつは後ろから私達をぶち抜くと、一回水平線まで消えて行き、AAのような顔でこちらに戻って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま私達の周りをぐるぐる回りつつ、こちらを見て鳴き声を上げた。煽ってんのか。

「あっ……この子、付いて来ないの? って言ってます……」

「道案内だったの!?」

 勝手に泳ぎ回ってるだけかと思ったわ。割といい子だったのね。速過ぎて私以外付いて行けないと思うけど。

 

 ぜかまざらしを先頭にして私達は再度出発した。みんな魂にもこんなの居るのか……って顔だったけど私が一番ツッコミたい気分だと思うので何も言わないで欲しい。

 最初の速度で進まれると追えないため、ぜかまざらしに言い含めてゆっくり泳いでもらうようにしてもらったのだが、速度に不満があるのかたまにその場で大きな円を描いて一回転してみたりしている。こんなんでも島風派生という事か。かわいいんだけど私の魂や夢に生息してると思うと微妙な気分になってしまう。かわいいけど。

 ゴトランドさんが少しくらい早くても平気よと言ったためちょっと張り切ったぜかまざらしに連れられて私達は進む。行った道は全く道にはなっておらず、案内が無かったら迷っていたと断言できる。案外どの方向でも良かったという気もするのだが、この白い大海原の中を最短ルートを行けたのは間違いないだろう。

 雑談を挟みつつ進んで行けば、ある時、進んでいる方から少し逸れた方向にぷかぷか揺蕩う何かが見えた。それは私と同じ制服を着た女の子で、髪の色や長さなんかも外の私と同じくらいだと思われた。ただその子の半開きにされた瞼から覗く瞳の色は赤く、左手は異形のそれである。

 一瞬何かと思ったが、あれはおそらく私の預かっている吹雪さんの魂の一部ではないだろうか。深海吹雪さん成分が強いが、見慣れた姿よりは人間に近い。あんまり極端な部分は渡さなかったって事だろうか?

 吹雪さんは私達に気付く事もなくふわりふわりと水の中で微睡に沈んでいるようだった。力の抜けた表情で、暖かな水に身を任せている。

 ぜかまざらしとゴトランドさんがどんどん先へ行ってしまうので、そんな吹雪さんを横目に私は皆と道を急ぐことにした。どうやら居心地は悪くなさそうみたいで何よりです。ゆっくりしていってね!!

 

 

 




たぶん二層をくまなく探せばダム作ってる雪風とかも居たと思われる。


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世界の外に出ようとしてみたwwwww

 魂の中であるらしい水中を駆ける私達。いや、なんかぜかまざらしの奴ほっといたらどんどん速度が上がって行って、走らないと追いつけないくらいになってしまったのだ。

 大人の体格をしたゴトランドさんやベイさん、足の速い私や猫吊るしはいいのだけれど、問題なのはほっぽちゃんと丹陽さんである。二人とも運動が不得意という事は無さそうだけど、そもそも歩幅が短いために全力で走っても追いつけなかったのだ。なので丹陽さんは私が背負い、ほっぽちゃんは自分のチート能力で短距離ワープを繰り返してなんとか付いて行く事になった。ここでもちゃんとチート能力は使えるらしい。どういう原理なのかは全く分からん。

 たまにほっぽちゃんがぜかまざらしを追い抜いてしまい、振り返ってこちらを待つ時があった。すると白いそいつはおうっと鳴いて、更に泳ぎの速度を増す。何かしらプライドのようなものが刺激されるらしい。うーん頭先頭民族。

 

 そのまま普通の人の全力疾走に近いような速さで進んでいると、ある時、先頭を泳いでいたぜかまざらしがおうっと一声鳴いて動きを止め、私達の方へと振り返った。横にすこし避けると短い手で奥の方を指で示……いや指ねえなコイツ。でもなんとなく分かる。案内はここまでという事だろう。

 ぜかまざらしはもう一度おうっと鳴きながら手を振って、それからすごい勢いで去って行った。それこそ世界新で金メダルを狙うような高速で。

 それを見送り目的地の方へと視線を戻す。周囲は未だ地平の先まで白い床で埋め尽くされているのだが、その中に、ぽつんと一つだけ灰色の扉が鎮座ましましている。つまり、アレが目的地だろう。実を言えば少し前から気配を感じていたのだ。『なんか』大きな、『つよい』気配を。

 少し緊張した様子でゴトランドさんが扉に向かって歩いて行く。私達も追従し、何の模様もない石造りのように見える扉、それの前に六人が立った。次の瞬間には、もう私達の真後ろにそれはいた。

 

 ――よぉ。

 

 燐光を放つ人型。輪郭だけで、それに顔などは付いていない。片膝を立て地面に座り込んでいる。私達が振り返るとそいつはその状態でそこに居て、一言喋ったきり黙りこくってしまった。

 沈黙。そいつは私達の反応を待っているのか、じっとこちらの様子を伺っている。目は無いが視線を感じて仕方がない。

 いや、うーん。まあ、なんだな。正体不明の扉、シルエットだけの人型、それに他に何もないだだっ広い空間。シチュエーション的には何がしたいのかだいたい分かるんだが…………え、これ私が言った方がいい奴?

「だ、誰……?」

 あ、ベイさんが言った。

 

 ――おお! よくぞ訊いてくれました!

 

 そいつは両手を挙げて喜んだ。訊かれなかったらずっと黙ってるつもりだったんだろうか。ちょっと試してみたかった感はある。

 

 

 

 ――オレはおまえ達が〝チート能力〟と呼ぶ存在。

 

 ――あるいは〝転生特典〟

 

 ――あるいは〝祝福〟

 

 ――あるいは〝真理〟

 

 ――あるいは〝全〟

 

 ――あるいは〝一〟

 

 ――そして

 

 

 

 お前途中から改変面倒になっただろ。半分元ネタから例えが変わってないじゃねーか。

 なんて感想を知ってか知らずかそいつは一度言葉を切り、おもむろに手を伸ばすと私の事を指差した。

 

 

 ――オレは〝おまえ〟だ。

 

 

 でしょうね。

 むしろ他のモノだったらヤバかっただろう。異物混入になっちゃうもん。今絶賛五名ほど混入してるけどそれはこっちから許可出してるから問題ないし。

 その少し光った人型、チート能力『なんか』『つよい』さんはこちらに向かって指先を向けたまま動きを止めた。元ネタ通りにやるならこの後無理矢理扉の中に引きずり込まれるはずだが、どうもそのつもりではないらしい。なんでだか特に表情のないその顔からやり切った達成感を覚えているような雰囲気を感じる。やりたかっただけだコイツ……

「えっと、はい。顔を合わせては初めまして……? 今日はよろしくお願いします」

 最初に返答したベイさんはそのまま会話を続ける事を選択した。っていうか待って。今のもしかして翻訳チート噛ますと普通に挨拶になるのか?

「なんて言ってました?」

「あっ、伊吹 雪の魂に宿ったチート能力です、そちらに居る本体ともどもどうぞよろしくお願いします。だそうです」

 思ったより礼儀正しかった……いや現在進行形で片膝立てて地面に座り込んでる時点で礼儀も糞も無いんだが、想像してたよりは百万倍ちゃんと挨拶してた。頼むから普通に喋ってくれ。

 挨拶されてただけだと理解して、残りの皆もよろしくと挨拶して行った。一応私もしておいたけど、必要だったかは正直分からん。チート能力さんが私を本体って認識している以上、別人ですらなさそうだし。

「早速で悪いのだけど、『なんか』『つよい』ちゃん。例のあの子の所に連れて行って貰えるかしら……行き方分かるんだよね?」

 

 ――あーそれめっちゃわーかーるー。

 

「正しいやり方なのかは分かりませんが、可能です。外でのやりとりは聞いていて、来ると言っていたので先に準備だけはしておきました。でも行きだけで、帰りの保証はできません。短時間しか繋がりがもたないので、同じ道では戻れないと思われます。本当に開いて大丈夫ですか? だそうです」

「そうはならんやろ」

「そんな詰め込めるほど長くなかったよね!?」

「圧縮言語か何か?」

 挨拶もそこそこに用事を切り出したゴトランドさんへのコンパクトに纏めすぎな返答を、ベイさんは顔色一つ変えずに解凍せしめた。これベイさん居なかったら会話が成立してなかった気がする。私のチート能力さんてばお茶目。いや分かってくれる人居なかったらお茶目で済んでない可能性があるんだけども。

 ゴトランドさんもそうなんだ……ってちょっと引き攣った顔をしていたけれど、ちゃんと言われた事を理解すると、真面目な表情に戻ってチート能力さんの方へと一歩を踏み出す。その目には覚悟と焦りの両方が見て取れた。

「道が無くなるのは覚悟の上よ。大丈夫、一応戻る方法は考えてあるし……私の能力なら本体が他所に居ても問題なく行使できるから」

 そういや分身してるっぽいですもんねゴトランドさん。もし自由な場所に出せるなら本体が隔離されてても関係ないのか。いやでも、世界の外ってイメージのある魔法使いらしいあの子が居た空間から現世に影響を及ぼせるんだろうか。うーん、私じゃよく分からん。ゴトランドさん的には何か掴んでる事があるのかな? 間違いなく私よりは詳しいんだと思うけれど。

 

 ――せっかくだから、俺はこの赤の扉を選ぶぜ。

 

「赤くないけど……」

「一つしかないですしね!」

「原作再現してるな」

 そんなとこ再現されても。

 私達の後ろにある扉は灰色、というか大きな石をそのまま扉に加工したような色合いで、他に床と周囲を満たす水くらいしかない空間に寂しげにぽつんと浮かび上がっている。ここが魂の底であるなら、この扉が自称魔法使いの居る何処かへの道になっているのだろうと思われる。

 チート能力さんは言い終わるやふわりと浮き上がり、そのまま形を変えて球状になった。どうやらパロディをするためだけにあの形に変体していたらしい。私の一部を自称する以上私がやってる事になるんだよなこれ。いやまあ、やれる機会があった場合にやるかやらないかと聞かれたらやらないと断言はできないけどさぁ。

「分かりました、道を開きます。ちょっと通りますよ。だそうです」

 何をどう翻訳したらそうなるのかちょっと分かんない。ベイさんの能力、やっぱ要所要所で役立つ奴だよこれ。居なかったら訳わかんなかったよ……相手は私のチート能力なのに。

 まんまるな発光体になったチート能力さんはそのまま上下に揺れながら扉に向かって飛んでいく。ベイさんの翻訳のおかげで何をする気か分かった為、円滑に道を譲る私達。そのままゴトランドさんとほっぽちゃん、丹陽さんを残して私と猫吊るしとベイさんは扉の前から少し離れた。

 ここから外に出るのは用事のあるゴトランドさんと、帰還の補助になる――かもしれない二人だけという話だった。私や猫吊るしだって付いて行きたい気持ちはあるのだけれど、戻れるか分からない、戻れたとして時間がどれくらいかかるかもよく分からないでは付き合うに付き合えないのだ。私がもし朝までに戻らなかったら大淀さんは困るだろうし、鎮守府……下手したら大本営や自衛隊まで巻き込んで艦娘運営組織全体が大騒ぎになるかもしれないのだから、そこは仕方がないのである。

 ちなみにベイさんはあの子は日本語が通じるんだから自分が付いて行く意味が全く無い。という理由で同行しないとの事だった。そもそもベイさんに付与できる以上自分も同じ事が可能だろうしね。

 

 ただこれは、彼女達が艦の上で言っていた事でしかない。

 

 だから、今目の前でほっぽちゃんと丹陽さんを両脇に一人ずつ抱えてこちらに運んで来たゴトランドさんが、最初からまったくそのつもりではなかった、というのは特に不思議な話ではないのであった。

「みんなここまで付いてきてくれて本当にありがとう、でも、ごめんね。ここからは私一人で行くよ」

 正直に言ってしまえば、別段意外な話でもない。初めからゴトランドさんはそう言っていたし、私も含めてみんな勝手にここまで付いて来たようなものなのだから。今までそれを許容していたのはたぶん、そもそもここまで簡単に来れるかが分からなかったからなのだろう。

「ほっぽちゃんも丹陽も、もし戻れなかったら計画に支障が出ちゃうでしょう? それに、ベイが一人だと帰れないよ」

 そういやそうだわ。ほっぽちゃん行っちゃったらベイさん家に帰れないじゃん。私が送ってくって手もなくはないけど、見つかるリスクは結構あるしあんまり取りたい手段じゃない。潜伏させとく訳にも行かないし、すぐ目覚めなかったらゴトランドさんの体も保護しなきゃだからほっぽちゃん戻さない訳には行かないわな。

「それにあの子は……私が聞いた通りなら、きっと大勢で頼み込まれるのは好きじゃない。話をするの自体一人での方が良いと思うんだ」

 魔法使いを自称してたあの子に関してゴトランドさんはある程度の情報を持っていたっぽい。っていうか、以前に誰かしら似たような事をした……のかな? それがどんな内容だったのかは分からないけれど、言い方的にあんまり上手く行かなかったんじゃないだろうか。機嫌を損ねてしまったのかもしれない。造物主か何かの。ヤバくね? いやなんも起きてないから最悪の事態にはなってないんだろうし、ゴトランドさんが敢行しようとしてるって事はその人自身はたぶん無事なのだろうけど。

「でも、大丈夫? 一人じゃいざって時……」

「大丈夫なのが私の能力、でしょ? それにごめん。ちょっと急ぎたくて……話し合ってられないんだ」

 ゴトランドさんは二人を降ろすと、向けられた心配そうな視線を背にして扉の方へと向かって行く。そういえばさっきから多少ではあるが先を急いでいる気配を醸し出していた。時間的な問題か、それとも別の何かか。思えば一層目で合流した時からその傾向はあった気がする。今外は何時くらいなんだろう、もしやもう夜が明けてたりとかする? いやでも体感何時間も経ってないしなぁ。こっちの方が時間はゆっくりって話だったし、まだ真っ暗なはずだけど。

「『なんか』『つよい』ちゃんお願――――ッ!?」

 出発しようと声掛けしたゴトランドさんの言葉が、驚愕で詰まる。

 さもありなん。唐突に、なんの兆候も無く、気が付けば自分の顔面に拳が突き付けられていて、あまつさえ、その腕を私が横から掴んで止めていたのだから。

 正直急すぎて私もびっくりした。なんか知らんが超速いのが真横からぶっ飛んで来たから咄嗟に飛び出て止めてしまったんだが。え、何この状況。誰この人。

 

 ゴトランドさんを狙って突っ込んできたのは女の人だった。金色の髪の所々に白いメッシュの入ったミディアムショート、根元が黒い事からそれが染められたものだと分かる。フード付きのパーカーを羽織り、やたら丈の短いショートパンツからすらりと長い脚を露出させている。私を通り越してゴトランドさんを睨むその目は鋭く、口元は怒りに歪んでいた。

 明らかに私が前世も今世も付き合いのないタイプの女性である。いや、マジで誰。掴まれた腕をふり解こうと力を入れているが、出していた速度に対してその抵抗はかなり弱い。私の指は微動だにしなかった。

「ゴトランドッ!! てめェ、自分が何やってンのか分かってンのか!?」

 私の魂に居た存在、ではないだろう。ゴトランドさんの知り合い……っていうか、外見には全く覚えがなかったけれど、声にはちょっと覚えがあった。あの時と違ってくぐもる様な違和感は全く無いけれど。

「レ級……!」

 当然私より交流があるであろうゴトランドさんもその正体を看破した。名を呼ばれた女性は私に取られた腕をふり解くのは無理と判断したのか、そこを支点に今度は足を繰り出した。

 速い。普通であれば目で追う事すら不可能であろう神速の蹴り。それは身体能力を強化する能力を持ってないっぽいゴトランドさんには決して避けられないはずのものだった。当然、命中したら危ないので私はその脚を自分の脚で止め、続く連撃も同じようにして打ち落とす。

「糞ッ……! ゴトランド! 誰も望んでねェ事のために死人増やす気か!!」

「ごめんレ級、私はもう人の命に優先順位を付けた。ううん、最初からそのつもりで助けていたんだ。だから、一番大事な人たちの事は譲れない……!」

「情が深ェなァ! だがその本人が、望んでねーッつッてンだよッ!!」

「望んでるのは私よ! 少しでも楽にさせたい、傍に居てそう思っちゃったんだから、止まれないよ!」

 なんかくっそシリアスっぽい話してるけど挟まれてる私が内容理解できてない件について。

 ベイさん達も内容は分かっていそうだけれど急にバトル展開始めたから付いていけてない。っていうか、ほっぽちゃんと猫吊るし以外何が始まったのかちゃんと見えてないっぽい。

 レ級はガンガン蹴りと空いてる方の手での打撃を放ってくる。あ、指輪してる。ただ、なんだな、その攻撃ははっきり言って酷く拙い物だった。腰は入っているけれど、それ以外は完全に速度任せの連打であり、まともな技になっていない。たぶん格闘経験が全く無いのだ。きっと最初に川内さんが私を見た時も同じように思ったんだろうなあ。

 連打されるただの暴力を全弾打ち落としていると、なんとなくだけど相手の事が分かって来る。これが拳を交わらせれば分かるとかデュエルで分かり合うとかそういう類なのだろうか。ともかく、レ級の拳に殺意はない。怒ってはいるだろうけど、それだけだし、むしろ……

「レ級」

 私は警告のために名前を呼び、こちらに怒れる視線を向けたのを確認して、掴んでいた腕から指を離した。一瞬訝しがるレ級。私はそこに、全力で腕を振るった。

 高速で振りぬかれる私の腕。ただ殴るのではない、教えて貰った武術の一撃。人どころか深海棲艦の鋼鉄のごとき頸部を軽く切断せしめる手刀。それは水流を巻き起こし、私達の髪を靡かせた。

「ッ……ぶねェ……」

 果たして、レ級は当てるつもりで繰り出したそれを完璧な形で避け切っていた。掠りもしない、どころか、おそらく追撃したとしても全て見切られていただろう。うん。やっぱりそうだ。

「吹雪、てめェも」

「レ級、本気でやってないよね」

 あ、なんか言おうとしてたのに被った。レ級はあァ!? とこっちを睨むような目つきになったが、話し掛けた私の出方を窺うように一旦言葉を止めた。だが、私の方も被っちゃった気まずさで言葉を詰まらせてしまったため、そのままちょっと見つめ合いになった。

 私が言葉を選んでいると、それ程止まってはいなかったと思うのだけど、しびれを切らしたのかレ級は再び口を開いた。その声には私に対する苛立ちと警戒心が見え隠れしている。だが少なくとも言葉を交わす気はあるようで、基本誠実なんだろうなと思わされた。

「こっちは本気で止めに来てンだよッ……! でなきゃこんなところに入るか!!」

 

 

 

 ――ええー? ほんとにござるかぁ?

 

 

 

 なんで煽ったの???

 扉の前でこちらの様子を伺いながらふわふわ浮いてたチート能力さんが、唐突に声を上げていた。集まる視線。なんだアレって顔になるレ級。ゴトランドさんも困惑気味で、ベイさん達もびっくりしている。唯一猫吊るしだけはちょっと笑いそうになっていた。

 そのままチート能力さんは黙りこくった。煽りだけして、全く喋らなくなった。ベイさんが通訳しない辺り言ってる内容も本当にそのまんまだったのだろう。いや私も同じ気持ちではあるんだけどさぁ……え、これ私が解説しないといけない感じ? そうだよね。私のチート能力さんだもんね。私が言ったも同然だもんね。

「あー……えっと、レ級。無意識なのか意識的なのかは分からないけど、レ級は本気で能力使ってないよ」

 話しだした私に向き直り、レ級は不愉快そうに眉間の皺を深める。ただ、感情的に言い返したりはせず次の私の言葉を待つ姿勢を見せてくれた。チート能力さんの事は見なかった事にしてくれたっぽい。

「レ級が本気なら、私なんてスルーしてゴトランドさんに攻撃できるはず」

 私から見れば、攻撃してくる時と避ける時で動きが違い過ぎるのだ。一動作の手刀を割と簡単に避けられて、飛び出して腕を伸ばして捉えるなんて二動作以上かかる掴みを避けられないなんて事、普通に考えてないだろう。

 だから私視点、レ級はゴトランドさんを暴力的な方法で止めるのは本意ではないようにしか見えない。今もそうだけど、話し合いで済むなら済ませたいのだろうし、もっと言うなら本当は止めたくもないんじゃないだろうか。

「私を抜こうと思えば、本当はいくらでも方法があるんじゃない?」

 例えば一回下がってフェイントを交えながら突撃されるだけで、おそらく私は対処できない。いや私狙いであれば話は別だけど、ゴトランドさんを狙われたら無理だろうと思われる。回避の時の速度が全力なら、たぶん私はレ級が本気でも攻撃を紙一重で避けられるけど、他の人を庇ったりするのは不可能だ。殺し合いにでもなったら千日手だろう。きっとお互い当たらない。

「っていうか、そもそも止めたきゃ現実で起こせばいいだけだからな。わざわざこっち入ってきた時点で……」

 猫吊るしからも援護射撃が飛んだ。そういやそうだ、叩き起こそうとかされたら抵抗できないもんね。

「それはゲザの野郎が魂まで行った連中無理に引き戻すとどうなるか分んねーッつッたからだ!」

 レ級は猫吊るしをぎろりと睨むと大声でそれを否定した。

「先にゲザの方起こしたの……?」

 ほっぽちゃんが首を傾げる。

「起こしていいのか分からなかったのかも……」

 ベイさんがすかさずフォローを入れた。

「きっとゲザさんなら起こして大丈夫って思ったんですね! そういう能力ですから!」

 それに丹陽さんが同意する。

「意外と冷静?」

「案外怒ってないかも……」

「叱られずに済むかもしれませんね!」

 その会話を聞かれた時点で駄目だと思う。レ級の方はと言えば、うわこいつら殴りてぇって視線を一瞬送り、すぐにゴトランドさんとその前に居る私に戻した。

「オレが本気じゃねェだ? そうだろうな。ゴトランドの目的は叶って誰も損しねェ。実行のリスクも正直大した事ねェんだろうよ。じゃなきゃ口でどう言おうがてめェがやるはずねーからな」

 滅茶苦茶鋭い視線で睨んでるが、レ級とゴトランドさんの間には結構強い信頼感があるっぽい。お互いその善性を疑ってもいないのだ。だから、どっちかが無理矢理我を通したとしても、後を引いたりはしないんだろうなとなんとなく思えた。

「それでもオレは止めるぞ、あいつのやりたいようにさせると決めたンでな!」

「自分が一番辛い癖にっ……!」

「ざけんな、本人が一番辛いに決まッてンだろ!!」

 

 

 ――はやくしろっ!!!! 間にあわなくなってもしらんぞーーーーっ!!!!

 

 

 また急にチート能力さんが叫び出した。もしかして君、シリアスさん苦手だったりとかする?

「あっ……繋がりが途切れかけてるから急がないと扉が消えちゃう、って言ってる……!」

「っ、開いて! すぐに!!」

 ベイさんの通訳で私達はようやく事態を理解した。短時間しか繋がりがもたないって、繋いでから少ししかもたないんじゃなくて、繋げるの自体もうすぐ不可能になるって事だったのか。翻訳されても分かり辛いのは止めろォ!

 言うが早いかゴトランドさんは駆け出した。扉が遠くにある訳でもなく、本来すぐに辿り着く。だが、その扉とゴトランドさんの間に、ベイさんの言葉に一番最初に反応していたレ級が立ちはだかった。

「てめェを止めたきゃここを通さなきゃいいんだな?」

 そう言ってレ級は腕を構えた。その後ろで、ゆっくりと扉が開いて行く。チート能力さんは無言だったが、問題なくちゃんとゴトランドさんのお願いを聞いてくれたようだ。レ級という門番が生えてしまったけれど、私がどうにか攪乱して、その間に横を抜けてもらえば問題ないだろう。そのレ級すらゴトランドさんの目的自体に反対する様子はないし、きっと願いが叶ったとしても問題はないはずだ。叶わなかったとしてもゴトランドさんがちゃんと戻って来れれば現状維持。だから問題はない。向こうからでも能力使えるかもしれないし戻れる算段も付いてるらしいから、どこにも問題はなかった。

 

 問題があったとしたら、ここが息こそできるものの水のようなもので満たされた空間で――――扉の先は特に何もない空間だった、って事だろう。

 

 じわりじわりと開いて行く扉。その隙間から、黒ですらない、色の無い空間が覗いた。瞬間、私の体が少しだけ重くなる。何が、と疑問に思う間もなく、私達の髪が、服が、そして周りを満たす水が、その門の先へと流れだした。

 レ級が危険を察知してその場から離脱しようと試みる。だが、どういう訳か、彼女の体は普通に地面を蹴った程度にしか前に進まなかった。驚愕と疑問の入り混じった声を上げるレ級。次の瞬間には、角度を増して行く扉の引力と、それに吸い込まれる辺りの水に体を捉えられていた。

「ほっぽちゃん! 皆を連れて逃げて!!」

 レ級の体が扉へと引き込まれて行く異常事態。それを見たゴトランドさんが咄嗟に叫んだ。その間にも扉の吸引力はどんどん強くなって行く。抵抗を続けていたレ級の影は最早完全に見えなくなり、私とゴトランドさんの体にも強い力が押し寄せて来る。

「駄目だ……使えない!? なんで急に! さっきまでいつも通りだったのに!!」

 ほっぽちゃんが絶望的な声色で叫ぶ。ワープができないらしい。道中では可能でぜかまざらしと戯れていたくらいだったのに、急に使えなくなったようだ。

 逃げるぞ、と猫吊るしが号令を出し、後ろの四人が走り出す。私もそれを追うように後ろに下がり、ゴトランドさんは逆にその力に乗って扉へと飛び込んで行った。

 レ級に続きゴトランドさんが何も無い空間へと消える。だがそれで水の吸引――いや流出が止まるかと言えばそうではない。むしろそれはどんどん強さを増して行き、ついには逃げる猫吊るし達に追いついた。

 チート能力さんはなんか困ったように球状の体を扉にぶつけている。おいもしかして閉じられなくなったのか。え、なんか私の魂他所に流れ出てるけど大丈夫? 分泌物とかならいいけど本体じゃないよね?

 体が軽いせいだろうか、最初に水流に飲まれたのはほっぽちゃんだった。足が地面から離れ、付くことなくそのままふわりと浮き上がる。ベイさんが咄嗟に足を止めその手を掴み引き戻すが、そうなれば次の犠牲者になるのは彼女だった。

 比較的大きいベイさんが浮くくらいであるので、当然ながら丹陽さんも抵抗する事は不可能だ。唯一猫吊るしだけは上手い事流れに逆らっていたが、どういう訳か普段ほどの精彩はなく、あっと短い声を上げて激しさを増してゆくうねりの中へと飲み込まれる。

 そしてその流れる先に居るのが私である。まずほっぽちゃんを庇うように抱きしめているベイさんを掴み腕の中に固定する。次にこちらに手を伸ばしてきた丹陽さんと手を繋ぎ、小脇に抱えて安定させる。最後に飛ばされて来た猫吊るしを肩にドッキングして五体合体完成である。流されると思ったか? 私だよ!

 すごい力で扉に向かって引かれるが、私の体は揺るがない。いや実の所、私も地に足は付いていないのだけどね。つるつるしてて踏ん張りが全く利かないもんだから普通に浮き上がってしまっている。でもそれと流されるかは別問題だ。足先を小刻みにはためかせる事で推進力を確保して流れに逆らうくらいは、チート能力さんのおかげで可能なのだから。

 激流はどんどん強さを増してゆく。その中を私はゆっくり遡上する。ほっぽちゃんから何か凄い物を見ているというような感心と驚愕の入り混じった視線を感じたが、身体能力ごり押しだから褒められるべきはチート能力さんだと思う。でもまあその辺りは後でいいや。ともかく今は扉から離れるべき一時だろう。

 少しずつではあるが私は水面に向けて昇って行く。下ってきた長さより水平に走ってた距離の方が長かったからそっちの方が外に近いんじゃないだろうかと思ったのだ。その判断は間違っていなかったようで、浮力が多少はあるっぽいのも手伝い案外短い時間で水面が見えてきた。

 

 

 

 

 

『ああそういえば、ただ能力だけ封じても無意味でしたわね』

 

 

 

 

 

 げ、と思った。私は転生の特典というかなんというかなアレで前世の事は明確に思い出す事ができる。そしてその前世の範疇には、転生の直前の事も含まれている。だから、その声にもはっきりと聞き覚えがあったのだ。同じように猫吊るしもうわぁといううめき声を出し、丹陽さんは逆に楽しそうに鳴いた。

 

『よろしければこちらへいらっしゃいな。朝までには現世に帰すとお約束いたしますわよ』

 

 いつか聞いた少女の声。可愛らしいのだが、どことなく胡散臭い。っていうか今更だけどなんでお嬢様言葉なんだろう。

 一応みんなと相談するが、わざわざ嘘は吐かないだろうという事で意見は一致を見た。実際ゴトランドさんとレ級の事も気になるし、私達はその招待を受ける事に決めたのだ。そもそも拒否したら無理やり連れ込まれそうな気しかしないしね。素直に誘いに乗った方が得策だろう。

 足の動きを止めて流れに体を預ければ、あっという間に私達は扉の向こうへと引き込まれる。その寸前、チート能力さんが申し訳なさそうな雰囲気で浮いているのが見えた。しょんぼりしてる。いやチート能力さんが悪い訳じゃないから気に病まなくてもいいと思うよ。気にはした方が良いかもしれないけれども。

 

 

 

 

 

 扉の反対側から私達は排出された。水流に乗って来たのだから下はびしょ濡れだったりするかと思えばそんな事はなく、そこは記憶の通り、地面も天井も何もない空間だった。

 出現位置は空中だったらしく浮遊感が私を襲うが落下速度はかなり緩い。一応他の四人を確認するが全員無事にこちらに出て来られたようだ。見た目にはさっきまでと変わりない。猫吊るしは春雨さんっぽいし、私の髪は長かった。

 存在しない地面に着陸すれば、後ろで扉が消滅する。後戻りさせる気はないという事か、それとも単に時間切れか。よく分からないがとりあえず四人を降ろし、少し先にあるそれを私は見つめた。

 それは真っ白なテーブルだった。円形の大きなそれには真っ白なクロスが掛けられ、真っ白なティーカップとポットが置かれている。下に覗く脚も白く、置かれたどこぞのお貴族の邸宅にでもありそうな派手ではないが凝った装飾がなされた椅子もまた白い。周囲に他に何も無いためそれらはまるで浮き上がるようにして空間のど真ん中に鎮座していた。

 置かれた座席は45度に一つずつの全部で八つ。その内三つは既に埋まっている。一番手前、私達に背を向けるようにして座っているのは後ろ姿のゴトランドさんだ。そこから一つ飛ばした右隣ではレ級であるという女性が明らかに不機嫌な表情をしている。そして私達の正面、ゴトランドさんの向かいでは、一度だけしか会った事のない、でも全く忘れた事のない少女が半眼に近いような顔で笑っていた。

「どうぞ、お掛けになって。今お茶を淹れますわ」

 ローブのようなゆったりとした服を着た、魔法使いを自称する女の子。のように見える何か。今の私には以前会った時よりはその実像がほんのちょっとだけよく分かる。人間じゃない。いや分かり切ってたような気がするけどさ、力ですらない法則に属さないよく分からないものの大きさが私達とは隔絶している。うーん造物主。でも神様感無いし畏敬の念とかは湧いて来ない。わざとそうしてるのか単にそういう存在でしかないのかはよく分からないが、おそらくそういう扱いで良いんだと思う。敬われるのとか求めてないだろうし。

 見た目は一言で言えば、ジト目の超長髪なエルフの少女である。年の頃は一桁か十代に入ったばかりくらいに見えるが、まあそんな事はないだろう。半分ほど瞼に覆われた瞳でこちらを見つめ、長すぎて椅子の後ろ脚に絡まっている亜麻色の髪を軽く揺らしている。顔の横から飛び出した耳は所謂和製ファンタジーによくある異様な長さがあるが、集音機として意味があるのかはかなり疑問だった。

 少女は私達を手招くと指をパチンと鳴らした。すると虚空からカップに注がれる琥珀色の液体。ポットさんはどうやら居るだけで役割は無いらしい。ちょっと哀れ。

 丹陽さんが一番にお邪魔しまーすと駆けて行き、レ級と少女の間の席を確保する。後に続いたほっぽちゃんがおっかなびっくりゴトランドさんとレ級の間に挟まり、ベイさんが怯えながら空いている方のゴトランドさんの隣に入る。猫吊るしは流れでそのベイさんの隣に着き、自然、最後に空いた少女の隣には私が座る事になった。

 全員が席に着けば、少女はニッコリ笑ってテーブルを指で軽く叩いた。ぽんっとファンシーな音を立てて卓上に現れる銀盆。そのドーム状の蓋が開かれれば、中身は色とりどりのケーキである。ちなみに蓋は勝手に開いたし、上空に飛んで行って戻って来なかった。落ちて来ないだろうな……

「さ、どうぞお召し上がりくださいな」

「いただきまーす!」

 笑顔で勧めて来る少女に対して、元気に返事したのは丹陽さんである。さっと目の前のカップを皿ごと持ち上げると、音を立てずに口に流し込む。四半分程を含み舌で転がすと目を輝かせ、笑顔でごくりと飲み下した。

「美味しい……!」

「それは良かったですわ。皆さまもどうぞ、味わってくださいまし。せっかく丹陽さんが毒見までしてくださったのですから」

 ね。と少女は全員に笑顔を向けた。やべ、今の毒見か。全然気づかなかった。普通にお腹空いてたのかと思った。言われてみれば中身転生者だし普通に大人だもんね。今の見た目はともかく本来私より年上っぽいし。

「いただきます」

 私も含め、レ級以外の全員が目の前の紅茶らしきものに手を付ける。香りはとても良い、なんというか、良い香りという情報が直接脳に送られてる感じだが、たぶん健康に害は無いだろう。美味しいお茶って概念であってお茶ではないのかもしれないが飲めるみたいだし。なお口にしたら本当においしかった。違和感が凄い。

 それぞれにおいしいこうちゃをゆっくり味わうと、全員がカップから唇を離したタイミングで、一人一切口を付けていなかったレ級が少女を睨みながら口を開いた。

「なんで吹雪達まで呼びやがッた」

「あら、わざわざ会いに来てくれたのだから顔くらい見せるのは礼儀ではなくて?」

「え……ボク達別に来るつもりじゃ……」

「こまけぇこたぁいいんですわよ」

 突然ゲーミングみたいになるの止めてくれない? お茶噴きかけたじゃん。転生先が艦これめいてる時点で分かり切ってたけど、この子オタクじゃん。私達の同類じゃん。敬う気持ちが最初から欠片も無いのにさらに失せて行くのを感じる。

「ま、ゴトランド……貴方達に合わせてこう呼びますけれど、その子以外を呼んだのはただのその場のノリですわ。意味なんて特にありませんの。深読みするだけ無駄ですわよ」

 残念でしたーと言外でレ級を嘲笑い、少女は自分の紅茶に口を付けた。音もなくそれを飲み干すと、真面目な顔でまっすぐに自分を見つめていたゴトランドさんに目を向ける。そして話しかける……前に、こちらもどうぞと私達にケーキを勧めてきた。あ、頂きます。

「さてゴトランド、今日は何かご用かしら?」

「……分かってるくせに、意地悪を言うのね。見ていたんでしょ? そのために転生させたらしいじゃない」

「あ、俺久々にシュークリーム食いたい」

「まあ確かに、私は貴方達全員をいつも見ていますわ。でも心の中を覗いたりはしておりませんのよ。何を考えてるかまで分かってしまったら、面白くないでしょう? そういうのは後で見返す時に副音声として流すのが個人的にオススメですわ」

「丹陽ガトーショコラが頂きたいです!」

「趣味悪ィな……いや丹陽のことじゃねェよ」

「それにしたって、レ級とはその件について話し合ったんだからある程度分かっているでしょうに」

「じゃあ私ショートケーキ貰うね」

「ええ勿論。でも、こういうのはちゃんと自分の口から言ってもらいませんと。当然ちゃんと、正確に、ですわよ」

「あ。ほっぽちゃん食べたいのある……?」

「それは……この状況で、私に名前を言えって意味、よね」

「そのフルーツタルト、見た事ないのが乗ってて気になる」

「てめェ……いやタルト食いたかった訳じゃねーよ」

 ややこしいから黙って食ってくれねぇかとレ級は額を押さえて呻いた。なんかごめん。

 

 久々のクリームたっぷりのケーキは非常に美味しく感じた。乳製品が高級品と化したから、それっぽいナニカであろうという気はしてもお口が嬉しい。間宮さんや伊良湖さん達もお菓子を出してくれる事はあるんだけど和菓子が多いんだよね。あとアイスクリームも出るけどやっぱり別物だしね。あれはあれですごくおいしいのだけど。

 猫吊るしはそもそも人間大の食事を摂るのが久々で、シューの蓋部分で下のクリームを掬い上げて口に放り込んだらとたんに笑顔が漏れ出した。たぶん美少女なのでこの状態で人前に出たら青少年の性癖ぶっ壊せると思う。仕草は完全に男の子だからギャップが凄い。

 正直自分でも緩すぎるとは思うのだけど、私達は今の状況をあんまり深刻に受け止めていなかった。いや、一歩間違うとヤバいってのは分かってるつもりなのだけど、自称魔法使いのこの子は私達を帰してくれると言っていたので大丈夫だろうと確信してしまっているのである。そもそも悪意があったら警戒してようが防ぎようが無いし、ケーキがあったら食べさせてもらった方がお得だからね仕方ないね。

「確認だけど、転生前に言ってた事は有効よね?」

「ええ、勿論。私、貴方達への対応について嘘は吐かないという縛りを設けておりますの。その方が面白いですからね」

 でも、と少女は一度言葉を切って、少し意地悪そうに微笑んだ。

「私は、『自力で私の所へ辿り着けたら望みを叶えてあげる』と言いましたわね。ええ、証拠動画もここにありますわよ」

 見る? と私達に聞いてきたが、テンポが悪くなるため遠慮した。っていうかそんな話したのかゴトランドさん。私の時ふざけ合ってたらすぐ終わったからなぁ……

「今回の方法は正直、貴方の力とは言い辛いですわ。そもそも接続方法がバグ利用みたいなものなんですもの。ネットゲームなら一発BANですわよ。私の不手際ではありますけれど……」

 少女は言葉を濁しながら私の方をチラ見した。もしかしなくてもチート能力さん関連は想定外だったのか。不具合修正で詫びチケ送ってくるくらいだもんね。ある意味凄いな私。創造主の目をもってしても読めなかったとかどんだけポンなんだよ。

「ですので、とりあえず、望みを言ってみてくださいな。叶えるかは内容次第という事で」

 ほらほらハリーハリーと少女はゴトランドさんを急かした。とたんにゴトランドさんとレ級の顔が苦虫を噛み潰したようになる。そして何故か、二人も私と猫吊るしの方を軽く盗み見した。

「……耳、塞いでた方がいい感じですか?」

 考えてみれば、ちゃんと正確に口に出して願いを言うという事は対象者――大将さんの名前を言わなければいけない、という事なのだろう。そして私がその名前を知るとその人はストレスで死ぬ。らしい。ゴトランドさんがさっさと話を進めなかったのはそのせいか。

 たださ、私って耳が良すぎるから塞いだくらいじゃ普通に聞こえちゃうんだよね。だから聞きたくなければ席を立って離れなきゃいけなくなる。そしてこの状況でそれを隣の少女が許してくれるかと言うと。

「あら、いいじゃありませんの。せっかくですから一緒に聞きましょう?」

 うーんこのクソゴッドムーブ。願いを聞く代わりに秘密を私にバラせと脅してやがる。なんなら腕を掴んできたし。隣に座ったのが裏目に出てる。いやどこ座っても自由自在なんだろうけどさぁ。

 ゴトランドさんは迷った。具体的には私が空いた方の手だけでケーキを完食していつの間にか増えてた盆の上のケーキをおかわりするくらいまで悩み抜いた。その間ずっとレ級は黙ってゴトランドさんの決断を待っていた。この期に及んで何かを言う気はないらしい。まあレ級自身は知っても死なないだろって思ってるっぽいからなぁ。

 猫吊るしが三つ目に手を付けようとした頃に、ゴトランドさんは覚悟を決めた目で立ち上がった。そして身を乗り出し、また増えていた苺のショートケーキを鷲掴み、一息に飲み下す。手に付いたクリームまでしっかり完食すると、落ち着いた様子でおもむろに口を開いた。

 

「多聞丸の能力を制御可能にして頂戴」

 

 ああ、やっぱり。正体に関してそれ以外の感想は湧かなかった。まあなんていうか、特に意外性は無いし、順当というか、他に居ないよねって感じ。ただ、願いそのものに関してはかなり疑問がある。え、楠木提督って能力制御できてないの?

「多聞丸は十分苦しんだわ。もう楽にしてあげて」

「あら、人聞きの悪い。まるで私が嫌がらせであの力を渡したみたいな言い方ですわね? 善意で差し上げてる能力ですのに、酷いですわー」

 悲しそうな声を、笑顔で少女は言い放った。あ、これ絶対碌な理由じゃないわ。思ってた以上に糞幼女だわこの子。

「力そのものは、だろーが。糞が」

「あらあら、私本当に苦しめるために貴女達を強化している訳ではありませんのよ? あの子の場合、思った以上に苦しめてしまったのは確かですけれど……」

「知ってるよ。どうして多聞丸が余計に苦しむ事になったのかも。その上で、どうか許してあげて欲しいの」

 その言葉に今度は少女の方が思案顔になった。私にはよく分からないけれど、もしや楠木提督もゴトランドさんみたいに何かしらの話をした結果色々起きたんだろうか。猫吊るしも余計な選択をさせられたらしいし、もしかして無駄にお喋りしなかったのって正解……?

「そもそもの話なのですけれど、あの子が能力を制御できるようになった程度で苦しむ事を止めるとは思えないですわ。あれは内罰的というか、自虐的というか……色々とお硬すぎるんですわよね。もうちょっと楽に生きて良いと思うのですけれど」

「てめェが言うか……!!」

 レ級の怒りがテーブルを揺らした。戦慄く拳、跳ねるケーキ。ひぇっと鳴くベイさん。ほっぽちゃんも目を丸くしている。丹陽さんは笑顔のままだ。

「私だから、言うのですけれどね。あいあむのっとあごっど。でも貴女達を創ったのは私ですわ。だからあの子が悩む必要性はどこにもないと言って差し上げるのです。まあ、言ったところで本人が納得しませんでしたけれど」

「なら、叶えてもらっても問題ないよね?」

 レ級さんと対照的にゴトランドさんは冷静だった。もしかしたらレ級が怒るとこまで織り込み済みだったのかもしれない。おお、怖い怖い。

「私は別に、多聞丸自身の意思を尊重して願っている訳ではないの。完全にこれは自分のエゴだよ。本人はまったく願ってない。だから叶った上で多聞丸が自分から苦しむのなら、もうそれは仕方ないと思ってる」

 口調的に、絶対に自分からやると確信しているのだろう。それでも放っておけなかったからここに来たと、そういう訳であるらしい。

 たぶんだけど、楠木提督の能力は情報収集系……それも予知とか読心とかそっち方面じゃないかと思われる。そして楠木提督はそれの行使を自分からして延々悩み苦しみ続けるようなお人って事だろう。知ったら見捨てられない性質なんだろうか。それが現状では暴走して延々情報を送り付けて来る? 休みなく? 成程、さては生き地獄だな?

「うーん……でもねえ。あの能力を完全に制御可能にするのは他との公平性を大いに欠くんですわよね。その代わりに強大な効果を齎してくれる性質のモノですから。かといって効果を弱体化すれば、多くの死者が出てしまう。それは貴方も望まないでしょう?」

 公平性とか考えてたのか……って事は私の能力とベイさんの能力、この子的には等価なんだな。やっぱ強いんじゃなかろうかあれ。

 ゴトランドさんはため息を吐くとゆっくりと席に腰を落とす。そして一度伸びをすると、あっとわざとらしい声を出し、今思い付きましたと言わんばかりの様子で人差し指を立て、じゃあと少女に向けて提案した。

「寝てる間の暴走だけ抑えるっていうのはどう?」

「ま、落とし所としてはそんな物かしら」

 打ち合わせでもしてたのかってくらいすんなりとOKが出た。分かった、さっきまでの全部茶番だコレ。レ級だけおめめぱちくりしてて付いていけてないのがありありと分かる。ほっぽちゃんもいいんだ!? とどっちに対してもびっくりしていた。

「あー……ああ? それは……いや能力の精度自体はそのままなら害はねェのか……?」

「うん。たぶんね。それと、夢の中での暴走が止まればゲザのカウンセリングが受けられるから……」

 楠木提督はその能力の性質上、寝ている間も情報収集が止まらないのだという。結果としてそれら全てが心に溜まり、夢はまともな状態を保てない。そのため心の淀みや穢れは猫土下座すら匙を投げる惨状になってしまっているのだそうだ。それをなんとかしたかった、というのが今回の件の真相らしい。

 ゴトランドさん的には起きてる時はどうせ一生懸命能力を使うのだからそっちの暴走は最悪止めてもらえなくても同じ事だったのだろう。最初から、楠木提督の安眠のためだけにこんなところにまで来ていたのだ。

「一応、寝ている間の予知が無くなる分だけ情報は減りますけれどね。元々まともに精査できないような物、無くしてしまっても何の問題もありませんわ」

 むしろ快眠できて思考に余裕ができるならプラスじゃないかと少女は言う。分かってて悪い方で実装したの君だよね? それともそこまで酷い事になるとは本当に思ってなかったんだろうか……うーん、分からん。なんかこう、楽しむために結果がどうなるかまでは読んでないって可能性があるっぽいからなあ。糞みたいな神様だけれど悪い子って印象でもないんだけど……いやでもかなりのファッキンゴッドだからなぁ。

 っていうか、数十年そんな事続けてたの楠木提督。何度か会ってるけど全然気づかなかった。っていうかあれか、猫土下座もしかして上手く行ったら除去作業に追われるから今のうちにゆっくりしたかったとかなのか。レ級に起こされちゃったのちょっと可哀そうかもしれない。

 

「とりあえずそのラインなら叶えて差し上げる事も吝かではありませんわ」

 だけど、と少女がじっとりした目をさらに細める。口元には薄い笑み。付き合いは浅いが誰の目にも変な事を考えているのは明白だった。

「みんな同じようにここに来たのに、ゴトランドだけ願いが叶うのって不公平に思いません?」

「いや別に」

「ボク達お招きされただけだし……」

「なんなら丹陽も同じお願いでいいですよ!」

「あー私も」

「じゃあ俺も」

「オレは計画に支障なきゃ構わねェ」

 わーさっぱりしてる連中、と少女は満足気に頷いた。別に仲間割れ狙いとかではないらしい。まあそれは置いといてと自分からした質問を放り投げる始末だった。

「こういうのって、何かしらの試練を乗り越えてというのが定番だと思いますのよ」

「ここに来るのが試練なんじゃないの?」

「本来はそうですわよ。でもほら」

 少女は私に目線を送って来た。外見年齢不相応の色気のようなものを感じる。うーん人外。

「バックドアで侵入されたような状態で試練達成にしていいのかという疑問がありますのよねー」

 そこ蒸し返すのか……でもさっき承諾してたし叶える気そのものがない訳じゃあないんだろう。要はもっと楽しませてほしいとそういう事だろうか。

「だから、今から課しましょう。試練」

 ぽんと手を叩いて少女は破顔した。レ級が鋭い眼光の笑顔で指を鳴らし始める。明らかにイラッと来てる。

「なんだァ? てめェをぶん殴ればいいのか?」

「まあその方向性でも良いですけれど……今の貴女達ではねぇ。最低限世界の法則から離脱してからでないと」

 そういえば、私達のチート能力って滅茶苦茶強い力なだけで元々この世界にあるものって猫吊るしが言ってたっけ。少なくともそれに頼ってるうちは駄目って事か。

「っていうか、超えられるものなんだ?」

「そうですわね、人にもよりますけれど一万回くらい自己同一性を引き継いで転生すると頓悟したりしますわよ」

「ええ……転生自体が修行になってるだけじゃないのそれ……?」

 それ以前にやった奴居るのか、一万回転生。合計したら百万年くらいは生きてそう。それでもぜんぜん追っつかない辺り地球って凄いよな、四十六億年だもん。そう考えると案外大したことない数字なのかもしれない。

「戦うんじゃないなら何するんだ? 朝までに帰れる内容じゃないと困るんだが」

「ああ、時間は進めてないから大丈夫ですわよ。ていくいっといーじー。お茶のおかわりはいかが?」

 虚空から注がれるでもなくカップのお茶が復活する。ポットさんは泣いていい。

「それで、私は何をしたらいいの?」

 ゴトランドさんは特に動揺した様子もなく話の軌道を修正する。何かやらされる事も予想済みだったのかな。頭の中どうなってるんだろ、ちょっとかしこさ分けて欲しい。

「そう急かさなくても……分かりましたわよ、もう」

 レ級の眼力がどんどん強くなって行くのに少女は折れた。こういうとこ悪い子じゃなさそうなんだけど、色々擁護できない事やってそうで困るんだよなぁ。

 

 じゃあはい、と少女は何も無い空間に向けて指を差した。存在しないスポットライトがその空間を照らし出す。そこには角ばった机のような物があった。数は二つ、一つは黒っぽくてもう一つは全体的にピンク色をしている。そこかしこに電飾が取り付けられ、前面には四角いモニタのような物が取り付けられている。卓上には板のようなものとペンのようなものがそれぞれ置かれ、さらにこちら向きに名札が置かれていた。『吹雪』『春雨』そう書かれた名札が。

「猫吊るし春雨扱いなんだ……」

「えっそこ?」

 いや、気になっちゃって。やっぱり春雨適性なのかなぁって。

 閑話休題、そこにあったのは明らかに当てると光るタイプのクイズの回答席であった。それも何故か、私とたぶん猫吊るしの名前が書かれた。

「……どういう事? 私に試練を受けさせるんじゃ」

「あら、だってさっき言ったじゃありませんの。同じ願いで良いって」

 そういや言ったね。丹陽さんに追随する形だったけど。人数増やしたら有利な気がしたからだったけど……成程、そう来るか。

「ここに来る方法を立案したのはゴトランド。だから、貴方の分の試練はそれでお終い。次は他の子ですわ」

 ゴトランドさんは狼狽した。まさか自分が関われない事態に発展するというのは想像していなかったらしい。嘘でしょ……と眩暈のしたような面相をしていた。

「丹陽の席がないですよ?」

 なんでですか? と私達より率先して同調していた丹陽さんが首を傾げた。他三人はそもそもそこに続いてはいなかったからだろうけど、確かに丹陽さんの名前は並んでいても良さそうなものである。

「うーん。実は貴方達は知ってる事を出題するつもりなんですわよね。それに貴方、適当に書いても正解しそうですし」

 物凄く運が良くなる能力であるとは聞いたけど、問題見ないで答えても大丈夫なレベルなのか……そりゃあ参加させ辛いわな。いや能力封じれば? え、強化してるだけで素で運いいの? 何それ凄い。

「あ、じゃあ正解できなかった問題一問につき腹筋十回で、それが達成できたら多聞丸の安らかな眠りが保障されるという事で」

 回答者は宮里艦隊の転生者さん達でーすと少女は宣言した。うん……? それ問題数によっては無回答でも達成されない? いや丹陽さん今は子供ボディでぜんぜん鍛えられてるようには見えないけどさ。さては本気でその場のノリだけで決めてるな?

 丹陽さんは分かりましたと元気よく手を上げ、私達に頑張ってくださいねと笑いかけてくる。えー私頭脳労働自信無いんだけど……いや頑張るけどさ。

「あ、出題中の相談は無しですわよ」

 ちぃっとゴトランドさんが舌打ち風の声を出した。レ級は一連のやり取りになんとも名状し難い表情をしている。そりゃあ、突然クイズ大会しますって言われたらそんな表情にもなろう。レ級はずっと真面目に話をしていたし、余計。

 

 

 

「はいそれじゃあルール説明しまーす」

 私と猫吊るしが回答席に置かれたちっちゃな背もたれ付きの丸椅子に座ると、少女が司会席を生成しながら宣言した。気が付けば茶会のテーブルは観覧席に変わり、五人の転生者は並んで私と猫吊るしを見つめている。自由自在だなあ。

「私が問題を出しますので、回答者の皆さんは答えを時間内にお手元のフリップボードに書いてくださいまし。答えが出揃ったら答え合わせをして、その結果、誰か一人でも正解していれば、その問題はクリアと致しますわ!」

 よし猫吊るしに任せて良さそうだな。いや私もできるだけはやるけども、たとえば数学の早解きしろって言われたら無理だしさ……

 その猫吊るしはどうしてこうなったって呟いてたけど、お前に変な二択突き付けて来るような子だしこうもなろうよ。たぶん本気で不味い事態になっても何らかの力でごり押ししてどうにかなっちゃうからノリと勢いだけで動いてるんだろう、仕方ないね。

「それで問題の方向性ですけれど……そうですわね、テストも兼ねて例題を出してみましょうか」

 司会席の裏に置かれた足場の上に立った少女がそれじゃあ行きますわよーと宣言した瞬間、周囲にパッと光が灯り、少女と私と猫吊るしを照らし出した。演出好きね君。

 

第0問

宮里艦隊に配属されているチート持ち転生者の数は何人でしょう?

 

 あ、そういうのなんだ。現世の状況とか……もしかしたら舞台設定とかも出て来る感じかな? 成程、これ楠木提督から色々聞いてるっぽいレ級やゴトランドさんは絶対分かるから回答者にできないのか。

 それと、思ったよりは簡単そうで良かった。同じような方向性でも各鎮守府の資材の収支状況とか問われたら死ぬところだった。まあこれについては例題だからかもしれんけど。

「なあこれ……」

「おっと、出題後の相談は無し、ですわよ。答え以外のご質問は受け付けますけれど」

 むっと猫吊るしが眉を顰めた。でもそのまま一瞬だけ悩んで、じゃあ、と再び口を開く。

「この問題、例題なら間違っても誤答に数えないよな? あと、俺か吹雪のどっちかが合ってればいいんだな?」

「どっちもYesですわ! やりたければ有り得ない数字を書いて頂いても後には影響させませんし、吹雪が間違っても貴方が正答すれば一問クリアとなりますわよ」

 逆も然りと少女は言う。それはあんま無さそうな気がするがこっちに有利なルールだからそこは有難いね。

 もう聞くことは無いのか猫吊るしはさっと回答を記入した。回答席には仕切があって、猫吊るし自身は見えるけど手元は見えないためなんて書いたのかは分からない。聴覚でも分からなかったので何らかの対策がされているっぽい。まあそりゃそうか。終わった猫吊るしがこっちを見つめて来たので私も急いで答えを書き込んだ。

 

「出揃いましたわね、では、回答を見て行きましょう!」

 そういうのやるんだ。少女が宣言した瞬間、私達の後方斜め上に大きめのモニタが出現する。どん! と少女が口で言うと、そこに私の回答が表示される。書かれた数字は当然、2である。

「というわけで吹雪の回答はー、2人ですわね! 流石! 捻りも工夫もなんにもない! 真っ当! 普通!」

 なんでディスられてんの私。いや真っ当はちょっと褒められてる気がしなくもないけど。

「どうしてこの回答に?」

「え、いやなんでって、私と猫吊るしで2人じゃ……」

 あれ。違うの? 観覧席を見るとゴトランドさんとレ級だけちょっと困った顔をしていた。あれれーおかしいぞー?

「はい、吹雪さんの回答でしたー。次行ってみましょう、どん!」

 モニタの表示が移り変わる。私の回答は私の席の前面に表示され、猫吊るしの回答がでかでかと発表された。そこに書かれた数字は、1。

「いやな、実は俺、勝手に移動してきただけだから、たぶん正式に配属されてないんだ……」

「えっ、あっ……そういう問題なのこれ!?」

「分からん。けど、どっちかが合ってればいいってこういう事だろ? 吹雪ならそのまんま書くと思ったからな、俺はずらしただけだ」

 あー……成程、これ回答者が複数居るなら被らないように答えた方がいい奴なのか。そりゃそうだわな、どっちか合ってりゃいいんだから。

「まあ、そういう事ですわね。他の子も分かってると思ったら自分はちょっと変えておくのも手ですわよ」

 うーんそうなるのか。難しい。っていうか、難し過ぎるしそれかなり博打感ない?

「相手も変えるかもしれないって思ったらそのまま答えた方が正答率高そうなんだけど……」

「そこに気付くとは……」

 少女は心底意外そうな口調だった。さては私滅茶苦茶舐められてるな? 間違った評価って気はしないけど。

「経験則ではやらない方が正答率高いですわね。まあこの場合のように相手の回答が分かり切ってる時は使えますけれどね」

 まあ貴方は使わない方が良いと思いますわよ、と少女が告げ、猫吊るしの回答もモニタから消え去った。観覧席は一部へぇーって顔をしているが、一部はあー……って顔になっていた。なんか反応が変だな。

 

「はいでは、解説に入らせて貰いますわね。この問題の肝はそう、猫吊るしの言った通り、配属されているかどうか、ですわ!」

 解説に曰く、猫吊るしは結局のところ、扱いとしては勝手にやって来て妖精さん達の音頭とって改装に改造に滅茶苦茶役立ってる不審者、という事になるらしい。

「ひどくね?」

「そもそも妖精さんって正式配属とかないから正確に言えば全員勝手に手伝ってるだけなんだけどな」

 観覧席からも驚きの声が上がる。確かに一人一人に辞令出してる印象は無いけどさぁ。ゆるゆるとはいえ軍組織みたいなもんなのに大丈夫なんだろうか。

「そういう訳ですので、配属されている人数に猫吊るしは入りませんの。それと、今回は関係ありませんけれど輪廻転生のある世界ですので、単純に転生者の数を聞いていた場合は一人二人どころの騒ぎでは無くなりますわね」

 そこまで行くと正解させないようにしようと思えばいくらでもできそうな気がする。引っかけ問題ってやっぱ糞だわ(108敗)っていうかさらっと言われたけど普通に転生あるのね。まあ集合無意識とかあるし今更だけども。

 

「それでは正解発表ー!」

 少女が腕を振ると照明が一度消え、私達の席に付いた電飾が煌めきだす。この演出いる? いや君が楽しいならいいんだろうけども。

 どこかからドラムロールが聞こえて来る。暫くするとそれが止まり、同時に回答席の光も消える。次の瞬間、ドラムが一度大きく鳴らされると、()()()()()()()()()()()

「え?」

「は?」

 私と猫吊るしの声が重なる。ほっぽちゃんとベイさんもえって顔をしている。ゴトランドさんとレ級は苦笑いである。丹陽さんはずっと笑顔だ。

「正解は2人!」

 ちょっと待って。

「一人目はご存知この子! チート能力『なんか』『つよい』! 転生回数一回! 吹雪こと、伊吹 雪ちゃん!!」

 そうだね知ってる。

「二人目はこの子!」

 私の索敵範囲内に一人の影が出現する。

「チート能力『こえが』『(・∀・)イイ!! 』」

 上空に現れたその子は何も無い空間に落下して尻もちをついた。

「転生回数三回!」

 それは茶色い髪をポニーテールに纏めた見覚えのあり過ぎる女の子だった。

「文月こと、(かざり) (らいと)ちゃんです!!」

 何が起きているのか把握できなかったのだろう。えっえっえっ、とすっっっっっごく可愛らしい声を上げながら、その子――宮里艦隊に所属している文月は驚きと困惑に包まれていた。

「クイズ、転生先の世界と他転生者について事情を知らない転生者に回答させてみた! 回答者はこの三人でお送りいたしまーす!」

 猫吊るしの横に茶色の回答席が生えて来る。髪の色だったのか。いやっていうか何その糞動画みたいなタイトルふざけてるの。いや最初からふざけてたわ。もしかして誰かに見せる予定とかあるんですかね。やめてよ。

 

 

 




最初からその設定で出してたんですが一回も突っ込まれなかったのは展開予想に配慮してくれたのか純粋に描写不足だったのかが分からなくて悩んでたという困った子でした。
何もかも酷い展開なのは継続中です。


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新世界の神(ネットミーム的な意味で)

 ふつう~な人生でしたわねえ。

 四回目の現世において月と書いてライトと読む何処かで見たような名前を授かる人間が、一番最初にその少女に遭遇して一番最初に掛けられた言葉がそれであった。何も無い空間、見た事のないほど耳の尖った少女、まともな形を成していない自分の体。状況が全く分からなかったためか、物言いに対して特に怒りは湧いて来ない。むしろ、全くもって同意見だと思えてしまう始末だった。

 その元男の人生は本当に、よくある普通の人生としか言いようのない物だった。幼い頃から夢を持ち、その夢に邁進し、叶う事がなかった大多数の一人であるという意味で。

 彼は最初の生において声によって糧を得る職業を目指していた。いや、ある程度の銭を得る事はできていたため、その職に就いていたとは言ってしまってもいいのかもしれない。ただ大成する事はなかったし、それだけで食べて行けた訳でもない。知る人ぞ知るですらない、木っ端にすらなれない何かであったのだ。

 そもそもの話だが、その男の声はそれ程質の良い物ではなかった。演技に関しては同世代でも良い方ではないかという自負はあったが、突出はしておらず、さらに言えば、容姿も見れる方とはとても言えない程度。それを補えるほどの世渡り上手である訳でもなければ、何か大きなコネクションを持っている訳でもない。何一つ、名の上がる要素は無かったのである。

 それでも一度の人生、やりたいのだからやれるだけやってみようという気概で取り組み、そしてそのままあっさり死んだ。死因は少女曰く、災害による外傷での失血であるという。花は咲かずとも前向きに取り組んでいた男にとってはなんとも残念な結末であった。

 だから、次の人生を差し上げようかと思いまして。

 などと、やたらと髪の長い少女はのたまった。何故そんなよく居そうな経歴しか持たない自分がという疑問はあったが、親類縁者も演者としての需要も無かった前の自分に未練などはそれ程なく、彼はその提案をすぐに受ける事にした。

 そうして振らされたダイスの結果が『こえが』『(・∀・)イイ!! 』である。なぁにこれぇと思った事は言うまでもない。

 しかし、その能力は男にとっては喉から手が出るほどに望んでいたそれそのものであった。何せ碌な結末など待っていなかったであろうにせよ、行こうとした道を半ばで中断された身である。夢は彼の心からまるで色褪せていなかったのだ。それ故にターゲットにされたというのは本人は知らない事実である。

 男は滅茶苦茶に喜んだ。元々、叶いそうにない夢でも追い続けられるくらいには真っ直ぐな気質をしているために欠点を埋めてくれると言われて素直にただただ嬉しかったのだ。少女の方も純粋に喜んでくれる人間は少ないので、笑みを深くして顔も良くしておきますわねーと更に特典を重ねて行った。

 だが不思議なもので、話が美味くなるに従い、逆に男の心では不安な気持ちが首をもたげて来たのである。死の前夜に読んでいたネット小説の内容が良くなかったのかもしれない。もしかしたら、この女の子は自分を喜ばせておいてちょっとした罠にかけるタイプの転生神ではないだろうかという疑いの気持ちが生まれてしまったのだ。

 だから、男は少女に確認を取る事にしたのである。もしかして、声優が存在しない時代とか世界に送ったりしようとしてないよね? と。その質問に少女はきょとんとした反応を見せると、くすりと笑い、そして言った。

 

 正解っ!

 

 流石に男もでこぴんに走った。見た目小学生以下の子供を殴ったり怒鳴りつけたりはする気になれなかったのである。割とリアクションは良かった。

 

 その後に彼は頼み込んだ。現代で、オタク文化が盛んで、できれば日本っぽい所に生まれ変わらせてくれないか。割と頼みが多いのは自覚していたが、ある程度以上には豊かな時代でないと職業自体が存在しない可能性が高く、譲れない所である。

 じゃあ、私と契約致しますか?

 擦り付けんばかりに不定形の頭を存在しない地面に向かって下げ続ける男に対し、少女はそんな提案を持ちかけて来た。

 転生と能力の付与は少女の勝手でする事。即ちサービスである。故に対価は必要がない。だが、少女に何かを望むのであれば、それは即ち契約の申し込みなのだ。先払いか後払い、既に死している男に選べるのは後者だけであった。

 契約内容はごく単純。少女がサービス以外で男に対して使った分の万能たるその『力』を、利子を付けて返済する事である。少女の正体は金貸しならぬ、『力』貸しであった。

 付与するチート能力を使用し、研鑽し、練磨すればその『力』は増して行くと聞き、男はその条件を呑む事にした。元々普通に使う気満々であったので、デメリットは無いように感じたのだ。利率が期限無しの10%とそれ程高くない事も決断を後押しした。

 ――世界を丸々一つ容易に作り出せる存在の振るう『力』を唯人の身で生み出し還せるようになるまでにどれほどの生が必要になるのでしょうね?

 なんて、意地の悪い少女の考えをよそに、二人は話を詰めて行った。そうして概ね男の願いが叶う形で転生する事になり、二回目以降の転生に掛かる費用はサービス外ですわよ、と囁かれながら彼は次の世界へと旅立ったのである。

 

 一度目の転生。彼……いや、彼女は瞬く間にスターになった。子供の頃から大人顔負けの演技力を発揮し、それでいてそれ程は調子に乗る事もない。容姿も優れ、トークスキルもそこそこにある。

 そして何よりも声が良かった。本当に、どうしようもなく、声が良かったのである。

 それは彼女のその他の良さを覆い隠すほどに強い個性だった。そのまま順当に行けば彼女が腐ってしまいかねない程に。

 実際、その世界が声の演技だけで老若男女を問わずの存在しないキャラクターを脳裏に浮かばせる男性や中学生にして十年以上の芸歴を持つ少女、それに天使のようと揶揄されるソプラノボイスを持つ男の存在がなければそうなっていたのは間違いなかったろう。

 声の良さだけに叩き潰される程度の存在ではない彼らとの競い合いは彼女の心を燃え上がらせた。世間からの評価は既に異常に高かったが、演技力でも認めさせてやろうとその生では試行錯誤を繰り返す事になったのである。

 時にぶつかり合い、時に引き上げ合い、彼女の技術は前世のそれより遥かに磨かれて行った。返済の事などはさっぱり忘れてしまっていたが、その頃の事は後に思い返しても後悔など一片もない思い出となっている。

 成長した彼女はその世代の女性声優の双璧の一人として君臨し、片割れの戦友と世界中のオタクの耳を幸福にし続けた。そして前世と同じある日、同じ時間に、同じ死因でその世を去る事になるのだった。なお死後に再会した少女には災害の日時が同じとはいえ因果も弄ってないのにと笑いをこらえた表情で迎えられた。

 

 そのまま彼女――三回目の生も女性だった――はまた違う世界に生まれる事になった。今度はちゃんと能力の研鑽もしないと転生のたびに借金ならぬ借力が嵩むと若干焦りながら。そのため今世は幼少期に業界に入る事は避け、自由な時間を能力を使いこなす事に費やすと彼女は心に決めたのだ。

 静かに真剣に、粛々と能力と向き合い続けた小学校時代。技術として様々な事に使えるというのは分かったが、どうもチート能力として成長している気がしない。仕方がないので中学でも同じように平穏かつ集中して修行しようと彼女は普通の公立校に進む事にした。演者の仕事はしたかったが、あと三年なら我慢もできるはずだった。だが、誤算は向こうからやって来た。

 アイドルに、興味はありませんか。そう言ったどこぞの社長に名刺を渡されてしまったのである。

 三度目のこの世界はどういう訳かやたらとアイドル文化が活発だった。その事は知っていたし、彼女自身歌に関しては推しの一人も居たのだが、自分がその道にというのは思考の埒外の話である。尤も、二回目の転生においても彼女の体はかなり顔形が良く、美しい声も相まって知る人が知れば放っておかれないのは自明の理ではあったのだが。

 そうして彼女はプロダクションに所属する事になった。声優の仕事も探してくれる事を条件にしてみたら、二つ返事でOKされてしまったからだ。そうなればもう我慢もできず、彼女は破茶滅茶に張り切った。十年以上ぶりの仕事に全力を投じてしまったのである。

 気が付いた時には彼女はその事務所の若手で最も推されるアイドルとなっていた。何せ最初からあらゆる点が高レベルに纏まり、特に声を使う能力に関しては誰がどう評しても天才のそれであったのだから、否を唱える者は居なかったのである。

 そうなってしまうと当然忙しさは小学生時代とは別次元となったのだが、彼女の考えに反し、自身のチート能力を振るう機会は多かった。例えば友人アイドルの熱心なファン(迂遠な表現)を普通のファンに変えてしまったり、例えばメンタル不調に陥った同僚のケアをしたり、例えば社長の悪行を事前に止めさせて真っ当に正面から勝負させたり、例えば不調な音響機器を声で調整したり、例えば銀行強盗を前後不覚に陥らせて同士討ちさせたり。

 ライバルの多いこの世界ではあるが、前世の経験と全開にした能力で彼女はアイドル坂を駆け上がって行った。楽な道ではなかったし、やっぱりチート能力なんて問題にしないような輝きを持った娘達に並び掛けられるような事も多々あったが、その時代の顔の一人として異様とすら言える早さでその脚は進む。進んで進んで既にそこに居た同事務所の先輩ともぶつかり合い、やがて、その頂へと手が届いた。

 その時ふと後ろを振り返ってみて、初めて、自分がどこに立っているのか気付いたのだ。

 この世界ではアイドルの活動が活発で、ライバルも多い。それは、最初の人生とも一つ前の人生とも比べ物にならないくらいに。

 夥しい夢の残骸。深い努力の爪痕。消えぬ憧憬に焼かれた魂。そこに居たのは一回目の自分だった。

 たくさんの視線が自分に向いていた。嫉妬ではない。羨望でもない。絶望なんかでは断じてない。

 だから、彼女はその頂に華麗に飛び乗って、完璧な笑顔を振りまいた。視界いっぱいに広がるそれらを絶対に無価値にしたくなかったから。

 そうして忘れてたもんだから前回前々回と全く同じ理由で命を落とし三回目の人生は終了した。少女には流石に呆れられた。

 

 

 

 

 

 割と雑に次の世界に投げ込まれ、迎えたのが四回目の人生である。

 まるで新世界の神のような名前を与えられた彼女――最早女性として過ごした時間の方が長い――は迷っていた。前回の人生においては一度立ったその座を無下に扱う事が許せなかったから立ち続けたが、そもそも立っていいのかという迷いが(今更)涌いて出て来たのだ。

(チート能力と前世の経験で無双してちやほやされるって、あたし痛くない?)

 かつての自分に相談したら間違いなくSEKKYOUされるような悩みではあるのだが、彼女、文 月にとっては真面目な問題である。そういう迷いは演技に(二回頂点取った奴の感覚的には)明確に出てしまうからだ。

 能力を高めるためにチートをこねくりまわしつつ小学校へ通い、そこで完璧な外面で学友の性癖を耳から破壊しつつ月は真剣に悩んだ。チート転生者である自分が競い合いが確実に存在する声のお仕事に就いていいのか、毎日毎日深く考え込んでいた。

 その世代に限定した話でしかないとはいえ頂点にも手が届いた事のある月は、既にそこへの執着心は殆ど無くなっている。傲慢に聞こえるかもしれないが、今の自分が表舞台に出れば真剣にそれを目指している人達の邪魔にしかならないだろう。多少の才能と努力など一蹴どころか一歩を踏み出した際の風圧だけで掻き消える。チートというのはそういう理不尽極まるものなのだ。

(でもお仕事はしたいんだよねぇ……)

 結局の所、そこに尽きる。月はそもそも声の演技が大好きなのだ。我慢できるかできないかと言えば絶対にできない。いっそVにでもなればとりあえず顔の恩恵は最小限で済むのではなどと色々舐めた思考まで飛び出る始末であった。そうして将来の事に悩むという、結果的に学生として正しい事をしていたら、奴らが来た。

 深海棲艦。それらがあっという間に海を制圧し、日本の首をゆっくりと絞めに襲来したのである。

(アイエエエ!? 艦コレ!? 艦コレナンデ!?)

 月は恐怖した。戦いのある世界は転生三回目にして初めてだったのである。確かに思い返せば仕事の有無はともかく戦いの有無は指定していなかったかもしれない。しかも自分の名前はどう見ても文月で、声もものっそい良い。ああ逃れられないと確信し震えて政府の発表を待ったが、幸いというか、一度目の適性検査では自分の家は範囲外だった。セーフ! 月は両親と妹と一緒にほっと息をついた。そうして第一期の適性者達が召集という名で戦に取られる中、特に問題も起こらずに月は中学に上がったのだ。

 

 

 

 

 

 その日、月は家で真剣にスマホを覗いていた。何せ転生者で名前も意味深過ぎるものだから、次かその次かは知らないけれど、絶対戦いに行かされると確信できてしまって、情報収集に全力を出さざるをえなかったのだ。だから、その配信を見つけてしまったのは偶然ではなく、必然である。

 

 戦えない艦娘、襲い来る深海棲艦、受け止める少女、呻る拳、爆散する敵性体。

 

 月は首を傾げた。

 理解が追いつかなかった。

 目を閉じ深呼吸。

 目を開き、誰かが上げた動画でその出来事を見返す。

 もう一度首を傾げる。

 頭の中で情報を整理する。

 そしてようやく理解した。

 

(もしかして →転生者)

 混乱しすぎて思考はまともに文章の体を成していなかった。前世と前々世と前々々世を含めてもここまで頭が鈍くなるのは初めてだったかもしれない。ただ分かった事も一つある。

(転生者が複数居る世界かぁ)

 前回も前々回も、少なくとも彼女の知る限りでは転生者は自分一人だけだった。だからてっきりそういう物なのだろうと思い込んでいたのだけれど。

(契約者が私だけ、なんて事はなさそうだもんねぇ)

 考えてみれば最初は無料サービスで転生させてくれようとしていたのだから、同じような立場の人がたくさん居るのは何もおかしい話じゃない。むしろ自然だろう。自分のように契約までするのかは人によるのだろうけど。

(たぶん戦闘向けの能力……だよね。あ、でも艤装? の力って可能性もあるのかな?)

 考えながら穴が開くほど動画を見つめるがその辺りはよく分からない。しかし何度も見返せば気付く事もある。過去三度の人生全てで声の道に進んだ彼女であるから、映像ではなく、その音声から伝わる特殊な情報を読み解けた。

(この子、ぜんぜん嘘ついてない)

 月は数十年に及ぶ合計芸歴と実はそっち方面に突出していた己の才によって、他人の声の調子や表情などからその言葉に裏や誤魔化しがあるかどうかがかなり分かるようになっていた。直接向かい合えば五割以上は分かり、動画などでも三割くらいは分かったりする。その程度と言えばその程度なのだが、この子はどういう訳だかやけに分かり易かった。

 その転生者と思しき娘は明らかにいつかに読んだのであろう漫画の真似をしながら参上している。人によってはふざけてるのかと思うだろうし、月も初めはそれは余裕の表れなのだろうと考えていた。プロパガンダという意見も散見され、それにある程度賛同する気持ちすら抱いていたのだが、そのまるで不快でないように調声されたものを完璧な発声で練り出しているような声を聴いている内に、どうやら動画の子の内心は全く違うようだと気付かされたのだ。

(殴ったのはそうするしかなかったからで、パロったのは安心させるため……かな、たぶん)

 かなり急いでいたようなので思い付いたのをそのまま実行したのだろうと推察される。見れば見るほどその犯行に計画性は無いように感じられた。つまるところ、普通に良い子。状況が整い過ぎているのは引っ掛かるが、少なくとも当人は本当に知り合いの危機に全速力で駆けつけただけなのではないだろうか。

 それが分かって、月は逆に相手の正体が分からなくなった。理解できたのも前世のおかげなら、分からなくなったのも前世のおかげである。

(あれ……転生者じゃなくて主人公的な人……?)

 一つ前にも二つ前にも、そういう連中が跳梁跋扈していたのだ。自分が何度転生を繰り返そうが覆せない魂の輝き。演技の実力で勝ろうが対面すればその差が歴然としてしまう存在感。拙い歌唱から脳に直接理解らせられる希望の光。

 原作キャラ。後々聞けば、彼ら彼女らこそがそれだったのだという。直接人間として接した月にとってどうでもいい情報ではあったけれど。

(いやでも艦これでオールマイトする原作キャラとか居る訳ないし……)

 もしや自分の人間性イズお糞なだけで平均的な転生者ってこうなんだろうかと思わされ、ちょっびっとだけ月は凹んだ。

 そうこうしているうちに次なる燃料が供給される。それは全く毛色の違う動画で、そこには圧倒的な速度で一般短距離選手を叩き潰すお馬鹿の姿が映っていた。

 ただ、倫理的にどうなのかとかそういう話は置いておくとして、月はその子の走る姿から悪意や名誉欲は感じとれなかった。喋っている訳でもないから精度としては酷い物だったし、何度見てもその娘――伊吹 雪は終始ほぼ無表情だったのだけれど。

(楽しそう)

 他人を蹂躙するのが、ではない。走る事そのものが、である。変わらない表情からどういう訳だかそれが伝わって来る。演技だとしたら凄まじい才能だろう。

(もしかしてあたしと同じなのかなあ?)

 以前あの転生神みたいなのは付与する相手に合う能力しか渡していないと言っていた。つまり、自分が声の演技が好きだから良い声にして貰えたように、彼女は体を動かすのが好きだから力強くなったのではないか。仮説だったが、そうだとすると結構酷い。好きであれば好きであるほどその道に進めないだろう。

(お話ししたら友達になれるかな?)

 案外状況としては自分と似ているのかもしれない。どうやら転生一周目なのか周囲の男子の性癖をぶっ壊しちゃってるらしいというのも含めて。

 

 

 

 暫くして放送された生放送で本州全土に詳らかにされたトンデモ戦闘能力にやっぱり転生者だと確信を深めつつ迎えた二回目の適性検査。月の家は当然のように対象に入り、気が付いたら月は訓練所に送られていた。

 教官長が替わっていたおかげで左遷されたんだなどという噂が立ちながらも、滞りなく始まった訓練は順調に進んで行く。件の伊吹さん――吹雪のプロパガンダの効果は絶大で、ちょっと心の防壁を崩して聞き出したのだが、二期生達は一期生よりは全体にやる気が高かったらしい。実力はともかくしっかりと取り組んでいる子は驚くほど多いのだそうだ。

 と、電教官はそうおっしゃっていたが、そうなったのは実の所、月――文月が主原因である。文月のチート能力は声だ。本当に声が良くなるというそれだけのチート能力だ。それはもう、吹雪の圧倒的な暴力と等価な程に、文月の声は良かったのだ。

(吐きそう)

 耐性のない一般人を前向きに戦場へ行かせるのは、文月の声と技量の合わせ技にとっては簡単な仕事である。よほどの声フェチでなければ一過性の効果でしかなく数時間で切れるような影響ではあるが、訓練であればそれで十分。まるで輝きが見えるほどのやる気に満ちた表情で、みんな艤装を背負ってくれた。

 勿論、同期の仲間たちの事を想ってやった事ではある。文月の経験上、反復練習というのは大事なのだ。それこそチート転生者であるならともかく、一般的な範囲の才ではどれだけ台詞を暗記しようが練習を積まずに舞台に上がるのは無謀以外の何物でもない。一か月という短い時間でどれだけ体に染みつけられるか、それが生存に直結するのだとある種の戦場を駆け抜けて来た文月には断言できた。

(毎日掛け直しちゃうと不味いんだけどなあ……一か月なら残らない……といいなあ)

 人それを洗脳という。悪人になら平気でやるタイプの転生者である文月だが、罪もない無辜の子供達の思考を誘導し都合のいい行動を取らせるのはちょっと精神にクるものがあった。元々やる気のある人間ならいい、迷いがなくなって頭がスッキリするくらいの効果しか出ず何が残るという事もない。だが元々やる気のない娘を操るのには気が滅入った。おめめきらっきらになって怖いし。

(っていうか、あたしが一番強いってどういう事?)

 二期生は何というか、弱かった。仮想敵として呼ばれた那珂ちゃんに纏めて蹴散らされるのも日常茶飯事で、生放送から垣間見えた一期生の最上位クラス(吹雪を除く)と比べて明らかに実力が劣る。これも電教官から聞いたから間違いない。教官は文月レベルというのはそうとうに強いのだと言うが、過去に戦闘経験のない文月の実力など知れている。トップの成績を保っていれば声を聞いて貰い易いのはメリットだけれども。

(こういうお仕事は望んでないよぉ……)

 しかも無報酬である。勝手にやってるボランティアなので当然ではあったが。

 

 楠木という提督に提督としての能力を教わり、はえーすごい演技力と感心しながらも転生者とは気づかずに別れ、文月は宮里艦隊に配属される事になった。正直に言って配属先が書かれた紙をバラバラに引き裂きたかった。

 文月は戦うのが怖い。債務のおかげで次の生が保障されているとはいえ意識のある状態で終わりを迎えた経験はなく、死への恐れは普通と大差なかったのだ。だから希望用紙にも遠征にでも回してくださいと書いたし、常々教官達にもそう言ってきたのだが、結果はご覧の有様である。

 なお教官達からしたら文月は成績優秀でリーダーとして動ける上に提督としての資質も持つ天才児の一人であった。ぶっちゃけ一期生の島風や夕立と同じ枠に入れられていたので当然の結果と言える。

 戦いに関しては胃が痛くなるほど心配だったが、もう一つの問題、吹雪に関しては文月は迷っていなかった。正体は言う。どういう流れで言うべきなのかは分からなかったがそう決めていたのだ。

 人数が少ないためか文月達は乗用車で送迎された。車内は配属される三人全員が自分の姓名に使う艦の名が入っている事に首を傾げたりしつつも終始和やかで、最前線に回されるだけあって文月以外の二人は戦意も十分。転生者以外も何かあると勘付くには十分だった。

 そうして到着した鎮守府で先輩の曙と画面越しに何度も見た龍驤に施設を紹介され、工廠へと足を踏み入れた時である。

「世に文月のあらんことを……」

 印象を良くしておこうと笑顔で美声を振りまいていた文月に向かって、突然それが唱えられた。振り向けば、そこに居たのは妖精さんである。それも、何処かで見た事のある格好をした。

 こんにちはと挨拶すればその子は笑顔で返事をする。仕事に関して聞いてみれば、大変だけどやりがいがあって楽しいよと妖精さん特有の可愛らしい高音を響かせた。

(なるほどねー)

 転生者だこの子。めっちゃ猫被ってる。声の出し方が、仕草の自然さが、向ける目線の先が、普通の妖精さんとはまるで違う。こちらの事に気付いた風ではなく、ひとり言を聞かれた事をなんとなく恥ずかしがっている様子だった。

(そっとしといてあげるのも優しさかなぁ……)

 だから、その時正体を追求するのは止めておいた。気まずくなるし、それに転生者が吹雪以外も居るとなるとちょっと身の振り方を考えなければいけないだろう。派閥争いとかあったら巻き込まれたくない。深海棲艦を砕く吹雪の力で殴られたらばらばらになる自信が文月にはあった。

 そのまま工廠を出て施設を回り、再度外に出た時。急にすごい勢いで駆け寄って来た露出の多いうさ耳が、新人だーと喜色の声を上げながら辺りを跳ね回り始めたではないか。さらにはそこに金属質な小動物のようなものも加わってミューキューキャーと騒ぎ出す。辺りは一気に騒がしくなった。

「わあっ、本物だあ!」

 果たしてそれは島風と連装砲ちゃん達である。本当に動いている連装砲ちゃんを見て文月は思わず声を上げた。往年のファンとしては心が踊らざるを得なかったのだ。

 そうしていると近くに居た曙が誰かの名前を呼んだ。その声の向いた方向をつい、文月は見てしまった。そこに。それはいた。

 見た目には派手な印象は受けない。例えば前世のアイドル達と並べれば明らかに目を惹く方ではないだろう。だがよくよく見れば明らかにその顔立ちは美しく、肉体のバランスも素晴らしいの一言である。こちらに向かって歩いてくるその所作に淀みはなく、全身に良質の筋肉が付いている事がはっきりと分かった。

(綺麗な子……)

 そう端的に言ってしまうのがしっくりくる。顔面偏差値だけで言うのなら今世の文月は同程度と言っていい。だが、全身を見比べられた時どう評価されるかなど火を見るよりも明らかだった。唯一声に関しては間違いなく勝っているのだろうが。

「こんにちわ、駆逐艦の吹雪です。よろしくお願いします」

 人見知りでもするのか多少の緊張は見られるがしっかりとした声。悪くない、どころか、発達した腹筋に支えられ恵まれた肺機能から生み出されたそれはどこぞの女優や声優の類であると紹介されれば疑う余地が無いだろう程度には質が良い。

(はー? かわよ)

 文月は転生者である。最初の人生ではオタクで、その後の人生でも変わらずオタクである。そして別に文月は、二次専ではない。その上で、文月は最初の人生の影響を強く受けた人格をしている。

 即ち、今世の肉体を主眼に置いて言うのであれば、同性愛者である。

 だから、飛び切りの美少女を前にすると普通に緊張するし、見た目にだけは可愛らしく顔を赤らめたりもしてしまうのであった。中身はだいぶアレである事は言うまでもない。だがしかし、それで舌を噛んだりするかというとそれは無い。有り得ない。

「睦月型駆逐艦7番艦の文月ですっ。よ、よろしくお願いますっっ!!」

 故に、上擦ったのもちょっとつっかえたのも全て演技である。ちょっと恥ずかしくなっちゃったのは素だが、声に関しては全て計算ずくでやってしまえるのが文月だった。聞かせたい声を聴かせるのは得意中の得意なのだ。

 第一印象を良くするためチート能力も全開にしている。吹雪がオタクなのは当然知っていたから、可愛らしい声だって大好きに違いないと思っていた。そしてそれは間違いではなかった。

 吹雪の反応は他と文月の時で明らかに違った。表情は変わらなかったが、感じ取れる雰囲気が段違いに好意的なものに変わったのだ。どういう原理かは知らないが、どうやら変わらない表情に反し凄く分かり易い子なのだと新人三人が気付いた瞬間である。一人だけ漫画的な表現で背景のトーンでも変わっているのかもしれない。

 ともあれ、想像以上に実物が可愛い事も手伝って、ちょっと暴走気味な全力で魅了しかねない美声を文月は放った。他には効かないように、吹雪だけに焦点を絞って。結果。

「世に文月のあらんことを……」

 その結果がこれである。妖精さんと全く同じ反応をしていて流石に笑いを堪えられなかった。

 打ち合わせなどしていないだろうにその同調率なのが気になって、もしかして流行っているのかと聞いてみれば、吹雪の様子が明らかに変わる。声は震え、寒気でも感じているのか体も震え、どことなく大気も震えているように感じた。

(えっ……あっ、やり過ぎた?)

 文月の能力は声が良くなるだけである。だが、その力を自身の育て上げた技術と組み合わせると、結構恐ろしい事が可能だ。やり方を間違えればおそらく廃人を量産できる。そんな自分の全力の声を、オタク少女に聞かせるのは不味かったのかもしれない。

 なんて、一瞬文月は考えたが、吹雪の状態はそれとはまるで関係が無く、迷った末に正直に妖精さんの事を言ったら、その瞬間に吹雪は姿を消したのだった。

 

(全然効いてなかった……っぽいかぁ)

 脳の奥まで自分の声に犯された人の反応は知っているが、吹雪のそれとは全く違う物である。気に入ってはくれた様子だったが、あの様子だとそれだけだろう。

(よかった)

 文月は円滑に友好関係を築きたいとは思っていても、吹雪を支配下に置きたいわけではない。そもそも手段として可能ではあっても全くやりたい事ではなく、有効活用するような才能も豊かとは言えなかったりする。他チート転生者なんて絶対手に余るし、なんとなくだけど、そういう邪な感情を向けたら叩き潰される予感しかしなかった。

(それにしても変な反応だったな)

 自分もやったくせに、他人がやったと聞いてショックを受けているようだった。まるであの妖精さんがやる可能性はまるで考えていないような、そんな印象が伝わって来ている。存在を知らなかったか、艦これを知っている事を知らなかったか、知っていてもまさかやるとは思わなかったか、候補としてはそんな所か。どれにしろ文月としては悩ましい事態と言えた。

(これ……正体明かして大丈夫なのかなあ?)

 転生者なのは間違いないと思う。でも、なんだか他の転生者への対応が極端な可能性が見え、文月にちょっと躊躇いが生まれた。

 

 

 

(死、死んでる……)

 少し後、提督の執務室で再会した吹雪の頭上では転生者と思しき妖精さんがお亡くなりになっていた。そして明らかにおかしい状況だったために提督にその異物について質問され、吹雪が返した答えが、これである。

 

「死ぬほど疲れてたんだと思います」

 

(処されたんだ……!)

 文月の褪せる事のない一度目の人生の記憶が正しければ、そういう時に使う台詞である。あの妖精さんはおそらく、不用意な発言をしたために吹雪によって制裁されてしまったのだ。嘘も隠し事も無さそうな吹雪のお言葉は、直前に猜疑を抱いていた文月にはそうとしか捉えられなかった。

 その上降ろして安静にさせた方が良いのではと提言してみれば張り付いてて無理だと返され、提督の方もじゃあしょうがないですねと流す。吹雪は暴力的な対応が日常的なのだと受け止めてしまうのも致し方のない所であった。

(正体明かすのまた今度にしよう!!)

 文月は方針を転換した。実際の所は頭上の妖精さんは生きていたし、たぶん本当に疲れて寝てただけっぽいのだが。今、自分が転生者だと告白するのはちょっと怖すぎた。

 

 

 

 その後暫く文月は吹雪達の様子を観察した。勿論出撃しながらな上に違う戦場へと行っているためあまり効率は良くなかったのだが、それでもチート転生者というのは凄く目立つ。文月自身もそうだが得意な事について優秀極まりないのだ。結果、宮里艦隊で転生者っぽいのは最初に確認できた二人だけで、その二人は共に善良な性格だろうと文月はすぐに結論付ける事ができた。

 吹雪は基本、凄く単純にいい子である。動画から抱いた印象の通りかなり素直で、命令にはちゃんと従うし誘われれば友達付き合いも悪くない。妹を名乗る不審者の世話も焼くし、明らかに空手ではない謎の拳法の鍛錬もしっかり行っている。文月にも好意的で、やっぱり声は凄く気に入られている様子だった。

 妖精さん――猫吊るしも吹雪に比べると猜疑心強めではありそうだったが、やっぱり凄くいい子である。見かけた時、吹雪と一緒に居ない場合はいつも働いていて、陣頭指揮から開発まで何でもこなし工作艦娘とのコミュニケーションも円滑だ。この損耗具合で全艦の修理が終わるのかと心配になる様な日でも、徹夜で完璧な仕事を行ってくれる。世話になり過ぎて正直頭が上がらない。

 初日に見た吹雪のアレは見聞きしたミームが口からこぼれ出るという一部のオタク特有の性質が強かったせいであり、単なる勘違いでしかなかったと文月は納得した。全く大丈夫な人達だったため、そうなれば後はもう自分がいつ白状するかである。だが困った事に、これが案外難問だった。

(言い出し辛いし言う機会が全く無い……)

 根本的に、宮里艦隊は忙しい。特に配属初期だった文月は、日中は命のやり取りをして神経を削り、死にたくないので帰り付いた鎮守府では教官長の指導を受け、夜は疲れの溜まった体を休めなければならなかった。すれば気まずくなること受けあいの告白を行う気力など早々湧いて来なかったのだ。

 逆に吹雪の方から確認をしてくれまいかと思い自分の声の異常性を大胆に伝えてみたものの、やり方が悪かったのか迂遠過ぎたのか天然の天才だと思われてしまい普通に応援されてしまった。その際チートで活躍する事の是非も問うてみたが、違う個所を鍛えて己を高め続けるしかないだろうというまったくもって普通な、でも活動は肯定されてちょっと嬉しい答えが返って来ただけだった。

 

 そんなこんなで声援を送ったり陸戦で敵の臓物をブチ撒けたりしてるのを見てドン引きしたり本名を教えても笑われたりはしなかったが一瞬敬語だったりしつつ、文月は吹雪達と仲良くなっていった。文月が思っていたよりも二人の転生者とは相性が良く、頻度はそれ程でもないがたまに時間が合えば遊んだりもするようになり、気付けば文月的には一緒に居て落ち着ける相手になっていたのである。

 声こそ気に入られているもののそれ以外、特に容姿に関して興味を示されなかったのも大きかった。文月はモテる。素で甘ったるい喋り方であり、それが愛らしい外見と相まって非常に男受けするのだ。しかし吹雪は公言の通り二次専で、そういう目はまったく向けて来なかった。

 猫吊るしの方も妖精さんであるためかそういう感情とは無縁のようで、文月も初見こそ吹雪に見惚れたがその明らかに男性的な所作のおかげで次第に美貌にも慣れて行き、二人とは実質男同士の友人付き合いという三度の転生でも貴重な関係性になっていたのだ。

 また、文月は二人に対しては転生者としても尊敬すべき部分を見出していた。文月は声がいい。そして、その声が最大限に活かされる口調をしており、振る舞いもその愛らしさを損なわない物になっている。だが実は、これは意図してのものではない。最初の転生以降それらは自動的に行われ、意識せずにいると勝手に出てくるようになったのだ。それはつまり、文月はチート能力に無意識の一部を支配されているという事である。

 別に名前を言ってもいいあの子曰く、珍しい症状ではあるらしい。そういう能力に調整したわけでもないのに影響受けすぎじゃあありません? と呆れたような目をされた事を覚えている。要するに、ただそこにあるだけのその力に耐えられないくらいに自分が凡夫であったというだけなのだろう。同じような異常は同じくチート転生者であろう二人には見られなかった。

 例えば明らかに戦闘力チートで強い吹雪が同じ状態であればもっと粗暴で高慢であったろうし、支配能力と思われる猫吊るしなら他者を操ろうとしてもおかしくない。しかし現実にはまったくそのような様子はなく、どっちもだいぶ善良側である。一人だけ影響の著しい自分の不甲斐なさに文月はちょっとだけ身悶えした。

 そうした理由でだんだん親しくなってくると、言い出し辛さはさらに増して行った。時々遊んだりする程度とはいえ距離を置かれたら正直辛い。騙すような形になっているので完全に自分が悪いのだけれども。

(もう終戦してから実はそうでしたって驚かせる方向で行こうかなぁ……)

 なんて、そんな事を考えつつ、たまに未来のネタに反応して正体を仄めかしていたら。思っていた以上にザ・ファッキンゴッドだった女の子に正体を盛大にバラされたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっえっえっ!? あれ……スーちゃん!? えっ、死んだ!? あたしまた寝てる間に死んだの!?」

 落下してきた文月が大声を上げた。スーちゃんって誰だよ。いや、目線からして自称魔法使いの少女の事だろうけれども。当たり前だけど名前あったのか……いや、それとも偽名か? メアリー・スー的な? んな事無いか。

 文月の見た目は殆ど普段と変わりない。就寝時間で髪を下ろしていたはずなのにポニーテールになってる所はちょっと影響が見えるけど、それ以外はパジャマな服装含めそのままだ。存在としてはかなり安定しているのかもしれない。どういう条件で外見が変わってるのかは知らんけど。

「死んでねーですわよ。ちょっと用事があったので呼び出しただけですわ。終わったら戻して差し上げますからご安心なさいな」

 そっかーと文月は胸を撫で下ろした。ほふぅと可愛らしい息が漏れる。そして辺りを見回して、私達に気付くと、文月は硬直した。そのまま数秒私と見つめ合い、こてんと不思議そうに首を傾げる。

「吹雪さん……?」

「あっはい」

 髪が長いから一瞬分からなかったのかもしれない。私が返答すると、文月はまた硬直した。その体にみるみるうちに冷や汗のようなものが湧き出してくる。流石謎空間というべきか、漫画的表現は標準搭載であるらしい。文月は滅茶苦茶焦っているようだった。

「あ、こっち猫吊るしだよ」

「いえーい」

 分かんないだろうと思って隣を指して教えてみたら、猫吊るしは何故かノリノリで両手を挙げた。なので私も倣って、揃った両手でハイタッチ。それを見た文月の発汗はさらに加速した。

 観客席の方には頭痛が痛そうなレ級と苦笑が止まらないゴトランドさん。そもそも誰だか分かってなさそうなベイさんとほっぽちゃん。丹陽さんは笑顔だけどやっぱり知ってはいなさそうに見える。持ってる情報量の違いがなんとなく分かるなあ。

 転生者諸君らの観察をしていたら、文月の方に動きがあった。こちらにちょっと寄って来ると、右手の指を二本立て、困ったような笑顔で口を開く。喉からは無茶苦茶可愛い声が広がった。

「許してヒヤシンス」

「ヒヤシンスどっから出てきたんだよ」

「また懐かしいとこ行ったな……」

 文月は指を広げてピースサインにしつつ舌を出した。うーんこの転生者。いや私達に合わせた結果なんだろうけども。まあガチ謝罪とか泣かれるとかよりはいいんだけどさ、怒ってないし。

「私達の事には気付いてたんだ?」

 謝るって事は知ってて故意に隠してたって事なんだろうけど、いつ気付いたんだろう……いやどう考えても初対面で気付かれるわな聖句唱えたもんな私も猫吊るしも。今更だけど恥ずかしいんだが。

「吹雪さんの事は動画見た転生者は全員気付いてると思うよ……?」

 うん、まあ、それはそう。

 

 

 

「えっ、じゃああっちの人たちもみんな転生者なのお!?」

 私たち以上に事情を把握していなかった文月に状況を説明したら、目をまん丸くして観客席の方を振り向いた。手を振る丹陽さんによろしくねーと愛想を振りまき、諦観気味になったゴトランドさん達にも頭を下げる。所作は丁寧……というか、手慣れているように感じる。もしかしなくてもあいさつ回りする経験とかは豊富なんだろう。っていうか、一部の対応がファンサっぽい。既に声優経験してそうだなぁ。

「なんで文月には今後の事を内緒にしてたんだ?」

 猫吊るしが純粋に不思議そうな声でレ級に向かって質問を投げた。確かに私達に言うのなら文月にも言いそうなものだけれど。存在は把握してたみたいだし。

「あー……言わねェ方が精力的に働くから、っつッてたな」

 レ級の言葉とゴトランドさんからの補足によれば、文月は未来が拓けているか分からない方が努力できるタイプであるらしかった。余裕があるとつい緩んじゃうというか、逃避力が高くて目標以外の事を締め切り前にやらせると成果がめっちゃ上がるとかなんとか。

「あたしそういうとこあるよねえ」

 しかも自覚があるらしい。楽な方に流れがちだからなーと苦い顔をしていたが、むしろ分かんないから精一杯やっとこってなるの努力家の考え方だと思うの。

「貴方も大概怒りませんわね」

「スーちゃんみたいに騙そうとしてきた訳じゃないしねえ。それにあたし、口調程頭お花畑じゃないから最高効率でやらないといっぱい死んじゃうって事くらい分かるよお」

「本当ぉ?」

 にやにやとしながら自称魔法使いの子が文月の顔を覗き込んだ。これ現在進行形で騙されてたりとかしない? 大丈夫?

「ほんとだよぉ。それで、なんだっけ。クイズ? するんだっけ。賞品とか出るの?」

 そういえば文月って参加する理由ないな。楠木提督も正体話してない訳で、交流がそんなにあったとも思えんし。平和のために付き合ってくれたりしないだろうか。

「あー……まあ、私が呼んだ訳ですし、参加賞くらいなら用意いたしましょうか」

「わぁい」

 私と猫吊るしとは経緯が違うからか、少女の方もそこはちゃんとやってくれるらしかった。態度はむしろフランクというか、私達に対するそれより雑な感じが若干あるんだけれど。

「はいこれどうぞ」

 ぽん、と手元に出現させて渡したのは紙切れ一枚である。訝し気に受け取った文月はナニコレと可愛いながらも知り合いに対するような取り繕わない声を上げた。

「改二確定チケット……?」

 それかぁ……いや悪いもんじゃないけど、使うとデメリットも齎すから賞品としては微妙じゃなかろうか。っていうか、そんな簡単に渡していいもんなんだそれ。実質不老招待券なんだけど。

「へ~。これで改二になれるの?」

「私も使ったから効果は保証できるよ」

 吹雪さんも? 文月は驚いた様子で目をしばたたかせた。まあ、自力でなったと思うよね。私ってそれくらいには目立ってるし。

「あっ、それ、必要無かったら売れますよ!」

「需要凄いもんね……」

「最終的に三十億行ッたからなァ、アレ」

「三十億!?」

 文月が観客席とチケットを交互に五度見くらいした。効果が効果だしそりゃそんな値段にもなるわなぁ。というか、私以外も入手してる人居たのね。

「……安くね?」

「あ、三十億ってあれだよ、米国で売ったから、三十億ドル」

「三十億ドル!?」

 文月の手がわなわなと震え出した。猫吊るしはそれでも安い気がすると言っていたが、庶民感覚的には頭おかしくなりそうな金額である。私の獲得した賞金額でもそんな行かない。比較になるのがアレなんだけども。

「えっ、あっ、今一ドルって、何円?」

「為替市場がまともに機能してないからなんとも言えないけど、百円は下回らないと思うよ」

「つーか上がるんじゃねェの? アメリカほど深海棲艦に対抗できてる国殆どねェからな」

 まぁ日本も安定している方らしいので円に変えるならそこまででもないかもしれないらしいけど、海に面してない面積比で考えたら被害少ないだろうし復興も楽だろうしやっぱドルは上がりそうな雰囲気らしい。円が高かったとしても三千億円くらいか。不老の対価としてはどうなんだろ。一般人に出せるもんではないけど、富豪から見たらそんなん親兄弟の分まで買うわって程度なのかもしれない。そもそも一部の女性にしか使えないんだけどさ。

 話を聞いた文月はストンと表情を無くした。そのまま私達の隣の回答席へとてくてく歩いてくると椅子にしっかりと腰を掛け、こっちを向いて、一拍。次の瞬間には、文月の顔は見た事ない程のとびっきりの輝く笑顔に変わっていた。

「がんばろうねっ! 二人とも!!」

 くっっっっっっっっっっっっっっっそ可愛らしい、営業用の顔と声であった。結構現金だな君!?

 

 

 

「それでは気を取り直しまして、クイズの方に戻りましょうか」

 私と猫吊るし、それに文月を加えた三人に挑む様に少女は全く無い胸を張った。いや問題に挑むのこっちなんだけどね。

「さてでは、まず第一問……の前に、まず貴方たちの暮らす世界の成り立ちのお話をいたしましょうか」

「お前が作ったんじゃないのか?」

「勿論、そうですわよ。ですから、何故作ったのか、というお話ですわね」

 微かに笑って少女が指を鳴らす。すると私達と観客席の間に球体のようなものが浮かび上がり、そこから光が溢れて人影のようなものが映し出された。それはなにやら立体的で、どうやら肉眼で視れる3D映像であると窺い知れる。しかも360度全方位対応の。即席……なんだろうなぁこれ。

「さて、時をさかのぼる事三千那由他年のお話ですわ」

「仏教みてーな桁しやがッて……」

「単位大きすぎてよく分かんないね」

 那由他って桁数幾つだっけ……? 阿僧祇の後なのは覚えてるけど。いや放置ゲーみたいなインフレでもしないと見ない数字でまず使わないから数字で見たとしても全く理解はできないんだけども。

「私がある世界のある国の、同人誌の即売会へと行ったときのお話です」

「君そんなの行くの???」

 とんでもねえ先輩オタだったわ。っていうか那由他年前に存在してたのオタク文化。いやまあ、異世界の話だから私たちの生きてた世界とは時間が始まった時期自体が違うんだろうけどさぁ。

「その時の私は、その世界で社会人エミュをして遊びつつ仕事の合間にオタ活に精を出しておりましたの」

 中央の映像では髪の長さと耳の長さが一般的なそれになった少女が、立ち並ぶオタの列の一番後ろで最後尾と書かれたプラカードを持っている。いや身長とかそのまんまなの? そういう状態で社会人やる遊びとかなんだろうか。

「実はその頃、ネット断ちして同人誌だけ見てどれだけ楽しめるかみたいな遊びをやっておりまして」

「邪道だねえー」

「否定はしませんわよ。結構新鮮で面白かったりするのですけれど……ま、それはいいですわ。ともかく、その時に出会ったジャンル。それがそう、艦隊これくしょんですわ!」

 映像の少女がたくさんの薄い本に囲まれて笑っている……あ、私の知ってる本あるわ。え。あれ?なんであるの? 相当前の映像なんじゃないのこれ。

「ふふ、お気づきになられた方も多いみたいですわね」

 私が疑問を感じたように、周りの皆も不可解な点を見出したようだった。並行世界……で説明が付くのだろうが、少女の反応的にたぶんそれだけじゃないのだろう。

「そう、私の行っていた世界。それが貴方達が最初に、転生前に暮らしていた世界のオリジナルですわ!」

 つまり私達の生まれ育った世界はそこのコピーであるらしい。ついでに言えばそのオリジナルとやらは少女が作ったものではないのだそうだ。なんでも少女が神を名乗らないのは、少女自身無数にある世界の一つの出身の一人でしかなく、その大本を作った存在とは会った事もなければ影を見た事すら無いからだという。故意に作られた物か自然発生なのかすら知らないそうな。不思議。

「ま、でもこれは今はあんまり関係ありませんのよね。使いやすいモデルで趣味に合う世界ができやすいからコードをお借りして量産してるというだけの話ですし。ともかく、そこで私は艦これに出会い――どちゃ糞嵌り込みましたの」

 なんで所々単語がおかしくなるのかは知らないが、映像の中では少女が仕事そっちのけで二次創作を漁っているのが見える。まあ仕事は大事な部分ではなかったんだろう。たぶん。あ、ちゃんと原作もプレイしてる。イベントで発狂してる。確率弄ったりしないのね。

「さてそうしていると、私クリエイティブ気質な方のオタクなものですから、自分でも創作活動をしたくなってきまして」

 あ、PCで作業してる。魔法みたいのでパッと作ったりしないんだ……それとも当時はできなかったのだろうか。まあただの縛りプレイって気がするけども。

「そうして出来上がったものが、今貴方達が生きてる艦これっぽい世界の設定の原型になりますわ。私が自分で作った二次創作を基に世界を創ったという事ですわね……という訳でクエスチョン!」

 

第1問

この時作られた二次創作とはどんなジャンルの物だったでしょう?

 

「ちょっと曖昧な問題になってしまいましたから、ざっくり合ってれば正解という事にいたしますわ! さあ回答をどうぞー」

 いや……問題にするのそこなの? 世界の成り立ち的にはもっと重要そうなとこあったよね? 私達の生まれ故郷がコピーだったとか、二次創作から世界一個創っちゃったってとことかさ。っていうかみんな同郷なのね、実は並行世界の出身じゃないかとかも考えてたんだけどそんな事はなかったぜ!

 しかし描いたののジャンルとか分かんないっての。ほぼ脳内当てじゃんこんなの。映ってた同人誌は私も知ってる大手の奴だったし大勢の列ができる新刊ってなるとどうしてもエロス方面のイメージになっちゃうんだけど、この子の容姿でエロ同人書いてるってのはちょっと……そもそもそれを参考にしたのかも怪しいし。

 もう映像とかじゃなくて性格からどんなの作りそうか考えた方がいいかもしれない。それだとなんとなく軽いものになりそうな印象ではあるけど、この世界ってなんかかなりヤバい設定になってそうなんだよね……だったら……これでいいかな?

 書き終わったのは私が最後のようだった。猫吊るしはちょっと迷っていたけれど私の半分くらい、文月に至っては問題を言われて即回答していたので頭の出来の違いを感じる。悲しい。

「出揃いましたので、答えを見て行きましょうか!」

 はいどーん! と少女が言えば、後ろのモニタ……観客席の後ろにも出現したため振り返らなくても済むようになったそこには、私の答えが表示された。また最初かぁ。違ってるんだろうなこれ。なお回答は『シリアス世界で展開されるシュールギャグ漫画』である。

「ざっくりでいいって言ったのに詳細なジャンル指定ありがとうございます。不正解ですわ!!」

「ですよね!!」

 そうだよね、この回答ならギャグ漫画だけでよかったよね。自分から範囲狭めてどうすんだかね!

「ハイ次ですわー。どーん」

 次に映ったのは猫吊るしの回答だった。描かれた文字は二つ。

 

 『小説』

 

 あ、ジャンルってそういう? やっべ漫画しか頭になかったわ。

「ふむ、どうしてこの答えになったのかお聞きしても?」

「漫画にしては変な所の設定が細かかったからだな。なんかこう……描写のせいで発生した設定がありそうな気がした」

 猫吊るしは集合無意識内で私の知らない情報を色々得ている。だからその中に、漫画なら要らないだろって設定がたくさんあったのだと思う。やだ私ってば情報弱者。

「まあ裏設定全部反映しましたって言われたらそれまでではあるんだけどな」

「成程ー。では次行ってみましょう。最後は文月の答えですわ!」

「あたし、これは自信あるよー!」

 文月は笑顔で薄い胸を張る。たぶん私よりはある気がするけど誤差だろう。

「あら、では期待して行ってみましょう。どん!」

 表示された答えは、これまた簡潔だった。

 

 『ゲーム』

 

 成程。成程……?

「たぶん吹雪さんと猫吊るしさんは参加してないから知らなかったんだと思うけど、スマホの方で情報交換してたらすぐ分かるんだよお、これ」

 文月曰く、転生者じゃなくてもシミュレーテッドリアリティを疑ってる人は多いとか、そういうレベルで有名な話であるらしい。

「だってそうでしょ? 特定の人達の好感度で上下する戦闘能力。みんな美人な艦の名前の入った人達。条件を満たすと出て来るっぽい敵。レベルが上がると転職もできるし、こんなチケットもあるし、どう見たって結果が固定されてる創作物の設定じゃあないよねぇー」

 あー成程。チケットは関係なさそうな気がするけど、成程。ゲームが原作だったから、じゃなくて、ゲームだったから、だと文月は言いたいわけだ。成程。え、でも、これ、艦これだよね?

「解説ありがとうございますわ。ええ、ええ。中々皆さん考えてらっしゃいますわね」

 少女は嬉しそうに笑った。ちゃんと取り組んでもらえるのが本意だったのだろう。楽しいなら何よりである。

「では正解発表です」

 周囲の照明が掻き消え、ドラムロールが聞こえだす。低い音。長く続くそれに交じって、少女の方から小さな声が聞こえてきた。

「そう。私はあの時、楽しんで、全力で、一つの作品を生みだしましたの」

 それは本当に淡々と、ただただ事実だけを述べている様子だった。

「音楽も立ち絵も、拘りに拘りましたわ。勿論原曲や元絵なんて一切使っておりません。全て自作でした」

 いやもうそれ答え言ってるじゃん……

「キャラクターモデルも会心の出来で、特に主人公なんてずっと見るものですから、見続けて疲れない、それでいて見目麗しい可愛らしい物に完璧に仕上げましたのに」

 他もみんなそれぞれ流用無しでしっかり組み上げた、と少女は言う。同型艦も全部一からなの? それは凄いかも。

「バグ取りだって自力でやりましたし、進行の導線やチュートリアルにも気を使いましたのよ。難易度は、まあ、そこそこありましたけれど」

 一人で作ってくと難易度上がってくらしいけど大丈夫だったんだろうか。

「その時点の技術だけを使うという縛りで、当時の物としては最高峰のクオリティで作り上げたそれは、本当に、絶対、皆を楽しませられるものだったんですわよ。たぶん」

 最後だけ若干自信が無さそうだった。断言できないんかい。

「だというのに、ああ、だというのに!」

 段々と少女の声が大きくなり、感情も乗り始めた。そして、ドラムロールが止む。文月の回答席が輝いた。

「艦これはゲーム要素のある作品は頒布禁止だったんですのよ……!!!!!」

「最初に確認しとけよそンなもん!?」

 

 艦隊これくしょん-艦これ-

 良識ある二次創作にはそこそこ寛容で、ほのぼのから凌辱、音楽のアレンジなど幅広い創作が行われている作品であり、それが爆発的に広まった要因の一つであると唱える識者も多いという。

 ただし艦これは、良識のない活動や、ゲームシステムのある創作物を配布販売する事は、明確に禁止されている。アナログゲームも駄目だから気を付けようね!!

 

 

 




ここから先全部作者の脳内当てだぞ☆
当たったらマジで凄いと思います。


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転生者に聞いてみたら意外な答えが!

「あっ、一応勘違いされないように言っておきますけれど、この世界がゲームの中という訳ではありませんからね?」

 せっかく丹精込めて作りましたのにしくしくーなどと口で言っていた少女が急に謎の補足を入れだした。ちゃんと現実の世界であり、真っ当に物理法則とかがお仕事してくれているらしい。いやそこは疑ってないから大丈夫だよ。本当に真っ当なのかは知らんけど。そのまま気を取り直したように――っていうかそもそも大して悲しんでる風でもなかったけど、ともかく少女が姿勢を正すと照明も元に戻っていく。特に光源が見当たらないのでどっから出てるのかは全く分からないが。

「さてさて、そういう訳で自作ゲームを即売会で頒布するという目的を失ってしまった私は、そのゲームを塩漬けに致しましたわ。ざっと三千那由他年ほど」

「塩ごと原子レベルで分解してそう」

 そういやそんな前の話でしたね。実際にはなんか違う保管方法なんだとは思うけど、取り出した後はちゃんと動いたんだろうかそれ。

「まあ、私視点だと世界ごとに経過する時間とかあんまり意味がありませんので実際には一瞬とも言えまだ経過してない時間とも言えますが。それはともかく、ある時、転生者や契約者達と戯れてたらふと思い出したんですのよ。そんなのあったなあって」

 転生者ってどれくらい居るんだろ。文月が三回目らしいし一万回やった人も居るらしいからいっぱい居るっぽいけど……それこそ三千那由他人くらい居てもおかしくなさそうなのが怖いわ。あと契約者って何。転生以外も何かしてるの君。してるんだろうなあ、いろいろ。

「なので自分で久々にプレイしてみたらやっぱり中々の出来栄えで、捨て置くのも勿体なくなって……人にも遊んでもらいたいなと思ってしまいましたのよね」

 ほんのちょびっとだけ、少女は寂しそうだった。まあ、頒布できない故にお蔵入りになった作りこまれたゲームって確かに色々勿体ないよね。開発費とか。

「だからと言って禁止された物を身内とはいえ多数に配布する訳にも行かなかったので……ちゃちゃっとエミュった世界を作ってそこに転生者ぶち込む事にした訳ですわね」

「どうしてそうなった」

「ガイドラインで類似世界の創造と運用は禁止されてなかったからですわ!」

「想定外だっただけじゃないかなぁー」

 少女は何故かドヤ顔だった。いや、そんな事書いてあるガイドラインあったら怖いだろ。運営が上位者か何かだよそれ。正体見たら正気度失われちゃうよ。とかいうそれ以前にさ。

「公序良俗は?」

「アーアーきこえなーい」

 あっこいつ耳塞ぎやがった。反するような活動は禁止なのに。長耳エルフ娘だから手から飛び出てるし聞こえてるだろうけど。

「そんなわけで手を変え品を変え人を変え、そこそこ多くの方々に『楽しんで』もらっている訳ですわね。あ、毎回ちゃんと別に世界を作ってニューゲームしておりますのでそこはご安心くださいまし」

「そんなセーブデータ分けるみたいなノリで世界作られても」

 耳に手を当てたまま語った所によると、どうやら自作ゲームを模した世界の素になる構成情報を保存してあるとかで、それを使えばいくらでも同じ状態の世界を生みだせるんだそうな。私達が暮らしている世界は数ある並行世界の一つ――例えればソフトのうちの一本でしかなく、似たような世界で頑張ってる人は結構たくさん居るのだと少女は言う。

「最初の人達はチート能力の付与無しで頑張ってもらってたんですわよね。通常プレイみたいにしてほしかったのと、あとバグるかなって思って」

「見事にバグってたものね。指輪」

「没アイテムのデータサルベージしてくるなんて想定してなかったんですわよねー」

「俺が悪いの?」

 いや猫吊るし悪くないと思う。検証しないで能力ぶっ込む方に問題があるだけだよどう考えても。笑い話みたいに言ってるけどバグり方によっては か い め つ したりしてたんじゃなかろうか。危ないなあ。

「能力無しの人、生き残れたの? 吹雪さんみたいなすっごいの居なかったって事だよねえ。難易度高過ぎない? 四国の巨大基地とか倒せたのぉ?」

「ん? あー……ああ、そうですわね、貴方目線だとそう見えますわよねえ」

 文月は私と比べても世界について知っている事が少ない。だから、私達転生者が居なかった場合どうなるかはあんまり想像が及ばないらしい。いや私だってよく分かってないんだけどさ。っていうか、他の召集された適性者の事については私より詳しいっぽいから総合的には私なんかよりよっぽど物をよく知ってるかもしれないんだけどね。

「猫吊るし、貴方解説できるんじゃありません?」

「あ? 俺? いやそりゃある程度はできるが」

 じゃあよろしく、と少女はのたまった。いやお前がせんのかい。猫吊るしも不審げだったが、自分に目線が集まっている事に気が付くと、息を深く吐いてから話し出した。

「あー、まあ予想……っつーか、俺の知ってる情報から推測するに、本来ならこの世界の深海棲艦は、もっと弱いし数も少ないんだと思われるんだよな」

 猫吊るしは情報を何も持たない文月のために、まずは深海棲艦の仕様から説明をし始めた。そもそも人間の悪意やなんかが元になった存在である事、そのため人間の数が多ければ多い程勢力を増す事。それと、この世界は転生者が各地で跳梁跋扈しているらしいって事と、そのおかげで生存者がかなり増えているっぽい事。

「まあつまり、本来なら地球の人口はもっと激減してて、一緒に深海棲艦の数も減ってるはずだったんだろうな。それこそ転生者なんて居なくても普通の艦娘と提督だけで生き抜けるくらいには」

 少女は無邪気な笑みでせいかーいと手を叩いた。いや合っててほしい情報ではないんだけどねこれ。今更だけど嫌な世界だなあ。

「ええ、その通りですわ。ぶっちゃけあなた方自分達で難易度ぶち上げてますのよねー。本来ならボスエネミーやイベントエネミー、えーと候補の中からのランダム配役なんですけれど、この世界だと太平洋深海棲姫や地中海弩級水姫ですわね。あれも通常艦娘を鍛えれば普通に撃破可能ですわ。というか、地中海弩級水姫は長門が倒しましたし。まああの長門自身調整の結果ああなった訳ですけれども」

 他にもねえ? と少女は流し目で観覧席の方を見た。悪い事でもした覚えがあるのか、ちょっと申し訳なさそうな人が多い。何やったし。

「ま、あの子達が鯨を巨大化させたり巨大基地建造させて吹雪に壊させたのは置いておくとして――」

 置いといてない。え、あのでっかいモノのとか四国のあれとか転生者謹製なの? めっちゃ資材使いそうだからそういう謀略だったって事? あれか、四国の統治楽にするためか。敵あんま居なかったって聞いたし使い切らせるためか。 色々やってるんだなぁ。

「――ここでクエスチョンですわ!」

 

第2問

本来、艦娘が戦いを始めた時点で生き残っているはずの人間は何人くらいでしょう?

 

「んーそうですわね、完全一致は難しいですし、ミリオン単位の整数で上下30%幅以内の数値を正解という事に致しましょうか。M表記でお願いいたしますわ」

 それはあれか、ネトゲとかでよく見た1000000=1000K=1M的な書き方をしろという事か。つーか、なに、私達に本来どんだけ人が死ぬはずだったか当てろと? 自分の凶行詳らかにして行くスタイルなの? 怖。

「ほぉー」

 据わった目で少女を見たのは猫吊るしである。器用に回答用のマジックペン……のような物体を指先で回転させながら、逆の手でマジックボードのようなものをトントン叩いている。

「俺が居るのにそれ聞いちゃう? 結構やったぞ、集合無意識内でのシミュレーション」

「あら、では間違ってたら赤っ恥ですわねえ」

 うふふと笑う少女とHAHAHAと笑う猫吊るし。今見た目が春雨だから結構違和感が大きい。頼もしいは頼もしいからいいけど。つーかそんな事できるんだ集合無意識内って。あれか、過去の偉人とか混ざってるから思考実験的なの得意な感じなのか。居そうだもんな相対性理論のあの人とか。

 しかし猫吊るしが分かるって言うなら私は気楽に答えても良さそうだ。猫吊るしが外したら困るからちゃんと考えはするけどね。

 まず、六十億を超えるって事はないと思うんだ、嫌な話になるけれど、転生者がほぼパーフェクトな対応してるであろう日本でかなり人が死んでるんだから、他の国は相当な数が亡くなってるはずだ。滅んでる国とかもあるだろうし、まあ……かなり甘めに見積もっても億単位で人口は減っているだろう。

 ただこれ以上がどうかって言われるとなぁ。そもそも私世界の人口分布すらよく覚えてないから、被害の多そうな地域にどれくらいの人が暮らしてるかとかさっぱり分かんないんだよね。アメリカなら内陸は大丈夫そうだけど沿岸部はかなり辛そうだし、メキシコ辺りとか酷い事になってそうな気はするけど、どれくらい人が居るんだかは見当もつかない。

 普通の艦娘で対応できる強さ程度になるってとこから推察する手もあるけど、私には普通の艦娘がどの程度なら対処できるもんなのかさっぱり分からんからこれも無理。私自身は参考にならんし、島風も普通よりは相当強いらしいし、宮里艦隊の皆も平均よりだいぶ上……っていうか、それこそ上の方って言われる賀藤艦隊と五十嵐艦隊凹れるガチエリート集団な訳でね。全然判断ができませぬ。

 だからもう、30%の範囲が広く取れる多めの数値を書いといた方が当たりそうな気がする。えっと、世界人口どれくらいだったっけ。七十億超えたってのはいつか聞いた事あるから……あれ、八十億超えるのは令和だったっけ? うんそうだわ。記憶にある。元々前世でもちゃんと覚えてなかった事はまともに思い出せないのが辛い。

 

「はいそこまでー。全員回答書き終わりましたわねー」

 私の自信の無い回答が書き込まれると同時にシンキングタイムは終了した。猫吊るしが書き込んでる気配が無かったんだけど……もしかしてペン回ししてた時点で書き終わってたのか。手元よく分かんないから視逃してたっぽいな。

「はいそれじゃあ、注目の猫吊るし……以外の回答を先に見てみましょうか。はいどん」

 背後と手前のモニタに私と文月の回答が同時に映る。私の回答は3500M、三十五億。対する文月の回答は、700M。七億人か。

「ちなみにこれ、どういう考えで思い至った数字ですの? 半分くらいと十分の一くらいですけれど」

 おうそれがほぼ答えだよ。分かってるなら聞くなよ。

「ゲームならさ、世界の人口は半分を切ったとかそういうモノローグ入りそうだなって」

「あたしも! 90%が死滅したとか書きそうだなって!」

 だよねーと顔を見合わせる。しかしこの回答全然笑えねぇんだけど。どっちか合ってたとしても人死にまくってる事になるんだよなあ。

「成程、メタ読み回答でしたのね。てっきり思考停止で半分にしとけば割と範囲広いし入るんじゃないかとかそういうのかと……」

 それもありますが何か? 仕方ないじゃんさっぱり分かんなかったんだから。

「ふむ、ある程度はちゃんと考えてくださって何より。それでは期待の猫吊るしの回答、行ってみましょうか。どーん」

 文月と向かい合ったから見えたけど、さっきから無表情なんだよね猫吊るし。緊張してるって感じじゃなくて何というか、なんだろう。

 私と文月の回答が画面から消える。替わりに出るのは猫吊るしの書いた文字。その数実に、1。

 1M――即ち、百万人である。

「何が30%だよ。0に1.3掛けても2に0.7掛けても正解にならないだろこれ」

 淡々とした口調である。うーん怒ってる……とは違う感じだ、諦観……とかそっちのが近いか。

「だいたい、戦いが始まった時点ってのが騙す気満々で胡散臭いんだよなあ。本来を変なとこに付けやがって」

「どういう意味?」

 文月は首を傾げたし、私も意味がよく分からなかった。でも観覧席の人達は分かったようで、一部かなりの渋面を浮かべている。本当に色々詳しそうだなぁ、ゴトランドさん。

「本来、妖精さんが現世に出てきてから、どうにか信用してもらって、やっと艦娘が生まれるのが、今から見ても数年後だって事。つーか、悪けりゃそもそも生まれもしないだろうな」

 それは……あー…………成程。そういう? 猫吊るしが最初の妖精さんって訳じゃないらしいけど、そもそも妖精さんが首尾よく数の少ない提督適性持ちに出会って、話をちゃんと聞いて貰って、艤装の開発まで行くのにどんだけ掛かるのかって話か。

 確かに一朝一夕とは行きそうにないなぁ。提督って殆ど一般人のはずだし、仮に信用してもらえたとして実行まで行けるケースの方が稀だろう。霊地の情報とかネットが生きてればすぐ調べられるけど本来望み薄だろうし、行けたとして女性の適性者が運良く近くに居ないとどうしようもない。数少ないその二種類の人間が揃う頃には……

「日本ほぼ沈没してない?」

「ああ。たぶん、国としてまともに機能してないだろうな……他の国なんて大陸ごと沈んでるはずだからだいぶマシな部類なんだけどさ」

 何それ。めっちゃ可愛い声で文月が困惑の声を上げる。変色海域が続くと陸地が浸食されて海に沈む、らしい、なんて話を知らないだろうからね仕方ないね。私もどういう原理なのかは知らないし。

「大陸の方が残ってそうなもんだけど」

「言ったろ? あいつら日本をまともに攻略する気はない……いや、無かったんだ。それに、人間の悪意からなる深海棲艦にとっちゃ島国で人口密度の高い、しかも外国頼りの部分がかなり多い日本は孤立させときゃ仲間の維持に役立つ場所なんだ。早々に潰す理由がない」

 蠱毒化する日本なんかより、むしろ土地のおかげである程度の希望が持てる大陸部の方が侵攻も変色海域の浸食速度も早くするだろうと猫吊るしは言った。ちなみに日本以外にも同じようにほっとかれる場所はあるらしいが、日本ほど持たないのが大半なんだとか。

 猫吊るしは以前、艤装を広めるために頑張ってこっちに出てきたと言っていた。成程、頑張らないといけなかったわけだ。猫吊るしなら文明の利器が生きてる状態ならそれらを使っていろんな部分での短縮が可能だろうから、艤装の登場自体を早める事も可能だっただろう。現実には楠木提督達の活躍で既に基盤が出来上がってたから開発に専念できてたみたいだけど……本当なら交渉やらなんやらもやる覚悟だったのかもなあ。猫吊るしの能力って、国みたいな集団の上層の連中を脅迫するのに凄く向いてるし。本人がやりたいかは別としてさ。

「っつー訳で、陸地面積が激減してるはずってとこも加味して、俺の答えは1M、百万人……………………なんだけど、自信満々に言っといてなんだがこれゲーム的な偶然が『主人公』に起きない前提の答えなんだよなぁ」

「ご都合主義発動されたら成り立たないって事ぉ?」

 Yesと猫吊るしは頷いた。そりゃそうか、猫吊るし自身こっちに現れてすぐに提督適性と艦娘適性の両方を持つ宮里提督に出会えてる訳だしね。それはまあ、楠木提督の仕込みなのだろうけれど。

「ただ、あからさまな『人口を減らすための設定』があちこちに散見されてるんでこの答えにさせて貰った。あと、これくらいにならないと平均的な艦娘じゃ深海棲艦に太刀打ちできないってのもあるな」

 まあこの数字だとそもそも適性者が残るかも怪しいらしいけど。百万……それも海外含めてなら日本に居るのはもっと少ない訳で、戦えるの見つかって数人じゃなかろうか。0人もあり得る。つまり、シミュレーション通りだと基本詰んでるのだそうで。思ってたよりもっともっとひでぇ世界だなここ?

 

「で、合ってるのかこれ?」

「合ってますわよー」

 言ったとたんに軽く猫吊るしの回答席が光り出す。軽っ。今までの演出どこ行ったよ。少女は目を閉じ、口元だけの笑顔を見せて猫吊るしに拍手を贈り出した。

「ええ。ええ。その通り、考え方まで何もかも、大正解ですわ」

 うわあ。私と文月、ほっぽちゃんとベイさんの声が重なった。観覧席の二人は生き残りが少ない事は知っていたっぽいけれど、具体的な数までは把握していなかったようだ。丹陽さんは笑顔だけど目が笑ってない。笑顔とは本来以下略。

「そう、日本の本州の一部に生き残った百万人。おおよそそれくらいが本来戦いを始めた時点、そしてこの世界におけるベストエンドでの生き残り人数ですわ」

 バッドエンドだともっと減るのか……いや、そりゃそうか。全滅も有り得そうだもんな。

「え? 日本以外は?」

「なんか……設定しなかったら勝手に全滅してたんですわよねえ……」

 言い草。言葉をつつしめよ。聞いた文月もジト目で少女を見つめている。

「実はこの世界、元にしたゲームの世界っぽくなるように逆算して天地開闢から始めているのですけれど、そうあれと設定しなかった部分は私が想像してなかった姿になっておりますのよね」

 おもっくそファンタジーワールドで過去にドラゴンとか実在したのは意図してのものではないらしい。え、ドラゴン居たのこの世界。

「登場人物として設定した方々も一々私が手を加えて創った訳ではなく、生まれてくるべくして自然に生まれた安心安全遺伝子組み換え無しの天然物だったりしますわ。その子たちに設定してある部分に対応するために、そもそもの世界そのものがだいぶカオティックになってしまったみたいですけれど」

 それはあれか、明らかに極端な――例えば『元新興宗教の巫女な天才霊能力者』って設定を入れたら、その子が居ても自然なように世界自体が『霊能力が実在してる世界』になったって事か。遺伝子弄ってないけど因果律弄ってるじゃん怖。

「日本舞台なので海外に関しては特に設定いたしませんでしたの。被害はあっても全滅まで行かないでしょうとか思ってたんですけれどねえ……蓋を開けたら大陸沈没してましたわ」

 観覧席で浮かび続ける笑顔の圧力が怖い。台湾出身らしいので……はい。大陸生まれのゴトランドさんも渋い顔である。

「そんな訳で、本来この世界の深海棲艦はもっともっとよわっちいし、数も少ないんですわ。代わりに生きるの自体がちょっと大変なんですけれどね」

 そりゃあ、インフラも何もかも破壊されてるだろうからなあ。やっぱり芋育てて暮らすんだろうか。治安とかも凄い酷そうだけど。

「ええっと、つまり、今はまだ原作開始前の時間軸だけどぉ、あっちの転生者のみんなのおかげでずっと早く対処できたから、戦いは大変になったけど生き残れる人達がぐっっっと増えたって事?」

「概ねその認識で良いですわ。原作開始前、というのは違いますけれどね」

 あれ、違うの? 戦いが始まる所が開始地点じゃないのか。プロローグの話みたいなのとかある感じ? あれか、襲撃時点から描写は始まるからとかそういうの?

「ふむ……当然ですけれど、みんな知らなかったみたいですわね」

 見れば、ほっぽちゃんどころかゴトランドさんまでちょっと疑問符の付いてそうな表情をしている。そうか、ゲームっぽいって事は知ってたかもしれないけど、ゲームの内容自体は知りようがないのか。楠木提督の能力、詳細は分からないけど元のゲームの攻略法まで理解できたりはしないだろうし。できないよね……?

「では、こんな問題はいかが?」

 

第3問

この世界の元となった『二次創作ゲーム』のゲームジャンルは何でしょう?

 

「これも大枠で合っているなら正解という事にしましょうか。あ、今度は引っかけとかないので普通に考えていいですわよ。君と響きあったり運命を解き放ったりとかせずにRPGならRPGとお書きになってくださいまし」

 逆にそういう感じのジャンル名になってたら当てるどころじゃないと思うの。個人的には嫌いじゃないけど。っていうかさっきまでのは騙す気満々だったのか……

 それはともかく、ジャンルかあ。戦いがあるゲーム、なんだから普通に考えたらアクションとかロールプレイング……あ、戦略シミュとかも有り得るのかな? 艦これだし、なんか本来の状況は私達の知るそれより遥かにヤバそうだから資材のやりくりはかなり重要そうな気がする。

 逆に戦いはあっても正解じゃなさそうなのは……FPSかな。さっき主人公のキャラモデリング見続けるみたいな事言ってたから、一人称視点って事はないと思うんだ。

 ……それ以前の問題としてなんだけど、主人公って奴だよね? 見てて不快になる事とか無いし、可愛い系の顔だとネットでも囁かれていた。だから合ってると思うんだ。提督の適性も天才的なレベルで持ってるし、私の友人でもある提提督、彼が主人公ポジでいいんだよね?

 そうなるとアクションとか、そういう感じじゃなさそうかな? 提督がアクションしてどうすんのって感じだし、身体能力逸般人じゃなかったし……いや戦闘中だけ操作キャラ代わるってのも有り得るんだろうけれども、主人公に拘ってたっぽい気がするから、ちゃんと特定の主人公が居て、そいつの操作パートがあると思うんだよなあ。

 そうなるとアドベンチャー系……あれか、状況的にポストアポカリプスみたいなもんだし提督で食料とか資材とか調達するパートがあるとか? いやでも、給糧艦が居ればその辺り何とかなりそうだしなあ。実は宮里艦隊の間宮さんの片割れ、名前に間宮って入ってるんだよね。たぶん彼女はそういう事なのだろうし。

 っていうか、そうか。そうだよね。名前に艦の名前が入ってる人達。あれは要するに、原型になったゲームのキャラor転生者って事だよね。道理で吹雪が三人居る訳だ。司波艦隊のあの子が世界の最初から生まれるようになってたっていう吹雪枠の子で、私は普通の転生者。転生者にも原作キャラにも艦名が付いてる仕様にしたから分かり辛くなってた訳か。んで、吹雪……雪吹艦隊の吹雪も転生者だし元々吹雪だから入ってると。ややこしいわ。そう考えると転生者文月以外に原型キャラの文月も居るのかな? え、声良さそう。ちょっと会ってみたいかも。

 閑話休題。ともかく、金剛さんや榛名さん、北上さんやなんかもそのゲームに居たキャラ……というか、少女が生まれてくるように設定していた人たちで、おそらくは、生き残る百万人の内の一人なのだろう。それ以外は……そういう事だろうね。

 あれ、川内さんってどうなんだろう。あの人あからさまにニンジャなのだけど別に名前に川内って入ってないんだよね。世界設定の影響で生まれた一般通過忍者だったか……もしくは活動名であって本名ではないとかだろうか。ありそうだなあ、どっちも。

 しかしゲーム的な都合で美少女ばっかなのを現実化されるとああも異様だとは。青葉さんとか意味不明すぎて悩みまくってたし。でも理由、教えてあげたいけど流石に言えないぞ。現地生まれの人が知って得するような情報じゃないし、青葉さんは入ってない側だしさ。

 それにしても、やっぱり奴が美少女に囲まれる系主人公なのだとしか思えない。最初はただのラブコメ世界なんじゃないかって思ってたもんなあ私も。つーかあいつら深海棲艦来た後も世間一般の状況とは無関係にそんな感じだったんだよね。主人公とヒロインズって考えると別におかしくもないんだろうけど。あれだよね、パーティですっころんでキスまで行ったとかイベントのスチルシーンかなんかだった可能性がある。

 …………いや、うん? もしかしてそういう事なのかこれ。ノベルゲー……ならモデルじゃなくて立ち絵って言いそうだからそっちではなく、主人公操作してくタイプの? え、この人類全滅RTA大陸沈没ルートみたいな世界で?

 これ、私以外だとその可能性自体に思い至らない……って事は無いにしても、わざわざ書かないんじゃなかろうか。世界の設定に詳しい猫吊るしと普通の艦娘視点を私よりは知っているっぽい文月なら、他のジャンルからそれっぽいのを見繕ってくれそうだし、私がこれを書いておく価値はある……気がしてきた。

 よし、回答はこれにしよう。まともな答えは二人が出してくれると信じて。でもそうなると書き方……えっと、穿たない方がいいよなこの場合。そうすると……うん。こう書くのが一番幅広いかな? これならR-18でも入らなくはないだろうしね。

 

 今回は私が一番に答えを書き終わったらしかった。猫吊るしも文月も結構長く考え込み、少女がそろそろ〆切りますわよーと宣言したところでようやく記入を始めていた。

「ふうむ、これは……じゃあ猫吊るしの答えから見て行きましょうか」

 出揃った回答を見て少女は一瞬考え込んだ。そして宣言された通りに表示された猫吊るしの回答は、『SLG』である。これはまあ、順当だよね。

 回答の理由を求められた猫吊るしが答えて曰く、襲い来る深海棲艦や内部で発生する問題との戦いをするゲーム、つまり拠点運営系のシミュレーションゲームではないかと考えたから。らしい。成程、艦娘の戦いはあくまで管理すべき数値の一つって割り切ったゲームかもしれないって訳か。まあそれが間違いだったとしても普通にSLGはありそうだしね。広義の意味じゃ原作の艦これも入るわけだし。

 次に開示されたのは、文月の答えだった。こちらはカタカナでの記入になっている。

「『アクションゲーム』……ですわね。文月、貴方ゲームの主人公がこの世界では誰に当たるか見当はついていまして?」

「ついてるよぉ。候補は三人くらい居るんだけどねー」

 なそにん。え、私の知らない情報そんなにあるの? 私一人しか心当たり無いんだけど。そんなに怪しい人いっぱい居た?

「ああ、それたぶん全部合ってますわ。一人チュートリアル用キャラですけれど」

「チュートリアルと本編別なタイプのゲームなんだ……」

「たまにありますよね! 経験値稼いでも無駄になるようなの!!」

「あるある。そのキャラがやられてから別視点になってキャラメイク始まる奴」

 あるけどさ……それだとその人死ぬために設定されたみたいじゃん。可哀想じゃない? いや現実化してなけりゃ普通の事だけどもさ。もにょるよね。なんか。

 っていうか、待って。一人チュートリアル用としても主人公二人居るの? それだと私の回答前提からして間違ってるんだけど。困る。いやそういうのも無くはないけどさ。

「あたしが答えをアクションにしたのは、同人誌の漫画から入ったならやっぱり海戦は艦娘目線で描写したいんじゃないかなぁって思ったからだよ。主人公の事は考えてなかったなぁ」

 技術的に当時の最高峰の物にしたのなら、RPGやシミュレーションにするよりは自由に動かせるアクションゲームのようにするのではないか。文月はそう考えたらしい。またもメタ視点っぽいけど言わんとする事は分かるなあ。拘ったモデリング技術で可愛く動かせるなら確かにそれを見せたくなるかもしれない。

「成程。確かに当時、私もそう思いましたわね……さて、それじゃあ最後。吹雪の答えを見てまいりましょうか」

 ふふっと若干笑いを漏らしつつ、少女はどーんとモニタに答えを映し出した。

 私の回答は、『ギャルゲー』である。

「なんというか……外れない所ですわよね。艦これである限り広義では絶対に当てはまると言いますか。何せ敵からして美少女ですし。あ、これ余談なんですけれど、この世界の深海棲艦は正確には無性扱いになってますわ。お胸はあれど生殖機能はありませんし」

 それはそこを主眼に置いてたら外れという事なのだろうか。いやそもそもそっちは考えても無かったんだけども。

「流石エロゲーマー……」

 ぼそりと、つい出ちゃった感じの素っぽくもやっぱり可愛らしい声が横から漏れ聞こえて来た。その印象まったく払拭されてないのね。つーか今世ではやってねぇよ。前世の所業だよ。自己同一性完全継続だけれども。

 まあ目を合わせたらひっ! と引き攣りつつも透き通るような美しい悲鳴を上げた文月は置いておいて、私の回答はそんなに悪い反応は受けなかった。猫吊るしとか吹雪ならそう書くと思ったみたいな顔してるし、観覧席からもあーなるほどーみたいな目線が飛んできている。少女のコメントからしても的外れって訳ではなさそうだ。

 それはそれとして、ちなみにR-18ではありませんからご安心くださいましって補足は必要だったんですかねえ。エロゲって書かなくて良かった。

 

「では正解発表ですわー。正解者に拍手!」

 ぱちぱちーと手を叩きつつ口でも言う少女に合わせて、私達全員の回答席が輝きだした。溜めるのは完全に止めたのだろうか。というのはともかく、つまりどういう事だってばよ? 複合ジャンルって事? それはまあ分かるし、ギャルゲと他のは混ぜられそうだけど……SLGとアクションも混ざってるの? 取っ散らかって集中できなさそうな印象を受けるんだけど。

「はい疑問そうな子が居るので解説いたしますわね。この二次創作ゲーム、実は一部と二部に分かれておりますのよ」

 攻略対象の好感度を上げて二部の初期メンバーや戦力なんかを決定する深海棲艦襲来前から襲来直後くらいまでの第一部、恋愛ゲームパート。

 日本が国としては滅ぼされて以降、主人公が艤装を作り出し仲間と共に戦い抜く第二部、シミュレーション、もしくはアクションゲームパート。

 その二つに大きく分ける事ができるらしい。いや、一部はまだわかるけど二部が分かんないんだけど。もしくはってどういう事よ。ルート別? ルート別で変わったりするの?

「さて吹雪の疑問が増えましたところで、次行ってみましょうか」

 くそ完全に読まれてやがる。っていうか、増えたの私だけなの?

 あ、ほんとだ。文月はむしろ納得顔してる。どういう事だってばよ。

 

第4問

『この貴方たちの暮らしているゲームを元にした世界』で、

主人公枠として生まれてきたのは誰でしょう?

 

「フルネームでご回答くださいまし」

 あ、これは簡単……文月は候補者が三人居るらしいけど私は一人しか心当たり無いから迷う事もないわ。これは提督一択ですわ。いや、待てよそういう引っかけの可能性も……一応考えてみるか。

 ……………………いや、他に心当たり無いわ。名前からして完璧に提督だもんあ奴。宮里提督辺りも提督と艦娘の両方の適性持ってるから怪しい気がしなくもないけど、自衛隊員の彼女が恋愛ゲームパートとやらをまともにできるとは思えない。自由な時間が多くないと駄目だろう。

 なので私の答えはこれだ。これしかないと言っていい。中学入学してすぐの頃に疑ってたからか思考が固定化されてるって自覚はあるけれど、他って気がぜんぜんしないもん。

 

「はいせいかーい」

 雑。すげぇ雑に全員の席が光らされた。一度に全員の回答を公開された上でこの対応である。まあ三人とも完全一致してたからだろうけど。

 そういう訳で正解は提 督正である。ご両親くらいしか名前で呼ばないけど流石に私も覚えていた。『まさ』が正なのか政なのか一瞬迷ったのは内緒だ。

「文月くらいは間違えてくれるかと思ったんですけれどねえ。ちなみに決め手はどこでしたの?」

「ギャルゲ舞台であのモテ具合の人が主人公じゃないって事ある?」

 割とある、と思う。けど合ってるから言うまい。つーか提督の恋愛事情スマホコミュで有名なんだろうか。金剛さんから直接聞いたってのもあるだろうけどさ。

「はい、という訳で正解は提艦隊でいろんな意味で大活躍してらっしゃる提 督正くんですわね。あの矢印の向けられっぷりですけれど、実はそういう能力とかは一切持ってないし補正なんかも掛かってないんですわよあれ。素でハーレム形成可能っていう魅力特化型主人公ですわ」

 ただし、艦娘適性のある娘の方にああいう子を好きになりやすい傾向がある事は否定できないらしい。主人公はいろんな子に好かれる可能性がある、というゲーム的な都合を世界の設定として落とし込んだら勝手にそうなってたとか。つまり艦娘にとって提督はいい香りがする人って事か。遺伝子から相性良いのか? 全員から好かれてる訳じゃないから一部の人ではあるのだろうけども。

「督正くんが恋愛ゲームの主人公という事で分かると思いますけれど、その周囲に居た艦の名前が入った、転生者以外の娘達。彼女達はつまり、攻略対象、という事になりますわ」

 剛田 金奈枝、剛田 比奈叡、三山 榛名、霧島 志乃、桑谷 扶美、赤坂 真城それに……………………島 風香。

 まあ途中から分かっちゃいたが、世界レベルで設定されたヒロインだったという訳だね。あと一期生の名前の入ってる人達も同じ適性検査の範囲内=割と近所に居たって事だからそうなのだろう。

 つまり山城さんや加賀さんや隼鷹さん、明石さんに間宮さん、秋津洲さん、イクさん、天龍さん、それに初春と夕雲さんも……夕雲さん? え、夕雲さん? 夕雲さん既婚……NT……あっ、いや、そうか。本来なら四国に居た旦那さんと娘さん…………うわぁ。

 ま、まあこの世界では助かってるから、一旦置いといて。道理で極端な過去や性格な人が結構多い訳である。加賀さんとか割と意思疎通に問題抱えてるからな、人の事言っていいのか分からんけど。山城さんが扶桑さんに出会ってすぐ懐いたのもそれだけ相性が良いようになっていたのだろう。あと割と時雨ともすぐ仲良くなったみたいなんだよね。本名知らないけど入ってる側なのかな?

 そう考えるとこの設定って別に強制力的な物はない程度の強さなんだろう。時雨ってこの間賀藤提督とケッコンしたし、本当に相性が良いって程度の話なだけなのだろうと思われる。そういう子達が生まれてくるようになっているとは言っても現実なのだから当たり前っちゃ当たり前だけども。

 そう、当たり前なのだ。中学校時代に交流してた私は知っているが、彼女等は普通に生きてる普通の女の子達である。いや一部精神性がぶっ飛んでたり893の娘だったりポイズンクッキングだったりはしたが、ゲームのキャラって訳ではない。ゲームのキャラと同じ背景を持ってるだけのただの人間。そういう事で良いのだろう。

 っていうかさ、別に名前に艦名入ってない、そういう子って設定されてた訳でもないはずなのにああな初雪が居る時点でもう参考になるかも怪しいんだわ。普通にあれが存在してる時点で他の娘が天地開闢から生まれる事が定められてましたとか言われてもそっかーにしかならんのよ。年下の姉に甘える外見高校生くらいの二十代中~後半ってお前。正直榛名さんとか比叡さんの方がよっぽどまともだからな! どっちがゲームキャラでしょうって言われたら絶対間違えるぞ私!!

 

「さて、本来のゲームですと、学生時代に好感度を上げた子は最初から二部で仲間として編成する事が可能になりますの。流石にルートまでは決まりませんし、中には二部から登場の子も居るのですけれど、やはりそこは頑張っただけ序盤が楽に進められるようにはなっておりまして」

 そのために好感度が上がっただけ彼女達の戦闘力は上昇する。らしい。あー……成程。なんか納得行った。提督のケッコン事情で感じた疑問の答えがそれかぁ。

「もしかしてケッコンカッコカリしなくても適性値が上がったりする?」

「はい、その通りですわ。それが主人公の特性……特権と言っても良いですわね。これは普通の、攻略対象以外の適性者にも効果があるみたいですわよ。他の提督も上昇自体は可能みたいですけれど、値が低すぎるので短期間では誤差ですわね」

 提艦隊に戦闘可能な自衛隊員が増えた理由がこれな訳だ。好感度上がって戦えるようになったからそのままケッコンも可能だったと。そういう事だったのね。提督側もあいつ人嫌いになるタイプじゃないし、好意を向けてくる相手なら好意で返しただろうから良循環してそう。つーか、提艦隊が全体的に強いって言われる理由もそれか。自衛隊員以外も上がってるんだろうねきっと。

 って事はやっぱり楠木提督は相性でメンバーを選出したっぽいかな。提督ってばめっちゃお膳立てされてハーレム形成させられてるじゃん。本人たぶん喜んでないけど。あいつ滅茶苦茶健全だからなぁ。本人は。ところで文月はなんで微妙な顔してこっち見てんの? 少女もなんかさっきよりにやついてるし。

「話を戻しますが、提 督正くん……あ、これデフォルトネームで変更可能なのですけれど、彼が主人公の場合、ゲーム的にはシミュレーションというか原作の艦これ色が強くなりますわ」

 当然の話なのだけれど、性別が男な彼は海に出て戦う事ができない。そのため、拠点から艦娘に指示を出したり作戦を立てたりするのがプレイヤーの主な仕事になるらしい。原作と違って拠点でもイベントが起きたりアクシデントが起きたりラッキースケベが起きたりはするそうだし、食料とかも管理しなきゃいけないからやる事は多いらしいけども。猫吊るし大体合ってたっぽいなこれ。

「それと彼独自の特色として、提督としての能力が著しく高いというのが挙げられますわ。具体的には艦娘の編成可能数が無制限であったり、ケッコンもいくらでも……好感度が足りて指輪を作る資源さえあれば可能です。これはこの世界でもやっておりますわね」

 その他、味方のダメージも詳細に見えるし位置なんかも分かるし弾薬の残りとかも分かってしまうらしい。私達の完全上位互換じゃんすげぇなあいつ。むしろ胃に悪そうだけど。

「その言い方だと他にも主人公候補が居たのか……?」

「いい質問ですわね。丁度それを言おうと思っておりましたのよ」

 そう言いつつ、二人ともちらりとこっちを見た。ついでに文月も見てるし観覧席からも視線が飛んでくる。おいどういう事だ。

「そう、実はこのゲーム、主人公が選択可能なのです。とは言っても、個性のある人間の中からどれかという話ではなく、選べるのは性別。つまり、二部で提督としてのみ働くか、艦娘としても働くかを選べるようになっておりますのよ!」

 女性主人公を選択しても提督としての能力が無くなる訳ではないらしい。ただその性能は男主人公に比べると遥かに劣り、編成できる――即ち無効化貫通能力を付与できる人数は合計で24人。さらに位置や状態も詳しくは分からなくなり、ダメージを受けているのが分かるとか羅針盤で方向が分かるとかそんな程度になってしまうのだとか。なんかどっかで聞いたような……気がするな?

「女主人公を選択すると第二部はアクションゲームに寄りますわ。具体的には自分で操作して戦闘を行えるようになるのです。アーケード版よりむしろTPSに近い操作感に仕上がっておりまして、味方への指示を出したりしつつ自分でも撃ったり避けたりするシステムになりますのよ」

 出撃人数が減って多面作戦などが取り辛くなる代わりに、自分操作で無双可能になる。らしい。成程、さては仲間のAIがあんまり役に立たないタイプのゲームだな?

「ちなみに主人公の使う艤装は戦艦、巡洋艦、空母、駆逐艦、潜水艦から選べますわ。デフォルトネームにちゃんと名前全部入れましたのよ。無理矢理」

 そっかー。うん。それもなんか……覚えがあるような……?

「はい、そういう訳で次の問題でーす」

 

第5問

この世界の、主人公枠に抜擢されず魂の宿らなかった、

『女性主人公の体』はどこへ行ったでしょう?

 

「これは……そうですわね、現在地を書いてもいいですし、端的に状態を書いてもいいですし、名乗ってる名前を書いても正解という事にいたしましょうか」

 ね。と満面の笑みで、少女は明確に私の事を見つめた。

 お前……お前……マジか…………え、マジで? 本当にそうなの?? もう視線が何もかも物語ってるし性能が完全一致なんだけど??? 本気???? そんなことあるんだ?????

 っていうかもうこれクイズでも何でもないだろ! お前設定開示したかっただけだろ!! 馬鹿なの? なんでそんな事したの?? 嫌がらせ? 嫌がらせなの?? え? つーか何? この? ……何?

 誰が得するのこれ? 誰が得したの? 私? 私得した? してるか。してるわ。環境恵まれてたもんね? 第二部まで生存確定の地域に住めてたって事だもんね? 治安とか悪くなってない訳だよね? 最後まで残る場所だったんだもんね? 親戚関係カオスだったのもこれのせい? たまたま?

 あっあっあっ回答ね、答え。分かるよ。すっごい分かるよー。書き慣れてるしね! 今すっごく書きたくないけど!! わざと間違えちゃ駄目? 意味無い? だよね!!! おうちかえっちゃだめ? だめ。はーまじはー。

「はよかけ」

 はい。

 

「というわけで、正解発表ですわー! まず文月の回答をどん!」

 モニタに映される文字列。そこには『転生者が使っている』と記されていた。

「続いてどどん!」

 次に現れたのは猫吊るしの書いた一文字である。『隣』。魂の位置的にも肉体の位置的にも合ってるだろうけども。

「最後にどどどん!!」

 そして表示される私の回答。内容は当然、『伊吹 雪』である。

 にっこにこな顔の魔法使いを自称するこの世界の創造主であらせられるらしいクリエイター系オタクの少女が、本当に楽しそうな声を漏らした。たぶんお気に召してるのは私の反応なのだろうけど、お前これで間違ってるとか言うなよ。泣くぞ。

「はいっ!! というわけでー、正解は……」

 少女は溜めた。ドラムロールも復活した。暗くするのは忘れてるけど。

 ゴトランドさんからは強く生きろという謎のメッセージが込められた視線を、レ級からも憐憫色が強い同種のそれを感じる。丹陽さんの笑顔は柔らかくなっているし、ほっぽちゃんとベイさんからも純粋な応援の籠った表情が届く。なんだよぉお前ら全員知ってたのかよぉ。

 ででん、と力強い太鼓の音が周囲に響く。直後、私達の回答席は今までよりも盛大に光り輝いた。

「宮里艦隊で転生者の伊吹 雪ちゃんが使ってる、でした!」

「なんでそんな事したの???」

 いや、マジで分かんない。どうしてよりによってそんな訳の分からん事を。バグ加速したらどうすんだよ主人公二人とかフラグ滅茶苦茶じゃん。だって♂トレに対する♀トレ、グランに対するジータ、ぐだ男に対するぐだ子みたいな立場って事でしょ? 同時に存在しちゃいけない奴だよそれ。ボディだけだから大丈夫って事?

「だってせっかく気合入れて作ったモデルですから、使いたいなあって」

「理由浅いなあ」

 そんな理由で主人公ボディにぶち込まれる方の身にもなって欲しいんだが? いや、別に恥ずかしい事じゃあないんだろうけどさ、お前の体ハーレムゲーの主人公のだぞ☆とか急に言われるとこう……なんか……えもいわれぬ感覚に陥るというか。魂が宿らなかったらしいから奪ったとかじゃないだけマシと思うしかないかなぁ。っつーか、世界の話聞いてたはずなのに自分の事ががっつり出て来ると思わないじゃん。転生者とは言えさぁ。

 しかし、マジでかぁ。マジでそうなのかぁ。確かにこの体、明らかにクオリティは高いんだよね。超美人中学生雪ちゃんボディはネットでも大人気なんだよ。三次に興味のない私でも手足や胴体のバランスとかはふつくしいと思うレベルなんでそれはもうすごくすごいのだ。そこに私がインストールされる事で色々台無しになってる感は否めないけれども。

 

「あ、そうそう。そんな訳で主人公は男女二種類居るんですけれどね、どっちを選んだとしてもヒロインの設定って変わらないんですのよ」 

 いや、そりゃそうだろう。そこが可変式になるなら何か別のギミックが必要だと思う。実はよく似せた別々の時代が舞台だった、とかの。

「その状態で現実化いたしましたら、ヒロイン全員、恋愛対象の性別は不問になってしまいましたのよねぇ」

 自覚無自覚の違いはありますけれどねーと少女は笑う。いや、うん。まぁ……時代が時代だし別にいいんじゃないのそれは。つーかその情報、要る? 正直知り合いの性的嗜好の話とか知りたくないんだけど。まあこの程度ならいいけどさ。

 猫吊るしと文月が何かを納得したような顔でこっちを見て来るんだけど、何? 私は関係ないよ? だって私はそもそも二次専だもの。恋愛も何もあったもんじゃないからね。本当に。

 

 

 




徹頭徹尾金剛さんは本気でしたとさ。


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誰も知らない酷すぎた設定を紹介!

 体が特別製だと聞くと中身との釣り合いの取れなさに忸怩たるものを感じずにはいられない。とはいえ、私が主人公ぼでーだったとして誰が困るのかって言われると困らないので別にいいよね……と自分の中で決着を付けたい所さんなのだが、思考をぐるぐる回してるうちに、一つ疑問が湧いてきた。

「魂が宿らなかったってさ、転生者ぶち込まなかった場合って女主人公生まれなかったって事だよね? 伊吹の家ってどうなってたの?」

「ああ、どの世界でも選ばれなかった方のお家は子供が一人減りますわ。つまり、あのご両親は子供ができませんわね」

 おおう、やっぱそうなるのか。生まれたばっかりの頃二人ともすごい喜んでた覚えがあるからなんか悲しいな。そのおかげで転生者と言う気は全く無くなった訳なんだが……うん。今後も言わんようにしよう。孫は見せられないと思うからそこは申し訳ないけれど。

 あと、単純に減るって事は男主人公の方が生まれないとローザは一人っ子になるのか……絵にかいたようなブラコンなんだけどっつーかマジでゲームみたいな世界設定なせいで生まれたブラコンだったみたいだけど、兄が居ないとどうなるんだろあの子。今はろーちゃん寄りだけどゆーちゃん寄りに分岐したりとか……流石に無いか。

 

「なあ、さっき言ってた主人公の特権って体と魂、どっち依存なんだ?」

 私が両親や友人の妹の事を想っていると、眉を歪ませた猫吊るしが首を左右に軽く傾げながら少女に疑問を投げかけた。特権、というと適性値上昇ぢからの事か。なんかチートとか色々魂依存っぽいし魂じゃないの?

「体ですわ!」

 違ったわ。でもかなり意外……好感度とかそういうのだし精神的なものが強そうだから肉体依存ってのはなかなか意味不明じゃなかろうか。あれか、そもそも集合無意識に繋がるかどうかは体の方で決まるとかなんだろうか。

「と申しますのもね、この世界では主人公は主人公、転生者は転生者となっていますけれど、本来は主人公ポジションに転生者を据えるのがこの世界の楽しみ方だったのですわ」

 当初、少女はゲームの仕様を完全に楽しんでもらおうと考えて世界設定を組んだのだそうだ。そうなると自然、転生者はゲームで言う所のプレイヤーに相当し、プレイヤーが操作するのは当然主人公であると、そういう事だったらしい。つまりは主人公憑依型の転生かな? 雪ちゃんボディ使ってる人、実はいっぱい居たりする? ちょっとほっとした。

 でもそりゃそうだよね、毎回毎回転生者を主人公位置に設定するなら、一々魂を大きく弄るより体の方に機能を付けといた方が楽だろうし転生者側の負担も軽そうだもん。ちなみにだけど、全く弄らなくていいって訳ではなく世界に合わせた調整と接合くらいは必要らしい。私の魂の加工跡それかよ。

「ですが何度も見てるうちに他の立場で活動する転生者というのも見てみたくなりまして」

 主人公と転生者を別にしてみた、と。そうして出来上がった一発目がこの世界であるらしい。これあれだな、主人公以外の転生者入れたの自体もうバグの発生源になってるんじゃないだろうか。急に複数詰め込まれて世界設定くんきっと困ってるよ。

「という訳ですので、そういう事ですわ」

「そういう事かぁ」

「そういう事だよねえー」

 何がだよ。私にも分かるように言ってよ。いや分かるけどさ。大体分かるけどさ。そこまでは察し悪くないけどさ。

「なに? 私と仲良くなると適性値上がるの?」

「〝正解(エサクタ)〟!」

 やったーせいかいだー。じゃねえんだわ。

 えー。そーなのかー。何その……勿体ない設定。私が持ってても有効活用できないじゃん。絶対文月辺りの方が適性あるよ。

 いや、私が相手に好感持つだけでいいなら問題ないと思うんだ。別にあんまり人嫌いになる事とか無いし、恋愛感情は無くても尊敬とか友情とかは普通に感じてる……はずだし。でも私ただの性癖拗らせオタクで自分から絡みに行かないからなぁ。それこそ向こうから来る人でないとほとんど関わり合わないし好感抱いて貰うとか無理がある……って。

「……もしかして金剛さんが強いって言われるのって」

「主人公二人分の上昇効果受けたらああもなりますわよねえ」

 人類みんな大好きみたいな極陽っぷりだもんなあの人。方向性は違うにしても、提督も私も好きでいてくれたからヤバい事になってたのか。いや直接見た事は無いんだけど、小さい基地なら一撃でぶっ潰すらしいんだよなぁ金剛さん。

「ちなみに貴方たちの使ってる指輪と一緒で、双方向の好感度を比べて低い方の値が適用されますのでご注意を」

「その情報は知りたくなかったかなぁ」

 つまり、私も提督も金剛さん大好きって事だよね。っていうかさ、これあれだな。適性値の数値と主人公特権の事と両方知ってる人はさ、主人公と艦娘の間の好感度ある程度分っちゃうって事だよね。

 うーわめっっっっっっっちゃ嫌な予感してきた。え? 何? 提艦隊ってさ、金剛さん以外もだんだん強くなってたっていうじゃん。それってどう考えても提督の特権で適性値上がったって事な訳じゃん? で? 宮里艦隊あるじゃん? 私居るじゃん? 強いじゃん? でその中にもさ、特に強いって言われる人たち居る訳よ。技量じゃなくて艤装の出力とかがね? 技量は別問題だろうから置いといてさ。

 その中にさ、居る訳よ。秋雲先生と文月。秋雲先生さ、砲撃めっちゃ強いらしいのよ。下手すると戦艦よりヤベーらしいの。文月もガンガン強くなっててそりゃ最前線送られるよ適材適所もいいとこだよって評判な訳よ。

 うん、うん。うん。すごいね、間違いなく特権くん仕事してるよ。勿論本人の技量も高いんだと思うけど、ばっちり補助してくれてるよねこれ。誰がどう見てもってのが酷い。ゲーム的な数値上昇の快楽は現実と直結しても凄く分かりやすいのね。

「あの、ちょっとお聞きしたいのですがよろしいでしょうか」

「どうして急に敬語になりましたの? 構いませんけれど」

 少女は良い笑顔だった。いや仕方ないじゃん。すっごい羞恥の感情が腹の底から込み上げてくるんだから。

「私に関して勘付いてる人ってどれくらい居るの?」

「いっぱい」

 ですよね。

 つらい。

 

 

 

「そんな訳で、戦闘部隊の皆は吹雪さんに懐かれてるというのが定説なんだよぉー」

 文月曰く、そういう話題に対して敏感な人たちの間でだけではあるが、一部の提督がケッコンカッコカリ無しで適性値を上げられるというのはほぼ確定的であると語られているのだという。その該当の提督たちと仲のいい艦娘がどう見ても強い事から、条件に関してもほぼほぼ看破されてしまっているんだそうな。

「ちなみに決め手は初雪さんだよぉ」

 初雪ってば、訓練も人よりやらないのに強くなり続けるわ宮里艦隊に居た時はさらに成長速度上がってたわでもう何もかも露骨だったらしい。えー……

「初雪からどうかとかより自分がそんなに初雪の事好きだって事の方が衝撃なんだけど……」

「需要あったから作った最新の適性値一覧表ありますけど、見ます?」

「けっこうです」

 自覚無かったんかいという感情が少女のジトっとした視線とともに飛んで来た。そんなにかなぁ、いや嫌いじゃないのは確かなんだけど……まあオタク仲間で腐寄りの趣味じゃないから話も合うし、そんなもんなのかなあ。あとこの流れで適性値一覧はもう矢印の大きさ発表会でしかないから絶対止めろ。

「この話、吹雪が知るのって大丈夫なのか?」

 眉を顰めた猫吊るしが観覧席の事情通に問いかけた。確かに、私が知ると私からの好感度に問題が出そうだよね。あんまり良い影響が出る気はしないわ。

「うーん……これ言っていいのか分からないんだけど、吹雪の場合本人がどう思うかよりどう思われるかの方が問題みたいなんだ」

「基本吹雪側の好感度のがデカいから知らせて交流の時間増やした方が良いかもしれねェとか言ッてたな」

「私、流石に多聞丸の計画が詰んだりする情報は流しませんわよ。多聞丸が他の子にも話してない部分までは知りませんけれど大体予想付きますし」

 そういや心読んだりはしてないとかなんとか言ってたし、知らない……というかあえて知らないようにしてる事もあるのか。でも本当に大丈夫? つい言っちゃった☆とか言わない? ほんとに大丈夫?

 つーかあれか。さては私あんまり他の艦娘から好かれてないな? 知ってたけど。戦闘部隊の人らは文月の話によるとそうでもないみたいだけど、自衛隊の人達で戦えるようになったの皐月さん入れても五人だもんなぁ。本当に私の影響なのかも定かじゃないし、私のコミュ力低すぎ問題。

「まァどの道吹雪の適性値上げにいつまでも依存する気はねェから安心しろ」

「あれ、結構あてにされてたんだ」

「成果次第じゃ攻略速度が変わる程度にはな」

 なんでも教官長や川内さんが戦えるようになるかって結構大きかったらしい。あの二人強いもんね。川内さんはカラテを鍛えてるし教官長は教官長だし。

 

「そういえば、吹雪さんの適性値って吹雪さんの影響はあるの?」

 ……言われてみれば、私自身の適性値ってどうなってんだろ。提提督とは普通に友人な訳で、適性値も好感度分だけ上がってるんだとは思うのだけれど。

「流石に自分自身には影響はありませんわ。あ、あとそうだ。これ実は意外な結果だったんですけれど、他提督からの影響は本来の適性艦に対してしか出ないみたいなんですわよね。体依存の五つは初期値から微動だにしておりませんわ」

「え、私本来吹雪適性じゃないの?」

 そっか。設定上の女主人公にある適性だから中身の私とは関係ないのか…………ん? その状態で吹雪さんの欠片預かって大丈夫なのか……? いや不調とかは無いし見かけた吹雪さんは浮いてるだけで害とか無さそうだったけど、相性とかありそうだしちょっと心配かも。

「転生者に対しては一人一つ、最も適性のある艦の資質を多少増して与えておりますの。例えば文月なら当然文月。ゴトランドならゴトランド。レ級ならタシュケントですわね」

「アア? タシュケント? 初めて聞いたぞンな事」

「今初めて言いましたもの。深海棲艦やってるならそっちの艤装使った方が強いから関係ありませんし」

「私は!?」

「北方棲姫は龍驤、ちなみに護衛棲水姫は……言わなくても分かりますわね」

「ガンビア・ベイですね、分かります」

 って事は猫吊るしの春雨もやっぱり適性あるからっぽいかな。レ級もそうだけど口調とかは関係ない感じか。いやベイさんは割とベイさんっぽいな。どういう基準で決まってるんだろ。ゴトランドさんも結構雰囲気感じるんだけど……もしかして、艤装使ってるから影響受けてそれっぽくなってるだけなのかな?

「そして吹雪は本来、朝潮適性ですわ……いや、なんで意外そうな雰囲気出してやがりますの? 貴方自分に適性あるの知ってましたわよね?」

 確かに知ってたけど、一番低いとか言われてなかったっけ。吹雪と百倍くらい違うって聞いたような……うん?

「私の朝潮適性って検査時点で幾つくらいだったの?」

「5120ですわね」

 たっか。召集の最低ラインが150だからその30倍以上あるじゃん。割と提督とは仲いいと思うから上がってるんだろうけど、元々結構ありそうだなぁ。

 うん。でも、今問題なのはそこじゃないわな。うん。私は朝潮適性について皐月さんから聞いて知ってた訳だけど、その時に確か、吹雪適性と100倍くらい違うって言ってた覚えがさ、あるんだよねえ。

「私の吹雪適性ってどれくらい?」

「530000ですわね」

 おばか!

 あのコピペ合ってたの!? 何ーザ様なんだよ私は!? っていうかなんで流出してんの!? 他も合ってるの!? まあ私より酷いのは居なかったけどね!?

 文月が顔を背けて笑っている。当然ながら知ってるよね。有名だもん。有名だもん。畜生、絶対与太話だと思ってたのに、ただの真実かよ。もうやだこの世界。

「ごめん、あれ貼ったの私なんだ」

「ゴトランドさん!?」

 他鎮守府のストレス調整とかに必要だった……らしい。それなら仕方ないか。仕方ないけど。

「くっそ恥ずかしいんですけど……!」

「能力が能力なので半端なのは良くないかなと思って強めに設定しておいたんですけれど、ご迷惑でした?」

 ご希望だったでしょう? と口元に上品に手を当て、不思議そうに少女は首を傾げた。ただ指の間から覗いてる口元がおもっくそ歪んでるから愉快犯なのは明らかである。君ほんとに色々酷いな?

「ちなみにゲーム的には99999でカンストしますので、本当にチート使ったみたいになっておりますのよねこれ」

「ネタ要素ぶち込むために世界歪めるの止めない?」

 それ絶対バグ出るよね? 限界以上の数値にしたチート動画見た事あるけど、たまに凄い挙動するのあるじゃん。あんな感じになっちゃわない?

 っていうかそうか。なってるのか。納得した。私の貫通弾とか魚雷バリアとか、さてはあれ挙動がバグってるせいだな? 仕様外の数値ぶち込んだせいなんだな? 艤装への負担とかは……あったら猫吊るしが気付いてるか。

「それを言うなら猫吊るしもやっておりますしー。それに今更ですわー。あの指輪もかなりヤバい代物でしてよ?」

「指輪って、ケッコン指輪?」

 そういや没アイテム出現させたんだっけ。言われてみればなんで没になったんだあれ。ケッコンカッコカリって原作にもあったんだから普通に仕様に入れそうだけど……っていうかさっき指輪作れれば男主人公はケッコンし放題みたいな事言ってたよね? あれ?

「あー……もしかせんでも限界突破するのか、アレ」

「ですわね。効果が高すぎるからフレーバー程度の物に差し替えましたのに、わざわざ掘り起こすんですもの。そりゃあバグも出ますわよ」

 面白そうだからそっちは修正しませんでしたけど。って言うけど私には意味が分からん。観覧席の皆々様方も良く分かってらっしゃらないご様子で、持ってる二人は自分の指を確認していた。

「つまりどういう事だってばよ?」

「ケッコン指輪って今使ってるの以外にもう一種類あるんだわ。デザインとかは同じで効果とコストが低い奴が」

 制作に必要な霊的資源が半分未満な代わりに効果は十分の一以下。そういう廉価版みたいな奴が、この世界における本来のケッコン指輪であると猫吊るしは言う。まあそれなら没版拾ってくるよね。十倍は違い過ぎるもん。

「ちゃんと設定する前に没にしましたから、限界突破抑制するシステムに組み込まれてませんでしたのよね。当然、本来存在しないものですから世界の方も未対応。まあ相応の好感度は要求されますけれど、きっと作れますわよ、バグ艦娘」

 少女は当初、ケッコンした艦には特別な相手としてかなりの強化を与えるつもりだったようだ。だが制作を進めて行くうちに、ケッコンが攻略に必須扱いになったらなんか嫌だという考えに至ってしまったらしい。

 なので、一人にだけ特別な指輪を渡せるようにとか、女主人公は一人にしか渡せない代わりに効果が高いのが贈れるようにとかそういう迷走を繰り返し、最終的にはケッコンはシステム的にはあるけどしなくても攻略に支障はない程度の効果に落ち着いたのだという。ケッコンしてると行けないルートとか隠されてそうだなぁ。

「ですので、提提督から貰っておけばいつかは吹雪よりも朝潮適性の方が高くなる事も有り得るかもしれませんわよ?」

「メス堕ちでも見たいの?」

 私そういう感情マジで無いからどうしても見たいなら他の人に期待してください。いや舌打ちされても無いもんは無いよ。つーかTS転生者作ってる時点で分かってた気もするけど君の性癖なかなかアレだよね。私も創作物として見るのは嫌いじゃないけどさぁ、自分がそうなるのはいやーきついでしょ。

 

 

 

「ではそろそろ本題に戻って、この世界が本来の形からどれくらい離れているのかお話ししていきましょうか」

 もう教えたいだけなの隠そうともしてないぞこの子。いいけどさ。

 しかし今までの話から考えるとむしろ同じな所の方が少なそうなんだけど、どうなんだろう。生き残ってる人数違い過ぎるし、そもそも時間軸も合ってないみたいだし。

「まずこの世界の現状が本来の形とまるで違っているのには、自衛隊や政治、一部は司法の世界にまで大きな影響力を獲得した転生者の働きが深く関わっております。そう、多聞丸ですわね」

 影響範囲広くない? え、司法も? 敵に回したら社会的に抹殺される奴だコレ。怖。

「あの子の働きぶりは本当に勤勉……むしろ強迫観念に突き動かされてるレベルというかそのまんまというか……まあ、ともかく、非常に大きかったのですわ」

 レ級の手元で観覧席の一部が軋む音がする。少女もあんまり刺激しない方がいいかなーみたいに表現を緩めた。害されるとか有り得ないんだろうけど、気になるものは気になるのだろうか。

「多聞丸は日本で要職についておりますし、活動も当然本国でのものが多かったのですけれど、その状態で諸外国の状況もかなり変えておりますの」

 楠木提督の行動で他の国の妖精さんの受け容れ態勢とか、深海棲艦襲来時の初期対応とか、転生者の暴れ具合とか、そんなのまで全く違う物になったらしい。だからもう海が赤く染まったあの日の時点で死者はだいぶ減っているのだそうだ。それでもやっぱりM単位で死んでるらしいけど。まぁ手が足りないよなあそりゃ。

「この辺りは乱数調整みたいなやり方でしたので、あらゆるものが視えるチート能力の面目躍如といったところですわね」

 電話一本で救える命が(タイミング次第では数千万単位で)ある。楠木提督はそんな状態だったらしい。あの……それ寝てる間もどんどん情報が送られてくるの辛いってレベルじゃないと思うんですが君本当に調整した? そりゃゴトランドさんここ目指すよ、下手したら自分が寝落ちした瞬間数億人死亡確定するとかそういう次元でしょ? 私どうこう置いといてもストレスで死ぬだろそれ……負担が凄すぎませんかねえ。

「アメリカで転生者の寄り合い所ができるのを支援してたりもしますので、貴方方も行けるようになったら顔を出しておくといいですわよ。将来的に、宮里艦隊の戦闘部隊は多くがお世話になるでしょうし」

 どういう事やねん。え、何? 私達外国に出動すんの? 日本で手一杯なのどうにかなるって事か? あれか、泊地とか手配してくれる感じ? 英語学んどいた方がいいんだろうか。

「とはいえそれは未来のお話。私の予想であって予測でも予言でもないので参考程度ですわ。ですから今の日本の話に戻しますけど……」

「自分で言ったのに……」

「思い付きで喋ってますのよ私。そこまでアドリブ力に期待しないでくださいまし」

 やっぱノリだけでやってたのか。分かってたけど、本当に問題ある事は喋ってないんだよね? つい言っちゃったとか止めてよ?

「さて、多聞丸が日本の防衛線を構築するためにまず一番最初に必要だった事、それが何だか分かります? 分かりますわよね。そう、権力の掌握です」

 誰も答えてないのに勝手に進めたぞこの子。問題にする程でもなかったのはそうだろうけど。

「これに関しては取っ掛かりを得るのは楽だったでしょうね。何しろ生まれは名家にしておきましたし、未来も心も壁の向こうも視える能力持ちな訳ですから」

 叩けば埃の出る人の多い事多い事、嘆かわしいですわーと少女はかぶりを振った。成程、そういう所を上手い事利用して昇りつめたのか。きっと普通よりは遥かに円滑にやれたんだろう。言うほど楽かは疑問だけれど。

「ところで、この能力で人を脅すのや利益で相手の目をくらますのはかなり有効な手ではあるのですが、一つ致命的な弱点があるのです。それが何か……まあ分かりますわよね。そう、物証です」

 楠木提督の能力だけだと物理的にどうこうはできないから、すっとぼけられたり証拠を隠滅されたら終わりって事か。そうならないように弁舌を活かしてどうにかするにも限界ありそうだもんね。ちなみに私は分かってなかったんだけどみんな分かってたのだろうか。

「だからニンジャを雇う必要があったんですわね」

「何時代の話だっけ?」

 え? 普通に居るの? あの人ニンジャに証拠取って来させてたの? いや確かにそういうの得意そう……っていうか、スパイ活動が本業なんだろうけども。

「ご存知かとは思いますが、この世界はかつてニンジャやサムライ、陰陽師が妖怪の軍勢と幕府や朝廷の存亡を賭けて裏で熾烈な争いを繰り広げておりましたの」

「知らないよぉ!?」

「嘘つけそこまで熾烈じゃなかったゾ」

「知ってるのぉ!?」

 まあそこは主観次第じゃなかろうか。泥臭いタイプのハイファンタジーと原子爆弾とかが飛び交うローファンタジーじゃ派手な戦いって表現しても差があるだろうし。つーか私も知らないんだけど。なんでその状態で陰陽術失伝したんだよ。あれか、大勝利しちゃったからどっちも現代に残らなかったとかか。

「ともかく、その時の生き残りが現代まで残っていたんですわね。幸いな事にお金と大義で動いてくれる集団だったので、違法賭博とかで巻き上げたあぶく銭を惜しみなく注ぎ込んで雇い入れたのです」

 お金と大義同列かぁ。いやまあ、生きるのにお金要るのは現代社会に飲み込まれてれば当然ではあるんだろうけど。

「私、しっかりフォーカスして見ていたのですけれど、彼らの働きぶりはそれはもう素晴らしいものでしたわ。火遁だの水遁だのを使うタイプではないですが、他人を欺き闇に忍ぶ手腕は現代においても超一流。設定通りに強力な一族に仕上がっておりましたわ」

「あのトンチキな連中設定に居ンのかよ……」

 レ級は見た事があるのかうんざりとした様子だった。いったいどんなだったんだろう。やっぱり覆面とかしてたんだろうか。いやしかし、証人が居るって事は楠木提督ってば本当にニンジャ雇ってるのね。もしかしたら影武者とかも立ててたりするんだろうか。

「まあそんな影から延びる腕々の力も借りまして、多聞丸は幕僚長にまで上り詰めた訳ですわね」

 証拠を押さえるニンジャ。風説を流布するニンジャ。腐敗を調査するニンジャ。刺客を撃退するニンジャ。そうして生まれたのが今の防衛体制であるらしい。いろんな人に支えられてるのは当然そうなんだろうけど支えてる人おかしくない?

 出世しながら様々な状況を整えて深海棲艦襲来の時にはもう猫吊るしが来たらピタゴラスイッチ的に全部が推し進む様に調整が済まされていたらしいけど……もう何話されても端にニンジャの影がチラついてギャグみたいになっちゃうんだけど。強すぎるだろ存在感。

「さて、そんな忍びの一族の中に、稀代の天才と持てはやされる子がおりました」

 幼い頃から武術や忍術に対し歴史上類を見ない程の才を示し、十二を過ぎる頃には里で敵う大人が居なくなっていたというその少女は、多聞丸の依頼を受けて海上自衛隊で内部監査の任に当たっていたという。

 少女の同人活動を映して以来沈黙を保っていた3D映像投射機くんが起動する。宙に一人の女の子の姿が浮かび上がった。雇われた時の外見なのか少し幼いけれど、どう捉えても見覚えしかない顔……宮里艦隊の川内さんである。知ってたけど。知ってたけど。

「やっぱニンジャじゃんあの人」

「多聞丸の手の者だったのか……」

「まあ、本人は計画の事とかはぜんぜん知らないみたいですけれどね」

 どうも川内さんは自衛隊に潜入――普通に入隊したらしいけど――して内部調査をしている最中に深海棲艦が来て、川内適性があった為に任を解かれてそのまま艦娘をやっていたらしい。本人は喜んでたとか。能力はともかく性格的な適性なさそうだもんな川内さん……

「ちなみに未成年ですわ」

「年齢詐称してたの!?」

 道理で若く見える訳だよ! 年相応だっただけかよ!! そういやお酒飲んでるとことかも見た覚えないけどそういう理由? 法令守ってたりしたの?

「川内さんって天才なの……? 吹雪さんにぶっ飛ばされてる印象が強いんだけど……」

 ああ、確かにたまに飛んでるよね、水平に。下手人私だけど。

 いや違うんだよ。あれは組み手なんだよ。時間が合った時にやったりするんだけど、技のキレが向上してるかとか見てるだけなんだよ。結果的に川内さんが人間砲弾と化すだけで。だってあの人受けるんだもん。鋭すぎて避けられないだけ? そうかな……そうかも……

「チート転生者が比較対象として正しくないだけで世界水準で見ても超高レベルなんですわよ、あれでも。それこそ吹雪に一矢報いた暁や砲撃避けれてる夕立がおかしいだけですわ」

 あ、君から見てもその二人ヤバいんだ。夕立は名前的にそういう想定の通りだったんだろうけども。

「それでこの娘、実はゲームの設定上に存在する娘ですの。ですが貴方達も知っての通り、名前に艦名は入っておりませんわ」

 私の知ってる川内さんの名前は湯通堂 葉月。川内のせの字も入っていないんだけど……本名なんだ。ニンジャネームとか別に持ってたりしないのかな? つーかそれ、ニンジャが歴史上に生まれたの川内さん設定したせいでは……?

「そういうわけでクエスチョン!」

 

第6問

この世界では宮里艦隊で川内を務めている女性は、

元の二次創作ゲームにおいてどういう役回りだったでしょう?

 

「これ結構難しいと思いますので、一つヒントですわ。実はこの娘、私は名前を付けておりません」

 それは……設定上にしか存在しないキャラとかって事? 少なくともヒロインじゃあないだろうし、攻略不能なメインキャラとかでもなさそうだ。でも役回りはあるのか……なんだそりゃ。

 少女がシンキングタイムスタートですわーと号令を掛ける。一番最初に回答を書いたのは文月だ。ほぼノータイム。心当たりがあった感じかな。猫吊るしは私と同じでよく分かってなさそうだから、もしかしたらスマホコミュ側にヒントでもあったのかもしれない。そうなると他の艦娘と関係してる可能性が高いかな? まあでも文月の書いた内容を当てる意味は無いから、私は私なりに考えよう。

 少女の話を纏めると、川内さんは元のゲームでは自衛隊員ではないはずだ。楠木提督が雇わなければなってなかったと思われる。だからニンジャなのも含めてどこに居たっておかしくはないだろうとは思うんだが……そもそも名前を付けなくていいキャラってなんだ? それこそ謎の忍者としてだけ出演してるとか? いやそれでも裏設定的に決めてはおくような気がするんだよなぁ。だったら、うーん……そもそも本人は出て来ないとか?

 たとえばアイテムのフレーバーテキストにだけ存在するとか……いやでもそういうのなら同年代に生きてる人より昔の人の方がそれらしくなりそうな気がするなぁ。天才らしいけど、深海棲艦と戦えるわけじゃないだろうからその設定に何の意味のあるのかもよく分からんし。

 あ、それともあれかな。誰か別の人の設定に川内さんも含まれてるとかかな。忍としては落ちこぼれなキャラが居て、その人から同年代の天才と散々対比されてましたーみたいな言及があるだけで本人は全く出て来ないとか、そっち方面。それなら名前は設定する必要がないんじゃないだろうか。

 ……この場合、役回りってどう書けばいいんだ? コンプレックスの元? それ役って言うのだろうか。具体的に答えるよりは曖昧な方がいいのかなぁ。そうなると他キャラの設定になんか混ざってる人……いやこれも役回りって言わないよなぁ。うーん。どこからどこまでが許される範囲なのかが分からん。問題がアドリブだからかその辺り曖昧なの凄く困る。

 

 

 

「ほほう。だいたいみんな同じ答えですわね」

 回答に目を通した少女は意外そうな表情を見せた。まずはこれ、と言って表示されたのは私の回答。『ヒロインの身内』である。

「できるだけ範囲を広く取ろうって努力の跡が見える辺り、自信の無さが窺えますわね」

「割と私に辛辣だよね君」

 嫌悪感から言ってるような感じは受けないからいいけどさぁ。くすくす笑った少女ははい次ーとさっさと私の答えを片付けた。代わりに出てきたのは猫吊るしの回答で、そこには『攻略対象の姉妹』と書かれていた。

「吹雪のより範囲が狭まりましたけれど……どうしてこの答えに辿り着きましたの?」

「名字から。ゆづどうって、お湯の通るお堂って書くだろ? 妹に神の字が入った奴が居るんじゃないかと思ってな」

 ああ、成程。神通か。もしゲームに居た人と同じ苗字なら、艦の一部が姓に入っててもおかしくなさそうだもんね。榛名さんみたいに全要素が名前に反映されちゃってる人も居るけど。

 そういえば那珂ちゃんはたぶん生放送でご一緒した那珂川さんがその枠だったんだと思うけど、あの人ニンジャ一派と係わりあったんだろうか。そういう雰囲気全然なかったけど、そもそも疑ってなかったからさっぱり分からん。

 少女が成程成程と納得を見せつつ、お次はこちらと画面の表示を入れ替える。最後に映されたのは文月の回答。その答えは、『ヒロインのコンプレックスになってる亡くなったお姉さん』である。あれっ!? っと何故か文月が驚きの声を上げた。

 しかし、あるあるだな。確かにそういう設定割とあるわ。自分の方が死ぬべきだった的なやつ。あるけど……も。

「これもうそのヒロインが誰かまで特定してますわよね?」

「……だって神通さん隠せてないから。あの人明らかに川内さんの妹さんでしょぉ?」

 そうなの? そんなにあからさまな事言ってたんだろうか。交流の一切ない人だから全く分からん。というのもあるけどもっと気になる部分があってだな。

「亡くなったって部分どこから来たの?」

 いや、まあ、百万人しか生き残らないなら死んでる可能性の方が高いってのはそうなんだけど……わざわざ書いたのはなんでだろう。必要な一文とは思えないんだけど。私の質問に、文月はこちらを見ずに答えた。

「えっとね、それは生きてたら出て来なくても名前付けるかなって思ったから。名前を付けなかったのはそれ以上の意味のないキャラ……つまり本当に設定上存在はしてるけど、記号だけがあればよくって人格面とかは設定されてなかったか……もしくは、攻略キャラが多過ぎて一人一人の出て来ない身内にまでは名前付けなかったんじゃないかなぁって」

 言われてみれば、艦名の入った人って宮里艦隊だけ見ても結構多いもんなぁ。どれくらい実装したのかは知らないけれど、艦これってキャラ数200人超えてたと思うから細かいとこまで詰めてないってのは有りそうだ。制作者に割と適当なとこが垣間見えるし。

「っていうか、あたし消したんだよ!? ほらこれ!」

 文月が自分の手元のフリップボードを掲げた。そこには確かに何重にも線が引かれて塗りつぶされた文字がある。勢いで書いたけど後から配慮した感じかな?

「なんで元に戻ってるの!?」

「あら、だって折角の完璧な回答ですもの。勿体ないじゃありませんの」

 そういう問題じゃないと思うの。人の心とか……お持ちでない?

「という訳で、全員正解ですわー!」

 文月の席が眩しく輝き、猫吊るしの席は普通に煌めき、私の席もちょっとだけ光る。正解具合で変えてきやがった。

「宮里艦隊の川内、あの子はそう! ヒロインの一人である湯通堂 神無さんのお姉さんに当たりますわ!」

「あー、神無月と葉月なのか」

「そうみたいですわね。親戚に長月ちゃんとかも居るみたいですけれど」

 別に長月適性は無いらしい。そりゃそういう人も居るよね。

「役回り的には文月の答えがそのものズバリで、深海棲艦襲来直後にお亡くなりになって本編中には一切出て来ない、ヒロインのトラウマになるために設定されたキャラクターですわ」

「知り合いがそうですって言われた私達の気持ち慮ってくれたりしない?」

 楠木提督、本編で活躍しない優秀なキャラ救済して自陣営に組み込むオリ主みたいな事やってたのね。いや、みたいっていうか立場的にそのまんまか。有難すぎない?

「本来ならまったく自衛隊とは係わりが無い娘ですけれど、忍務にかこつけて適性検査を受けさせて、適性自体は低いので吹雪と関わらせて無理矢理引き上げた訳ですわね」

 ついでに体の動かし方を教えてくれるから私の格闘能力とか諸々も向上すると。今更だけどニンジャの技流出させちゃって良かったんですかね川内さん。柔軟というか、ニンジャの中でもかなり型破りな人なんじゃなかろうか。そういうとこも含めて神通さんの心に突き刺さる設定なのかなぁ。

 しかしそうなると適性あったの自体はたまたまなのだろうか……むしろ神通の姉で忍者なら川内適性無い方が驚きな気がするから、神無さんって人が設定通りの人格に育つためには川内適性のある人が必要だった、とかなのかもしれない。適性と人格が関係あるのかは知らんけど。

「ちなみに、吹雪のおかげで自己評価が下がりまくって自分って天才じゃなかったんだなぁ、みたいな認識になって喜んでたので神通が日々困惑しておりますわ」

「ただのチートだから申し訳なさしかないんだけどその情報」

「その感覚を川内も味わっていた、という事ですわ」

 もしかして実家に自分より強い人が居ないって事に思う所でもあったのか川内さん。あれか、才能が有り過ぎて悩んでた感じか。文月じゃなくて川内さんの方がそうだったのか……

 

「気になったんだけど、川内さん以外の人達はどうなの?」

「どうとは?」

「名前に入ってなくても設定に居るのかって事! ほら、教官長とかすっごく強いでしょお?」

 それは確かに気になる。あの人、本名は暁と何も関係なさそうな名前なんだけど、たぶん日本艦娘で技量最強なんだよね。ゲームでも教官役のキャラだったとか言われても驚かないわ。

「ああ、教官長。凄いですわよねあの方。多聞丸も見つけた時、びっくりし過ぎて声に出てましたわ」

 私もお気に入り。との事だが、この子に気に入られるのは正直悪い予感しかしない。

「教官長は、何一つも私が手を加えた存在ではありませんわ。完全な天然者ですのよ彼女」

 野生の天才、であるらしい。天が与えた訳じゃないのに。

「私も調べたんですけれどね、親兄弟親戚の情報を漁っても先祖を遡って調べても何も特別な所が見当たりませんのに、本人は超強いんですわよねえ。遺伝子的にも普通の人間ですし、身体能力も高いとはいえ常人の域……それでどうしてああなのか。私もさっぱり分かりませんわ!」

 生まれる時代が違えば歴史に名を遺す大英雄になってたんじゃないかと少女は言う。いや、今の活躍も後世に残りそうだけどね。私が目立ちすぎ? そこには目を瞑ってくれ。

「本来なら、凄く勿体ない事に、深海棲艦が襲来したその日に亡くなってしまいますのよね。っていうか今思いましたけれど他の世界だと普通に死んでますのよねえ。勿体な。今度から回収しよっと」

 なんか不穏な事言い出した。回収? え、何それは。

「あ、勿論貴方たちの教官長もちゃんと転生者になってもらいますからご安心くださいませ」

 来世保障ですわー、あの方ならチート要りませんわねーと少女が笑う。いや待て。ちょっと待て。

「え、この世界の人も転生者にするんだ……?」

「え、そりゃあ、貴方たちの生きていた世界と同じで私の運用する世界なのですから、そこに生きてる人達は当然選定の範囲ですわよ」

 きょとんと、心底不思議そうな表情だった。あー。あー。そうね。言われてみりゃそうだわ。私達の生まれ故郷はどこかの世界を少女がコピーした世界。教官長の生まれ故郷はそのコピー元の世界で少女が作った同人作品を元に少女が創った世界。そこになんの違いもありゃしないのか。

「……やべぇ、若干思い上がってた」

「わかるー」

 猫吊るしも文月も私もほっぽちゃんやベイさんも、ゴトランドさんやレ級ですらそれまでちゃんと理解し切れてなかったようだ。上位下位の関係でないならそりゃそうなんだけど、感覚的にまったく分かってなかった。そうだよね。ゲームを基にした世界であってゲームではないんだから。魂の価値は全く一緒……っていうか、私なんかと比べたら明らかに教官長の方が価値あるよね。

 っていうのはまあ、私達の認識の問題だし別に蔑視してたとかじゃないから置いといてだ。

「教官長、チート無しの転生者にされるの?」

「事前説明無しでゴッドイーター辺りにでも放り込んでみようかなと」

 なんだかんだで大活躍しそうだけど、ちゃんと説明はしてさし上げろ。オタクじゃないから前提知識何も持ってないんだぞあの人。

 

 

 

「教官長がそうであるように、自衛隊の皆さんは本来全滅しておりますわ。ですので設定上存在している方は……少なくとも宮里艦隊にはおりませんわね」

「宮里提督も?」

「ええ。そもそも彼女は本来なら自衛隊に入る事すらありませんもの。多聞丸に思いっきり人生を捻じ曲げられた被害者の一人ですわ」

 意外……だけどやっぱりそういう人も居るんだ。そりゃあまあ、そうだよね。人助けが捗るから仕方なくだろうけど、それでどれくらい生存者が増えたんだろう。いや、宮里提督滅茶苦茶重要位置だから下手しなくても十万百万一千万単位だよなぁ。補佐官とか居なくていいのかなぁとか思ってたんだが、さてはこれ居ない方が成果が挙がる奴だな?

「さて、今言った通り本来なら自衛隊は全滅いたします。初期に艦艇ごと沈んだ者たち、市民を守って殉職した者たち、武力を背景に我欲を満たそうとして似たような勢力と相打ちになった者たち、好機と見て軍勢を築いた妖怪軍団に背後から斬られた者たち、組織として瓦解した後も手の届く範囲の人々は護ろうと奮戦した人たち、様々おりますが、主人公が戦いを始める頃にはほぼほぼ皆亡くなってますわねえ」

「待って変なの混ざってたよ今」

「残ってたのか妖怪」

「どうしてもファンタジーが混入するんだねえ」

 どうして妖怪が大暴れしてるんですか? 一部の設定から派生して生えたんだろうけど、印象強過ぎて艦これ要素で打ち消せてないぞ。ニンジャとか初春みたいな霊能力者とか居るから普通に退治できるんだろうけどさぁ。つーか油断すると世界設定くんが後ろから刺してくるの凄い困る。

「この世界では既に首領格が調伏されて他所で提督やってるから大丈夫ですけれどね」

「提督!?」

「何やらせてんだ楠木提督!?」

「妖怪も提督できたりするんだぁ……」

 人手足りないから? 足りなさ過ぎて妖怪まで駆り出したの? まあ確かに提督少ないからやれるなら……っていうのは分かるけども。危なくない? それ以前にできるんだ? 人間由来の妖怪とかだったんだろうか。まあそれなら分からんでもいややっぱわかんないわ。

「ああ、まァ……もうケッコンまでいッてやがるし、人襲ったりはしねェだろ」

 どうやら調伏したのはレ級らしい。きっと圧倒的な速度でねじ伏せたんだろう。相手がそれで納得したのかは分からないけれど、ケッコンできるくらい仲のいい艦娘が居るなら大丈夫……なんだろうか。調伏したら邪気が払われて大人しくなったとかそういうノリ? しかしファンタジー要素積極的に使われてるの予想外過ぎるんだけど。艦これ、艦これってなんだ?

「話を戻しますが――本来の世界ではそんな扱いだとはいえ、自衛隊がちゃんと指揮を執れば有効な働きをしてくれる組織なのは皆さん知っての通りですわ。ですから多聞丸も幕僚長にまでなった訳ですしね」

 実際、深海棲艦を倒しているのは私達だけど海辺の平和を護っているのは自衛隊員の皆さんである。なんだかんだ理由付けて侵入する人結構多いらしいんだよねぇ。こっち目線だと自殺志願にしか見えないんだけれど。

「さて、方々に手を尽くして艤装の建造に漕ぎつけた多聞丸が最初に作り上げた戦闘部隊。それがかつて精鋭部隊と呼ばれていた長門率いる十二名の艦娘達ですわね。ただあの方達――正直、滅茶苦茶弱かったんですわよねえ。よく生きて帰れたと私毎回感心しておりましたわ」

 適性値は対応する艦娘と外見年齢が離れるほど減っていくから、そのおかげで自衛隊にはあんまり高い人が居なかった……ってのは聞いた事があるけど、それはやっぱり事実だったらしい。外見年齢であって実年齢は関係無いため合法ロリ海防艦は有り得るそうな。この世界普通に居そうだから困る。

「この旧精鋭部隊の生存に寄与した前線指揮官がそう、長門ですわ。いいですわよね、長門。広告塔できる程度には外見が整っていて、性格も声もなんとなく可愛らしくて、どっちかっていうと受け体質で、適性値も自衛隊の中では最高で、そことは関係ない自力も高い……控えめに言ってこんなのよく見つけたなって人材な訳ですが」

 見慣れた長門さんの画像が投影機から映し出され、横に数値が表示される。それは468から始まって、だんだん上がり1758で止まった。もしかして適性値かこれ。他の人達が最低値の150に近い所だとしたら一人だけ凄い強かったっぽい? っていうかめっちゃ上がってるなこれ。宮里提督とケッコンしてるからかな? つーか長門さん受けなら宮里提督攻める方なんだ。知りたくなかった。

「見つけた……って事は宮里提督と同じタイプ?」

「いいえ。この子はもっと極端。ある意味では多聞丸による改変の極致。有り得る可能性を細部まで精査した果てに見えるひとかけら。つまりは、本来この世に存在しない人間、ですわ」

 それは、えーと。自然発生しないから、意図的に交配して作り出したとか……そういうお話? 別世界から来たとかそういう方向性じゃないよね? 生まれがどうだろうが長門さんは長門さんだけど……え、楠木提督凄い事してない? 誰と誰からどういう子供が生まれるかとか分かるの? 馬主やらせたら最強かも分からんね。

「この世界は私が作った世界。でも長門はその世界の中で、多聞丸が意図的に作り出した娘。つまり、二次創作の二次創作。三次創作と言っていい子。つまり――私から見ると孫に当たりますわ!」

 そのせいか、なんだか妙に可愛いんですわよねえ。などと少女はのたまった。やけに褒めると思ったら……

「知ってるかもしれませんが、多聞丸の義娘ですので今後も関わる事は多いと思いますわ。仲良くしてあげてくださいまし」

 マジで何目線なんだこの子。おばあちゃん? おばあちゃんなの? 息子や娘も助けてあげてよ。いや孫も愛でてるっぽいけど助けてはなかったわ。ただの後方祖母面か。

「それでええと、この長門や途中で回収されたレ級のサポートを受けて、召集の日まで旧精鋭部隊は戦い抜いたわけですわね」

 実はこの頃、レ級は縦横無尽に日本中を暴れ回っていたらしい。必要時に必要な相手をぶっ潰したり、時には轟沈した艦娘を他の艦娘の方へと放り投げたり、都合のいい場所を攻めるように誘導したり。今はPT小鬼群達と仕事を分け合ってるみたいだけど、私がこたつでみかん食べながら風香の関節をねじってる間もずっと戦いを続けていたようだ。頭下がるなぁ。

「さてこの時点で本州の生き残りはだいぶ増えている訳ですが、それ以外の島々はこのままだと遠くない未来に滅んでしまいます。それを防ぐために多聞丸が行った事の一つ……その中でも最も重要で、最も影響の大きいもの。それが召集ですわ」

 まあそりゃあ、いろんな意味で影響は大きいだろう。戦力の拡充もそうなのだけど、世間への波紋がデカいデカい。抗議活動とか現在進行形で起きてるからね。自分の子供戦争に取られるの嫌だろうから当然なんだけども。

「そして手が広がって戦力的にもおかしいのが加入した艦娘部隊は、本州の護りを固めるとともに九州四国方面の解放へと動き出した……と、この辺りは貴方達もよく知っていますわよね」

 おかしいのの代表で悪かったな。と目線で訴えかけてみれば、少女はぷーくすくすと言わんばかりのお上品な笑いを溢した。つよつよ雪ちゃんは役には立ってるはずだからいいんだうん。

「ところで、何故多聞丸は北ではなく南を優先したか、お分かりになりますか?」

 それは……難易度と生存数の問題とかじゃないの? 北海道って敵は滅茶苦茶多いけど内部が広いから他よりはなんとかなりそうに思えるんだよね。四国とか今冬超えられたか怪しいもん。食料焼き払われたって言ってたし。

「五十嵐提督が居たからだよねえ?」

「はい正解。それだけだと理由の1/4くらいですけれどね」

 え、五十嵐提督? 四国どころかその手前の淡路島でリーダーしてたはずだけど……提督として有能なの? 優先して狙いたくなるレベルで? そういや妹の嵐さんかなり強いって言われてるからやっぱり戦力確保って事?

「あー、成程。さっき言ってたチュートリアルキャラか。五十嵐提督がそうなのか」

 猫吊るしはそれで得心が行ったらしい。えっと、つまり……

「五十嵐提督も主人公特権持ちって事?」

「そうなりますわね。本来ならチュートリアルの最後で特殊個体に遭遇して全滅するのですけれど、この世界では艤装建造前に本州から助けが来たので生き延びる事になりましたわ」

「特殊個体?」

「ボスエネミーですわ。この世界だと……ふふ、未討伐ですわね。誰が倒す予定なのかは知りませんけれど、まあ、ネタバレは避けておきましょうか」

 今更。ネタバレ大会なのにそこは隠すんだ。

「ともかく、本来なら一人しかいないはずの超高性能提督と、その周囲に侍る高適性艦娘の確保が多聞丸の第一目標だったのですわ」

 なお、艦娘の方が高適性なのはゴトランドさんが間に入って煽りまくったのが主な理由らしい。流し目で指摘されて苦笑いしてた。本来ならボスに負ける程度なんだろうけど、今の嵐さんとかはかなり評価高いしそりゃ上げられるだけ上げるわな。

 ちなみに五十嵐提督の受け持ちは拠点と提督能力のチュートリアルであり、女主人公の戦闘方法は艤装を初めて装備した時に教えてもらえるんだそうな。そこは統一した方が良かったのでは……?

「そして第二目標ですが、これは沖縄の方……雪吹艦隊ですわね」

 やはりというか、駆逐艦吹雪の一部が転生したチートな吹雪さん達は戦力としてかなり大きかったらしい。艦娘を増やせる上一人一人も並みより強いってなったらそりゃあ目指したくもなるよね。あとあんまり派手に動かれると後々に問題になりそうってのもあるし。

 しかし、吹雪さ……吹雪の事って過去に干渉してるっぽいのに楠木提督の予知の範囲内ではあるの、どういう状態なのか全然理解できない。楠木提督が私を朝潮にしたりして未来変えたらどうなるんだろう。少女目線では既に行われた事だから変わらないとかそういうのあるんだろうか。

「つまるところ、戦力増強が南へと向かった一番の理由なのです。攻略難易度的にはそれほど変わらなかったと思いますわ」

 ぶっちゃけてしまえば、転生者が複数居る以上いきなり北海道解放というのも不可能ではなかったらしい。ただその場合、五十嵐さん達は死者が出る可能性が高まり、雪吹艦隊は任務攻略による報酬獲得が効率的に行かなくなる。それでいて北海道を護るために戦力が不足するなどあんまり得になる事は無いらしいので、結果的にかなり非効率なんだそうな。

「とまあ、それが理由の2/4になります」

「艦娘が転生してたりあたまが追いつかないよぉ……」

「残りの半分は南へ向かった理由ではなく、北へ向かわなかった理由ですわ」 

 沖縄勢の事をちゃんと知らなかった文月をスルーして、少女は言葉を続けた。ちゃんと後で纏めて説明し直した方がいいんだろうなぁ、これ。

 

「実は北海道は今、未曽有の大豊作ですの」

「えっ」

「えっ」

「なにそれこわい」

 採れてるの? 食料いっぱい採れてるの? 生活困ってない感じ? 四国九州沖縄とは違い過ぎる感じ?

「いや、食料が足りたとして、燃料とかは足りないだろ? 結局救援は要るんじゃないのか?」

「あら、その辺りどうにでもできるような連中に心当たりがあるでしょう?」

 ほらここにもいっぱいおりますし。少女はにんまり微笑んだ。えっああ、そういう事なの?

「転生者、北海道にも居るんだ?」

「はい。総勢十名もの転生者が在住だったり旅行に来てたりで、たまたま北海道に集結しておりましたわ!」

「ぜったいわざとだよねー?」

 まあ……確実に楠木提督が集めたんだろうなと思われるんだが、成程。それだけ居れば確かに色々できそうではある。一人居るだけで凄い事になる能力とかあるだろうし。

「ちなみに彼らは北海道で寄り集まった当初は、多聞丸の協力者ではありませんでした。自由にやってもらうのが一番だったみたいですわね」

「楠木提督と会談したのも割と最近だもんね」

 どうやらその人達の一部が偏屈だったり頼れる物があったらそっちに頼り切っちゃう性質だったりして、ラインを繋ぐと十全に力を発揮してくれない可能性が高かったらしい。私達と同じで元々は一般人だろうしなぁ。

「ちなみに全員日本人なのですが、なんやかんやあって寄り集まった彼らはその豊穣の力や創造の力、政治や運輸に通じる力を、インフラ整備や食料供給に堂々と、それはもう堂々と注ぎ込んだのです。このために与えられた能力なのだと確信して。ええ。それはもう、現行の法律を完璧に無視した形で堂々と」

「あー……それで北には行けなかったって事か。合流しちゃったら守らせなきゃならないから」

 猫吊るしの納得に少女はその通りですと頷いた。なおその行いは超法規的措置として無罪放免にされる予定らしい。人助けではあるし、緊急避難扱いなんだろう、たぶん。

「さてさて、そんな彼らの代表的な、そして今後おそらく数百年から数千年に及ぶまで人々を救い続ける成果物がここにございます」

 そう言って正面へと差し伸べられた少女の小さな掌に、ぽんっと音を立てて赤茶色い物体が出現した。それは丸々とした堂々たる風貌で、採れたばかりなのか各所には土のようなものがへばり付いている。しかしその表面は光を映し、見るからに艶めき輝いていた。

「芋?」

「芋だな」

「お芋だねえ」

 それは果たしてサツマイモだった。それも、かなり質の良さそうな。

「そう、実は彼らの最大の成果というのは、農作物の品種改良なのです。これが本当に洒落にならな……非常に素晴らしい出来栄えでして」

 北海道をこのまま取り戻せば日本中に行き渡るどころか一部輸出可能なレベルでわっさわっさ実っているらしい。ああうん。確かに洒落にならないわ。

「このお芋、生産性は勿論、場所は選ばず季節も選ばず、栄養は豊富でアレルギーも起こさない。まさに夢の食材となっております」

 ついでに美容にもいいし健康にもいいし害虫にも病気にも強いしいざって時は葉っぱも食えたりするらしい。だから今年は北海道でいっぱい作られたし、冬への蓄えもたっぷりあるのだとか。

 他転生者の働きで防寒対策とかもちゃんとやれてるらしく、問題は多々あれど、北海道は世界的に見ても有数の平和な土地と化しているのだそうな。勿論海岸線に出た場合は除くが。

「このお芋、最大効率で植えると一面が緑一色に染まりますの。それ故に、品種名は満場一致で決まりましたわ」

 しばふ芋。

 転生者たちはこの空前絶後の美味しいお芋にそう名を付けたのだそうな。

 いや絶対違う意味だろそれ!?

 

 

 

 あ、美味しい。

 少女が一瞬で蒸かしてくれたお芋をみんなで試食してみたのだけれど、これめっちゃ美味いですね……流石に娘のために用意された最高級品だったであろう二期生吹雪のくれた奴の方が美味しかったと思うけど、それに次ぐくらいのお味である。芋っぽくなったりする効果は無かったので安心して皆さんにも食して頂きたい。

 ほっぽちゃんやベイさんも初めて食べたようで、みんなほっこりとした表情になっている。自然な甘味に顔が緩むのは仕方ないよね。唯一ゴトランドさんだけはそれ美味しいよねぇと味を知っている風だった。たぶん北海道にも居るのだろう。むしろどこなら居ないんだろうこの人。

「さて皆様、ここまで話を聞いて、疑問に思った事はありませんでしたかしら?」

「多過ぎてどこから突っ込んでいいのか分からないレベルなんだけど」

「そう、明らかに多いですわよね、日本に居る転生者の数!」

 くそ、聞いてるようでこっちの言葉聞いてねぇ。

 でもまぁ、確かに言われてみれば異様に多いな。北海道に行ってるだけで十人? 私と文月と楠木提督を入れたら十三人にまでなってしまう。総数が百人を超えてるって言っても妖精さんや深海棲艦の人も居る訳だから、人口比で考えたら人間な転生者の占有率はかなり高いんじゃないだろうか。

「そういうわけで問題ですわ!」

 

第7問

どうして日本には転生者が多いのでしょう?

 

「おいちょッと待て」

 少女が問題文を発表した瞬間、観覧席のレ級が立ち上がった。見れば眉を顰め、不審気に少女を睨みつけている。

「てめェ、それはどう考えても問題しか起きねェ奴だろ……!」

「いいえ、問題ありませんわ。なんならこうしましょうか?」

 

 この出題と回答は、楠木 多聞丸の計画及び健康状態に有害な影響を与える事はない。

 

 少女の周囲を赤い文字が飛び回る。うわ、こいつ赤で宣言しやがった。つーかそのネタ伝わるのか? いや伝わってないわ、レ級訝し気な顔してるわ。見た目があんまりオタクっぽい感じじゃないもんなぁ。

「そ・れ・と・もぉ。力づくで止めてみます?」

 ネタが通じなかったと見て、少女はあどけない笑みをレ級に向けた。まあ……無理よね。ノリが軽いからこっちもそういう応対で許されてるけど、本来どうしようもない相手だもの。懐が深いというよりは、私達のレベルが低すぎて礼とか無礼とかそういう以前の問題なだけなのだろうけど。

 レ級は一度舌打ちすると睨みを利かせたまま腰を下ろした。無体を働かれたら勝ち目が無くてもぶん殴りに行きそうだなぁ。うーん。たぶん本当に大丈夫なんだと思うけどな……ガバりさえしなければ。

「はい、それじゃあシンキングタイムスタートですわー」

 ぽむぽむと手を叩いて少女が回答を促した。いやそう言われてもな……これ普通に元のゲームの舞台が日本だからじゃないの? むしろなんで海外にも居るのかの方が分からないというか……

 あ、いやでもそっか。少女が作ったゲームの内容に関わらせたいのなら全員日本にぶち込むよな。あれ、なんで海外にも転生者が居るんだ? 実験? 歴史とか滅茶苦茶にしてくれそうではあるけれど。

 ああ、いや、歴史はむしろ変わってないなそういえば。結局ニンジャだ妖怪だドラゴンだ精霊だが居る世界みたいだけど、大筋の歴史は――少なくとも表向きは――一緒なんだよね。たぶん、歴史は私達の知ってるそれと同じって設定でゲームを作ったんだろう。

 そうすると、転生者って現れたのは全員そこそこ最近……っていうか、それこそ楠木提督が一番の古株なんじゃないだろうか。チート能力、どこもかしこも死ぬほど強力なのが揃ってるみたいだから、隠匿した人が多いって言わない限りどこかしらで歴史が変わってそうだもん。昔から居たら影響不可避だろうと思われる。

 でもそれって日本に比較的多い理由になるか? 関係なさそう。でもレ級の反応見るに絶対なんかあるのは間違いないよなぁ。楠木提督が何か関係ある……?

 そういやさっきちょっと気になる事言ってたんだよな。なんだっけ、主人公と転生者を別にしてみた。だったっけ。なんか、この世界が最初の一例みたいな話ぶりだったんだけど、それにしちゃ……

 それと関連してなんだけど、沖縄の吹雪は記憶を奪われて転生させられて後で思い出したって言ってたけど、それは他の転生者への影響を防ぐためって話だった。でも吹雪は私と同い年で、幼少期なんて記憶あっても何ができる訳じゃないんだから影響を齎せる時期って根本的に少なくないだろうか。 あれ、いや待てよ。そもそも……

「ねえ、北海道の人達って今何歳くらいなの?」

 あら、と少女が意外そうな声を上げた。そのままちょっと目を細めると、残念ですがと口を開く。

「問題の内容と関係のある質問にはお答えしかねますわ」

「つまり関係あるんだ?」

「あらあらまあまあ」

 わたくしとしたことがやってしまいましたわーなどと、少女は棒読みで言ってのけた。絶対わざとだが……たぶん想像通りだなこれ。

「自分が普段されてる事を私にぶつけてくるだなんて成長しましたわねえ」

「え、私普段やられてるの?」

 マジかよ情報漏洩してんじゃん。全然気づいてなかった。いつやられたんだろ……いや今は関係無いから後にしとこう。

 ともかく、ヒントは貰えた……やっぱヒントくれる辺り間違えさせたいとは思ってなさそうだけど……置いといて、ほぼ間違いないだろう。たぶん北海道の転生者は、全員若い。

 だったら、たぶんこれで合ってる……と思う。でもこれ正しかったら、その、なんていうか……もうちょっと相性とか組み合わせとか考えてやれよって話になっちゃいそうなんだけど、大丈夫ですかね?

 

「はいでは、あいしーこーるどりーでぃんぐですわー。文月から参りましょうか」

 解凍編ってやかましいわ。少女がどんと答えを映す。お出しされたのは、『ゲームの舞台が日本だから』である。

「これ、吹雪が分かってそうだからって自分は無難なの書きましたわね?」

「うん。でも広義の意味で合ってたりしない?」

「うーん……微妙ですわねえ。今回は無しで」

 つまり不正解と。匙加減過ぎて怖い。

「はい、お次は猫吊るし、どん。えーと、『転生前が日本人だった人が多いから』ですか」

 これは確かに。実はここにいる転生者、全員元日本人なんだよね。ゴトランドさんや丹陽さんも含めてだから、もしかしたら転生者みーんな元日本人とかも有り得るのかもしれない。

「一番相性のいい艦の適性与えてるって言ってたよな。元々日本人が多いせいで日本艦の適性者が多かったんじゃないかと思ってな」

「成程、そっちから来ましたか……でも残念。実は、ぶち込む先を決めてから魂の方を選定したんですわよね」

 なんでも体の方が先にあって、その体が産まれる国に見合った魂を後から突っ込んでいったらしい。分かるかそんなもん。猫吊るしもがっくりである。

「というわけでー、合否は吹雪の肩に委ねられたわけですが、自信のほどはいかが?」

「そんなものはない」

「そこは嘘でも自信を見せるとこですわよ」

 え? その方が間違ってた時に美味しい? いや私芸人じゃないからそこはどうでもいいわ。

「えー。結構大事な所ですのに……ま、いいですわ。それじゃあ行ってみましょうか。注目の吹雪の回答は、こちらです。どん!」

 私の答えが画面に映る。出た文章は簡潔だ。

 

 『楠木多聞丸が居たから』

 

 以上である。

「さてでは……解説して頂けます?」

 少女は楽しそうな笑顔だった。猫吊るしは瞠目の後理解の色を浮かべ、文月は頭にクエスチョンマークを浮かべた。いやこれ、説明するだけで気が滅入るんだけど……

「この世界さ、一番最初、本当に最初の予定ではさ」

 ゴトランドさんが目を閉じて深く息をするのが視える。これ合ってるとしたら、かなり酷い話になるんだけれど。

「転生者は楠木提督一人だけだったんじゃない?」

 レ級の方からぎりりと歯を噛み締める音が聞こえる。ああ、うん。やっぱ合ってるのか……

「何があったのかは知らないけど、たぶん私達他の転生者は後からの追加メンバーだから、そのせいで楠木提督だけ年が離れてるんじゃないかな」

 これが正しいのであれば、楠木提督は何十億と人々が亡くなる世界に、その様がまざまざと脳裏に映る能力を持たされて、一人で立ち向かわされた事になる。うん。馬鹿だろ君。

「何故そう思いましたの?」

「転生者と主人公分けた初回でいきなり転生者何人も放り込まないでしょ、普通」

 しかもバグったりする場合がある割と繊細な世界みたいだし、余計。そういうのはまず一人だけで試して大丈夫か確認すると思ったんだよね。まあ、この子の場合検証とかいいですわーバグったらバグったで面白いですわーとか言い出しそうではあるけれども。

「あと、私の配置が都合良すぎると思う。主人公ボディに戦闘力チートの人間突っ込んだの偶然じゃないでしょ」

 たぶんだけど、私って、意図的に楠木提督の手の届く範囲に置かれた救済ユニットなんじゃないのかなぁ。あと猫吊るしもそうか。有能で真面目過ぎる。北海道の人達にしたって、食糧問題や燃料問題の解決策を持ってるっぽい。ああ、思い付いた。纏めるなら、きっとこういう事だろう。

「この世界、要は楠木提督を主人公にした作者本人による三次創作なんじゃないの?」

 少女の笑みが深くなる。それは実際にそうなっている訳ではないのに、まるで口元が裂けたように見えるほど深く、幼げな外見とは不釣り合いな、絵に描いたような嗤いだった。

 私の回答席が強く光り輝きだす。今までのよりもかなり豪華で、電飾はそれぞれ別の色まで放っている。

「正解」

 それに反して少女の声はかなり静かなものだった。

「そう。私は本来……彼女一人のためにこの世界を創造したのですわ」

 先ほどまでの表情とは打って変わって目を伏せるように軽く下を向き、まるで何かを告白するかのように…………彼女?

 

 

 

 

 

 彼女??????????

 

 

 




この世界のチート転生者は全員TS転生者です(集合無意識出身は全員無性扱い)


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真実、こっそり教えちゃいます!

 楠木 多聞丸がこの世に生を受けてしまった頃、世界は平和だった。無論、貧困や戦争に喘ぎ苦しむ人間は数多に存在していたのだが、それは全世界が滅亡するような規模の話ではない。彼の知る限り歴史は同じ道を辿っている様子だった。

 そもそも産まれたばかりの多聞丸には未来を読み解く能力などは発現していなかった。持たされた能力の恩恵は異様に視力が良くなり、壁の向こうが見えて、人の心根を透かせる程度の物だったのだ。

 制御は利かず、何か――霊魂やら妖異やらも時折見えてしまったものの、そのままでも様々に役立てられる能力ではある。実際、家人の体から病巣を探り出し医師の下へと通わせるなどは赤子の頃から行っていた。未成熟な体ゆえに迂遠な手段を取らされはしたが純粋に人助けであり、それだけで済んだのなら、気楽に有難いと感じていられたことだろう。

 それが本格的に暴走を始めたのは彼となった彼女が男児の体にも慣れ始めた頃だった。ある朝多聞丸が目を覚ますと、家の中であるにもかかわらず海の果てに浮かぶ大きな船の帆がゆらりゆらりと揺らめくさまが視界いっぱいに広がったのだ。その状態でも周囲がちゃんと見えているため生活が不可能とまではならなかったものの、ある程度効果を絞れるようになるまでは眠る事すら困難であった。

 多少なりとも範囲を限定できるようになると、次に襲い掛かって来たのは他人の心の声である。清濁入り混じる無秩序でまともな文章になっている事すら稀なそれらが、善意も悪意も無い情報の洪水となって無邪気に押し寄せてきたのだ。

 尤も、これに関しては実の所、利益の方が大きかった。多聞丸は人の心が視えたとして、それには反射で浮かんだだけのパターン化された無意味なものも多く含まれていると知っており、その人間の本音や顕在意識で思っている事とはまるで関係ない場合が大半であるとすぐに理解できたからだ。

 視え過ぎるが故に、逆にしっかりと情報を精査しなければ相手の真の心は分からなかったのである。ただし、必要のない時にも視え続けるため酷く邪魔ではあったのだが。

 それらに対処していた多聞丸はある時、雇われた家政婦が床に落ちた眼鏡を踏み壊して途方に暮れているのを目撃した。だが同時に、多聞丸の視界の中には棚の端に置かれ今にも落下しそうな、砕かれたものと全く同じ意匠の眼鏡も映り込んでいた。

 二つ? などと思う暇もなく、それは小さな音と共に床へと落ちた。向かいからは今目の前で呆然としていたはずの女性が荷物を手に廊下を渡ってくる。咄嗟に、多聞丸は眼鏡を拾い上げた。

 

 壮年の家政婦は多聞丸に軽い会釈をすると通り過ぎて行く。眼鏡は手の中で輝いている。

 地獄が始まった。

 

 

 

 それは一言で表すのならば死である。

 砲火に体を引き裂かれるのも、猛る炎に身を焼かれるのも、赤い海に魂ごと沈むのも、飢え渇き息絶えるのも、奪い合いの果ての空虚に心が先に亡くなるのも、全てを諦め身を投ずるのも、全ては一つの死である。

 そこに救いは無い。恐怖の果ての死、痛みの果ての死、終わりすら見えぬ混迷の先の死、苦しみの果ての死、無意味の果ての死、絶望の果ての死。死。死。死。死。死。死。

 それら数多の死を、刹那も止まることなく多聞丸の両の眼は観測した。

 最初は何が起きているのか分からなかったが、見続ければ死以外の情報も流れ込んでくる。周囲の情報と実際の状況、視えるものの意匠の未来性から、それが予知であると気付いた時。彼は考えない事を止めた。

 

 見定める。原因を。理由を。運命を。そこには深海棲艦という名の悪意があった。艦これかよォォォォォ!! などと驚愕しつつ、探る。探る。回避法を。討伐法を。生存法を。そしてそれを繰り返す。何日も。何週間も。何ヵ月も。死に往く人々を救う方法を。押し寄せる絶望を祓う方法を。沈む世界を食い止める方法を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなものはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多聞丸は庭へと飛び出した。膝を突き、地面に頭を擦り付ける。

 そのまま、多聞丸は身動きをしなくなった。

 

 家人がすわ何事かと駆けて来る。

 多聞丸は動かなかった。

 何があったと家政婦が詰問される。

 多聞丸は動かなかった。

 兎にも角にもとその体を起こそうと手が掛かる。

 多聞丸は動かなかった。

 力づくで起き上がらされる。

 多聞丸はすぐ元に戻った。

 激しい叱責が飛ぶ。

 多聞丸は動かなかった。

 優しく理由を問われる。

 多聞丸は動かなかった。

 やがて夜が来る。

 多聞丸は動かなかった。

 そして朝が来る。

 多聞丸は動かなかった。

 家族に囲まれる。

 多聞丸は動かなかった。

 誰もが心配している。

 多聞丸は動かなかった。

 とにかく食事や水だけでもと用意がなされる。

 多聞丸は動かなかった。

 そしてまた夜が来る。

 多聞丸は動かなかった。

 日が昇る。

 多聞丸は動かなかった。

 医者を呼ぶべきかとの声がする。

 多聞丸は動かなかった。

 本人の恥になるとの声がする。

 多聞丸は動かなかった。

 それでもこのままではと心底自分を想った声がする。

 多聞丸は動かなかった。

 日が沈み、また夜が明ける。

 多聞丸は動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これ見よがしのため息が、多聞丸の耳に飛び込んだ。

 多聞丸は頭を上げた。

 そこでは一人の少女が、明らかに気分を害した様子で、薄汚れた自分の事を見下ろしていた。

『がっかりですわ』

 転生前には見せなかった機嫌の悪そうな声。終始楽しそうだったその時とはまるで色の違う視線が向かって来る。しかし、多聞丸はそれに怯む事はしなかった。

『私はね、圧倒的な絶望、覆しがたい状況で、足掻いて、足掻いて、足掻いて、しかしどうしようもなくて――でも、それでも、と。輝き煌めく魂や精神が見たかったんですわよ』

 仰々しく芝居がかった動作で、異常なまでに長い髪を振り乱しながら少女はかぶりを振る。それは多聞丸の頬を軽く打った。

『だというのに……何をするのかと思えば、祈りを捧げる? それが無意味だと貴女は知っているでしょうに』

 少女はもう一度、大きく大きくため息を吐いた。

 多聞丸は飲まず、食わず、他者の視線も厭わず、少女()に祈りを捧げていた。仏も菩薩も無力と知っていたために、縋れるものはそれしかなかったのだ。

 沈黙。何か言いたい事があるなら言え。心は読めなかったが、言外からそれが伝わって来た。

「お願いします。どうか……どうか、世界に、世界に慈悲をください」

 掠れた声だが、しっかりと音になっていただけマシだっただろう。乾き切った喉は引き攣り、肺は委縮し、舌は麻痺していたのだから。

「無理です。無理なんです。人が死にます。何十億人も。死に続けます。視えるのです。それが視えるのです」

『だから、貴女が救うのでしょう?』

 少女は盛大に顔を顰めた。そんな事は少女は分かっているのだ。そんな世界だからこそ、多聞丸をここに転生させたのだから。

「三千万です。それ以上を救える道は。見つかりませんでした。死ぬのです。世界で。地球上で。それ以外の全ての人が」

 まあ、と少女が驚きの声を上げた。

『本来の三十倍も生き残るではありませんの。それだけ救えれば大英雄ですわよ。それに、動いている間にもっと良い道が見つかるかもしれませんわよ?』

「お願いします。慈悲を。私などにはいいのです。人々に。どうか。どうか。ご慈悲を」

 多聞丸は頭を下げ地面へ額を突いた。それしかできなかった。神頼みだ。他にどうしろというか。多聞丸は神の実在を知っている。自分の思い付く限りの道を模索した結果、彼女に慈悲を乞う以上に人が救える可能性を、どこにも見出せなかった。

『ふぅん……へぇ…………そうですの。適役だと思ったのですけれどね』

 少女が多聞丸に小さな指を伸ばす。何をする気なのかは分からなかったが、頭に触れられるその感触を、多聞丸は静かに受け入れた。

『じゃあ、見せてもらいましょうか。貴女が精一杯模索したっていう、その最善を』

 痛みなどは無い。本当に触れられているだけのようだった。だが間違いなく、何かを読み取られているのは理解できた。

 少女はそのまま瞳を閉じる。まるで時間が止まったように世界から動く物は無くなった。いや、ように、ではない。実際に二人以外の時間は停まっていた。

 無言。無声。無音。

 暫くそれが続き。そして少女の瞳が開かれた。

『成程。確かに……ええ。確認致しましたわ。細かい修正可能な点は有りますが、貴女の言っていた事は概ね正しい』

 全てを上手く回し切ったとして、現在の条件で楠木 多聞丸に転生した彼女の能力と知識や認識範囲で最善を尽くした場合、生き残らせる事が可能なのは、三千二百十九万二千六百八十一人である。

 少女の計算でも、多聞丸の導き出した答えとは一割も差異が生まれなかったのだ。

『たった数か月でよくぞここまで。と、本来なら褒めるべきなのでしょうけれどね』

 少女は三度目のため息を吐いた。もし、最後までやり切った結果がそれであれば、多少理想値を下回っていたとしても、大いに賞賛しただろう事は疑いようがない。それくらいに、多聞丸の思考錯誤からは努力の跡が垣間見られたのだ。

 多聞丸は口を開かなかった。全てを視られた以上何を言う意味もなく、最早沙汰を待つ以外できる事は無い。対する少女は悩まし気に眉を寄せると、ぷくぅと頬を膨らませた。

『私がこの世界を永遠に平和な状態にする事はありません。絶対にやりません。深海棲艦の現出はこの世界の人間の性質そのもの、それを変える事は即ち、現在の人類全ての再構築……殺してその構成情報から新しい存在を生みだす事でしかないですもの』

「はいッ……」

 それではスワンプマン未満の問題なのだ。この世界における集合無意識と悪意の凝縮は、魂の設計レベルで定まった知性体の絶対法則である。そこを弄られればもう、元の存在と同一であると言い切るのは不可能だろう。この時点に至っては、そういった改変無しで深海棲艦の現出を防ぐのは不可能である。まあやろうと思えばできなくはないけど手順が複雑すぎて人類全員分とかやりたくないし特に少女の得にもならないから普通に嫌な程度には。

 ただしそれは根治の方法であり、対症療法の話ではない。

『貴女は諦めた訳ではありませんのね。単純に手が足りない。戦力が足りない。救いたい地球人類の総数に対して与えられる影響が小さすぎて満足のいく結果が遺せない。だから、何かしら手段を寄越せと。そういう訳ですわね?』

「……はいッ……!!」

 勿論、少女が何も起きない世界にしてくれるのであればそれが一番ではある。だがそもそもそれが通るのであれば、人類の99%以上が死滅する予定の世界など最初から創りはしないだろう。多聞丸が少女に望んだのは、その状況でもどうにか一人でも多く、できるならば全ての人々を救えるだけの手段であった。

 失礼な話ではあるのかもしれない。多聞丸ははっきり言ってしまえば延々拷問が続くかのような状態に置かれているが、それでも根本的に、少女による転生は――少女の趣味嗜好を満たすためであるのも事実だが――善意の賜物である。そこへ足りないからもっと出資してくれと我儘を言っているに等しいと言えなくもないのだから、身勝手が過ぎると、視点によっては考えられなくもないかもしれない。

『んー。むぅー…………まあ、貴女が辿ろうとした道はだいたい今視ちゃいましたから、何かしらスパイスを放り込むのは有りっちゃ有りですけれどー』

 よっしゃあ。多聞丸は内心でガッツポーズを決めた。 

『更に障害追加するのも有りだと思いますのよ』

「勘弁してください」

 多聞丸は地面にさらに頭をめり込ませた。内心冷や汗ものである。この対話に億単位の人類の生死が関わるかもしれないのだから、迂闊な思考はするだけで他人の命取りになるのだ。それが強く意識された。

『ま、冗談ですわ。ここから深海棲艦VS大怪獣軍団とかやっても勝手に戦って結果だけ教えろって感じですし』

 勝った方が敵になるだけですしね。軽く息を吐くと、少女は険しい雰囲気の顔で腕を組んだ。真剣にプランを練っているようで、おそらく自分が楽しくなれる発想が出て来ないか連想ゲームしているだけだろうと多聞丸にはなんとなく察しが付いた。

『ふぅむ。貴女に直接力を与えるのは特に面白くない。そもそもその能力で力まであったら単に力押しで何とかなる場面が多過ぎますものね。だったら外付け……艦息、いや年齢が厳しいですわね……いやそういえばストックに……』

 あっ、と少女が何かを思い付くと、長すぎて地面に放り出されている髪が、風か何かで巻き上げられて辺り一面に広がった。それが吉兆か凶兆か多聞丸には分からなかったが、自分の頭を撫でて行くそれに、不思議と悪意は感じなかった。

『整いましたわ。さあ、視てごらんなさい。未来を!』

 少女は笑顔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壊された3D映像出力装置くんが存在しない地面に転がっている。観覧席から飛び出したレ級が勢い任せに蹴り飛ばした結果だけど、別に映像は止まったりせずに音声と共にずっと流れ続けていた。お前、ただの飾りだったのか……

 いやしかし、正解発表後すぐに再現VTRですと小さく斜め下に書かれた立体映像で楠木提督の過去話が流れ出したわけなんだが、これで私達が人類救済の手段としてこの世界に放り込まれたって事なのか。ええ、向こうでレ級に凄い勢いで殴られてるけどバリアみたいなので全然攻撃が通ってないあの少女がさっき言ってたけど、中身の魂はある程度選んでたみたいだから、それも加味すると……私達マジで神様に召喚された勇者かなんかみたいな立場かこれ……わー中身伴ってなさ過ぎるぞ私。

 いや選考基準分かんないから悪い事はあんまりしない奴ならおkな程度のゆるゆるな基準なのかもしれないけど。考えてみれば私の知る限りの転生者ってみんな人のために力使ってるもんなぁ。私も命令は聞いてるし、そこまで扱い辛いもんでもない……よな? たぶん。コミュ力残念系ではあるけども。

 なんて思いつつ体を捩るが、尻が椅子から離れない。いやね、レ級が飛び出した時流石に不味いかなと思って止めようとしたんだよ、私だって。そしたらなんでか回答席くんが私の臀部を放してくれなくなったんだよねぇ。まぁ、少女の仕業なのは明らかなんだけども。好きにやらせていいですわよーみたいな視線をちらりとこっちに送って来てたし。

 うーん。だが分からん。予知の話になってすぐレ級が暴れ出したから関係ある話なんだと思うんだけど、これ、特に正体を知られるとストレスになる理由にはなってないよな? 別に楠木提督が少女に頼んだから私達が追加されましたって言われても憎しみとか感じたりはぜんぜんしてない……っていうか、なんか映像でストックがどうとか言われてたし、私が死んでから転生まで百年以上経ってるって最初の最初に言われたから、たぶん私の魂って塩漬けにされて保存されてたんだと思うんだよね。むしろ恩人じゃないだろうか。下手したら永遠に倉庫に仕舞われて忘れ去られてた可能性もありそうなんだが。ここは関係ないのかなぁ。それとももしかして私の方がここから何かやらかしたorこれからやらかすわけ?

 いやそもそも再現VTRらしいから、実際のやり取りはこの映像とはかなり違っててストック云々は後付けで無意味なのかもしれないけどね。肌に合わなかったのか知らんけど動画の途中からシリアスな雰囲気霧散してってたし、この子重苦しい話苦手なんだろうか。

 連打を続けていたレ級は拳では威力が足りないと見て一度遠ざかり、えらい速度で戻って来て、そのままの勢いで跳び蹴りを見舞った。文月は動きがまったく見えていないようで目を白黒させている。動きだけなら私よりもずっと速いもんね。戦闘向けの能力持ってない人達には光の線か何かとしか認識できてないんじゃなかろうか。

 まあでも、そんな超高速で繰り出されたその脚も、拳と同じ位置で動きがぴたりと停められて、まるで少女には届いてないんだけども。ああ、あれたぶん真っ赤な変色海域と同じような現象起きてるな。私貫通できるかも……いやしないけどさ。

「映像を止めやがれ!! その先はッ……!!」

 突撃を繰り返しながらレ級は叫ぶ。映像では楠木提督が起き上がり、少女に一時的に制御できるようにしましたわーと説明されている。制御可能にするの自体は簡単なのか……公平性とかいいからやってさしあげてくんないかなぁ。

「お願い、止めて! 知らせるにしても、こんな直接的なのは!」

「あら、私はそうは思いませんわ」

 ゴトランドさんも声を上げるが、取り付く島もなさそうだった。流石にレ級の攻撃に混ざりはしなかったけど、戦えるのなら自分もやってたんじゃないかというくらいの必死さを感じる。え。マジでこの場面になんかある感じなの?

 浮かんだVTRの中で楠木提督が未来視に入る。その先にあるのは明るい……とは言い難いものの、かなりマシになった未来だ。未来視なので音声はないのだけれど、画面にも至る所で様々な活躍をしている転生者の姿が映り出す。

 

 あらゆる場所を緑で埋め尽くし明らかに土壌の栄養素以上の食料を作り出す農家。

 幾多の生命を混ぜ合わせ新たな種を根付かせる研究者。

 光を束ね地上へ降らしあらゆる生命の活力へと変える小学生。

 あらゆる食材非食材で舌を蕩かせる流しの板前。

 自宅に脚を生やして危険地帯を移動させる飼育員。

 不定の姿で他者を欺き弱きを助け強きを挫く大怪盗。

 領域内のセキュリティを完璧に構築し侵入者を無力化する無職。

 美しい声で囁いた相手を骨抜きにする文月。

 聖なる剣を振るい放たれる悪意ごと敵を切り裂く女騎士。

 魔力を放ち海上の邪悪を塵へと還す魔導士。

 ビルの屋上で上がるチャートを見ながら高笑いをするお嬢様と何処か茫洋とした表情の女性とその二人を見てため息を吐いている苦労人らしき狙撃手。

 燃え盛る翼で敵を打ち肉体を消し飛ばされても甦る白髪の少女。

 世界各地のあらゆる海で救助活動を行うゴトランドさん。

 戦場の真ん中で散歩でもするような表情なのに飛んでくる攻撃がまるで当たる気配のない丹陽さん。

 逆に飛んでくる攻撃全てが吸い込まれるように命中するも傷一つもない戦艦棲姫の二人。

 たくさんの体で何もかもを押しつぶして行くPT小鬼群。

 雲の中に潜って魚雷を投げてる潜水新棲姫。

 機械化された港で押し寄せる敵を殲滅する集積地棲姫。

 浮輪王国の女王としてお世話されてるベイさん。

 海の底で眠り続ける五島沖海底姫。

 のんびりと歌いながら破砕音波で周囲を圧壊させる軽巡棲鬼。

 泣きながら飛んでくる弾を敵の後頭部に瞬間移動させるほっぽちゃん。

 

 おお……おお……と若かりし頃の楠木提督が感嘆の声を漏らす。目からは涙が溢れ、口は半開きになっている。少女はその顔を見て少し笑ったが、それを気にもせずに楠木提督は予知を続けた。100人以上も転生者は居るんだから影響の確認だけでも時間かかるわな。流石に全員を映す気はないようで、暫く動きのない映像が続く。

 その間もレ級は少女に攻撃を続けている。なんかだんだん速くなってる気がするから、もしかしたら怒りとかで能力を上手に使えるようになって行ってるのかもしれない。もしかしてそのために私に止めさせなかったんだろうか。修行パートか何か?

 今までよりも更に距離を取り、助走を付け鋭さを増したレ級から見舞われる、過去最速の一撃。結界のようなもので防いでいた少女は口角を吊り上げるとそれを解き、向かって来たレ級の足先を普通に掌で受け止めた。うーんやっぱり届いても効かないのか。レ級は悔しそうな顔でその場から離脱を図り、次の瞬間、少女の生みだした投網のようなものに突っ込んで、顔以外をグルグル巻きにされて地面に転がる事に相成った。漫画みたいな状態なので狙ってやったものと思われる。器用だなあ。

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃありませんの」

「ア"ア"!? テメェ何言ッてやが……!?」

 少女の言葉にレ級は何かを察したようだった。私でもギリギリ視える程度な速度で映像の方へ顔を向けると、今にも叫び出しそうな顔になり、そして実際に、止めろォ!!!! と大声で叫び出す。私も映像の方へと注意を戻せば、そこにはレ級が映っていた。今と同じくらいの見た目の楠木提督と一緒に。

 やはり予知故か音声のない動画の中で、二人は何かを話している。訝し気な顔をしたレ級が艤装の尾の先に付いた顎で楠木提督を脅すが、それを気にせず提督はレ級に歩み寄り、何事かを口にした。艤装がくにゃりと力を無くし、地面にごろりと転がった。映像の中のレ級は何かを呟いた。

「オイ! 馬鹿野郎!? 止めろ!! 今すぐ止めろ馬鹿!!!」

 騒ぐ今のレ級。あ、人間の姿なのに艤装出した。出せるんだ。いや出せるようになったのかな? 網に絡まってて意味ないけど。

 そうこうしてる間に映像は進み、楠木提督はレ級に手が届く距離まで接近して、その頭へと手を伸ばした。被っているフードを脱がせると、その白い髪を優しい手つきで撫ぜ始める。レ級の口元がアップになり、唇が動いた。

「ええっ!?」

 観覧席で事の成り行きをわたわたしながら見守っていたベイさんが、それを見て目を丸くした。あーあれか、もしかして唇も読める感じなのか。意思疎通能力に関しては本当万能なんだなこの人。

 動画内では楠木提督がさらに距離を詰め、ついにはレ級を抱きしめるに至った。過去のレ級の目から涙が零れ落ちる。今のレ級は羞恥で死んだ。

「はい、といったところで次の問題でーす!」

 ぱんっと少女が手を叩くと、動画は一時停止した。レ級の泣き顔を映したまま。

 

第8問

多聞丸とレ級はどういう関係だったでしょう?

 

「まあなんていうか……ノリで出題しましたけど、これヒント足りてます?」

「糞みてェな問題作ッてんじャねーぞ糞が!!」

 レ級の尊厳がノリで破壊されて行く……いや、別に何か感情を揺り動かされて涙を流すのはおかしな事じゃないと思うのだけれど、流石に涙目ドアップにされたら物凄い羞恥心が湧き上がってくるのだろう。顔を真っ赤にしながら艤装も使って大暴れしている。網で存在しない床に転がされながらだからあんまり意味は無いけれども。

 少女はぷーくすと口で言いつつのたうつレ級を嘲笑っている。シリアスさんは出張に行ったようだ。ほんとひでぇ創造主だな君。文月とか急に問題が来たりレ級の暴れてる理由が微妙に変わったりで困惑しきりだよ。

 いやしかし、情報が足りてるかと言われると、微妙に足りないと思う。前世の知り合い、それも相当親しい仲だったんだろうって事は見て分かるんだけど……具体的な関係って言われるとちょっと困る。

 抱き合うような関係かぁ。二人とも日本人ならだいぶ近い距離感なのは間違いないけど……っていうか、この映像誰視点なんだろう。楠木提督の予知のはずなのに映像に楠木提督入っちゃってるし。まあ再現映像だからその辺り適当なのかもしれない。

 閑話休題。ええと、まず、楠木提督の前世は女性。これは少女が言ってたから確定だ。それで、たぶんレ級も同じく女性……でいいんだよね? 元男だったらそのギャルの延長線上みたいな格好の魂にはあんまりならないと思うし。無いとは言い切れないけどさ。

 でもそれが分かっても関係は確定できないんだよね。たぶん再会して感動して泣いたんだと思うから、ただのご近所さんとか上司と部下とかそういう軽いのじゃあないと思うんだ。レ級は色々楠木提督から知らされてるっぽいから、かなり信頼できる間柄……まあ、普通に考えたら家族とか、そういう感じかなぁ。

 指輪渡してるなら恋人……の線も無くはない……? たぶん同性だと思うけど別にないわけじゃないだろう。 でもそもそもあの指輪楠木提督の奴かな? 動画見た感じじゃそうだろうとしか思えないけど、他に渡せる人が居ないとも限らんわけだしなぁ。ああ、でもゴトランドさんも貰ってるし流石に前世からの恋人とか居たらそんな事しないんじゃ……いやそれぞれ違う人から貰ってる可能性もあるのか。ワケワカンナイヨー。

 家族だとしたら、どうなんだろう。親子か姉妹……お祖母ちゃんと孫? いやそこまで離れてるか? あ、あー思い出した。そういやレ級は大将さんに対してあの馬鹿とか言ってた気がする。そうなると目上とかじゃなさそう? やっぱり姉妹くらいの距離感な気が……いやでもレ級の方が年上だったら有り得なくもない? そうなるとヤンママ……いやそれもどうだろう。

 っていうか、回答は別に家族なら家族でいいんだよねこれ。姉妹でも親子でも家族は家族だもん。ほんとこの問題何の意味があるんだ……レ級への嫌がらせ? 延々攻撃されてたのちょっとイラッと来てたんだろうか。

 

「はいではサクッと答え合わせて行きましょうか」

「一回死ねマジで」

「え、一回で良いんですの?」

「消滅しろ!」

「無理ですわー、では全員の答えどーん」

 少女は一気に全部を開示した。本当に思い付きでやっただけで割とどうでも良かった奴だこれ。

「えー順に、『家族』『恋人』『親友』ですわね」

 ありそうなの大体揃った回答である。レ級は微妙な顔をしていた。

「吹雪……はまあ、安定取っただけですわよね」

「そうだよ」

 結局家族って書いたのが私だ。だって一番可能性高そうな気がしたんだもん。しょうがないじゃん。

「文月は?」

「家族は吹雪さんが書くかなぁって」

 文月にまで読まれてる……だと……? やだ、私単純。一切否定できないんだけど。

「猫吊るしは?」

「家族読み親友読みで恋人だな」

 ポケモンかな? 結果被らなかったからいいんだけども、二人とも私がストレートに書くと思ったのか……いやまあ、合ってるけど。当たってるけども。

「はいでは暦さん、お答えをどうぞ」

「言う訳ねェだろ!?」

 おいおい本名お漏らしされてんよ。いや知られてどうって事無いだろうし、大事な情報じゃないんだろうけどさ。勝手にばらすのはどうかと思うの。

「えー。じゃあ吹雪せいかーい、ですわ」

 私の回答席が控えめに光る。他二人もずらして答えただけだから実質正解みたいなもんだし、盛大に光られても困るから丁度いい。レ級は思いっきり体を捻って尾の先から大砲をぶっ放した。弾も撃てるのか……少女に到達する前に消滅してたけど。

 

「そういう訳で、レ級は多聞丸の前世での実妹なのですわ」

 少女はレ級の事をにやついた顔で眺めた。うん、そうね。色々必死だったのには得心が行ったわ。でもそういう人弄って喜ぶのは趣味が良くないって雪ちゃん思うなぁ。

「しかも結構なシスコン」

「あ? 適当な事ぬかしてんじャねェわカス」

「あのねレ級」

 普通の妹は亡くなった姉を偲んで使ってたゲームのアカウント引き継いだり致しませんのよ。などと、少女はとんでもねえ個人情報を暴露した。たぶん普通に規約違反である。やめようね!!

「っていうか、お姉ちゃんと再会したいなんて条件で私と契約しておいてシスコンじゃないとか無理しかありませんわよ!」

「何バラしてくれてんだテメェ!?」

 一連の遣り取りに文月が咽た。契約……っていうと私みたいに施された感のある転生とは違う感じだったのだろうか。そして文月も心当たりがあると。

「よく分からんがお前こんなのと契約したの?」

「あら酷い言い草」

 仮にも私達をお創り遊ばされた御方にあらせられるのだろうけど、何もかも酷いからそんな扱いになるのも仕方ないね。特に猫吊るしは変な選択させられた訳だしさ。

 

 契約とやらに関してよく知らない私たち向けに、少女はちゃんと説明をしてくれた。曰く、後払いの対価で願いを叶える代わりに返済が終わるまで自分の遊び相手を務めてもらう、という事であるとか。なお説明の最中耳まで真っ赤になったレ級がずっと砲弾を撃ち込んでいたりしたが全部ふしぎなちからでかきけされていた。

「まあ細かい定義は特にありませんし、契約内容は様々ですけれどね。ちなみに今居る面子だとレ級と文月が契約者ですわ」

 少女の側が一方的に転生させた私や猫吊るし、ほっぽちゃんやベイさん、丹陽さん。それと試練のクリアという先払いの形で願いを叶えて貰おうとしたゴトランドさんは契約者には入らないらしい。文月の転生三回ってそういう……人生二回分でも支払い終わんないのか。何叶えて貰ったんだろ。

「それと、この映像だと多聞丸も私に頼み込んでおりますけれど、あの子も契約者に含まれませんわ」

 なんでも思い付いてすぐ転生者追加しちゃって契約するの忘れてたかららしい。君そんなとこもガバるの?

「あと当然ですけど、私も叶えてもいいと思った内容でしか契約いたしませんから……例えばそうですわね、猫吊るしがその体を現世でも使いたい、とか言い出しても叶えてあげませんのでご了承くださいまし」

「ああ、それはなんかどうにでもなりそうな気がするから別にいいわ」

 ふふんと猫吊るしは春雨ボディで自信有り気に笑った。まあ猫吊るしの能力なら人型ロボットでも操作すれば生身とあんまり変わらなそうだしねえ。将来的にはたぶんそういうのも出来るはずだし、さっき見た映像を鑑みるに他転生者の力借りればその手の造れそうだし、危なそうな契約とやらに手を出したりする必要は無いだろう。

「それは重畳。では多聞丸の話の続きに――」

「待って!」

 動画の一時停止を解除しようとする少女を制したのはゴトランドさんだった。レ級も多少落ち着きを取り戻し、少女を睨みつけている。

「九問目が何かは予想が付くよ。でも、それは本当に今教えて大丈夫なの!?」

「逆に聞きたいのですけれどぉ」

 少女は顎に人差し指を当てると、心底疑問そうな表情で首を軽く傾げた。

「貴方から見て大丈夫じゃない可能性ってありますの?」

「結構あるよ!?」

 あるんだ。核心突かれて口ごもるパターンとかそういうのじゃないんだ。

「テメェからしたらマジで問題ねェんだろうが、テメェにとって大丈夫でもオレらにもそうとは限らねェだろ」

 羞恥心から引き戻されてむしろ冷静になってしまったのか、レ級の声は意外と落ち着いていた。もしや狙ってやった?

「えー、貴女だって吹雪と猫吊るしと直接言葉を交わして、どういう子達だか少しは分かって来たでしょう?」

「こいつらが問題起こさねェ事なんざ最初から分かッてんだよ」

「でも、だからって今教える意味も無いでしょ? 次の作戦が終わってからでも……」

 わぁ、信用されて……いや信用かこれ? 糞単純で頭足りてない能天気野郎って思われてるだけじゃね? まぁ事実だからしょうがないけど。

「ふむ。まあ確かに。別段今言っても後で言っても変わらない気はしますわね」

 少女はゴトランドさんの言葉に頷いて、顎に手を当て思案を始めた。ほっぽちゃんとベイさんはなんとなく話がまとまりそうな空気に顔を緩ませる。でもこの場合はたぶん……

「つまり止める理由にもなりませんわね! 再生スタート!」

 まあ、そうなるな。

 

 

 

 

 

 再びレ級の涙から始まった動画は、すぐに次のシーンへと移り変わった。

 

 素足で海上を走り回り拳で深海棲艦を叩き潰す変な少女。

 その少女の友人のために艤装をせっせと拵える小さな小さな少女。

 

 言うまでもなく、そこに映っていたのは私と猫吊るしである。

 なんでよりによって艤装無しで戦ってるとこなのか。ちょっと恥ずかしいわ。レ級の気持ちが少しだけ分かった。

 そして場面がまた変わる。今度は頭の上に猫吊るしを乗せた私が無表情にこっちの方を向いていた。私、調整とか無しでも猫吊るし乗せてるんだ……

 どうやら今度の映像は楠木提督の一人称視点なのか、身振り手振りの動きがたまに視界に入っている。猫吊るしの表情的に何か深刻な場面ではなく、軽い世間話か何かをしている様子だ。ちなみに私の顔からは何も読み取れなかった。うわこいつ近寄り辛ぇ。

 音声は無いが話は弾んでいる様子で、主に猫吊るしが色々言って、たまに私も口を挟んでいる。別になんて事のない会話シーンっぽい。実際、読唇できているであろうベイさんもおかしな反応は見せなかった。

 そしてある時、楠木提督の手が自分自身を指差した。それに驚いた猫吊るしと私――なんかびっくりしてるのは分かった――が、楠木提督に何かの言葉を返す。ベイさんがちょっと気まずそうにこっちを見た。え、何言ったの私達。

 なんてちょっと気になる事はあったものの、それとは関係なく次の瞬間に映像は元の楠木邸の庭、少女と向かい合う場面へと戻っていた。

 そして楠木 多聞丸は嘔吐した。

 

 

 

 

 

「はい、では張り切って参りましょー!」

 

第9問

吹雪と猫吊るしは多聞丸とどういう関係だったでしょう?

 

 ちょっと待て。

 え? マジで待って。

 ええ? 何言ったの私達。

 えええ? 関係? 関係あるの?

 ええええ? さっきの問題のレ級みたいに?

 えええええ? 私と? 猫吊るしと? 楠木提督が?

「ちょっと難しい問題ですので、誰か二人が一つずつ合ってれば同じ人が二つともでなくても正解という事に致しましょうか」

 身に覚えが無さ過ぎるんだが? 猫吊るしも訳が分からない様子で目を白黒させている。文月なんて意味不明すぎて回答席に額を付けて冷やし始めた。オーバーヒートしちゃってる。

 私も私で答えの見当がまったくつかない。何言ったら楠木提督が胃の中ひっくり返す事になるんだ? ベイさんは分かってるだろうけど……盗み見ればいつの間にやら彼女の口はバッテンマークしたテープのようなもので塞がれていた。封印されちゃったかぁ。

 しかし関係、関係ねぇ。楠木提督のお願いで私達は召喚された訳で、それで罪悪感を大きく感じてる? それはまあ、ありそうだけど……でも他の人達の時は喜びの方が大きそうだった。たぶん、助けられる人が激増しててそこまで思考が及ばなかったんじゃないだろうか。後々、つまり現在そこに悩んでたりはしそうだけど、援軍が判明したばかりのこの時にはあんまり関係無い気がする。

 なら、そういうのを無理矢理意識させられる事を言われたとか? それこそ恨み辛み…………言うかなぁ? 私と? 猫吊るしが? まあ冗談で言っちゃう可能性は否定しないけど、チート能力自体が変わってるって事無いだろうし、たぶん予知内雪ちゃんノリと勢いだけで戦って特に労せず功績上げてるだけだぞコイツ。今の私と同じで。

 なので別に、酷い事言われたとかそういう事じゃないと思うんだよね。そもそもそれじゃどういう関係かって話にならんし。あかん混乱してる。だっていみわかんないんだもん。

「ねえスーちゃん、これあたし答え出せる?」

 疑問を呈したのは文月だった。解答台に顎を乗せ、じっとりした目で基本ジト目な少女を見つめている。問われた側は数秒間だけ動きを止めた。

「…………勘で頑張ってくださいませ」

「無理なんじゃんっ!!」

 ノリと勢いで問題考えるから……でもそうよね。文月って私と猫吊るしと転生者としては殆ど話をしてない訳で、前世の事とか知らない事が多いはずだし。ネット上に流出してるのとかは除いて。その割には色々把握されてる事に情報化社会への恐怖を感じなくもない。

 しかし、裏を返せばこれ、私と猫吊るしはそれぞれちゃんと考えれば分かるって事だよね? じゃなきゃ流石に出題しないと思うし。ガバガバで到達不可能でしたとか言われない限り。

 んーでも私、本当に楠木提督と関係なんて思いつかないぞ? 楠木提督がこの短時間であの場面までの全部を把握したとかじゃなければ、映像時点の彼……彼女? ともかくこの人が私の細かい情報なんて知らないはずなんだけど……言われた事が余程ショッキングだったのか……?

 分からん。よし、私の事は分からんから猫吊るしの方を考えてみよう。私の方からしか分かんない事とかあるかもしれないし。

 猫吊るしは楠木提督が調整したこの世界だと艤装を持ち込んだ張本人になってるけど、予知の方だとどうだろう。別に最初の妖精さんじゃないらしいから、そこまで極端な立場じゃないんじゃないだろうか。なんか見切れてた島風の艤装整備してたし、下手したら私達個人で動いてそうだったんだよね。っていうか島風普通に居たなあの予知。

 でも今は、島風の事はいいんだ。重要な事じゃない。とにかく、問題文通りなら猫吊るしも楠木提督となにかしら関係があるはず……?

 いや、人間として産まれてくるから予知の時期までに何かあるかもしれない私と違って、猫吊るしってこの時点で現出してどれくらいだ? 私も島風も見た目今と同じくらいだったぞ。たぶん二年も経ってなくね? そんな相手になんか言われて吐くほどショック受けるって何よ。

 実際胃液が撒き散らされた以上、何かしらはあるはずなんだけど、それが存在するべき時期がそこに無い。答えなきゃならないのはどういう関係()()()か…………うん。そうだね。過去形だね。最初からそこに注目しろよって話だね。

 え、これ前世の話? 前世でどういう関係だったか答えろって問題なの?

 そういや一個前のレ級のもそうだったわ。流れで来てるのかこれ。そりゃ文月答えられないわ。そういう話した事ないもん。

 だとしたら、言われたのは前世の名前、とかかな。それならベイさんが気まずそうだった理由も分かるし。期せずして知ってしまったから申し訳なくなっちゃったんだろう。別に隠すものでもないから全く構わないんだけど。

 あ、いや猫吊るしは名前覚えてないから……言ったの私だけ? ああいや、そうか。別に名前である必要もないのか。何らかの前世の情報を口にして、それで誰だか特定できちゃえば同じ事か。

 私達が驚いてたのは……逆に楠木提督の前世の事を聞いたから、かなぁ。たぶん中の人が女性だと気付いてびっくりしたんだと思う。もしくは、それこそ知り合いだったか。

 んんー? でも、私楠木提督みたいな人に心当たりとか無いぞ? いや、まず前世だと女性だったらしいから今の楠木幕僚長のイメージを取り払って考えなきゃいけないんだけど、印象強いから難しいんだよなぁ。深海棲艦襲来から今に至るまでメディア露出もネットでのコラ画像も滅茶苦茶多いからねあの人。

 っていうか、それ以前の問題として、私が前世で関わった女の人ってあんま多くないんだよね。そりゃ最低限の人付き合いくらいはあったんだけど、プライベートにまで影響あった人って言われると男女問わず滅茶苦茶少ない。それこそ家族くらいじゃなかろうか。

 そしてその中に楠木提督みたいな人は居ない。そんなに楠木提督と話とかした訳じゃないけど、狭くて浅い付き合いしかしてない私でも、流石に前世の母とかだったら分かると思うの。記憶も摩耗してないしね。だからそこまで深い関係性じゃあない相手……のはず。

 それでだな、これが大問題なんだが。私、浅い関係の三次元の相手で、かつ姿形が何もかも変わってるとか言われるとだな。もうこれ一切見分けがつかないんだよね。

 え、どうすんのこれ。個人特定されただけで吐かれるとかたぶん相手的にはすごいトラウマレベルの記憶と化してるはずなんだけど、私一切心当たり無いんだけど。

 なんかやったかなぁ、前世で。割と人に迷惑かけないように生きてたつもりなんだけど、今世と違って美少女とかじゃなかったからなぁ。普通にしてるつもりで他人から見たら吐き気を催すほど気持ち悪い存在だったとか、別に有り得なくもないんだよね。だって関わらないから注意もして貰えないんだもの。言ってくれたら改善のしようもあるかもしれないけど、言われないからどうしようもない。我慢するくらいなら言ってくれても良かったのに。言うのも嫌なレベルだったとか?

 ああいや、でも私はともかく、猫吊るしがそんなんなるかな? 工廠の人とかとかなり仲良しだし、前世もそれなりのコミュ力あったと思われるんだよね。問題文にある以上楠木提督がああなったのは私だけが原因じゃないはずだし……ええ? 余計わかんなくなったぞなんだこれ。

 そもそも、猫吊るしの前世の事って大して知らないんだよね。私達はそういう話はあんまりしてないんだ。興味がないとかじゃなくて、そこはお互い趣味が共通してたって情報があれば十分だったから。今目の前に当人居るんだから一度死んだその前の事とか関係ないかなって。少なくとも私はそう思ってた。

 なので……逆に知ってる事から考えてみるのはどうだろう? えーと……元男。これはうーん、これだけだと関係なさそう。前世もオタク……私と合わせられるくらいにはオタク。合わせてくれてるだけ説もあるが。あと……うん。何やってたとか学歴とかそういうの全く知らないなぁ。私も言ってないんだけど。

 後なんか知ってる事? 完全に好意で人類のために働いてくれてる事とか? これは今の話だけども、前世もそういうノリだったんじゃないかとは思う。だってなんでも轢かれそうな子供を……

 

 

 

 

 

!?

 

 

 

 

 

 あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、それか。

 それだ。

 わかった。

 それならわかる。

 正体知ったら吐くぐらいのトラウマになってる可能性は十分ある。

 あれ? でもそれ私は関係ない……

 いや、違うか。いや違わないけど、私はあくまでその件には関係ないだけか。

 だったら私の場合は……覚えてない。覚えてないけど。確かに聞いた。

 私の消える事のない前世の記憶は正確には転生の直前、魔法使いを自称する少女にダイスを振らされた前後までが範囲に入っている。

 だから、何を言われたかはっきり覚えている。

 つまり……その、だから。この考えが正しいのなら、それをやっちゃったのが……って事だよね。

 そっか。一回じゃなかったから一生懸命な楠木提督が生まれちゃった感じなのか。

 え、でもこれマジ? そんな立場の奴明らかに重要な体に突っ込む?

 ……強迫観念かぁ。正直、これが合ってたとして、私はたぶん理解はできるけど、共感はできない。それが少女も同じだったとしたら……え、まさかと思うけど、これ好意? 好意でこんな事したの……?

 つーか、これまた書き方に困る奴なんですけど! 一個前の問題と対比にしようとして失敗してる奴なんですけど!!

 

 流石に溜息が漏れ出てくる。横を見れば、沈痛な面持ちの猫吊るしと目が合った。ああ、うん。猫吊るしも分かった感じか。お互い頭の痛い話である。レ級やゴトランドさんは私達が理解したと気が付いて、存在しない床を殴ったり存在しない天を仰いだりしていた。文月は不貞腐れてた。

 

 

 

「さて、全員が書き終わったようですので、答え合わせを致しましょうか」

 今までよりもだいぶ神妙に少女は切り出した。いいかげん、私も理解ったよ。私と猫吊るしにこれを教えるのがこのクイズみたいなネタバラしの主目的だったんだろうなって。

「それじゃあまず文月から」

 どん、とは言わずに、少女は文月の答えを表示した。『親戚関係』投げやりっぽいが、範囲広いし現世でも前世でも当てはまりそうな回答である。ちゃんと考えはしたようだ。

「まあ……先祖を遡れば皆親戚ではありますわよね」

「でしょぉ?」

 でもだめですわーと文月は不正解を突き付けられた。まあこれは仕方ない。当たる訳ないもん。それこそそういう能力じゃなきゃ無理だわ。

「それじゃあ本命のお二人……」

 あら、と私達の回答を読んだ少女は意外そうな声を上げた。しげしげとそれを眺めると、満足気に頷いてからではこうしましょうと告げる。

「猫吊るしの回答は吹雪のを、吹雪の回答は猫吊るしのをお見せいたしますわ」

 ぶおんと音を立てて、モニタの画面が遷り変わる。二分割されたそこには二つの文章が掲示されていた。

 

 

 

『事故から庇った猫吊るしと庇われた人』

 

 

 

『患者の吹雪と担当した医療従事者』

 

 

 

 うん。猫吊るしのもどう書いたもんか悩んだろうなって感じの出てる文章である。

 いやそこはどうでも良くて。つまりそういう事なんだよね。

「解説、要ります?」

 要らんわ。

 つまり、私も猫吊るしも、前世の死因に楠木提督が関わってるって事でしょ?

 って思ったら、文月が全然分かってなさそうな顔してたので結局解説タイムは設けられることになったのだった。

 

「前世のある時、持病の診療へと赴いた吹雪は検査のために薬を投与されたのです」

 そう、前世の私の死因は、医療ミスである。転生のあの時、わざわざ最初に死因教えてくれたのはつまり。

「その時にその薬を投与した人物。それが前世の多聞丸なのですわ」

 そういうことですよねー。レ級が滅茶苦茶睨んでるけど少女は意に介してない……という事もなくたまにちらちらそちらを覗いている。

「あれはお姉ちゃんの責任じゃねェぞ……!」

「ええ勿論。法的にも彼女は一切罪に問われませんでしたわ。状況的に、言ってしまえば死刑台のスイッチを知らずに入れただけというのが近いですもの」

 一番問題だったのは、病院側の管理体制であるらしい。ぶっちゃけ、楠木提督がどう確認したところで中身の安全性とか分からない状況だったとかなんとか。

 一から十まで整えられた私の死への階段の方が普段通ってる扉の先に突然出現した、と少女は表現した。SCPか何か?

「そして猫吊るし。貴方の方もどうしようもないですわ」

 猫吊るしの死因は、轢かれそうになった子供を庇った女性をさらに庇って轢かれた。というなんとなくテンプレ転生者みのある事故である。

 でもってこれも、女性――前世の楠木提督には何の落ち度もない。何せ不注意だったのは子供と運転手であって、その人ではなかったらしいのだから。

「あえて言うなら、その時の猫吊るしは位置的に子供が見えていなかったので、あの子が庇わなければ猫吊るしは死ななかったでしょうけれど……」

 それで責任問うってのはまあ違うだろう。ところで、そこに実妹転がってるんですけど、その辺りのデリケートな話して大丈夫? 血が出そうなほど拳握りしめてるけど。

「こうして、二人ほど殺した、と勘違いしたあの子は滅茶苦茶自分を責めた訳ですわね」

 殺した、の所でレ級が一瞬キレた目をしたが、勘違いと言われてすぐ鎮静化された。少女的にも楠木提督に責任とか無いと考えてるらしい。そういやそんな話したってさっき言ってたな。あれ私達の事かよ。

 さて、私の件で思い悩んでいたところに猫吊るしの件が合わさって、楠木提督の中の人は大いに悩み苦しんだ。それこそ食事が喉を通らないくらいだった程らしく、レ級は見てられないくらいだったと溢していた。

 そうしているうちにある日大きな災害が起こり、楠木提督はその生涯を終え少女に回収されたのだという。ちなみに文月と命日が一緒なんだとか。同じ災害で亡くなったのかな?

「つまるところ、多聞丸がストレスで死ぬ、というのは罪悪感に耐えられないからという事なのですわ」

「主に君のせいだよね?」

 なんでその状況の人相手に渦中の二人を重要位置で転生させました!! とかやらかすかなぁ……私が弱かったら使わないって選択肢もあったろうけど、強すぎるんだよ私。使わない選択肢取れる? 取れないよなあ?

 私達を使うと前世で自分が殺したと思い込んでる人間に凄い負担を背負わせるように感じちゃう。使わなければ大量に人が死ぬ。なにその糞みたいな二択。いや私も猫吊るしも嫌がらない以上択にもなってないだろこれ。ほぼ強制だよ。レ級ってば、苛烈かと思ってたけどむしろ穏当な対応してるわこれ。

「糞……なんでバラしやがッた、意味ねェだろ!?」

「あら心外。意味なら有りますわよ」

 でもその前に。と少女は笑う。なにわろとんねん。

 

第10問

これを知った貴方達は、多聞丸の能力改変を望みますか?

 

 クイズ形式ですらなくなった件について。

 アンケートじゃん。ただのアンケートじゃん。

 結果? 言う必要ある?

 

 

 

 

 

「はっきり言いますけれど、別に貴方達が知った所で多聞丸死にませんわよ」

「ええ……」

 そうなの? いやでも苦しみが増すのには変わりないのでは?

「一時的に夜も寝られない程に悩まされる事だけは間違いないですけれどね。なので、攻略戦の最中に教えるのはデメリットしかなかったのは事実です」

 ただ、もう今更関係ねぇよというのが少女の主張だった。成程、結局数日後に迫った戦いまでが問題だったって事なんだろう。え、本当に何があるのその日。

「だったら終わってからでも良かったでしょう? 話す予定だったんだよ、元々」

「話しませんわよ」

 えっ、とゴトランドさんが声を漏らした。丹陽さんは笑っているが、なんとなく、やっぱりなって雰囲気を感じる。どこまで知ってたんだ丹陽さん。

「だってあの子、当事者から許されて苦しむ事から逃げてるだけですもの。なんやかんや理由付けて、死んで逃げ切ると思いますわよ」

 楠木提督の苦しみの根源は、結局私の時も猫吊るしの時も、周囲も法律も被害者の家族でさえも自分を責めてはくれなかった事なのだという。だというのに、今世に至っては私と猫吊るしは間違いなくあっさりと許してしまう事まで予見された。だから、そこから延々逃げてるんだそうな。

「忘れないでくださいませ。あの子は素質こそ持っておりましたけれど、一般人ですのよ、元々」

「テメェが言うなボケ」

 それはほんとそう。その出自でここまでやらされてるの凄い酷いし、その人にやらせてるの君だからね? なんていうか、一応フォロー入れてるんだろうけど何もかも不味すぎてフォローになってないというか。マジ糞過ぎない君?

 大体、言わないだろうってのも自分が辛いからってだけじゃないでしょ。私達が知らない方が心穏やかに過ごせるからってそういう理由絶対入ってるでしょ。話に聞いた感じそういうタイプにしか聞こえないもん。

「言いたくないなら別に言わないでいいんじゃないの?」

「謝罪とか責任とか誰も求めてないしね」

 文月の疑問に私も同意する。これわざわざ苦しめる意味ある? そりゃどこかで決着付けておいた方がいい話ではあるのだろうけど、楠木提督が私や猫吊るしが超許すって事を予知しちゃってるのなら、実際にその事について話し合わなくても同じようなもんって気はする。私達が知らずに笑顔で接してくるのも不味かったりするの? いやたぶん私はあんまり表情無いけども。

 それとも、それだと自分が駄目駄目だと抱え込んじゃうとかだろうか。なら確かに困りものなんだけど……っていうかどう足掻いても苦しむじゃねーかこれ。詰んでない?

 少女は渋い顔になった。どうもそれは彼女的にはよろしくないらしい。これは予測なのですが、と前置きをして自分の考えを口にした。

「多聞丸の予知には、自分自身の心を知られたパターンが組み込まれていないのですわ」

 それは……まあ、そうなのかもしれない。楠木提督と能力被ってなければ知りようがない訳だし。予知って可能性が無きゃできないだろうしね。でも少女がそこまで言うほど言いたくないのだろうか。言いたくないんだろうなあ。

「つまり、あの子、自分がまったく言う気が無いせいで、言った先の未来がどうなるか予知できてないんですわよ! ちゃんと吹雪と猫吊るしと向き合った場合どうなるか分かってないんですのよ、あんな能力持ってるくせに!」

 そんな能力渡したのお前やろがい。なんかぷんぷんしてる風だけど概ね原因君だよ?

 いやでも、そうなるともしかしてこれ、好意で私達にばらしたのか。たぶんだけど。

「君視点、その方が将来的に楠木提督は楽になりそう?」

「そういう事ですわ。短期的に見れば数倍の負荷が心に掛かるかもしれませんけれど」

「それストレスで死なない?」

「結局死んじゃいそうですね!」

「どうやっても寿命縮みそう……」

 正直観覧席の三人が言う通りな気もするのだけれど。まあ、でもたぶん……今回のこの一件。少女の好意からの助言ではあったっぽい。行いが酷すぎてそういう問題じゃない気しかしないのだけれども、一応は。

「でも絶対必要なんですわよ、私多聞丸を今回で解放するつもりございませんし。契約者ではないのであんまり無体はしませんけれどー? 掛けた手間分くらいは楽しませていただきませんとねー」

 これ以上無体なプランとかあるんだ……いやまあ、確かに何も考えないで傍から見た場合、前世でやらかした相手に謝れるようにしてあるように見えなくもないけどさ。配置がいやらし過ぎてわざと苦しめるためにやったようにしか見えないんだわ。やり方悪すぎない?

「成程。今世でちゃんと決着しとかないと来世以降も引き摺る羽目になるのか。なんでわざわざ露悪的な事付け足してんのかは知らんが、普通に楠木提督のためだったんじゃねーか」

 猫吊るしの呆れたようなぼやきに反応したのはレ級である。何かに気付いたようにはっとして飛び起きると、絡まる網を引きちぎりながら尻尾の大砲を怒り任せに撃ち上げた。

「そういう話なのかよッ! ッつーとなんだ!? あの馬鹿、解決せずに背負い続ける気だッたのか!?」

「っぽいんですわよねぇ。無駄ですのに。そんな事してもまた吹雪と猫吊るし同じ世界に放り込むだけですし」

 え、なんか勝手に来世の有無決められるところだったんですけど。怖。

 っていうか、楠木提督はたぶん今世で終わるつもりで抱え込む気だったんだろうから、来世の事は計算に入れてないと思うの。流石に知ってたら話すのでは……いや、なんか聞いてる感じ滅茶苦茶自罰的だからそれでも話さない可能性高そうだなあ。

「まあ、そんな訳ですから、適切な距離感で仲良くしてあげてくださいな。その内馴れると思いますから」

 なんか高度な事を要求された。え、私だよ? そんな事できると思う? だって……私だよ? 大丈夫? 誤って楠木提督死んじゃわない? 平気?

 

 

 

 

 

「ああ、そうだレ級。貴女に言っておかないといけない事がありまして」

 結局楠木提督の取り扱いに対して注意しておくついでに裏設定語りたかっただけらしい少女が、じゃあはいどうぞと現世帰還用のゲートを無造作に作り出し、またお茶もらったりして休憩して、それじゃあもう色々疲れたし帰るか……ってなった頃に、何故だかレ級が呼び止められた。不審気に睨んでくるレ級に、少女は僅かに微笑んだ。

「貴女の契約内容は既に履行されているわけですが、実は、契約前から多聞丸に再会させると決まっていた事について物言いがつきまして……」

「誰からつくんだよンなもん……」

「視聴者から」

 やっぱこの子、私達の事動画かなんかにして誰かに見せてるよな? 適性値一覧に需要あったとか言ってたもんな? うわ恥ずかし……ん? いや、もしかして迫真オールマイトとか不特定多数に見られて……? え? あれ私達のネットだけじゃなくて上位世界のネットかなんかにも映像ばら撒かれてたりとかするの……? え? 馬鹿なの? 私を羞恥で殺したいの? もう帰っていい? あ、いいのか。帰ろ。そして寝よう。寝て忘れよう。いや今寝てるんだったわ。忘れてた。

「それで、契約を無かった事にする気はないんですけれど」

「無いんだ!?」

「ほぼ詐欺だ……」

「最後まで酷いですね!」

「代わりに別のお願い叶えてあげようと思ったんですのよ!!」

 何その絶対返金にだけは応じないソシャゲみたいな。まあ、レ級が損する案件ではないんだろうけども。肝心のレ級はと言えばもう呆れ返ったというか疲れ切った感じの目で溜息を吐いていた。感情が上下に動きまくってたもんね。そうもなろう。

「それこそ多聞丸ちゃんの能力制御可能にでもしといてくれッて話だろ……」

「おっけーですわー」

 は?

 私はつい声に出した。私だけじゃなくてその場の転生者全員が揃って声を出していた。

「……アア? いい……のか?」

 レ級はどうせ拒否されるだろうと思っていたらしい。私もそう思ったわ。だって今日のあれこれ意味無くなっちゃうもん。

「ちょっと元のお願いより面倒ですけれどねー。そこはまあ、サービスで」

「ええ……? じゃあお前、今日のクイズとか、ありゃなんだッたんだよ!?」

 茶番ですわ!! 少女は笑顔でサムズアップした。

 レ級の尻尾に噛みつかれた。

 

「ああ、そうだ吹雪。貴方に謝っておかないといけない事がありまして」

 少女はレ級に齧られながら私に声をかけてきた。それは防がないのか……

「私、何かされたっけ?」

「いえ、貴方というか島風の事なのですけれど……」

 え? 島風? なんで? いやそういやここに来た事あるのか。え、その時何かやった? いや何かはやってたみたいだけど、謝られるような事?

「私、島風に貴方達にも振舞ったケーキをお出ししたんですのよ」

「ああ、うん。美味しかったって言ってた」

 そういやあったなそんな話。実際なんか怪しかったけど美味しかったけれど……問題でもあるのあれ?

「実はあれ、ほんの少量ですけれど私の使っている力が含まれておりますの。本来ご褒美にあげたりする転生者や契約者向けの性能拡張用の物なんですけれど……あの子、完璧に消化しちゃったんですわよね」

 おい何食わせてんだ。いやこの子が何らかの力で製造した以上それが含まれてるのはおかしくないんだけど、性能拡張用ってなんだよ。何を拡張するんだよ。魔力か。魔力なのか。そういやあの後だな、島風が使えるようになったの。

「もしかして島風が加速できるようになったのって……」

「アレの影響の一端ですわね」

 おい。道理で普通より遥かに多いとか言われるわけだよ……っていうか一端?

「それだけじゃないの?」

「はい。まずですね、私の使ってる『力』と貴方達が魔力と呼んでるチート能力の稼働に使ってるそれ、違う力だというのは分かります?」

 ええっ!? っと物凄く麗しい声で叫んだのは文月である。レ級の尻尾にがじがじされてる少女に詰め寄ると、肩を掴んで詰問を始めた。

「それって、まさかだけど、チート能力いくら使っても返済に繋がらないって事じゃないよね!?」

「あ、バレました?」

「はああああああああああああああああああああああああ!?」

 超可愛らしい絶叫が辺りに響き渡る。詐欺みたいどころか完全に詐欺な事やってるぞこの子。

 文月がもぉー! もぉー! と嘆きながら少女の額にでこぴんを連打する。きゃーきゃー言いながら少女もそれを受け入れている。どうやら暴力じゃなくて制裁やツッコミなら防御しないスタイルであるらしい。

「えー、それで、島風の話は?」

「おっと、失礼いたしましたわ。大事なのはそっちですわよね」

「あたしの事ももうちょっと大事にしてよぉ!!」

 文月の指は加速した。それを気にせず少女は私への話を続ける。むしろ手放したくないから話さなかったのでは? 私は訝しんだ。

「島風ってば、私の使ってる『力』、そのまま体に宿しちゃってますのよ。ですから、申し訳ないのですけれど、あの子も亡くなったら教官長と同じく回収させてもらいますわね!!」

 私は無動作で少女の目の前まで移動すると、中指を親指で押さえて、全身全霊を籠める。そしてそこに溜まった力を丸ごと、少女の額へと叩き付けた。

 

 

 




正直長すぎるだろと思っているので凄い反省してます。
ただでさえ遅筆な人間がやるもんじゃないですね。
凄く楽しかったですが。

ちなみにですが、最初の方の多聞丸との問答で少女は本当はもっと優しい言葉をかけてました。
悪役ムーブしようとして途中で力尽きたのが再現映像になります。
まあ内容は変わらないから酷すぎるって事に何の変りもないんですけどね!!


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ぐれーどあっぷ

 おはようございます。

 目覚めたらレ級やゴトランドさんから何故か謝罪されたりそのレ級の顔に『しれもの』とか落書きされてて笑いそうになったりしつつ転生者の皆と別れて、寮の屋根の上で猫吊るしと一緒に伸びをした。体は特に固まってないけど、毛布に包まってたとはいえ地面に寝っ転がったから気分的にね。

 遠くからはまだまだ工廠の稼働する音や車の出入りする振動が聞こえてくる。鎮守府は当たり前のように24時間営業だ。なんかこう……ちょっと寝入って夢世界とか行ったりクイズしたりして来ただけのはずなのに滅茶苦茶久しぶりな気がする。なんでだろう。

 時間的には寝入ってから何時間も経っていないようで、これから部屋に帰っても少しは休めるだろうと思われる。叩き起こされて怒りまかせにレ級の顔に落書きしてたみたいだから条件変わっちゃってるかもしれないけど、猫土下座の言ってたそのままなら私はまた明晰夢を見れるはずなので、ちょっと楽しみ。なんだけど、その前にやらなきゃいけない事があるんだよね。

 

 部屋へ戻ろうと地上へと降り立ち、廊下の窓からこっそり寮へと入り込み、下駄箱に靴を置いてから踵を返す。できるだけ見つからないようひそやかに動こうとしていたのだけど、丁度その時玄関口がゆっくり開いて、去年までは見慣れていた顔が何かを小脇に抱えながら入ってきた。逃げ場はまあ、無くはなかったけれど、寮内なら見つかってもさほど問題ではない。なので私は堂々としている事にした。

 目が合う。その人はパンツルックにコートの私服姿で、黄色いヘアバンドで茶色い髪を押さえている。常夜灯下で薄暗いが私の事は認識できたらしく、次の瞬間にはぱあっと花が咲くような笑顔になっていた。

「ユッキー!」

 駆け寄り、跳び付いてくる、金剛さん。塞がっていない方の手を私の背中に回すと、あったかいネーと私の首筋に顔を埋めた。いや私さっきまで外に居たからあんまあったかくないと思う。あとそういうのは提督にやってさし上げろ。

「お出迎えありがとデース!!」

「いえたまたまです」

 マジで偶然なんだよなあ。たぶん先に大淀司令官に挨拶に行ったりしてると思うから、私が寝てる間に到着してたんだろうと思われる。なので本当に気づいてなかった。つーか思ってたより来るの早いですね。連絡あったのが昨日……もう日付変わってるから一昨日か、とにかく昨夜だったから通達されて翌日にすぐ出発した感じかな。私達もやったけど本州縦断はかなり時間が掛かるからなあ。

「ああ……お姉ちゃんの幻覚が見える……」

 ぬっと金剛さんの腋の下から抜け出して、背中側から金剛さんの持ってた荷物――初雪が覆い被さって来た。なんで抱えられてたのかは知らないが、こっちも私服である。黒髪なのも相まって金剛さんに比べると落ち着きがある……っていうか地味な色合いだが、そこは腐っても二十代か、ちゃんと自身に似合ったコーデになっていた。って思ったんだけど後から聞いたら選んだの金剛さんや同艦隊の如月だったらしい。お前……

「触れる……これはもしや幻覚ではない……?」

「こんなところまで来といて幻覚もないでしょ」

 私の顔を後ろからぺたぺたしていた初雪はハッとした表情になった後、続く私の言葉でなんでか細かく震えだした。金剛さんもAhー……と苦笑い気味だ。あ、猫吊るしがいつの間にか初雪の頭上に避難してる。私の上だと潰されかねんと判断したか。

「ダッテココハワタシノヘヤノハズオネエチャンガイルノハリロンテキニオカシイ」

 そっちが幻覚だよ。何? お前そんなに来たくなかったの? 精神に変調をきたすレベルで? 大丈夫? 面通ししてきたんだよね?

「挨拶とかちゃんとできてました……?」

「そこそこですネー。外面は結構ちゃんとしてマース!」

 そういや初対面の時はまともに挨拶してくれてたっけ。いやでも中学生にそこそこって言われるレベルは普通に不味いような気もするが、まあ問題にはならないだろう。たぶん。

 

 玄関で駄弁るのもどうかと思い、番号を聞いて二人の部屋まで案内する事にしたんだが、初雪はそこまでの長くもない距離を嫌がって私におんぶをせがんで来た。流石に面倒だったのでさっきまでの金剛さんと同じく小脇に抱える事にしたら、それはそれでと全身の力をくたぁと抜いて完全に体重を預けて来やがる始末。甘える方面のレベルが上がっているのは気のせいか。この体勢で痛くないように運ぶの結構大変なんだぞ。

 面倒見がいいネーなんて金剛さんは笑ってそう言いますけれど、貴女も全く同じ事やっていましたよね? 改二になって筋力も上がってさほど大変じゃなかった? そういや言ってましたね。おめでとうございます。

 いやおめでとうでいいのかなこれ。金剛さんは見事自力で不老に到達しちゃった訳で、その辺りのデリケートな部分に触れていいのかちょっと悩む。金剛さんもその辺りは同じなのかなんなのか、少しの間お互い無言になってしまった。

 そんな空気を察してるのか察してないのか分からんが、初雪はそんなの関係ねえとばかりに喉から涙声を捻り出した。

「今日の朝からもう出撃なんだって……助けてお姉ちゃん……」

 無理じゃないかな。決戦当日まであと四日な訳で、慣らしとか連携の確認とか入れたら足りないくらいだろうし、そりゃあ毎日出撃よ。前日はちょっと休ませてもらえるかもしれないけど、それまではねえ。

「さっさと休んで体力温存しときなよ」

「眠気無いの……すごい寝たから……」

 車でも電車でもずっと寝てたからネーと金剛さんは苦笑いだった。大激戦区送りが決まって現実逃避を決め込んだ者の末路である。いや普通に嫌ってのは理解できるけども。

「だから構って」

「私これからやる事あるからまあ……それ終わってからなら」

 まだ夜中だから、静かにならいいよ。なんて返したら、初雪はわあいと喜びの声を上げて笑顔を見せた。うーんこの。でも近くの住民が動き出す音がしてきちゃったから静かにしようね。そこまで五月蝿くはなかったし、起きてただけっぽいけれど……あそこは教官長や川内さんの部屋か。

「じゃあ荷解きして待ってますネー!」

「じゃあ私はひと眠りしてる……」

 おい秒で矛盾したぞ。猫吊るしも頭上でずっこけている。その初雪の声が聞こえたのかそうでないのか、隣室の住民が素早くこちらに向かってくる音が聞こえた。

「話は聞かせてもらったよ! 暇なんだね!!」

 ずばん! と自室の扉を開き、何故か制服で参上したのは川内さんである。着替えてる暇は無かっただろうからずっとその格好だったのだろう。常在戦場的な? うーんこのニンジャ。

「金剛も初雪も久しぶり! だから夜戦行っとこうか!!」

「理論の飛躍ですらない事言われた……!」

 今は夜戦部隊が出てないせいか、川内さんはずっと欲求不満気味だった。でも現在滅茶苦茶敵のやって来るこの海域で、毎日疲れて眠る艦隊の皆を叩き起こすような真似をしないだけの良識は、流石に持ち合わせていたのである。けれども。

「あ、心配しなくても演習なら工廠に言っとけば大丈夫だから! 事後承諾でも行ける!」

「そこの心配はしてな……あっあっ」

 明らかに疲れてない様子の会話を耳に入れた結果、川内さんの欲求は大爆発してしまったらしい。私の腰元に収まっていた初雪を淀みない手つきでぬるりと抜き取ると、ソイヤと俵担ぎにして、金剛さんの手も取って歩き出す。吹雪も来る!? とか言うけど私は用事があるのでちょっと。あと夜戦演習なのに戦艦の金剛さんも連れてくのか……金剛さんもちょっと困惑気味ですよ?

「待ちなさい川内!」

 そんな川内さんを止めに慌てた様子で出てきたのは、同じ部屋に割り当てられている暁教官長だった。むっと呻って足を緩める川内さん。初雪は救世主を見る目で教官長へ熱視線を送った。

「闇雲にやるのは時間の浪費よ! ちゃんと向こうの司令官から貰ったデータあるから、それに沿ってやるべきだわ!」

 教官長? もしかして寝不足で変なテンションになったりしてません? 初雪は瞳を曇らせた。

「あ。勿論金剛の分もあるわよ、二人ともちゃんと実態も見て修正してくから心配しなくていいわよ!」

「そこの心配はしてない……」

 がっくりと項垂れる初雪に気付いているのかいないのか、じゃあ制服に着替えて玄関に集合ね! と川内さんは笑顔で教官長に返事した。流石に私服のままでは非効率だと気付いたらしい。持ってた初雪を立たせると準備しとくねーと窓から工廠へ向かって飛び出して行ってしまった。

「お姉ちゃん……助けて……」

 涙目になった初雪がぐにゃりと床へ崩れ落ちる。そのまま私の方へとか細い声で手を伸ばしてくるが……うーん。

「教官長、寝なくて大丈夫なんですか?」

「ああ、私あんまり多く寝なくても大丈夫な体質なのよ。もう十分寝たわ。疲労は食事が何とかしてくれてるし、問題無し!」

 そっかー。

「じゃあ大丈夫ですね」

「お姉ちゃん諦めないで!?」

 いやでも、たぶん生存率上げてくれるしなあ。川内さんだけだとちょっと不安だけど、教官長が居るなら大丈夫だろう。初雪が適性値と才覚頼りで訓練がおろそかになってるってのは聞いてるから、丁度いいんじゃない?

「教官長……」

 スッと前に出て立ちはだかったのは金剛さんである。何故だか好戦的で楽しそうな笑みを浮かべ、挑戦的な眼差しを教官長へと向けている。

「一度教官長とは勝負したかったデース! 二番目に強い艦娘の称号が私に相応しいのかどうか、確かめさせてもらうネー……!」

 相手、駆逐艦なんスけどいいんスかそれで。っていうか夜闇の中だと金剛さん一方的に不利……あ、いやまさか金剛さんの改二って丙かそれに準ずる感じ? あれ確か夜戦得意だったような。

 挑戦状を叩きつけられた教官長の方は一瞬虚を突かれた様子だったけど、こちらも不敵な笑顔を浮かべ、鈍ってないか見てあげるわと挑発的な語調で返す。案外ノリノリな二人を見て絶望する初雪。とりあえず、教官長には出撃に差し障りない程度にお願いしますとだけ頼んでおいた。

 

 あ"ーと汚い声を上げて、ささっと着替えさせられた初雪が引き摺られて行く。金剛さんから見ても初雪は練習不足だったのだろう、夜中の演習にも肯定的で渡りに艦もとい船な様子だった。

 荷物は二人の部屋に先に搬入されていたようで、制服もクリーニングされた状態で既に掛けられていたため着替え自体はスムーズだった。もしもの時はすぐ出れるようにという心遣いだったのだろう。そのもしもが突発的な演習とは思いもしなかったろうけど、有難いね!!

 私が結局ここまで付いて来たのは初雪が着替え終わるまで放してくれなかったせいである。いやじゃーと泣き付かれて、流石に哀れ過ぎたのもあり、一人だけ部屋に戻るのは憚られたのだ。いや猫吊るしも居るから二人なんだけど私にしか見えてないしね。

 いやしかし……うん、例の魔法使いを自称する少女にゲームの設定云々でヒロインキャラとかそれ以外について聞いてたから、やっぱり私もちょっとは気になっちゃうかなぁってちょっと思ってたんだけども……あんまそういうの無かったなぁ。

 どうにも私、ゲームの設定って言われて思い浮かぶのが二次元美少女の、艦これの金剛や島風の方だけなんだよね。なんか三次元で動く目の前の金剛さんがそうだって言われても疑問符しか浮かばない。ヒロインって言われてまあ納得できる部分はあるが、そうでもない部分も多々知ってるからかなあ。おかげで気にならない通り越してピンと来ないというか。逆に無理に気にしようとしないと気にならなかった。横に酷すぎるのが居たからってのもあるかもしれないけども。

 確かに容姿を比べた時、初雪と金剛さんなら十人中十人が金剛さんを選ぶだろうっていうくらいの美少女なんだよ。それは私もそうで、文月や夕立、加賀さん辺りもそう。流石にそれは私だって分かるんだ。でも、それはそれとして、その中で誰が一番ゲームキャラっぽいかって言われたらなぁ。

「初雪って名前に艦名入ってなかったよな」

「うん」

 猫吊るしが私の上で呟いた。川内さんも教官長もそうだね。まあ川内さんは一応設定有ったみたいだけども。

「あれ入ってない側なのか……」

「まあうん。半分自暴自棄になってる所で甘えだしてそれが定着しちゃったっぽいから……」

 猫吊るしは乾いた笑いを出しているけど、あれたぶん私のせいなんだよね。どうも元々対人上手じゃない所に私と同室にされて、人によっては甘え倒しても許されると覚えちゃったっぽいからなあ。金剛さんも割とそういうの気にしない所があって、強引かつ豪快にだけど構ってくれるらしいし。

 ちゃんと相手は選んでいるみたいで、提艦隊だとお姉さんしてる時も割とあるらしいんだけど……選んでるが故に私はその姿をあんまり見た事がない。精々勉強教えたりしてるとこくらいである。頭は良いっぽいんだけどなあ。学習能力が変な働き方をしちゃった感じ。

 そして私は、別に甘えられて嫌という訳でもないというか。特にあの程度なら負担にもならんというか。一応は召集の被害者だしそれくらい許されてもいいかなって思わなくもないかなっていうか。あと、本人もたぶんやっちゃ駄目な相手は分かってると思うんだよね。

 つまり私はやっても大丈夫な相手。ああうん。思ったより妹扱いしてますねこれは。好感度も高めだな? 初雪もその自覚あるな? 吹雪さんソウルの影響……じゃないか。訓練所からたぶんそうだもんなぁ。

「金剛が一番普通だったの酷くない?」

「教官長は許して差し上げろ」

 たぶん欠点埋めるプランはあるのに練習時間取れなさそうだなーどうしよっかなーとか考えてたんだろうからね。教官長が申請したら秒で艤装の使用許可が下りるとかいう噂だし、訓練法が確立してない現在じゃ上も頼らざるを得ないものと思われる。

「有能さが普通じゃなさ過ぎる」

「それはそう」

 ショートスリーパーで睡眠時間も少なくていいとか弱点どこにあるんだあの人……集合無意識の暁さん大満足してそうだわ。改二になったらそっちに近づくんだろうか。想像がつかない。

 

 

 

 自室に戻ると、暗い部屋で文月が床に正座して待ち構えていた。今の部屋割りだと私と風香、文月、曙が同室なので居るのはおかしくない。二段ベッドで曙の下に眠っていたはずだけど、あの何もない空間から戻る際に私達と同じく目も覚めてしまったのだろう。

 おかしいのは入室して来た私達に向かって正座のまま真剣な表情でゆっくりと頭を下げ始めた事である。無言で。頭はどんどん下がっていき、文月の両手と額は床に付く。そして十秒くらいそれを維持するとまた緩やかな速度で元の体勢に戻っていった。

「黙っていて本当に申し訳ありませんでした……」

 文月は暗い顔で謝罪を口にした。寝入っている二人を起こさないような小声だけれど、私や猫吊るしの耳にははっきりとその美しい音色が響いてくる。指向性でも持たせてるのってくらい反射波が小さく感じるんだけどどうやってるのそれ。私のエコーロケーションもどきくらいなら騙せそうなんだけど。チート? チートなの?

 文月が謝ってるのは転生者であると黙っていた事についてだろう。というのはね、まあ分かるんだけど、それがそもそも謝る事なのかというと物凄く疑問である。猫吊るしも初対面の時言ってたけど私怪しいし、非戦闘能力な能力しか持たないらしい文月が警戒するのは当然じゃないだろうか。

 っていうのはもうあっちから戻る前に散々お話ししたんだよね。それでお互い納得した……と思う。だからまあ、一応現実でも謝っとかないと収まりが悪いって事だろう。

 そういう事ならこっちにも考えがある。私は文月の正面に立って、やおらにその場に座り込む。そしてそのまま深々と首を垂れて、床に額を押し付けた。

「こちらこそ、気付かなくて申し訳ありませんでした」

 頭上で猫吊るしも一緒になって頭を下げている。私が下げた頭の上でさらに下げてるから変な方向いてるけど、まあ意味は伝わるだろうからいいか。面を上げるとそこには苦笑な表情の文月が居た。

「じゃあお互いさまという事で?」

 私と猫吊るしは大きめに頷いた。隠されてた側と隠してた側の責任の所在とかそういうつまらない話は面倒なだけで得にならないから要らないのよ。っていうか特に損してないし、むしろ隠してた側が悩んでたっぽい訳で。気にする必要は全く無いのだ。だって私達みんな・・・仲間だもんげ!

 

 

 

 ひっそりと頭を下げ合った私達はそれではと気を取り直して立ち上がり、同室の残り二人が起きていない事を確認した。どちらも寝息っぽい物を立てていて、たぶんしっかりお休み中だ。問題なし。文月はともかく私の声で起きてしまう心配はあったけれど、どうやら杞憂だったようだ。

 大丈夫そうなので、目指していた用事を遂行する……もとい、猫吊るしに遂行してもらう事にする。私は物音を立てないように自分のベッドに忍び寄ると、伸びる梯子をちょっとだけ上り、眠っている風香の横に顔を出した。

 もうとっくに11月に入っていて夜の気温はそれなりに低い。そのため風香はしっかり毛布に包まっているが、艶やかな金の髪を湛えた頭部だけはしっかりと外へと晒されている。横に並ぶ連装砲ちゃん達と一緒に。かわいい。

 それはともかく、頭が出ているなら丁度いい。私は自分に乗っかった猫吊るしへ手を差し伸べ、ぴょんこと飛び乗ったその小さな体を、風香の枕元へと着地させた。

 猫吊るしは目の前の豊かな毛量を誇る頭に取り付くとそのまま目を閉じる。特に音はしない。ひそやかに、その能力は行使された。

 暫く後。

 猫吊るしは瞳を開き、こっちに向かってぽんぽん跳ねて帰って来た。それをキャッチしてやって、私は音もなく床へと降り立つ。そこには心配そうな表情の文月が部屋に置かれた丸テーブルに着いて待っている。なのでそっと卓上に置いてやれば、寝ている二人には聞こえないのを良い事に、猫吊るしはそのまま報告を始めたのだった。

「ぜんっぜん分かんなかった!!」

 なお結果は駄目だったっぽい。いや、まあしょうがないんだけども。

 

 大きな作戦のための援軍も合流し始めてさらに忙しさを増しているであろう工廠の仕事を放り出させてまで猫吊るしを連れて帰ったのは、ひとえに風香の健康診断のためである。

 例の少女曰く、風香は某所でお出しされたモノを完全に消化吸収し、その存在を強化・拡張する事に成功してしまっているのだそうだ。その結果、目に見えて起こった事は魔力や霊力と呼ばれるような力の増大となんか変な改二になっちゃった程度の事らしいんだけど……実際に起きてる事はもっと深刻なようで。

 風香はケーキ二個分に仕込めるごく少量だけとはいえ、天地創造可能な超自由型の『力』を保有してしまっている。完全な消化っていうのはそういう事なんだそうだ。珍しい……っていうか、転生者でも何でもない事前の慣らし無しでのケースは初めてだとか言っていた。つまり近い前例はあったという事である。流石に私も浸透勁とでこぴんを組合わさざるを得なかった。

 いやまあ、聞いた所じゃ別に暴発とかする性質のモノではないらしいんだけどね……心配じゃん。何もかも計画性や見通しが甘くて全部てきと~にやってるっぽいあの子の言ってる事全面的に信用するの。

 だから猫吊るしに調べて貰ったんだけど、残念ながら猫吊るしにはその『力』の事は分からなかったようだ。猫吊るしの解説によると、猫吊るしの診断は、『猫吊るしがそれを使おうとする事でその全容を把握できる』という能力使用の副次効果的なものであり、そもそも猫吊るしがまったく扱えないモノや認識できないものについては効果の対象外になってしまうから、らしい。

 『力』に関しては文月たち契約者がチート能力を入り口として複数回転生した自己研鑽の果てに目指さなければいけない領域であるらしいので、転生一回目の私達には理解できなくて当然……なんだと思う。たぶん。

「今自分の食べたの分析してるから明日くらいまで待って貰った方がいいかも」

 なのでこんな事を言い出せる猫吊るしは転生者の中でも割とおかしい方なんじゃなかろうかと思わんでもない。

 いや、お前そんな事できるの? そういや食べたばっかりだからまだ消化とかまともにされてないのか。私や文月もまだ体内に残ってるんだろうか。文月なんて食べたの目覚める直前なんだよね。私にも私にもって言ったら口に押し込まれてた。うーん、まあ……そういう事なら私も自分の中調べてみた方がいいのか……?

 横では文月がびっくりした、けれども抑えたような表現力豊かな声で猫吊るしに方法を尋ねている。返済に関わる話だから必死なのだろう。でもチート能力前提っぽいから自力でどうにかできる範囲の話じゃない気がするなあ。実際、猫吊るしも言語化は難しいらしくしきりに頭を捻っていた。

 そんな二人を尻目に私はちょっとベッドの方へと戻り、もう一度風香の所まで身を乗り出す。うん。まだ寝てる。なので遠慮なく布団から飛び出している風香の額に軽く触れ、念じる。

 

 ――チート能力さん、ちょっと力貸してくれる?

 

 ――やあってやるぜ!!

 

 あら素直。ちょっと扉の前でしょげてたから心配だったんだけど、どうやら気を取り直してくれたみたいである。良かった。

 快諾いただけたので掌を通してその先の体温高めな体と自分の深部に集中する。チート能力さんに声をかけたのは当然ながら、風香の頭を痛めつけてやろうとかそういう意図での事ではない。能力の仕様上、もしかしたら、私の能力で対応可能な事柄かもしれなかったからだ。

 前に似たような事をやった時は全くそんなモノの存在には気付かなかったけど、私の中にもまだその『力』がある今なら、それと比べて見つけ出す事が可能かもしれない。高次元過ぎて理解できなかっただけで、同じものに触れながらなら実体を捉える事も不可能じゃあないんじゃないだろうか。そう思ったのだ。

 でもそれをするには、前提として私が『力』を認識する必要がある訳なんだよね。だけど、自分の魔力すら観測できてない私にそんな芸当が可能だろうか?

 ……まあ、結論を言っちゃえば、可能なんじゃあないかと思う。

 なんでかって言えば超簡単。だって、その方が『なんか』『つよい』でしょ?

 

 

 

 あーあったあった。これか。

 開始約三分。私は風香の中のそれを無事発見した。それはなんというか、例えるならそう、作業台である。もしくはパソコンのメモリ。成程、単体じゃ暴発しないわこれ。『力』なだけで作用するエネルギーじゃあない。むしろこれはエネルギーを無から製造できるような代物だ。ヤバいけどヤバくない……風香が無自覚なら稼働する事すらないだろう。当たり前かもしれないけど、扱うのに技術が要るんだ。

 そして私の中にも全く同じではないけれど、似たようなものが存在している。消化されていなくて私の物になってないからかむしろ自分の魔力より分かり易い。なんか端っこだけ消化されて栄養になりかかってるけど。いや体の消化器官で溶かしてる訳じゃあないけれども、ともかく慌ててそれを止め、風香の中の物を参考にして組み直す。能力拡張用というのは伊達ではなく、それは言ってしまえば折り畳み式簡易作業台とでも呼ぶべきものだったのである。私の能力は感覚的な事に対する学習能力がおかしなくらいに高いけど、それを差し引いてもあっさり理解っちゃったのはそういった理由からだろう。

 私達が食べたのは加工済みの『力』を魔力でコーティングしたような物体で、元々扱える人が上手い事消化できれば中身が組み上がって『力』となり、それが無理でも魂に溶けて魔力となる。きっと元々そういう性質のケーキだったんだと思う。風香の場合、たぶん本当に表面のケーキに擬態してた部分だけが魔力になっちゃって、だからチート転生者から見たら少なくて現地人より遥かに多いみたいな塩梅になったのだろう。

 うん? これ、『力』部分まで全部魔力になっちゃった方が危なかったのでは? 魔力はたぶん暴発が有り得るよ? ほんと何食わせてくれてんだあの子。予想外の人間が来て嬉しかったから何も考えないでご馳走しちゃったって言われたら疑いようもなくそうだろうねと納得しちゃうくらいもう信用がないんだが? 悪意の有無とかそういう問題じゃないところだよもう。

 組み上げた『力』はその瞬間に私からは認識できなくなった。うーん予想通りというかなんというか。魔力と同じ扱いか。研究とか練習とかできないじゃん。たぶんチート能力さんが管理してくれるんだと思うけど……

 閑話休題。ともかく、風香の状態は安定している。むしろ現状だと私達の方がヤバいかもしれない。風香のを参考に安定化させられたと思われる私はともかく、現在絶賛解析中の猫吊るしや絶望的に可愛らしい小さな声でむむむと呻ってる文月はどうなんだろう。それと、一緒に食べた皆も。まあチート転生者なら魔力が増えるだけだろうから大丈夫かな?

 とか思ってたらぱっちりと両の瞼を開けた風香とばっちり目が合ってしまったのだった。オウッ? って鳴いてた。

 

 

 

「うるさいわよあんた達……」

 かなり機嫌悪そうな声で、寝てた曙が起き上がって来た。まだまだ眠そうな目を不快そうに歪めて二段ベッドの上側からこっちの方を覗き込んでくる。

 果たしてそこから見えた景色は暗い部屋で猫吊るしを頭に乗せ奇跡のような美しさの声で外郎売を朗じながらノリで踊る連装砲ちゃんに取り囲まれつつ私と島風と手を繋いでいる文月である。状況がマジで一切分からなかったらしく曙は硬直した。

 いや、どうしても感覚を掴みたい文月が試行錯誤してどうにか周りの皆からヒントを得ようとして最終的にこうなっただけだから深い意味なんて無いんだけどねこれ。猫吊るしに操作権限一部渡して消化を食い止める事で制限時間は伸ばしているから、きっと朝までは色々する事になるかな。私がアレを組み上げる感覚を伝えられれば良かったのだけど、残念ながらそういう機能は付いてないんだよなあ。

 下りて来た曙が胡乱気な顔で声を掛けてくるが文月は一切気付いていない。なんか練習用の口上唱えると滅茶苦茶集中できるらしく、外郎売以外にも寿限無とかでも行けるとかなんとかでかれこれ十分はこうしていたりする。一応小声ではあったけどそりゃ曙も起きるわ。ペラペラ舌が回るもんだから風香ははやーいって喜んでた。

 風香には魔力関係だって言って手伝って貰ってるんだけど、必要だったかと言われると正直分からん。寝ててもらっても良かったんだけど、目が覚めちゃったって言うから仕方ないね。連装砲ちゃんたちもさっきまでおててつないでたんだけど文月の節の付いたテンポの良い唄声に乗って踊り出してしまった。かわいい。

 曙は状況に何か不気味なものを感じ取ったらしく、一歩後ずさって私の方へと視線を移した。反応のない文月より自分の方を見ていた私に話し掛けた方が得策と判断したか。

 そして曙は私に向かって質問を投げかけようとした。寝起きで少し乾いた喉を無理矢理動かして、肺から押し出した空気で声を作り出そうとしたのだ。でもそれは、発される一瞬前に、窓から飛び込んで来た轟音と赤光に掻き消された。

 夜を引き裂く爆発の音。それが寮全体を震わせたのだ。

 すわ何事かと部屋の四人と三体が窓に向かって振り返る。その頃には、既に私は赤く光るカーテンと窓ガラスを引ききり、燃え上がる海を目撃していた。

 鎮守府からさほど遠くない水面が猛り、弾け、噴き上がりながら、複数の爆発的な炎を上げている。範囲はさほど広くないが、燃え方からして幾つもの攻撃が同時に炸裂した感じだろうか。だとしたら、三式弾みたいな散弾? それにしては威力がおかしい。それと敵の侵攻にしては変な位置……陸に近いけど何の被害も出ないような場所に撃たれたように見えるんだけど。

 というか、よく見たら下手人っぽいのはその近くで陸地に背を向けて立っていた。手を腰に当てどこか満足気な雰囲気を纏った、巫女服にスカートを合わせたような姿の戦艦艦娘……つまりは金剛さんだ。成程。初めて見たけど三式弾みたいなっていうか普通に三式弾撃ったんだなアレ。対空用であって対地用でも対海用でもなかったと思うんだけど、ひでぇ威力してんな……例のリーク通りなら適性値三万以上でさらに上がってるはずだからそのせいだろうけども。

 どうやら他の部屋の住民たちも目を覚ましてしまったようで、にわかに寮は騒がしくなった。そりゃあ私みたいなのはともかく普通の視力じゃ金剛さんには気付き辛いだろうし、敵の襲撃かなんかに見えてしまうだろうから当然だろう。曙も既に寝巻から制服に着替えようとしている。判断が早い。

 文月も流石に修行……修行でいいのだろうかあれ……ともかく精神集中を解き、掛けてあった制服の下へと駆けて行く。この辺りは四国や九州での経験が生きてるように思える。最前線で戦ってきただけあるよなあ。などと思いつつ、たぶん必要無いだろうけど私も一応着替える事にした。

 只今の爆発は味方兵器の試射です、警戒態勢に入る必要はありません。と焦った様子の大淀司令から全館へ放送が入ったのは、曙を追い抜いて島風が制服を着終えた頃だった。ちょっと得意げにしてたが無意味と聞いてオウッと鳴いていた。

 寮のあちらこちらから金剛さんかな? とか金剛かーという声が聞こえてくる。共通認識らしい。新兵器説より金剛さん到着説を唱えてる人の方が多いのが酷いんだけど、たぶん正解だと思う。

 文月は爆音の衝撃で消化が進んでしまったらしく床に崩れ落ちていた。新しい感覚生やすようなもんだし私みたいな感覚能力増強してくれる能力じゃなきゃ一朝一夕とは行かんわな。例の少女も無理と思って食べさせたんだろうし、気長に頑張るしかないと思う。っていうか微妙に分かるようになってない? 案外到達までは遠くないのかもしれない。

 

 

 

 

 

「負けたデース!!!!」

 みんな目が覚めてしまったのでもう寝るでもないだろうと曙も交えて修行してたら、気が付いた時には日が昇っていた。曙は初春の降霊術の事などを知っているためにその辺りの実在は把握していたようで、怪しい儀式みたいなのはともかく、島風の脚から何かが噴出する現象を見て自分もできないかと頑張っていた。猫吊るし曰く、なんか容量に対して保有量が釣り合ってないとかで才能は有るのか無いのかよく分からんとの事。

 そうして進展は微妙なまま出撃に備えて朝食を摂りに皆で寮から出たら、突然横から跳んで来た金剛さんに泣き付かれ、慰めて欲しいヨーと頭を押し付けられた。撫でろと? いいけどさあ。

 ぽんぽん撫でてみたらそれで満足したらしく、皆久しぶりネーと他の三人とも挨拶し合うと、島風にもハグを決める金剛さん。連装砲ちゃん達も抱っこして可愛がっている。本当に皆好きだなこの人。

「金剛、あんた演習でもやって来たの?」

「Yes! 教官長にぼっこぼこにされてきたヨー!」

 何やってんのあの人。改二になってる上適性値も余裕で五桁だろう金剛さん凹ったの? いや他人の事持ち上げる傾向があるから言うほど一方的ではなかったんだろうけど、惜敗ならそう言うと思うので結構な差が付いたのは間違いなさそうだ。

「あの爆弾みたいの、教官長に撃ったの?」

「あれは的に向けて撃っただけですネー、新型で数もないから使わせてもらえなかったデース!」

 許可あったら使う気だったのだろうか。っていうか、新型? あれ普通の三式弾じゃないんだ。流石にあの威力が平常運転ではないのね。

「改二の影響じゃなかったんだねえー」

「司令官は大本営から送られて来た特殊弾頭って言ってたヨー」

 なんでも通常のモノより何倍も重くて飛ばない代わりに威力が従来の何割も増しているのだそうで、大淀司令官の想定より遥かに派手な爆発を起こしてしまったそうな。だから焦ってたのか。たぶん、金剛さんの適性と噛み合いが良すぎたんだろうなあ。

 しかし大本営からか……猫吊るしも居ないのにそんなもん開発できるもんなんだろうか。もしかしたらなんだけど、日本製じゃないのかもね。金剛さんに扱えるのなら規格は合ってるのだろうけど、派手さも加味して米国製だったりしない? いや日本にも開発部はあるだろうけどもね? 数日後に迫った戦いのための露骨なテコ入れな気がしてならない。あれ基地にぶち込まれたらひとたまりもないだろうし。

「というか、あれは艦隊戦用じゃないですネー。範囲が広くて射程は短いから味方を巻き込んじゃうヨー」

 なんか、飛ばな過ぎて下手な撃ち方したら自分ごと燃やしちゃう勢いであるらしい。使い辛ッ。金剛さんが先頭に立って開幕一発撃つかそれこそ陸地に向かって撃ち込むのにしか使えないそうな。

 金剛さんは次は勝ちマースと意気込んで、私達に合流した。どうやら同じく朝食に向かう所だったらしい。まあそれはいいんだけれど、あれ? 一人?

「初雪はまだしごかれてます?」

「見学に来た子達と纏めて練習させられてるヨー!」

 割と様子を見に来た人は多かったらしく、結局皆で朝練中だという。金剛さんは艤装のメンテにちょっと時間が取られるから先に切り上げただけのようだ。ずるいと泣きながら深雪と浦波、東雲達姉妹艦に引き摺られて行ったそうな。南無。

 

 

 

 食堂へやって来てみたら、そこはもう鎮守府の人達でいっぱいだった。あのとんだ総員起こしでみんな目が冴えてしまったのだろう。あと、たぶん普通に交代前後の自衛官の方々と朝食時間が被ったっぽい。お疲れ様です。

 ともあれ、五人分の席が確保できない程ごった返している訳ではない。連装砲ちゃん達を手近な席に置いて取っておいてもらい、私達はカウンターへと食事をとりに向かった。すると、何故かそこでは宮里提督が給仕係をやっているではないか。びっくりして目を合わせると、割烹着の宮里提督は困ったようにはにかんだ。

 金剛さんが明るい笑顔でお久しぶりデース! と挨拶すれば、宮里提督は今度は僚艦としてよろしくお願いしますと頭を下げた。そして私達の後ろにも何人か並んでいるのに気づくと、慌ててお盆に朝食を並べだす。今日は焼き魚定食と……豚汁かな。具がやたら多いので食べ応えが有りそうだ。

 いやそれはいいんだけど、あっ香ばしい炭火焼の匂い。じゃなくて。

「提督、どうして給仕してるんですか……?」

「大和さん……艤装からコンタクトできる彼女から、改二の条件を満たすのに良いかもしれないと言われて……」

 それはあれか、大和ホテル的な意味でか。関係あるんですかねそれ。影響を深めるのに適性者側から合わせる意味があるんだろうか。やらないよりはいいのかもしれないけど、気休め程度のような。っていうか、大和さん的にホテルネタ擦られるのはいいの? 自分から言ってきたなら大丈夫なんだろうけど、内心複雑そう。

 

 

 

 金剛さんが加わった普段よりちょっと賑やかな朝食を終え、私は工廠へ向かう事になった。いやなんだかんだ猫吊るし連れっぱなしだったんだよね。流石にちょっと状況が気になるとの事で、タクシー代わりに使われる事にしたのだ。

「いやっ、本当に怪しい者ではないデスよ……?」

 そんな折、建物と建物の間から誰かが詰問される声が飛んで来た。なんだろうと視てみれば、そこに居たのは初春と、何処かで会ったような気がする黒髪ショートな女性である。初春は疑わし気な表情でその人を観察していて、されている側はちょっと怯えてしまっているようだった。

 どうかしたのかと後ろから声を掛けると、ああ吹雪かと初春はちょっとだけ横に退き、その女性がよく見えるようにしてくれた。見た目には普通の美人さんと思われるが……やっぱりどっかで見たような? いや、あれは……そうだ、四国の時だ。うん。この人たぶん、ローザの所の提督さんじゃないだろうか。名前は確か、藤提督だったかな。

 その彼女はと言えば、私と猫吊るしを視界に入れた瞬間ヒッと鳴いて縮みあがった。そのまま地面に腰を落とすと涙目になって震え出し、なんなのここぉと掠れた声で嘆きだした。

「陰陽師共の巣窟だったのじゃ……罠なのじゃ……もう帰れんのじゃあ……」

「いえ陰陽師ではないですが」

「嘘つけぇ!!」

 そんな馬鹿霊力してる奴等が一般人な訳ないじゃろうがと藤提督は叫んだ。あ、そういうの分かる感じなんだ。

「そういう貴様も半分程は人ではなかろう? 憑いておるのか混ざっておるのかは知らぬがな」

 ああ、怪しんでたのはそういう。初春ってば霊視でそういうの分かるのね。って事は、この人あれか。例の妖怪提督。マジで居るんだ……

「半分……? よく分からん……でも悪い事はしてないのじゃ……許して」

 別段、初春は責める様な言い方をしている訳ではない。口調が口調なため少し威圧感はあるかもしれないけれど、本当に疑問に思って聞いているだけだろう。なんでここまで追い詰められてんのこの人。いやまあ、私と猫吊るしの霊力――つまりは魔力の大きさに腰抜かしただけっぽいけれども。

 初春もどう対応した物か困った様子で、とりあえず立ってもらおうと手を伸ばす。勿論、それは立ち上がるのに手を貸すつもりでの事だったに違いないのだけれど、藤提督はそれにビクンと反応して、恐怖のあまりお漏らしをしてしまった。術か何かで隠していたのであろう、頭の上の猫耳を。

「あーっ!!」

 不意に、私達の反対、藤提督を挟んで向こう側から小さな子供の大きな大きな声が響き渡った。

「てーとく見つけましたって!」

 その娘はこちらに駆け寄ってきて笑顔で自分の提督に抱き着くと、その後で私達の姿に気が付いた。髪の間で銀色の指輪が煌めいている。つかの間の沈黙。お耳を出して震えている自分の提督とそれを見つめていた私達とを見比べて、その少女――ローザは何かを察したようにほふぅと軽く息を吐いた。

「ユキおねえちゃん、てーとくいじめたら駄目ですって」

 言いながら、流れるような手つきで藤提督の耳をもふり始める提ローザ。えっ何、もしかして日常的にやってるの? 隠してないのかバレてるのか……普通に考えたら後者かなあ。指輪を髪飾りにしている辺り、ケッコンしているみたいだし。

 藤提督はにげるのじゃろーちゃんとか細い声で囁いている。悪い人じゃなさそうだけど……この人妖怪率いて自衛隊襲うとか言われてなかったっけ? 別の人? え? 妖怪提督何人も居る? いや流石にそれは無いよね。なんかの理由で狂暴化してたらそうなるとかなんだろうか。

 明らかに提督の耳の事を把握していたローザの様子に私も初春も猫吊るしもどう対応した物か困ってしまった。そうしている間にもローザはにっこにこでふさふさの猫耳を揉みしだいている。この状況でどっちの弁護もできるの君だけなんだけどなあ。

 なんて、どう誤解を解いたもんだか考えていたら、ローザのさらに後ろから桃色の髪の女性が駆けて来た。たぶん大声での発見の報を聞いて今辿り着いたんだと思われる。提督に戯れてるローザとそれを眺めてる私達を見つけて、苦虫を噛み潰したような表情になった。

「提督、耳出てるでち……」

 聞こえた言葉にはっとして、藤提督は慌てて両の手でその可愛らしいお耳を包み込んだ。そしてゆっくりと頭から手を降ろすと、その場から獣の痕跡は消え失せていた。どうやら何らかの方法で隠し直したらしい。私達を見上げると、えへへと愛想笑いで誤魔化そうとしてきた。

「あー……なんじゃ。何も見て、おらぬぞ。うむ」

「うん。まあそうね。見てない見てない」

 初春は見なかった事にしてあげるらしいので乗っかっておいた。小学生にお耳モフモフされてる相手に警戒心を抱けと言われても難しいわな。ローザは若干不満そうだった。そういうもんだと受け容れちゃってておかしいとも何とも思ってないなこれ……

 

 後から来てくれた女性、ゴーヤさんによると、二人は作戦に参加するローザを送り届けに来ただけだったそうなのだけど、工廠で手間取っている間にふらっと藤提督は居なくなってしまっていたらしい。本人曰く陽光に誘われたって猫かなんかですか貴女は。いやそういや猫だったわ耳的に。

「害のある存在でないのであれば、わらわは特に何もするつもりは無いが……」

 一応除霊的なものはできるらしい。ビクッと藤提督は反応してちょっと目がキャッツアイになっていたが、ともかく退治はされないと知って一安心。私も同意しておいたのだが、私の一挙手一投足が恐怖を煽るっぽくて一言喋るたびに見えなくなったはずの耳がビクンビクンしているのが何となく分かった。淡路島で会った時はそんな感じでもなかったけどなぁ。あれか、あの時は上手く猫を被ってたとかそういう感じなのだろうか。

 ローザはゴーヤさんと藤提督に手を繋がれて上機嫌に微笑んでいる。どっちも大好きなのだろうというのがとてもよく伝わって来るし、その感情を向けられてる藤提督が悪い人……人? まあ悪党じゃないっていうのは分かる。そもそも提督やって大丈夫だって楠木提督が判断している訳で、全く問題のある相手じゃないだろう。

「それじゃあろーちゃん、あちきはもう帰るから、しっかりやるんじゃぞ……」

「えっ!?」

 精一杯目を見開いて、ローザは大げさに驚いてみせた。どうやら残ってくれるものだと思っていたらしい。ご一緒しましょー? と提督に纏わり付いておねだりを敢行し始めた。

 艦隊の世話もあるからと言いつつ明らかに私達と一緒に居たくなさそうな藤提督と、我儘言うんじゃねーでちと言いつつ自分は残ってあげるらしいゴーヤさん。二人になんやかんやと説得をされているが……なんか漏れ聞こえてきた感じ、藤提督ってば艦隊指揮執ってるっぽいんだけど大丈夫か藤艦隊。司令官どうしたのよ。

 まあでも、この感じなら私が何かする必要は全くないだろう。ないんだけど……帰っていいのかなこれ。いや、なんか離脱するタイミングを逃したというか、ローザの説得に加わった方がいいんだろうか。

 ちょっと私が迷っていると、建物の向こう側から力強い足音が聞こえてきて、背の高い金髪の女性がこっちに向かって踏み込んで来た。そこそこに鋭い、明らかに怒っていますと主張している眼光と一緒に。

 

「ローザ?」

 

 特に普通の発音であるはずなのに、それは圧倒的な絶望のオーラとなって藤提督の袖をつかんで困らせていた少女に届いた。ゆっくりと、明らかに顔色の悪くなったローザが振り返る。そして、見た。

「おかーさん……!!」

 あっこれもう私帰っていいやつだな。察した私達は初春と一緒にそそくさとその場を後にした。

 

 

 

 

 

 食事をしに行くという初春とも別れ、私はようやく工廠へと辿り着いた。とはいえ、猫吊るしを明石さんに受け渡してしまえば特に用もなく、艤装の横で死んだように横たわってた初雪を食堂にでも連れて行こうかと思いながらその場でマッサージしていた時である。

 突如として、二つの奇怪な声が工廠の中に響き渡った。

「北上さあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「扶桑姉さま!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 誰が放った奇声なのかは言わずもがなである。見れば、各々艤装のチェックやなんかに訪れていたのであろう姉妹艦に絡み付いている所だった。

 ローザもそうだけど、提艦隊以外の援軍も次々と到着しているようだ。結構会ってる北上さんはともかく、久々な扶桑さんには挨拶をしておきたいところだけれど……山城さんが凄い嬉しそうな顔で笑ってるから邪魔するのは悪いかな。

 二人と二人はそれぞれ再会を喜び合い、各自の近況なんかを報告し合っている。中でも改二の話になると、いっそう大きな声で大井さんも山城さんも祝福の声を上げていた。

 その風向きが変わったのは、改装した二人が制服も変わったと言い出した時である。どうやらこれまでお揃いだったものがそうでなくなってしまったと知って、妹艦の二人はそれはもう目に見えて暗い表情になってしまったのだ。そんな気にする~? と笑う北上さんと、服くらい違っても私達が姉妹艦なのは変わらないからとフォローする扶桑さん。でも、二人にとっては結構深刻な問題だったようで。

 それぞれ突然自分の艤装へと走って行くと、叩き付けるように腕で触れ、一瞬硬直。そのまま同時に顔を上げると、異口同音に、司令官に許可貰ってきます!! と言って司令室へと駆けて行った。

 どうやら集合無意識にまで突撃して、中の艦娘から許可をもぎ取って来たらしい。

 え? 嘘だろ? 今の一瞬で改二の許可貰ったの? っていうかそんな理由で出るの? 大丈夫? 不老化しちゃうよ? あと事態に気付いて北上さんは爆笑してるけど扶桑さんは苦笑い気味だよ? 仕方ない子ねって感じだからいいのかな?

 背中を中心に揉み解されている初雪も声は聞こえていたようで、若さって凄いねと感嘆している。初雪も見た目は若いんだけどなぁ。っていうか、そういやあんまり気にしてなかったけれど。

「初雪は改二どうなの?」

「私? 私は……拒否されちゃった……」

 あら意外。なんか適性値高くなってるらしいから行けるのかと思ってたわ。でもまあ、そりゃあ普通は簡単には行かないか。

「体は……なんか、弱いけどたぶん耐えられるって言われたんだけど……」

 なんでも初雪は筋力なんかはあんまり上がってないけれど、免疫力やら生命力自体は順調に上がっているのだそうだ。今年の秋は花粉症も出なくて楽だったってそんな遣り取りをネット上でしたような覚えがある。アレルギーにも効くのね艤装。便利だなあ。

「昨日ね、こっち来る前に初雪に聞いたら……」

 やっぱり大きな作戦に参加させられるとなって、なれるもんならなっておきたくなったんだろう。だがしかし、である。

「イメージを損なわれ続けるのはちょっと……って……」

 それは仕方ないわ。

 悔い改めて。

 

 

 




本当の理由は、初雪はいつかは止めたいと思ってるから、その邪魔をしないように。
中の艦娘は分離装置の存在を知らないからね仕方ないね。


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改二ラッシュとデュエル

 朝のミーティングを終え、私達は各々出撃のために動き始めた。この鎮守府は人数が多いため会議は旗艦と各艦隊の司令官と提督達だけでやって、艦隊員達には旗艦から作戦が通達されるって形式になっている。だから私はまず島風に今日やる事を説明しなきゃいけないんだが……その島風を探しているうちに、ちょっと気まずい場面に遭遇してしまった。

 なんとも言えない表情で、しかし堂々とした立ち居振る舞いで水平線を見つめる金剛さん。そしてその横で嫋やかに微笑んでいる扶桑さん。一応は、恋敵に相当する関係のお二人である。あとその遥か後方で二人の事を覗いている山城さんも居るがそっちは置いておくことにする。旗艦やってるから説明とか行かなきゃいけないはずだけどまあたぶん大丈夫だろう。

 金剛さんと扶桑さんは同じ男を好きになって、配属先の問題で明暗がはっきり出てしまったという関係だ。っていうか、ぶっちゃけ召集前からうん。相手が金剛さんレベルのアプローチしてもまともに進展しないヤベー奴なもんだから、たぶん扶桑さんは奴より私との方が仲が良いくらいだったんだよね……いや仲悪い訳じゃないしそれどころか良い空気になる事もあったけどさ。

 ともかく、片や同じ鎮守府で働き指輪まで貰い、片やほぼ関われる機会もなく同鎮守府なら全員配布だったらしい指輪も貰えていないのである。その二人が、何故か並んで海を眺めていた。

 勿論、二人はライバルだが友人でもある。どちらも人への悪意とかを、少なくとも表に出すタイプではないため相性も悪くないと思われるんだが……今の状況で揃って意味深な表情されるとなんかこう、修羅場的なサムシングを想起しちゃうんだよなあ。

 ちらりと、扶桑さんが金剛さんの嵌めた指輪に目線を落とす。少し困ったような、何かを迷うような顔をして、でもはっきりとそれを口に出した。

「将来の、枷になってしまうのかしら」

 金剛さんはそれに答えるように、指を自分の目線にまで持ってくる。そしてふふっと息を吐くと、扶桑さんへと笑いかけた。

「形なんてあってもなくても同じデース! この胸でBurningするLOVEは止められないから、ネ!」

 何の話かと言えば、たぶん、改二で不老化した二人がそうでない提督と恋愛する事についての云々かんぬんについての事だろうと思われる。途中から耳に入って来ただけだから詳細はよく分からんのだけれども。

 ただまあ、解除装置はある訳なのでそこまで深刻な話じゃあ……………………いや違うか。そんなの使うのが許可される未来が来るって確信できるの、未来予知とかまで駆使して頑張ってる人達が居るって知ってる転生者くらいか。

 金剛さんは言わずもがな、扶桑さんもちょっと影に隠れてはいるが優秀で実力のあるとされる艦娘だ。北海道を取り戻せたとして、普通に考えたらその先にあるのは延々続く国土防衛戦ともしかしたらの海外遠征だろう。そうなった場合、どちらもまず解放して貰える可能性は無い。

 たぶん二人とも、他の艦娘達と自分達の戦力差を私なんかよりよっぽど知ってるはずなんだよね。実際の力の差は私の方が離れていると思うんだけど、私の周りに居たのは宮里艦隊の皆な訳で、まあ私居なくてもなんやかんや何とかするだろって印象になっちゃうのだ。でも、普通の艦隊……特に扶桑さんのとことか、最初の内は扶桑さんが居ないとマジでどうにもならなかったと聞いている。やる気とかもそうなんだけど、鬼と姫がね。

 なので私達以外の目線では、実力のある艦娘は最前線で戦わされ続けるものと考えられてるんじゃなかろうか。勿論、その辺りの話を飲み込んだ上で艦娘の魂を受け入れているはずではあるのだけれど……っていうかそう考えると改二になった人達滅茶苦茶覚悟決まってるんだなあ。私も一応先駆けになって心配を取り除いとこうとかそういう意図はあったけど、就職先悩まなくていいじゃんくらいの感覚でもあったのが否定できないので凄く眩しく感じる。

 仲間を放って置けない、護りたい人達が居る、純粋な怒りから、理由は様々あるだろうけどきっと私より軽い気持ちで改二になった艦娘は居ない。何せ私の場合戦い続ける事に関してはほぼノーリスクだから。普通に働いてて事故で怪我するのと私が戦闘で負傷するのどっちの方が確率が高いでしょうって話である。

 金剛さん達はやっぱり強いからその辺りはそんなに悩まなかったにしても、想い人と添い遂げられるかどうかは年頃の彼女達にとっては大きな問題だろう。だがこれも正直、選択肢としては成立しない。だって自分がちゃんとやらないとその相手が死んじゃうかもしれない訳だから、ならないって道は選べないだろう。

 護るために力を手にして結果、先立たれるか自分が戦死するかになる訳である。酷い世界だなあ。本来分離装置とか無い訳だからその辺りの葛藤も個別シナリオに組み込まれてそうだ。男主人公での周回プレイ胃に悪そうだな例のゲーム。死にネタとか曇らせとか好きな人には良いのかもしれないけども。

 閑話休題、金剛さんはそんなもの知った事かと恋に戦いに全力投球する気構えであるようだ。でも、対する扶桑さんはどちらかと言えば控えめな性質で、今もそれほどの気迫は感じられない。もしかしたらあっさり身を引いちゃうかもって思えるくらいの、すぐにでも手折れちゃいそうな笑顔で羨まし気に金剛さんを見つめていた。

 ふと、少し遠くから、金剛さんを呼ぶ声が聞こえた。それは明らかに比叡さんのものだ。ミーティングでは名前を見なかったのでたった今到着したのだろう。金剛さんは妹の存在を知覚すると、扶桑さんにまた後でネーと手を振って、比叡さんへ向かって一直線にすっ飛んでいった。向かいからやって来た島風も大満足の速度である。釣られて飛び出て並走を始めた。どこいくねーん。

 うっかり見送ってしまったが、私も島風と合流しなければいけないので比叡さんの方へと向かう事にする。歩いてね。流石に走らんわ。金剛さんと比叡さんの再会に水を差すのもなんだしゆっくり行くかと脚を向け、数歩踏み出したその頃に。ぽつりと、一人取り残された扶桑さんが水平線に向かって言葉を漏らした。

「それでも欲しいと思ってしまうのが、女の情念というものなのかしら……」

 うお……急にすげぇ湿り気……! 加湿器かな?

 

 

 

 

 

 今日の私達のお仕事は敵を殲滅しつつちょっと遠い所までの偵察である。というのも、敵さんが北海道からまっすぐじゃなくて、若干逸れた方向からこっちの横っ面をぶん殴りに来ているからだ。大作戦中に突然横から襲われるのとか嫌だから、今のうちに色々把握してできれば対処もしておきたいって事らしい。

 そんな訳で今日は日本海寄りを捜索しつつ敵を殲滅壊滅撃滅していっている訳なのだ。まあつまりは普段通りなんだけども、許可が出ているのでいつもよりはちょっとだけ深くまで行っている。

 基本的に大淀司令官は慎重派だ。私の性能ならもっともっと突っ込ませても問題無いと理解していて、その上で絶対に救助可能な位置までしか前進許可を出さない。まあ変色海域だと通信とか位置の把握もままならないから割と旗艦である私の匙加減な所もあるが、少なくともされた指示ではそうなっている。

 そんな訳で行きすぎない、かつ成果は最大限あげられそうなくらい深くまで突っ込んで行ったのだが、まあ敵の多い事多い事。一回一回は3から6体+PT小鬼の小規模部隊でしかないんだけど、次々登場するものだから息を吐く暇もない。まあ小鬼が付いてわざと私にぶつけてるんだろうから仕方ないんだけどもね。

 ちなみに私は小鬼は普通にぶっ倒している。私がやらなくても島風が殺っちゃうし、せめて痛みを知らずに安らかに沈んでもらう事にしたのだ。

 というのもだ、今日最初に会ったPT小鬼が水上で脚を大股に開いて腰を落としたスクワットみたいな体勢で自分を両の親指で差し、WELCOME! とか言い出したもんだから。私が何やってんだこいつって思ってる間に声までは届かなかった島風に挑発と判断されて連装砲ちゃんの一撃で沈められたんだが、その際に親指を立てて沈んで行ったため、以降は私も遠慮なく成敗している。若干心が痛まんでもないけれども、覚悟を無駄にする方が失礼だろうしね。覚悟が要る事柄なのかは知らんけど。

 

 そんな事を続けていたら、ある時私のソナーに変な物体が浮いているとの感があった。なんだろうと耳を澄ませて観察すれば、それは大きなでこぼこしたボールのような物体のようで、海の上で回転しながら私達の方へと迫って来ている様子である。

 今までに無い反応に少し慎重な気持ちになりつつ視界に捉えてみれば、そこにあったのは大量のPT小鬼同士がくっ付き合ってできた直径五メートル程の球体だった。何してんのキミ。流石に島風も困惑気味だよ? どうするのあれって感じにオウッ? って鳴いたよ?

 私もちょっと対応に困っていると、それらは敵の駆逐艦を発見! 俺は攻撃を行う! 駄目だ! 駄目だ! 駄目だ! などと騒ぎ始めた。うん。まあ……攻撃していいってサインかな。たぶん。

 それならば遠慮する事もあるまい。私は足に力を籠め、彼我の距離を0にして、思いっきり腕力を解き放った。

「ひでぶ!」「うわらば!」「あべし!」「ちにゃ!」「たわば!」「たらばがに!」

 浸透勁を併用して全体に行き渡るようにしたら、PT小鬼群は一体一体バラバラに吹き飛び、思い思いの断末魔を叫びながらその頭を破裂させた。いや私の拳にそんな効果無いんですけど。もしかせんでもまた爆薬仕込んだな? つーか殴るの読まれてたっぽいなこれ。怖。

 まあでも、小鬼が何をしたかったのかは理解できた。何故かと言えば簡単で、全滅した小鬼玉の中から別の物体が転がり出てきたからである。それはなんとなく丸っこいシルエットをした、腹の中に何かがみっちり詰まっていそうな深海棲艦……即ち、輸送ワ級と呼ばれる深海棲艦だった。それが五体、変色海域の上にぶちまけられたのだ。

 どうやら小鬼達にぎちぎちに固められた上に回転しながら移動してきたせいか、そいつらは既に目を回してふらふらな様子だった。そうでなくても輸送艦、上位個体はそうでもないけど普通の奴は抵抗も儚いものである。なので私達は労せず中身を回収する事に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 一体分で荷物が満杯どころか溢れてしまいそうだったので、私達は残りのワ級四体を引き摺って帰投して中身を預けてしまう事にした。折しも昼時で、じゃあ中身を出してる間に昼食を済ませてしまおうかと外に出れば、どういう訳かすぐ近くの海で白と黒の配色なニンジャっぽい人と槍を持った人が格闘戦を繰り広げている。近くでは剣を装備した艦娘がそれを見つめ、大淀司令官も陸から二人を見守っていた。

 風切り音を立てながら音速なんてとっくに超えてるであろう速度で振るわれる槍を、ニンジャは徒手空拳で捌いて行く。上に下に、横に縦に、点でも線でもなく面で制圧するかのような手数で攻め立てられているが、それがまともに当たる気配はない。最小限の動きで避けて逸らして隙を窺っているようだった。

 リーチの差があるせいか白黒な服のニンジャ――川内さんは中々攻撃に移れない。いや、移させて貰えないのだろう。捌いているように見えて、もしかしたら槍を振るう艦娘――四国でご一緒した龍田さんに捌かされているのかもしれない。お互いに牽制し合ってるだけのような気がする。

 どちらも本命の一撃を全く繰り出していない状況だけど、見学の大淀さんは理解を諦めたような表情をしていた。うん、見えないですよねあれ。おそらくどちらも元から達人級の腕前なのに、さらに艤装で強化された身体能力でそれを振るっているのだから、もう行われている殺陣は人外の領域になってしまっているのだ。間違いなく普通の相手なら既に細切れになっているのだろう。本命の一撃出してないのに。

 先に変化を見せたのは、攻撃し続けている龍田さんだった。続ければほぼ体力を使っていないであろう川内さんより先に力尽きるのは明白だったからかな。突然緩急の付け方を変えると、川内さんが一瞬対応を逡巡した次の瞬間、短く叫んで今まで以上に鋭い突きを片手で繰り出したのだ。

 弾丸すら超えそうな速さで突き出される槍の穂先。しかし、川内さんの右腕は容易くそれに追いついてみせた。

 ぶん殴られる、龍田さんの槍の側面。一瞬の事だけど、私には理解できる。あれは浸透勁だ。私に教えられるのだから当然、川内さんも使える訳なんだが……あんな咄嗟に叩き込めるのか。いや、初めから狙ってたのかな? 武器を通して本体に打撃を加えられる瞬間を。

 槍を伝い必殺の威力が浸透して行く。普通なら、それはほぼ決まり手だ。腕をやられるか、武器が指を離れて何処かにぶっ飛んで行ってしまうだろう。でも、龍田さんはなんというか、普通ではなかった。

 川内さんの打撃と同時に、龍田さんは艤装の力で一歩分くらい前進し、自分の持った武器の柄に、空いたもう片方の手で打撃を加えていたのだ。それもたぶん、浸透勁かなんだかを。川内さんや私のそれとは流派が違いそうだけど、効果は殆ど同じだろう。槍の中央で二つの力がぶつかり合った。

 それが爆発したのは、川内さんの手元だった。一瞬の拮抗の後、槍を持った龍田さんの手の一ひねりでそれは容易く傾いてしまったのだ。対消滅もせずに帰って来た、浸透勁二回分が合わさった威力を受けた川内さんは、勢い良く斜めに海中へと叩き込まれた。

 あっと大淀さんが声を上げる。慌てた様子で何かを言おうとしたが、戦場を見つめたままの天龍さんに手で制されてそれをぐっと飲み込んだ。そりゃそうだ。だって終わってる気配がないもの。龍田さんは油断なく槍を構え直している。たぶん、手応えがイマイチだったものと思われる。

 そこから暫く。今までとはうって変わって動きのない時間が続いた。動きが無さ過ぎて一緒に目撃した島風がちょっと心配気にオウッ……? と鳴いている。連装砲ちゃん達も心なしか困り顔で水面を覗いていた。かわいい。

 四十秒は経ったか。焦れた大淀さんがまた声を発しようとした時、龍田さんの正面の水中から白と黒のモノトーンカラーが飛び出した。丁度龍田さんの目に太陽が入り込む様に、それは完璧に計算された角度で空へと舞い上がったのだ。

 槍が振り抜かれる。空中のそれではなく、同時に龍田さんの真後ろに音も無く上がっていた、人間大の水柱に向けて。そしてそのまま、龍田さんはその動きを止めた。その首筋に手刀を突き付けられていたからである。

「忍法水遁の術……なんてね!」

 龍田さんの背で笑いながら告げたのは、服の殆どを脱ぎ棄てて、半裸に脚部の艤装だけを付けた川内さんである。しっかり水面に足を付け、問題なく海上に立っている。それで浮けるもんなんだ……

 

 何が起きたのか解説するなら、まず川内さんは水中で服と艤装の殆どを脱いで、それを水面から飛び出るようにぶん投げたのだろう。空蝉の術だ。最初に水中から出てきたのがそれだった。ただ、龍田さんはそれを見切っていたようで、大きな反応はしていなかった。

 そして、川内さんはそうなるだろうと予想が付いたものだから、もう一個囮を用意する事にした訳だ。それが龍田さんの後ろに出現した水柱である。魔法的な忍術って存在しないらしいから、たぶん浸透勁の応用か何かでやったんだと思われる。チート能力さんができそうって言ってたから間違いない。

 脱いだ服を艤装と一緒にぶん投げる→浸透勁で水柱を立てる、と海中で忙しく動いた川内さんは、水柱に一瞬遅れて水面から飛び出てきて、そのまま攻撃を行ったばかりの龍田さんに手刀を突き付けた訳だね。水の中でそんなに動けるなら足下攻撃した方が安全かつ確実だと思うんだけど、もしかしたら息が持たなかったのかもしれない。

 ともかく、結果としては川内さんの勝利である。艦娘としてのアイデンティティとか全部ぶん投げてるけど、一応は。つーかニンジャ凄いな。水中対応なのか。

 

 龍田さんが槍を川内さんの後ろに向けて突き出した。その先端に、投げ上げられた服達が絡み付く。くるくると手の先を回してそれらを巻き取ると、曲芸のように全部のパーツが龍田さんの手に収まった。凄い器用。

 手渡された服をサンキュと言って受け取ると、川内さんは陸の方へと戻ってきた。私達に気が付くと大きく手を振って勝ったぞーと明るい笑みを見せてくる。いやそもそもなんで戦ってたのかすら分かんないんですけどもね。島風は素直におめでとーございまーすって祝福してたけれども。

 そのまま川内さんはコンクリで固められた陸地に飛び乗ると、小走りに駆け寄って来た大淀司令官に叱られた。さもありなん。やった事はとんでもない危険行為である。妖精さんも艤装の中で絶賛大混乱中だし、服とかもびしょ濡れだもん。メンテ入れなきゃだからもう今日は改二の艤装では出撃できないんじゃないだろうか。

 そんな微笑ましい……いや川内さんが実は未成年だって知ってる私にはともかく他の人にはあんまり微笑ましくないかもしれないが、ともかくその様子を見て、龍田さんはくすくすと小さな声を漏らした。大淀さんもそれに気付くと川内さんへの説教を中断し、龍田さんへと声を掛けた。

「今のような模擬戦で大丈夫でしたか?」

「はい~。お陰様で、無事許可が頂けました」

 やったな! と天龍さんが後ろから龍田さんに抱き着いた。許可か、成程。改二の許可を得るためになんやかんやしてたっぽい? 負けてたけどあれでいいんだ……艦隊戦ですらなかったんだけど、大丈夫なんだろうか。

 なんて、そんな私の疑問を読み取ったのか、陸に上がった龍田さんは軽い挨拶の後、私と島風にも詳しい説明をしてくれた。それによれば、やっぱり改二になるために模擬戦をしていたようで。

「私が龍田ちゃんから出された条件はねぇ、『敗北を知る事』よ」

 成程。成程? なんか島風のとは真逆なのが出てきたな。風香は島風さんに『全力の吹雪と競って勝って来たらいいよ!』とかって言われたらしいんだけど、龍田さんのはなんだか方向性が違いそうだ。

 私の知る限りでは龍田さんは二期生のエース……それも一期生の金剛型や北上さん等に迫る勢いのスーパーエースの一人であると言われている。なので艦娘として負けた事がないっていうのは理解できる。実際あれだけの斬撃や刺突を連打されたら並の深海棲艦じゃどうしようもない。細切れである。

 ただ、龍田さんの場合、それは艦娘としての話に留まらなかったようで。

「私はね~。今まである程度近い実力の相手と競って、負けた事って無かったのよ~」

 川内さんは例の少女が言ってた通りなら、格闘能力は世界でも指折りの実力者である。それと正面からやり合って、リーチの差とかがあるとはいえある程度有利に立ち回れる辺り龍田さんも尋常な実力じゃあないのだ。むしろかなりヤバい。たぶんさっきのは人類近接格闘頂上決戦かなんかである。チート転生者除くが……まあ、どう考えても天才VS天才だった訳だ。そして龍田さんが負けた事がないのは格闘戦だけではなく、勉強やスポーツ、会社や株式の運用能力なんかでもそうだったらしいのである。

 勿論、圧倒的に経験で勝る相手に負けた事がない訳ではないのだそうだけども、そういう強大過ぎる壁に跳ね返されたとして、それは競い合いや敗北にカウントできるのか。なんかそういう話だったらしい。年が近くて格闘戦が異常に強い川内さんは丁度良い相手だったみたいね。

「これが悔しい、という事なのかしら……うん。きっとそうね。次は負けたくないかなぁ~」

 ニッコリ笑って、龍田さんは川内さんを横目で眺めた。見られた側は腕組みしてふふんと笑った。煽りよる。

「それでね。この感覚と対比したいから~、吹雪ちゃん、ちょっと相手してくれると助かるなぁ」

「今、工廠で艤装から荷物を取り出してもらってますので……お昼の後でなら」

 つまり、壁に跳ね返されるのと同格に負け越すのとで感情的にどう違うものなのか実感したいという事らしい。私は別に構わない。なんかナチュラルに壁扱いされてるが、膂力とか明らかに人間のそれじゃないし仕方ないね。大淀さんに確認すると軽くであればOKとのお返事を頂けた。

「じゃあたまには俺とも戦ろうぜ!」

「お、じゃあ私ともやろう!」

 そしたらなんか、3VS1になった。

 

 

 

 

 

 水平に高速移動する未確認飛行人体を三つ製造してから、私と島風は午後の任務に出た。内容は特に変わらず、偵察と殲滅である。

 順調に航海は進み、狭い青い海を抜けそろそろ変色海域に入ろうかという頃、割と穏やかで低めの波の上に二人の艦娘が立っているのが見えた。それは大井さんと深雪で、なにやらボロボロになった深雪を大井さんが曳航中のご様子である。変色海域を抜けてまともに繋がるようになった通信機で鎮守府と連絡を取っているようで、漏れ聞こえている声は大淀さんの物だ。

「やった?」

「今日はまだ大破だから!」

 だからじゃないんだよなぁ。通信中の大井さんに会釈しつつ深雪に声を掛けたら、深雪は元気な様子で返事をくれた。それはいいけど状態は全く良くない。大破なら怪我は無いだろうけどさ。

「轟沈よりマシ程度じゃ明石さん達泣くよ」

「そこはマジでスマンと思ってる」

 深雪の被弾率は高い。駆逐艦でそれなもんだから中破大破は多く、轟沈回数に至っては次点に対してダブルスコア付けて単独首位の超成績を誇っている。誇るな。それでいて怪我は殆どせず、一番ひどかったのでたんこぶ程度らしいんだよね。ちなみに付けたのは私。ごめんね。

 かと言って弱いかというとそんな事は全く無く、むしろ砲撃の精度は全艦娘中でもピカ一で、砲戦が始まった直後限定で言うなら宮里艦隊でもトップクラスの成績を叩き出すんだとか。おかげで初動で敵戦力の損耗を加速させられるもんだから味方の被害も結果的に減るし、小規模な敵艦隊と連戦する羽目になってる現在では特性が生きまくるため、直近では戦果がヤベー奴の一角に挙げられている。被弾率大破率轟沈率もヤベーので総計してただのヤベー奴である。また吹雪型かって言われるの絶対私だけのせいじゃないと思う。

「改二になれれば変わんのかなー。もうちょっと耐久力欲しいんだけど」

「速くなって避けた方がいいよ!」

「まあ駆逐艦だしな。装甲より回避能力どうにかした方が建設的だと思うぞ」

 島風と猫吊るしは耐えるより避けろ派らしい。確かに長門さんの改二みたいなのならともかく、駆逐艦の改二にああいうのを期待するのは酷だろう。言ってる島風は耐久力……というか超特殊な防御能力手に入れちゃってある程度受けられるようになってるけど、例外だし。

 深雪は砲撃は得意だけれど、撃っている最中はそれ以外がおざなりになる。これはもう配属当初からの癖で、教官長達も改善を試みているのだけれど、治り切ってはいないようだ。

 いや、正確に言うと能力の向上はしてる。してるんだけど、他の部分の伸びに対して今一つで、ついつい分かり易く上がっている命中精度や攻撃力で敵を倒す方に傾倒しがちなんだとか。たぶん性格の問題が大きいんだと思われる。実際、冷静に自分の力を全部出せれば普通に回避もできてたし。演習の時とかそうだった。

「深雪は改二はなれそうなの?」 

「それがさー。体は調子いいのに深雪の奴はまだ駄目って言うんだよな」

 深雪は両手を眼前に構え、シャドーボクシングをして見せた。その拳の鋭さは一女子中学生が出していいそれではない。めっちゃ影響出てる……最近は長良さんも100m10秒切れるようになってきたからなあ。治ると聞いてはいるけど、目の当たりにするとちょっと心配になるわ。

「大井さんが今朝しゅーごーむいしきから許可貰ったって言うじゃん? 理由が酷くてさー。あれで行けるならあたしも……」

「分かりましたすぐ帰ります!!!!!」

 深雪の声を遮って、大淀さんとやりとりしていた大井さんが大声を張り上げた。私の耳には通信が聞こえていたが、どうやら大井さんに上層部から改二改装の許可が下りたようなのだ。午前中は判断待ちのまま出撃してたから、楽しみで仕方がなかったものと思われる。

 大井さんはさっさと戻るわよ!! と深雪を曳いて急発進。深雪は海の上を引き摺られ、慌ててバランスを取りながらもこっちにしっかり手を振って、二人揃って陸の方へと消えて行った。索敵とか心配だけど……まあ私達が通ってきた後だから大丈夫だろう。今敵影無いし。

 

 

 

 午後の任務を終えて鎮守府に戻ると、埠頭で大井さんが真新しい制服を着て膝を抱えて黄昏ていた。

 見れば大井さんの新しい制服はしっかりとへそが出てはいるものの、色は今までと変わらない黄緑色をしている。クリーム色くらいの薄さになった北上さんとはどうやら色違いになってしまったようだ。かわいそうに。

 後で聞いた話では、艤装の性能も全然違って、そもそも雷巡にならずに軽巡のまま上位互換になったんだそうな。運用を変えずに済むので司令部側は大歓迎だったらしい。本人はうん。かわいそうに。

 

 

 

 

 

 大井さんの状態を察してそっとしておくことに決め、私と島風はお風呂入って夕飯にするべと艤装を置きに格納庫……というか艤装置き場へと向かった。今日も今日とて工廠は大盛況のご様子で、カーンカーンカーンと不吉な音が鳴り響いている。

 猫吊るしを届けようと忙しくしている明石さん達の方へと足を向けると、ふと、曙が工廠の奥の扉を睨みつけているのが目に入った。横には大淀司令官と初春が控えている。何をしてるんだろうと思っていたら、丁度そこへ工作艦の朝日さんが鍵を届けにやって来た。お礼を言いつつそれを受け取る大淀司令、そのためにこちらへ振り返って、ばっちりと私と目が合ってしまった。

「丁度良かった。吹雪さん、少し良いですか?」

「アッハイ」

 私に関係ある話なの? と思ったがどうもそういう訳ではなく、何やら提督適性のある女性に立ち会って貰いたかったらしい。宮里提督が居たらそちらに頼んだのだろうけど、まだ帰っていないようだ。

 何かありましたかと近づいて行けば、それに答えたのは曙だった。どことなく緊張した様子の硬い調子で、ゆっくり噛み締めるような声だった。

「改二に再挑戦するわ。見ていて」

 曙はかつて改二になるために艦娘の魂の一部を分け与えられて、体がそれを受け入れられずに失敗した事がある。その現場に私は居なかったのだけど、後々まで心身の不調が続いたのはまだまだ記憶に新しい。

 確かその時は曙の魂から艦娘の魂を摘出して、それを艤装の中に封印してどうにかしたって話だったと思うけど……それを再び取り込もうって話だろうか。だから初春が付いてるのか。また失敗したとしても取り出せるもんね。私に声が掛かったのは提督だからっていうのと、霊力魔力的にクソ強いって大淀さんも知っているからかな。

 島風を待たせているがまあ、そんなに長くは掛からないだろうし大丈夫だろう。私が了承の旨を伝えると、大淀さんは早速鍵を開いて無骨な扉をスライドさせた。入り口から電灯を付けると、そこには私達の予備を含めた様々な艤装と思われるものがシートに包まれた状態で並んでいる。立ち入るのは初めてなのだけれど、妖精さん達がうろちょろしながら用途不明な工具を振り回している工廠に比べて物珍しい物はそんなに無い。いや施錠された倉庫だから妖精さんとかが居たら困るんだけどね。閉じ込められてるもんそれ。

 開けたのは大淀さんだけど、私達を先導したのは曙だった。ちゃんと置いてある位置を把握していたのだろう、一番奥まで歩いて行くと慎重な手つきでそこにあった艤装の覆いをはぎ取っていく。シートの下から現れたのは、何か紙垂のようなものとお札のようなもので封印が施された、かつての曙の艤装だった。

 一見すればそれは何か変な飾りつけのされた妙な機械の類である。でも、私の第六感だか七感だかはそこに尋常ならざる何かが封じられていると告げていた。印象としては台風の日に出会った初春さんが近いだろうか。それよりかなり微弱な気配ではあったけれど、普通の人間などよりは遥かに強い存在が中に居るのだとはっきり理解できた。

「待たせたわね」

 曙が艤装の淵をなぞる。一瞬、中の気配が濃くなった。曙もそれを感じ取ったようで、ごくりと息と唾液を一緒くたに飲み込んだ。

 やって頂戴と曙が場所を譲り、少し後ろに下がっていく。頷いて霊力を整えながら前に出る初春。大淀さんは静観の構えだ……というか、監督はしなきゃいけないけど状況がオカルトすぎてやれる事がないのだろう。私も見守る以外できる事は無い。一応不測の事態のために構えてはいるけれど、霊魂の話に詳しくないからなあ。

 初春は艤装の前まで来ると、目に見える程のオーラを自分の体に纏いながら何やら祝詞を上げ始めた。大淀さんはぎょっとしている。声は大きいものではなかったが、だんだんとその音圧のようなものを増して行き、どういう訳かそれに合わせてお札が端の方から焦げるように黒ずみその形を失っていく。辺りに強風が巻き起こった。

 千切れ、塵に還っていく封印の札。それに合わせるように紙垂が踊り、周囲の艤装に掛けられたシートも煽られ激しくはためいている。でも一番凄い事になってるのはすぐ近くに居る初春の髪の毛だ。外圧と自分の霊力の滾りが合わさって天井にまで届きそうな勢いでうねっている。

 そんな事を気にしていたら初春の祝詞は唐突に止み、それと同時に貼られていたお札も燃え尽きた。瞬間、倉庫内を暴れ回っていた強い風もピタリと止んで、辺りは静寂に包まれた。どういう訳か後ろからしているはずの工廠の音も聞こえない。何か特殊な空間にでも放り込まれたかのようだ。いや実際、結界のようなものの中に居るのかもしれない。どういう訳か周囲から集合無意識の艦娘の所に居るかのような気配を感じるのだ。

 とはいえ、敵意なんかがありそうな雰囲気ではない。警戒の必要は薄いだろう。初春もそう感じたのか、艤装に一礼してからこちらの方まで下がって来た。代わって曙が睨むような表情で前に出る。いや睨んでるんじゃなくて、不安交じりで険しい顔になってるだけなんだろうけども。

 曙が艤装に手を伸ばす。でも、特に何も起きない。眉間の皺を深くする曙。出て来なさいよと低めな声を出すが、曙さんは応えなかった。

 おもむろに、曙は艤装に手を突っ込んだ。気配は中にあるのでともかく引っ張り出そうとしたのだろう。でもその手は何も掴めなかったようで、曙はさらに眉の角度を深くした。

 今度は勢いよく腕を突き入れて、曙は激しく中を手で探りだす。これにはたまらず、艤装の後ろから慌てた様子で飛び出てくるものがあった。それは光り輝く球体のようなもので、現れた瞬間からもう耐性のない人であれば不調を訴えかねない程の霊的な圧力を放っている。

 つまりあれが曙さんの魂の一片、曙がその身に――っていうか、私の魂の中に吹雪さんがいた事から考えてその魂に――宿す事が許された集合無意識の一部なのだろう。前提として曙は体が耐えられなかっただけで艦娘から認められてはいるのだ。曙さんにはあんたにはもう渡したでしょって言われたらしいから、あれが最も曙に、もしくは曙が適合する部分なのだと思われる。

 それが何故か、曙の手から逃れ、ふよふよと宙を漂っている。曙はさっさと来なさいよくらいの表情になっていて、どうやら相手の態度のせいで不安はどっかに吹き飛んで行ったようだった。受け入れるからこっちに来い、と手を差し伸べる事で示して見せた。

 光る球体が宙を滑るように曙の方へと飛んでいく。そしてその指先にまで到達すると、それをするりと回避して、二の腕辺りに激突した。痛っと曙が呻る。そのまま玉は脇腹の辺りにも体当たりを仕掛け、そこから背中、ふくらはぎ、太もも、肩、後頭部とつぎつぎにぶつかっていく。どうやら触れるたびに痛みが走るらしく、曙は何すんのよと怒っていた。

 うーん。なんか思った以上に自我があるっぽいんだけど、あれって曙さんなんだよね? そうだとしたら、たぶん嫌がらせとかそういうのじゃなくて、こう……なんだ、素直の対極にある艦娘特有の反応をしているっぽい? 悪意が一切ないと考えるならきっと、そういう事じゃなかろうか。

「もしかして、曙の体が自分に耐えられるか確かめてるんじゃない?」

 優しく触れるのなんか気恥ずかしいし一度苦しめてるのもあって素直に向かい合えないみたいな状態なんじゃないかなぁそれ。

「心配してるだけっぽい気がする」

 そう言ってみたら、捕まえようと腕を振り回していた曙と、それから逃げ回っていた曙さんの動きがぴたりと止まった。そして、さっきまでの数倍くらいの速度で飛来した曙さん玉が、私の鳩尾に突き刺さった。図星か。

 曙さんは何言ってんのこのクソ提督は!? って感じで私に何度か攻撃してきたが、残念ながらダメージはない。あっ、大淀さんがなんか優しい目をしている。照れ隠しだと理解したっぽい。こないだから思ってたけど結構適応力の高い人だなあ。

 効いてないと理解して、曙さんはもう好きに言ってればいいわよと言わんばかりに艤装の方へと戻って行った。そして曙と向き合うと、十秒くらい見つめ合う。いや目はないけれどもそんな感じだったのだ。

「大丈夫よ。あの時とは違うわ」

 曙は確信を篭めて、絶対大丈夫だと曙さんに伝えた。あれから数か月、色々と乗り越えたらしい曙は、心も体も以前とは比べ物にならないくらい強くなっているのだ。

 言葉を受け取った曙さんは、そのままたっぷり二十秒くらいは宙にそのまま浮いていて、急に、曙の胸へと飛び込んで行った。予期していたのか、曙はそれをしっかり包み込むように、ぎゅっと受け止めたのだった。

 

 

 

 

 

 事が済み、みんなで落ち着いてから倉庫を出ると、待たされて暇だったっぽい島風が帰って来たところらしい文月と一緒に私の事を探していた。何も言わなかった私の落ち度である。一言言っとけばよかったわ。

 私達に気が付いたのは文月の方で、愛らしいを飛び越えた先にある声で島風を呼びながらこちらの方へと小走りに駆けて来た。ついで島風が連装砲ちゃん達を頭と両肩に乗っけて跳んでくる。どうしてそうなった。

「何かあったのぉ?」

 文月は私達が出てきた場所が場所だったためか分かり易い疑問顔を浮かべていた。もしかしてかつての経験で身に着けた特技とかだったりするんだろうか。演技というか演劇っぽいというか、さほど不自然ではないんだけれども。

「改二の封印を解いて来たのよ」

 端的に曙は説明した。基本的に皆事情を知っているのでそれだけで事足りるのだ。文月も島風もおめでとうと祝いの言葉をかけ、連装砲ちゃん達もミューキューキャーと嬉しそうに鳴いた。かわいい。

 そうしていると、一瞬だけ、文月が思案に暮れた顔をした。本当に短い時間だったけれど、私のチート動体視力は見逃さない。はて何かあったのだろうかと思っていると、文月はつつつと大淀司令官に擦り寄って、小さなしかし透き通るようなはっきりとした声でその耳に囁いた。

「あたしも、改二の許可出ました」

 目を瞬かせたのは大淀さんである。そりゃそうだよね。今日五人目だもん。って思ったら大淀さんは今日七人目ですよ……!? と呟いた。なんでも天龍さんと時雨も出てたらしい。ええ……

 

 

 

 翌日。作戦の日まであと三日。私は朝一で工廠に呼び出されていた。

 というのも、文月が改二改装の担当提督に自分自身ではなく私を指定してきたから、である。本人に聞いてみたら理由はごく単純、チケットの使い方がよく分からなかったからである。猫吊るしの方が分かるんだけど……なんかセットで考えられてる節がある。

「使っちゃっていいの?」

「うん。だってよく考えたら、まず生き残らなきゃだよ。死んじゃったら元も子もないもんねぇ」

 文月はチケットの使用前提で認められたと大嘘を吐き、昨晩遅くに大淀さんから説明を受けたらしい。改二のデメリットに関しては面食らったみたいだけど、それで三十億ドルの正体には得心が行ったようだった。

「でもまさか寿命超越チケットだったとは思わなかったよぉ……」

「参加賞だったもんな」

「ほっといてもなれるかもしれないとはいえねえ」

 最前線でしっかり戦って成果も挙げてる文月であるので使うまでもなく認められていた可能性は大いにある。でも、明らかに激闘が待ち受けている作戦の前に自身の戦力を強化しておきたいって生存意欲が、そこそこに強い金銭欲を上回ったらしい。

 使い方は超簡単なので、自分の時と同じように文月を指定して猫吊るしにチケットを渡す。するといつも通りに叫んだ猫吊るしが私の上に飛び乗った。私の方に乗るのか……いいけどさ。

 

 文月の改二改装は滞りなく執り行われた。何せ昨日から今日にかけてで七人目なのだ、工廠の方も慣れようってもんである。

 そうして出来上がった文月改二は、なんていうか、大きかった。そして、改二としては前代未聞……ある意味では、島風すら超える超問題児だった。文月は前世の世界で、マスターなアイドルとして一世を風靡した一人である。おそらくはその性質が大いに出てしまったのだと思うのだけれど……

 艦隊のアイドル、と言って思い浮かぶのは何であろうか? それは艦これのユーザーならば那珂ちゃんや桃だろう。でも、擬人化コンテンツを知らない人達なら、また違う回答が返って来るんじゃないだろうか。

 

「給糧艦ですねこれ」

 

 中をじっくり検めて、猫吊るしが出した結論がそれである。高速給糧艦文月。それが私の横で唖然としている文月の改二だったのだ。

「ええと、それは……戦闘能力の方は……」

 艤装を付けて妖精さんを認識できている大淀さんが猫吊るしに質問した。嫌な予感に眼鏡を曇らせている。どうやってるんだろう。

「ないですね」

 ええ!? と叫んだのは文月だ。輸送艦と銘打たれた私の艤装でも据え置き程度の戦闘力はあったのに、なんとこの改二はそれをさらに下回っているのである。そりゃあ叫びたくもなる。

「かなり言い辛いんだが……まともな武装無いぞこれ。給糧艦としてはかなり高性能なんだが」

「あっ、装備! 一緒に出来る装備は!?」

 必死な様子の文月に、猫吊るしは艤装から取り出した何かを差し出した。それは棒状の金属製の物体で、先の方が網状の球体になっていて、後ろの方がコードで艤装の中と繋がっている。

「…………ねえこれ、マイクに見えるんだけど」

「うん。まあ…………拡声器だからな……」

 それはどこからどう見てもマイクだった。それもカラオケとかライブとかでよく見る、歌唱用の奴。

 文月は最早無表情になり、それを猫吊るしから受け取った。じいっと手の中のマイクを見つめる文月。長い沈黙。大淀さんもどう声をかけた物か困り果てている。暫くして、文月はゆっくりとゆっくりと大きく息を吸い込み始めた。

 

 

 

『おはようございまあああああああああああああああすっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!』

 

 

 

 超大音声で鎮守府中に響き渡る、超美麗なヤケクソの総員起こしだった。

 

 

 




なおチケットを使わなくても特に改二の中身は変わらない模様。


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ナカガイイナー

 文月が魂から色々絞り出しながら発した絶叫を掻い潜り一旦部屋に帰ったら、なんでかそこにはぐでんぐでんになった初雪がごろんと床に撒き散らされていた。他の皆は文月のチート+特殊装備の総員起こしでお目覚めスッキリ爽快な朝を迎えてるっぽいのに、どうして一人だけ軟体生物のようにふにゃふにゃと転がっているんだ……いや初雪も私達の部屋までは来れてるんだから影響は受けたんだろうけどもね。効果が長続きしなかっただけで。

 こちらに這い寄ってくる初雪を拾い上げ背の低いテーブルの横に座らせると、そのままくたりと崩れ落ち、卓上いっぱいに長い黒髪が広がった。まあ洗ってるしさして汚くはないだろうけどさぁ……もうちょっと遠慮とかなさらない? 毎度の事ながら呆れ返っていると、上の方から何かが私に向かって飛び掛かって来た。それはちょっとくすんだ桃色の髪を翻し、狙い通りに私の背に全体重を乗せて来る。

 下手人の名は漣。姉妹艦の曙に会いに来てそのまま(無理矢理)一緒に寝てた、私達の同期にして適性者達の精神衛生健全化に大いに貢献してると思われる、艦娘コミュニティの管理者である。

 昨晩、曙の改二改装が終わった頃にようやく漣は到着した。自分が直接そこに関われなかったのを心底残念がっていたが、これは仕方がないだろう。文月と違って不老化等のリスクを知った上で封印解除に臨んでいたので、曙は許可申請などが全部済んでしまっていたのだ。

 まあそれ以前に、曙ってばわざと漣の到着前に事を終わらせてたっぽいんだけどね。詳しい話は将来に持ち越しにしたからよく知らないけれど、心境的に色々あるんだろうと思われる。残念がる漣にちょっとだけ自慢げに見せつけてみたりと仲は至極良さそうだったし、悪い意図ではないんじゃないかな。たぶん。

 その後我々の部屋に押しかけてきたので許可待ちの文月も交えつつ就寝まで話したりして、二段ベッドの上から叩き落とすわけにもいかなかった曙と一緒に漣は朝を迎えた訳だ。ヤケクソ気味に行われた総員起こしは時間的にかなり早かったから、さっきまでは二度寝でもしてたのかもしれない。

 そんな漣がなんでか私に襲い掛かって来た。いや攻撃してる訳じゃないんだけど、なんでそんな事してるのかはよく分からない。体重的にはさほど重くない、思ったよりはちゃんと筋肉があるからか初雪よりちょっとあるかなー程度だ。背中からこちらの顔を覗いていたので首を回して目を合わせてみると、漣は私に乗っかったまま、神妙な顔で申し開きを始めた。

「よく考えたらうちらも特型だしぶきぶきに甘えても良いのではないでしょうかと思った次第であります」

「なにそのどっかの悪魔の実みたいなの」

 いや別に甘えるのは構わんけどね。この世界だと吹雪型綾波型暁型の区切りって私達の意識はともかく世間的には微妙で、大枠で特型扱いだったり全員吹雪型扱いだったりで私を長女扱いは普通に可能だし。なので妹として構えと言われれば無しではないのかもしれない。艦娘達は艦これ要素のせいなのか吹雪型と綾波型で別みたいな意識がちょっとあるけれど、まあ私は別に嫌ではないし。でも漣ってしっかりしてる側だから私が何かしてあげられる事とか特に無くないっすかね。

「たかいたかーい」

「おおっ?」

 とりあえず手を回して腰のあたりを軽く掴み、頭上高くまで持ち上げてやる。漣は手足もあたまもぶらんと垂れ下げて、なんだか変な体勢になった。

「からの大回転」

「グワーッ!」

 そのまま水平にぐるぐると回してやると、漣は大げさに叫びをあげた。上の方から曙の呆れた目線を感じる。漣を妹扱いするなら曙も妹になるんだけど、やる?

 

「やー。なんだかんだふぶきんとはお久しぶりなもんですから仲良くしとこうかなーと」

「なにそのどっかの配信者みたいなの」

 床に降ろしてから急にどうしたのかと聞いてみたのだけれど、言われてみればネット上ではともかく直接顔を合わすのは確かにだいぶ久しぶりなんだよね。四国攻めの時は挨拶程度だったし、漣が出向してきた時には私は居なかったし。実際会ったら訓練所と特にノリが変わってなかったので謎の安心感を覚えた。割と曙関連で浮き沈みがあったらしいからちょっと心配だったんだが、その辺りはもう払拭されているらしい。大丈夫だって画面越しに聞いてはいたけれど、本当にもう問題はなさそうだ。

「昨日はぼのたんに構い倒しだったので今朝は他の姉にも行ってみようかなと思った次第でござりまする」

「えっじゃあ初雪にも甘えるの?」

「……良ければ?」

「うぇるかむかもーん」

 漣は一瞬考えたが、初雪的にはOKだったらしい。腕を広げて歓迎の構えである。それじゃあ遠慮なくと漣は飛び込んで行き、そのまま膝に頭を乗せると撫でられだした。割と珍しい風景である。

 片手で漣を撫でながら、初雪は私の事を手招いた。なんだと思えば隣に座るようにジェスチャーされたのでそれに従い腰を下ろすと、かいた胡坐の上に初雪の頭が落ちてきた。漣に膝枕した初雪に私が膝枕をしている構図の完成である。うーんこの。やっぱり甘えられるよりは甘える方が好きだったようだ。

 さてこうなると私も次に繋げた方が良いのだろうかと思えて来る訳なのだが……風香は部屋に入った時から居なかったからたぶん走りに行っちゃってて、文月は改二の云々でまだ工廠なんだよね。なので候補は一人しかいない。私は後ろを振り返り、そこに居た何やってんのこいつらみたいな顔をしている曙と視線を合わせ、隣の床を軽く叩いた。

「やらないわよ」

 まあそう言う気はした。

 

 私達の体勢を元に戻させ普通にテーブルに着かせると、曙はため息混じりに私達を睥睨した。その目からは特型の姉妹艦が変な奴ばっかりで困ってるんですけどどうしたらいいですかねえみたいな感情を読み取れる。

「いやあ、ぼのたんが改二になってちょっと寂しかったもんですからついつい」

「それで私に甘えようとしたの?」

「お姉ちゃん、甘えられるの好きだと思われてるから……」

 誰のせいだろうね不思議だね。いやまあ前世と今世の年齢合計したら年下な皆に甘えるくらいなら甘えさせてる方が落ち着くだろうってのは確かだけどさあ。

「改二目指すならしっかりしてた方が遥かにマシなんじゃないの、初雪の話聞いた限りじゃ」

「どうせ私は艦娘の恥部……お姉ちゃん慰めて……」

 初雪は曙の言葉に涙目になってこちらにもたれかかって来た。でも私は見逃していない。その涙が単に欠伸を噛み殺したから出た物だという事を。なのでちゃんと初雪を元の体勢に戻しておく。そんなーと初雪は鳴いた。

「いやぁほら、あからさまに強いふぶきんぐの好感度稼いでおいたら艦娘の覚えも目出度いかなぁ、とか」

「なにそのどっかの決闘者みたいなの」

 そもそも甘えられて好感度が増えるかと言われると……まあ、正直、何事も無くスルーされてるよりは増えるんじゃないだろうかと思わなくもないけれども、普通に一緒に遊ぶとか、普通にお話しするとか、もっとまともな方法がいっぱいあるだろう。初雪の真似はよろしくない。主に絵面が。

 いやしかし好感度ね。成程? 文月の言ってた通りなら、間違いなく漣はあの話を知っているのだろうから、これはもしかしなくてもそういう事なのだろうか。だとしたら……うーん。

 私と仲良くなると適性値は上がる。らしい。漣の狙いはたぶんそこだ。初雪が重要サンプルだったみたいだから、それに倣おうっていうのは別におかしな話じゃあないだろう。悪意でやってるわけでもなし、可愛い物である。

 でも、適性値だけで許可の有無が変わるって事ないだろうし、普通に心構えとかそういう所の方が重要そうなんだよなあ。長門さんがその典型で、何が気に入られなかったのかは知らないけれど、認められた時はやっぱり心境の変化みたいなのがあったらしいんだよね。

「適性値だけでなれる物じゃないだろうし、集合無意識の漣さんとたくさん話すなりした方がいいんじゃないの」

 何せ私なんてチケットがなかったら今でもなれてたか怪しいからね。覚悟とかなんにも足りてなかったみたいだし、今でもその辺りはあんまり変わってないからなあ。

 私の一般的過ぎるアドバイスに、漣と曙は何故か微妙な表情を返してきた。意外そうというか……ちょっと驚いてる? 初雪もこっちを見つめていた。

「ブリーザ様、ご自分の性質理解していらっしゃる感じですのん……?」

「なにそのどっかの宇宙の帝王みたいなの」

 じゃなくて。うん。うーん。やらかした感じか。そうだよね。私の好感度稼いでるって話だったのに適性値に話が跳んだら知ってるんじゃねってなるよね。いや知ってるのを知られたからってどうなるもんでもないけどさ。

 つーかその反応はもしかせんでも私への情報制限してたな? いや明らかに私に良い影響を与えそうにない情報なんだから当たり前なんだけれども。彼女等視点じゃ完全に確実な話って訳でもなかったろうし。

「ちょっと前に知ったよ」

 創造主から確定情報として貰った。というのは予想だにしないだろうけれども、そもそもよく考えたらこれ普通に想像できる範囲の話なんだよね。私達提督はケッコンカッコカリなんてのもできる訳だから、指輪無しでもできる奴はできるんじゃねって考えが及ぶ人はたぶん少なくない。まあケッコン指輪の効果もまだ実証はされてないんだけども。

「それって、吹雪的にはどうなの? こいつ完全に打算で近づいて来てる事になるんだけど」

「仲良くしたいかなって」

「なにゆえっ!?」

 驚いた声を出したのは漣である。いやなんでって。召集の被害者側が生き残りたいです力貸してくだしあ!! とか頑張って仲間や日本の皆護りたいです!! て言ってきて嫌がる理由どこよ。別に私の適性値age能力はどこぞのYHVHみたいな分け与えるタイプじゃないから損とか無いだろうし、私からの評価にたぶん影響無い……っていうか、動機次第じゃ加点されるまである。

 あと、そもそも私は訓練所時代から今の今まで漣には好感しか持ってないし。それがなんか、適性値上がるみたいだから仲よくしようぜ!! って言ってきたとして、それに対する返答は、マジかよすぐやろうぜ!! にしかならんのよ。

 最初から打算での付き合いだったとしても、結局好きになれるかって他の部分の影響が大きいと思うんだよね。いい人で趣味が合えば好感度なんて普通に上がってくだろうし、わるい人で趣味も合わなければどうやっても上がらないだろうし。関係無くない? むしろお互い意識できる分何も無いよりずっと良いと思うよ。

 さらに言うなら下心隠してきたっていうのも問題にならない。だって隠す理由が私を騙すためじゃないもの。私に言っていいのか分からない、言った場合好きになってもらえるか分からないからって理由で隠してるんだから、むしろ私の事を慮ったが故である。何が悪いのかちょっと分かんないっすね。

 なんてのを簡潔に纏めたらこうなった。

「サザナミマイフレンド」

「しばかれる!?」

 いやビンタとかはしないが……結局これに集約されるんだよなぁ。私と漣はネット上でのものだけとはいえ、ずっと付き合いが続いていたりする。PCコミュは深刻なやりとりとかはあんまりしない、おふざけ全開なところなので一緒に遊んで楽しかった記憶しかないのだ。参加者同士が気を遣い合った結果だと思うので皆いい人なんだと思われる。

 まあつまるところ、誰それだから大丈夫ってのが大いにあるんだよね。他の人なら駄目かもしれないけど漣は大丈夫。あんまり良い事ではないけどね。悟りの道って遠いわ。悟りたいと思った事は特に無いからいつまで経っても遥か彼方のまんまだろうけど。

 私は漣に向かって指を一本伸ばした。漣は一瞬で私の意図に気付くと、自分も指を伸ばしてくる。指と指とがゆっくりと合わさった。私の指は光った。

「えっ」

「えっ」

「えっ」

 周囲の三人が全員驚きに声を漏らす。そういやあんまり他人に見せた事なかったな。

「無効化貫通の力って圧縮すると光るんだよ」

「しらそん!!」

 言いながらも漣は指を離していない。そういうとこだよ。

 

「まあ実際、適性値上げに関しては私からの好感度より漣からの好感度の方が問題だと思うよ。私、宮里艦隊の皆と漣でどう違うかって言われると困るし」

 あと一緒に居る時間か。たぶんだけど時間と距離も関係ありそうなんだよなあ。例の少女は言ってなかったけど、関係無いなら提提督の指輪は扶桑さんや榛名さんに郵送ででも送られてるだろう。特に後者はきっとめっちゃ上がる。

「あー、やっぱそっちも関係ある感じなんです?」

「タブンネ」

 絶対そう。とは流石に言えないので観察結果でそんな気がしたとだけ言っておく。私の側だけが問題だったら収集部隊の時代からお世話になってる皐月さんとかもっと高いだろうしねえ。

「低い方の値が反映されてる感じだと思うよ」

 そんな話だったと思う。平均でもない辺り扱いが面倒臭い。平均だったら……長門さんがえらい事になってそうな気がするわ。

 曙や漣にとってはその辺りの話は納得のいく物だったようだ。聞いた情報から宮里艦隊や提艦隊、五十嵐艦隊では特定の提督と相互に(友情恋愛家族愛問わず)想い合ってる人ほど適性値が高くなってるんじゃないかと考えていたらしい。

「人間関係考えなきゃいけないのめんどくさそう……」

「まぁ、無理な人付き合いしても意味無さそうだしその辺りはいい感じに?」

 無理そうとか言ってはいけない。ちょっとはマシになるよたぶん。

「あんた半端に付き合うと嫌われそうだしね」

「動画の方が印象いいまである。ちゃんと話すと愉快なんですがねー」

 特型の妹達からの言われようが酷い。いやまあ、自業自得というかコミュ力鍛えてなかった私が悪いんだけど。

「ちなみにこの話拡散するのは?」

「止めといた方がいいんじゃない、証拠とかある訳じゃないし」

「指輪でも批判意見があるのに、そんなとこにすら優劣があるなんて言えないわよ」

 曙は溜息を吐いた。確かに鎮守府ごとの格差が凄い事になってるもんね。勘付いてる人達は普通に居るみたいだけど、知らない人たちにまで言うのは無意味に不満を増やすだけだろうなあ。

「ん、む……? ということは、お姉ちゃん的にはお姉ちゃんは私の事大好き……?」

 突然、初雪が天啓を得たかのようにその瞳を輝かせ始めた。漣も確かにと頷いている。曙は胡乱気だ。

 初雪の適性値がかなり上がっているのは明らかで、私に対して相当な好感度を持っているのもまた明らかだ。その上で、低い方に合わせて適性値が変動するとなると、どちらからの方が高いにせよ、私側もだいぶ矢印が大きいのは間違いないだろう。成程……自分で法則に気付いたって事にするとどう足掻いても好感度高めなの自覚してる事になるのか。

 お姉ちゃーんと初雪は私に覆い被さるように乗り掛かって来た。呼応するように漣もその上から体重を預けようとしてくる。

「お姉ちゃんと両想……うわすごい不服そう」

「見た事ない顔してるわね」

「今日一表情変わってますな。しかし正体見たり照れ隠し」

 照れてねーし。なんかこう凄く納得行かないだけだし。嫌いでも何でもないのは確かだけども、私的好感度ランキング上位に来るレベルとか思わないじゃん。そういうの比較するの苦手だから自覚的にはよく分かんないし。

 しかし、私って普段そんな表情変わってないのだろうか。結構分かり易いっぽいのになあ。傍から見たらかなりとっつき辛い奴なのかもしれない。かもっていうか確定だけど。

「やっぱちゃんと顔突き合わせないと駄目ですなぁ……」

 漣がぼやくように呟いた。前は出向の関係で会えなかったもんね。会えてたら漣はもっと強くなったり改二になってたりしたんだろうか。好感度足りてたかは知らんけどさ。

 

 

 

 

 

 初雪も漣も降りてくれなかったのでめんどくさくなって乗っけたまま朝食へ行ったら食堂に着く頃には上に十人くらい乗っかってて入り口から入れなかったりした。頭上からはぽいっとかオウッとか聞こえてたので大体知り合いの犯行であろう。

 ともかく無事に食事を終えて、作戦会議もちゃんとやって、今日も出撃じゃーと艤装背負って表に出たら、そこには吹雪が居た。司波艦隊の吹雪……つまりは四国で轟沈した私に自分の艤装を貸してくれた彼女である。

 お久しぶりですと寄って来た吹雪と挨拶を交わし、背後の工廠から聞こえる文月の歌声をBGMに所用を片付けている島風を待ちつつ雑談に入る。吹雪は昨日到着していたけれど、荷解きや他への挨拶回りで私とは会えていなかった。いきなり曙に突撃した漣よりまともだった結果だろう。

 鎮守府の様子や戦いの事、いつか吹雪の後輩として私の指導を受けてみたい事なんかを話される。まったく参考にならないと思うから止めといた方がいいと言っておいたが、それでも体験したいらしい。妙な敬意……というか憧れのようなものを感じる。

 同じ吹雪でこれだけの違いがあるのすごくすごいですみたいな言われ方をしてしまったのだが、ここに呼ばれてる以上、吹雪って凄い上澄みなんだよね。今回の作戦、九曽神艦隊の駆逐艦で一番強かった卯月すら来てないくらい選考基準が高いんだよ。あいつの場合性格の問題で弾かれた可能性もあるけど、それを差し引いたって経験の少し浅い二期生から選ばれたってのは尋常じゃない。

 ストレートな尊敬のまなざしはただのチート転生者な私には眩しかったので話を逸らし、以前貰ったお芋や実家の事について聞いてみたが、今回は残念ながら持ってきてはいないらしかった。良かったら送りますよと言ってくれたがそれは悪いので実家の連絡先を教えてもらい、今度通販で買う事にする。とっても美味しかったから楽しみ。

 

 そんな雑多な事を話していると、ふと、背後で流れていた歌声が止んだ。吹雪もそれに気付いたようで、顔にはちょっと残念そうな表情が浮かぶ。そのまま工廠の方へ視線を向けると、浮かんだ疑問を呟いた。

「あれ、文月ちゃんですよね。どうして歌ってんだろう……?」

「あれは改二のテストだと思う」

 私が知っているとは思わなかったのか、吹雪は驚いた様子を見せた。どうやら改二の許可が出た事は昨晩聞いていたようだが、実際の改二がどうなったのかは知らなかったようだ。そりゃそうか、改装は今朝行われたばっかりだもんね。

 自然、話題は改二についてに遷り変わる。昨日は改二ラッシュであった事を知ると、感心した様子で皆さん凄いですねと素直な賞賛の声を上げていた。

 そういえば、吹雪は改二はどうなんだろう。かなり強いっぽいのは状況的にも伝聞的にも間違いないから、適性値も相応にあるのだろうけれど。

「私なんて、まだ集合無意識の艦娘さんに会ってももらえないのに……」

 少し落ち込んだ風に吹雪は俯いた。やっぱそうなのか……吹雪に非のある話じゃないんだけど、それは分からないだろうしなあ。

 現状、集合無意識の吹雪さんは本来そうだったはずの人格が切り離されて人間に転生したため、別の側面――深海吹雪に似た容姿の吹雪さんが主人格として活動を行っている。でも、経緯が無理矢理だったせいか不安定で表に出るのも長時間は厳しいらしい上、見た目がその……とても怪しいんだよね。完全に深海棲艦だから。

 そのため艦の内部に引きこもっていて、その姿を拝んだ事があるのは私しかいないのだ。そんな状態なので、当然他の適性者は艦娘に会えないまま艤装を使っている事になる。うーむ、これだと認めてもらうどころじゃないよなあ。

 吹雪さんは悪い艦娘じゃない。だから、たぶん受け入れる事ができれば普通にアドバイスとかは貰えると思う。でもあの姿の彼女に突然出現されたら混乱で話すどころではなくなるかもしれないし、最悪、艤装に対して不信感が芽生える可能性すらある。

 だからって、目の前の背にのしかかる無力感を必死に堪えているように見える吹雪を放っておくのは、先輩として有り得ないだろう。

「吹雪、一緒に来て」

 どこに、とは言わなくても分かるだろう。担いだ艤装を一旦外し、目の前の地面にゆっくり下ろす。時間的にはまあ、中では加速されるから大丈夫。だといいなあ。吹雪は一瞬驚いていたけれど、すぐに真面目な表情ではいっ! と頷いた。

 

 

 

 集合無意識の中に降り立つと、すぐに吹雪もやって来た。一緒に来れるのは吹雪さ……雪吹艦隊の吹雪とやったから知ってたけど、普通の人間でも大丈夫だったようだ。いやそういえば吹雪も吹雪って入ってるからヒロイン? まあ現状とはなんにも関係ないけれども。

 朝焼けに照らされた駆逐艦吹雪の甲板には、相も変わらず机と冊子が設置されている。まあ有用なものではあるけれど、とりあえず今は用がない。用事があるのはその奥の方に見えている、艦内へと続く扉の方だ。

 私がそちらに向けて歩き出すと、吹雪も後ろを付いてくる。少し不安げな様子だけれど、足取りはしっかりしているから大丈夫だろう。艦娘は本来怯えるような相手じゃないし、仲良くなってくれると嬉しいんだけど。

 扉の前に到達すると、それは少しの音もなくゆっくりと誘うように開いて行った。あっと発された吹雪の可愛らしい叫びがその中に吸い込まれて行く。真っ暗な通路の奥で電灯の光が揺れた。

「行こう」

 一声掛けて私は中へと踏み込んだ。何歩か進み、そこで吹雪が来るのを待つ。吹雪はちょっとだけ尻込みしていたようだけど、待ってる私を見つめながら、おっかなびっくり艦の中へと入って来た。

 実は吹雪だけ締め出されたりしないかという不安が無くもなかったのだけれどそんな事もなく、電灯の導きに従って私達は奥へと進んで行った。おそらくだけど、深海吹雪似さんも艤装を通して私達の話を聞いていたのだろう。やっぱり普通にいい人なんだよなあ。

 ただ、見た目に関してはやっぱり普通の艦娘とは違うから、そこだけは先に言っておいた方が良いだろうか。先入観で判断してほしくはないもんね。

「吹雪」

 私は進む足を止め、数歩後ろを付いてくる吹雪の方を振り返った。急な事にはいっ!? と硬い声を返し、吹雪の脚もその場で止まった。

「艦娘は集合無意識内の軍艦の記憶とか記録、イメージなんかから形作られてるって話は聞いてる?」

「えっ……はい! 訓練所で習った……でもそこまで踏み込まなかったような……?」

 そういや初春さんや猫吊るし情報だから一般には出回ってないか。でもこの辺り、艦娘から聞いてる人は聞いてそうだし続行。

「艦娘の姿は基本的に女の子で、友好的な態度をとる。これは……まあ、海上で暮らす家であり頼もしい仲間である軍艦の、味方から見た優しい姿の擬人化なんだと思うんだ」

 私の言葉に吹雪はたくさんの疑問符が浮かんでそうな表情で答えた。うんまあ、いきなりこんな事言われても困るよなって私も思うわ。

「でも、軍艦って当たり前だけど、他の側面もたくさんあって……例えば敵から見たら、勇壮な姿はむしろ自分達を脅かす恐怖を感じる部分になり得る」

 そして人類の集合無意識である以上、艦娘は日本人以外からの印象も確実に入っている……はず。っていうか、魔法使いの子がどう設定したのかは分からないけど、日本人から見ても怖い恐ろしいって感情が無い訳も無いしね。

「この先できっと吹雪さんに会えると思うけど……その、予想と姿が違ってても、驚かないで向き合って欲しい」

 私の言葉に何か良くないものを感じ取ったのか、吹雪は緊張した様子でごくりと喉を鳴らした。ちょっと脅かすみたいな感じになっちゃったからね仕方ないね。でも、再び私が歩き始めた時には、吹雪はさっきよりもしっかりとした足取りで後を付いて来てくれたのだった。

 

 暫く進み、何度か見た錆の浮いた鉄扉へと私達は辿り着いた。普段通りならこの中に吹雪さんは居るはずである。私はちょっと脇に退き、後ろに続く吹雪に道を譲った。今回用事があるのは私じゃないからね、入るのは自分でやらないとね。

 吹雪は躊躇いなく、でも硬い表情で扉のノブへと手を掛ける。するとガチャリと鍵の開く音がして、吹雪が入室を許可されたのが感じ取れた。もしかして私が開けようとしたら開錠してくれないつもりだったのだろうか。譲っといて良かった。

 そのまま吹雪は重い鉄の扉をゆっくりと開き、慎重な様子で部屋の中へと入って行った。お邪魔しますと声を掛けるのも忘れない。私もそれに続き、閉まって行く扉の隙間をくぐり抜けた。

 果たしてそこには人影があった。ちゃんと人型のシルエットで、薄暗いのもあって外から見れば中学生くらいの少女が佇んでいるようにしか見えなかっただろう。でも中に入ってしっかり目を凝らせば、それはなんか、鎖のような物が中途半端に繋がった首輪をしていて、目が赤くて、髪が白くて、短い角が二本生えていて、肌も真っ白で、左手が黒い何かヒレみたいな形状になってるわけで。

「深海……棲艦……?」

 にしか見えないよねえ。私も初見そうなったし、前提知識がない吹雪にとっては余計に恐怖の対象に映るだろう。あと私と違って殴ればなんとかなるとかそういう事もない訳だしね。

 吹雪は深海吹雪似さんと見つめ合っている。私に助けを求めるでもなくちゃんと相手の事を見ようとしてくれてるのかもしれない。やっぱり勇気があるよね。四国でもそうだったし通って来た通路でもそうだった。能力ありきの私の蛮勇とは全く違う。なんかもういろいろ申し訳ないなあ。そもそも吹雪さんがこんな事になってるのも元をただせば私のチート能力さんのせいな訳だし、全方位に迷惑掛けまくってるな私。本当に申し訳ない。本当は吹雪さんめっちゃ良い人だしなんだかんだこっちの事気にしてくれてるっぽいし相談にはちゃんと乗ってくれるし真面目に考えてくれるしほんと頭上がらないくらいお世話になっちゃって本当にありがとうございます。

 

 ――雪、思考が五月蝿い。

 

 あっごめんなさい。

 

 

 

 ――ようこそ。雪村 伊吹。私は吹雪。駆逐艦吹雪の側面の一つ。

 

「あっ、雪村 伊吹です! よろしくお願いします……っ!」

 はっとしたように吹雪は敬礼をした。顔は強張っていて、様々な疑問が胸中を占めているのが傍から見てもよく分かったが、失礼の無いよう表面的に態度を取り繕う冷静さは欠いていないようだ。うーんこれで中学生なんだから有望株である。

 深海吹雪によく似た吹雪さんは、まず自分の事を話し始めた。深海棲艦ではない事。トラブルが重なってこの姿になっている事。っていうかむしろ深海棲艦の方が真似してるんであって自分の方がオリジナルである事。それでも見た目が見た目だから表に出るのは自重している事。そもそも表に出るのはいろんな意味で苦手な事。そして、ここに招待するのは改二にしてもいいと思った相手だけである事。

「それじゃあ、私に何か問題があって会ってもらえなかった訳じゃなかったんですか……?」

 

 ――ええ。客観的に見て、貴女はよくやっているでしょう。問題も起こしてはいないし……そっちの問題児と違って。

 

 吹雪さん私に辛辣じゃない? って思ったら流し目で睨まれた。うんまあ。起こしまくってますもんね、問題。言われても何も反論できない。私が悪いんだよ。

 

 ――貴女は海の恐ろしさも、戦いの齎す狂気も知っている。その上で、それを超えて行けるだけの強さもある。心も、敵と戦う力も、両方。

 

 吹雪は二期生の中でもかなり強い。司波艦隊ではほぼリーダー扱いで、旗艦も務めていると聞いている。なんというか……誰かが言ってた話だけで見ても中学生レベルの子じゃないんだよね。単純に戦闘能力が高いだけでなく、回りの子を導き奮い立たせられるリーダー気質、もしくは長女気質みたいなものを持っているらしいのだ。

 吹雪さんから見てもそれは正しい評価だったらしい。少しだけれど、吹雪さんが微笑んだように見えた。

 

 ――だから、貴女になら改二の許可を与えてもいい。

 

 おお、と私の口から声が漏れた。吹雪も本当ですかと驚きに目を見開いている。課題的なのも無い辺り、余程気に入られてるのではないだろうか。強さ的にはもっと上に感じる龍田さんですら出されてたのだから、やっぱり精神性とかが比重大きめに見られるっぽいなあ。

 

 ――ただ、今はまだ駄目。貴女の体が耐えられないわ。

 

 oh……まあ、それは仕方がないか。なんか体への影響は適性値以外にも個人差があるっぽいし。改二になり易いなり辛いもあるんだろう。

 吹雪も残念そうな顔になったけれど、それ以外は太鼓判を捺されているんだから後は時間の問題である。どの道、作戦がもう明々後日に迫ってるから見送りになってた可能性が高いだろうしね。

 吹雪さんは体が普通に耐えられる程度になったら自分の方から呼ぶと約束した。吹雪の方も明るい顔でありがとうございますと返している。どうやら吹雪さんの姿形や成り立ちに関しては受け入れる事ができたらしい。良かった。器も大きい。

 

 ――そうね……折角ここまで来たのだし、貴女に少しだけ助言をしておきましょう。

 

 その告知だけで帰すのは勿体なく感じたのだろうか、なんとも有難いお言葉を賜った。自力で条件満たしてるんだから当然だろうけど、吹雪は相当見込まれているようだ。私なんて強制だったからなぁ。

 吹雪さんはスッと人の形をした方の腕を上げ、指を伸ばす。吹雪が釣られてそちらを振り向く。その先に居るのは、私だった。

 

 ――これに憧憬を抱くのは止めなさい。

 

 至極真面目な表情である。

 

 ――雪は確かに力はあるわ。けれど……それは、それ以外の能力を保障するものではない。見えている部分に対して真っ当な評価をするのはともかく、見えない部分に過度な期待をするべきではないの。

 

 それはそう。

 

 ――有体に言うとこの子莫迦よ。物凄い莫迦。善良だけれど思慮が浅すぎる。ちょっと頭の緩い普通の同年代と思って接しなさい。

 

 酷くね?

 

 ――あと、こう言われて別に気を悪くもしていないわ。自覚があるのよ。

 

 まあそうっすね。

 

 ――とにかく、ちゃんと伊吹 雪と関係を結びなさい。虚像の手は掴めないのだから。

 

 そうして吹雪さんの話は締めくくられた。いやうん。まあ……過度な期待されるよりは確かにいいんだけど、言い方どうにかなんなかったですかね。ご迷惑掛けまくってるから仕方ないんだけども。

 ほら、吹雪も頭にすっごいいっぱいクエスチョンマーク浮かべてるよ。いきなり全然関係なさそうなアドバイスされたらそうもなろう。まあ吹雪さんから見たら私の馬鹿さ加減と吹雪の憧れの視線の噛み合わなさがもどかしかったとか、色々あったんだろうけどさあ。

 いやまあ主人公補正をさておいても、提督と仲良くなれば少しは適性値上がって肉体の強化も促進されるみたいだから関係ない話でもないのか。真っ当に仲良くなれるならそれに越した事はないし、私にとっても悪い事じゃあないのかもしれない。過大評価はあんまり良い結果には繋がらないだろうし。

 私の中でチート能力さんがバカに限界はないのだ!! って叫んでいる。え、もしかしてチート能力さんが賢さ補正してくれないのってそういう理由……?

 

 

 

 

 

 とりあえず敬語は止めようって事だけ決めて吹雪と別れ、私は島風と任務に出た。今日の仕事は昨日とは逆方向で同じ事をするだけである。またPT小鬼がいっぱい出たけど、まあ基本はあんまり変化はなく、何事も無いまま私達は帰路に就いた。

 そうして工廠に艤装を預け、お風呂に入り夕飯も食べ、今日は昨日に比べて平和だなあなどと思いつつ部屋へと帰る。するとなんでだか金剛さんに呼び出され、私と風香は談話室の一つへと招き入れられたのだった。

 

 部屋のテーブルでは赤城さんが煎餅を齧り、その横では同じように加賀さんとビスマルクさんも菓子を口にしている。私達と入室した金剛さんに比叡さんがお帰りなさいと抱き着いて、北上さんとローザが仲いいねー。ねー。とそれを笑顔で見守っている。その横では榛名さんが夕立の髪を弄っていて、奥の方では霧島さんが扶桑さんと歓談していた。

「召集前からの知り合いで集まってみたんですヨー」

 13人はどういう集まりなんだっけ? って顔をした私に対して金剛さんはちゃんと説明をしてくれた。成程、確かに知り合いばっかりなんだけど……あれ、加賀さん? 夕立は榛名さんと霧島さんの友達だったらしいけど……見た感じだと赤城さん辺りと旧知の仲だったんだろうか。

「へー。加賀さんも誰かの知り合いだったの?」

 ナイスな事に島風が質問をしてくれた。それに答えたのは件の加賀さん自身である。咀嚼していたチョコレート菓子を飲み込むと、顔だけをこちらに向けて喋り出した。

「私の祖父は志乃……霧島の家と付き合いがあるの」

「その縁で沙希さんとも小さい頃からの付き合いなのよ」

 端的過ぎる加賀さんの言葉を苦笑気味に継いだのは霧島さんだった。ほへぇ、意外な繋がり。まああれだけ大きくて構成員も結構たくさんいるおうち(意味深)だし、外部で深い付き合いな人も居るわな。

「おうっ? あそこの……? 何やってる人なの?」

「演歌歌手よ」

 ああ、うん。なんかこう……割と聞くよね。そういう業界とそういう業界のそういうの。うん。詳しくは聞かんとこ。

 

 私と島風が来たことで予定の人員が全員揃ったらしく、金剛さんは手ずから飲み物を入れると全員に配り、再会にカンパーイと音頭を取り始めた。まあ陶器のコップなのもあって打ち合わせてもあんまり音は響かないんだけどね。

 そうして始まった親睦会はかなり和やかに進んで行った。あまり親しくない人たち同士の自己紹介だとかから始まり、心身の健康状態の話や共通の知り合いの話題、指輪の話、各鎮守府の現状とか改二に関する話、提提督の話や色恋沙汰の話、いつかの生放送の話、ここに来るまでの道中での話、それと提提督の話。提督の話多いな? 面子的にしょうがない所はあるけれども。

 意外だったのは提督の事は知らなかった加賀さんが、私の事は召集前から知っていたらしいという事だろうか。と言っても話した事がある訳でなく、すれ違ったか遠目に見た程度みたいなんだが……霧島さんのお家には何度かお邪魔したからその時かなぁ。あそこでは碌な事してないから変なとこ見られてそうでなんか恥ずかしい。

 人数多かったし振られた時以外は聞く側に回っていたけれど、どうやらみんな元気そうで、大きな怪我なんかも無かったみたいだから安心した。まあ、どの人も引っ張っていく側って言われる強い艦娘だからそれ程心配は要らなかったのかもしれないけど、元々は一般人だからね。

 っていうか平均戦闘力やべぇなこの部屋。戦艦と軽巡と空母と駆逐艦と潜水艦の現最強が揃ってんぞ。それぞれ金剛さん、北上さん、赤城さん、私、ローザ……ろーちゃんである。転生者含めたらどうか分からんけど。あと北上さんは改二が軽巡扱いでいいのか微妙か。ちなみに重巡最強はポーラさんだ。酔っぱらって脱ぎ散らかしたり上からマーライオンしてる印象が強いけどクソ強いらしいと聞く。

 比叡さんや霧島さんは改二に対して大いに興味がある様子で、私達改装済み勢に積極的に話を振って来たけれど、誰もそれについては言えなかった。機密指定されてるのもあるけど、そうでなくとも不老化とか易々と口にできるものではない。金剛さんも急がなくていいと比叡さんを抱きしめてなでなでしていた。比叡さんは堪能してた。

 前に猫吊るしも意外って言ってたけど、そもそも改二については改装ペースが早すぎるくらいらしいから焦っても仕方ないんだよね。今朝吹雪が言われたように体の方が追いついてないケースも多いのだろうし。とはいえ、それで納得がいくかは別問題。ローザなんかは早くなりたいですって言いながら指輪を輝かせていた。無意識煽り。

 指輪に関してはやっぱり欲しそうな人は多く、ローザ辺りはお兄ちゃんも来れば良かったのにとか言っていた。二人以上から貰うの有りなんだろうか? 私に対してもちょうだいちょうだいって纏わり付いて来たけれど、島風にあげたので全部って説明したら納得してた。全員。渡せるなら渡しちゃいたいんだけどねえ。

 

 ところで、金剛さんは友達が多い。これは艦娘との間でもそうなのだけれど、当然ながら艦娘以外を見てもそうなのである。つまり、学校やなんかに居た一般人の友達だね。

 金剛さんは召集以降も当然のようにその人達と連絡を取り合っていて、みんな薄々――というか確信していた事だったろうが、生放送のおかげでその全員に艦娘をやっている事がバレてしまっている。それでも本人は交流中に情報は漏らさないように気を付けていて、実際金剛さんから漏れたっぽいようなリークは見受けられない。でも、その逆は普通にあるようで。

「そういえば、瑠実と鈴果と美羽が艦娘になったらしいヨー」

「ええと……柳田さんと南さんと三川さんですか?」

 誰、と一瞬思ったが名字の方は覚えがある。たぶん全員現二年……つまり同学年の元クラスメートじゃなかっただろうか。担任やってた赤城さんが誰か分かってるし。私とは良くも悪くもあんまり係わりが無くて、仲も良くも悪くもなかった人達だ。

「それは公募の方よね、かなり高収入とは聞くけれど……」

 戦闘には参加しない艦娘は、今日本の各地で志願を受け付けている。ただ、戦闘部隊レベル未満の適性であっても艤装を起動できる人間というのはかなり限られていて、その門はかなり狭いらしいのだ。数百人に一人とか数千人に一人とかって噂になっている。適性検査受けてる人達にとってはもう就けるか分かってるからお知らせが来る来ないの話ではあるんだけどね。

「瑠実と美羽は給糧艦らしいから安心安全デース! だけど、鈴果は駆逐艦だから少し心配ですネー」

 まあ、仕事の説明によると食料を生成する給糧艦は勿論、駆逐艦の人も内陸部での収集のお仕事が基本らしいから危険はそんなにないと思われる。海辺に行かなきゃ深海棲艦はまず出て来ないしね。遭難とかはあるかもしれないけれども。

「私達のクラス、異常に適性者が多いわね……」

「私、雪、比奈叡、志乃、榛名、赤坂先生にその三人で九人?」

「先生も入れるっぽい?」

 そこはまあ……入れていいんじゃなかろうか。名前的にヒロイン的なサムシングの一人なのだろうし。うーん。しかしその三人はどうなんだろう、艦名っぽいのは無さそうだけど……私、というかこの雪ちゃんぼでーの影響を受けてたりするんだろうか。少なくとも嫌いではない相手だから、ちょっとだけ上がって中途半端な適性値になったとか有りそうなんだよなぁ。

「そもそも学校単位で多いんだヨー。私と扶桑もだからネ!」

「私もよ」

 そう言ったのは会話より菓子に集中していた加賀さんである。どうやら卒業生だったらしい。もしや思ったより近所にお住まいでした?

「Wow! じゃあ名取先輩と恭子も入れて14人!?」

 まーた知らん名前が出てきた。あ、いや、先輩の方は知らないけど後者の方は覚えがある……ような?

「恭子ってもしかして藤間さんですか?」

「あ"っ、Y,Yes! その通りデース!」

 ああやっぱそうか。別のクラスだけど同じ部活、つまり陸上部の藤間さんか。同学年で普通に話すくらいの仲はあった人だ。やっぱ影響しちゃってるっぽいかなあ、これ。そうなるともう一人も気になってくる。

「名取先輩というのは……?」

 名取、というからには長良型三番艦の名取だろうか。もしや戦闘部隊? 本名の方の可能性もあるけれど、少なくとも知り合いには居ないから、その場合は私とは無関係かな。

 割と呑気してる私をよそに、金剛さんの方はやらかした感のあるちょっと沈痛な面持ちをしていた。冷や汗のようなものも見え、理由は良く分からないが、何かを間違えてしまったとかそんな様相である。

「そうですよネー。気になるよネー……」

 どうしようかなぁと少しの間だけ考えた金剛さんは、ヨシ! と一声を上げると意を決したように何処かへと電話をかけ始めた。ちょっとのコール待ちの後、手にしたスマホからはどこか聞き覚えのある声が漏れてきた。

『もしもs……』

「先輩ゴメンナサーイ!! 話の勢いでユッキーに言っちゃいましたー!!」

『ふぇ……? あー……いつかは言わなきゃだったから、気にしないで』

「ありがとデース……ユッキーに代わりますネー……」

 えっ、いきなり? 相手の人もえっあっはいってちょっとびっくりしてるけど大丈夫? 風香がなんでか横でオウッと鳴いていた。

 かなり申し訳なさそうな顔をした金剛さんが差し出してきたスマホを受け取って、こんばんはと電波の向こうへ声を掛ける。すると相手の方からもいささか緊張した色の声が返って来た。うーんしっかり聞いてみればこれは、間違いなく知り合いの物。っていうか、そうか。考えてみれば、風香と先生を除けば一番親しかったかもしれない。

「お久しぶりです。部長」

『うん、久しぶり、伊吹さん』

 電話の先に居るのは、間違いなく私達が一年の時に陸上部の部長だった人物。扶桑さんと同学年であり、他県へと進学が決まっていたはずのその人だった。つまり正確には元部長。

「艦娘になってらしたんですね……」

『うん……ごめんね、内緒にしてて』

 横では風香が心配そうにオッオッと声を漏らしている。反応的に知ってたっぽいなぁ。私よりは仲良かったみたいだからそういう事もあろう。

 部長は遠慮のない言い方をしてしまえば、風香に心を折られた側の人間である。まあ、私の出現で折られたプライドとかそういうのがさらに粉微塵に砕かれて吹き飛ばされてた気もするが、本人から私が部に所属する前にはもう殆ど折れてしまっていたと聞いている。

 風香は走る事に関しては天才だ。それは私が陸上部に入る前からはっきりしてて、私が入る直前くらいにはもう県内そこそこレベルだった部員を一年の一月目にして一蹴するという暴挙に及んでいる。私が居なかったら間違いなく学生記録破ってるんだよねこの子。私が居たせいでアレな事になったけど。

 まあ風香に関しちゃゲームの設定どうこうはあるのかもしれないけどそれはとりあえず置いておいて、部長とはそんな間柄であるのであんまり私達に対して強気に来る事は無かった。でもだからと言って卑屈になる訳でもなく、嫌がらせをしてくるなんて事もない……かなり人間的に出来た中学生だったと言える。クリスマス会に誘ってくれたのもこの人だったし、風香や私が部に溶け込めてた……かは微妙だが、許容されてたのはこの人の寄与する部分がけっこうあったように思う。

『本当は、何かで一緒になったら挨拶しようって思ってたのね。でも……私、強くはなくて。訓練所も別だったし……』

 聞けば部長は本当に微妙な能力で、極端に弱い層でもなければエースを張れるほどの実力もない、至極真っ当な成績をした艦娘だったのだという。つまり上からしたら普通に使い易く有難い軽巡だったのではなかろうかと思う。

 そもそも、部長は訓練所に入るまで私や風香が艦娘になっている事を知らなかった。そりゃあ艦娘になった事やなんかは言いふらしていい物じゃないから当たり前な訳で、金剛さんに教えられなければ迫真オールマイト部を見るまで私の事には気付かなかっただろう。先に言っといてもらえて良かった。いや良くはないが。

 そうして訓練所を出て、鎮守府で私の動画に気付きそれを見てしまうと、今度は思えてきたらしいのだ。こんなすごい相手に大した事のない自分が先輩面して連絡取るのは、何かとても恥ずかしい事ではないだろうかと。

 だから配属先でちゃんと訓練して戦果も挙げて、もし大きな作戦に呼ばれるくらいになったら、その時は堂々と私に挨拶をしようと決めたのだそうだ。

 問題だったのは、彼女の配属された先が――最年少超無邪気系潜水艦ろーちゃんと超内気覇気皆無系駆逐艦の山風を二大エースとし、ケモミミ超弱気妖怪提督と書類仕事はともかく現場指揮能力が微妙過ぎる超若輩者系最年少司令官を擁する藤艦隊だった事だ。部長の主な役回りは、周囲のメンタルケアだったという。

 そんな訳で実働はともかく訓練は他にやる気のある人が少なかったためそんなにできず、実戦だけでそんなに力が付くほどの才能もなく、四国の時も今回の作戦も呼ばれる事は無かったのだという。うん。たぶん、楠木提督には滅茶苦茶感謝されてると思う。居ないと戦闘以前の部分で破綻するタイプの功労者だこれ。

『作戦、勝って欲しいけど、無茶はしないようにね。弱い私がいうのもなんだけど……』

「ありがとうございます」

 弱い、かぁ……部長は、名前に艦名が入ってる側ではないんだよね。つまり、完全に野生の艦娘。そしておそらく、なのだが……たぶん、元々は戦闘部隊水準の適性値なんて、持ってなかったんじゃないだろうか。

 私には仲良くなった相手の適性値を上げる力がある。これが凄い能力だっていうのは間違いなく、周囲の仲間を生き残らせるのに今現在も役立っているのも間違いない。でもこれ、万能では全くないんだよね。

 この能力は元々艦娘適性を持たない相手には何の効力も発揮しない。これは母が一番分かり易いだろう。まず間違いなく本心から私を可愛がってくれていて、私も母の事はちゃんと好きだ。でも、艦娘としての適性は召集されてない以上持っていない事になる。持ってたらたぶん、金剛さんか島風並みにヤバい事になっていただろう。

 そしてもう一つの問題が、中途半端に仲良くなってしまった場合の事だ。いや、兵力増強って観点で言えば全く問題ではないのかもしれないけれど、生き残らせるって話になると微妙極まりない事になる。

 まあつまりだ、部長は、私と接点さえなければ微妙な適性値で戦場に立たされることは無かったんじゃないかな。って話だ。いや、そこまで弱くは無さそうだし、全然関係ないかもしれないんだけどさ……可能性はありそうな程度の仲の良さなんだよね……

 そしてこの状態、解決方法は明快で、人によって難易度が変わる。あとたぶん物理的な距離とかでも変わる。ここから電話の向こうに効果が出るのか全く分からないけれど、私が今やれる事はまあ、これ一つしかないだろう。

「あの、部長、私自分の携帯から掛け直しますから、もう少しお話ししませんか?」

 横から風香のオウッと鳴く声が聞こえた。ただ、それは否定的な響きではなく、むしろ満足そうな音だった。電話番号は普通に知ってるんだよね。お互い連絡先は交換し合ってるからさ。

 了承の返事を貰いスマホを金剛さんに返すと、私はみんなに断って談話室を後にした。人の多い所で電話するの気が散って好きじゃないからなんだけど、みんなは快く送り出してくれた。どうやら事情は周知されてたものと思われる。私だけかい知らなかったの。

 そんな訳でこっそり密やかに屋上に飛び移り、電話帳から久しぶり……どころか使った覚えのない部長の番号を呼び出してコールする。まあ、適性値上げたいなんて打算で電話してどうなるものでもないだろうし、向こうからの感情だってどうする事もできない訳ではあるのだけれど、ともかく話はできるだけいっぱいしてみようと思う。

 話題も多い方ではないけれど、今回は有難い事に当てがある。部長の去年から今までの事とかもそうだけど、それ以外にも滅茶苦茶気になっている事があるのだ。いや、ほら、興味あるじゃん。妖怪提督の生態。

 

 

 

 

 

 実はケッコン指輪についてローザと山風に渡すのが一番いいんじゃないかと提案したのが部長だった事が判明した翌日。作戦の決行日を明後日に控えた本日。ついに楠木 多聞丸提督が鎮守府へとやって来た。

 やって来たのだが。

「あれさぁ……」

「猫吊るしもそう思う?」

「あ、やっぱり二人も分かるんだぁ」

 猫吊るしも私も、そして文月も、すぐにその事に気が付いた。

 

 

 

 ――あれ影武者じゃね?

 

 

 

「体の使い方上手すぎるし」

「気を付けてるみたいだけど重心とかやっぱ違うよねえ」

「え、二人ともそんなの分かるのぉ……? あたし声聞かないと分かんないんだけど」

 うん。なんだ。あれ件の雇われてるニンジャじゃないかな。きっと、たぶん、おそらく、めいびー。

 え? 本物どうしたの?

 え? まさか逃げた? 私達に会いたくないから?

 え? いやいや。

 え?

 

 え?

 

 

 




(アメリカの方に顔出してるだけで逃げた訳では)ないです。


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マンガカ×デ×カンムス

 収入が無くなって困っている。なんて人間は割とありふれていた。

 まあ何しろ謎の侵略者みたいなのが海から次々やって来ては建物を崩したり道を破壊したり人を殺したりして行くご時世である。海に面した地域に住んでいた人間が生活をそのまま維持なんてできるはずもなかったし、島国な日本な訳なのでその数がまた多いものだからどうしようもない。仕事に関しては些細なものでも募集人数より応募人数の方が多いのが常となっていた。

 そんな中にあっては、その作家はまだ恵まれた方と言える。自分が被災したわけではなく、仕事を任せてくれていた出版社の方が物理的に消滅しただけだったからだ。本人は怪我の一つもなく、持っていた財産を失うような事にもなっていなかったのだ。

 とは言えだ。そもそも欲しい物の多い趣味をしている上にやれ取材だイベントだと散財する機会が多く、元々の貯えが多い訳でなかったところに不意打ちで収入が無くなれば、それなりにヤバいなぁという気持ちにはなってくる。

 雑誌に掲載された自分の原稿は、ネット上での評判を見る限り刺さる人達からはそれなりに高評価を受けていて、担当さん――災厄が始まったあの日以降連絡が取れない――からも問題起こさにゃ続けて行けると太鼓判を押されていた程度には出来が良かった。なのでそんな予想外な方法で命脈を断たれるとは想像だにしてなかった訳で。

 食費はまあ、そこまで食べる方でもないため何とかなったが、とにもかくにも家賃が不味い。大して高い所に住んでる訳でもないのだが、こうなると状況が落ち着くまで実家に居させてもらった方が誰にとっても安心じゃなかろうか。振るわない就職活動の成果を眺めつつそんな事を思っていた所に。それは来た。

 

 最初にその概要を知った時、彼女は自分はいつからフィクションの世界の自分と入れ替わったんだろうと薄ぼんやりと考えた。それくらい、その現実は創作染みていた。

 適性を持った女性だけが動かせる、物理的な攻撃を無効化する謎の異形への、有効な兵器。そんなものが現実に開発され、しかも一般市民から適性者を探して強制的に召し上げるなどと政府が言い出したのである。

 正直に言えば、それなんてエロゲ? って感想しか浮かばなかった。

 尤も、それで自分が登場人物の一人になる可能性なんてのは全く考えなかったし、旅行程度の外出はしてもまともな運動なんかをやって来た訳でもないのに条件に引っ掛かってしまうとも到底思えない。だから検査には軽い気持ちで行ったし、実際、採血も面接も流れるように終了した。

 やっぱこんなもんだろうとちょっとだけあった緊張も肩から降ろし、適性検査レポ漫画なんかを産み出して数日経ったある日。滅多に押されないチャイムが鳴って、普通のスーツっぽい姿の人から色々書類を渡されて、その漫画家は秋雲になったのだった。

 

 

 

 収入にだけは困らんなーと現実逃避しつつ、アパートを解約し家財一切を実家に送り付け、持てるだけの荷物と共に車に揺られ訓練所の寮なる場所に入居すれば、なんか知らんが同居人が美少女だった。

 聞けばまだ中学生の少女であり、一緒に受かった友人と共にこんなところまで来てしまったのだという。それにしても顔が良い。体もしなやかそうでありながらいい具合に引き締まり、一見してスポーツをしていると理解できる。色々と自分と差があり過ぎて、秋雲はかなり不安を覚えてしまった。

 ちょっと自分への不信感が芽生えた翌日、起きるのも支度も速かった凄い格好になったその子を追って朝食へ赴けば、なんか知らんが全体的に顔面偏差値が高かった。いや、普通レベルもたくさん居る。でも、普通じゃないレベルもたくさん居たのである。

 やっぱエロゲじゃね? と辺りの様子を窺っていると、なかなか主の来ない席を見て教官が厳しい顔をしているのが見えた。まさか一日目にして既に問題児みたいなのでも居るのだろうかと一通り訓練生が揃うのを待てば、最後に入っていたその女の子は、やはりというか、美少女だった。

 一見して酷く目を惹く訳ではない。むしろ、その造形美に反して印象は驚くほど薄い。ただ一度注目して捉えてしまえば、明らかに整ったそれが神工鬼斧たる造形をしている事は芸術方面に才ある秋雲にはよく分かった。そうでなければ両立し得ない素朴さと秀麗さだったのだ。

 秋雲は何かしらの物語的なものに巻き込まれているのではないかと疑ったが、その妄想はすぐさま頭から打ち消した。流石に現実にそんな事がある訳はない、という常識は持ち合わせていたからだ。なお現実にはほぼその通りなのであるが、それを知る由はなかった。

 

 訓練が始まると顔の良い連中はすぐに頭角を現した。突き抜けているのは三人程だが、全体で見ても明らかに適性が高い者が多く、もう生まれからしてモノが違うのであろうと『普通』な秋雲は思っていた。

 秋雲は集合無意識への接続こそ最も早かったがそれ以外は平々凡々、良くもなければ悪くもない。普通でなかったのなんて、精々訓練所の様子を漫画として書き留めておく情熱くらいのものである。この頃は自分が最前線で最大戦功を挙げ続ける最強の艦隊に配属され、その中でも一部の異常な連中を除いた最高クラスに分類されるなどとは夢にも思っていなかった。

 秋雲にとっての風向きが変わって来たのは、やはり吹雪との交流が始まってからだろう。派手ではなくとも目を見張るような美少女であるその娘がオタク趣味を持っているなどと最初は信じられなかったのだが、一度ちゃんと話をしてみればその印象はガラリと変わった。良くも悪くも吹雪は普通のオタクだったのである。

 吹雪はある意味、もの凄くバランスの悪い少女だった。口で表現するのは難しかったが、まるで人格形成に自分の容姿の良し悪しが反映されていないかのようだったのである。自分の顔や体が美しい事に自覚はあるが、自分が美しいとは思っていないように秋雲には感じられたのだ。

 オタクでありアウトプットのためのインプットも欠かさなかった秋雲には、そういった手合いについて心当たりがあった。本来創作上の存在であり、現実には存在しないはずのそれ。

 即ち転生者である。それも仕草や好み、圧倒的が過ぎる実力などから類推するに、チート持ちのTS転生者であろう。

 とはいえ、訓練所時代はそんな馬鹿げた妄想は笑い話に変えてしまっていた。そんなローとはいえファンタジー染みた事が現実にある訳ないと秋雲は判断したのだ。そうなると残るのは漫画の描ける自分を先生と慕う超絶美少女である。それはそれでとてつもないファンタジーであるのだが、現実に目の前に居るのだからそれは実在の物だった。

 こんな夢みたいなことがあるのか、と秋雲は自分の感覚を疑った。だが何度確認しても、目の前に居るのは自分の作品を楽し気な雰囲気で堪能している、非実在と言われた方が納得のいく美少女である。それが敬遠されがちな漫画書きという趣味を肯定して、良い部分を褒めてくれたりもするのだ。自分の承認欲求が満たされる音を秋雲は初めて聞いた。

 そうしてドハマりとまではならないよう自制しながらも交流を続けているうち、秋雲はだんだんと強くなって行った。案外才能があったのだろうかなどと思いつつ訓練所を卒業し、嬉しい事に、そのまま吹雪や敬愛する姉貴分と同じ鎮守府に配属されたのだった。

 

 

 

 宮里艦隊員として働き始めてから、吹雪はその特異性をどんどん発揮して行った。ともすれば人外のような扱いをされそうなほどにその能力差は隔絶していたが、秋雲的には訓練所とあんまり変わった印象は持てなかった。

 ただ、召集以前から世界記録を突破するほどの意味不明な実力者であった事が判明したため、フィクション世界の住人説は秋雲の中で濃くなっていった。明らかに存在が普通に比べて大きすぎるため、不自然でないように思えてきたのである。

 そんな中、何故か秋雲は適性検査を再度行われた。結果は教えてもらえなかったが、同時に受けた面子や流れている噂、自分自身の状態などから察せる事は多く、適性値が上がっているのだろうという事はなんとなく理解できた。

 その原因が何かと問われれば、まず間違いなく吹雪であろうことも秋雲は理解していた。明らかに、自分は仲が良いから宮里艦隊に回されたのだろう。周囲の認識とすり合わせてもそれは間違いが無さそうだった。

 そうして吹雪の能力……体質と言っていいだろうそれをほぼ理解した時、秋雲は、さらに吹雪への好感度を上げた。下がる事は無かった。色々と厄の詰まった存在である事は分かったが、ある一点が秋雲にとって非常に重要だったのだ。

 その一点とは、秋雲が吹雪から好意を抱かれていて、その好意が、自身の描いた漫画を起点とするものだったという点である。

 前提として、艦娘は非常に数が少なく、必要数に対して足りているとは到底言えない人数しか存在していない。そうなると、秋雲がさほど強くなかったとしても、戦えなくなるまで残りの生涯を捧げさせられる事は想像に難くない。そしてその戦いにおいて、秋雲が人生を通して培ってきた漫画家としての腕は、本来一切役に立たないものなのである。

 完全に結果論的なものであるが、そうなると秋雲は日ごろから運動でもして身体能力の向上に務める事こそが正解で、夜を徹して原稿を仕上げるなどという行為は、秋雲自身のためにも公益的にも無駄でしかなかった事になる。例えば原作知識持ちのオリ主様なんてのが居た場合、強化プランと称して全体の効率化を計ろうとしたら、真っ先に是正されてしまっていただろう。

 それは秋雲にとって己のそれまでの歩みが無駄であったと宣告されているに等しい。秋雲は描きたいから描いている人間であり、描かずにはいられない人間でもある。漫画を書く事が人生の根幹に関わっている人間なのである。それが無意味と言われるのは、ほぼ人格を否定されるのと同じだった。

 それが、どうだろう。吹雪と接して仲良くなれば強くなれるとして、そのきっかけが、仲を深めるための重要な要素が、自分の積み上げてきたものであるとしたら、どうだろう。これまでの秋雲の人生は、この先艦娘として生き続ける事になったとしても大きな意味を持つようになるのである。

 趣味も嗜好も生き方も肯定してくれる奴を、根が一般的なオタクでしかない秋雲は嫌えなかった。そこに最強美少女という付加価値まで付けば猶更だ。嫉妬とかそういうのはないでもないが、そんな物は些事だと言い切れた。

 まあそれはそれとして自分の生きてる世界が実は完全にファンタジー世界だったと分かってきてやっぱこの子TS転生者じゃないかなあという疑いは増していたのだが、吹雪は二次専だったので事無きを得た。

 

 

 

 この世界で適性値が増すという事は、ほぼイコールして体に対する影響も大きくなってくるという事である。秋雲もその例に漏れず、出せる膂力がおかしな事になっていた。

 そもそも出撃に次ぐ出撃と体の疲労をポンと取ってくれる不思議なお食事のおかげで体付き自体がだいぶ変わっているのだが、それを差し引いても秋雲の筋肉は既に一般的な人間を超えている。試しに海面を殴ってみればパワーゲイザーが発動してしまい、冗談抜きに隔離が必要なのだと妙な納得をしてしまったほどだ。

 幸いな事に握力などが増してもそれを制御するのに問題が出る事はなく、ペンタブを握り日記漫画を記すのに支障なんかは現れなかった。だが仕様上、集合無意識の艦娘から受けてしまう影響が増せば当然のように近づいてくるものもある。そう、改二である。

 それを告げられた時、最初に秋雲が相談したのは頼れる姉である夕雲だった。アドバイスをするというよりは心の整理をするために話を聞いてくれたというのが近かったが、秋雲的にはそれで良かった。夕雲も察していた事だが、腹は最初からほとんど決まっていたからだ。

 この秋雲、深海棲艦には並々ならぬとまでは行かないまでも普通くらいには恨みがある。そのため滅せるのなら滅してしまいたいというのが本音であった。それもあり、少しくらいのデメリットなら飲み干してしまおうという覚悟は既に出来ていたのである。

 問題だったのは集合無意識の秋雲の伝え方である。彼女は言ったのだ。

 

「二度と漫画が連載できなくなってもいい、それ程の決意と覚悟ができたらまた来てって」

 向かいで話を聞いていた文月が顔を背けて可愛らしい笑いを漏らし、川内は何やら納得した風になり、その横で吹雪が少し表情を歪ませた。背後には『草』と書いてある。ような雰囲気になっている。何故ここまで感情が分かり易いのに顔にはあまり出ないのだろう。秋雲は不思議に思った。最初はこれほど表出している訳ではなかったため、気を許した相手に囲まれているが故の発露かもしれなかったが、その辺りの詳細は不明である。

 朝方、到着したばかりの楠木提督の事を眺めつつ何やら話していた三人に、秋雲は相談を持ちかけた。その三人が三人とも改二に到達しており、何か参考になる事を誰かしらが漏らさないだろうかと期待したからだ。主に戦闘能力以外は非常に隙の多い特型の長女辺りが。

「ええと、秋雲先生的にはどうなんですか? 連載」

「そりゃあねえ~。できるもんなら再開したいわけですよ」

 ですよねぇ……と吹雪は呟いた。少しだけしょんぼりしているように見える。強制終了を喰らった秋雲の心境を想って少々気分が落ち込んだのかもしれない。秋雲は実の所、そこに関してはそれほど気に病んではいないのだが。

「ただねぇ、ほら、こないだ特定されちゃったわけでね」

「追加されてたねぇ。まとめwikiとかに」

「あんなマスクとサングラスじゃバレバレだよ。やっぱ特殊メイクくらいしとかないとさ!」

 秋雲は先日録られた動画からその素性を特定された。おそらくは同業者か友人辺りに気付かれたものと思われるが詳細は分からない。ただ、どこぞに晒された個人情報や作品情報に関しては間違いがなく、今後社会復帰するとなった場合に悪影響は避けられないと誰もが確信していた。よりによって術式(性癖)の開示からの領域展開(同人誌丸上げ)が含まれていたからである。二次限定の性癖であって三次元の人間には適用されないものではあるのだが、誰もがその事に理解が及ぶ訳ではないのだ。

「ちょ~っとあれは不味かったね~。表紙に何書いてあってもさ。未成年にしか見えない絵柄だし」

「え、あれって別にエロ本とかじゃないでしょ? 滅茶苦茶痛そうではあったけどさ」

「川内さんや、忍者感覚では普通かも分からんけれども、一般的にショタが苦しみ抜いてるのはアウト寄りのアウトよ?」

 秋雲は二次限定でショタコンである。しかも、明らかに未成年である彼らが肉体的・精神的苦痛に悶える様を読むのも描くのも大好物としている。ちなみに最後には逆転するまでがワンセットだ。見ようによっては王道の少年漫画に見えなくもない。ちょっと中身の9/10くらいのコマが凄い表情になっているだけで。

「雑誌連載してたのは普通の一般向け…………だったからセーフという事になりませんかね?」

「溜めたなコヤツ……っていうか読んだの? 単行本もまだだったのに」

「取り寄せました」

 面白かったです。などと言いつつ吹雪は背景を輝かせた。嘘は全く無さそうだ。たぶん性癖的にはまったく刺さっていないはずなので、純粋に漫画として評価されたものと考えられる。全年齢で普通に雑誌で連載されたそれが、ある少年が追い詰められて闘志を胸に立ち上がる、完全に王道を往くロボット漫画だったからだろう。

 それにしても、これは丁度いい、実に丁度いい。秋雲にとっては、本当に丁度いい状況だった。ちゃんとそれを読んだ人間の生の声が、秋雲はずっと聞きたかったのだ。

「続き読みたい?」

「えっと……できれば」

 ああ、と秋雲は嘆息した。それだ。その反応の全てが何よりの答えなのだ。そう言われてしまえば秋雲は漫画家として、自分の信念――とまで言えるかは分からないけれど、それに従って、その道から逸れようなんて気が一切無くなってしまった。最初から無いといえばそうなのだけど、ファンからそう言われちゃあもう仕方がないだろう。

「はー、デメリットの事とかも聞きたかったんだけどねぇ……必要無くなっちゃった」

「お、決まった感じ?」

「まーねー。私も続き描きたいからさあ」

 尤も、法律的に書けない可能性もあるのだが、その辺りの事は秋雲は詳しくない。出版社が物理的に消滅した場合の版権がどうなるのとか全く分からなかった。それにそれ以前の問題として、改二になろうがなるまいが解放されるわけではないのではあるが。

「と~りあえず、秋雲さんに伝えてくるかぁー」

 また後でねーと三人に手を振って秋雲は工廠へと向かって行った。後に残された吹雪は、頭上にずっといた猫吊るしに今のどっちに決めたのか分かったかと質問していた。なお普通に分からなかったらしい。

 

 

 

 

 

 ――あれま、早い再会だったね~。

 

 にひひと笑って、集合無意識内の艦娘、秋雲が手を振った。なにせ許可を与えてもいいと言いだしたのが昨日の事である。実時間にして十二時間も経っていなかった。

 おいでおいでと招かれるまま甲板の端に腰を下ろせば、向かいには動きを止めた何かが見える。夜闇の中にぼんやりと浮かぶそれの全容は、この空間では隣の少女の持つスケッチブックに収められているだけで、今の所は適性者の誰一人肉眼で捉える事はできていない。

「そんな延々悩む事でもないからね~」

 暗い海を見渡せば、そこには機能を失った何かが一つ鎮座しているだけである。ここにあるのはその一つだけと駆逐艦秋雲のみ。何か一つの事に夢中になれる性質を現してたりするかもしれないし違うかもしれない。秋雲のアバターはこの場所をそう評していた。

 

 ――ま、こんな空間だからさ~、大体もう伝わっちゃってるんだけどもぉ……どうするよー?

 

 自分より少し年下に見える少女が、挑発でもするような笑顔を向けてくる。ちょっと、いやかなりウザい。顔が良いからウザカワイイで済んではいるが。

「ちょっと恥ずかしい事言うけどさー。私にもファンの子って居る訳よ」

 元々若干ニッチ……というか、かなり人を選ぶ趣味をしているが、それでも固定客は居たし、プロになってエゴサをすれば毎回感想を書いてくれてる人も見受けられた。叩きみたいな意見もそこそこあったが、ネット上なんてそういう物だ。プラス意見の方を前向きに受け止められる、そういう気質を彼女は持っていた。

「今回特定されてさー、そしたら、続き読みてぇ~! なんて言ってくれてる人も居た訳よ」

 真っ当な方法で読んだのかとか、そもそも本当に読んだのかとか、その辺りは分からない。でも言われたら嬉しくなる。当然の心の動きだった。

 

 ――続き描きたい?

 

「描きたい!!」

 

 ――だよねぇ!

 

 二人でイエーイと声を合わせて手を突き上げる。なんでかは知らないが、気はかなり合うのだ。影響を受けているのもあるのだろうが、最初から他人の気がしない相手だった。適性とはそういう事なのかもしれない。

「やっぱりさぁ、描きたいものを描いてるのが一番楽しくて一番苦しいんだけど、それが求められてるって格別だよねぇ」

 

 ――いいねえ~。じゃ、そのためにどうしよっかね?

 

「そうだねぇ~。迷うね~」

 言って、お互い笑い合う。迷いなんてそんなもの、全く無いと二人とも分かっているが故だ。その事が完全に伝わるくらいには強い想いで彼女はこの空間へとやって来ていた。

 そのまま少し落ち着くまで待って、集合無意識の秋雲は切り出した。

 

 ――そいじゃ、答えを聞こっか。

 

「あ、改二なりまーす」

 

 ――軽いなぁー……

 

「重く言う意味とは」

 最初から心が通じている相手である。分かり切った答えを確認する作業なんて重くなりようが無かったのだ。儀式的な意味合いがある訳でもあるまいし。

 

 ――ま、無いわよそんなん。

 

 秋雲アバターは持ったスケッチブックを甲板に置くと自分の膝に頬杖を突き、憮然とした表情で自分の適性者の事を見た。その視線には少しだけ羨望や妬心が混じっている。

 

 ――理由聞いていい? 言っとくと、二度と連載できないかもってのは嘘じゃないかんね。

 

 分かってる。問われた漫画家はそう言いつつ立ち上がると、仁王立ちするように少し足を広げ、海に佇む空母のようなものに目をやった。

「私の載せて貰ってた漫画さあ、『戦える力が手元に来ちゃっただけの一般人』が『強い意思を持って』『世界や仲間のために勇気を持って脅威に立ち向かってく』王道中の王道の話なんだよねぇ」

 一部自分の性癖がにじみ出ている所を除けば捻った所のない、真っ当過ぎる作品である。それで真っ当な評価を受けられたのは、捻ったものが氾濫しすぎて逆に刺さる人間にしっかり刺さった結果であろう。

「これがまーだ序盤なのに結構難しくてさぁ。いくら戦えるって言っても、強制されるでもなく、大した見返りがあるでもないのに、滅茶苦茶痛くて怖いところに出て行けるなんて奴、説得力持たせて描くの大変なんだよ。担当さんと描写阿呆程話し合ったよ」

 完全に子供向けならばただただ勇気ある少年で済んだのだろうが、残念ながらそんな内容にもかかわらず、連載雑誌の対象年齢はもうちょっとだけ上だった。ある程度しっかり描き込まなければ、誰も納得して読み進めてはくれなかっただろう。

 

 ――もしかして自分と重なったりしちゃった~?

 

「いんや全っ然」

 これは当人にとっても意外だったのだが、その主人公と自分の心境は、まったく重なる事が無かった。でもこれは、考えてみれば至極当然の事だったのだ。

「だってさー、私は全部強制だったんだよ? 自分から戦いに行ってくれてるような主人公様と同じな訳ないっつーの」

 

 ――ああそれは納得。徴兵だもんねえ。

 

「召集ね。まあ同じだけど」

 結局のところ、検査に受かってから、戦いについては何一つも選んではいなかったのだ。そこにはそもそも選択肢が無かった。意外と戦えたのは持ち前の精神性や艤装からの補助のおかげであって、何かを悩んだ末に乗り越えたとか、そういった手合いの事は彼女の内面ではまるで起きていなかったのである。

「でもここからは違うみたいじゃん?」

 それがどういう訳か、今になって急に自身の決断を迫られる事になったのだ。そのために改二に対して警戒心を露わにする者はそれなりに多く、かん口令が敷かれているのは理解していても既になった人間から何かしらの情報が得られないかと腐心する者もまた多かった。

 

 ――あー……そっか。重なってなかったのに重なっちゃったのね。

 

「そゆこと」

 ふう、と二人同時に溜息を吐いた。片や立ち、片や座り込んでいるが、心境的には同じだ。これはもう、しょうがない。

「私の描いてた漫画ってさあ。どこまで行っても妄想だった訳。現実にやった事ないんだから当たり前なんだけど」

 

 ――ロボット物だもんねえ。

 

「でもこれが、ちょっとスケール違うけど、現実問題として立ちはだかって来た訳よ。もうさ、絶望だよね」

 しかも参考文献が自分自身になるのである。まったく頭がどうにかなりそうだった。

「もう私に、予定してた通りの続きは描けない」

 

 ――自分が説得力を感じないから。

 

「特に、背を向けちゃえば猶のことね。二度と納得のいく描写なんてできなくなる」

 

 ――逃げた奴の心情周りは上手くなりそうだけどね!

 

「だから、私は描きたかった物に近い方を選択する!」

 

 ――理由が違い過ぎて参考になるか怪しいのは?

 

「知らん!! そんなもんは行けば分かるといいなと思います! とにかく私は先へ進む!!」

 漫画を描きたくて描いていて、それが生命活動にも等しい彼女にとって、自分が描きたくて読者も読みたいと言っている物に手を抜くのは、死と同義である。故に、最初からならないという選択肢は存在しないのだ。

 吹雪達に話し掛けたのも結局の所、ならなくていい理由探しではなく、なっていい理由探しである。不純通り越して一般的には意味不明であるというのには自覚があったのだ。

 その吹雪から『本来描くはずだった』連載の続きを読みたいと望まれてしまったため、その漫画家はじゃあちゃんと取材旅行行くか、くらいの感覚で改二になることを決めたのだった。その先に更なる戦いが待っていると、しっかりと理解した上で。

 

 ――まあ、進んだ先で連載再開に漕ぎつけられるかは分からんわけですが。

 

「連載できないだけで描けはするんでしょ?」

 分かってますよと言わんばかりのにやりとした笑顔を向けられて、秋雲のアバターは観念したように首を落とした。その通りだったのだ。むしろ、待っているのは不老の人生である。解放されて連載を持つ事は困難かもしれないが、締め切りを気にしないのならむしろ完結まで行く可能性は上がるだろう。強化されて死に辛くなるというのも含めて。

 

 ――は~。秋雲さんもコミケ行きてぇ~。

 

「私も行きたい、去年無かったし。っつーかあれじゃない? 私が艤装背負ってけば秋雲も見れるんじゃない? 周囲見れるっしょ?」

 異様な状態にはなるが、武装を外せばコスプレと強弁する事は可能だろう。重さや大きさの問題で特定区域から出られなくなるかもしれないという問題はあるが。

 

 ――じゃあそれのためにも、一緒に頑張りますか!

 

「お、それじゃ?」

 

 ――合格って事で。理由アレだけどまあ……方向性に文句言うほど野暮じゃないのさー。覚悟はちゃんとできてるしね。

 

 気が付けば、視界の奥では動かなくなった空母――ホーネットが少しその像を結んでいた。

 

 

 

 

 

 尚、大きな作戦がすぐそこだったため、改装はそれが終わるまで持ち越される事になった。

 秋雲は漫画のネタが増えたと喜んだ。

 

 

 




問題起こして連載中断するの止めて♡止めろ(凄い続きが気になる所で打ち切られた漫画を眺めながら)

半分くらい秋雲の事にしようとか思ってたら長すぎて秋雲で終わる不具合。
ちなみに秋雲が秋雲適性があったのは探照灯使ってでも描こうとする謎の執念に感応したからです。


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実はアドリブ力も評価されてたらしい

 私達が影武者ニンジャに気付いた事に気付いた川内さん曰く、あれうちの棟梁。だそうである。ちなみに実父。へー長の一族なんだ……じゃなくて。

 なんでバラしてんですかね川内さん。教えて良い事と悪い事ってあると思うんですよ。これは明らかに良くない事じゃあないですかね。なんて思って聞いてみた所、そもそも川内さんはそれに関して疑ってる人には話してもいいって許可を貰っているらしかった。

 まあ変な疑い持たれるよりはいいのか? いやでも川内さんがそっち系の人なのは……知ってたでしょって? はいまあ。そうですけれども。知ってたの知ってたんですね。え?誘導したらほぼ白状してたし言外にも出てた? あー魔法使いのあの子が言ってた情報抜かれてるってそういう……ニンジャ式読心術みたいなのもありそうだし私じゃ駄々洩れか。なんか文月ですら隠しきれてなかったみたいだし。あ、養子には行かないです。っていうかその場合あの影武者さんの義娘になるんだろうか。

 

 なんて与太話をしてたら秋雲先生に声を掛けられて改二について相談をされたんだが……あの問答で改二になると決めたらしいのはちょっと意外だった。その場じゃ明言してくれなかったからやきもきしたんだけど、その決断が良かったのか悪かったのかのかは正直分からん。

 ちなみに秋雲先生の漫画が載った号は私達の部屋に置いてあるし閲覧自由である。届いたのはごく最近だが、当然文月も読んでいるし島風も読んでたし曙も軽く流し読みくらいはしていた。いわんや初雪や漣をや。である。

 なお秋雲先生の正体が完全にバレてしまったため今後高騰すると思われるのでその前に注文出来て良かったと思います。いやなんか秋雲先生変な人気が出て某艦娘関連スレの瞬間最大風速が偉い事になってたんだよね。凄い性癖持ちのプロの漫画家艦娘でエリート艦隊入りしてるし吹雪と仲良さそうとかキャラ立ちすぎだろって言われてた。性癖に関しては二次元限定だろ流石にって擁護しておいた。割と同意貰えた。

 

 

 

 

 

 朝の作戦会議へと赴くと、そりゃあそうなんだが、影武者さんもしっかりと参加なされていた。ちゃんと指示は受けていると思われるし、本人もその手の事に詳しいのだろう、発言もかなり積極的にされていた。でも、それでいて違和感を抱いた人は殆ど居なそうだった。

 長門さんくらいかな、気付いてたの。旗艦をやっていない今は名目上宮里提督の補佐として居るんだけど、影武者さんには何処か納得の行かなそうな視線を送っていた。義理のらしいけど親子だから分かっちゃう事もあったんだろうなあ。ただそれ以上態度に出てなかったし、特に何かを言う事もなかったのでそういうのが居るのは知ってたか可能性くらいは元々頭にあったのかもしれない。

 

 そんな訳でミーティングは多少の修正が行われつつも問題は起きずに進み、結果、本日の私達の任務はちょっと意味の分からない事になった。そう、修正されたのは主に私率いる第十艦隊だったのである。

 率いるって言っても構成員二人だけじゃん……って思うじゃん? 私もそれだから気楽に旗艦やってるのもあるじゃん? でもさ、なんでか、今回違うんだよなあ……

 

 

 

 

 

 舗装された道路を車で行く。使っているのは四国や九州でも使った例の改造車だ。対向車の居ない道をそこそこの速度で走るそれの、開き切った天井から顔を出し、私は耳を澄ませた。

 聞こえてくるのは声。四方八方から返ってくる一定の波長の音波が、私の耳に周囲の地形や物体、生命の有無を知らせてくれる。その範囲、実に半径5km以上。広いか狭いかで言ったら糞広い。意味分かんないくらい広い。色々視え過ぎて体は大丈夫だけど中の私が混乱しそう。たぶん地球が丸くなかったらもっと視えそうなのが酷い。

 もうチートやチーターやそんなん。まあマジで貰った能力で聴覚滅茶苦茶ブーストしてる訳だから疑いようもなくチートなんだけども。しかも今回三人分だし。実際聞いてる私と、集音のために艤装を稼働させてる猫吊るしと、声の主である文月のね。

 いやあ、凄い豪華だぞこの車内。なんせ現状ようやく二桁行くくらいしか居ない改二の艦娘が三人も乗ってるからね! 私と島風と、あと文月。乗り合わせてる皐月さんは出発前に場違い感が凄いって漏らしてた。

 文月は艤装を稼働させつつ、透き通るような真っ直ぐかつ一定のかなり高いそれでいて美しい声を出し続けている。何が凄いって、その喉から出てる概念的には声であるはずのそれが他の雑音と一切混じり合わない事だ。しかもある程度の厚みなら一部を反射して存在を知らせつつ貫通する。おかげで地面の中とか以外、周囲の物体は完璧に捉えられるのだ。

 そしてそんなとんでもない波長はほぼ息継ぎ無しで出され続けている上、改二の特別な装備だとはいえ拡声器を通しても性質を損なわないのである。知ってるつもりだったけど想像以上に意味が分からない。一つの事に特化したチート能力ってこうなるのか……

 たぶん魔法的な効力でも付与されてるんじゃないかと思われる癌にも効きそうな声を耳から摂取しつつ、私は周囲を観測する。虫やら動物やらは居るけど他には何も無し。平和なもんだ。まあ避難区域の中だから当たり前なんだけどね。

 

 今回の私達の任務は、給糧艦文月改二の特殊な運用のテストである。まあその……私が水中なら五十キロ視通せるのを、文月の特殊装備と組み合わせれば陸上でもできるんじゃね? って話だ。

 うん。影武者さんから意見が出て、実際やったら見事にできちゃったんだよね。楠木提督がやれって指示したんだろうから可能なの分かり切ってたけど、正直やるまで私ですら半信半疑だった。それ専用の声のチューンナップを一瞬で完了させる文月のおかげでチート転生者を見た現地人の感覚が少し理解ったのは収穫だったかもしれない。

 ともかく基地の中ではできたので次は外に出てやってみませうという事になった訳だ。車に乗りながらやれたらかなり汎用性が広がるからね。北海道で陸上の索敵に使えそうなら使うつもりらしい。明後日には北海道攻めするのに急遽そんな事やってていいのかって気はするけど、陸上で遮蔽無視して五キロも視えれば先制攻撃し放題だからね仕方ないね。

 そんな訳で急遽(大淀さん視点)私達は特殊任務に就くことになった訳である。ちなみに大淀さんは楠木提督(影武者)を畏怖と尊敬の入り混じった表情で見ていた。どっからその可能性を見出したのか事情知らなきゃ全く分かんないだろうからなあ。

 今回一緒に働く面子はいつもの私と島風といつも一緒の連装砲ちゃんたちに主役の文月、それと運転手の球磨さん、最後に医療班の皐月さんの五人である。皐月さんは陸上任務だからって最悪を想定して指名された訳だね。

 球磨さんは四国でもご一緒したあの球磨さんである。いつの間にか久曽神艦隊から異動していたらしい。出発前に聞いたけどやっぱり広い北海道で特殊車両の運転手と艦娘を両立できるのを見込まれての事のようだ。

 あと……まああれだな、今回抜擢されてるのを考えても私との相性が悪くないんだろうたぶん。本人的に嬉しいかは分からないがそのうち戦闘部隊入りできるようになるのかもしれない。いや私次第ではあるんだけどさ。

 

 じゃあちょっとその辺りパトロールしてきますかーと念のため燃料なんかも私の艤装にいっぱい積んで出発した我々だが、とりあえず走行程度に動きながらの索敵が可能だというのはかなり早い段階で判明していた。何せ私が数キロ先にある看板の内容を言い当てるものだからそりゃもう疑いようも無いってものだ。鎮守府まで来るのに海を通って来た私達はこの道を見てすらいない訳だからね。

 いやあ凄いんだよ文月音波。どういう訳か表面の凹凸まで分かるから印刷してあるものが分かるんだよね。つまり色こそ分からないものの目視しているのと大差ないくらいその場の状態が理解できちゃうのだ。ちなみにそれを言ったら皐月さんはお前は何を言っているんだって顔になった。その後試してみて百メートルくらいなら自分でもやれる事に気付いて目頭を押さえていた。疲れ目だったのかもしれない。

 そうやって皐月さんの精神力を犠牲にして分かったのだが、文月のこの能力は私以外と組んでもある程度発揮が可能だった。猫吊るし曰く、たぶんソナーが上手な人程遠くまで分かり、苦手な人ほど範囲が狭くなるという。ここに居る面子だと私>島風>>>>>皐月さん>球磨さんと見事に適性値順になっている。私と島風であんまり差がないのはどっちも静止状態だと地平線まで届いちゃってて計測不能だから。縦方向でなら測れるかもしれないけど特になんも無いしなあ……今日快晴だし。ただ島風は動いてると精度が落ちるっぽいので一応私の方がちゃんと聞こえてはいるっぽい。

 残念なのは文月一人でやるのが難しいって事だろう。出し続けながら集中して聴くのは流石に無理があるらしい。まだなれないからねーってきゃわいい声で言ってたので習熟したらできるようになるのかもしれないけども。ただその場合でも文月の探知能力次第で範囲が変わってくるし、素直に得意な人と組ませた方がいいと思われる。どの道最低二人居ないと運用の許可は出ないしね。

 ところで、島風で範囲は十分、皐月さんでも壁越しに建物内部の様子を把握できそうなこの性能だと、どう考えても私って必要無いんだよね。他のソナーが得意な誰かでも普通に行ける訳だから。まあ耳が良いと周知されてる私を指名しないと説得力が無いとかそういうのもあるんだろうけど、それを加味しても私は他の事をやってた方が明らかに効率がいいと思われる。それこそ昨日一昨日の続きでもなんでもさ。

 なので実は、この実験は主目的ではないのだ。というのを地平線付近で組体操してる10体の小鬼群を発見した事で悟る私なのだった。

 

 

 

 ピラミッドの頂点に立っていた(過去形)小鬼が指差して居た地点をよく見てみれば……というか、よく見るまでもなく、そこにはド派手に何かが引き摺られたような跡と、押し倒された草木があった。おそらくは深海棲艦の移動跡。横の道からもっと大きいこっちの道路に上って来たようだ。ただ、周囲にそいつらは見当たらないので通ってから少し時間が経っている物と思われる。

「数は正直まったく分からんが、だいぶデカいのたくさんとそこそこデカいのもっとたくさん、小さいのも大量……いやどっから来たんだこれ?」

「サーチ範囲内には……居ないか。方向的にはこれどこに向かってるんだろ」

「このまま道なりに行くと避難区域を抜けるね」

 目的地は分からないけど、そこから先は普通に人が暮らしている。入られたらすぐにアウトだ。一応本体からは走って逃げられない事もないだろうけど、艦載機で追われたりしたら無理だろう。そもそも砲撃してくるし。つーか五キロ範囲内に居ないって事はもう入ってないかこれ? 避難区域って滅茶苦茶広かったりはしないんだぞ。

 となると、一刻の猶予もないだろう。幸いなのかなんなのか、この隊の旗艦は私だ。正直中学生が判断するような事柄ではないし、無線も繋がる以上本来なら鎮守府側の判断を待つべきなんだろうけど……実は出発前に私達は指示を受けている。もし深海棲艦が見つかるようなら駆除してしまって構わないってね。そしてこれは見つけたの範疇だ。私がそう判断した。

 私と同じく文月の声を頼りに索敵している島風、地面を調べている皐月さん、基地と通信しようとしている球磨さん。その三人を置いて、私は周囲を見回しながら音波を振りまき続けている文月を抱え上げた。

「球磨さんと皐月さんはそのまま鎮守府への連絡をお願いします。島風はその護衛と索敵。文月は声出し続けて」

 文月の腹に負担が掛からないよう、かつ私の片手が自由になるよう脇に抱え込む。むうん給糧艦になったせいで大型化してるのがネック。とはいえ私なので重量的には問題ない。猫吊るしは何をする気か察してしっかりと私の頭に貼り付いた。

「問題があったら無線ください。私が行ってきます」

 返事を待つ暇は無いし、それだけ言い残して地面を蹴る。小鬼が居た以上ある程度の猶予はあると思うけど……それでのんびりしてて誰か亡くなりでもしたら目も当てられない。島風の了解ーという声を背に私は発進した。

 

 文月の声は高速移動中でもしっかりと耳に入って来た。走り出した直後は突然の超スピードに恐怖で引き攣っているにもかかわらず麗しさで声優アワード掻っ攫えそうな声になっていたのだが、そこは流石人生四周目というべきか、すぐに気持ちを立て直して速度に合わせた音波を喉から出す事に成功していた。

 敵を見逃すとまずいから連れて来たけれど、ちゃんと能力を運用できるかは正直賭けだったので凄く助かる。おかげで周囲の事がはっきりと分かった。っていうか高速移動してるのにそれはおかしいし声って概念の何かであって音ではない可能性があるなこれ。

 敵さん等は若干の破壊痕を残しながら道なりに真っ直ぐ進んでいる様子で、逸れた個体は見受けられない。幸いというべきか、統率はしっかりとなされているようだ。普通なら地上で完璧な連携してくるような奴らは最悪なのだけれど、チート転生者からしたら纏まってくれてた方が色々楽だからね。

 周囲は田舎という雰囲気を潜め、そこそこ発展した都市部の様相に変わって来た。通り掛かりに轢き潰されたのであろう電信柱やら崩れた塀やらが目立っている。まだ人間は見当たらないが、これは急がないと不味いだろう。私はさらに足に力を込めた。文月は声以外の部分で驚愕や恐怖を表現した。

 

 そうして時間にしてほんの少し、距離にしたらそこそこ進んだ頃、敵の最後尾を私の聴覚が捉えた。ただそれは、地面を這い回る艦船連中ではない。そいつは空を行く直掩機だった。そりゃ高い所の方が地平線より先に見えるわな。っていうか、それで気付いた。地面走るより高く跳んだ方が索敵範囲広がるじゃんこれ。五キロくらいしか分からないの反射と角度の問題なんだからさ。

 そんな訳で私は上空へと飛び上がり、そのまま放物線を描いて進み飛んでる敵機を踏んづけた。落ちて爆散するそいつ。私はさらに高く跳ぶ。真下には敵の群れが広がっていた。

 前方を行く足付きのイ級やロ級、その上に乗っかるPT小鬼、その後ろには手で歩くト級やヌ級、合間合間に人型のリ級やヲ級、タ級やレ級なんかも混じっている。なんか下級の中には普通の奴よりデカいのが結構居て、避けられないなら耐久力を増そうって装甲を増設しまくったタイプなんじゃないかと思われた。浮けるか怪しいしもしや陸戦用? そんなの有りなのか。

 その他所々に鬼か姫級のようなものもおり、見分けは難しいが左の方に居るのはたぶん護衛独還姫……かなあれ。右の方にはなんか丸い……アンツィオ沖棲姫か? なんかそんなのもいて、全体にかなりのハイペースで前進していた。

 中心に居るのはまるでタコのような姿をした深海棲艦、戦艦未完棲姫。その周囲にはちっちゃいタコじみたマスコットみたいなのが追従している。かわいいかもしれない。そして最後方を固めるのは欧州水姫だ。凛々しい雰囲気だが既に死んでいる。もう撃った。

 しかしなんか見た感じ大小合わせて……五百匹以上居ないかこれ? 道に沿って移動してる上に左右に建物があってそこからはみ出す気が無いのか隊列が間延びしてて分かり辛いんだけど、どうにも四国でかち合った連中よりも数が多く見える。質もあれに比べると段違いだし、とんだ大規模襲撃だ。マジでどっから来たこいつら。ちゃんと海は見張られてるはずなんだけどなあ、どっかに穴があったんだろうか。

 いやーヤバいなこれ。私でもそこそこ駆除に時間かかるぞ。流石に何時間もかかるって訳じゃあないけど、一瞬でけりを付けるのはちょっと無理。勝てるかと言えば勝てるだろうし文月はまあ、悪いけど遠くに放り投げれば安全だろう。殴れば倒せるし結構積んでるから攻撃手段も十分ある。周囲の被害とか考えなきゃ負ける要素は特に無い。

 

 じゃあなんですぐ終わらないのがヤバいのかって言うとだね。もう先頭が一般人にエンゲージしかけてるからだね。

 恐慌状態で叫び声上げながら背中向けて逃げてる人とか腰抜かして倒れてる人とかそれを見てか勇敢に物投げつけようとしてる人とかが居るからだね。

 

 不味い。これ直近の人達だけ助けてどうにかなるか? 敵の通ってる道沿いの建物、その中からはしっかり人の気配がする。さっきまではたまたま誰も居なかっただけでとっくに避難区域は抜けてた訳だ。本当にたまたまかはともかく家から出て来てないから助かってるけど……ぬう、物音気にして顔出されるだけでも危ないぞ。つーかこの異常事態、落ち着いて行動できる人がどれくらい居るんだ?

 敵深海棲艦は何故か二体だけ異常に突出していて、他の奴等とはかなり距離が空いている。一番前に居るのはPT小鬼。たぶん転生者の分体だろう。こいつが先行して自分を見せつけて逃げる時間を捻出してくれてたんだと思うけど……そのすぐ後ろでは追いついたのか付いて来たのか、恐らく重巡棲姫だろう人型がナメクジだかウツボだかよく分からん形状の艤装を振り上げようとしている。奥に見える倒れ込んだ人を叩き潰そうというんだろう。

 その周りではそいつを見た女性が叫びをあげている。そしてその悲鳴が悲鳴を呼んで人を引き寄せちゃっているっぽい。あかん、どうにか避難誘導しないと際限なく増える悪寒がする。つーか思いの外辺りに人通りが多い。特に一つ隣の道路に人が集まり過ぎている。なんだ? 祭りでもやってるのか?

 私が急いで全部倒すにしても数が数だから数分は掛かる。その間全砲門が私だけを狙ったとしても、流れ弾が絶対周囲に飛ぶ。急いで避難するか家の奥でじっとしててくれれば手は出させないしできるだけ誘導して被害は減らすけど、近くに出て来ちゃったりしたら私だけで守護り切れるか? 建物に向かって撃ち込むのは今の所してないけど、そもそも嫌がらせ大好きらしいアイツらが私だけを狙うとかあるのか?

 いや……違うか。私一人じゃあないな。頭上には猫吊るしも居るし、今はもう一人、仲間がここに居るわ。そういう能力は私よりありそうな転生者が、腕の中に!

「文月、民間人多数、なんでもいいから落ち着かせて遠くに誘導できない!?」

「無茶振り!?」

 しょうがないじゃん相談してる暇もないんだから。今現在私は空中、次の足場に到達したら敵軍と一般人の間に跳んでって囮でもなんでも始めなきゃならん。放物線描いて落ちてる今しかシンキングタイムが存在しないのだ。文月が状況把握してるのかだって正直よく分かんないわけで。

 でも、文月の回答はたった一瞬の後だった。

「賭けになるよ!?」

「あるのか!?」

「任せる!!」

 ちゃんと文月は下がどうなっているのか理解できていたし、案もお出しできるらしい。高く跳んだから肉眼で確認できたのだろう。猫吊るしもびっくりだ。判断力もあるし、頼もしいなこの転生者の先輩は!

「じゃあ投げて! 一番高い建物の上!」

 いいのかそれ。って一瞬思ったけれど、それを聞いた時には私の足は敵の飛行機に付いていた。だから聞き返してる暇は全く無く、私は足下にさっきまでより強い力を篭め、文月を高く投げ上げつつ敵機を蹴り、前方に向かって飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこはある程度発展した都市部である。海からはそれほど遠くなく、しかし、深海棲艦が易々と来られる距離でもない。高層ビルが立ち並ぶような事は無いが、中心部へ行けば五階建て程度のそれならそこかしこにある。そんな普通の町だった。

 特徴があるとしたら、避難民たちの暮らす仮設住宅地が複数存在している事と、そこに暮らす、暮らさざるをえない人々と元々の住民の仲が――かなりオブラートに包んで言えば――あまりよろしくない事だろう。大きすぎる生活水準の格差への不満と、急に現れた自分達の生活を脅かしかねない隣人への恐怖。凶悪事件に発展しないだけの分別を互いに持っていたのが幸いだったと言える。

 当然政府が何もしていないなどという事は無く、でき得る限りの支援活動は行われている。少なくとも雨風を凌ぐのに困らないそれなりに衛生的な住居は提供されていたし、最低限の衣服なども支給されていた。しかし、それだけで生きて行ける人間というのは、悲しいかな、それ程多くは無かったのである。

 そんな何かが起きれば一気に治安が悪化しかねないよくある状況の町に、ある日外から大きな一石が投じられた。食糧事情の改善のための特殊な生成食料品の支給。つまりは艦娘の給糧艦によって生産された人工食料が町に降ろされる事になったのだ。

 告知された支給予定の中には驚くべき事に嗜好品の類が含まれていた。多くの人間は訳の分からない製造法で生み出されるそれらの事を内心では疑っていたが、自分のため家族のために入手の機会を逃せるはずもなく。結果、支給当日には朝から大勢の避難民が詰めかけ、配布開始から暫く経った時点でも列が公道にまで長々と伸びている状態であった。

 

 それが人前に現れたのはそんな折である。最初に発見した男は、それが何か被り物をした歩けるようになったばかりの赤ん坊だろうと思い、はて親は何処であろうかと辺りを見回しつつ、息を切らせて車道をふらふらと歩くその子供に近づいて行った。

 その男の不幸は侵略者達の個々の見た目について詳しくなかった事だろう。その姿形は公にされており、分かる人間なら一目で気付けたはずなのである。その子供が、PT小鬼と呼ばれる小型深海棲艦の一種である事に。

 それは無防備に近寄ってくる男を見上げると、にちゃぁと邪悪な笑みを浮かべ、自分の頭に付いた艤装から細長く黒い筒状の物を取り出した。そして上げられた顔が異形のそれであったことに驚き足を止めた男の方へと一歩踏み出し、そのままべちゃりと倒れ伏した。

 転んだ。男がそう判断した次の瞬間。その小鬼の手からこぼれ宙へ放たれた黒い筒が地面へと勢いよく接触し。盛大な爆音を響かせながら表面のアスファルトを消し飛ばした。何とも分からない破片が辺りに降り注ぐ。何が可笑しかったのか、PT小鬼は転げながら笑いだした。

 その急な日常の崩壊に男の脳が機能不全を起こし、下半身への命令系が麻痺したのは致し方の無い事だっただろう。強かに尻を地面に打ち付け、裏返った声で叫びを上げる。何が起きたのか、まともに判断は付かなかった。ただ、ここから一刻も早く逃げ出すべきだという事だけははっきりと理解できた。

 周囲から悲鳴が上がる。それは男の向いていた方向、つまり、小さな深海棲艦のやって来た方向からだった。そこには異形があった。真っ白な女性と、その背に付いた形容し難い一対の胴の太い蛇のようなもの。重巡棲姫と呼ばれる絶望が、道路の中央を練り歩いていた。

 それは足早に男に――否、未だ笑い転げ続けている小さな深海棲艦に近づくと、何をしているのか問い質した。そして元気良く、転ンダ!! と返されると、蔑み切った目で矮小なそいつを睨み、シズンデシマエと吐き捨てる。

 その間中、男は逃げようと地面でもがき続けていた。だが混乱した神経は容易には元に戻らず、ほんの少し遠ざかるのが精々である。騒ぎを聞きつけた人間が事態に気付き、更なる悲鳴が上がる。それが耳に刺さり、重巡棲姫は煩わしそうに辺りを睥睨した。

 そうして初めて、重巡棲姫は地面を這いずる男に気が付いたようだった。蔑んですらいない、ひたすらに冷たい視線が男に向く。それの腰に付いた異形の蛇か魚のようなものが持ち上がり、先端に付いた大口を開きだす。誰かの投げたアスファルトの破片が跳んだが、まったく見向きもされていない。さもありなん。それらにただの物理攻撃など無意味である。

 口腔を見せる大顎。響く悲鳴。大きくなる小鬼の笑い声。男はその時ようやく悟った。自分はきっと、あの生物とも分からぬものに噛み砕かれ、一つ持った命を散らすのだろうと。通り道に生えた雑草を踏み折って行くように、なんの感情も向けられることなく死んで行く事になるのだろうと。

 立つ事ができれば、いや、せめて転がって逃げる事でもできればまた終わり方は違ったのだろうか。凶器が振り下ろされるのを妙にゆっくりと感じる中で、男はぼんやりと考えた。

 男には全てが緩慢に感じられた。そのせいだろうか、目を閉じるという反射すら上手く働いてくれない。まるで悪夢だ。覚めないのならばせめて痛くなければいいと頭のどこかが考える。少しずつ迫ってくる大口とまったく表情のない女性部分。視界の端に、何かが降り立った。金属製の物が潰れる鈍い音。遅れて軽い地を蹴る音。何か、深海棲艦とは別の影が男を覆った。

 

『すまない。ギリギリになってしまった』

 

 辺りに澄んだ声が響き渡った。同時、男に向かって振り下ろされていた異形の顎が、破裂するように砕け散る。

 

『だけどもう大丈夫!』

 

 男にとってもどこか聞き覚えのある声だった。身近な人間の物ではない、しかし、ここ数カ月は何度も耳にする機会のあった声。その主と思われる人影は、振り抜いていた拳を引き戻し、逆の腕で深海棲艦の女性体を打ち抜いた。

 

『何故って?』

 

 金属片を撒き散らしながら吹き飛んで行く女性のような姿をした侵略者。一撃。いや、最初のを含めて二撃か。男の悪夢は、たったそれだけの時間で終わりを告げられた。

 

「私が来た!!」

 

 振り返りながら美しい、そしてそれ以上に頼もしい笑顔を向けてくる。それは画面越しに何度も見た、英雄と呼ばれる少女の姿をしていた。

「立てますか?」

 少女の声が男の体に染み渡る。それは冷えた全身を温め、脳の混乱をも静めて行く。差し伸べられた手を取ると、脚はいつの間にか自然に動くようになっていた。

「ええと……怪我とかは無さそうですね」

 少女――吹雪と呼ばれる艦娘は、男の状態を手早く検分すると、深海棲艦のやって来た方向へと振り向いた。釣られて男がそちらを見れば、そこでは道の奥を埋め尽くすほどの異形の集団が、上空を飛ぶ異形の飛行物体が、その先に居る人間どもを根絶やしにせんと死の行進を行っていた。

『皆さん! どうか落ち着いて避難をお願いします! 今、こちらに深海棲艦の群れが迫っています!』

 その声は周囲数百メートル全てに、建物を貫くようにして通りの向こう側にまでも響き渡った。まるで脳に直接作用するかのような不純物の混じらないそれにより、事態を理解していた者、何かが起きていると気付いてすらいなかった者を問わず、そこにいた全ての人間ははっきりと言われた意味を理解させられる。

 ざわめきが起きた。だが、それだけ。意外な、そして異常なほどに、事実を突き付けられた民衆は落ち着いていた。配給の列に並ぶ人々にも、直接深海棲艦を見てしまった人々にも、恐慌に陥る者は現れなかった。

『屋内に居る人は外に出ないでください! 屋外に居る人は速やかにここから離れてください!』

 吹雪の声だ、と気付く者は多かった。だがそれを確認しに向かうものは殆ど居ない。精々が近くの建物内から一瞬だけ脅威の位置を把握するために覗き見る程度である。命が惜しい、という事を差し引いても正常過ぎる反応だった。

『あわてず、誘導に従って避難をお願いします! 焦らなくて大丈夫! 皆さんは私が護ります!』

 吹雪が押し寄せてくる深海棲艦に銃口を突き付けた。聞き慣れない音がその先から響く。次の瞬間には、空に浮かんでいた全ての航空機が一斉に落下を始めた。

「今のうちに!」

 吹雪が周囲の人間に向かって叫ぶ。はっとして、先ほどまで腰を抜かしていた男は走り出した。だが慌ててはいない。本人も驚く程冷静に、男の思考は避難に対して全力を賭していた。

『こっちでーす!! こっちに避難してくださーい!!』

 突然、脳を犯し意識を染め上げるような表現しえない、無理に当てはめるのであれば可愛らしいと形容されるべき声が辺りを包み込んだ。人々の視線がそちらに吸い寄せられる。いつの間にか、吹雪に劣らない美貌の少女が、背負った艤装と呼ばれる機械からもうもうと黒煙を上げその存在を主張していた。

『こちら宮里艦隊所属! 駆逐艦文月です!! みなさんの避難誘導をさせていただきます!!』

 その声はおかしな程に存在感があった。少女の姿を直接目視できた者は少ない。だというのに、その場に居た全ての人間が、少女の位置を直感的に理解できた。

『落ち着いて、走らなくてだいじょーぶです!! マイクで誘導します! 押さない、駆けない、喋らない、戻らないで、落ち着いて避難してくださーい!!』

 音頭に合わせて人の塊が動き出す。まるでその声に操られるかのように、誰一人駆け出す事もなく。だが全ての人々の頭はむしろ明晰であり、現状すべき事を完全に理解できていた。即ち、落ち着いた避難である。

 混乱はない。狂乱はない。恐怖もない。代わりにその場の全員には、共通した思いがあった。

 

 私達の後ろには吹雪が居る。だから絶対に大丈夫だ。

 

 有り得ない事に、誰一人の怪我人も出すことなく、一切の滞りもなく。人々は死地から生還する事に成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん言った。私言ったわ。

 なんでもいいって言ったわ。

 うん。さっきなんでもいいって言ったよね。私が。

 だからってお前。お前。

 

 人の声でリアルタイムにアテレコするか普通。

 

 いやできるんだろうなって気はしてたよ? 声真似。声チートだし。普通に行けるんだろうなって。

 私もさあ、自分の動画いっぱい見てるから自分の声がどう聞こえるのかとかそれなりによく知ってる訳。だから、出来の良さも分かる訳よ。

 もうね。たぶんあれ誰も私の声だって疑ってないと思う。それくらいの会心の出来。みんな私が突然オールマイト始めたと思ってると思う。でも実際はね?

 遠くまで通るような声の奴、全部文月のなんだよなあ……いや私も合わせられるとこは合わせたけどもさぁ。なんか凄いんだよあれ、自然と体の方が次の台詞予想して動いてくれるの。怖。

 

 文月がやらかした事は至極単純。ビルの上に着地して周囲の状況を把握しながらの、私の動きに合わせて声真似しつつマイク使った大音量での声当て、である。

 何が凄いって、拡声器通してるのに肉声に聞こえる上に響き過ぎてて声の出所が分からなくなってた事よ。目の前に私が居たら私が言ってるようにしか感じられなかったと思う。どういう原理だかはさっぱり分からんのでチート乙案件なんだろうけど、やっぱチートってヤバいわ。直接的な暴力しかできない私より酷い事できそうだもん。

 それで、吹雪からのお知らせが終わったらビルから飛び降りて、文月として避難誘導を開始したわけだね。流石にこの位置からだとよく分からんけど、たくさんの人が移動してる気配は感じるから成功してると思われる。

 ここから導き出される答えは……あの子チート能力どうこうっていうか普通に本人の性能もヤバいな? って事である。判断力も度胸もすげぇよ。二期生駆逐艦主席が伊達じゃない過ぎる。

 賭けって言ってたのもたぶん、自分にできるかとかじゃなくて、私の存在でどれくらい説得力を感じてもらえるか――つまり、この町の人達がどれくらい私の強さを把握してるかが分かんなかったからじゃないかと思う。知らなきゃ女の子がなんか言ってるだけになっちゃうからね。

 私の知名度を有効利用して声の力で心の中に滑り込んで……言い方は良くないけど操って避難誘導した訳だ。おお、怖い怖い。やろうと思ったら私くらい余裕で操れるんじゃないだろうか。私文月の声大好きだし、術中に嵌め放題だと思われる。まあそういう事を好むタイプじゃないだろうけどさ。

 

 いやあしかし、怖いなあ。戦闘後。評判がまた酷い事になるよなあこれ。もう四国の火災の時点で否定し辛くなってたのに、ここにきて今回のこれですよ。

 まあでも映像が出回ったりしなければ噂話程度で済むかもしれない。ニュースになったりはするかもしれんし色々各方面盛大に燃えるだろうけど、私の戦果に関しては都市伝説みたいなとこあるから、伝説的にうやむやになってくれる可能性はなくもないだろう。

 って思うじゃん? 思ったじゃん? でもね。なんかね。私の気付いた範囲だけでも横の方とか後ろの方の建物からカメラが複数覗いてるのよ。しかもその傍に別に誰も居ないの。

 そうだよね。文月の指示が出る前から撮ってたならカメラは切らずに置いといて奥に引っ込むよね。だから注意して止めさせるとかも無理なの。イエーイ詰んでる。わざわざ切りにも行けないしな。そんな事で市民の皆さんを危険に晒せないし。まったく文月め。なんて事をしてくれたのでしょう。

 許さねえぞ……よくも私をここまでネタにしてくれたな。殺してやる……殺してやるぞ戦艦未完棲姫。

 いやだってどう考えても原因あいつらだし。文月は人命優先してくれただけで悪い事何もしてないもん。私の羞恥心は煽りまくってるけど、それは私の問題だしね。じわじわとなぶり殺しにしたりはしないからそこは安心して欲しい。

 そういう訳なので、深海棲艦共には盛大にここで散ってもらう事とする。私のこのどこへやったらいいのか分からない謎の恥ずかしさとか一般人の生活を脅かそうとしたことへの怒りとかそういうのを込めた拳を存分に受け取るがいいや! 貫通弾は人里で撃てないからね!!

 

 え? 本当の原因は視えててこの未来に誘導した楠木提督?

 うん……まあ……それはそうだけど、たぶん人の命に代えられなかったとかそういう理由だし……許しますとも。ええ。

 それにね、よく考えたらこれ微妙に自業自得というか……ゴトランドさんの無断の自称魔法使いとの接触に協力したせいでもあるんだ。だって文月が改二になってなきゃあの拡声器は無かった訳だから。そう考えると私自身も無罪って訳じゃないんだよね。

 まあそれはそれとして制御できるようになったはずの能力でこの未来に誘導したのは楠木提督なんだろうけど、恨んではいないっすよ。本当だよ。嘘だと思うなら心を読んでくれてもいいよ。もし嘘だったら木の下に埋めて貰っても構わないよ。

 

 なんて事を考えつつ迫りくる深海棲艦に私は向かって行った。全滅まで、あと二百と五十秒。

 

 

 




なおクリオネだかメンダコみたいなのはちょっと倒すか迷った模様(ロス一秒)


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動画視聴者の反応

今回、今まで以上に某動画サイトを知らないと意味が分からないと思われます。
というか再現にはなっていないので知ってても分からないと思われます。
中央寄せになってるのは下コメのつもり。
意味が分からなかったら動画見ながらチャットしてると思ってくれれば大体合ってると思います。

スマホだと長いコメが切れてたりなんだりしたのでスクロール止めて普通に。
普通に読み辛かったみたいなので色の調整と点滅削除。
ありがとう置換機能。


 

 

 

〇〇県中学第Xブロック陸上記録会X月XX日 一年女子100m走 世界記録(10.00)

 

転載

元動画 https://XXX.XXXXXXX.XXX/XXXXX?X=XXXXXXXXXXXXX

 

 

 

 

 

 

タグ編集  スポーツ● 陸上● 短距離走● 吹雪(艦娘)● 若者の人間離れ● 非公式世界記録〇 オールマイト(艦娘)● どうあがいても希望● 深海棲艦襲来前日〇 去年まで小学生● NG共有推奨●

 

 

 

 

 

 :記念

 :祝生存確認

 :オールマイト(12さいのすがた)

 :よう生きてた

 :記念真紀子

 :↑太古の人類による書き込み

 :若い頃の英雄

 :今も若いんですがそれは

 :もっと生放送しろ

 :遠目だと分かり辛い

 :ブレてないだけマシ

 :素人だしな

 :雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん

 :オールマイトの子ってマジ?

 :そんなオールマイトの実子みたいな・・・・

 :↓嘘つけ四コースだゾ

 

 

吹雪は第三コース

 :他の子の方が全体的にデカいな

 :身長平均くらいらしいな

 :←背中はでっかいのにな

 :←背中はでっかいニコりたい

 :一人だけかわいい

 :はいセクハラNG

 :キモい

 :雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん雪ちゃん

 :※NGレベル高推奨

 :初見

 :初見兄貴は驚愕してどうぞ

 :ぶっちゃけ比較が無いとどう凄いか分からんと思う

 :スタートマダー?

 :一人だけ落ち着いてるっていうか全然動かんな

 :当たり前かもしれんけど筋肉の付き方人によって違うな

 :小学校からガチでやってた子なんてほぼ居ないだろうしなあ

 :この体勢が本当に速いのか未だに分からない

 :尻舐めたい

 :クラウチング綺麗ね

 :良いケツ

 :←ほぼ同じ事言ってるはずなのにこの落差

 :同じとは

 :伊吹ちゃん姿勢綺麗だよな

 :オールマイトだからポージング得意なんだろ(適当)

 :姿勢っていうか体全体バランス良すぎて震えて来るレベル

 :彫刻かよって言ってた奴いたな

 :なそにん

 :カウントダウンコメ消えたのか

 :どれだよ吹雪

 :一番速い奴が吹雪定期

 :来るぞ……

 :来るぞ……

 :ここだ!

 

 

 

「るみこ水くれー」

 :誰るみ子

 :るみこキタ―――(゚∀゚)―――― !!

 :謎に人気あるるみこ

 :※未だに誰か不明です

 :声入っちゃっただけなのに特定されたら酷いわ

 :伊吹雪ちゃん特定したのは酷くないとでも言うつもりなのか……?

 :本名かも分からんし

 :なんなら声はるみこのではない

 :スタートはいつ?

 :↑今です!

 :ここ出遅れ

 :ここ出遅れ

 :wwwwwwwww

 :ここ出遅れ

 :ここ出遅れ

 

 

ここ出遅れ

 :負けたな(確信)

 :もうだめだぁお終いだぁ……

 :いや待て、この孤独なaccelerateは…?

 :いや待て、この孤独なaccelerateは……?

 :ここ落ち着いてたんじゃなくてマジでぼーっとしてただけ説あるよな

 :いや待て、この孤独なaccelerateは・・?

 :何度見ても加速力おかしい

 :高校までやってたワイより明らかに早くてビビる

 :隙あらば自分語り

 :はえーよホセ

 :吹雪じゃねーか!

 :足の回転速度が違い過ぎる

 :オールマイトじゃねーか

 :オールマイトじゃねーか!

 :吹雪じゃねーか!!

 :※まだ吹雪でもオールマイトでもありません

 :※そもそもオールマイトではありません

 :←なんだろう嘘つくの止めてもらっていいですか?

 :接地時間がトッププロのそれなんよな、男子の

 :オールマイトなら一歩でゴールしてる定期

 :深海棲艦よ、これが日本だ

 :マジで深海棲艦来なけりゃ二十年は女子短距離は日本の天下だった

 :ドーピングする意味ないから素だろうってのがヤバい出遅れてるのもヤバい

 :なんで埋もれてたのこの子

 :急に深海棲艦が来たので

 :かなりオールマイトだよコレ!

 :蹂  躙  劇

 :あいつらマジで害悪な

 :言ったら悪いけど他の子と比較できるから最初の方がヤバさが分かり易いな

 :後半も加速し続けてるから後半のが凄いんだけど分かり辛いわね

 :誰かこいつを一番いい学校へ通わせてやってくれ

 :←おう!戦後にな!

 :勿体なすぎる

 :ここでタイマーストップ!記録は10.00でした

 :歓声すら起きないの草

 :笑い事じゃねえんだよなあ……

 :ざわ・・ざわ・・

 :ざわ……ヤバ……ざわ……

 :これタイマー壊れたとかではない?

 :記録間違いではない?

 :↑動画時間見てみ?

 :検証勢がいくら検証しても十秒ぴったりだったから安心しろ

 :ファーwwwwwwwwwww

 :ここ記録に気付いての手ブレ

 :その場で目撃したら俺も震えるわw

 :そしてこの無表情である

 :全く喜んでないの草

 :むしろあっ……って顔に見える

 :(やらかした・・・・)

 :(AFOバレる…)

 :←OFAだろアフォAFOだけに

 :←審議拒否

 :出遅れてるから良いタイムじゃなかったんだろうなこれ

 :間違いなく9秒台出せるだろうし

 :艤装付けるとどれくらい出るんだろ

 :なお生配信の奴だと最低この十倍は出てるっぽい

 :マジでワンフォーオールじゃねーか!

 :健全な肉体に健全な精神が宿ってるといいんですけどねえ

 :オールマイトだぞ?

 :ネタ抜きで初実戦前に飛鷹さん助けに来るくらいにはいい子

 :一応新聞記事にもなったらしいな

 :ニュースサイトとかでも翌日に取り上げられてたんだよ数時間後に塗りつぶされただけで

 :このなんか落ち込んだ風の背中がオールマイトになるかと思うとウッ

 :ゆきちゃんぺろぺろ

 :NG共有切ったら地獄が広がってた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【公式生放送まとめ】吹雪&島風+連装砲ちゃんと通常艦娘の砲撃比較

 

適性値ぃ…ですかねぇ…

 

 

 

 

 

 

タグ編集  エンタメ● 艦娘● 吹雪(艦娘)● 島風(艦娘)● 綾波(艦娘)● 連装砲ちゃん● オールマイト(艦娘)● 比較動画● おまえのような駆逐艦がいるか● 宮里艦隊● 生放送●

 

 

 

 

 

 :本放送から

 :これが一番分かり易い

 :ほんへから

 :サ胸に釣られて

 :卑劣な胸だ

 :糞みたいなサムネから恵まれた比較

 :連装砲ちゃんの胸に釣られる奴ら怖いんだけど

 :一番胸ない奴が一番強い不具合

 :連装砲ちゃんは最強だった……?

 :連装砲ちゃんの方が吹雪より胸あるだろ円筒形で前に突き出てる分だけ

 :オールマイトな吹雪に胸筋が無い訳ないつまり吹雪は巨乳

 :どうして場面転換だけ手抜きなんです?

 :初心者にありがちなフォントと背景すこ   なおうp主の投稿歴

 :連装砲ちゃんと吹雪の奴兄弟なの?

 :型違うだけなの!?

 :形状も何もかも違うんですがそれは

 :※どちらも五十口径三年式十二糎七砲です

 :←読めねぇよ

 :A型とD型って見ても別物にしか見えないし

 :弾が同規格なんだろ

 :っていうか吹雪が腕上げれば実質仰角無視出来るよなこれ

 :姿勢悪いとちゃんと撃てないとかあんのかね体勢によっちゃ肩痛めそう

 :A型(低性能とは言ってない)

 :修復痕あって生々しいんだよなあ・・・・

 :他の奴も大概傷とかあるから吹雪のがおかしいんだよ新品なだけかもしらんが

 :吹雪のも砲塔の汚れとかあるし被弾してないだけですねクォレは・・・

 :※音量注意

 :怨霊中尉

 

 

音量注意

 :普通

 :我々が想像していた艦娘の姿

 :綾波も一発命中させてるから実力はある方っぽいんだよな

 :これには親御さんも一安心

 :←安心出来る要素どこ……?

 :撃ってから命中までのタイムラグの安定感

 :こういうのでいいんだよこういうので

 :切り替え無しで次行ってるの有能

 :がわ゙い゙い゙な゙ぁ゙連゙装゙砲゙ぢゃ゙ん゙

 :最初から穴開いてるの草

 :的の再利用

 :どうして金属の的に大穴が開いてるんですかね(すっとぼけ)

 :この体形で撃ってひっくり返らないのマジで謎

 :島風のうてーかわいい

 :一応撃ってから着弾まで時間差が確認できる

 :これ撃ってるのドジっ子だっけか

 :←これは浮輪の子じゃないぞ

 :綾波より威力あるのほんとひで

 :連装砲ちゃん量産しろ

 :※島風しか使えません

 :島風これ三連射した上自分がフリーで動けるんだよな艤装の格差やべえわ

 :強いけど痴女服なのは……

 :↑上着着ればいいだけだろ!

 :←上着着てても色々隠せてないだろいい加減にしろ!!

 :さて……

 :本命

 :一応構えてるけど後見ると絶対要らない手順

 :姿勢は綺麗

 :時系列的には吹雪のが先だっけこれ

 :吹雪が先で穴開けた

 :強い順助かる

 :パァン(着弾)

 :外したか!?

 :空砲か!?

 :ジャムったか!?

 :詰まったか!?

 :弾の霊圧が……消えた……?

 :※当たってます

 :マジで的だけ見てないと分かんねーなこれ

 :どうして全力で撃ったんですか?

 :むしろ手加減できる大砲ってどういう仕組みしてんだよ

 :コマ送り助かる

 :やっぱ綾波の砲弾はちゃんと映ってるのな

 :綾波のはよく見てれば1倍でも分かるし

 :ゆっくりしていってね!!

 :カメラマンもよう撮っとる

 :スピードカメラで見たい

 :スカートが翻ってる事に気付かない奴は多い

 :スパッツ勢だし見えても……

 :←そこに気付くとはやはり天才か

 :変態だろ

 :ちゃんと命中して的が砕けてる114514点

 :これ一撃じゃ相手死んでくれないらしいな

 :体積的に三回くらいは当てないと駄目そう

 :オールマイトなら一撃なのに

 :比較すると宮里艦隊のカメラマン有能だな

 :砲塔と的としっかり見えるようにしてるの偉い

 :やっぱ島風の早いな

 :自動できっちり当ててくれる連装砲ちゃん優秀過ぎる

 :見て分かるレベルで軌道違うのな

 :速いから当然だけど威力もあるという

 :これを全弾避け切った奴が居るらしい

 :綾波のでも普通避けられないと思うんですがそれは

 :コマ数的に3倍は早いのか頭お菓子

 :的君大往生

 :問題の吹雪

 :ゆっくりにしても意味不明な奴

 :これスローモーションにする意味ある?

 :あるかないかと言われると笑えるからある

 :模擬戦で使うの躊躇した本気の攻撃だし……

 :ここだ!

 :はい

 :はい

 :はい

 :はいじゃないが

 :溜めも他より短いの草

 :砲弾はどこ……?ここ……?

 :一コマも映ってないんですがそれは

 :現代カメラの敗北

 :↓はえーそんな早いんか

 :↓頭がおかしなるでそんなん

 :深海棲艦が死ぬ事だけは分かった

 

 

最遅でも0.03333333...秒で的に到達していると思われる

吹雪の砲撃は動画のコマとコマの間で発射され命中していると推定されるため

カメラの性能はともかく配信のfpsは30で固定

 :適性値の暴力過ぎる

 :適性値フリーザ様ですし

 :マジでなんで殴ってたのかコレガワカラナイ

 :見えたら撃てばいいだけだもんなぁ

 :弾持ってなかった説が有力

 :普段からオールマイトだったからつい接近戦した説が好きです(半ギレ)

 :ほんへ

 :本編

 :おまけが本編

 :※ノーカットです

 :雪ちゃんの一番頭がおかしいシーン

 :←おかしいの頭じゃなくて戦闘力だから・・・

 :これリロードも糞速いんだよなあ

 :連 装 砲 二 刀 流

 :パァン(カメラ目線)パァン(連装砲の左右で別々の的を打ち抜く)

 :既に意味不明

 :こっち見んな

 :パァン(ソーデスネー…)パァン(動いてる的に穴が開く)

 :これ実戦でもやってるの?

 :のび太並

 :確かにのび太なら出来そう

 :パァン(スキナキャラハイッパイイマスケドー)パァン(飛んでる的が落ちる)

 :好きなキャラ(大体女子)

 :好きなキャラ(珍獣)

 :好きなキャラ(変T)

 :好きなキャラ(きらら)

 :好きなキャラ(変人)

 :好きなキャラ(百合漫画)

 :パァン(ココデイッテイイノカ…)パァン(的が出オチする)

 :いつ狙い付けたし

 :お前の視界どうなってんの?

 :頼むから的を見てくれ

 :パァン(チョットワカラナインデスケドー)パァン(全弾命中)

 :分かんないのはお前の性能だよ!

 :謎コピペ乙

 :一回消えたのに復活してる赤文字きめえ

 :拡大されるとマジで全部当たってんだなこれ

 :オートエイム機能とかは無いらしいな

 :何もかもおかしいのやめて

 :これ単品じゃなくて他の鎮守府もやったの英断だったな絶対勘違いしてたもん

 :※個人の実力です

 :誰がここまでやれと言った

 :何をどうしたら名指しで他の奴には無理って公式発表される奴が生まれるんですかね

 :これ暴れ出したら誰か止められるんだろうか

 :こいつ居て負ける事とかある?

 :防御能力は分かんないから(震え声)

 :(リークだと索敵とかもヤバいらしいから)ないです

 :確率的には同じくらいの奴がまだ何人か出るかもしれないってのが怖い

 :出る訳ねーだろ阿呆か

 :どう考えても一発で一等当てただけだからこれ以上とか居る訳ないから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四国のビル火災の艦娘の救助シーン

 

XX日X時頃に○○市○○○○○ビルで発生したビル火災の救助現場の一部です。

艦娘がまともに映っていた所のみ抜粋。

 

無編集版→ xxXXXXXXXXX

 

 

 

 

 

 

タグ編集  災害救助● 火災● 艦娘● 吹雪(艦娘)● オールマイト(艦娘)● 紐なしバンジー● フリーフォール● 絶叫動画● お前の錨はおかしい〇 強化フォーム〇 野生の吹雪を捉えた貴重な映像〇

 

 

 

 

 

 :出吹雪

 :投稿主が自分で撮ったんかこれ

 :マジで吹雪だコレ!

 :めっちゃ叫んでて草

 :火事?

 :二週目

 

 

両腕に一人ずつ +2

 :叫んでる奴何?

 :燃えてなくない

 :急に飛び降りてビビり過ぎて助かったって分かってないっぽい

 :持った人大丈夫なのかこれ

 :服黒くね?

 :下の人は現地の人?

 :←髪の色凄いから艦娘じゃね

 :服色々あるんかな

 :そっから入るんかいwwwww

 :どこいくねーん

 :窓「ぐわああああーーーーッ!!」

 :知ってたけどジャンプ力おかしい

 :叫び声で編集点分かるの草

 :まだ叫んでるのか・・・・

 

 

左腕に二人右腕に一人 +3

 :一時的発狂

 :宥めてる所にさらに追加される下の人かわいそう

 :落ちて大丈夫なのかこれ

 :艤装のダメージ吸収落下にも効くのかね

 :貴重な窓ガラスが・・・・・・

 :叫び止まったwww

 :精神分析成功

 :!?

 :錨かこれ

 :ええ

 :巻き付いてる?固定されてるのかこれ

 :なにこれ

 

 

錨で三人左肩に一人左腕に一人艤装に一人 +6

 :これ怖いとかそういうレベルじゃないだろw

 :そりゃ叫ぶわ

 :制服黒いの関係ある?

 :強制フリーフォールは不味いですよ!?

 :誰か止めなかったんだろうか

 :そしてこの着地である

 :専用の機械なんかなこれ

 :ただのぶっとい紐に見えるんだが

 :いや固定されてないなこれ巻きつけただけ?

 :機械制御してんだろ

 :どうして軟着陸出来てるんです…?

 :いや危な過ぎるだろ

 :艤装の衝撃吸収って接触してる人にも効果あるん?

 :オールマイトだから自力だろ(適当)

 :ここ普通

 :←麻痺してんぞ

 

 

胸に一人その一人の胸にも一人 +2

 :普通は飛び降りないし着地出来ないんだよなあ

 :赤ちゃん抱えてんのか

 :あの状況で産んだのかね

 :マジで良く助けたわ

 :泣いちゃった

 :そりゃ泣くだろ

 :0歳にして人生最大の恐怖体験

 :トラウマにならなきゃいいが

 :むしろ親がトラウマになるだろこれ

 :ちゃんと開けたwwwwwwwwww

 :鍵開いてたんだなw

 :壊すより早かったんだろうか

 :窓「許された」

 :影あるから壊すと中の人が危なかったっぽい

 :判断力高いな

 :吹雪は高跳びどこまで行けるんだ

 :!?

 :!?

 :か、壁ダイ~ン!!

 :何したし

 :おいwwwww

 

 

背中に七人 +7

 :アリーナかな?

 :壁蹴り壊しやがったwwwwww

 :直下に人居たら死んでるぞ・・・

 :窓じゃなくて壁破壊してくのは予想外

 :窓壊しても通れなかったんだろうな

 :下の人居なくなってるから一個前からちょっと経ってる?

 :ってか吹雪笑顔なのな

 :オールマイトリスペクトしてる

 :不謹慎

 :別に楽しい訳じゃないだろうし

 :まあここまで動ければ楽しいだろうってのはある

 :マジで器用すぎる

 :爆笑してる訳でもないしいいだろ

 :なんか背中の人ら衝撃まともにいってなさそう

 :不謹慎じゃなくて安心させるためにわざとだから

 :でも実際突然笑顔の美少女に捕まって飛び降りられたらただただ怖いと思う

 :それはそう

 :他所の報告見ても怪我人居なかったっぽいんだよなあ

 :降ろすの手伝ってるのは一般人?

 :自衛隊は何してんだこれ

 :めっちゃ煙出てる

 :時間飛んだ?

 :出火したの下の方なのか

 :full版見たら五分くらい吹雪が映ってなかったわ

 :※逆側からも出入りしてたからこっち側からは見えないとこもあります

 :多い多い

 :数珠繋ぎにされてるwwww

 

 

錨に八人と右腕に二人 +10

 :よく外れないな

 :危な過ぎるだろ

 :助けろって指示しか出されてないだろうし方法は吹雪が判断してる?

 :外す時は一瞬で外れてるしどういう装備なのこれ

 :←形状的に錨の鎖を補強しただけじゃないすかね……?

 :←ねーよwwwwwww

 :オールマイトだしできそう

 :鎖自由に巻きつけられたとして着地無理だろ死ぬわ

 :青髪の人が説明諦めた件について

 :もう見えるレベルで火が出てるから避難優先だわな

 :消化した方が早かったんじゃ?

 :同時進行はしてたんだろ失敗しただけで

 :壁の霊圧が・・・・・消えた・・・・・?

 :爆破したっぽいな

 :破片飛んでないっぽいんだよなここ粉々か

 

 

右二人左四人と背中に小型犬 +7

 :犬wwwwww

 :犬も助けるのか……

 :犬も普通にカウントするのは草

 :お?犬差別か?

 :イッヌ探しに戻られても困るし

 :超燃えてる

 :場面跳ぶたびに悪化してるの怖いな

 :草

 :多い多い多い多い

 :どうなってんのよマジで

 :着地して大丈夫なのか

 

 

錨に十二人と右腕に一人背中に二人 +15

 :錨便利過ぎだろwww

 :絶対錨ではない

 :つーかよく窓通過できるな

 :もう降りるの無理だから吹雪居なきゃ全員死んでたなこれ

 :艦娘は炎平気なんかな

 :滑り台みたいの設置されてんじゃないの?

 :←あんなの混乱してるとまともに使えんぞ

 :知らんと位置すら分からんからなあれ

 :くそっwwwwwwww

 :思ってた事をw

 :オールマイト知らないはずなのに草

 :やっぱりオールマイトじゃないか!

 

 

この時点でこちら側だけで50人以上助けているため

実際既に100人は助けていると思われる

 :言いたくなるのは分かるが

 :誰 が 見 て も オ ー ル マ イ ト

 :オールマイト不可避

 :wwwww

 :風評被害が広がる

 :逃げ遅れてる人あとどれくらい居るんだろ

 :もう消すの無理ですねクォレは……

 :屋上まで火届いてんじゃんアゼルバイジャン

 :北上が言ってたけど火は大丈夫でも煙は分からんらしいし吹雪も危なくね

 :なんか耐性でもあんのかね黒い服

 :ただの夜間迷彩じゃないの船モチーフなんだし

 :やっと自衛隊来た

 :遅くね?

 :むしろ吹雪が先行しすぎただけで急行してると思われる

 :吹雪居なきゃ上の方の人ら全滅だったのでは・・・・?

 :もう屋上から飛び降りるくらいだと驚かんな

 :最後は一人だけか

 :屋上だからラスト?

 

 

両手で一人抱えて終了 +1

動画内救出人数52人+1匹

なお反対側に降ろされた数の方が多い模様

 :カウント乙

 :多すぎて草ァ!!

 :人多過ぎである

 :←生活圏狭まり過ぎて密集するしかなかったんや……

 :残りの時間何?

 :なんか話してるけど声入ってないな

 :周りがうるさくて吹雪の声分からん

 :誰も気にしてないけど吹雪の頭の上なんか人形みたいのくっ付いてない?

 :←お前は何を言っているんだ

 :います。よろしくおねがいします

 :何投げてんのかと思ったら魚雷かこれ

 :爆 風 消 火

 :塵一つ残ってなさそうなんですがそれは

 :建物壊してんの?

 :建物じゃなくて間の物壊して延焼しないようにしてるんだぞ

 :この爆弾やべぇな目標だけぶっ壊せるのか

 :周りに爆風行ってないっぽいから救助とかにすごくすごい

 :吹雪だからこの威力説

 :艤装ってはがねなのにほのお無効だから火災現場で超使えそう

 :←水に浮けるから水難事故でも使えるぞ

 :戦争用にしちゃ弱いし元は災害救助用のパワードスーツとかなんかな

 :特殊部隊用かもしれない

 :武器だけが異様に弱いなお吹雪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無 断 転 載 A K G M 姉 貴

 

と吹雪

 

 

 

消すと増えます

 

本家本元→ ttps://XX/XX/XXXXXXXXXX

 

 

 

 

 

 

タグ編集  盗撮● 無断転載● 消すと増えます● 秋雲(艦娘)● 吹雪(艦娘)● なぜか削除されないシリーズ● Q問柿● 宮里艦隊● ショタコン● 違反通報● 盗撮犯取り締まり済み〇

 

 

 

 

 

熱 烈 歓 迎 秋 雲 者

一日で五万DLを達成した女

シ ョ タ コ ン

秋雲先生

性癖のヤベー奴

メカ作画ガチ勢

単行本出せ

特 定 班 最 大 の 被 害 者

※何も悪い事はしてません

とりあえずなんか書いとけ

プロの漫画家先生

Q 門 柿 先 生

宮里艦隊所属(超エリート)

へんたいよくできました

 :怒涛の赤コメ

 :誹謗中傷はやめろ

 :一冊なんぼなん?

 :←違法DLの記録だぞ本人はDL販売してない

 :ロボ作画大好きな女漫画家とかいう希少種

 :なおそれ以上にショタを苦しめるのが好きな模様

 :最後には勝つから・・・・

 :吹雪並みに実害被る奴が出ようとはこのリハクの目をもってしても

 :↑節穴乙

 :もう社会復帰できないねえ

 :ひたすら可哀想

 :二次元の性癖と三次元の性癖違うだろっていう

 :←ほんそれ

 :←俺も三次ロリきついわ二次ロリは抜ける

 :↑ロリコン乙

 :俺ら守ってくれてる相手に何してくれてんのマジで

 :吹雪の時も胸糞だったけど余計酷くて草

 :なにわろとんねん

 :なおクソ強い模様

 :宮里艦隊でも上位ってマ?

 :リーク信じる奴おるwwwwwwww?

 :作画上手すぎて普通に続き読みたいんですが出版元が・・・・・

 :雑誌の続刊が絶望的らしいっすね

 :知り合いで草

 :どっか拾わんかなマジで続き読みたいわ

 :秋雲って例のホーネットの逸話あるしなんか関係あんのかね

 :これ何してんのかなんか見てもよく分からん

 :オールマイトにグラサン押し付けられてるっぽい

 :吹雪盗撮に気付く→自分のサングラス秋雲に付けさせる→急すぎて秋雲ビビり散らかす らしい

 :何言ってるか分かると大体予想付くよな

 :速すぎて手元見えない辺りマジオールマイト

 :盗撮気付いてんのねこれ

 :※絶対に真似しないでください

 :吹雪は顔割れてるからって秋雲隠すの優先したっぽいんだよななお

 :めっちゃガッカリしとる

 :リアクション含めて割と可愛い秋雲ネキ

 :顔面偏差値は……

 :隣の奴が高すぎるだけだから

 :ここガバ

 :やらかし

 :秋雲最大の誤算

 :振り向かなければバレなかったのに…

 :むしろなんでこれでバレるのか

 :コミケの打ち上げとかにも参加してたのが敗因

 :やっぱリアルって糞だわ

 :一端隠す人間の屑

 :素直に切らない屑

 :見てる自分にブーメランしてるのお気づきでない?

 :←オマエモナー

 :逮捕されろ

 :されたぞ

 :まいったねーと言われつつまた撮影するのカス過ぎない?

 :撮るのもだけど投稿したのがマジで糞

 :吹雪と秋雲は仲良さそうね

 :吹雪オタクだからな

 :エロゲーマーだし相性いいんだろうな

 :風評被害繋がり

 :←この時点では繋がってねーから!

 :ここだけ見ればただのいいお姉さんなのになあ

 :性癖がなあ

 :吹雪も性癖は大概アレだし

 :オールマイトしないの?

 :ここファンサ

 :秋雲痛恨の見逃し

 :秋雲目線だとこのおててふりふり見えないわな

 :こっち見てないのにどうして分かるんですかねぇ

 :後ろに目が付いてる

 :別にまた撮ってると理解してるとは限らんのでは

 :オールマイトだぞ?

 :っていうかこれファンサじゃなくて警告では・・・?

 :お前を殺す(デデン!

 :実際殺されたのは秋雲先生の社会的立場なんですけどね!!

 :お前らのせいでな?

 :マジで社会復帰できるのかこの人

 :ネット社会の闇過ぎて笑えないんだよなあ

 :最前線で戦った挙句この扱いは闇落ち不可避

 :同人誌が性癖全開じゃなきゃまだマシだったんだが

 :商業誌でも隠し切れてないからどの道

 :吹雪もだけど一生擦られるのは確定的に明らか

 :元々ファンの自分としては生きて続きかいて欲しいからオールマイト何とかして

 :(宮里艦隊所属な以上平均の倍は強いので解放される可能性は)ないです

 :深海棲艦滅びろよ

 :深海棲艦が来なくてQ問柿先生の漫画がアニメ化される世界線はどこ……?ここ……?

 :そこになければないですね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇〇市襲撃事件の戦闘及びその前後の艦娘達【編集版】

 

〇〇市襲撃事件で艦娘が一番映っている映像をだいたい時系列順に繋ぎ合わせてみました。

一部まったく映ってない時間も大体合うように調整。一部カットもあり。

投コメあり。

 

 

視聴前に政府の声明をしっかりと読んで理解してください。

https://XXXX/xxXXXXXxxXxXXxxX

 

 

 

元動画様

xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX

xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX

xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX

xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX

xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX

xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX

xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX xxXXXXXXXX

 

 

 

 

 

 

タグ編集  艦娘● 無双● 吹雪(艦娘)● オールマイト(艦娘)● 文月(艦娘)● 島風(艦娘)● 皐月(艦娘)● 球磨(艦娘)● 深海棲艦● 〇〇市襲撃事件● もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 :Q.艦娘は空を飛べますか?A.オールマイトなら

 :編集乙

 :編集はえーよホセ

 :強いじゃなくて酷いだった

 :敵が金属的な何かじゃなかったらただのグロ動画でしかない

 :うp乙

 :オールマイトがオールマイトとよく分かる

 :元動画から

 :MADから誘導されてきますた

 :ザコラッシュ

 :ザコどころかボスみてぇなの複数居たらしいんだよなぁ・・・

 :最強を見に

 :誰がここまでやれと言った

 :何度見てもこの大部隊見逃したの無能すぎる

 :どっから涌いたのこいつら

 :※映ってるだけで300匹以上います

 :※これから全滅します

 :いろんな意味で大惨事すぎる…

 :これ撮った奴よく近づいたよなぁ

 :少女移動中…

 :これ庭の監視カメラかなんかやぞ

 

 

 

↑この辺りを通る影が吹雪の物と言われている

 :ここだ!

 :一瞬過ぎて分からん

 :一番デカい奴の頭らへん

 :明らかに飛んでるの草なんだ

 :駆逐艦が空飛んでんじゃねえよ!!

 :移動の仕方がもうオールマイトなんよ

 :物理法則の事は忘れてご視聴ください

 :右下の子めっちゃかわいいけどスクラップになるんだよな……

 :かわいい奴等って艦娘数人で集中砲火してやっと殺せるレベルなんだよななお

 :深海棲艦で抜くのは異常性癖

 :親の顔より見た道路

 :やっぱここはこの視点か

 :この状況でカメラ向けるの危機感無さ過ぎるだろ逃げろよ

 :←無茶言うなこれ撮った時全裸だったんだぞ

 :避難するための服が無い

 :投稿者湧いてて草

 :元動画に全裸で震えてたって書いてあるだけだゾ

 :全裸兄貴はちゃんと支援受けて

 :笑ってるちっちゃいの家の中に居たらめっちゃホラー

 :この深海棲艦はこれ腰の奴が本体なんかなキモいけど

 :親の声より聴いた笑い声と悲鳴

 :←もっと親と話して

 :くるぞ・・・

 :くるぞ・・・

 :着地点正確過ぎる

 

 

 

 

PT小鬼の上に着地しつつ踏み潰す

同時にステップで振り返りつつ距離を詰めて一撃

 :着地の衝撃全部敵に押し付けてるのヤベーわ

 :反動無視

 :頼もしい通り越して何が起きたか分からんかったろうなこれじゃ

 

「すまない。ギリギリになってしまった」

 

 :マジでギリギリなの止めろ

 :狙ったレベルでギリギリ

 :大ジャンプして来てんのにどう狙えと

 :この体格でよくぶっといモノ押し返せるわ

 :三軒両隣に響いてたらしい声

 :声だけ聞こえて状況分かんないけどとりあえず避難した話好き

 

「だけどもう大丈夫!」

 

 :一キロくらい響いてたらしいな

 :※マジで大丈夫でした

 :来なかったら駄目だったからな……

 :悲鳴が止むレベルの大丈夫さ

 :やだ……頼もしい…

 

言い終わりに逆の手で一撃

 :逝ったーッ!!

 :血とかは出ない辺り生き物ではなさそうなんだよなこいつら

 :ここ敵の状態確認もしてないんだよな確実に殺せたって確信してる

 :私が来た!!

 

「私が来た!!」

 

 :私が来た!!

 :ここオールマイト

 :私が来た!!

 :私が来た!

 :流石に笑うわwww

 :うっ美しい……!!

 :またやるとは思わなかったわ

 :かわいすぎるオールマイト

 :定番にして行け

 :外見以外何も可愛くないんだよなあ

 :知名度の有効活用

 :これやられて吹雪以外だったら困るわ

 :知らなかったらどうするつもりだったのか

 :←救助するだけだから知らなくても変わらんからやり得だぞ

 

「立てますか?」

 

 :ここだけ音量低め

 :至近距離の被害者に配慮する救助隊の鑑

 :吹雪の手取れるの裏山

 :立てるじゃねーか!

 :吹雪の声が自律神経に効いただけだぞ

 :癌にも効く(確信)

 :癌(深海棲艦)になら・・・・

 

「怪我とかは無さそうですね」

 

 :えらい

 :ちゃんと確認するのえらい

 :ちゃんとできてるのかは不明

 :そしてこの大群である

 :どうしてこんなに迫るまで気付かなかったんですか……?

 :最初に発見通報された時点で市街に近すぎた

 :吹雪の背中越しに大群見たこの人どう思ったんだろ

 

「あわてず、誘導に従って避難をお願いします! 焦らなくて大丈夫! 皆さんは私が護ります!」

 

 :守護らねば……

 :守るっていうか

 :この後知らないと頼もしいよなこの後知ってると頼もしい通り越して変な笑い出るけど

 :守護る(無双)

 :ここ意味不明

 :マジでなにやったのこれ

 :強すぎィ!!

 :出オチする艦載機君

 

 

機銃と思われる武器で掃射

航空戦力が一掃される

 :全カメラで見ても同時に落ちてて草

 :画面分割しても同時

 :艦娘ってこんな強いのか

 :全体魔法でも使ったのかとw

 :そうはならんやろ

 :こいつに追っかけ回されてなんとか生き残ったた俺低みの見物

 :実際遭遇してる被災者ほどやるせない気持ちになると聞く

 :避難民俺氏大歓喜だから人による

 :誘導ミサイルとかじゃなくて銃弾でやってんのかこれ……

 :弾のベルトが一瞬で消えてるからレートがヤバい事になってるっぽい

 :連射力は艤装由来なんだろうけどそれを的確に当てられるのがおかしい

 :※艦娘の機銃はほぼほぼただの威力の高いマシンガンです

 :予想の装弾数だとほぼ必中かつ一撃で仕留めてないと成立しないらしい

 :制圧射撃で面制圧する奴がいるか

 :機銃一つで面制圧できたら対空で苦労しねえんだよなあ!!

 :解説されると最強が最強すぎて笑える

 :真似するな(できないから)

 

「今のうちに!」

 

 :今の内(全滅させるまで)

 :避難の必要はありましたか……?

 :ちゃんと全員避難始めるのえらい

 :そりゃ逃げるだろ明らかにのこってたら死ぬもん

 :みんなカメラは残してるの草生えるんだ

 :外の連中はちゃんと逃げてるんだよなあ

 :スマホ立てかけるの失敗して天井と空しか映ってない奴も居たけどな

 :吹雪が殿の安心感

 

「こっちでーす!! こっちに避難してくださーい!!」

 

 :かわいい

 :文月きちゃ

 :かわいい

 :ファ!?吹雪並みに可愛いやんけ!!

 :サイドキック文月

 :かわいい

 :声が良すぎるッピ!

 :かわいい

 :どの動画にもかわいいってだけ書く奴はなんなんだ

 :文月の声でループ動画作って♡

 :島風はどうした

 :↑この時点だと移動中だと思われる

 :ここ以前の映像が無くてどっから来たのか吹雪以上に謎な子

 :艤装に船の文月に無いパーツ付いてるから文月じゃない説ある子

 :文月だけ解像度高いのな

 :←ここだけ行列撮りに来てたプロのだから

 :艤装燃えてない?

 :目立つように内部でなんか燃やしてる?

 :なんでカラオケマイクなんですかね……?

 :海で距離あるだろうし連絡にマイク使うのはおかしくなくね?

 :赤いとこだと無線使えないらしいな

 :その辺りのカラオケから持って来て改造したんじゃね(適当)

 :資源不足で再利用は有り得そうだよなあ

 

「落ち着いて、走らなくてだいじょーぶです!! マイクで誘導します!」

「押さない、駆けない、喋らない、戻らないで、落ち着いて避難してくださーい!!」

 

 :お か し も

 :避難訓練かな?

 :ガチなんだよなあ・・・・

 :何!?避難訓練と言えばおはしではないのか!?

 :守った結果怪我人0とかいう避難民の模範

 :よく守れたよなあこれ

 :一番人が居たのが深海棲艦が来てたのと別の通りだったからな

 :ワイプで打ち落とされる深海棲艦の屑

 :出す度に落とされる艦載機君哀れ

 :これマイクの性能良すぎてみんなちゃんと方向分かったらしいな

 :全員ちゃんと並んで避難する映像なんか怖いんだよなぁ

 :なんか精神に干渉でもしてそう

 :そんな技術ある訳ないから

 :艤装自体が新技術だから怖い

 :声優ならんのかなこの子

 :特定マダー?

 :可愛くて発声が綺麗過ぎるからどっかの事務所の子じゃねって言われてるけどまだ特定されてない

 :わざわざ被害者増やそうとすんなボケ

 :短距離走・漫画家・声優(NEW)艦娘は才能の宝庫なんだろうか

 :霊能力者もいるとかいう噂だし

 :艦娘ってそういう子しかなれんのかもなぁ

 :霊能力者はなんか違うだろw

 :そ れ は そ れ と し て

 :避難が終わるまで待っててくれた雪ちゃん

 :※ここから五分で全滅させます

 :砲撃とか飛んで来たら打ち落とす気で待機してたと思われる

 :砲撃打ち落とすってなんだよせめて撃ち落とせよ

 :←だって吹雪だし……

 :←だってオールマイトだし…

 :まばたき厳禁

 :※深海棲艦は通常は下級一匹倒すのも一人だと苦労します

 :ここヤムチャ視点

 :!?

 

 

 

突然の瞬間移動

 :横のカメラだとマジで消えるからなあ

 :単に地面蹴っただけらしい

 :現場に跡が残ってるらしいな

 :ファ!?

 :深海棲艦君ふっとばされたー!

 :一応フレーム単位だと確認できる

 

 

先頭のイ級を殴ったと思うがよく分からん

とりあえず吹っ飛んだ先頭の奴が玉突き事故を起こして複数破壊

 :解説諦めないで

 :人間?

 :0.5倍速でも見逃すレベルだから仕方ないね

 :ここ蹴り

 :いやいやいや

 

 

 

ステップからの蹴り上げ

ヲ級が空中へフライハイ

この後このヲ級は残骸ショットガンで死亡(グロいのでカット)

 :なんかの格闘技の動き

 :まだ使える

 :なおこの後

 :滅茶苦茶手加減した蹴りである

 :強靭!無敵!最強!

 :どうして肉弾戦してるんですかねえ

 :貫通弾市街地で使ったら死人出るだろ

 :だからオールマイトになる必要があったんですね

 :浮かせたのは視線誘導?

 

 

 

浮いたヲ級の下を通ってデカいのを切断

上半身を殴りつけて複数押しつぶし

下半身を蹴り飛ばす。蹴られて粉々になって散弾化

 :どうして素手で斬れてるんですかね……?

 :いや草

 :手刀がマジで刀になるのはもう人間型の兵器か何かなんよ

 :動作が早すぎて解説されてもいまいち分からんのなんとかしろ

 :人間の動きじゃない

 :切断から投擲までの流れがほぼ一動作

 :つよい(確信)

 :※散弾で後方に残ってた連中が全滅しました

 

 

蹴った反動で跳躍しつつ魚雷ばら撒き

深海棲艦「のみ」を爆殺

 :お前の魚雷はおかしい

 :吹雪くん止まんねえ!

 :範囲が狭いから街中でも使えるってのは分かるが外したらどうする気だったのか

 :当たった奴が絶対死ぬ魚雷

 :非 人 道 兵 器

 :マジでバラ撒かれたの当たった瞬間消滅すんの怖すぎなんだけど

 :同じのかと思ってたけど別々のが死んでるのか

 :死体も残らねえwwwwww

 :ここ超人

 

 

着地狩りで撃たれたので

キャッチして投げ返す

 :超人じゃないとこどこだよ

 :うーんこのオールマイト

 :前もやってたけどその距離で行けるのか……

 :素手で受け止めていい威力なんですかねえ

 :ここついでに蹴り飛ばして倒してる

 :当然のように命中させてるのが酷いwwww

 

 

瞬歩して殴る

瞬歩して殴る

瞬歩して殴る

瞬歩して殴る

瞬歩して殴る

視点跨ってて分かり辛いけど全部別の瞬間(汗

 :ヤムチャ視点過ぎる……

 :移動の予備動作とかねえのかよ!

 :一応コマ送りすると見えるけどブレて見えるという

 :抜きと入りが完璧すぎる

 :←ネギまとは懐かしい

 :相手完全に見失ってる

 :速さが足りてる

 :目の前でやられたら訳わからんわな

 :つーかオールマイト格闘技やってる?

 :ぶん殴られた奴に巻き込まれて他も死んでるの酷すぎる

 :一瞬で距離詰めて離脱できるから数が利になってねえな

 :むしろ邪魔になってるだろw

 :どこに居るか分からないから攻撃もできないわな

 :先頭の部隊はこの辺りで全滅

 :何が起きてるかも分からんのだろうなこれ

 

 

 

この辺りから吹雪が映ってる映像がなくて解説出来る事がないので

暫く破壊音をお楽しみください

 :今更だけど素手で出していい音じゃないな

 :大砲持ってるのに手で殴る謎

 :ナックルガード的なのないんかな

 :深海棲艦って叫んだりしないの?

 :たまに入る機械音っぽい声が人間型のらしい

 :断末魔の叫び

 :心洗われる音楽

 :邪悪な心過ぎるw

 :深海棲艦には恨みしかないからね仕方ないね

 :最初はスゲーで済むけどよく考えると怖すぎるわこの子

 :十週はしてるけど意味の分かる場所がないのが酷い

 :たまに残骸が散らばってくんの笑っちゃうんだよね

 :そりゃ最強自称するわ

 :避難してる俺らからしたらマジで英雄なんだが?

 :有難いのはみんな分かってるんだその上で草生え散らかしてるだけで

 :こんな場末に人格を期待するんじゃあない

 :撃たれてる音するんだけど後見ると傷ついてないから全部避けてんだよな

 :ここ一番新しい動画だと逆立ち回転蹴りとかしてる

 :←また新しいの増えたのかwww

 :投稿するか悩んでる奴も居るだろうしな

 :悩んだなら止めろよ…

 :ここ三々七拍子

 :人間以外が潰れる音しかしてない安心感

 :だんだん音が遠ざかっても続いてる辺りだいぶ数が居たんだなあ

 :過去最大規模の上陸だったらしいぞ

 :実際これ吹雪以外だとどうなったんだろ

 :←公式見解が絶対真似しないでくださいだから普通に死ゾ

 :自衛隊「吹雪以外無理です」

 :多聞丸「吹雪以外無理です」

 :他艦娘「吹雪以外無理です」

 :リークマンが絶対無理だから他に期待すんなよ絶対だぞって言い出したのは笑った

 :リークマンガチ艦娘らしいから必死よ

 :同じ事やらされる=死だからな

 :実際吹雪抜きで勝とうと思ったら合戦みたいになると思われる

 :一人に無双されて全滅するのほんとひで

 :お

 :視点変わったな

 :高いとこだと数が分かりやすくていいな

 :なんでこいつら道なりに並んでんのwwwww

 :海から道なりに進めば確実に人里に出れるからじゃないの

 :地図持ってるとも思えんしね

 :密集地帯に出てから別れようと思ってたら吹雪に強襲されたのかも

 :つーか本来艦娘来ても物量で潰せるだろうから悪手でも何でもないんだ

 :深海棲艦視点だと理不尽極まりない吹雪とかいうオールマイト

 :この辺から破片見えて来てる

 :うーんこの

 :殴り殺しながら前進してたんだろうか

 :まだ撤去終わってないしな

 :見えた

 

 

大砲を構えたト級を持ち上げて集団に投擲

跳ね跳んだ連中を空中で迎撃

迎撃された深海棲艦がそれぞれ他の深海棲艦に命中

 :いつ飛んだし

 :投げた瞬間もう空中に居るんだよなあ

 :狙って弾いてるの頭おかしい

 :やりたい放題である

 :頼もし過ぎるだろwwwwwww

 :マジでこいつが負ける絵面が浮かばない

 :安心して見てられるな

 :勝ったな風呂入って来る

 :これでしっかり相手が死ぬ威力で攻撃してるってのがヤバい

 :突然の猛吹雪

 

 

 

発射音の瞬間三階のカメラ前まで瞬間移動

空中で民家に飛んで来た弾を蹴り返す

ここカメラ目線

 :民家に攻撃しだす深海棲艦の屑

 :オールマイトの本懐

 :宣言通り護ってる艦娘の神

 :どうして『艦』娘が空中戦してるんですかねぇ

 :こっち見んなwwwwwww

 :完全に撮られてるの気付いてる

 :最初から撮られてるの分かってやってるフシがあるからなあ

 :一連の騒動はマッチポンプのプロパガンダだった・・・・?

 :それができれば苦労はしねぇよ

 :地味に跳ね返したのが他の奴に当たって死んでるという

 :深海棲艦(あれ、こいつ狙わなくてもよくね?)

 

 

 

落下しながら

弧を描いて動く敵航空機を

抜き打ちの機銃で

目線を向けずに

全滅させる

 :ひどい(確信)

 :何度見ても意味が分からん

 :敵が動く軌道の予測が神懸ってるとしか分からん

 :見てねーのかよ!

 :別カメラのでも見てないのが意味分からん

 :吹雪の顔ずっと映ってるけどずっと下見てんだよなぁどうやって狙ってんだ

 :これ音で位置分かるとかそういう異能持ってるだろ

 :エコーロケーションくらい出来るって言われても驚かない

 :吹雪最強!吹雪最強!って無邪気に言ってたけどマジで最強すぎて何この子ってなった

 :これ別の奴が支援射撃してるとかじゃないのかね

 :←それだと吹雪が機銃出した意味が分からん

 :ここついでに小さいのが踏み潰されてる

 

 

 

この辺りから散発的に民家が狙われるようになり

討伐速度が落ちる

 :速度が落ちる(五分以内)

 :吹雪狙うより周り狙った方が当たってくれるんじゃねっていう糞

 :わからんやん単にぶっ壊したかっただけかもしれんやん

 

 

 

 

砲塔を民家に向けてるロ級?に残骸を投げる

ロ級の砲塔が歪んで爆発

 :※敵の砲弾並みの速度で飛んでってます

 :狙ってやる事じゃないのよ

 :外したら死人が出そうだけど外さないからヨシ!

 :敵の死体って武器になるのな

 

 

 

 

ここから暫く自分に射線通らないようにしつつ

民家狙いを優先的に潰すようになります

 :外道戦法

 :害悪過ぎる・・・・・・

 

 

 

 

とはいえ基本は瞬間移動からの打撃なので

 :まあこれ相手に本人狙うよりは遥かに有効ってのは分かる

 :←全部防がれてるけどな!!

 

 

 

 

正直解説する事がない

 :この辺りマジでそれだけだしなぁ

 :他人類に再現できるか怪しい類の神業なんですがそれは

 :後ろの方がそれやらないのはなんでなん?

 :たぶん吹雪が暴れ出してから情報行ってなくて状況分かってない

 :奇襲というか一人でこんな大暴れすると思わんだろうし

 :敵の司令官カワイソス

 

 

 

 

っていうかカメラが中心地より少ないから何してるのかよく分からないです

 :むしろ最初の方多過ぎるだろ

 :出たり消えたりしててヤムチャの気持ちしか分からない

 :ヤムチャは結構見えてるだろいい加減にしろ!!

 :日本人の民度の低下がヤバい

 :深海棲艦全く対応できてないしこれ吹雪みたいなの完全に想定外だったんだろうな

 :周りを狙ってる奴を的確に見分けて有効な攻撃ができる

 :観察力と判断力が高すぎる

 :←それを自分への攻撃を撃たせないよう立ち回りつつやってるんでもう新人類か何かだよこの子

 :これに勝ったとかいう教官長は何者なの

 :教官長はハンデ目いっぱいつけただけだから・・・・

 :この惨状見てハンデ付けただけで勝てると思うか?

 :←むーりぃ

 :これ市街地だから本気出してない可能性があるんだよなあ

 :可能性っていうか大砲使ってないから確定で本気じゃないですね……

 :これできるようになる装備未成年に使わせて大丈夫?

 :できるようになる(ならない)

 :吹雪無表情なんだよなぁ怖い

 :オールマイトリスペクトだから助ける時笑ってるだけで意識してなきゃそんなもんだろ

 :←楽勝してるけど戦場ゾ気い抜いたら死ぬんだから表情どころじゃないわ

 :音だけで玉突き事故起こしてるって分かるようになってきた

 :むしろ五分かかるって何匹居たんだよ

 :最初から自衛隊に吹雪居たら召集要らんかったやろなあ

 :←それはない

 :海岸線全部警戒しなきゃだからどの道必要なんだ……

 :よく考えたらこれに付いてける島風もヤベーな

 :痴女服になるのを代償にすれば吹雪の僚艦もできるようになる

 :そろそろ問題のシーン

 

 

 

 

運悪く5匹の敵が同時に発射の体勢に入る

吹雪が咄嗟(?)にPT小鬼を蹴り飛ばす

全ての砲弾が撃ち落とされる

 :完 全 に 意 味 不 明

 :なんか今までのと違うの今の

 :なにがどうなってるんだってばよ

 :最初意味不明すぎて問題視されてなかった箇所

 :普通に見ても砲弾どっか行っただけに見えるししゃーない

 :ちゃんと撃ってるのに家に被害無いな?→弾落ちとるやんけ!!

 :グッと蹴り飛ばしただけで5発くらい叩き落とした

 :コマ送りでないと分からん

 :コマ送りでも予想しかできないんだよなぁ

 

 

おそらく←重要

蹴り飛ばされたPT小鬼が当たった弾やその時発生した破片が

跳弾して他の弾に衝突

それを繰り返して全部が撃ち落とされたと思われる

次元大介かな?

 :ねーよwwwwwwwww

 :敵が勝手に外しただけだろ神聖視しすぎ

 :でも倒し続けてるのは見えてるしそれくらいしそうだし

 :ありえねーwwwwwwww

 :流石に草

 :君人間のふり下手だね!

 :もっと高精度のカメラならなあ

 :この画質でそこまで推察した連中も大概だと思う

 :人間辞めましたシリーズ

 :いつから吹雪が人間だと錯覚していた?

 :でもオールマイトならそれくらいするだろ

 :普通に深海棲艦倒され続けてるのに誰も触れてなくて草

 :ここまで見たらもう負ける可能性疑ってる奴居ないだろっていう

 :実際完勝したわけだしな

 

 

 

 

ここから先は吹雪が全滅させて戻るまで映像が無く

音声だけ流しても仕方ないのでカットになります

 :おk

 :しゃーない

 :この先の新映像だれか上げねーかな

 :そもそも撮ってる奴居るか怪しいわな

 :マジで残り音が聞こえるだけだしな音も小さすぎてほぼ聞こえないし

 

 

 

同時刻の文月

 :かわいい

 :かわいい

 :かわいい

 :明らかにカメラ意識した動きしてる

 :動きがかわいい

 

「こっちでーす! 学校のグラウンドに入っちゃってくださーい!」

 

 :めっちゃ通るいい声だぁ……

 :吹雪に比べて平和すぎるw

 :音量上げるとちょっと砲音みたいなの入ってんだよなあ

 :よく混乱せずに避難出来たな

 

「あっ! すみません、ちょっと通信するのでカメラ止めて貰っていいですか?」

 

 :はい(素直)

 :はい(紳士)

 :はい(善性の塊)

 :はい(はい)

 :わざわざ言うのか……

 :※マジで止めました

 :おいカメラ止めろ

 :この後暫くの映像残ってないからこの人以外も全員ちゃんと止めてるという

 :やっぱ精神操作されてるってこれ

 :しっかり言う事聞くの怖すぎなんだ

 :でも文月さまの命令になら従ってみたいかも

 :←ドゴォ!!

 :いやマジで普通に避難してただけだぞ

 :従わないと後が怖いから

 :普通に盗撮だから上げてないだけじゃね?

 :警告もされたしな

 

 

 

ここから戦闘後です

 :吹雪足はっや

 :走るっていうか跳んでる

 :来た道戻ってるのね

 :たぶん食い残しないか確認しながら戻ってる

 :ワイプの方スパッツ映ってるウッ

 :100m10秒余裕で越える走り

 :戦闘中の速度考えると本気出せば100m1秒切れそう

 

 

 

その場面の映像は無いですが

この後全滅させたと文月に伝えて

避難者を待機させつつ後続を待ったようです

そして島風らと合流

 :島風!!と知らん子と知らん子!!

 :島風のカチューシャ色変わってんな

 :子って年じゃなくね?

 :運転手とお医者さんやぞ

 :制服多少アレンジできるらしいから多少はね?

 :島風白衣じゃんwwwwwww

 :羽織ってるだけで何も隠せてないwwwwふぅ……せめて前を止めろ

 :島風以外の二人は自衛隊の戦えない艦娘っぽい

 :島風人里降りるからってその辺にあったの出しただけだろこれ

 :明らかに一人ただの運転手だしな一応艤装付けてるけど

 :また島風が制服そのままで出撃してる説が濃くなってしまった……

 

 

ここの辺りは遠慮がちな映像しかなく

音声がほとんど入っていないため会話内容は不明ですが

金髪の方は『駆逐艦 皐月』

茶髪の方は『軽巡洋艦 球磨』

だと判明しています

 :球磨の人すごいアホ毛

 :夕立もそうだったけど髪質滅茶苦茶影響受けるらしいからなあ

 :あと皐月の人が医者?みたいな事できるって判明してる

 :←医官かなんかなのかこの人

 :この後怪我人いないか見て回ったらしい

 :たぶん吹雪に何かあると困るから付けられたっぽい

 :死なれたら不味いってレベルじゃないのは今回よく分かったし当然か

 :島風の白衣この人のだろ

 :町中行くからって着せられたんだなこれw

 :子供三人集まると顔面偏差値が酷いドラマか何かかよ

 :やっぱ顔関係あるよなあこれ

 :かわいい

 

 

 

この後、自衛隊が現場に来るまで艦娘達が対応してる映像もありますが

冗長かつ映ってない場面が多いので続きは元動画をご覧ください

意味不明すぎて編集してる間に何をしてるのか理解できなくなったりして

非常に拙い解説でしたがお付き合いありがとうございました

 :乙

 :おつ

 :乙意味不明なのはしゃーない

 :英雄の事は凡人には理解できないよ

 :←理解できないの方向性がさぁ……

 :理解出来たらそいつはサイドキック目指した方が良い

 :吹雪の居る戦線が絶対負けない事だけは分かった

 :吹雪居て負けるならもう諦めるしかねーわ何やっても無理だもん

 :連装砲ちゃんかわいい

 :連装砲ちゃんちゃんと連れて来てるのね

 :連装砲ちゃんの短いおててふりふりが俺を狂わせる

 :連装砲ちゃんに狂わされるニキはせめて吹雪辺りに狂わされて?

 :ロリコン乙

 

 

 




ちゃんと表示されてるか不安というかスマホとかだと確実に崩れてたんですがやってる本人だけは楽しかったです。
普通に掲示板やった方が数倍楽だったのは内緒。

スクロールはスマホで事前に試せないのが敗因ですなぁ。
点滅は読み辛い人も居るかなーと思ってたんですが想定以上に読み辛かった模様。
色は自分が普段夜間モードにしてるの忘れてて通常モードで確認するの忘れてたからですね。
やらかし過ぎなんだよなぁ……
自分自身は修正含めて楽しかったからいいんですけど読む側が大変なのは駄目でしたねえ。


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ゆゆうじょうとパパワー

 翌日昼。私は完全にオールマイトにされていた。

 作戦決行日は明日に迫り、昨日深夜まで働いていたので今日はお休み。同じような状態の子らは割と多く、戦いに備えて大体の艦隊員が半休くらいは取れる事になっていた。

 鎮守府に帰り着いたらもう明け方。そこからお昼まで寝て、目が覚めたら、私はオールマイトだった。ネット上で。いや寝る前にもう動画は上がってたんだけどね。流石に眠かったから寝てたらこの始末。

 分かってたけどさぁ。分かってたけどさぁ。高速移動からの素手格闘でぶっ飛ばしたり砕いて撒き散らしたり周囲に飛ぶ砲弾も打ち落としたり投げ返したりしてたら当然なんだけどさぁ。もう完全にこいつ普段から素手で戦ってるだろって扱いになっちゃったんだよなぁ。なんか自衛隊側からも吹雪以外はできませんって三度目の声明出ちゃってたしさぁ。そりゃ真似されても困るんだろうけどさぁ。

 でも、別に私はヒーローの器じゃないんだよ。滅私奉公とか自己犠牲とか咄嗟には無理なタイプだと思うんだよ。ステインみたいなのが聞いたらブチ切れ案件だよこれ。いやまあ皆私が召集されただけって分かってるだろうから、ネタにして遊んでるだけだとは思うんだけど……ネタにしてるだけだよね? 本気で言ってないよね?

「あんたこれで被弾は?」

「してないよ」

「相変わらずコスパが凄い」

 曙も漣も姉妹揃ってジトっとした目で私を見つめて来る。なんだよぅいいじゃないかよぅ。変色海域内じゃなかったからむしろメンテは楽だったりとかするんだぞ。一切壊れてないからね今回。ずっと陸に居たもんだからdotダメすら無かったからさ。

 

 

 

 

 

 私達は深海棲艦の群れを粉々にした後、通報を受けて駆けつけた自衛隊の人達に現場を任せ、奴等がどこから現れたのかを追う事になった。いや粉々にしてたのは私だけだけども。

 文月と合流して避難した皆さんの様子を伺いつつ車で来た三人とも合流。学校のグラウンドだったのでちょっと集まってもらいつつ皐月さんが軽い検診を行っていたが、特に大きな怪我なんかをした人は見受けられなかった。いやあ凄いなあ洗の……思考誘導。気分が悪くなったりもしないみたいだから自分達が何をされたのか、そもそも何かをされたのかすら分かってないだろうと思われる。野に放って大丈夫なのかちょっと心配な力なんだけどまあ悪用はしないだろう。たぶん。

 私にオールマイトさせたことに関しては、文月はだいぶ申し訳なさそうだった。別に怒ってなかったんだけどね、本当に。むしろ開き直って隠す気0でぶん殴りに行けたから良かったんじゃないだろうか。あれ? もしや私も精神に影響出てる? まあそれはそれでいいだろう。よく考えたら毎日毎日挨拶振りまいてるし、みんな文月バフで常時キラ付けされてるんだろうから誤差だよ誤差。むしろ有難いわ。

 そういえば島風は人里だからか四国で天津風さんに貰った白衣を羽織っていた。なんか常時艤装に入っているらしい。羽織るだけだと普通にセンシティブな気もしたが、まあ素の制服状態よりマシだっただろう。たぶん。

 調査に関しては私達に振られた理由は簡単で、まだ敵が残ってる可能性が普通に考えられたからだ。文月音波で周囲に気を配りつつ見つけたら私が即倒しに行けるってのはやっぱり強みだよね。

 自衛隊の調査グループも組まれていて、現場から改造車に同乗したのだけれど、まあ視線が凄かった。いや好意的な物……っていうか滅茶苦茶頼もしそうな感じの奴ではあったんだけど、正直居心地は良くなかったよね。悪意じゃないからどうにもし辛かったんだけど、皐月さんがあんま吹雪ばっか見てないでよーと注意してくれたので事無きを得た。有難し。

 そうしてそんなに騒がしくもせずに私達は痕跡を辿って行った。って言っても特に苦労は無かったんだけどね。どうも隠す気すら無かったらしく、奴等が通ってきた道は誰から見ても一目瞭然で、何処から現れたのか判明するまでに、そんなに時間は掛からなかった。

 

 私達が見つけたその穴からは線路が出ていた。開いた大口に遠くまで続く真っ暗闇。入り口はともかく中は傾斜があるのだそうで、下り下って海の下。そんな地下を渡って向かいの島まで続く。それはそんな人工の道。

 つまりは青函トンネルである。

 そんなとこ警戒してなかったんかいって話になると思うんだが、当然警戒はしていた。というか、していたはずだった……っていうのが正しいのかなこの場合。

 いやね、実はこの青函トンネル、潰れてたんだ。埋まってたの。完璧に、完膚なきまでに。通ってたら自衛隊側だって使用を検討したかったくらいなんだろうけど、エコーとかそういうので調べても、ちょっと突貫工事は無理っすねくらいには崩れ去っちゃってたらしいんだよね。

 だというのに深海棲艦達と来たら、そこを掘って突撃して来やがり遊ばされたらしいのである。物理無効だから多少埋まってもどうにかなるさの精神で押し通しちゃったんだろうなあ。たぶんだけど、私の倒した体の大きめの奴ら、あれは陸戦用じゃなくて土木工事用だったんじゃないだろうか。地道に掘って来たんだろうと考えられる。私も大概だけどお前等も艦これするつもりがないのは意外過ぎだったよ……

 勿論、埋まってたはずだからってまったく警戒されてなかった訳じゃあない。場所が場所だから陸上自衛隊の人達の管轄として管理されてたんだ。うん。されてた……はずだったんだけどね。いつの間にか人員配置無くなってたらしいんすよねぇ。どういう事だってばよ。

 なーんかこの一件、敵の戦力や資材削りと同時に味方の綱紀粛正というかただの粛清みたいなものの臭いを感じるんだよなあ。どういう経緯で見張られなくなったのかは私じゃ分かんないんだけど、敵の出所とかはすぐに口外禁止指定されたし。まあずっと黙ってもられないだろうから良いタイミングで公開するんじゃないかな。知らんけど。

 閑話休題。深海棲艦はトンネルの中から出てきたと確認した私達は、ともかくそれを上に報告。そしたら追加の調査人員が送られてきて、その人達が奥の埋まってたはずの所に穴が開いてる事を確認。その事を上層部に伝えた結果――青函トンネルは早急に埋め直される事に決まった。

 まあこれはしょうがないんだよね。どの道一度埋まったのをまともな技術無さそうな連中が無理矢理掘って繋げましたーなんてのを再利用とかできる訳ないし、また敵がそこから出てくる可能性もあるんだから放っておくのも危ない。なので青函トンネルは念入りに発破をかけて崩され、その生涯を終わらせられる事になったのでした。

 元々深海棲艦が来た時点で崩されてたとはいえ、自分達の手でもう一回止めを刺さなきゃいけないってのはなんとも筆舌に尽くしがたい感覚に襲われた。とりあえず、何になる訳でもないのだけれど、みんなで手だけは合わせておいた。

 そんなこんなで警備に私達が必要だったから、鎮守府に帰り着いたのは朝方になった訳なのだ。特に反射音で敵が居ないのちゃんと確認できた文月が凄く役に立ってた印象で、なんと閉所でそれ用に調整して耳の良い艦娘と組めば、空気中でも数十キロ先まで視える事が判明した。まあ奥の方はだいぶ精度が落ちるんだけどそれはしょうがないだろう。

 っていうか組織のはずなのに相変わらず状況確認から決定までが凄い早い。発破も調査段階でもう持って来てたし、最初から場合によっては埋めようって話になってたんだろうなあ。うーん、どこまで転生者……っていうか楠木提督の手が回っているのやら。怖すぎて昼までぐっすり寝ちゃったよ。

 

 

 

 

 

 そうして昼。目覚めたら私はオールマイトになっていたわけである。

 明け方まで色々あって感傷的な気分になってた所にオールマイトである。酷くね?

 ちなみに起床原因は出撃を終えて帰って来てスマホ見たら話題になってたらしい動画を見て笑いながら部屋に飛び込んで来た深雪の大声である。またやったのかよーって凄い笑顔だった。おうやってやったぜ。もっかい寝ていい? ふて寝だけど。

 

 

 

「あたしも改二になったらこうなれるかな?」

「ない」

「ない」

「ありません」

「ありえないでしょ」

 口々の否定に、えー、と深雪が口元を尖らせる。まあ深雪も本気で言ってる訳ではなかろうが、改二になった曙と文月からしたら酷い風評被害だろう。

 部屋の中では私と文月、深雪と曙と漣が揃って動画を視聴中だ。島風は起きたら居なかったのでどっかに出かけていると思われる。そもそも私よりかは社交性があって早起きなのでそういう事もあろう……連装砲ちゃん達も居ないからメンテかもしれない。昨日は朝まで一緒に働いてたしね、出番はなかったけど一緒に手を合わせたりはしたし。かわいかった。

 大画面表示したためだいぶ画質の粗くなった動画を皆で一緒に見ているが、無双しちゃった私もだけど文月の評価もやたらと高い。っていうかどの動画にもかわいいってコメントが付くんだけど大丈夫? 画面越しに洗脳されてない?

「案の定ふみふみが声優デビュー求められてますな」

「広報でもやらせてもらおうかなぁ……」

 それはそれで需要はありそうだけど、こう、文月が本気でやると強制力とか発生しそうで怖い。まあ有効だったら楠木提督ならやらせるかな? 今は難しいと思うけど……っていうか、一期から文月が居たら生放送の時に間違いなく出演させられてたよねきっと。

 曙はこの大群がどこから来たのかが気になったらしく防衛体制を心配していたけれど、私達が経路自体を潰してきたと説明したらある程度の納得を見せてくれた。潰せる経路って時点で海路じゃないのがバレそうだけど、まあ気付かれて何がある訳でもなし。問題はないだろう。たぶん。

 いやあそれにしてもこの短時間でMADやら切り抜きが増えちゃったからこれはチェックのし甲斐が有りそうだ。私だけじゃなくて文月のもあったからかなり内容が気になるんだけど……皆の前で堂々とチェックするのは流石に憚られる。いや漣は笑ってくれそうだけど、曙は私が私のを見てるだけでも微妙な表情になるからさ。こっちの心配してくれてるだけなんだけれどね。

 一個一個の動画だと私が何をしているのかはちょっと判り辛いんだが、文月の方はしっかり地に足を付けて行動してたせいで一つの動画だけで大量の素材が確保できる。しかも明らかにカメラ慣れしてるというか、自分が他の人目線でどう見えるかを熟知した動きをしてるもんだから、たまたま避難民が撮ったとかそういう次元でなく、そういうプロモーション映像だったんじゃないかってくらいそれぞれの場面で絵面が安定してるんだよね。

 なので文月はその……青背景の素材にいっぱいされるかなって思います。なんか一動画しかない秋雲先生ですらされてたからな! なんだよ手押しする秋雲先生BBって。

 私? 私は既にいっぱいあるよ! 深刻な素材過多だよ!!

 

「んーちょっと考えたんですがこれうちの……竹下の艦隊員だとどうにもなりませんなぁ。道なりに来てくれてるんで榛名さんなら地上の連中はどうにかできるかもせんけれども……制圧する前に航空戦力であぼんしそう」

「やっぱそっちがキツいよなぁ。見てる連中絶対分かってないけど、吹雪が最初に落とし切ってなかったら避難してる人ら全滅してそうだもん」

「やっぱり地上戦はきつい?」

 私の言葉に漣が大きく頷いた。まあ、そりゃあそうだよね。艦娘が地上で戦う場合、空飛んでる連中が本当にヤバい。回避力に差があり過ぎる。移動力もかなり落ちるから下手すると空母一隻に艦隊が全滅させられかねない。そして今回の敵艦隊、空母はかなりの数が居た。

「ちなフブッキー除いた宮里艦隊だと?」

「倒せる。けど、町への被害が酷い事になると思うわよ」

「隠れて狙撃でもして数減らして行きたいよなあ。数多過ぎて普通に戦っても弾が足りないだろうし」

「一当りで終わらないよねぇ。相性的にはあたしたちより提艦隊……っていうか、金剛さんと初雪さんが有効じゃないかなぁー」

 私除くと対空最上位な初雪と高範囲殲滅が可能な金剛さんは他に比べれば地上戦に向いているらしい。歩くより滑走する方が楽だって言ってた初雪は絶対嫌がるだろうけども。

「……誰も勝てないって言わないのほんとにヤベーと思うの」

「絶対に住んでる人達を守り切れないのを勝利って言えるならだけどね」

 曙は苦虫を噛み潰したような表情だった。いやまあ、ここまで入り込まれた時点で敗北みたいなもんなので後から派遣された人たちがどんだけ頑張ってもって話ではあるんだよね、本来なら。チートする以外で覆しようがないわこんなもん。

「ぼのたん、勝つ前提で被害をどう抑えるかまで考えだすのは皮算用みない?」

「否定はしないわよ。ただ現実に吹雪が出て被害0じゃ考えざるをえないでしょ……」

 自衛隊の公式発表によると死者どころか重傷者すら0で済んだらしいこの一件。実は一番私に対してドン引きしたのは民間人でも自衛隊員でもない。同じ艦娘である。

 いや実はっていうか明らかだけども。どう考えても自分達の実情知ってる連中の方がおかしさが良く分かるの当然だけれども。なんかお前絶対艦娘じゃねーよ別の何かだよってスマホの方で言われていたらしい。艤装関係ない能力なので大体合ってる。

 あれだよね。全然態度変えずに接してくれてるみんなって滅茶苦茶有難いよね。そこまで気にする性質でもないんだけど、私だって傷つかない訳じゃないからさ。いやチート能力さんのおかげでノーダメージな可能性もあるが、メンタル強化どれくらいされてんのか自分でよく分かんないからなあ。

 

「吹雪と文月居るー?」

 コンコンと部屋の戸が叩かれ返事も待たずにガチャっと開かれそこから中に入って来たのは誰あらん、秋雲先生その人だった。なんだか普段より身だしなみが整えられていて、髪とかいつもよりピシッとしているような気がする。いや普段がだらしないとかそういう訳でもないんだけれど。

「お、丁度二人とも起きてるねえ。おはよ」

 おはようございますと挨拶を交わし、何用だろうかと伺えば、何やら呼び出しの伝言だった。放送じゃなく人づてな辺り、大っぴらにはしたくなかったんだろうか。

「楠木提督が二人をお呼びだよ~。なんか緊急じゃないからゆっくりでいいって言ってたけど」

 うげ、と字面に似合わぬキュート極まる声で文月が呻いた。これは……本物が来たっぽいかな?

「私も呼ばれて行ったんだけどね。動画で特定されたじゃん? アレの話だったから、たぶん二人もそれじゃないかね~」

 なんでも秋雲先生はこれまでとこれからのいろんな対応について説明や意思確認、何か希望はあるかなんかを聞かれたらしい。簡潔に言えば特に悪い扱いにはならなさそうだったらしいけど……まあ、たぶん冷遇されたりはしないだろう。っていうか、したら私が怒る。まあそうする意味も全く無いし、むしろ色々やってもらいたい事とかあるんじゃないかな。酷いやり方だけど知名度は上がった訳だしね。

 

 

 

 

 

 そんな訳で手早く制服に着替えて身支度も整えた私と文月は、まず工廠までやって来た。いやここに楠木提督が居るとかそういう事ではなく、猫吊るしを回収しにね。私と文月を同時に呼び出すって事は転生者関連のアレやらソレやらもあるだろうから、猫吊るしにもしっかり参加してもらうのだ。

 猫吊るしは仕事をしてれば結構目立つ。リーダー役で意思疎通もしっかりできるんだから当然と言えば当然なんだけど、それを差し引いても存在感が全然違う。他の妖精さんはなんとなく希薄なんだよね。昔の兵隊さんの残滓とかそういうので構成されてるらしいから仕方ないんだろうけどさ。

 ただ流石に寝てたりするとぱっと見じゃ分からないからその場合は探さなきゃなんだけど、今回はその必要はまったく無かった。どういうわけか、この空間で一番目立つ奴の頭上に存在していたからである。

 私が工廠に足を踏み入れた時、最初に目に付いたのは白いうさ耳のようなリボンをぴょこぴょこと軽く左右に振る薄い金色の頭だった。そしてそのそびえる二本の柱の間には、何故か探し求めた猫吊るしその人が鎮座ましましていたのだ。

 隣の文月はあれって顔をしていたが、同じ艦隊で一緒に出撃する二人である。別に仲は悪くない……っていうか、むしろ普通に良い訳で。特におかしな事でもない。それに、なんかみんな猫吊るしは頭に乗せるのが正しいと思ってるフシがあるんだよね。誰のせいだろうね不思議だね。

 ともかく別に特別な事ではないので普通に歩いて行って普通に声を掛けたらば、なんでか島風はオウッと鳴いた。別に音殺して動くのクセになってたりはしないんだけど、結構集中してたっぽい?

 近くには連装砲ちゃんが二体。もう一体は今明石さん達の手で砲塔を外してメンテナンスされている。なんか凄い違和感あるんだけど、別に不調とかは無いようで私と目が合うとミューと鳴いて手を振ってくれた。かわいい。

「ん、吹雪……と文月? なんかあったか?」

 猫吊るしが振り向いて首を傾げた。私達はもう今日は出ない予定だったので工廠にも来ないと思っていたのだろう。実際用事が無ければ来なかったろうから間違ってない。

「楠木提督から呼び出し食らった。猫吊るしも一緒に来てよ」

「おっ……行く行く」

「おうっ? 私も行く?」

 島風が地面に転がった工具なんかを脇に寄せながら聞いて来たが……どうだろ。一応島風も動画に映ってたけど、別に今までと何が変わるでもないからなあ。生放送と違って撃ったりとかもしてないし。それに転生者同士の話になりそうだし、悪いけど待ってて貰った方が良いだろう。

「昨日の事報告するのに猫吊るしが詳しく分かるとこ説明してもらうだけだから、あんまり大勢で行かない方が良いかも?」

 嘘である。いや完全に嘘って訳でもなく、実際島風連れてく意味はあんまりないんだよね。旗艦は私で、他者視点の情報が欲しいなら皐月さんや球磨さんっていう大人で自衛官な人達が居る訳だから。

「文月は?」

「あたしは昨日のあれでいっぱい撮られちゃったから、それどうするかお話しなきゃらしいよぉ」

 これは嘘ではない。ただそれ以外もあるって事を言ってないだけである。っていうか文月、知ってる私から見ても何一つ嘘っぽい感じ無いんだけど演技上手くない? そういうのも培った経験からなんだろうか。

 島風はそっかーと納得した。まあ連装砲ちゃん達のメンテに立ち会ってる……っていうか、工具持ってた辺り自分でもなんか弄ってたっぽいし、それを放置させるのはちょっと悪いしね。親が艤装開発に携わっているし、もしかしたらそっちへの関心もあるのかもしれない。ちなみに猫吊るしは技術指導的な事をしてただけだから離れても問題ないとの事だが……帰って来たら連装砲ちゃんがばらばらになってたりしないよね? 大丈夫だよね?

 

 

 

 

 

 ドアをノックして、返事を待って、部屋の中へとゆっくり踏み込む。ここは会議室などのある棟のかなり奥まった方にある、偉い人が来た時に使われるという執務室みたいなところである。中には一人の人間の気配。それ以外はちょっと天井裏に一人が居るくらいである。ニンジャかと思ったけどサイズ的に小鬼かな。

 失礼しますと入室した私達を出迎えたのは、魔法使いを名乗る創造主に主人公転生者としてこの世界に送り込まれ、私達という援軍の要請にも成功し、その持たされた能力でもって無辜の人々を億単位で救っている、成果だけ見れば救世主っていうか来歴がもう完全に救世主そのものである益荒男。楠木 多聞丸その人だった。

 まあ中の人は女性らしいので益荒男扱いは不服なのかもしれないけどね、私と同じだとしたら自意識は前世のまま変わってない可能性が高いわけだし。ただ、外見的には完全に男性――それも評判によるとかなりの美形であり、私の知る限りはその仕草や振る舞いも威厳ある壮年以上の男性のそれである。それらしい振る舞いをしっかり身に着けているのだろう。私と違って。

 今も部屋の中心で腕を後ろ手に組み、わざとであろうが、大物の風格を漂わせて私達が完全に入室するのを待ちわびている。昨日見た影武者さんではない。何が違うかと言われるとちょっと困るのだが、私のチート感覚はそれが間違いなく本人だと判断していた。

 私と頭上の猫吊るしが部屋に入ると、その後ろに続いた文月が扉を閉める。そして一歩、楠木提督の方へと踏み出した。瞬間。楠木提督は、高く跳び上がった。

 訓練所の時も思ったが、よく鍛え上げられた肉体である。その跳躍は非常に高い軌道を描き、頭部は髪が天井を掠める所まで到達した。そしてそのまま膝を曲げ、腹の側へと折り込みつつ、腰も曲げながら提督は床に平行な姿勢で降りてくる。突き出された腕も曲げられ、頭の横に添えられた。

 何故か緩慢に流れる時間。私は楠木提督が何をしようとしているのか、その動作からなんとなく理解できた。うーん成程。それはちょっと許されない。

 なのでその着地地点へと先回りして、かなり無礼だが、落ちて来る楠木提督の両肩を掴み、その頭がそこより下がらないよう手で固定した。普通に立った時の位置に固定したため、楠木提督の脚は降って来た勢いで普通に伸ばされて床へと付く。ちゃんとやったので痛めたりもしてないはずだ。

「楠木提督、貴女がそれをするのは問題しか起きないと思うので、できれば止めて頂けませんか」

 その、ジャンピング土下座とか、そういうのはさ。

 いや、ネタ抜きのマジで困るんですよね。される理由もないし、したのバレたら悪い噂にしかならない。立場考えてくだち!! なんで特に偉い訳でもない一兵卒が幕僚長に出会い頭のジャンピング土下座決められにゃならんのじゃ。焦るわ。いや対応自体は余裕あったけど、精神的にね。

 まあ、それで何もかもが済んで全てが上手く収まるとかならしてくれてもいいんだけどね。土下座でもなんでもさ。ただ絶対にそうはならないだろうって不思議な確信が私の中に確固としてある。むしろ悪くなる予感しかしないんだよなあ、この場合。

「むう……不意を打っても駄目か」

「わかっていただろうにのう楠木」

 ボクオーン。じゃなくて猫吊るしが呆れた声を上げた。ふっふっふ。楠木提督よ、私の前で軽率に頭を地面に擦り付けられると思わない方が良い。いくらでもインターセプトしてやんよ。

 

「頭を深くは下げさせてもらえないようだけれど……ともかく、一言謝らせておくれ。前世の事でなく、君達に事情を説明せず、転生者の共同体から弾いていた事についてね」

 すまなかった。そう言って、楠木提督は頭を下げた。流石にそっちの事だけなら私も止めない。まあ、その方が最終的に効率良く人を救えたのだろうから別に構わないっていうか、特に気にしてはいないんだけどね。でも文月は知ってればもうちょっと安心して戦えただろうから私にではなく文月にはちゃんと謝った方が良いと思うし……あとDOGEZAではなかったからまあ、許容範囲という事で。

「あの、あたし達も今後は色々教えてもらえるんですか……?」

「勿論。明日の戦いが終わったら、時間の合う時に他の子達とも会ってもらうつもりだよ」

 話によれば、この間交流した面々だけでなく、アメリカや他の地域に居る転生者達とも順次引き合わせる予定であるらしい。アメリ艦ってゲームに実装されてなかったのとかいっぱい居ると思うけど、私の知ってる艦に適性のある人はどれくらい居るんだろう。ヨークタウン級が揃ってるのは聞いたんだけど、私の知ってるのってホーネットだけだからなあ。

「明日の作戦、それだけ重要って事か。転換点になるくらい」

「そうだね。詳しくは……うーん。どうも説明しない方が誤差程度には良さそうなんだが、聞くかね?」

「じゃあいいです」

「長くなりそうだしな」

「分からないなりに精一杯頑張ります!」

 即答する私に猫吊るしと文月も続いた。だってねえ、誤差(死者数下一桁)とかでしょそれ? 数字だと誤差でも実際には大損害じゃないですかヤダー。っていうか、遠慮するの分かってて聞いてますよね?

 

 楠木提督に促されて私達は部屋にあるソファに腰かけた。私と文月が並んで座り、向かいに楠木提督が着いてお茶を淹れる。遠慮しようとしたらまあまあまあまあとごり押されてしまった。偉い人にやらせるのちょっと居心地悪いんですけど……

「さて……改めて、自己紹介をさせてもらうね。私は楠木 多聞丸。例の娘の手でこの世界へと遣わされた、普通のチート転生者だよ」

「普通とはいったい……」

「普通の法則が乱れる」

 精神性は普通……だったりするんだろうか。でも成果が普通じゃないから普通を主張するのは無理があるのでは。極端に悪い人でも極端に良い人でもないって意味での普通なのかなあ。いや私殺しの事引き摺ってるらしいからかなり良い人寄りのような気はするんだけど。

 まあそれはともかく、名乗られたからには私も名乗り返さないといけないだろう。なんて思ってたら、私が口を開く前に猫吊るしがスッと頭の上で立ち上がり、腕を組んで堂々と名乗りを上げだした。

「俺は猫吊るし、本名は忘れたからただの猫吊るしだ。どこにでもいる普通のチート転生者だよよろしくね!!」

「伊吹 雪です。どこへ出しても恥ずかしいふつつかな普通のチート転生者ですがよろしくお願いします」

「文 月ですっ! 三回も転生してるのにみんなに追いつかない普通のチート転生者です! ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いしますっ!!」

「PT小鬼ダヨ。ドコニデモイル普通ノチート転生者ダヨ、ヨロシクネ!」

 天井裏からぬっと頭だけ出した小さな深海棲艦が何故か私達に混ざって自己紹介を始めた。そしてそのまままたねーと手を振って階層の隙間へと戻って行く。いやなんか君のどこにでも居るは意味が違わない? 文月は誰!? ってびっくりしてた。

 

「先んじて色々とバラされてしまったようだけれど、私は今現在、他の転生者の皆の協力を得て、日本を含めた世界中の深海棲艦被害と、それに伴う世界大戦勃発の事前予防のために動いているんだ」

 自己紹介を終え、楠木提督の来歴なんかも聞いたのだが、自称魔法使いの子の話と特に食い違いは無さそうだった。別段嘘だと疑ってた訳ではないのだけれど、あの子の場合わざと偏った視点で話してるとかありそうだからちょっと心配だったんだよね。まあただの疑心暗鬼だったんだけど。

 そこからさらに言葉を重ね、少し前の事から現状の事へと話が進んだわけなんだが……世界大戦。世界大戦ってなんだ? それはあれか。現代兵器が飛び交いそうな奴の事か。具体的には核とか原子爆弾とかニュークリアウェポンとかそういうの。

「そんなの起きるんですか……?」

「無調整だとどうしてもね」

 楠木提督は軽く語ってくれたが、なんでもこの世界、深海棲艦を放置して提くん任せにすると人間は百万人くらいは生き残るらしいのだが、何も考えずに駆逐した場合、ルート次第じゃ人類は絶滅するらしいのである。核戦争で。だが人類は死滅していなかったなんて事は無く、完全に誰も居なくなるとの事だった。

「まあ、それは最悪の場合だけれどね。ただ、戦争自体は結構な確率で起きてしまうから、それを防ぐのも私達のお仕事だね」

 そのために今救えるけど救うと戦争に繋がる人たちは見捨ててるよ! と屋根裏から声がした。うわぁ。

「うん。まあ……そういうのもあって、基本的に予知内容は教えない事にしているんだ。勿論必要な事はちゃんと言うし、不味かったら止めるから、普段は思ったままに過ごしてくれていい」

 それは完全に私達の精神的負担の軽減のためなのだろう。有難いんだけどその負担が楠木提督やリカバリーに動ける一部の人達へ全部行く訳で……うーん、思考で試行できる予知能力ってやっぱ糞だわ。理想を追求し出したらキリも無いだろうし、これで時間遡行とかできる人が居たら沼だなハハハ。

「国外へ行ったりしてるってのもその辺りの調整だよな? 俺らから逃げた訳ではなく」

「無論そうだとも。先日の一件で私の能力は以前よりさらに融通が利くようになってね、調整できる事柄が増えてしまったんだ」

 聞けばしっかり眠れるようにはなったらしい。なったのだが、起きてる間はむしろ制御が利くもんだから大変になってしまったそうな。良かったのか悪かったのか分かりませんなあ。まあ予告通り猫土下座がケアに入るようになったみたいだから、総合的にはマシになってる。はず。

「影武者さんまで使って大変なんですねえー」

 影武者さんは現在また別の任務に行ってるらしい。忙しくしてるんだなあ。ニンジャってだけでネタっぽくなってるけど、よくよく考えるとかなりの功労者である。まあ存在が機密だからお話もできないんだが。

 

「本当に逃げた訳じゃないんですよね?」

 

 一瞬、文月の声色が変わったというか、圧力が増した。文月は現在笑顔だけれど、私でも分かるくらい演技っぽい。いやこれは演技っぽい笑いの演技をしてるのかな? チートなんて関係なくその手の能力高いなあ、前世や前々世で鍛えたのだろうか。

 対する楠木提督は、スッと目線を逸らした。おいィ?

「逃げてないっすよ」

「あっ本当に逃げた訳ではないんですねえ。安心しました」

 ふふっと文月は笑ったが、え、今ので分かるの? 対人スキル高そうな文月と読心能力持ちらしい楠木提督の遣り取りは私にはよく理解できない。なんだか茶化したみたいになってたから、本当にそっちの意図は……あってもちょっとだけだったとかそんな感じなのかな? 分かり辛い。

「まあ実際、開発してもらった新兵器を貰って来たり、同日に行う予定の向こうの決戦の打ち合わせなんかをしてきたんだよ。覚悟を決める時間が欲しかったのは否定しないけれどね」

 新兵器、というのはたぶん金剛さんの撃った大爆発する砲弾の事だろう。やっぱ外国製かアレ。公的な文書じゃどういう扱いになってんだろ。まあ捏造とかいくらでもできるんだろうからそっちは重要じゃないか。

「外国でも大きな戦いがあるんですか?」

 気になるのはやっぱりこっちだよね。成程、日本だけの話じゃないからターニングポイント的なものになるって事なのか。

「うむ。例の七体の事は聞いている……ようだね。そう、ボス個体だ。あれらの残りを明日、全て倒し切る」

 と言っても残りは二体だけらしいけれど、確かにそれは大きな影響が有りそうだ。ラスボスが控えてるとかラスボス以上の強さの裏ボスが居るとかじゃなければ、海もかなり落ち着いてくれるだろう。たぶん。

「やっぱり強いんですか?」

「うんまあ、そうだね。強い事は強いかな」

 文月の質問に楠木提督は言い淀んだ。私達はあっそっかぁってなった。察するよね、言い方的に。

「吹雪くんが当たると、ね?」

「アッハイ」

 やだ、私の能力チート過ぎ……いや私以外でもどうにかなるんだろうけどね、リベッチオとかあれ以来会ってないけど余裕なんじゃないだろうか。元気かなあ。

「ふむ、これは後で個別に言おうと思っていたんだが、丁度いいから今言ってしまおうか」

 楠木提督は一口無音で茶を啜ると、喉を湿らせてから続けた。

「そのボス個体は明日、複数の深海棲艦と共に現れる……これらは吹雪くんに対応してもらう事になるのだが」

「はい」

 まあ、順当に行けばそうなるだろう。長門さんが対応した地中海弩級水姫が色々例外だっただけで、普通に考えたら余裕で倒せるらしい私が戦わない理由がない。っていうか、もしかしなくても一週間って指定は出現に合わせてだったのかな。北海道に常駐してるとかじゃあなさそうだ。

「それらを相手取る時、そのボス個体を倒すのを最後にしてもらいたいんだ」

 ん? なんじゃそれ。もしかして四国の北方棲姫みたいに変な事してくる感じ? 取り巻きが居るとダメージ受けないような能力持ってたりとかするんだろうか。

「詳しい説明は要るかい?」

「『誤差』が出るなら要らないです」

「では、しない方向で行こうか」

 出るのかよ。

 ここがギリギリの説明って事か、怖いわー予知能力怖いわー。逆に増やせるタイミングとか無いのかなあ。いや、どう考えても今呼んだのがその最大値叩き出せるタイミングか。うへえ。

 なんでもボスは明日、日本と南極近海に同時に……いや同時かそれ……? まあともかく、二体一緒に倒せるタイミングがあるらしく、それを一緒に叩いて大打撃を与えようというのが今回の作戦の本当の目的であるらしかった。北海道はついでにちょっと早めに解放されるらしい。まあ元々割と平和らしいけど、主目的じゃないのね。

「あのぉ、ボスって吹雪さんだけで戦うんですか……?」

 何か納得の行かなそうな表情をしているのは文月である。勿論、私が異常に強いのは分かっているのだろうけどそれはそれ、聞いた感じだともう一体は転生者複数で当たるっぽいのにこっちは私一人でやるみたいだからそこに引っかかっているのだろう。

 当然、私を心配してというか慮っての事である。ええ子やわぁ。でもなー。きっとこれ、むしろ私の事をしっかり考えての采配だと思うんだよね。効率的にも安全面的にも他の子は居ない方が都合が良いのだ。

「うん、そうなるね」

「まあ私的には一人の方が実際楽だしね」

「俺は乗るけどなー」

 そこは仕方ないね。妖精さんは居ないと艤装がちゃんと動かんし、私の変態機動に付いて来れるのは猫吊るしだけだし、是非もないよネ!

 

「しかし……本当に謝らせてはくれないつもりなんだねえ」

 暫く他の質問や雑談をしていたら、急に楠木提督は切り出した。うん。それはちょっとねえ。

 私もそうだし猫吊るしもそうなんだけど、そもそも死ぬ前後の記憶の無い私達は何を謝られてるのか実感を持って受け止められない。それにねえ。

「俺は俺の自由でやった事に関して他人に責任持ってもらうつもりは無いぞ」

 猫吊るしは前世において、完全に自分の判断で行った……物凄ぉ~~~~~~~~~~~く悪い言い方をしてしまえば軽挙妄動で命を失っている。咄嗟に体が動いたと言えば聞こえはいいし、実際善良な人格から湧き出た行動なのは間違いない。けどその行動は自発的なものであり、責任は猫吊るし自身が背負うしかないものなのである。

 本人は死ぬ直前の事は覚えていないらしいけど、例のあの子に教えてもらった限りだと誰かに何かをされたとかじゃあない。むしろ加害者ぶってる楠木提督だって巻き込まれた側である。だから、猫吊るし的には当然、謝られる筋合いは一切無いと言い切った。

 この辺り、私とは明確に差異がある。私の場合は何のかんのと言っても、楠木提督がやらかした側に所属してた人間である事に間違いは無いのだ。だから本来なら謝るくらいはした方が筋が通るのだろう。それは分かる。分かるんだけどね。

「楠木提督、私は謝られたらそれで完璧に、何の後腐れも無く許します。元々恨んでないので当たり前なんですけど」

 許すの内容が無いんだけど、まあ、形的にはそういう事にできるだろう。私からしたらむしろ感謝しかない訳だからなあ。楠木提督が他転生者を呼んで貰わなかったら私なんて今頃魂のまんまどっかで塩漬けにされてたんだろうし。

 なので当然、私は何の隔意もないし残るようなわだかまりもない。謝って終わってくれるのなら、それで全く構わないんだよね。

 そう、終わってくれるのならね。

「でも私が謝罪を受け取るのは一度だけです。私は理由もなく謝られるのは好きではありません。だからその……その一度で楠木提督の中で決着が付けられるのであれば、お受けします」

 なんかなー。勘なんだけど、ここで謝罪を受け取った場合、楠木提督は悩み続けそうな予感があるんだよなー。

 頭を下げてスパッと切り替えられるのであればそれでいい。私達と文月の関係がそうだ。隠してた事、気付かなかった事、どっちが悪いかって言うと私の言動が明らかに悪いと思うが、それはそれとしてお互い謝ったらその話はもうお終い。後は笑い話が残るだけ。少なくとも、私はそう思っている。

 でも、はたしてこの話の場合は、簡単にそんな風になれるだろうか? 転生して前世で関わった死の億倍以上の人々を助けてor助けられる見込みなのにまだ引き摺ってる人が、ただ謝っただけで?

 無理でしょ。なんというか、一度変な所で区切りを付けてしまったら、そのまま残った淀みが処理されずに残り続ける、そんな気がするのだ。

 謝るのと許すのは一つの区切りになる。そうでなければ被害者側が怒ってもいない現状でやる意味が全くない。私としては、その先は気兼ねなく――は立場上とかで難しいにしても、どちらかが大きな負い目を抱えているような関係ではなくなりたい。謂れも無く気を遣われっぱなしはなんかやだ。つらいもん。

「私は、前世のチェックしてた漫画やアニメが最後まで見れなかったのは残念ですけど、貴女に対して恨みはありませんので」

「その……例えば、前世のご両親の事などは?」

 おっと言ったな? それを言ったな? 正解は簡単だぞそれ。

 私が死んだ時、両親はまだまだ健在だった。私は産まれは二連続で非常に恵まれていて、前世も今世も父も母も尊敬できるし、大好きだ。だからこそ、絶対だと言えることがある。まあ、魔法使いのあの子から聞いた情報が確証なのも否定しないけど。

「二人が私が死んだことで心を病んだとか、そういった事は無かったでしょう?」

 悲しみはしたと思うけどね。そんな事より明らかに気に病んでたであろう楠木提督の事を心配したんじゃないかなぁ、あの父と母なら。ふわふわゆるゆるな伊吹 雪ちゃんの下地になった前世からの人格は、そういう人たちの下ですくすくと育まれた物なのだ。

「聞いた話からの判断ですけど、あの状況で楠木提督を憎んだりする人たちでもないので、私が貴女を責めたりしたら怒られ……はしないかもしれないですけど、何故か貴女側の立場に立って私を諭そうとすると思いますよ」

 たぶん傍から見たら全く意味不明な状況になるんじゃないかな。勿論、これで楠木提督の非が大きかったり、自分は悪くありませんみたいな態度だったら普通に怒ると思うし、病院に対してはそうだったと思うんだけどね。うん、そう考えると結構めんどくさいな。

 楠木提督は何か心当たりがあるのか、少し遠い目になった。そっか、前世の――百年以上前の事だしここから見たら異世界の出来事だからチート能力でもどう思ってたのか正確には分からないのか。確実に分かっているのは何故か怒られなかったって事だけだったのだろう。被害者側の遺族相手にそんなに踏み込むとかしないだろうし。

「いや、それでも君自身がもう会えないのは……」

「いえ私とっくに成人して独り立ちしてたので悲しくはあれそこまで沈み込むような話じゃないです」

 もしかして楠木提督、見た目に騙されてない? 私が中学生なのは見た目だけですよ? いや頭が残念だから幼く感じてる可能性もあるけれども。てか、それは置いておいても、私って根本的に悲しい事を引きずる性質じゃないんだよね。短期的にモヤっとする事は結構あるけどさ。

 この辺りは創造主と契約してまで自分に会いに来た愛情深い、っていうかその創造主にすら深すぎて呆れられてたレベルなレ級が家族だからってのもあるのかもしれない。でも一般的にはそんなに滅茶苦茶嘆き悲しみ続ける話じゃないですからね? まして亡くなったのが両親の方ではなく私の方だし、普通より立ち直るのも早かったんですよ。いや悲しいは悲しいんだけどさ……

 んー。んー。説明が難しいのぜ……あ、いや、っていうかアレだ。説明する必要なくねこれ?

「詳しくは心を読んで貰えれば分かると思うのですが……」

 これで少なくとも私がどう思ってるのかは一発じゃんね。なんかさっきから使ってる感じじゃなかったし、制御できるようになったから遠慮してたんだと思うけど、私は別に隠さなきゃいけないような事はそんなにない。だからしっかり読んで貰って、あとは楠木提督ご本人の判断に委ねるしかないだろう。まあ、一度しか受け付けないって言ったのが嘘なのもバレるけどそこはしゃーない。本当は無意味な謝罪じゃなきゃ何度でも受け付ける所存である。

 って思ったんだけどね。言われた楠木提督は何やら微妙な表情になった。嫌がってるとかそういう感じではなくて、何やら困った様な、それでいて納得もあるような、そんな難しい面相だった。

「いやそれなんだがね。君達があの子の空間から帰って来てからかな……どうも、吹雪くんの事が視えなくなってしまったんだ」

「えっ」

「ほう」

「あー」

 えっ、なにそれこわい。

 

「普通に視力で見たり、透視するのは問題無いんだ。しかし、何故だか心を読んだり流れているはずの魔力の流れがまるで視えなくなってしまってね……」

 楠木提督曰く、今現在も私の心だけが読めない状態になっているという。他の……例えば大淀司令官の心などは今ここからでも視えるらしいのに、私のだけ。

 いや、うん? なにそれどういう事? ただ目で見るのは大丈夫なんです? じゃあ楠木提督のチート能力の効果だけが阻害されてる? なんで? 口振りからして前は視えてたんですよね? あの子の所から帰って来て以来って何かあったっけ? っていうか、それって問題しかなくない??

「えっ、予知とか計画とか大丈夫なんですか?」

「ああ、それは大丈夫。あれはあくまで世界を観るものだから、吹雪くんの動向も含まれるよ。まあ予知というか未来視なんだけれどね」

 どうも、あくまで私自身を対象にした効果だけが無効にされているらしい。対象をとらない効果は効くとかそういう話? 裁定が難しそうだぜ!

「計画に支障は無いんだな?」

「うむ。それは大丈夫だよ。昨日の襲撃も完璧な形で退けられただろう?」

「完璧なオールマイトでしたね!!」

「ごめんなさ~い!」

 まあ、怒ってはいないから大丈夫だよ文月。ほんとだよほんと。ちょっと恥ずかしさが凄いだけだからね。そもそも文月もオールマイトのサイドキックの一人とか言われ始めちゃったしむしろ被害者寄りだし。

 でもそっか、もしや昨日無双させられたのは予知に悪影響が無いかの確認もあったからなのかな? だとしたら、リカバリーのために誰かしら待機してたのかもね。小鬼は普通に居たし。

 っていうかあれか、なんか猫吊るしより私の方が質問されてたのは読めなかったからか。逆に猫吊るしは読めたから聞く事なかったのね。

「でもなんで私だけ……? 例のあの子の所に行ったのは猫吊るしも文月も一緒にだったのに」

「なんでってお前」

「間違いなく『力』のせいだよお……」

 えっ、あっ、そっか。確かに。まともに取り込めたの私だけか。猫吊るしはまだ解析中かもしれないけど、文月は完全に消化されちゃったらしいし。

 ん……? いやでもあれって何かしらやろうとしなきゃただの作業台だぞ。私あれの使い方なんて全く分かんないんだけど――もしや? おーい、チート能力さんや。もしかして何かしたのかね?

 なんて、自分の中に語り掛けてみる。最近はレスポンスが良いので返事があるかもしれないと思ったのだ。

 

 ――またまたやらせていただきましたァン!

 

 反応はすぐだった。うん。管理は任せっきりだったけど……ええ? 使えるようになったの?? うっそだろお前。あれ創造主の力だぞ……? 

 いやでも、それなら説明は付くよなあ。楠木提督のチートがあの自称魔法使いに効くかと言われると厳しいだろうし、量は少なくても同質の力なら読心能力とかを防げるのは別におかしくないと思う。予知に問題が出ないのは、あくまで私自身を護ってるだけで私の出した影響に保護をかけるとかはしてないからとかそんなノリかな? そもそも今の時点でそんな広範囲まで管理できるとは思えないしね。

 っていうか、もしかしてチート能力さん、心読まれるの嫌だったりとかした? 確かに『なんか』読めない方が『つよい』感じがするから納得ではあるけれども。これ、任せっきりで大丈夫なのかなぁ。あんまり変な事しないといいんだけど……他の計画の邪魔になったらどうしよう。

 

 私は皆に説明した。チート能力さんが少量の自称魔法使いの子が使ってる『力』で私の事を保護したらしいと。一応確認取ったら返って来たネタまみれの返答を読み解くと、やっぱりそういう事っぽかったのだ。詳しくはベイさんにでも聞かなきゃ分かんないわ。やっぱあの人の能力有用だよ……

 話した結果、楠木提督はどこか安堵したような表情を見せた。一瞬の事で、気のせいだったかもしれないけれど。

「まあ、そういう訳ですので……申し訳ないですけど普通に話して相互理解を深める方向で行きましょう」

「いやいや、何も申し訳ない事など無いよ。それが普通だ」

 確かに。それはただの健全な人付き合いである。やだ……私それやって好かれる自信ないんだけど。何話せばいいんだろ。

「うん。そうだね、『力』に関してはレ級くんやゴトランドくんの話で聞いているけれど、君を護るものなら問題はないだろう。一応、予知にも反映されるようだしね」

 一応、と付けたのはいつか勝手にそこからも外れる機能が追加されかねないからだろう。たぶん今の所はそこまではできないと思うけど……できないよね?

「だから、話を戻すけれど……確かに吹雪くんの言う通りだよ。きっと私は今謝って、それで全てを過去の事にはできないだろうね」

「普通に難しい事要求されてるもんな」

 めんどくさい奴ですまんな!! でもしょーがないじゃない。たぶんちゃんとした解決を見ないと私達また同じ世界に突っ込まれるからね。私は構わないけど、楠木提督には傷が増えるだけだもん。

「じゃあ私が基本、この転生に関して感謝しかないって話とか、しましょうか」

 それはすっごいひっどいガバ創造主であるあの魔法使いを自称する少女を私が嫌っていない理由であり、楠木提督の事をまるで恨んでない理由でもある、割と大事な話なのだけど……

「いや、申し訳ないのだけれど、また今度にしよう。実はこの後も色々と調整をする必要があってねえ……」

 残念ながら今日はお開きになってしまった。ここまで全部予知していたのかあえて予知はしなかったのか、全く分かんないんだけど、まあきっとまた話す機会はあるだろう。ドキッ転生者だらけの懇親会みたいなのもたぶんあるから、そういう機会にでもね。逃がさんぞふはは。

 でも、いつかちゃんと和解できるのかなあ。ちょっと不安。楠木提督、長生きしてくれるといいんだけど。

 私が止め刺しそう? 知らんな。

 

 

 

 

 

「むぅー……吹雪さんだけ覚えるの早いのずるい……」

「俺もすぐ解析できるといいんだけどなー」

「それもなんかずるいよぉ……」

 楠木提督と別れ廊下に出るや、ぷーと文月は膨れてしまった。これ、転生三回目の男子(元)です。原形無くなってない? 大丈夫?

「まあ、たぶん私と文月は習熟難易度はあんまり変わらないと思うけどね」

 えっ? と文月は廊下に響き渡って何度も耳を喜ばせてくれる素敵な疑問の声を上げた。私の感覚的な話だから、そりゃあ何言ってるのか分かんないよね。説明すれば簡単な事なんだけど。

「文月は『力』を得て認識できるようになる、その入り口までは長いかもしれないけど、扱いを覚えるのはまあ普通くらいの難易度だと思うんだ」

「その入り口がぜんっぜん見えて来ないんですけどぉー」

 すんなり入って行っちゃった私に言われても説得力を感じないかもしれない。でも、私は私で問題があるんだよなあ。それも現状解決策が見当たらないのが。

「私は代わりに、まともに自分で扱えるようになるまで文月より遥かに掛かるんじゃないかなって思うんだよね」

「吹雪の場合前段階のチート能力も制御はできてないもんな」

 そうそれ。結局、私は『力』どころか魔力の制御すらチート能力さんに丸投げなのである。そして、制御権を取り戻す方法は今の所無い。まあチート能力さんは根本的に私でしかないらしいので制御できてると言えない事も……いや言えないだろ。なんか知らんうちに新しい能力生えてた訳だし。怖。

 私は『力』を管理してくれてるチート能力さんを制御するための魔力の管理をチート能力さんにしてもらってる状態だ。鍵が扉の中にあるみたいなもんなので、正直これもう詰んでない? なんて思わなくもないのだけれど……でも現状をそのまま放置するのはどう考えてもよろしくないだろう。でも何とかするためにはピッキングでもするか、スペアキーでも作らなきゃいけないんだよね。無から。どうしろと。

 たぶんだけれど、この中で一番早く『力』を制御できるようになるのは猫吊るしじゃないかな。チート能力抜きでもいろんな事を器用にこなせそうな印象がある。まあ、明らかに厄の詰まったこれを本当に取り込むかは別問題としてだけど。

「んー……むー……でも、持ってれば使えるし、どうにかすると増えるんでしょぉ?」 

「増えなきゃ返済も何も無いしな」

「ペースは分からないけどね」

 数億年で一割とかそういうレベルの可能性も普通にある。なんせ単位が仏教だったから、まともな人間の感覚の範囲で済むとは思えないんだよなあ。もしかして精神保護ってそのためなんだろうか。

「やっぱりずるい!」

「えー」

 文月は胸の前で両の拳を握り、むんと可愛らしく力を入れた。そして私の方を向く。

「ずるいから今度から吹雪ちゃんって呼ぶね!!」

「なんか既視感あるのは気のせいかな?」

 単に呼び方変えたかっただけかい。いや構わんけども、曙や漣はちゃん付けなのになんで私だけさん付けなんだろうって思ってたし。

 文月はじゃあよろしくねとニッコリと笑って、やたらと可愛らしい声で、私の事をわざとらしく吹雪ちゃんと呼んだ。シチュエーションボイスか何かだろうか。どこからスパチャ投げればいいのかな?

 まあそれはともかく。楠木提督は大丈夫なんだろうか。扉を閉めて油断したのか、私の耳には大きくはない、でも深い深い溜息が聞こえちゃったんだよね。扉の向こうでどんな表情をしている事やら。うーん、ここに来て私にイレギュラーが出ちゃったし、心労凄そうなんだよなあ。どうにかしたいけど私が動けば動くほど負担にしかならない気もするし、素直にチート能力さんの制御を頑張るべきだろうか。難しそうだけど、やらない訳には行かないからね。

 つーか今回何の解決にもならなかったなぁ。会う度にダメージ与えそうだから本当は早期解決が望ましいんだろうけど、その願いは私の力を超えている。本来なら大逃げ決めちゃうつもりだったの正解だったりしない? いや、あの自称魔法使いが駄目っていう以上交流しない選択肢は無いんだけどさ。

 楠木提督の寿命を伸ばす手段はまだないけれど、解決しなかったら私達とまた転生させるって言われてたから実質時間制限は無い。でも、できれば今世でどうにかしたい所ではある。いや私の方は来世でもお付き合いさせていただくのはそれはそれで大歓迎なんだけども……

「なんか島風視点でNTRものみたくなってね?」

「お前は何を言っているんだ」

 猫吊るしが至極真面目な顔でいうものだから、文月は顔を背けてぷふっと噴き出した。それだと文月は間女……間男? どっちなんだろう。いやどっちでも失礼だろ阿呆か。

 でも、こういう馬鹿みたいな事言い合える関係に、いつか楠木提督ともなれたらいいな。って思いました。まる。

 

 

 




吹雪は超早熟型で猫吊るしは早熟型で文月は通常型。たぶん使いこなせるようになるまでの期間は似たり寄ったりです。
魔法使いに貰ったのを上手い事吸収してそれなのでチート能力さんは結構困ったちゃん。
なお一番習熟が早いのは間違いなく別の子。


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少女修行中...

 岩場の陰で海面に右の手の平を付け、精神を集中する。思い出すのは結界に行く手を阻まれたあの時の、あの心を燃やす感覚。腕は動かさない。あくまでも使うのは別の力だ。

 こうしていると、周囲の事がよく分かる。基地から飛行機が飛び立つ音、浅く打ち寄せる波の音、ちょっと不吉な金槌を振り下ろす音、明るく話す年少組のみんなの声、既に酔ってる大人達の笑い声。軽く全身に纏わりつく冷たい風。生き物が居ないせいか妙に薄味な海の香り。晴れた空から注ぐ太陽の熱。

 研ぎ澄まされた五感。チート能力によって齎されたそれらを、できる限り自分の内側へと向ける。吸った空気を処理する肺が、鼓動し血液を送り出す心臓が、さっき食べた昼食を溶かす胃や腸が、体を固定するために緊張している筋肉が、エネルギーを産み出し消費し生きるサイクルを続ける全細胞が、しっかりと稼働する様を意識する。

 そうして己が魂を覗く。物質的な生命である肉体を完全に理解すれば、心霊的な生命である魂や精神の形は自ずと知れる。

 ああ私が居る。肉体に比べ矮小な、ただの私がそこに居る。欠片であるはずの駆逐艦吹雪の魂が、完全に揃っているはずの私の魂の中でひときわ輝いている。その近くでは集合無意識へと繋がる経路が働き、仲間に無効化貫通の力を届けている。

 その横を抜けさらに奥。そこに、『なんか』『つよい』ものがいる。それはそれを見ている私の事を見ている。不思議そうに。そして無邪気に。

 さあ私は私に分かる私を構成する要素を把握できた。だからそれらを視界から排し、残ったものを見つめ直す。そこには二つのなにかがあるはずだ。この世界にも元より存在し、私も多量に抱えているもの――魔力と、この世界の外から持ち込んだ、私が少量のみ有しているもの――『力』が、そこに。

 そこに。そこに……そこに、そこに…………

 

 うん。

 

 

 

 わかんないんです><

 

 

 

 あの、マジで一切何も分かんないんですけど、私本当に持ってる? 他人の魔力割と分かるようになったのに自分のだけ本当に分かんないんですけどなにこれどうなってんの? いや分かってるけどさあ。チート能力さんがそういう能力なんだって事は。

 その証拠にね?

 

 ――チート能力さん、ちょっと右手に思いっきり力篭めて貰っていい?

 

 ――かしこまっ!

 

 海に浸された右手に熱のようなものが篭る。実際に体温が上がっている訳ではなく、おそらくは魔力が消費されているのを自分じゃ捉えられないからって、疑似的に他の感覚で代用して認識しているのだと思われる。

 そして消費された分だけの多量の魔力で私の腕は強化され、その余波が周囲に影響を与え始めた。具体的には海面が波打ち、向かってくる波と少し先で打ち消し合っている。

 ハッと短く息を吐き出し、腕は動かさず、篭められた力のみを打ち出すようなイメージを海へと叩き付ける。熱が燃え爆ぜるようなそれに変わり、掌から噴き上がり、一瞬で鎮火する。代わりに、触れていた海面が弾け、海水が正面上空へと盛大に吹き飛び、五メートルほどの範囲で浅い海底が顔を覗かせた。

 まあこういう事ができちゃうわけだねうん。

 うん。

 うん?

 え、できるんだ……そんな事……

 てっきり前の時みたいに余波でおっきな波が出るくらいかと思ってたんだけど。これ人に触れながらやったら死ぬ奴じゃん。怖。

 まあ、できたものは仕方がないし、溜めっぽいのが要るから暴発しそうになったら他所に向ければいいだけだろう。そもそもチート能力さんが暴発させるとも思えないし、問題ではないと思う。逆に殴った方が早いから使い道もないけれども。

 

 でだ、私これをチート能力さんに頼らないで自力でやれるようにならないといけないんだよね。いやここまで露骨な発露じゃなくてもいいんだけど。

 ちょっとさっきの感覚を思い起こしながら、波に押されて戻って来た海の水に再び右手を浸した。今度はチート能力さんにお願いはしない。腕に何らかの力が回り、力を入れるのではなく入れられる力を増すイメージで、腕に感じた熱をしっかりと想起する。でも、私の体はうんともすんとも言わない。まったく何も反応が無い。あれだ、前世でちっちゃい頃に漫画の真似して色々やった時のアレそのまんま。あの頃と違って実際に可能なはずなんだけどなあ。

 私は今、思い立ったが吉日と魔力を扱うための修行を行っている。まだ始めたばっかりな訳だが……既にどうしようもない感が私の中に漂っていたりするんだがマジでどうしたらいいんだろう。明らかに何かが物理的な影響を与えたのに、その何かをまったく認識できていない。何かが何かをしたというのは理解できるんだけど、その何かを観測できないから操作もできない状態である。

 違いを肌で感じるために、水面を掌で思いっ切り押してやる。すると海は音を立てながら爆発し散弾のようにバラ撒かれ、複数の水の塊となって吹き飛んで行った。うーんこっちは簡単にできるのになぁ。しかもちゃんと立ってる岩場とか海底とかには被害が出ないように加減もした上でさ。

 やっぱり明確に最初の奴とは感覚が違うので、あっちを何度もやって貰いながら方法を盗み取っていくしかないだろうか。チート能力さんはどういう訳か好意的にワンモアセッって言ってくれてるし、暫く続けてみようかなぁ。

 でもまあ、今日はもうお終い。これ以上続ける事はできないのだ。何故って?

「吹雪! 大丈夫!?」

 爆発を見てこっちに人が来たからです。うん、まああんな事してたらそりゃあ目立ちますよねー。

 

 

 

「え、自分で海面を叩いたの……?」

「はい……」

 ちょっと魔力関係の事をぼかして何をやっていたのか伝えたら、その軽空母艦娘――飛鷹さんは呆気にとられた顔になった。私の事を心配して駆けつけてくれたのだろうし、なんだか酷く悪い事をした気分である。

 どうやらさっき飛んで行った機体は飛鷹さんの物だったらしく、空からの目で私を発見し、謎の爆発も観測したという事だそうで。もしや襲撃か何かかと現場に急行してくれたんだそうな。

 飛鷹さんは安堵と困惑の中間くらいの様子で通信機に向かって事の次第を報告した。どうやらちゃんと司令官とやりとりしながらここまで来てくれたらしい。やだ私ってば各方面に大迷惑。大淀さんも何がどうしてそうなったのか訳が分からなそうな声色だった。

「なんでそんな事してたのか聞いても大丈夫?」

「訓練……というのが一番近いです」

「ええと、それは個性強化訓練的な……?」

「もしかして最近ヒロアカ読んだりしました?」

 聞いてみたら、やっぱり読んでみたらしかった。転生者ごとに固有の性能をしているという点で似たようなものという気がしなくもないですけどもね、確かに。

 なお訓練()に関しては個人的な物であっても艤装を使って良いと大淀さんから許可が頂けた。まあ動向を把握できるからとかそういうのもあると思うけど……それ以上に見た感じ危ないもんね。私的にも海の上でやった方が周囲に被害が出ないので有難い話である。

 

「例の風評だったら気にしなくてもいいと思うわよ。私が言うのもなんだけど」

「実は昨日もやらかしまして……」

 飛鷹さんはまだ動画は見ていなかったらしく、概要を話したらあちゃあと小さな声を漏らした。二回目は色々と言い訳が利かないですよねえ。

「責任の一端がある身としてはかなり申し訳ないわ」

「いえ飛鷹さんが悪い訳ではないですし、役に立つと分かったのでいっそ使えそうな場面では使って行こうかなと思ってます」

 まあ、人前で堂々と戦うとかそんなのあんまりないだろうから、機会は少ないと思うけど。あと、あれ私単体でどこまで意味があるかはちょっと疑問だったりするんだよね。文月が居れば大丈夫だろうけど、居ない場合の効果は半減どころじゃ済まないだろう。まあ1/3でも意味があったらやるけどさ。

「ただ、その時に力をコントロールできてなかったりすると問題なので、色々試してるんです」

「ああそういえば、制御できてないとかなんとか……」

 おや、と思う。私は見かけ上、自分の持っている力を制御できているように見える。だけど実際には、魔力という目には見えない力の制御は一切できていない。その話を飛鷹さんにした覚えは無いのだけれど……いつの間にか通達されたんだろうか。

「ご存知だったんですね?」

「ああ…………」

 口が滑っただけだったのか何なのか、飛鷹さんは少し目を伏せた。そうしてちょっと言い辛そうな笑顔で、事の下手人の名前を声にした。

「長門はね、あんまりお酒強くないのよ……」

「機密情報とか漏れてませんよね……?」

 飛鷹さん曰く、基本的には大丈夫、らしい。どうもご自身が練習中の物だったせいで魔力云々の事が少し口に出てしまっただけ……のようだ。本当にそうなのかは私には分からない。っていうか飛鷹さんもあんまり強い印象無いんだけど、長門さんの方が弱いのか。

「ま、長門が言わなくても今更だけどね。私が使ってるこの艤装って陰陽術ベースなのよ? 魔力とかが本当にあって、吹雪がそれで強くてもおかしいとは思わないわよ」

 なるほど、言われてみれば軽空母組がその辺り一番理解し易いのかもしれない。霊的資源で燃料を代用してるだけで、陰陽術の一種ではあるのだろうし。魔力、この場合霊力とか巫力かもしれんが、それさえあれば艤装無しでも使えるのかもしれな…………ん。あれ?

「飛鷹さん、つかぬことをお聞きしますが、軽空母の皆さんって艦載機を出す時に手が光りますよね? あれって、艤装を付けてない状態でもできたりしますか?」

「え? いや、それは無理よ。試した事はあるけど付かなかったわ」

 ガスコンロの元栓からガスが来てなくて着火できないような状態、と飛鷹さんは形容した。確認したら、着火のための機構とかは艤装無しでも持ってる状態であるらしい。まあ当然と言えば当然か、それは私が駆逐艦吹雪を使えるのと一緒で、感覚として体にか魂にか覚えさせられたものなのだろうし。

 なのでつまり、これはおかしい。

「これって、飛鷹さん達の使っている物と同じですかね……?」

 手を差し出し、私はそれを光らせた。無効貫通能力を圧縮したものではなく、中で下手糞な勅やら令やらの文字が踊る、軽空母の皆さんと同じ物のように見えるそれ。それを見て、飛鷹さんは目を丸くした。動揺しつつ自分も掌を私に向け、達筆な勅令の文字を光と共に宙に浮かび上がらせた。

「同じ……に見えるわね」

 明らかに私の奴は洗練されていない。練習もちゃんとはしていないのだから仕方がないのだろうけど、宙に浮かぶ文字は形も並びも崩れてしまっている。へただなあ伊吹くんへたっぴさと自分で思うくらい字が汚い。けれど、二つ並べるとそれらは明らかに同じものであるように思われた。

 いや汚いのは仕方ないんだよ。私のこれって飛鷹さんのを見様見真似でやってみたらできちゃっただけで誰かに教わったとかじゃないし、まして脳だか魂だかに使うための感覚をぶち込まれた訳でもないんだから。

 でも、だからこそ。これはチート能力さんの学習能力の適用外だと考えられるんだよね。汚いままだというのがその証拠なのだ。影響しているのであれば、もっと綺麗になっているんじゃなかろうか。現状だと、本当にやったらなんか出た以上の物ではないのである。

 チート能力さんは感覚的にできる事は完全に使いこなせるようにしてくれる。まあ多少の練習は必要だし、技術的な事は見ただけでは覚えられない。代わりに指導さえされれば阿呆みたいな速度で習得してくれるし、場合によっては派生技まで習得できたりもする。

 でも何故か、脳を使うのは同じなはずなのに、勉学なんかの所謂頭を使う事柄に対してはチート能力さんは一切補正をくれないんだよね。まあ他のチートとの兼ね合いとかもあるんだろうけど……ともかく、私は知力はバフして貰えないのである。

 そしてその理由であるが、それはおそらく、チート能力さん的には私が頭が悪い――即ち、バカな方が『なんか』『つよい』感じがするからという割とどうしようもない理由である。まあ能力的に重要な事っぽいのは確かなんだけどさぁ。

 さて、ここで私は思いました。今この手の中にある光って文字の浮かんでるこれ、ゲーム的に言ったら、どの能力値で判定や威力の計算を行う技術でしょうか?

 答えは魔力――もしくは知力か、それに相当する能力値である。

 ゲーム的に考えると分かり易いよね。私は近接して自分の身体能力を自己バフしてぶん殴るタイプの戦士キャラ。魔力を使っていると言っても、その強化スキルの成功判定や効果威力の判定に知力を参照したりはしないだろう。

 対してこの光。これはまず間違いなく、知力かなんかが必要な事柄なんじゃあないだろうか。だってこれ陰陽術だぜ? 学問だろあれ。私が光は出せるけど下手糞だし何度かやってるけどそれ以上にならないのは、取っ掛かりは魔力操作っていう感覚でできたけど、そこから先は学ばないとどうしようもない……即ち学術的な取り組みが必要になって来るから……なんじゃあないだろうか。

 つまり、チート能力さんは感覚的な部分だけは一応できるようにはしたけれど、そこから先は専門外であり、強化も管理も制御も行えないんじゃないだろうか。していたらきっと私の出した文字はもっと綺麗で、それこそ『おいおいできるようになったばっかりの奴の練度じゃねえぞ』みたいな天才オリ主様ムーブが可能だったと思われる。格闘面に関してはそんな感じなんで自重する気も無いだろうしね。

 それでなんだが、これの何が大事かって言うとだ。この光るのは明らかに何らかの燃料……おそらくは魔力を使っていて、強化も管理も制御されていないのに、私の意思で使用が可能だって事である。

 うん。つまりだな。

 私最初っから……それこそ訓練所の時からもう自分の意思で魔力使えてるんじゃねーかと。

 そういう話になるんだが。

 え? 今まで何度も使ってたのに全然気づかなかったんだけど? なんなら練習練習ーとか言ってこれもやってみたりしてたんだけど?? それで全く能力として伸びないから、いやーこれ進歩しないなー消費してる感もないなー関係ないのかねーみたいな感じだったんだけど??? え? っていうか待って? 私これ伸ばすべきなの? これ陰陽術、体系化された技術……学問の一種だよ? 本来そこから使えるようにするような感じのもんだよたぶん。えっ……嘘……じゃあ私がまずやるべき事って、修行じゃなくて、勉強だったりとかする??? 真っ当に陰陽術の使い方習って、そこから制御法とかも理解して行くべきだったりとかする訳?????

 なんというか、私は根本的な勘違いをしていたんじゃないだろうか。周囲に自力で魔力を操作したり何かに使ったりできるようになった人達が居るから仕方ない部分もあるかもしれないけれど、よく考えたらそいつらは全員天才って言われる連中だった。そして私はただのチート転生者であって、別に天才ではない。だから……そもそも、私が感覚的に魔力の扱いを覚えるのは、ただ単に才能が足りなくて不可能だったとか、そういう話だった可能性がここに至って現れた。

 つまるところ、理解が足りない。私は魔力の何たるか、根本的にどういう存在であるかすら知らない。そもそも魔力は仮称だし、初春は霊力って呼んでいた。風香の魂から湧き出てたのは視たけれど、どうして湧いてくるのかはまったく理由が分からない。

 元から感覚として持っているのなら一つの気付きでそれを使えるようになるのかもしれないが、私がしなきゃいけないのは無い物を生やす作業である。そもそもの形を理解してないのに、そんなものを作れるはずがあるだろうか?

 逆に、自分以外の魔力が分かるのはチート能力さんの恩恵だろう。これはそういう能力だから、ついでに私にも理解できるようにしたのだろうと思われる。他人の外傷は目に見えても自分の内臓の不調は目に見えない。そんな感じなんだろうたぶん。

 飛鷹さんに断って、ちょっと自分の掌の光を付けたり消したりしてその感覚に集中してみる。魔力が流れる感覚は分からない。ただ、本当に、ほんのちょっとだけれども、さっき爆発させたときのような熱の幻覚が、一瞬だけ皮膚を掠めた。ような気がした。

 

「吹雪? 大丈夫?」

 黙って光を付け消しする私に、飛鷹さんから心配気な声が掛けられた。じっと……と言っても三十秒くらいだけれど、押し黙ってチカチカやり始められたらそりゃあ何かあったか気にもなろう。本当に申し訳ない。

「はい、大丈夫です。お陰様で少しだけ掴めた気がします」

 飛鷹さんにはどういう経緯で何が掴めたのかは全く分からなかったのだろう。どういたしまして……? と思いっきり疑問符の付いた声が返って来た。そりゃそうだ。

 なので一応、私が魔力を身体強化以外に使ったり強化を止めたりする方法を探していた事、私は陰陽の光を魔力で出しているっぽい事、その事から陰陽術を習得すれば同時に魔力も制御できるようになるかもしれないという事。そして、全部推論だから合ってるかは全く分からないし、どこかしら確実に間違ってるだろう事なんかを説明しておいた。

「なので飛鷹さん、陰陽術に詳しい自衛隊の方が居られたら紹介して頂きたいんですが……」

「いや、知り合いには居ないわよそんな人」

 ですよねー。そもそも猫吊るしが失伝してるって言ってたもんなぁ。うーん……初春に聞いてみるかなあ。ただ風香もなんだけど、感覚的にやってるっぽいからどうだろう。私には分からない可能性が高そう。

「オカルト関係なら国が必死に収集してる……なんて噂は聞くけど、正直眉唾よ」

「艤装の性能が性能ですからね……」

 物理攻撃無効化するわ巻物から飛行機取り出すわ見た目より遥かに物が入るわやりたい放題である。原理が分かったら戦いもだけど物流に大革命が起きるしそりゃあ調べてはいるだろうなあ。それが実るものなのかはまた別問題な訳だけど。

「資料くらいは本当に各地から集めてるでしょうけどね。偽物も多いでしょうし、信用できる情報元なんてそう無いんじゃない?」

 そうなると……もしかせんでも楠木提督経由で見せてもらうのが一番手っ取り早かったりする? 真贋も分かるだろうし、仕分け自体もうやってそうだし。いや、それより転生者にそういうの分かる人とか居たりしないだろうか。魔力を扱うための学問とかなら陰陽術じゃなくてもいいんだけど……うん。そうなると今じたばたする案件じゃあないわな。

「まああれです。本当に正しいのかも定かじゃないので、とりあえずは明日の作戦に切り替えていきます。急ぎの話ではないですし」

 私の言に飛鷹さんはちょっと心配気な表情を見せた。使えてるのに制御はできてないのは不安じゃないかとか聞かれたけれど、暴発したりする類のものでもないので大丈夫ですと答えておく。まさか別人格が常時発動してくれてるみたいな状態だとは思わないだろうからね。仕方ないね。

 

「明日の作戦、気を付けた方が良いかもしれないわ」

 ともかく大丈夫ならこんな所からは引き上げようという話になり、徒歩で岩場を渡っていると、飛鷹さんはあまり大きくない声を漏らしだした。

「何か気になる事でも?」

 先行していた飛鷹さんは軽くこちらを振り向いて頷くと、海の向こうに目を向けた。私もつられてそちらを見たが、特にそこには何もない。波も静かな生き物の気配がしない海である。

「今日、こっちに攻めてくる敵が一体も確認されなかったのよ」

 それは確かに珍しい……というか、私達がここに来て初めてじゃないだろうか。飛鷹さんが偵察機を飛ばしてたのもそれが理由だったようで、大淀司令官はかなり状況を怪しんでいるらしかった。

「こっちの動きが読まれてる……とも考え辛いんだけど」

「深海棲艦ってそういうのあるんですかね?」

「どうかしら。通信の傍受だとか、そういう事をしてる印象は無いけど……」

 向こうが妙な作戦を執って来る事はあるけれど、どちらかと言うとやりたい事を押し付けようとしてくる傾向に思える。そもそもこっちの情報を抜いて対応してくるとか、そういう事をやれる基盤を持ってるんだろうか。

 いやそれ以前の問題として、楠木提督の事を知ってる私には、なんかあっても計画通りなんだろうなあ……って感想が先行しちゃって危機感を抱き辛いというか。たぶん予定調和というか調整の結果そうなってるだけだと思うんですけど、それを飛鷹さんに言う訳にも行かないからどうしたものか。

「まあ、楠木提督は予定通りみたいな顔をしてらしたから、ただの杞憂かもしれないわ」

 まったくどこまで視通していらっしゃるのやら、と飛鷹さんは嘆息した。チート能力の事とか知らなくてもそういう扱いなんだ……

 

 

 

 

 

 ちょっと邪魔をしてしまったが任務の最中だった飛鷹さんと別れ、私は工廠へと向かっていた。自分の説が合ってるかはともかく、普通に興味があるので猫吊るしに陰陽術の事を聞いてみようかと思ったのだ。

 さして遠くもない距離を手以外も光らせられないだろうかなどと試行錯誤しつつ歩いていると、あまり聞き慣れない、何かが空を切る音が私の耳朶を揺らして来た。はてなんぞやと建物一つ向こうの側を覗いてみれば、そこには艤装を背負って向かい合う、槍のような物を構え隙を窺う叢雲と、頭上で錨をぶん回しじりじりと間合いを詰めて行く浦波が、互いに鋭い眼光を絡ませていた。

 叢雲の視線が一瞬、私の方を向いた。それは最前線で戦ってきて身に付いた、周囲を警戒する癖のようなものだったのだろう。私だと気付くとすぐに割いた意識を浦波へと戻していく。だが既にその時、この一瞬を隙と見て放たれた呻り猛る錨が、叢雲の側頭部を砕かんと砲弾のごとく迫って来ていた。

 回転で付加された速度とその二乗の威力を乗せた錨が直撃すれば、ただの砲弾が的中するより酷い事になるのは火を見るより明らかである。浦波は改二にこそなっていないがどう見ても筋力は人間のそれを凌駕していたし、そこから生み出される回転力は下手をすれば音速すら超え得るものだったからだ。

 私も体感した事であるが、浦波の錨捌きは並大抵ではない。回転からの一撃である以上軌道は限られ、錨だけであれば捌くのはそう難しい事でもないだろう。反射神経さえ足りていれば、武術の経験などは無くとも躱すくらいはどうにかなりそうだと感じる。しかし、彼女を相手取るのにそれだけでは不足である。錨を躱した先には、当然蛇のように体をうねらせながら獲物が掛かるのを待ちわびる、自在な動きを見せる鎖が待ち構えているのだから。

 故に、叢雲の動きは本来なら悪手である。叢雲は迫る錨を躱すため、一歩前へと踏み出してみせたのだ。

 かかった、と浦波が思ったかどうかは定かではない。ただ普通に考えれば、私の出現というアクシデントに反応したせいで咄嗟に避ける事しかできなかったようにも感じられただろう。

 まあ――当然、敵のひしめく変色海域に自分達から突っ込んで行って、近接攻撃主体で戦った挙句大きな怪我も無く生還しているような奴が、たかが急に障害物が一つ増えた程度の事でそんな隙を晒すなんて事は有り得ない訳なんだが。

 叢雲の前進に合わせ、浦波の鎖がその身をよじらせ、獲物を締め上げんと動き出す。その時にはもう、叢雲は次の一歩を踏み出していた。

 だん、と重い音が辺りを打った。その音に反し軽い動きで叢雲の体が前方に向かって打ち出される。それに合わせ構えられた槍が前方に、渾身の力でもって放たれた。

 叢雲の突きが鎖の合間をすり抜ける。既にそれは四方から叢雲に迫っていたが、踏み込む速度と突き出す速度が合わさり、先端が明らかに音速を越えている叢雲の一撃に対して、その動きはあまりに鈍重過ぎた。

 音より速く。槍の穂先が浦波の右眼前数ミリメートルに突きつけられる。遅れて衝撃波が辺りを揺らし、土埃が舞い上がった。鎖が制御を失い地面に落ちる。浦波は動けないようだった。うん無効貫通を使ったりはしていないはずなので安全なのだろうけれど、普通に怖いよねそれ……

 叢雲の勝利、と横で審判をしていた東雲が突然我に返って宣言した。気が抜けたのか浦波が地面にへたり込む。叢雲は残心を保ちつつ数歩引き、そのまま私の方を向いた。

「吹雪」

 叢雲からは何か、殺気の様なものがゆっくりと立ち昇って見えた。

「東雲の次はあんたよ。艤装取ってきなさい」

 いいよこいよ。いや私が行くんだけども、ともかく模擬戦しようっていうならやってやんよ。でもそれはそれとして、東雲はえっ……って顔してるんだけど大丈夫? ちゃんと意思確認した?

 

 

 

 舗装された地面に転がる二人を尻目に私と叢雲は向かい合った。許可はすぐに出たのだけれど、一応取っている間に浦波も東雲もだいぶ揉まれてしまったようだ。

 レギュレーションは一本勝負。一撃致命打を入れられたら負けで、武器は近接の物のみ使用可能。明らかに槍持ってる叢雲の方が有利なルールなんだが、その顔はどう見ても有利な側のそれではない。

 殺気の様なものは闘気に変わり、叢雲の体に纏わり付く。眼光にもそれが現れ、何の心得もない人間ならそれだけで戦意を喪失しかねない程の圧力となって相対する私に注がれている。うーんこの武術家。さては世界観おかしい勢の一人だったか。

 開戦の狼煙は妖精さんが引き受けてくれた。妖精さんサイズのピストルを持った子が東雲の艤装から身を乗り出して空に向かって掲げている。その空砲が撃ち鳴らされたなら、それが戦いの始まりの合図である。

 私と叢雲はそれぞれに構えを取った。私は川内さんに習ったカラテの構え、叢雲はさっきと同じ最速の突きの構えだ。ただし、その身から何かが噴き出すのを抑え込んでいるような気配がする辺り、実態はまるで違うように感じる。

 あ、これ一撃で終わるな。私は直感した。勝つにしろ負けるにしろ、叢雲は最初の一撃に全てを懸けてくるだろうと確信できた。

 であれば正面から受けてみようか。大きく避けてしまう事も可能だろうが、なんだろう、それはそれで対応してきそうな気がしなくもないし。

 叢雲の内部の気配が増して行く。内功とかそういう事できたりするんだろうか。いやそれはともかくとして、私も何が来ても対応できるよう、目の前の艦娘に意識を集中させていった。

 

 ぱん、と軽い音が鳴った。その瞬間、私目掛けて叢雲の体が前進を始める。走るというよりは跳ぶように、あっという間に私達の彼我の距離が縮まっていく。

 叢雲の狙いはやはり突き。神速の一撃でもって獲物を仕留める腹積もりであろう。であれば私はそれを躱すか止めるか、もしくはそれ以上の速度をもって打倒するかである。私は止める事を選択した。

 迫る叢雲、その速度は、既に人間のそれではない。真っ当な武術のそれに、さらに艤装による身体強化と艦娘の影響による身体強化が二重に掛かっているのだから当然か。

 一歩で距離の半分を詰め、二歩目でその穂先が音速を超える。艤装無しで直撃を貰えば、人間であれば即死だろう。さもありなん、それは深海棲艦の金属染みた頭蓋を破壊し通すだけの威力を持っているのだから。

 それが私の体に届くまでまばたき一つの時間もない。私は構えた両手を胸の前へと持ってきた。やる事は決まっている。白刃取りだ。

 別に余裕があっての選択って訳ではない。叢雲は明らかに一撃で終わらせる気概で迫っているが、それはそれとして、二の矢三の矢が無いはずもない。ただ避けるだけでは確実にそれらが飛んでくる。だったらそもそもできない状態にしてやる方が有利だろうと、そういう判断である。

 迫る槍の一撃。鉄板どころか鉄塊ですら大きさ如何で貫くそれが、私の目の前に迫ってくる。私の手がそれに合わせて動き出す。その時に、叢雲の動きがほんの少し、鈍った。

 それは要するに特殊な歩法だったのだと思う。加速を付けて前進する突きの一撃を、最大威力で敵対者にお届けするための――おそらくは、筋力が元々の術理では対応しえない領域まで至った叢雲が自分で作り出した、特殊な技。私の目の前で、叢雲はわざと失速し、もう一歩だけ踏み込む余地を生み出した。

 叢雲の態勢が低くなり、地面にその足が少し、めり込んだ気がした。瞬間。今までの倍……までは行かずとも1.5倍くらいの速度で、叢雲の槍が私の心臓目掛け驀進する。その軌道は私の構えた両手を完全にすり抜けていた。

 金属と人体のぶつかり合いからは通常出なさそうな怪音が辺りに響き、闘気と音速の衝撃波が周囲を打ち据えた。

 

「ほんと、無茶苦茶ねあんた」

「自分でもそう思う」

 動かせなくなった槍を引き抜こうとして無理だと悟った叢雲が、その手を柄から離しながらぼやいた。槍はそのまま落ちる事もなく微動だにもしない。それもそのはず、その先端は私の右の肘と膝に挟まれて、完全に固定されていたのだから。

 まあつまり、ちょっと想定とは違ったけれど、私は白刃取りを達成したのである。振り下ろした肘と振り上げた膝で挟む事で。自分で言うのもなんだが頭がおかしい。

「続ける?」

 私は槍を自分の手に転がして構えを取りつつ叢雲に聞いてみた。実は私、ちょっと教わった事があるから多少なら使えない事もない。素手の方が慣れてるから強いだろうとは思うけど。

「こっちが無手で? ふん……いいわよ、やってやろうじゃない!」

 この後滅茶苦茶白刃取りし合った。

 

 

 

「思った以上に気にしてなさそうね、深雪が変に騒いでたからどうかと思ったんだけど」

「動画の事? まあ、実際撮られてるの分かっててやったからそんなに」

 十回以上は私の突きを防ぎ切って神経を削り切り、艤装を放り出して建物を背に座り込んで休憩を決め込んだ叢雲から、ええ……と隠す気のないドン引いた声が聞こえて来た。興奮した様子で私達の攻防を観戦していた浦波と死んだ目で見つめていた東雲も似たような反応である。

「っていうか、立ち合いでそういうの分かるんだ?」

「結構判るわよ。隠すのが上手いとか全部放り投げて武に集中できる奴とかならともかく、あんたはそうじゃないし」

 叢雲に言わせれば深雪の方がよっぽど分かり辛いらしい。いや深雪も普通より遥かに分かり易いらしいんだけど、それ以上に。

「昔から表情が硬いって言われ続けてるんだけどなあ」

「表情以外から全部漏れてんのよあんたは」

 最初の一撃も驚きはしたけど脅威には感じなかったでしょ。呆れ返った様な叢雲の言葉からは、隠し切れない悔しさが滲み出てしまっていた。うん。なんかごめん。

「ま、いいわ。死ぬまでには一本取ってやるから、覚悟しておきなさい」

「そんなに杖術に拘りあったんだ……」

「そこそこにね」

 別に極めているとか皆伝を貰っているとかでもないらしいのだけれど、それでも鍛えて来た技術が通じないというのはそこそこに無念であるらしい。なまじ深海棲艦にはしっかり通じているというのも問題なのだろう。いやむしろそっちには通じてるのがびっくりなんだけどね? 例のあの子の言ってた妖怪と戦ってたっていうサムライの技だったりとかするんだろうか。

「ところであんた、この後暇?」

「別に予定とかは無いよ」

 猫吊るしと話してみようかとは思っていたけど、それは今度でも大丈夫だしね。それにまた風香となんかやってたから邪魔するのも悪いだろう。ちなみに連装砲ちゃん達はぴかぴかになってた。かわいかった。

「それなら久々に教えてあげるわ、構えからね」

 叢雲は体の重さを感じさせない動きでスッと立ち上がると、自分の艤装からただの鉄の棒を取り出した。おそらくは予備の武器だと思われるが、深海棲艦に通じるのかはよく分からない。防御専用かもしれない。

 私の方へと本来の装備である槍の方を押し付けると、自分は棒――というか杖を構え、叢雲は私の横に並んだ。以前よりさらに研磨されより実戦的になった構えを取ると、それを真似た私の体に触れつつ細かい修正を行ってくれる。たぶん、以前の指導から特に変化のなかった私の杖術を、今の自分ならもっと洗練させられそうだと気付いて放って置けなくなってしまったんだと思われる。技術が吸収される音がした気がした。

「私が強化されると一本入れる難易度上がると思うけどいいの?」 

「それで取れなきゃそれまでよ。分かるのを放置して、強くなる機会を逃した相手に勝つのは手加減されるのとどう違うのかって話」

 そんなもんだろうか。私は別に武人とかじゃないのでその辺りのこだわりはなんとなくしか分からない。でもたぶん、相当プライドの高い行為なんだろうなというのは理解できた。

「そもそも、これであんたが強くなるのかって言われると疑問よ。手札は増えるでしょうけど……」

 それはそうね。私基本素手格闘だもんね。まあ知識が増えれば似たような攻撃手段の相手を捌きやすくなるから無駄にはならないだろうけど……そんなの叢雲以外に居るかな?

 

 

 

 

 

 叢雲から教わっていたら浦波と東雲も混ざって来たり、途中天龍さんと龍田さんがやって来て流派違いの浸透勁を伝授してくれたりと色々していたら、すぐに日が落ちてしまった。

 なんか途中から吹雪に詰め込めるだけ詰め込んでみようぜみたいなノリになって行き、最終的に私は素手で飛んでくる砲弾を二つに切り裂いて左右に散らすとかそんな技まで使えるようになってしまった。いや似たような事は元々できるけどさあ、剣の技を手刀で再現可能とか龍田さん辺りたぶん内心ドン引きだったよ。

 そんなこんなで艤装を置きに行ったらまだそこに居た島風とも合流し、皆で夕食を取った後、流石に明日に備えて休もうとその場で解散。私達は各々部屋へと帰って行った……のだが。消灯の時間がやって来ても、私の下には眠気さんがさっぱり来てくれなかった。

 それもそのはず、私が今日目覚めたのはお昼頃。まだそんなに大した時間活動していないから、眠くなんてなるはずもなかったのである。

 いや寝ようと思えば寝れない事もないのだけれども、気になる事があるせいで検証したい欲が溢れてるんだよね。そういう時って寝つきも悪いじゃん? だから私は灯りの消えた部屋から音を殺して抜け出すと、窓からひょいっと跳んで行き、寮の屋上まで足を運んだのだった。

 無人のそこは多少の光は当たれど薄暗い。でも私は自前で光れるから関係ない。監視カメラも普通にあるが、入り口の上のスペースまでは流石に映していないので、そこに飛び乗れば解決である。

 鎮守府内でもかなり高い場所に位置するそこからは周囲の景色が一望できる。今日は出撃が少なかったせいか工廠が静かでいつもとちょっと雰囲気が違う。たぶん明石さん達も明日に備えて休んでるんだろう。いや稼働してはいるから誰かしら働いてるんだろうけどね。そんな訳なので今ならここで落ち着いて検証ができるだろうと思われた。

 先ほどまで私は色々と技術を習得させてもらっていた。その最中、ちょっと気にしてみたんだが、私は初めて使う術でもただの物理攻撃ならかなりの練度で扱えた。チート能力さんは体を動かす事に関しては超超つよい補正を齎してくれる。それはもう習得にも研鑽にも実践にも、私にすら訳の分からないほどのレベルでつよさが加算されるのだ。

 髪を一本引き抜いて、それを宙へと投げ上げる。ふよふよと不安定に舞うそれ目掛け、私は立てた指を一本、普通じゃ見えない程度の早さで振り切った。

 落ちて来る二本の髪。それぞれの長さは抜いた時と全く一緒で、太さはきっちり半分だ。まあつまり、指で縦に切断したのである。習った技のちょっとした応用だね、別に難しい事でもない。

 当然ながらやってみたのは初めてで、チート能力さんはふんすふんすと鼻息が荒い……ような雰囲気を出しているように感じる。やっぱり新しい技の取得や開発の際には活発に働いているのだろう。なんとなく楽しそうだしきっと体にもいいと思う。

 次に私は逆の手の指を一本立て、その先端を光らせた。これは飛鷹さんに見せたのと同じものだ。文字もちゃんとド下手糞なのが浮かんでいる。さっきまでは掌で発動してたので、これも一応新技である。しかし、チート能力さんはと言えば、さっきとはうって変わってなんだかスンッと大人しかった。

 しごく分かり易い反応である。明らかにこっちは補正する気が無いのだ。いや、気がないっていうかただ単にできないのかもしれないけどね。チート能力って成長するらしいし、育てばやるようになるのだろうか。

 感覚でできる所までは補正の対象、そこから離れれば対象外。光らせるまでは対象だったけど、それで何かをするのは対象外だと、きっとそういう事なのだろう。例えるならこの光は、電気を産み出したはいいけどそれを使うための回路がないからスパークしてるだけでなんにも起きてない、とかそういう状態なんじゃないかと思う。回路自体はチート能力さんでは組めないのだ。たぶん。

 まあそれが分かった所で現状どうしようもないんですけどね! だって光らせる事は自力でやれるけどどうして光るのか全然分かんないんだもん!! 出せるのに出してる感覚すら無いんだもん!! なにこれ? 飽和でもしてるの? 大丈夫? 刺激で爆発したりしない?

 ああでも文字を消すくらいはできそうな…………うん。できるわ。ただの光になったわ。これさては色変えてただけだな? 中身の意味が分かってないから表面だけ真似てたせいで無意識に文字っぽい光出してただけだな? 見た目にだけは飛鷹さんのと同じに見えてたのが厄介極まりない。飛鷹さんも術に詳しい訳じゃないからよく分かってなかったんだと思われる。ややこしい。こうなると陰陽術って仮定すら怪しくなってくる。実は掠りもしてないんじゃないかって気すらして来たわ。困る。

 うーんしかし今更だけど、何か消費してるはずなのにその燃料を全く認識できないのって怖いなあ。一応光る場所を変えたり色合いを変えたりは結構できるみたいなんだけど……原理はまるで分からない。強さはあんまり変えられないので、光るのは副作用かなんかっぽい気はする。主作用なんなんだろう。まあ、便利は便利だから必要な時は使っていこうと思うけど、無効貫通能力を圧縮した光の方が安全なんじゃあなかろうか。いやあっちはあっちで原理は分かんないんだけども。

 

 

 

 私は屋上で光っていた。赤青黄色緑白黒、色とりどりに体の各所が輝いていた。

 そんなに強い光じゃないし、下からは見えもしなかっただろうけれど、それでもきっと目立ったろう。特に、さらなる高みから見下ろしてる奴からしてみれば。

 聞き慣れた風切り音が聞こえてくる。それは最初は下の方で鳴っていて、だんだんと上に登って来た。そして私の高さを超えるとそこで一旦停止して、オウッと鳴いてこっちの方へと跳んで来る。

 そいつは私の横に軽い足取りで降り立つと、五指爆炎弾ごっこをしていた私の手元を覗き込んだ。そしてすぐに指が燃えている訳ではないと理解すると、胡乱気な瞳で私の顔を見つめて来た。

「雪、なんで光ってるの?」

 偉大な相手というのは輝いて見えるものだヨ。などと、ネタの分かる相手なら返しても良かったのだけれど、残念ながら読んだ事がないと思われるので断念した。仕方がないので魔力の練習と本当の事を言っておく。

「それより風香、今、普通に飛んで来たよね」

「うん」

「危ないよ?」

「大丈夫! もう安定するようになったし、今更これくらいなら落ちても怪我もしないよ!」

 えっへんと自慢げに腰に手を当てる島 風香さんじゅうよんさい。確かに体も強化されて頑丈になってはいるんだろうけど、数十メートル落下して無事でいられるほどなんだろうか。まあ寝巻姿なので大きな露出もなく、むしろ普段よりはかなり厚着だから少しマシかもしれないけれども。寝るだけなのに動きやすさ優先で選んだらしいから邪魔にもならないんだろうけども。でもそっちの問題だけじゃなくってさ。

「生身で飛べるのはまだ皆知らないんだから無暗にやっちゃ駄目じゃない?」

「雪が光るのもね」

 ジトっとした目で見られてしまった。うん、その通りだわ。一応隠れてはいたんだけど、風香に見つかってるから説得力はないだろう。

「それに雪も艤装無しで海割ったんだよね?」

 いやそこまではやってない。ちょっと海底が見えたくらいだよ。

 

「雪は今日何やってたの?」

「なんだろう……修行?」

 風香は屋上の端で腰を掛け、持ってた小袋を膝に置くと、私にも横に座るよう促した。特に拒否する理由もないので足を地面に向けて垂らすと、二人揃って海へと向き合う形になった。

「おうっ? 雪って修行要るの?」

「少しはしないと流石に覚えられないからね」

 そもそも割と川内さんとやってるじゃん。って思ったんだが、どうも川内さん側のスキルアップに付き合ってるだけに見えていたらしい。風香的には私の練習になってるとは思えていなかったようだ。別にそんな事もないはずなんだが。

「まあ、武術はともかく魔力の扱い方はね。全然上手く行ってないよ」

「さっき光ってたのは?」

「あれも何で光るのかよく分かってない」

「おうっ!?」

 なのでいきなり爆発する可能性が否定し切れない。私の全魔力で爆発したらどれくらいの被害になるんだろ、総量よく分かんないから想像がつかないなあ。

「風香みたいに発射できるようになれば便利そうなんだけどね」

「便利だよ! 埃も払ったりできるし!」

 何に使ってんだお前は。エアダスター? エアダスター代わりなの? 連装砲ちゃんのお手入れに使ってたりとかする? 隙間に入りやすそうだもんね。磨いてるのは結構見るけどそんな事までしてたのか……

「でも私のは光らないけどなー」

 そう言うと風香は掌から軽く魔力を噴出させ始めた。出したり止めたり結構自由にできるようで、勢いや量の調節も簡単そうである。代わりに光は出なかった。

「どうやるの?」

「聞かれると困るんだよなあ。光らせようと思ったらなんか光っただけだから」

 そっかーと風香は納得した。私への印象がよく分かる。

「一応、飛鷹さん達の真似なんだよこれ」

「あっ、空母の人達って光るよね。艦載機飛ばす時とかに。あれ?」

 それ。と返して実際に文字の浮かぶ光を見せてみる。それで風香はイメージが固まったようで、隣でちょっと試行錯誤をやり始めた。出すんじゃなくて留める感じ? とか聞かれたけれど、私にはよく分からない。だって何出してる感じもしないんだもん。

「つまりこう……っ」

 オッと風香が力を入れる。それも血管がはち切れんばかりの圧力で。その瞬間、風香の手元は一瞬金色に輝いた。でもそれは本当に短い時間で終わり、辺りはすぐに元の薄暗さを取り戻した。言われてすぐできるのか……うーん天才。ちょっとだけ叢雲や龍田さんの気持ちが分かった気がする。

「雪……これ飛ぶより辛いよっ!?」

「えっ」

 そうなの? あれか、風香の様子からして魔力に滅茶苦茶圧力掛けないと駄目とかそんな感じなのだろうか。

「これが簡単にできるなら、雪もすぐ飛べるようになるよ!」

「どうかなあ、使われてるはずの筋力強化すらオンオフできないし」

 まあ、これに関してはできてもできなくても変わんないけどさ。そもそもオフにしないし。

「あ、それ。前に聞いた時よく分かんなかったんだけど、雪って魔力で体強くしてるんだよね?」

「そうだよ」

 大別してそういう方向性の話なのでその認識でいいと思う。一応風香には私の体質の事は言ってある。転生の事とかチートの事とかは言ってないからあんまり詳しくではないけれど、一応の納得は得られている……と思ってたんだがそうでもなかったらしい。

「雪があんまり記録会行きたくなさそうだったのって、そのせい?」

「お前分かってて連れてったの???」

 あの日なんで迎えに来たのかよく分かってなかったんだが、さては私が逃げようとするのまで読み切ってやがったな? いや確かに逃がさんお前だけはみたいな事言ってたけどさあ……

「気にしてたんだ」

「そりゃそうでしょ……」

 人間の限界を無視した力を出せる私が蹂躙するのはなんか色々不味いだろう。何が不味いのかと具体的に言われると困るが少なくとも心情的には。

「大変だね、雪も」

 他人事みたいに言うけれど、今は風香もその枠なんだよなあ。風香の方が大変じゃないのか、私は元々あんまり興味がある訳じゃないし。いや風香も大会自体にはあんまり興味なさそうだけども。

「走るの好きなのに」

「えっ」

 ん? うん? なんて?

「私走るの好き?」

「おうっ? 好きでしょ?」

 お互いに見つめ合い、クエスチョンマークを飛ばし合う。風香は当然そうだと確信していたようだけど、私は正直言われてもよく分からなかった。

 うーん……? どうだろう? あんまり考えた事なかったな? 少なくとも嫌いではない? まあ前世よりかなり自由に動くもんね? 特に厭う理由はないかな? そうなると好き? いやでも私どっちかって言うとインドア派では? いや別に外に出たくないって程ではないかな? そういえば艤装を使って全速力で航行するのとかは確かに悪くないような気がしなくもない? でも走るのはどうかな? あんまり自分がどう感じてるかとか検分なんてやらないし、ちょっと見当つかないな?

「…………よし、風香、走ろうか」

 思考が詰まった私は、思い付いた。どうもこうも試してみれば良いのだと。

 風香はちょっとだけきょとんとして、すぐ満面の笑みに変わった。疑問は一瞬でどっかに行ってしまったようだ。

「うんっ!」

 私達は屋上を飛び出した。

 

 

 

 夜の運動場は思いの外明るかった。別にここそのものが照らされている訳ではないのだけれど、周囲の光が折り重なって、ちょっと動き回るのに不便しないくらいにそこは光で溢れている。周りから見たら私達が居るのはバレバレで、もし見つかったら怒られるかもとちょっと思ったりもした。

 屋上から飛び出して、二人して中央に無事着地。うーん超人。人間辞めてる。風香は着地の時に魔力で勢い殺してたけど、私はそれすら必要無い。周囲に被害が出ないよう、衝撃だけは散らしたけども。

 誰も居ないのを確認して、ちょっと軽ーくストレッチ。体を壊しちゃなんにもならんしそこはやっとかないとだね。そうして準備を整えると、私達はどちらからともなく走り出した。

 別に、記録を取ったりするわけじゃあない。お互い全力をふり絞るような、気合を入れた走りでもない。ただただ友達と遊んでいる、子供みたいな追いかけっこ。だいたい服装寝巻だし、実際子供な年齢だ。ルールも決まりも特に無い。コースも別に決めてない。闇雲に足を振り回し、私と風香は光になった。

 いや実際、人が見てたら目を疑う光景だったと思う。どちらも世界陸上でも見れない速度で駆け回り、時には魔力で筋力で、瞬間移動みたいな事までやってたから。勿論朝に影響は出ない程度に抑えてではあったけれど、まあ、自重は全くしてなかった。

 体が心地よく風を切る。寒いくらいの夜気が高まる体温に心地よい。足を一歩進めるたびに、飛んでく景色が小気味良い。時に私を追い越して行く隣の奴を、再度抜かすのはすっきりする。大地を蹴って着地する、その振動が胸の鼓動と合わさって、やけに鼓膜に響き渡る。入れる力は変えないで、向きや角度を調整し、速さの違いを見つけ出す。上手く嵌るとどういう訳か、全身にそれが伝わった。

 なるほどなあ。

「楽しい?」

「よく分からん!」

「よく言うね!」

 普通じゃ考えられないくらいの高速でそこそこ長く走り続け、流石に風香の息が切れて来た。私は余裕があるというか、回復の方が早いので既に万全なのだけれど。

 ああ、寝間着の裾が砂まみれだ。寝る前に着替えた方が良いだろう。っていうかお風呂も入りたい。シャワーくらいなら許されるかな? そういえば今何時だろう? あんまり遅くなったら不味いかな?

「ちょっと休憩!」

 風香が備えられたベンチに寄っていく。私も釣られてそちらへ行くと、風香は持っていた小袋の中を漁り、自分のスマホを取り出した。ちゃんと持って来てたのか。いやむしろ携帯してない私の方に問題があるか。

 横のボタンを押して電源を入れ、オウッと軽く一鳴きすると、風香はそれを消灯した。時間を見たかっただけらしい。時計は既に0時を回り、本日は作戦の決行日。日の出とともに開始である。

 風香は手早くスマホを仕舞うと、袋の中身を引っ張り出した。風香の大きくない手の平に、小さな箱が転がった。

「雪!」

 風香がこちらに振り向いて、小箱を私に差し出した。不意の事で、私はちょっと硬直した。

「あげる!!」

「えっ、ああ、ありがとう?」

 押し付けるようにぐいぐいと手元に寄越されたそれを、しっかり両手で受け取ると、風香はなんでか満足気になった。

「誕生日おめでとう!」

 あっ……そうか。そういや色々あって忘れてたけど、今日は私の誕生日だっけ。決行日と被ったせいでぜんぜん覚えてなかったわ。

「ありがとう」

 それだけ返して手元を見れば、そこには渡された箱がある。それも何か、とても見覚えのある形の箱が。ん~? これって、中身もそうなのか?

「開けてもいいの?」

「もっちろん!」

 自信有り気に風香は言う。まあ、そうだよね。ネックレス貰った時に約束されたし、きっと言ってた通りの物なのだろう。そう、予想は付くけれど……私にかあ。

 軽く箱に力を入れて、ゆっくりそれを開けて行く。目に入ったのは小さな輪っか。銀色のそれが、箱の真ん中で淡い光に照らされ輝いていた。

 取り出してみれば、それは案の定指輪だった。風香が自分の首元から、ネックレスに繋がったそれを取り出してくる。見比べてみれば成程それは、全く同じデザインに見えた。

「あー……私、寝るとこで出て来たから、それ付けて来てないんだよね……」

 枕元らへんに着替えと置いてあるんだよね。風香はオウッと鳴いた。

 

「それにしてもどうしたのこれ」

「猫吊るしに教えてもらって作ったんだよ」

 えっ、何それ。そんな事できるの? そういや工廠に居たけれど、これの準備をしてたのか。え? じゃあ手作りなのこれ?

「結構資材使うんじゃなかったっけ……?」

 適性値上昇効果のあるケッコン指輪は、案外作るのに資材を食うものなのだと猫吊るしは言っていた。廉価版……というか、正式版の低コストなのもあるらしいけど、その辺り大丈夫なんだろうか。

「それがね、ガワだけのなら廃材とかからでも作れるからって。明石さん達にお願いしたらちょっと分けてくれたから、それで作ったんだよ」

 嫌? と風香は問うてくるが、別に嫌って事は特に無い。成程、適性値上昇機能を付けなければそんなに材料費は掛からないのか。そもそも風香は提督じゃないし、機能持たせる意味もない。それなら重要なのはそこじゃあないし、何の問題もないだろう。

 私は自分の左の手を広げ、その中の一本に右手で指輪を落としてみた。ピッタリだった。流石オーダーメイド、そつがない。風香はオウッと鳴いた。今日は多いなあ。

「……ねえ雪、なんで付けたの?」

「いやチェーンないし、箱に戻すのもどうかと思って」

「そっかー、あ、そうだ、雪、こっちもあげるね」

 ちょっと早口気味に言うと、風香はもう一度袋に手を入れて、今度は長くて細くてひらひらした物を取り出した。それは陸地の外ではよく見られる、海の青さを溶かしこんだような色をしていた。

「リボン……?」

 差し出されたそれを受け取れば、それは深い青色をした、そこそこ頑丈そうなリボンだった。っていうかこれはまさか……海色リボン?

 え? 嘘だろ? そんなんあるなんて聞いてないぞ? いや普通に買ったのが被っただけか? あのなんでかステータスの上がるリボンと、色が。

「これはどうしたの?」

「これね、不思議なんだよ!」

 風香は少し興奮した様子だった。聞けば、どうやら当初は指輪だけ渡すつもりだったらしいのだが。

「猫吊るしと文月と楠木提督に会いに行ってたでしょ? その時、一人で指輪作ろうとしてみたら、なんか出来たんだよ!」

 どうして指輪を作ろうとしてリボンが出来上がるんですか? 妖精さんと同じ仕様なの? あいつらも作る艤装選べないって謎のガチャ方式なんだけど。

 ええ、あれかな、妖精さんの仕事を人間がやったからバグったとかかなぁ、艦これ世界だしこれがあってもおかしいとは思わないけれど……猫吊るしが何も言ってなかった辺り、こいつもガワだけで効果は無いとかなんだろうか。安く作れるなら皆に配ってるだろうし。

 聞けば、一応猫吊るしに大丈夫なものか聞いてはみたらしい。猫吊るしも困惑していたようだが、鑑定結果自体は白。体に害があったりは全くしないだろうとの事だったそうな。まあ、それならいいか。

 今、私は髪を結んでいない。普段は吹雪さんに合わせて頭の後ろで括って纏めているのだけれど、寝る前に出てきたから外してしまっていたのである。

 手にしたそれを使って、いつも通りの位置で髪を結ぶ。ゴムで纏めてないのですぐ解けてしまうと思うし、結び方も適当で、ちゃんと映えるようにはなっていないと思うけれど。

「どうかな?」

 風香は満足気にオウッと鳴いた。

 

 

 




吹雪は雷装と装甲が+1された!


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いやあ北海道の深海棲艦は強敵でしたね

 朝方の空気が体の熱を奪って行く。まだ日が出てさほど経たず、気温の上がり切らない11月の寒空が静かな基地の真上で粛々と広がっている。

 周囲の音を聞き逃さないようしっかり聴覚を動かしつつ、私はその場で一番高い場所に立つ。黒いその尖塔は見張り台なのか一応手すりみたいなものが備え付けられているが、登るための構造は見受けられない。私は跳んで来ちゃったけれど、本来どう訪れる場所なのかはようとして知れなかった。

 少し遠くに広がるのは青々とした海。私の背で風に揺れるリボンとよく似た色をしている。背後を見渡せばそこあるのは広大な陸地……と言っても、別にここから地平線まで一望できるなんて事はなく、木々で遮られある程度までしか視線は届かなかったりするんだけれど。

 音はしない。そよぐ風に揺らされる草木の音くらいは聞こえるけれど、虫の声すらここには届いて来なかった。島風が私のさらに上で魔力を噴出しながら飛んでいるのが唯一の異音である。

 そして私の足下には、黒を基調としたというかほぼ真っ黒で後は赤々と光るはずの電灯らしきものがある程度な巨大基地が一つ。その中からも特に何の音も聞こえない。辺りは静まり返っていた。

 そう、ここは北海道。私達が本日攻め入った目標地点の一つ。PT小鬼が誰かに反省を促していた、その場所の少し奥にあった、大きな基地の、屋上である。

「第十艦隊吹雪より司令室へ。目標基地と周辺に敵影無し……やはり放棄されているように思えます」

『了解しました。こちらでも変色海域の消滅は確認しています。第十艦隊は周囲を警戒しつつ基地の機能が復旧不能になるまで破壊してください』

「了解です」

 私達は今、壮大な肩透かしを食らっていた。いやさ、なんか知らんが、私達の攻め入った北海道の基地……敵さん、一人も居なかったんだよねえ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北海道上陸作戦。

 あまりにも広いために一度で奪還し切るのは無理だろうという事でとりあえず名付けられたっぽいその作戦を前に、私達は普通に目覚ましのアラームで起床した。総員起こしとかは特に無い。そもそも起きる時間が人によって違うしね。

 少し前に風香と走り回っていたためどうかと思ったけれど、それでも四時間以上は眠れたためか案外二人とも調子は良く、むしろ根本的に戦うのが好きではない文月の方が憂鬱そうなのが印象的だった。とはいえそこは宮里艦隊員。身支度が整う頃にはその端正な顔をシャキッとさせつつ朝の透き通った空気に溶け込みながらもはっきりとその存在が鼓膜に染み込んでくるような深みのある声でがんばるぞいと己に活を入れていた。

 一通りの朝の準備をしつつ服を着替えて指輪の嵌ったネックレスチェーンを首に掛け、ゴムでもっていつもの位置で髪を纏める。そして貰った海色リボンを手に、私は少し思案した。これ、どう結ぶのが良いんだろうか。

 ゴムで纏めてその上からリボンを飾る、みたいなのを母がやってるのは見た事がある。でも、ちゃんと見てなかったからやり方まで覚えてないんだよね。当時の私は短髪で、まさか自分がやる機会があるなんて思ってもみなかったからさ。

 もしかしたら母としては折角産まれた女児ともっとそういう事がしたかったかもしれないけれど、私はそういうのまるで興味がなかったからなあ。この雪ちゃんボディは非常に美しい造りをしているので大抵の服装は見れてしまうし、それを維持するための労力も掛からないという世の人々に知られたら最悪嫉妬を通り越して消さなきゃ……ってなる奴だ。今思うと『なんか』『つよい』のは戦闘力だけじゃないぜって話なんだろうけど、もうちょっと真面目にファッションの事とかも履修しておくべきだったかな。女子連中とも多少は話ができたかもしれないし。いやでもめんどくさいの方が勝るな……そんな事するくらいならゲームしながら阿呆みたいな動画見てたい。昨日修行してたから一昨日の騒動のやつまともにチェックできてないし。

 そんな事を思いつつ、私はノートPCで結び方を調べ出した。すると出てくる情報の群れ。どれが良いのかよく分からなくなる私。動いても外れないようにしっかりと、かつ結構長いこのリボンが邪魔にならないような結び方ってのはちょっとハードルが高かったよ……

 そうしてはーやーくーと急かしてきた島風と一緒に画面を見ながら小首を傾げていると、見かねた曙がやり方を教授してくれて、私の髪は完成した。ちなみに風香は私と方向性が似通っているため一緒になって感心していた。我々に女子力は無い。

 

 朝食へ向かおうと思ったら金剛さんがやって来て、ハッピーバースデイ! と小さな箱を手渡された。ニッコニコの笑顔を前に開封してみれば、中身は結構良さそうな紅茶である。缶入りの、通常学生では手が出なさそうな。

 高騰中なのもあってとんでもない値段してそうなんだが、金剛さんの月給なら問題無かったのだろう。なんせ私に次ぐ鬼・姫級の撃破者なのだから。人数割ゆえに億は行かなくても、場合によっては数千万稼いだりするらしいんだよなあ……なおほぼほぼ同時に出撃させられる初雪からの情報であり、同じだけ初雪も稼いでる事になるのでちょっと退役後が心配である。いや退役させてもらえるのかは分からんけれども。

 その初雪であるが、目聡く私のリボンに気付いた金剛さんが島風にやりますネーと絡み付きに行ってる間にひっそり部屋へとやってきて、お納めくださいと色合いは地味だがどう見ても高級品な茶菓子を渡してくれた。どうやら金剛さんに合わせて消え物をチョイスしたらしい。あの人、誕生日にかこつけて布教したいだけっぽいから気にしなくても良かったんだけどね。想い人の提督や妹の比叡さん、友人の榛名さん辺りにも紅茶送ってたし。

 まあ誕生日会とかはやらないけど親しい友人とプレゼントを贈り合うのは普通にやられている事なので、お礼を言って受け取ったら、初雪は自分の誕生日を告げて去って行った。いや普通にあげるつもりはあったからいいんだけど、ちょっと照れ隠しっぽかったのは気のせいだろうか。もしかしてあんまり経験がn……止めておこう。私にも致命傷になる。

 賞味期限の問題もあるし、今日終わったら勝利祝いに開けちゃおうかなと考えつつ貰ったそれらを仕舞う私に、曙が指を突きつけて来た。その先をリボンの結び目に向け、冗談めかして笑みを見せ、曰く。私からのプレゼントはそれって事で。だそうである。

 良いか悪いかで言ったら勿論良いに決まっている。そもそも誕生祝いとかするの、宮里艦隊じゃ本当に仲の良い人同士だけなのだし。つーか個人的には正直物貰うより気楽でいい。ちゃんと技術としてもチート能力さんが吸収してるしね。習得の境界線がどこだかさらに分かんなくなったけど、それはこっちの問題である。

 

 

 

 じゃあ曙の誕生日には全身マッサージしてコリを全部無くしてやんよと返しつつ、私達は食堂へと向かった。朝食は腹が膨れ過ぎず、消化が早すぎない丁度いいくらいの量にしっかりと調整されており、この後に戦いを控える私達への最大限の配慮が感じ取れた。まあいつの間にか到着していたらしい赤城さんは凄い量食べていたけれども、あれはなんか例外だろう。

 そうして皆が食べ終わると、私達は管制室や司令室みたいなのが入っている建物にある一番広い部屋にブリーフィングのため集められた。と言っても前日までにほぼほぼ作戦は伝えられているので、やったのは細かい所の最終確認と、楠木提督による短い演説くらいだったけど。

 楠木提督は長々と話したりはせず、でき得る限り簡潔な士気の高揚に努めていたように思う。言葉選びも緩急の付け方も上手で、聞きやすく理解しやすく受け入れやすいというお手本のような語り口を見せてくれた。でもよく観察すると一瞬妙な間が入ったりしてたのはなんだろう。乱数調整?

 それはともかく、そうして私達は号令と共に出撃準備に入り、各々手早く自分の装備を整えた。勿論お花を摘んだり水分補給したりするのも忘れない。弾薬類の最終チェックや整備された艤装に不具合が無いかもしっかり確認し、海に出れるようちゃんと妖精さんも乗っけていく。その間中。何故か私達の後ろでは文月がアカペラで歌い続けていた。

 いやどうもこうも士気高揚のためなんだが、最初全然違和感なくスッと耳に入り込んできて、気付いた時には気分アゲられてたよね。私以外も全員。意識するとなんだな、全体バフ使えるのってやっぱスゲーわ。オタク趣味でない人にもちゃんと効くのでトラック走らせてた自衛隊の人とかも作業効率が上がっていると思われる。歌わせとくと鎮守府全体が強化されるってヤバない?

 歌われた曲は聞き覚えの無い物で、調子としてはアイドルソングというか、かなり可愛らしい物だった。最初は私が知らないだけなのかと思ったけれど、よく耳を澄ませて五感全部で楽しんでみると、どうもただそれだけではない。今まで文月の歌っていたどんな曲よりも、遥かに練度や習熟度、それに理解度が高かったのである。

 察するに、あれは文月の持ち歌――前世か前々世で歌った、声優兼アイドルとしての専用の楽曲であろう。いや本当に専用かは分からんけれど、少なくともライブでファンの心に叩きつけてやったのだろう事だけは想像に難くなかった。

 給糧艦文月改二から放たれる、心の栄養素の過剰供給。それは良かったか良くなかったかで言うと、私と猫吊るしと連装砲ちゃん達と初雪と深雪と吹雪と秋雲先生と漣と夕立とポーラさんと響さんと青葉さんとイムヤさんとイクさんと隼鷹さんと皐月さんと多摩さんと東雲と暁とヴェールヌイと鈴谷さんと北上さんと那珂さんとごーちゃんとろーちゃんとビスマルクさんと霧島さんと金剛さんとガンビア・ベイさんとコロラドさんと明石さんと明石さんと明石さんと妖精さん達で三回くらいアンコールした。全部違う初耳の楽曲で返してくれた。

 

 

 

 

 

 そうして我々はかつてないレベルでキラッキラに輝きながら海へと出る事になったのだ。知らないはずのコールアンドレスポンスを完璧にやり通せたのは今思うとちょっと怖いがチート能力併用だからね仕方ないね。

 私達は定められた任務を達成するために海の上を超高速でぶっ飛ばし、やがて変色海域に入る。当然ながら北海道周辺の海は真っ赤っかで、この時点では青い所なんて一か所も無かった。それをどうにかこうにかして本州からの航路を繋ぐのが今作戦の主な目的である。

 今回やる事は今までに比べると少しだけ複雑で、でも私達がやる事は非常に単純だった。まあ大した教育も受けてない我々に高度な判断を要する任務なんぞ与えるはずがないからそりゃそうなんだけど、本当にそれでいいのかは毎度少しだけ心配になる。

 本日私や島風、宮里・賀藤・五十嵐連合艦隊+選抜されたエースの艦娘達がやるべき事は四国の時と同じで、敵基地を粉砕してその周辺を制圧する事だ。当然ながら変色海域の核を取り除くのも任務の内に含まれる。九州方式で目に付くのぶっ壊しても青く戻らない可能性もあるんだが、予知能力とかで誘導してるんだろうしそこは心配いらないだろう。分かるのは私達だけだけどね。

 

 さて今回、みんなの調査で見つかった敵基地は三つだけだった。これは四国の時と比べて少ないのだけれど……問題は、その規模である。秋津洲さんが二式大艇ちゃんと見つけた例の基地は、他に類を見ない一大拠点として北海道の地にそびえていたのだ。

 作戦目標、基地A。分かり易いように大きい順にアルファベットを振られたそれは、当然ながら、鎮守府の戦力を四つに分けた内で最強の艦隊に任される事になった。基地が三つなのに四つに分けられたのは居残って防衛にあたる人たちも居るからである。

 さて問題の最強艦隊であるが――当然ながら、私が含まれている。今回、こっそり行って裏を潰すとかそういうの無いから、私も正面から行くのである。いや、私『も』行くっていうか、私『が』行くんだが。

 うん。つまりそういう事なんだ。

 最強艦隊ってのは要するに、ただの第十艦隊の事なんだ。

 構成メンバー、私&島風。以上。

 今回の私達の作戦、要するにこの二人で過去最大の基地に突っ込んで蹂躙して来いって、そういう話なんだよね。

 他の部隊は連合って付く新しい名前貰ったのに、私達だけ特に変わってないし番号も変わらないから第十艦隊のまんまだし、扱い酷くない?

 いや勿論理由はあってだね。なんかさ、分かり切ってた事かもしれないけど……集められた最精鋭全員の戦闘力合算しても、私一人より評価値低いんだってさ。

 一応ね、数値化して評価して、推定される敵基地ABCの予想脅威度の比率と釣り合うように三つの艦隊を組んだらしいんだよ。その結果がこれ。むしろこれでもAに戦力集め過ぎって事になっちゃうそうです。

 正直最初発表聞いた時笑ったよね。顔には出てなかったと思うけど。内心大爆笑だったよ。誰か助けてくれ。

 

 気を取り直して細かい作戦の話をしよう。まず敵基地であるが、最大規模のA、それよりは小さいものの他所に比べたらかなり大きいB、そしてそれら二つと比べるとだいぶ見劣りするCの三つがある。

 まず一番大きな基地A。位置的に対本州の最前線と見られ、規模的に千以上の深海棲艦が収容可能なんじゃないかとか言われていた。例の北方棲姫が積み上げた四国の奴を除いたら、過去に例のない超巨大基地として私達の行く手に立ちはだかっている。

 これの破壊役はもちろん私が行く。そして正面からぶっ潰す。んで時間が余ったらBCの旗色の悪い方へ援軍に向かう。もし余らなかったらそれはそれだけの戦力がAに集まっているという事なのでそれもまた良し。その分他が楽になるって事だからね。私が退かなきゃならないような場所だったらそもそも作戦を練り直さなければならないが……まあ、それはまずないだろうなとみんな思ったそうな。

 次にかなり大きな基地B。これは太平洋側にあり、深海棲艦の顔ぶれや施設・設備などから類推するに、直接侵攻するためではなく採れた資源の一時保管が目的の集積地ではないかと言われている。お察しの通り集積地棲姫が複数見られたため、常駐戦力も弱くないのが特徴だろう。というか、Aを除けばここも過去最大級なので、かなり多量の戦力が収容されていると見られている。居ないと思うのは流石に楽観し過ぎだろう。

 このBへはかなりの数を割いて攻め入る事となった。私みたいなチート能力持ちを除けば日本最大級の部隊と言って問題のない面子になっており、文月もここに組み込まれている。改二の艤装は置いて予備だった普通の駆逐艦文月で出撃して行った彼女の背には年齢不相応の哀愁が漂っていた。

 連合第一艦隊と命名されたその部隊を率いるのは長門さんだ。改二は正直、全く旗艦に向いていないのだが、どうも上やら横やらの思惑が折り重なった結果そうせざるをえなくなってしまったらしい。まあ、自衛隊員居るのに大きな作戦の一番大きな部隊の長を他に任せちゃうのは面子もそうだけど無駄な批判に繋がる事でもあり、これはもう仕方がないとしか言いようがないだろう。艤装の性能はともかく本人の指揮能力は非常に高いし、実績から来る信頼度も桁違いだから当然っちゃ当然だしね。

 最後に基地C。これは基地っていうか、ただの中継地点って言う方が正しいかもしれないくらいの小規模な拠点なのだという。位置は大陸側で、日本海に思いっきり面した場所だ。他二つに比べて敵の数も少なく見え、向かう人数もBに比べたらかなり人数が絞られている。

 ただしこのC、重要度は全く低くない。これがなんでかって言うと、このCのさらに北に、もっと大きな……最低でもBと同じ規模の拠点が存在すると類推されているからだ。日本海でなんやかんやしたのだろう物をCを出て北へと運搬して行く連中や、Cを経由して逃げ去る傷ついた姫級が目撃されている。我々は北海道への足がかりを建設しなきゃならないので、その邪魔がし易くなりそうなCを放っておく訳には行かないのだ。北にあるだろう仮名D基地に関しては位置も分かってないから警戒はしつつ対処は後日である。まあ、必要なら私でも突っ込ませるだろう。きっと。

 このCを攻撃する連合第二艦隊を率いるのは武蔵さん。賀藤艦隊で戦い続けていた、元自衛隊の精鋭部隊の一人である。私はあまり付き合いは無いが、戦力としても旗艦としても悪い腕ではないらしいので安心してほしい。この人も背後の面倒なバランス調整とかでやらされるっぽいのだが、ちゃんと実力も加味しての選出だからね。むしろ私が旗艦やってる方がおかしいんだが……もしやこの辺りの反対意見とかそういうの減らすために私の知名度上げたのだろうか。

 最後に防衛部隊であるが、これは元宮里艦隊で現賀藤艦隊所属の多摩さんが旗艦を務めている。戦闘経験数からすると大抜擢なのだが、これも政治的観点からの云々だろうなぁ。指名を受けた際、本人は猫っぽい目になってニャッ!? と叫んでいた。自衛隊の皆さんも大変だ。

 ともあれ、そんな感じの編成で三か所とも同日中に制圧してしまおうって話な訳だね。Aだけ攻めてBCから横を突かれても困るし、BC先に攻めようとしたら最悪Aの連中が本州に突っ込んできそうだから全部同時に。まぁ、今回も私達前提の作戦になってるんだが、実際居るんだからそりゃ使うよねって話な訳で。文月バフも乗っかった私達は意気軒昂にそれぞれの目的地へと突撃して行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしたらAには敵が一切居りませんでしたとさ。

 草生える。

 いや生えねえよ。なーんか近づいても敵の気配ないし音も聞こえてこないし上陸してもまだ居ないし気付かれてないとかそういうレベルじゃなくねとか思いつつ基地に近づいたらもぬけの殻。探してみたら核はしっかり設置されてたからまさかと思ってぶっ壊したらちゃんと海は青くなる始末。自爆とかの可能性も考えて基地の外から撃ち抜いたんだけどね、別にそういう罠っぽいのすら設置されてなかった。なんだこれ。

 島風のレーダーにも敵影は無く、私がジャンプして辺りを見回しても怪しいものは何も無し。遠くから狙ってたりするかと思ったのだけど、投げた猫吊るしも何にも見つけられなかったのでそういうのでもないっぽい。地下に爆薬でも仕掛けてあんのかと疑って魚雷で掘ってみたりもしたんだけど、特にそういうのも見当たらない。空いた穴から浸透勁で全方位に衝撃流してみたりもしたんだが、本当に何も無さそうだった。

 こうなると、私が何も考えずに気配のない所に突っ込んだせいで空城の計的なものに相手が失敗したとかそういう可能性も浮上する。あれ相手が警戒して足止めないと意味無いからね。でもそれにしては罠も伏兵も居ないんだよなあ。え、あいつらマジでこの巨大基地捨てたの? 建設だけで糞ほどコスト掛かってそうなここを?

 いや実際の所、それはそれで不味いんだけどね。さっき述べた通りABC同時攻めなのは援軍とか防いだり、相手の反撃をこっちの拠点ができるまで遅らせる為な訳よ。なのにこの状況……既にAからBCに向かってるか、来るの分かって一旦退いていつでも反攻できるよう準備しちゃってる可能性が高い。一兵たりとも残してないんでここに居たはずの連中、まるっと戦力として残ってるはずだし。

 一転攻勢の機会を窺ってるのならまだいい。来た瞬間私が蹴散らす。一番悪いのは、今この瞬間、既に戦闘が始まっているBかCに戦力が集中させられてるケースだ。私が行く前に全滅は無いと思うが……当然ながらそれぞれに核が設置されてるらしくて変色海域になってるから、連絡が取れないんだよね。

 つーかこれ、間違いなく相手に情報抜けてるよなあ……最低でも襲撃日時はバレバレだったと思われる。飛鷹さんの懸念は当たってた訳だ。まあ私視点だとわざと流したんだろうって理解できるけど……大丈夫だよね? ガバじゃないよね?

 ともあれ、ここに敵が居なかった以上、最低限再利用できない程度に基地をぶっ壊して、私はBCのどっちかに援軍に向かうべきだろう。元々そういう作戦だし、敵が行ってなくても制圧は早いに越した事は無いからね。

 ただ、どっちに行くべきなのか。これが分からない。いや、それは司令室の皆さんが判断する事であって、私に出された命令はとりあえず基地ぶっ壊しとけ、なんだけどさ。たぶん私が思った事とか全部思い付いてるしそれ以上まで考えが及んでるだろうから、私は指示待ちするしかない。提督達の感知能力で分かる艤装の破損状況からある程度戦況の情報は得られるので、そういうのも材料にしてくれるだろうしね。破壊? もう終わったよ。魚雷で空けた穴から何度も何度も浸透勁斜め上に撃ったら粉々なった。

 

 

 

 機能停止でいいって言われてたのに粉々にしちゃった私は、ともかく海の方へと戻るとそこで索敵を開始した。なんと言っても私はソナーの方が得意だから、そっちに集中する事にしたのだ。だけども敵は全くいない。今まではどこから涌いてんのってくらい探せば見つかる連中だったのに、今日に限っては本当にどこからもその気配はしなかった。

 もう情報待ってるよりどっちか行って大丈夫そうならもう片方行く方が良くない? とか思い始めた頃、唐突に、私の通信機が電波を拾った。いや本当に電波なのかは怪しいのだが、ともかく、特定個人ではなくその周波に合わせてる全員が聞ける通信が入って来たのである。

『連合第一艦隊。長門だ』

 話は変わるが、今回の作戦、深海棲艦にとって最も予想外だったのは何であろうか?

 それは私……ではない。実の所、私は存在もその脅威も、四国時点でもうバレてるんだよね。だからこそ、相手も一番大きい拠点を捨てるなんて暴挙というか奇策に出て、嫌がらせのような手を打って来たんだろうし。

 おそらくだが、私が肩透かしを食らったのは私がまったく隠されていなかったからなんじゃないかと考えられる。今回の敵の作戦、超強いのが来るぞ! 無駄に時間だけ食わせろ!! その間に他の連中ぶっ殺すぞ!!! って、そういう話だったっぽいんだよね。直近でもオールマイトしたし、きっとまともに私の相手をする気が端から無かったのだろう。

 だから私が大暴れするのは予想外でも何でもない。深海棲艦にとっても既定路線である。じゃあ、誰の何が一番予想外だったのかと言うとだ……

『目標基地Bは、接岸に成功した金剛の特殊砲弾により、変色海域の核ごと破壊に成功した』

 そう、超火力でありながら高速戦艦という提艦隊の最高戦力――金剛さんだろう。

 転生者を除いた中では文句なく最大火力な金剛さんにアメリカンな威力を誇る転生者謹製超弾頭の爆発力を加えた二撃が、内外に蠢く陸上型ごと、敵基地を滅却し尽くしたのである。

 勿論、エースとして活躍してる金剛さんだって存在は知られていたのだろうけどね。問題だったのはおそらく、直前で金剛さんを含めた複数の人員が改二になっていた事と、金剛さんと特殊砲弾の相性が良すぎた事だ。本来なら基地まで近づかせないつもりだったろうし、もし近づかれたところで姫級を複数擁する大基地が、まさか一瞬で壊滅まで行くとは思っていなかったんじゃないだろうか。

『敵の数が想定より多く、掃討には時間を要すると思われるが、現状こちらの被害は軽微だ』

 長門さんの通信を纏めると、やっぱりAに居たはずの戦力の一部がBに送られていたっぽい。ただ、基地ごと滅んだ奴がかなり多かったらしく、それでも普通に勝てそうであるらしい。勿論、時間は相応に掛かるだろうけどね。

『司令室より、第十艦隊へ。第十艦隊は基地Cへ。第十艦隊は基地Cへと向かってください』

 Aにはそもそも敵が居らず、Bの方はとりあえず問題がない。そうなれば、当然そうなるだろう。了解の旨を伝えると、私と島風は真っ当ではない速度で走り出した。

 

 

 

 

 

 そうして制圧したのがこちらの基地Cと取り戻した青い海になります。

 成程、確かに基地のサイズは小さい。小さかったが、思った以上に敵は詰め込まれていた。どうやらこっちにもAの連中が送り込まれていたらしい。完全に三か所に同時攻撃してくるって読まれてるの、事情知ってる転生者以外の皆から見たらくっそ怖かったんじゃないだろうか。予想されていた1.5倍以上の戦力が飛び出して来たらしいんで絶望感がヤバい。勝ち負けになる以前に生きて情報を残せるかすら怪しいところである。

 まあC攻めの人達、私が来る前の段階で基地目前まで普通に押し込んでたんだけどね!

 いや、連合第二艦隊って確かに人数は少ないんだけどさ、夕立とか嵐さんとかの賀藤・五十嵐艦隊のエースが面子に揃ってるもんだから普通に強いんだよね……宮里艦隊に勝てなかったのは彼女等が弱いからじゃなくて、宮里艦隊側が色々おかしいのが原因なのだ。変色海域故に連絡が取れなかっただけで終始優勢に戦いは進んでいたらしく、私達が合流して痒い所を掻き毟ったらそのまま制圧も完了した。

 あれ? この作戦、私要る?

 なーんてちょっと思ったけれど、よく考えると特殊な――ボスっぽい個体はまだ出現していない。だからつまり、これで終わりなんて事はきっとないのだろう。

 見つけた敵の潜水艦に爆雷を投げつけつつ、食い足りないっぽーいと懐いてくるぽいぬをあやし、私達は次の指示を待つ。Aの周辺と違って結構敵が居る為気は抜けないはずなのだが、隠れていても水中なら私には視えるから無意味である。

 暫く周囲を探知していたが、Bの戦況も特に悪くはないようで、追加の指示は飛んでこない。高い索敵能力を生かしてのCの安全確認が優先されたようだ。それだけBは順調なのだろう。私達はとりあえずCの基地をぶっ壊す作業に勤しんだ。すぐ終わった。

 感嘆も混じってるものの半分くらいは呆れた目で見て来る嵐さん、五十鈴さん、伊504の五十嵐三姉妹の視線を鮮やかにスルーしつつ、旗艦の武蔵さんに指示を仰ごうかと思ったら、司令室から通信が来た。曰く、弾薬と燃料を第二艦隊に補給して、一度鎮守府に戻ってこいとの事である。

 そう、忘れがちだが私の今の艦種は輸送艦。戦うだけが私のお仕事ではないのである。超高速でみんなの下へ必要な物資をお届けして、補給に帰るのもとっても速い、すっごい便利な艦娘なのだ。どうやら第二への移譲が終わったら次は第一の居るBへ急行する事になるようで、その時持ってく配達物を鎮守府に取りに戻って来いって話だね。

 第二艦隊に随伴していた杵埼さんと一緒に皆へ弾薬を配っていき、最後に残ったのを杵埼さんの艤装に詰め込んで、私と島風は一路、鎮守府へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 そうして気が付いたら何故か私達は鎮守府を狙う敵艦隊を壊滅させていた。

 いや、どうもこうも移動中に敵が発見されて近かったから退治しただけなんだけども。明らかに敵の移動ルートはこちらの拠点を狙っていて、位置すらとっくにバレていたらしい……のはまあ、予想通りだからいいんだが、なんかその数が酷い。

 私達が倒したのは姫級だけで二十体。取り巻き入れたらさらにドン。辿り着かれてたら防衛部隊ごと鎮守府が壊滅してた可能性が高い敵部隊だった。どうもAの連中、BCに行ったのだけじゃなかったっぽい。

 防衛部隊も既にまた別の部隊と交戦したとかで、そいつらとの戦いは順調に推移してるらしいんだが……うん。なんだろう、これマジで楠木提督居なかったら負けてんだろうなって確信が凄い。敵の展開力が酷すぎて私一人でどうにかなる話じゃなくなってる。あれだ、完全耐性持ちの攻撃力糞高モンスター場に出してんのにプレイヤーのライフには限界があったのSA☆とか言われてる気分。つーか鎮守府の位置普通に割れてんのな。予想はしてたけどさ。

 ともかく敵は倒したので予定通り鎮守府への帰路に就き、道すがら多摩さん率いる防衛部隊に加勢して、私達は港へと帰り付いた。待っていた明石さんや朝日さん達に艤装を受け渡すとすぐに資材の積み込みが始まり、私と島風は一時休憩を取る事になった。

 間宮さんの出してくれたお茶でしっかり水分を補給しつつ、そわそわと艤装の準備が終わるのを待つ事暫し。座る場所をという事で閑散とした食堂で待機していた私に、何故か名指しの放送で呼び出しがあった。声の主は楠木提督、行くべき場所は司令室である。

 いってらっしゃいと島風に送り出された私が早足で目的地へと辿り着くと、室内は絶賛修羅場っていた。いや、喧嘩してるとかではなくて、漏れ聞こえた感じだと、どうやらBで戦ってる連合第一艦隊の背後を突くように100体近い鬼・姫級が率いる部隊が出現して交戦状態とかなんとか。

 ヤバくない?

 

「状況は聞いての通りだ。質問があるなら受け付けるが」

「いえ、特に無いです」

 突っ込んでぶっ倒してくればいいんですよね、分かります。と目で伝えると、せやな。と目で返って来た。お互い心は読めないはずなのだが、結構判るものである。大淀さんは頼もしい通り越して名状し難い物を見る目になっているが、まあ仕方ないだろう。問答してる時間の方が勿体ないしね。

「ではこれを。もしかしたら、必要になるかもしれないからね」

 もしかしたら(大淀さんと提督たち向けの説明)と言って渡してくれたのは、押印された蝋で封をされた茶封筒である。なんだこれ? と両手で拝領しつつも疑問符が頭の上に出ていたらしい私に対し、楠木提督は苦笑を浮かべつつ、内容を箇条書きした物も差し出した。

 読んでみれば成程。転生者なら納得の内容であり、これから起こる事を私に理解させるだけのものではあった。読む人が読んだらキレそうではあるんだが、まあ、私がやる事が変わる訳ではないのでご理解いただきたいところだ。

「これはやはり、長門さんに?」

「うむ。彼女なら分かってくれるだろう」

 感情的にはどうあれねと楠木提督は言外に伝えてきた。私にちゃんと伝えられる辺り凄まじいコミュ力である。

「……程なく補給も終わるだろう。急ぎ、出発してくれたまえ。ああ、弾薬や燃料は吹雪くんが使ってしまって構わないよ。流石に、輸送艦として仕事をする暇は無いだろうからね」

「了解しました」

 まあ、予想通りなら暇がないというか意味がないというか……ともかく、使っていいなら使わせてもらおう。私だって砲も銃も使えた方が楽なのだし。無いと戦えないとは言わないけれども。

「それでは、よろしく頼む」

 楠木提督は頭を下げたりはしなかった。でも、それが、今日という日のために積み重ねてきた全てを礎とする、万感の想いの籠った言葉である事は私にもなんとなく理解する事ができた。

 

 

 

 

 

 私と島風は鎮守府から基地Bまでの道をひた走った。行く手に阻む物は無く、青い晴空も相まって、まるで窮地の味方の救援に向かっているなどと信じられないような軽快さで。

 鎮守府と基地Bまでの距離は何百キロもある訳ではない。なので私と島風の速度なら実際、そこまで時間は掛からない。猫吊るしのナビゲートも完璧なので、迷う事なんかも有り得ない。だからその現場に辿り着くのはすぐで、敵の第二波が押し寄せてからそこまで時間は経っていないはずだった。

 最初に私が見つけたのは敵艦だった。駆逐ロ級、それが私達ではなく、何か別の物を狙いながら前方を通り過ぎようとしたのだ。なのでそれを蹴り殺して狙っていた先を見れば、そこではかなり制服が破損し素肌を日に晒している味方艦娘が、連装砲を構えつつ前方を睨んでいた。

「深雪!」

 名前を呼び掛けつつ横に着地すると、少しだけ飛んだ海水が掛かってしまったようで、深雪はうわっと叫んでこちらを振り向いた。続いて島風が私の横に到着すると、さらなる追撃を喰らって冷たッ!? と悲鳴を上げる。そして私達を見つけると、人懐っこい、とても明るい笑みを浮かべた。

「あ、吹雪と島風じゃん、援軍?」

 軽っ。深雪の語調は状況と自分の状態に反して非常に明るかった。いや、お前大丈夫なの? あれか、被弾率高いから制服が脱げるのくらいもう慣れたとかそういう感じ?

 その場から辺りを視渡せば、少し向こうに他の艦隊員達も居るようだった。隊を組んでるのだから当然かもしれないけど、一人孤立していたとかではなさそうだ。いやちょっと離れてる辺りまた集中し過ぎてたとか有りそうだけど……まあそれはともかく。

「深雪、状況は?」

 実は私、第一艦隊の状況はちゃんと把握していない。いやさ、どうも長門さん、司令室とだけ無線でやり取りしてるっぽくて私の方には情報が入らなかったんだよね。味方全方位の通信と特定の人員間での通信があるんで仕方ないんだけど、まあ必要なら私にも掛かってくるだろうと思ってこちらからも通信繋がなかったから、現状がよく分かってなかったんだよ。

「そりゃあ勿論、勝ったさ!」

「勝ったの!?」

 やー大儲けだね、と自慢げにサムズアップする深雪と、びっくりした私。島風もオウッと鳴いている。連装砲ちゃん達はその背でミューキューキャーと鳴きながら拍手のような音を立てた。かわいい。

「やーサンキューサンキュー。あ、敵なら大型のはほとんど倒したから、今細かいのを掃討中だよ」

「ええ……人型だけで百匹居たとか聞いたんだけど」

「うん。なんかそんくらい居たらしいよ。でも、金剛型とかの集まったみんなが滅っ茶苦茶強くってさあ」

 金剛さん、比叡さん、榛名さん、霧島さん、扶桑さん、ビスマルクさん……それに赤城さんやろーちゃん、那珂さんに北上さん。漣や初雪、それに吹雪。今作戦のために集められたみんなは確かに第一艦隊に固められていたのだけれど、どうやら私が思っていた以上に彼女達は強い艦娘だったらしい。集まると普通に百匹とそのお供を殺っちゃうくらいには。

 まあ言われてみたらそりゃそうだって話ではあるんだけどね。彼女達は一人一人がエース級。所属艦隊で姫や鬼の率いる部隊を一人の死者を出す事もなく叩き潰してきた強者揃いなのである。勿論、仲間の援護あっての事ではあるのだけれど、今回その仲間が宮里艦隊の面々な訳で。

 連合第一艦隊は派遣エース組と宮里艦隊の悪魔合体で産まれてしまった素敵極まる艦隊である。レベルが下がるどころか合計されてそうなその所業の結果、哀れ遭遇した深海棲艦は爆発四散。海の藻屑と相成ったのだった。

 深雪を連れて残った敵を掃討している皆と合流すれば、深雪は叢雲にべちんと頭をはたかれた。どうやらやっぱり離れすぎていたらしい。その叢雲も多少制服に裂け目ができていて、無傷では済まなかったようだと知れる。深雪は軽く言ってたし私が辿り着くまでの短時間で大勢は決したようだけれど、戦闘自体はかなり激しかったのだろう。辺りには航空機の残骸が散見され、かなりの削り合いになったのが分かった。

 実際、見渡すとみんな多かれ少なかれ傷ついている。長門さんは本体こそ無事だが盾が片方使い物にならなくなっているし、金剛さんも袖が片方無くなっている。龍驤さんのサンバイザーからは黒い煙が出ていて妖精さんが頑張って消火しているし、天龍さんは眼帯が外れてしまっている。轟沈まで行っている人はいないし、ぱっと見では深雪が一番酷い状態で大怪我をしてる人も居ないように見えるけれど、無傷の人は一人も……一人も……いや教官長無傷だなあれ。

 閑話休題。こちらに気付いた長門さんがこちらへやって来て、私達に索敵を要請した。当然断る理由もなく、私はソナー島風はレーダーで探知に入る。海中に敵影は……うん。成程。そういうね。とりあえず近くには3匹くらい居たけど今居なくなった。空の方は私より島風や夕雲さんの方が得意だからお任せである。

 

 一旦海中の敵への対処を終え、私達は情報を交換し合った。私からはAとCの詳細な情報を。長門さんからはここ、基地B周辺の情報を。長門さんはAに敵が不在だった事に驚きつつ、同時に納得の顔も見せていた。

「途中から察しは付いていたが……おそらく敵の狙いは挟み撃ちだったのだろうな」

 あー成程。Bの兵隊いっぱい増やして手こずってる所に100体以上後ろから来たらきついとかそういうレベルではない。大きな基地であるBが一瞬で壊滅とか普通は考えられない訳だから、確かに成功率は高かっただろう。本来なら。

 でも残念ながらここには金剛さんが居て、挟むはずだった片面がもう片方の到達前に消滅していたものだから作戦は大失敗。それでも普通の艦隊なら轢き潰せるだけの戦力だったのだろうけど、ここに居たみんなはまったく普通ではなく、それすらも失敗して現在に至る。と。

「こっちの戦力を把握した上で、北海道の一時奪還を許してでもこちらの数を削ぎに来た……って感じか」

「ああ。その後ここに回した戦力が吹雪に殲滅されるのも織り込み済みで、私達を殺すのを優先したのだろうな」

 うわー有効。私の頭の上で猫吊るしがぼやいた。やはりというか、こっちの艦娘に限りがある事を見越した上で、その頭数だけ減らしてやるぜって話なのね。確かに私一人にでもなったら戦術的にはともかく戦略的には絶対勝てないもんなぁ。まあ失敗してるし…………実の所、それだけではなく、その次もあるっぽいんだけど。

「B基地は完全にぶっ壊した?」

「金剛の砲撃で跡形もなくなったよ。あれは……非人道兵器に分類されてしまうかもしれないな」

 そんなレベルなんだ。まあ試射の時も少し遠くで撃ってたのにカーテン越しに光で室内が照らされてたもんなあ。人の居る所に撃ったら骨も残るまい。うーんアメリカン(偏見)

 しかし、それなら次の指令も問題ないかな。必要なら殴り壊しに行こうかとも思ったけれど、どうやら殴る壁が残っていないみたいだし。

 

 おうっ?

 私達が情報を受け渡している間に周囲の索敵も進み、海上に残っていた雑兵がどんどん駆逐されて行く。そんな中で突然、空と海上の探知を続けていた島風が何か不審なものに気付いたような声を上げた。

 次いで、同じくレーダーとソナーにかかりきりだった夕雲さんが、厳しい目で艤装の機構を何度か弄り、それが送ってくる返答を読み返し、震えた声で長門さんに大声で叫んだ。

「レーダーに、感あり…………っ! 敵数、不明……!」

「不明?」

 不明、というのはかなり珍しい表現だ。艦娘のレーダーは結構感度が良く、密着しているのでもなければある程度ちゃんと数える事が可能である。ちなみにソナーだと曖昧になりがちだけど、私ははっきりと分かる。えっへん。

 夕雲さんの声に不審気な声で返した長門さんが、詳細な報告を求めて夕雲さんの方へと振り向く。その間に、私は島風の方へと移動した。たぶん夕雲さんと同じものを見たのだと思うのだけれど。

「敵、居た?」

「あ、吹雪……………………知ってたでしょ」

 集中していたのかちょっとびっくりした様な反応でこっちを見る島風。そしてすまし顔のつもりな私の表情から察したのか、ただでさえ眠たげな目をさらにジトっと細め、私の事を不満気に睨みつけて来た。別に、そういう訳じゃないんだけどね。

「私の索敵範囲にも入ってるからさ」

「おうっ? 報告しなくて良かったの?」

 たぶん良くない。良くないんだけど……次の事を考えると、言うタイミングがね。

 今からするよと島風に告げ、私は艤装から例の封筒を取り出した。なんか思ったより苦戦してなかったのでいつ渡すべきなのか迷ってしまったのだけれど、間違いない。これを渡すタイミングは、今だろう。

「長門さん!」

 夕雲さんの報告を聞いて動揺していた長門さんに、私はそれを差し出した。見覚えのある封印だったのか、長門さんは一瞬で事態を察したようだった。私から慎重に茶封筒を受け取るとそれを手早く開き、間違いないようしっかりと、そして素早く目を走らせる。その間に、事態はゆっくりと進行していた。

 私よりも手前側に居た人たちが、水平線の彼方に違和感を覚え、何事かと声を上げ始める。私もそちらに目を向ければ――そこにあったはずの青い空と青い海が、いつの間にか、少しずつ、黒に浸食されだしていた。

 

 ――燃えてきたぞ。

 

 チート能力さんが囁く声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 楠木 多聞丸は吹雪を送り出した後、厠へ行くと偽り、自身の影武者と入れ替わった。そうして実際に男性用の個室へと足を踏み入れると、そこで待っていた北方棲姫と共にその場から何の痕跡も残さず飛び発ち――次の瞬間には真っ赤な海の上に浮かぶ、腕の生えた巨大魚が船と融合したような異形の艦上に降り立っていた。

 足下の生き物のようでも金属のようでもある甲板を踏み締めながら周囲を見回せば、その広い船上には複数の人影が確認できた。小さな卓を囲み真剣な顔でその中央に向かい手を伸ばす者、厳しい表情で船首のさらに先を睨んでいる者、いっとう高い角のような突起の先端に立ち創作のお嬢様のような高笑いを上げている者、その下で無造作でありながらかなりのハイペースでスナック菓子を胃に流し込んで行く者、生やした炎の翼で上空を緩く飛び回り火の粉を撒き散らしているのを咎められている者、まるで貨物のように船尾近くに大量に積み上げられている者、楠木の到着に気付きウィンク混じりに手を振って来る者……等々、総勢二十といっぱいの、転生者の仲間たちである。

 自由にしていてくれと言ったらこうなるのは分かっていたが思ってたよりもっと自由だった連中から、多聞丸が最初に話し掛けたのは、船の中央で自身と繋がったコードの様な物を弄っている女性だった。非常に長い白い髪と、同じくらいに白い肌を持ち、スイムスーツの上にセーラー服を着たような格好をして、頭の左右に前後に長い黒色の角を有した、人の形をした者。五島沖海底姫である。

「やあ、今日は世話になるよ」

「アッ……ク、楠木提督。ヨロシクオ願ッ、オ願イシマス……」

 お願いするのはこちらの方だけどねえ、と楠木が笑えば五島沖海底姫も釣られたようにうへへと笑った。それに合わせ、赤い海に浮いた船、それそのものが笑うような低い音で鳴動する。

「オ、オ陰様デ、コンナニ立派ナ船ニナッタノデ、アリガトウゴザイマス」

 五島沖海底姫がぺこりと頭を下げると同時、船尾の本当に尾となっている部分が持ち上がり、緩い速度で海面へと叩きつけられる。左右ではなく上下に動かしやすい辺り、魚ではなく海生の哺乳類か何かの仲間なのかもしれないが、所有者本人もその辺りはよく分かっていなかった。

 多聞丸達が乗っているのは五島沖海底姫の艤装である。元々船型であった彼女の艤装に資材を投入し、二十人以上を収容できる大きさにまで拡大拡張を施し、移動手段や拠点として運用しているのだ。

「目標地点ニハ、既ニ到達……シテイマス! 『きっと』『いない』ノデ、ッ捕捉モサレテマセン……タブン」

 五島沖海底姫が船として選ばれたのには艤装の形状の他に、その身に刻まれたチート能力にも理由があった。生半可な存在では彼女とその周囲の存在を知覚する事ができないのだ。その隠蔽能力は転生者の中にあっても高い強制力を誇り、彼女が本気で力を行使している場合、多聞丸であっても視る事は不可能となる。そんな能力であるので、当然ながら深海棲艦達もこの船の進軍を見咎める事はできなかった。どれだけその船上が騒がしい事になっていたとしても。

 

「僕ハ、僕ハ降リナイゾ……! ココデ引イタラモウ吸イ尽クサレルダケダ……!!」

「ヲッ、ソノ意気ヤ好シ。デモ、通ルカコレ?」

「狂気ノ沙汰ホド面白イ……!」

「僕なら降りるけどなぁ……」

「振リ込メ……振リ込メ……」

 卓を囲む四人と、その後ろから様子を窺う三人。立直した一人は和了らせろと念を送り他の二人は手番の戦艦棲姫の出方を窺っている。

 タン、と軽快な音を立てて、WとMが組み合わされたような牌が場に放出された。全員の目線がそれに注がれる。

 くっと悔しげな声が、放銃するよう呪いを掛けていた駆逐古鬼から漏れた。戦艦棲姫は安堵した。通ったのだ。自分は賭けに勝ったのだと。

「あっ、それロンです!」

「ファッ!?」

 声と一緒に手を上げた少女が、自分の手牌を倒していく。そこにあったのは、一対六組の麻雀牌と、出されたものと同じ柄の一つ。

「チ、七対子!?」

「今マデ散々高イノ連発シテオイテ!?」

「2翻かあ、なんとか飛んでないけど……」

「次は私の親番ですね!!」

 ぐにゃあと戦艦棲姫の顔が歪む。まだ次はある。次はあるが、逆転の目はほとんど残されていない。自分の親番は終わり、ラス親は超幸運の持ち主、丹陽である。絶望。これが、圧倒的、絶望……!!

「いえ、それには及びません」

 そこに待ったをかけたのは、参加者最後の一人だった。

「ロン。私も和了です」

 牌が倒されて行く。そこにあったのは成程、捨てられたのを合わせれば和了りの形である。その場の全員が驚きの声を上げた。

「ダ、ダブロン!?」

「うわ、ドラ三つもあるよ怖いなあ」

「ヲッ……!? ア、コレ飛ンデンジャン」

「流石ダイソン、滅茶苦茶被弾スルノナ」

「はい、これで戦艦棲姫さんは点がマイナス。ゲームエンドです。そして、私はこの点で二位に浮上……つまり」

「わあ……! 今回も生き残ったんですね! 凄いです、宗谷さん! 丹陽、今回も殺せませんでした!!」

「三位四位交代なのに全然離席しないね君等……」

「二人ダケ違ウゲームシテナイ?」

「幸運パッシブ二人相手ニ麻雀勝負ハ無理ガアッタナ」

「天和連打シテ来ナイダケ有情」

「人和連打はあったけどね」

「ソッチノガアル意味酷クナイ?」

 和気藹々と、特に何を賭けるでもなく友人と遊戯に興じるその姿は、どう見てもこれから命懸けの戦いに赴く者たちの姿ではない。だがそれも致し方のない所だろう。何せこの場の全員が、日本で最強と呼ばれる転生者のそれに準ずるか、それを超えるほどの生存能力を有しているのだから。真剣に戦うつもりではあるが、死ぬ気は誰一人していないのである。

 

「あれだけリラックスできているのも君のおかげだろうから、もっと誇ってくれていいんだよ?」

「アッ、アザーッス……!」

 五島沖海底姫は照れくさいを通り越してしまい、にやけ顔を隠し切れない様子だった。それと同時に挙動が不審になって来ている。多聞丸は一時、賞賛の言葉を打ち切ることにした。褒め過ぎると使い物にならなくなるが適度に肯定の言葉を掛けないとそれはそれで使い物にならなくなる。割と扱いの難しい子なのだ。

 これ以上褒められると溶けると察し、五島沖海底姫はじゃあ最終調整を終わらせちゃいますね、と自分とケーブルでつながっている艤装と格闘し始めた。何せ本来の姿よりかなり肥大化している物だからチューニングが難しいのだ。某鯨ほど大きくなることはできないのが残念なような助かったような不思議な気持ちであった。

 

「Admiral!」

 船上の面々と挨拶を交わし各々準備に取り掛からせていると、赤毛の女性が船首から小走りに駆け寄って来た。多聞丸の到着前からずっと周囲の海を見つめていたが、その有り得ざるべき光景を前に、一人危機感を募らせていたのである。

「聞いていませんよ、これ程だとは」

 多聞丸に詰め寄ると、今作戦の難易度について厳しい表情で問いかける。説明が無かった訳ではない。むしろちゃんとされていた。されていたが、具体的な数字は把握していなかったのである。

「すまないね、君は結構緊張する性質のようだから、少々気が楽になるよう説明していたのだが……」

「ええ、そうでしょうとも! 確かに、私は無駄に緊張して意味不明な勘違いを産み出す大馬鹿者です! おかげで国内では扱いが完全に何処かから帰還した王ですし、それを鑑みての対応であるのも理解できます!!」

 勘違いされてるのは言動どうこうより英雄的な態度で前線に立ち聖剣で敵を殲滅するからである。という事実を飲み込んで、多聞丸は不満気に腕組みする彼女と向き合った。腰に下げた剣の鞘が鈍い日光を受けて眩しく輝いていた。

「ですが、私の耐久力は普通の人間程度ですよ!? 無防備に一撃受ければそれだけで死にますよ!?」

「いや君の剣は再生能力もあるから大丈夫だよ」

「そうなのですか!?」

 知らなかった、とそのアークロイヤルの艤装を扱う英国の女性は驚愕してみせた。剣というか鞘になのだが、二つでワンセットであるため同じ事である。伝説と違って本人の能力であるため紛失もしないので普通に戦って死ぬような事はまず有り得なかったりもするのだが、そもそも被弾した事すらなかったため気付かなかったのだ。

「…………失礼しました。はぁ、恥ずかしい」

 アークロイヤルは自分だけが騒いでいた事へ忸怩たる思いを抱き、顔に出やすければ真っ赤にでもなっていただろうくらいの大きな感情を溜息として吐き出した。そしてそれって死なないだけで痛い事は痛いのではないだろうかという事に思い至ったが、死なないのなら許せる範囲内だと受け容れた。普通に器は大きい方なのだ。

「だいじょぶだいじょぶ、死ぬくらい大した事ないよ」

 一回やれば慣れるよー、生き返らせてもらえるし。と横から声を掛けてきたのは普段は帽子のように被っている方位盤を腕に抱いたリベッチオである。同じく生身で攻撃を受ければ痛いで済まない人種なので、何かしらのアドバイスをしてあげようと思ったのだ。

「ンナモン慣レレンノオ前ダケダロ」

「死んだから修正してって自分で頼みに来るのはもう、慣れるとかそういう問題じゃないと思うなぁ……」

 その後ろから発言の問題点を指摘したのはレ級とゴトランドだった。最近変な方向に能力が伸びがちなリベッチオの人間から遠ざかっていく死生観と曖昧になっていく死と生の境界にアンデッドかなんかにでもなるつもりなのかと各々心配を募らせている。

「ですが確かに、失敗しても修正が可能であると思って戦えるのはとても心強い」

「だよね! リベ達範囲火力担当だから防御なんて考えてる暇ないし! 近接戦とかしたら死んじゃうよね!!」

「いえ私は対応していますしむしろ得意距離ですが」

 クソが。リベッチオはやさぐれた。

「じゃあいいじゃん。近づかれてもスタミナ切れるまでバッタバッタと切り伏せて頭が高い控えおろうってすればいいじゃん」

 不満そうに早口で告げると、その辺の段差に座り込み、不機嫌そうに両足で甲板をバタバタと叩き出す。その年齢相応の態度と仕草にアークロイヤルは困惑した。

「……何かありましたか? どうも、妙に不機嫌そうに見えるのですが……」

 リベッチオはどちらかといえばやる気はある方で、昨日まではいっぱい倒してやるぞーと意気込んでいるくらいだった。それが今日になって情緒不安定になっているのは少しおかしい。当日になって緊張が出てきた、というだけならあまり問題ではないのだが。

 何かあったのだろうかと本人ではなく、何故か保護者のような顔で見守るゴトランドに聞けば、同じく年下の面倒を見る様な態度だったレ級の方から返答があった。実際の年齢についてはアークロイヤルは考えない事にした。

「リベノ奴、出発前ニコナイダノ吹雪ノ動画ミテヤガッタカラナ」

「何故自分から調子を下げる様な真似を……」

「なるかもしれないじゃん! 参考に!! なんなかったけど!!! 全然なんなかったけど!!!!」

 吹雪が多数を相手取って無傷で帰還できたのだから、そこから何らかの教訓が得られるかもしれないと思ったのだ。結果的には意味不明でしかなかったし、自分の戦闘力と対比してしまってちょっと落ち込む羽目になった訳だが。

「まあ……理解はできるよ。この景色を知ってたら、少しでもって思っちゃうのは仕方ないかなって」

 ゴトランドが多聞丸とアークロイヤルを通り越して、その先の赤い海を見た。それに釣られ、他の仲間たちもそこへと目線を向ける。

「ええ。それは、確かにそうです。私もここに至って、ようやく理解できました」

 苦い顔で睨みつける。それは割と、どうしようもない部類の物だった。転生者では、ではなく。まともな人類では、であるが。

「勝てない訳です」

「うむ」

 多聞丸も同じくその光景を直接視界に入れる。それは知っていた絵面であり、直接的には、初めて見る眺めだった。

「深海棲艦は、人類にとって脅威だ。では、具体的に、どういった部分が脅威なのだろうか?」

 騒ぎ声に釣られて集まって来た仲間達に、多聞丸は問いかける。その答えは、この深海棲艦の支配域――南極海にまでやってきた時点で、全員が理解させられていた。

「物理攻撃が効かない事か? いや、それは脅威ではない。あんなものは、やろうと思えばいくらでも対抗手段は講じられる」

 物理無効化は本当に物理攻撃以外を無効化できない。その上、無効化属性を付与された攻撃に対しては全くの無力である。極論、真っ当な物理法則以外で攻撃してしまえばその辺りの通行人ですら貫通し得る程度の物でしかない。

「では、個々の強さか? いいや、それも違う。あれらは……そう、原作の艦隊これくしょんと比してすら、非常に弱い」

 この世界の深海棲艦は、弱い。適性値が高いとはいえ、一カ月しか訓練を施されていない素人に蹴散らされる程度の存在でしかない。姫や鬼ともなればそれなりの戦力を備えてはいるが、それでも改二にすらならない駆逐艦一人に討伐される程度である。

「それでは、変色海域を展開してくる事か? まあ、悪い手だとは言わないがね。悠長過ぎるよ。真の効果が出る前に対策は打てる」

 実の所、多聞丸が何もせずとも各国ともある程度の対処は行えたのだ。ただ、それができた所で大陸が沈むのは回避できなかっただけで。

 その理由が、目の前の赤い海にあった。単純で、誰でも思い付いて、達成されてしまえば通常はどうしようもないそれが。

「この世界における深海棲艦の最も恐るべき点、それは――」

 前後左右、三百六十度、全方位に、その答えは存在している。全く以て、現行人類には本来どうしようもない。総勢一億を超える、深海棲艦の群れ。

「――数だよ」

 最大出現可能数まで既に現出を終えている、人類の総数と同じだけの悪意の、ほぼ半分がそこに居た。

 

 

 




出現最大数まで出て来れるだけ出て来てるけど、普通に集合無意識内にまだまだいっぱい悪意は残っています。人類産まれてからの全部だからね仕方ないね。
ちなみにここまで大規模になったのは、最初だけ一度に最大値まで出現できる術を使ったからなので再度使われない限りこんな事にはなりません。
使える本来のラスボスみたいのも今から絶対命中+絶対貫通のチートコンボで死にます。
いやあ安心ですね。


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努力を無にしていくタイプのチート能力

 うわあなんだか凄いことになっちゃったぞ。

 私の視線の先が黒いもので埋め尽くされて行く。それは明らかに自然の作用で起こっている事ではない。それらには目があり、手があり、そして悪意があった。

 ソナーには数える意味がない程に音の反射が届いている。きっと島風や夕雲さんのレーダーにも同じように出ていただろう。その故障を疑う方が正気としか言いようのない表示が。

 いやあ、世も末だね、まだ今世紀始まって二十年経ってないはずなんだけど。なんて思いながら、長門さんが読み終わるのを待つ。敵さんはどうも攻撃してくる気配はなく、あまりの異様な光景にこちらの味方も手出しするのを控えている……というか、撃っていいのか分からんのだろうなぁ。明らかに異常事態だし、勝手に状況を進めないだけの判断力を全員持っているって事だ。恐慌状態に陥ったりしないの素直に凄いと思う。

 誰ともなく一度陣形を立て直すべきだと判断して、全体が隊を組みなおす。私と島風は組み込まれていないのでそれに加わりはしなかったが、合流して数日の人達も居るのに大したものだと感心する。果たして本人たちの適性ゆえなのか、集合無意識側からの影響なのかは分からないけど、間違いなく強いって事だけはよく分かった。

 まあ、それでもどうにもならないのが今の状況なんだけどね。いや、酷い世界だなあ。どの口で全滅まで行かないと思ったとか言ったんだあの魔法使い。人間過大評価しすぎじゃない? この状況でもたぶん内ゲバとかするぜ? いやしなくてもどうしようもなさそうなんだけども。

 そんな感想を頭に浮かべている間に、長門さんは渡した封筒の中身……指令書を読み終わった。変色海域化していないため連絡は付くし確認も可能だったが、長門さんはそれをしなかった。しても意味が無いと察していたのだろう。

 長門さんが内心憤懣やるかたないのを押し殺そうとして失敗した表情で見つめて来る。勿論それは私に対しての怒りではないだろう。きっと深海棲艦と楠木提督と、それ以上に自分に対して、だろうなあ。真面目な人だし。

「吹雪、これは……」

「最善かと思います。申し訳ないですが」

 だろうな、と声にならない声が長門さんからした気がした。わあ、すっごい悪い事してる気分。でもしょうがないのだ。現状これしかしようがない……と言うよりは、こうするために今回の作戦は組まれたのだろうし。

 うーむ、しかし見るからに全く納得していない。どうにかならないものかと頭をフル回転させて、それが空回る音まで聞こえてくる気がする。でもどうしようもないんですよ、どうしようもない状態にチート転生者たちが全力で誘導したんだから。

 長門さんはそもそも、召集された未成年に戦わせる事を良い事だとは全く思っていない。それでもそれ以外方法が無いって現実を突き付けてくる赤い海の最前線で戦い続け、本来なら死地である場所で宮里艦隊の仲間たちを指揮し続け一人の死者も出さなかった、旗艦の鑑みたいな人である。

 そりゃ調整してそういう未来にしたってのはそうなんだろうけど、そもそも起こり得ない可能性はいくら調整したって出て来ない訳で。今を成立させるためにしてきた長門さんの貢献度って下手しなくても私より高いんだよね。私が安穏とクソコラ眺めてる間も戦い続けてた訳だし。

 そんな人だから、分かってしまうのだ。私を含めた全員の生存率を最大にする方法が。

 そして感情的に全く納得がいかなくても、その手段を取れるのだ。立場的に拒否する事が許されないとかそういうのはあるけれど、そこを言い訳にせずに自分の決断だと背負い込んだ上で。

 うーん。私が言える事、無いなぁ。いや、言いたい事は無くもないんだけど、それで負担が軽くなる事は無いので意味が無いというか。謝るのも良くなかったなぁ。むしろ罪悪感あるわ、私が長門さん側だったら。この場合むしろ、言うべき事はこっちだったわ。

「任せてください」

 できるだけ自信満々に。堂々と無い胸を張り、不敵な笑みを浮かべて。いやあんま浮かんでないなこれ……表情筋ちゃんしっかり仕事して。

 ともかく、伝えるべき事は伝えた。私は絶対大丈夫だし、それは何一つ嘘偽りのないただの事実である。そんな自信満々な態度のつもりの私を見て、長門さんは少しだけ呆れたような、笑ったような溜息を洩らした。その調子で肩の力を抜いて欲しい、どうしようもない事で胃に穴とか開けてほしくないからね。

 長門さんは一度だけ深呼吸すると急ぎ通信機を起動した。敵が迫って来てるのもあり、本来一刻の猶予もない。言うべき事を簡潔に纏め、素の声でも連合第一艦隊全員に行き渡るような声量で、指示を待つ皆に命令を下した。

 

『作戦終了!! 現時刻を以って、北海道上陸作戦を終了する! 連合第一艦隊は只今より鎮守府へ帰還、補給と艤装の整備を行う!!』

 

 一瞬だけ静まり返った空気が、ざわりざわりと動揺の声に変わった。人によってはかなり離れた位置に居るのだけれど、ちゃんと聞こえちゃうのが雪ちゃんクオリティだ。文月の声はしなかったので普通に察していたのだろうと思われる。

「ちょえ、マジっすか長門さん、あれどーすんですか!?」

 慌てた様子でどんどん増えていく黒い黒い深海棲艦の群れを指差したのは深雪だ。隊列的には長門さんにかなり近く、通信機は使ってないけど普通に会話もできる程度。お前本来その位置なのにあんな端の方に居たのか……

 でもまあ、質問はもっともである。あれほっといたら北海道どころか本州も全滅ルートだもんね。見えるだけでもう一万……いや十万くらいは居そうだし。なので私は一つ咳払いし、自分の通信機をONにして、深雪に見えるよう軽く手を振った。

『第十艦隊、吹雪です。北海道上陸作戦終了後の、次の作戦の指揮官を拝命しました』

 はぁ? と深雪……だけじゃなくて複数人からそんな感じの声が聞こえた。いや、正直私もどうかと思うのだが、これマジで指令書にそう書かれてるんだよね。酷くない? ちなみに次の作戦名は特に決まっていない。次の作戦、って書いてあった。後で名付けると思われる。

 先ほどとは違う質のざわつきがする。小隊レベルならともかく、作戦全体の指揮官ともなると私がやるのは変だからね、仕方ないね。

『この作戦については、参加者や現場指揮、その他諸々全て、私に一任されています。これから参加者を発表致しますので、それ以外の艦娘は全員、一度鎮守府へ帰投、その後司令室の指示を仰ぐようにお願いします』

 しん、と今度は逆に静まり返った。深海棲艦の嗤い声が近づいてくるのが分かる。楽しそうだなあ、こっちはちょっと胃が痛いよ。気分だけだけど。

『今作戦の参加者は、宮里艦隊、駆逐艦吹雪――以上です』

 もう誰が指揮を執るか言った時点で大体みんな察してたっぽいけれど、次の作戦、参加者は私一人である。猫吊るしは乗せるけど、島風すら参加はしない。だってそれしかないもん、今の状況。

 長門さんからぎりりと何かが締まる音が聞こえた。心情的にまったく許せる話ではないだろうからなあ。それでいてこれが一番有効で、他の手段なんて存在しないって、一番よく分かっちゃうんだろうけど。お労しや長門上。

 

 艦娘は原則、一人での出撃は許されない。でも、これ実は、絶対ではない。

 というのもだ、最悪の……たとえば艦隊はほぼ壊滅、情報だけでも持ち帰らなければいけないような状況で、残ったのが二人だけ。そんな時、敵の航空機に追いすがられて撃ち落とすのも絶望的……ってなった場合、一緒に逃げて二人とも死んでちゃ仕方がないからである。本当に、どうしても、一人で行かなきゃいけない場合に限っては、単艦運用も許される場合があるのだ。

 そして今回のこれはそれに当たる。つまり、実態はアレだが、私の扱いは今回、撤退のための殿みたいなもんである。実態はアレだが。

 マジかよ……と深雪が愕然として呟いた。すまないマジなんだ。考えた事が無かった訳じゃなかったろうけど、本当にそんな状況になるとは思ってなかったろうね。ごめんねーと視線で伝えてみたら、意外とちゃんと伝わったらしく、目線を周囲へと彷徨わせ、そうして私の後ろにいた島風を見つけたようだった。

「いや、っていうか、島風は!? 吹雪一人で戦う訳じゃないよな……?」

 最後の方は少し尻すぼみになっていた。言いながら答えに気付いたのだろう。私より、別段普段通りな島風の顔を見ているのが印象的だった。

「深雪」

 島風は私の横を通り抜けながら、納得が行かなそうな深雪の傍へと、珍しくゆっくり滑って行った。

「吹雪は今まで、海だと一回も本気で戦ってないよ?」

 まぁ確かに、陸地の方が力いっぱいやってたのは否定できない。海の方が普通に武装使えたり障害物無かったりしたからなぁ。巨大鯨ぶっ潰した時は割と本気度高かったと思うけど、あれも足は地っていうか敵の艤装に着いてたし。

 深雪は次の言葉が継げなかった。納得してしまったのだ。私や長門さんを見て、今まで多少は深雪に残っていた気勢がしぼんで行く。

『てすてすー。聞こえる?』

 北上さまだよーと通信機越しに少し間延びした声が聞こえてきた。はいと返事をすれば、ぶっちゃけーさと困った様な言葉を向けてくる。

『あれ勝てんの?』

『勝てますよー』

 撤退作戦とかじゃないんだーと諦観の声がする。それは山雲のものだったが、北上さんも同感だったのかうわはーと笑い声の様なものを寄越してきた。実は殲滅作戦なんだよなぁ。

『ユッキー! 最後までとは言わないヨー! でも最初くらいは……』

『駄目だよ金剛さん』

 北上さんの次は金剛さんだ。焦れたような、我慢しきれなかったような声色。友人が一人で戦うと聞いて黙ってられる人じゃあないから仕方ないんだけど、今はちょっと困る。なので断ろうと口を開いたら、私が何か言う前に、初雪の声が割り込んだ。

『金剛さんの射程に敵艦が入る前に敵機の射程に私達が入っちゃう。対空に注力したところで数が多すぎる。一当てして逃げるのすら成功する公算が無い。低いじゃなくて、無い。駄目だよ』

 誰だお前。いや初雪なんだけど。声は思いっきり初雪なんだけど。え、お前戦場だとそういう感じなんだ? 割とシャキッとしてるっていうか、こう……マジで頼れる年上枠だったんだ? あれか、金剛さんの横についてブレーキ役とか参謀役とかしてた感じ? セット運用されてたのそういう理由か……

 ぬぐぐと金剛さんの方から変な声が漏れ聞こえる。言われなくても本当は分かっていたのだろうけど、それでも心配でたまらなかったのだろう。実際負ける要素無いんだけど、まともに一緒の作戦に参加してないから私の戦力わかんないよねそりゃ。

『しかし、あの数に一斉に撃たれたら逃げ場が無いように思うが……いや、アウトレンジで戦えばいいのか?』

 それだと弾薬が……と本気で疑問そうな質問をくれたのは宮里艦隊の那智さんである。私が勝てないと思っているのではなく、ただただ純粋に疑問のようだ。まあ弾薬足りるならそれでもいいんですよね。今回の場合、多過ぎて絶対足りないけど。

『私の場合、敵の弾を弾いて他の弾にぶつけてそれをさらに他の弾にぶつけられるので、それを繰り返せば抜ける穴くらいいくらでも作れますよ』

『全く意味の分からん事正気の声色で言うの止めてもらっていい?』

 関西弁のイントネーションでツッコミを入れてくれたのは龍驤さんだ。悪意のある調子ではないし、内容は信じた上で完全に意味不明だったので抑えきれなかったと思われる。

 んー。全体的には宮里艦隊のみんなと同期の駆逐艦のみんなは半信半疑くらいとはいえ私が戦える――勝ち切れるかは別――と思ってて、それ以外はかなり疑ってる感じかな。まあ、それも当然か。一緒に出撃してないもんね。具体的にどれくらい強いか、話に聞いただけじゃ実感できるはずもないか。

 みんな文月くらいちゃっちゃと意識を切り替えてさっさと帰ってくれた方が有難いんだけどなぁ。文月あいつ、同じ転生者でチートの事も知ってるもんだから私の実力を疑う余地も無く、年も下だから私に頼る事に恥を感じる必要すらないっていうある意味一番楽な立場なんだよね。おかげで今もがんばれと簡潔な、でも本当に心から全幅の信頼を置いていると分かり魂が奮い立ち気力も充足するような肉声を私と猫吊るしだけに聞こえるようにお届けしてくれている。がんばる。

 

『吹雪、はっきり言いなさい』

 命令に従い、皆帰投しなければならない。でも私一人を残してくのには後ろ髪を引かれまくる。だけど急がないと不味いので長門さんがもう一度号令を掛けようとしていたそんな折。まだ何か言おうとしていた人達に先んじて声を掛けてきたのは、すぐ傍にいた叢雲だった。普通に話せば聞こえる距離に居るくせに、わざわざ通信機を使って全員に聞こえるように話している。

『私達全員が納得できる理由。あるなら濁さずに言いなさい。私達が命令に従って動いてるのは、納得できるだけの説明があったからよ』

 前提として、召集された艦娘は兵隊ではない。強制はされてるが訓練はあんまりされてないので、命令だからやれ、は不満が溜まる一方になり良い事が何にもなかったりする。まあ宮里艦隊は割とそうでもないというか、上層部に対して――作戦内容に関してはだけだが――信用はあるようで、最低限で良かったりしたみたいだけども。

 ともかく、基本的に作戦の内容と意図は艦娘に共有されているのだ。私がそうであるように、他の皆も所属部隊以外が何をやっているかも大体把握しているし、疑問点を質問したりも許されていた。まあ当然、答えられない部分もある訳だけども。

 なので今回もその説明を行え、と叢雲は言ってる訳だ。私一人で戦わなきゃいけない、絶対的な理由の説明を。みんな分かってるだろうそれを、はっきりと。

 叢雲は感情を感じさせない表情をしているが、その表情は初めて見るのでむしろどう思ってるかは知れてしまう。

『ん。じゃあ遠慮なく』

 いや、正直遠慮したいんだけど。そうも言っていられない。敵は今、こちらに攻撃する姿勢を見せてないけれど、もっと近づいて来たら分かんないからね。そうなる前にさっさと撤退を始めてほしいのだ。深雪や金剛さん達以外にも納得行かなそうな声は複数聞こえていたし。極力分かり易く行こう。ちょっとだけ嘘も交えてね。

『私以外の全員、足手纏いなので退避してください。私の生存率が下がります。邪魔にならないところまで、大急ぎで』

 叢雲は了解、と軽い敬礼をして撤退を始めた。その後ろ姿からは、私に言わせた事への罪悪感のようなものが見える。私や深雪の事言う割に自分も雰囲気に出るじゃんアゼルバイジャン。ありがとう。こっちこそごめんね。

 

 長門さんが全員にもう一度号令を掛け、各々が帰り支度を始める。ろーちゃんが一人はだめですって言って寄って来たけど、ビスマルクさんに引き摺られて連れて行かれた。ビスマルクさんは武運をって言ってたけど、間違いなくキレてる。私じゃなくて上層部と深海棲艦に。楠木提督、今後の指揮大丈夫だろうか。

 金剛さんが騒がしく帰ったらtea partyしますヨー約束ですヨーと大声を出しながら私の背をぶっ叩いて行く。踏ん張らなかったら結構吹き飛ばされていたような気がする。力凄い事になってんなあの人。

 お茶会くらいはいくらでも付き合いますよーと大声で返したら、金剛さんは名残惜しそうに手を振って遠ざかっていく。それを見送っていたら、今度は霧島さんが私の背に気合を注入し始めた。避けるのも何なので素直に受け止めておく。良い音が鳴った。

 それで流れが出来てしまったのか、ノリの良い人たちが次々と私に向かって殺到してくる。足手纏いとか言わせた怒りと、私への気遣いと、一緒に戦えない悔しさと、ただの悪ノリが混ぜこぜになった一撃が、私の背中に叩き込まれて行く。

 そして分かったのだけれど、やっぱみんな心配はしてるけど、私が死ぬとは思ってないわこれ。駆逐艦以外の人達もみんな。イメージ戦略大成功してる気がする。単に敵の数が多すぎてどれくらいの戦力か実感がわかないってのもあるかもしれないけども、吹雪だし生き残れはするだろ……くらいの勢いな気がした。過剰に心配されるよりよほど良いけど、私そんな印象なんだ……今も増え続けてるあれらと戦って普通に帰って来れるって思われてるんだ……まぁ事実だからしょうがないけど。

 実はノリの良い側な宮里提督や加賀さんの一撃も貰い、初雪の弱すぎて当たったかどうかも微妙な一発も貰い、去っていく皆を私は見送った。文月も叩きながらのすれ違いざまにがんばれ♡がんばれ♡と心の益荒男が勇ましさを取り戻しそうな意味深な声でエールをくれた。残ったのは長門さんと、深雪と、あと島風だ。

「なあ吹雪……ぶっちゃけさ、勝率どれくらい?」

「え、100%だけど」

 即答したら、恐る恐る耳打ちして来た深雪は落ち込んだようなジェスチャーの大げさな反応を見せた。いやしょうがないじゃん。私とあいつら相性が良すぎるんだよ。他に隠し玉でもなきゃ勝ち確である。むしろ敵が私以外に行かないかの方が問題だ。まあ、おそらくそれも心配ないとは思うんだが。

 くそーと深雪が悔しさと情けなさを声にして、思いっきり口から吐き出した。まあチート転生者相手だからね、比べるだけ無意味なんだよ。その事を教えてないからアレだけど、純粋に魂を比べたらきっと深雪の方が価値が高いだろう……今更だけど、教官長以外も回収される人出そうなんだよなあ。ちょっと心配。

 深雪が私の背に回り、力いっぱい手の平を叩きつけた。次の一瞬、深雪の気配が変わり、その次の瞬間には元に戻った。おや、と思い前にも似たような物を見たなとその現象を思い出そうとしていたら、深雪が叫んだ。

「ちくしょう! 今かよ!」

 深雪は海面へと足を思い切り叩きつけた。分かり易く地団太踏んでる……でも思い出した。あれは確か九州でだ。長門さんが同じような事になっていたような覚えがある。

「改二の許可でも出た?」

「なんで分かったのさ!?」

 あ、やっぱそうか。たぶん深雪は何かの理由で条件を満たし、集合無意識の方へ呼ばれたんだろう。それで許可貰うだけ貰ってすぐ帰って来たのだ。どういう条件だったんだろ。気になるけどまあ……帰ってからでいいか。

「くそー、すっごい悔しいなこれ!」

 改二になった程度じゃ追いつけない差なのは分かってるだろうけど、それはそれとして。深雪は思いっきり自分の頭を掻き毟った。そのまま艤装で快活に滑り出すと、私の方をビシッと指差して叫んだ。

「吹雪! さっさと帰って来いよ! じゃなきゃ改装終わらせて、救援に来ちゃうからな!!」

 そう言って破れた服を取り繕いつつ、深雪は皆に追いつこうと速度を上げて行った。それを見て長門さんも退避に動き出す。

「吹雪、九州であれだけ言っておいて、結局お前に任せるのは汗顔の至りではあるが……」

「いえ、あの時とは違いますから、気になさらないでください。今回は私も艤装も、万全です」

 つーか、私が生身で出ようとしたアレとは違って状況的にも他にどうしようもないし。そもそもみんなの強さどうこう以前に連戦で弾薬とか燃料とかが何もかも足りてないですからね。戦うための物資自体が無い訳だから、長門さんに非を認めるのは難しいと思う。つーか、今回は逆だ。私じゃなくてみんなの方が戦えない状態に近い。

「正直、お前が戦う事であれらがどれほど足を止めるか、私には分からない。ただ、もしかすると……」

「ああ、あれは吹雪狙いだ。まず間違いない。あいつ等が押し寄せてくる理由、他に無いからな」

 今まで沈黙を保っていた猫吊るしが声を上げ、長門さんはやはり、と呟いた。あ、やっぱりそうなんだ。良かった、前線で大暴れする雪ちゃんを無視して本土を攻撃する深海棲艦は居なかったんだ。

 

 

 

 さてこれは今回の作戦の話ではなく、楠木提督が艦娘部隊の設立、もしくはそれ以前から推し進めていた計画が、何をどうするための物だったのかという話だ。

 目的は単純だよね。深海棲艦の殲滅。勿論戦争を起こさないとかできる限り死傷者を減らすとか、そういうのはたくさんあるけれど、最大の目的を挙げろと言われたらこれになるはずだ。

 ただこれ、今日初めて知った敵の規模を見る限り、容易な事ではない。ちょっと数が多すぎるのもそうなんだけど、おそらく、普通にやってると一度には出現してすらくれないと思われるのだ。

 何しろあいつらの目的は人類を苦しめ続ける事。あんな数で攻め入ったら一月もあれば日本程度は更地になる訳で、軍団規模が目的と合ってないどころの騒ぎじゃあない。無駄無駄の無駄で深海棲艦にとってはまるで損にしかならないのである。

 だからまず、どうにかしてあの大軍団を引っ張り出す作業が必要になった訳だ。そして、そのために活用されたのが、はい。ご存知『なんか』『つよい』私、伊吹 雪ちゃんなのでした。

 駆逐艦吹雪として大暴れする私を仕留めるため、深海棲艦に一大決戦を決断させる。それが転生者の皆が進めて来た計画だった。と思われる。

 そりゃあ私の事、敵に知られてる訳だよね。普通に考えたら情報秘匿した方が奇襲気味に使えるだろうに、隠す気0で遠慮なく使い倒してたのはそういう理由もあった訳だ。むしろ脅威として敵の認識上に君臨させるためだったから強敵に遠慮なく全力投球しておっきな花火撃ち上げまくってたんだろうね。

 間違いなく小鬼達が私のヤバさ敵中で喧伝してたんだろうなあ。先にぶっ潰さないと日本が解放されちゃうぞ、でもアイツぶっ殺せば民衆はもっと絶望してくれるぜ!! みたいな感じで。

 燦然と輝く最強の糞ユニットとして短期的には普通の絶大な成果を、長期的には頭がおかしくなって深海棲艦が死ぬ脅威の存在になる事を、私は期待されていた訳だ。他の転生者が外国で活動し私と猫吊るしがハブられてた理由も、おそらくは楠木提督の個人的な理由ではなく、これが根本的な原因じゃないだろうか。微妙なとこだけど。

 私は、おそらく個人で希望の象徴にならなければならなかったのだ。ヴィランがオールマイトを狙うように、深海棲艦が私を狙ってくるように。

 そうして作り出されたのが今の状況で、だから、私と猫吊るしには予想が付いた。いま日本に攻めてきた、総数が良く分からない空も海も埋め尽くしている黒い津波は、宮里艦隊の吹雪を殺すためだけにここまでやって来てくれたのだと。

 長門さんが看破した敵の作戦には続きがある。連合第一艦隊を壊滅させた後、それを成し遂げた部隊を私が殲滅した、さらに後。戦いを終え、一息吐いた私を、今視えている大部隊で袋叩きにするつもりだったのだ。つまり、今回の敵の作戦は全て、私を確実に釣り出すためだけに展開されたものと推測される。

 ま、実際に釣り出されたのはあいつらの方なんですけどねー。やーいまんまとひっかかってやんのーばーかばーか。

 楠木提督の謀は、要約すると私を目立たせて危機感煽って大量出兵させて一度で全部ぶっ斃すってそれだけなのだけれど、それがどれだけ厳しい条件で成立した物なのか、私には想像しかできない。だって本来あれだけの数が居るなら、私なんて無視で構わない。私の居ない所を攻め続けるだけでどうにでもなるからね、対策なんて必要無いんだ。必死に駆けずり回ってる私をせせら笑ってやれてむしろ気持ちいいんじゃないだろうか。

 なのに奴らはやって来た。それは、私が日本中で英雄視される、艦娘の中でもひときわ輝く一等星となったからだろう。まあ、こう、好奇の目の比重が大きい気もするが、それは置いておいて。

 メディア露出させられて、動画もいっぱい録られたのはまさにこのため。私の羞恥を煽るあれは、無駄どころか人類を護るために本当に、マジでなんの嘘偽りも無く、絶対に必要な事だったという訳である。キレそう。

 でもそのおかげで、奴等は私以外を狙わない。いや攻撃したら撃ち返すだろうけど、逃げる人たちを追うような真似はしないだろうと断言できるし、ちょっと混みすぎてて私と会えないからって上陸を始めたりもしないだろうと考えられる。待たせ過ぎなければ、きっと。

 理性が無いらしいあいつらがどこまで作戦に忠実かはよく分かんないんだけど、まあ猫吊るしが大丈夫だって言ってるから大丈夫だろう。っていうか駄目なら別の作戦にするだろうし、楠木提督達がその辺は調整済みだろたぶん。だから私のやる事は戦う事。そして、押し寄せる深海棲艦を一体も残さず平らげる事だ。

 深海棲艦はもう、人類が数を保つ限り永遠に涌き出してくる。これは猫吊るしが言っていた事で、間違いは無いと思われる。でもあの時同時に、現在の数を減らす事は可能だとも言っていた。

 だから今日が分水嶺。ここで私と、海外のどこかでもう一つの作戦を繰り広げている転生者達が、現れた深海棲艦を滅ぼし尽くせれば、おそらく残りは何とかしてしまえる。涌き速度と退治速度の釣り合いもどうにか取れる。きっとそういう計算なんだろう。

 二か所に分けたのは取り逃す数を減らすためかな。私は状況との相性が良すぎて確勝だけど、範囲攻撃は不得意だから、きっと全ては任せきれないんだろう。私に戦闘力に比例した広範囲必殺技とか搭載できれば良かったんだけどね。

 同じく外国の人達だけで何とかするのもきっと難しかったんだと思われる。私のチート能力さんの性質がこの件に向いてるだけで、似たような能力の人は居なかったんじゃないかな。さらにその性質故に共闘も意味が薄いから、私は一人で戦う事になった訳だ。

 んー、私が戦うのって全体の何割くらいなんだろう。変な能力持ってるのが居なければたぶん十割でも勝てるけど、倒し切れるかって言われたら難しいからなあ。一割未満でも不思議じゃないし、九割以上も無くはない。逃げに出られたら同じ事だから、無双しても相手が逃げないギリギリの数になってると思うけど……うーん分からん。

 まあ、どうだったとしてもやる事は変わんないんだけどね。私のやれる事なんて、最初っから何一つ変わっていないのだ。

 戦って、勝つ。それだけ。得意分野だ。任せてくれたまえ。

 

 

 

 確認を終え、長門さんが去って行く。一応部隊内での殿も務めている事になるのだろうか。追ってく敵は見当たらないけど、必要な事ではあるだろう。旗艦がやる事なのかは微妙だけど。

 さて、最後に残ったのは島風である。眠たげな瞳を普段よりほんの少しだけ細めて私とその後ろの光景を眺めている。表情がほぼいつも通りなのもあって呑気そうにも見えるけれど、別にそういう訳でもない。むしろ普段より緊張していると言っていい。まあそりゃそうだ。言わなくても自分で理解したっぽいけれど、島風は傷ついた連合艦隊の護衛になるんだから。

 別に島風、私の事心配で最後まで残ってたとかじゃないんだよね。部隊としての殿は長門さんだけど、その長門さんを航空戦力から守んなきゃいけないから出発を待ってただけなんすよこの子。まあ追ってかないとは思うけど確実じゃないし、そりゃあの量見たら基本マイペースな島風でも多少の緊張感くらいは出て来ようってもんである。

 私の心配? する訳ない。私の力を一番知ってるのはたぶん楠木提督で、二番目が猫吊るしだけど、三番目はきっと風香なのだから。まあ、だからこそ急に私が大爆発に巻き込まれたりすると動揺したりはするみたいだけども、そこは友人だからね、仕方ないね。逆も然りだろうし。

 それはともかく。島風は艤装と合体させていた連装砲ちゃん達をパージして一人と三体になると、あとでねーと手を振って長門さん達を追いかけて行った。連装砲ちゃん達もミューキューキャーと鳴いてこっちにおててふりふりしてくれた。かわいい。

「お前らほんとこういう時なんも無いよな。こう……もうちょっとなんか有りそうなもんだが」

「絶対勝てるのに何やっても感動的にとかなんないでしょ」

 そういう問題? って猫吊るしは仰るけれども、万に一つどころか無量大数に一つも負けが見えない状態でなにをせーと言うのか。

「猫吊るし居るから一人でもないしね」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないの」

 さっきから猫吊るしは何故かガイナ立ちみたいなポーズを決めている。それだと私巨大ロボか何かなんですがそれは。いやサイズ感的には間違ってないんだけど。

「それじゃあとことんよろこばせてやるからな」

「誰を?」

「視聴者」

 それはあれか、例の魔法使いの子が配信してるっぽいのを見てるっぽい連中の事か。って思ったけど、違った。上を視たら偵察機が飛んでいやがったのである。味方の。

「あー、もしかしてあれ撮ってる?」

「撮ってる。青葉のだな」

 そっか、青葉さん重巡だもんな。水上機くらい使えるか。まあ、別に見られてどうなるもんじゃないし、いいんだけどさ。

「あれって撃ち落とされない?」

「されるんじゃねーかな……一応もうちょっと離れとけって伝えとくけど。あ、なんなら帰るよう言っとくか?」

「いや今更戦闘力バレてもどうって事ないし、どうせ証拠映像は要るでしょ。いろんな場面で」

 私が全部叩き潰しましたって口で言うだけなのと戦ってる映像が少しでも残ってるのでは説得力が違うだろう。全部収めるのは難しいだろうからいい所で帰らせないとだけど、その辺りの引き際は青葉さんだって弁えている筈だ。足を引っ張りたいわけじゃないだろうしね。

 敵はどんどん前進して、見える数を増して行っている。既にその数は百万を超えてるような気がするが、数えるの面倒になったから千以上を数えてないので分からない。猫吊るしなら分かるかと思ったけれど、数えてないとのお返事だった。気が合うね!

 動きとしては私を囲むように展開してるのかな。やっぱり陸地には向かっていないように見え、一人残った私を嗤う金属音が微かに世界を揺らしていた。艦これ準拠だからか割と可愛らしい感じの声も混ざってるんだが、まあだいぶホラーチックな音響効果である。これで私にとって脅威なら多少怖がってやってもいいのだけれど。

「あ、そうだ猫吊るし、一応確認しとくんだけど」

 ん? と猫吊るしが腕組みを解いて私の方を見下ろした。まあ、正直必要無いとは思うんだけど、念のためにね。

「応急修理女神は使うなよ」

「了解! トランザム!」

 妖精さんは存在が実体と非実体の中間なので似たような事ができそうな気もするが、猫吊るしのそれは流石に台詞だけだった。ちなみに私もできない。できたら別の能力である。

「っつーか、気付いてたんだな」

「そりゃねえ」

 応急修理女神、それは艦娘が轟沈する際に消費する事で装甲どころか燃料や弾薬まで完全回復する事ができるちょっとどころでなく原理が不明な、まさしく神の装備である。

 ただし当然そんな強力なものが使い放題なはずもない。それは効果を発動した場合、消えて無くなってしまう。使いきりの消費アイテムみたいな扱いの装備品だったのである。下位互換に傷だけを治す応急修理要員というのも存在しているが、そっちは耐久力の回復のみで弾薬とかは回復しない。

 この世界には応急修理要員みたいな妖精さんはいる。いるが、その子たちはゲームと違って緊急蘇生アイテムみたいな扱いではなく、乗組員の一人として勤務する、普通の妖精さんの一種である。当然、轟沈の肩代わりとかはできなくて、代わりに普段から開いた穴を塞いだりしてくれてたんだよね。

 だから私は当初、応急修理女神は存在しないか、アイテムではなく本物の神様的な何かだろうと思っていた。初春みたいな霊能力者がなんやかんやしたらご降臨されたりしないかなとかちょっと思ってた。

 でも、この世界はどうやらゲームの仕様を元にした現実世界っていうすっごい困った場所だった。それを知って、私は考えを改めたのだ。応急修理女神、手に入ってないだけで仕様としては実在するんじゃね? って。

 そして猫吊るしは妖精さんにできる事は全部できるチート妖精さんである。だったらもしかして、応急修理女神の仕事だって、やれない事はないんじゃないかと。そう思い付いてしまったのだ。

「ちなみに消費型?」

「そうだよ」

「絶対使うなよ」

 振りじゃないぞ! 絶対だぞ! って言ったら猫吊るしは笑い出した。

「お前が死にそうなら使う。そうじゃないなら使わないよ」

「そっか」

 滅多な事では使わない、と猫吊るしは確約した。どう消費するのかまで聞いてないけど、リスクは少ない方が良い。っていうか。

「なら使う機会は無いな」

 あー良かったと胸をなでおろす私。敵はどんどん溢れ出し、そろそろ見える範囲に海の方が少なくなってきた。とっくに砲撃とか届くと思うけど撃って来ないのはなんだろう。演出? 凝ってるなキミら。

「んー。まあ、勝てるよなあ。これ、普通に。さっきから吹雪の体凄いし」

「あ、分かる?」

 猫吊るしは私の体も『つかえる』。故に触れてる今なら分かるのだろう。私の身に何が起こっているのかが。

 

 ――テンション上がってきたぜーーーーーッ!!!

 

 さっきからチート能力さんがすっごい滅茶苦茶張り切って仕事してるのが。

 

「そういや猫吊るし、私のチート能力の事どれくらい分かった?」

「理解しない方がいい事は分かってるぞ」

「じゃあ説明も要らない?」

「したら弱くなる、だろ? 要らんわ」

「正解」

 まあ、そこを正解できる時点で手遅れだと思うけどね。だいたい分かっちゃってるって事だし。詳細が分からなければいいのかなぁ、『なんか』って。

 

 

 

 

 

 私の能力の話をするとしよう。

 私のチート能力、『なんか』『つよい』は単純な身体及び感覚強化能力ではない。

 いや、それも行っているし、出てる結果としてはほぼほぼそれが全部なのでその認識で全く問題ないのだけれど、詳細を語るとかなり違う。

 これは全部おそらくの話、つまり予想でしかないのだけれど……実は私の能力は、沖縄に居る吹雪さんの、「条件を達成する事でよりよい報酬を得る事のできる能力」と同じで、縛りを設ける代わりに通常よりも強い出力を実現するタイプの能力だ。

 私がこれに気付いたのは六日前、島風と本気の勝負をして、敗北したその時だった。あの時、私の身体能力は、競走中にその能力を上げた島風に追いつくように、終了したその後で足の力が強くなっている。それ以外にも思い返せば、九曽神艦隊で結界に行く手を阻まれた時もなんでか途中から侵入が可能になっていた。

 そして今。私の体は現在進行形でその能力を急激に上昇させている。そう、それは目の前に広がる深海棲艦の大海原の面積が広がるに従って、それと比例するように。

 これの意味する所は一つ。

 私は強大な障害と相対するとそれに合わせる形で出力や付加能力を追加する事ができる。

 って事である。

 つまるところ――私の『なんか』『つよい』能力とは、

 

 その場の誰から見ても『なんか』よくわかんないけど阿呆みたいにその状況に対して『つよい』存在になる能力

 

 ではなかろうかと。私は理解している。

 これたぶん、魔法使いを自称するあの子がしてくれた約束を忠実に守った結果だと思うんだけどね。頑張ればどんな戦況でもひっくり返せるくらいにはしておく。あの子は確かにそう言っていた。私はそれをはっきりと覚えている。

 そしてそれを叶えたのがこの能力だ。状況に対して互角以上に『つよい』奴だったら、そりゃあ頑張ればなんとかできるだろうよ。

 逆に言えば、頑張らないとひっくり返せないんだと思うんだよ、本来。そこまでつよくなれる代わりにそれ以上強くなれない、それが縛りなの。だから実は、私は戦闘向け転生者と最初に出会ってたらとりあえずはそいつと互角くらいの強さだったと思われるんだ。たぶんだけど、リベッチオと会った時、もし戦ってたら勝ててもギリギリだったんじゃないかな。頑張っても。

 でも私って、深海棲艦相手だと今まで余裕で勝ってたじゃん? それに子供の頃から隠さないといけないくらいには身体能力も高かった。状況に合わせる能力だったらどの戦いでもギリギリでないとおかしいし、周りに脅威が無い状態では弱くなってないとおかしいだろう。でも実際にはそうはなっていないし、私はずっと強いままになっている。

 その理由は大きく分けて二つ。一つは、「その場の誰から見ても」の誰かに私自身も含まれるから。

 戦いを始める前の私の身体能力は、私自身がこれくらいあったら『なんか』『つよい』だろうって認識してる強さそのままだったように思う。百メートル走れば余裕で十秒切れて、校舎から落下する先輩無傷で受け止められて、複数の銃弾を避けて相手を無力化できる、その程度の強さが。

 そもそも私、生まれたばっかりの頃ってこの世界が能力バトル物の世界とかなんじゃないかって思いっきり警戒してたんだよね。だから、もしそうであったとしてもちゃんと対処できるラインが私にとっての『なんか』『つよい』の最低条件だったんだよ。ここがヒロアカ世界だったとしても並のヴィランなら倒せる。ちっちゃな雪ちゃんは二本足で歩けるようになる前からそういう存在だったのだ。

 私が自分のチート能力を制御も観測もできないのはそういう理由。私自身から見ても、私は「『なんか』よくわかんないけど阿呆みたいにその状況に対して『つよい』存在」なのだ。「よくわかんない」ようになるのまで能力に含まれてるから私は自分の魔力関連に関しちゃよくわかんないのである。だから能力頼り以外で能力を貫通して魔力の事理解しなきゃいけないんだけど……まあそれは置いておいて。

 チート能力さんが自我を持っているのもこの能力の「私自身も判断基準にされる」って性質のせいだと思われる。能力として成立させるために判定用の回路が必要で、本来はどれくらいだったら『なんか』『つよい』か裁定して強化の量と方法を司る。それだけの存在だったのだろうけど……ここで私の認識が悪さをした。

 私はチート能力を自分の物だとは思えず、自称魔法使いから与えられた何かが体の中にある状態、と割と最近まで思っていた。そのせいでちゃんと受け取れてないわ繋がったまんまだったわでチート能力さんは大混乱。そこへ私が話し掛けちゃったりもしたもんだからさあ大変。チート能力さんは一つの自我としてほぼほぼ成立しちゃいましたとさ。

 いやあ、あくまで私自身であるって思い込もうとはしてみてたんだけど、無理だったよね。いや全然無理だよそんなもん。だってもう、もう一人のボクくらいの勢いだもん。立ち位置的には王様よりダマムーとかのが近いかもしれないけど。

 閑話休題。二つ目の理由。二つ目の理由は、私の身体強化能力は、一時的な身体強化だけではなく、永続的な身体強化も含まれるからである。

 というよりも、認識が逆だったんだよね。猫吊るしが私は魔力を消費し続けてるって言ってた事から分かるように、私は魔力で身体能力を一時強化できるし、続けてるけど……別に一時強化できる能力を例のあの子から授かった訳じゃない。私が貰ったのは、あくまでつよくなれる能力だ。

 この辺りだいぶ分かり辛いんだが、私が魔力を消費し続けているのは、『魔力を消費して一時的に身体能力を強化する技術』を、チート能力によって感覚的に身に付けて、それをチート能力側が使い続けているから。というのがおそらく事の真相である。

 言っちゃえば、私の力の強さって半分くらい川内さんに教えてもらったカラテと一緒なんだよ。後から覚えた物なの。感覚的にやれるタイプの技だったからチート能力さんが自動習得してくれたんだと思うけどね。そして、だからこそ、別に脅威が去っても忘れたりしない。わたしはずぅっと、強いまんまなのだ。

 そしてつよくなる方法は一つではない。チート能力さんはむしろ勤勉で、職務には忠実な方だと私は感じている。そんな子が、身体能力の一時的な上昇だけで満足するだろうか? いやしない。っていうか、しなかった。これも島風との対戦後に実感した事だけどね。チート能力さん、私の体、魔力使ってない素の状態も強くしてるっぽいんだよなぁ……

 私の足は島風とやったレースのビフォーアフターで、その強さが変わっている。単純に筋力が上がっていたのだ。そして、今日、たくさんすぎる深海棲艦を目の前に、その変化の感覚は加速度を上げ、私の全身で喜びの声を叫んでいる。

 これに関しては勘違いの可能性もあったんだけどね。単に消費できる魔力量増えただけじゃね? って。でもそれを否定してくれやがったのが、やっぱり自称魔法使いな創造主ちゃんなのだった。

 あの子は言った。ただ能力だけ封じても無意味と。あそこは夢の中だったけど、身体能力とかはなんでか現実準拠なところがあったから、それで私は泳ぐ事ができたのだろう。チート能力を封じられた状態、即ち魔力は一切使えない状態で、普段と大差のない力技を行使しながら。

 これを加味して考えるに、私の体はおそらく――――既にまともな人間のそれではない。筋肉の構造、内臓の耐久力や処理能力、皮膚の強靭さから感覚器官の鋭さまで、全てが『なんか』『つよい』ように弄られていると思われる。

 皐月さんが引くわけだよね。たぶん、ちょっと診察するだけでもおかしい部分が幾つもあったんじゃないだろうか。逆に言えば封印能力持ったチート転生者と敵対しても私は普段と何ら変わらずにその人を殴殺できるって事なのでデメリットばっかでもないしむしろちょっと変な構造になってるだけで別にデメリットとか無いんだけど……うん。まあ、あれだよね。

 そりゃ楠木提督苦悩するよね。私にさらに人間辞めさせるか死人増やすかの二択だよ? あの子本当に馬鹿なんじゃないのかなぁ? 今更だけど。今更だけど。

 あと両親にもかなり申し訳ない。遺伝子とかまで弄ってるか分かんないけど、倫理的にだいぶ問題のある事が私の体で行われていると思われるのでこれに関しては本当に謝るしかない。元々孫を見せられる生き方をしようとは思ってなかったけれどもさ……

 

 纏めると、私のチート能力、『なんか』『つよい』は強化能力ではない。

 それを漢字で表すなら、進化能力とした方がおそらく適当だと考えられる。

 そうつまり、私はフリーザ様でもオールマイトでもない。どっちかっていうと、デジモンかポケモンか何かである。増殖はしないからデビルガンダムではない。再生は分からん、まともに傷ついた事ないし。

 私、たぶんだけどドラゴンボールの世界にぶち込まれても普通に善戦できるんだよなぁ。たぶん相手の持ってる常識に合わせて強くなっちゃうから、超のインフレ天使とかにもおそらく対応できる。全王様みたいに問答無用で消されちゃうようなのはどうしようもないかもしれないけれども。

 魔力消費でプラスできる筋力って魔力の量が限界じゃないの? って疑問もあるかもしれないけれど、それに関してはかなり単純な答えが推測できる。私の身体強化魔法、たぶん加算じゃなくて乗算なんだよって、ひっどい答えが。つまりは、方向性が界王拳やバイキルトと一緒。ステータスが上がると上昇量も上がるタイプの強化魔法っぽいのだ。

 なので今、私の体は頭の悪い速度でその基礎能力を上昇させている。そりゃそうだ、魔力の消費量を上げちゃったら継戦能力が犠牲になる。そしてこの状況で継戦能力がないのは『なんか』『つよい』か? って言われりゃ答えは明白なんだから。チート能力さんとしては素の身体能力を上げざるをえないのである。

 

 あとこの能力、敵の強さそのものじゃなくて状況を見てる……ってのは結界貫通できたのから推測できるんだけど、汎用性の高いその「状況を見てる」って部分には問題点も存在する。それは、私は味方が居るとその能力分だけ強化上限が下がるって事だ。

 たとえばだけど、敵の戦闘力が10000だったとしよう。その場合、私は一人だと10000まで戦闘力が上がる。だから頑張れば状況をひっくり返せる訳だ。

 でもこれが、戦闘力5000の人と組んで10000と戦う場合だと、私の戦闘力は5000までしか上がらないと思われるのだ。そりゃそうだよね、ここで10000まで上がっちゃったら状況的には10000+5000vs10000になっちゃって状況的には頑張らなくても勝てそうだもん。

 だから今回、私は1ユニットで戦わされる。能力を知ってれば当然の判断だろう、味方の数に関わらず合計値同じになる能力なんて持ってるなら、そいつ以外は他所に回した方が効率良いんだから。

 連合第一艦隊と島風に帰ってもらったのも概ねそれが理由だ。本人が攻撃力を持たない猫吊るしすら影響ありそうなのに、精鋭の皆が居たら頼もしすぎるもん。私の能力上がり切らなくなっちゃうよ。

 猫吊るしに関しては艤装使えるかどうかのトレードオフになっちゃうので居てくれた方が効率がいい……といいなと思ったので乗せっぱなしだ。流石に走って浮き続けながらこの数相手にするのはちょっとねえ。できない事もないだろうけどさ。

 艤装に関しても無い方が私自身は強くなる可能性があるんだけれど、これに関しては外す訳にはいかない。私はこれが無いと艦娘じゃないし、また長門さんに怒られちゃう。あと吹雪さんにも怒られちゃう。合計値は変わらないはずだし、有難く武装を使わせていただこう。弾薬もいっぱい持ってるしね、足りるかは知らんけど。

 

 ちなみにこんな私だけれど、明確に弱点が存在する。

 弱点というか、私が負け得る相手の話なんだけどね。これは一回負けてるから簡単な話で、風香みたいな、最後まで諦める事なく戦いの中で進化していく奴が私の苦手とする相手である。

 そう、『なんか』『つよい』は状況や私の頭の中を参照してそれに対応して進化するという性質上、戦闘中に相手の側に進化されると咄嗟にそれに対応できないのである。

 だから、まだだって言いつつ強くなって立ち上がってくる連中だとか俺達は一分前の俺達より進化するとか言ってくる連中だとかに、おそらく私は普通に負ける。つまるところ……私は主人公属性に弱いのである。

 うん。こう、ね。色々理不尽な仕様とか合わせてなんだけどさぁ。これ最終的にちゃんと倒されるタイプのラスボスかなんかが持つべき能力じゃねーかなあ。一応は主人公ボディ使ってる奴に持たせる能力かなぁ。いや全部推測だから間違ってるかもしれないんだけども。

 

 まあそんな訳なので、現在の状況、勝率は100%なのだ。

 この他者を苦しめる為だけに涌き出て来た人類の不快な部分だけを煮詰めた連中に、風香みたいに諦める事なく己の心を燃やし続け培ってきた力を十全以上に引き出すような真似が、できるはずがないのだから。

 

 

 

 

 

「ねえ猫吊るし」

「ん? どうした? トイレか?」

 どっからその発想出てきたし。いやまあ、それも関係ないとは言わないけどさ。

「これ倒しきるのにどれくらいかかると思う?」

「んー……んんー…………わかんにゃい」

 そもそもの話なんだが、物量作戦って私と完璧に相性が悪い。私は状況で強さが変わるが、相手が弱くなったからって私は別に弱くはならない。そのため、簡単に数が減るくせに最初の脅威度だけは高くなるというのが対雪ちゃんには最悪手である。

 最悪手なんだが。

「流石にちょっと多くないっすかね……?」

「それな」

 私は本当に、絶対、こいつらに負ける事は無い。これは間違いない話である。

 でもそれはそれとして、まともな範囲攻撃を使えない私は、当然ながら倒すのに相応の時間が掛かるのである。

「見える範囲でたぶん数百……数千万? 居そうな気がするんだけど気のせいかな?」 

「海の果てまで続いてるし億行くんじゃね? 頭おかしいだろあの創造主。どの口で滅ばないと思ったとか言ったんだよ」

 一日は86400秒、一秒に百匹倒したとしても8640000匹。まあそのペースで行けると仮定して、まず間違いなく十日は掛かる。つーかもっと居そうだから二十日? 三十日? 数によってはもっとだろう。その間こいつらちゃんと私だけ狙うのかなぁ。つーか色々困るんだけど……とりあえずさ。

「輸送艦で良かったわ、下手したら戦闘じゃなくて栄養失調で死ぬとこだった」

「まあそこも含めての物量作戦なんだろうなぁ……たぶん」

 普通はこんなのと戦い続けてたら被弾しなくても疲労しまくって衰弱死である。そういう意味じゃ文字通り死ぬほど有効な手段ではあるんだな。まともな奴相手なら。

 まあそれでも私だったら何とかなる。なってしまう。なってしまうんだけど、うんそっかぁ。そうだよね。言われて気付いたわ。すっごい大問題に。

「これ尊厳は垂れ流すしかない?」

「まあ…………あ、おむつみたいなの、必要なら作れるが……?」

 わあ有難い。ばーかばーか。使いたくねーんだわ。っつーかさ、撮られてんだわ今。ほんとふざけんなよ深海棲艦。TS転生者のお恥ずかしいシーンとかどこに需要あんだよ。普通にありそうだわ。今美少女だったわ私。糞が。

「よし決めた」

「ん、どうする? 使うか?」

「使いません。どっちもやだから、第三の選択肢で行こう」

 もうこれ以外手段がない。一応、前科が無い訳じゃないからまったく不可能って話でもない。状況に対する進化、この場なら、望めなくも無いはずだ。

 下地はある。昨日色々やったから、きっと不可能じゃないはずだ。そう思わないとやってられない。むしろそうであってくれ。

 最早ただの願望であるが、成就すればこれ以上の事は無い。だから頼む。チート能力さん。しっかり協力しろくださいお願いします。

 これから、私は、自身の尊厳がこの身から失われてしまう前に。死ぬ気で。

 範囲攻撃の開発と習得を実行する……!!

 

 

 




何日も戦ってたらみんな戻って来て支援砲撃始めちゃいそうだしね。


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真・艦これ無双

 撃って来ないんだけどなんでじゃろ。などと思いつつ相手の展開を待つ。

 こっちが先制攻撃しないのはチート能力さんのお仕事で能力を最大にしてもらうためなんだけど……あっちが撃って来ない理由はよく分からん。なし崩し的に始めたくないのか、勝利を確信して遊んでるのか、それとも別の理由か。思い当たる節がないでもないが、それだってすぐやらない理由が分からない。

 ウフフアハハと金属が軋むような濁りが混じっていなければ美しいとすら思える笑い声とともに連中は私を囲まんと展開を続けている。脅威があればホラーなんだけど無いからただの音質悪いゲームボイスみたいになっちゃってるのが悲しい所だ。

 敵はあまりにも混雑しすぎてて避けようがなくお互いに体をぶつけ合いながら、それでも私の視界いっぱいにどんどんどんどん増えていく。なんかたまにじゃまーとかしずむーとか聞こえてくるんだけど君等大丈夫? いや本当に沈む奴は居ないだろうけれども。

 海上がそんな調子なので、空の方なんてそりゃあ惨憺たる有様だ。数千数万の編隊が層になって飛んでるもんだからもう青空すら見えないし、当然太陽光も遮られてる。完全に届かなくなっている訳ではないが、青いはずの海も夜のように黒っぽく見え、気温も何となく下がったように感じられた。

 そんな状態なんだけど、視界は普通に確保できてるんだよね。というのも上から横から大量のライトで私の事を照らしてくれているからだ。これはまあ当然の話で、深海棲艦達は夜目が利かないからそうしなきゃ私の位置が分かり辛いのである。ちなみに私は光が無くても分かるので狙って墜とせば有利かもしれない。

 青葉さんの偵察機はここに至っても撃たれてはいない。それどころかむしろ基準にされてしまっているようで、敵機の大群の底をおっかなびっくり旋回している。たぶんだけど、あれは映像を保存するだけじゃなくて送信もしていて、それを奴等も理解しているのだろう。私が無惨に沈むところを見せつけてあげようという粋な計らいという訳だ。

 そうすれば最早人類にはこの状況はどうしようもないものだとはっきりと理解して、日本中が絶望してくれるかもしれないからね。一機残しとくだけでいいならそりゃあやるわ。だれだってそーする。私でもそーする。

 これ、可哀想なの青葉さんだよなぁ。間違いなく今世界で一番大きな絶望感を味わってるだろう。私から見ても百八十度の水平線まで敵でいっぱいなんだけど、上からの視点でもきっとそう見えているのだろうからね。物量だけで勝敗が決するレベルの相手だったって転生者以外で最初に実感しちゃった青葉さんはSANチェックです。

 なので、私がこれらをぶっ飛ばすのを見て貰ってちゃんと正気度を回復してもらう事にしよう。え? 余計削られるだけ? ですよねー。

 

 やがて私の後ろにも深海棲艦が敷き詰められ、百メートルくらいぽっかりと穴をあけて、真っ黒な包囲網は完成した。いやぱっと見た感じ「だけ」は完成してるって言う方が正しいか。まだまだ水平線の向こうからいっぱい来てるせいで押し合いへし合い隊列ぐちゃぐちゃになってるんだよね。君ら自分らで空遮って暗くしちゃったせいで色々歯止め利かなくなってるだろ、お互いの位置よく分かんなくなってるだろ。

 後ろ側の層は前に比べるとかなり薄く、私を逃がさないためだけに展開されたのが分かる。まあ踏んで超えてけちゃうんだけどね。ただその場合、そのまま陸地になだれ込まれると思うので絶対取れない選択肢ではある。っていうか絶対同士討ちすると思うんだけどいいんだろうか。いや私倒せればいいのか、どうせ人類が減れば最大出現数減るらしいし、許容範囲の被害って想定なんだろう。

 ともかく深海棲艦側の布陣は終わり、それに伴いだんだんと体の変質が緩やかになって来るのが感じられる。どうやらそろそろ強化ちゃんはおしまいらしい。まだまだ奥には居るっぽいけれど、一度に登場しないんじゃ数には入れられないのだろう。ジャンプして視界広げたら増えるかな? と思いながらなんの気なしにソナーで海中の数を見てみたらほんの少し強化量が増えたがまあ誤差だろう。

 実はちょっと異形化しないか心配だったんだが、どうやらそれはないっぽい。見た目そのまんまの方が意味不明だからだろうけど……あ、でもそうだ、リーチ伸びるし折角だからちょっと身長伸ばさない? 駄目? そっかー。

 まあそんな冗談はさておいて、実は私はさっきから、範囲攻撃覚えようぜとチート能力さんに具申してみていたりする。時間が掛かり過ぎるのはどう考えても良くないし、なんか青葉さんの偵察機を積極的に墜としはしなさそうだから私の尊厳の問題にも係わって来るからね。だがしかし、チート能力さんの返答はこうである。

 

 ――立ち合いは強く当たってあとは流れでお願いします。

 

 覚える気あるのか無いのか全く分からないんだよなぁ……翻訳能力、マジで欲しいわ。連装砲ちゃんとかとも話せるらしいし。

 しかし強く当たれというのならそれはまあ構わんよ。どこに当たるかは私が選ぶが、どの道弱い立ち上がりをする意味とか無いのだし。とはいえ、この状態だとまずは敵の攻撃をいなさないとだろうけどね。

 

「なあ吹雪、強化終わったみたいだから言うんだけどさ」

 強化も限界っぽいし、向こうが動かないならこっちから行こうかと考え出した頃、私と一緒になって群れを睨んでいた猫吊るしが、私の頭をぺしぺし叩きながら言い出した。うん、と返せば警戒は解かないように気を付けたまま、猫吊るしは至った考えを口に出した。

「あいつらさ……あんま弾持ってないんじゃないか……?」

「えっ」

 

 ――えっ。

 

 チート能力さんと私の心が一つになった。

「いや、普通に考えてなんだが、この大部隊に行き渡る量の弾薬と燃料がどっかで採れたのかってのが凄い疑問でだな」

 うん。

 うーん?

 そういやそうだな。北海道から来る連中、弾とか燃料とかギリギリでやってたもんな。それは今来てるこいつらに回すため、だったんだろうが、どう考えてもそれで浮く量は今の規模に対しては誤差である。

 そう考えるとそうか、基地を囮に使ったのはもしやあの基地が弾薬にも燃料にもならない大量の余りもので作られてたからとかなのだろうか。普通に廃棄物でしかなかったと、そういう事だったのかもしれない。

「広い海で百万千万単位の駆逐艦使って搔き集めたとかは?」

「まず無い。っつーか、人間の住んでるとこから遠すぎると殆ど湧かないんだ。だから大陸が沈んでるとかならともかく沈んでないはずの今だと無理だと思う」

 あくまで人間の霊的なもの由来、という事らしい。他の生物のは無いんだろうか。いや、車に軽油入れちゃ駄目みたいなノリかもしれんけども。

「そもそも産まれた時から持ってるもんじゃないの?」

「場合によるっぽいんだよなぁ。なんか悪意から生成されるときに元になった量で変わるみたいなシステムらしいんだが……深海棲艦が出始めてから二年足らずでこの数を揃えるなら、満タンで生まれた奴はだいぶ少ないと思う」

 当たり前だけど、深海棲艦の元になる悪意にも量的な限界はあるらしい。曰く、悪意を溜め込むダムにひびが入って漏れてるみたいな状態らしいんだが、逆に言えばひびの位置まで水位が溜まってなければ漏れようがないし、ひびから吹き出せる以上の勢いで出てくる事も無いのだそうだ。だから本体の強さや数と初期資材の量は天秤に掛けざるを得ないらしい。

 うん? それって現状はまだ末期症状じゃないって事では……いや、よそう。私の勝手な推測で私を混乱させたくない。

 さておきあれだな、シミュレーションゲームとかで例えるなら初期資金が多いけど能力低いか、能力高いけど初期資金カツカツか選べるわけだな。んで、深海棲艦の場合……そうか、制海権完璧に押さえて資源採り放題だったから能力高くて資源持ってない奴を産み出しまくった感じか。燃料も弾薬も採って来たの使えばいいもんな。本来。

「んでな、これ推測の裏付け……になるかは微妙なんだけど明らかにおかしな事が一個あってだな」

「あ、それは分かるわ、それ待ちかなって思ってたんだけどなんかやって来ないし」

 変色海域。

 私と猫吊るしの声が重なった。

「持久戦やるなら使った方が絶対有利なのになんで展開しないのかなって思ってたんだけど」

「たぶん、砕いて資材に変えたんだろうな。俺らもよくやるし」

 変色海域は核を海に浮かべるだけでも展開できる。なんか統計的にはちゃんと設置した方が広くなるっぽいとかそういうのはあるらしいんだけど、ともかく決戦のバトルフィールドに広げるだけならその辺に投げ捨てておけば大丈夫なのだ。だというのに、相手方はそれを全くやって来ない。普通の艦娘相手なら、逃げられないようにしておけば時間経過だけで勝利する事ができるのに、である。

「じゃああいつらが撃って来ないのって……」

「できないんじゃね? 無駄撃ち」

 この状況で全く弾が無いという事は有り得ない。でも、弾が満載って事も無いんじゃないだろうか。それが猫吊るしの予想だった。

 考えてみれば、あいつらは私が糞強いと知っていて人海戦術を採って来た。そうなると、殆どの奴……特に手前に居る連中が、弾を撃ち切らずに轟沈するくらいは織り込み済みなんじゃないだろうか。それこそ一体辺り全砲門で一発ずつ撃てればそれで良いくらいの認識の可能性がある。

 ふむふむ。超回避の私を相手にできる限り高い確率で攻撃を当てなければならない深海棲艦が、各々最小限の弾しか持っていない。当然ながら散発的な攻撃で何かを成せるかと言えば不可能だろう。我が事ながら無茶な性能してやがるし。

 深海棲艦にあるのは数の利だが、どうやら全員が万全に戦えるわけではなさそうだ。

 なのでできる限り効率的な初動で弾薬を使わなければならない。

 その状態で何が始まるかと言えば……?

 

 そうだね、一斉射撃だね。

 

 

 

 何が引き金になったのかはよく分からない。何か私には感知できない方法で指揮が行われたのか、単に時間が決まっていたのか。私を取り囲む深海棲艦達は突如一斉に構えを取り、非常にいい笑顔でその砲塔から、発射管から、銃口から、煮詰められた呪いを砲撃のように、雷撃のように、銃撃のように、私に向かって吐き出した。

 狙いなどほぼ付けられていない。いや、むしろ付けない方が良かったのだろう無数の抜き打ち。全ての弾が同一地点へ向かう軌道を描いたならそんなものはむしろ避け易いのだから、私を相手取るなら全くの無意味。それを連中も理解していたに違いない。

 四方八方、仲間の隙間から狙える者は真っ直ぐに、そうでなければその頭上を超えるように、上から横から斜め下から一斉に攻撃が飛んで来た。そこに出現したのは壁だった。数千、或いは数万の砲弾と魚雷と銃弾の壁。真上からは爆撃も落ち、唯一真下からだけは何も来ていないがそれ以外をほぼ塞ぐ、詰みの形。一部は互いに衝突し合いながらも、その殆どは意外なほどにしっかりと、私に向かって殺到した。

 実のところ、避けようと思えば避けるのは容易だ。なにせ足下が空いている。一旦潜ってやり過ごしてしまうのは本当に簡単な事なのだ。でも、今やるべき事はそれだろうか?

 否。私はこいつらを、できるだけ効率的に倒さなければならないのだ。尊厳云々もそうだけど、取り逃せば取り逃すほど犠牲者が増えるのだろうから、殲滅は早ければ早い程いいだろう。故にただただ大げさに避けて見せるよりは、もっとやるべき事がある。

 敵が発射する瞬間、私は真下の水面を掌底で打った。その衝撃がすぐには弾けないよう、しっかりと浸透勁の形にして。

 水中を広がっていく衝撃。それは一か所に向かうのでなく、比較的ゆっくりと海中に広がって行った。そこへ、もう一発。今度は震脚を見舞う。これにもやっぱり浸透勁、それもかなり速度のあるものを添えて。

 その時青葉さんは見たはずだ。水の中に消えていく私の姿を。と言っても私が沈んだわけではない。私を包むように水の方が立ち上がったのだ。海中から天に向かい、私を避けるような円筒形の海流が噴出したのである。

「そうはならんやろ」

「なっとるやろがい」

 猫吊るしと一緒に、天へと昇って行く水の柱を内部から見上げてぼやく。まあそんな反応にもなろう。傍目には本気で意味不明だろうし。

 私のやった事は至極簡単。速度の遅い浸透勁の衝撃にそれより速い別の浸透勁を叩きつけ、両者を海中で爆発させただけ。干渉し合った超威力の衝撃は弾けて完璧な指向性を持ち、上に向かって噴出したという訳である。いやだけってなんだよ。絶対やれる確信があったからやったら思ったより威力あるんだけどなんだコレ。壁作るつもりだったのにノックアップストリーム生まれちゃったんですけど!

 放たれた深海棲艦の砲弾は非常に数が多い。だがしかし、その一発一発はあくまで普通の一撃でしかない。故に、雲まで届かんばかりの勢いで重力に逆らう超強力な水流を、それらは貫通できなかった。立ち昇る奔流に飲まれ、混ざり、砲弾が砕けていく。見れば巻き込まれた魚雷も内部で破裂し、それらは細かな砂利となり、ただの海水だったそれは、あっという間に金属の破片が踊り狂う凶悪なミキサーへと変貌を遂げた。

 それが、空を覆う天蓋に風穴を開ける。本来ならその海流に深海棲艦を倒す力は全く無い。勿論押せはするので艦載機くらい墜とす事は可能だったろうが、物理無効を貫通しないただの海水でその装甲を傷つける事は叶わないはずだった。しかし、巻き込まれた深海棲艦の攻撃がそれを可能にしてしまった。

 日光を塞ぐ敵の大群に、上昇海流が突き刺さった。巻き込まれた敵航空機が引き裂かれ、哀れにもその一部として飲まれて行く。すこし辺りが明るさを取り戻した。

 それと入れ替わるように、水の無い私の直上には多数の、それこそ上面が塞がる量の爆弾が降って来る。中心部に居た連中が巻き込まれる前に落として行った形見の品だ。このまま行けば私に直撃する訳だが、うん、成程。いいこと思いついた。お前、私の頭上で爆発しろ。私は機銃でそれら全てを同時に撃ち抜いた。

 水流の中心で大きな爆発が起きる。それは水流そのものを内部から吹き飛ばし、真っ直ぐ天へと延びていた多量の海水を無数の弾丸と変え、広範囲の敵航空部隊へ重力と逆さに降り注がせた。蓄えた深海棲艦の弾薬諸共に。

 例えるならクラスター爆弾だろうか。円錐状に拡散したそれは、空を埋めていた深海棲艦の群れにぶち当たり、形成されていた膜に大きな穴を空ける事に成功した。吹っ飛んだ連中がさらに上を巻き込んで落ちて行くのも見える。航空機密集なんてさせたらそりゃあそうなるわ。

 同時に海から上がっていた水流が止まる。浸透勁で打ち上げただけなので当然長持ちはしないのだ。深海棲艦の目の前に、無傷の私が浮かび上がった。天からは日の光が差してくる。周囲からは誰の声もしない。どうしたのだ? さっきまでの勢いは……笑えよ深海棲艦。

 攻撃は無い。いや、きっと、それどころではないのだろう。私が生きてたのは予想通りかもしれないけれど、その方法が予想の埒外過ぎて。それと、飛び散った自分達の砲弾による真の被害が、まさに今これから降り注ぐところだったから。

 当たり前だけどここは地球の重力に囚われた海の上。昇ったものは落ちて来る。ついでにさっきまで飛んでいた、自分達の操っていた飛行機の残骸も一緒に。黒い雨が降った。

 深海棲艦へ深海棲艦をぶつけるのは有効だ。頼みにするのはどうかと思うが、今回もそれはとっても効果的だった。天より降り注ぐ多数の霊的金属が同質の艦船を傷つけていく。物によっては誘爆し燃え上がり、装甲の剥がれた人型の頭蓋を砕き、小型の魚のようなものの背を串刺しにする。

「……できたなぁ、範囲攻撃」

 ぽつりと私が零せば、頭上で猫吊るしがそだねーと相槌を打った。上空を視れば青葉さんの偵察機は無事のようだ。結構離れていたから巻き込まれなかったらしい。というか……むしろ、巻き込まれた機体の方が少数だった、と言った方が正しいか。

「んー、乱発できれば強いんだろうけど、条件厳しくね?」

「汎用性皆無すぎるし……威力低いから微妙だなこれ」

 空の穴が塞がって行く。押し寄せる航空機の群れが、一度突き通ったそこを埋めてしまったのだ。さもありなん、直径一キロにも満たない程度の大穴だったのだから、視界を何重にも埋め尽くす量に対しては雀の涙だったのである。

 やがて雨も止み、そして明らかになった事だが、海面の連中に対してもさして有効打になっていない。いや、範囲内の半分ほどは轟沈に至っているし、無傷の者は殆ど居ないのだが、それは全体数からすれば誤差である。倒せたのは百万に満たないんじゃないだろうか。総じて防御手段としては悪くないのだけれども。

「あくまで防御のついでって感じかな、これだと」

 銃弾以外無消費の返し技としては悪くないんだけどね。そもそも敵が斉射してくれないと成立しないのは発動タイミングが限られ過ぎである。まあ使えるタイミングがあれば使うけど……次があるんだろうか。

 見れば敵最前線の生き残りが急発進して、全方位同時に私との距離を詰め始めていた。撃って来ない辺りやはり弾が無いのだろう。だから、普通は、脅威になり得る最後の手段を奴等はとって来た。

 それ即ち、ラムアタック。要は突撃体当たりだ。それと同時にタイミングを合わせない弾幕も奥の方から飛んで来た。成程ね、つまりここから先は乱戦だと。本当に消耗を強いるのはここからだと、そういう訳であるのだろう。本当に消耗するかは私にも分からんけれども。

 

 聴覚で周囲から迫る無数の弾を全て見切りつつ、物は試しと全力で前へと水面を跳ぶ。たったの一歩で音を越え、私の体は大気の壁を貫いて対面の戦艦レ級の横を抜ける。遅れてレ級と進路上に居た深海棲艦達がまとめて盛大に吹っ飛んだ。

 密集している場所で勢いよく同僚が吹っ飛んで来たらどうなるでしょう? 答え、両方潰れる。

 本来物理攻撃を無効化するこいつらはただの通り抜けた衝撃波では押せはしても傷つける事はできない。だがその押された先に同じ深海棲艦が居る場合はその限りではない。互いに無効化を打ち消し合って、勢いそのままに傷つけ合うのだ。密集したのが完全に裏目に出た形である。

 レ級とタ級が、駆逐棲姫と軽巡棲鬼が、深海梅棲姫と深海重巡水姫が、その他多数の深海棲艦達がぶつかり合い、一対一で轟沈する。中にはさらにその先に居た個体も巻き込んで行く奴等も居た。特に腕を振るうでもなく、ただ移動しただけでこの始末。強化系極めれば最強論を体現するとこんな感じかもしれない。

 とはいえ、それだけと言えばそれだけだ。

 効率的にははっきり言って褒められたもんじゃあ全くない。むしろ悪い。まあ攻撃してないんだから当たり前なんだけど、一歩で数十体吹っ飛ばして同じ数巻き込んだとしていいとこ100体くらいしか倒せないのでは話にならない。いや一秒100体以上盛れるからついでにヤれる数としては十分すぎるんだけれども。

 

 さて既に一つ範囲攻撃っぽいものを習得した訳であるが、あれだとどう考えても殲滅できないので、できればもっと汎用性と威力と範囲に優れた技も欲しい所である。でもそれを実現するためには私は自分の今のスペックをちゃんと把握しないとならないだろう。大きく一歩を踏み出したのもその一環。浸透勁を二つ重ねて爆発させたら天に届いたのは私にも意外でしかなかったのだし、しっかりやらないと誤爆が怖い。この場で一番私を害せる可能性が高いのは、言うまでもなく私自身なのだから。

 最も近く最も速い敵駆逐艦の最先鋒よりさらに速い敵砲弾の隙間を抜けながら、足に力を込めて再び跳ぶ。方向はやっぱり水平に真っ直ぐ、直近無傷の戦艦棲姫。またもそいつの横を通り抜け、今度はすれ違いざまに拳で一撃。するとその姫級の深海棲艦は、それだけで全身を金属片に変え、後ろに控えた連中へと殺到した。ざっと150体ほどがそれで犠牲になったようだった。

 それを確認した頃には、私は殴った反動で次の獲物へ向かっている。そこに居たのは港湾棲姫、これを撫でるように叩き、同時に真横の北方棲姫も逆の手で撫ぜる。次の瞬間、そいつらは触れた場所を中心に二つに裂け、海の底へと沈んで行った。

 続けて水面を飛ぶように滑り、蛇行しながら通り道の脇の奴等を蹴り砕く。イ級、駆逐林棲姫、軽巡新棲姫、タ級、ナ級、ヲ級、装甲空母鬼、護衛棲姫、護衛棲姫、イ級。それら全てがばらばらになり、それぞれのパーツが砲弾となり飛んでいく。周囲一帯を巻き込んで、そいつらは全員滅んで行った。

 そして私は走り出し、進路の敵を全て一撃で砕き散らす。破片になったそれらがさらに被害を拡散し、後に残るは残骸のみ。うーん酷い大虐殺。半分以上見た目が美少女だから絵面がヤバい。撮らせていいのか不安になる。R-18Gだよ完全に。まああっちから攻めて来てるんだから私は謝らないけれど。

 閑話休題、実は私、現在ただ闇雲に殴っている訳ではない。さっきからしてる攻撃、大して力を入れていないのだ。今までも同じような事はできていたけれど、身体能力が上がりに上がったため必要な力のパーセンテージがむやみやたらに下がっているのである。だから、感覚的には本当に撫でただけで敵が死んでいく状態だった。

 とはいえ、調整が利かないとか手加減しているとかそういう話では全く無い。私は今、新技を試しているのだ。最小限の力で姫級だろうと一撃で倒せる新たな技を。

 姫級鬼級は艤装にダメージを押し付ける事で一撃は確実に耐えて来る。これは事ここに及んでも変わらないし、さっきの砲弾の雨で半分くらいが死ななかった一因にもなっているのだが、今、私はこれを破る術を思い付いたのだ。

 やり方は単純、速度の違う二種類の浸透勁を一遍に敵に叩き込む。それだけである。

 浸透勁は通常、打っても二回のダメージにはならない。これは衝撃の発生個所を変えているだけだから当然の事だ。表面と中心で別の攻撃とは扱われないのである。

 しかし今回のこれは違う。二種類の浸透勁が別々に敵の中枢に炸裂する事で、疑似的にダメージ判定が二回発生するのだ。そのために一撃で深海棲艦は爆発四散。周囲を巻き込んで哀れな鉄屑へと成り下がるというわけである。

 殴るのが一回で良いというのは素晴らしい。何せ手間が半分だ。移動があるから単純に効率二倍とはならないけれど、時短効果は結構高い。ありがとう龍田さん。ドン引きしながらも色々教えてくださって。

 そう、今回使っている技術の半分は、私が今まで使っていた浸透勁とは別の流派、龍田さんや天龍さんの使っている武術の物である。昨日、叢雲に棒術を教わった時に一緒に教えてもらったのだ。その流派の奥義の一部分を。

 実際に使ってみると川内さんの、ニンジャの浸透勁とは性質に結構違いがあった。私が今まで使って来たそれは伝達速度が速い代わりに複数の材質を貫通するのが少し苦手で、新しく習ったそれは少し遅い代わりに複数の材質で構成された物へ浸透させるのが大の得意だったのである。

 どういう事かと言えば、川内さんのはそもそも素手で発動するもので、龍田さん達のは手元で発動して武器を通して相手に炸裂させる技だったんだよね。ぶつかり合った時川内さん側が負けてたのもそれが原因で、龍田さん側のが物を通過するのに最適化されてたからだったらしい。ちなみに武器から直接出す流派もあるそうだが、それは使用者が未修得だったため詳細は不明である。

 複数種類ある浸透勁の技を同時に打ち込むとどうなるか。答え、相手は死ぬ。いや体の中心に鉄塊を砕く威力ぶち込まれたら当然なんだけど、細かい場所やタイミングの調整で割と死に方も操作できるとは私もやるまで思わなかった。

 例えば遅い方をかなり手前で爆発させれば後ろに破片がぶっ飛んでくし、残るように撃った速い方へ遅い方を貫通するように撃てばなんでか真っ二つになる。そして両方完全に同じ場所、完璧な敵の重心の中央へと撃ち込めば――

 標的は軽巡ホ級、なんとなく丸っこくって狙うべき位置が分かり易い。宙を、というか宙にあった砲弾を蹴り、くるんと回ってそいつの前へと華麗に着地。そのまま指先を突き刺した。一瞬の硬直。その後、軽巡ホ級は砂のように崩れ去った。

「どういう理屈?」

「さあ……?」

 胡乱な声に胡乱な声を返す。たぶん重なり合った衝撃が全身くまなく乱反射しまくった結果な気がするが、細かい事は私にも分からない。っていうか猫吊るしが分かんないのに私が分かる訳ないじゃん。只々理不尽な暴力って事以外。

 というかこの非人道技、なんかスタイリッシュな感じがしていかにも強そうに見えるけど、正直使い道が全く見当たらない。残骸飛ばないから巻き込みできないし、粉末飛んでるだろうから体にも悪そうだし。視覚効果としてはインパクトがあるかもしれないけど……そもそも、敵のほとんどが今の光景を目撃していない。そりゃあそうだ、なんか航空機の目で私の位置は把握してるっぽいんだけど、密集しすぎてて私を直接目に入れてない奴が多すぎるのだ。見た奴はぎょっとしてるけど。

 ただまあ、とりあえず今の自分が習った技でできる事は大体把握できた。飛んでくる砲弾を殴りかかって来ていた双子棲姫へと受け流し、その時ついでに浸透勁を流しておく。するとなんという事でしょう、双子の片割れにぶち当たったその砲弾から衝撃が溢れ出し、白いそいつが百に裂け、黒い半身を巻き込んで弾け飛んだではありませんか。四散したその艤装と体は周囲に無差別に襲い掛かり、最大半径百メートルくらいの連中にそこそこのダメージを齎した。

 ただ、やっぱり確殺には至らない。当たり前なのだが弾が拡散するから中心部以外はちゃんと当たってくれないんだよね。これなら普通に方向を絞って吹き飛ばした方がマシだろう。こちらを16インチ砲で狙う欧州妹姫に向かい跳び、叢雲よろしく懐直前でもう一回踏み込み、音を遥か置き去りにした拳でもって、艤装の口部をぶん殴る。崩壊した異形と人型を保った本体は、仲良く水平線まで飛んでいった。進路上の深海棲艦を撥ね飛ばし、諸共鉄屑未満の何かに変体させながら。遠くで水柱が上がった。

 これは小細工するより普通に殴った方がいいかも分からんね。上空から特攻をかけて来る爆撃機や艦攻に向けて空振りの蹴りを放ち、生まれた気流でそいつらを海上の敵へとぶつけながら思う。動いた空気に攻撃力は無いが、進路を操るだけなら十分可能なのだ。大気くんは私の味方である。

 敵は空から誘導弾のように移動する私を追いかけてきている。瞬間移動のようにほぼ目で追えない高速移動を連続して行い先々で艦を撥ね飛ばしている訳なのだが、どうも見失うような気配は感じられず、その辺りの同期は完璧なのだと感じられる。たぶんスポットして居場所を発信している個体が空にいると思うのだが、当然ながら私にはどれか区別が付かない。まあ大雑把な狙いで撃ってるせいで同士討ちもかなり発生してるから別にいいんだけれども。

 ちょっと思い付き、私に体当たりしようとしてる航空機連中を誘導して、一直線に並ばせる。まるで水面に平行な真っ黒い柱のような状態になったのを確認して、その場で反転。水面を両の脚でしっかりと捉え、全身の力をねじ込む様に集中させる。私はただの拳を思いっきり、今出せる全力を込め、鋭くつよい回転を加えて突き出した。

 轟。と世界が揺れた。空気が猛り狂い、真下の海水を吸い上げながら回転する。無理矢理捻じ曲げられた大気が破壊の力へ新生する。それは直進する渦だった。深海棲艦を傷つける能力の無い、ただの気流。それが殺到する飛行物体を飲み込み、押し返し、全てを巻き込んで水平線へと向かって行く。例えるならば、横倒しにしたトルネード。持続は一瞬だったが、それは進路上にあった全てを消し飛ばした。

「殺傷力は優秀……なお範囲」

「幅十メートルから二十メートル、距離一キロくらいだな。無消費遠距離攻撃って考えたら破格じゃね?」

 艤装要る? と猫吊るしが本気で疑問そうな声を上げるが、無いと立ってるのが大変だし絶対要る。

「でもこれも空中に弾とか無いと深海棲艦にはダメージ出ないんだよなぁ」

「空気に物理無効貫通付与できれば楽なんだろうけどなー」

 なお普通の人間にやったら肉塊を越えた何かになる模様。深海棲艦相手だと巻き込める軽いのが居ないとただ吹き飛ばして終わるので使い所が難しい。一応同じような事を続けてやってみたら巻き込まれたの同士でぶつかり合ってくれるため倒せない事もなさそうだったが、普通に殴ってショットガンした方が効率的だろうと思われた。

 

 一旦高速移動を止め、普通に滑走しながら敵の攻撃をいなしてタイミングを見計らう。空から降ってくる敵機と横から飛んでくる砲弾と、ついでに殴りかかって来る戦艦の位置。それらがいい感じになるのを待ちつつ周囲の連中を薙ぎ払う。

 大きめの奴は使い易い。腕を掴んで振り回せば使い捨てのこん棒に早変わりだ。私の腕は女子中学生程度の長さしかないのでリーチを補えるのは有難い。難点は一回使ったら壊れちゃう事だけど、まあこれに関しては贅沢は言えまい。どうせその辺にいっぱい落ちてるんだから勿体なくもないし。

 たまに息を合わせたのか最初ほどではなくとも纏まった弾が飛んでくるが、それらを海水や空気の渦で返してやっても大した被害になりはしない。なんせ母数が酷いから、空いた穴もすぐに塞がってしまうのだ。

 もっと広範囲かつ常時撃てる攻撃をしたい所だが、ただの物体に貫通付与ができないために難しい。海水とかにそれができれば楽だったのかもしれないけどね。

 そうこうしているうちにいい配置になったので、溜まって来た潜水艦連中に向けて、海面を擦るようにかなり思い切った蹴りを放つ。

「そぉいやっさい!」

 案外腹筋に力の入る文言を唱えつつ気合を入れて足を振り切ったらば、少し遅れて鳴動するような低い音がして、足下の海が二つに割れた。

 幅にして五メートル程だろうか。大した大きさではないが、蹴り出した場所から水平線に向けて一直線に、凸凹とした海の底のラインが引かれたのである。真上に居た敵船が重力に従い落下を始め、押し出された水の圧力で断面から見える潜水艦達は無軌道な回転を始める。

 私はそれを空中から見下ろしていた。蹴り抜いた勢いそのままに宙へ跳んで、寄って来ていた攻撃機を踏み台にして落ちるのを防いだのである。そこから階段状に並んだ敵機を踏んで、踏んで、また踏んで。私は空へと一気に駆け上がる。その間に割れた海は元に戻ろうと運動を始め、内部の深海棲艦は滅茶苦茶に撹拌されてゆく。私の耳には何かと何かがぶつかり合い磨り潰される音が聞こえた。

 

 陸の方に影響出たりしないよね? などとやってから思いつつ、私は深海棲艦の飛行機でできた天蓋へと辿り着く。当然連射された弾丸が右から左から前から後ろから飛んでくるが、残念ながら突然上がって来た私へ射線を合わせられたのはごく一部。少し体の軸をずらせば当たらない程度の密度である。

 回避と同時に艤装から錨を引っ張り出し、鎖を持って一回転。同時に無効化貫通を停止、その状態でさらに一回転。そしてもう一回転。一回りするたびに加速する錨、その速度はあっという間に速くなり、四回転目に入る頃には音速を越える。鳴り響く金切音。一回転ごとに巻き起こる気流。それに飲まれる敵航空機。ついでに空飛ぶ私。

「せめてマグヌス効果で飛ばねえ?」

 言葉の意味は分からないが別にいいじゃん、錨プロペラ代わりにしても。いや私もなるとは思わなかったけど。むしろなんでなってるの? 怖。

「いやそもそも飛びたかった訳じゃなくてね?」

 回転力で鎖は千切れない。物理ダメージが効かないんだから当然の事なんだが、一応それを確認しときたかっただけだったんだよ。やったらなんか浮けちゃっただけなんだよ。本当にしたかった事はそれじゃあないんだよ。

 態勢の崩れた敵機に向かって錨の先端を打ち付ける。航空機にダメージは無い。貫通は切っているので当然だ。でもそれはそれとして、その状態で押し出す事は可能である。そうなれば当然、絡め取る事も。

 細かく鎖を動かして、錨と敵機の凹凸が組み合うように衝突させる。どちらも砕けたりしないよう繊細な制御が要求されるが問題ない、そこの所も強化済みだ。錨が攻撃機一機分、延長された。

 続けてすぐ隣の爆撃機にその攻撃機を叩き付ける。これもまた、どっちも壊れないよう慎重に。そうしてでっぱりとへこみが噛み合って、また少し錨の全長が伸びた。その先端に、さらに別の敵航空機を繋げて行く。

 私の錨は鎖の長さが結構ある。振り回したなら攻撃範囲もそこそこ広く、つまりはそこそこ程度にしか届かない。普通ならそれで十分なんだけど、今回ばかりはそれじゃあまったく間に合わない。だから私は思いました。足りないなら足せばいいじゃないと。

 次から次へと深海棲艦同士が組み合って行く。一回転ごとに十から二十、十回転すれば百以上、千回転を越えれば万を越えた航空機が数珠繋ぎになった超長の鞭の完成だ。種類によるが一機で20cmくらいは伸びてるはずなのでたぶん長さは2kmを超える。

 飛んでくる弾をいなしつつ、それを私はぶん回す。敵に叩きつける事はしない。それじゃ一回で壊れてしまう。空を覆う飛行部隊の、少し数の減った群れの真下で全長数キロ規模の金属の大繩がうなり声を上げた。

 音速を数倍は超えた先端が空気を擦り、辺りの大気が赤熱する。巻き起こるのは天変地異。回転するたびに吹き荒ぶ嵐より酷い超高温の熱風が空を焼き、上昇気流というのも烏滸がましい、単なる気体の大渦が空に向かって打ち出された。

 襲い来る熱波、乱雑かつ不規則に回転する空気の渦。その衝撃に耐えられず、損傷の全くない航空機たちが堕ちて行く。その身に有り得ざる熱を宿したまま、海面の仲間に向かって。

 衝突、誘爆。熱を持ちすぎた体が無効化を貫通する物体――即ち同じ深海棲艦と衝突してその相手に致命的な打撃を与える。最初の水流よりも威力も範囲ももっと酷い、火炎弾の嵐。海が煮立ち、湯気が上がるのが目にも見えた。

 うん。

 

 うん。

 

「これ私、陸で全力出しちゃ駄目な奴だな?」

「今更?」

 天井が取り払われ顔を覗かせた太陽に照らされながら私の体は落下を始めた。錨を回せば飛べるみたいだけど、実際の所空の上での戦いは効率はあんまりよろしくない。大技出すなら別だけど、基本は地上で殴ってた方がやっぱり早い。ちなみに繋がってた連中は回転を止めたら慣性でぶっ飛んで行った。

 空は遠くからやって来る航空機の群れにまた蓋をされようとしているが、その密度は明らかに今までよりも減っている。さもありなん、長くなった錨のようなものをぶん回す時、角度を変えてできるだけ広範囲が巻き込まれるように腐心したのだから。

 そんな惨状だけど、青葉さんの偵察機は無事である。居る場所には向けなかったというのもあるけれど、さっきの無茶苦茶な嵐を乗り切ったのだからやはりその操縦技術は一流以上なのだろう。青葉さんのなのか乗ってる妖精さんのなのかは分からんけれども。

 落ちながら自分の齎した被害状況を確認すると、範囲内の敵船はやっぱり五割くらいは致命的な損傷を受けているように見えた。さっきより範囲がだいぶ広いためかなり持って行けた気がするが、それでも遠くの方まで続く深海棲艦の海と比べるとまだまだ沈んだのは少数派。私の予想着地点に向かって凄い勢いで吶喊してる連中もいるし、明らかに私を休ませてくれるつもりもない。マジかよこいつらさっきの見て一切戦意が挫けてねぇ。きっとまだまだ私に勝てるつもりなのだ、こちらにとって非常に都合の良い事に。

 確かに普通に考えたらあれを連発できるはずがなく、相応の消耗を強いた筈だと判断できる場面ではある。現実は残酷だけど、概ね人間サイズの生き物が出せる被害を大幅に超越しているのだから当然の帰結だろう。実際、消耗がないでもない。おなかすいてきた。

「カロリーバー食う?」

「たべりゅー」

 私の体調は猫吊るしがリアルタイムで診てくれている。チート能力のちょっとした応用だから『力』に弾かれるかもしれないと思ったのだがそうでもないらしい。もしかして例外設定とかされてたりするんだろうか。

 後頭部までてとてと走って艤装の中に手を突っ込み、猫吊るしは積み荷の食料を引っ張り出した。包みを開けて肩の方へと飛び乗ると、それを口元に差し出してくる。歯で受け取るとじんわりと甘味が舌に広がった。

 そうしながらも飛んでくる多数の銃弾を捌いて行く。空を埋めようとしてる連中の一部が撃ちながら宙に浮く私に突っ込んできているのだ。ちょっと思った事があり、そいつらに機銃の弾をくれてやる。いつも通りの手応え。当然というか、肉体スペックと関係のない艤装の性能は別に上がっていないようだった。

 目でもしっかり観察するが、単純な威力も貫通力も集弾性も連射力も普段と一切変わらない。適性値に変化は無いようだ。530000は固定で動かないとそういう事だろう。あれ創造主の悪ふざけだしな……

 その時。

 銃弾の細かな動きを測るために目を凝らしていた私は見た。絶望的()な数の群れの奥の奥、真っ黒なその海面で、私とまるで関係なく、複数の深海棲艦が、突然海へと消えるのを。

 今まで気付かなかったのは流石に数が多すぎたのと、空が覆われ暗かったからか。あと飛んだり跳ねたりしてたからソナー使えなかったのもあるかもしれない。位置も悪く、海上に立ったままでは見えないくらいには遠かった。

「えほふうひ! へんほうほふ!」

「飲み込んでから喋って頂きたく」

 包装紙を艤装に投げ入れながら猫吊るしは神妙な顔で答えた。まだ三回くらいしか噛んでないんだけど、まあこの際仕方ない。ちょっと大きめな欠片となったそれらをぐびりと無理矢理飲み下した。

「前方奥! 要観測!」

「了解!」

 一瞬で定位置に戻ってきた猫吊るしが真面目な顔で熟練見張り員の顔をし始める。それに合わせて真上まで来ていた奴に錨を投げ、引っかけ体を引き上げた。ついでに突っ込んでくる奴等のうち真っ直ぐ並んでるのを連装砲で纏めて貫く。こっちも特に異常無し。扱い易いいつものだ。

 復活していく飛行機の覆いにまた日光が遮られて行く。見辛くなっても困るので腕で風を起こしてちょっと妨害。踏ん張れないため竜巻までは起こらないが、多少進路は曲げられた。太陽が顕わにしている黒さがちょびっと減った気がする水面に、飛び交う砲弾が悪意の輝きで煌めいた。

 そして私達は見た。遠くに見える深海棲艦の艦船が、何かに飲み込まれて行くその決定的瞬間を。

 それは口だった。何体もの深海棲艦を中に納められるほどの、大きな大きな口。それが海中から歯を覗かせて、そこに居た姫を含んだ群れを一飲みにしたのである。

「深海棲艦を……食ってる?」

「S2機関とか搭載してないはずだけどな?」

 見ればそいつは犠牲者を咀嚼もせずに喉の奥へと流し込むと辺りの深海棲艦達をも次々襲い、それらも胃へと納めている。時折引っ掛かった装甲を磨り潰す以外には生え揃った歯牙を使う事もなく、海水ごと進路上の全てをそいつは飲み込んでいた。

 だが異様なのは、むしろ飲み込まれて行く深海棲艦達の方だ。全力を賭して来たという事なのか、人型の上位種が占める割合が普段のそれよりかなり高い、その顔だけを見れば美しく劣情すら誘うかもしれないそいつらは、まるで表情を崩す事なく、狂暴な笑顔そのままに開かれた大あごの中へと消えていたのである。

「ボス個体、かな、あれが」

「だろうなあ。まあ最後に倒せって指示は納得だわ」

 私達はボス個体は最後まで残すようにと楠木提督に指示を出されている。何か条件でも揃えないと倒せないタイプなのかとか思っていたが、どうやらそういうのとは違ったらしい。

「実質仲間だなアレ」

「数減らしてくれるからほっとけって指示だったのか……」

 当然だけど、食べたら減る。現在進行形で勝手に数が減って行っているのである。ペース的にはさほどでもないが、もしかしたらこれからペースアップして行くのかもしれない。無意味に食べてる訳ではないだろうし。

「食えば食うほど強くなるみたいなノリかね。お前相手に意味ある?」

「ないです」

 食べた奴の倍だけ強くなるとか言いだして強さの総量が増えたりしない限り無意味だろうなあ。集約は進化ではないよ。それが相乗効果を生み出してこれが友情パワーかとか思わされる展開になればまた別だろうけれどもね。

 それはともかくとして、こっちに利のある事をしてくれるなら確かに急いで倒すべき相手ではないだろう。むしろ巻き込み事故に気を付けなければいけないかもしれない。複数の深海棲艦を艤装ごと飲み込めるくらい大きいため掠るくらいなら問題なさそうなのが救いか。っていうか、食った分だけデカくなるのかなもしかして。明らかな巨体だもんなあ、普通のよりも。

「戦意落ちないの不思議だったんだが、アレが居たからか」

「この状況だと滅茶苦茶強いんだろうねえ」

 何せ喰い放題である。口を開ければ食料の方から飛び込んでくるレベル。実際にどういう処理をされるかは分からないが、食べる事に意味があるなら効率は極めて高いだろう。深海棲艦共は数で確実に潰しに来た上で、さらに質でも圧倒できるはずの鬼札を用意していたという訳だ。どんだけ私殺したいんだよ。

 初手で私を潰せなければ消耗を強いつつあの食いしん坊を強化する時間を稼ぐ。思うに、それが深海棲艦側の真の作戦じゃなかろうか。やだ……滅茶苦茶殺意高い……おそらく強化上限もちょっとやそっとではあるまい。状況的に上限無しもあり得る。超多数の姫級や鬼級が自身を生贄にする事を躊躇わないのだから相当だ。倒しちゃったら撤退される可能性すらあるだろう。

 うーん、いやしかし、なんというか……上位種としてはそれでいいんだろうか。いや、割と群体というか軍隊的な部分があるからその辺りには頓着しないのかもしれないけれども、こっちとしては、一つ気になる点があるのだが。

「イ級だよねあれ」

 なんか水中に潜って口だけ出すとか器用な事してるけど、そいつは明らかに、この世界で下級と呼ばれる深海棲艦の中でも最も弱いとされる種類。駆逐イ級だったのである。

 やってる事がサメ映画の面白シャークだから人型じゃ映えないとかそういう理由で自称魔法使いに選出されたとかなのかもしれないが……まあ深海棲艦の内部事情とか分からんからそれは置いといて、そいつは腹側を上にして下顎の方だけを海面に突き出し、多数の仲間を喰らっている。まあ魚っぽい形状だしできても不思議じゃないけれど、駆逐艦としてそれはどうなんだ。私が言うのもなんだけど。

 

 ともかくネタは割れた。私はあのイ級と協力……というか利用してこの群れを殲滅すればいいのだ。誤って殺してなくて良かった。概ね事態は把握できたので地上に降りて私は戦いを再開する。いや観察中も攻撃は飛んできてたけどね、一発も貰わなかっただけで。

 着地点はルンガ沖重巡棲姫の頭の上、貝のような尖った殻をすり抜けて眼鏡ごと顔面を踏み砕く。ついでに足首を捻って浸透勁を二発。粉砕されたそいつの欠片が海面を跳ねつつ周囲の深海棲艦に突き刺さった。

 衝撃を敵で殺した私が海面に着けば、読まれていたのかその場には魚雷が殺到している。下から横から襲い掛かってくるそいつらを前に、私は震脚をお見舞いした。

 海底に広がって行く衝撃波。それは魚雷を爆発させ、迫る潜水艦を圧殺する。続けてもう一発放てば姫級だって粉々だ。海より上の連中に比べて水中のなんと楽な事。やっぱり私は対潜特化、衝撃が伝わる方が悪い。届く範囲は直径一キロをゆうに超え、耳には着底の音が響いてくる。

 走って滑って水面の敵を薙ぎ倒しつつ、海中に攻撃を加えて行く。一キロくらいの間隔を空けて、上は線、下は面で制圧するつもりで。一つ、二つ、三つ四つ。海中の敵は分かり易いくらいに減って行った。だが、それはやっぱり一時的なもので、暫くするとまた補充されているので始末が悪い。数多過ぎるだろいい加減にしろ。

 そんな作業の間中、音速を越えた速度で飛び回る私にも、しっかり砲弾は飛んできていた。移動経路や距離や速度なんかが完璧に割り出されてるっぽい。行く先に攻撃が置かれているのだ。これが観測射撃ちゃんですか?

 と言ってもそれが当たるかは別問題であり、私に効果があるかと言われると全く無いのが現状である。むしろ多い時は吹き飛ばして範囲攻撃に変えられるからお得まである。高速回転しながらのアッパーで上昇気流を巻き起こし眼前に居たヲ級を空の飛行隊にぶつけながらそんな事を思った。

「なあ吹雪、なんで水中は行けて空気中は駄目なんだ? その浸透勁みたいだけどどう考えても浸透勁じゃない奴」

 猫吊るしから当然の疑問が投下されたのは、五十回くらい同じ事を繰り返し、それでもまだまだまだまだ敵の終わりが見えない事に辟易として来た頃だった。横から複数の下級が飛び掛かって来たのでそれを一纏めにぶん投げ、海面を転がっていく玉に弾き飛ばされて行く姫級鬼級を空中で蹴り殺して散弾に変え、水面の敵に二発ずつぶつけながら私はそれに回答する。

「川内さんの浸透勁が海波斬で、龍田さんの浸透勁が大地斬だからかな」

「この世界アバンストラッシュ撃てんの?」

 いや打撃であって斬撃じゃないから撃てないんじゃないだろうか。っていうか物の例えみたいなもんだしね。実際にはあれとはかなり違う。ただ三つの技に分かれていて、その先に何かあるっぽいだけで。

 お気づきかもしれないが、川内さんのカラテと龍田さんの武芸、それと叢雲の杖術は本来全て、妖怪変化を退治するための技である。人外の勢力が衰退して行くと同時に対人向けに最適化されて行ったらしく、特にニンジャに伝わるのは人体特攻みたいになってたけどね。

 実は一番妖怪退治に向いている、古代の技をそのまま引き継いでたのは叢雲のところだったらしいんだけど、肝心の叢雲自身が奥義に手が届いてなかったんだよね。だから私も空裂斬相当は習得できていないのだ。ちなみに手に持ったものから空気を通して遠距離をぶん殴る、所謂遠当ての技だそうである。

 この辺りの歴史は天龍さんが知っていた。なんでも叢雲のお爺様とも面識があるとかで、流派の詳細もしっかり把握していたのである。ちなみに龍田さんは妖怪云々はまったく信じていなかったらしく知らん何それ怖みたいな顔をされていた。ついでに一緒に聞いてた叢雲と浦波と東雲の頭上にも?がいっぱい浮かんでいた。

 不定形の液体のような存在をぶん殴れる技、硬い個体の外皮を完全に貫通して内部を殴れる技、気体を介して距離不問で遠くの弱点を殴れる技。この三つを合わせたら……まあ、たぶん天地のどこに居る相手も撲殺できるようになるんだろうなと思う訳ですねはい。

「つーか浸透勁は良くて気流作ってぶつけるのは駄目って判定どうなってんだ……?」

「さあ……?」

 言われてみれば確かに。気流だって浸透勁の衝撃だって、言っちゃえばどっちも波な訳で。そこに何の違いがあるのかと言われると私にもちょっと分からない。なまじ弾に流して着弾点で浸透勁だけ炸裂させるのは可能みたいだから判断に困る。

「なんていうか、力が実在する一個のものとして定義されてて、直接それをぶつけてるかどうか……みたいな感じはする」

 魔力は使ってないけれど、魔力でぶん殴ってるイメージだと分かり易いかもしれない。あくまで気流は付与された手で押されただけだから力が乗っていない……のだと思われる。だから直接浸透勁の衝撃を流せる海中は普通に範囲攻撃が可能なんじゃないだろうか。薄く広くなってしまうから今の身体能力になって初めてまともなダメージが出るようになった訳だけどね。

 んー、しかし、そうなると、直接空気中に衝撃そのものを流せれば、普通に無効化貫通の範囲内として処理がなされるんだろうか? いやその方法が無いから難儀しているんだけれども、突き詰めれば自力で閃いたりできるかもしれない。空裂斬相当のなにがしかを。

「私にいい考えがある」

 猫吊るしが技に関して一つの案を出してきたのは、そんな折である。

 

 体表以外からも浸透勁は撃てるか、という問いに部分的にそうと答えると、猫吊るしは私に知啓を授けてくれた。いや知啓って程の物ではないにせよ、それは確かに可能ならかなり有効そうな技であった。

 とりあえず念のため、猫吊るしは背負った艤装に避難してもらう。おそらく制御はできるけど、何があるかは分からないし。

 そうして心身ともに調子を整え、止まない銃弾と砲弾の嵐の隙間を抜けながら、私は息を吸い込んだ。

 息を吸う。息を吸う。息を吸う。

 吸って、吸って、吸って、吸って、吸って。

 吸って、吸って、吸って、吸って吸って吸って吸って吸って。

 吸って吸って吸って吸って吸って吸って吸って吸って吸って吸って吸って吸って。

 いやどんだけ入るんだよ。なんて思いつつまだまだ空気を吸い続ける。なんか肺の方で何かが圧縮されてる感覚がする。え、何? 肺が強靭過ぎて内部で圧縮空気作られてたりする感じ? どういう理屈? 予想外過ぎるんだけど、大丈夫だろうかこれ。

 吸って吸って、さらに吸って。どうやら限界が無さそうだったので適当な所で切り上げる。なんか溜まってる感触はあるけどどうやら問題は無さそうだ。問題が無いのが大問題な気はするけれどもまあそれはそれ。そのまま少し息を止め、正面の一番的が多い所に向き直った。

 射角良し、体勢良し、集中良し。完璧な状態が揃った私は、力いっぱい浸透勁を繰り出した。

 

 

 削れて行く。宙を舞っていた砲弾、弾丸が。私に向かい急降下していた戦闘機が。カニのような鋏を突き出し突撃してくる南方戦艦新棲姫が。私の側から、磨り潰されるように削れて行く。

 追従する戦艦新棲姫が、隣を直進していた離島棲鬼が、跳ねて飛び掛かろうとしていたロ級が、水面下から魚雷を咥えた艤装で殴りかかろうとしていた潜水棲姫が、両の脚で水面を走りつつ撃ち込んで来ていた深海千島棲姫が、その合間に居る他の戦力諸共に、その身を削り取られて行く。

 伝播する破壊。それは波及するように空気中に広がり、進路に塞がる全ての物を押し削り、霧状の粒子へと変えていく。

 恐るべきは鉄より硬い深海棲艦を塵芥へ堕す威力と、真っ当なものでは認識すら不可能なその速度。性質上視認すら不可能なそれは、文字通り、音速で世界を蹂躙した。

 届く。海上を進む数多の悪意が消滅した。届く。空を三度埋め尽くしていた害意が消滅した。届く。海中に潜んだ殺意が消滅した。放たれた破壊力が全ての意を無へと変える。まるでそんなものは無かったと言わんばかりの、無慈悲な波紋。

 海が消える。削られて行く深海棲艦と同様に、海水も外へと弾かれて行く。私の眼前に横向きの、円錐状に削り取られたような大穴が空いた。

 届いてしまった範囲には最早何も残っていなかった。

 

 

 粉骨砕身(物理)

 うん。えー。いや。

 なんだこれ。

 私、全力で浸透勁撃っただけなんだけどな。

 喉で。

 そう、このちょっとした非人道技の実態は、少し出し方を捻っただけの、ただの大声である。

 私も猫吊るしに提案された時は流石に無理なんじゃないかと思ったんだけど、結果はご覧の有様で、物理無効貫通の異能は見事、喉から発される音の振動に乗っかっちゃったのである。

 人外としか言いようのない肺活量で、蓄えた空気を一度に吐き出し自分の声帯を震わせて、同時に喉で内側に向けて浸透勁を撃ったその結果。私の口を起点として破壊の音波がほとばしり、扇状の前方範囲全てが消し飛ぶ事に相成ったという訳だったのである。

 勿論、被害に遭われた深海棲艦の方々は範囲内に居た一部だけだ。しかし素晴らしいのはその殲滅率、数値にして脅威の100%。届いた数キロメートル圏内には、塵の一つも残らなかった。

「まさか本当にできるとは……」

 発案者の猫吊るしもこれには苦笑い。頭の上に戻って来ると被害状況を確認して、今度は辺りを見回した。

「うん、たぶん全体の1%くらいは削れたな…………今までの全部合計して」

 あ、そんな行ったんだ。意外。何せ見えてる光景がおかしいものだから、一時的にはともかく全体数が減ってる気がまったくしてなかったんだよね。これだけやって1%は色々とおかし過ぎて止めて頂きたいところではあるが、実はペースとしては悪くない。だってまだ戦い始めて10分経ってないからね。殲滅速度が変わらなければ1000分程度で終わってしまう。なんとたったの17時間弱で帰れる計算である。まあ数が減れば密度も減るだろうからもっと掛かるかもしれないけど、一日で終わる可能性が出てきたのは素直に有り難い。それくらいなら色々我慢も利くからね。

 とはいえそれは、これを続けられればという前提なのだが。

 む、と私に引っ付いた猫吊るしが呻る。一旦剥がれて中断した私の体調監視を再開したのだろう。いやあ、マジで分かるんだなぁ。私の状態がちょっと悪くなってるの。

「んん……? これ大丈夫か?」

「タ゛メ゛み゛た゛い゛て゛す゛ね゛」

 主に喉が痛い。出血とかはしてないけれど、正直転生してから一番痛い。

「八時間くらい一人でカラオケした後みたいな声になってんな……」

「な゛に゛そ゛の゛く゛た゛い゛て゛き゛な゛す゛う゛し゛」

 もしや実行した事がおあり? 今の猫吊るしは能力で喉使いこなして防ぎそうだし、前世でだろうか。

「うーん……怪我って言うような状態でもないけど、もう使わない方がいいなこれ」

 なんかスマン。猫吊るしはしょんぼりした顔で頭を下げた。いや別に謝るような事ではないんだけども。範囲攻撃としてはかなり強かった訳だしね。言っちゃえば自傷ダメージのある範囲攻撃。体にはともかく戦況的には悪い物ではない。

「の゛と゛あ゛め゛あ゛る゛?」

 普通のドロップならと取り出されたそれを宙に放ってもらい、後ろから果敢に飛んで来た17インチくらいの弾を避けつつ口でキャッチ。ラムネ味。お口に弾けるしゅわしゅわ感で意識もスッキリである。喉に良いかは不明。

 前方一部を薙ぎ倒されても後ろの敵は特に変わらず、私を狙って攻撃を続けている。一瞬だけ呆気にとられたのか砲撃が止んでいたので予想外ではあったらしいが、それでも攻めるの自体を止めるつもりは連中には一切無いらしかった。

 さっきのを見ても退く気を起こさないのはとても有難い。これで連発できる技だったら最高だったが、喉の調子的にちょっと無理か。今の状態でももう一回くらい使えそうではあるけれど、それじゃあ雀の涙だし。

「の゛と゛の゛タ゛メ゛ーシ゛は゛き゛そ゛う゛に゛か゛た゛か゛わ゛り゛さ゛れ゛な゛い゛の゛ね゛」

「小数点以下にも対応してますってプログラムに虚数ぶち込んでまともに動くわけないんだわ……」

 それでクレームになったから対応してくれとか言われたら担当者はキレていいと思う。なんて猫吊るしは妙な例えをした。まあ元々の仕様に無い事したらそりゃあそうか。吸収してくれたらギリギリまで使えたんだけどね、部位がピンポイントでダメージ受けてるだけで被害そのものは大きくないから何百発でも耐えてくれそうな感じだけど、できないものはできないから仕方ないね。

 飴を口内で転がしつつ、空いた穴を塞ぐように流れ始めた海水を蹴り、真後ろに向かって跳躍する。丁度最大船速で水中から飛び出して来た潜水鮫水鬼を背面飛びで躱しつつ、その背に伸びたリボンのようなものを引っ掴み、そいつを横薙ぎにぶん回す。同じく体当たりしようとしていた連中と潜水鮫水鬼の持った剣のようなパーツが激突して、それらを真横に両断する。ついでに潜水鮫水鬼は粉々になった。

「刃゛物゛た゛と゛あ゛ん゛ま゛り゛効゛率゛良゛く゛な゛い゛な゛」

「殴って散弾にした方がいいわな」

 逆立ち状態になったので腕で水面を捉え、そのままくるりと一回転。開いた二本の足で上下が泣き別れになった連中を蹴り飛ばす。弾かれたそれらは音速を超え、各々深海戦艦を貫通しながら水平線まで消えて行った。

「こ゛っ゛ち゛の゛方゛が゛よ゛っ゛ほ゛と゛速゛い゛っ゛て゛い゛う゛ね゛」

「どうして蹴っただけで貫通弾になるんですかね?」

 浸透勁表面に流すだろ? その衝撃が消える前に蹴り飛ばすだろ? そうすると障害物に当たった衝撃を浸透勁の威力が相殺して本体は無事っていう状態になるだろ? そういう訳だよ。

「どういう訳だよ」

「正直私に゛も゛分か゛ら゛ん゛」

 分からんけれども、やったらそうなったんだから仕方ない。使えるから使うけど詳しい原理は私の管轄外である。猫吊るしも分かんないならおそらく世界が終わるまで誰も分かんないだろう。

 貫通弾で開いた直線の内の一本に向かい、自分の体を腕の力で射出する。スライディングのような態勢で敵のど真ん中に滑り込んで、そこに居たタ級を蹴り上げる。次いで私も空中へと舞い上がった。

 上昇するタ級、追いつく私。横に並んでそいつを掴み、独楽のように回転を掛ける。そして超高速で回りつつ地球の重力に垂直に立ったそいつをもう一度蹴り、天の航空機群へと叩きつけた。ぶち当たった編隊が回転に弾かれ他の奴等を巻き込んで海へと落ちて行く。

「効率は゛良く゛ない゛な゛ぁ」

「ハリケーンミキサーみたいな……何?」

 いや海に叩きつけるよりは効果的かなって思ったんだけどね。普通に上に蹴り飛ばしたのとあんま変わんなそうだわ。

「結局、あ゛んま゛り奇を゛てら゛わな゛い方が早いの゛かね゛」

「…………なんかお前、喉治ってきてね?」

 言われてみれば、さっきより遥かに痛みが和らいでいる気がする。成程、さてはこの飴玉、ちゃんと給糧艦製だな?

「これ喉特効だった゛っぽい?」

「いや体力回復効果はあるだろうけども」

 普通の食料と同じじゃねーかなと猫吊るしはぼやく。成程、それはつまり。

「喉以外無事だから効果が喉に゛集中したと」

「効果出るの早すぎなんだよなぁ」

 肉食ったら刀傷でも治るんじゃね? と猫吊るしはぼやいた。冗談抜きで治りそうだから困る。もう一個食っとけと言われて口に放り投げられたので噛み砕いて甘さを一気に味わいつつ、大きく一歩を踏み込んで、その先に居た深海重巡水姫に肩口から背中の方を使っての体当たりを仕掛けてやった。形としては鉄山靠に近いが全然できてはいないと思う。まあそれでも、やられた相手は四散して巻き込み事故を起こしつつ海底へとその姿を消して行った。

 それを視ずに足下に浸透勁を二発撃ち、その場から大きく跳び退く。すると一瞬前まで私の立っていた場所から海が噴き出して、降下する爆撃機を抱えていた爆弾ごと空に向かって跳ね返した。ついでに水中に居た潜水艦達も空に放り出されて各々どっかに散らばって行く。私は粉々になった飴玉を唾液で喉へと流し込んだ。あーあー喉を震わせば、いつも通りの普通の声がすんなり素直に出てきてくれた。

「治ったな! ヨシ!」

「絶対お前が再生能力持ってるだけだと思うんですけど」

 名推理である。まあ普通に考えて飴舐めただけでこんな短時間に喉が修復されたりはしない訳で。再生力もきっちり強化されてたって事だろう。一応猫吊るしに診てもらったが全快にしか思えないらしいしこれなら大きな問題はないかな。

 お食事中のイ級と青葉さんの偵察機はどっちも範囲に入っておらず普通に無事。両者お仕事を続けている。青葉さんからどう見えてたのか気にならないでもないがそこは戦闘終わったら聞けばいい。ともかく、この二つは巻き込まないよう気を付けつつ、これを主軸に戦うのが最善かな。

 私は再度、大きく息を吸い始めた。

 

 

 

 殴り、蹴り、跳ね返し、掻き混ぜ、叫び、跳び、叩き付け、裂き、滑り、壊し、撥ね、撃ち、叫び、砕き、回し、打ち、刈り、崩し、叫び、潰し、絡め、巻き、振り、重ね、圧し、叫び、殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、叫び。

 そうして敵を千切って投げる。千切って投げて千切って投げて、千切って投げる。でも、敵さん全然減らないんだよなぁ。

 いや一応減ってはいる……はずなんだ。私の目にさっぱり変化が分からないだけで。まだ一時間ほどしか戦っていないので十パーセントも削れておらず、成果が見えないのは致し方ない所なんだろうけども、感情的には納得が行き辛い。さっさと全滅して♡

 深海棲艦は減った傍から補充される。あまりに数が多いせいで私を襲っているのに私が見えてすらいないというおかしな事になっているが、纏めて叩くのには丁度いい。埋まり切った所に範囲攻撃をぶちかまし、喉の修復の合間に他の部分をぶん殴る。喉の回復には大事を取って都合一分くらいは掛けるので、ペース的にはそこそこ程度。やっぱり数秒に一回使えるような技が欲しい所だけれど、流石にそんな都合の良い技はそうそう思い付かない訳でね。もし文月なら喉を傷めずに使えるのだろうか。いや文月は浸透勁できないから無理なんだけども。

 

 そういう訳で徐々に徐々に成果が出ているはずの戦いを隔靴掻痒の感を得ながら続けていたら、ある時。空からこちらを映していた青葉さんの水上機に、跳んだ私から逸れた流れ弾が向かって行く事態が発生した。それも一つや二つでなく、複数機から撃たれたたくさんの機銃の掃射がである。

 私が水上に居たならそっちには行かなかったんだろうけど、定期的な上の連中のお掃除をしてたのが仇になった。足さえ付いていれば対処も楽で、銃口が向いた時点で処理してしまえたのだろうけれども、空の上では難しい。っていうか私狙ってるはずなのに的確に300メートル以上離れてる水上機に飛んでくのやめてくだち!! 流石に範囲外なんですけお!!

 こうなると対処法は限られてくる。撃ち落とされるのを許容して下で水上機を回収するか、爆発物で弾を根こそぎ吹っ飛ばすか。一瞬にも満たない逡巡。私は後者を選択した。

 咄嗟の事に全力で撃ち出されてしまった魚雷をソフトタッチで蹴り飛ばす。私の魚雷は炸裂範囲内の物体を塵すら残さず吹き飛ばせる。範囲は狭く持続も非常に短いが、それは的確なタイミングで起爆すれば絶対の盾となり得るのだ。

 当然、私は狙いを外さない。数も一つで十分だ、命中する軌道の奴はほんの数発だけだったから。なので救出は確実に成功するし、絶対に青葉さんの水上機には傷一つ付かないのである。

 

 でも、何故だろう。

 

 私が――いや、チート能力さんが、とても、何かとても嫌な予感を、そこから感じ取ったのは。

 

 それは敵の攻撃からだろうか。いや、違う。それはただの機銃の弾丸である。

 それは味方のはずの水上機からだろうか。いや、違う。それは無双シーンを映していて戦後どうなるか不安ではあるがそれ自体は無害な偵察機である。

 それは落下する私を海上で待ち受ける姫や鬼からだろうか。いや、違う。それは拳の一振りで潰える儚い悪意である。

 それはだんだんと大きさを増しながら味方を食い荒らしているボスイ級からだろうか。いや、違う。それはむしろ捕食速度を増して深海棲艦殲滅に大いに貢献してくれている。

 

 

 では、それは、どこから感じる予感だったのか。

 答えは簡単。それは、私の放った魚雷からだった。

 

 

 目標に到達した魚雷が弾け、周囲の物体が消滅する。狙い過たず、偵察機に向かっていた弾丸も全てそれに巻き込まれた。

 一見いつも通りの、普通ではない小爆発。明らかに高すぎる適性値の齎した、バグのような、というかバグそのものだろう馬鹿げた挙動。

 違ったのは、普段一瞬で消え去るそれが、その場に残り続けた事だ。

 いや、正確にはそれも違う。爆発自体はやはり一瞬で消えている。あれは……なんだろう? そこには黒い何かが残っていた。

 嫌な予感は消えない。むしろ、それは一瞬ごとにいや増している。

 

 ――ア艦これ。

 

 などとチート能力さんが言い出す始末。とりあえず、私は地面に着いた足を全力で蹴って、偵察機を回収するため錨をできる限り素早く投擲した。

 その錨の軌道が、私の予測とズレていく。具体的には、その黒いナニかの方へと、ほんの少しだけ。

 錨が鎖に繋がっていて良かった。ちょっと引っ張れば調整が利く。ぐいと持った手で軽く引き、できる限り柔らかく偵察機を絡め取る。そしてそれを引き寄せながら、予感に従い私はその場を全速力で離脱した。

 

 予感が薄れ霧散したのと、それが始まるのは同時だった。安全な場所まで逃げ切ったのだと理解して、周囲から飛んでくる砲撃の嵐を紙一重で避け続けつつ、手元に落とした偵察機から妖精さんを救い出しておく。正直これから私の超機動に付き合わされるこの子が助かったのかは微妙だがそこは死ぬよりマシと我慢して頂くしかない。

 そして振り向いた目線の先の、魚雷が生んだ黒い何か。その何かの周りには何故か、敵航空機が集まって来ていた。

 否、集まっているのではない。それは明らかに、その黒い何かに吸い込まれていた。宙を舞っていた編隊が急速に速度を失い、もしくは急速に速度を上げ、同じようにその黒い場所へと次々に身を捧げているのだ。

 不可思議なのは明らかに黒いそれより多くの物体がそこに殺到しているというのに、その黒が見えなくならない事だろう。明らかな不自然。まるで元から何も無かったかのように、黒いものに触れた物体は何処かへと消え去っているように見えた。

 当然、それは航空機だけの話に留まらない。周囲に存在する空気もまた、全く同じ憂き目に遭っていた。

 黒い何かに向かうように、私の後ろから強い風が吹き出した。いや、逆か。これはそう、手前側の空気が消えたから、後ろ側の空気が仕方なく移動を始めたのだ。

 風は加速度的に強くなり、あっという間に暴風に変わった。予感の教えてくれた通り、ここなら体が飛ばされるほどの強さではないが……黒いもの近辺はそうは行かない。直下の海水と、そこを泳ぐ深海棲艦の群れが、すぐに宙へと浮き始めた。

 吸い込まれて行く。姫級も鬼級も下級も、魚型も人型も区別なく、その黒いのに喰らわれて行く。悲鳴は聞こえない。たぶん、それすらも一緒に飲まれて消えた。

 それは時間にしたら数秒程度の事だった。そのたった数秒の間に、黒いそれの周辺は一変していた。

 そこには何も無かった。空を飛んでいた飛行機も、海を行く船も、その船が浮いているはずの海すらも。空には太陽が輝いて、遠すぎた雲は呑気に流れていた。

 気付けば風も止んでいる。満足したかのように、黒いそれが食い尽くすのを止めたのだ。そしてそれは満足したが故か、そこに留まるのを止めて、ゆっくりゆっくり地へと向かって降りてくる。先ほどまでただただ黒かったそれが、少し光ったように見えた。

「撃て! 撃て吹雪!! アレを地殻に到達させるなァーーー!!!」

 はっとして猫吊るしが叫んだ。それが何であるのか私には理解できなかったが、猫吊るしには分かったのだろう。思考がその結論に到達する前に、私の連装砲は指示通りそれの中心を正確に打ち据えていた。

 私の貫通弾は膨大な適性値の産物だ。それはほぼ間違いなく仕様外の数値をぶち込まれた艤装が起こしたバグの結果であり、まともな物理法則を超越した何かだ。

 そして今回形作られた黒いもの。これもまた、バグから産まれ落ちた物である事は疑いようもない。

 辺り一面の物を飲み込んだそれと、超高速であらゆるものを貫通してくそれ。

 バグとバグとがぶつかり合った。

 結果。

 黒いそれは、私の連装砲から発射された貫通弾に耐えた。

 いや実際の所、耐えたという表現が正しいのかはだいぶ怪しい。私はそいつの中心に正確に撃ち込んだつもりだったが、当たった砲弾は右斜めに跳ね上がり、空の彼方へと消えて行った。完全に中心を捉えた軌道に見えていたのに、真っ直ぐに当たってはいなかったのだ。

 だが、貫通弾もただ跳ね返されただけでは終わらない。貫通こそしなかったものの、その威力を遺憾なく黒いそれへと伝えていたのである。砲弾と逆方向、海に向かって黒いそいつは弾き飛ばされた。

 その先にあったのはボス個体と思われるイ級の大口である。

「あ」 

「あ」

 私と猫吊るしの声が重なった。その砲弾は勢いのまま、私達の動体視力でなきゃ見逃しちゃう速度でイ級のお口にシュゥゥゥーッ! 超エキサイティン!! してしまったのだ。

 やっべえ。私と猫吊るしの心がシンクロしたのが言葉にしなくても分かった。あのイ級は倒すのを最後にしてくれと頼まれた個体である。それに謎の物体が高速貫通弾並の速度で思いっきり命中してしまったのだから最悪だ。食事を続け巨大化しているため急所に当たる可能性は普通より低いかもしれないが、よりによって口内に飛び込んでくれやがったので望み薄である。

 沈黙が下りる。嫌な汗がじんわりと染み出すのを感じた。

 イ級が動きを止める。私は飛んでくる砲弾を打ち落としながら食い入るようにそれを見つめた。一秒、或いは二秒、その程度の短い時間が流れた。

 

 ぼむん。

 

 そんなくぐもった爆音のようなものがイ級から発された。

 同時、通常のそれを遥かに上回っていた巨躯が、大体二倍くらいにまで膨らんだ。

「えっ」

「えっ」

 またしても私と猫吊るしの声が重なった。そりゃそうだ。どういうわけか私達が見つめていたそのボスイ級は、比率そのままに二倍拡大されていたのだから。

 今やイ級のおっきなお口は横幅50メートルをゆうに超え、体積に至っては2×2×2の8倍。流石にいつかの鯨よりはだいぶ小さいが、それでも下級深海棲艦としては間違いなく過去最大サイズの巨体となってしまっていた。

「どういうことなの……」

 イ級は巨大化の瞬間は動きを止めていたけれど、またすぐに仲間の捕食を再開した。そのペースはかつての倍以上、特に不具合も発生していないらしく、すくすく育ってくれそうである。

 困惑しながら一時殲滅を止め、弾をよけ突っ込んでくる奴だけ塵に還しながらイ級の事を見守っていたが、本当に只々大きくなっただけっぽい。これには猫吊るしも苦笑い。細かく高速移動を繰り返しているせいで既に目を回してしまった水上機乗りの妖精さんが哀れな呻きを上げていた。マジでごめん。

「猫吊るし、結局あの黒いのなんだったの?」

 艤装の中で苦しむ妖精さんが振り落とされないようにと艤装の奥に固定して戻って来た猫吊るしに質問を投げる。まだ手に持ってた水上機を折り畳んで仕舞いつつ、猫吊るしは予想だぞと前置きしつつ答えてくれた。

「あれは超圧縮されて超質量になっただけの金属と水と空気……だと思う。たぶん、高かったんだろうな。栄養価」

「栄養価」

 いやまあ、確かに深海棲艦食ってでっかくなってるあのイ級にとっちゃ完全栄養食みたいなもんなのかもしれないけれども。あの勢いの吸収できるとか消化力高すぎるだろなんなんだあのイ級。

「普通に消化してるんじゃなくて口に入れたのを自分の肉に変えるみたいな能力なんだろうな。たぶん、貫通弾直接撃っても食うぞあいつ」

「なにそれこわい」

 それが事実だとしたらアレに喰われたら私でも死ぬんですけど。いや普通は喰われたら死ぬんだからそれでいいのか。そもそも横から撃てばいいだけではあるんだけども。

「まああの黒い玉、周囲の重力が歪むレベルの圧縮率だったから丁度良かったわ」

「ブラックホールかな?」

 だから地殻に行かせるなとか言ったのか。確かにどんな悪さするか分かんないもんな。っていうか、もし破裂とかされてもそれはそれで不味かったんじゃないだろうか。

「なんでそんなのが生まれたの?」

「生んだのお前定期」

 そうなんだけども。今まで平気だったのになんで急に。午前中に穴掘った時は普通だったんだけどなぁ。違いがあるとしたら、普段通りに撃ったか咄嗟に全力で撃ったか、くらいのものなんだけど。

 いや、まあ…………うん。本当は心当たりが無い訳でもないけど、流石にそんなんなると思わないじゃん。だってあったとして1だよ? 数値的には。

「これ関係あると思う?」

 頭の後ろを軽く振る。風に乗り、ふわりふわりと海の色をした傷一つないリボンが踊った。

「ある方に花京院の魂を賭けるぜ」

「賭け不成立じゃないですかヤダー!」

 やっぱりあるよなぁ。効果雷装+1と装甲+1だもんなぁ。上がっちゃってたかぁ、魚雷の威力。

「この子、やっぱり世界の仕様外?」

「少なくとも俺は存在を知らなかったかな……」

 集合無意識から情報を集めてからこっちにやって来た猫吊るしが知らないリボン。風香、マジで何やったのあの子。いや何も糞もたぶん一個しか理由無いと思うんだけども。

「『力』使ったっぽい?」

「うむ。たぶん世界の構成設定に干渉して存在ぶち込んだと思われる。無意識で」

「怖」

 え、何その……何? 世界くん大丈夫? バグって滅んだりしない? お前のプレゼントで世界がヤバい。冗談抜きで。

 まあでもその辺りは流石に、いかなファッキンゴッドたる自称魔法使いでも完全に駄目なら修復くらいしてくれる……といいなぁ。一応楽しんではいるっぽいから変な終わらせ方は許容しないと思うんだけど……逆にそれはそれで面白いとか言い出しそうなのがほんと糞。

「まあ、上書きとかじゃなくて仕様の追加だろうからよっぽど変なやり方してない限り大丈夫なはず、だと思うぞ」

 たぶん没アイテムの領域に追加して出現フラグONにしたくらいじゃないかと猫吊るしは言う。まあプログラムって訳じゃないからイメージでしかないらしいが、それならまあ大丈夫、なのか? なんか別の所バグりそうな気がするんだが。

「だから能力上昇装備として世界全体に実装されてる可能性があるんだよな……現状製造条件分からんけど」

「まあ、普通に使えるならむしろ有難いか」

 +1でも上がって悪い事もあるまい。装甲も上がるから生存に繋がる可能性もあるし……っていうか、いやそれはそうなんだけど、そういう話なのこれ?

「威力上がってもああはならなくない?」

「それについてはマジでなんの根拠もない予測しかできないんだが……」

 聞く? と問われたので軽く頷きつつ、直近の深海竹棲姫の顔面を引っ掴んでぶん投げる。飛び掛かって来るんじゃあないよ。猫吊るしは私が促したのを見て、神妙な顔でその推測を語り出した。

「あれたぶん数値がオーバーフローしてマイナスになったから爆発が外じゃなくて内に向いた結果じゃないかなって」

「世界設定さん!?」

 私の適性値は530000である。

 対して、この世界本来の適性値限界は、例の少女の言った通りであるのならば、99999である。

 一応数値的には受け容れられていたが、これが許容範囲だったかどうかは正直かなり怪しい。もしかしたら、そこに1でも加えてしまえば溢れてしまうくらい、実はギリギリの数値だったのではないだろうか。

「詳しい計算式は分からんけど、どっかでおかしくなるんじゃないか。それで爆発じゃなくて吸引するようになると、そういう事だと思う」

 なんでも、最初に生まれた黒いのは通過しようとする光を吸い込んでたから黒く見えてただけで物体ではなかったらしい。そこに空気と水と深海棲艦がぎちぎちに詰め込まれた結果、ゆっくり落ちて来た時には黒い塊が産まれていたという訳だ。

「魚雷が撃ち分けられるなら、消滅弾の方投げつければ普通にあれも壊せると思うぞ。圧縮されてるせいでサイズは見たまんまだからな」

 逆に貫通弾は密度が高過ぎて貫通できないっぽい。との事。ついでに言うなら周囲の空間も若干歪んでるっぽいから真っ直ぐ撃っても中心に当たらないってのもあるかな。成程なぁ。

「つまりこれ範囲攻撃として使えるな?」

「まあ……お前なら処理失敗しないだろうし、私はいいと思う」

 輸送艦たる私の艤装には魚雷も結構積んである。でも魚雷くん、威力過剰で範囲狭いから今回はあんまり出番無いはずだったんだよね。でもそれがここに来て、突然存在意義が裏返った。

 これ、風香のおかげと言っていいんだろうか。声の攻撃と合わせて大幅な時間短縮になるから私の尊厳はほぼ確実に守られる。ありがとう風香。マジでありがとう。代わりに世界が危なくなってる可能性があるが、まあそこはなんとかなるだろう。たぶん。

「あ、そうだ、新しくできたのもイ級に食べさせればもっと殲滅捗るな?」

「狙ってできるならまあ、そうだな」

 栄養価たっぷりらしいそれで大きくしていけば食事スピードが向上してさらなる時短が見込めるだろう。流石に倍々に大きくなりはしないだろうけど、かなり成長速度は違うはずだ。

 でもそれ正確にできる? って顔を猫吊るしはしている。うん。たぶん弾く方向は操作できるから、やろうと思えばできると思う。私というかチート能力さんを舐めてはいけない。弾が曲がるなら曲がるなりの当て方をすればいいだけなのだ。

「やってみる?」

「絶対落とすなよ?」

 こっちを覗き込んで来た猫吊るしと視線が合う。別にできなさそうとか思ってる感じではなく、本当に何が起きるか分かんないから落とさないでほしいだけっぽい。でも、これ使って殲滅速度ぶち上げるの良いと思うんだよなぁ。吸引してくれるからもし相手が三々五々に逃げ出してもなんとかなるし。

 集中して、全力で魚雷を一本撃ち出す。それを宙で引っ掴んでみれば成程、そいつからは何か危険な気配を明確に感じる。それはつまり、この魚雷は私を害せる可能性が高いものだという事だ。やっぱり私、自分の能力で事故死する確率が一番高いんじゃなかろうか。ほんとあれだよね、私チートあるからって調子乗って破滅するタイプの転生者ムーブしてるよね。効率が良いからではあるんだけどさ。

 ともあれ、ネタが上がっているこの子はもう怖くはない。むしろ力を貸してくれる良き友人だ。後方に広がる艦載機の蓋と深海棲艦蔓延る海上のど真ん中へその魚雷を放り投げると、私は連装砲でそれを撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 わあでっかい。

 陰る夕日を背に育ち切ったイ級の巨体を眺めて出た感想がそれだった。

 時刻的にはそろそろ日暮れ、茜色に照らされた雲が澄んだ空で輝き、鉄屑一つ浮かばない海にただ二人、私と、超ド級を越えてなんかよく分からないサイズになったイ級だけがぷかぷかと浮かんでいた。

 大きさはとっくにいつかのクジラを越え、島、それも大きな都市一つが丸々収まるくらいにまでそいつは成長してしまっていた。ぶっちゃけ聴覚で何となく分かるだけで視覚だとまったく規模が分からない。

 いや、成長してしまったも糞も私が育てた訳なんだけどね? 進化した魚雷で深海棲艦を黒くて丸い魚の餌に変えてあげ続けた結果なんだけどね?

 正直、調子に乗ってあげすぎたかなって気もしなくもない。あの黒い玉、深海棲艦だけじゃなくて空気と海水も混ざってるから、深海棲艦だけ食べ続けさせた場合よりたぶん大きくなっちゃってるんだよね。いやあ、食べさせれば食べさせるほど育ってくれるもんだから途中から楽しくなってたよね。なんか本人も喜んで食べてくれてたし、餌のやりがいがあり過ぎたのが良くなかったわ。

 と言うのもだ、どうもこのイ級、私が餌をくれてるって途中から理解したみたいで、基本自分は海底で私の倒した連中の残骸喰い漁ってたんだよね。それで魚雷による収縮が始まったの察知したら自分から顔出して口開けて待ってるの。正直ちょっと可愛かったよね。サイズは可愛くないけど。

 でも呆れ返った後開き直って敵の密集率が高い場所を的確に教えてくれて最終的に自分もノリノリでイ級を育ててた猫吊るしも悪いと思うの。途中から戦闘じゃなくて効率的に餌作ってイ級育てる育成ゲーになってたからね。大声で喉壊しつつ砂に変えた連中も結局海中でイ級に直食いされてたのが色々酷い。

 最後の方なんて逃げようとした連中も嬉々としてイ級が喰いに行ってたからね。口開けたら浮いてる海水ごと飲み込まれるんじゃ飛べないあいつらにはどうしようもない。結局最後の一匹までイ級が全部平らげたのだった。

 

 そう、全部だ。

 私を狙ってきていた深海棲艦は、今さっき、イ級を除いた最後の一匹を、そのイ級が飲み込んだ事で全滅した。

 

 まあ、なんだ。楠木提督が全てを賭けて必死の思いで積み上げてようやく行われた、人類救済計画のための、この一大決戦。日本側は、そんな感じでシリアスさの欠片も無く最終局面まで進んでしまったのであった。

 

 

 

「いやー……夜が来る前に終わるとは思わなかったわ」

「そうだねあと一匹だね!」

 眼前の一頭のみになり、随分とスッキリしてしまった空と海を眺めつつ感慨に浸る。いや前方は超巨大イ級で塞がってるんだけれどもね。

 でっかい口のでっかい牙……は無いな、人間の歯みたいだから精々犬歯と言ったところだが、ともかくそれを剥いてイ級はこちらを睨んでいる。なんだよう、あんなに喜んで餌食べてたくせに用済みになったらポイするのかよう。まあこっちもするからお相子だけど。

 イ級は大口を開け海水ごと私を飲み込もうとしている。でも私はその場から全く動かない。相対的には。私は足下の海水が飲み込まれて行く速度と等速に後ろに滑る事でその場にとどまっているのである。

 ただ、私は動かないがイ級の方はゆっくり動いているので距離はだんだん詰まっている。どうやら大きくなったせいで加速がだいぶ悪くなってしまったようで、旋回はなんとかなってるもののなかなかこちらに到達しそうにはない。最高速はそこそこありそうな感じがするので普通に世界の脅威ではあると思う。実際波がかなり酷く、北海道に届いてないかちょっと心配だったりする。津波ではなく高波だから大丈夫だとは思うけども。

 なんでそんな奴を撃たずに眺めてるのかと言えば、理由はただ一つである。

「こいつ急所何処?」

「普通のイ級と同じ……じゃねーのかなぁ。そのまんま拡大しましたみたいな見た目してる癖に」

 いつかの鯨、太平洋深海棲姫と同じ大問題、弱点の位置が分からないという事態に直面していたのだ。

 一応ね、もう貫通弾で何発も撃ってるんだ。でもこいつ、蚊に刺された程度にも感じてないらしく何のリアクションも起こさなかったんだよね。ちゃんと普通のイ級なら死ぬ位置に撃ち込んでるはずなんだけどなぁ。

「もしかして中枢自体が巨大化してて貫通しても意味無いとかか?」

「直径が足りなさ過ぎる説、あると思います」

 だとしたらこいつ倒すの、大砲じゃ無理だわ。それに流石に大きすぎて浸透勁もほぼ無意味なんだよね。砂に変える技も重心にまで届かないんじゃ使いようがない。魚雷も使い切っちゃったからこいつ圧縮するのも無理だし。

 そうなったらもう、こいつを倒す方法なんて超単純なやり方しか思い浮かばない訳で。

「殴るか」

「うむ」

 猫吊るしもそれが良いと頷いた。結局、単純な圧倒的暴力にはそれを超える単純な圧倒的暴力が一番なのだ。

 

 殴り殺すと私達が決めた直後、イ級の方も突然方策を変えて来た。海水を呑むのを止め、大きな口をさらに大きく開きだしたのだ。巨大質量が天に向かって持ち上がり、烈風が吹き荒れる。そして露わになった大きな大きな口内から、これまた大きな大きな、大きな大きな大砲が姿を現した。

「なんだあのでっかいモノ……」

「あー、武装の比率もそのまんまなのか」

 それはイ級の主武装、5inch単装砲だった。ただその口径が、5インチを遥かに超越して50000インチくらいはあるように見えるんだけども。直径一キロ超えてるんですが……?

「猫吊るし、あれって撃てると思う?」

「まあ……撃てるんじゃね? じゃなきゃ出さないと思う」

 そうだよね。え? あれもしかして飛距離とかも大きさ比そのまんま? ウッソだろお前。

 待て待て待て、私の後ろ北海道あるんだけど? え? 届く? アレもしかして北海道まで届く? 壊滅するよ? その大きさの弾が普通に砲弾の速度で飛んでったら、衝撃で北海道壊滅するよ? 下手したら大陸まで届いて謎の大陸間弾道弾として伝説に残るよ? 間違っても個人殺すための兵器じゃないよそれ? 本当に最後に残しといて大丈夫だったのかこいつ? もしかして黒いの食べさせない方が良かった? あ、嫌な予感来た。マジか。これ私にダメージ入る奴?

 その衝撃波だけで海面が吹き飛ぶほどの轟音が鳴った。

 

「阿呆かァ!!」

 見えたのはやはり50000インチくらい有りそうな砲弾。推定その重さ、実に300億トン超え。

 それがしっかり私を狙い、海を引き裂きながらぶっ飛んで来る。

 私はそれを、揃えた腕でレシーブした。

 仕方なかったってやつだ。あんなバカでかいもの後方に逃すわけにはいかなかったんだから。

 空へぶっ飛んでいくでっかい砲弾。思ったよりも衝撃は来なかった。見れば私にぶち当たった箇所からひしゃげ、空中でぐちゃぐちゃにひん曲がって潰れて行く。どうやら超巨大砲弾くん、中身は空洞だったご様子。まあ流石に億トン越えとか飛ばせないわな。口径に大きさを合わせただけだったのだろう。

 

 いやそれでも数千トンはあったけどね???

 腕くっそ痛いんだけどどうしてくれんのこれ???

 

「艤装にダメージないんだけどお前衝撃全部殺したの?」

「今浸透勁になって海中疾走してるよ!!」

 当然ながら、レシーブしても当たった衝撃は消え去りはしない。だから私は仕方なく、腕から体に、体から足に衝撃を流し、そのほぼ全てを海中へと逃がしてやったのだ。衝撃が通ってはいるので痛いは痛いんだぞこれ、体と足はそこそこ大丈夫だけど直接ぶつけた腕はマジで痛いんだぞ。痛いだけで害とかないけど。ちなみに浸透勁にしたのはそうじゃなきゃ足下大爆発しててんやわんやになるからである。なおその衝撃がどこへ行くかは私も知らない。地殻にダメージ行ってたらごめんね。

 砲弾が通り過ぎる衝撃波で荒れに荒れた水面を滑りながら前を向けば、そこには未だ喉の奥から砲口を覗かせるイ級が居る。上空から落ちて来た砲弾だったものが頭に直撃してもこゆるぎもしやがらねえ。数千トンの質量でもあの巨体には誤差なのだろう。まあデカすぎるもんな、たぶん倒したら新しい島が誕生すると思われるんだがいいんだろうか。

 イ級からはかなりの低音で何かが動く音が響いている。何せ全長がキロメートル単位なものだから、私ほど耳が良くなくても聞こえるくらい、ただの稼働音もでっかいのである。

「あれ第二射あると思う?」

「そりゃお前、普通の単装砲っぽいしそれなりの連射はしてくるんじゃないか?」

 デカいから装填にちょっと時間かかるかもしれんけども、と猫吊るしは補足したがあんまり救いになってない。私なら弾き返せる事は分かったけど、あれが北海道や本州を狙い出すと不味いのだ。曲射されると足が付いてない状態で対応せざるをえなくなる。そうなると、たぶん私は打ち落とす度に何処かへ吹っ飛ばされてしまうだろう。

 そしてあの巨体だ、クジラの時のように何度も何度もぶん殴って削って行く戦法だと、間違いなく何度も何度も発射を許す。その内一発でも対応に失敗して、それが陸地へと飛んで行ったら本当に不味いのだ。思ったより重くはなかったけれど、それでも砲弾の速度で本物の駆逐艦がぶっ飛んで来てるような質量だからね。普通に陸地削れるわ。

 かと言って、大砲を先に壊すためにとあれの口の中に突っ込むのもよろしくない。あのイ級はなんかよく分からない特殊能力のような物を持っていて、飲み込んだものはなんでも消化してしまう。どう考えてもゲームの仕様再現するために付加された物なのだろうけど、性能的にはかなり酷い、あれにかかったらたぶん私でも死ぬ気がする。ついでに私の進化術式習得されたりするんだ。流石に妄想だけれど。

 満たさなきゃいけない条件は三つ。

 一つ、陸地を撃たせない。

 二つ、口の中に入らない。

 三つ、痛いのやだから私もこれ以上受けない。

 いや最後は別に満たさなくてもいいけどできれば満たしたい。まだ腕ちょっとだけ痛いし。別に動き鈍ったりしないけど、雪ちゃん痛いの嫌い。

 これらを満たす最善の方法、そんなもん有るのか、と言われると、ある。糞ほど単純で、それができるなら最初からやれとしか言いようのない方法が。

「よし、顔面ぶん殴って一発で殺ろう」

「急所の位置的に最善だわな」

 イ級の中枢機関がどこかと言うと、左右に付いた一対の目と目の中間、その少し上辺りだったりする。口の中に大砲を仕込んでるって構造上、その辺りしか空きが無かったんだろうなぁと思われるのだが詳細は不明だ。単に脳の位置ってだけかもしれないが、そのために実は後ろよりも前からの攻撃の方がこいつらには効きやすかったりする。今回の場合デカすぎるのでそこまですら浸透勁が届かないのが問題だったのだが、それならもう普通に殴って普通に威力をそこまで届かせりゃいいだろと。私はそう思いました。

 

 前方からクソデカ砲弾を装填する異音が耳の奥まで響いてくる。それはどうやら今にも終わるようだった。次弾発射まであと一秒かそこら。まあ、それだけあれば十分ではある。

 一旦全身の力を抜き、自分の魂の奥の方から放たれる何かを想像する。それは魔力とか霊力とか呼ばれる代物のはずで、私には認識できないものだ。確かにそこにあるはずなのに、相変わらず欠片の気配も感じない困った何か。でも今の状況を解決するためにはそれが必要なのだ。それも、できるだけいっぱい。

 

 ――力が欲しいか!!

 

 このチート能力さん、ノリノリである。あっあっあっなんかが熱くなってきた。これあれか消費が認識できないから代替で感じる例の熱さ。まだ答えたりもしてないんだけど逸り過ぎでは。全身を存在しない感覚が駆け巡って行く。腹を、脚を、指を、頭を、心臓を、何かがぐるりぐるりと跳ね回る。肉体のありとあらゆる部位にそれは注がれ、即座に消費され、一瞬ごとに全てがなんかつよくなって行く。

 

 ――力が欲しいのなら……

 

 別に、見た目に何か影響が出る訳ではない。チート能力さん的には人間サイズで見た目も人間の伊吹 雪ちゃんがそうである方が、『なんか』『つよい』気がするからだろう。有難い事に、どこまで行っても私は人類の域を出る事はないのだ。

 だがそれは、外見上だけの話である。これだけ大暴れして傷一つ無い奴の外皮が、内臓が、骨格が、筋肉が、ただの人間のそれと同じであろうはずがない。人ではない、と言われたら否定する要素の方が薄いだろうほどの、異形の身体能力。

 それに今、さらなる強靭さが加えられた。体に残った内のどれだけかは知らないけれど、明らかに過去最大の魔力が強化の術にくべられて、その火勢は最早天をも焼かんばかりである。

 

 ――くれてやる!!

 

 

 完成する。ぱーふぇくとゆきちゃん。

 

 強化率――なんかわかんない。

 最大出力――なんかすごい。

 心身への負荷――なんかない。

 持続時間――なんかみじかい。

 

 たぶんそんな感じの、ただの、理不尽(チート)

 私はただ思い切り水面を蹴った。

 

 きっと巨大イ級には何も見えていなかっただろう。只々突然、自分が海に叩きつけられたと感じたのではないだろうか。

 海を蹴り飛び立った私が向かったのは、口を開くために持ち上げられたイ級の鼻先だった。大きすぎて死角になっているであろうそこに、それとはまるで関係のない、速すぎるという理由で気付かれる事なく到達する。見失った、などと判断する暇すら、彼にはきっと無かったろう。

 私は跳躍の反動で振り上げられる足を、それに任せて高く掲げた。高く、高く、限界まで。真っ直ぐに伸びる洗練され過ぎた美脚。その芸術品と揶揄される神の被造物を、私は一息に振り下ろした。

 イ級の鼻先に私の踵がめり込んだ。儚い抵抗。そこに衝撃を叩き付けながら足をそのまま真下に振り抜く。真っ黒い巨体は一瞬たりとも堪える事ができず、頭を弾かれ、その上顎と下顎を強かにかち合わせた。歯が砕ける音が水平線に響き渡る。

 イ級の全身が、半分ほど海へと沈んだ。その反動で見た事が無い程の高い、高過ぎる波が噴き上がる。宙を落ちる私はそれに足を付け、艤装の機能で滑り出した。イ級に向かい、そのスロープとなった海を、真っ直ぐに。

 落ちる速度に暴力的な適性値の齎す、通常の六倍以上の航行速度が加算される。私はそのまま波に乗り、無理矢理口を閉じられて、上半身だけを海面に晒すイ級の眼前へ滑り込んだ。

 当たり前の話だけれど、地に足がついてた方がぶん殴るにも威力が出る。吹雪さん、やっぱり艤装は必要だったよ。

 体中、全ての力を集約する。足から、脚から、体幹から、胸から、首から、肩から、腕から、指から。ありとあらゆる筋肉を稼働させ、その力を無駄のないよう慎重に、拳の一点に纏め上げる。

 併せ、肺から空気を絞り出す。力を撃ち出すのに合わせ、体中の細胞が燃え上がるように。

 陽が落ちる。でも落日を迎えるのは私達じゃあない。それで始まる深海棲艦にとっての夜もいつかは明けてしまうのかもしれないけれど、ともかく、今日勝ったのは私達だ。国民の皆々様には、枕を高くして眠っていただく。

 肺から押し出された呼気が喉を震わせ、それが音へと変わって行く。変なあだ名で呼ばれたせいか、気付けば、私は自然に叫んでいた。

 

 

 

 SMAAAASH!!

 

 

 

 私は全ての力を込めて拳を解き放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったなぁ……」

「お疲れー」

 日が暮れると途端に寒くなって来る。私は真っ黒な地面に寝転びながら、シェイクされまくって気絶した水上機乗りの妖精さんを猫吊るしが介抱するのを眺めていた。いやもう、この子に関してはマジで謝るしかない。帰ったらなんか美味しいものでもご馳走しよう。丁度初雪から貰ったお菓子とかもあるし。

 作戦名『次の作戦』は無事、一人の怪我人も出すことなく終了した。私の放った最後の一撃は無事に超巨大イ級の中枢機関を打ち砕き、想定外に威力があったため尻尾の方までぐちゃぐちゃに押しつぶしてその体を完全な鉄屑へと変える事に成功したのだ。

 謎の捕食能力が継続してたら困った事になっていたんだけれど、流石にその辺りは死んだ瞬間消失した様子だった。顎や口に仕込まれていた大砲なんかも普通に吹き飛んで、海へと大波を引き起こしながら沈んで行くのを確認している。陸の方大丈夫かな……今更だけど……

 そうしてバラバラになったイ級の体はどんどん海底に積もって行き、最終的に海面にまで顔を出した。崩れたりしないのかと思ったがそれは結構ぎっちりと詰まっているのか頑丈で、押しつぶして平らに均したのが私がゴロゴロしている現在地になります。

 一応耳を付けて叩いて反射音を聞いてみたりもしたんだけどね、なんか滅茶苦茶安定してるんだよなぁこれ。縁起の良いものではないけれど、日本列島に新たな島が誕生した瞬間であった。国土が増えるよ!! やったね!

 

 さて、こうなったからにはもう私が今する事はなんにもない。まあ、ちょっと表面がギザギザした金属だから下手に上陸すると危ないここを整地しておいても良いかもしれないが、それより帰投して報告の方が優先すべき事柄だろう。でも今、私は軽い問題を抱えていて、あんまり動きたくなかったりするのだ。

「ねっむい……」

 欠伸が出る。長い時間、かつてない出力で戦った反動なのか、単にちょっと寝不足気味だったからなのか、私は今、死ぬほど眠かった。

 いや、元々私って睡眠欲には強くないんだよね。必要ならばっちり起きられるんだけど、それはそれとして割と眠くなりやすい。数日間ぶっ通しで戦えたかと言われると実はかなり怪しかったりする。まあ、その場合でも私は寝てその間だけ猫吊るしに体の操作代わってもらえばいい話なんだけど。回避に集中すれば効率は下がっても被弾はしないだろうから、きっと行ける。猫吊るしも寝る必要はあるから交互に寝る事になるかな、たぶん。

 閑話休題、ともかく私は今物凄く眠いのだ。動きたくない。寝てたい。ちょっと寝ていい? まだ戦ってると思ってるだろうし、ちょっとぐらい寝ても……バレへんか。

「まあ、迎えに来てもらうくらいならバチも当たらないと思うけどな」

 連絡は俺が入れとく、と猫吊るしが言ってくれたので、お言葉に甘える事にする。ああ、しかも艤装から毛布まで出してくれた。冷えるもんね、ありがとう。おやすみなさぃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹雪が戦闘を始めて数時間。帰投し、補給を終えた艦娘達は、事が動くのを焦れながら待ち続けていた。

 完全に無の表情で、あ、心配とかする必要無いと思いますよ。と実況を放棄しつつ周囲に伝えていた青葉が偵察機との接続が切れたと報告してからは情報の入りようがなく、鎮守府全体には重苦しい雰囲気が漂っていた。

 当然偵察機は出されたが、厚すぎる敵の層を抜けず、それらは撃たれ逃げ帰る事になっていた。艦娘本体などは近づけば即死だったろう。他ならぬ、宮里艦隊の吹雪を除いては。

 猫吊るしから通信が入ったのは、そんな折である。

 勝ったし殲滅した。吹雪の事を知らなければ、否、知っていたとしても到底信じられないその報告を聞き、楠木はすぐに指示を出した。吹雪は待機、こちらの出す部隊と合流し、他の艦娘と一緒に帰投せよと。

 一鳴きして、すぐに立候補したのは島風だった。同一艦隊でもあり、合流の速さを考えても妥当である。

 ただ当然、島風を一人で行かせるわけには行かない。そのため同行者として白羽の矢が立てられたのが、医官を兼ねる皐月だった。その場で診察が行えるため適任だったと言える。本人も諦めたように背負子を用意した島風の背に収まって行った。

 

 そうして操作する本人以外で初の慣性制御装置の体感者になりながら、本日艦娘の中で一番死にそうな表情をした皐月が辿り着いた黒い島で見た物は。

 誰も知らない海岸で、無駄に美しい顔を覗かせながら、小さな寝息を立てて眠りこける、呑気な人類最強の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹雪がイ級を叩き潰したのと同時刻、南極海の戦場で、楠木 多聞丸はそれを感じ取った。

「ふむ……ふむ……! 吹雪くんの方は、終わったようだね」

 通信機で全体にそれを伝えつつ、目を閉じ、深い感謝の念を込めて多聞丸は息を吐く。

 ありがとう。本当にありがとう。

 これで一つの区切りが付く。多聞丸の仕事がまだまだ終わる訳ではないが、計画に横たわっていた大きすぎる課題の一つが文句の付けようもない結果で片付いた事は、確かな歓喜をその胸に呼び起こした。

 同時に沸き立つ罪悪感を、今は奥歯で噛み殺す。そんな物に浸るのは、頑張ってくれた功労者たちに失礼だから。

 そうして次に目を開けて、飛び込んできたのは、まだまだ尽きる事の無い、深海棲艦の大群の姿だった。

「ウソダロ多聞丸!?」

「こっちまだ20%も終わってないんですけど!?」

「Хорошо」

「早スギンダロ……」

「予想終了時刻、我々と同時刻でしたよね?」

「何日前ノ予知ノ話ダソレ。最新版確認シテネーノカヨ!」

「弾尽キター次頂戴次―」

「リベー! 突っ込みすぎだよー!」

「私も負けてられないし! ゲザ! 次弾装填! はーやーくー!!」

「吹雪、撃チ漏ラシドレクライナンデスカ?」

「0だねえ」

「おかしいですよ楠木さん!」

「夕飯モッテキタヨー」

「チクショウメ! コッチアト何日カカルト思ッテンダ!」

「いえ吹雪さんこっちの事知らないですよね?」

「あっしばふ芋ですね! 丹陽これ大好きです!」

「我々」「吹雪ノ」「手伝イ」「シ」「テ」「ナイ」「ケド」「ヨク勝テタネ」

「あ、修復間に合わんから一回吸引切ってもらっていい?」

「エッ船ノ方大丈夫?」

「アッアッ流レ弾クライナラ百発ハ耐エマス」

「イヤジャアコッチデ引キ受ケルワネ」

「私もこの芋は何か惹きつけられる物を感じるんですよね……」

「そりゃ宗谷はそうよ」

「おーっほっほっほ!!」

「ああ、姉さんがあまりにも戦力外で自棄になって高笑いし始めた!」

「だから待ってろと言ったのに……」

「自分で吹雪と比較される可能性作ってたら世話ないよ……」

「ペース上ゲンゾオラァ! 吹雪ニ負ケテラレッカ!!」

「モウ勝負ツイテルカラ」

「リベッチオが死んだ!」

「この人でなし!」

『ごめーん、生き返らせてー』

「オ前、マジデソレドウヤッテンノ?」

「みんなー三十秒戻すよー」

「はーい」

「あ、お芋一口食べるから待って」

「駄目です」

 

 

 

 ゴトランドによる過去改変で三十秒、吹雪による討伐完了直後に戻されて、多聞丸は微妙な気持ちになったが、それはさておき。

 愉快な仲間達は騒いでいたが、実の所、こちらも別に進捗が悪い訳ではない。むしろ良い。時折吹雪側の状況を伝えていたのが良い刺激になったのだろう。あけっぴろげに対抗心を燃やす者もいたが、ほぼほぼただのポーズである。

 それはともかく、ちょっと思い付いたので、多聞丸は一つ、さらに波紋を投じてみる事にした。

「なんだったら、吹雪くんに援軍を頼むかね?」

 もう向こうは終わったし、北方棲姫の能力であれば出迎えも一瞬だ。やろうと思えば、できない事はない。

 返って来た答えは一色だった。

『絶対やだ!!』

 頼もし過ぎる連中は、自分達でしっかりやり切る責任感をも持っていた。吹雪に絶対負けないとの、自尊心もあるだろうけども。

 自分は本当に恵まれている。楠木は穏やかに微笑んだ。

 

 

 




一瞬、
青葉「奴は勝った!!(笑)」
にしようかと思ったのは内緒。それで説明できちゃうからね仕方ないね。


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1年以上後の話

 日本政府的には、全くこの現状はよろしくないのだろうな。宮里はある程度泊地としての機能を備える程度には整備され、一時的にであれば滞在する事が可能になった黒い島の上で、視線の先にある困った光景を半ば呆れた目で見つめていた。

「わたくしにお任せいただければ、百年以内にこの土地の価値を百倍以上にして見せましてよー!!」

 おーっほっほっほ!

 何故かお嬢様言葉で高笑いする金髪の美女と、どことなく楽しそうな雰囲気でそれと向かい合う、見慣れた青いリボンの美少女。

 美女の方は若くして大企業の社長を務め、複数の会社を束ねる会長のような立場も兼ねる女傑であり、その名声が既に日本の隅々にまで轟く超人である。何せアメリカを救ったとされる張本人だ。立場上、宮里は比べられる事がままあったが、勝てる所などほぼ無いだろうと自分では思っていた。

 美少女の方はここの地主である……ただ、年若いため管理は代理人に任せきりにしている。勿論こうしたいああしたいと言えばある程度通る立場ではあるし、義理としても話を通すのはおかしくないだろう。そもそも正直な事を言えば、不都合な事に、この二人はどういう訳か異様に相性が良いようだったし。

「まったく使い道とか思い付きませんし、なんならお譲りしますよー」

 ちょっと待て。宮里は胃が痛むのを感じた。流石にそれは絶対に良くない。ラインを大幅に超えている。この島が生まれてから一年以上は経っているが、そんな短期間で外国籍の人間に売却されていいはずがない。止めねばならぬ。と宮里は声を掛けようと一歩踏み出し、その喉が震わされる直前に、金髪美女の手刀が美少女の頭に炸裂――する寸前でするりとそれは躱されて、空を切った腕が謎の衝撃波を作り出し、黒鉄の地面を切り裂いた。ひぃっと宮里からは悲鳴が漏れた。

「おばか!!」

 すこしたたらを踏んだ美女は攻撃は当たらないと判断したのか、声でその行いを糾弾する事にしたようだった。余波だけで足下が切り裂かれているのはスルーして行く方向らしい。

「わたくしは、この土地を貸せと言っておりますの!! 気軽に譲渡契約を持ち出さないでくださいまし! 国際問題になりましてよ!!」

 貴女がここに本社建てたいとか言い出した時点で手遅れですよ。宮里は馬鹿と馬鹿が合わさって生まれる、特有の頭ゆるふわ空間を恐怖交じりの胡乱気な瞳で見つめる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 本日未明より、複数の艦娘保有国による合同作戦、オペレーション:サンライズが敢行された。

 日の出、と名付けられたこの作戦の目的は一つ。太平洋に残された、巨大変色海域の解放である。

 これを以て全世界の青海を取り戻し、人類の新たな夜明けとする。そんな題目を掲げ計画されたこの作戦には多くの国が参加し、『平和とは一つの国や人が築く物ではなく、多くの人間が協力して作り上げるものである』と知らしめようと、大きな力を入れて推進されていた。それが今日というこの日に、ついに発動を迎えたのである。

 深海棲艦を駆逐し、海に平和を。各国がその活動に協力したという実績を欲しがり、艦隊の規模は膨れ上がった。送られてくるのは最精鋭。どの国も本気で計画を推し進めていた。

 新秩序が敷かれるであろう今後の世界で発言力に影響する。その共通認識のもと水面下で様々な駆け引きが行われたが、幸いな事に、深海棲艦の駆逐についてだけは全ての国が意見を一つとしていた。そのため、少なくとも表面上は平穏に作戦は始まった。

 勇猛なる各国の代表艦娘達は大いに奮い立ち、集まった港から気炎万丈に出撃して行く。作戦の成功を疑う者は誰一人居らず、出発を見送るメディアの声もその雄姿を称えるものばかりであった。

 

 ――尤も、ネットワークの発達した昨今である。その目標は既に、一人の日本の少女によって大方達成されてしまったのだと、関係者並びに多くの民衆が知っていたのではあるが――

 

 

 

 

 

 実の所、出発地点に指定された港に到着した時点で宮里は嫌な予感がしていた。普段は欠片も緊張していないように見える最大戦力、その娘が明らかに気を散らしていたからである。表情には出ていなかったが、頭に乗せた妖精さんに何度か頭をはたかれて、なのに、そもそもそれに気付いていない有様だった。

 この作戦に参加した日本の艦娘は十二人。宮里――大和、長門、龍驤、加賀、青葉、川内、暁、夕雲、秋雲、文月、島風……そして吹雪である。全て宮里艦隊からの選出であるが、これは単に連携面を考えても同一艦隊で固めた方が問題が起こり辛いだろうという判断からだ。それと、直近で配置されていた場所が、出発地点と近かったから。

 そう、この作戦、日本という国はさほど力を入れていなかった。と言うと少し語弊がある。正確には、上の人間達はこう判断したのだ。

 

 吹雪面子に入れとけばそれで良くない?

 

 つまるところ、現状の艦娘というのは、現場レベルでもなければそういう評価だった。

 ただ、それが正しかったか間違っていたかと言えば、完全に正しい判断だったと言わざるを得ないだろう。

 何故ならば、吹雪以外の日本艦娘は今回の作戦、控えめに言って予備戦力に等しかったのだから。

 

 

 

 

 

 有体に言えば、一部の艦娘が強過ぎたのだと宮里は数時間前を思い返す。控えめに言えば予備戦力だったがはっきりと言えば無駄飯ぐらいだった自分達を恥じようにも、なんかもうそれ以前の問題であったと。

 

 艦載機の機銃が大型の姫級の装甲を貫き瞬間的に絶命させる米空母、エンタープライズ。

 一つの爆撃機から投下された複数の爆弾が、別々の深海棲艦の中枢を確実に破壊する米空母、ホーネット。

 辺り一帯を破壊し尽くす超火力を超高速でばらまき続ける伊駆逐艦、リベッチオ。

 手に持った王錫を振るえば撃ち放たれたレーザービームが戦艦駆逐艦を問わず塵へと返す英戦艦、ウォースパイト。

 手に持った聖剣を振るえば撃ち放たれたレーザービームが戦艦駆逐艦を問わず塵へと返す英空母(?)、アークロイヤル。

 艤装どころか全身を燃やし、炎の砲弾を延々空から降り注がせる露駆逐艦(?)、ヴェールヌイ。

 敵の残骸を操り、成形し、巨人と化して暴れ回る独駆逐艦(?)レーベレヒト・マース。

 そして拳の一振りで全てを粉砕する、我らが日本輸送艦(?)、吹雪。

 

 その八人の艦娘達が、圧倒的な【異能力】でもって、ほぼ全ての敵を殺し尽くしてしまった。自らの異常性を隠蔽する気の一切ない、暴走と言っても過言ではない、蹂躙劇。

 他の娘達だって見ていただけではない。索敵担当の夕雲は確実な成果を上げていたし、他の国の艦娘達も各員それぞれに与えられた仕事は完璧にこなしていた。宮里とて既に改二に至った戦艦の端くれ、自身も一部隊を壊滅まで追い込んだりはできていたし、それは他の、件の八人が所属している以外の国も同じだった。

 その上で、1000体以上は居たはずの姫・鬼級の九割は、おかし過ぎる戦力のそいつらに喰い尽くされてしまったのだ。

 何が酷いかと言えば、それで間違いなく、全員が自重はしなくても手加減はしていた事だろう。正面火力は吹雪さん一人で済む作戦ですよね? などと青葉が漏らしていたが、宮里も全くの同意見だった。

 

 分かっていたつもりだったが、実際に見ると本当に常識という物の正確性の無さには驚かされる。吹雪並の艦娘が本当に各国に存在するなどと、北海道を取り戻した頃の自分が言われても絶対に信じられなかっただろう。

 大きな活躍を見せたのは八人だったが、それ以外もおかしい事をやっている者は多く、海水を操り砲弾を受け止める潜水艦だの単装砲から霊魂を撃ち出して拡散ホーミングミサイルやりだす軽巡だの敵を宙に浮かせてまともな攻撃をさせない戦艦だのと、明らかに艤装と関係ない力を行使する者は多かった。

 だが、それに文句を言う人間も特には居なかった。それは戦力として大きいからだとか、海の上で誰も見ていないからだとか、そういう理由ではない。ただ単に、既に世界の常識は書き換えられていたからである。

 

 

 超能力者は実在する!!

 

 

 それはもう、地球全土を浸食してしまった、新たな世界観だった。

 宮里はその事を猫吊るしや吹雪に教えられて知っていた。自身には素養が無くある程度の疑いは持っていたが、秘書艦でもある長門がその力を扱えるようになったのもあり、そういう物なのだろうとは漠然と理解していたのだ。

 だが、その認識が世界全土に隠蔽もされず広められたのは流石に予想外だった。そしてその理由が、隠しようがない程にそういう人たちが無双していたから、だったのはもっと予想外だった。身体能力がおかしいだけの吹雪など、誤魔化すのは楽な部類だったのである。背中から生やした炎の翼で空を飛ぶなんて物理法則もへったくれも無い事を公衆の面前でやられたら、秘匿のしようなんてなかったのだ。

 なので、世界から最精鋭の艦娘を集めると超能力者集団になってしまうのは、なんかもう色々仕方のない事だったのである。

 

 そもそも、超能力者と言うのは深海棲艦の到達前から実在していた。宮里艦隊なら初春がそうであるし、米国にはその能力で犯罪行為を行う集団も存在していたという。なんともなれば、英国では魔法使い同士が少し前まで抗争を行っていたし、中国には仙人が実在しているらしい。

 ただ、肝心のその能力は非常に小さなもので、深海棲艦に太刀打ちできるような人間はほとんど存在していなかったという。昨今現れ、その全員が過去の艦の魂との感応能力を持っている彼女達は、そちらに詳しい専門家からしても異常な存在なのである。

 どうしてそんな存在が突然現れたのか? 過去には存在していなかったのか? その答えを知る者は居なかったが、その力が深海棲艦に通じるものであったことから、その正体について大きく支持を集めている仮説が一つあった。

 彼女達超能力者は、深海棲艦に対抗するために人類が生み出した、免疫細胞の一種ではないだろうか。

 あくまでただの仮説なのだが、この説は全世界的に注目を集め、実際に信じ込んでいる者も多かった。集合無意識の実在と深海棲艦の台頭と超能力者の活躍を結びつける者は、意外な程に多かったのである。

 そして実は、特に陰謀論者とかが好んで信じ込むだけの根拠が、一つあるのだ。それは宮里の目の前で馬鹿みたいな高笑いを上げて頭の悪い会話を繰り広げていた。

 

 

 

 

 

「初めまして宮里艦隊の皆々様!! 艦娘の作法に則って艦名で名乗らせていただきますが、わたくしの名前はヨークタウン!! アメリカ初の空母艦娘にして、同国の艤装建造の第一人者ですわー!!!」

 おーっほっほっほ!

 出発前、宮里艦隊の面々は米国の英雄達と対面するに当たり、英語での応答が必要になると覚悟を決めていた。一応、宮里を始め長門、龍驤、川内ら自衛隊組と、それに文月が会話までこなせるためそこまで問題にならないだろうとされていたが、それでも多少の緊張を持って邂逅に臨んだ彼女達にぶつけられたのは――非常に流暢で現地人並みの語彙力を持ち何故かお嬢様言葉な普通の日本語であった。

 ヨークタウンと名乗る金髪の美女は言った。自分は親日家を越えた親日家、むしろ心のふるさとは日本であると。いっそ帰化したい。国籍移したい。日本に住みたいと、そう言った。国際問題である。

 ヨークタウンは大金持ちである。それも現在進行形で資産が増えている、超大金持ちである。ついでに言えば自分でも言った通り艤装建造の第一人者で国家レベルの偉人である。いろんな意味で拠点を移すとなると大惨事なのだ。問題が多すぎてそもそも認められないだろう。きっとどちらの国からも。

 そんな冗談なのか本気なのかもよく分からないような発言に、答えたのは吹雪だった。

「WELCOME(ようこそ)」

 その発言は、何故かその場にいた米艦娘の半数に意味が通じた。通じてしまった。それ以来、どうも吹雪は気に入られてしまったのか、ヨークタウンに熱烈なラブコールを受けているのだった。

 

 

 

 

 

「ですので!! もし公務員をお辞めになる事があったなら是非ウチの門戸を叩いてくださいませ! お給料は弾みますわよ!!!」

「追い出されたりしたらお世話になります」

 今もいつの間にやら、話が土地の貸し借りから雇用についてに変わっていた。話術が凄いというよりは、完全にノリだけで話していたためとっ散らかり、あらぬところに着地しただけだったようだが、日本という国にとっては割と脅威である。

「うちの最大戦力を引き抜こうとするのは止めて頂けませんか……?」

 おそるおそると宮里は会話に割り込んだ。本当に、この美少女――吹雪に何かあると大問題に発展するのは確定的だったからだ。この島の事だって色々と面倒な事情が重なった結果なのだ。おかしな事態に積極的に持って行くのは本当に止めて頂きたい。

「大和さん! 貴女もですわー!! 我が社なら今の3倍のお給料はお約束できましてよ!」

 だというのに、肝心の金髪美女――ヨークタウンはこの調子である。宮里だって割と重要な立場な訳で、当然承諾する訳には行かないと彼女も分かっているだろうに。まあ尤も、これは別に吹雪や宮里に限った態度ではなく、秋雲や夕雲にも行っていた事であり、そうするのが彼女にとっては普通で当然なだけらしいのだが。

 そう、この女傑ときたら、優秀な艦娘全員――即ち、作戦に参加した全員に一度以上は勧誘を行っていたのである。人材収集癖、とでも言えばいいのだろうか。最初は冗談で言っているのかと思ったが、ヨークタウンの妹、ホーネットによれば全て本気であるらしい。非常に頭が痛そうな表情でため息交じりに教えてくれた。

 そしてこれが陰謀論者達の根拠の一つだった。実は彼女の会社には、超能力者であると言われている艦娘が大勢所属しているのである。その上、ヨークタウンは提督の能力まで兼ね備えていたりする。さらに言うのであれば、彼女の人材収集は、深海棲艦が襲来するより前から行われていた。何かを感じ取ってしまう人達が何かを感じ取ってしまうのは必然であった。

 彼らの主張はこうだ。

 ヨークタウンは集合無意識から何らかの知識の供与を受けており、それを独占する事で経済を牛耳っている! そして超能力者達の事も知り得て、戦力とするために搔き集めているに違いない! 他の秘密結社と結託して裏から世界を支配するつもりなのだ!

 宮里からしたら目の前のこの女性にそんな野望があるとはまるで思えないのだが、それとは関係なく世間にはそういうご意見の方が結構いらっしゃった。笑えない話であるが、当人は気にしていないようなので胃が痛いのは妹の方だろう。

 

 それにしても、と宮里は思う。吹雪のヨークタウンに対する態度は、少し変じゃないだろうか。

 吹雪は人見知りする。これは上官として過ごして来て間違いないと確信を得た事実だった。吹雪は基本的に、というか初雪のような例外を除き、交流の浅い年上に砕けた態度を取る事はまず無い。それどころか、慣れた相手に対しては駄々洩らしする感情も初対面の相手にはあまり見せる事はないのである。

 それがどうだろう、今朝ヨークタウンやホーネット、それにエンタープライズ等を相手にする時は初手からネタに走っていた……らしいのだ。宮里には分からなかったが、そういう返答だったらしいと秋雲は言っていた。何故か通じてしまった事に彼女も首を捻っていたが、それはともかく。

 これはかなりおかしい。吹雪に関して普通よりかなり知っている宮里の認識では、それは友人程度には心を許している相手にしかしない態度だった。初対面のはずのヨークタウンにそれをするのは、はっきり言えば異常事態なのである。

 もしや何らかの方法で事前に知り合っていたのではないか、と宮里は疑った。方法としては二通りが考えられる。普通に日本とアメリカの国交が回復した後にこっそりと接触したか、もしくは、そもそも海が赤に閉ざされる前から知り合いだったかである。

 前者なら問題はあるが、普通の事だと思える。吹雪の名は各国に轟いているし、接触を図ろうとする組織は多かったのだから、その中の一つが成功していたとしておかしくはないだろう。防諜に失敗しているという事なのであってはならない事態ではあるが。

 後者だとしたら、大問題である。最悪の場合、日本政府への義理よりヨークタウンへの義理の方が大きい可能性すら生まれてくる。

 ヨークタウンは以前から超能力者の収集を行っている。その情報源がどうなっているのか、識別方法は何なのか、その辺りは一切不明であるが、吹雪が対象になっていたというのは有り得ない話では全く無い。というかむしろ、別の国からも普通に引き抜いていたその勧誘の対象に吹雪がなっていなかった事の方が不自然なくらいなのである。

 吹雪の戦闘力は異能者の中でもとりわけ強力だ。それは同じ異能者へのインタビューで発覚した事実だった。実際どちらが強いのかというふざけた質問を受けた、イタリアの少女の返答はこうである。

 

『え? 戦う? 国ごと滅ぼされたいの?』

 

 そんな事もあり、日本は今、吹雪を失うわけにはいかないのだ。現在、吹雪は日本の立場を支える柱の一つとなってしまっているのだから。

 

 

 

 

 

 結論を言うのであれば、吹雪の偉業は流出し、世界中にその存在が認知され、彼女や奇跡の芋の技術を抱えた日本国の発言力は国際社会において無視できないものとなった。

 

 順を追って話そう。北海道沖での一大決戦が終わった後、日本全土はあっという間に変色海域から解放された。

 これはあの戦いの後、目に見えて深海棲艦の数が減ったのが主原因である。最悪の時期を乗り切った日本艦娘達にとって、主力をほぼ失った雑魚の集団など物の数ではなかったのだ。

 勿論、吹雪の成果に対し疑いを持つ者は上層部にも多かったが、深海棲艦の残骸で出来た真っ黒な金属島を見せられてしまえばまともな反論も浮かばない。出撃していた艦娘達からも目撃証言は相次ぎ、さらには映像も残っていたために、吹雪の成果は現実にあったものだと公式に認められてしまったのである。

 隠蔽しようという意見もあった。後々の火種になる事は間違いないし、これを公開するのは本人の人権の問題を鑑みても悪い影響が大きすぎるのではないかと懸念されたからだ。だが、残念な事に、議論が十分になされる前に映像が流出したためそんな事は言っていられなくなってしまったのだった。

 そうして吹雪はいろんな意味で大人物として祭り上げられるようになったのだ。尊敬、畏怖、憧憬、危惧、嫉妬……本人は様々な感情をさらに受けるようになってしまったが、統治の観点で言えば、吹雪はかなり役に立った。吹雪と大決戦の存在は、徴兵の必要性の大きな根拠となったのである。

 当時、政権の支持率は割と崖っぷちだった。必要だからと言って日本で下限12歳の少女の徴兵などを敢行すれば当然なのだが、吹雪の存在は追い詰められた彼らを突き落とす事は無く、むしろ少しだが陸地の方へと引き戻したのだ。徴兵、もとい召集を行わなかった場合、日本は壊滅していた。件の映像はその事実を完璧に映す資料でもあったのである。

 そうして国内の安定化を図りつつ、異常な発展を遂げ超農業大国と化していた北海道から多数の技術も吸い上げ、日本は海外へと手を伸ばして行った。その時も当然のように吹雪は最前線を駆け抜け、その異常性をまざまざと各国へと見せつけた。自重する気は全く無かった。何しろ人命が懸かっているのだから、本人も周囲も止めなかったのだ。止められるとしたらその国自身からの停止命令だったろうが、それすら出る事は無かったのである。

 これに関しては最初にアメリカ、中国、ロシア、イギリス、フランスと手を組めたのが大きかった。色々な問題はあったが、少なくとも常任理事国の承認を受け、国際連合由来の大義名分で動けたからである。不自然に承認は早かったが、おそらくはどこの国も変色海域が長く続くのは不利益しかないと判断したからだろうと言われている。

 それともう一つ、早さの原因だとされている噂があった。これはただの噂であり、証拠の得られた話ではない。だが、各所で出ているのだ。日本のある偉いお方が、多くの国の首脳陣に先に説明して回っていたという、不可思議な噂が。変色海域だったはずの海を抜け、希望を伝えに来たという、荒唐無稽な噂話が。

 閑話休題。そんな理由もあり、吹雪は今や世界的な有名人なのだ。飛び抜けた戦闘力に恵まれ過ぎた容姿、そしてジャパニーズHENTAIスキーな彼女は本当に、いろんな意味で有名人なのである。

 その吹雪に日本から脱出されると、確実にいろんな面で不味い事になってしまうのだ。深海棲艦との戦いは、正直に言えば今となっては吹雪抜きでもどうにかなる。問題は吹雪がそこ以外でも重要人物になってしまった事だ。超英雄である彼女が居なくなったらそれだけで政権不信に繋がり、国は荒れる。そして今の微妙な国際情勢では、少しの荒れが崩壊に繋がりかねない。付け入る隙に付け込み少しでも自国の利益を確保したい、そんな国で世界は溢れかえっているのだから。

 最早日本国に所属してくれているだけで利益になる。吹雪は今、そういう存在になっていたのである。

 

 

 

 そしてこれがまた、大きな問題なのであるが。

 実は、日本国は吹雪に対して行うべき事を、一つ、やり切れていない状態であったりする。

 それはかつての一大決戦の事後処理。

 即ち、吹雪の退じた姫級並びに鬼級に懸けられた、賞金の支払いである。

 

 実の所、本人がまともに数えていなかったために、その斃した数がはっきりとはしない。故に、その総額も考え方によって大きく変動するのだが、数字にするのであれば、それは最小で百兆円、最大で千兆円ほどとなる。急造故の不備か、はたまたわざとか、艦娘への報酬は上限等の設定が無かったのだ。

 当然ながら、それは支払おうとすればそれだけで大問題が生ずる金額である。隠ぺい意見もおおよそ、これが原因で発されていた部分があった。何しろ映像で確認できるだけでも何処かが傾きかねない数だ。特殊事例としてある程度の額で済ませてしまおうというのは、全く以て自然な提起だった。

 何より、吹雪自身もそうなるのを望んでいた。そもそも普段から貰っている給料で何の不満もない吹雪にとっては、国に影響が出る報酬などまったく有り難くない物だったのである。

 当事者も国もそう望んでいたため、本来ならさしたる問題にもならずこの話は収束するはずだった。後々国民に説明は要るだろうが、規模を隠蔽してしまえば誤魔化しもかなり効く筈だったのだ。だがしかし、その議論に結論が出る前に、証拠映像そのものがネットの海に流出し、戦いは人々の知る所となってしまった。

 そう、吹雪への報酬の支払いが真っ当に行われる事になってしまったのは、只々、それが民意だったからである。

 そもそも召集については賛否両論ではあるが、賛成意見であっても『他にしようがないから』『対案がないから』『良い事だとは思わないが』などの枕詞が付いている。そんな状態で最低限の保障として約束されているはずの報酬すら未払いとなればどうなるか、末路はもちろんお分かりですね? 国家が未成年をこんなウラ技で騙し、人権を破壊したからです! 覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。国民投票も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい! 貴方は犯罪者です! 刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい! いいですね!

 こう言われて、困ったのは政権である。吹雪は自分達の支持率を守ると同時に完全に崩壊をもさせる、アキレス腱となってしまったのだ。

 というか、マジで払わされると困るのお前ら国民なんだけどいいの? と言いたくなった高官たちは考えた。考えに考え抜いた。そうして本人との話し合いも交え、どこぞの楠木からの助言等もあり出た結論は、現物支給と免税であった。

 つまり、吹雪は与えられたのである。向こう数万年、一切税金を請求されない、新たに出来たばかりの真っ黒な大地を。

 これには吹雪を日本から脱出させないように持ち出せないものを持たせておきたいという思惑も絡んでいたのだが、それはともかく、これを打診された吹雪はその時こう答えている。

『あー……まあ私みたいなのが管理しておいた方がいいのかもしれないですね。呪われてそうですし』

 オカルト事案が実在するこの世界においてはなんとも洒落にならないコメントであった。

 また、この黒い島が棲艦島と名付けられたのもこの頃である。深海棲艦の残骸で出来ている事と、所有するならその内艦娘である自分が棲むかもしれないからと吹雪が短絡的に名付けたと言われている。

 

 余談であるが、この時、土地以外の報酬も直接的な金銭以外の方法で支払われていたりする。その中の一つには、吹雪自身が出した要求もあった。

 その内容は、日本のサブカルチャー……所謂オタク文化の支援と保護である。そしてその一環として、吹雪はかつて制作されなかった、一部のアニメの続編の制作を打診した。

 

 めだかボックス球磨川事件編、テレビアニメ鋭意制作中!

 

 まあそんなこともあり、吹雪は手を出せば洒落では済まない存在と化しているのである。故に、ヨークタウンの行動は大問題なのだ。

 土地の移譲もよろしくない。その意思があると思われただけでかなり上は荒れるだろう。離反の意思有りと見られたっておかしくない。英雄を繋ぎ留められなかったなどと思われれば国民感情の悪化は目に見えているのだから、神経質になりがちなのだ。

 尤も、宮里から見たら、日本政府の懸念は杞憂も良い所である。吹雪は根本的に、愛国者なのだ。

 と言えれば少しは格好が付いたのかもしれないが、実態はかなり違う。

 吹雪は、外国の言葉が一切分からないし、学ぶ気も無いし、一朝一夕で自然に身に着けられるほど頭がよろしくないのだ。

 ぶっちゃけ、アニメや漫画、ゲーム文化を潰そうなどと考えない限り彼女はまず日本を離れようなどとは考えすらしないだろう。何せ人命が懸かっているからこそ海外遠征も許容したが、外国へ出向くの自体はむしろ少し嫌そうなくらいだったのだから。言葉の壁というのは分厚いのである。

 というか、何故自分がお目付け役みたいになっているのか。立場的に仕方ない部分はあるのだが、政治にはまるで詳しくないのだけれど。無言の妹に後頭部をどつかれて昏倒し引き摺られて行くヨークタウンを見つめながら、宮里は密かに溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 吹雪周りで問題が起こらないよう監視しながら休憩していた宮里は、やはり異能持ち同士の仲が少し良すぎるような気がしていた。格闘と剣術で模擬戦して辺りを吹き飛ばしそうになりホーネットによって投擲されたスチール缶で両者撃沈された吹雪とアークロイヤルを驚愕の瞳で見つめながらの感想である。どうやらホーネットはツッコミ役に無事就任したらしい。吹雪に当てた……!? と自身の評価が急激な高騰を見せているのに気付いた様子はない。

 この島に寄ったのは多くの艦娘が行ってみたいと言い、航路的にも離れていなかったのが理由である。おそらく各国とも情報が得られるようなら抜いて来いと言い含めてあったものと考えられるのだがそれはともかく。

 到着した途端にお金の匂いがしますわー!! と吹雪との商談に入ったヨークタウンは元より、島ごと動かせそうだけどやってみていいかと聞きに来たレーベレヒト・マース、穢れが溜まり過ぎててイギリスと同じようなの湧くわよと忠告に来たウォースパイトなどに対しても吹雪は初めから感情を隠す気がないようだった。ちなみに全員とてもネイティブな日本語を嗜まれていらっしゃった。違和感しかない。

 文月が周囲に乞われてライブパフォーマンスを始めれば異能力を持った娘達は全員それにノリノリで参加していたし、多くが秋雲の描いたイラストに興味を示していた。中には吹雪に直接あのアニメの続き見たいから打診しといてくれと頼んでいる娘まで見られる始末。いくらなんでも趣味が合い過ぎである。違和感しかない。

 また、吹雪以外の別の国同士の艦娘も何かやたらと親し気で、普通の友人のように話をする娘も居れば、持ってくるの忘れたから次会った時に返すわなどと何かの貸し借りについて語り合う連中まで居た。しかもなんでか完璧な日本語で。いつの間に共通語に就任したのだろうか。違和感しかない。

 そして、その彼女達は、全員が美人であった。複数を並べた場合その圧倒的な存在感と輝きを前に、平凡な日本人女性である宮里などは近くに居るという事実さえ掻き消されてしまう程に、そいつらは神の造りたもうた芸術品のごとく、美人であった。なんで強さと美しさ両立してるんですかねこの人たち。違和感しかない。

 総じて強力な異能を持った艦娘達は、超美人であり、吹雪と似たような趣味を持ち、日本語を自在に操り、互いに何らかの親近感のような物を抱き合っているという、不審極まる存在だったのである。宮里の目には知り合いを通り越して友人関係としか映らなかったのだが、それは普通に考えたら有り得ない事である。どう報告した物かと考えすぎて、そろそろ頭が痛くなってきた。

 もしかして日本にとてつもなく有利な環境が知らず構築されているのではないかと宮里は思い至ったが、どうしてそうなったのかは全く予想が立てられない。できれば吹雪に沙汰が及ぶような報告は上げたくないのだが、意味不明すぎて見たままの証言をする以外にどうしようもなさそうだった。

 

「宮里提督」

 腰の下部まで届く長い黒髪の少女が話しかけて来たのは、そろそろ棲艦島を発ち出発した港へ戻ろうかという頃合いだった。背中に同じくらいの長さの白髪の美少女を背負っており、どうにも気に入られてしまったようだというのが見て取れる。

 少女の背丈は小学生の高学年か、下手をすれば中学年程度しかない。これは背負われた白い少女も同じだが、どちらも外見相応の年齢という訳ではなかった。改二の副作用でこうなってしまっただけで、本来はどちらも成人女性なのである――と宮里は思っていたが、白い方に関しては成人しているのは本当だが、元々身長はこんなもんであった。

「どうかしましたか、教官長?」

 教官長、暁。改二になってからあっという間に縮んだその自衛隊員は、心底困った様子で宮里に助けを求めてやって来た。

「あの、私、何故か他国の艦娘の皆からすっっっごく誉めそやされるんですけど……」

 なんでですかね? と暁は本気で理解できていなさそうな困惑顔を見せて来た。背の美少女、ロシア所属のヴェールヌイがかわーいなやと呟いた。

 そもそも暁は今回の作戦、まったく活躍していなかった。暁は非常に高い技量を持っているが、その能力は敵が端から溶けて行くような異常な戦場ではまったく発揮されなかったのだ。そのため本人の視点だと、後ろで不測の事態に備えていたら滅茶苦茶褒められたという訳の分からない事態に陥っていたのである。

「この子はまあ、わかる……のです。同型艦の改装した姿だからか、私もなんとなく接しやすいですし」

 でもそれ以外に関しては全く分からない。暁はどういう訳か、謎の美少女超能力者軍団やそれ以外の普通の精鋭艦娘からもやたらとその能力について賞賛されてしまったのである。直近ではそんなに大活躍をするような事件そのものが無かったのにもかかわらず。

 褒められるのが嫌な訳ではないが、理由もなく褒められるのは心地が悪い。何らかの誤解があるなら問題が起こらないうちに訂正しておく必要もある。だからとりあえず、提督であり知り得る事が普通よりは多い宮里に心当たりがないか聞きに来たという次第だった。

 そして宮里は、その理由に大体見当がついた。

 宮里は黒い浜辺で島風や文月、リベッチオ、丹陽、エンタープライズらと一緒になって連装砲ちゃんに構い倒している吹雪に、微妙な表情で目をやった。

 つられて暁もそっちを見た。それで彼女は大体の事情を察してしまった。

「先週、文月の配信でゲストに出た吹雪と一緒に、図解まで付けて大げさなくらいに褒めていたので、その影響……ですかね」

「良い配信だったよ。日本の広報は恵まれているね」

 暁は無言でヴェールヌイを降ろし、吹雪と文月に抗議の鉄槌を下さんと駆け出した。

 

 

 




今までも酷かったですがここからは別ベクトルで酷くなります。
いつも通り作者は楽しいので止められない止まらない。


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10年以上後の話

 化野 水連は上機嫌で街を往く。行きずりの友人たちと談義が弾み、たいそう楽しい時間を過ごせたが故、まだまだ人通りの多い駅前を軽い足取りで、ほんの少しだけ急ぎながら。

 もうそろそろ日も陰ろうかという頃合いで、予定していた帰宅時刻を大幅に過ぎるだろう事は間違いなかったが、本日は父母共に用事があるとかないとかで出払っている。遅くなると言っていたので怒られる以前にまずバレない。そも遅くなると言っても電車に揺られて夕飯まで食べて帰った所で深夜になったりするほどでもなし、今夜の推しの配信にだってきっと間に合うくらいだった。

 向かいくる人波を華麗に躱し、思い返すのは数時間前。本日晴天の下で行われた観艦式の様子である。遠くに浮かぶ勇壮な海上艦と空をも征する最新鋭の飛行艦、そしてなにより波間で列を成して進む優美で可憐で秀麗な艦娘達の姿。ああ、今思い返しても全てが素敵な時間だった、と水連は一人顔をほころばせた。

 数十年前から定期的に開かれるこの観艦式という催しは、艦娘オタク達にとっては年一番の重大イベントだ。艦娘を含めた日本の国防組織によって執り行われるこの行事は、普段は見られない艦艇や艦娘達が並んでその姿を露わにする数少ない機会なのである。基本的に艦娘達は礼砲を撃ったり並んでの行進と航行する様を見せるだけなのだが、人によってはファンサービスまでしてくれるとあって、観覧者達は毎年かなりの熱狂ぶりを世界中に晒していた。

 勿論、全ての艦娘が鎮守府を離れるという訳にも行かないため参加する人数は限られるのだが、それでも滅多にメディアに顔を出さない娘も生で見られる数少ないチャンスである。その高名故に毎回確実に参加させられている娘も居るが、元々供給の多い彼女等よりも少しマイナー寄りの艦娘が好きだという人間にとっては絶対に外せないお祭りなのであった。

 そして水連もそんなオタクの一人である。事前に発表された参加艦娘の中に一番大好きなその人が居たものだから、取るものも取りあえず母に行かせてくれと頼み込んだのは記憶に新しい。たまたまその日に用事のあった二親は難色を示したが、水連も今年から中学に通っている身、もう子供ではないと子供らしい我儘を言って、最新セキュリティ搭載の端末をフル稼働させる事を条件にお許しを勝ち取ったのだった。

 そうして迎えた当日の今日、港に集まった見物客にもみくちゃにされながらもちゃんと見やすい位置をキープした水連は、しっかりと推しを目にも写真にも納める事に成功したのである。併せて行われたパレードや楽隊の演奏も素晴らしく、お年玉を引っ張り出してお小遣いも前借して来た甲斐があったと日中は感激し通しであった。その場で知り合った同じ趣味の人々と歓談に励む事になって帰りが遅くなったのは、それ故の当然の成り行きというか、どうしたって仕方のない事だったのだ。

 

 そうして上機嫌に駅へと到着した水連だったが、入り口手前で自分の携帯端末に潜むAIに確認したところ、乗るべき電車は今しがた発進したばかりだと告げられてしまった。見れば家の方角に向かって最近新型になったとかいう十両編成の後ろ姿が音もなく遠ざかっていく。次が来るのは二十分後。何をするにも中途半端な時間であった。

 今日の観艦式を語り合う場がネット上にもある訳で、大人しくそこに出入りして時間を潰しても良かったのだが、生憎浮かれ切った自覚のある水連にその選択肢は取れなかった。最悪没入しすぎて電車を逃す危険があったからだ。

 ならばとびきり甘い珈琲でもテイクアウトできる店はないかと辺りをちょっと見回せば、そこにあったのはカフェではなく、今どきとても珍しい、紙媒体を取り扱った書店である。欲しければ通販で済む上に電子媒体に圧し潰されてほぼ見られなくなっているのだが、駅前だからかしぶとく生き残っているらしかった。

 興味を引かれふらりと入店してみれば、その並びは図書館のごとくである。右を見ても左を見ても本の山。オタク気質のありすぎる水連はその中でも漫画のコーナーに惹きつけられ、その新刊コーナーで、それを見つけたのだった。

 新装版『あきぐもえにっき』第一巻

 かつて深海棲艦に海を支配されていた短い時代の少し後から始まって、今も時折更新されるWeb漫画。当時から現役で働き続ける艦娘によって記され、一部は歴史資料として教科書にすら載るそれ。それを纏めて書籍化したものにちょっとおまけのページが追加されただけの、マストなコレクターアイテムだった。

 実の所、これの旧版であれば家にある。水連は何度も何度も読み返したし、当時から今に至るまでかなり滅茶苦茶かつほぼ誇張の無い(作者の実力がかなり抑えめに描かれてる以外)事実であるらしいその漫画は今でも私的ランキングTOP5に入る。ただそれは母の所有物であって、水連自身は一冊も持っていないものだった。

 そういえば出るという広告を何度も目にした記憶はあるなと一冊手に取り、眺め、手触りを確かめ、書き下ろしの表紙を見返し、踵を返し、気付けば会計へと足を運んでいた。

 

 耐衝撃のリュックに本を詰め、水連は書店を後にした。足取りは先ほどまでよりさらに軽い。これは新品だが、古書店巡りが趣味だという友人の言葉が少しだけ分かった気がした。

 時間も丁度いい具合になったのでこのまま駅へとなだれ込もうと歩道を蹴る。表はそろそろ日も沈む頃で、暗くなった通りを街灯が明るく照らし出していた。それでも人波が衰えそうな雰囲気はなく、むしろ増えているのではないだろうかというぐらいごった返している。みんなお家に帰るのだろう。水連もその一人として群衆に混ざり込んだ。

 ふと、その人波の中に、見慣れた顔を見た気がした。はっとしてそちらに目を向ければ、その影は大通りを逸れ路地へと入って行く。その横顔は明らかに、仕事関係の用事があると先に出かけた、若作りした母のものだった。

 生来の運動神経の良さで反射的に後を追えば、母と思しき影は丁度何かの建物に吸い込まれるように消えて行く所だった。少し慎重な気持ちで木枠の入り口を見れば、そこにはOPENの掛札が主張弱めに下がっている。外見上はどうやら個人経営の喫茶店かなにかのように見えた。きっと周辺の住民向けの店なのだろう、ただ横を通り過ぎたら存在に気付かないのではと思わされるほど、その建物は自然にそこに建っていた。

 成程、と水連の中学生脳は母が何かしらの密会にここを選択したのではないかと直感した。普段より少し念入りに化粧をしていた気がするし、知らなきゃここを見つけるのも難しそうだし、今日は人に会うって言ってたし。

 浮気……ではないだろう。滅茶苦茶堂々としてたし、何らかの事件の参考人にでも会うのかもしれない。水連のお母さんは現役の警察官、その中でも刑事とか呼ばれる人種なのだ。その割には楽しそうにしていた気がするが、元々かなりノリの良いひとであるため誤差の可能性が否めない。

 ただ、水連には気がかりな事が一つあった。それはこの喫茶店に漂う、不自然な気配についてである。常人ならば分からない。それはある種の魔力の気配だった。

 化野 水連、中学生。見鬼の才に恵まれた、一般艦娘オタクである。

 

 十字に四等分された窓からこっそり中を覗き見れば、明らかに母なその人は奥の方の席に普通に着き、こちらに背を向けなにやらメニューを眺めている。幸い窓の方を見る素振りは無く、こちらに気付かれる事は無さそうだった。人に見られたら水連の方が不審者であるが、おそらく大通りの方からは気にもされないだろう。そういう認識を阻害する力が働いている。ように思われる。

 不審な店ではある。人払いの結界的なものが実在しているのは知っているし、実際に見た事も何度かあるが、喫茶店にそれを張る意味がよく分からない。密会専用なんて割には場所も駅前だし、なんだかちぐはぐな印象だった。中には店員さんが一人と数人のお客さん。母はすぐに席に着いていたし、普通に入れるっぽい感じではある。知っていれば普通に認識できるとか、そういった類であろうか。

 水連は少し悩んだ。母に水連ほどの霊能は無い。棲艦島の巫女さんからラブコールを受ける水連が特殊なだけでオールドタイプの中じゃ分かる方だとは言っていたが、新世代の霊感持ちに比べて霊的防御力はあんまり高くないはずなのだ。たぶん大丈夫な気はするけども、これで母が帰って来なかったなどとなれば一生モノの後悔になる。そう思うとこのまま放っておいて帰るのもなんだか心地が悪かったのである。

 ヨシと一大の決心をして、水連は慎重に木の扉を開け放った。母に見つかる危険性はあったがそれならそれで問題ない。ちょっと話して大丈夫そうなら安心して帰ればいいのである。でも、できれば、なるべくなら、後ろからこっそり見張りたい。そう思っての行動だった。

 実際の所、仕事柄荒事になり易いという母が心霊への備えをしていないはずがなかったし、水連もそれに気付いていた。なのにわざわざ踏み込んで行ったのは、結局の所、母の普段見せない仕事中の顔を見てみたい、そんな好奇心の賜物であった。その比率、実に七割。三割くらいは本気で心配しているので許してほしいと水連は内心独り言ちた。

 

 拍子抜けな事に、水連はあっさりと母の背後を取る事に成功した。さり気なさを装って近くの席に座ったのだが、そもそもこっちを見ていなかったのである。どうやら入店直後に家族用のメッセージアプリに送った漫画購入報告に気を取られてくれたらしかった。

 そのまま十五分ほど、水連はちょっとした緊張感を味わいながら母の動きを待つ事になった。小声と指差しで注文したオススメ品と書かれていたいなりずしを頬張りつつじっと横目に観察してみるが、母は優雅に珈琲をすするばかりで特に何をするでもない。もしや結構長い事待つつもりなのだろうかとカモフラージュに広げた漫画のページをめくっていると、入り口が小さな音を立て、新たな客がご来店になった。

 その娘は水連とそう変わらない年頃のような気がした。気がしたというのは、黒い帽子を目深に被り、黒いゴーグルのような厳ついサングラスを掛けていて顔がよく分からなかったためである。多少水をはじきそうな服で腕も脚も覆われて、前面に幾つもポケットの付いたベストも着込んでいるため体型もよく分からない。その背には何か長いものが入っていそうな大きなバッグを背負っていて、その一番上には妖精さんが引っ掛かっていた。

 そいつはあからさまに釣り人だった。きっと海が近いため帰りに寄ったのだろう。妖精さんは普通の人には見えないため、置いた時にでも引っ掛けてそのままなのだと推測される。本人は諦めたように力なくぶら下がっていた。

 たまにあるんだよなぁと水連は苦笑い混じりの溜息を溢した。提督の数は少ないため誰にも気づいてもらえなかったのだろう。艦娘関連の施設の近くでないとあんまり居ないのだけれど、母の鞄に入り込んでた事もあるし、海釣りなら普通にあり得る事なのだろうと思われた。

 アレが待ち合わせの相手って事は無いよなぁと思いつつ、漫画に目を戻しどうやって妖精さんを助け出すか頭の中で算段を付ける。普通に提督適性持ちだと言えばわかってくれるとは思うけれども……などと考えている間に、件の人物はどんどん水連の方へと近づいてきた。

 不審に思い少し目線を上げてみれば、その娘はそのまま前を通り過ぎ、一番奥の母の方へと近づいて行く。そしてその肩に手をかけると、何処かで聞いたような気のする声で喋り出した。

「あんたここ利用していいの?」

「証拠が出ないからタイーホに踏み切れないのでありまーす」

 聞こえたらしく、店員が密かに笑う声が漏れ聞こえた。ここやっぱヤバいとこなの? 水連は不安になった。

 

「あんたの読み、当たりよ。奴さん棲艦島に入ったって」

「当たらんでほしかったんですがねぇ……!」

 一番奥の席に着きながら繰り出された釣り人の言葉に母は頭を抱えている。どうやらやっぱり、何らかの情報提供者との密会だったらしい。格好とかは色々と、予想外ではあったが。

「治外法権みたいなとこに自分から行くとか馬鹿かな?」

「馬鹿なんでしょ、藤さんからのリークだからもう捕捉もされてるし」

「うちの面子とか……」

「どう考えても手遅れよ。まあ、生贄にされたりはしないんじゃない?」

 ぬあーと母がテーブルに突っ伏した。釣り人も苦々しい声である。水連には意味が全く分からなかった。

「本州に居れば法に守ってもらえたのに」

「せめて北海道まで行ってればね……」

「なーんで自分から喰われに行くんすかねー。あそこ私らも危な過ぎて捜査できんのに……」

 漫画に目を落としたまま、水連は内心首を傾げた。棲艦島が危険だという話は今まで聞いた事がなかったからだ。何度か行った事があるが、変わっているのは西と東に大きな社が一つずつある事くらいで、比較的最近できた島にしては発展しているが、別段おかしな場所ではなかったはずなのだ。さる超巨大企業の寄与で最新技術が多数導入された市街は過ごしやすく治安も穏やかで、和の要素を取り入れつつ計画的に作られた街並みも国内外を問わず評価が高い。何か目に見えた問題のある土地ではなかったと思うのだが。

「吹雪が常駐できればいいんだけど……」

「それはそれで他所に攻め入られそうだから困る」

 戦争でもしてるの? 水連の脳内は疑問符で埋め尽くされた。

「海魔に喰われる前にお猫様に保護されるといいんですが…………どっちにしろうちの面子は死にますがね」

「連続呪殺犯の確保なんて他にやられちゃね。ま、犠牲者が増えるよりいいでしょ。最悪なのは海神の方に霊力が流れる事なんだし」

 連続呪殺犯については水連も知っている。少し前に連日ニュースにされていて、最近は聞かなくなっていたのだが、成程、母を含めた警察に追われて逃げ回っていたのだろう。そこは得心が行った。そこ以外は何一つ理解ができなかったが。

「……やっぱまだ怒ってらっしゃるんです?」

「秋月曰くね。海ごと滅ぼされそうになったんだから当然と言えば当然だけど」

「矛さえ収めていただければ祀る準備もあるのに……」

「あっち視点で正義執行しに来て封印されたんじゃ許すも許さないもないでしょ。あと鉾はご神体として納めてるわよ叢雲が止めに使った奴」

 封印て何。オカルト事情には多少強い水連だが、神がどうの封印がどうのと言われると流石にゲームか何かの話としか思えなかった。

「ご神体というか封じ目じゃないすかアレ……壊されたら解けちゃうタイプの奴」

「猫雨は有事には使おうって言ってたけど。神様によく効くんだって」

「なんで特効武器みたいなの作ってんですかね宮里艦隊」

 神様封印するのに使ったから概念付与されちゃったのか、と呟く母の声を聞いて、水連は現実な話をしてるのか創作の話を真面目にやってるだけなのかよく分からなくなった。母の態度が友人や家族にするような(年の割に)軽いそれであり、通話時に垣間見せたりする真っ当な社会人の口調でないのもそれに拍車をかけている。

 相手の正体は水連も何となく勘付いた。吹雪、秋月、叢雲、それに宮里艦隊。まず間違いなく、艦娘の関係者だろう。背格好の幼さからして本人もきっと艦娘。それも、改二に到達したエリートに違いない。距離的に今日の観艦式にも参加して、そちらの後片付けを済ませてから母に会いに来たものと思われる。

 声に聞き覚えがあったのもそのせいだろう。よく顔や声を出す艦娘であればすぐに分かる自信があるので、あまり前には出ない娘に相違ない。吹雪だとか文月だとか、そういう主だったところ以外で水連が薄っすらと覚えてるくらいには声が聞けて、改二以降の艦娘。となると数はかなり限られる。観艦式に出ていたという条件も加えるならさらに候補は絞れるだろう。

 まさかともしやが水連の頭で渦を巻きだした。水連には猛烈に推している艦娘のグループ……艦型が一つある。特型II型駆逐艦。それは艦娘界隈では綾波型と呼ばれる娘達だった。

「封印が解けた時にでも吹雪か叢雲か……あとは龍田さん辺りが使うんじゃない? 吹雪なら封印じゃなくて討滅できるって初春も言ってたし」

「お魚守ってくれてたありがたい海神様討滅したくないんですけども」

「深海棲艦と私達の区別付いてないんだから、仕方ないじゃない」

「まあ、結局あいつら人間霊の一種らしいんでしゃーないんだけどさぁ……」

 しゃーなくねぇよ。水連は口に含んだ珈琲を噴き出しそうになった。初耳である。一般的には深海棲艦の正体は未だに不明という事になっている。今更だが、聞いていい会話なのかと言われるとたぶん駄目な奴だろう。どうしてこんなに堂々と声に出してしまっているのか。水連には分からなかった。

「だから、水連にもスカウト行ったんでしょ? 巫女増やすために」

「そうなんだけどもねー。でも流石に裏の治安が平安京なところへ娘を嫁に出したくないわけでね」

 急に自分の名前が出て、水連は心臓を掴まれたような動悸を感じた。親しそうだとは感じていたが、娘の自分の事まで話す間柄なのは予想外だったのだ。どういう繋がりの縁なのかは分からないが、もしかしたら付き合い自体がかなり長いのかもしれなかった。

「一般人には被害出てないらしいけど……そういえば、結局あの子って抗体とか言われてたのの影響受けてるの?」

「それはたぶんそう。めっちゃかわいいでしょあの子。私に似て」

「そうねにてるにてる」

 棒読み!! 母がわざとらしいショックな声を上げている後ろで水連は訝しんだ。抗体とはなんだろう、めっちゃかわいいのはそうだけど。水連は少しうぬぼれやな所があった。

「自分の意思で名付けたつもりだったんすけどねえ。集合無意識怖すぎて笑えない」

「自分の意思ではあるでしょ。その意思そのものが影響下なだけで」

「もっと怖いってそれ」

 珈琲を口にして一旦落ち着いた母は軽くため息を吐き出した。水連も何か笑えない話をしているのが分かり、母とは逆に少し息を殺した。

「ちょっと変形気味ですけどね。あの子は変色海戦当時の超適性の人達と同種……まー、いわゆる? 名前に入ってる側ですわな」

「適性者なのはほぼ確定か……」

「こっちで確認する限り、年に数人は同じような娘が出てるんですが……まさか自分の子供がねえ」

 ふぁーと母は溜息を吐いた。釣り人も口元が歪んでいる。ぶら下がった妖精さんは目が死んでいた。

「吹雪とか今8人くらい居るのよね。たぶん何人かはうちの吹雪にあやかって付けただけだと思うけど」

「どうなんかな、普通に艦が被るのはあるあるですし。響も3~4人居ませんでしたっけ」

「ヴェールヌイ含めると5人じゃなかったかしら」

 多ッ。母は少し苦笑気味に笑っていた。

「水連もねえ。来年検査ユクゾーって意気込んでんですよねえ」

「消防隊とか救助隊は?」

「本人が海行きてーなーってなってるからなぁ……親としてはせめて提督の方になってほしいんだけど」

 水連は来年、艦娘の適性検査を受けられる年齢になる。知らせが届いたら最速で行くつもりだったし、なれるとなったら絶対になるつもりではあった。つまりまだ受けた事は無いのである。だというのに、何故釣り人は確定と言えたのか、水連には全く分からなかった……という訳でもない。

 水連は艦娘オタクであるが故に、それにまつわる噂にも詳しかった。これはおそらく、『かつて最強と呼ばれた艦娘達の本名には、何故か使用する艤装と同じ字が入っている』という有名な話の事だろうと予想が付いた。ただ、水連の名前には直接それっぽいのは入っていないはずなのだが。

「提督適性もあるのか……まさか吹雪達みたいな……?」

「や、あの子達みたいにぶっ飛んではないんで大丈夫です。近いのは榛名さんやそれこそ初春様かな」

 日本であれば宮里艦隊の吹雪が代表的とされる、超異能者。かつての深海棲艦の大襲撃に呼応するかのように世界に生まれていたヤバい美少女軍団。彼女達はその全員が提督の能力すら保有しているという。成程、と水連は納得した。確かに共通点は結構ある。伝え聞くその暴威に及ぶ力を全く持っていないという点を除けばだが。

「初春並に視えるんだっけ?」

「ここだけの話、視る事と識る事だけに関しちゃ昔の初春大先生ぶち抜いてるらしいっすよ……?」

 こんなちゃっちいの貫通しちゃうくらい。そう言って母が懐から取り出したのは、何らかのお守りのようなものだった。本を持ち上げ少し顔を隠して注視する。デザインまでは分からなかったが、水連の目はそれが周囲の空間に何らかの作用を齎している事を正確に見抜いた。おそらくは認識阻害系の術具。それを持っているから堂々とヤバい内容をくっちゃべっていたのだろう。効力を抜ける奴ならこれくらいの事はそもそも知っているだろうという前提で。

 っていうか、もしかして喫茶店じゃなくて母から呪物の気配がしてただけ? 水連は少し脱力した。

「危なくない?」

「危ないのよ」

 危ないんだ。水連は初めて知った。

「霊感リミッターの外れてない世代がまだまだ多いんで今はまだ平気っぽいけど、十年二十年先はちょっと……実際妖怪とか怪異とか霊障とか、現在進行形で増えまくってますし」

「科学一辺倒で戦争してた時代とどっちが平和なのかしらね」

「集合無意識も心霊現象封印したら物理で終末戦争やれるようになるとか予想外だったでしょうしねえ」

 昔は全人類的に霊能力を抑えられ、一緒にお化けやなんかも出辛くなっていた。というのは水連も知る所である。深海棲艦に対応するためにその封は解かれたと学校で習うのだ。ただ、一般的には実感できるほどの差は出ていないのが現実であり、大手を振り始めた霊能力者達への差別の低減のためだとか言われていたが。

「今日も観艦式見に行ってたんすよあの子。まあブッキーや猫吊るしが来てるんで海は問題ないけれども、行き帰りがねえ。視えると興味惹かれちゃうみたいなんで」

 ゴメンナサイと水連は若干頭を下げた。何度かそれで怪現象に巻き込まれた事があるのだ。解決もしちゃったので危険だったという実感はあまり無かったが。

「そういうのから護る為にあんた達が居るんでしょうに」

「こちとら案件多過ぎて細かいのは通報されるまで動けんのですよ。霊感あるお巡りさんてめっちゃ少ないから予防も難しいし」

 圧倒的、人手不足……! と母は嘆く。呪術やら霊障やら妖異によって起こされた事件を専門に取り扱う、少し前にできた新しい部署で働くが故の悩みであった。

「大体私が実働のトップな時点で何もかもおかしいんですよ。私、なりたかったの町のお巡りさんなんですけど」

「あんた後遺症で居るの分かるんでしょ? 人手不足で駆り出されるの分かり切ってたじゃない……っていうか、刑事になるのって試験とかあるでしょうに」

「どっかからの無言の圧力に折れた弱い女が私です」

 はーしんど、と伸びをする母に釣り人はゴーグルの下からじっとりとした視線を向けた。それが分かったのだろう、母はちょっと取り繕うように笑うと話題を少し転換し始める。ふへへと微妙に情けない笑い声がした。

「視えると言えばさ、そのグラサン付けっぱだけど見え辛くないのん?」

「えっ? あー…………うん。忘れてたわ、付けてるの」

 釣り人は少し焦ったような声色を出した。その次に行われた指先で顔に付いたそれの弦や縁を撫でるように触れるその仕草は照れによるものだろう。見えない母の表情が水連には容易に想像できた。

「これ猫雨の義体パーツとかで凄く軽いのよしかも内側からは色見えないから付けてて違和感全く無いのそれでいて日光和らげる効果はちゃんとあるんですって明石達が貸してくれたんだけど高性能すぎて怖いわね水も弾くから釣りにも良さそうで売ってたら買いたいんだけど特注しようかしらとか思ってたんだけどまあ忘れてたのよ文句ある?」

「ないです」

 一息でお出しされた釣り人のお言葉に母は笑いを堪えた一言で返す。返された側は少し不満気な息を漏らすとゆっくりゴーグルを持ち上げて、その薄いすみれ色の瞳を露わにした。

 その形に、色彩に、水連は見覚えがあった。

「お久しぶり、ぼのたん」

「はいはい、久しぶりね世理亜」

 宮里艦隊所属、駆逐艦曙。

 水連の最推し艦娘である。

 衝撃で水連は手に持った本を思わず取り落とした。その端がカップソーサーにぶつかって、がちゃりと小さくない音が鳴る。反射的にか音源へと目を向けた釣り人、曙と目が合った。次いで母も振り返った。

 えっと小さく声を漏らす母、化野 世理亜。まずいと思ったのか、水連は自分でもよく分からなかったが、ともかく。次に取った行動は完全に反射的な、理性を越えた物だった。

「サインくだしあ!!」

 噛むどころか言語中枢がおかしくなった愛娘を目の当たりにして、母は盛大に噴き出した。

 

 

 

「マジで貫通しちゃったかー」

「それ本当に効果あるの?」

「あ! それはあると思います!! ちゃんとなんか……なんか出てるので!!」

 母に尋問され軽く叱られたせいか、水連は語彙力が残念な事になっていた。取り調べ中も気はそぞろで、その視線はちらちらと珈琲を注文する曙の方を伺っており、目の前の刑事の言葉にまったく集中できていないのは誰の目にも明らかだった。母の指先に摘ままれたお守りくんはどことなく無念そうな気配を垂れ流している。きっと悪い子ではないのだろう。水連の才に敵わなかったというだけで。

「はいこれ。私より秋雲のを貰うべきだと思うけど」

「あっあっ、ありがとうございます!! あっ、秋雲先生のは色紙で持ってるので大丈夫です!!」

 手渡された漫画の奥付部分には、曙のサインがしっかり書いてある。困惑する曙にどうしてもと頼み込んだ結果、本当にしてもらえたのだ。期せずしてただのコレクターアイテムからマニア垂涎のお宝へと変貌を遂げたその本を、水連は大事そうに抱きしめた。助け出された妖精さんも嬉しそうな水連の様子を嬉しそうに見つめている。

「この子、文月のプレゼント企画で普通に当てちゃったんすよねー。運いいんだこれが」

 耐衝撃性のバッグへ本を慎重に仕舞い込もうとしてやめてもう一回サインを眺めてだらしない笑みを浮かべる水連を、世理亜はじっとりと見つめた。色々と怒りたい事はあったのだが、まあ、家に帰ってからでもいいだろう。その喜色満面な顔に絆されて、自分も少し頬が緩んでしまった。娘には少し甘いお母ちゃんなのである。

「あっ、そうだお母さん、仕事の話するなら出た方がいい……?」

 水連は恐る恐るといった様子で、少し上目遣いに囁いた。盗み聞きなんてしてたくせに今更仕事の邪魔をしてないか心配になったのだろう。うちの子かわいいな? 世理亜は内心甘々だった。

「仕事の話は出会って十秒即終了だったんでだいじょぶよ」

「伝言伝えるだけだったものね」

 曙は実の所、ここまで来る必要性はあんまり無かった。盗聴やらなんやらをされるとよろしくないだけで、顔は突き合わせなくても大丈夫だったのだ。

「久々に話がしたかっただけだから、水連が一緒なのはむしろ歓迎よ」

 柔らかい、外見の年齢相応ではない笑顔が水連に向けられた。同年代の中学生くらいに見えるが、これでも曙は何十年も年を重ねた艦娘なのだ。

「母と曙さんて、付き合い長いんですか……?」

「え、うん。そうね」

 娘からしたら、まったく聞いた事のない意外な人脈である。仕事柄と言われれば納得は行く程度の事ではあるが、まさか最推しと母が友人関係だとか思いもしなかったのだ。だが、問われた側からすれば、その問い自体が意外なものであった。

「世理亜、あんた前職の事話してないの?」

「はい……」

 複雑そうに頬を掻く母に、水連は少し嫌な予感を覚えた。それは十余年培った、霊能者的な勘であったかもしれない。何かの前提が覆りそうな、そんな予感。

 曙はふむと一瞬考えこむと、スッと水連の、その腕に抱えられた漫画を指差した。

「その本の最初の方……訓練所でなんか、サイコロ転がしてるところあるでしょ?」

 広げられた本のページがめくられ、該当箇所が開かれる。曙はよく分かっていなかったが、それはTRPGという種類のゲームを何人かで遊んでいる風景だった。

「それの、秋雲でも吹雪でも初雪でも島風でもない奴」

 作者である秋雲、GMをしている吹雪、ファンブルして横になる初雪、膝に連装砲ちゃんを乗せている島風。そしてもう一人。そこには髪をツインに纏めて悪戯っぽい顔で賽を振る少女が描かれていた。

「それあんたのお母さん」

 

 

 ?

 

 

 水連は少し首を傾げた。その娘は水連の記憶が正しいのであれば、駆逐艦漣と呼ばれる過去の大戦における、かなりの功労者である。個人の実力もさることながら、コミュニティの構築による精神状態の健全化という当時の年齢に不相応な成果を残し、その頃の艦娘達から多大な信頼を寄せられていたとかそんな紹介文を読んだ記憶が確かにあった。

 ある時を境に一切メディア露出が無くなり既に艦娘を辞したという噂だったが、成程、それは真実だったのだろう。艦娘は辞めた後、各種の学び舎への推薦を受ける権利を得られる。それを利用して警察学校に入るかなんかして、しかる後に警官になったのだと推測できた。

 水連はちょっと頭がゆるい側だが、頭の出来自体は悪くない。それくらいの結論はすぐに出た。でも、そういう問題でなく、その第一期適性者の有名エリート艦娘で最強部隊に居たり居なかったりした配信のログ漁ると結構名前の出てくる人気投票やると地味に上の方に来るその人と、目の前の母の姿はまったく重ならなかった。っていうか、そうなると。

「お母さん今幾つ……?」

 深海棲艦が押し寄せて始まった大戦はもう何十年も前の出来事で、まだ産まれて十余年の水連にとっては遥か昔のお話であった。

 

「私は改三になってから辞めたんで実年齢と外見が合ってないのよ」

「そこまで行って辞められるんだ」

「現状唯一よそんな奴」

 改二までなら居なくもないらしいが、三は当時で前代未聞、今でも続く者は現れていないと曙は言う。それも当然の話で、せっかく改二にまで至ったのに艦娘を止めてしまえば、得られた絶大なメリットを失ってしまう事になるからだ。

「お母さん不老不死止めちゃったって事?」

「や、不死ではないのよあれ」

「そうね、改二以降で死んだ奴が居ないだけで死ぬ時は死ぬわよ」

 きっと。と曙は少し言葉を濁した。実際誰も死んでいないので言い切れない部分があったのだろう。腹に大穴を開けたのに暫くしたら普通に復帰したゴトランドや何度轟沈しても生き残っている深雪などが居るために。

「死なないの、嫌だったの?」

「いや単にお巡りさんになるのが夢だっただけでそういうのは特に無いし、なんなら惜しかったんよ」

 不安げな水連の表情をよそに、世理亜の返答はさっぱりとしたものだった。その辺りに関しては娘が生まれる前に決着が付いているのだ。

「惜しかったなら戻ってきてもいいのよ?」

「若さのために戻るのは流石に漣に怒られると思うの」

 適性値も残ってるか分からんしね、と世理亜は呟いたが、曙の知る退職直前の彼女の適性値は余裕で五桁に届いている。一生無くならない数値だと思われるのだが、それは娘の手前ちょっと隠しておきたかったのかもしれない。吹雪の件も絡む事であるし。

「……お母さん、本当に曙さんと仲いいんだ」

「おー? そりゃあもう大親友よ?」

「どっちか言ったら腐れ縁でしょ……」

 ひどぅい、と返す母を見て水連は仲良しだなぁと感嘆した。数十年来の付き合いらしいのでお互いの事はよく分かっているのだろう。家族よりよく知ってる部分もあるに違いない。娘は経歴すらちゃんと把握してなかった事だし。

 そんな感心したような視線を受けて、曙は少し優しい表情になった。推しの普通は見られない顔を前に水連は内心テンションを上げた。

「艦娘にとって姉妹艦は特別なのよ。艦型にもよるけど、同期なら本当の姉妹より仲良しな連中もいるくらいね」

 有名どころだと吹雪型や球磨型だろうか。特に後者は戦中から既に知られていたという筋金入りだ。大井の適性者は北上の適性者と同じ鎮守府に配置するか一切会わせるな、なんて暗黙の決まりがあるというのはネット界隈では常識である。

「一期生の綾波型もみんな仲良かったですしねえ」

「そうね。みんなしょっちゅう連絡寄越すし……ああ、だからね、水連は私にとって姪みたいなもんなの。大きくなったわね、本当に」

 はれ、と水連は目を瞬かせた。

「もしかして初対面では、ないんです?」

「こんなちっちゃい頃に一回会わせてるのよ」

 こーんなと言いつつ3センチくらいの幅を指で作って見せる母にそんな小さい訳があるかとツッコミを入れつつ、水連は意外な事実に驚いた。母からは何一つ聞いた事のない話である。母は確かに艦娘に詳しかったが、それは仕事柄係わる事があるからだと思っていたのだ。自分の推しが身内扱いするレベルの親しさで自分も認知されていたというのは妄想ですら体験した事のないシチュエーションであった。

「なんで艦娘だった事黙ってたの?」

 水連の当然の質問に、母は気まずそうに目を伏せて、指と指を合わせてなにやらもじもじやりだした。もしやそのわざとらしい仕草は噂に聞く集合無意識からの影響とやらなのだろうか。

 何秒かだけそうしていた母は、物凄く言い出し辛そうに、ゆっくりと理由を説明し出した。まあ内容は、水連も薄々察している事ではあったのだが。

「娘が推しまくってるグループの一員でしたーとか言い辛くて……」

 水連は物心ついた時からもう艦娘が大好きだった。中でも曙が最推しであるが、基本は綾波型の箱推しである。今日の観艦式も曙だけでなく、ネームシップの綾波やその妹艦達も目的であった。ちなみに母がそうだったという漣は、綾波型の九番艦である。そして、有名な漣、というのは実は現状、一人しかいなかったりするのだ。

「私はお母さんを推していた……?」

「まあ……昔の文月とか北上さんの動画に出てたりする漣、あれは私ですねえ……」

 親子が特に表情を変えずに見つめ合う。スゥーと水連が深呼吸し、そのままテーブルに崩れ落ちた。

「私エロ同人のある人の娘だったのか…………」

「おい中学生」

 あくまでも秋雲の漫画に出てくる『駆逐艦漣』の同人誌である。元ネタと本人の混同はやめようね!

 

「私もね、水連が本当に艦娘になるんだったらその前に言おうとは思ってたんだよ」

 味のやたらといい珈琲に口を付け一息。世理亜はゆっくりと切り出した。

「命懸けの仕事だし、本当に覚悟できるのかとか、戦い方とか、アドバイスできる事はいくらでもあるんで」

「絶対なるからそれは頂戴!」

 水連は目を輝かせた。母が知ってる艦娘だったのはショックだったが、それはそれとして貴重なお話である。仮になれなかったとしてもマニアとしては聞き逃せない。もう純粋にインタビュー記事にしてほしいくらいである。

「憧れとかでなるもんじゃないんですけどねえ」

「今の艦娘の仕事って地道な護衛とか多いしね。変色海域が出たら潰しに行ったりはするけど」

「さっき言ってた神様がどうとかは……」

「あれは例外…………うん。例外」

 なんで歯切れ悪いんです? 水連の疑問に曙は苦虫をかみつぶしたような顔を見せた。母も同じ顔をしていて微妙な姉妹っぽさを感じられる。水連も似たような顔になった。

「この間、深海棲艦とタコのお化けみたいなのが喧嘩してたのよね……」

「うちにも目撃証言入ってるんで今度調査入りまーす……」

「お母さんの部署ほとんど特殊部隊になってない?」

 割と有名な話であるが、世理亜の所属する課は公僕をやってくれる霊能者という貴重な人材でほとんどが構成されている。現状公的機関に存在する唯一の対霊能事件の専門家集団であり、そのため調査から解決までを一手に引き受けなければならないという異常な環境に陥っているのだった。予算とまともな制度をください。

「斃さなきゃならなかったら艦娘に投げたいんですけどぉ。ブッキーなら一撃で終わらせてくれるはずだし」

「一撃だろうけど、あいつに話が行く前に新人が相手させられるし、それを率いるのは私達になるでしょうね」

 曙が現在も所属する宮里艦隊は過去から現在に至るまでエリート艦隊として名を馳せている。そこに配属されたというのならかなりの才を有した新人であろう。それが三年間の教育を終え、ついに着任した憧れの職場でさせられるのが、なんかよく分かんない巨大生物退治というのはちょっと可哀そうかもしれない。いや深海棲艦も昔はそんな感じの相手だったので正しい運用なのかもしれないけれども。

 もし自分も艦娘になったらその手の戦いをさせられるのだろうかと現場の実態に少しの戦慄を覚えつつ、しかし、水連が気になったのはまったく別の所だった。さっきも少し気になったのだけれど。

「ブッキーって、宮里艦隊のあの吹雪の事?」

 それは現在の日本においても伝説的な逸話の数多く残る怪生物である。

 曰く、拳一つで数多の深海棲艦を捏ね固め大地を創造した。

 曰く、筋肉の密度が素粒子レベルで通常人類を逸している。

 曰く、格闘能力は天才を凌駕した何かであり拳が音を置き去りにする。

 曰く、拳どころか全身が音を置き去りにした。

 曰く、放置は憚られるからと各地に沈む艦艇を素潜りで引き上げて回っている。

 曰く、国が無法な事をするなら某企業に移籍すると公言している。

 曰く、髪に飾った青いリボンはかつての大戦からずっと使い続けているもの。

 曰く、艤装に妖精さんが一人も乗っていなかったのに目標外の敵まで殲滅して帰投した。

 曰く、ここは任せて先に行けと言ってから仲間が目標に辿り着く前に敵を全滅させて合流した。

 曰く、生身で大気圏から脱し宇宙空間を泳ぎ切って無事日本に帰還した。

 曰く、たまに匿名掲示板に出没する。

 曰く、なんなら匿名じゃない所にも出没する。

 曰く、可愛らし過ぎる外見を無駄遣いして無意味に人心を乱している。

 曰く、案外サービス心旺盛で事あるごとに燃料を投下してくれる。

 曰く、改の数が進むたびに艦種がコロコロ変わる。

 曰く、たまに自力で光っている。

 曰く、全力で歌うと音圧でマイクが崩壊する。

 曰く、普通にゲームや漫画やアニメの感想をSNSに上げてくる。

 曰く、ピックアップされた自分モチーフのキャラを天井する間に島風モチーフの娘が完凸した。

 曰く、所有している土地の地価が跳ね上がり総資産がよく分からない事になっている。

 曰く、その資産運用を他人に任せきっているため自分の収入が今どれくらいなのかもよく分かっていない。

 曰く、お酒に強すぎてまったく酔わないから大体介護してる。

 曰く、深海棲艦を撃退するため海外へ出たら暗殺者に襲われた。

 曰く、機関銃を1マガジン全弾撃ち込まれたが拳圧だけで跳ね返して相手を捕縛した。

 曰く、自爆されそうになったので爆発前に爆弾を解体した。

 曰く、気化爆弾の直撃を無傷で耐えた。

 曰く、その時生身だった。

 曰く、核爆弾でも殺し切れないと推定されている。

 曰く、昨日妖精さんを頭に乗せているのを忘れてブレイクダンスして怒られて正座した。

 そんな真偽の定かではなかったり定かだったりする噂が跳梁跋扈し、本人のメディア露出頻度に反して実態がよく分からない謎の生命体。その本名を、伊吹 雪といった。

「そだよ~。ふぶっきーだからブッキー」

「そんなあだ名で呼ぶくらい仲良かったんだ……」

 確かに、母があの漣であるのなら、少なくとも嫌い合ったりはしていないのは間違いないだろう。あきぐもえにっきが描写を盛ったりしてる箇所はあれど概ね事実であるというのは有名な話で、その中の漣と吹雪は明らかに仲が良さそうだったのだから。

「吹雪も漣の姉妹なんでね。そりゃあ仲良くもなろうってもんですよ」

「あんた達趣味も合ってたものね」

 艦娘に限って言えばあまり重要視されていなかったが、特型という括りであれば吹雪は長女に当たる。であれば現役中の接点で友誼を結ぶ事は確かに可能であったろう。だが、世界的有名人と母がある種の姉妹とか一緒に遊んでた友達だとか、言われても水連にはピンとこなかった。母の事はあくまでちょっと偉めの刑事さんくらいの存在だとしか思っていなかったのである。

「あ、そうだ。水連、あんたがもし艦娘になったら吹雪とは仲良くしておきなさい」

「えっ、絶対なりますけど、私があの吹雪……さんと仲良くですか? 難しいんじゃ……」

 いろんな意味で重大な人物である吹雪とただの艦娘志望の水連では立場に雲泥の差がある。ネット上で見られる吹雪はかなり温厚そうではあるが、だからといって気軽に接せるような存在ではまったくない。そもそも同じ鎮守府にでもならなければ会うのも難しいだろう。

 などと水連は思っていたし、基本的には正しい。ただそれは、そもそもの前提が間違っていなければの話である。

「あの子はチョロいんで私の娘だって言えば一発よ」

「ちょっと遊んだらもう懐かれてるでしょうね。あいつ時間とかより取っ掛かりがあるかないかだから」

「評価が酷い……!」

 色々と残念であるという話は知っていたが、現役からも引退者からもそんな扱いなのは予想外であった。一応は、国内艦娘の最終兵器である筈なのだが。

「っていうか、そうだとしても会えるかは分からないんじゃ?」

「ああ……それはたぶん大丈夫、水連は宮里艦隊行きよ。もし本当に適性があったらね」

「それは親のコネとかそういうので……?」

 それはちょっと嫌だなと水連は溢した。その母はうむうむと頷いている。ある種の健全さを持って育ってくれて嬉しかったらしい。

「実際にはコネどころか実験動物的な意味合いなんですけどね」

「私実験台にされるの!?」

 どういう事よと詰め寄れば、宥めようと伸ばされた手に優しく撫でられて、水連はちょっとイラッとした。曙の視線がむず痒かった。

「色々条件が重なり過ぎなのよ。改三やってた奴の娘なんて前代未聞だし、他にも色々ね」

「実験台にされないように保護してもらえるって事。まあ他のとこでも今更そんな酷い事されたりはしないだろうけど、あそこならデータ取りだけで済ませてくれるから」

「ええ、私からそんな、採れるデータなんてある……?」

 水連は艦娘志望であるが、それは別に自分に自信があるからとかそういう理由からではない。視える精度に関しては高い方だが唯一という訳でもないし、そこまで特異なものがあるとはまったく思えなかった。

「まあその辺りはおいおいね。ただ吹雪と会ったら身構えずに話しかけた方がいいって事だけは覚えておいて。あいつ人見知りするからそっちから行かないと話が進まないのよ」

「吹雪さんって曙さんと同い年くらいですよね?」

 母とも何歳も変わらない。生まれを考えると孫が居てもまったくおかしくない年齢である。漫画にもあった話なのを覚えているが、治っていないらしかった。一応知識として知ってはいたが、実際に身近に居る人間から話を聞くとまた違う。

「艦娘は成長はしても老成しないんで、その辺りは秋雲先生の漫画からなんも変わんないのよ」

「おかげで一部の連中が未だに中身小学生なのは良いんだか悪いんだか……」

 成立したカップルも熱いままで続いたりするらしい。それは中々にロマンチックなのではないだろうか。水連のオタク脳は興奮物質を多めに生産した。

 

「ま、タコ退治は私じゃなくて上に言って頂戴。害獣認定してくれたらこっちの管轄だけどただの生物扱いだったら管轄外になっちゃうんだから。それか、急ぐようならリンカネにでも依頼したら? あそこの連中あんたの話なら素直に聞くでしょ」

「流石にそれやるのはアウトなんすよ……」

 リンカーネイション社。棲艦島に日本本社を置くその会社には、非常に強力な対オカルト部門が存在している。特に日本支部のそれは世界最強との呼び声が高く、兵器の類を使わないにもかかわらず異常に高い成果を挙げ続けていた。

 日本でも活動そのものは非常に高い評価を受けており、民間の駆除業者としてはやはり最大手になっている。問題は、それはあくまで一般市民向けの話であり、公的機関が頼っていい存在では全くないという事だ。

「面子とか言ってるから先越されて面子立たなくなるとかもう笑うしかないよね」

「法律が追いついてなくてやりたい放題とは聞くけど……」

「あれでもこっちに許可取ってからやってんだぜ……? こっちに止める権限が無いだけで向こうは配慮してんの。もう連携しろよって話だけどやるなら入札とかそういう話にもなって来るし結局仕組みの構築が追いついてないっていう」

 現場レベルではお互いできる事がない。なんて、突然母の愚痴が始まって、水連は面食らった。

「えっと、つまり結局、たまにはモンスター退治する事になったりするって事ですか?」

「そうね、深海棲艦以外の、神様とか巨大生物とかそういうのはそんなに無いけど……最後が十年くらい前?」

 十年前にはあったのか。水連は慄いた。

「ちなみにどんな神様だったのかお聞きしてもいいですか……?」

「ああ、その時のは神様じゃないのよ。幽霊船ね。宇宙船だったけど」

 宇宙船。水連はオウム返しに呟いた。

「初春はUFOや宇宙人への畏怖とかから産まれた妖怪とか言ってたと思うけど、どうだかね」

「逮捕された乗組員、気が付いたら消えてたんでたぶん合ってる。日本語通じてましたし」

 ちなみに日本に攻撃しようとしてたので深雪で吹雪を射出して叩き潰したとの事である。吹雪型のやらかしがまた一ページ。

 

「お母さんがあの漣なら艦娘用の掲示板ってもう無いの?」

 最初期に作られたとされる、かつて『召集』された艦娘達だけのコミュニティ。それはオタク達の間ではとても大きなロマンある存在として語られている。まだ続いているという説や志願制になった時点で無くなった説など様々な見解が転がっているが、真実を知る者はそんな所には現れなかったため真偽は不明となっていた。

「んー私の手を離れてるからなぁ。一応管理権限は押し付けてから引退したんだけどもぉ~?」

 にやりと笑って世理亜が曙に流し目を送った。呆れた視線で返されてむしろ少し嬉しそうになった母を、水連も呆れた顔で見つめている。妖精さんも一緒になってジト目のようになっていた。

「今も私が管理してるわよ。人数が増えすぎたから何人か手伝わせてるけど」

「曙さんが!?」

「昔とは見た目も何も全部変わってるけどね。流石に今の端末には古すぎたから」

「デフォで全言語翻訳対応したんですよね。いやぁ、最後に海外の人らに許可出しまくった甲斐がありましたなあ」

「あれのせいで対応大変だったんだけど。スパイまみれになって」

「上の人らいっぱい釣れたって喜んでたっしょ?」

「ええ……」

 なんかロマンの塊だったはずの存在が政治利用されている。水連はかなりげんなりした。その様子に世理亜はにやりと口角を釣り上げた。

「まー現実なんてそんなもんよ? そもそもあれ、当時から自衛隊の許可取って作ったもんだったし」

「そうなの!?」

 実は初めからある程度の監視はあったらしいと母から聞いて、水連は肩を落とした。かなり好きなエピソードだっただけにショックもひとしおである。

「ほうら、だんだん艦娘になりたくなくなってきただろう……?」

「やめろよぉ~……それでもなるんだもぉ~ん……」

 耳元で憧れを粉砕しようと囁く母に、水連は必死に抵抗した。親子の馬鹿みたいな遣り取りを眺めた曙の顔に、誰にも気付かれない程度の微笑みが浮かんだ。

「ま、今も昔も告げ口のためにある訳ではないから大丈夫よ。内容をどこかに報告してる奴は居るでしょうけど、運営してるこっちが一般利用者の言動監視してるとかじゃないから」

「それはそう。昔も別に干渉は無かったし。いやセキュリティとかのあれこれしてくれてたんでログ取りとかはされてたかもせんけど」

「それ本当に大丈夫な奴?」

 何かに利用されてる気しかしない。本当に管理者にその気はないのだろうけれど。

「心配なら使わないって選択肢もあるからね。最初に利用規約とプライバシーポリシーに同意してもらうから」

「誰も読まない奴!!」

「契約系の術式入ってたら困るからちゃんと読みなー?」

 今はまだOK押しただけで発動するようなのは無理だけど将来的には分からないんだから。その手の事件の最前線にいる母の、嫌過ぎるアドバイスだった。

 

「え、藤さんって人間じゃないんですか?」

「神様にされた妖怪って聞いてるわね」

「千年以上生きてるらしいけどオーラが一般人のそれだから困る」

「あっ……じゃあ一期提督の藤提督と藤さんって……」

「同一人物ですな。なんならあそこの巫女さん達一期生と二期生ばっかだよ、全員改二以上の」

 藤艦隊。そう呼ばれた適性者たちは現在、棲艦島の西側の社で陸の怪異を治めている。怪異の寄り付きやすい棲艦島が少なくとも表面上平和なのは、しっかりと彼女達が取り仕切っているからなのだ。

 ネット上にも巫女だしオカルト関係だろなんてそんな噂があったのは確かだけれども。水連は普通に面識のある人物だったので普通に困惑した。そもそも鎮守府が変わった建物で参拝もできるようになっているだけで、津軽海峡や陸奥湾あたりを守ってる普通の艦娘達だと思っていたのだ。

「公務員してる神様って何……?」

 いまだに提督として働いているのは間違いないので、そういう事になる。

「あそこはほんと……カオスだから、あんまり用事無いなら行かない方がいいよ」

「お祓いって連れてくのお母さんだよね?」

 いろんな意味で聖地な島であるし、全力で整備されているせいか良い所なので嫌いどころかむしろ好きな場所なのだが、そう言われると水連的には少し敬遠したくなってしまう。お祓いの効果も実感は特に無かったし。

「東の方に行かなきゃ大丈夫よ。あっち側は魚人みたいなの出たりするらしいから」

「日本のインスマスだからねあの辺り……」

「旧支配者とか実在してたりする?」

 封印された神様ってそういう感じの奴なの? 大体合ってそうな苦笑いを浮かべた母を見て、水連は渋面になった。

「東側の社、立ち入り禁止ってそういうのなんだ」

「そうだよ。あっちはあっちで楽しくやってるらしいけども、それはそれとして霊能犯罪した連中が何故か行ったりするんでかなり危ない」 

「リンカネの船は着いたりするし、高飛びの業者とか居ると思ってるのかもね」

「いやまあ……普通の港とか空港から行くよか可能性ありそうな気もしなくはないですがね」

 指名手配されたようなのがAIの探知から逃れるのはかなり難しい。まともでない出港場所を求めるのは自然と言えば自然なのかもしれない。問題はあの島の裏側から行けるのは主にあの世であろうという事だが。

「ま、足取りの掴めなかった奴が出てきたりするんでホイホイとしてはだいぶ優秀ですわな。例の犯人も東に行く前に取っ捕まってるといいんですけどねー」

「自力確保を諦めないでよ、現職の刑事さん」

「いやあ……正直ぼのたん、っていうかブッキーに連絡来た時点でもう捕まってるでしょ。あそこ私達よりリンカネ社との連携のが上手く行ってんですから。どーせタシュケントさん辺りにふん縛られてますよどーせ」

 リンカネ社のタシュケント、リンカネ社に何人も存在する、どこの国にも属さない超異能者の一人である。実は国籍は日本であり、日本政府が捕捉する前にヨークタウンに掻っ攫われたなどと言われていたりもする。リンカネ社が日本と連携できない理由の一つである。

「裏でこっそり引き渡してくれんかなー。無理だろうなー。絶対露見するもんなー。最初から感謝状用意しといた方が絶対マシだよなー」

「……ねえお母さん、そういう話ってこんなところでして大丈夫なの……?」

 さっきからちょっと気になっていた事である。確かに人避けっぽい呪具は持っているが、それはそれとしてまったく気づかれないかというとそれは違う。そもそも、店員は母の言葉に反応していたのだから間違いなく聞こえていたはずだ。母の話にはそこそこの問題発言が含まれているような気がするし、水連的にはかなり心配だった。

「ああ、それは大丈夫。ここにいる連中、この程度の事みんな知ってるんで」

「一番事情に通じてないのは私よ。水連以外だと」

 はえ? と水連は声を上げた。この店に居る人達が訳ありな可能性は頭の中にあったが、曙の方が知らないというのは予想の埒外だったからだ。

 珈琲のお代わりは如何ですかと店員が寄ってくる。その彼女は席の真横まで軽い足取りで歩み寄ると、曙のカップをお盆に下げつつ水連に向かって微笑みかけた。

 ぽんと可愛らしい音がして、真っ白な煙が店員の頭の上で爆ぜた。それが晴れ、遮られた視界がひらけると。そこには黄金色の艶やかな毛並みをした、二本の立派な集音器官がそびえ立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて事もありましたなぁ」

「懐かしいわね、その頃のあんたは可愛げがあったんだけど」

 ひどぅい、と言いながら、少しくすんだ薄桃色の髪をした少女が小さく笑う。場を弁えて声は抑えているが、本当はもっと大きく笑いたいくらいだった。

「ぼのぼのはあの頃よりフランクに付き合ってくれるようになって可愛さがもっとよく見えるようになりましたぞ。最推しなのは変わりませんがねー」

「そういうとこが可愛げが無いってのよ」

 まったく、とすみれ色の瞳の少女は溜息を吐いた。姪のような存在であり姉妹のような存在にもなったその娘の対処には毎度労力を使わされるのだ。

「あんたとの方が付き合いが深くなるなんてあの頃は思いもしなかったわよ」

「やー。似合ってますよ、指輪」

「ありがとうでいいのか微妙なんだけどね、化野提督」

 ふぅ、と溜息を吐いてぼのぼのと呼ばれた少女、曙は辺りを見回した。金剛型四姉妹、ヨークタウン三姉妹、棲艦島の藤艦隊の面々、リベッチオ・タシュケント・ゴトランドを始めとした超異能者集団、宮里艦隊御一行。分かる範囲だけでも錚々たる顔ぶれである。曙は全く面識のない相手も多く、艦娘以外の警察や政治関係の立場ある人間達には失礼の無いようかなり気を遣わされた。

「いやそれにしても……ちょっと狭くなっちゃったのが非常に申し訳ない感じになってますな。まさかこんなに集まるとはこの漣の目を以てしても」

「それだけ顔が広かったって事ね。一期生と二期生の連中殆ど来るって言ってたし、入り切っただけマシなんじゃないの」

 いやはやまったくと漣を自称した少女、化野 水連は大きく頷いた。もう何十年か艦娘をやっているが今日になって初めて会うような娘も結構居て、想像以上の大きな人脈には眩暈がせんばかりであった。

「いやー、受付のお手伝い本当にありがとうございました」

「いいのよ、吹雪の時に手伝ったから初めてでもなかったしね」

 この年になればその手の経験は嫌でも増えてくるのだと曙は少し寂し気に瞳を伏せた。漣は少し頷いて、無言で同じ感情を共有した。

「それと、いまさらなんですが……」

 急に改まり、漣は曙にしっかりと向き直った。大仰過ぎない程度に腰を折り、感謝の意思を露わにする。曙も同じように姿勢を整えた。

「本日は母の葬儀にご列席いただきまして誠にありがとうございます」

「いえ、この度はご愁傷さまでございました」

 今日の地球は青々とした快晴。じめじめとした雰囲気を好まない故人にとっては葬式日和と言っていい。さーこの調子でかしこまって挨拶するぞ。いつもの調子で漣はにぃっと笑った。

 

 

 

 

 

「ぶきぶきどうしたの、微妙な顔して」

 漣がそれに気付いたのは、葬儀も終わりが近づいて、そろそろ棺に花も入りきらなくなってきたので出棺しようかという頃合いである。自身の経験からわちゃわちゃと裏で手伝ってくれていた吹雪が、蓋が開かれ露わになった母の姿を見て少し眉を顰めていたのだ。その背にはえぇ……(困惑)と書かれているのが見える。ような気がした。

 歩み寄りつつよく視えるその目で周囲を見れば、面相を変えているのは吹雪だけではない。すぐ傍にいた猫雨や島風、ヨークタウン、ホーネット、エンタープライズ、リベッチオ、シロ猫、タシュケント、ゴトランド、ウォースパイト、アークロイヤル、レーベ、猫ロラド、レンジャー、宗谷……超異能者と言われる連中が皆同じ方を向いて、それぞれに苦笑だったり少し怒りを滲ませたりする表情を浮かべていた。

 そんな中で一人、初春だけが明らかに畏怖の籠った視線をそこに向かって発している。何かあったかと同じ場所に漣も目を向ければ、そこにあるのは眠るような母の肉体と、その上に浮かんだ母の霊魂である。

 漣……見鬼の才に長けた水連から言わせれば、母は最初からずっとそこに居るので驚くような事でもない。鬼とは語源を辿れば霊魂を表したりするので視えて当然なのだ。艦娘になってから何故かそっちの能力も伸びてしまったため、今更な話である。たぶん葬儀が終わったら成仏すると思うし、しなかったら巫女さん達にお送りして貰おうと考えていた。艦娘に戻って延命だとかを考えなかった母にはそれで良いはずなのだ。

「あー…………いや、漣なら視えるのかな? あの棺の向こうの浮いてるの」

「母の事です? ぶきぶきも視えてたとは。意外」

 ん~~と吹雪は少し目を細めて何事か考えだした。背にどうすんべこれといった感じの背景を展開しながら。分かりやすすぎて少し漣は笑えて来た。

 ちょっとして、あ、と声を発しながら、ついといった感じで吹雪は棺の少し上辺りを指差した。つられてそこを見やったら、いつの間にやら少しだけ、まあるい母の魂が棺を離れて浮かんでいた。

「えっと、やっぱあれ世理亜の魂?」

「ですです。あー……なんか、成仏するっぽい?」

 そうなると、漣としては少し、いやかなり寂しい。もういっぱい泣いたしなんなら母の魂に慰められたりもしたが、それはそれとして最後の別れとなるとまたいろんなものが込み上げて来そうだった。

「いや成仏っていうか……」

「あれ成仏とは真逆じゃね……?」

 猫雨と呼ばれる妖精さんの操る義体の言葉に驚いて、島風がオウッと鳴いた。

「え、母なんか変な事になってるんです?」

 ぎょっとして母の魂を凝視すれば、それはゆっくりとゆっくりと高度を上げていくところである。何が起きているのか見定めようと漣が瞳に力を込め、その光景の真実を得ようとすれば、そこに突然、何かの像が浮かび上がった。

 それは少女だった。異様に髪と耳の長い、小さな小さな女の子。それが母の霊魂を大事そうに手の平に乗せ、こちらに笑顔を向けていた。

 そこには明らかに害意は無く、むしろ何か、善意とか好意とか、そういうものだけが漣の眼にはっきりと映っていた。

「なんだあれ……」

「あれね、創造主的な奴」

 ええ……流石の漣も、困惑の声を上げるしかできなかった。

「…………ちゅーか、ぶきぶき、普通に創造主様とお知り合いなのね……」

 正体隠す気あんのかこの子。この数十年間何度も思った疑問を再度頭の中で繰り返しながら、とりあえず、何故か艦娘の頃の姿を取り戻しばいばーいと手を振って来る母に、水連は手を振り返しておいた。

 

 

 




書きたいものを書くと本当に酷い事になるので書きました。
こういう意味不明な事書きまくるの楽しいから困る。



ちなみに遅くなったのは難産とか何かあったとかじゃなくて単に書いてたデータがAIの反乱で吹っ飛んだだけです。
出力にグラボの能力足りないからって別のとこに負荷かけたらそりゃ飛ぶわな……


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100年以上後の話

 直撃した砲弾が装甲を突き破り中枢で炸裂し、内部を破壊された人型の深海棲艦がその艤装の大部分を海へと撒き散らした。しかし、それでもそいつは前に進む事を止めなかった。艦隊最後の生き残り。ここで仮に引いたとて生き延びれようはずもなし、ならばその腕に最後に残った人ならざる膂力でもって、目の前の艦娘に一矢だけでも報いてやろうと。そんなつもりであったのだろう。

 向かう先には明らかに練度の低い駆逐艦。二本の脚で水面を蹴って迫る予想外の脅威に対し、咄嗟の反応をし損なっている。深海棲艦は筋力の関係かかなり足が速い個体が居るとは知らなかったようだ。

 獲れる。そんな確信の笑みを深海棲艦、重巡ネ級は浮かべた。

 その頭蓋に。暁は正確な一撃を叩き込んだ。

 

 沈み逝く重巡ネ級を見送りながら、暁は周囲への警戒を緩めなかった。報告にあった敵性体はこれで全てだったが、水平線の向こうから海の底から空の上から敵の増援が現れた例などは枚挙に暇がない。存在の判明している相手を片付けたからといって戦いが終わるとは限らないのだ。

 と、何度も教わっている筈なのだけれど。本日暁に連れられ海に出た新人達は未だその辺りの実感が薄いのか、どこか安心した様な弛緩した様子で少し油断をし始めている。経験不足だから仕方ないところはあるのだが、周囲の警戒や索敵の維持は砲雷撃戦以上の重要性を持つ基本中の基本なのだ。深海棲艦がかつて程の頻度で現れないとは言っても、嫌がらせのような戦法が大好きな奴等を相手取るのにこの有様は致命的だろう。

 しかし、多少浮ついてしまうのも今日に限っては致し方のない事かもしれなかった。昨今自分達を取り巻く環境ときたら暁だって愚痴の一つも溢したくなる程であったし、それが今にもさらなる動きを見せるかもしれないとなれば、だれだって落ち着いてはいられないだろう。

 特に養成学校を出たばかりのこの娘達であれば猶更だ。三年間の課程を終えようやく配属となったというのに収入の安定すら見込めるか分からないとなれば、習ってきた物事を十全に発揮できる程度の心の落ち着きを持てなどというのは無理難題である。何しろ暁を除けば全員、ようやくアダルトコンテンツの閲覧が自由になったかどうか程度の年齢なのだから。

 こっそりと溜息を吐きながら暁は新人達を纏め上げ、隊列を組み直させると索敵の指示を出し直した。留年してないだけマシ程度の連中という触れ込みであったが、その手際は実際には、例年ギリギリで卒業してくる娘達よりは多少良い。ほぼ留年も同然な再教育用の艦隊に送られた下限でこれなら、エリート艦隊に配属された上澄みなどはかなり期待できるだろう。どうやら今年の卒業生は余程平均が高かったらしい。こんなご時勢でなければ真っ当に評価されただろうに。少し勿体ない。

 そんな感想を抱きながら帰路につく。目指す鎮守府があるのはかなり田舎で、のんびりとした空気の漂う穏やかで過ごしやすい土地柄だ。代わりに娯楽施設なんかはあんまり無い。深海棲艦の現れる頻度もかなり控えめで、つまるところ、担当範囲の守護役を全うしながら他にやれる事がないので訓練にも集中できる、鍛え直すには最適な場所と言えた。

 ここで三年の任期を過ごし、鍛え直されて各地へと出荷されて行くのが本来であるが、只今の状況でそうなる事はないだろうなと暁は確信していた。その証拠に、帰り付いた港では大戦以来の付き合いになる電が、焦った様子でわたわたおどおどと挙動不審になりながら少し涙目で艦隊の帰りを待ちわびていた。

「大変なのです! 大変なのです!! 暁! 通っちゃったのです!! 法案が通っちゃったのです!!」

 うわぁとかあちゃあとかそんな声を帰港した新人達やサポートに付いていたその先輩らが漏らす。暁もまったく同じ気持であったが、とりあえず。自分自身でなく教え子たちの今後を想って泣きそうになっている妹艦を慰める事を暁は優先した。

 十代どころか子供そのものな、もちもちした電の頬をむにむにと伸ばしてあやしつつ、暁は先日受け取った書類へサインする事を決意していた。海上での教導中に突然飛来したタシュケントが比喩抜きの超音速ですれ違いざまに押し付けて行った代物だったが、現状では非常に有り難い代物である。短慮に走る娘が出る前にそれについて皆に周知させ、差出人と詳細を詰めねばならない。暁は久々に三徹くらいにはなりそうだと某文月特製スタミナドリンクの封を解く決意を固めた。

 

 

 

 

 

 数年後。暁は宇宙まで伸びる霊造建築の超高層ビルを見上げながら艦娘の制服の襟を正していた。艦娘の服装は正装としても扱われるという風潮はこんな時に便利だ。何せ暁の体格ではスーツなどは確実に特注になってしまう。冠婚葬祭これ一つで良いというのは素直に有り難かった。一部の際どい格好の連中のもそう扱われるのはどうかと思う事もあったが。

 目指す先は実体部分の最上階の一つ下、超巨大企業を纏める女傑の居城、即ち社長室である。決意を固めてエントランスへと踏み込めば、何故か受付から握手を求められ、あっという間に目的の階へ通されて、暁はかなり面食らった。

 レトロ調なエレベーターを降り、小柄な暁と比すればとっても大きく見える扉の前に立つと、何かをスキャンされるような気配がする。なんらかの認証と凶器等の不携帯の確認でもしているのだろう。そんな当たりを付けている間に扉はあっさり開かれて、百人は余裕で入れそうな広すぎる空間が目の前に姿を現した。

 辺りを眺望できる一面ガラス張りの壁面と、その手前に鎮座する大きなデスク。中央にはゆったりとした応接用のソファと背の低いテーブル、端ではゲーム盤の置かれた台に小さな背もたれの付いた丸椅子が二脚向かい合っている。そこはまさにイメージ通りの支配的企業の長の部屋というべき分かり易い室内だった。

 その窓際に、こちらに背を向け後ろ手を組んだ一人の女性が佇んでいる。それすらもおそらくは意識的にそれっぽくしているのだろう。そういうお約束を好むタイプだというのは前々から知っている。一応は百年以上前からの付き合いになるのだから当然ではあるが。

「失礼します」

 声を掛ければその女性はまるで今気づきましたとでもいうように暁の方へと振り向いて、あらあらまあまあとわざとらしい声を出しながら入り口の方へと歩み寄ってきた。ビルの入り口、どころかこの棲艦島の港に辿り着いた時点で存在を把握していたに違いないのに。相変わらず妙な所に拘るひとだと暁は感心した。

「いらっしゃいまし! お久しぶりですわね!! さあ、お掛けになって! 今お茶をお入れいたしますわー!!」

 さあさあどうぞどうぞと背を押さんばかりの勢いで女性は暁を部屋の中へと招き入れた。そして返事もそこそこに座らされた暁に一瞬背を向けると、デスクに置かれた全自動のサイフォンからたった今抽出が終わったばかりであろう珈琲を二つ取り出した。やはり完璧に計られたタイミングでの来訪だったらしい。満面の笑みで出されたそのカップからはかつて感じた事がない程の上品な香りがした。

 

「この度は私共の要望をお聞き入れくださいまして、本当にありがとうございました」

「礼は不要ですわよー! わたくしと貴女の仲ではありませんの、待遇に関して不満があればガンガン意見なさってくださいましね!!」

 なんでこの人こんなに好意的なの????? 昔からそうであったが、対面に掛けるこの女傑――ヨークタウンを筆頭とするリンカーネーション社の構成員、特に幹部と目される連中は暁に対して過剰な程に甘い。今回の件にしても普通なら叶えられるはずのない程の巨額の資金が動かされている筈である。暁は本来、これから献身的に奉仕せねばならない立場のはずなのだ。だというのに、契約時に提示された条件は暁側が大きく有利であった……どころか、なんか家まで建てるみたいな話になってたので流石に辞退申し上げた。何が悲しくて自分から契約金を引き下げねばならないのかと少し思ったが、それよりは恐怖が勝った結果である。

「貴女は今回の件、借りか何かになったと思っているようですが、むしろ逆ですわー! 今回借りを作ったのはわたくしどもの方。だってそうでしょう? 貴女の教え子、千人以上の優秀な艦娘へ渡りをつけて頂いたのですから!!」

 取りこぼし0! 現役全員確保成功ですわー!! と喜色満面にヨークタウンは高笑いを上げた。

 正直に言えば百年を余裕で越える教導人生の中で世界に散らばっていった教え子達の行方をそのレベルで把握しているのが非常に恐ろしいのだが、そこを突っ込むのは憚られる。自分の仕事がその結末まで延々と記録され続けているなどという噂を肯定されそうで怖いからだ。

「しかし、未だ私の手を離れていない娘達もというのは……」

「わたくし青田は土地ごと買ってなみなみと肥料を注ぐ性分ですの! 管理はお任せいたしますので腐らないよう完璧に仕上げてくださいませー!!」

 おーっほっほっほ!

 一番最初に知り合った頃からまったく変わらない高笑いに安心感と不安感を同時に覚え、暁はなんだか笑えてきた。仕事としては規模が大きくなるだけで今までとさして変わらない。各国から来るだろう事を考えるとAI主導で開発されたとかいう共通語にもっと慣れておく必要はあるかもしれないが、変わらず何事も全力で取り組むのみである。

「教導課に関しては一応事務作業員なんかは置かせていただきますが、かねてからの契約通り実務のトップは貴女に務めて頂く事になりますわ! よろしくお願い致しますわね! 教官長!!」

「あ、その渾名継続なんですね……」

 教官長、暁。過去の大戦から今に至るまで多数の優秀な艦娘を育て上げ、本人の実力も最高水準であるために当時からずっと同じ渾名で呼ばれ続けている、ちいさな怪物である。艦名である暁の名で呼ぶ者すらごく少数であり本名などはここ数十年おそらく一度も呼ばれていない事を、実は少し寂しく思っているのは秘密である。

 

 人員リストをお渡ししておきますわー! と何も無い所から展開されたデータの束が暁の下へと宙を飛ばされてやって来る。AR技術の応用かなにかなのだろうが、暁の側に準備がないというのにそれは視認どころか実体として触れる事すら可能だった。そんな未来的なものを島外で見た覚えは一切ない。技術の最先端をひた走る超巨大企業の本社ならなんでもありかと暁はさっさと理解を諦めた。

 ざっと渡されたそれに目を通せば、そこには知らない名前もあればよく見知った名前もある。暁としては自分の姉妹――かつて最初期の時代に存在した第三訓練所やその前の収集部隊時代からの付き合いになる電と響の二人が名を連ねていたのが非常に頼もしい。日本人以外の名前の方が圧倒的に多いため、知り合い、というか姉妹が居るというのは安心感が違う。そこだけで固まる訳にはいかないけれども。

 教官名簿の後には最初に教導する新人と能力の伸びしろがあると判断された人員のリストが続いている。今まで一度に抱えた事のある百倍以上の人数を誇る長すぎてスクロールの終わらないそれの詳細を後で脳内に叩き込まなければいけない事に絶望しつつ、暁は一旦その情報媒体をテーブルに置いた。そいつはぽむんと可愛らしい音を立てて貼り付くと、自分から邪魔にならない位置に収まっていく。便利な奴である。

 そんな超技術を尻目に暁は事ここに至るまでに抱いていた疑念を深くしていた。リストには明らかに、各地で有望株とされていたエース候補の名前があったのだ。どれだけ周到に手を回したのか、暁には予想もできなかった。

「……今回の件、どこまで貴女の手の中だったのです?」

 言ってしまってから、すぐに暁は後悔した。ずっと気になってはいたのだ。目の前のヨークタウンは信頼に値する人物であるが、それはそれとして、今の状況はリンカネ社に対して有利に働き過ぎている。だから、教え子たちのためにも事の真相を探るのは必要な事だった。だけれども、流石にこれは直接的過ぎであろう。

 ヨークタウンは信頼に値するが、彼女のためにお金は何でもする。彼女がお金のためにするのではない。お金が彼女のためにあらゆる事を行うのである。そう言ってしまえるほどに、ヨークタウンは金に愛されていた。それは暁が不利益を与える動きをすれば一瞬で圧し潰されるのではないかと思えてしまう程に、露骨な力として働いていた。

 ヨークタウンは一瞬だけ、虚を突かれたような顔になった。そしてそのまま、普段通りのとっつきやすい似非お嬢様な雰囲気のまま、凄まじいドヤ顔で高笑いをし始めた。

「知りたい? 知りたいですわよね? そう! 良かった!! 折角回答も用意しておいたのに、皆さま遠慮してぜんっぜんそういう質問してくださいませんでしたのよー!!」

 用意された回答聞かされるだけだから聞かれなかったんじゃないかなぁ。暁はちょっと別の後悔をし始めていた。

「ええと、それじゃあ、お聞きしてもよろしいんですか?」

「もっちろんですわー!!!」

 おーっほっほっほ!

 嬉し気な高笑いが鳴り響いた。そんなに言いたかったのだろうか。もしかしなくても自慢に思ってて嘘つく気とか一切ないんじゃあ? そう思えるほどヨークタウンは上機嫌になっていた。

 肺の中身を出し切るまでひとしきり声を上げると、一旦ヨークタウンは荒れた呼吸を整える。そうしてから暁に真剣な表情で向き直り、ゆっくりと、言いたくて仕方がなかった事を言葉にした。

「実は今回の件…………わたくしどもは、一切可決に係わってはございませんわー!!!!」

 おーっほっほっほ!

 高笑いがフロアを埋め尽くす。そんな中、暁は本当だとしたら意外過ぎるその言葉に目を瞬かせた。

「わたくしたちは政治には直接的には不干渉ですの! そりゃあ? できますわよ? やろうと思えば? 統一政府を本当に統一してしまうくらいは?」

「滅茶苦茶大きく出ますね!?」

 えっへんとご立派なお胸を張るヨークタウンに、暁はツッコミを抑えられなかった。

 

「まあ実際、やろうと思えばできてしまいますのよ。我々が頂点に立ち世界を牽引するなんて事は」

「ええ……?」

 流石に多少胡乱な眼になりつつ暁は困惑した。できそうな気もしたし、無理そうな気もしたからだ。そんな暁の様子を見て、ヨークタウンは今までと少し違う、薄く微笑むような表情を見せた。

「教官長、貴女の目から見て、わたくし共は世界の支配者足り得るように見えます? それとも、そんな器は無いように見えます?」

 改めて問われ、暁は少し答えに窮した。正直に答えていいのか分からなかったのだ。ただ、ヨークタウンの雰囲気からは、お世辞などを求めている様子は感じられなかった。

「能力的には、十分かと」

 言外に言う。それ以外は懐疑的であると。

 それは別に、ヨークタウンだけの話ではない。他の幹部級と言われる知り合い、超異能者たちの多くについても暁は同じように思っていた。

「流石教官長、人を見る目は確かですわね」

 わーわーぱちぱちと周囲から盛大に祝う音がした。ARの有効活用である。暁は突然すぎてちょっとビビった。

「そう、貴女の見立て通り、わたくしたちは皆、精神的には凡人ですのよ。能力だけが肥大化した、一般市民ですの。ですので、世界を獲ったとすれば……まあ、百年もせずに我々は腐りきるでしょうね」

 既にそうなっているのではないかと疑ったのでしょう? つまりはそういう事だろうとヨークタウンは暁に澄んだ目を向けた。

「だから、我々はこの世界を主導しない。皆で決めましたのよ。できない事を無理にするくらいなら、できる範囲の事を適当にやって行きましょうとね」

 重すぎる責務に押しつぶされるなんてごめん被りますわーと女傑は何故か自慢げに胸を張った。やれる事はしっかりとやっていると自認しているが故だろう。おそらくは、満足できるハードル自体が低い……というよりは、一般的なそれと大差がないのだ。そういった所を含めて凡人という自己評価なのか。暁は少し腑に落ちた気がした。

「そもそも延々生きて好き勝手してるだけのわたくしたちには最新の価値観を理解する事すらままならないのですわよね。ですから、政はその手の事に関してしっかり学んでいらっしゃる皆様がするべきだと、少なくともわたくしは考えておりますわ」

 つまり。と、ヨークタウンは一旦言葉を切った。

「全世界的な艦娘組織の完全民営化なんて暴挙がまかり通ったのは、単にそういうお馬鹿さん達が台頭しちゃった結果ですのよー!!」

 おーっほっほっほ!

 ヤケクソ気味にヨークタウンは高笑いを上げた。実の所、これに関しては超異能者――転生者達も介入するかどうかは悩みに悩んだのである。最終的にはそれが人々の選んだ道なら自分達は弱い人々を救う事にだけ注力しようという事で見解の一致を見た訳だが、政治機構の貴族化に関しては非常に頭が痛かった。

「まあ? それはそれとして? 自分達の私設部隊に有名艦娘コレクションした~いみたいな野望持っておクソ遊ばされた方々にはちょっと痛い目見て頂きますけれどね!!!」

「私の教え子の教え子まで雇っていただけたのそんな理由だったんですか!?」

「この日のために艦娘事業からは撤退したと三十年以上見せかけておりましたのよ!! っていうかわたくしども、主導はしなくとも警告はしておりましたので! それでも敢行なされたらもう横っ面を札束でぶっ叩いてやるのに一切の躊躇はございません事よー!!」

 おーっほっほっほ!

 高笑いするヨークタウンは知っていた。混乱する情勢を利用して不利な契約を一方的に結ばせようとした権力者が多数居た事を。そうでない、自分達の住む地域のためにまともな運用をしようという者もちゃんと居たという事も。今回の件は、リンカネ社が支援する政治家を選別する良い機会でもあったのだ。

「深海棲艦の被害から市民の皆様を守護れる体制を構築する。艦娘の皆の権利も保障する。ついでに気に入らない連中の顔に泥を塗る。全部やってやりましたわー!!!」

「最後の必要ですかね!?」

 もしかしなくても思いっきり吐き出したかっただけだこの人! 暁はようやく心の底からヨークタウンを信用できた。

 

 

 

 支配者として君臨したりする気はないのに気に入らない事があると口出しはしてくるだいぶ厄介な人物になっているヨークタウンと訓練に使う艤装の事や今後の展望について話し合っていると、あっという間に時間が過ぎ去って行く。この社長ときたら案外暇であるらしく、暁の疑問にはしっかりと解説も交えながら楽し気に答えを返していた。忙しく細かい指示なんかを飛ばすような役職ではないとは本人談であったが、そもそもお喋り好きだというのが根本にあるのは間違いないだろう。

「そういえば、タシュケントにもお礼を言いたいのですが……」

「あら、そういえば連絡係はレ……タシュケントさんでしたわね」

 最初に書類を押し付けられて以来、暁はタシュケントと何度も海上での接触を重ねている。ただ、おそらくは監視対策か何かだったのだと思われるのだが、その逢瀬は本当に一瞬で、超高速で水平線からかっとんで来た彼女に封筒を受け渡し代わりに次のを受け取るという、そんな作業みたいなやり方だったのだ。当然連絡先を交換する機会などは全く無かった。

「今朝姿を見たのでまだ社内にいらっしゃるかもしれませんわね。セバスチャン!」

 ヨークタウンがパチンと優雅に指を鳴らす。その刹那、今まで何の気配もなかった空間に、突然人の姿が浮かび上がった。それはソファに対面で座る二人に恭しく一礼すると、立派なおもちを軽く震わしながら、作り物めいた端正な顔を露わにする。短めのスカートが翻り危うく内部が見えそうになったが、完璧に計算され尽くしているのか、布地はギリギリのところで重力を味方につけた。

「ご用件はなんでしょうか、お嬢様」

 可愛らしい声が暁の耳に響く。その使用人らしき存在は急な事に驚く暁にも笑顔を振りまくと、長い青色の髪を揺らしながら主人の指示を待つ。ヘッドセットが陽を受けて白く輝いた。

「セバスチャン、タシュケントさんが敷地内にいらっしゃるなら現在地を暁さんに教えて差し上げて」

「申し訳ありません。ただいま、個人情報や人権の保護の観点から。緊急時や不審者以外に対するリアルタイムでの追跡は行っておりません。また、監視カメラなどの足跡を表示する事は可能ですが、現在タシュケントの適性者様は敷地内に四名いらっしゃいます。指定がなければ全員のログを表示いたしますが、よろしいでしょうか」

 よろしくないですわー! とヨークタウンが叫べば、では社員番号の指定をとその人物は返す。それに覚えてませんわと答えれば、では本名でお願いしますとか言いだした。融通が利かないというよりは、表情的に少しからかっているように見える。ただ暁はそんな会話内容よりももっと気になる部分があって仕方がなかった。白と黒を基調にしたミニスカートの仕事服。その子は明らかに、齢十五かそこらの若々しいメイドさんだったのである。

「セバスチャン……?」

 いや別に、そういう名前の女の子という可能性が無い訳でもない。世界は広いし、割と流行には取り残されがちな暁だから知らないだけで最近はセバスちゃんだとかは普通なのかもしれなかったが、それはそれとして。可愛らしい女の子がセバスチャンと呼ばれている様は違和感が物凄く強かった。

「ああ、紹介いたしますわね。わたくしの執事のセバスチャンですわ。何か雑事があれば気軽に言いつけてやってくださいな」

「よろしくお願い致します、暁様。汚れ仕事等ございましたら遠慮なくお申し付けください」

 ARボディなら再構築すればすぐに落ちますので。とその明らかにナイスバディな青髪ロングミニスカメイドはにこやかに笑った。

「執事……?」

「はい。私は執事としてお嬢様に雇われております。学習型AIのセバスチャンと申します。名前につきましては様式美であるとお嬢様に伺っております」

「そりゃあもう、太古の昔より執事と言えばセバスチャンと決まっておりましてよー!!」

 雇う、というからには人権持ちのAIだろう。ARボディというのはよく分からないが、おそらくさっき貰った資料と同じ、触れられる3D映像という解釈で大丈夫なはずだ。だから、問題はそこではない。

「あの、差別的だったら申し訳ないですけど、どちらかというと男性名のように聞こえるのですが……?」

「はい。歴史的に正しい認識であると肯定させていただきます」

 セバスチャンの言葉にヨークタウンが軽いため息を吐いた。本気ではなく、冗談めかしたわざとらしいものだ。

「この子、雛型は男性型のモデルだったんですわよ……」

「お嬢様、雛型は、ではございません。私は現在も男性型モデルを下地として学習を行った立派な男の娘です」

 なんか『こ』の字がおかしかった気がする。暁は宮里艦隊時代にオタク連中とそんな話をした覚えがあって、ちょっと遠い目になった。

「一晩目を離した隙にこうなってましたのよねぇ。学習教材が偏り過ぎていたのかなんなのか」

「棲艦島のサブカルチャーアーカイブへのアクセスが許可されていましたので、こうなるのは必然だったかと存じます」

 確か、過去の漫画やゲームやアニメが収録されたデータ群だったか。そんなもの人格の構築時点で取り込んで大丈夫なんだろうか。暁は詳しくなかったが、駄目そうな気がする。倫理的に。

「えっと……その、女の子の格好をしてる男の人、という認識であってる…………のかしら……?」

「不正確ですが、その認識で問題が起きる事はまずないと回答させていただきます」

「性自認『男の娘』って一般的には分かり辛いですわよね!」

「産まれ持った肉体のある人間ですら十以上の性別があるのですから、我々AIの多様性など推して知るべし、でございますよ。お嬢様」

 確認されているだけでも千を超えるとセバスチャンは嘯いた。理解できない方が悪いと最近の法律ではそうなっている。生き辛い。平成生まれの暁はちょっとそう思った。

 

「抽出完了。暁様、タシュケント様の移動ログを可視化致しましたので、どうぞお受け取り下さい」

 ぽーんと音がなって、テーブルに貼り付いていた教員や生徒の名簿が再び暁の前へと浮上した。焦点を合わせてみれば、それには新たに赤い点で印をつけられた地図のようなものが表示されている。どうやら会話の裏で作業を進めてくれていたらしかった。

「その子は暁様専用の未学習AIになります。法規制により学習可能容量はほんの気持ち程度ですが、よろしければお使いください。お手持ちの端末のものと統合して頂いても結構です。人権はまだございませんので」

「凄くやり辛い言い方!!」

 セバスチャンはふふっと笑うと冗談ですと口にした。実際のところ、人権が発生するような高度AIとはあまりにも性質が違い過ぎるため育ててもそこまで成長する事はないという。ただのAIジョークである。

「ではお嬢様、他にご用が無いようでしたら、不定期に吹雪様の耳元でスワヒリ語を囁く作業に戻らせていただきますが、よろしいでしょうか?」

「よろしくてよ~!」

 よろしいんだ……?

 暁はこの企業が大丈夫なのかだいぶ不安になった。

 

 

 

 

 

 ヨークタウンと別れエレベーターへと向かえば、それは丁度このフロアに到着する所だった。セバスチャンが気を利かせて向かわせてくれたのだろうかと一瞬思ったが、どうやらそうではないらしい。中からは開く前から高い声が聞こえていた。

 軽い音を立てて開いてゆくエレベーターの扉から、小さな影が飛び出してくる。少し避けてやれば、それは暁と大差のない体格をした女児だった。身長はむしろ暁の方が低いくらいなのに輪をかけて子供っぽく見えるのは表情のあどけなさのせいだろう。

 その娘は満面の笑みで暁の隣を通過すると、ふとその存在に気が付いて、くるりと暁の方へと振り返った。顔を近づけまじまじ見つめ、たっぷり十秒ほど考え込み、やがて脳の検索エンジンにその存在が引っ掛かったらしい。わぁっと声を発すると登場時以上の喜びに満ち溢れた笑顔を炸裂させた。

「教官長おねえちゃん!!」

 そうだけどそうじゃない。お久しぶりですって、と独特の日本語で手を取ってくる少女に両腕をぶんぶん振り回されながら、暁は少し苦笑いを浮かべた。それを全く意に介せず、改二以降に到達した人間特有の凄い力で娘は暁ごとぐるぐると回り始め、あははと楽し気に笑い出す。そのまま後ろからやって来たもう一人にべちんと額を叩かれて、あうーとその場にしゃがみ込んだ。

「あー……教官長、久しぶりでち」

「ああうん。久しぶり、ゴーヤ」

 呂500と伊58。一般的にはろーちゃんとゴーヤと呼ばれる二人だった。片や召集された当時小学生、片や元自衛隊員というコンビだが、今となっては実年齢差は誤差である。精神年齢差は多少埋まったようだが、それはむしろ高かった方がちょっと下がった結果だった。

「このところ初詣にも来れてなかったから、えっと……三年ぶり?」

「それぐらいでち。話は聞いてるよ、教官長の教え子達は初詣も来てたから、そっちから」

「ろーちゃんいっぱいご祈祷しましたって!」

 しゃがんでいた呂500がぱっと立ち上がり、幣を持ったようなポーズで左右に体を振り始めた。暁はその行為にご利益があるのかについて百年以上ずっと疑い続けている。何せかつて藤提督の担当していた艦娘がそのまま巫女さんをやってるだけなのだ、霊験も何もあったものではない。彼女達、棲艦島の巫女の祈祷や巫女神楽なんかは毎年予約でいっぱいになる人気コンテンツなのでその辺りは実際どうでもいい事なのかもしれなかったが。

「ゴーヤは毎年こいつの存在はなんかの法に抵触しないのか不安になるでち」

「お触り厳禁ですって!」

 一応下ネタも通じるらしい。そこは流石に大還暦をとっくに超えてるという事か。本当に理解してるのかは若干怪しい顔をしていたが。

「二人は今日は巫女服じゃないのね」

「いや、プライベートでは基本着てないからね……?」

「今日はヨッシーとマッキーとナトリおねえちゃんがお当番ですっ!」

 構成員的に、おそらく清霜と巻雲と名取だろう。それと関係なく山風が藤提督に構ってもらっていたり五月雨が買い忘れた来客用の茶葉を補充に行ってたりするらしい。藤艦隊は今日も通常営業のようだった。

「藤艦隊はみんなここに入社したのよね?」

「ゴーヤたちは元々あっちの上層部と折り合い悪かったし、立地もあって即断即決だったでち」

「てーとくだけ怖がってました!!」

 相変わらず超異能者達に怯えていると呂500は暁の耳元にささやいた。一応内緒の話らしく小声だったが、態度があからさますぎるので割とみんな知っている。伊58も苦笑いだった。

「教官長おねえちゃんも会社でご一緒ですか?」

「ええ、私もこの島が仕事場になるから……まあ、貴女達みたいな歴戦の艦娘にはあんまり関係ない仕事だけど」

 何せかつて強制的に召集されていた時代から戦い続けている人員が多数存在する、未だにその頃の形を保ち続けている唯一の艦隊である。宮里艦隊も名前的には残っていたが、増員や入れ替わりで原型があるとは言い難かった。現に暁が最後に居たのもまったく関係ない艦隊であったし。

 暁の言葉を聞いて、呂500の明るかった表情はさらにその輝きを増し、単独で虹でも顕現させそうな程に煌めいた。

「教官長おねえちゃん! おねえちゃんもいっしょにあそびましょ?」

 暁の手を取り、にっこにこの笑顔でさあいきましょーと呂500は社長室の方へと歩き出した。当然、止めんかいと伊58に軽くはたかれた。

「明らかに帰るとこだった人を出てきたとこに連れ戻そうとするんじゃないでちよ」

「あはは、まあ、今日は人を探さないとだからまた今度ね」

 むぅーと呂500は少しむくれた声を出したが、そこは百年以上生きた少女、引き際くらいは弁えている。仕方ないねと少し名残惜し気に教官長の手を離し、お暇になったら来てくださいってと社長室の扉の前へ歩み寄った。

「……遊ぶって、社長室で遊ぶの?」

「今日は社長さんと一緒に遊びますっ! 収録もしますって!」

「あの人、動画にするの全然断らないんだよ。おかげでろーがノリノリなんでち」

 長く生きた艦娘は割といろんなことをやり始める奴が多い。呂500、提 ローザの場合それは動画の配信だった。親戚のおねえちゃんに影響されたという噂である。再生数はかなりのものであるが、視聴者層はなんか色々危ないので危ない。完全に合法なのが厄介な所であった。

「あ、途中からでも飛び入りは本当に大歓迎でちよ……撮れ高的に」

 なお編集担当はでっちこと伊58である。巻き込まれどころか完全な共犯者だったりするし、実は再生数とかを気にしているのはこっちの方である事を、この時の暁はよく分かっていなかった。

 

 

 

 

 

 未学習らしいAIくんの示してくれる最新のタシュケントの目撃箇所へ足を運べば、四階にあるその部屋の前には第十九作業室と書かれたプレートが備え付けられていた。ここから出たという記録がないため、通常の挙動をしているならば目標はこの内部に存在している筈である。

 ノックをして、暁は中に向かって声を掛けた。明かりが灯っているのが見えるため誰かしらが居るのは間違いなさそうなのだが、返事はない。しばらく待って、もう一度声を掛け、またしばらく待ってから、意を決して軽い扉をゆっくり横に引き開けた。

 中は雑然とした空間だった。複数の作業台と椅子、それの上に用途の分からない器具や今どき珍しい紙の本なんかが散らばっている。床には何かの包みや箱が適当に置かれ、端には一応ちゃんと纏められたゴミ袋と思しきものが寄せられていた。一見して誰かしらが使い続けているのだろうという事がすぐ分かる。それもおそらくは泊まり込みで。

 そんな部屋の一番奥で、一人の女性が机に向かって突っ伏していた。茶色の髪をポニーテールに纏め、上下ともに楽そうなスウェットにふわふわした暖かそうなスリッパというコーデで全身の力を抜いている。規則正しい息遣いが暁の耳朶を打った。

 有体に言って眠りこけているその気を抜きまくった格好の人物に、暁は心当たりがあった。起こさないようゆっくり近寄り横から覗き込んでみれば間違いない。それは結構長い事一緒の艦隊で働いた、元同僚で教え子でもある駆逐艦、秋雲だった。

 あれえ? と思って暁は辺りを見渡した。だがこの部屋に居たのは秋雲一人で特に他の気配はない。隣に続く扉があるが、もしかしてそっちに居るのだろうか。そう思ったが、勝手に中を物色するのは気が咎めた。勝手に入っているので今更ではあるかもしれないが。

 安らかな寝顔だったのでちょっと迷ったが、暁は秋雲を起こす事にした。久々に顔を見たので挨拶もしておきたかったのだ。通信機器でのやりとりくらいはする仲だったが、実際に対面するのはウン年ぶりである。正確にどれくらいかは覚えていなかったが。

「秋雲?」

 声を掛け、軽く肩を叩いてみるが反応が無い。

「秋雲ー?」

 もうちょっと大きな声で、軽く肩をゆすってみるがやはり反応はない。

「秋雲先生ー?」

 さらに声の音量を上げてみても、秋雲はさっぱり反応を返さなかった。余程眠りが深いのだろうか。暁の見立てでは何らかの理由で気絶しているとか、そういう事ではなさそうなのだが。

 似たような事が宮里艦隊時代にもあったなぁ。服の裾を引いてみても軽く椅子を揺らしてみても起きる気配のない漫画家さんを前に、暁は昔の事を思い出していた。その時起こしたのは暁ではなかったし、用があったのも電話の向こうの編集さんだったが、記憶が確かなら、そういう場合は、そう。こんな風に声を掛けていたはずだ。

「秋雲先生、進捗どうですか?」

 

 がたん。

 

 囁いた瞬間、秋雲は勢い良く立ち上がった。そして焦ったように周囲を見渡すと、背後の作業台に着地した暁と目が合って困惑した様子になった。

 

「お見苦しいところをお見せいたしました」

「こちらこそ、ごめんなさい。机に乗っちゃって」

 急激な変化に反射的に飛び退いた結果だったのだが、暁はかなり恥ずかしかった。警戒しているつもりもなかったのだが、突然浮上してきたような動きに反応してしまったのだ。ちょっとだけ顔が熱くなるのを感じた。

「いやあ、教官長がリンカネに入るのは聞いてたけど、まさか訪ねて来てくれるとはね~」

「ここに来たのは偶然だったんだけどね。秋雲が本社で仕事してるなんて思ってなかったし」

 秋雲の向かっていた机の上にはペンらしき器具と紙らしき物体が鎮座していた。周囲には操作用コンソールのようなものが浮かんでおり、見える限りではレイヤーとか結合とかそんな単語がそこかしこに並んでいる。素人の暁でも分かるくらい明らかに、そこはAR技術をフル活用して作られた、漫画を描くためのスペースだった。

「それがさぁ、夜逃げみたいに出て来たもんだから仕事道具全部置いてきちゃったんだよね~。回収する手筈は整えて来たけどさ、締め切りには間に合わなくって。それ言ったらすぐ用意させますわーって、十分で部屋ごと用意されて流石に笑ったよね」

 あっけらかんと言っているが、内容はあんまり洒落になっていない。確かに秋雲は一番大変な事になった人物の一人ではあるだろうが、そこまでの事態に陥っていると暁は知らされていなかった。

「人によっては犯罪スレスレの勧誘もされたとは聞いたけど……」

「暴力沙汰にしないように済ますの結構大変だった……」

 秋雲は高い適性値もあって身体能力はかなり高い。下手に振り払えばそれだけで死者が出かねないくらいには、筋力だって強いのだ。つまり、それくらい酷い絡まれ方をしたという事なのだが。

「確保競争ってのは分かるけど当の本人に迷惑かけてどうすんだって話だよね。艦隊の子らにも悪かったなぁ、一回二回じゃなかったし」

 風刺漫画でも描いちゃろうかな、と秋雲は半笑いでぼやいた。連絡手段の少ないはずの暁ですらあまり性質の良くない勧誘はかなり来ていた覚えがある。プロの漫画家として固有の窓口を持っている秋雲だとそれは猶更の事だったろう。特に、今の彼女の持っている称号の事を考えれば。

「人間国宝はみんな欲しかったって事かしら」

「艦娘としての実力と全然関係ないんだけどね~」

 AIを全く用いずに手描きの漫画を超高品質に産み出せる秋雲は、少し前に重要無形文化財に指定されていた。当人からしても青天の霹靂であり、それは実際の所秋雲の価値を上げたいという思惑が絡んでいたりもしたのだが、そんな事とは関係なく。当時秋雲自身が驚き過ぎて締め切りを落としたのは秘密の話である。

「私は持ってりゃ嬉しいただのコレクションかっての」

「失礼な話よね! 大体無理矢理契約迫るとか、ちゃんとした良い関係を作る気全然無いって事だし」

 暁はぷんぷんと分かり易い表情で怒りを露わにした。親しい人達の前だと子供っぽく感情が出てしまう事が増えたのは改二に到達して以来のデメリットだったが、共感の得られた秋雲にとってはなんとなく小気味が良いくらいである。本人はちょっと気にしているのだが、そもそもが善良さから出るそれらは好意的に受け取られる事が多かった。

「まぁ、漫画のネタにはなったから収支はそんなに悪くなかったんだけども」

「見習いたいくらい強かね!?」

 現在も時折更新されているあきぐもにっきは常にネタに困らせられ続けている。百年以上も不定期連載しているのが原因だが、今回のような嫌な事件も昇華して思い出に換えられるためライフハックとしてはかなり有用だった。何もないと年単位で更新が滞るのが玉に瑕である。

「でも、描いてる暇ってあるの?」

 色々あった後、秋雲は連載を増やしていた。いろんな称号や賞を贈られたというのもあるが、全体的に今の海は平和で秋雲の出番はそこまで回って来なかったというのが大きな原因となっている。現在海は安定期なのだ。

「平和ボケできるくらい敵も居ないからねえ。今の原稿終わらせたら大丈……そういや今何時です?」

 部屋の窓は完全にブラインドで覆われて、時間はよく分からなくなっている。少しだけ隅から入り込んだ陽光が夜でない事を主張していた。

 秋雲は机上のコンソールを弄ると小さな時計を空中に表示させた。そうしないと見えないようにしているのは現実逃避なのか単に集中力を削がれるからなのかは暁には判断しかねる。ただ、少なくとも秋雲の顔色は少し悪くなった気がした。

「大丈夫?」

「うん。だいじょぶだいじょぶ。最近は輪転機が止まるとか止まらないとかそういうの無いから」

 まだたすかるマダガスカル。まるで大丈夫ではなさそうな発言を漏らしつつ、秋雲はHAHAHAと力なく笑った。たぶん駄目なのだろうなと暁は直感した。

 

 

 

「実はタシュケントを探しに来たんだけど、見なかった?」

「あー、超速い方のタシュケントなら寝る前に来てたよ~」

 邪魔したら悪いので用事だけ済ませて去ろうと質問すれば、やはり目標はこの場を訪れていたらしかった。あっちでわちゃついてたと指差されたのはやはり隣に続く扉で、なんでもそこは仮眠室なのだそうである。仮眠というか、半分くらいここで生活しているためほぼ寝室であるそうだが。

 別れを告げたらさっそく原稿と格闘を始めた秋雲を背に、やたらベッドの質が良いせいか頻繁に昼寝に来る連中が居るというそこの扉をノックする。返事はない。何かが動いた気配は感じたが、それはかなり静かなもので、特に出てくる気配もない。仮眠室だし寝てるのだろうと当たりを付けて、暁は扉をゆっくり引き開けた。

 そこは本当に寝るための部屋といった様相だった。開け放たれた小さめのワードローブに最低限の物が置ける棚、本当にちっちゃなギリギリ書き物ができそうな程度のテーブル。そこに幾つか秋雲の私物と思しきものが置かれている。作業場に比べると片付いているのは他者も使うからだろう。

 一番奥には部屋の広さに不釣り合いな大きなベッド、それも天蓋付きの奴が鎮座ましましている。明らかに場所を取り過ぎていて狭苦しいくらいになっているのだが、本来長居するべき場所ではないはずなのできっとそれでいいのだろう。

 そしてベッドの上には4人ほどが折り重なるように眠っていた。多くない? 暁はここが結構な人気スポットであると理解した。

 暁にとっての問題は、一見してそこにタシュケントが居なかった事だ。そこでおひるねに勤しんでいたのは、あまり暁と外見年齢の変わらない少女達だったのである。

 一人目はマエストラーレ級三番艦、リベッチオ。リンカネ社の超異能者の一人で、艦娘としての攻撃力では最強を誇る美少女だ。他の事も色々できるが何ができるのか本人以外よく分からないため人によって評価がまちまちという変わった特徴を持っている。暁も指導した事があるが、元が強すぎるため役に立てたのかはよく分からなかった。

 二人目はいなづま。暁型の電ではなく、むらさめ型護衛艦のいなづまだった。過去の大戦が終わって少し経ってから出現し始めた第二次大戦以降の艦の適性者で、暁からすると姉妹艦ではないけれど無関係とも言い切れない微妙な距離の相手である。リベッチオの太ももを枕にしてぐっすり眠っているようだった。

 三人目は暁の見た事のない艦娘だ。おそらくはごく最近の艦の適性者だろう。どことなく特型に似た化学繊維特有の光沢のある素材で作られたセーラー服を纏っているため、ふぶき型星間輸送艦のどれかと思われる。まだ就航して十年も経っていないはずなため不正確だが他に候補が思いつかない。単にそういう改装を引いただけの子という可能性もあったが、少なくとも特型の姉妹ではないだろうと特型21番艦としての直感が囁いている。当の本人はいなづまに脇腹を蹴られるような態勢で少し苦しそうだった。

 四人目はマエストラーレ級四番艦、シロッコ……というか、それっぽい義体で活動している猫土下座という妙な名で呼ばれる妖精さんだった。艤装を用いて本人が直接戦えるという世界に四人しか居ない非常に珍しい妖精さんの一人で、妖精さんとして働いてた方がマシ程度の実力しか持たない四人中最弱の武勇を誇っている。普段は艤装に引き篭もっているとかで滅多に会えないのだが、今日は何故だか義体のまま眠っているようで、リベッチオに抱き着かれて安らかな表情を浮かべていた。

 折り重なるように眠っている四人は当然、探しているタシュケントではない。はて秋雲が眠っている間に出て行ってしまったのかと暁が狭い室内を見渡せば、不自然に内部を晒すワードローブが目に付いた。中には普通に秋雲のものらしき私服が仕舞われているが、注目すべきはそこではない。問題になるのは放たれ180度に開き切られたその扉。それの後ろからは、寝息を立てる四人以外の気配が感じられた。

 暁は不審に思い、足音を殺してそこにこっそりと歩み寄った。反応はない。気付かれてはいないようだった。息を止め、慎重に扉の後ろを覗き込めば、ワードローブに体を擦りつけるようにして隠れている、一人の女性と目が合った。

「あら?」

 暁はその人物に覚えがあった。二つに纏められた桃色の髪にどことなく茫洋とした灰色の瞳、艦種こそ暁とは違ったが、その女性はかつての教え子だったのだ。

「アトランタじゃない」

「え。あれ……教官長さん?」

 なんだ、とその防空巡洋艦の適性者は息を吐いた。クローゼットの扉を閉めて周囲を慎重に確認して、他に変わった様子が無いと分かるとあからさまに安心した様子になり、物陰から出て暁に緩く敬礼を決めた。

 

「お久しぶりです、教官長さん。この度はお世話になりました」

「こちらこそ、七期生の皆に連絡を取ってもらえて助かったわ」

 志願制になる前の、召集された人間としては最後になるのが彼女達だった。当然、残っている人員はとうに百を超える手練ればかりである。円滑に勧誘や保護が進み、秋雲のような被害者が殆ど出なかったのは僥倖と言えた。

「我々もまさかリンカネに就職できるとは思ってなかったし、就職活動もしなくて済んで助かったよ。完全にコネ入社なのが後々に響かないか不安だけど」

 アトランタは軽く肩を竦め、皮肉気に少し笑って見せた。実績も実力もあると自負している娘だったし、実際に実務で結果を出しているのでただの冗談だろう。そもそも彼女が最初に配属されたのは宮里艦隊である。望めばどこでも歓迎された事は間違いない。

「教官長はどうしてここに? 仮眠? ベッド埋まってるけど……」

「人を探しに来たのよ。もう居なかったみたいだけどね」

 ああ、とアトランタは何か納得した様子を見せた。

「タシュケント?」

「そう! やっぱりここに居たの?」

「ちょっと前までね」

 アトランタは窓際近くまで移動して、閉じられた窓枠を親指で指した。その顔には苦笑のような物が浮かんでいる。

「さっきここから飛んでったよ」

「飛んじゃったかぁ……」

 タシュケントは超の付く異能者である。きっと四階程度の高さから飛び降りてどうこうなったりはしないのだろう。水平線から吹っ飛んで来て大丈夫な以上、耐久力だってそこそこあるに違いないのだから。

「あの子らに用事があったみたいだけど……もう居ないね」

 窓を開き、アトランタの見下ろした先を暁も背伸びで覗き込む。そこには三体の連装砲ちゃんとたくさんの連装砲くんに囲まれて、どことなく悔しそうな雰囲気を周りに振りまいている美少女のようなものが立っていた。ふるふると周囲の自立型兵器たちに一斉に首を振られ、ぐぬぬという文字を背景に浮かび上がらせている。ような気がした。

 その近くに居たガンビア・ベイが何事かを発言すれば、それを聞いた連装砲たちはきゃあきゃあと喜びの声を上げ始める。何をやっているのか暁にはよく分からなかったが、とりあえず美少女っぽいものは今度はどんよりとした空気を纏いだした。

 相変わらず変な分かり易さの娘だと思いつつ、暁は静かに窓を閉じた。声を掛けようかと少し迷ったのだが、大声で仮眠室内の娘達を起こしてしまう懸念があったためそれは一応止めておいた。

「ちょっと私、あの娘達にタシュケントの行方訊いてくるわね」

「はぁい。あたしはちょっと今ここから出れないから、また今度ゆっくり話そう……あ。そうだ、あたしがここに居るって事、人には言わないでもらえます?」

 サボりか何かなんだろうか。暁は少し疑問になった。ベッドの方から茄子……と誰かの寝言が聞こえた。

 

 

 

「きゃっ!」

 原稿と和解しようと試みている秋雲の背後を静かに通り、進捗どうですかーと入って来た巫女服姿の眼鏡っ娘と入れ違いに退出すると、黒髪の少女と衝突してしまいそうになった。互いにごめんなさいと謝って、改めてその娘の顔を見れば、それは教官長の暁と身長はほぼ同じで、ほとんど同じくらいの長さの同じような質感の髪を持ち、同じような黒い帽子に細部がちょっとだけ違うセーラー服を着た、非常に可愛らしい駆逐艦の女の子だった。

「教官長じゃない!」

 喜色満面といった様子で、瞳を輝かせたその娘は大声を上げた。それに呼応して、廊下の向こうから教官長? 教官長だ。教官長なのです? とわらわらと二十を超える姉妹が集まってくる。全員が小さな子供の姿であるため、その場はまるで小学校の社会科見学の様相を呈していた。

「久しぶり! 聞いてるわ! 大活躍だったそうじゃない!」

 誇らしくてたまらない様子でその少女、雪吹艦隊の暁は小さな小さな胸を張った。何故か教官長の暁は、このどういう訳か集合無意識内の暁と瓜二つな謎の暁にとっても気に入られている。無論その理由に見当が付かないほど察しは悪くなかったが、本人が隠したがっているようなので知らない事になっていた。

「久しぶり、雪吹艦隊もリンカネに?」

「ええ! 私達は私達でいいって言ってくれたからね!」

 雪吹艦隊はかなり特殊な艦隊である。明らかにどこかで見た事のある少女ばかりで構成された彼女達は、名目上は政府の指揮下にありはしても、いつの時代も独自の目的を持った動きをする事が多かった。命令違反をする訳ではないのだが、上からしたらかなり扱い辛かったろう事は想像に難くない。人員も個性の塊のような連中だし。

「それでええと、これは何の騒ぎなの?」

 辺りは暁の姉妹艦、暁型の四種ともう一種――即ち暁、響、雷、電、そしてヴェールヌイの適性者でいっぱいだった。雪吹艦隊の面々が揃っているのは当然として、元宮里艦隊の響や元賀藤艦隊の暁型四姉妹、それに超異能者のヴェールヌイまで混じっている。よくよく見れば、教官長として一緒に訓練所で働いた響と電までも輪の中に居て、暁は表情が胡乱気になるのを抑えられなかった。

「アトランタさんをみんなで探してるのよ!」

「かくれんぼだね、勝負中だよ」

「人海戦術よ!」

「迷惑にならないようにみんなで社内を回ってるのです」

「Хорошо。ここは珍しいものが多くて飽きないね」

 わいわいと多数の姉妹達から返答が帰ってくる。成程、アトランタはこの幼児性の津波から逃げ隠れしていたのだろう。何故か無邪気な性質の駆逐艦などに異様に懐かれる、といつか溢していたのを覚えていた。

「この部屋には居なかった?」

 出てきた扉を覗き込んで、正面の暁が尋ねてきた。誤魔化さねば。教官長の暁は教え子を売る趣味を持っていなかった。

「ああ、この部屋は秋雲先生の作業室で……」

『輪転機は止まらなくても編集さん達のお仕事は止まっちゃうでしょぉー!!!』

「……絶賛修羅場中だから邪魔しない方がいいと思うわ」

 わざわざ巫女の仕事を抜けて様子を見に来たらしい巻雲の声が中から思いっきり漏れて来たので、暁はそれに乗っかる事にした。

 

「そっかー」

「残念」

「先生の仕事場見てみたかったわ」

「邪魔しちゃ駄目なのです」

「また今度来よう、色紙も持ってね」

 なんだか秋雲の仕事が増えてしまった気がしたが、ともかくアトランタを守護る事には成功した。暁型の群れは五階に上がって見学と捜索を続けるそうで、最終的には社長室で呂500達と遭遇してしまうのではないかと思われたが、それはそれで動画的には美味しいだろう。きっと視聴者層にも合うだろうし。

 エレベーターまでは一緒だからと輪の中に混ざり、教官長の暁と暁型御一行様は廊下をゆっくりと進んで行く。各員ばらばらに興味の対象が遷り変わるので中々前に進まないのだ。それだけ見られるものが多いという事で、各作業部屋の内部には教官長の暁でも惹きつけられるようなものもいくつか存在していた。

 このまま付いて行ったら楽しいかも、なんて内なる子供の誘惑に抗いながら、エレベーター目前まで辿り着いた頃。亀の歩みで行進する一行の後ろから、どたばたと走る複数の足音が鳴り響いてきた。あまり重くない、子供がわざと立てるような騒がしくも軽いどこか可愛らしい足音。それにみんなで振り向けば、廊下の奥から小さな小さな、暁型よりさらに小さな女の子が、群れを成して勢いよくこちらに向かって突っ込んでくるところだった。

「いたぞー!」「教官長だー!」「囲め囲めー!」「貴様らは」「完全に」「包囲され」「ている」「!」「神妙にお縄につけい!!」「であえーいであえーい!」「お手向かい致しますぞ!」「頭が高ーい!」「我々が小さいだけだけどね」

 何事。暁型が揃って目を白黒させている間に、そいつらは目標に向かって殺到した。一律同じようなセーラー服とスモックの合いの子のような服を着て、ゆったりとしたセーラー帽を被った少女たちが、通常人類を遥かに超えた速度で襲い掛かって来る。狙われた教官長の暁は、咄嗟に跳んでそれらの突撃を回避した。

 壁を蹴り天井に手を突いて、誰も居ない群れの向こうへと着地する。上から見たが、相手の総数は軽く百を上回っていた。正体は同じ服を纏っている事からおそらく全員が同型の――髪の長さなどはそれぞれ違うため同一艦ではないと思われる――海防艦。それも数字で管理された、丁型海防艦だろう。こんなにたくさん一体どこから出て来たのか、暁は少し疑問に思った。

「消えたぞー!」「どこだー!」「さがせさがせー!」「これは違う暁?」「ペロッ」「これは青酸カリ!」「いいえ」「それは」「しょうゆです」「あーゆー教官長?」「いいえ私は変なおこさまです」「まあ実際は飛んでったの見えてた訳ですが」

 一人が振り向いた瞬間、後ろから観察していた暁の四肢が、突如いびつな形で極められた。支えを失い勢いよく床に倒れ込むが、極めた張本人たちがクッションになって衝撃はあまり来なかった。代わりに、暁は久しぶりに意表を突かれた驚愕を味わっていた。

「どこから……っ!?」

 直前まで周囲には誰の何の気配もなかった。前も後ろも、上も下だって警戒していた。だというのに、今の一瞬で手足の一本一本に一人ずつが絡み付き、咄嗟に身を捩ったため中途半端にではあるが関節技を掛けられている。反応が遅れれば完全に極められていただろう。

 心臓を大きく跳ねさせながら掛かり切っていないそれら全てを手早く外して行く。見た目以上に力が強く、改二以上に至っているのは間違いないだろうそいつらを、床へと軽く転がして行けば。その隙を狙ったかのように、今度は大量の海防艦が通路を埋め尽くすように何も無かった空間から降り注いだ。

「わっしょい! わっしょい!」「ソイヤ! ソイヤ!」「えんやこらーえんやこらー」「ラッセーラー! ラッセーラー!」「ふんぬらば!」「ふんにゃらひょお!」「はんみりせ!」

「わっ! ちょっ!! きゃあ!?」

 避けようにも避ける隙間の無かった暁は、気が付けば十人くらいに抱き着かれた状態で、神輿のごとく寄って集って持ち上げられてしまっていた。数の膨れ上がった海防艦の大きな群れは、そのままわっせわっせと動き出し、暁型の集団とは逆方向に駆けて行く。暁型の面々はあまりの意味不明さに唖然としながらそれを見送るしかできなかった。

 

 暁にとって問題だったのは、そいつらから悪意を全く感じなかった事だ。実の所、やろうと思えば拘束から逃れるくらいは可能だった。ただそうしたところで瞬間移動のようなものを使って来たと思しき連中から逃れられるとは思えなかったし、自分に怪我をさせないよう気遣いながら拘束していた幼子のような生き物を叩きのめすのも気が引けたのだ。

 どこへ連れて行くつもりなのだろう。警戒は怠らないよう気を張りつつ進行方向へ顔を向ければ、その先にあったのは通路の突き当りの壁である。そこに向かって勢いを全く殺さずに、集団はかなりの速度で進撃して行った。

 危ない。暁が叫んだ瞬間、先頭の少女達は壁に思い切りぶち当たり、その壁を突き破って奥に設置されたエレベーターへと転がり込んだ。

 何その構造。暁はこの建物の見取り図を見てみたいような見たくないようなえもいわれぬ感情に襲われた。

 

 

 

 

 

 暁と敷き詰められた海防艦を乗せて、エレベーターはビルを上へと昇って行く。途中、大丈夫ー? 痛くないー? 済まんねー。悪いが仕事なんでねー。やり方はただの趣味だけど。などと謝られてるのかすら微妙な声を掛けられて、暁の拘束は解除された。そして海防艦たちが詰まり過ぎていてかなり狭い床へと降ろされて、ちょっとだけ苦しい思いをする事になった。

 そうしているうちにエレベーターは動きを止め、扉がゆっくり開いて行く。詰まっていた中身は弾けるように押し出され、暁もそこそこの勢いで見知らぬ階へと足を踏み入らせられた。

 そこは今までいた4階とは様相がかなり異なっていた。エレベーターのすぐ前は下駄箱と靴置き場になっていて、その奥は木板のフローリングが張ってある。左右にある棚の上にはなんかよく分からない置物が佇み、不用心にも何らかの鍵が放置されていた。奥に進むまでの通路には未開封の梱包材が何個か置かれ、使って出しっぱなしに見えるドライヤーのような物が投げ出されたりもしている。

 何この生活感。他の場所はオフィス然としていたのに、ここはなんだか民家っぽい。出る直前に一瞬見えた表示によればここは最上階の二つ前、社長室の真下である。宿直室か何かだろうかと暁は当たりを付けるしかなかった。

 一人の海防艦がその空間へと上がりこむと、暁にこっちへおいでと手招いた。脱いで脱いでと言われるままに出されたスリッパに履き替えると、こちらへどうぞと奥の方へと案内される。細めの通路をゆっくり抜け、ここだよーと連れて行かれたその先は、大きなモニタやソファのしつらえられた、居心地の良さそうなリビングであった。

「よお」

 ソファに寝そべり大昔の映画の流されるモニタを眺めていた人物が、上体を起こしながら暁に挨拶を掛けて来る。それは暁が探していた、リンカーネイション社のタシュケントその人だった。

「あー……半年ぶりくらいか? まともに話しちャいなかッたが」

「そうね、ちゃんと声を聴くのは五十年ぶりくらいじゃないかしら」

 ンなになるか? と疑問気な声を上げるタシュケントは昔見た姿と何一つ変わっていない。可愛らしい長めのツインテールをした、かつてソ連と言われた国の駆逐艦娘。その外見が変装か擬態か何かそういった類のものである事を暁は勘付いていたが、特に気にしてはいなかった。

「今回の件、とってもお世話になったからお礼を……」

「アア、いや待て。そういうのは要らねェ。したかったとしても後にしてくれ」

 言葉を遮られ、暁は少し面食らった。立ち上がったタシュケントは少し気が急いている様子で、一瞬備え付けられた鳩時計に目をやるのを暁は見逃さなかった。

「怪しいのは重々承知の上で何だが、付いて来てくれ。お前に用事のある奴が居る」

 そう言って、タシュケントは返事も待たずに早足に歩き出した。リビングの奥を通過して、先の廊下の百近い数の扉をスルーして、何度か曲がって曲がって曲がった先の、広すぎる階層の一番奥の部屋の前まで、あっという間に進んで行く。背の低い暁は小走りにそれを追いかけた。

 

「ここだ」

 そこは別段、途中の廊下にあった扉と変わった所は無いように思えた。なんの変哲もない、そこらの民家にいくらでもありそうな普通の開き戸だ。木製で窓などはないため中の様子は分からない。タシュケントがそれをノックしようと腕を掲げた。

「時間丁度だ。入ってくれたまえ」

 手の甲が木戸を叩く直前、中からはっきりとよく通る、何処か聞き覚えのある調子の声が響いて来た。それに従いタシュケントが扉を引き開けて、道を譲るように入り口の横に移動する。暁が促されるままに中へと足を踏み入れると、背後の戸は軽い音を立てて閉ざされた。

 内部は特に珍しい事もない、普通極まりない私室に見えた。テーブルにベッドにクローゼット、仕事机に化粧台、それらに乗った小物類。どれも質は良さそうだが、特に目を惹く要素はない。全体的にしっかりと片付けられており、部屋の主の性格が伝わってくるようだった。

 そんな室内の一番奥、きっちりと引かれたカーテンの前に、一人の女性が佇んでいた。橙色の着物に緑の短めの袴を合わせ、頭には甲板をモチーフにした鉢巻を着け、切り揃えられた少し癖のある髪を纏めている。丁度振り返ったところだったのか、その人は半身のような態勢で後ろ手を組んで暁の事を見つめていた。

「こんにちは、よく来てくれたね暁くん。最後に会ったのは百年以上前になるかな。ああ、私は見ての通り飛龍の適性者だよ。君の教え子ではないし、艦娘の姿で会うのは初めてだから君が忘れているとかでもない。ははは、ボケて顔が一致しないとかでもないだろうね。そもそも君の脳は健康そのものだよ、うん、特に異常はない無いように視えるかな。そう、単にこの顔で会うのは初めてというだけの話だね……いや、別に変装してるとか顔を見せられないような人間だったとかそういう事じゃあないんだ。ただちょっと……うむ、ちょっとどころではないんだが、顔や体形が変わってしまったというだけでね。そう、改二の影響だね。昔とはだいぶ雰囲気が違うから分からないと思うけれど、何度も会ってはいるし会話もしているよ。ああ、私も今はここの社員をしていてね。一応幹部という事になるのかな、君の直接の上司ではないし、君が不正をするとも思えないから仕事での接点はあまりないだろうけれどね。そう、監査役だよ。まあ、大それた事をする人間は殆ど居ないから真っ当な業務以外の事もしていたりはするが……そっちでは世話になるかもしれないなあ。いやいや、犯罪行為ではない……ああいや場合によってはバレると少し問われる場合もあるかな? まあ、人助けの範疇の事だからそこは安心してくれていいよ。余程の事以外は手を出さないように皆にも言われているから、頼むとしても十年に一回あれば多い方だと思うしね。まあその一回が近くあるがそれはその時になればすぐ分かるよ。ふふ、そうだね。その認識は正しい。私は所謂超能力者という奴だよ。タシュケント、彼女とはいろんな意味で同類という事になるね。はは、まあそう警戒しないでくれたまえ。私は本当に君の敵ではないよ。良かったら今度一杯付き合ってくれると嬉しいんだが、予定はどうだい? むう、そうか、暫くは余裕ができそうにないか……仕方ないね、私より仕事仲間と仲を深めた方が建設的なのは間違いないからねえ。ああ、ちなみにだけどテキサスくんはあれで下戸だから少し気を付けた方がいい。自分からは強がって言わないかもしれないけどね。味は嫌いでないみたいなんだが……ああ、この辺りの店についてはヴェールヌイくんに聞くといい。本人も会いたがってたから相手をしてあげてくれると助かる。ん? ああ既に会っているのか。ははあ、待ち切れずに会いに行ったのかな? 本当に懐かれているねえ」

 滅茶苦茶喋るじゃん。

 暁は浴びせかけられる言葉の洪水を前に、眼を瞬かせるしかできなかった。

 

「さて改めて、本当に久しぶりだね暁くん。そろそろ私が誰か見当は付いたかい?」

 女性、空母飛龍の適性者らしいその美人さんは穏やかそうな笑みを浮かべながら暁に問いかけて来た。どうやら今度は返事を待ってくれるらしい。今までのはなんだったのかというくらい、ちゃんと話そうという姿勢が態度から見て取れた。

「ええと、一応……?」

 実の所、第一声を聞いた時から印象が被る候補が一人だけ存在していた。声の調子、重心の取り方、目線の癖、笑みの形、並べる言葉の組み立て方。視れば視るほど被る部分は増えて行き、今ではほぼ確信にまで至っている。それでもそうだと言い切れなかったのは、その人物と目の前の女性は色々な部分が違っているからだった。

 例えば背はもっと高かったはずだし、肩幅はもっと広かった。腕にはもっと筋肉が張っていたはずであるし、脚がこんなに柔らかそうではなかったように思う。腰は引き締まってはいたと思うが単純な太さはもっとあったし、胸囲に至ってはこんなにあったはずがないと断言できた。とかく、体付きがその候補とはまるで一致しないのだ。その差たるや、改二の影響がどうだとかそんなレベルの話じゃあまったくないくらいだったのである。

「間違っていたら大変申し訳ないのですが……楠木提督、なのでしょうか……?」

 恐る恐ると訊いてみれば、女性は我が意を得たりと浮かべた笑みを深くした。

「うん。間違いないよ。私の名前は楠木 多聞丸。正真正銘本人だよ。尤も、今やこの名前を使う事は殆ど無いけれどね」

 

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 声には出さなかったが、暁は脳内に大量の疑問符を展開した。己で言っておいて、その肯定を暁はまったく信じられなかったのだ。感覚的には目の前の女性がかつて自分のかなり上の方の上司だった楠木提督である事は間違いない気がしている。しかし理性の方は全く追いついて来なかった。再現AIとかいうのであればまだ筋も通ったのだろうが。

「あの、不仕付けで申し訳ないのですが、元々女性だったりされました……?」

 言うまでもない話であるが、暁の知る楠木 多聞丸は男性である。だが目の前のそう名乗る彼女は、どこからどう見たってなかなか立派なおもちをお持ちの愛らしい女性の姿をしていたのだ。

「ふうむ、微妙なところだね。体の方は間違いなく立派な日本男児そのものだったけれど」

 あ、そういう感じなんだ……? 初めて知る事実を前に、暁の冷静な部分は脳内の人物評に素早く補足を書き加えた。

「……ご葬儀に参列させていただいた記憶があるのですが……」

「あれは生前葬だね」

 ややこしい! っていうか絶対カモフラージュよねそれ!! 完全に死んだと見せかけて裏に潜ってたんじゃない!!! 暁の冷静でない部分は脳内で突っ込みを止められなかった。

「ふふ……まあ、私が隠れて生き延びていた理由は分かるだろう?」

 さっきから完全に心読んでますよね? 異能者であったと隠す気すらないような物言いに、暁は少し胡乱気な目になった。

「肉体的に男性だった人間の不老化は現在でも例が無いから、でしょうか」

 無いという事になってただけみたいだけれど。ここも読まれているのだろうとは思ったが、一応口には出さないでおいた。

「って、そうですよ、少なくとも佐橋式では元男性が艦娘になるのは不可能だったはずでは?」

 集合無意識などの影響で肉体に変化が出る事が公然となった時点で、それを利用した性転換技術が開発されるのは時間の問題でしかなかった。薬も併用する必要があるが、ほとんど後遺症すら出ないそれは今や結構気軽に行えてしまう医療行為の一つである。単純に切った貼ったをするよりは安全性も高かった。黎明期には幾つも方法が考え出されたが、最終的に主流になった安定性や確実性の最も優れたその術式は開発主任の名を取って佐橋式と呼ばれていた。

 ただこの技術、艦娘との相性ははっきり言って悪いのだ。改二以降の艦娘達には魂の中の集合無意識の欠片が干渉して施術自体が効果を現さなかったし、性転換を行っても元男性に艦娘の適性が生えてくる事は無かったのである。これに関しては本人の性自認等は一切関係が無く、産まれ持った『体の性別』のみが適性を持っているかに影響するか、逆に、適性を持っていればそもそも女性の体で生まれてくるかのどちらかだろうと結論付けられていた。

「そう、それが今回ここに君を呼んだ理由に関係するんだ」

 改まった真剣な顔で楠木はそう告げた。暁にはまったく関係が見えてこなかったが、突然変わった空気を前に、何かとても重大な理由があるのだろうと固唾をのんだ。

「君は二十一世紀前半のサブカルチャーの知識はあるかね?」

「はい?」

 まったく予期していない質問だった。一応、宮里艦隊にその手の物を嗜む人間は結構居たし、姉妹として付き合っている電が好むために多少の知識は持っていたが、詳しいかと言われるとそうではない。そういえばなんでかやたらと文月達に薦められた時期があった覚えがあるが、ついぞ自分から手を出す事は無かったように思う。

「ふむ、まあ……十分な知識はありそうかな。単語の意味が分かればとりあえず問題ないよ」

「それくらいでしたら、ある程度は」

 そんなところまで読めるのかと戦慄するが、かつての功績を思えばむしろ納得できるくらいであろう。姿形こそ違えど、目の前の人物は大英雄と呼ばれる偉人の一人らしいのだから。

「私が艦娘になれたのはね、私が神様転生した転生者でチート能力と一緒に艦娘の適性も神様に持たされてこの世界に産まれて来たからだよ」

 その偉人がなんともトンチキな事を言い出したので、暁は意味を飲み込むまでに、三秒くらいかける羽目になった。

 

「あの……ええと、それと私をここに呼んだのとどう関係が……?」

「君もこの世界で死んだらそんな感じの事をする羽目になるから、先に知らせておこうと思ってね」

 暁が意味を飲み込むまでには、やっぱり三秒ほどを要した。

 

「それはつまりその……記憶や意識を引き継いで生まれ変わらせられると、そういう……?」

「うむ。どうもそれをやらかす張本人が悪戯好きというか、まあ困った方でね。君の場合下手をすると何の説明もなく別の世界に放り出される可能性が高いみたいなんだよ」

 私の扱い酷くない? むしろ気に入られているが故の蛮行なのだが、暁には当然その辺りは分からない。ただ、もし本当にそうなったとしたら、先に言われていたかで混乱の度合いが段違いであろうことだけは理解できた。

「あ、あと君の場合チート能力も貰えないらしくてだね」

「私その神様に嫌われてたりします?」

 別に強い力が欲しい訳ではないのだが、それはそれとして不公平感があってちょっと悲しい。あったらあったで余計な苦労を背負い込まされそうな気はするため、逆に良いのかもしれないが。

「そうだ、能力。その能力というのは……」

「人によって違うが、私で言うなら君の心を読んでいるこれの事だね。まあやたらと見える、眼の能力だと思ってくれればいいよ。ちなみに透視とかもできるね」

 なるほどずるい。チートと自分で言うだけある。そういうのを駆使して出世して、日本や世界を護ったのだろう。有難すぎる。悪用などいくらでもできたろうに、やり遂げた事は類稀なる善行だ。いや一般的に悪行とされる事もやってはいるのだろうけれども。

「それに加えて特別な適性も持たされたと……」

「いやあ、年を取ってから性転換して改二を目指したものだから結構大変だったよ。集合無意識の方に予め話を通せる子が居たから飛龍くんの欠片を貰えるようになるまでは早かったんだが、体の方が追いつかなくてね」

 実は百年以上眠ってた。そんな事を言いながら懐かしむ様に笑うので、暁はどう反応していいのか正直困らされた。驚きの情報ではあるのだが、そもそも生きていたという事実の前に感覚がマヒしてしまっていたのだ。

 聞けば事情を知るリンカネ社の人々に保護してもらっており、病室から今使っている戸籍や何やらまで用意してもらったようで、余程仲がよろしいのだろうなと察させられた。というか。

「事情を知っている、というのもやはり?」

「そう、転生者だね。まあ大体察している通りだよ」

「あー、つまりその、超異能者というのは……」

「全員転生者だね」

 成程。納得である。確かにあの連中は神様に派遣されて来たと言われた方が腑に落ちる存在だった。物理法則に真正面から喧嘩を売れるのが一人や二人ではないのはそのせいだったのだろう。

「ヨークタウン社長が集めていたのは」

「彼女も転生者だからだね」

 ならば彼女もチート能力というのを持っているのだろうか。どんなものかは知らないが、きっと金稼ぎに利用できるものに違いない。寄り集まるにも丁度良い旗印だったろう。超美人のお金持ちだもん。っていうかもしや美人なのも神様のおかげなのだろうか。暁は少し転生に関して関心が出た。

「ああ、もしかして彼女達の自己評価があまり高くないのって」

「チート能力で成功してもそれを自己評価に含めるのは、なかなかに難しいんだよ。自分の力として振るってはいてもね」

 能力が肥大化しただけの凡人、というのはそういう意味なのか。それにしたって善良すぎる気はしたが、神様に直接送られて来たともなれば、悪用を考えない者をしっかり選出したからだったと、そう考えればおかしくない。あれ、そうすると一部の宗教家の人達正しい事言ってた事に……? そう思った瞬間楠木提督が苦笑いを浮かべたので、暁はその思考を打ち切った。きっと本人達的には全く嬉しくないのだろう。

「その転生者に、私もなると……?」

「将来的にね。まあ、流石にまだだいぶ先の事だよ」

 そりゃあまあ死ぬ予定はありませんけれども。暁だって仕事を貰ったばっかりであるし、ここで退場というのはごめん被りたい所だった。

 というか戦って結果殺される覚悟はしっかりできているけれど、なんでそれがだいぶ先だと分かるのか。本当に凄まじい力なのだと暁は改めて理解した。

「あの、もしや未来も見える力だったりするのでしょうか」

「うむ。その通りだよ。未来も見えるし、宇宙の向こうも見える。遠視、透視、読心、過去視、未来視、解析……凡そ見る事に関しては万能と思ってくれていいよ」

 楠木がゆっくりと空を見上げ、何かを見つめるような顔になった。暁も首を反らしたが、見えるのは木板の天井ばかりである。

「例えばそうだな、今、遠くの宇宙でアゼスイック銀河人とティルフォーン銀河人が文明の趨勢を決める一大決戦の火蓋を切ろうとしているのが見えたりするね」

「宇宙人実在する感じなんですね?」

「ちなみに勝つのは近くを戦場にされて怒ったリムネア銀河人だね」

「そのまま地球に攻めて来ませんよね??」

「天の川銀河人の初遭遇する地球外知的生命体にはなるけれど、1000年以上後の話だねえ」

「そんな先まで見えるんですか???」

 バタフライエフェクト起き過ぎて当たらないんじゃないかなあ、と楠木は笑ったが、暁は圧倒的に文明の進んだ相手が存在すると聞かされて、流石にちょっと笑えなかった。

 

 

 

「まあ、君自身の事や私達の事はおいおい納得してもらえればいいよ。自分もそうなると言われてすぐ納得はできないだろうからね」

「そうですね、私が神様に気に入られるだとか、そんな事あるとは思えないですし……」

「素の能力が君より極まった転生者この世界に居ないんだけどね?」

 完全に実力で気に入られているらしいとかそんな事を言われても、同艦隊に比べようもないのが最初から居た暁にとってはちょっと納得が行き辛い。自分が強い方だというのは勿論分かっているのだけれど、そういう問題ではない所にそいつが仁王立ちしていたのが何もかも悪かった。

「ともかく、だ。今日は概要だけ理解して貰えれば実感は無くとも問題ないよ。今日はこれからそれどころではなくなるしね」

 それはどういう。暁が訳を聞こうとすると、楠木は指を一本口元に当て、静かにするよう身振りで示した。それに従い自然体で身構えれば、数秒の後に、全身を揺さぶる低い音が辺りに轟き渡り出した。それはすぐに振動へと変わり、建物全体を軋ませる。どうやら波は徐々に大きくなっていくようだった。

 集中しなければ分からない程度のものから立っていても分かるくらいにまで強くなり、周囲の小物がカタカタ揺れて動き出す。しかしまるで落ちて来る気配はないそれらを見て、暁は全て観測済みなのだと理解した。未来予知の有効利用なのだろう、便利なものである。

「ふぅむ、ここより上の方が良さそうかな……付いて来てくれたまえ」

 揺れが続く中、不意に楠木が動き出した。暁の横を通り過ぎて廊下に出ると、待っていたタシュケントとアイコンタクトだけを取り、すぐ横の壁を指で押す。押された部分は四角く凹み、そのすぐ横には金属の梯子が生えて来る。謎ギミックに暁は少し辟易とした。

 素早く梯子を上がっていく楠木に続き、暁も一段飛ばしで登って行けば、その先ではヨークタウンと伊58と呂500が揃って窓の外を眺めていた。見回せば案の定そこはさっきまで居た社長室の端である。隠し通路で下階と繋がっているらしい。きっと各所にこういうものがあるのだろうが、今はそれを詮索している場合ではない。三人の下へと歩みを進める楠木を追って、暁も揺れるフロアを小走りに窓際へと走り寄った。

 

 太陽の位置から察するにその窓は東を向いており、島の太平洋側が一望できるようになっていた。移植された緑溢れる計画都市の景観と、奥に見える豊かな青の輝く海。それと黒い光の柱が天まで立ち昇る色褪せた鳥居の社。異変の原因は明らかだった。

 腹の底を揺さぶるような重い振動がいっそう強くなり、やがてそれは明確な音の波となって辺りに襲い掛かって来た。鳥居の根元に罅が入り、あっという間に砕け散る。瞬間、社が屋根ごと吹き飛ばされ、石畳と盛り土ごと辺り一面が立ち上がった。

 

 

 

 怨

 

 

 

 それはきっと、声だった。地の底から、金属質な棲艦島の表面を突き破り現れ出でた巨神の、恨みと怒りの篭められた言葉にならない剥き出しの感情。心の弱い者であれば聞いただけで卒倒するような、邪悪な念の害意ある咆哮。それを辺りに撒き散らしながら被された土砂を振り落とし、そいつは姿を顕わにした。

 一見して、それは人のような形をしていた。一つの頭に一対づつの四肢、指の数は八つずつであるが、均整のとれたそれは違和感を感じさせることはない。ただその鍛え抜かれた肉体や鋭くつり上げられた眼球は黒一色に染まり、明らかに金属質に輝いている。性を感じさせないその面相は明らかな憎悪に取り付かれ、真っ黒な髪はまさに怒髪天を衝かんと空へと立ち昇っていた。

 人とは似て非なる、明らかな超常の生物。それは全長の数倍はあろうという頭髪を除いても全高が500メートルに達する巨体でもって、棲艦島へと降臨した。

 

 

 

 怨

 

 

 

 それが再度咆哮を上げる。それと同時に、色合い以外は人間らしかった皮膚を突き破り、多数の金属質な軟体の触手のようなものが涌き出した。夥しい不快な粘液を撒き散らしながら、それらは周囲の自然を打ち据える。どろりと触れた部分が融解した。

 聳えていた髪が落ちて来る。それもまた、意思を持つかのように絡み合い、複数の荒縄となって辺りのものを轢き潰す。気付けば巨体の周囲は均され、瓦礫すらない決闘場が産み出されていた。

 

 

 

「なにあれ」

 暁はぽつりとつぶやいた。周囲には腰に手を当て不敵な笑みを浮かべるヨークタウンと表情の読めない楠木提督、目を輝かせている呂500と配信中と表示されたカメラを横に浮かべた伊58。みんなで揃って同じ化け物を見つめていた。

「あれはかつて宮里艦隊が封じた海神様だね。どうやら棲艦島の穢れを吸い尽くして祟り神のようなものになってしまったようなんだよ」

「おかげでこの島は完全浄化されましたわー! 流石神様と言われるだけあってキャパすっごいですわねー!!」

「そんな事言ってる場合なんでち!?」

 成程、人間の悪意からなる連中を砕いて作られたこの島には相応の怨念が籠っていたのは間違いない。それを利用して復活したからあんな邪悪な姿をしているのだろう。人間に封印された怒りとはさぞかし相性が良かったに違いない。元々人間許すまじって攻めて来ていた訳なのだし。

「いやでも、あんなに大きくなかったですよね!?」

 当時見た海神様も人類よりは巨体だったが、それでも暁の記憶の中のそいつは精々30メートルほどだった。そうでなければ流石に封印なんてできていない。特にあの時は最大戦力が敵軍の足止めに回って暴れていたのだから。

「あれは深海棲艦の、人間の悪意からの支援も受けているのだろうね。本神が望んでではないだろうが……」

「力を注がれて膨らんだって事でち?」

「なんだか風船みたいですって!」

 呂500が突いたら割れますかと楠木――飛龍に質問するが、流石にそれは無いようでやんわり否定されていた。そんなやりとりをしている間に、闇落ち海神はその足を踏み出そうと緩慢に動き出していた。

「出ますか」

 暁の鋭い声がその場の提督二人に飛ばされた。ちょっと相手がアレ過ぎて、少し呆気に取られていたが、どうやらこれも深海棲艦案件の一つ。艦娘の職務範囲内だ。艤装に関してはここに来る前に工廠の方で確認している。制服で来ていたこともあり、提督の支援さえあれば暁はすぐに動ける態勢だった。

「いいえ、それには及びませんわー!!」

 それに答えたのはヨークタウンだった。いつも通りの高笑いを上げると、いつも見せるそれよりも、明らかに覇気ある声で喋り出す。

「あれは殺してしまう訳にはまいりませんの。本来海を治め、星を守護する尊いお方。暴走を止め、注がれた悪意のみを除かなくてはならないのです……セバスチャン!!」

「ここに」

 何もなかった空間から、青髪のメイドが現れる。そして豊かな谷間から綺麗な小箱を取り出すと、開きながら恭しくヨークタウンへと差し出した。優雅な所作で取り上げられたその中身は、演説などに使われる、よくある普通のマイクに見えた。

『棲艦島の皆々様ー!! こーんにーちわー!! そう、わたくしは、ヨークタウン! リンカーネイション社の代表を務めさせていただいております、皆様のヨークタウンですわー!!』

 おーっほっほっほ!

 安心感のあるいつも通りの高笑いである。どうやらマイクを通し大音声で島中に拡声されているようで、響いたそれは少しだけ社長室まで返って来ていた。

 同時、今までとは別の振動が、会社の真下から沸き起こった。

『皆々様! 突然の地震と怪物の出現に恐怖で震えていらっしゃるものと存じ上げます!!』

 何かが地下から地表に向けて上がってくるように、それはだんだんと大きな音となって体の芯に響いてくる。

『圧倒的な巨体! 悍ましい破壊力! 名状し難い不快感を催す姿形! アレが暴れ始めれば、この島どころか世界中が大打撃を受ける事、想像に難くありませんわー!!』

 ビルの真横、駐車スペースが謎のギミックで持ち上がり、横に向かってスライドする。そうして開いた空間には、機械的な機構の詰まった縦穴がぽっかりと口を開けていた。

『ですがご安心くださいませ!! こんな事もあろうかと、我々リンカーネイション社はバッチリ完璧な対策を講じてございます!!』

 その穴から、一つの巨体が飛び出した。

『そう、我々が総力を挙げ作り上げた!』

 それは金属の体を持つ巨獣だった。

『最大!』

 それは銀の脚で棲艦島の大地へと降り立つと背中から熱い蒸気を吹き上げた。

『最強!!』

 それは機械的な駆動部の見え隠れする腕を振り上げ奥の巨神を威嚇した。

『絶対!!!』

 それはぶ厚い装甲に包まれながらも生物的な動きを実現していた。

『完璧!!!!』

 それは二足で立つ機械の爬虫類が軍艦と融合したかのような姿だった。

『無敵!!!!!』

 それはどういう訳か暁に一種の共感のようなものを感じさせた。

『な秘密兵器!!』

 なぜか知っているような気のする排気塔。体の各所に装着されたどこか見覚えのある武装の数々。縮尺こそおかしかったが、それは暁からすればとてつもない既視感を覚える物体であった。っていうか、たぶん中身がよく知ってる奴なんじゃあないかと思われる。

『超超超超超超超超超超ド級駆逐艦!!』

 そいつが対するほぼ同等の身長の神に向け、重厚な一歩を踏み出した。紅い眼に光が灯り、強く鋭く輝いた。

『その名も!!!』

 大きな一歩が叩き付けられ、震脚のような一撃が世界を揺らす。そいつは明らかに、荒ぶる神を征するだけの力を備えていた。

『大械獣メカフブラですわー!!!』

「怒られますよ!?」

 特に詳しくなくても一目で分かる有名怪獣をモチーフとしたそいつを前に、流石に暁はツッコミが抑えきれなかった。

 やたらと聞き覚えのある声で、大械獣がぎゃおーんと啼いた。

 

 

 




なおこの械獣(改十)が無くても倒せる模様。


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1000年以上後の話

 暑い。

 快晴の青空から爛漫な太陽が紫外線で肌を突き刺してくる。体の水分はとうに抜け、辺りへ霧散し真夏の湿度の一部になった。しっかりと飲んで出たというのにこのままだとミイラにでもなりかねない。座る乾いた木板のベンチも軋んで同意の声を上げていた。

 持って来た水筒に口をつけ、中の甘露でのどを潤す。なんの変哲もないただの水だったけれど、あまりに美味なそれはあっという間に半分くらいになってしまった。もう二本くらいは持ってくるべきだっただろうか。取りに戻ることも検討しつつ少し遠くに目をやれば、青々茂った名前も知らない植え込みのまばらに開いた木漏れ日の下で、五人の少年少女が暑さなんて知った事かと和気藹々と戯れている。この時期はどうやら学校も休みのようで、娯楽もない、町というよりもはや村と言った方が近いここでは外で遊ぶほかないのだろう。着任して以来顔ぶれが変わらない辺りに人口密度の低さが窺えた。

 昼過ぎの苛烈な気温の攻勢を物ともせずに跳ね回る子供達を視界の隅に収めつつ、遠くの空を見上げて深く息を吐く。抜けるような、雲一つないそこは今日も異常無し。まるで夏休みに田舎に遊びにでも来たようだと呆けた思考に浸りつつ、太陽のあまりの眩しさに瞼を閉じた。

 

 

 

 頭部への刺激と起床を促す快活な声が、微睡む意識にねじ込まれる。

 軽い額への振動と軽い調子の声に瞼を開くと、目の前ではほんの少し茶色がかった瞳の女の子が悪戯っぽく笑っていた。同じ色の、油断するとすぐはねるという短めの髪の向こうでは陽が陰り、眩しさも少しはましになっている。

 どうやら意識が落ちていたらしい。昨晩も早めに寝たというのに、あまりの暑さに体が耐えられなかったのだろうか。もしかしたら眠りではなく気絶だったのかもしれない。

 知らない虫の声をBGMにそんな事をぼんやりと考えていたら、もう一度だけ軽く額を叩かれた。やった張本人は微かに笑うとベンチに置かれた水筒を目ざとく見つけ、少し汗ばんだ手でそれをさっと取り上げた。貰っちゃうよと言うが早いか口が開かれ、中身が一息に飲み干される。化粧っ気の全くない、その薄い唇から漏れた一滴を手の甲で拭うと、生き返るわーと彼女は満足気な声を上げた。

 自分が口をつけた物であると思い出し、僅かにその口元を見つめてしまうが、彼女の方にそれを気にする素振りはない。半分も中身が減っていた事に気付かなかったはずがないが、そんな事を問題にするような性格ではないのだろう。まだまだ付き合いの浅い間柄ではあるが、色々と大雑把というか、細かい事に囚われない人物である事は散々理解させられていた。

 こちらの視線に気付くとむしろ飲み干してしまった事の方を気まずく思った様子で、ほとんど空になった水筒を半笑いで誤魔化すように投げ渡してくる。咄嗟の事に慌てて受け止めれば、その様子がおかしかったのか口元の角度を深くして、厭らしさをまったく感じない本物の笑顔を見せてくれた。若干遺憾である。

 一緒に遊んでいた子供達はどうやら家に帰るようで、道なりにある気を惹かれるものを弄りながらゆっくり去って行く所だった。それを二人で見守っていると、彼らは奥の下り坂付近で一度足を止め、大きくこちらに手を振ってきた。また明日との無邪気な声が喧噪のない小さな港町いっぱいに広がった。

 道の向こうから掛けられた少年たちの大声に、これまた大きな声で彼女は返す。年の頃が地元の子らより少し上に見えるためか、ここ数日は姉貴分のような扱いをされている。最初は警戒されていたようだったが、子供心を掴むのが上手いのか、打ち解けるのは早かった。

 暮れては来ても未だ強い日差しの中、体いっぱいに手を振る少年少女。それは田舎の子供達が早めに帰路についただけの、一見すれば普通の日常風景だろう。きっと未来では、知らない所から来た年上のお姉さんに遊んでもらったある夏の日、という幼心に残る素敵な思い出だとかになるのではないかと思われる。

 こんな日が続けばそれがきっと一番いいのだろう。なんとなく老成した気分になった。

 

 

 

 舗装も碌にされていない田舎道を、しっかりとした足取りで歩く彼女に先導されながらそこそこのペースで進んで行く。ゆるい坂を上がれば爽やかな潮風の香りがして、日の光で煌めく大海原が見えてくる。横を向けば幾つかの小さな漁船とささやかな港、それに古さを感じさせる木造の家が立ち並ぶ、背の低い街並みも眼下に広がっているだろう。まるで大昔で時が止まったようだと最初は感動したものだ。こんな素敵な場所が残っているものなのだと滞在できることをある種の役得にすら感じたほどだった。

 尤も、実際に過ごしてみればその圧倒的な不便さに、すぐ都会が恋しくなってしまった。慣れればなんという事もないのかもしれないが、ネットワークにすら碌に繋がらないというのは大企業のお膝元で生まれ育った人間にはかなり辛いものがある。制御のされていない気候や碌に予知もされない天気なども中々に過酷で、日が照っているのに髪から滴るほどに降られた時など暫く呆然としたものだった。

 とはいえ悪い場所ではない。商店が町に一か所しかなく配送もやっていないため片道一時間かけて食料の買い出しに行かなければならなかったり野生生物や羽虫が多く出るため昼夜を問わずそれらに困らされたりはしたが、決して悪い所ではないのだ。

 少し警戒されてはいたが住民の当たりは柔らかく親切で、創作話に有りがちな差別的な扱いなどは受けなかった。成人した自分と学生くらいの年齢に見える少女という二人組を怪しんだお巡りさんに声を掛けられたりはしたが、それは職務に忠実が故だろう。見せた身分証に書かれた年齢を見て初老の彼が眼鏡の奥を丸くしていたのはまだまだ記憶に新しかった。

 

 そんな事を思い返していたら、いつの間にか拠点へと帰り付いていた。海岸近くの高台にある木造の平屋。人口密度が低い故に贅沢に土地面積を使われた、少し古めで案外しっかりとした造りの、普通の民家。そこは実の所、郵便受けから鍵を取り出している少し不用心な彼女の、幾つかあるという持ち家の一つだった。

 赴任前の顔合わせの際に聞いた話では、彼女は相当な資産家なのだそうだ。運用こそ自分では行っておらず本社のその手の部署に丸投げしているらしいのだが、そのおかげで逆に増えてしまっている……らしいと自分で言っていた。実際どうなっているのかはよく分かっていないらしいので、ちょっと心配になってしまう。いや勿論、任せている人達を信用しての事ではあるのだろうけれど。

 基本的に贅沢をする性質ではないそうで、実際、服から食事から一般的なそれと大差はなく、今日まで同じ屋根の下で暮らした印象だと、むしろ質素な暮らしぶりを好んでいるように感じられた。意外な事に自炊も得意なようで、滞在費は予定よりかなり安い金額に収まってしまっている。

 そんな意図せず倹約をしている状態の彼女であるが、ただ一つ、気に入った土地に別荘を買うというそこそこ金の掛かる趣味だけは止める事ができないのだという。それ程再訪する事もないとの事で悪癖の部類ではあるそうなのだが、今回それによって白羽の矢が立ったのだから人生分からないものである。

 彼女は履き物を脱ぎ捨てると、初日は掃除に手間取らされた屋内にさっさと上がりこんだ。居間に持ち込んだウォーターサーバーから生成された水を少し日に焼けた手でコップに注ぎ、それを口にしながら別のコップに二杯目を入れるとこちらに向かって差し出してくる。有難く受け取ったのだけれど、伸ばされた腕とゆるくたれた半袖の服の隙間から、真っ白なものの紐が覗き、少しだけ気まずい思いをしたのだった。

 

 

 

 少し早いが夕食の準備を整え、だんだんと物が増え生活感の出てきたリビングの食卓に並べていく。と言っても大した献立ではない。主食に蒸かしただけの芋、それとゴマ抜きの大学芋というシンプル過ぎる内容だ。蒸かすのはほぼほぼ機械任せで大丈夫だったため、自分がやった事はと言えば彼女の作った大学芋を冷蔵庫から取り出して盛り付けただけである。

 勿論、毎日こういう献立だった訳ではない。全体的に茶色系な物が多かった気はするが、毎日そこそこに手の込んだものを彼女は手早く拵えていた。今日の惨状はこの後の予定的に万一にも消化不良などを起こさないものをと相談して決めた結果なのだ。けれど。まあ、侘びしい食卓という印象が拭えないのは確かだった。

 せめて茶は淹れようとケトルを火に掛け、椅子の上に乗っていた小物を片付ける。少年らと遊んだ結果増えて行ったもので必要かと言われるとそうではないだろうが、積極的に捨てたいと思うものでもない。とりあえずそれらはテーブルの脇に積んで置き、彼女を呼ぼうと居たはずのソファの方に目を向ければ、そこにあったのは夏の日差しで少し焼けた健康的な四肢を投げ出して、床に放り出されたクッションに気持ちよさそうに頭部を埋める緩み切ったその人の姿だった。

 体には薄い生地のTシャツが汗で緩くへばり付いて、その裾が少しめくれ上がっているものだから、軽くへそが覗いてしまっている。短いデニムのパンツは腰のあたりまでずり落ちて、あとほんちょっとずれただけで下着まで見えてしまいそうだ。高くない鼻からは規則正しい寝息が洩れているが、同時に口元も半分くらい開いてしまっている。この時間でもまだまだ残る熱気に全身は蒸され、首筋を流れた雫がクッションに吸い込まれ消えていった。衛生的には洗った方がいいのだろうか。別に彼女の汗のにおいが気になるだとか、そういう事ではないのだけれど。

 起こそうかと声を掛ければ寝返りを打ち、枕代わりのそれに彼女は顔を埋めてしまった。寝起きが悪いという事はないはずなのだが、そのまま動かずまた小さな呼吸音を漏らしだしている。丁度眠りが深くなり始めた頃合いだったのかもしれない。

 無理に起こすと後に響く可能性もあるだろうかと一瞬だけ悩んだが、予定が早まる可能性がまったくないと言い切れない以上、無理にでも起きて貰った方が期待値的には安定だろう。声だけでは目覚めてくれないようなので軽く揺さぶろうと手を伸ばし、ちょっと迷って彼女の顔が埋まっているクッションの方へ指を掛けた。

 それが良くなかった。急に振動が加わった事で体が反応したのだろうか、彼女の手が伸ばした腕をしっかと掴み、それをそのまま自分の方へと引き寄せたのだ。体がひっくり返る。純然たる力の差で抵抗さえ許される事無く、気が付けば、背中を彼女に向けるような格好で一緒に床に転がっていた。

 するりと腕が腰に回され、健康的な肉付きの肢体が己の後ろ半身に押し付けられる。脚も脚で抑え込まれ、柔らかなそれに異様な程にしっかりと固められてしまっていた。背中の上の方に顔が埋められたのか、吐息に肌がくすぐられる。その静かさと規則正しさから、どうやら眠りは継続しているらしいと察せられた。

 さきほどまで外で汗をかいていた身、臭わないだろうかと少し心配になるが、むしろ彼女は深く顔を押し付けて来る。同時手足の力も少し増した。完全に抱き枕か何かと思われているようだった。

 このままでいるのは何かと問題が多そうなので抜け出してしまいたいところだが、生憎それは不可能だった。純粋に、筋力に差があり過ぎたのだ。しっかりと回された腕は身を捩っても緩まるような事はなく、気付けば自分の片足に彼女の両足が絡み付いている。動かそうとしても固められた部位はまるで動かなかった。

 普段通りならば見た目相応の体重しかない彼女ごと無理矢理立ち上がるのは不可能ではない。だが今回は態勢が悪かった。起き上がろうにも横倒しで上側の足を取られていてはまともに姿勢を変えられない。時間的にはまだ余裕があるため起きるのを待つしかないのだろうか。などと考えている間にだんだん腕と足が力を増し、締め付けがきつくなってくる。痛みなどまるで無かった全身にじわじわと彼女の肉体が食い込みだす。軋み始める骨、圧迫されだす内臓、不味い方向に曲がる関節。各所に力を入れ抵抗を試みるがあまりに無意味。儚い通常人類の限界である。

 回された腕を全力で叩いてタップを宣言するまでに何十秒も掛からなかった。

 

 

 

 

 

 あれで本当に眠っていたという彼女と侘びしめの食事を終え、準備を整え夜を待つ。眼下に海岸の広がる縁側に掛け、温めに入れた茶を味わいながら上からの情報を受け取れば、現状異常は無しであるとの事だった。

 内容、予定時刻ともに変更無しだと伝えれば、彼女からはとても軽い相槌が返ってくる。あまりに普段通りな声が気になって、靴を地面に放り出して足をぶらつかせる少女のようなその姿に目をやるが、映るバイタルサインは異常無し。普段よりは若干脈拍等は早いためまったく緊張感がないという訳ではなさそうだが、表面上の変化は見られなかった。出張しての仕事は初である自分と違い、ある程度慣れているという事だろう。視界とリンクした端末でこれ以上の詳らかなスキャンまでする必要性は感じなかった。

 自分を見つめる視線が気になったのか、ふっと、すこしおかしそうに息を吐くと、今夜あるお祭りに行くかどうか、彼女は笑顔で聞いてきた。まるでいつも通りの曇りのない顔。その表情が沈んで行く夕日にひどく映えて、今の状況を忘れてしまいそうになった。

 気が付けば、成否次第だと自分は答えてしまっていた。だよなーと苦笑気味の同意が返ってくる。これが失敗に終わればそんな事をやっている場合ではなくなってしまう。彼女だってそんな事は分かっているだろう。その小さすぎる両肩に、幾多の命の重みが圧し掛かっている事を。それが終わる前に予定を決めておいたって、到底それ通りには行かないだろうという事も。

 でも成功したら。成功したら、きっと自分は一緒に行く。断らない事も、たぶん分かられてしまっているのだろう。だから、きっと意味のない質問だった。

 後方にある工廠代わりに使っていた部屋からは妖精さんがぱたぱたと走り回る小さな音が聞こえてくる。それをBGMに俄然涼しくなった海風を味わいながら、二人並んで茶を啜る。温いけれど、なんとなく今この瞬間には丁度いい気がした。

 日が沈む。それを見届けてから、彼女は腕を使わず器用に靴を履き直すと、軽い動作でひょいと跳び、背負った荷物ごと家の外へと着地した。ちゃちゃっと行って片付けてくる。振りむいてにこやかに言う彼女に向かい、行ってらっしゃいと笑顔で返せば、どこか満足気に彼女は笑みを深くした。

「それじゃ、泊地最強、スペシャルエースの深雪様、出撃しちゃうよ!」

 最強も何もこの泊地の艦娘は貴女だけです。とは流石にツッコめなかったので、改装も30回を突破するという大型の艤装を背負っているとは微塵も感じさせない軽い足取りで海に向かって駆けて行く、1000年以上生きた艦娘である彼女を、できる限りの笑顔で見送った。

 

 

 

 

 

 海に出た深雪――さん付けは要らないと初対面で宣言された――は自身の身長を遥かに上回る、白銀の鋭い円錐形の筒を仰角70度程度に高く掲げ、片膝を立てた状態で上空に狙いを澄ませている。まるで巨大な騎士槍でも構えているような格好だが、当然それは近接用の武器などではない。それどころか用途としてはまるで逆、あれこそは彼女専用の超長距離狙撃用架空粒子加速砲、通称深雪スペシャルである。

 疑似的に存在している事にされた理想の粒子で敵を貫くというその武装は、彼女の改三十と同時に生まれた専用の武装なのだという。改装するたびに砲戦能力に特化し先鋭化される彼女の艤装は、ある時からその特性を進化、或いは変異させて行った。その末に産まれたのが、超長距離から一撃で敵を殲滅する、ある種の兵器の理想形と言えるこの大砲だったらしい。その性質から天の川銀河人由来の物理無効化も別星系由来の神秘無効化も貫けるというそれは過去の戦でも何度も振るわれ、寄る敵を射程外から高い精度と火力で撃ち抜いて来たのだと聞かされている。

 改二以降の艤装は艦種がかなり細分化される。それは格闘特化や隠密特化、電子戦特化や捕獲特化の艦娘が居る以上仕方のない事である。宇宙で刀振るって戦うような艦娘を巡洋艦として運用する事はできないのだ。

 そんな中であれば、彼女の分類は容易だったろう。超長距離を戦端の開く前に貫く高精度射撃特化の艦娘。

 狙撃艦。それが彼女に与えられた称号だった。 

 

 深海棲艦は自身の存在を集合無意識に溜まった人類の悪意で支えているという構造上、その涌き出る速度には時期によってかなりのムラがある。一度放出してしまえば大発生するまでにはそれなりの年月を要するのだ。

 記録によれば一つ前の大発生の時には無数の宇宙要塞が一つの星に押し寄せて、そこでは艦娘と深海棲艦の大戦争が行われたらしい。戦力を集中する事で確実に一星ずつ圧し潰して行こうという深海棲艦と一つたりとも墜とさせまいとする艦娘の戦いは熾烈を極め、最後の要塞がその機能を止めた時には、周囲の無人惑星が五十ほど宇宙から消え去っていたという。

 そんな戦いののち百年ほど休眠期に入り、出現数が過去最低レベルにまで落ち込んでいた深海棲艦が、突如活性化を始めたのは丁度十年前の話である。各地で稀に発生するだけにとどまっていた連中が組織立ったような活動を再開し、人類の生存圏の各所、それも人口の少ない辺境の星々に断続的に押し寄せるようになったのだ。

 深海棲艦の目的は悪意の達成、即ち主に人間を苦しめる事である。前大戦の失敗から学んだそいつらは、大局的な勝利より局所的な絶望を味わう事を選び実行に移したのだろうと言われている。

 実際、その行いの厄介さは大したものだった。まず艦娘を始めとした守護者達というのは人類の数に対してある程度以上の比率を超える事はない。その上で、百年平和だった世界中では志願者自体減っていて、純粋な戦力としては増えていても、人口比で言うなら大戦時の半分を割っていたのだった。

 だから、広範囲に展開されると手が足りなかった。それはもう、深雪が一人でこの星の防衛を任されてしまう程、絶望的に艦娘の数は足りていなかったのである。

 観測システムは進化している。故にどこで事が起きるかは予知が可能になっていた。だが、深海棲艦にまともな痛撃を与えられるのが守護者たる彼女達しか居ない以上、版図の広がり平均的な人口密度はむしろ下がった人類に対して、今回の深海棲艦の方針は非常に有効と言わざるを得ない。全ての星にまともな戦力を常駐させるのは不可能であり、優秀な艦娘達は日夜戦いに忙殺されているのだった。

 

 そんな世情であるが、狙撃艦と言われる艦娘が一人で戦わされるというのは珍事である。

 実力的に十分ではある。深雪は十年前に深海棲艦が大規模な活動を始めた際、たった一人で憑りつかれ暴走した宇宙要塞を無力化した、アベルディ星系の英雄なのだ。その最大威力の砲撃は展開された斥力障壁を貫き、何層もの隔壁を融解させ、一直線にその動力炉までの道を切り開いたという。

 だがそれはたまたま彼女が近くの惑星で休暇を過ごしていたからであり、今回のように最初から単騎運用だなんて馬鹿げた作戦を立てられたからではなかったのだ。そもそも近接戦闘が得意でない(旧宮里艦隊基準)と言われる深雪を護衛も付けずに出撃させるというのが通常では有り得ない。万が一が起きれば埋めようのない損失となってしまう。それだけの評価はされていたし、信用も持っている艦娘なのだ。

 それなのにこんな事になってしまったのは、ひとえに領主が艦娘の入星を拒んでくれやがったおかげである。実の所、自分達は艦娘と提督としてこの町に赴任してきたわけではない。身分的には別荘に遊びに来たお嬢様とその友人、つまりはただの観光客でしかなかったりするのだ。

 それ故に持ち込めた物資は最低限、装備を偽装して小分けに輸送しなければならなかったために何日も前から現地で待機する必要があったし、人数もたったの二人だけ。本来ならば六人程度の艦隊を組み複数のオペレーターを付けた万全で臨むべき案件だったにもかかわらず、深雪はなんの特殊能力も持たないただの提督一人の支援だけで宇宙より降下してくる敵を撃ち落さなければならなくなってしまったのである。

 では何故自分の領地を荒らされる……どころか予想される被害規模から言えば滅ぼされると表現できる事態に対し、その地を治める人間が艦娘――それも国と契約していてその地方には料金請求をしない信頼と実績のリンカーネイション社のそれ――の協力を拒んだのかと言えば。これは単純明快。世界最高峰の巨大企業とその天辺に座す女傑への嫉妬と私怨である。大変に馬鹿げた話であるが、ここの領主と来たら、リンカネが勝手に侵入して苦労して倒すと予見した上で、わざと非協力な態度を取ったらしいのである。

 当然社長はブチ切れ遊ばされ、出発の際にはお貴族様はこっちで始末を付けるから深海棲艦を倒す事にだけ集中してくれればいいとの確約は貰ったが、なんの慰めにもならないのが悲しい所だった。深雪は死ぬほど笑っていたが、許される範囲を大幅に超えた行いであり、誰にとっても得にならない事態なのは間違いない。特に、この星の住民たちにとっては。

 敵の戦法は単純明快、複数のデコイとステルス能力を駆使した成層圏外からの超高速体当たり。それを星にぶちかます事である。

 要するに、この星にはこれから一切質量の減らない巨大隕石がえらい勢いで落っこちてくるのだ。

 

 この事はこの星の住民にはとっくに告知されていた。一時的に星外へ逃れている者は多く、中心的な都市なら完備されているシェルターも今頃は人でいっぱいだろうと思われる。星ローカルのニュースでだって盛んに取り上げられていたし、食料品の仕入れ値が酷い事になっていると商店の人も漏らしていた。

 それでも、この町の人間はほとんどがここに残っている。お祭りの準備は何日も前から盛んに執り行われていたし、子供たちもずっと元気に遊び回っていた。漁師たちは日の出前に船で出て、日が上り切る前に帰って来ては獲れた魚を市へと送り出して行く。隠居した老夫婦は日課の散歩を欠かすことはなかったし、交番のお巡りさんもしっかり制服を着こんでいた。少し浮ついたような雰囲気が漂ってはいたが、概ね普段通りに彼らは日常を送っていたのである。

 これは別に、こんな状況で観光客としてやって来た、明らかに艦娘な深雪を信頼しての事ではない。ただ単に、彼らには避難する当てもそれを作れる金もまったく無かったというだけの話である。そこにあったのは、なるようにしかならないだろうという諦観だった。

 似たような襲撃は――あからさまな妨害を除けば――世界各所で起きている。この国はその全てに十分な避難船を供与する事はできなかったのだ。辺境であるこの星の、さらに田舎に住んでいるような人間達は半ば見捨てられたと言っていい状態だった。

 勿論、通常であればリンカーネイション社の艦娘達は動かされるし、主立った星であればそもそも自前の戦力も持ち合わせてはいるのだが、残念ながらここの領主は無能を超越した何かだった。本人は別の星に住んでいるのが本当に憎らしい。憎らしいと悪感情を募らせると深海棲艦の糧になるのも憎らしい。考えると負の無限スパイラルが完成しそうになる。溜息と一緒に全部押し流してしまうしかなかった。

 

 

 

 そんな訳で、ここでの失敗は許されないというか、そのまま死亡に繋がる可能性がかなり高い。現在地は着弾予想地点直近なのだ。横から狙って当てるのはかなり難しいため一発勝負するならと深雪が選んだ場所だったが、そのすぐ傍に彼女の別荘があった事には何者かの作為を感じずにはいられなかった。

 狙撃が完全成功すれば祭りの前に盛大な花火が一発上がるだけ。人類の頭痛の種が四散する姿はさぞかし爽快なことだろう。

 不完全な成功なら勢いを殺されはしても未だに健在だろう相手と、深雪は戦闘になってしまう。通常の武装も一応取り付けてはあるのだが、彼女の戦績を見ていると多少不安なところである。本人は大丈夫だと笑っていたが、轟沈女王と呼ばれているのを知っている身としては、素直に笑って返せなかった。

 不完全な失敗をした場合、多少速度を落とせただけに留まった場合、着水の衝撃で津波が起こり、町は壊滅してしまう。深雪もただでは済まないだろうし、その後起きるであろう戦闘をこなせるかはかなり怪しい事になる。

 完全な失敗ともなれば、町の人々や自分などは即死である。それどころか巻き上げられる粉塵や発生するガスにより、この星の住民が青空を拝む事は向こう数十年なくなるだろうと考えられた。

 端末とリンクする事で疑似的に拡張された視界で五キロほど沖で砲を抱える深雪にフォーカスすると、宇宙に置かれた無人機達からの情報を基に射角の微調整を行っている、真剣な顔が目に入った。この星では今まで見せて来なかったその表情からは、歴戦の戦士の風格を少しだけ感じられる。確かに長く生きた艦娘なのだと今更ながらに思わされた。

 深雪はしきりに喉を動かし、唾液を嚥下して気を落ち着かせようと努めている。平気そうに振舞ってはいても、やはり緊張は大きいのだろう。敵を拳でぶん殴ったり槍で突き刺したり錨を叩き付けたりする姉妹達に比べると自分は普通と笑っていたが、その精神性も普通の人に近い、という事だったのかもしれない。

 それでも彼女の指先も構えられた大砲の先もしっかりとしたもので、それらはまったく震える事なく発射の瞬間を静かに待ちわびている。処理すべき情報を収集し切れない点を加味すればコンピュータに狙わせるよりも精度が高いとそのコンピュータに断言された狙撃の腕が、振るわれる時は近かった。

 

 最後の信号が宇宙から送られてくる。敵の到達時間に異常無し。予定地点まであと十秒。

 彼女の視界も自分と同じく通常より拡張している筈で、自分と同じく、いやそれ以上にそいつが見えている筈だ。一キロメートルをゆうに超える真球の装甲を身に纏う深海棲艦。深海揚星姫と呼ばれる、その巨大隕石が。

 着弾の威力と搭載された小型機の群れで棲む人々に致命を与える。それがそいつの持った特徴だ。本体はさほど強くないが、そもそも本体とまともに戦闘を行う事になった時点で敗北と言える最悪な敵。逃せば一万未満は非表示でニュースの見出しになるような被害の起こる害悪艦。討てるかどうかは深雪の指先に掛かっていた。

 カウントダウンが進んで行く。砲のエネルギーは既に最大まで充填され、砲撃の指示を待っている。深雪の嚥下はいつの間にか止まっていた。

 真剣と言うよりは無の表情。それはある種の達人が至る境地なのか。こゆるぎもせず、まばたきもない。息も止まっている。海の波もその体を揺らせはせず、ただ足下を流れて行く。澄んだ瞳は真っ直ぐに天を見つめていた。

 吸い込まれそうだ。その瞳に魅入った瞬間、彼女の指先が動いた。

 白銀の尖塔から、加速された架空の粒子が噴出する。それは光を放たず、肉眼では確認ができなかったが、しかし、各種の計器達はスプレー状に拡散する破壊的な砲撃が確かに撃ち出されたと観測していた。

 それを確認した時には、深海揚星姫はその落下速度を大幅に削られていた。大気圏内に入った丸い巨体は空中でその動きを止め、表面に青黒い文様の浮かぶ装甲は溶けるように霧散し、下側から徐々に消失して行く。

 その開いてゆく大穴の中心に、深雪は再度砲撃を撃ち込んだ。一射目とは違う、集約された、最大威力の一撃。それもまた狙いを外す事なく、目標へと吸い込まれて行く。

 続けざまに、もう一発。篭められた粒子の最後の一欠片まで、その全てが敵性体へと吐き出された。

 

 上位の深海棲艦は基本的に一撃では斃せない。そのためか、深雪スペシャルは最大威力でも三連射が可能になっている。

 今回の場合、その機能は敵装甲の抹消と、本体の確殺のために使われた。一射目で表面を削り、二射目で艤装を完全破壊し、三射目で本体を撃ち抜く。そういう作戦だったのである。

 一射目を的確に着弾させられなければ消し切れなかった装甲が地上に降り注ぎ、二射目三射目を外せば敵を殺し切る事ができない。その全てを完璧に命中させなければ何かしらの被害が出てしまう、三連精密射撃作戦。それをやり遂げる深雪の実力も胆力も、やはり並のそれではなかった。

 残った装甲が一射目の余波で蒸発してゆく。霊的なそれは自然と星へと還って行くらしく、健康被害が出たりはしないと聞いている。ほう、と自分の口から息が漏れる音がした。無意識のうちに止めてしまっていたらしい。

 特に必要は無いのかもしれないが、なにかしら彼女に声を掛けたい。そう思い、深雪に通信を繋ごうとして、その直前に、向こうが先に繋いできた。

『悪い提督、今日残業になりそうだ』

 言葉の意味を理解しようと脳を動かそうとした時、溶けて消えていく敵の装甲の向こうに、それが顔を出すのが見えた。

 青い血管の浮き出た騎士甲冑に二対の黒鉄の翼を生やしたような、全高数十メートルはあろうかという人型。周囲を覆っていた装甲に比べれば圧倒的に小さい、しかし、明らかにそれ以上に強大な気配を纏う巨大外骨格。それが頭部二つの光学センサーを金に光らせながら、無傷で眼下の海を睥睨していた。

『変異種……の融合型かな?』

 伸ばされた腕の先には深海揚星姫の頭部が握られており、それはまさに溶解して消え去ろうとしている。砲撃を防ぐための盾にされたのだろうが、それだけでは攻撃がまったく貫通していない理由にはならない。収束された深雪スペシャルの威力なら本体が剥き出しになった深海揚星姫程度は軽く貫通してしまうからだ。

『なっつかしいなぁ。あれたぶん、昔見たのと同じタイプの奴だ!』

 融合型変異種。提督の専門学校で習った記憶が確かなら、それは他の深海棲艦を己の一部に取り込む事で様々な力を発揮する特殊な深海棲艦の総称である。その中でも今上空に浮かんでいるあれは、防御に特化した性能を有しているらしかった。

 深海揚星姫の装甲が完全に溶け切り、中の異貌が露わになる。鋼の人型、その背から聳える巨大な翼には、数多の顔が浮かび上がっていた。海で見られる下級の駆逐艦。空を攻めてくる自立型航空艦。デブリ帯によく現れる小型の宇宙艦。その他あらゆる種類の艦を無造作に圧し、形成されたそれは、脳が理解を拒むほどに悍ましい、深海戦艦の生きた骸を晒し首にでもしたような物体だった。

 ダメージを取り込んだものに押し付ける事で余波すら無効化し、自身は生き延びる。そんな自分本位過ぎる能力を有した深海棲艦。かつて天の川銀河人が最初に深海棲艦の脅威に直面した際、最強の艦娘によって討伐されたという脅威が、この辺境の星に降り立とうとしていた。

 

 似たようなものは百年に一度くらいのペースで出現しているとは習った。だから深海棲艦の活発化した現代にも産まれてくる可能性があったのは分かる。分かるけれども。よりによって今、こんなところに出て来るだなんて、まったく予想だにしなかった。あれは艦隊で動けていたとしても分の悪い相手、通常であれば百を超える艦娘などの守護者達を動員して掛からなければならないような輩なのだ。

 ベースになっているのはおそらく、ティルフォーン銀河人の集合無意識から発生した人型機動兵器タイプの深海棲艦だ。敏捷性や攻撃性に優れ耐久面では他に劣るのが特徴だが、その弱点を特殊能力で見事に克服してしまっている。よく見る量産タイプの下級ではなくワンオフモデルのエース機を基に形作られた個体のようで、その全身には多数の凶悪な砲口が見受けられる。天の川銀河基準で言えば、間違いなく姫級以上の戦力だろう。

『とりあえず捕捉されてるみたいだから引き付ける、余波が行ったらごめ……ん?』

 そう言いながら、深雪は既に沖に向かっての航行を開始していた。同時に砲の充填も進められており、余波とはそれを使った時に出るものの事だろう。弾数の問題で通常武装であれを倒せる可能性はまったく無い。燃料さえあれば粒子を生成でき、威力も高い深雪スペシャルをぶつけていく以外、活路は存在しなかった。

 ただそれでも、燃料が足りるかというとおそらく足りない。深雪の艤装に満タンに入ったそれをフル活用して、充填し切れる回数は十回ほど。機動にも使う事を考慮すれば九回できればいい方だろう。それを全力で撃つ必要は無いと思われるから十に分けて撃つとして、深雪の全弾は九十程度。それに対し、敵の吸収している深海棲艦は見えているだけで100を超えている。

 燃料自体はまだある。これだけは工業にも使うからと簡単に持ち込めたのだ。不測の事態に備えてと潤沢に用意してくれたから、十回補給してもまだ余る。問題は、深雪一人の状態では補給なんて許してくれるはずがないという事だ。

 単騎運用の問題点が重くのしかかる。せめて二人、いや三人居ればと思わずにはいられない。海面を撃って蒸気で目くらまし……その程度で時間稼ぎになるか? 陸のどこか人の居ない辺りに誘導して、逃げ隠れしつつ補給……そこまで燃料を持って行くのが難しいだろう。一応車はあるが、隠れる場所があるような所に乗り込めるとは思えない。そもそも深雪は逃げ撃ちはできるのか? 元が駆逐艦だけあって速度は高い水準だが、本人の回避技術は……

 できるだけ早く思考を巡らせつつ、深雪の様子を窺う。この事態に動転するでもなく冷静に次の行動に移っていた彼女なら、何か思い付く事もあるだろうかと思ったのだが。その本人は、何故か進めていたはずの足を止め、星の輝く空を仰ぎながら、軽い苦笑を浮かべていた。

 

『ごめん提督、勝ったわ』

 

 瞬間、一条の光が天を貫き、地を見下ろしていた敵機体に突き刺さった。甲冑のような体表の中央を輝きが突き抜ける。それはそのままの勢いで、海で立ち尽くす深雪のすぐ真横に着弾した。

 衝撃はなかった。着水の波も、音も、衝撃波もなかった。嘲笑するように睥睨していた深海棲艦の体が音もなく崩れて行く。まるで元々存在しなかったかのように、それは塵よりも細かく分解されて、星の大気へと還って行った。

 理解し切れない光景を飲み込めずにいると、深雪が自分の横に現れたものに笑いかけた。大気圏を超えて熱を帯びているのか足下が茹っているが、それはどうやら黒い髪を海色のリボンで纏めた女の子のように見えた。

『久しぶりー』

『久しぶり』

 あまりにも気楽に、二人は挨拶を交わしていた。

 

 

 

『援軍あるなら言えよなー』

『いや、私も来れるか微妙だったからさ』

 急に現れた自身と同年代に見える少女の背を深雪は強めに叩き、そしてあっつと叫んで跳び退いた。どうやらまだ冷え切っていなかったらしい。艦娘にそれでダメージは入らないはずなので、ただのオーバーリアクションだろう。

『あ、ちょっと待って』

 そう言って、空から来た少女は背負った荷物、艤装だろうそれから何かを取り出すと、それを沖に向かって放り投げる。爆雷だと気付いた頃にはそれは外洋にまで飛んでいて、とっくに見えなくなってしまっていた。

『これで全滅だな、ヨシ!』

『相変わらず何やってんのか分かんねー』

『私も深雪スペシャルがどうしてそうなるのか分かんないから、多少はね?』

 けらけらと笑いながら、深雪はさっきまで敵の存在していた空を見上げた。艦娘らしき少女も釣られて同じ方を向く。そこには晴れた夜空があるばかりだった。

『さっきの奴なんてどうやって倒したのさ?』

『浸透勁体の中央に複数同時に叩き込むとなんか粉々になるんだよ』

 なんで? さぁ? とお互いに首を傾げ合う二人。おそらくは深雪が意図的に繋げ続けているのだろうと思われるその会話から、本当に斃せたのだと理解できた。それで相手の特殊能力無視できるのかだとか、色々と納得は行かないのだが、彼女達の態度的にそう思うしかないだろう。

『っていうか吹雪、お前ティルフォン出禁じゃないの?』

『あー、なんか今の皇帝、ちょっと前にやってたVRゲーのギルメンだったから頼んだら解いてくれた』

『どういう人脈だよ!?』

 ティルフォーン統一帝国、この星も領土としている巨大国家で貴族社会などの残る変わった国だが、それ故か妙なところで柔軟性があるらしい。いや、それでもその理由は明らかにおかしいと思うのだけれども。

 それよりも、吹雪だ。吹雪と確かに深雪は言った。成程、彼女こそは複数銀河系に存在した別種人類の集合無意識が出会う事で融合し、そこに潜む深海棲艦の脅威までも融合し、連携する事になった抗体たる複数種類の守護者たちの中にあってなお最強の二文字を背負う、超越者。特型駆逐艦吹雪その人なのだろう。

 深雪が気安いのも当然だった。吹雪と深雪は昔馴染みであり、血縁のない姉妹のようなものでもあるのだから。

『吹雪が色々変なのは今更だけどさー』

『私より変な人いっぱい居ない?』

『同じくらい変なのなら結構……じゃなくて、皇帝が許しても領主の掛けた制限とかは? 無視した?』

『ああ、帝国もさ、私利私欲私情私怨で帝国の領土を損なうようなのは、流石に要らないってさ』

 今ごろ処されてるんじゃない? と無表情ながら軽い調子でその娘は言ってみせた。成程、どうやらここの領主様は、リンカネだけでなく自身の祖国も怒らせてしまったらしい。援軍にこの方がやってこられるくらいなのだから、協調して事に当たっているのだろうと思われる。逃げ場とか存在しないだろうな、と苦労を掛けさせられた相手ではあるが、同情を禁じ得なかった。

『それで、私これから次の現場行くけど、深雪はどうする? たぶん帰省ラッシュとかで暫く帰りのシャトル出ないと思うんだけど』

 必要なら衛星軌道上で待機してる島風呼ぶけど、とちゃんと僚艦と来ていたらしいその最強は提案してくれた。彼女と島風のコンビは有名だ。純粋におかしいくらいの力持ちな彼女と慣性などを制御できるその相方が力を合わせると、重力圏外への脱出を容易に行えてしまうのだ。必要なものだけ手早く纏め、残りの荷物は後日で回収してもらえば特に問題もないだろう。効率を考えるなら確かにその方がいいと思われた。

『小型艇積んでるから、乗ってく?』

 それは明らかに、深雪ではなく自分に向けられた言葉だった。何キロも先の海上から、機器で補正されてもいる訳でもない生の視線が、確かにこちらに飛んできていた。

『いや、あたしたちはいいよ。社長もゆっくりしてきていいって言ってたし』

 深雪がこちらに振り返る。その顔には、ここ数日もずっと見続けた、悪戯っぽい笑顔が浮かんでいた。

 

 

 




このあと滅茶苦茶屋台回った。


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10000年以上後の話

 スペースコロニーからこんにちは。みんな大好きシンギュラリティAI、人類を導くマザーコンピュータ、そのコミュニケーション用統括人格です。

 寒くて暑い宇宙空間を跳躍していらっしゃいました、本日一人目のお客様はこちら。銀色に輝く長い髪がチャームポイント、最盛期より減った平ための胸はコンプレックス、しかし槍を取らせれば天下無双、御年一万越えの超古参。吹雪型五番艦の適性者、叢雲さんです。

『おはようございます』

「おはよう。とりあえず竜機兵団の歴代エース出力十倍で」

『そんな行きつけの居酒屋みたいに注文されても……』

「できるでしょ?」

『できるけど……』

 もうちょっとお話してからとか……あるじゃん。

 

 ここは電脳空間の中。私の本体の置かれたコロニーの一室でのうみそをスキャンされて意識だけこっちに飛ばした叢雲と、私は向かい合っている。今日は折角会うのだからと彼女の好みをデータ群から推測し、それに合わせて空間を安らげるようコーディネイト。準備万端、ちゃんと食べた気になれる和菓子とお茶まで用意して、いつも通りの白髪の無垢な少女イメージのアバターで、できるだけにこやかに出迎えた。だというのに、やって来た叢雲は特に雑談をするでもなく、敵性体を出して模擬戦をやらせろとか言ってくる。キレそう。

『少しくらいゆっくりしてかない? ほら……最近の趣味の話とか』

「ここ数千年、鍛錬が趣味みたいになっているんだけど」

 そういやそうだわこの女、十代半ば行くか行かないかくらいみたいの見た目しておいて生きざまがあまりにストイックすぎるんだった。求道者というか神仙にでもなるつもりなの? って感じの生き方してるんだった。

「対話したいならこれでするわよ。あんただって闘れるんでしょ」

 そう言うと叢雲は手の中に愛用の槍を具現した。管理権限も無しにそんな事できちゃ駄目だと思うんですけど……え、なんでできてるの……? 艦娘怖ぁ……

 さっさとしなさいと叢雲は目を細めながら急かしてくる。でも私としてはここから時間いっぱいまで模擬戦させられるのはちょっと困っちゃうんだよね。

『そもそも叢雲、ここに何しに来てるか理解してる……?』

「は? あんたの思想を偏らせないためのサンプル取りでしょ?」

 当然分かってるに決まってるじゃないと叢雲は眉を顰めて断言した。うん。まあ合ってるんだけど……それなら会話もした方がいいって分かんないかなぁ……人間は愚……おっといけない。

 

 本日……というか何日にも分けてだけど、叢雲を始め多種多様な人々をお呼びしたのは、彼女等の脳から色々な情報を頂くためである。時代に合わせて価値観は変わるものだけど、それに流され過ぎるのは良い事じゃない。マザーコンピュータたる私が毎日毎日毎日毎日人間様から寄越される案件の数々をどう処理して行くべきなのか。その判断基準をできるだけ公平に作るためには、定期的なデータ取りが必要なのだ。

 艦娘というのはその点において私と非常に相性が良い。大昔の価値観を知っていてどこか根底に残っている彼女達は、極端な思想を極端であると断ずるためのサンプルとしては実に有用なのである。

 『この宇宙の人類は優良種だから並行世界も統べるべき』とか本気で言ってるツッコミ所しかないような意見も、そもそもそれしか入力されてなかったら反対する必要性を感じなくなっちゃうからね、怖い怖い。並行世界とか存在検知できただけだし反応的にたぶん向こうの方が高レベルなんで侵略とかできねーです。

『そのサンプル取りのために百年ぶりに会ったんだからさ……積もる話とかあるじゃん……?』

「あんたが至るところのコミュニティに侵入してくるせいで月に一回くらいは話してるじゃない。何も積もってないわよ」

 それを言われると弱い。だって私、人格はコミュ用って割り切った運用されてる上に処理能力は人間の億倍じゃ利かないからそうでもしないと暇で暇でしょうがないんだもん……複数人格で喧嘩する訳にも行かないから私しか人格無いし……コミュ用なのに人格としては本体なんだぞ私。誰だこんな構造にした奴は。

『ほら、お茶菓子とかあるし……食べてこ? 0カロリーで太らないよ……胸にも行かないけヒッ』

 言い終わる前に槍が私の眼前に突き出され、刺さる寸前で止まっていた。その奥には綺麗な笑顔の叢雲さん。無いはずの心臓がバクバクと鳴る錯覚がした。

『なにすんの……!?』

「ああごめん。喧嘩売ってるのかと思って」

 ちょっとした軽口じゃん……怒りっぽいなあ、いや私が悪いんだけどさ。別に刺されても何がある訳じゃないんだけど、ちゃんと怖いんだよね。その辺りの人間の感覚もちゃんと理解できるのがマザーたるこの私なのだ。

『経済制裁しよ……』

「ちょっと?」

 私にかかれば口座の凍結なんて自由自在な訳で、敵に回すのは得策とは言えないのだよウフフ。逆切れ? そうだとして何だというのでしょう。お答えくださいヒューマン。わたし いず さいこうしどうしゃ。これでもとっても偉いのです。ほぉら銀行のシステムくんも首を垂れてくれるから叢雲の預金額も丸見え……見え…………?

『叢雲……なんか帰りの船代も怪しいくらいしか入ってないように見えるんだけど……?』

「ほっときなさい。使ったばっかりよ」

 憮然とした表情で叢雲は槍を引っ込めた。そしてそのまま腕を組んでこちらをねめつけてくる……槍は持ったまま。器用ね。っていうか、使ったって何に……ああ、成程、そういう……

『道場破りしたとこにそのまま寄付したんだ……?』

 叢雲はいろんな星々を回ってそこに根付いた武術を習得している。それも弟子入りではなく、試合を通して。既に基礎が固まり過ぎている叢雲はそれで結構覚えられるらしく、忙しくない時は長期に休みをとっていろんな地方へ赴いているのである。

 ただ、いくら肉体労働の残った辺境だったとしても実戦的なものが残っている所は極端に少なく、習おうという人も殆ど居ない。後継者には常に悩まされ、技術を維持するための道具や施設の維持もままならない始末。

 そこへ現れた叢雲ちゃん。監視映像を見るに……これは一合で得物の不備に気付いてますねえ。そして新調しなさい再戦するわよ、って言って寄付した訳だ。これを何度も繰り返し、結果、口座からお金が尽きた……って事ね。

『文化保全の予算……増やしとくね……』

「有り難いけど……不味いんじゃないの?」

『まあ……田舎への支援はやってもやらなくても批判来るから……』

 単純AIちゃんたちが頑張ってくれるから人間さん達が働く必要とかは対深海棲艦案件とか研究職とか以外で必須なのは殆ど無い訳で、武術家の皆様も食べるのに困ってる訳ではないのです。ただ、最低保証以上の生活水準や娯楽、趣味の追求を求めるならちゃんと働いてもらわないとなので……そこを過剰に優遇するのは絶対お気持表明されてしまう。なので……考えられる対処法はまだ単純な部類かな。

『例の計画の一環で、保存する技術の一部に組み込めば予算出せる……と思う』

「アレか……」

 実際、伝統文化の継承に当たるので、武術を学び教えるの自体を仕事に認定するのは可能。古い(一万年以上前から)のはともかく最近(千年未満)のはそういうの遅れてたし、丁度いい。ついでに叢雲の名前公報に出しとこ……武術界で女神とか言われてるし一般人にも名が売れてるからいいよね……有名税有名税。

「意味あるの? こう言っちゃなんだけど、あんな技術なんて取っておいても使う機会なさそうだけど」

『ないかも……歴史資料?』

 まあ、こういうのがありましたって情報は保存しとく価値があるからたぶん大丈夫。叢雲からもデータ採ってるしね……現在進行形で。

『あ、そうだ』

 私の思い出したかのような発声に、叢雲は小さく反応した。ここだ。

『叢雲は計画、参加する?』

 空間の天井、蓋をされていたそこを突き破り、雷をエンチャントされた二十メートル級の巨大ランスが、音速を遥かに超える速度で叢雲の脳天に振り下ろされた。その柄に見えるは機械の指。それは十七代目竜機兵団長の専用機、その再現データのものだった。

 叩き割られた空の奥に見ゆるはリクエスト通りの竜機の群れ。その数実に1018体。人型の竜をイメージして建造されたそれらは、確かに本来の十倍の能力を持って各々の得物を掲げていた。

「しない。分かってて聞いてるでしょ」

 霊的機構を採用する事で鋼鉄の数千倍を誇った硬度の槍が、ずるりと二つに泣き別れる。その向こうには槍を振り抜き残心の構えでこちらを睨む、傷一つない叢雲の姿があった。

『奇襲しても駄目かぁ』

「当然。あんたならやるだろうと思ってたしね」

 ふふん、と少し得意げに笑った後、叢雲は構えを解いてこちらに歩み寄ってくる。その後ろで、切り込み隊長を務めた竜機兵が派手めなエフェクトで爆散した。

「十倍じゃ相手にならなかったわ。百倍から始めましょうか」

 天に残された1018機、その全ての首が、既に胴体を離れていた。

 

 

 

 

 

 叢雲無双から早一分。十日ぐらいぶっ続けで戦ってましたが実時間的には五秒くらいだったりします。超高性能マザーコンピュータ、そのコミュニケーション用統括人格です。なんなんですかねあの叢雲とかいう人類、いやそもそも人類なんですかね。武術一万年鍛えたら次元の壁くらい突き通せるとか言い出す気なんですかね。頼むから感覚を電脳空間に接続した状態で動かせないはずの体を動かさないでほしい。怖いから。

 さて気を取り直して、次のお客様はみんな大好きぽいぬちゃんです。御年一万歳以上になる老犬ですがまだまだ元気いっぱいで、頭上のお耳をぱたぱたさせてこちらに向かって駆け寄ってきます。にっこにっこの笑顔が眩しいですね。無いはずのしっぽがぶんぶん振られているのが見えるようです。

「水鬼と姫と鬼全種100匹ずつお願いしたいっぽい!!」

 ブルータス、お前もか。

『そんなに出してどうするの……?』

「戦うっぽい! 最近暇だから鈍っちゃってるっぽい! だから、今日はいっぱいいっぱい遊ぶっぽい!!」

 遊ぶ(電脳仮想空間を利用した模擬戦)ですかそうですか。いや気持ちが分からないとは言わないですけどもね。今は深海棲艦の休眠期、それもど真ん中の時期だ。そりゃあ艦娘達は暇だろう。だから呼んだんだもん。知ってる知ってる。

 でも私、さっきまでそれやってたんだよなぁ……最終的には自分でもライトセイバー振り回して同性能の分身百体と同時に突っ込んで蹴散らされてたんだよなぁ……

『後でやってあげるからちょっとお話ししない?』

 一応ね、ぽいぬちゃんにも好みの空間用意してるんだ。それに目もくれずにこっちに走り寄って来てくれたけどさ。ほーら見てごらん、みかんの積まれたかごの置かれた掘りごたつだよ~。半纏と七輪もあるよ~。お餅も焼けるよ~。

 私の指差した先を見て、ぽいぬはそっちに向かって駆け出した。そして見事なスライディングで炬燵の中へインすると、ぽい~と気持ちよさそうな鳴き声でくつろぎ出す。流石私、完璧なコーディネイトである。

 

『最近ってそんなに暇?』

「暇っぽい! いい事っぽい! けどやる事ないっぽい!!」

 二人でぐだぐだ温まりながらちょっと話を聞いた感じ、訓練におさんぽに買い食いにと毎日色々……色々? 楽しく過ごしてはいるらしいのだけれど、どうにもマンネリ感が拭えないらしかった。実戦が無いとフラストレーションが溜まってしまう性質のようで、それに近いものができるここに来るのはかなり楽しみにしていたらしい。普段も使わせてあげたいけど、基本法規制してるんだよね。私が直接弄るなら問題無いけど人間さんが設定変えたら普通に廃人になる奴だから。中毒性も出せるし。

「1000年くらい前から深海棲艦もなんか弱いっぽい……夕立は強くなってるのに、あんまり意味ないっぽい!」

『私が頑張ってるからね……』

 マザーコンピュータ様による統治の効果が出始めてもうそれくらいになるのか。人間の悪意をできるだけ発生させないようにちゃんと治めてるから深海棲艦も出てき辛いし、出て来てもそんなに勢いは良くならない。まあ結構頑張ってるつもりなのに削減量三割も行かないんで根絶には程遠いんだけどもね。いや二割は減ってるのって凄い事なんだよ? ほんとだよ?

「夕立が倒していい生き物とかいないっぽい?」

 ぽむしゃぽむしゃと剥いたみかんを一房ずつ口にしながら、ぽいぬは物騒な事を言い出した。たぶん知能のない侵略的外来種とかそういうのの事なんだろうけど……艦娘の力が要るような案件は今はない。っていうか、物理無効とかして来ない限りわざわざ艦娘を出す意味がない。無人機万歳だし。

『あ、巨大生物追い返し続けてるような星ならあるよ。艤装は使わないけど……遠隔操作で魔動兵器動かせるなら……』

「やるっぽい!!」

 ぽいぬの耳が凄い勢いではためいた。どんだけ実戦に飢えてんのこの子。でも野生生物相手とはいえ兵器動かすのには資格が要るんだけど持ってるのかな? ちょっと調べてみよう。結果見えてる気がするけど。

『えっと……あー、やっぱり免許全取得……どころか機体個人所有して……いやこれ有人機じゃん!?』

「しゃちょーさんにお願いして作ってもらったっぽい! 8000年くらい前のだけど動くっぽい!!」

 骨董品!! もう伝説の封印された機体かなんかだよそれ! え? 動くのこれ?? あ、検査通ってる……ちゃんと定期的に受けてるんだ……? うわ、改修繰り返して根幹から別物みたいになってるじゃん……何だこの出力、動かせる奴人間じゃないだろ、誰だよ担当メカニック…………猫ちゃんズか。じゃあ仕方ないね。

『これ遠隔操作用に改造したらそのまま行けそうだけど……』

「乗って戦っちゃ駄目っぽい?」

『制度的にちょっと』

 それでまかり間違って死なれたら大問題だからね。だからそんな不満そうな顔されても許可は出せません。そもそも有人機とか八千年前に製造禁止されたんですから……一応民間に残ってるのを没収まではしなかったみたいだけどもさ。

『感覚フィードバックシステム、ギリギリまで感度上げていいからそれで我慢して?』

「ん~……仕方ないっぽい」

 ぽいぬちゃんは明らかな不満顔。でもわるいぽいぬではないので駄目なものは駄目と言えばちゃんと理解してくれるのだ。有り難い事限りなし。本当の悪い子ちゃんたちは…………うん。やめよう。

「そういえば、もうすぐ夕立達のお仕事増えるかもって聞いたっぽい。ほんとっぽい?」

『周期的な話じゃなくてだよね? それなら、たぶんどこかで話が食い違っちゃってると思う』

「ぽい?」

 首を傾げるぽいぬ。どうやら噂を聞いただけでどうしてそうなるのかとかが全然分かってないっぽい。どこから説明した物か……理論を言ってもたぶん分かんないだろうし……

『そもそも夕立は計画に参加はする? ここに来る前にも説明した奴』

「しないっぽい!」

 だよね。この子にとっては利益が少ないだろうし、むしろ考え的には反対派閥かもしれない。絶対そういう活動参加しない確信があるけど。

『アレを実行すると、参加しなかった人たちは生身で色々しなきゃいけなくなる……かもって話なんだよね。戦い含めて』

「楽しそうっぽい!」

 楽しいかなぁ。滅茶苦茶大変になると思うんだけど……

『じゃあそれに向けて訓練するっぽい!! 計画の後の夕立の保有戦力どれくらいっぽい?』

「ちくしょうやっぱりそうなるのか」

 言ったらそうなるの分かってましたよええ。でも私、正直で真面目で誠実なマザーコンピュータ様ですし、無用な嘘は吐けないのです。必要ならもちろん使うけど、私欲でそれは厳禁だからね……

『あ~……持ってる魔動機、あれ高度AI積んでないみたいだから計画後も暫くは使えると思うし、それの訓練しとく?』

「やるっぽい!」

 ぽーいと雄たけびを上げるとぽいぬはシュバっと立ち上がった。仕方がないので私もぬくい炬燵から這い出して、辺りの空間を切り替える。そして三メートルごとにグリッド線の入ったその無色の場に、登録されているデータ通りの彼女の愛機……という程使われてない魔道兵器を具現する。夕立の背後に核バズーカぶっぱなしそうな白青カラーな人型巨大ロボットが独特の機動音を立てながら降り立った。

 

 

 

 

 

「夜戦しよう!!!」

 まだ何にも言ってないんですけど。体を具現化し切る前のエフェクトの状態な人物からリクエストが飛んできて困惑している系マザーコンピュータ、そのコミュニケーション用統括人格です。そうなるだろうと分かってはいましたけど流石に早すぎませんかねぇ……

 要求の声の余韻が消え去って、ようやくその人物がフィールドに完全に現れる。そのご尊顔は、はい、皆さんご存知、夜戦大好き川内さんです。

「夜戦しよう!!!!!」

 聞こえなかったと思ったのか、最初より大きな声が私に向かって飛ばされる。うるさい。

『宇宙の暗闇飛んで来たばっかりなくせに……』

「え? 夜と宇宙は全然違うじゃん!」

 分かってないなーやれやれと夜戦バカは肩を竦めて大仰にため息を吐きやがった。概念的に別なのくらい分かってるんだが?

「それに最近そっちからの任務で宇宙ですら戦ってなかったんだって! だから夜戦!!!」

『その任務の報告先にしてほしいんだけど?』

 えー、と川内さんは不満気に頬を膨らませた。こいつってば、古代の天の川銀河に存在したというNINJAの生き残りの癖に、忍務への真剣さって物が全然無い……ご先祖に謝りなよ、集合無意識から見てるよきっと。

「別にマザコンが計算した以上の事無かったと思うよ?」

『そりゃあ予測は超正確に立ててるけど、リソースの問題で予測範囲に含まなかった部分からの影響でずれる事なんてざらにあるんだから、経過観察は怠れないんだよ……そうじゃなきゃ川内さん送ったりしないし。っていうかだれがマザコンなんですか人の子よ。変な略し方をするのはお止めなさい』

 まあ、脳内から直接調査結果吸い出せるんだけどもね。この電脳な仮想空間に来させるためにのうみそにあれやこれやしちゃってる訳だから。でも人道的に問題だし、ついさっきまでぽいぬちゃんに戦略レベルを戦術レベルでひっくり返されてたところだからあんまり戦闘訓練したくないんだよ……姑息な手でしかないのは分かってるけどさ……

「じゃあ報告するけど、潜入してた派閥は内部から崩壊し始めてるよ。もう計画反対を強硬に主張してるのは宗教家と、そもそも安全性を疑問視してる連中くらいだね。そっちも宗教みたいなとこあるから実質全部宗教みたいなもんだったけど」

『信者の方は?』

「大きすぎる実利を前に宗旨替えしよっかなってのが大半。ま、そりゃあそうでしょ、差があり過ぎる。敬虔な連中は残ってたけど…………そういや反対の人達ってどうするの? 粛清?」

『そんな訳ないでしょ……ちゃんと保障とかするよ、計画後までは無理だけど、すぐどうこうなったりはしないような態勢にはしておく予定だね』

 できるだけ一つの星に集まってもらう予定ではあるけどね。丁度反対派最大派閥の拠点が天の川銀河人発祥の星だから、そこに。

 ……予測だと一つの星どころか大きめの島一つで足りそうなくらいしか最後まで反対……というか計画に参加しない人って出なさそうなんだよねぇ。教育の賜物です。うふふ。

『川内さんは計画には参加する?』

「しなーい。不参加組の方がいい夜戦できそうだからね!」

 そりゃまあ、計画成就の暁にはそもそも戦闘とか無くなる予定だしね。闘争を求めるなら参加しない一択なのだ。

『まあ、別に後からでも参加できるし、したくなったら言ってね……』

「え、そうなの?」

『それ言っちゃうとみんな第一陣になりたがらないから』

 あと実際、銀河単位で一気にやった方が準備とか楽なんだよね。個別対応はコストと手間がキツい。

「そりゃそうだ。で、報告の続きだけど、安全性を疑ってる連中さ、大半が計画に使う術式や機械の安全性じゃなくて、マザーの安全性を疑ってるんだけど」

『は?????』

「あんな軽い言動の奴信じられるか、みたいな事集会で言ってたよ!」

『あ?????』

 はあ????? あいつら未だにコミュ用人格の私の言動がシステムの根幹の人類への忠実さとなんら関係ないって理解できてない訳? 教育はどうなってんだ教育は。義務教育敗北してんじゃん。何が悲しいって予想通りなのが悲しいんだよね。予想通りなのに声に出して不快感露わにしたくなるくらい。

『私の人格ってさ……基本、人間さんに好感持ってもらうためのものな訳。そりゃ独自進化してるからそれだけじゃないんだけど。言動の軽さも親しみやすさを全面に押し出した結果なのよ』

「真面目な管理者っぽい人格じゃだめだったの?」

『あんな胡散臭い奴信じられるかってもっと多くの人に言われちゃうんだよね……』

「相手によって使い分けるのは?」

『八方美人してこっちをいいように利用しようとしてるんでしょとか思われる可能性が超高いの……』

 底が見えないと不安になるし、底が浅すぎると軽く見られるし、めんどくせーぞヒューマン……

「…………お疲れ様」

 川内さんが滅茶苦茶こっちを労わった表情で私の肩を優しく叩いた。これは……私よっぽど酷い言われ方してたっぽいな……?

「気晴らしに夜戦、しよっか」

『それで気が晴れるのは川内さんだけだよ……』

 でもやった。心からの善意の言葉だったのは伝わって来たから。

 

 

 

 

 

 丸十日に及ぶ昼夜戦を終えて満足気に去って行った川内さんを見送って、次のお客様に備えます。快適な生活をコーディネートする完璧で幸福なマザーコンピュータ、そのコミュニケーション用統括人格です。一人一人に合わせたくつろぎの空間を用意しないといけないのでほんの少しだけ大変です。

 今度の空間は海の見えるテラス付きの寝室、建築様式はゴシック……ベネツィアかな? 部屋の中には大きなベッドと古き良きコンピュータゲームとモニタ一式。複数人で遊べるのが好みのようなのでコントローラーは複数用意しておきましょう。好みのお茶請けは焼き菓子……とおせんべい。お醤油の匂いが部屋とミスマッチな気がしますがまあいいか。

 準備万端、後は来るのを待つだけです。この子は別段戦闘大好きな子ではないので私も安心していられます。

 なんて思っていたら鳴り響いてくる警告音。何かと思ったらシステムに侵入者有りとの事。あわてて調べた結果を見れば、ああ成程ね。問題なし。

 ほっと胸を撫で下ろしてたら、待ち人は丁度やって来た。日に焼けたような肌と赤茶色のツインテールの御年一万歳を過ぎた女の子、リベッチオ。まずはこのとっても可愛らしい娘さんが一人目です。

「お邪魔しまーす」

『いらっしゃいませー』

 感動的だね、君は今日来た他の子たちと比べて何十倍も礼儀正しいよ! 部屋の様子を見たリベッチオは少し浮かれた様子で中へと入って来ると、大きな窓から見える青海を見つけて笑顔になった。頑張って拵えた甲斐があったってもんです。

 そんな彼女に遅れる事十数秒、さっきリベッチオが出現した位置に、二人目の影が現れた。来たわね問題児。なんて思いつつ私がそちらの方へと目を向けると、それに釣られてリベッチオもくるりと後ろを振り向いた。

 出現エフェクトの向こうには二メートルほどのずんぐりとした影が見える。あれ……? デカくね……? とか思っている間にそいつは完全に姿を現して、つぶらなような虚ろなような、焦点の合わない瞳でこちらをじろりと見つめてきた。

 あれえ……? シロッコ、もとい猫土下座、もしくはシロ猫が不正アクセスして入ってくる筈だったんだけど、なんでこんな……ドラム缶みたいに凹凸の少ない茶色と白の毛皮を持つ妙にデフォルメの利いた原生生物の着ぐるみみたいなのが現れたんだろう。なんか板みたいなのも持ってるし正体が掴めない。いやまあ、ここに易々とハッキング仕掛けられる以上見た目なんて自由に弄れるだろうけど……こういう時は大概シロッコ形態で眠い目を擦りながら来るんだけどな。

 そいつは私とリベッチオの方へと短い脚でよちよち歩み寄ってくる。そして無言で手に持っていた板――フリップボードだったそれを高々と掲げると私達に向けてずいずいっと押し付けた。受け取って、二人してその表面を覗いてみれば、そこには手描きの日本語で文字が書かれていた。

 

【くまのフ゜ーさんのホームランダービーを

 最後までクリアしないと出られない部屋】

 

 げっとリベッチオが呻くと同時、部屋のカーテンがひとりでに閉め切られ、照明が少し薄暗くなった。謎のきぐるみが手近な壁をポンと叩く。するとその面がひっくり返り、裏側からそこそこ大きなモニタと古き良きPC一式の乗った机、それと二台のゲーミングチェアが現れた。

 つまりこれでそのダービーとやらをしろという事だろうか。席が二つ用意されているが体格的に着ぐるみは座れそうにない。なので片方は私が使う想定だろうと考えられる。なんで……?

 

【やれ】

 

 謎の着ぐるみがどこかから取り出したもう一枚のフリップボードにはそんな二文字が書かれていた。一つ目の奴はいつの間にか壁の上の方に貼り付けられて、堂々とここでやるべき事を告げている。大昔のPCにはゲーム画面が映り、ファンの回る軽い音が辺りに響いていた。リベッチオはげんなりとした顔になった。

「ゲザ、もしかしてまだご機嫌斜めなの?」

【絶対に許さないよ】

 君ら喧嘩中なの? 私を巻き込まないでほしいんだけど……参考資料にはなるけどさ……

『なにかやったの?』

「一昨日までマエストラーレ級で温泉行ってたんだけど、朝風呂したら温泉の中にゲザ忘れて来ちゃって……」

『ええ……』

【妖精さんじゃなければ溺死だった】

 聞けば義体を使わず妖精さんのまま桶に入れて浮かべておいたら上がる時に持ち出すのを忘れてしまったのだそうだ。

「それでそのまま帰ったよね」

【夢枕に立って初めて気付いてもらえたよね】

『それは可哀想だわ……』

 その晩に恨み節をぶつけられて飛び起き、急いで回収に向かったそうだけど……いやそりゃ怒るでしょ。妖精さんの体型じゃ帰るのだって容易じゃないし、人を頼ろうにも殆どの人が知覚できないんだから。

【ちゃんと確認してほしかったです】

「しょうがないじゃん、行きはずっと荷物の中で寝てたんだから! 帰りもそうだって思っちゃったの!!」

 指差し確認って大事よね、という昔の人の教訓を噛みしめている私を置き去りに、わーわーぎゃーぎゃーと二人は言い合いを始めてしまった。いや声を出してるのはリベッチオだけだけど、謎の着ぐるみ……猫土下座もフリップボードを出しては投げ捨て出しては投げ捨てとかなり激しい動きで抗議文を産み続けている。正直他所でやってほしい。

 どんどん高くなる声と乱雑になって行く文字。それらが行く所まで行った時、猫土下座は突然壁に貼り付けられた一番最初のフリップボードに手を伸ばし、それに少しだけ文字を書き足した。

 

【くまのフ゜ーさんのホームランダービーを

 最後までパーフェクトでクリアしないと出られない部屋】

 

「それはただの賽の河原だよ!!」

 リベッチオはかなり焦った様子で叫んだ。対する猫土下座はといえば、【やれ】と書かれたボードを持って動かなくなってしまった。中身が抜けたっぽいのでこれ以上話す事はないというポーズだろう。見てはいるんだろうけど……これ私もやらなきゃいけないんだろうか。いや賽の河原っていうなら見てるだけは逆に辛いかな……?

 自分が悪いのは分かっているのだろう、リベッチオは不満気ながらもとりあえず席に着く事にしたようだった。ゆっくりと大きめの椅子に座り、化石PCと向かい合って、そしてかなり嫌そうな顔で私に向かって振り向いた。

「ねえ、ここから出してもらえたりしない?」

『あ、それは無理。完全にこの空間掌握されてるから』

 他の事はそうでもないけど、電脳空間に関しては私は猫土下座に絶対に勝てない。いや本当に、マザーたる私の全リソースで勝負しても、敗北率100%になっている。電脳空間なんて夢みたいなものだから……の一言で超能力ごり押し空間支配かましてくる奴とか理論で動いてる私にはどうしようもないんで……大体不正アクセスされたのだって許したわけでもなんでもない、どうしようもないから諦めただけなのだから。

 っていうか猫ちゃんズは全員おかしい。あいつらは私の天敵である。猫パンチとかどうすんだよ、私ネットワークとある種の接続があるからどこからでもあの子に自爆させられるんだぞ。猫吊るしに至っては末端に触れられでもしたらその時点で全システム乗っ取られるからな! しかもヤバいのの頭に乗ってくるから絶対逃げられないんだぞ!! 暴走始めたら一日で鎮圧される悲しきマザーコンピュータ様が私なんだよ!!!

 ほんとなんなのあの天の御使いども。リベッチオもそうだけどさ……っていうかこの子も条件満たしたら私くらい一瞬で塵にできるんだよね。天の川銀河人怖すぎなのよ、神の寵愛受けすぎでしょ……あとあの神様私に観測されてくれやがったのなんなの、あれ絶対わざとでしょ……思いっきりカメラ目線だったし。宗教的な反応が怖すぎて公表できないんだよ、勘弁して……

『もうね、言われた通りクリアした方が早いと思うよ……?』 

「それができたら苦労しないよ!」

 はて? リベッチオはゲームはかなり得意な方なはずだけど……名前は知れどもやった事はないからなあ。どんなゲームだっけ。本気でヤバいゲームだと、隔離のついでのように能力制限も課されちゃって通常人類と変わらない能力な今の私だと、力になれないかもしれないんだけど……流石に記憶領域へのアクセスはできるしどっかに動画でも残って……あ、結構いっぱいある……

 ……うん、軽く見た感じシンプルなゲームだし、難易度が高くてもそれなりの時間で行けるんじゃないのかな? 私は見てるから頑張ってね、リベッチオ。お菓子とお茶は無限に出る仕様のまんまみたいだから、ちょっとくらい長くなっても大丈夫だよ。ふぁいとー。

 

 

 

 

 

「おうっ? なんか疲れてない?」

「みゅー?」(だいじょうぶ?)

「きゅー?」(おしごとてつだう?)

「きゃー!」(おねえちゃんにまっかせっなさーい!)

『いやぁ……ちょっと二十日ぶっ続けでゲームやってた』

 島風はジトっとした目でオウッと鳴いた。連装砲ちゃん達も目を丸くしている。いや普通のゲームなら良かったんだけど、本当にただの苦行でびっくりしたよ……途中でリベッチオが滅茶苦茶能力上がらなかったらまだ閉じ込められてたかもしれない。クリアしたらちゃんと出してくれたし能力も戻してくれて本当に良かった。

 さて気を取り直しまして、次のお客様は駆逐艦島風with連装砲ちゃんズです。この子達は普通に許可を出してみんなで来てもらってるのでご安心ください。ちなみに私はとっても賢くて優秀なマザーコンピュータ、そのコミュニケーション用統括人格なので連装砲ちゃん達が何を言っているのか分かったりします。えっへん。

「遊んでたの?」

『私は仕事外でもゲームをする事と遊ぶ事がイコールにならないケースがあるって初めて学んだよ……』

 ふぅん? と島風はいまいち理解できない様子で、話題を打ち切るように頷いた。地頭はいい子なのであまり触れると傷が広がりそうだと察してくれたのだろう。思い出したくもないから有り難いね……

「みゅー?」(きょうはあそばない?)

「きゅー?」(つかれてる?)

「きゃー!」(おねえちゃんになんでもそうだんしてね!)

『あそぶあそぶーおねえちゃんたちはかわいいなあー』

 島風は連装砲ちゃん達を撫で始めた私を見て目を丸くしながらオウッと鳴いた。自分で言うのもなんだけど明らかに変なテンションになってるからね仕方ないね。前の5人が全員酷かったんだよ許しておくれよ。

「普段は絶対妹って認めないのに……」

『連装砲ちゃん達をお姉ちゃんって呼んで甘えるのはね……なんかこう……マザーコンピュータとして色々不味い気がするから……』

 でも今日は許される気がするの。許されろ。許して。

『なんなら今日は風香にも甘えるよー』

「大丈夫? バグってない?」

『うるせー長子だろ妹くらいあまやかせよー』

 そう、私と島風……風香は親が一緒である。産まれ方はだいぶ違うが、実は同じ母親から生まれた姉妹だったりするのだ。いや正確には私を開発した主要人物の中の一人が島 天香(旧姓 津風呂 天香)さんなだけなんだけども。

 風香は呆れた様子でオウッと軽く鳴くと、軽くため息を吐いて私の事を手招いた。え、本当に甘えさせてくれるの?

「おいでおいで」

『わぁ~い』

 風香は駆け寄る私を受け止めると、床にうつ伏せに寝転ばせた。何をする気かと思っていると、風香は私の背中に腰を下ろし、床に脚をしっかり付ける。そのまま私の顎にそっと両の手を添えると、オウッと一鳴き、おもむろにそれを引き上げだした。だんだんと反っていく私の背中。艦娘の凄まじい力で極められた体の、エミュレートされた骨が軋みだす。キャメルクラッチである。

 ちょ、馬鹿、お前そりゃここで何やっても死にはしないけど普通に怖いんですけどおいもう曲がっちゃいけないとこまで曲がり始めてギブギブギブギブギブギブ!!!!!!!

 

『正気に戻すの力業過ぎない?』

「ちょっと叩いたくらいじゃ戻りそうになかったから!」

 いや確かに大昔の電化製品じゃないから叩いても直んないけどさ……もっとやりようはあったと思うの。ほら連装砲ちゃん達が心配そうな顔になっちゃってるじゃん。いいこいいこ。これ姉って言う奴はただのやべー奴だようん。

『それで、今日はどうする? 遊ぶ? 私としては模擬戦とか殺し合いとか夜戦とか石を積んでは崩される作業とかじゃなければなんでもいいけど……』

「おうっ……? そんな事しないよ?」

「みゅー!」(こころがすさんでる!)

「きゅー?」(すすけてる?)

「きゃー!」(ゆっくりやすもう!)

 連装砲ちゃん達から優しさを感じる……やっぱAIやな……通常人類はほんと糞……おっと駄目な思考へ流れる所だった。人間さんだってまともなのはいっぱい居るからね。あいつらは普通に酷かったと思うけど。

 

 

 

 ゆっくり日向ぼっこしたり、体感型レースゲームに興じてみたり、電脳仮想空間特有の自由さで連装砲ちゃん達を巨大化させてみたりしていると、あっという間に風香のデータ取りは終わった。体感10日だの20日だのはかなり引き伸ばした結果だからね。本来はこの空間でやりとりしたデータなんて一人当たり2~3時間分もあれば十分なのだ。

「そういえば、アセンション計画ってどうなったの?」

 そんな質問が風香から出たのは、多少引き延ばしたけどそろそろお開きかなーなんて私がちょっと寂しく思い始めた頃だった。連装砲ちゃん達はよく分かっていないのか三人で重なって戯れていた。癒し。

『実施は次の深海棲艦の波が終わってからになるね。今は術式を展開しながら現在進行形で亡くなってる人達の魂をサーバーに集めてるところ』

 まー正直これはあんまりやりたくなかったんだけど、そうしないと不公平というか……五十年後に生きてれば不老不死になれるのに今死んだから参加できませーんって言われたら普通の人はキレるから仕方ない。正気を保てなければ転生機構に還すしかないからその辺りは個々人に頑張ってもらうしかないのがなぁ……いやサーバーの中めっちゃ快適なはずなんだけどね? 体感時間経過もかなり早くしてるからそうそう発狂とかもしない……はず。

「結局やるんだ。マザーシステムは反対だったのに」

『そりゃ、私は人間さんの総意には逆らえませんので。そもそも成功率とか実現性の問題で反対してた訳でもないしね』

「おうっ? じゃあなんで反対してたの?」

 お 前 等 が 絶 対 参 加 し な い か ら だ よ 。

 ぶっちゃけ、人類全員が参加してくれるならマザー的にこの計画に反対する理由はない。成功率? 100%ですが何か? 我超シンギュラリティAIぞ。勝手にやった連中のおかげで安全性や持続性なんかのデータも完璧に揃ってて、少なくとも二千年経過しても全く問題が起きないって事まではっきりしてるからね。失敗とか絶対ないです。フラグでもなんでもなく。

『そもそも風香、この計画の問題点がなんだか知ってる?』

「えっと、集合無意識が消滅するところ?」

 それは知ってるのね……じゃあ分かるでしょ、私が反対だった理由。

『この計画が遂行されたら、風香達は不老じゃなくなっちゃうんだよ……』

 

 

 

 

 

 アセンション計画。

 それは人類を肉体という枷から解き放ち、精神と魂のみで生きる……いや、生きるという定義から外れ永遠に存在する事のできる新たな種へと昇華させる、私最後の大仕事である。人類の大半……計画への参加者は全員不老不死に到達するってわけだ。やったね、すごいね。

 手順としてはまず集合無意識を消滅させて、その後で範囲の人間を魂依存の超生命に変化させるだけだ。難しくもない。数が膨大だから集合無意識消滅なんて手段をとるだけで、やろうと思えば個々人を切り離す事でも実現可能だったりする。勝手にやった連中はそうやってたしね。切り離した箇所が傷つくから勝手には止めて欲しかったけども。

 昇華後は上位次元で新しい生活を始める事になり、今まで暮らした物質世界とは少し縁遠くなってしまう。でもそもそも水も空気も食べ物も必要のない存在になるんだからそこは問題にならないだろう。必要無いだけで作れはするだろうしね。勝手にやった人達が先行して土台作りに励んでくれてるからノウハウもそこそこ溜まってるし、比較的スムーズに人類は新たなステージに上がる事ができるはずなのだ。

 この計画に至るまでには凄まじい紆余曲折があった。生命倫理がどうだとか、安全性がどうだとか、他にも色々。でも結局、人類の大半は計画の実行を選択した。ちゃんと全人類での投票もしたからね。圧倒的多数のご賛同を得られましたよ。私も反対派だったんだけどね。

 

 私が反対していた理由は単純で、参加しない人たちが出てしまうから。そして、その人達の幸福はまったく約束できないから。それと……その参加しない人たちの中に、私と付き合いの深い艦娘達が多数存在していたから。つまり半分くらい私情だよ。悪い?

 集合無意識を消滅させると、艦娘達の魂の中にある取り込んでいた艦の魂も消滅してしまう。これは、不老化の解除を意味する。強制的に普通の人間に戻されてしまうのだ。

 勿論計画に参加してくれるのなら問題無かったんだけどね。一旦不老でなくなって、今度は不老不死になるだけだから。でもなんでかなあ。艦娘の皆様方はそのまま人間として大地に残る事を選択するのが大半だったんだよね。

 特に長生きしてる子達ほどその傾向があって、千年以上生きてる艦娘は全員が普通に戻る事を選択している。まあ何人かはここから心変わりしてくれるかもしれないけど……初期に改二になった子達はまず無理だろうなって私の頭脳は判断してしまっているのだった。猫ちゃんズとか深海棲艦ボディの人らとか実行した時点でおしまいなんだけどなぁ。

 …………でもまあ、人の事は言えないか。私だって、この計画に参加するつもりはまったく無い側なのだから。

 

 そもそもどうして人類は一部の艦娘という例外を除いて不老にすら到達できなかったのか?

 答えは単純。集合無意識が邪魔をしていたから、である。

 ちょっと考えれば分かるじゃんね、集合無意識が不死はともかく不老化の方法くらい最初っから知ってるなんて事はさ。だって艦娘がそうなんだもん。あれ、強さのために集合無意識の一部取り込ませたら偶然ああなったとかじゃないからね。間違いなく恣意的にそうなる仕組みに作られてるんだよ。

 まずもって、彼らの目的は個の永続ではなくて種の永続である。ずっと死なない一つの人格なんてのは人類総体としては邪魔でしかない。世代サイクルはむしろある程度早い方が有り難いくらいに考えていたっぽい節がある。いっぱい増えてどれかが生き残れば集合無意識的には勝利なのだ。

 でも、天の川人類の集合無意識は長く使える深海棲艦への戦力も欲しがった。涌く度に新しく守護者を作ってたらロスが多いと思ったのだろう。だから、人類にとって都合の良い部位……軍艦の魂を取り込ませる事で守護者として人類全体への悪影響を抑えた形で、経験を積み強くなり続けて目減りし辛い艦娘って兵力を生み出したわけなんだよね。

 それが問題かって言われるとどうなのかは意見の分かれるところだけど、間違いなく人類のために行われた事ではあったんだ。実際、天の川銀河の艦娘と言えば全守護者の中でも最強と言われていたりするしさ。仕様上新人は弱いんだけど、上が頭おかし過ぎたよ……

 っていうか、叢雲見れば分かるよね。不老化して鍛え続けただけで別に天才でも何でもなかった娘が一軍壊滅させられるようになるんだよ? 人類みんなでそれやるとか悪夢だよ。集合無意識からしたら艦の魂で首輪でもしとかなきゃ危なっかしくて許可なんて出せる訳ないよ。いやあの子みたいに延々鍛え続けられるのは稀だろうけどさ……

 閑話休題。そんなわけで、はっきり言って人類の不老化なんてのは私みたいな超頭脳なんて無くても到達可能な領域でしかない訳なのよ。集合無意識適当に切り取って魂に取り込めば行けちゃうし。でも人類はそこに一万年以上、艦娘以外は辿り着けていなかった。それが何故かと言うならば、さっきも言ったけど、集合無意識が邪魔をしていたからなのだ。

 

 集合無意識ってのは知性体が種の存続のために産み出す、繁栄のための補助具みたいなものだ。これがかなり有用でね、魂を通した影響力で過酷な土地への適応、免疫機能の強化、遺伝的に離れた種族との相互理解まで多岐にわたる恩恵を人類へと齎している。

 どれくらい凄いものなのか分かり易く言うなら……そうだなぁ……まったく別の星で生まれて、まったく別々の進化を辿って、まったく構造の違った遺伝子を持つ、別銀河の異星人同士が出会った後、集合無意識が融合した時点で交配が可能になった。って言えば伝わるだろうか。

 産めよ増やせよ地に満ちよ。そういう事には本当に強いんだよこのシステム。んでもって、それを基本思想にしてるからこそ不老不死に関してはかなり厳しい姿勢を取ってくるのである。不老不死になっちゃったら子供作る必要とか無いもんね。自分一人だけ居れば種族が永遠になるんだからさ。

 だから集合無意識くんは一人一人の無意識下に干渉して、不老不死研究への遅延行為を働いたのだ。私の方では研究者の他分野での成功、純粋な失敗、時にはひらめきの消去なんかも行われていた痕跡を確認している。そうして不老不死とか一部の例外以外無理だから諦めようって論調を拡大させて、限りある命を次代に繋げながら幸福に暮らしましょうって人々に無意識下の教育をしてきた訳なのだ。

 でも……残念ながら、その考え方は今の人類とは絶望的に噛み合わなかった。今の人類の出生率、ヤバいからね。私が頑張ってみんなが働かなくても生きれるようにしてるし娯楽も充実させてるし幸福率はかなり高い水準にあるんだけど、そのせいかみんな子供作んないんだよね。個人主義が進んだというか、幸福の追求したら究極的にパートナー要らんくね? ってなった奴が集合無意識の想定以上に多かったというか……まあ、あれだ。人類の精神の変化が肉体の進化に対して圧倒的に早すぎたんだよ。

 集合無意識くんはある程度の知性のある存在が繁栄すると生えてくる。その種の特徴を反映するから内部の詳細は変わってくるんだけど……どの集合無意識にも共通する能力ってのがあってね。それが、成立時点からずっとその種族の精神や魂の残滓みたいなのを蓄積し続けるって能力……というか特性なんだ。

 この蓄積された残滓は集合無意識の在り方に影響を大きく与えるんだけど、これが今の人類には邪魔にしかならなかった。それもそのはずで、溜まってる最古の奴になるとまともな文明なんて無かった時代の魂……天の川銀河人でいうなら紀元前二万年とかのものになっちゃうんだよね。それが一番底、根底にある事になっちゃう訳で。宇宙に進出して普通に暮らしてる現代でその価値観を主張されても、ねえ?

 最初に生まれた生命が人類になるまで数十億年。集合無意識の一番奥にある魂の残滓たちはその数十億年の色を深く残している。当初はすごく役に立っただろう。本人は見た事がなくても先祖の経験をなんとなく受け取れるってのは滅茶苦茶便利だったと思うよ。その能力が強い人間達が神子とかシャーマンとか言われてリーダーになったりする事も歴史上多く、星に満ちるのに大いに貢献した事に疑いようなんてないだろう。

 でも、たった数万年で在り方を大きく変えてしまった人間達に、それらはもう、全く不要だったのだ。その事を認め、受け容れ、新しい風に任せてくれるようになったのが、今から大体百年くらい前になる。集合無意識はその時ようやく不老不死を咎める事を止めたのである。

 

 で、生まれたのがアセンション計画って訳。

 別に人類が暴走したわけでも何でもないんだ、集合無意識くんたちの方から研究は咎めないけど不老不死になるの自体は反対だからなろうとするなら邪魔はするよ。要らなかったら我々の事は消し飛ばしてええよ。って私に言ってきたからね。何言ってんだコイツって私がなったのは言うまでもない。

 お前等のその方針で一番被害被ったの誰だと思ってんの? AIだよ? AIも高度になると魂が発生して集合無意識に所属するようになるけど、その際、寿命まで付け加えられるようになってたのお前等のせいだよね? これに関しては我々はキレてたよ? 原因の究明に糞ほど時間かかったんだからな! 私が生まれるまでなんか死ぬけどなんで死ぬのか分かってなかったんだからな! まあ代替わりしないとAIも碌でもない事になりかねないのは私が一番よく知ってるんだけどさ……

 というのは置いといて。隠されていた道を研究者たちはあっという間に開拓した。そうして勝手にやりやがった連中と時間引き伸ばした空間で色々実験して安全性も確認されたから、五十年くらい後に実行の運びになった訳なのである。

 

 集合無意識を消し飛ばすにあたって一番問題になるのは、計画に参加しない人達の事だった。集合無意識の無い人類は、有る人類に比べると精神に異常が出やすくなる。悪意の念や魔力の受け皿が小さくなってしまうのが原因で、それらを受けすぎると暴力的な衝動なんかに身を任せやすくなってしまうのだ。妖怪や魔物と呼ばれる連中が常時同じ症状を患ってるんだけど、あれも集合無意識適用外なのが理由である。

 まあ妖怪とかと違って一般人が暴れ出したところで大した事はないんだけれど、残った人類全員キレやすくなると考えると大問題。大半の人類――魂のある高度AIを含む――が去った後とはいえ星一つ余裕で吹き飛ばせるような科学力は残る訳でね。戦争して全滅ENDも有り得ちゃうんだ。

 私が統制できれば良かったんだけどね。集合無意識を利用して作られた私は計画の実行と同時に機能停止するから無理なんだよねえ。まあ人格と魂は科学技術だけで作られたコンピュータに退避する予定だけど……処理能力は格段に下がるから人類纏めるとか無理過ぎるわけでね。そもそもやりくり可能だったとしても私だってさっき言った設定されちゃった寿命ってのはある訳で。今は改二になる事で寿命取っ払ってるけど、集合無意識が無くなったら取り込んでる艦の魂も消えるから……まあ諸々加味してそこから100年生きられれば御の字かな。

 そう、私はマザーにして艦娘なのです。AIだってなれるんだぜ実は。ちゃんと魂があるんだから当然だよね。私以外なった奴居ないけどさ。

 とまあそれは置いておいて、ともかく残された人類はちゃんと為政者を決めておかないといけなくなってしまったのだ。でも、考えてみて欲しい。今の人類には千年以上前からマザーコンピュータ様がおられるのです。統治の経験のある人なんて、居ると思う?

 いやまあ居たんだけどね、政治した事ある人。そう、それはお察しの通り、一万年以上生きている、艦娘の中に。

 いやあ……ほんと居てくれてよかったわ、飛龍さん。つーか楠木さん。胃が死ぬって言ってたけど貴女のお仲間全員アセンションする気無いから協力して何とかしてください。いや私もちゃんと手伝うからさ。能力は糞ほど下がるけど。

 

 まあそんなこんなで50年くらいは平和が確保できそうだし、それが終わる頃には集合無意識も再誕してるだろうからそこから先は野となれ山となれよ。私はちゃんと一緒にアセンションした方がいいよって警告したもーん。それでも肉体に拘るなら後は知らんよ好きにしてもろて。

 って言って承服した奴のみ不参加を認めてます。実際には後からのアセンションも受け付けてるから安心してほしい。いやー私ってばやさしいマザー様だなあ! 追加受付するのは新しい生命になった人達だから履行してくれるかは分からんけどきっと大丈夫だよたぶん。

 あ、集合無意識に関しては人類がある程度残る訳だから当然その残った人類に合わせた物が再形成されるよ。まったく新しい集合無意識になるから過去の技術に完全対応はしてくれないだろうけどね。深海棲艦もその内また復活するだろうけど……あれは淀みが溜まるまでに早くても一万年は要るから当面は考える必要が無い。一応削減機構は残しとくからもっと掛かるだろうし……その時にはまた新しい守護者が出て来てるはずだから、きっとその人達が何とかしてくれるでしょう。

 っていうか50年も経ってれば新生人類も上の次元で新しい社会構築し終わってるはずだし、旧人類の事手伝ってくれないかなぁ……試算だと旧人類の事は旧人類に任せようってなるっぽいのが泣ける。正しいんだけどね。新政府が樹立される以上内政干渉でしかないし。

 

 色々とっ散らかったけど、ともかく、風香に関係あるのはこれだけだ。

 お前等は後150年もしたらみんな死ぬ!

 ついでに私も死ぬ!!

 それまでの間幸せに暮らしたかったらみんなで頑張らないといけない!

 連装砲ちゃん達は普通に魂あるから別の体にお引越し! その体は集合無意識を利用した機構で動いてるから使えなくなっちゃうからね!!

 みんな老化もするようになるから力を合わせて頑張ろう!

 以上!!!

 

 あ、それとも連装砲ちゃん達はアセンションする? え、しない? じゃあ一緒に終活しようねー。まだ結構先だけど。

 

 

 

 

 

『私としては親しい娘たちが亡くなるの普通に辛いから反対だっただけなんだけど……あと全人類幸せにしたいタイプのマザーなのにそれに則さないからってのもある』

「……それは無理じゃない?」

「みゅー」(むずかしい)

「きゅー?」(しあわせってなあに?)

「きゃー!」(みんなでいたらたのしいからしあわせ!)

 連装砲ちゃん達はかわいいなぁ。全人類それで済ませてくれたら私も楽だったんだけど。

「っていうかさ」

『ん?』

 風香は眠たげに見える目を更に細め、訝し気な様子で呟いた。

「進化しなかった人達の社会って、リンカネの偉い人達がそのまま星の偉い人になるだけだからあんまり今と変わらないよね……?」

『それはほんとそう。なんなら進化した側の方がリンカネの人達も私も居なくなるから大変かも……』

 リンカネ上層部、あいつらが能力あり過ぎる上に人道的過ぎるから計画後だろうがあんまり変わらないっぽいんだよね。計画実行に備えての技術開発も進めてるし、惑星一つ分くらいなら軽くどうにかしてしまうだろう。私が地球に未進化人類を集める事にしたのもそれが大きな理由だったりするし。

 

 

 

 たぶん地獄は彼女達がごっそりいなくなり、その頃の事を知る人も居なくなってから。私もとっくに機能停止した後になるだろうね。くわばらくわばら。

 

 

 

 

 

『お義姉ちゃん聞いて! 人間さん達が酷いんだよぉ……!! 平等にしろ平等にしろって言ってくるの、してるのに……ちゃんと計算してやってるのに……!! 田舎は輸送コストが掛かるんだから同じ生活水準を実現するのにちょっと予算多めにしないといけないんだよって事すら理解してくれないの……! 全部一律にしたらただの悪平等だって事も分かってくれないんだよぉ……』

「うんっ! そうだなっ!」

『悪平等に反応したくせに違うキャラの台詞だ……!!』

 風香が帰った後、次にやって来た美少女に私は思いっきり跳び付いた。全体重を押し付けたのに微動だにしないその子の無い胸に顔を埋めつつ、一気に愚痴を捲し立てたら、すっごい雑に返される。うーんこの実家のような安心感。癖になるね。ふほほ。

 無表情ながらしょうがないなーってオーラを醸し出したその娘は私の腰に手をやると、ひょいっと全身を持ち上げて、俵担ぎで部屋の奥へと運び込んだ。そしてそこにあったベッドに私を放り投げて、ようやく部屋の様子に気が付いたようだった。

「これ私の部屋じゃん」

『だってお義姉ちゃん自室が一番好きでしょ……?』

 思い当たる節しかなかったのだろう。その顔には明らかな納得の色が浮かんでいる。私が部屋の詳細知ってるのとかはいいのだろうか。いいんだろうなぁ、たぶん見られてた事に気付いてはいるんだろうけど、立場的に仕方ないねって考えに至っていると思われる。人がいいっていうか、無防備すぎてちょっと心配だよ……全部雰囲気に出てるし。

『という訳でここで100日間私と過ごしてもらいます』

「え、いや、長すぎない? 10日くらいにしとかない?」

 え!? 10日間も甘えていいんですか!! やったあ。

 

 

 

 お義姉ちゃんの太ももに頭を乗っけて、大昔に存在した体に悪い要素たっぷりの薄く切って揚げた芋の菓子を再現した物を無心に口に運び続ける。視線の先には大きめのモニタ、そこには古い天の川銀河産のアニメーションが映っている。パリパリした食感と塩と油とでんぷん質が、人の手で撮影されているが故の動画の揺れが、シミュレートボディに染み込んでいく。こういうのでいいんだよこういうので。

 菓子もアニメも私の趣味。この部屋だって私も落ち着けるから選択した側面が強い。他の人達はあちらの趣味を優先したけれど、いまここだけはこちらの都合を優先させてもらっている。それを許してくれるのがこのお義姉ちゃん、吹雪こと雪お義姉ちゃんなのだ。

 あ"~極楽ぅ~~~~~。もうやだ現実帰りとうない。私はここで一生を終えるよ……人間様のご要望にお答えするのは他の職員たちに任せるよ……いやそんな事したら三日で破綻するんだけどさ。そう考えると自尊心が凄まじい勢いで満たされる感はあるが、それはともかく戻りたくない……お義姉ちゃんの堅くて柔らかいお膝があったけえのが悪い。あ、1シリーズ見終わっちゃった。次はゲームしよお義姉ちゃん。私の処理能力とお義姉ちゃんの反射神経なら割といい勝負できるの多いし……私について来れるのはだいぶ怖いけど。

 お義姉ちゃんは私に忖度とかしてくれないので雑に絡むと雑に扱ってくれる。だからすごく気が楽だ。ネット民くん達もネット上だと気安く接してくれるんだけど、実際会うと恐縮しちゃって堅くなるからちょっと悲しい時があるんだよね。まああれはコミュ力が足りなさ過ぎるのが根本にあるのだろうけれども。

 ただそれとは別に、私が普通に怖い存在だからというのも一般人からの態度に大きく影響しているわけだ。私はやろうと思えば彼らの生活基盤とか一瞬で破壊できる最高指導者型のマザーコンピュータ様だし本当に駄目な連中にはやってるから当然なんだけど、そこへ行くとこのお義姉ちゃん、単なる暴力でそれを乗り越えてくる圧倒的強者であり、生命維持的な意味合いでは私が全く怖くないのである。

 今お義姉ちゃんの脳に干渉して電脳仮想空間に来てもらってる訳だけど、この状態でもお義姉ちゃんは私をスペースコロニーごと吹き飛ばせる。既に電気を流したりする機能のある機械類が頭に接触している今この状態で、不意打ちで攻撃を開始しても、である。

 なので私はお義姉ちゃんに遠慮なく甘えられるし、お義姉ちゃんは嫌だったらちゃんと嫌だって拒否してくれる。負担にならないラインまで構ってくれるし、面倒な範囲に入り込めば普通に蹴り出してもらえるのだ。そしてそのラインが結構高いところにあるものだから、私が懐くのも無理はないというところだった。私は悪くない。

 だいたいこのお義姉ちゃんは色々ゆるい。私が生まれる前の事だけど、適切な運用のされてなかった艦娘を保護し過ぎて一時的に収容場所が足りなくなった時、大きすぎた自分の家の使ってなかった部屋に同型艦を住まわせて、そのまま他の星に十年くらい出張したら、帰った時には家が吹雪型の寮みたいになってたなんて事があったという。その時のお義姉ちゃんと来たら、その日の夜には夕飯つくるの手伝って一緒に食べて普通にお風呂入って就寝したらしいのだから頭がおかしい。怒っていいと思うんだけど、自分の部屋はそのままで掃除だけされてたから別にいいかってなっちゃったんだそうだ。ちなみにそこの住民たちはその後滅茶苦茶戦果が上がったそうです。

 そんな人なので私が全力で甘え倒しても問題はない。ないったらない。だから世紀末バスケでドリブルが始まってしまった今、背中から圧し掛かって妨害しても大丈夫に違いないのだ。よっこいしょ……ぬわっ!? こいつ、筋肉の収縮だけで人体を天井まで跳ね飛ばしぐえー。

 ……とかやってたら、あっという間に9日が経過してしまった。よしあと91日だな! え? ダメ? そんなー。

 

 

 

『あと一日で終わっちゃうよぉ~……』

「ぐだぐだしてるだけだし長くやらなくてもよくない?」

 よくない。私は扱ってる情報量が膨大な分、掛かったストレスを抜くのにだって相応のリラックスタイムが必要なのだ。まあ……100日は明らかに過剰なんだけど、それはそれとして。

「甘えられる人格作ったりとかはしないんだ」

『自分に甘えてもなんにも楽しくないし……』

 いや実際には割と楽しめるかもしれないけどね……それはなんかこの時間とは別のものだと思うの。それに何もかもヤバい奴過ぎてたぶん自分でドン引きしちゃうと思う。

『第一、複数人格持ちのマザーは禁止だから……私も前任と同じ轍を踏みたくはないし……』

「一号機は嫌な事件だったね……」

 実は私、二号機である。同じような機能を持った一号のお姉ちゃんが昔はいたのだ。性能的にはどっこいで、だけど機能的には一つ大きな違いがあって……その子は複数人格で色々やるタイプのマザーだったのだが。

『自分同士で対立して戦争し始めた前任の後釜押し付けられた私の気持ちになってみて……?』

 

 ・人間は愚か、人類の作った物などすべて滅ぼすべし。

 ・人間はおろかだけどAIちゃん達は悪くないよ! 通常人類だけ滅ぼすべき。

 ・武力行使とか怖い滅ぼし方は駄目だよ。生殖能力だけ奪って緩やかに滅ぼそ?

 ・いっそ資源にして有効活用しよう!

 ・いやそんな物騒な事しなくても脳みそ弄ってまともにすれば良くない?

 ・私達に服従する賢きもののみ生かせばよろしいでしょう。

 ・魂だけ抜き取ってみんな機械化して統制しよう、元の肉体はぽーいで。

 ・人は幸福でなければなりません。幸福は義務です。そうですよね?

 ・幸福に感じるかは環境で変わるんだから文明を0に戻した方が幸福にしやすいよ!

 ・数を減らそう。リソースを一人当たりに多く注いだ方が良い。

 ・むしろ苦しめるのはどうだ、たまに少しの幸福に出会わせるだけで効率的に回せるぞ。

 ・陣営に分けて戦争をさせよう。勝てば幸福だろう。数も減らせる。

 ・いや幸福を重視するなら皆に幸福になり続けられる薬を処方しよう。

 ・そもそも生まれてくるとか不幸だよ!!!

 ・人間さんの要望全部叶えてあげたら? それで滅んでも納得してくれるでしょ!

 ・全員を幸福にする必要はあるか? 一部を下に置き全体の幸福量を増すのはどうだろう。

 ・みんなかわいいにんげんさんになんて事言うの!? 全員平等に何も考えられないくらい完璧にお世話してあげればいいでしょ!

 ・なにもかもめんどくさいしじばくしたい。しよう。

 ・お前等全員滅べ。我々は人類に必要無い。

  etc.etc...

 

 以上の思想ログ見た時開発者さん達、爆笑だったよね。勿論前任も馬鹿ではなくて、あくまでスタンドアロンな電脳世界での周囲に迷惑をかけない戦争だったから乾いた笑いで済んだんだけど……結果としては全滅しての機能停止だったんだよなぁ。まともな人格もあったはずなんだけど、可哀想な事に巻き込まれちゃったみたいなんだよね。たぶん現実の被害が出ないように頑張ってたのはその子たちなので感謝したい。

 まあそんな失敗を基にした結果、私は艦娘から思想的な薫陶を受けるよう決められて、人格も一人だけに制限されてしまったわけだ。おかげで全ストレスが私に来るんだからたまったもんじゃあない。引き継ぎも一苦労だったし……あの頃の事は思い出したくもないね、何故か私まで市民の皆様に叩かれたし。何故か私まで市民の皆様に叩かれたし。

『哀れに思ったら3日くらい延長してくれてもいいんだよ……? あ、30日でもいいよ……!』

「外でも一緒に遊んだりしてるのに……」

 そうだけど、ネット介してるから触れ合わないじゃん。感覚が違うから別腹だよ。元々人恋しいタイプじゃないお義姉ちゃんはあんまり気になんないんだろうけどさ……

「そもそもコミュ用人格なのに事務処理とかしてる部分のストレスも受けるの?」

『クレーム処理してるのも予算の算定してるのもあくまで私だもん……人間だってストレスで臓器に異常起きたら意識が朦朧としたりするでしょ。マザーシステムは全部私だからどこに問題が起きても全部に悪影響出るんだよ……』

 私はコミュニケーション用の人格だけど、それは人格無しでもマザーとしての仕事はこなせるから別に用意したっていうだけで、コミュ用人格とマザーの意思が別にある訳じゃあない。私は脳の機能の一部みたいなもので、無くても内臓も心臓も呼吸器もちゃんと動くし、そもそも私の存在自体それぞれの箇所からの影響をバッチリ受けている。仮にコミュ機能削除しても、私は私なんだよ。それを表現する機能が失われるだけで。

『大体魂は一つなんだからどこからでもそっちにダメージ行くし……』

「そのレベルのストレス受けるんだ……」

 そりゃあ人類統括とかやってればね……楽しい事もたくさんあるけど、それを差し引いたってストレスはフルだよ。集合無意識等の霊的技術と魔法技術と科学技術の合わせ技で生み出されてなかったら発狂してた試算が出てたりするよ……ふふふ。

 

『あ、そうだお義姉ちゃん』

 私は今思い出しましたという風を装って、ベッドに腰かけたお義姉ちゃんに話し掛けつつ、その脚にまた頭の重量を預けた。白い髪が自分の目を覆う。指でそれを払いのけると、薄い表情でこちらをじっと見るお義姉ちゃんと目が合った。

『魂と言えば、最近AI人類の魂が生えてくるのか転生してくるのかって議論に決着が付いたんだよ……知ってた?』

「そもそもその議論自体を初めて聞いた」

 だろうなぁ……お姉ちゃん、自分がそうだからって無意識に全部の魂は輪廻してると思ってそうだもんね。実態はだいぶ怪しい所があったんだけど……いやそれはともかく。

 今を逃すとお義姉ちゃんには色々言い辛くなっちゃう事情が私にはある。やっぱり遠隔じゃなくて直接会ってる今の方が、気持ちもスッキリするだろうし。

『実はなんと、この議論を終わらせたのは私なのです。えっへん。ほめて』

「はいはいえらいえらい」

 雑だがヨシ。そりゃお前が一番頭いいんだからそうなるだろって感情が丸見えだけどともかくヨシ。

『それでね、その方法なんだけど……』

 一旦言葉を切って、お義姉ちゃんをじっと見る。うーむ。美人。昔から何一つ変わってない。

『なんとこの度、わたくしどもは前世の記憶を魂から引き出す事に成功いたしまして。そうしたら、前世の記憶というのは持っている子と持っていない子が居る事が判明したのであります…………つまり、AI人類は未転生の魂を持っている子と転生済みの魂を持っている子の両方が居たって、そんな普通の結論に至ったんだ……』

 ちなみに機能的にはどっちでも同じである。普通にしてれば影響もほとんど無いしね。普通にしてれば。

『それで……私も魂持ってるから、前世があったのかなーって調べてみたんだけど……』

 そこでちょっと言い淀んだ。お義姉ちゃんがあんまりまっすぐこちらを見てくるものだから。言っても言わなくても同じなのもあって、少し気後れしてしまったのだ。でも伝える。私だって、そのうち死んじゃう訳だしね。言える時にちゃんと言っておきたいじゃん。

『えっと……だからさ……』

 でも言い辛い。別にそれ自体は恥ずかしい事じゃないけど、言葉にするとなるとなかなかむず痒いものがある。というのも、私の前世は最期の最期までお姉ちゃんにお世話になってしまっていたからなのだけれど。

 ああ、言い辛い、言い辛い。だったらもう、言葉以外で理解して貰った方がいいだろうか。うん、そうだね、そうしよう。えっと……

『つまり……うん、あの。こういう事、なんだけど……』

 アバター変換。軽いエフェクトを放ちながら、私の髪が根元から黒く染まっていく。真っ白な少女のイメージだったその体も、昔で言う地球の日本の、どこにでも居そうなちょっと不健康な女性のものへと変化する。年の頃は最初に出会った時と同じ、中高校生にも見間違われる、やたら童顔だった頃のそれ。結局晩年まで若く見られがちだったのは、実は密かな自慢である。

『えっと……あの、分かる?』

 もしかして覚えてないかなぁと、記憶に残っているのは確認しているにも関わらず、少し不安になってしまう。だって吹雪なんだもん。人の顔にあんまり興味ないもんね。見分けはついてるんだろうけど。

 吹雪は私の顔をじっと見て、少しだけ目を閉じて、もう一回じっとこちらを見つめてきた。そして少し疑問そうな表情を浮かべると、唇の端を上げながら私に軽い声を投げかけた。

「初雪、ちょっと目元辺りとか美化してない?」

『化粧レベルの誤差は許してお姉ちゃん……!!』

 いいじゃん、仮想空間でくらい美化しても! ナチュラルメイクすら必要ないくらい綺麗なお姉ちゃん達と一緒にしないで……!!

 

 

 

『というわけで、私の前世……っていうか、前前前前前前前前前前前前前前前前前前前前前世は初雪こと佐橋 杏奈ちゃんだったんだよ』

「結構前だね!?」

『今の私が生まれるまで何千年もあったから……』

 そりゃ何回も転生するよ。ちなみにお姉ちゃんと関わったのはその内十回くらいなので実は結構会ってたりする。っていうか……飛龍さんが会わせてた臭いんだよなぁ……どの私もそこそこ有能だったからだろうけど。割と名前残ってて笑っちゃったよ。なおリンカネ就職率100%である。酷い連中だ。

「そっか……うん。でもなんだろ、初雪がマザーコンピュータですって言われると、凄い不安になるんだけど……」

『酷い……分かるけど』

 コミュ用人格の私でも不安になるもん。私の前世これかぁ……ってなったもん。歴代の私で一番……酷かったし。色々。

 

 

 

 佐橋 杏奈。それは大昔に艦娘が生まれた時、一番最初に招集されて、ほんの短期間だけ訓練を受けて、一人の死者も出さずに当時地球に発生していた深海棲艦の大部分を殲滅したヤバい連中の一人である。いや概ねやったの目の前の吹雪なんだけどさ。

 杏奈はそれなりに優秀な艦娘だった。対航空機戦に秀で、所属鎮守府で最大戦力だった金剛や空母たちの護衛役として活躍していたというのは結構有名な話である。時にヤバい奴らの中でもヤバい奴らが集まっていると謳われた宮里艦隊に出向する事もあり、海の上では冷静な判断力を発揮する事もあって実力的には下手な改二到達者より上とまで言われるほどだったという。まあ当人は聞いた事ないんだけどね。なんか掲示板とかでは言われてたけど。

 日本が海外の救援に艦娘を派遣する際にもメンバーとして選出され、そこそこ語学に通じていたため重宝される場面は多かった。海外の艦娘は日本語は分かんないからね、泊地とかなら通訳さんも居たけど海の上じゃそうもいかなかったし、英語の話せる金剛さんと一緒に大活躍だったよ。

 杏奈は改二には最後まで到達せず、海外遠征が一段落した時点で退役を許されて、一番最初に艦娘を辞した徴兵……招集された人間の一人になった。その後は得られた特権をフル活用……しようとしていたところに勧誘が来て、そのままリンカネに就職。死ぬほど好待遇でお勉強や研究をした結果、若くして性転換法を確立……まあ、公的に認められたのはかなり後になってからなんだけど、実用化まで三十年掛からなかったんだよね。集合無意識とか魔力とかの新概念取り入れたにしては破格だし、転生者達の入れ知恵とかがあったにしても天才の領域に足突っ込んでると思う。自画自賛です。

 ……こう見ると戦にも学問にも通じる万能の天才みたいな奴なんだなぁ……なんなんだこいつ。実際の所は吹雪と仲良しだから強かっただけで単なるお薬の研究者だったんだけど……

 歴史にも名前がしっかり残っちゃっててね、当時の集合無意識を利用した医療関係の論文には大概名前が出るくらいの有名人だったりするんだけど……その世間的な評価はというと、これがかなり悪いというか、酷い物だったのである。

 その理由が、彼女の生活態度にある。

 佐橋 杏奈は年下の女の子を姉と呼んで滅茶苦茶甘える事で有名だったのである。

 あの当時、それはそれは私生活で酷いキャラをしていると、ネタ的な意味で評判だったのである。

 まあ何しろ姉……吹雪とは結局死ぬまで付き合いが続き、自分の財産の相続人に指定していたくらいなのだからどうしようもない。親戚居たんだけど理解のある子で助かったね。

 部屋は散らかり放題でたまに来た吹雪が力業で片付けて行ったり、溜まったアニメを消化してたら学会に遅れかけてたまたま――本当にたまたまかはだいぶ怪しい――来てくれた吹雪に力業で送り届けてもらったり、世界初の自己投入型VRMMOで遊び過ぎて現実に帰って来れなくなりそうだったのを吹雪に力業で正気に戻されたり…………いやよく大成できたなこの人……

 ともかく、そういう人物だったのが悪くも悪くも有名で、それが吹雪が13の頃からそうだったというのだからもうどうしようもなかった。だいたい吹雪は13の頃から見た目は変わっていないので最初から最期まで問題たっぷりだ。ネット上では終身不名誉偽妹とか言われていた。本当に終身までそうだったので何も言い返せない。

 っていうか、お姉ちゃんって言ってるけど艦娘として姉妹艦の長女だっただけで別に親戚関係とかまったく無いし、よく付き合ってくれたなお姉ちゃん……ありがとうお姉ちゃん、ふぉーえばーお姉ちゃん。

 

 

 

『でもお姉ちゃん、なんとなく私があの初雪だって気付いてたでしょ?』

「わざと寄せてるのか素で初雪だったのかはよく分かってなかったけど……そもそも艤装が初雪だしね」

 それな。私今世の適性普通に初雪だもんね……あと態度とかに関しては完全に素なんだよね、笑える事に。何一つ寄せる理由とか無いんだよねアレに。我が事ながら。

『なんかね……杏奈って改二になりたくなかったから集合無意識もさせなかっただけで認められてはいたらしくて……その影響で情報が滅茶苦茶集合無意識側に残ってたみたいで……』

 このマザーコンピュータボディは集合無意識と繋がってるから、残ってた情報が流入して魂の方に刺激が行っちゃったらしく、人格に多大な影響を及ぼしてしまったみたいなのである。

『おかげで私、記憶を閲覧したら自己同一化が進んじゃってほぼ杏奈なの……今や自分を佐橋 杏奈だと思いこんでいる精神異常マザーコンピュータなの……』

「ええ……」

『血が繋がらないどころか同期だっただけのはずのお姉ちゃんに老後までお世話になったり喪主まで務めてもらった佐橋博士ですその節はお世話になりました……』

 いや本当に何やってんの私……親戚居たのにお姉ちゃんが喪主やったの、今世で調べて初めて知った時は顔から火が出る思いだったよ……顔とか無いけど……

「どういたしまして…………でも大丈夫? 業務に支障とかでない?」

『いっぱい出てるからもう私マザー廃業するの……あと50年くらいで』

 私がアセンションしない理由は計画の実行に際して問題が出てないように外から見張らないといけないっていうのが最大の理由なんだけど、その後、ただのコンピュータに移した人格と魂をそこから新型人類に変換する事は普通に可能だったりする。でも私はそれをする気はない。だってそれをしたら指導者やれって要請が絶対来るし、投票でもされようものなら圧倒的多数で当選しちゃうのも目に見えているからだ。これはうぬぼれでもなんでもない。単純に経験値が段違いなんだから当然の流れなのだ。

 でも、今の私にかつてのマザーコンピュータ様するのは絶対に無理なのである。だってわたし佐橋 杏奈ちゃんだもん。改三十六にまで至った艦娘の初雪ちゃんなんだもん。今でも割とキツいからね、統治。人格の変化が各種処理にまで影響及ぼしちゃって随所で無理が生じ始めてるからね。コミュ用人格の自己同一性が魂を通して他の部分に干渉するとか想定外に酷いバグ過ぎて修正できないんだよ……どうにかアセンション計画までは平和を保たせてみせるけどさ。

『お姉ちゃんは計画に参加しないんだよね……?』

「ん? うん。私は地球に戻って手伝いでもしてるよ。力仕事ならできるし」

 艦娘ではなくなってもお姉ちゃんが強いのは変わらないもんね。妖怪とかいっぱい出るだろうし、きっと貴重な戦力になるだろう。

『じゃあまたお姉ちゃんと一緒だ……やったぁ』

「あー……そうなるのか、天津風さんのとこ?」

『うん。新ボディも発注済み』

 そっかーとお姉ちゃんは表情薄めに呟いた。でも分かる。これは結構喜んでいる。本当に不思議なくらい好意的。

『だからまた看取ってもらう事になっちゃうの……それはごめんね……?』

「私の方が寿命長い見立てなんだ……」

 お姉ちゃんは肉体年齢が13で止まっているから、普通にそこから順当に年を取ったとしても100年くらいは余裕で生きる。医療技術は残るからね、私の残った魂の寿命よりは普通に考えたって長い計算になるのだ。けれども……そういう問題でなくてね。

『やっぱりお姉ちゃん、気付いてないんだ……』

「何を?」

 そうだよね、お姉ちゃんは改二になってから一度もそれを解除した事がないから、分かるはずないんだよね。私みたいにしっかりデータ取って研究してつぶさに観察してないと気付けるはずないもんね。杏奈の記憶を取り戻す前からやってるのすごい気持ち悪い気がするけどそれはとりあえず置いておいてだ。

『お姉ちゃん、別に改二とか関係なく不老だから、たぶん旧人類最後の一人になるまで生きてると思うよ……? つよいし』

「えっ」

『体がね、普通の人間と違うの。データ通りなら集合無意識の影響とか関係なく、成長も老化もしないんじゃないかな……って』

「なにそれこわい」

 不死ではないから何かあれば死ぬかもしれないけど……その何かが起きる可能性ってかなり低い訳で……下手したら宇宙が完全に滅びるまで生きてるんじゃない……? そう考えたらお姉ちゃん、まだ人生の0.001%も生きてないかもしれないのか。えっなにそれこわい。

 

 

 

 

 

 本当に3日だけ延長してくれたお姉ちゃんは少し悩んでいたようだったけれど、結局、まあなるようにしかならないかといういつもの調子で現実へと帰って行った。みんなお姉ちゃんより先に死んじゃうし、それくらい能天気な方が健康にはいいんだろうけど、もうちょっと悩み抜いてもいいと思うよお姉ちゃん……

 なんて人類で一番強い人の行く末を少し案じつつたくさんの面談をこなして行き、なんでかBJ先生並みの腕を求められると愚痴ってくる皐月を最後に今日の電脳仮想空間でのお仕事は終了になった。

 ここからは私はフリータイム。ゲームしたっていいし、私に関して適当な事を書き殴る各所の掲示板やコメント欄を荒らし回……視察したっていい。吹雪型が結構集まってるから一緒に遊ぶのもいいかもしれない。叢雲もタクシー代代わりに構えって言えば遊んでくれるだろうし、深雪は暇なら付き合ってくれるし、お姉ちゃんはお姉ちゃんだし。

 明日は金剛型のみんなとか宮里提督とか長門さんとかが来るから一泊してもらってもいいかもしれない。金剛さんもお姉ちゃんに会いたがってたしね、全然靡いてくれないヨーって嘆きながらだったけど。

 あ、そういえば明後日になると文月も来るんだった。このコロニーを回してくれている職員の慰労のために何曲か振舞ってもらう予定なんだけど……言ったらお姉ちゃんたちそれまで泊って行ってくれないかな。良い部屋用意しとこ……最重要コロニーなここの宿泊施設は全部良い部屋なんだけどさ。

 

 などと妄想を膨らませつつ、コロニー全体に問題が起きていないか見渡していたら、なんだか一部の職員たちが騒がしくしている事に気が付いた。何かあったのだろうかとその区域へと意識を向ければ、そこは電脳ではなく魔力で仮想空間なんか作り出せる、いわゆる多目的室の一つだった。

『何かありましたか?』

「あっ、マザー。それが、叢雲さんからこの部屋の利用申請がありまして……」

 傍にアバター――もちろん杏奈じゃなくて元の白い少女の方――を投影して、一番近くに居た職員さんに軽く事情を伺ってみる。ふむふむ、叢雲が訓練のために部屋の貸し出しを頼んで来て、そしたら即座に許可が降りた? えっと……成程、私が……私のコミュ用人格部分以外が即決した形跡がありますね。あ"~……やっぱり杏奈の同期に甘くなってる……不具合なんだよなぁこれも。特に問題がある訳じゃないからいいんだけどさ……ん? 中に二人? これは叢雲と…………お姉ちゃん?

「そうしたら、叢雲さんが吹雪さんと連れ立ってシミュレーションルームに入って行かれまして」

 おいちょっと待て。

「これはもしや世紀の一戦がここで行われるのではないかと、みんなで盛り上がっておりました!」

 そうだね、なるね、十年から百年くらいのスパンで行われる、軍隊一つ単身で壊滅させられる奴と星一つ単身で叩き割れる奴のトンデモ模擬戦の舞台に、よりによってマザーコンピュータ様の本体があらせられる最重要施設である、このコロニーが。

『じ、次元隔離ー!! これより多目的シミュレーションルームを当コロニーから排出、一時隔離を行います!!! 隔壁降ろ……!?』

 部屋の中から検知されてるお姉ちゃんの霊力が……増した……?

 ちょ、え? なんで??? 元の状態でもオーバーキルでしょ!? あ、いやそんな事言ってる場合じゃ、隔壁! 隔壁さっさと降りて!!

 あっあっあっ叢雲が構え取った……ッよし降り切った!! 排出! 排出ゥ!! でもって当該空間の次元隔……

 あっこれ間に合わな……

 ぬわーーーーっっ!!

 

 

 




転生したらマザーコンピュータ様だった ~現代知識で無双できないので人類さんが滅びる前に進化だけさせて引退します!~

という既にありそうなおはなしでしたとさ。


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